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【新生】ヘヴィファンタジーTRPG

1 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 14:30:51 O
●世界観
【帝国】
悪役。新皇帝が何者かとかなんでいきなり強くなったのかとかはまだ未定だから言ったもん勝ちです。
【王国】
帝国と戦争中。旗色悪い。
【その他】
・剣と魔法の中世ファンタジーだよ
・モンスターもいるよ
・暗くてシリアスでどろどろ推奨だよ

●お約束
・決定あり
・後手キャンセルあり
・エログロありだけど全年齢板なの忘れんな

2 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 14:31:46 O
嵐の夜
雷雨が吹き荒れて全てを覆い隠す
それは彼ら「解放軍」にとっては幸運だった
解放軍…軍とは名ばかりのちっぽけな集団
身なりも年齢も性別もまちまちの人の輪
傭兵や冒険者の類いだろうか、それなりの武器を持った者もいるが鍬を手に握りしめた農夫もいる
かつて豊かだった頃には唸るほどの食料が蓄えられていた街の食料庫
今はガランとして寒々しい空間が広がるばかりのそこに集う彼らの表情は決意と不安が入り混じって強張っていた

「…それでは…」
町長…現在は元町長だが…身なりのいい老紳士が髭をさすりながら口を開く

「…それでは…今から領主邸を襲撃します。目的は領主の打倒。そして奪われた私たちの財産の奪回」

「…それと自由もな。町長」

「…そうですね。では……申し訳ない。軍属経験は無いので出撃の号令などどうしていいものやら…とにかく皆さんのご無事と成功を祈ってます」

―――帝国に即位した新皇帝は急激な軍備の増強とそれによる侵略、植民地化政策、奴隷制度などを打ち出す
その苛烈な覇権主義は蹂躙された土地での反発を招き至るところで反乱が起きては鎮圧されていた

王国と帝国の国境にあったここファスタの街も侵略され街は見る影無く寂れた
彼らファスタ解放軍の目的は帝国から派遣された貴族にして現在の街の領主の殺害、そして奪われたあらゆる財産と尊厳を取り戻すこと

彼らのちっぽけな勇気の火は今までの多くの反乱のように踏みにじられるのか
それとも大陸を包む業火となるのか

――――それはこれから紡がれる物語

3 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 14:36:58 O
コテ付けずに責任放棄する気満々だな
って印象しか残らなかった

4 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 15:30:59 O
この前も立ってたよな
諦めの悪い奴め

5 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 16:05:34 Q
ヘヴィってそれほど面白かったわけでもないのにな
そんなにグレゴリと乱交したいのかYO!

6 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/15(日) 21:05:51 0


「――――それで、わざわざ帝都にまで救援要請を出したと?」

ファスタの町の南方に在る一際大きな屋敷。
その屋敷の中でもとりわけ豪奢な作りが成された貴賓室には、現在二つの人影があった。

一人は、この屋敷の主であり、貴族であり、領主である男。
一般的な貴族の例に漏れず、でっぷりと膨らんだ腹と脂ぎった顔、
金ばかりかかった洋服や装飾品は、この男がいかに民から金を吸い上げて来たのかを表している。

そして、もう一人……鴉の濡羽色の髪と、美術品の様に端麗な容姿。そして、真紅の瞳。
その身に纏う魔法銀(ミスリル)の編みこまれた華麗な服でさえも霞ませる、
まるで人を惹きつけるという才を具現化した様な青年。
傲慢で、虚栄心だけは一人前の貴族である男を、床下に平伏させ、脂汗を流させる青年。

「も、も、申し訳ございません。まさか皇子自らいらして下さるとは思いもよらず……」

――――帝国前皇帝第九子、ノイン

かつての皇帝の血をその身に流すその青年は、
長机に肘を付き汚物でも見るかの様に冷たい眼で平伏す領主を見おろす。

(愚昧な男だ……欲望のまま民から財を奪えば、反乱が起きるのは必然だろう。
 その上、反乱が「起きそうだから」と己の保身の為に帝都へ救援を頼むとは……
 こんなゴミが“貴族”だとは、何の冗談だ?)

ノインはそのままブルブルと震える領主を眺め……やがて、優しげな微笑を作る。

「頭を上げよ。反乱というものは条件さえ揃えば、起こる物だ。
 お前がお前の成すべき事をすれば、私がお前を悪く扱う理由は無い。
 そもそも、私はお前の援護をする様に皇帝陛下から命ぜられて来ているのだからな」

ノインがそう言うと、領主は安心したように頭を挙げ、安堵の息を吐き、
いやらしい媚び諂った笑みを浮かべる。

「も、勿論でございます!皇子の援軍があれば、戦力は100倍……我らの軍があんな愚民共を
 血祭りに上げるのは容易い事です!見ていてくださいませ!
 さあさあ、皇子はワインでもお飲みになってお待ちください!
 丁度先日、高級品を購入しまして――――おい!さっさとワインを持ってこんか使用人共!!」

そんな領主から視線を逸らし、ノインは窓を叩く嵐を眺める。

(――――ふん。領主も愚昧だが、領民も尚愚昧だな。
 この領主を殺した所で、帝都から軍が派遣され、反乱参加者の全てが
 処刑されるだけだというのに)

7 :漆黒の司祭:2010/08/15(日) 21:23:11 O
薄暗い闇の中
漆黒の法衣に身を包んだ司祭が笑みを浮かべていた
祭壇に備え付けられた水晶には領主と皇子の会談が映っている
「ほう、釣り上げた獲物はなかなか」
愉悦を含む声が響き渡る

8 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/15(日) 21:27:42 0
という訳でテンプレ

名前:ノイン
年齢:21
性別:男
身長:178
体重:68
スリーサイズ:―
種族:人間
出自:皇子
職業:帝国皇族
性格:冷静
特技:カードゲーム
装備品右手:魔剣
装備品左手:最高級の魔石を嵌め込んだ指輪
装備品鎧:ミスリルを編み込んだ服
装備品兜:無し
所持品:最高級回復薬、指輪の予備、金、皇族の証
容姿の特徴・風貌:美しい黒髪に真紅の瞳を持つ、ゾッとする程の美形
趣味:カードゲーム
将来の目標:???
簡単なキャラ解説: 帝国前帝の第九子。つまり皇族である。周囲から有能だと
評価されているが、王位継承権の優先度が低かった為、先帝の時代は重用されていかった。
それは現帝の時代になっても変わらず、皇族にも関わらず反乱の鎮圧などを
行わさせられている。

9 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 21:45:20 O
名無しの参加は有り?
後は版権キャラとか。

10 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 21:56:41 O
>>1が立て逃げの見本みたいな子だから何とも言えんが今のところノインと酉無しの司祭(NPC?)くらいだし名無しでもなんかしないと持たないぽ
版権はなんか一気に世界観崩壊しそうだから避けたほうが無難じゃね?

11 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 22:19:49 0
>>7
(──見られている?)

男が虚空を見上げると、そこにあるのは屋敷の天井だけである。
だが、先程の感じた薄気味の悪い感覚が錯覚とも思えない。

この男の名はヴォルフガング・ヨアヒム・シュヴァルツシルト。ノインの側近の一人である。

>>6 >>9

「殿下、ご用心なされた方がよろしいでしょう。何者かの気配を感じました」

継承権を持つとはいえ、先帝の第九子であるノインを標的とする暗殺者はそういない。
皇子が旗手として叛乱の征伐に来ていることは、まだ叛徒共の知るところではない筈。
とはいえ、そこに確実な根拠を得ることは叶わず、油断は出来なかった。

「ひ、ひぃ!」

が、その意味を取り違える者もいる。その愚かな男は、でっぷりとした顔を顔面蒼白にして後ずさった。
元々貴族の男を性格的に嫌っていたヴォルフが睨んでいた為に、暗殺を疑われたと曲解したのである。

「め、滅相も無い!私めは帝国に忠誠を誓い、懸命に努めてまいりました。どうか私めの忠節をお信じ下さいませ!」

言葉を重ね、地べたに頭をこすり付けるこの貴族をあざ笑うことは出来ない。
皇族に連なる者に、あらぬ疑いをかけられては彼の地位はおろか肉体も塵になるからだ。
しかし相手をするのも面倒だ。一瞥しただけでヴォルフは再びノインに向き直る。

「奴らの拠点はこの食糧庫となっています。一挙に鎮圧なさいますか?」

王子に向けて方針を尋ねる彼の目に、部屋の隅で震える豚は写ってはいなかった。

12 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/15(日) 22:21:38 0
名前:ヴォルフガング・ヨアヒム・シュヴァルツシルト
年齢:137(クォーターエルフなので、人間に直すと30代半ばといったところ)
性別:男
身長:188
体重:85
スリーサイズ:―
種族:クォーターエルフ
出自:120年前に滅んだ古の王国出身
職業:帝国皇族付侍従武官
性格:冷徹
特技:風属性の魔法
装備品右手:秘剣
装備品左手:緑色の宝石が埋め込まれたミスリル銀の腕輪
装備品鎧:漆黒の甲冑
装備品兜:特になし
所持品:各種薬草類、魔道書
容姿の特徴・風貌:金髪で、蒼い瞳を持つ。エルフとはいえ、クォーターであり外見は人間と全く変わらない。
趣味:読書
将来の目標:不明だが、野心はある模様
簡単なキャラ解説:
故郷においては魔道士になるべく研鑽していたが、古の王国が滅んだ為放浪する。
各地で武芸、武術を会得するると、今度は各地の賢者に指示し様々な学問を修めた。

100年以上の修行期間で培った人脈を生かして帝国に士官すると、
新進気鋭の武官としてめきめきと頭角を現し、軍団長昇進も間近なところまで上り詰めたが、
突然のクーデター嫌疑により、処刑寸前まで追い詰められてしまう。

親交のあった官吏の弁護によりからくも一命を取り留めたものの、
その後はノインによって登用されるまで不遇をかこっていた。

13 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/15(日) 23:13:56 O
「ふぅ〜…いい汗かいた。さて、そろそろ時間だと思ったけど…おや?ピッタリじゃないか。感心だねぇ」

嵐の中、急拵えらしい簡素な造りの小屋から出てきた女は服の一枚も纏っていなかった。
妖しく退廃的な香りを漂わせる肢体はいかにも娼婦。
《一仕事》済ませたといった風に溜め息を吐くと火照る肌を風雨に晒して冷やす。
暗闇の中から現れた男達の姿を認めると妖艶な顔に似合わぬどこか悪戯ぽい笑みを作った。

「…こっちはこれから大仕事だってのになんて格好で出てくるんだよ…首尾はどうだ?」

「……ご覧の通りぐっすりさ。案外だらし無いもんさねえ
…なんならアンタたちも景気づけに一発いっとくかい?これが人生最後の女かもしれないんだろ?」

「遠慮しとくよ。こっちまで骨抜きにされちゃ敵わない」

女が指し示した先。帝国兵の見張り小屋の一つ…その中には噎せるような性臭が漂い片隅に眠りこけた上に裸で縛られてる帝国兵たち。
そして肌も露なままで机に足を投げ出しペディキュアを塗る女
脱ぎ散らかした兵士の衣服から財布を抜き取る女
こちらの視線に気づくと履きかけた下着を上げる手を止めて『いかが?』とばかりに小首を傾げて笑う女
ある意味、死闘の終わった戦場のごとし。


領主は愚昧で臆病な男だったがそれ故に自らの身の危機には敏感だった。
不穏な気配を感じるや屋敷の周囲にいくつもの見張り小屋を立て昼夜を問わず容易くは近寄れぬようにした。
そこで解放軍はファスタの街でも選り抜きの娼婦たちを仲間に引き入れ…あとはご覧の通り。
持ち込んだ酒に睡眠薬でも混ぜていたのだろう。
元より領民虐めが趣味の貴族の兵だ。前線の精強で用心深い正規兵ではない。
戦略というには稚拙で穴だらけの策は思いの外にあっさりと成功した。

「…じゃ、後始末は任せたよ。アタシらはこれから街を離れる。夜逃げにはおあつらえの夜だしね」

「……気をつけて」

「ああ…生きてまた会えたらサービスするよ」

女たちが逃走用の馬車で夜陰に紛れて姿をくらます。
残った無様な兵士たちを始末するのに若干の時間を要したのは護衛についてた傭兵が『腹を括るいい機会だ』と、人を殺めたことのないファスタ解放軍の男たちに処理を任せたから。

まだ屋敷までの道程に見張り小屋が無いではないがこれで気取られずに距離を縮められるだろう。
屋敷にさえ乗り込めばこの嵐だ。外の兵士が騒ぎに気づき帰還する可能性は低い。
外に兵士を置きすぎたが故に屋敷内は手薄。しかもこんなマヌケどもだ。
解放軍の中には初手の上首尾に早くも勝った気になる者もいた。

彼らは知らない。帝都からノインが兵を引き連れて鎮圧に来ていることを。
有能な武官が兵を率いて出撃しようかと機を窺っていることを。

【解放軍先行部隊、屋敷より離れた見張り小屋を攻略】
【名無しの単発ネタでした】
【必ずしも全員固まってもないだろうし戦況の一場面くらいで】

14 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/16(月) 09:57:33 O
地方領土の反乱に怯えるなか、国境では集結していた山椒魚軍団が砦に傾れ込む!
干潟同盟にあっても重戦士部隊である山椒魚軍団の前では砦はなすすべなく押し潰されていく
干潟同盟に制圧された地域は沼地に変貌していくのだ!
確実に、帝国領土は蝕まれていく

15 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/16(月) 10:09:11 O
名前:サンショウウ王
年齢:5000(人間的に50代)
性別:雄
身長:全長3000
体重:1000
スリーサイズ:―
種族:大山椒魚
出自:清流山椒魚洞
職業:王、干潟同盟重戦士部隊隊長
性格:豪快
特技:水属性
装備品右手:銛
装備品左手:
装備品鎧:
装備品兜:冠
所持品:
容姿の特徴・風貌:巨大大山椒魚
趣味:刺繍
将来の目標:南の島でリタイア生活
簡単なキャラ解説:
山椒魚
勢力範囲は沼地になってしまう干潟同盟に属しているぞ

16 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/16(月) 13:16:44 O
そして、このスレは終息に向かうのであった

17 :シオンとレオン:2010/08/16(月) 16:04:45 O
「……んっ……ん……っ」

女の苦しそうな声と共に、卑猥な水音があたりに響く。
くちゅ、くちゅ、と、その小さな口を出たり入ったりする若茎は女の唾液と先端から漏れ出ている汁によって、ぬらぬらといやらしい光りを放っていた。
そこはとある宿の一室で、さして大きくもない普通の部屋だった。
窓辺に寄せられるようにして備え付けられた寝台の上に仰向けになった男は、ふと上半身を起こして
いじらしいほど懸命に己の一物を銜え込んでいる姉の紅い髪を、そっと撫でた。

「どうです?シオン姉さん。俺の一物はそんなに美味しいですか?」

とても嬉しそうに、とても意地悪げに囁かれた問いに、弟の股ぐらに顔を埋めていた姉は強く眉をひそめた。

「…あんたが舐めろって言ったから舐めてんのよ。こんなの美味しいわけないじゃない。冗談は一昨日言ってちょうだい」
シオンはため息をつくと弟の肩に手をあて体を起こす。弟の顔の前に胸が近づく。
弟は無造作にそれを握りしめたが握りしめた手から、姉の胸は逃げだし頭の遥か上でツンとそそり立つ。
そのかわりに弟の眼前には美しい陰毛に隠された濡れた花弁が妖しく咲き誇っていた。
弟は姉の陰部に顔を埋めると桃色の肉襞に纏わり付いている蜜を猫の様に舐め落としていく。

「俺の一物は美味しくないなんて言ってたわりには、こんなに濡れているじゃないですか?
姉弟の関係じゃなかったら…串刺しにしてあげてるのに…」
弟のレオンは悲しく呟いた。

18 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/16(月) 18:05:09 O
>>17
悲しい呟き
それが弟の最後の言葉だった
「すべての湿原は我らの領域なりー」
冥府の底から響くような声は濡れそぼった姉の陰部から届いたのだ
鋭い銛を伴って!
顔を埋めていた弟は…

自分の股ぐらで血に染まり痙攣する弟
そしてあふれ出る大山椒魚
室内に響き渡る絶叫
ソレは悲しいことに惨劇ではなくありえない快感のためにあふれ出たものだった

「ぐふふふ、我ら干潟同盟重戦士部隊大山椒魚の進軍は続くのだ」
オオサンショウウ王は銛に着いた脳蒋を一振りで飛ばすと姉を凌辱し、湿原を広げていく

19 :シオン:2010/08/16(月) 20:50:22 O
>>18
シオンはレオンの実の姉であるから女を捧げることは出来ない。それゆえに、いまだ女で汚れていないレオンの若茎。
早く村娘でもあてがって逞しい大人の男に成長してて欲しい。それは姉の秘めたる思いであった。

「うん…くぅん…レオン…」
シオンは股間に埋まるレオンの頭を両手で優しく押さえ付けている。

「ね…え…さ…ん…」
突如、血飛沫が弟の頭から噴き出し姉の陰部を血で染める。二つに裂けた顔面から涙を流し崩れ落ちる若い肉体。
射精寸前の赤い竿の先は恨めしげにぶるぶると痙攣しながら精液ではなく尿をぴゅっぴゅっと放っている。

「きゃああっ!!」

シオンは己の陰部からヌラヌラと突き出てくる異物に気が付いた。弟に死を与えたもの。それは子宮口を押し分け膣壁を押し分け、シオンの処女膜を破りながらゆっくりと外界に顔を出し始める。

「あ…あっ…いやあ!」

シオンから生まれたものは生まれてすぐにシオンを犯した。弟の亡きがらの隣で種付けをされる姉。
シオンは目をつむり行為が終わるまで耐えた。屈辱とは裏腹に体は快楽でとろとろにとけてしまいそうだった。

数日後。弟を埋葬して墓の前に呆然と立つシオン。
あれは夢だったのだろうか?否。子宮の奥に放たれたオスの生臭い液体は今だにおりもののようにあふれだしては下着を濡らす。

20 :王様 ◆fU4XpFjo86 :2010/08/16(月) 21:26:33 0
名前:王様
年齢:40代
性別:男
身長:187
体重:90
種族:人類
出自:王国
職業:王様
性格:燃える闘魂
特技:ビンタ(周囲100メートルを吹き飛ばす)
装備品右手:無し
装備品左手:無し
装備品鎧:真っ赤なタオル
装備品兜:無し
所持品:トイレットペーパー
容姿の特徴・風貌:異常に長い顎
趣味:詩を読む、金山開発
将来の目標:王国の領土を広げたい
簡単なキャラ解説: 王国の王。「元気があれば何でもできる」
が座右の銘。
腹痛が起こると、半径3キロメートルは避難区域になる。

21 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/16(月) 21:42:56 0
>>11
>>7
>>13

「殿下、ご用心なされた方がよろしいでしょう。何者かの気配を感じました」

「……ほう」

ヴォルフガング・ヨアヒム・シュヴァルツシルト。
ノインは、自身が側近として置いているその男の言葉を聞き、
目を細め、その深紅の瞳を窓の外へと向ける。
椅子の下では肥え太った貴族が無様にも地に額を擦り付けているが、
ノインがそれに気を向ける様子は無い。

今までの会話で解っているのだ。
目の前のこの豚に、自分を狙うなどという大それた器が無いという事を。
だが、あまりにも騒がしい貴族のその姿に鬱陶しくなったのか、
やがて視線を貴族の男に向けると、微笑を作りながら語りかける。

「案ずる必要は無い。お前が国家に忠実なのは私も知っている。
 そんなお前が私に刃を向けるなどとは思わんよ……そうだろう?」

「は!はい!そうですともそうですとも!!
 私は国を愛する忠実な貴族です!皇子の為ならば何でもする所存です!!」

ノインの言葉に、喜色と安堵を浮かべる貴族。
ころころと変わるその感情は、この男に一貫した信念など無いという事を示していた。
無論、ノインが言葉通りの事を思っている筈は無いのだが、それに気付く様子も無い。
そんな貴族から再び視線を外し、ノインは今後の方針を尋ねて来たヴォルフへと、
彼が本来持つ、氷の様に冷たい視線を向ける。

「奴らの拠点はこの食糧庫となっています。一挙に鎮圧なさいますか?」

「いや、鎮圧する必要は無い。雑草は、根から刈り取らねばまた生えてくる物だ。
 まずは、反乱を起こした者を、可能な限り生かして捕らえよ。
 そして首謀者を炙りだし、そいつを反乱を起こした民衆の目の前で、殺せ。
 帝国の処刑の作法に則ってな」

外で待機していた魔法兵から、解放軍の接近が知らされるのはその数分後の事であった――――

22 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/16(月) 22:35:12 0
時間を遡る事少し。
解放軍のリーダーは拳を振り上げ、唾を散らしながら演説していた。
「原初、我々を縛るものは何も無かった……。
争い合う事も無くあるがままの姿でおおらかに生きていた。
それが今はどうだ、支配者の圧政によりあらゆる規範にがんじがらめにされているではないか!
真実の姿を覆い隠す衣服こそがその象徴!
我々は崇高なる理想のもとに自由を抑圧する帝国に戦いを挑む!
今こそ人間性の解放の時! 裸で何が悪い! 出撃いいいいいいいいいい!!」

  (  ) ジブンヲ
  (  )
  | |

 ヽ('A`)ノ トキハナツ!
  (  )
  ノω|

こうして、リーダーであるクシャナ・ギツゥヨシの指揮のもと、総勢5000人のヌーディストによる解放軍部隊”スマッパ”が帝都に迫っていた!

23 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/17(火) 00:28:27 0
>>13 >>21
「いや、鎮圧する必要は無い。雑草は、根から刈り取らねばまた生えてくる物だ。
 まずは、反乱を起こした者を、可能な限り生かして捕らえよ。」

取り乱した貴族に向けていた作り笑顔も、ヴォルフに視線が写ることにはすっかり消えうせていた。
その氷のように冷たい視線と表情、そして何より風格は20過ぎの人間にそうそう出せる代物ではない。

(やはり、並の御方ではないな)

自らの六分の一程しか生きていない若者に傅きながら、
彼は主の判断と見識が理にかなっていることを再確認する。

「そして首謀者を炙りだし、そいつを反乱を起こした民衆の目の前で、殺せ。
 帝国の処刑の作法に則ってな」
「御衣」

叛乱を鎮圧する最も有効な方法は、獣に対するそれと変わらない。
幾度叩いても獣は怯まない。、身動きを封じた上で牙をへし折ることに尽きる。
そのようなことは諸国遍歴を重ねた彼にとっては言われるまでもないことだが、
先程から一喜一憂を繰り返す貴族の男はそのことをまるで理解していなかった。

元々、この男から帝都に寄せされた救援内容は、
『叛徒共を一挙に殲滅しうる援軍を求む』というものだった。
正規軍が到着しても尚、策を練るでもなく「早く奴らを潰してくれ」だの、
「グズグズするな」だの言い立てておいて、いざノインが顔を出した途端にこれである。

24 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/17(火) 00:32:38 0
(そんな奴らに振り回されるのは御免被りたいものだ)

言うなればヴォルフは、わざと主に尋ねることで、
愚鈍な貴族の男に最も効果的な形で正解を聞かせてやり、
次からこのような事態を引き起こさせないように図ったのだ。

(そもそもこの豚に、本気で叛乱に対処する気があるのか?)

本来的にはこの男が有している兵力だけでも、叛徒を鎮圧することは可能な筈なのだ。
もし最初からこの領内の兵数があれば、1日かけずにことを収めてみせる自負がヴォルフにはあった。

「申し上げます。反乱軍の手の者が屋敷に接近しつつあります。」
「ば、バカな!見張りは何をしていた!?」

(それみたことか──!)

案の定というか、敵の襲来を告げたのはノイン配下の魔道兵。
折角の見張りも、兵力を分散させすぎたことが仇となったようだ。

多少心得のある者であれば、この場で慌てふためく無能な貴族を駆逐することなど容易かろう。
ノインやヴォルフにとっては予想するまでもない事であり、迎え撃つ為の準備も整えられていた。

「殿下、既に兵の配置は完了しております」

ヴォルフは主に向けてうやくやしく一礼すると、自らも剣を手に矢面へ赴く。
こうして、ファスタの街での攻防戦の火蓋が切って落とされた。

25 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/17(火) 00:55:11 0
解放軍側のコテがいないね

26 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/17(火) 01:30:51 O
兵をいくつもの地点に分散させ警戒にあたる。
これは嵐の夜には各個撃破の格好の的になった。夜の闇に加えて吹き荒れる豪雨には見張り櫓も意味をなさない。
次々と接近を許し襲撃され沈黙する見張り小屋。

いまだに解放軍側にさほどの被害も無く、このまま夜明けを待たずに勝敗は決するかに思えた。
しかし―――

「おい……あの明かりはなんだ…?」

「屋敷…にしては妙だな。動いてるぜ。それにまだそんな距離じゃ…」

「…チィ!待ち伏せされてやがる。とうとうバレちまったかよ…」

「なんか…数が多くねえか?見張り小屋にバラけさせてる連中をザッと引いても…計算合いそうにないぞ」

「……援軍かっ!?くそ!厄介なことになった」

「…とりあえず俺達はただの偵察隊だ。とても勝負にならん。引き返してこのことを本隊に伝えて策を考えねば…」

【ファスタ解放軍斥候部隊数名、布陣中の正規軍を発見。離脱準備中】

27 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/17(火) 22:42:08 0
>>24
>>26

「そうか。ヴォルフガング・ヨアヒム・シュヴァルツシルト。
 お前に今回の帝国正規部隊の指揮権を預ける――――行け」

『行け』。ノインがヴォルフに与えた命令はたった二文字。
しかしその二文字は強大な力をヴォルフに与える。
即ち、軍隊の力。数の力。そして権力。
これよりヴォルフの言葉は皇子の言葉となる。
帝国の恩恵を享受する人間であれば、まず逆らえない絶対の規則、
それがヴォルフに預けられた。
……勿論、強大な力を与えられた物には重い義務が課せられる。
だが、その事を敢えて口に出さない位にはノインはヴォルフという男の
能力を信頼している様である。

「……で、殿下!恐れながら、あの様な混じり物に軍隊を預けるのは」

と、そこで怯えていた貴族の男がハッと気が付いた様に何か言いかけるが

「ほう……私の指示になにか不満があるのか?」

ノインの声を聞き、鶏の首を締めた様な声を吐き沈黙した。
そうしてノインは、再びナイフとフォークを手に取り静かに食事を再開する。


嵐の中、遠くで悲鳴が聞こえた。
貴族の私兵では無い。正規兵の警戒網の中に紛れ込んだ反乱軍の斥候でもいたのだろうか。

28 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/17(火) 23:46:11 0
>>27
「そうか。ヴォルフガング・ヨアヒム・シュヴァルツシルト。
 お前に今回の帝国正規部隊の指揮権を預ける――――行け」
「御意」

ノインから発せられた命令も、そして応じたヴォルフの言葉もただの二文字。
彼は己に与えられた権限と重責、そして信頼を確かに感じ、充足感を持って屋敷を後にする。

懸念があるとすれば、先程感じた何者の視線と気配だが、
確たる証拠が無い段階では詮索しても埒が無かった。

「それに…万が一のことがあったとしても、皇子が刺客程度に遅れを取ることもあるまい」

それは予測ではなく、確信に近い心情を示す呟きであった。

>>26
夜の嵐という天候条件にあっては、貴族の私兵程度では敵の接近を看破し得ないのも道理かもしれない。
その点では解放軍の偵察隊にとって有利に働いたのだが、同時に不運をももたらした。
もし天候穏やかであれば、貴族側の援軍の存在ならびに正体をより早く知ることが出来たであろう。

味方に状況を知らせるべく脱出を図った偵察隊だったが、一人残らず補足され次々と夜の森に消えていく。
例外は隊長格の男が一人だけ、それも手ひどく痛めつけられて尋問にかけられた。

「卿に聞きたいことは三つ。首謀者の素性と、参加者の精確な人数と、支援に及んだ者、以上だ」
「だ、誰が貴様らなぞに!」

ボロボロの身体を押さえつけられながら、偵察隊長は必死に目の前の男を睨みつける。
とはいえ、悲しいかな。抵抗できなくなった弱者はまな板の上の鯉でしかない。
拷問が加えられる度に、痛々しいまでの悲鳴が周囲に響き渡る。と、そこへ…

29 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/17(火) 23:48:36 0
>>22

「も、も、も…申し上げます!帝都が賊徒共の襲撃を受けた模様です!」

突然過ぎる報告にも、ヴォルフが表情を変化させる様子は無い。
慌てて駆け込んできた魔法兵を宥め、より詳細な情報を催促する。

「その正体はいまだ不明ですが、賊徒の数は最低でも3000は下らない由にて…」
「より詳しく調べろ。殿下にも報告を入れよ」

彼は思案する。これもまた解放軍の妄動のうちだろうか。
それとも帝都手薄の隙をついた別の反乱者の仕業であろうか。

確かにここ最近は多くの軍団が帝都を離れてはいる。
だが、近衛軍が残っている以上、結局叛徒共の足掻きは無駄に終わるのは目に見えていた。

(愚かな…帝都ががら空きとなったこと事態が、皇帝のしかけた罠だと何故気づかない)

とはいえ、数千もの数が揃うとなると尋常ではない。

(この叛乱に乗じて策動する者がいるようだな)

山椒魚の王を名乗る両生類共であろうか?それとも別に何者か…
そこまで思案を広げていたところへ、解放軍の本体が出陣し、屋敷を目指しているという報告が入った。
いずれにしろ、今の彼の成すべきことは、目の前の叛乱の鎮圧である。

「この者はどうしますか?」
「構わん、自白剤を使え。死んでも止むをえん」

足元で呻く偵察隊長の処遇を尋ねられたが、既に用が無いと言わんばかりの返答で返す。
叛徒共を可能な限り生かして捕らえ、首謀者を処刑する。
その目標を達成するべく行動する必要があり、最早捕虜一人につきっきりではいられなかったからだ。

30 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/18(水) 00:41:13 0
ヘヴィってどのへんが?

31 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/18(水) 00:41:55 O
>>22
帝都。この堅牢な要塞都市の外周はまさに屍山血河の様相を呈していた。

「…しかし意味がわかんねえ」

「ああ、同感だ。悪い夢のようだぜ」

要塞の隔壁の上から見下ろす兵たちの眼下には見渡す限りの真っ裸の死体が転がっていた。
出で立ちからして不審な集団が大挙して押し寄せたのだ。
あっさりと発見され一斉攻撃を受けて敢え無く鎮圧。
武器も防具もなく奇声をあげて駆け回る姿に最初こそ兵士も戸惑いはしたが所詮は裸。
彼らに振るわれた剣も矢も防ぐ手立てはなくバタバタと倒されてしまう。

かくしてクシャナ率いる自分を解放する軍『スマッパ』は交戦から二時間足らずで滅亡。
しかしあまりの不可解さにカルト宗教説や精神を侵す伝染病、危険な薬物の副作用などいくつもの憶測を後々まで呼ぶこととなる。

「…で、あの死体の山はどうすんだ」

「見せしめにしばらくあのまま隔壁の外に放置だとよ」

「マジかよ……勘弁して欲しいぜ」

32 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/18(水) 21:07:06 O
「…ちょっとマズいな…」

「…えっ?何が…ですか?」

屋敷まではまだ距離のある林の中。占拠した見張り小屋を解放軍本隊は一時的な拠点とし斥候部隊の帰還を待っていた。
…しかし予定の時間になっても誰も戻らない。傭兵の男は窓の外の暗闇を睨んで舌打ちした。

「……遅すぎる。こりゃあ…」

「ああ…やられたな」

「そ、そんな…だってまだ誰にも気づかれていないはずじゃ…」

「敵だってバカタレばっかじゃねえってこった」

「うっし。休憩終わりだな。さっさとここ出るぞ。こんな小屋に立て篭っても袋の鼠だ」

降りしきる雨の中。男たちは明かりを消し林に紛れると地を這うように身を低くしゆっくりと前進を始める。
彼らと帝国軍の衝突は目前に迫っていた。

33 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/19(木) 09:40:37 0
名前:ドーラ
年齢:不明
性別:オスもしくはメス
身長:3m
体重:300kg
スリーサイズ:―
種族:竜
出自:なし
職業:なし
性格:自己中心的
特技:
装備品右手:なし
装備品左手:なし
装備品鎧:なし
装備品兜:なし
所持品:なし
容姿の特徴・風貌:銀の羽に銀の鱗。胴体はオレンジ色
趣味:ぬこいじり
将来の目標:のんびり過ごすこと
簡単なキャラ解説:
悠久の時を生きる竜。長生きゆえに知識があり、年相応の冷静さを持つ。
口からはブレスを吐き、牙は人を食らう
人に変身する能力を持ち、普段は人として暮らしている

34 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/19(木) 10:20:25 0
ねこが体を丸め、クースカクースカ眠っている
猫が眠っているのは女の腹の上
女からすれば迷惑なことこの上ないのだが、猫にとってはそのようなことなどどうでもいいらしい
「重い…」
とうとう女は耐え切れなくなり、体を起こした
「何でうちの猫は主の安眠を妨害するのよ…」
目の下にはクマができ、どことなく肌の色がくすんでいる
こうまでされてはさすがに迷惑だ
罰ゲームにでもとばかり猫を捕まえ、両の手でほほを伸ばそうかと思ったが、急に手を止めた
(血の匂い…)
窓の外を見ると、土が赤く染まっているのが見えた
赤く染まった土の上には裸の人間が山のように折り重なり、みな一様に体には穴が開いている
(反乱?)
猫がみゃーんと甘えた声を出しながらすり寄ってきた
(となるとここも危ないわね…)
貴重品といえるものはとくにはない
あるとすれば、長年飼っている猫ぐらいのものだ
猫を抱きかかえ、勝手口から外へ出ることにした

35 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/19(木) 12:14:58 0
夜の闇にまぎれ、猫を抱えたまま女は歩き出した
(この辺なら大丈夫そうね)
女は竜に変身し空を舞った
眼下に帝都が見え、そこから少し離れたところに自信の住んでいた屋敷が北の方にある
北から森を隔て東に行ったところには屋敷があり、その北にはファスタの街がある
上空から見ると、まるで反乱が嘘であるかのように穏やかそのものだ
「○×△□…」
猫を抱えたまま呪文を唱え、あたりを見回した
城門で囲まれた屋敷には重武装の兵士が多数配置され、つけいるすきはない
当然のことながら勝てるはずもないのだが、兵士たちの近くに鍬や隙を持った人間が集団で迫りつつある
(寄せ集めの兵士が勝てるはずないでしょうが…)
屋敷の方に再び目をやり、ため息をついた
あそこの屋敷に住むものはおろかで傲慢だ
民のことを全く考えておらず、私腹を肥やすことにしか頭がない
とはいえ、解放軍についたところであの領主を引き摺り下ろすことができないのも事実だ
屋敷の前に立つ兵士の前に降り、こう声をかけてみることにした
「屋敷の領主に合わせてくれるかしら?平和裏に反乱を鎮める方法をお教えしますわ」


36 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/19(木) 14:12:00 O
>>35
「なんだ貴様はっ!!」

「そこを動くな!手を上げろっ!」

重装兵たちはまるで巨岩のような鎧を纏いながらも目を見張るような機敏な動きでドーラを取り囲み槍を突き付ける。

「策がある…だと?」

「ハンッ!怪しいやつめ!ひっ捕らえて…」

「いや、待て…ただ者でもあるまい。一応取り次げ。殺すのはそれからでもいい」

これが貴族の私兵ならば身体検査だのといちゃもんつけて服を脱げなどと言い出すのだろうが彼らは皇族付きの正規兵だ。
空から降り立ったドーラの得体の知れなさ故にその言葉に説得力を感じ、一人の兵士が屋敷内に走る。


>>27
「…自白剤を使用しましたところ首謀者は前町長、兵数は傭兵も含めおよそ三百、手引には娼婦たちもいたとのこと…捕虜は死亡しましたのでそれ以上の情報は…」

ノインの前にひざまずいた兵士が偵察隊を捕らえて尋問した情報の報告を行っていた。

「……前町長は町役場の役人の経歴しかない生粋の文官です。人柄も慎重でともすれば優柔不断な男。
僭越ながら申し上げますがとても傭兵を引き入れ市民をまとめあげてこの様な反乱を指揮できる器では…恐らく別に実行部隊の指揮者がいるものと」

兵士の言葉通り今回の反乱はある程度の軍の統率能力。
そして帝国に対する無謀とも言える勇ましさが見えかくれしていた。
いずれも老成した町役人上がりが持ち得るものではない。


「申し上げます!現在、屋敷正門前に不審な女が空から降り立ち反乱を平和裏に解決する策があるので領主様に謁見したいと…」

そこにズブ濡れの兵士が駆け込んで来て領主とノイン、どちらにともなくドーラの訪問を伝える。

「女だとぉ!?馬鹿か貴様はぁっ!そんなものは賊徒どものスパイか刺客に決まっておるわ!
さっさと地下牢にそいつをぶち込んで拷問に…あっ、殿下。その、もしよろしければ我が軍が賊徒を打ち破るまでの余興に殿下直々に“取り調べ”なさいますか?へへへ…」

聞くや領主が怒鳴りつけるが、不意にノインに向き直ると床に平伏したまま揉み手しながら下卑た笑いを浮かべて浅ましい提案をする。

37 :ファイ ◆rG6t/fToo/Q9 :2010/08/19(木) 20:16:01 O
名前:ファイ・ヴァフティア
年齢:20歳
性別:男
身長:1m75cm
体重:60kg
出自:当てもなく旅を続けている為、不明
職業:なし
性格:無愛想で不機嫌そうな態度を見せることが多い
特技:様々な職業についてきた為、特技は多いが中途半端
装備品右手:安い剣
装備品左手:なし
装備品鎧:なし
装備品兜:なし
所持品:なし
容姿の特徴・風貌:茶色の長い髪に面長の顔、上下共に黒い皮の服
趣味:1人で空を見つめる事
将来の目標:特にない
簡単なキャラ解説:目標を持たず、当てもなく旅を続けている青年。
過去のことを語りたがらず、どこから来たのかも不明。
現在は解放軍の用心棒をしているがやる気はあまりない様子。




38 :ボンバー ◆vQ2MXGmv8E :2010/08/19(木) 20:56:42 O
名前:ボンバー・バブルソン
年齢:47歳
性別:男
身長:2m32cm
体重:200kg
出自:不明
職業:怪力
性格:無口
特技:無敵
装備品右手:なし
装備品左手:なし
装備品鎧:なし
装備品兜:なし
所持品:なし
容姿の特徴・大黒人
趣味:木彫りの人形
将来の目標:ない
簡単なキャラ解説:記憶喪失

39 :ボンバー ◆vQ2MXGmv8E :2010/08/19(木) 21:14:15 O
手繰り寄せた肉球のピンク色が乾きひび割れて取りこぼした酒瓶が真っ逆さまに小指の先へ向かう。
本の角は乾いた脳漿で封を閉じられ爪切りは忘れ物を吐こうか飲み込もうか思案する。
道端に積み重なる鼠の骨拾い集めて耳にねじ込んでも咳の数だけ増えていく。
鞄の底に手が届かず布一枚取り出せないまま出会い頭に折られた鼻骨の指す方向へトボトボと歩く。

「今日は良い天気ですね」

湖に沈む竜の中で昼食にありつく魚類が水面を眺める。剣の使い方も知らない。
枕のへたれ方が歪だ赤外線で太陽の呟きを受信してしまうだろう。此岸と彼岸を分ける細い荒波に鋏を入れる。
薬業の匂いが沸き立つ。手紙は秋の落ち葉と間違われ芋を焼く。
煙がススッと雲の端から糸を垂らし掴んで引っ張ると夜が落ちてきたのだろう。

『血の涙を流せッ!!!!』

40 :ボンバー ◆vQ2MXGmv8E :2010/08/19(木) 21:52:58 O
>>36
腹が減った。憎しみの核は無知だ。撫で斬りだ。
枯れ花も枯れ草もひとまとめにして黒い苛立ちがこの身を焦がす。
剣呑な表情の兵士たち。
腹が減った。無知で貪欲なこの浮世の暗がりの中で、とりあえず怒る奴がいる。万死に値する。
何も考えてない奴がいる。奴も万死に値する。

腹が減った。食えば満たされるのか。満たされて其れで終わりなのか。頭の中で蠍が共食いしてる。

そして屋敷内に走った兵士に立ち塞がるボンバー。

『血を飲み干すが如く砕け散るがよいッ!!!!』

41 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/19(木) 21:53:30 0
>>32 >>36

解放軍を待ち構えながら、ヴォルフは配下の兵士から報告を受けていた。

「捕虜に自白剤を投与した結果、捕虜は死亡しましたが一定の情報を得ることが出来ました」
「手短に頼む」

兵士の方を一瞥することなく、解放軍が接近しつつある夜の森を睨んだままの姿勢で情報を聞く。
概要をかいつまむと、以下の通りである。
首謀者は先の町長、人数は三百人程、協力者の中には行きずりの娼婦もいたということ。

(解せんな、前町長とやらは報告を聞く限り、町役場の叩き上げで軍事の素人)

今回の叛乱にはそもそも不自然な点がいくつも見え隠れしている。
彼が漠然と感じた視線といい、確証こそないが何者かの暗躍があると断定していい状況だった。

「殿下にも至急ご報告申し上げろ。それと逃げた娼婦の行方も追え!」

そのことについて、彼がそれ以上思案を広げることは叶わなかった。何故なら…

>>33-35

「何…女が空からやってきただと?」
「ハッ、如何なさいますか?」

解放軍との衝突を目前に控えた状況で、文字通り降って沸いた珍事にヴォルフも一瞬眉をひそめた。

「まだ若干の時間的猶予がある。会おう」

本来なら黙殺しても良い事柄かもしれないが、あえて面会することにした。
ヴォルフにはある予感があり、会わなければならないと感じていたからだ。

42 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/19(木) 21:54:38 0
「ハンッ!怪しいやつめ!ひっ捕らえて…」
「いや、待て…ただ者でもあるまい。一応取り次げ。殺すのはそれからでもいい」

「馬鹿者!槍を下げぬか!」

彼が現場につくと、そこでは重装兵達が槍衾を持ってドーラを取り囲んでいた。
ヴォルフは彼にしては珍しく怒声を張り上げ、兵士達を制止させる。
そしてそのまま兵士達を書き分けて貴婦人の前に出ると、恭しく頭をたれた。

「お久しぶりです、ドーラ」

主以外の者に礼を持って接するヴォルフを見て、兵士達は驚きを隠せなかった。
彼にとって、ドーラとは100年以上前に、古の王国が滅んで以来の旧知の仲である。
まだ少年だった彼は、たまたま通りかかったドーラによって助けられた。いわば恩人なのだ。

「屋敷の領主に合わせてくれるかしら?平和裏に反乱を鎮める方法をお教えしますわ」
「……一応取り次がせましょう」

一瞬ではあるが、ヴォルフは即答をためらった。
彼女の言い出しそうなことは何となく予想できたからだ。

「誤解のないように言いますが、ドーラ。我々は叛乱の鎮圧に来たのです。
 屋敷の中におられる御方を相手に、くれぐれも滅多なことは口にしないで頂きたい」

彼女は恩人である。だからこそ、彼女とノインの間に波風が立つことだけは避けたい。
それがヴォルフの偽らざる心境だった。

「それでは私はこれで…貴方と殿下の話が終わるまでの間、
 解放軍の相手をしなければならないので…」

状況証拠から見るに、そんなに簡単に済む話ではあるまい。
そんな思いを抱きながらヴォルフは現場に戻った。

43 :ボンバー ◆vQ2MXGmv8E :2010/08/19(木) 22:21:02 O
>>42
情景は白くも黒くもない。グズついた灰だけがボンバーの掌から零れる。記憶が欲しい。
鼓動を止める楔を与えてほしいのだ。剣に蝿が留まった兵士達の真ん中から割れるように記憶が溢れるだろう。
憎悪にはそう書かれている。対極の文様の如く火と雷が渦巻いている。
美しさなど欠片もない記憶。
涙とナマクラな正義を掌で打ち砕けば内臓が溢れる。重ねるのも無駄な後悔を詩になすりつけたくなるだろう。本心から作り笑いを浮かべたボンバー。
こんな事では死んでしまうとドーラが言う。どこからか刹那かは知らない。いつからか末期なんて興味はないのだ。
兜を目深に被った奴らを背中から破きたくなる。飾られた記憶を分解したくなる。あんなのは嘘だ。奴らは自白したつもりなのだ。
樹海は個々にあるが此処が記憶の死に場所だ!!!真ん中から逸れて転び打たれるノイン。
日溜まりの飼い猫は首を食い千切られただろう。何万回咀嚼され咀嚼され吐き出された記憶達、こんな記憶では死んでしまうのだ。

【みなさん。宜しくお願いいたします】

44 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/19(木) 22:27:33 0
わかりにくいおwww
日本語でおk

45 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/19(木) 22:53:24 0
>>35
>>41

(……他者を使い、相手のカードの強さ、癖、情報を引き出し、その後にある
 戦局を有利な物にしようと試みる……使い古された、薄汚れた鼠の考えそうな手だ)

次々と齎される配下の者からの報告を、ノインは赤ワインを喉に流しながら聞く。
酒を摂取しているにも関わらず、一枚の絵画であるかの様にその表情には一切の変化も無い。
ただ、淡々と状況を整理しする事に勤めている。

と、そんな状況を打ち破る様に、慌しく一人の兵士が入ってきた。

「……空から降りてきた女か」

兵士の報告に、ノインの頭の中で幾つかの可能性が過ぎる。

(……空から降りてくるという事は、魔道師、或いは化生の類か。
 先の奇妙な視線の主という可能性もあるが……それにしては少々愚かが過ぎるな。
 『平和裏に解決する策』などで、この愚昧な男が交渉に出てくるとよもや本気で思ったのか?
 余程の自信家か、或いは道化か――――)

ノインが視線を向けた先には、下卑た笑みで『取調べ』を誘う貴族の姿。
町の様子を見れば、この男が平和裏の解決を望む事は無いだろう。
この男が望んでいるのは、自身の保身の為の、反乱軍共の殲滅。
そんな相談を持ちかけた所で、殺されるか辱められるのが精々である。

「――――良いだろう、会おう。その者をここに呼べ」

暫くの沈黙の後、ノインはそう言った。
そうして席を立ち、貴賓室の豪奢な――――ともすれば悪趣味な椅子へと腰掛ける。
ノインの言葉を自身の下卑た感覚で受け取った貴族の男は、いやらしく笑うと、
席を外して部屋から出ていった。恐らく、厳重に警備された自身の部屋へと戻ったのであろう。
そんな貴族の男など気にも留めず、ノインはその紅い双眸を扉へと向ける


46 :ドーラ ◆yDvhfPtzwE :2010/08/20(金) 16:10:17 0
>「お久しぶりです、ドーラ」
兵士に取り囲まれ、猫が毛を逆立てている
このまましばらくにらみ合いが続くかと思われたが、見知った人間がやってきた
「……一応取り次がせましょう」
これで一安心。
反乱も収まり、あの領主もどうにかできるとほそくえんでいたら、こうくぎを刺された
>「誤解のないように言いますが、ドーラ。我々は叛乱の鎮圧に来たのです。
> 屋敷の中におられる御方を相手に、くれぐれも滅多なことは口にしないで頂きたい」
こいつは心が読めるのか
思わす焦ってしまい、腕の力抜けた
猫がするりと着地し、ヴォルフの背中を追いかけながら甘えた声を出している
「これ。空気を読みなさい」
猫をひょいと抱き上げ、兵士に案内されるがまま貴賓室へ移動した


椅子に男が一人座っている
男の体には無駄な贅肉らしい贅肉はない
目には理知的な光が宿り…
どこからどう見てもあの領主の姿とは違った
あの領主は丸々と太っており、目に宿る光も目の前の男とはまるで違う
「こんにちわ。ずいぶんとまあ御痩せになったようですが、住人から財産でも奪い、ダイエットでもなさったのですか?」
なぜこの男がこんなところにいるかはわからないが、領主が合う気がないのは明白だ
ここまで無礼をした男に情けを書けるつもりはないので、無礼には無礼で返すことにした


47 :ドーラ ◆yDvhfPtzwE :2010/08/20(金) 16:14:11 0
http://jbbs.livedoor.jp/netgame/6775/
ヘヴィ―ファンタジー避難所

避難所を作りました

48 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/20(金) 16:15:53 O
年相応の冷静さはないようだな、ドラゴンw
誇り高いつもりなんだろうけど単なる子供にしか見えない

49 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/20(金) 21:14:11 O
村人の攻撃!

兵士に1のダメージ!

50 :ボンバー ◆vQ2MXGmv8E :2010/08/20(金) 22:48:53 O
夕な夕な窓に立ち椿事を待った。凶変のだう悪な砂塵が夜の虹のように町並みのむこうからおしよせてくるのを。
枯れ木かれきの海綿めいた乾きの間には薔薇輝石色に夕空がうかんできた。
濃沃度丁幾を混ぜたる、夕焼けの凶ごとをの色みればわが胸支那繻子の扉を閉ざし空には悲惨きはまる。
黒奴たちあらはれきて夜もすがら争ひ合い星の血を滴らしつつ夜の犇きで閨にひびいた。
凶ごとを待っている吉報は凶報だったけふも轢死人の額は黒くわが血はどす赤く凍結しただろう。
「竜の血をもってすれば我が記憶は蘇るであろうなッ!!!!」

51 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/22(日) 23:19:28 0
>>46

現れた女は、ノインに対して皮肉を交えた自己紹介を行った。
その言動が目の前の人間がどの様な立場の人間か知らない故か、
或いは知っていて行っているのかは定かではない。
ノインは椅子に腰掛けたまま眉一つ動かさず、その怜悧な瞳で
女の方をじっと見つめた後、やがてゆっくりとその口を開いた。

「ほう、私をここの領主と同じ人間だと言うのか。面白い女だな。
 ――――予定変更だ。私が指示し次第、街の人間を全員殺せ。直接反乱に参加せずとも、
 反乱に協力をしている可能性がある。女子供老人、全てを殺せ。
 勿論、殺害は拷問をした後だ。街全体を拷問にかければ、反乱を考える者を
 一網打尽に出来る可能性は高い」

その言葉を聞いた瞬間、扉の横に居た警護の正規兵達が
命令を何時でも伝達出来る様に機敏な動きで準備を始めた。

その状況は女に知らせるだろう。ノインが人間の中でどの様な立場に在る存在かという事を。
そして、ノインがもし一言命令を出せば、本当に先の命令が実行されてしまうという事を。
『平和裏に反乱を解決する方法』を言いに来たと言う女に対し、
ノインはただその瞳を向けて言う

「――――さて、女。お前はここに何をしにきた?」


52 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/23(月) 00:36:50 0
「失礼いたしました。あの醜い豚かと思い早とちりしてしておりました」
命令とともに扉の横に立っている兵士が動き出した
兵士の鎧には帝国兵のあかしである紋章が掘り込まれ、領主のそれとは明らかに違っていた
どうやら、目の前の男が領主でないことは確実で、領主よりもはるかに高い地位にあるように思われる
さすがに自身の行いで無関係の人物が殺されたとあってはドーラといえども非礼をわびないわけにはいかず、
深々と頭を下げた

>「――――さて、女。お前はここに何をしにきた?」
「単刀直入に申し上げますわ。領主の身柄を解放軍に引き渡すか、領主が奪った財産を民に返却していただきたい」
鋭利な瞳を見つめ返し、同時に気配を探った
部屋からそう遠くないところにモンスターが数えきれないぐらいたくさんいる
仮に交渉が決裂したとしても、進軍と同時に異界のものを召喚すれば、館にいる者全員を皆殺しにすることができそうだ


53 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/23(月) 02:09:03 0
ヘヴィ―で解放軍が捕まったら、首つり・内臓えぐり・四つ裂きの刑を行う様子を名無しとして投稿したいんだが、やってもかまわないか?
(どうも解放軍が行っている行為は大逆罪に該当し、大逆罪の場合、この刑を行うらしい)

54 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/23(月) 08:03:29 0
>>45-46 >>51-52

現場に戻り、改めて兵の指揮を取ろうとしたヴォルフの元に、新たな命令が届く。

「ノイン殿下よりのご命令です。合図がありしだい、住民全てを殺害するようにと」
「…そうか」

ヴォルフにとって、村人に対しては何の恨みも無いし、殺戮も趣味ではない。
ただ、主命とあれば是非も無く、彼は溜息をつく以外になかった。
おそらくドーラは余計なことを言ってノインを挑発したに違いない。

(色々なことに首を突っ込みたがる性分は相変わらずか)

その性分のおかげで、120年前に自分の首が皮一枚で繋がったことを思い出せば、
文句も喉元で止めざるをえなかった。

とはいえ、モンスターの気配らしきものがあるのは頂けない。

(流石に魔性の輩を呼び出そうとするなら、こっちも対応を考えなきゃならんな…)

>>53
反乱軍の捕虜の処遇について、兵士の一人が彼に進言する。

「叛乱の首謀者については帝国式の処刑が決まっている。
 参加者の一人一人については、殿下のご命令次第だろう」

55 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/23(月) 08:04:53 0
>>49
「何にせよ、叛乱軍共を捕らえないことには何も始まらん。行くぞ!」

林に紛れ、地を這うように進んできた解放軍だったが、既にヴォルフに補足されていた。
一番先頭にいた傭兵が異変を感じて身を翻そうとした瞬間、その頭はしたたかに地面に叩きつけられた。
ヴォルフは昏倒した敵兵を踏みつけながら、解放軍の兵士達を睨みつける。

「ようこそ、解放軍を名乗る諸君」
「…怯むな!突破しろ!」

こうして戦闘が開始された。ファーストコンタクトこそ奇襲される格好になった解放軍だが、
士気の上では決して帝国兵に劣るものではなかった。
民兵とはいえ、ギリギリまで追い詰めらて窮鼠と化せばその力は飛躍的に上昇する。
鍬や鋤でも相手は殺せるし、鍋や盾でも相手の攻撃を凌ぐことは出来るのだ。

56 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/23(月) 08:06:05 0
ただ、やはり今回は相手が悪かった。元より装備の差は歴然としてたが、
帝国の正規兵は貴族の私兵などと比べても錬度が段違いだったのだ。

「頑張れ!ここさえ突破すれば屋敷はすぐそこだ!」

解放軍側の隊長格にあたる者が必死に叱咤激励するも、正面の敵兵を突破できずにいる。
そうこうしているうちに、解放軍の側面、背後から帝国軍が襲いかかった。
何のことはない、帝国軍は解放軍と攻防を続けるうちに敵を包囲下においていたのだ。

正面の敵を抜くことに全力を傾けていた解放軍は、これに対処し得なかった。
360度の方角から攻撃を受けた解放軍側は、次々と傷つき、捕らえられていく。

「皆殺しの命令さえでなければ、後は首謀者の処刑で終わりなんだがな…」

ヴォルフはやれやれといった風に呟いた。

57 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/23(月) 19:21:52 0
なあ、一つだけ教えてくれ
コテハンが名無しのふりをして書き込んでるのか、それとも本当の外野が書き込んでるのかがしらんが、ノープランとかコクハとか馬鹿にしてくる奴らがいる
馬鹿にするのはプレイスタイルが悪いからだと思うんだが、どこが悪いのかわからない
もし、悪い点があったら、直すように努力するから教えてくれないか

58 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/23(月) 19:51:33 0
>>57
避難所があるんだからそっちでやってくれよ

59 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/23(月) 20:02:45 0
>ドーラ
鳥バレしてるから鳥変えたほうがいい
本当に本人なら続きは避難所で

60 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/23(月) 21:05:58 0
>>52
「単刀直入に申し上げますわ。領主の身柄を解放軍に引き渡すか、領主が奪った財産を民に返却していただきたい」

己の問いに対する女の答え。それを聞いたノインは、
先程までの相手を見定めるような冷静な視線を、止めた。
変わりにその相貌に浮かぶ色は……

「平和裏の解決と謳い乗り込んでくる人間はどの様な者なのかと
 思ったが――――どうやら期待外れだったようだな。」

ノインは椅子の肘掛に肘を付くと、椅子に深く座り治す。

「女よ。お前はその要求が本気で通ると思っているのか?
 それをすれば平和裏にこの反乱が終息すると、本気でそう思っているのか?」
 
「この土地の領主は、肩書きの上では帝国の『貴族』だ。
 それを解放軍に渡し、解放軍が領主を攻撃、或いは殺せば、やがて帝国の本隊が動く。
 反乱に参加した人間は、一族縁者に至るまで全員処刑され、街も滅ぼされるだろう。
 王国領に近いこの土地の地理条件を考えれば、それは間違いなく行われるぞ」

「或いは、財産の返還を要求したとしよう――――しかし、ここの領主は
 自身が奪った財産の少なからずを、帝国に税や賄賂として納めている。
 つまり、その要求は武力を持って帝国に金銭を要求しているに等しい。
 そして、帝国は自身に刃を向ける者を許さない。この場合でも、この街の人間は全員処刑される」

「それとも、私を盾にするか?だが、私を盾にし、私が今回の反乱を起こした者を全て無罪とすれば、
 これより未来に流れる血は今回の比ではなくなるぞ。反乱を起こしても罪に問われない。
 そのような前例が出来れば、領主の政治に不満を持つ領民が、些細な不満で反乱を起こす様に
 なるだろう。そして、その流れは帝国に留まらず、王国にも広がっていく。
 そうなれば、もはやどの様な存在にも止める事は不可能となる」

ノインは女の目をその怜悧な紅い瞳で見る。

「女。先に私が言った『住人全員を拷問の末に殺す』というのは、
 一般的な反逆者への対応に過ぎぬのだ。帝国でも王国でも、反乱を起こした者に
 待つ結末というものは、死のみ。そうでなければ、今の人の世は回らぬ。
 だが――ここで首謀者を捉え惨殺すれば、流れる血はその首謀者のもののみとなる」

「この街の人間は、戦いの方法を誤った。もはや誰かの血を無しとして
 帝国という巨龍の顎門を止める事は出来ん」

そう言い放つと、ノインは立ち上がり、近くの兵士に先ほどの命令は冗談だと
真顔で伝えてから部屋の扉の方へと歩いていく。もはや女に様は無いとでも言う様に、背を向けて。

61 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/23(月) 23:05:17 0
>>60
「確かにそれが世の常でしょう。そして、今回おこった反乱は帝国が勝ち、首謀者は死ぬ」

目を閉じ、過去を思い出す

「皆の者。引き上げじゃー」
反乱の首謀者が踵を返し、我先に人兵士たちが続く
「解放軍たちが引いていきます」
「かまわん。やれ」
ドーラは翼を広げ、火を吐いた
兵士たちは悲鳴を上げ、兵士が一人二人落ちていく
馬は火を消そうと暴れまわり、被害がさらに広がっていく
「いまだ。撃てー」
弓兵が弓を弾く
ほどなくして反乱は鎮圧され、首謀者は処刑された

かつてドーラは国とともに戦い、国のために戦ってきた
だが、その国の皇族はもう帝国にはいない
国の政治に不満を持った勢力が反乱を起こし、滅ぼされてしまったからだ

「ですが、溜りに溜まった不満を放置しておけば、帝国はいづれ滅びます
帝国に不満を持つ国は多い
それらの国々と解放軍が手を結べば、いくら帝国といえども抑えきることはできますか」

帝国に対し不満を持つ国は多く、帝国と戦争中の王国もその一つだ
これらの国々が一つにまとまれば、帝国といえどもかなうはずはない

「かつて私がいた国のようになりたいのですか?」

男が立ち去る方へと駆け出し、男の額に人差し指を当てた

【男の進路を妨害し、反乱に巻き込まれ国を滅ぼされた自身の記憶を伝えた】



帝国の端の方にあるヒマ山脈
その山を隔てた向こう側には王国があり、その国の中央部には王宮がある

「隣国が帝国に対し戦争を仕掛けた模様です」

王宮のとある部屋の真ん中には赤いじゅうたんが引かれ、国王が椅子に座っている

「ほかの国々の動きはどうだ?」

王はティーカップを机の上に置き、兵士に尋ねた

「隣国に対し武器供与の申し出を行っている模様です」
「関係を修復するチャンスかもしれんな…」

隣国とはある事件以来非常に仲が悪い
その事件以来、隣国との取引は激減し、国内の産業に大きな被害をもたらした
ここで恩を売っておけば、国内の産業も発展し、税収も増えるに違いない
国王は頭の中で素早く電卓をはじき、兵士にこう指示した

「隣国に対し、無償で武器・食料を含めた一切の支援を行う」

62 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/23(月) 23:14:39 0
帝国の端の方にあるヒマ山脈
その山を隔てた向こう側には王国があり、その国の中央部には王宮がある

「帝国の軍隊が隣国の国境線を超えました」

王宮のとある部屋の真ん中には赤いじゅうたんが引かれ、国王が椅子に座っている

「なんだと!?」

王はティーカップを机の上に置き、青ざめた様子で兵士の顔を見つめた

「このままだとまずいな…」

帝国は強大な力によって周辺の国々を植民地化している
隣国が乗っ取られれば、自分の国も危ないかもしれない

「わかった。隣国に対し支援を行う」

隣国とはある事件以来非常に仲が悪い
その事件以来、隣国との取引は激減し、国内の産業に大きな被害をもたらした
ここで恩を売っておけば、国内の産業も発展し、税収も増えるに違いない
国王はそう判断したのだ

63 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/24(火) 00:24:29 0
戦況は推移し、勝利の女神は完全に帝国の側に傾きつつあった。
既に多くの者が捕らえられ、残りの者も抵抗を続ければ続ける程傷を増やして捕らえられていくという有様である。

「思いのほか時間がかかったな」

敵が民兵に毛が生えた程度の存在である以上、決着はもっと短時間で済むと予測していた。
だが、相手は正面から蹴散らせる程の弱卒ではなかった。
包囲戦をしいたことでたちどころに相手を崩してみせたが、時折頑強な抵抗を見せたことも気になる。

「ただの傭兵ずれ程度がここまで力を発揮するとも思えん…」

参加人数やその構成を見る限り、本来的にはそこまでの強敵たりえない。
支援者や、裏で糸を引く何者かの存在を感じずにはいられない程度には、歯ごたえのある相手だった。

>>37

ふいに、ヴォルフの目が一人の傭兵を見据える。
上下黒尽くめの服装に、けだるそうな表情を浮かべているが、力量ではそこいらの兵士を上回るだろう。

「貴様はどうする?降伏するなら今のうちだぞ」

64 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/24(火) 00:25:44 0
>>60-61

「報告します!先程の命令は撤回するとの仰せであります」

先程の命令とは、住民を尽く誅戮せよというオーソドックスな反乱鎮圧の決定をさす。
ヴォルフ自身としては、命令を実行する手間が減るという点では歓迎したいところであった。

(問題はここからだ…)

首謀者の処刑、協力者の捕縛、黒幕の炙り出しとやるべき事は多い。
そして今見えている別の問題…すなわち想定外の客人に対する対処も避けては通れなかった。

(ドーラが求めるのはおそらく叛乱に対する寛恕、貴族の首か財産を差し出せというおまけつきだろうな)

だが、ノインがそのような条件を飲むとも思えない。
たいだい、飲んだところで皇子にはデメリットしかないのだ。

もし皇太子が正規軍を率いて反乱鎮圧に赴きながら、
叛徒を鎮圧せず逆に貴族領を明け渡そうものならそれはスキャンダルでしかない。
宮廷は魑魅魍魎が巣食う伏魔殿。些細なことさえ命取りになる権力亡者共の戦場なのだ。
ヴォルフ自身も、一度命を失いかけたことがある。

(情義と道理を持って説くのはいい、だが不利益が多いことに人の首を立てにふらせるにはまだ一手足りまい…)

とはいえ、自分は戦場で今まさに指揮を取っている身、関わることは叶わない。
二人の交渉の行く末については、当人達次第と割り切る他はなかった。

65 :カールスラント ◆XMoIGXtk5. :2010/08/25(水) 01:26:12 0
>>61

「お話になりませんな」

ドーラが指先をノインへ向けた瞬間、彼女の爪と彼の顔面との間に異物が壁を作る。
それは対魔法使い用の退魔縫製を施されたマントだった。ドーラの攻撃魔法を警戒して、近衛兵が間に入ったのだ。
ノイン直属の近衛兵は、俗人っぽい表情で肩を竦めると、背に担った野戦剣の柄に手を伸ばす。

「この女がどれほどの知識人かはわかりませんがね、こいつは駄目ですよ、皇子。現場にまで理想が通じると思ってらっせる」

近衛兵の名はカールスラント=バルクホルン。正規兵からの叩き上げで近衛隊に徴用されるほどの傑物である。
良くも悪くも中年の頃にさしかかった体躯は貫禄と哀愁の混合物を気炎とし、ヤニ臭い呼吸の強弱で臨戦への高揚が見てとれる。

「どうします?皇子。外の兵から魔物の集団がこの街を取り巻いてるって報告も上がってますし、司令塔だけ先に殺っちまいますかい」



名前:カールスラント=バルクホルン
年齢:34
性別:男
身長:184
体重:81
スリーサイズ:―
種族:中年
出自:剣士階級
職業:皇族近衛兵
性格:俗人
特技:煙草の銘柄当て
装備品右手:野戦剣(威力と頑丈さを重視した半両手剣)
装備品左手:バックラー
装備品鎧:近衛隊制式軽鎧
装備品兜:巻布
所持品:携行食料、魔法爆弾、小型弩弓
容姿の特徴・風貌:おっさん
趣味:おっぱい
将来の目標:食いっぱぐれないこと
簡単なキャラ解説: ノインの近衛兵の一員。良くも悪くも俗人で、情け深く情けない好中年
            出世欲は人並みにあるが、功を立てるより生き残ることを優先するタイプ


【短期参加希望です。よろしくお願いします】


66 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/25(水) 22:43:54 0
>>61
>>65

「――――下がれ、バルクホルン。私が話している」

ノインは、自身と女の間に割り込んで来た近衛兵士……カールスラント=バルクホルンに
感情を感じさせない声でそう言うと、尚も目の前に立ち塞がる女に興味を失った冷たい目を向ける。

「女。お前は帝国が争いを好まなければ平和が訪れる、そう言っているのか?
 そうだとすれば――――なんと、愚昧な思考だ。
 反乱を是とする事を不満の解消と言うのは、飢えた人に自身の肉を切らせ食わせる事と同じだ。 
 そして、代償なき平和など存在しない。在るとすれば、それは数多の骸で築かれた楼閣の名だ」

「この世界を見よ。帝国を敵と謳う王国の貴族と王族は、民衆の骨を削った税で毎夜饗宴に明け暮れている。
 帝国の隣国は亜人を悪魔と称し、虐待し、虐殺する事で腐敗した政治への不満を逸らしている。
 彼の国々でこれから十年の間に『殺される』であろう人の数は、帝国の起こす戦争で
 失われる命の比ではないぞ。そんな腐った国と結託した解放軍をのさばらせる事を貴様は是とするのか?」

そこまで言うと、ノインは一度言葉を止め、その表情を変えないまま続ける。

「……いや、するのだろうな。魔物を操り我々を殺そうと目論むような存在だ。
 自身の我侭が通らなければ、力に訴えようとする存在だ。
 無能な人間に仕えた過去を持つ存在だ――――女よ、覚えておくがいい。愚直さは時として大罪となる事を」


そうして、指を刺す女の横を通り抜け部屋を出て行くノイン。
彼は扉に手をかけ、出て行く前に言葉を残す

「バルクホルン。その女の相手扱いはお前達に任せる。私はこの戦いの最前線へと向かう
 ……ああ。それから、女よ。先程お前は、群れた民衆と他国に帝国は叶わないと言ったが、
 ――――皇帝陛下は『勇者の遺産』を手にしている。もはや群れた群集ごときでは止められんよ」

かくて交渉は決裂した。ノインのこの反乱への姿勢は変わらず。
捉えた民衆の前での首謀者の虐殺。ただそれのみ。
ノインは進む。貴族の邸宅に敷かれた紅い絨毯の上を。
例え魔物の群れがその眼前に現れようと、力でその方針を変える事は叶わないだろう

67 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/25(水) 23:28:46 0
>>37
金属と金属のぶつかりあう音とともに火花が散り、互いの剣に宿った殺意が次第に先鋭化していく。
ヴォルフと傭兵ファイが鍔迫り合いを始める頃、帝国軍と解放軍の戦いの勝敗は決していた。

300余名にも及ぶファスタ解放軍の参加者は尽くが包囲され、抵抗の末捕縛されている。
既に首謀者とされる前町長も捕らえられており、市内は既に占領下にある。
後は報告を受けたノインが到着次第、首謀者処刑の触れを正式に発布するだけだ。

だが、目の前の傭兵ファイ・ヴァフティアはいまだ降伏していなかった。

(この男、確かに腕は立つ…だがこのやる気のなさから見るに、他に黒幕がいるやもしれん)

彼は今、己の剣を振るうフォームを度々切り替えながら、目の前の傭兵の力量を測っているが…

(いい加減、遊んでもいられんな)

何しろ、ドーラが呼び寄せた魔物への対応もある。
ノイン自身も魔物に遅れを取ることは無いし、バルクホルンもいるとはいえ、あまりグズグズもしていられない。

と、何者かが近づく気配を感じ、対峙していた敵からパッと距離をとった。

68 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/25(水) 23:29:57 0
>>65-66

「これは殿下、お見苦しいところをお見せいたしました」

ノインがこの場に現れるということは、主とドーラの交渉が決裂した何よりの証である。
主の言葉を聴く前に、ヴォルフはそのことを察した。

(こうなるとドーラの処遇が問題だが…)

貴族の男では相手にもならず、おそらくばバルクホルンの手に委ねられることになるだろう。
彼ならドーラが暴発しても、己の身を確実に守れるから、その点は問題ではないのだが、
そうなるといよいよ魔界の輩を相手に連戦を強いられることになる。

(いささか面倒な話だな…)

ただ、主に対してはそのような懸念を吐露することはない。
現実に起こっていない事象に対する懸念よりも、今は目の前の課題をクリアする為に意識を切り替える。

「既に首謀者とされる前町長は捕らえ、市内は占領下にあります。
 ご命令があり次第、いつでも処刑の発布が行えます」

ノインの命令があり次第、捕らえられた解放軍、
ならびに戦闘要員として参加できなかった民衆の前で、首謀者が処刑されることになるだろう。

(虜囚の辱めを受けていない傭兵がまだ一人いるが、この状況下でこれ以上の抵抗はあるまい…)

69 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/25(水) 23:49:41 0
最初に黒幕っぽいことしてた連中はどこへ行ったんだ?

70 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/26(木) 00:07:51 Q
>>69
名無しで解放軍側モブ動かしてた奴は時期的に携帯規制にやられたかと

71 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/26(木) 00:20:43 0
>>65
「心配する必要はありません。民の意見を聞かなかった国の末路をおしえているだけですわ」
防壁を解かれ、記憶の伝達を阻止された

>>66
「さすがにそこまで愚かではありませんわ。
ですが、あなたの言う争いの中には防ぐことのできるものもある
なぜ、反乱がおこるのか本当はご存じなんでしょう?」

この男とてバカではない
王族である以上、なぜ、反乱がおきるのか知っているはずだ

「是とはしませんし、つく気もありませんわ
ですが、現皇帝はほかの国々と同じようなことをなさっておいでです
もし、そうではないというのなら、この反乱が終わった後でも構いませんわ
腐った国々との違いを見せていただけませんか?
もし、違うというのであれば、そなたの牙となり、盾となりましょう」

膝をつき、こうべを垂れた
押してダメなら引くしかない

「…?」

あたりを見回したが、皇族の男の姿はどこにもない

「そこのもの。皇族にこう伝えてもらえませんか?」

先ほど妨害した兵士の男をよびよせ、先ほど言ったことを皇族の男に伝えるように頼んだ


72 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/26(木) 00:23:55 0
>>71
すみません
トリップを忘れてました

73 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/26(木) 21:58:55 0
軸がぶれている
そう誰かに言われたことがある
いわれてみれば確かにそうかもしれない
皇族の男はドーラの言葉を聞く前に去った
これは交渉が決裂したも同然である

(ずいぶんとまあ丸くなったですね…)

数十年前だったら、あの段階で異界のゲートを開き、皆殺しにしていた

>「この世界を見よ。帝国を敵と謳う王国の貴族と王族は、民衆の骨を削った税で毎夜饗宴に明け暮れている。
> 帝国の隣国は亜人を悪魔と称し、虐待し、虐殺する事で腐敗した政治への不満を逸らしている。
> 彼の国々でこれから十年の間に『殺される』であろう人の数は、帝国の起こす戦争で
> 失われる命の比ではないぞ。そんな腐った国と結託した解放軍をのさばらせる事を貴様は是とするのか?」

だが、魔物を召喚し、解放軍の側についたところでなんになるというのだ
解放軍の背後にいる国もこの国同様腐りに腐っている
貧民に対し援助するものもいる
善政を敷き、産業を発展させ、貧富の差を抑えようとする者もいる
ミンシュセイという新たな概念を提唱し、反乱を未然に防ぐ制度を提唱しているものもいる
だが、あいもかわらず、貴族どもは重税を取り、贅を尽くした生活を送っている
飢饉が起こっても何もしようとはしない

所詮この世界の人間どもは屑ばかり
解放軍についたところで解放軍が救われるわけではないのだ

だが、中にはそうではない人間もいる
もしかすると、先ほどあった皇族の男も王族にしてみればまともな方かもしれない

(もうしばらく、様子を見ることにしましょう…)

齢100年
人間で言えばじいさんばあさんの年だが、相変わらず、上から目線でものを考えているのであった

【交渉決裂。ドーラは自宅に戻り、帝国軍・解放軍のどちらにつくべきか観察することにした】


74 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/26(木) 22:28:54 0
本文訂正
× 齢100年
○ 齢140年

75 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/08/26(木) 23:48:34 0
>>73

「あーらっら」

ノインから直々に目の前の女の『お相手』を任されたというのに、またもや一方的で稚拙な理想論を垂れ流しただけでお帰りになられてしまった。
命拾いした、と言ってしまえばその通りであるが、バルクホルンとて武人である。臨戦を覚悟した以上は、命を奪うつもりでいた。

(結局何しに来たんだあの女……)

即座に抜剣出来るよう鯉口を切っていた野戦剣の柄から手を離し、客間から退出していく女を見送る。
毒にも薬にもならない女だと思った。彼女がここで為したことと言えば、『無駄な時間をノインにとらせた』ただそれだけである。
道端の吐瀉物と何一つ変わらない、路傍の石より少しだけ厄介で醜悪な塊。女の出自を知らないバルクホルンがそのような感想を抱くのは無理からぬことだった。

「――追うか?バルクホルン」

共にノインを護る近衛兵の同僚が、静かにバルクホルンの傍へ寄った。

「ムリムリ、もう消えてる。気配隠蔽だか認識阻害だか、うちの魔法兵でも追跡できない高度な魔術だ」

「只者じゃないということか」

「方向性の問題じゃねえの。蛾の多くは木に化けるだろ、そういう系の強かさな気がするな」

「海の方には偽の餌を使う肉食魚がいるらしいぞ」

「どういうこった」

「『あの姿』が本質じゃあないかもしれない、ということさ」

真泥っこしい問答。主君に危害が及ぶかもしれないというのに微動だにしなかったこの同僚は、時折このような韜晦を垂れ流す癖があった。
悪癖である。あるが、常に事態を静観し一足遅れで正答を出すこの同僚の洞察力と、それに裏打ちされた行動様式がバルクホルンは嫌いでなかった。

「それにしても驚きだなあ、皇子が『遺産』の件を交渉の場に持ってくるなんて。ああやり口はむしろお嫌いな方じゃなかったか?」

ノインは怜悧で冷徹だが外道ではない。むしろ高潔を重んじる人格者として、ヴォルフを初めとした部下侍従からの人望は厚い。
バルクホルンもそんな彼と、あとは主に明日の食卓のために尻尾を振る有象無象の一人であるが、その分盲信者とは一段異なる視点から彼を捉えていた。
『遺産』はあくまで抑止力。おいそれと交渉の場に出せば、無用な情報と無用な圧力を相手に与え兼ねないだけに、慎重な判断の問われる案件だ。

(よっぽどあの女と同じ席につきたくなかったか、あるいは――)

――『あえて』、か。
いずれにせよ一介の兵卒たるバルクホルンの与り知るところではないし、踏み込むつもりも毛頭ないが。

「皇子を追うか。近衛が主君を離れてたらシルト殿にまた説教だぞ。含蓄ありすぎて聞き流せないんだよなあの人の話」

「問題ない。他の近衛兵は全員皇子に同伴して前線へ行ってる。残ってるのは我々と魔法兵だけだ。――はは、置いていかれたなバルクホルン」

「俺はこれがお仕事なの。つうかお前は何やってんだよお前は。命令無視はビンタのち降格だぞお前」

「例え地位を捨ててでも……茶化したいお前がいる……!!」

「何だその情熱!」

「冗談だ」

「ああよかった!心底ホッとしたぜ!」

「疑似餌を使うのは何も魚に限ったことじゃない」

「どんだけ話巻き戻す気だお前!?」

76 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/08/26(木) 23:49:22 0
【最前線:ノインとヴォルフの居る場所】

「すいやせん皇子、逃げられちまいました。やっこさんどうにも顔出しに来てただけみたいで、戦意もクソもありゃしませんでしたぜ。
 一応魔法兵が『マーカー』を付着させてるんで、奴が気付いてなければ然る準備の後追撃に入りますがね、どうしやしょう」

ノインに任されたのはあくまで『応接』であり、お帰りになる客人にコナかけろとまでは言われていない。
後ろから刺しに行くことも出来たが、『出来る』と『やり果せる』はまた違う。下手に怒りをかって本気出されてもつまらない。
敵は解放軍であり、浮遊票を向こうに入れてまで相手どる必要などないのだ。

「シルト殿、えらくあの『お客様』の肩を持ちますな。自分は学がないので分かりかねますが、ありゃ一体どういった手合いなんで?」

ヴォルフが女とことを構えずに客間へ通したという出来事は兵士達の中ではちょっとしたニュースになっている。
100年以上の知慧を持つヴォルフが、どうしてあのようなくだらない、出来の悪いレッサードラゴンの腹から出てきたような女に肩入れするのか。
二人のどこに繋がりがあるのか、下世話な予想も相まって皆の興味と注目を集める戦場のスキャンダルだった。

(お、解放軍側にも結構逸材がちらほら)

戦闘中にも関わらず問うたのはひとえにヴォルフの戦闘能力への絶対的信頼に他ならない。そして又、対峙する者にも視線を注ぐ。
あのヴォルフとまともに渡り合えるほどの実力者だ。どこか流れの傭兵だろうか、幾度となく戦場に出ているバルクホルンにも素性は分からなかった。


【ドーラに逃げられ主の下へ。追撃命令が出れば即座に出撃し、なければ雑用その他にお使い下さい】


77 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/27(金) 00:44:23 0
>>71-75

ヴォルフが主の命令を待っていると、ふいに屋敷の方からバルクホルンと同僚が駆け寄ってきた。
この二人がこの場に来るということは、おそらくドーラは屋敷を去ったのだろう。
今のところ魔界の輩の気配も消えつつある。彼の懸念は一つ減ったと見て良かった。

「すいやせん皇子、逃げられちまいました。やっこさんどうにも顔出しに来てただけみたいで、戦意もクソもありゃしませんでしたぜ。」

報告も予想の範囲内であったが、それにしてもドーラも随分と丸くなったものだ。
自分が知る彼女は自分の話を力ずくで押し通すタイプだった筈だが…

「一応魔法兵が『マーカー』を付着させてるんで、奴が気付いてなければ然る準備の後追撃に入りますがね、どうしやしょう」
「やめておけ、彼女は十中八九気づいている。下手につつくと蛇どころか文字通り竜が拝めるぞ」

向こうから仕掛けてくる気がないのなら、警戒以上の行動は避けるに限る。
暴発されようものなら、解放軍など比較にならないほど厄介な相手と戦わされる羽目になるのだ。
そう思案をめぐらしていたところに、不意にバルクホルンから話題をもちかけられた。

「シルト殿、えらくあの『お客様』の肩を持ちますな。自分は学がないので分かりかねますが、ありゃ一体どういった手合いなんで?」
「卿のことだ。彼女のことをレッサーデーモンの腹から生まれたきたくらいに考えているのだろう?」

口元を吊り上げて笑ってみせる。バルクホルンを前にすると、必然的にヴォルフの表情も和らぐ。
いい意味で成熟した人間のかもし出す雰囲気がそうさせるのだろうか。

「実を言うと正解だ。彼女は竜族の末裔で人間の姿は仮初のものに過ぎない。私にとっては生国が滅びた時の恩人にあたる人だ」

78 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/27(金) 00:46:09 0
その時のことは今でも忘れはしない。
まだ少年だった彼にとって、古の王国が滅び、黒煙によって空が覆われた時この世の終わりを覚悟した。
もしドーラが通りかかっていなければ、自分もまた滅びゆく者たちと共に地上から消えうせていただろう。

「彼女は元々我々と同じような立場で、より苛烈なやり方で秩序の維持に奔走していたんだが、
 守ろうとした皇家が滅んだ後、王侯権力を守る為の戦いに嫌気がさしてしまったようでな…」

元々今回の叛乱は貴族の男の失政に端を発している。
彼女の気分からすれば、揉めごとの種である貴族を除いてしまうのが一番の近道に見えたのだろう。

「今でこそ丸くなったが、短気で強引な時期もあってな…交渉決裂と同時に殲滅戦を仕掛けたのも一度や二度ではなかったよ」

本人が強いのは言うまでも無いことだが、異世界との繋がりもある故にひとつ間違えるとことだ。
ヴォルフとしては彼女と事を構えるのは御免被りたかった、恩人相手ならば尚更である。

「誰ぞ見所のある輩でもいたか?」

バルクホルンが興味津々といった風に解放軍の顔ぶれを見つめている。
確かに今回の叛乱では中々に腕の立つ用兵が参加していた。彼らを尋問すれば黒幕についてもいぶし出せるだろうか?

(とりあえず、目の前のこの男をどうするかだな)

ここまで会話を続けているが、ヴォルフの視線はまだ先程まで対峙していたファイに向けられている。
彼は降伏する気がないのかまだ構えをといていない、一気呵成に勝負を決めてしまうべきか否か…いまだ決めかねていた。

79 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/08/27(金) 01:25:16 0
>>78
「もういいぜ、ファイ」
物陰から現れた男がそう言うとファイは不本意そうに剣を鞘へと収めた。
プライドを傷つけたか。
ファイの腕は信用していないわけではない。だが勝負が長引けばどちらが不利であるかは自明である。
男は自分が誤った判断をしたとは思っていなかった。

男はゆっくりとヴォルフに近づき、やがて立ち止まった。
「あんたが大将かい?」
屋敷から漏れる明かりが男を照らした。
まず目を引くのはその顔だろう。男の右目が不能であることは纏った眼帯が物語っている。
そして体。篭手まで装備された左腕と異なり、鎧の下から覗く衣服の右袖は肩口あたりで結ばれていた。
隻眼にして隻腕。
それがその男――フェルゴルベルの特徴であり、彼がこれまでの人生で“得た”ものであった。



名前:フェゴルベル・エッジ
年齢:29
性別:男
身長:175
体重:66
スリーサイズ:―
種族:人間
出自:戦災孤児
職業:解放軍指揮官
性格:冷静
特技:剣技
装備品右手:―
装備品左手:ミスリル剣
装備品鎧:皮の鎧
装備品兜:眼帯
所持品:謎の宝石
容姿の特徴・風貌:緋色の髪に日に焼けた色黒の肌。隻腕・隻眼。
趣味:舞踏
将来の目標:?
簡単なキャラ解説:
実力で這い上がった苦労人。
現在は各地で反乱軍や解放軍の雇われ司令官をしながら放浪の旅を続けている。
帝国軍に属していたこともあるらしいが詳細は不明。
かつては二刀流の名手であったが右目と右腕を失って以来、剣を交えることは少なくなった。
今の彼の武器は……。


【これまで言及されてきた解放軍の黒幕、という設定です】

80 :ウルカ・ウェンティ◇PpJMaaDGNM:2010/08/27(金) 14:16:10 0
「にっひっひ、聞きましたよ。聞いちゃいましたよ〜!
 まっさかあの皇子様の口から『遺産』なんて言葉が飛び出てくるとは……驚きですねぃ」

兵士に溢れる戦場、街中を誰の視界にも映る事なく疾駆する少女が一人。
靭やかな脚は音もなく地を蹴り、短めの黒髪と白が基調の衣服が綺麗にたなびく。
影すらも置き去りにしてしまいそうな速さで、彼女は駆けていた。

「……本当に、驚きですね。『遺産』を手に入れた……本当ならば厄介な事になりますよ、これは」

言葉と共に、少女の浮かべていた童女の笑みがはたと消えた。
白銀の瞳が細まり、白い歯を覗かせていた口元は真一文字に結ばれる。
無邪気さを滲ませていた表情が一転、怜悧に染まった。

彼女の名は、ウルカ・ウェンティ。
王国の密偵である。
彼女は皇子としての位は低いものの有能であるノインの暗殺を命じられて、ここを訪れていた。
都合よく、彼は今回解放軍の鎮圧を命じられている。
彼の暗殺は解放軍の仕業としてしまえば、厄介な復讐の炎が王国に向く事もない。
ノインを殺害するには絶好の機会だったのだ。

(ま、結局近衛の連中やらおバカな女やらが邪魔で出来なかったんですけどね〜。
 代わりにこれとは、いやはや見上げていた木から金の果実が落ちてきたと言いますか。今日は良い日ですね)

残党狩りの兵士がうろついているのを察知して、ウルカは物陰に身を隠す。

(それにしても、随分とこっ酷く言ってくれましたねぇ。否定はしませんが、
 上の腐敗は何も王国の専売特許じゃないでしょうに。
 ま……こんな所で馬鹿の相手をしてるアナタが、一番分かってるんでしょうけどねー)

分かっていたとしても、それを口に出す意味は無い。
意識する事さえ必要ない。戦争で士気を維持するには正義を謳うのが手っ取り早い。
交渉相手に如何にも「帝国が正義である」と思わせる事も、全く間違いではないのだ。
もっともドーラに対しては、彼女が愚直であるが故に今一つの効果だったようだが。

(ともあれ、さっさとここを抜け出しますかね。これだけの情報を抱えて死んだら、
 プロの名が廃るってモンですよ、まったく)

周囲を見張る兵士が余所見をする瞬間を見計らい、ウルカは物陰を飛び出した。
戦場を包む静謐の幕を揺るがす事なく、だが彼女は疾風の如く戦闘範囲外を目指す。
通りを抜け、路地裏に潜り、壁を駆け上がり、屋根を走る。

(ふっふっふ、チョロいもんですねぇ。ま、ありがたい事です。
 手抜きは出来るならした方が良いに決まってますからね〜。んっふっふ〜)

引き締まっていた表情がにまりと崩れる。
プロを自負しながらも適度に手を抜く、彼女の悪い癖だ。
こう言う時の彼女は決まって、ドジを踏むのだ。
しかも失敗してから暫くはちゃんとするものの、喉元過ぎれば何とやら。
またすぐに反省を忘れてしまうのだからタチが悪い。

そして今回も。
彼女はにやにやと笑う余り――足下に転がっていた木片に気が付かなかった。

「はれ?」

木片を踏み勢いよく足を滑らせ宙に投げ出されて、ウルカは呆けた声を零した。

「あ……ありゃりゃりゃりゃ!? って、あいたたたたた!?」

81 :ウルカ・ウェンティ◇PpJMaaDGNM:2010/08/27(金) 14:17:09 0
彼女は屋根から真っ逆さまに落ちていく。
そして家の傍に積まれた木箱の段で何度も頭を打ち、
極めつけに地面に置いてあった樽に頭から突っ込んだ。

ゴロゴロと、彼女は樽ごと地面を転がる。

「うぅ……まったく酷い目に遭いました。今日は厄日ですね……。
 こう言う日はさっさと帰ってお酒でも……」

それでも彼女は何とか樽を持ち上げ、抜け出し――見渡す限りの帝国兵に、思わずぼやきを中断した。
見てみればすぐ傍にノインや、明らかに一般の兵卒とは雰囲気を異にする武官さえいるではないか。
瞳の色や微かな訛りなどから、彼女が王国側の者である事は、すぐに彼らに悟られてしまうだろう。

「あ……あははー。えーっと、そのー……」

苦笑いと共に、彼女は右手を頭の後ろへ。
そして密かに構えていた左手から煙幕を噴射した。
土と風の属性を組み合わせた魔法である。

「さようならーっ!」

煙幕の中を一陣の風が声と共に走る。
当然逃がすまいと、兵士達は煙が裂け声の飛ぶ方へと集まる。
だが、それは罠だった。

風は単に魔法による物。
声も風の魔法が使えるならば出所を錯覚させる事は容易い。
しかしそれが罠ならば、ウルカは何処へ向かったのか。

(お命……頂戴しちゃいますよぉ!)

煙幕を貫いて、疾風怒涛の勢いでウルカはノインへ肉薄する。
正面から当身を食らわせて、瞬時に背後へ周り首筋を右手でしかと掴んだ。
風の魔力を秘めた右手は、彼女がその気になれば刹那よりも尚速く彼の首を跳ね飛ばす。

「あーりゃりゃ、ミスっちゃいましたねぇ。まあでも、元々はこれが目的だった訳ですし……」

けれども、未だ余裕の音律を紡ぐ彼女には、それは出来ない。
彼女が自ら手を下してしまえば、帝国により大きな『正義』の大義名分と
復讐と言う面倒な原動力を与えてしまう事になる。

「……そう言えば貴方。さっきあの女に関してこんな事を言ってましたよね。
 『下手につつくと蛇どころか文字通り竜が拝めるぞ』……でしたっけ?」

現在、ドーラには帝国兵によって『マーカー』が付けられている。
ところが実は、ウルカもまた彼女に『マーカー』を付けていたのだ。
ノインとドーラが貴族の邸で交渉をしている時に、こっそりと。

もしもこのタイミングで、その『マーカー』からドーラに攻撃魔法を打ち込んだら。
当然ウルカの存在など知る由も無かったドーラは、その攻撃を帝国軍からの物と錯覚するに違いない。
そうすれば今でこそ丸くなったとは言え、元々は気性が荒かったと言う彼女の事だ。
帝国軍に報復する為戻ってくる事は十分にあり得る。
と、ウルカは判断した。

「いやあ、怖いですねぇ。あの竜さんは随分とおバカなようでしたし。
 偶然気が変わってここに帰ってきたりしたら……ありゃりゃ、一体どうなってしまう事やら」

82 :ウルカ・ウェンティ◇PpJMaaDGNM:2010/08/27(金) 14:17:52 0
にやにやと笑いながら、ウルカはドーラに貼り付けた『マーカー』に仕込んだ『風の爆発』を発動する。
幾ら竜族とは言え、体に貼られたマーカーからの零距離爆破だ。
相応のダメージと痛みは免れない。

「さぁて……それでは、私は遠くから見物させてもらいますよっと。
 ……おっとぉ、一般兵の皆さん、私に構ってる暇なんてあるんですかぁ?
 もうすぐここに、竜がやってくる……かもしれないんですよ?」

にこやかに、ウルカは言う。
あくまでも断定的な発言はせずに、後で何があろうと
「自分は何もしていない」と言い張る名目を崩さぬように。

「それじゃ、皇子様はお返ししますね〜。さよう……なら!」

ノインをヴォルクや近衛達に向かって突き飛ばし、その隙にウルカは逃走を図る。
ドラゴンが来るとの脅し文句に浮き足立った一般兵如きに、彼女を止められる筈が無かった。

【スパイです。色々情報を知っちゃいました
 ドーラさんに爆発攻撃。帝国軍の仕業と思わせて報復させるのが目的です
 ウルカはその場から逃走。ただしおちゃらけモードで見物してるかも
 初っ端からちょい決定リール気味ですいません】

83 :ウルカ・ウェンティ◇PpJMaaDGNM:2010/08/27(金) 14:18:57 0
名前:ウルカ・ウェンティ
年齢:100前後
性別:女
身長:153
体重:45
スリーサイズ:―
種族:人外
出自:王家と契りを結んだ関係にある種族
職業:主に密偵
性格:プロ意識はあるが基本おちゃらけ
特技:走る事、隠れる事、風属性の魔法
装備品右手:状況に応じて魔法や短剣
装備品左手:同上
装備品鎧:任務に応じて。でも極力お洒落に決めたいと思ってる
装備品兜:同上
所持品:同上
容姿の特徴・風貌:黒髪と白銀の瞳、見た目だけなら可憐な少女
趣味:日々を楽しむ。
将来の目標:???
簡単なキャラ解説: 王家と契りを結んだ種族に生まれ、王国に仕えている。
         仕事は密偵や暗殺から伝令まで色々
         仕事嫌いだけど命じられた事はきちんとこなす
         歳の割りには大人気なかったり子どもっぽい行動、言動が目立つ






84 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/27(金) 23:40:31 0
ノインが戦場を訪れた時、既に戦闘は終局へと近づいていた。
反乱の参加者は次々と捕らえられ、地面に放り出されている。
もはや、勝敗は決したと言っていいだろう。

(……だが、未だ瞳は死んでいないか)

ノインは、民衆達をその怜悧な赤い双眸で一瞥した後、
彼等の中央を何一つ臆する様子も無く歩きながら、内心でそう呟く。
地に倒れ付した群衆。彼等の眼の多くは未だ生きていた。
自身を力で押さえつけた者達への反骨、怒り。それが渦巻いている。
それだけ彼等の内に堆積した物が暗く重いという事だろう。

「これは殿下、お見苦しいところをお見せいたしました」
「良い。お前が手を拱くという事は、その男は手練なのだろう」

そうして戦場を中ほどまで歩いた頃、ノインはヴォルフの居る場へと到着した。
戦闘中であったにも関わらず礼を欠く事の無いヴォルフに対し、ノインは
淡々とした様子でそう告げる。短時間で上げた戦果をねぎらう事も褒める事もしないその様子は
一見して冷たいが、それは、ヴォルフならばこの程度は出来て当たり前だと評価している
という事でもある。

「既に首謀者とされる前町長は捕らえ、市内は占領下にあります。
 ご命令があり次第、いつでも処刑の発布が行えます」

「すいやせん皇子、逃げられちまいました。やっこさんどうにも顔出しに来てただけみたいで、戦意もクソもありゃしませんでしたぜ。
 一応魔法兵が『マーカー』を付着させてるんで、奴が気付いてなければ然る準備の後追撃に入りますがね、どうしやしょう」

と、ノインがヴォルフの問いに答えようとしたそのタイミングで新たに声を発する者があった。
声の主はバルクホルン。どうやらノインが彼に任せた謎の女は、去ってしまった様だ。
ノインはバルクホルンの姿を確認してから一度目を瞑った後、

「……そうか。だが、今は女を追う必要は無い。
 私が今ここですべき事は、この反乱を解決する事だ。些事に拘る時間は無い。

 バルクホルン、お前は戦いから逃げ去った民衆の耳に届くように情報を流せ。
 『――――これより一刻の後、この場にて反乱首謀者の処刑を行う』と
 ヴォルフ。お前は反乱の情報を可能な限り集めろ。この反乱は、恐らくは何者かが
 糸を引いている筈だ」

そうしてノインは事後処理の為の命令を始めたのだが――――

85 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/27(金) 23:42:05 0
次の瞬間二つの出来事が発生し、その場の人間を停止させた

一つは現れた一人の男。隻腕にして隻眼という歴戦の戦士、
或いは戦場の亡霊の様な男が、ノイン達の前に姿を現した事。

もう一つは、

「……王国か」

この場には場違いな「王国」の人間。唐突に現れた王国の者の風貌を持つ
その女は、現れると同時に煙幕を展開すると、ノインに当身を食らわせてきた。
その勢いでノインは体制を崩すが――――しかし、直ぐに立て直し、倒れる事は無かった。
それは暗殺を想定しての訓練の賜物だろう。だが、その次の自身の首に伸びる腕を回避する事は
出来なかった。幾ら優れているとは言え、ノインの肉体は人間である。
正攻法では人間離れした速度に対応できるはずが無い。
首筋に腕を当て、脅迫めいた台詞を吐く乱入者。
彼女の言葉が正しければ、先程の女……竜がここにやってくる可能性があるらしい。
自信たっぷりに話す女に首筋を掴まれたままノインは

――――しかし、その表情は動いていなかった。
いつも通りの怜悧なままだった。それは、自身の死の可能性が無い事を分かっている顔である。
その立ち位置から、ノインの首筋を掴んだ女には分からないだろうが……そうしている内に
女はノインを解放して去っていった。

「――――構うな、私は無事だ。他国の間者が居る事も予測していた――――少し配置を変える。
 バルクホルンは処刑時刻の流布を行え。平行して先の竜の女とやらの位置情報の確認も急げ。
 ヴォルフはその男への対処を済ませよ。

 ――――此処は私の眼前だ。存分に力を振るえ」

そう指示を出した後、ノインは自身を突き飛ばし去っていった女が向かった方向をじっと見つめる。
そう呟くノインの右手では、暗く輝く宝石がはめ込まれた指輪があった。
先程自身の首筋を掴んでいる『女の腕に触れた』右手で輝く指輪が。

86 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/08/28(土) 10:02:18 0
>>77

>「卿のことだ。彼女のことをレッサーデーモンの腹から生まれたきたくらいに考えているのだろう?」

バルクホルンが女の出自について問うと、ヴォルフは年相応の円熟した仕草でニヤリと笑う。
このハーフエルフの上司を相手取るにおいて、大抵の場合こちらの考えはお見通しとばかりに見透かされている。
100年以上生きてきた知慧によるものか、それでもそれをひけらかさず真摯に相対してくれるところが、ヴォルフの人望を裏付ける美点であった。

>「実を言うと正解だ。彼女は竜族の末裔で人間の姿は仮初のものに過ぎない。私にとっては生国が滅びた時の恩人にあたる人だ」

「……マジですかい」

竜族と言えばあらゆる生物の完全上位互換、食物連鎖の頂点に立つ万物の王者。
獅子より鋭い牙を持ち、虎より硬い爪を持ち、熊以上の膂力を持ち、鷲より高く空を飛び、人間よりも知性に長けた上位種。
長命な彼らならば、ヴォルフの『子供時代』に邂逅していてもおかしくはなかったが、それ故に浮上する考えは――。

>「今でこそ丸くなったが、短気で強引な時期もあってな…交渉決裂と同時に殲滅戦を仕掛けたのも一度や二度ではなかったよ」

(それって単に年食ってボケただけじゃあ……?)

ヴォルフの語るかつての姿と、今しがた相対した彼女の痴態を見るに、その結論が最も適当であるように思えてきた。
が、すぐに思考から追いやる。ヴォルフは幼い頃助けてもらった彼女に恩を感じ、半ば刷り込み的に敬っている。
そんな彼にとって、恩人が軒並み低評価というか、愚にもつかない馬鹿扱いされているとなればそれは面白くないだろう。

「できればことを構えたくない相手ですなあ。年上は敬うのがバルクホルン家の家訓ですんでね」

貴族でもないただの剣士階級の生まれが家訓などと口にするのは、バルクホルン流の皮肉を効かせた冗談で、彼なりのお茶の濁し方だった。

>「バルクホルン、お前は戦いから逃げ去った民衆の耳に届くように情報を流せ。『――――これより一刻の後、この場にて反乱首謀者の処刑を行う』と」

ノインから次に下された指令は、反乱の終結を促す号令と同じ意味を持つ。
号令が味方への言葉であるならば、流布する情報は敵の戦意を剥奪するためのものだ。
バルクホルンは鋭く了解の意を示すと、隻腕の男の出現を尻目に同僚がちゃっかり用意していた早馬の鐙に脚をかけて――

「っおお!?」

>「あーりゃりゃ、ミスっちゃいましたねぇ。まあでも、元々はこれが目的だった訳ですし……」

突如として一陣の風が吹き、覆われた視界が晴れる頃には、ノインの首筋へ手を当てる女の姿が。
判断は一瞬だった。バルクホルンは鐙を蹴って反発力を得、空中で野戦剣を抜き放ちながら女へと肉迫する。
ノインを正確に避けて打ち下ろされた斬撃は、しかし女を捉えない。風属性魔法の移動術か、女は疾風のごとき速さで遁走した。

「皇子!」

>「――――構うな、私は無事だ。他国の間者が居る事も予測していた――――少し配置を変える。
  バルクホルンは処刑時刻の流布を行え。平行して先の竜の女とやらの位置情報の確認も急げ。
  ヴォルフはその男への対処を済ませよ。    ――――此処は私の眼前だ。存分に力を振るえ」

バルクホルンが駆け寄ると、ノインは心配ないといった具合に手で制し、指令の変更を伝える。
一瞬前まで首と胴体が分かれそうだったというのに、凄まじい胆力だ。とても二十歳を超えたばかりとは思えない老成ぶりだった。
一瞬のkとに対応しきれなかった不甲斐なさを噛み締めながら、バルクホルンは右拳を左胸に当てる帝国式の敬礼を示し、

「――はっ!」

短く返答をして駆け出した。
これから彼は行く先々で処刑についての情報を流すことになる。敵味方問わず、『あくまで流れてきた情報』という形で。
同時に駐屯所の追跡班に声をかけ、竜の情報状況を捕捉する。不意な動きがあったらノインを通さず即座に処理する為に。


【ノインの指令を受け取り、馬で戦場を駆ける。状況が動くまで奔走中ということで。『流布は完了した』という状況で進行をお願いします】

87 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/28(土) 16:13:23 0
酒場「シークホーク」
帝都中央にある酒場では人であふれ、グラスを交わす音と笑い声があちらこちらから聞こえてくる
「マスター、魔王いっぱい」
「魔王ですか。今はあいにく切らしてまして…」
魔王は帝都と戦争中の隣国で作られる酒だ
米と麹のみで作られるその酒は東洋から伝えられたもので、帝都にもすこしずつ入ってきてはいるが、戦争によりパタリと閉じてしまったのだ
「そう仕方ないわね。麦酒を一つちょうだい」
カウンター越しに金貨を渡す
その枚数、10枚ほど
「勇者の遺産について教えて頂戴。これは情報料よ」
マスタの耳に口を寄せささやきかけた

(!…)
マナが周囲で凝縮している
近くに術者の気配はない
考えられることはただ一つ領主のもとに行った際、マーカーが付けられ、それ経由で魔法が使われた
「伏せて!」
マーカーから光が発せられ、空気の膜が店を内側から破壊した


帝都中央病院
前皇帝の時代に設立されたこの病院は帝都の中でも有数の規模を誇り、帝国屈指の医療が常に行われ、研修生で常にごった返していた
そんな病院のそんな一室
ベットには腹を包帯でまかれた女が横たわり、そのわきで吸引器を抱えた看護師が痰を取っている
吸引の原理は現代のそれとは違うことは言うまでもない
「ん…っ」
吸引作業を終え、患者の口から管を抜くと、患者の目が突然開いた
「ここはどこ?」
「病院です」
看護師はこういうことには慣れているのか
後片付けをしながら淡々と作業をしていく
「今すぐ退院させろ。すべきことがある」
女は看護師に詰め寄ろうとし、動きを止めた
腹のあたりを押さえつつ苦悶の表情を浮かべている
「そんな状態では無理ですよ」
看護師は笑みを浮かべ、最終兵器を呼ぶことにした


「やあやあ、ドーラさん、意識を取り戻されたそうですね。看護師から話を聞きましたよ」
白衣を着た男が入ってきた
口調は上から目線
おまけにへらへらと笑っている
「あとどれくらいで退院できる?」
どうも、ドーラはこの男が好きになれなかった
「肺の損傷に、鼓膜の損傷、腹部の傷…あと、1週間はかかりまっせ」
どうも起きた時から片耳に違和感があるのはそれのせいか
「もっと短くできないのか」
「治癒魔法の使い手を呼べばできますがね…」
この医者は人差し指と親指で丸を作った
つまり金がかかるということらしい
「どうせ、払うのはあの皇族の男だ。やってくれ」
回復魔法には術者に大きな負担をかける
それゆえに金をとるのだが、あの男の部下がしでかしたことが原因だ
あの男に責任を取ってもらうとしよう

病院わきの壁に一枚の張り紙が貼ってある
帝国城にてメイド募集。掃除をするだけの簡単なお仕事です。時給○○
ドーラはその足で帝都城へと向かい、メイドとして働き始めるのであった
【ドーラ負傷。治癒魔法により数時間で退院。ノインのもとに請求書を送り、帝国城に潜入】


88 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/28(土) 18:14:07 0
バルクホルン殿の「気配を消された」という描写によりドーラに瞬間移動の能力が付与されたと勘違いしてしまい、
TRPGにあるまじき行いをしてしまいました
まだ誰もロールをしていないようなので、ロールそのものを取り消したいのですが、
よろしいでしょうか?
【誰も避難所を見ていないようなので、こちらに書かせて抱きます】

89 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/28(土) 18:15:29 0
× 書かせて抱きます
○ 書かせていただきます

90 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/28(土) 19:45:14 0
ロール取り下げなら、それに応じた内容で投下します。

91 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/28(土) 19:46:58 0
>>84

「今は彼女を追う必要は無い。私が今ここですべき事は、この反乱を解決する事だ。些事に拘る時間は無い。
 (中略)
 ヴォルフ。お前は反乱の情報を可能な限り集めろ。この反乱は、恐らくは何者かが
 糸を引いている筈だ」
「御意」

そのことは彼も懸念していた。屋敷の中で感じた視線の主を探し出す必要がある。
もしこのまま首謀者を処刑しても、一件落着とはいかないだろう。
現に今も捕らえられた解放軍の面々は敵愾心をむき出しにしたままだ。力では人の心まで支配できない。
この地での叛乱に留まらない、この先を見据えるなら禍根の先を見つけなければならないのだ。

>>86

「できればことを構えたくない相手ですなあ。年上は敬うのがバルクホルン家の家訓ですんでね」
「ハハハ、それは得がたい家訓だな。大事にしたまえ」

ヴォルフとしても、彼女の判断と行動が必ずしも的確なものとは考えていなかった。
ゆえに他者からの評価が自然辛口になることを、不快とは思ってはいない。
多少なりとも警戒はするが、彼女が大人しく去ったことを歓迎したいのが本音である。
バルクホルンがお茶を濁すのであれば、そのままこの件については取りやめることにした。

92 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/28(土) 19:48:42 0
>>79

主命を実行するべく、そろそろ捕虜の尋問にでもあたろうかと考えていた時、
一人の男が彼が今まで対峙していた傭兵を制止するべく姿を現す。
その容貌が兵士達の目を引いた。隻眼に、隻腕。
よほどの修羅場をかいくぐってきたであろう風貌は、指揮官としての器を想起させた。

「あんたが大将かい?」
「先程まで実戦部隊の指揮をとっていたという意味でなら、そうだ」

正面のヴォルフを見据えて、フェゴルベルが口を開く。
おそらくこの男こそが、三百人あまりの解放軍の実戦指揮を担っていたのだろう。

「卿には聞きたいことが山ほどある。ご同行願えるかな?」

>>80-83 >>85

ヴォルフは傭兵の指揮官に口をきいた次の瞬間、己の不明を悟った。

「しまったな…」

ドーラの来訪とそれに伴う緊張に対し、彼は意識を払いすぎた。
言うなれば他の来訪者に対する警戒と懸念が薄らいでしまっていたのだ。
そう彼が確信したのは、貴族の屋敷の屋根の上に一つの不信な気配を察知したからである。

「あ……ありゃりゃりゃりゃ!? って、あいたたたたた!?」

素っ頓狂な悲鳴と共に転落した”来訪者”が樽と共に戦場にまで転がってきた時、その風貌に固唾を呑んだ。

93 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/28(土) 19:51:59 0
「……王国か」

帝国とは共に天を頂かず!と広言して憚らぬ国の人間…
この場には似つかわしくない女が、今まで気配を殺していた理由は極めて明確である。
彼は咄嗟に馬上のバルクホルンに軽く目配せして対応を委ねた。
ノインとの位置はバルクホルンの方がずっと近いことと、そして護衛としての力量への信頼からである。

「さようならーっ!」

だが、侵入者が煙幕の噴射と共に姿を隠し、兵士がそれを追おうとした時は流石に檄を飛ばした。

「惑わされるな!これは初歩的な陽動だ!」

案の定というか、主君の首は侵入者たる女によって捕まれてしまった。
バルクホルンが既に女に狙いを定めている以上、あとは彼に任せるのが上策というものだろう。
だがその時、女から発せられた言葉はヴォルフを戦慄させた。

「……そう言えば貴方。さっきあの女に関してこんな事を言ってましたよね。
 『下手につつくと蛇どころか文字通り竜が拝めるぞ』……でしたっけ?」

この女、やはり人間ではなさそうだ。
すっとぼけたふりをしていながらその実、こちらの事情を遺漏なく掴んでいる。
厄介な相手がまた出現した…と言わざるをえなかった。

94 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/28(土) 19:54:25 0
「いやあ、怖いですねぇ。あの竜さんは随分とおバカなようでしたし。
 偶然気が変わってここに帰ってきたりしたら……ありゃりゃ、一体どうなってしまう事やら」

まるでこの世に自分の思い通りにならないものはないと豪語するかのようなウルカの楽しげな笑み。
それがヴォルフの琴線を一気に叩く。このまま相手にイニシアチブをとらせるわけにはいかなかった。

「させるか!」

素早く印を組み、マーカーへの術の起動に割り込んだ。
女から発せられようとしていたのは風の爆発、彼もまた風属性の魔法を得意としている。
たとえ同系統の呪文とはいえ他人の魔法の詠唱に割り込むのは至難の技であるが、
完全ではないとはいえ、押さえ込むことが出来れば最悪の結果は免れえるのだ。

「それじゃ、皇子様はお返ししますね〜。さよう……なら!」
「誰が逃げていいと言った……?小娘!」

豪語するだけあって、バルクホルンの一撃もかわしてみせた。
だが関心してはいられない。この不埒者を眼前から逃すわけにはいかないのだ。
逃走を図るウルカを捕殺するべく、風属性の最強魔法を詠唱しようとしていたところへ…

「――――構うな、私は無事だ。他国の間者が居る事も予測していた――――少し配置を変える。
 バルクホルンは処刑時刻の流布を行え。平行して先の竜の女とやらの位置情報の確認も急げ。
 ヴォルフはその男への対処を済ませよ。

 ――――此処は私の眼前だ。存分に力を振るえ」
「御意」

傅きながら、主君の右手に暗く輝く宝石がはめ込まれた指輪を確認したヴォルフは息を呑んだ。
あの不埒な暗殺者も、こうなると逃れ得まい。あとは彼自身の責務を果たすだけだ。

95 :ドーラ ◆vspLe72Rlc :2010/08/28(土) 20:23:13 0
【度重なるネットウォッチ行為により疲れ果ててしまいました。うまい具合に幕引きすべきかもしれませんが、何を書いてもバカにされるだけなので、このままやめようと思います。途中でやめて申し訳ないのですが、もう、限界です】

96 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/08/28(土) 21:35:32 0
ファスタの街郊外に点在する物見櫓。
平時であれば、それらは街の外に生息する魔物の動向を観測するために使われている。

だが今、櫓の上に居る者たちが眼を光らせているのは魔物たちに対してではない。
帝国式の鎧兜に身を包んだ兵士達が、街内外に居る解放軍を見つけようと血眼になっているのだ。

「……大ピンチ……かも」

櫓の一つから街中を見下ろす人物が居た。
少女の名前はクィル・ミール。
浮浪者でももう少しまともな物を着ているだろう程にボロボロの布にすっぽりと包まり、手にした望遠鏡をしきりに覗き込んでは唸っている。

「フェルゴルベルとファイ……捕まっちゃった……」

(どうしよう、どうしよう。直にでも仕掛けたほうがいいのかな。
 でもでも、合図があるまで動くなって言ってたし。だけどアレ、帝国の王子様だよね?お供の人も腕が立ちそうだし。
 あーーーもうっ、どうすればいいのかなっ!)

頭の中では今にも茹りそうなほどあーでもない、こーでもないと考えているクィルだが、表情には微塵も焦りは見えない。
悪く言えば眠たげな、更に悪く言えばやる気のない、いつもの三白眼でじーっと広場の騒動を眺めているのみ。

それに解放軍リーダーであるフェルゴルベル・エッジも、その剣たるファイ・ヴァフティアもまだ捕まったわけではない。
王子とその部下達を真っ向に据えて睨みあっている真っ最中である。
とはいっても数の上では2対たくさん。ここからの巻き返しなど到底不可能と思っても仕方はないかもしれない。

「……うー、ん?」

望遠鏡を眼に当てたまま、クィルの声がわずかに上擦る。
筒の先の光景に変化があったからだ。

「なにあれ……樽……と、女の人……?」

何処からともなく落下してきた女性が木箱と熱烈な抱擁を数回繰り返した挙句、樽を頭から被ったまま転がりこんで来たのだ。

「……コント?」

声こそ抑揚の無いいつものものだが、クィルの肩は小刻みに震えている。
広場に居並ぶ者たちもどう対応していいのか迷っている、否呆れているようだ。

そんな居た堪れない空気を払拭するように、それは突然起こった。
煙幕による目眩まし、一斉にあらぬ方向を向く兵士達、そしてその間隙を突いてノインへと肉薄する女。
正々堂々真っ向からの暗殺行為。
襲撃自体は失敗したようだが、一瞬の隙を突いて雲を霞と逃走に成功している。
あわや監視の下、王子が暗殺されそうになるという騒動は、暗殺対象であるノインの檄によって治まりつつあった。

だが相手が襲撃を退けた今こそが、次手への最大のチャンスといえる。
目の前の敵への警戒は高まるだろうが、クィルは森人。生まれついての狩人であり精霊術士でもあるのだ。

(やるなら今しかないよねっ!)

望遠鏡を放り出し、クィルは長弓を引き絞った。

97 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/08/28(土) 21:36:51 0
名前:クィル・ミール
年齢:50
性別:女
身長:150
体重:40
スリーサイズ:そこそこ
種族:森人(エルフ族の一種)
出自:狩人
職業:解放軍狙撃手
性格:無口で無表情
特技:山菜取り
装備品右手:指貫グローブ
装備品左手:長弓
装備品鎧:部分革鎧
所持品:矢束、ダガー×2
容姿の特徴・風貌: 長い薄茶色の髪、長く尖った耳
趣味:昼寝
将来の目標:打倒帝国
簡単なキャラ解説:
ファスタの街の東に広がる大森林に居を構える森人の娘さん。
部族の中では若い部類。比較的友好的だった街の長の要請の下、解放軍入り。
精霊魔術と弓術の(それなりに)達人。彼女のような天才楽天家でなければ解放軍への出向は勤まらん。

98 : ◆AaLTiaqv7c :2010/08/28(土) 22:35:45 0
仮設で避難所を作ったから、規制中の人は
こっちで代理投稿頼むといいよっと

【仮設避難所】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14086/



99 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/08/29(日) 02:30:19 0
>>92
「先程まで実戦部隊の指揮をとっていたという意味でなら、そうだ」
「そうかい。いやあ見事な腕前だったぜ」
フェゴルベルはそう言って鎧の右胸を何度か叩いた。拍手のつもりのようだ。
浮かべた笑みは子供を褒める近所の大人のようで、とても敗者のそれには見えない。
本心か虚勢か。それを知るのはフェゴルベルしかいない。

「卿には聞きたいことが山ほどある。ご同行願えるかな?」
「ん? ああそれは――」

>>80-83
一瞬の出来事であった。
戦士としては一線を引いていたフェゴルベルはこの事態に加わる権利は既に失っていた。
だが彼の司令官としての目は冷静に状況をつぶさに観察していた。
しかしそれは近衛兵の初動を分析していたというだけの話ではない。

>>84-85
むしろ彼が見ていたのはノインの言動であった。
感情を抑圧した理性的な男。その冷静さは不感症によるものでなく論理的な思考に裏打ちされたものだろう。
高慢さを隠すことがないのは自分が誇り高い存在であることを疑っていないから。

(なるほど、これが皇子か)

フェゴルベルは安堵した。
ヴォルフの手際を評価するあまり、逆にその主人はぼんくらなのだろうと高をくくっていたからだ。
(やすい挑発を仕掛けなくてよかったぜ)
そんなものにこの男は乗ってこないだろう。それではフェゴルベルの目的は達成できない。

100 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/08/29(日) 02:34:25 0
>>92-94
「――――構うな、私は無事だ。他国の間者が居る事も予測していた――――少し配置を変える。
 バルクホルンは処刑時刻の流布を行え。平行して先の竜の女とやらの位置情報の確認も急げ。
 ヴォルフはその男への対処を済ませよ。

 ――――此処は私の眼前だ。存分に力を振るえ」
「御意」

「まあ待てよ大将。俺はあんたの上司に用があって来たんだ」
彼はノインに向かって傅いた。
「まずは無礼をお許しください、殿下。
 私はフェゴルベル・エッジ。解放軍を率いてこの屋敷の陥落を企てた者です。
 今日は殿下に折り入ってお願いがあり、馳せ参じました
 先ほどの襲撃への対処もさることながらこのたびの戦争の軍指揮、大変優秀でございました。
 聞くところによりますと殿下がヴォルフとお呼びになっていた男の功績だとか。

 ――つきましてその男を我が部下として頂戴したく存知あげます」

フェゴルベルは顔を上げた。
その表情は彼が本気であることを如実に語っていた。

「ああ、失礼しました。もちろん只とは言いませぬ。
 その男を頂戴できるなら、“このたびの戦争の勝利を差し上げます”――いかがでしょう」
場が、凍りついた。
ノインより遠く離れた位置にいるこの男が笑みを浮かべているのは、しかし話の調子からノインにも伝わったであろう。

そう、フェゴルベルは笑っていた。
彼にはここが針の筵だという認識はあっても窮地だという自覚はなかった。


>>96-97
フェゴルベルの言葉に誰もが物を言えない中――あるいは誰かが口を開こうとした瞬間――
その空気を壊すかのごとく、放たれた矢はノインの頭上を掠めた。
(ナイスタイミングだぜ、クィル)

『混乱に乗じて味方を逃がす時は的中させるのではなく、当たるか当たらないかのぎりぎりを狙い、けん制をすること』――
フェゴルベルがあらかじめ教えていた戦術であった。
でなければクィルの矢がそもそも当たらない軌跡の上にあったなどありえない。
戦術や戦略において的中することは必ずしも良いことばかりとは限らないのだ。
この事を教えていなかったばかりに窮地に陥ってしまったこともあるのだが……それはまた別の話である。

「……私の言葉に偽りがないこと、まして私がこの状況を前に気がふれたのでは無いことは今ので信じていただけたでしょう」

101 :ウルカ ◇PpJMaaDGNM:2010/08/29(日) 05:30:37 0
戦場の真っ只中から、ウルカは電光石火の勢いで離脱した。
そのまま街の外壁付近にまで、僅か数秒で到達を果たす。
後は壁を超え、王国に戻るのみだ。
だが彼女は、そうはしなかった。
足を止めて、違和感を浸した視線で自分の腕を見つめる。

「……何か、されちゃいましたかねぇ? もしかしてあの指輪でしょうか?」

おちゃらけた口調や素振りが目立つが、彼女は手練の隠密だ。
隠れ身や隠蔽はお手の物で、だからこそ逆にそれらを察知する事も出来る。

「うーん、マーカーである可能性は低いですよねぇ。新たな侵攻ルートでも開拓するならともかく。
 それにしても逆に利用される可能性もあります。なら大軍を敵地に送る為のゲート……
 あり得ますが、あの皇子様が指輪として肌身離さず持っていた事を考えると、ちと怪しいですねぃ」

本当に暗殺者が迫った時に優先すべき事が、マーカーやゲートである筈がない。
彼自身の命が最優先に決まっている。
彼女が言わんとするのは、そう言う事だ。

「……となると、まさか呪殺ですかぁ? いやいや勘弁して下さいよぉ。
 まだ私はうら若き乙女だって言うのになんて御無体な! 
 ……とこんな事してる場合じゃありませんね。さっさとどうにかしなくては」

ふざけたテンションから一転、彼女の瞳に真剣味が帯びる。

「解析は……脅威が未知数である以上時間を掛けるのは得策じゃありませんし。
 水の属性で沈静化しちゃいますか。あんま得意じゃないですけど、土の属性よりかはマシですね」

火は水によって消え、水は土によって勢いを失い吸い取られ、土は風によって削られ、しかし風は火を一層強めてしまう。
四大属性には相性と言う物がある。
ウルカは風の属性を得意とする為に火はそれなりに、しかし水はどちらかと言えば不得手であるのだ。
ついでに言えば土は最悪の相性で、先程の煙幕も魔力の燃費がすこぶる悪い。

無論彼女はそれなりに長生きして、その殆どを密偵などの仕事に費やしている。
苦手であるとは言っても、今のような状況で任務に支障を来たす事が無い程度には修練を積んでいた。
とは言えノインの仕組んだ何かは随分と高度かつ強力で、完全に沈静化するには時間を要するようだ。

「……はて? そう言えばあのおバカなドラゴンはどうしたんでしょうねぇ?
 まさか威力が強すぎた……なんて事は無いでしょうし……さっきの割り込みですかね。
 まったく面倒な事をしてくれましたね……っと」

ふとウルカが、外壁の方を見上げた。
より正しくは外壁の外にある櫓、その上にいる小娘だった。

「ありゃりゃ? 貴女は……解放軍のお方ですかぁ? 
 あ、いえいえ、どうぞ私にはお構いなく。バシュンとやっちゃって下さいな」

両手を顔の左右でひらつかせて、ウルカは曖昧な笑顔で誤魔化しに掛かる。
櫓の娘クィルは誤魔化されたのか、そうでなくとも合図を貰ったのか。
とにかく引き絞った弓から、大気を引き裂く矢を放った。

「……んー? ありゃりゃ、外した……って訳じゃあ無さそうですねぇ。『そう言う事』ですか」

102 :ウルカ ◇PpJMaaDGNM :2010/08/29(日) 05:31:28 0
クィルに指示を出した人間はつまり、『殺そうと思えば殺せた』事を材料に交渉をしようとしているのだろう。
この場面でノインを殺した所で、彼らにとって旨みはない。
この距離ではただの矢を射掛けた所で、ノインが即死するかは運の要素が大きい。
殺せても殺せなくても、待ち受ける運命は皆殺し。
ならば芸を示し、ここは取り入るのが得策と言う物だ。
ウルカが一度は捕縛したノインを殺さなかったように、政治的で大局的な判断だ。

――もっと言うならば、フェルゴルベルには『帝国打倒』以外の目的がある可能性だってある。
無論それは、彼以外には知り得ない事だが。

「うーむ……参りましたねぇ。てっきり殺ってくれるものだと思ってたんですが……。
 仕方ありません。まあこの状況なら……疑わしきは罰せよって奴ですねぃ」

腕を組みぶつぶつと独り言をしていたかと思うと、ウルカは突然跳躍する。
神速を以ってクィルの背後に回り込み――矢筒から一本、矢を拝借。
そして、

「そう、この状況で二発目が飛んできたら、ましてや
 それが皇子様に当たっちゃったら……。うーんどうなる事やら。ぬふふふふ〜」

口端が巻き上がるようににんまりと笑みを湛え、彼女は櫓から再び外壁の内側へ。
着地と同時に矢を握った右腕を大きく振りかぶる。
風の魔法によって加速を得た矢がノイン目掛け、烈風と化けて放たれた。

もしもこの一撃で皇子たるノインを殺害出来れば、それは当然王国にとって利益である。
が、更に副次的な効果も望めるのだ。
暗殺は解放軍の仕業となり、結果帝国は解放軍を危険視し、潰す必要性が出てくる。
そうすれば帝国の国力は衰え、王国の付け入る隙も生まれる事だろう。

政治的で大局的な思惑を秘めて、矢はノインへ猛進する。


【指輪から仕込まれた何かを沈静化中。沈静にはちょっと時間がかかる
 矢を拝借。そして解放軍の仕業と見せかけて矢をノインへ。殺害、最低でも命中狙いです】



103 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/29(日) 08:43:40 0
>>96-100

「そうかい。いやあ見事な腕前だったぜ」

鎧の右胸部を叩きながら笑みを浮かべるフェゴルベルに、ヴォルフは違和感を覚えた。
敗者の浮かべる自嘲のそれではない。むしろ高みから相手を賞賛する類のものだ。

(まだ何ぞ奥の手を隠し持っているかもしれんな)

………………………………………………………………………………………………………

予想外の珍事があったとはいえ、今の責務は眼前の男の対処。
主命を受けてフェゴルベルに向き直った時、その口から意外な言葉が飛び出す。

「まあ待てよ大将。俺はあんたの上司に用があって来たんだ」
(交渉のための材料がある…ということか?)

警戒心は拭えない。先程はウルカに気を取られていたが、今は別だ。
こういう時に第二、第三の暗殺者が出現することは珍しくない。

「まずは無礼をお許しください、殿下。
 私はフェゴルベル・エッジ。解放軍を率いてこの屋敷の陥落を企てた者です。
 今日は殿下に折り入ってお願いがあり、馳せ参じました
 先ほどの襲撃への対処もさることながらこのたびの戦争の軍指揮、大変優秀でございました。
 聞くところによりますと殿下がヴォルフとお呼びになっていた男の功績だとか。

 ――つきましてその男を我が部下として頂戴したく存知あげます」

「───何?」

あまりにも突飛な要求に、流石にヴォルフも看過しえぬものを感じた。

104 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/29(日) 08:45:29 0
男が自分で解放軍の指揮を取っていたことを白状した以上、通例であれば極刑は免れ得ない。
状況をわかってやっているのであれば、随分とまた大きく出たものだ。
この隻眼の傭兵は、この場でノインの寛恕を得られると本気で思っているのだろうか?

「ああ、失礼しました。もちろん只とは言いませぬ。
 その男を頂戴できるなら、“このたびの戦争の勝利を差し上げます”――いかがでしょう」
(それすら覆す程の交渉材料となると…やはり)

そこまで思案した時、街の方から飛来した風を切る音をヴォルフの耳が捉えた。
一瞬切り払おうかと思案したが、寸前でその狙いがノインの頭上を霞めることを察知してそのまま見送った。

「……私の言葉に偽りがないこと、まして私がこの状況を前に気がふれたのでは無いことは今ので信じていただけたでしょう」

彼の推察は間違っていはいなかった。イニシアチブを取るためにこれほどシンプルで効果的な手法はそうない。
ヴォルフはクィルの存在も素性も知らないが、狙撃手の技量には舌を巻かざるを得なかった。

>>101-102

だが、感心してばかりもいられなかった。むざむざ相手の言いなりになる為にファスタまで来たのではない。
解放軍で今なお健在なのは、フェゴルベルとフェイ、そしてヴォルフ自身は名を知らぬがクィルという狙撃手。
王手をかけたも同然の状況下で、ナイトに喉元を狙われた…と判断するべきだろうか。

(しかし、余程の野心家と言わざるをえないな)

フェゴルベルは自分を部下に欲しいと言ってのけた。
彼の本音を言えば、一介の傭兵の部下に納まろうなどという気にはなれない。
帝国において軍団長も間近というところまで出世したことについては自負がある。
あるいは、フェゴルベルは今の身分には似合わぬ壮大な野心を胸に抱いているのだろうか?

(何にせよ、迂闊に動けば第二の矢が飛んでくることになりそうだな)

105 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/29(日) 08:48:17 0
実際には、彼が動きを見せる前に第二の矢が放たれた。
ただし、狙撃手であるクィルではなく先程の暗殺者ウルカの手によって、風の魔法の加護を受けて…である。

(───速い!)

今度は明らかにノインを狙っている、そう判断したヴォルフの行動は素早かった。
風の魔法を纏った秘剣が、烈風と化して飛来する矢を切り払う。

彼は防御に特化した剣術スタイルを得意としていた。
今のように風の魔法、あるいは不得手ではあるが水属性の魔法を纏った秘剣をもって、
遠近、武具、属性を問わない鉄壁の防御スタイルこそが彼の持ち味である。

「成る程、たいした腕前だな」

ここに来てはじめてフェゴルベルに向けて笑みを浮かべる。
おそらく先程の矢は狙撃手によって放たれたものではないだろう。
そうでなければ、初撃の時点で風属性の魔法を付加させている筈だ。

(まして、交渉の席に相手をつかせようというのであれば、本当に命を狙うのはナンセンスに過ぎる)

だが、これは相手からイニシアチブを奪う良い口実になる。
狙撃を防げることを証明することも出来た以上、相手の優位性は一つ失われたのだ。それに…

「市街に展開する部隊に伝達!物見櫓を全て押さえろ!、不審な者がいたら断じて逃がすな」
「ハッ」

命令を受けて兵士達が街へと急ぐ。高度と方角からして狙撃手がいるのは街の郊外の櫓だろう。
狙撃には行為自体に名前がついている。戦場においては誰が誰を殺したかはわからないが、狙撃だけは例外と言えた。
捕囚となった時に、仲間の仇敵として報復を受け、生存できないことが通例なのだ。

(おそらく、狙撃手に心得があればであれば今のを見て早々に撤収しようとするだろうな)

だからこそ逃がす訳にはいかない。叛乱の鎮圧に際して逃亡者を出すわけにはいかなかったのだ。

106 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/29(日) 21:39:21 0
そういや王国側の人間が今んとこ一人しかいないね

107 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/08/29(日) 23:47:49 0

「ほう。見事な腕だ」

放たれた一本の矢がノインの傍を通過した後、
ノインは頬に遅れてやってきた風を感じながらそう呟いた。
その言葉はあくまで淡々としており、先程暗殺者に狙われた時と同様、
人形じみた端正な顔に、焦りや恐怖といった色は一切見られない。

ノインは解放軍の首魁を名乗る男……『フェゴルベル・エッジ』の方へと
視線を向けると、彼の部下を勝利と引き換えに寄こせと言った男に対し、
初めて口を開く。

「男。我が配下と勝利を引き換えにするというお前の交渉への返事だが……
 愚にも付かぬな。勝利とは我が手に集う物。貴様の様な下郎に施される物では無い。
 そして、このヴォルフという男はこの戦いの勝利よりも価値がある。何故ならば――――」

そこで風を纏った矢が高速で疾ってきた。迷う事無くノインの命を目掛けて。
刺客の放ったその矢はこの場の何よりも早くノインを射殺そうとし……
だが、この場の誰よりも早く動いた男の刃によって切り伏せられる。

「我が命を護るに値する力を持つ者だからだ」

切り伏せられた矢を見る事も無く、それが当然とでもあるかのように
ただフェゴルベルへと冷たい紅い瞳を向ける。
その瞳が言わずとも語っているのは、即ち交渉を受けるつもりは無いという意思。
狙撃は通用せず、バルクホルンが流した処刑の情報によって
戦局も終局を迎えている時点で、ノインに男の言葉を呑む必要は無かった。

「ヴォルフよ。私は今お前を手放すつもりは無い。
 だが、誰の元に集うかはお前が決めよ。  さあ、お前の答えは何処だ 」

ノインが敢えて戦士へ問うのは、その意思の在りか。
恐らくノインは、仮にこの場でヴォルフが寝返ろうと其れを責める事はしないだろう。
ただ、敵として淡々と冷静にヴォルフと、フェゴルベルの処断に掛かるに違いない。
それは、ノインの手に嵌められた漆黒の宝石を持つ指輪が――――先程暗殺者に触れた
指輪が、あまりに禍々しい霧の様な闇を纏い始めている事が証明していた。

>>102
ヴォルフの指輪が闇を纏い始めた直後、ウルカは感じるだろう。自身の身に起きる異変を。
それは魔力の流出――――否。魔力を他人に吸い取られ、身勝手に使われる感覚。
その場所を見れば、先程ノインの指輪が触れた場所には、棘の様な形をした奇妙な黒い線が
浮かんでいる事を確認できる。そして、それがほんの少しづつ大きくなっていく事も。

その模様は、ウルカの水属性の魔法ですら弱まる様子は無い。
ただ、遅々とした成長を始めるのみ。
それが示すのはつまり、ノインの指輪が与えたものが四大属性に含まれて
いない性質を持つという事。即ち――――

108 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/08/30(月) 12:05:27 0
「皇子に付いた連中から連絡だ、『指輪』を使ったようだぞ」

早馬の後ろで背中に張り付きながら伝心魔法を使っていた同僚が囁くように言う。
各地へ伝令に廻っていたバルクホルンは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑った。

「うっし、これであの風っ娘は鎮静呪文を使わざるを得ない――捕捉できるな?」

「よしきた」

同僚は両手を胸の前で組むと、水属性の魔力を喚起する。
出現したのは薄い円状の水鏡。その表面には淡い光の点がいくつも点在している。
同属性の魔法を精査し捕捉する追跡魔法だ。

「……捉えた。北300・西34――向こうに三基ある物見櫓の向こうだ」

「このまま向かって追撃かけるぞ!」

馬に鞭を入れる。
ファスタの村の居住エリアは馬が駆けるように整地された場所ではないが、その進行速度に変わりはない。
バルクホルンの地属性魔法によって地面から少し浮いたところに仮想の大地を作っているのだ。

「見えてきた。――おお?なんかもう一人いるぞ。ありゃ解放軍の狙撃手か! おいおいマジかよ手柄だぞ! シルト殿に報告しとけ!」

「指示は?」

「待たねえ!風っ娘はまた逃げられると厄介だからな。報告のち範囲結界に閉じ込めるぞ。援軍寄越して貰えるよう言っとけ!」

「把握した」

言うやいなや、バルクホルンは馬上に立った。器用にバランスを取りながら、その右腕に同僚をぶら下げる。
奇襲用の馬上魔法――駆ける馬の速さを全て騎手の跳躍に費やし、上空へ跳ぶ風属性の魔法を同僚が発動した。
一瞬でバルクホルンと同僚は風に乗り、大砲で打ち上げられたように空を駆け上がる。やがて重力の縛りを取り戻し、放物線の軌道で地面へと向かう。

その先には、風の矢を放ったばかりの襲撃者。
野戦剣を構えたバルクホルンは、自由落下の速力そのままに少女の立つ地面へと激突した。

土砂が波濤のように爆散する。その中心で、バルクホルンは立ち上がった。自前の地属性魔法で激突時の地面の硬度を制御し自分を受け止めたのだ。
雨の代わりに降りしきる土は、その軌跡で櫓のあるエリア全体を囲む魔法陣を描いていた。魔法陣から出ようとすればたちまち土壁に阻まれるだろう。
往々にして『鈍臭い』地属性の使い手が、素早い相手と戦う為に考案した戦闘領域限定結界である。

「帝国軍皇族専任近衛部隊所属――カールスラント=バルクホルン。さっきはよくもウチの皇子にちょっかいかけくさったな。
 だが転んでもただじゃ起きないのが帝国民のメンタリティだ。地に顎つけたままのお前らなんか――踏むぞ?」

解放軍の狙撃手・王国の暗殺者。二人の少女の前に立ちはだかった中年男は、軍人然とした獰猛な笑みを見せた。


【ウルカとクィルに襲いかかる。ノイン・ヴォルフに狙撃手と暗殺者の捕捉と援軍の要請を報告】

109 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/08/30(月) 18:44:41 0
「……合図……来た」

(わかり辛いよ!フェゴルベル)

拍手の後に両手を広げる。それがクィルとフェゴルベルで取り決めたいた狙撃のサイン。
隻腕の彼がどう拍手をするのか疑問だったが、よもや胸甲を叩くことでそれとするとは。
少しでも目を逸らしていたならば見逃していただろう。

「……視界りょーこー。……しゅーと」

「ありゃりゃ? 貴女は……解放軍のお方ですかぁ? 
 あ、いえいえ、どうぞ私にはお構いなく。バシュンとやっちゃって下さいな」

「……ふぇ?……あ」

射撃の瞬間、突如として視界の隅に現れたのは件の樽女。
おもわずびくりと体を竦めた結果、解き放たれた矢は当初の予定から若干外れた軌道を突き進み、ノインの頭上ギリギリを掠め飛ぶ。

(うわー!うぅわぁー!!危なかった。危なかったよ!?)

クィルが本来狙ったのは耳の真横。以前解放軍の仲間たちへ何処を矢が掠めると一番怖いか、と聞いて回ったところ最も多かった部位である。
曰く、風斬り音と風圧を直に感じてまじ怖い。とのことだった。

ともあれ、若干狙いが狂いはしたがフェゴルベルの言いつけどおりの役目は果たせた。
もし直撃コースだったら後で大目玉を食らっていたのは確実。それを考えるば御の字とも言えよう。

「……邪魔……した」

それでも恨み言の一つくらいは言いたくなる。
クィルはギギギと首だけを動かし、闖入者を睨みつけた。

「うーむ……参りましたねぇ。てっきり殺ってくれるものだと思ってたんですが……。
 仕方ありません。まあこの状況なら……疑わしきは罰せよって奴ですねぃ」

だが女暗殺者はそんなクィルの視線をまるで意に介さずに、腕を組みつつ何やら思案顔でぼやいている。
時間にしたら数秒程度。ひとしきり独り言を呟くと、彼女は突然消え失せた。

(なにっ!?今度はなに!!!)

クィルとて狩人の端くれ、動体視力に関しては人後に落ちはしない。
その眼が確かに捉えていた。尋常ならざる速度をもってウルカが自分の背後へ跳躍する瞬間を。
しかし視えるのと反応できるのは違う。狙撃のため体のぶれを最小限に抑える体勢を取っていたとなればなお更だ。

「そう、この状況で二発目が飛んできたら、ましてや
 それが皇子様に当たっちゃったら……。うーんどうなる事やら。ぬふふふふ〜」

ウルカの手には一本の矢。紛れもなくクィルの矢筒に納まっていた物だ。
それを大きく振りかぶると、『飛矢の加護』を乗せノインに向け解き放ったではないか。

(だめええええ!)

クィルの願いも虚しく放たれた矢は、熟達の射手ですら感嘆の息を洩らす速度でノインへと迫る。

110 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/08/30(月) 18:50:48 0
疾風の如き矢は、一人の武官の手によって地面へと叩き落された。
クィルが安堵の溜息を吐くのも束の間、こちらを睨みつけるその男を確認して息を呑む。
解放軍の者ならば知らぬものは居ない。ノイン王子の懐刀、ヴォルフガング・ヨアヒム・シュヴァルツシルトの名を。

「……またまた大ピンチ……かも」

弁解の余地もなく大ピンチである。
クィルの手によるものではないにしろ、ノインを殺す目的で放った矢が落とされたのだ。
取りも直さずそれは王子の命をテーブルに載せての交渉が失敗したことを意味する。
直にも櫓を制圧すべく追手が放たれるだろう。

「……残念」

言葉の意図するところは作戦の失敗と、言い訳の立つ状況でノインの命を奪うことが出来なかったこと。
国力増強と国土発展のために次々と森を切り拓く帝国に対する森人の恨みは大きいのだ。

「……まあそれはおいおい。……今は撤退」

ともあれ今は逃げることが先決だ。まだ距離はあるが櫓に迫る騎影も視える。
クィルは革袋から大きめの鉱石を取り出し広場に向けて放り投げると、手馴れた動作で矢を引き抜き、長弓に番えて引き絞る。

フェゴルベルとファイの背後に投げた石は瞬光石。
名前こそ大仰だが、特徴としては堅い物で叩くと瞬間的に強烈な光を発する程度。
クィルの放った矢は狙い違わずそれを射抜き、広場は爆発的な光量で満たされる。狙いは勿論二人の撤退援護だ。

「……後は……祈る」

二人が無事に逃げられるか見届けている暇は無い。クィルも既に狙われる身だからだ。
とはいえまだ十分以上に騎影との距離はある。差しあたって物陰にでも隠れた後、精霊魔術を用いれば如何様にも逃げられるだろう。
そう――そのはずだった。

「……ふぇ?」

櫓から飛び降りた瞬間、クィルは周囲の大地の精霊力が異常に高まるのを感知した。
足元を縦横に走る軌跡が描くのは広域結界用の魔方陣。
逃げようとすれば土壁が行く手を阻む決闘場を生成する魔法。ただしこれは術者を中心に展開するはずだが。

「帝国軍皇族専任近衛部隊所属――カールスラント=バルクホルン。さっきはよくもウチの皇子にちょっかいかけくさったな。
 だが転んでもただじゃ起きないのが帝国民のメンタリティだ。地に顎つけたままのお前らなんか――踏むぞ?」

「……何処から……沸いて来たの」

非常に拙い。クィルが得意とする間合いは遠距離及び中距離での戦闘。
対して相手は長剣を引っ下げた見るからに近距離戦闘を得手とする武官。しかも結界で容易に距離が稼げないときている。

「……樽の人――」

救いがあるとすれば同結界内に居る女暗殺者ウルカの存在。
ノインを狙ったということはクィルたちとは別の反乱軍かあるいは王国か、そのどちらでなくとも現状を良しとしない手合いだろう。

「――さっき邪魔したことは水に流すから……手伝って」

クィルはそれだけ告げると答えはまたずに動き出す。
ウルカとすれ違い様に矢筒から取り出した数本の矢をその場に落とす。ノインを狙撃した際に見せた手腕を見越してだ。

(先ずは突っ込んできた方。距離のある内にそっちの足を止める!)

クィルは反転するとバルクホルンに向け三本の矢を続けざまに、ただしそれぞれ微妙に軌道を逸らして、解き放った。

111 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/30(月) 23:24:32 0
>>107

「ヴォルフよ。私は今お前を手放すつもりは無い。
 だが、誰の元に集うかはお前が決めよ。  さあ、お前の答えは何処だ 」
「殿下、私めは殿下の臣で御座います」

ノインの問いかけに対するヴォルフの返答は実にシンプルなものだった。
それは返答というより、事実の確認といった意味合いの方が強い。

ヴォルフにとって故郷は既に亡く、己の手腕で権力機構を上り詰めようと図るも頓挫している。
今の彼に出来うる最善は、自分を拾った主君を守り立て、上昇していくことに他ならない。
ノインの信任があるならば、それを果たすべく全力を尽くすことが彼の命題となっていた。

ただ、下すまでもない結論を下した後で、解消しておきたい疑問は確かに残る。
この場を切り抜けるだけであれば、フェゴルベルが自分を配下にしたいなどと言い出す理由にはならない。
一介の傭兵隊長に過ぎない立場の男が、その胸中にどれほどの遠大な野心を抱いているのだろうか。

「私を配下にしたいとは随分と大きく出たものだが、お前達の目的は何だ?
 無為に町民を煽り立ててたところで事は成せまい。いっそ殿下の下でそれを果たそうとは思わんのか?」

無論、ヴォルフとて本気で聞いているのではない。
目の前の傭兵の野心と我執がどれほどのものか、確認する程度のたわいのない問いかけであった。

112 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/30(月) 23:26:58 0
>>108
先程、烈風のごとき矢が飛来した櫓の方角を見やると、バルクホルンが天高く飛翔しているのが確認できた。

(器用な真似をする)

ヴォルフは素直に感心した。あの手の魔法は使用者と阿吽の呼吸が必要不可欠になってくる。
そこから畳み込むようにして繰り出される魔法陣による重包囲を突破することは困難だ。
いかに敵狙撃手が素早く行動しても、易々と逃げ切れはしないだろう。

と、そこへ新たな報告が彼の元へ届けられる。

「バルクホルン隊長より報告!『目標の櫓に先程の暗殺者を視認、増援を求む』とのことです」
「わかった…殿下、御下知を」

反乱鎮圧の最後の仕上げ、最後の捕虜を得る為の許可を求めた。

113 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/08/30(月) 23:29:09 0
>>109-110

「…後は……祈る」

櫓へと飛翔するバルクホルンと入れ替わるようにして、放物線を描いて飛来する物体をヴォルフは視認する。
数秒を待たずフェゴルベルとファイの背後に転がるであろうそれに、ヴォルフは確かに見覚えがあった。
瞬光石──強烈な発光が煙幕よりも勝る目くらましの道具として珍重されるレアアイテムである。

(させるか──!)

次にその石が射抜かれることは容易に想像できた。
だが、彼の位置から二人の手練の傭兵の背後に回りこんで矢を切り払うのは至難である。
そこでヴォルフが用いたのは、戦乙女がデザインされた一枚の金貨だった。
無論矢を弾くことは叶わないが、彼の指から弾かれたそれは矢の軌道を逸らすには十分な効果を持つ。

鈍い音と共にコインは容易く射抜かれて原型を失うも、クィルによって放たれた矢は逸れた…筈だった。
だがその時ヴォルフは確かに見た。第一の矢に隠れた第二の矢が標的目掛けて突き進むのを…

(──しまった影矢か!)

エルフの伝統を受け継ぐ森の民が十八番としている技法である。
ヴォルフが舌打ちした時には既に遅く、第二の矢は見事瞬光石を射抜く。刹那、爆発的な光によって周囲が満たされた。

「うろたえるな!出口を全て塞げ!」

彼自身は幾度か経験がある故に対処できたが、
他の兵士達は今しばらくの間視覚以外の感覚を頼りに行動するしか無かった。

114 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/08/31(火) 03:28:16 0
>>103-104>>107
喋り終えたフェゴルベルにやがてノインは口を開いた。
「男。我が配下と勝利を引き換えにするというお前の交渉への返事だが……
 愚にも付かぬな。勝利とは我が手に集う物。貴様の様な下郎に施される物では無い。
 そして、このヴォルフという男はこの戦いの勝利よりも価値がある。何故ならば――――」

>>101-102>>107
最後の言葉が続くより前に飛来したのは風を纏った矢であった。
充分な魔力を伴った矢のスピードは落下加速時のロルドファルコンの初速さえ軽々と上回った。
ノインに迫る高速の矢。
だが、ヴォルフは神速をもってこれをなぎ払ったのだ。
これにはフェゴルベルも舌を巻いた。
風の加護を得たとはいえ、世に生を授かった存在である以上は限界がある。
しかしこの男の動きはそんなことをまったく感じさせず、やすやすとこなしてみせたのだ。

そしてこの事態に眉一つ動かさなかった主はヴォルフに全幅の信頼を置いている。
ヴォルフという男はまさに――

「我が命を護るに値する力を持つ者だからだ」

>>105>>109-110
「成る程、たいした腕前だな」
先ほどのヴォルフへの賛美の皮肉だろう。
(二撃目がクィルの矢じゃねえってわかって言ってんな、こいつ)
無論、彼自身も気づいている。
今の矢がフェゴルベル側のイニシアチブを失うに充分なものだったことを。

>>112-113
あたりが閃光に包まれた。

「ファイ! クィルのところへ向かえ!」
三撃目の矢がクィルによるものだろう。だとすればこれ以上はサポートできないという意味。
クィルの身に危険が迫っているということだ。
二撃目の矢が帝国軍の自作自演でないとすれば、クィルの制圧に向かった部隊・クィル・『二撃目』の三つ巴の戦いとなる。
クィル同様、皇子に刃ならぬ矢じりを向けた『二撃目』が制圧部隊と手を組むことはないだろうが、
クィルと『二撃目』が手を組まないのはフェゴルベルが考えうる最悪のパターンであった。

今、フェゴルベルはクィルやファイを失うわけにはいかない。捕縛されるようなこともあってはならない。
たとえ解放軍を犠牲にしても。

閃光が止んだ。

そこには……棒立ちのフェゴルベルが居た。

「契約した以上、解放軍の奴らを勝たせるって目的も果たさねえとな」
口調は彼本来の慇懃なものに戻っていた。
その言葉が意味するのは彼にとって解放軍の勝利とクィルらおよび自分自身の撤退は択一ではない、ということだ。

フェゴルベルはポケットに手を入れ、話し始めた。
「戦争に勝たせるには頭[司令官]を叩くか体[兵隊]を潰すかする必要がある。
 ――俺がこれからするのは後者だ。よく目を開いて見ておきな。
 なにぶん地味なもんでね……」
彼が取り出したのは豆ほどの大きさのいびつな形の赤い石。
それが得体の知れぬ邪気を纏っていることはヴォルフやノインでなくともわかったことだろう。

フェゴルベルは終始、笑みを浮かべている。
しかしその時の笑みはこれまでとは違った。
これまではその指向がしれない、警戒するだけのものだったが、今度の表情にははっきりと読み取れる。
フェゴルベルの表情は――悪魔が人を嘲笑うのと同じ笑みであった。

115 : ◆I3NrfT2wzE :2010/08/31(火) 03:30:02 0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ああ、愛しのナナリー……君は今何をしている」
「おい、ロブ。下らねえこと言ってないで哨戒代われ」
「下らないとは何だ。ナナリーの優美さより優先すべきことがこの世にあるだろうかッ。いやない! 反語だ!」
やれやれ、とジョンは嘆息をもらした。
(これが無ければいい奴なんだが)
ロブは新婚の熱が未だにひいていない。一年前からずっとこの調子だ。
「お前もすぐに俺と同じになるさ」
ジョンはエリーと結婚して八年が経つ。嫁に手綱を握られた、まごうことなきカカア天下であった。
同期の間でもっとも厳つい体をした彼だが、エリーとのケンカには一度も勝ったことがない。
ここへ赴く際にも「身重の嫁を放って出て行く男があるか!」とこっぴどくやられてしまった。

ジョンとエリーは二人目の子を授かっていた。
(子供のためにももっと稼がないとな。ハラルが食えるくらいに、とは言わないから……)
帝都といえど、平民の所得は高くなく、職を持たない者も多い。
職に就いても一週間後には次の職を探さねばならないという者もざらである。
そんな中、彼のような平民に残された安定した職業は軍人くらいしか残されていない。
それでも家族三人が食っていくにはやっとの所得である。
「なにを馬鹿なことを。君も奥方を大事にしたまえ。また子も生まれるのだろう」
「まあな。あの鬼嫁のご機嫌取りは好かないが、生まれてくるガキは俺に似てきっと可愛い」
「……それはぞっとするな。まあとにかくびしばしはたらきたまえ」
「いやだから交代――ってお前。嫁さんの事を思うのはいいが“アッチ”の世話は他所でやれ他所で。
 鼻血、出てるぞ」
「馬鹿な……僕のナナリーへの愛は……プラ……ト……ニッ……ゲホッゲホッ!」
「おい、大丈夫か? 風邪なら――」
「ウェェェェゲホォッ! ゲボォッオオオオウェエエエエ!?」
ジョンの顔が強張った。
これはただの風邪じゃない!
勢いあまってロブはテントの床に倒れこんだ。白目を剥いて痙攣している。
「ロブ!? おい、誰かいないか! 衛生兵! ロブの……調……子が……!?」
ロブの痙攣はおさまっていた。ジョンは急いでロブの首筋に指をあてた。
「脈が無い……!? 衛生兵! 何をしてる!? 衛生へ――ゲホッ!?」
咳き込むと同時にジョンは鼻下に冷たいものを感じて背筋が凍った。
そうして、おそるおそる自身の鼻下へ手を伸ばした。
指には血がついている……。
(いったい……いったい……これは……なんなんだ……!?)
もはやジョンには己の咳き込む声さえ聞こえない。
薄れゆく意識の中、彼が考えていたのはエリーとまだ見ぬ子供のことであった……。

116 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/08/31(火) 03:30:58 0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
信じがたいことが起こっていた。

フェゴルベルの宝石が振動ともに赤黒い光が一帯を支配した、その後。
光が消え、ただのはったりかと誰もが思った、その後。
兵たちが次々に吐血し、鼻血を垂らして倒れてはじめたのだ。

ゲホゲホバタッ、ゲホゲホバタッ。
ゲホゲホバタッ、ゲホゲホバタッ。

杓子定規に、規則正しく死んでいく様子は滑稽でもある。
地獄があるならこの光景がまさにそれだろう。

地獄が滑稽であるから悪魔の笑いはああも純粋で美しいのだ。

「安心しな。この奇病はハラルを常食してるあんたら上流階級の奴らには効かねえ。
 逆に言えば。ハラルを買えるなら兵隊なんてやってないだろうからな」

ハラルは上流階級で好んで食べられるハーブである。
彼らはお茶や吸い物、薬味などさまざまな形で一日一回は口にするといわれる。
かつてはハラルを食べることが上流階級の証であり、権力の象徴とされた。
時代が降った現在もハラルを食べることができるのはきわめて裕福な家庭に限られる。

「――おっと近づくな。あんたらを殺す奇病だって出せるんだ。
 今生きてるのはあんたらと、俺と契約してハラルの晩餐を共にした解放軍を含めた町の奴らだけだ」
フェゴルベルは省いたが、当然クィルたちもハラルを食している。

「ハラルは高価な食材だ。それを町民全員が食った。いったいどれだけの額になったと思う?
 貧困を受け入れてもなお反乱を実行しようとする意思。泣かせるじゃねえか。
 このお涙御免の物語と――今頃死に絶えてる兵たちに免じて、今日は退けよ皇子様」

フェゴルベルの唯一の眼光には人とは思えぬ怪しい光が伴っている。
それは彼が取り出した宝石の鈍い輝きによく似ていた。

117 :ウルカ ◇PpJMaaDGNM:2010/08/31(火) 08:04:00 0
「ありゃ? ……ありゃりゃ!? 何かヤバげですよぉコレは!
 こんな事ならもっとちゃんと水の属性も修行しとけば……って、そんな事言ってる場合でもありませんよ!」

魔力が流出する感覚と共に右腕に広がる黒い刻印に、ウルカは狼狽する。
口調こそ軽々しいが、双眸は見開かれ瞳には切迫の色が浮かんでいた。

(横着せずに解析やっとくべきでしたねぇ……! 四大ですか? 五行ですか!?
 それとも七曜!? 何にせよ今更解析してたんじゃミイラになっちゃいますよぉ!)

こうして思索と懊悩を重ねている内にも、黒の刻印は渺々と広がっていく。

「えぇい、かくなる上はこの腕ごとッ! ……ってウソウソ!
 やっぱ今のは無しの方向で! こんなはした仕事で腕を無くすとかバカ丸出しですよ!」

動転の余りか振り上げた小刀をそこらに放り投げたりと、小芝居を繰り広げるウルカ。
結局打開策を見出せずにいると――不意に彼女の眼前で、地面が爆散した。
四散する大小様々の土塊に彼女は身を屈め、右腕で目を覆う。

>「帝国軍皇族専任近衛部隊所属――カールスラント=バルクホルン。さっきはよくもウチの皇子にちょっかいかけくさったな。
> だが転んでもただじゃ起きないのが帝国民のメンタリティだ。地に顎つけたままのお前らなんか――踏むぞ?」

故に聞こえたのは、声のみだった。
飄々とした声色の内側に秘められているのは帝国への愛国心と、忠義の意気。
降り注ぐ土の奏でる音が途絶え顔を上げれば、忠犬でありながらも猛獣の笑みを浮かべる男が一人。

同時に彼女は、自身を包囲する『土』の気配を感じた。

「ありゃりゃ……こりゃまた面倒な事になりましたねぇ。それにちょっかいって何ですかちょっかいって。
 そんな事言うとマジでちょっかい掛けに行っちゃいますよぉ!? 皇子様と敵国の暗殺者! うーんロマンですねぃ」

ウルカは相変わらずふざけた口調を保ってはいるが
――右腕からの魔力流出に加え、土の包囲陣に皇族専任近衛部隊。
窮地と表現するには十分過ぎる状況だ。

「……とは言え、うーむ参りましたねぇ。あ、とりあえず」

腕組みをしながら首を傾げていたウルカは、しかし不意に片腕を顔の前に掲げる。
握り拳から親指と人差し指だけを伸ばし、二本の先を擦り合わせる。
指を弾き、けれども響くのは情けなく指が擦れる音のみだった。

「ありゃ? ありゃりゃ?」

何度か繰り返すが、快音は一向に生まれない。

「うー……とりゃ!」

最後には辛抱たまらなくなったらしく指先に魔力を集め、
風の魔法で大気を揺らして彼女は小気味いい音を響かせた。
同時に先程ノイン目掛け投擲し、切り落とされた矢の矢尻から、再び煙幕が拡散する。
ウルカが予めマーカーを付与しておいたマーカーからの発動だ。

解放軍は言わば帝国に取って『獅子身中の虫』。
ならばそれを生かし活かす事は即ち帝国への間接的な攻撃となる。

――とは言え彼らを利用する事は、王国が帝国と解放軍の共通の敵となってしまう可能性も内包しているのだが。
それにノインの前に傅いていたあの男、フェゴルベル。
少なくとも命乞いをしているようには、ウルカには見えなかった。
事の次第によっては彼は殺害しなければならないと、彼女は戯けた表情の中で既に思慮を渦巻かせていた。

118 :ウルカ ◇PpJMaaDGNM:2010/08/31(火) 08:05:15 0
「してませんよーしてませんよー、ズルなんていーっさいしてませんよー!
 私だってもうそれなりの歳なんですから指パッチンくらい出来るに決まってるじゃないですかぁ」

だがそのような事はおくびにも出さず、ウルカは相変わらずの口調で滔々と語る。

>「……樽の人――」

「ありゃぁ!? ガン無視された上に何かすっごく不名誉な呼ばれ方しちゃいましたよぉ!?
 私にはちゃんとウル――っと危ない! 危うく巧みな誘導尋問に乗せられる所でした!
 ……で、なんでしょうかねぃ? まあ大方予想はつきますけども」

「――さっき邪魔したことは水に流すから……手伝って」

「ほほう! つまり仲直りですね!? 私としても余り貴方々の心証を損ねるのは……って聞いてませんね。
 ……とにかくこの右腕を何とかしなきゃですねぇ。
 仕方ない、これは出来ればしたくなかったのですが……背に腹は代えられませんからね」

言いながらウルカは上着から小さな瓶を取り出した。
中には透明な液体が、微かな煌きを抱いて揺れている。
小瓶の中身は聖水だった。
彼女は小瓶の封を開けると、顔を僅かに顰め躊躇いがちに右腕へと瓶を傾ける。

神の加護を受けた聖なる水は指輪の呪いさえも問題なく浄化するだろう。
だが同時に特殊な種族であるウルカは、

「……にぎゃああああああ! 沁みる! 爛れる! 私の玉のような肌がとんでもない事に!
 あ、援護の方はもうちょい待ってくださいねー。うひゃー痛い痛い!」

自分もまた聖水の『浄化』の対象となってしまうのだ。
しかしとにかくこれで、右腕からの魔力流出だけは断ち切る事が出来た。

「……さぁてこれで私も戦えますよぉ。ま、右腕動かなかったり魔力不足気味だったりしますけど、
 これくらいの方が面白いってモンですよねぇ。それでは、とりゃー!」

足下の矢を風で舞い上げ周囲に浮遊させ、うち一本を彼女は射出する。
ウルカの矢はバルクホルンがクィルの攻撃を避けるである方向へ放たれた。
更に矢尻にはマーカーが付与されている。すぐには発動しない、罠だ。
命中すればそれで良し、外れても次手の布石となる。
外れのない、彼女の好む手だ。

(さて……手を貸すのはいいですが、やるだけやって後ろからズブリは勘弁ですからね)

ウルカはドーラや解放軍を利用する事を考えていた。
故に彼女は、自分が利用される可能性も同じく考える。
これもまた、外れのないようにと言う彼女の性癖だ。

(出来れば私も中距離でやりたい所です。……ので)

自分を中心に外側へ吹き続ける突風を、ウルカは呼ぶ。
先程散った土も乗せての、接近に対する牽制だ。

【聖水で指輪の呪い解除。ただし大分吸い取られた挙句、右腕使用不可
 バルクホルンが動くであろう先に矢を放つ。マーカー付き
 貰った矢はファンネル、周囲に浮遊状態。突風で牽制】

119 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/08/31(火) 13:06:28 0
『魔法』という技術が戦場に持ち込まれてから、戦闘の様式は根底から一変した。
訓練によってある程度の水準にはなるにしても、属性に対して個人の資質の占める割合は大きい。
戦闘における魔法とは、画一的で汎用性のある運用よりも戦士の個性に依存した戦いなのだ。

(風魔法使いが二人、か……やりづれえな。援軍が来るまで時間稼ぐか……?)

地属性を得意とするバルクホルンにとって、風属性を多用する相手は非常に相性が悪い。しかも二人。
同僚の連絡が届いていて、ノインの認証が下りれば四半刻とかからず増援が到着するはずだが、

>「してませんよーしてませんよー、ズルなんていーっさいしてませんよー!
 私だってもうそれなりの歳なんですから指パッチンくらい出来るに決まってるじゃないですかぁ」

暗殺者の方は一人芝居で茶番を繰り広げていた。
それに協力を求めた狙撃手の方もあまりにもあんまりな事態に硬直している。

「あー、人外ってのはこれだから……長生きだと知性の成長も遅いのか?それともお前もボケ初めか?俺の知ってる中じゃ最強レベルに頭の悪そうな奴だな」

バルクホルンが頭を掻きながらどう攻めたものか思案していると、二人の少女の間にどういった約定が交されたものか、
狙撃手の矢に暗殺者の風魔法の連携攻撃が飛来する。

「――おっと!」

避けづらい段差軌道で放たれた三本の矢。その二つはどうにか躱し果せたが、最後の一本は断ち斬るしかない。
生まれるのはその場への硬直。そこへ図ったように風を巻く矢が飛んできた。暗殺者の方の矢だ。
バルクホルンは地面に手を当てると魔力を喚起。たちまち土が盛り上がって壁を造り、矢の侵攻を阻む。

が、穿たれる。

(地属性じゃ大して減衰できないか――!)

幅広の野戦剣の刀身で受け止め、同時に魔力の移動を知覚する。矢尻に施術されたマーカーが剣先へと移っていた。
どの効果を載せたマーカーかは定かじゃないが、これで迂闊に剣を振るえなくなった。

「流石歳食ってるだけあってやりかたがネチっこいな!近づかせないつもりか?」

力任せに野戦剣を投擲する。風の防護壁を張っている暗殺者の方ではなく、たった今矢を放ち終えたばかりの狙撃手へ。
さらにバルクホルンはもう一手打っておいた。野戦剣の柄尻に同僚謹製の炎属性魔法爆弾を括りつけてある。
たとえ剣を撃墜したとしても、魔法爆弾の第二波が彼女を襲うだろう。

「そんでもって風っ娘にはこっちをプレゼントだ。お前的なノリで言うなら――即身仏になあれっ☆」

先程隆起させた土の出所は直下の地面ではない。バルクホルンは地中の土を自在に移動させることができる。
壁の建材となった土は暗殺者の足元から持ってきていた。この時まで硬化させていた地面の魔法を解除すれば、出来上がるのは――落とし穴である。


【クィルにマーカー&魔法爆弾つき野戦剣を投擲・ウルカの足元の土をえぐり取り即席落とし穴発動】

120 :帝国軍:2010/08/31(火) 21:08:27 0
「……おい、ロブ。生きてるか?」

返事は、ない。

「くたばったか」

「……勝手に殺すなよ。ナナリー置いていける訳ないだあろ」

「お、マジで? 生きてる? あんだけフラグ立ててたのに?」

「ふん、こんな事もあろうかと……ナナリーの婚約指輪が入ったお守りを首に掛けておいたのさ」

「あの状況でそれが何の役に立ったんだよ、何の」

軽口を叩き合いながら、二人は武器を杖代わりに起き上がる。

「けほっ……あークソ、もうちょい早く頼むぜって話だよ。俺ら土の部隊じゃどうしようもねえんだから」

魔法は本来、個々人の個性である。
だが正しく運用すれば、軍事的な使用方法など容易い。
例えば四人一組の班を組むならば四大をそれぞれ。
戦術単位での運用がしたいのならば、一つの属性のみで部隊を構築すればいい。

そしてこの場に置いて力を発揮したのは、火の部隊と木の部隊。
それぞれが属性の性質である活性化と治癒で、命を繋ぎ止め奇病を癒したのだ。

「ハッ、奥の手だったみてーだけどよ。帝国軍舐めんな田舎モン共。組織力が違うぜ組織力が」

「そう言うこったね。僕らがしくじれば、ナナリーが悲しむ。
 ついでに帝国の威信が失われる。ノイン様の名に泥を塗る事になる」

「ついでにの前後が間違ってるなあオイ」

とにかくこの戦には帝国の威信が、何よりも平和と秩序が掛かっている。
負ける訳にはいかない。
何より、中途半端な決着が許される訳がないのだ。

「……ハレル、だったか? んなモン食って傭兵雇う金があったなら、
 もっと然るべき手段があったろ。あの豚貴族の件にゃ心底同情するが、
 他の奴等が果たしてる義務をテメーらだけが投げ出す理由にゃならねえ」

帝国軍の兵士達は、立ち上がる。
彼らの状態は誰一人として十全とは言えない。
だが捕虜とされた解放軍の連中が仮に逃げ出したとしても、即座に包囲し押し潰すくらいの事は出来る。

フェゴルベルの周囲では、兵士はまだ目眩ましにもたついている。
煙幕も顕在だ。

彼はその場から逃げ出す事も、未だ尚この場に留まる事も出来る。

【なんか帝国軍があまりにも噛ませ臭いなあとか思ったんで横槍入れちゃいました
 どうせなら互いに「あと一歩でヤバかった。ひっくり返せてた」な状況の方がいいかなあと】



121 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/01(水) 03:36:00 0
並みの相手ならクィルの二射で。それなりに腕の立つ手合ならば三射目で。
それ以上の腕前でもその後に続く四撃目で、少なくとも手負いまでは持っていけると踏んでいたのだが。

「……厄介。……相手の戦力を情報しゅーせい」

歩みこそ止められたがバルクホルンは未だ無傷。
伊達や酔狂で近衛兵用の正式装備を纏っているわけでは無さそうだ。

まして四発目はノインを襲った例の『飛矢』。
即席の土壁で多少の減衰効果があったといっても、受け止めるにはかなりの膂力が必要だろう。

>「流石歳食ってるだけあってやりかたがネチっこいな!近づかせないつもりか?」

なんとなくカチンと来る一言とともに、バルクホルンが手にした野戦剣を投擲してくる。
射手の最大の弱点は射撃後の硬直。こればかりは如何に卓越した技術を持っていてもどうにもならない。
ウルカの施した任意起爆のマーカーが宿った剣ゆえに、革鎧の装甲部分で受け流すことも不可能。

それにクィルの『鷹の目』は剣の柄に揺れる球体も捉えていた。
飾りにしては大きすぎ、剣のバランスをとる為の重りにしては小さすぎるそれ。

「……そっちこそ。……見た目どおりいやらしい」

射撃で射落とすことは適わない、しかし呪文を口ずさむことは出来る。

「優しき水の乙女よ――」

紡ぎ出される明朗な願い。
その声に併せてクィルの腰に吊るされた水袋から溢れ出る水気。
それは次第に明確な形を取り。ついには水で出来た透明な人型を成型する。

四大、五行、七曜。魔法の種類は数あれど、その全ては使い手の相性と魔力に左右される。
だがクィルの操る精霊魔術はそれらから逸脱した魔術体系。
魔力は異界との門を開くための手段に過ぎず、威力は呼び出した精霊の力に准ずる。コストパフォーマンスに優れた魔術なのだ。
使い手の魔力が如何に強大でも行使する精霊以上の力は発揮出来ない点と、複雑な命令は精霊の格によっては不可能という欠点もあるのだが。

「――現れ出でてその身に包め」

クィルによって呼び出された水の精霊は飛来する野戦剣を、トプンと音を立てて己の身体に呑み込む。
水の属性が持つ特性は沈静と浄化。すなわち剣に付随したマーカーをウルカの手を煩わせる事無く無効化できる。
球体に関しても暫くは問題ないだろう。もし炎に属する物であるならば無力化すら可能だ。

「……今度はこっちの手番(ターン)」

クィルは口端をにやりと歪めると、ウルカへ追撃を仕掛けたばかりのバルクホルンに向け再び弓を引き絞る。

122 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/01(水) 03:43:03 0
「……とった」

クィルへ牽制を投じ、そして今ウルカに照準をつけているバルクホルンはまさに隙だらけ。
無防備な首筋と脇腹へ鏃を叩き込んで終い。そのはずだった。

>「そんでもって風っ娘にはこっちをプレゼントだ。お前的なノリで言うなら――即身仏になあれっ☆」

だが気色悪い台詞とともに、バルクホルンがウルカへ放った一手は地盤の崩落。
轟音を発して崩れる足場の余波は、クィルをも襲う。

「……ふぇ?」

細部への狙撃のためしっかりと大地を踏みしめていたクィルは、いつもの驚きの声と同時に体勢を崩すはめになる。
結果、一射目は軌道を外れバルクホルンの二の腕を掠めるのみで終わり、二射目は射ることさえ出来なかった。

「……狙ってやったとしたら……大した策士な……の?」

ぼやきながらも身を起こし、言葉の途中で言葉に詰まる。
感じ取ったのは渦巻く瘴気。効果範囲は街が全て収まる程度。
青ざめた馬に跨り、死の吐息を振りまく、ペイルライダー出現の兆し。

(これを使ったってことは、フェゴルベルも本気で帝国軍に殺しにかかってる)

フェゴルベルの切り札。
クィルもそれの持つ全ての能力を把握しているわけではないが、今何が起ころうとしているかは理解していた。
解放軍が決起する前、食卓に饗されたハラル。それを口にしなかった者に、あるいは日常的に摂取している者以外に等しく猛威を振るう疫病の発生。

「……樽のお姉さん。……死にたくなかったら風の防壁をしっかり張った方が……良いかも」

疫病に耐性があるなら別だけど。と小さく付け足し、クィルは近くに居るであろうウルカに向けて囁く。
まとまって互いの治療が出来る者たちならば、もしかしたら生き残れるかもしれないが、この場に居るウルカたちはそれも適わない。
風に乗って版図を広げるのが疫病の特徴。ならば風か炎の結界を常に纏えば回避可能なのかもしれない。

「……とにかくこれで、……時間が経つほど相手は弱ってく。はず。」

体力で劣るこちらには本来不利なはずの持久戦。
しかしそれこそが現状打開の最適回だとクィルは告げた。

123 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/01(水) 07:52:10 0
眩いばかりの光が収束した時、一番の頭目である筈のフェゴルベルはその場に留まっていた。
ファイはどうやら囲みを突破して狙撃手の元へ向かったらしい。

「契約した以上、解放軍の奴らを勝たせるって目的も果たさねえとな」

傭兵隊長の先程までの余裕の態度は鳴りを潜めている。まるで津波の前に海面が穏やかになるように…
ヴォルフの経験上、猛烈に嫌な予感がし始めていた。

「戦争に勝たせるには頭[司令官]を叩くか体[兵隊]を潰すかする必要がある。
 ――俺がこれからするのは後者だ。よく目を開いて見ておきな。
 なにぶん地味なもんでね……」
「─────!!」

今度こそヴォルフの表情は戦慄する。フェゴルベルの浮かべた悪魔のような嘲笑にではない。
その掌にある豆ほどの大きさのいびつな形の赤い石に───である。
素人目から見てもはっきりとわかるほど邪気を放つそれに、彼は見覚えがあった。

120年前に、彼の故郷を滅ぼす初撃となったクリムゾン・ブレス。
吐息というには禍々しく、瘴気をもって一体を包み、ありとあらゆる生命体を内側から蝕む悪魔。
当時ハラルに効能があるとも知られておらず、かろうじて死を免れえたのは属性魔法により治癒を受けた者だけである。
だが、直後に襲い掛かった軍勢による攻勢の前にはなす術も無く滅び去ったのだ。

124 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/01(水) 07:57:36 0
「貴様!」

ヴォルフは風の印を組んで防壁を張ったが、この状況下では防ぎようも無い。
宝石から発せられた赤黒い光が周囲を包み込むと、兵士達は血を撒き散らしながら次々と倒れていく。

「安心しな。この奇病はハラルを常食してるあんたら上流階級の奴らには効かねえ。
 逆に言えば。ハラルを買えるなら兵隊なんてやってないだろうからな」

言葉どおり、ノインとヴォルフには全く症状は現れなかった。
ノインは元より高貴の出であり、ヴォルフは幼少期のトラウマ故に可能であればハラルを摂取する癖がついていた。
このような毒を使う相手には、おおよそ120年間遭遇したことが無いにも関わらず──である。
これが今夜、悪い意味で大いに功を奏してしまった。

「――おっと近づくな。あんたらを殺す奇病だって出せるんだ。
 今生きてるのはあんたらと、俺と契約してハラルの晩餐を共にした解放軍を含めた町の奴らだけだ」

ハッタリであるか否か、その表情から察することは難しい。
ただ、叩き込むようにして「頭」を潰す奇病をぶつけたなら、この場限りの勝利は即座に得られる筈である。

(とはいえ、一度の短絡的な成功は、安易な模倣者を生むだがな)

毒をもって毒を制することは出来ない、ただの不毛な応酬になるだけだ。
そうなると害を被るのは戦闘に巻き込まれる衆民である。

125 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/01(水) 07:59:22 0
(兎も角、属性による隊列編成を組織しておいて良かった…)

それがなければフェゴルベルの言うように、兵士は文字通り全滅していただろう。
無論、治癒には時間がかかり、兵士達の力は大いに減じられてしまってはいる。
流石に兵士達の腹をハラルで満たす程には、台所事情は安易ではなかった。

「ハラルは高価な食材だ。それを町民全員が食った。いったいどれだけの額になったと思う?
 貧困を受け入れてもなお反乱を実行しようとする意思。泣かせるじゃねえか。
 このお涙御免の物語と――今頃死に絶えてる兵たちに免じて、今日は退けよ皇子様」

常軌を逸している。そもそも解放軍を名乗る連中は帝国側の増援を予見していなかった筈だ。
あの貴族と私兵を相手にそこまでやる必要がどこにあるのか。
町の人間全員がハラルを食するような散財をするなら、他に打つ手立てはいくらでもあろうに。

(だが、我々の到着を予見していたのであれば理屈に合う)

クリムゾン・ブレス──紅い吐息。これは先程の瞬光石などとは比較にならないほどの希少性を誇る。
当然ながら帝国の宮廷魔術師でも入手は困難を極め、傭兵レベルでは通常手に入る筈もない。
使い方も、場合によっては一国を滅ぼす程に凶悪な存在、それを一介の叛乱に用いる道理は無かった。

「貴様、その石どこで手に入れた…答えろ」

気がつけば、目の前の傭兵隊長の目は紅く鈍い光を放っていた。
人間離れしたその風貌を見て、ヴォルフの脳裏には故郷が滅んだ時の光景がフラッシュバックする。
こうなると湧き上がってくる感情は一つしかない。

「……”コタエロ!!”」

彼の口から言葉を借りて放たれる怒気は、さながら逆鱗に触れられた竜のごときであった。

126 :ウルカ ◇PpJMaaDGNM代理:2010/09/01(水) 22:38:24 0
>「そんでもって風っ娘にはこっちをプレゼントだ。お前的なノリで言うなら――即身仏になあれっ☆」

「ありゃりゃぁ!?」

突如として失われた足場、代わりに出来た大穴にウルカは素っ頓狂な声を発して落ち沈んだ。
彼女の姿は忽ち見えなくなり、だが彼女は風の属性を操る。
事前に展開しておいた風の防壁によって、彼女は奈落の如き穴の底の直前で緩やかに停止し、浮上する。

体勢を整え、間髪入れずに下方向への風の出力を上げる。
同時に塞がりつつある穴の口を風の弾丸でこじ開け、彼女は高く飛翔した。

「だーれが歳食ってボケ始めのロリババ系ウザカワおとぼけ美少女ですかーっ!」

宙返りから体を丸め高速で回転しながら、ウルカは勢い良く穴を脱出する。
ポジティブシンキングを全開にして叫びつつ、彼女は軽やかに着地した。
そして左腕を大仰に振り上げ弧を描き、ずびしとバルクホルンに指を突き付ける。

「うら若き乙女に向かってなんと失礼なっ! 幾ら私が可愛すぎて
 素直になれないからってそりゃあ頂けませんねぇ〜。
 素っ気ない態度に女の子がなびくのは春画の中だけなんですからねぇ?」
 
上体を横に傾け満面の笑顔で語りながらも、ウルカは左手を後ろ腰の小刀へと滑らせる。

「ともあれ、そんな失礼な事を言っちゃう人は」

緩やかに抜かれていく白刃が月明かりに照らされ、

「ブッ殺しちゃいますよぉ?」

その一瞬の輝きと共に、ウルカはバルクホルンの眼前に迫っていた。
甘ったるい声で囁き、瞳孔の開き切った瞳で彼を舐めるように睨めつけ、口元には薄ら笑いを浮かべて。
余裕綽々の態度で、彼女は月の輪郭を思わせる大振りで刃を振るう。
首筋を狙った一撃は、当然当たる筈も無いだろう。
バルクホルンが鈍牛か蝸牛の魂でもその身に秘めていない限り。

「ありゃりゃぁ、外れちゃいましたかぁ。ざーんねんですねぇ」

字面とは正反対に軽薄な声は、バルクホルンの遥か背後から響く。
横薙ぎの刃が避けられるや否や、ウルカはすぐさま彼の横をすれ違っていた。
ウルカの双眸は和らぎ、しかし気味の悪い薄笑いは顕在のままだ。
彼女は歯を剥いて、無邪気な笑顔でそれを塗り潰す。

>「……樽のお姉さん。……死にたくなかったら風の防壁をしっかり張った方が……良いかも」

「ありゃ? ……おやおや、ホントですねぇ。いつの間にやら、
 薄気味悪い風が吹いてるじゃありませんか。どうも、遊びに走ると気が浮ついていけませんね」

>「……とにかくこれで、……時間が経つほど相手は弱ってく。はず。」

「ほほう、何もしなくても事が有利に運ぶ。素晴らしいですねぇ。……でも、忘れちゃいけませんよぉ? 
 私は勿論、貴方もあの男を下す事が勝利条件じゃぁないんですからねぇ」

現状は、一種のジレンマだった。
至近距離での戦闘を得手とするであろうバルクホルンに、短期決着は望めない。
先程ウルカが見せた瞬速の首刈りも一度見られてしまっては、
見切れずとも土の属性で硬化するなりと幾らでも対処出来る。

ならばクィルの言う通り相手が消耗するのを待てばいいかと言えば、
余り時間を掛けようものなら今度はこの場を包囲され、逃走を封じられてしまう。


127 :ウルカ ◇PpJMaaDGNM代理:2010/09/01(水) 22:40:52 0
(ただでさえ魔力持ってかれてダルいって言うのに、やれやれどうしたものでしょうかねぇ)

加えるならウルカは、可能ならばクィルを助ける事も成し遂げたい所だった。
有能な狙撃手は戦場において、時に戦況をも揺るがす脅威となる。
この窮地を脱すれば、クィルは帝国の大きな憂いとなってくれるだろうからだ。

(ふむ……ちょっと試してみますか)

薮から棒に、ウルカは包囲陣の境界線に向かって駆けた。
隙だらけだが、どうせバルクホルンに遠距離への攻撃手段はない。
あったとしても自分が回避出来ない事はないと判断しての行動だ。

軽やかな跳躍でありながらも尖り矢の如き速度を得た彼女は、
だが突如地面から隆起した土の壁に足を止める。
疾駆の勢いを小刻みな足踏みで殺し、彼女は目の前の壁を見上げた。

(発生が速いですね。ついでに分厚いと来ました。どれ、硬度の方は……)

土壁を睨み、螺旋を描く烈風を撃ち込む。
だが壁面は削れはするものの、貫通には至らない。
更には削れた所は即座に周囲と地面の土によって修復されていく。

(ありゃりゃ、こりゃ面倒)

ウルカは黙考を続ける。

(全力でぶちかませば破れるでしょうけどねぇ。土ですし、そもそも相手人間ですし?
 奴さんがそれを許してくれるとは思えませんねぇ。
 それにこの状況、ともすれば私があの森人さんを見捨てようとしているようにも見えてしまいます)

折角、共闘関係が築けたのだ。
クィルは愛らしい容姿をしている。
解放軍の同胞も自然と、彼女には甘くなるものだろう。
それを考えるとここで彼女の心証を良くしておく事は後々に活きる――かもしれない。
ウルカはそう判断して、今度は彼女の元へと一飛びに駆け付けた。

「やぁやぁどうも森人さん。実はですね、これはここだけの話ですが……!」

如何にも重大な秘密を語るかのように人差し指を立て、ウルカは真剣な眼差しと口調でクィルに顔を近付ける。

「私の名前は樽の人ではなく……ウルカと言うのですよ」

そうして見る間に軽やかな笑顔に豹変した彼女が告げたのは、ただの名前。
拍子抜けするかも知れないが、精神的な距離を縮めるにはそれなりに効果がある筈だ。
対象の名を知らなければ行使出来ない呪術もある。
ならばこの状況で名を教える事は、分かりやすく『信頼』と『親愛』を暗示出来るだろうとウルカは踏んでいた。

128 :ウルカ ◇PpJMaaDGNM代理:2010/09/01(水) 22:43:30 0
「こうなったのも何かの縁、と言う事でね。あ、実は八割方私のせいってのは言いっこナシですよぉ?
 ともあれどうぞよろしくお願いします。あ、左手で失礼。右手は今ちょっと動かないものでしてぇ。てへへっ」

左手をクィルの前に差し出して、ウルカは改めてにこやかな笑顔を彼女に向ける。
もしもクィルがウルカの手を拒んだとしても、その表情には僅かな苦味が差すだけ。
嫌悪や敵愾心の類をウルカが覗かせる事は無い。

「さて、とにかくですね。私達はこんな所でくたばる訳にはいきません。
 ぶっちゃけ私にはその手段があるのですが……どうせなら貴女も助けたい所です。
 なのでですね、貴方には私を信頼してもらいたいのですよ」

一拍置いて、彼女は曲線となっていた両の目を微かに開く。
双眸が、三日月を描く。

「そう……何が起きても、です。それさえ守ってくれれば、こんな状況は余裕綽々ですよぉ」

そう言って自信たっぷりに、ウルカは笑みに喜色を滲ませた。

【協力と言うか信頼要請。あと自己紹介】

129 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/09/01(水) 22:44:35 0

倒れる人。倒れる人。倒れる人。倒れる人。

病という名の悪魔がその場を蹂躙していく。
本来は災害の類である疫病が、たった一つの小さな宝石によって急速に蔓延し、
その場に生きている命という命を脅かしていく。
ノインの部下である兵士達は多くが魔法により死は免れたが、それでも死者は出た。
領主の私兵や、この町にやってきた旅人、或いは浮浪者等は、成す術無くばたばたと倒れていく。

「ハラルは高価な食材だ。それを町民全員が食った。いったいどれだけの額になったと思う?
 貧困を受け入れてもなお反乱を実行しようとする意思。泣かせるじゃねえか。
 このお涙御免の物語と――今頃死に絶えてる兵たちに免じて、今日は退けよ皇子様」

そうして、それを引き起こした目の前の男……フェゴルベルは悪魔の様な笑みを
浮かべながら、ノインに告げる。

「撤退しろ」と。
「敗北しろ」と。

ノインの部下の命を、或いは見知らぬ人々の命を対価として。

「――おっと近づくな。あんたらを殺す奇病だって出せるんだ。
 今生きてるのはあんたらと、俺と契約してハラルの晩餐を共にした解放軍を含めた町の奴らだけだ」

勝利を確信した宣言を突きつける。
戦力を減衰させられ、更に相手の手には謎の指輪。
ノインを殺す病を出せると言うが、その言葉が虚飾かどうかを判別する術はノインには無い。
有利から一転して五分……或いはそれ以下の状況へと引きずり込まれ、ノインは。

「敵の挙動に呑まれるな、ヴォルフガング・ヨアヒム・シュヴァルツシルト」

やはり、冷静な……光景に痛みを感じていないかの様な無表情だった。
静謐に淡々と心の無いゴーレムの様な冷たさで、激昂するヴォルフへそう告げると、
敵である男と眼を合わせる。

「……反乱に参加した者達は「ハラル」を食し無事か。
 つまり、この町の人間は疫病を武器として用いる事を是とし、
 自身の糧として、帝国の領民を殺したという事になるな。
 ――――大逆は一族郎党全て拷問の後死罪だが、伝えてあるのだろうな?」

直後、ノインの指にある指輪……暗く輝く、黒い宝石がはめ込まれた
指輪が纏っていた霧の様な闇が、黒い炎へと変化し、ノインの周囲へ蛇の様に纏わり付く。
無詠唱で複雑な魔法を一瞬で構築する。しかも全く……殆どでは無く『全く』疲労した様子も無い。
これがどれ程異常な事なのかは、見る者が見れば理解できるだろう。

「ヴォルフ。バルクホルンへの援軍を許可する。
 反乱先導者である前町長の処刑時刻に変更は無い。
 些事は――――暫し私が引き受けよう」

その言葉は、目の前の男の言葉にノインが従うつもりは無い事。
そして相手の繰り出す奇病は、ノインがどうにかするという意思を示していた。
ヴォルフに求められているのは、敵を退かせるか、或いは捕らえる事。

――――ファスタの町の反乱は終局へと進みつつある。
それがどの様な終わり方になるかは、未だ不明だが。

130 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/02(木) 07:39:48 0
普段冷徹とされるヴォルフだが、やはり故郷のことは大きな棘となって残っている。
今にも激発しそうな彼をとどめたのは、主君の発した一声だった。

「敵の挙動に呑まれるな、ヴォルフガング・ヨアヒム・シュヴァルツシルト」
「……はっ」

激昂しそうな状況からかろうじて踏みとどまる。
このような事態に陥っても、感情一つ変化を及ぼさないあたりは卓越していると言っていい。

「……反乱に参加した者達は「ハラル」を食し無事か。
 つまり、この町の人間は疫病を武器として用いる事を是とし、
 自身の糧として、帝国の領民を殺したという事になるな。
 ――――大逆は一族郎党全て拷問の後死罪だが、伝えてあるのだろうな?」

そもそも今回の叛乱が貴族に対するものとして始まったことを考えれば、あまりにもリスキーな手段だった。
街の住民全ての腹をハラルで満たせるのはおそらく今回限り。
だが帝国の物量は尋常ではない。一時的に叛乱を成功させても、後が無いのだ。

(それこそより苛烈な殺戮を呼び込むだけではないか──!)

毒の性質上貴族の男は殺せない。わざわざ貴族の私兵を殺す為だけに毒を使う必然性もない。
つまるところ、ノインが来ることを承知の上で準備したと推察する方がより自然なのだ。

(目の前の男、ただの傭兵隊長ではあるまい。本当の意味での黒幕にも通じている可能性もある)

131 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/02(木) 07:41:41 0
懸念するヴォルフをよそに、ノインは指にはめた黒い指輪へと視線を移す。
刹那、黒炎がまるで蛇のごとく皇子の身体に纏わりついた。

「──ッ!殿下…それは…」
「ヴォルフ。バルクホルンへの援軍を許可する。
 反乱先導者である前町長の処刑時刻に変更は無い。
 些事は――――暫し私が引き受けよう」
「御意」

彼にとって主君のこの力を目にするのは初めてではない。だからこそ、ノインの言うところの意味をよく理解した。
確かに戦力は減退している。だがなさねばならないことに代わりは無い。
捕らえた者達を逃がさないこと、処刑の段取りを的確に進めること、そして今尚戦力を保有する敵への対処。

「というわけだ。貴様こそ退け…さもなくば捕らえるまでだ」

ヴォルフはフェゴルベルに剣を向ける。病魔についてはノインに任せる以外にないが、
目の前の傭兵隊長が病魔以外に切り札を持っている可能性も考慮しなければならない。

(病魔のことは別としても、この目の前の男、そして先程の傭兵…ファイと言ったか?これををまずどうにかせねばなるまい)

バルクホルンの身の上なら問題ないだろう、ただ、敵は狙撃手の他にもう一名。
風属性をまとった先程の矢から推察するとあの素っ頓狂な暗殺者の可能性が高い。

「手を焼くかもしれんな…問題なく動ける者は救援に急げ!」

彼自身の手でバルクホルンの援護に回っておきたいところだが、今主君の身をがら空きにする訳にもいかなかった。

132 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/09/02(木) 23:37:15 0
>「だーれが歳食ってボケ始めのロリババ系ウザカワおとぼけ美少女ですかーっ!」

「あーはいはいそうな!そうだな!耳遠くなっちゃってるのはわかったからもう黙れお前!真面目な話なの今!」

歳食ってボケ始めのロリババ系ウザカワおとぼけ美少女は、物騒な言葉を吐きながら加速する。
風を推進力に変える機動術。風属性魔法を修める際にはいの一番に習得する基礎中の基礎。
故に、ポテンシャルによる効果の差が明確に出てくる。

(お前はどっちだ――?)

答えは即座に下された。
一瞬で肉迫した暗殺者の小刀は、バルクホルンの首筋一閃。慣性を全部つぎ込んで命を刈り取りに迸る。
対するバルクホルンの判断は刹那。風属性は速いことは速いが動きは直線的だ。揺らぎやすいのと柔軟性とは違う。

頼るのは純粋な戦闘経験。
バルクホルンは常に任務遂行の他は生き残ることだけに全てを費やして生きてきた。
初めて戦場に出てもう20年。そう、20年だ。『20年もの間、幾多の戦場で刃を交わし、その悉く生き抜いてきた』。

「『武人の20年』は!『死なない為のノウハウ』を完成してるんだよッ――!」

だから躱せる。殆ど反射で、されど思考を礎に、バルクホルンは致死の刃を一重で躱す。
感情任せの大振りな一撃は、彼の首と胴体とを切り離すに至らなかった。

>「ありゃりゃぁ、外れちゃいましたかぁ。ざーんねんですねぇ」

「おいおい耳どころか目まで衰えてんのか?いい加減隠居してろよ、ババァ無理すんな――っとォ!?」

一瞬気を抜けば、今度は狙撃手の矢がバルクホルンを穿ちに走る。
不意を突かれたが、地面陥落の影響を受けて狙撃手の狙いもズレたようだった。僥倖である。

>「……狙ってやったとしたら……大した策士な……の?」

「お、おお! なんてったって年季が違うぜ狙撃手のお嬢ちゃん!いや、見たとこお前も人外っぽいけどまさか――」

言葉の続きを継げなかった。吸った空気の味が違う。臭いが違う。
感覚器官が異調を認識した時には、既にバルクホルンの身体は呪いに蝕まれていた。

「あ、っが、がががっ」

ゲボっと喉の奥からせり上がってくる何か。口から滝を作り出す赤い流れ。風に乗って飛来する、呪いの魔法。

>「……樽のお姉さん。……死にたくなかったら風の防壁をしっかり張った方が……良いかも」

狙撃手が暗殺者に忠告する。それを傍受して自分の身を守るのに使おうと考える頃には、
バルクホルンの臓腑はもう手の施しようもないぐらい微細な呪いの粒子を吸い込んでしまっていた。

(やべえ!なんだこれ、大気伝染型の呪詛か?それも広域型の!やけに敵の実働部隊が風使いばっかだと思ったらこれか!)

>「……とにかくこれで、……時間が経つほど相手は弱ってく。はず。」

やはり敵の広域呪詛らしかった。

バルクホルンは知り得ないことだが、この呪いを予防するための『ハラル』という薬草。
高級食材であるこれを常食できるぐらいには、近衛隊長であるバルクホルンの扶持はある。どうせ養う家族もない。
同僚なんかは三食これだ。しかしながら剣士階級出身であるバルクホルンはその元来の貧乏性が災いし、ほぼ貯金していたのだった!

(く……そ……!血が止まらねえ!風魔法は一応使えるけど、今更使ったって遅いなこりゃ……)


133 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/09/02(木) 23:39:58 0
そう、あくまで風属性結界は呪いの『予防』でしかないのだ。『治療』には火行と木行の魔法性質に頼るほかない。
そして呪いに対応する為の小隊運用はあるにしても、そもそもバルクホルンは単身でここにいるのだった。
肺腑が停止する。呼吸ができなくなる。脳に酸素して目が霞む。手探りで差し出した掌は何にも触れることなく――

それでも、握りしめた。握りしめて、叫んだ。
肺の中に僅かに残った呼気を全て絞り上げて、腹の底から、呼んだ。

「――ぶちかませ、エストアリア!!!」

遥か直上の夜空から、月を背に応える声がある。

「――呼んだな私の名前を!!」

直後、空から焔が降ってきた。
同僚渾身の火行魔法。宵月の銀光を一握に集約し集中し集積し下方へ向けて一息に放つ極上の砲撃魔法。
その貌はまさしく『天駆ける焔の大瀑布』。火行の地霊気が可視化するほどに凝縮された炎の滝。

火竜種のブレスにも匹敵し、中型魔獣を一撃で屠り去る火属性魔法の束を。
真上から叩き込む為に同僚を上空に待機させ、得物を投げてまで作った隙へブチかますはずだった切り札を。

――バルクホルンは迷わずその身に受けた。

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

同僚の針の穴を通すような魔力操作によって炎の瀑布はバルクホルンを灼かない。
彼の口から、鼻から、皮膚の毛穴の一つ一つから体内に入り込み、五臓六腑に染み渡った風属性の呪いを焼き尽くした。

「これだから地属性は鈍臭くて困る。補助系使えないなら先走るなバルクホルン。おい分かってるのかバルクホルン!?」

「なんでテンション上がってんだお前」

「そらお前、私は今まで『同僚A』だったんだぞ、表記が。やっと本編中で名前ありに昇格したわけだ!」

「何の話だあ!? あっさりと世界観を揺らがすような発言は慎めよ!」

「まったく駄目な奴だなあバルクホルン!木行を習得していないお前は治癒もできなくてさぞかし辛いだろう」

事実だった。直接焼けていないとはいえ、あれだけの熱量に一瞬でも晒された体へのダメージは看過できない。
呪いを焼き殺すにはやむを得なかったとはいえ、平時なら絶対にとりたくない手段だ。

「……問題ない。気合でなんとかする」

ほぼ気力だけで、バルクホルンは戦闘態勢を保っていた。命だけがようやく繋がった状態。得物も手放してしまった。
狙撃手と暗殺者は向こうで二人の世界に入っているから、すぐに戦闘再開ということもないだろうが――

「人間を舐めるなよ人外共。俺達ゃお前らと違って脆弱だからな、――生き残る為ならなんだってするんだぜ」

そう、

「「「――例えばこんな風にな!」」」

結界の外に無数の人影。
その全てがクロスボウで武装し、矢尻を暗殺者と狙撃手へ向けている。
ヴォルフからの援軍だった。中隊規模の鏃に囲まれて、二人の人外少女達は包囲されていた。

【同僚の炎魔法を浴びてクリムゾンブレス除去。時間稼ぎが成功し同じく呪いから回復した増援部隊が結界内を包囲】


134 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/04(土) 00:50:53 0
>「ほほう、何もしなくても事が有利に運ぶ。素晴らしいですねぇ。……でも、忘れちゃいけませんよぉ? 
 私は勿論、貴方もあの男を下す事が勝利条件じゃぁないんですからねぇ」

「……がってん」

ウルカからの忠告にいつもの平坦な声で応じつつも、クィルはむん。と気合を入れなおす。
バルクホルンを降すのが目的ならば、遠間からちまちま牽制し弱ったところに必殺の一射を撃ち込むのが最も効率が良い。
だがそれでは時間が掛かり過ぎてしまう。それでは相手の思う壺だ。

(だけど私だけじゃ打破できないのも事実なんだよね)

クィルの頭を悩ませるのは、バルクホルンが初手で展開した地属性の結界。
これをどうにかしないことには脱出は適わないのだ。
結界を抜ける方法は二つ。基点を破壊するか、力技で打ち破るかの二者択一。

「……決定力……不足」

基点とはこの場合、術者であるバルクホルンに他ならない。
防御に優れる土の術を得手とする敵を倒すには弓だけでは圧倒的に火力が不足している。

ならば後者。土属性の結界を破る手段は至ってシンプル。
より高位の、より威力のある風属性の攻撃で根こそぎ破壊すれば良い。
だがその手段はそもそもクィルには使えない。

理由は場を支配している土属性の結界に起因する。
土の力が活性化しているこの場所では、相反する属性である風の力が激減しており風界への扉を開けない。
術者の魔力を属性に転換する四大魔法ならば関係ないが、精霊を呼び出し行使する精霊魔術では致命的なのである。

(だから、樽のお姉さんに期待するしかないんだけどっ)

その頼みの綱のウルカは先刻から結界の端でなにやら挑戦中の様子。
境界に向けて走ったと思えば立ち止まり、壁に向けて魔法を撃ち込んだと思えば弾かれ熟考。
ゆえにクィルに出来ることといえば現状維持だけなのだ。

(まあでも、こっちはこっちでそろそろ決着がつきそうだけどね)

フェゴルベルの切り札『クリムゾンブレス』が産み出した病魔に体内を灼かれ、のた打ち回る敵をクィルは憐憫の目で見つめていた。
視線の先では苦悶の表情をしたバルクホルンが、口から血塊を吐き出し、弱々しく突き出した腕で虚しく空をかきむしる。
数度手を伸ばしては地に落とし、諦めきれないようにまた伸ばす。

「……そろそろ……止めをあげる」

憐れみから出たクィルの言葉。しかしバルクホルンはそれを拒むようにまた手を伸ばし――

>「――ぶちかませ、エストアリア!!!」

「……は?」

それまでと違うのは、しかと握り締められた拳と天から降り注ぐ紅蓮の雨。
その身と、体を蝕む疫病とを仲間の炎で焼き尽くし咆哮とともに復活したバルクホルンに、クィルは些か現実じみた台詞で驚嘆するのだった。

135 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/04(土) 00:51:39 0
>「これだから地属性は鈍臭くて困る。補助系使えないなら先走るなバルクホルン。おい分かってるのかバルクホルン!?」

本来こちらの虚を付き、奇襲するのを目的として空中に待機していたのだろう。
上空より機をうかがっていた新手の近衛武官エストアリアはバルクホルンを助けるためそれまでの労力を捨てさったのだ。
だというのにその声は何故か嬉しそうである。

(気配なんて微塵も無かった。隠蔽?隠業?なんにせよこっちは魔法のエキスパートってとこかな)

クィルは露骨に舌打ちしながら現状を分析する。
二対一だった数的有利は消え去り、敵には卓越した魔法の使い手。加えて未だ対処出来ていない結界と、考えれば考えるほど暗澹たる思いは募る。

>「やぁやぁどうも森人さん。実はですね、これはここだけの話ですが……!」

「……いや、近い。……それよりもアレ」

名前がどうとか茶番を繰り広げつつも隙を見せない二人の帝国兵。
弓を構えながらどうしたものかと思考するクィルの下へ疾風の速度で戻ってきたウルカが、さも重大事を語るかのような真剣さで顔を近づけてくる。

>「私の名前は樽の人ではなく……ウルカと言うのですよ」

「……あ、ご丁寧に。……私はクィル……です。……じゃなくてアレ」

鏃の先でバルクホルンとエストアリアの二人を指し示す。
もっともふざけている様で、その実計算高いウルカのことだ。とっくに状況の把握は済ませているのだろうが。

>「こうなったのも何かの縁、と言う事でね。あ、実は八割方私のせいってのは言いっこナシですよぉ?
  ともあれどうぞよろしくお願いします。あ、左手で失礼。右手は今ちょっと動かないものでしてぇ。てへへっ」

「……実際十割ウルカのせい」

クィルは憎まれ口を叩きながらも差し出された左手を握り返す。
ウルカの利き手がどちらかは知らないが、この正体の知れない暗殺者と右手で握手するよりは幾分かマシだろう。

(早いところ逃げ出さないことにはフェゴルベルも危ないし)

そしてその手段がある。とウルカは言い切る。ゆえに信頼して欲しいとも。
愛嬌のある笑みを、凄絶な笑顔に変えて、彼女は重ねて言う。

>「そう……何が起きても、です。それさえ守ってくれれば、こんな状況は余裕綽々ですよぉ」

ウルカも気づいているのだろう。
取り巻く状況の変化を、だ。

>「人間を舐めるなよ人外共。俺達ゃお前らと違って脆弱だからな、――生き残る為ならなんだってするんだぜ」

大音声とともにせり上がっていた壁の向こうから現れる人、人、人。
その何れもが帝国兵の軍装に身を包み、クロスボウを構え、既に装填された鏃が360度ぐるりと周りを囲んでいる。

「……何があっても、ね。――吐き出せ!」

包囲網に竦み、動きを止めたらそこで終わり。ならば相手が絶対優位を信じている今、先手を取って迎え撃つ。
クィルの命令に従い、精霊はその身の内からバルクホルンの長剣を高速で吐き出す。
剣はくるくると包囲網の一角へ弧を描き飛んで行き――

「……今だけは……信じてあげでも良いよ」

――瞬時に捕捉。同時に射撃。
クィルが剣の柄に括りつけられた球体を射抜くとそれは爆音を伴い破裂し、烈火を撒き散らした。

136 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/04(土) 17:49:38 0
> 「人間を舐めるなよ人外共。俺達ゃお前らと違って脆弱だからな、――生き残る為ならなんだってするんだぜ」

> 「「「――例えばこんな風にな!」」」

「わぁお、こりゃまたいつの間に。それにしても……まったくもう! 美少女二人をこんな大勢で囲んでどうする気なんですかぁ!?
 そりゃ私もそう言う事はやぶさかじゃありませんが、物事には順序と言うものがあるじゃありませんかぁ……もぅ」

両手を頬に当てて体をくねらせたり、俯き上目遣いになりつつ両手人差し指を体の前でくっつけてみたり。
これでもかと言う程にもじもじしながら、ウルカは徐々に弱々しく、最後にはか細い煙のような声色で呟く。
堪え切れていないにやついた笑みのせいで、全てが台無しではあったが。

>「……今だけは……信じてあげでも良いよ」

「む、十割私の責任と言い手厳しいですねぇ。……しかし残念でしたね! 貴女が私を信頼すると発言したその時から我々には公然と協力関係が結ばれました!
 即ち責任は二分割っ! 連帯責任と言う奴ですねぇ! ふっふっふ、この私の遠謀深慮に見事にハマりましたねぇ!?」

さも悪魔の首でも取ったかの勢いとしたり顔で、ウルカはクィルにぴんと伸ばし反り返った人差し指を突き付ける。
自分達を包囲する兵士達など、まったく気にも掛けていないかのように。
とは言えクィルから滲み出る呆然の雰囲気を漸く感じ取ったか。或いは彼女の放った爆撃を見て、逸してはならない好機と判断したのか。
ウルカもまた左手を大きく振るい、周囲に浮遊させていた矢を一斉に放つ。
だがその矢尻が向く先は包囲網でもなく、バルクホルン達でもなかった。
矢は全て地面に、彼女を中心に円を描き突き刺さる。

「さてさて、たまには私も良いトコ見せなきゃですからねぇ。……あぁ、そう言えば貴方。
 さっきから私の事をババアだの、ボケ始めだの、干物だの、行き遅れだの、散々言ってくれましたね」

揚々な口調と明朗な笑顔はそのままに、ウルカはバルクホルンの方を向く。
そして、

「あまり、私をナメない方がいい」

双眸に猛禽の魂を宿して、彼女は細めていた両眼を見開いた。
横溢する殺気を抑えようともせず、緩やかな動作で左手を頭上に掲げる。
先の魔力流出などまるで無かったかのように莫大な魔力が、大気を歪めていく。

「私の真骨頂を、見せてあげますよ。百年を生きる、人に非ざる者の本気を!」

その宣言から少し遅れて――ぱちんと、快音が響いた。
包囲網を蹴散らす猛る嵐を呼ぶでもなく、町ごと吹き飛ばす大気の爆発を起こすでもなく。

「……ほーら! 聞きました? 聞きましたー!? だから言ったじゃないですかー! 指パッチンくらい出来るって!」

嬉しげな声と共に、ウルカは左腕を大きく上げて飛び跳ねる。
だが――この場にいる一体何人が気付けただろうか。
間抜けに跳ね回る彼女の湛える笑みの奥に、薄ら寒いまでの悪意が潜んでいた事に。

クィルによる爆発で統率が乱れ、更にウルカのふざけた所作が招いた激昂を抱き兵士達は一斉に弩を解き放った。
二人目掛けて、夜空を塗り潰す矢の豪雨が迫る。

「……あーあ」

同時にウルカの表情から、悪意が漏れ出した。
既に彼女は先程矢で描いた円陣によって魔法を発動していた。
土の包囲陣の中にありながら、降り注ぐ矢を弾き返せるだけの風の防壁を。
弾き返した矢は風によって多少の加速を得るが、兵士達を死に至らしめる程の威力はない。
けれどもウルカにとっては、それでいい。
帝国全体から見ればごく一部の一般兵を殺す事に、然程大きな意味は無い。
響き渡る苦痛の悲鳴を、彼女は天を仰ぎ左腕を横に広げ慈雨を受け止めるかの仕草で堪能する。

137 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/04(土) 17:50:22 0
「さて……そろそろ帰りますかねぇ。これ以上は、流石にヤバそうですからね」

余裕の態度を保持してはいるものの、彼女はこの状況を打破出来るとは考えていない。
己の種族と生きてきた年月によって人間と比べれば莫大と言える彼女の魔力も、無尽蔵ではない。
矢を弾き返した防壁も、立て続けに通用する手ではない。
あれは不意を突いて仕掛けたからこそ成功した訳で、予め弾かれると分かっていれば対策など無限に立てられてしまう。

「ま、なかなかの収穫でしたから良しとしましょう。あぁ、そうだ。最後に……」

ちらりと、ウルカは再びバルクホルンに視線を滑らせる。

「貴方に対する仕返しが、済んでませんでしたねぇ?」

言うが早いか、彼女は魔力を練り上げた。
風の属性を自身に宿し、自身の機動力を底上げする術。
加えて先の『風の後押し』を。
更にバルクホルン自体にも背後から『風の後押し』を発生させる。

風の属性による、三重加速。
得られる加速は、熟練の森人が持つ『鷹の目』でも無ければ見抜けないだろう。
押え切れぬ歓喜に破顔して、ウルカはバルクホルンの首筋をしかと掴んだ。
そのまま飛びつき、両足で彼の胴にしがみつく。

「それじゃ、いただきまーす」

そう言って彼女は己の唇を、バルクホルンのそれに重ねた。
深く深く、精気も何もかもを吸い尽くさんばかりに。
分厚く野暮ったい唇に舌を滑り込ませ、強引に舌を絡ませた。
唾液を流し込み、自分と彼のそれが混じり合ったものを吸い上げる。
バルクホルンはお世辞にも色男とは言えなかったが、ウルカが気にしている様子はない。
酸素の欠乏か純粋な高揚か、或いはその両方か。僅かに上気し、潤んだ瞳に彼女は悦楽の色を浸していた。
そして彼の舌の裏に舌先を潜らせ、歯茎を丹念になぞり、上顎をねっとりと舐め回す。
彼の口腔全てを蹂躙せんと、彼女は更に深く口付けをした。
愉悦に歪む彼女の瞳に映るバルクホルンは、一体どんな顔をしているだろうか。
一頻り彼を舐る事に満足すると、彼女は少しだけ退いた。だが離れない。
余韻に浸り名残を惜しむように、牙を持たない子猫のように彼の唇を吸い、甘噛みする。
去り際に唇を舌先を撫でながら、彼女はようやく抱き着いていたバルクホルンから飛び降りた。

「ふぅ、ご馳走様でした。いやぁ、やっぱり若いっていいですねぇ。何年ぶりでしょう。あ、マーカーとかの心配はご無用ですよぉ? そんな野暮はしませんから!
 ……どうせならあの皇子様もやっとけば良かったですかねぃ。んーまあ、お楽しみは次の機会にって事にしときましょう! それでは!」

忽ちあっけらかんと変貌して、ウルカはその場を飛び退いた。

138 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/04(土) 17:53:31 0
「さぁて、お待たせしちゃいましたねぇ」

クィルの隣に戻り、ウルカは彼女に肌を寄せる。

「ありゃりゃ? 何か一気によそよそしさを感じる気がしますよ? ……はっ、もしかしてアレですか!? 君とはただの仕事仲間だ、的な!?
 何と冷たい! ……っとまあ戯れ言はとにかくですね。落っこちたら死んじゃうんで、しがみついてた方がいいと思いますよぉ?」

忠告も程々に、ウルカはクィルを左腕一本で抱き寄せた。
密着し、魔力を練り上げ――次の瞬間、彼女は夜空へと舞い上がった。
その背に風の翼を広げて。

二人を逃すまいと、土壁が地上から伸びる。
だが、余りにも遅すぎた。
土壁が彼女達の高度に追いついた頃には、既に二人は包囲陣の外へ。
ファスタの町の外にまで離脱を果たしていた。

「はっはっは、おそいおそーい! ……さて、そこらで高度を下げて、それからもうちょい飛んだら下ろしますね。下りた場所がバレたら面倒なんでねぃ。
 お仲間さんと合流するつもりなら、言って下さいな。信頼ならないようなら、合流地点までは言わなくても結構ですよ。
 大まかな場所を指定して下されば、そこに下ろしますので」

口調こそいつもと大して変わらないが、実の所ウルカは――無論態度や心音などに
自分の心境の揺らぎを覗かせる事はしないが――今それなりに緊張していた。
何故なら今、彼女はクィルに対して非常に無防備であるからだ。
隠し持ったダガーでも、矢尻であっても、彼女が突き刺そうと思えば容易に成し遂げられるのだから。

信頼して欲しいと言う発言は、この状況を想定して言っていたのだ。
言葉通りに信じてもらえれば僥倖。
もし信じてもらえずクィルが裏切ると言う選択肢を選んだとしても、それが織り込み済みだと告げる事は一応の抑止力になる筈だと。


【刺そうと思えば刺せます。刺さない場合、望みの場所に下ろした事にして話を進めちゃって下さい】

139 :>>7の暗黒司祭たち ◆HywaqHR6Ng :2010/09/04(土) 20:50:14 0
地下に設けられた薄暗い礼拝堂に集まった、黒衣の司祭。
彼らは魔法の水晶球を用いて、刻一刻と変わる戦況を見守っていた。
「釣り上げた得物は、なるほど確かに大きかったし、多かった。
 全てを料理には難儀するだろうがな」
こう言って皮肉を込めた含み笑いをしている司祭も、黒い法衣に身を包んでいるが、それは彼に限ったことではない。
そう、ここに集まった数名の聖職者達は、黒い法衣に身を包んでいる。

「上手く釣れたが、料理する前にわれわれの存在が露呈しても面倒だ。
 釣り上げた魚に食い殺される釣り人というのも、笑えない話じゃあないか」
「そうならない為の手は、いくらでも手間をかけるべきだ。
 大逆の首謀者は『拷問の後に』死刑だ。吐く奴が居ることは間違いない」
「然り。何らかの答えを期待し、それを得る為に相手の身体に問う行いが拷問だ。
 解放軍の中枢には何人か、われわれとの接触を直接持った者が居る」
「消さねばなるまい。我らに関わる全ての痕跡を」
「そうとも。我々が表に出るのは、悲願を達成してからだ。
 脅威とならずとも、我等に繋がる痕跡の全ては、ただちに抹消するべきである」
数人の司祭達が議論を進める。
暗躍する者の常ではあるが、彼らは自分達の存在が露見することを恐れている。

「ベルよ」
彼らの指導者と思しき男にその名で呼ばれたのは、可憐な美少女と言って差し支えない人物だ。
ベルと呼ばれた少女はぴょんと立ち上がるような動作をしたが、先ほどまでは、彼女はそこに居なかった。
「お呼びですかっ!」
はつらつとした応答からも、司祭たちの暗い陰謀とは無縁そうな、明るい印象を与える。
甚だ場違いな奴だと、きみは思うかも知れない。
「いつもの部屋に、兵士を数人、捕らえてある。
 例によって“儀式”を行い……さしあたって、我々に繋がる最大の痕跡である、前町長を抹殺せよ」
「やった!」
彼女はぴょんと飛び上がって、歓喜の声を上げた。
町長と始末すべしという命令に対する受け答えが「了解しました」とか「わかった」とかではなく、「やった!」である。
殺人を依頼された人間として見るなら、まともな返事ではない。
「では、早速、“儀式”を執り行いますので……ちょっと、席を外しますね」
古代の文字で『儀式の間』と書かれた扉の奥に、彼女は入っていった。
それから何秒か遅れて、何かを激しく殴打する音、男性の悲鳴、それに続いて名状し難い音が聞こえた。
扉の奥では言語を絶する光景が繰り広げられていることは想像に難くないが、黒い司祭達も慣れたもので、特にこれといった反応は示さない。
何事も無かったかのように、邪悪な目的を達成するための議論が続けられた。

ベルと呼ばれた人物が執り行った“儀式”が終了したのと、ほぼ同時刻のことである。
軟禁され、拷問処刑を間近に控えていた町長に、異変が起きていた。
呼びかけても、揺さぶっても、叩いても、前町長から返事が無い。
息をしていない。顔は青白く、想像を絶する苦悶の表情のまま硬直している。
前町長は犠牲になったのだ。彼は呪い殺された。

140 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/04(土) 20:59:57 0
名前:ベル
年齢:15歳(外見)
性別:女性
身長:そこそこ
体重:いい感じ
スリーサイズ:まあまあ/細い/まずまず
種族:人間?
出自:不明
職業:司祭
性格:明るく元気な子だが、ちょっぴり腹黒い。あと食いしん坊。
特技:魔法、儀式、食べること
装備品右手:黒い片手剣
装備品左手:無し
装備品鎧:黒い法衣
装備品兜:髪飾り
所持品:謎の宝石
容姿の特徴・風貌:外見は10代半ばほど。黒い髪、緑色の瞳、妙に白い肌の、出来の良い人形みたいな美少女。
趣味:つまみ食い
将来の目標:美味しいものをいっぱい食べること
簡単なキャラ解説:
冒頭付近で暗躍していた暗黒司祭の仲間で、教団内では幹部の地位にある。
明るく元気で子供っぽい性格の美少女で、暗い目的を持った教団内では完全に場違いだが、
生贄等を伴う儀式によって実際に奇跡を起こすことができるため、他の幹部からも一目置かれている。
そして、その儀式の言語を絶するおぞましさ故に、恐れられてもいる。
教団とは独立した目的を持っている模様だが、案外、将来の夢の欄にある「美味しいものをいっぱい食べること」が真実なのかも知れない。

141 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/09/06(月) 00:56:28 0
完全包囲。絶体絶命。過酷の逆境も佳境のさなか、しかして少女二人に宿るは抗いの熱を持った意志。

>>「……何があっても、ね。――吐き出せ!」

狙撃手の使役する風が射出するのは先刻バルクホルンが投じた野戦剣。

(鹵獲してやがったのか――!)

剣を飛ばされるだけならばまだ良い。
野戦剣は『頑丈なだけのただの剣』でしかない。振りが大雑把故に、当たれば大打撃だが対処の仕方がある。
ただ厄介なことに――本当に厄介なことに、野戦剣の柄尻には爆弾を括りつけてあった。他でもないバルクホルンが。

「障壁展開ッ――!!」

咄嗟の号令に、増援部隊で生まれた動きは二つある。
炸裂した火属性魔力爆発を防ぐ為の魔法障壁。反撃制圧のクロスボウ一斉斉射。
一手遅れた行動のツケは、致命的な間隙として彼女達に与する。

そう、既に暗殺者が動いていた。

>「貴方に対する仕返しが、済んでませんでしたねぇ?」

言うやいなや暗殺者の姿が消える。気付けばバルクホルンも消える。
両者は不可視の速さで加速していた。互いが引き合い、衝突するように。
衝突して、掴まれる。バルクホルンの首と胴を、暗殺者はその矮躯全体を使ってしがみつく。

「んなっ……!?」

>「それじゃ、いただきまーす」

唇を吸われた。
それはもう入念に丹念に執念深く、克明に描写すると全年齢版に抵触しそうな勢いで。
バルクホルンは最初の方こそ塞がれた口をなんとか離そうと声にならない呻きを挙げながら抵抗していたが、
やがてビクビクと痙攣すると動かなくなった。どこかで花の落下する音が聞こえた。

「――――ッ!!」

バルクホルンの視界が再び明けた時、最初に見たのは迫り来る剣の柄。
同僚が腰の刺突剣を鞘ごと振り回して柄で狙い打ったのだが、渾身の一撃は暗殺者を捉えない。
蛭のように吸いついていた唇を直前に開放、代わりに振るわれた鉄槌はバルクホルンの顔面を捉えることになった。

「間違えたバルクホルン」

「てめえこのアマッ……!『外れた』じゃなくて『間違えた』ってどういうことだっだだだだだだ」

平然と吐き捨てる同僚に対して打たれたバルクホルンは、しかしそれ以上追求する体力も残っていない。
体中の精という精を吸い出され三割増しで老けこんだ彼は地面に仰向けに倒れこんだまま僅かに指先を動かすのみ。


142 :カールスラント=バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/09/06(月) 00:57:09 0
「大丈夫かバルクホルン」

「あ、あの女……舌入れやがった……」

「女々しいなバルクホルン。いい歳したおっさんが乱暴された生娘みたいな感じで気色悪いでバルクホルン」

「それ語尾なのか……!? この後に及んで妙なキャラ付けを――ちょっ、熱い熱い!」

「――呼んだな私の名前を!?」

「呼んでねえから燃やすんじゃねェェーーッ!! お前制御してねーだろこれ!?」

火属性魔法でマジ焼きに入りだした同僚から逃げるようにバルクホルンは這いずり回る。
ようやく立て直した増援部隊が包囲網を再び構築する頃には、

>「んーまあ、お楽しみは次の機会にって事にしときましょう! それでは!」

暗殺者が狙撃手を抱いて、飛翔していた。
増援部隊が矢を射かけ、地属性結界の土壁が追うが、風属性使い二人分の加速力には追いつけない。

「――飛びやがっただとおおおおおおお!!?」

「おい地属性!」

「分かってる! ――追跡部隊、遠隔マーキングでいいから捕捉しろ!直接つけようとか考えんな、どうせ追いつけない!」

遠隔マーキングとは通常魔力で発動座標指定用ポインタ『マーカー』を直接貼り付けるところを、
相手の速度、進行方向、仰角から逆算して位置を割り出す手法である。当然直接打ち込むより精度は下がるが、
砲撃弾や速すぎて近づけない相手の着地地点を大まかに知っておけるという点では戦場で重宝するのだ。

「飛んでった方向は……皇子達の方とは別方向だな。ああクソ、ファスタくんだりまで出向いて収穫なしかよ」

「私が追うか?バルクホルン」

「やめとけ、暗殺者と狙撃手だぞ。逃げるのは得意だろうし、待ち伏せすんのはもっと得意、だ、ろう……」

「……バルクホルン?」

暗殺者達をずっと目で追っていた同僚が隣のバルクホルンに視線を戻したとき、既に彼は動かなくなっていた。
全ての精気を吸われ、ゆっくりと冷えていくだけの肉塊と成り果てた男を、彼女は肩で支え続けた。

「テンション下がり過ぎ」

「出てくる感想がそれかよ……」

真面目な話立てないほどに消耗したバルクホルンを馬に乗せ、同僚は鞭を入れた。
向かう先はノインとヴォルフが轡を揃える最前線。伝令によれば解放軍の長は去り、代わりに前町長が死体で発見されたらしい。
近衛部隊たる彼らには、まだまだやるべきことが残されていた。


【ウルカとクィルを取り逃がす。遠隔マーキングで大まかな座標は把握できているが詳細な特定は不可能】
【バルクホルン戦死(性的な意味で)。このまま増援部隊を率いて最前線まで戻ります】


143 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/09/06(月) 03:23:16 0
>>129
げほっ、と血を吐き出したのと同時にフェゴルベルは正気を取り戻した。
“あれ”はただ持っているだけでも人を魅入る。
だからこそ欠片にして携帯してきたのだが、それでもクリムゾン・ブレスの行使によって
一瞬、我を忘れていたようだ。

あたりには兵士たちの死体の山……は見えず、息も絶え絶えながら生きている兵士たちの姿があった。

「……死んでねえやつがいるな。皇子様の部隊だけあっていいもん食わせてもらってんのか……さてはて」

まさかクリムゾン・ブレスに耐えうる者がいるとは……。
さすがにフェゴルベルも危機感を覚えざるをえなかった。
よもや本当に生き残った者全員がハラルを食していたわけではあるまい。
いかな奇病とはいえ、治癒魔法や防護魔法、魔術的な印を組み合わせれば多かれ少なかれ生存確率は上がる。
だが部隊の術的防護がこれほどまでに整っていたのはフェゴルベルの読み違いであった。
たかが一兵卒で死なぬ者がいる。
この欠片でノインやヴォルフを殺しきるのは難しいかもしれない――。

>>125
「……”コタエロ!!”」

次の手を吟味していたフェゴルベルにようやく入った言葉がそれであった。
「答える……? ああ、この欠片のことか」

ヴォルフの怒気が大気を通じて伝わってくるようである。
その様子には司令官としての問いかけを超えたものがあるようにフェゴルベルは感じた。

「……これは昔、俺が手に入れたお宝から削って持ってきたやつだよ。
 奇病を呼ぶ石――世に言うクリムゾン・ブレスっつーのも元を辿れば全部そこに行き着くらしい……」

フェゴルベルがヴォルフの問いに答える義務もメリットもない。
それでも彼が口を開いたのはヴォルフの怒りに過去の自分の姿を見出してしまったからであった。
失った腕と目、理不尽な同胞の死、そして……。


144 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/09/06(月) 03:29:17 0

>>129>>131
「……反乱に参加した者達は「ハラル」を食し無事か。
 つまり、この町の人間は疫病を武器として用いる事を是とし、
 自身の糧として、帝国の領民を殺したという事になるな。
 ――――大逆は一族郎党全て拷問の後死罪だが、伝えてあるのだろうな?」

自身でも制御できない感情が流れ出るのを留まらせたのはノインであった。
彼の冷たい瞳は恐怖や畏怖だけでなく、ときにその瞳を見る者も冷静にさせる。
無論、敵と味方でその意味は異なるだろうが……。

「はん、死なば諸共なんざ、あったり前だろ。
 搾取される側の情勢ってのはえてして、する側が思ってる以上に差し迫ってんだ」

誰に気づかれることなく落ち着きを取り戻したフェゴルベルが言った。

フェゴルベルは次手として捕らえられた解放軍の救出を考えていた。
すべてではないとはいえ、帝国の部隊の力はかなり削ぐことができたはずだ。
今、実質の数で勝る解放軍をぶつければ彼らは勝てる。
ヴォルフらもそれは予測しているだろうが、そのために事前に策は仕込んでいる。
フェゴルベルが合図をすればそれはすぐにでも実行できた、のだが。

「ヴォルフ。バルクホルンへの援軍を許可する。
 反乱先導者である前町長の処刑時刻に変更は無い。
 些事は――――暫し私が引き受けよう」

ノインはそれを許そうとはしない。
ノインの指輪が闇の霧を一層濃くしたとき、フェゴルベルもまた欠片を強く握り締めていた。

「というわけだ。貴様こそ退け…さもなくば捕らえるまでだ」

先ほどはヴォルフへ同情の念すら抱いたフェゴルベルだったが、今はただの敵としてしか認識できない。
そのような余裕は無い。

「馬鹿言えよ……退くのはあんただ。ここに残れるのは俺と皇子様だけだ」

握り締めた欠片の凹凸がフェゴルベルの掌の肉を裂き、流血させた。
血に触れた欠片がまた怪しく光を放ち始めた。

勝機を確信していたわけではないが――この“悪魔の力”は敗北する力ではないとフェゴルベルは確信していた。


145 :オオサンショウウ王:2010/09/06(月) 08:58:22 O
ぐふふふ
長きに渡る封印が説かれたか
最早我らを遮るものはない
全てを昼ドラばりにドロドロした沼地に変えてくれるわ

今ここに大山椒魚の軍勢が蠢きだす
それは帝国全土を揺るがす戦いの始まりなのだが、まだそれを知るものはいない

【大変永らくお待たせしました
規制解除されたので復活しました】

146 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/06(月) 23:13:18 0
>>143
目の前の傭兵が吐血するのをヴォルフは確かに見た。
クリムゾン・ブレス…たとえハラルを食していたとしても、使用者に負担をかけずにはいられないようだ。

「……これは昔、俺が手に入れたお宝から削って持ってきたやつだよ。
 奇病を呼ぶ石――世に言うクリムゾン・ブレスっつーのも元を辿れば全部そこに行き着くらしい……」

手に入れたお宝の一部、そのフレーズで彼の脳裏に去来したのは、失われた秘宝のことだった。
長い年月をかけて世界各地に散らばり、古の王国にもその一部が存在していたが、
今ではどこに消えたのか皆目見当もつかない。
彼の身につけている腕輪と剣もそれに通じるものであると言われている。

(奇病を呼ぶ石もその一欠片なのかもしれん)

昔フェゴルベルが入手したクリムゾン・ブレスの大元とやらについて、
続きを催促したい衝動に駆られたヴォルフだったが、それきり眼前の傭兵の口は閉ざされてしまった。

>バルクホルンvsクィル&ウルカ

「報告いたします!狙撃手は先程の暗殺者と共に逃走。
 遠距離マーキングを施しましたが、詳細位置の特定は困難です。
 なお、バルクホルン隊長は負傷いたしました。
「…わかった。可能な限り追っ手を出して行方を追え。
 バルクホルンの方は…風使いを相手に戦ったのだ。精を吸引された可能性もある。
 水属性の治癒を十分に施してやれ」

追跡の継続と負傷者の治癒を命じたが、状況は悪化の一途を辿っている。
狙撃手と暗殺者がセットで逃走しているというのは厄介極まる。
いつまでもその二人が共闘関係にあるとは思いたくはないが、最悪の事態も想定しなければならないだろう。

(何にせよ、森の民のホームグラウンドではこちらが不利か)

147 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/06(月) 23:15:30 0
そんな思惑すら消し飛ばす程の凶報が飛び込んできたのは、それから数分もしない内であった。

>>139-140

「も、も…申し上げます!前町長が…」

報告にやってきた兵士にとって、それは想定すらしえない事態だった。
捕虜として拘束していた筈の初老の男が、苦悶の表情を浮かべたと思ったら絶息していたのだ。

(自害でも毒でもないな…呪いか?)

先程のクリムゾン・ブレスによる症状は、前町長には見られなかった。
それは彼がハラルを食していた証拠であり、自ら命を絶つ気が無かったことの証でもある。

「如何いたしましょう?」

兵士の顔には明らかに狼狽の色が浮かんでいる。処刑する筈の男に死なれたのだから無理も無いが…

「あわてるな、殺されていても問題はない。死体を生者の如く見せる方法はいくらでもある」

ヴォルフははなから病による急死の可能性を除外していた。
確実に処刑しなければならず、そして確実に裏事情に精通しているであろう人物が頓死する。
これを自然死と判断しろというのは土台無理な注文であった。

(馬脚を現したな…どうせ遠隔操作するなら舌でも噛み切らせればいいものを)

あまりにも不自然な急死は、黒幕が存在することを堂々と主張しているのと変わらなかった。

148 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/06(月) 23:17:21 0
呪詛は通常のマーキングとは異なるが、極微量ながら痕跡が残る。
無論、魔法の心得がある程度の人間に追跡することは不可能だが、彼も伊達に百数十年生きている訳ではなかった。

(───暗黒司祭め!まだその邪悪な教えは受け継がれていたのか)

「殿下、黒幕は確かにおりました。暗黒司祭の一派でございましょう。
 今からであれば場所の特定も可能と存じます」

因縁深い相手というのはいるものだ。彼の記憶していた最後の遭遇から実に数十年が経過していた。

となると、目の前の男もあるいは暗黒司教に通じているのだろうか?
先程の奇病をもたらす石といい、フェゴルベルには謎が多い。

「貴様には聞きたいことがさらに増えたな。退くか白状するか、選べ」
「馬鹿言えよ……退くのはあんただ。ここに残れるのは俺と皇子様だけだ」

言うや否や、フェゴルベルは自らの手が流血する程に石の欠片を握り締める。

(最大出力まで引き上げる気か!?)

フェゴルベルの血を吸って腹を満たしたといわんばかりに、欠片はさらに怪しく光り始めた。
ハラルを食った人間すら死に至る領域に高めようというのなら、この男もなりふりかまってはいられないらしい。
このままごり押しすれば、確かに指輪の力を行使しているノイン以外はこの場に残れまい。

149 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/06(月) 23:18:50 0
彼とて長年諸国を行脚して修行してきた。自身の力量には自負がある。
だが、己の術の限りを尽くし、腕輪と秘剣をもってしてもハラルを上回る毒を防ぎきれる自信は無かった。

(とはいえ、皇子の身を敵の只中におくのか!?)

ヴォルフはノインが自分も知らない切り札を隠し持っていることは検討がついていた。
それでも単身動くことに抵抗があったのは、フェゴルベルの得体の知れなさ故である。
だが、今ここで敵の病魔で殺されて命令を果たせなければ、本末転倒もいいところだった。

「殿下、これより暗黒司祭共の所在を暴いて参ります…御武運を!」

彼は彼の本分を果たさなければならなかった。
刻一刻と最悪へと近づいていく状況を、ほんの僅かでも好転させる為に。

>>145

前町長の遺骸の元へと急いでいたヴォルフは、風の乱れを確かに感じ取った。
クォーターとはいえ、エルフの血脈を持つ者ならではの感性である。

(嫌な風だ…こういう時は大抵凶事の前触れだが…)

彼の経験則上、悪い意味での大きな異変が迫り来る時の風。
せめて今この場の状況が悪化する方向に働かないように祈る他は無かった。

150 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/07(火) 00:36:50 0
役者が揃ってきた感があるね

151 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/09/08(水) 00:03:20 0

前町長の死亡の連絡を聞き、そしてフェゴルベルが再び石の力を行使しようとするのを見て、
ノインは静かにその両瞼を閉じる。
彼に暗黒司祭を追うと言ったヴォルフの言葉に反応しないのは、任せたという意思表示か。
そうして僅かな沈黙の後に、呟いた。淡々と淡々と淡々と。


『――――――命を捧げよ、黒き奴隷』

ノインがその言葉を呟いた瞬間

それは起こった

指輪の中央に在る黒い宝石が暗く光り、黒い炎が、先程までノインの周囲に
蛇の様に纏わり付いていた禍々しい黒い炎が、瞬時にして周囲へと飛散し、
地に伏していた街の住人を襲ったのである。
炎に狙われた住人には、悲鳴を上げる時間すら無かった。
まるで化物に『喰われる』かの様に、一瞬でその姿が消えてしまったのだから。
燃えたのでも壊れたのでも砕けたのでも無い。喰われた様に消えたのだ。
一片の欠片すら残さずに。

そして、瞬時に人々を喰らった黒い炎は一回りその大きさを増し、
次の住人を、更に次の住人を、次々に『喰らって』いく。
逃げる者も、許しを請う者も、祈る者も、炎は平等に、例外無く喰らう。

初めは聞こえていた街の人々の悲鳴も怒声も徐々に減っていき、やがて、聞こえなくなった。
ノインの半径十数m以内に居た反乱を起こした人々、その全てが炎に喰われてしまったのだ。
僅かな時間でそれだけの人数を喰らった後、巨大になった黒い炎はノインの周囲へと再び集まってくる。
喰われた者は全体の数から見ればほんの一部に過ぎない。だが、その光景はあまりに衝撃的だった様だ。
自分の仲間を喰われた街の人々は、恐怖に染まった目でノインを見ている。
彼らは今、怒声を上げる事も泣き叫ぶ事も出来なかった。
何が起きたのか理解出来ていない、それが恐怖を煽っているというのもあるだろうが、それよりも
もし声を挙げれば、黒い炎が自分を狙ってくるかもしれないという考えが主な要因だった。
それ程にノインが引き起こしたその光景は理解しがたく、恐ろしい物だったのだ。

ノインはそんな彼等の視線を顔色一つ変えずに……人を殺したというのに
顔色一つ変えずに受け止めると、集まってきた黒い炎に指輪を嵌めた手を延ばし、触れ

『――――その身を捧げよ、黒き奴隷』

直後、ノインが触れた黒い炎が、まるで触手の様な形状を取り、クリムゾン・ブレスの放つ光に
群がっていった。黒い炎が触れると光は押しとどめられる様にそこから先に広がらず
減衰し、弱まっていく。それはまるで「中和」されているかの様に。
ノインに容赦は無い。仮に黒い炎がフェゴルベルの本体まで辿り着けば、そこに待っている結末は……

152 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/08(水) 08:49:16 0
>>147
「儀式、終わりましたよっ!」
ベルは元気良く扉を開けて、元の礼拝堂に戻ってきた。
元気は良いが、口元と服が血で赤黒く汚れていて、それに気付くとハンカチで口周りの血を拭った。
司祭達は、相変わらず水晶球で街の様子を探りつつ議論を続けている。
「ベルよう、もうちょっと、やり方ってモンがあったんじゃあないか?
 あれじゃあ、不審死にしか見えない」
司祭達の中でも比較的若い男性が、ベルが“儀式”によってもたらした死の手際を指摘した。
なるほど舌を噛み切らせたりとか、フェゴルベルが蔓延させた疫病と同じ症状で病死させたりとか、もっとやり方はあっただろう。
自分達に繋がる証拠を消すことを目的としているなら、もっと上手いやり方は確かにあった。

「証言ができる人は一応消しましたから、すぐにこの礼拝堂の場所がバレることは無いでしょう。
 不審死も、狙ったとおりです。あれで問題ありません」
彼女は自慢げに胸を張って、いけしゃあしゃあと言い放った。
集った黒衣の聖職者達は、彼女を見る目を少し変えた。

「わたし達は、このとおり隠れていますが、町長の証言があれば、ここを見つけるのはその日のうちにできます。
 ですが逆に、本当に何も不審なところが無ければ、彼とその手勢は、後始末をしたらすぐに帰っちゃいますよ。
 あの手際の良さを見るに、仕事は本当に早く済ませてしまうでしょう。
 でも彼には、もうちょっと長く――次の満月の夜くらいまでは、この街に居てもらわないと困ります。
 なので、敢えて不審な死を遂げるようにしました。
 これで彼らは、首謀者の捜索に時間を割かないわけにはいきません。
 この礼拝堂は、そう簡単に見つかるような場所にはありませんから、
 帝国軍が総出で探しても、見つけるのにはそれなりの時間がかかります。
 見つかるまでに、儀式と夜逃げの準備を進めておけば良いじゃないですか。
 どうせ、釣った獲物を捕まえるのに一悶着起こすわけですし」

ベルが行った弁解は以上である。
彼女は明るく脳天気で愚鈍な印象を受ける人物であったが、なかなか大した言い逃れ技術である。
彼らの計画には月齢と流血が重要な役割を果たし、次の満月まで実行を待ち、なるべく多くの血が流される必要がある。
それまでは、帝国軍をこの街に引きつけておく必要があったし、もっと多くの死者が出ないといけない。

153 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/08(水) 09:00:57 0
>>148-149
だが、彼女の論理に瑕疵が無かったわけではない。
「その点だが、われわれの存在を知っている者が、あろうことか帝国軍に居る。
 しかも、マーカーでこちらの居場所を割り出そうとしている。抜け目の無い奴だ。
 彼は今、こちらに向かっている――そうだ、こちらへな」
リーダーの司祭がそう言うと、周囲に更なるどよめきが走った。
水晶球にたった今映し出されたこの男――そう、ヴォルフだ。
彼は何十年もの昔に、ここに居るリーダーと喜ばしくない形で接触している。
「えっ、そんなの居たんですか?」
同様と緊張が場を支配する中、ベルだけはある意味冷静さを保っており、呆けた表情で平然と聞き返した。
リーダーの司祭は敢えて返事をせず(間抜けな質問に答えてやる義務などないのだ)、何かを懐かしむような表情のまま、十秒ほど沈黙した。

「ベルよ、お前の弟子にモーブという男が居たと思ったが」
リーダーの男がその人物の名前を出すと、またしてもどよめきが走った。
「モーブ……モーブ・A・ゴーリキーですね!
 丁度、町を巡回させていますし、彼ならもし捕まって何かされても、特に困るような情報は出ません。
 指示を出しましょうか?」
話題に挙がったのは、本名をモーブ・A・ゴーリキーという人物である。
数年前にベルが見出した人材であるが、詳細な出自や経歴は一部の幹部しか知らない。
彼はベルにだけ忠実な大男で、喋っているところを誰も見たことがないほどの寡黙な性格として、教団内では知られている。
ベルの評価では、馬鹿(彼女に言われたらオシマイである)だが、怪力からなる暴力は非常に有用だという。
事実、彼は専ら直接的な暴力による破壊活動や、秘密基地の建設などの肉体労働に従事させられている。
しかし、地下に隠れて暗い陰謀を練っている今の状況では、策謀にまるで適性が無い彼は、本来の性分を全うできていなかった。
「ああ、構わん。手傷の一つでも負わせれば結構だ。あれに多くは期待していない」
「そうですか、では早速……久しぶりの荒事だって聞いたら、きっと喜びますよ」
ベルは目を妖しく光らせた。

そして、そのモーブ・A・ゴーリキーなる者は、ベルがそう言ったのと時を同じくして、ヴォルフの進路に立ちはだかっていた。
そいつはオーガーやトロールの類を髣髴とさせる大男で、化物じみたグロテスクな容貌ではあったが、辛うじて人間と呼べなくもなかった。
彼は武器らしいものは何一つ持っていなかったが、先にあげた二種類の怪物が武器を必要としていないのと同様に、彼にも白兵戦武器の類が必要なようには見えなかった。
彼は獣じみた唸り声をあげて、ヴォルフとその手勢を薙ぎ払わんと襲いかかってきたのだった。
【やられ役を投下して、ヴォルフさんにけしかけます。モーブは怪力しか能力が無いです】

154 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/08(水) 21:23:40 0
闇夜を灼き照らす業火と夜空を覆い尽くす鏃の壁。
だが前者は帝国兵たちの展開した魔法障壁で、後者はウルカが発動した風の防壁でその悉くが散らされる。
互いの手札を凌ぎきる攻防戦は、しかし兵国兵の悲鳴で幕を閉じた。

(百年を生きる、か。普段のふざけた言動はこの力を隠すためにやってるのかな)

ウルカの巻き起こした防壁は身を守る盾だけに終わらず、飛来した矢を射手へ弾き返したのだ。
結果、兵士達はクィルとウルカを矢ぶすまにすべく放った矢をその身に受け、総崩れとなっていた。

>「さて……そろそろ帰りますかねぇ。これ以上は、流石にヤバそうですからね」

「……全然ヤバそうに……見えない」

先刻まで沸き起こる悲鳴に聞き入っていた筈のウルカがいつの間にか傍に居た。
表情はいつもの笑顔。声にいたっては買い物に出かけた先で遅くなったからそろそろ戻ろうか、といった調子ですらあった。

しかしウルカの言も至極全うなものだ。
手負いにこそなったもののまだ敵に余力はある。数で押し包んでの白兵戦なら不利は否めない。
それに撤退のチャンスは今を置いて無いのも確かだろう。確かなのだが――

>「貴方に対する仕返しが、済んでませんでしたねぇ?」

――帰ろうと言った本人が見据えるのはクリムゾン・ブレスの呪いを除去し、戦列に復帰したバルクホルン。

「……あの男を下すことが……勝利条件じゃないんじゃなかったの」

クィルの呆れたようなぼやきなど何処吹く風。
ウルカは獲物を捉えた猫のような目でバルクホルンを見据えると――

>「それじゃ、いただきまーす」

――一瞬でクィルの視界から消えた。次いでバルクホルンの体も弾かれたように牽引される。
同軸線上を真逆に疾走する両者は、当然のようにその中心点で出会い、恋人達のような熱い抱擁を交わし、そして接吻した。
口唇を割り裂き、舌を絡め、唾液と唾液を交換し合い、恍惚の表情を露にして。

「…………わお」

予想だにしていなかった淫靡な光景をまざまざと見せ付けられ、クィルは僅かに身を捩る。
一方のバルクホルンは声にならない叫びをあげ一応の抵抗を見せていたが、それも次第に弱くなり一度大きく痙攣するとピクリとも動かなくなった。
相手が弛緩したことで味を締めたのか、ウルカは更なる悦楽を貪ろうと口技を駆使しバルクホルンを追い詰める。

そして、その両者の間に敢然と割り入って行く帝国兵、エストアリアの姿があった。

155 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/08(水) 21:24:42 0
>「さぁて、お待たせしちゃいましたねぇ」

「……遠慮しないで……殴られても良かったのに」

親しげに擦り寄ってくるウルカをクィルは冷ややかな視線で迎える。
差突剣を振りかぶり柄頭を叩き込む一撃は、ウルカの後頭部では無くバルクホルンの顔へ吸い込まれていた。
彼からしたらたまったものではないだろう。なにせ精気を吸い取られ、あげく仲間から顔面への殴打を喰らったのだから。

気づいたのは事後だが、ウルカは決して――とも言い切れないが――ただ口付けていたわけではない、のだろう。
吸精。エナジードレイン。呼称の仕方は数あるが人ならざるモノ、それも女性型のそれが使う能力である。
バルクホルンの異常に枯れた様子から見ておそらくそうなのだろうが、正直なところ断定は出来なかった。ただの痴女の線も捨て切れない。

>「ありゃりゃ? 何か一気によそよそしさを感じる気がしますよ? ……はっ、もしかしてアレですか!? 君とはただの仕事仲間だ、的な!?
 何と冷たい! ……っとまあ戯れ言はとにかくですね。落っこちたら死んじゃうんで、しがみついてた方がいいと思いますよぉ?」

「……いや、それとは違くて……さっきから……あっちの視線が怖い。……それに……私も同様だと思われたくない」

クィルの必死の反論は聞き流され、腰にウルカの腕が回される。

>「――飛びやがっただとおおおおおおお!!?」

息も絶え絶えなバルクホルンの叫びどおり、二人は空中に翔び上がっていた。
その声に応じるように土の壁が、帝国兵たちの矢が、クィル達を追うが飛翔魔法の速度を捉える事は適わない。

「……グリフォンよりも、ずっとはやい」

足元の遥か下を虚しく抉り飛ぶ矢を見下ろしながら呟くクィル。

>「はっはっは、おそいおそーい! ……さて、そこらで高度を下げて、それからもうちょい飛んだら下ろしますね。下りた場所がバレたら面倒なんでねぃ。
 お仲間さんと合流するつもりなら、言って下さいな。信頼ならないようなら、合流地点までは言わなくても結構ですよ。
 大まかな場所を指定して下されば、そこに下ろしますので」

喜色満面のウルカ。
しかし余裕綽々の言葉と顔とは裏腹に、腰に回された腕から感じられるのは固さ、いや強張りと言ったほうが正しいか。

「……とりあえずあそこ。……森の近くに下ろして」

クィルは降下地点を指し示すと、もう片方の腕を自身の腰の後ろへ伸ばす。
そこには皮袋と矢筒、そして何時でも抜けるように位置を調整した二振りのダガーが収まっていた。

156 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/08(水) 21:25:41 0
ファスタの街の東に拡がるイスニア大森林。そのとば口がクィルの示した降下ポイントだった。
深い森の中ならいざ知らず合流地点とするには些か開けすぎている場所だが、そもそも解放軍に合流地点は無い。
しいて言うならば森の中に点在するアジトがそれなのだ。
失敗した場合は一旦森へ逃げ込み、潜伏した後連絡を取り合うという取り決めである。

「……まあ、色々……言いたいことはあるけど。……その、ありがと」

降り立ったクィルは僅かな間だったが供に死線を潜ったウルカへ礼を告げる。

「……あ、そうだった。……はい、これ」

続けて口にし、ウルカへ突き出したのはでろっとした緑色がかった粘性の液体が詰まった小瓶。
先刻後ろ手で探していたのはこれだったのだ。

「……右腕。……塗ると良いよ」

中に詰まっているのは森林の奥地に群生する薬効のある草を磨り潰し作った塗り薬。
ウルカの聖水で焼け爛れた傷痕。それは取りも直さず彼女に通常の治療魔法では効果が期待できないことを意味するのではなかろうか。
だが薬草ならば魔法ほどの即効性は無いが、万物に等しく効果を発揮する。

「……毒かもしれないけどね」

最後に付け加えるのは先ほど空中で交わしたやり取りの仕返し。
かくして急遽結成された人外長寿コンビはその役目を終え、解散となった。


「……って、忘れるとこだった」

しかしこれで終わりではない。クィルにはまだ遣り残した仕事がある。
闇夜を切り裂くように大きな弧を描いて矢を撃ち上げる。続けて低くもう一射。
それは街の中で未だ戦い続けているフェゴルベルへ向けた撤退完了の合図だった。

157 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/09(木) 20:57:27 O
王様「パンが無いならハラルを食えばいいじゃろ?」

158 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/09(木) 23:05:13 0
抱き抱えたクィルが何やらもぞもぞと動き出した時には流石のウルカも焦燥を覚えた。
が、結局何事も無く二人は地上に降り立つ。

> 「……まあ、色々……言いたいことはあるけど。……その、ありがと」

「いえいえお気になさらず! 困った時はお互い様じゃないですかぁ!」

体の前で左手を振りながら、ウルカは屈託の無い笑顔を返す。
ノイン暗殺をクィルの仕業に仕立てようとしたり、ついさっきまで裏切りを懸念していた事には一切触れないつもりらしい。

「……あ、そうだった。……はい、これ」

「ありゃりゃ? 何ですか? これ。何だか禍々しい見た目と色合いをしていますが……うぇぇ」

投げ渡された小瓶を掲げ、目の前で月灯りで透かしながら彼女は問うた。
重力に果敢な抵抗を見せる粘性の強い濃緑の液体は、見れば見るほど生理的嫌悪を誘う。
彼女は表情を苦めながら、小瓶を持つ手を顔から遠ざけた。

> 「……右腕。……塗ると良いよ」

「あ、薬草の類ですか。いいですねぇ、飲み薬じゃなくて塗り薬ってトコが個人的にベストですよ」

肌に触れさせるにしても気味が悪い液体ではあるが、飲むよりは幾分マシだろう。

>「……毒かもしれないけどね」

「……って、ありゃりゃ。これは手厳しいですねぇ。まぁ職業病って事でご勘弁を。せいぜい警戒しながら使わせて頂きますよぉ」

苦味を帯びながらも馴れ馴れしい笑みを、ウルカは浮かべている。
小瓶を持つ左手は、微風のようにさり気無く腰の小物入れへと伸びていた。

> 「……って、忘れるとこだった」

「お、合図ですか。いいんですかぁ? 私の前で見せちゃって。真似ようと思えば簡単なんですよ? 
 実際、戦場では情報伝達のドラを真似たり、逆にメッタ打ちにして作戦を成り立たなくして乱戦に持ち込んだりって作戦もありますからねぇ?」

気さくな笑顔が不意に、不敵さを孕んだ。
ウルカの細った瞳から、唇の曲線から、クィルに突き付けた人差し指から、言葉の端々から薄氷の冷冽さが滲み出る。

「……冗談ですよぉ! 冗談! ホントにやるならこんな事言う筈無いじゃないですかぁ!
 あ、でも解放軍を名乗るなら覚えておいた方がいいのは確かですよ? 少なくとも合図は毎回変えるべきですねぇ。何せ敵は帝国、大組織なんですから。
 ふっふっふ、プロからの助言をタダで貰えるなんて全く幸せ者ですねぇ! このこのぉ!」

だが次の瞬間には、彼女はいつも通りの気安い破顔と口調を取り戻していた。
左手で軽くクィルの脇を突っつき、ウルカは笑っていた。

「……そうそう。忘れるとこだったと言えば、私も一つやり残した事がありましたよ」

冷ややかな口調と、薄っぺらな笑顔だった。

そして言うが早いか、彼女はクィルの視界から消え去った。
或いは、彼女は視界から消え行くウルカを捉えてはいたかも知れない。
だが彼女がそれを追って首を回し、軸でない足を一歩引く。
ただそれだけの行動を起こすよりも素早く、ウルカはクィルの背後を取っていた。

159 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/09(木) 23:06:30 0
彼女は左腕一本でクィルの首を絡め、

「とうっ」

飛び跳ね、無闇に体を密着させて――月光に照らされた真珠を思わせるクィルの頬に、羽毛のような口づけをした。

「ふふっ、マーカーですよぉ。こっちでお仕事をする時、またお力を借りる事になるかも知れませんし。念じてくれれば私が気付きます。逆に力をお貸しする事も出来ますよ」

後ろからクィルに抱きついたまま、悪戯の種を明かす童女の笑みをウルカは見せた。

 ……ところで! こう濃厚なちゅーじゃなくて残念でしたか!? えぇ分かりますよ私もとても残念ですからねぃ!
 ですがお楽しみと言うのは一度に消化してしまってはつまらないのです! なので熱烈な接吻はまた次の機会にお楽しみですねぇ!?」

ばかばかしい事ばかり捲し立てながら、ウルカは地を蹴る。
クィルの首に絡めた腕を起点に、しかし彼女には何の負担もなく羽の軽やかさで弧を描いた。
ついでに空中で一回転捻りを加えて、ウルカは彼女の前に降り立った。

「それでは、これで今度こそお別れですねぃ」

ウルカはそう告げて小さく手を振り、クィルに背を向けた。
かくしてクィルもするべき事を終え、森を満たす宵闇の中へと消えていく。
ウルカは一度ちらりと背後を振り返り、彼女の姿が闇に呑まれた事を認めると、

「……あぁ、阿呆らし」

まさに豹変の二文字が、相応しかった。
ウルカは一瞬の内に表情から、完全に熱を失っていた。
心底下らなさそうな面持ちで――彼女はクィルから貰った薬草の小瓶を足元に沈殿する闇に落とす。
が、思い直したように風の糸で拾い上げた。

「……いや、王国は色々と不足分だらけですからね。これも解析させておきますか」

それも、あくまで王国の為だ。
彼女は再び風に抱かれ、夜空へと舞い上がる。
ファスタの街の最前線では、ノインとフェゴルベルが龍虎の如く睨み合い、凌ぎを削っている。

(……属性による隊列編成、魔法の組織的運用。王国はどれも遅れを取っています。単純な兵の錬度なら分かりませんが、それだけでは勝てない。
 それに皇子様の指輪は……予備知識が無かったら戦術級……下手したら戦略級クラスの威力ですよ。個人運用出来る戦略級魔導具とかどんだけですか。
 加えて……勇者の遺産ですか。王様は他の国々を焚き付けて押し潰すつもりだったようですが、厳しいですね。最悪こちらが丸裸になり兼ねない)

この戦場で得た情報を纏め上げ、彼女は国王への報告を思索する。

(……ん、解放軍の隻腕さんも逃げましたか。まあ所詮は個人運用の魔導具です。お互いにその規模の物を持っているなら大雑把にプラスマイナスゼロ。
 後は数の差で負けるのは必然ですからね。それが正解でしょう。こっちとしても、解放軍は貴重な手札候補ですから。ここで死なれては美味しくない)

戦場が次第に静まりつつあるのを認めて、ウルカは身を翻す。
最早この場に留まる理由はない。

ふわりと浮かび上がったスカートの裾が、直後に大気の壁に殴り付けられて伏せた。
夜空を引き裂く彗星となり、彼女は夜空と地上の合間に聳える山脈を目指す。
王国へと、帰るのだ。

【クィルさんにマーカー。消すのは自由。お国に帰らせて頂きます!】

160 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/09(木) 23:52:33 0
>>151
前町長の亡骸の元へ急ぐヴォルフは、紅い吐息すら焦がしつくすような禍々しい気配を己の背後から感じ取っていた。
おそらくそれがノインの切り札の一つであること、禁術と似たような代物であることも推察できる。

(杞憂…であったか)

百年の時を生きて尚、まだまだこの世には自分の知らないことが多い。
そのことが知への探究心を駆り立てる。それは彼にとって己が生きていることを実感する何よりの瞬間だった。

(知りたいことが次から次へと出てくる。我ながら退屈とは無縁の人生だな)

>>154-156
そんな彼をさらに”退屈させない”事態が発生する。

空を切るような音を察知し、その方角に気を配ってみると、
一筋の矢が、闇夜を切り裂くように大きな弧を描くのが視認できた。
続けてもう一つ、今度は低めにもう一矢…森の民が味方に危険を知らせる時の合図である。

(撤退する腹づもりか…)

果たしてあの隻眼の傭兵がノインから逃げ切れるかはわからないが、
ヴォルフにしてみれば、狙撃手と暗殺者の両名とも捕らえておきたい心境だった。

とはいえ、暗黒司教と対峙することを想定しなければならない以上、虻蜂はとれないのだ。
彼にしてみれば歓迎しがたい未来予想図は、図らずも即座に的中することになる。

161 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/09(木) 23:53:43 0
>>152-153
「そうらおいでなすった…」

通りを塞ぐように立ちはだかる巨漢が一人。まるでオーガーとトロールのあいのこのような印象を与える男──
モーブ・A・ゴーリキーは一言も発することなく、ヴォルフと後に続いていた兵士達に殴りかかった。

「散れ!」

号令の元に素早く退き、敵の攻撃をかわしたのは良かったが、空を抉るような勢いで叩き付けられた拳は、
石畳で覆われた道路を容易く粉砕、その下の地面をも屠り、衝撃だけで円形状の陥没地を作り出していく。
その余波は後方に飛びのいた者にも襲い掛かり、甲冑に身を纏った大の男達が容易く弾き飛ばされた。


「デタラメな奴め!」

ただの一発の殴打だけで、街中に巨大なクレーターを作り上げる光景を目の当たりにすれば、無理からぬ感想である。
無論、空振りで満足するようなモーブではない。両方の手で別々の民家の壁を掴み、力任せに引き抜く。
その光景に唖然とする兵士達を尻目に、まるで幼子がボールを放るかのように掴んだ家を投げ飛ばしてきた。

次々と飛来してくる巨大な飛礫の上に飛び乗りながら、ヴォルフはモーブとの距離を詰める。

「足元ががら空きだぞ!」

風属性の加護を得て加速し、巨人の足元をすり抜けるようにして脹脛に切り付ける。
だが、モーブは倒れない。それどころか自分の間合いを通り抜けようとしたヴォルフに怒り、捕まえようと手を伸ばす。
もし捕まれば桁外れの膂力によって、彼の身体はボロ雑巾のようにズタズタにされてしまうだろう。

「どんだけ頑丈なアキレス腱だ!」

言いながらも敵の間合いから咄嗟に距離をとり、呪文の詠唱を開始する。
尋常ならざる力を持つだけあって、物理攻撃に対する耐性も極めて高いらしい。
ならば、魔法を用いてでも即座に蹴りをつける他ない。あまり長いこと相手をしているわけにもいかないのだ。

162 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/09(木) 23:55:06 0
「突風魔法──ボーンウィンド!」

拳を振り上げて突進してくるモーブに対し、ヴォルフは突風魔法を叩き込んだ。
ただし、目標はモーブではなく、足元の石畳に対してである。

先程の殴打程の威力ではないにしろ、路面を砕き、地面を勢い良く巻き上げる。
微細な飛礫は巨人にとってさしたるダメージにはならない。だが、足を止めて視界を塞ぐには十分だった。
モーブが気づいた時に、ヴォルフの姿は既に眼前にはなく……

「──フロドストーム!」

背後から叩き込まれた掌底は、一つの魔法をモーブの巨体に浸透させた。
それは風属性の力により水を活性化させるという極めてシンプルなものである。

だが、掌底という高い圧力によって打ち込まれた魔法は、巨人の体内の水分を大きく爆ぜさせた。
それによって最もダメージを受けたのは、腹部から背部に集中する五臓六腑。
身体の構成が人間とそこまで変わらないモーブにとって、それは深刻な症状を齎した。

「激痛などという…生易しいものではあるまい」

言いながらもヴォルフは叩き込むように追い討ちをかけていく。
脊椎を、手首を、首筋を、矢継ぎ早に切りつけられたモーブは地に倒れる。
トドメとばかりに頭部を突き刺すと、それきり起き上がることは無かった。

「…よ、よろしかったのですか?捕虜として牽引せずに…」
「構わん、どうせこいつは何も知るまい」

起き上がった部下にそれだけ言うと、ヴォルフは急死した前町長の所まで足を進めた。

163 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/09(木) 23:59:38 0
前町長は苦悶の表情を浮かべたまま硬直しており、傍目から見れば死人そのものだった。

「これを飲ませろ」

大きさにしておよそ1cmに満たない小さな銀色の球体を、死体の口の中に強引にねじ込む。
その後人差し指で鳩尾を一突きすると、先程までピクリとも動かなかった躯が目を見開き小刻みに震え始めた。

「こ、これは…!?」
「落ち着け、死人は蘇ったりせん。あくまで生きているようにみせているけだ」

その光景を目の当たりにした兵士達の間に動揺が走るが、ヴォルフはこともなげに鎮めた。
いかな百年の諸国遍歴を持つヴォルフとて、流石に反魂術まで身につけてはいない。

「さて…始めるか」

亡骸の額に手をかざすと、目を閉じ、口を噤んで精神を集中させる。
やがて彼の脳裏に、一人の少女の姿が浮かび上がってきた。
黒髪に水晶のような瞳、玉のような肌──口元と衣服に残る赤黒い汚れさえなければ人形と見間違う程である。

(───見つけた!)

これ以上は向こうから精神波長に入り込まれると判断し、思念による探知を打ち切る。
おぼろげではあるが、礼拝堂のような場所であることも判断できた。

「この場は任せる。呪布を張ってでも第三者の介入を許すな」

隊長格の一人に指示を出すと、彼は動ける兵士を引き連れて暗黒司教達のアジトへと向かった。
この叛乱の首魁の元へ──数十年来の己が因縁に、決着を付ける為に。

164 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/09/10(金) 03:05:15 0
>>151
「へっ、自分に関係ねえ奴は、どうなっても……いいってことかよ。
 そっくりだ……そっくりだよ。あんた、父親似だぜ……!」

炎は欠片にまとわりつこうとフェゴルベルの拳へ近づきは離れ、離れは近づいていた。
フェゴルベルは見えぬ風圧に耐えるようにその場に踏ん張っている。
だが彼の努力も空しく、その輝きは確実に小さくなっていた。

光が失われれば、この黒炎の蛇はフェゴルベル自身を襲うだろう。
それは彼の死を意味する。
ノインの力の発露は敗北を想定しないフェゴルベルの考えを一瞬にして、真っ向から打ち砕いていた。

>>156>>159
そして目に入った撤退完了を告げる矢。潮時であった。

「ああ……。今回は、あんたの勝ち……だな。
 だがな……。俺は俺の目的が果たされる日までは……、泥をすすってでも生きなきゃなんねえ……!」
風前の灯となった光が再び輝きを強めた。
纏わりつこうとしていた黒い炎は光に耐え切れず、徐々に消滅していく。
そうしてついに、フェゴルベルへと放たれた炎はなくなった。
握り締めた拳から漏れる光はしかしぎらぎらと輝いている。
フェゴルベルは何かに耐えるように食いしばって、ずっしりと腰を落として立っていた。

変化はフェゴルベルの前の大地に現れた。
変色を、始めたのだ。それは薄明かりの中でもはっきりとわかるほどだった。
変色した領域は猛烈な速さでノインに向かってその魔手を伸ばしていく。
やがてノインの足元の地を変色させるまで届くと、魔手はノインを中心に円形に広がり始めた。

「お別れだ……。今度会うときは……あんたらが俺の軍門に下るときだぜ……!
 それから親父さんにも伝えておきな……。『俺と死んだ仲間の恨みはあんたの死をもってはらす』ってなッ」

ふと漂ってきた臭気がノインに変色の正体を気づかせたとき、ノインの足元が抜け落ちた
それに連動するようにノインの周りの地面は沈降を始める。
と同時にフェゴルベルは撤退地点まで一目散に走り出した――。



――変色の正体、それは腐敗現象によるものだった。
生半可な病ではノインを侵すことはできない。
クリムゾン・ブレスを大規模に展開し傷ついた体に加えてノインの未知数の力は下手に刺激できるものではない。
一瞬の隙を作り逃げ出すよりほか道はない――それがフェゴルベルに大地を腐らせることを選択させたのだった。

165 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/10(金) 10:39:40 O
[792]名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 2010/09/09(木) 20:12:01 0
ガチャピン=ベル?

[799]ベル ◆HywaqHR6Ng [sage] 2010/09/09(木) 21:15:09 0
>>792
それ以外の何に見えるんだよw

ただ、ヘヴィだと多少はシリアスに振舞おうとするんじゃないか
ガチャピンになる直前の汚い忍者くらいには


ベルさん自演宣伝お疲れ様です
クズだらけの場所で自分のいるスレに耳目を集めようとか迷惑なんでやめましょうね
シリアスな振る舞い期待してます^^

166 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/10(金) 18:09:17 0
>>162
モーブ・A・ゴーリキーが殺害されて死体になると、その正体を表した。
手足や首がやたら長く、尻尾があり、灰色の肌をしている、この世のものとは思えないグロテスクな怪物だ。
それはレッサーデーモンの一種であった。
肉体的にはレッサーデーモンの中でも強靭な部類だが、知能は昆虫と同程度で、言語能力や各々の個性すら持たない。
彼らは上位のデーモンに虐げられているが、言葉を話せない以上、どんな拷問によっても情報を吐かない点に注目する者も居る。
「何をされても、特に困るような情報は出ない」とベルが言ったのは、このためである。

しかし、死によって正体が露見した以上、暗黒司祭の教団が魔界や地獄の類と通じていることが明らかになった。
これは大して有益な情報ではない。ヴォルフにとっては恐らく、周知の事実であるためだ。

場面を地下の礼拝堂に移そう。
「モーブ・A・ゴーリキーが死にました」
「そうか」
通常、インプに代表される使い魔の死は、ただちに術者に感知される。
ベルはリーダーにそれを報告するが、彼は部下の死に全く無関心で、けしかけたベル自身も何ら感慨を抱いてはいないようだった。
ここに集められた幹部の中には、若干気の弱い者も居たようで、自分もモーブ・A・ゴーリキーのように切り捨てられるのではないかと不安を抱く者も居た。

>>163
「……ベルよ、あの男をただちに撃滅せよ。お前自ら、命を賭してな。
 われわれは出払う準備をしておく」
真っ先に切り捨てられるのがベルだとわかった途端、他の司祭の大半は安堵の溜め息を露骨に漏らした。
彼女を不気味だと思う者は多く居たし、脳天気な小娘が幹部の地位を占めていることを嫌う者も少なくはなかった。
ベルが行う“儀式”がもたらす奇跡の効力や、その他の能力に欠陥があるとわかった以上、そうした不満は爆発しつつあったのだ。
「了解しましたっ!」
彼女は快く承諾し、相変わらず脳天気で元気の良い返事をして、礼拝堂から出て行った。
この人事には、リーダーの暗黒司祭の秘密の思惑があった。
同時に、ベルは暗黒司祭の命令を拒否できないことを、彼は完全に確信していた。

さて、ヴォルフがベルの気配を追跡していくと、やがて町外れの廃屋に辿り着くようだった。
だが、そこに至るまでに、手勢の兵士のうちの何人かに異変の兆候が見られた。
クリムゾン・ブレスによって散布された疫病とはまた違った、軽い眩暈や手足の痺れなどの症状が散見されたのだ。
即座に死に至るような病気ではないので、無理をして戦えると彼らは主張するかも知れないが、戦力は確実に削がれるだろう。
「……」
その廃屋には、ヴォルフが精神集中した際に脳裏に浮かんだ少女と同じ姿の人物、つまりベルが待ち受けていた。
彼女はヴォルフ達が辿り着く前に、黒い法衣から粗末な白い法衣へと着替え、黒い刀身の剣で武装している。
廃屋には一際広い部屋があって、そこには大きな鏡の形をしたマジックアイテムがある。
この鏡が、礼拝堂へと通じる扉として機能しているようだった。
彼女は黒い剣を鞘から抜き、いつでも戦う準備はできていると言わんばかりに身構え、それを守っていた。

167 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/11(土) 09:14:23 0
>>166
暗黒司祭の行方を追跡していたヴォルフは、探知した気配に近づくにつれて瘴気が強まっていくのを感じていた。
それにあてられたのか、随伴歩兵の中には眩暈や手足の痺れを引き起こしている者もいる。

「おい、先ほどから動きが鈍いが…大丈夫か?」
「は、はい、問題ありません!」

問われた方が深刻な症状とは思っていなかった故か、ヴォルフの背後にいた兵が背伸びをするかのように答える。
が、ヴォルフはそこまで楽観視はしていなかった。教団と戦う時は最悪彼一人であることも想定の範囲内だろう。

気配を頼りに一行がたどり着いたのは、町外れにある廃屋──というよりはお化け屋敷の印象すらあたえる建造物。
兵士達は微細な症状に悩まされながらも、周囲を厳重に取り囲んだ。

「ここが…奴らの隠れ家でありますか?」
「いや、ここではないな。おそらく何らかの道具を用いて行き来が出来るようになっている筈だ」

彼の経験則上、魔鏡が一番考えられる移動手段だった。
廃屋を徹底的に探し出し、中にいる者を捕らえて口を割らせる…というのが常套手段ではあるが……

(わざわざ手薬煉引いて待ち構えているところへ飛び込むのも考え物だな)

168 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/11(土) 09:15:29 0
おそらく向こうもこちらが来ることは想定している筈。
おあつらえ向きな廃屋の中に、どのような罠が張り巡らされているかわかったものではない。
現に一人分の気配──おそらく先程彼の脳裏に浮かんだ少女が待ち構えているのがわかる。
思案の末、彼は一つの命令を発した。

「火を放て!」
「よ、よろしいのですか!?」
「構わん、連中の土俵に飛び込む道理はない」

兵士達は仰天するが、ヴォルフは一向に意に介さなかった。それどころか、風属性の魔法を屋敷に放たれた火に叩き込む。
風の力を得て煽り立てられた炎は、完全に屋敷全体を包み込んだ。

(虎児を得る為に虎穴に入る必要はない、燻し出せばいい)

廃屋の中で待ち構える者に残された選択肢は三つ。
魔鏡を用いて元の礼拝堂に逃げる──こうなれば気配が途絶えるので、火を消して追えばいい。
逃げずに踏みとどまる──この炎の勢いから察するに蒸し焼きになるまで時間はかかるまい。
そうなる前に打って出る──自分が迎撃しているうちに兵士達に鎮火させ、先んじて突入させても良い。

「さぁ、どうでる?」

ヴォルフは剣を構えなおし、廃屋の入り口を見据えた。

169 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/11(土) 20:35:37 0
>>168
廃屋に火をかけ、屋敷全体が火に包まれてから暫くすると、ベルが姿を現した。
「出てきましたね」
ヴォルフの兵士の一人が言った。
どうやら彼女は三つ目の選択肢、自ら打って出ることを選んだらしい。
だが実のところ、あっさり出てきたのは、彼女なりの考えがあるし、司祭の出した命令が「彼らを撃滅せよ」とあるためでもある。
奇妙なことは、彼女は猛火の中から現われたにも関わらず、火傷一つ負っていないことだ。
悪魔を使役するような奴だから、簡単な対炎防御魔法くらいは使えるのかも知れないという判断が自然だろう。
実際に何をして難を逃れたのかはともかくとして。

「ようこそおいでくださいました!
 わたしはベルといいます。死ぬまでの短い間ですが、どうぞよろしくお願いします!」
と、ベルは言って、ぺこりと大げさに一礼した。
「あれ、もっと連れて来なくて良かったんですか?」
そう言う彼女の表情は自信に満ち溢れている。
戦力で言えば、今の彼女はたった一人で、ヴォルフはまとまった数の手勢を連れている。
もちろん、後ろに控える教団の連中を考慮するならば、確かにもっと兵力が必要にはなるかも知れない。
だが彼女の言葉はそういう意味ではなく、この程度の人数なら皆殺しにできるという意味で、その自信が彼女にはあるのだ。
自信があるだけかも知れないが。

さて、彼女の自信の源と思しきものは、右手に握られた黒い剣だ。
「バールの雷」と呼ばれるこの剣は、古代の邪神の祭器として知られ、クリムゾン・ブレスに勝るとも劣らない希少な品である。
この剣は邪神の加護と大量の生贄の血によって、不浄な力に満ちた溢れた魔剣と化している。
この剣による攻撃は、たとえ盾や鎧などで防いでも、生命や精神を冒されるため、完全に避ける必要がある。
しかし、ただ単に持っているだけで使い手も同様の被害を受けることになり、使い続ければ必ずやつれ、狂死するという。
そして困ったことに、この剣は真実を隠して曖昧にしている。彼女自身が放つ瘴気の質と量を。

また、彼女はこうも言った。
「ご足労のところ申し訳ありませんが、わたしの使い魔が騒いでいるのです!
 たまには腐った肉ではなく、新鮮な肉が食べたいと」
この言葉により、本当の脅威は彼女の持つ希少な魔剣ではないことが判明する。
その脅威とは、小さな小さな蝿である。
これが彼女の真の使い魔で、兵士達の不調の原因だ。
蝿が兵士達の生命力を少しずつ吸ったり、病毒をもたらしたりしているのだ。放置すれば犠牲者が出るだろう。

そして彼女は、心臓を一突きにしようとヴォルフに斬りかかってきた。
幸いなことに、太刀筋から察するに、剣の技量そのものは大したことはないことがわかる。
魔剣を盾等で受け止めようとさえ思わなければ、白兵戦で彼女をあしらうことは容易い。

170 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/11(土) 21:39:51 0
――燃え盛る礼拝堂にて――

「――ありゃりゃ。こりゃ随分と大ピンチの予感ですねぇ?」

火の手に囲まれたベルの背後に、ウルカは立っていた。
彼女が言葉を発するまで、ベルはその存在にすら気付けはしなかっただろう。
恐らくは外にいるヴォルフでさえ。
忘れがちだが彼女は暗殺者であり密偵。気配を消すくらい、お手の物だ。

「おやおやぁ?この業火の中をどうやって、いやそれ以前に帝国軍の目を盗んでここへ来たのかって顔をしてますね!?
 と言うかしてなくても種明かししますよぉ! 何故なら私がしたいからっ!」

と言うのも。

「この礼拝堂、元々は貴方々が建てた物では無いでしょう?そう、赤の他人が建てた建物だからこそ
 こう言うのは目立たない訳ですからねぇ。ともあれそんな訳で……そこの祭壇の下、隠し通路がありましたよ。
 私は風使いでしてね。気流の流れでそう言うのを探るのはお手の物です。次が無いように早急に塞ぐべきですね!? お礼は結構ですよぉ!」

などと馬鹿げた状況を言っている場合ではない。
無論ウルカも、それくらいは分かっている。

「さてさて、ところで私がここにやって来た理由なんですけどね? まぁ簡単に述べるなら貴女をお助けしようと思いまして。
 貴方々は帝国にとって獅子身中の虫。そう、解放軍と同じくね。ならば貴女を助ける事は帝国の衰退に繋がる」

とは言え、ウルカは彼ら暗黒司教達の目的までは知らない。
彼らの目的が王国までもを揺るがす可能性もあるが、そこは駆け引きである。
もしそうならば頃合いを見て、帝国が彼らを叩き潰すよう仕向ければいい。
仕向ければいいと言うよりは、仕向ける必要があると言うべきか。

「……と言う訳で、どうしますか?幸い地下の抜け道があるのでそこらの鏡をかち割って粉々にしても逃げる事は出来ますよ?
 それとも打って出ますか?勿論、自分で何とかするからお呼びでないと言うなら大人しく退散しましょう」

【ベルにコンタクト。動機は帝国の敵を助ければ利に繋がるかもなので。
 証拠と追跡を出来なくしてから逃げる。打って出る。追い返す。その他色々お好きなように
 >>169の前にコンタクトしていた事にしてくだされ。無用でしたら追い返してやって下さい】

171 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/11(土) 23:13:04 0
>>170
ヴォルフと相対するよりちょっと前、以下のような出来事があった。

「やや!」
ベルは大げさに驚いて、背後に突然現われたウルカに向き直った。
まずさしあたって、彼女はウルカの話を聞いた。
しばらくの間、ベルはウルカの瞳の中を覗き込むようにして、じっと顔を見つめていた。
彼女はぼーっとしているように見える。
ウルカは、もしかしたらベルがきちんと自分の話を聞いているのか不安になるかも知れない。

「はい!良い考えがあります!」
ベルは突然に挙手をして、何かの提案をした。
そして周囲に睨みを利かせた。
彼らが使っている水晶球は、使い魔が見た映像を映し出すものだが、その使い魔にちょっと幻を見てもらったのだ。
彼女自身の計略を、教団の幹部連に知らせないためである。これは上手くいった。

そして彼女は、ウルカに耳打ちした。
「実は、わたしの教団は、“解放の教会”を隠れ蓑にしています」
解放の教会。
反乱を扇動するための密偵ならば、有用な“火種”の候補として、聞いたことくらいはあるかも知れない。
“解放の教会”は、あらゆる生命は本質的に自由だという教えを説いている。
帝国による支配には不都合な教えなので、彼らはその活動を制限しようと頑張っているが、抑圧された民衆の支持は順調に集めており、潜在的な信者は帝国のあちこちに居る。
そして、帝国が目を光らせているために、地下で隠れて活動している者がいっぱい居るのは、公然の秘密である。
もちろん、真の姿である暗黒教団の存在を知らず、純粋に自由の教義を信じる者が大多数を占めている。
実のところ、いかがわしい暗黒の教義に染まっているのは、ごく一部の上層部だけなのだ。

「それでですね、解放軍に協力してるのは、このいかがわしい教団じゃなくて、“解放の教会”ということになっています」
それも真実だ。情報戦に通じた密偵でなくとも、解放軍の主要なメンバーなら知っていることである。
その中でも、前町長は“解放の教会”の正体を知る人物だったから、特別に選ばれて殺されたのだ。

「そこで、もっと良い方法があります。まあ参考までに聞いてください」
彼女はウルカの耳元で囁いた。監視の危険をより一層、減らすためだ。
「まず、ここであの人たちを切り捨てます。
 ここ以外にも、“解放の教会”の秘密の礼拝堂はいっぱいあります。
 で、帝国軍はわざわざその所在地を割り出して卑劣な奇襲をかけ、苛烈な弾圧と虐殺を行った――
 これを大々的に宣伝して、潜在的な“解放の教会”の信者を怒らせて、反乱の火種にしてしまえば良いんです。
 歪めるべき事実も少ないですからね」
ねっ、いい考えでしょ?と言わんばかりのしたり顔である。
反乱の火の手をもっと広げるという点では、こちらの方が手間はかかるが、帝国への打撃という点では有効である。
何せ、この考えが上手くいった場合、動く人数の規模が全く違う。

「っと、そろそろこの家が崩れます。貴方も長居は無用ですよ。
 わたしはわたしで、彼と上手くやりますから。それでは失礼しますねっ」
ベルは屋外に出て行った。

172 :ノイン ◆AaLTiaqv7c :2010/09/12(日) 22:54:31 0

「お別れだ……。今度会うときは……あんたらが俺の軍門に下るときだぜ……!
 それから親父さんにも伝えておきな……。『俺と死んだ仲間の恨みはあんたの死をもってはらす』ってなッ」

「思い上がるな。道具を手にし増長しただけの人であるお前如きでは、陛下の足元にすら届くまい。
 例え手を延ばそうと、お前が殺した人間がお前の足を引くだろう」

黒い炎と紅い光の鬩ぎ合いの最中、フェゴルベルの吐き捨てる様な言葉に対し、
ノインは淡々と感情の篭っていない口調で台詞を並べる。
だがその台詞の内容は、ノインにしては珍しく感情の様な物の片鱗が見えていた。

二つの色の鬩ぎ合いは暫く膠着の様相を見せていたが、
やがて光量を増した紅い光が、黒い炎を押しのけた。
その様子を見てノインは眼を細める。

「……やはり、二十人程の命ではこれが限界か」

そう呟き、ノインが去っていくフェゴルベルの背中へと
追撃の命令を出そうとした瞬間であった。

「これは……腐敗しているのか?」

初めに感じたのは不快な臭気。
次いで――――大地が沈み始めた。先ほどまで硬い土であった地面が
まるで沼の様にぬかるみ、そこに在った物を飲み込んでいく。
それはノイン自身も例外では無い。その腐敗の沼はノインの足を取り、
まるで引きずり込もうとしているかの様に見える。

「……」

ノインはその状況に対して、再び黒い炎……紅い光に消し去られずに僅かに残った
小さな炎を地面に対して一直線に奔らせた。それはこの現象が先程の紅い光による物だと判断しての行動。
そして、それは間違っていなかった。
ノインの足元と、その炎が奔った線上の腐敗の速度が、急激に遅くなった。
ノインは、膝までを沼に付けながらその線の上を顔色一つ変えずに歩き出す。
穢れた沼を物ともせずに歩く美麗の男。その様子はまるで神話の一場面の様であった。

そうしてノインが腐敗の沼から脱出を終えた時、
既にフェゴルベルの背中はどこにも見えなくなっていた。
ノインはフェゴルベルが去っていったと思われる方向に視線を向け、
次いで周囲の状況、最後に自身の嵌めた指輪を見て眉をひそめる。

「痛み分けといった所か……」

ぼそりと呟くと、ノインはクリムゾンブレスのダメージから徐々に回復してきた
兵士達に状況の確認と情報の収集の命令を出す。

173 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/13(月) 01:19:33 0
――今にも崩れそうな礼拝堂にて――

(この小娘ちゃん……鋭いんだかボケてるんだか。とぼけるのは得意ですけど、とぼけられるのは面倒ですねぃ)

とは言え返ってきたベルの提案は尤もなものだった。
何かしらの腹蔵が潜んでいる事はあり得るが、それはウルカには知り得ない事だ。

「なぁるほど!つまり風を操る私に風評をも操れと言うのですね!?おや何だか周りが燃えてるのに寒くなった気がしますねっ!?
 ともあれお任せ下さい!その手の最低に嫌らしい仕事はまさに密偵のお仕事ですよぉ!」

そもそも彼女自身も謀略を以ってベルを助けているのだから、その逆も然もありなんである。

(……要するに肝心なのは『利になるか、ならないか』ですね。その点、この子の提案はイイ感じです。
 それにしても『解放の協会』……小耳に挟んじゃいましたけど。まさかそこまで膨れ上がっているとは、驚きですねぇ。
 まぁ……気持ちは分からないでもないですね)

意気揚々と礼拝堂を出て行くベルの背を微かに細めた視線で見つめ、ウルカは口元に左手を運ぶ。
そして黒衣を纏う彼女の姿が増々勢いを増す火勢に塗り潰された頃合いで、小さく呟いた。

「……自由と言うのは、持たぬ者には本当に眩しいものですからね」

彼女の呟きを掻き消すように、礼拝堂の天井が一部崩れ落ちる。
だが熱気を退けるべく展開していた烈風によって、瓦礫はウルカに塵一つ被せる事なく弾かれた。

(……とは言え、建物ごと崩れたら流石に面倒ですね。しかしまぁ、あの子本気で帝国軍の連中に勝つつもりですかねぇ?
 上からパッと見ただけですが、中々の手練が一人居ましたからね。結構ヤバい気もしますが……いや、ヤバいと言うならあの黒剣ですか。
 早いとこお暇しましょう。アレが高位の呪具なら余波ですら脅威です)

身を翻し、ウルカは祭壇下の抜け道へと戻っていく。
地下へ続く階段を軽やかな足取りで降りて、彼女は地下へと消えた。

そしてそれからややあって、礼拝堂は轟音と共に崩落した。

174 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/13(月) 07:49:28 0
燃え盛る廃屋の中に、新たな気配が加わったことをヴォルフは感知した。
周囲は取り囲んでいるが、おそらく抜け道から誰ぞかが侵入したのだろう。

(この状況下でわざわざ外からこの中に入る輩となると…)

一番考えやすいのは、件の暗殺者である。
帝国に仇なすことを目的に動いているあの女にとって、相手が暗黒司祭であることは関係ないらしい。

(連中は間違いなく王国にも害を齎すのだが…これではわかっていてやっているとも思えん)

何を密談しているのか聞き取ることまでは出来なかったが、
密談相手の気配が抜け道らしき場所へと消えたことでおおよその想像はつく。
とってつけたような強引な風説をもって、帝国に打撃を与えようと言う魂胆だろう。

(手口があの時と一緒だな)

『開放の教会』としての表向きの組織に対して、挙兵を促す切欠にしたいらしい。
彼が以前暗黒司祭達と関わったとき、似たような手口で表側の連中に追われた経験がある。

だが、彼らは重要な事案を一つ忘れている。
それは、宗教が真に強大な力を行使する為に必要なのは絶対権力との結託であり、
宗教の側から民衆を扇動して絶対権力にとってかわった事例は存在しないということである。

(その理由がわからん限り、奴らが叛乱を主導したところで…帝国は揺るがん)

彼が100年かけて培った知勇と人脈を持ってなお、帝国で地位を極めることが叶わなかった。
それほどまでに絶大な権力機構を多少の小細工と力で倒せるとしたら、どうして今日まで存在できようか?
”圧政に対する反発”という極めてシンプルな動機から、安易な叛乱に出たところで、
それが帝国を打倒することもなければ、王国が帝国に勝利する切欠にもなりはしないのだ。

175 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/13(月) 07:51:20 0
もう一つの気配が去った後、その少女は、燃え盛る廃屋から何事も無かったかのように現れた。
人形とも形容できる顔には傷一つなく、着衣に乱れもなく、右手に黒く禍々しい剣を持って…

(バールの雷か)

彼もその剣のことは良く知っていた。邪神の加護と大量の生贄の血によって、不浄な力に満ち溢れた魔剣。
うっかり受けようものなら生命と精神を侵食され、使い手すら蝕む両刃の剣である。
だが、その剣によって覆い隠された彼女の本質を、ヴォルフはうっすらと感じ取っていた。

「ようこそおいでくださいました!
 わたしはベルといいます。死ぬまでの短い間ですが、どうぞよろしくお願いします!」
「ではこちらも名乗ろう。ヴォルフガング=ヨアヒム=シュバルツシルトだ…とっくにご存知だろうがな」

大げさな一礼、口調こそは丁寧だが、明らかに自分が勝利することを前提とした物言いだ。
ヴォルフは気にせず自らも名乗りを上げたが。そんな彼女の大言にさらにもう一つエッセンスが加味される。

「あれ、もっと連れて来なくて良かったんですか?」
「無用だ」

取り付くしまもないと言う風にヴォルフは応じる。
相手は暗黒司祭。あまり多くの兵を裂くとかえって犠牲者を増やす結果になりかねない。

「ご足労のところ申し訳ありませんが、わたしの使い魔が騒いでいるのです!
 たまには腐った肉ではなく、新鮮な肉が食べたいと」
「──ッ!?」

その一言でようやく彼は理解した。先程から周囲を飛び交っていた蝿が、目の前の少女──ベルの使い魔であることを。

176 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/13(月) 07:54:01 0
現地において病魔を伝染する存在としてしか認識していなかった為、兵には簡易的な属性治療しか指示していなかった。
彼自身は風属性のコーティングで蝿を近づけなかっただけである。先手を取られてしまったようだ。

「症状が悪化した者には属性治療を続行しろ。特に生命力を吸引された者は水属性の治療を重点的に行え」

新たな指示を付け加えながら、相手の底意地の悪さは流石に暗黒司祭の輩と思わざるを得ない。
が、思案している暇は無かった。廃屋がとうとう業火に耐え切れず崩れ落ちると同時に、ベルが突進してくる。
その太刀筋はヴォルフの心臓を狙っており、バールの雷の性質を考えれば回避するしかない筈だった。

「甘い!」

だが、ヴォルフは回避することなく剣に魔法力を浸透させて、ベルの攻撃を受け止めた。
この時点で、本来はヴォルフの生命と精神は害されている筈だが、彼には何の変化も見られない。

(禍々しい魔剣にも負けない”秘密”があるからこそ、この剣は”秘剣”なのだ)

おそらく目の前の娘は知る由も無いだろう。故にわざわざ口には出さない。

「お前こそ、一人でよかったのか?先程の侵入者と共に戦わなくてよいのか?」

先程のベルの挑発ともとれる自信に満ちた発言をそのまま返す。

「お前たちはこの戦いには手出し無用、倒壊した廃屋を徹底的に捜索しろ!」

ベルの剣を受けながら、ヴォルフは兵士達に新たな命令を下す。
たとえ魔力を伴うトラップがあるにせよ、彼女がこうして彼の相手をしている間は発動することは叶うまい。
あとはいかにしてベルを捕らえ、暗黒司祭殲滅の手立てとするか…それがヴォルフの課題となっていた。

177 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/13(月) 22:25:18 0
>>173
「わかってくれましたか!
 そうです、明らかに腹に一物抱えてるような人達よりも、自由と権利を信じる無垢な人の方が御しやすいですからね。
 つまり、王国が飼いならすのは、表向きの“解放の教会”の方がずっと楽ってわけです」
風評を広めることを承諾したウルカに対して、ベルは補足説明した。

また、これも家を出る直前だが、ベルはふと何かに気付いたように手を叩いた。
「あっ、名前聞くの忘れてた……こっちも自己紹介してなかったかしら。
 まあ、近いうちにまた会えますよね、多分」
密偵が自らの名をそう簡単に名乗るとは思えないが、もし再び機会があれば、彼女らは互いに自己紹介などをするかも知れない。
自己紹介の次に行われる行為はほぼ間違いなく、腹の探り合いだろうが。

>>175-176
ベルは、焼けた家屋を捜索するために入っていく兵士を、全く阻む事をせず、あっさり通した。
もちろん、これは彼女なりの思惑であり、あの司祭とは無関係だ。

「あれ?」
受け止めたにも関わらず、瘴気によるダメージを無効化されたのを見て、ベルは様子見のために一歩後ろに退いた。
彼女は首を傾げている。
「おかしいですね。そうやって受け止めたら、普通は倒れるんですけど」
この剣から出ているような瘴気は、真っ当な地上の生物には有害だ。
逆に、デーモンやアンデッド等の不浄な輩にとっては、むしろ活力になるかも知れない。
しかし、目の前の相手はエルフかそれに類する種族のように見え、当然、生まれながらにして瘴気に耐性を持つような生物には見えない。
「ああ、なるほど!
 あいつらに引導を渡す心算で来たのなら、そのための用意くらいしてきますよね」
そこまで考えて出した結論は、何らかの魔法のアイテムで瘴気を中和して防いだということだ。
ベルに限らず、不浄の力を扱う教団員は数多いので、こうした装備を揃えることで有利に戦えるだろう。
だが彼女は、そうした不利を警戒すると同時に、喜んでもいるように見えた。
その理由は一つしかない。
「はあ……あいつらもオシマイですね。これも天罰でしょう」
彼女は溜め息を吐き、まるで他人事のように振舞っているが、この態度が何もかも物語っている。
彼女は教団に対し、全く忠誠心を持っていない。
何度も「あいつら」呼ばわりしていることから、彼女個人の教団に対する感情そのものは、嫌悪や侮蔑の度合いが強いこともが伺えた。

178 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/13(月) 22:40:20 0
また、お前こそ増援や協力者は必要ないのかという問いに対する答えはこうだった。
「わたしは良いんです。あいつらにとって、わたしは捨て駒ですからね。
 助けなんて、どうせ呼んだって来ませんよーだ。
 それに、さっきの人はお忙しいみたいですし、呼び止めては駄目と思って」
あの暗黒司祭に簡単に切り捨てられたことを根に持っているかのように振舞った。
だが、それはわざとらしい演技であり、捨て駒にされた事実に対して、本気で憤慨している様子でもなかった。
ウルカについてはちょっと違う。
ここでベルがウルカと直接共闘してヴォルフを討つよりも、もっと良い考えがお互いにあったのだ。
少なくとも、ベルはそのように考えているし、都合が良い。

「でもまあ、本当の話、あいつらはわたしを時間稼ぎに使って逃げる気ですけど、どの道、もうすぐ潮時なんです。
 もしかしたら、先に行った兵隊さん達だけでも、割と簡単にあいつらを殲滅できるんじゃないですか?」
この言葉が、果たしてどんな意味を持つのか。
ベルは微笑みを浮かべている。
「何はともあれ、“契約”が切れるまでは、貴方の相手をしないといけませんからね。
 もうちょっとだけ付き合ってもらいますよっ」
彼女は空をチラチラと見ており、日や月の高さ等を見て時間を計っているようだった。
彼女が言う“契約”とやらの期限は、刻一刻と迫っているようだった。
あの暗黒の教団が“契約”を結ぶ対象など限られている――あのモーブ・A・ゴーリキーの死骸が、その全てを物語っている。
ベルが全くのノーリスクで“バールの雷”を使っていることもだ。

「さて――さっきはよくも火をかけてくれましたね。
 死ぬようなことはありませんでしたけど、それでも熱かったんですからね。
 これはそのお礼です!」
ベルは人一人包み込むほどの大きな炎の弾丸で、ヴォルフを攻撃した――
火の属性を持つ魔法なのは明白だが、詠唱が全く無いのが若干妙だった。
しかし、精神集中などの動作が全く無かったわけではないので、完全に予想外の不意打ちというわけではない。
「まだまだ!こんなもんじゃありませんよっ!」
だが、炎の弾丸からの追撃のために、彼女は大きく剣を振りかぶっており、大きな隙ができている。
剣の扱いはやはり素人のようだった。

外で激しい戦いが繰り広げられている丁度その頃、兵士達はヴォルフの指示に従い、屋敷の家屋内を隈なく捜索していた――
隈なくというほど真面目に捜索せずとも、教団の礼拝堂に通じる扉の役目を果たす鏡は、いとも簡単に見つかるだろう。

179 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/15(水) 01:46:29 0
「……よ……ほっ」

所々を樹木から伸びる蔦や枝葉に侵食され、長年の風雨によって半壊した小規模な砦跡。
何時の時代に何の目的で建造されたのかは解らないが、現在の用途は解放軍のアジトの一つである。
建築学に詳しい者が見れば、砦として機能するに足る部分には補修の形跡を見て取ることが出来るだろう。

「……っと。……ん、んんっ」

その内の物見用の一室。
矢窓の前に置いた椅子に疲労した体を預けたクィルは真剣な顔である事に勤しんでいた。

椅子の後脚は鋭角に床へ突き刺さり、前脚は本来の役目を果たさず空中に揺れる。
その一方、壁へと伸ばされたクィルの両足は前後上下に小刻みに動いていた。
子供が好んでやる椅子に座ったまま後ろに反らせてバランスを取るあれである。

「……う?……ふきゃん」

視界に入った人物に気を取られ、限界まで倒されていた椅子が均衡を失い役割を放棄した。

「……帰って来た」

床に投げ出されたクィルは大の字に転がったまま呟くと、腕を支点に後方倒立回転で華麗に立ち上がる。
同じく床に放り出された長弓を拾い上げると、帰還した仲間を出迎えるべく小走りで部屋を降りていく。

「……ファイ、お帰り」

くすんだ褐色の長髪に面長の顔、身に纏うのは上下とも黒革の衣服のみ、手にした抜き身の長剣の平で気だるげに肩を叩く。
疲弊のためかいつも以上に不機嫌そうな表情のファイ・ヴァフティアその人である。
周りを見回しクィルの他に誰も居ないことを確認すると小さく溜息を吐く。

「……残念だけど。……襲撃は失敗、町長も捕まっちゃったし。
 ……本隊を率いてたクシャナは……その、多分……敵の術に嵌って全滅」

本来フェゴルベルのクリムゾン・ブレスの発動を合図に突入するはずの本隊は、それより以前、作戦開始から僅か二時間を待たずに壊滅していた。
隊長であるクシャナの号令の下――何故か全裸で――突撃を敢行するといった奇行の結果である。
それによって物見櫓の制圧は予想より楽ではあったのだが、帝国兵の幻術や妖術に中てられたとしか思えない。

「……フェゴルベルも……直に戻ってくるよね」

クィルの問いかけに、ファイは首肯を返すのみ。
もっとも二人ともフェゴルベルが死んだなどとは微塵も思っていない。
彼に付いて行けば、いつの日か帝国の覇業に楔を打ち込めると信じているからだ。

(そういえば、ウルカはちゃんと帰れたのかな)

頬を撫でながら、そこにマーカーを施していった諜報員に思いを馳せる。
おそらく王国の尖兵である彼女とは、この先またどこかの戦場で顔を合わせることになるだろう。

ファスタの街に上がる火の手はとどまる所を知らず、遠目からでも夜闇を赤々と照らす。
そしてまた一つ、街から離れた場所からも真新しい火の粉が空へ舞い上がった。
解放軍の襲撃に端を発する戦乱は始まったばかり。鉄と血に彩られた夜は――まだ明けない。

180 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/15(水) 07:29:46 0
>>177-178
ベルの突きは決して超スピードを伴ったものではなく、回避も困難ではなかった。
にもかかわらず、ヴォルフは回避せず切り札の一つを見せてまで防ぐ手段を選んだ。
逆に、回避可能な攻撃を避けることで、別の攻撃への呼び水になることを警戒したのである。

「おかしいですね。そうやって受け止めたら、普通は倒れるんですけど」

ベルにとって、相手が己の剣を受け止めたことは一種の不可思議として受け入れられた。

「ああ、なるほど!
 あいつらに引導を渡す心算で来たのなら、そのための用意くらいしてきますよね」

彼女の発言はまさのその通りなのだが、その口調や態度故にヴォルフは認識を改めざるを得ない。
それまで彼女は暗黒司祭達の同士と判断していたが…その割には随分な物言いである。

(まるで喜んでいるようにすら見えるな)

自分の切り札の一つを防がれただけでなく、暗黒司祭にとっても極めて不利な情報なのだ。

「はあ……あいつらもオシマイですね。これも天罰でしょう」

これが決定打だった。言葉の節々にはよく受け取っても憎悪と侮蔑。
もっと悪く言えば虫けらを嘲るような響きさえある。彼女の精神は教団などにはないのだ。

(とすれば、この女の悪意は俺の想像を凌駕しているようだな)

『バールの雷』の肥大化した悪意が覆い隠している彼女の”闇”には底を見出すことすら出来ない。

181 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/15(水) 07:31:05 0
「わたしは良いんです。あいつらにとって、わたしは捨て駒ですからね。
 助けなんて、どうせ呼んだって来ませんよーだ。
 それに、さっきの人はお忙しいみたいですし、呼び止めては駄目と思って」

捨て駒と自分を卑下するが、そこには悲哀も憤慨も左程感じられない。

(むしろ彼女の方が教団を捨て駒にしたのではないか?)

そんな発想さえ浮かんでくる程、わざとらしい演技だった。

さっきの人──おそらく件の暗殺者ウルカのことであるが、その目的ならおおよそ推察できる。
デマゴーグによる大義名分の乱造は古今列挙に暇が無いくらいありふれたことだ。
今それを追いかけるよりは、この場に存在する凶事への対処の方が重要だった。

「あったぞ!」

その頃、兵士達は廃屋の中をくまなく捜索し、魔鏡を発見するに至っていた。
兵士の一人が人形を取り出し、風属性と水属性の魔法を用いて等身大にまで人形を膨らます。

それは身代わり人形──いわゆるダミーだった。視認できる場所であれば問題はないが、
魔鏡のようなアイテムをもって別の場所へと行き来する場合、相手の待ち伏せは容易に想定できる。
その最初の第一撃を受ける役目をする人形を、魔鏡に投げ込む。

「行くぞ!」

号令の下、兵士達が間髪いれずに魔鏡の中へと飛び込んでいく……

「でもまあ、本当の話、あいつらはわたしを時間稼ぎに使って逃げる気ですけど、どの道、もうすぐ潮時なんです。
 もしかしたら、先に行った兵隊さん達だけでも、割と簡単にあいつらを殲滅できるんじゃないですか?」

ただ、ベルの言葉を額面どおりに受け取る程、ヴォルフはお人よしでもない。
今となっては彼女の微笑みも、警戒心を煽り立てる為の材料にしかならなかった。

182 :ヴォルフ ◆YfgLCO6AGQ :2010/09/15(水) 07:31:51 0
(時を計っているのか?)

潮時というセリフや、時折上空の様子を伺うその姿からヴォルフはそう判断する。
暗黒の力に繋がる連中は、闇の眷属との契約を非常に重要視する。
それが極めて融通の聞かない時間との戦いであることも彼は良く承知していた。

「さて――さっきはよくも火をかけてくれましたね。
 死ぬようなことはありませんでしたけど、それでも熱かったんですからね。
 これはそのお礼です!」
(───詠唱なしか!!)

人間をすっぽり包み込むような火球が発射される。
予備動作があったとはいえ、このレベルの火属性魔法を詠唱なしで行使する手合いはそうはいない。

咄嗟のことだが、彼は秘剣に水魔法を送り込むとそのまま袈裟懸けに切りつけた。
回避を選択しなかった理由は、やはり火球を回避したところへの追撃を警戒した為だ。

(──直撃は避けたが…))

左程大きなダメージはないものの、余波と熱波は避けようが無い。そこへ魔剣の大振りが迫る。

「そこだ!」

見たところベルの剣の扱いは素人と変わらない。その隙を見逃すことなく突きを繰り出した。

183 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/15(水) 19:05:51 0
>>180-182
「うっ!」
ヴォルフの剣はベルの左肩を貫いた。
なんとか致命傷は回避したようだったが、ヴォルフの剣は彼女に印象的な効果をもたらした。
傷口からは煙が上がり、焼け焦げたような臭いが発せられている。
「危ない、危ない。あいつの思い通りに死んじゃうところでした」
デーモンのような闇の眷属との契約は、概ねパターンが決まっている。
即ち、デーモン側は現世において術者に仕えることを約束するとともに、術者は死後や契約期間終了後に魂を献上するというものである。
もちろん、術者も完全に邪悪なので、契約の期限ギリギリまで利用した挙句に、その悪魔を破滅させることで、自身の死を回避しようと目論む者だっている。
回収する悪魔が存在しなければ、魂を渡す必要は無いためだ。
つまり、ヴォルフの手にかかるように、わざわざ「命を賭して戦うべし」と厳命してベルをけしかけた。

だが、それは失敗に終わった。
激しい戦いはなおも続いたが、その途中で彼女が後ろに跳んで距離を離し、黒い剣を鞘に収めたのである。
そのときに、彼女自身の瘴気の正体が明らかになった。悪魔そのものである。
「時間切れだ」
先ほどまでとはまるで雰囲気の違う、冷たい声だった。
「契約成立の瞬間より20年、わたしは彼に幸福の人生を約束していたが、たった今、その20年の年月が過ぎ去った。
 今や彼らには約束された幸福は無い。
 お前の兇刃は、彼の命を容易く奪うだろう。彼に絶望と破滅を与えてやるがいい」
別の存在が、ベルの身体を乗っ取って喋っているようにしか見えない。
彼女の目は明らかに焦点が合っておらず、ぼんやりと曇っていることがその証左だ。

だが、すぐにその目は正気の光を取り戻した。
「わたしはまだ、物質界との繋がりが欲しいですからね。
 この身体を、そう簡単に駄目にする訳にはいかないんです。
 わたしはこれから食事を済ませると共に、ある人に“希望”を与えに行きます。
 ではまた、近いうちにお会いしましょう。それでは!」
ベルは逃げ去った。彼女はどのような術を使ったのか、無数の蝿に分裂し、それが散り散りになったのだ。

一方その頃、突入した兵士達は指示通りに慎重に事を進めていた。
しかし、教団は兵士達が思ったよりも、上手く行き過ぎて不安を覚えるくらい、すんなり制圧・殲滅することができそうだった。
瞬く間に教団員の死骸が積み上げられていく一方、兵士達にはほとんど被害らしい被害が出ていない。
「おかしい」
「何がだ」
「崇めてる対象はアレだが、こいつらは曲がりなりにも司祭の端くれだ。
 崇拝してる悪魔や邪神の類から、何かの力を貰ってるはずだが……」
「確かに妙だな。その手の力を警戒していたんだが」
この兵士が言うとおり、何故かは不明だが、彼らの多くは崇拝する存在から力を授かる事ができない様子だった。
当然、この事態に、彼らは激しく狼狽し、混乱し、絶望していた。
中には果敢にも武器を手にとって戦ったり、信心に由来しない魔法を使って応戦する者も居たが、帝国軍の精鋭を相手にできるほどの武力を保持する者は多くなかった。
このため、司祭達の士気はみるみるうちに低下し、兵士達にとっては拍子抜けするほどに簡単な仕事になっている。

184 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/16(木) 05:23:07 0
(……そう言えばあの小娘ちゃん。彼女を置いて逃げた連中は、割とどうでもよさげでしたね。はてさてどう言う事やら?
 あの少女にとって組織がどうでもいいのか。……それとも組織にとって、あの連中がどうでもいいのか)

夜空を横切りながらウルカは報告の内容やらを思索していた。
その過程でふと疑問が浮かんだが、答えは導きようがない。

(まあ、まずは目先の報告ですねぇ。ちょいと飛ばしますか。
 帝国は何となく荒れそうな予感です。このタイミングで長く離れたくはないですね)

風の翼の出力を上げて、ウルカは流星の加速を得る。
大気の壁が一層厚くなり、だが彼女はそれを突き破り進む。
魔力の残量に余裕があるとは言えない。
が、国王のいる城に着いてしまえば魔法薬でも他者から分け与えてもらう事も出来る。

「そう思ってぶっ飛ばして来ましたが……流石に堪えますねぇ。
 さてさて、夜中の緊急会議ですよぉ。なーんで私が文官共のおっそいお目覚めを待たにゃならんのですか。
 ……とは言ったものの、それでも時間は掛かりそうです。今の内に色々やっときますか」

ひとまず国王の近衛や手近にいた兵士に伝達を頼み、ウルカはせかせかと歩き出す。
彼女には報告以外にも、すべき事が山ほどある。
差し当たって最優先すべきは、

「この腕……ですよねぇ……。ぶっちゃけ全く動きませんし。
 飛ぶ時も空気の抵抗がものっそいウザかったんで早急にどうにかしたいんですけどねぇ」

動かない右腕を左手で掴み弄びながら、彼女は廊下を歩いていく。
古めかしい松明の灯りに照らされてはいるものの、廊下はぼんやりと薄暗い。
向かう先は彼女を含めた様々な種族が過ごす為に与えられた城内の一画。
王家と契約をして王国の為に働くのは彼女だけでも、彼女の種族だけでもない。

「……っと、いい所に」

ふと、彼女は正面の薄い暗闇から現れた人影を見て、一言零す。

「あー……アンタ帰って来てたのぉ。何か用でもあるのぉ? アタシ今からお勤めなんですけどぉ」

人影は寝惚け眼で波打つ金髪を褐色の手で後ろに梳き、ウルカと同じく少女然の姿をしていた。
少女然、だ。彼女はウルカとは種族こそ違うが本質と境遇は同じ。
つまり王家と契りを結んだ一族の者だった。

名は、ローリアと言った。

「いやぁ、相変わらずですねぇ。いやね、実は任務で腕がこんなになっちゃいまして」

「んー? ……うわっ、ちょっとアンタ寝起きに変なモン見せないでよ。何したのコレ」

「えへへー、呪いにやられちゃいましてね。ヤバそうだったんで聖水ぶっ掛けちゃいました」

「うっわーよくやるわ。アタシ現地任務とか絶対ムリ。城内でのんびりしていたいもん」

ローリアとその同種達は各々が働く時間を定められていて、それ以外の時間帯は自由に過ごしている。
精力的に情報収集等を行うウルカや、他国に密偵に出ているその同族とは全く違うが、種としての特徴なのだろう。
ウルカが風の如く方々(ほうぼう)へ駆け巡っているとすれば。
ローリアは緩慢に、しかし植物の根のように知識を深めているのだ。

もっともウルカが任務に対して貪欲であるのは、何も種族としての性癖だけでは無い。
ともあれ、

185 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/16(木) 05:24:32 0
「ご愁傷様ですね、多分これから忙しくなりますよ?
 帝国が思った以上に魔法の運用に力を入れてましてね。つーかコレ治ります? 治らないと困るんですけどー」

「……残念だよ。ここでアンタの口を封じなきゃいけないとはね」

「どんだけ働きたくないんですか。あと腕! 私も暇じゃないんですよぉ!?」

「あー……しょうがないなあもう。ほいさ」

事もなさげにローリアはウルカの右腕に手を翳し――忽ち、爛れた右腕が治癒されていく。
ウルカの右腕は聖水に侵されてはいたが、だからと言って魔法的な治療が出来ない訳ではない。
単純な事だ。聖水の効力を超える魔力を以って魔法を施せばいいだけだ。
極論、神や上位悪魔の呪いを聖水では退けられない事と同様である。

「おー、流石ですねぇ」

「ちゅーかアンタ単独任務なら治癒や解呪くらい出来なきゃマズいでしょうに」

「出来ますよぉ。相手が悪かったんですよアレは。何の気配も無しに携行、発動出来る高出力の呪具ってどんだけですか。
 何かすんごい勢いで魔力食われましたし。こっちの研究班もそんくらい開発して欲しいもんですけどねぇ?」

冗談交じりの皮肉を投じたウルカに、ローリアは頭を振り溜息を零す。

「それ太古の遺産とかその類じゃないの? そんなモン再現しろとか過労死しろってのと同義だよ」

「えー貴女の一族ならそれくらい余裕でしょうに。……ん、遺産と言えば嫌な事を思い出しましたね。あぁいやお気になさらず」

「作り方ならとにかく材料が無いよ。技術も。神や悪魔が作った物かもしんないし」

「難儀なモンですねぇ。……あ、そうそう再現と言えば」

治った右腕を早速腰の小物入れに潜らせて、ウルカは小さな瓶を取り出した。
クィルから貰った薬草の小瓶である。
彼女はそれを、ローリアに投げ渡す。

「何これ」

「……貰い物、ですかねぇ? こっちで再現出来れば使えそうです。その程度の解析ならチョロいモンでしょう?」

「あー、うん。研究室にまで持ってく程じゃないね。どれどれ」

右手に握り締めた小瓶を額に押し当てて、ローリアは目を瞑る。
額から滲み出る魔力が根のように薬瓶に這い寄り、侵食していく。

「……ん、完了。細胞の活性化に加えて止血や抗菌にも使える。いいね」

ローリアが目を開く。

「んじゃ、ハイこれ」

そして小瓶をウルカへ投げ返した。

「ありゃ? 別に私は……」

「貰いモンなんでしょ。それに治療だってヘタクソなんだから持ってなさいよ」

「ヘタクソって何ですかヘタクソって。人並みには出来ますよ。ま、あくまで「人」並みですがね」

とは言え再び投げ返す理由もなく、同様に捨てる理由もなく。
結局宙ぶらりんの小瓶をウルカは消去法で小物入れへと戻した。

186 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/16(木) 05:25:58 0
「さて……そろそろおねむの坊や達も起きて集まってる頃合でしょう。呼び止めて悪かったですね。また会いましょう」

「ん、まあそれなりに頑張りなよ」

最後は素っ気の無い言葉を交し合って、二人はすれ違う。
ローリアは研究室へ。
そしてウルカは国王と上級文官の待つ軍議室へと向かうのだ。

「そんな訳で……はいはいどうもー毎度お馴染みウルカちゃんですよぉ。本日も耳寄りな情報を持ち帰ってきましたよっと」

「……その前に、こんな夜中に我々を起こした事について何か一言ないのかね?」

会議室は廊下よりは幾分マシだが、やはり薄暗かった。
不機嫌を隠そうともせず、一人の文官が嫌味を吐く。
ウルカは、笑顔を崩さない。

「それもそうですね。ところで私が日々昼夜を問わず敵国の地を駆け天を裂いている事について何か一言ありますか?」

あくまでも無邪気な笑みは保ったままに彼女はそう言って、

「……人間風情が、あまり調子に乗らない方がいいですよぉ?」

刹那の内に嫌味を吐いた文官の眼前へとその身を移していた。
机の上に無造作に座り左手で文官の首を捉え、右手の指二本を両目に肉薄させる。
指の先には金属製の魔法で生やした、小さく鋭利な爪が生えていた。

「勘違いをしているようなので教えておいてあげましょう。私はですね。別に王国に忠誠を誓っている訳でも、この身を捧げている訳でもないのですよ」

にこやかに滔々と、ウルカは語る。
左手は微動だにせず、右手は更に眼球との距離を縮めていく。

「私はあくまで王家との契約に従っているだけです。もう百年以上も前の、私が生まれてすらいなかった時に結ばれた契りにね」

ウルカの言葉が虚空に去ると、沈黙が場を席巻する。

「……ウルカ、その辺にしてあげておくれ」

沈黙を打ち祓ったのは、穏当な響きの音声だった。
ウルカの視線が目の前の文官から、声の生まれた方へと逸れる。
薄明かりの向こう側に鎮座する、男へと。

清冽な雰囲気の感じられる男だった。
数年前に隠居した前王のような雄大さはまだ無いが、
この暗澹たる空気の中で彼だけが微風に包まれ、体の中に宿る灯火から輝きが溢れているような。

「彼は王国に仕え、よく働いてくれている。相応の矜持と言うものがあるんだよ」

国王の声色に不遜の響きはない。
文官もウルカも、双方の思う所を理解した上で物を頼んでいる。
王家の人間たる彼ならば、問答無用でウルカを律する事も出来ると言うのに。

「……ふむ、確かに。自分の仕事や、その成果である地位に矜持を持つのは悪い事ではありませんねぇ。
 そう! 何が悪いってこの薄暗さですよ! こんなくらーい場所じゃそりゃ気分もどんよりしますよっ!
 なので……とうっ!」

ウルカが指を弾き、小気味いい音を奏でる。
同時に小さな火の玉が宙空に生まれて、室内を昼間と遜色なく照らした。

「そうそう、これですよ。これからは生活の端々にまで魔法を行き渡らせるべきです。戦場だけでなく、ね。
 廊下にしたってそうですよ。あんな薄暗さじゃただでさえ面倒臭がりのローリア達にゃカビが生えちゃいますよぉ?」

187 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/16(木) 05:26:51 0
部屋の明度の急増した所で、ウルカは報告を始める。

「こと魔法の軍事的運用にかけて、王国は帝国に大きく遅れを取っていると言わざるを得ません。
 ですがだからこそ、軍事だけではなく王国に広く魔法を膾炙させるべきです。
 そうすればただ戦争の為と言うよりも理解が得られますし、国民もより良いものを作ってくれます。それに何より、国全体が強くなれる」

同時についさっきまで仮面のように張り付いていた笑みは見る影もなく潰えていた。
冷冽な瞳で、卓を囲む面々を見渡す。
風の魔法によって宙に踊る羽ペンと羊皮紙が、仔細な情報を一同に示していた。

「帝国は民を胡麻のように絞っています。ならばこちらもそうするべきでしょう。……ただし帝国とは違って、賢いやり方でね。
 当面力を入れるべきは水と土の属性ですね。水の魔法で最低限相手の魔法を鎮静、相殺出来れば白兵戦に持ち込めます。
 土の属性は守りを固め、地形を変えて相手の攻めを削ぎ、また国土を豊かにする事も出来る。つまり……」

「今は守りに徹しろと?」

立板に水の語り口の締め括りは、ウルカの言葉ではなかった。
先程彼女に毒を吐いた文官が、その時とは別人の怜悧な表情で問いを放っていた。
ウルカと文官、静謐な視線が交錯する。

「その通り、今無理に帝国を攻めれば手痛い反撃……火傷くらいじゃ済まないかもしれませんよ」

「解せんな。確かに帝国の軍事力は王国に勝るかもしれんが、我々は近隣諸国を味方につけている。
 ならば帝国が味方を得てしまい、近隣諸国が心変わりをする前に……」

「帝国は『勇者の遺産』を手に入れましたよ」

文官の口上を絶ち切って、ウルカは告げる。
途端に、場が騒然となった。

ざわめく空気を、指を弾く快音が払った。

「……そう、今帝国に手を出せば最悪、こちらが丸裸にされかねない」

一度言葉を切り、ウルカは軍議に集った面々に視線で撫でる。

「ですが、まだこれが真実とは限りません。ただのブラフだったのかもしれませんし、
 手に入れたと思っているそれが贋物の可能性だってある。……けれども、もしも真実なら。早急に手を打つ必要があります」

ここに来て、ウルカの表情に笑みが舞い戻った。
真一文字に結ばれていた唇の端が、微かに吊り上がる。

「なので……そこは引き続き私の役目ですねぇ? 『遺産』の真偽を確かめ、可能ならば破壊と奪取。成し遂げてみせましょう。
 それに帝国には火種も沢山あります。それらを燃やしてやるのも面白い」

左手を腰に当て、ぴんと立てた右手の人差指を突き出し、ウルカは笑う。

「と言う訳で……現地でのお仕事はどうぞ私にお任せを。皆様は来たるべき時に備え、この国をより一層の高みへと押し上げて下さいな」

彼女の言葉を契機として、軍議室の空気が震える。
慌しく、しかし騒然と言うよりは活気付いたと言うべき熱量で、皆が檄を飛ばし合う。
寝床に帰ろうなどと言う者は、誰一人としていなかった。

そしてその様を、ウルカ・ウェンティは一人冷やかな視線で捉えていた。

(……単純ですねぇ。まぁその方が楽だから文句はありませんがね)

だが不意に背後に気配と足音を感じ、彼女は振り返る。
国王が立っていた。
眉尻が下がり、ウルカを見下ろす双眸は何処か哀しげな雰囲気を醸していた。

188 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/16(木) 05:27:51 0
「……すまないな。君の『契約』の事は父から聞いたよ」

国王の小さな声に、ウルカの両眼が薄らと細った。

「……聞いているなら、謝る必要が無い事も分かるでしょう。これはお仕事ですよ、お仕事」

平然とした――少なくとも表面上は完璧に平静を装った――音律で、彼女は答える。

「私は私のすべき事をするだけです。……約束された『対価』を得る為にね」

一息に告げて、ウルカは国王から顔を背けた。
そうして暫しの休息と装備の点検、補充を行うと朝日が昇る前に白んだ空へと身を投げる。

「さぁて、すべき事は山ほどありますが。ひとまずは……」

再び彼女は帝国の天を裂いて、地を踏み締めた。

「……腹ごしらえですかねぇ。折角帰ったんだからちょっとくらい贅沢しとけば良かったですよ……」

彼女は小さく呟く。
乾いた大地を靴裏が擦る音を、腹の虫の悲鳴が掻き消した。

【帝国にただいま。時間軸を明日に移したので暫し静観しますよぉ】

189 :フェゴルベル ◆I3NrfT2wzE :2010/09/17(金) 22:05:07 0
>>179
「よう、戻ってんな。
 ……言いたいことはあるだろうが、とりあえず薬を処方してくれ。体が外も内もボロボロだ」

クィルがアジトへ戻ってから半刻が経ってからようやくフェゴルベルは姿を現した。
顔が青い。クリムゾン・ブレスの影響だろう。
そんな顔とは対照的に、鎧を脱いだ体は赤黒く膨れ上がらせていた。
膨れ上がった肉はところどころ抑圧から逃げようと皮膚を裂いており、その様子は直火に当てたトマトを連想させた。

「……言い訳はしねえよ」

血を交えた吐瀉を数度繰り返し、やっと落ち着いたフェゴルベルはばつの悪そうにぽつりとつぶやいた。

クィルやファイと組んでからは初めて喫した大敗北であった。
これまでの予定調和のような連戦連勝はこの時をもって終わりを告げたのだ。

ふと、ファイがフェゴルベルへ歩み寄った。
馬鹿大将を斬るか――などというフェゴルベルの逡巡をよそに、ファイがフェゴルベルに渡したのは巻物の形をした書簡だった。

「お前、クィルのとこへ行けって言ったのに何で王国の奴の所に行ってんだ」

ファイに悪びれる様子は無い。
王国の使いはファイがクィルのもとへ向かう途中であちらから現れていた。
書簡を受け取ったことで彼はクィルへの加勢は諦め(もっとも彼自身ははじめから加勢が必要だとは思っていなかったが)、
回り道をしながら別ルートでここへ戻ってきたのだ。
そのことをフェゴルベルに話すと、フェゴルベルはふうんと呟きながら書簡の紐を解いた。

「……、……、……。採用は無理だとさ」

フェゴルベルは書簡を壁に投げつけた。
書簡の最後には王国のさる貴族の右腕とされる人物の名前が署名されている。

――王国への登用をねらうフェゴルベルは王国の使いと通じていた。
今回の戦線への参加はその使い(正確には使いの主人だが)の提示した条件であった。
すなわち『敵軍の指揮官と対峙し、殺害あるいは捕縛すること』。

「偉い貴族だって調べはついてたが……まさか第九皇子だったとはな。いや皇子はともかく、あんなブツを持ってたたぁ……」

用心のために欠片を持っていたが……まさかそれでも不足とは。

「あの皇子様の首狙ってたのも王国の奴か――ああ、今頃になってようやく頭が回ってきやがった。
 だから俺らにオトリをさせたってわけだ……クソッ」

怒りと不甲斐なさが抑えられないフェゴルベルはさらに欠片を床にたたきつけた。
赤い宝石を思わせた欠片は力を出し切ってしまい、灰色の、ただの小石と成り果てていた。

190 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/21(火) 04:08:20 0
「……エーテア、……ビィフィム、……シクシャ。……あとなんだっけ。デールの実……じゃない葉」

薬草棚を覗きながら、次々とクィルは手にした篭に放り込む。
そのどれもが禍々しい色を発しており、薬草学に心得のある者が見れば顔を顰めるだろう類の物。
つまりは毒草に分類される代物ばかりである。

「……んしょっと」

それらを石臼の中に撒け、ごりごりと丹念に磨り潰す。
クィルの額に汗が浮かび始める頃、臼の中には何とも言いがたい刺激臭を漂わせる黒色の粘液が出来上がっていた。
匙で掬ってコップに落とし、かき混ぜる。
泥水もかくやと言うほどに黒く濁った水がなみなみと注がれたコップを盆に乗せ――

「……苦いよ。尋常じゃないくらい。……飲んだことないから解らないけど」

――クィルはフェゴルベルに差し出した。

作戦に失敗したフェゴルベルに罰を与えるため。では勿論無い。
アジトに戻ってくるなり鎧を脱ぎ捨て、外気に晒されたフェゴルベルの肌は酷い有様だった。
所々が赤黒く膨れ上がり、中には皮膚を裂いて膿が出ているものまであったのだ。
クリムゾン・ブレスがもたらす災禍を間近で浴びた影響である。

今回用いた呪いはハラルを食せば問題無いが、それを引き出すために石が内包する無数の災いを間近で浴びたフェゴルベルは例外なのだ。
生半可な薬効では効果を成さないため、まさに毒をもって毒を制するほか無い。

>「……言い訳はしねえよ」

杯を受け取ったフェゴルベルがぽつりと呟く。
フェゴルベルが采配を採り、クィルが援護し、ファイが斬り込む。今まで大概の相手にはそれだけで勝利を掴んできた。
それだけでは勝てない極僅かな例外もフェゴルベルの切り札を使えば総崩れになった。

「……うん。ごめんなさい」

その常勝無配の方程式が覆され、此度の敗走に至ったのである。
責は自分にある。クィルはそう思っていた。
ウルカの乱入を許し、与えられた役割を十全に果たせなかったがゆえの謝罪であった。

191 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/09/21(火) 04:11:03 0
>「……、……、……。採用は無理だとさ」

しょんぼりと項垂れるクィルを他所に、フェゴルベルはファイから受け取った書簡に目を通し、壁に投げつける。
これまでも帝国に被害を出すことは出来ていたが、所詮それは末端部に過ぎない。
帝国そのものを潰すのに必要となるのは、結局の所物量なのだ。
それを補うためにフェゴルベルが王国へ渡りを付けていたのだが、どうもそれは徒労に終わったらしい。

「……悪いことは重なるもの、なの」

クィルなりに慰めの言葉をかけるものの、いつもの抑揚の無い声では効果は推して知るべしだろう。

>「偉い貴族だって調べはついてたが……まさか第九皇子だったとはな。いや皇子はともかく、あんなブツを持ってたたぁ……」

案の定、微塵も結果を出せずフェゴルベルの声はますます沈んでいく。

(でも、クリムゾン・ブレスを圧し返す程の力を持つ魔法具って何?)

災厄の結晶と言っても過言では無い赤石は、個人が携行できる魔具の中でも指折りの希少性なのだ。
それこそ伝説に名を残すような代物でもなければ不可能では無かろうか。
そしてそんな物は実在すら怪しいレベルである。

>「あの皇子様の首狙ってたのも王国の奴か――ああ、今頃になってようやく頭が回ってきやがった。
 だから俺らにオトリをさせたってわけだ……クソッ」

語気も荒く床に叩きつけられる灰色の小石。
跳ね返り、足元に転がってきたそれをクィルは拾い上げ、掌中で転がす。

(首を狙った王国の奴って、やっぱりウルカのことだよね)

飄々とした暗殺者。
そういえば彼女は別れ際何と言っていただろうか。

「……フェゴルベル。……あの暗殺者、ウルカって言うんだけど……連絡取れる、かも」

クィルは自身の頬を指し示しながらフェゴルベルに告げる。
そこへ施されたマーカーに念じればウルカが気づいてやって来る。筈だ。

「まあでも……王国に一旦帰るって言ってたから……すぐには無理かも。
 ……でも、またこっちで仕事するって……言ってたよ」

クィルでは気付かなかったウルカの裏の顔も、フェゴルベルなら看破できるかもしれない。
そうでなくても王国が巡らす陰謀の一端を担う彼女と、会って話すことのもたらす情報は少なくないだろう。
だがそのためには無策というわけにもいくまい。

「……って訳なんだけど。……フェゴルベル、どうする?」

192 :ロイス ◆DVMwaG3GVlRF :2010/09/21(火) 21:00:51 0
名前:ロイス・シュルツ
年齢:25
性別:男
身長:176
体重:70
スリーサイズ:―
種族:人間
出自:王族の隠し子
職業:解放軍に駐在する商人
性格:陽気
特技:様々な武器の調達
装備品右手:隠し武器(小型剣・仕事時のみ)
装備品左手:隠し武器(投げナイフ・仕事時のみ)
装備品鎧:皮製の肩掛けと軽装
装備品兜:無し
所持品:回復薬、手製の計算盤(木製)、小型の背負い袋(中身は仕事衣装)
容姿の特徴・風貌:黒髪、黒目のそこそこいい男。若干にやけ気味。体型は
筋肉質で少しがっちり。
趣味:果実の採集
将来の目標:でかい商館を建てたい
簡単なキャラ解説: 王国の現王の隠し子。
王に付いていた下級仕官の娘だった為、そのまま不問に付され
母親は処刑・息子であるロイスのみが王の温情により生き延びた。
現在は商人をしており、解放軍へ出向き援助を行っている。
表の仕事(商人)と、裏の仕事(執行者)の2つを持っている。
執行者とは、特別な任務に就くものであり
その正体は王国内部でも知る者は少ない。

(参加希望です。宜しくお願いします)

193 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/09/22(水) 00:59:04 0
四散した蝿の群れは、遠く離れた場所で再び一箇所に集まり、それが再び少女の姿――ベルになった。
当然、再び身体を構成するのに、人気の無いところを選ぶくらいの警戒心はある。
その場所とは、ファスタの街の東に拡がるイスニア大森林だ。

あの場から逃亡したベルは、教団とは無関係の、新たな計画に着手しようとしていた。
「ふう……すごいプレッシャー。危うく飲み込まれるところでした。
 でもこれで、わたしは自由です――まあ、元から自由なんですけどね」
ベルは暗黒司祭との契約書に、暗黒司祭だけが損をするような詐術を仕込んでいた。
彼女は契約時に、確かに暗黒司祭に幸福を約束したが、その実、もっと約束されるべき事柄を明記せずに契約を結ばせた。
実のところ、暗黒司祭は最初から丸裸であり、更に悪いことに、死後はその魂がベルの所有物になる運命にあるのだった。
「いい保存食だったんですけどね。賞味期限が切れちゃったものは仕方ありません。
 よーく火を通さないと、お腹壊しますからね」
今頃ヴォルフとその手勢が、教団を完膚なきまでにやっつけているに違いない。
そして、ベルとウルカが結託して良からぬ陰謀を成そうとしていることを、彼はノインに報告するだろう。
ベルはそのように予想していたが、実際には細部が異なるかもしれない。

さて、ベルが懐から取り出したるは、謎の宝石をあしらった指輪だった。
見たところ、クリムゾン・ブレスとはまた違った石で、これを持つベル自身の不浄なオーラとは相反する性質の光を放っている。
彼女はそれを見て、ちょっと困った顔をした。
「んー、解放軍側で“希望”に相応しい方って誰かしら。
 できれば、将来に希望を抱き続けている人――そうだわ!」
ベルは懐から一匹の使い魔を取り出した。
彼女に限らず、ある程度の修練を積んだ魔術師は、使い魔を通じて遠隔地にあるものを見る術を使うことができる。
そしてベル以外の全ての者にとっては困ったことに、彼女の使い魔は、それはそれは小さな蝿だ。
その小ささ故に非常に感知され辛く、たとえ姿を見られても「蝿が居る」程度の感覚しか呼び起こさない。
一度手の内を見せたヴォルフにだけは通じないが、解放軍の様子を探るには最良の手段である。

【“希望”に相応しい人を探すため、解放軍に使い魔の蝿を潜伏させます。】

194 :ロイス ◆DVMwaG3GVlRF :2010/09/24(金) 21:56:07 0
「なぁ、そこのお客人。この薬草は中々手に入らないよ?どうです?」

柔和な表情を浮かべ、1人の商人が解放軍の一角で屋台を開いている。
屋台といっても、直にたためるよう布1枚を広げた簡単な物ではあるが。
彼の名前はロイス・シュルツ。元は帝国の出身である。
その素性は誰にも語る事は無く、また聞かれる事もないのだが。

彼はここで、日々商いを通して人と接している。
たまに来る値引きを求める厄介な相手もいるがそれもまた、商いの
楽しみの一つだとロイスは感じていた。
ある意味、駆け引きをしているようなものだからだ。
普段から飄々とした物腰で、解放軍の間では「微笑みの商人」と呼ばれている。

「しかし、随分と派手に戦いましたね。私は、まぁ逃げようとしてた腰抜けですが。」

笑みを浮かべ、兵士達へ薬草を手渡す。
彼の顔に、月の明かりがゆっくりと重なった。


195 : ◆XMoIGXtk5. :2010/09/27(月) 00:21:03 0
ノインとフェゴルベルの交渉が決裂した。
それはすなわち、首謀者達の処刑を以て解放軍のクーデターが失敗したことを意味する。
戦火に包まれたファスタの街の中央広場で、傭兵であるフェゴルベル一派を覗いた純戦力の指揮者が処刑台に上げられた。

「何か言い残すことは?」

執行官の代役として立てられた帝国兵は、街の教会から供出させた教典を扇代わりにして熱火に晒された肌をそよぐ。
そこに厳粛さはなく、単に教父の真似事をして遊んでいるだけだ。

「……最早何も言うまい。我らの声は、血と骨の叫びは!秩序の名のもとに黙殺されたのだから!」

民兵の指揮者は諦念を隠さず言った。
帝国兵はこれ見よがしに嘆息する。

「そういうことじゃなくてさあ。あーあ、街に残してきた家族とかになんかあれば伝えといてやろうと思ったのに」

「伝えた後で、一族郎党皆殺しか?生憎とことを起こす前に縁を切ってある。みせしめは聞かんよ」

「あっは、バレた?」

「悪辣の者共めが……!」

「あー、駄目だね、アンタ何か勘違いしてる。善とか悪とか、そういうこといってる時代は終わったの」

首にかけられた縄が、風属性の浮動術によってゆっくりと上昇していく。

「戦場での価値観は、『敵か味方か』。それだけだ。こうやって暴力に訴えなきゃまだあんたは善人で済んだのにな」

やがて指揮官は静かに、表情一つ変えることなく――徹頭徹尾、苦悶に顔を歪ませながら、動かなくなった。
指揮官の処刑はすぐに戦場に伝えられ、情報は駆け巡り、各地での戦闘を終逸させた。

闘いは終わったのである。


【責任者処分。傭兵団が手を引いたことで戦闘続行はなしと判断した帝国軍は撤退を開始】

196 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/09/27(月) 00:22:13 0
【帝国軍本陣:野戦慰休所】

バルクホルンは簡易ベッドの上で、治療官から治癒魔法を受けながら撤退の鐘を聞いた。
傍の丸椅子には同僚が静かに腰掛け、消費した魔力の回復に務めていた。
ノインが前線から退いた以上、近衛兵の役目は終わりだ。同じ部隊の連中も、今は詰所や各地の戦力補填に出向いている。

「残党勢力の掃討はどうなってんだ?」

「傭兵団が手を引いたようだから、解放軍の本隊は最早戦えないだろう。今は投降待ちだな」

「へえっ、てっきり殲滅戦にでもなるかと思ってたんだがな。皇子にしちゃ珍しい温情じゃねえか」

「領主貴族たっての嘆願だそうだ。大方搾取する民衆に死なれては困ると思ったか、あるいは」

「町民に恩を売っておきたいか、か。よくやるぜあのおっさんも」

「どの道この街に未来はないさ。クーデターが失敗した以上、帝国からの風当たりは酷いぞ。その原因にもな」

「胸糞悪い終わり方だ」

バルクホルンは吐き捨てると、水差しを取って直接口を付けた。


197 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/09/27(月) 00:25:13 0
すぐ吐いた。

「ぶはっ!? な、なんだこの渋味と辛味と苦味とえぐ味は」

「薬湯だ。こんあこともあろうかと用意しておいた。
 滋養強壮に効きそうな薬草類をのべつまくなくこれでもかとばかりに詰め込み煎じて3年間熟成させておいた物だ」

「効きそうなって、お前そりゃただの草も多分に入ってんだろ」

「失敬な、おばあちゃん直伝なんだぞ。今年で齢200だが未だに私より若い」

「それ完全に別の効果出ちゃってんじゃねえか」

「つやつやピチピチだぞ」

「お前は俺をつやつやピチピチにしたいのか……?」

「面白い冗談だなバルクホルン!」

「ああそうかいそりゃ良かった。冗談みたいな生物が同僚だからな!」

同僚は勢いをつけて丸椅子から立ち上がると――身長が足りないのでそれは必然飛び降りる形になったが、そのまま中座した。
滅多に見せない素肌を外套のフードで再び覆い隠すと、治療官に何か言付けして出て行った。バルクホルンには聞こえなかった。
見送った治療官は苦笑しながら中断していた治癒魔法を再開する。

「おい、あいつに何言われた?」

疑問を素直に問いに変えると、治療官は少しだけ逡巡して、口止めされてないしまあいいか、と結論を出し、

「エストアリア上級武官が、心付けを多めに払うからなるべく早く治してやってくれと仰いましてね」

含み笑いを堪えきれないようにそう言った。
バルクホルンはへえっ、と関心の相槌を打つ。

「いいとこあるじゃねえの。どうせまたろくでもないこと言ったもんだと……」

決めつけを反省すると共に、少しだけ胸の底に快いものの芽生えを感じる。
長命種出身のいまいち何を考えているかわからない同僚であるが、彼女なりに心配してくれていたのだと。
腹の底に熱を感じるのは、年甲斐もなく感動を覚えているのだろうか。

「隊長がお呑みになった薬湯はマジで適当にその辺の草引っこ抜いて煎じたものなので、全力で治療しないとヤバいかもしれないと」

「ろくでもないことだった! 前言撤回だあの馬鹿ッ!!」



【ノイン皇子とその近衛部隊は帝都へ帰還】


198 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/30(木) 21:19:49 0
最寄の街で腹ごしらえを済ませ、ウルカは再び高空へと舞い上がる。
けれども今一歩彼女の飛翔には切れが欠けて、冴え渡らない。

「……うーむ、まあ戦争中ですしねぇ。あんなモンですか」

理由は他ならぬ、先程取った食事にあった。
言うまでもなく帝国は戦争中なのだ。そこいらの村や町で上等な食事にありつける訳がない。
任務明けで彼女が漸く得たのは、雑穀混じりの固いパンを味の薄い野菜のスープで喉を通らせただけの食事だった。
無論彼女とて一端の密偵だ。もっと劣悪な食事とも言えない物ばかりで飢えを凌いだ事もある。
堪えられない訳はないのだが――やはり気概が今一つ萎えてしまうのも確かだった。

「金はあるんですけどねぇ……。そもそもの食料が無いんですね。
 一般庶民でアレですから、解放軍の面々はそれはもう貧相で劣悪な食事を強いられているんでしょうねぇ。
 ……そう言えばあの森人さんも随分と細かったような。ま、それはそれでアリですけどね。むふふ〜」

若干、品性に乏しい笑みを浮かべながら彼女はその森人――クィルの元へと飛ぶ。
昨晩施したマーキングはどうやら生きているようで、追跡は可能だった。
森の傍まで飛び、それからは着地してクィルの反応がある方向へと歩く。
上空から直接降下しても良かったが、彼女の他に仲間がいるであろうと考えるとそれは余り好ましくない。
動転した彼らに咄嗟の攻撃でも仕掛けられては面倒だ。

「あ、もしもーし。……っと、別に怪しい者……ではありますけど敵じゃぁありませんのでご安心を。
 その剣を下ろして下さいな? そう、実は私はクィルさんとお知り合いでして。
 ……ついでに言えば、王国の者でしてね。えぇ、その通りです。貴方達に力を貸しに来た、と言う訳ですね」

一通り説明を終えて、ウルカは唐突に鞄を漁り出した。
狼狽える見張り番は気に掛けず中を弄り(まさぐり)、昨晩クィルに貰った薬瓶を取り出す。
見張り番の表情が不意に、苦々しく歪んだ。

「これ、彼女から頂戴した薬草なんですけどね? お仲間にも同じ物を使ってるんじゃないかと思いまして。
 もしそうなら確認してもらえればと思ったのですが……その様子じゃ聞くまでもないようですねぇ」

彼の素振りや表情を見るに、この薬はやはり見た目通りの凶悪さを孕んでいるのだろう。
顔を微かに顰めて、ウルカは小瓶を鞄へと仕舞い込んだ。
ともあれ見張りが呼んだ解放軍の一人に、彼女はクィルの元へと案内される。
討議でもしていたのか、昨晩は見なかった面が二つ、場に揃っていた。

「ありゃりゃ、これまた初めましてですねぃ。クィルさんから聞いているかも知れませんが、
 一応自己紹介を。わたくし王国の密偵を務めております、ウルカと申します。
 昨日はクィルさんにご迷惑をお掛けしまして……」

ウルカが浮かべる友好的な笑顔に、言葉が途切れると同時に不遜の色が浮かぶ。

「お詫びと言ってはなんですが……貴方達にお力添えをして差し上げましょうか」

痩せ細った月を描く彼女の双眸が、床に転がる書簡をちらりと捉えた。

「ありゃま、どうやら駄目だったようですねぇ? ま、そりゃそうです。
 貴方達の何が良いって、死んでも王国が痛まない事ですから。
 まっ、要はどーせ期待してないけど草の根運動を続けてろって事ですねぃ」

軽薄な笑みが書簡から三人へと矛先を変える。
薄ら笑いを模る口元が、悪舌を紡ぐ。

「役に立てば僥倖。少なくとも暴れてくれれば帝国の力と意識はそちらへ逸れる。
 「その程度の瑣末な存在」である事に意味があるんですよ、貴方達は。
 雇われていないからこそ価値があるんですから、雇ってもらえる筈はありませんよねぇ。
 えぇそうです。この先貴方達がどれだけ頑張ろうと、王国が貴方達に手を差し伸べる事はありませんよ」

199 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/09/30(木) 21:20:32 0
ここで忽ち、彼女の笑みが挿げ替わる。
嫌らしい悪意を湛え横溢させていた薄暗い笑顔から、好意的な雰囲気を醸す明朗な笑顔に。

「だけど、私はこれまた話が別です。何せ私も草葉に潜み影の仕事をこなすのが使命ですから。
 同じ日陰の存在だからこそ、力も貸せるってモンです」

ぴんと人差し指を立てて突き出し、彼女は続ける。

「そう、貴方達は茂みに潜む一振りの刃になればいいのですよ。
 隙あらば飛び出して仇敵の喉を掻っ切り、躍起になった相手が引き摺り出さんと手を伸ばしてきたのなら、その手を切り落とす。
 つまりこの私のように! あ、ここ私を褒め称える所なので大々的にお願いしますねっ!」

さあ割れんばかりの喝采をと、ウルカは両手を広げて胸を張った。
誰かが空気を読んで――或いは読まずに拍手を寄越せば、彼女は満足気に頷く事だろう。
もっとも貰えなかったとしても、彼女は構わず話を続けるのだが。

「とまぁ、そんな訳で早速耳寄りな情報を一つ……ですがその前に皆さん、お腹の方は空いていませんか?
 いえ空いているでしょうねぇ。立場が立場、場所が場所です。まともな食事なんか随分とご無沙汰じゃぁありません?」

クィルに歩み寄り、ウルカは彼女のお腹を指先で撫でる。
やましい意図は――あんまり、無い。
一応返ってくる触感を確かめると言う意図は確かにあるのだ。

「耳寄り情報ってのはつまり、それですよ。実はここから少し離れた町に糧食の貯蔵庫がありまして。
 その内火でも放ってやろうと思ってたのですが……どうせなら頂戴してしまった方が都合がいい。
 無論、ただの放火よりかは格段に難易度が上がりますがね。それに何より……」

言葉を切り沈黙を設け、ウルカは場の面々に視線を配る。
これから放つ言葉を、情報を、しかと噛み締めろと言わんばかりに。

「その町には今、あの第九皇子様が駐屯しているのですから」

クィル達を敗北の泥濘に叩き落とした男が。

「一筋縄では行きませんよ。最悪……命を、仲間を失うかもしれませんね。
 まぁ、最終的には二者択一です。飢餓と言う泥沼に沈みながら緩やかに死へ歩み寄るか。
 死中に潜む活をその手で掴み取るか。……さて、貴方達はどちらを選びますか?」

【糧食強奪大作戦を提案】

200 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/10/01(金) 01:09:26 0
>>195-197
ベルは予め確保しておいた隠れ家に身を隠していた。
教団を切り捨てたことは、彼女にとって良いことばかりではない。何せ使える手駒が減ったのだ。
彼女は今のところ、各地に蝿のスパイを派遣し、そうして得られた情報を、美味しいものを食べながら吟味するだけで満足している。
「何よう、すぐに消火されちゃったじゃない!
 どういうことなの!もっと多くの人がゴミみたいに死んでこその戦争でしょう!?」
だが、帝国軍がさっさと帝都へ引き上げてゆくのを見たときだけは、ベルはあからさまに憤慨した。
ベルの目的は無為な流血に他ならないが、その量が少ないと思ったのだろう。
しかし彼女は気分屋であるから、機嫌が直るのも早かった。
「……んー、でもまあ、やっぱりこんな地方の小さな反乱ですからね。
 もっと大事になるような、強力な火種が必要ですね。
 ――そうだわ、喉元で大規模な反乱が起こった方が、収穫高は多くなりそう!」
帝都で反乱の火の手が上がれば、帝国軍は今回以上に苛烈な行動に出ざるを得ない。
何せ、そんな事態が起こることは、皇帝の威光が完全に衰えている証に他ならないから。
だが、帝都の火種に点火するのは、もっと先だ。単に帝都で反乱が起きるより、もっと多くの血が流れるようにしたいからだ。

また、彼女はこうも考えた。
そもそも彼女にとっては、必ずしも帝国が打倒される必要は無く、多くの流血と死があればそれで良い。
ただ、彼女の真の目的が実現すれば、帝国は確実に歴史の表舞台から姿を消す。
もちろん、そうなることで得をするのは彼女であり、もっと言うなら彼女だけが得をする。
何故なら帝国の領土には何も残らないから。
そして、そのためには、“希望”を胸に帝国に反旗を翻すだけの度胸と野心を兼ね備えた英雄が必要だ。
それが居たか?なるほど、フェゴルベルとかいう男がそれに近いかも知れない。
だが、すぐに決める必要は無いことだとも、ベルは考えている。少し待てば、もっと相応しい者が現れるのではないかと。
「ま、わたしには無限に時間がありますからね。
 暫くはここに身を隠して、ゆっくり考えましょう」

>>198
見られている。
クィルやウルカはそう感じるかも知れないし、ベルがその視線の主である蝿の密偵を送り込んでいることには気づかないかも知れない。
だがどちらにせよ、ベルが密偵から得た情報は、彼女にものすごい忍耐を強いることになった。
「食料強奪ですって!」
彼女はテーブルを叩いて立ち上がった。
糧食強奪計画が立つということは、つまり、そこに食料がいっぱいあるということである。
彼女は業深い。暴食の大罪を背負っていて、常軌を逸した大食漢だ。
これまで教団で行われた儀式の生贄のうち、少なくとも半分は彼女の腹の中に消えている。
彼女は目の前に大きな餌をぶら下げられ、それに飛びつくのを我慢しなければならないのだった。
「そうだ、目先の食料庫よりも、計画を優先しないといけないわ!
 ……まあ、気づかれてから出て行けば良いかしら」

201 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/10/05(火) 02:49:27 0
混濁の淵から意識が呼び戻される。

「…………寝てた」

石畳の床に大の字になって寝こけていたクィルは、むくりと起き上がるとひとりごちた。

無理も無い。
準備段階も含め一昼夜。それこそ休む事無く帝国軍の相手をしていたのだ。
昨夜アジトの一つでフェゴルベルとファイ、両名との合流を果たしたことで緊張の糸が切れたのだろう。

「……それにしても……なにごと……なの?」

まだしょぼしょぼする目を擦りながら呟く。
目覚めは決して良いとはいえない。
装備もそのままに固い床で寝たこともさることながら、外からの喧騒で起こされたのも要因の一つだろう。

「あー起こしちまいましたか、休んでたトコすンません」

部屋に入ってくるなり謝罪するのはまだ若い解放軍の兵士。
おそらく連絡要員として残した内の一人だろう。

「なんつーか、見るからに怪しげなヤツが面会希望っつって来てンですよ。本人は王国のモンだって言いはるンですが……」

「……フェゴルベルじゃなくて……私?」

「ええ。一応身分証明ってことであのトンでもなく滲みる……すンません、良く効く薬草を提示しているンで」

そこまで言われて心当たりに気づく。
この状況下でフェゴルベルではなくクィルに会いに来る人物。ましてや薬草入りの瓶を提示するとなれば一人しか居まい。

「……あー……樽の人。じゃない……ウルカ」

クィルは呟くと既に起きているであろう二人の表情を伺う。
負傷していることを微塵も表さぬ態度で椅子に腰掛けるフェゴルベル、無表情で壁にもたれたままのファイ。
その二人ともが頷きを返し、クィルもそれに首肯する。

「……じゃあ、ここまで通して」

ウルカの来訪を告げに来た兵士へ会うことを告げる。

「ウィッス。そンじゃ連れてきますわ」

「……よろしく。……そうだ、その人暗殺者でもあるから……武装解除は忘れずに」

扉を出る寸前にこちらを向いた兵士の顔は、なんとも形容しがたいほどの渋面であった。

202 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/10/05(火) 02:50:29 0
出て行った兵士とは別の者に案内され部屋へとやって来るウルカ。
先の若い兵士は暗殺者と聞いて役目を別の者に押し付けたのだろう。
なかなか抜け目ない少年のようだ。

「……ありがと。……ウルカの持ち物はそこの机に置いてっていいよ。……ただのいやがらせだから」

案内役の男は嫌な顔一つせず、言われた通りに装備を机に並べて退室する。

>「ありゃりゃ、これまた初めましてですねぃ。クィルさんから聞いているかも知れませんが、
 一応自己紹介を。わたくし王国の密偵を務めております、ウルカと申します。
 昨日はクィルさんにご迷惑をお掛けしまして……」

こちらの仕掛けは意に介さずといった風に、相変わらずの笑顔でウルカは自己紹介を終える。
だがそれと同時に笑みを崩し、次に表すのは不遜の表情。
詫びとして力添えをしようと。そう告げる。

>「ありゃま、どうやら駄目だったようですねぇ? ま、そりゃそうです。
 貴方達の何が良いって、死んでも王国が痛まない事ですから。
 まっ、要はどーせ期待してないけど草の根運動を続けてろって事ですねぃ」

細く弧を描く悪辣な笑みはそのまま、ウルカは床に放り投げたまま放置された書簡を目ざとく見つける。
吐き出す意見はどこまでも正論。それゆえにことフェゴルベルには堪えるだろう。

「……言っちゃったよ」

案の定、背後に居るフェゴルベルから抜き差しなら無いほどの威圧感が噴き上がる。
気配こそ変わらないものの、ファイも組んでいたはずの腕を解き、何時でも腰の剣を抜き打てるようにだらりと垂れ下げていた。

一触即発の空気。それでもウルカの悪口はとどまる所を知らない。
ひとしきり正論という名の悪舌を振るい、そしてまた表情を一変させる。来たとき同様友好的なそれへと。

あまりの変貌振りに毒気を抜かれたのか、舌打ちを残してフェゴルベルの殺気が霧消。
それに伴い、ファイも我関せずといった感じで腕を組みなおすと気だるそうに壁に寄りかかっていた。

>「そう、貴方達は茂みに潜む一振りの刃になればいいのですよ。
 隙あらば飛び出して仇敵の喉を掻っ切り、躍起になった相手が引き摺り出さんと手を伸ばしてきたのなら、その手を切り落とす。
 つまりこの私のように! あ、ここ私を褒め称える所なので大々的にお願いしますねっ!」

「わーすごい」

まるっきり棒読みでクィルは両手を打ち合わせる。
とはいえあれだけ悪化させた状況を、口先一つでよくも立て直したものだという賞賛は少なからずあった。

(まあ、それに。ウルカの言ってることも的を射てるからね)

兵士を束ねて戦うのは王国の将兵でも出来る。
しかし銘無き刃となって喉首をたえず付け狙うことは彼らには出来ないのだ。

それでも仲間を罵倒したことには変わりない。ゆえにクィルは消極的に褒め称える。
両の手に嵌めたグローブのせいで拍手にすらなっていないが、それでもウルカは満足気に頷くのだった。

203 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/10/05(火) 02:53:22 0
>「とまぁ、そんな訳で早速耳寄りな情報を一つ……ですがその前に皆さん、お腹の方は空いていませんか?
 いえ空いているでしょうねぇ。立場が立場、場所が場所です。まともな食事なんか随分とご無沙汰じゃぁありません?」

「……やっ、ちょっ。……やめ……あん」

クィルは体をくねらせながらウルカの手を払いのける。
耳寄りな情報とやらをちらつかせ、歩み寄ってきたウルカがねちっこい手つきで指先を腹に這わせたのだ。

「……やめなさい。……こないだの事といい、今回の事といい……えろい。
 ……密偵じゃなくて痴女の間違いじゃないの?」

この前とは帝国近衛兵バルクホルンと対峙した時のことである。
もう何と言うか事ここに至ると単純に欲求不満なのか、あるいはそういうオープンな性癖の持ち主なのではと疑いたくもなるというものだ。
隠密行動が主となる密偵の任につけているのが甚だ不思議で仕様が無い。

>「耳寄り情報ってのはつまり、それですよ。実はここから少し離れた町に糧食の貯蔵庫がありまして。
 その内火でも放ってやろうと思ってたのですが……どうせなら頂戴してしまった方が都合がいい。
 無論、ただの放火よりかは格段に難易度が上がりますがね。それに何より……」

「……何事もなかったように……続けないで」

起用に耳だけを朱に染め、クィルは抗議する。
だがそんなことは意に介さず、一旦言葉を切ったウルカは真なる決定打を放つべく視線を三人へ順番に向けた。

>「その町には今、あの第九皇子様が駐屯しているのですから」

場の空気が気色ばむ。
フェゴルベルだけが、ではない。
クィルは言うに及ばず、普段滅多に表情を変えないファイまでもが動揺を隠せないで居るのだ。

(汚名返上の相手にはこれ以上望むべくも無い。けど)

万全の準備で勝ちを拾いに行って敗北した相手。
フェゴルベルの奥の手であるクリムゾン・ブレスすら跳ね除ける切り札を持つ相手だ。

>「一筋縄では行きませんよ。最悪……命を、仲間を失うかもしれませんね。
 まぁ、最終的には二者択一です。飢餓と言う泥沼に沈みながら緩やかに死へ歩み寄るか。
 死中に潜む活をその手で掴み取るか。……さて、貴方達はどちらを選びますか?」

「……やって……みよう。相手は化物じみた力を持ってる……けど、やり方次第なら……いけると思う」

狙いは皇子の命ではない。食料の奪取にある。
陽動と本命。作戦の立て方次第で成功の度合いはかなり広がる気がする。

「……なにより、やられっぱなしは……性に合わない」

両腕に力を込めてフェゴルベルを見つめる。
その視界の端、皿に乗った齧りかけの保存食の上を一匹の蝿が飛んでいた。

204 :ノイン ◆yJLwdHz/EI :2010/10/05(火) 22:47:20 0

「――――少し、使い過ぎたか」

帝国領の東側に存在する街。その街に在る最高級の宿の最上級の一室。
今そこに、帝国前帝第九子――――ノインがいた。
ファスタの反乱鎮圧から既に何日も経過し、本来であれば既に帝都に戻っている
筈のノインが何故この様な場所にいるのかといえば、それには当然理由がある。
反乱鎮圧の報告を提出したと同時に、皇帝から新たな命が出されたのだ。
その命令とは、『辺境の監視』。
「最近、帝国の東側で不穏な動きが見えるという情報を手に入れた。
だから、近くに居るノインにその仕事を命ずる」
――――という内容が書簡に記してあったが、そんな内容が出鱈目であるのは
誰の目にも明らかであった。
常識的に考えれば、こんな事は皇族の人間が行う仕事ではないからだ。
しかも、反乱を鎮圧させて休む暇も与えずというのは、明らかにおかしい。
この任務は、帝国のノインという人間に対する扱いを表しているようであった。
初めこの話を聞いた時、ノインの部下の多くは憤慨したが、結局はノイン自身が
一切の拒絶の様子無く任務を了承した為、怒りを胸に秘めるという形となった。

そして現在、監視の拠点となっている街の宿で、ノインは指輪を嵌めた自身の右腕をじっと見ていた。
艶やかな黒髪と、怜悧にして芸術的に美しいその容貌。
彼が夜闇の中自身の手を見つめるその光景は、芸術家ならば懇願してでも作品の題材と
したいと願う程のものである。そうして、そう思った後に気付く事だろう。
ノインの右手の手の甲までに、幾何学的な模様――――まるで古代の言語の様な模様が
浮かび上がっている事を。

暫くじっとその右腕を見た後、ノインは一度その額に掌を当ててから
立ち上がり、誰もいない、彼一人しかいない巨大な部屋の隅に置かれた執務用の椅子に座った。
見れば、椅子の前にある机の上には何十枚もの羊皮紙が置かれている。

そこに書かれた内容は
「ファスタでの戦いによる死者数」や「自身の戦略の欠陥」
「自身の殺害した者のリスト」「ファスタの街に対する復興支援」
「領主の処分」

どうすれば良かったのか。どうすれば助けらたのか。どうして助けられなかったのか。
それはどれも、ノイン自身を罰する様な内容の物ばかりであった。
……今回のファスタでの反乱は、驚くほどに犠牲者が少なかった。
本来ならば、街ごと滅ぼすという内容の命令が出されてもおかしくない状況だった。
それを、これだけの戦果を収めて尚、ノインは自身を認めていなかった

常の鉄面皮、無表情、冷静な行動から、ノインに対し
完全無欠、心が無いのではないか、ゴーレムの様だ、理想の支配者
といった言葉が向けられる事は多い。
だが、だが、羊皮紙の一枚一枚に無表情で目を通すノインの姿は、少なくとも
完全無欠で無感情な人間のそれではなかった。

205 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/10/06(水) 23:42:08 0
>「……やって……みよう。相手は化物じみた力を持ってる……けど、やり方次第なら……いけると思う」
>「……なにより、やられっぱなしは……性に合わない」

「そうこなくっちゃですよぉ。……ところで、さっき私の事を痴女とか言いましたね?
 罰としてちゅーしちゃいますよぉ! ほら遠慮せずに! んー!」

両手を大きく広げてウルカはクィルに飛び掛かった。
言うまでもなく、クィルはそれを拒もうとするだろう。
しかしウルカは彼女の眼前で、消失する。
そして次の瞬間、クィルの背後に回り込んで抱き付いた。
全体重を預けられてよろめく彼女の頬に、ウルカの唇が触れる。

「ふっふっふ、残像だ……って奴ですねぃ」

クィルの首に両腕を回したまま、ウルカは彼女におぶさるように凭れ掛かる。
然程ウルカは重くない。
クィルがどれだけ自分の重みに耐えられるかで、彼女達の食卓事情を計ろうとしている――のかも知れない。
単にウルカ自身がそうしたいだけかも知れない疑念が払拭出来ないのは、日頃の行いが故と言うものか。

「……ところでクィルさん」

不意にクィルの耳元に、ウルカは囁いた。
視線の矛先を、机の上にある保存食の周りを飛ぶ蝿に向けて。
隠密たる彼女は送り込まれた使い魔の存在を悟っていた。

「ここのアジトですが……見られてますよぉ?」

万一にもクィルが動揺を表に発露させないようにと、ウルカは彼女を抱き締める力を強めた。
そのまま、言葉を続ける。

「帝国では……多分ありません。何となくですが、雰囲気が違う。
 何よりバレてるなら奴さんはのんびりしちゃいないでしょう」

蝿が醸す気配は人間から一歩、逸脱していた。
呪いの質も、帝国の急造された魔術師部隊とは格別の雰囲気が感じられる。

「あぁ、手出しは無用ですよ。呪いの流れを辿ってやろうと
 思いましたが……多分返り討ちに遭っちゃいますねぇこりゃ」

忠告と共に、ウルカは溜息を零した。
クィルの耳元で。

206 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/10/07(木) 00:37:26 0
「ま、今は泳がせとくべきでしょう。ぶっちゃけ、今回の作戦は
 あちらさんの動向がどんなモンかを推し量るって意味合いもありますからね」

後で蝿の目がない所で仲間にも告げておくよう言うと、ウルカはクィルを手放し離れた。
それから手を叩き、場を覆う空気を無理矢理張り替えて、にこやかな笑顔を浮かべる。

「と、まぁ。やると決まったなら早速準備をしなくちゃですよ。食料を運び出す部隊の編成、
 荷車は……使いどころが悩ましいですね。担ぎ出す際は人を使い、少し離れた地点で荷車に移す。
 暫く移動したら荷車は捨てて再び人で。轍で追跡される事などを考えるとこんな所が妥当ですかね。
 陽動の方は……まあ私もやりますし、なあなあでも良いでしょう」

ウルカは紡ぐ言葉を敢えて、知られても対策の講じようがない事や曖昧な物のみで収めた。
蝿の主が帝国の人間ではなく、しかし帝国と通じる存在である事を懸念しているのだ。

「第九皇子のいる町は、ここから然程遠くはありません。風の魔法を使って行軍すれば、
 のんびり行っても今夜辺りには到着出来るんじゃないですかねぇ。
 あ、風魔法の使い手がいないなら僭越ながら私がやりますのでお申し付けを」

前かがみになって片目を瞑り、人差し指をぴんと立てて、ウルカは更に潤滑な語り口を披露する。

「上手く行けば明日の朝食はご馳走ですよ。どうです? 俄然やる気が出てきませんか?」


【特に昼間にやる事もないかなって事で夜中にイベント予約ですー。】


207 :名無しになりきれ:2010/10/07(木) 12:22:11 0
睾丸粉砕

208 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/10/09(土) 18:21:06 0
>>205-206
「むう、信用が無いって悲しいですね」
悪魔が取引相手に最初に売り込むべきは実力や利益ではなく、信用である。詐欺師も同様。
ベルはさしあたって、まず信用を得たいと思っている。
もちろん、ベルを信用し過ぎるのは完全に間違った行いであり、必ず取り返しの付かないことになる。
その事実を示す幾つかの証拠品が、彼女の足元で蠢いている。
それらは鍋ほどの大きさのぐちゃぐちゃの肉塊で、それぞれ異なった顔が付いており、ぶつぶつと断片的な言葉を呟き続けている。
おおよその事情を知る者にとっては、その肉の塊が元々何だったのかが一目瞭然だ。
悪魔に詳しい人物なら、この肉塊がどのような用途で用いられるのかを知ることができる。

それはともかく、ベルはおもむろに立ち上がって、さっと服を着替え、必要な荷物を整えた。
ヴォルフと対峙したときと白い法衣だ。
だが、あの“バールの雷”の名で呼ばれる剣は携行しないらしい。
「わたしは出掛けてきますからね。
 貴方達の初仕事はお留守番です。
 子供じゃないんですから、それくらいはできますよね?」
足元の肉塊はぶるぶると震え、それに応じた。
これらの肉塊は、明らかに恐怖しているように見える。

そしてその夜のある時刻、クィル達が居る解放軍のアジトにて、トントンと戸を叩く音が鳴り響いた。
戸の外に立っているのはもちろん、あのベルだ。
彼女は己の不浄な気配を完全に隠しているが、変装などというものは全くしていない。
もちろん、ウルカが見れば一目で判別できるが、これは多少なりの変装したところで同じことだろう。
「夜分遅くにすみません。“解放の教会”の者です。
 侍祭のゴールディングです、誰か居ませんか?」
それも、何も知らない純粋な“解放の教会”の信者、ゴールディングとしてである。
ウルカはただちに彼女の真の素性を暴露することができるが、それをすぐに行うのは、良い結果にならないだろう。
「裏切るかも知れない者」を「絶対に裏切る者」にするメリットなど皆無である。

「この街にある秘密の礼拝堂の場所が割り出されてしまい、帝国軍の弾圧、虐殺に遭ったとの報告がありました。
 卑劣で残忍な弾圧行為に対する報復のため、解放軍の活動に加わりたく、馳せ参じました。
 どうかこの戸をお開けください」
ヴォルフが暗黒教団を誅したことは、紛うことなき正義の行いであるが、ベルはそれを不当な弾圧・虐殺行為として吹聴した。
事実を知っている者にとっては憎たらしいことに、真実はそれほど歪められていない。

209 :参加希望 ◆gzRY.g0LmA :2010/10/11(月) 22:40:28 0
名前:レオナルド
年齢:200歳前後
性別:?
身長:320cm
体重:380kg
スリーサイズ:測定不能
種族:ハイパーヒューマン
出自:かつては人間で、今ではもう滅亡した国の騎士だったということは覚えている
職業:旅人・傭兵
性格:勇猛
特技:力任せ
装備品右手:破門の爆裂鉄槌
装備品左手:無し
装備品鎧:破れてボロボロになった鎧
装備品兜:無し
所持品:獣の干し肉、モンスターの干し肉、鉄槌用の火薬     
容姿の特徴・風貌:黄色い肌、凄まじいまでに筋骨隆々とした鋼の肉体
            生殖器は完全に退化しており、性別はないに等しい
            スキンヘッドで、凶悪そうな怒り顔は変えることができない
趣味:読書(だが、読む機会はまずない)
将来の目標:
簡単なキャラ解説::人間と変わらない意思や知性を持ったハイパーヒューマン
            そのために仲間から疎外され、殺されかけたところを脱走した
            人目を避けながら旅をしつつ、正体を隠して傭兵で食い扶持を稼いでいる
            自分に出来ることが何なのかを考えつつ、あてもない放浪を続けている

・ハイパーヒューマンについて
 各地に出没しては様々な生物を無差別に襲撃する謎の巨人型モンスター
 黄色い肌に筋骨隆々とした肉体は鋼のように堅牢で、人間とは比較にならない怪力を誇る
 また、様々な武器を駆使して攻撃を行うため、地域によっては非常に脅威となっている
 しかし、知能は低く純粋に戦闘や殺戮を楽しみ、旺盛な戦闘意欲や破壊衝動のみで行動する
 性別を区別する要素が皆無で、凶悪そうな怒り顔以外に表情を変えることができない
 どうやって仲間を増やしているのか、どこから来ているのかは不明である
 人間やエルフなどの人型種族を生きたままどこかへ連れ去る傾向も強い

210 :名無しになりきれ:2010/10/11(月) 22:49:44 0
>>209
よろしくいお願いします

211 :レオナルド ◆gzRY.g0LmA :2010/10/12(火) 00:23:32 0
黄色く醜い肌にデカくムキムキマッチョなボディ
どうやら私は、人間たちに「ハイパーヒューマン」と呼ばれ恐れられている存在らしい
どうして私がハイパーヒューマンなのか、皆目見当が付かない
ただ一つ、私は元々こんな姿では無かったような気がするのだ
物心ついた時にはこの姿だったが、どうしてか元は人間だったような気がする

私は他の同胞がそうであるのとは違い、無意味な争いや殺戮を好きにはなれなかった
同胞を説得しようとしたが、聞く耳を持つ者は居なかった
いやむしろ、私を異端扱いして殺そうとする者まで現れた
私は命からがら逃げ出し、「巨人族」と偽って旅を続けている
旅の目的ははっきりしないが、とりあえず自分探しという塩梅だろうか

逃げ出す時、同胞が狩った巨人の皮膚を持ちだしたのは正解だった
ハイパーヒューマンのままでは、普通の人型種族が栄えるこの地では疎外されてしまうからだ
私は「巨人の傭兵レオナルド」としての身分を持っている

212 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/10/15(金) 01:47:37 0
「……ぐぅ……ぎぎぎぎぃ……」

不意を突かれ、ウルカをおぶさる格好になったクィルはなんとも情けない声をあげていた。
今まさに潰されんとする蛙でも、もう少しはスマートな悲鳴をあげるのではないか。

とはいえウルカが異様に重い、というわけでは決して無い。むしろ平均的なそれより軽いくらいだろう。
しかしクィルはエルフに類する種族の出なのだ。
その中でも小柄な体な上に食糧事情のせいで満足に食事を取ってない今、こと腕力に関しては貧弱と謗られても仕様が無い。

>「……ところでクィルさん」

耳元でウルカが囁く。
クィルは半ば涙目になりつつも、張り詰めたその声に長い耳を傾けた。
彼女の視線の先、そこには食べかけの保存食が乗った木皿の上を飛ぶ一匹の蝿。

>「ここのアジトですが……見られてますよぉ?」

「……アレで?……普通の蝿にしか……見えないけど」

一般に広まるところの魔法に関して疎いクィルは信じられないといった感じに呟く。
それでも犬や猫あるいは鳥といった使い魔は見たことはあるが、果たして虫まで使役出来るものなのだろうか。

ウルカが言うには帝国とは別の勢力に属する術者。
それも帝国兵の包囲を前にしても余裕綽々だった彼女が、返り討ちに遭うとまで言わしめる人物。
解放軍に敵対するものなのだとしたら、正直厄介どころの騒ぎではない。

「……どうする?……ヤバそうって言っても蝿だし。……気づかない振りして追い払う?」

>「ま、今は泳がせとくべきでしょう。ぶっちゃけ、今回の作戦は
 あちらさんの動向がどんなモンかを推し量るって意味合いもありますからね」

と、そこで背にかかる重みが消失した。ウルカが降りたのだ。
重圧から開放されたクィルはその場にへたり込む。
対するウルカは拍手一発。荷車と人足を用いた食料の運搬方法や、それまでの行程を披露していた。

>「上手く行けば明日の朝食はご馳走ですよ。どうです? 俄然やる気が出てきませんか?」

「……出た。……俄然出た」

クィルも釣られる様に立ち上がると、拳を天に向け突き上げる。
もとより大して食べるわけでもないが、それでも最近の食卓事情を考えると腹一杯のご馳走は魅力的だったのだった。

213 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/10/15(金) 01:48:55 0
興奮に沸く室内。
だがそこで待ったがかかった。

声の主はフェゴルベル。
点在するアジトから人を集め、荷駄などの準備を考えるとどうしても一日掛かるとのことだった。

「う。……しょうが……ない。……ご馳走は延期」

心底残念そうに落胆するクィルに、苦笑したフェゴルベルが声をかける。
そう、やらない訳では無い。入念な準備を行ったその上で、確実にやり遂げるのだ。
これからまた帝国と喧嘩するにしても、補給が無ければそれも間々ならないのだから。

「……それじゃ私は、他のみんなに伝えてくるよ」

人員配置や細かな作戦立案をフェゴルベル。
荷車の増設に必要な材料の調達はファイ。
そしてクィルは伝令に走る。

こうして解放軍の命運を賭けた食料奪還作戦の準備が始まった。



それぞれの仕事も恙無く進み、残り僅かとなった夜半頃。
一人の修道女が解放軍のアジトの門を叩く。

>「夜分遅くにすみません。“解放の教会”の者です。
 侍祭のゴールディングです、誰か居ませんか?」

「……何の……用?」

応じるのはいつもの面子。
物見の上から弓を構えたクィルと、その後ろに控えるフェゴルベルにファイ。

>「この街にある秘密の礼拝堂の場所が割り出されてしまい、帝国軍の弾圧、虐殺に遭ったとの報告がありました。
 卑劣で残忍な弾圧行為に対する報復のため、解放軍の活動に加わりたく、馳せ参じました。
 どうかこの戸をお開けください」

「……秘密の……礼拝堂?」

「街外れに有った“解放の教会”のだ」とフェゴルベルが口にする。
ファイがああ、と頷く。確かに教会の有った場所から火の手が上がっていたのをクィルも一緒に見ている。

「……見たところ一人。……周りに他の気配はないよ。……入れる?」

クィルの問いにフェゴルベルが頷く。
“解放の教会”の持つ知名度と、帝国の襲撃を受け唯一残った生き証人。
上手くすれば失った人員以上の数を解放軍へ組み込める。

そう判断を下したフェゴルベルは見張りに開門と部屋へ通すように伝え、自身も室内へと踵を返す。

(命からがら逃げてきた。って割には……随分と整った身なりをしてるじゃない)

多少、いやかなりの怪しさは残るものの、クィルは弦を弛めるとフェゴルベルの後に続いた。

214 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/10/16(土) 20:32:46 0
>>213
「ありがとうございます。では、失礼します」
どうやら彼女を普通にアジトに招き入れることを選んだようだった。
なるほど、クィルの見たとおり、確かにベルの今の格好は小奇麗に過ぎる。
それに軽装だ。まるで武装していない。

「わたしは、実際に現場に立ち会った訳ではありませんが」
彼女の真の虚言は、現場に居合わせて応戦までしたくせに「報告を受けた」などと言っていることだ。
とはいえ、単に報告を受けたというだけなら、それなりに整った格好をしていても不思議ではない。
もちろん、ウルカだけは事実を知っている。

「わたしは先ほど、重症を負って逃げてきた人を看取って、各地に襲撃された旨を伝達するよう遺言を賜りました。
 彼の遺志を無駄にはしたくありません。
 此処にも、われわれの同志が少なからず居るかと存じます。
 他の支部にも速やかに伝達をしたく思いますので、3、4人ほど人手を借りたいのです」
今回の反乱の参加者の中には、実際に“解放の教会”のメンバーも居たかも知れない。
なるほど狙い通り、“解放の教会”の手勢を解放軍に組み込むことができそうである。
しかも火の手が上がるのはファスタの街だけではない。帝国のあちこちで反乱が相次ぐだろう。多分。

「そう、今こそ立ち上がるときなんです!
 我らが神は、こうも仰っておられます――
 『一敗地に塗れたからといって、それがどうしたというのだ?全てが失われたわけではない』
 わたしたち“解放の教会”は、自由と権利を勝ち取るための戦いに対する、不断の努力を奨励しています。
 われわれの行動には必ずや神の加護があり、然るべき結果をもたらすでしょう!
 と言うわけなので、どなたか協力していただけませんか?」
ベルは熱弁を振るった。何か悪いものでも食べたかのように、突然熱狂的な台詞を口にしたのだ。
信者だったら協力を申し出るかも知れない――それで良いことが起こるかはともかくとして。

215 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/10/18(月) 23:35:30 0
>「う。……しょうが……ない。……ご馳走は延期」

「ありゃりゃ、仕方ないですねぇ。貧乏は敵だって奴ですか」

両手を頭の後ろへ運び唇を尖らせて、他人事のようにウルカは呟いた。
事実、彼女はその気になれば近くの町へ、近所の酒場に向かう程度の感覚で食事に行ける。
何より解放軍とは相互協力の形を取ってはいるものの、失ったらそれはそれ、くらいに考えている。
正真正銘、二重の意味で他人事なのだ。

「ま、手伝える所はお手伝いしますよ。そうですね、応援歌とか歌っちゃいましょうか!?」

とは言え拾える駒をむざむざ見捨てる事もない。
手を引くタイミングさえ間違えなければ、王国の為になる駒だ。
ひいては彼女自身の為になる。彼女が王家と結んだ、個人的な契約の為に。

>「夜分遅くにすみません。“解放の教会”の者です。
 侍祭のゴールディングです、誰か居ませんか?」

「ありゃ?お客さんですか?こんな時間に?……いえ。こんな所に?」

疑問を零しながらもひとまず、ウルカは対応に向かったクィル達に付いていく。
クィルの肩に両手を乗せてぴょんと飛び上がり、肩越しに眼下を伺った。
少し前に見た顔が、そこにはいた。
ただし燃え盛る礼拝堂で感じた邪な気が、綺麗さっぱり隠し秘められていたが。

(……このタイミングでやってきますか。はてさて、何を考えているのやら)

肩越しにベルを見下す視線が一瞬、冷たく細る。
こと呪術の応酬で

は返り討ちだろうが、この距離、この位置ならば。
クィルを飛び越してベルへと急降下し、首を刈るのに瞬き程の時すら要さない。

>「この街にある秘密の礼拝堂の場所が割り出されてしまい、帝国軍の弾圧、虐殺に遭ったとの報告がありました。
 卑劣で残忍な弾圧行為に対する報復のため、解放軍の活動に加わりたく、馳せ参じました。
 どうかこの戸をお開けください」一瞬の沈黙を経た後にウルカは、

「……ありゃりゃりゃ、それはまた大変でしたねぇ。同情しますよ。ま、同情以外しないとも言えますがね」

猛禽の魂を宿していた瞳を和らげて、そう言った。
ベルが何故解放軍を監視して、更にはこの場に現れたのか。理由は分からない。
だが彼女もまた、妥当帝国の為には有用であろう存在だ。
彼女にどんな腹蔵があろうと、それがウルカや王国に害を齎すとは考え難い。
考え難いだけで危険性は勿論あるのだが、今はまだメリットが上回る。
そのように、ウルカは判断した。

>「……見たところ一人。……周りに他の気配はないよ。……入れる?」

クィルが尋ね、フェゴルベルが頷く。
ウルカは何も言わず、黙していた。
単に取り立てて喋る事が無かっただけではあるが、
平時の彼女ならば軽口の一つくらいは叩いていたかもしれない。

216 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/10/18(月) 23:36:33 0
>「わたしは、実際に現場に立ち会った訳ではありませんが」
>「わたしは先ほど、重症を負って逃げてきた人を看取って、各地に襲撃された旨を伝達するよう遺言を賜りました。
  彼の遺志を無駄にはしたくありません。
  此処にも、われわれの同志が少なからず居るかと存じます。
  他の支部にも速やかに伝達をしたく思いますので、3、4人ほど人手を借りたいのです」

「ありゃま、これまた渡りに船じゃないですか。
 解放軍の掲げる民の為という御旗を、義憤と信心の色で彩る事が出来る」

ウルカはすかさず合いの手を打ち、

「……ありゃ、これは失礼。亡くなった方々には失礼でしたかねぇ?」

右手を頭の後ろに添えて如何にも失敗したと言わんばかりに、謝辞を付け加えた。
口元は曖昧に笑い、しかし双眸は冷静の色を保ったままベルを見つめている。
ここでベルが一度怒るなり何なりしてみせれば、彼女の仮の姿はそれなりの説得力を得るかもしれない。

>「そう、今こそ立ち上がるときなんです!
 我らが神は、こうも仰っておられます――
 『一敗地に塗れたからといって、それがどうしたというのだ?全てが失われたわけではない』
 わたしたち“解放の教会”は、自由と権利を勝ち取るための戦いに対する、不断の努力を奨励しています。
 われわれの行動には必ずや神の加護があり、然るべき結果をもたらすでしょう!
 と言うわけなので、どなたか協力していただけませんか?」

突然の狂信的な言葉に、ウルカは半分素で呆れ、溜息を零す。
普段の自分も大概だとは思うが、ベルもまた大した役者らしい、と。

同時に彼女は、面倒だとも思う。
相手の目的が分からず、また相手がそれを
巧みに隠す術を持っていると言うのだから、当然だ。

「ま、人員に関しては私が口出し出来る所ではありませんからね。
 そちらの隻腕さんにお任せしましょう。……また後ほど、ね」

考えるだけ徒労であると判断したウルカは、思考と話題の焦点を逸らす。
何はともあれ、まずは目先の大事に傾注すべきだ。

「そう、教徒のお嬢さんにはひじょーに申し訳ないんですがね。
 我々は今からちょっとした、大仕事に取り掛からなくてはならないのですよ。
 明日の食卓をちょっとばかし豪勢にすると言う、大事な大事な使命がね」

稚児が考えた悪戯を明かすような笑みに、ウルカは立てた人差し指を添える。

「私の信ずる神はこうも言っていましてね。『働かざる者食うべからず』と。
 生憎ですが準備は万端、今からではもうする事も無いでしょう。
 いえ、貴女に出来る事はなさそうだ、と言うべきですかね。
 宗教家なら断食もお手の物でしょうし、まあ大丈夫ですよねぇ?」

ウルカがベルに告げた事はつまり逆説的に、今からでも働けばご馳走にありつけると言う訳だ。
無論今から出来る仕事など、荒事絡みか単純な力仕事に限られているのだが。






217 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/10/20(水) 00:15:52 0
>>215-216
演説中に野次を飛ばしたウルカに対して、ベルが振り向いた。
「……」
ほんの一瞬ではあるが、ベルがウルカを見る目が物凄かった。
ひどく不気味な表情だった。
考えが読めないどころか、何らかの感情を抱いているのかどうかさえ測れない表情である。
勘の鋭くない人間が見たら、単なる無表情だと思うかも知れないが、それともまた違うのは明白だ。

そうした表情をしたのは一瞬であって、次の瞬間には、ベルは烈火の如く怒りをぶちまけていた。
「まったく、何ですかこの人は!」
そして、不快感を隠そうともせず――本当に不快に思っているかはともかくとして、ベルはそのように周囲の解放軍の誰かに尋ねた。
返事はすぐに返ってきて、これはウルカといって、王国のエージェントで、いけ好かない協力者らしき何かであるという回答が得られた。
「ああ、そういう身分の人でしたか。はじめまして」
とても不機嫌な様子で「はじめまして」と、ベルは言った。
ウルカとは以前コンタクトをとったことがあるが、そのようなきな臭い事実は、お互いのためにも隠蔽するのが正しい。
幸い、その事実を看破し、証明する材料は全く無い。どちらかが自分で暴露しない限り。

「人の命をそんな風にしか見えないなんて、悲しい人!
 明日の自由を夢見ていただけの無実の人が虐殺にあったと聞いて、
 そういう感想を抱いて、しかもこうまで明け透けと言える神経を疑います。
 恥を知りなさい!
 それとも、王国では臣民にそういった教育をしてらっしゃるのですか?」
ベルはなおも怒っていて、嫌味に対して嫌味で応じた――
彼女が仲間を簡単に切って捨てた現場を見ているウルカから見れば、白々しいにも程があるだろう。
とはいえ、自分の立場に説得力を持たせるには、これくらい怒っている方が自然ではある。
あるいは、下っ端の侍祭らしく、「そ、そんなつもりじゃ……」などと萎縮した方が、より自然だったかもしれない。
何はともあれ、ここでウルカとベルの言い争いが起こったかも知れない。
言い争いは暫く続いたかもしれないし、すぐにベルが説き伏せられたかも知れない。
いずれにせよ、「侍祭ゴールディングはウルカとは初対面」、「ゴールディングはウルカに悪印象を持った」、そのように見えるように振舞った。

218 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/10/20(水) 00:27:35 0
そのため、働かざる者食うべからずという言葉を出された際にも、
「ウルカさんのところの神――どうせ合理主義とかそんな名前なんでしょうけど、
 その神は『腹が減っては戦はできぬ』とも説いてるんじゃないですか?
 ええいいですよ、合理的であることが自慢な貴女がそう言うなら。
 わたし自身は断食は慣れてますからね。
 わたし以外の全員で、お腹いっぱい食べれば良いじゃないですか」
こんな子供っぽい事を言ってまで反論をしたのだった。
周囲にウルカとは全く通じていないと思わせる為に、何かにつけて彼女の出した意見に反抗的な態度をとっているのは言うまでもない。
ここまで相性の悪い二人が、共謀して何か良からぬことを企む可能性など無いと、周囲は思うに違いないと期待しているのだ。

「ですがウルカさん、たとえ明日の食事にありつけなかったとしても、ここはわたしも微力を尽くしますよ。
 貴女のためではありません。
 あくまでわたしは、帝国打倒の志を同じくする人達に協力するために来たんですからね」
言うまでもないが、わざとらしさを隠すために、ウルカが初っ端から嫌味で応じたのを逆手に取っている。
初対面であんな態度をとられては、誰だって嫌な顔をするのが当たり前であり、ベルはその「当たり前」を演じているに過ぎない。

「そういった事情なら、人員を借りるよりも先に、まずは目の前の案件に全力を尽くしましょう。
 反乱の『成功例』があった方が、わたし達の士気も高まりますからね。
 伝達の人員の話は、それからの方が良いでしょう――こういうのは、勢いが大事です。
 まあ侍祭に過ぎないわたしが、こんな独断をして良いのかは微妙ですけど……」
彼女は少し言いよどんだが、大して考えの深くない人物として振舞おうと思っている。
そのため、以下のように続けた。
「まあ、この襲撃がすぐに終わって、なおかつ大きな結果を出せれば、そう変わらないでしょう。
 わたしはこう見えて、魔法が得意ですからね。支援は任せてください!」
ベルは胸を張ってそう言い切った。
支援する。彼女はそのように言っている。
確かに彼女は魔法の能力を盛大に使って、様々な支援を行い、解放軍が期待しているよりも大きな結果が出るように行動するだろう。
その後、関わった者がどうなるかはさておき。

【わたしのターンは終わり。そろそろ襲撃の場面に移っちゃっても良いんじゃないかなーと提案】

219 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/10/22(金) 00:42:43 0
【補給拠点の街】

「……ったく、皇子もモノ好きだよなあ。こんな辺鄙な街の監視任務なんか断っちまえばいいのに。
 あの方にゃ、それだけの権利と地位と資格と資質があるんだからよ」

「珍しく愚痴っぽいなバルクホルン」

「そりゃお前、皇子の都合で振り回されるのは良いが、本国の連中にいいように扱われるのは腹立つだろ」

それなりに人の在る街の、それなりに栄えた中心地の、それなりに繁盛した店の一角。
広いテーブルにこぢんまりと纏められた皿と、そこに盛られた干し肉・芋・稗にがっつく二つの影がある。
帝国軍第九皇子直属近衛兵――カールスラント=バルクホルンとその同僚は遅い昼食をとっていた。

「皇子は皇室きってのぼっちだからな。シルト殿含め、我々近衛兵も本国からハブられ左遷されたいらん子部隊だ」

「またお前はそういうことを言う……」

同僚のこの韜晦癖は、聞くには愉快だが場所を選ばない為傍にいるバルクホルンはいつも冷や汗を絶やさなかった。
そう、ノインの『第九皇子』という身分は九人いる中の九番目。皇室において最低の位を示す。
それでも彼自身の有能さと側仕えのヴォルフの存在によってノインは他の皇子達と肩を並べるに至っているが、

(やっぱ皇室ウケは悪いんだろうな)

出る杭は叩かれる。
言葉にしてしまえばどこにでもある単純な話だが、いざ当事者の傍に立ってみるとこれほど煩わしいものはない。
自身の出世にも影響することではあるが、それ以上にバルクホルンは人情家で、必要以上に肩入れしてしまっていた。

さて、この街は帝国における西方制圧の補給拠点である。
長き悪政に立ち上がった民衆の数は想像以上に膨大で、帝国は今や内乱同士の衝突さえ起こる群雄割拠だ。
ただでさえ荒れ放題の土地に血と骨と魔力の残滓が埋まれば、向こう十年作物は絶え水は枯れる死の土地となる。
そんな中でこの街は、帝国の加護を受け糧食の払い下げの恩恵で唯一、安定した食事を望める場所なのである。



220 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/10/22(金) 00:43:29 0
「嫌な世の中になったな。私が死ぬまでに燻製でない肉を食べられるようになって欲しい」

「あっおい、また脂身だけ残しやがったな!?貴重な肉分けてもらってんだからもっと有り難く食えよ」

「脂は消化し難いから嫌いだ。胃がもたれる。バルちゃん食べてっ」

「子供かお前は。あと俺の名前をそんな可愛い感じで呼ぶんじゃねえ」

「私はな、お前にもっと精をつけて欲しいと思っているんだバルクホルン。前回ぶっ倒れた時は死んだかと思ったぞ」

「ほー、俺はあの後お前に飲まされた雑草茶で死んだかと思ったけどな」

「あれは失敗した」

「へえっ、お前でも反省することがあんのな。何を間違えた、分量とかか」

「味付けを間違った」

「何余計なことしてんの!?そのまま出せや!」

「バルクホルン隊長!自分脂身とか嫌いなんで代わりに残飯処理して欲しいであります!」

「それは本音をそのまま出しすぎだな」

この辺りの土地は戦争の余禍で例外なく荒れ果て、僅かな緑を残して荒野が広がっている。
軍の糧食は帝国南部の農業地帯で収穫されたものが殆どで、さらに言えば帝国の軍部は意図的にそのような状況を作り出してもいた。

言わば無言の人質。
食料の流通さえ握ってしまえば、帝国民である限り、もう誰も逆らえないから。


【帝国側ロールということで生存報告ついでに】

221 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/10/23(土) 02:17:14 0
>「まったく、何ですかこの人は!」

ウルカの野次に怒り心頭なのは件の侍祭。
とはいえゴールディングの怒りも至極もっともだろう。

(まさかここまで明け透けに言っちゃうとは)

いくらウルカとはいえ、多少は言葉を濁してくれるなどと期待した自分がどうかしていた。
背後のフェゴルベルが渋面になっているのが見なくとも解るようだ。

「……怒るのはもっともだけど、こっちに言われても困るの。
 ……彼女、ウルカは王国から来た工作員だから……解放軍とは無関係」

ゴールディングの怒りの矛先がこちらに向いているのを察したクィルがすかさず説明を加える。
とはいえ、ウルカの言葉が全く的を射ていない訳ではない。
フェゴルベルが彼女を受け入れたのも、民衆に人気のある”解放の教会”を救う為という大義名分を欲してのものなのだ。


>「私の信ずる神はこうも言っていましてね。『働かざる者食うべからず』と。
 生憎ですが準備は万端、今からではもうする事も無いでしょう。
 いえ、貴女に出来る事はなさそうだ、と言うべきですかね。
 宗教家なら断食もお手の物でしょうし、まあ大丈夫ですよねぇ?」

>「ウルカさんのところの神――どうせ合理主義とかそんな名前なんでしょうけど、
 その神は『腹が減っては戦はできぬ』とも説いてるんじゃないですか?
 ええいいですよ、合理的であることが自慢な貴女がそう言うなら。
 わたし自身は断食は慣れてますからね。
 わたし以外の全員で、お腹いっぱい食べれば良いじゃないですか」


置いてけぼり感が否めず、顔を見合わせる解放軍の面々を他所に、なおも二人の舌戦は熱を帯びていく。
片や不真面目。片や生真面目。
どうにも初対面であるらしいこの二人は、不倶戴天、水と油、犬と猿。
早い話が相容れぬものをお互いに感じ取っているらしかった。

『……どうしようフェゴルベル?いい加減疲れたし、放っておいて寝る?』

アイコンタクトによる意思疎通を試みるクィル。
対するリーダーは「俺に聞くな……」と言わんばかりに肩を竦め、ファイに至っては剣の手入れを始めている。

「……ハァ」

幾多の危地を潜り抜けた深謀を持ってしても打つ手なし。クィルの口から溜息が零れるのも仕方ない。

「……あの、二人とも……とりあえず、もうそのくらいで――」

>「まあ、この襲撃がすぐに終わって、なおかつ大きな結果を出せれば、そう変わらないでしょう。
 わたしはこう見えて、魔法が得意ですからね。支援は任せてください!」

「――……ハイ」

(やばい。なんていうかこの二人の組み合わせはこっちの疲労がすごくやばい)

こうして。妙に息を荒げるゴールディングに押し切られる形で、解放軍の襲撃前夜は過ぎていく。
準備の疲労とは、決して違う類のそれを三人に残しながら。

222 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/10/23(土) 02:18:12 0
「……配置に……ついたよ」

帝国第九皇子ノインと、その近衛。及び随伴兵が滞在する補給拠点。
その最中に哨戒兵の監視網をかい潜り、夜陰に紛れる者達が居た。

「ファイの方も……タイミングはこっちに任せるって」

フェゴルベルを筆頭とした食料庫襲撃部隊の面々である。
斬り込み隊長たるファイは陽動部隊を率いて、街の別門から襲撃を行う手筈になっている。

クィル達は食料を運び出す部隊の指揮をとった後、戦える者を引きつれ陽動部隊との合流。
そうでない者は戦利品たる食料を担いで荷車が待つ地点まで一目散という寸法だ。

「そうだ……これ」

最後の打ち合わせを済ませ、自分の持ち場へ戻ろうとする足を止め、クィルはフェゴルベルに向き直る。
差し出すのは一振の長剣。
とりわけ名剣というわけでもない。倉庫に転がってた剣の中から比較的まともな物を持って来たに過ぎない。

使われることは滅多にないのだが、フェゴルベルの腰には”精霊銀”の異名を持つミスリルで鍛たれた剣が一本吊るされている。
以前は双剣術の名手として名を馳せた彼だが、今ではその技を振るう腕が文字通り”無い”のだ。

「……クリムゾン・ブレスは、もう無いでしょ?
 ……それにあっても、ノインには勝てない。だから、これ」

隻腕のフェゴルベルに二振の剣。
折れた時のために予備として持っていろ。というわけでは無い。

「反動は赤石の比じゃないけど。でも……ノインと……ヴォルフが出てきたら使うよ」

決意を秘めた目でフェゴルベルを見つめそう伝えると、クィルは鏃から箆、矢羽に至るまで漆黒に染められた鏑矢を取り出し弓に番えた。

223 :名無しになりきれ:2010/10/24(日) 22:20:49 0
保守

224 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/10/26(火) 00:55:20 0
>>222
さて、こうして作戦を展開するにあたって、妙な部分が幾つか見受けられた。
まず、哨戒兵の顔色がどれも優れず、明らかに自分の身体に鞭打って任務を遂行している者が多く見られたことだ。
中には本当に倒れる者も見られた。そいつは既に息を引き取っていたのだ。
ベルは確かに「魔法で支援する」と言っており、ちゃんとそのようにしているらしい。
どのような魔法かは不透明であるが、確かに解放軍にとって有利な効果は出ているらしかった。

もちろん、ヴォルフだけはベルの攻撃方法を知っているが、帝国軍の兵士の隅々にまでその対策法が行き渡るには時間がかかる。
たとえ必要な情報が行き渡っても、完全に適切な対処できるかどうかも別問題だ。
何故なら気付いたときには手遅れだから。

>>219-220
バルクホルンがそのとき一緒に食事を摂っていた同僚のうち、何人かは暫く後に姿を消し、そのまま二度と顔を見ることはなかった。
例えば何らかの用事で席を外したら帰ってこなかったとか、目の前で突然発作を起こして倒れ、そのまま息を引き取ったとか。
そうした異変が散見されたのは、何もバルクホルンの周囲に限ったことではなかった。
もちろん、何らかの方法で殺人が行われたことは明らかだ。
発作を起こして倒れた者は異常なほど腐敗が早く、死後数分しか経っていないのに、早くも腐り切って蛆が湧いている。
何らかの呪いの類が作用していることは明白だ。
また、文字通り姿を消した者たちの行方は判らないが、あちこちに血痕が散見されたことから、彼等がどのような仕打ちを受けたかは想像に難くない。
もしかしたら、まだ生き残っているであろうバルクホルンの身体にも、何らかの変調があるかも知れない。
――蝿は、ただ静かに見守っている。

「勝利とは!」
陽動部隊に混じっていたベルは言った。
「劇的で、印象的で、華やかであるべきです!
 そのような勝利が、兵士の指揮を更に高め、勇気を奮い立たせます!
 われわれを単なる兵士ではない勇者にするには、勝利の美酒が必要なのです。
 さあ、わたし達も美味しいお酒を味わうべく頑張りましょう!」
そのように言って、彼女は同じ“解放の教会”の信者を奮い立たせていた。
敵兵は弱体化しているので、陽動もスムーズにこなせていた。

ウルカはそれを聞いていたかも知れないが、不自然な点はやはり見られる。
ベルは魔法を使うような動作をまだ見せていない点に他ならない。
しかしながら、帝国軍に被害が出ていることははっきりと認識できる。

225 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/10/26(火) 07:01:47 0
>「……あの、二人とも……とりあえず、もうそのくらいで――」

「ありゃ?おやおやこれは失礼。ついつい喋り過ぎてしまいましたねぇ。
 ま、我々が喧嘩した所で何の得もありません。お腹が減るだけですねぇ」

この分ならベルの疑念も遥か彼方へと押し流されてしまった事だろう。
幾分やり過ぎた気もするが、まあお互い様だろうとウルカは自己完結する。

「さて、それじゃあ夜も遅いですし、早めにお休みしちゃいましょうか。
 明日が楽しみで眠れないとか言っちゃ駄目ですからね!」

自分が散々気苦労を振り撒いた張本人である事は全く気にせず、彼女はそう言って壁際に座り込んだ。
そのまま壁にもたれ掛かり、次の瞬間には微かな寝息を漏らす。
一見すれば無防備な寝姿はしかし、膝は僅かに曲げられて足裏は床に接し、右手は懐の短刀に添えられていた。
けれどもそんな事は、彼女の嵐も宛らの傍迷惑ぶりに霞んでしまっていただろう。



かくして、解放軍による兵糧強奪作戦は決行当夜を迎えた。

「……そろそろ、ですかね」

宵闇の中、いつになく真剣な表情で呟いたウルカは――

「あ、ところで私ノリでこの部隊に付いて来たんですけど、正直荷物運びとかダルいと思うんですよね。
 そもそも情報提供はしたものの手伝う義理まではありませんからねぇ。え?じゃあ何で付いて来たんだって?
 そんな冷たい事言わないで下さいよぉ。私と貴方達の仲じゃないですかぁ」

次の瞬間にはいつも通りのふざけ倒した口調で長台詞を始めた。
義理がないだの私との仲だの、真面目に聞くには余りに馬鹿馬鹿しい語り口だ。
表情だけは相変わらず真剣なままでいるから、尚更タチが悪い。

「まぁでも、なんで付いて来たのかと言えばそりゃ、お仕事ですねぇ。
 忘れがちですが実は私もちゃんと働いているのですよ!え?どんな仕事かって?そりゃぁ……」

誰かに聞かれようが聞かれまいが、彼女は一人芝居をする調子で饒舌を振るい続ける。
おちゃらけた調子で、口端を微かに吊り上げて、描いた笑みに人差し指を添え。

「暗殺ですよ、暗殺。今までとは少し、事情が変わったのでね。芸を凝らさず正々堂々暗殺出来ます」

軽々しく、彼女は言ってのけた。

事情と言うのは、解放軍並びに解放の教会が大規模な蜂起を起こすであろうと言う事だ。
これまでは帝国に怒りと言う燃え滾る大戦槍を与えたくなかったが為に、
ウルカは暗殺の機会を自ら手放したり、解放軍の仕業を装うとしてきた。
だが解放軍らが大きく動くのならば最早、帝国に憤怒の槍を与えた所で彼らはそれを振るう契機が得られない。

また解放軍は何も、帝国を討ち果たしたらそれで解散と言う訳でもないだろう。
恐らくは新たな政を執り行なう存在になる。

(或いは民主制なんて言う最悪の制度に走る事も考えられますがね。
 それにしたって、実際に為政する役職は不可欠です。革命後の混沌を直接的な民主制で乗り越えられる訳はない。
 近隣諸国に切り崩されるのがオチですねぇ。そうでなくても危ういと言うのに)

革命を終えた後の衰弱し切った国は、近隣諸国からすれば格好の餌だ。
だからこそウルカは、王国を新誕生するだろう国の後ろ盾としたいのだ。
何も無理に占領して属国としなくても、「良き付き合い」が出来たのなら国益は十二分に得られるのだから。

226 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/10/26(火) 07:04:46 0
「そう、事情が変わりました。解放軍は何やら大きくなりそうですからね。
 こちらとしてもただの手駒代わりではなく、協力者として良き付き合いがしたいと思いまして。
 ま、今はまだ私の独断ですが、本国の方も事情を話せば同じ結論を出しますよ」

と言う訳で、と彼女は言葉を繋ぐ。

「まずはこれまでの無礼と……ついでにこれからの無礼の詫びと言う事でね。
 勝利を、そしてあの第九皇子の首を、捧げてご覧に入れますよ」

軽やかな声に、ウルカは微笑みと、ぴんと立てた人差し指を添える。
そして「それでは」と言葉を残して、彼女はクィル達が潜む宵闇から飛び出した。
夜空を裂く彗星となり、彼女は街へと降り立つ。

第九皇子の居場所は事前に把握している。
最上級の宿の、最上級の一室。
風の魔法を用いて窓の外に浮かび、彼女は目を瞑る。

風の流れを読んでいるのだ。
第九皇子は机に向かって、殆ど微動だにしない。
何か執務を行っているのだろう。

(……下の方も、騒がしいですね。狂信もとい教信娘ちゃん、ゴールディングの仕業ですかね)

風に乗って流れてくる声を聞くと、不審死、腐敗、蛆、そのような単語が頻発していた。

(えー……もうちょい普通の宗教娘っぽい魔法は出来なかったんですか。
 ……と言うか、いつの間に?さっきまで傍にいましたが、魔法を使っている素振りは見えなかった。
 魔法具?それとも体質?種の性質?……面倒ですね)

答えは出ない。だが今すべきは思案ではないと、ウルカは思考を断ち切る。
既に騒ぎが起きているなら、いつ第九皇子の下へ近衛兵が駆けつけてきてもおかしくない。
いや、もうすぐそこまで来ているかもしれない。

(さっさとやっちゃいますかね……っと!)

一息に窓を突き破る。
既に位置の知れている第九皇子へ、ウルカは短刀を腰だめに構え突っ込んだ。

【ノイン暗殺決行。既に騒ぎ起こっちゃってるからここ真っ先に人来るんじゃね?とか懸念してみたり】

227 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/10/28(木) 22:11:31 0
>>225-226
「暗殺、ですか……」
ノインの暗殺と聞いて、ベルは自分の能力を再確認すると共に、彼の死によって生まれる波紋について想像を巡らせた。
「良いんじゃないですか。どうせ、あんな奴、トカゲの尻尾でしょうけど」
ベルが言うとおり、帝国にとって、ノインは恐らくトカゲの尻尾に過ぎない。
しかし、その事実は着目すべき点ではある。
ノインは実力も皇族も地位ありながら、それに相応しからぬ不遇をかこっていることは明白であり、そこを突くことで上手く動かせる可能性がある。
問題は、彼が帝国にとって脅威となるほど強力で結束力の強い派閥を形成しているか、そして帝国への反逆という思考にそもそも至るかという2点だ。
特に後者は大きな問題である。
単なる不遇というだけでは反乱の動機にはなり辛いし、動かなくては、戦力的に役に立たないとかいう以前の問題だから。
とはいえ、彼は曲がりなりにも皇族の一人ではあるから、これを殺すことで、今よりももっと大々的に帝国軍を動かす口実にもなる。
つまり、生かして利用するにしても、単に殺すにしても、確実に今よりも戦火は拡大する。
ベルにとっては、どちらにしても都合が良いので、ここはウルカに任せることにした。
とはいえ、もしかしたら、ノインの近衛兵にまで影響が出ている可能性も十分にある。

一方、陽動部隊に混じっていたベルは、ここに来て目に見えるような動きを見せた。
「さて、そろそろですね――
 “解放と自由の神よ!
 戦士に加護を、真実に光を、そして世界に夜明けを与えたまえ!
 明星の瞬きとともに!”」
此処へ来て、初めてベルが「呪文を唱え」、「魔法を使った」。
ウルカの言う「普通の宗教娘っぽい魔法」――『祝福』と呼ばれる種類のそれは、要するに神の加護によって味方の力を強化する支援魔法だ。
確かに、戦に携わるような聖職者は、しばしばこのような魔法を使う。
彼女は確かにそれを使った。きちんと呪文を唱えて。
解放軍の兵士たちは、身体の内から力と勇気が湧いてくるのを、確かに感じ取っていた。

さて、「それまでベルが魔法を使っていたように見えない」、これはそれなりに重要な意味を持つ。
蝿と腐敗について追求を受けた場合、ベルはぬけぬけと言うだろう。
「え?わたし、そんなことしてませんよ」「罰が当たったんじゃないですか?」と。
今の時点では、ウルカを含めて、アリバイを証明する人間は山ほど居る。
もちろん、魔物に詳しい者であれば、ある種の来訪者(異次元の存在。天使、悪魔等)は、単に念じるだけで効果を発揮する超能力を持っていることは知っている。
その中で蝿を眷族とする奴となると、既にベルの正体は判明したも同然とさえ言える。
だが、仮にそうした事実に気付いて彼女を告発したとしても、必ずしも解放軍にとって利益になるとは限らない。

228 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/10/29(金) 12:50:13 0
窓を突き破り、ノインの喉元へ短刀を突き立てるべく加速するウルカ。
もう一つ瞬きすれば彼我の距離は埋まるだろう、その速力、その火勢。そんな彼女の視界を突如、鋼の鈍色が埋めた。

「――どっっっっせい!!」

振るわれたのは剣。刃を立てない、腹での一撃。ウルカの顔面に見事ぶち当たった薄い鋼の板は、一切の歪曲をせず慣性をそのまま彼女に返した。
同時に風属性の加勢魔法が発動し、ウルカは窓の外へ吹っ飛んでいく。

「やっぱりなあ!どうにもキナ臭えと思ったらいつぞやの暗殺娘ちゃんじゃねーか?」

剣の振るい手は、皇室直属近衛部隊長カールスラント=バルクホルン。
ウルカが突入する直前までノインの部屋の壁に地属性魔法の『同化』で一体化し、窓を突き破ると同時に出現したのである。

原因不明の奇病・不審死・行方不明に見舞われた近衛兵及び駐留部隊は、生き残った者達で情報を共有し、結論を出した。
『何かが起こる』――それだけわかれば、近衛兵たるバルクホルンがとるべき行動も戦う理由も、一つしかない。

(しかしまあ、シルト殿から『クリムゾン・ブレス』の話を聞いといて良かったな)

情けない話になるが、風に乗って呪いを撒き散らす魔導具の話を聞いて以来、バルクホルンは何か異変を感じるとすぐに風属性の大気結界を張る条件反射ができていた。
それが実際に効果を示したものだから、同僚たちや駐留部隊にも対処法が伝播し、戦力は低減したものの全滅には至らなかったわけである。

「だけど死んだぞ、何人も!まだ小さいガキ抱えた奴や、これから祝言って奴もいた。そこらへんの落とし前はきっちりつけさせてもらうぞ」

窓の縁に脚をかける。
外のふっ飛ばしたウルカは、当然この程度で死にはしないだろう。刃を立てずに剣を振ったのは、ノインの部屋に惨殺体を撒き散らさない為であり、
――因果応報の使者となるべく為でもあった。

バルクホルンは知らない。
あくまでウルカの暗殺は余録であり、本隊の目的は別にあることを。
ノインを殺すためだけに、同僚や町人が何人も腐り果てるこの状況を作ったのだと、錯覚していた。

故に猛る。故に怒る。
またバルクホルン自身も与り知らぬことだが、彼の体内には防御しきれなかった小さな小さな呪いの断片が紛れている。
それが如何な効果を齎すかは確定しないが、この戦場を形取る一要素であることは言うまでもなかった。

「出てこいよ暗殺娘。――おっちゃんと楽しくお話しようぜ」


【ウルカの暗殺を阻止。窓の外に吹っ飛ばす】
【糧食奪回部隊の存在には気付かず。何れにせよ近衛兵なのでノインの身柄が最優先】

229 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/10/30(土) 00:20:49 0
>>228
しかしながら、バルクホルンが戦うべき敵は、ウルカだけではなかった。

気を配るべき点は二つあった。
一つは「何人かが行方をくらましたのは何故か」、もう一つは「何故、不審死を遂げた死体の腐敗が速かったのか」、この二点だ。
前者はまだよくわからないが、後者はバルクホルンの鼻がすぐ近くの腐敗臭を感知したことによって、すぐに判明した。
つまり、蝿は死肉に卵を産みつけるとともに、即座に死体を負の生命力と腐敗で満たすことで、犠牲者をアンデッドの怪物へと変えたのである。

そう、彼らはものすごい勢いで増える。
何故なら、蝿は殺した死体に卵を産みつけて蛆を発生させ、それが成長して新たなベルの眷属となり、更に人を殺すためだ。
死亡から腐敗、そしてゾンビ化に至るまでのプロセスは非常に速い。蛆の成長速度も然り。
つい先ほど、すぐ近くで倒れた同僚(風の魔法で防御したときには手遅れだったのだろう)が、早くも腐敗臭を撒き散らしながら、バルクホルンに迫っている。
そうしたゾンビが解放軍の目に触れないよう、ベルは配慮している。
病毒や生命力奪取などの攻撃は哨戒兵にも行なっているが、バルクホルンの目の前で起きているゾンビ化の現象だけは、あくまでノインの喉元に集中させている。

さて、バルクホルンに迫る複数のゾンビは、どれもひどく腐敗してこそいるものの、彼がよく知る連中の面影を微かに残しているものばかりだった。
戦場の兵士の多くは、戦友が死せざる死者となって再び地上を歩くのを見たいとは思わないだろう。
「隊長!」
彼らは生前と変わらぬ元気な声で、バルクホルンを呼んだ。
「バルクホルン隊長!今後もわれわれの指揮を執っていただきたく思います!」
彼らはバルクホルンを仲間に引き入れたがっている。
ベルは敢えてゾンビどもを単なる操り人形にはせず、彼等の生前の記憶を歪んだ形で留めることにより、近衛兵たちにとってより「戦いたくない敵」に仕立て上げている。
彼らはただ単に近くの生者に襲いかかるアンデッドであるから、近寄ればウルカも襲われるかもしれない。
しかし、ウルカが窓の外に叩き出された以上、今のところ、これらのゾンビの注意はバルクホルンに向いている。
ただ、ウルカがこうした光景を見てどのように思うかについて、ベルは全く配慮していない。

ところで、そういえば、あのエストアリアの姿も見かけられない。
今のところ、ゾンビになっている様子は無いようだが、これはつまり、行方をくらました者たちの中に入っている恐れがあるということでもある。
忽然と姿を消した連中はどうなったのだろう?
答えはベルだけが知っている。

230 :名無しになりきれ:2010/10/30(土) 07:59:48 O
妖精おっさん、ボンバー・バブルソンが羽ばたいている。

231 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/11/01(月) 02:59:33 0
夜の帳を引き裂いて、クィルの放った矢は高く高く飛んで行く。
鹿の角から削りだした紡錘形の鏃は殺傷能力を持たない。
その代わりに、幾多と穿たれた穴から空気を取り込み別の穴から吐き出すことで悲鳴をあげる。

それが意味するのは作戦決行の合図、すなわち襲撃の始まりだった。


ファイ率いる陽動部隊が門を抉じ開け、街へ雪崩れ込むのと時を同じくして。
クィルは運搬部隊の指揮を採るフェゴルベルの指示の下、一人先行し食料庫を睨んでいた。

「……ひとぉーつ、……ふたぁーつ、……みぃーっつ」

いつもの抑揚の無い平坦な声とは違い、僅かながら喜色を浮かべた声で一つ、二つ、と数えていく。
そしてその数が刻まれていくにつれ、同じだけの哨戒兵が地に伏せていく。

「面倒……たくさんっ、で良いや」

言うなり、それまでは一本ずつ手挟んでいた矢を五指に掴めるだけ掴み、うって変わった速度で弾きだした。

速射。
放たれた矢は間断なく、残った兵士の頭蓋へと吸い込まれ朱色の飛沫を咲かせる。

「……おーしまい、っと」

ノインやヴォルフ。その側近たる近衛部隊ならいざ知らず。
過日の鎮圧を快勝と信じ、形だけの任務についていた後衛兵などは的当ての的同然。
足音を忍ばせ、一応死体の確認に行くが、それも徒労。呆気ないにも程がある。
だが、それゆえにクィル自身にも油断が生まれていた。

「……あっ――」

見つけたときには既に手遅れ。
致命傷を免れた兵の一人が最後の力を振り絞り、覚束ない手で取り出した警笛を口に咥える。
矢を生やしたままの顔でクィルを睨み上げ、一矢報いられることへの喜びか口の端を吊り上げた。

「――ダメ」

断、と。魂切れる音が響く。
何時の間にかそこに居たフェゴルベルが、帝国兵の首を切断したのだ。
無論、応援を呼ぶ笛は役目を果たす事無く沈黙したままである。

「ったく、甘く見すぎだ」

「……ごめん、なさい」

フェゴルベルの叱責にクィルは項垂れる。
弁明の余地も無い。すべては己の油断が招いた結果である。

「まあ何とか間に合った、それよりこっちはもう大丈夫だろ。
 他の連中は陽動部隊の応戦に掛かりっきりだろうしな」

だから例の暗殺者と待祭の手際を拝見に行こうぜ。と、フェゴルベルは続ける。

「……でもファイとの合流は?」

クィルの問いにフェゴルベルは「どうせ同じ方向だ」と、肩を竦めた。

232 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/11/01(月) 03:01:25 0
「向こうから……何か、来る。……帝国兵の団体だね」

隠れろというフェゴルベルの指示に従い、クィルと同行する解放軍の兵士達は物陰へ散開する。

「……仲間同士で追いかけっこでも……してるの?」

フェゴルベルの背中から顔を覗かせたクィルが見た物を見たままに、小声で疑問符を浮かべる。

クィル達の前方からやって来たのは帝国の兵士。
いや、追い立てられる獲物のように這う這うの体で逃げてきた。と言ったほうが正しいだろう。

だがそんな彼らに追いすがるのもまた帝国兵なのだ。
足をもつれさせ転んだ仲間に一斉に群がり、ひとしきりの悲鳴と咀嚼音が響いた後、また何事も無かったかのように他の者を追いかける。

唯一つ違うのは、最初に転んだ帝国兵が起き上がり仲間を追う方へと転じたことだった。

「……何が、起こってるんだろう?」

「解らん、だがまずいぞ」

「……何が?」

「連中の向かってる先には――」

そこまで言われてクィルも気づく。
逃げる者と追う者、双方ともに帝国兵の一団が向かう先にあるのは先刻襲撃した食料庫。

「クィル、一緒に来い。ファイ達に伝えに行くぞ!……お前達は戻って仲間に伝えろ!」

「……がってん」

表情に色濃く恐怖を浮かべ、フェゴルベルの指示に弾かれたように走り出す仲間達は真逆の方向。
帝国兵達がやって来た先、街の中心地へ向け二人は駆け出した。

233 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/11/03(水) 21:34:06 0
>「――どっっっっせい!!」

「ありゃぁ!?」

視界が鈍色に染まる。それが分かった時には眼の奥にまで劇薬のような痛みが走っていた。
意識と視界が鮮烈な痛みに白く塗り潰される。
だが肌が、髪が、一つの事実を告げていた。打ち返された、と。
窓の外に打ち出され、ウルカは咄嗟に腕を伸ばす。指先が窓枠に掛かり、しかし留まれない。
指が外れ、落ちていく。重力の腐りが彼女を絡め取り地面へと誘い、

「っとぉ!……うわっ、ギリギリじゃないですか。今のは危なかったですよ」

頭の中身をぶち撒ける寸前で、ウルカの落下が止まった。
間一髪の所で白く染まった意識が晴れ、彼女は浮遊の魔法が発動出来たのだ。
横たわる姿勢のまま浮遊して、頭に手を添えて頭を小刻みに振る。
そうして首を回して自分と地面との距離を検め、それが目と鼻の先だと分かると肝を冷やした。

「うー、いたた。あー……相手が近衛で助かりましたね」

もしも先程打ち返されず、刃で迎え撃たれていたら。
体は跳ね返されず刃は第九皇子に届いていた。が、当然ウルカも死んでいた。
暗殺者としては望ましい結果だが、今回のウルカの目的は暗殺ではない。
正確には、暗殺だけではない。暗殺出来たならそれはそれで良しだが、
それ以上にすべき事があるのだ。
近衛兵がウルカの殺傷よりも第九王子の防護を優先したのは僥倖だった。

>「やっぱりなあ!どうにもキナ臭えと思ったらいつぞやの暗殺娘ちゃんじゃねーか?」

「ありゃりゃ、何だかあらぬ事まで私のせいになってそうですよ?うーむ、
 余りにエグい事をしたとなると王国の名にケチが付くから嫌なんですけどねぇ」

着地して、彼女は最上階の窓を見上げて呟く。
顎に右手を当て、首を傾げ――

「……ま、いいとしましょう。『ケチが付いても何ら問題がなくなるよう』に、私はここに来た訳ですからねぇ」

窓を捉える双眸が、研ぎ澄まされた。
ウルカの表情から喜色や惚けの気配が鳴りを潜める。
薄氷の刃の如き眼光が、窓枠かに足を掛けて彼女を見下すバルクホルンを貫いた。

>「だけど死んだぞ、何人も!まだ小さいガキ抱えた奴や、これから祝言って奴もいた。そこらへんの落とし前はきっちりつけさせてもらうぞ」

「なら、その刃の矛先は私じゃなくてお上に向ける事ですね。今宵この街で息絶える命。
 それは夥しい数に上るでしょうが……帝国様の手腕には到底及びませんからねぇ?」

闇の中から、皮肉を一つ。

>「出てこいよ暗殺娘。――おっちゃんと楽しくお話しようぜ」

言葉の代わりに、短刀を放つ。
殺傷が目的ではない。単に窓の傍から立ち退かせる為だ。
短刀を追うように、ウルカは跳躍。
もしもまだ窓付近にバルクホルンが居座るようなら、短刀を対処する隙に風の刃を見舞う。
彼女はそのつもりだが、近衛兵ともなればこれしきの手が読めない筈はない。
躱すなり防ぐなりされるだろうが、ともあれ彼女は再び第九皇子の部屋へ飛び込む。

234 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/11/03(水) 21:37:23 0
「どーもこんばんは。お話ですかぁ。私としては……一回で駄目になっちゃうオジサマより、若い皇子様の方が好みなんですけどねぇ」

意地の悪い笑みが浮かび、しかしすぐに潰える。
彼我の距離は先と大差なし。変わったのは、間に聳える障害。
第九皇子を背に、バルクホルンが立ちはだかる。

(かーんぜんに待ちの姿勢ですね。事態を解決するつもりは一切なしと。何と言っても近衛兵ですしね。
 第九皇子を護りながら……ってのは大したハンデにはならないでしょう。何と言っても近衛兵ですしねぇ)

そして実の所ウルカもまた時間稼ぎ、即ち攻めに見せかけた待ちの姿勢が望ましい。
となると状況は膠着する。する筈だった。が、そうはいかない。状況は揺れ動く。

>「バルクホルン隊長!今後もわれわれの指揮を執っていただきたく思います!」

(おぉ便利便利。あの子もなかなかいい仕事するじゃないですか。この隙にあわよくば……)

窓に再び飛び込んだ時には既にいたアンデッド達は、覚束ない足取りでバルクホルンと第九皇子を囲みつつある。
しめたと言わんばかりにウルカは微笑。自身の目的を果たすべく、一歩踏み出した。
歩みの先には、ノインの執務机がある。

けれども彼女の歩みを、阻むものがあった。
――ふらふらとしながら、しかし確実に彼女へ接近しつつある、アンデッド達だ。
嫌な予感が、ウルカの笑みをひくつかせる。

(……ってちょっと待って下さい何でこっち来てるんですか!まさか見境なしってオチですか!?
 普通こう言うのは気を働かせておくモンでしょうに!って言うか私まで襲われたらさっき如何にも
 「この事態はぜーんぶ私の仕業ですよふふん」な空気醸してた私が完全に無駄骨の恥ずかしい子じゃないですかぁ!)

心中で悪態を吐きながらも、ウルカは慌てて風の弾丸で迫るアンデッド達の頭を射抜く。
額に風穴を開けられたアンデッドは派手に仰け反り――しかし平然と、彼女への歩みを再開する。

「っ、ですよねぇ!アンデッドですもんねぇ!あぁもう面倒な!……そこの貴方!部下の世話くらい自分でして下さいな!」

叫びと共に一歩飛び退き、ウルカは烈風を大砲宛らにアンデッドへ放つ。
不安定な歩行しか出来ないアンデッドは容易く、風に押し飛ばされた。
殺せないのならばいっそバルクホルンの方へ追いやり、標的を変えさせようと言う算段だ。

「ついでに……コイツを頂きですよぉ!」

伸ばした右腕を、ウルカはノインの執務机へ伸ばす。彼女を中心にして風が渦巻いた。
空気の流れは見えざる手となり、執務机の上に積まれた紙を彼女へと運ぶ。
窓の外から気流を読んだ時、ノインは殆ど動いていなかった。が、その手元では空気が微動を繰り返していた。
羽ペンが小刻みに空を切り、束ねられた紙が緩やかに虚空を仰ぐ動きだった事を、ウルカは記憶している。

(そう、これが私の個人的な……正確には解放軍の関係ない、純粋に王国の為である目的の一つ。
 あの第九皇子が口にした『遺産』の情報。それがこの中に紛れていれば……)

風に舞い上げられ、紙は羽ばたくような音と共にウルカの手元へ誘われる。
仮にバルクホルンがノインの傍を離れアンデッド達に飛び込んだのなら、止められるかもしれないが。
どうするのかは、彼自身の判断に委ねられる。

(うーん、まあ大事な情報ですし肌身離さず持っていられたら、ちと面倒ですねぇ。
 それにしても素敵なポーカーフェイスですね。少しくらい動じてくれりゃこっちもやり易いってモンですが。
 ま、『遺産』ではないにせよ有用な情報があれば収穫ですけど)

【アンデッドをバルクホルンの方へ追いやる。執務机の上にあった紙束を根こそぎ頂戴】


235 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/11/05(金) 01:52:18 0
>>231-232
向かった街の中心は、地獄そのものだった。
生きている兵士とアンデッドの兵士が入り乱れており、不快でたまらない腐臭が周囲を支配している。
蝿の羽音も喧しい。無数の蝿が宙を飛び交っている。
当たり前だが、あのゴールディングなる聖職者を招きいれるまでは、こんなことは無かった。
彼女を問い質すのであれば、その場で呼ぶだけで来るかも知れない。何せ蝿が見聞きしているのだから。

(そろそろバレるかしら。まあ、バレたらバレたなりの交渉をしましょう)
ベルは、ゾンビが解放軍の目に触れたことを察知した――そんなことができた理由は簡単だ。
腐敗したゾンビに湧いている蛆の出所は、彼女の眷属の蝿である。
そして蛆は蝿の子であるから、この蛆を通してもモノを見ることができる。
(ま、こっちの正体がバレないと出せない話題もありますしね)
ベルは自分に対して何らかの追及が来ることを予測しつつ、そのときの対応について考えを巡らせるようになった。

彼女が解放軍と接触した理由はごく単純だ。
あの暗黒教団と同様の、自分の悪事の片棒を担ぐ、ある程度まとまった数の構成員を抱える集団が欲しいというだけに過ぎない。
彼女にとっては、解放軍と暗黒教団との違いも、構成員の数と、当人に明確な悪意があるか無いか程度でしかない。
「ま、こっちはやめろって言われるまで頑張りましょう」
彼女はそう言って、陽動部隊と共に魔法攻撃を行なうなどしていた。
そう、周囲がベルを糾弾し、見かねてやめろと直接言うまで、ゾンビは暴れ続けるし、疫病は蔓延し続けるだろう。
ゾンビの存在は、そのうち解放軍にベルへの疑念を抱かせるだろう。
「あのう、ゴールディングさん?何か向こうが騒がしくないかい?
 それに何か、肉の腐ったような臭いがするんだが」
見れば、自分が所属している陽動部隊の仲間も、次第にベルを怪しく思い始めている。
「さあ?天罰じゃないですか?こちらを胡麻みたいに搾ってきたんですから」
あくまで白を切るが、疑念は確信へと変わるのも時間の問題だ。

>>233-234
ベルも抜け目がなかった。彼女の目は無数にある。蝿や蛆は一匹ではない。
それはノインの部屋にも、一匹だけ侵入していた。
もちろん、ウルカはベルの手口を知っているので、それに気付くかも知れない。
それに気付いて蝿に話しかければ、ベルは何らかの行動を起こすだろう。
ウルカにとって良いこととは限らないが、ひょっとすると、蝿を通じてサポートするかも知れない。

そのとき、ベルは薄く微笑みを浮かべていた。
その笑みが何を意味するのかは、彼女自身だけが知るところである。

236 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/11/06(土) 02:13:41 0
端的に述べて、それは悪夢の光景だった。
熱病の如き地獄の様相。腐り果て、しかし面影を残すかつての上司、同期、部下の面々。
ウルカを窓の外に撃退したバルクホルンの背後に集い始めた数多の死者達は、有らん限りの光を求めて朽ちた腕を伸ばす。

バルクホルンは打ち払うことができなかった。その手はつい今日の昼に、バルクホルンの手札からジョーカーを持っていった手。
帝国兵である以上、彼は日常と戦闘とに連続性を認めていない。仲間と自己との死生観は道徳と切り離して捉えている。
それでも、こんなにもあっけなく、こんなにも理不尽に、その手から命が消えていることを、是とはできなかった。

「クソが……ッ!」

同調するように、外から短刀が飛んできた。
臨戦の肌は殺気を磁針のように感知し、凶器を避ける為に死者の群れへと一歩踏み出す羽目となる。
下手人は、短刀を追うようにして窓の縁に再出現した。

>「どーもこんばんは。お話ですかぁ。私としては……一回で駄目になっちゃうオジサマより、若い皇子様の方が好みなんですけどねぇ」

「歳と身の丈考えろよ年増の嬢ちゃん。テメエから見りゃ俺も皇子もさして変わらねえだろ、あんま期待すっといざってときに萎えるぞ」

精一杯の悪態で応酬するが、そろそろ彼にも余裕がなくなってきた。
風属性結界が死者の手を阻むが、刻一刻と屍肉の波濤が勢いを増す現状、千日手に持ち込むにも荷が勝ちすぎる。

>「バルクホルン隊長!今後もわれわれの指揮を執っていただきたく思います!」

(こいつら――記憶が残ってるのか?屍蘇契約の呪式を恣意的に歪めて行使してやがんのか。胸糞悪いやり方だ)

これで彼らを本格的にただの屍を断ずることができなくなった。
目を背ければ声が届き、耳を塞げば生前の仕草を残した挙動で死する戦友達は迫る。

(人の命を……誇りを、魂をッ!ガキの玩具みてえにねじ曲げくさって……!)

これまで経験してきた戦場のどこにもこんな卑劣な手段は存在しなかった。
国家間の戦争では戦時協定で戦神の下に恥じぬ戦いを求められ、殲滅戦ではそもそもこんな高度に歪んだ術を用いる者がいない。
これは人間の行使できる魔法の範疇を超越している。もっと高位の、魔物、魔族、あるいは悪魔――それに準ずる存在。

「――皇子が先だ!」

ウルカが風魔法を発動するより早く、先んじて仕込んであった魔法がノインの周囲で起動する。
バルクホルンが近衛として究めた地属性魔法。ノインの『存在』を大地に抱擁させ、あらゆる攻撃を地面へ受け流す絶対伝導結界。
実際のところウルカが狙ったのはノイン本人ではなくその所有する書類達なのだが、なんにせよこれで近衛としての役目は完遂。

237 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/11/06(土) 02:15:13 0
――ここからは、一人の帝国兵として立ち向かうべき世界。
死して尚彼を慕う者達と、たった一人で対峙せねばならない領域。

(エストアリアは……くそ、どこ行きやがったあの馬鹿)

バルクホルン達の常套戦法として、魔法に長けるあの同僚が魔力を隠して伏兵となり高威力の攻撃魔法で狙撃する算段なのだが、
先刻から打ち合わせておいた待機場所に彼女の姿がない。伝心術で呼びかけてみても返事がなく、故にバルクホルンは単騎だった。

「死者が生者に頭を垂れる、か……死んでもツキの悪さは治らなかったなあ、ロッド」

ざっと目の前にある知った顔を眺める。
博打に弱かった同期、事あるごとに家内の話をして独り身のバルクホルンに頭を下げていた部下、戦場でも酒を手放さなかった者。
生者だった頃に手札と睨み合っていた眼は白く濁り、最早目の前のバルクホルンすら映すこと能わず。

やがて死者達の圧力に耐えきれず、風の結界が鈍い音を立てて破砕した。
雪崩れのように生身のバルクホルンへ殺到する死人の群れ。彼の肩に、首に、胴に、冷えた腕でしがみついた。

その刹那。

「――『命令』だ!!」

バルクホルンはその場の誰もに届く程の豪声を、裂帛の気合で吐き出した。
最早止められぬ勢いで押し寄せていたはずの死者が、その中のバルクホルンの部下達が、瞬きほどの僅かな時間だが、確かに停まった。

「指揮をとってやる。最期の『命令』だ……総員、第一種待機体勢!!」

部屋全体の大気を揺るがすような大音声で腹の底から号令を出す。
同時に魔法陣がバルクホルンを中心に展開し、扁平な魔力光に触れた死者達の足元が徐々に石化していく。
動きを失い始めた死者の群れを前にして、バルクホルンはその巌のような表情から、ほんの少しだけ険を抜き、そして『命令』した。


「――そのまま、指示があるまで休め」



【ノインに地属性結界。バルクホルンが維持し続ける限りノインへのダメージを全て地面へ受け流す】
【部下の死体達の指揮を執り、最期の命令。結果の如何に関わらず石化魔法を浸透中】

238 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/11/09(火) 03:25:53 0
クィルは逃げ出した――
しかし、回り込まれてしまった。

「あの、ホント、退いていただけませんか。これは、ちょっと、もう、無理なので」

「ダメだ」

顔面を蒼白に染め、迷うことなく撤退準備に取り掛かったクィルだったが、フェゴルベルに阻まれてしまった。
いつに無く饒舌に。この上なく丁寧な口調で。
必死に抗議するものの、返ってくる答えはにべもない。

「私がグロくてグチョいのと、足が八本以上の生物は、ダメなの知っているでしょう?」

「ああ、知ってる。だがダメだ」

なおも食い下がるが結果は変わらない。相も変わらず一刀両断に切り捨てられた。

陽動部隊と合流するため、街の中心地へと脚を踏み入れたクィルを待っていたのはまさに地獄。
阿鼻と叫喚が渦を巻き、死者が生者に喰らいつく。
無数に蠢く不浄の者と蝿の群れ。
不快指数は天井知らずに詰みあがっていく。

「……ファイはどうする?」

「良いから、今すぐその手を離し――……そうだった。」

しかし動揺するクィルを見かねたフェゴルベルの放った一言。
それによってクィルは混乱から立ち直る。
かろうじて使命感が上回ったようだ。

「ごめん……。もう大丈夫……多分。
 それにしても……これ、どういうことなんだろう?」

中心部から伸びる道は何処を見回しても死人と、逃げ惑う帝国兵で埋め尽くされていた。

「うちにはこんな術使うやつはいねえしな……」

帝国にしてもそれは同様。
好き好んで自軍の兵士を統率もまともに出来ないような木偶にはしないだろう。

「……ってことは?」

「ああ。俺らでも無ければ帝国軍でも無い。
 新しく加わった者、さもなきゃ第三勢力が介入してきたってことだ」

ウルカとゴールディング、この内どちらかが引き起こしたかもしれない。そうフェゴルベルは推測したのだ。
だがウルカの可能性は極めて少ない。
出来るのならばファスタの時点で行っているだろうから。

「……そういえば。アジトも……蝿を使役する術者に……見られてるってウルカが言ってた」

「くそっ、そこからかよ。そうなるとますます待祭が怪しいか」

何にせよここを切り抜けなきゃならないな。そう続け抜刀するフェゴルベルに倣いクィルは長弓を手に取った。

239 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/11/09(火) 03:27:08 0
「……だから嫌いなんだよ」

不死者の頭部に、クィルの放った矢が立て続けに突き刺さる。
だが粉砕力に欠ける点射では到底致命打には至らない。
矢を生やしたままの頭をぐるりとこちらへ向け、緩慢な動作で迫ってくるだけだ。

「弓じゃ無理だ。火精を使え」

迫るアンデッド兵をなで斬りにしながらフェゴルベルが声を荒げる。
再生力に比べ装甲の脆いアンデッドを倒す常套手段は、叩き潰すか燃やし尽くすかだからだ。

「……がってん。緋の衣纏いし猛き蜥蜴よ――」

クィルの召喚に応じて、そこかしこに落ちていたカンテラの火種から火の精霊が這い出し焔の舌を延ばす。

「……あそこ。開いたよ」

「よし突っ切るぞ」

炎に巻かれ崩れる不死者をかき分けて、中心街を駆け抜ける。

「邪魔だ」

幾度目の遭遇だろうか。
こちらに背を向け通りを封鎖している一団にフェゴルベルが斬り入った。
一閃、二閃。血刀が閃くたびに同数の死者が仮初の生を手放していく。

だが数合の後、その剣が阻まれる。

「よお……無事だったか?」

受け止めるのはファイ。
この死者の集団と戦っていたのは誰あろう陽動部隊の前衛だった。

「……説明はいらなそうだね」

クィルの言葉にファイが無言で頷く。

「お前が居るってことは近くに待祭殿も居るな?案内してくれ」

挟撃によって大幅に数を減らした元帝国兵の相手を部下に任せ、三人はゴールディングが居るであろう場所へと歩き出した。

240 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/11/09(火) 23:20:56 0
>>238-239
ファイの案内により、探し求めていたゴールディング、いやベルはあっさり見つかった。
当の彼女は、まるで待ち構えていたかのように応じた。
「どういった用事で来たかはわかっています。
 このゾンビ騒動の件でしょう?」
彼女が一瞬、ものすごい笑みを浮かべた。
よく見てみると、彼女の影は人の形をしておらず、悪魔の類が放つ「嫌な気配」を全身から発している。
「ええ、あれは全部わたしがやったことです。
 敵が減って楽になったでしょう?
 あと一息です、それまで頑張りましょう」
ベルは、自分のやったことを、悪びれもせず暴露した。しかし――

「でも、彼らは怒るでしょうねー」
この一言を微笑みながら発したことから、ベルの企みの一部が明らかになった。
「この地獄を生き残った者は、必ずわたし達に復讐することを強く願い、怒りの炎を身に纏うでしょう。
 解放軍は帝国軍をただ殺すだけでは飽き足らず、ゾンビにするような非道を行なった訳ですからね」
帝国軍にしてみれば、この騒動の原因は『解放軍の仕業』に違いない。
そしてそれは、ある意味で正しい。今やベルは解放軍の一員、そうでなくとも支援者の一人だからだ。

「それに、邪悪な魔術で帝国を脅かす解放軍として、帝国軍には貴方達を大々的に討伐する理由もできましたし。
 次に来る帝国軍は、数も錬度も装備も士気も、全てが今までの比ではないでしょうね」
彼女が悪辣な戦法を敢えて採用したのは、和平の望みを完全に粉砕し、互いに後には退けない状況を作り出すためだ。
そのために、帝国軍の怒りを加熱させ、更に討伐をもっと苛烈にすべき理由を付与したのである。
単に残忍な手段を用いたというだけでなく、「それが邪悪な魔術である」ことも意味を持っていた。
「ここまで来て、わたしと手を切ろうというのなら、それでも良いですよ。
 貴方達だけで、今までよりももっと強い帝国兵を相手にすることになりますけどね。
 それに、そっちの機密情報も概ね“蝿”を通じて掴んでますから、いつでも帝国に売る準備はできてます。
 何なら、帝国軍にやったことと同じことをしてあげましょうか?」
加えて言えば、ベルの能力が味方にすれば心強く、敵に回すには恐ろしいという印象を与えることで、
解放軍が自分と容易に手を切れないようにする意図もあった。
機密情報については実はブラフなのだが、知らせてもいないアジトの場所を突き止めて現れた実績があるため、軽視はできない。

「そう、今、わたしと手を切ったところで、貴方がたに利益はありません。
 それに、わたしはこのまま貴方がたに力を貸すと言っているんです。
 帝国を滅ぼすだけなら、わたしをこのまま味方につけておいても、特に不都合は無いはずでしょう?
 わたしの力は、大体分かってくださったことでしょうし――」
相手を思うように動かしたいと思ったとき、その手段は、利益を提示する方法と、損害を提示する方法とに二分される。
ベルはその原則に従い、自分と手を切ることによる不利益と、自分の助力を確保することによって得られる利益を提示している。
ひょっとすると、解放軍は袋小路に追い込まれたのかも知れない。
彼女と手を切れば近いうちに破滅を招くことは明白だが、協力関係を維持することによる不利益は必ずある。
「ここは一つ、契約といきましょう――心配しなくても大丈夫です。
 悪魔は人間と違って裏切りませんからね」
そう言って、ベルは古びた羊皮紙を取り出した――それが何かは、言うまでもあるまい。
彼女はその不利益が具体的に何であるかは言わないが、悪魔と契約を交わしたした者の末路については、広く知られている。

241 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/11/11(木) 17:18:25 0
近衛は相も変わらず第九皇子の護衛を優先した。
結果いとも容易く、ウルカは望みの羊皮紙を手元に得る事が出来た。
風で引き寄せ、手の平の上で一度浮かせる。呪いの類が付加されていないかを確認するのだ。
つい先程まで執務中だったのだからまずあり得ないとは思う。
思いながらも、一度痛い目を見た経験がある為、ウルカは慎重だった。

「……うん、大丈夫そうですねぇ」

独りごちながらも何処か恐る恐ると言った手つきで、ウルカは羊皮紙を手に取った。
ざらついた感触だけが指先から伝わる。呪いが無い事に、彼女は安堵の息を零す。
だが安堵は一瞬、気を引き締めるとちらりと、ウルカは近衛の方を見遣った。
近衛はまだアンデッド達の相手をしている。攻めてくる様子はない。
今の内にと彼女は羊皮紙に記された内容を検めようとして、

「……ん、流石に全部を押し付ける事は出来ませんでしたか。邪魔ですね」

自分に近寄りつつある足音と愚鈍な唸り声に、行動を中断した。周囲を見回せば、近衛の方へ届かなかったアンデッドが自分を囲んでいる。
両眼を細めながら、ウルカは羊皮紙を持った右手を下ろした。代わりに左手を右肩の上へ振り上げる。
そして振り回した。勢いに乗って、片足を軸に一回転する。円を描く左手から風の刃が放射状に放たれた。
不可視の刃は刹那の内にアンデッド達の顔面に切れ込みを入れる。
そして刃の後を追う突風が、切れ目の入った上顎を纏めて落とした。

「それで暫く食事は出来ないでしょう。あの狂信娘と一緒に断食していて下さいな。……さて今度こそ」

アンデッド達の無力化に成功したウルカは改めて、奪取した羊皮紙に目を通す。

「ふんふん、ふむふむ……」

羊皮紙の何枚かを、彼女は流し読みしていく。どうせまだ時間稼ぎの仕事が残っているのだ。
近衛は第九皇子を守る事に専念しているのだから、ここで読んでしまっても問題はない。
そう判断して彼女は次々に紙面を検めていく。

「……ありゃ?これは――」

不意に、左右に忙しなく動いていた彼女の双眸が動きを止めた。
一枚の羊皮紙をじっくりと見つめ、それから下に続く数枚を捲り、内容を確かめる。
意味ありげに小さく二度頷くと、今さっき見ていた一枚と下の数枚を風の魔法で自身の前に浮遊させた。
一列に並べたそれらを、ウルカは右手を口元に添えて眺めるように読む。

「……へぇへぇ、あの第九皇子様がねぇ。まさかこんな物を書き記していたとは、驚きですねぇ?」

そして、笑った。弓なりに歪んだ両の瞳が、第九皇子に揶揄の眼光を向ける。
羊皮紙に記されていたのは、先日のファスタの村で起きた騒動について。
より詳しく述べるのなら――被害者数とその詳細な内実。
何故そのような被害が出てしまったのか。どうすれば被害は未然に防げたのか。
それらの事が黒いインクから後悔の情を滲ませて、書き込まれていた。
ウルカの笑みは短命だった。すぐに潰え、彼女は暫し鉄仮面の表情で思索に耽る。

「……少し、お話をしましょうか」

言葉と同時、ウルカは風の弾丸を放った。標的は第九皇子でも近衛でもない。
視界の端をちらついていた、小さな黒い点。
狂信娘――否、今は悪魔と表記すべきか――が使役する、彼女の眼であり耳である蝿だった。
蝿は粉微塵となって絶命していた。使い魔を介した呪術戦ではウルカに勝ち目はないが、使い魔を殺すだけならば容易い。
ともあれこれで、この場にはウルカと第九皇子、近衛しかいない。
ウルカがこのような状況を望み、作り出した理由は単純明快だ。
悪魔がウルカや解放軍に隠し事をするように、ウルカもまた悪魔と解放軍に隠し事をしようと言うのだ。

242 :ウルカ ◆PpJMaaDGNM :2010/11/11(木) 17:23:43 0
「これを見るに皇子様、貴方は帝国の現状を憂いている。
 守るべき民が死に、栄光ある土地が痩せていく、この戦乱の世に終止符が欲しい」

まだ蝿や第三者が潜んでいる可能性を考え、ウルカは風の魔法で声を運ぶ。
同時にファスタの村に関してまとめられた羊皮紙を風に乗せて、近衛に返した。
声を伝える対象は第九皇子だけではなく、近衛も含めている。どうせ近衛は第九皇子を最優先とするのだ。
下手に隠し立てするより知らせてしまった方がやりやすいと、ウルカは判断した。

「虚飾は必要無さそうだからぶっちゃけますけど、私はそこを利用したい」

しかくしてウルカは人差し指を立てて、続ける。

「元はと言えばこの戦争、そちらさんが理不尽に吹っかけてきたものです。もっと言えば、新皇帝がですね。
 「帝国とは共に天を頂かず」……この言葉が王国の怒りを表しています。
 まぁ王国からすれば突然ぶん殴られたようなモンですから、当然ですよねぇ」

ですが、とウルカは言葉を繋ぐ。

「逆を言えばこの怒りを収めるに足る何かがあれば、この戦争は終わらせられる訳です。
 さて、ではその何かとは?金でしょうか?領土でしょうか?それとも幾千幾万の屍山血河?違いますよねぇ」

立てた人差し指が翻り、ウルカの唇を撫でた。
唇を描く曲線が不敵な笑みを模る。

「皇帝の命、貴方にはそれを捧げてもらいたい。現皇帝を殺し、貴方が新たな皇帝となり、王国と停戦協定を結ぶ。
 その後また幾つかの条件は付け足されるでしょうが、ともあれそれで戦争は終わります。
 どうです?本当にこの戦争を止めたいのなら出来ない事はないでしょう?」

王国からすれば必ずしも帝国と、いずれかが滅ぶまで続く大戦争をする必要はない。
むしろ憤懣が収まり、かつ国益にも繋がる結末があるならば、それを選ばない理由はないのだ。

そしてこうは言っているが、ウルカは既に第九皇子が提案を蹴った時の事も考えていた。
目下企んでいるのは、皇帝の暗殺である。皇帝を殺害し、然る後に再び第九皇子を訪れる。
どうせ皇帝は死んでしまったのだから、いつぞやの提案に乗った方がお互いの為ではないか、と提案する為に。
皇帝が暗殺されれば帝国の上層部はその事実を隠蔽するか、怒りの炎にくべる薪にしようとするだろう。
だがどうあれ解放軍と言う身代わりのヤギがいる以上、王国に憤怒の火が届く事はない。

同時にウルカはこの策が成功した後の事も考える。この場合悩みの種となるのは、解放軍だ。
停戦と政権交代に納得してくれればいいが、もしもそれでは収まりが付かないと憤懣を振り撒かれたら。
折角の策が台無しになってしまう恐れもある。

(……その時はまぁ、仕方ありませんから交渉。或いは口を閉ざしてもらいますか。
 頭さえ潰してしまえば、ここまで虐げられて尚立ち上がれなかった民に駄駄を捏ねる力は無いでしょう。
 出来れば殺しは控えたいものですがね。……あっさい物ではありますけど、それでも付き合いは付き合いですし?)

ともあれ、第九皇子の答えを頂戴する前から皮算用をしても始まらない。

「……で、いかがですか?第九皇子様。なかなか悪くない話だと思うんですけどねぇ」

ともすれば『蝙蝠』になりかねない立ち回りだが、それは帝国と解放軍が結託しなければ実現しない。
双方の利益は一致せず、更にはこのアンデッド騒動だ。結託は起こり得ない事だろう。
特に後者に関しては致命的だ。事情を知る第三者の介入がなければ、絶対に誤解は解けない。

先程ウルカは交渉の成否によって懸念すべき事を考えた。
だが最も脅威なのは交渉がどう転んでも懸念しなければならない存在だ。

――それは誰とも利益を共有する事のない者、即ち悪魔の事である。

243 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/11/13(土) 02:58:49 0
>「皇帝の命、貴方にはそれを捧げてもらいたい。現皇帝を殺し、貴方が新たな皇帝となり、王国と停戦協定を結ぶ。
  その後また幾つかの条件は付け足されるでしょうが、ともあれそれで戦争は終わります。
  どうです?本当にこの戦争を止めたいのなら出来ない事はないでしょう?」

(ばっ、なんつーこと言うんだこの女っ……!)

暗殺者の提案で設けられた交渉の席。即席の立ち話だが、鉄火場での正当な接衝。
予断も余談も冗談も許されないこの場で暗殺者の口から飛び出したのは、おおよそ正気の沙汰とは思えぬ乱痴気な条件だった。

「皇子、こいつ帝国を引っ掻き回したいだけですぜ。クーデター如きで国が治まりゃ俺達こんなくんだりまで出張してませんよ」

『皇帝の暗殺』そのものには言及しなかった。
それを考慮して良いのは当事者たるノインだけであり、腹の裏ではバルクホルンとて賛成に天秤が傾く。
どの道今の暗君をのさばらせていれば帝国に未来はない。土地は痩せ民は荒み、こんな田舎村にまで解放軍の手が及ぶ始末。

(ただ、クーデターで皇子に確実な利益があるかって言えば、そうとも言えねんだよなあ)

なにせ皇室にはノインより継承権の優位な者があと8人いるわけである。
皇帝が『不慮の死』を迎えたとて、それでノインに旨みが回ってくる公算は贔屓目に見積もっても皆無だ。
むしろ目の下のたんこぶとなっている有能な『弟』を、新帝の近くに置くとは思えない。

そう、ノインが皇帝の椅子に腰を下ろすには、残りの八人全員を相手取って戦うか。
――そうでなければ、『第九皇子の名の下にノイン自ら皇帝を殺害しなければならない』。他の誰でもなく。

それがどれだけリスクを伴なう所業であるか、この暗殺者は全て理解した上で提案しているのだ。
だから余計に、タチが悪い。あの愚昧な竜人と違って、理論武装しているから。弁舌の刃では切り伏せられない生粋の論客。

「後生ですから皇子、どうかご自愛を。敵国の娘に唆されたとあっちゃあ傾国語りのネタにもなりやせんぜ」

皇子は眼をまったく動かさず、ただ前方の一点だけを見つめて沈黙していた。
彼の見据える虚空には天秤が映っているのだろう。そこに一つ一つの要素を見分し、上乗せして、どちらに傾くかを吟味しているのだ。

>「……で、いかがですか?第九皇子様。なかなか悪くない話だと思うんですけどねぇ」

追い打ちをかけるように暗殺者が返答を催促する。
黙ってろと怒鳴りたくなったが、下手に刺激して話をややこしくするのは政治家の仕事であって近衛の範疇ではない。

244 :バルクホルン ◆XMoIGXtk5. :2010/11/13(土) 02:59:43 0
「…………英雄色を好む、か」

ノインがぼそりと呟いたのを聞いて、バルクホルンは己の背筋から血の気の引くのを感じた。
自嘲を含んだ声だった。

「バルクホルンよ。貴様は『国』を何と心得る」

「人と土地と指導者……士官教院じゃそう教わりやしたがね」

「もっと単純に捉えることができる。歴史の中心にあるのは『勝者とその取り巻き』だ。
 国家の元首は頭脳であり、その昌伴に与らんと口を開けるだけの衆愚は肉の羅列。そこに愚昧なヒトそのものとの違いは薄い。
 この国は、血を流し過ぎた。傷を埋めるのに新たな肉を使うなら、いっそ頭を挿げ替え代謝してしまえば手早いのかもな」

絶句するバルクホルンに相槌を求めないのか、ノインは一息いれ、続けた。

「前皇帝――祖父様より賜った下知を果たす時が来た。
 かつて『遺産』を遺した勇者に、『英雄』になれるのなら、私は色を好もう。――この国が、本当に終わってしまう前に」

「……マジですかい」

「私の愚断を諌めるか?我が近衛カールスラント=バルクホルン。しからばこの瞬間より貴様を縛るものは何も無い。
 貴様は貴様にとって最良の未来を想い、貴様の判断に従って自由に選択すれば良い」

「意地が悪くなりやしたね皇子、あの女の悪い影響ですな。俺に食いっぱぐれろと?」

「そうだったな。ならば命令だバルクホルン。――私に続け、さすれば扶持は保証する」

「――御意に」

ノインは暗殺者に向き直り、凍土の如き眼底にあどけない少女を映した。

「貴様の案に乗ろう、名も知らぬ暗殺者よ。『帝国』皇室第九皇子の名において」


【ウルカちゃんの暗殺案にのりましたってことで】

245 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/11/17(水) 03:03:36 0
>「ええ、あれは全部わたしがやったことです。
 敵が減って楽になったでしょう?
 あと一息です、それまで頑張りましょう」

まるで三人を待っていたかのように出迎えたゴールディングが真相を口にした。
浮かべる笑みは凄絶に、灯りに照らされ地に落ちる影は明らかに人のそれとは違っている。
驕った様子も無ければ悪びれた風も無い。

>「でも、彼らは怒るでしょうねー」

あるのは純然たる悪意。
自身の持つ瘴気を隠す事無く放ちながら、今宵の襲撃で解放軍が最早引き返せない瀬戸際に立たされたことを滔々と告げる。
外法を用い死者の魂すらを武器とする解放軍。そういう認識を植えつけたのだ。
ゴールディングが言うように以降帝国軍は本気で潰しにかかって来るだろうことは想像に難くない。

「……騙してくれた挙句に……脅迫まがい?」

返答いかんでは即座に射抜くと、クィルは矢羽を後ろ手に掴む。

>「ここまで来て、わたしと手を切ろうというのなら、それでも良いですよ――」

しかしそれすら既に見越していたのか、ゴールディングは解放軍そのものを人質に取り更なる交渉を持ちかけてきた。
手を切るのなら同等の災厄が解放軍へ降りかかり、そうで無いのならば強大な力を味方に出来る。
選択の余地は無い。実に悪魔が好みそうな常套手段。

「……冗談じゃ――」

「確かにな。待祭殿の言うとおり帝国を倒すためには手段を選んではいられん」

それでもなお突っ撥ねようとするクィルを制し、フェゴルベルが前へと進み出る。
ファイは黙して語らず、腕を組んだまま事の成り行きを静観する腹積もりのようだ。

>「ここは一つ、契約といきましょう――心配しなくても大丈夫です。
 悪魔は人間と違って裏切りませんからね」

「そうあって欲しいもんだな。」

ゴールディングが取り出した羊皮紙を、フェゴルベルは無造作に受け取る。
悪魔を契約する対価、それは魂の譲渡に他ならない。一時の繁栄を手に入れたとしても辿る末路は総じて悲惨なものだ。
子供ですら知っている事である。

「正気……なの?」

呆然と呟くクィルを他所に、フェゴルベルは血判するべく腰の長剣を握った。

246 :クィル ◆GhNEwdIFRU :2010/11/17(水) 03:06:36 0
「ところでクィル、この契約書は悪魔の魂の一部で出来てるって話は本当だと思うか?」

突き立てた長剣の刃に指を当て、フェゴルベルが問いかける。

「……え?」

急に話を振られクィルは困惑する。

「さあ……。でも……だとしたら、どうだっていうの?」

クィルの疑問にフェゴルベルが返してよこすのは悪魔に負けず劣らずの邪悪な笑み。

「つまりな――こういう事だ!」

手にした契約書を空中へ放り投げ、突き立てた鋼の長剣を抜き撃つ。
かつての剣の冴えは微塵も錆びる事無く、狙い違えず落ちてくる羊皮紙へと吸い込まれた。
それは解りやすすぎる程の反抗の意思。

「チッ……やっぱ斬れねえか。クィル!」

「了解……えい」

フェゴルベルの予想していた通り剣撃は徒労に終わる。
だが次手であるクィルへの支持は速やかに履行された。

血の契約。それは何も悪魔の専売特許という訳では無い。
より強力な存在を使役する常套手段。精霊魔術においてもそれは例外では無いのだ。

「……そんなに長くは持たないよ」

クィルは矢の突き立った手の甲を水平に掲げる。
零れる血が陣を描き、魔力を糧に契約が果たされる。形を成していくのは上位精霊の欠片。力の一端。

「ああ、解ってる」

表情を凄絶な色に変え、フェゴルベルは武器を構える。片手に鋼の長剣を――もう片方に精霊銀の剣を。
失った片腕を補うのは常人の目では見ることの出来ない精霊の腕。
クィルが召喚しフェゴルベルが操る。もう一つの切り札。

「待たせたな待祭殿。俺の魂だけならくれてやっても良かったが……あいにく死んだ仲間の分も背負っちまっててな。
 それにあんたも言っただろう?人間は悪魔と違って裏切るんだよ」

地を蹴ったフェゴルベルが絶影の速度でゴールディングへ迫る。
それと同時にクィルが召喚した火精が空へ放たれる。撤退の合図と帝国兵の注意をこの場に集中させる。
選択するのは三つ目。悪魔と戦うことで、裏で暗躍する存在を表舞台に引き出すために。

247 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/11/17(水) 21:44:15 0
>>242-243
契約決別の決意を見たベルは、薄い笑みを浮かべた。
「なるほど、裏切りは、悪魔にできなくて人間にできる、唯一の悪徳ですものね。
 だけど」
だが、それは一瞬の出来事だった。
ベルの手には黒い長剣が握られており、それがフェゴルベルの身体を串刺しにしている。
それは“バールの雷”と呼ばれる、呪いの魔剣だ。

「お前は、本当に馬鹿な奴だわ」
ベルの口調が、ブリザードもかくやという程の冷気を帯びた。
その剣を引き抜くと、その場でフェゴルベルがうつ伏せになって倒れた。
「タイミングが悪い、やり方が悪い、相手が悪い。
 そんな裏切りが、成功するわけが無いでしょう」
ベルにしてみれば、上に挙げた時期・手段・相手の三つの要素は、誰かを裏切る上で非常に重要だ。
暗黒教団も、悪魔との契約による損害を回避するためにベルを裏切ったが、やり方もタイミングも特に間違ってはいない。
ただ単に相手を間違えただけだったが、それで失敗して破滅することになった。
一つ失敗しただけで失敗するのだから、何一つ条件が揃っていない状態では、成功する訳が無いのである。

「そもそも、あんたはその剣とあの石で、人をいっぱい殺したんでしょ?
 今更、悪魔と契約するくらい、どうってこと無いじゃない。
 そんなあんたが、取ってつけたような正義に目覚めて、悪魔の野望を打ち砕く?
 ふふ、笑い話にもならないわね。ただの人殺しのくせに。
 契約してもしなくても、最初からあんた達の末路なんて一つしかないのよ」
倒れ伏したフェゴルベルを見据えて、ベルはそのように吐き捨てた。

「良いわ。あんた達の代わりを探すことにする」
その直後、ベルは周囲の兵士に対して、金縛りの術をかけ始めた。
例によって――ここに居る者の大半は知らないが、何の予備動作も呪文詠唱も無いままに、その術は効力を発揮し始めた。
強い精神力で抵抗すれば防げなくもないが、悪いことに、ベルを倒しても、次はどうにもならない現実が立ちはだかるのだ。
そのため、兵士の大半は士気が極端に低下しており、もはやベルの術に耐えるだけの精神力が残されていない。
結果的に、大半の兵士は、直立不動のまま動かなくなったのである。

「どうせなら、死んだ後お世話になるわたし達に、ちょっとでも覚えを良くしておけば良かったのに」
悪人の魂が死後に地獄へ落ちるという話は、現実においてもこの世界においても、多くの宗教において信じられている。
死後の責め苦は、いわゆる邪悪な行いに対する戒めとなっている。
しかし、実際に、どのような者の魂が地獄へ行くかを知っている者は稀だ。

「残念だけど、仮にわたしを倒せたとしても、あんた達の末路はそんなに変わらないのよね。
 どう足掻いたって、あんた達はこれから、堕ちるところまで堕ちるの――こんな風に」
フェゴルベルはまだ息はあるが、すぐに適切な治療を施さなければ、命を落とす結果になるだろう。
しかも、彼を刺し貫いたのは呪いの武器であるため、治療の手順も単なる刀傷以上に複雑である。
そこでベルは、大半の兵士が金縛りで動けなくなっている隙に、一つの宝石を取り出し、倒れ伏したフェゴルベルの背に置いた。

そのとき、異変が起こった。

248 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/11/17(水) 22:03:53 0
倒れ伏したフェゴルベルの身体から、ベルと同質の邪悪な気配と魔力が感じられる。

「これ、渡すタイミングが遅れちゃったんですけどね。
 この石は、7つある“勇者の遺産”の一つです。
 遺産は、真の勇者に相応しい美徳を持ち続ける限り、持ち主に絶大な力を与えるんです。
 でも実は、その美徳に対応する大罪を負ったとき、わたしと同じようなものが、現世とのつながりを得る――
 丁度、こんな感じで」
その石がフェゴルベルの背に置かれると、彼の身体に異変が起こり始めた。
異変が起こり始めたときには、ベルの口調は、元の穏やかなものに戻っていた。

「この石が司るのは“希望”で、対応する大罪は“怠惰”。
 これが地獄と繋がるのは、持ち主が希望を失い、全てに絶望して“怠惰”になったときです。
 ほら、何もかもに絶望したときって、何もしたくなくなるじゃないですか」
フェゴルベルを媒介に、ベルと同じようなものが、現世に召喚されようとしている。
そのために、ベルはフェゴルベルに「絶望」を叩きつけて打ちのめし、怠惰になるように仕向けたのだ。
とはいえ、ベルの本来の思惑は、「絶望」を叩きつけるのはもっと別の、
帝国軍で“勇者の遺産”を持った別の奴に任せることにあったのだが。

「正義無き憤怒は大罪に繋がる。
 節制を怠った者は暴食に走る。
 信頼を捨てて強欲であろうとすれば、必ず害をもたらす。
 賢明な者は嫉妬に狂うことはない、破滅することがわかっているから。
 ひとたび純潔を捨てるや、色欲に溺れる者のなんと多いことか。
 信頼するためには謙虚であれ、傲慢な者には真に他者を信ずることはできぬ」
そして、地の底から湧き上がるような、おぞましい声が聞こえた。
それは恐らく、目の前のゴールディング、あるいはベルと名乗っている少女の「中身」の声だ。

「――希望を失い、世界の全て絶望した者は、往々にして怠惰になる。
 怠惰の罪が、魔王ベルフェゴールをこの世界に招くのです。
 フェゴルベルさん。運命の巡り合わせって奇妙なものですよね。
 貴方は案外、そのために生まれたんじゃないですか?
 名前もそれっぽいですし」

249 :名無しになりきれ:2010/11/24(水) 09:36:44 0
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|∀゚ノリ  ジー
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      __,;iノノノ人
    / ~ i  |イ▼ー▼
   /{.  }_  lイ ∀ | アヒャッ
||l;:_ノ { 〉 }"':;;;ミ\_ノミ
   // | l   '{"';l|l|;"
   {,{,  ヾ:,,.  {、,|l,,{

250 :名無しになりきれ:2010/12/07(火) 21:18:14 0
次スレここ?

251 :名無しになりきれ:2010/12/07(火) 21:19:03 0
DFFTRPG
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1282042834/l50


252 :ベル ◆HywaqHR6Ng :2010/12/07(火) 22:23:23 0
見渡す限りの廃墟が広がっていた。
そこにはかつて大陸に覇を唱える大帝国、その帝都が存在したと伝えられている。
そして帝国が一夜にして滅んだことも。
この地は未だ強い怨念で汚染されていて、まともな草木は育たないとされる。
また、夜間には大量のアンデッドが闊歩しているとも言われている。
それらの言い伝えの真偽の程は定かではないが、確かなことっがただ一つだけある。
かつてそこには巨大な帝国があって、それが一夜にして滅んで、今は残骸しか残っていないということだけだ。

破滅に陥った原因についても諸説ある。
神の怒りに触れたとか、あるいは地獄の魔王と契約して一杯喰わされたとか言われている。
しかし、人々がその真相を忘れ去るには、もはや十分な時間が経ってしまっている。
ただ、後者の地獄の魔王との契約説を裏付けるかのように、この辺りでデーモンの類が目撃されたという情報もある。

そのような曰く付きの土地であるから、命知らずな冒険者や、止むに止まれぬ事情を持った旅人でさえも、あまり近付こうとはしない。
賊どものアジトになったという話さえ聞かないような場所だ。
社会からはみ出た山賊でさえも、ゾンビやグールと寝床を共にしたいとは思わないので、まあ道理であろう。

それ故に、かつての帝都を見下ろせる高台に居るこの二人は、恐らく変わり者というやつだった。
一人はいかにも旅の武芸者といった井出達の、皮鎧と長剣を構えた男である。
もう片方は修道女と思しき姿の女性で、死者に対して祈祷を捧げている。
「貴女は何をしているのですか」
「この地で亡くなった人々の冥福を祈っているのです」
「そうですか。
 ですが、この辺りには、アンデッドやデーモンが出るという話です。
 あまり長居はなさらない方が宜しいかと」
「お気遣い、有難う御座います」
「良ければ、最寄の町までご一緒に
 一人旅は何かと物騒ですから」
「いえ、お気遣いは嬉しいのですが――」
「――そうですか。
 道中、お気をつけ下さい。
 では、私は急ぎますので」
「はい。さようなら」

戦士が背を向けて立ち去ると、修道女はすっくと立ち上がって、手を合わせて一拝した。
「ごちそうさまでした」

【避難所で点呼をとってみたところ、どうやらわたし以外居ないっぽいので、これで終わり。
 お付き合いいただき有難う御座いました。】

253 :名無しになりきれ:2010/12/08(水) 19:59:20 O
お疲れ

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