クロスエイジ//


// Episode.0 獅子、再び・◆GtzExfc62I#################

4 名前: ◆GtzExfc62I [sage 乱入すいません] 投稿日:08/10/28 18:11:04 QKoQlnb4
【// Episode.0 獅子、再び@】

アメリカを横断する大鉄道『グランドレール』、この巨大線路を横目に歩く人影。
時刻は午前3時を少し回ったくらいか。
月明りに照らされ、足取り軽やかな人影は、まだ幼さの残る少女であった。
随分と昔に流行った日本のアイドルのヒット曲をハミングし、何やら上機嫌のようだ。

少女の遥か後方にネオ・デンヴァーの灯が見える。
家を抜け出してから早3時間、少女の足としては驚異的な速さだった。
「ふぅ、ここまで来ればママにも見付からないかもぉ。」
線路脇の防音壁に凭れ掛かると、そのままズルズルと滑る様に腰を下ろす。
爽やかな7月の夜風が心地よかったのだろうか。大きく伸びをして夜空を見上げる。
満天の夜空には、月の明かりが一際強く輝いていた。
「先ずはシカゴまで行かなきゃね。」
鞄から水筒を取り出して、一口呷る。疲れた身体に沁み渡る感覚が活力に変わった。

少女の名はパトリシア=キング。
幼少から抜群の運動能力で、女子陸上のU-15選抜にも選ばれた天才少女である。
一切の無駄が見当らない鍛え込まれた肢体は、見た目よりも強靱だ。
パトリシアはスポーツ全般が大好きだった。
身体を動かしている間は、色々難しいことを考えずに済むからだ。
「さあ頑張るぞぉ!今日中にシカゴに着くのだッ!!」
ガッツポーズを決めて、立ち上がろうとした時に背中が微かな揺れを感じた。

遠くから列車が走って来ているらしい。揺れは次第に大きくなってくる。
「そっかぁ、電車に乗れば楽だったんだぁ…私ったらバカだよぅ…」
壁を隔てた真横を轟音と共に駆け抜ける列車を見て、がっくりと項垂れてしまう。
だがパトリシアは知らなかった。

今走っているこの列車が、どの時刻表にも記されて“いない”車両だという事を…


――グランドレール南東5km地点
月明りに照らされ、鋼の装甲が鈍い輝きを放っている。
夜風を切り裂いて進むのは、一隻の戦艦。軍の物ではない、船首には海賊旗。
「見付けたよママ、件の車両だ。周囲に護衛機は見当らない、仕掛ける?」
ブリッジで列車を捕捉したモヒカンの大男が、艦の主に尋ねた。
「妙だね…護衛がいないなんて不用心過ぎるじゃないか。ジョン、距離を1000まで詰めな。
 もし隠れていやがるなら、炙り出すんだよ。野郎共!“狩り”の準備だ!急ぎな!!」

初老の女が大声で指示を飛ばす。その声の大きさは艦全域に響き渡るかと思えた程だ。
モニカ=バルロワ。世界中に名を轟かせた、稀代の大海賊である。


5 名前: ◆GtzExfc62I [sage] 投稿日:08/10/30 00:26:49 jvvvvMfa
【// Episode.0 獅子、再びA】

轟音が駆け抜けた。パトリシアは何が起きたのか理解出来ぬまま、衝撃にさらわれる。
線路脇の斜面を転がり落ちながら、僅かに見えた爆炎。
火柱が天を目指す中、そこに現われたのは漆黒のAMだった。
鋭いフォルムが織り成す禍々しい外装。
この時代に生きる者ならば誰もが知る、支配者達の駆る鋼の死神。

TVの中でしか見た事のない、世界を統べる天上人の騎兵に本能が警笛を鳴らした。
このまま此処にいると“必ず死ぬ”と。ならば彼女のとるべき行動はひとつ。
逃げる。人の足でどこまで逃げられるのかは分からない。
だが、迫り来る死を前にしてのんびり待つ程、パトリシアは愚かではない。

「2ndが列車を攻撃したの!?それとも……海賊!?」
遠くに見え始めた戦艦に、パトリシアが叫んだ。予感的中、それも最悪の。


――ジラソーレ、メインブリッジ
「おバカ!!積み荷がブッ飛んだらどうすんだい!!」
まさに落雷、モニカの一喝に2m近いモヒカンの大男が縮み上がった。
「だってママ…撃てって言ったじゃな…」
「お黙り!!確かにアタシは『撃て』たぁ言ったがね、『当てろ』なんて言ってないよ!!!」
「ヒイィ!!」
拳骨を振り上げる仕草を見て、モヒカンの大男ジョンが転がる様に逃げ出した。

「まぁ“奴”を炙り出せたから良しとしとこうか。ボブ!サム!油断すんじゃないよ!!」
モニタに映る2ndの存在を睨みながら、射出用カタパルトの息子2人へ指示を出す。
『はいママ!!』『頑張るッスよママ!!』
艦前方のカタパルトハッチが開き、2機のロボットが出撃した。
片方は象をモチーフとした重装型の砲戦機、片方はT-REXをモチーフとした獰猛な機体。

「チェーンジ!ダイエレファント、ファイターモオオオォドッ!!!!」
ボブの絶叫と共に象型ロボットが変形し、人型になったではないか。
「サム!僕が奴を引き付けるから援護を頼むよ!!」
厳い人相に似合わず丁寧な口調のボブ。モニカの息子、バルロワ4兄弟の三男だ。
先程のモヒカン大男が次男のジョン、そして末弟のサムが恐竜ロボットを操る。
「りょーかいッス!ボブ兄ちゃん!」
4兄弟の中で唯一美形のサムが、その端整な顔に不敵な笑みを浮かべた。

サムの機体、ダイザウラーに変形機能は無い。
しかし他の機体よりも戦闘力が優れている。パワー、スピード、武装、全てがだ。
2機に向き直った2ndの姿が消えた。最も恐るべきは、この速度。
瞬間移動と言っても過言ではない。ダイエレファントの背後に肉薄する2nd。
完全に死角を突いた筈であったが、その攻撃は不発に終わった。

「敵に背中見せるとかナメてんスか?」
ダイザウラーの瞬発力も桁外れだったのである。一蹴りで間合いを詰め、尾で薙払う。
僅か数秒かそこらの間に、目まぐるしく繰り広げられた攻防。
この程度は挨拶代わりでしかない。これから始まるのだ…超機と超機の激闘が!!


それを見ていたパトリシアの胸の奥で、静かに…それでいて熱く滾る“何か”が生まれていた。


6 名前: ◆GtzExfc62I [sage] 投稿日:08/10/30 23:20:57 jvvvvMfa
【// Episode.0 獅子、再びB】

『どうやら1機だけみたいだね、こっちは“狩り”に取り掛かるから引き離しな!!』
ジラソーレは距離600まで接近している。ボブのカウント通りのタイミング。
「はいママ!任せて!!」
返事するなり機体を反転させて、後方の2ndへキャノンを連射した。
この程度の弾幕に命中は期待していない。あくまで伏線だ。
素早く横に飛んで回避する2ndに、ダイザウラーの蹴爪が迫る。しかしそれも回避。

少しずつ、本当に少しずつではあったが、2ndは兄弟の罠へと嵌まり始めていた。
機体の機動性に溺れた絶対強者は、知らぬ間に狩人から獲物に成り下がる。
性能が高いだけで生き残れる程、海賊達は甘くはないのだから。


「凄い…凄い凄い凄〜い!!!」
逃げるのも忘れて戦闘に見入るパトリシア。母親譲りのパイロットの血か。
試合を観戦する観客の様に、無邪気にはしゃいでいた。
「なんだぁ!?民間人がいるなんて聞いてないよ、どうなってんのさ!!」
観戦に夢中だったせいで、すぐ近くまで海賊の6輪バギーが来ていた事に気付いていなかった。
「ほぇ?オバサン、誰?」
なんと間の抜けたセリフだろうか。しかし海賊達の空気は凍り付いた。
(ちょ!!ママに向かってオバサンは禁句ーッ!!!)
モニカの隣りでバギーを運転していたジョンが顔面蒼白になる。

「へぇ…“お嬢ちゃん”はアレか、アタシに無益な殺生をさせたいってかい?」
ジャキッ!とマシンガンのスライドを引いたモニカに、ようやく自分の立場を理解した。


一方でボブとサムは、列車からかなり離れた位置まで2ndを追い込んでいた。
「チィ、増援が来たらヤバイッス!ママ達早く積み荷を頂戴しちゃってて〜!!」
2nd相手に戦闘を繰り返してきた歴戦の猛者でも限界はある。
相手は疲れない。こちらは疲れる。当たり前の結果だ。長引けは長引く程に不利。
「弱音を吐いちゃ駄目ですよサム。僕達は仕事をきっちりこなさないと。」
ボブがレーザーバルカンの弾道を見切り、今は盾になっている象の頭を突き込んだ。

やはり躱されてしまう。
圧倒的な機動性の差が、兄弟の決定打を阻み続けていた。
(もうそろそろ仕掛けるッスか、それともまだ引っ張るッスか…)
サムは頭を悩ませる。ダイザウラーの必殺兵器、“バスターハウリング”の使い時に。
広範囲を無差別に破壊する音波兵器である以上、母親達を巻き込んではならない。
既に距離は充分に離れた。ここからならば届かないだろう。

「サム!!!」
兄の声にハッとした時には、もう遅かった。
背後を取られた。そう理解したサムの頬を汗が伝い落ちる。
狩人とて油断すれば獲物に返り討ちにされるのだ。サムは油断した。だから…


サムは死んだ。


7 名前: ◆GtzExfc62I [sage] 投稿日:08/10/31 22:07:23 9HaxlnQ+
【// Episode.0 獅子、再びC】

レーザーバルカンの接射が、ダイゾイド合金製の装甲を易々と突破る。
ダイザウラーは動力機関への被弾によって大爆発を起こした。
弟の死にも拘らず、ボブが爆発の中を突き進み、象の牙を2ndの肩に突き刺した。
本当は胴を狙ったのだが、爆発の衝撃で逸れてしまったのだ。
致命的なダメージには程遠い。その事実を証明するかのようにレーザーソードの一閃。

ボブは何故か冷静だった。年が近い弟のサムは、特に仲の良かった兄弟だった。
なのに怒りが沸き起こらない。心は冷たく静まり返った様な、冷静さ。
弟を殺した憎むべき存在を前に、自分でも不思議なくらいに冷えきっていた。
だからこそ“見えた”のかもしれない。
2ndの繰り出す攻撃が、2ndの次に移動する場所が、2ndの一挙一動全てが!!


銃口を向けられたパトリシアだったが、その注意はやはり戦闘に注がれていた。
だからダイザウラーの最期も、はっきりと見えた。
「サムッ!?なんてことだい!!お前達、急ぐんだよ!グズってちゃ全部パァだ!!」
まさかのダイザウラー撃墜に、一瞬だがたじろぐモニカ。
しかし息子の死は無駄に出来ない。その命を賭けてやり通す事がある。
「お嬢ちゃん、選びな。アタシについて来るか、その足で好きに逃げるか。」

パトリシアは答えない。代わりにいきなりモニカ目掛けて飛び込んだ。
小さな少女とはいえ、その勢いに乗って繰り出すタックルに、モニカは押し倒される。
直後、先程までモニカの立っていた場所を飛んで来た破片が突き抜けた。
「余所見してちゃダメだよぅ!でも私は海賊なんかお断りだし!!」
キッと遥か前方の2ndを睨み、パトリシアが言い放つ。
「悪い事とかする人はママが『ブン殴ってOK』って言ってたけど…とりあえずコレ!!」

ベチンッ!!

強烈なデコピンがモニカの眉間を直撃する。信じられない行動だった。
ジョンを始め、その場にいた海賊達が呆気に取られてしまう。
当のモニカも惚けた顔でパトリシアを見上げていた。
「ありやしたぜマダム!例のコンテナだ!こっちでさぁ!!」
炎上する列車の近くで、部下の1人が大声を張り上げ手を振っている。

それを聞いたモニカはすぐさま跳ね起き、パトリシアの頭をクシャクシャに撫でた。
「アッハッハッハッ!アタシの若い頃を思い出しちまったよ。」
豪快に笑ってそのまま抱き寄せる。ある意味ヘッドロックの状態だ。
「はわっ!?ぐ…ぐるぢいぃ…」
「よーし急いでコンテナを運ぶんだ!ボブ1人じゃ長くはもたないからね!!」


突然動きが別人の様に鋭くなったダイエレファントの猛攻に2ndは再び押され始めた。
まるで2ndの行動が全て“筒抜け”になっているかの如く。
繰り出す攻撃は次第に2ndの予測を超えて、遂に剛腕が2ndの頭部を粉砕した。



8 名前: ◆GtzExfc62I [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/02 17:50:11 rW8Fr/mN
【// Episode.0 獅子、再びD】

ボブは勝利を確信した。“自分は必ず勝てる”という確信があった。
頭部を粉砕された2ndが大きく体勢を崩し、無防備になっている。
反政府勢力の誰もが畏怖する死神が、今この目の前で無様な醜態を晒している。
(これで最後。終わりです!!)
両肩の“メガ・デストロイキャノン”の砲口が、2ndの胸に押し当てられた。
2ndが零距離での接射に耐えられる筈はない。

トリガーを引いて、ボブは勝利を確信した。

「何か変…よくわからないけど…何か変だよッ!!」
そうパトリシアが叫んだのと、2ndが光になったのは、ほぼ同時。
メガ・デストロイキャノンの砲身が瞬時に融解し、ダイエレファントが弾き飛ばされる。
眩い光が消えて、そこに“居た”のは“人の形をした何か”だった。


――ユグドラシル第四階層、パンデモニウム
「やはりまた失敗か、なかなか上手くはいかんものだな。」
宙天を貫く巨塔の頂にて、4人の男女が遥か下界を眺めていた。
「完全なコアとしての機能を期待するのは酷というものだよ、乗れるだけマシさ。」
床に映し出された地上の戦闘に、4人はそれぞれ感想を述べる。
「でもなぁ、不完全なままじゃ“あいつら”には勝てねーじゃん。」
2ndという名の“殻”を破って現われた“何か”を、心の底から見下した眼だ。
「そうよ、私達に残された時間は少ない。ツクヨミの死を無駄には出来ないものね…」

その言葉に沈黙する4人。
彼等は考える。計画をやり直す時間は無い。しかし今の結果には満足出来ない。

沈黙は続いた。望む答えは、遂に出なかったのだ。


――再びグランドレール
「何だ!?一体僕はどうなって…い…うわッ!?」
振り下ろされた腕の一撃を、間一髪にて避ける事が出来た。
「これはどういう事だ!?まさか…こいつがさっきの2ndなのか!?」
確かに2ndなのだろう。あちこちに装甲パーツがぶら下がっている。
だが“それ”はまるで肉だった。蠢く肉の塊が幾重にも重なり、絡み、形を成す。

『コオオオオオオオオオオオォォォ…』
失った筈の頭部も、肉が隆起して頭を…そして“貌”が現われた。
デタラメな生え方をした牙を剥き出して、吠える。
醜悪窮まりない外見とは正反対の、澄み渡った天使の如く清らかな声。

正にそれは“異形”そのものであった。



深淵なる者・アグリッパ ◆MOONGR/Cm2###############

174 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage長文スマソ] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:52:52 0
【深淵なる者0】

〇名前: アグリッパ
〇性別/年齢:♂/23歳
〇身長/体重:175cm/75kg
〇容姿特徴: 筋肉質
〇性格: 現実家
〇所属:バルロワファミリー
〇人物解説: バルロワファミリーの戦闘員。
      
〇機体名: C-ラ・カンス
〇分類:AM 
〇サイズ:全高30m/全長m
〇運動:A 装甲:A 移動:B
〇地形適応:宙D 空B 陸C 海S
〇武装名/威力/射程/タイプ/解説
〇メガ粒子砲/A/A/光/ 頭部に備え付けられた高出力レーザー。
〇ミサイル/B/B/実/各所内臓ポッドから射出されるミサイル。多弾頭タイプ、散弾タイプ、チャフなど種類がある。
〇爪/B/D/格/胴体に収納可能な腕に付けられた爪。指は無く、太い爪が三本付けられている。うち一本は鍵爪となっている。
〇磁場発生装置/A/B/特/ バリアとして、特殊磁場ネットとして使用可能。
〇機体解説:
旧フランスの造船技能集団ボナパルト社が密かに開発した重AM、C-ラ・カンス。
コンセプトは2ndに対抗できる機体。
性能的には不可能との結論が早々に出てしまい、海中に特化する事でその活路を見出している。
バルロアファミリーに提供する事で、その性能テストを兼ねている。
海中での運動性能は他の追随を許さない。
前後対象の機体であり、どちらも表面となる。
装甲には特殊コーティング(ヌルヌル)がなされており、海中での運動性を高めるだけでなく、対格闘や対レーザーに効果を発揮する。
最大の特徴は全十箇所にも及ぶ内蔵型磁場発生装置。
バリアとして、特殊ネットとして使用可能なほか、各所を稼動させ力場を発生させる事により慣性に捕らわれない動きを可能とする。
全ての武装を内臓式にしたため、大型化している。

ゴックを思い浮かべたあなたは微妙に気のせいだと思いましょう、いや、思ってください。


175 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:53:04 0
【深淵なる者1】

赤道直下の小さな島。
地図にも載らない孤島の砂浜に二人の男が立っていた。
「なあ、とっつぁんよ。蒸れねえか?」
「小僧!いつもドン・ランベルティーニと呼べっつってんだろ。
男の身だしなみだ。お前もちったあ気を使え。」

ここはバルロアファミリーの秘密アジトの一つ。
ナイフを弄びながらアグリッパは意図したことと違う返事に苦笑を浮かべていた。
いや、意図は伝わっているが、敢えてこの返事だったのだろう。

ドナルドはバルロアファミリーでも古参の部類だが、自身もかつては海賊の頭領だった。
嗜好はふた昔前のマフィア。
この暑い島で、半ズボンにタンクトップと言うアグリッパとは対照的にスーツを着こなしている。
そして最近薄くなってきた頭部を隠すように帽子をしっかりと被って。
「蒸れてかえって頭皮に悪いぜ?」という言葉を飲み込んで、本題に切り出す。

「明日の会合、上手くいくと思うか?」
地球連邦政府ユニオンの圧倒的な力に対抗する為、反対勢力が手を結ぼうと言うのだ。
モニカの発案によって開かれる会合が明日に迫っている。
「いくさ・・・。お頭が気合入れてんだからな。」
「おっかさんがやってるんだ。当たり前さ。
そんなのは判ってる。そうじゃなくてよ・・・。」
ドナルドが即答すると、アグリッパの顔が微かに険しくなる。
弄んでいたナイフを投げつけ、木に突き刺さるのを見つめながら言葉を続ける。

「他の三勢力!手を結んでも意味ねえよ。」
アグリッパは徹底した現実主義者なのだ。
確かにこのままでは各個撃破されるだけだ。
特にテラ・マトリックス社は無くてはならない存在となっている。
しかし、手を組んでもユニオンを倒す事は出来ないとアグリッパは判断しているのだ。
戦力的に優勢になれたとしても、だ。

いや、優勢になればなるほど敗北は色濃くなる。
兵器産業のテラ・マトリックス社。そして傭兵集団バトルハンマー。
この二つは戦いの場がなくなったからこそユニオンと敵対しているのだ。
もし戦況が覆り、ユニオンが倒されようとした時・・・
ユニオンが政策転換し、傭兵を雇用し、テラ・マトリックス者と提携を決断すれば連合は脆くも崩れ去る。
星霊教団に至っては、一部過激派が騒いでいるだけで、組織としての統一がされているとは言いがたい。
それより何より、あのノリがアグリッパには受け入れがたいのだ。

「それで、お前の答えが【アレ】か?」
ドナルドもアグリッパの言わんとしていることはよくわかっていた。
アグリッパは独力でユニオン、即ちUOの2ndを倒すつもりなのだ、と。



176 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:53:15 0
【深淵なる者2】

ドナルドの視線の先にはドッグに起立する重AMが整備中だった。
「ああ。俺の国の職人どもが作ったやつだ。」
アグリッパが独自ネットワークを使い手に入れたC−ラ・カンス。
今、最後の仕上げに、機体の隙間からとろりと半透明の粘液が漏れでて全体を覆おうとしている。
「茶色の卵に蛇腹の手と短い足が着いているとは・・随分不細工なAMだな。わっはっはっは!」
ドナルドの評した通りの機体だった。
既存のAMとはかけ離れたそのシルエットは、笑いを誘うに十分だった。

まさに卵形。首は着いていない。
代わりに、頭部辺りには逆T字のレールが着いており、そこにメガ粒子方の砲門が着いている。
レールは周囲360度と上部180度に及んでおり、そこを移動する事により砲門は全方向をカバーできるようになっている。
腕は蛇腹状に長く、肩部分に収納が出来る。
その先には太く鋭い爪が三本ついており、うち一本は返しがある。
また、脚は短く、陸上を何とか歩く程度のものだった。

「笑うなよ!機能美の塊なんだぞ!」
「あー悪かった悪かった。でもなあ。お、スゥ。どう思うよ、あれ?」
笑われて顔を真っ赤にして怒ったアグリッパだが、ドナルドは軽く受け流す。
丁度その時スゥが通りかかり、聞いてみると・・・
「・・・ヌルヌルでキモイ・・・」
「・・・」
「・・・」
新しく仲間になったスゥが容赦の無い感想を述べると、しばしの沈黙の後・・・

「ぶわっはっはっは!子供は正直だなあ!」
「ちきしょー!女子供にこいつの魅力がわかるかああ!!」
ドナルドの大爆笑を背にアグリッパは涙目で走り出す。

「見てろよ!キッチリ戦果あげてきてやっからな!!」
C−ラ・カンスに乗り込みながらアグリッパがドナルドとスゥに怒鳴りつける。

明日の会合を秘密裏に、そして安全に終わらす為に、各地で陽動作戦を平行して行っている。
アグリッパもその作戦の一部。
仲間と共にユニオンのサルベージ戦襲撃の予定なのだった。


177 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:53:23 0
【深淵なる者3】

翌日。
ユニオン所属のサルベージ船がマリアナ海溝へと作業艇を下ろしている姿をアグリッパチームが水中から見ていた。
「アグリッパ、どうする?」
「情報通り。護衛もついてねえ。」
今日の四勢力会合を秘密裏に終わらす為に、バルロアファミリーは各地で陽動襲撃を行っている。
アグリッパたちはマリアナ海溝へのサルベージがあるとの情報を手に入れ、襲撃に来ていたのだ。
チームの二人からの通信に少し考えた後、決断を下す。
「普段なら奴らがお宝掬ったところで掠め取るんだが、今日は陽動が主目的だしな。」
その言葉で即攻撃が決まった。

海中から二機のAMが浮上し、高速移動を。
そしてアグリッパは海中を進んでいく。

所詮相手はサルベージ戦。
アグリッパが作業艇を破壊し、浮上した時には二人のチームメイトが銃座を潰して船に取り付いていた。
「無駄な抵抗はやめろ。」
「何を掬おうとしていたんだぁー?」
サルベージ船の上に乗り、蹂躙する二機のAM。
艦橋を叩き潰そうとしたその時、甲板から光の剣が突き出て一機のAMを串刺しにする。
甲板を破りながら出現したのは鋼の死神。2nd!

漆黒の死神は串刺しにしたAMを海に投げ捨て、次なる獲物に眼光を向ける。
「ちぃぃいい!逃げろ!これでも喰らいやがれ!!!」
突然現われた2ndにアグリッパは舌打ちしながら逃げるように叫ぶ。
C−ラ・カンスが海中より飛び出て、メガ粒子砲を放つ。
2nd相手に牽制などしていられない。
常に一撃必殺の構えで行かねば確実に死の祝福が与えられるのだから。

不意打ちにて必殺の一撃だったのだが、2ndの反応速度は遥かに上回る。
メガ粒子砲は虚しく空を切り、牽制にすらならなかった。
宙に飛び全力で逃げるAMに楽々と追いつき、追い抜きざまに両断。
爆炎越しに最後の標的であるC−ラ・カンスへと向き直る。

「やろおおお!やってやる!やってやるぞ!!!」
僅か数秒で仲間を二機とも失い、アグリッパは覚悟を決めた。
出力を全開にして2ndへと飛んでいく。
その太い爪を大きく振りかぶりながら。
圧倒的な火力、機動力を持つ2ndだが、装甲は薄くバリアも持たない。
当たりさえすればC−ラ・カンスの爪は確実に叩き潰せるのだ!

迎え撃つ2ndはジュ・ガを放ちながらレーザーソードを振りかぶり高速で迫る。
ジュ・ガのレーザーバルカンは確実にC−ラ・カンスを捉えているのだが、卵上の形態と特殊コーティングの粘液が弾いていく。
「いける!いくぞおおお!!!」
通常のAMなら既に蜂の巣だろう。
だが、装甲は削られ、穴が開こうともそれ程のダメージとはなっていない。
レーザーバルカンを弾く事を確認しながら、アグリッパの叫びがコックピットに響く。

そして二つの機体が交わる刹那。
C−ラ・カンスはスピードも慣性も無視して突然直下に落ちた。
磁場発生装置による法則を超越した動きだった。
それでいて蛇腹を限界まで伸ばした爪だけはその軌道上に残し、2ndへと叩きつける!


178 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:53:31 0
【深淵なる者4】 

アグリッパは徹底した現実主義者である。
いくら仲間が撃墜されたからといって、自暴自棄に特攻などはしない。
あらゆる状況で足掻き、勝算を掴み取っていく。

****ギャン!!!****

会場に激突音が響き、C−ラ・カンスは海へと落ちていく。
その右腕は鮮やかなまでな切り口で叩き落されていた。

「ま・・・マジかよ・・!」
法則を超越した動きは出来ても、パイロットの肉体がそれについていけるかは別問題である。
鼻血を吹きながら、その瞬間、眼に焼きついた光景が信じられなかった。

激突する瞬間、突如法則を超越して落ちたC−ラ・カンスの動きに2ndは対応したのだ。
機体を捻り、爪を交わしながらもレーザーソードを振るい、その腕を切り落としたのだ。
が、アグリッパの戦略はそれだけではなかった。
その戦略が成功したことを示すように、2ndは体勢を崩し、海面へと落ちていく。

激突する瞬間、直角降下しながら磁場発生装置で数個の磁場を空中に作っておいたのだ。
いわば不可視の磁場機雷。
超スピードで爪を交わし、一撃を入れた2ndも磁場機雷までは躱せなかったのだ。
「へへへへ。肩こりがほぐれる程度じゃすまねえぞ!」
海中に沈みながらアグリッパが笑う。

磁場機雷に触れたからといって、爆発が起こるわけではない。
だが、強力な磁場に捕らわれた機械類は確実に狂いが生じる。
通常のAMなら機能停止。
2ndでも、なんらかの異常はあるだろう。
機能停止せずともそれで十分なのだ。

通常ありえないほどの高速で駆ける2ndにとって、僅かな狂いでも十分な致命傷になるのだから。
そう、その速度ゆえに海水はコンクリートの硬度を持って2ndを打ち砕く!
筈だった。
海中からアグリッパはまたしても信じられないものを見る。

海面にたたきつけられる寸前だった2ndが体勢を立て直したのだ!
そしてC−ラ・カンスの機影にレーザーバルカンを打ち込んでくる。
「あ、ありえねえ・・・。だが、まだこれからだ!」
2ndの恐ろしさを再確認しながらも、アグリッパは未だ勝利を諦めていなかった。

兵装の全てを光学兵器で統一している2ndは海中ではその威力が半減する。
事実、レーザーバルカンは海水で拡散し、海中のC−ラ・カンスまで届いていない。
そう、海はC−ラ・カンスにとって無限の盾なのだ。

頭頂部だけを海面に出しメガ粒子砲を放ち、海中へと逃げミサイルを打つ。
海中へと入ってこれば磁場で絡めとる。
相手の攻撃は海が防いでくれる。
これが造船職能集団ボナパルトが出した2ndへの対抗策だった。


だが、その目論見は脆くも崩れ去ることになる。


179 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:57:32 0
【深淵なる者5】

海中へ沈んだC−ラ・カンスを見て、2ndは背面に装備された光砲ゼ・グォルを放ったのだ!
「や、やべええええ!!」
それを見たアグリッパは急速潜行を開始するが、間に合いはしなかった。
ゼ・グォル自体は海水に遮られ、あたることはなかった。
だが、海水は沸騰し蒸発。
そして爆発!
衝撃波がC−ラ・カンスを押し潰す!

爆発大破こそ免れたものの、超水圧に晒されたC−ラ・カンスはボロボロになり機能を停止し、深海へと沈んでいった。

########################################

どのくらい時間がたっただろうか・・・
アグリッパは生きていた。
だが、生きていた、だけだった。
衝撃に体は耐え切れず重傷を追い、C−ラ・カンスは動く事はない。
ただ無常にも深度計が死へのカウントダウンを開始していた。

海中で身動きもとれず窒息・・・
だが、それよりも早く死は訪れるだろう。
ここはマリアナ海溝。
世界で最も深い海。
機体の損傷も考えれば、遠からず水圧により潰される運命なのだから。

「くそう・・・死にたくねええ!」
血と共に吐き出される生への渇望が届いたのだろうか?
アグリッパの脳裏にたおやかな声が響く。
『・・・力が欲しいか?・・・』
幻聴?
だが、確実なる死と直面するに至り、現実主義者のアグリッパはその殻を打ち破る。
「欲しい!死なねえのなら・・・何でもいい!力をくれ!」
『・・・なんでも・・・?良かろう!』
沈んでいくC−ラ・カンスは深海の更なる底からはいでた黒いものに包まれた。

####################################

海上では3機のAMを撃墜した2ndが旋回している。
当然と言えば当然の結果であるが、サルベージ船船長サイカチは険しい表情で通信を入れていた。
「こちら太平洋、マリアナ海溝上サルベージ船マンドコラ船長サイカチ。
所属不明のAM三機による襲撃を受け、2ndが撃退。
しかし79番に異常を確認。」
そう、C-ラ・カンスの磁場機雷は2ndの機体を狂わす事は殆ど出来なかったが、その強力な磁場がルーラーにフラッシュバックを引き起こしていたのだ。
『こちらユグドラシル第三階層オービタル・ユニオン。
79番の脳波異常を確認。
スカーフェイス化の可能性が高い。速やかに収納してください。』
この通信がマンドコラとの通信の最後となった。
直後、通信は途絶え、マンドコラと79番の識別信号が消える。

####################################


180 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:57:41 0
【深淵なる者6】

同時刻、突然通信の切れたサイカチが不審に思う中、信じられない光景を目にする事になる。

***磁界展開・蓬莱の竹林!***

幻聴だろうか?いや、そうではない。
マンドコラの全てのクルーが、そして79番が確かに聞いた。
そしてその直後、海面より突き出た無数の巨大の竹が辺りを埋め尽くすのを!

「な・・・なんだこれは!」
「わかりません!通信、センサー、あらゆる計器が使用不能となっています!」
戦闘海域を埋め尽くす巨大な竹。
太さは20m、高さ200mにも及ぼうかと言う竹が、周囲3キロを埋め尽くしているのだ。

2ndが竹に近寄った瞬間、それは突然破裂した。
***龍の爪!***
その中から現われたのはC-ラ・カンス・・・だったモノ。
それは突如竹の中から現われると、光輝く巨大な爪を振るう。
必殺のタイミングではあったが、それでも2ndは致命傷を避けた。

左腕を犠牲にしながら回避し、間合いを取りながらジュ・ガを放つ。
***火鼠の衣!***
C-ラ・カンスは半透明な炎のようなものを纏い、ジュ・ガに構わず2ndを追っていく。
レーザーバルカンがC-ラ・カンスに当たる瞬間、その軌道が歪み逸れていく。
海面に林立する竹林の中、間合いを取ろうとする2ndとそれを追うC-ラ・カンスの追撃戦が始まる。

「お・・・おお!すげええ!どうなってんだ!?」
C-ラ・カンスのコックピットの中、アグリッパが驚嘆の声を上げていた。
姿形は変らずとも完全に変質したC-ラ・カンスの操縦法は昔から知っているかのように・・・
否、自分の手足を動かすかのように操縦が出来るのだ。
2ndの火力をものともせず、完全にその動きを捉えている。
**この竹林は磁界で作り上げたもの。
つまり我らにとってはリニアモーターカーのレールも同然。
相手にとっては強力な磁界により通信も成り立たぬ障害物でしかないがな。
そして火鼠の衣は磁界を纏う事により空間歪曲を引き起こすのぢゃ**
アグリッパの疑問に答えるかのように脳裏に声が流れる。

その間にもC-ラ・カンスは爪を振るい、ギリギリのところで2ndが避ける。
「くそっ!捉えきれねえ!」
**もう十分じゃ。捉えた**
脳裏に声が流れると同時に、その意味を理解した。
磁力によるロックオン。

**月帝砲!!**
C-ラ・カンスの頭部部分に備え付けられたメガ粒子砲から青白い光が放たれる。
その光は、複雑な軌道を描いて竹林をすり抜ける2ndを追尾し、貫いた。
「・・・す・・・すげええ・・・・」
撃ち落された2ndがバラバラになりながらサルベージ船に降り注ぎ、マンドコラもマリアナ海溝へと飲み込まれていく。

##############################



181 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage長々と失礼しました] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:57:47 0
【深淵なる者7】

「で、一体何なんだ?」
**安心せよ。死の間際の夢などではない。
わらわは迦具夜。
そなたらが月と呼ぶ箱舟ムーンと直結せし者**

海中を航行しながらアグリッパは状況整理に勤めていた。
そしてそれに謎の声は応える。

迦具夜は遥かなる太古の昔、月より降り立った超古代文明ロボの一つだと。
他の超古代文明ロボと一線を隔すところは、その役割にある。
人類に文明を与え、進化進歩を促す存在である一般の超古代文明ロボとは違い、箱舟と地球を繋ぐ役割を持っていた。
地球を守るのがゴルディカイザー。
裁定者たるスサノオとクシナダ。
彼らが正常に作動するかを監査する者。
故にどの超古代文明ロボよりも強く箱舟の加護を受けていた。
それが何故役目を全うせずにマリアナ海溝の最奥で眠っていたのか?
勿論ここにもツクヨミの暗躍があったのだが、迦具夜自身はわからない。

そして10年ほど前、箱舟ムーンはその機能を停止した。
他の何よりも強く箱舟の加護を受けるとは、依存しているとも言える。
力の供給源の無くなった迦具夜は休眠状態すら保てなくなっていた。
やがて形は崩れ、パラサイトとなり、そのまま消え行く運命だったのだ。

しかし、事態は急変する。
何らかの原因により、箱舟の加護が蘇ったのだ。
完全停止間際からの突然の回復。
その信号をユニオンが察知し、今回の調査サルベージ作業へと至る。

箱舟の加護が蘇ったとはいえ、完全停止寸前の状態だったのだ。
形は無く、消える寸前だったには変わりない。
そこで選んだ道は、大破、そして死亡寸前だったC−ラ・カンスとアグリッパとの融合。
本来ならばそこで得られるのは単なる融合体による蘇生だけだった。
しかし、ツクヨミにより作られた人間との融合は劇的な変化をもたらした。

ミノタウロスとテセウスのように、ナグル・ファルとコウキのように。

有り得ないほどの強力な神機への転生がここに顕在化したのだった。

「粗方だが判ったよ。
俺にとっては細かいことはいいさ。
死の淵から蘇って2ndを圧倒できる力を得た。
それだけで十分だ。」
喜ぶアグリッパだが、迦具夜はそうではないようだった。
物事がそれほど単純なものでは無いとわかっていたのだから。
**いや、そうとも言い切れぬじゃ。
マッチに火をつけた瞬間、大きく炎がはじける様なもの。
本来ならばあれほどの力はまだ出せぬ。
それに、【奴】のコアに異常があったのも助けになった。**

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182 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sageお陰でスッキリ] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:57:54 0
【深淵なる者8】

「と、言うわけなんだよ。」
「プッ・・・プブフ・・・そ、そうか・・・」
南海の孤島で不機嫌そうなアグリッパが訳を話す。
それを聞いていたドナルドは笑いをかみ殺しながら何とか返事をすることが出来た。

かなり衝撃的な事実にも拘らず、笑いが噛み殺せぬそのわけは・・・
帰島したC−ラ・カンスの頭部にはなぜか兎の耳が生えていた。
それだけならばまだしも、筋肉質なアグリッパがバニーガール姿で目の前に立っている衝撃が強すぎたのだ。

「・・・変態・・・」
ドナルドの後ろに隠れていたスゥがポツリと一言だけ言い残し、走り去っていく。
その姿を見てついに笑いをかみ殺しきれなくなったドナルドが転げまわる。
「がっはっはっは!なんだそりゃ!
おま・・・変態って・・・・わはははは!
うん、星霊教団がスカウトに来るぞ!!」
「ち・・・ちきしょー!
何でこんな格好に!これ脱げねえし、耳取れねえし!!」
羞恥に真っ赤になりながら頭についたウサ耳を引っ張るが、痛いだけで取れることはない。
それもそのはず、着けているのではなく、生えているのだから。

**そなたとそなたの機体はわらわと融合したのじゃ。諦めよ。**
「がああああ!!俺は死にたくないが為に悪魔に魂を売ったってことかああああ!」
アグリッパの絶叫と共に、ドナルドの大爆笑は続くのであった。

「ま、まあよ。本調子ではないにしろ、2ndに対抗できる力を得たのはでかいじゃないか。
ププッ・・・安心しろ・・・多少その・・・変態に・・・プハハハ!なってもファミリーだ!」
笑いながらドナルドが慰め(?)るが、そうはならなかった。
**残念だがそうはならない。
本来アグリッパは既に死んでいるのだ。
それを死ぬ間際のわらわが無理やり引き戻し融合した。
わらわ達は結局のところ死に体である事は変りない。
これから暫く休眠に入る必要がある。**
「はぁあああ??」
**このまま休眠に入らねば数夜を置かずして死出の旅へ出ることになろうぞ。
安心せい。ほんの数百年じゃ**
「ふざけんなあ!お前、迦具夜じゃなくて乙姫だろ!!!」
アグリッパの絶叫を聞きながら迦具夜は考えていた。
通常ならば確かに数百年の年月が必要だろう。
しかし、自分が目覚めた理由を想像するならば、そうはかからない、と。

アグリッパの記憶を読み知っていた。
箱舟ムーンが機能を停止した事を。
ならば考えられる事は一つ。
母船、もしくは別の箱舟からの加護が届いたのだ、と。
接近すればするほど加護は強くなる・・・

だが、それは敢えてアグリッパには伝えなかった。
それが正しければ、否が応でも目覚める事になるのだから・・・

こうしてアグリッパと共に、ラ・迦具夜は海中へと消えていく。
回復させる為に、深き眠りへと・・・


183 名前:アグリッパ ◆MOONGR/Cm2 [sage本作は本編とは全く関係ない云々〜] 本日のレス 投稿日:2008/11/04(火) 22:58:02 0
【深淵なる者00】

〇名前: アグリッパ
〇性別/年齢:♂/23歳
〇身長/体重:175cm/75kg
〇容姿特徴: 筋肉質・ウサ耳・バニーガール姿
〇性格: 現実家・ネガティブ
〇所属:バルロワファミリー
〇人物解説: バルロワファミリーの戦闘員。
      超古代文明ロボ迦具夜と融合している。
      
〇機体名: ラ・迦具夜
〇分類:AMと超古代文明ロボの融合体 
〇サイズ:全高30m/全長m
〇運動:A 装甲:A 移動:B
〇地形適応:宙A 空A 陸B 海S
〇武装名/威力/射程/タイプ/解説
〇月帝砲/S/S/光/ 頭部に備え付けられた高出力レーザー。磁力によるロックオン機能付き
〇竜の爪/B/D/格/光輝くレーザー爪。太く、伸縮が可能。
〇磁界発生装置/S/A/特/地磁気を利用して磁界を発生させる。その用途は移動からバリア、フィールド形成など多様。
〇火鼠の衣/A/D/特/磁界発生装置によるバリア。空間歪曲を起こし、逸らすことも可能。
〇蓬莱の竹林/B/B/特/ 磁界発生装置によるフィールド形成。巨大な竹林が形成される。
           フィールド内は磁界により通信機能やレーダーなのが使用不能に。
           竹は障害物としてだけでなく、ラ・迦具夜にとってはリニアレールの役割も果たす。

〇機体解説:
重AM、C-ラ・カンスと超古代文明ロボ迦具夜の融合した機体。
地磁気を利用した磁界発生装置が主能力となる。
機動も磁場を利用し、飛行、航行をしている。
迦具夜と融合した為、C−ラ・カンスの機体にウサ耳がついた状態となる。
また、搭乗者であるアグリッパも問答無用でバニーガール姿に固定される。
ちなみに、機内BGMが伝説のバンドかぐや姫の
【神田川】【けれど生きている】【僕は何をやっても駄目な男です】
などが流れるのが最大の謎だったりする。


音階奇譚・ ◆TnakibaQxg######################

9 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 投稿日:08/11/05 00:30:14 RIqT1eBo
今からほんの25〜6年ほど前。まだ遠い昔のことではない(はず)。
山は緑じゃなかった。海はドロドロだった。空も今ほど青くなかった。
地球は環境破壊で酷い有様だった。
ウチが住んでいたツクバ・エクスプレス沿線は
人が住める貴重な場所のうちの一つであった。

といっても環境問題に大した興味があるわけでもなく
もちろん将来星の巫女になるなんて、いや、歌手になることさえも露ほども予想していなかった。
普通の夢見る者予備軍としてマンガやゲームにはまりつつのんべんだらりと日々を送っていた。
そんな日々の中、ある日母親がノリノリで言ってきた。
「今度妹一家が近くに越してくるんだって〜」
「な、なんだってー!?」
これは大変、恐ろしい事になりそうだ。母親の妹には何度か会ったことがあるが……
二人そろうと必ず下手糞なデュエットを披露し始めると相場が決まっている。
この姉妹、自分たちが伝説の歌手美空ひばりの末裔だと豪語してやまないのだ。
ウチにとってみれば末裔だろうが末裔じゃなかろうがそんなの関係ねー!
伝説の勇者の何代も後の子孫が全員強いわけがないのと一緒である。

そして数日後。何気ない日常は一瞬にして崩れ去った。
いつものようにピアノの練習をしている時の事だった。いきなり失礼な事を言う奴がいた。
「うわー下手糞だなあ」
「放っとけ!」
そう言いながら声のしたほうに振り向き様、素っ頓狂な悲鳴をあげてしまった。
「ぬわーーーーーーーーーー!!」
今まさに窓から人が侵入しようとしていたのだ。少し年下の少年のようである。
「お母さーん、不審者入ってきた! 警察呼ばなくちゃ!」
慌てて電話を手に取る。が、かけつけた母親が受話器を取り上げた。
「ストーップ! 何言ってるの? あなたの従弟じゃない。いらっしゃ〜い」
母親は不審者を招き入れてしまった。
そういえば叔母にはウチより3つぐらい下の息子がいたようないなかったような。
「失礼な奴だなあ、人がせっかく挨拶に来てやったというのに……ほれ、お土産!」
どうやら従弟らしい少年は箱入りのう○い棒を強引に渡してくれた。
「はぁ……ごめん」
「ま、いいってことよ! オレ様の名前はミソラシド! 以後お見知りおきを!」
なぜか窓から出て行く従弟を見ながら、呟いた。
「ミソラシド……」
シドといえば20世紀からファイナルと言いながら順調にシリーズを伸ばしている
某有名RPGの飛空挺乗りと同じ名前だが、多分由来はそっちではないだろう。
ウチの名前と全く同じ発想。妙な親近感を覚えてしまった。


10 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 投稿日:08/11/05 00:31:41 RIqT1eBo
さらに数日後、ビラを配っているシド君に出くわした。
「そこを行くはレミ! いい所に来た、手伝ってくれ!」
紙の束を渡される。
「リサイタル!?」
「今度そこの空き地でするから。オレさ、歌手になるのが夢なんだ!」
シド君は今まで見たことも無いようなキラキラした目をしていた。
しかし空き地でリサイタルといえば、嫌な予感がする。
その予感を振り払うべく、言ってしまった。
「試しに歌ってみて」
「ボエ〜〜〜〜〜!」
非情にも予感的中した。
まさかと思うだろうが、本当にボエ〜〜〜〜〜としか表記しようがないのだ。
あまりの下手さに、道行く通行人がもだえ苦しんでいる。
その破壊力、まさにジャ○アン・リサイタル!
「見ろ……通行人があまりの素晴らしさに身悶えしている!」
「いやいやいや! どう見ても下手すぎて悶えてるから!」
ここは公共の福祉のためにジャ○アン・リサイタルを阻止しなければならないだろう。
ビラを資源ごみ置き場にどんっと置く。
「ああ! 何すんだよー!?」
「リサイタルなんかやったら騒音公害!
心配しなくても歌手になるのは2000パーセント無理だから諦めるヨロシ!」
すると、あろうことかキレていきなり殴りかかってきた。
「くらえナックルボンバーーーー!!」
ドゴオッ!! 小学一年生とは思えない迫力に吹き飛ばされる。
「痛! そっちこそいきなりなにすんだ!?」
「覚悟しろ、お前はオレを怒らせた……」
どうやら本気でおこったみたいだ。
そっちがその気なら本気で迎え撃ってやろうじゃないか。
「従姉ナメんじゃねえ! それで歌手になりたいとかアホか! バカか!
少しは自分を客観的に見ろ! マグナムアッパーーーー!!」
「ぐはっ!」
従弟はアッパーの直撃を食らいつつも不敵な笑みを浮かべてせせら笑っている。
「自分を客観的に見れるてめーはチンパン首相並みに偉いよな!
そうやってなんでもかんでも無理だからって諦めてつまんない人生おくればいいんだよッ!!」
「るっせーハゲ!」「ボケ!」「タコ!」
罵詈雑言とパンチの嵐が乱れ飛ぶ。

そして数分後……なぜかベタな少年漫画のような展開になっていた。
ウチの完敗だ。物理的にではなく、精神的な意味で。
二人で寝転がって空を見上げながら言う。
「負けたよ……キミは歌手になるしかない!」
「やっとオレ様の歌の素晴らしさがわかってくれたか……」
「「あははははははは!!」」
二人で顔を見合わせて笑いあう。なぜだか分からないけど、心の底から笑えた。
シド君が不意に立ち上がる。
「ビラ配りは後だ。行くぞ!」
「どこに!?」
「決まってるだろう、リサイタルの器具の買出しだ」
面白そうなのでついていくと、いつの間にかツクバ・エクスプレスの駅に来ていた。
「勝手に遠くに行っていいの!?」
「ん? 大丈夫大丈夫すぐ近くだから」
そしてどこに行くのかも知らずに電車に乗り込んだ。

つづく

11 名前:& ◆GXyIWHPzTQ [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/06 14:19:57 FCpB7Xk+
電車に揺られること数十分。
「次で降りるぞ」
シド君がそう言ったとき、流れた車内アナウンスに驚愕した。
――次はアキハバラ、アキハバラです
「アキハバラだってー!?」
小学生の世界は狭い。噂には聞くもののこんなに近所にあるとは思ってなかったのだ。
「それがどうかしたか?」
「恐ろしい魔境だからくれぐれも行っちゃいけないってお母さん言ってたよ!?」
「行くなっていうのは行けってことだよ。それぐらいド○クエやってりゃ分かるだろ」
衝撃の新事実である。
「そうだったのかー!」

こうしてウチらはアキハバラに降り立った。
「うわー、すげーなあ!」
「うん!」
そこは、アニメのキャラみたいな格好をした人が闊歩する、キラキラ光る夢のような街。
魔境とは正反対のテーマパークのような場所。
もちろんそう思うのは夢みる者の素質があるからなのだが、そんな事は知る由も無い。
その中で、一際賑わっている建物があった。東京都立古代文明博物館。
数年前から各地で古代ロボ起動とかいう怪しげな事件が起こるようになったが
その頃からよく古代文明の遺産が発掘されるようになった。
特にアキハバラでは変な物がたくさん出てくるらしく
それらを展示する博物館まで出来てしまったのだ。
「……入るぞ!」
なぜか入ることになった。

今月の目玉コーナーには、主に大きいお友達による物凄い人だかりが出来ていた。
「メイドテラモエスwww」
「メイドはもう古い、通は執事だろwww」
なんとか隙間から見ると、メイド人形と執事人形が展示されている。
本物の人間みたいで、今にも動き出しそう。

「古代文明ってすごいね〜!」
「でもレミは歳くってるから古代ロボに乗れねーな。オレは乗れるかもしれないけど」
「うっさいわ! 別に乗らなくていいし!」
こんな会話をしながらリサイタルの買出しをする。
といってもウチは専ら荷物持ちである。
最新型マイクなどのオーソドックスなものから
変なガラクタやよく分からない置物まで次々と渡される。
ちなみに全部カード払いである。なんたる小学一年生だ。
「これ絶対リサイタル関係ないでしょ!」
「まあ気にすんなって」

散々引きずり回された挙句、最後に微妙なお駄賃をくれた。
「はい、これはつきあってくれたお礼」
それは、魔法少女のコスプレをしたド○えもんのようなマスコットだった。
もはや何を狙っているのかさっぱり分からない。
「……いらね――――――――――!!」

つづく

13 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/12 00:14:51 F1rysMZd
コスプレしたネコ型ロボットのマスコットは
帰ってすぐ机の引き出しに放り込まれる事になった。
それからまた数日の時が流れ、リサイタル前日の夕方。
「よーし、できた!」
会場のセットが完成した。
背景のブロック塀はアニメやゲームのポスターで埋め尽くされ
変な置物がずらりと並んでいる。
特に深い意図があるわけではなくとりあえず場を豪華にするためである。

一方その頃。
美空シドの隣の家、凄杉家には、学校で凄杉くんと呼ばれている小学生が住んでいた。
苗字が凄杉なんだから凄杉くんと呼ばれるのは当たり前なのだが
テストは毎回100点という秀才である。
しかし、最近隣の家から日夜聞こえてくるようになった怪音波に頭を抱えていた。
そしてリサイタル前夜、事件は起こった。
「テストで99点を取ってしまった……! これも全て隣のジャ○アンボイスのせいだ!」 
リサイタルのビラをビリビリと破り、ついに叫びながら玄関を飛び出す。
「何がリサイタルだ! ぶっつぶしてやる!」
空き地に行き、珍妙なセットを片っ端から叩き壊す。
そんな彼の心の闇に忍び寄る者がいた。
――少年よ、我と手を組まぬか?――
「誰だ……!?」
現れたのは、ネコミミと猫尻尾の妖艶な美女。
「そうだな……ファラとでも呼ぶがいい」
美女が答えるが、もはや何も聞いていない凄杉くん。
「うひょー、超美人!! 組みますとも! ていうか手つないで!」
さすがの秀才も美女の誘惑の術には敵わなかった。
これから起きる恐ろしい事を知る由もなく、快諾するのであった。

再び一方その頃。ウチの部屋にて。
ガタガタッ。謎の物音がした。机の引き出しが揺れている。
「気のせい気のせい……」
次の瞬間、引き出しがひとりでに開き、中から謎の生物が出てきた。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
叫びながらも謎の生物をまじまじと観察する。
そしてさらに恐ろしい事実に気付いてしまった。
どう見ても机の引き出しに放り込んだまま放置していたマスコットなのだ。
魔法少女のコスプレをした猫型ロボットだ!
それは、こっちの狼狽を気にもとめず、第一声を放った。
「ボク、おじゃ魔女ドレミえもん!」

実はド○えもんのパロディでした。つづく。


14 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/16 22:52:57 M5XTqS+0
「あ……えーと、出口そこだから」
そう言って窓を指差す。満面の笑みを浮かべて手を差し伸べるネコ型ロボット。
「ありがとう、話が早くて助かるよ! しっかりつかまって!」
「誰が一緒に行くと言ったあああ!?
ド○えもんはマンガの中だけなの! 実在しないの! 分かったら早く消える!」
「ド○えもんじゃなくてドレミえもんだよ。
未来の世界のネコ型ロボットじゃなくて古代の世界の魔女型ロボットなんだ。
とにかく一緒に来て! このままじゃ世界が滅亡するかもしれない!」
有無を言わさずすごい力で腕を引っつかまれた。
ドレミえもんはもう片方の腕でリコーダーを召喚し
謎の呪文を唱えながらしゃら〜んという効果音付きで振る。
「スットコドッコイホイサッサ! 出でよタケノコプター!」
地面から伸びてきたタケノコが、窓の高さまで来た。
その光景を呆然と見ているうちに、引っ張られるままに窓から身を躍らせていた。
棒高跳びの要領でタケノコがしなり、物凄い勢いで飛んでいく!
「空き地までひとっとび〜〜〜〜〜!!」
「そんなバナナーーーーーッ!!」


15 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/16 22:53:26 M5XTqS+0
――空き地――
緊急事態に気付いたシドが空き地に駆けつける。
この空き地は彼の家の窓から見える位置だったのである。
「貴様ら……なんのつもりだ!」
凄杉くんの顔がみるみる青ざめていく。
品行方正な秀才である凄杉くんにとって犯行を認めることは一巻の終わりを意味する。
認めたら最後、噂が学校中に広まり秀才キャラを維持できなくなってしまうからである。
「あ、えーと、これは、その……!」
真っ青な顔で言い訳をしようとする凄杉くんに、ファラがチャンスとばかりに襲い掛かる!
「隙アリ!」

ファラは ぱふぱふ を 放った!
凄杉くん は 洗脳 された!

シドは、某有名RPGで似たような技を見たことがあった。
そう、この時代のド○クエではぱふぱふの効果が洗脳に強化されているのだ!
洗脳された凄杉くんの手には、いつの間にか
プ○イステーションのコントローラーのようなものが握られていた。
「日夜怪音波を撒き散らし人々の健康で文化的な最低限度の生活を脅かす不届き者め!
行け! 猫娘!」
凄杉くんは、元が秀才だけあって日本国憲法を抜粋したセリフを言いながら
華麗な指さばきでコントローラーを操作する!
「かしこまりました!」
ファラの女王様風ウィップがシドに襲い掛かる。
すぐにぐるぐるに巻きついて身動きが出来なくなる。
「フフフ、そのウィップは私の思いのまま……逃げようったってムダよ!」
「なんのつもりだ……!!」

その時、空き地に二つの人影が着地、というより墜落した!

「あいたたた……って何やってんの!?」
目の前では、ネコミミの綺麗なお姉さんがシド君をムチでぐるぐる巻きにしていた。
その後ろでは秀才っぽい少年がプレステのコントローラーを持って立っている。
お姉さんはこっちを見て不敵な笑みを浮かべた。
「やはり来たわね……ドレミえもん!」
「お邪魔女ファソラえもん!ボクが来たからにはもうお前の好き勝手にはさせないぞ!
今すぐその子を離せ!!」
「言われなくても離してあげるわ! あと……ダサい本名を呼ぶな――――ッ!」
叫びながらムチをしならせてシド君を放り投げるネコミミのお姉さんの名前は
お邪魔女ファソラえもんというらしい。
ドレミえもんとファソラえもん……二人を見て改めて思った。
ネコ型ロボットは実在したのだ!

つづく

16 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/19 11:51:58 u+BQFY+E
ザシュッ!
放り投げられたシド君は近くの木に突っ込んだ!
「ぎゃああああ! 降ろしてぇええええ!」
「こいつらを始末したら降ろしてやるわ! それまでおとなしく見ておきなさい!」
ファソラえもんは高々と跳躍し、美少女戦士ものの変身シーンのように光に包まれる。
次の瞬間、本当に変身した! ただし美少女戦士なんて生易しいものではない。
ネコミミと猫シッポの巨大人型ロボット! 形態はともかく、大きさだけで凄い迫力だ!
ドレミえもんはプレステのコントローラーのようなものを差し出して言う。
「ボク達はリモコン式ロボなんだ! レミ太君、これでボクを操作して!」
「レミ太君って誰!?」
と言いつつコントローラーを受け取るか受け取らないかのうちに
ドレミえもんはネコミミが無い巨大猫型ロボットに変身してファソラえもんに対峙する!
要するにそのまま巨大化しただけだが、頭にタ○コプターが追加されている!
タ○コプターあるんならタケノコプターとか使うな――ッ!
「秀才だからって甘く見るなよ……こちとら隠れゲーマー度はMAXだ!」
コントローラーを握り締めて挑発してくるいっちゃってる少年が敵機の操縦士らしい。
ウチ、格闘ゲームはあんまりやらないんだけど……もしかしてピンチ?
いや、適当に連打すればどうにかなると相場が決まっている!

そうこうしているうちに上空では激しいバトルが始まった。
今のところ適当連打でなんとか対抗できているようだ。
『やめるんだ、ファソラえもん! こんな事をして何の意味がある!?』
『裁定者を起こしてくれればすぐにやめてやろう……。
あいつら、私が目の前でラジオ体操をしても一向に起きぬ!』
『そうか、それでジャ○アンを連れて行って歌わせて起こそうと……!
あの二人はノア様直属の臣下、起きたらプログラムに従うに決まってる!
……そんなことをしたら絶対ダメだ!
地球人類はボクを元ネタにした作品を二つも作ってくれたんだ!』
『まだ分からぬか、地球人類に存続の価値など無い……!
なぜならド○えもんのデザインが私ではなく貴様になっている上に
某魔法少女の名前も貴様が元ネタだからだ! 遊びは終わりだ、本気で行くぞ!』
意味不明な会話の末、ファソラえもんは本気モードに突入してしまった。
【○○××△□】『散華猛襲脚!!』
【↑→↓←】『鷹爪落瀑蹴!!』
【○×△□↑→↓←】『殺劇舞荒拳!!』
いきなり凄そうな技を連発してきた。
うわ、ヤッバ〜!! ボコられまくってる。防御の仕方分かんないし!
それに、ドレミえもんは玄人向けの機体なのか
さっきからタコ踊りしてるばっかりで一向に技が出ない。
そうしている間にファソラえもんは超絶奥義にコンボをつなげてしまった!
【○×L1 R1↑↓→△】『さあ終わりだ……黒・板・超・音・波!!』
ゴゴゴゴゴ……!!
空中に巨大な黒板が現われた!
『いけない……!それは黒板を引っかく事により広域に大ダメージを与える技だ!!
発動したら東京全域の人々が死に絶える……!』
ドレミえもんは相変わらず奇妙なタコ踊りをしながら絶叫しつつ解説した。
「ええ!? 超ヤバイし!」
焦りまくりながら考える。こんな時はどうする!? そうだ、とりあえずタイムだ。
とっさにセレクトボタンを押した……次の瞬間、奇跡は起こった!
ドレミえもんがリコーダーを一振りすると、不思議空間が広がっていく!
『THE☆WORLD!!』

――――時は、止まった。つづく。


17 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/22 00:14:31 Z4m1XG6I
ファソラえもんは黒板を引っかこうとした姿勢のまま時が止まったように静止している。
『よくやった、レミ太くん!
これはどんな音痴な歌にも聖なる力が宿る聖音階領域を展開する技だ! 急いで!」
鍵盤をばらしたような光の螺旋階段が生成されていく。
それを登っていき、木に引っかかっていたシド君を引っ張り出す。
「と、いうわけで歌ってほしいんだってさ」
「レミ太のくせに生意気な……まあいい。今日はオレ達初のコンサートだ!」
「オレ達……!?」
ウチも歌うのか?と考えるまもなく、シドくんに腕を引かれて駆け上がっていく。
気がつけば何も無い夜空に立ってる。東京の夜景は遥か下。
見上げれば、手をのばせば届きそうなほど近くに宝石箱を散らしたような星が輝く。
不意に豪華なBGMが流れ始めた。
後ろを振り向くと、楽器を持ったマッチョ男達が演奏していた。
前には夜空をバックに、映画のエンディングロールのように歌詞が流れてくる。
「うおおおおおお! すごい演出だ!」
それにしてもこの従弟、ノリノリである。
ちょっとシュールすぎる気もするが、一緒に乗ってみるのも悪くない。
ここは星空のステージ。シドとレミの初舞台。聴衆は……地球上全世界の人だ!


18 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/22 00:15:28 Z4m1XG6I
♪殴り合い、宇宙(そら)
  作詞:さちこ 作曲:喜多島三郎

ねぇキミは 何故そんなに
必死で逃げるの? 宇宙は限りなく
広くて 残酷だけど
キミと出会えた奇跡の星で
ゴングが鳴り響く

返り血に 塗れた拳を
振り翳して キミに届け
ナックルボンバー
あぁ哀しみの 殴り合い宇宙

ねぇキミは 何故こんなに
怯えて泣いてるの? 宇宙は果てしなく
暗くて 無慈悲だけど
キミと別れた奇跡の星が
リングに早変わり

返り血が 乾かぬ拳を
振り上げて キミに届け
マグナムアッパー
あぁ切なさの 殴り合い宇宙

一目惚れたその日から
憎悪と殺戮の天使
この愛が 燃え尽きるまで

『う……あぁあああああああああッ!』
ファソラえもんが苦悶の声を上げる。
『何だそのふざけた歌はッ! 死ねえええええええ! マグナムアッパー!!』
攻撃を放ってくるファソラえもんの前にドレミえもんが割り込み
怒涛のマグナムアッパーをくらいながら叫ぶ!
『がんばれ、もう一息だッ!』
その声に押され、全身全霊をこめて最後の一連!

返り血に 塗れた拳を
振り翳して キミに届け
ナックルボンバー
あぁ哀しみの 殴り合い宇宙

歌い終わると同時に、ドレミえもんの見事な攻撃が決まった。

――『ナックルボンバー!』

歌詞はGMさんから頂いた物です。謹んでお礼申し上げます。つづく。

19 名前:音階奇譚 ◆TnakibaQxg [sage] 本日のレス 投稿日:08/11/25 11:54:05 Hnz79rns
「ああ、なんという神々しい力だ……私は……間違っていたのだな……」
力なく落ちていくファソラえもんをドレミえもんが抱きとめる。
「分かってくれればいいんだ……姉さん……」
「お前が二作品の元ネタにしてもらえた理由がたった今分かった、わが妹よ……!」
ひしと抱き合うドレミえもんとファソラえもん。
それを見守りながら、思わずもらい泣きするウチら。
「イイハナシダナー……」
たとえ全てが夢だったとしても、忘れない。
とびっきりの空中ステージでキミと歌った変な歌を。
数え切れないほどの星星を。
「レミ……いつか絶対一緒に歌手デビューしよう!」
シド君が小指を差し出して指きりを求めてきた。
歌手デニューなんて今まで微塵も考えてなかったけど、なぜか指きりに応えていた。
「うん、約束だよ!」
シド君は星空を仰ぎ見ながら呟いた。
「ユニット名は、宇宙(ソラ)だ……!」
やがて辺りがまばゆい光に包まれ、ドレミえもんの声が聞こえてきた。
――レミ太くん、ジャ○アンリサイタルの少年、ありがとう。
ボクは姉さんと一緒に旅に出ます。君たちの事は一生忘れません――
ちょっと待ってよ、もう行ってしまうの? ウチは力の限り叫んだ。

「ドレミえもーん!!」

自分の声に驚いて飛び起きると、目覚まし時計は8時15分を指していた。
「遅刻だーーーーー!」
慌てて家を飛び出す。途中で合流したシド君と、見事に声が被った。
「「ていうか夢オチ!? ベタすぎるよ!」」
その日、前の晩に変な光景を目撃したり変な歌を聞いたという人が続出して騒ぎになり
しばらくの間は警察が捜査に町を出入りして慌しくなったが
証拠が残っていないということで謎の集団催眠事件として迷宮入りした。

それから時々空き地でリサイタルをして空き缶を投げられたりしつつ
6年ほどの歳月が流れたころ。
地球は本気で環境破壊がヤバくなってきてシド君一家は月に移住することになった。
シド君が電車の窓から手を振りながら、最後に叫んだ言葉。
「約束、破ったら承知しないからな! 先にデビューして待っとけ!」
この直後、ウチは『知られざる聖戦』を経て、結果的に歌手デビューを果たすことになる。
――――――――――――――――――――
凄杉君「そういえばあの従弟は?」
レミ太「あれ以来音信不通なんだよね〜」
凄杉君「子どもの時の約束なんてそんなもんです。第一あの音痴じゃ無理ですよ!」
凄杉君&レミ太「「あははははははははは!!」」

完!!


アパートタカマガハラ・ななし#####################

191 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/11/16(日) 11:14:18 0
保守代わり。【アパートタカマガハラ】

ここはアマテラスが管理するアパート“タカマガハラ”。
クロスエイジスレの死亡者達が集う場所である。

トム「なあ、小遣いくれよ! 生前もらってなかったんだよ!」
ツクヨミ「新入り、少し静かにしたまえ!
お前に小遣いやってもアイスキャンディーに消えるだけだろう!」
カネス「はっはっは! ここも賑やかになってきたなあ」
(ガラッ)
ツクヨミ「げ!? 姉貴……!?」
アマテラス「アニキ部屋のみなさん、もう一人新入りが来るそうです。
仲良くしてあげてくださいね。
それからツクヨミ、トム君にお小遣いぐらいあげなさい♪」
(入居者データを渡す)
トム「ブランドン・タイラー……
UO創設以来数多の反抗勢力を葬ってきた最恐のルーラー……!?」
カネス「はっはっは! トムとは相性が悪そうだなあ!」
ツクヨミ「何、少しは静かになっていい」

そして新入りはやってきた。バナナが一杯のリヤカーを引いて。
タイラー「ちわーっ、ブランドン・タイラーでーっす!
おっさん達、バナナダイエットしようぜ〜!」
全員「「「…………」」」
暫しの沈黙後。
トム「俺はおっさんじゃねーーーーー!」
カネス「はっはっは! 意外とフレンドリーだったんだなあ」
ツクヨミ「……またうるさいのが増えてしまった」