1 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/07/10(火) 00:15:48 0
解き放たれた世界は、終わらない物語を紡ぐ 

それは人と龍と獣の…果て無く続く闘争の叙情詩 


【物語は】ETERNAL FANTASIAU避難所【続く】 
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1162818589/  
参加に関してはこちらで相談をお願いします

2 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 00:27:18 O
ギガ・デビルチンポアターーーック!!!

3 名前:閑話休題[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 00:49:44 0
「やぁ、また来たのかい?昨日の続きかい、昨日はどこまで歌ったっけかな?」
とある街の公園でリュートを片手に吟遊詩人が少女にせがまれ歌を歌う。
遥か、遥か昔の冒険譚、人がまだ剣と魔法とそして・・・・・・・・・・
「〜♪勇気を持って〜」
それは世界を駆けた冒険者達の物語、そして神話の創世記の物語、
「今日はここまでにしようか・・・」
夕暮れ迫り少女を家路に帰す吟遊詩人、見上げる空には紅き流星、手には今は名も忘れられたリュート
帽子を深めに被り、自分も宿へと向かう、腰にぶら下げるは異形の対の剣と銃、
物語は終わらない、始めようか、明日へと繋がるこの物語を・・・・・・・・・・


4 名前:ジンレイン ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/07/10(火) 17:12:49 0
怪物は一旦飛び去る。しかし彼が退くつもりでない事は私にも分かった。私たち二人を嬲る気か。
敢えて真っ向撃ち合う義理はない、ラヴィを連れて屋内へと避難する。
「待ってよ、アンナちゃんが」
「知るか!」
民家の、固く閉ざされた雨戸を蹴破ると、倒れた女にすがろうとする彼女を強引にねじ伏せ、抱えた包丁箱ごと放り込む。
ハイフォードでゴミムシに売るより先ず私が殺しておけばよかった、なんて後悔させて欲しくはなかった。
いきなり腕を押さえられて動揺したラヴィは軽かった。抵抗する間も与えず、血みどろの床へ引き倒す。
この家は襲われた後だ、いっそ死体に化粧して身代わりでも立てようか。中を見回してがっかり。
アクアノイドの襲撃を受けた家は床も壁も天井も、食い散らかしで汚されていた。
寄せて集めて何人分になるのか、とにかく人間の形をしていないのでは案山子にもならない。
転がる手や足を乗り越えて、奥の部屋へ。窓を覗く。裏路地、狭く、ごみごみとした――使えるだろうか。
小さな家。間取りは単純だ。邪魔そうな家具を簡単に移動して、室内にも逃走経路を確保する。

呪符を張り、操術を巡らす。今の時間で出来得る限りの、最大の防御だった。
盾を使って敵の火力を押し測る必要があった。でも多分勝ち目はない。シャミィはセイファートと一緒だ。
「あれも喰えるの?」
後ろを振り返ったらラヴィが居ない。慌てて雨戸から彼女を探したら、女の身体を物陰に隠しているところだった。
今すぐジェネヴァを引っ張ってきて三枚下ろしにしたい気持ちを堪えつつ、
「そんなの、すぐ見つかっちゃうわよ」
ラヴィは答えない。まだ空襲の気配がない。姿のそれと見えた頃には時遅く、とはなりたくない。
仕方なくラヴィを手伝い、ラヴィがアンナと呼ぶ女を家に運び入れた。

盾の下へ逃げ込むまで本当に気が気でない。
命取りの一瞬が終わると、私は詰まっていた息を吐いた。魔法結界の仕上げに取りかからねば。
いやに落ち着いた様子のラヴィが、意識がないままのアンナをベッドの下に隠す。
「その人、怪我でも?」
「ううん、でも起こしたくない。起こすと面倒増えるから。それに、まだこの子のこと全部許せた訳じゃないし」
「あっそう」
ラヴィは母親が子供にするみたいにキスをして、ようやくアンナから離れた。
「必ず迎えに来るから、待ってて」
センチメンタリズム。どうして女とは、かくも割り切れないものなのだろう。
彼女を心中密かに軽蔑すると共に、自己嫌悪。
ロイトンへの道中私はずっと、あの触角エルフの愉快な殺し方を考えて暇を潰していたので。
それでもって今度は馬だ。
男を女に奪われるのとケダモノに奪われるのと、どちらがマシが、私はまだ考えあぐねていた。

5 名前:ジンレイン ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/07/10(火) 17:13:45 0

最後の呪文を唱えると、屋内の空気の流れがにわかに滞った。
外からでは、薄ぼんやりとした光の皮膜が建物を覆うように見える筈だ。
孤立無援のまま、空襲を待たねばならない。
馬車から見る間に好き勝手散っていった仲間たちを呪う。
「あれは何?」
私の質問に、ラヴィはただ首を横に振っただけ。説明する気はないという事か。
「あなたの敵?」
「……分からない」
「あなたにとって敵?」
「……もちろん」
「殺せると思う?」
「殺してやりたい」
「公国十二貴族のトーテンレーヴェ。投げつける手袋が欲しい?
私は逃げる。あの有様で、まともな殺し合いなんか期待できやしない。喰われるのがオチよ」
「アイツをアンナちゃんから引き離したら、私は戦う」
「どうして?」
ラヴィに睨まれた。

建物が軋み始める。来たかと思い、私とラヴィが剣を取るなり、屋根が吹き飛んだ。
覗けた青天井からトーテンレーヴェの異形の影が現れるや、呪文を撃つ。
呪文に反応して膨張した結界が怪物を打ち据える。宝石の鱗が散った。
が、怯んだのはほんの一瞬で、身に余る翼をひるがえして飛び退ると、爪で結界を抉った。
いとも簡単に破かれる結界を、弾けてしまう前に呪文で解き放つ。
先よりも強い衝撃で、彼を私たちから引き離した。

ラヴィに目配せ。せめて大路は避けろと言おうとするも、流石に自明か、彼女は裏路地に続く窓へ飛び込んだ。
私も続く。敵の身は思うより脆く、しかし致命傷は避けようとするだろう。
結界をまともに喰らったのは、あれが取るに足らない微弱な反撃だからだ。
本気で魔法の撃ち合いをすれば、人間の私に勝算はない。路地を駆け抜け迷路に逃げ去る。
ラヴィの包丁箱が揺れる音も、すぐに聞こえなくなった。羽音はまだ近い。
心細くも煙幕を張る。砂煙が私の姿を、ほんの僅かでも隠してくれれば良い。
海から逃げるように走る。港湾地帯は道幅が広く、見通しも利く。逃避行には不向きな条件ばかり。
港から離れた、酒場や安宿の立ち並ぶ宿場町の界隈ならトーテンレーヴェの幅広な翼を防いでくれる。

二分ばかり走り通して、いよいよ袋小路に行き当たる。
大慌てで引き返し、元来た道へ出る私の前を、見覚えのある二人が通り過ぎた。
汚れた白衣の中年男と、怯えた様子で彼に続く若白髪の少年。思わず引っ込む。
ラヴィを追っているらしいトーテンレーヴェの羽撃きの音に向かって、眼鏡の男が事も無げに歩いていく。
隠れている私の足下に白衣を脱ぎ捨てる。男の細身に、張り付くような黒い革の鎧。
片腕にはめられた見慣れぬ白い篭手。
篭手に載せられた重々しい機械は事象変換機(キャスター)にも似ているが、違う。
旋盤もカートリッジの挿入口もない。羽撃きが近付く。眼鏡の男、エドワードが腰を落として身構え、叫ぶ。

6 名前:東風のエドワード ◆LhXPPQ87OI [sage最後です] 投稿日:2007/07/10(火) 17:14:22 0

「『東風(ドンファン)』!」

颶風をまとって、エドワードが跳躍する。ルドワイヤンとジンレインを後に残し、彼は「魔物」を狩りに出向いた。
傲慢の魔物がセフィラに二匹、重複分はトーテンレーヴェに憑いた片一方ががめてしまった。
「魔物」は単なるサクラだ。首の鈴が外れたようなら狩らねばならない。竜殺しの竜を放つ。
人間離れしたジャンプで屋根々々を踏み越して接近し、「傲慢の魔物」の背後を獲る。
エドワードは一動作毎に、思考に走る放電のようなノイズと激情の波を感じた。
機械――「オリジンスキャナー」からのフィードバック。
世界律の支配が、片腕に荒くれる魔物を制御してくれる。
精霊獣のもどきにしては良く働く。ドンファンはエドワードと完全な同調を見せていた。
そして「スキャナー」は、メダリオンのようには飼い主を呑まない――エドワードもまた「スキャナー」の親だからだ。
セフィラの晩年に授けられた武器、想いの力が新たな「魔物」を造り出す。

「所詮は同じ『力』、世界を滅ぼした精霊力も、龍も、『想いの力』も、貴様ら『魔物』も」

ラヴィを追う魔物に躍りかかり、組み付く。
奇襲にたじろぐトーテンレーヴェの首と翼の付け根へ、エドワードがミスリル弦を巻きつける。
「全て使い様だな」
トーテンレーヴェが咄嗟に魔力を放出し、背中にまたがる襲撃者を衝撃波で剥がした。
眼鏡を失ったエドワードは魔物の翼に絡まったミスリル弦を手繰りながら、ただ自身の落ちるに任せた。
エドワードに引き摺られ、トーテンレーヴェが空中で体勢を崩す。
張り詰めた弦が首に食い込み、一気に動脈まで斬り下ろす。血飛沫、怨敵の異変に気付いたラヴィが引き返す。
「誰……!」
躊躇は無かった。包丁箱をぶちまける。なおももがき続けるトーテンレーヴェの心臓目がけて「黒揚羽」が飛ぶ。
刃は龍人の鱗を貫き、断末魔。トーテンレーヴェとエドワードは路地に墜落した。ラヴィが駆け寄る。

「大丈夫!?」
うつ伏せになっていたエドワードはひょいと起き上がると、ラヴィが近付くより早くにナイフを抜いて敵を探した。
血だるまの龍人の死体が通りを挟んで向かいの屋根にぶら下がっている。
トーテンレーヴェの死体からは爪も翼も消え、千切れかけた首だけが格闘の最中と同じだ。
「殺ったの?」
屋根の死体の、垂れ下がった腕だけがびくり、と動く。
「いや、まだ」
動いた腕は目にも留らぬ速さで己の胸を掻く毟ると、「黒揚羽」をエドワードに返した。
二本とも軽くナイフで撃ち落す。すると見る見る内に、死体が息を吹き返していく。
ラヴィの前に姿を現した瞬間と同じ、膨大な魔力の発露が風を起こす。
新たな翼が背の肉を破って突き出し、爪は刀のように鋭く伸びる。ラヴィは包丁を拾い、エドワードも構えた。
ふと、手にしたナイフを見る。黒包丁と打ち合った刃は折れ曲がっていて、使い物になりそうもない。
しかしラヴィの包丁は変らず、傷一つないまま。エドワードはおずおずとラヴィに申し出る。
「もし良ければ、その包丁を一本貸してはもらえませんかね……」
ラヴィは逡巡するように二振りの包丁を代わる代わる眺めるが、最後に溜め息一つ、
「ごめん! これはやっぱり人には貸せないんだよぅ……」
「それはまた殺生な」
エドワードは折れたナイフを捨て、腕の「オリジンスキャナー」ひとつに頼るに決めた。
ラヴィに逃げろとは言わない。半端に逃げられ、死なれたところで後味の悪いだけ。
『これはまた、人間風情が私にご無体を』
トーテンレーヴェは肉体の修復を終えた。怒りで強張る敵の表情を、エドワードはせせら笑う。
「お目覚めは如何で?」

7 名前:異説・人魚姫3 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/10(火) 22:43:27 0
真っ直ぐに振り下ろされた初撃を横飛びで避け、戦いは始まった。
トライデントが水底に突き刺さり、巻き上げられた砂が舞う。
「大人しく妾の糧となれ……間もなく人の世は終わりを迎える!」
間髪入れずに繰り出されるトライデントを、剣を翻し払いながら刻むステップは
三拍子のリズム、【躍動のワルツ】。組みあがると同時に全身を白い輝きが走る。
「終わらせない!!」
水底を蹴り、高く跳ぶ。水中を舞いながら秒速300回の斬撃を放つ!
メイズウッズ流舞踏剣術――エアリアルレイヴ!
水中なのにエアリアル? という突っ込みは禁止!
「どうだ!?降参したら特別に許してやる!」
再び水底に降り立って剣を構えなおす。
許す許さない以前にこのまま死なれたら多分僕も溺れてしまうのである。
人魚は下を向いて震えていた。
その身に纏う蒼麟の鎧が砕け散り、水中に真紅の筋が流れている。
降参ムードである。きっとそうだ、そうに違いない。
が、人魚が顔を上げた時、自分がとんでもなく甘すぎた事に気付いた。
怒りに歪んだ顔は、醜いのに美しかった。怖い、最強に怖い……!
「おのれ……!!滅茶苦茶にしてやる……!!」
解き放たれたのは、植物のアニマ、《緑葉》のエブロサルの力!
どこからとも無く伸びてきた直物がまとわりついてくる。
でもここは海中である。そう……ワカメやコンブだ!
ワカメ相手に精霊力中和をするまでもない。剣を一閃して切り払った……はずだった。
が、しかし。あろうことかワカメが切れずに剣に巻きついていた! なんてことだ!
「あああれええええええええええ!?」
僕はあっという間に無限に増えるワカメにぐるぐる巻きになって締め上げられる!
身動きが取れなくなった僕に、人魚はゆっくりと近づきながら静かに告げた。
「世界を隔てる壁は無くなった……間もなくエクスマキーナが帰還する……。
人類は真っ先に滅びるであろう……」
「でも……それじゃあ貴方たちも……滅亡するんだよ!?」
長々と冥土の土産話をするぐらいの相手だ。
僕は時間を稼いで脱出のチャンスを狙うべく質問攻めにする事にした。
「妾は世界がどうなろうが知ったことではない」
「え……?」
彼女の次の言葉は、とんでもないものだった。
「妾はな……人類が滅びる瞬間を見てみたいのだよ……」
“人類が滅びる瞬間を見てみたい”確かに彼女はそう言った。
気のせいだろうか、その横顔は深い悲しみに沈んでいるようにも見えた。
「……どうして……そこまで……」
彼女は無言で、精神のアニマを展開する。
全身を拘束されている僕は、なす術も無く術が見せる幻影に取り込まれていった……。

――それは、美しき人魚の女王の物語……。
「あなたも戦争に行く、ですって!?」
人間の青年に向かって、悲鳴のような声をあげる人魚。
「私は人魚族の女王なのよ!! あなたはただの人間!
あなたに何かあったら……私は……私は……!!」
青年は、取り乱して泣き叫ぶ人魚を抱きしめた。
「ヒムルカ……この戦争が終わったら……結婚しよう」

そして彼女は戦場に赴く……。自らを待ち受ける運命を知らずに。
――七孔墳血
目を覆うような血の海の中、人魚の女王は息絶えた我が子を抱いて慟哭した――

力尽きて倒れ伏した美しき人魚の元に現れる黄金の仮面の人物。
『汝は復讐を望むか?人魚の女王よ』
「望みません……これで良いのです……」
彼女は悪魔の誘惑を拒んだ。必死で拒もうとした。
しかし、時の調停者が仕掛けた巧妙な罠に、抗いきる事は出来なかった……。
『汝の想い人は他の女と結ばれた……もう一度聞く。汝は復讐を望むか?』

8 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2007/07/11(水) 22:38:51 0
ファンタジスタ

9 名前:異説・人魚姫4 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 23:52:09 0
僕はなんとか目を覚ました。一秒ほど気絶していたようだ。
と、巨大なフォークが目の前に迫っていた!食われる!
「そぉおおおおい!!」
ワカメで簀巻き状態のまま回転し、両足で人魚の顔面に蹴りを叩き込む!!
「なっ!!」
予想外の反撃にたじろぐ人魚。ワカメ包囲が解けた!
「妾の顔を蹴ったな……! 爺にも……蹴られた事は無いのに!!」
人魚は、餌に反撃を食らった怒りのあまりか訳の分からない事を口走りながら
半狂乱で襲い掛かってきた! 第二ラウンド、開始――!

今度は、避けなかった。この人の過去を見てしまったから。
突き出された矛を、正面から受け止めた。腕に重い衝撃が響く。
「あなたはヒムルカっていうの? あなたが人類を恨む理由、分かったよ」
ありえない事に、間近で見る彼女の顔は、狂気に歪んでいるのに相変わらず美しかった。
「分かったならおとなしく食われろ!」
三又の矛を滅茶苦茶に振り回しているのに、どこか舞のよう。
僕は性懲りもなく喋っていた。攻撃を捌くのがやっとだというのに。
「でも……あなたは間違ってる!!」
「間違ってるから何だというのだ!?
貴様のような甘ったれた小娘に……妾の苦しみが分かってたまるかあああ!!」
悲鳴のような絶叫と同時に、水中を凄まじい電撃が走る!!
「うわああああああっ!!」
全身を貫く衝撃に、投げ出されて仰向けに倒れる。それでも、握った剣は放さなかった。
「詰まらない戦争を始めたエルフが憎い!! 我が子を奪った龍人が憎い!!
妾を裏切った……人間が憎い……!!」
その体勢のまま、突き立てられようとした矛を受け止める!!
「だからって……食い殺していいの!?
自分が不幸だからって不幸にしていいの!? そんなの絶対間違ってるよ!!」
痺れる腕で必死に剣を支えながら力の発生源を探した。
装備品か、体の一部か、それとも……。
「なんてこと……」
アニマは彼女の体に完全に融合していたのだ……。だから、僕は決心した。
この手で終わらせる。それが、先祖がしたことの、彼女へのせめてもの償い……。
痺れが消え、足を蹴り上げて後ろ周りで起き上がる。
「うるさい……黙れ黙れ黙れ!! 森から出てきた汚らわしい猿め!!
生意気な口を二度と利けないようにしてやる!!」
人魚の女王が、開いているほうの腕を一振りすると同時に、無数の氷の針が放たれた!
「ごめんなさい……そうなるのはあなたの方だ!!」
精霊力中和の霊法を組上げると、氷は砕け散って解けた。
「この妾が……貴様ごときに負けるだと!? ふざけるなああああ!!」
手に持つ矛を投げ捨て、両手を大きく上に掲げて光の槍を生成し始める。
「だあああああああッ!!」
この距離だと一か八か、だけど今しかない! 僕は剣を両手で真っ直ぐに構え、突進する!!
「お前が憎い……!! 妬ましい!! 一度堕ちたくせに……!
なぜそんなに真っ直ぐな目をしている!? なぜそれ程多くの仲間に愛される!?
妾は……部下は死ぬほどいても仲間はただ一人だというのに……!!」
怒りに燃える瞳の奥に潜むは、狂気と……悲しみと……
人類への復讐を誓う、今は亡き我が子への歪んだ愛……。
心に開いた空洞は幾人の人を食らっても食らっても満たされる事は無い……。
「ごめんなさい……!!」
光の槍が完成するより、僕の剣が到達する方がほんの少し早いようだ。
一瞬だけ、相手が安堵したような表情をしたように見えたのは、きっと気のせいだろう。
そして……僕の剣は……人魚の女王の心臓に――――

10 名前:空魔戦姫の歌 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 23:19:30 0
ルシフェルの澄み切った瞳から、涙が堰を切ったように溢れ出す。
「……貴様のせいだ……貴様とずっと一緒にいたせいだ!」
「涙は弱さなんかじゃないよ」
セイファートはルシフェルの肩を抱く。
「セイファート……私は、どうすればいい……」
幼い少女のように震える声で呟くルシフェル。
そこにいたのは、空魔戦姫に仕える戦乙女ではなかった。
姿は違えど、紛れもなくシルフィールそのものだった。
「お前のしたいようにすればいいさ」
シルフィールは、弱々しい微笑みを浮かべ、今にも消えそうな声で告げた。
「君と一緒にいたときは本当に楽しかった……。できるなら……ずっと君の翼でいたい」
微笑みはすぐに消え、今にも壊れてしまいそうな泣き顔になる。
「でも無理だよ……できないよ!
この翼がある限りどうあがいたって私はリリスラ様の部下なんだ!!」
「シルフィール!!」
その時、再びリリスラの歌が響き始めた。シルフィールが悲痛な叫びをあげる。
「セイファート……お願い、逃げて!! 私は……この歌に……逆らえない……!」

リリスラは、二人の様子を遠くから見ていた。しかし、手は出そうとしなかった。
最も信頼をおいた忠臣が自分を裏切ることなど有るはずは無いと信じているから。
リリスラは歌う。眷属達の迷いを断ち切るための歌、自分が信じる歌を……。

――ロイトン海岸――
空魔戦姫の歌が響く。全ての空の眷属達を狂戦士へと変える歌だ。
この歌を聞く者は、痛みも恐怖もなく我が身が朽ち果てるのも省みず
攻撃をし続け、最後には壮絶な死を迎える……。
それがリリスラの強さ、たくさんの犠牲の上に立つ強さ……。
リリスラがレベッカを挑発する。
「そろそろいいだろ? お前の歌を聞かせてくれないか?」
レベッカが辺りを見回すと、見るも無惨な鳥人達の死体が無数に横たわっていた。
「こりゃあすごい、大したもんだよ」
上空のリリスラを真っ直ぐに見据え、言い放った。
「でもね……アタシはアンタの歌が大っ嫌いだ!!」

11 名前: ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 00:24:01 0
「何故・・・・皆戦ってるのかなぁ?」
そいつは街の惨状を人事の様に見つめていた。
「と、言うか・・・・私は誰だろう?」
そいつはあまり困ってなさそうな顔・・・・顔があったらそんな顔しているであろう仕草をした。
ぼぉぅっと空を見上げる。
「綺麗だなぁ・・・・・・」
そいつには戦火が花火にでも見えるのだろうか、燃える空を眺めた。
瞬間、先程から聞こえてくる歌声が一層大きくなったような気がした。
ザシュウウウウ・・・・・・
そいつの肩口から腹部にかけて鋭利な刃物が斬りつけられる。
だが、そいつはまったく気にしない、それどころかその凶刃を振るった鳥人を見つめ、
「何か、ご用でしょうか?」
と見当違いな質問をする始末
「ガアアアアアア!!」
狂戦士と化した鳥人を首を傾げながらほおり投げ、歩き出す。
「お腹すいたなぁ・・・・・」
ふらふらと目的も無しにうろつき回る。
そうすると、何やら見覚えのある様な建物に辿り着いた。
そこではその建物の主と思わしき人物達が果敢に空から陸からくる襲撃者達を追い払っていた。
その様子を見ていると建物の中から何かが飛んできた。
「化け物め!!それでも喰らえ!!」
反射的にそれを受け止める。そしてまじまじと見つめた。
どうやらビンの中に何か液体が入ってるようだ。先程の言葉を思い出す。
(それでも喰らえ・・・・・つまりこれでお腹を満たしなさいと言う事か・・・親切な人がいるものだ)
飲んでみる、瞬間カッと目が見開いた様な気がした。
「・・・・美味い!!」
『えぇええええええ!!聖水だぞソレ!!』
思わずその場にいた人間、鳥人、アクアノイド全てがそいつの行動、台詞に驚愕した。
だが、そいつはそんな事は気にせず、ビンをほおり投げた人物に近づいていった。
「ご馳走様でした」
「あ、いや、どうもいたしまして・・・・」
「ところでお聞きしたい事があるのですが?」
「なんでしょうか?」
「私はいったい誰なんでしょうか?」
「いや、スライムなんじゃないかなぁ?」
そいつは女性の形をした無色透明の人形だった。
「成程、私はスライムと言う名前だったのですか・・・・」
「いや、それ、種族の名前だから・・・・」
いい加減にしろと突っ込みを入れる代わりに狂戦士達の雄叫びが上がった。
「ウルサイなぁ・・・・・とりあえず、さっきのお礼にぶったおすか」
そいつはコキコキと間接を鳴らし(仕草だけし)ながら目の前の猛った猛者に対峙した。

12 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 19:44:39 0
地上3万m
エクスマキーナが喋った。この事に一番驚いたのは、やはりレシオンだった。
「な…何が起きたのだ!?何故エクスマキーナが…貴様の声で喋るのだ!グラール!!!」
 ∵お前が我を待望んだように、我もまたお前を待望んだのだ。正確にはこのアニマをな∵
エクスマキーナの身体が収縮を始めた。みるみる内に人間大のサイズとなる。
 ∵使徒と戦うには剣が要る。だから“返してもらった”ぞ?我が剣『モトボス』を∵
完全に消え去ったエクスマキーナのいた場所に悠然と構えるは、十剣者グラール!!

四対八枚の翼に獅子の体躯、両肩から伸びる尖角は威風堂々の体現か。
獣神キマイラ…かつて世界の始まりに野を駆ける獣へと、知恵を与えた古き神が甦ったのだ。
『全ての責は我に有る。故に我が始末を着けねばならぬ』
「あなたは知らなかったようね。このセフィラが“廃棄された十剣者の墓場”だった事を」
メイがレシオンを憐れむように語りだす。獣と龍の間に隠された真実を。


 かつて世界樹が芽吹き、幾多のセフィラが生まれた創世期。役目を終えた十剣者を廃棄する場所があったの。
そこは生物なんか一切存在しない、荒野がどこまでも続く死の大地だったわ。1人の十剣者がやって来るまではね。
その十剣者は葬られた仲間を慰めるために、世界に命を与えたの。それが《最深部》の意思に反すると知ってても。

程無くして世界には美しい自然が溢れ、動物達が豊かに暮らす楽園が広がっていったわ。
全ての生命の母となった十剣者の名はアミル、わたしと同時期に造られた、最初の十剣者よ。
《最深部》も渋々ながら許可を出して、何もかも上手くいっていた。少なくともアミルはそう信じてた。
このセフィラに、《創世の果実》が実ったと知るまではね…

あなたも大罪を受け入れたなら理解しているでしょ?何故大罪の魔物というシステムが存在するのか。
そうよ、いずれはこの世界樹も枯れて果てるわ。その時新たに世界樹となる存在、強い意思の結晶体が必要なの。
次なる数多の世界を築くためには、何よりも強い意思…つまり欲望が最も適しているからよ。
だけどそれはあまりにも早過ぎた。まだ枯れたりしない世界樹は、《創世の果実》を隠そうとしたわ。
このセフィラにもう1人の十剣者を派遣して、住人である動物達に戦う力を与えた。
その十剣者がグラール。そうよ、それが獣人の誕生の真実。

やがてこのセフィラに残りの8人もやって来たわ。バレたからよ、果実の存在が大罪の魔物にね。
現われたのは貪欲の魔物、祖龍アンティノラ。八百万の軍勢を率いて、十剣者と獣人に戦いを挑んだ。
結末はあなたも知る通り、アミル達と獣人は負けたわ。皆力を使い果たして死んでいった…

13 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 19:46:47 0
『ここからは我が話そう。レシオン、お前にも深く関わる話だからな』
「なるほど…神の到来か…」
『いかにもその通り、お前達エルフが歩むべき道を誤った真の理由だ』
レシオンは先程から何かを考え込むように、メイの話をおとなしく聞いていた。
おそらく彼も知りたいのだろう。エルフ誕生以前の時代に、闇へ葬られた真実を…


 祖龍を除き、星の龍は最初12匹だった。我らと戦い、龍もまた傷付き倒れていったのだ。
永きに渡る戰の終わりに、アミルは祖龍を世界から切り離した。コーコースの力を使ってな。
アミルも、8人の十剣者も、皆倒れた。残るは我1人、命を取り留めたは我唯1人だった。
生き延びた獣人は東の辺境へと追いやられ、龍の時代が始まった。
その時に我は剣を一度捨てた。セフィラと獣人達を守ることが出来なかった悔悟に、我は負けたのだ。
数多の世界を巡り、我は逃げ続けた。この十剣者不在の10万年が、今起こりつつある全ての元凶だった。

龍は我の剣を使い、世界律を書き換えることに成功した。更には世界を作り替えようとすらしたのだ。
お前も知っていよう、そうだ…イルドゥームだ。
結果としてイルドゥームは暴走し、世界は新たな法則が支配した。精霊という名の支配がな。
龍の文明は半ば滅び、後はただ世界の終わりを待つばかりとなった。
アミルは《最深部》にて蘇生を終え、すぐさまイルドゥームと戦った。我もその時帰還して十剣者と共に戦った。
史実では神々の来訪はイルドゥームが封じられた後だが、それは違う。
不安定な世界の隔壁を破り、一隻の舟が不時着したのだ。それこそが神々の方舟、滅びた世界からの難民達だよ。


「バカな!?神々が他の世界から来た民だと!?デタラメを言うな!!」
レシオンがグラールに詰め寄った。古きエルフにとって神の存在は崇高の極み。
大罪を受け入れ、破滅の使者となってもそれは変わらない。神と精霊は信仰の対象だった。
『デタラメなどではないと、お前も薄々気付いていただろう?神など存在しなかったのだよ』
「バカな…そんな……では我々エルフは何なのだ!?唯の人間を優れた種族へと
生まれ変わらせられたのは何故だ!?そのようなことが、出来る筈がないではないか!!」
グラールに食って掛かるレシオンを憐れむようにメイが言った。
「神々…レトの民は優れた文明を持っていたの。魔法よりもずっと優れた《科学》
という文明をね。その1つが《遺伝子》よ。あなたには理解できないでしょうけど」
メイは手に持った携帯電話を見せながら、話を続けた。


 レトの民は優れた文明を持っていたけれど、結局は自分達の文明によって滅びたの。
大罪の魔物と戦う時に、禁断の炎を使ったのよ。その炎は消えた後でも生物を殺し続けるの。
住む世界を失ったレトの民は、ある計画を実行したのよ。それが《方舟計画》。
内容はいたってシンプル、よその世界に住んでる人や生物を、レトの民の世界と同じものに作り替える…
つまりあなた達エルフはね、計画の初期段階で生まれた“規格サンプルの1種”だったって訳。
選ばれた存在なんかじゃない、唯の実験台だったのよ。結局は遺伝子変換率が悪過ぎて計画は中止になったみたいだね。


14 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 19:48:57 0

 《方舟計画》を中断したレトの民は、今までとは別のアプローチを試みたの。それがアニマよ。
本来レトの民は実体と非実体の中間に位置する、特殊な生体構造を持つ種族でね、
アニマと融合したエルフを媒介に素体を作ろうとしたのよ。そのためにあなたは選ばれた。
レトの民は魔法を使うことが出来ないし、精霊を制御してアニマを完成させる“駒”が必要だったから。


「……だ……そだ……嘘だああああああああっ!!!!!!」
レシオンは絶叫した。絶望の叫びだった。自身の存在を根底から否定されたかのように…
「遺伝子変換率が悪かったせいで、エルフには『人格に何らかの欠陥』が発生したわ。
特に顕著な例があなたよ、レシオン。極度の誇大妄想、歪み過ぎたプライドが、あの戦争を起こした…」
「黙れッ!!!」
「挙句には大罪の魔物にたんまり餌まであげて、未だに世界を支配しようと企んでるし」
「黙れ黙れ黙れッ!!!!!!」
がむしゃらに《絶滅》をばらまくが、メイには当らない。
「無駄よ、貪欲の《絶滅》は設置型。わたしの剣『アカマガ』は設置型を潰すための剣」
メイは『グルグヌス』を虚空へ納めると、腰に差した2本の刀を抜き放つ。

「さあこれで終わり。世界の真実を教えてあげたのは、せめてもの情けよ」
アカマガの刀身が数万の糸状に分裂し、一斉にレシオン目掛けて襲いかかった。
が、レシオンは何かをブツブツと小声で呟くばかり、避けようともしていないではないか!
「…?…うわッ!?」
一筋の光条がメイの肩を撃ち抜いた。鮮血が舞い散り、弱々しい重力に逆らい揺れている。
「攻撃!?グラール、一体どこからよ!?」
「地上だよ、十剣者…」
くすくすと含み笑いと共に、グラールではなくレシオンが答えた。
「先の《絶滅》は別にお前達を狙ったものではない。地上に向けて撃ったのだ」
地上から3万mの上空にいるメイ達を攻撃可能な存在、心当たりがある。
間違いなく《世界樹の使徒》だ。
「グラール、お前は言ったな?“使徒と戦うには剣が要る”と。つまり叛逆者という訳だ」
続けて数百もの光の槍が迫って来た。《世界樹の使徒》が放ったものだ。
「くっ!うっとうしいッ!!」
レシオンを攻撃しようにも、使徒の砲撃が邪魔で距離を詰めることが出来ない。
アカマガを伸ばすも、光の槍に撃ち抜かれてしまう。《世界樹の使徒》の砲撃は、更に激しさを増した。

まるで土砂降りの雨のように飛来する光の槍に、メイとグラールは防戦一方となってしまった。
にもかかわらず、レシオンには全く光の槍が当っていない。
何故なら、レシオンは既に反撃を開始していたからだ。
メイとグラールは、その術中に捕らえれている事にまだ気付いていなかった。

15 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 19:50:31 0
23日前
激突が繰り返され、大地が悲鳴を上げる。既にそこが村だった面影など全く無かった。
イェソドが剣を振るい、ゴードはそれを躱し、またイェソドが剣を振るう。
互いに決定打を与えられないまま、戦いが始まってから約1時間が過ぎていた。
ゴードも馬鹿ではない。迂闊に《絶滅》を使えば、バランダムの能力に返される。
置換する位置の予測は出来ない訳ではなかったが、リスクが大きかった。
先の自滅にて溜め込んだエネルギーの半分近くを失っている。
これ以上の消耗は何としても避けたかった。ゴードには目的がある。
いや、ゴードだけではない。大罪の魔物ならば皆が持つ、最終目的があるのだ。

《創世の果実》を得て、新たな《世界樹》となる。

これは強迫観念に近い。ゴード自身は新たな《世界樹》になる事に興味は無い。
しかしこれは逆らうことが出来ない“仕組み”なのである。
大罪の魔物の存在する理由は、やがて枯れ果てる《世界樹》の代わりに新たな《世界樹》となること。
そしてもう1つの理由、《世界樹》の枯渇を防ぐために、世界を“間引く”ことだ。
大罪の魔物が世界を滅ぼすのは、増え過ぎた世界を“剪定”しているのと同じことなのだ。
故にゴードは望む望まざるに関係無く、《創世の果実》を目指す。
どうやら既に他の魔物は果実の場所を突き止めているようだった。急ぐ必要がある。
「クソ野郎が…いい加減にくたばれ!!」
右脚の蹴りを囮にして、イェソドの左側面から横殴りのフックを叩き込む。
直撃した。そう思ったが、イェソドは肩を締めてガードしていた。
それでもダメージは完全に防げる訳ではない。イェソドの巨体が矢のように飛んだ。
小高い丘に激突して粉塵を舞い上げる。ゴードは息を切らしながらも、追撃を仕掛けた。


イェソドは満たされていた。今まで自分が積み重ねた修練の日々は無駄ではなかったと。
彼の剣は強力ではあったが、その使用回数に制限があった。
十剣者の剣は、初期に製造された十剣者ほど強力な能力を持っている。
メイやグラール等の“初期ロット”と呼ばれる、最初に造られた者達がそれだ。
イェソドは第二ロットの製造だったが、彼の剣は他より強力な能力を有していた。

創世期の大乱の最中、彼は戦いの大半をバランダムの能力に頼って戦い抜いた。
バランダムの能力“事象置換”は使用回数33回の制限があったが、彼は平気で使用していた。
戦い方も力任せの大味なもので、使用回数が残り5回を下回った時にメイと出会う。
彼は衝撃を受けた。最凶の能力を持っているにもかかわらず、メイは剣の力を使わないのだ。
回数制限の無い剣で、何故能力を使わないのかと、彼はメイに尋ねた。
『使わなくても強い方がいいじゃん』
返ってきた答えは、イェソドの価値観を叩き壊した。それ以来、彼は能力を封じた。
そして、これまでの自分の戦いを恥じた。
故に彼は剣能力に頼らず、己の技を鍛える道を選んだのだ。周りの者達はそんな彼を笑った。

16 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 19:52:02 0
どれだけ笑われようと、イェソドは黙々と修練を続けた。
メイだけは彼を笑わず、それに付き合ってくれた。イェソドはそれが嬉しかった。
修練は熾烈を窮めた。能力の性能に溺れた己の浅はかさを振り払うかのように…


「死にやがれ!!!」
拳を振りかぶり、ゴードが目の前に迫る!イェソドは無意識の反応にて剣の柄でかち上げた。
「身についた“技”は、やがて“業”となる…か。メイフィム、感謝する!」
再び始まる剣と拳の激突。それを負傷したヒューアとコクマーは黙って見守った。
「オレ様はな!こんな所で遊んでる暇はねぇんだよ!!」
「遊びだと?」
「あぁそうだよ!!楽しい遊びじゃねーか!!もう飽きたけどな!!」
「残念だ…こと闘争に於いて、貴様は何よりも純粋であると思っていた…真に残念でならん」
巻き込む渦の如く剣風吹き荒れ、イェソドは光より疾く突きを繰り出した。
避けられない!判断と同時に、ゴードは強引に身体を捻って打点をずらす。
神業と称するに値した攻防に幕が降りた。ゴードの足から輝く鎖が絡み付いていく。

「テメェ…まだ生きてやがったのか…」
鎖を辿ればそこにいたのはホッドであった。命を賭して、最後の《封縛鎖》を発動させたのだ。
大罪の魔物を捕らえる《封縛鎖》を使用出来るのは、十剣者でもホッドとケテルだけだ。
半年前にケテルは死んだため、今《封縛鎖》を使えるのはホッドしかいない。
「アトは…ちゃん……と…………カタつけ…ろ……マジ…で……」
輝きが一層強くなり、鎖はゴードの全身を覆い尽くし、ホッドも静かに目を閉じた。
「ホッド、恩に着る。流石に危なかった…」
剣を引き抜くと、イェソドも膝を折りその場に倒れ込む。
如何に十剣者とはいえ、疲労しない訳ではない。ましてや大罪の魔物との戦いだ、無理もない。

「ちくしょう!!またか!!またこれかよ!!!うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ゴードの雄叫びが轟き、激闘の終わりに皆が胸を撫で下ろした。
力を半分近く失った今のゴードに、自力で《封縛鎖》から脱出するのは不可能だ。
先ずは回復を優先して、トドメを刺すのはそれからでも遅くはない。

この判断が致命的な失策だったと気付くのは、まだ先のこと…世界の終わる日の話である。

17 名前:レベッカ ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 19:53:55 0
「気に食わない!あぁ気に食わないね!」
歌は!音楽は!誰かを不幸にする道具じゃないよ!!
あのニヤけたツラにぶちかましてやる!!本物の歌を…聞かせてやる!!!
「アンタ、そんなに聞きたいなら聞かせてやるわよ、アタシの歌を!!!!!!」
怒った。心の底から怒った。胸が苦しい、こんなの初めてだ。

〜♪〜
暗闇を突き抜けて 遥かなる明日へ
動き出した 運命の歯車は 止められないけど
立ち向かう 君達の横顔は 決して今を諦めない
そびえ立つ どんな険しい壁も
不滅の 勇気で 打ち砕け!!

もう二度と振り向かないで 勝利を掴むまで
くじけそうな時は いつも思い出して 
誓いあった約束の言葉を

もう二度と諦めないで 勝利を掴むまで
涙が流れ落ちても 絶対に忘れないで
誓いあった約束の意味を
暗闇を突き抜けて 遥かなる明日へ
いつか辿り着けると信じて
〜♪〜

どうよ!?この歌を聞いて…って嘘ッ!?なんでビクともしてないの!?
確かに今の歌はアタシの全力だった筈なのに!!どうしてあいつは…
「ハッ、こんなのが本物だって?笑わせんじゃないよ!ちょっとはできる奴だと思ったけどね…」
リリスラがリュートを構えて、大きく息を吸い込んだ。
「どうやら思い違いだったみたいだね!!」
音がそのまま刃物のようにアタシを切り裂いた。ジェシカさんが助けてくれなかったら…
アタシは今頃バラバラの死体になってたかもしれない。心が折れそうだ…音楽は全て…
その音楽でアタシは負けた。人に希望を、勇気をあげる歌が、あんな歌に負けた!!

「しっかりなさい!貴女の歌はその程度なの!?あの津波を止めた時と、今の貴女は
まるで別人ね。顔が笑ってないんだもの、貴女はちゃんと歌うことを楽しんでる?」
え?アタシが…楽しんでないように見えるの?
ジェシカさんの一喝が、胸の中で何度も響いた。そうよ、アタシは負けた。
でもそれは怒りに心を任せて歌ったからだ!歌うことの楽しさも喜びも置き忘れてたからだ!!
なんつーかホントにバカだなぁ、こんなに簡単なことに気付かないなんてね。
「ありがと…アタシってば、とびきり大事なものを空っぽにしてたわ!次が最後!!」

見上げると奴は余裕の表情、さぁて…いつまでそんな顔でいられるかな!?
「憎しみだとか因縁だとか、そんなくだらないもんは全部まとめてアタシの歌でブッ飛ばすよ!!!!」

18 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 22:24:42 0
無限に拡散していく意識。
その中でアビサルは見て、聞いて、体験した。
1000年の記録を。
それはまさに情報の海。

あらゆる知識情報が流れ込む中、一つの違和感を覚えた。
それは情報を得た50代数千人に及ぶ一族の情報がそこだけすっぽりと抜け落ちている。
ただ一人、始祖、黄金の導き手のみの存在があり、他はまるで感じられなかった。
そう、父さえも・・・自分さえも・・・

揺らぐ意識が垣間見たものは・・・別の世界、別の文明・・・!
完全に理解を超えたとき、無限に拡散していたアビサルの意識は一点に集約され、意識を取り戻す。
周りには五つの宝珠。
太極天球儀、日輪宝珠、月輪宝珠、そして・・・小さな二つ・・・そう、あれは・・・義眼だ・・・

集約した意識は海から浮上するように表層へと押し上げられていく。


##########################################

ロイトンの街中では、建物を巻き上げつつ迷惑な鬼ごっこが続いていた。
「こないに疲れてさえいなけりゃ・・・!」
小さな舌打ちと共に白く輝く拳撃を捌き、逃げるザルカシュ。
白龍の祝福を受けたレジーナは無限の体力を持つかのごとく、矢継ぎ早に攻撃をつつけ、それを追う。

「・・・しゃあない・・・!」
滑るように逃げ続けるその先には、星幽体のまま佇むアビサルがいた。
逃げの一手を打ちながらもその逃走経路は計算されつくしていたのだ。
「あんさん自分の事わかってないんやろ?
一時休戦で助けてくれたらわいの知ってること教えたるでえ!」
アビサルの後ろに回りこみつつ叫ぶと、忘我上体に見えたアビサルに反応が現れる。
丁度意識が表層に押し上げられ我に帰った瞬間、思いがけない提案。
状況把握と一瞬の躊躇。
半透明の身体であっても、その戸惑う表情ははっきりと見て取れた。

一気に鮮明になるアビサルの五感と思考に最初に感じられたのは
「迷わなくていいのよ?」
軽い言葉とは裏腹に、圧倒的な存在感を放つバニーガールと、左コメカミ辺りに迫る何か・・・

レジーナはザルカシュの行動にも、アビサルの存在にも、なんのためらいも戸惑いも見せずそのまま足を振りぬいた。
繰り出される猫パンチ(左ハイキック)による衝撃吹き荒れ、あたりは土煙と家であったものの残骸が舞い上がる。

19 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 22:25:38 0
 【ロイトン海上】
ソレ、は悠々と海の上を歩いていた。
ハイアットのように、海面にバナナの皮を浮かべそれを足場に疾走するわけではない。
波紋一つ残さず、陸を歩くが如く。

だが、それ以上に不可解な事がある。
海中、海上、空中と殺気じみた獣人が溢れ、戦いが至るところで起こっている。
事実ソレの足元には瀕死の鳥人が浮いており、すぐ脇では魚人が咆哮をあげている。
にも拘らず、誰一人としてソレに気付いていない・・・
そう、認識できていないのだ。

ひたひたと歩き、目的の場所まで来ると、それはゆっくりとしゃがみ込み海面に手を当てる。
その真下、海底では海の女王と森の女王の戦いに決着がつこうとしていた。

「女の業に・・・受け取れ、手向けだ・・・!」

海底に白い・・・粉のようなものが舞い落ちる。

見上げたパルスとヒムルカだけが見る事ができただろう。
海面から覗き込む黄金の仮面が嘲笑の如く歪んでいたのが!

それは美しき深海の雪。
まるでヒムルカをいざなうが如く・・・。
そう、救いのない奈落の底へといざなう雪が

「憎しみはやがて虚無に至る。
人魚の女王よ、汝は真によき苗床であったぞ・・・。
虚無に蝕まれながらも憎しみを絶やす事はなく300年、苦しみぬいてくれた。
さあ、芽吹け!」

厳かに響き渡る最中、沖では鎧を殆ど剥ぎ取った【モノ】がキングクラブの分厚い甲羅を貫き、引き裂いていた。
自分が戦うべきものが現れたと歓喜する咆哮をあげながら。

20 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/07/13(金) 23:34:32 0
進むべきか、退くべきか。それが問題であった。
向こう見ずな走りで西側階段に飛び込むイアルコの姿を眺めつ、その後に続いて転がるダンゴムシを眺めつ、ステッキを回す。
シファーグ・ハールシュッツ侯爵は考えていた。
一応イアルコ一行に協力するとは言ったものの、共に死地に赴くつもりなどさらさらない。
戦況を見るに今日がガナン最後の日である事は明白。ならば、その中枢を制した所で虚しい話。
何とか楽して甘い汁だけ啜りたいと常々本気で言っている道楽侯としては、とりあえず後でどうとでも取り繕えるように高みの
見物を選ぶのが当然なのであった。
さて、そこで問題。
……進むべきか、退くべきか。
あの坊ちゃんの足掻く様を見届けたくはあったが、退き際を見誤りたくない。上から漂う危険の匂いは尋常ではなかった。
そして、外も。
もはや理解を超えた重圧をひしひしと感じる。これが同じ十二貴族の、しかも御夫人のものかと思うと泣きたくなった。
よって、進むべきか、退くべきか。
どちらに向かっても、危険な事に変わりはない。
そして、ここに留まるつもりもなかった。

イフタフ翁が老体に鞭打って一暴れしてみせたものの、押し寄せる大軍と大群の波はまだまだ収まりそうにない。
鐘楼の上で頬杖を突いていたシファーグは、いい加減に意を決するべくステッキを立てて自然と倒れるに任せた。
「ど〜ち〜ら〜に〜し〜よ〜か〜な〜? 星、龍、様、の、言、う、と、お、り〜♪」
どんな時でも遊び心を忘れない。幸せな奴である。
「――ん?」
横合いから吹く風に混ざった微かな羽音に帽子を抑え、倒れかけたステッキを素早く取って後ろに跳ぶ。
間一髪、目の前を黄色と黒の斑が過ぎる。剥がれて舞い散る屋根の板。
明らかに音よりも速くやってきたのは、針のような印象のハチのクラックオンだった。
「や、ご機嫌よう!」「…………」
帽子を上げて明るく会釈してみるが、反応はない。華麗にUターンしてくる相手に、シファーグは大袈裟に肩をすくめた。
――飛ぶ。そして、跳ぶ。
「どうかね? 君も疲れたろう? 小生も激しい運動は控えたいのだ。この辺でお互い清々しく岐路に立ってだね……ね?」
単調で直線的な、しかし目にも留まらぬ瞬きの連続を繰り返して、道楽候が根を上げる。
明らかに荒くなった呼吸と滴る汗は、演技でも何でもないひたすらな必死さの表れであった。
それでも張った見栄というか虚勢というかが、また情けなくも滑稽で憎めない。相手の気を削ぐ道化の雰囲気。
本気でぶつかる事を避け続けて生きてきたシファーグ一流のスタイルなのだが、さすがに今度の敵は相性が悪かった。

構わず、応えず、衰えずに突っ込んでくる。
「ちょっとやめたまえ! マントが破れる!!」
疲れから避ける動きが鈍り、お気に入りのオレンジマントが危機を迎えるに至って、
「いいかね? 一度しか言わないから、よく聞きたまえ」
ようやくシファーグ侯はステッキを構えた。引けた腰は本人の性格だからしょうがない。
軽く、先っちょで突付くように数回動かす。
「……もう少し、落ち着いたほうがいい」
それだけであった。
そこからもう一度。危ういタイミングでかわし、次は避け切れないと見えた所でハチが動きを止めた。
いつの間にか、頭部を含めた数箇所にステッキの先程の丸い風穴が空いている。
「わかっていると思うが……これは君自身で招いた事だ」
シファーグが何を仕掛けたのかは定かではない。――が、つまりは自滅という事か。
ハチが絶命して地に堕ちると同時に、体力の限界を迎えた道楽候も大の字になって屋根の上から滑り落ちた。

十烈士、ワスプ・クラックオン《ビード》――再起不能。

21 名前:異説・人魚姫5 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/14(土) 00:44:41 0
水中だから誰にも分からないけど、きっと僕は泣いているのだろう。
「ごめん……なさい」
このあまりにも重すぎる感覚は何だろう。昔は幾人もの命を奪ってきたというのに。
力の限り突き立てた剣は、人魚の女王の胸を貫いていた。
彼女は全てから解放されたような穏やかな顔で僕を見ていた。
そこに、白い雪が舞い落ちる……。見上げる海面に垣間見える黄金の仮面……。
「……貴様は!!」
そして……人魚の女王に手向けられた呪いの言葉。
「憎しみはやがて虚無に至る。
人魚の女王よ、汝は真によき苗床であったぞ・・・。
虚無に蝕まれながらも憎しみを絶やす事はなく300年、苦しみぬいてくれた。
さあ、芽吹け!」
人魚の女王はもだえ苦しむような悲鳴を上げた。
「う……あぁあああああああああ!」
彼女の体が不気味な光を発し始める。アニマが覚醒する!!僕は叫んだ。力の限り。
「嫌……いけない……やめろおおおおおおおッ!!」
そうだ、このままじゃいけない!! あんな訳の分からない奴にはめられて
憎しみに囚われたまま終わってしまうなんて、絶対に嫌だ!!
「らあッ!!」
力任せに剣を引き抜くと、眩い光を発していた。
アスラちゃんに刻まれた記録が引き出されたのだ。
ハイアット君の過去を見た時みたいに、けれどそれよりずっと強く!
「ヒムルカさん……見て……!」
心に直接映像が流れ込んでくる!

それは、傷ついて倒れ伏した人間の青年だった。
『ヒムルカ……ごめん……約束守れないみたいだ……』
彼の側に、無造作に転がっていた一つの宝珠を、黄金の仮面が拾い上げる。
そして青年に問いかける。
『人間よ、最後に願う事はあるか?』
相手が誰なのか、などもはやどうでもよかった。
彼が気にかけるのはただ一つ、一番大切な人のこと……。
『お願いだ……俺が死んだなんて言ったら後を追いかねないからさ……
どこかで幸せにしていると言ってくれ!!』
黄金仮面は、誰にも気付かれずに笑った。
『その願い、承知した……!』
そして、青年の最期の言葉は……
『ヒムルカ……生きろ……!!』

一番大切な人への想いを逆手に取った最悪の陥れ方……。
僕は人魚の女王の肩を抱いて、必死に語りかけた。
「ずっと騙されてたんだよ!あなたの一番大切な人は最期まで
あなたの幸せを願っていたんだ……あんな奴の言いなりになったらいけない!!」
真実を知った彼女は、さっきからは想像もつかない聖母のような微笑みを浮かべて言った。
もしかしたらこれが本来の彼女なのだろうか? そんな気がした。
「礼を言うぞ、パルメリス……そなたなら、あるいは……」
それなのに、アニマの力はますます強くなる一方だった。僕は必死に首を横に振る。
「ダメだよ……!!」
「ザルカシュの輩がいらぬ事をしてくれたようでな、ここは妾に任せておくとよいぞ」
僕の頭を優しく撫でる。今の彼女は、まさしく母なる海の女王だった……。
「時は満ちた、アニマよ……!!我が身を食らえ!!」
目の前で精霊力の嵐が吹き荒れ、何も見えなくなる。
同時に、体を空間転移の影が包んでいく、その中で、僕は海の女王の最期の声を聞いた。

――パルメリス……この世界の生命を繋いでみせよ……!!――

22 名前:レベッカ ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/07/15(日) 17:33:32 0
 〜♪song of life 始まりの唄♪〜

目を閉じると 浮かんでくるよ 辛い日々も楽しかった日々も
皆で分かち合ったのは 掛け替えの無い思い出
僕らに残された空は あまりにも小さすぎて
僕らが描いた夢が とても入りきらない

だ か ら

僕らは築いて行く ここからが始まりなんだ
がむしゃらに ひたむきに 夢のカケラを握り締めて
僕らは旅立ってく ここからが始まりなんだ
立ち止まらずに 振り返らずに 前だけを向いて歩いて行く

進む道は違っても 同じ空で繋がって
いるから


目を閉じると 浮かんでくるよ 一緒に笑ったり 喧嘩をしてみたり
皆の間にあったのは 揺るぎの無い絆
僕らが選んだ道には いくつもの険しい壁
僕らの弱い心じゃ とても届かない

だ け ど

僕らは乗り越えてく ここまでやって来たんだ
がむしゃらに ひたむきに 夢のカケラを握り締めて
僕らは羽ばたいてく ここが終わりじゃないから
疲れ果てても 泣きたくても 前だけを向いて飛んで行くよ

誰もが出来ないと言っても
叶わない夢だと笑われても
始まる前なら 誰だってわからないさ
未来は

だ か ら

僕らは始めるんだ ここからが始まりだから
がむしゃらに ひたむきに 夢のカケラを握り締めて
僕らは旅立ってく ここからが始まりなんだ
立ち止まらずに 振り返らずに 前だけを向いて歩いて行く

いつか皆が 笑い合える日まで 僕らの旅は続く
この歌に乗せて

 〜♪song of life 始まりの唄♪〜

響き渡る歌声が、荒れ狂う魂を優しく包む。戦人を誉れむ歌をも包み込んでいく。
その歌は光のカーテンのように広がって、ロイトンの全ての者達を包んでいく。
もうレベッカの歌に迷いも怒りも感じられなかった。


 やっと歌えたね、ファム。あんたが歌いたかった歌だよ…
 星晶の瞳がさ、アタシに教えてくれたんだ。
 それに、今のアタシじゃないと歌えない歌のような気がしたし…
 ここからが始まりなんだよね。あんたとの約束、絶対に果たして見せるよ!!
 もう見失ったりしない!アタシの夢はのんびり待ってはくれそうにないからね!!

「さぁて…突っ走って行くよ!!!」
アタシは星晶の瞳を掻き鳴らして、セッションの始まりを告げた。

23 名前:解き放たれた呪縛 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:07:47 0
全ての魂を救う歌の中、ただ一人リリスラは奈落の底に突き落とされた。
「この私が……人間ごときに……!!」
彼女が思い出すのは、ルシフェルが自分を庇って散っていった日のこと……。
あの日、決意した。戦うのが怖いと言って泣いていた弱い自分と決別した。
そして、眷属達の一切の恐怖を封じるための歌を歌い続けた……。
あの日の決意は間違っていたのか?
「ルシフェル姉……!」
リリスラは飛んだ。遥か昔、自分を決意させた忠臣の元へ……。

どこからか聞こえてきた優しい歌に包まれ、シルフィールが呟いた。
「昔のリリスラ様もこんな歌を歌ってた……」
「ウソだろ?」
セイファートが思わず聞き返す。
「本当。いこっか、セイ。ペガサスに戻るよ」
シルフィールは先ほどの出来事を全て忘れたかのようにペガサスの形態に戻ろうとする。
「ちょっとまて! こんな事してタダじゃ済まないぞ!」
セイファートがシルフィールの腕につかみかかる。そして囁くような声で告げる。
「もう少し……そのままでいてくれ」
「しょーがないなー、もう少しだけだよ」
二人は手を繋いで空を見上げる。
「シルフィとあった日のことは今でも覚えてる……」
「私もだよ。セイったら弱そうだって文句言ったよね。これでも弱いと思う?」
「バカ!めっちゃ痛かったし……お仕置きだっ!」
唐突にシルフィールの正面に回りこみ、彼女の目を真っ直ぐに見つめる。
そして肩を抱き寄せ、目を閉じてゆっくりと顔を近づけていく……。
気を利かせたシャミィがタナトスを引っ張って草陰に隠れた。
「タナトスよ! 続きは後じゃ!!」
「そんなアホな!」
が、シャミィの気遣いも無駄に終わった。
「うああっ!」
勢いあまってつんのめるセイファート。シルフィールに間一髪で逃げられたのだ。
「ダメだよ? ジンレインちゃんに怒られるよ?」
シルフィールは悪戯っ子のような目で笑っていた。一方のセイファートは訳が分からない。
「なぜジンレインが怒るんだ?」
「自分で考えてみよーう」
シルフィールはくるりと後ろを向き、そっと呟いた。
「さっきはごめんね……ずっと一緒だよ」

24 名前:断ち切られた絆 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:09:34 0
その時……シルフィールは何かが引き裂かれるような音を聞いた。
続いて、どさりと何かが落ちるような重い音。
「!?」
振り返った時にはすでに遅かった。足元には、セイファートが血塗れで倒れている。
目の前では、リリスラが両の爪を真紅に染めていた……。
あまりの惨状にシルフィールは言葉を失う。
「……!!」
倒れたセイファートを覗き込むと、すでに息をしていなかった。
「血迷うな! お前は私の部下だろう!!」
リリスラが突き刺さるような声で怒鳴りつける。
「そいつの事なら安心しろ、悲鳴を上げる間も無く殺してやった」
淡々と告げるリリスラの瞳に宿るのは、怒り? それとも憎悪? ……違う。
シルフィールには分かる、リリスラは不安に押し潰されそうなのだ。
「私は人間ごときに負けた……お前だけは失いたくない、もう二度と失いたくない!!」
シルフィールは毅然とした顔で、取り乱したリリスラを見据えた。
「申し訳ありません、もうあなたにお仕えする事はできません。
どうぞ裏切り者とお呼びください」
その言葉に、リリスラは驚愕した。
「なんだと……!?」
シルフィールは言い放つ。
「今のあなたは、私が仕えたリリスラ様じゃない! あなたはもう主君でも何でもない!」
そして、肩ひざを突いてセイファートを抱き上げた。
「セイファート……ずっと一緒だよ……!」
その時リリスラの脳裏によぎったものは、ペガサスの古代種だけが持つ禁断の魔術。
ルシフェルはそれをしようとしている……! リリスラは絶叫した。
「ルシフェル姉……馬鹿な事は考えるな!!やめろおおおおおおおおおおおおお!!」

25 名前:黎明の翼 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 12:12:34 0
シルフィールに迷いは少しも無かった。自分は決して死ぬわけでは無いのだ。
誰よりも優しい主君の剣となり盾となり翼になるのだから。
「君なら……飛べる」
シルフィールは、全てを包み込むような微笑を浮かべ、愛しい人に唇を重ねた。
それは戦乙女の祝福、翼持つ美しき幻獣の加護……。
「うわああああああああああああああああああああ!!!!」
リリスラの絶叫が虚空に響く中、神々しいまでの光が二人を包み込み
純白の羽根と共に、清らかな生命力のマナが降り注ぐ……。

セイファートは意識の深淵で、シルフィールの声を聞いた。
「私の全てを君にあげる。だから、一つだけ約束して欲しいんだ」
シルフィールは少しの悔いも無いような顔で笑っていた。だから、笑って聞き返した。
「何だ?」
「何があってもジンレインちゃんを守り抜いて!嘘ついたら針千本だからねっ!」
シルフィールは手を差し出して小指を立てた。答えは一つしかない。
「分かった、約束する」
二人は固い指きりを交わした。
「ありがとう……。あの子の笑顔を取り戻せるのは……キミだけ!」

跡形も無く消えてしまったルシフェルを想い、リリスラは激怒しながら号泣していた。
「うぅ……ルシフェルのバカ……バカ姉……!!あんなヘタレエルフのどこが……!!」
ルシフェルは自分の生命力の全てを与えてヘタレエルフを蘇生させたのだ。
リリスラにはそれが許せなかった。
「すまない……」
後ろからかけられる声。ルシフェルの気配を感じて振り返る。
「ルシフェル姉……?」
そう思ったのは一瞬で、どう見てもにっくきヘタレエルフだった。
「私がシルフィールを想うのと同じように貴方もルシフェルを想っていたんだよな……」
「……」
口を開きかけたリリスラが何を言おうとしたのかは誰にも分からない。
突進してきたシャミィが電光石火の速さでセイファートに飛び蹴りを放ったのだ!
「さっさと行かんかい!」
「あぁあああああああああああ!!」
吹っ飛ばされて崖から転落するセイファート。
「何ッ!?」
突然の出来事に呆然とするリリスラに、シャミィは宣言した。
「心配するな、あやつは……飛べる!」

26 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 21:17:56 0
ゴミ箱の蓋を開ける。
「坊ちゃま」
民家の戸を開ける。
「坊ちゃま」
棚を開ける。ついでに中のクッキーはいただいておく。
「イアルコ坊ちゃま」
額縁の裏にあった誰かさんのヘソクリを勘定しつつ、そこいら中を開け捜す。
「坊ちゃま」「うぎゃー!」「坊ちゃま」『うおあおあお!!』「坊ちゃま」「あいぎゃぎへええっ!?」
メリーの周囲は戦らしい生の声と生々しい音で溢れかえっていたが、歩くエプロンドレス姿は楚々としたものであった。
近くでゴレムの砲弾が爆発すれば、手近な兵士を引っ掴んでは振りかざし、
「坊ちゃま」
行く手にクラックオンが立ち塞がれば、手近な兵士を引っ掴んでは放り投げ、
「坊ちゃま」
どこで恨みを買ったものやら、教皇軍の一隊が周りを囲めば、手近な兵士を引っ掴んで【ピィィィーーーーーーッ!】
「坊ちゃま」
再び開けたゴミ箱に臭い立つゴム手袋を捨てて、メリーはしずしずと次の街区へ向かった。

「いやややややああああああああああああっばあああああああああああ!!!!!!」
「あ、坊ちゃま」
しばらく似たような事を繰り返した末に、ようやくお目当てのイアルコ坊ちゃまと再会したので声をかける。
「きゃああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
気づきもせずに目の前の通りを狂奔していくイアルコ。続いて通り過ぎたのは猛烈な勢いで転がるダンゴムシ。
「…………」
メリーは考え、近くにあった鉢植えを投げた。
「坊ちゃま」
振り被って、
「――あんっ!?」
……イアルコに。
後頭部にチューリップの花を咲かせて倒れた坊ちゃまの体を追いついたダンゴムシが轢き潰し、石畳に埋没させる。
「ぬおおおおおおお!!!」
すぐに復活して逃走を再開するイアルコ。追撃を再開するダンゴムシ。
一連の出来事に対して何かを思った風もなく、メリーは典雅な歩きで後を追った。

27 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 21:18:59 0
そして、立ち止まる。
路地裏から、おぼつかない足取りの人影が姿を現したのだ。
おぼつかないのも無理はない。人影は教皇軍兵士で、その体は怪奇にも半ば白骨死体と化していた。
肉のない手で宙を掻いて崩れ落ち、本当の白骨死体に変わる兵士。
動じる気配を見せないメリー。このまま無視して進むのかと思われた所であったが、
「…………」
ふと立ち止まって、路地の方を向く。
垣間見えたのは、広場に積まれた白骨の山。
それと、その中央に立つクラックオンの黒い背中であった。
ホタル……なのだろうか? 両肩と翅を広げて見える背中と……。
「…………」「…………」
振り向いて目が合った正面、その胸にはオレンジ色の発光器官が備わっていた。

この余所見を隙と見たのか、ホタルの左右から数人の兵士が躍り掛かる。
瞬間を見れたのは、メリーにとって幸運だった。
黒い甲殻が小刻みに震えだし、両肩の発光器官から輝きが溢れたのだ。
爆発するかのように、ねっとりとした眩い光が兵士達を呑み込んで、ホタルの左右およそ十メートル程を照らし出す。
晴れた後には、鎧兜はそのままに肉だけを取り払われた白骨の像が出来上がっていた。

――恐るべき秘技《殺滅光波》

獄震の揺らぎに乗せられて弾けた閃光は、肉という肉の繋がりを解きほぐし、雲散霧消とせしめるのである。
それこそ、まさしく瞬く間に……。
限りなく光に近い速きこの技、前後左右死角なし。
……どうする、メリー?
だが、盗んだクッキーを頬張っていた彼女の顔に暗い色は一辺もなかった。

「……あちらで、お相手致します」
近づくホタルに対し、滑らか流麗にメリーが示したのは何の変哲もない一軒のお屋敷であった。
構わず飛び掛かってきた豪腕を避けて、素早く中に入り込む。
「…………」
クラックオンに迷いや恐れは一切ない。ホタルも力強く踏み込んで後に倣った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――程なくして。

『『 ォォォォッアタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッホアッホアタタタタタタタ
      タタタタタタタタタッホアタタタタタタタタッホアッホアタタタタアタタアタタタタタタタタタ
         ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!    』』

屋敷の中から、つんざくような絶え間ない雄叫びと形容し難い打撃音が、五分近くにも渡って轟いた。
屋根を突き破って、黒い何かが花火みたいに舞い上がって弾けて消える。
一人出てきたメリーは相変わらずの無表情。陶磁器みたいな肌には何の興りも見受けられなかった。
その両腕にはただ、お茶菓子の山が築かれていた。

十烈士、ファイア・クラックオン《オウル》――再起不能。

28 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 22:25:31 0
特別な技術の結晶というわけではない。
ただ足を回し蹴っただけ。
あまりに単純で、あまりに純粋、それゆえに凶悪なまでに強力。
それが猫パンチという名のハイキックである。

恐るべき速さと重さの蹴りは衝撃波を生み出す。
壁が砕け、瓦礫は舞い上がり、辺り一帯が土煙に覆われた。
「・・・手ごたえは・・・あった、けど?」
不思議そうに首をかしげるレジーナ。
逃げるザルカシュが盾にした半透明の少女後と蹴ったはずなのだが、余りにも手ごたえが少なすぎたのだ。
手ごたえがなければそれは躱されたのであろう。
手ごたえがあるのならば、防御されたか直撃したという事だ。
まるで宙に舞う綿毛を蹴ったかのような手ごたえの少なすぎる事に疑念を抱きながら、油断なくあたりを探る。

###########################################

黄道聖星術始祖、黄金の導き手が授かりし五つの宝珠。
太極天球儀、日輪宝珠、月輪宝珠、そして、私の眼窩に納まる二つの義眼。
気の流れを見、星の眼とのリンクをなすこの義眼は様々な機能を持つ。
その一つに驚異的な動体視力があるのだが、それでも何が起こったのかは全く見えなかった。
突然景色が目まぐるしく回転するなか、何が起こったか理解した。

アビサルはわけもわからぬままレジーナに蹴り飛ばされ、家をいくつか突き破って吹き飛んだのだ。
まだ頭が胴体についているのは、星幽体が解除しきっていない時点での攻撃だったからだろう。
星幽体が解除されると同時に魔法障壁も復旧し、身が砕けることなく飛んで行く。
恐るべき速さで吹き飛ばされているにも拘らず、太極天球儀と日輪宝珠、月輪宝珠は体から10センチ離れた距離を保ち続けているのは驚きでしかない。

何度目かの視界の暗転のときに、アビサルの身体は優しく受け止められるようにようやく止まった。
地面に叩きつけられ転がったはずなのに、不思議と衝撃は殆どない。
それどころか、何かに包まれているような・・・
視界が戻ると、あたりは死屍累々と獣人たちがうめき声を上げている。

慌てて起き上がろうとして、身動きが取れないことに気付き、そこでようやく自分の状態がわかった。
「ア、アクアさん・・・!ごめんなさ・・・」
家を突き破ってすっ飛んできたアビサルは、アクアのスライム体に衝突し、すっぽりと中に入ってしまっていたのだ。
おかげで着地の衝撃は緩和されたのだが、ゲル状の身体に包まれ、身動きが取れないでいた。
慌てて謝りどこうとするが、義眼はアビサルを包む【それ】をアクアであってアクアでないと映す。
気の流れが何か決定的に違うのだ。
それは気の流れだけでなく、身を持って違う事を体験することになる。
「あ、アツ・・・!溶けてる・・・の・・・!?アツイタ!」
スライムの身体は全身が消化器官であるといえる。
それに包まれていれば、じわじわと溶かされていくのは道理。
身に迫る恐怖と危機にもがくが、一行に抜け出る気配は見えなかった。

#############################################

29 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 22:27:12 0
アビサルを盾に一瞬の隙を得たザルカシュは空中に逃げていた。
距離をとり、落ち着けば対処できないような状況ではない。
このまま逃げれば事は済むのだ。
だが、その選択肢を抹消させる出来事がザルカシュの視線の向こうで起きていた。
キングクラブを引き裂くグレナデアだったモノ。
それに向かうように巨大な力が海を隆起させ、その姿を現そうとしている。
そして慟哭するリリスラの声は風に乗りザルカシュの耳に届く。

「わいとした事が読み違えたか・・・
ヒムルカはん、リリスラはん、こないな事になるやなんて・・・・!
後始末はあんじょうつけるさかいな!」
キングクラブとニルヴァーナの足止めさえ出来れば、と考えていた自分の判断の間違いを呪った。
急いでいたし、手段を選べる状況ではなかったがそれでも封印を解くべきではなかった。
その結果、レジーナと黒騎士をはじめとする龍人たちも解放する事となり、事態の趨勢を変えたのだ。
苛立ちと後悔を疲労が倍増させる。

#############################################

何とか上半身を自由にして見据えるは空中のザルカシュの姿。
「急急をして勅により汝、虚空より来たれ!死兆星!」
呪文の詠唱を終えると、ザルカシュの頭上に黒く小さな星が現れる。

突然顕われた黒く小さな星の意味をザルカシュは瞬時にして悟る。
北斗七星の脇にあるという小さな黒い星。
この星は死すべき定めにある者にしか見ることが出来ないという。
それが目の前に、そう、幾重にも張り巡らされた障壁の内に現れたのだ。

「死兆の名の下に集え!貧狼!巨仇!禄存!文曲!廉貞!武曲!破軍!」
続く詠唱と共に、黒く小さな星から巨大な光り輝く七つの星が現れる。
死兆星とは、障壁内部に直接七星を呼び込むゲートの役割を果たす。
アビサルに自覚はないが、先ほど直接触られ首を絞められた時に仕込みを行っていたのだ。

ザルカシュが声を上げるまもなく起こる大爆発。
空の一角はその衝撃に歪み、白光をそこに留め続ける。
その白光の中に黒点が一つ。

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30 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 22:28:22 0
その黒星は徐々に大きく・・・否・・・空から地面へと降りてきているために大きく見えるのだ。
ゆっくりと、力なく降り立ったのはザルカシュであった。

もはや大司祭の面影はなく、左腕と尻尾の先半分は完全に誘拐し、その左半身も焼け爛れている。
瀕死の重傷。
生きているのが不思議なくらいの。
肉の焦げる匂いを撒き散らしながら片膝をつくザルカシュ。
未だアクアに半身突っ込みながら睨みつけるアビサルと家々を吹き飛ばしながら到着したレジーナを見て荒い息をついた。
「・・・お・・・おどれら・・・」
息が荒く、言葉が続かない。
何回かの深呼吸の後、大きく息を吸い込み・・・
「おどれら大概にしときぃよ!!!
何もわかってない奴らが人様の苦労も知らずに!!!」
辺り一帯を震わすような怒声と鬼気迫る気迫!

それと共にザルカシュの体がゴキゴキと不気味な音を立てながら変形していく。
身体は2回り以上大きくなり、脇からは2対四本の腕が生えてくる。
消失したはずの左腕と尻尾も恐るべき速さで復元を完了させた。
「キャラやないからこないなことしたくなかったんやけどな!しゃあないわなア!!」
そこに姿を現したのは、大司祭ザルカシュとは似ても似付かぬ異形の化け物。
八脚の蜥蜴王ザルカシュ!

あまりの変化に驚き、眼を離せないでいたアビサルは、自分がいつの間にか鼻血を流している事に気が付いた。
息が苦しく、眩暈がする。
まだアビサルは症状が軽い方で、あたりの獣人たちは血を吐いてのた打ち回っている。
そう、ザルカシュがこの形態をとった時、本人が意図しようがしまいが辺りは毒に満ち、生命を蝕む。

遠のく意識を支えるのは徐々に解かされる痛みと、ロイトンの町中を優しく包むように広がるレベッカの歌だった。
強く、優しく、どこか懐かしい歌が続く中、アビサルの肩をそっと優しく抱く手があった。

31 名前: ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 22:43:03 0
動く!!体がまるで闘い方を知ってるようだ!!)
長年続けてきた鍛錬はその無意識の中に刷り込まれ、技へと昇華する。
いつ如何なる場所でも修練を積んだアクアと融合したからにはそれは当然だった。
しかもそいつにはアクアには無い、強みがあった。
「ふっ・・・・・・・飛べぇーーーーー!!」
ありったけの力を振り絞ってのヤクザキック、くらった魚人は血反吐を吐きながら正面の民家にめり込んだ。
いっさいの力加減を知らないのだ。アクアとしてスリダブの技を使っていた時は無意識であろうが力に加減が働いていた。
ラーナに仕えていると言う心が働いていたのであろうか・・・・だが今はそれが無い、それは鞘から解き放たれた凶刃の様な物である。
一人、また一人倒す度にアクアノイドの、鳥人の、血に塗れて朱に染まる。その姿はまさに・・・・・
「・・・・・あ、悪魔だ・・・・・」
誰かが小さな悲鳴と共に呻いた。
「これで終わりだよ」
最後の一匹を顔面を鷲掴みで高々と空に突き上げ締め上げる。
「がああぁぁぁぁ・・・ぎぃひぃいいい・・・・・うぶぅるぁああ・・・・」
もう最後には何がなんだか解らない絶叫をあげながら白目をむき、コメカミと鼻腔からは血を垂れ流す鳥人
それを壊れた玩具でも捨てるかの様に投げ捨て、虚空を見上げ、高ぶる気持ちを吼える。
(愉しい!!愉しい!!最高に愉しい!!なんて愉快な気分なんだ。)
そいつは思った、こんなに愉しい事は始めてだ、もっとやりたい、出来るなら色々な強い奴と遊びたい。
遠くで爆発音がした。
そいつは思った。あっちの方で派手そうなのがありそうだなぁ。面白そう、行ってみようと、
またそいつはフラフラと街を彷徨い始めたのだった。
その先で、起こる事をこいつはまだ知る由も無かった。


32 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/18(水) 21:14:05 0
「ルシフェルはな……昔のお前さんが好きだったのだよ」
シャミィは放心状態のリリスラに語りかける。
「リリスラよ、もう一度昔のような歌を歌ってみる気は無いか?」
「好き勝手言うな!今更歌えるわけ……」
彼女の言葉は、海から轟く爆音にかき消された。その光景に目を奪われる二人。
グレナデアの装甲が崩壊して散らばった
凄まじい量のエネルギーの粒が形を成し、六頭六尾を持つ龍となる!
続いて、海面が隆起したかと思うと、豪雨のような水飛沫が降り注ぐ。
周囲の水を際限なく取り込みながらその中心で鎌首をもたげるは巨大な青き海蛇!
「精…霊獣……?」
「違う、《アニマ》じゃ。海中故に《激流のスフィーニル》の形を取ったようだの」
呆然と呟くリリスラにかぶりを振るシャミィは、すでに別の事を気に掛けていた。
風に乗って流れてくる生命を蝕む毒……。
「……あのバカ弟子め!!いらん事ばかりして終いにキレよったか!」
シャミィは弾かれたように市街地へむかって駆け出した。

「パルメリス! そんな所で寝たら死ぬぞ!」
猫の手で揺さぶられる。目を覚ますと、目の前にミィちゃんがいた。
「あれ!? ここどこ?」
「寝ぼけるでない! あれを見てみい!」
ミィちゃんが指さした先では、化け物が毒をまき散らしながら暴れ回っていた。
「うわぁああああ!!」
生命力が強いはずの獣人達が悶え苦しむほどの強い毒……。
なんと、その渦中にアクアさんらしきスライムとそれにはまっているアビちゃん、
思いっきり見覚えのあるバニーガールを発見してしまう!
「死ぬのが嫌なら早く逃げるがいいぞ」
そう言い残して駆け出すミィちゃんの後ろ姿を追いながら暁の瞳を取り出した。
「死ぬのは嫌。誰も死ぬのは嫌!」
毒に対抗するための選曲は【清風のソナタ】。鳴り響け、惨き死を退ける浄化の旋律――!

33 名前:暴走開始 ◆K.km6SbAVw [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 15:55:10 O
次々と海面に落下するグレナデアの装甲が荒波を作り、ロイトン港は高波に曝される。
機関部が露出し、そこに現われたモノ…龍だ。
複数の龍と動力機関が絡み合う、異形の部品。これがグレナデアの正体だった。
古き戦いで十剣者と死闘を繰り広げた末に死んでいった星の龍の魂。
グレナデアの巨体を動かしていた動力、桁外れなエネルギーの正体だったのである。

十剣者の剣から造られたイルドゥーム、そのイルドゥームを模して造られたアニマ…
目の前に出現したアニマ=スフィーニルは、倒すべき敵、憎むべき敵、呪うべき敵!!

 怨オオオオオおオオおおおオオオオ怨オオオオオおオオオ怨オオオオおお!!!!!!!

グレナデアの咆哮と共に、その巨体が変化を始めた。
機械が肉に侵蝕され、たちまち全身へと広がっていった。
「まずい!受肉が始まった!!」
狼狽するハイアット。彼は知っている、この後すぐに何が起きるのかを。
かつてイルドゥームと戦った弐号機が、暴走した結果…天空都市ジャジャラは墜ちた。
耐えられなかったのだ。龍の魂の受け皿としては、グレナデアは脆すぎた。
それゆえに霊力爆縮によってセフィラの外壁を崩壊させる程の大破壊が起きた。

今ここで同じことが起きたら…ゼアド大陸西海岸は消滅するだろう。
「どうすればいい…教えてくれアーシェラ!!」
ハイアットは己の無力さに絶望した。


34 名前:八番目の魔物 ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 23:47:43 0
『俺たちが守ろうとしているこの世界は、始まりの日に遡って見れば紛い物の未来だ。
あれから俺たちが生きた37年も、本当は錯覚に引き伸ばされた死の瞬間で、
神様よろしく世界樹を俯瞰する事が出来たなら、
そいつはほんの一秒足らずの小さな火花みたいなものなんだろう』

反乱軍の要求通りに、大統領執務室へと通されたあの黒ずくめの男の声。
盗聴器はデスクに置かれた、大統領お気に入りの観賞用エスノア
(蚊や小バエを食べてくれる――執務室に紛れ込む事があれば、の話)の小鉢に仕掛けられ、
別室で待機中の秘書官たちはマイクが拾った音の隅々へまで聞き入っている。
『でも俺たちは、今日までその火花の中で生きてきたんだ。散り際まで大切に生きたい、そういう事さ』
大統領が息を吐く。彼女は拘束されてはおらず、
いつもみたく執務室の椅子にゆったりと背を預けているだろう。
今の彼女には護衛すら居ない、反乱軍の長と二人きりが交渉の条件だった。男は深く、落ち着いた声で
『レベッカ』
親しげに大統領のファーストネームを呼ばわる。持ち込みの、上等なナム酒の瓶が机に置かれる。
『俺の仲間を過去へは送れないのだな』
『あの装置で自由に跳べるのは双子だけよ』
グラスを取りに大統領が立った。戸棚を開け、閉め、机に戻り、グラスを二つ置く。腰を下ろす。
男が二杯ともにナム酒を注ぐ。大統領がグラスを手元に寄せようとして、底で机を軽く擦る音。
『乾杯は?』
大統領が一旦グラスから口を離して
『要らないでしょ』
また口をつけ、呷ったらしい、喉が鳴る音。男が恥ずかしげに会話を切り出す。
『孫が生まれたんだ、先月。俺のだよ、何だか悪い冗談みたいだ』
『おめでとう。嬉しくないの?』
『嬉しいに決まってる。男の子だ、まだ一度しか抱いてない』
『そう』

しばし無音。会話は断絶し、今や重々しい沈黙が二人と大統領執務室を取り巻いている、らしい。
別室の秘書官たちは目配せの後、床に置かれた盗聴器のスピーカーから散ると、
長丁場となりそうな二人のやり取りへ、物音ひとつ立てずに耳をそばだて続ける準備に、
各々生理現象を済ませておいたり、室内に飲料・食料の類を探して回ったりした。
ところが男が再び喋り出すや、彼らは素早く身をひるがえして、スピーカーの前へと集わなければならなかった。
『やり直せるのか?』
思わず色恋沙汰を想像した秘書官たちだったが、
『私にとってはその為の37年間だった。世界を救えるまで、37年前の私に何度だって歌わせる。
要らないならいっそ歌わなくてもいい、とにかくハッピーエンドにしたいのよ。あの頃の私たちの生き方をね』
男が返す。
『37年前の俺は戦い損ねた。
一度はそれを己の手で勝ち取ったように思えて、結局ただの前置きだったなんて。
知らない間にこの未来に連れて来られて、訳も分からない内に全部を失った人も居る。
無理やり付き合わされたような彼らに比べれば、俺でも幾らか上等だ。
でもやっぱり、俺も戦い直したかった、もう一度、あんたたちと一緒にな。後に残すものさえ出来なけりゃ』

35 名前:八番目の魔物 ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 23:48:43 0
それからしばらく言葉を選んでいた男が、口を開く。
『守るもののある事は、どうしても弱さでしかない。
俺は本当に、俺が守りたいものの為にしか戦う気が起きなくなっちまった。
ただ振り回されて、何も出来ない内に復讐する相手も大方くたばっちまった。最後の一人を追ってた。
しかし皮肉な事に、一等殺したい男の企みが、俺にかけがえのない人生ってのを授けて下さった訳でな。
人生に替えは利かない。37年前、祖龍が創世の果実を喰らって新しい世界樹の分枝を産み出した、
その上に乗っかった俺や、俺の仲間や、俺の家族の人生は他の枝とは取り替えられないだろう?
レベッカ、あんたが37年前をやり直せば、この37年後の俺たちはまるきり無かった事になるんだぜ』

『原罪の魔物が分岐路の起点なのだから、魔物が果実を得なければそう、無かった事になるわ。
切り落とされたこの枝はセフィラとセフィラの狭間、遥かな無の深淵へと落ち込んで、消える事になるでしょうね』
『承知の上か』
『そうよ』
『あんたと一緒に生きてきたこの世界、37年間の全て、道連れにする権利があるのかい』
『腐った枝よ、放っておいてもやがて落ちるわ! 私たちの本当の未来を守る為に――』
男が酒瓶とグラスを絨毯の上に投げた。思いきり机の天板を叩く。
『腐った枝でも俺たちの選んだ枝だ! 最後まで、背負って、戦う気は失せたのか!?
37年、無駄な努力か! 無駄な――無駄に生きてたって言うのか!
そうならそうと、俺が代わりに教えてやるさ。その、無駄に生きてきた、道連れのナバル五万人にな』
激する男の声がスピーカーを震わると、秘書官たちの間に緊張が走った。
魔導銃を突きつけられて椅子に釘付けになる、大統領の図が彼らの脳裏を過ぎる。
『じゃあヒロキ、あんたはどうしたいってんだ?』
『戦うのさ、『ここ』でな。『ガナン』の双子と同じに』

『部隊を出せない代わりに、オリジンスキャナーで37年前の俺に『手紙』を遣る。
俺があんたを止めるか、あんたが勝って枝を落とすか。ライキューム星界軍が最後の荷物を送る、明日で決まるな』
『大統領府の星界軍への指揮・命令権が、作戦中無効な事を知ってたのね』
『止められないのは分かってた。ここへは駄々をこねに来たんだ。
昔の俺が勝ったら、明日の夜にもあんたの軍を貰って、最後の戦場に出向く』
『もしも負けたら昔の私に代わって大統領が歌うわ。それくらい、許してくれるでしょ』
『お互い疲れたな。昔みたく、力に任せて安い英雄にはなれない、心の老いた自分を呪うよ』
『自分の生き様? 淡い恋の思い出? 子供の人生? 新しい生命?
全部を嘘をしたくないからってこんなケンカを始める、あなたは若いわよ。哀しいけどかっこいいじゃない』
大統領、レベッカ・ライラックの声は優しい。何か物音。エスノアの葉が擦れているのか。
鉢植えが動かされている事に気付いて、スピーカーの前の秘書官たちは思わず凍りつく。
スピーカー越しに、銃士ヒロキが秘書官たちへ話しかける。
『済んだよ。あんたらは部屋を出て、大統領の無事を確かめに来てもいい』

36 名前:世界樹の書1 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 10:29:21 0
エドワードとラヴィのトーテンレーヴェとの戦いは均衡状態が続いていた。
が、一つの転機が訪れる。
「あぅ……」
何の前触れもなくラヴィが倒れた。
体の小さいラヴィは、空気中に漂い始めた毒の影響を最初に受けてしまったのだ。
すかさずトーテンレーヴェがラヴィを鋭い爪で引き裂こうとする!
「ラヴィ!!」
ジンレインの意思に応え、魔剣ジェネヴァが宙を舞う。
いくら暗殺を依頼したとはいえ、今となってはラヴィに目の前で死んで欲しくはなかった。
「それを使っては……!」
エドワードが叫んだときには遅かった。
ラヴィは無造作に放り出され、円月刀はトーテンレーヴェの手中にあった。
『フフフ……どれだけこの日を待ち望んだことか……』
物心付く頃にはすでにエルフと猫に連れられていたジンレインは自分の生まれすら知らない。
魔剣ジェネヴァは唯一の手掛かりともいうべきものだった。
「離せ! それだけは渡せない!!」
ジンレインは普段の冷静さからは想像もつかない声で叫び、ジャベリンを振りかざして突進する。
「くッ!!」
軽くあしらわれて地面に叩きつけられるジンレイン。頭上からトーテンレーヴェの声が聞こえる。
『これが何か知っていますか? ただの魔剣などではない
神の知識が刻まれた神器ともいうべきもの……』
「返せええええええええええええええええ!!」
トーテンレーヴェは、半狂乱になって飛びかかってきたジンレインを片腕で抱えこんだ。
「……なっ!?」
大きな翼をはためかせ、一息に宙に舞い上がる。
『心配しないでください、貴女も一緒に来て貰います。
貴女はこの“世界樹の書”の解読の鍵なのですから!』
「貴様……!!」
エドワードも毒の影響を受け始めていたものの
飛び去っていこうとする化け物の後を追い、不可視の真空刃を放つ。
トーテンレーヴェの片腕が切り落とされ、ジンレインは宙に投げ出される。
「……!」
落ちる、そう思ったとき、彼女の体は何者かによって受け止められた。
安堵に泣きそうになりながら思わず憎まれ口を叩く。
「今更何しに来た!?」
「ごめんっ! 死んで生き返ってた!!」
そう言うセイファートの背には、淡い光纏う純白の翼があった。
トーテンレーヴェが歓喜の声をあげる。
『古代ペガサスの力を授かりましたか……姫君に忠誠を誓う翼の騎士よ。
私をここまでてこずらせてくれた礼として……華々しく散っていただきましょう!』

37 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 00:03:30 0
目の前で異形の蜥蜴が赤い目でこちらを見つめていた。
そいつは特にそれに気にする訳では無く、他の事に気を捕らわれていた。
(なんか体に刺さってる・・・・・・)
そいつは目の前のザルカシュよりも自身の体に入り込んだアビサルに興味を抱いていた。
(なんだろう?この人の力?何か思い出しそう・・・・・・・)
体に食い込んだアビサルを見つめながらそいつは心の奥底に湧き上がる何かを感じていた。
歌が聞こえる・・・・・・聞き覚えのある声・・・・・・・・聞き覚えのある・・・・・記憶・・・・・・・私は誰?
気がつくと体に刺さっていたアビサルはレジーナに引っ張り出され、目の前にはザルカシュが迫ってきていた。
ザルカシュの四対の腕が容赦なく降り注ぐ、そして、
「これでもくらいぃやぁ!!」
最後の一組の組まれた腕が力任せに振り落とされる。瞬間ビッシャアアと言う音がし、そこに水溜りが形成される。

誰かの絶叫が聞こえてきた。・・・・・前にもこんな事があったような・・・・・いや、違うなぁ・・・・・そうだ、違う、僕の記憶じゃない。
僕は・・・・・・私は・・・・・・・誰だ!?

そいつは体を再生させてゆく、混濁する意識の中、そいつはある事を思いついた。
さっきの人を取り込めば何か思い出すかも知れない。ついでだから他の人達も・・・・・・食べちゃおう!!
幸い蜥蜴も人もウサギ耳の人も再生に気がついてない・・・・・。
そいつはゆっくりと標的にむかって歩き始めた。


38 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/22(日) 11:06:39 0
ゲル状の身体にがっちり絡みつかれていたアビサルを、ひょいと持ち上げ引き離すレジーナ。
簡単そうに見えて、なかなかできることではない。
ヒリヒリするもののまだ体が溶けたわけでもなく、脇に立たされた。

助けてくれたのは問答無用に蹴りを入れてきたバニーガール。
に礼を言っていいものかどうか迷っていると、アクア(?)がザルカシュに潰されアビサルは言葉を失ってしまう。
状況の展開に認識がついていけないのだ。
直後、崩れ落ちるように地面に伏すアビサル。
レジーナが軽く首筋に手刀を入れ気絶させたのだった。

これでこの場に立っているのは紫の毒気を纏い漂わせるザルカシュ。
白龍の祝福たる白いオーラを纏い毒気を弾くレジーナ。
二人の間に凝縮されるチリチリと焼け付くような緊張感場が支配する。
共に動かぬ両雄。
この均衡を崩すもの、それは一曲の歌。
毒を中和し、惨き死を退ける浄化の旋律――!

漂う毒気が揺らぎ消えていく中、レジーナが音の元、パルスに横目やる。
一瞬目と目が合うその最中に、二人は何を感じただろうか?
直後、レジーナが撥ねる!
一気に間合いを詰め、ザルカシュの四本の腕を打ち払い腹部に強烈な一撃を与えた。
「姿変えて威嚇しても肉弾戦で本職に勝てるなんて思わないことね!」
膝を突くザルカシュの顎を打ち上げるように膝蹴り!
仰け反りながらもレジーナを捕まえようと伸びる腕を絡めとリ、ありえない方向に曲げていく。
そしてそのまま力任せにもぎ取った。
もぎ取った腕を無造作に投げ捨て、予測していたかのように背後から迫り尻尾の一撃を跳躍して躱すレジーナ。

一方的で凄惨な戦いと化してきたように見えるが、さに非ず。
この二人の闘争に於いてはほんの小手調べにしか過ぎない。

「勘のいい奴やのぉ。尻尾に構わず攻め続けたらこの腕で引き裂いたったに!」
距離を置いたレジーナに、もぎ取られた腕を突きつけながら吐き捨てるザルカシュ。
傷口は凄まじい速度で再生し、元通りの腕が生えてしまう。
生命力豊かな獣人の中でも、再生能力という点においては他の追随を許さない蜥蜴の遺伝子のなせる業だ。

39 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/22(日) 11:07:10 0
そんな二人の戦いを他所に、レジーナの背後では気絶したアビサルをアクアが抱きしめるようにその身に沈めていった。
「ちょ!アビちゃんが!」
最初に気付いたのはパルス。
慌てて飛び出したパルスに一瞬注意が逸れるレジーナ。
そして勝ち誇るザルカシュ。
「あっけない勝負やったのぉ!全員まとめて石になっときぃ!」
一瞬注意が逸れるだけで十分だった。
ザルカシュの瞳が赤色から金色へと変わっていく。

それは視線を浴びせられたものを全て石と変える死の瞳。
身から溢れ出る毒気以上に禁忌とされる力。

「いい加減にせんか!この馬鹿弟子がぁ!」
その怒声にザルカシュの身体は硬直し、瞳の色が元の赤色へと戻る。
恐るべきは師弟関係で培われたトラウマか?
「貴様、存在するだけで同胞を傷つけ凄惨な死を振りまくその身を呪い儂の元に来たのであろうが!
それがなんじゃ!周りを見てみい!」
シャミィの一喝で怒りに我を忘れていたザルカシュは辺りを見回し愕然とする。

辺り一面血を流し呻く獣人たち。
徐々に八脚の蜥蜴王の姿は縮み、大司祭ザルカシュへと戻っていく。
「えろうすんまへん・・・
せやけどな!あんた今までどこをふらついとったんや!
あんたがいなくなってからワイがどんだけ苦労したか!
今かてさっさと後始末つけなあかんゆうのになんも知らんアホどもがやなぁ・・・」
「そんなことよりはよとばんかい!」
我に帰ると同時に積年の恨み辛みも帰ってきたか、文句を言うザルカシュとうるさそうにあしらうシャミィ。
何だかんだ言いつつ、言われた通りに飛んでしまった直後、空を裂きながら蹴りが通り過ぎた。
「私には戦いをやめる理由はなくてよ?」
宙に浮く二人をにこやかに、それでいて一片の隙もなく見上げるのはレジーナだった。

「ええい、今はそれどころではなかろうに!あれをみよ!」
ザルカシュの肩に乗りながら、レジーナに海を指し示した。
そこには六頭の龍が咆哮をあげながら蠢き、それを取り囲むように激流のスフィーニルがうねる。

「既に霊力爆縮が始まっておる!
今は激流のスフィーニルが抑えておるが、長くは持つまい・・・!」
シャミィの脳裏にヒムルカと運命を共にと沖へ向かった老亀がよぎる・・・

告げられた僅かな言葉以上に、一目見ただけで事態の緊迫さが判り、レジーナも構えをといた。

40 名前:世界樹の書2 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/22(日) 12:28:44 0
「姫君? 騎士? ワケ分かんない!」
「ジンを頼む!!」
セイファートは、うろたえるジンレインをエドワードの横に降ろす。
「大罪を宿しています。逃がさないでくださいよ」
「その心配は無い、あっちが逃がしてくれそうに無いんでね!」
再び宙高く舞い上がり、軽く腕を振る。空気中のマナが実体化し、光の剣が現れた。
「貴様……何がしたい!?」
下段から斬りかかる! しかし、振りきったはずの刃は何にも当たらなかった。
『そうですね、神になりたいとでもいいましょうか』
「そこか!?」
振り向きざまに、一瞬にして背後に移動していた化け物に斬りかかるが、再び空を切る。
と思う間もなく上に現れるトーテンレーヴェ。
『龍人でありながら、神の残した書“テスタメント”の解読を始めたために
名門一族から勘当された人物がいました。我がトーテンレーヴェ家の初代当主です』
「貴様の一族の歴史なんて聞いてない!」
セイファートは目を閉じた。光による幻影を逃れるのは簡単。見なければいいのだ。
『先代の当主が、ついに一つの技術の解読に成功しました。それは遺伝子……』
「その意味不明の技術を使って飛竜の交配で上り詰めたのか!」
またもや空振る。マナの流れを読む、人類には出来るはずのない技。
しかし、戦乙女の加護を受けたならできるはずだった。
『察しがいいですね。私はそれだけでは飽き足りませんでした。
遺伝子は神の技術の一片に過ぎない。全ての知識を手に入れてみたい……』
「それで満足してればよかったのにな!」
振るった刃がほんの少し、何かに掠める。
『17年前、世界に散らばる“テスタメント”の原本、神の全ての知識が刻まれている
といっても過言ではない究極の書“世界樹の書”のありかをつきとめました』
「そんな事のために……ふざけるなあああああああああああ!!」
寸分違わぬ斬撃がトーテンレーヴェの片腕を切り落とした!
落下を始めた魔剣ジェネヴァを受け止める。
トーテンレーヴェは腕を修復しながらせせら笑った。
『見切りましたか……。取り戻したところでどうせ貴方には使えないのでしょう!』

沖へと飛びながら、肩に乗ったシャミィに愚痴をこぼすザルカシュ。
「神の知識をを解き明かすやらと言い残して人間界に行ったと思ったら
一向に帰って来いへん! それに何や!? 
キャスターなんてあんたには必要ないやろう!」
「私に昔のような力はない……魔法文明と神の知識、異なる技術を融合させた代償じゃ」
「何やて!?」
ザルカシュは、かつて獣人族最強の魔術師だった師匠の言葉に衝撃を受けた。
シャミィは今までのいきさつを語り始める。
「神の知識刻まれた書を悪用しようとする輩が攻めてきての。
そやつらの目を逃れるために“世界樹の書”の情報を魔剣に刻んだ。
ものすごい拒絶反応があってのう。魔力のほとんどを失ってしまったのじゃ。
その上、剣とその解読の鍵のお守りをするはめになった。
でもな、ザルカシュ……付き合ってみたら人間やエルフも悪くないぞ?」
シャミィの言葉に、ザルカシュは何を思ったのだろうか。
それっきり二人は無言になって、一途海を目指した。

41 名前:白と黒 ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/07/22(日) 21:48:32 O
「ディオ!!いつまで手間取ってるの!?さっさとこっち来なさい!!」
よく通る怒鳴り声が槍の鋭さを以て黒騎士に刺さった。声の主は勿論レジーナ。
「ぬおッ!?ちょ、ちょっと待て!!こっちも結構キツいのだ!!」
獣人達を相手にボコボコにされながらも、律義に返答する黒騎士。
だがその身に傷は唯一つたりと付けられておらず、まだまだ元気そうな様子。
彼が一撃も受けずに戦うには理由があった。着ている服を大切にしているからだ。
レジーナと揃いのファー付ロングコート。当然の如く色は黒。
ガナンの処刑場から脱出してレジーナと再会した時にもらった物だ。
黒騎士の名に相応しい漆黒のプレートメイルに代わる、新たな衣装。
「はーい、後5秒以内に来ないと罰ゲームだから〜。5…4…」
「ヒィーッ!!」
容赦無いカウントダウンに黒騎士は泣きそうになった。
レジーナはいつだって本気。何を要求されるか予想不可能の罰ゲームは嫌だ。
「くぅ…普通は10秒ぐらいとかからだろ!!」
涙目になりながら黒騎士の姿が消えた。と同時に嵐のような突風が獣人達をなぎ倒す。
正確には突風ではなく、黒騎士が超高速で周囲の敵を一掃しただけだが。
「…1…0!ブッブー!罰ゲーム決定だから」
「嫌ァああああああああ!!!」

黒騎士の強さはザルカシュにとって全くの予想外だった。
彼が見た過去視では、黒騎士の実力は大した事はなかったからである。
それもその筈。黒騎士が愛用していた公王より与えられた漆黒のプレートメイル…
総重量500kg、過剰な装飾が原因の狭い関節可動範囲、壊したら恐怖の罰ゲーム。
それらの要素が黒騎士本来の実力を隠していたのである。
つまり、黒騎士が長い間愛用していたのは『最強騎士育成鎧』だったのだ!!
今の身軽な服装に、動きを阻害する要素は無い。黒騎士本来の実力が完全に発揮される。

「公国にまだ隠し玉があったんかい。まともに当らんで済んだんはラッキーやったんか」
不機嫌そうに舌打ちしつつ、ザルカシュは安堵した。
もしも黒騎士が早い段階で獣人の侵攻に絡んでいたら…おそらく全てが失敗に終わっていた。
今思えば幸運以外の何でもないことだが、それがザルカシュに希望を与える。
(まだワイらの負けやない、風向きはやっぱりまだ“こっち側”や!)
疲労も激しい。状況は絶望的。しかしそれでもザルカシュには策が残っている。

1度限りの勝機ではあったが、今はそれに全てを賭けるしかなかった。

42 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/07/22(日) 23:32:37 0
「ディオ!!とりあえずあの子を助けなさい!!罰ゲームはその後でやっから!!」
「結局、罰ゲームはやるのか!?」
ぼやきながらも超高速で黒騎士はアクアの様なモノに近づき、捕らわれたアビサルをその身から引き出す。
そして、レジーナの元にまた戻る。そいつはそれを黙って見ていた。
「ちょっとおいたが過ぎるんじゃない?」
コキコキとレジーナが指を鳴らして構える。そいつは特に構えるでもなくゆっくりとレジーナのいる方向に向いた。
「うん、その人は大きすぎて食べれないから・・・・・・もういいや、だいぶ色々解ったし」
そう言ってそいつはゆらゆらと今度は触覚のエルフを見た。
「あの人の事も解った・・・・・・きっと美味しいんだろうな」
パルスがアビサルを抱き抱えながらキッと睨みつける。
「アクアさん!!なんでこんな事を!?」
その問いにそいつの答えは衝撃的だった。
「僕はアクアじゃない・・・・・アクアは僕が食べた人・・・・・」
パルスが訳がわからないと言った顔をする。
「な、何言ってるのか解らないよ!?アクアさんは・・・!?じゃあ君は誰だ!!」
「食べた・・・・・美味しかったよ。記憶もいくつか貰った、そしたらこんな姿になった。誰と言われてもなぁ・・・自分でも解らないんだ」
たぶん困った顔をしているのだろう そいつは腕を組んで唸っていた。
「私には関係ないよね!!」
いきなりレジーナの豪腕がそいつの頭部を吹き飛ばした。すぐさまそいつは頭部を再生してレジーナを睨む。
「いきなり襲ってくるなんて悪人だね?」
「人食いの化け物の方が悪人じゃないの?」
一触即発の空気が流れる。次の瞬間にパルスも黒騎士も、レジーナさえも予想してなかった事が起きた。

「え?」
レジーナは空を見ていた、いや、気がついたら倒れていたのだ。
「やぁ、大丈夫?」
そいつが覗き込んでくる。いっきに跳ね跳び間合いを置く。
「いったい何をしたの?」
そいつは肩をすくめる仕草をした。
「投げた それだけ」
ただ唯一、そのやりとりの全貌を見れた男、黒騎士は呻いた。
「最悪だ・・・・・相性が悪すぎる。」
「え、それってどう言う事?」
隣でアビサルを介抱していたパルスが聞き返した。
「そのアクアと言うのが何者なのかは知らぬが、力押しの戦闘素人と鍛錬を長年積み重ねた挌闘家・・・・・どっちが強いと思う?」
黒騎士はその動体視力で力任せに突っ込んで来たレジーナを流れる水の如く受け流し投げ放ったそいつに驚きを感じていた。

ジャリ・・・・・・・・
その騒乱の様子を遠くで見つめる影があった。


43 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/07/23(月) 02:19:34 0
スタミナ、スピード、タフネス。
それら全てを兼ね備えた逃げ足だけは天下一品であろうと、イアルコは自負していた。
他には金勘定くらいしかないといった、龍人一のミソッカスの屈折した自負心である。清々しき逃げっぷりと言えよう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ガナン西側の螺旋階段を上りきり、政治ブロックに到達。公王宮をぶち抜いてそびえ立つ基部に向かって一直線。
「あひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
これまでとそこまでの距離、合わせておよそ一万メートル。
魂振り絞って走るには、少々骨の折れる――
「ばあうあっ!!?」
本当に折れた。
挫いたついでに勢い余って七転八倒。まだ戦の喧騒も遠い路上で猛烈に嫌な音がした。
「くわっくわっくわっっっっ!!!」
這いずって進む。形振り構わないというのも、また立派な長所なのかもしれない。
歯を食い縛って、十二貴族の彫像が並んで導く公王宮の門前へ後僅かという所。
そこで、追いつかれる。
「んぐあ――」
そして、轢かれる。
今度は押し潰されすに、中空へ跳ね飛ばされた。

少し暗転。すぐ明転。
お目覚めして即映ったのが亡き親父殿の顔というのが、これまた皮肉。
「よいしょおっ!」
転がって転がり来るダンゴムシを避けて、痛みを堪えて立ち上がる。
実際、イフタフ翁から託された力というのは大したもので、みぞれ状の粉砕骨折も数分と掛からず完治してしまう程に
イアルコの再生力は高められていた。
発達した腕力も含めて、便利である。
痛みが数倍に跳ね上がった事を除けば……。
代償なのかは知らないが、今まで平気だったただの骨折が○○握り潰されるくらい痛いとはどういう事か? やはり
あの爺いには死んでもらおうと本気で思う坊ちゃまであった。
ダンゴムシが、またまた迫る。
(……やれるかのう?)
幸いにして真正面からだ。イフタフ翁をお星様にした必殺の右を出す。
――すんごい摩擦熱。
「ああああああああああああああああああ熱っ!!!!??」
更に回転だか振動だかのせいで当たり負け。吹っ飛んで公王宮の門に叩き付けられる。
「ちょーーーーーーーーーーーーーーーーーっと待――っ」
めり込んだ所へ、慈悲も油断の欠片もない追撃。
弾んで襲来するダンゴムシの姿に、イアルコは本日何度目かの放尿を禁じえなかった。

「と、とりあえず…あと…は、のぼる……だけか…………」
瓦礫の山からゴキブリのように這い出し、階段を目指すイアルコ。
逃げ足に懸けては、柄にもなく不屈となれる自負があった。

44 名前:激突!飛竜VS天馬1 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/24(火) 00:33:45 0
「ああ、これを使えるのはジンだけだ!」
下に向かって投げた魔剣ジェネヴァは、ふわりと浮遊してジンレインの手の中に納まる。
それを見届けたセイファートは、トーテンレーヴェを挑発して空中を翔る。
「追いつけるなら追って来い!」
二人は少し離れた場所まで飛空し、再び向かい合った。
トーテンレーヴェは相変わらずの余裕の表情をしていた。
『分かりますよ? 自分が死ぬところを見せたくないのでしょう』
「違うな……これからやる事はあの子には刺激が強すぎる」
セイファートの周囲で極限まで濃縮されたマナが、音を立てて弾け始めた。
一切の情けを持たぬ怜悧な瞳と、微かに凄惨な笑みを浮かべた口元が全てを物語っていた。
両手を交差させ、生成するは二本の光の槍!
「貴様だけはこの手で葬り去る!!」
『面白い……やってみなさい!』
マナの刃と竜の爪がぶつかり合い、激しい火花が散る!
素早さと技術はルシフェルの力を手に入れたセイファートの方が上だった。
振り下ろされた鋭い爪を交わし、二本の光の槍が袈裟懸けに貫く!
そのまま少し後ろに下がって距離を取る。
マナの光が空気中に散り、トーテンレーヴェは鮮血を撒き散らしながら平然としていた。
『その程度ですか? 貴方と遊ぶのはもう飽きました』
腕を横なぎに払うと、光の柱のようなブレスが問答無用で放たれる!
対するセイファートは、マナの衝撃波を放つ!
竜と獣、二つの力がぶつかり合って大爆発が巻き起る。
『往生際が悪いですよ』
「こっちのセリフだ!!」
そのまま衝撃波とブレスの打ち合いに突入した。
それはさながら、空中を縦横無尽に飛び交いながらの銃撃戦。
ただし周囲への被害は桁違いで、一撃が放たれる度に建造物は破壊され
地面は抉れてクレーターが出来ていく。
「くそっ、埒があきやしない!!」
セイファートは激しい攻防を繰り広げながら相手の竜鱗の位置を探っていた。
竜鱗を叩けばブレスを封じる事ができる。
何度目のブレスが放たれた時だろう、僅かな白い光を見たような気がした。
「これでどうだ!」
翼をはためかせて巨大な破壊光線を避け、その箇所を目掛けて鋭いマナの刃を投げた!

45 名前:激突!飛竜VS天馬2 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/25(水) 00:15:45 0
光の刃がトーテンレーヴェの肩を掠め、龍麟が砕け散る!!
『お見事です。でも残念でしたね』
何事も無かったかのように破壊光線が飛ぶ。セイファートは間一髪で避けた。
「……何故だ!?」
『秘密です』
間髪いれずに現れた無数の光球が一斉に襲い掛かる。
「うわああああああああ!?」
当たりそうになったその時、セイファートはその場から消え
トーテンレーヴェの眼前に現れる!近距離の空間転移が発動したのだ。
今まで出来る事に気付いていなかったのだが、これはまたとないチャンス。
生成した光の刃を、胴体の真ん中を狙って横薙ぎに一閃する!
真っ二つになった死体が地面に落ちていく。
「やった……か?」
そう言って下を見下ろした時、セイファートは戦慄した。
『一ついい事を教えてあげましょうか』
上半身だけが言葉を発していた。と思うや否や、切り落とされた下半身が見る見るうちに
復元され、飛竜の翼広げて舞い上がる!
『私は修復する度に強くなるのでそのつもりで!』
「有り得ねえええええ!!」
再び火花を散らす刃と爪。その最中、セイファートは本当の恐怖を知る。
そう、トーテンレーヴェの強さは有り得ないほどに、
例えるなら龍人戦争後のバブル経済のようにインフレを起こしていた!
なにしろ短時間のうちに三回も修復したのである。
勝利を確信し、トーテンレーヴェは獲物を追い詰めた猛獣のように笑った。
『まずはその美しい翼から引き裂いて差し上げましょうか。
ケダモノと心を通わせるなど私には理解できませんが!』
爪が翼を薙ぎ、数枚の羽根が舞い散る。
「そんな姿してよく言うよ!」
『そろそろ教えて差し上げましょう。私は飛竜の遺伝子を組み込まれたキメラ……
先代当主の実験台にされたのです』
必死の形相で猛攻を防ぎながらセイファートはいらない事を言ってしまった。
「当初の目的は……自分を侵食していく飛竜を引き離す方法を
手に入れることだった……違うか?」
その言葉は、トーテンレーヴェの逆鱗に触れた。余裕だった表情が怒りに歪む。
『何をわけの分からない事を言っている!?いい加減死ね!!』
「嫌だね!」
二刀流にするべく光の刃をもう一本生成した時、揚力が急激に落ちたのを感じた。
同じ場所でマナを使い続けたために空気中のマナが一時的に減ってしまったのだ。
目の前には何気なく言った憶測が図星だったらしくキレた敵。
これ以上マナは使えない。彼は人生最大のピンチに立たされた。

46 名前:ConfessionOfFaith ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/07/25(水) 02:53:40 0
哀れな怪物へ、怒りに任せてぶつける魔力さえ絶えた。
怪物の致命的な攻撃が騎士セイファートを屠るまでの一瞬の猶予。
下手を打つと、こいつは懺悔か捨て台詞。300余年がじき塵と失せる。

シルフィールの鼓動を、自身の心臓に確かに感じる。
他ならぬ俺がシルフィールを奪ったからだ。
これは俺の選択なのか、彼女の選択なのか。彼女の勝手と決めつけて逃げるのは容易い。
平凡な一エルフに過ぎない、俺に出来る事は余りにも少ないのだ。
彼女が誰の愛を乞おうとも、それは彼女の自由な筈で、俺も確かそう口にした筈。

ところがどうした、このオチは?
俺がハーピーの歌姫から彼女を奪い取った、と考えるのは傲慢だろうか。
彼女が自由意思で俺を選んだと受け止める、それこそ傲慢か。
どちらがシルフィールに対する裏切りなのか。
俺は決して頼んじゃいない、でも君の差し出したものは有り難く頂戴するよ。
本当に感謝してる、俺の為の死んでくれて――くそったれ!
殺るか殺られるか、唯一の武器であるマナが枯渇しながら、未だ死ぬ気はないが殺してくれたらいっそ清々しい。
シルフィールの犠牲は俺には重過ぎる。逃げたい、与えられた翼が呪わしい。新しい俺の枷。
俺がどれだけ大した男に見える? 女たちの愛も死をも、捧げる価値が俺の何処にあったのだろう?

森の記憶、少年時代と空を飛ぶ夢。森での生活と束縛が厭わしい――自由と実在を求めて彷徨う青年期。
パルメリス、完全に取り戻すにはあまりに風化した友情はしかし心地良い。
森を発った後、もはや色褪せた冒険。多くの友を得、恋人を得、皆やがて死に去る。求めるものは遥かに遠い。
虚ろな平和への憧憬が、何度目かの出会いに遂に剣を預ける決心をさせた。
傷ついた白馬、辿り着いた平和の国と美しい女王、二人の女が俺の剣を執る。
女王への叶うべくもない想いさえ、思い出には艶やかに。俺の部下、俺の兵隊、俺の仲間、を得た。
午睡の如き平和が、俺を修羅道から遠ざける。俺は終いに「力」を忘れた。
だが、やがて暗雲――戦争の季節、酔いどれフランシスとその連れ子、荷物に酒瓶、円月刀。
イルムガルドは奴と赤ん坊を宮殿へ招き入れた。愚かしく、他愛も無い恋の鞘当。
戦争。森は焼かれ、国は地図から名前を奪われる。ギルヴィアと共に死のう、身勝手な俺は蛮勇の徒に帰す。

結論――最後の晩、イルムガルドとフランシスが赤ん坊を俺に託す。俺は生き延びた。
俺を生へと繋ぎ止める、シルフィールと新しい女。
彼女は俺の娘で、俺は父親だった。彼女、ジンレインが信じようと信じまいと。
俺は常に父親としてあるべきで、イルムガルドの形見に愛したり、ギルビーズの面影を憎んだりしてはならなかった。
瓦礫の下の酔漢は今際の際まで酒と娘を愛していた。俺は白馬と剣姫、血の繋がらない娘を愛す。
娘には俺のふざけた生き方を見習ってもらっては困るのだが、
彼女が敏感に反応するのはいつも最低に無責任な俺の狂態ばかり。救われない娘。
父親失格の始末、俺は逃げた。魔剣の落とし主が代わりに面倒を見てくれると。今や魔剣は娘のもの。

「旅団」、フランシス、幾多の戦地に埋もれた仲間たち、俺は彼らを裏切り続けてきた。
そしてパルメリス、イルムガルド、シルフィール、ジン。
最後にひとつだけ言い訳させてくれ、そして卑怯な俺を蔑んでくれてもいい。
俺は、君たちに、そんなふうには愛して欲しくなかった。
本当は何も預かることなど出来ない、俺は俺の借りを返す為にしか戦えない男なんだ。
屍の山を仮初めの翼に、穹窿の果てまで業の鎖を棚引いて、無様に転がる俺の煉獄。
土を逃れ、悠遠の彼方を飛ぶ夢すら罪であったのか。憎む――皆が望むようには強くない自分自身を。
だからせめて、ありったけの憎しみで俺の脆さを支えてくれ。
俺は機械のように陽気に戦う。現実には在りはしない俺をなぞらう。
不在の騎士は物語の遠景、絵に描かれた鳥の影のように薄っぺらだが、煉獄で俺の拳を形作る血肉は本物だ。
羽ばたきで相手の懐へ飛び入って、復讐の一撃をトーテンレーヴェの顎にお見舞いする。
「貴様の恨み辛みなんざ、実際真面目に聞いてやるほどに余裕がなくなったんでね」
頭突き。岩のような感触。諦めるな。きっと神様は、俺とこいつに似合いの最低なくたばり方を用意しておいてくれてる。

47 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 23:30:36 0
【動力ブロック最下層、第七霊子炉】

閉ざされたぶ厚い隔壁の向こうから、銃声と怒号が鳴り響いている。
押し寄せるクラックオンたちに対する絶望的な戦闘。
隔壁の向こうの彼らはただ、こちらの準備が整うまで遅延戦闘を行っているのだ。
クラックオン達の狙いは明らかだ。
この第七霊子炉を破壊すれば、霊峰都市ガナンは・・・いや、霊峰ごと地図から消滅するだろう。
もはや破壊が避けられぬのならば、せめて霊子炉破壊による対消滅だけは防がねば。
その想いが隔壁の外と中の兵士を一つにする。

しかし、想いはかくも無残に打ち破られるのか?

銃声と怒号が鳴り響いていたのもほんの僅かな間。
霊子炉停止の第二段階に着手する前に怒号は隔壁を打ち破らんとする衝撃音に変わった。
衝撃音が一つ響くたびに霊子炉全体が揺れ、隔壁が歪んでいく。
もはやこれまでと悟ってか、霊子炉停止作業もやめ、扉の前で隊列を組み銃を構える。
クラックオンたちにはあらゆる攻撃が無意味なのは身に染みて判っていた。
それでも銃を構え待ち受けるのは兵士の本能か?

最後に大きく響く衝撃音と共に隔壁は吹き飛び、クラックオンたちがなだれ込んでくる。
同時に火を噴く無数の銃口。
あるものは身体に無数の穴を開け、あるものは頭を吹き飛ばされる。
しかし恐るべきはクラックオンの生命力。
獄震を確かに使ったにも拘らず、身を吹き飛ばされた。
が、一行の動揺も見られずそのまま襲い掛かる。
鬼気も迫力もない、無機質で純粋な殺意のみを漲らせ体液を撒き散らしながら・・・

一方、龍人達にも衝撃が走っていた。
あらゆる攻撃を乗り越え迫る怪物たちを、確かに傷つけた。
なおも迫ってきているが、風穴を開け、体液を撒き散らしているのだ。
「呆けるな!軍人なら戦えっ!」
第七霊子炉に響く声に、兵士達は衝撃から我に帰り迫るクラックオンに対し抜刀。
たちまちに乱戦が始まる。

クラックオンの単体の生命体としての戦闘力は高くとも、龍人兵もかくあるや。
獄震という優位性を失った今、圧倒的な、龍人にとっては絶望的な戦いではなくなっていた。

48 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 23:30:54 0
「ようやく傷が治って穴倉から出れると思ったらこの騒ぎか・・・」
「お、おまえは・・・」
クラックオンの躯の後ろから第七霊子炉に入ってきて説明する男の顔を見て兵士が驚きに声を震わせた。
僅か一ヶ月前、黒騎士と共に処刑場を脱出したその男がガナンの中枢第七霊子炉にいるのだから。
後ろにはドワーフの老人がついている。
本来ならこの場で即座に逮捕、だが、今は状況がそれどころではない。
「一体何が・・・?」
「奴らは身体を超振動させ攻撃のインパクトを拡散させ無力化させていたんだよ。それを消してやった。」
名前を聞いてしまえば動かざる得ない。
故にぐっと言葉を飲み込み、兵士は別の質問をした。
それに事も無げに応える男。

「消した?超振動を・・・どうやって?」
その問いに、男はただアルトサクスフォンを僅かに持ち上げて見せた。

振動である以上、全く逆の相違の振動をぶつければ相殺されてゼロになる。
単純な話、いい勝負の綱引きは中心が動かない。それと同じ事だ。
が、実際問題そんなに単純なわけではない。
獄震だけでなく、地下霊子炉内に響き渡る全ての銃声、怒号、震動・・・
反響・共鳴まで混じりノイズだらけなのだ。
ドップラー効果を含めた修正をかけた上でリアルタイムに「演奏」し、獄震を無効化させる。
これを事も無げにやってのけたのだ。

これが龍人の都において人間のみでありながら宮廷音楽家に抜擢された男の真の力。
音界の魔奏者ブルーディ・ザ・サウンドライフである。

ガナン最下層にて、反撃の狼煙が立ち昇る!

49 名前:再起の歌姫 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/28(土) 01:04:20 0
――ロイトン海岸――
リリスラは揺れに揺れていた。
眼下には霊力爆縮を始めたグレナデアを阻止するべく飛ぶザルカシュ
そして街中から漂ってくる大罪の気配……。
それより気になって仕方が無いのは絶え間なく聞こえてくるレベッカの歌声だった。
そもそもこんな歌が無かったらルシフェルは死なずに済んだと思うと
今すぐにでも引き裂いてやりたいのだがそれは歌姫としての敗北を認めること。
たかが人間の小娘に負けたままでなるものか。やるべき事は分かっている。
しかし結果的にでもヘタレエルフを助けるなんて言語道断なのである。
それに……風に乗って飛んできた一片の羽根に、本心が零れ落ちる。
「ルシフェル姉……やっぱり無理だ……私は私の歌を忘れてしまった……
キミが好きだった歌は……もう歌えない……」
虚ろな目で羽根を追う。
すると、それが舞い落ちた場所に、何かが落ちているのに気付いた。
小さな一冊のノートのようなものだった。
「……?」
何気なく拾ってページをめくる。有り得なかった。決して見てはいけないものだった。
放心状態だったリリスラは、程なくして笑いだした。
「ハハハ!! コイツはひどい!!」
どれぐらい笑っていただろう。こんなに笑ったのは何年ぶりだろうか。
ひとしきり笑った後、リリスラは小悪魔のような表情を浮かべた。
「待ってろヘタレエルフ……最高の歌にしてやるよ!!」
リリスラの悩みは一瞬にして解決したのだった。
最高の方法でヘタレエルフを死ぬより悲惨な目に合わせることができる!
彼女は遥か沖へ向かって高らかに号令をかけた。
「来い、ニヴルヘイム! 三世紀ぶりのコンサートだ!!」

――ロイトン中央――
飛竜の化け物にとっては魔力強化が無いエルフなど、取るに足らなかった。
『さあ、終わりです』
告げられる最後通告……。
『ククク……そんな華奢な身体で今までよく頑張りましたねえ』
「ぐあッ!」
セイファートは、いとも容易く民家の壁に叩きつけられる。
『貴方達は神の作り出した最高の種族だと思いますよ? 繊細な硝子細工のよう……』
トーテンレーヴェの爪の先がセイファートの頬をなぞる。整った顔を紅い筋が伝う……。
「キモいんだよ、やめろこの!!」
この期に及んで噛み付きチョーキング等の小技で対抗していると
彼らのいる場所が突然影になった。目の前上空に巨大な何かが現れたのだ。
どう見ても空魔戦姫の巨大飛空挺である。今回ばかりは死を覚悟した。
あれの主砲で化け物も一緒に撃ち殺してくれたら上出来だ。

50 名前:復活!天翔歌聖 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/28(土) 23:15:40 0
リリスラの部下達は上へ下への大騒ぎとなっていた。
我が儘姫が、炎上中のニルヴァーナでどうしてもコンサートをやると言って聞かない。
「リリスラ様、燃えてます!」
「ああ、燃えるぜ!!」
「本気で危なくなったら逃げて下さいよ!」
部下達が止めるのもどこ吹く風、ニルヴァーナの甲板に、歌に愛されし翼の姫が降臨する。
セイファートには近すぎて何も見えなかったが、もし離れたところから見たなら
ロイトン中央広場上空に巨大なステージが現れたように見えたことだろう。
これこそがニルヴァーナの本来の用途だったのだ。
上から町中に聞こえそうなほどの大音声が聞こえてきた。
「やい、ヘタレエルフ! この私が直々に歌ってやる! ありがたく聞け!!
曲目は……“キミに伝えたい!”」
艶やかな髪には黄金のティアラをあしらい、細身の上体には紗の衣纏い
優雅にリュートをかき鳴らす。空魔戦姫改め、天翔歌聖リリスラの
復活記念コンサートが始まった!

〜♪〜♪〜
大好きな人は 守ってあげたいのに
不器用な僕は いつも傷つけてばかり
そんな僕を 恨みもせずに
注がれる愛が 怖かった
もらってばかりの 自分が嫌で
気付けばいつも がんじがらめ
もがけばもがくほど 絡まって
どうしようも なくなってく
〜♪〜♪〜

「○×△□!!」
セイファートはとりあえず目の前の敵をとても文字では表せない奇声を発しつつ殴り飛ばした!
『貴様……どこからそんな力が!!』
リリスラの歌で空気中にマナが戻ってきたからなのだが、そんな場合ではない。
決して見られてはいけない禁忌の書“セイ君の秘密の詩集”に書いた一節が
なぜかステキな歌になって全町内の皆様にさらされているのだ!
「うわああああ!!あり得ねー!!」
涙目になりながら強烈なハイキックを叩き込む!

〜♪〜♪〜
ダメな自分 見られたくなくて
捨て去って 逃げたはずなのに
頭はいつも キミでいっぱいで
何も 考えられやしない
夢の中のキミは いつも微笑んでる
楽園に咲く 花のように
〜♪〜♪〜

51 名前:キミに伝えたい! ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/07/28(土) 23:17:50 0
上空に舞いあがったとき、歌っているリリスラと目が合う。
「お前なあ!!」
『ぎゃあああああああ!!』
全力の踵落としで、トーテンレーヴェをステージに向かって突き落とす!
リリスラが舞い上がった直後、彼女のいた場所に直撃し、板を突き破ってめり込んだ!
どちらにしろニルヴァーナはそろそろ本気で炎上して墜落しそうになってきた所。
『おのれ……!!』
「はははは!! 残念だったな……俺の歌詞を聞け!」
すでにどこかが吹っ切れてしまったセイファートは、衝撃波で追い打ちをかける。
リリスラは彼の横に並び、何事も無かったように歌い続ける。
歌はいよいよクライマックス!

〜♪〜♪〜
キミに伝えたい ひとつだけ
たとえ世界を 敵に回そうとも
僕はいつだって キミの味方さ!
信じて欲しい もう一度だけ
今まで もらってばかりだったけど
今度こそあげたい たくさんの幸せをキミへ!
〜♪〜♪〜

空気中にマナが満ちあふれ、誰にでも見える光の粒となって輝く。
リリスラはリュートをかき鳴らし、見えざる超音波の鎖でトーテンレーヴェを拘束する!
『汚らわしいケダモノめ……!!』
「ルシフェル姉……今だ!!」
そう言ってしまってから隣にいるのはルシフェルではなかった事に気付く。
「我が友シルフィールの名において、爆ぜよ純然たる破壊の力!」
セイファートの意思に応え、マナがうごめいて形を成していく。
程なくして魔術法則に従って組みあがり、発動の鍵を高らかに詠唱する!
「【フォースエクスプロージョン】!!」
古代ペガサス族の最も単純にして強力な魔術の引き金が引かれた。
空中ステージ中央を爆心に、膨大な魔力が純粋なるエネルギーとなって炸裂する!!
『この私が……バカなあああああああああああああッ!!』
哀れな怪物の断末魔は爆音にかき消され、ロイトン中央広場は跡形もなく灰塵と帰していく。

52 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/07/29(日) 01:23:30 0
「ラビットオオオ・・・パアアンチィイ!!」
渾身の力を込めた蹴りがその標的の顔をかすめる。
「ダメダメェ、フェイントの台詞はいいけど蹴りが直線すぎる・・・よね!!」
そいつは蹴りをバックスウェィで避けるとそのまま地面に倒れる。倒れながら両足をレジーナの足に絡め、バランスの崩れたレジーナの下に回りこみ、
今度は両腕を絡めとる。そしてそのまま仰向けに固定されたレジーナの体を天高く突き上げた。
神技、つり天井固め 捕らわれた全身が悲鳴をあげる。
「がぁぁあああああ!?」
獣じみた悲鳴があがった瞬間、黒騎士は走り出していた。
「お、来るぅ?」
間の抜けた言葉の次にそいつは獲物を離すと新たな標的に狙いを定める。そして、
「よっと」
「何ぃ?」
そいつは地面に水溜りの様に平べったく伏してしまった。
「そんじゃあ、いっくよぉ」
刹那、水溜りは巨大な水竜巻へとその姿を変える。その急激な変化に対応しきれずに黒騎士は巻き込まれた。
「うぉおおおおお!?」
水竜巻の中から怒声が聞こえ、そのその竜巻が止むとそこに現れたのは、
「これが耐えられるかなぁ?」
肩に逆さまで垂直に掲げられた黒騎士の姿だった。そしてそのまま背面の方向に倒れこむ。
「ごはぁあ」
受身を取れず黒騎士が悶絶した。
「じゃあ、そろそろ食べちゃおっかなぁ?」
相変わらずゆらゆらとそいつは揺れていた。
「あの、水の様な体さえなんとかなれば・・・・」
黒騎士が呻いた時、覆いかぶさる様にその水の様な体躯が迫って・・・・・・・

迫って来て、そこで止まった。
そいつは人の形に戻り、辺りを見回した。その肩口には4本のナイフが刺さっている。
「誰?僕の邪魔をするのは?」
別段スライムにとっては傷と言う物では無いが、せっかくの食事を邪魔されたと言う気分なのだろう。
不機嫌そうにそのナイフを引っこ抜く。それと同時に何故か草笛らしき音色が聞こえてきた。

「暫く見ないうちに随分悪役っぽくなったんじゃないかい? ひたすらしつこく リーダーの俺 参上!!」
剣を構え、瓦礫を踏みつけ現れたのは蜥蜴の尻尾のリーダー、トム!!
「とりあえず、今までの分、僕らにヤラレてみる?」
反対側の方向に槍を担いで歩くのは副リーダーのジョン!!
「今までの俺らと思っておったら、俺らの強さに泣けるでぇ」
さらに右側に副リーダーのボブが戦斧を持って中腰に構える。
「今回は真面目に勝たせて貰うけどね、・・・答えは聞いて無い!!」
左からはショートボウを構えた副リーダーのサムが立つ。
そしてそいつの真正面からもう一人、悠然と歩いてくる物がいた。
その手には蒼い宝珠と、ラーナのペンダントが握られている。
「愛の人の魂からの叫びによって 我 降臨、満を持して!!」
その姿、まさに神官、その姿まさに猫耳、その姿まさに猫耳神官
猫耳神官リオン ここに降臨する。

後の世、この五人が新たな国を建国する事となるのだが、それはまだ未来の話である。
だが、この五人の歩む苦難の道の第一歩がここに記されたのだった。

53 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/07/29(日) 10:11:13 0
もう何度目か。ぶっ飛び舞っては素ッ転ぶ。
「…………っっ!! っ………!!!」
肺が破裂したらしい。ちょっと声も出なかったが足は動いた。
全ては、強い意志の為せる業。この期に及んでのイアルコの顔には笑みすら浮かんでいた。
勝利とは、何も相手を打ち負かすだけで得られるものではないのだから。
「ふくくくくくく――――っぶへえっ!!」
暖炉の奥に垂れ下がっていた綱を引き、直後にダンゴムシの突進をくらう。
そして、イアルコの背には滑らかな急勾配がぽっかりと口を開けていた。
綱は根性で離さない。離せば同じ道行きである。引きつる背筋を堪えて振り子の動きで脱出する。
「っふう……まったく柄にもない」
公王宮には主が利用する為の無数の抜け道がある。これは生活ブロック直通の抜け穴だ。
一度落ちてしまえば戻ってくるのに大幅な時間を食う。それまでに中枢に辿り着くのはそう難しい話ではなかった。

公王宮、謁見の間。
件の砲撃で半壊した部屋を急ぎ足で横切るイアルコ坊ちゃま。もう少しである。時間的にも問題なかろうと息をつき、
「……む」
立ち止まる。
中枢へ続く最後の階段から下りてくる足音の主は、指先で手すりを撫でつつ、緩やかなカーブからその顔を見せた。
紫に近い黒髪、緋色の瞳を際立たせる銀のアイライン、そして血を引いたみたいに紅い唇。
十二貴族の一人、辺境伯アルフレーデ・シュナイトであった。
「何をしておる?」
無言のまま優雅な一礼を送ってくるオカマ野朗に、イアルコは棘のある声で言った。
「辺境伯、中枢に居たのであろう? 何故ドラゴン・ブレスを使わんのだ?」
――ドラゴン・ブレス。
中枢によってのみ制御される毒ガスの呼称である。
龍人以外の生命を死に至らしめるその非道の紫煙こそが、ガナン最後の防衛機構の正体なのであった。
「未だ、住民の退避が完了しておりませぬ故……」
「真か? 先導役に変態を一人向かわせたのじゃがな。……まあよい。余が直接見てみようぞ」
階段に足を掛けるイアルコ。
アルフレーデに道を譲る気配はなかった。手すりから離れ、段中央から遮る形で見下ろしてくる。

「オカマ野朗、やはり裏切り者であったか」
妖艶な微笑みだけで返す辺境伯を睨み付け、イアルコはガナンの誰もが抱いていた危惧をぶつけた。
「しかし解せぬな。たった一人で東方大陸から逃れてきた身で、何を望んでの振る舞いだ? 命惜しさか? いや、仮にも
龍人貴族がそんなはずはあるまい。何ぞ弱みでも握られたか?」
最も安易なのは家族を人質にという理由だが、彼にそんな枷は似合わない。
ならば、何故か?
場の沈黙を包み込むように、辺境伯は薄っすらと言葉を紡いだ。
「……夢の為」
「ほう、ロマンティストじゃの」
「一千万年にも渡って夢見てきた、我が一族の悲願の為……」
それは、遥かな故郷から続く想いなのか?

「…………と、いうのは建て前です」
坊ちゃま、手すりにドタマを打ちつける。

54 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/07/30(月) 21:52:10 0
「ゲホゲホゲホ・・・・オベエエ・・・・」
パルスに支えられていたアビサルが激しい咳と共に嘔吐。
口や鼻に入っていたスライム一部を吐き出した。
スライムの身体は赤く染まっていた。
結果的にだが、既に体内に入り浄化されきれていなかった血溜りなどを排出するのに役立ってくれたようだ。
「アクアさん・・・食べられちゃったんですね・・・」
「聞いてたの?」
荒い息をしたまま、背中をさするパルスに尋ねる。
はっきりとは応えないが、パルスの反応は確信させるのに十分だった。

「途切れ途切れだけど・・・聞こえていました・・・
アクアさん・・・優しくしてくれたのに・・・」
ようやく頭を上げ、対峙する八人を見る。
先ほどまでと状況は変わっているので、じっと観察をする。
「アクアさんを食べたスライム・・・僕をいきなり蹴った龍人、黒い龍人、後は、知らない人たち・・・
『なら』いいですよね・・・!」
観察を終え、結論を出すその目にはほの暗い憎悪の炎が宿る。

地下都市イルシュナーでリーヴを失った時の喪失感が再びアビサルの胸を支配している。
前回は喪失感のぶつけどころがなかったが、今回は【仇】として、直接的に目の前にいる。
そして周囲にいるのは自分の敵対者と自分には関係ないものたち。
つまり、諸共攻撃してもなんら問題ない、と判断されたのだ。

「え・・・ちょ?何をする気なの?」
本能的に嫌な予感を感じるパルスの問いに応えることなく呪文の詠唱を始める。
「天是、急急を以って汝の名召す事を天下知る・・・奔流する熱衣を纏いて!蛍惑!」
呪文の詠唱の終了と共に上空に赤い霧が立ち込める。

それはあまりの熱量によって、空間を赤く歪ませるガスの奔流。
渦を巻き地上に落ちてくる、が、それは前兆でしかない。
本命はそれを纏う灼熱の惑星。蛍惑(火星)そのものなのだ。
「・・・・!?」
しかし現れたのは灼熱のガスだけで、惑星は現れない。

だが、これは召喚の失敗などではない。
なぜならば、召喚されるべき惑星自体が既に存在しないのだから。
そう、降臨を始めるエクスマキーナーによって『喰われた』のだ。

そんな事情を知る由もなく混乱するアビサルだが、混乱より憎悪の方が大きかった。
「熱ガス流だけでも十分スライムは蒸発するはずっ!」
勿論スライムだけピンポイントで狙える術ではない。
その場にいる全ての者を焼き尽くさんと、灼熱ガスを降下させる為に手を振り下ろした。

55 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/08/01(水) 23:43:15 0
地上3万m

見えている相手に攻撃が決まらない。これはメイにとって焦りだった。
(確かに奴は“そこにいる”のに…どうして?)
使徒からの砲撃は更に激しさを増す中、レシオンは避けようとすらしない。
「どうしたのだ十剣者、私はここにいるぞ?」
何かがおかしい。さっきからレシオンに砲撃が1度も当たってないのだ。
最初は幻覚を投影していると思った。しかし気配は確実にそこに在る。
(幻じゃない…ならどうやって奴は使徒の砲撃を?)
考えても答えが出てこない。次第に苛立ちが込み上げてくる。
(時間操作はもう出来ない筈…なら一体何?)
グラールとメイは先程までとは一転し、窮地に追い込まれてしまっていた。
「メイ!どうやらグレッグス達は原罪の所に向かったようだ!お前も行け!!」
「だけどこいつは…」
「奴とは因縁があるのでな。我が倒さねばならぬのだ、急げ!粛清が始まるぞ!!」
グラールを突き動かすのは悔悟、自らの過ち故に招いた破滅に対する悔悟。
メイにもその意思は伝わったのだろう。何か言いたそうな顔だったが、渋々頷いた。

「グラール、武運を」
「うむ、お主にも武運を」
光の雨を擦り抜けて、メイは地上へと急降下を開始した。
転移が使えない以上は、直接移動するしか方法は無い。しかし3万mの高さだ。
少し角度をずらすだけで、地上の落下地点には数百kmのずれが生じる。
いつまで使徒が上空に攻撃を続けるか、全く予測出来ない今、急ぐしかなかった。


「邪魔者がいなくなって私としても喜ばしい限りだ。これで貴様との戦いに終止符を打つとしよう」
「思い上がるなレシオン、邪魔が無くなったのは“お前だけではない”のだからな」
獅子は笑う。吊り上がった口元から鋭利な牙が覗く。
レシオンとてエクスマキーナを失っているのだ、状況は依然不利なままだが、策はある。
彼の剣『モトボス』の能力は『事象法則変更』。
有らざるを有り得るに変え、有り得るを有らざるに変える力!!
初期ロットの製造個体が所持する剣は、世界を創造・編集する為の剣。
メイの所持する『アカマガ』も然り、造られた世界に確固たる形を与える役割の剣。

「お前も知っている筈だ、レシオン!我が剣の力が引き起こす過程と結果を!!」
獅子の雄叫びと共に剣が姿を変える。刀身が左右に展開し、現われるは針の如く細い水晶体。
「まさか…貴様ッ!?」
これからグラールが“書き換える世界律”の内容に気付いたレシオンは思わず叫ぶ。
「『いざ煌めけ!モトボス!!!』」
導印となる起動の言葉が水晶体を微塵に砕いた。
破片は光の粒子となって“世界”へと“溶け込んで”ゆく。
「なんという事だ!貴様ッ!自分が何をしたか分かっているのかッ!!?」
「当然だ、これで時間を稼げる…」

残された全ての力を使い果たした剣は、唯の錆となり、崩れて消え去った。
しかしグラールの表情からは後悔を感じることはない。
「今はまだ小さく脆い力の集まりが、“運命を変える力となる”だけの時間をな…」


56 名前:新たなる宿主 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/02(木) 00:26:49 0
――ロイトン中央――
ルシフェルは、一切の情けを持たぬ冷厳なる戦乙女と恐れられていた。
でもそれは違う。一瞬で葬るのは死にゆく者への最大の情け。
リリスラは知っている。ルシフェルはいつも、倒した敵を哀しそうな目で見ていた……。
「あばよ!」
不倶戴天の敵に向けるにしてはあまりに軽いその言葉。
しかしリリスラは、砂煙の中に垣間見るセイファートの横顔に昔のルシフェルの姿を見た。
「キミが好きだった歌……歌えたよ」
「私は……」
ルシフェルじゃない、と言うのやめて、セイファートは少し考える。
せめて今だけは、ルシフェルでいてあげよう。シルフィールならこう言うかな?
「リリスラ様、ありがと……お!?」
翼が淡い光となって掻き消えた。
翼を実体化しておくには実はかなりの精神力が必要なのだ。
落ちかけるセイファートをリリスラが足で捕まえた。
「おっと! ルシフェル姉を二度も殺したら承知しねーぞ?」

「多分この辺で爆発が……!? 大変なことになってるお!」
ラヴィは、ロイトン中央広場が巨大なクレーターになっているのを目の当たりにした。
続いてエドワードとジンレインが現れる。
「随分派手にやってくれましたね」
ジンレインはそれどころではない。
「セイファート! どこだ!?」
「ヘタレエルフならここにいるぜ!!」
セイファートを足で抱えたリリスラが降下してくる。警戒する一同。
「今更噛み付いたりしねーよ。ほれ!」
セイファートをジンレインの前に降ろし、リリスラは小さく首をかしげた。
化け物は跡形も無く木っ端微塵になったはずなのにまだ大罪の気配が消えてないのだ。

――ロイトン地下水道――
大罪の種は、宿主が死ぬと同時に砕けて消える。
しかし、その直前に宿主としてふさわしい他の者が現れたとしたら?

セリガは、地上で響き渡る爆音を聞いた。
「何だと!?」
その直後、真上の地面が崩壊し、無数の瓦礫が降り注ぐ。
そのまま瓦礫の下敷きになって倒れ伏した。
ただでさえ深手を負っていた彼にとって、それは致命傷となった。
何事も無ければそのまま死ぬはずだっただろう。
しかし薄れゆく意識の中、彼は大罪の声を聞いてしまったのだ……。
『オマエノ妹ハ生キテイル……! 青年ヨ、我ト手ヲ組マヌカ?』

57 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/08/05(日) 01:38:35 0
灼熱のガスが天空より迫ってくる。
「こいつはマジやべぇ!!いつものアフロじゃすまねぇぜ!!」
サムが叫んだ。
「あわてんなよ、ここは俺の出番だぜ」
大胆不敵にトムが瓦礫の上で剣を掲げてポーズを取った。剣の赤い宝珠が光り輝く。
「集まれ炎!!この剣に!!」
なんと掛け声と共に灼熱のガスがトムの剣に吸い込まれてゆく!!
『あ、ありえねぇーーーー!!』
おもわずパルスが叫んだ。横ではアビサルも同じように叫んでいる。
「むぅ、あれは・・・・・」
「知っておるのかディオール」
さらにその横ではレジーナと黒騎士が仁王立ちで腕組みしながら事の成り行きを見守っていた。
「うむ、あれぞまさしくドラゴンレッドソード!!」

ドラゴンレッドソード  遥か昔、世界の平和を守る5人の戦士達がいた。彼らはそれぞれ特殊能力を持った武器を使い悪の軍団と戦ったのだ。
彼らの名前は 超龍戦隊 ドラゴンレンジャー!!
そのリーダー、ドラゴンレンジャー ドラゴンレッドが使った、炎を操る剣 それがドラゴンレッドソード   

「と、言う設定のオモチャだ。」
『オモチャなのかよ!!』
おもわずその場にいた全員がつっこむ。
「オモチャでもこいつは一味違うぜ?なにせ特別仕様の本物と同じパワーを持ってるんだからな」
ジョンが槍を担ぎながら黒騎士に声をかけてきた。
「な、なんだと!?まさか伝説の りゅうじんくんマガジン 100号創刊大プレゼントの 特別仕様か!?」
何故か大げさに驚く黒騎士、そんな黒騎士をレジーナは横目で見ていた。
「ディオ・・・・あんたってもしかしてヒーローオタク?」
「いや、そんな事は無い。普通だと思うぞ?」
そんな二人のやりとりをすり抜けて、リオンがアビサルの前に立ち塞がる。
「今からシスターアクアを呼び戻します。ご協力をお願いします。」
リオンの手にはラーナのペンダントと蒼い宝珠が握られていた。宝珠の中には眠るアクアの姿があった。
「彼女の魂が私の愛に呼応したのです。」

大地を踏み抜きボブが戦斧を高々と掲げる。
「ちょぉっと足止めさせてもらうぜぇ。轟け大地!!イエローアックス!!」
戦斧を力一杯地面に叩きつける。その先から目標へ向けて地割れが襲う。
「うわ!ちょっと!?これ反則なんじゃない?」
その地割れに巻き込まれんとそいつは飛び跳ねつつ避け続ける。
「まだまだいくぞ、ソイヤ、ソイヤ、ソイヤ!!」
さらにボブが地面を叩きまくる。

58 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/08/05(日) 01:39:45 0
「まぁ、一人理由はわかったとして、あの4人組は?助けに来る理由がわかんないんだけど?」
パルスの質問はもっともだった。それに頭を掻きながらトムが答えた。
「いやぁ、俺らはキャメロンさんに依頼されたんだよ。お前らの助けになれってな。」
「・・・・・・半分、脅されてだけどね・・・・」
「幼女怖い・・・幼女怖い・・・」
「い、いったい何があったんだろう?」
多分キャメロンさんではなくアリスが何か手を回したのではないかと思いつつもこれ以上聞くのは危険だと思いそれ以上聞くのを止めたのだった。
「まぁ、その時に報酬で貰ったのがこのドラゴンレンジャーシリーズさ。」
気を取り直したのかやけになったのか爽やかな笑顔でトムがナイスポーズを決めてくる。
「じゃあ、次は僕の番だ。その体、ちょっと封じさせて貰うよ。凍りつきなよ、ブルーランス」
ジョンが冷気を纏った槍で迫る。
「調子にのんなぁ!!」
そいつは迫るジョンを掴んで投げようと試みたが、ジョンの体に触れる事は出来なかった。
ジョンの体がふわりと宙に浮きすり抜けたのだ。
「!?何!?いったい何が?」
そいつはありえない動きに驚愕した。
「おっと俺を忘れたら困るなぁ?ジョンいくぜ、風を呼べ、グリーンボウ!」
サムが狙うのはジョンが着地する予定の地点、そこに矢を放つ。
「いぃやあっほぉう!!」
すると、着地する前にジョンの体がまた、空に舞う。
「何あれ?どうなってんの?ディオ解説お願い」
「うむ、解説しよう!!」

イエローアックスは大地の力を持っている。大地を使った必殺技だ。
ブルーランスは冷気の力だ、スライムの体を凍らせてしまおうと言う事か、考えたな。
グリーンボウは風を操る、その風で仲間の動きをサポートするんだ。
ちなみに意外とイエローが人気でな、グリーンの能力は渋いのだが、あまり人気が・・・・

「ちょっと、ディオ・・・・・ショートボウだけの解説でよかったんだけど?」
「あ、そうなのか?」
「あんたやっぱりヒーローオタクでしょ?」
「いや、普通だろ?」

そんなやりとりがされている横で、ついにジョンのブルーランスが獲物を貫いた!!
「どうだい?身も心も凍ってみるかい!?」
「がぁぁああ、こ、凍る、凍るよ!!僕の体が凍ってゆく!?」
そいつは以外な展開に対応がついていけなかった。

「てか、あの人達あんなに強かったっけ?」
蜥蜴の尻尾の活躍ぶりにパルスは首をかしげていた。その横で・・・・・
「きてます、きてます。」
トムとボブが戦ってる二人に手をかざしてるのだった。
「やっぱこぇえええ!!」
一度見た光景とはいえ、怖いものは怖い、バンダナ オブ パンダのパワー転送シーンだ。
「さぁ、これで最後です。皆さんアレを使いますよ。」
リオンが高々と白いバトンを掲げた。
「むぉ!?あ、あれはホワイトバトン!!まさかアレを使うのか!?」
黒騎士が驚愕の顔をして、レジーナに蹴っ飛ばされた。
「アレじゃ解んないから説明しなさい!!」
「いた・・・みぞ・・おち・・・・見てれば解る。」

59 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/08/05(日) 01:40:57 0
まずは、リオンのバトンにジョンがランスを組み合わせる。次にサムがその組み合わせた物にショートボウを組み合わせてボブに投げる。
ボブがさらにアックスを組み合わせて肩に担いだ。そしてトムがソードを組み込む。そして出来上がった物は巨大なバズーカ
『完成!!ファイナルドラゴバズーカ!!』
5人の声がぴったりと合わさった。
「おお!!ドラゴンレンジャーの最終必殺技、ファイナルドラゴバズーカ!!これは燃えるぞ。」
「あんたやっぱりヒーローオタクでしょ」
「いや、普通だろ?」
そんな二人のやりとりを他所にまさに闘いは最終局面を迎えていた。
「ターゲット ロックオン!!ブリット、セット」
リオンの掛け声でバズーカの砲身にラーナのペンダントと蒼い宝珠が装てんされる。
「でぇええりゃあああ!!」
渾身の力を込めてそいつは氷を粉砕して向かってきた。

『シューーーート』
巨大なエネルギーがそいつに向けて発射される。それは段々とそいつに近づくにつれ形を変化させていった。
その形はまさに一人の女性の姿、そのエネルギー体がそいつに勢いよくぶつかる。

・・・・・嫌だ・・・・・また暗い場所に戻るのはヤダ
ごめんなさい、私にはまだ、やるべき事、はたすべき約束があるのです。
僕は食べたんだ、何でまだいるの!?
最後の瞬間、私の生きたいと思う心の力が宝珠に私の魂を転送したのです。
・・・・・思いの力?
そうです、思いの力が私を助けたのです。
なんか、ズルイよ、その力、僕にも使える?
あなたの思いが正しければ・・・・・・きっと
そっか・・・・・じゃあ、そのうちまた、会おうね
・・・・また、そのうちに、お会いしましょう。

「動かなくなりましたね。」
恐る恐る近づいたアビサルは撃ち抜かれたそいつをよく観察する。そいつはまるで凍ったかの様に動かなくなった。
「むぅ・・・・・そろそろ爆発して、巨大化するはずなのだが・・・・」
「いい加減にしろ!!」
レジーナの渾身の突っ込み(踵落とし)が黒騎士の脳天に直撃した瞬間、
そいつは巨大な水柱の様になった。
「本当に巨大化した!?」
パルスの絶叫と共に更に吹き上がる水柱、そしてそれが収まるとそこには、
「はぁ、はぁ、皆さん、ご迷惑をおかけしました。アクア・ウーズただ今、黄泉の淵より戻ってまいりました。」
見慣れた姿と口調の女性型スライムが立っていた。

「なぁ、リーダー、別に逃げる様に消える事無かったんじゃないのか?」
地下水道、蜥蜴の尻尾とリオンは最後の大技を放った後、掻き消える様にその姿を消していた。
「ん?ああ、解ってねぇなぁ、ヒーローってのは風の様に現れて風の様に消える物だぜ?」
「俺らヒーローだったっけ?」
サムの疑問にトムが手をひらひら振って答える。
「ところで、この女性(ひと)は誰?」
「ああ、俺の実家のお隣のリオンちゃんでな、ああ、そういや、喜鯛揚げ持ってきてくれた?」
「え、ボブ兄、そんなん聞いてないよ?」
5人は騒がしい感じで闇に消えてゆくのだった。


60 名前:セリガの復活 老亀の最後 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/08/05(日) 01:41:41 0
「生きているだと・・・・・妹が!?」
セリガはその言葉に一瞬意識をはっきりと取り戻した。
だが、体は一切動かない、視界も最早はっきりとはしない。セリガは意識した、確固たる死を。
(ふざけるな!!私が死して、あの汚らわしい考えの妹が生き延びるだと!?ありえん!!)
(死ニタク無イナラ受ケ入レロ、我ト共二イキロ!!)
セリガは考えた、こいつは何者なのかと・・・・・だが急速に熱が失せてゆく体に、思考が途切れがちになる頭脳に選択の余地は無かった。
「神か悪魔は知らぬが、お前の力、受け入れてやる!!」
セリガは暗闇に向かい叫んだ。途端に声が耳元で聞こえる
「この後に及んでまでのその傲慢さ、我に相応しいぞ、力が欲しいか」
「欲しい!」
「なら、くれてやる!!」

数刻後、その場所には砂となった瓦礫の山と、点々と続く血の後だけが残っていた。


グレナデアの体に巻きついたスフィーニルを攻撃せんとグレナデアの体の一部が龍となり分離して襲い掛かる。
龍の魂の複合体であるグレナデアの隠し技だ。
その牙がスフィーニルの喉元に喰らいつかんとした時、強烈な一撃がその龍を吹き飛ばす。
「おひい様に喰いつこうとは・・・・・・・無礼千万!!」
老甲鬼 タナトスの戦槌が振るわれた。
「おひい様、聞こえますかな、彼らの声が」
それは海を揺るがすアクアノイド達の雄叫び、魂からのウォークライ、
「おひい様は一人では御座いませんぞ、この声はおひい様を慕う物共の叫びですぞ」
老亀は少々寂しげな瞳でスフィーニルを見つめ、グレナデアに向きなおす。
「さぁて、忌まわしい遺物か・・・・馬鹿師弟のくるまで足止めさせてもらうかのぉ」
次々とグレナデアから生まれ出でる龍をなぎ払い、大胆不敵に笑うタナトス そして、
『ヒムルカ様の下へ!!ヒムルカ様の敵、撃つべし!!』
ヒムルカに心酔するアクアノイドの一団がヒムルカと運命を共にするべくグレナデアを取り囲んでいた。
タナトスの怒声が響き渡る。
「物共!!この忌まわしき遺物、我々の手で大海の藻屑としてやろうぞ!!」
『おおおおおおおおお!!』
海の色を海の民の血で朱に染める闘いが今、始まった。


61 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/08/05(日) 17:07:30 0
「邪悪とは、何でしょうか?」
「はん?」
いきなりのセリフに立ち直って見上げるも、銀縁の瞳は黙したまま。問いかけの光を湛えて見下ろしていた。
「邪悪とは……我欲のために他者を傷つけ、それを楽しみ省みぬ……つまりは心の在り様じゃ。本人に自覚はいらんかったり、
他人から見てどうなのかといった方が重要だったりもするがな。立場と価値観でいくらでも変わる、曖昧な言葉よ」
とりあえず答えながら、それがどうしたと一歩、二歩と上り詰める。
「では、この世で最も邪悪なものとは何でしょうか?」
「知るか、んなモン。自分で考えんか」
こいつは飛んだイカレポンチだ。論ずるだけ時間の無駄。イアルコは胸を張って恐る恐る階段の端っこから上がった。
アルフレーデとすれ違う。何もしてこない。
そのまま、中枢へと……。
「それは……ギュンター・ドラグノフ」
手すりにもたれ、仰け反りつつ、女装の辺境伯は喘ぐように告げた。
その名を耳にしてしまったら、少年の足は止まらざるを得ない。

「夢? 理想? 野望? ――言い訳、言い訳。己の勝手で世界を作り変えようとする者こそ、一番の邪悪に他ならない」
「……かもしれんな。しかし、陛下はそうはならん。我らの手で、必ずや祖龍の呪縛から解き放ってみせる」
「そう、優しいですね。坊やとお嬢さんは優しすぎる。……そして愚直だ」
お嬢さんとは、リオネの事以外にあるまい。
公王に最後まで付き従ってお救いすると誓ったのは、この二人だけなのだから。
「私にしてみれば、あれ程弱く、救う価値のない男などいない。十二貴族の決議案は正しく理性的であったと思いますよ?」
「それは現状維持にすぎん。陛下に永遠の苦しみを味わわせる事になる」
「いいじゃないですか、生きてさえいてくれれば。いいじゃないですか、種の存続のためともなるならば」
「認めん」
一言で断じるイアルコ。その顔にいつもの冗談じみた色はなかった。
「認めないと言われても……」
アルフレーデは長い息をついた。意固地な子供を相手にからかうような、そんな表情。
「手はあるのですか? ギュンター公は不死身ですよ? それが証明されたからこそ、皆が彼の幽閉を選んだ」

あの黒騎士が陥れられた、公王暗殺未遂事件。
本来なら、完遂となるべき所だったのである。
ミュラーは確かに、グレナデアの砲撃により重傷を負ったギュンターの首を刎ね、火をつけて抹消せしめたのだ。
それなのに、物の数分で完全に息を吹き返した。
新たなる世界樹の芽、祖龍復活の鍵を消し去る事はできない。だからこその安静とは名ばかりの軟禁状態。
大陸統一戦争の是非はともかくとして、公王に関する措置は十二貴族の内の十が納得ずくで行った事なのであった。

「簡単な事じゃ。アンティノラを殺してやればよい。それでようやく、陛下もお安らぎになる」
「ギュンターは死にますよ? 龍人も滅びます」
「母との因果を断ち切る事、それが陛下の真の望みだ。余とリオネは果たすと誓った。その結果なんぞに興味はない」
口にして初めて、イアルコは悟った。
心中は静かで、とても穏やか。自分は迷っているのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
腹は決まっている。決めてはいたが、いつも震えが付きまとっていた。
不思議と、今はそれがない。
「……っふう」

我が心、今まさに明澄の頂に辿り着かん。

62 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/08/05(日) 17:09:44 0
ここで初めて、アルフレーデは笑った。
今までも艶やかに笑んでいたが、もちろん心からではない。目の前のそれは、胸の透くような爽快さに満ちていた。
「子供に、ここまで言わせるとは……! ギュンター坊やもつくづくと罪深い!」
「陛下の償いは蝕まれ続ける心によって、すでに成されておる。後は開放を残すのみじゃ」
「そう…開放……開放です。なんて甘美な響きでしょう……!」
悶えるように自身を抱く辺境伯。笑いのおかげで彼の夢とやらも、何となく透けて見えたような気がした。
「ところでイアルコ坊や。……あのおぞましい女を、仕留める当てはあるのですか?」
おぞましい女、それがアンティノラを指すものだと気づいて、ちょっと返答に詰まる。
「う……とりあえずガナン制圧後に公国の指揮系統を掌握してじゃな。王国と和平を結び、然る後に芽吹かんとする
世界樹の脅威と、これを討つ正当性を世に知らしめ……死ぬ気でやれば、五年後くらいには聖戦の段取りも――」
「遅い!」
「うおっ!?」
急激に間を詰めて迫るアルフレーデの笑顔。仰け反る坊ちゃま。
「現実的で筋道だってはいますが、遅すぎます。もう歯車は動き出しているのです。坊やは取り残されている!」
「遅いって…どのくらい?」
「一月以内で掛かれるのならば、その案でもよろしいでしょう」
「……無茶言うな。大陸は百人の村ではないんじゃぞ」
そして、百人では勝てない。
力不足なのだ。イアルコは。世界の脅威、滅びを前に尽くすには絶対的な力不足。何もかもが足りなかった。
それを見透かす、オカマ野朗。
「故にこそ、私と坊やの利害が一致するのです。……あくまでも、一時的に」
彼の申し出は、悪魔の囁きであった。

影がたわんだ。
「何じゃい!?」
異様な事に見回せば、謁見の間全体が暗い影の色で覆われていた。
まるで世界が裏返ったかのよう。まともな存在はイアルコとアルフレーデだけ。
『オ初ニ御目ニカカル……』
現れたもう一人の人物は、とてもじゃないがこの世で生きる者には見えなかった。
犬頭の影絵みたいなシルエットからでも、恐ろしい響きからでもない。存在のまとう雰囲気というやつが、そう見せるのだ。
『我ガ名ハ、ゴウガ……』
――《影帝》ゴウガ。
『一路、聖地ヲ目指ス、巡礼者ニシテ復讐者。セフィラニ満チル怨念坩堝ノ代行者……』
「な、なるほど…復讐な。獣人なら当然の心理じゃ」
『復讐デハ、生温イ……』
……何が言いたいの、この人?
「そうかそうか……あ〜〜〜…しかし、獣人の聖地については余も聞き及んでおるが、真っ直ぐ行くならガナンを攻撃する
必要はないはずでぇぇぇぇぇぇぇぇ…っつまり、何が狙いじゃ!?」
幸か不幸か、イアルコは馬鹿ではなかった。
恐怖と圧力に怯えはしても、決して屈する精神構造でもない。質問は核心をついた。
『一路、聖地ヘ……』
そして堂々巡り。
『ソレコソガ、汝ノ望ミヲ叶エル唯一無二ノ道……』

「イアルコ坊や、決断を急くような事は言いたくないのですが……このままでは、ガナンも志士スターグも失われますよ?」
「いや、虫なんぞ別にはどうなってもいいんじゃが…ん? ガナンが?」
アルフレーデの生暖かい息のかかる耳打ちに、顔をしかめ、表情を失くす坊ちゃま。
「まさか……そんな事が……!?」
「事実です。オペラ夫人はあらゆる予想を超えて強すぎた。強すぎる者同士の衝突は悲劇です。このままでは、悲劇の内に
幕を閉じる事になる」
「何者なのじゃ? あのフンコロガシは?」
『タダノ、クラックオン……』
影に沈むかのようなゴウガの調子、
『武器、道具、精霊、星龍、マナ、気脈、世界律……ソレラ一切ノ加護ニ頼ラヌ者。純然タル、セフィラノ最強者……』
無視できるものではなかった。
「だからこそ……惚れた。託した」
甘やかな吐息に乗せてアルフレーデが喘ぐ。

『汝ノ望ミヲ叶エラレル、唯一人ノ者……』

63 名前:ジンレイン ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/08/06(月) 13:02:09 0
彼は私の父親役に努めようと必死だった。
私の出生と彼の人生に如何なる関わりがあったのか、私は未だに知らない。
だがセイファートが本当の父親でない事は、物心ついた頃にはとうに気付いていたし、
かといって肉親の居ない事が私をそれほど苦しめた訳でもなかった。
セイファートも「旅団」も私には居心地が良くて、あれが人生最良の時間だと言い切ってしまっても構わない。
セイファートが今のような私を育ててくれた。
彼は私に、人間として備えるべき喜怒哀楽の感情の全てを教え、美しい恋愛や騎士道、冒険への憧憬を教え、
そして血と肉の牢に閉ざされた人間の、不自由で無様な生き方を教えてくれた。
手作りの小さな絵本の中、罪のない無邪気な童話から、死と破滅、蛮勇と勝利に彩られた幾多の戦場まで。
彼が私を置いて去った理由は、十年間の教育ですっかり皮肉っぽくなった私の将来を案じての行動だったのか、
しかし彼の示した人生行路は唯一本で、別な選択を考え得るほど私は大人でなかった。
ある意味で、この再会は当然の帰結だったのだろう。何の事はない、七年間彼の背中を追い続けてきただけだ。
私にとって七年は、追いつくには遅すぎるくらいの時間で、
素直に泣きつけるほど子供ではもうないし、割り切ってしまえるほど大人では未だなく、
私は私なりに彼の「親心」を慮ってみて、それでもなお恨み言を漏らさずにはいられないのだ。

「皆を探さなくては。急ぎましょう」
エドワードが出発を促す。疲労困憊しよろめくセイファートの肩を支えるが、私ではいささか身長が足らない。
スキンシップを諦めて彼から離れ、杖の代わりにと自警団の死体から拝借した槍を差し出す。
彼は微笑んで受け取ってみせたけれど、目線が茫洋としていた。あの翼について説明はあるのだろうか?
ラヴィは完全に意識を戻したようだが、トーテンレーヴェの魔法にあてられて顔色が悪い。
魔物を倒した大技のお陰で、大量の埃が辺りに立ちこめて、私も目が痛かった。
「野郎は粉みじんにしてやった、これで満足か?」
セイファートがエドワードに尋ねる。
「大罪とやらの始末はついたかい」
「宿主の龍人は死んだ筈ですが、肝心の中身がどうなったか、これでは」
「まだ気配がするよ。場所は分からないけど、そう遠かないね」
セイを運んで来たハーピーが呟く。エドワードは眉をひそめたが、それ以上は何も言わなかった。
私とラヴィはよたよたと歩くセイの後ろについていく。

「シャミィは?」
「はぐれた」
「十二貴族と知り合い? あなたの肩甲骨と私の剣は一体どうしちゃったの?」
「そのうち話すよ」
「そのうちっていつ? 人間の寿命を考えてくれてるの?
本当に、いつになったら私を拾った日のこと全部話してくれるの?」
「暗い話は嫌いだ」
「明日死ぬかも知れない私にさえ、打ち明けてはくれないのね」
足が止まる。セイファートは横目で私を見た。うんざりした表情。
「君が自分の出自を明らかにしようと必死になる、その気持ちは分かるけど、
私の口から伝えられるものは全部、つまらない事ばかりだ。
君のこの先の人生に比べたら取るに足らない、些細な色味付けにしかならないんだよ。
そんなちっぽけなものに囚われて、何処かの道で二の足踏む原因を作ってしまったら哀しいじゃないか。
知るべき事は君が君自身の手で掴むがいい。私では退屈な昔話が関の山だ。無意味だよ」
「中途半端に逃げをうたれる方がよっぽど迷惑よ。
もっと簡単に突き放してしまう事は出来ないの? それこそ昔みたくね」

64 名前:ジンレイン ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/08/06(月) 13:03:12 0

途端に傷ついたような顔をされて、私まで途惑ってしまう。
彼は杖をついたまま頭を垂れる。
「済まなかった」
「いいの。確かに今はどうでもいいわね、まずは戦うか退くかよ」
逃げ出すには最後のチャンスかも知れない。
私が進んで身を投じたこの状況が、とうに私の手の及ぶ範囲を外れてしまっている。
漠然とした恐怖、不安、始終胸を突く無力感、
自分に出来る事と出来ない事の区別を知っている、自己弁護の賢しさが恨めしい。
死ぬのは今更怖くない。純粋な死の恐怖は死の瞬間にしか訪れない。
けれど、自分ひとりで何も出来ないまま死ぬのは怖かった。
無駄死にだ。十七年の生にすら価値を見出せなくなる。
私が何者でもないまま消えるのなら、そもそも私は存在しなかったも同然だ。
逃げるな、足掻け、手掛かりを見つけろ。私の存在意義を死の淵から拾い出せ。
そいつを「父」が与えてくれるなんて、淡い望みは七年前に捨て去った筈なのだから。

「でも、いよいよ自分が何と戦ってるのか分からない。
私たちはしがない戦争屋で、一方旅の道連れは世界を救う算段をしているように見えるわ」
まだ爆心地から殆ど進んでいない。私の独り言に、セイファートはおもむろに答え始めた。
「どちらも原初の、闘争の本質から逸脱してはいないよ。誰の為に戦うのか、目的こそが問題だ。
世界を救おうが、自分や恋人を救おうが、復讐の為だろうが、その物語の最小単位は常に『戦い』だった」
「そう、それが手段であれ目的であれ、敵対者の排除は過程として不可避だ。
妥協の余地はない、刈るものは残さず刈らねばならない。そうでしょう?
決して一時の協力を否定する意味ではありませんが。ま、身勝手はお互い様という事で」
思わせ振りに私たちの頭上を飛び回っていたハーピーが、降りて来てエドワードに近寄る。
「このリリスラ様のお力にすがろうって謙虚さはないのかい、眼鏡の旦那はよ」
「ではお願いしましょうか」
「もののついでに手伝ってやらない事もない。お前の為ではない、が敢えてだ」
馬車からはぐれた連中を探すのに、目を貸してくれるようだ。
エドワードはハーピーの女王の前で改まると、恭しく礼をする。ハーピーは吐き捨てるように、
「随分気軽に頭を下げてくれるじゃないか、安い男だ」
「ちゃんと胴体に乗ってさえいてくれれば、どう使ったって同じでしょう」

65 名前:ザルカシュの秘策 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/06(月) 22:03:58 0
「頼むわ! もう少しだけ持ちこたえてや!」
ザルカシュはグレナデアに立ち向かうスフィーニルとアクアノイド達に声をかけ
上空を素通りしていった。誰もその事に気付かない。
なぜなら、彼の飛ぶ速度はすでに音速を超えているのだ。シャミィが驚いて声をかける。
「バカ弟子、どこにいっとるんじゃ!? さっさと星界にでも追放せんかい!」
「そんな簡単に言わんといて。少しでもしくじったらドカーンやで!
いくらワイでもあんなデカイのは無理や!」
シャミィはまだ訳が分からない。
「一人で無理ならアビサルに手伝ってもらえばいいではないか。
やってみるしかないであろう!」
「あのチビ一人増えても足りん! もう危ない賭けは懲り懲りや。
だから強力な助っ人を調達しに行くんや。しっかり捕まっといて。飛ばすでえ!」
ザルカシュはさらに速度をあげる。前方を見て、シャミィは気付いた。
「海上都市マイラ!?」
「そうや。あそこにはなあ、古代魔法王国の大魔術師が幽閉されとる!」
「ああ、そういえばパルメリス達がそんな事を言っとった気もするわ」
「憶測やけどな、今なら多分見張りもおらへん! 早いとこ救出するで!」
二人の前に、次第に巨大な遺跡がその姿を現し始めた。

66 名前: ◆ZE6oTtzfqk [sage] 投稿日:2007/08/06(月) 22:59:48 0
「ここから先は通行止めだ。通りたきゃ『死んでも構いません』て誓約書にサインしな。」
そう言うと煙草を吐き捨て、大柄な男が牛頭の巨人と虎頭の武人の前に立ち塞がった。
その手には長さ10尺にも及ぶ太刀。男の名はゴンゾウ・ダイハン、王国の守護を司る武士。
ゴンゾウの隣りには眠たそうに目を擦る若者が1人。張り詰めた空気もなんのその。
ふわぁと欠伸をしながら、対峙する異形の猛者を眺めている。
「・・・・・・邪魔だ、退け。」
牛頭の巨人が静かな、それでいて地の底より響くような声で答えた。明確な拒絶だ。
「そりゃあ無理な相談だ。俺達の仕事だからな、通す訳にゃいかねぇよ。」
「団長さん、僕はあっちの小さい方でいいですか?ほらサイズ的にもピッタリだし。」
若者が相変わらず眠たそうに尋ねる。確かに虎頭の方が小さい。しかしそれは牛頭と比べて、だ。
若者と並んだならば、明らかに若者が小さく見えるだろう。
「待て待て、先ずは話し合いだ。根気よく説得すりゃあ帰ってくれるかもしれんぜ?」
「話し合いなんか絶対成功しないって分かってるくせにそんなこと言う・・・。」

火花が咲き乱れた。
金属の激突音が草原に轟き、衝撃の波は嵐の如く吹き荒れる。問答無用の戦闘開始。
「まいったな、話し合いができねーなんてよ。俺ァ手加減しねえぞ?」
ゴンゾウは笑う。今の打ち合いで牛頭の巨人が達人を越える域の住人だと分かったからだ。
「とりあえず誓約書にサインしといてやったぜ、感謝しろや。」
どこにそのような物があるというのか。
先程からゴンゾウは、自らの太刀以外に一切の物を手にしていないのに。
「お前の名前を聞いておく、最後の1行に付け加えるからよ。」
「・・・・・・ギラクル。」
律義に答えたギラクルに、刃の切っ先を向けてゴンゾウは笑った。
「そうか、短くていい名前だ。クソみてぇに長かったらイニシャルで済ますつもりだったぜ。」
誓約書は在った。ギラクルが身に纏う鎧の胸当てに、確かに規約の条文が刻まれていたのだ!!


ゴンゾウとギラクルの2人が戦いを始めた一方で、若者と虎頭の戦いも始まろうとしていた。
「そんなに睨まないで下さい、後悔しますよ?」
自分の両肩を抱いて若者が「怖い怖い」と言わんばかりに震えた。
虎頭は武器を持っていないように見える。軽装であることから、格闘技か。
対する若者は腰に簡素な長剣を提げている。鎧も質素な革鎧だ。
「えー、それじゃ貴方の名前を聞いておきますね。先ずは互いに名乗るのが礼儀でしょう?」
「騎士道というやつかのう?よろしい。我が名はゴロナー、ゴロナー・ゴスフェル。」
名乗ると同時に拳を構え、ジリッと足を擦り、即戰に備える。完成され尽した構えだ。
「ありがとうございました。僕はロシェ・アルダール。ロイヤルナイツ第3席の“まどうし”です。」
ゴロナーは少し眉をしかめた。ロシェの格好は軽装ではあるが、魔導を修めた者には見えない。
現に腰に剣を提げているし、細身だが何よりその身体の鍛え方はどう見ても戦士のそれだ。
「ではゴロナー・ゴスフェル、『今から貴方は1歩たりと前進してはならない』。」
「・・・???」
何を言い出すかと思えば、くだらない。ゴロナーはためらいも無く1歩を踏み出した。
「あーあ・・・僕はちゃんと言いましたよね?『前進してはならない』って。」
悲しげに両手で顔を覆い、ロシェは首を横に振った。指の隙間から血が溢れ出す。
顔から手を離すと、ロシェの両目が無くなっているではないか!

《ぺなるてぃダッ!!るぅるヲマモラナカッタ・・・ぺなるてぃぃぃいーッ!!!!》
かわいらしい声が聞こえて、1歩を踏み出したゴロナーの右脚が粉微塵に爆散した。
「『ヤプーの魔眼』、古代の拷問器具ですよ。既に貴方は僕のルールに捕らえれた・・・
言ったでしょう?『そんなに睨まないで下さい、後悔しますよ?』って。」
いつの間にかゴロナーの周囲には、2匹の小さな妖精がふわふわと浮かんでいる。
だが見た目は醜悪窮まりない。耳まで裂けた大きな口、顔の半分近い大きさの目玉が1つ。
「僕と目を合わせたのは失敗でしたね。更に貴方が正直な人でよかった、名前も『本物』だったし。
という訳でして、今や『ヤプーの魔眼』は貴方の魂と直結してます。逃げる方法は・・・」
《ザンネン!!ザンネェェェンッ!!!アリマセエェェェェン!!!!》
ケタケタと狂ったような笑い声を上げ、魔眼の精が飛び回る。

「さて、次のルールです。ちゃんと守って下さいね?」
気が付けば、いつの間にかロシェの声には先程までの眠たそうな響きは無かった。

67 名前:アップ・ダウン・ジャッカス ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/08/07(火) 00:21:51 0
グラールロックの宮殿、ルフォン帰りのレオルが宝物庫に潜って、仕掛けられた最後のトラップを解除する。
鼻歌など歌いつつ、部屋の隅から巨大な鉄製のリングを担いで現れる。外した罠の部品だ。
傷も取っ掛かりもない、常人には完璧な平面にしか見えない壁から、そいつを引っ張り出す様はまるで手品だった。
王子ライランスがレオルを見て頷く。
広いばかりで何も無い、がらんとした正方形の部屋は白塗りで、ずっと居ると目がちかちかしてきた。
銃士ヒロキはあくびを堪えつつ、外套の下の魔導銃を弄びながら作業の終わるのを待った。

王子ライランス、知り合った頃は偽名チェカッサ――修行から帰って、まるで人の変わったような働き振り。
宮廷力学がかくも人間を変えてしまうのかと、再会したヒロキも驚嘆の色を隠せなかった。
しかし腹心、ゴンゾウとレオルの二人はチェカッサの変身を予定の内に、むしろ望んでいたようにも思える。
王子の育ての親と聞くゴンゾウも、日毎修羅の気色を宿していく彼に驚く様子がない。
王位継承の式典を控えて打ち直した愛刀を携え、グラールロックへ先頭切って乗り込んだクラーリア王子は
道化の化粧もないのに人形みたいな白い顔で、豪奢な宮殿を無表情に眺めて歩いた。少年の真意は知れない。

(兎にも角にも、糸を引いているのはロイヤルナイツだ。
チェカッサを「修行」に放り出したのもゴンゾウ・ダイハン。戦闘狂ども)

宝物庫の四方の壁に、異界から幻獣の門番を喚び出す魔法の刻印。
主のグラールが宮殿を離れた今では、単なる壁飾りに過ぎない。
「味方殺し」はあちこちの壁を素手でぴしゃぴしゃ叩いて、残った罠がないか調べている。
「公爵は玉座の間だな。皆、いい加減血を見たい頃合だろう。城も開け放しで猛獣狩りさえ出来やしない」
チェカッサはレオルとヒロキを手招いて、玉座の間に向かう。
宝物庫の蓄財に手をつけるには鍵と暗号が必要だ。王子たちは宝探しにかまけるような凡愚ではない。

玉座の間。紅白の王国騎士団制服に身を包んだ剣士たちが、某公爵を王子の前に引っ立てる。
ヒロキはその貴族の名前も覚えていない。どうせ死ぬ男だ、自分が名を覚えてやったところで手向けにもならない。
ナイトギルドに与した僭主の一人、戦後の権益拡大を狙って敵方についた男をチェカッサが処刑する。
公爵がどちらの河岸かは、エドワードがライラック商会に置き去りにした血印状から割れた。
無論エドの失敗ではない、ギルドにとって彼の利用価値は尽きたという意味だ。
囮、殿、ご機嫌取りの土産、どう呼んだっていい。敗者の末路だ、それ以上でも以下でもない。
口実を得たチェカッサは遠慮なく公爵をしょっ引いて血祭りにあげようとしている。

68 名前:アップ・ダウン・ジャッカス ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/08/07(火) 00:22:47 0

初老の公爵は虎口に在っても傲岸不遜な態度を崩さず、
拘束を解かれると、わざとらしい鳩胸で王子に詰め寄った。王子が片手で合図を飛ばす。
脇に下がっていたレオルが自分の剣を取ると、抜き身のそれを公爵の足下の床に突き立てた。レオルは言う。
「武士の情けだ。王子自らお相手して下さる、その御恩を無駄にはなさらぬよう」
公爵は一瞬途惑うも、すぐに王子の意図を気取って剣を取った。身を引き構える。
構えは上級貴族の、剣を嗜む者らしく玄人はだしだが、如何せん相手が悪い。
反吐の出るような悪趣味――チェカッサは公爵を嬲る気だ。白い人形の顔の少年が、一身に剣鬼を降ろす。
居合い、ヒロキにも抜き手が見えない。刃の煌きすら。
血が飛沫く。公爵の利き手でない方の手が千切れて飛んだ。絶叫。ヒロキは懐に手を入れ、そっと銃に指をかける。

チェカッサの二撃目は頬の肉を削いだ。
髭ともみあげの乗った皮が落ちる。公爵の威勢の良い仮面も落ちる。
「どうした。次はそちらの攻め手ではないか」
痛みと恐怖で泣き喚く公爵。尻餅をついた拍子に、剣を持った手が消える。
鮮やかな断面はヒロキの立ち位置からも見えた。腕の行方は分からない。
「剣を落とすな、馬鹿者」
公爵の右足が飛んだと同時にヒロキは撃った。公爵はこめかみを撃ち抜かれ、息絶える。

レオルを除いた紅白の騎士「ロイヤルナイツ」の全員が、ヒロキに対して身構える。室内でも一糸乱れぬ隊列。
「『ヘリオガバルス』の試し斬りにゃ安い首級だ、下らねえ遊びは止しにしようぜ……餓鬼じゃあるめえ」
チェカッサがヒロキを見た。恨みがましさはないが、すねた子供の眼をしている。
「今までみてえなヤクザ仕事じゃねえ、一国の主として戦争をするんだろう?
親父から引っこ抜いた部下はあくまで部下だ、王様は王様の流儀でおやりよ、な?」
「じゃ、止めるです」
語尾が戻った。正気か冗談か。どれが地なのか、他人に過ぎないヒロキには判別出来ない。
「喧嘩が美しいなんて子供だ、子供。楽しむのは大事だが、無駄は省こう」
「了解、お目汚しおば失礼致しましたです」
ほんの子供だ、宮廷力学と人殺しで遊ぶ子供。チェカッサは「ヘリオガバルス」の血を拭って、鞘に収めた。
騎士たちも緊張を解き、何人かが死体を運んでいった。
作業は続く。ヒロキの冒険は死んだ。いつかと同じ汚れ仕事。
ヒロキは最悪の気分で玉座の間を出た。自分の選択を疑ったが、これでもひとりで戦争するよりマシだと思い直す。
「残すものさえ無ければ」

69 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/07(火) 22:09:18 0
 【ロイトン街中】

飛び行くリリスラを見送ったエドワードは一帯を包む違和感に気がついた。
ここにいるセイファートもジンレインも、ラヴィもまだ気付いていない。
以前に体験していたからこそ気付くその違和感。

そして『それ』はやってきた。

星見曼荼羅の赤いマント、黄金の仮面。
それだけ強烈な姿をしていながら、全く存在感を感じさせぬその佇まい。
「時は満ちた、のかな?それとも・・・」
以前、黄金の仮面の人物はエドワードに言った。
時との盟約により自分は時の改竄を目論む者を誅する存在である、と。
しかしそれと同時に、エドワードと同じく全ての終結を望む主の使いだと。
目的を同一としながらも相容れぬ存在、それがこの黄金の仮面の人物なのだ。

『案ずるな。今はそちらを迎えに来た。』

密かに構えているのを知ってか知らずか、黄金の仮面の人物はエドワードの横をなんの警戒も無く通り過ぎる。
歩みを止めるはジンレインの前にて。
『良き哉、良き哉。誠に重畳。』
黄金の仮面の眼窩に光るものは無く、その表情を察する事はできない。
突然の怪人の来訪・接触。
そして意図のわからぬ言動に警戒をすれども動けずにいた。

『世界中の書に選ばれし者よ・・・己の存在に疑問を持つか?』
荘厳なる響きを持って尋ねるが、その答えを待たずに次なる言葉が発せられる。
『まずは一つ答えを見せよう。
かの者の翼は心の融合の産物。命の統合の産物。
彼は彼女と真の意味で一体となっておる。』
言葉が発せられるたびに、周囲の景色から色彩が失われていく。
第六感、そんな生易しいものではない。
本能のレベルで危険信号が鳴り響いている。
即座に行動に移さねばならない。
にも拘らず、ジンレイの手から握っていた砂が零れ落ちた。

色彩を失った風景に、セイファートとルシフェルが一体となる場面が映し出されたから。
そしてその映像が何を示すのか、説明の必要はなかった。
既にそれが何を意味するか、その結果どうなったのか、瞬時に理解できてしまったのだから。

70 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/07(火) 22:12:32 0
『共に世界樹の書に選ばれた者同士、ルフォンで出会ってから時は流れたが、その間ずっと感じていたのではないか?
だからこそ、奈落の大聖堂と距離を保っていたのではないかな?』
「??アビサルの事・・・?それは、赤毛にべったりだったから別に私が・・・」
脈絡もなく飛ぶ話に戸惑いながら応えると、一瞬の暗転。
ジンレインの言葉を肯定するように、新たなる映像が浮かび上がる。

甘えるようにソーニャに寄り添うアビサル。
だがその二人はいつしか形を歪め、セイファートとジンレインに入れ替わっていく。
それは心の奥底で望んでいた事。
誰にも知られてはならない事・・・

『思う存分依存していたあの者に嫉妬していたのであろう?
そして、目的の男を見つけた今、更に嫉妬しているのではないかな?
捨てられ、追い続け、ようやく再会したにも拘らずその孤独感は増すばかり!』
「・・・わ、わたしは・・・」
四方八方から鳴り響く黄金の仮面の人物の声に、徐々に平衡感覚を失いつつある。

『汝が17年前に生まれた事。その国に世界樹の書が存在した事。国が滅んだ事。
そして今、この場にいること・・・全てに意味がある。
全ては予定調和の内のこと・・・。』
エコーを聞かせながら響き渡る黄金の仮面の人物の声。
仰々しく捲り上げたマントの中は・・・何も存在しなかった。
ただ全く見えぬ闇があるばかり。
にも拘らず、その闇からは抗いがたい何かがあった。

・・・いや、その先に一人の龍人の女性が座っているのが見える。
その女性はものに心を込める事に成功した大魔導師。
だがこちらには気付いていない、どこか別の場所を映し出されているだけのような・・・

『さあ、選ぶがよい。このまま戦場の泥を啜り惨めに屍となるか・・・
定めに従い彼の男と一体となる道を歩むか・・・!
それ以外に彼と一体となった女を越える術はないぞ?』

ジンレインは誘われるまま、まるで夢遊病者のように一歩を踏み出した。
もはや焦点は合わず、夢遊病者のように。

「待った!行っちゃいけない!!
君は過去の宿命や業に囚われちゃいけないんだ!」
平衡感覚も、天地の区別も霞みかかってはっきりしないジンレインを掴む手。
強く、優しく、そして暖かい。
うたかたの意識の中でそれだけがはっきりとした存在として意識を繋ぎとめる。
『その手は・・・父としてか?男としてか?それとも、彼との義理の為か?
いずれにしろ、お前にこの者を止める権利があるのか?過去に囚われし者よ!』
「・・・!」
黄金の仮面の人物の問いに答えられないセイファート。
その動揺は掴んだ手からジンレインに直接伝わっていた。

信念、義理、失望、希望、責任、葛藤・・・様々な感情を呼び起こす声に、セイファートの手が緩む。
その手をそっと優しく包む小さな手があった。
「権利なんて必要ない。ただこの手であればそれだけでいい!」
力強いジンレインの声が黄金の仮面に突き刺さる。

71 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/07(火) 22:12:53 0
 【ロイトン路地裏】

五人の男がアクアを復活させたその戦いを・・・
アビサルの義眼は光に彩られるその光景以外の事も映し出していた。

アクアの復活に喜ぶパルスを尻目に、複雑な感情の嵐に動けないでいた。
トカゲの尻尾団の持つアレが・・・。
そしてアクアの中で起こった想いの力の作用・・・。

それは喜びだろうか?悲しみだろうか?
一番近い言葉は・・・畏れ・・・なのかもしれない。
「侵食してきている・・・の?」
自分でも判らぬまま漏れ出る言葉。

それがとても身近なものだと感じている。
だが、アビサル自身の本能が全力で拒否しているのだ。
蠢く巨大な何かを・・・

大きく息を吸い込み、表情を整えた。
取り繕ったつもりだが、どれだけ取り繕えているものか・・・
今は不可解な感覚より、目先の喜びと危機の方が急を要するのだから。
「良かった・・・」
表情をとり作りきれている自信のないアビサルは、安堵の言葉と共にアクアにそっと抱きついた。
安堵の気持ちより、打算の為に抱きつく自分への嫌悪感を噛み締めながら。

72 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/08(水) 01:13:01 0
――マイラ遺跡――
滅び去った古代都市の中枢で、一心不乱に祈りを捧げるは、遥か古の女王。
中からは決して脱出できないように張り巡らされた結界も、想いを遮る事は無い。
かつて自分が心を与えた数々の物を媒介に、その持ち主達へ思念を送り込む。
ほんの少しでも運命に抗う力となるように願いながら。

――ロイトン海岸――
「えらい悪い夢を見た気がするわ……ってなんやこれ!?」
リリスラの歌の余波を受けたリーブが目を覚ますと、凄まじい光景が広がっていた。
隣を見ると、いつもヘラヘラしてるハイアットが真っ青な顔をしているし、
普段強気なレベッカが今回ばかりはおろおろと歩き回っている。
「ハイアット、どうにかならないの!?」
その時、レベッカは星晶の瞳から声が聞こえたような気がした。
――奏でて……
「え?」
前にも聞いたことがある声。しかし、その時よりずっとはっきりしている。
――音楽は魔法そのもの……奏でて……!

73 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/08(水) 01:15:24 0
――ロイトン路地裏――
「アビちゃん……?」
アビちゃんの様子がどこかおかしい事に気付く。
きっと、まだ小さいのにこんな戦場に放り込まれて極度の精神疲労になっているのだろう。
ジーナちゃんが後ろから背中をつついてきた。
「今のなんだったの?」
「気にしたら負けだ!」
その横では黒騎士さんが驚いている。
「お前ら知り合いなのか!?」
猫耳神官さんとトカゲの尻尾達はあっという間に姿を消していた。
そんな中、何の前触れも無く《暁の瞳》が語りかけてきた。
《突然だけどアーシェラから伝言だ!》
「うわ! 超久しぶり!」
後ろでジーナちゃんが解説を始める。
「出ました! パルス君名物、一人会話!」
「なぜに君付け!?」
黒騎士さんが突っ込む。そんな二人は放っておいて一人会話を続ける。
《グレナデアが爆発しそうだからどうにかしろとのことだ》
「なんてことだ!! どうすればいいの!?」
《自分で考えろボケ》
「では行ってきます!」
呆然とするみんなを置いて、靴をスケートモードに変形させ、笛を吹きながら滑りだす。
【キュアリオスティ】。これを聞いたものは本人の意思に関係なく演奏者に着いてくる。

やがて、後ろに龍人や獣人とりあわせてわらわらと人がついて来始めた。
「謎のスケートエルフキター!」
「何この変な笛の音!?」
「おかしい……自分なんで着いてってんだろう……?」
この調子で行くとレベッカちゃんの所に着く頃には大合唱団が出来上がってるはず。
そして、笛の呪歌には大勢の人に一糸乱れぬ合唱をさせる物もある。
音楽は魔法そのもの。一人の力は微々たる物でもたくさんの想いが集まればあるいは……。

――ロイトン街中――
魔剣ジェネヴァからジンレインに、思念が流れ込む。
――運命に選ばれし娘よ……その調子です。決して運命に流されないで……
ジンレインは、名も知らぬ古代の女王の声を確かに聞いた。
魔剣ジェネヴァは、神の知識が刻まれた世界樹の書であると同時に
アーシェラが心を与えた古代の遺産でもあるのだ。
――自分の本当の気持ちを見つめてあげて。あなたならできる……!
その言葉に根拠はある。ジンレインもまた、世界樹の書に選ばれた者であると同時に
心持つ魔剣ジェネヴァに選ばれた者でもあるのだから。

74 名前:名無しになりきれ[age] 投稿日:2007/08/12(日) 04:17:24 0
保守浮上

75 名前:シャミィとザルカシュの遺跡探検1 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/13(月) 00:18:40 0
マイラ遺跡に突入した師弟は、思わぬ苦戦を強いられていた。
シャミィのキャスターから放たれた衝撃波が、襲い来るカニ型ゴラムを弾き飛ばす。
「邪魔じゃのう!」
二人にとっては取るに足らない敵だが、数が半端なく多い。
ザルカシュが広域探知の魔術を行使し、生体反応に集まってくる無数のゴラムを感知する。
「急がなあかんのに仰山おるわ!」
広域破壊魔法などを使ったら中枢にいるであろうアーシェラまで
埋まってしまいかねないので一機ずつ破壊するしかないのだ。
愚痴をこぼしながらも敵を蹴散らしつつ、確実に歩みを進めていく。
「そろそろかの?」
そう言ったシャミィは、どこかでカチッと微かな音がしたのを聞いた。
「……」
直後、後ろから地響きのような嫌な音が響き始め、同時に地面が振動を始める。
後ろをちらりと見たシャミィは、血相を変えた。
「バカ弟子よ、逃げるんじゃ!!」
「……なんや!?」
師匠のあまりの慌てっぷりに、見てはいけないと思いつつも見てしまうのが人の性。
一瞬後ろを振り返ったザルカシュは、予想を超えた世界を目撃した。
後ろから迫ってきているのものは、大岩でも鉄球でもなく。
「皆の衆、久々のご主人様を手厚くお迎えするのだ!!」
「「「ウェーイ!!!!」」」
頭の上に鯛や平目などの魚介類を乗せて
両手に冷凍マグロを持った筋肉隊だったのである!
背中には「海の幸」と書いてあるのだが、二人が知る由も無い。
「いくら修行しても分からん事ってたくさんあるんやな!」
「そうじゃ、バカ弟子! どこでもいいから逃げるぞ!」
ザルカシュは師匠の手を取り、後先考えずに空間転移の術を発動させた……
つもりだった。しかし、不思議な力にかき消された! 
いつの間にか魔法無効フィールドが展開されているのだ。
筋肉隊のリーダーらしき人の哄笑が響き渡る!
「フハハハハ!! そんな手は我らには通じん!!」
「「ぎゃああああああああ!!」」
師弟は、底知れない恐怖に絶叫しつつ走り出す!。
シャミィはともかく、ザルカシュはいつも飛んでいるので全力疾走なんて滅多にない。
やがて、激しい動悸息切れに見舞われる。
「うわー! もうダメやー!」
シャミィは弱音を吐くザルカシュの手をしっかりと掴んだ。
「そげなことを言うんじゃない、バカ弟子! この手は何があっても離さんぞ!」
「師匠……そうやな! すんまへん、頑張るわ!」
想像を絶する壮絶な逃避行の中、何百年の隔たりも乗り越えて師弟の心は一つになる!
シャミィは激しい息の下、しかしはっきりと呟いた。
「悪かったな、ずっと放ったらかしにして……」
「シャムウェル師匠……!! もうええ、さっきの言葉で充分や!」
二人はそれっきり何も言わず、手に手を取り合い、ひた走る。
そしてついに、前方に希望の光が現れた。
「魔法陣じゃ! 飛び込め!!」
「そぉーい!!」
今の師弟には、単なる魔法陣が神々しいまでに輝いて見えた。
二人は、最後の力を振り絞って眩い光の中へ飛び込んだ!

76 名前:青の守護者 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/13(月) 23:53:45 0
「とりあえず助かったようじゃ……」
「えらい目におうたわ……」
後先考えずに飛び込んだ魔法陣の転移先で、二人は辺りを見回す。
複雑な装置が随所に置いてある所を見ると、運良く中枢だったようだ。
「よっしゃあ! あとは救出するだけや!」
ザルカシュは意気込んで大きな扉へ向かう。
次の瞬間、扉がうごめき、巨大な魚に姿を変えて立ちふさがった!
「何やと!?」
『我が名は青のガーディアン……侵入者を即刻排除します!』
シャミィが素早くキャスターで魔力を打ち出し、相手の動きを一瞬封じる。
「時間が無い! こやつは私に任せてお前は早く結界を解くんじゃ!」
「分かったわ!」
この師匠なら心配する必要は無いと考え、ザルカシュは
アーシェラが幽閉されているであろう部屋に入っていった。

シャミィはこの敵の正体を、見た瞬間に感づいた。
少しの隙も無い構えは解かないまま、語りかける。
「お前は生命を護るために作られたガーディヴァルキリエではないのか?」
『知りません。侵入者は排除するのみです』
同時に、轟音が鳴り響き、シャミィがいた場所に高圧の水柱が聳え立つ!
シャミィは軽やかなとんぼ返りでそれを避け、空中で路盤を操作する。
「これは少し痛いぞ!」
放った術は『thunder net』。弾ける電撃の網が魚の姿をした魔法生物を縛り上げる!
その間に、素早く路盤を操作し、複雑な術を矢継ぎ早に組み上げる。
『truth』『heart』そして……『memory』!
引き金を引くと同時に、空間に三重の魔法陣が広がった!
その一つ一つが常人には扱えない高位の術式である。

「やはり……命令を書き換えられていたか」
シャミィが呟いた。
魔法陣の光が収まり、彼女の目の前には人魚の姿をしたガーディヴァルキリエがいた。
「私は……なんていうことを……」
正気にもどったばかりで混乱しているようだ。
「気にするな。それよりここで何があったのか教えてくれるかの?」
ガーディヴァルキリエは、シャミィの要請に応え、忌まわしい出来事を話し始めた。
「私が眠りから目覚めて3ヶ月ぐらいたった頃でしょうか。
大罪に乗っ取られたジャジャラのホムンクルスが来て……都市の封印を解いて……」
そこで一旦言葉を切り、意を決したように続きを語る。
「……私の目の前で……マイラの都市管理用ホムンクルスは跡形も無く破壊されました
私はされるがままにプログラムを書き換えられて……後は貴方の見た通りです」
「そうか……私はそろそろ行くかの。協力感謝するぞ」
「待ってください!」
先を急ごうとするシャミィに、声がかけられた。
「何じゃ?」
「今は魔力を失っていても分かります。あなたはこの時代最高の賢聖ではないですか?」
人魚の姿をしたガーディヴァルキリエは、シャミィの手をそっと取った。
シャミィは、握られた手から、生命の根源たる海のような
全てを包み込む力強い波動が流れ込むのを感じた。
「この時代の世界はかつて無い危機に瀕しているのですね……。
私にできるのはこれぐらいです。どうか……この世界に生きる……生命を……救って!」
ガーディヴァルキリエは、その言葉を最後に、光の粒子となって空間に溶けた。
「……!!」
シャミィは突然の出来事に暫し驚き、気付く。自分の魔力が戻っている事に……。
「……感謝するぞ」
ゆっくりと感慨に浸っている暇は無い。
名も知らぬガーディヴァルキリエの想いを胸に刻み、古代の大魔道士の元へ向かった。

77 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 21:46:46 0
 【海上都市マイラ】

「けったいな結界やったが、相手が悪かったわな。」
一心不乱に祈るアーシェラがその存在に気付いたのは、ザルカシュの声が耳に届いてからであった。
振り返るとそこにはリザードマンとニャンクス。
古の賢聖と現代の賢聖の・・・
セフィラの覇権を競った龍人と獣人の・・・
その初対面は存亡の危機の中、まるで何気ない道で擦れ違うかのような緊張感のない対面だった。

「何の因果でわいは龍人の古代遺跡にたよっとるんやろうな・・・」
「なんじゃ、大好きな利はどこへ行った?今更古き意地を持ち出すとは似合わんぞ?」
「わーっとるわい。言ってみただけじゃ。」
マイラの中枢制御室にてザルカシュのぼやきにシャミィが突っ込む。
過ぎ去りし日々が戻ってきたような感慨の元、三人の賢聖がその力を発揮する。


 【ロイトン街中】

時の停止したロイトン街中。
対峙するのはジンレインとセイファート、そして黄金の仮面の人物。
ジンレインを惑わす誘いはセイファートとの絆、そして魔剣ジェネヴァからのアーシェラのと呼びかけにより、完全に打ち破られていた。
ここに至り、黄金の仮面が動く。
マントを広げ、ジンレインをその内に包まんと。
その動きは決して素早いわけではない。むしろ緩慢といっても良いだろう。
にも拘らず、ジンレインとセイファートは手を取り合ったまま動けないでいた。
のしかかるように黄金の仮面がジンレインの顔に近づいたとき、それを遮り魔剣ジェネヴァが煌きを放つ。
知性を持つその剣は、所有者の手に在らずとも自在に動き敵を切り刻む。
刃が黄金の仮面の上を滑り、火花を散らした。
「久しいの、黄金の仮面の者よ。」
仰け反る黄金の仮面の人物に魔剣ジェネヴァが話しかけるが、その声はシャミィのものであった。
マイラからアーシェラを媒介にシャミィが接触を試みているのだ。
『古き友よ、賢聖よ。魔力を取り戻したか。』

かつて世界樹の書の存在を知り、ギルヴィア女王国を訪れていたシャミィに世界中の書の情報を魔剣に刻む方法を教えたのは他でもない黄金の仮面であった。
黄金の仮面の人物の不気味な危険性は感じていたが、時間が無かった。
その時には既にトーテンレーヴェの飛竜部隊が迫っていたのだから。

「ただ一個のお主にはわかるまい。我ら定命の者の命の絆を!
いつぞやは利害とタイミングを調整されたが、今はそうも行かぬぞ。
手段を選ばねばお前を祓う手段がないわけではないからのぅ?」
「せやで。オドレは獣人界一の女をええように嬲ってくれたんやけぇのぉ!」
『アーシェラ・・・物に心を宿す女と使おうとしたが、裏目に出たか・・・』
目の前にいるジンレインとセイファート。
だが、見えているだけではない。
魔剣ジェネヴァの向こうには古今の賢聖三人がいるのだ。

じりりじりりとジンレインの頭に手を伸ばす黄金の仮面の人物。
逃げるでもなく、立ち向かうでもなく、ただ二人は強く手を握り締めあっていた。
迫る手の影がその顔を覆った瞬間、弾かれるように黄金の仮面の手ははじけ飛ぶ。
『ぎぃっっ!!』
弾け飛んだ手をマントの中に引き入れながら身をよじり、黄金仮面は姿を消した。

そして風景に色が戻り、時は再び流れ出す。

78 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 21:47:04 0
 【海上都市マイラ】

ザルカシュはアーシェラの手回しのよさに感心しながらも、後一手を決められずにいた。

マイラの設備で座標固定をし、アビサルに星界への門を開けさせる。
足りない出力は新たなる根源である想いの力を利用する。
臨界間近のグレナデアを包んで押さえているヒムルカごと星界に追放。
そしてこの三人で即座に門を閉める。

本来ならば既に爆発していてもおかしくなかった。
そうならないのはヒムルカとアクアノイドが包み、抑え込んでいるからだ。
逆に言えばヒムルカの犠牲なくしては助かる術はない。
ほんの僅かな時間の後悔と懺悔。
誰も犠牲を出したくない。それ故眷族を引き連れず自分一人で動いてきたというのに・・・
肝心なところで一番大切な人を犠牲にせねばならないのだ。

「で、どうやって一つにするかじゃの。」
ザルカシュの思考を現実に引き戻したのはシャミィの声だった。
ただ歌わせればひとつになるものではない。
いや、戦っていた獣人と龍人はそれでいいかもしれない。
目の前にあるわかりやすい危機の前に手を結ぶ事もあろう。
だがそれだけでは足りないのだ。
ロイトンにいる全ての想いが一つにならなければ・・・

そう、人間達が加わらなければ・・・

つい先ほどまで一方的に殺戮されていた人間が危機を前にしたからといって、どうして殺戮者と心を通わせられるだろう?
同じ「助かりたい」でも、バラバラの方向を向いていては力にならない。
マイラの装置を使えば、ロイトン上空に映像を映し説得を試みる事が出来るかもしれない。
だが、ザルカシュやシャミィでは逆効果なのだ。
獣人である、ただそれだけで。
獣人も、龍人も、人間も、全ての種族を説得できる者が必要なのだ。

「あら、それでしたら大丈夫・・・」
悩むザルカシュとシャミィに救いの手を差し伸べたのは古の大魔道師、アーシェラだった。


 【ロイトン海岸部】

星晶の瞳からの声だとわかった瞬間、レベッカ周りが一転して変わる。
いや、変わったのではない。
レベッカの意識が飛んだのだ。

真っ白で何もない世界。ただ一人立っているレベッカ。
暫くすると現れる真っ白な大きな大きなピアノと小さい女の子・・・

ここでレベッカは気付いた。
いつか見ていた夢だ、と。
あの時と同じように音のない世界で一心不乱に引き付ける女の子。
やがて演奏は終わり、スルーツから降りた女の子がじっとレベッカを見つめる。
目と目があって、全てを理解した。
今目の前に迫る危機と自分がなすべき事を。

一瞬の白昼夢から醒めたレベッカの瞳には炎が宿っていた。
そしてここに、未来の世界連邦政府初代大統領・レベッカ・ライラックの記念すべき初演説が始まった。
小難しい理屈も、高度な文法も、練りこみ綴られた言葉も要らない!
ただ想いのままに!
聞く者全ての琴線を震わし、通わせる、歌と言う名の演説が。

79 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 21:47:13 0
 【ロイトン海岸部】

町の中心で歌うレベッカに吸い寄せられるように人が集まる。
人間・獣人・龍人、種族を超えて、憎しみを越えて。
その想いは歌と言う形で一つになり、大きなうねりとなっていく。

その只中にアビサルはいた。
暁の瞳を通じてするべきことの指示は受け取っている。
後はやるだけ、やるしか助かる道はない。

だが、アビサルの本能の一部が猛烈な拒否反応を示している。
義眼を通してみる今のロイトンの街には、『想い』のうねりがはっきりと見える。
戦場でも同じような『想い』のうねりを見て戦慄したものだが、今目の前のうねりは敵味方の区別がない。
歌と言う媒介で一つになったそれは純度が違う。

【危険だ!危険だ!世界が侵食されている!終焉へと加速する第一歩だ!】

頭の中で響き渡る声。
どこかで聞いた声だが、思い出せない。
なぜこんな声が聞こえるのか、判らない、判らない・・・

どっと溢れる汗をそのままに硬直するアビサルの脳裏に響く声。
だがそれ以上に【理】が【利】が、そして本能が突き動かす。
危険を告げる本能を塗りつぶすような別の本能の声。
泳いでいた目は定まり、頭の中の声もかき消されていく。
ゆっくりと上を見る。
宙を見ているわけではない。
星界に漂う星の眼を通じて、ロイトンを見ているのだ。

「沖合い37.564キロ。海上都市マイラとのリンク完了。
座標確認・・・・太極天球儀展開。日輪宝珠・月輪宝珠起動・・・!」
太極天球儀から陣図が展開され、両肩に浮かぶ二つの宝珠がけたたましく回転を始める。
強大なうねりと化した想いの力を吸収していく。

「我、空の理を知りて天則を曲げん!
ポタラの果て、銀叡の彼方、其の空間を今ここに導き、カタラタ・テルミノ(世界の縁の大瀑布)との隔たりを消す門を開ける!!」

呪文の詠唱と同時にロイトン沖の周囲の空間が星界のそれに飲み込まれていく。
星の煌きすらないその門の向こうから、巨大な左腕が姿を現そうとしていた。
グレナデアを、ヒムルカやアクアノイド、そして周囲の空間ごと引きずり込む為に!

80 名前:ジンレイン ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 23:11:13 0
無我夢中で何事かを叫んで、それから誰かの声――
死に肉薄する瞬間の凍りついた時間の中、仮面の人物とジェネヴァを除いて動くものはない。
私の頭に土足で入り込む何者かの声へ意識を集中させた。仮面の言葉はもう耳に届かない。
静止した肉体とは無関係に、思考と会話は滞りなく行われた。

『運命』
たおやかな女の声に、私は足下をすくわれた気分だった。
私は「選ばれた」。こそばゆい。白刃、鉄火を掻い潜り生き延びた十七年の行き先は「運命」。
『ここで死ね、って?』
女は強く否定の意を示した。
幼い私が知る約束の地は、赤き聖印と死神の御手の下に。雄々しく戦い、美しく死ぬ。せめてもの救い。
だが女は運命に抗え、と言う。運命に選ばれながら運命に抗う、禅問答みたいだ。
そもそも外界が私の存在をお節介にも定義してくれるのなら、拒む術も道理もなかった。
どうして無意味と分かっていて、声の女に与えられた抵抗の意志が私を突き動かすのだろう。
私を選んだ運命と戦い、運命に抗う私の運命と戦う。
何処かで運命の糸が途切れるなどと、分かったものじゃない。まるでいたちごっこじゃないか。
『ねえ、私にどうして欲しいのよ』
彼女の慈悲が心の涸れ川を満たしていく。彼女の意思と自我との分水嶺が「私」を形作る描線となった。
『私の、本当の気持ち?』
慈愛そのもののような彼女をどうしても受け入れない、理由を考えた。

母性。母は遠い。優しいだけだ、セイファートもそう。どんな私も赦してくれる、でも赦すだけで何もしない。
彼はいつも私の助けになった、でも私が欲しい訳じゃない。与える事を厭わず、求める事を知らない無償の愛。
例え私がここに居なくても、セイやみんなは上手くやっていけるのだ。
私にも彼らと同等に自由である権利を与えられ、しかし権利など如何ほどの意味を持つのだろうか。
自分は永遠に自分の奴隷でしかない、牢獄の庭を散歩する自由と権利。
あやふやな愛と自由に倦んだ私は、互いに奪い奪われる事をセイに望んだのだろう。
好きにして良いと言われると何をして良いのか分からない、至極退屈な自由の刑から私を奪って欲しかった。
そして私が彼にとって掛け替えの無い持ち物となれば、私もまた彼を所有する事が出来る。
この欲求は束縛し合う事でしか満たされない。
彼を殺してしまうほどに深く傷付けられる距離が得たい。
彼が私を殺すのなら、準備はとっくに済んでいる。心は開け放しだ。

私をあなたのものにして、そうでなければ私は私から私自身を奪って死ぬわ。
これが私の本当の気持ち。多分愛じゃない。
途惑う彼の手を取った時、一方的に彼を奪った感触がした。しかし虚しい。
仮面の男を退けた感情の一端だ。仮面の言葉におよそ間違いはなかったし、惨めさは募るばかり。
もう疲れた。押し売りは無意味だった。また逃げられるだけ、双方に望んだ通りの痛みも得られない。
彼が私を求める事にこそ意味があるのであって、私が彼を奪ったところで幸福は何処にある。
そろそろケリをつける必要があった。「父」への未練を忘れなくてはならない。
七年間抱え続けた業を絶って、初めて純粋に彼を愛せるような気がする。でも、どうやって?
彼を諦めなければ彼を愛せない。そんな私と彼を繋ぎ止めるものは何?
『まるで想いの奴隷ね』
それが正しいこととは思えないのよ、だって私の自由がないもの。
今はただ試してみよう。死ぬよりましな出口があったら探してみる。

思考は寸断され、仮面に次いで女の声が去ってしまうと、足は自然と海に赴いていた。
エドワード、ラヴィ、セイ、ハーピー、あの若白髪の青年もいつの間にか加わっていた。
笛の音に導かれて歩いていく。セイとエドワードは笑っている。
「パルスの笛です、今度は何を企んでいるのやら」
握ったセイの手を振り解く。ジェネヴァは私の後について、ちょっとぎこちなく宙を踊っていた。
私の足を強く優しく操る糸。零れる言葉の虚しさを覚えながら、こう祈らずには、抵抗せずにはいられない。
「私は私の人形なのよ」
剣は私を裏切るかも知れない。男は元より信じてなかった。

81 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/08/16(木) 02:50:05 0
もう何度目かの、一撃。
『天が割れたああああああああああああああああああああああ!!?!?!??』
もう一撃。
『地も割れたああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??!!』
比喩でも何でもなく天地を揺るがす応酬に、ガナンを囲んでいた教皇軍は逃げる事もできず、嫌な断末魔を上げ続けていた。
観戦気分など欠片もありはしない。とにかく巻き込まれて死んでいくのである。
更に、一撃。
『我々割れたあああああああああああああああああああああああああああ???!!!!!!!』
これだけで軽く数百――今、死んだ。

払われる犠牲の滑稽さ惨たらしさには一切目もくれず、ハーフエルフの双子は両者の戦う姿だけを追っていた。
まあ、その比重――特に姉のディアナの注目は存分にスターグへと傾倒していたが……。
懲りずに一撃、恐らくは右拳と呼べるであろう物をぶつけ合う両者。
『…………………………っ!!』
広く何里にも渡って響く音と波に黄金の巻き毛を震わせながら、双子は目を逸らさずに見た。
吹き飛んだのは、スターグであった。
当然である。互いの質量に砂と岩程の差があるのだから。ここまで拮抗していたのが、むしろ奇跡的。
天空に舞い上がった漆黒の巨体目掛けて、その何十倍も巨大な、左拳と呼べるであろう物が迫って唸る。
激突。――光が爆ぜて鳴動する。
スターグの体に浸透しなかった余分な衝撃が、光と音という最も単純な形になって満ち溢れたのだ。
有り余る威力。超威力。
誰の目にも明らかな、突き抜けた怪現象であった。
しかし、生きている。まともにくらったスターグは生きている。
それを許さず、また超威力。
有り体に言ってまた爆光鳴動となったが、今度は拮抗のそれ。無理な体勢からのスターグの回し蹴りが入ったのだ。
吹き飛んで、山肌に埋まるクラックオン。
「駄目だ……」
弟のドゥエルが力なく呟いた。あんなものに勝てるはずがない。
勝っては道理が通らない。
ラライアを睥睨するその存在は、美しく絶え間なく艶やかに奏で、歌声を上げ続けていた。

『『………〜〜〜〜 ラ♪ ラ♪ ラ♪ ラ♪ ラ♪ 〜〜〜〜………』』

オペラ=オルガニスタ=デ=ガナン。

オペラ・メルディウスと公国葬送楽団三千楽士が、よりにもよってガナンそのものと人機融合を果たした姿。
全長1900メートル、直径16200メートル、総重量不安定にて不明。
一人の女の慈愛に満ちた執念が創り上げた、生きた音楽の大要塞。――超規格外。超々ド級。
もはや世界律は、その一助でしかないのかもしれない。
小さなセフィラには収まりきらぬ、また一体の怪物のお披露目であった。

「もう、僕らがいた時代とは…明らかに違う展開だね……」
「ええ……」
「まだ、見ていく?」
「ええ……」
すでに決めた事だ。ディアナは最後まで見届けるつもりだった。
……彼の命が果てるまで。そして、それは今ではないと確信していた。
「彼はまだ、悪魔を見せていないのだから」
あの時、自分を心底まで怖れさせた一瞬の姿。

畏怖すべき、悪魔の姿をまだ見せてはいないのだから。

82 名前:セリガの復活 老亀の最後 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/08/16(木) 23:56:38 0
怒声・・・怒号・・・・そして・・・・死・・・・・また死・・・・・海を朱の色に染めてまた一人、アクアノイドの戦士が散ってゆく。
闘いは一方的な物だった。
グレナデアの生み出す龍には際限が無い。
正確には一個体でありながら集合体であるグレナデアの正体は一部分でも残っていれば再生可能なのだ。
際限なく生み出される龍にまた一人アクアノイドの戦士が食いちぎられその命を終える。
すでに戦闘に参加した10分の一も残ってはいない。
「思ったよりもキツイのぉ・・・・」
流石の老亀も満身創痍とまでは言わないが傷を負っていた。
少しの油断が死に繋がる。老亀の気の緩みに反応したのだろうか、背後から龍の顎が迫った。
「タナトス様!!危ナイ!!」
まだ年端もいかないと思われるマーマンの少年兵がタナトスを庇って餌食となった。
「ギャアアアアア・・・・・・・ッツウコォノ!!」
下半身を喰われ、上半身を引き裂かれながらも手にした銛を龍の額に突き刺し、共にはて、海に還る。
「すまぬ!!そして見事じゃ!!弱音なぞ吐いておれんわい」
さらに襲ってきた龍を逆に食い殺しながら老亀はグレナデアの顔面に飛び出た。
「雑魚ばっかり叩いても始まらんか。覚悟せいや。」
グレナデアの顔面にめがけおもっきり鎚が振るわれた。

ロイトンから数百キロ離れた海中、そこにシーマンの野営キャンプがあった。
「セリガ様 ご帰還」
歩哨の声に皆慌ててテントから飛び出す。
「セリガ様、お一人でどこに?」
「お怪我されているではないですか?」
御付の侍女達に体の手入れをさせながらセリガはゆっくりとお気に入りの椅子に腰を下ろした。そして侍女の一人を抱き寄せる。
「なぁ、お前」
「なんでしょうか、セリガ様」
いつもならこんな事はしないセリガの行動に戸惑いつつ侍女は頬を赤らめた。
「気に入った今夜、俺に抱かれろ」
唐突な命令に侍女は多少戸惑ったが、むしろ他の侍女の悔しがる顔が優越感に変わっていった。
「喜んで」
二人は部屋の奥へと消えていった。
(ふふふ、セリガさん、なかなか解っておられる。特別扱いされると傲慢さも増すもの、本当に良き寝床です。)



83 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/18(土) 14:41:48 0
「パルス!? ……それにその人達何!?」
ハイアット君が幽霊を見たような顔をしつつ、後ろの一団に驚いた。
「レベッカちゃんのバックコーラスをしてくれる心優しい皆様です」
後ろの一団が一斉に抗議する。
「いやいやいや! 強制連行だろ!!」
「てゆーか音痴なんだけど!」
そう言いたくなるのも当然だが、説明している暇はない。
「大丈夫! 僕の笛に合わせれば歌えるよ」
レベッカちゃんが歌い始めたのに合わせて、奏でる。
そして、強制連行なんてする必要は無かったとすぐに悟った。
力強い歌がロイトン中の人々を一つにまとめあげていく。
想いが一つになったのを感じ、そっと笛を吹くのをやめる。
ここまで来たらもう大丈夫。手助けしなくても揺るぐことは無いだろう。

暁の瞳が教えてくれた。マイラ遺跡と同調したアビちゃんが
周囲の空間ごとグレナデアを星界に追放すること。
つまり、スフィーニルと化したあの人も一緒に星界に追放されようとしている。
気付かれないようにみんなから少し離れ、一フレーズの旋律でペガサスを一羽呼んだ。
「お願い、沖まで飛んで!」
ペガサスに跨ったとき、声がかけられた。
「こんな時にどこに行くの?」
セイの剣の弟子らしきジンさん。見たところレベッカちゃんよりも
年下なのになかなか侮れない相手である。だから正直に答えることにした。
「信じられないかもしれないけど、あの海蛇は本当は優しい人だったんだ……。
星界に投げ出されようとしているあの人を救うため、とどめを刺しに……」
アニマに食われてしまったからには助かる術はない。だからこの手で終わらせる。
「あなた正気? 訳が分からないわ。それにどっちにしても死ぬのだから一緒じゃない!」
当然の反応である。彼女の言ってることは完璧に正しくて、僕のしようとしていることは
単なる自己満足に過ぎないのかもしれない。それでも僕は……。
「それは違うよ、ジン。行かせてやれ」
そう言ったのは、セイだった。
「絶対しくじるなよ? そいつに何かあったらレミリアに殺されるからな!」
「りょーかい!」
冗談を言って見送ってくれるセイに手を振り、沖を目指して一直線に飛び立った。

84 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/18(土) 14:43:25 0
ジンレインが怪訝な顔をしてセイファートに尋ねる。
「一体何なの? あなたまで一緒になって……」
「パルは……還してあげたいんだ」
「還す?」
「全ての生命はやがて星に還る。そうしたら目に見えない想いの粒子のような物になって
いつかまた新たな生命の源になる……私達の故郷の言い伝えだよ」
「故郷の事なんて初めて話してくれたわね」
「初めて……だったか。何も話してないからな」
セイファートは思う。全てを話すべきなのだろうか。
答えは分かりきっているのに、迷っていた。
長い時間をかけて過去を乗り越えて笑えるようになった親友とは違う。
人間には数十年の寿命しかない事が痛いほど分かっているから……。

眼下で繰り広げられる死闘、グレナデアの爆発を抑えてくれているスフィーニルを見て
聞こえないと分かっていても声を掛けずにはいられなかった。
「過ちは決して繰り返さないよ。だから……今度生まれてきたら幸せになって……!」
チャンスは星界に引きずり込まれる直前のほんの少しの間だけ。
全ての精霊力がセットになったアニマに一瞬でとどめを刺すには
12の精霊力を同時に封じるしかない。
星界への門が開き始めたのを見計らい、詠唱を始める。
「始源にして終焉、根源にして深淵、元より零故に不滅……汝が名は虚無!
我が命に応え、今一度、荒ぶる御霊を沈めたまえ!」
この術は12の属性のどれでもない。正確には、存在を前提とする精霊の術ですらない。
エルフの長だけが識ることが出来る幻の13番目の属性、「虚無」。
存在しない存在であるが故に偏在する。
12属性全てを兼ね備え、同時にその全てに対して負でもある不思議な力。
そして、レシオンが溺れた力……。
漆黒の空間の向こうから何かが姿を現そうとした時、組み上げた虚無の力を解き放つ。
「【インフェニティゼロ】!!」
見えざる力が渦を巻き、スフィーニルの周囲で12色の閃光が炸裂する。
すでに星界追放が始まり、凄まじい魔力の嵐で前を見ることさえ出来なかった。
「きっと上手くいったはず……行こう!」
結果を見届ける余裕はない。ペガサスに元来た方に全速力で戻るように命じた。
後ろで凄まじい事が起こっているのを感じながら振り返ることもなく、海岸を目指す。

85 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/08/20(月) 03:03:50 0
『『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ラ♪ ラ♪ ラ♪ ラ♪ ラ♪ ラ♪ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』』
撃砕、粉砕、dai爆砕。
歌声と旋律と両拳らしき物が、あっと言う間にスターグごと一つの峰をそうしてしまう。
その気にさえなれば、こいつは一刻も掛けずにラライアを更地に出来てしまうのだろう。
もはや、人が住まうようなものではなかった。
『『〜〜〜〜〜〜〜〜 ラ♪ ラ♪ ラ♪ 〜〜〜〜〜〜〜??????』』
粉塵晴れての歌声に、疑問符的な響きが混じる。
「ようやくご披露してくださったわ。――まったく、火付きの遅い人……!」
ディアナは憎まれ口を叩き、ドゥエルは黙って息を呑んだ。

『『<<<<<<<<<<< ラ♪ ラ♪ ラ♪ ラ♪ ラ♪ 〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?!?!?』』
撃砕、粉砕、DAI爆砕。
オペラ=オルガニスタ=デ=ガナンの両腕らしき物は、見事なまでにそうなっていた。

振動――というより、いわゆる運動と呼ばれる行為現象その他全般。
様々な、あるいはまったく異質な諸々をも含んですら、それらをとことんまで突き詰めると……。
「…………悪魔…………」
無≠ニ、成らざるを得ない。
運動とはつまり、極限究極にまで高まってしまうと、必ず何かしらの無≠ヨと至るものなのである。
煉獄の志士スターグが編み出した獄震≠フ至る果てもまた、この無≠ニいうやつの一つの形であった。
名前はない。
彼は無≠ノ名を付けるようなおこがましい男ではなかったから。
ディアナは、その姿と恐ろしさからただ悪魔≠ニだけ呼んだのだ。

悪魔が、無を続ける両腕を構えた。
オペラ=オルガニスタ=デ=ガナンが、復元した拳らしき物を百以上にも増やした。
両者、たっぷり一千メートル程の距離を置いての対峙である。
そのまま、数分の時が流れた。
何の余波もエフェクトもない、林のように静かな数分。
しかし、戦いはもう始まっているのだ。
そして、終わろうとしていた。

「が、ガナン……!!」
ドゥエルが叫ぶ。互いに威力を殺し合っての応酬は、驚愕の天地となって眼前へと開放されたのである。
「ガナン………ぶっ飛んだよ!!???」
傾いた状態で煙を上げるオペラ=オルガニスタ=デ=ガナン。
衝撃は彼女を、基部ごと根こそぎにラライアを断つ剣としてしまったのだ。
一拍の沈黙の後に、その跡――底知れぬ地の裂け目から粘性の何かが盛大に噴き上がった。
マグマかと誰もが思い、そして違う事に戦慄する。
「これって……」「…………血?」
底の闇から湧き起こったのは、膨大な量の血液だったのである。
「下に、一体何が……?」
そうだ。双子は知らなかったのだと痛感する。自分達は、彼らが何故ガナンを攻めたのか知らなかった。
真っ直ぐ聖地を目指すのに、一体何故……?

その真意を知らなかったのだ。

86 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/08/20(月) 21:51:55 0
アタシにとって歌は人生だったと思う。
小さい頃から楽器に囲まれて育ったし、歌うことも好きだった。
いつからだろう。
自分の歌いたい歌を、自分で探すようになったのは…
今思えば、アタシが探していたのは、歌いたい歌じゃなくて、歌うべき歌だったんだね。
本当はずっと前からあなたを知ってたのに、思い出すのが遅くなってゴメン。

(歌ってみるよ、アーシェラ)
だって…アタシの歌うべき歌は、あなたの歌うべき歌でもあったんだからさ。

『ありがとう、レベッカ…』
星晶の瞳が語りかけてくる。気の遠くなるくらい昔から、ずっと待っていたんだもんね。
いいよ。歌おう!!バカみたいな戦いなんか、終わりにしちゃおう!!!
「聞きたくない奴は耳を塞いで、聞きたい奴はしっかり聴きな!!!」
声を張り上げる。喉はとっくに限界で、これ以上歌うのは無理。
それでもアタシは決めたんだ、覚悟なんて大層なものじゃないけどね。
この先2度と歌えない喉になったとしても、今歌わなきゃ何時歌うっての。

そう、今しかないじゃん!!!!

レーテさんが言ってた。『歌は人を結ぶ“絆”です』って。
だったらアタシが人間も、龍人も、獣人も…みんな繋がる“絆”を歌うよ。
だからレーテさん、もしこの歌が聞こえたなら、アタシの声が届いたなら…

〜♪〜
世界は美しくないなんて誰が言ったの? まだ何も見てないのに
知らない場所に行くのって 少し勇気がいるけれど
こんなに世界は広いのに 知らないままなんて寂しすぎるから

正しい道なんか無いから それぞれの道を進もう
例え回り道はあっても 行き止まりなんて絶対に無いから
未知なる道を歩き続けば きっと自分以外の誰かと巡り逢える

人は分かり合えないなんてどうして分かるの? まだ何も知らないのに
知らない誰かと分かり合うって とても難しいけれど
こんなにも出会いがあるのに 知らないままなんて寂しすぎるから

迷わないひ……と……!?


歌が突然止まった。
ゆっくりと倒れていくレベッカの背中に、1本の矢が刺さっている。
「なに!?何があったんだ!?」
慌てふためく一同の中、リリスラだけが事態の全てを悟る。
矢に付けられていた羽根飾り、それが誰の放った矢であるかを教えたのだ。
その矢を放った者は遥か千里の先、草原を駆ける偶蹄種族の裁定者…

天弓神槍アオギリ・コクラク。

87 名前:セリガの復活 老亀の最後 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/08/21(火) 22:35:19 0
連撃、連撃、連撃 大槌が雨霰の如くグレナデアの顔面に降り注ぐ。
「ごぁあああああああ!!」
筋力の限りを尽くし、一切の余力すら残さない文字通り 最後の攻撃、体中の孔という孔から血を噴き出す。
連撃、連撃、連撃 程なくして、老亀は力を尽き果たし、ゆっくりと水面下へと落下していった。
落ちる最中、老亀は自分の一生を振り返った。
数多の闘い、乱獲などで衰退する一族、古き友、教育係としての穏やかな時間、そしてまた戦争、思い返せば、大半は戦の事ばかり、
その中で、忠義よりはむしろ親心を持つ事が出来る相手がいたのは幸せな一生だったのではないか?
そんな思いに自嘲気味に笑ってみせた。
「老甲鬼ともあろうものが情けないわ・・・・。」
言葉とは裏腹に穏やかな笑顔になる。その見つめる先には一頭のペガサスが写っていた。
「亀よりも遅い騎兵隊・・か、ハッ、笑えんわ」
その言葉と共に朽ち果てた体は水没していった。その顔には穏やかな笑みを浮かべたままで

(よぉございましたなぁ、おひいさま、最後にお気持ちを汲む事の出来る輩と出会えて・・・)

老甲鬼 タナトス ここに生の終焉を迎える。


「さて、多少は満たされましたし、メインデッシュでも食べに行きましょうか?」
シーマンキャンプは動く物は何一つ、いや、セリガ以外の動く物は何一ついなかった。
女は干からび、男は切り裂かれ、生ある物は何もかも根絶やしにその命を奪われていた。
「ふぅむ、まだ力を取り戻すには時間がかかるようですね?」
誰に問いかけているのか常にセリガは質問口調で喋る。
「なるほど、お互いにダメージを受けすぎた、と言う所でしょうか?」
(まぁ、そう言う事ですよ、セリガさん、もっと力をつけませんと、ね)
大罪の魔物、傲慢の言葉にセリガは肩をすくめた。
「やれやれ、あれだけの力を出しておいてまだ足りないと、これでは傲慢ではなくて飽食の魔物だ」
(この私に対してのその傲岸不遜なその態度、全く持って、我が主に相応しい、期待してますよ。)
セリガは少し笑った後カトラスを担いで、次の獲物の場所へと向かった。
この日、シーマンの残った部族の内、二つが滅び去る事となる。

『いや、本当にいい、苗床ですよ、あなたは』
セリガは気がついてはいない、傲慢の魔物すでに自我を侵食され始めている事に。


88 名前: ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/08/26(日) 00:04:44 0
遥か千里先、凶弾の主はその瞳を閉じ、瞑想にふける。
(当たりましたかねぇ・・・・・)
アオギリ・コクコラは信じていた、再び獣人による世界の統治を、そして感じていた、その最大の脅威となる存在を、
ジャジャラ遺跡の破壊失敗、その原因を探るうちに浮かんだ三人、
ガーディヴァルキリエ、パルス、そして、レベッカ
その内、ガーディヴァルキリエはジャジャラ消失と共に消えた。パルス、森の民の長 パルメリスには過去の贖罪が人々を統べるのには不利だ。
だが、レベッカだけは違う、レベッカだけが何物にも捕らわれる事が無い。そして、
(全ての心を一つにですか・・・素晴しい事のはずなのに・・・私達の邪魔になるのは何故でしょうかね)
レベッカは持っていた、獣人、龍人、人間 全ての心を纏め上げる手段を、だがそれはアオギリ・コクコラの目指す世界を閉ざす力でもあった。

すでにアビサルの術式は完成し、後は力を注ぎ込む、その矢先の凶事、レベッカの背中に刺さった弓矢は貫通こそしてないが見た目よりも深く、
レベッカの周囲には緊張感が漂う。
「私に構わず・・・・・歌を・・・・」
レベッカが朦朧とする意識の中、歌を歌わんとその身を起こそうとする。
「無茶だ!!大人しく寝てろ。」
「もう、駄目だ・・・・終わりだ」
「え、何、何?何がどうなってるの?」
次第とざわめきが広がる。そして蔓延していく不安と恐怖
「アクアさん・・・ちょっと肩を貸してもらえますか?」
「は、はい、解りました。・・・無理はしないで下さい」
アクアの肩に掴まり、レベッカは目の前の群集を見た。皆一様に不安げな顔をしている。レベッカは持てる限りの声で話し始めた。
「皆、聞いて、今私達は巨大な危機の目の前にいる。その危機を回避するには皆の歌が必要なの」
「だけど、あんた、もう歌えないじゃないか!!」
その反論にレベッカは少し歯噛みしながらも答える。
「そう、私はさっきまでの様には歌えない、でも大丈夫、こっちにはまだ獣人の伝説の歌姫がいるもの」
その言葉に驚いてリリスラが地面に下降してくる。
「ちょ、ちょい待ち、それって私の事か!?」
「そ、私に出来て、貴方には出来ないって事はないもんね?」
そう言うとレベッカは目を閉じた。
「お、おい ちょっと待て」
「気を失っただけですね、脈は強いです。油断は出来ませんが」
気絶したレベッカを極力傷つけないように体を変化させながらアクアが介抱する。
「いや、・・・・うーん まいったな・・・」
リリスラが辺りを見回すと、今までのやり取りを聞いていたのか周囲の期待の目が注がれていた。
「・・・ったく!!しょうがねぇ!!出来る所までやってやるか!!」
新たな歌声が響き始めた。

89 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/26(日) 23:12:21 0
海岸に降り立って、はじめて沖のほうを見る。
さっきまでの事が嘘のように、グレナデアは跡形も無く姿を消していた。
「良かった……成功したんだ」
波打ち際で、何かが不思議な輝きを放っているのが見えた。
そっと拾い上げると、いっそう強い輝きを放つ。
それは、見る方向によって12の色に見える小さな宝珠。人造精霊獣……アニマの結晶体。
海の女王を復讐の運命へと誘った呪われた力に他ならなかった。
本来は決してあってはならない物。虚無の術をもう一度かければ封印することができる。
だけど、すぐに封印する気にはならなかった。
もしかしたら、あの人が残してくれた最後の贈り物なのかもしれない。
例え呪われた力であっても、未来を繋ぐ希望になるのかもしれない。
物思いは、突如聞こえてきた不気味な声に中断された。
『迷う必要は無い、呪われた一族の長よ。全ては定まりしこと……』
「誰かいる?」
うっすらと黄金の仮面の人物が見える。
間違いない、海底でも見えたような気がした奴だ。
「君は何だ!?」
『始まりは汝……。我は第八の大罪が生まれし故に生まれた者……』
意味不明な言葉を言い残して姿を消した。
その後すぐに、ハイアット君がものすごく慌てた様子で呼びに来た。
「大変だー!!」
「どしたの? グレナデアならもう無いよ」
ハイアット君の次の言葉は、信じたくないものだった。
「君の相方に……矢が……!!」

90 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/08/27(月) 02:31:22 0
オペラ=オルガニスタ=デ=ガナンが、崩れて行く。
歌声すら上げずに、粛々と進む崩壊の音色だけを煙に乗せて奏でて吠えて……崩れて行く。
万の時を経た霊峰都市の、それが最終楽章であった。
残ったのは、その中心軸。瓦礫をまとわり付かせた真鍮色の《基部》と呼ばれる尖塔だけ。
今となっては、少なくとも遠目から見下ろす双子の目には、剣か槍のような物にしか見えなかった。
そして、沈んで行く。
今度はガナン基部のが……しかし今度は崩れる事なく、自身が切り裂いた奈落の底へと沈んで行く。
いや、
「…………違う」
正確には奈落へではなく、そこに落ちた影へとだ。
基部が、影へと吸い込まれて行く。
こんな所業を成せるのは、この世でたった一人だけ。

『英断デアッタ……』
ラライア中腹、本来ならば南からの侵攻に備えるべくして設けられた砦の中庭。
すでに教皇軍の襲撃を受けて焼け落ちたその場所に、イアルコとゴウガ、アルフレーデはいた。
「……褒められるのは、苦手での」
ガナンが崩壊したのは、スターグの悪魔によってではない。
イアルコが、中枢にて公都大崩落の操作を行ったからなのである。
図らずも、スターグとオペラ夫人の戦いを止めるという獣人側の思惑に協力した形となってしまったが、あの場合は
それしか手がなかったので特に後悔はなかった。
あのままスターグに打たれ続けられようものなら、夫人は無事でもガナン内部の者全てが死んでいたに違いないのだから。
崩壊の十数分で、残った要避難者に脱出してもらうしかなかったのだ。
だから、後悔はない。
「さあ、龍人の歴史に幕を下ろしに参りましょう。――さながら、今のガナンの如くね」
「オカマは黙っとれ。おい黒犬、本当にあれで祖龍めを引きずり出せるんじゃろうな?」
『確約シヨウ。ソコマデハ……』
「なるほどの。そこまでは〜〜……か」
勝つとも勝てるとも言わない。何もかもが不気味な奴である。
『我ラハタダ、一路聖地ヘ……』
当てにはできない。
後どれだけの猶予があるかは知らないが、イアルコにできるであろう事は少なかった。

ガナン廃墟。地下深くの存在が鳴動と共に遠ざかって行く感覚を足元に、スターグは佇んでいた。
無≠ヘ、生命の根源すらも揺るがしてこそもたされる現象だ。最強の肉体の持ち主と言えども、使用には限度がある。
彼は、明らかに弱っていた。
その背後より、妄念の喪服姿が――迫る。

「獲っ――――ったああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

血管までもが艶かしく映る白い大腿部をさらけ出して、両脚両腕がその首を、腕を、負ぶさるような格好で締め上げる。
――龍人流柔術《背取り三角締め》
結局最後に物を言うのは、軍勢でも歌声でも大いなる力でもない。それらすべてを排した果て……素の肉体のみなのだ。
クラックオンの右肩が、捻れ尽くして千切れ落ちた。
見下ろす姉の悲鳴が響く。

オペラ・メルディウス伯爵夫人の、かなぐり捨てた勝利の哄笑が木霊した。

91 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/08/27(月) 23:58:02 0
ゴウガは確かに祖龍を引きずり出せると言った。だがそれには肝心の部分が抜け落ちていた。
ガナンが崩れ去った跡に残された尖塔、それは『杭』…
祖龍を、いや・・・祖龍の肉体を、この大地に打ち付けた杭であったのだ。
央に至る門で封じられているのは、魂だけに過ぎない。
そして魂の無い抜け殻に等しい祖龍の肉体は、今や誰にも守られていない。

最初で最後の好機である。
ここで祖龍の肉体を破壊出来れば、すべてが終わる。
総てに決着が着く。
全ての生命が救われる。

「ほんとにやっちゃったよ…ご苦労サマサマだね」
ニヤニヤと笑うのはシファーグ。
「これで大老殿の計画は最後の詰めに入ったな。まさかここまでくるとは…」
その隣に立つのはトルメンタ。
2人はこれから始まる『祖龍抹殺計画』のため、ガナンから既に脱出していた。
「それにしても、いつまでそんなダサいマスク着けてるんです?パルモンテ伯爵」
「いや、デザインはカッコイイぞ?」
ダサいと言われ、憮然とした顔(マスクで隠れてるが)で答えた。

イアルコによって殺されたはずのパパルコ・パルモンテ伯爵。
何故生きているのか、簡単である。死んでなかったからだ。
そもそもイアルコ程度に殺せるほど弱い者が、12貴族を名乗れるわけがないのだ。
「坊ちゃんもいないんだし、もうそれ要らないんじゃ?」
半ば呆れ顔でマスクを外すよう勧めるシファーグに、やれやれと嘆息。
マスクを外した下から現れたのは、やはりパルモンテ伯であった。
「後はイアルコが祖龍に体を奪われた陛下を殺して終わりだ、長かったな…」

央に至る門で祖龍の祝福を受けたギュンターを殺せるのは、黒騎士の他にもう1人。
「うまくやれますかね?もう気づいてるんじゃないかな、本当の親に。」
「問題は無いさ、そのために78年前のあの日、私が育ての親に名乗り出たのだからな」
「祖龍を殺せる唯一の方法が『親殺し』だなんてね、皮肉だなぁ」
パパルコの表情に、ふと影が射した。
彼は練習台でしかなかったはずだ。だが、やはり多少なりと情は移る。
「さて、我々にはまだ仕事が残っているぞ!シファーグ君!!」

大声そう言うと、パパルコは再びマスクを装着し、シファーグの肩を叩いた。
そうだ、2人にはまだやるべきことが残っている。
「ほんとに気に入ったんですね、それ…」
ややげんなりしたシファーグと共に、パパルコはその場を後にした。

餌が要るのだ、イアルコにギュンターを殺す力を目覚めさせるための…生贄が。

92 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/28(火) 22:37:41 0
【ロイトン海岸】

星界への門は開いた。
グレナデア周辺の空間は既に星界のそれとなっている。
あとは引き摺り込み門を閉めるだけ・・・
その段に至って、門の輪郭が歪む!
ロイトンで一つになっていた思いのうねりに亀裂が入ったのだ。
千里の果てから放たれたたった一本の矢の為に。

その様は宙を裂く稲妻のように想いのうねりをを引き裂き、歪ませていく。
歪みは伝染し、更に大きくなっていく。
術の行使により半トランス状態のアビサルには何が起こったのかはわからない。
が、目で見えなくともそれ以上に敏感に思いのうねりの変化を感じ取っていた。
そして悟ってしまう。
このままでは星界の門が形を保てなくなる、と。


その頃、レベッカに後を託されたリリスラはレベッカの立っていた場所で涙していた。
一度揺らいだうねりをまとめ直すのは容易な事ではない。
それが伝説の歌姫リリスラといえど・・・だ。
たった一人の力で無数の想いを御す事など。
歌の技量ではない。
そのほかの部分がリリスラは取り戻しきれていないのだ。

更に歪み、幹線に形を失おうとする思いのうねりを前にどうする事も出来ない。
そんなリリスラの肩をそっと抱き寄せるのは・・・
そして優しく耳元で囁くのは・・・
「ルシフェ姉・・・!」
いや、そんなことはない。それはリリスラ自身分かっている。
だが今時分の背を優しく抱いているのは紛れもなくあの頃の・・・
そう、数百年前の時が戻ってきたような・・・

「ありがとよ!」
小さく呟きながら背中を預けたエルフを殴り倒し、大きく息を吸い込んだ。
泣き言も、不安も、出切るか出来ないかもいらない。
レベッカの想いを継ぐなんて義務感もいらない。
ただ自分がレベッカの思いを継ぎたいから!
やるだけなのだ!
天空の歌姫渾身の、そして全てを揮わせる歌がバラバラになりかけた想いを一つにまとめる!


再び思いのうねりが一つになるのを感じたアビサルは、一気に展開した太極天球儀の陣図に左腕を突き刺した。
既に一度やった事だ。
・・・もしかして、黄金の仮面の人はこうなる事を知っていてルフォンで・・・?
ふと脳裏にあの時の事がよぎる。
余りにも同じ場面が故に。

93 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/28(火) 22:38:25 0
【ロイトン沖】

インフェニティゼロの十二色の光と魔力の奔流が渦巻く中、巨大な腕が伸びてきた。
星界に引きずり込む為に。
グレナデア、スフィーニル、星界からの腕。
巨大な怪物と、魔力の奔流の中、ただただ粛々とその渦中を歩く影が一つ。
「随分と劣化して伝わったものだ・・・」
マントをはためかせながら、小さく呟くその口調には嘲笑の色がある。

虚無の力がスフィーニルを滅する前に、水の身体に手を差し込んだ。
そして探るようにして取り出したのは12の色に見える小さな宝珠。人造精霊獣……アニマの結晶体。
黄金の仮面の人物がヒムルカの身体に埋め込んだものだ。
「それに引き換え、偶蹄種族の若武者よ。見事。
だが我が主の悲願を解せぬとは度し難き者よ。」
アニマの結晶体を手にした黄金の仮面の人物が千里向こうのアオギリに向かい小さく息をついた時、全ては光に包まれた。


【ロイトン海岸】

星界の門は無事閉じられ、グレナデアはそこから姿を消した。
グレナデアのいた空は歪み、その爆発の凄まじさと門を閉じるのがギリギリだったことを皆は理解するだろう。
その印象が余りにも強かったが為に、ロイトンにいる殆どのものが理解できなかったのだ。

グレナデア追放の瞬間、辺りを覆った光が何であったのか、を。
その光はロイトンだけでなく、ゼアド大陸全体を包んだ断罪の使徒降臨の光であったと理解できたのはほんの数人でしかなかった。
その本の数人の中の三人。
古今の賢聖、アーシェラ、シャミィ、ザルカシュは力の制御と門を閉じる作業で力を使い果たしマイラからの帰還にはまだ時間がかかる。
そして海岸部では、一人の女を中心に全てのものが固唾を飲んでいた。

背中に深々と刺さる矢を前に、誰もが手を出せずにいたのだ。
「駄目だ、抜くな。心臓に達していてもおかしくない深さだ。今抜けば・・・!」
ディオールが苦しそうに正確な診断を下す。

「ア、アクアさん・・・何とかならないのでしょうか・・・?」
術の行使でふらふらとなりながらレベッカに近づくアビサルには左腕が無かった。
星界の果てで起こったグレナデアの爆発は唯一あの巨大な腕だけを巻き込んでいた。
そしてその腕の破壊はアビサルの左義手の破壊となって現れたのだ。

懇願するアビサルの言葉は残酷だった。
アクアはラーナに使える神官ではあるが、神の奇跡を起こす事は出来ないのだから。
縋るような目で見つめられるのはまるで責められているかのように悲しげに俯く事しか出来ないのだ。

94 名前:児戯笑談 ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/08/29(水) 00:30:23 0
――グラールロック、金獅子の宮殿。
「レベッカさんの歌は素晴らしい力を持っているです」
チェカッサの刀に、ヒロキは短剣で手合わせする。運動不足で苛立つ王子様の血抜きだ。
ロイヤルナイトの団員たちが降り、人気の無い広間で二人は剣を交える。
王子は正眼の構え、銃士は相手に左肩を見せる向きで、左手にナイフを握る。
脇に下がった右手は、本当なら拳銃で狙っている。

チェカッサの、一撃必殺の居合いを流す自信はヒロキにはない。
慎重に距離を取り、ヒロキの防御へ探り込む刃を打ち返すのが精一杯だった。
チェカッサも、焦らしに負けて不用意に敵の懐へ飛び入るほど迂闊ではない。
退屈しのぎのお遊びにしても、お互い剥き身の真剣で試合っているのだ。
撃ち込んでは退き、その間に言葉を交わす。
「彼女の歌は世界の造形さえも歪めてしまえる、世界律の『根源』を介して。
未曾有の危機がゼアド大陸を脅かしつつある今、彼女は信義の為ならば躊躇う事なく、あの歌を歌うでしょう」
「彼女は危険だ」
左腕を撃たんとするチェカッサの剣をステップでかわし、追撃はナイフで牽制する。
「誰にとって?」
「俺にとってだ」
ヒロキがナイフでかまをかけ、ぶれたチェカッサの剣先を払って飛び込む。
突撃は紙一重で見切られ、チェカッサの体当たりにヒロキが倒れた。
「正直な人です。この世界を守る術が彼女の歌以外にないとして、それでも彼女を討ちますですか?」
仰向けに倒れたヒロキへ追い討ちの上段大振り。銃士は右に跳ねて、起き上がった。
「必要とあらばね」

「彼女たちを押さえてしまえば、残るのは抜け殻ども。
37年後のヒロキさんが教えてくれた『歴史』です。我々はその一部分に介入し、改竄する。
このまま戦争は続くです。勝利は約束されている、機を待つだけ。簡単な事ですね」
「使徒と魔物は十剣、ホムンクルス、エドワードに任せる。アニマと祖龍はどうする?」
喋りながらも、チェカッサのリーチの有利を削ぐ為、ヒロキの身体の倍の幅はある、巨大な支柱へ後退りした。
「コントロールされなければならない。聖戦などと、僕らの庭で連中にこれ以上勝手はさせられない」
「ゴンゾウとロシェが出た理由? 分岐点は近い、そいつはナバルに『降って』来る。
『果実』を喰った祖龍は世界樹の芽だ。セフィラの形而下存在による干渉はいずれ不可能になる。
今ならまだ間に合うぜ、連中の尻馬に乗ってでも消しちまうべきと違うか? それとも……」

背中が支柱に当たった。小手を狙った鋭い打ち込み、かわして右後方に回る。
柱を盾にして間合いを開く。チェカッサが時計回りで追う。
「祖龍が死ぬと困る、と言ったのは貴方じゃないですか。代替策がないとでも?
魂胆もなしにヒロキさん、貴方を味方につけるほど僕もお人好しじゃない。剣ですよ、何処に隠したです?」
「戦争が終わったら、大陸中の土を掘り返してみるが良いさ」
「未来の貴方は何故、剣を使わなかったのか? 時間はあった筈です」
二人は柱を挟んで向かい合った。双方動かず、留まる。
「チェカッサ、グラールと十剣者を潰すぞ。余計な枝をみんな払えば、最後の敵が見えてくる」
「それは出来たら、魔物とエドに任せてみましょう。すぐ殺すよりもう少し働いて貰えば良い」

95 名前:矢傷 ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/08/29(水) 00:35:47 0
アクアは漁師小屋の土床にレベッカを横たえ、傷口を調べる。
動脈、肺臓、それに心臓を貫通しているかも知れなかった。
矢が突き立ったままで、出血はまだ少ない。ジェシカがレベッカの呼吸を確かめながら、
「治癒魔法は?」
「矢を抜かなくては、傷口は塞げません」
ディオールが邪魔な矢羽を切って落とす。
「あんたはスライムだったな? 喉を塞いじまわない程度に、潜って調べられないかね」
アクアがハッとして顔を上げる。
「最後に喋った時、息が詰まる感じがありましたね?
刺さった矢が肺を通っていれば確かに、口か鼻から潜れる筈です。やってみましょうか」
アクアは右腕を捲くると、簡単な呪文で塵や毒気を払って、
それからレベッカを、数人がかりで仰向けに返して支えた。
アクアが矢を掴むまで、治癒魔法は最低限の生命維持に集中させる。
後は野となれ山となれ、矢を抜きつつ同時に患部を閉塞し、出血を抑える。
成功の保証はないが、レベッカの生気の散るに任せるより上等に思えた。

レジーナが魔晶石の粉末で床に魔法陣を描き、レベッカを囲った。
体内組織の治癒は体表面よりぐっと難しくなる。慎重を期し、呪文詠唱のみの操術に典礼儀式を加える。
レジーナの魔法陣は治癒魔法の基本も基本、傷病の自然治癒速度を加速するが
魔法が暴走するかアクアが矢を抜くのにあまりもたつけば、
貫通創周辺の組織が異常成長により肉腫を生じ、呼吸器その他内臓器官を圧迫して、事態を悪化させてしまう。
「喉が塞がっちゃわない?」
「頑張ってみますけど、あまり細いと上手く動かせない……」
開かれたレベッカの口に、恐る恐る指を呑ませる。レジーナが操術で麻酔をかける。
施術中は、魔法陣がレベッカの生命を担うがこれだけではジリ貧になるのが見えている。
「繊細かつ大胆に、慎重かつ迅速に」
呟く。祈るのは最後だ。神はそれを傲慢と呼ぼうが、絶望の罪よりは然して重くない。

セイファートとジンレイン、ラヴィ、エドワード、ルドワイヤンは外へ。
新たな狙撃を警戒する。あれきりで終わってくれる親切を期待してはいない。
公国軍、アクアノイド残党、黄金の仮面の男、未消化の不安材料は山積している。
「セイ、アレはまだ使ってるの?」
問われて、セイファートが小瓶に入った「千里の眼」を放り投げる。
「結構キツイぞ」
ジンレインは瓶を開けると上を向き、両の眼に一滴ずつ霊薬を落とした。
そして瓶をラヴィに渡しながら俯く彼女の眼からは、溢れた薬と大粒の涙が滴る。
「眼が焼けそう」
「順番に回して使ってくれ……合唱団は帰すか?」
「構わない、盾になる。皆は散って、高台に目を配って下さい。女王様とハイアットが居ない人たちを探してる」
霊薬はラヴィからエドに回る。ラヴィの落ち着きのないのは薬の所為だけではなかった。
彼女の仕事だ――気付きながら、ジンレインは無視した。勝手に走れ。
この混乱の最中に、狙撃者の位置を特定するのはまず不可能だ。「千里の眼」は馬鹿につけ込まれない用心。

96 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/30(木) 00:20:23 0
僕とハイアット君は、行方不明になってしまったミィちゃんを探しに出ていた。
ペガサスを駆りながら、後ろに乗っている捜索係のハイアット君に話しかける。
「レベッカちゃん大丈夫かな……?」
「いったん帰ろうか」
その言葉を聞いて、すぐ下の海の見える高台に降り立った。
「あれ、帰るんじゃなかったの?」
レベッカちゃんの所に帰るまでに決めなきゃいけない事がある。僕は意を決して切り出した。
「少しだけ相談に乗って欲しいんだ。これを見て……」
そう言って、ハイアット君にアニマの結晶を渡す。
「きれいだなぁ。何これ?」
太陽の光にすかしながら、まるで美しい宝石を観察するような目で見ている。
「アニマ……全ての根源となる12の属性を司り、世界を変える力」
僕は一族の過ちを語って聞かせる。物語を語るように。
「まだ世界が精霊に満ちあふれていた頃……僕の一族には世界を変える力があった。
神様は、みんなが平和に暮らせるように、僕達に長い寿命と精霊を司る力を与えたんだ。
でも、それはとんだ間違いだった。僕達はそのうちに他の種族を見下すようになって……
その力で、世界を滅茶苦茶にしてしまった……」
ハイアット君はどこまでも前向きだった。
「そんなにすごい物なのか?
こうしちゃおれない! 早く行ってレベッカさんを治してあげよう!」
というか人の話を聞いているのだろうか?
「いや、だからね、その力で世界は目茶目茶に……」
「君はそんなことない!」
きっぱりと言い切るハイアット君は真剣な表情をしていた。
僕を信じきっている目を直視できなくて、後ろを向いて話す。
「僕も……だよ。あの時……人魚の人が言った言葉……本当なんだ。
人間に対しては血も涙もない化け物だった……。
人間なんて数十年しか生きられないから殺してもどうってことないって思ってたんだよ!」
ハイアット君はしばらく何も言わなかった。完全に嫌われたようだ。
当然だ、ハイアット君は生命を粗末に扱うことを何よりも嫌う。
……それにしては後ろで工作のような音をたてているのは一体何なんだ。
そして、嬉しそうな声で、こんな事を言う。
「できた!」
後ろから、首に少し重量感のあるものがかけられたのを感じた。
ハイアット君がいつも大切にしていた銀色の十字架、真ん中に器用にアニマが埋め込まれている。
「それなら尚更、君はもう二度と間違えない。
今の君ならたくさんの人を救うために使えるって保証する!」
「ありがとう……」
振り返って微笑みあい、すぐに元通りペガサスに二人乗り。
「帰るよ、大至急!」「おう!」

97 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/08/30(木) 00:22:21 0
漁師小屋は重苦しい空気が漂っていた。矢を抜く処置を失敗したわけではない。
施術は成功し、傷は塞がったにも関わらず、レベッカは未だに意識不明だった。
その上、高熱が出てひどくうなされている。
アクアが、少しでも冷えるようにレベッカの額に手をあてながら尋ねる。
「どういう事でしょうか……」
思う事があって、取り出された矢を調べていたディオールが真っ青になって呟く。
「【ソウルイーター】……」
矢には丁寧にも、毒が塗られていたのだ。それも、数ある暗殺用の毒の中でも最悪と言っていい。
ほんの少し掠っただけでも、魂を食らいつくされて死ぬと言われている霊薬。
そのため、生命に作用する一切の回復手段が効かないのだ。
レジーナが、がっくりと膝を突いた。
「そ……んな……酷すぎるよ……!
こんなにいい子が……どうして死ななきゃならないの!?」
悲壮感が辺りを支配する中、空気を読まずに入り口の扉が勢いよく開け放たれた。

僕は周囲が唖然とするのにも構わず、レベッカちゃんの方に歩み寄る。
「レベッカちゃんは死なない……死なせはしない!」
ジーナちゃんとアクアさんが悲痛な声で訴える。
「パルス君……ダメなの……回復魔法が効かないの……」
「魂を食らいつくす毒だそうで……」
うなされているレベッカちゃんの横に肩膝をついて、手を取る。
今までいつも助けてもらってきた。今度は僕が助ける番。
「我が名はパルメリス・ディア=メイズウッズ! アニマよ、我を主としてその力を示せ!」
胸元のアニマが眩い光を放ち、同調を始めた。無事に使い手として認められたようだ。
目を閉じて祈りを捧げるは、精神のアニマ……アンヴェセス。
そして、僕の意識は、レベッカちゃんの意識の中へダイブする。

そこは、何も無い、漆黒の闇だった。
「……えない……」
泣きじゃくる幼い少女。きっとレベッカちゃんの意識だ。
「……歌えない」
消えてしまいそうな少女を、無我夢中で抱きしめた。
意識だけだからよく分からないけど、抱きしめたつもり。
「アタシは……みんなが期待するような歌が歌えないの……」
「レベッカちゃんの歌、大好きだよ。君は世界一の歌手で……いつか大きいステージで歌うんだ」
もっと気の利いたことを言わないと凶悪な毒に勝てないのに、こんな事しか言えない。
だから、必死に言葉をつなぐ。
「それで……その隣には僕がいて……」
「隣に……あなたが……?」
少女を顔を上げる。その瞬間、周囲は光に包まれ……そして……

意識を取り戻す。レベッカちゃんの手を取った、そのままの姿勢で。
彼女がゆっくりと目を開けるのが見えた。
「アタシは……」
周囲から湧きあがる歓声。ハイアット君が満面の笑みでガッツポーズをしている。
「君は……ここにいるよ」

――――おかえりなさい、レベッカちゃん。

98 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/30(木) 22:09:05 0
(・・・せ!・・・ろせ!・・・・・・・危険!
・・・に導く・・・殺・・・!・・・・!
人類・・・力・・・!・・・ろせ!・・・せ!
世界・・・為に・・・殺・・・!今すぐ・・・!)

誰もが絶望に浸っていた中、パルスが奇跡を起こす。
魂を喰らう毒に犯されたレベッカを救うことに成功したのだ。
沸きあがる歓声に包まれる中、アビサルの脳裏には【あの声】が遠くから響き渡っていた。

「・・・パルスさん・・・それは・・・?」
パルスの胸元に光るアニマを指差す手は小さく震えている。
「ん?これはねえ・・・アビちゃん・・・?」
達成感に浸りながら答えうようとするパルスだが、すぐにその異変を感じ取る。
尋常ではないその表情に、その汗に、その雰囲気に。

(殺せ!殺せ!危険だ!その力は危険だ!
殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!
殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!
人類を終焉に導く力だ!
殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!
殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!
世界が侵食される!
殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!
殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!
世界を歪ませるな!人の業を越えている!
殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!
殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!殺せ!消滅させろ!
今ここで!この場で!)

パルスが何を応えたか、アビサルの耳には届いていなかった。
極度の戦いと、極大な秘術の行使を経たアビサルに声に抗うだけの力は残っていなかった。
頭を埋め尽くすその声に焦点がずれ始める。

「・・・げて・・・」
震えながら小さく呟くその姿に回りも異変を感づき始める。
「お願い・・・逃げて・・・!」
「アビちゃん?」
「どうした?」
俯いたアビサルを覗き込むように身を屈める仲間達が見たものは・・・
勢い良く上げられる顔のその表情は・・・
既に先ほどまでの怯えた顔は欠片も残っていなかった。
瞳に映すのは狂気。
発する気は狂乱。

「我が名カリギュラ・モルテスバーデ(暴帝の交剣印)の元に命ずる!
遍満するターンタヴァを踊る カリ・ユガの終焉に全ての名を示さん!」
恐るべき言霊と魔力の集約。
片腕だというのにその魔法動作は寸分の狂いも無く、そして早い!

「い、いかん、これは!全員逃げろ!この場から離れるんだ!!」
「そんな、これって・・・!」
アビサルの術の意味を身体で理解したものが二人。
一人は黒騎士ディオール!
黒星龍の祝福を受けたが故にそれを知っていたのだ。
死天星槍《奈落》と同じ力だ、と。
もう一人はパルス!
エフルの長だけが識る事のできる、そしてヒムルカを還した力。
インフィニティゼロと同じ力だ、と。
それにより引き起こされる結果を知るがゆえに!

99 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/08/30(木) 22:09:46 0
ディオールの声は小屋の外まで響いたが、突然の事で反応できる者は殆どいなかった。
外で逃げる気配は殆どない。
それどころか、何事かよと寄ってくるほどなのだ。
「爆発するぞおおおお!!!!!」
業を煮やしたディオールの叫び声が響き渡る。
ようやく意味を解したのか、外のものは一斉に逃げ出すが、余りにも時間が無さ過ぎた。
小屋の中の物が外に飛び出る猶予は残されていなかった。
既にその時には呪文の詠唱は完成していたのだから。

「・・・虚星・・・召来!!」

小屋を中心に12色の光が収束し、重なる色はやがて漆黒へとなっていく。
外にいたセイファート、ジンレインたちが全力で走るその後ろでは、巨大な球体が形成されていた。
それは黒。
だが黒色ではない。
一切の色も光も無く見る事ができないので黒色と認識されるだけのもの。
広がる球体に逃げ遅れたものは飲み込まれていく。

球体が存在したのはほんの一瞬だった。
それが消えた時、不思議な現象が起こっていた。
全力で小屋から遠ざかっていたはずだったのだ。
脚には多少の自身がある。
かなりの距離を稼げたと思っていた。
だが、ジンレインはアビサルのすぐ横に立っていた。
その距離僅か数メートル。
ジンレインだけではない。セイファートも、エドワードも、他の走っていた者たちも。
ただ皆アビサルを中心に集まっていた。
小屋は既に無く、ジンレインの後ろを走っていた集団もいない・・・

アビサルが召喚したのはブラックホール。
一秒にも満たない召喚時間。
だがそれによって齎されたのは絶対無。
小屋や人を消滅させたというレベルではない。
空間すらも・・・もしセフィラの大きさを正確に測れる者がいたら、セフィラがあの球体分だけ小さくなった事を確認できるだろう。

「アビサル・・・どういうことなんだい?」
「・・・・!!!!!」
小屋の中にいたはずのソーニャが声をかけたとき、アビサルの目から狂気が消え去った。

脱出が間に合わないと悟ったディオールはとっさに全員を抱えて影に沈んだのだ。
そして即座に別の影から脱出。
だが、最後までアビサルに手を伸ばしていたソーニャの腕は消え去ってしまっていた。
今すぐ処置を施せば命に関わる傷ではないだろう。
しかし利き腕の消失は戦士として致命傷といえる。

「・・・何か訳があるんだろう・・・?」
諾々と流れる血をそのままに優しく語り掛けるソーニャ。
「・・あ・・・ぼ、ぼく・・・ごめ・・・・」
自分の引き起こしたことの結果に怯え、ガクガクと震える。
首を振りながら声を絞り出そうとするアビサルだが、続く言葉は出てこなかった。
その怯えた表情を隠すようにそっと被せられる縦目仮面。
被せたのはいつの間にかアビサルの背後に佇んでいた黄金の仮面だった。

縦目仮面を被せられたアビサルは意識を失ったのか、カクッと膝を折り黄金の仮面の手に落ちる。
『楔が緩んだのはいいが、余計なものまで顔を出してしまったのはこちらの手落ちであった。
生き延びたのは誠に僥倖・・・。いや、これも定めの力か・・・。
このものは暫しこちらで預かろう。』
なんの光るものもない眼窩をレベッカたちそしてジンレインに向けた後、黄金の仮面はアビサルをそのマントの中に包みこんだ。.

100 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/09/03(月) 02:49:13 0
またしても、拮抗。
消耗し尽くした男と女。龍人とクラックオン。耐える者と苛む者。
どくどくと流れる互いの血が混ざり合っての締めと堪えの決着は、スターグの右腕が落ちた瞬間から、凍りついたような
硬直状態へと陥った。
「………………」
二人の周囲に、今や百体足らずとなったクラックオンの戦士達が集い来る。
対して、葬送楽団三千楽士には生き残りなし。
個人の力を超えた総力においての敗北を表す光景。しかし、オペラ夫人は締め上げる四肢の力を緩めたりはしなかった。
戦士達も、動かない。
動く必要などないのだ。志士スターグの勝利を、微塵にすらも疑ってはいないのだから。

死の名を冠する馬の鬣がラライアからの下ろしを受けて、炎のように煌々とたわむ。
リオネ・オルトルートは引き結んだ口元と興味深げな瞳を左右に、公都の挙句を睥睨した。
巨大な亀裂の周りでまばらとなった、かつてガナンであった物。
そして、その中に蟠る者達の中心で絡み合った、二つの存在に目を留める。
それは、消え去った都の光景よりも凄絶で心打たれる、極まった闘争の果ての様であった。
「……お見事」
リオネとて武人の端くれである。かける言葉を探すには至らなかった。

決着……着かず。
両者、痛み分け。

スターグは仁王立ちのまま意識を失い、オペラ夫人は全身二十五箇所から鮮血を噴き出し、互いの血の海に沈んだ。
『聖地ヘ……』
誰かの声が、誰しもの耳に、風の中で鮮明に染み入った。
残り僅かとなったクラックオンの群れは、一陣の風と共に忽然とその姿を消していた。
横たわる、オペラ夫人だけを残して……。
総崩れとなった教皇軍の殲滅も時間の問題であろう。戦太鼓は淡々と収束の音を響かせていた。

「さて……」
リオネが馬首を巡らせ、現れた三つの影を順に見やる。
トルメンタ、シファーグ公、イフタフ翁と……。
「改めまして……お久しぶりです、パパルコ殿」
「はて? パパルコ頭巾とな?」「バレバレですってば」「これ以上生き恥を晒すでないわ」
主人の穂先の上がる気配を感じ取り、デスが蹄を鳴らした。
「……何方から逝きたいので?」
――どいつから死にたい?
その気持ち良過ぎて溜飲の下がる問い掛けに、三人は冷や汗と生唾で答えた。
「ハッハッハッハッハ! どうか小生の命ばかりはお助けいただきたい!」「う〜む、当てにできない奴め」
さっそく崩れ始めた三者の結束に背を向け、亀裂を覗き込むリオネ。
「御三方とも、何をお企みかは存じませぬが……」
担架で運ばれていく再起不能のオペラ夫人を背後に、
「何もございませんぞ?」
三者は一斉に口を開けた。

『…………は?』

亀裂の底に、黄金に輝く祖龍の体の姿はなく、先程までの確かな気配すらも嵐の後のように晴れ失せていたのだ。
――聖地へ……。
飄々とする場において、その響きだけが、いつまでも耳に残って踊っていた。

101 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/09/03(月) 22:22:59 0
「リオネよ、お主にも目が在ろう?何が“何も無い”だ。お主が立っておるのは“何処”だ?」
心底呆れた、そう言わんばかりに猛る大老が静かに告げた。
シファーグは必死に笑いを堪え、パパルコは無言で腕組みのまま動かない。
「何が言いたい?」
矛先をイフタフへと向けて、全てを貫くかのような鋭さを以て睨むリオネ。
「まだわからんか?祖龍の抜け殻…それ即ちゼアド大陸そのものだよ」
「知らないのを恥じる必要は無いよ、お嬢さん。これは極一部の限られた人しか知らないから」
言葉を失ったリオネにシファーグが優しく声を掛けた。その瞳には憐憫の情。
「魂を切り抜かれ、封じられた祖龍の抜け殻にやがて土が積り、山となり、森となった。
母なる大地とはよく言ったものよ、まさにその通り!この大陸こそが奴の本体!!
そして帝都ドゥラガン、つまり今のナバルはかつて獣の神が住まう島だったのだ…」
今イフタフの言ったことが事実だとしたら、イアルコは…
「くッ!貴様ら…あいつを使って何を企んで…ッ!?」
リオネの言葉が苦悶の呻きに遮られた。
「そういえば、我々の誰から殺してもらえるのかのう?なぁ、リオネよ…」

バギ…バキバキ!!リオネの鎧が内側に向けて陥没している。誰も触れていない筈。
しかし“それ”は容赦無かった。肩口から両腕が千切れて墜ちた。
続けて腰が砕けて立てなくなった。痛みと混乱から地べたに這うリオネを3人は見下ろす。
「よく出来た幻だが…些かワンパターンだな。愛が足らん証拠だ」
雷光が瓦礫を打ち砕き、老執事を吹き飛ばす。パパルコの悲しげな呟きと共に。
「《重縛殺》に併せて幻術を使ったまでは良かった。しかし私には通じぬよ、ジョージ」
「さてさてさて、お嬢さんは何処に?」
シファーグの手が真上からの槍をあっさりと掴み、上を見上げる。
「はーい、ここでした」
そのまま槍を振り下ろし、リオネを地面に叩き付ける。と、思いきや槍を離して逃れた。
リオネの蹴りだ。僅かに掠めただけで肉を根こそぎ奪う破壊力。
あくまでも掠めることができたなら、の話だったが。
「遅い!」
今度こそリオネの鎧が、まるで紙細工の如く骨が砕ける音と同時に陥没した。
フライングクロスチョップ。パパルコの最も得意とする技である。シンプル・イズ・威力。

「かは……ッ!!」
肺が潰れ、呼吸が止まる。×字にへこんだ鎧を無理矢理に曲げて追撃に備えた。
が、追撃は来なかった。パパルコは華麗に着地するだけだ。
「たかが二百やそこらの小娘が…我々に矛を向けた気概だけは買うてやろう」
真横からの鉄球に左腕を粉砕されて、リオネの身体がゴム毬みたいに跳ねる。
大老の持つモーニングスター《激突號》。
かの大戦でも数多の敵兵を屍に変えた、真龍鋼の大鉄球。その威力、推して知るべし。
「で、誰から殺してもらえるのかのう?」
静かに、しかし、猛々しく、イフタフが問う。その瞳には、やはり憐憫が在った。

「あの黒騎士と同じ年に生まれたにもかかわらず、この様だ。こやつは今まで何をしていたのやら」
心から残念そうに嘆くイフタフ。それにパパルコが答えた。
「側にいた鍛える者の有無、その差がこれでしょうな。彼は恵まれていた、そう…」
たっぷり助走を得て加速した必殺のローキックが、リオネへのトドメとなった。
「愛が常に側に在った。傍目には苛めでしかなかっただろう、しかしそういう愛もある」
既にリオネは聞いていなかった。完全に死亡状態、あまりにも開き過ぎた力の差…
別にリオネが弱い訳ではない。むしろ強いといえる。しかし彼等は更に強かった。
唯のそれだけでしかないのだ。経験も、技量も、実力も、全てが彼女より上だっただけだ。

たったそれだけのことだった。


「さてジョージ、いつまで死んだふりを続ける気だ?」
パパルコが倒れたまま動かないジョージの襟首を掴み、ワイルドに引き起こした。
「いや、その…もうそろそろ起きようかなぁ…と」
「そうか、やはり愛が足らん!!!」
ばっちいぃいぃぃぃぃぃいいん!!!!!!!愛がギュッと詰まったビンタが炸裂した。

102 名前: ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/09/03(月) 22:23:55 0
意識が朦朧とする。今自分が立っているのか、倒れているのかすら判らない。
ラヴビンタは一撃でジョージから五感を奪い去った。
辛うじて聴覚が生きているものの、今や手足に感覚は無く、まともに動くことも叶わない。
「ジョージ、今から私が10秒に1発、ラヴビンタをキメる。はい1…」
「?????」
パパルコの言っている意味が理解出来ない。10秒?ラヴビンタ?何の話だ?
そして10秒が経った。だがビンタの来る気配は全く無かった。
ばちいぃいぃぃぃぃぃいいん!!!!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「ジョージ、今お前は10秒過ぎたのにビンタされないのを不思議に思っただろう…
しかしだな、お前の数える10秒が私の数える10秒と同じとは限らんぞ?」
外道、とんでもない外道の行いであった。ジョージはようやく悟る。
『舌を噛み切るなり何なりして、早く自殺しろ』という愛のメッセージを!!
「さて次だ」
非情な宣告が、ジョージの心を砕こうと襲いかかった。

視界は閉ざされ、何も見えない。暗闇の中で僅か10秒という短い安息を過ごす。
10…9…8…7…6…ばちいぃいぃぃぃぃぃいいん!!!!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「ジョージ、今お前は10秒経ってないとか思っただろう。うむ、確かに10秒経ってないな」
まさに外道中の外道!10秒というルールすら、もはや何の意味も持たないではないか。


ばちいぃいぃぃぃぃぃいいん!!!!!
「ぎゃ…ぁぁぁ…あ……………」
もう何発のラヴビンタが炸裂しただろうか。ジョージはようやく安息を手に入れた。
永遠に続く安息…つまり死だ。
「見事だったジョージ、お前の忠義が私に勝ったのだ。誇っていいぞ、ジョージ…
イアルコは幸せ者だ、お前のような家臣に恵まれたのだからな。私は嬉しいぞ?」
パパルコは涙を流してジョージの亡骸を地に降ろした。
ジョージの顔は無残に赤黒く腫れ上がり、出来損なったトマトに見える。
「解せんな。さっさと捻り潰した方が楽に死なせてやれたのではないか?」
「いや、それでは意味が無いのですよ大老殿」
訝しげなイフタフにパパルコが首を横に振った。これは元主と元家臣の訣別の儀式。

他人には理解出来ないのも仕方ない。ジョージはイアルコを主と選んだのだ。
死を以て主であるイアルコへの忠義を貫いたのだ。
これが漢泣きせずにいられようか!滝の如く流れ落ちる感涙に、イフタフとシファーグは…
『はいはいそうですね、感激ですね』といった感じの笑顔でパチパチと適当な拍手を送った。


103 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/09/05(水) 00:15:27 0
瞬間、まさにその言葉以外当てはまるとは思えない事で御座いました。
アビサルさんの突然の暴走、謎の黄金仮面の襲来、そして再開と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アビが・・・何だって!!もう一回言ってみろ!!」
「世界を滅ぼす鍵や言うたんや」
そして突きつけられる真実・・・・・・・それは重く、冷たく、
「マイラも・・・・・あとはトゥーラの封印だけ・・・・」
忌々しげに爪を噛みながらハイアットさんが頭を掻き毟り、
「これは・・・・酷い状態ですね」
アーシェラ姉様はリーヴさんの看病をしておりました。
生命力を使い切る代償としてリーヴさんは今、指先を動かす事すら出来ません。
「とにかく・・・・今、僕達は・・・・・・」
パルスさんのはっした言葉に皆の視線が集中致しました。
「何をすればいいんだろう?」
『あほかぁ!!−−−−−−−−−』
一同総ツッコミにございました。
「場を和ませようと思っただけなのに・・・・・・」
パルスさんそこの端っこでいじけてないで出てきて下さい。
「ま、まぁその大罪の魔物とやらが祖龍を狙っているのなら、最後の封印を解きに行くだろうな」
黒騎士さんの言葉に皆が頷きました。
「でも、あたしは残るよ」
レジーナさんが真剣な面持ちで黒騎士さんに詰め寄ります。
「私はここで怪我人を治療してから合流するから」
「でしたら私も残って治療にあたりましょう」
アーシェラ姉様も残ると言い出しました
「じゃあ、僕も・・・」
そこまで言ってハイアットさんの口はアーシェラ姉様の指に止められました。
「ハイアット、貴方は私の代わりにパルスさんに力を貸してあげて」
「でも、護衛が必要」
「わしじゃ不満かのぉ?」
シャミィさんが毛づくろいをしながら二人の間に割って入ってきました。
「何、こやつの腕の修復には時間が掛かるから、わしも行けぬしな」
そう言って、シャミイさんはソーニャさんの無くなった腕の場所を指さしました。

結局、怪我の状態の酷いリーヴさん、ソーニャさん、そしてレベッカさんを治療の為に、
そして、その治療にあたる為、シャミイさん、アーシェラ姉様、シャミイさんがロイトンの近くの町に残る事になりました。
私は何かしらトゥーラに行かねばならなければならない予感を感じておりました。

104 名前: ◆K.km6SbAVw [sage] 投稿日:2007/09/05(水) 14:27:24 O
何の因果か宿命か、出会ってしまった雄と雄。人間と獣人による最強の重戦士対決。
勝利したのは人間だった。辛勝の極み、満身創痍、ゴンゾウには太刀を握る力すら残っていない。
「最初の打ち合いで首飛ばしてりゃよかったぜ、糞野郎…。」
ゴンゾウの右肩から先は失われ、出血が続いている。明らかに致命傷だった。
「こっちも片付きましたよ団長さん、…って随分とまた酷くやられましたね。」
うんざりした顔のロシェが歩いて来るなり苦笑い。
その顔に左眼は無く、流れた血が顔半分を赤黒く染めていた。

代償を支払ったのだ。魔眼は4つ目のルールを設定した時点で片方が消滅する。
「まさか6つ目まで耐えるとは予想外でした。おかげでこの様です…。」
「はなっから五体満足で勝てる相手じゃあねーよ。勝っただけで儲けもんだ。」
その場にどっかと腰を下ろし、そのままゴンゾウは寝転がった。
「で、連中のカラクリは分かったか?」
「ええ勿論、接続した時に違和感があったんで探ったらビンゴでしたよ。奴等は『種そのもの』ですね。」
あぁやっぱりか、とゴンゾウが夜空を眺めながら呟いた。どうりで強いはずだ。
八翼将の強さの秘密、それは『1つの種族全ての魂を共有する秘術』だったのだ。
「あれほどの術式を固定するには莫大な魔力が必要ですけどね。一体どうやったんだか…。」
半ば呆れたように言うとロシェも座り込んだ。かなりの消耗があるのは彼も同じだ。
「龍の血だ。」
「え?」
ゴンゾウの応えにロシェが眉をひそめる。
「この世で一番強い魔力を持つ生き物、『龍』の血なら…十分に足りるからな。」
八翼将は龍人戦争終結の前に、生まれたばかりの幼龍を殺して…その生血を飲み干した。
その時に術は完成したのだ、再び聖地へと辿り着く誓いと共に!!

異変に気付いたのはゴンゾウだった。
立っている。確かに息の根を止めたはずのギラクルが、両の足で立っているではないか。
そして2人が率いて来た獣人の軍勢が、いつの間にか周囲を取り囲んでいた。

―聖地へ…

「おいおいおい…マジかよ…。」
「大丈夫ですよ団長さん、魂は絶対不変の記号ですからね。生まれた瞬間から死ね瞬間まで…
 それは絶対に変わる事のない『個を示す印』です。だから…平気ですよ団長さん。」
ロシェの言った通りになった。ギラクルとゴロナーの身体が再び地に崩れ落ちた。
同時に獣人の軍勢も次々と倒れ伏していく。
「なるほどな、そういう事か。助かったぜロシェ、これでもう一暴れしてやるか!!」
「そうですね、でもその前に彼等にありがとうを言っておきましょうよ。『治してくれた』んだし。」
ゴンゾウとロシェ、2人の身体に先程までの傷は跡形も無かった。
対象をすり換えたのだ!魂のリンクから直接行なった、術式へのハッキング。

確かにロシェは最初に名乗った…『魔導師(まどうし)』だと!!

105 名前: ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/09/06(木) 18:16:41 0
「魔物」から守ろうと必死で彼女を隠した、ロイトンの廃屋へ行く。
夕立は町に降り積もった灰も血も洗い流して、
昼には瓦礫の山の向こうなどに時折ちらついていた火の手も、もう消えてしまっている。
死んだ町に並ぶ家々は夕闇の中、のっそりと亡霊じみた立ち姿で、濡れそぼったラヴィを睥睨する。
港の魚河岸へと続く大通り、民家の並び、商店街、噴水のある公園、
迷い込んだ裏路地に酒場、娼館。人間はおろか犬も鼠も、この町の住人は誰ひとりとして戻っていない。
坂道からふと、海のほうを振り返る。なぎさに浮かぶ、鯨のような影は獣人軍の飛行船だ。
雨を透かして見る空も海も暗い灰色で、やがて夜が来るだろう。
いずれは雨も上がるのだろうが、いっそ降り続きでも構わない。慰められている気持ちになれる。

ラヴィは記憶を頼って歩いた。道を選ぶ度迷いを覚える。
いっそアンナを放り出して二度と会いたくないとも思えて、
そもそも助けた理由は、ラヴィの告白に傷ついた彼女を同情で追い討ちする、
復讐の言い様もない愉悦を期待しての事ではないかと自分を訝ってもいる。
完全に道を憶えていたのではないし、兎にも角にも足を使った。
目印になりそうな建物はろくに残っていなかったから、十字路などはかなり時間を喰わせた。
挙句袋小路に当たってしまうと、疲労がどっと彼女の全身にのしかかる。
へばって座ると、打ちつける雨さえも強張った筋肉を解してくれるようで気分が良い。
実際は凍えるばかりで疲れもいや増すが、ぐずついて決着を先延ばしにする意味もある。
火事にあった家の側らしく、ラヴィは煤けて黒塗りになった廃墟の壁を眺める。
崩れた軒の下で残り火の燻る臭いさえ空腹を思い出させる。あの重たい包丁箱を置いてきて正解だった。
ほとんど丸腰になるが、もうアンナを殺そうとは思わないし殺す理由もない。

だのに自己嫌悪が後味を悪くする。あんな言葉で折れた彼女は、私が優しくしたら
きっとおかしくなって、もしかしたら死んでしまう。何だ、結局殺すじゃないか。
自分が憎もうが哀れもうが。

突き放してみれば或いは、別の結末が待っているかも知れないとも考える。
しかし不確定要素を残しておきたくはないし、彼女に煩わされて目下の戦いを外れてはいけない。
必ず戻ると言ったのだから、本当に戻って決着をつける。
結果殺したとしても、初心に還るだけなのだからラヴィに損はない筈だ。
立ち上がると、靴が踵に溜まっていた水を吹いて、滑稽な音を立てた。眩暈がする。
彼女は雨と鬱積の圧に背中を丸めながら、再びアンナを探し始める。

幸運にも、件の屋根のない家はそれからすぐに見つかった。
急くあまり黒い泥の水溜りにもろに踏み入って、泥濘で滑って転ぶもまた起きて走る。
壁際に駆け寄ると、ジンレインが破った雨戸からそっと中を覗いた。
灯りがないので家具のおぼろな影しか見えず、動く者をも感じない。
アンナを隠したベッドもここからでは覗えない。アンナの居る寝室は隣だ。
殺気も包丁のきらめきもない、しばらく顔だけ突っ込んで待ったが、誰も殺しに来なかった。
忍び足で中に入り、真暗な部屋の片隅のベッドへ近付いて、その下を覗き込んだ。
「アンナちゃん?」
誰も居なかった。雨足は日没と共に強まって、ロイトンの空を過ぎる気配はまだ遠かった。

106 名前:選ばれし者の悲劇1 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/08(土) 00:30:56 0
「ククク……運命を変えるだと!? 獣の分際で笑わせてくれるわ!」
「減らず口もそれまでだ」
グラールの手に、大罪を捕らえるための封印結界、《封縛鎖》が現れる。
しかしレシオンは余裕の表情。相手は使途からの砲撃で動きがままならないのだから。
「捕まえてみるがいい……できるものなら!」
次の瞬間、レシオンに鎖が巻きついた。
グラールは、降り注ぐ光の矢を気にも留めず、レシオンを縛り上げていた。
「……貴様ッ!?」
「たとえこの身が朽ち果ててもお前だけは必ず倒す!」
激昂して鎖から逃れようとあがくレシオンと、光の矢を受けながら鎖を締め上げるグラール。
「私を誰だと思ってる!? 私は神に選ばれた存在なのだよ!!」
「その通りだよ、レシオン。でもお前が信じた神は……悪魔だった……!」
激しいせめぎ合いの中、グラールは、レシオンが信じた神に思いをはせる。
そう、人間達にとっての神、レトの民は、戦乱の始まりを作った悲劇の元凶……。

龍人戦争が始まるよりずっと前……確かにエルフは平和を愛する星の守護者だった。
そして、二人は友達だった。
巨大な獅子の背には、利発な顔立ちの銀色の髪の少年が乗っていた。
彼は、アニマを完成させるために二段階目の遺伝子変換を施された一族の一人だった。
少年は満天の星空を見上げ、こう言った。
「ねえ、グラール。君はどこから来たの?」
「どの星でもない、遠い場所……ここではない世界」
「ここではない世界か、神様もそんなこと言ってたよ」
彼らが神とあがめる者達が神ではないことは知っていたが、グラールは何も言わなかった。
その頃の彼は十剣者でもなければ獣の神でもない、ただの幻獣に過ぎなかったから。
だから、ただ願った。
「レシオン、決して力に溺れてはいけないよ?」

叶わない願いだったとは知りもせずに。

107 名前:選ばれし者の悲劇2 ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/08(土) 00:32:27 0
「ビアネス=ヘテス! 今まで黙認していたのをいい事に……レシオンに何をした!?」
「変換に耐えられなかったようだな、使えない奴だ……」
レシオンは虫の息になって倒れ伏していた。
彼は選ばれてしまったのだ。虚無のアニマと同調するための器として……。
故郷を愛しすぎた一人のレトの民が、仲間内の反対をも押し切って行った狂気の所業。
三段階目の遺伝子変換は、優しかった少年の人格までも崩壊させていた……。

これが、三百年にも渡る戦乱の始まりだった。

二人のせめぎ合いは決着が着こうとしていた。
「終わりだ!!」
グラールの鎖が、レシオンを封じる……と思われたその時。
「終わるのは貴様のほうだ」
レシオンは、何かを呟いた。
間近で聞いたグラールには、それがレトの民の言語だと分かった。
「まさか……」
エクスマキーナと同調していたレシオンは、レトの民と同じ身体構造になっていたのだ。
皮肉にも、彼らの計画は成功していたのである。
レシオンの術は容赦なく完成した。根源は、《神々の福音》……否、《万能なる科学》。
「【分解消去】」
空間に術式が踊ったかと思うと、グラールはその場から跡形も無く消え去った。
上空三万メートルに、勝ち誇った哄笑が響き渡る。
「ハハハハハハハ!! 獣の王ともあろう者があっけない事だ!!
さあ、最後の封印を解きにいこうか!!」

108 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/09/08(土) 01:16:00 0
ガナン崩壊の翌日。

イアルコ一行はシュナイト家の馬車に揺られ、新王都ナバルへと駒を進めていた。
十二貴族の所有だけあって、外装に大理石の彫刻をあしらえた二階建ての四頭立て。もちろん家紋は削ってあるものの、
関門はちょっと通れそうもないなといった、贅を凝らした造りに腰を落ち着けての旅路である。
しかし、心中まで落ち着いてとはいかなかった。
「ガナンの避難民は、ラライアの麓のキャンプで面倒を見るそうだ。騎士団が護衛に当たるらしい」
御者台のジェマが、リオネのいなくなった公国騎士団を取りまとめる兄弟達からの報告を伝える。
「じゃろうな。防衛軍が総崩れでは、こちらに割ける余裕はあるまい」
メリーの淹れてくれた茶を啜り、カップの縁をなぞりながらイアルコが答えた。
「あと、リオネ様を頼むとの事だ」「そりゃ、頼む相手を間違えとるぞ」「俺もそう思う」「…………」
「まあ、その件に関しては焦らずとも良いでしょう」
足を組んで脚線美を魅せ付けるオカマ野朗――もとい、アルフレーデ・シュナイト辺境伯がハーブの香りを利きつつ言う。
「消えた御三方の狙いは、ギュンター公の御命……すべてはナバルにて、という事です。マリオラ殿が動かなければ、
展開のしようがない」
「六星都市の転移装置はどうなんじゃ? いつ封印が解けるかとかは不確定要素なんじゃろ?」
「――はて?」
「何が『はて』じゃ、何が」
「いえ、封印などというのは解けて消えるがお約束というものですから。そうなりますと……」
アルフレーデは、奥のソファーに腰掛けた少女に視線を送った。

豪奢な黄金の髪を縦のリーゼントに巻いた、そこはかとない気品漂うハーフエルフの少女である。
「わ、わかりませんわよ!」「何じゃい、偉そうに」
この正体不明の双子は、馬車の前で仁王立ちになって同行を求めてきたのだ。
聞いた話では未来から来たとかどうとか……兎にも角にも、馬車の持ち主の勧めもあって道連れと相成ったのである。
ちなみに影の薄い弟の方は『もう帰ろうよ〜』とか独りごちながら、二階のベッドの下で拗ねていた。
「わたくしの世界では、封印が破られたのは祖龍の心臓が潰されて後となっているのですわ!」
「そして復活は、ギュンター公の体を借りて成されたのです。不完全にね」
イアルコとしては避けたい事態であった。
「完全復活すると、どうなるんじゃ?」
「ゴウガ王のお話では、物の数分で全セフィラの力弱き者が発狂するとか。しないとか」
「うぬう……」「十中八九、皆さん生きながら地獄の底を抜ける事でしょうね」「…………」
その前に、何としてでも止める……のか?
ギュンターの心を救いたいイアルコの目的は、祖龍の魂の滅ぼす事。
とにかく祖龍抹殺。獣人もアルフレーデもその悲願は同じだというのに、不思議と焦りがないのが気にかかった。
こいつは、ゴウガは、スターグは、一体世界にどうなれと思っているのだろうか?

「あ〜……足が痒い」「水虫ですか。それはいけない」「近寄るんじゃありませんことよ!」
心ない道連れの言葉にため息をつき、イアルコは自身の足裏を見て唸った。
紫だった龍鱗が、金色に変化しているのだ。
イフタフ翁の施術のせいだろうか? 要因はそうだろうが、原因は違う気がする。
えいくそ、あのイボ爺いめ。
…………爺いか………………。

墓碑銘は何と刻んでくれようか? 悼む心を無意識に紛らわせ、イアルコは足を掻いた。

109 名前:銃士ヒロキ ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/09/09(日) 12:16:19 0
グラールロック制圧を完了したロイヤルナイツは、作業を「オーブ」に引き継いでナバルへ帰還した。
帰りの足はナバル地下から発掘・一部復元された、六星都市の転送装置だ。
飛ぶ瞬間に軽い吐き気を覚えるくらいで、装置には他に然したる問題もない。
ナバルはジオフロントの設備全体を押さえてはいないので、がら空きの懐だが
祖龍に勘付かれない程度の細工となると限界がある。その中でも、転送システムの移植は大収穫だった。

「ゴンゾウとロシェは戻ったか?」
チェカッサが伝令官に尋ねる。
「八時間前に。団長は三時間休憩の後、『白』の門にて第一、第二、第三軍団の指揮を。
第一館長は中央区、11級観測室に」
「ヒロキ、観測室でロシェに説明を受けろ。装備も受け取れ、お手並み拝見だ」
ロイヤルナイツ以外の部下の前だと語尾も敬語も吹っ飛ぶ。
ゴンゾウたちはこの餓鬼をけしかけて、一体何を企んでいるのか。
「にしちゃ、ちょいと標的がでか過ぎやしないかい?」
「星界都市ライキュームへの接続に成功したのが一時間前だ。
『ドラッヘ』との相互干渉により生じた脆弱性を利用し、都市の制御システムを乗っ取る事が出来れば
生きている防御機能だけでドラッヘを分離可能かも知れない。が、間に合うかどうかね」
「紳士的交渉は望めずか」
「元より狂信者だ、説法の通じる相手じゃない。力でねじ伏せろ」

にやつくチェカッサにうんざりして、ヒロキは観測室へ急いだ。
機器の熱気で茹だるような暑さの観測室では、
ロシェが「オーブ」の研究員と共に、ヒロキの新しい武器を抱えて待っていた。
「『オーブ』の星占術研究会から挙がった調査結果。
衛星軌道上を、ナバル目指して移動する巨大物体。メロメーロのアレの続きらしい。
やたらにゆっくりなのは何故か、と思ったら街ひとつくっつけて飛んでるんだね。
にしても機会を覗ってるみたいで気持ちが悪い。こいつが本命だとしたら、多分一緒に賑やかしが来るよ」
「お前らの相手だ」
「そう。だからデカブツは君に落としてもらおう。
ライキュームへの転送装置は用意してある、そこから敵の背中に飛びつけ」
ロシェは紙束で埋まって隙間もない卓上に、ヒロキの鎧を投げ出した。
床が紙くずで溢れかえる。ヒロキは胸当てと左の手甲だけの鎧を見て、深く息を吐く。

オリジンスキャナーだ。
メダリオンの代わり、大罪の魔物の出来損ない、こうも化け物ばかり増やしてどうするつもりだ。
「祖龍討伐を目的とした公国軍のナバル攻撃は、37年後の君が送ってくれた予定表に記されてはいたよ。
今回の戦争で、ガナンが残ればガナン軸。『双子』の生まれた世界だ。
ナバルが残ればナバル軸、オリジンスキャナーを発明した世界。
二つの未来は連携して、想歴元年中の祖龍・アニマ抹殺と歴史改竄を目論んでいる。
第三の改竄者は正体不明、だがレベッカたちとエドワードは何かしら尻尾を掴んでいるかも。
まあ、今戦うべきはドラッヘだ。急ぎで何分情報が少ない、結構行き当たりばったりで悪いけど」

110 名前:銃士ヒロキ ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/09/09(日) 12:17:15 0

ロシェが作戦内容を説く。
「世界律の根源を絶たなければ、完全な破壊は難しい。しかし目には目を、ってね。
確実な計算じゃないけど、理論上はこの洗脳装置でドラッヘを僅かな時間硬直させられる筈なんだ。
船体に取り付いた後、迎撃兵器が無力化された数秒間でドラッヘ全体を可能な限り破壊する。
ライキュームを牽引する能力と『想い』さえ失ってしまえば、ドラッヘ自体の搭載兵器はそう怖くない。
唯一厄介な主砲は君がついでに壊してくれ。主砲はライキュームとの結束に次ぐ第二目標だ」

そうして手渡された金属製のメダル一枚が、切り札の洗脳装置だと言われて呆れるヒロキ。
たった一枚のメダルでナバル全市民の命を買いに行く。愛国心ではないが流石に気負いしてしまう。

「洗脳装置はどう使うんだ? コックピットを見つける前に落とされるかも」
「兎に角ドラッヘに接近すれば、物理的干渉なしにでもオリジンスキャナーが『潜って』くれる。
そこら辺は君のスキャナー、『ナンバーエイト』を信頼するしかないね。
猛烈な抵抗を受けるだろうが、洗脳装置が働き出すまでの辛抱だな。折れない心で戦ってくれ」
「魔導銃よりでかい火力を扱った事がない。どうせ狙いを付けてる暇はないんだろう?」
「それもスキャナー次第だ。洗脳装置が奴の血に行き渡ってくれれば、向こうから的を教えてくれる。
『絶滅』を発動して船体を切り取れ。落下する破片は高射砲で砕いてから、魔法障壁で受け止める。遠慮は要らない」

頷き、卓に置かれた鎧を手に取る。
手甲から延びた剣は、聖獣戦争でホッドから拝借した十剣者の剣だ。
縦幅10センチばかりの鋼に封じられた十剣の力を引き出す為の、大仰な機械が篭手一本をやたらと重くしている。
「こいつはほんの欠片だね、世界律に刻みを入れる力はない」
「丸ごと置いていってくれるほど、連中が迂闊だと思うか? これでも上等なほうさ。
オリジナルの攻撃力はほぼ完全に復元されてる、武器として使う分には贅沢が過ぎるくらいだ」
「まだ、隠してる癖に」
もっとでかい欠片、それとも本体。チェカッサとロイヤルナイツが欲しがって止まない十剣のオリジナル。
「どうだかね」
惚けて逃げる。更にごつい戦闘服を着込んだら、作戦開始を待つだけだ。
女の顔――アストラエアの顔がちらついて落ち着かない。

111 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/09/10(月) 03:45:53 0
一通りまさぐってはみたものの、やはり穴などありはしなかった。
「……ま、自分の目で直接見れたと思えば――いっか!」
重責の身でありながら、つい単独行動に出てしまうのは血筋のせいだ。そう、つくづくと思う。
いや、血筋に限らず龍人貴族というのは大体がそうだ。ほとんどの事を己の力のみで成そうとする。
だからこそ、勢いに乗ってこんな先走りもしてしまうのである。
マリオラ・ハイネスベルン女大公は、ピンク色に染めた毛先を指で巻き巻き息をついた。
しかし、だからこそ、思いもよらぬものを見てしまったりもするのである。

不倶戴天の敵、《破龍》ゴロナー・ゴスフェルの最期。
あの龍人戦争から、もう……え〜〜〜と、女は何年前とか気にしちゃいけない生き物なんだっちゃ。
……当時は幾度となく拳を交えたもの。お互いに今生きているのは奇跡ですらある。
そんな男が、あっさりと死んだ。
《大将軍》ギラクルにしてもそう。あれは一人では絶対に勝てない存在だと思っていた。
いや、ゴンゾウ・ダイハンならば勝てるのか?
人の形のまま人の枠を超えた戦鬼。たかが人間の寿命の内にセフィラ最高峰となった唯一の者。
彼ならギラクルを倒せるかもしれない。実際に、現に、倒して見せたではないか?
ただ、過程に疑問が残ったというだけだ。
ゴンゾウは死力を尽くしたが、尽くし切ってはいなかった。そんな程度の域で勝てる相手なのか?
そして、
「ドラちゃん、笑ってたよねえ……?」
お互い視力はトントンである。確かに目が合った。そんなゴロナーの、死の瞬間に見せた笑み。
自分に向けて、不敵に笑ってみせたのだ。
それが、頭から離れない。

ナバルから直接ジオフロントへと下りるには、六星結界を破り、王都主力を粉砕せしめた後となるのが避けられぬ道。
とにかく、それはよくわかった。
ニブルヘイムとドラッヘを上手く運用すれば、やれない話ではない。合流への道すがら、あれこれと脳内で練る。
「ソフィーに丸投げ…………で〜きた〜らい〜いな♪」
挑戦は受けない。全戦力をもってナバルを陥落させる。
大馬鹿でいい加減な兄を見て育った妹である。一軍一大派閥の長としての分別は、狂的な血筋を抑え込む程にあった。
そう、挑戦は受けない。
最初から気付いていたのだろう。戦いの後にゴンゾウが投げ掛けてきた更なる死地を求める視線。
血は騒いだが、お付き合いする気はない。魂の燃焼は最期の時までとっておく。

今は冷徹に、兄と祖龍の根城を目指す。
我が子らに、続き行く世界を残すために。

112 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/09/11(火) 22:46:46 0
魔力を帯びた風を受け、船団は一路、トゥーラへと進みます。船団と言っても、小型船三隻のものですが。
まだ復興もままならないロイトンで小型とはいえ、3、4人乗りとはいえ3隻も確保できるとはありがたいものです。
その船に三組にわけて乗り込み、出発したので御座います。
私は一番先行している船の舳先で考え事をしておりました。
今度、兄・・・・だった人と会った時、私は理性を押さえつけられる事が出来るかと・・・・・。
「まぁ、難しい顔せんと気楽に行こやぁ」
いつの間にか私の後ろにザルカシュさんが立っておりました。魔力の帯びた風で船団の速度を速めているのは彼の力です。
最初、彼が強力を申し出た時はかなり皆さん不審な顔をしておられました。何せ、アクアノイドと鳥人種の諍いを止める為にリーヴさんを
あの様な姿にした張本人でしたから。
シャミィさんのお弟子さんと言う事とアーシェラ姉様の もう時間が余りない と言う話が無ければ断っていたやもしれません。
それともう一人、
「どうも海の上を走る船ってのはなれねぇなぁ・・・・・」
マストの上で物見をしながらリリスラさんがぼやいておりました。・・・・普通、船は海の上を走るものです・・・・・
彼女の場合はどうも協力と言うよりは何かを見届けに来た。そんな感じでしょうか。
私は、一つため息をつくと、また海の先、まだ見えぬトゥーラに目を向けたのでした。
「終末はもうすぐそこまで来ているんや・・・・」
「まだ、週明けですよ?」
「その終末やない・・・ってあんたそんな冗談言えたんかいな」
「私を何だと思っていたんですか?」
とるに足らない冗談を言っても心のざわめきは落ち着かないので御座いました。

113 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/12(水) 01:00:14 0
その頃、灼熱都市トゥーラでは人に在らざる者達が暗躍していた。
遺跡全体に働く謎の力により事がうまく進まず、レシオンは苛立っていた。
「封印が解けない……なぜだ!?」
そんな彼を、セリガが煽って遊んでいた。
「じーさんよ、そんなにカッカしたら血圧があがるぜ」
「何だと!? 私を誰だと思っている!?」
我侭放題が三人も集まってまともに協力できるはずは無い。
顔を合わせるなり派手に喧嘩を繰り広げた末に休戦状態になっただけの話である
「ネズミが何匹かこっちに向かっているね」
残酷な笑みを浮かべて、そう言うのはハインツェル。
「取るに足らない奴らだが念のためだ。まとめて始末してやろう!」
ハインツェルは、すぐさまその場から転移した。

僕達は一途トゥーラに向かっていた。
最後の封印を守り抜くため、そして謎の人物にさらわれたアビちゃんを救出するために。
アクアさんは気丈に振舞っているけど終始落ち着かないみたい。
セイとジンさんは出発してからずっと二人でお話してる。
前方に島らしきものが見えてきた。ザルカシュさんがみんなに声をかける。
「もうすぐ到着や!」
僕はハイアット君の肩を叩いて笑いかけた。
「ハイアット君」
「ん?」
「頑張ろうね!」
何事もなければ、笑い返してくれただろう。しかし彼が見た方向は遥か上空。
「ハインツェル!」
ハイアット君が尋常では無い声で叫ぶ。
同時に辺りの空間に膨大なエネルギーが収束する。爆発する寸前のように!
何が起こっているのか分からない、ただ一つ分かるのはここは危険だという事。
「お願い、ケイフィス!」
まだ使い慣れていないアニマに必死に語りかける。
考える間もなく、出来る限りの範囲に影の転移を発動させた!

114 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/09/12(水) 04:57:39 0
「ってぇ〜〜〜〜〜♪」
ソフィーの指を鳴らしての号令で《ニブルヘイム》の主砲が発射される。
狙いは遠く南東、王都ナバル。
足は遅くとも手は長い。ライン大河が拵えた泥濘を順調に迂回できて三日といった距離を、念のこもった弾頭が越えて行く。
着弾の様子は、先行させた偵察用ゴレム《ガイスト》から送られてきた映像によって窺う事ができた。
もちろん六星結界は微動だにもしない。
ベルベル合金製の砲弾は、結界と自らに掛けられた螺旋回転力の板挟みによって磨耗の果てを迎えて消えた。
「ふ〜〜〜む。ふ〜〜〜〜〜む」
『中将殿、補給線が伸びきっております。無駄弾は控えた方がよろしいのでは?』
目聡くも成層圏から捉えたカニンガム大佐が、古強者の軍人らしい通信を送ってきた。
「試しですわ。た・め・し。我が艦も初の実戦運用なのですから、参考までに最終目標への試射を敢行したまでのことです」
『すでにギャンベル伯爵による試算は成されているものと、思っておりましたが……』
「ええ。……ですが、生まれ変わりましたの、ニブルヘイム」
絶句というのも、通信機越し伝わるものであるらしい。
「貴方と同様に、ねん♪」
誰もいない、しかし計器は依然として規則正しく鳴り響く艦橋で一人。
ソフィー・ハイネスベルン中将は、椅子の背もたれを傾けて伸びをした。

『そふぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!』
「あら、お母様」
潜むガイストの一機に抱き付いたのだろう。モニターに見慣れた母親のどアップが映し出される。
「てっきり《央に至る門》に到達したものとばかり思っておりましたのに。まだ道草を食ってますの?」
『それが抜け道は全部は塞がれてて……多分、お兄様かミュラーの仕業だと思うんだけど…………』
「かって知ったる何とやらも、とんだ無駄足でしたのね」
『そう言われちゃうと、面目次第も丸潰れ』
「承知しました。それもまた想定の内の事、何とか致しましょう。お母様はニブルヘイムの到着まで待機していてください」
『え、ちょっとそれ暇――』「ああ、お母様! 目尻にカラスの足跡が!」
そこで、無言のフェードアウト。
無駄話で長引きそうな通信を、相手の方から一方的に切り上げさせる。これもまたソフィーの駆使する兵法の内であった。

「カニンガム大佐は、こちらの指示があるまで十字街道上での旋回運動を継続なさっていてください」
『足並みを揃えよ、と?』「そう。王国側も貴方を落とすのなら後処理の容易いナバル上空にしたいはずですから、ね♪」
『……そのような迎撃設備が、ナバルにあるのですか?』
「いえ、恐らくライキューム経由で直接兵力を投入してくるはずよ。警戒しておいて」『了解しました』
地下の転移装置は押さえられていると見て、まず間違いないだろう。
なら、攻勢に手をこまねいていては、みすみすドラッヘを失う羽目になる。その時点で王都攻略は不可能となってしまう。
肝要なのは陸と空、その連携――即ち、たたみ掛けに要する時間なのだ。考えて唸るソフィー。
持ち駒が少なすぎる。ここでヘルモーズが残っていたならば、どちらかを囮に翻弄できたろうに……。
「……ん?」
ソフィーは、不意に送られてきた声の送信元に眉をひそめた。
「シュナイト辺境伯?」
ガナン公王宮からの直通回線。確か、向こうは今、防衛戦の真っ最中ではなかったか?
「……まあ、頭の裏隅にでも留め置いておきますわ」

陸上戦艦ニブルヘイムと、王都ナバル。
お互いの威容を目視確認できる距離となったのは、それから四日後の事。
崩壊の結末を迎えたガナン防衛戦≠ゥら二日後に、もう一方の首都攻防の戦は始められた。
後に様々な名を与えられる事となる、今はただナバル攻略戦≠ニ呼ばれる戦が……。

115 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/09/13(木) 00:33:12 0
最後の六星都市。灼熱都市トゥーラ。
今その中枢に佇むはレシオンただ一人。
ハインツェルが転移した後、セリガも転移し姿を消した。
「器との取り決めなんでね。」
大罪の魔物【傲慢】の残していった言葉だ。
既に殆ど自我を侵食されているセリガだったが、その核たる想いは消えていない。
殺すべき妹アクアの存在を察知し、その想いは万丈の炎と化して傲慢の魔物を突き動かす。

もちろんそれだけで動いた訳でもない事はレシオンは知っている。
一つのセフィラで発芽できる大罪の魔物はただ一体だけ。
既にハインツェルに憑く大罪の魔物【嫉妬】が発芽している以上、殺さなくてはならない。
創生の果実を食らう為に。
既に発芽しているモノを殺し、己が発芽する為に。
その機会を虎視眈々と狙っているのだ。

発芽する為の条件はレシオンとて同じだが、セリガのように動く事は無かった。
最終的に発芽し、創生の果実を食らえばいいのだから。
それより、封印解除を阻む謎の力の解析の方が優先事項だ。

とはいえ、優先事項解決の糸口すらつかめず時はただ過ぎていくのだが・・・
『未だ刻は満ちておらず。今はただ待つがいい。』
そんなレシオンに声をかけるのは黄金仮面の人物。
確かにそこには誰もいなかったはずだ。
転移して来たにしても全くその兆候は無かった。
そして今、それは佇んでいるのだが全く気配も無くその存在感も希薄。
あまりに自己主張の強いビジュアルをしているにも拘らず、だ。

「・・・何者だ?」
『異な事を言う。造物主よ。そなたに創られし者だ。』
問いに対する応えにレシオンの目が見開かれる。
確かに自分の事を造物主と言った。
だが、全く覚えがない。
喩え姿形がどれだけ変わっていても、自分が創造したもの位の判断はつくにも拘らず、だ。
かといって不思議と嘘を言っているとも思えない。
不可解な応えにレシオンの手に力が集約していく。
「【分解消去】!」
空中に術式が踊り、黄金の仮面は跡形も無く消え去った。
グラールをも消し去った力。当然の結果。

だが、次の瞬間には何事もなかったように黄金の仮面はそこに佇んでいる。
『己が子の身体を乗っ取り更に一段階登ったか。
ならば待つがよい。更なる高みへと登れる身体が近く現れよう。
既にその資格は与えてあるが故。』
黄金の仮面の肩越しに、アニマを使い影の転移を図るパルスが映し出される。
「これは・・・」
『汝が四代先の子、パルメリス。代を重ねる毎に近づいていく。』
不可解な存在ではあるが、その言葉の意味は理解できる。
今のレシオンの身体はモードラッドのものだ。
メイとグラールが語った事を併せ考えると、辿りつく結論は一つだ。
遺伝子変換はレシオンだけに留まらず、その血族に脈々と受け継がれていたのだ。
より完成度を高めながら。
あらゆる不可解を乗り越え、レシオンの頬が歪む。
貪欲に貪り喰らうその時を理解して。

116 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/09/13(木) 00:33:50 0
『今はただ刻が満ちるのを待つがよい。
その刻まで、これを預けよう。』
広げられたマントの中は何も存在していなかった。
いや、本来あるべき身体が存在しないというだけで、そこに包まれている者はいた。

マントにすっぽり包まれていたのは、マントと同じ柄のローブを纏い小柄で両肩にそれぞれ宝珠を付き添わせる者。
両の手には大事そうにもう一つの宝珠を抱えている。
顔には不気味な縦目仮面をつけており表情を見ることはできないが、骨格から女。
まだ成人していない女だと分かる。

『その者はアビサル・カセドラル(奈落の大聖堂)。確かに預けたぞ。
努々注意を怠る事なきよう・・・』
そう言い残し、黄金の仮面は来たときと同様に何の予兆も無く風景に解けて消えた。
一方アビサルはトテトテとレシオンの脇まで来ると、何も言わずにしゃがみ込む。

訳も変わらず一方的に押し付けられ取り残されたレシオンの視線がアビサルに注がれる。
両手に持つ宝珠を膝に抱えるように座るその姿は、ただでさえ小柄な実寸以上に小さく見えた。
暫くの沈黙の後、仮面の奥から感情のこもっていない言葉が綴られた。

「・・・人って・・・生きるって・・・どういう事か分かりますか?」

117 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/14(金) 22:34:28 0
船団があった場所が大爆発を起こす。
立ち上る煙が収まった後、そこには何も無くただ海だけが広がっていた。

トゥーラのある島の一角に、自力で転移したザルカシュと
間一髪で飛んで逃げたリリスラはいた。
爆破のときに上空にいた二人は、影の転移の効果範囲から漏れたのだ。
ザルカシュが辺りを見回している。
「みんなどこに出たんや? 早いとこ見つけなまずいわ」
「まあ焦るなって。殺しても死にそうにないだろ」
その時、二人に向かって一直線に矢が飛んできた。
一本はザルカシュの前で角度を変えて地面に突き刺さり
もう一本をリリスラが爪で捕まえる。
「いるんだろ? 出てこい!」
木々の間から、矢の主は現れた。
「この間合いでかわすとは、さすがです」
凛とした青年の風貌と千里を駆ける蹄を併せ持つ有蹄種族の長、アオギリ・コクラク。
レベッカを暗殺しようとした張本人。
「随分な挨拶じゃねーか! 私のライバルを良くもやってくれたね!
知らないとはいわせないぜ?」
リリスラとアオギリの間に一触即発の空気が流れる。
「ならばこちらから聞きましょう。なぜ人間共と馴れ合っているのですか?
我々こそがセフィラの唯一の支配者にして正当なる住人……。
人類は悪しき侵略者の眷族達なのですよ。忘れたのですか? 彼らの数々の悪行を!」
「ンな細かい事どうでもいいんだよ! ずっと自分の歌が一番だと思ってた。
アイツに会うまでは……。初めてあんな歌を歌う奴に出会ったんだ!
私の歌がアイツを越えるまでは……殺したら承知しないぞ!!」
ザルカシュは焦った。このままではロイトンの二の舞である。
「二人とも……落ち着いてや! 今はそんな場合じゃないやろ!」
制止の声を気に留めるはずもなく、草原の王と天空の女王が激突する!
と思われたが、どこからか聞こえてきた威厳のある声がそれを阻んだ。
『我が子達よ、武器を収めよ』
二人が動きを止める。
普通なら止まるはずは無いが、この誰のものか分からない声に不思議と逆らえないのだ。
『それから……助けてくれないか?』
三人の視線が一箇所に集まる。そこには、小さいライオンが木に引っかかっていた。

118 名前:大罪の宴 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/09/16(日) 21:33:37 0
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ゴートとホッド、二人は只、向かい合っていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ゴートの目には今だ激情の炎が宿っており、ホッドの目には深い悲しみが宿っていた。
すでにコクマーとヒューアは傷を回復させて、他の大罪の討伐に向かっている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
にやりとゴートが笑った様な気がホッドはした。その瞬間よぎる嫌な感じ。
ジャリ・・・・封鎖縛で動けないはずのゴートが動いたのだ。その目には先程の生気は無い。
「・・・・う、ああ、俺は?」
リッツには今までの記憶が飛んでいた。自分が何をしていたのかどうなっていたのか、自分の体を乗っ取ったモノが何をしたのかさえも・・・・。
そして目の前にホッドがいる。何がどうなったかを知る為に彼はホッドに近寄ろうとした。
「駄目だ!!そこから出るな!!」
ホッドの声が響く・・・・・がリッツには何を言っているのか聞き取れなかった。意識が混濁する。
よたよたと夢遊病の如く歩いて、近づきその体は束縛の鎖から解き放たれた。
「なぁ、いったい俺は?」
そう言ってリッツは膝をついてホッドの目の前に倒れこんだ。
「お、おい!?・・・・・・・・ゲボァ?!」
瞬間、大罪では無くリッツを意識してしまったホッドの失策だった。抜き手は確実にホッドの腹部に突き刺さっていた。
「くくくく・・・・・ははははは!!こいつもお前も馬鹿だよなぁ!!」
「テメェ・・・・・わざと休眠しやがったな!!」
封鎖縛は大罪を捕縛する技である、大罪には絶大な効果を発揮する。但し、それは自我が覚醒した大罪にのみである。
自我の無い時点で封鎖縛が作用しないのはその時点ではまだ無害で意味の無い事だからだ。その状況では封鎖縛は発動しない。
そしてそれと同じ状態なのが休眠なのだが、これには大罪にも大きなリスクがある。元の体の持ち主の自我が甦り、そのまま交代できなくなる可能性があるのだ。
その半ば博打とも言う手段でゴートは封鎖縛から抜け出て来た。
「かなり焦ったけど、これで終わりだ。」
引き抜かれた抜き手にはホッドの臓物の一部が握り掴まれていた。言葉を絶する痛みに只の一言すらあげずにホッドはその場に倒れこんだ。
「やれやれ、パーティの主役を忘れてるったぁ、いけないぜぇ」
ホッドを踏みにじりゴート・・・・・憤怒の大罪はその場を後にする。修羅共の集う狂乱の宴に向けて・・・・・・・

一方、ホッドは、自分の死を目前に考え事をしていた。
「俺様・・・・・死ぬの・・・か・・・」
いかに十剣者といえども死なない訳ではない。特にこんな重症なら尚更である。
「死・・・・・・」
ホッドは残された時間を使って考える。死とは何かを。
そういや・・・・トーマスさんもルーシーも何も解らずやられちまった・・・・・・いい人たちだったのに・・・・・・村の人達だって
ホッドの目には涙が溢れていた。何が十剣者だ、何が人を知る為に旅するだ、自分は何一つ守れていないじゃないか。
そんな時、ある気配にホッドは気がついた。それは青白い人影の様なモノだった。ホッドの顔をしきりに覗き込む二つの青白い影。
「死神・・・・?」
二つの影は何度も何度もホッドの体を掠める様に腕を伸ばしていた。
「連れて行こうとしてる・・・・のか?」
連れて行こうとする相手をはっきりみてやろうと閉じかけた目を開いた時、ホッドは驚愕した。
「トーマスさん、ルーシー!!」
二つの影の正体それは青白い姿をしたホッドの恩人、トーマスとルーシー、その体は極端に透けて向こう側は見えている。
二人は心配そうにホッドを見つめしきりに手当てを施そうと手を伸ばしていたのだった。
「そんな・・・・死んだのに気がついて無いのかよ!!」
絶滅は魂すらも消滅させる程の忌まわしい技ではある、だがこの世界の根源が今はまだ思いの力ならば思いまでは消滅はさせる事が出来ない
二人のホッドの事を思う気持ちが二人をゴースト化させて現せたのであろうか・・・・・
必死に手当てしようとしては崩れ落ちるその手を何度も何度もホッドに差し伸べる二人にホッドは泣いた。
そして二人を抱き抱えた。
「大丈夫だから、俺、大丈夫だから、二人ともちょっと休んでて」
その言葉を聴いて安心したのだろうか、二人の姿はじょじょに光り輝く粒になって砂の様にくずれて・・・・
『本当に大丈夫?』
「ああ、本当だから」
『じゃあ、また明日ね 寝坊しないでよ』
「ああ、また明日」
永遠に来ない明日を約束してホッドは涙を振り払う。まずは傷口をどうにかしないと・・・・・そのまま闇に消えていった。


119 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/09/16(日) 21:37:21 0
暗転・・・・・急な暗闇、気がついた時私はすでに灼熱の大地に佇んでいました。
岩肌がどこまでも続く孤島、ここの中心部、すなわち火山の中心に灼熱都市トゥーラはあると聞いておりました。
他の皆様も無事なご様子、只、ザルカシュさんとリリスラさんが見当たりませんが、襲撃の時にお二方とも空中に居られましたし、何よりも歴戦の猛者ですから
心配は無いと思われます。それよりも今、心配なのは・・・・・・・・・
「はははは!!嫉妬の奴もたいした事ないな!!」
感じの悪い笑い声、そうこの声は、
「久しぶりだな、アクア・・・・・妹だった存在よ」
忘れもしない父、母・・・・いや、同胞だった者全ての仇、セリガ・ウーズ・・・兄だった人
「ほぉ、お前もシーマンである事を止めたのか・・・・結構、結構」
高台からまるで、勝利した暴君の如く私共を見つめるセリガの目にはすでに知性と言う物が欠落している様に感じられました。
「おい!!傲慢、今の言葉聞き捨てならないな!!」
遥か空中、ハインツェルさんの姿をしたモノが怒声をあげていました。
「ふん、屑共の始末にワザワザ自分で出向いて誰一人出来てないじゃないか」
「ほぉ、じゃあお前ならどうする?」
「こうするのさ」
そう言って指をセリガは鳴らしたのです。その瞬間、私達の周りに土柱が無数に上がり、そこからシーマンの集団が現れたのでした。
「命令だ、そいつらを殺せ」
セリガの号令と共にそいつらは襲い掛かってまいりました。ですが、それは余りにも悲惨なモノで御座いました。
『あーーーーあーーーーあーーーー』
どのシーマンも一様に口を開け、言葉を満足に喋る事も無く、ただ向かってくるだけ、ただどんなに倒しても起き上がっては襲ってくる・・・・・・
そう、例え腕を吹き飛ばされようが、足を折られようが・・・・・・・
「こ、こいつら!!」
黒騎士さんも、私もほぼ同時に気がつきました。
「こいつらゾンビか!?」
ゾンビ・・・一般的には動く死体を連想されるかと思いますが、本当のゾンビは元々、邪教の神官が奴隷もしくは犯罪者を特別調合した薬品などに
よって意識を混濁させて、絶対服従する機械と変貌させる技術、またはそれを行使された人間を指す物です。つまり命令を遂行するか死ぬまで動き続ける生きた機械・・・・
「はははは!!まずは楽しませてくれよ、そいつら最後のシーマン共でな!!」
その言葉に驚き相手を見回すとそこにはまだ年端も行かない少年や、少女、または女性まで・・・・・・・・しかもそういう人達には・・・・・・
「こいつら爆弾抱えてるぞ!!」
そう、体中に爆弾を抱えていました。にやりとセリガが笑うのが見えて私の怒りが抑えきれなくなっているのが解りました。
「全員 爆破だ」
その言葉と同時にシーマン達は体に纏った爆弾を発火させたので御座います
私はその時と同時にセリガに向かって駆け出してました。
「命をなんだと思っているのですか!!」


120 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/09/17(月) 02:56:16 0
最新の重装人型ゴレム《ギガント》が、ナバルの周囲を埋め尽くす。
その数、およそ五千。百万の人口を誇る王都すら、灰燼とせしめて余りある数であった。
そして、明らかにニブルヘイムの搭載数を上回る数でもある。
「たまんねえなあ……」
ナバルを形作る六方星の頂点の一つ、白の塔の頂で胡坐をかいたゴンゾウ・ダイハンは、無精髭を撫で回しながら息をついた。
開戦から丸三日経つというのに、一向に戦の動く気配がない。
ゴレム共は、ただナバルを包囲し続けているだけなのだ。
兵糧攻めというわけではないだろう。ナバルには、百万人を三年は養えるだけの備蓄があるのだから。
圧力でこちらの動揺を煽るといった戦術でもない。
ただ、だらだらと緊張が続くだけの時間稼ぎだ。
六星結界相手に手の出しようがないとはいえ、包囲だけとは……何ともつまらぬ戦であった。

「景気付けが欲しいよなあ」
包囲の薄い点から点へと結び見て、一万メートル向こうに鎮座する、動く要塞へのルートを計る。
自分と、あとニ、三人で楽に抜けられそうだ。……ならば誘いか。王都との嫌な離れ具合に眉根を寄せる。
「たまんねえ。あ〜〜〜〜たまんねえ……」
ギガントの数が、更に増えた。
群れ集う鋼の威圧を掛け続けるニブルヘイムから目を離し、天を仰ぐ。
これは漢のやる戦ではない。せせこましい女の攻め方だ。
……燃えられそうにない。
ゴンゾウにとって戦いとは、魂の燃焼――即ち、本気で生きるべき人生そのものである。
野心など欠片もありはしない。しかし、血に飢えた戦狂いといったわけでもない。
とにかく、強敵だ。泡立つような燃え盛りが欲しいのだ。
これは、何も満たせそうにない相手だった。
「――来るのかあ?」
仰いだ天から、危険という名の放射線が降り注ぐ。
辺りに漂うそれを胸一杯に吸い込んで、ゴンゾウは胴丸具足を鳴らし立った。

「戦とは、数と圧にて決まるもの〜♪」
急拵えながら整った陣容を眺め、ソフィー・ハイネスベルンはお気に入りの砂糖菓子を頬張った。
材料のある限りゴレムの生産を続ける、ニブルヘイムの無限工房《ドウェルグ》は、すでに空っぽ。
この三日で、辺りから採れる限りの鉱物資源は漁り尽くしたのだ。これ以上の待機に意味はなかった。
「そして、いくつかの……盤上を跳ねる駒」
使える駒もすでに揃った。これ以上の充実を望むのは参謀の名折れである。
「ドラッヘ=カニンガム! ナバルを地獄の朱に染めよ〜〜〜!」
『了解』
「ニブルヘイム! 《ニーズヘッグ》全機発進! エンジン吹かし、炎の剣の封を解け!!」
『了解了解了解了解了解了解了解了解了解了解了解了解了解了解解了解了解了解了解了解了解了解了解了解了解了解…………』

「クリーク♪ クリーク♪ クリ〜ク♪ クリィイック♪ クリーーック♪ クゥゥリ〜〜ック♪」

歌って踊り、指揮を執る。
彼女こそまさに、龍人王の血脈の狂気を色濃く受け継ぐ者であった。

121 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 14:13:41 0
(^o^)ノ<最下層だぞくずどもー

122 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2007/09/17(月) 14:23:10 0
保守

123 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:03:58 0
一滴の水も無い灼熱の大地。
爆弾をまとったシーマン達がじりじりと近づいてくる。でも打つ手はある。
「スフィーニル! 来て!」
青い輝きと共に水が具現化され、爆弾の火を消し去る。
アニマは精霊の原理を基に作られた、概念を実体へと変換する力。
周囲の環境に関係なく事象を呼び起こす事が出来るのだ。
一人で突っ込んでいったアクアさんを助けに行こうとするが、シーマン達に取り囲まれる。
峰打ちも効かず、倒れても倒れても起き上がってくる。
「どうすればいいの!?」
「こうすればいいのさ!」
ハインツェルだった人が周囲のシーマン達を何のためらいもなく一斉に吹き飛ばした。
「なんてことを!」
地面に降り立ち、手を翻すような動作をして伸ばしてこっちに伸ばしてくる。
「面白そうなものをもっているね、渡してもらおうか!」
嫌だと言って飛び退るつもりだった。が、なぜか少しも足が動かず、声さえも出なかった。
全身が凍りついたように固まっている。
その事に気付くと同時に、意識が遠のいていく。地面が近づいてくる……。

うつ伏せに倒れたパルスからアニマを回収しようとするハインツェルに
純白の銃光が放たれる。
「邪魔をしないでくれるか!?」
ハインツェルが睨み付ける先には、駆けつけたハイアットが銃を握り締めて立っていた。
「何をした!?」
「運動の概念を奪ったら心臓まで止まってしまった! アハハハハ!!」
心底楽しそうに答えるハインツェルを見て、ハイアットの怒りは頂点に達した。
「お前はもう……ハインツェルじゃない!」
そして、何かが切り替わる。表情が、まとう雰囲気が豹変する。
その身から発するのは、触れれば切れるほどに凍てついた殺気だった。
都市管理用ホムンクルスに組み込まれた、全ての生命を庇護するプログラムの裏返し。
生命を脅かす魔物達を容赦なく抹消する演算型戦闘装置としての顔。
一切の感情が排除された冷たい目で、これから行う処理を告げる。
「これより貴様の消去を実行する!」
「やっとやる気になったか、何度やっても結果は同じだがな!」
ハインツェルの手に、異形の剣ジルヴェスタンが現れた。

124 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/22(土) 00:18:14 0
ジルヴェスタンの刀身が揺らめき、生き物のように蠢きだす。
「かつて兄弟だった君へのせめてもの情けだ……この剣で切り刻んでやろう」
ハインツェルだった者が剣に命じる。その瞬間、二人の戦いは始まった。
「刻め! ジルヴェスタン!」
異形の剣ジルヴェスタンの正体は、自由自在に姿を変えて全てを切り刻む装置。
無数の刃に姿を変えた剣がハイアットに襲い掛かる!

視界が暗転し、何が起こったのか分からない。
自分でも気付かないうちに死んでしまったのだろうか。
そんな不安をみすかすように、幼い少年が僕を覗き込んで言った。
『心配しないで、君の体はボクが治してるから』
「誰?」
『ボクは……こんな者』
少年は小さな白銀の猿に姿を変えた。
『やっと会えたね……ずっと待ってたよ』
気付くと他にも小さい動物達がいた。幻想的な胡蝶、流れる水のような蛇
漆黒の蜘蛛、風を司る豹……。僕はこの動物達を知っている。
どうやら、気絶した拍子に、持っているアニマと繋がってしまったようだ。
「ずっと……待ってた?」
『君は虚無を知る……ボク達の主になる資格がある……今こそ契約を!』
契約を交わせば、アニマの真の力、ユニゾンを授かる。
それが何を意味するのかは分からない。何か大変な事になるのかもしれない。
だけど、みんなを助けられる事は確かだ。僕は彼らに歩み寄る。その時。
――止めろ! パルメリス!――
頭の中にもう一つの声が響いた。
――それは……無を有に変える……手を出してはいけない力!――
誰かは分からないけど、嫌な感じはしなかった。
言ってることが正しい事も分かってるから、しばし立ちすくんだ。
だけど、ゆっくりと一歩を踏み出した。
何があっても、どんな危険を冒してでも、進まなきゃいけないから。
それに、不思議な衝動を抑え切れなかったから。
『何をためらうの? 君だって望んでる……ボク達と一つになる事を……』
その通りだった。ずっとこの時を待っていた気がする。
僕の欠陥を埋めてくれる物にやっと会えたような気がする。
「みんな……力を貸して!!」

125 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/09/22(土) 00:19:30 0
壁のように立ちはだかる無数のシーマンゾンビを掻い潜り、間合いを詰めるアクア。
お互いの制空権が触れる瞬間、その身を翻す。
勢い良く突っ込んできて、ここで虚をつくように身体を回転させてその勢いのまま裏剣を叩き込んだのだった。
セリガの右頬にめり込むアクアの拳。
だが、そのまま振り切ることはおろか、セリガの首をずらす事すら出来ないでいた。

身体はセリガであっても既にその力はセリガのものではない。
無数のセフィラを破壊し、創生の果実を求める大罪の魔物【傲慢】のものなのだから。

「今度は嬲る前に殺してしまうかもしれないなぁ!」
頬にめり込むアクアの拳に手を添え、無造作に放り投げる。
恐るべきスピードで岩肌を転がるアクアを睥睨しながら声をかけた・・・が・・・
「あなたは許さない!・・・絶対に!」
あれだけ転がったにも拘らず、アクアはなんらダメージを受けていない。
それはスライムの身体である事を差し引いても本来ありえないことだ。

スリタブ流は豪快な技が目立つが、その基本にして奥義は受身にある。
あらゆる攻撃を受け、その上で勝つことがスリタブ流の理念。
攻撃以上に受ける技は叩き込まれているのだ。

硬く尖った岩肌を転がっても尚、その身を削られる事のない完璧に受身を実行したのだった。
「・・・ほう。少しは嬲り甲斐がありそうじゃないか。」
そのアクアを見ても尚、セリガの目に浮かぶ笑みは消えることがなかった。


ハインツェルの異形の剣とハイアットの銃が突きつけあう中、パルスにセイファートが駆け寄っていた。
既に心臓の停止したパルスを抱きかかえ、必死に呼びかけるがもちろん返答はない。
周りでシーマンゾンビの接近を防ぐラヴィやエドの怒号も剣撃の音もセイファートには届かないでいた。
ただ在るのは慟哭。
厳然たる事実を受け入れられないその叫び。

戦いが激化していく中、突然場の空気が凍りつく。
セリガの嘲笑も、アクアの怒りも、ハイアットの殺気も、ハインツェルの狂気も・・・セイファートの慟哭すらも。
まるで有無を言わさぬ力で全てを押し潰すようなプレッシャーが全員の動きを止めた。
並みの使い手ならば金縛りにかかったように動く事は出来なかっただろう。
だがここにいるのは誰もが並みの使い手ではない。
本能的に危険を察知し、その場から飛びのいた。

刹那の後、轟音と共に揺れるトゥーラ。
全てをなぎ倒す衝撃波と吹き荒れる岩。
地響きが終わった後、そこには巨大なクレーターが出来ていた。
クレーターの中心部にはマグマが溢れ出ており、そのマグマの上に一人の男が大気を震わせる力を纏いながら立っていた。
「うはははは!主役は遅れてくるもんだが、ちゃんと残っているな!
お前ら・・・皆殺しだぁあああ!」
マグマを従えるように宙に浮き、一同を睥睨する男は、かつて運命の牙と呼ばれていた男・・・リッツ。
大罪の魔物【憤怒】にして、ゴートの名を持つ者だ。
その言葉の『お前ら』の響きには人間も魔物も区別はない事がひしひしと伝わってくる。

126 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/09/22(土) 00:19:44 0
「リッツ!リッツなのか!?」
「ん?、お、お?この器に因縁があるらしいな。
身体が欲している。じゃあ、お前から殺そう!」
驚きと共に駆け寄るディオールにゴートは残酷な笑みを浮かべる。


人は死んで死人になるわけではない。
ただの死体になるだけだ。
セイファートはロイトンで
「全ての生命はやがて星に還る。そうしたら目に見えない想いの粒子のような物になっていつかまた新たな生命の源になる……」
こう言ったが、ジンレインはそうは思わない。
実際の世界の仕組みがどうであれ、自分は所詮は草だ。
草に大河の流れの向きなど分かるはずもない。
星に帰ろうが、無になろうが、物言わぬ死体になれば自分にとってそれはただの肉塊だ。

だから・・・パルスの死体を庇って逃げ遅れたセイファートが許せなかった。
肉の塊を庇い、衝撃波に晒され血を流し倒れている。
死体を憎むべきなのか、死体を庇ったセイファートを憎むべきなのか。
決められないから呈の良い八つ当たり相手を決めた。

「炎の爪に頼まれていたけど、理由付けなんてどうでもよくなったわ。」
ジェネヴァを宙に舞わせ、極端な猫背になって槍を構える。
相手の危険度は十分すぎるほどわかる。
いや、十分すぎるほど以上だから麻痺してしまっているのかもしれない。
本来ならこの相手とはまともに対峙するという選択肢はないはずだ。
なのに・・・分かっていても・・・自分で求められないでいた。
嫉妬と怒りの入り混じった感情を抱えながら・・・


 【中枢部】
地響きと共に天上から小石や埃が降ってくる。
ゴートの到着の衝撃はトゥーラ全体を揺るがし、この中枢にも届いていた。
「ふん、せいぜい好きに暴れればいい。全ては私の糧となる・・・!」
室内を歩き回り、様々な装置を操作するレシオンが吐き捨てるように呟いた。
そして小さくつく溜息と共に視線は自分の斜め後ろ下に注がれる。

そこにはローブの裾を掴んでついて回るアビサルの姿があった。
意味不明な存在なのだが、疎ましく思いつつも排除する事が出来ないのだ。
排除しようと言う気が沸いて来ない。
舌打ちと共に視線を戻し、封印解除作業へと戻る。

127 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/09/22(土) 21:03:12 0
「さぁ、ぶち殺してやるぜぇ!!」
謎の乱入者の怒号と共に続いて巨大な爆風、そして衝撃が辺りを包みました。
立ち上がる黒煙の中からその男はゆっくりと進んでまいりました。セリガ・ウーズ・・・・・だったモノ
「こっちも始めようか?まぁ結果は同じだけどな」
先程の攻撃も意に解さない様な口ぶりに横柄な態度、そして芝居がかった態度。・・・・どれをとっても・・・・
「・・・・・どれを取っても・・・・」
思わず心の底から思った事がこぼれ出てしまいました。
余りの怒りに肩を震わせているのを、恐怖してると思ったのか傲慢の魔物は鼻をならしながら笑っていました。
「はっ、恐怖でおかしくなったか?それとも怒りすぎて・・・・」
「お黙りなさい・・・・・この下衆が・・・」
その時の傲慢の顔は忘れられません、なんとも間の抜けた顔でした。この時私は完全に怒りに捕らわれていました。
「だまれって言ったんだよ!!この下衆野郎!!」
瞬間、飛びつき、まずは一発、拳を顔面に向け打ち込み、次に隙を見せずに体に向けて2発、とにかく3発、4発、5発、際限なく拳の雨を降らせ続けました。
「ふん、こんな攻撃、効きもしない・・・しかし・・・」
拳の雨をなんなくかわし、冷静に反撃を傲慢がしようとした矢先、
「だまれっつたろうがよぉ!!」
私のヘッドバットが傲慢の顔面を捉えたのです、傲慢の鼻から一筋の血が流れました。
「はっ!!あんたにはお似合いの化粧だな!!」
「き・貴様!!この私に血を流させたのか・・・許さん」
一拍おいて、拳の雨、雨、雨、怒りに己を見失った私の拳と流血の怒りで頭に血ののぼった傲慢の拳の打ち合い、
激しい打ち合いの続く中、その様子をにやにやと笑う者がおりました。その名前は憤怒
「くくく・・・いいねぇ力が湧くぜ!!」
その傍らには満身創痍の黒騎士さんがいたのですが、その時の私にはそれに気がつく事は無かったの御座います。


128 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/23(日) 00:06:30 0
木から降ろした小さいライオンのような生物を観察して、ザルカシュは驚愕した。
「幻獣王……?」
『よくぞ分かってくれた。私は幻獣王グラールだ。
レシオンの奴に妙な術をかけられて少し小さくなってしまったが』
「少しじゃねーだろ!」
リリスラの最もなツッコミにグラールは気まずそうに答える。
『うむ、正直言うと消されるところだった。なんとか姿をとりとめて
追って降りてきたものの木に引っかかってしまったのだ』
幻獣王の威厳が台無しな話を聞いて哀れになったのか、リリスラは口をつぐんだ。
代わりにザルカシュが険しい顔をして言う。
「レシオン……やはり帰って来よったか!
そやけど確か十剣者は魔法を遮断しとりませんでした?」
『あやつが使うのは正確には魔法ではないのだ。
おそらく奴はここに来ているだろう。最後の封印を解くために……』
「早う止めんとまずいわ!
リリスラはん、アオギリはん……ここは一つ仲良く……あれ?」
「いないぞ?」
3人が話している間に、アオギリは忽然と姿を消していた。
「あいつは何がしたかったんだ? ……もっと穏やかな奴だと思ってたんだけどなあ」
「まず、封印を護りに来たワイらを排除しようとした。
そこに幻獣王グラールはんが現れてどうしても逆らえなかった。そしていなくなった」
しばし気まずい沈黙が流れる。やがて、三人はほぼ同じ考えにたどり着いた。
『まずいぞ……あの調子では私が傍にいなければ何をするか分からん!』
「グラールはんがいたら逆らえないからすぐに離れたんか!」
「まさか……あいつ、封印を解こうとしてるのか!?」
放置すると危険なことは間違いない。
ザルカシュはグラールを頭の上に乗せ、三人はアオギリを探しに行こうとした。
その時、突如として大地が揺れ、轟音が鳴り響く。
震源はかなり離れた場所であるにも関わらず、凄まじい瘴気が流れてくる。
すでに種ではない開花した大罪だと感じて、ザルカシュの顔色が変わる。
こんな所で大事な駒を失うわけにはいかないのだ。
「あれをなんとかするほうが先や! 行くで、リリスラはん!」
「はいよ」
二人は、大罪達の饗宴の元へ向かって飛び立った。

129 名前:分岐と選択 ◆F/GsQfjb4. [sage] 投稿日:2007/09/23(日) 00:24:52 O
「…そういえば先程の問いに答えておらなな。生きる…か…」
ふと作業を中断し、暫く考えてからレシオンは後ろのアビサルへと振り向いた。
「生きるという行為は“願望”に帰結すると私は考える。程度の差こそ在れど、人は
常に“今よりも良い”境遇を求めるものだ。『良い物が欲しい』『良い暮らしがしたい』
人によって様々だが、その根底は“願望の昇華”に尽きる。」
レシオンはそこまで言うと、1度深く溜め息を吐き、アビサルを見つめる。
その瞳の奥には、哀しみが在った。憎しみが在った。そして…優しさが在った。
「故に人は社会の中に競合を形成し、自らの“願望”へと価値を与えた。国家もまた然り、
国家とは群衆が持つ共通する“願望”が生んだ形の1つに過ぎぬ。そしてその価値の差は
戦争という行為に発展するのだ。愚かなことだ。人より優れることに意味が在ろうか、
はっきり言えば“無い”。そう、意味など無いのだよ。だが人は戦争を止めることは出来ない…」
アビサルは黙り込んだままで、動かない。
僅かにローブの裾を掴む手のひらに、力が入っただけだ。

「何故戦争が無くならないのか、それは“人が生きている”からだ。生きている限り
“願望は人を縛り続ける”からだ。私もまた“願望”に縛られた愚か者なのだよ、小娘…」
そう、レシオンは最初から全てを理解した上で、この現在(結果)を選んだのだ。
「そして生きるという行為は“分岐と選択”によって構成されている。誰であっても選択を
避けて生きるのは不可能だ。こうしている今ですら分岐は現れ、選択をせねばならない。
私の生涯は誤った選択の連続だったが、その選択と結果を私は微塵も悔いてはおらんよ。
私が選んだことによって“選ばれずに消え去った未来”へ、私は背を向ける訳にはいかんからな」
「……未来…………」
それまで黙ったままだったアビサルが、消え入りそうな呟きを洩らす。
「そう…生きているという意味は“分岐と選択を繰り返し”、己の“願望を昇華する”ことだ」

アビサルは再び黙り込んだ。自分が生きてきた意味は何だったのか、考えたのだ。
最初から“器”として造られた、偽りの人生に何の意味が在ろうか。
考えれば考える程に、思考は泥沼に嵌まって行く。誰もその声無き助けを求める悲鳴を聞くことはなかった。

「小娘よ、私の答えは決して正しいとは限らん。そもそも人に尋ねて得られる答えに
価値も、意味も、存在しないのだよ。そしてその問いに答えられるのは小娘…お前だけだ」
レシオンはアビサルの頭をそっと撫でた。まるで自分の娘に言い聞かせる父親の様に。
「お前は1人ではない、見ろ…あの者達を」
壁面部のモニターに映し出されたのは、仲間達の戦う姿。
「もう答えはとうに出ている筈だ。お前はその答えから“目を逸らし続けている”だけに過ぎぬ。
失うことが怖いのか?変わってしまうことが怖いのか?…違う、お前が恐れているのは…」

レシオンの言葉を遮ったのは、一際大きな爆発だった。同時に中央管制室の天井が崩れ始める。
「ふん、あのバカめ…加減を知らんのか」
落ちてきた瓦礫が、突如“軌道を変え”てレシオンとアビサルを“避けて”いった。
《貪欲》の《絶滅》、それは“進行の概念を消し去る”効果を持つ。
予め管制室に“設置していた”《絶滅》が、瓦礫の落下を退けたのである。

130 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/24(月) 00:43:16 0
襲い掛かる全ての刃を正確無比に打ち落としていくハイアット。
「腕を上げたな!」
「この前のように行くとは思うな!」
何者かの気配を察知すると同時に、二人は跳んだ。大罪の魔物【憤怒】の到着だ。
刃の軌道が修正される一瞬のすきを見計らい、空中で特殊弾等コードをセットする。
着地し、襲い来る刃がハイアットを切り刻もうとする一瞬前。
銃口から打ち出された光が不可視のバリアーに姿を変える。
無数の刃が絶え間なくぶつかり、凄まじい勢いで削れていくバリアーの後ろで
次の特殊弾頭コード『reflection』をセットする。あらゆる物理攻撃を跳ね返す特殊弾。
無数に分かれたジルヴェスタンの刃一つ一つの軌道や角度を瞬時に割り出し
目にも留まらぬ速度でバリアーの内側に特殊弾を撃っていく。
バリアーが全て削られて消え去った瞬間。
刃が一斉に、持ち主であるハインツェル自身に降り注ぐ。
はずだった。しかし、実際に刃が突き刺さったのは手前の地面だった。
ほんの僅かに、しかし確かに演算が間違っていたのだ。
ハインツェルが嘲り笑う。
「惜しかったな……怒りのあまり演算機能が狂ってしまったか?」
ハイアットは起こったことが信じられなかった。演算装置の演算が狂うなど有り得ない。
「俺は演算装置だ……! 心なんてない! そんな事があるはずがない!」
必死に否定するハイアットをに、ハインツェルは哀れむような目を向ける。
「それなら僕がこうなったのはどう説明する? 君だってもう気付いてるんじゃないか?
この時代に追加された根源……僕たちが心を持ってしまったこと!」
そう言って、ハインツェルは他の方向に歩みを進める。
「……何を!?」
「君の絶望の顔をもっと見てみたい、先に大事な仲間達を殺ってやる! 貴様は最後だ!」
彼の向かう先では、ラヴィが包丁を持って構えをとっていた。
「セイちゃん、逃げて!」
「嫌……だ!」
「ラヴィだって信じたくないよぅ! パルちゃん死んじゃったなんて!」
その言葉に、今までに無い感覚に襲われる。
倒れたまま少しも動かないパルスを見て、ハイアットは理解した。
心、自分には手に入るはずは無いと知りながらずっと望んでいたもの。
それは手に入れた事に気付いてみたら、あまりにも残酷なものだった……。
「こんなに苦しいのなら……心なんて欲しくなかった……!」
震える手で銃をハインツェルにつきつける。
「ハハハハハ! どうした? 照準がずれてるぞ!」
この時はまだ、誰も気付いていなかった。アニマが不思議な輝きを発している事に。

131 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/09/24(月) 14:00:56 0
ナバル攻略の虎の子。
潜行強襲型ゴレム《ニーズヘッグ》、三十三機。
元龍人帝都の、名高い絶対障壁に挑むのである。万全でも充分でもないものの、対する備えは欠いていなかった。
まず、攻めるのならば地下から崩しに。これは誰でも考え付く、云わばセオリーだ。
翅状の放熱器が幾重にも生えた、地を行く蛇が這い進む。

「どうなんだ?」
ナバル周辺の動体反応を捕捉するべく設けられた、索敵方陣の中央。
鎮座して意識を集中するロシェに、ゴンゾウは侍女のスカートの中身を訊くような調子で尋ねた。
「比較的岩盤の薄い翠≠フ塔側に殺到してますね。でも、遅い。崩れるには数時間は掛かりそうです」
「つまり、無視できねえって事か」
「ええ、天上からの本命さんへのささやかな援護だとは思いますが……」
もしかすると、これ自体が陽動なのかもしれない。
副長ほどの参謀役の適性はないと自負するロシェは、迷う己に自嘲した。
読み間違いは命取り。この戦では、それに加えて更に色々だ。神経が磨耗していくのが嫌でもわかる。
ただ《ギガント》を増やすためだけに、敵が三日も待っていたわけがないのだ。確実に何かある。
もう一手、あるいは二手?
「じゃあ行くぜ。少し運動して来らぁ」
「地下ゴレムの掃討は、ララスとワッニの隊に任せて。団長は陣地防衛にのみ専念してください」
出て行く巨漢の背中に釘を刺しておく。
敵を求めて猛る獣のような漢だが、全体的な勝利への指針を蔑ろにする人ではない。この手は上手く排してくれるだろう。
ロシェは集中と、方陣外縁の術者達との結合を深くし、眠りのような心地で眼を鋭く見張った。

――生体反応感知、データ照合、映像拡大。
「……お〜〜♪ ロイヤルナイツのご出陣ね♪」
外のギガントを恐れもせず通用門より出で来る、三十三人の戦鬼共の隊列に、ソフィーはわざとらしい歓声を上げた。

王国最強戦力《ロイヤルナイツ》
騎士団を謳いながらその総勢、なんと九十九人。
団長、副長を含めた第九席までからなる部隊長の下に、それぞれ十人の団員が従事するといった、単純明快な形の集まりである。
その強さは、未だ計り知れず。依然として神秘のベールの向こう側にあった。

ゴンゾウの隊が驚くべき突破力でギガントの壁をこじ開け、後ろの二隊がニーズヘッグの空けたトンネル内に侵入する。
地中の敵を葬るに迷いない、速やかな運び。噂以上の精強さであった。
『こちらカニンガム、後五分でナバル上空に到達します』
「そ、何か来た?」『十分前に侵入者と思われる生体反応を複数確認、その後数秒で消失。迎撃体勢は維持しております』
感知器の目を眩ます術者がいるのは間違いない。ナイツの一隊が送られてきたと見るべきだろう。
「よろしい。貴方はとにかく、ぶつけてやる事だけに専念して。……どうなろうとも、骨は拾わせてもらいますわ」
それは、失敗となっても無駄にはしないという意味だ。

砂糖菓子で甘くなった口中を舐め回しつつ、ソフィーは次のカードを切るタイミングを推し量った。

132 名前:ジンレイン ◇LhXPPQ87OIの代理投下[sage] 投稿日:2007/09/28(金) 22:47:55 0
「丁度いい具合にアツくなってんのさ、ほら見――」
ディオールはやおら起き上がると憤怒の魔物に背後から打ちかかり、袈裟がけに斬り倒した。
依代であるリッツの身体は剣圧に数メートルばかり吹き飛ばされ、
彼の胴体は腰の辺りまで殆ど二つに分かれてしまった。すぐさま駆け寄り、うつ伏せになったリッツの頭を砕く。
躊躇はなかった。一太刀目を入れた瞬間から、リッツとの因縁は跡形もなく忘れ去られていた。
傷と興奮と「何か」に中てられて、黒騎士が剣を逆手に持って振りかざす。
先の一撃で真っ二つだろう心臓を、更に狙って突き立てる。

「折角チャンスをやったのに、使えない野郎だ」
踏みこみ、振り下ろすも、寸前で剣は止まった。
倒れていたリッツの腕だけが、まるで見えない力に捩じ上げられたような格好で背中へ回って、黒騎士の剣を阻んでいた。
その前腕は易々と裂ける人間の肉体では既になく、もう一振りするとディオールの武器をへし折ってしまった。
魔物はリッツのもう片方の腕を使って仰向けになると跳ね起き、
二つに分かれた上半身を左右へ揺すって歩き始める。
「渇くだろう、分かるか?」
ごぼごぼと血の泡を吹きながら、リッツの首で喋ってみせる。
ディオールは折れた剣を捨て、魔物に手をかざしてブレスを放った。
魔力の炎がリッツの足下を舐めるが、不可視の障壁に遮られて敵に届かない。
「お前らの血に渇くんだ! むかついてたまんねえのさ!」

全身を一瞬で再生させると、魔物はディオールへの間合いを詰め、横殴りに彼を弾き飛ばした。
「俺を見るな、俺の事を考えるな、お前が感じているのは紛い物の俺だ。
本当の俺は俺のものだ、お前らが居るとそいつも分からなくなっちまう。だから消してやりたい」
砕け散った鎧の破片がディオールの頬を切り裂く。
岩場に打ちつけられ、辛うじて意識は保ったものの利き腕と右脚が完全に折れてしまった。
眼に血の入って視界も覚束ない彼に、魔物がゆっくりと詰め寄る。

「俺がこの、リッツとかいう男の身体を『借りてる』なんて考えは希望的観測ってヤツだな。
俺はリッツ自身だ、そう名乗ればそうなる。確かめる術は何処にもない。本物はもう消えてしまったかも知れない。
しかし邪魔なのはお前らの思い込みだ、元リッツを知ってるお前は俺を偽者だと抜かすだろう。
俺の居場所があやふやになっちまうよ。我慢ならねえんだ、なあ? 生きる理由さ、そいつが欲しい」

魔物がディオールの顔面を蹴り上げる。全く抵抗出来なかった。魔物が拳を固めて彼の鼻先に突き出す。
「『想い』だなんてけったくその悪い言葉が、授けられた力の本質だと思ってるのか?
『飢え』だ、『渇き』だ! 飢餓と欲望の為に戦う、戦う意思が『力』だ! 俺やお前を駆り立てる――」
血だらけになって横たわる黒騎士を執拗に打ち据え、
「欠如の感覚だ。俺は誰だろう!? 俺は憤怒という名の欲望であり欠如であり、即ち無だ。
在りながらにして俺は無だ、永遠の死だ。俺が救われるのは、恐らく創世の果実を以てしてのみ。
いつかは誰も俺を見なくなる、俺にも俺が見えなくなる、苦痛が終わる。
お前もじきそうなる、世界の外側に行くんだ」
最後の打撃がディオールのみぞおちを抉った。
「なあリッツ、お前にも話してんだぜ。
リッツがゴードを憎むのと、ゴードがリッツを憎むのと、どっちが強いかだよ。
きっとな、俺のが救いがねえ分強いと思うぜ。試してみろよ、こいつで俺を憎んでみな」

133 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/09/28(金) 23:47:11 0
剛拳炸裂する・・・・
「ぬりゃああああ!!」
「ごるらああああ!!」
私とセリガの拳が正面から激突し、お互いの拳から熱気と言うには余りにも熱い空気が立ち上りました。
「さぁて、どう料理いてやろうか?」
「黙れ、魚くせぇんだよ手前の息は」

ーーーー同時刻、ハイフォードのラーナ寺院ーーーー
静かに、でも騒がしく、聖堂まで届く騒がしさは街の喧騒、それも仕方の無い事、ここ数日の世界の情勢は辺境の地でも大騒ぎになってるだろう。
キリアは静かに目を閉じ、祈る。
「キリア様、ここにいらっしゃいましたか」
ゆっくりと閉じた目を開け、最近はよく来る元修道女に向いた。
「アリス・・・今日もいらっしゃったのですね」
「ええ、いいお茶が手に入りましたので」
二人でテラスで、日差しを受け、遠くを見つめる。青いけど、寒いそんな空気だった。
「そう、ですか・・・・アクアに兄が」
「はい、報告書の通りです」
アリスの持ってきた報告書、蜥蜴の尻尾の四人組による作成の物だが、ここ最近の事からかなり昔の事までかなり詳しく調べ上げられた物を
一通り読み終え、キリアは一息ついた。
「また、昔にアクアが戻らなければ宜しいのですがね」
「昔とは?」
「アクアはラーナ様にお使えする前は結構荒れてまして、今でこそ丁寧な言葉ですが、始めは酷かったんですよ」
「ああ、スリダブ寺院で育ったって言ってましたからね」
二人は紅茶をすすると遠くの空を見つめた。

ーーーー港町 ロイトンーーーー
その男は昼過ぎに現れた。まだ騒ぎが収まらぬロイトンの街、その破壊の限りを尽くされた道を歩く。
その風貌に周囲の人々は騒ぎ始めていた。
腹部から流れる血、明らかな致命傷を表すその傷を構う事無くひたすらに海岸へ向けて歩いて行く男。
その男を見たロイトンの人間はほぼ先のロイトンの惨劇の被害者だと思っただろう。
実際、日を追う事にその狂気の惨劇の爪痕は深くなる。
だが、その男は違った、彼は様々な思いを抱えて、自分のやるべき事をしに向かってる。
男の名前はホッド

ーーーートゥーラ遺跡外部ーーーー
「ぎゃははは!!よぇえええ!!」
憤怒は笑い、暴れ、そして、
「誰か俺を楽しませやがれ!!」
勝手に怒る。まさに、暴風、悪くいえば危険な駄々っ子だ。
その暴虐の風は今、嵐にならんとしていた。
「この下等生物がぁ!!」
傲慢は怒り、制裁を加えんとする。
その基本的な考えは独裁者の如し、悪く言えば悪意その物がナルシストと化した化け物
「お前はぁ・・・・お前さえいなければぁ!!」
嫉妬は怒り、そして、執拗に怨む、その性はまさに・・・・・・人の醜悪さを集めた物
三体の人よりも人らしい化け物の宴はまだ続く

134 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/09/30(日) 01:09:26 0
「その程度か……少しは楽しませてくれると思ったが」
あっけなく倒れて動かなくなった黒騎士を見下ろし、リッツの姿をした魔物は吐き捨てた。
「何が楽しいのよ!?」
心臓の位置に突き刺さる魔剣を気にも留めず、目の前のジンレインと
怒りに捕われてセリガと激戦を繰り広げているアクアを一瞥する。
「まあいい、お前らのおかげでもうすぐ片がつきそうだ」
特に何をするでもなくジンレインの攻撃をあしらい続ける。
業怒の《絶滅》は、存在概念の消滅。
待っているのだ。一瞬で全てを消し去るだけの力が集まるその時を。
「いいぞ……もっと怒れ! ぐあ!?」
不意に、顔面に上空からの空手チョップが炸裂した。
彼が知る限り、大罪の魔物にも効く空手チョップの使い手は一人しかいない。
【業怒】とジンレインの間に降りたったのは、他でもない、十剣者ホッドだった。
明らかな致命傷を負っているにも拘らず、その瞳には強い意志が宿っている。
「てめえ! くたばったんじゃなかったのかよ!」
「オレ様があれぐらいでやられるかよ!」
二人の戦いに入る余地もなく後ろで呆然と佇むジンレインに、ホッドは声をかけた。
「おいお前! 覚醒できるように呼んでやるんだ……!」
何の事かと思ったジンレインが辺りを見回すと、黒騎士は虫の息で倒れたまま。
アクアは相変わらず憎悪むき出しでセリガと殴り合っている。
ハインツェルの近くではラヴィとセイファートが血塗れで倒れ伏し
ハイアットは何事かを叫びながら滅茶苦茶に銃を乱射している。
「誰を呼ぶの?」
「アイツだよ、あと一息で覚醒する……! 声をかけてやれ!」
ホッドはパルスの方を指差した。もちろんアニマの危険性は認識していたが
この状況を打開するためには悠長な事を言っている場合ではない。
ジンレインは言われるままに、ぎこちなくパルスの方へ歩み寄り、耳元で囁いた。
「起きて」
反応は無い。ただアニマが不思議な輝きを放っている。
倒れているセイファートが目の端に映る。
何でこんな訳の分からない奴にお願いしないといけないのかという疑問は
ひとまず脇に置き、力の限り叫んだ。
「みんな死んでもいいの!? お願い早く!!」
次の瞬間、目も眩むほどの光と共に、凄まじい力が渦巻いた。

契約成立だ! 行こう、みんな……僕を呼ぶ声のもとへ!
意識が戻ってくると同時に、体が霊獣と溶け合っていく。
感覚は研ぎ澄まされ、周囲の状況が手に取るように分かる。
みんなボロボロになって倒れて、憎しみに捕われて……これじゃあ勝てない。
広範囲に渡る混戦でみんなを助けてあげられるものは……あれしかない!

僕は人の形をしていなかった。獣ですらもなかった。
深緑の葉、それと対比するような真紅の花。
無数の蔦を持つ巨大な薔薇、アニマ=エブロサル。それが僕の姿だった。
倒れている仲間達を蔦で抱え込んで生命力を注ぎ込む。
「パルちゃん……?」
同時に、棘着きの蔦で大罪の魔物達を拘束する。
「くそっ! 早く奪っておけばよかった!」
嫉妬の魔物は心底悔しそうな顔をして縛り上げられている。
『ハイアット君、チャンスだよ!』
「そうか、パルス……なんだな……!」
ハイアット君が落ち着きを取り戻し、寸分違わぬ角度で狙いを定める。

135 名前:銃士ヒロキ ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/10/02(火) 20:30:09 0
同行の「オーブ」研究員がライキュームの機関部へ降りると、
ヒロキは彼らとは別れて都市周縁部からドラッヘへの接触を試みる。
スキャナー「ナンバーエイト」との同調はぶっつけ本番、
洗脳装置の扱いもロシェの説明はぞんざいでよく分からない。
ドラッヘを破壊後ライキュームに帰還せずとも、単身で着陸可能な性能とやらも怪しい話だ。
殺人稼業を始めて何度目とも知れない、死の覚悟を腹に込める。

何より下品な紫の塗装が気に入らない、オーブ11級観測室作製の強化外骨格を走らせる。
照明の落ちた屋内は馬鹿に広い通路が開けていて、ただ外へ歩けば出口が見つかりそうだった。
ロシェの言う所では、スキャナーがヒロキの思念を「透明化」してくれているそうで、
ドラッヘの知覚には彼の位置・移動を認識出来ない状態にあるようだ。
統一連邦の資料による生体兵器の可能性の次第であるが、
ドラッヘと搭乗者との物理的融合が著しい場合は、計器もスキャナーの偽装に影響を受ける。
しかしどちらも観測室の予想に過ぎないので、反撃の有無はヒロキが身を以て知るより他に由もない。
端まで辿り着いて、自律防御の死んだ可動扉を手甲の剣を使って抉じ開け、
他数枚の扉と壁を突破して屋外へ出る。ライキューム下部の外壁に取り付けられた非常通路と階段だった。
「風が強いな」
スキャナーが膜状の「絶滅」で外骨格を包む。風は東に向かって流れているらしい。
ドラッヘは探さずともヒロキの眼前にあった。黒々とした天地の狭間に、怪物の噴射口がただ眩い。
牽引しているライキュームと比べれば小虫みたいなものでも、人間ひとりが相手するには過ぎた体躯だ。
ヒロキは怯む事なくアンカーに降り、その上を伝ってドラッヘに接近する。
「おっと」
怪物と並列飛行する、十数機の迎撃兵器に気が付いた。
今までは噴射口や翼の影に隠れていて、ライキュームからでは視認出来なかった。
宿主よりスキャナーがいち早く反応して、外骨格をドラッヘ後尾の翼へ跳躍させる。
ヒロキも素早く剣を伸ばし装甲に食い込ませた。

「ベルセルク」はヒロキが母機に取り付こうと構わず体当たりを仕掛けるが、
ヒロキの周囲に展開された「絶滅」に呑まれると、
どれも針路をあさっての方向に逸らしてライキュームへ激突していく。
尚も殺到する剣の数は、とうにドラッヘ本来の搭載量を越えていた。光の壁がヒロキを襲う。
スキャナーに守られたヒロキは、首から鉄鎖で吊っていたメダルを手に取った。
何の意匠も刻まれていない滑らかな金属板の表面に、ヒロキではない誰かの顔が映る。
像はぼやけて人相も余りはっきりしないが、細面に尖った耳、恐らくエルフの男だ。
ヒロキのように鎧を着て、大きな鳥の羽根のペンダントが見える。
ヒロキは恐怖した。メダルの中の男と視線が重なる。

136 名前:ヒロキ/トレス ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/10/02(火) 20:31:55 0
「志願?」
頷くと、哺乳瓶の乳首を齧りながらベルファー・ギャンベルがヒロキを一瞥した。
「いい事ないよぉ、これ乗ったら手柄より先に死んじゃう」
構わない、と答えた。
ベルファーは、地下格納庫に鎮座する巨龍の威容を誇らしげに眺めた後、
「普通の戦争に使うんなら、こんなのお遊びもいいところだ。
こいつと比べりゃ、今までのゴレムなんて案山子同然だよ。僕様の最高傑作のひとつ……」
屈み込んで、ドラッヘの腹に据え付けられた砲を見る。
ヒロキもベルファーにならって屈んでみたところ、
ドラッヘの主砲は軍人として彼の扱ってきた、どんな武装よりも大仰で見栄えがした。

「そんな自慢のひとつもしてやりたいが、こいつはどうにもね、好きになれそうにない」
公国貴族の「万学長」が肩をすくめる。
「グレナデアなんかより、こいつのがよっぽど化け物じゃないかねえ」
ドラッヘを前にしたヒロキに特別な感慨はない。
今まで乗りこなしたゴレムと同じ殺しの道具に違いはないが、
むしろ公国軍新気鋭の怪物は未だ血を知らず、
その時はまだ単なる鉄の塊としか彼の眼には映らない。
覚悟はあります、とヒロキは言った。
ドラッヘは一代きりの実験機、いずれお鉢は外様の自分に回ってくる。
自らの意思でここに居る事を自他に示す為にも、志願という形のほうが都合が良かったのだ。
ゴレムの操作には慣れている、とも言った。ベルファーはやっと口から哺乳瓶を離した。
「操縦の腕なんかどうでもいいのよ。それより……君、家族はいる?」
首を横に振る。
「恋人は? 親友は?」
やはり首を横に振る。バラマはリエッタの森で死んだ。ベルファーが乾いた笑顔を浮かべる。
「君にならお願い出来そうだね。ま、こいつと上手に心中したまえよ。トレス・カニンガム空軍大佐殿?」
聞き覚えのない名前で親しげに呼ばわるベルファーを彼は憎んだ。

137 名前:ヒロキ/トレス ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/10/02(火) 20:32:40 0
「起きるの?」
窓掛けを押しやろうとして寝台の揺れたせいか、窓際で寝ていたアストラエアが目を覚ましてしまった。
黙って部屋を出て行くつもりが、どうにもしくじった。トレスの汗ばんだ背中を女の手が撫でる。
寝起きで重い瞼がまともに窓の光を眺められるようになるまで、
トレスは裸の下半身を適当に毛布の半分で隠すと、ただ寝台の上に座ってじっとしていた。
毛布の残り半分を巻き込んで寝転がる女は、口もきかずに彼の言葉を待っているらしかった。
丘向こうの空に夜明け近くの薄日と足の早い雲があって、アストラエアの店で昨晩知り合った、
最近霊法師を廃業したとかいう辻占いの老人がお節介にも教えてくれた通り、今日は一日雨のようだった。
アストラエアがトレスの脇腹の傷痕に触れる。トレスがとうとう口を開く。
「俺、うなされてたか?」「多分」
何故だかトレスはほっとして、先に寝台を降りた。
もう季節は秋口で朝は流石に冷える、アストラエアも薄手の毛布を置くと
狭い寝室で二人していそいそと服を着けた。

何とはなしにアストラエアの、失った左眼を隠す包帯を後ろで結んでやる。
余所者の彼には女の眼の行方は知れないが、酒場の常連も皆示し合わせたように
彼女の包帯に話題を触れようとしなかった。トレスが訳を訊く日もあるだろうか。
軽い身支度を加えて厨房に出ていく彼女を見送ってから、トレスも出発の準備を始めた。
王都ナバルまでの旅路は決して長くはない、手早く済ませて店に出る。
「しばらく来れない」
巾着をカウンターにぶちまけてツケを払って、ついでに飲み残しのナム酒の瓶を失敬して、
女は振り返りこそしたが別段驚く様子もない。
腰のホルスターに納まった魔導銃を見て少し顔をしかめたくらいだ。
「ヒロキ」
自由蝶番の扉を押して出て行きかけたトレスを、アストラエアが知らない名前で引き止めた。
「いってらっしゃい」


二人の男の意識はドラッヘの機上へと戻る。
アンカーは貪欲の「絶滅」に引き裂かれ、ドラッヘの拘引から解かれたライキュームが上昇を開始した。
危険域を脱した時点で、「オーブ」はライキュームの磁力兵器を発動する。
「大馬鹿野郎だな。どうこじつけたって裏切り者の所業にゃ変りないんだぜ」
「その通りだ。今更赦しを請いはしないよ」

138 名前:鳥を見た ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/10/02(火) 20:36:08 0
剥き出しになったドラッヘのコックピットで、ヒロキは空軍大佐トレス・カニンガムを見下ろしていた。
操縦席と融け合った男は首だけが辛うじて自由に動かせる状態で、
ベルファーの予告通りに、最早ドラッヘと運命を共にするより他ない。
「あんたはな、自分がいつか信じてた筈のものをみんな投げちまったんだ。
あんたは痛みに負けた、逃げでしかない……戦争を止めるなんざ詭弁じゃねえのか」
「だが、貴様も信じてはおるまいに」
「戦争だの平和だの、その手の御高説は連中そっくりだよ! 全く世話がねえ。
奴らの屁みたいな理屈で言い包められた臆病者が、手前の家や畑や村を焼いて回ってるんだからな。
他でもねえ、今そこにある、手前の持ち物が手前の戦う理由と違うのかよ!」

ドラッヘ本体は「ベルセルク」を失った以外に目立った損傷を受けていない。
しかしヒロキは彼らを飛ぶに任せるつもりなど毛頭なく、機体、主砲を破壊する任務は継続中だ。
「とうに失ったものの為に戦い続けて、誰が救われる?
『彼ら』が貴様に見せた希望はそんなものか? 痛みや憎しみに囚われているのは貴様の心だ」
「痛みも憎しみも俺のものだ。あんたみたいに、他人のそれに溺れたりはしないよ」
「ドラッヘは私の戦争だ」
「あんたが焼こうとしてる街の人間は、あんたが生まれた街の人間と同じ顔をしてないか?」
「貴様が道連れにしようとしている世界は誰の住む世界だ?」
「ただで負けるつもりはねえよ」
「狂ってる」
「あんたのは目的のない、無意味な殺しだ」
「過去にすがって未来の可能性を殺すのか?」
「誰も正しいとは思えない」
「仲間はどうした?」
「死人の価値は数で決まるのか」
「分からない」
「俺はあいつらが好きだよ、でも俺とは作りが違うんだ」
「答えは近いのか」「あれが俺たちの答えじゃないのかね」
ヒロキは操縦席から這い出して、黒い地平を指差した。スキャナーが巨龍の背に「絶滅」を敷く。
ヒロキのメダルの鏡像は、二人の知らない老若男女様々の顔を、目まぐるしく映しては消していく。
「地上に残った連中の『想い』とやらだ。俺にはまだ意地がある、残らせてもらうよ」
「私や戦友の『想い』は貴様の魂に刻まれた。決して望んでの事ではないがね」

「あんたがナバルの100万人に勝てるとは思はない。だが、あんたが呑まれちまうのは俺も面白くない」
翼、砲、装甲板、機体から進行の概念を奪われた個々の部分が分離していく。
更にはヒロキが「想い」の力を介してトレスと共有した記憶のうち、
彼がドラッヘに接触する直前のトレスの体感覚から搭載武器の位置を探り当て、選択的に脱落させる。
火を噴く機体は摩擦熱で激しく輝く切片となって空に散り、終いにコックピットと一対の翼が残った。
「上手に飛べよ」
トレスの首にメダルをかけると、ヒロキもドラッヘを離れる。
自由落下を始めるヒロキが最後に見たドラッヘは、星空を背景に美しく飛ぶ鳥の姿をしていた。

139 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/10/04(木) 00:27:51 0
大罪の宴の元へ急ぎ飛ぶザルカシュとリリスラ。
中心部へ近づくに連れて、殺風景な岩ばかりが転がる灼熱の世界になっていく。
不意に、大罪の魔物とは別種の何かを感じた。
精霊を感じる事の出来ない二人でも、直感で分かる。
それは世界を形作る要素、事象の持つ意思そのもの。
そして、本来草木は生えないはずの大地に植物が生えてきた。
「何だ!?」
「霊獣化したんやな」
ザルカシュは答えながらも、何かが腑に落ちない様子で辺りを見回す。
彼の知識では、アニマは辺りから、使う属性を吸収するはずなのに
逆に、満ち溢れた力の余波が実体化されているのだ。
その疑問に答えたのは、ザルカシュの頭の上に乗っているグラールだった。
『これは無から存在への変換だ。
通常のアニマは媒介になる事象が無ければ発動できない』
龍人戦争の終結と同時に、アニマは全て封印されたはずだった。
しかしたった一つだけ、思わぬ形で、最も強力な物が残っていたのだ。
『エクスマキーナと同質にして真逆。無へ帰す力と対を成す、無から作り出す力……』
それは、かつて世界を滅ぼしかけた元凶と同時に生成された副産物。
アニマは常に二つ一組で生成され、同時に作られた二つは対を成す。
ザルカシュの頭の上で揺られながら、グラールは事態の行く末を案じた。
同質にして真逆ほど、近しい物はないのだから。

140 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/10/04(木) 19:24:17 0
刃渡り十尺の呪い刀《不砕折》が、幾百ものギガントを断つ。
切れ味適当、威力大味、ただ決して損なわれないというだけの大太刀は、当世随一の武士の手によってこそ煌きを宿すのだ。
『ひとおおおおおおおおおおおっつ!!』
思考波通信に乗って、ワッニの雄叫びが頭に響く。
岩盤を貪る蛇型ゴレムの一体を仕留めたのだろうが、相変わらずに五月蝿い事だ。息をついて笑う。
『ふたああああああああああああああああっつ!!!』
ようやく興が乗ってきた所で、開け始めた戦場を見やる。
当然、ゴンゾウの隊に脱落者はいない。広がるのはギガントの残骸だけだ。
「……あん?」
眉を顰める。屑鉄の積み重なりが明らかに減っている。
それどころか、包囲していたギガントの数も……。
「まだ、何かしやがんのか?」
アリのような列を作って、お仲間の残骸を運んで行く鉄巨人の群れを眺め、ゴンゾウは煩わしげに肩を回した。
行く先は、不気味に佇む《ニブルヘイム》。

「……カニンガム大佐」
返事はない。
ドラッヘの反応が消えた事は、こちらが誰よりも早く察知している。彼の作戦は失敗したのだ。
「人生を何かに例えるならば、私は花火だと思うわ」
しかし、ソフィーは語り続ける。
反りの合わない人物だったが、その覚悟と狂熱を買ってもいた。
「己の過程も、後に残す物の輝きも、すべて色褪せてしまう程の花火。最期に、それを上げられるかどうか」
信じているのである。……その点において。
「貴方の生き様に見合う花火を、お上げなさい」
ナバルへと降り注ぐ、龍の欠片。その中の一つ。

決shiて赦すNAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!

ハーフエルフの魂は、自らが撃ち出した犠牲者達と同じ物となって、六星結界を揺るがした。
「華やかですわ、大佐! お綺麗ですわ、大佐!! 私も負けずに、美しく散華と参りしょう♪」

「――んだあ!?」
何かが、ナバルの直上で眩い光を放出して弾けた。
『ガルム要塞を消し飛ばした光と同じものですね。人の想いを昇華した、思念弾頭とも言うべき兵器です』
六星結界の制御を任されていたレオルの思念が、ロイヤルナイツの間を巡る。
『強力ですが、ご心配には及びません。被害は一切――』
そこでニブルヘイムが、立て続けの砲火を轟かせた。
光と同時の砲撃とはいえ、一発や二発で揺らぐ障壁ではない。
しかし、限界を超えた連発は焼け崩れる主砲と引き換えに、ナバル外壁の一点を穿ったのだ。
穴を広げるため、残りのギガントが一斉に砲を向ける。
『申し訳ありません、団長。穴を空けられました。障壁の修繕が完了するまで、ギガントのお相手をお願いします』
「ハ――――ッ!! 結局、やるこた変わんねえってか!!」

『団長! 敵艦より巨大な動体反応を確認しました! クソでかいのが三つ来ます!!』
「お? おお〜?」
遠目から垣間見えたのは、地に潜る大蛇の塊のようなゴレムであった。

神話的強行奇襲型試作一号《ハイドラ》。
一体に付きギガント五百体分の材料を再利用したそれは、無限工房ドヴェルグが造り出せる、最強の駒であった。

141 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/10/04(木) 23:18:53 0
目の前には拘束されて身動きの取れないハインツェル。いや、大罪の魔物【嫉妬】。
それを行っているのは姿形は変わってもわかる。
理屈ではない、細胞が、本能が告げてくれる。
パルスなのだと。
その言葉通り、チャンス。
ほんの少しトリガーにかけた指に力を込めれば終わることができる。
なのに、手が震えてしまう。
こんなに近いのに、撃つべき相手は動きもできないのに!

その瞬間、時が止まった。
まるで走馬灯のようにハイアットの脳裏にはロイトン出発の朝の光景がよみがえる。

「お願い・・・ハインツェルを助けてあげて・・・。
彼を癒そうと私はジャジャラから行動をしたけど、もう私ではどうにもならなかったの。
大罪の魔物によってもう彼は彼ではなくなっているの。
だから・・・お願い・・・。彼に死の救済を・・・。」
精一杯の力で涙をこらえ、そして精一杯の力で言葉を搾り出すアーシェラの顔は・・・

ほんの一瞬。
しかし、ハイアットにとっては永遠の時間を経て意識はトゥーラへと戻る。
手の振るえは止まり、そっと優しくトリガーを引くと弾は発射される。
特殊コードの弾でもなんでもない、ただの銃弾。
しかし、その銃弾には悠久の時を生きたホムンクルスがここで初めて手に入れた本当の心が、本当の想いが込められていた。

本来視覚できぬスピードで飛ぶ弾丸をハイアットはまるでスローモーションのように見つめていた。
回転し、ゆっくりと飛ぶ弾丸が胸を貫き、その身に宿る大罪の魔物の種をハインツェルの心臓ごと貫き打ち砕くさまを!
余すことなく目に焼き付けたのだ。
「ハインツェルウウウウウ!!!」
背中から血煙をあげ、力なく魔剣を落とすハインツェルを前に、ハイアットの慟哭が響き渡る。



「やはり起こったか。」
トゥーラ中枢で多面的に展開されるモニターを見ながらにがにがし気に呟くのはレシオンだった。
モニターの一つには心臓を撃ち抜かれたハインツェルが映っている。

大罪の魔物とは、新たなる世界樹になるべき存在。
種の状態とはいえ、それを抑えられるのは十剣者のみ。
本来セフィラに住む原住民とは力のレベルが違うのだ。
いな、レベルなどという基準で測れるほどのものではない。
にも拘らず対抗せしめて見せ、あまつさえ倒してしまう事態が起きる。
これが偶然や幸運などではありえない。
そこには【世界中の意思】が介入されるのだ。
力あるものが集い、対抗し、そして対抗しえるだけの状況と力を与える。
それを人は【運命】と言うのだろうか?
まだ世界中の寿命は尽きてはおらぬため、その【運命】の力も強い。
そう、創世の果実を喰らった祖龍が封印せしめられるほどに。

「くくくく、いいだろう。運命に導かれ集い、力を得て戦うがいい。
操られていることも自覚できず、想いを高め戦うがいい。
大罪の魔物たちよ、運命に抗い、創世の果実を求め猛るがいい!
だが・・・最後に運命に打ち勝つのはこの私だ!」
トゥーラ中枢にレシオンの高らかな笑いが響き渡る。

そんなレシオンの姿を唯黙して見ているのはアビサル。
相変わらず縦目仮面を着けている為、その表情を伺いすることはできない。
先ほどレシオンと問答をした後は何も語らず、それどころか気配すらも薄くなってきている。
そのアビサルが立ち上がり、そっと入り口を指し示す。
その先には、半人半馬の若武者アオギリが現れたところだった。

142 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/10/04(木) 23:19:31 0
 【ライキューム機関部】
最初の異変に気づいたのはオーブの研究主任にしてロイヤルナイツに名を連ねるカラシニコフだった。
ヒロキがドラッへに取り付いたころ、研究員達は忙しくライキューム操作のために機関部の確認を急いでいた。
計器の一つに手を伸ばしたとき、強烈な違和感を覚える。
まるで泥沼に手を入れてしまったかのような感覚。
続けてくるのは強烈な悪寒。
「何かがいる!」
とっさに手を引っ込め、構えた瞬間、カラシニコフの意識は深淵へと落ちていった。
次の瞬間にはカラシニコフは既に別の存在へとなっていたのだ。
生気は失われ、目は虚ろ。
だがそのような状態になったのはカラシニコフだけではなかった。
数名の研究員が同じような状態になり、機関部は凄惨な殺戮の場へと変貌した。

そこにいたのはメロメーロでの戦いの残滓。
星界に住まう生物。
エネルギー生命体。
そして、作られしモノ・・・【蠢くもの】だった・・・。

143 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/10/05(金) 23:35:30 0
突如出現した巨大な植物の蔓によって拘束されたセリガ。
今のアクアは、それが何なのかは考えなかった。
彼女の目に映っているのは、かつての兄……目の前の憎き敵だけ。
「いいザマだ!!」
ここぞとばかり拳を叩き込む。
一方的な攻撃が暫し続いた後。
セリガが、絶え間ない連撃を受けながら歓喜の笑みを浮かべた。
自力で逃れるなど不可能と思われる拘束から難なく抜け出す。
同時に、アクアの拳が空を切った。
もう一度繰り出してみるが、当たらない。
「このお! 避けるんじゃねえ!」
何度試してみても同じ。アクアの攻撃は掠りもしなかった。
「まだ気付かないのか? 邪魔者が消えて発芽の順番が回ってきたんだよ!」
せせら笑うセリガが示す先には、ハインツェルを抱きかかえるパルスとハイアットがいた。

それは、一瞬の出来事だった。交錯する様々な想い……ハイアット君の迷いと決意。
我ながら酷いことだった。たった一人の兄弟を殺せって言ったのだから。
でも、ハインツェル君自身もそれを望んでいたと思う。
大罪の種が砕け散る瞬間、ハインツェル君が紡いだ声にならない言葉。
触れていた一部分から伝わってきた。彼は、確かに、ありがとうって言ったんだ。
それを感じた瞬間、僕は霊獣化を解いてしまった。
他に敵がいるのだから、本当なら解いてはいけないのに。
一瞬にして元の姿に戻った僕は、倒れるハインツェル君を抱きとめる。
そして、自分でも信じられないような事を言っていた。
「嫌だ……! ルールーツ、助けてあげて!!」
駆け寄ってきたハイアット君が叫ぶ。
「しっかりしろ! ハインツェル!!」
本当は分かっていた、大罪の魔物に寄生されたら助かる術はないって。
でも、ルールーツは、魔物から解放されてハインツェル君自身として話せる
ほんの少しの時間をくれた。彼は、僕たちを見て、微笑んだ。
「本当にバカだな、キミ達は」
そして、ハイアット君の方を見て言う。
「ハイアット、お願いがあるんだ……僕の剣を使ってくれ!」
その言葉に込められた意味の大きさは計り知れない。
幾星霜の時を経た想いが刻まれた物は、単なる物ではないのだから。
「分かった……安心しろ!」
ハイアット君の力強い答えを聞いたハインツェル君は
全てから開放されたような顔で眠るように目を閉じた。
「また生まれ変われるよ、君は心を手にいれたんだから……」
たった今長い生を終えたホムンクルスの体を
いつの間にか植物が生えていた地面にそっと横たえる。
そして、彼と同じように哀れな、立ち向かうべき相手を見据えた。

144 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/10/06(土) 20:13:41 0
「発芽だかハッカだか知らないけど、そんなの関係ねぇ!!」
拳一閃、傲慢の顔面に向けて右ストレートを放ちました。それは確かに顔面を捉えた筈だったのですが、
「効かないなぁ・・・・効かないんだよ!!」
確かに拳があたったはずなのにまるで空気を殴ったかの様な感触を感じたのです。
「うふふふふ・・・不思議な顔をしてるな?教えてやろうか?」
凶悪な顔で笑いながら傲慢の魔物はその場にあったシーマンゾンビの骸を持ち上げたので御座います。刹那、その骸は原型を留める事を止めたので御座います。
「接触の概念を消してやったのさ、まぁ他の奴らと違って特殊な制限が多くて使いづらいんだけどなぁ・・・・・」
そう言って傲慢は地面に手をつけたのです。
「こんな使い方も出来る!!」
瞬間、地面が音をたて崩れ去って岩も砂と化し、空に舞い上がっていったのです。再び傲慢が地面から手を放すとその現象は収まりました。
「まぁ、俺のこの手が触れなければ発動しないんだがねぇ」
傲慢の立つ周囲には一旦他の土との接触を消失された砂が舞ってました。
「ふん、面白い手品じゃないですか・・・じゃあお礼に私も一つ手品をお見せしましょう」
内心は正直驚いてましたが、そのお陰で冷静に戻る事が出来ました。私は右腕を振り回し始めました。
・・・スリダブ流は基本的に格闘技で御座います。打つ、極める、投げる、これが基本なのですが実は武器の使用も認められています。
とは言っても勿論刃物はご法度、ではどんな武器かと言いますと、
「椅子でもッ喰らえ この野郎!!」
訂正、冷静ではありませんでした。
とにかくスリダブでは椅子や机などは使用を認められた武器なので御座います。突如現れた椅子の正体、それは先程、巻き上げられた砂を、
体に取り入れて硬度を増した変形させた体の一部でございます。
ロイトンでの一件以来、考えていたのはスライムの体を最大限に利用したスリダブ流の施行、その第一段階が全体では無く一部分の武器化で御座いました。
椅子の一撃を最小限の動きで避け、傲慢はまだ余裕の表情で笑っておりました。
「さぁ、最後の戦いを始めましょう・・・・」

145 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/10/10(水) 04:38:37 0
ギガント共の相手は隊員達に任せ、ゴンゾウは正面より迫る《ハイドラ》の一体を目指して駆け抜けた。
地に潜ったもう二体の土煙は、左右に分かれてナバルへと。それぞれ違う岩盤からアプローチする手筈なのだろう。
「おい! 蒼≠ニ白≠フ方へ行ったぞ! 誰か片付けて来い!」
『六つ七つ八つ九つ――っとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
『あ〜〜、ワッニがこのまま白¢、へ突っ込みそうであります』
『蒼≠ヘ任されよう』
そうこう言っている間に、大スケールの顎は目前だ。
速度を緩めず、片手の上段で実にあっさりと真っ二つにしてのけるゴンゾウ。
直後に、起こった火花が引火した。
ハイドラ内部に充満する、可燃性の圧縮ガスによる爆発が連鎖し、盛大に地面を焦がして黒煙を昇らせる。
ちょっとした火炎地獄というやつ。
「熱いっ!」
そんな中を、まるで真夏の陽気を非難するかのような調子でのたまいながら、ゴンゾウは次から次へと大蛇の首を斬りたくった。
オリハルコン張りの胴丸具足は、派手に焦げ付き破損しているというのに……。
『あっつううううううううううううううううううううい!!!!!』
同じ目に会っているらしいワッニの、鍋でもこぼしたみたいな叫びが轟く。
彼らにしてみれば、所詮その程度の痛手なのであった。

「ちょっと〜〜? 貴方達、一体何で出来てますの〜?」
最強の自律型ゴレムが木偶の坊扱いだ。
何隊かを封じられれば御の字かと思っていたが、これでは三十分も持ちそうになかった。
そして、そろそろ討ち手が来る。
『生体反応を確認。艦橋より目視できます』「近っ」
どういう手段を用いたのか、ロイヤルナイツの一隊が甲板から艦橋を勇壮と見上げていた。
ニブルヘイムの無限工房ドヴェルグがある限り、ゴレムはいくらでも形を変えて再生産される。
尽きない尻尾を持つトカゲは、それこそ頭を潰すしかない。早いか遅いかといっただけの、当然の対処であった。
「ロイヤルナイツが第五席、プランセス・カイと申す者也!!」
「あら、勇ましい御方♪」
「名乗らずとも結構!」「ニブルヘイム、突撃形態に移行」
「首級、頂戴致し仕る物也!!」「艦橋は捨てて、前進よ」
白一色、袴姿の女性プランセス・カイが、双頭の薙刀を水平に構えて一閃する。
「みしるし――とはまた、的を射た表現ですこと」
足元を刃が抜ける感触もなく、ただズレていく床の感覚だけを味わわされるソフィー。
ニブルヘイムの艦橋は、まるで乾いた藁束か何かのように、切断面の僅かな傾きのままにズレ落ちていった。

「テメェで上がりだっ!!」
最後の首を三枚に下ろして、大爆発。
吹き飛ぶどころか小揺るぎもせず、その場に胡坐をかいて思考波通信に集中する。
『こちらカイ、敵艦の首を落とし申した』「そうか、入念に腸まで引きずり出してやれ」
『承知致した。――気を付けられよ』
鋭さを増したカイの声に促され、黒煙の向こうのニブルヘイムを眺めやる。
……舳先が縦に割れて、内部から何かがせり出してきていた。
そのまま、今の蛇塊などとは次元の違う圧力で前進してくる。恐らく最大船速だろう。
「何だあ? 衝角突撃か? やけっぱちの海賊みたいな真似しやがる」
変形を果たし、舳先から巨大な剣のように見える衝角を顕わにしたニブルヘイム。
「……確かに、焼けてやがるな」
プロミネンスじみた炎を上げている様子から察するに、純粋な熱エネルギーの刃なのだろう。陽炎が物凄い。
「防げるか?」『穴の付近に当たられると、厄介な事になりそうですね』「じゃ、止めてみる」

ニブルヘイム第一兵装《レーヴァテイン》。
封を解かれて迫り来る、この長大な炎の剣を前に、ゴンゾウは不砕折を担ぐ肩を怒らせた。

146 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2007/10/11(木) 16:16:46 0
nigero!!sinuzo!!

147 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/10/14(日) 23:15:30 0
「報告、ご苦労様でした」
アリスは蜥蜴の尻尾 団長のトムの報告を聞いて一つため息をついた。
ハイフォードの商人ギルド、今の所の仮住まい、そのうち新しい新居で甘い生活を・・・などとはまだ幼い彼女でも
世界がそんな場合じゃない、それを理解させていた。
思えば生まれてすぐ命を絶たれる運命だった自分を生かしてくれたのは彼女だ、その彼女が今、世界の命運を分ける闘いの中にいる。
彼女だけじゃない、その周りの人達、複雑に絡み合った運命に翻弄され、抗い、集った人々、
アリスは思う、もう自分に出来る事は・・・・・・・
その日、どんよりと曇ったハイフォードの町並みに少女の歌声が響いた。

どうもやはり、と言うか武器を使っての攻撃はやりにくいモノで御座います。
元来は正統派のスリダブ流を使った闘いしかしておりませんでしたし、武器を使った闘い方も書物で呼んだ程度、
程なく体を元に戻したので御座いました。
「なんだ、もうおしまいかぁ?」
にたにたと傲慢が笑いかけてまいります。
「じゃあ、今度は俺が手品を見せてやろうかぁ!!」
そう言うと傲慢は両手を前に突き出したの御座います、ですがそれ以外には何も致しませんでした。
・・・・・・・目に見える限りでは・・・・・・・
急に息苦しく感じたのは始め、気のせいかと思ったのですがよく辺りを見回すと皆様も同じご様子でした。
あの憤怒と名乗った青年まで青ざめた顔をしてる片膝をついているでは御座いませんか。
「空気中の酸素と二酸化炭素を分離、純粋酸素の濃度をかなり上げてるぜ 悪いな憤怒、爆発のお株ちょっと借りるぞ」
その瞬間辺り一面を覆う大爆発が起きたのでした。
その時私の耳に聞こえてきたのは傲慢の笑い声と
「・・・・・う・・・た・・?」

148 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/10/15(月) 00:14:14 0
「もう一度……だ……!」
異常な空気の中でユニゾンを試みる一瞬の間。
息が苦しいつながりだろうか、僕は出発前夜の出来事を思い出していた。

水浴びをしていたら、誰かが来る気配がしたんだ。
またアクアさんの変な作戦で相棒でも送り込まれてきたのかと思ったけど違った。
現れたのは長身に真紅の髪の少女。
腕を修復するまで安静にしておくように言われてるはずのソーニャさんだった。
どことなく、切なそうな、普段の彼女が絶対しないような顔をしているように見えた。
だから見てはいけなかったような気がして、そうっと水の中に潜って隠れてしまったんだ。
水中で息をひそめていると、彼女が水辺に座る気配がした。
「アビサルまでいなくなってしまったよ……」
彼女は、まるで誰かに語りかけているようだった。
「アンタならこんな時どうする? リッツ……」
忘れるはずもない。たった一回だけど、一緒に戦った仲間の名前。
しかし、その時は本気で息が苦しくて同一人物だろうかとか
考えている場合ではなかったのである。
「がはげほぐは!!」
派手に咳き込みながら水面から出現してしまった。
その時のソーニャさんの唖然とした顔といったらない。
「アンタ……そんな所に!?」
「あのそのこれには深い訳が!」
怒られると思ったが、ソーニャさんはおかしくてたまらないと言う風に笑っていた。
「アハハハハ!! なんで触角つけてるんだい」
すっかりいつもの顔に戻っていた。でも僕は気付いてしまった。
その頬には、一粒の涙が光っていたんだ……。

巻き起こる大爆発に、回想は断ち切られ、現実に引き戻される。
あの涙の意味は、きっと……。

149 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:54:08 0
出血により朦朧とした頭でホッドは疑問に思っていた。
なぜ【嫉妬】は死んだのか?
嫉妬の絶滅は接触型。効果は運動概念の消滅。
つまり銃弾が胸に当たった瞬間、その運動概念を消し去ることだってできたはずだ。
にも拘らず銃弾は心臓と融合した大罪の魔物の核を砕き貫いた。
十剣者の剣により絶滅を封じてようやく殺す事ができるであろう大罪の魔物。
それがなぜこうもあっけなく・・・

ハイアットに剣を託すハインツェル。
これもありえない事だった。
一度憑依されてしまえば分離は不可能。
種の状態ならばまだしも、発芽した状態ならば宿主の意識など完全に消失しているであろうに。

しかしそこに疑問の答えがあるかもしれない・・・
だが、ホッドがその答えにたどり着くことは無かった。
新たに発芽した【傲慢】によって高められた酸素濃度はその意識を奪うのに十分な影響を発揮したのだから。


「な、何故だ!」
幾重の意味を込めた驚きの声を上げたのはゴートだった。
【嫉妬】が死んだ事に驚いたのではない。
死ななければ自分が殺すつもりだったのだ。
誰が殺そうが大したことではない。
それよりも次に発芽したのが【傲慢】だった事だ。
何故自分ではない!?
それは怒りに直結し、己の力を高める。
だがその高まりが思っていたほどではなかったのだ。
この戦いの渦中にあって、自分の糧となるものには事欠かないはずだ。
戦いが激しくなれば激しくなるほど・・・!
しかし、嫉妬を殺すほどの戦いが繰り広げられたにも拘らず力が流れ込んでこない!

ゴートの疑問は二つともゴート自身では理解し得ないものだった。
リッツの身体を乗っ取ったとはいえ、本来憑依に失敗した状態なのだ。
そう、失敗しているのだ。
たとえ他の大罪の魔物が全て殺されようとも、今のゴートには発芽の機会は巡ってこない。
しかしそれはゴートが知りうる事ではないのだ。
そしてもう一つの疑問。
これは知りうる事も、知ったとしても理解する事もできないだろう。
パルスとハイアットの戦いに介在したものは怒りではなく、哀しみだったのだ、と。

疑念は揺らぎに繋がり、揺らぎは弱さに繋がる。
今のゴートには嘗ての力を発揮する事はできなくなっていた。
そう、傲慢の作り出した高濃度酸素の影響を受けるほどに。


・・・そして一帯は爆炎に包まれた。

150 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:54:42 0
『ああ・・・お水。それにお日様って美味しい・・・新鮮な空気がどんどんできるよ〜。』
高濃度の酸素は爆発を昇華させ、地獄の炎を渦巻かせる。
その中にあってエブロサルと化したパルスは恍惚な表情を浮かべていた。
植物化した影響か、光合成の味が新鮮な感覚として精神を刺激しているのだ。
いや、それは問題ではなく、問題はエブロサルを包む水の膜。
膜の薄さを持ちながら高圧・高回転を以って地獄の炎を完全に退けている。

「な、何とか間に合ったようやな。」
青く光る左手を掲げながら上空から睥睨するは八翼将が一人、大司祭ザルカシュ。
その超絶なる魔力を持ってパルスたちを炎から守ったのだった。
「へえ、大概の事はできるとは思ってたけどね。
こんな急ごしらえでこれほどの水の術を使えるなんてヒムルカとタメを張る勢いだねえ。」
「え、あ・・・まあ伊達に大司教はやっておらへんし・・・」
ザルカシュの更に上空には同じく八翼将が一人、空魔戦姫リリスラ。
未だ燃え盛る灼熱の大地に点在する水の幕に驚きの声をあげるが、それに対するザルカシュの反応はどことなくぎこちなく、沈んだものだった。
いつもならばその手の変化には敏いリリスラだが、今はそれを遥かに凌駕する者が真下にいる。
そのプレッシャーの為、気づくことは無かった。

それは傲慢。
嫉妬が死に、この場にいる大罪の魔物は自分を含め三人。
その中で自分が発芽した。
そう、選ばれたのだ。
その想いが傲慢の力を更に増している。

151 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 23:00:55 0
傲慢の魔物は龍人戦争後のバブル経済のように急に強くなってしまった。
もう一度拘束しようとするが、何度やっても紙一重のところですり抜ける。
それにしても黒騎士さんやジンさんの姿が見えないがどこにいったんだろう。
「パルちゃんパルちゃん、絡まってるんだよぅ!」
その声が聞こえてきたのは、すぐ近く。僕の蔓の中で身動きが取れなくなっていた。
霊獣化の時に巻き込まれたらしい。同じく絡まっていた黒騎士さんが呟く。
「リッツに何があったんだ……」
「大罪の魔物に取り付かれたんだ……おそらく【業怒】」
「でもどことなくヘタレてるんだよぅ。なんでかな?」
「さっきまでは猛烈に強かったわよ」
何やら絡まっている人達が会議を始めた。
すると、リッツさんの姿をした魔物がこっちを睨み付ける。
「……お前ら……ふざけてるのか!?」
褐色の肌に雪のように真っ白な髪。
あまりにも雰囲気が違うから信じられなかったけど、確かにリッツさんだ。
「ダメだよぅ、怒らせたら強くなるよぅ!」
「もう酸素は十分よ、いい加減放しなさい!」
「変身だ! 今度はモシャモシャしてないのに変身するんだ!」
大罪の魔物に取り付かれた人を解放するには、殺すしかない。
僕は覚悟を決めて属性を切り替え、姿を移し変えていく。

とった姿は、白に限りなく近い薄紅色の光纏う一角獣。
あらゆる精神の支配者、アンヴェセス。
この属性を選んだのは、負の感情を制御し、魔物へのエネルギーの供給を絶つためだ。
「さっきから訳の分からない術使いやがって……潰す!!」
精神の化身である今の姿なら分かる。
リッツさんの全身から発せられている感情は怒りではなく戸惑い。
そして、何より驚いたのは、リッツさんの体に二つの意識が重なって見えたこと。
一つはいうまでも無く、全ての存在を否定する【業怒】の魔物だ。
もう一つは……
『リッツさん……そこにいるの?』
表には出ていない意識にむかって、問いかけた。
「その名を言うな!!」
どんなに怒って見せたって、今の僕には筒抜けだ。明らかに動揺している。
それはきっと、リッツさんの意識をのっとりきれていないから。
『いるんだね……!』
「気味が悪いんだ!! 貴様はなぜ怒りも無く戦える!?」
魔物の拳撃を額の角で受け止め、答えた。
『リッツさん……君を待ってる人がいるから!』

152 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/10/19(金) 23:45:54 0
街道を馬車が行く、その足取りは速い
「おらおら、急げ、急げ」
その馬車の荷台には三人の男と一人の女性、
「・・・・・ちょっと前までは考えた事なかったな・・・」
「今でも夢だと思ってるよ」
「世界の崩壊か・・・・・」
馬車は走る、そのピンクの色と荷台の幌に描かれた三頭身に描かれたラーナ様の絵をはためかせて
「・・・・でもこの馬車は二度と勘弁な・・・・」
馬車内にいた一同は馬の手綱を握っていたリーダーの言葉に頷いた。彼らは今とある場所へと向かっていた。

水の膜に守られ、なんとか最大級のダメージは逃れられたモノのその余波は凄まじいモノでございました。
「はぁ・・・・はぁ・・・」
なんとかその場に片膝をつかず立っているのが自分でも不思議なくらいでございました。
「はぁ・・・さっきの歌は・・・」
爆発の中、聞こえたような歌、いいえ聞こえた歌、あれは思い出深いラーナ寺院で皆で歌ったあの歌。
その時、私は心が落ち着いているのに気がつきました。
後に考えればそれは精神の精霊の性だったのかも知れません。
怒りを忘れ、目を閉じ、心の中でラーナの教えを反芻し、やっと私は平静を取り戻したので御座います。
目の前には憎き仇、でもそんな時こそ愛を忘れる無かれ、そんな内容の歌。
そして、更に一息、今度は大きく息を吸い込み、止めました。
「何をしてるんだ?諦めでもしたのか?」
傲慢の魔物は勝利を確信したのか、にやにやと笑いながらこちらを見つめていました。
その時、私は傲慢の魔物を指差して叫んだので御座います。
「元気ですかーーーーーーー!!」
「「えぇえーーーー!?」」
その場にいた殆どの人がその行動に疑問もしくは驚いた事でしょう
「愛があれば何でもできる!!」
そう言いながら悠然と私は傲慢に向かって近づいていきました。
「馬鹿な兄貴の更生も出来る!!」
流石にいきなりな展開に傲慢の魔物もしばし呆然としてました。
「それでは皆さん!!ご唱和下さい!!3・2・1・・・・・・」
その時点で傲慢の魔物は初めて我に返ったので御座います。
「攻撃は効かないとあれほど」
「ダァーーーーーー」
「ぐわかあ!!?」
一撃入魂、スリダブの技の基本中の基本、ラブビンタが傲慢の魔物を吹き飛ばしたので御座います。
「な、なんだと!?何故だ!?」
傲慢が狼狽したのも無理は御座いません、基本的に物理攻撃や火炎などによる物理攻撃以外の攻撃も受け付ける事が無いはずなのですから
「先程、申し上げた通りです」
「何だと?」
「愛があれば何でも出来る!!」
「ふざけるなぁ!!」
無論、本当は種が御座います。先程までの闘いを振り返って、傲慢の能力の性で普通の攻撃ではダメージを与えられないのはわかっておりました。
では物理攻撃とそれ以外の攻撃方法を組み合わせたらどうかと・・・・・同時に別種類の攻撃が襲ってきたら、どうなるか、
いちかばちかの賭けではありました。そう、本当にいちかばちかの賭けでございました。
「終わりだぁ!!お前絶対に終わらせてやる!!」
目の前には怒りと狂気に目を血ばらせる傲慢の魔物がいたのでございます。

153 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/10/20(土) 23:39:44 0
怒りのエネルギーの供給が絶たれ、業怒の魔物が驚きの声をあげる。
「何をやった!?」
『愛の波動だッ!』
技名は適当だが、全くの嘘ではない。
周囲は一種異様な空気に包まれ、謎の掛け声やら熱い声援が乱れ飛んでいる。
「パルちゃんがんばれーーー!」
「これはどういうことなの?」
「アンヴェセスは精神のアニマ、感情を制御したんだ……!」
いつの間にか背景に解説者がついているようだ。
「その訳のわからない口を聞けなくしてやる!!」
力任せの拳撃を避け、後ろに回りこむ。
『魔物め! リッツさんを離せ!』
額の角で狙うのは、リッツさんに取り付いた大罪の種、ただ一つ。
完全に融合していない今なら、種を破壊してからすぐに蘇生すればきっと助かる。
このまま真っ直ぐに一突きすれば終わると思ったその時だった。
見たものは、今までとは比べ物にならない程速い動き。
次の瞬間、僕は片手で持ち上げられていた。
人間の何倍にも巨大化しているにも関わらず、である。
「絶滅が無くたってなあ! お前なんか簡単に捻り潰せる!!」
『え?』
気付くと宙を飛んでいた。
「投げられたああああああああああ!?」
「あれは修羅双樹八世御門……!?」
「獣人だけが使えるはずなのになぜ!?」
重要なことを忘れていた。アンヴェセスははっきり言って接近戦には向かないのだ。

「何これ、怖えーーーー!!」
激しい戦いが繰り広げられている上空では、リリスラが異様な空気に戸惑っていた。
グラールが前足でリリスラの肩を叩く。
『ところでさっきの矢にこんなものが付いていたんだが……』
差し出したものは、折りたたまれた小さな一枚の紙。
「矢文……!?」
殺そうとする相手に手紙をつけるはずはない。不審に思いながらも、紙を広げてみる。
「意味不明なんだよ!!」
書かれていたのは一篇の詩。確かに意味不明だが、思い出すものがあった。
ずっと前に、アオギリに始めて聞かせた歌の歌詞だった。
それをきっかけに、次々と他愛も無い記憶が蘇る。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――
本当に何気ない会話だった。アオギリはおもむろにリリスラに尋ねた。
「世界を一つにすることってできると思う?」
「普通に考えて無理でしょ」
まだ歌を覚えたばかりのリリスラは当然のごとく答える。
「そうだよね、僕もそう思ってた……君の歌を聞くまでは」
「え?」
思いもかけない言葉に、リリスラは目を見開く。
「君なら出来る気がするんだ。僕には分かる……君はきっと世界最高の歌い手になる。
君の歌があればもう一度獣人族の世を取り戻すのだって夢じゃない……」
「じゃあさ、取り戻そう!」
今度はアオギリが驚く番だった。リリスラは続ける。
「人間が支配者である限り争いは絶えない……だから……
私達が頂点に立って永遠に平和な世界を取り戻すの……」
二人は無邪気に微笑みあう。
「約束だよ……!」
まだ何も知らない少年と少女の、冗談とも本気ともつかない会話。
月日がたつに連れて忘れ去られてしまうような約束……。
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

154 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/10/22(月) 01:47:57 0
焦熱の気に当てられて蒸発し、爆発を繰り返す大地を踏みしめ、ゴンゾウは胡乱げに目を細めた。
そのまま進む。不砕折を縦にかざして。
炎の剣へと、正面から。
相手は準熱エネルギーの刃である。当然、鋼の刀で打ち合える物ではない。
真っ向から切り裂くだけだ。
「所詮、女の火遊びだ」
レーヴァテインの余熱で地面が抉れる中を、平然と二つに割って歩く一人の武士。
胴丸具足がすでに熔け崩れた今、手にした大太刀と締めた褌だけが彼を守る物であった。
陽に焼けた赤銅の肌は、火に焼ける事なく、その化け物じみた筋肉の張りとうねりを見せつけていた。
これから斬るべき目標に。
そして恐らくは、天に……。
最強無敵の、漢の姿を見せつけていた。

「やっぱり、止められるのね。……なんて男なのかしら」
部屋ごと斜めに傾いた椅子に座ったまま、ソフィーはいい加減凝り始めた首を揉み解した。
どんな理不尽を持ってしても、正面からでは、あの人の形をした大理不尽に阻止されてしまう。
それを抜けて攻め入るには、陽動に次ぐ陽動しかない。
要は、どれだけ魅力的な餌で釣って留めておくか。それだけなのだ。戦とはつまり、力を傘にきた騙し合いなのである。
すでに時間は十分に稼いだ。ここから先は、勝利への余力を生み出すためのもの。
……いや。
「いざや、いざいざ、散華の時よ〜〜♪」
ただの、わがままだ。
人生を華々しく終わらせるための、ずっとやってみたかった大暴れである。
似た者家族の顔が浮かんだが、どうでもいい。
彼女らの狂った血筋はどうしても、湿っぽくなる前に早々と気持ちを切り替えてしまうのだ。

「なに……?」
もう少しで剣の根元に到達しようかという所で届いた思考波通信に、大きく顔を歪めるゴンゾウ。
荒い気性の持ち主だが、揺るがぬ泰山の精神を備えた男でもある。
それが、今日初めての動揺を見せた。
「おい!? ゼルドナー!! ――ロシェ! どうした!? どうなった!!?」
ゼルドナーとは、ロイヤルナイツの第四席。
ゴンゾウに次ぐ純然たる武力の持ち主、王国第二の快男児の名だ。
レーヴァテインが迫る前に、易々とハイドラを片付けて待機していたはずの、その男が……。
『……死にました』「…………」
『彼の部隊は全滅です。――畜生っ!! ナバルの中でですよ!!? 結界は破られていないのに!!』
ロシェが取り乱すのも無理はない。怪物が侵入したのだ。正規軍では止められないであろう怪物が……。
ゴンゾウが笑むのも無理はない。待ちに待った男が来たのだ。死合うに値する本物の男が……。
千度を超える空気ごと、深く深く肺に吸い込み、存分に味わって確かめる。

……間違いない。確かに風が吹いていた。
「すげえ…………」
我が魂に燃焼せよと、吹き込む風が吠えていた。
「すっっっげええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」
漢の風が、吹いていた。

155 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/10/22(月) 23:53:43 0
先に口を開いたのは、アオギリだった。
敵に向けたものとは思えない、落ち着き払った声が紡がれる。
「随分のんびりしていますねえ。あなたは行かなくていいのですか?
レシオン……いや、貪欲の魔物と言った方がいいでしょうか」
アビサルがレシオンのローブを掴んで首を横に振る。
消去してはいけないと訴えるように。
彼女の意図を汲んだのか、小さく頷き、レシオンは一歩前に進み出た。
「どちらでも構わない、もう完全に融合しているからな」
「これは珍しい。自分でそんな事を言う魔物の宿主は初めて見ました」
相変わらずの穏やかな声で言葉を紡ぐ。一瞬の隙も見せないようにしながら。
アオギリ自身は、今はまだ戦いたくは無い。
世界率が移り変わる狭間の時……唯一にして最大の好機が来る時まで。
それまで何としても持ちこたえなければならない。
しかし、彼の予想は外れ、いつまでたっても攻撃してくる気配は無かった。
そんなアオギリの心中を見透かしたようにレシオンが言う。
「どうして何もしないのか不思議に思っているのだろう?
今は消す必要が感じられない。それと……」
優しささえも感じられる口調のレシオンの言葉が、アオギリに氷の刃のように突き刺さる。
「お前の心の奥に我が糧となるものがあるからだよ」

投げ飛ばされたらしい僕は、ものすごい勢いで地面に叩きつけられた。
霊獣化がとけ、遠のきそうになる意識を必死に繋ぎとめる。
「まだ……だッ!」
なんとか立ち上がる僕の前に、いきなりザルカシュさんが立ちはだかった。
「それ以上はあかん!」
「何が!?」
「お前には過ぎたオモチャや! 没収する!」
おそらくアニマのことを言っているのだろう。
没収する魔法の予備動作だろうか、腕を振り上げる。が、その腕は何者かに掴まれた。
「いきなり何やねん!? ……って誰!?」
そこにいた者は、覆面のマッチョ。しかもたくさん。
「良くぞ聞いてくれました! 忠実な使い魔No3.プロレスラー軍団!」
ハイアット君が得意げな顔で解説しながら、こっちに向かってウィンクする。
今のうちだ、と言う風に。
「アホバカマヌケ! 何考えとんやこの生きた化石の天然記念物!!」
ザルカシュさんの罵倒とも断末魔ともつかない絶叫を聞きながらアニマに呼びかける。
「ルールーツ……君に決めた!」
魔物と距離を詰めるように跳躍し、空中で一瞬にして姿を変える。
選んだものは久遠のルールーツ。接近戦なら間違いなく最強の属性。これでキメる!
『みんな下がって!』
僕が倒れてる間に魔物の相手をしてくれていた実況解説者達が一斉に場所をあける。
業怒の魔物は僕の姿を見て一瞬すごく引いたような顔をした。
「……そのふざけた格好は何だ!?」
『リッツさんなら知ってるはずだよ!』
久遠のルールーツの完全解放形態。それは、果て無き生命の主と呼ばれる黄金の精霊人。
「見た目が違いすぎて分からないと思う……てかリッツがそうなったら怖過ぎる……」
黒騎士さんが後ろで遠慮がちに呟く。それに対してノリノリで解説するセイ。
「説明しよう! 果て無き生命の主は使い手の性別によって仕様が違う。
“インフェニティキング”と“インフェニティクイーン”の二種類があるのだ!
後者だと長い金髪の美少女になる!」
なんてことだ! アニマを開発した人は一体何を考えていたのだろう。

156 名前:アクア・ウーズ ◇d7HtC3Odxw[sage] 投稿日:2007/10/26(金) 10:20:05 0
「ふぇふぇふえ・・・・・神に仕える伏魔殿とはよういったものじゃて・・・」
蜥蜴の尻尾ご一行はシスター・キリアの親書を携えてある場所に今いた。
荘厳な作りの室内に天上天下ありとあらゆる所に施された神話のレリーフ・・・・・そしてなにもかもが金色に輝く
大陸の支配階級の中でも異質の中の異質、ありとあらゆる宗教を勝手に束ねる者たちの住処、
聖職者達の最高峰 教皇 の住まう教皇府の本殿にいた。
先の案内役の小間使いの爺さんの言葉にリオンは顔を顰めた。
(宗教は金儲けの道具なんかじゃ・・・・・無いよね・・・絶対に)
彼女の考えは、いや淡い期待はその後に裏切られる事になる。
5人は教皇謁見の間に通された。
「火急の用件をお持ちなさったのは貴方達かな?」
どこぞの貧乏な王族なぞよりも豪華なそして凝った作りの玉座に小太りの男が座っていた。
(あれが教皇?)
正直5人統べてが懐いた感想だった。あまりにもその男は威厳が無かったのだ。
「報告書は目を通した、いや実に大変な事になった」
5人の感情には気がついてないのかはたまた無視してるだけなのか、教皇は構わず続けた。
「いや、もう終わりだと言うのならそれに従うしかないだろうか」
あまりにも投げやりな言葉、しばしその場にいる者全てが言葉を失ってしまった。
「・・・・・教皇様・・・・それは余りなお言葉では・・・・」
「そこの娘、勝手に喋るな!!」
教皇の傍らに立っていた次官が叫んだ。それでもリオンの言葉は止まらなかった。
「今こそ我々聖職者が民衆の不安を取り除くべき時かと思われますが!!」
「黙れ!!小娘!!」
次官の怒声が響き、それを教皇が左手を上げて制した。
「君の言う通りだ、手は打とう、では下がりたまえ」
これ以上の謁見は無用と思ったのだろうか5人は静かに教皇府を去ったのだった。
5人が去った後、教皇はその玉座で一人呟いた。
「・・・・・シスターキリア・・・・・まだ生きていたのか」

馬車は走る、次の場所へと、シスターキリアは言っていた、
「こちらの方が重要です」と
5人を乗せて馬車は運命を覆すべく走ってゆく。

157 名前:アクア・ウーズ ◇d7HtC3Odxw[sage] 投稿日:2007/10/26(金) 10:22:11 0
吼える、吼える、吼え狂う!!叩く、叩く、叩き合う!!蹴る、蹴られる、蹴り返す!!
激しく、激しく、激しく 踊れ 原始の鼓動を聞け、
聞こえますか?この心臓の鼓動、魂の躍動、そして、夜の細波の様な心の平静
私はついに会得出来ました。
格闘家なら誰もが一度、いいえ、何度も挑み失敗してはそれでも目指さずにはいられない
心の境地「明鏡止水」
その道はこんな身近にあったなんて、きっと身近すぎて気がつかない程当たり前の事だったんでしょう。
自分にとって本当に大切な事・・・・・たったそれだけの小さな当然、全ての格闘技の基本だとスリダブでは習いました。
思えば、兄はどうだったのでしょうか?自分のやりたい事を本当にやってきたのでしょうか?
その答えは・・・・解りません、だって私は兄では無いのだから、
心を平静に保ち、体に闘気を纏わせる、古来より格闘僧と呼ばれる人々が直接攻撃が効かないゴーストや精神体への攻撃手段として使っていた
古典的な方法、今はすっかり廃れて伝えられている所はほんの僅かと聞きます。
これが傲慢の魔物に効いたのは多分、彼らが精神に寄生する魔物だったからではないかと思います。
そして、「明鏡止水」の領域に達した心の変化は私の闘気の質まで変えていたようでした。
「なんだ・・・・その纏わりついてるのは?」
それは強烈な光が無ければ見逃してしまうような淡い銀色の光、意志の表れ、
そう、黄金に輝くインフィニティクィーンが太陽ならばこれはその光を反射して光る月の光、
私は無言でそして、最後の一撃を打つべく構え始めたので御座います。

(なんだ・・なんだ!!なんなんだ!!)
傲慢の魔物はいらついていた。いくら特殊で制限の多い力とはいえ、この力は使い方によっては他の魔物たちよりも簡単にその世界を簡単に滅ぼし、
幾億もの命を瞬時に奪う絶対的な力なはずだ。そうあるべきはずだ。
じつを言うと傲慢の絶滅は1対1には向いていない。むしろ戦闘そのものに向いている絶滅ではない。
例えるなら憤怒の絶滅を対人ナパームとするなら傲慢の絶滅は毒ガスもしくはBC兵器といった広範囲かつ無差別な物だ、
どちらも規模が100段違い程ではあるが、つまり傲慢の絶滅は世界そのものを崩壊させる為に特化した絶滅なのだ
「ふぁぁざあけえっるなぁあああ!!」
どす黒いオーラが傲慢の魔物を包む、その容姿が変わってきていた。
筋肉は膨張し、鎖骨は飛び出し、犬歯は口を突き破り、爪は鋭さを増した。
人型を保ったのはその基盤となった人物の美意識がまだ残っていいたからだろうか・・・・・
だがその姿はまさにこの世の終末を呼ぶに相応しい悪魔の姿だった。

158 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/10/29(月) 10:34:10 0
変身したもののどうしよう。社交ダンスならともかく本格格闘戦は全くの管轄外なのだ。
『えいッ!!』
とりあえず適当にグーパンチを叩き込んだ。
すると、衝撃波が走り業怒の魔物が冗談のようにとんでいく。
適当に、といっても仕掛けはしてある。この攻撃は生命を持つ者にはダメージを与えない。
魔物と完全に融合してたら宿主もろとも死んでしまうけど大丈夫。
リッツさんはきっとまだ生きてるから。
「消えろ……今すぐ失せろ!!」
明らかにダメージを受けたにも拘らずすぐに起き上がり
人間業ではない速度と質量の拳を繰り出してくる。
「消えろと言って消えるバカはいない!」
これなら力押しでいけると確信し、今度は適当な蹴りで応戦。
超常の格闘戦を繰り広げているうちに、業怒の魔物は大狂乱状態になってきた。
それもそのはず、魔物の宿主が不死身になるのは、生命力が強化されているからではない。
むしろその正反対。
彼らを強化しているものはアンデッドを動かしている力と同じ、生命力と真逆の何かだ。
と、なると生命の化身である今の僕は最悪の相手。
そんな中、ふと魔物が動きを止める。
『リッツさん……?』
淡い期待を込めて尋ねるが、世の中そんなに甘くは無かった。
「消してやらあああああああ!」
都合が悪いことに、傲慢の魔物がキレたために力が集まってしまったのだ!
『ダメだよ!!』
絶滅が発動するのを止めるため、渾身の生命力を叩き込む。また派手に飛んでいく魔物。
『効かないよ……これは虚無に基盤を置く力だから!』
しかし、【業怒】は不気味に笑いだした。
「ハハハハハ!! 果たしてそうかな?」
彼の言う通りだった。気付くと、パンチを叩き込んだ右腕が消えていたのだ。
「無い物を存在させる力と在るものを消し去る力……どっちが強いか勝負しようか!」
即座に右腕を修復しつつ身構える。
『望むところだ!』
魔物の体力は無尽蔵、長期戦は不利だ。一気に決着を付ける!
両手を掲げ、生命の精霊力を結晶化させていく。

159 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/10/29(月) 23:02:29 0
トゥーラ中枢部。
ここではいくつもの立体モニターを通して、島内の戦いの全てを見ることができる。
だが、そんなものがなくともその苛烈さは十二分に伝わってくる。
二体の大罪の魔物とそれに対抗する力がこの島で暴れているのだ。
その余波は大気を震わし大地を揺るがす。
中枢部といえどもその余波は免れず、そこかしこでぱらぱらと細かい破片が落ちている。

戦いの様子を見入るレシオンとアオギリ。
共に言葉はなく、沈黙が支配している・・・が・・・

「『・・・蝕の時は近づけり。」』

ずっと沈黙を保ちしゃがみこんでいたアビサルと、ここではないどこかに佇む黄金の仮面。
場所は違えど共に仮面の奥から発せられる言葉は同じ。
不意に沈黙を破るアビサルに驚きと喜びを以って振り返ったのはレシオンだった。
「時が満ちる、というのか?」
黄金仮面の謎めいた言葉の【時満ちる時】がいよいよ来るのか?という期待を込めた問いだが、アビサルは何も答えない。
ただ太極天球儀を抱くようにしゃがみこんだまま、沈黙に戻る。

「どういう・・・事です?」
アオギリに問いには二つの意味が込められていた。
一つはアビサルの言葉を問う意味。
もう一つがレシオンが沈黙したアビサルに対してそれ以上の詰問をしない事への問いだ。
大罪の魔物【貪欲】であるレシオンがここにいるのはわかるが、アビサルの存在自体が意味不明なのだ。
何故ここにいるのか。そしてレシオンとの関係は・・・。

レシオンにとってもアビサルは意味不明な存在だが、何故かそれを知ろうとしたり排除しようとする気が起きない。
だからアオギリの問いに答えようもなく、ただ不機嫌そうに顔を背けるのみだった。
「あなたが聞かないのであれば私が聞きましょうか?」
レシオンの反応に眉をひそめながら埒が明かないと思ってか、アビサルにアオギリの手が伸びる。
が、その手がアビサルに触れる事はなかった。
何の前触れもなくアオギリの伸ばした腕が破裂し、血飛沫が舞う。
「やめておけ。お前は私に生かされていることを忘れるなよ?」
まるで深淵からの発せられたような暗く冷たい声がアオギリに突き刺さった。
腕の傷は深くはないが、まるで内部から破裂したようになっている。
アオギリにはレシオンが何をしたかはわからなかったが、言葉の意図する事はわかる。
ギリリとかみ締めながら腕を振るい血を落し、アビサルに背を向ける。
・・・・今はまだ・・・そう、今はまだ・・・

そんなやり取りの中、アビサルは微動だにする事はなかった。
アオギリの鮮血がかかった時も・・・
そしてトゥーラ全体に微振動が続いている最中にも・・・

大罪の魔物たちとパルスたち一行の超絶なる戦いは大地を揺るがす。
それは灼熱の島トゥーラ地下の巨大な力をも刺激したのだ。
マグマ溜まりは活発に渦巻き、今にも大地を割って噴出さんとしている。

##########################################

一方、ナバル上空に浮かぶ衛星軌道都市ライキュームはゆっくりとだが確実に落下を始めていた。
その落ち着く先はグラールロック!

160 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/10/30(火) 00:31:52 0
結晶化した精霊力が形作るものは、身の丈ほどもある黄金色に輝く大剣。
それは実体と非実体の狭間、生命の力を持って魔物を刈り取る刃。
『絶対助けるから!』
黄金の輝きを閃かせ、斬りかかる。
「何度言ったら分かる!? リッツはいない!!」
振り下ろした光の刃を素手で払いのけ、同時に蹴りを入れてきた。
とっさに飛び退る。掠っただけなのに、その部分が消えていた。
【業怒】の攻撃の一撃一撃が存在を消滅させる絶滅と化していたのだ。
僕だけを狙って、広範囲に爆発させないでくれているお陰で周囲への被害は無いが
まともに当たったらただでは済まないだろう。

リリスラは思う。アオギリが本気で当てようとした矢を自分は掴む事はできないはずだ。
わざと掴みやすいように打ったとしか考えられない。そう、殺す気なんてなかった。
レベッカを殺そうとしたのは、リリスラより歌が上手い人間がいてはいけなかったから。
全ては、獣人族が頂点に立つ世界を取り戻すため……。
「アオギリ……ゴメンよ、でも……」
様々な思いを胸に、リリスラは思い出の歌を歌い始める。
大罪の魔物と戦う人間達のために。

〜♪ただひとたびの奇跡♪〜
傷つき迷い 倒れ伏した時
遥かな空に煌めくは 瞬く星々
だけど僕が見たものは 小さな花だった
誰にも気付かれずに 荒野に咲く花

星はいくつあるのと たずねた時
君は答えた 星の数ほどあると
戸惑う僕に微笑み 君は続けた
命宿す星は 一つあれば奇跡

大地をかけ海渡る 優しい風が 語り告ぐは
悠久の時が 築き上げた 輪廻の物語
日の光降り注ぐ 緑為す森が 刻みゆくは
数多の季節が 紡ぎあげた 確かなる鼓動

儚く散る命にも 必ず意味はある
移ろいゆく中にこそ 永遠はあるから
たとえこの身が 朽ち果てたとしても
守り抜きたい 巡り来る未来を

ただひとたびの奇跡を――
〜♪〜♪〜

消された部分を修復しながらの戦いは予想以上に厳しかった。
でも、追い詰められつつあった時に、歌が聞こえてきたんだ。
「うるさい!! そ……んなものを歌うな!」
上空で歌っているのは、リリスラさんだった。
魔物はこの歌が苦手らしく、耳を塞ごうとしている。
『聞いて!』
その腕をつかんで無理やり聞かせる。
歌のせいか、ほとんど抵抗できなくなっているようだった。チャンスは今しかない。
『リッツさん、ちょっと痛いけど……死なないで!』
そう語りかけて、覚悟を決めた。
少し下がって地面を蹴る。空中に舞い、狙いを定める。
リッツさんが生きてくれる事を信じながら、煌く刃を真っ直ぐに下に向ける。

161 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/11/01(木) 23:01:35 0
王都ナバル、蒼の塔前広場。
「先生、肩をお貸ししましょうか?」
「いいえ、結構。女性に身を預ける趣味ないので。……ついでを言うと、弟子に採る趣向もないのですがね」
すまし顔で返すアルフレーデにも、笑うディアナの口元にも、疲労の色が濃い。
ドゥエルは青ざめた顔で呼吸を繰り返している。メリーも無表情ながら珍しく、自身の肩を揉み解していた。
クラックオン十烈士とかいう、五体の昆虫種族の表情は読めるはずもなかった。
しかし、無傷ではない。其処彼処に残った破壊の痕跡が、短時間で終わった戦いの壮絶さを物語っていた。
セルドナーと名乗ったロイヤルナイツ直属の十人と戦っただけで、この始末である。
双子の《アニマ》に備わっているという《激震》のメダリオンの力で、地中深くを密やかに進んで、ようやくの
ナバル侵入を果たした矢先に……随分と先が思い遣られる門出であった。
だが、イアルコは思う。
「…………」
こいつが居るならば、行き着けるのだろうと。
《煉獄の志士》スターグ。
戦闘力の悲しき乖離具合から観戦に回るしかなかったイアルコとジェマは、彼がゼルドナーを屠った一部始終を見て、
我知らずに震える体を抱きしめ合っていた。
左腕一本となった今ですら、衰えは微塵もない。
それどころか…………この期に及んで、更に強くなっている?
ガナンでの死闘は、確実にこの悪魔を前人未踏の域へと押し進めていたのだ。
共に戦う道連れとするに、これ程頼もしすぎる男はいない。
黙って先を行く漆黒の甲殻を追って、ディアナの金髪縦ロールが揺れた。
「お待ちなさいな! ――っもう! 貴方を消耗させるわけにはいかないのよ! 足並みを揃えなさい!」
散発的に仕掛けてくる王都軍を撃退しながら、何やら保護者みたいな事を飽きもせずに言っている。

「……お前の姉は何じゃ? 見かけに拠らぬ博愛主義者か?」
「ゲテモノ趣味なんです……」「…………そうか。嫁に行ったら縁が切れるぞ」「はあ……」
ジオフロントを目指す。
何気ない息抜きの会話にも、そこはかとないピリピリとしたものが含まれていた。

『侵入者止まりません! こりゃ、ジオフロントまで一直線のコースですね』
「よ〜〜っし!! つまり俺が向かうしかねえわけだなあ!?」
喜悦に声を歪ませるゴンゾウ。返ってきたのはロシェの絶句と、レオルのため息。
ロイヤルナイツの団長がこうなってしまっては、誰も止められない。長年の付き合いから出た無言の答えであった。
レーヴァテインの炎が形を変える。
かまわずに背を向けたゴンゾウが、ナバルへと足を進める。
『『GOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOオオオオオオオオオオオオオオオオっっ!!!!』』
ニブルヘイムが、地獄からの怨嗟の如き鳴動を上げた

新しき世界律、想いの力、物に宿りし人の想念。
その一つの形、人機融合。
《博乱狂記》ベルファー・ギャンベル伯爵はこれを活かせる究極の形に、いち早く気付いていた。
完成した戦艦ニブルヘイムに、わざわざとこんな機構を取り付けたのも……まあ、彼ならでは荒業であった。

――――――――変形。

巨人形態《ムスペルベルヘイム》。その両腕には、二つに割れたレーヴァテイン。
頭部には接合を果たした艦橋が、炎を吹き上げ王都ナバルを睥睨していた。

『団長! 後ろ後ろ!!!』「騒ぐな。あいつは男じゃあねえ」『そんなの当たり前ですって!』
「俺は、男の所へ行く」
ゴンゾウの背中を守る形で、ララス、ワッニ、カイの率いる三隊が炎の巨人の前に立ちはだかった。

162 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2007/11/03(土) 00:56:06 O
アビス

163 名前:アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/11/03(土) 19:11:11 0
目の前の悪魔に対峙して尚、心には平静がありました。
瞬間、ふぅと空気が軽くなった錯覚を起しました。
そして、爆発的な音と共に私と悪魔は同時に飛び掛ったのでございます。
銀の気を纏って、最後に繰り出す技は・・・いいえ、技と呼ぶには余りにもそれは単純で・・・・
そして美しいまでの純粋な力そのもの・・・・相手をただ力で握り潰す、
スリダブ流・・・・基本の一つ 握撃
私の掌は銀の衣を纏ってその悪魔の胸元を掴んだので御座いました。
それと同時に私の頭にも悪魔の掌がしっかりと掌握しておりました。
「はぁぁあああああ」
「があああああああ」
黒と銀の闘気が絡み、うねり、上がり、下がり、暴れて、騒いで、まるで踊る様に
全身全霊を込めて、その握劇に力を込めたので御座います。
ビシリと悪魔の体にヒビが入り、そこで悪魔はさらに力を強めました。
力の奔流はその時、私と悪魔を包む幕となり、そこに二人だけの空間を作り上げたので御座います。

意識は体から離れ、目の前にはかって兄だった男が同じように浮かんでおりました。
下を見るといまだに組み合い己の力を放出し続ける私と悪魔の姿。
異常な事態だと思いました、でも何故か心は穏やかでした。
『アクア・・・・・・』
『・・・・・・兄様』
特に話す様な事はしませんでした。只、頭に兄の今までしてきた事、考えていた事がありありと浮かんできたのでございます。
それは相手も同じ様な状況だったもでしょう。
垣間見た兄の姿は・・・・・
幼少のみぎりから王者となるべく厳しく過酷に育てられた少年、持て囃されながら一人の友達も出来ない少年、
勇者の冒険譚を光る目で読む只の少年、そして段々王族の周りに持て囃され歪んだ価値観を美と理解した化け物の種子
兄も私の半生を対体験してきたようです。
『・・・・兄様、あなたの為に泣いても宜しいでしょうか?』
『ふん、この期に及んで・・・なら私は侮蔑の嘲笑で答えよう』
そして私は・・・・・泣かずに笑い、兄は笑わずに泣いたのでした。

そして意識は再び肉体へ、そして今、ついに悪魔の肉体はついにその限界を迎えた所でした。
「グゥウウウオオオオオオ」
目の前の悪魔、大罪の魔物が崩れ去ってゆく、彼の最大の誤算は魔法や奇跡とはまた違う心の力を振るうモノがいた。
その一言に尽きるでしょう。
ですが、崩れ行く魔物はその双眸を紅く光らせ笑ったので御座います。
「お前も・・・・・げん・・・・か・・・い・・・・だな・・・・・・・・」
その目の先には頭を吹き飛ばされた私がおりました。
そしてその時が来ました。魔物の体は内部から銀の光で砕け散り、そこには虚空へと還る塵が舞い上がるのみでした。
そして力の奔流のカーテンは解かれたので御座います。
私はもう既に完全なスライムでしたので頭を吹き飛ばされても意識は御座いました。
それでもソレを感じていました。絶対的に避けられない事を
まだ空は薄暗く、風は冷たく感じました。
細かく、体が細かく塵となっていくのが何故かはっきりとわかりました。
その時に考えていた事は約束の事でも世界の終末でも無く、
(広いなぁ・・・・空も海も・・・・・・・・)
その場に膝から崩れ落ちました。やけに回りが静かにそして遠い存在の様に見えて・・・・・・
体は次々と塵として空に舞い上がり、やがて全ての構成が塵となった空に舞い上がった所で私の意識はそこでついに無くなったのでした



164 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/11/05(月) 00:31:02 0
精霊力の刃がリッツさんの体に突き刺さる。
その時の感触は貫通した、というよりもすり抜けたというべきだろうか。
でも、非実体となった刃が、実体では無い何かを確かに貫いた。
リッツさんに取り付いていた大罪の種が砕け散る……
それを感じると同時に全身の力が抜けた。
霊獣化が解け、倒れそうになる所を、ハイアット君に抱きとめられた。
「大丈夫か!?」
「ちょっと疲れただけ……それより早くリッツさんを……」
そう言ってみて、大粒の涙が頬をつたって零れ落ちている事に気付く。
声が震えているのも、視界が曇っているのも、疲れたからだけでは無かった。
「パルス……気付いてたのか」
普通ならあの激闘の中では他のことに気が回らないだろう。
でも生命の化身になっていたから、一つの命が終わってしまった事がはっきりと分かった。
「うん……最後はとっても安らかだった……でも……もうこれ以上は……嫌だよ!」
もう誰も死なせたくなかった。
ハイアット君の手を振り解いてリッツさんの方に行こうとする。
リッツさんは糸が切れた操り人形のように力なく倒れていた。
ほんの少しの距離なのに、彼のところまでたどり着けずに足がもつれて転ぶ。
それでも必死に手を伸ばそうとして、その時異変は起きた。
轟音と共に地面が振動しはじめる。大きな岩が雪崩のように転がってくる。
凄まじい衝撃と共に大地がひび割れていく。
もう少しで手が届きそうだったのに、どんどん離れていく。
「あかん! この辺全部マグマになるで!!」
ザルカシュさんが転移術の詠唱を始めるのが聞こえたのを最後に、気を失った。

マグマに飲み込まれる運命にあったリッツに、語りかける者がいた。
「お前はラッキーだったな……マジで……」
十剣者ホッドは、もう死んでいてもおかしくないほどの重症を負いながら
リッツに手を差し伸べていた。
「約束だ、今度こそ……生きろ! 破ったらオレ様が許さないから……」
彼は思う。自分は何でこんな事をやっているのだろうと。
十剣者として世界を守るため? 違う。人間の暖かさを知ってしまったから。
それは、冷静な判断を鈍らせる弱さだったのかもしれない。
世界を守る存在が知ってはいけないものだったのかもしれない。
それでも彼は思う。知る事ができて良かったと。
リッツの手をしっかりと握り締め、最後の力で転移の術を発動させた。

165 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/11/07(水) 21:15:22 0
ゆっくりと開かれた瞼。
意識を取り戻したパルスだが、視界はまだ暗く狭い。身体も動かない。
近くに人の気配を感じる。
確か、噴火が起こって・・・
まだ朦朧とした頭を整理しようと記憶の糸を手繰る。
「目ぇ、醒めたか?」
「ぶっ!!ザ、ザルカシュさん!みんなは?ここは?」
突如として視界一杯に広がるリザードマンのドアップに全てが吹き飛んでしまった。

一気に視界が明るく広く戻ったが、身体はまだ動かない。
寝たまま矢継ぎ早に質問するが、答えは返ってこない。
辺りを見回すと、薄暗いどこかの部屋だとわかる。
そしていくつかの人影。
一瞬の安堵と期待、だがその人影に違和感を覚えた。
感じられる人の気配はすぐそこに立っているザルカシュ一つだけ。
しかし、人影はいくつも立っている。
目を凝らしてみると、部屋の隅の人影を確認する事ができた。
ジンレインだ。
「ジンさん!ジンさん!あ、ラヴィちゃんも!」
「すまんな・・・ほんまに・・・こうするしかあらせんかったんや・・・。」
パルスの必死な呼びかけに応えるものはいなかった。
ただ・・・
弱々しいザルカシュの呟きだけがパルスの耳に流れ込んでくる。

そうして気付いてしまった。
自分が起き上がれないのは戦いの疲れなどではなく、魔法の力によって拘束されている事を。
そして、ジンレインも、ラヴィも・・・
それだけではない。ディオール、ハイアット、エド、セイファート、リリスラ。
パーティー全員が石像と化して佇んでいる事に!

166 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/11/07(水) 21:15:43 0
##########################################

それは白昼堂々衆人環視の中、行われた取引。
しかしその当事者しか知覚できない取引だった。

大罪の魔物の波動を感じ、【その場】に急いでいたザルカシュは不意に強烈な違和感に襲われた。
頭上を飛ぶリリスラと隣を走りミニグラールの気配が消えたのだ。
だが、確かに二人はその場にいた。
そう、その場にしかいないのだ。
全力で飛び、走っている中にも拘らず、その場からまったく動かない静止状態。
そして自分も動いておらず、ただ思考だけが駆け抜けていた。

直後、目の前に佇む黄金の仮面を認識した時、全てを理解した。
圧縮された時間の中、体感時間は限りなく間延びをする。
その世界に悠々と佇む者こそ・・・
「このクソ忙しい時に!」
その声と共にザルカシュの時間は動き出した。
周りの制止した時間の中、大司祭ザルカシュと黄金の仮面の人物が対峙する。

『案ずるな・・・時間はとらせぬ。』
「だっはっはっ・・・まさか洒落が言えるとはおもわなんだなあ〜。」
停止した刻の中で交わされる言葉。
その中でもザルカシュは既に十数の術を並列処理していた。
「ロイトンでは残念やったな。肝は冷やしたけど・・・ワイはオンドレの正体、知っておるんやでぇ?」
『・・・』
かける言葉一つにも込められる駆け引きを繰り出すのだが、黄金の仮面に動揺は見られない。
ただマントの奥から手を差し出すのみ。
その手に握られているものは、ザルカシュの繰り出した駆け引きを全て粉砕し有り余るものだった。
「おんどれちゅうう奴はどこまで・・・!」
『まずは半身を渡そう。残りはその時に。』
「・・・っ!!!・・・まさか、ワイが・・・!このワイが!これで利を捨てると思うとるんかい!」
わなわなと震え、大量の脂汗を流すザルカシュの言葉を背に黄金の仮面は消えていった。
そして動き出す刻と共に、ザルカシュの左手には青く光る力が宿ったのだった。

七海聖君ヒムルカ・クラド・マーキュスの力が。

167 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/11/07(水) 21:15:50 0
#########################################

「どうして!どうしてなのさ!」
問い続けるが、返事は返ってこない。
それでも問い続けずに入られなかった。

そんな時間がどれだけ経ったであろうか。
扉が開き、薄暗い部屋に明かりが差し込んできた。
そこに現れたのは、レシオン、アオギリ、そして黄金の仮面の人物。
『・・・約定では一人のはずだったが?』
現れた三人に動けぬまま息を呑むパルスを一瞥し、黄金の仮面がザルカシュに問う。

「まあ保険っちゅうやつや。こいつらは今はただの石像や。
せやけどな、ワイが死ねば呪いは解けて動き出す。厄介やでぇ?
なあに、ちゃんと約束守ってくれればただのオプジェやさかい気にせんといてや。」
『・・・』
「驚きましたね。貴方に誓いより、利より、重要なものがあっただなんて。」
黄金の仮面の人物の代わりに応えるアオギリの声には失望と嘲笑が混じっていた。
普段なら軽く流せる事だが、今は違う。
「外野はだぁっとらんかい!さあ、はよ約束のものを!」
アオギリを一喝し、黄金の仮面ににじり寄るザルカシュは明らかに冷静さを欠いていた。
ただ唯一愛した女を取り戻す為に。
『まだだ。事が成就したら渡そうではないか。
汝が想うたヒムルカ・クラド・マーキュスの半身を。
さあ、レシオンよ。これでそなたは完成し、最後の結界を解除する事ができるだろう。』
マントから覗く青い光を見せ付けるようにしながらレシオンの後ろに移動し、それを促す。

倒れ、動けぬままのパルスを覗き込みながらレシオンは満面の笑みをうかべる。
「やあ、はじめまして、我が孫よ!」

#########################################

その頃、パルスたちのいるの四つ手前の部屋でジンレインたちは意識を取り戻していた。
が、まだ身動きとれずにいた。
ザルカシュの強力な呪縛によって声一つ上げる事ができないのだ。

そしてミニグラールは一つ上の階層を急ぎ駆け抜けていた。
始祖たるグラールにザルカシュが呪縛をかけることはできない。
だからこそ、転移の術で一つ上の階層に置き去りにしたのだ。

これはザルカシュの危険な賭け。
ミニグラールが四つ手前の部屋にたどり着く時間も、呪縛を解く時間も見越した・・・
簡易ゴラム作成術で危険な三人を騙し、パルスを囮にするという危険極まりない賭けなのだ。

168 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/11/07(水) 22:06:01 0
ロイトン近郊そこの小さな町に不思議な一団がいた。
獣人、龍人、人の四人の女性と一人の男
「良いか!?この魔方陣では二人だけとばすので限度じゃ!!」
獣人の賢人が額に汗を垂らしながら叫んだ。
「多分あちらでは激戦になってます。なるべく遺跡中心部近くに転移させますので皆さんと合流して下さい」
龍人の賢人が叫んだ。
魔方陣の中には男女が二人
一人は異形の漆黒の鎧を着込んだ男、一人はその身に炎を纏う女
「・・・・・・・・・・・・」
男は自らの手を見つめ拳を握る。
「何か言ったら?」
女はそんな男の行動を呆れて見つめていた。
「二人とも本調子じゃないんだから無理しないでよ」
最後に人間の女性が声をかけた。
「何、借りを返しにいくだけさ」
炎を身に纏って女はおどけてみせた。男は相変わらず黙っていた。
やがて光に包まれ二人の姿は消えた。

「これで良かったのかのぉ?」
シャミイはやれやれと言った感じでその場に腰を下ろした。
「正直、彼らを送り出すのは心が痛みます・・・・・ですが、覚悟をしなければならない時が来たのです。」
アーシェラは心底、疲労した顔で頭を振った。
「覚悟か・・・・いきなり言われて出来るモノではないのじゃがの・・・・」
「いつの時代だってそんなモノですよ」
レベッカは遠くの海を見ていた。皆の無事を祈って。
「さて、わしらは次の手をすぐ打たんといかぬのぉ?」
シャミイは多分おどけて言っているのだろう だが雰囲気は重い。
レベッカの浴びる浜辺の風はこれからを予感させる様に寒かった

169 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/11/08(木) 16:50:27 0
ほぼ無人となった王都ナバルの街並みを、イアルコ一行が駆け抜ける。
この尋常ならざる侵入者達に対して下した、王国側の――レオルの意見を受けたチェカッサの判断は実に迅速であった。
百万人にも上るナバル全住民の、速やかなる外部への避難である。
本来ならば、何か来ようとも内部の避難施設で充分事足りる、金城鉄壁の六星都市がとった異例の対処。
それもこれも、本気で戦う一人の男の受け皿と成らんがためなのである。
軍威の及ばぬ強力無比と、ゴンゾウ・ダイハンが本気で戦う場合に限り、ナバルは開け放たれなければならなのだ。
そのためのガイドラインは確立されている。
すでにナバル住民のほとんどが、広大な地下通路を通り、100km以上も離れた第二都市への避難を開始していた。

「ガナンではひたすらに上を目指し、ナバルでは下に向かうか……ここんとこ、駆けずり回ってばかりじゃのう」
「激動の時ほど目まぐるしく事態は動くものです。私達はその渦中の一つに居るのですよ」
ただのぼやきにしっとりとした響きで返してくるアルフレーデに、唸るイアルコ。
そびえ立つ、かつては龍人帝都の中枢だったという王城を見上げ、緊張で焼けた吐息を漏らす。
当然として龍人戦争時の破損やらは見当たらないものの、あちこちに見受けられる建築様式が、らしき名残を留めていた。
ガナンの公王宮と通じる雰囲気が確かにある。
成り立ち、馴れ初め、その顛末。色々な意味で、双方の都は兄弟のような運命関係にあるのかもしれない。
「しかし、出迎えもなしとは不気味なことじゃの。――全員、あれに釣られたか?」
壁の外では、遠目にもわかる《ムスペルベルヘイム》の巨体が激しく炎を吹き荒らしていた。
ロイヤルナイツを引き付けるための、無視できない囮である。
当初はやり過ぎかとも思っていたが、連中の一隊と戦った後では、途端に心許なく映ってしまう。
ソフィーの命が燃え尽きるのも、時間の問題であろう。
兎にも角にも、事は節足を求めていた。

王城前に、男が一人。
大太刀を担いで漲る、男が一人。
力の神の如き肉体を見せ付けるかのような、白一色の褌姿で、一人の男が佇んでいた。
足を止める、イアルコ一行。
圧し掛かる余りの空気に、つっこむ言葉も湧いてこない。
どう贔屓目に見ても、どうかしているとしか思えない男の格好だったが、放たれる鬼の気迫が冗談事にしてくれないのだ。
その双眸は真っ直ぐに、先頭のスターグだけを見据えていた。
「ゴンゾウ・ダイハン…………」
誰かが、かすれ声で呟く。
顔を知らないイアルコの脳裏にも、一目でその名が浮かんでいた。
曰く、王国一の武将である。
曰く、人類最強の男である。
実質公国は、彼と彼が率いるロイヤルナイツだけと事を構えているようなものなのだと、十二貴族の何人かが言っていた。
……言い過ぎではない。
……言い過ぎではないのだ。
目の前にして初めてわかり、悟りの域にまで染み込んでくる、その強さ。

捻くれた洞察力で様々な怪物達を観てきたイアルコが、掛け値なしに確信する。
こいつこそが、頂点。
それより上など、在りはしない。

ただ、並ぶ者が、僅かに居るだけなのだと。

170 名前: ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/11/08(木) 22:05:01 0
「降りる」
ロシェの索敵方陣を離れる。従者にも指一本触れさせない愛刀を脇に差す。
案の定、ロシェが剣呑な顔をしてチェカッサを睨んでいる。無視した。

『レオル』
『王子?』
狐目の副長は返事が早い、二重スパイの勤勉さ。
レオルが巨大兵器に対抗すべく六星結界を強力に制御する。
ノイズで互いの声がしわがれて聴こえる。
『ロイヤルナイツは既に多大な犠牲を払った。貴様の望みは果たされるな?』
『あるいは誰の望みも』
『鬼子と呼ばれたお前たちも、ようやく日の目を見るかも知れない。嬉しくないのか?』
教皇軍は弱体化し、国教会発足の夢は父の代からレオルの心中に燻っていた。
チェカッサがロイヤルナイツに次ぐ第二の王国騎士団別館を望んでいる、とあれば
レオルがノンサンミシェルの教会騎士を送り込むのを止める法もなかった。
『ロシェが聞いている』
レオルが喘息めいた笑い声を上げる。
異端審問所あがりのノンサンミシェル教会に督戦隊長あがりのレオル、
屈折した復讐心はゴンゾウの「闘志」より幾らか人間臭いが、無気味さに違いはない。
自分にしたって、傍目にはよほど狂人じみて見えるんだろうが、まあ良い。
いずれレオルを斬らねばならなくなったとしても、それは戦後の宮廷力学の上でだ。
『降りますか? 忠告しておきます、彼にとっては余計なお世話だと』

迎賓室を改造した観測室は機材と人間で手狭だ。
煩い忠告抜きにそそくさと部屋を抜け出すつもりが、ロシェに呼び止められてしまった。
「チェカッサ、ヒロキが戻った。白の塔に」
初戦を制した、駒は無傷で戻った。ほんの一手とはいえ勝ち星は愉快だった。
「閉鎖中の地下通路を一部、奴の為に残しておくんだ。ライキュームはどうした?」
「依然応答なし……降下、開始しました。落下予測地点はナバルを外れてはいますが」
歯噛みする。予測された事態ではあるものの、取り分のない事もまた悔しい。
「やっぱりお手つきだったって事だよ。
どの道一蓮托生だ、ライキューム及びライキューム制圧作戦は現刻を以て破棄する。
ただ落とすよりはマシな使い方をしてくれるよう、乗っ取り野郎のお頭に期待しよう」
今度こそオーブ研究員を退かして部屋を出る。出掛けにロシェが、
「まさか、ヒロキを最終防衛線に? ゴンゾウが何と言いますかね」
「知った事かね」
王城への防衛線はゴンゾウの生命と同義だ。
となると後詰は必要な処置だし、例え力量がどうあれ原則としてゴンゾウはチェカッサの部下だ。
クラーリア王国と騎士団とチェカッサ自身の誇りを賭けた戦いなのだから、皆等しく誠実に殺し合う義務がある。
一番弟子としてゴンゾウの戦いを見守る義務も。

171 名前: ◆LhXPPQ87OI [sage] 投稿日:2007/11/09(金) 18:59:45 0
石像の中のジンレインは、五感をほぼ完全に封じられた恐怖感で混乱の極みにあった。
普段みたくジェネヴァを呼ぼうと試みるが、視聴覚も触覚も利かない彼女はすぐ諦めた。
唯一自由な眼球運動(これは錯覚、石像の眼は微動だにしない)が慰めになった。まるきりの暗闇を見回す。

どんなに静かであっても、無音というものはないのだと、ジンはふと気付く。
耳鳴りのあるような気がするし、辛抱して待っていると心臓の鼓動も感じられた。
ここはパルスの魔法の蔦とは違う。ひょっとして自分は土中に埋もれてしまっているのかも。
ジンは一瞬、窒息を恐れたが、しばらく落ち着いていると、
どうやら呼吸に難はないようだった(これも錯覚、石像は呼吸しない)。
他にあまり手掛かりがないので、ジンにとって現状把握は困難に思われた。助けを待つ。
いつまでもこの状態だと気が狂うかと思われたが、狂うならいっそ早いほうが良いとも考える。

昨晩の、セイファートの告白そのものは予定調和に過ぎなかった。
要は行為自体が彼女の望んだもので、ジンはそれを決別の儀式と考えていた。
義父との関係に円満な解決を期待してはいない、優しく別れる事が一番の正解だ。
「君は私の娘でもある、私は君を娘として」
愛する、とは言い難いらしく、そこでセイファートは言葉を詰まらせていた。
「大事に思ってる、それは本当だ。君は――」
「どうでもいいのよ」
下種な芝居で父親へすがりつく。興奮と自己憐憫で、ジンの眼には涙が浮かぶ。
「私を抱くか、私の為に死んで」
彼女の背に回されたセイの腕がびくり、と震える。それからゆっくり、躊躇いがちに髪に触れる。
ジンはセイの胸で大仰に泣きじゃくって、彼の顔を見ようとはしなかった。
彼の嫌悪を受け止める覚悟がない。
(自分が楽しむのに精一杯だった)
あの晩ほど、自分という人間に呆れた事はなかった。ジンは動かない筈の瞼を閉じる。

ハイアットはやはり混乱していた。
与えられた人間の心に振り回され、自身の急激な変化に途惑っている。
一方で凍りついた石像の身体は怖くない、懐かしいくらいだ。
(どうも分からない。「親友」を殺したんだ、まだ悲しくてもいい筈なのに)
ハインツェルから託された剣を失ってはいまいか、パルスや仲間は無事か、それだけが心配事だ。
(ハインツェルや、魔物の心はひどく飢えていた。
彼らほど絶望していないにしても、僕にだって未だに欠け落ちた部分はあるのだろうな)

セイファートは怯えていなかった。
悟りには程遠い、だが確信に満ちた何かをリリスラの歌から受け取っていた。
(それでも、まだ救いはない)
我が愛娘にこそ幸いあれ、自分は戦士だ。やはり石化からの助けを待つ。戦闘開始を待つ。
(ああして幸福や真実に近付く目もある、しかし俺に甘える資格はない)

172 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/11/10(土) 00:15:02 0
僕は魔法で縛られて床に転がされていた。
分かる事はただ一つ、ザルカシュさんは敵と取引をしている。
いつの間にか敵と通じ合ってるなんて、いくらミィちゃんの弟子でも胡散臭さ全開である。
アニマは没収されていたけど、触れていなくても近くにあれば普通に使う事はできる。
こっそりとアンヴェセスと同調してみんなの心の中を覗き込んでみた。
そして、いろんな意味で衝撃を受けた。
半人半馬の青年にはあっさり精神ブロックされて断念。
ザルカシュさんは、訳の分からない黄金仮面に弱みを握られて言いなりになっている。
まるで古代の精密機械のような人だと思っていたのに、怖いほどに人間らしい。
そして、人の心の弱い部分を誰よりも知っているはずの黄金仮面は、空っぽだった。
ブロックされたとか読めないとかではなく、本当に何もない虚無。
それまで放って置かれた僕に、いきなり話が振られた。
「やあ、はじめまして、我が孫よ!」
僕とよく似た誰かが、僕を覗き込んでいる。きっと、何度も夢に見た人。
娘じゃなくて孫なのはなぜだろう。すかさず心の中を見てみる。
その時、微かな違和感を覚えた。あまりに何の抵抗もなく読めてしまったから。
まるで、わざと受け入れられたような感覚。
彼は、夢にまで見た人ではなかった。それどころか最悪だ。
世界の全てを手に入れようとして、世界になる事を望んでしまった二代前のエルフの長。
「それ……お父さんの体……酷いよ!! 僕のお父さんはどうしたの!?」
自分でも驚いた事に、諸悪の元凶を前にして僕が責め立てたのは
大罪を受け入れた事でも世界を滅茶苦茶に壊した事でもなかった。
「案ずるな、この子は幸せ者だ。私が高みへと登る足がかりになれたのだからね。
そしてお前も……」
身動きが取れないまま体がふわりと浮き上がり、向かい合うような体勢になる。
レシオンはそっと手を伸ばし、愛しくてたまらないという風に僕の頬に触れる。
だけどその手は、氷よりも冷たく感じられた。
「触る……な……!」
「お前の体を手にいれ私は完成する……共に新たな世界となろう、パルメリス……」
彼は聞いたことも無いような言葉をつむぎ始める。僕の体を乗っ取ろうとしている!
救いを求めるようにザルカシュさんの方を見るが、助けてくれる気配はない。
その上、アニマとの同調まで止められてしまった。もう抵抗する手段は一つもない。
「お父……さん……」
レシオンの忌まわしい術が、【借体形成】の術が完成する……。

173 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/11/12(月) 00:10:21 0
体をレシオンの意識が侵していく。だんだん感覚が無くなっていく。
このまま何もかも、心までも消えてしまうのだろうか?
それだけはどうしても嫌だった。僕の心は、今までに出会った全ての人で出来ているから。
だから、強く願った。たとえ体を奪われても、心だけは失いませんようにと。

(出番や、伝説の英雄!)
借体形成が完成する瞬間、ザルカシュはアニマを持つ手を緩める。
感じる事すら出来ないほどの一瞬の疾風が吹きぬける。
次の瞬間、そこにあるはずの、今までレシオンが入っていた体は消えていた。
一方、パルメリスは目を開き、妖艶な笑みを浮かべた。
彼女、いや、彼に向かってザルカシュが吐き捨てる。
「上手い事いってよかったやないか。レシオン!」

『……リス……』
僕を呼ぶ声が聞こえる。
『パルメリス……!』
意識は消え去ってはいなかった。最悪の事態だけは免れたようだ。
さっきから話しかけてくるのは、風を纏う豹。
僕はフィーヴルムの上に乗っていた。体もちゃんとある。
ここで一つの疑問が浮上する。アニマが実体化するには誰かと合体する必要がある。
「誰!?」
なんか声がおかしいと思ったが気にしない事にする。
『えーと……実はパルの父親だったりする。
アニマの中に潜り込んでたんだけど気付かなかったかな?』
「えぇえええええ!? ホントに!?」
天地がひっくり返るほど驚いたが、今は驚いている場合ではない。
「レシオンは!?」
『あのバカはパルの体を乗っ取った!』
僕の体は乗っ取られたそうだ。じゃあこの体は何なのだろう。
慌てて自分の体を見てみると、どう見てもお父さんの体だった。
「……そんなバナナぁあああああああああ!?」
いつもより少し低いトーンの絶叫が響き渡った。

174 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/11/14(水) 21:24:26 0
トゥーラ遺跡内部、その光は突如現れた。その光が収まった時、そこには二人、異形の人が立っていた。
「一気に遺跡内部まで飛んじまったみたいだな」
レベッカが辺りを見回しながら呟いた。異形の鎧に包まれた男はただ黙って頷いた。
「なぁ、奴らどこら辺にいるかわかるか?」
その質問に言葉で答えず、手振りでわからないと答える。
「そうか、じゃあとりあえず下でも目指すか?」
その問いに男は頷いた。
二人は階下へと続く階段を探すため歩き始めた。
暫く経った時、男は立ち止まった。
「どうした?何かあったのか?」
レベッカが何事かと尋ねた。男は黙って指を指した。
その先には数十体の石像ゴーレムに囲まれた一匹の獣がいた。
「おのれ!!急がねばならぬと言うのに!!邪魔なゴーレムどもよ」
グラールは焦っていた。自分だけザルカシュによって別の階に飛ばされた意図を理解して急ぎ向かう途中だった。
だが急ぐあまり遺跡の侵入者防衛システムに迂闊にもはまってしまっていたのだ。
「助けるで・・・・何か知ってるかも知れへん」
その言葉と共に男は飛び出していた。
『いくで・・・・プロメテウス』
その言葉で鎧の胸の部分に赤い紋様が一瞬浮き上がった。
背中が開き強烈な風がその体を加速させる。その勢いを使い、一瞬の内にゴーレムとの間合いを詰め、そのまま殴り倒す。
勢いがついた拳は石の体を容易く砕いた。さらに体を捻り、次の目標を定める。
すぐそばにいたもう一体を殴りつける、そしてグラールを拾い上げレベッカの方に投げ渡した。
「な、何をするか!?無礼者!?」
レベッカにキャッチされたグラールは抗議の声を上げたが、
「ちょっと黙って、ここに入ってな」
レベッカの胸に押し込まれて、黙らざるを得なかった。
一方、ゴーレム数体に囲まれた男はその中心で自然体で立っていた。
「いくで・・・・プロメテウス、砲撃開始や」
その声と共に鎧が各所開き、まるで呼吸をするかのようにうごめき始めた。
手をゴーレムに向けてかざす。かざされたゴーレムが爆発したのが合図だった。
かざした手から閃光が走るたびにゴーレムが吹き飛ぶ、爆破する。
数分後その場には異形の戦士と残骸だけがあった。
「・・・・・鎧の調子はええようやな」
男はそう言いながら待っていたレベッカとグラールに歩み寄ってきた。
そしてそのマスクを取って大きく息を吐いた。それに合わせて鎧も大きく呼吸をした様な気がした。
男、リーヴの顔には複雑な紋様が刻まれていた。


175 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/11/15(木) 11:12:24 0
「さすが賢聖の弟子、お見事です」
静まり返った中にアオギリの拍手が響き渡る。
「いらん事言うな! これでええやろ? 早う約束のものを!」
黄金仮面に詰め寄るザルカシュだが、黄金仮面は何も言わずに宙空に佇んでいる。
代わりに答えたのは、レシオンだった。
「ああ、上出来だ。この体が大罪を受け付けない事ぐらい分かっていたよ。
だが私が創世の果実に辿り着くぐらいの時間は充分すぎる程ある!」
「……分かっとって入ったんか!」
ザルカシュは、宙に浮遊するレシオンを見上げた。
姿形こそパルメリスだったが、もやはその面影は無い。
その身から発するは、狂気と欲望と、ギラギラ光る刃のような意志。
二人を見下ろすその姿は、神々しささえも感じられた。
世界を滅ぼす邪神のような、新たな世界を作る創造主のような……。
「私を止めてみるがよい、お前の意志が正しいなら!」
そういい残して、レシオンは姿を消した。
「待ちい! レシオン!!」
慌ててレシオンの後を追おうとするザルカシュ。だが彼に、神速の槍が突き出された。
間一髪でよけたザルカシュの目の前には、アオギリが迫っていた。
「何するんや!? そんなことしとる場合か!?」
「レシオンなら私が行かずともパルメリス達が相手をするでしょう。
いつ裏切るか分からない貴方は消しておくことにしました」
ザルカシュは慌てて後ろの石像達を指差して言う。
「アイツら動き出すで!?」
アオギリは何の感情も込めずに淡々と答える。
「とてもよく出来た術です。もし私の目が見えていたなら騙されていたでしょう」
ザルカシュは自分の迂闊さを呪った。なぜ今まで気づかなかったのだろうと。
「お前、まさか……」
「そう、私の目は何も映してはいない」

176 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/11/15(木) 22:58:18 0
王城前に佇む漢が独り。
たった一人ではあるがその威容は万の軍勢、鉄の城壁をを彷彿とさせて止まない。
その醸し出す闘気によって周辺の空気が歪んでいるかのような錯覚をもたらすだろう。
ゴンゾウ・ダイハン。
この男独りただ立っているだけで、イアルコたちは一歩も進めないでいた。

「・・・何しにきた?」
不機嫌そうに口を開くが、その言葉を向けられたのはイアルコでも、スターグでもない。
その言葉が向けられた先は背後。
どこから降って沸いたか、一人の若者へとかけられたのだ。
「見届けに。」
「・・・それは俺の弟子としての言葉か?それとも主としての言葉か?」
「両方です。」
短い言葉のやり取りを経て、二人はふっと笑みを浮かべる。

「・・・あれは、ライランス・・・?」
目をぱちくりしながら呟くジェマだが、確証は持てないようだ。
確かに顔は見覚えがある、が、あまりにも唐突。そして突飛。
これから地獄のような戦いが起こるこの場に、クラーリア王国の命とも言える人物が現れる。
とても信じられないことだ。
その信じられない衝撃はイアルコとて同じ。
思わず振り向いてジェマの顔を見ようとした瞬間、背中に強い衝撃が走った。

じわりじわりと間合いを詰めに掛かっていたクラックオンたちを追い越し、よろけながらゴンゾウの目の前に立つ形になってしまったイアルコ。
背後ではメリーの足が突き出されていたが、そんなものを確認する余裕はもちろんない。
目の前に万夫不当の豪傑が臨戦体勢で立っているのだ。
恐る恐る見上げると、あからさまに不機嫌な顔が、視線が、イアルコを貫いていた。
共に頂点を極めたもの同士の立会いに割って入るにはイアルコはあまりにも力量不足。
そしてゴンゾウのとった行動は・・・一振り。
まるで試合会場のゴミを箒で払うような一振りだった。
殺すとか、斬るとかいったいとはない一振りだが、それでもゴンゾウが振るえば恐るべき一閃となる。
それは普段見なれたリオネの一撃を遥かに凌駕する速さと重さを兼ね揃えていた。
たとえイアルコの逃走本能が全開になろうとも逃れえぬ死の刃。
だが・・・白刃は宙を切り、イアルコは身体中の穴という穴からいろんな液体を溢れ出しながらチェッカサの前に転がり逃げていたのだ。

「ほう・・・。見届けるだけも退屈だろう。それはお前にやる。」
振り向きもせずにチェッカサにイアルコ抹殺を命じるゴンゾウの言葉はまさに死刑宣告。
目の前にいるチェッカサも頂点に近い力量の持ち主だとイアルコは瞬時に感じ取ってしまったのだから。
「メ、メリイイイ!!」
「言われずとも判っております!王子同士の戦いに手出し無用。そのくらいこのメリー弁えてございます!」
最大限の生命の危機を迎えたイアルコを前に、メリーはここぞとばかりに言い放つ。
まるでこの瞬間を待っていたといわんばかりに。

177 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/11/15(木) 22:58:31 0

こうして今、スターグとゴンゾウ、チェッカサとイアルコの戦いが始まる!
それぞれの闘気が交じり合い破裂する瞬間、王城前の床が消えた。
足を踏みしめる事も、手で掴む事もできぬままゴンゾウとチェッカサは落ちていく。
「この代償、高くつくぞ!!!!」
王都全体の空気を振るわせるゴンゾウの怒りの声を残し、二人は姿を消したのだった。

最強の敵のあまりにもあっけない消失に茫然自失とするイアルコだったが、他の者にとっては予定調和の出来事だった。
「ほっほっほっほ!いくら高くとも所詮は一個の武。戦術戦略の前にはただの駒でしかないのよ。」
ゴンゾウの怒りの声をさらりと躱し高笑いするのはアルフレーデ。
「見事な牽制でございました!・・・ッチ!」
「おおおぉい!!今舌打ちしたろ!ちょ・・・おま・・・!」

あくまで目的はジオフロント、ギュンター、そして、祖龍。
ジオフロントにたどり着くまでの最大の障壁に対する備えは十分にしてきたのだ。
『・・・急ゲ・・・幾許モ持タヌゾ・・・』
アルフレーデの高笑いとは対照的に、影劫空界の亜空間に閉じ込めたゴウガの声は震えていた。

あらゆる策謀、隠密行動をめぐらす影帝ゴウガは知っているのだ。
およそ戦いの場で対峙して、もっとも厄介なのは戦略・戦術の一切をねじ伏せ、ただ闘争の神に愛されているか如くにじり寄る者なのだ。
斬るものも踏みしめるものもない亜空間だが、それを内側から破る事すら・・・
そう、何の理もなく力づくで破る事すら想定に入れざる得ないのだから。

178 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/11/16(金) 20:33:51 0
「ご苦労様でした。確かに手紙をお預かり致しました」
そう言ってリオンから老婆は手紙を受け取った。
ここはラーナ教の総本山、目の前の老婆こそ教主、『マザーアイサ』その人だ。
マザーアイサはシスターキリアからの親書を読み、ため息をついた。
「わかりました、他の教団にも声をかけてみましょう」
「ありがとうございます」
リオンは頭を下げ席を出ようとした。
「あ、お待ちなさい」
席を立とうとしたリオンをアイサは引き止めて訪ねた。
「シスターキリアは、キリア様はご息災でしょうか?」
「キリア・・・様?」
アイサの問いに思わず疑問符が浮かぶ、その様子を見てアイサはにこやかに答えた。
「キリア様は先代教皇様のご息女です」
その後、アイサから聞いた話にリオンは少なからず憤慨する事になる。
前教皇の毒殺事件、身の危険を感じたキリアが保護を求めてきた事、暗殺者との戦い、など、
「ふぅ、少し話しすぎた様ですね」
アイサは咳込んで、話すのをやめた。それと共にリオンはその場から立ち去っていった。
その姿を見て、アイサは深いため息をついた。
「終末・・・・が来るか、来ないか・・・・・それは人しだいでしょうね」
その姿が闇に消えていった。

トゥーラ地下、2人と一匹はさらに地下を目指す。
「で、そのザルカシュっちゅうんが手を打ったちゅう訳やな?」
「うむ、その通りだ、手遅れになる前に辿り着かねばならぬ」
走る二人、胸に挟まってる獣王、
「なら急ぐで!!わん公、レベッカの譲ちゃん」
その言葉に残りの二人の足がぴたっと止まった。
「わん公?」
「レベッカ?」
がっしりとリーヴの頭を燃える腕が鷲掴みにした。
「誰がわん公だ!!」
「私はソーニャだ!!」
「ぎにゃーーーー」
一行は地下へと急ぐ・・・・・・・・・・。

179 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/11/20(火) 15:16:48 0
ナバル王城地下、ジオフロントへと続く道。
転移装置の置かれたフロアにまでは、直通のエレベーターが通っていた。
「……しかし、狭いのう。もっと詰められんのか?」「我慢しろ。これでも先発組よりかは快適のはずだ」
人数とクラックオンの体格の都合から、イアルコ一行は先発後発の二組に分かれて降りる事となった。
イアルコと一緒に乗っているのは、メリー、ジェマ、アルフレーデ、ダルゴス、アカイライ。
双子とスターグ、残り三体の十烈士は先に降りて進路を確保してくれているはずだ。
また何処かへと消えたゴウガが言うには、最深部付近は《大絶滅》時に生み出された有象無象の狂った龍達が住まう魔界
であるとの事らしい。
目指すギュンターと祖龍の下に辿り着くには、まだまだ苦労の積み重ねが必要なようであった。

「お〜い、縦ロール〜? どこじゃ〜? 出迎えくらいしてくれんと不安で不安でしょうがないぞ」
着いて程なく、先頭に立って呼び掛けるイアルコ。
数歩歩いて振り向くと、たった今降りたばかりのエレベーターに加えて、道連れ達の姿までもが消えていた。
「……ありゃん?」
この奇妙な感覚には覚えがある。ジョージら赤鱗属が得意とする、幻のブレスに拠るものだ。
つまり、何者かの幻術によって分断どころか孤立させられたというわけ。
「足を止めずに、そのままチャッチャと先に進んで、――ほら、行った行った」
立ち尽くして膝を震わすイアルコに掛けられた声は、こんな時にあってすら明るい道化の響きであった。
「シファーグか!? って、お前緑鱗属じゃろうが! 幻術なんぞどっから仕入れた!?」
「イフタフ翁の計らいで。似合わぬ無理をしているのですよ。ああ、小生ともあろう者が、なんと嘆かわしい!!」
「なるほど、六星併用とかいうアレか。という事は、ボケ老人とクソ親父もすでに御到着かの?」
この我が身可愛さの塊が、負担の大きい秘術を受け入れるなど……ここが正念場という何よりの証であろう。
三者の狙いが何なのかは知らないが、少なくとも自分にとってロクでもない事なのは間違いない。
「ええ、この先で晩餐の支度をなさっておいでですよ。……招待客は、君一人だ」
「これでも龍人貴族のはしくれじゃぞ。後生じゃから、使用人の一人くらい――」「聞こえない聞こえない〜〜♪」
急かされるイアルコにできるのは、とにかく助けの手が来るのを待つくらいなもの。
浮かんでくる、信頼もへったくれもない道連れ達の顔は、恐怖と裏返しの頼もしさに溢れまくっていた。

ジオフロント、最深部手前――祖龍の間。
閉じ込められた祖龍アンティノラの魂より発せられる波動は、公王ギュンター・ドラグノフの身に無敵の加護を与えていた。
肉体の疲労、精神の疲弊を取り払い、常なる最高潮をもたらすそれは、彼から睡眠という安寧の時を奪い去って久しい。
眠れない事に対する焦燥を、陰鬱に落ち込む思考を、やはり波動が拭い去る。
よって、絶好調。
そんな状態は異常である。
ここに引き篭もって十日足らず、ギュンターの心は異常なるがままに張り詰めていた。
「眠れない方がいい。オレぁずっと悪夢ばっか見てたからな。寝苦しかったよ……いつもいつも…………」
「心中お察し致しますわ。――お兄様」「…………」
「ですが、ここは悪夢の腹の内。お兄様を苦しめ続けていた元凶の御前ですわよ?」

誰もが、彼に期待していた。みんな、彼を信じていたかった。
「……………………お前…誰だ?」
魅力と才気に彩られた彼ならば、祖龍の呪縛に打ち勝ち、必ずやセフィラに真の融和をと…………。
「やはり貴方は、負けたのですね。……宿命に」
兄の弱さを知っていた妹は、情け故に下せたなかった両の拳を握り締めた。

180 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/11/21(水) 23:20:41 0
ガナンが落ち、その周辺の街は避難したガナン市民で溢れていた。
負傷した兵士や、体の弱い老人など、龍人、人間その他の区別無く身を寄せ合っていた。
彼らは理解したのだ、頭ではなく直接体で、非常時に種族、どうのこうのだと意味の無い事を
その最たる体現者は今、静かに相棒と共に先の戦いの戦死者を弔う鎮魂歌を奏でている。
夜の帳が落ちんとしているこの街にやけに澄んで響いた。
「もう、あのまずいサラミも食えないのか・・・・」
「仕方ないじゃろ・・・・全部どうこうは出来んしのぉ」
モグラの爺さんとブルーディはひとしきり鎮魂歌を奏でた後、粗末な墓を立てた。
いつも通っていたバーの主の墓、ガナン襲撃の際、犠牲になった。
ため息をついて、ブルーディはアルトサックスをまた持ち上げ奏で始めた。
その調べは辺りを優しく包み込む。疲れ切った人々をその音色で癒していった。
世を斜めに構えて見てるとは言っても腐ってはいない。せめて自分が今出来る事をするだけ、
そこには心の底に隠された思いが宿っていた。
「素晴しい、演奏ですね」
ふいに声がした。目の前にいつ現れたのだろうか、龍人の女性が立っていた。
「ああ、凄い心に響く演奏だ」
本当にいつの間にいたのだろうか、龍人のその後ろにも二人の女性がそのうちの一人は見た目から獣人とわかる。
「あんたら、いったい?」
無意識の内にローラを持つ手に力が入る。
「私達は貴方の力を貸して頂きたい者です」
心臓の警戒音が不気味に響くようだった。多分、目の前の女性は嘘は言っていない。
だが、とてつもなく命に関わるようなヤバそうな事が待ち受けてる。直感で感じた。
「・・・・・何のために?」
「世界を救うため」
やっぱり感じた通りだと思った。とんでもない事を平然と言ってきた。
「・・・・・本気かよ?」
言葉ではそう言ったが彼女の目は本気そのものだった。それを見逃すブルーディではない。
女はブルーディの視線を気にせず言葉を続ける。
「そして、世界を変える為に、音と信念で」
だったら見せてもらおうか。その信念と根拠とやらを、ブルーディはローラを黙って口元に持ってゆく。
そして、激しい戦慄を奏で始める。
『嵐のサキソフォン』 この曲が奏でる旋律は暴風となって相手を襲う。
瞬間、後ろに控えていた二人が動いた人間の女性が前に進み出て、龍人の女性が下がる。
ブルーディは目を見開いた。龍人の手には見た事も無いリュートの様な弦楽器が、人間の女性はこちらも変形したギターだろうかが握られていた。
二人がその楽器をかき鳴らす。人間の女性は激しく扇情的に力ある歌を歌って見せた。
二つの力がぶつかり霧散した。ブルーディは自然と笑みがこぼれているのに気がついた。
「世界を変える力ってのはその術歌の事なのか?」
「いいえ、もっと大きいものよ」
笑いが止まらない、久しく忘れていた気分の高揚だった。
「貴方の魂(ソウル)を最高の舞台にぶつけてみない?」
今度こそブルーディは高らかに笑った。長年待ち望んだ、自分の為の最高の舞台が見つかった瞬間だった。



181 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/11/22(木) 11:26:20 0
どこからともなく笛の音が響き渡る。遠くから聞こえてくるのに澄み切った不思議な音。
突如として鳴り響く轟音。凄まじい振動と地面が浮上するような感覚。
ザルカシュはよろめきながらも薄く笑うアオギリに問い詰める。
「何をしたんや!?」
「私は何もしていませんよ。あの笛の音がこの遺跡を起動させた」
「そんな事が……」
そう言いながら、ザルカシュは急激に意識が遠のいていくのを感じた。
槍に毒が塗ってあったのだとすぐに思い至る。
「驚くほどの事ではありません。紅き龍は歌の支配者でもあった。
ここは音に統べられた都市……もう説明する必要は無さそうですね」
「貴様……ッ!」
アオギリに掴みかかろうとして、そのまま倒れて意識を失うザルカシュ。
アオギリは黄金仮面に尋ねた。
「これでいいですか?」
しかし返事は返ってこない。黄金仮面はいつの間にか姿を消していた。
「……よい事にしておきましょう」
槍をしまい、その場を後にする。
槍には確かに毒が塗られていたが、殺すためのものではなかった。
相手を深い眠りに落とす霊薬だ。

『レシオンを追うぞ!』
「うん、分かった!!」
そう言って走り出した直後、僕は床に倒れ伏した。といっても大した事ではない。
長いローブの裾を踏んで見事に転んだのである。無駄に長い髪がお化け状態になる。
そもそも何で悪くて偉そうな人というのはこの手の格好が好きなのだろうか。
「邪魔ッ!」
『私じゃなくてレシオンのセンスなんだから仕方ないじゃないか! はいこれ』
フィーヴルムの姿をとった通称ロマン戦法の人が剣を渡してくれた。
その時、入ってくる者がいた。半人半馬の美青年である。
「うわああああああ! 何か来た!!」
『モタモタしてるからだ!』
しかし、僕たちが大慌てしているのを全く気にしていないように、彼は制御装置を操作する。
モニターに外の様子が映し出された。
この遺跡は浮上していて、どこかに向かって移動を始めたようだ。
そして彼は、僕たちに向かって声をかけ、別の画面を映す。
「レシオンは封印を解くために最上層に向かっています。早くお行きなさい」
行き止まりのような場所に、僕の姿をしたレシオンはいた。
何を思ったか、彼は笛を吹く。どこか不気味で、でも神秘的な旋律。
そして、何もない空間に光り輝く階段が現われ、レシオンが上がっていく。
そこで僕はある事に気がついてしまった。
意思を持つはずの暁の瞳がレシオンの手の内に落ちてしまったのである。

182 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/11/22(木) 22:10:53 0
鳴り響く轟音と振動の中、遺跡内を駆け抜ける二人と一頭。
その最中、突如としてリーヴが足を止める。
「どうした!?」
「・・・ああ、ちょっとな。先いっとってや。」
数歩行き過ぎたところでソーニャが止まり、声をかける。
一刻を争う中、返ってくる答えはずいぶんとのんびりとしたものだった。
そう、まるで懐かしむような響きを持つ声。
「・・・・・・・わかった。」
数瞬考え、ソーニャは短く言葉を残して駆け出した。

ソーニャの背中を見送った後、リーヴは跪き、床にそっと手を当てる。
「・・・見える、見えるで。・・・ここや!」
ぐぐぐっと力を込め、床に拳を叩きつける。
技でもなんでもない。ただ単純なる拳撃。
しかしその威力は床にクレーターを作り、大きな亀裂を部屋中に走らせた。
数秒後、轟音と共に床は抜け、瓦礫と徒にもリーヴも落ちていった。


突如として天井が割れ、大量の土砂と岩が降り注ぐ。
ジンレインたちをかたどった石像は崩れ、元の岩へと還っていった。
土煙のあがる中、体勢を崩す事もなく降り立ったリーヴは辺りを見回し、瓦礫の下敷きになっているザルカシュを発見した。
死んではいない、が、ぴくりとも動かないその傍らで睥睨する。
「・・・生みの親と再会やな。
今ならわかるで。あんた、めちゃくちゃ怖かってんな。
仲間が傷つくんが、戦いが・・・それでもやらなあかんちゅう、なんとも世知辛いこっちゃ。」
ザルカシュの手によりスターグの力を得たリーヴ。
想いの力の影響か、ザルカシュの大まかな場所や、心理が読み取れるようになっていたのだ。
そして知ったのだ。
大司祭と呼ばれ、森羅万象あらゆる魔術を極めたこのリザードマンは自分と同じなのだ、と。
戦い、傷つく事、傷つける事を恐れながらも戦場に身を置くしか選択肢のないその苦しさを持っている。

「まったくやな。
それに・・・しても・・・さ・・・すがワイの師匠や・・・。
タイミング遅い上に・・・趣味・・悪いで・・・。」
リーヴの呼びかけに応えるように応える声が弱々しくも上がる。
強力な毒を撒き散らさずにはいられないバジリスクであるザルカシュである。
毒への耐性も強く、更に毒の存在に気付いたと同時に解毒酵素生成を行っていたのだ。
とはいえアオギリの毒も強力で、未だ体を動かすには至らずにいた。

「状況も何もさっぱりやけど、急ぐんやろ?」
「ああ・・・あっち・・・や。」
ザルカシュの上の瓦礫をなぎ払い担ぐと、朦朧としたザルカシュの指し示す方へと駆け出した。

183 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/11/22(木) 22:11:03 0
その頃、別室にたどり着いたソーニャとミニグラールの手によってジンレイン達の呪縛が解かれていた。
鳴り響く轟音と激しい振動、そしてその中でもはっきりと通る笛の音。
状況のわからない一行の中で、ただ一人その答えを得ている者がいた。
「どうやら間に合わなかったようだな。遺跡が起動した。」
「どゆこと?」
それからかたられるエドワードの言葉は衝撃的なものだった。
灼熱都市トゥーラ。ゼアドの西に広がるデュミナ大海のど真ん中の火山島、ボレア諸島。
その火山そのものがトゥーラの内燃炉ということを。
そして今、笛の音を以って遺跡を動かしているのだ。

「音で制御?火山ごと移動?地脈やマグマの道とか・・・信じられない。」
「この都市の守護は紅星龍イルヴァン。そのくらいできるだろう?そこのお二人さん。」
当然の疑問を口にするジンレインにエドワードはハイアットとディオールに水を向ける。
ハイアットは答えはしなかったが、その表情が事実だと雄弁に物語っていた。
そしてディオールも、知識ではなく、本能としてそれが事実だと悟っていたのだ。

「こうなったら俺達の行き先は中枢じゃなく、最上層だ。」
「ちょっと待て。その前に、あんたなんでそんなこと知っているんだい?」
「企業秘密、さ。だが炎の爪殿のご執着もそこにいるだろうさね。」
ソーニャの言葉に振り返りもせず答え、上層へと歩みだすのだった。

184 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/11/24(土) 18:13:55 0
「やあ、イアルコ仮面! 毎日のトレーニングとプロテインは欠かしていないかね?」
「……生憎と余は努力という奴が嫌いでのう。実らんとわかりきっているのは特に嫌いじゃ」
「それは残念! 親御さんが泣いているぞ!」「いい加減、ごっこ遊びはやめにせんか?」
笑顔のまま大げさに肩をすくめ、マスクに手を掛けるトルメンタ。
正体なんぞ最初からバレバレだ。吐き気を催す父の顔である。
転移装置を用いて先回りしていたのだろう。イフタフ翁ならば片道の装置くらいは作れて然るべきなのだ。
「クソ親父め、生かしておくべきではなかったな」
「愛する息子よ、殺されてやるべきではなかったかな?」
こういったやり取りも、実に久しぶりのような気がする。嬉しくもない感慨だった。
「しかし、いくら何でも気付いただろう? 殺してやる他にギュンターを救う術はない。わかりきった答えに行き着くのに、
随分な時間を要したものだな。……まあ、我輩としても楽しい旅路ではあったがね」
「そうじゃな。その方法も一つしかない」
祖龍を殺す、ギュンターの不死身の原因を断つしかないのである。
「問題は、その後じゃ」
力の大元たる始祖が死んでしまっては、六星龍とて無事ではいられないだろう。
彼らの祝福によって龍人として存在している者達は、その根源を失う事になるのだ。
ブレスやら優れた身体能力を失うだけでは収まらない。人間並みなど楽観的だ。獣以下にまで落ち込むことにもなりかねない。
「わかっておろう?」
イアルコは、それを甘んじて受けると覚悟したのだ。龍人史上最悪最後の罪人になる覚悟をである。
世界を救うためではない。馬鹿で哀れな恋敵を救うため。
動機は違えども、同じくギュンターの死を願う父の心はどうなのだろうか?
「……まあ、この父に任せておけ」
確実に、違うであろう。
「パパルコよ、親子の再会はそのくらいにして、先を急ごうではないか?」
「小生も同意見です。マリオラ殿は勝つでしょうが、勝ち続けられる保障はない」
この三者は、絶対に善からぬ事を企んでいるに違いないのだ。

「歳は食っても衰えはせず。――どころか、ますます磨きが掛かってるにゃあ」
「歳は余計よ! 白髪猫!!」
見守るクロネの呟きにマリオラが叫び、拳を繰り出す。
鳩尾を打たれたギュンターの体は、胸骨が砕ける音と共に垂直に崩れ落ちた。
「でも、ありがと! おかげでしんみりせずに済みそうだわ!」
すぐに立ち上がる不死身の公王の剣を、軽やかなステップでかわすマリオラ。
それと同時に放たれる、数十発のカウンター。
弛まぬ全身運動で占位を変え、もたらされる自由自在の射角より、拳という弾丸を打ち出し続ける格闘技。
舞い刺す動きは、華麗にして苛烈。
一人の渡り人に授かったそれは、確か【零Gボクシング】といったか?
豊かすぎる才に溺れ、決まって研鑽を怠る竜人王の血筋にあって、師を頂いて鍛錬を重ねたマリオラは例外中の例外である。
理想的に磨き上げられた至高の原石、それがマリオラ・ハイネスベルンという女なのだ。
十二貴族の誰と比べても圧倒的な彼女の実力は、間違いなく龍人最強であると言えた。
あのギュンターとて例外ではない。戦いは一方的だった。
「痛てええええぇぇぇぇえええ!! 痛てぇよ畜生おおおおおおおおおおおっ!!!」
だが、この不死身に敗北はない。
十数回目の死と再生で半狂乱になったギュンターが、駄々っ子のように剣を振るう。
マリオラは、ただ無情にそれを打ち抜いた。

185 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/11/26(月) 22:44:15 0
リーヴの背に乗り、急ぐザルカシュ、しかし彼は気になる事があった。
「なぁ、こないな短期間にどないして復活したんや?」
リーヴは答えない。変わりに鎧の継ぎ目を指差した。
怪訝な顔つきでザルカシュは指差された箇所に目をこらす。するとどうだろうか、まるで鎧そのものが呼吸しているではないか。
「なぁ!?お前さんこれは」
「生きる鎧(リビングアーマー)プロメテウス・・・・・アーシェラはんの業や」
リーヴは思い返す。あの日の事を、
レベッカは毒を抜き、強力な治癒結界に安置した。レジーナとロイトンの生き残りの神官が数名手助けしてくれたおかげで良く完治した。
ソーニャはシャミィの指導の下、炎そのものを自分の体に取り込み、それを媒介に回復した。炎の化身と化した彼女だからこそ出来た事だ。
そして、自分は・・・・・・・
「手の施しようが・・・・・無いです・・・・」
アーシェラの無情な言葉が朦朧とした意識を揺さぶる。
「ここまで全ての生命力を限界まで酷使しては・・・・・傷はどうとでもなりますが・・・・」
「心臓を打ち付ける力も出ぬかの?」
「はい・・・」
それぞれ己の分担が終わって酷くてこずってるアーシェラの助けに来た。
「我が弟子ながら随分な事をやってくれたもんじゃの」
額に手をあてシャミィが天を仰いだ。
「ひとつだけ・・・・一つだけ方法があるのですが」
アーシェラの提案した方法はまさに外法だった。これを施術すれば確かに命は助かるだろう・・・・・しかし・・・・
「そこまで行くと人では無くなるのぉ・・・・・・・」
シャミィは呻いた、命は助かっても人としての生は消え失せる。本末転倒だ。
だが、その皆の重い雰囲気を壊す男がいた。リーヴ本人だった。
「なんや知らんけど、助かるなら何やってくれてもええで」
気力を振り絞り、言葉を発する。そして、彼は生き返った、いや、生まれた。新たな生命として。

「この生きたアーマーのコアとしてワイは生まれ変わったんや。さしずめアーマーマンやな」
「ほんま、けったいなこっちゃで・・・・・あとその名前センスないで」
「ほんま?
遺跡は鳴動を続ける、二人はとにかく合流する為に急いだ。その道中でザルカシュが、
「ほんま、すまんかったで」
と聞き取れない小声であやまったのは闇だけが聞いていた。

186 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/11/28(水) 00:48:20 0
去り際にケンタウロスの青年のほうを振り返る。
何か違和感を感じる。何の感情もなくて、まるで心をどこかに置いてきたような感じ。
「ありがとう」
それだけ言って、その場を後にした。

――お前の心の奥に我が糧となるものがあるからだよ
先刻までのレシオンの姿をしたパルメリスを見送り
不意にレシオンの言葉がアオギリの脳裏に甦る。
「そんなものは無いはずなのに。世界率とやらのせいですかね……困ったものです」
調停者は、人の心に付け入って歴史を操作する。
だから、運命に抗うために、彼は心を封じたのだ。
全てが終わるまで、決して取り戻さないと誓って。

アニマを握り締め、レシオンのもとへ向かう。
「ところでいつからそこに入ってたの?」
『最初からずっと。表に出ないようにあのリザードマンに抑えられてたんだ。
ここぞという時まで敵に感づかれないように』
最上層の手前までの道程は、驚くほど順調だった。
まるで何かに導かれるように光り輝く階段の前までたどり着く。
さっきレシオンが実体化させていたものだ。上を見上げると、ずっと上まで続いていた。

∴虚無を知る者よ、精霊の支配者よ、我が元へ来たれ……∴

不思議な声が聞こえたような気がした。この先にあるものが僕を呼んでいる。
何かは分からないけど、きっととてつもない何かが……。
『パルメリス、お願いがあるんだ』
「何?」
『レシオンをあんまり恨まないでやってくれ』
「……うん、頑張ってみる」
僕だって憎しみからは何も生まれないことは身をもって分かってる。
意を決し、最上層へと至る道にそっと足を踏み出した。

187 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/01(土) 20:48:10 0
トゥーラ最上階・・・・・パルス達が到達した時すでにレシオン達の姿は無かった。
「くそっ、遅かった・・・・」
目の前に広がる漆黒のゲート、それがあるばかりだった。
「まだ・・・まだ追いつけるはずや!!」
先行していたパルス達の背後から声が響く、ザルカシュとリーヴが追いついた。
「ゲートを通っても最深部にはまだ長い道が続くんや 追いつける可能性はある」
誰かが頷いた。連鎖する様に皆が頷く。黒騎士を先頭にゲートに突入していった。

「・・・・・・・・・・」
全身が動かない、まるで何年も寝たきりだった様な感覚だ。
頬を涙が伝う。
(俺は・・・・・・結局、何も出来なかった)
後悔が心を押しつぶしそうになった。
『生きろ!!』
取り戻した意識が最初に聞いた言葉、そして、意識を手放す前に聞いた最後の言葉
(くっ・・・情けない!!)
気力を振り絞り体を持ち上げる。周囲は不可思議な紋様に彩られた通路だった。
「どこだ?ここ?」
まだ軋む体を引きずりながら見回す。幾何学的の様でもありまるで何か巨大な生き物の中の様でもあり・・・
リッツは頭をフル回転させた。
まず、自分の中に巣食っていた魔物の気配を感じない事、気を失う寸前、あの闘いの中知り合ったエルフと出会った様な記憶、
そして、ホッドに託された命・・・・・・
いや、まて、何故そんな事を俺は知っている?漠然とした感情が湧き出る。俺はあいつに何をした?
答えは出なかった。ここ数十日の記憶が抜け落ちている・・・・・・だけど、何故か確信があった。
俺は・・・・なんて事をしちまったんだ・・・・。
頭ではなく心で理解出来た。
しかし悔やんでもいられない。
「本当にどこなんだココは?」
耳を澄まして風の流れを呼んでみる。どこからか話し声が聞こえてきた。
話し声が聞こえるなら人がいる・・・・いや、人じゃないかもしれないが・・・・・
ともかく、リッツはその方向に向かって歩き始めた。

ーーーーーーーー最深部、最終決戦の場へーーーーーーーー


188 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/02(日) 15:37:47 0
一行が最上層にたどり着いた時、徐々に壁が砕けて欠片が落ち始める。
遺跡は静かに崩壊を始めた。
「急げ!」
一行は次々とゲートに入っていく。最後にリリスラがゲートに入ろうとしていた。
しかし、彼女は何かを考えるように立ち止まる。結論は一瞬で出た。
「あのバカが……世話やかせやがって!」
彼女は元来た道を引き返しはじめた。自分の身の危険も省みずに。
そして、崩れゆく遺跡の中、佇んでいるアオギリを見つけた。
「来るな!」
鋭く、しかしわざと狙いを外した矢がリリスラのほんの少し横に突き立つ。
淡々とした、だけど冷たくは無い声で告げる。
「なぜ来たのです? 今ならまだ間に合う。早くお行きなさい」
「何考えてるんだ!? 早く来い!」
アオギリはゆっくりと首を横に振る。
「リリスラ……世界率が移り変わるときが唯一の機会です。
必ずや祖龍を倒し獣人族の世を……あなたの歌ならそれができる……」
リリスラは、アオギリの様子がおかしいことに気付いた。
とても儚い感じがした。今にも消えてしまいそうなほどに。
落ちてくる瓦礫を気にもせずに駆け寄る。
「どうした!?」
リリスラは倒れるアオギリを抱きとめる。アオギリは弱々しく微笑んだ。
「運命に抗うために……心を長い時間封じすぎてしまった……。
運命の支配者をうまく欺けたなら良かったのですが……」
「しっかりしろバカ! 心をどこに封じた!?」
リリスラの必死の呼びかけもむなしく、アオギリの意識は薄れていく。
「ありがとう……でももういいんだ。時間がない……さあ早く……
君の歌が無くちゃ……話にならないからさ……」
「バカ! 行けるわけ無いだろ!!」
リリスラがそう言った時、アオギリはすでに意識を失っていた。
「おい!? アオギリ!」
その時、一際大きな轟音が響いた。上を見上げると、天井が落下してきている。
「……まずい!!」
全てが崩れ去っていく……。

――最深部へ至る道――
レシオンが最深部にたどり着いたらおしまいだ。僕はみんなに告げる。
「みんなゴメン。少し先に行くよ。おとーさん、アニマの制御お願い!」
『ああ、こっちの制御は私に任せて思いっきりぶつけてやれ!』
風をまとい、フィーヴルムと同調を始める。
「無茶や! 危険すぎる!」
必死で止めてくるザルカシュさんの手を風のようにすり抜け、文字通り風となって駆け出す。
欲望に負けた、哀れで愚かなエルフの王のもとへ……。

189 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/02(日) 23:40:20 0
――神々が地上に降り立った時、この世界は龍が支配していました。
  彼らは、龍人を人間に作り変えていき、やがて人間の時代が始まります。
  しかしただ一人、それを止めようとした神がいました。
  異分子の烙印を押された彼女は、他の神々によって封印されてしまいました。
  彼女は今も、深い深い森の奥に眠り続けています。

リオンとトカゲ団が乗る痛馬車は最後の目的地に向けて走っていた。手がかりはただ一つ。
シスターキリアから聞いた、神話といっていいのかどうかも疑わしい御伽噺。
「これこそ困った時の神頼みだなあ」
「どっちかっていうと溺れる者は藁をも掴むのような……」
「いやいや、信じる者は救われるだよ!」
つい本音をこぼすトカゲ団の面々にリオンが力説しつつ、馬車はひた走る。

その頃、レミリアが率いる暁旅団は牛のような歩みで移動していた。
どうして牛歩かというと、オバカな団長がペガサスを全部連れていってしまったので
徒歩による移動を余儀無くされていたのだ。
ロックブリッジで、メガネ君ことエドワードから謎めいた依頼を受けて、とある場所に
向かっているのだがこのままじゃ目的地に着く前に世界が崩壊しそうである。
「疲れた……」
「馬車でも通りかからないかな?」
「そんな都合良く馬車が来るわけ……キターーーーー!!」
しかもどんどん近づいてくる。
「ホントだ……しかも痛馬車だ!!」
「みんな、ヒッチハイク用意!」
レミリアが号令をかけると、団員達が手際よく“乗せてください”などと書いた紙を
取り出してスタンバイする。

一方、痛馬車の面々も前方に変な一団がいることに気付いた。
「なあトム……謎の遠足みたいな集団が……」
「うん……。気付かない振りをしよう……」
「ええ!? かわいそうだよ!」
「あんなの相手してたら身がもたないだろ……」
4対1の多数決で無視決定。出来る限り速度をあげ、謎の集団の前を通り過ぎていく。
「「「「ああーーーーーーー!!」」」」
ヒッチハイカー達の絶望の叫びもどこ吹く風。
そのまま遠ざかっていくと誰もが思った矢先だった。
馬車のすぐ前を横切ろうとする人物がいた。
「トム君、前見て、前!!」
「ぬわーーーーーーーっ!」
リオンが叫んだ時には遅く、見事に激突した。
次の瞬間、馬車はぴたりと止まり、乗っていた5人は爽やかに空中に舞い上がった。
普通ならはねられたはずの人物はその光景を見ながら平然とチョコレートを食べている。
「えーと……何か当たった?」
皆が呆然とする中、レミリアがガッツポーズ。
「ナイスタイミングよ、ミニャ!」

190 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/12/03(月) 02:24:38 0
停止する心音、砕ける鼓動。
再び脈動を始める、龍人王の心臓。
死なない。死なない。死なない。死なない。
「うるぅろらっがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
死ねない。死ねない。死ねない。死ねない。
もう百を超えようかという繰り返しの死に目、殺し目に、さすがのマリオラの肩も上下し始めた。
戦うだけなら三日三晩、不眠不休でこなせる女傑も、相手がギュンター程になれば話は別である。
兄も化け物なのだ。そんな奴と何百回も休みなく命のやり取りなどして、スタミナを保てるわけがない。
対するギュンターの、衰えなしの絶好の剣が一閃する。
スウェーバックでかわすマリオラ。
……だが、ほんの微かに鈍っている。
観戦するクロネの慧眼は、彼女の疲れを見逃さなかった。
濁り切った意識と瞳のギュンターも、本能的な洞察力でそれを察知し、追い進む。
無理な運動でブチブチと切れる足の筋などお構いなしに、頭から行く。
「ぐぅぅぅるるるるっぅぅぅぅっが!!!」
マリオラを捕らえたのは、剣ではなかった。
――――牙だ。
収めた剣技も、ブレスの術も忘れ果て、獣のように食い付いている。
大天才が遊び半分で覚えた技術など、こんなものなのだろう。気持ちのままに垂れ下がるクロネのヒゲ。
五体に染み付き、魂にまで刻まれていない。容易く忘我に呑み込まれ、捨てられてしまった。
肩の肉を持って行かれがら、マリオラがショートアッパーで突き放す。
本来なら肉を切らせて……となる一撃だが、この場合に限っては、まったくの切られ損であった。

「やあ、お見事! お見事!」「うむ、グッジョブだ!」「上手い具合となっておるな」
拍手と共に快活な三者の声が、祖龍の間に響いた。
久しぶりに見るギュンターの変わり果てた姿に何かを思う間もなく、歯を食い縛るイアルコ。
「……な…な、んじゃこりゃあ…………っっ!?!?」
耐え難い程に熱く、ドス黒いものが、心と体に注ぎ込まれているかのようだ。
「ふむ、やはりな。共鳴しておる」「そして、祖龍は迷っていますな」
黄金の鱗は、祖龍の祝福を受けた唯一人に授けられる、唯一枚の証である。
その一人が死ねば、次なる龍人王の血筋の者へと鱗は移る。
つまり、この場合はギュンターが死ねば、彼の実子のイアルコへという事。
イフタフ翁の施術によって半ば無理矢理に発現させられたとはいえ、イアルコの鱗もまた、素養を秘めた本物なのである。
たった一人に与えられるはずの無敵の加護は、今二人へと分かたれ、その力を弱めていた。
遥か昔、イアルコが生まれた時から計画されていた、好機の一つ。
脱力に揺らめくギュンターの顔面に、マリオラの拳が入った。
「マリオラ殿、手伝いましょうか?」「……これだけは、私一人でやる約束よ」
言いながら、手を休めずに兄を打ち尽くす妹。
「そうでしたな。――では、入念にそれを潰しておくように。お願いしますよ」
要はしばしの間、ギュンターを封じておければそれでいいのだ。
三者は勝利を確信した尊大な歩みで、閉じ込められた祖龍の魂を囲む位置に立った。

傍観を決め込んでいた黒猫のヒゲが、跳ねるようにピンと張った。
「……来たのか。友よ…………」
呟きに込められていたのは万感だ。ただ、信じられぬという想い。
「……アア。待タセタナ、友ヨ」
「許してくれ。待ち侘びながらも…拙者は、お主がここに辿り着けるなどとは……信じておらんかった」
真ん丸の瞳から涙を流す友の向こうに、煉獄の志士は果たされるべき誓いの果てを見た。

「はて? 君達には龍の巣を抜ける、最も険しい道筋を用意してあげたはずなのだがね?」
「そんなもの、何もかも潰してきて差し上げましたわ」
対峙する三者と、イアルコ一行。
同じ祖龍抹殺のために動きながら、決して相容れぬ者達が、火花を散らして睨み合った。

191 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/05(水) 10:42:55 0
「それにしても行き先が一緒だったなんてラッキーだったね〜」
「そうだね〜」
強引に乗り込んできたヒッチハイカー達とすっかり仲良くなってしまった
リオンを尻目に、トム達は頭を抱えていた。
「全然ラッキーじゃないし……」
「うん……」
100人乗っても大丈夫な痛馬車は、クラーリア王国南部の森の中を走っていた。
行けども行けども何の変哲もない森である。
「やっぱり何もないんじゃ……」
トカゲ団がそう思い始めたころだった。レミリアが唐突に言った。
「少し止めてみて。多分この辺だと思うの」
彼女は、大きな手甲のようなものを装着し、起動させた。
依頼をうけた時にエドワードから借り受けたオリジンスキャナーである。
「出ました! メガネ君の秘密兵器!!」
現われた非実体の刃を一閃すると、空間が砕け散る。
次の瞬間、一行の目の前には巨大な遺跡が現われていた。
「「「「な、なんだってーーーーー!?」」」」
腰を抜かすトカゲ団と、盛り上がる暁旅団。
「メガネ君が言ってた事本当だったんだ!」
「……ここは? 貴方たちは何か知ってるの?」
リオンの問いに、暁旅団の面々が口々に答える。
「ここは迷宮の森って呼ばれるようになる前は六星都市の一つだったらしいんだ」
「その名は森林都市シャッハ。最初はこっちが翠星龍の都市だったけど
神様たちに占拠されたから都市機能を停止してガナンに遷都したんだって」
「今まで誰も気づかなかったのに思ったよりすぐ見つかったねー」
ガナンの崩壊によって一部が地上に出てきたからなのだが、彼らが知る由も無かった。

192 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/05(水) 10:44:05 0
「レシオン! 貴様の野望はここで終わりだ!!」
レシオンは、予想したどんなものともちがう表情で僕を見つめた。
彼は、僕を哀れむような慈しむように微笑んでいた。
「来ると思っていたよ、パルメリス。お前を倒すのは忍びない。
一度だけ聞こう。私と共に新たな世界になる気はないか?」
一歩間違えたら引き込まれてしまいそうな気がして、全力で拒否する。
「貴様と一緒にするな!
僕は……世界を犠牲にしてまで全てを手に入れようなんて思わない!」
レシオンは声をあげて笑った。
「何がおかしい!?」
「お前は本当に私に似ている……。だから一つ教えてやろう。
この体は本来大罪の魔物を受け付けない。少し私を足止めできればお前の勝ちだ」
お父さんはさっきから耳を貸すなっていってるような気がするけど
僕はレシオンの話に聞き入っていた。そうさせる何かがレシオンにはあった。
「どういうこと……?」
「この体は前に大罪を宿した事があるからだよ。
一度宿主となった者には耐性ができて二度と受け付けなくなる」
きっと本当だと思った。だからこそ信じたくなかった。
「……うそだ。騙そうとしても無駄だ!」
「嘘じゃない。信じる信じないはお前の自由だが」
「ふざけるなあああああああっ!!」
幾筋もの真空刃の衝撃波を解き放つ。相手が入っているのが自分の体だという事も忘れて。
いや、自分だからこそ切り裂いてやりたいのかもしれない、そう思った。

193 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/12/05(水) 23:35:52 0
レシオンにめがけ飛ぶ真空刃。
だがレシオンは微動だにしない。
ただ、あらぬ方向を見つめ一言。
「・・・来たか。」
その言葉に呼応するかのように吹き荒れる一陣の風が真空刃の全てをかき消してしまったからだ。

現れたのは数人の人影。
そのうちの一人はよく知っている姿だった。
そう、黄金の仮面。
しかしそのまとうローブはボロボロになり、黄金の仮面にはヒビが入っている。
黄金の仮面を取り囲むように現れた数人の影。
どの人影も尋常ではない力を持っている事を否が応でも肌で感じてしまう。
そう、この人影こそが十剣者であり、断罪の使徒なのだ。

その力を肌で感じてしまった事はパルスにとっては幸運だったかもしれない。
半ば錯乱状態に陥りかけていた意識が急速に冷静さを取り戻したのだから。

だが、乱入者たちはパルスなど眼中にないかのように動きを止めない。
『先に行かれよ。』
「そうさせてもらおう。パルメリス、お前もだ。」
黄金の仮面に促され、レシオンの背中が遠ざかっていく。
それを追おうとする十剣者もいたが、断罪の使徒が無言で制する。
レシオンに続きパルスもその場から移動するが、その力に当てられてか感覚が鋭敏になっていた。
ゲート内のせいか、すぐに黄金の仮面たちの姿は遠く見えなくなったが、そのやり取りを感じる事はできていた。


レシオンとパルスが去った後、黄金の仮面は動きを止め荘厳に語りかける。
『久しきかな、断罪の使徒よ』
「・・・・」
感慨深げに語りかける黄金仮面だが、語りかけられた断罪の使徒は応えなかった。
ただその威圧感は爆発的に膨らみ、周囲の空間すら歪ませ始める。
無言の圧力にマントをはためかせながら飄々と佇む黄金の仮面を見て、ようやく口を開いた。
「あれはどこだ?」
『くくくく・・・刻が至れば顕れよう。蝕の刻は間近。』
「プロジェクトエターナルか・・・!」
『それとも・・・また、セフィラごと滅するか?』
短いやり取りの中、十剣者はそれぞれに剣を構え、断罪の使徒も動く。
もはやその場のみが別空間のように歪んだその中で。


再び対峙ずるパルスとレシオン。
「プロジェクトエターナルって・・・なんなのさ!?」
「知らぬな。あれが何を思っていようが、もう関係ない。俺は世界となる!」
これ以上の問答はいらなかった。
ここに古のエルフの王と呪われしエルフの女王の戦いが始まった。

194 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/12/05(水) 23:36:02 0
「ガ・ハ・・・ハ・・・・ハ、ハ、ハハハハハハ!!!!」
祖龍の間に突如として響き渡る笑い声。
誰が発したのか、誰一人として分かるものはいなかった。
その声の主に最初に気付いたのはすぐ隣にいたディアーナ。
だが、その姿を見たとて俄かに信じられるものではなかった。
その笑い声の主がスターグなのだから。
数十秒にわたって響く笑い声に誰もが驚き、見入ってしまう。
その狂ったような笑い声に。そしてそのあまりにも意外な笑い声の主に。

そしてその笑い声他途切れた瞬間、スターグは動いた。
誓いの為、ただ誓いの為に。
あらゆる物を投げ捨て到達したのだ。
一体いかなる状況が、一体誰であろうが、このスターグを留める事ができるというのだろうか?
祖龍を前にし、ありとあらゆるものがスターグをとどめるに値するわけがない。
そのタイミング、その速度。
たとえ虚をつかれていなくとも誰も止める事はできなかっただろう。


油断していたわけではない。疲れがないといえば嘘になる。スタミナも集中力も体調も万全とは言い難い。
だがマリオラに隙は微塵もなかった。
しかしそれでも、マリオラは感じる事ができなかった。
目の前のギュンターがどう動いたのか。
そして何故自分が倒れているのか、を。

スターグが動いた瞬間、それは祖龍にとって最大の危機。
その危機に呼応してギュンターとイアルコに注ぎ込まれる祖龍の加護は最大限のものとなる。
もはやギュンターにその面影を探す事は難しくなっていた。
それほどまでに注ぎ込まれる力は形相に影響を与えたのだ。

はじけ飛ぶ節足、飛び散る体液。
そして弾き飛ばされる三貴族。

ギュンターが全力で祖龍の前に移動した。
ただそれだけでクラックオンたちは四散し、祖龍を囲んでいた三人は弾き飛ばされたのだ。
「こ、これほどとはのう・・・じゃが・・・!」
予想していたとはいえ、実際に合間見えるその力。
これこそがイフタフたちがイアルコを担ぎ出した真の理由。
この場にて祖龍を殺せるのは祖龍の加護を受けたもののみなのだから。
よろりと立ち上がりながらギュンターをにらみつける。

後一歩のところだった。
その一歩は永遠に詰まる事のない一歩。
だがスターグはあきらめる事はない。
立てぬのなら這ってでも・・・そう手を出そうとしたとき、自分に既に手がないことに気付く。
いや、左半身ごと消失しているのだ。
とめどなく流れ続ける体液。
そしてその目に映るものは・・・マリオラの左腕をくわえたまま無慈悲に自分を踏み潰すギュンターの足だった。

下ろされる足は床を割り、ヒビを縦横に広げる。
だが、潰れるべきスターグの姿は数歩離れたところにあった。
黒猫に抱かれて。
「友よ。後は任せてくれんかにゃあ?」
目の光を失いつつあるスターグをそっと下ろし、ゆらりと立つその姿は小さく、しかしそこに秘めたる悲しみと闘気は計り知れず。
すらりと抜くは斬龍クロ助。
羽根付き鍔広帽子とポンチョを脱ぎ捨て、ここに剣聖クロネ・コーフェルシュタインの本気がそそり立つ。

そして立ち上がったのはもう一人。
「生きているのは僅かとはいえ、私にも加護があったから、かしらね。」
最強の妹であり同時に最強の龍人マリオラ・ハイネスベルン。
左腕から血を諾々と流したまま、それでも気はいささかも衰える事なし。

195 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/06(木) 23:18:34 0
「さぁ、私達もまいりましょう、最後の地へ」
アーシェラが凛々しく皆に告げた。一同は黙って頷いた。一人を除いて。
「んで、どうやって、その最深部とやらに行くんだ?」
その質問の主、ブルーディの疑問はもっともだった。
「それはですね・・・・」
「「それは?」」
一同が固唾を飲んで次の言葉を待った。
「今、考えます」
それまでの緊張が一気に台無しになった瞬間だった。
「何も考えてないじゃないですかーーー」
「だって、まさかガナンがあんな壊滅するなんて思ってなかったからーー」
「どーすんのー」
「むぅ、最初はガナンの地下道を行く予定じゃったからのぉ」
上に下にの大騒ぎだ。
「なんじゃ、最深部とやらの道ならわしが案内するぞ」
それは本当に唐突な事だった。おもわず皆がその声の主に集中する。
「何、わしはここら一帯の地下を知り尽くしとる、その最深部とやらへ至る道にも心辺りがある」
「じいさん、本当か?」
おもわずブルーディがモグラの爺さんに聞き返す。
「ああ、本当じゃとも」

今、音楽隊一行はモグラの爺さんの案内でガナン地下の大迷路を進んでいた。
「これはまた見事なもんじゃのぉ」
シャミィは関心したと言うよりも心底呆れたと言う感じで呻いた。
「もしかしてここってあの伝説の『パルモンテ家の地下通路』?」
レジーナは都市伝説で語られていた場所に多少興奮した。
「昔、な、坑道ほっとたらたまたま、ここにぶち当たってしまってな」
モグラの爺さんは懐かしそうに髭をさすりながら先頭を行く。
「そこで、ある貴族の子供と出会ってのぉ、そん時にイタズラを手伝う代わりに教えてもらったんじゃ」
その貴族の子供にレジーナはちょっとだけ思い当たる節があった。
「ほっほっほ、よく一緒に国庫に忍び込んだもんじゃて」
一同は思った、『犯罪じゃねーかー!!』 幸いにもこの音楽隊は空気の読める人ばっかだったので突っ込みは入らなかった。
そうこうしている内に一行は巨大な門に到達した、だがその門には開く場所が無かった。

196 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/08(土) 10:14:07 0
戦いの始まりは、あまりにも容赦なく、そして静かだった。
「【分解消去】」
レシオンは、ただ一言つぶやいた。今の僕には、レシオンの力の正体が分かった。
かつてレシオンと戦ったお父さんと意識を共有しているから。
レシオンは僕を消そうとしている。だから、僕も本気で迎え撃つと決めた。
術が完成するほんの一瞬前、僕は自分から姿を消す。
「どこだ……!?」
「ここだよ!」
次の瞬間、アダマンタイン並みの硬度の空気の鎖でレシオンを拘束する。
銀の風から形を成し、豹の特徴を随所に持つ精霊人の姿をとる。
フィーヴルムの完全解放形態、風のアニマ《レクステンペスト》。
「そこまで使いこなすとは。そうか、あの子は風使いだったな……お前もか?」
難なく拘束から脱したレシオンは独り言のように呟きながら腕を軽く振る。
何も無い空間から不思議な輝きを放つ剣のようなものが現れた。
「行かせない……止めてみせる!」
両腕にまとった銀色に輝く風の刃で切り掛かる。
「悪いがそれはできない」
レシオンが剣を一閃すると凄まじい衝撃波が巻き起こり、二つの力が相殺されて散る。
その時思わずにはいられなかった。
なんて真っ直ぐで純粋な力なんだろう。とてつもなく悪い奴なのに。
「私は想いを遂げなければならないのだよ! 今まで奪ってきた命のためにも!!」
「意味わかんないよ! そんなの……単なる自分勝手だ!!」
そして、この人を前にするとどうしてこんなに冷静ではいられないのだろう。
上空に浮遊したレシオンに向かって放った風の刃はその直前で不自然に掻き消えた。
「その通りだよ、パルメリス。願いとはいつも自分勝手なものだ……」
「くっ……絶滅!?」
貪欲の魔物の絶滅は進行概念の消滅。
安全地帯に入られて手も足も出ない僕を前に、レシオンは暁の瞳を奏で始めた。

197 名前:パルス(代理)[sage 千夜万夜代理投稿スレ gt;67より ] 投稿日:2007/12/09(日) 11:13:57 0
一行は現れた遺跡に向かう。
「ここが迷宮の森……」
リオンは、様々な言い伝えが残る曰くつきの場所を感慨深げに見渡した。
かつてエルフの王者の一族が住んでいた場所。
外界からは決して入れず、もしも入ってしまったら生きて帰ってはこれない恐怖の地。
閉ざされた迷宮に君臨した、血も涙も無い氷の女王の伝説。
そして、ある時を境に忽然と姿を消した一族……。
「きょえぇええええええええええええええええ!!」
まるで幽霊でも見たかのような大絶叫に、彼女の思考は否応無しに中断された。
少し先に行っていたハノンが真っ青な顔で駆け戻ってくる。
「で……ででで出たぁあああああああああああああ!!」
リオンは騒ぎの元凶に急いで駆けつけた。そこに広がっていたものは、異様な光景だった。
「行ったら死ぬよおおおおおおおおお!!」
「夢体験らめぇえええええええええええ!!」
まるで操られているようなトカゲの尻尾団の4人を必死に羽交い絞めにする暁旅団。
その先にいた者は、顔をヴェールで覆った黒衣の女。
近頃噂になっている、神出鬼没に現れては変死体を作る謎の美女と特徴が一致していた。
今の今まで、ここにいる誰もが単なる怪談のようなものだと思っていたが
目の前に現れてしまっては仕方が無い。
事態の重大さを悟ったリオンは瞬速の棒使いで4人を続けざまに気絶させ、叫ぶ。
「ここは私に任せて……4人を連れて先に行って!!」
「ええ!? 一人じゃ危ないよ!」
騒然とする面々にリオンは行くように促す。
「私は大丈夫……それにあなた達に敵う種類の相手じゃない! 早く逃げて!」
一行はリオンの言葉の意味を理解して走り去る。
レミリアとミニャが気絶したトカゲ団を両腕に一人ずつ抱えて走っていった。
リオンは黒衣の女に向かって静かに語りかけた。
「あなたはもう死んでいるのでしょう?」


198 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [] 投稿日:2007/12/10(月) 02:46:36 0
双子が持つ、《躍動》のアニマが輝く。
「ついでに右腕も元通りにして差し上げますわ」「………………」
「本当にらしくない。……もう、余計な事をとは言わせませんわよ」「ね、姉さん、僕もう限界――」「しっかりなさい!」
ルールーツの超回復を他者にもたらす。激しい疲労を伴う荒業だが、ディアナは速やかに決断し、実行に移した。
自分達二人よりもスターグが上と判断したからだ。悪魔も出さずに死なれては、彼に負けた者としては我慢ならないのである。
冷静な、至極真っ当な考え……のはずだ。
「君達ガ無理ヲスル必要ハナイ」「強がりはよしなさい! 貴方以外に誰がギュンターを倒すの!」
「ソレハ、アノ少年ガ果タスベキ事ダ」「何? 貴方は一路聖地へって!? いい加減、教えてくれても良さそうなものですわ!」
二人の師は、双子に何も教えてはくれなかった。
彼らの真の目的についても、いずれ来るとされた断罪の使途とやらについても……。

「……私ノ誓イハ、古キ友ヲ聖地ヘト導ク事」「――っ!! まさか……!?」
スターグの言葉に、ディアナは血相を変えて祖龍の間の奥を見た。
……見えるはずはない。
しかし、行ったに違いない。――でなければ、この男が誓いの内容を語るはずがないのだ。
誓いはすでに、たった今果たされていた。
石部金吉な彼が、らしくもなく激して突っ込んだのは、全てその為だ。この場の誰もの目を引き付けんが為だ。
スターグの影に潜んで、奴が行った。
《影帝》ゴウガが聖地に行った。
何の為に……? そもそも聖地とは……?
「私ハ…次ナル誓イヲ果タスノミ」「……また、教えてはくれないのね?」
落ちる沈黙が染み入る間もなく、何物をも介さぬ力強き踏み足が傍に立つ。

「よう、もう治ったか? 今すぐ俺と戦おうぜ」
ディアナが見上げると、褌姿の物凄い笑顔があった。
「どどど、どこから!?」「どうやってここに……?」
「ああ、あの影法師、あっさり俺らを捨てていきやがってな。結構歩かされたぜ、畜生めぃ!」
ゴンゾウ・ダイハンだ。
ギュンターが猛威を振るう祖龍の間にあって、あくまでもスターグしか捉えていない。
「す、すぐには無理ですわ」「えぇ〜〜〜〜〜〜?」
すかさず法螺を吹くディアナ。真に受けてくれた超化け物は、ハッとするような拗ねた子供の顔を見せた。
「何やってんだよ、ボケー」「こら! 蹴らないで野蛮人!」「……ゴンゾウ」
傍らに立つ若き王が、手にした一刀の柄頭でギュンターを指し示す。
「嫌だ、つまらん」「王命でもか?」「んじゃ、尚更お控えなすった方がいいですよ、陛下ぁ」
ある種の強さに対するゴンゾウの嗅覚と眼力は、鋭敏極まりない。
「あいつは、男じゃねえ」「公王ギュンター・ドラグノフだぞ?」「え? そうなのか? でも、男じゃねえしなあ」
それが、告げている。
「それに、もう長くもねえし」
哀れな男の最期の時を、確約するかのように告げていた。

ギュンターが叫ぶ。イアルコが叫ぶ。
およそわかるはずなどない、他者の苦しみ。それが同じ鱗に持つ事で、生まれて初めて共有された。
晒されて初めてわかる、祖龍の呪詛。狂え狂えと踊り狂う、邪なる母の声。
一頻りの後に、イアルコは吠えた。

「っこんんなものっかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

199 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/10(月) 10:17:42 0
「こっちに来て! そいつは僕じゃない!」
それは、暁の瞳に向けた叫びだった。
もしかしたら呼んだらこっちに戻ってきてくれるんじゃないかって思った。
「無駄だ……。この笛には分かるまい、私とお前はそっくりな魂の形をしている」
レシオンが奏ではじめたのは思いもかけない曲だった。
激しいものではなく、美しく、神秘的な旋律。
それは笛の呪歌の最も基本のうちの一つであるララバイ。
僕よりもずっと綺麗な音で、余計許せなかった。
「そんなことがあるはずない……!!」
フィーヴルムとの同調を解除し、テクタリヌスと同調する。
外からの攻撃が届かないなら、骨の髄から凍り付いてしまえばいい。
僕は、深蒼色の狼をベースにした氷のアニマ《コキュートス・カウント》の姿をとる。
「凍りつけ!!」
絶対零度の冷気が具現化し、輝く氷柱が聳え立つ。
レシオンは氷漬けになり、暫くの間凝視するが変化はなかった。
「やった……?」
気が抜けると同時にその場に膝をつく。ララバイにかかってしまったようだ。
相手がレシオンとはいえ、普段ならこんな初級呪歌に簡単にかかるはずないのに。
「ククク……見事だ。だがあれは幻影」
「……なッ!?」
声が聞こえたのは背後。気付いた時には拘束されていて、体は少しも動かなかった。
「どんな技も、単なる呪歌にかかるほど気が動転していては全く意味が無い。
なぜそれ程心が揺れるか分かるか?」
「大きなお世話だ!」
自分でも気付かなかった事を言い当ててくる。全てを見透かしているように。
「心の奥底に封じ込めてある自分の本当の姿を私に見ているからではないか?
いつも思ってるのだろう? 自分は本当は生きる価値が無いほど悪い奴だから
誰も傷つけてはならない、いつも正義の味方でなければならない
他の誰よりもいい子にするから許して下さいと……」
「ち……がう……」
意識が遠のいていく中の否定の言葉は、声になったかどうかも分からなかった。

200 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/10(月) 23:50:47 0
グギャアアアアアオオオオ・・・・悲鳴とも雄叫びともつかない叫びが木霊する。
「くそっ!!パルスと完全に分断された!!」
ハイアットが何十発も銃弾を打ち込む。
「これはまずいですね」
「ああ、再生能力が高すぎる」
エドと黒騎士が何百回と切りつける。
「なんか火も効かないお!?」
今は包丁ではなくエドから譲り受けた様々な道具から爆弾を投げつけながらラヴィが叫んだ。

そいつは体が泥で出来た呪われた人形・・・・・マッドマン 他のメンバーの足止めに傲慢が選んだモンスター
呪われた泥の体は恐ろしい速さで再生し、その力も禍々しい まさに足止めに適したモンスターだ

「決定打が欠けてますね・・・・・」
エドが冷徹に分析する。呪われた物には聖なる物か、魔力を強く帯びた物と相場が決まっている
「狭い通路では 奈落 はこっちにまで被害が出る・・・手詰まりか?」
「うおおおお!!だったら再生出来ないまで壊しつくす!!」
ハイアットが叫ぶ、ラヴィが投げつける、とにかく破壊し続ける・・・・があまりにも尋常じゃない再生力が行く手を阻む

ギリッ・・・・・歯噛みをする、物陰から黙って見る、
(何を手こずってるの?あんたはそんな物?フザケンナ!!私が殺したいのはそんなあんたじゃない)
物陰から静かに激しい憎悪を乗せた視線が覗いていた。

『ハイアット・・・・ジルヴェスタンを使え・・・・』
不意に声が聞こえた気がした。託された剣を見る。僅かに光輝いていた。
手に取る、構える、そして叫んだ。
「いけ!!ジルヴェスタン!!」
何もおこらなかった。
「何遊んでるんだ!?」
ジンレインが思わず怒鳴った。その直後に驚いた顔になる。
「なんだ?剣と銃が光ってる?」
ハイアットの脳裏に隠された部分の記憶(データ)が鮮明に甦る。
「組み合わされ、鍵と鍵、聖なる導きを示しだせ」
口から覚えも無い言葉が紡ぎだされる。自然に右手にローヴェンスタン、銃を、左手にジルヴェスタン、剣を持っていた。
二つを目の前で組み合わせた時、二つは一つとなった。
「聖銃、ジル・ローヴェンスタン完成」
ーーーーーーーー光が闇を貫いた

201 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/11(火) 10:26:47 0
所々にある結界をオリジンスキャナーで破りながら
レミリア達一行は遺跡の奥に向かって駆けてゆく。
やがて、見たことも無いようなものがたくさんある場所に出た。
古代文明の魔法装置と似ているようで少し違う。
「ここで箱舟計画とかいうのが実行されてたんだね……」
「本当に神様は神様なんかじゃなかったんだ……。リオンちゃんには言えないよ……」
少ししんみりとした空気の中、トム達が気絶から目を覚ます。
「うわわわわ!? 何だ!?」
「あ、気がついた?」
レミリアとミニャが4人を地面に降ろす。
「危なかったね〜死ぬところだったよ」
「そうそう、リオンちゃんがいなかったらどうなってたことか」
それを聞いてた4人は、リオンがいないことに気が付いた。
「あれ? リオンちゃんは?」
「一人でお化けと戦ってる。危ないからって私たちを逃がしてくれて……大丈夫かな……」
「……なるほど。あいつなら絶対大丈夫だ!」
普通なら心配する所なのだろうが、実家が隣だったトムは力強くそう言った。
退魔士と呼ばれる者たちがいる。
単なる戦闘技術ではどうにもならないアンデッドの類を浄化することを
専門とする特殊な技能者。リオンはそのうちの一人だった。
能力が高すぎて上司の反感を買い、神殿の中では万年見習いだったが。

黒衣の女は何も答えない。
代わりに、金属の塊のようなものを取り出し、銃に変化させていく。
かと思うと目にもとまらぬ速さでリオン目掛けて撃つ。
あろうことか、リオンは避けようともしなかった。
ただホワイトバトンを一閃する。反応できなかったのでなく、受け止めたのだ。
膨大な魔力の塊が霧のように消え、凛とした声が辺りに響く。
「分かりました……力ずくで浄化させて頂きます!」
伝わってくる物は、悲しみと狂気と怨念と、その奥の奥にある救って欲しいという願い。
嵐のように打ち込まれる銃弾を払いながら、リオンは呟いた。
「ディメンター……」
激しい恨みを残して死んだ者の魂に死霊術をかけることによって完成し
歓喜の感情を喰らって強力になっていく忌まわしき不死者……。

202 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/12(水) 10:03:54 0
レシオンは、意識を失った孫というべきか息子というべきかを見下ろす。
しかし、止めは刺さなかった。今のうちにゲートを抜けてしまえばすむ事。
「すまなかったな、お前達。だが全ては今日で終わり。私が新たな世界を作り上げる……」
レシオンはゲートの出口に向かって歩き始める。

彼は思う。本当にくだらない世界だったと。
まだ神々が地上にいた頃、少なくない数の仲間達が生贄として捧げられ
生きて帰ってはこなかった。
その実は、神と崇めた者たちは神ではなく、実験体にされていただけだった。
今となっては全てがどうでもいいことだ。
ただ、自分にもパルメリスのような生き方があったのだろうか、とほんの一瞬だけ思った。

やがて、彼の行く手に巨大な扉が現れた。
鮮やかな手つきで暁の瞳を奏でようとする。が、音は一つも出なかった。
「残念だったな、バカ親父! 先回りさせてもらったよ」
そこにあったのはフィーヴルムを操作して笛の音を掻き消す息子の姿。
「貴様は……モーラッド!?」
レシオンは、手に質量の塊を生成する。
「止めを刺さないでくれて大感謝だ! 新世界候補ともあろうものが情が移ったか?」
「パルメリスは消えたようだな……お前では私に勝てない!」
その言葉と同時に放った質量塊が、精霊力の衝撃波とぶつかりあう。
「パルはちょっと出かけただけだ! その体は返してもらうぞ!」

僕は不思議な夢を見ていた。なぜか、死んだお母さんに怒られている夢。
「暁の瞳にも裏切られるなんてダメダメだな」
「うぅ……そんな事言われても」
夢の中とはいえ頭が上がらないのであった。
「よって今からお前に最後の修行を課す! 乗り越えてみろ!」
次の瞬間、僕は思いもかけない場所にいた。

203 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/13(木) 11:51:17 0
「くそっ……もうダメか!?」
もう逃げられない事を悟ったリリスラが全てをあきらめかけた時。
リュートが目に入り、思い直す。自分は獣人族最強の歌姫だったと。
どんな時だって歌で切り抜けてきた。諦めるのはそれからでも遅くは無い。
リュートを手に取り、リリスラは歌う。
全ての因縁も確執も超えて、運命を切り開くための歌を。

〜♪SYMPHONY OF HEART♪〜
時の流れが 世界が奏でる曲だとしたら
人の想いは 旋律を紡ぐ音なのだろう
鳴り響く不協和音に 壊れゆく世界は
どんなに護ろうとしても バラバラに砕けてく

だけど

恐れることなんて 何一つない
信じることを 諦めないなら
虚空に投げ出された 音の欠片は
巡り集って 輝く未来奏でるから

この世界に生きる 全てのものたちよ
空を越え海を越え 今こそ響きあえ
抗うことさえ 許されなかった運命
今こそ解き放て――

SYMPHONIC HEART!
〜♪〜♪〜

歌いきると同時に全ての精神力を使い果たしリリスラは気を失う。
しかし、彼女の願いは確かに聞き届けられた。
歌は天空に住まう守護者に捧げる祈り、空を駆けるは紅き流星――。


レミリア達は、森林都市シャッハ最下層にたどり着いた。
神々が去って以来、誰も足を踏み入れたことの無い場所。
幾重にも張り巡らされた結界の中に、目的の人物はいた。
不思議な雰囲気をまとう、どことなく痛馬車のイラストを彷彿とさせる女性。
彼女こそ、新しき神ことレトの民の最後の生き残り、ラーナ・ミシェル。

204 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/13(木) 21:21:44 0
眩い光が辺りを包む、聖なる光が邪悪な泥をかき消した。
光が薄れ、暫しの静寂が辺りを包んだ。
「ごふぅ・・・」
ハイアットがその場に血を吐きながら膝をついた。
「はぁはぁ・・・・・これは連発できないな・・・・生命力をかなり取られる」
再び銃と剣に分かれた二つの鍵を交差して見つめ呟いた。
「まさにホムンクルス用の武器と言う事ですかね」
エドワードが眼鏡を直し呟いた。場に少し気まずい雰囲気が流れる。
「先に進もう・・・」
黒騎士が皆を先導した。その場に一人残して

誰もいなくなった回廊でラヴィは一人佇んでいた。
ガッ・・・・ガッ・・・・ガッガッ・・・・・
目の前の地面に何本もの黒い塊が突き刺さる。それは間違う事なき師匠の形見
「・・・・・・来てたんだね」
答えは無かった、帰って来たのは静寂
ラヴィが柄を持とうとした時、彼女の怒声が響き渡る
「まだだ!!触んな!!」
手を引っ込める、それとほぼ同時に手のあった場所に石が投げつけられた。
「いい加減お仕舞いにしよう」
暗闇から出てきたアンナの目は赤く光り輝いていた。答えは無い。
「いい加減にしようよ!!それ所じゃないってくらい解るでしょ?」
やはり答えは無い、かえって来たのは拳を握る音と近づく足音、そして小さな息遣い
ラヴィは心の中では気がついていた、説得は無意味だと
頭では理解したくなかった、彼女は自分に殺されに来たのだと
「・・・・アンナちゃん・・・もうやめようよ」
ラヴィはそう言いながら自身も拳を固めた。

205 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/14(金) 10:28:40 0
リオンは銀の光をまとい、黒衣の女に距離を詰めていく。
その少しの波紋も無い水面のような瞳の奥に湛えるは、深い哀れみだった。
この世で最も忌まわしい術によって化け物と化したこと、そして
そのような術の餌食となるほどの恨みを残して死んでいったことに対する哀れみ。
「お逝きなさい!」
白銀色に輝くホワイトバトンを渾身の力で突きたてようとする。
しかし、止めとはならず、女の剣で受け止められた。
黒衣の女の銃は、一瞬にして形を変え剣に変化していた。
そして、女は初めて言葉を発した。
『調子に乗るな小娘……貴様ごときが私を滅せるとでも思ったか?』
美しく、どこまでも冷たい響きに、リオンは本能的な恐怖を覚える。
その一瞬の隙を狙い済ましたように女が剣をなぎ払う。
巻き起こる禍々しい瘴気の渦に、リオンは吹き飛ばされて木にたたきつけられた。
『調度この場所だった……有りもしない罪で焼き殺されたのは……』
リオンは、朦朧として意識の片隅で、残酷な女王の伝説に思い至った。
「あなたは……昔エルフの女王様に殺された人なの?」
『そうだ……あの女は私たちを虫けら程にも思っていなかった……!
だが為す術もなく死んだ私に復讐の機会を与えてくれた者がいたのだよ!
忘れもしない、黄金の仮面!』
リオンが気付いたときには、全身が呪縛されていて指一本動かなかった。
『どうして今の話をしたか分かるか?』
女はリオンにゆっくりと近づきながら、顔のヴェールを払う。
その下から現われたのは、思わず見入ってしまう程綺麗な顔。
しかし、少なくとも半分は酷い火傷の跡で覆われている。
『お前はここで死ぬからだ……!』
ディメンターの別名は吸魂鬼。その口づけは魂を吸い取るという。
リオンは相手の強さを見誤ったことを悔やんだ。

206 名前:パルス (代理)◇iK.u15.ezs [sage 千夜万夜代理投稿スレ gt;76より ] 投稿日:2007/12/16(日) 07:43:00 0
周囲が暗闇から緑生い茂る森に変わる。
僕は、不死者と退魔士の戦いの様子を上から見ていた。
「嘘だ……全部夢だ……」
猫耳神官のリオンちゃんが戦っている相手は、他でもない僕が殺した人。
「お前にとっては夢だろう、でもあの子にとっては夢じゃない」
隣では、お母さんが微笑んでいた。やっぱり非常識な人だ、笑っている場合じゃないのに。
「そんな……どうすればいいの!?」
「自分で考える事だよ。過去は変えられない、積み重ねてきたもの全てがお前自身だから。
でもね、一番大事なのはこれから何を選ぶかなんだ。
パルメリス、お前はどんな未来を掴む……?」
相変わらず勝手な事を言いながら、全てが幻だったように消えていく。
いや、全てが幻なのかも、もしかしたら僕自身さえも幻なのかもしれないけれど。
「ちょっと待ってよ!」
そうしている間に、眼下ではリオンちゃんは今にもやられそうになっていた。
迷っている暇は無い。意を決して黒衣の女性の前に降り立つ。
「やめて……この子は関係ない!」
黒衣の女は、確かに実体が無いはずの僕を見た。
今の僕は、腰まで届く髪で、女王の装束をまとった昔の姿に見えていることだろう。
『自分から現れるとはいい度胸だ……それとも許しを乞いに来たか……?』
何も言えなかった。何もできなかった。
戦わなければいけないって分かっているのに、恐怖に支配されてしまう。
きっと、決して消えない自分の罪、かつて冷酷な女王だった自分自身に対する恐怖。
そして、今の状態では感情はそのまま現れる。このまま消されるのかな、そう思った。
でも、その時撒かれた聖水が舞い、相手が一瞬ひるむ。
『おのれ小娘……!』
「エルフの女王様って君だったの? 来てくれて良かった。君ほどの霊力があれば……」
ハート型の小瓶をもったリオンちゃんが息も絶え絶えだけど必死に語りかけてくる。
「私じゃ太刀打ちできない程……怨念が強いの。眠らせてあげて……君自身の手で!!」
リオンちゃんが不思議な呪文を唱えたかと思うと、僕は彼女に乗り移っていた。
「ありがとう、リオンちゃん」
そう呟きながら、立ち上がる。リオンちゃんは自らの危険も承知で体を貸してくれたのだ。
『いいだろう……小娘と共に死ね!!』
リオンちゃんの白いバトンを手に持ち、振り下ろされた剣を受け止める。
「させない……この手であなたを倒す!!」
もう迷わない。絶対に負けられない戦いが始まった。

207 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/16(日) 21:56:35 0
さてと・・・先客がいたようじゃな」
モグラの爺さんは巨大な門の傍らに血まみれで倒れたホビットを抱き上げ呟いた。
「この門・・・・開く場所が見当たらないんだけど、それと何か関係あんのかい?」
レベッカが怪訝な顔をして門を叩く、と同時にうめき声のような擦れた声が響いた。
『龍以外で門を通ろうとするモノよ・・・・・代償を支払うべし』
その声は厳かに厳格にそして無慈悲に言い放つ
『生贄を捧げよ、深遠への道のりの代価は命なり』
確かに門には大量の血がこびりついていた。
「つまり誰かが犠牲になって初めて向こうに行けるって事か」
ブルーディが呟き、頭を軽く振り、シャミィはただ腕組みをして立っている
レベッカとレジーナは顔を見合わせ青くしていた。
「さてと、じゃあちょっくら開けるかね」
静寂を破ったのはモグラの爺さんだった。すでに上半身は衣類を脱ぎ、老人とは思えぬ引き締まった肢体をさらけ出す。
唐突の出来事に辺りは騒然となった。
ある物は慌てて止め、ある物は他の方法を探すと言い、ある物はふざけるなと激昂した。
そんな様子をひとしきり見て、モグラの爺さんはゆっくりと口を開いた。
「何、老い先短い命じゃしな、それに・・・・」
ちらりとアーシェラを見て爺さんは言葉を続ける
「世界の危機なんじゃろ?この爺にもかっこつけさせろと言うもんじゃ」
そう言うと門の前に立ち、止める声も聞かずに短剣を自分の胸に突き刺した。
そしてその短剣を勢い良く引き抜く、傷口からは噴水のように溢れ、門に降り注ぐ
門は光を放ち、また厳かに告げる
「供物は受け取った、血が乾く前に通るが良い」
モグラの爺さんは叫ぶ、口と傷から血を溢れさせて、
「いってこい!!そして変えて来い!!お前らが望むモノを形にするために!!」
黄金に光る門が入り口を開ける
シャミィが小さなお辞儀をして通り過ぎた
ブルーディが唇をかみ締めて何か一言呟いて通り過ぎた
レベッカとレジーナが泣きながらも通り過ぎた
そして、最後にアーシェラが通り過ぎようとして立ち止まった。
「ご協力ありがとう御座います」
「気にせんでもええよ」
「でも・・・・・」
その言葉でモグラの爺さんの顔がアーシェラに向く
「ちょっと芝居が過ぎますわ」
ころころと口元を押さえながらアーシェラは笑う、爺さんも笑った
「いつから気がついた?」
「この迷宮に入った後、貴方様の通り名をお聞きしてからで御座います」
そうか、そうかと頷いて、爺さんはアーシェラを先へ向かえと促す。
「それでは、また後で」
「ああ、後での 女王殿」
「はい、翠星・・・・・・」
そこまで口に出した所で指を横にちっちっと振られて止められた。
「モグラの爺さん・・・・・それがこっちでの通り名」
アーシェラは呆れた様にため息をつくと一礼をして門の向こうに消えていった。
静かになった門の前でモグラの爺さん、いやモグラの爺さんと名乗るものは適当な岩に座り込んでタバコをふかしていた。
「おー いたたた・・・・ちょっとかっこつけすぎたわい」
ふかぶかと刺さっていたはずの傷口はすでに閉じかけていた。
「モグラ・・・・もぐら・・・・・土竜ねぇ」
忍び笑いをする爺さんの影はドワーフの姿ではなく・・・・・・・龍だった。

208 名前:イアルコ ◆neSxQUPsVE [sage] 投稿日:2007/12/17(月) 01:35:57 0
イアルコ・パルモンテというクソガキ、精神力がどうとかいった問題ではなく……。
『ああああああああああああああ聞こえない聞こえなああああああああああああああああい!!!』
とにかく、我が強すぎるのだ。
吐いても漏らしても引き歪んでも、決して醜い己を失わない。失えない。
それは魂の強さというよりも、性の如きもの。本人の意志でも無意識でもどうしようもない、ただ己の一文字であった。
『何しに来やがった何しに来やがった何しに来やがったああああああああぁ帰れえええええええええええ!!!!!!』
祖龍の支配という激流に翻弄される木の葉のような、それでも残ったギュンターの意志一欠片が叫ぶ。
『うるっさああアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああっっい!!!!』
『お前のがうるせええええええええええええええええええええええええ!!!!!!』
『貴様こそ!』『お前だ!』『うるさい!』『チビ!』『ボケ!』『カス!』『ワキガ!』『病気持ち!』

………………………………………………………………………………………………………………………………繰り返し。

『……本当に、何しに来た?』『おう、もちろん助けに…じゃ』『ミソッカスのお前が?』『別に関係なかろう』
それは偶然だった。
イアルコとリオネだけが、弱い弱いギュンターの苦しみ喘ぐ声を聞ける場に立ち会えたのである。

…………誰か、オレを助けてくれ。

どうなるだろうか?
押しも押されぬ名門の跡継ぎとして生を受けながら、誰からも認められず、褒められもせず、後ろ指を指されるだけの
落ちこぼれとして育ってきた子供が、初めて人から……しかも、王自身から直接助けを求められたのである。
果たして、どうなるだろうか?
そうでないリオネは、騎士の誓いと名誉に懸けて主君の救済を誓った。
何もないイアルコは、ただ己だけが認める己に懸けて引き受けた。
誰に向けたわけでもない、たった一言の弱音であったとしても、誓ったのだ。引き受けたのだ。
意固地な所だけは似通った許婚同士である。その為に生きて死ぬと決めきった。
だから、助ける。

『誰も……期待なんぞしちゃいねえ』『されたら困るわ。すべては余が勝手決めた事じゃからのう』
『……畜生っ! 何て…何て言やいいんだよ!?』
もはや言葉で侘びられるものではない。託すのも自分勝手を超えて酷すぎる。
浮かんだのは、何もかもがない交ぜの泣き顔。
『……………………』
ギュンター・ドラグノフは、イアルコから目を逸らさず、無言のままに消え果てた。

あれ程に暴れ狂っていたギュンターの体が力を失い、倒れ伏す。
後を追うようにして妹も膝をつき、兄の上へと被さった。
最期に流れたのは血か? 涙か? どちらにしても、枯れて費えた。
その行く末は、一握の砂ともなれぬ虚無の底。
狂った兄を愛した妹は望み通り、彼と同時の終焉を迎える事となった。

「ギュンターの奴め、本気で生を手放しおったわ」
不死の彼を殺す術は一つ。身代わりに託させ、心の底から諦めさせる事。
そうなれば祖龍も別に引き留めはしない。龍人王は一人でいいのだから。イフタフ翁は静かに笑った。
堕ちるライキュームがグラールロックを灰燼とせしめる、確かな絵を心に描いて……。

209 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/17(月) 10:04:16 0
リリスラが目を覚ますと、巨大な生き物の背中の上だった。
「龍……?」
『はい、あなたが呼んでくれたおかげで来ることができました』
彼女を乗せているのは、六星龍のうちの一体、紅星龍イルヴァン。
魔法の防護壁に包まれて、マグマの中を進んでいた。
「紅き星の龍……本当に来てくれたんだ……私は龍人でもないのに……」
自分で呼んだとはいえ、リリスラはまだ信じられない心地だった。
『歌に種族なんて関係ありません。それに私は半分は人間なんですよ』
「そうなのか!?」
本当なら根ほり葉ほり聞きたいところだが、今は他に聞きたいことがあった。
隣に横たわっているアオギリが、未だ意識を取り戻す気配がないのだ。
「こいつはどうなってるんだ? 大丈夫なのか?」
その問いに、イルヴァンがいいにくそうに声で応える。
『正直言って相当まずいですね……私が察するに……』
イルヴァンの話はこうだった。
精神系の魔術の一つに、自らの心をもって不死者を制御する禁断の術がある。
黄金仮面の死霊術によって作り出された不死者を
自分では滅することはできないと判断した彼は、この魔術を決行したのだった。
獣人族の世を実現する過程で、絶対に必要な人物が呪い殺されないようにするために。
「そんな……じゃあこいつは……」
リリスラの脳裏に口にも出せない恐ろしいことが浮かぶ。
対象があまりにも強力だった場合、最後には術者がアンデッド化するのだ。
それこそが決して使ってはいけない禁忌の術とされている所以である。
『弱気な顔はやめて下さい。そうならないために急いでいるんです!』
リリスラ達を乗せた紅星龍はいっそう速度を速めて進んでいく。
周囲は灼熱のマグマの道から、いつの間にか地下水の通路になっていた。

210 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 10:38:12 0
不意に刃の軌跡が変わる。風斬り音が頬をかすめる。
女が手に持っているものは巨大な鎌、その姿はさながら、生者を狩る死神。
彼女が持つ武器は、自在に姿を変える。
《お前が憎い、お前さえいなければ……殺してやる……
否! 殺すだけでなるものか。深淵の底に落ちろ……
輪廻の円環から永遠に追放してやる……》
攻撃の全て、一撃一撃が、恨みだった。憎しみだった。
身に余るほどの大きさの刃を事も無げに振るいながら、その唇が怜悧な声を紡ぐ。
『もう100年たつのか……覚えているか?』
「うん、調度この場所だった……」
バトンを裁きながら、彼女の名を言おうとして、ギリギリのところで言葉を飲み込んだ。
彼女は忌まわしい術によって作り出された不死者だ。
不死者と戦うときには、決して元となった人として見てはならない。
余計な感情が介在すると必ず負ける。だから今は、倒すだけ。
『そろそろ限界のようだな……』
「まだだ!」
走って離れようものなら銃弾の嵐になるのは目に見えている。
圧されている振りをして、というべきか実際に圧されているのか微妙だが
次第に居住区だった方へおびき寄せていく。
すぐに目的の物は見つかった。手の力を緩め、バトンは弾き飛ばされる。
『死ね!!』
大きく振りかぶった一撃が振り下ろされると同時に一気に跳んだ。
掴んだのは、床に刺さっていた一振りの剣。

一方、最下層。結界を解除しているレミリアの後ろで、その他大勢が暇そうにしていた。
突然、トム達の前の床に魔方陣が浮かび上がり、白いバトンが現われる。
「あれ、リオンちゃんのバトンだ」
試しにその場所に立ってみるが、何も起こらない。
「一方通行かな?」
そうこうしている間に、結界は解除される。
「これでいいはず……」
厳かな面持ちでレミリアはオリジンスキャナーを外す。
永き眠りから目覚めた女神の最初の言葉を、一同は息を飲んで待った。

211 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/19(水) 12:03:32 0
古の時代、世界の全てを手に入れようとした破滅の使者と
自らを犠牲にして世界を救った伝説の英雄。
二人の力量は、全くの互角だった。
しかしレシオンは、勝利を確信したような笑みを浮かべていた。
その確信の通り、レシオンの狙い済ました一撃に、モーラッドは倒れ伏す。
「私の邪魔をするからこうなるのだ!」
モーラッドには勝てない理由があった。あまりにも決定的な要因が。
レシオンは、それを最初から見透かしていたのだ。
「お前はこの姿をした私を傷つけることはできない……そうだろう!?
バカな奴だ! お前の娘はもう死んだというのに」
レシオンはモーラッドの前まで来て、体の斜め後ろを向けて見せる。
背中の服が破れた部分から、傷跡がはっきりと見えた。
いくら時がたとうとも決して消えない罪の証。
「心臓を貫いた光の槍……あの子が一度死んだ証だ。
パルメリスはこの傷を負ったときからずっと死にたがっていたのではないか?」
絶対に違うと思った。いや、絶対にそうであって欲しくなかった。
「ふざけるな……貴様に何が分かる!?」
もうレシオンは答えなかった。容赦なく止めを刺そうとする。が、その時。
「やめろッ!!」
目にも留まらぬ速さで光の銃弾が閃く。
レシオンが見た先には、駆けつけたハイアット達がいた。
「追いついてしまったか……残念だがパルメリスはいない」
その言葉に、騒然とする一同。苦渋の決断をしたザルカシュが非情な一言を言い放つ。
「行かせたら終わりや! こうなったら……容赦なくタコ殴りにするしかあらへん!!」
ハイアットは衝撃を受け、ソーニャは激昂してつかみかかった。
「そんな……!!」
「何を言ってるんだ!?」
混乱する一行を嘲るような、レシオンの高笑いが響く。
「ハハハハハ!! 仲間割れする暇は無いぞ!」
ジンレインはいつも側に付き従っていた魔剣が、自分の制御から離れていくのを感じた。
「待ちなさい!」
「無駄だ……自分の剣に切り刻まれるがいい!!」
魔剣ジェネヴァがジンレイン達に襲い掛かる!

212 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/19(水) 22:09:54 0
回廊に踊る影二つ、互いに拳と技とをぶつけ合いその姿は朱に染まる。
アンナの蹴りが頬をかすめてラヴィの顔に少し赤い線が走った。
交差した二人の視線も僅かにまた拳が唸る。
今度はラヴィの拳がアンナの脇を捕らえた。
鍛えられた拳は何物にも勝る武器、凶器、ミシリと嫌な音を立ててアンナの顔が歪む
ラヴィの顔には笑みも苦痛も無く、ただただ無表情、アンナもまた無表情
二人は理解していた。もう戻れない、戻る気も無い、
残るは一人、受け継ぐは一人、悲しみを背負うのも一人、只一人、 一人、 一人のみ
二人の最後の試練を見届けるのはもの言わぬ師匠の、そして愛した人の形見の包丁達
薄暗く揺れる炎が二人の影を伸ばしてまじらわせた。

ひとつため息、じりりと焼ける感覚、一瞬でも気を抜いて感情に任せればそこで終わり
ラヴィは今、真っ暗な淵にいる。もがいても、もがいても抜け出せない淵、
脱出する方法は頭では理解出来ても納得は出来ない

ひとつ息を吐いて、深く心に突き刺さる闇、折られたプライドの欠片が突き刺さる
アンナも今、真っ暗な淵にいる。もがけばもがくほど抜け出せない淵、
諦めれば脱出できるがそんな事を許せる程、器量が無いのは理解している

だから、最後に残った選択肢はただ一つだった。

やがて長々と続いた、二人の業に決着の時が訪れた。

213 名前:アビサル ◆VjL3/Sqr3c [sage] 投稿日:2007/12/19(水) 23:06:24 0
「な!な!な!!!」
ジンレインはこの出来事にまともに言葉を発することができなかった。
魔剣ジュネヴァは単なる愛剣という存在ではない。
生まれたときから共にあり、唯一自分の過去を証明できるもの。
セイファートとの邂逅を経て過去へのわだかまりに縛られることがなくなったとはいえ、その存在の特別性は損なわれることはない。
それが自分に襲い掛かってくるのだ。
あまりのショックに言葉を失うだけでなく、その身に染み付いているはずの回避能力まで失われてしまっていた。

「ぼさっとしてんじゃないよ!」
横から飛び込む叫び声と衝撃がジンレインを救う。
ソーニャに蹴られ、吹き飛んだことにより白刃の煌きからその首を守ることができたのだ。
「助けてやったんだ。料金は払わないよ。」
転がり呻きながらジンレインはルフォンでのやり取りを思い出していた。
「1500ギコで首が繋がったままなら安いものね。」
蹴られた脇腹の痛みと共に思考が回復するのを感じる。

だが、空を切った魔剣ジュネヴァはその刀身だけで宙を浮き、更なる攻撃に移っていた。
それを迎え撃つのはソーニャの炎とハイアットの光の銃弾。
(駄目です。逃げて!)
その瞬間、ソーニャの脳裏に響く声。
「あかん!逃げるんや!」
「いかん、それは神器だぞ!」
煌く斬撃と同時にザルカシュとエドワードの叫びが重なる。
直後、魔剣ジュネヴァは受けた銃弾をはじき、文字通り炎を切り裂いて斬撃を繰り出した。

「ほう、避けたか。『それ』がただの剣と思うな?」
ディオールの剣を捌きながら感心したようにレシオン。
耳で聞いていては間に合わなかった。
直接脳に響き、反射的に身を翻していたからこそ、ソーニャは脇腹から血を流すにとどまっていたのだ。
ジュネヴァはソーニャの脇腹を切った後、ジンレインへと襲い掛かっている。
ハイアットが援護に向かうが、ソーニャは動かなかった。
傷が深いわけではない。
感じていたのだ。その存在を。

「アビサル!いるんだね!」
宙に向かい叫ぶが、ソーニャは確信を持っていた。
そこにいる、と。
そしてそれは現れた。

少し上に、まるで朧のように現れた人影の群れ。
それは黄金の仮面であり、十剣者であり、断罪の使徒!
「そこにいたか!千年の種子!!」
ソーニャの叫びに一瞬動きを止めた黄金の仮面を断罪の使徒は見逃すことはなかった。
繰り出される閃光により、黄金の仮面が切り裂かれる。
そしてソーニャは確かに見た。
切り口からのぞく黄金の仮面の内側にアビサルの星見曼荼羅のローブを。

214 名前:アビサル ◆VjL3/Sqr3c [sage] 投稿日:2007/12/19(水) 23:06:38 0
(ソーニャさん・・・・ごめんなさい)
(馬鹿!いいから帰ってこい!)
(ごめんなさい・・・もう・・・駄目なんです)
(僕は・・・知ってしまったのです・・・僕が何の為に生まれたのか。
僕だけじゃない。僕の一族が、人間が、エルフが、なぜ作られたのかを・・・)
(決まっていた事たったんです。龍の駆逐も、龍人戦争も、そしてこの戦争も、星海の哀れな生き物も・・・全部!全部・・・!)
(何を言っているんだ!?)
(二十三代目カリギュラ・モルテスバーデ(暴帝の交剣印)は狂っていたんじゃなかった。)
(狂っていたのは僕たちの方・・・)
(彼はこの恐ろしい事実に気づき、止めようとしたんです。)
(でも、僕にはこの恐ろしい計画が良い事なのか悪い事なのかもうわからない・・・だからお願・・・)

ほんの一瞬のやり取り。
それはソーニャの脳裏だけで交わされるアビサルの叫び。
そしてその一瞬は唐突に終わりを告げる。

『レシオンよ、蝕の刻は間近ぞ?』
十剣者と断罪の使徒に切り刻まれながらも黄金の仮面。
ジオフロントでギュンターとイアルコの接触を感じ、レシオンに声をかける。
この状態にあっても追い詰められた者の気配を微塵も感じさせないのだ。

「この状態は・・・」
「ああ、ちょっと洒落にならんかもしれへん。」
突如現れた朧のような状態の十剣者と断罪の使徒、そして黄金の仮面。
それにより起こる急激な変化を感じ、慌てて準備を始める。
『くくく、真に重畳。』
そんな二人に気づき、押し殺したような笑い声を上げながら振り返る。
その先には断罪の使徒と十剣者。
黄金の仮面の内側に討つべき者を見つけ、それぞれが必殺の一撃を繰り出そうと迫っている。

『断罪の使徒よ。十剣者よ。そなたらは力大きすぎるが故に気づけないのだ。』
それぞれの剣が黄金の仮面を捉える瞬間、空間が大きく歪む。
あまりに大きな力は空間すら歪めてしまう。
ましてやここはゲートの中。
すでに歪められた空間なのだ。
そこでこれだけの大きな力を一点に振るえば空間自体がもたないのだ。
『暫し時空の狭間を彷徨うがよい。』
空間が歪み、崩壊をはじめ黄金の仮面を中心に十剣者と断罪の使徒が消えていく。
だが歪みは留まらず、ゲート自体が崩壊を始めるのだった。

「あ、あかぁん!なんぼももたへんど!」
いち早く黄金の仮面の企みに気づき、秘術の限りを尽くし崩壊を遅延させようとしているザルカシュの悲鳴が響く。

215 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/20(木) 11:46:08 0
『馬鹿め…!それに何の意味がある……!?』
「意味なんて無い!」
鳴り響く金属音。掲げる剣の柄に刻まれている名は、ザナック・エル・アルドゥール。
憎しみ以外は全て忘れているから無駄だと分かっていても、この剣で眠らせたかった。
「こっちだ!」
広い場所に出るためにバトンが落ちたあたりに跳ぶ。が、そこには何も無かった。
代わりに、身に覚えの無い転移魔法陣があった。
「こんなの聞いてないよー!」
そんなことはお構い無しに、魔法陣は発動する。

一同が女神に注目している最中、突如轟き始める地響き。
あれよあれよという間に壁の一部分が崩壊する。
そこから、真紅の龍が現われたように見えた。
「「「きょええええええええ!!」」」
阿鼻叫喚の中、女神は最初の言葉を発した。
「あ、ツンデレ星龍だ!」
その瞬間、その場にいる全員が一斉にずっこけた。
「あいたたたた……あれ、変態女神! こんな所にいたのですか?」
「失礼な……変態じゃなくて変人です!」
女神ラーナと謎の会話を繰り広げているのは、真紅の翼を持つ女性だった。
巨大な龍の姿はいつの間にか消えている。
一方、気を失っているケンタウロスを抱えたハーピィの絶叫が響く。
「壁に突っ込むやつがあるか―――ッ!!」
「すみません、ここの都市は木造だし大丈夫かなあと……」
ずっこけた状態からようやく起き上がった面々。
彼らには何がなんだかさっぱり分からない。
そして、さらに事態を混乱させる出来事が起こった。
先刻バトンが転移してきた場所から、激戦を繰り広げるリオンと不死者が現われたのだ。
「「「のわああああああああああ!?」」」

216 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/24(月) 00:44:36 0
微動だにしない二つの影、やがて倒れたのはラヴィの影だった。
乾いた地面に腹部から滲み出た血が潤いを数秒与えて消えた。
一方、アンナは立っていた、ただ呆然と立っていた。
その顔には先ほどの血気盛んさもいつもの傲岸不遜な顔もなく能面の様な顔に一筋の涙を浮かべ立っていた。
アンナはラヴィに問いかける
「何故?」 と
ラヴィはアンナに答え返す
「出来ないから」 と
憮然とした顔でアンナはその場を後にした 最後に
「包丁はあんたが使えばいい」
そう言い残して消えた
後には磨かれた黒包丁が静かにあった

アンナは地下の通路を行く、目指すのは出入り口でもある巨大な門
それを教えられた時は行くかどうか迷ったが、選択した事に後悔は無い。
自分なりの過去との決別もつけた、面白くない結末ではあったが・・・・・後は、
「出てきたら?」
アンナの影から小柄な影が姿を現す。その乱杭歯が凶暴さをかもし出す。
「大体、用件はわかってる」
乱杭歯の影は何も言わない
「仲間の復讐・・・・でしょ」
アンナはこれまで人様に怨まれる事をしてきた そして最近もしたばっかりだった。
闇に身を置いてからは覚悟はしていた事だから冷静に受け止めていた。
「違うよ、欲しいのはそんなものじゃない」
乱杭歯の影は不意にアンナが思ってもいなかった事を喋った。
途端、体を壁へと押し付けられてしまう、そして体が壁に埋まってゆく
「いこう、僕達の似合う世界に」
やがて誰もその場にいなくなった。

217 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/25(火) 00:59:56 0
「リオンちゃんかっこいい〜〜!」
例によって素直に盛り上がるハノン達だったが、トム達4人は違和感を覚えた。
棒術士のリオンが剣を使っている。身のこなしも明らかに違う。
「あの動作は……」
4人は同時に蠍の爪時代からのライバルを思い浮かべた。
「触角……」
顔を見合わせて暫し沈黙の後。
「あっはっは! そんなワケないよな〜!」
「だよね〜!」
そんな4人の他愛のない会話を、ラーナ様の一言が粉砕する。
「いや、そうだよ」
「「「「は!?」」」」

どれぐらいの時間戦っていただろうか。
『悪あがきもここまでだ……』
倒すことだけを考えていたから少しずつ追い詰められていることに気付かなかった。
横目に見える、すぐ後ろは壁。

「ヤバイ! リオンちゃんがやられそう!」
「よし! 私たちの最強の歌で……」
楽器を取り出してスタンバイするハノンとカノン。
が、哀れ、彼らはリリスラに突き飛ばされた。
「電波ソングに任せてられるか――ッ!!」
リリスラは叫んだ。リオンの体を借りた誰かにむかって。
「お前のために歌うんじゃないんだからな! 負けたら承知しねーぞ!!」
そして歌う。それは、本当の強さを気付かせる歌。

218 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/25(火) 01:01:16 0
〜♪〜♪〜力への意志〜♪〜♪〜
歩みゆくべき道を 踏み外さないようにと
星を見上げていた 足元を見もせずに
血塗れた記憶に 打ち勝つ力欲しいと
祈り捧げていた 疑う事も知らずに

振り返ればいつも 仲間がいるからこそ
月の無い夜には 怖くて涙零れた
差し伸べられた手 掴んでいいのだろうか
答えは見つからず そっと目を閉じる

突きつけられた 鏡に映る 自分に似た誰かは
澄み切った 瞳の奥に 底知れぬ狂気宿してた
跡形もなく 壊してしまおうとして気付く
受け入れたはずの真実 乗り越えていないことに

本当の強さは 誰に願っても 与えられないから
自分の影に触れる 勇気の欠片 分けてもらえばいい
同じカードの 片面だけ 追い求めるのはやめて
光も闇も抱いた時 力への意志は 本当の強さへと変わる

絶望を打ち砕き 未来切り開く 本当の強さへと――
〜♪〜♪〜

もう何度も聞いた気がする、獣人族の歌姫の歌。
彼女の歌は大切な事を思い出させてくれた。
僕が教えてもらった剣は殺しあうための戦いじゃなくて、心通いあわせる踊りだったこと。
全てを切り裂く死神の鎌から逃れ、ミスリル銀の刀身を閃かせ踊る。
ステップは3拍子のリズムを刻む。狂わないように。乱れないように。
『いい加減諦めろ……貴様の剣は戦いには向いていない!』
そう、これは相手に息を合わせて舞う社交ダンス。本気の殺し合いには向いていない。
でもそれは、飽くまで相手が生きているものだった場合の話だ。
不死者は、必ずどこかで救って欲しいと思っている。
だから、たとえどんなに一瞬であったとしても、必ず隙が出来る。
剣を閃かせながら、その時を逃さないように待つ。
そして、その瞬間は訪れた。

219 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/27(木) 00:33:16 0
「随分歩いたな」
門をくぐった音楽隊一行はまるで洞窟の様な場所を長い間歩いていた。
ブルーディはその間、ずっと先頭を歩いていた。続いてアーシェラ、シャミィ、レベッカ、最後にレジーナ
ごつごつとした岩肌を摩りながらブルーディが呟く、
「ここ前に通ってないか?」
「ふむ、確かに見覚えがあるのぉ」
岩と岩の隙間をなぞりながらシャミィは何かを考えている様だ
「一筋縄ではいきませんか」
ぽりぽりと頭を掻きながらアーシェラもいい加減気がついてたといった感じだ
「で、どうする?壁を壊す?」
レジーナが壁をぶん殴ったが壊れる事は無く逆に、
「うわぁああ!?」
まるでゴムの如くその拳を弾き飛ばした
「おかしな魔法がかかってるみたいですね」
こんこんとアーシェラが壁を軽く叩くと今度は硬い音が返ってきた。
「よし!!こういう時は来た道を逆にいけば目的地についたいするもんだよ」
レベッカの思いつきにより一行は来た道を逆に戻り始めた。

数時間後

「あれぇ?ここどこだろ?」
確かにレベッカの言う通りに確かに別の所には抜けた・・・・のだが抜けた先が問題だった
「地下水路じゃな」
「地下水路ですね」
それは巨大な地下を流れる川だった。ご丁寧に船着場まである。
「あれに乗って進むのかな?」
レジーナの指差す先には少し大きめの船が浮かんでいる
その時、船の方から鐘の音が聞こえてきた。そして
『船がでるぞーーーー 船がでるぞーーーー』
どこからともなく聞こえる声、一行は慌てて船に乗り込んだ。
そして船は静かに出発する。

220 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/27(木) 00:34:16 0
船は魔法でもかかっているのだろう、一人でに走り、流れに逆らって上流を目指す。
とりあえず危険はなかろうと賢者二人の調べでわかった一行はくつろぐ事にした。
それほど船の速度は速くは無く、ちょっとした遊覧船である。
異変に気がついたのはレベッカだった。
地下の水は澄んで美しくぼんやりと眺めていたら、不意に不自然な水泡が船の横から湧き出ているのに気がついた。
なんだろうと思い、よぉく目を凝らす、何か船の下で動いている様な気がした。
もう一度、よぉくよぉーーく目を凝らす。いる!!何か下にいる!!
「みんな!!気をつけて、下に何かいる」
そのレベッカの言葉で一斉に一行が戦闘態勢をとる。船が大きく揺れた。
そして船の目の前に巨大な水柱が吹き上がった。出るのは化け物かガーディアンか水しぶきが晴れたそこには・・・・
「オ客サマー 船デノ騒動ハゴ遠慮クダサァーイ」
水兵帽をハゲ頭にちょこんと乗せ、セーラー服の襟だけをつけた筋肉隊だった。

もちろん問答無用で攻撃した。

「HAHAHAHA オ客様!!ゴムタイヤー」
「それを言うなら『ご無体な』だろ!!」
怒涛の攻撃にも、にこやかな笑みを絶やさぬセーラ筋肉に初対面、免疫ゼロのブルーディが腰を抜かしながらも冷静に突っ込む。
「・・・・まさか!!この船の動力って!!」
レベッカがもう一度船底を覗き込むとそこには
「「「うぇーーーーい!!」」」
酸素ボンベを身につけ船底を持ち上げて川底を歩く筋肉隊の面々がいた。
「ぎゃあああああ!!おろせ!?おろしてーーー」
ある意味、海底遺跡で筋肉隊にトラウマを師弟で植え付けられたシャミィが騒ぎ出した。すると、
「野郎ども!!お客様がここで下船だ!!」
セーラー筋肉の号令と共に船が接岸した。
「ご利用ありがとうございます。またのご利用お待ちしています」
以外にも紳士な態度で一行を岸に降ろすと筋肉舟はまた下流へと去っていった。
「い、意外と紳士だったね・・・・・・」
ブルーディと同じく筋肉隊初体験のレジーナもいつもの強気な発言はなりを潜めた様子だった。
「ところでここはどこでしょうか?」
アーシェラは辺りを見回す。そこは何か無数の岩穴が開いている場所だった。その穴の一つ一つに扉が着いている。
「宝物庫かのぉ?」
「食料庫は考えにくいですよねぇ」
「とりあえず一つ開けましょうか」
満場一致で一行は一つ扉を開ける事にした。

221 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/27(木) 00:37:26 0
「ごほごほ、筋肉56番 一生の不覚」
「お兄ちゃん、それは言わない約束でしょ」
扉の向こうにいたのは畳に布団をしいて寝ている筋肉隊員とおかゆを食わせるキノコ少女でした。
目を点にして固まる一行、それを見る兄妹、そして
「あ、すみません、今日風邪でして閉めてもらえませんか?」
筋肉隊員のお願いに一行は黙って頷いて扉を閉めた。
辺りを沈黙が支配する
「え!?いまの何?」
「人がいた!?」
「家!?家なのあれ!?」
「え!?えええ!??」
瞬間に大騒ぎ、そしてアーシェラが、
「もう一度開ければわかります!!」
と言ってまた扉を開けた、その先には・・・・・・・

「お願いですだぁー妹だけはぁーーー」
「ええぃ 借金が払えなきゃ妹を型にとるだけよぉ」
「イヤーー おにぃちゃーん」
「後生ですだー」
「「「「「なんじゃこりゃああああ!!!」」」」」
ちょんまげを乗っけた筋肉二人組みが兄妹の妹を借金の型に連れ去る現場だった。
とりあえず、ちょんまげ筋肉どもを殴ったら
「おのれぇ しかし忘れるな 光に影が必ず付き纏うが如く我々もまた再び・・・・・・」
などとどこかで聞いた台詞を言いながら煙の様に消えた。
その後、土下座をしながら御礼を言う兄弟に別れを言い扉を閉めた。

「とりあえずこの扉はもう開けないでおこう」
ブルーディの顔は酷くやつれていた。
「しかし、この扉全てが部屋なのかのぉ?」
「では、別の扉も開けて見ますか?」
賢者二人は呑気にも別の扉を開ける準備をしていた。うんざりとその様子を見ていたブルーディだったが、
「ちょっと待て!!その扉はなんか駄目だ!!」
別の扉を開けようとした瞬間にブルーディはそれを止めた。
「どうしたの?」
レジーナが怪訝な顔をしながら止めた理由を聞いた。
「なんか嫌な予感がする、それに扉の隙間から『ワンモアセッ』とかって声が聞こえるし」
ブルーディの指摘通りに確かに軽快な音楽を『ワンモアセッ』と言う声が聞こえる。一行は諦めて別の扉を開ける事にした。


222 名前:『裏方』 ◆d7HtC3Odxw [sage] 投稿日:2007/12/27(木) 00:39:26 0
その後数々ある扉を開けるが その度に
「筋肉隊の一分としかもうしあげられましぇん」
「それは筋肉10番隊そのものが取り潰されると言う事ですか!?」
「アイ・アム・マッソーーー!!」
「筋肉隊とはこの世の地獄道と言ってネェ」
「いや!!あの筋肉は良い筋肉だ!!」
「キンニキャアアアアア」
「YES!!マッスル5!!」
「お前達、最高の筋肉だ!!」

などと様々な筋肉隊を見せ付けられたのだった。流石にお腹一杯頭パンク寸前のご一行はとうとう最後の扉に辿り着いた。
そして最後の扉の中には・・・・・・・・
「何も無いね」
「ああ・・・・何も無いのがこんなに新鮮なんて」
「いや、何かレリーフの様なモノがあるぞ?」
それは無数の筋肉男が様々な姿、格好をしてその真ん中で一人の少女が扉を開けるレリーフだった。
「ふーむ、古代語で何か書かれておるのぉ」
「私が読みましょう」
アーシェラがその文字を読み取った。
「『中央にいる一人だけの少女が中央への道を開く』と書かれてますね」
アーシェラの解読で意味は解ったものの中央の少女とは何か一行は悩んでしまう。
それを打破したのは
「そう言えばさ、女の子って最初出会った子だけだったよね?」
何気ないレジーナの一言だった。
「あ、そう言えばそうだ」
「言われてみりゃあそうだな」
「って事は・・・・」
「あそこが進むべき道と言う事じゃな」
そして一行は最初に開けた扉へと向かい、開けるとそこには・・・・・

「「あ、○門様ご一行」」
「「「「「だれが黄○様ご一行だ!!」」」」」
兄妹のボケと一行の突っ込みが待っていた。
「そのご様子ですと中央の道をお聞きに来たのですね?」
キノコ少女の問いにアーシェラが頷くと少女は静かに押入れの扉を開けた
「こちらがお望みの道で御座います」
押入れの先には立派な石造りの回廊が続いていた。
「さて、バイトも終わったし帰るか」
「そうだね、お兄ちゃん」
そう言って霞の如く消える兄妹に一行は・・・・流石に突っ込む気力は無かった。
ふと後ろを振り向くとそこには先ほどまでいた部屋は無く、通路が続くだけだった。
一行はまた最深部へと向かい歩き始めた

223 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/27(木) 00:47:50 0
狙いを定め、一気に距離を詰める。ほんの一瞬の間に、何かを見た。

襲い来る飛竜の群れ。灼熱のブレスから逃れ、少女はただ一人走る。
手には呪われし魔導銃。忌まわしい運命に導かれるままに。

迷ってはいけない。この瞬間を逃してはいけない。
無心に、非情に、ただ剣を突き立てる。

束の間の幸せは刹那にして灰塵と化す。
手にかけるは愚かな女王。操られている事すら気付かないままに。

閃光が走る。風に吹かれる砂のように光の粒子となって消えていく。
それを見て、抑えていた感情が溢れ出した。
2、3歩下がるのが精一杯で、全身の力が抜けてその場に座り込む。
「ごめんね……」
こうなったのは自分のせいなのに、祈る事しか出来ない。
どうかこの者の魂が救われますようにと。
「許してくれなくていい……でもお願い……この世界を嫌いにならないで……」
その時、泣きじゃくる僕の頭を誰かがそっと触れたような気がした。
「強くなったな、もう教えることは何も無いよ」
顔を上げると、いるはずのない人がいた。きっと世界率が見せる幻。
「うん……もう出てこなくていいから……早く連れてっちゃえ!」
彼が手を差し出す先には、生きていた時そのままの、すごく綺麗な人がいた。
「行こう、エフェメラ……」
去り際、彼女は、一瞬微笑んだような気がした。

「リオンちゃん大丈夫!?」
聞き覚えのある声に振り向く。なぜか暁旅団のハノンちゃんだった。
後ろの方ではよく分からない取り合わせの一団がこっちを見ている。
「今幽霊がたくさん出てきて……」
「誰もいないよ?」
元の方向に向き直ってみると、何事も無かったかのように何もかもが消え去っていた。
ただ一つ、不思議な魔導銃だけを残して。

224 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2007/12/27(木) 22:17:36 0
「ふははは、よい置き土産をしていってくれたわ。」
崩壊を始めた亜空間にレシオンの笑い声が響き渡る。

黄金の仮面と十剣者、断罪の使徒が時空の狭間に飲み込まれた後も、亜空間での戦いは続いていた。
状況は圧倒的にレシオンに傾いている。
なぜならば、空間崩壊を食い止めるためにザルカシュとエドワードが全力を向けざる得ないからだ。
直接攻撃してくるディオールの剣閃もかなり鈍くなっている。
ハイアットに至っては、その照準すらまともにつけられないでいるのだ。
その理由はモーラッドが倒れたものと同じ。
たとえパルスの体であっても、倒すべき相手。
そう頭でわかっていても、ギリギリのところで剣先が鈍る。照準がぶれる。
ほんの僅かなことではあるが、レシオンを相手にしてはそれは致命的な差となるのだ。
それぞれの力量以上に、この点でザルカシュとエドワードが別作業に向けられていることが黄金の仮面の置き土産なのだ。

そしてもう一つ。
ジンレインを執拗に追う魔剣ジュネヴァ。
あらゆる攻撃を、防御を切り裂き斬撃を繰り出すのだ。
使い手のない剣のみの攻撃。
その鋭さは徐々に増し、ついにはジンレインの必殺の間合いへと切り込んでいく。

 殺られる!

死を覚悟したジンレインの半身に生暖かいものが降り注ぐ。
それは真っ赤な、血。
それも大量の。
目の前には大きく、負い続けた背中。
ずっと、ずっと負い続けた背中は今、切っ先が突き出て赤く染まっていた。
「防げないの、なら・・・受け止めるしか・・・。」
振り向くことなく呟きを漏らす声は、吐血と共に途切れる。
セイファートは自らの腹に魔剣ジュネヴァを受け、抜けないように押し込んでいるのだ。
「い・・・い・・・・いやあああぁぁぁ!!!」
血に塗れながらジンレインは絶叫し、セイファートにしがみつく。
もはや何を言っているかも判断できない叫びを上げながら。
「ち、父親らしいこと・・・何も・・・してやれな・・・く・・・。」
「駄目!駄目よ!・・・死なせない!お願い!ジュネヴァ!!」
半狂乱の叫びが響く中、ジュネヴァがジンレインの叫びに答えるかのように鈍く光を放ち始める。

ディオールとハイアットとの攻防のさなか、レシオンはジュネヴァの操作権が失われたことに気づいた。
だがもうそれもどうでもいいことだ。
「ふん、そろそろまとめて始末してやろう!
貴様らを消し、私は世界となるため門をくぐる!」
強力な衝撃波でディオールとハイアットを弾き飛ばし、間合いを開ける。
そして強力な魔力を練りこんでいく。
邪魔者をまとめて消滅させる力を!

225 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/28(金) 01:21:02 0
「エルフの女王パルメリスよ……」
神秘的な雰囲気をまとう女の人が歩み寄ってくる。
「あなたは……女神様?」
「そう呼ばれていた事もあります。
よくぞ自らの罪を乗り越え正しい判断をすることが出来ました。
今は暫しお休みなさい。目覚めたら最後の戦いに赴くのだから」
彼女が手をかざすと同時に、意識が遠のいていく。

「今のセリフ、神様っぽくかっこつけすぎです」
「言ってみたかっただけです!」
突然意識を取り戻したリオンの前では、痛馬車のイラストを思い出させる女性と
真紅の翼を持つ女性が掛け合い漫才をしていた。
「あれ? お化けは!? パルちゃんは勝ったの!?」
痛馬車の女性は、いつもリオンが首からさげているラーナのペンダントを示して見せた。
「はい、パルちゃんにはとりあえずここに入ってもらってます」
続いて、ラーナは残された魔導銃を拾い上げた。
「やはり世界樹の書でしたか……」
レーテが紅星龍イルヴァンとしての記憶を辿る。
「それ程の情報を刻める器は私の知る限りでは二つだけ……魔剣ジェネヴァと……」
「魔導銃クリシュナ」
言葉を継いだのは、ずっと意識を失っていたケンタウロスの青年だった。
リリスラが嬉し泣きしそうになりながらアオギリの頭をはたく。
「人騒がせな野郎だ!」
「ご心配をお掛けしました。いやぁ、黒い術は使うもんじゃありませんねー」
などと能天気な事を言っているアオギリに、リリスラはキレて猛攻を加える。
「アホか!! いやぁ、じゃないだろ!」
「ウボァー!!」
そんな小さな大惨事を尻目に、ラーナ達は大きなモニターの前に集まり作戦会議を始める。
モニターに映し出されるのは、やりたい放題に暴れまわるパルメリスの姿。
正確にはその体を乗っ取ったレシオン。
「あー、これは取り返すのは無理っぽいですねえ……」
「「「ええ!?」」」
あっさりと言い放つラーナに驚く一同。
「大丈夫。奥の手があります」
「まさか……」
レトの民は万能なる科学の使い手だった事を思い出し、レーテは、ある考えに思い至った。

226 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/28(金) 01:22:41 0
「はい、そのまさかです。新しく作ります」
あまりの予想外な言葉に、またもずっこける一同。
レーテだけは、冷静に腕組みをして考える。
「確か苦労人とかいう技術ですか? でもそれには体の一部分がいるんじゃ……」
「それをいうならクローン! これだけ人数がいれば誰か持ってるはず!」
元気よく言い放つラーナに総突っ込みが飛ぶ。
「「「ンなもん持ってるわけ無いだろーーーーーーッ!!」」」
なんで彼女が異端として封印されてたのか少し分かった気がする一同であった。
「仕方が無い。全員上に行って根性で髪の毛を探すか……」
「そんな無茶な!」
早速暗礁に乗り上げる作戦会議。しかしその時、救世主が現れた。
意を決したように手を上げて立ち上がる暁旅団のその他大勢のうちの一人。
「あの!」
「はい、魔術担当のマリク君! どうしたのかな?」
レミリアが発言を促すと、彼は何を思ったかローブを脱いで放り投げる。
内側の服の背中にはパルメリスというサインがでかでかと書いてある。
「実はパルメリス様のファンだったりするわけですが!」
「「「だからどうした!!」」」
総ツッコミにもめげず、さらにポケットから何かを取り出した。
「そっ、それは……!」
それは他でもない、密封保存された数本の銀色の髪だった。
「ロイトンでもみくちゃにした時に計らずも入手してしまったものです」
口には出さなかったが、その場にいる全員が同じ事を思った。こいつ変態だ……と。
「GJです!」
変態同士で通じるものがあるのか
復活の材料を受け渡し満面の笑みでハイタッチをする二人。
これで復活の算段は整い……といいたいところだがまだ問題はあった。
さりげなく爆弾発言をするラーナ。
「でもこれって普通にやると一ヶ月はかかるんですよね〜」
「ヤバイですよ! 一分で復活させなきゃ世界終わりますよ!」
またも暗礁に乗り上げ、やはり初めから無理な話だったのか、と諦めかけた時。
ようやくリリスラから解放されたアオギリが口を開いた。
「師匠から預かったものなんですが……これでどうにかなったりしませんか?」
彼が取り出したのは不思議な輝きを放つ小さな欠片。
ラーナとレーテには分かった。それは、時を操る剣の欠片。

227 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/29(土) 01:38:13 0
「いいですか? 決して覗いてはいけませんよ」
ラーナはそう言って怪しげな部屋に入っていった。

未だ精神は分離しているはずなのに。
不思議な事に、自分の体が出来ていくのを感じながら優しい夢を見ていた。
生まれる前は多分こんな感じだったのだろう。
「パルメリス……」
現れたのは、寂しげに笑う少女。創世の時代、この世界に命を与えた始まりの使徒。
自らの子達を愛するがあまり狂ってしまった母なる存在。
「パルメリスはケセドのことうらんでるよな……当然だよな……
でも君たちが紡ぐ未来、見てみたい……」

「見てみたい……ちょっとならいいよな」
と、トムは言った。
決して覗いてはいけないといわれたら覗いてみたくなるのが世の常である。
という訳で待っている間暇な人たちは扉の隙間から覗いてみる事にした。
見た瞬間、覗いてはいけないといわれた意味が分かった。
ラーナと、ラブ&ピースと書いた鉢巻をした全身タイツの変な生き物達が
培養槽を取り囲み、輪になって謎の儀式を執り行っているのだ。
「ぎゃあああ!! 何アレ!?」
「あれが高度な科学!?」
「あんなのに神頼みしようとした俺達がバカだった!」
騒然とする面々をレーテがなだめる。
「まあ高度に発達した科学は魔術と区別がつかないってよくいいますから……
ちなみにレトの民は身体構造の中に科学を扱う機構を持っているそうです」
微妙になだめ所がずれているのであった。
六星龍でもある彼女は、筋肉隊をはじめとする変な使い魔に対する耐性があるので
あまり衝撃を受けないのである。
「絶望だ……絶望だ……」
そうしている間に、ラーナは何食わぬ顔で出てきた。
「あーあ、だから見たら行けないって行ったのに……」
口では言いながら妙に嬉しそうである。見られることを前提にしていたらしい。
「ほら早く来て! あなた達が仕上げてくれないと完成しないじゃないですか!」
促されて入っていくリオンと、ラーナに引っ張り込まれる絶望中の四人。
「突貫工事でどうなる事かと思いましたが大成功です」
その言葉にまさかと思い顔を上げた4人は、いろんな意味で驚いた。
培養槽の中には確かにエルフが眠っていた。しかも、腰まで届く銀髪を持つ美しい女性。
「これが……触角!?」
「人を間違えたんじゃない!? あいつは絶対美人じゃないしそもそも男だし!」
「ん? どう見てもパルちゃんじゃん。そんなことより早くいくよ!」
リオンはそう言ってホワイトバトンとラーナのペンダントを示してみせた。
釈然としないながらも他の四人もそれぞれの武器を取り出す。

「そうだね、恨んでるかもしれない。でも……」
僕は夢の中の少女に告げる。
「必ず未来掴むから……必ず……」
コーコースの力の残滓によって幾年もの時を数十秒にして辿り、再び生まれる時がきた。

ガラスが割れるような音がして、目を開ける。
破片と水滴が散乱する中心にいた。見慣れた自分の体で。
違うのは、髪が腰まであるのと、ずっと消えなかった傷跡が無くなっていること。
目の前には、ファイナルドラゴバズーカを持ったリオンちゃんと蜥蜴の尻尾の4人。
そして横には、女神ラーナ様。
「みんな、ありがとう……早く行かなきゃ……」
そのまま出て行こうとする。本当ならもう少し状況を把握するべきだったのだが
ゲート内に置いてきた仲間たちの事を考えて気が気じゃなかったのだ。

228 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/30(日) 00:53:40 0
「ちょっと待ったああああ! そのまま出ちゃダメ!」
突然何か重大な事に気付いたらしいリオンちゃんが体を張って引き止める。
「どうしたの?」
「えーと、ほら、何も装備してないから!!」
改めて全身を見てみる。そう言われてみればそうだった。確かに何も装備していない。
「うわああああ!! 見ちゃらめぇええええええ!!」
叫びながら、例の4人組が平然といる事に今更ながら気付く。
これは以前謀らずも半裸にしてしまった仕返しか!? 仕返しなのか!?
「……ざまーみろ」
「やっぱりさっき美人に見えたのは気のせいだったな」
「うん、気のせいだよ」
その直後に4人組が「何見てるんですかーッ!」とラーナ様に投げ飛ばされたり
(しかしよく考えるとラーナ様が連れてきたのではないだろうか?)
リオンちゃんが服を探しに走ったりと大騒ぎの後。

「おおっ!」
僕の姿を見て暁旅団のみんなは歓声をあげた。
纏っているのは何枚もの透き通るような生地と幾つもの宝珠をあしらった止め具でできた魔法の衣。
女王時代に着ていた装束だ。なぜかというとこれしかなかったからである。
「転移装置の準備は出来ています。どうぞこちらへ」
ラーナ様に促されて、転移装置の中に入る。一緒にいくのは、リリスラちゃんとアオギリ君。
あまり一度に大勢送ると出現点がとんでもなくずれてしまうそうだ。
「パルメリス様がんばって!」
「向こうは時間の進む速度が違うのできっと間に合うはずです。ファイトですよ!」
みんなが激励してくれる中、トム君が遠慮がちに聞いてきた。
「なあ……触角つけないのか?」
転移装置が発動し始め、その波動に長い髪がなびく。
「えへへ、このままでいくよ。……世界を救うまで!」
どうでもいいような決意を告げると同時に、僕達はその場から消えた。
空間を超えて向かう先は、最深部へ至る道。
自分の姿をした破滅の使者ともう一度戦うために。そして今度こそは、勝つために。

229 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2007/12/31(月) 00:18:14 0
空間転移中、アオギリ君はリリスラちゃんにいじられ続けていた。
彼女の話によると、僕のために死にかけていたあげくに
体を再生する時にコーコースの欠片を提供してくれたそうだ。
「しっかし単純だよなぁ、龍に助けられただけでこんなに素直になっちまうんだからさ」
「勘違いしないでください! 
今こうしているのも全ては獣人ワールド復興のための一環として……」
「素直じゃない奴!」
そんな会話を聞きながら、一人首をかしげる。
よく思い出してみるとレベッカちゃんを暗殺未遂した凶悪犯のはずなのである。
今ではとてもそうは見えない。
「えーと……キャラ変わった?」
「変わってません! ほら、着きますよ」

着いた場所は、確かにゲート内だった。ただし、微妙に出現地点がずれてしまったようだ。
その上、大変な事が起こっていた。
「空間が……崩れかけてる!!」
急がなければいけないのに、どっちに行っていいのかさっぱり分からない。
慌てふためく僕に、アオギリ君が背を向けて言った。
「乗ってください」
「でも……」
ためらったのは、ケンタウロスは滅多な事では背に誰も乗せないって聞いた事があるから。
「さあ早く!」
意を決して飛び乗ると同時に、有蹄種族の王者は、草原を渡る風のように駆けだした。
「ついてきてくださいよ、リリスラ!」
その向かう先には、少しの迷いも無い。
「みんながどこにいるか分かるの?」
「全てお見通しです。たとえ千里先であっても!」
程なくして視界が開ける。目に飛び込んできたのは、蹴散らされた仲間達。
そこには、今まさに必殺の一撃を放とうとしているレシオンがいた。

230 名前:パルス ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2008/01/03(木) 00:12:00 0
収束していく12色の光。レシオンが放とうとしているのは13番目の属性虚無。
僕が知っているのと同じなら、霊法の系統に属する精霊にしか作用しないはずの力だ。
しかし、今回はそうではないことが直感で分かった。
その時、倒れている誰かが何かを投げるのが見えた。
アオギリ君の背中から飛び降りざまに、目の前で軌跡を描いた輝きをただ必死に掴む。
「【原子消滅】」
僕と同じ声で、自分以外の全てを否定する言葉が紡がれる。
それは、虚無の霊法をレトの民の術に融合させたものだった。
形あるもの全てを消滅させる虚無の力が辺りを包み込む時、僕は叫んでいた。
手の中の小さな宝珠にむかって。
「みんな、もう一度力を貸して!! 全て守り抜く力を!!」
必ず守り抜かなければいけない、そのためにみんなが復活させてくれたのだから。
どんなに呪われた力でもいい、それで未来が切り開けるのなら。
その想いに、アニマは応えてくれた。

周囲に見えるのは12の人造精霊獣の姿。
時間が進むのが極限まで穏やかになっているのが分かった。
一体ずつ、語りかけながら僕の中に入っていく。
『お帰りなさい』『きっと帰ってくると思ってたよ』『強くなったね』
『心がとっても』『だから……』『教えてあげる』『ボクたちの本当の名前』
『ボク達の本当の力』『決して道を踏み外さないで』『レシオンみたいにはならないで……』
『ボク達は力でしかない』『善でも悪でもないのだから』
そして、12の属性全てが僕と一つになった。

時が元通りに流れ始めて、最初に響いたのはレシオンの驚きの声。
「なんだと!?」
驚くのは当然だろう。最強の一撃を放ったはずが何一つ消えてはいなかったのだから。
今の僕には、虚無の力を打ち消す事なんて訳なかった。
僕は、どの属性とも違う精霊人の姿をしていた。背には、12色に輝く妖精の翼。
全ての属性を融合した、《エクスマキーナ》の対なる存在、同質にして真逆。
伝説の中にだけ存在する運命の大精霊と同じ名。
その名は、銀の輪の女王《アリアンロッド》。

231 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2008/01/04(金) 17:26:52 0
うめ

232 名前:アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM [sage] 投稿日:2008/01/04(金) 22:01:36 0
空間崩壊はもはや止められない。もはやこの空間から脱出するしかない。
それまで何とか崩壊を遅らせる。
出口はすぐそこなのだ。
しかし、出口はレシオンの背後。
そのレシオンは最凶なる一撃を放とうとしている。
それを止める手段はない。

そんな絶望的な状況に、更なる絶望的な事態が起こったことに気づいたのはザルカシュだった。
空間の崩壊が飛躍的に上がったのだ。
「こ、このくそ忙しいときにどこのどいつや!絞め殺したる!!」
思わず叫んでしまったのも無理はない。
崩壊の進む空間に無理やりゲートを空け、割り込むという暴挙を何者かが行ったのだから。

ザルカシュの叫びと共に、レシオンの原子消滅が放たれる。
誰もが目を瞑り、死を覚悟した瞬間。
辺りは静寂に包まれた。
数秒後、レシオンの驚きに声によってその静寂が破られるまでは。

「アオギリ!リリスラ!と・・・誰?」
アリアンロッドとなったパルスに誰もが目を奪われ首を傾げるが、事態はそれを長くは許さない。
レシオンの一撃によって消滅しなかったというだけで、切羽詰った状況は変わっていないのだから。
「え、あれ、ラヴィちゃん?」
「な、なんやあれえええええ!!!」
パルスたちの後ろに、包丁を抱えて走ってくるラヴィを見つけるハイアット。
その声につられてラヴィの方向を見たリーヴが思わず間の抜けた声を上げてしまったのは無理もない。
ラヴィの書ける後ろから空間が消滅し、完全なる闇の世界が広がっていくのだから。

背後からは崩壊する空間。
そして前には、最凶の一撃を防がれ、たけり狂うレシオンが目に見えてその力を高めていた。

233 名前: ◆iK.u15.ezs [sage] 投稿日:2008/01/04(金) 23:50:39 0
三人が行った直後。
「第二軍行きまーす」
なぜかトカゲの尻尾の4人は転移装置に押し込められてしまった。
「なあ……何が悲しゅうて俺達が人外魔境バトルに行かにゃあならんのだ?」
「さあ……解説役じゃね?」
そんな諦め半分な呟きは聞こえないかのように
ラーナがスイッチを入れると、転移装置は変な音をたてはじめた。
嫌な予感がした時にはすでに遅く、爆音が響き渡る。
「「「「ぎゃああああああ!!」」」」
立ち上る煙が消えた後には、木っ端微塵になった転移装置の無残な姿があった。
その中心にはこげてお約束のアフロになってしまったトカゲ団の面々。
「あら、ごめんなさい。思ったより老朽化していて一度が限度だったようです」
あまり反省してなさそうにぺこりと頭を下げるラーナ。
「絶対わざとだろ!!」「お前は女神じゃない……悪魔だ!!」
彼女にとって、そんな言葉はどこ吹く風。彼女の関心は次に移っていた。
「はっ! こうしてはいられない!」
乱れて途切れ途切れになるモニターの映像。
情報の探知器の支配が奪われた事を察知したラーナは、その奪取に取り掛かった。
ただしはたから見ても、何をしているのかさっぱり分からない。
「何が起こったんだ?」
「説明しましょう!」
レーテが解説を始めた。
奇跡とは、レトの民が人間達に崇めさせつつ世の中を管理するために用意したシステム。
世界樹の書は本来、情報探知機兼世界への干渉の媒介として作られたもの。
あらゆる場所にばらまいた世界樹の書の欠片を通して全世界で起きている事を感知し
人間達の願いを聞く体裁をしながら様々な現象を引き起こしていたのだ。
「なるほど!そんなシステムになってたのか〜。
道理で神官の杖って全部同じような宝石がついるわけだ」
長い解説に首をかしげる一行の仲、神官のリオンだけは妙に納得するのであった。

234 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2008/01/09(水) 04:02:32 0
500

235 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2008/01/09(水) 04:03:18 0



終了

【物語は】ETERNAL FANTASIAU:W【続く】

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