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【おっさん】空戦少女【TRPG】

1 :名無しになりきれ:2010/10/24(日) 03:55:46 O
いきなりで申し訳ありませんが…あなたは『空戦おっさん』をご存知ですか?
おや、その様子だとあまり詳しくなさそうですね?

もし、よろしければこの場で簡単な説明を・・・

空戦おっさんとは、人工知能を搭載したアンドロイドの総じて…
え?何故?そこに「おっさん」が付くかですって?
いやぁ〜なんといいますか、不思議なことに壮年型の男性アンドロイドの数が他より圧倒的に多く存在しているため
『おっさん』とついた逸話が…と、おっと話がずれました。
そして、そのアンドロイド同士を戦わせる事が新しいスポーツの形として世界中の注目を集めているんだとか

そうそう!そういえば、こんな逸話がありましてね。
とある中小企業が自社の宣伝のために空戦おっさんの大会に参加しましてね。
惜しくも優勝には届きませんでしたが、その高い技術を世界中に知らしめたことにより
その日を境に、ただの中小企業がたった数年で大企業になったそうな。
この話を聞いた他の企業はそれに続かんと巨額を投じて、次々と参入していったようで
そして、今!「空戦おっさん」は最高のエンターテイメントへと進化を成し遂げたのです!!!
今や最高の名誉と化した「空戦おっさんリーグ」の制覇、各企業、いや、空戦おっさん達は日夜戦いを繰り広げているのです!!!

…おっと熱く語っていたら、もうこんな時間か、さてさて、次のゲームは…おぉこれは面白くなりそうだ。

それでは、空戦おっさんダンディ…GO!!!

ロボット×ドックファイトTRPG





2 :名無しになりきれ:2010/10/24(日) 03:56:45 O
   空 戦 少女 


ジャンル:SFスポーツおっさんアクション
コンセプト:短期バトル
期間:1シナリオ2週間から一ヶ月
GM:(なし)
決定リール:(あり)
○日ルール:(あり)3日
版権・越境:(なし)
名無し参加:(なし)
避難所の有無:(あり) http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1287858607/

3 :なんくるさん ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/24(日) 04:07:29 O
修正版

いきなりで申し訳ありませんが…あなたは『空戦少女』をご存知ですか?
おや、その様子だとあまり詳しくなさそうですね?

もし、よろしければこの場で簡単な説明を・・・

空戦少女とは、人工知能を搭載したアンドロイドの総じて…
え?何故?そこに「少女」が付くかですって?
いやぁ〜なんといいますか、不思議なことに女性型のアンドロイドの数が他より圧倒的に多く存在しているため
『少女』とついた逸話が…と、おっと話がずれました。
そして、そのアンドロイド同士を戦わせる事が新しいスポーツの形として世界中の注目を集めているんだとか

そうそう!そういえば、こんな逸話がありましてね。
とある中小企業が自社の宣伝のために空戦少女の大会に参加しましてね。
惜しくも優勝には届きませんでしたが、その高い技術を世界中に知らしめたことにより
その日を境に、ただの中小企業がたった数年で大企業になったそうな。
この話を聞いた他の企業はそれに続かんと巨額を投じて、次々と参入していったようで
そして、今!「空戦少女」は最高のエンターテイメントへと進化を成し遂げたのです!!!

今や最高の名誉と化した「空戦少女リーグ」の制覇、各企業、いや、空戦少女達は日夜戦いを繰り広げているのです!!!

…おっと熱く語っていたら、もうこんな時間か、さてさて、次のゲームは…おぉこれは面白くなりそうだ。

それでは、空戦少女…レディ…GO!!!

ロボット×ドックファイトTRPG

   空 戦 少 女 


ジャンル:SFスポーツアクション
コンセプト:短期バトル
期間:1シナリオ2週間から一ヶ月
GM:(なし)
決定リール:(あり)
○日ルール:(あり)3日
版権・越境:(なし)
名無し参加:(なし)
避難所の有無:(あり)http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1287858607/

4 :名無しになりきれ:2010/10/24(日) 04:10:27 O
修正すんなよ紛らわしいな

5 :なんくるさん ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/24(日) 04:11:30 O
テンプレ

名前:
所属:
性別型:
容姿型:(S・M・L・特殊型で表記)
    S  所謂合法ロリタイプ
    M  所謂少女タイプ
    L  所謂ガチムチ姉御タイプ
    特殊 動物型だったり生物的なフォルムじゃなかったり
性格:
兵装:(軽装型:重装型:変形型:特殊型)

軽装型、武装神姫やストパンようなタイプ。旋回力優れるがトップスピードは劣る
(比較的人型に近い状態で空戦出来るよ。)

重装型、軽装型の発展系、装甲や装備で固め小型戦闘機と化す。トップスピードに優れるが旋回力に劣る
(重武装で身を固めすぎて、もはや小型戦闘機と化してるよ)

変形型 所謂トランスフォーマー、性能は軽装型と重装型の間だが、装備の置換が出来ないのが欠点
(人型にもなれるし、戦闘機にもなれるよ。でも、武装は一生このままだよ)

特殊型 上記タイプに類さないタイプの総称
    空戦少女とは別のフライトユニットに乗り込むタイプが多い 他のタイプよりパッとしない為通称ロマン型と言われている
(例外枠だよ。ほとんどが飛行機的な物に乗って戦うよ。癖が強すぎるからバカにされやすいよ)



武装:最大3つまで、近接武器がある場合はその3つには加えない

武装の種類
実弾:特にこれといった癖がない。板野サーカスが可能。弾薬等トラブルが多い
ビーム:実弾系武装より軽い(弾薬要らずだから)、環境の変化に左右されにくい。使えば使うほど活動可能時間が短くなる。追尾性に欠く
その他:長所短所がはっきりしているなら好きにしてもいいのよ

兵装と武装はシナリオごとにカスタマイズ出来ますが、その際はテンプレを更新して下さい
ですが、シナリオ中の兵装、武装の変換はNGでおねがいします。
勿論のことだけど、核装備なんてもってのほかですから

6 :名無しになりきれ:2010/10/24(日) 05:15:20 0
しつもーん
空戦少女自体には人格はないって事なのかな
あくまでも機械で、喋る事やらなんやらは中の人の声を変換して出力とかなのかな

7 :なんくるさん ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/24(日) 06:12:13 O
>>6
人格はちゃんとあります。
一応、テンプレにも目立たないですが性格の欄もあるので
そこを利用してください。

8 :名無しになりきれ:2010/10/24(日) 07:35:52 0
先日、昼のスーパーのレジで
天ぷら、寿司、刺身、とお惣菜を沢山買ってる老夫婦の後ろに、
菓子パン2個持った作業着姿の青年が並んでたよ。

9 :名無しになりきれ:2010/10/24(日) 09:37:09 O
肥溜めのコテなんでしょ
信用できないな

10 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/24(日) 18:17:33 O
「おい、カルカ?起動しているか?」
入室したスーツ姿の男はカルカと呼ばれる空戦少女に尋ねる。
「今シュミレーション中だ」
ソファに腰を掛け、大げさなヘッドギアをつけたままカルカはぶっきらぼうにそう答える。
「そうか…先ほど大会本部のほうからメールが来てな、次の試合内容が決まったようだが…シュミレーション中なら仕方ないな」
「おいおい!ちょっと待てよ!誰が話を聞かないっていったんだよ」
『試合』という言葉に反応したカルカは、すぐさま、ヘッドセットを取り外し立ち上がりスーツの男を引き止めた
「今試合っつたな!いつだ?いつなんだ!?この前の試合はヒヨっ子しかいなくてつまらなかったからな!
 欲求不満でイライラしてたんだよ!今度は骨のある奴がいるんだろうな」
カルカはまるで飢えた狼のように興奮した眼差しでスーツ姿の男を見る

「まるで獣(ケダモノ)だな。まぁいい、試合は三日後だ。そして、今回のゲームは『キャノンボール』
 沖ノ鳥島付近の海域から東京湾沖に設定されたゴールリングまで1700km間をどれだけ早く跳べるか競う」
スーツの男は淡々と先ほど見たメールの内容を伝えるが、カルカの反応は今ひとつだ。
「なぁ?私ら空戦少女だぜ?まさか、速さだけ競って終わりか?」
不満そうにカルカはそう愚痴る。
戦いの中に自分の存在価値があると思っている彼女にとって、ただのレースなんてお遊戯以下の徒労にしかすぎない
「せっかち者が…武器使用は区間限定ではあるが許可されている安心しろ」
そのことを聞いたカルカは大きく、邪悪な微笑みを浮かべ、スーツの男の話を聞いた。





1st STAGE 「沖の鳥島〜東京間、キャノンボールレース」

ルール
1.沖ノ鳥島〜東京間1700km間を最も早く飛行した者が勝者とする
2.ゴール地点から500km以上1500km以下の空域間のみ武装使用可能
(スタート)→[1500km]武装使用可能[500km]→(ゴール)
3.許可空域以外での武装使用、武装使用禁止区域にいる空戦少女への攻撃、空戦少女以外への攻撃をした場合失格とする
4.機体が着水した場合も失格とする
5.ランキングポイントは振分けは以下の通りにする
1位 50ポイント
2位 25ポイント
3位 15ポイント
4位 10ポイント
5位  5ポイント

その他 他空戦少女を一機撃墜につき5ポイント加算される

ランキングポイントについて
空戦少女

11 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/24(日) 18:20:10 O
名前:カルカ
所属:民間軍事企業「ミネルヴァ」
性別型:女
容姿型:L
顔に大きな切り傷がある。
黒いショートヘア、目の色は赤
性格:粗暴、攻撃的、勝利に貪欲
兵装:重装型「リアス」
武装:ガトリングガンポッド×2、マイクロミサイルポッド、多連装ロケットランチャー
格闘武装:ウィングブレード

備考:民間軍事企業所属の中堅空戦少女
かなりの戦闘狂で戦いの中に自分の価値を見出しているところがある
顔のキズは撃墜時についたもので、本人の希望により直していない。
兵装はサメをモチーフにしたデザインになっている

12 :名無しになりきれ:2010/10/24(日) 19:08:52 O
面白そうだけど難しそうね

13 :メタモナ ◆0Bp.58ypcg :2010/10/24(日) 20:20:21 0
名前:メタモナ
所属:ヨモギ空戦学園
性別型:女
容姿型:S


性格:甘えッ子
兵装:軽装型
武装:ダミーバルーン、小型機雷、閃光弾
格闘武装:パンチ、キック

備考:ヨモギ空戦学園期待の特待生

【参加します。こんなんでいいっすかね?】

14 :メタモナ ◆0Bp.58ypcg :2010/10/24(日) 21:21:39 0
数分、続く沈黙があった。

メタモナの動脈が、トクン、トクンと心臓の鼓動に急かされて動く。
沈黙の中で、唯一、メタモナの聴覚に反応する音だった。

「後方ヨリ熱源反応アリ!」
静寂の飽和は、ヨモギ一号の音声ナビゲーションで破られた。

「え!?」
メタモナは機内の赤外線センサースキャナーを見た。
スクリーンはヨモギ一号に対して急速に接近しつつある二つの輝点を写し出している。

「後ろ!?いつの間に!!」また不意をつかれた。

「あ!ダメ…」二つの衝撃音が走る。

メタモナは線の細い白い手を額にあて、ため息をつく。

『模擬戦終了。ヨモギ空戦学園「ヨモギ一号」は大破だ。各機とも指定のドックに帰港するように』

「はあ…また、うちの負けや。軍属士官学校のやつらも、ちっとは手加減してくれてもええのに〜」

メタモナは操縦席で空を見ながら、ぽりぽりと頭をかいた。背中が痛む。空砲とはいえ衝撃は本物だった。
他校との対戦データはヨモギ空戦学園に直行しているはず。学園長に今日も大目玉をくらうことだろう。

「うちも実戦やったら、もうちょい上手く出来ると思うんやけど…」

ヨモギ一号は哀しげに学園へ帰港した。

15 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/10/24(日) 23:10:34 O
名前:しげはる
所属:(有)鈴木鉄工
性別型:女
容姿型:S
三白眼で目に光が無い、目の下には熊がある
白のロングポニーテール、目の色は金
性格:ダウナー、無気力
兵装:特殊型(ステルス爆撃機を小さくした様なものに乗り込む)
武装:電子兵装妨害装置七号、シールド出力強化装置、自爆装置
格闘武装:ロボットアーム

備考:町の工場である(有)鈴木鉄工の社長が一攫千金を狙って作った空戦少女
金が無い為、費用のかからないロリタイプであり、人気の無い特殊型である
社員に職人が多い為、浪漫を突き詰めた変な装備が多い
ちなみに、名前は漢字で書くと卯遥


16 :名無しになりきれ:2010/10/25(月) 00:33:10 0
明日あたり参加します

17 :名無しになりきれ:2010/10/25(月) 12:07:23 O
>>6

しつもーん
どうやって空飛んでるの?
火を吹くランドセル的なものを背負っているとか?

18 :野見3号 ◆nFfuwTp35.EG :2010/10/25(月) 12:26:53 0
名前:野見3号
所属:吉本工業株式会社
性別型:女
容姿型:L
性格:大阪弁で喋る
兵装:重装備型
武装:右腕にマシンガン、左腕にショットガン、右肩に内部貫通爆破ミサイル、左肩にガトリングガン
格闘武装:ロケットパンチ

備考

19 :名無しになりきれ:2010/10/25(月) 12:34:24 O
出オチキャラかよw

20 : ◆8BFz3SSaSM :2010/10/25(月) 13:06:44 O
名前:マック・クイックショット
所属:AV会社
性別型:男
容姿型:特殊(おっさん型)
性格:陽気
兵装:軽装型
武装:股間部に装着した白液粘着弾
格闘武装:腕から飛び出る捕縛用ワイヤーロープ
備考:常に勝ち抜く気ゼロの機体

これでいいなら参加したい

21 :名無しになりきれ:2010/10/25(月) 13:06:54 O
武装レギュレーション違反で出場不可って渾身のボケなんだろ浮けどわかりやすすぎ
6点

22 :名無しになりきれ:2010/10/25(月) 13:16:13 O
>>20
スレの空気ぶち壊しだな
ピンク板に行けよ

23 : ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/25(月) 15:36:10 O
質問、参加表明に関しては>>3で誘導している避難所にお願いします。
>>17
小形化したジェットエンジンを背負ったり、足のパーツに取り付けたりetcと各企業ごとに違っています。
また、メカニックに関しては、あまりリアリティに拘らず
未来技術を取り入れたものでも構いません
例えば、反重力エンジンだとかパルスエンジン等々
と突飛なものでない限りは特に制限しません
>>18
申し訳ありませんが、そのテンプレだと武装が四つあるので
どれか削ってもらってもよろしいですか?
同じ武装は2つで1セットとカウントすることが出来るので
両腕の武器をマシンガンかショットガンに統一すれば、問題もなくなると思いますが…
>>20
申し訳ありませんが、それはちょっと勘弁してもらってもいいですかね

24 :メタモナ ◆0Bp.58ypcg :2010/10/25(月) 21:29:39 0
放課後。メタモナは、校舎地下のファクトリーエリアにいた。
ヨモギ壱号の底部に体を潜り込ませて、スパナを持って配線を点検している。

「よいしょっと」点検が終わって船殻をはめ込む。

ヨモギ壱号とは代々ヨモギ学園の特待生が模擬戦時に身に着けるプロテクターのようなものであり
飛翔する鎧とでもいうべき代物。

「はあ…」
狭い機体の底部から出てきたメタモナは大きくため息をついた。
すると後ろから、ゆっくりとした足音が近づいてきた。
メタモナが振り返ると手に光ディスクを抱えた袴姿の初老の男が立っている。

ヨモギ空戦学園学園長「サンユウテイシバラク」

彼は生身の人間で、タケシマ海戦というマイナーな戦闘で戦功を立てた英雄らしい。
しかしその戦闘で右足を負傷し退役を余儀なくされ現在はヨモギ空戦学園の学園長になっている。

「自己診断用のSRソフトを持ってきた」学園長は静かに言った。

「あ、おおきに学園長」
メタモナは軽く頷くと受け取ったディスクをチェック用の端末に入れ
船殻から露出した配線をチェックし始める。
(学園長…怒っとるんかな?やっぱあやまらんとあかんやろか…)
かがんで配線を整備しているメタモナに気まずさが募る。

「おまえは空が好きか?メタモナ」先に口を開いたのは学園長のほうだった。

「…え?」突然の質問にメタモナは少し沈黙したが、やがて顔を上げ

「好きやで。うちのお父ちゃん…て言うか、うちをつくってくれた人も空が大好きやってん。
お父ちゃんは、もともと空軍のパイロットやったらしいけど退役して、うちをつくってくれたそうや。
空を鳥のように飛びまわりたいっていうのが夢やったらしいんやけど
うちと一緒にテスト飛行しとるときに乗っとる飛行機が爆発して死んでもうた。
その代わりと言っちゃあれなんやけど、うちは誰よりも空を自由に飛びまわってみたいっ!
世界一の空戦少女になるのが夢なんや!」

メタモナの瞳は輝き人工心臓の鼓動が高鳴る。

「…では…空への階段を昇ってみるか?」
学園長は目を細めてニヤリと笑うと着物の胸元から折りたたまれた紙を取り出し手首をスナップさせて白い紙を開く。
それは「沖の鳥島〜東京間、キャノンボールレース」参加への推薦状だった。

25 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/25(月) 23:11:32 0
【始動――ignition――】


空では大気が水のように重い。
視界の横を高速で横切っていく景色は、同じ速度で風の中を突っ切っているから。
今だってエーテル力場による風防がなければ、顔面を打ちつける風で呼吸すらままならないだろう。

(えーと、確か残りは3つ……南50と、西35、東に16)

前方からの風を読み、向かい風に身体を預ける。
機首を少しだけ右に逸らしてやれば、風が自然に方向転換を助けてくれる。
向かう先、ほんの20秒の距離に、影があった。

(見つけた――!)

銃把を握る掌が汗ばむ。乾いた唇を舐めると、ゆっくり機首を下げた。
滑るように空を駆け下りる。ゆるやかな逆放物線を描くように、敵影の下へ潜り込む。

15秒。

10秒。

5、
4、
3、
2、
1。

接敵――

「ここっ……!」

敵機とニアミスするその瞬間、ほんの寸毫の如き邂逅時間。
腰から抜いた対戦車拳銃の銃爪が、照星が、照門が、敵機の操縦基を捉えた。
引き金を、正確に一回。

「――――ッ」

発砲から離脱まで鼓動一つ。
銃声を置き去りに、撃った結果はついてくる。
もう一度心臓が脈打つ時には背後で爆音と爆風。コンソールに撃墜のマーカーが一つ増えていた。

達成の凱歌も束の間、今度はこちらが銃撃を受けた。
外部装甲に二発、エーテルバリアが三発の被弾。いずれも防ぎきったが、意識外からの被弾に意識の奥が寒くなる。

(やばっ、気付かれた)

左に一機。右にも一機。
近いのは左。エーテル噴射で宙を蹴り、身体を前へ、前へ、前へ。
弾幕に突っ込む。力場を貫通した弾が頬を掠める。モロに被弾しないよう腕部の装甲で庇いながら、ただ前へ。
コンソールが唸る。敵弾の回避不能距離。そして弾帯に下げていた空対空バズーカの射程距離だ。

目視照準で迷わず叩き込む。引き金の軽さと裏腹に、踏ん張りの効かない空中での反動は大きく身体を揺らがす。
切れた頬から流れ落ちる血の味を知った。敵機の爆散を確認。

26 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/25(月) 23:13:29 0
「次っ」

立て続けの撃墜に高揚していくのが分かる。
血は滾り、エーテル燃料の続く限りどこまでても飛んでいけそうな錯覚を得る。

否。それを現実にするのが、空戦少女だ。

機翼を下げ、高度維持の全てを放棄し、完全な滑空体勢へ。高度と引換に、最高速を得る。
前方、敵機がいた。既に機銃のマズルは鈍く輝き、こちらへ向けて幾重にも弾丸をぶちまけている。
機翼の制御でわざと揚力に乱流をつくり機体をバレルロールさせて礫の流星群を回避した。

機銃掃射は潜ってしまいさえすれば、あとは無防備だ。
ワイヤーアンカーの先端を楔に換装し、最後の敵機をサイトに捉えた。射出、命中、捕捉。
鍛造鋼綱の鈍色が空を切り裂いて自機と敵機とを結びつける。モーターが回転し、彼我の距離を埋めんとワイヤーを巻き取る。

「――っだああああああああああ!!!!!」

いつの間にか叫んでいた。
裂帛の気合をひり出すように、高揚した心を吐き出すように。それが一番カッコいいと知っていたから。
背に担うのは身の丈ほどもある大剣。両手剣(ツヴァイハンダー)は刀身に超振動を加え鋼鉄すら紙の如く斬断する。

構えて、跳んだ。
ワイヤーの軌跡を辿るように、敵機の懐へ。冷たい鉄の翼を、害意の権化を叩き斬る。

「超!絶!必!殺!――アルティメットスラぁぁぁぁぁぁッシュ!!」

蒼く輝く、超振動の刀身が鋼の表皮に深く突き刺さった。根元まで埋まる。向こう側へ突き抜ける。
遅れて自機も敵機に接触。駄目押しの体当たりの格好となり、激しく肩をぶつけて脱臼したのが分かった。

「っくう!」

構わず剣を握り、振り抜いた。
機関部を貫いていた刀身が一回転し、敵機を中心から綺麗に真っ二つに分ける。
割れた機関部から露出する、エーテル機関の強い輝きが、そのときは酷くゆっくりに、そして美しく見えた。

「あ」

機関部をぶち抜かれた敵機の爆発。
それを『間近で目視して』、――彼女の意識は消失した。

27 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/25(月) 23:15:58 0
* * * * * * *

「こんのアホタレが!!近接格闘で機関部ぶち抜きにいく馬鹿がどこにいる!それとも努力してこうなったのか!?」

「ごめんなさいでした……」

統合航空戦闘公社――日本の空戦少女事業の第一人者を自負する大手企業の整備工場で、今日も職人の怒号が響く。
薄くなった頭の天辺まで赤くして怒鳴るのは技術班チーフ。工場のご意見番にして、現役の空戦整備士である。
対面にて正座で説教を受けているのは弊社が誇る最新技術の結晶、技術者たちの珠玉の星。――空戦少女『扶桑-501SW』。

「あーあージェットユニット真っ二つ。こりゃ丹波チーフも怒るわなあ」

「それがさ、あの爺さん扶桑ちゃんがどれだけめちゃくちゃにぶっ壊してもああやって説教するだけなんだわ。
 本当ならとっくに本社に空戦少女ごと再調整に送り返してもいいのに、なんだかんだいって手元に置いときたいんだよ」

「あー、そういや俺もチーフがぶっ壊れたユニットニヤニヤしながら直してるの見たことあるわ」

他の整備士達もぶつくさ文句を垂れながら、しかしその表情に険はない。
ユニットが壊れれば壊れるほど彼らの残業時間は右肩上がりなのだが、それでも誰ひとりとしてそれに言及しなかった。

『扶桑-501SW』は空戦公社の開発した51機目の空戦少女である。

日本の技術力の国際需要が高まるにつれ、彼女の姉――上の50機の空戦少女達は、残らず海外資本に買い取られていった。
扶桑は公社の技術者達にとって唯一自分たちで好きにできる最後の趣味機であり、、彼女自身の愛嬌もあって公社のアイドルなのである。

「で、でもでも、あそこは敵の心臓部をぶち抜いて爆発を背景に決め顔が最高にカッコいいじゃないですかぁー!」

「模擬空戦でそこまで見栄張らなくてもいいんだよ!つーかお前、最後抜けなくなってたろうが、剣」

「うう……突撃剣は重すぎるんでありますよお」

「ならもっと軽くて短いやつ持たしてやろうか?」

「う、それはあんまりカッコよくないであります……」

「だろー!?わかってるじゃねえか扶桑!」


「あ、機嫌治った」

「チーフも大概ロマン好きだよなー。突撃剣が邪魔になって何度墜とされてんだっけ」

「つーか弾幕武装一つもなしって……近接特化のコンセプト自体空戦少女にはナンセンスだろ……」

「まあ、俺も遠距離からチマチマ削るよか玉砕覚悟で突撃する方が扶桑ちゃんにゃ合ってると思うがね」

「スコア伸びなきゃ意味ねえだろ、まーた本社に睨まれるぞ、ただでさえ風当たり酷いってのに」

『空戦少女』は今や世界的な興業である。
空戦公社も例に漏れず多数のスポンサーと空戦少女をイメージモデルにしたキャラクタービジネスに手を伸ばしており、
したらば空戦におけるスコアはそのまま業績と同義であった。撃墜より被撃墜スコアのが多い扶桑を睨む目は多い。

『扶桑』は空戦専用にカスタマイズされたアンドロイドであるが、人と同じように考え、喰うし出すし恋もする。
彼女が目下お熱なのは、チーフが寝物語に読んでやった大戦時の英雄譚や、ヒロイックな創作物だ。
扶桑自身も読書少女なところがあって、空戦や整備以外の時間は専らチーフの部屋でジャンプとマガジンとサンデーを読み耽っていた。

28 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/25(月) 23:17:37 0
「チーフ!チーフ!次の空戦はいつでありますかっ」

「おー、なんだ扶桑、もう次の獲物を求めてウズウズしてんのかあ!?」

「そんな悪役みたいな表現しないで欲しいですっ!強い奴と戦いたくてワクワクしてるんでありますっ!!」

「どう違うんだそりゃあよ」

「背景トーンの違いですかね。具体的には前者が60番、後者が122番」

「具体的に言われた方が分かりづれえ!」

立派な漫画読みへと成長を果たしていた。
紙面を見ただけでトーンの番号を諳んじられるのは出版関係者でなければよほど熟達した漫画読みぐらいなものである。
何故なら、生きるうえでこれ以上ないってぐらい必要のない知識だから。

「次の空戦スケジュールは……おい、おい、浅葱。次はいつだった?」

「明日っす」

「明日ァ!?お前、馬鹿、なんでもっと早く言わなかった!」

「ええー、てっきりチーフも把握してると思ってましたよ!いい加減マネージャー雇いましょうよ、あとオペレーターも」

「馬鹿野郎!そんなもんおめえ、わざわざ雇うほどのもんでもねえだろうが。お金勿体無い」

「んな、どこぞの貧乏企業じゃないんスから。本社に予算申請しましょうよ」

「もうしてあんだよ、申請」

「ええ?じゃあなんで、」

「扶桑の漫画代に消えた」

「なら仕方ないっすね!!」

「すぐ出るぞ扶桑!浅葱と伏部は付いて来い。コガネと長治は待機。忘れもんあったら速達しろ」

「「「ウィっす」」」

チーフが腕を振って促すと、扶桑が正座から跳ね上がった。
すぐに二人のスタッフが装甲付きの飛行服とコンソール・ゴーグルを持ってくると、数秒とかからず着用を完了する。
近代的な鎧のような飛行服は、内部にエーテル――生体エネルギー物理化機関を内蔵し、銃弾に対して防御力のある力場を発生させる。

「ユニットの修理状況は?」

「今やってるのは間に合わないんで、予備のを持ってって下さい」

「扶桑、今のうちに合わせとけ」

「了解でありますっ」

29 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/25(月) 23:19:42 0
小型のパラグライダーのような外見をしたジェットユニットは、リュックのように背負うことで着用者を空へ誘う。

これに推進器つきの飛行ブーツを合わせれば、訓練次第で誰でも空を飛ぶことは可能だ。『空戦』は、それ用に調整されたアンドロイドのみだが。
ユニットの内側には斜めのスリットが入っており、ここに突撃剣の柄を収納できるようになっている。

「空対空バズーカ、換装式ワイヤーアンカー、『ドアノッカー』、オールチェックグリーン。いつでも撃てます」

「レギュレーション規格には合わせてあるな。よし、出撃準備完了!これより『キャノンボール』空戦受付へ向かう!」

コホン、とチーフは言葉を切り、

「――山手線で」

電車を乗り継ぎバスに揺られタクシーの運転手にサインを書いたのち、数時間後に彼女達は空戦会場へと辿り着いた。
関東圏のどこかにあるこの会場から、空戦少女達は戦闘空域へとヘリとかで搬送されるのである。

「わぁー、強そうな有象無象がウヨウヨいるでありますねチーフっ!」

「評価してるのか蔑んでるのかどっちだあ?」

「この中の何人と刃を交えることになるんでしょうかねっ」

「お前がお熱の、えーと、あの、誰だっけかは、来てるのか?」

「カルカさんでありますねっ、扶桑的に関東圏最強のカッコよさ値をたたき出してる御仁であります!」

「重装型にも関わらず軽快でアグレッシヴな動きのできる名機だなあ。ウチの扶桑もあれぐらい貫禄がつくといい具合なんだが」

「チーフ、チーフ、わたしにそれを求めちゃうのは酷だと判断しますが!それに、カルカさんにはカルカさんの、
 扶桑には扶桑の求めるカッコよさがあるのであります。誰もが己の『在り方』をカッコよく決めることができたなら――」

世界中の空戦少女が集う中心で、扶桑は意志を高く打ち立てる。

「――それって、最高にカッコいいであります!」



【扶桑-501SW:『キャノンボール』会場入り。エントリーを済ませ待機中】

30 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/25(月) 23:22:53 0
名前:扶桑-501SW

所属:統合航空戦闘公社(通称『空戦公社』)
性別型:女
容姿型:M
性格:突撃系熱血娘

公式記録:撃墜16 被撃墜27

兵装:超軽装型アサルトチューン
武装:空対空バズーカ・換装式ワイヤーアンカー・対戦車拳銃『ドアノッカー』(いずれも実弾系)
格闘武装:超振動ツヴァイハンダー『突撃剣』(超振動で鋼鉄も紙のように切れる大剣。本人の剣技が未熟故にほぼお飾り)

基本戦術:弾をばら撒くということができない(=弾幕を作れない)ので旋回能力を活かして相手の懐へ
       完全近接戦闘仕様なので遠・中距離主体の相手とは互いに天敵関係。狙撃にはまったくの無力

外見仕様:ざんばらショートボブ、どんぐり三白眼、白い肌に絶えない生傷。小柄な体躯に背負った大剣がイカス
   飛行服にコンソール内蔵式ゴーグル着用。推進系は背負ったジェットユニットと飛行靴。
       接近戦に持ち込むことが常なため装甲厚め。ボディープレート・エーテルバリア・防弾インナー

必殺技:アルティメットスラッシュ――超振動突撃剣を構えて特攻。相手は死ぬ

概要:日本のHENTAI技術力の粋を集めて創り出された空戦専用空戦少女。好きな言葉は『神風特攻』『電撃戦』『遊撃隊』
   . 英雄譚や史実・創作に関わらずヒロイックなものに過剰な憧れを抱き、日々必殺技の研究に余念が無い
   . 頭は悪いが反射神経並びに近接性能には非凡なものがあり、磨き抜かれた格闘能力は射撃技術の未熟を補って余りある
   . 何から何まで戦うステージを間違えちゃった感じの能力値だが、本人は至って実直に空戦の舞台へ上がる
   . まだまだ若輩故か空戦技術は実用性よりも見栄えを重視しがちで、『必殺技』にその傾向が如実に顕れている

   「最高にカッコいいであります!」


【新規参加です。よろしくお願いします】

31 :名無しになりきれ:2010/10/25(月) 23:49:31 O
従士いい加減にしろ
肥満し過ぎ
そんなんだからシスターにも愛想尽かされるんだよゴミクズ

32 :名無しになりきれ:2010/10/26(火) 01:40:26 O
三浦も来るの?

33 :名無しになりきれ:2010/10/26(火) 08:27:12 0
ほんと何処でも沸くな従士ってのは
せめて今のスレを終わらせてから参加しろよ
へヴィはFOする始末だし
あと三浦は呼ぶなよ

34 :名無しになりきれ:2010/10/26(火) 14:36:55 0
今日の夜くらいに参加したい

35 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/26(火) 15:12:28 O
戦争はなくなり、傭兵は戦う場を一時的に失った。
戦争が無くなった代わりに空戦が始まり、そこが彼らの新たな戦場になるのは当然の流れであった。

カルカの所属する民間軍事企業「ミネルヴァ」もその流れを受け入れた。
技術力を持たない企業とスポンサー契約を結び、彼らの代わりに戦うのが彼女の任務だ。
任務に対し異はなく、むしろ、彼女は歓喜した
また、闘えると

【キャノンボールレース当日 会場】
「んだよ。どいつもこいつも張り合いがいがなさそうな相手だな〜おい」
会場の中をぶらつきながら、カルカは今日の試合に参加するライバル達を見ながら不満そうにそう呟く
「もっと大物が来ると思ったんだがな。検討違いだったかぁ?」
呆れたようにそういい、ぶらつくのを止めようとした時だった。
カルカの視界にある空戦少女の姿が入る
「…ロマンチストか」
カルカの視線の先に居るのは、先ほどからメカニックと話をしている扶桑の姿であった。

何故、彼女が扶桑をロマンチストと呼ぶのか
単純なことである。
理論よりもロマンを優先した武器を喜んで使用し、戦いの美学に拘る様から
自分とは明らかに違うものとしてロマンチストと呼んでいるのだ。

しかし、扶桑の姿を確認したカルカの表情は喜びに満ちていた
扶桑シリーズは兵装、武装はロマン思考が強いが
空戦少女の性能の高さはかなりのレベルなのだ。
「…こいつは、面白くなってきたぜ」
彼女は笑みを浮かべ、そう呟いた。


36 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/10/26(火) 20:55:03 0

「ふふふふ……準備はいいですか、しげはる。
 今日が我々鈴木鉄工の躍進の第一日目、今日こそ世間に我々の凄さを見せ付けて、
 銀行からの融資が止まらない様にするのです!」

キャノンボールレース会場の一角。
そこで作業着を着た眼鏡の女……マッドサイエンティスト風味の女性が、
小さな少女に向けてテンション高く話しかけていた。
その女性が話しかけているしげはると呼ばれていた少女は、女性のテンションを、
目の下に隈が浮んだ生気の無い三白眼でやる気なく眺めつつ、
ペロペロキャンディ……の様な何かを丸々一個口の中に突っ込んでスルーしている。

「……聞いているのですかしげはる? 貴女の肩には我々社員の給料がかかっているのですよ!」

そんな様子を見て、女性はしげはるに少し苛立たしげな様子で話しかけるが、
しげはるは女性の方へその光の無い目を向けて

「……無意味だし、時間の無駄だよ……こんなレースに出て優勝する
 なんて……社長が結婚相手を見つけるのと同じくらい無謀だよ………」

呟いたしげはるの言葉に、社長と呼ばれた女性はカチンと固まる。

「だ、誰が無駄ですかっ!私だってしっかりとした格好をすれば結婚の一つや二つですね!」

「……結婚を二回もしたら、三十路の上にバツイチになっちゃうよ」

「ですからっ!!……って、こんな口論してる場合じゃないのでした。
 いや、私が結婚できるとかそういう話は置いといて。三十路じゃないというのも置いておいて。
 ……いいですか、しげはる。もしここで貴女が優勝出来なかったら、貴女はどうなると思います?」

「……えげつない趣味のお金持ちに玩具にされた上で、スクラップになると思う」

「そうっ!貴女のエネルギー代が払えず、貴女はただの置物に……って、いやいやいやいやいや!
 何を想像しているのですか貴女は!そこまで深刻な事態にはならないですからねっ!!?」

「……」

光の無い目を社長へ向けるしげはるに対し、社長はコホンと咳を一つつく。

「とにかく、貴女は今日は活躍しなければならないのです。
 そうでなければ、貴女が今摂取しているキャンディ型固形エネルギーも買えなくなるのですよ?
 それでもいいのですか?」

「……それは嫌」

「嫌でしょう?私ももう『もやし』は食べ空きました。そろそろ肉が食べたいのです」

しげはるがコクリと頷くのを確認すると社長は満足そうな笑みを浮かべた。

「――――さあ、貴女の初陣ですよしげはる! シュミレーション通りならば、
 貴女は誰のも負けません。何せ、我々鈴木鉄工の職人達が全力を尽くしているのですからね!
 金に任せて高級な量産品を買い集める屑共に、目に物見せてやるのです!!」

「……あいあいさー」



37 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/10/26(火) 22:18:38 0
宵闇に浮かぶ正円の月を、空を駆ける影が両断する。
影は小さく、そして速かった。
淡黄色の池を一瞬で渡り切ると、再び夜の闇へと飛び込んでいた。

影は人の形をしていた。小柄でやや丸みのある、幼児体型の少女の姿だ。
黒のポニーテールが風圧によって後ろに流れる。
アラミド繊維の黒い服とスカートも、白いネクタイも、風に撫で付けられていた。

「やっほーい!ぶっちぎりじゃーん!」

影が声を発した。
薄いエコーの掛かった、飴玉のような高音だ。
背負ったジェットパックの吐く轟音と、風の奔流の中でも、よく響く。

少女は、空戦少女だった。
機体名『超音ソク』(ちゃおねそく)。
所属は――

「オイ馬鹿。無駄に口を開けるな。空気抵抗が増えるだろう」

個人開発@西田家。
所有者に苦言を吐かれ、ソクは目を細めて舌を出す。

「べっつにいーじゃん。もう誰も追いつけないって」

「余裕だな。じゃあこれも言わなくていいか」

「……?なにが?」

「さっきリング追い越したぞ」

瞬間、ソクの顔が青ざめた。
もっとも、人工皮膚どころかラバースキンすら貼られていないソクの機体は常に白い。
が、目は見開かれ、口が唖然と開いている。
彼女に生体パーツが組み込まれていれば、きっと顔も蒼白になっていた事だろう。

「え、ちょ……そういうのはもっと早く言ってよ!しんじらんない!」

慌てて彼女は姿勢を起こす。
同時に右手を大きく広げる。
空気抵抗の質が変わり、彼女は急停止。
風に煽られた木葉の動きで舞い上がり、そのまま弧を描き後方へ降下する。

彼女は今、『リング』と呼ばれるゲームに参加していた。
ルールは単純で、決められたコースを飛行し、道中に設置されたリングを全て通過した上でゴールするだけ。
だがだからこそ、リングを一つ抜かしていたなどと言ったら言い訳のしようがない。

「空気ていこうがどうとか言ってたのはどこの誰よ!もう!」

「調子に乗るお前が悪い。ん、後続に追い抜かれたぞ。ちなみに今回の賭けパーツは……」

「言われなくてもわかってますー!あーもー!」


38 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/10/26(火) 22:19:53 0
抜かしたリングを通過して、再びソクは急加速。
腕を畳み頭を極力伏せ、最低限の視界確保のみで速度を追求する。
宵闇に塗り潰された景色が、更に溶ける。
コーナーが迫る。高層ビルの絶壁を前に、彼女は一切減速しないまま旋回を始めた。
更にビルが接近する。ほんの少し機体を開けば減速して、安全に角を曲がれるだろう。

「ま、それじゃあ前の連中に追い付けんだろうがな」

「うるさいなー!ちょっと黙ってて!」

視界がビル壁に埋められていく。
激突すれば空戦少女の機械の身体とて無事では済まない。
そもそもこのゲームは非公式の賭け試合だ。
ビルに突っ込もうものなら、即座に所有者西田はお縄になる。

「そしてお前は解体処分と」

「うっさい!」

ビルの鏡面ガラスに映る自分と目が合った。
引き攣っている。それが何処か間抜けで、ソクは苦笑を零す。
そして、彼女はコーナーを抜けた。
トップスピードのままで。

「よし……!」

「前方にポールだ。ぶつかったら解体処分前にスクラップだぞ」

ソクが安堵の声を漏らしかけたのと、西田の忠告は同時。
緩みかけた表情に緊迫が戻った。
咄嗟に気体を左に回転させ、視界を縦に割るポールを躱す。
間一髪だ。すれ違いざまに顔を殴り付けた風の壁が、激突の錯覚をソクに与える。
もし彼女の機体に模造心臓が搭載されていたなら、その鼓動は馬群の馬蹄音のようになっていただろう。
直撃していればこの速度だ。機体は真っ二つだったと、ソクは身震いする。

「今のが最後のコーナーだ。最終ストレート、全力で飛ばせ」

「りょーかい!」

顔を伏せ、視界を捨て、彼女はただひたすら加速。
最早視界は完全に溶けた闇にしか見えない。
先行する機体に追突する事も考えなかった。
そして、

「――おい馬鹿、前!」

珍しく荒げた西田の声が聞こえた。
何事かと、顔を上げる。

「いいっ!?」

コンクリート製の壁が、猛スピードで迫ってきていた。
逆だ。彼女が壁に迫っているのだ。
違う、そんな事はどうでもいい。

避けなければ、大破する。
ソクの頭は、ただそれだけの情報で埋め尽くされていた。

39 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/10/26(火) 22:20:54 0
限界まで背中を反らせて、機首を上げる。
首がもげて何処かへ飛んでいってしまうのでは。
そう危惧さえ覚える抵抗を受けるが、少しでも緩めれば粉々だ。
選択の余地はない。

何処からが壁なのか。超加速の世界では認識出来ない。
無明の闇の向こう側に、死が待っている。
この速度で衝突すれば、搭載された人工頭脳が生き残れる由はない。

消滅への恐怖が、彼女の軌道を塗り変える。
同様に、視界も。
死を内包する暗黒から一瞬で、月明かりと星の満ちた空に塗り変わる。

やや遅れて、その景色が自分の生還を意味しているのだと、ソクは理解した。
嘆息を零しながら速度を落とし、

「って、そうだゲームは!?」

はっとして、後方の眼下へと振り返る。

「あ……」

対戦相手の機体が、ゴールしていた。

「……ふん、終わってみれば圧倒的だったな」

まさに今、対戦相手はゴールラインを超えていた。
今度こそ、ソクは深く安堵の息を零す。

「……って、さっき何でゴールしたのおしえてくれなかったのさ!あぶなかったじゃん!」

「お前が速すぎたんだ。誇っていいぞ」

「え?あ、そう?えへへ……じゃなくて!」

「というか地面にゴールラインがあったろう。ちゃんと見とけ」

「見えないよそんなの!めちゃくちゃ加速してたんだから!」

「まあ、ひとまず帰って来い。非公認のゲームだからな。直に空戦警察が来るぞ」

捕まれば当然、今宵の勝利も無意味に帰す。
それ以上の反論を封じられ、目を細めて拗ねた様子を見せながらも、ソクは西田の元へと飛行を始めた。



――そして西田家上空。
目立たないように低空で市街地の随所を経由した後に、ソクは帰宅を果たした。
眼下に見える開け放たれていたベランダに飛び込んで、着地。
そのまま部屋の奥に見える持ち主の背中へ一直線に早足で向かう。

「速かったな。よくやったぞ」

西田が振り返った。
ヘアバンドで髪をまとめ、上下ともジャージを着込んだその姿は一目見て、
彼が見栄えと言うものに無頓着である事が見て取れる。

40 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/10/26(火) 22:21:39 0
「はやかったな。よくやったぞ……じゃないわよばか!なんでもっと早く教えてくれなかったのよ!」

帰ってきて早々に憎まれ口を叩くソクに、西田は眉根を寄せて溜息を吐く。

「だから言っただろう。アレはお前が……」

「そっちじゃなくて!駆けパーツのほうよ!」

あぁその事か、と言わんばかりに西田が大きく二度頷く。
その態度に増々、ソクは語調を荒げた。

「ばっかじゃないの!?負けたらAI以外のボディ全部渡すって、
 次のレースからわたしのAIをパソコンにつんでしゅつじょーさせるつもりだったの!?」

「勝てる試合だと思ってたからだ。実際勝ったのだからいいだろう」

西田はそこで一度口を閉ざし、

「それに得た物も、危険を犯しただけの価値がある」

そう続けた。
ソクの目がほんの少しだけ、丸く開かれる。

「あ、そういえば……あいては何をかけてたのさ。わたしそろそろラバースキンがほしいんだけど!
 生体皮膚とはいわないからさ、こんな外装のつぎ目が丸見えなんてかっこわるいよ。
 表情筋きこーもないし、髪だって安物の黒髪ポニテだし。そういえばあのアニメおわったんでしょ?
 黒髪ロングとかツインテとか、茶髪とカチューシャのセットとか、やすく出回るんじゃないの?」

「残念ながらまだ映画があるので暫く値下げはないな。それに今回の戦利品は、そんな物よりずっといいぞ。自分で見てみろ」

西田は一歩横にどいて、自分の背後にある机、その上に置かれた箱を顎で示す。
ソクは一瞬戸惑いながらも机に駆け寄り、飛び乗って箱の中を覗いた。

「……これって」

思わず彼女は、声を零した。
慌てて西田を振り返り、彼は小さく頷きを返す。

「腕部組込型レーザー発射器と、腹部内蔵型ミサイル射出機構、だ。どちらもS型用だ。
 これで『フライ』や『レース』、『リング』以外のゲームにも出場出来る」

返ってきた言葉に、ソクは表情を輝かせる。
と言っても、やはり彼女には生体皮膚が無い為、感覚的な話なのだが。
とにかく彼女は机から飛び降りて、更に両手を挙げて飛び跳ね、喜びを表現する。

「すごいすごい!やるじゃんニシダ!で、これをいつ使うとかもう決まってるの?」

「あぁ、明日だ」

「……へ?」

けれども西田の答えに彼女は、はたと停止した。

41 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/10/26(火) 22:22:20 0
「だから明日だ。沖の鳥島から東京間で行われる『キャノンボールレース』。
 何、安心しろ。ゲーム内容はこれまでやってきた『レース』と大差ない。区間限定で武装の使用が認められているだけだ」

「みとめられているだけだ……って!むりにきまってんじゃんそんなの!私まだ武装使ったことなんてないんだよ!?」

抗議の声を上げるソクに、しかし西田の表情に変化はない。
相も変わらぬ真顔のままで、こう告げる。

「そう心配するな。ちゃんと秘策を用意してある」

「え?な、なーんだ。それならそうとはやく……」

安堵した様子のソクの声を遮って、西田は一枚のディスクを差し出した。
その表面には、ゴシック体の文字がプリントされている。
内容の簡潔な説明文だ。

『シュミレートデータ:キャノンボールレース』

それを読んだソクの手は固く握られて、わなわなと震えていた。
人工頭脳が焼き切れてしまいそうなまでの怒りを抑え切れず、彼女は叫ぶ。

「この……ばかーーーーーっ!!!」

42 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/10/26(火) 22:23:08 0



そして翌日。

「う……わぁ、ひとがいっぱい……。や、やっぱり外装丸見えなんてはずかしいよぉ……」

超音ソクは露骨にあがっていた。
きょろきょろと視線を泳がせて、西田のジャージのズボンを掴んで離さない。

「東京にやってきて露骨に服装を気にするおのぼりさんかお前は。安心しろ。
 慣れたら上下スウェットで買い物に出られるようになる」

「うれしくないよそれ!てゆーかそこにいたるまでに無駄にオシャレがんばっちゃったりとか
 色んな行程があるよね!わたしもそーゆー行程をふんでみたいな!」

「お前は空戦少女だろう。行程など全てひとっ飛びだな。まあリアルな話をすると、金がないので却下」

「賭けでとったいらないパーツとかうってるんでしょ!しってるんだからね!」

「夫の懐事情を完全掌握している嫁かお前は。いらん物を売るのはいる物を手に入れる為に決まってるだろう」

「見栄えだってひつようですー!そういえば大会の時までジャージで来るのやめよってこの前いったじゃん!」

思い出したようにそう言って、ソクは掴んでいたジャージ生地を投げ捨てるように手放した。

「授業参観の後父親に怒る思春期の娘かお前は」

「空戦少女ですー!わかる!?少女なの!しょ、う、じょ!いまどきわたしみたいな空戦少女どこにもいないよ!?」

彼女の言う「私みたいな」とは、人間的機能の欠落具合だ。
白い外装が剥き出して皮膚はなく、体内を駆け巡るのは血液ではなく電気信号のみ。
模造心臓も組み込まれていなければ、味覚を楽しむにはパソコンを介さなくてはならない。

空戦少女が戦争に使われていた頃と大差ない。
そう称しても過言でないくらいだ。

「……わたしは、空戦少女なの。人型汎用航空支配戦闘機じゃないんだよ」

ソクの消え入るような呟きに、西田は目を細める。
そのまま目は閉じられ、彼は溜息を一つ。
彼を見つめるソクが、目を伏せる。

「……このレースで賞金が入ったら、ボディを換装してやろう」


43 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/10/26(火) 22:24:18 0
伏せられた目が、大きく見開かれた。
唖然として、数秒。
それから正常な意識を取り戻すと同時に、思わず確認を取る。

「そ、それホント?」

「当たり前だろう」

「ホントにホント?」

「最近の生体機体は高性能だからな。戦争が終わりなまじ見た目を意識し始めて、
 かえって機能美と言う奴が備わったのだろう。……何だ、急にその機体に愛着でも湧いたか?」

「ま、まっさかぁ!あ、ほら!そういやまだエントリーしてないじゃん!いそがなきゃ!」

忽ちはしゃぎ出して前を行くソクの背中に、西田はもう一度溜息を吐く。
何とはなしにソクのAIの設定年齢を思い出して、機械も人も扱いの手間は変わらず膨大だなと、内心で嘆いた。

【よろしくお願いいたします】




名前:超音ソク(ちゃおね そく)
所属:個人開発@西田家
性別型:女
容姿型:S
    流線型を描くためお腹の少しぽっこりした幼児体型
    手足にラインがあったり装甲の継ぎ目が見えてたり
    髪の毛は黒のポニーテール
    服装は耐熱耐衝撃のアラミド繊維製だがジェットパックの炎で焦げないようにってだけ。防御性能は殆どなし
    むき出しのジェットパックを背負っている

性格:わがまま
兵装:軽装型
   ぼうがい、バードアタック用ワイヤー
   てのひらレーザー
   おくのてミサイル×1
近接兵装:ピック(金属製の太めの棘)
備考:個人開発の空戦少女。パーツなどは賭け試合やトレード、試合の賞金で賄っている
   それでも企業や学校などドナーのいる所とは懐事情が雲泥の差なので
   普通にやっては勝てないと、S型軽装型から更にパーツや武装を削減して、高機動高旋回力をコンセプトとしている
   (武装に関しては単に高くて持ってなかったって事もあるけどね!)
   ジャミングやチャフ、フレアなし。シールド系なし
   髪の毛は黒のポニテが不人気で安かったから。あと空気抵抗で癖がついてもあんま見栄え変わらないから
   装甲の継ぎ目が見えている事など、見た目のおざなりさを本人(本機?)は嫌がっているが金がないと聞き入れてもらえない
   公式試合にはそれなりに出て勝っている。でもどれも『レース』や『リング』など非武装限定。武装持ってなかったし
   公式試合以上に賭け試合への出場が多い

44 :バーサーカー ◆KoaWaw59Hc :2010/10/26(火) 23:00:41 0
名前:バーサーカー
所属:吉本工業(株)
性別型:女
容姿型:L
常にマスクを被っている。素顔はアジアン隅田に似ている。
性格:粗暴、大阪弁
兵装:接近戦強化型
武装:プラズマキャノン&ポインター、ステルス機能(威力は高いがチャージに時間がかかる&精度が低い)
格闘武装:リストブレード(格闘時に拳から突き出す刀のような武器)

備考:オーサカのミウラ郡コクハ市にある大企業、吉本工業から出場している空戦少女。
大変粗暴な性格で、今までに何機もの空戦少女を大破させてきた。

(よろすくね)

45 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/27(水) 23:50:29 0
「おっ、ありゃあ西田家じゃねえか。ついに武装系の空戦にも顔出すようになったか」

エントリーを済ませ、空戦開始まで空いた時間を敵情視察と言う名の物見遊山に費やす段になった頃である。
はしゃぎ回る扶桑と、何故か同じぐらいテンションの上がったチーフが歳不相応にハイライトのかかった目をぐるりと動かした。

「うわー、御仁の空戦少女、外装系がスッカスカですねっ。有名な方なんでありますか?」

「いんや、全然。ただ職人仲間のうちじゃあ、個人開発にも関わらず公式・非公式問わずやたらめったら非武装系の空戦で
 勝ち星を上げてるってんで、毎回パーツも大きく変わってるからありゃ絶対裏で空戦賭博でもやってんじゃねえかってな」

一時期話題になったんだ、とチーフを言った。いつになく遠い目をしていて、事実、遠い日の自分の在り方にでも重ねているのだろう。
『戦争』がまだ盛期だった頃、このいぶし銀の男がまだ無垢だった頃。そういうギリギリの生き方をしていたと扶桑は聞いたことがあった。

「あすこはスゲーぞ。武装を限界まで削って速さだけをカツカツまで究めたある意味究極の趣味機で実益機だ。
 ネジ一本買う金もなかった頃を思い出す潔さだ。最も連中、アタマに締めるネジまで忘れてるみたいだがなあ、はっは!」

「おっ、上手いこと言いましたねチーフっ」

二人共声がやたら通る上に大きい。すなわち五月蝿い。
鉄打つ音の絶えない職場で育った人間には致し方ないことだが、本番前でピリピリしている空気の中、彼らを睨む目は多い。
それには空戦公社という国の後ろ盾を持つ大手企業に対するやっかみも、確かに含まれていたが。

「このところ大企業から貧乏町工場まで節操なしに参入してきたからなあ。大概は維持費が捻出できなくて消えていくんだが、
 たまーに技術とか、空戦少女自体の才能とかに光るものがあって、それだけで勝ち進んできちまう奴が出る。
 そういう連中も得てしていつかは資金の壁ってもんにぶち当たって挫折するんだが、そうなる前に拾い上げようってスカウトも居るんだ」

だから空戦少女という『市場』において、商品の持ち腐れという事態は稀だ。
技術があるなら、才能があるなら、どこかが必ず拾い上げてくれる。全世界に己の術の全てを晒す舞台であるからこそだ。
丹波チーフや公社の技術者達も、大半がそのような形で拾い上げられてきた貧乏企業出身だったりする。

「逆に言えばどんなに貧乏なところだって、とりあえず空戦に出とけば自分を市場に売り込めるってわけでありますねっ?」

「そういうこったな。だからそれ以外に営業する手段を持たない半端な技術者もやたら空戦には集まるんだなあ。
 公社のスカウト員も会場入りしてるらしいけんど、さてさて今回は掘り出しもんが見つかるかね」

「この中に今後一緒にお仕事する可能性を秘めた御仁がいるかもと!」

「おうよ。ざっと見るに俺のおメガネに適ったのは、さっき言った西田家、それから『しげはる』の鈴木鉄工。
 こいつも貧乏だが優秀な空戦少女を抱えてる。どうにも覇気がねえのが玉に瑕だがな」

46 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/27(水) 23:52:07 0
「カルカさんは!カルカさんの所はどうなんでありますかっ!?」

「あすこは軍事企業だ。技術者でなく軍人資本で運営してるところだからそもそも同じ土俵に立ってねえよ」

「そうでありますか……」

扶桑は一瞬だけ目を伏せる。空戦少女は生体式・非生体式問わず感情が豊かである。
そこが空戦少女がアイドル性を持ち一大興業になった所以でもあるのだが、モチベーションがモロに戦績に影響するのは職人には厳しい話だ。

「ま、まあお前がそこまで気ィ回すこたァねえよ扶桑!ほら、噂をすればなんとやらだ、『ミネルヴァ』の空戦少女がご到着だぞっ!」

言われた扶桑が顔を上げると、民間軍事企業『ミネルヴァ』のエース空戦少女カルカが会場入りしたところだった。
その歴戦の貫禄を思わせる鮫傷顔が、品定めするようにゆっくりと会場を見回し、やがてこちらを向き、そして目が合った。
扶桑はぶるりと振るえ、つないでいたチーフの手を離し、搾り出すように呟く。

「……さ、」

「さ?」

「サイン欲しいでありますううううううううううっ!!!!!」

「思いの他ミーハーだなお前!?」

駆け出していた。懐から取り出したるは武装錬金の7巻。会場入りする前に代々木のブックオフで購入してきたのだ。
色紙がなかったので暫定。帰ったら額縁に入れて飾る所存である。

「また微妙なトコ持ってきたな……」

チーフの言葉を尻目に扶桑は突撃する。
目指すはカルカ。技術者集団と軍人に囲まれた彼女のところへ一直線に、実直に。

「カルカさあああああん!」

扶桑は一旦言葉を切り、

「これどうぞっ!!」

手にあった単行本を投げつけた。

「趣旨変わってねえか!?」

サインのサの字も言わぬまま、対戦相手に漫画を投げつけるという奇行に出た扶桑を見て、チーフは再び遠い目をした。
今度は確実に、現実逃避目的だった。


【エントリー完了。憧れのカルカさんにサインを貰おうとして順序を間違える】

47 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/28(木) 10:08:11 O
「随分とまぁ楽しそうじゃないか」
カルカの様を見たミネルヴァ所属のオペレーターが皮肉そうにそう言う
「当然だろ?あの公社の空戦が出てくるんだぜ?期待して何が悪いよ」
扶桑から視線を外し、まるで新しい玩具を見つけたような表情でそう答えてみせる。

しかし、カルカの表情とは裏腹にオペレーターの表情は険しい
「お前が公社の空戦をどう評価しようが構わないが…あまり他を過小評価するのはどうかと思うぞ」
オペレーターはそう注意し、携帯型デバイスを取り出して今回のレースに参加する他の空戦少女のデータを見せる
「例えば…今回初めて武装ありの試合に出る西田家所属の超音ソク
 非武装の試合ではあるが、コイツが叩き出したタイムは上位ランカーと対等に張り合えるほどのものだ
 もしかすると今回の最有力候補になりえる実力は十分に有している。個人開発の道楽だと思っていると痛い目にあうぞ」
さきほどよりも更に険しい表情を見せ、オペレーターはカルカに釘を打った
そのことを理解したのか、先ほどまで余裕を伺わせていたカルカの表情が真剣なものへと変わった
「そのぐらいわかってるさ、だが、非武装のレースと武装ありのレースは同じレースでも全く違うものだと奴は理解しちゃいない
 確かに速さは認めてやるさ、だが、漬け込む隙はいくらでもあるさ。」
未だに険しい表情を浮かべているオペレーターに対し、自信を潜ませながらカルカはそう答えた

しかし、オペレーターが険しい表情をしているのは、ただ単に、他の空戦少女を過小評価していたことだけでは無さそうだ
「まぁその辺は人間の私には理解できないことだろうな
 だが、私が心配しているのは、お前が調子に乗っていることだけではない。
 お前が闘争にかまけ、十分な結果が出なかった場合スポンサーが何を言ってくるかぐらい理解しているだろ?
 一応、確認のため、お前の具体的な目標を言ってみろ?」
闘争の場が変わっても、傭兵は傭兵、結局のところ雇われの身だ。
上が望むものを与えなければならないノルマを常に背負わねばならない
「目標撃破数3,4それプラス上位入賞」
カルカの掲示した目標は、自身の欲求とスポンサーの意志
その二律背反を無理やり成立させようとしているものであった。
「…やれるのか?」
「愚問だな」

自信満々にそう答え、その場から立ち去ろうとした瞬間だった
>「カルカさあああああん!」
「ッ!?」
自分を呼ぶ声に反応し、振り返

48 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/28(木) 10:09:35 O
自信満々にそう答え、その場から立ち去ろうとした瞬間だった
>「カルカさあああああん!」
「ッ!?」
自分を呼ぶ声に反応し、振り返るカルカ。そこにあるものは…
>「これどうぞっ!!」
>手にあった単行本を投げつけた。
回転をしながら飛んでくる単行本であった。何故?という疑問が出たが
「いい度胸だ!」
元軍人の性なのか、癖なのか、投げられた単行本を難なく掴んだと思うと
即座に扶桑の顔面に投げつけた。
「…?あぁ!!ヤベェつい癖でやっちまった。悪い!大丈夫か」
慌てた素振りを見せ、パニックなるカルカ、それを呆れた素振りでその様子を見るオペレーター…カオスである

そんな中、会場全体に聞こえるほどの音量でアナウンスが流れる。
どうやら、試合の受付が今をもって締め切りになり、参加者等はすぐに移動用の輸送機に乗り込むよう指示が出された。

これから空戦少女たちは、スタート地点と沖ノ鳥島付近海域にいる空母に向かうことになる


49 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/10/28(木) 15:56:14 0
「おい、ソク。コイツを渡しておく」

「あ、ニシダ!どこいってたのさ!わたし一機じゃエントリーできないんだから!」

つい先程まで他所の、企業から参戦した空戦少女達を眺めていた西田は音もなく、ソクの傍を離れていた。
かと思いきや何事も無かったかのように帰ってきて、彼女に小さな包みを渡す。

「……なにこれ。わたしこんなのもらっても食べらんないんだけどー」

「阿呆め。それは『とっておき』だ。いざとなったら使え」

「いくつあんのよ。ひさくとか、とっておきとか、みょーしゅにおくのてと……あときりふだだっけ?
 わたしを赤白のボールにいれて持ち運ぶペットとかんちがいしてないでしょーね」

「武装系のゲームは初参戦で、機体性能も十分とは言い難いお前だ。手札が多くて困る事はない」

超音ソクは速度と旋回力こそがウリだが、今回のレースはそれだけでは勝てない。
例え相手に完全無視を決め込んで一位でゴールしたとしても、
撃墜ボーナスを得た後続に得点で追い抜かれる事は十分あり得る。
むしろ最初から撃墜時のポイントを重視してかかる機体もいるだろう。

「うぐっ……そーゆーこと言われると不安になってくるじゃん」

「安心しろ。賞金が出なかったら赤字だからな。生体機体どころか髪も服も当分お預けだぞ」

「うげっ」と悲鳴を上げて、ソクは眼を細めて口を半開きにした。

「とにかく、そろそろ締切りだ。エントリーしておくぞ」

そう言って西田はソクを置いて歩き出す。
彼の背後でソクは機械の外装でしかない頬を叩いて、彼女なりに気合を入れる。
鈍い音だけが響いた。

【エントリー終了。次はスタート地点からで】

50 :名無しになりきれ:2010/10/29(金) 02:31:00 0
名前:野見さん家の犬(寿司太郎)
所属:(株式会社)働くおっさん劇場
性別型:特殊型(柴犬・メス)
容姿型:柴犬、麻呂みたいな眉毛がある
性格:ジャーキーが大好き
兵装:狙撃用ライフル・ドルフラングレン、ミサイルランチャー
(チャフ、スタン、スモーク)、ロケット肉球パンチ




51 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/10/29(金) 20:01:01 0

「ふぅ、これでエントリーは完了ですね……おや?」

空戦少女「しげはる」のエントリー書類を提出し終えた社長と呼ばれる女性が
人ごみを掻き分け自身の先程までいた場所に戻ってくると、そこで待機する様に
指示してあった「しげはる」の姿が見えなくなっていた。

「し、しげはる? どこに行ったのですしげはる!?
 まさか……誘拐!? な、なんて事です!は、早く警察を……」

「……私は、ここにいる」

「しげはる!良かっ…………何をやっているのですか、しげはる?」

社長は声の聞こえた方へ安堵の表情を浮かべながら振り返り、そして固まった。

「……何度も人波に流されて、戻るのが大変だからここに避難した」

「いやいや、理屈はわかりましたが、なんでよりにもよってゴミ箱の中に避難してるのですかっ!?
 貴女のボディと服が汚れてしまうではないですか!!」

「……大丈夫だよ。誰もゴミを捨てなかったし、
 それに、もし汚れても誰も私には注目しないよ……そもそも、私がゴミみたいなものだよ」

「ゴミじゃないですしそれは全然大丈夫じゃないですっ! ほら、早くそこから出るのです!」

「……暗くて狭いのは、落ち着くのに」

死体の如くにやる気の無いしげはるを社長はゴミ箱から引きずり出すと、
その服を手でポンポンと払い、ため息を一つ付いてから口を開く。

「はぁ。全く貴女は、あまり心配をかけるんじゃありません」

「……反省してる」

「よろしい……では、今回の我々の作戦を説明しますよ。
 まず、一つ目の勝負所はスタート直後です。具体的には――――」

そうして社長はしげはるに対して一通り説明を終えると、その頭を撫でた。

「……いいですかしげはる。貴女は貴女が思っている以上に素晴らしい空戦少女です
 なにせ、天才職人達が全力を込めて作り上げたのですからね。
 自信を持って――――勝ちにいきましょう」

【しげはるスタート地点へ】

52 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/30(土) 01:41:34 0
扶桑が勢い余って投げた単行本は、彼女自身の膂力と、無駄に磨いた投擲スキルも相まって常軌を逸した速度で飛ぶ。
ぶつかれば洒落にならない痛みと怒りを買うであろう一撃は、しかしカルカに届かない。
条件反射の如き無意識の挙動で、難なく掴み取られたのである。

>「いい度胸だ!」

どころか間髪入れず投げ返された。
無駄に磨いた流麗なフォームでカルカへ向かって全力疾走していた扶桑はそれを当然躱せず、見事に顔面ブロックに成功した。

「あだだだだ角が!角が!」

額にゴシュっとめり込んだ単行本が地面に落ちる。
被弾箇所を両手で押さえて転げまわる扶桑に、流石のカルカも大いにビビったらしくわたわたと声をかけてきた。

>「…?あぁ!!ヤベェつい癖でやっちまった。悪い!大丈夫か」

「あれ、意外と優しい!?」

その超攻撃的なスタイルから手前勝手にもっと怖い印象を持っていたので、常識人っぽい行動が逆に扶桑を戸惑わせた。
むしろ報復に二三発小突かれるぐらいは覚悟していたのだ。

(仕事とプライベートは分けるタイプなのでありますかね?)

「おーい扶桑、馬鹿やってねえでそろそろ行くぞお」

チーフに呼ばれて振り返った瞬間、エントリーの終了と会場への移送を始める旨の館内放送。
扶桑は短く返事をして、チーフの方へ駆け出そうとし、思い直したように踵を返した。

「空戦公社の『扶桑-501SW』でありますっ。カルカさん、お互い最高にカッコいい試合にしましょう!」

深々と腰を折って頭を下げると、鋭く見事な軍式の敬礼をして再び後ろを向いた。
彼女はもう振り返らず、無駄に整然なランニングフォームでチーフのもとに帰り、そして人ごみの中へ消えていった。

53 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/10/30(土) 01:45:25 0
参加する空戦少女は搬送受付でエントリー証を見せ、ここでオペレーター及びメカニックとは暫しの別れとなる。
流石に人間用と空戦少女用の輸送機を同じにするわけにはいかないので個別に分けられ現地で合流となるのである。

「はい、空戦公社さんですね、エントリー証のチェックはオーケーです。輸送機は搬入完了次第すぐに出ますのでお早めにお願いしますね」

空戦少女にとって半身に等しきオペレーターとの別行動はこの時だけだが、
S型やM型に多い、まだ精神教育の成熟していない空戦少女がグズったりして毎回何組かがリタイアになったりする。
受付が定型句のように言う『お早めにお願いします』とは、空戦少女を宥めて暫しのお別れを言う時間のことなのだ。

「では行って参りますチーフっ……必ずや、必ずや扶桑は強く逞しくなって還って参りますであります……!」

「あー、あー、わかったからさっさと乗れ」

扶桑の場合は毎回別れをドラスティックに演出しようと凝りすぎてなんだかわけの分からないノリになるのが常であった。
これでも50以上の空戦経験がある空戦少女なのだが、マンネリを嫌った本人がいつからかネタを仕込みだしたのである。


さて、輸送機には小型のドックがあり、輸送機の中で兵装を着装できるようになっている。
現地入りしてからグリッドまでの時間を短縮できる他、輸送機内で最終調整をしている空戦少女もいる。
この輸送機は『戦争』時代の遺物で、当時はこれで戦闘空域に直接出撃していたのだ。

一人一席を宛てがわれたソファに両足をピタリとくっつけて腰掛け、今回の参加者の面子を注意深く観察する。
何度か見知った上位ランカー。まったく新顔の新参者。暫く見ていなかったリターン組の古参。

(やはりというかなんというか、最高速重視の重装型のセッティングが大多数でありますね今回は)

キャノンボールレースという性質上、速度が占めるウェイトは大きい。
扶桑のような軽装型は旋回力に優れる反面、直線速度ではどうしても馬力のある重装型に遅れをとる。
無論『空戦』である以上試合における要素はスピード勝負だけではないので一概に彼女が不利というわけではないが、決して有利でもなかった。

視線を窓の外に向ければ、波立つ海と、ゆっくり流れていく地平線、並列するように飛ぶ他の輸送機。
東京から沖ノ鳥島まで一気に南下していく輸送機はレースのコースを逆走しているわけで、数時間後この空は戦場となるのだ。

始めこそ緊張と高揚で落ち着かずきょろきょろしていた扶桑も、揺れに眠気を誘われていつの間にか眠っていた。
戦意と熱意と期待と不安とを乗せた二時間程の空の旅は、特に問題もなく平穏に完了した。


【カルカさんにコナかけつつ退散】
【スタート地点まで移送完了】

54 :名無しになりきれ:2010/10/30(土) 12:24:08 0
ここもいいけどよ、ジョジョ進めろよ肥満従士
佐藤が呼んでるぞ

55 :メタモナ ◆k9c7iola4M :2010/10/31(日) 04:17:57 0
ヨモギ空戦学園が大人の事情と言うか、はっきり言うと学費泥棒問題で揺れ動いているなか
学園の空戦少女たちは逃げ込むように「沖の鳥島〜東京間、キャノンボールレース」のエントリーを終え輸送機に乗り込む。

輸送機の中。生徒たちは、お互いの身体の最終チェックに余念がない。
学園からの推薦でエントリーされた選手は合わせて3名。
メタモナの他にはコガネムシのようなM型のピザ空戦少女とL型のひょろ長い空戦少女が参加している。
メタモナたちは眼球をグルグル回して視差の調整や口を開けて虫歯がないかとか枝毛のチェックとか忙しい。

メタモナの冷却装置をL型の空戦少女ガリコが躁状態で歌いながらチェックしてくれている。
冷却装置と言ってもメタモナの冷却装置は水筒に入った氷水。これをグイグイ飲みながら空を飛ぶのだ。

「メタモナ〜無様な負け方はしないよう、胸を借りるつもりでがんばろ〜」
ガリコは戦術偏差値71.8の優秀な空戦少女。メタモナの肩に水筒をかけるとニッコリと微笑んでくれた。

「ガリコおおきに!うちがんばるで!」

一通りの最終チェックと補給も終わりレース開始まで生徒たちは待機状態に入る。
緊張は次第に高まるが、待機している他、やる事はない。嫌な時間帯である。

【スタート地点まで移送完了】

56 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/31(日) 14:46:03 O
「意外だな」
珍しいものを見たような口調でオペレーターが話しかける。
カルカのことだ。おそらく、あのまま殴りつけてもおかしくはなかったろう
「試合前に暴動なんか起こしたら、イメージが悪くなるだろうが
 私らは雇われの身なんだぜ?スポンサーの印象が悪くなる行動はご法度だろ?
 それに下手に暴れてどこかに異常が出るなら、それこそ本末転倒じゃねぇか
 あとな…プロはそんな安直な行動なんざしねぇ…本物は試合(空)で決着りつけるもんだ」
ドヤ顔で自信満々でそう語り、オペレーターのほうへ振り返る。
「プロ意識というわけか…らしくないな」
「あくまでも地上だけの話さ、んじゃ、私らも行くとするか 戦場へな」
不敵な笑みを浮かべ、輸送機へ向かった。

[輸送機内]
スタート地点に向かう中、カルカは窓の外を見つめ、考えていた。
「(さてと、具体的な目標は掲げたが、細かい作戦はちっとも考えてなかったな
 おそらくではあるが、今回のレースは早い段階で上位グループと下位グループが分かれるだろうな
 中小企業や個人出場組が最も求めているものはリーグ制覇とかそんな長期的な目標じゃない
 私がスポンサーから求められているものと同じく「結果」だ
 上位入賞のボーナスとして得られる報酬もそうだが、上位入賞という結果がもたらす利益は魅力的だ
 だから、奴らは結果を求める。長期的な目標を後回しにしてでもだ。
 下手に戦うことをせず、ただひたすらに先行し逃げ切って勝つことを優先してくるかもしれねぇ
 逆に下位の連中はもっぱらポイント狙いか…実力不足のどっちかになるか…
 まぁ他がどうしようと関係ないんだがな…問題はその中で私がどう動けばいいかってことか)」
眉間に皺を寄せ、カルカはまた考え込んだ。

現地到着まで残り30分を切った頃、兵装を装着する為、カルカは席を立つ。
「武装の確認よし!さてと、つけるか」
今回の試合に使う武装の確認を終え、さっそく兵装の装着を始める。
背骨にあたる部分に装甲接続用パーツを装着し、その後、小型ジェットエンジンを搭載した脚部パーツ
ミサイルを内臓した胸部パーツをつけ、武装を装備し、カメラアイが取り付けられたヘッドパーツを被り
最後に近接戦闘用のブレードがつけられた主翼パーツで自身の腕を固定し、彼女の準備は完了した

57 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/31(日) 14:46:56 O
「これよりレースを開始します。各選手はスタートグリッドについて下さい」
スタート地点となる空母に到着した後、運営の指示によりカルカを含む空戦少女たちは
速やかにスタートグリッドに向かった。

独特の緊張感が漂う中、大げさなファンファーレと共にシグナルランプが現れる。
ファンファーレが終わり、シグナルランプが赤く点灯し、いよいよレースが始まろうとしている。
ランプの色が黄色に変わり、各々がエンジンをふかせ、辺りは轟音で包まれる。
そして、シグナルが青に変わった刹那、暴風と共に空戦少女たちは飛び立っていった。

ハーイ!今回のレースの実況および中継カメラマンのクリスタルでーす。
遂にはじまりました。キャノンボールレース果たして、栄冠を勝ち取るのはどの空戦少女なのか
実に楽しみです。
レース序盤、未だ順位がはっきりしないため、まだ正式な順位をお知らせすることは出来ませんが
レース開始後の100キロ地点から先行上位グループと下位グループが徐々に出来上がっていくのがわかります。
レーダーによれば、注目選手の一人であるカルカ選手が上位グループにいるのですが…おや?
レーダーで確認出来れども、姿は見えないようですね。レーダーの異常でしょうか?それとも、カルカ選手の奇策でしょうか?
さてさて、現在400キロ地点、この先、500キロ地点を過ぎてから
最も危険で最もエキサイティングな武装許可空域に突入することになります。

名前:クリスタル
所属:DFGテレビ所属
性別型:女 金髪ポニーテール
容姿型:M
性格:明るい
兵装:特殊型「フォールリバー」
(サーフボードのようなフライトユニットに搭乗する)

武装:報道関係者なので無い
高性能カメラ、自分撮り用自立機動カメラ、マイクセット
報道関係者専用防護フィールド発生装置

58 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/10/31(日) 14:47:56 O
クリスタルが実況している中、カルカはその遥か上空に潜んでいた。
これは輸送機で決めた作戦の1つだ。この後、カルカは武装許可域に入る直前に降下し、攻撃を開始するつもりでいる
だが、その前にカルカは誰かを探していた。
「どこだ…超音ソク」
何故、扶桑ではなくソクなのか?
それは彼女の速さに関係がある。彼女の最大の武器は、重装型と対等に渡り合えるスピードだ。
そして、今回の試合はレースである以上、必然的に彼女を潰しておかなければならないと思っている連中は多少いるだろう
カルカの狙いは超音ソクではない。超音ソクを狙う空戦少女たちが現在のターッゲットだ。
そのためには、優秀な囮である超音ソクがこの上位グループの中にいることが絶対の条件になってくるが…

【上位グループ内後方にて高度を取り、超音ソクが居ないか探す。
 上位グループ内にいる場合、次レスから戦闘空域に突入予定】

59 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/10/31(日) 23:49:46 0

『うわ、あれロマン型じゃない?』
『え……あ、本当だ!今時ロマン型って……(笑)』

大会に参加する空戦少女達が嘲笑を浮かべながら見つめる先。そこには縦の長さ3m程の、
人間一人がようやく登場できるサイズの黒い機体があった。
旧世代に使われていたと言われるステルス機能を搭載した飛行機と
良く似た形状を持つその飛行ユニット。
それは空戦少女「しげはる」の飛行ユニットであった。

特殊型……通称ロマン型と呼ばれる機体を使うという事は、その空戦少女が
自分一人で空を自由に飛ぶ事が出来ないという事を示している。
それは、最初から空を自由に飛ぶ事が出来る空戦少女達から見れば、酷く格好悪く映るのだろう。
現にこの特殊型の機体は極めて安価ではあるものの人気が無く、連動してパーツも流通数も少なく、
一部の企業が道楽で作るような癖の強いものしかない。
それこそ、零細企業でさえロマン型は使わないとされる程人気が無いのだ。

そんな特殊型の薄暗いコクピット。待機中の計器類が放つ光のみが存在する暗闇のなかで
「しげはる」はシートに座り、その掌を認証キーの上に翳した。

『全システム起動――――リンク開始――――』
『――――擬似感覚システム同期率――――92%』
『――――武装指示系統――――オールグリーン』
『エネルギー残量――――100%』
『電子兵装妨害装置――――OFF』
『――――飛行に関係するエラー数――――0』

『「……同調」』

言葉と同時に機内の計器が光を増し、機体の中に外の映像が映し出される。
しげはるの瞳の上には幾つかの数式が浮び、中空には幾つものモニターが浮かぶ。

『「……同調完了」』

そうして「しげはる」は偽者の翼を手に入れる。

―――――――


60 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/10/31(日) 23:50:39 0
シグナルが青を示した瞬間、一斉に空戦少女達は空へ駆けて行った。
「しげはる」も青になると同時に、それこそ完璧なタイミングでスタートした。
ただし、その機動は真っ直ぐではない。上空へ向けて……高空へ向けて、だった。
奇妙な動きを見せるしげはるに対しては「やっぱりロマン型ね」といった様な表情を
向ける様な少女が殆どであった。だが、そんな少女達の嘲笑を振り切る様に
「しげはる」は空へ空へと登っていく……やがて機体の体制を水平に保った時、
しげはるがいた場所は、カルカよりもさらに高高度の空だった。
空気は薄く、冷たく、人が生きる事の叶わない空。

だが、当然のことながらそんな動きをしていれば順位は大きく遅れる。
現在「しげはる」が居る位置は、下位グループの中程。
スタート時にトラブルを起こしたり、或いは個人や零細企業で製作された少女達しか
後続にいないような位置の、遥か上空だった。

(……ここまでは、順調。後は戦闘空域に入るまでこのまま……このまま、
 スリープモードに入りたい気分だよ……)

「しげはる」は生気の無い目で誰もいない空を見渡す。そうして静かに、
ステルスという形状によってレーダーにも曖昧にしか映らないまま、
幽霊の様に静かに空を往く。

【しげはる 下位グループの遥か上空を飛行】

61 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/11/02(火) 21:03:41 0
輸送機内、超音ソクは座席の上で縮こまっていた。
公式試合で輸送機に乗った事は何度かあるが、それは全て非武装系レースでの事だ。
周囲の機体が誰も彼も無言のまま、ただ武装点検の音だけ満ちた機内の重圧は、非武装とは比べ物にならない。

超音ソクの武装はどれも装備型ではなく組込型だ。
目に見える動きで点検する事はなく、故に周囲が忙しなく動く中自分だけがじっとしている事になる。
どうにも、焦燥感に駆られる状況だ。
気休めにレーザー発射器を仕込んだ右腕を見て、手を握り締め、開く。
何度か繰り返してみたが、身体感覚を持たない彼女に実感の類は得られない。
西田が容易したお慰み程度の近接武装『ピック』の握り心地を確かめようとも思い、腰に手が伸びかける。
だがやはり同じく感覚は無いのだからとやめて、彼女は両手を膝の上に乗せ、再び大人しくなった。

慌ただしい中で一機だけ動いていないソクは、当然のように場から浮いて見える。
彼女もそれが分かっている。分かっているからこそ、周囲の視線が気になって仕方がなかった。
人工皮膚の類が一切ない自分の機体がどんな風に見られているのか。疑心暗鬼が募る。

――「旧式」

喧騒の中から、一つの単語が聞こえた。
単に兵装の話がされていて、偶然使われただけかもしれない。
だがソクにはその、ただ一語しか聞こえなかった。

動揺する。呼吸にも動悸にも連動しない動揺が、ソクの中で膨らむ。

『――このレースで賞金が入ったら、ボディを換装してやろう』

記憶領域に保存されていた音声を、再確認した。
このレースで勝てば、生体機体に換装出来る。
それだけを頭の中で反復して、彼女は感覚のない拳を握った。

そしてスタートグリッド。
赤のランプを視界に捉えて、ソクは前足の膝を立てる。
後ろ足の膝は突き、両手の指を地面に付けて、頭を下げる。
この構えを見ると、西田は決まって呆れの溜息を吐く。
「空を飛ぶのにその構えは意味があるのか」と。
確かに、意味は無いかもしれない。だがこの構えだと、気分が高揚するのだ。
まるで自機に心臓があって、熱い血が流れているかのような錯覚さえ覚えられる。

ランプの色が黄色に変わった。
腰を上げる。背負った剥き出しのジェットパックの噴射口に火が灯る。
青い炎だ。静かなようで、夥しい熱を秘めている。
まるで今の自分のようだと柄にもない事を考えて、ソクは小さく笑った。
彼女に上等な表情筋機構があれば、恐らくは苦笑を描くだろう笑みだ。

そしてついに――ランプは青に変わる。瞬間、ソクは地を蹴った。
同時にジェットパックの炎が爆発の如き勢いを発揮。彼女は空へと飛び立つ。

62 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/11/02(火) 21:05:02 0
(ニシダは確か……ここでは上位集団に付いていく位でいいって言ってたよね)

ただ順位を競うだけのレースならば、初っ端からフルスロットルが常識だ。
だが今回は戦闘と、それに伴なう加点がある。
ならば最初は周りに敵機がいるくらいでいいと言うのが西田の言だ。

(……うー、さっきからチラチラ見てくるなぁ。やなカンジだよ)

撃墜ボーナスがあるとは言え、今回のレースは順位によってもポイントが得られる。
ならば超音ソクは――その武装の貧弱さも相まって――必然的に狙われる事になる。

(これもニシダの言うとーり。……そろそろ武装許可空域だね。じゃあまずは作戦そのいち、いくよ!)

突然、ソクは大きな蛇行を始めた。直進をやめ、左右に何度も揺れる。
無駄な動きが増え、結果相対的に周囲よりも移動速度が遅くなる。
速度を保ったまま移動速度を落とす方法だ。
彼女は徐々に下降しながら、上位集団の後方に回る。

(んで、こっから一気に!)

自機が周囲の視野から外れた瞬間、ソクは機首を上げ全速力で上昇した。
周りからすれば彼女は下の後ろにいる筈が、忽然と姿を消したように見える。
西田はソクが多数からの標的にされるであろう事を予想して、彼女にこの策を授けた。

「よーしこのまま……って!何かヤバげな人と今すれ違った気がするんですけどぉ!?」

ヤバげな人とはつまり、先んじて上空にいたカルカの事だ。
一層急いで、ソクは彼女をも追い越して上を行き、前方へ加速する。
誰よりも先に武装解禁のラインへ到達し――更に前へ、今日一番の全速力で。

武装解禁の境界線から数キロ先を行って、ソクはそこで下降。
速度をやや落とし、振り返る。今正に武装使用許可空域に入らんとしている後続を。

「くっらえー先手ひっしょー!ぜんりょくレーザー!!」

視界に映る全ての機体に、ソクは矢継ぎ早にレーザーを放つ。
だが威力は、決して強くはない。
それは彼女の兵装が安価な物だから――だけではなく。

敢えて半分程の出力で発射しているからだ。
全力と叫んでおきながらも。

(『お前の一番の強みは「早いだけ」である事だ。先手を取って、50%程度の出力でレーザーを食らわせろ。
  出来るだけ大勢にだ。こちらは自分の武装と相手の防御能力がどの程度の物かを正しく認識し、相手には誤った情報と油断を与える』
 だっけ。いわゆる「てきをしりおのれをしれば」「へいはきどーなり」ってやつだね!)

手の内の全てを明かしてしまえば、超音ソクは単に噛まれたら痛い羽虫のような物だ。
だからこそ西田は策に策を重ねて、彼女に与えたのだ。

【上位グループの更に前を取りレーザー発射。威力はただでさえ平凡な物を、更に半減させたのでお察し】

63 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/04(木) 02:09:14 0
【進撃――GO AHEAD――】


レース開始直前。
グリッドに並び出撃喇叭の音を待機する空戦少女達の水を打ったような静けさと緊迫感。
空戦公社専属メカニック・丹波チーフとその部下・浅葱はオペレーター用の指揮機に乗り込み指を組んでそれを見守っていた。

「今回はピットがないんでメカニックは楽できるなあ、浅葱」

「そっスねチーフ、空戦終了後のメンテナンスが残業確定でストレスが寿命超短縮なんスけど」

「ばっかおめえ、サービス残業じゃねえだけ有り難いぞ。給料袋が向こうから飛んできたと思え」

彼らの本職はメカニックだが、空戦公社では財政的な事情と本人の強い要望でメカニックがオペレーターも兼任している。
通常の企業であれば外部からオペレーターを雇用するか自社で教育するものだが、
こと空戦においては空戦少女とオペレーターとの人格的相性が最も優先される為にこのような例外も珍しくない。

「そろそろ通信許可時域だ。扶桑に繋げ――あー、あー、こちら俺。通信は良好か?オーバー」

《もしもし!もしもし!こちら扶桑でありますっ!感度良好、ばっちりくっきり聞こえますオーバー!?》

「声でけえよボリューム下げろ!」

咄嗟にインカムを外して尚周囲に響き渡る扶桑の声。危うく鼓膜を音に突貫されるところだ。
指揮機の窓からスタートグリッドに視線を落とすと、100m近く先のゴマ粒みたいな人影がこっちに向かってぶんぶん手を振っていた。

「見えてんのかあいつ」

「空戦少女は視力が命ッスからねえ」

《見えてるであります!》

「マイクの電源入れてねえぞ!?」

「空戦少女は聴力も命っスからねえ」

「凄いな聴力!」

《あはは、そんなわけないじゃないですかー、読唇術であります》

「視力の方が凄かった!」

「まあそれはさておき、機体の方は万全ッスか扶桑ちゃん」

「ジェットユニットOK、飛行靴、エーテル機関、エーテル燃料共にオールグリーン!今すぐ飛べるであります!」

「おーし、そろそろ出撃時刻だ。混線するから一旦こっちからの通信落とすぞオーバー」

「了解でありますオーバーっ!!」

チーフは再びマイクを切る。これでこちらからの送信は断絶し、聴こえてくる音声は扶桑側からの一方通行となった。
窓の外ではスタート前のファンファーレとスポンサーの読み上げがつつがなく終了し、シグナルに火が入る。

「さあ今回は勝ちにいくぞお。新型の『プライベートウィング』にゃ工場一つ買える金がかかってんだからな。スポンサー様の為にも」

シグナルが黄色に変わり、各自各々が背負ったり装着したり搭乗したりのフライトユニットに点火する。
扶桑が担うジェットユニット『プライベートウィング』もスラスターの火蓋を切り、エーテル力場が風を孕む。
硬軟自在のエネルギー力場ならでは、風を読みフレキシブルに形状を変えることで短距離での離陸を可能にした最新技術の粋。

《さあ出撃でありますよ『プライベートウィング』!今、あなたに命を吹きこむであります――っ!!》

64 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/04(木) 02:11:21 0
シグナルが青に変わり、スターターが大きく旗を振り下ろす。
その巨大な帆旗が振り切られる頃には、既に全ての空戦少女がスタートグリッドから飛び立っていた。

「駈け出しは好調だな。しっかりトップ集団に食いついてら」

「軽装型はほとんどスタートダッシュの勝負になるッスからね。
 重装型の連中がトップスピードに乗るまでに、どれくらい水を開けられるかが肝ッス」

「ミラージュんとこのがトップ集団から外れてんのが気になるな。あすことは毎回出端での争いになんのに」

「今回沢山入ってきた新参を警戒してるんじゃないスかね。『空戦学園』も出張ってきてるみたいッスし」

指揮機はレースに参戦している空戦少女達の中間集団に併走するように飛ぶ。
必然トップ集団や逆にビリっケツの空戦少女の様子は肉眼で把握できないので、各自空戦少女に取り付けた俯瞰カメラで追うことになる。
チーフと浅葱も例に漏れず、モニターに齧りつくようにして戦況を見守っていた。

「直に武装許可空域に入るな。浅葱、通信の準備しとけ」

スタート直後は最も空戦少女達が一つの空域に集中し、それに伴い無線が酷く混線してモニターもままならないので、
武装許可空域に入るまでは基本的にオペレーターからの通信は禁止されている。独自に通信帯域を購入している所もあるが、極僅かだ。

「ああっ丹波チーフ、扶桑ちゃんに近づく謎の影が!影が!」

「何ィ!?――空戦少女じゃねえか。どこの馬の骨だぁ?」

俯瞰モニタに映し出されているのは快調に水蒸気の尾を引く扶桑と併走するように張り付く一機の空戦少女。
赤く長い髪をしたその空戦少女は、風の中でも届く指向性音響で扶桑に何やら語りかけている。マイクが音声を拾った。

《貴女、『空戦公社』の娘でしょう?もし良かったらわたしと一緒にトップ目指さない?弾ばら撒く程度ならできるから》

それは共同戦線の申し出だった。
お互いの利害が一致するのであれば、空戦少女同士の協力プレイは珍しいことではない。
一時期空戦に参加する少女の過半数を巻き込んだ大規模カルテルが問題になって以来そこら辺のルールが厳明されるようになった。

だが、

「かーっ!なーにが協力だ、レースで協力も糞もあるか。マラソンに臨む中学生女子かっ!」

「情報上がってきたッス。あの赤髪は『プラトゥーン社』の『セントーレア三式』、通称『裏切り大好き』」

「通称なのかそれ。ほとんど自己紹介じゃねえか……それもこの上なく親切な」

「展開読み読みッスね。こんな状況で協力求められて応じるのは余程世間知らずの大馬鹿ッスよ」

「いいや浅葱、空戦は筋書きのないドラマだ、何が起こるか分からねぇぞ。例えば――」

モニターを注視する。マイクが扶桑の返事を拾う。
いきなり突拍子もない要請を受けた扶桑は、こともあろうに相手の手を握りぶんぶん振って興奮していた。

《おおっ!『友情』・『努力』・『勝利』!組みましょう是非組みましょうそういう少年ジャンプ的展開は大歓迎でありますっ!!》

瞳孔がこの上ないぐらいに輝きに満ちていた。


「――あいつは世間知らずの大馬鹿だ」

65 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/04(木) 02:13:02 0
《え、ええ。私もジャンプは大好き》

赤髪のセントーレアが若干引き気味に同調した。
やがて400kmラインを通過し、トップ集団に紛れたまま扶桑達は武装許可区域へ肉迫する。

「ヤバイじゃないッスかチーフ!こうなったら失格覚悟で武装許可出る前に警告送信するっきゃ……」

「ばっかお前、今から通信したところでどっちみちあの脳天常春娘にいちいち噛んで含めて説明してやってたら間に合わねえよ」

「じゃあ、一体全体どうするってんです?」

「見守る」

「ええーっ!!」

「まあ見てなって」

チーフが笑みを含みながら眺めるモニタの向こうで、扶桑達は500km地点のラインを切った。
たった今この瞬間から、扶桑を含めたトップ集団の空戦少女達に己の暴力を解き放つことが許可される。
扶桑もいそいそと空対空バズーカの安全装置を解除する後ろで、セントーレアが懐からオートマチックの大口径拳銃を取り出していた。

「扶桑ちゃん、後ろッス!」

《へっ?――とぅわあっ!?》

通信が回復した瞬間浅葱がマイクへ叫ぶ。
弾かれるように振り向いた扶桑は眼前に突きつけられた銃口の、そこから発射された弾丸を『目視してから身を伏せた』。
硝煙を伴った弾丸は扶桑のアホ毛を刈り取り、空の彼方へ消えていく。

《あらら、貴女弾を見てから動けるの?計算外だわあ》

《な、何をするんでありますかあっ!!》

《ごめんねえ、私ジャンプはジャンプでもヤングジャンプ派なの。生っちょろいお子様の遊びでなく、大人のビターな空戦をしましょ》

《せ、青年誌は専門外であります……!》

66 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/04(木) 02:14:24 0
「マズくないすかチーフ、扶桑ちゃんバズーカの安全装置も外してないんスよ。突撃剣は論外だし、ドアノッカーもこの距離じゃあ」

「――いや、もう終わってる」

「え?」

《ええ?》

浅葱とセントーレアの疑問は同時だった。同じテーマに対する問いで、その質はまったく異なる。
セントーレアの疑問は、純粋に自分の身に何が起こったのか説明のつかない焦燥と絶望だった。
彼女が背に担う真紅のフライトユニットの片翼が、消滅していた。まるでバターを切ったみたいな滑らかな切断面。

扶桑の手が、背中の突撃剣にあった。

《……この動き、この刹那。瞬間抜刀!直後に納刀!こんなこともあろうかと『この動き』だけを磨きぬきましたっ!》

《まさか、この一瞬でそんな馬鹿でかい剣を……?》

扶桑が行ったのは極めて単純な動作。剣を抜いて、斬って、戻す3ステップ。
これだけを3年に渡る修行の末、正しく『目にも留まらぬ速さ』で実行することを体得し、実現した。

《日本古来の伝統たる神速剣術I☆A☆I!!超絶速度で繰り出される天剣に速さ秀でる者なし!すなわち最強!で、あります!!》

「まあ、武装許可空域で扶桑に近づいたのが運の尽きだな。こと近接格闘においちゃあ――」

一閃がひらめき、セントーレアのもう片翼も斬断される。
辛うじて揚力を保っていた真紅の機体も、完全に勢いを失い直下の海へと墜落していく。

「――あいつは天才だよ」

キメ顔にキメポーズの扶桑の姿が、俯瞰カメラ一面を占領した。

67 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/04(木) 02:18:07 0
《見ましたか!!見ましたかチーフ、浅葱さんっ!!扶桑の勇姿!我ながら最高にカッコいいであります!
 ジャンプなら見開き大ゴマで吹き出しが透明になってしかも編集の煽り文が付くレベルでありますねっ!!》

「ばっかお前、いきなり必殺技出してどうする。これでもうお前にノコノコ近づいてくれる馬鹿はいなくなっちまったぞ」

神速を誇る剣技も相手が極度に接近していなければ届かない。
そして本当に3動作だけを究めただけのものなので、扶桑は自分から近づいて斬る4動作目を習得していなかった。
すなわち完全に待ち伏せ専用の技であり、そして扶桑はこれ以外の複雑な剣技はお粗末な出来なのだった。

《う……ま、まあなるようになるでありますよっ!撃墜ポイント5は大きいでありますし!!》

リーグ出場者はポイントを重視した戦略を組むことになる。
扶桑のように特定の競技――例えばレースに不利な装備を持つ空戦少女は特に、撃墜数がそのままスコアになるポイントの多寡は死活問題だ。

「扶桑ちゃん、2時の方向からレーザー攻撃――『乱射魔』ッス、気をつけるッスよ」

トップ集団は沸いていた。

突如前方視界の外から現れた一機の空戦少女がレーザーを滝のように飛ばしてきたのだ。
勝ち目のなくなった空戦少女が弾倉を空にする勢いで武装を撃ちまくる『乱射魔』は負けの込んでくる終盤ではそう珍しい光景ではないが、
こんな序盤で、しかもトップ集団すら追い抜く速力を持った空戦少女が乱射魔になるのには虚を突かれた。

《わひい、こっちにレーザー来ますっ!!こんな時はぁ〜……こうでありますっ!》

片っ端からレーザーが飛んでくる中、扶桑は空対空バズーカの安全装置を今度こそ外し、砲身を構えた。
バズーカは威力が高いが射程が極めて貧弱だ。扶桑の位置から有効打をとれる機影はない。構わず扶桑は引き金を引く。
――砲塔を遥か直下、海面へ向けて。

爆音と共に高波が砕け散り、扶桑の眼前で巨大な水柱が林立する。
それら大量の水飛沫は扶桑を守る水壁のように展開。そこへナイスタイミングでレーザーがぶちあたり、水の中に乱反射して霧散した。
ずぶ濡れになったが、どうせこの速度で飛び続ければすぐ乾く。

《レーザーは水で減衰するって『スプリガン』か『アームズ』で読んだから間違いないでありま――ぎゃひい!!》

勝ち誇る扶桑の顔面へ第二波。エーテル風防を展開していたとは言え、レーザーが直撃する。
しかして被弾した損害は、覚悟していた痛みを大きく下回る軽微なものだった。

《あ、あれ……痛くない?――なんと!貧弱なレーザーでありますっ!そしてチャーンスっ》

レーザーをぶちまけたことでトップ集団の足は確かに止まったが、『乱射魔』の速度も絶対的に落ちている。
加速に優れる軽装型ならば、容易に埋められる彼我の距離だった。スラスターにエーテルを喰わせ、飛行靴で空を蹴る。

《どこかで見たことあると思ったら『西田家』のネジ飛びさんでありますねっ――いざ尋常に!》

加速する。
突撃剣を抜き放ち、腰だめに構えての突進。

「待て、いきなり深追いすんな扶桑――」

《超!絶!必!殺!アルティメットおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!》

臨戦の興奮に狭窄した視野。そこにチーフの声は届かず、扶桑は一個の弾丸となって乱射魔の空戦少女へ飛来する。


【トップ集団について武装許可空域入り。見事に罠に引っかかり超音ちゃんに突進】

68 :メタモナ ◆0Bp.58ypcg :2010/11/04(木) 08:25:42 O
推力偏向ノズルがけたたましく咆哮している。煌々としたエネルギーの光芒を噴き出しながら最大戦速を維持するメタモナたち。
スタートから数十秒。空戦学園の三人が紛れ込むトップ集団は、ついに武装許可区域に突入した。
そんななか学園一の巨漢空戦少女ピザミ(ぎりぎり軽装型)はアイフィルター内の照準レクティルで敵機を捕捉しつつも様子を見ているだけだった。

「まさか、あたいたちみたいなモンを引き返して襲ってくる物好きもいないだろうし
後ろからトップスピードで向かって来る重装型にも先に行ってもらって平和的解決を望みたいもんだね」

「なに暢気なこと言うてんねん!気張れやピザミ!」

メタモナはワイクな体をピザミに近づけ、その短い足で巨大な尻に蹴りをいれた。

「も〜遊んでんじゃないの〜二人とも〜あれを見て〜」

ソフトキルのスペシャリスト、細身のガリコが二人を叱り付ける。
指で指し示した方向には巨大な水柱の林立、そして水柱をかい潜り投擲される極細の閃光。

「なんや!?」

衝撃が、飛翔していたメタモナの股間を激しく突き上げ前につんのめさせる。
秘所を犯された者の感じる屈辱の混濁した戦慄。

「あっつっ!!」

「やだ〜メタモナ〜。レーザーで永久脱毛〜?」

変なところから煙りを出しつつ失速するメタモナ。

「パンツや!パンツ!うちのパンツが焼けてもうたー!!」

丸見えのメタモナを庇いつつ空戦学園の三人は後続グループに移行した。

【扶桑さんの水柱のおかげでメタモナたちのダメージも軽減】
【超音ソクさんのレーザーでスカートを焼かれ下着が空中に四散、
クリスタルの実況を気にしつつメタモナ失速。しげはるさんが隠れているグループへ】

69 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/11/04(木) 20:58:54 0

薄い大気は青く澄み渡り、冷たい風が機体の動力炉を冷やしていく。
ここは天上。鳥達でさえも辿り着けない遥かな高み。
そんな空を「しげはる」は漆黒の飛行ユニットに搭乗して飛んでいた。
眼下には小さく、多くの空戦少女達の姿がある。
彼女らは、今回の大会における後続集団。
つまり重装備タイプか、低性能な空戦少女達である。

「――――戦闘可能区域まで後10……5……到着」

そんな彼女達を機内のモニターで眺めながら、しげはるは淡々と
やる気なさ気に戦闘行為が可能となる区域までのカウントをしていた。

「…………戦闘可能区域に入ったけど……正直もう帰りたい気分になってきた。
 ……けど、ここで負けたら飴(型固形エネルギー)が食べられなくなる……面倒だなぁ」

死んだ様な目で呟き一度ため息を付くと、「しげはる」は、
スタート直前に社長と交わした会話を思い返す。

『いいですか、しげはる。貴女は優秀です。AIの能力値は、そこらの企業など目ではありません。
 ですが……貴女の乗る飛行ユニットはぶっちゃけて言えば凡百です。レースの到着順位で勝負しようと
 したら、絶対に勝てないのです。おまけに、今回は遠距離攻撃様の武装は一切積んでいません』
『……散々だね……諦めて帰ろうよ』
『帰りませんっ!わが社の社運の為に帰れません!
 ……さて、しげはる。速度も足りない、武器も足りない。
 こんな状態の貴女が、今回の大会で優勝するのはどうすればいいと思いますか?』
『……そんなの決まってるよ』

『『――――私(貴女)よりも性能か速度で劣る者を全員墜とせばいい』』


「……面倒だけど、飴の為に少しだけがんばるよ」

中空を暫く見つめた後、もう一度呟くと、「しげはる」は動き出した。
目前にある入力装置を右手で軽く触れると、中空に浮かぶモニターの一つが真っ赤に染まった。


「……電子兵装妨害装置7号起動……プログラム『the Tower of Babel』――――発動」


そうしてしげはるが機械的に呟くと、一瞬だけ「しげはる」の機体が赤く光り――――


異変は即座に起きた。戦闘空域に突入した後続集団にまず初めに起こった異常は
突如として鳴り響くアラートだった。自身が銃器にロックオンされた事を知らせる
アラートが急に反応し出したのだ。そしてその銃口の数は、無数。
周囲の自分以外の空戦少女全員から銃口を向けられている、そんな事をレーダーが知らせたのだ。
次いで起きたのが、光学兵器――――レーザーやビームの類の暴発だった。
自動照準機能が付いている様な高価な銃器は、次々と銃を持つ本人の意思とは関係無く
近くにいる少女達へ向けて「暴発」していく。

常識が壊れ、頼るべき指針が役に立たなくなる。

混乱する空戦少女達の姿は、とある神話にある天を目指して共通の言語を奪われた人間達の様であった。

70 :実況:クリスタル ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/07(日) 02:41:56 O
おっとぉ!一番に武装許可域に侵入してきたのは
今回、武装有りの試合に初参戦した超音ソク選手〜!!!
速い!まさに超音速!このまま、他の追随を許すことなくブッちぎるのでしょうか?
ん?ソク選手、急に速度を落とした…トラブルでしょうか?
ッとォ!ソク選手、後続に対していきなり仕掛けてきたぁ〜!
トラブルではなく、作戦だったようですが…あまり効果が無ぁぁい!!!

おや?急に速度を落とした選手がいるようですね。
…ヨモギ学園所属の…メタモナ選手、なにやら前につんの…おっほ♪
どうやら、先ほどの攻撃で衣類が燃え墜ちてしまったようです。
おっとっと、これ以上は放送コードにひっかかってしまうのでご勘弁を…

と余所見をしているうちに、扶桑選手がソク選手に急接近、このまま伝家の宝刀が炸裂するのかぁ!!!
…なんでしょうか?この空気の音は…アッ!!!

71 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/07(日) 02:44:00 O
話は暫し遡る。
カルカは以外な形でソクを見つけた。
「予想以上に速いな…」
先ほど自身を追い抜いたソクを眺め、カルカはそう呟く
他の空戦少女ならば、そんな無駄口を叩かずに、速度を上げソクを追うだろうが
あくまで、現段階でカルカにとってソクはただの囮にすぎず、態々目の色を変えて追うべき存在でも無い
故にカルカの選択は現状維持しか無い。少なからず許可空域に入るまでの話ではあるが…

カルカが許可空域に入った時、眼下の状況は多少違えどカルカが望んだ状況に近い状態になっていた。
ソクが先手をしかけたのは以外だったが…それ以上に攻撃の貧弱さに些か不自然な違和感を覚えたが…
カルカはそれを振り払い、次の行動へ移った。
エンジンの出力を最大にし、急降下する。
重力加速度と共に加速する中、眼前に広がる状況は、更に理想的な状態になっている。
中途半端な先手をしかけられた空戦少女たちの注意はソクに向かい、自分が接近していることなど
意に介してもいないだろう。『ロマンチスト』にいたっては勝手に熱くなっている始末だ。

ようやく、その場にいた少女達が気がついたときには、既に彼女の攻撃態勢は整っていた
「気づくのがおせぇんだよ!!!ヒヨッコ共!!!」
胸のハッチを開き、即座に扶桑とその他のソクに注意が向いていた空戦少女をロックし
無数のミサイルを発射したミサイル達は、高速かつ複雑な軌道を描きそれぞれの目標に向かっていく
生半可な回避だけでは直撃はさけられないだろう。

「クハハハハハハハ!甘ぇ!甘すぎだぜ!!!」
ハイになっているのか、カルカは高笑いをしながら爆発の中から抜け出す。
「オラ!どうした?来いよヒヨッコ共!本物の『戦争』を教えてやるぜ」
後続に挑発し、先ほどの勢いを保ったまま先へ向かう。

【上から来たぞ!気をつけろ と言うわけで扶桑とその他おおよそ4,5名のNPCに対しミサイル発射
 NPCに対しての攻撃の成否に関しては、扶桑さんにお任せします。ソクに対してはノンアクション】

現状報告
上位グループ
ソク 後続に対しレーザーで攻撃(全力と言う名の手抜き)
扶桑 レーザー防御、反撃に打って出る
カルカ ↑そこを強襲、ミサイルで攻撃後、追い抜く
順位(1.ソク? 2.カルカ? 3.扶桑?)
下位
メタモナ パンツが燃えて下位グループに転落
しげはる 上空から妨害装置機動、下位グループ内でレーダーの異常、光学兵器の暴発等の異変が

72 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/11/10(水) 15:55:42 0
>《あ、あれ……痛くない?――なんと!貧弱なレーザーでありますっ!そしてチャーンスっ》
>《超!絶!必!殺!アルティメットおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!》

『いいぞ、アホが釣れた。他の奴も焦って跡を追ってきたな』

通信が働き、西田の声が聞こえる。『作戦そのいち』の『第一段階』は成功だ。
錯誤した情報を与え、更に扶桑が先駆け。好機を取り逃してしまうと焦った後続も加速する。
望み通りの展開が訪れたが、肝要なのは次だ。ソクは背中に隠した左手のピックを、強く握り直す。
このまま相手の接近に合わせて急加速。今度こそ最大出力のレーザーと共にピックを突く。
防御を突き破り、狙うは相手の動力部。一息に穿ち、予備動力が起動する前に海へ蹴落とす。
また蹴落した反動で次の標的へ接近し、同様の事を繰り返す。
それが理想の展開だった。

「よしっ、いくよ……!」

だがそう何度も理想の展開が得られる程、レースは甘くない。
『待て』と一言、西田からの通信が入り、ソクは加速しかけた機体を制動する。
直後に連続したミサイルの発射音が空に響いた。

>「クハハハハハハハ!甘ぇ!甘すぎだぜ!!!」

「っ、あれは……さっきの……!」

突然の、上空からの襲撃。先ほどすれ違った敵機、カルカだ。
扶桑達目掛け降り注ぐミサイルの雨を見てソクは一瞬、逡巡する。
超音ソクの機体にシールドの類はない。
ミサイルの直撃は愚か、至近距離で爆発しただけでも飛行不能の恐れがある。
ミサイル自体の回避は出来る。だが他機の被弾に巻き込まれるかもしれないと考えると、ソクは飛び出せなかった。
レースは長いのだ。まだ序盤、今無茶をして損傷を受けてはマズい。

『ソク、まさか怖気付いたとは言わんだろうな』

「……だれが!ぜったい勝ってやるんだから、みてなさいよね!」

しかし今が好機である事には違いない。敵に間違った情報を与える目的は成功したが、まだ上が望める。
ならば行くべきだ。西田に煽られ、判断の直後、ソクが背負うジェットパックが吠えた。
噴出される青い炎が瞬時に膨張し、ソクは加速する。鋭利な刃の如き速度を得た彼女の矛先は――

73 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/11/10(水) 15:58:20 0
>「オラ!どうした?来いよヒヨッコ共!本物の『戦争』を教えてやるぜ」

カルカだ。急接近と共に右手のレーザーと左手のピックを同時に叩き込んだ。
硬質な手応えが、震動感知と言う情報でのみ伝わる。成否を問わず、突き抜けた。
振り返らない。そのまま後方の扶桑らを叩くつもりだ。

植え付けた誤解を悟られぬよう、最大出力のレーザーは敵機直前で一発ずつ。それでも多大なエネルギーを消費する。
ただでさえ減速や急加速、更には逆走までしているのだ。エネルギーロスは大きい。

(だけど、やるかちはある!どーせうしろからレーザーへいきうたれたら振り切れないんだし、ここでよくばるんだ!)

『あぁそうだ。行け、ソク。ここで厄介な奴らを落としておけば後が楽だ』

ミサイル対処の隙を突けば、撃墜も不可能ではない。
武装許可空域を無事切り抜ければ、超音ソクのスピードならレースのトップはまず取れる。
問題は武装許可空域をどう突破するか。つまりこの好機で敵の数を減らす事が出来たのならば、それは後の安全に繋がるのだ。

そして、敵機の群れにソクは突撃する。先頭に見えるのは、扶桑の姿。
先の剣筋は驚異の物だったが、カルカのミサイルによって大なり小なり気が逸れているであろう今ならば。

(おとせる!いや……おとすんだ!)

左手のピックと右手のレーザー。
二つの狙いを動力部の一点に集中させて、ソクは超速を以って扶桑を穿つ。


【逆走してカルカにすれ違いざまレーザー+ピックで一撃。
 成否は確認せず突き抜け、後方の扶桑に同様の攻撃】


74 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/11(木) 02:37:31 0
結論から言って奇襲は成功しなかった。
レーザー攻勢に夢中になっている乱射魔――データによれば西田家の超音ソクへの突撃は、思わぬ第三者によって阻まれる。
上空から滝のごとく降ってくるミサイル。不意を打とうとして逆に打ち込まれた扶桑は防御にエーテルリソースを大きく削がれた。

「うわわわわわ!?」

《防御力場展開率低減!ミサイル全部防御するにはエーテル出力足りないッス!》

《マズいな、逃げ切れるか扶桑!》

「逃げるってどっちにでありますかぁー!」

ソクに釣られた先行グループを根絶やしにせんばかりの絨毯爆撃である。
大空に空戦少女以外の遮蔽物はなく、故に逃げ場は皆無だった。ここまで綺麗にハメられると対抗手段も限られる。
重装甲で爆撃を突っ切るか、ミサイルのロックから外れる速度で逃げ切るか。――残念なことに、扶桑にはどちらも不可能だった。

(罠でありましたかっ……不覚、最早これまでであります――)

防いでも防いでも降ってくるミサイルに押し切られそうになった刹那。
見上げた空で、扶桑は爆撃の下手人を視認した。

「カルカさん……!」

ミネルヴァのエース、カルカ。扶桑のような興業用ではなく軍用として調整された百戦錬磨の空戦少女。
先行グループの誰もが『乱射魔』の撃墜に回らなければならないと踏んで罠を張っていたのだ。
否、あるいは始めから、ソクとカルカは共闘関係にあったのかも知れない。

ならば尚更。だから絶対。

「負けられないであります……!!」

逆境。期せずして用意された最高の舞台。
ここで輝けなくっちゃあ、空戦少女の、ひいては空戦公社の、扶桑シリーズの名折れなのだ!

《――扶桑ちゃん!5時の方向で一瞬だけミサイルが途切れるッス。扶桑ちゃんの敏捷力なら抜けられるッス!》

「り、了解でありますっ」

離脱のリソースを確保する為に扶桑は敢えてエーテル障壁を遮断する。
遮るもののなくなったミサイルが彼女を穿つまでの刹那、寸毫の如き間隙を、全て上体の旋回に費やす。
飛行靴で空を蹴れば、紙一重のタイミングで爆撃の檻から抜け出ることに成功した。

だがしかし、全方位爆撃を逃れたとてミサイルが消えてなくなったわけではない。
ロックオンアラートは全力で警鐘を鳴らし続け、鼻先を滞空する弾頭は間髪入れずにこちらを向く。

《そのままエーテル全開で逃げるッス!》

「でもでも、追いつかれるでありますよっ!?」

《距離さえ稼げばやりようはあるッス!!》

浅葱のオペレーションに従い扶桑は再び大気を踏み台に翔ぶ。
ミサイルと空戦少女では絶対的に速度が違う。一度ロックされれば最高速の重装型でもない限り逃げ切るのは不可能だ。

75 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/11(木) 02:39:53 0
「うひいいいいいいい!!」

《……なんであいつ空中で犬かきしてんだ》

「浅葱さああああああああん!!!いつまでこうしてれば良いのでありますかっ!!」

《もうちょい……ミサイル達が完全に扶桑ちゃんのルートに乗るまで……今ッス!急上昇!!》

「把握ですっ」

機翼を傾け扶桑は一路上空へ。旋回性能に者を言わせた強引な進路変更にもそもそもの重量が違うミサイルは付いてくる。
扶桑の足元を掠めるか掠めないかといった距離で、炸裂するのを今か今かと待ちながら宙を走る。

《――そこで捻り込み機動から横へ急旋回!》

「ええっ、この距離で旋回なんかしたら今度こそ――」

《やらないよりやって後悔したほうがいいッス!僕らが求める結果はやらなきゃついてこないんスから!》

「後悔すること前提でありますかーっ!?えーいもうどうにでもなあれ!!」

南無三の心持ちで目を瞑り扶桑は横転した。急上昇からの急旋回。確実に速度は落ち、ミサイルは扶桑を穿つ。
――覚悟していた爆撃の威力は、いつまでたっても来なかった。恐る恐る眼を開けるとそこには、

「あ、れ……ミサイル?」

ミサイルが前方を飛んでいた。
ミサイルの後ろをとっていた。
無防備なケツを晒すミサイル達は、目標を不意に失って所帯なさげに右往左往している。

《ロックオン式のミサイルは探査追跡の為に必ず見越し角を維持するッス。それを逆手にとってやれば――ま、昔とった杵柄ッスね》

高速で飛行しながらの戦闘という空戦の特徴から、攻撃方向は常に見越し角(相手の進行方向を予測して攻撃を向ける角度)を取ることになる。
それは特攻するミサイルとて例外ではなく、背後を追跡するミサイルの束は扶桑に対する見越し角を維持するよう設定してあった。
したらば急上昇からの急旋回で『旋回後の進行方向』にミサイルを誘導し、自身は横転してミサイルに道を譲ってやれば良い。

――扶桑の未来位置を錯誤したミサイルは扶桑よりちょっと前を間抜けに飛行する羽目になるという寸法なのである。

《まあこんな使い古されたやり方、対人戦じゃ絶対使えないッスけど――ミサイル相手ならまだまだ現役ッスね》

「でえええええええええええい!!!」

追われる立場のミサイルなどただの的だ。背に担う突撃剣が二三度閃き、次の刹那には一つ残らず扶桑の前で爆散していた。

《空戦史長きと言えど飛行中のミサイル迎撃するのに刃物使った空戦少女は扶桑ちゃんが初めてッスね》

《かーっ、ミサイル相手にドックファイト挑むたあ味なマネするじゃねえか。軍じゃそんなことも教えんのか?》

《『戦争』時代と違って今の兵器は高性能ッスからねえ。僕のいた部隊じゃ曲芸扱いでしたよ》

「さ、最高にカッコいいであります浅葱さん……!」

76 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/11(木) 02:43:15 0
《とりあえずこれで一つ本社に持って帰れるデータが取れたな》

「へ、一体なんでありますかっ?」

《――お前はミサイルよりかは利口ってこった》

「あ、当たり前じゃないですかーっ!」

《ギリギリな》

「ギリギリ!?」

随分と戦闘空域を離れてしまった。
幸いレースの進行方向へ逃げていたため順位に影響はないが、このまま先行グループに戻っても鴨撃ち状態だ。

「うーむ、あの怒涛のミサイルをどうにかせねば……」

《扶桑!上から来るぞ――ミサイルじゃない、空戦少女だ!》

チーフの声に弾かれるように直上を見上げれば、それは既に鼻先まで迫っていた。
驚愕なことに、その空戦少女は『ミサイルより速く』降ってきた。

(西田家の――!)

超音ソク。認識した頃にはソクの左手が閃き、錐のような近接武器を突き出している。
狙いは扶桑のジェットユニット、その動力中枢。更には右手から先刻のレーザーを撃ちださんとしていた。

(いくら低威力のレーザーでも……この距離はマズいでありますっ!)

ソクの目論見は速さを活かしたヒットアンドアウェイ。
反応外のスピードで致命的な損傷を負わせ、一撃離脱で撃墜する猛禽のような戦い方。
それは確かに戦闘行動中の空戦少女にとって脅威であるし、実際それで墜とされてきた者達は枚挙に暇がないだろう。

誤算があるとすれば、そう、たった一つの誤算。ほんの少しの、そして決定的な他との差異。
それは、

――ソクが狙った『扶桑-501sw』は、近接特化型の空戦少女であるということ。

左のピックを左手で、右手のレーザーを右腕で、それぞれ掴み、受け逸らす。
扶桑の視力は空戦用の中でも白兵戦用にチューニングされており、その恩恵は弾すら見切る動体視力に顕れる。
すなわち至近距離からならば、彼女はどんな攻撃だって見てから動けるのだ。

《……いわんや格闘挙動をや、ってところだな》

「見えてるでありますよ『乱射魔』さん……!扶桑相手に接近戦で勝ちに来ようなんて英断でありますね」

ソクの両腕を掴む。扶桑の両腕は細いが、何トンもの負荷に耐えうる握力と膂力をその手の内に秘めている。
そのまま彼女はソクの顔を見つめ、形の良い相貌を三白眼で台無しにしながら睨み合う。

「やらないよりやって後悔した方が素敵な思い出になるらしいですからね……では存分にどうぞ、『やっちまった後悔』をっ!!」

腕を掴んだまま右足を大きく振り被る。飛行靴の推進器が咆哮し、蹴りの威力にジェット噴射が上乗せされた。
一瞬で音速に達した蹴りは逃げられないソクの胴体部分に直接叩き込まれる。

「超・絶・必・殺!――ジェット蹴りッ!!」

股が裂けんばかりの慣性をそのままソクにプレゼントし、彼女の降ってきた元へと叩き返した。


【カルカさんのミサイルに対処。その隙を突いてきたソクの攻撃を掴み、ジェット蹴りをぶち込む】

77 :メタモナ ◆0Bp.58ypcg :2010/11/11(木) 07:44:48 O
しげはるのElectricAttackによって後続集団の一部の空戦少女たちは、凄まじい乱打戦となった。
ミサイル群が絡み合う巴蛇を思わせる軌跡を描き、少女たちの後方を執拗に狙う。
その軌道は連鎖的な爆炎で青い空を装飾していく。

レーダー装置が激しく変調し、電脳も理性を失うようなノイズと高機動ターンの連環の中、
メタモナの親友でもあるピザミは背中のレーザーターレットを旋回させては次々と迫り来るミサイルを迎撃している。
メタモナ本人はというとピザミの影に隠れながら、空気を抜いたダミーバルーンを腰に巻き付け破れたパンツの応急処置。

「まるで、おむつやん」

「もう〜ふざけてんじゃないの〜」
ガリコがフレアを射出すると後方で再び爆炎が乱舞した。

「よっしゃっ!ほな、うちもやったるでぇ。閃光弾発射や!」
瞬間、閃光弾が炸裂し空に小型の超新星を産み落とす。妨害物質が含まれていた小さな星は赤外線、電子、光学レーダーなどを無力化していく。
だがしかし、閃光とジャミングの海から離脱し急襲してくる一人の空戦少女がいた。

激しい接触音がメタモナを擦り抜けるとピザミとガリコが胴体部分から真っ二つに斬断される。
メタモナの前に現れたのは重装型、二刀流の空戦少女。

「ガリコーッ!!ピザミーッ!!」

二刀流の空戦少女は悲しむ暇も与えなかった。一瞬、思考能力を失ったメタモナだったが推力ノズルを咆哮させると上空に回避し、しげはるの飛行高度まで疾走する。
勿論、二刀流の空戦少女は追撃してくる。

「しつこいやっちゃ!!」しげはるの間近で急上昇するメタモナ。
二刀流の空戦少女の刀がメタモナを捕らえようとした瞬間、急激な上昇で発生した薄い空気の抵抗を受けたメタモナの体は失速し木の葉のように舞い落ちる。
そう。同時に複数のダミーバルーンと小型機雷を撒き散らせながら。

「どや!?これが七転び八起き。空戦少女メタモナの生き様や!!」

【しげはるさんの近くで暴れているメタモナ】
【それと秒数が偶数で二刀流空戦少女撃破ということで】

78 :メタモナ ◆0Bp.58ypcg :2010/11/11(木) 07:57:54 O
二刀流の空戦少女は雷雨のような小型機雷にうたれ爆光に包まれる。
散発する閃光と渦旋の向こうに墜ちていく二刀流空戦少女の姿をメタモナは見た。

【それと小型機雷は、しげはるさんにも降っています】

79 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/14(日) 09:12:32 O
それは、一瞬の出来事であった。

己の視界を何かが通り過ぎた瞬間、機体が大きく揺らぎ、それと同時に警告音が聞こえる。
「…クソがッ!!!」
すれ違い様にやられた…誰に?
機影を確認したのは前方から、そして、認識する間も与えずに消え去る速度
現状の中でその条件を満たすものは一人しか居ない。
「超音ぇぇぇ…嘗めた真似しやがって…」
先ほどの自信に満ちた声とは打って変わり、憎悪に満ち満ちた怒声を呟きながら、重力に引かれるように高度を落とし始める

『カルカ、現状を報告しろ』
滅多な事が無い限り通信しないオペレーターが通信する。
「あのクソすばしっこいのにやられた。損傷中破、機動系武装系回路がイカれやがった。
 機動系は予備回線に切り替えられるが…武装は…クソ…ミサイルが使えねぇ」
オペレーターの声に反応し、感情を押し殺しながら現状を伝える。
『…不幸中の幸いだな。相手が武装を使い慣れていたら今頃落ちてたところだったな。』
報告を受け、大体の損傷箇所の見当をつけたオペレーターが皮肉りながらそう返した。
「…いっちょ前に当ててんじゃねぇよ」
オペレーターの見当通り、カルカの損傷部位は動力部より少しずれたポイントだった。
そう、ソクの攻撃は動力部からズレてあたってしまっていたのだ。
何故か?理由は2つ
1つは、カルカの分厚い装甲により、損傷が比較的に軽微で済んだこと
2つは、ソクが武器を使い慣れていなかったこと
武器の使い方等はプログラミングすればどうにでもすることが出来る
だが、それが実践で通用するとは限らない。
風や天候等による天候の変化などの『誤差』を生み出す要因に対し対応しきれないからだ。
ましてや、高速ですれ違った相手の動力部を打ち抜くなんて職人技なんてものは
それこそ一朝一夕でどうこう出来るような技術ではない

80 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/14(日) 09:14:51 O
結果的に、ソクの経験地不足のお陰で撃墜は免れたものの彼女は歯噛みし、試合前に言われたことを思い出した。
>…あまり他を過小評価するのはどうかと思うぞ
この損傷はまさにそれから来たものだ。
先ほどまでカルカはソクのことを速さしかない貧弱な空戦少女としか認識していなかった。
貧弱だと思い込んでいるが故にソクを囮として利用した。
いつでも落とせるとタカをくくっていたから、攻撃を仕掛けなかった。
貧弱な武装だと錯覚し、ソクに対する警戒を怠っていた。なんという失態だろうか

感情を抑え、冷静に考えれば考えるほどに自身に対する怒りが湧き上がるのを感じる。
墜とす。ただ一機の敵と認識し…全力を持って墜とす。
そう決意し、ソクが向かった方向へ向かおうとした瞬間だった
『お前の気持ちはわからなくは無いが…それは認めない』
オペレーターがそれを咎める。
『お前がそういう意識で相手を見ることに関しては大いに結構だ。
 だが、試合前にもいったはずだ。戦いに興じすぎるなと
 それに何を思ったか自分の順位をさげてまで撃墜を優先しているところを見ると
 どうやら、あちらには何らかの勝つ策があるように見える
 迂闊にさがるのは止めておいたほうがいい。
 それにこの隙に先んじ揺さぶりをかけることも出来なくはないだろう?』
気づいた人は気づいただろう。このオペレーターの主な仕事は作戦等の指示ではなく
カルカが身勝手な真似をしないように監視するのがこの男の仕事になる。
「…従えばいいんだろ…従えば」
オペレーターの指示に対し、カルカは嫌な態度は見せども指示に従うことを選んだ
『まぁそう不貞腐れるな…チャンスは確実に来るさ…確実にな』
体勢を立て直し、全速力で後続を引き離しにかかる。

81 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/14(日) 09:16:45 O
さぁレースもいよいよ中盤にさしかかってきました!!!
この時点で半数が既に脱落し、真の実力者が残った状態で果たして!誰が勝利の栄冠を勝ち取るのでしょうか!!!

現状報告
上位グループ
ソク Uターン後、カルカ、扶桑に近接攻撃
扶桑 ミサイル回避後、カウンターでソクにジェット蹴り
カルカ ソクの攻撃にてミサイルが使用不可になる。オペレーターの指示に従い、後続を引き離しにかかる
下位
メタモナ しげはるの近くまで上昇、機雷散布でNPCとしげはるに攻撃
しげはる (さぁここからどうなる?)

82 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/11/14(日) 23:22:34 0

「……あっさりジャミング出来た……本当に電子戦の対策が甘いなぁ」

呟くしげはるの搭乗する機体の眼下では、閃光と爆音が響いている。
電子攻撃は効果的面だった。
多くの空戦少女がセンサーに異常をきたし、高性能な空戦少女程その症状は顕著に出ている。
逆に低性能な空戦少女は比較的影響が小さい様だ。
しかしながら、電子攻撃の影響を受けなかった空戦少女の数は皆無。
それは、多くの空戦少女が電子戦の対策を取っていなかった事を示していた。
勿論、電子戦対策が為されている空戦少女が皆無なのには理由がある。
電子戦様の装備は、3つしか搭載できない装備の一つとして認識される上に、
更に、装備自体の重量があるので、装備すればレースで上位に入る事の出来る可能性が絶無になるからだ。
故に、電子戦を仕掛けようとする空戦少女は皆無だし、皆無である攻撃の為に速度や装備を
犠牲にしてまで対策を施す者はいない。

しげはるの開発会社である鈴木鉄工はそこに目を付けた。
邪道、異端、死角
正攻法で戦っても勝てないのなら、裏をかけばいい。

「……おかげでレースで優勝は絶対に出来ないけどね」

しげはるが死んだ様な目で澄んだ空の風景を眺めたその時であった。
眼下――後続の空戦少女の集団の中に閃光が走った。

「……!」

突然の事。その光を直視してしまった『しげはる』は一瞬視覚の機能が奪われ
人間の様に自身の目の部分を袖でゴシゴシと擦る

「……何が……あっ……」

そして、視覚センサーが回復すればそこは機雷原。目の前には爆散する名も知らない
空戦少女と――――もう一体の空戦少女。

「どや!?これが七転び八起き。空戦少女メタモナの生き様や!!」

メタモナの姿があった。

周囲は機雷の群れ、更に自分と同じ高度にやってきたメタモナ。
これは、しげはるにとってあまり歓迎すべき事態ではなかった。
何故なら、しげはるには遠距離攻撃の手段が無いから。
周囲を機雷に囲まれれば、為す術も無く相手の射撃の的になるしかない。
更に、電子戦しかけたのが自分だと気付かれれば、間違いなく狙われる。

「……面倒だけど、堕とそう……さっきの光、眩しかったし……あれがやったんだよね……
 ……たぶん、私への嫌がらせだったんだよ……」

故に、しげはるは自分から先に仕掛けた。

「……『電子兵装妨害装置、狭域作動――――及び物理防壁『Firewall』展開』」


83 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/11/14(日) 23:24:00 0
直後、しげはるの周囲に漂っていた機雷の一つが爆発した。
センサーに干渉する事で誤爆させたのだ、そして、周囲の機雷が誘爆し爆発が
しげはるの乗る機体を包み込む。いくら距離が少しあったとはいえ、こんな爆発を受ければ
しげはるは二刀流の空戦少女と同じ様に堕ち――――なかった

爆煙を突っ切り、現れたのはしげはるの機体。爆発のダメージはあるものの
それは装甲に申し訳程度の傷が少し付いた程度でしかなかった。

「防御完了……」

爆発を凌いだのは、しげはるの機能の一つ。
『バリアー』だった。通常どの空戦少女にも付いている『バリアー』。
それは本来気休め程度の効果しかないのだが、しげはるのバリアーは出力が桁違いだった。
実用レベルの防御力を誇っていたのである。
勿論、このバリアーにはいくつかの欠点がある。
まず、エネルギーの使用量が膨大である為、常時の使用が困難だという事。
連用すれば低速飛行しか出来なくなるだろう。
そして、武器の一つとしてカウントされてしまう事も欠点の一つとして挙げられる。

だが、初めからレースでの勝利を度外視しているしげはるにとって、
そのデメリットはあまり関係がないのだ。
求められているのは多くの撃墜数。ゴールの順位などどうでもいい。

「……堕ちナよ」

そして爆煙から抜け出したしげはるは相変わらずの生気の無い瞳でそう言うと、
メタモナに

――――体当たりを敢行する。

実用レベルのバリアーを展開した機体の体当たり攻撃。
その威力はご想像の通りである。

気休めの防御の為の道具を強化し攻撃に転化し、レースと自体の勝利は切り捨てる。
しげはるの戦略と性能は全てが邪道で、ある意味でレースを冒涜するものであった。



84 :メタモナ ◆0Bp.58ypcg :2010/11/16(火) 11:00:38 0
敵空戦少女の刃陣から逃れるために、急上昇時の空気抵抗を利用し放たれたのはメタモナのマニューバ「木の葉落し」
空気抵抗との合体技のため利用しているエーテルの出力は補助程度で済む省エネ技。それに付け加えて大量の機雷とデコイのおまけつき。

「ほおぇ〜あぶなぁ〜」
幻惑の動きを見せながら、悠然とメタモナが下降していると爆煙を突っ切り、しげはるが現われる。

>「……堕ちナよ」
アイフィルター内の照準レクティルが敵機を捕捉するもすでに衝突は避けられない。

「あっかーんっ!!!」
しげはるとメタモナが空中で、げいごーを果たす刹那。ダミーバルーンが連続で射出され衝突のクッションとなった。
ボーリングのピンの様に空中にバラバラと散らばるメタモナ人形。
だが、こうなってはメタモナも黙っていられない、当てられ四散するデコイに紛れて、しげはるの飛行ユニットにしがみつく。
その姿は日本昔話の龍に乗った子供を彷彿とさせる。

「これはうちの電脳の単なる勘やけど、下で起こった騒ぎはおまえの仕業やろ?
ちゃうか?ほな何でうまいことこんなとこおんねん!?この腐れ外道がああ!とんでもない悪い子やで!!
ぼうや悪い子や、ねんね死なやー!!!!!」

悪魔のような顔で叫びながら馬乗り状態でステルス型の機首をボコボコと叩きはじめるメタモナ。
さらに恐ろしいことにその小さな拳固は硬質化していた。
化学反応によって急激に硬化、軟化するマニピュレーターを開発した製作者が、
ドラクエに例えたならば拳だけアストロンをかけた状態に出来るようにと改良していたのだ。
しかし―

「バリアーやん!くえないやっちゃ!!なんかねちょねちょした装備やなおまえ!
こんなんなかったら、ぼっこぼこのぎったぎたにして、ロマンのかけらに変えてやったるのに!!」

飛行ユニットを足でカニ挟みにしつつ矮躯な体を伸縮させては機体をバッカンバッカン叩き続けているメタモナ。
別にエネルギーの使用量が膨大であるバリアーが短時間しかもたないとか計算しているわけでもなく、
機械類は叩けば何とかなるの発想が攻撃を繰り返させているだけであった。

85 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/11/18(木) 01:09:53 0
三日ルール、スギチャッタネ
蹴リヲ喰ラウ寸前ニ逆噴射デ勢イヲ殺シタケド
戦線カラチョット遠クニ吹ッ飛バサレタッテ事ニシトイテ欲シイナ

86 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/11/19(金) 18:14:08 0
>「超・絶・必・殺!――ジェット蹴りッ!!」

止められた。現最高速の一撃は容易に見切られ、両腕を掴まれる。
直後、扶桑が右足を振り被った。同時に彼女の飛行靴が吐く炎が膨張する。
空戦少女の馬力に、ジェット噴射の勢いを上乗せした蹴りが迫る。
まともに喰らえば、大破は免れない。
超速の代償として最低限の装甲しか持ち合わせていない、超音ソクでは。
――そう、まともに喰らえば。

「う……りゃあああああああああああっ!」

背負ったジェットパックを最大出力で噴射する。
無論それで扶桑から離れられる訳ではない。

「だけど、ここは『そら』なんだ!そんな『ちにあしつけたれんちゅう』のまねごと、つーよーするもんかっ!」」

しかし、確実に扶桑の姿勢制御を奪う事は出来る。
足場のない状態で蹴りを放つ。緻密で精緻な計算の上に成り立つ芸当だ。
その計算が扶桑の意識の上にあるか無いかはともかく――
ソクの行為は、扶桑の姿勢制御の計算式に出鱈目な数字を滑り込ませたような物だ。

辛うじて、ソクは大破に値する蹴りの威力を殺す。
それでも蹴りには相当の威力があった。装甲が軋み、だが超音ソクは痛覚がない。
蹴りの痛みの程は、人工頭脳の中が橙色とアラート音に占拠される事だけで思い知る。
警告色は『橙色』。あと少し蹴りが高かったら、腹部に内臓したミサイルが爆発する所だった。
危なかった、とソクは目を細めて背中を丸め、口を開く。動作だけで、安堵の溜息が零れる事は無かったが。
ともあれ、凌いだ。ならばとソクは扶桑を睥睨する。

「ところでアンタさあ!そのじょーたいでつぎもふせげるわけ!?」

ソクは両腕を掴まれている。ならば当然だが、扶桑も両手が塞がっている。
扶桑の上を取り足を振り上げ、ソクは何度も扶桑の顔に足裏を叩き付けた。
とは言え彼女の貧弱な馬力では、威力は殆ど無い。
だが扶桑が両腕を離さない限り、彼女は足踏みをやめはしない。
そして威力がゼロでない以上、延々受け続ければいずれは扶桑のAIに支障を来すだろう。

【遅レテゴメンネ。空中ナンダカラ少シデモ押シテヤレバ姿勢意地出来ナイヨネッテ事デ。後スタンプ攻撃ダヨ
 一応書イタケド、ルールブッチギッテルカラ飛バシテシマッテモ無問題ナンダヨ】

87 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/11/19(金) 23:30:13 0
>「これはうちの電脳の単なる勘やけど、下で起こった騒ぎはおまえの仕業やろ?
ちゃうか?ほな何でうまいことこんなとこおんねん!?この腐れ外道がああ!とんでもない悪い子やで!!
>ぼうや悪い子や、ねんね死なやー!!!!!」


「……体当たりを回避してから、機体に張り付いて、高硬度の拳による打撃攻撃。
 ……自分で空を飛べるから出来る事だよね……私は出来ないけど」

相変わらずの死んだ目でメタモナが張り付いている部分を見上げると、
しげはるは外部スピーカをオンに切り替えた。

「そう……疑わなくてもいいよ。私がやった事だよ。
 ……それより、私の飛行ユニットに張り付かないでよ。
 ……浮力の計算が面倒になるから……」

その言葉には反省の色も何も無い。ただ、淡白に業務をこなす平坦な声。

>「バリアーやん!くえないやっちゃ!!なんかねちょねちょした装備やなおまえ!
>こんなんなかったら、ぼっこぼこのぎったぎたにして、ロマンのかけらに変えてやったるのに!!」

だが、そんなしげはるの言葉を聞き流すかの様に、メタモナは張り付いたまま
高硬度の拳を連打し始める。かなりの破壊力を持つその拳。
それでもバリアーはその攻撃を阻むが、高出力のバリアーは長時間出せば出すほどに
急速にエネルギーを喰う。

(……エネルギー使用量急速上昇。このままだと、エネルギー切れかな)

「……まあ、いいか。面倒だし、どうにでもなるといいよ」


88 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/11/19(金) 23:31:55 0
―――――

レースを中継する巨大なモニターの側、スーツを着たどこかの空戦少女の
オーナーらしき男が『社長』の隣に立ち、話しかけていた。

「ははは、君の所の空戦少女はずいぶん追い込まれているようだが、
 アドバイスはしてあげないのかい?」

「しないのですよ。必要ないのです」

『社長』のつまらなそうなその返事に、男は馬鹿にした様に軽く鼻を鳴らす。

「君、確か君はレース初参加だったね。言っておくが、空戦少女のレースにおいては
 我々と空戦少女の連携が大きな力となるのだよ。それをしないという事は、自分で
 勝率を下げている様なものだよ? おっと、それともロマン型なんてネタ装備で
 出てくるくらいだから、初めから勝負を投げているのかい?ハハハ!」

馬鹿にした様な笑いを始めた男の方を一瞥すると『社長』は小声で呟く。

「……アドバイスをしないのではなく、出来ないのですよ。
『しげはる』は、あの子は天才です。我々のアドバイスなど無い方が強いのです」

その表情に浮ぶのは、不敵な笑み。

――――――――

89 :しげはる ◆JRwrOVHoM6 :2010/11/19(金) 23:33:15 0

「……どうにでもなるといいよ……張り付いてる、あなたが」

呟いたしげはるは、目の前に浮ぶモニターの一つに手を翳す。
すると、そのモニターに文字が浮んだ

『バリアー展開:一時停止 ロボットアーム:type-claws  稼動』

それは、しげはるの飛行ユニットが持つ近接武装の一つだった。
ロボットアーム。精密な動作を可能とする機械の腕。本来は人間が近寄れない箇所での
遠隔作業や、細かい病巣の治療の為に開発されたそれだが、しげはるの機体の側面に
収納されていたロボットアームは、初めから飛行ユニットに張り付いた空戦少女へ
対しての攻撃用として設計されていた様だ……否、その為に設計されたのだろう。
相手の方が自分よりも上手く空で遊べる事を前提にした装備。

先端に三つの鍵爪のような物をつけたロボットアームは、二つ。
鉄程度なら捻じ切る事の出来る恐るべき怪力を誇るそれは、獲物を狙う
鷹の爪の如く、素早く、精緻にメタモナに対して襲い掛かる。


90 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/22(月) 00:03:30 0
>「だけど、ここは『そら』なんだ!そんな『ちにあしつけたれんちゅう』のまねごと、つーよーするもんかっ!」

乾坤一擲の不破雷濤で放たれた扶桑の蹴りに、しかしソクは目敏く対応する。
緻密なタイミング、針の穴を通すような挙動制御で繰り出された推進圧がジェット蹴りの威力を減衰し、紙装甲の空戦少女は凌ぎきる。

「おおっ!?」

予想外。扶桑としてはこの上なくカッコ良く決まった一撃だ。
確実に堕とせると踏んだ上でのアクションであり、その後のことを微塵も考慮に入れていない。

>「ところでアンタさあ!そのじょーたいでつぎもふせげるわけ!?」

すなわち有り体に言って――向こう見ずは彼女の専売特許であり、そしてそれはこの場においても遺憾なく発揮された。
枝のように細い足が扶桑の目の前に聳え、次の刹那には扁平な足の裏が怒涛の如く降ってきた。踏みつけられる。何度も踏まれる。

「いだっ!いだだだだ!わっぶ、ちょっ、そういうのはっ」

顔面に何度も足を落とされ、扶桑は制する声すら挙げられない。
両手は塞がっているが掴んだソクの肩を離せばすぐにでもこの苦境から解放されるだろう。
それでも。

「やっと掴んだのであります……!ここで放せば!もう二度と追いつけなくなるから!死んでも放すわけには――」

踵が鼻っ柱にめり込んだ。

「ギャーっ!?」

強かに顔面の中心を踏み抜かれ、鼻血をボタボタ零しながら扶桑はたまらず顔を押さえた。
戒めの解けた最高速の空戦少女は色気のない悲鳴を挙げる扶桑を尻目にさっさと逃走挙動に入っている。

「逃がすかあっ!!」

扶桑は提げていた空対空バズーカの安全装置を抜き、逃げ去るソクへ向かって大まかに当たりをつけ躊躇いなく引き金を引いた。
射程ギリギリだがバズーカのロケット弾はミサイルより速い。それでもソクに追いつけるかは定かじゃないが、駄目元の報復だ。
反動低減の砲煙に紛れてソクと弾の両方が見えなくなり、扶桑は再び翼に鞭を入れた。

《……死んでも放さないんじゃなかったのか》

「女の子は顔が命でありますってば!」

涙目になりながらどうにか血を止め、打撲した鼻を摘んで形を戻しながら空を見る。
一旦風防を解除して、叩きつけられる風で顔を冷やす。エーテル機関の内功作用で切れた毛細血管が塞がった。

「トップ集団に戻るであります。どういうわけだかカルカさんのミサイル雨あられが止んでいる今のうちに遅れを取り戻さねば」

件のトップはカルカが一人先行している形だ。
現段階なら扶桑にもまだ勝目はあるが、最高速に乗れば重装型は本当に手がつけられなくなる。

「打って出るべきは今!」

スラスターを吹かし、滑るように空を往く。軽装型の機動性能を活かして肉薄する。
が、それでも。『扶桑-501SW』という機体の限界として、速度面ではどうしても他に劣る。次第に劣る。劣っていく。
開けた空という、『完全なる直線コース』を舞台に繰り広げられるデッドヒートの参戦者にはなれない。

《マズいな、ミネルヴァんとこのが完全に勢いにのってやがる。扶桑、無理せず集団のペースを維持しろ》

スピード勝負を捨て、乱戦に身を投じて撃墜数を稼ぐ。
この後に及んだ戦闘特化型空戦少女が選択できるプランはそれだけ。レースだけが空戦ではなく、『この空戦』だけが空戦じゃない。
リーグ戦という空戦興業の性質上、不利な戦場での戦いは避け自分の土俵で勝負するのが正しい競技者の在り方だ。

91 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/22(月) 00:05:42 0
そう。骨を断てるのなら肉などいくらでも切らせておけば良いのだから。
それが賢い。それが正鵠。それが正論。誰だってそうするし、常識的に考えて冴えたやり方だ。
ただ、惜しむらくは。

「承服しかねます……っ!」

《お、おい、扶桑!》

「そーいう『試合に負けて勝負に勝つ』的発想!目先のことに囚われず最終的な勝ちを目指す計算性!でもでも!でもですよ!
 ――扶桑はただの一回だって負けたくないんでありますーーっ!!!」

《あーそうだったこいつ馬鹿だったよちくしょーっ!!》

カルカは遠い。
純然たる機体の性能差で、彼女に追いつくことは不可能に近い。

「目先を追うことが禁忌視されるのは、自分の選択が誤ったと気付いたときにそこから目を逸らしてしまうからです!
 なればこそ!どれだけ逆境にあっても!『目先の目標』を追って追って追い続けられたら!――最高にカッコ良いでありますから!」

右腕を伸ばす。硬質なアームカバーのように腕を覆うのは換装式ワイヤーアンカー。
エーテル圧で射出され、高速巻き取りによって対象との距離を縮める扶桑唯一の遠距離武装。
攻撃力はないが、上手く扱えば強制的に近接戦闘に持ち込めるある意味では空戦少女としての命綱みたいなものだ。

遠くに見えるカルカへ向ける。
射出の瞬間にユニットの全てのエーテルをカットし、捻出した出力を全てアンカーに回せば、
一瞬であるが重装型をも上回る速度でアンカーを射出することは可能だ。――それをやったら自分が墜ちるので誰もやらないが。

そう!『まともな神経の持ち主なら』!!
あらゆる意味で扶桑は頭が悪く。それ故に決して、どんなことがあっても。――前を向き続けることができる。
どこまでも恥ずかしく、どこまでも痛々しく、どこまでも稀有で貴重な空戦少女なのである!

「後悔したくないならば!――この一瞬に全てを賭けるであります!!」

絶好の二者択一。
アンカーがカルカに命中すれば、扶桑はまだ戦える。カルカやソクと同じ空に在れる。
外れれば失速し、二度と先行グループを拝むことはできないだろう。後続と激突し、乱戦は確実。

躊躇わず、撃った。
瞬間扶桑を空に運ぶ全ての推進系から火が消え、代わりに一気に膨れ上がった右腕から爆発的速度の一閃が飛び出した。
扶桑の命運を分ける一発は、蒼穹を切り裂いて空を迸る。


【ソクに顔面蹴りされて手を放す。追いつけないと判断して報復のバズーカ】
【カルカにワイヤーアンカー射出:投下時刻下1ケタの偶奇によって成否判定 偶数=命中 奇数=失敗】
【命中すれば高速巻き取りでカルカさんの元へ、失敗すれば失速して後続組のバトルに乱入】

92 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/22(月) 00:17:33 0
【命中!】

「っしゃああああああああああああああ!!!」

確かな手応え。磁力吸着式のアンカーはカルカのユニットに取り付き、扶桑の右腕とを鋼線で繋ぐ。
エーテルパワーのカットで一気に高度を下げていた扶桑は水上スキーよろしく海面スレスレでワイヤーの張力に牽引され、
ユニットが生む揚力だけで凧のようにフラフラと空域に復帰した。

「超高速リール『巻き取り君』オーンっ!」

モーターが起動しワイヤーが高速で巻き取られるにつき、そのぶんだけ扶桑はカルカに肉薄する。
全てを賭けた一撃は、ハイリスクに見合った配当を勝負師にサーブした。
が。
扶桑の目論見には最も重要にして致命的な計算が欠けていた。

「あ、ちょっと待って撃たないで撃たないで!――正々堂々話し合いましょー!」

飛んでる最中に突然ぶら下がってきた『荷物』を、カルカが看過するわけがないという大前提である。


【カルカさんのユニットにアンカーを吸着。ワイヤーで蜘蛛の子のように牽引される】

93 :メタモナ ◆0Bp.58ypcg :2010/11/24(水) 16:40:44 O
散華していく空戦少女たちの爆光が、しげはるとメタモナの邂逅を祝福する花火の如く空を彩る。
>「……どうにでもなるといいよ……張り付いてる、あなたが」
「せやな。どうにでもさせてもらうで。ほんなら手始めにアンタには墜ちてもらう…。ええな?」
拳の破壊エネルギーの直接到達を阻んでいたしげはるのバリアーが霧散し緩衝機能を停止する。
「かんにんしたんか?ええこやのー」
振り上げた拳が人工筋肉の伸縮によって唸り、とどめをさそうとした次の瞬間−−
大蛇の如く現れた二本の腕が挟み込むように襲い掛かってくる。
「ほやーっ!!」
両眼を左右別々に動かし攻撃を視認すると、危険丸ごとしげはるを蹴飛ばし回避行動に成功するメタモナ。
「あっぶな〜っ!」
気がつけば白い頬から赤い人工血液が流れていた。そして爪によって斬断されたペットボトル型の冷却装置が空中に四散している。
「あかん!!あれがないと…」
しげはるとの戦闘で、すでに熱暴走気味のメタモナの心肺装置は、その律動を異様なものに変化させていた。

「なんや?この気持ち…お父ちゃんが死んだあの空でも、こんな気持ちが沸いてたような気がすんで…。きゅ…ぅぎぃぎゅ〜…ぎゃあー!!!」

メタモナは体全体から摩訶不思議なエネルギーを噴出させて火の玉のようになると、航空力学を無視した動きを見せコースを逆走。
次々と後続の空戦少女たちを体当たりで撃墜するも得体の知れない反則兵器を使用したとして失格。

【メタモナ失格になります。空戦は新ジャンルで楽しかったです。ありがとうございました】

94 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/25(木) 02:47:52 O
「…こればっかりはお前でも無理だろうな…ロマンチスト」
機体性能上、徐々に引き離される扶桑の姿を眺めながらカルカはそう呟く
根性論等の精神論の類は近年アナログな思想と侮られるものではなくなった。
根性、執念等の精神コ…感情による逆転劇も珍しくは無い
故に、機械である空戦少女に仮想ではあるが自我が存在する。
その精神論を体現する扶桑の姿はまさに奇跡の逆転ファイターといっても過言ではないだろう

しかし、ただ貪欲に目標を達成し勝つことを前提としたアセンブルと己の思考にあったアセンブル
その間にある差は、まるで現状のカルカと扶桑の差そのものだろう。
「お互い後味悪いがよ…ここままぶっちぎらせてもらうぜ!!!」
飛行ユニットにエネルギーを送り込み、速度を上げようとしたその瞬間
カルカの体が大きく揺れ、加速どころか大きく減速した。
「ッ!?」
特に目立った損害は無く、まるで何かに引っ張られているかの如く機体バランスが維持出来ない
いや、如くではない…視線を飛行ユニットに向けるとそこにあったのは、磁力式アンカーの姿
考えなくてもわかる…こんなピーキーな装備をつけている奴は現状において一人しかいない
「ここまで来るか…扶桑!!!」
ワイヤーを巻き取りつつ接近する扶桑を睨みつけカルカは叫ぶ
しかし、その口元は怒声は裏腹に笑みを浮かべていた。
もしかしたのなら、カルカはこの状況を心なしか望んでいたのかもしれない。
望んではいない勝利を優先させられているこの状況を扶桑ならば打破し、己に向かってくると期待していたのかもしれない。
そして、今、扶桑はカルカの希望に答え、自身に喰らい付いてきた。
「ハ・・・ハァハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
笑っていた。先ほどの強襲のときよりも大きく、高らかにいつの間にか笑っていた。
しかし、狂喜する様からは打って変って、カルカの思考は冴えていた。
このまま接近を許したのならば、いくら強固な装甲を持つカルカでもひとたまりもないだろう。
それに加え、先ほどのソクによる攻撃により、動力部付近の装甲が中破していることを認識されたのならば
それこそ一巻の終わりである
ならば、その厄介なアンカーを外せばいいだけなのだが、カルカの両腕は翼の役割を果すため完全に固定され
手で外すことは不可能に近い。アンカーごとパーツをパージすることは可能ではあるが
飛行ユニットごとアンカーを外してしまえば、当然速度は落ち他の空戦

95 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/25(木) 02:49:54 O
飛行ユニットごとアンカーを外してしまえば、当然速度は落ち他の空戦少女の的になるだけだ。
究極、今ある選択は二つ、「交渉」か「闘争」の二択に限られる。カルカの選択は

「話し合いだぁ?ふざけんじゃねぇ!!!ここは戦場だぜぇ!!!」
闘争であった。
徐々に接近してくる扶桑の姿を確認したカルカは次の行動に移る。
飛行ユニットの出力を最大にまであげ、無理矢理扶桑を引っ張りながら加速を始める。
そして、その次に急速旋回を繰り返し扶桑を振り回す。
振り回してアンカーを外そうという安直な目的のための行動ではない
Gに揉まれ、集中力が欠けた瞬間を狙い攻撃するための布石なのだ。
やがて、頃合と判断し、ガトリングガンの照準を定め、扶桑に弾幕を浴びせた

96 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/11/26(金) 16:02:45 0
>「ギャーっ!?」

「ばーかっ!かっこつけてるからそーなるのよ!」

時機の両手が解放されるや否や、超音ソクは扶桑の傍から高速で離脱する。
直後、背後から爆音が響いた。微かに顔を下げて後方を見遣る。
青空と白煙を背景に、追撃のロケット弾が発射されていた。
ロケット弾は猛然とソクに迫る。無類の速さを誇るソクと言えど、
AIも武装もジェットパックも積んでいないロケット弾を振り切る事は出来ない。

『撃ち落として急げ。カルカが後続を引き離しに来ている』

「りょー……かいっ!」

肉薄するロケット弾に掌を向け、レーザーを放つ。
閃光は迫る黒鉄の猛獣を一瞬で貫いた。弾頭が真紅に染まり、直後に爆炎の花が青空に咲く。

「へーんだ!おいすがるしかのーのないやつにまけるもんか!」

『ロケット弾と貼り合ってどうする。空戦公社の扶桑と同レベルだぞ』

「え?うそぉ!それはやだなぁ……」

『なら急げ。このままだとアレ以下だ。扶桑はカルカにアンカーを付けた。引き離されるぞ』

前を向き直し、ソクはカルカと扶桑の二機を探す。遮蔽物の無い空では容易く発見出来た。
青い空の向こうで、米粒のようになっている。大分引き離されてしまっていた。

「……けど!まだおいつける!」

顔を伏せ、空気抵抗の少ない姿勢を取り、ソクは加速する。
後方からの攻撃が怖い為不規則に揺れながらも、全速力で飛ばした。
ほんの一瞬だけ顔を上げて前方を伺う。カルカと扶桑は大きく蛇行、旋回しながら飛行していた。
カルカが扶桑を混乱させようとしているらしい。
西田が『好機だ』と通信越しに呟いた。


97 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/11/26(金) 16:03:28 0
大空でのレースは基本、妨害や戦闘を除外しすればゴールまで一直線に飛ぶだけでいい。
だからこそ蛇行や旋回は完全な無駄、『減速』行為なのだ。
例えトップスピードを維持していたとしても、無駄な挙動は相対的な減速となる。
もっとも戦闘中であれば相手を振り切り、背後を取る布石にも出来るが――
やはりこの状況では、付け入る隙に他ならない。
ソクに限らず、これを機に後続の一部は距離を縮めてくるだろう。

『……ソク、【妙手】を使え。見せてやれ、とは言わんからな。悟られるなよ』

西田の通信に、ソクは答えない。ただ顔を上げて、腰に備え付けていた武装を手に取る。
巻き取り式のワイヤーだ。チタンを焼結させたアラミド繊維で編み込まれており、自由な長さで固定出来て、切り分ける事も出来る。
彼女はそれを思いきり伸ばした。両端を両手で持った際、自分の後方に大きなワイヤーの輪が出来るように。
そのままの状態で、ガトリングの流れ弾を回避しつつソクは上昇する。

『攻撃するならカルカの方だ。墜とせなくとも飛行能力を削ってやれば、後で扶桑共々振り切れる。仲良くやらせておけばいい』

頷き、一旦眼下にカルカを収めてから、彼女は急降下した。
風を切って、カルカのすぐ隣をすれ違う。攻撃はしない。
ただ通り過ぎるだけ。意図はカルカの気を一瞬でも引き付ける事だ。
攻撃は後から遅れてやってくるのだから。

ワイヤーの輪が、カルカを内に捉えていた。
ソクの下降に伴ってワイヤーはカルカの背後に迫る。
直撃すればソクの超高速がそのまま威力と化ける。
重装型の装甲相手でも、切断には至らないまでもそれなりの衝撃が望める筈だ。

そして何よりワイヤーは細い。
背後からの不意打ちを受けるカルカは勿論、視認能力に長けた扶桑の目でも捉えるのは困難だろう。
一撃を加えた後でワイヤーの片方を手放し巻き取れば、
相手には不可視で不可解な手段で攻撃されたとしか認識出来ない筈だ。

【予め自機後方にワイヤーの輪を作っておく。追いぬき様に相手を輪の内側に収める。
 そのまま進めば相手は追ってきたワイヤーに背後を攻撃される。
 コンナ感ジノ攻撃方法ダヨ。分カリニクカッタラ避難所デ言ッテネ】


98 :アイアンマ○子 ◆3bh.XxEiMluo :2010/11/28(日) 01:49:15 0
名前:アイアンマ○子
所属:モサドナルド
性別型:女
容姿型:M


性格:身勝手、非常識
兵装:軽装備、ちょんまげ頭で普段はマスクを被っている。
カラーリングは赤と白と金。
武装:レーザー(両腕)、小型ミサイル、胸に装備した2門の砲台
格闘武装:パンチ&キック
備考:アメリカの兵器会社から派遣された派遣空戦ロボ。
日米友好の為に遣わされたが、現代日本とは程遠い偏見に満ちた
外見の為あまり評判は宜しくない。

(新規希望です。よろしくお願いします!)





99 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/28(日) 07:15:18 0
【急転――Barrel roll――】


《あ、ちょっと待って撃たないで撃たないで!――正々堂々話し合いましょー!》

>《話し合いだぁ?ふざけんじゃねぇ!!!ここは戦場だぜぇ!!!》

「正論言われたッスねチーフ」
「あー……」

俯瞰カメラで戦況を見守っていた浅葱がチーフに同意を求めると、当の丹波チーフは目頭を揉んで俯いていた。
扶桑が無茶な行動――傍から言わせれば魅せプレイ――をするのはいつものことだが今回ばかりは神経を削った。

「あのバカ、下手こいたら海に墜ちて二度と帰ってこれなかったかも知れねえんだぞ」
「アンカー外してたらヤバかったスね、墜落しなくても失速状態で後続にぶつかれば確実にフルボッコでしたし」
「正座だな」
「バケツも持たせましょう」

扶桑にアンカーを打ち込まれたカルカは変則機動で揺さぶりながらガトリング弾をばら撒いている。
接近戦用に装甲を厚くカスタムしてある扶桑なら二三発当てられたところで耐え切れるだろうが、正味の問題は別にある。

「『プライベートウィング』のエーテルパワー回復まであと10秒!」

「やっぱ力場装甲にリソース持ってかれてるか……」

《いだだだだだだだ!! もうバリアも持たないでありますよぉーっ!!》

変速機動故にガトリングの真正面に晒される事態だけは回避できたが、攻撃重視の空戦少女相手に消耗戦は荷が勝ちすぎる。
扶桑の装甲は飛行服とエーテルバリアの二つがあるが、その両方をフルに発動しても何発かは扶桑本体を掠めていく。

そして間の悪いことに、扶桑のエーテル出力はアンカー射出で空っぽになった直後であり、回復に時間を要した。
バリアに最優先で供給しているが、エーテルは推進系にも必要だ。高出力の力場を維持しながらジェットユニットへの供給も賄うには
あまりにも時間が足らず、そして思慮も足りなかった。頼みの綱のバリアもガトリングによって削られていく。このままではジリ貧だ。

そして。

「――扶桑! 西田家が来たぞっ!!」

最高速の空戦少女、超音ソク。
扶桑の放ったロケット弾を処理した彼女は、交戦によって減速したカルカと扶桑へ猛然と追いすがる。

「漁夫の利狙いですかね、ここで追い抜けばもうミネルヴァもウチも追いつけませんよ」

「みてえだな、見たところ武装を構えてねえみたいだし――っ?」

分析するチーフと浅葱は、中継映像に一つの特異点を見た。
ガトリングで散らされた扶桑の力場装甲の、凝固エーテルの欠片。半透明なガラス片に似たそれが後方のソクへと降り注ぐ。
ピッチアップで体よく躱したその刹那。ソクの手元後方で、エーテル片が割れた。

「なんだこりゃあ――」

真っ二つに。凝縮され、鋳鉛並みの硬度を持ったエーテル片が、まるで木材でも割断するかの如く。
偏光処理された俯瞰カメラでなければ見分けられないような、肉眼では識別不可能な、差異。
エーテル片を割ったのは、ソクが両手に縄跳びのように持った極細のワイヤー。僚機のいない電車ごっこのような格好だ。

「扶桑!5時方向からソクが来るっ!! 奴めワイヤーを持ってやがんぞ!」

《ちょっ、こっちもいい加減に限界――》

接触する。

100 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/28(日) 07:16:35 0
  * * * * * * *

ガトリングの射撃音が風を切る音に混じる中、扶桑の力場装甲と、鉄火場に晒され続けた本人の精神摩耗は限界に達しようとしていた。
そんな中でチーフからの忠告が入り、しかし扶桑は首を動かして後ろを確認することしかできない。

(ワイヤーって!? 全然見えないでありますっ)

コンソール・ゴーグルのレーダーにも映らないということは鋼線ではないだろう。
そして鋼線ではないということは、これは確実に奇襲目的の暗器。視認できない武装で意識外から攻撃を加えるつもりだ。

(緊急回避……駄目です、エーテル出力がまだ回復してないであります)

力場装甲は展開する傍から破壊され、もはや供給が需要に追いついていない。
カルカのガトリングは重装型搭載用の高威力なもので、一発でもまともに喰らえば胴体が吹っ飛ぶだろう。
ここまで近づいたのだからアンカーを外して回避すればいいものだが、肝心の推進力が間に合っていない以上それはできない相談だった。

(前門の虎ならぬ鮫と後門の暗器……かつてない大ピンチであります!あります!)

逃げられない。このままカルカのガトリングの餌食になるか、ソクのワイヤーに切断されるか。
絶好の二者択一。墜ちることを前提に考えるなら後者だろう。カルカはワイヤーを認識できない。しからば墜ちるときは一緒だ。

(……って、いやいや後ろ向き過ぎる発想でありますよそれはーっ!?)

昏い考えだった。熱血空戦少女としては誰かを道連れにする策など到底承服できかねる。
レースもいい具合に煮詰まってきたところで、ここでカルカと墜ちればソクに撃墜数を二つ進呈するだけだ。
考えるうちにもソクは迫る。こちらはふたり分の重量と、変則機動による減速も含めてソクを引き離せる要素が一つもない。

(ここでカルカさんを離して、扶桑が犠牲になって先へ進ませるのも熱い展開でありますけど――)

――ただの一度だって、負けたくないから。
扶桑にとっての譲れない矜持。いついかなるときも前を向き続ける覚悟。

(人を前に進ませるのは希望じゃなく『意志』!歩みを止めさせるのは絶望ではなく『諦観』!)

ARMSからの引用であるが、扶桑はこれを座右の銘にしていた。
希望や絶望は、理由にはなるが原動力にはならない。前進するには足を踏み出さなくちゃならないのだ。
何はともあれポジティブに。扶桑は『負けるのが嫌い』なのではなく、『勝つのが大好き』なのだから。

「戦場に橋をかけましょう! 自分の足で、栄光を踏破する為に! 誰よりも強かに前へ進むために!!」

カルカのユニットに取り付けたアンカーを外し、推進力を持たぬまま扶桑は空へと身を躍らせる。
風は強く、彼女を蒼穹に滑らせ、静寂は乱流を割いて進む。力場装甲のエーテルが途絶え、最後のバリアはガトリングの露に消えた。
砕け散ったエーテル片が吹雪となってソクとカルカの視界を遮り、扶桑を覆い隠す。そこへ暗器を展開したソクが接触する。

《扶桑っ――!!》

「『プライベートウィング』、貴方に魂があるのなら――応えるであります!!」

金属の擦れ合いぶつかり合う鋭い音が断続的に響き、そして途絶えた。
チーフが息を飲む。浅葱が目を丸くする。エーテル片を残らず風が運び去ったとき、カルカとソクに挟まれているはずの扶桑の姿が消えていた。
代わりにエーテル片と一緒に流されていくのは『真っ二つになった金属片』――空対空バズーカの成れの果て。

101 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/11/28(日) 07:18:42 0

そして、扶桑は空にいた。


誰よりも高く、誰よりも前へ。カルカとソクの頭上斜め前方を、『スラスターが停止した状態で』翔んでいた。
風を受け、最低限の力場で揚力調整しながら――さながら紙飛行機の如く位置エネルギーだけを使って翔んでいる。

《まさか、あの一瞬で『跳んだ』ッスか……? バズーカを足場にして!》

いち早く扶桑の行動を理解したのは戦術オペレーター・浅葱。
ソクのワイヤーが届いた瞬間、その寸毫にも満たない刹那で扶桑は肩に下げていたバズーカを後方に投げた。
ワイヤーが肉眼で視認できないが故に、先んじて『障害物』を当てることでそれを斬らせ位置を特定するためだ。

そして鍛鋼削り出しのバズーカの砲身はさしもの極細ワイヤーとて切断し切れるものではなく、不可視の刃はバズーカの半ばまで食い込んだ。
そこを扶桑は足場にし、バズーカを蹴って空へと跳躍したのである。ユニットの揚力性能を限界まで発揮し、幻の空中ジャンプを実現したのだ。

奇しくもソクの速度が扶桑の背を押し、超高速のカタパルトとなった具合である。
流石にダメ押しの蹴りをいれられてはバズーカも耐え切れず割断されたが、生存の代償が武装一つなら安いものだ。

《安いわけあるかーっ!! バズーカ一基で浅葱の年収ぐらいすんだぞ!?》

《えっ、あれそんなにするんスか? 僕達の給料って一体……》

ともあれ扶桑は危機を脱した。カルカの殺傷圏を逃れ、ソクのワイヤーを回避した。そして何より、彼女は二人より前に出ている。
今この瞬間扶桑は誰よりもゴールに近く、軽装型の彼女が幸運と発想のゴリ押しでようやく掴んだ首位だった。
ユニットのエーテル出力が回復する。しかし扶桑はスラスターを蒸かさず、高度を下げてカルカとソクの目の前に出た。

「もうすぐ東京であります……ここが最後の正念場! 伸るか反るかの大活劇!!」

腰から抜き放ったのは大口径のリボルバー。扶桑-501SWの最後の武装、対戦車拳銃『ドアノッカー』。
射程こそ短いものの、至近距離からこれを叩き込まれて大破しない戦車はなく、そしてその性能は空においても如何なく発揮される。
コンソール・ゴーグルの自動照準機能と連動した高精度射撃。二つの機影をレティクルに捉え、扶桑は撃鉄を起こす。

「――ラストアクションは派手にいきましょうっ!!」

本来レースでありえない対峙の体勢で、カルカとソクの二人に二発の弾丸を。
扶桑はドアノッカーを両手で構え、正確に2回、引き金を引いた。


【ソクのワイヤーを視認できずバズーカが犠牲に。斬られたバズーカを足場にしてカタパルト式ジャンプで二人の前へ】
【性能的にこのまま速度勝負しても勝ち目はないので勝負に出る。対戦車拳銃でカルカとソクの両名を銃撃】

102 :実況:クリスタル ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/30(火) 02:38:37 O
最もエキサイティングな武装許可空域もあと僅かとなりました。
ここを抜ければ残るはゴールまで一直線、果たしてここを真っ先に抜け出るのは誰なんでしょうか?
現在トップはミネルヴァ所属カルカ、そして、それに引っ張られるようにして空戦公社所属扶桑が後を追う
そしてぇ!!!それを追うは西田家所属超音ソク!!!これは・・・三つ巴の最後の駆け引きの予感がするぅ!!!

103 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/30(火) 02:40:48 O
「墜ちろ!墜ちろ!墜ちろぉぉぉ!!!」
中々の渋とさをみせる扶桑に対し、カルカは焦りのあまり声をあげる。
現在、カルカと扶桑の状況は、若干ではあるがカルカが優勢ではあるが・・・
徐々にワイヤーを巻き取り近づいてくる以上、油断は厳禁
むしろ、下手をしたなら一気に扶桑が有利になってもおかしくはない。

しかし、あまりに扶桑に注目するあまり接近するソクの姿に気がつくのが遅れた。
ソクに追い抜かれたことに気がついた瞬間、扶桑のアンカーが外れ視界が霧によって覆われる。
風により霧が晴れた時、扶桑の姿はそこにはなく、いつの間にか先行されている形になっていた。
そして、何が起こったか理解する間も無く、扶桑の放った一撃がカルカを襲う
まるで突風に煽られるように舞う木の葉の如く、カルカはバランスを崩す
そこへ狙ったようにソクのワイヤーが向かう。
ワイヤーの存在を知る術が無いカルカにこれを回避することは不可能だ。
金属が切れる音と共に、カルカの腕ごと片翼は切り落とされた。
扶桑が打ち抜いたのはカルカの翼の部分、そして、運悪くそこにワイヤーが来てしまったのだ。

片翼を失ったカルカは錐揉み回転をしながら落下を始める。
「・・・墜ちるは・・・私だったのか・・・」
徐々に近づいてくる海面を眺めながらカルカは諦めたようにそう呟いた瞬間
先ほどの扶桑の姿が思い浮かんだ。
その時、何かを閃いたのか、先ほどまで諦めていた目が輝きを取り戻す。
「どうせ駄目なんだ・・・一か八か賭けたって問題ねぇだろ」
起死回生の秘策が舞い降りてきた
〔ゴールまで残り501km〕
着水まで残り数メーター切った瞬間、カルカは何の前触れもなく突如爆発した。
衝撃により水しぶきがあがり、爆発を覆う。
その時である。
爆発の中から1つの影が猛スピードで飛び上がるのが見えた。
影を覆う黒い煙が風によって拭い払われると、そこにいたのは
両腕を無くし、胸部装甲が剥がれ、各パーツがズタボロになったカルカの姿があった。
そう起死回生の奇策とはこのこと、発射することが出来ない胸部ミサイルを爆破させ
胸部装甲及び邪魔になるだけの片腕を落としバランス修正と軽量化を行い
そして、爆発の勢いを利用し、もう一度空へ飛び上がったのだ。

104 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/11/30(火) 02:43:24 O
結果は見ての通り成功、しかし、その代償は大きい
翼がない以上、機動修正等は体を使い無理矢理行わなくてはいけないし
推進力のみで飛ばねばならないので、速度を少しでも落とした時点で即墜落もありうる。
だが、それを理解したうえでの行動、文句はない。
「一泡ふかせられなかったのは残念だが…このままブッチぎってやる」
カルカの全身全霊をこめたラストスパートが始まる。
【残った腕、胸部装甲を捨て最後の追い込みに入る】

順位
1.扶桑 2.ソク 3.カルカ
下位グループ
しげはる(存)メタモナ(失格)

105 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/12/01(水) 20:35:03 0
>「『プライベートウィング』、貴方に魂があるのなら――応えるであります!!」

後方から扶桑の声が聞こえた。彼女の叫びだけがソクに追いつき、抜き去っていく。
無理に決まっていると、ソクは嘲笑するように目を細め、口を半開きにした。
【妙手】はレーダー探知出来ない。存在を悟っていた所で、回避するにも防御するにも振り向く必要がある。
ラストスパートの今、振り向けばそれは致命的な減速。もう二度と追い付けなくなる。

――筈だった。

「うそ……でしょ……!?」

視界の端を、何かが通り過ぎた。
驚愕と共に横を振り向いた時には、既に何かはそこに居ない。
焦燥に横面を叩かれて、前を向く。
扶桑がいた。大型のリボルバーを構えて、超音ソクの前を取っている。
何故、どうやって。考えている暇は寸毫たりとも無い。
機体を右に回転させて扶桑の標準から逃れる。直後に発砲音、銃弾は紙一重で外れた。
皮膚感覚を持たないソクは、破壊力がすぐ傍を過ぎ去った風を感じる事はない。
ただ被弾警告がないと言う事実のみが、彼女に自機の無事を無言で告げた。

『よくやったソク。そのまま死角に回りつつ抜き去れ。カルカの翼は落ちた。そいつを抜いてしまえば勝ちだ』

西田から通信が送られてくる。彼が告げるのは、単純明快な事実だ。
飛行と言うより高速で墜ちていると言った方が正確であるカルカ。
そもそも速度で大きく水を開けている扶桑。どちらも速さの土俵の上でなら、ソクの敵では無い。
追い抜き、引き離し、レースで一位を取る。確定した未来だ。
見え透いた軌跡を飛ぶだけで、賞金が入る。ソクの願いが叶う。
生体パーツを使った、戦争の名残など感じさせない、空戦少女の名に相応しい機体が。

>「――ラストアクションは派手にいきましょうっ!!」

『馬鹿か、ソイツはもう終わりだ。さあ急げ、ソク。死に体とは言えもたもたするとカルカに突き放されるぞ』

「……いやだ」

小さく、ソクが呟いた。言うや否や、彼女は機首を上げ急上昇する。
ゴールへの最短距離を完全に無視した、勝利に対する離反行為。

『何をしている、ソク。勝利は目の前なんだぞ』

「……わたしは、そんな『なまりのたま』みたいにつめたいしょーりはいやだよ!」

目の前の勝負を切り捨てて、勝利だけを掴む。
その中に彼女は戦争のような冷たさを感じた。

「わたしは……『空戦少女』だから!きもちよくかちたい!このおおぞらみたいに、きもちよく!」

故に、超音ソクは空を昇る。
扶桑の遥か上空を取り、彼女の未来位置を予測して、ソクは縦の半円を描いた。


106 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2010/12/01(水) 20:35:58 0
「わたしはかつよ!ここでかって、レースにもかってみせる!」

位置エネルギーを運動エネルギーに変えながら、ソクは急降下する。
機体に膨大なGが掛かり、加速のあまり機体の表面が薄く凍りつく。

「ラストアクションはハデにやるんでしょ!だったら、これがわたしの『きりふだ』だよ!」

ソクの腹部が展開された。中からミサイルが一発、姿を現す。
たった一発のミサイル、これが超音ソクの『切り札』だった。
より正確には、この状況でミサイルを発射する事こそが。
即ち――『急降下による超加速の中でミサイルを発射する事』こそが。

ミサイルの尾が火を噴いた。直後に、ミサイルは発射される。
本来の速度に、ソクの加速が上乗せされた、超音速で。
音の壁を引き裂き轟音を奏でながら、ミサイルは扶桑へと迫る。

「――まだだよ!まだ『おくのて』がのこってるんだから!」

更にソクは叫んだ。追い討ちとしての、或いはミサイルが凌がれ切り札が破られた時の『奥の手』。
最高最速を以って再び、彼女はピックとレーザーの刺突を放った。突き抜けて、攻撃の成否を確認する暇は無い。
急降下したまま海に突っ込まないように、彼女は機首を上げ急上昇する。
そのままゴールを目指すが――遠い。
『切り札』で時間とエネルギーを無駄にした彼女には、ゴールが酷く遠い。
距離は徐々に縮まるが、一位が取れるかどうかは危うい所だ。

「っ……!とどけえええええええええええええ!!」

右手を目一杯伸ばして、ソクは声を張り上げた。

【末尾7なら追い抜く。それ以外なら敗北。敗北なら扶桑とカルカでまた別の判定で一位二位決定
 コレクライノ判定ノホーガイインダケド、許シテモラエルカナ?
 駄目ナラ避難所デ非難シテクレレバイーヨ】


107 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/04(土) 06:32:35 0
扶桑の対戦車拳銃による二撃は、ソクの機体を掠め、カルカの翼に直撃した。
そこへ件のワイヤーがその凶価を発揮し銃撃によって破損していたカルカの翼に致命的な斬断を引き起こす。
揚力を失い、墜ちていく。いつもいつだって扶桑の前を翔び続けた最武装の空戦少女が、その高度を下げていく。
そして、

>「ラストアクションはハデにやるんでしょ!だったら、これがわたしの『きりふだ』だよ!」

それを代償するように空から降ってきたのは、最高速の空戦少女。
超音ソク。強烈なドップラー効果を伴って迫り来る彼女の腹部から小型のミサイルが顔を出すのを、それでも扶桑ははっきり捉えた。

《来るぞ、扶桑!》

「合点!」

扶桑にとって『自分に接近する物体』かつそれが単数であるならば、極論ただの的でしかない。
彼女の武装は近接特化。拳銃から大剣まで、インレンジであればあらゆる状況に対応できる。
扶桑は再びドアノッカーを構え、ミサイルの正中線――信管の位置を弾が貫通するよう銃撃する。ミサイルは鼻先で炸裂した。

「これで扶桑の勝ちでありま――」

否。爆裂し消滅したミサイルの、その爆炎の向こう。
爆風と炎と煙とに紛れるようにして、一機の影がそれを突き抜けて扶桑の胸元へ飛び込んできた。

>「――まだだよ!まだ『おくのて』がのこってるんだから!」

錐刃の刺突具とレーザーを携えた、超音ソクの姿。扶桑がそれを認識した刹那には、最早如何もし難い位置にまで潜り込まれていた。
さしもの扶桑の動体視力とて、『見えないもの』を見る力はない。そこにはどうしようもない不可能命題があり、彼女はそれに戒められた。
絶望的な意識の凝縮現象を伴いながら、ソクの刃が扶桑を突き、貫き、抉り抜く。

「っぐ……!」

急所を護りきったのは僥倖と言う他ない。
咄嗟に、本当に反射の限界を突き詰めた扶桑の上体逸らしは胸のど真ん中をぶち抜かれることだけは回避し、しかし肩口を大きく抉られる。

《損傷率30パーセント――右肩からプライベートウィングの右半身までやられたッス!》

《扶桑!おい扶桑!意識はあるか!?》

「な、んとか…………――反撃をぉぉぉぉ!!」

108 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/04(土) 06:33:43 0
奥歯を噛み砕きそうなほどに食いしばり、激痛に飛びそうな意識を気力と気合で掴み取り、突き抜けていくソクへ拳銃を向ける。
連動照準は生きていたが、肝心の腕がイカれていてろくに構えることもできなかった。

《扶桑、もうやめろ》

「チーフ!ここで、撃たねば、いつ撃つっていうんでありますか……っ! 扶桑は、後悔したくないであります……!」

《扶桑》

通信機から聴こえてくるチーフの声色は、扶桑の必死に搾り出した意志に反して酷く努めて冷静に。
告げた。

《――武装解除空域だ》

「えっ」

《ゴールまで残り500Km……武装が使えるのはここまでだ》

「じゃ、じゃあ」

《おう。――悔いのねえよう立ち回れ》

「――了解!」

ここでアンカーを撃ってから初めて扶桑はスラスターに火を入れる。
温存していた甲斐はあった。もしもソクに撃ち抜かれた際ユニットにエーテルが供給されていれば、誘爆し損傷はこれじゃ済まなかったろう。
右ユニットの推進系は半壊したが左右のバランスをうまくすればまだ翔べる。

>「っ……!とどけえええええええええええええ!!」
>「一泡ふかせられなかったのは残念だが…このままブッチぎってやる」

――翼を失ったカルカが、それでもなお全てを捨て食らいついてきたように。
扶桑もまた推進系と己の魂に火をくべ、心に薪入れ、意志の炉にありったけの石炭をぶち込んだ。

「負けるかぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!」

一気に叩き込まれたエーテル圧に膨れ上がったアフターバーナーが呼応する。
コンソール・ゴーグルと連動したオペレーターの針の穴を通すような精緻極まるエーテルコントロールで扶桑は再び空を疾走する。

翼は得た。加速は負けない。
あとは、どれだけ風に乗れるか。
そして――どこまでいつまで諦めずにいられるか。

「誰もが勝者になれるなら!誰もが勝者になれるはず!――それこそが、最高にカッコ良いのでありますから!!」

駆け抜ける。


【ソクの一撃によって右の翼に深刻なダメージ。武装解除空域に達してありったけのエーテルをつぎ込みスピード勝負に乗る】
【ラストスパートです】

109 :実況:クリスタル ◆LzBU0n4Dxilp :2010/12/05(日) 21:03:04 O
武装許可空域を抜け、各々ラストスパートをかける!!!
トップを走るのは空戦公社所属扶桑選手、先ほどの攻撃でどこか損傷したのでしょうか?
些か挙動がおかしいがそれを構わずに全力で飛ばす!
それを二位の…あぁ〜っと!!!超音ソク選手体勢を立て直せずそのまま墜落ゥ!!!
ここで優勝候補の一人が脱落!!!
そしてぇ…必然的に二位にあがってきたのは、ミネルヴァ所属カルカ選手!!!
翼を失ってもまだ喰らい付くゥ〜!!!その姿は戦闘機というより、もはや人工知能を搭載したミサイルそのものだぁ
徐々に二機の差が詰まってくる!このまま扶桑が来るのか?それともカルカが意地を見せるか?
扶桑逃げる扶桑逃げる!それをカルカが追う!横一列にならんだ!!!
しかし、そこから差が開かない…まさにデットヒート!一進一退!一進一退!!!そのまま・・・ゴォォォル!!!

果たして順位は?現場実況している私にもどちらが先にゴールしたか判断できません?
さぁ写真判定の結果はどっちに転ぶ。
【秒数判定、1、3、5 カルカ勝利 それ以外の数字 扶桑勝利】

110 :カルカ ◆LzBU0n4Dxilp :2010/12/05(日) 23:09:47 O
重装型飛行ユニットのパワーは軽装型のそれを凌駕するほどの出力を誇る
しかし、その出力故に、頑丈な装甲で強化をしなければ、制御することは出来ない
仮にその装甲を脱ぎ捨て、ほぼ軽装型と変わらない装備で飛ぼうとしたならば…その空戦少女が無事すむことは…

ゴールが近づく度に、扶桑との距離が狭まる度に、1mmでも進む度に体中が悲鳴を上げ、軋む
限界が近い…カルカとオペレーターはそう悟った。
しかし、悟った2人の表情は対照的だった。
ただゴールだけを見つめ、全力で飛ぶカルカの表情は覚悟を決めふっきれているのに対し
オペレーターのそれは違った。
「ッ…!!!」
普段の鉄面皮とはうって変わり、唇を噛み締め何かに耐えるかのようにただ只管に画面を見つめていた
このままスポンサーの意向にカルカを従わせれば、仮に勝利できたとしてもどうなるかは目に見えている。
意向に歯向かいカルカにリアイアしろと命令することは可能ではあるが、彼は決してそれを選ぶことは出来ない
自分達は傭兵だ。傭兵である以上、雇い主を裏切ることは許されない。
それに加え、仮に一時の感情に流さたとしても、言うことを聞くわけが無い
何故なら、カルカは彼よりもそのことを理解しているからだ。
だからこそ、彼はこうしてここにいることしか出来ない。カルカの勝利を願いながら

ゴール間近、カルカは思考をする機能はすでに停止していた。
ただ全力で飛び、勝利する。それだけが今のカルカの目的しかない。

そして…終末を迎える。
ゴールを過ぎた瞬間、カルカの体は力つきたようにくの字に折れ曲がり、デタラメな軌道を描きながら
水面に叩きつけられた。

【カルカ、ゴール後墜落
 ソクさんのレスを読み間違えましたごめんなさい。
 墜落はしていませんでしたね。遠慮なく後手キャンしてください】

111 :超音ソク ◇kumtjTemMs:2010/12/09(木) 20:11:05 0
超音ソクは墜落した。
エネルギーが枯渇した為に、体勢が維持出来なかったのだ。
この時点で超音ソクは失格、順位外へと転落した。
扶桑、カルカに続いて三位が取れていれば賞金もあっただろうが、失格ではそれもない。
ずぶ濡れになって、ソクは西田の元に帰ってきた。

「……ごめん」

ソクの声は前時代の機械音声のように、抑揚を損ねていた。
表情では表しきれない失望にのしかかれて、彼女は肩を落とし項垂れている。

「そう気を落とすな。いい試合だった」

特に際立った感慨や感情の見えない返答を、西田は返した。
機械よりも尚、無表情な面持ちの西田に、ソクは微かに怯えていた。

「……それよりもだ、ソク」

不意に西田が何かを切り出さんと、口を開く。
ソクの機体がびくりと震えた。
根拠も論拠もない、けれども振り切れない不安が、人工知能の中で膨らんでいく。

「ご、ごめんねニシダ。つぎ……つぎこそがんばる、がんばってかつからさ。だから……」

不安を、西田の言葉を断ち切りたくて、ソクはおずおずと呟く。
だが西田の声は途切れない。彼の声は音速で、逃げられない現実を告げる。

「お前のその機体、売り払う事になった」

言葉を断ち切られたのは、ソクの方だった。
彼女は絶句する。絶望する。

「い……いやだ!いやだよ!ねえおねがい!つぎはぜったい、ぜったいかつから!」

「何だ?その機体に愛着でも湧いたか?」

「そうじゃない……そうじゃないけど……やだよぉ……」

深く項垂れた彼女の表情は見えない。
いやだ、いやだと、彼女は弱々しく頭を振りながら繰り返す。

「……?よく分からん奴だな。だがもう売約済みだ。大人しくしろ」

そして、西田は言葉を続ける。
感情を持つ空戦少女には予め搭載されている、
強制的にスリープモードへ移行するキーワードを。

『おやすみ超音ソク。また明日』

そして超音ソクの意識は、闇に沈んだ。

【楽シカッタゼ。コンナ事書イテルケド次モ参加シタインダゼ】

112 :名無しになりきれ:2010/12/09(木) 22:38:55 O


113 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/10(金) 00:05:52 0
ゴールラインを切ったのは、扶桑とカルカ、ほぼ同時。
勢い余って止まれない扶桑と、勢いを失って墜ちていくカルカ。
逆噴射で強引にブレーキかけながら扶桑が着陸ポイントに飛行靴のランディングギアを接地させた時には、カルカは海へと消えていた。

「――カルカさんっ!」

高速飛行の空冷効果が消え、空気摩擦と噴射で加熱したボディから陽炎を上げながら扶桑は振り返る。
視界一面に広がるのは、真っ青な空に一筋の飛行機雲……扶桑の足跡と、カルカが墜落した際に上がった水柱の残滓。
それと――

「「「「――!!――!!――――――ッ!!」」」」

ゴール地点の観客席から挙がる喝采。雄叫びにも似たそれは入賞への勝鬨か、純然たる興奮か。
『空戦少女』は興業だ。少女たちの熱く激しいバトルに湧き、予想した勝敗で配当を受け取る公営賭博でもある。

《西田家んとこのは墜落した。扶桑、お前とミネルヴァとで今写真判定が行われてる》

「! チーフ、カルカさんは一体どうなったのでありますか!?」

《お前とほぼ同時にゴールして……そのまま墜ちた。上がってくるかも怪しい》

「そんな……」

悲痛な声を漏らす扶桑に、通信機越しのチーフはかけるべき言葉を吟味していた。
レース向けでないチューニングで入賞まで喰らいついたのだから素直に褒め、喜ぶべきだろう。
実際、この痛快な空戦劇にオーディエンスはこの上なく盛り上がっている。オッズの低い扶桑に賭けた果報者が、そこかしこで感謝を叫んでいた。

《釈然としないって顔だな》

「い、いえいえ!そんなことは滅相もないでありますよ!? 扶桑がこんなところまで勝ち上がれたのは初めてですし!」

だからそれだけに、実感も湧かないのであります。扶桑はそう言葉を補った。
扶桑の空戦少女としての戦績はお世辞にも優秀とは言えない。近接傾倒のスペックは、銃戦主体の空戦においてはあまりに片手落ちだ。
だからと言って銃系の武装を付ければそれで良しという話でもない。チーフは浪漫主義ではあっても破滅主義ではなく、またワンマンでもない。
公社の頭脳を集結させて、扶桑の空戦の資質を鑑みた上で、最も良いキルレシオを出せるチューニングが現在の近接特化型なのである。

『一度だって、負けたくはないから。』
その理想は、その理念は、その信念は。負け続けの天賦なき空戦少女が底から這い上がろうとに己に課した至上命題なのだ。
――最高にカッコ良い自分で在る為に。

《扶桑》

「はい」

三者の健闘を称える割れんばかりの善哉が聴覚を占有する中で、通信機で繋がる二人に意思伝達の障害は一つとしてない。

《――お前正座な》

「あれえーっ!? 今そんなシーンでしたっけ!でしたっけ!マガジンなら紙面に巨大な"!?"が出現するレベルでありますよ!」

《チーフ……シリアスな場面に耐え切れなかったんスね……》

《扶桑、俺ァお前をそんなセンチメンタルで真顔になるキャラに育てた覚えはねえぞ。お前はキメ顔でいろ。――辛くてもな》

「なんか言ってるこの老人ーっ!!」

写真判定の結果が出る。
控え室へ移動した扶桑と、それを出迎えたチーフと浅葱に、係員がスコアシートと表彰の通達に来た。

114 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/10(金) 00:08:36 0
《さーみなさんお待ちかねの判定結果です!今大会では大番狂わせの大盤振る舞いでしたが!
 さてさて順位はどうなっておりますますでしょうか!高配当が確定している方ももう人押し!どうせなら一等を取りたいのは賭ける/られる側も一緒!》

空戦少女の配当方式は少し特殊で、これと決めた少女の配当券(空戦株と言う)を購入し、売上の多寡でオッズが変動する。
空戦が行われ、順位が確定すると、株主となった空戦少女の順位とオッズを乗算した配当が株主に支払われるというわけである。
写真判定にもつれ込んだ場合でも入賞が確定していれば高配当は確実であり、正確な順位を予想しなくて良いお手軽さがウケているのだ。

《空戦リーグ第一試合『キャノンボールレース』……その栄えある第一位は――『空戦公社』扶桑-501SWゥゥゥゥゥ!!》

会場が揺るがんばかりの歓声を空に放った。

「わ!わ!一位であります!一位でありますよチーフ!チーフ!浅葱さんっ!!凄いであります!初めてであります!!」

「おい正座解くな」

「ええーっ!!褒めてくれないのでありますかっ!?」

正座したまま唇を付き出して器用にブー垂れる扶桑を尻目に、チーフはそっぽを向いたまま何も言わなかった。
その肩が小刻みに震えていて、なんだかもうテンプレのようなツンデレの仕方をする男である。

「扶桑ちゃん、こういう時は……」

「あっ、そうでありますね浅葱さん。扶桑としたことがとんだ不躾を」

そっと制した浅葱に扶桑はうんうんと大仰に首を振って、

「えーえーわかりますとも。ともとも。あれでチーフ、もー顔面崩壊レベルに男泣きでありますねっ。ここは見てみぬフリで、
 それで扶桑はどうしてチーフが褒めてくれないのかとかちょっとナーバスになっちゃったりして!紆余曲折経て和解とゆーフラグであります!」

「説明しちゃったよこの娘!」

「ばっ、ばっきゃろう、泣いてなんかねえぞ!泣いてないんかないもんね!怒ってんだもん!俺怒ってんだもん!!」

「二人ともこれ以上株を下げる前に黙った方が……」

そうして、一位扶桑、二位カルカ――三位にトップ集団の中でもトップにいた見知らぬ空戦少女という順で東京会場の表彰台に彼女たちは登る。
表彰台の真ん中で、何故か正座で賞与を受ける戦歴鮮やかならぬ空戦少女の姿は、ほんの少しだけ世間を湧かせて、すぐに忘れられた。
押しかけた雑誌のインタビューに初首位の感想を問われ、その少女は満面のキメ顔でこう答えた。

全員、と前置きして。

「――最高にカッコ良いであります!」


                      【 空 戦 少 女 】
 
                 【第一話 『キャノンボールレース』  終】


次回予告!
初優勝の喜びもつかの間、スポンサーから要求されるハードルも上がり右へ左への空戦公社!
苦手な銃撃訓練に没頭し没入する扶桑の元へ、自衛隊に出向していた公社製の姉機が調整に訪れる!
武装放棄のこの国で唯一無二の対外制空力を持つガチ軍人の『空戦少女』と再会し、扶桑の瞳に宿る熱の正体とは!?

                  空戦少女 第二話 『ビッグターゲット』

刮目して見よ、彼女たちの最高にカッコ良いところを!!


【首位でゴールイン。みなさんお疲れさまでした】

115 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/12(日) 04:21:08 0
名前:ライカ(正式には雷火)
所属:国外のストラトス社と国内の霧金重工業の共同プロジェクト
性別型:女
容姿型:M
灰色の鎖骨位の長さの髪、
着脱可能な重く強力な装甲があるのでエンジンは
脚部にそれぞれ一つと背中に着いた大型の翼に二対ある
性格:命令に対してほぼ従順で冷酷無比だが
可愛いものが好きだったりする
兵装:重装型
武装:空対空 小型ミサイル×2(翼部)、グレネードランチャー、PDW×2(腕部)
格闘武装:複合レーザー型切断装置(翼の前方上下横一列にあり使用時は
翼の前でレーザーをクロスさせるなどして強力な切断力を持ちます)

【いけますか?】


116 :名無しになりきれ:2010/12/12(日) 20:56:18 0
【よろしくお願いします】

117 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/12(日) 23:59:53 0
【追加です】
通常速度は遅目です

118 :名無しになりきれ:2010/12/13(月) 18:06:35 0
お話始まるまでに軽く質雑。

>可愛いものが好きだったりするライカさんに質問。
もらうならどっち?

@クマのぬいぐるみ
Aウサギのぬいぐるみ
Bその他

119 :名無しになりきれ:2010/12/13(月) 18:09:24 0
扶桑ちゃんに質問。
扶桑ちゃんにとって今最も旬な少年漫画は? 

120 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/13(月) 18:18:48 0
>>118
質問ですか…
そうですね私は選ぶとしたら2番のウサギのぬいぐるみ、ですね
けど、ぬいぐるみよりも生きた動物である方がもっと好きです
撫でると温かく柔らかいですし、なにより反応を返してくれますから。


121 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/13(月) 21:36:27 0
>>119

最近は

・惑星のさみだれ(少年画報社)
・GS美神極楽大作戦!!(小学館)
・神様ドォルズ(小学館)
・D-Rive!!(小学館)
・でろでろ(講談社)
・最強伝説黒沢(小学館)


が、アツいでありますっ!!

122 :ライカさんに質問:2010/12/14(火) 02:14:29 0
>ぬいぐるみよりも生きた動物である方がもっと好きです

動物園とか行くとハァハァするタイプ?

123 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/14(火) 05:45:32 0
>>122
いえ、動物園は大・中型がいなければいきますね
そんなことは先ずないですけど…
それとさすがにハァハァはしませんよ?


124 :名無しになりきれ:2010/12/14(火) 17:11:46 0
大型中型は苦手なんだ?

125 :ハイディ ◆0IuUC6exTU :2010/12/14(火) 17:43:28 0
名前:ハイディ・マルセイユ
所属:バエンイル航空機製造
性別型:女
容姿型:L
性格:おっとりとした性格だがかなりの自信家
黒髪ロング、スタイルはそこそこ良く、170cmを超える長身。
女の割に背が高いことを少し気にしている。
兵装:軽装型「シュヴェート シュミットss267」
可変翼を採用しており、直線翼から後退翼まで場合によって使い分けるため機動力がとても高い。
しかし、航続距離は短く、主に迎撃用なため長距離の移動は出来ない。
武装:機関銃 チャフレア バズーカ砲(弾数少)
格闘武装:サーベル
備考:いつまでも時代の波に乗れない空戦おば…少女。
射撃の腕に絶対の自信があるため基本的に目視射撃で追尾性能付きの兵装は使わない。
反面接近戦はとても苦手、格闘武装を装備してはいるがいつもすぐ捨てる。
何故か追尾性能やレーダーを卑怯だと思っているきらいがあるためチャフレアという電波妨害と誘導ミサイルの囮になる防御兵器を搭載している。

よろしくお願いします

126 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/14(火) 20:16:44 0
>>125


【超歓迎ですよろしくお願いします!】

127 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/14(火) 23:49:42 0
>>124
いえ、苦手というより…
何でしょう…
大きくなればなるほど野生っぽくなる、だから嫌いというのに近いです
ただ、ライオンとかはまだ好きだったり、けど猿は嫌いというのもありますから
正確な区分はどうともつけかねます…


128 :名無しになりきれ:2010/12/15(水) 00:26:31 0
>>125
【いらっしゃい。避難所にも遊びにきてね】

129 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/16(木) 02:46:34 0
あれから三週間――
『キャノンボールレース』にて大番狂わせを演じた空戦公社の空戦少女・扶桑-501SWはほんの僅かな期間、お茶の間のヒロインとなった。
今や世界的な競技である空戦少女は、同時に少女自体のアイドル興業としての側面も持つ。
レース向けではない軽装型のチューニングで、かつ"あの"カルカと血沸き肉踊る熱戦を演じた扶桑はメディアに適した容姿であったことも幸いし
いくつかのワイドショーやバラエティや深夜特番に呼ばれ、その度に空気を読まずに熱弁を極め、やがてブラウン管から姿を消した。

プロデューサー曰く、物理的な意味で世界一扱いづらいアイドル。
本人はひと通り世間を騒がせたことに満足したのか、今は公社のドックに戻り再び拳を磨く毎日なのであった。


喧騒を遮断するイヤーカフは、音が消えただけで全てが静止してしまったかのような主観を演出する。
耳という器官に聴覚だけでなく、微弱な大気の揺らぎや電磁波――有り体に言う"気配"を感知する機能があり、それを塞いでしまうからだ。
最新のノイズキャンセリングと遮音性を持つ空戦公社のイヤーカフならば、銃撃した手に残る感触すら霞にかけてしまう。
そうなったとき、自分という存在が現実から半身乗り出してしまったような錯覚を覚え、手の中にある鉄塊から硬さが消え失せるのだ。

「ふー……。まずまずのスコアであります」

扶桑は弾倉を空にした拳銃を置くと、イヤーカフを外して知らぬ間に浮いていた汗を拭った。極度の集中で手のひらにも川が出来ている。
傍で双眼鏡を片手に扶桑の射撃訓練を監督していたチーフは、ボードの弾痕をさらさらとシートに記録して額に上げていた老眼鏡を戻した。
シートにはボードのどこに当たったかをチェックする欄があり、扶桑のスコアは『枠外』の部分にチェックマークが列を作っていた。

「かーっ、連携照準がねえとホントからっきしだな射撃の腕は!」
「そ、そうですか……?前回に比べるとかなーり進歩したのではないかと自賛しているところなのでありますが」
「どの辺がだよ」
「ボードに当たるようになりました!」
「志低いな!?むしろこの距離であんなでかいボードにさえ当てられなかったお前が心配だ」
「いーんでありますぅー!扶桑は近接一本でやっていくと決めました!今!」
「今ぁ!?」
「それで勝てることは証明されましたからね、ふふん!」

あーこいつ調子にのってやんの。とチーフは嘆息し、ゆっくり拳を作って扶桑の頭頂部に落とした。
ゲンコツされた扶桑は舌を出す。最近はわざと叱られるような言動をしているフシがこの空戦少女にはあった。
下手に増長するよりは、こうやってネタししているだけマシだとチーフは思う。実際、レースで勝てたのは奇跡も過言じゃない快挙なのだ。
そしてその快挙が、彼も含めた技術班をてんてこ舞いのきりきり舞いにしていることもまた事実で。

「んじゃー俺研究所に戻るわ。ちゃーんと訓練こなしとけよ?」
「ええー、もう帰っちゃうんでありますか?まだ3時間ぐらいしか滞在してないじゃないですか」
「あのなあ、お前ももうマンマじゃねえんだから自分でメニューぐらいこなせ。こうやって定期的に時間作るだけでも結構胃が痛えんだぞ」
「ううっ」

レースで勝って、本社から最初に送られてきたのは祝電ではなかった。
一度跳んだハードルは二度と飛ばないとばかりに本社が要求してきたのは快挙以上の快挙。
不利なレースで勝てたのだから通常の空戦なら負けなしで然るべき――更に言えば、扶桑のデータを元に更なる後継機を開発せよと。
扶桑にかかりっきりだった公社のメカニックたちは上の要求に応えるべく右へ左への大わらわで、扶桑は事実上の放任扱いとなっていた。

空戦少女の兵器としてのメリットに、自分で保守点検をある程度まで行えるという点がある。
体調が悪ければ自分の言葉で訴えられるし、武装の点検も簡単なものならその場でできる。完全自律の決戦兵器。
それがかつての戦争で空を支配した本物の『空戦少女』。
その野戦性能は今をもってなお傭兵や軍事会社のほとんどが空戦少女を採用していることで窺い知れる。
戦争から『人』の死が限りなく消えた今、戦場の主役は彼女達空戦少女だった。

「扶桑は戦争とか、そーゆう昔のことはわからないでありますけど……」

彼女にとって目下優先されるべきは一つ。

「うがー!さーびーしーいー!で、ありますっ」

誰もいなくなった射撃場で、イヤーカフも着けず扶桑は新たな銃から弾が出なくなるまで引き金を引いた。
ろくに的も見なかったのに、全弾吸い込まれるようにしてボードの中心を穿った。

130 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/16(木) 02:49:49 0
翌日。科練を終えチーフの部屋で今週のジャンプのアンケートハガキをしたためていた扶桑は、技術部の方から聞こえてくる喧騒に身を起こした。
寝そべっていたため首が痛い。コキコキと鳴らしながら室内履きで音を立てないように技術部の敷居を跨ぐと、そこに見覚えのある影を認めた。
男所帯の技術部の面々に取り囲まれるようにして背の高い女性が立っていた。定規でも背中に入れているような、歪みのない直立。
掃き溜めの鶴の如く、油汚れでそこかしこが黒ずんだ室内にあって女性の周りだけ、汚れすらも整列するある種の気迫を滲ませている。

「伊勢か。随分久し振りだなあ、何年ぶりだっけか?3年?5年?戦争が終わってからなのは確かだが……」

「4年ですチーフ。お変わりないようで安心しました」

「はっ!年金だけじゃこのご時世生活できんからな!しかたなく会社に残ってるんだからねっ!」

チーフが懐かしそうに話しかける女性は、同じく旧知の微笑みを返すが笑顔さえも杓子で測ったように整然としていた。
そういう笑い方に、扶桑は覚えがあった。数年前は同じ屋根の下で寝泊りし、同じ釜の飯を食べ、同じ空を舞った。
すなわち、――――彼女の姉機。空戦少女。

「――姉さん二尉!」

思わず呼ぶと、女性はやはり測ったような角度で首を回してこちらを認め、口角を均等に上げた。

「扶桑……扶桑か!久しいな!元気にしていたか?それと今の私は二尉ではないぞ。先月昇進した!これからは姉さん一尉と呼べ!」
「ついにトップに君臨したのですか!?」
「ははっ一位じゃないぞ。その頭の悪さも健在だな!はははういヤツめういヤツめ!」
「ぎゃー!クラッチやめてクラッチ!オチるオチる!」

じゃれつくつもりで駆け寄った途端に首を極められ、扶桑はオチた。
あまりにも流麗な動作で当たり前のように極めたので、扶桑がマジオチしているのに、極めた本人すらしばらく気付かなかった。


「空戦公社から自衛隊に出向してる伊勢-弐零八式だ。あっちでの階級は一等空尉、所属は自衛隊だからな、伊勢一尉とでも呼んでやれ」

伊勢を知らない新顔のメカニックの為に軽く紹介すると、チーフは再び開発班に戻った。
紹介された彼女は軍式の敬礼をピシっと決め、次いで深々と頭をメカニック達に下げた。

「紹介預かりました航空自衛隊・第零飛行隊の伊勢一尉です。本日は機体の修理・調整と慣らしをお願いしに参りました」

空戦少女は武力放棄し専守防衛のこの国において、唯一と言って良い『攻めの戦力』だ。
空戦少女はヒトではなく、ヒトでないものに人権はない。人権がないということは、国籍も存在しない。あくまで器物扱いだからだ。
故に、"国"として戦争武力を持てない日本は"モノ"である空戦少女に戦闘を代行させることにした。
公的にはあくまで"国籍不明の空戦少女"という扱い故に、扶桑放棄条約を回避して防空戦力を確保できるわけなのである。

「姉さん一尉たちの活躍で日本の空は守られてるわけでありますね!最高にカッコ良いであります!」
「はっは、褒めるない褒めるない。空自での空戦少女の扱いは士官級だからな。昇進も速いし、棒給も申し分ないぞ」
「マジでありますか!? ビルゲイツとどっちがお金持ちですか!?」
「ときどき扶桑ちゃんのお馬鹿加減が本気で不安になってくるッス……」

人数分のお茶を用意してきた浅葱が机に盆を置いた。
その声にはっとしたように伊勢は目を向いて、浅葱の姿を認めるとまたしても測ったように顎を落とした。

「き、貴様、浅葱二曹か!?何故ここにいる!」
「ども、お久しぶりッス伊勢一尉。いやあ、色々ありまして、今は公社のオペレータをいだだだだだ!!ギブギブ!」

まったく予備動作を感じさせない滑らかな動きで浅葱はヘッドロックされていた。
棒を通したような体型にしては豊かな胸部で抱きしめるように頭蓋を圧迫している。

「こんの根性なしが!ちょっとしごいただけで辞表だしよって、元気にしてたか!?」
「姉さん一尉、浅葱さんは今元気かそうじゃないかの瀬戸際にいると思うのでありますが……」
「そうか、なるほどそれは困る。――じゃあこのままパキっといったらとりあえず未確定要素はなくなるな」
「最悪の方向に転んだあ!?」

必死に伊勢の腕をタップする浅葱の儚い訴えは華麗にスルーされ、本日二度目の犠牲者がそこに居た。

131 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/16(木) 02:52:17 0
「というわけでそろそろ核心に迫りたいわけだが」
「そうでありますよ!ただ調整というだけなら自衛隊にも設備はあるはずであります!」
「こっちに来たのはなんか理由があってのことッスね?」

雑談に終止符を打って、伊勢はそう切り出した。
さっき落ちたばっかの扶桑と、頭蓋骨が変な形に変形した浅葱を除いた他の技術者たちは全員伊勢の機体の整備に回っている。

「このところ――十数年、大した小競り合いもなく日本の領空は平和そのものだったろう」

戦争が終わり、国際社会はとりあえずの平和を取り戻した。
終結直後は各地で余波のように小規模な戦闘が勃発していたが、国際法も整備され国連の監視下のもと戦争制限は上手く機能している。

「良いことじゃないですか」
「そう思うだろう。私もそう思っていた――だがな、ついに自衛隊の我が部隊も"アレ"の標的にされてしまったのだよ」
「アレって――まさか"アレ"でありますか!?」

扶桑が硬い唾を飲む。伊勢は湯のみを煽り、

「そう。――事業仕分けだ」

この十数年スクランブル発進すらなく、平和極むる日本において、いたずらに防衛費を重ね続けるのは無駄だと。
空戦少女という競技のお陰で世界中の航空戦力が暴力の発散場所を獲得してしまったが故か、世界の空は不気味なほど平和なのだ。

「私も空戦少女代表として議廷に立ったよ。そして言ってやったのさ――『ニ尉じゃダメなんですか!』とな」
「……まさか、そのギャグをやりたいが為に昇進したんスか?」
「そこへ同じ空戦公社製の空戦少女がキャノンボールレースで一位を獲っただろう。あれで完全にネタを潰されたな。
 逆に一尉たるもの後進に一位を獲らせたままにしておけないと……」
「ちょ、ちょっと待つであります!言葉遊びが複雑すぎて頭がついていけないでありますよ!?」

ともあれ。と伊勢は言葉を区切り、本題を完結させる。

「私は本家本元の"空戦"に出場し、好成績をおさめることで我が隊の有用性を証明せねばならないのさ」
「あわわわ……扶桑が優勝したせいでなんか雪だるま式に事態が波及してる気がするでありますぅ……」
「なに、いい加減平和ボケしていたことも確かだ。ナマの臨戦も長らく感じていなかったから、勘が鈍ってしまったよ。
 だからこれもいい機会だと思ってな。扶桑、お前も次の空戦には出るんだろう?私も参加しよう。もちろんライバルとしてな」

そう言って、伊勢は目を細めた。
次の試合はどこで何をやるんだ?と浅葱に問えば、彼が普段から持ち歩いているガイドブックが机に広げられた。

「次の試合は大阪ッス。種目名は――――」


                         【 空 戦 少 女   第二話『ビッグターゲット!』】

<ビッグターゲット>

概要
・参加する空戦少女は等人数で紅白の2チームに分かれる。
・両チームには一機ずつ巨大な飛行船(バルーン)が配備され、これが的であり僚機である。
・お互いのチームは相手のバルーンを撃墜する為に戦い、自軍のバルーンを撃墜されないように護る
・戦闘は大阪市全域の上空を使って行われる。ビルとかにはご都合主義バリアが張ってあるけど当てたらペナルティ
・バルーン本体にも迎撃能力はあるが、移動性能っが最悪なので如何に護るかが勝敗を分ける

勝利条件
・相手のバルーンを撃墜した方の勝利。
 バルーンには耐久度が設定されており、これを0にすると撃墜となる
・空戦少女は撃墜されてもペナルティを受けた後に戦線に復帰できる。あくまで勝利条件はバルーンの撃墜

【大阪城にほど近いあたりがエントリー会場です。現地入りして食い倒れてよし、さっさとエントリー済ませてよし】
【質問等々ございましたら避難所にてご説明いたします】

132 :名無しになりきれ:2010/12/18(土) 00:31:26 0
http://raki.st/FF75wk/img1

空戦ロゴ

133 :超音ソク ◇kumtjTemMs:2010/12/19(日) 17:52:02 0
超音ソクは機体を失った。
空を飛ぶ為の翼を剥ぎ取られた彼女はAIのみとなり、今はパソコンに組み込まれている。

『次の機体が手に入るまで、これでもやっていろ。退屈はしないだろう』

そう言って西田はパソコンに、幾つかのソフトをインストールしていった。
『キャノンボール』『ビッグターゲット』『チェイスゴールド』『ケージインバード』。
どれも空戦のシミュレーションデータだ。

「たいくつ……するにきまってんじゃん」

縦横無尽に張り巡らされた緑の線で描かれた空を飛びながら、ソクはぼやく。
データ上の数値でのみ表現される風が頬を打つ。
ふと、前方から赤い点が接近してきた。仔細な姿が判断出来ないほどに、まだ大分遠い。
だが距離が縮むのは、ほんの一瞬の出来事だ。ものの数秒で赤い点は膨らみ、輪郭を得る。
周囲の緑から浮き彫りになる赤い線で編み上げられた、空戦少女の敵機データだ。
ランダムで決定される敵機データの武装は、やはり赤い線が描く巨大な刀剣だった。

急接近。だが攻撃は出来ない。
戦闘開始はすれ違ってからと設定されている。
そして邂逅、交錯。――戦闘開始だ。

ソクは機体を反転させながら機首を上げた。
宙返りを中断する形で進行方向が真逆になる。
敵機の背後上方を取るつもりだ。
だがソクの前方に敵機の姿は無かった。
上だ。高度を上げたソクの更に上。
敵機は速度を大幅に高度に変えて、ソクの遙か上空にいた。
読まれていたのだ。このままでは追い抜いてしまう。
けれども今更姿勢は変更出来ない。直進せざるを得ない。
敵機が失速と共に横滑りする事で下降した。背後を取られてしまった。

ソクは肩越しに背後を振り返る。
敵機はサブウェポンの機関銃を取り出していた。良くない展開だ。
機体を不規則に揺らしながら避け続ける手はあるが、運が絡む。ジリ貧だ。
ならばと、ソクは再び上昇する。旋回しながら高度を上げていく。
敵機が追随した。機銃を命中させるには高速飛行し続けているソクの未来位置に標準を合わせる必要がある。
故に敵機の旋回はソクの軌道よりも内側に食い込む形だった。

敵機が引き金に指を掛ける。
しかし次の瞬間、敵機の視野からソクの機体が消失した。
ソクの位置は敵機の後ろ上方。彼女は旋回をやめていた。
単純な上昇になった為、軌道に無駄がない分だけ高度は上に。
そして敵機は旋回をしている為に彼女を追い抜く事になる。

背後を取られた敵機が急降下して逃走した。
だが逃げ切れない。高度は位置エネルギーだ。つまり運動エネルギーに変換出来る。
より高所を取っていたソクが敵機を逃す訳がない。
下降から再度上昇する事で振り切ろうとした敵機を視界から外す事なく、ソクは腕を伸ばした。
設定された武装、腕部内蔵レーザーの軌道を示す青い線が複数、敵機を貫通した。
直後、敵機は赤い粒子となって消滅する。
シミュレーション終了だ。

「……つまんない」

けれども敵機を撃墜したにも関わらず、ソクはそう呟いた。
当然だ。
風はデータ上の数値でしかなく、空も海も地も緑色の線が描くテクスチャで、
どれだけ飛んでも景色は変わらず、やってくる敵機は顔も言葉も持ち合わせていない。

134 :超音ソク ◇kumtjTemMs:2010/12/19(日) 17:55:27 0
「それに……もうどれだけれんしゅうしたって、にどとそらなんかとべないんだから」

西田は残酷だ、とソクは思考した。きっとこれは罰なのだろう、とも。
冷たい牢獄にも似たパソコンの中で、空へ永遠に恋焦がれていろと。
偽物の空を飛び続ける事は、彼女にとって苦痛でしか無かった。
ならばやめてしまえばいい物だが、それも出来ない。
カメラも集音器も機能していないパソコンの中でシミュレートをやめてしまったら、残るのは完全な暗闇だけだ。
その中でただ一人孤独に過ごすのは、とても恐ろしい事だった。

そうして、超音ソクはもう何度目かすら思い出せないシミュレーションを開始した。



「……何だこのハイスコアは。随分と頑張ったみたいだが」

――声が聞こえた。
何の前触れもなく、声が無味乾燥とした電子の世界に響いた。
約三週間、時間にして504時間ぶりの、懐かしい声だ。

気が付けば、パソコンに接続されたマイクがオンになっていた。
スピーカーも電源が入っている。
カメラは切られたままで姿は見えないが、ソクの声は外に届く。

『ニシダ……だよね?なに……しにきたの?』

おずおずと、ソクは尋ねた。
西田の表情は見えない。声だけが返って来る。

「……?何を言ってるんだお前は。三週間前、ちゃんと言っただろうが」

西田の言葉を受けて、ソクは三週間前の記憶データを呼び出した。
一体何があっただろうかと、映像と音声のデータをチェックしていく。
しかし彼女が解答を導き出すよりも早く、西田は続きを紡いだ。

「次の機体が手に入るまで、そうしていろと」

『……え?』

呆けた――とは言ってもいつも通りの単調な、けれども間抜けな間を孕んだ声をソクが零す。
ソクには見えない西田の双眸が、訝しげに細められた。

「どうしたんだ?まさか本当に前の機体が良かったとか言うなよ?」

もう新しいのを買ってしまったのだからなと西田は続ける。
ソクは狼狽して何も言えずない。
ただ「え」や「あ」などと、意味のない戸惑いの音をスピーカーから吐き出し続けている。
いよいよ、西田は要領を得ないと言わんばかりに嘆息を零した。

「まぁいい。さっさと移し換えるぞ」

『え、あ……ちょっとま――』

ソクの返事を待たずして、声は暗闇に霧散する。
それから数秒、ソクは未だ戸惑いを振り切れないでいた。
だが不意に、彼女に『感覚』が訪れた。
全身を空気が撫でるくすぐったさが、胸の奥で確固とした自己主張をする鼓動が、
頭の天辺から指先、爪先まで、全身を駆け巡る暖かさが。

135 :超音ソク ◇kumtjTemMs:2010/12/19(日) 17:56:12 0
「全感覚システム、同期完了だ。……目を開けてみろ、ソク」

微かな戸惑いを振り切って、ソクは言われた通りにする。
光が訪れた。もう二度と見られないと思っていた世界に帰ってきたと、実感する。
見えているのは、艶やかな白い床。
それと、ジャージに靴下を履いた足があった。
顔を上げる。いつも通りの無表情、仏頂面の西田がいた。

「……えっと、なんで?」

初めに零れ落ちたのは、疑問だった。

「……お前はさっきから何を……」

「だってわたし、まけたんだよ?それも、いうこときかず……わがままいって」

ソクはおずおずと言い辛そうに途切れ途切れの声を紡ぎ、
伏せた目を忙しなくあちこちに逸らしている。
生体機体を得たソクの声色と表情は、今までになく感情に満ちていた。
困惑と、怯えの感情に。

「だからわたし……ニシダがおこったんだって。もうにどと、
 そらをとばせてもらえないんだっておもって。それで、それで……」

途切れ途切れに、ソクは震えた声を零す。
スカートの裾を両手で強く握り締め、肩を震わせて、顔を俯かせて。
顔をくしゃくしゃにして、彼女は泣いていた。

「……悪かったな。言葉が足りなかった」

小さく、西田は呟いた。

「ほんとだよぉ……。こわかった、こわかったんだから……ばかぁ……」

泣きじゃくり、ソクは西田に歩み寄ってジャージにしがみつく。
嗚咽を漏らして体を揺らしながら、彼女はただ泣きじゃくる。
西田の手が、泣いているソクの頭に添えられた。
普段の彼からは想像も出来ない労りに、ソクの不安と怯えが融解していく。

136 :超音ソク ◇kumtjTemMs:2010/12/19(日) 17:56:54 0
「……落ち着いたか?」

無言のまま、ジャージに顔を埋めたまま、ソクは頷きを返す。

「俺はな、あの時のお前に怒りを抱いたりはしなかった。むしろ逆だ」

続く西田の言葉に、ソクが顔を上げる。
涙や鼻水でべとべとになった顔で、西田を見上げていた。

「あの時、勝負にも試合にも勝ちたいと俺の言う事を聞かなかったお前を見て、
 俺はお前が『勝てる』奴だと思ったんだ。……あの場では負けてしまったが、そうじゃない」

不思議そうな表情を浮かべるソクに向けて、西田は続ける。

「お前は、単なる機械じゃない。意思があり、意志があり、意地のある空戦少女だ。
 その事をお前は自覚して、固執している。だからこそお前の勝ちたいと言う願いには、
 負けん気には、力がある。ただの機械には発揮出来ない力だ」

だから、と彼は言葉を繋ぐ。

「俺はお前が勝利を掴み取れると確信してる。誰が手放してなどやるものか。
 ましてや翼を奪い籠に閉じ込めるなど、する訳がないだろう」

ソクの表情が示す感情は、不思議から呆然に変わっていた。
その顔を見て、西田は微かに目を細める。

「……ともあれ、だ。今のお前は途轍もなくひどい顔をしてるぞ?
 折角買ってやった機体なんだ。もっと綺麗に使え」

「……うん、そうだね」

呟いて、ソクはもう一度西田のジャージに顔をうずめた。
ぐりぐりと押し付けて、顔に塗れた液体を拭う。
そして「えへへ」と、小さく笑った。

「お前な……いや、まぁいい」

苦言を零そうとして、しかし西田は中断する。
そんな事よりも一つ、気付いた事があった。

「……お前、表情豊かな奴だったんだな」

彼を見上げるソクは、満面の笑顔を浮かべていた。

137 :超音ソク ◇kumtjTemMs:2010/12/19(日) 17:57:42 0
【→大阪】

「――おーいしい!やばいよニシダ!これおいしいよ!これなんていうの!?」

「……それはタコ焼きだ」

「じゃあこれはこれは!?」

「それはお好み焼きだ。……おい、いい加減食うのをやめろ。ここに来たのは
 空戦の試合が目的で、食い倒れじゃないんだぞ。というか何より金がない」

「むー、ケチ。……あれ?そういえばさ、このきたいはどうやってかったの?
 あのしあいは……しっかくになっちゃったし、そんなおかねどこから……まさか!?」

「何がまさかだアホめ。あの前の機体、相当な旧式だったろう。
 俺は安かったからアレを買った訳だが、どうやら一回りして骨董品的な価値があったようでな。
 あの日会場で話しかけられた戦争マニアに売り払ったんだ」

「なーんだ。……でもどーせならさ。かみがたとかふくも、あたらしくしてくれればよかったのに」

「そんな金は武装の新調に全て費やした。速度を維持する為の
 軽さと性能を両立させた物となると、やはり値が張る。それに……」

「それに?」

「俺はわりとその格好が気に入ってる」

「……えっ、ちょ、それって」

「……前よりも分かりやすくなって何よりだ」

「……うー、ばかー!」


【そんな訳で現地入り】

138 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/20(月) 01:07:40 0
離陸してから数分後、
私は高く広く……そして、途方もないほど孤独な場所
つまり、空にいた。

現在、私は最終飛行訓練を行っているため
武装は全て地上に置いている

(まぁ、そうでなくとも下は武装許可地域でないので
 不可能なのですが…)

そう私は考えていると通信が入った

『ライカ、訓練終了だ戻っていいぞ』

主任の長瀬からの通信だった

「了解。高度を下げます」

私はフラップを上げた

【着陸後】
地上の訓練所に降りると長瀬が待っていた

「ご苦労さん、コーヒー飲むか?」

「はい、出来れば角砂糖を5個いえ、10個ほど」

「…多っ!」

「気にせず入れて下さい、さもなくば蹴ります。」

「…了解」

やがて、長瀬は戻ってくると空戦少女の大会の
会場が大阪なので行くよう言った

「長瀬は行かないのですか?」

「うん?いや行くよ主任だし、けど…」

「けど?」

「何事も経験しとくべきだからな、まぁ言うなれば『初めてのお使い』みたいなもんだ」

「…なめるているのですか?」
少し切れかけた

「まぁ、やってみろって」

「…はぁ、了解」

139 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/20(月) 01:29:35 0
【大阪にて】

現在の私を表現すると釘付けになっていた

(くうっ、クリオネがこんなにカワイかったなんて!)

大阪につくと私は食べ歩く気にもなれず
電車の広告にあった水族館に行って軽く
暇潰しをしようとおもっていた。そう、軽く
だが来てみるとこうなってしまった

(クリオネが可愛すぎるのがわるいのです!)

そう思いながら
ふと、時計を確認するとエントリー開始時刻が迫っていた

(あっ、ここからあそこは結構遠かったし、そろそろ行かなければ)

クリオネを名残惜しそうに見ながら私は水族館を後にして
エントリー会場に向かった

【現地入り】

140 :ハイディ ◆0IuUC6exTU :2010/12/20(月) 01:33:18 0
どこまでも青で塗りつぶしたような限りない空、その青には赤い風船が敷き詰めるように浮かんでいる、そして空を引き裂くように一筋の黒が駆け巡る。
それは右へ左へ、まるで地に足が付いているかのように縦横無尽に飛んでいる。
両手に鈍色のライフルを光らせ、空中に浮かんでいる風船を次々に撃ち、割っていく。
始めは数十個空に敷き詰めるように浮いていた風船はものの数分で全て割られてしまった。
先ほどまで高速で空を飛んでいた物は地上に向かって次第に減速し、その輪郭を露わにしていく。
女性らしい凹凸のある身体、そして背中には一対の翼。
その身体目がけて白いタオルが投げつけられる。

「お疲れ、ハイディ、相変わらず凄いね」
「ありがとう、ヨーゼフ支部長。でも殆ど静止している風船を撃つだけだもの、外す方がおかしいわ」

そう言うとハイディと呼ばれた女性はタオルを受け取り、汗ばんだ身体を拭う。
ヨーゼフと呼ばれた男は呆れるように首を振った。

「みんながみんなこんな芸当が出来たら堪らないよ、うちでだって君くらいだ」
「それより、そろそろ訓練設備どうにかならない?
こんな訓練じゃあ腕が鈍るだけだわ、本社に言ってくれないの?」
「そんな事言われても、実際日本に来てからの君の業績はあまり芳しくないし、仕方無いっちゃあ仕方無いよ」

ここはバエンイル航空機製造日本支部。
バエンイル航空機製造はドイツに本社を構える歴史ある航空機製造会社で歴史的に名機とされる戦闘機を数多く作ってきた。
だが、技術が進歩して行くにつれ空戦少女が戦闘機の代わりとして使われ始めたため、バエンイル航空機製造もその波に乗るべく戦闘機から空戦少女に製造をシフトした。
主に製造しているのは軍事用で、そっち方面では比較的評価の高い空戦少女を数多く製造してきた。
更に時は流れ、戦争など全く起こらず、あるのは小さな地域紛争、そんな時代になるとバエンイル航空機製造の作る空戦少女は必要とされなくなっていた。
そんな中、生き残るために何をしたかというとスポーツ興業への参入である。
しかし、今まで軍事用の空戦少女しか作ってこなかったバエンイル航空機製造はまだまだスポンサーが少ないので、それを増やす一環として主要国へと支部を作った、それがここ日本支部。
支部長のヨーゼフは見かけこそ冴えない中年のおじさんだが、支部長だけでなくハイディのオペレーターも務める優秀な人材だ。

そしてその広告塔たる彼女は、本社の中でも有数の実力を誇る空戦少女である。
――ハイディ・マルセイユ、数年前にアフリカ大陸で行われた数ヶ月かけて行われる空戦少女の世界的な戦争形式の大会、『A.W.U』で敗戦となったものの、
実弾兵装のみで撃墜数158機という驚異的なスコアをたたき出したことから『アフリカの星』という二つ名がついたほどの凄腕である。
しかし日本に来てからというもの出場したレース形式の競技ではことごとく惨敗、入賞どころかビリから数えた方が早いという有様だったせいか、大したことないという不名誉な評価を受けてしまった。
実戦ばかりこなしてきたハイディはレースの何たるかが全く分かっていなく、中々思うような成績を残すことが出来ないでいた。

「そろそろ本社からお呼ばれされるころかしら」
「いっその事、そうなったほうがいいかもね、君も色々とやりにくそうだし」
「貴方に言われると洒落にならない、クビって事でしょう?」
「ははは、そんな事あるわけないよ、君にはまだまだ稼がせて貰っているし」
「それだと稼ぐだけ稼いだら捨てるみたいな言い方、実際そんなものなのは私も分かってはいるけど、寂しいわ」

ハイディは話を切り上げると、背中の飛行ユニットを外し、ヨーゼフの前から立ち去ろうと歩き出す。
その背中を追いかけるようにヨーゼフが慌てて声を張り上げる。

「ちょっと待って、実は良い知らせがあるんだけど、聞きたい?」
「あら、もしかしてもうクビなの?」
「また心にも思ってない事言って、まぁいいや。これだよ」

ハイディの足下に小さな紙飛行機が飛んでくる、拾い上げて広げるとそこには大きく『ビッグターゲット!』という文字が躍っていた。
しばらくの間、目を通すと顔を上げ、また紙飛行機を折り直し、飛ばし返す。

「私はさっそく現地入りして、美味しい物食べているから、エントリーよろしくね」

141 :ハイディ ◆0IuUC6exTU :2010/12/20(月) 01:38:04 0
「ここが大阪…」

今や全てがハイテク化して、街と言えばビルばかりの現代からすると、まだ少し過去の面影を残している街、大阪。
会場である大阪城に近いエリアでは城より高い建物を造ると風情が無いからか、比較的低い食事処などが多くなっている。
初めて来ましたと言わんばかりに視線を動かし、バエンイル航空機製造製の証である黒の鉤十字のエンブレムを胸に輝かせ堂々と歩いていくハイディ。

「ビルを気にしなくて良いって点では動きやすそうね、それに良い臭い。
ヨーゼフ支部長には悪いけど少し食べようかしら」

ヨーゼフはエントリーなど色々な仕事の都合上ハイディより少し遅れて現地入りするため
、一人で周りを見渡すと、小さな旗にたこ焼きやらお好み焼きなどハイディにとって聞き慣れない単語が踊っている。
その近くには保護者(所謂オペレーター)同伴の少女、恐らく空戦少女であろう、が笑顔でたこ焼きを食べている。
ヨーゼフが近くにいないためどこの何という空戦少女かは分からないが、今大阪にいるという事は間違いなくビッグターゲットの参加者であろう。
ハイディはその様子を見て、軽く目尻を下げる。
そして近くの店で串カツなるものを購入し、その一つを口に運ぶ。

「美味しい、日本にこういう食べ物があるとは聞いていたけどやっぱり食べるに限るわ」

ハイディはたこ焼きを食べている少女の近くにより、近くにいた保護者に軽く会釈すると腰を落とし、笑顔で串カツを差し出す。
敵になるか味方になるかは分からないが試合とプライベートを別けて考えるハイディにとってそんな事はどうでも良かった。

「こんにちは、良い香りね、私の串カツと取り替えっこしない?」

【エントリー+現地入り ソクに串カツを差し出す】

142 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/22(水) 01:51:00 0
【大阪市・御堂筋】

「ビッグターゲットは多対多の空戦ッス。2チームに別れ、互いの陣地に攻め入り、王将を獲る。
 空中でやるリアルタイム将棋のようなものをイメージすると分かりやすいッスね」

新幹線にて現地入りした空戦公社の面々は、エントリーまで時間があるのを良いことに物見遊山と洒落こんでいた。
チーフは長旅の疲れを訴えホテルに残り、どうしても日本橋に行きたいとゴネた扶桑と、伊勢、浅葱の三人パーティーである。
例によって伊勢から試合の概説を求められた浅葱は大阪市全域のマップをググり、持ってきたアイパッドに表示した。

「大阪市は大きく分けて二つの繁華街、それから堀川に沿った街並みで構成されてるッス。
 この町の中核を担う繁華街、街を南北に二分する道頓堀で分けられた、俗にいう"キタ"、"ミナミ"と呼ばれるエリアッスね」

『ビッグターゲット』は大阪市を丸々使い、キタとミナミの陣地に別れてバルーンを撃墜する試合である。
紅白分けの配色はキタが白、ミナミが赤。両陣の中間地点には天下を割拠するように大阪城が聳え、これも重要な戦略物となる。
この大阪城を先に制圧すれば敵陣出征への起点ができ、逆に相手に獲られれば前線ラインの後退を強いられることになる。

「そうなるとスタート地点は街中ということになるのか?垂直離着陸のできる兵装に限定されそうだが」
「ええー、滑走路ないんでありますか?」
「いや、一応ビルの屋上とかに空戦少女用のスターターブリッジがあるみたいッスよ。……ただまあ、垂直離着陸が有利になるのは確かッス」

極めて短いスペースで離陸のできるヘリローター系の兵装やジェットユニットならば、街中に林立するビルの屋上を起点にできる。
そこかしこに補給・支援地点が存在すると考えれば、長丁場の予想されるこの試合でのメリットは計り知れないだろう。
扶桑がまんだらけで新刊を大人買いしている間に、伊勢は地上から見上げた街並みを生体AIに記録していた。

「下からのデータなんか撮ってどうするんスか?」
「私の兵装は待ち伏せや伏兵が天敵だからな。隠れられそうな場所はあらかた調べておくのさ」
「……何日かかるんすか、それ」
「なに。現地入りする前に大体のデータは既に上がってきている。私の部下は優秀だからな。
 こうして己の目で見るのは、最終確認と観光放蕩の両立を兼ねてもいるのさ。備えあれば憂いはないが、本当の強者は憂いを"知らない"」

伊勢の持論である。
完全完璧な自己管理とそのスケジュールを完遂する能力さえあれば、上手く立ちいかなくなったときのことを知らずに生きていける。
起こり得ないことは、思考から除外して良い。除外できる項目が増えれば増えるほど、それは幸福の指数になる。

「浅葱二曹。私は貴様のそののらりくらりとした生き方は気に食わないが、それで生きていけること自体は評価しているんだ。
 見たくないものから全力で目を背けて、後ろ向きに進もうとも、それで何にも躓かなければそれは一つの完成形だ」

大したムーンウォークだ、と伊勢は苦笑した。自分で自分の例えに苦笑した。
この定規で測ったように自己完結する上官と、空戦公社に来るまでの二年間を浅葱は過ごした。
その頃はまだ三尉であった伊勢と同じ空を飛び、そこで航空戦闘の技術を仕込まれた。実年齢は浅葱の方が遥かに上だが、伊勢は彼の師だった。
未だに空自のことを"軍"と呼んでしまうのも、浅葱が国籍なきパイロットであった頃の習慣が抜けきっていないが故だ。

「軍は辞めちまいましたけどね。守るべき空を捨てて、それでのうのうと市井に身を窶してるんスから」
「それで転職先が空戦公社か」
「未練があるんスかねー。どっかで、まだ空と繋がってたいって。時々わからなくなるんスよ」

遠くで、キャリーバッグ一杯にコミックスを詰め込んだ扶桑が手を振っていた。
飛び跳ねながらの大振りで、体全体を使った感情表現。眩しそうに目を細める浅葱の顔を眺めて、伊勢は正確に呼吸一回分の息を吐いた。

「なんだ、そんなこと。理屈一辺倒でだって貴様の問いに応えることはできるぞ。
 地上と空とは地続きじゃないが、人は空にいつだって触れているのだからな。飛ぶだけが空じゃないってことさ」

143 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/22(水) 01:52:44 0
【エントリー会場】

会場にて扶桑たちを出迎えたのは、巨大なクジ引きの箱だった。
中では風圧で吹雪のように無数のクジが舞い、箱に腕を入れてクジを捕まえる方式である。

「おおー……これは一体、なんの為の設備なんでありますかねーっ!」
「チーム分けの抽選じゃねえか?紅白チームのうちどっちに振り分けられるかをこれで決めるんだとよ」

復帰したチーフと共に並んでエントリー手続きを行い、クジ箱に誘導される。
扶桑は大はしゃぎで散々中身を引っ掻き回したのち、袖の中に入り込んでいた一枚を抜き出した。
運営委員がそれを検め、中に書いてあるチーム分けの結果をエントリーデータに打ち込んだ。

「扶桑は赤チームですね!ミナミからの出撃でありますかっ!」

遅めに会場入りした扶桑は、もう既に結構な人数の並んだ輸送機へと駆けていく。
赤チーム用の輸送機に並ぶ列から、あからさまに扶桑を指したざわつきが聞こえる。
少し離れてドヤ顔でチーフを振り返り、また少し進んで振り返った。

「あーわかったわかった!お前は有名人になったなあ!一目置かれてるぞお!」
「さ、サインとか求められたらどうしましょう……」
「字が書けないんですとか言っとけ!」
「書けますよ!!ちゃんとサインの練習したんでありますから!」
「練習したのかよ……」

ちゃんと憂いに備えてるじゃねえか、とチーフは零すように突っ込み、軽く手をひらひらと振って輸送機に乗り込む姿を見送った。
白と赤、両色に塗り分けられた輸送ヘリが、大阪市を貫く二つの線となって空を行く。
今回は戦闘空域が大阪市内に限定されている為オペレーターは会場内で指示を出すことになる。
メカニックはスタート地点で控えており、着陸した空戦少女のピットを迅速に行えるように配備されていた。
空戦公社からは伊勢のピットインにも対応する為チーフと浅葱以外のメカニックマン達が総出でことに当たっている。

1チーム30機ほどになった空戦少女達はスタートグリッドに並列し、その後ろには彼女たちの護衛する"バルーン"が浮いている。
小型の飛行船であるこのバルーンは、自走性能と迎撃機能を帯びてはいるものの貧弱なので、何人かの空戦少女達で牽引することになる。


【赤チーム・スタートグリッド】

「まず斥候隊で大阪城を目指そう。戦闘になるようなら増援で進撃、避けられるならそのまま大阪城を獲る!」

赤チームの出撃地点では、統率を図る為にリーダーの選出とその音頭によるブリーフィングが展開されていた。
指揮官に選ばれた戦歴豊かな重装型の空戦少女は、市街地のマップを広げその上にコマを置いて戦略を議論していた。

「はいはいはい!斥候部隊やりたいでありますっ!」

もの凄い勢いで立候補した扶桑に指揮官は暫し面食らったが、それが"例の空戦公社"だと解ると大きくため息をついた。
扶桑はお茶の間のスターとなったが、必ずしも戦い方そのものが評価されたわけではない。
無鉄砲で、考えなしで、猪突猛進を地で行く扶桑の戦闘スタイルは、団体戦で役に立つ類のものではない。

「あのなー、斥候って意味わかってるか?こっそり行ってこっそり偵察して報告する任務なんだからな?」
「じゃあ特攻部隊がやりたいでありますっ!」
「思いつきだけで喋るなよっ!?」

ホントに特攻しかねん、と指揮官は額を抑え、ブリーフィングに集まった連中を見回した。

「各自好きなポジションに付いてくれて構わんけど、あくまで全体の利益に貢献する選択をしてくれよー。
 それじゃ希望を採ります。斥候、前衛、後衛、支援、遊撃。このあたりで自分のスキルを生かせる役割を選んでくれ」


【エントリー終了し出撃直前のブリーフィングタイム。白チームもNPC指揮官を選出するかどっちかが担ってくれると嬉しいなっ】
【ライカさん含む赤チームの僚機たちに希望ポジションを訊く。斥候、前衛、後衛、支援、遊撃から選んでください】

144 :扶桑-501SW ◆jnVE8IlPwA :2010/12/22(水) 02:07:51 0
<ビッグターゲット・完全版>

概要
・参加する空戦少女は等人数で紅白の2チームに分かれる。
・両チームには一機ずつ巨大な飛行船(バルーン)が配備され、これが的であり王将である。
・お互いのチームは相手のバルーンを撃墜する為に戦い、自軍のバルーンを撃墜されないように護る
・戦闘は大阪市全域の上空を使って行われる。ビルとかにはご都合主義バリアが張ってあるけど当てたらペナルティ
・バルーン本体にも迎撃能力はあるが、移動性能が最悪なので如何に護るかが勝敗を分ける
・バルーンの耐久値は20。攻撃の成否は投下時刻の秒数を2で割って小数点以下切り捨てダメージ。
・試合は前半後半で別れており、6ターン・6ターンの構成。前半終了後にインターバル挟んで後半戦。

勝利条件
・相手のバルーンを撃墜した方の勝利。
 バルーンには耐久度が設定されており、これを0にすると撃墜となる
・空戦少女は撃墜されてもペナルティを受けた後に戦線に復帰できる。あくまで勝利条件はバルーンの撃墜
・勝った方のチームに一律で基本得点、それから着弾ボーナス(対バルーン)、撃墜ボーナス(対空戦少女)が各空戦少女ごとに加算

【エントリーデータ】

名前:扶桑-501SW

所属:統合航空戦闘公社(通称『空戦公社』)
性別型:女
容姿型:M
性格:突撃系熱血娘

公式記録:撃墜18 被撃墜27
       キャノンボールレース優勝

兵装:超軽装型アサルトチューン
武装:空対空バズーカ・換装式ワイヤーアンカー・対戦車拳銃『ドアノッカー』(いずれも実弾系)
格闘武装:超振動ツヴァイハンダー『突撃剣』(超振動で鋼鉄も紙のように切れる大剣。本人の剣技が未熟故にほぼお飾り)



名前:伊勢-弐零八式

所属:航空自衛隊・第零飛行隊(一等空尉)
性別型:女
容姿型:L
性格:軍人系尊大娘

公式記録:撃墜53 被撃墜29

兵装:低速高馬力重装型ユニット『日向』
武装:超長距離狙撃用リニアレールガン・高精度ミサイルポッド・浮動式サブマシンガン×2
格闘武装:狙撃銃にバイアネット(銃剣)を着用

基本戦術:低速で飛行しながら超精密長距離狙撃。
       
外見仕様:空自の尉官服にジェットユニットを装備。ロングの黒髪を後ろでアップに纏めてある。
       衣服・髪型・顔面に到るまで全てを定規で測ったようにきっちり整えてあり、それを反映するような左右対称で切れ長の双眸。
       

145 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/22(水) 05:54:02 0
【エントリー会場】
(なんとか間にあった…)
周りを見渡すと結構な数の空戦少女の方がいた。なかには、カメラを構えて撮影をしている人もいた。
(オタクの人かな…)
そう思いながらエントリーの列に並んでいた

146 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/22(水) 16:54:28 0
[すいません 寝落ちしました]

呼ばれるまでしばらく暇なのでケータイでも見てようかと考えていると
ふと、着信音がした。
(誰からだろう?)
ケータイのメールボックスを見るとどうやら長瀬からのようだった。
開けると『そろそろ時間だが着いてるか?』
と書かれていた
『着いてる。まだ来てないようだけど、どうしてか?』と尋ねるとしばらくして
『少し寝過ごした。すまん。』と返ってきたので
『後で二度と寝過ごさないような体質にするから覚悟しとくように』と送ったところで順番が来たようだ。
クジを引く形式のようで引いた色は赤だった。
赤専用の輸送機に乗り込んだ

【赤チーム・スタートグリッド】
(この人たちが同じチームか…)
前では作戦会議が行われていて丁度、役割分担について話していた
すると、勢いよく立候補する人がいたのでみると
前の大会で優勝していた人だった
(たしか、近接系専門の…)
と考えていると役割分担が自分までまわって来たようだった
「後衛。それがダメなら遊撃で。」

【エントリーデータ】
>>115  追加内容 兵装:超高出力半固定過重装甲型『DA 701』


147 :超音ソク ◇kumtjTemMs :2010/12/24(金) 17:56:41 0
>「こんにちは、良い香りね、私の串カツと取り替えっこしない?」

突然の提案に、超音ソクは困惑した。
取り替えっこと言う事は、今食べているたこ焼きを最後まで堪能出来ないと言う事だ。
だが代わりに串カツと言う未知の食べ物を味わう事が出来る。
未知と言う事はつまり、当たりかハズレかまだ分からない状況だ。
もしかしたらこの提案を持ちかけてきた相手は串カツが美味しくなくて、
それで上手い事たこ焼きと交換してやろうなどと考えているのかもしれない。
とは言えここ大阪で今まで食べた物は、どれも美味しくハズレがなかった。
ならばあの串カツも美味しいのではないか。
超音ソクは腕を組んで首を傾げ、神妙な面持ちで真剣に悩み続ける。

「……串カツも悪くないぞ。冷める前に交換しておけ」

ソクの懊悩を見透かしたように、西田が呆れつつ言った。
そうでもしないと、たこ焼きが冷めるどころかエントリー期間が終了するまで悩みかねない。

「ちゃんと礼を言うんだぞ」

「わかってるってば。ありがとね、おばちゃん!」

破顔しながら無自覚に、ソクは最上級に失礼な言葉を口にした。
そのままハイディの反論を待たずしてたこ焼きを手渡し、受け取った串カツを齧る。

「あ、これもおいしー!そういえばニシダ、エントリーっていつまでなの?そろそろいかなくてだいじょーぶ?」

「散々食い歩いといて最後はそれか。まぁいい。時間にはまだ余裕があるがさっさと行くぞ」


【→エントリー会場】

「さて、クジ引きだが……さっきのアイツは、敵に回したくないものだな」

エントリー会場のクジ引き箱を前にして、唐突に西田が呟いた。

「どーしたの?やぶからぼーに」

「……アイツはハイディ・マルセイユと言ってな。日本じゃ大した記録は出してないが、
 アフリカの方では化物染みたスコアを叩き出してる」

アフリカ、つまり日本に比べて実戦に近い形式のゲームではな、と西田は補足する。
さらに彼の語りは続いた。

「今回の『ビッグターゲット』はレースと言うより戦術ゲームだ。
 『アフリカの星』が久々に輝くかもな。……それに、ソク。アイツはお前にとっては特に厄介な相手なんだ」

ハイディ・マルセイユは卓越した目視射撃能力を有している。
故に超高速が武器であり、逆に装甲の薄いソクにとっては天敵になり得る存在なのだ。

「……白、か。さてどうなる事やら」

クジ引きの結果、超音ソクは白チームだった。

「それじゃあ、行って来い」

「うん!いってきます!」

かくして超音ソクはスタートグリッド行きの輸送機へと乗り込んだ。

148 :超音ソク ◇kumtjTemMs :2010/12/24(金) 17:57:47 0
【→スタートグリッド】

作戦会議が行われていた。
ソクもパソコンの中にいた504時間、『ビッグターゲット』のシミュレーションは何度も繰り返している。
事前に西田から聞いた話も合わせれば、それなりに作戦立案は出来た。

「わたしは「ゆーげきしゅ」がしたいな。とびまわるのがいちばんとくいだし。
 ……ところでこんかいのゲームってさ、やっぱりさいしょのかなめは「おーさかじょー」だよね」

ビッグターゲットの戦闘空域内には『拠点』とされる地点が幾つもある。
これらを敵よりも早く、より多く、より大きな場所を奪取する事が勝利に繋がるとされている。
理由は幾つかあるがまず『復活地点』が多く大きく、また堅牢である方がいいと言う事。
逆に貧相な拠点一つに追いつめられてしまったら悲惨なゲーム展開となる。
復活した傍から撃墜され、一方的なポイント稼ぎになってしまうのだから。

また『拠点』にはそれぞれ『補給』と『修理』に要する時間が設定されている。
無論、それら自体は空戦少女それぞれに付いている、或いは大会の運営側で用意した
メカニックによってすぐに終わる物ではあるのだが、ゲーム的な意味での話である。
要するに一度『補給』及び『修理』に入ってから再出撃の許可が出るまでに時間が、
『拠点』によって決まっていると言う事だ。
そして大阪城は、それがとても短く設定されている。
だからこそ最初に取る事が出来れば後のゲームを優位に進める事が出来る。

「だからたぶん、あいてもまずはあそこをとりにくるとおもう。……えっと、だから、その」

何かを言おうとしていた超音ソクだが、不意に言葉を詰まらせた。
言っていいものか、見当違いの事を言おうとしているのではないか。
そんな葛藤が、表情からは漏れ出ていた。
それでも何とか、彼女は声を絞り出す。

「こっちはさいしょになんきか、あえてほんじんとっこーをしかけたらどうかなー……なんて」

自信なさげな上目遣いで、ソクは周りの空戦少女を見回す。

「ほら、しょーてんがいみたいな、やねのあるとこをてーくーひこうしていけば、
 せっこうにもみつからずにいけるだろうし。とちゅうでバレても、
 どーせあいては「おーさかじょー」はほーきしてまもりにまわらなきゃいけなくなるし……」

自分一人だけが喋っていると言う状況がどうにも心細くなって、
ソクの声は尻窄みにか細くなっていった。

「すこししんこーをおくらせてあいてにさきにしろをとらせちゃえば、
 せっこーとほんたいのはさみうちにあうこともないだろうし……ど、どうかな……?」

全てを喋り終えた頃には、彼女は小さく背を丸めて周囲の反応を伺っていた。


【電撃作戦立案。デメリットは本陣に達する前に、或いは達した後も
 撃墜されてしまうと、他に拠点がない場合一気に初期地点まで戻る事になってしまう事
 また失敗した際には無戦闘で大阪城を渡してしまう事
 自分の本陣もわりと手薄になってしまう事
 ハイリスクなので却下の場合は、オーソドックスに大阪城争奪作戦にしましょう】

149 :ラズベリル ◆j8buLRXlfY :2010/12/24(金) 23:59:11 0
《〜参加希望の方は〜……》

「うー、姉ちゃん。早くエントリーするじゃん!!」

「う〜ん。急かさないでよぅ……
 ただでさえラズにゃんの装備はデリケートなのに出力を下げたりしないといけないんだから……」

「チューニングなら移動中に自分で出来るじゃん!
 だから、早くエントリーしてほしいじゃん!!」

まるで落ち着かないと言った風体で急かす空戦少女とそのマスター。
それもその筈。彼女にとっては久方ぶりのライブ以外での外出だ。気持ちがはやるのも仕方がないと言う物。
しかし、同時にマスターの言い分も正しい。
彼女。空戦少女……否。空戦アイドル「ラズベリル」の装備一式は精密機械の塊の様なものであり、
その輸送、調整の際にしても非常に気を使わなければならないのだ。
その為の手続きを彼女はしている。だが、ラズはそれが気に入らないらしい。

「ぶぅ……」

むくれていじけるラズ。
その姿はとても人間らしく、愛らしかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「赤組。じゃん?」

「そうだね。あっちの集まりは空戦公社。あっちの人たちは何かのプロチームみたい。
 その向こうには個人参加も居るね……。どっこも、やる気満々だねぇ」

ギリギリだったがエントリーに間に合った彼女達の引いたくじは赤。
それに従いこの輸送機に乗ったが、その輸送機内は彼女達のエリアの重量から傾いているように感じてしまう。
そんな筈は無いと本人達は思いつつも、やはり大量のスパコンと巨大な冷却装置は不安感をあおるには十分すぎだった。

「うー。うずうずする……
 こう言う時は楽器を弄ってるのが一番じゃん」

装備のチューニングの為、カタカタとキータップ音を奏でるマネージャー。堂に入ったその動作は素人のものではない。
搭乗しチューニングを手伝おうと申し出たが逆に却下されたラズはと言うと、ふらふらと機内を歩きまわっていた。
それも十数分程で流石に飽きたのか彼女は一緒に運び込んでいたギターケースからアコギを取り出し弾きはじめる。
ちょいちょいとチューニングをすると輸送機の端でちょっとした演奏会が始まった。

楽器メーカー、アヴェンド・グローバル・フィルジーグ社製空戦少女。
シリアル3ZL-00001「ラズベリル」
同社の技術力を集めて製造されたカスタム空戦少女である彼女だが、彼女は本来戦闘用では無い。
彼女の本業は歌手。それも、空戦少女と言うスポーツを彩る為の専属のアイドルだ。
その為、外見は派手なオレンジ色のヘアーにブラック、ショッキングピンク、ゴールド、ライムグリーンと言ったパステルで彩られ周囲を刺激する。
そんな彼女だが、好きな楽器はアコースティックギター。本人いわく音色が自然に弾んでくれるらしい。



150 :ラズベリル ◆j8buLRXlfY :2010/12/25(土) 00:00:41 0
「じゃん……じゃんじゃん…」

身の丈とほぼ同じくらいあるギターを傾け彼女は弾き語る。
周りの人たちが奇異な視線を向けているがそんな物は気にも止まらない。
それどころか、周囲からみられる事が彼女にとっての自尊心を満足させる。アイドルとはそういうものだ。

「じゃんじゃじゃ、じゃんじゃじゃ、……リクエスト?それとも作戦じゃん?」

目を瞑り、音の反響だけを頼りにラズは傍に寄ってきた人物に声を掛ける。
反響音、呼吸音、発汗による温度差異……総合的に判断しラズは声を掛けられる前に相手側の意思をくみ取った。

「ポジションなら支援か斥候にしろって姉ちゃんが言ってたじゃん。
 リクエストならとりあえずタイトル言ってみるじゃん?ギターで弾ける曲なら大体いけるじゃん」

速度に自信が無く、かつ武装の面で共闘は難しいラズベリル。
故にマネージャーはメインで前線に出るのは難しいと判断したのだった。
シャンララシャンララと弦は音を奏でる。
そして、演奏が途切れた。

「ラズベリル。よろしくじゃん。じゃあ、次の曲行ってみる感じじゃん?」

【新規参加。よろしく〜】

151 :ラズベリル ◆j8buLRXlfY :2010/12/25(土) 00:02:12 0
名前:ラズベリル
所属:アヴェンド・グローバル・フィルジーグ社(楽器メーカー)
性別型:女
容姿型:S
    ステージ用の衣装はオレンジの髪をサイドポニーにまとめ、服装はピンクとレザーブラックのツートン。かなり派手。
    その反動で私服はかなり地味なコートとパンツ姿。下手したら浮浪児と間違えられるくらい地味でぼろっちい。しかし髪の毛はオレンジ。
性格:現代っ子
兵装:可変型「ON-STAGE.」
   キーボード、ドラムセットに変形する推進装置兼スピーカー内臓アンプ。
   複雑な制御機構を用いているためラズベリルと同等の演算性能を持たない空戦少女、コンピューターには使用する事が出来ない。
武装:
・Sparkring-V (エネルギー系)
エレクトリックギター型のメイン武装。
高周波数の電磁波を圧縮して打ち出すマイクロ電子レンジ。応用等でレールガンとしても使用可能。
・Laser carnival (エネルギー系)
背面に装備されたアーマーを変形させてキーボードとして使用する。
特殊周波数による遠隔操作されたリフレクターが照射されたレーザーを反射し、敵機を両断する。
・Brad on fire (特殊系)
全身に装備されたアーマーを変形させて電子ドラムセットとして使用する。
強固な電磁防壁を展開し、更にリフレクターとECMで鉄壁の防御を実現した。
反面、移動速度に多大な影響を及ぼしてしまう。なお、ステックは小型のツインブレードとしても使える。

機体説明
アヴェンド・グローバル・フィルジーグ社製のワンオフカスタム空戦少女。
本業はアイドルなのだが「空戦少女に生まれたんだし参加したいじゃん!!」と言う事で公式試合にのみで参加している。
基礎性能は速度系列に難があるが他は平均以上。特に演算速度、思考ロジック、対ECM性能に特化している。(アーティストであるためフィーリングが大事)
武装も防御性能に重きを置いた電子ドラム、中近距離で高い攻撃力を発揮するキーボード、エレキギターとバランス良好である。
弱点としては最高速度の低さとラズベリル自身の戦闘経験の少なさ、持久力の低さ(単にエネルギー調節が下手)があげられる。

一番大事なものは育ての親でもあるマネージャー「姉ちゃん」がくれたお下がりのアコーステックギター。プレミア品らしい。

152 :アメリア・ホーク ◆LNWJ4jNvFDrc :2010/12/26(日) 08:57:24 0
アメリア・ホークは日本を訪れていた。
聞く話によれば日本の空自に所属する空戦少女が公式大会に参加するらしい。
要するに日本の航空戦力がどの程度の水準にあるのかを確認するいいチャンスだと言う事だ。

(ジャパンの政治家馬鹿ばっかデース。何でそんな大切な事をオープンにするのか、理解不能デース)

とは言えデータ収集は何もアメリアがする訳ではない。
彼女に同行したUSAC社のスタッフと米空軍関係者が行う事だ。
彼女はただいつも通りにゲームに参加すればいい。
日本には美味しい食べ物や米国にはない面白い物が沢山ある。
そう考えるとむしろ、アメリアはちょっとした旅行気分でさえいた。

けれどもその前に一つ、すべき事がある。インタビューだ。
一応は親善試合と言う形で来日している上、アメリアは米国のトップランカーだ。
相応の注目が集められるのは、仕方がない。
会見会場の最前部、大量のカメラとマイクに向かって彼女はインタビューに臨む。
まず求められたのは、今回の来日についての感想だ。
それを聞いて一体どうするのかと言う疑問はおくびにも出さず、笑顔のままアメリアは答える。

「エート、今回ジャパンを訪れる事が出来て、ワタシはとても嬉しく思ってマース。
 ジャパンにはステイツにないファンタスティックな物が沢山ありますからネー。ワタシジャパン大好きデース」

当たり障りの無い返答に、カメラのフラッシュが幾つも閃く。
そして続く質問は――『今回参加するゲームについて』だった。
アメリアはやはり笑顔を崩さぬままに、答えを返す。

「……さっきも言ったトーリ、私はジャパンが大好きデース。ジャパンにはスシィ、テンプゥラ、
 ここ大阪にもタコヤキとか、美味しい物が沢山ありマース。
 それにワタシ、ジャパニメーションやマンガも大好きデース。それに……」

一拍の間隙を置いて、笑顔を更に色濃い物にして、彼女は続けた。

「ジャパンのスカイファイトガールズ、ベリーベリーイージーデース」

忽ち、浮ついた会場の空気が剣呑に硬直する。

「ジャパンに伝わる様々なタクミノワザ、ショクニンゲイ、とても素敵だと思いマース。
 でもエアリアルウォーフェアにまでそんな風潮と傾向があるのは、とってもフーラリィですネー。
 Freeじゃアリマセンヨ?Foolery、とても馬鹿馬鹿しいデース。マァ、ワタシとしては楽して勝てるからありがたいんですけどネー?」

だがお構いなしに、それどころか両腕を大きく左右に広げて、アメリアは暴言をやめようとしない。

「ソーデスネー。ジャパンのマンガ風に言うなら……『とっておきの美男子を連れてこい。そしてワタシの部屋の前に順番に並ばせろ。
 ワタシの遺伝子をくれてやる。この国にワタシのタネを撒いてやろうじゃないか。二十年後には、日本はトップランカーだらけだぜ』
 ……って感じですかネー?まぁ、ワタシはガゼルのようにお淑やかな……ジャパンで言う草食系?レディですし、そもそもそれ以前にガイノイドなんですけどネ」

全てを言い終えて、アメリアはあっけらかんと笑ってみせる。
カメラのフラッシュ音は、疎らにしか響かなかった。

「アハハ、精々エンジョイ出来るゲームを楽しみにしてマスヨ。それでは、バーイ」

凍土の如く凍り付き、だが地底に滾る溶岩もかくやの怒りを孕んだインタビュー会場から、アメリアは軽やかな歩調で去っていく。
彼女のインタビューは電波に乗って、日本全国へと放送されていた。


153 :アメリア・ホーク ◆LNWJ4jNvFDrc :2010/12/26(日) 08:59:52 0
【エントリー会場】

アメリアは日程や調整の関係上、ゲーム前に大阪を見て回る事は出来なかった。
最終チェックを終えた彼女はエントリーを終えてクジ引きをして、結果赤チームに入る事になった。

「オゥ、メアリー。このゲーム、チーム戦なんデスカ?ワタシそんな話聞いてマセーン」

不満げに、アメリアは自分のオペレータであるメアリーへと振り向く。
メアリーは困った様子で、小ぶりの眼鏡の奥で青い瞳に瞼で蓋をした。
首が左右に振られて、ロングの淡い金髪が揺れる。

「それは本当に貴女が聞いていなかっただけよ、アメリア。それに事前に知っていたからどうだって事もないでしょう?」

「エー、ジャパンのスカイファイトガールズとチーム戦デスカー……?。ジャパンの貧弱なガールズじゃ不安デース」

スタートグリッド行きの輸送機に向かう途中、アメリアは愚痴を零した。
周囲には彼女と同じく輸送機に向かっている空戦少女が沢山いる。
だがそんな事には一切憚らず、アメリアの愚痴は大音声でよく通った。

「現代戦を真っ向から否定しないの。このゲームはワンマンアーミーでどうにかなる物じゃないんだから、
 チームメイトとは仲良くやりなさいよ。……と言っても、もう手遅れかもしれないけど」

先日のインタビューは今回ゲームに参加する空戦少女なら、まず知っている事だろう。
そして今も尚、好き放題暴言を吐き散らしているアメリアに、チームメイトが協力的になるとは思えない。

「ま、日本の空戦少女は変わり者が多いからもしかしたら、って事はあるけど。まあ期待は出来ないわね」

メアリーの言葉に、しかしアメリアは両手の平を肩の高さで天井に向けて、首を左右に振る。

「と言うか、そんな事はどうでもいいのデース。そもそもジャパンは『チームプレイ』を重視し過ぎデース。
 人もスカイファイトガールも、それぞれ『やるべき役割』ってモンがありマース。マンガ風に言うなら……
 『チームプレイなんて都合のいい言い訳だ。本当にあるべきなのはスタンドプレイから生まれるチームワークだ』
 って感じデースヨ」

呆れ顔で溜息を零したメアリーが、足を止める。
輸送機前に到着したからだ。
メアリーを追い越して、アメリアは輸送機のハッチへと歩みを進める。
背後のメアリーに振り向かないまま、肩越しに左手を振って、アメリアは輸送機に乗り込んだ。

154 :アメリア・ホーク ◆LNWJ4jNvFDrc :2010/12/26(日) 09:00:36 0
【スタートグリッド】

>「じゃあ特攻部隊がやりたいでありますっ!」

「……クレイジーデース。ユー、ホントにジャパンのチャンピオンですか?色々キメちまったHyphyにしか見えマセーン」

オブラートもへったくれもなしに、アメリアは呟いた。
彼女が扶桑に向けたスラングはそれなりに不名誉な物だ。
もしもこの場に、或いはオペレータに朧気にでも意味の分かる者がいたとすれば、アメリアの心証はまた更に悪くなる事だろう。

「ともあれ、ワタシは後衛をやりマース。ワタシの装甲はとても頑丈デスシ、武装の射程もso longデース」

断定的な口調で、アメリアは宣言した。
実際、彼女が後衛を務めるのは至って妥当な配役である。
だが有無を言わさぬ彼女の態度はもしかしたら、不要な反感を買うかもしれない。
そんな事には彼女は気付きもしないし、気にもしないのだが。

>「ポジションなら支援か斥候にしろって姉ちゃんが言ってたじゃん。
  リクエストならとりあえずタイトル言ってみるじゃん?ギターで弾ける曲なら大体いけるじゃん」

「あとそこのロックガール、もしも支援をやるなら陣取りの後、ワタシの傍に補給ボックスを置いていってクダサーイ。
 ワタシの武装、補給さえしっかりしてればディフェンスはパーフェクトですからネー」

やはり一方的に、何処か押し付けがましい口振りで、アメリアは尊大にラズベリルにそう言い付けた。

【よろしくお願いしマース】


155 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2010/12/26(日) 13:25:20 0
(…早くも内部分裂しそうな空気になりそう…)

周囲の様子を見て最初に思ったことである
アメリアさんが言った言葉が発端だ、多分戦闘中に
また何かどちらかで摩擦が発生するだろう

(しかし、アメリアさんもあそこまで周囲を刺激するようなこと言って
 オペレーターか、マネージャーは大変だろうな…)

最後にアメリアさんの武装を少し見て流れ弾には気をつけようと思った
私の装甲は実弾には強いが強力なエネルギー攻撃に
特にビーム系は一瞬ならまだいいがもろに直撃すれば
装甲が融解する可能性があるからだ

(まぁ、なんであれ自分の役割をまっとうしましょう。)
気を入れ直して大会開始を待つことにした

156 :ハイディ ◆0IuUC6exTU :2010/12/27(月) 22:26:45 0
ハイディが串カツを差し出すと、ソクは困惑した顔で串カツとたこ焼きを交互に見比べ、腕を組み悩み始める。
いきなりのハイディの申し出にどうすればいいのか分からないのか、それとも単にどちらが美味しいかを考えているのか。

(お持ち帰りしたいくらい可愛らしいわ)

ハイディは笑顔を保ったまま待っていると、横にいた保護者が助け船を出す。

>「……串カツも悪くないぞ。冷める前に交換しておけ」
>「ちゃんと礼を言うんだぞ」
>「わかってるってば。ありがとね、おばちゃん!」

その一言で決心が付いたのか、ソクはハイディから串カツを受け取り、たこ焼きを渡す。
しかし、その後のソクの一言によりハイディの笑顔は凍り付いた。

「お、おば…って、私?ちょ、ちょっと待ちなさい!」

ソクはハイディの言葉が聞こえていないのか、そのまま踵を返し去っていった。
ハイディはたこ焼きを一口で頬張ると、手に持った竹串をとばす。
それは放物線を描いて近くにあったゴミ箱の中に吸い込まれるようにして入っていった。

「どうしたのハイディ?」

そこにヨーゼフが遅れて到着する、既にエントリーを済ませていたのか、分厚い書類を抱えている。

「次の試合で倒すべき敵を認識したところ」
「え?何のこと?それよりチーム分けの抽選行ってきたよ、本当なら君もいなくちゃいけなかったんだけど許してくれたよ、ほら」

そう言ってヨーゼフは小さな紙を渡してくる、その紙には小さく白と書かれていた。
大阪上空では既に試合の準備が整いつつあり、周囲も次第にざわめいてくる。
試合前特有の浮いた雰囲気が大阪全体を包み込んでいた。

「そろそろ各チームのブリーフィングが始まるみたいだから急いだ方がいいよ。
頑張ってね、僕も精一杯サポートするから」

ヨーゼフはグッと親指を突き立て、ウィンクする。
そのあまりにも似合わない姿にハイディは思わず吹き出してしまった。

「格好つけても似合わないわよ」

それだけ言い残し、軽く手を挙げると白チームのスタートグリッド行きの白く塗られた輸送機に向かって歩き出した。

157 :ハイディ ◆0IuUC6exTU :2010/12/27(月) 22:44:12 0
【→スタートグリッド】

白チームのスタートグリッドでは、例に漏れずブリーフィングを始めていた。
中には見知った顔がちらほらいたが、その中でも特にハイディの目にとまったのはハイディをおばさん呼ばわりしてきたソクである。

(あの娘、同じチームなのね…敵チームだったら真っ先に墜とそうと思っていたのに)

まずは指揮官を決める段取りらしく、立候補やら推薦やらで、とても騒がしくなっている。
指揮官というものは戦争においてとても大事な者であるため、決めるのに時間をかけるのは当然なのだが、全く決まりそうな気配がない。
始めは椅子に座り黙していたハイディだったが、堪りかねてテーブルに手を叩きつけて勢いよく立ち上がった。

「私がやる、急な集まりで誰がどれくらい能力を持っているかなんてよく分からないから、もっと別の事を話した方がいいわ」

ハイディの透き通った声が響き渡り、先ほどまで騒がしかったブリーフィングルームはすっかり静まりかえる。
ある程度ハイディの名前は知られているのか、異議を唱える者はいなかった。
ハイディはそのまま、胸を張って堂々と言葉を続ける。

「自己紹介させてもらうわ、私はハイディ・マルセイユ、よろしく。
私が指揮をとるからには絶対に負けさせないわ、だから貴女達もポイント欲しさに独断専行はしないで欲しいの。
まず、この戦いで最も重要なのはバルーン。
たとえこちらが何十機撃墜したからといって、バルーンが破壊されたらそれは負け。
だけどバルーンを何十機もつけて守る必要は無いわ」

ハイディは大阪全域の地図を指さし、バルーンの前の青い駒を前に出す。
そして敵側の赤い駒を味方の戦線とバルーンの間に持って行く。

「ある程度戦線が維持できている状態なら敵が少し入り込んできたからといって背後から攻撃できる、だからバルーンを守るより戦線を維持する方が大事。
一番安全な策としては、戦線を維持しながら上がっていき、大阪城を取る、恐らく相手側もこれに近い作戦をとると思うから、そこからは貴女達の腕の見せ所ね。
それと個々の役割を一応決めておくわ、一番自分を生かせるのでお願い」

そこで一度言葉を切り、全員の顔を見渡す。
一人ずつ希望を聞き、それに応じて地図上の駒を動かしていく。

>「わたしは「ゆーげきしゅ」がしたいな。とびまわるのがいちばんとくいだし。
 ……ところでこんかいのゲームってさ、やっぱりさいしょのかなめは「おーさかじょー」だよね」

ソクの番に回った時、ソクが段々と小さくなる声で作戦立案をした。
よほど自信がないのか、しまいには背中を丸めて、周囲をびくびくと見ている。
ハイディはその姿につい口元を緩ませる。

「電撃戦…大胆な事言うのね…。
でも、電撃戦はただ特攻するだけでは成功しないわ、いかに相手の弱点を責め立てるかが重要。
この戦いにおいて相手の弱点はバルーンではないわ、守りを固めているでしょうし、短期で攻め落とすのは難しいでしょう。
それに低空飛行して近づくというのも危険、たとえ本陣に近づけたとしても高度と数で既に不利な状態ではバルーンを削りきれないで手痛い反撃を喰らう可能性が高いの。
電撃戦をするならそれこそ全軍で一気に行く、くらいしなければ無理でしょうね。
私としてはセオリー通り始めに大阪城をとりたい、…そうだわ、陽動作戦にしましょう。
彼女が言ってくれた作戦のアレンジね、まず速度のある何機かで本陣に突入する、エネルギー節約しないで行けば、相当早くたどり着くはず。
そこで暴れ回れば、本隊の進行が遅れて大阪城がとりやすくなるはずだわ。
そこで無理にバルーンを破壊しにいかなくても良いの、高威力兵装で攻撃していれば相手は守らざるを得ないから、時間は稼げるはずよ。
大阪城さえとれれば、先行隊が撃墜されても復活が早くなる、ペナルティは貰っちゃうけどどうかしら?
復活とともに燃料と弾薬は補充できるから節約しないで暴れ回れるはずよ。
その間に十数機で大阪城をとりにいく、守りは少数で良いわ」

ペナルティを貰うというハイディの言葉に露骨に顔をしかめるが数人、他も少し悩んでいるようだ。

【陽動作戦立案、主なデメリットは先行隊が時間を稼げず墜とされた場合、最悪大阪城がとれない可能性がある。
主なメリットは単純に大阪城がとれる可能性がとても高くなる、陽動だと解っていても下手に本陣から離れられない、却下の場合はやはり単純な争奪戦にしましょう】

158 :扶桑-501SW(1/6) ◆jnVE8IlPwA :2011/01/01(土) 00:33:35 0
【ブリーフィング中】

>「後衛。それがダメなら遊撃で。」
「えっと君は、ストラトス社の。装甲の優秀な重装型だね。じゃあ遊撃手として交戦空域に急行し、盾役を担ってもらおう。
 おそらく最初の交戦は大阪城になる。最前線の防衛ラインを支える役割だ、責任重大だよー!」

指揮役の空戦少女が戦域マップに新たな点を置く。
拠点防衛戦になった場合、継戦能力の高い重装甲を持つ空戦少女は要となる。遊撃編隊はライカを中心に組むことになるだろう。

>「ポジションなら支援か斥候にしろって姉ちゃんが言ってたじゃん。
 リクエストならとりあえずタイトル言ってみるじゃん?ギターで弾ける曲なら大体いけるじゃん」

続いて希望を呈したのは小柄でパンキッシュな衣装に身を包んだ空戦少女。
装甲服や飛行服、軍服が大多数を占める少女たちの中でその姿は良くも悪くも目立っていた。

「あーっ!て、テレビで見たことあるでありますよ!?っていうか先日いいともに出た時に後ろにいましたよね!
 『大地讃頌』と『旅立ちの日に』弾いてください!」
「うん合唱曲だよねそれ!」

扶桑には覚えがあった。否、扶桑でなくともちょっとでもマスメディアに接する機会のある者ならば彼女を知っているだろう。
ラズベリル。アイドル興業に特化した空戦少女。瀟洒な容姿と戦場においても楽器を手放さぬパフォーマー。
チーフを初めとした硬派気質の人間にこそウケは芳しくないが、扶桑はドがつくほどのミーハーなのでにわかファンにさえなっていた。

「電子戦特化型だね。乱戦向けだが混戦向けじゃあない。支援隊としての両陣で敵をかき回して欲しいな。
 護衛機として電子戦に対応できる空戦少女に何機か随伴させよう」


>「……クレイジーデース。ユー、ホントにジャパンのチャンピオンですか?色々キメちまったHyphyにしか見えマセーン」
「は、はいふぃー?」

出来の悪いヒッピーのような喋り方をする空戦少女である。
扶桑には彼女の言うHyphyの意味がわからなかった。さらに言えば馬鹿にしているというニュアンスすら理解していなかった。
なるほどこの空戦少女の煽り文句は正鵠を射ていたわけである。その場にいた何機かの空戦少女が失笑していた。

159 :扶桑-501SW(1/6) ◆jnVE8IlPwA :2011/01/01(土) 00:35:05 0
>「ともあれ、ワタシは後衛をやりマース。ワタシの装甲はとても頑丈デスシ、武装の射程もso longデース」
「なるほど!わかるでありますよ、いわゆる巨砲主義ってやつでありますね!最高にカッコ良いであります!
 ジャンプなら四天王の最初の一人ポジション!マガジンなら巨体でリーゼントつけてるレベルです!」
「それ遠まわしにかませ臭いって言ってない……?」

やがて30機ほどいる赤組の空戦少女達のポジションが決まり、作戦準備が完了した。
扶桑は前衛に割り当てられた。指揮役の『何も考えず大阪城で暴れて来い』という命令に忠実に従う方針である。

「それじゃあ作戦を説明するよ。私たちはまず大阪城を獲りに行く。
 セオリー通りだけど、とにもかくにも敵陣へ切り込むにはここを落とすのがなにより肝要だからね。
 攻性戦力の殆どをここに投入し、一気呵成に制圧する。前衛隊全部を使って戦線を大阪城まで強引に進めよう」

指揮役が地図上の表示された横一列に広がる前衛のマーカーを前進させる。
バルーンは動かさない。後衛で守りを固め、前衛のラインを突破してきた敵機を狙い撃ちにする寸法だ。
従って前半での赤組の攻撃行動は前衛隊の前進だけになる。ブルドーザー作戦の如く、戦域図を塗り替えていくのである。

「ライカちゃんの遊撃隊は斥候にくっついて先行してよ。向こうの斥候とかちあえば、可能な限り交戦。可及的継続戦闘。
 前衛隊が辿りつくまでラインを維持するのには、君みたいな防御に長けた重装機が必須になる」

狙いが大阪城とはっきりしている以上、敵の集中砲火に晒されるのは必至。
防御能力が試される戦場である。ここで撃墜されれば、大阪城奪還は途端に困難になる。

「ラズベリちゃんの支援隊は、後衛のサポート。
 後衛はここからが大変だよー、本陣に斬り込んでくる敵機を順次排除してもらわなきゃだからね。
 大口叩いたからにはしっかり仕事してもらうよっ」

空戦少女達はスタートグリッドに一列に並び、その奥にバルーンを擁して轡を揃える。
ほどなくしてチェッカーシグナルが打たれ、『ビッグターゲット』は戦いの火蓋を切った。


【赤組の作戦:前衛隊によるブルドーザー作戦。前線を一気に大阪城まで進ませる】
【ライカさんには遊撃を、ラズベリルさんには支援、アメリアさんには後衛をそれぞれ任せる】
【遊撃部隊と支援部隊には何機か僚機が存在します。それぞれライカさんとラズベリルさんのご随意に動かしてください】

【ビッグターゲット 開始】

160 :伊勢-弐零八式(1/6) ◆jnVE8IlPwA :2011/01/01(土) 00:35:55 0
>「私がやる、急な集まりで誰がどれくらい能力を持っているかなんてよく分からないから、もっと別の事を話した方がいいわ」
>「こっちはさいしょになんきか、あえてほんじんとっこーをしかけたらどうかなー……なんて」
>「私としてはセオリー通り始めに大阪城をとりたい、…そうだわ、陽動作戦にしましょう。
  彼女が言ってくれた作戦のアレンジね、まず速度のある何機かで本陣に突入する、エネルギー節約しないで行けば、
  相当早くたどり着くはず。そこで暴れ回れば、本隊の進行が遅れて大阪城がとりやすくなるはずだわ」

一人の立候補によって喧々囂々だったブリーフィングはまとまりを見せ、建設的な提案が飛び交うようになる。
この有無を言わせぬ牽引能力は流石のものだと伊勢は舌を巻いた。ハイディ・マルセイユ。アフリカ戦線のスターイベンターだ。
その武勇は自衛隊に身を置く伊勢の耳にも轟くほどであるし、実際歴戦を裏付けるだけの圧が、彼女の物腰にはあった。

(そしてそのマルセイユとまともに論を合わせられるあのS型……"レース"で扶桑とやり合った二機のうちのひとつか)

浅葱に録画を見せてもらった当時の映像から随分と外装が変わっているが、名前と所属でそれと分かる。
最高速の空戦少女。レースでは体格差をものともせず"あの"カルカや扶桑と渡り合った機体だ。

(面白い。乱戦のオーソリティと最速レコード保持機か。おそらくこの白組、この二機を中心とした戦いになる……!)

防空戦闘だけを極めた伊勢にとって、まるで毛色の違う性能をもつ二機はこの上ない刺激になった。
こうやって戦場においても切磋琢磨できる環境は良い。扶桑ではないが1+1が3にも4にもなる期待ができる。

「指揮官殿、私は後衛を任せてもらおう。この作戦ではこちらも本陣が手薄になる。防衛戦術の腕の見せどころというわけだな。
 なに、何も憂う必要はない。この国の国防に誓ってバルーンを守り抜くさ。ここからなら――敵陣だって狙ってみせる」


【伊勢:後衛に志願】

161 :ラズベリル ◆j8buLRXlfY :2011/01/02(日) 00:11:01 0
【スタートグリッド】

「で、なんでアタシのとこに来るじゃんよー」

「えへへ〜//」

「まぁ、このメンツだと作戦も協力も無いと思ったんだけどさー
 やっぱなんか話し合いくらいは必要じゃないかなーなんて……」

スタートグリッドについた紅組一行。
それぞれが思い思いの位置に付き、臨戦の為の調整を行っている中でちょっとした人だかりが出来てるエリアがあった。
支援部隊に任命された電子戦能力がある空戦少女達だ。
ラズベリルも又、この集まりに……この集まりの中心になっていた。

「はい。国木田さんへじゃん?」

「わー!!ありがとうー」

最も、作戦会議と言うより完全にファンクラブなのだが……

「そんでさー、色々集まってるしここで良いんじゃねって訳なんだよねー」

「なんと言うズボラさ。まるでどこかの体育教師兼警備員を思い出さす感じじゃん……」

「いやいや、そりゃどっちかって言うとラ〜ズにゃんじゃね?主に口調的に」

げらげらと下品に笑う姉御肌の空戦少女。そして、ラズベリルもそれに続く。そこに遠慮や配慮はまるで無い。
そこへ機材のチューニングを終えたマネージャーが寄ってくる。

「あ〜、ラズにゃんのお友達ぃ?」

「あ……」

それを見てちょっとばつの悪そうな表情を浮かべるフロントライン製空戦少女。
そんな彼女にマネージャーはにこりと笑いかけ飴玉で餌付けを始めようとする。冷めた目で見つめるラズ。

「終わったじゃん?」

「終わったじゃん!!」

チューニングが終わったかと言う質問にマネージャーはサムズアップを見せ、ニコリと笑って見せる。
時刻を見ればそろそろ開始時刻だ。作戦会議はどうにも行う時間は無いらしい。

「もうすぐ開始じゃん。……データ回線332-5C-F5-A0。演算は16進数。
 詳しい話は空でしようじゃん。どの道、赤組のメンツじゃあ個人プレー以外あり得ない訳だし」

「なにするつもり?」

「現代電子戦略がどれだけ恐ろしいか味方に教えてやるじゃん」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

162 :ラズベリル ◆j8buLRXlfY :2011/01/02(日) 00:12:18 0
大口をたたいたラズベリル。
現代電子戦略の恐ろしさとは言ったものの、今回の戦闘は基本的に味方と言う概念があり誰から構わずに攻撃を行えないのだ。
それに加え、ラズベリルには非常に高い出力を持っており迂闊に電脳戦を仕掛けようものなら味方が墜ちると言う状況なのだ。
その事をマネージャーは確認するように質問をする。

『で、味方に教えるって離陸前にEMP.を最大出力で照射して全滅させるの?』

「姉ちゃん……そんな訳無いじゃん。じゃ、みんな行ったしアタシも出る感じじゃん?」

その質問に対しラズベリルは発進すると言う返答をする。だが、マネージャーはいつもの事と言いたそうに返答を返した。

『う〜い〜アヴェンド・グローバル・フィルジーグ社製オートマトン。シリアル3ZL-00001「ラズベリル」戦略起動。
 特殊音響式武装。可変型バックラックウェポン「ON-STAGE.」コネクト。続けて音響推進装置起動。
 「ON-STAGE.」よりデータ転送。通信セクション1〜7までクリア。データ!』

「ロードじゃん?」

まぶたの裏を流れる無数のスクリプト。1からFまでで表記される芸術。その一つ一つを解析しインストールする。
転送されたデータをローディング。解凍したデータを展開し制御プログラムに組み込む。

『認証。それでは躯体駆動における制御の変更を行います。
 マザーCPU変換。認証パスコード!』

次々に戦闘機動に必要なソフトウェアを立ち上げ、同時に不要なソフトをシャットアウトする。
そして、要求される魔法のコトバ。

「パスコード。プラチナ!Platinum Singer.!!」

起動。
「ON-STAGE.」単独起動用の超高速演算システム「Platinum Singer.」が起動する。
同時にラズベリルの持つフライングVがノイズ音を奏でた。

『「オッケー!!行くじゃん!!」』

エフェクトはディスト―ション。
ひずんだ音が周囲を文字通り蹂躙し、推進力としてラズを飛ばす。

『選曲は?』

「撃墜王の孤独(Ace High)!!」

選曲と共にギターを奏ではじめる。選曲は彼女のファーストシングルであり、ランク一位のイメージソングだ。
エレキエフェクトで急上昇を始める機影を見つめるマネージャー。その目には後悔の念が映った。

「行かせたくないんだけどなぁ」

呟いてみるも、無線は既に切って有る。娘に聞こえないようにするために。
見上げれば大空に浮かんだ白雲が丸く切り取られている。撃ちぬいた弾丸は今頃成層圏近い筈……
だとしたら高度は十分だろう。彼女は急速降下で速度を稼ぎ、先行した先発隊達に追いつこうとする筈だ。

「来た」

目をごしごし擦り、降りてきた我が子の姿を見つめる。

《いっくじゃぁぁぁぁーーーーーーん!!》

インカムからでは無くスピーカーから聞こえる声。エレキノイズが響いた瞬間、衝撃波が再び地表を撫でた。

【支援部隊移動開始】
【電子戦術機はラズを含め計四機。支援部隊は支援部隊で策がある様子】

163 :ハイディ ◆0IuUC6exTU :2011/01/03(月) 15:22:35 0
試合の開始を告げるカウントダウンが徐々に短くなっていく、ついに戦争が始まる。
厳密に言えば試合ではあるが、その形式故ハイディにとっては戦争とほぼ同じものであった。
ハイディが指揮を執るチームの主な作戦は単純だ、ただ相手の本隊の進行を遅らせその間に大阪城をとるというもの。
至ってシンプルで奇策などとは程遠いものだ、確かに意表を突く事は大事だが今までに無い戦法だから意表を突けるのというのはまた違う。
そういうものは誰も思いつかないのではなく、誰もやらないのだ。

「じゃあ、早速お願いね、相手の本隊に全機で散らばり、乱戦を仕掛ける。
もし、無視して大阪城を取りに来るようだったら挟み撃ちにしましょう、では健闘を祈るわ。
あくまで狙いは相手の本隊、バルーンではないのよ。
それと、ロッテ、つまり2機編隊を組む事。
慣れていないかも知れないけど簡単に言えばロッテは長機が主に射撃を担当し、僚機は長機が射撃に集中できるよう周りに気を配るの。
あとは長機が撃ち漏らした敵を間髪入れずに攻め立てる、大事なのはこれくらいね。
足並みの揃ってない部隊は烏合の衆よ、部隊のために最良の行動をするようこころがけて」

そうして一人一人、誰とロッテを組んで誰が長機になるかなどを決める。
陽動部隊はその性質上、僚機をつけないが基本的にはどの役割の機体にも僚機をつける。

「バルーンは前進させるわ、前線とバルーンの間にあまり距離がない方が攻めやすいし、守りやすいから。
攻撃こそ最大の防御なりってね」

カウントダウンが0になると同時に戦争の合図となる電子音が鳴り響く。
ハイディは髪を一本の尾のようにまとめると、真っ先に空へと繰り出した。

164 :ハイディ ◆0IuUC6exTU :2011/01/03(月) 15:25:01 0
それに追随するようにスタートグリッドに待機していた空戦少女達が重厚な音を轟かせ一斉に飛び立つ。

『ハイディ、怪我しないでね』
「馬鹿な事言わないで、怪我しないで帰ってこられる戦争なんて無いわ」

ヨーゼフの言葉を一蹴するとハイディはエンジンの出力をあげ、一気に前へと出る。
そして、その勢いを利用しロールとピッチアップによる縦方向へのUターンにより味方の部隊と向かい合う形となる。

「では、陽動部隊は早速行ってきて、勿論全速力でね。
その間に私たちは大阪城をとるわ」

更にUターンし前線部隊を引っ張る形で先行するハイディ。
刹那、加速しながら空を切るように8機の空戦少女がハイディの横を通過する、エネルギーの消費を考えていない8機はすぐにハイディの視界の中で小さくなっていく。

「指揮官、後ろにいなくて良いんですか?」

軽くピッチアップし、緩やかに上昇していると、すぐ後ろに控えていた僚機が横に並び問いかけてくる。

「さっき言ったでしょ?
攻撃こそ最大の防御なりってね」

【試合開始、白チームの陽動隊が高速で敵本隊へ。
前線部隊は大阪城へ、バルーンは僅かに前進を続ける】

165 :ライカ ◆qLtaZYz21k :2011/01/03(月) 18:03:07 0
【スタートグリッド】

私は取り合えず遊撃隊のメンバーを集めた。

「…というわけで遊撃隊のまとめ役になったライカという者です。
 ゆっくり時間が取れたならよかったのですが
 この隊は先行隊なのであまり長くは時間が取れないので手短にいいます。」

「この隊では個人成績のポイントを多く稼げますが
 墜落する回数や可能性も必然的に高くなります。

 また、戦闘は主に重武装型とになると考えられるので
 防御のみでは勝つことはできません。
 どうしても落とせない場合は最低限、相手の防御装置か武器を破壊してください。

 …何か質問があれば言って下さい。」

周りを見ると特に質問はないようだった
「では、取り合えず編隊を組んで前衛についていきましょう。
 戦闘までのその間は雑談でもしながら。」

【前衛部隊にくっついて先行開始】


166 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2011/01/03(月) 21:16:19 0
>「私としてはセオリー通り始めに大阪城をとりたい、…そうだわ、陽動作戦にしましょう。
  彼女が言ってくれた作戦のアレンジね、まず速度のある何機かで本陣に突入する、エネルギー節約しないで行けば、
  相当早くたどり着くはず。そこで暴れ回れば、本隊の進行が遅れて大阪城がとりやすくなるはずだわ」

「あぅ……べんきょーになりました……」

やはりソクの提案した作戦は甘かった。彼女は両手の人差し指を突き合わせて、背中を丸める。
とは言えハイディの立案の助けにはなったようで、ソクは小さく安堵の息を零した。

「……あ、それじゃもしかしてよーどうって、ゆーげきしゅのおしごとだよね!がんばらなくっちゃ!」

両手を胸の前で握り締めて、ソクは意気込む。
自分達が満足に仕事をこなせなかったら作戦は失敗してしまう。
その事実は彼女にとってプレッシャーだったが、同時に奮起する燃料にもなっていた。

そしてゲームが始まる。
スタートグリッドに並んだソクは片膝を立て、両手をついて空を見上げた。
ゲーム開始の信号弾が上がるのを、静かに待っている。

(うわー、どうしよう!がんばらなくちゃとはいったけど、せきにんじゅーだいだよぉ!
 よーどうってなにしよう!とりあえずうえから『いちげきりだつせんぽー』でいいのかなぁ……)

だが裏腹にソクの呼吸は浅くなり、つい先日得たばかりの心臓が暴れ馬となっていた。
雑念は消え去るどころか、胸の奥から止め処なく氾濫している。
先程までの意気込みは何処へやら、スタートを目前にしてソクは不安を再発させていた。
勘違いとは言え電子の暗闇の中で一度挫けてしまった彼女の心は、今とても弱くなっているのだ。

(てゆーかわたし、このきたいでまだいちどもとんだことなかったんだ!
 「ならし」もぜんぜんしてないし!どうしよう!もし、もしうまくとべなかったら……)

心臓の鼓動は際限なしに高鳴っていき、呼吸が更に浅く、短くなっていく。
坂を転がる石のように、彼女の不安は加速していった。
自然と視線が空から足下へ墜落していく。

『――数値が色々と酷い事になってるぞ。少し落ち着け』

だが不意に、彼女の耳元に声が届いた。
一切予期していなかった声に、彼女の思考は不安もろとも失速する。

「あ……ニシダ……」

『俺が言った事を忘れたか?忘れたなら、もう一度だけ言ってやろう』

呆然とした様子のソクの呟きを掻き消して、西田は続ける。

『お前は勝てる空戦少女だ。この俺が言うんだ、間違いない。だから下らん余計な事は考えるな』

西田の言葉にソクは沈黙して、震えていた。
怯えから来る震えでは、ない。嬉しさのあまりに生じる身震いだ。
口元が自然と弓なりの弧を描く。心臓の鼓動から重々しさが消え失せて、純粋な興奮の音律を刻み出す。

『ほら、俯いてないでさっさと前を見ろ。もう始まるぞ』

「……うん、うん!」

促されて、ソクは頷いた。そして勢い良く顔を上げる。
チェッカーシグナルは正に今、煌々たる光と煙の尾を携えて空に昇っていた。
周囲の空戦少女が一斉に飛行兵装を起動する。乱雑に入り交じった轟音が響く。
やや遅れて、ソクも兵装を起動した。背部のジェットパックから青い炎が噴出して、一瞬で膨張する。
準備は万端だ。いつでも飛び立てる。

167 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2011/01/03(月) 21:17:20 0
――真紅のチェッカーシグナルが、上空で弾けた。ゲーム開始だ。
青い炎を爆発的に噴射して、超音ソクは大空へと飛翔する。

「……うわぁ」

彼女は小さな声を零した。含んでいるのは、感嘆の音色だ。
新たな機体で舞い上がった空は、これまでとは全く別の世界だった。
微かな風の流れが、抵抗が、肌で感じられる。
超高速の世界の中でも景色は溶け落ちずに、はっきりと見えた。

「すごい!すごいよこのきたい!ニシダ、ありがとー!」

大声と共に、瞬く間にソクは加速する。
大気をいとも容易く引き裂いて、風に乗って高度を上げていく。

『ちょっとー!アンタ早過ぎるんだけど!?足並みくらいは揃えて欲しいなあ!?』

不意に後方から声が届いた。ソクと同じ遊撃手部隊の僚機だ。
気が付けば、随分と遠くに置き去りにしてしまっていた。

「あ、うわわっ、ごめんごめん!」

慌てて謝って、彼女は機体を滑らせて減速。遊撃手の編隊に加わった。

>「では、陽動部隊は早速行ってきて、勿論全速力でね。
>その間に私たちは大阪城をとるわ」

「うん、まっかせといて!みんな、かくじで『いちげきりだつ』をくりかえすかたちでいいよね?」

左右に首を振って、僚機の反応を伺う。全員が短い返事と共に首を縦に振った。
全員の意思を確認した事を示すべく、ソクも一度頷いた。

「……みつけた」

赤チームの先行隊を、遥か上空から視認する。
相手に先んじて索敵出来た。エネルギーの消費を厭わず高度を稼いだ甲斐があったと言う物だ。

「きゅうこーかしながらいちげきくわえて、てききのしたをくぐってりだつ、じょーしょう……だよね」

一撃離脱の基本を反復しながら、ソクは背負った機関銃を手に取った。
目標を見定めて、彼女は急降下を始める。
理想は敵機を撃墜し、離脱。そして敵部隊の背後を取る事だ。
対象は敵の前衛と遊撃手の混成先行隊。
その中でも部隊を牽引するように飛んでいる機体、扶桑とライカをソクは標的に選んだ。

「それじゃいっくよー!くらえー!」

急降下の慣性を帯びた超速の弾丸が雨霰と、彼女達に降り注ぐ。

【急降下からの一撃離脱攻撃、陽動作戦開始】

168 :アメリア・ホーク ◆LNWJ4jNvFDrc :2011/01/05(水) 23:50:16 0
ゲーム開始の信号弾が、青空に赤い染みを落とす。
直後にアメリアは飛行ユニットから重い爆音を響かせて、大空へと飛び立った。
後衛を務める彼女は速度を抑えながら、先行隊のやや後方を飛ぶ。
主砲であるハドロン砲『BLUE CARPET』は既に安全装置を解除して、両腕で抱えていた。
臨戦態勢は万全だ。

「アレがオーサカ城デスカー?……いえ、返答は結構デース。相手の前線部隊が見えマシタ」

望遠機能を兼ね備えた双眸で、アメリアはいち早く白チームの前線部隊を目視していた。
彼女の主砲『BLUE CARPET』は超長射程を誇る。望遠機能はそれを最大限活用する為の物だ。
また空戦少女には常に武装は三つまでと言う制限が課せられている。
だが米国ではルールを守りつつも対戦相手を出し抜くべく、機体そのものに機能を付加された空戦少女が多々存在する。
アメリアもまたそのように、反則の境界線上に片足を乗せていた。

「勝てばいいんデース。勝てば。マンガ風に言うなら『勝てばよかろうなのデース。
 モラルやフェアプレイなどどうでもよいのだァー』って感じデース」

嫌味を帯びた笑みを浮かべて、アメリアは『BLUE CARPET』を構えた。
魔物の口腔を彷彿とさせる銃口の先には、白チームの前線部隊がいる。
だがアメリアは後衛だ。彼女と敵の前線の間には当然、味方の先行隊がいて、

「ヘイガールズ、ちょっとどいて下サーイ。……さもなきゃ蒸発シマスヨー?」

それでもお構いなしに、アメリアはハドロン砲を発射した。
味方が巻き込まれるとは考えていない。これくらいは避けられて当然だと考えているのだ。
収縮された蒼い光彩が奔流となって、青空を駆ける。
彼女は敵チームの機体を、言葉通りに蒸発させるつもりだった。
これもまたモラルを度外視した、勝利のみを見据えた戦法だ。

「このゲーム、墜落しても復活出来ますケド……機体ごと消し飛んだらドウナンデショウネー?
 私はスペアのボディも当然用意してありマスガ、皆が皆それが出来る訳じゃないでショウ?」

とは言えアメリアと白チームの前線には結構な距離がある。
故に威力を維持するべく、『BLUE CARPET』は収縮率を高めて発射されていた。
不意の出来事に狼狽しなければ、回避は十分可能だろう。
それでも成功すれば、そうでなくても白チームの面々に怯えを刻み込めれば、後の戦闘が格段に有利になる。

169 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2011/01/05(水) 23:53:02 0
>「それじゃいっくよー!くらえー!」

降り注ぐ弾丸と、白と黒の線が視界を縦断した。
重い銃声が、奇襲されたのだとアメリアに告げる。

「ホワッツ!?奇襲デスカ!?……Shit!見失いマーシタ!」

敵機はアメリアが驚愕に意識を囚われた一瞬で、既に離脱を果たしていた。
上空を見回してみるが、視認出来ない。
『BLUE CARPET』にちらりと視線を戻して、アメリアは一瞬逡巡した。
白チームの先行隊はもう直に敵の前線部隊と戦闘を始める。
大火力を有するアメリアのすべき事は当然、自軍の援護だった。
だが上空へと逃げ去った敵の遊撃手――超音ソク達も無視は出来ない。
放っておけばソク達は好き放題に自軍を掻き回してくるに違いない。

「……厄介デスネー。こっちの遊撃手は……呼び戻したら前線が崩れマース」

アメリアは黙考の末、静かに呟いて嘆息を零す。
そして『BLUE CARPET』を背負い、代わりに『FREEBOM』と『Pain Cover』を手に取った。

「やってやろうじゃアーリマセンカー。面倒事は私がやってやるデース。
 だからせめて、あのちっぽけな城を取るくらいはちゃんとして下さいヨー?」

素っ気なく、アメリアは自軍に告げる。
奮起させるつもりなどではなく、本心からの言葉だった。
だからこそ彼女の声には、味方に対する見くびりの響きが含まれていた。

「さーて、降りて来られるモンなら来てみやがれデース。蜂の巣にして吹き飛ばしてやりマース」

そう言って、アメリアは上空へ『Pain Cover』を放つ。
目的は撃墜ではなく相手を面で制圧出来る散弾による威嚇射撃、牽制だ。

【敵前線へハドロン砲。蒸発とか言ってるけど成功しなくてOKデース。てゆーか成功したら困っちゃいマース。
 上空へ逃げた超音達に散弾で牽制】

170 :超音ソク ◆kumtjTemMs :2011/01/05(水) 23:56:04 0
あちゃ、やっちゃった
ごめんよー。人少ないなーって、ついやっちゃったんだ
でもどっちも楽しいし、このまま参加継続したいな
マズかったら次からはNPCとして扱います

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