現代幻影TRPG

1 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/12/14(水) 14:32:55.76 0
現代幻影TRPG

ジャンル:現代化ファンタジー 
コンセプト:文明レベルが現代まで発展したファンタジーの世界で冒険

名前・
性別・
種族・(純人種・亜人種・獣人種)
年齢・
髪型・
瞳色・
容姿・
備考・
得意技・
好きなもの・
苦手なもの・

種族について

純人種
いわゆる普通の人間、器用貧乏
亜人種
エルフやドワーフなどのぱっと見人間っぽい種族
種族ごとに特化技能がある。
獣人種
人と他の動物(虫類も含む)の特徴を合わせ持つ種族
身体能力は他の種族よりも優れるが活動場所が限られたりする
2 : 名無しになりきれ[sage] : 2011/12/14(水) 19:03:58.00 O
面白そう!誰も志願しないならGMやってみていいかな?
3 : ドワーフ娘で参加予定 ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/14(水) 19:31:23.37 0
……某所で立て逃げ告知があったので来てみました(をい

>>2
って、わけでやっていただけるなら参加予約1名入りまーす
4 : オーガ娘で参加予定 ◆WD5pUJgsds [sage] : 2011/12/14(水) 19:43:35.09 0
同じく立て逃げと聞いてきました
>>2
汚れ役でもいいんで参加しちゃいたいのZE
5 : GM ◆PAAqrk9sGw [sage] : 2011/12/14(水) 19:55:32.27 O
酉付けました!

>>3-4
あいよ、了解!2人ともよろしく!
先にテンプレ用意してくれると助かります!
あと、参加してみたいなーって人、2人まで募集します!
6 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/14(水) 19:57:36.43 O
いきなり酉ミスごめん
明日か明後日の夜に導入レス入れますね!
7 : ドワーフ娘で)ry ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/14(水) 20:00:07.17 0
>>4
早いwwwww

>>2 GM志願の方、ないし>>1の人
って、わけで何か進捗がありましたらまたご一報お願いします
ゆっくりお待ちしてますので
8 : 渚カヲルψ ◆.NERVpDWGM [sage] : 2011/12/14(水) 20:48:42.82 0
以前、サバイバルTRPG・寝台特急スレで、完全に懲りました。
TRPGの事はもう懲り懲りだ…。

TRPGなんて大嫌いだ!!エヴァンゲリオン四号機で、本当にぶっ飛ばしてやりたい気分だ!!

ぶっ壊すぞ!この”TRPG”というゲームは…。A.T.フィールド全開でぶっ壊してやりたい。
9 : 参加希望 ◆T59d.omBjU [sage] : 2011/12/14(水) 21:19:36.86 O
まだ間に合うかな?
参加希望でっす。
10 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/14(水) 22:25:06.27 0
PCよりGMです!酉合ってるかな

>>9
ようこそ!歓迎します!

今、導入レスを書いてます。早ければ明日の夜、遅くても明後日には投下予定です。
まだまだ新規さん募集しています!
11 : ◆WD5pUJgsds [sage] : 2011/12/15(木) 17:37:09.10 0
せっかくケモ成分があるんでケモノに変えます

名前・トト
性別・女
種族・獣人種トラ族
年齢・27歳
髪型・虎柄のショートボブ
瞳色・釣り目の黄色
容姿・頭から獣耳、全身短めの体毛で覆われている。ホットパンツ、タンクトップ
備考・猫を被った虎娘である
得意技・パルクール
好きなもの・肉、キウイジュース
苦手なもの・寒いところ

12 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/15(木) 18:26:39.18 0
どうも、GMです!
>>1だけのテンプレじゃちょっと足りないかな?と思ったので作りなおしてみました
もう作っちゃったよ馬鹿!って人はごめんね!直さなくてもおkだよ!

GM:あり
決定リール:あり。過度の決定リールは同僚と相談で調節
○日ルール:あり(3日、リアル事情などで遅れる場合は+2日ほど猶予あり)
版権・越境:なし
敵役参加:あり(事前に要相談)
避難所の有無:あり
備考:舞台は現代のアメリカみたいな場所だと思って下さると良いかもです。
 但し、仮想国なので日本にあるような法律やシステムを作っても問題なしです。


キャラテンプレ
名前:
性別:
年齢:
種族:(純人種・亜人種・獣人種)
容姿:
性格:
職業:
能力:(戦術や使用魔術、特技など)
備考:

あと、避難所もつくりました!よかったらどうぞ!↓
http://yy44.kakiko.com/figtree/#1
13 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/15(木) 18:27:28.21 0
――――――――ん?君、此処は初めて?分かるよ、右も左も分からないって顔してるし。
もし君が良ければの話だけど、この世界のことを案内してあげようか。
俺、学校に内緒でガイドのバイトしてるんだ。何でも説明してやるよ。

まず、この世界では、人間と人間じゃない種族――例えば亜人種とか獣人種だとかが共存している。
因みに今、君達がいる国はアメリク合衆国ってところ。多民族ならぬ多種族国家さ。
通貨はどの国も共通している$(ドル)。治安が少々悪い以外は、自由と平等を重んじるとっても良い国だ。
他に特徴があるとすれば、観光スポットが多くて自然も豊か、それとご飯が美味しい!これ位かな。

あ!先に注意しとくけど、この国はあちこちでよくトラブルが起きたりするから、くれぐれも巻き込まれるなよ?
何せこの国、銃刀法に関してかなり緩いところがあるから。
許可取って申請すれば誰でも武器が持てる社会だなんて不穏すぎるよな。慣れれば良い所なんだけどね。
それでなくても、自然にはモンスターがうようよいる。森でモンスターに襲われる事件も起きてるな。
郊外とかだと、人里に下りてくるモンスターもいるっていうから、おっかない話だ。

ところでこの世界は、魔法と科学という二つの真逆の概念が存在するんだって。知ってた?
魔法っていうのは、自然の至る所に存在する魔力ってのを駆使するんだ。
自然現象や流行り病なんかも、自然が放出する魔法の一種だって先生が言ってた。
物理法則や重力なんかをある程度無視した魔法なんてのもあるみたい。

一見便利そうだけど、不便な面もあるみたいだ。まず、魔法を使うには銃器と同じく許可が要る。
こっちは銃刀法より厳しくて、テストだの精神鑑定だの受けて、ライセンスを取らなきゃいけない。
ライセンスを取らずに魔法を使うと、あっという間に豚箱行きだから気をつけな。
ほかにも、一人ひとり魔法を使える量は決まっていて、魔法を無限に使う事は出来ないとか。
それに、時間操作だとか空間移動だとか、ましてや死人を蘇らせるは出来ないらしいけど……難しいから良く分かんないや。

魔法に関してはこんな面白い話もある。何と、魔法を使う奴は、異常なまでに「科学」や「機械」に弱いんだと。
極度の機械音痴だとか、銃器や電子機器を異常に怖がる奴は、十中八九、魔法を使える奴だと見ていい。
ああ……最近聞いた話では、年々、魔法を使えなくなる者が増えてきてるみたい。
俺は元々使えないから関係ないけどね。

科学については……え?知ってるって?それなら話は早い。
多分、君らが想像しているものと相違ないだろうしな。

これだけ説明すりゃ充分だよな。
そんじゃ、ガイド代50ドル、耳揃えてきっちり払ってもらうぜ!まいどあり!
現代幻影TRPG、楽しんでいけよな!

【路地裏】

――ちょっと貴方!そんな所で何をしているの?
此処は『ギルド』の入口よ。一般人は立ち入り禁止!…え、ギルドが何なのかすら知らないの?
こんな世間知らずがまだ居たなんて……教えてくれって?ハァ…仕方ないわね、説明してあげる。
私達『ギルド連合』の実態を知らないなんて、屈辱以外の何物でもないもの。

ギルド連合のメンバーはね、一般企業や警察なんかが手を出せないような連中を相手にする職業が主なの。
そうね、職業は大きく分けて3つあるわ。

1つは、銃器や魔道具の密輸入の斡旋をしたり、逆に危険な魔道具等の管理を担う『道具屋』。
他にも、モンスター密猟者や魔法使い犯罪者を相手に戦ったりする『賞金稼ぎ』。
各地域の治安を守る、対犯罪者民間自衛組織『アゲンストガード』、略してなんかがいるわね。

どれもこれも危険な仕事だし、一歩間違えば犯罪行為だって行いかねない職業ばかりよ。
でも一応言っておくけど、、ギルド連合は国に認められた、合法的な機関なの。
今この国があるのは、一重にギルド連合が陰で支えているから、といっても過言じゃないわ。

どう?その顔、もしかして興味出てきた?
でも残念、相応の実力がない限り、仲間には入れてあげないわよ。
犯罪者達と対等に渡り合える胆力と腕がありゃあ文句はないけどね。
ま、ギルドに入った暁には、この私『道具屋メルシィ』をよろしくねえん!
14 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/15(木) 18:29:12.03 0
【訂正
 地域の治安を守る、対犯罪者民間自衛組織『アゲンストガード』、略してアゲガなんかがいるわね。
↑に脳内補正しておいて下さい】

【それでは今より、現代幻影TRPGの開幕です!
 シナリオは皆さんの導入レス後に投下しようと思います。皆さん、どうぞよろしく!】
15 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2011/12/16(金) 17:20:54.08 0
【ニューラーク市警 署長室にて】
「・・・何度目だ」
始末書に目を通しながら、目の前にあるソファーに深々と寛いでいる彼女に静かにといかけた
「そんなの覚えてないにゃ」
かなり気まずい空気の中、彼女は平然とそう答える
「…」
それに対し署長は、呆れるように頭に手を当て深くため息をした。
「色んな奴を見てきたが…お前ほど酷い奴は初めてだ
 物は壊すわ、犯人を捕まえたと思ったら殺すか半殺しにして、たまに取り調べをすれば…
 よくもまぁ…言っても無駄…といっても暫くはお前のことで頭を悩ませなくて済むか」
署長の言葉に、彼女は少し困惑する。
「辞令だよ…トト刑事!君には明日からギルド連合に転属してもらう」
そう言って署長はトトに辞令書を渡すとまるで肩の荷が下りたような顔をして
また深くため息をした。一方トトは
「…」
自身の手に握られた辞令をゆっくりと確認した。
ギルド連合への転属はいわば、危険地帯へ投げ込まれるのと同意であるが
トトの反応は違った。
「やっ………たにゃーーーーー!!!」
彼女のような型破りな存在にとっては警察のような堅苦しい組織よりも
そっちのほうがすごし易かったのかも知れない。

>>13
【路地裏】
「んにゃー本当にここであっているのにゃ?」
ビルの屋上にて、辞令書に書いてある住所を確認しながらトトは路地裏を見下ろした。
入り口らしい入り口はパッと見なさそうに見える。
「困ったにゃ、転属そうそう遅刻はしたくないのにゃ」
と嘆いた瞬間、人影発見した。話を聞くにギルド関係者が新入りに何か説明しているようだ
「ちょうどいいにゃ、あの人に聞いてみるにゃ」
そう言ってトトはコンクリの壁をガリガリひっかきながら屋上降りた。
「今日からお世話になることになったトトにゃ!よろしくにゃん」

名前・トト
性別・女
種族・獣人種トラ族
年齢・27歳
髪型・虎柄のショートボブ
瞳色・釣り目の黄色
容姿・頭から獣耳、全身短めの体毛で覆われている。未成年に間違われやすいほど背が低い。タンクトップ、ホットパンツ、大きめのジャケット
性格:猫をかぶり、ふだんはおちゃらけているが、短気
職業:刑事
能力:酔虎拳(オリジナルの格闘術)
得意技・パルクール
好きなもの・肉、キウイジュース
苦手なもの・寒いところ 、犬
備考:問題児で有名な刑事、刑事としてはそこそこなのだが、プッツンすると止まらなくなってしまう暴力刑事

16 : 参加希望 ◆T59d.omBjU [sage] : 2011/12/16(金) 21:31:24.87 O
キャラテンプレ
名前:アッシュ
性別:男
年齢:22
種族:純人種
容姿:銀髪ロング・黒いバンダナ・糸目・革のジーンズ&パーカー
性格:ちゃらんぽらん
職業:アゲンストガード
能力:我流剣術・格闘技、言い訳(魔法は使用不可)
備考:「アゲガ1適当な男」という不名誉な称号を持つちゃらんぽらんな男。
酒と女とギャンブルが大好きな典型的なダメ人間。
基本的に女と子供には弱い。
剣術と格闘技は我流だが、我流故に変則的な攻撃が特徴。
17 : アッシュ ◆T59d.omBjU [sage] : 2011/12/16(金) 21:32:19.40 O
スロット…ポーカー…ブラックジャック…ルーレット…。
世の中には様々な種類のギャンブルが存在する。
しかし何をやってもダメな時はダメなのだ。
「俺の……800ドル………。」
今月最後の大勝負にも負け、俺の財布はすっからかん。
今月は合計して1500ドル以上の負けだ…非常にまずい。
「こんな店二度と来るかーっ!」
2週間前と同じ台詞を吐き捨てる。
ディーラーが澄ました笑顔で手を振りやがる。
ちくしょうふざけやがって…。

げっそりしながらギルドに帰るとメルシィちゃんが新入り?らしき人物にギルドの説明をしている場面に遭遇。
「おっすメルシィちゃん。それらは新入りさん?」
メルシィちゃんに説明を受けていた見ない顔と獣人種らしき女の子に目を配る。
>「今日からお世話になることになったトトにゃ!よろしくにゃん」
どうやら獣人種らしき女の子はホントに新入りらしい。
半分冗談のつもりだったんだけど。
「おう、よろしくなトトちゃん。俺はアッシュってんだ、仲良くやろうぜ。」
18 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/17(土) 12:43:37.96 O
【トトさん、アッシュさんお願いします!】

【・お知らせ・】
お二人の他にも参加希望者がいらっしゃる場合、19日まで参加を受け付けます!
 20日にシナリオ開始としますので、参加者の皆さんは避難所に一報入れて下さると有り難いです
19 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/19(月) 16:14:34.43 0
キャラテンプレ
名前:ルイーネ・アイゼンツォルン
性別:女
年齢:73歳
種族:亜人種・ドワーフ族
容姿:緑髪三つ編みロング 瞳は灰色 眼鏡 貧乳ロリババァ
性格:根暗にして守銭奴、しかし大昔に冒険者として勇名を馳せたご先祖様とその末裔であることを誇りに思っている
職業:某ソフトメーカーでSE→アゲンストガード見習い
能力:先祖伝来の斧槍術 ドワーフ固有の怪力 プログラミング(ハッカーとしては三流以下)
備考
①経歴・特徴
身長128cm 体重及びスリーサイズは本人の意思により非公開。
実家は鉄鋼業を営んでいる地方の中流家庭。大家族の生まれで上に7人、下に2人の兄弟姉妹がいる。
いわゆるトールキン型のドワーフで年齢は人間の基準に換算すると24歳程度。だが外見はどう見ても幼女にしか見えない。
ドワーフ族は遺伝的形質として魔法に耐性を持つが、同時に自分自身も魔法を使用することができない。
また、手先が器用であることも種族の特徴としてあげられるが彼女の場合「力加減」というものがときどき疎かになる点がある。

②武器:MH-EZ08-RSO 機械斧槍『柊-Stechpalme-』《マシンハルバード・シュテヒパルメ》
元来白兵戦用のポールウェポンとして開発されたハルバードをさらに発展させ、現代戦にも使えるよう改良を施したもの。
ドワーフは伝統を重んじる種族であり、自分たちの闘い方をその武器と共に子孫へ伝える風習がある。
彼女の生家では代々ハルバードが継承され、この『柊』は都会に出るルイーネの為に両親から護身用として送られたものである。
型番は「Machine Halberd-Eisen Zorn 08-Ruine Special Order」の略。彼女がアイゼンツォルン家の第8子であることを表している。
材質はグロムリル鋼(※1)を主体としており、刀身には“不破”のルーン文字が刻印され、破壊力強化の魔力付与が施されている。
また、可変機構を備えており中・遠距離戦においては変形させてポンプアクション式のショットガンとしても使うことが可能。
ドワーフの高い技術水準によって製作された逸品である。

※1:ドワーフによって精錬された鋼のこと。
   高い強度と若干の聖性を帯びており、ミスリル程ではないがその効能はアンデットにもそこそこ有効。
20 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/19(月) 16:21:52.16 0
カレッジを卒業して都会にあがった彼女は、とあるソフトメーカーのシステムエンジニアをしていた。
いわゆるIT土方といわれるものだ。
響きはなんとなくカッコいいが、その労働条件たるやかつてネットで騒がれたブラック企業そのものであった。
つまり――きつい、帰れない、給料やすい。
ドワーフは根性のある種族として有名だが、流石の彼女もやがて限界がきた。
虚ろな視線で連日徹夜で作業を続け、力加減を誤って職場のパソコンを破壊すること数十回。
付いたあだ名がズバリ「KBC」(キーボードクラッシャー)。
全くもって安易な発想だが世間なんてたいていそんなものだ……と彼女は考える。
やがて過労のあまりオフィスで居眠り&ケーブルに躓いて納入予定のデータを全部ふっとばすというダブルプレイをかましたその日、
ルイーネはとうとう会社をクビになった。
これでようやく地獄から解放される。収入はないが貯金は少しあるのでしばらくゆっくりしよう思ったその矢先――大家から一言。

「来月から家賃上げます。あと、滞納してる分さっさと払わないと今月中に出てってもらいますから」

ルイーネは焦った。早いところ再就職しなければ来月からホームレスだ。ニューラークの夜はくそ寒い。
大家のババアに見えないところで悪態をつきながら求人広告を眺めていたところ、ある警備会社の記事が目に入った。
元来穴倉に生きる引き篭もり体質のドワーフが一部の読者と同じように「警備員」という単語に親近感を覚えたわけではない。
彼女に流れる始祖から受けついた冒険者としての血が、ルイーネ・アイゼンツォルンの何かを惹き付けたのだ。
かくして、彼女は先祖伝来のハルバードと共にギルドの門を叩くことにした。

【路地裏】

>>13
ルイーネはギルド関係者からざっとした説明を受けた。ちなみにアゲガー希望だ。
>でも残念、相応の実力がない限り、仲間には入れてあげないわよ。
>犯罪者達と対等に渡り合える胆力と腕がありゃあ文句はないけどね。

「すいません、私には多分無理です」

のっけから心が折れたルイーネであった。勇猛果敢なドワーフが聞いて呆れる。

>>15 >>16
>「今日からお世話になることになったトトにゃ!よろしくにゃん」
>「おう、よろしくなトトちゃん。俺はアッシュってんだ、仲良くやろうぜ。」

ギルドの新人らしき獣人とベテランらしき人間の男が仲良く挨拶を交わしている。
「 」の中に句点が入るのは仕様だろうか。もっとも他人のスタイルについてとやかく言うつもりはない。
目下のところ先輩・同僚になる可能性すら怪しいのだから。
21 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/20(火) 00:35:34.70 0
【路地裏】

『道具屋メルシィ』――ギルドの新入りをもてなすのは、大抵「彼」の役目である。
ドラァグクイーンさながらの露出が高く派手な衣装で男らしい体を包み、褐色の肌を派手なメイクで飾る。
その強烈な外見とは裏腹に、類稀なる女らしさと親しみやすい性格と相手を『視る』その観察眼を持つ事から、
男でありながら『ギルド1頼れる姐御』として多くのギルドメンバーに慕われている。

だが、そんなメルシィでも、今回の新入り候補には困惑せざるを得なかった。
求人広告を見て来たというアゲガ希望のドワーフ少女は、内面・外面ともに戦闘向きではなかったからだ。

>「すいません、私には多分無理です」
「んまっ!じゃあ何で来たのよ、貴女。冷やかしのつもり?」

おまけに、メルシィの説明を聞いただけでこの態度の変わりようである。
ルイーネの態度に憤慨するメルシィだが、一方で仕方のないことなのだろうとも思う。
民間自衛組織と聞こえはいいが、何せアゲンストガードの仕事内容は、一歩間違えば命を落とす危険もある。
今まででも、多くのアゲンストガードが命を落としたり、チームを脱退してきたのだ。
ごく普通の一般人であるルイーネが尻ごみするのも、当然のこと。

「でも、ここまで来たその心意気は買ってあげたいのよねぇ……」

ただ追い返すだけのも酷だろうか、とメルシィは考え、ふと視線をずらす。

「あら、そのハルバード!ちょっと見せてくれないかしら?」

ルイーネの所持する機械斧槍を見るや否や、メルシィの目の色が変わる。
ハルバードを見た瞬間、道具屋としての血が騒ぐのをメルシィは感じたのだ。
輝く刀身をうっとりとした目で見つめ、指先でなぞりながら、ある事を考えた。

――――こんな貴重な武器を持っているなんて、この子、只者じゃないわ。

製造工程を聞きだしたい、使われた材料が何であるかを知りたい、……このドワーフをぜひ仲間にしたい!
かなり不純な動機で、メルシィはこの少女を是非勧誘しようと考えた。

「……ねえ貴女。直ぐ諦めたりせずに、まずは見学でもしてみたら?
 ちょうど、仕事仲間が欲しかったのよね。機械作業は得意かしら?私、ぱそこんとか苦手で…」

ね?と首を傾げてメルシィは言う。メルシィの言葉に嘘はなく、仕事仲間が欲しいのは事実だ。
ドワーフは手先が器用で、鍛冶や石工を職業にする者が多いと聞く。
聞けば、ルイーネは元SEだという。デジタルに頼るこのご時世、機械音痴のメルシィにとって欲しい人材だ。
メルシィは着々と自分の脳内で、ルイーネを道具屋仲間に引き入れるプランを立てる。
当のルイーネが誘いに乗ってくれるかということまでは考えていない様子である。
22 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/20(火) 00:38:31.31 0
「そうと決まれば、早速ギルドの新規参入者登録に行きましょ!
 本当は、一般人の新規参入には役所で申請を取らなきゃいけないんだけど、今回は特別よ」

ルイーネの手を取り、ウインクを飛ばしてご機嫌なメルシィ。
だがいざ一歩踏み出したその瞬間、コンクリの壁を伝って猛スピードで降りてくる一つの影。
弾丸のように現れた虎娘――トトが、唖然とするメルシィの目の前で元気よく挨拶する。

「今日からお世話になることになったトトにゃ!よろしくにゃん」
「き、今日から?……もしかして、新規参入の子?」

トトから事情を聞きだし、辞令書を受け取る。確かにギルドへの転属と書かれてある。
刑事がアゲンストガードに転属というケースはとても珍しい。もし本当だとすれば、ギルドで話題になるネタだ。
中身が女なだけあって噂好きのメルシィが知らない筈がないのだが、そんな話は聞いていない。

「おっすメルシィちゃん。それらは新入りさん?」
「あら、アッシュ。その顔、またギャンブルで負けたんでしょ?」

そこに現れたのは、アゲンストガードのアッシュ。メルシィとは顔馴染みだ。
アッシュにさりげなく近づくと、メルシィはトトの方を見やりながら小声で尋ねた。

「この子、刑事からそっちに転属になったらしいんだけど、何か聞いてない?」

普段はちゃらんぽらんで女好きな彼なら……と思ったが、どうやら彼も知らなかったようだ。
同じアゲンストガードが知らないという事は、答えはたった1つしかない。
難しい顔を見せるも、メルシィはすぐに表情を明るくし、トトとルイーネに向き直る。

「ごめんなさーい。私、どうしても確認したいことあるから、ここで待っててくれるかしら?
 ……アッシュ、しばらく二人の事、任せたわよ。ちょっとギルド人事局に行ってくるわ」

アッシュに囁くと、メルシィは小走りでその場を後にする。
――そして、メルシィと入れ替わるようにして近づいてくる音を、残された三人は耳にするだろう。
怒り狂うような野太い声、喧噪、荒い呼吸音、こちらに向かってくる無数の足音。

「助けてください!!襲われてるんです!」

喧噪と共に、路地の角から現れたのは、いかにもお嬢様ですといった風貌の少女。
黒い長髪をなびかせ、恐怖と焦燥を顔にはりつけた少女は、アッシュ達の後ろに隠れる。
彼女に続くようにして、今度はゴーグルを付けた男達が姿を現した。
その数、ざっと20人ほどだろうか。皆一様に、怒りで目が血走っている。

「そこの女を渡せ、ガキ共ォ!でなきゃぶっ殺すぞ!」

リーダー格と思われる男ががなり声を上げる。
ゴーグルの集団といえば、彼らが何者であるかを理解できる者もいるだろう。
近頃、ニューラ―クを騒がせている過激派不良集団『バンプス』の一味であることを。
中でも、リーダーの青年・ゲオルグや取り巻きは違法魔法使いであるともっぱらの噂だ。

「そこの女はなァ、あろうことかこの俺様を振った挙句、ビンタしやがったんだぜ!」
「ふざけないで!出会い頭に接吻を強要する人を好きになる訳がないでしょう!」

二人の会話と、ゲオルグの頬にくっきりと残る赤い手形の跡で、大体の事情は分かるだろう。
三人を盾にして強気になった少女は、ゲオルグ達に舌を突きだした。それが逆燐に触れたらしい。

23 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/20(火) 00:39:20.99 0
「~~~~ッ、あの女ァ、どこまでもバカにしやがって!お前ら、あのガキ共もろともぶっ潰せ!!」

ゲオルグの合図と共に、十数人の屈強な男達が、それぞれ武器を手に襲いかかる!

「その女を庇ったこと、泣いて後悔するがいい!」

彼らは知る由もない。自分達が相手にしている「ガキ共」が一体何者であるかを。
泣きを見るのは自分達であることを、すぐさま思い知らされることになるだろう。

【スタートシナリオ:悪漢共から少女を守れ!
 エネミーデータ :過激派不良集団バンプス 数:20数人+α ラスボス:ゲオルグ】

【第1NPCバトル:金属バット、サバイバルナイフ、ハンドガン、メリケンサック等を所持。
        ワンターンキル・決定リール可。能力紹介しちゃってください】
24 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2011/12/21(水) 16:24:00.56 0
その間に、アッシュと名乗る人間がやってきたので挨拶を済ませる。
「(なんか変な雲行きになってきたな)」
いまいちはっきりしないメルシィの様子にトトは少しばかり不安を感じた。
>「ごめんなさーい。私、どうしても確認したいことあるから、ここで待っててくれるかしら?
  ……アッシュ、しばらく二人の事、任せたわよ。ちょっとギルド人事局に行ってくるわ」
「人事がズサンなだけで終わればいいのににゃ」
走りさるメルシィの後姿を見ながらトトはそう呟いた。
とそうこうしていると、今度は反対側から何者かがこっちへ向かってくることに気がつく

>「助けてください!!襲われてるんです!」
>「そこの女を渡せ、ガキ共ォ!でなきゃぶっ殺すぞ!」
「なんだか大変なことになってきたにゃ」
めんどくさそうにそうぼやくとトトは逃げてきた彼女に視線をやる
「いったい何があったのにゃ」
>「そこの女はなァ、あろうことかこの俺様を振った挙句、ビンタしやがったんだぜ!」
>「ふざけないで!出会い頭に接吻を強要する人を好きになる訳がないでしょう!」
「やられて当然にゃ、誰がそんな悪趣味なゴーグル…ゴーグル?」
何か思い出したかのようにもう一度不良たちの姿を確認した。
そういえば、最近頭角を現してきたギャングチームに手を焼いている話を聞いた覚えがある
ただのギャングならば警察お得意の物量作戦でどうにでもなるのだが、
何せその中に、その中に違法魔法使いがいるらしく思うようにいかないんだそうだ。
特徴として、全員おそろいのゴーグルを装着しているらしいのだが…
「…そうだ。思い出したにゃ!バンプスにゃ」

>三人を盾にして強気になった少女は、ゲオルグ達に舌を突きだした。それが逆燐に触れたらしい。
>「~~~~ッ、あの女ァ、どこまでもバカにしやがって!お前ら、あのガキ共もろともぶっ潰せ!!」
「こうなったらしょうがないにゃ、返り討ちにするしかないにゃ!」
即座に構え、襲い掛かってくる悪漢たちにを向かえる
「ただの不良だと思って舐めちゃだめにゃ、違法魔法使いも混じっているから気をつけないとマズいにゃ」
そうアッシュ達に注意した瞬間、トトの頭に金属バットが振り落とされた
「甘いにゃ」
即座にバットを弾き飛ばし、顔面に掌打を打ち込み、怯んだところへ、更に胸にも掌打を当て弾き飛ばす。
間髪をいれず、サバイバルナイフを突きつけられるも
「私の得物も見てみるかにゃ」
そういうと、コンクリの壁を削った爪が現れ、それを振り下ろした。
一瞬のうちにナイフはぶつ切りに切られ、地面に落ちる。
不良に驚く間も与えず、また掌打で弾き飛ばす。
そんな調子で千切っては投げるように不良共をなぎ倒していく中、先ほど逃げてきたお嬢様の方へ視線を向けた
「いないにゃ!?」
この騒動に乗じて逃げ出してしまったのか?それとも別のトラブルでも発生したのだろうか

【全員に注意を促し、乱闘開始
 途中、お嬢様がいなくなっていることに気がつく】
25 : アッシュ ◆T59d.omBjU [sage] : 2011/12/21(水) 20:25:49.89 O
>「この子、刑事からそっちに転属になったらしいんだけど、何か聞いてない?」
メルシィちゃんはトトちゃんをチラッと見ながら俺に尋ねる。
「いや~残念ながら存じ上げませんな…。」
それにしても刑事からうちに転属させられるとはいったい何をやらかしたのかと小一時間問い詰めたい。
そして何故そんなレアな話を俺もメルシィちゃんも聞いていないのか…。
>「ごめんなさーい。私、どうしても確認したいことあるから、ここで待っててくれるかしら?
 ……アッシュ、しばらく二人の事、任せたわよ。ちょっとギルド人事局に行ってくるわ」
何かを悟ったのかメルシィちゃんは人事局に行くと言って二人を俺に預け去ってしまった。
えっ。
っていうかこの幼女(ルイーネ)も新入り希望の方?
トトちゃん以上に冗談のつもりだったのに…。

こんな小さな女の子達がアゲガに入らないといけないなんて世も末だと嘆いていると、美しい女性(予想)の声と荒々しい野郎共の声が聞こえてくる。
>「助けてください!!襲われてるんです!」
現れたのはやはり黒髪ロングのお嬢様風美少女。
俺達の後ろに隠れたかと思うとぞろぞろとムサい野郎共が現れる。
>「そこの女を渡せ、ガキ共ォ!でなきゃぶっ殺すぞ!」
何かすっげぇキレてらっしゃるんですけど。
いきなりぶっ殺すとは物騒な奴だ。

>「いったい何があったのにゃ」
トトちゃんの問いに男は更にヒートアップしながら応える。
>「そこの女はなァ、あろうことかこの俺様を振った挙句、ビンタしやがったんだぜ!」
>「ふざけないで!出会い頭に接吻を強要する人を好きになる訳がないでしょう!」
そりゃあしょうがないな。
俺のような超絶イケメン(自称)ならまだしも、こんなムサい野郎にキスしろだなんて罰ゲームでしかない。
26 : アッシュ ◆T59d.omBjU [sage] : 2011/12/21(水) 20:27:08.02 O
しかも皆お揃いでゴーグルなんかしちゃって…恥ずかしいねぇ。
……コイツらアレだな、確かバンプスとかって連中だな。
最近ちょろっと調子に乗ってるヤンキー集団。
厄介なのは集団の中に違法魔法使いが混じってるってところだ。
ちょうど良い、コイツらとっ捕まえてボーナス貰おう。
ついでに黒髪美少女もゲッツといきますか…。
「それじゃあ君達はお兄さんの後ろに…」
>「こうなったらしょうがないにゃ、返り討ちにするしかないにゃ!」
……仕切られたー!
ぐぬぬ…こやつなかなかやるの…。
>「ただの不良だと思って舐めちゃだめにゃ、違法魔法使いも混じっているから気をつけないとマズいにゃ」
言ってる間にトトちゃんの頭上に金属バットが…

一瞬焦ったが、さすがは元刑事。
金属バットを弾き飛ばし、男を瞬時に制圧する。
「お~お~。やるねぇトトちゃ…」
よそ見をしている俺の後頭部に強い衝撃が走った。
振り向けば金属バットを手にした野郎が1人……。
「………ってぇなこのボケーーっ!!」
右手の拳を全力で握り、両足で強く踏ん張る。
体ごと相手に叩きつけるように全体重を乗せた拳を憎いあんちくしょうにお見舞いしてやる。
両腕で防ごうとしたようだが、俺のパンチはその程度では防げない。
両腕の骨を粉砕し、野郎の体は数メートル先の壁にめり込む。
「あーはっはっ!どんなもんだ!俺の拳はイテーだろ?」
勿論返事は聞こえてこない。
完璧なる失神KOだ。

スッキリしたところで周囲の様子を確認すると、トトちゃんと幼女(ルイーネ)の姿はあるが黒髪美少女の姿が見当たらない。
「……アレ?」
俺はダクダクと頭から血を流しながら首を捻った。
27 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/21(水) 21:50:06.77 0
>>21 GM 『道具屋メルシィ』

まず始めに何人の人間が「騙された!」と感じたのだろうか。
ルイーネの応対を担当したメルシィは女性ではなくオネエ言葉の男性だった。
叙述トリックというやつだ。いやはや、文字媒体はこれだから恐ろしい。
もっとも、当のルイーネは始めから彼と対面しているので驚くことはなかった。
(ちょっと変わった趣味の人が出てきたな)ぐらいにしか考えていない。

初っ端からヘタレ発言をみせるルイーネに難色を示すメルシィ。
だが、ルイーネの担いだ『柊』を見るやすぐさま目の色が変わった。
道具屋としてプロ意識の琴線に触れるものがあったのかもしれない、ルイーネはそう思った。
辞典片手に悩んだ甲斐があるというものだ。いや、それを言うのは止そう。

誰かさんが自分の苦労が報われたことに安堵しているその一方で
金銭的価値があるのなら最悪コレを売り払って今月の家賃をしのごうか……とバチ当たりな考えにルイーネが悩んでいたそのとき

>「……ねえ貴女。直ぐ諦めたりせずに、まずは見学でもしてみたら?
> ちょうど、仕事仲間が欲しかったのよね。機械作業は得意かしら?私、ぱそこんとか苦手で…」

「あ、そうですね。私で良ければお手伝いさせていただきます。あの――今日のお給料は出ますか?」

何たる幸運! しかも荒事担当ではなく事務仕事を回してくれるという。
先祖の勤めた勇者的職業に対する憧れはなくもないが、人生(ドワーフ生?)労働はやっぱり安全第一で手堅いものに限る。
28 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/21(水) 21:50:38.18 0
>>23 GM ゲオルグ

>「その女を庇ったこと、泣いて後悔するがいい!」

泣く間も後悔する間もない。どうしてこうなった。
相手はもはやこちらを無関係とはみなしてくれないようだ。いたしかたない。
助けを求められて無視するというのは社会人としてどうなんだろう――という模範的回答もなくはなかったが
ルイーネはそれよりもまず優先すべき事情がある。

「謝礼は出ますよね?」

をいをい、他に言う事はないのか。
まあいいや。行け、ルイーネ。戦え、ルイーネ。主に自分の生活の為に。

【第1NPCバトル】

書き込み時間に制限があるので取り急ぎやったことだけをここに記そう。
何せ今日はこれから夜勤だからだ。
カッコいい描写はGMさんに丸投げだっ!!

「セイ!ヤアアアア!そおおおおおおおぃ!!」

迫り来る悪漢を斧槍で払う、薙ぐ、突く。
始めは自信が無かったルイーネもこれには驚いた。
彼女には自分が強いという意識はない。むしろ相手にしているこのチンピラどもが弱すぎる。
てんで動きがなっていないのだ。
成人したドワーフやエルフはその多く武術の達人だ。
何故か?考えてもみて欲しい。彼らは普通の人間よりもはるかに長生きだ。
修練に要した時間もそれに比例して長い――――弱いわけがないのだ。

【向かってきた6人ほどをへち倒す】
29 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/22(木) 00:34:32.91 0
黒髪の少女は、怯えるようにアッシュ達の後ろで、ゲオリク達を見据える。
向こうは武器を所持し、魔法を使う大の大人たち。対するこちらは、幼さが残る少女2人と線の細そうな青年が1人だけ。
頼る相手を間違ってしまったのではないか、と不安が胸中を占める。
そもそも、不良に追われる見ず知らずの少女を助ける人なんてものは、そうそう居ない。
相手は殺意を持った大人数だ、見捨てられて逃げ出されてしまうかもしれない――。

>「それじゃあ君達はお兄さんの後ろに…」
>「こうなったらしょうがないにゃ、返り討ちにするしかないにゃ!」

―――――だがそれは、杞憂というものだったらしい。
虎娘のトトが即座に戦闘の構えを取り、銀髪の青年・アッシュも少女を庇うように一歩前へ。
まだ不安げな表情を見せる少女に、ドワーフ娘のルイーネは一瞥して静かに尋ねる。

>「謝礼は出ますよね?」
「え?し、謝礼ですか?」

予想外の質問に、少女は一瞬呆ける。
だがすぐに、その言葉を理解する。要は、助けるだけの理由があれば、彼女等を味方に出来るということだ。
そして少女には、助けるだけの理由を作ることができる。少女は眉を吊り上げると、しっかりとした声でルイーネに答えた。

「……ええ! 期待以上のお礼をさせて頂きますわ!」

会話をする間にも、不良達は各々の得物を手に三人に襲いかかる。
人数、戦闘力、魔法、戦闘経験、それらを全て持つ不良達には、充分な勝機があった。
一般人より恵まれていた環境、要素ひとつひとつが彼らの心に慢心を生んでいた。
かたや此方は喧嘩のプロ、女子供と細い男に負けない訳がない――そう、彼らが『ただの一般人』であれば。

>「ただの不良だと思って舐めちゃだめにゃ、違法魔法使いも混じっているから気をつけないとマズいにゃ」
「ひゃっはあー!初撃もーらぃい!!」

不良の何人かが駆けだし、アッシュ達に意識を向けていたトトに向けて、上段に構えた金属バットを振り下ろす!
彼の中では、不意をついたこの一撃で、トトの頭蓋骨は陥没する筈だった。

>「甘いにゃ」
「―――――へ?」

その瞬間、右手に衝撃を感じると同時に、重量のある物が、ブン、と空を切る音を聞いた。
右手を見る。金属バッドが消えている。信じられない思いでトトへと視線を戻した時には、
顔面にトトの掌打が綺麗にクリーンヒット。更に腹にも重い一撃を食らい、不良その1は後方に吹き飛ばされる。
瞬きする間にやられてしまった仲間を見て、不良達はただただ茫然としていた。
30 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/22(木) 00:35:04.09 0
>「お~お~。やるねぇトトちゃ…」
「どこ見てんだコラァ!!」

最初に我に返った不良の一人が、アッシュに狙いを定めた。
暢気に笑って観戦気分のアッシュの背後に回り、後頭部に金属バットを振るう。
鋭く空気を切る音の直後、骨と金属がぶつかり合う鈍い音と共に直撃。
やった!まずは一人目―――――そう思った矢先。

>「………ってぇなこのボケーーっ!!」
「な、何でお前動け……あがはぁっ!!」

トトより倒しやすそうだと見ていた相手は、思ったより強固な頭蓋骨とタフネスな精神の持ち主だったようだ。
倒れて動けなくなるどころか、怒りに身を任せて渾身の正拳突きを不良に炸裂。
不良その2は両腕の骨を砕かれ、一瞬で意識を手放した。

「ばっこっち来、ぎゃああああああああああ!!」
>「あーはっはっ!どんなもんだ!俺の拳はイテーだろ?」

吹き飛ばされた先にいた不良達も巻き込んで、数人が壁にめり込む結果と相成り、アッシュは得意満面。
その間にも、トトは自らの爪でサバイバルナイフをゼリーのように裂いてみせ。
ルイーネはハルバードと共に悪漢達を次々と薙ぎ払う。

>「セイ!ヤアアアア!そおおおおおおおぃ!!」

小柄な体躯のどこからその力が出るのか、少女は不思議に思うほどだった。
不良達の足を払い、隙を突いて腹を突き、よろめいた所を薙いで一掃。
一人だけで何と6人も一度に倒してしまったのだ!武術の達人であるドワーフだからこそできる芸当である。

「(す、すごい!警官だって、犯罪者を一度に相手出来る限度は2~3人だっていうのに……!)」

因みに、少女は近くの壁に隠れて戦いの様子を見ている。自分が彼らの邪魔になると自覚しての行動だ。
トトやアッシュは少女が居なくなったことに気付いたようだが、今は戦闘に集中してもらいたいものである。
三人の戦闘力と気迫に圧されたのか、不良達が一歩一歩、気絶した仲間を背負ってじりじりと後退する。
入れ替わりに、数人のメンバーが前へと踏み出す。

「Dammit!幾らか倒した位で良い気になるんじゃねえぞチビ共!」

一人が中指を突き立て、挑発するように下賤な言葉を吐き散らす。
仲間を倒され、尚もこのような強気な態度を取れる、彼らは自信に満ちているようである。
それは、三人の戦いぶりを観察していたついた自信だった。

「教えてやるぜ、『バンプスの魔法使い』達の強さをなァ!」

空に突き出した中指を三人に向けたその時、指先から炎の塊が迸る!
弾丸が如く吐き出された炎の塊は、三人の足元のコンクリートを抉り、火花と煙を散らす。
もし当たっていれば、相当な激痛と火傷を負う事になるだろう。
その正体は『火炎魔法』の応用――そう、彼らこそが、噂に違わぬ「違法魔法使い」その人なのである。

「お前ら、見たところ魔法は使えなさそうだなあ? ……全部、避けきることが出来るかな?」

魔法使い達が一斉に指先を三人に向ける。
そして、肉を焼き骨を燃やさんとする幾多の炎の塊が発射される!!
――――しかし、彼らにも弱点はある。何より肉弾戦と接近戦に弱い。
なおかつ、これは一般常識であるが……大抵の魔法使いはそこまで使役出来る魔力は多くはない。
襲い来る炎を避けての接近、或るいは時間を稼げば、倒す手立ては見つかるかも分からない。

【違法魔法使い登場、火炎魔法発射!】
【少女は物陰から見守り中】
31 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/24(土) 04:46:27.87 0
>>29 GM(黒髪の少女) トト アッシュ

さて、今宵も始めよう。GMさんの描写に感謝。
悪漢たちを前にして臆することなく前に出る現役のアゲンストガード達。
アッシュからは若干の下心が見えなくも無いが、まあ当然だろう。
救いを求めるこの少女、着ているものが上等なら言葉遣いもお上品。見てくれだって十人並みだ。
育ちも良ければ家柄もさぞかし立派な人間なのだろう。
こういう絶好の機会を利用してお近づきになりたいと考えるのは男として当然の帰納である。

もっとも、命あってこそのモノダネだ。

トトとアッシュの発言によればこのゴーグル姿の不良ども、今巷を騒がせている名の知れた犯罪者集団であるらしい。
巻き添えを喰らった元一般人のルイーネが思わず謝礼を求めたくなったのは、実の所こーいう事情があった。怪我で済めばいいが。

>「……ええ! 期待以上のお礼をさせて頂きますわ!」

お礼は欲しいが実の所ルイーネはコレと言って労働報酬以上の過度な期待はしていない。
アッシュにとっては朗報だろう。彼女と懇ろになるチャンスだ。……当人がこの発言を聞いていればの話だが。
32 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/24(土) 04:53:10.07 0
>>30 GM 『バンプス』 トト アッシュ

さて、只今の戦闘結果を確認しよう。10-0。
アッシュ氏が後頭部から盛大に出血していることを除けばこちら側の圧勝である。
少女の姿が見えないがおおかた邪魔にならないよう物陰にでも隠れているのだろう。
仮に彼女がルイーネたちを置きざりにしてさっさと逃げてしまったところで、何ら問題はない。
ルイーネの人間不信がちょっとだけ増すだけだ。ドワーフは義理堅く、そして激しく粘着質である。

しかし、これで引き上げるほど相手も甘くはない。

>「教えてやるぜ、『バンプスの魔法使い』達の強さをなァ!」
>「お前ら、見たところ魔法は使えなさそうだなあ? ……全部、避けきることが出来るかな?」


【第1NPCバトル:2ターン目】

魔法使いの放った火球の威力にルイーネは冷や汗を流した。
ドワーフは魔法に対する耐性を持っているが、それは精神的な作用に及ぼすものについてのみだ。
物理的な破壊力は対象外である。あんなものを喰らえば当然大火傷だ。
続けて発射される火炎魔法。目視できる速度のようだが足の遅いドワーフにこの弾幕を避けるのは少々難がある。

「はあっ!」

ルイーネは自分に向かってきた火球をハルバードで叩き落とそうと試みた。
カッコよく決めてしまうのもいいが、語り部はここで少しギャンブルに走りたいと思う。

【00-25 火球が爆発して大ダメージ】
【26-75 火球は叩き落としたけどちょっと火傷する】
【76-99 見事に火球を薙ぎ払う】

さて、どうなる?
33 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2011/12/24(土) 05:39:59.18 0
【火球が爆発して大ダメージ】

ボバーン!!

「きゃあああああああああああ!!?」

やったぜルイーネ!君ならやらかしてくれると信じてたw!!
……と、言いたいところだが真面目な話彼女の取れる対抗手段はこれしかなかった。
ドワーフに軽快なフットワークなどできない。直撃しなかっただけでも御の字だろう。
服の煤を払いつつ、起き上がるルイーネ。その瞳には一切の油断は消え、闘志が漲っている。

魔法使いを侮ることはできない。近づくことが出来ないなら飛び道具だ。
接近戦を諦めたルイーネは『柊』をショットガンに変形させた。
銃身の形状はこちらの世界のレミントンに類似している。装弾数は8発。

スライドを動かし、狙いをつけた所でハタと気付く。
残存する敵戦力は魔法使いだけではなかった。ハンドガンを持った他の不良がトトとアッシュを狙っている。
最初から銃を使わなかったのはこちらに対する油断と乱戦における同士討ちを怖れたからだろう。

「先輩、援護します!!」

ガチャ(装填して) ドンッ!(撃つ)
ガチャ(装填して) ドンッ!(撃つ)
ガチャ(装填して) ドンッ!(撃つ)

【機械斧槍をショットガンに変形】【ハンドガンを持った不良に援護射撃3発】
34 : アッシュ ◆T59d.omBjU [sage] : 2011/12/24(土) 17:29:46.29 O
「おらおらどうした!こんなモンかよゴーグル集団!」
気絶した仲間を背負って後退するゴーグル共に挑発の言葉を投げかける。
まだまだこんなモンでは俺の鬱憤は収まる筈がない。
コイツらには悪いがギャンブルで負けた憂さ晴らしを存分にさせてもらおうじゃないか。
>「Dammit!幾らか倒した位で良い気になるんじゃねえぞチビ共!」
>「教えてやるぜ、『バンプスの魔法使い』達の強さをなァ!」
向こうもまだまだやる気に満ち溢れているようで、ついに魔法使いを前線に出してきやがった。
指先から発射された炎の塊はコンクリートを簡単に抉る。
直撃すれば大ダメージは免れない。
>「お前ら、見たところ魔法は使えなさそうだなあ? ……全部、避けきることが出来るかな?」
向こうのおっしゃる通り俺は魔法を使えない。
他の二人も闘いっぷりを見る限り魔法は使えなさそうな感じだ。
見事なまでに肉弾戦チームが出来上がってしまったわけだ。
なんというアンバランス。
「ほっ!よっ!そーらよっと!」
だが、俺だって魔法使いと闘った事が無いわけじゃない。
っていうかギルド内にはもっと強力な魔法を使う奴だって居るわけで、こんな火の玉を避けるのは大して難しい事ではない。
35 : アッシュ ◆T59d.omBjU [sage] : 2011/12/24(土) 17:30:50.33 O
最小限の動きで火の玉をかいくぐり1番近くに居た魔法使いの懐へ潜り込む。
「肋もーらいっ!」
俺の拳が魔法使いの脇腹にめり込む。
とりあえず一人撃沈。
この調子で次の魔法使いも…
>「きゃあああああああああああ!!?」
次の標的を定めていると幼女の悲鳴が響く。
どうやら直撃はしなかったものの、ダメージを受けたらしい。
「大丈夫かー!?無理しないで隅っこに隠れてろー!」
という俺の発言が聞こえてないのか、はたまたシカトされただけなのか…服の煤を払い幼女は起き上がる。
>「先輩、援護します!!」
幼女は手にショットガンを持ち、こちらの援護に回り始めた。幼女の眼はまだ死んでいない…むしろ闘志が宿っている。
なるほど、なかなか優秀な人材のようだ。
「よっしゃ、援護は任せたぜお嬢ちゃん!」
援護を幼女に任せ、俺は魔法使いを潰す事に専念しよう。


「これで半分は終わったか?」
魔法使いを半分ほど叩き潰し、トトちゃんに視線を向ける。
魔法使い達も魔力が切れてきたのか、火の玉のスピードと威力も段々と落ちている。
これはテストには丁度良い機会だ。
「トトちゃん、残りの魔法使い共は君に任せるぜ?アゲガに入るからにはこのくらい楽にこなしてもらわないとね。」
ぶっちゃけた話、テスト云々というより頭からの出血が激しくてそろそろしんどくなってきたからというのは秘密である。
36 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2011/12/27(火) 14:28:52.31 0
目を凝らし辺りを見てみると物陰から少女が様子を伺っているのが分かった
なんだそういうことだったのかと安堵し、改めてバンプスに目をやる
自分とアッシュが二人、そして、名前がわからない少女
いや、得物の扱いからしておそらくドワーフの女が六人、合計10人のされた状況に
バンプスの不良も怖気づいたのか後退を始めたと思われた

>「Dammit!幾らか倒した位で良い気になるんじゃねえぞチビ共!」
半数を失ってもなお強気な態度は変わらないどころか増しているようにも感じられる
どこからその余裕がくるのか、思考を巡らす必用は無い
なぜならば、
>「教えてやるぜ、『バンプスの魔法使い』達の強さをなァ!」
噂は本当だったのだから
指先から炎が迸った瞬間、トトは大きく飛び上がり壁を攀じ登って難を逃れるが
>「お前ら、見たところ魔法は使えなさそうだなあ? ……全部、避けきることが出来るかな?」
それを追うように次々と炎の塊と銃弾が飛んでくる
「にゃっにゃっにゃぁぁぁぁぁ!!!」
見事に的になってしまい、すぐさま飛び降り物陰に隠れようとしたが
炎弾の炎がジャケットに燃え移ってしまう
「にゃあぁぁぁぁ!!!」
慌てて転げまわってなんとか火は消せたが
「…」
ジャケットは見事に消し炭になってしまった
>「トトちゃん、残りの魔法使い共は君に任せるぜ?アゲガに入るからにはこのくらい楽にこなしてもらわないとね。」
そうこうしている間にアッシュが魔法使いの半数を潰しドワーフの援護射撃で銃弾もさほど飛んでこない
「…」
それを確認し、トトはフラリと物陰から出てきた。
しかし、明らかに先ほどの雰囲気とは違っている。
牙を剥き出しにし、目からは殺気が滲み出ている。
「てめぇら!全員ぶっころしてやらぁ!!!」
そう荒々しく叫ぶと、トトはおもむろに屈む
いや、屈むというよりは陸上のクラウチングスタートに似た体勢に構えたというほうが正しい
さながら、肉食動物が獲物を狙っているようにも見える
次の瞬間、トトの足元の地面に皹が入る。両腕と両足にこめているのだ。
間髪をいれず、獣人特有の身体能力でもって弾けるようにトトは飛び出す
逃げる間も反撃する間も与えず、魔法使いとの間合いを詰め
腕を切り落とすほどの勢いで切り付ける。
すぐさま、他の魔法使いが炎弾を放ったが、先ほど腕を切りつけた相手の胸倉を掴み
盾にしそれを凌ぐ
「黙ってろクズが」
悶える魔法使いを他の魔法使いに投げつけ、その次の魔法使いへ襲い掛かる

残りの魔法使いを片すのにそれほど時間は掛からなかった
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ある程度ぶちのめしてスッキリしたのか、先ほどよりも落ち着いているようだ。
しかし、まだ怒りがおさまらないのか視線は残った不良どもに向いている
37 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/28(水) 23:14:58.33 0
【ギルド内・ギルド人事局】

「―――――やっぱりね!あんのグータラ、書類も満足に出せない訳!?」

ギルド人事局の扉を蹴飛ばし、肩をいからせ飛び出す男――メルシィ。
予感が当たったのだ。調べてみれば案の定、トトの転属届が提出されていなかったのだ。
アゲンストガードに転属する際、一切の手続きはある男が済ませることになっていた。
トトの転属を耳にしていない時点で薄々予感はしていたし、「あの男」の性格は熟知しているが、それでも怒りは収まらない。

「今度こそあの穀潰しを牛に変えて、精肉工場に売り飛ばしてやるわ!」

物騒な言葉を呟きながらあるビルディングに向かう。メルシィが目指すのは最上階のF6。
余談だが、メルシィは魔法使いの側面も持つ。故に、エレベーターは使わない。というより、使えない。
築ウン十年のビルディングの脆い非常階段を駆け足で昇り、現れた鉄製の錆びたドアを蹴り開けた。

「ちょっと、穀潰し!どういう事か説明なさいよ!!」

物や書類が乱雑する汚らしい部屋に、メルシィの怒声が反響する。
ドアを開けた反動で、幾らかの書類の山が崩れ、掛けてあったコートがずり落ちた。
ひらひらと舞う紙の山。メルシィが指を振ると、紙吹雪の中の一枚がその手に収まった。

「………………………っんだよ、煩いな。何の用だオカマ野郎」

突然、部屋の中心に置かれた黒ソファーが喋った。否、違う。くすんだ青髪が、ソファーの影からひょっこり頭を出した。
無精髭を生やし、眠たげな三白眼の、全体的にくたびれた雰囲気が漂う一人の男だ。
メルシィは男の態度に更に眉を吊り上げ、大股で近づいて勢い良く頭を叩く。
よっぽど強く叩いたのか、それとも男が弱いからか、男はまたソファーに倒れ込んだ。

「貴方ねー、ズボラにも程度ってもんがあるでしょう!?あとオカマじゃなくてオネエって言いなさい」
「あー?何の話だ?」

まだ寝ぼけ眼でメルシィを睨むと、目の前に一枚の書類を突きつけられた。
男は面倒くさそうに書類に目を通す。トトの転属に関する内容と手続きの書類だ。

「あーコイツねー、刑事からコッチ(アゲガ)に転属になったの。傑作だよなー、何やらかしたんだか」
「傑作どころの話じゃないわよ!彼女、今日こっちに来る手筈だったのよ!?
 なのにまだ登録されてないだなんて……少なくとも登録完了までの間、貴方のせいで彼女、仕事無しになっちゃうじゃない!」

メルシィに責め立てられ、最初は笑っていた男も眉尻を下げ、笑顔が引き攣っている。
アッシュが『アゲガ1適当な男』なら、この男――スタンプ・ファントムは『ギルド1のロクデナシ』だ。
当の本人は、何とかなるさとはぐらかす始末。呆れ果てて溜息も出ないといった様子で、メルシィは首を横に振る。

それにしても、先程からやけに外が騒がしい。訝しみながらも、窓から外を見下ろすと――。

「トトちゃん!?ルイーネちゃん!?それにあれは……バンプスじゃない!?」

サッと褐色の顔色が青ざめるメルシィの横に、『バンプス』に反応したスタンプも窓へと近寄る。
『バンプス』の名と噂はギルド内でも有名だ。中でもリーダーのゲオルグは『歩く時限爆弾』として名を馳せている。
それなりに悪名高いにも関わらずバンプスが捕まらないのは、彼の父親が大手企業の社長という点にある。
早い話が、警察に金を掴ませて息子の悪行を揉み消しているのだ。
それはさて置き、現役アゲガのアッシュがいるとはいえ、相手は魔法使い。
ルイーネに至っては自分の助手候補(勝手)である。メルシィは攻撃魔法は使えないが、放っておく訳にはいかない。

「助けに行かなきゃ!」
「待てよ」

スタンプは外の光景から目を離さないまま、駆け出そうとしたメルシィの腕を掴んで引き留める。
「離してよ!」と抗議するメルシィに、何かを企むような、意味ありげな笑みを浮かべた。

「新入り達の実力、お手並み拝見といこうじゃないか」
38 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/28(水) 23:16:28.23 0
【路地裏】
物影に隠れながら、少女はハラハラと三人の様子を見守る。何も出来ないのがもどかしい。

>「ほっ!よっ!そーらよっと!」
「こっこいつ……!素早すぎるッ!!何者だよ!」

魔法使いが幾ら火球を打っても、青年――アッシュは器用に避ける。避ける避ける。
現役アゲンストガードの彼ならではの技術だ。魔法使いはムキになってどんどん火球を撃つ。
撃つ、避ける、撃つ、避ける、撃つ、避ける、――――撃たない。指先を幾ら振っても、火球が出てこない。

「(しまった、魔力切れ――――――!)」
>「肋もーらいっ!」

退避するより早く、アッシュの拳が魔法使いの鳩尾に綺麗に入った。
あっけなく、まずは一人目が陥落。舐めてかかっていた他の魔法使い達に緊張が走る。
先程、火炎魔法を見せつけた魔法使いは思考した――あの男はおそらく手練れ。倒すのは後回しだ。
狙うは――――女子供。つまりはルイーネとトトに矛先が向く!
火球が次々と少女たちを狙う。勇敢にもルイーネはハルバードで叩き落そうとするが――

>「きゃあああああああああああ!!?」
「ハッ!そう簡単に攻略されるかっての!」

吹き飛ばされるルイーネ、ジャケットに飛び火し喚くトトを見て嘲笑う。
さて、と魔法使いは状況を確認する。二人は火球、一人は先程の金属バッドでダメージを受けている。
トドメを差すなら今と、遠距離を得意とするハンドガンを持つ不良達に合図する。
不良達は頷き、銃口を三人に向けると引き金に指をかけ――。

>「先輩、援護します!!」
>「てめぇら!全員ぶっころしてやらぁ!!!」

なんと、ハルバードがショットガンに変形し、不良達を一掃!
その間にアッシュによってもう一人が撃破され、残されるは後二人とゲオルグが控えるだけ。
怒り心頭のトトと目が合った魔法使いは恐れをなし、火球で反撃しようと指を差し魔法を発動させる。
だが、その暇すら与えられる事無く間合いを詰められ、その鋭利な爪で切りつけられる。

「畜生、この虎娘――!」
>「黙ってろクズが」

火炎弾を放つも、トトは残酷にも傷を負って動けない魔法使いを盾にし防ぐ。
まともに炎を食らって悲鳴を上げる魔法使い、それをもう一人に投げつける。
そして残りを粛清しにかかる。それは正に、阿鼻叫喚と呼ぶに相応しい空間と変化していく。

「……………………」

その様子をゲオルグは、口を真一文字に結んだままゴーグル越しに観察していた。
運よく軽傷で済んだ舎弟達は三人を恐れ、付近の壁や山積みになった木箱の後ろに隠れる。
普段の短気なゲオルグなら、だらしないだの男がすたる等と罵倒する所だが、今は三人に意識が集中している。
戦闘がひと段落した所で、ゲオルグは両手をズボンのポケットに突っこんだまま、三人の前に歩み寄る。

「お前ら、アゲンストガードか」

最初に遭遇した時の興奮ぶりは何処へやら、酷く静かな声と冷たい眼差しで問いかける。
アッシュの魔法使いに対する対処、トトの格闘術、ルイーネの援護射撃。
それらの要素を合わせて判断したに過ぎないが、ゲオルグの予想は半分は当たり、半分は外れた。
39 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2011/12/28(水) 23:17:16.00 0

「……只の一般人なら、死刑で終わらせてやろうと思ったが――アゲンストガードなら話は別だ」

歯を剥いて笑い、ゲオルグはポケットに入れていた両手を出す。
甲の部分に4つ突起物が付いた革のグローブをはめているのが分かるだろう。
舎弟達はそれを確認するや否や、一斉にゴーグルを装着した。この先ゴーグルが必要であると言わんばかりの行動だ。

「ぬおらァアア!!!」
「キッ――ヤァアーーーーーー!」

拳を作り、一番近くにいたトトに向けて振り下ろす!動きはさほど早くなく、避けるのは容易いだろう。
だが、目標を外した拳が地面を突いた瞬間、鼓膜が破ける勢いの爆発音と光波、衝撃波が三人を襲うだろう。
隠れていた少女も余波を食らい、強かに頭を打ち付けて気絶してしまった。
そして、それらが落ち着いた所でゲオルグが殴った場所を確認すれば、火炎弾とは比にならない程の巨大な穴が出来ていることだろう。

「俺のダチはな、お前らアゲンストガードのせいで死んだんだ。
 そこの女は後回しだ。お前ら――――纏めて『私刑』にしてやる!」

明らかな私怨と憎悪を携えて、ゲオルグは一歩一歩三人へと歩み寄る。
まだ軽傷で済んだ不良達も、ゲオルグが出張るのなら彼を守ろうと、味方の拳銃を手に三人を狙っている。
じりじりと近づく一人と三人の距離。その様子を見ていたメルシィが甲高い声を上げる。

「ちょっとォ!このままじゃ三人ともやられちゃうじゃない!」
「フン。倒せなきゃそこまでの奴等だったってことさ。アッシュも、トトとやらも、あの嬢ちゃんもな」

クククッと喉を鳴らしてスタンプは笑う。三人を心配する素振りは見せない。
眠たげな瞳の奥を僅かに輝かせ、この戦い自体をまるで楽しんでいるようだ。
――精々、ゲオルグ程度の魔法使いにやられてくれるなよ?俺を楽しませてくれよ、チビ共。

彼らの実力を見極めるかのように、青髪のアゲンストガード・リーダーは、三人を見つめていた。


ENEMY DATA

名前:ゲオルグ・ヴィオレッタ
性別:男
年齢:21
種族:純人種
容姿:巨漢、黄と黒を基調としたライダースーツ、ゴーグル
性格:(色んな意味で)手が早い
職業:過激派不良集団『バンプス』のリーダー
能力:爆発魔法―BOM・BUMP≪ボム・バンプ≫
   ゲオルグが編み出したオリジナル魔法。
   手甲の突起部分に爆発魔法を仕込んであり、突起部分が衝突すると爆発魔法が発動する仕組み。
   ただし威力はそんなに高くなく、ゲオルグ自身も魔力の数は少なめの為、一日に5発までしか打てない。
備考:過激派不良集団『バンプス』を束ねるリーダー。
   女に一目惚れするとすぐ手を出す悪癖有り。舎弟達にはそこそこ信頼されている様子。
   大手建築解体業社ヴィオレッタ社の御曹司という一面を持つ。

【ラスボス戦です!力を合わせて返り討ちにしてやってください!】
40 : 名無しになりきれ[age] : 2011/12/29(木) 16:32:09.93 0
保守
41 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/07(土) 05:23:33.36 0
>>36 トト

>「黙ってろクズが」

「…………」

こ、これは恐いっ!
虎娘さんのあまりの変貌ぶりに言葉を失うルイーネ。
だってさっきまで語尾に「にゃん♪」とかつけてた陽気な人がイキナリコレなんだぜ?
あるいはそれほどまでに大事なジャケットだったのだろうか。だとすれば服の恨みとは恐ろしい。

人虎……ワータイガー、あるいは虎憑き。性別によって虎男とも虎女とも呼ばれる。

獣人《ビーストマン》の一種にして、その強さは元の生物から察する通り同族の中でもトップクラス。
我々の世界においては日本や中国そしてインドといったアジア諸国にその伝承が残されており、
一説にはマンティコアの原型になったともいわれている。
伝説ではネコ科の動物霊が人間に憑依して変身してしまった例。
元々心の奥底にあった虎のように獰猛な精神がその人を虎に変化させてしまった逸話などがある。
小説では中島 敦の『山月記』という作品に登場したことでも有名だ。

いずれにせよ、これらは飽く迄伝説。
トトの出自や祖先についての事情はいずれ本人の口から実際に語ってもらう機会もあるだろう。

さて、世界が誇る多種族国家、ここアメリク合衆国に生きる人々には種族間の関わりにおいていくつかの禁則事項がある。
地域や風土によって内容は様々だがルイーネや語り部の知っている範囲で軽く紹介しておこう。

ひとつ、「エルフに裁判を挑むな」
ひとつ、「ホビットに飯を奢るな」
ひとつ、「ドワーフの恨みを買うな」
ひとつ、「ゴブリンの連帯保証人にはなるな」

そしてもうひとつ、「“猫”だけは――――絶対に怒らせるな」

たいていの場合、当人がこれらの禁則事項を聞いたとき不思議に思うものらしい。
実際ルイーネもドワーフのことで首を傾げたものだ。
だが……実際その現場を目の当たりにしてみると、これらの戒めが正しいと気付くものは多いと言う。

『バンプス』なるワルガキ連中の下っ端どもも、身を以てそれを学んだことだろう。


【参考サイト:人虎 -Wikipedia- http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E8%99%8E
42 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/07(土) 05:27:30.92 0

>>38-39 GM ゲオルグ

はい。あけましておめでとうございます。
時候の挨拶はこれぐらいにして新年最初の冒険がのっけからボス戦とは景気のいい話である。

>「……只の一般人なら、死刑で終わらせてやろうと思ったが――アゲンストガードなら話は別だ」
>「俺のダチはな、お前らアゲンストガードのせいで死んだんだ。
> そこの女は後回しだ。お前ら――――纏めて『私刑』にしてやる!」

ルイーネに言わせれば只のとばっちり以外の何者でもないのが釈然としないところだ。
アッシュやトトもきっと同じ気持ちだろう……ルイーネはそう考えてはいるが、実際どうかはわからない。
もしかするとその死んだダチとやらにアッシュが関わってた!なんてドラマチックな展開があるやもしれん。
無いかなー。いや、あってもいいじゃないか? そのほうが面白そうだし、主に外野が(おい)。

これ以上はネタ潰しにしかならないのでひとまず置いとくとして、今は目の前の敵が問題である。

【第1NPCバトル:3ターン目】

これは非常にやっかいだ。
衝撃波だけでこの威力! ゲオルグの放った拳の威力を肌で感じ、ルイーネは瞠目した。
襲われたトトの安否は不明。直撃していないことを祈るルイーネ。流石の人虎もあれをまともに受ければただじゃ済まない。
ルイーネにとって不良たちの立ち回りは喧嘩慣れした素人のそれ以上か、それ以下にしか思えなかった。
だが、こと殺傷力については喧嘩と呼ぶにはややお気楽過ぎる。キチ○イに刃物。不良に魔法。テロリストに核ミサイル。
世に言う「持たすな危険」の三大ペアだ。冬休み明けのテストにも出るから覚えておこうね!

これは早々にケリを付けてしまいたいところ……なのだが、そうは問屋が卸さなかった。

残った雑兵がそれぞれ拳銃を手にこちらを狙っている。
ガチャ(装填) ドンッ!(発射) ×5
一斉射。決定ロールをフル活用して雑魚を片付ける。なるほど、TRPでガン・アクションが流行らないわけだ。
つまらん!!(※感想には個人差があります)

「あ……」(カチッ!カチッ!)

しかし、ルイーネは彼らを一掃する代償として全弾打ちつくしてしまった。

ちなみに彼女の使用しているショットシェルは岩塩を詰めたものなので当たっても死にはしない。
砂糖菓子の弾丸のように打ちぬくことはできないが……決して、甘くはないのだ!

余談ですが新谷かおるの『ふたり鷹』という漫画の作中人物も同じことをしたそうな。
……暴走族を追っ払うのに使ったというのだから、何とも不思議な偶然です。

【残った弾で不良の雑魚を一掃】【ちなみにテストには出ません】
43 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2012/01/10(火) 13:50:29.84 0
>「お前ら、アゲンストガードか」
「………」
ゲオルグに対しトトは沈黙で答える
>「……只の一般人なら、死刑で終わらせてやろうと思ったが――アゲンストガードなら話は別だ」
ゲオルグがグローブをはめるのを目の当たりにし、トトは慢心した
接近戦ならば、ゲオルグよりも自分に利があることを確信していたからだ。
その慢心から、ゲオルグの舎弟達がゴーグルを装着したのに気がつけない。
>「ぬおらァアア!!!」
考察どおりゲオルグは殴りかかってきた。
それに対し、トトは反射的にカウンターを合わせようと動こうとしたとき
ある違和感に気がつく
拳の軌道が明らかにおかしいのだ。黙って立ってたとしても頬にかすることさえも
ない拳の軌道、フェイントにしては大振りすぎる。
そのとき、トトの獣じみた直感が危険を感じ取った。
残された猶予は瞬きする間もない。己が脚力でもって
すり抜けるようにゲオルグの背後に回りこんだ。その時

ゲオルグの拳が爆発し、トトは見事に吹き飛ばされた。

「これは…参ったにゃ」
ゴミ箱だった残骸の上で空を仰ぎながらトトはそう呟いた
確かに純粋な殴り合いならば、トトに分があったかも知れない
しかし、ゲオルグの魔法はその差を簡単に吹き飛ばして見せるほどのものであった
仮にもう一度殴りあいを望んだとしても、アレを爆発させずにゲオルグを倒す実力はトトにはなかった
もう一つ問題がある。
それはゲオルグの魔法の属性だ。
ゲオルグの魔法は先ほどの魔法使いと同じく火に属するものであるが
炎と爆発には決定的な違いが存在する。
先ほどの魔法使いのように炎を発するのならば、水を用いてその脅威を減少させることが可能だが
爆発となるとそうはいかない、花火や爆弾が水中で燃焼、爆発をこなせるように
ゲオルグの爆発も水で弱体化させることは出来ないのだ。
(それなら)
と何かを思いついたトトは徐に起き上がり、先ほどと同様にショットガンで牽制射撃を行うドワーフに目を向ける
銃撃、それも散弾ならば接近せずに攻撃を加えることも出来るし、弾くことも容易ではないはずだ
だが、世の中そんなに甘くは無い
>「あ……」(カチッ!カチッ!)
妙案を思いついた途端に、ショットガンの弾が尽きたようだ
「…もうこうなったらヤケクソにゃ」
打つ手もなくなり自棄になったトトは足元にあったマンホールを無理やり引き剥がすと
まるでフリスビーでも飛ばす様にゲオルグに対しそれを思いっきり投げ飛ばした
44 : 忍法帖【Lv=40,xxxPT】 [sage] : 2012/01/10(火) 16:42:01.92 O
行くぜイオグランテ。
45 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/10(火) 18:29:06.65 0
>>44
「……正しくはイオグランデ、です」

語り部は『Ⅲ』までしかやったことがないのでよくわからない。
なんでも次回作の『Ⅹ』はオンラインゲーでドワーフもエルフもオーガも出てくるとか。
46 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/01/11(水) 23:42:34.52 0
【>>ルイーネ、トト】

「ハッ。どうだこの威力!テメー等雑魚アゲンストガードなんかにゃ無い圧倒的強さ!」

高笑いするゲオルグ。この爆発魔法は彼のオリジナルだ。
解体業を営む父の背中を見て育ち、彼が最も興味を持ったのが『爆弾』。
ダイナマイトから時限式爆発魔法まで、ゲオルグは節操無く熱心に研究した。
そして生み出した彼の創造魔法――BOM・BUMP≪ボム・バンプ≫。
爆発に独自の『美』を見出した青年の魔法は、いつしか『歩く時限爆弾』と呼ばれるまでに凶悪化してしまった。

「さあ観念しな、後ろには俺達もいるんだぜ!?」

ゲオルグの背後に隠れていた舎弟達が引鉄に指を掛ける。しかし、敵に回す相手を間違えていた。
「ドワーフの恨みを買うな」――ルイーネのショットガンの銃口が不良達に狙いを定めた!
それは正に一斉掃射、容赦なき手並みと呼べよう。皆して銃を捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ回っている。

「ひぇええええええ!!何だあのロリ!?冗談じゃねえ!」
「あっコラお前ら!戦えもしね―奴等がうろちょろすんじゃねえ!……?」

ルイーネが弾を打ちつくしても、面白いように舎弟達はパニックを起こしたまま。
まるで、未だに『ルイーネが弾を撃ち続けている』と錯覚しているかのようだ。
不審に思ったゲオルグは見た。トト達の背後から淡い桃色の煙が立ち昇るのを。
立ち昇った煙が雲のように広がり、煙が粉となって舎弟達に降り注ぐのを。
ひ弱な黒髪のお嬢様が、額から血を流しつつも、指先から煙を出し続ける姿を。

「もう怒りましたわ……!乙女の顔にキズを付けるだなんて…………!!」

お嬢様は静かに怒り狂っていた。怒りを代弁するかのように、煙はとめどなく噴出し続ける。
それは紛れもなき錯覚魔法――お嬢様もまた、魔法使いだったのである。
ゲオルグが驚いて目を見張る隙に、トトはマンホールをひっぺ剥がし、フリスビーの要領で投げつける。
寸でのところで気付き、向かい来る鉄の塊を弾き飛ばそうと、拳を突き出し爆発魔法を発動させた。

ところで、ゲオルグの爆発魔法にもれっきとした弱点がある。
それは、『物質全てを爆発させることが出来るというわけではない』、ということ。
馬鹿にするがなかれ、爆発しないということはゲオルグにとっての致命的なことなのだ。
例えば、石やコンクリートは爆発させることが出来る。だが、鉄等は強度の問題で爆発させることは出来ない。
では諸君らに質問しよう。マンホールは一体「何」で出来ているか。

「―――――――っ痛てええええええええええええええええええ!!!」

ゲオルグが突き出した拳を押さえ、痛みにのたうち回る。
当たり前だ、鉄を殴ったのだから。殴られたマンホールは弧を描き、宙を舞う。
トト達のことなど忘れてしまうほどに拳の激痛に夢中になっている今、ゲオルグは隙だらけと言えよう!
舎弟達は幻術に惑わされ、銃を捨てている。アゲンストガード達よ、チャンスだ!
47 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2012/01/14(土) 23:41:24.39 0
投げ飛ばしたマンホールはまっすぐゲオルグに向かっていった。
それを見たトトは自分の仕出かしたことに気がついて後悔する。
マンホールが弾かれるだけではなく、ゲオルグの爆発によって
こっちに返ってきたり、爆散し、まるで散弾のように鉄片が飛んでくると思ったからだ。
しかし、既に後の祭りだ。賽はすでに投げられたのだ。
と覚悟を決め、身構えると
聞こえてきたのは、爆音ではなくゲオルグの絶叫だった。
「にゃ?」
一瞬何が起きたのかわからず、トトは一瞬困惑した。
まさかゲオルグが自分の魔法の限界を理解していなかった
なんて思ってもいなかったから当然である。
「…と、とりあえず、チャンスにゃー!!!」
激痛に喘ぐゲオルグに近づくと痛めた拳を手に取り、容赦なく壁に叩き付けた。
間髪をいれずに、叩き付けた拳を殴りつけゲオルグの戦意を折ろうとする。
それでもまだゲオルグがやるつもりならば、
トトは次にもう片方の拳を同じように使用不能にし私刑を始めるかも知れない
48 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/16(月) 03:33:14.92 0

ここで残念なお知らせ。【アッシュ氏、戦線離脱!】


ΩΩΩ<な、なんだってー!!!?


いや、誰だよお前等w
彼の行方については後ほどGMからアナウンスが入るだろう。多分。
ともかく、アッシュはルイーネが目視できる現在の戦域からは完全にフェイドアウトしてしまった。
そう言えば出血が凄かったので近くで休んでいるのかもしれない、ルイーネはそう判断した。

(仕事中に敵前逃亡とは、何たるアバウト――!!)

ルイーネよ、それは今更というものだ。何故ならば彼は『アゲガ1適当な男』なのだから!!
しかし困った。彼の降板により現パーティのイケメン分は完全に品切れ状態だ。
ちんちくりんのドワーフ娘とプリティな虎ガール。うーん、あと一押し!
だいたい緑髪の眼鏡っ娘なんて世間じゃいらない子呼ばわりのポジションだしなー……
どうせなら淫乱ピンクとかにしとけば(ピンポーン)おや、こんな夜中に誰だろう?


※しばらくお待ちください


・・・スミマセン。ワタシガマチガッテマシタ。

【>>GM、トト、少女】
茶番はこのぐらいにして本題に入ろう。
>「ひぇええええええ!!何だあのロリ!?冗談じゃねえ!」
ルイーネの放った散弾は不良達を仕留めるという本来の意図には到らずとも、彼らに恐慌を来たす事には成功したらしい。
>「もう怒りましたわ……!乙女の顔にキズを付けるだなんて…………!!」
さらに意外な方角から思わぬ援軍が……!お嬢様の錯覚魔法で盛大にテンパるゲオルグの舎弟たち。
と、いうか恐慌の原因はルイーネの散弾よりむしろあちらのお嬢様だったりする。

(もしかして、私って無駄に弾を撃ち尽くしただけだったんじゃ……)

ふはははは!ようやく気がついたかっ!!この残念ドワーフさんめっwwwwwww ・・・orz
ところがどっこい
>「―――――――っ痛てええええええええええええええええええ!!!」
一方ではタイガー(元)女刑事が渾身のマンホール投げにより敵の首領に対して形成を逆転していた。
トトにゃん、グッジョブ!
49 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/16(月) 03:35:11.78 0

【第1NPCバトル:4ターン目(ラスト)】

>「…と、とりあえず、チャンスにゃー!!!」
ルイーネがゲオルグに視線を向けたとき、既に決着はほぼ決まっていた。
隙だらけの彼とその拳に対し、トトが容赦ない攻撃を加えている。
自分が加勢する必要はなさそうだ、ルイーネはそう判断した。しかし、

(アレ?そう言えばこの人……)

ゲオルグの顔をまじまじと見つめながらルイーネは自分の記憶を探る。
そうだ、思い出した。以前の勤め先で見た顧客リストに載っていた家族構成で顔写真を見たことがある。
大手建築解体業者ヴィオレッタ社社長の御曹司だ。……そう言えばあちらのお嬢様も関連企業の名簿で見たような。

いや、今はそんなことどうでもいい。問題はこの男の素行だ。

ただの不良ならまだ許せる。違法な魔法行為も立派な犯罪だが、まあ良しとしよう。
しかし彼は父親の権力を利用して警察に金を握らせ、己の悪行を揉み消していると聞く。
では……一体その金銭は誰が稼いだものなのか?
決まっている。父親の会社で働いている社員たちだ。

ルイーネは腹の奥底から熱した鉄のようなものがドロドロと溢れ出してくるのを感じた。

会社の金はそこに勤める労働者たちの汗と涙の結晶。故に、本来ならば彼らが生活するための給料や保障に使われるべきものである。
にもかかわらず、この青年が再び罪を犯す度にそれが浪費されていくのだ。
世間では会社の金が無いせいでリストラされて職を失い、貧しい生活に苦しんでいる人々が沢山いるというのに。
自分のように家を追い出されそうになっているドワーフだっているというのに(もっともルイーネの場合は自業自得なのだが)。

ガシャ! ジャキン!!(『柊』をショットガンからハルバードに)

裕福な家に生まれながら真面目に生きることをせず、働きもしないで悪行三昧。
女の尻を追い掛け回しフラれれば逆上。自ら進んで反社会的暴力に手を染めながら、「アゲガにダチを殺された」と一方的な被害者面。
ルイーネ・アイゼンツォルン(73歳)は激怒した。
必ず、この放蕩無頼のバカ息子を除かねばならぬと決意した。
ルイーネには法律がわからぬ。ルイーネは、元SEである。キーを叩き、寝る間も無いぐらい働いてきた。
けれども金銭の動きには、人一倍敏感であった。
彼女は今、自分にとって正しくない金の流れとその原因を前に――激しく【憎悪】している。

「……トトさん、逮捕なんて手ぬるいです。こんな奴殺しましょう。そのほうが世の中もうちょっとマシになりますよ♪」

ルイーネの眼鏡と構えたハルバードの刀身がギロチンのようにギラリと光った。
いつもは暗い彼女の表情が朗らかな笑みに輝いている。よし、ぶちころすぞ(`・ω・´)と。
ルイーネはゲオルグの首筋に向け、ハルバードを大きく振りかぶった。

をい、おちつけ!止めるんだルイーネw!!
50 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/01/17(火) 22:18:05.37 0
時に、鉄を殴った事がある人間はいるだろうか。
爆発でさえ破壊できなかったものを、人の拳で殴るその痛みたるや、想像を絶するだろう。

>「…と、とりあえず、チャンスにゃー!!!」
「ぎゃああああーーーーーっ!!俺の手がああああああッーーーーーーー!!!」

だが巷で有名な暴力刑事は流石、容赦を微塵にも感じさせない。
ダメージを負ったゲオルグの手を掴むや壁に叩きつけ、尚且つその拳をゲオルグに叩き込む。
生来、立場を利用し、痛みや挫折とは無縁の生活を送って来た彼にとって、据えるには少々きつすぎるお灸だった。
立て続けに食らった理不尽なまでの反撃に心をへし折られ、彼に「戦う」という意思は残っていない。
舎弟達は混乱からお互いを潰し合い、チーム『バンプス』は最早機能していないのと同義だった。

「うぐぅ……た、たかがチビとモヤシに、この俺がぁあ……ッ!」

味わったことのない敗北、初めての挫折にみじめたらしく涙やら鼻水を流す。
その様子をじっと見つめる一人の女がいた。お嬢様だ。気が晴れたのか、もう桃色の煙は出していない。
お嬢様はアッシュやトト、ルイーネに「大丈夫ですか?」と声をかけ、ゲオルグへと歩み寄る。
芋虫よろしく転がった彼に、お嬢様は静かに言い放った。

「これで懲りましたか?我儘ばかりでつけ上がるとどうなるか……思い知ったでしょう?」

ゲオルグは無言で首を縦に振る。今はもうアゲガ達に反抗心の欠片もない。
お嬢様は今度こそ笑顔を浮かべ、ならばきちんとしかる所でしかるべき罰を受けて下さいね、と言葉を締めた。
これにて戦いは終わった。後は警察を呼べば万事解決だ。よくやった、アゲンストガード達!

>ガシャ! ジャキン!!(『柊』をショットガンからハルバードに)

「「え?」」

だが、そうは問屋が卸さない女がここに居た。
ルイーネから似つかわしくない殺気が発せられ、ルバードが背後からの光でキラリと煌めく。
掛けた眼鏡の奥に見える双眸から、ゲオルグに対する激しい憎悪が垣間見え、その場の空気が戦慄する。

>「……トトさん、逮捕なんて手ぬるいです。こんな奴殺しましょう。そのほうが世の中もうちょっとマシになりますよ♪」
「ひいいいいいいいいいっ!?たっ助けてくれえええーー!」
「い、いやそれは流石に駄目ですよ!もう反省してるんですから!」

お嬢様がルイーネを説得するも、ルイーネは聞く耳持たずの様子。
ルイーネはお嬢様を押しのけ、朗らかな笑顔でハルバードを振り上げた。
誰が止める間もなく、ゲオルグの首筋めがけ、断罪のギロチンが振り下ろされる――――!



「―――――――――はい、そこまで」



一瞬の出来事だった。ルイーネとゲオルグの視界を、正体不明の暗闇が襲う。
傍から見れば、突如上空から降って来た、一着のよれたコートが二人に覆いかぶさったのだ。
刹那、コートが風に煽られ、乱暴に振り払われる。
振り払われた途端、ルイーネとゲオルグの眉間に銃口が突きつけられていた。
二人の間に割って入るように。何もない所から物を出す手品よろしく。
風のように現れた第三者――青髪の男によって。
51 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/01/17(火) 22:22:24.35 0
「もーちょい見てたかったんだが……流石に身内から犯罪者を出す訳にはいかんのでね」

銃口でルイーネの額を小突く。
そしてもう片方の手に握った拳銃を持ちかえるや、グリップの部分でゲオルグの頭を容赦なく叩き潰した。
短い悲鳴を上げて気絶したゲオルグを無視し、男はアッシュに視線を向けると、鼻で笑った。

「おいアッシュ、何だあのザマは。オメーはもうちょいデキる奴だと思ってたんだがな」

そのやり取りだけで、この二人が関係者同士であることが分かるだろう。
更に男が言葉を重ねようとした時、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
恐らく爆発音を聞いた通行人辺りが通報したのだろう。男は鋭く舌打ちし、踵を返す。

「お前ら、……そこのチビとチビもだ。面倒だから着いてこい、誤認逮捕されたくなきゃな」
「あ、あの!」

お嬢様が勢いよく前に出て、アゲンストガード達に向き直る。
何だ何だと視線が集まる中、お嬢様は少しだけ体をもじもじさせると、がばっと頭を下げた。

「あっありがとうございました!お礼は必ずします!」

顔を上げ、お嬢様の笑顔はとても明るいものだった。
お嬢様はそれだけ言うと、お嬢様はわき目も振らずに駆け足で去って行った。
この時彼らは予想できないだろうが、また思わぬ形で彼女と再会するのは、――そう遠くない未来の話だったりする。

【第1シナリオ無事(?)終了!】

【ギルド内、ビルディング最上階】

「――――んで?お前がトト、そっちがルイーネだっけ?」

ソファにふてぶてしく座り、青髪の男はトトに気だるげな視線を向ける。
男の向かい側に座らされた3人にメルシィが紅茶を振るまい、彼もまた1人用のソファに腰を落ちつける。

「にしてもトンズラこいて正解だったな。あのままじゃゲオルグごとサツに捕まってたかもな」

窓から見下ろし、男はのんきに笑う。
後に二人は知るだろうが、この男こそアゲンストガードを纏めるリーダー、スタンプその人である。
通常、ギルドの人間達は個人個人で仕事に動く。だがアゲンストガードは別だ。
自警団として少数の人間が複数のグループを作り行動する。ここで一つの問題が発生する。
好戦的な性格が多いからか、グループ同士で諍いが多いのだ。犯罪者を捕まえる所か、アゲガ達が警察に捕まるケースも少なくない。
そんな彼らの監督係も含め、責任者としてリーダーのスタンプが彼らに指示を出し、纏めている。
最も、リーダーの性格が少々大雑把過ぎる故に、アッシュのように独断行動(ギャンブル行為)を取る者が多いのが現状だが。

「ま、結論からいえばお前さんらは【合格】。女ガキにしちゃ良い戦いっぷりだったぜ。
 明日から早速頼むよ。何分、ここは何時も人が足りないんでね」

トトの転属に関する書類不備の件はメルシィの口から説明された。
本来ならギルド人事局にメンバー登録されるまで出入りすら禁止されるのだが、
ゲオルグの一件もあり、人事局に掛けあって特別にアゲンストガード入りを果たした次第である。
因みに、スタンプの預かり知らぬ所で、ちゃっかりメルシィはルイーネを自分の助手として人事局に登録していた。

「おっとそうだ、これを言わなきゃ始まんねえよな――――ようこそお前ら、ギルドへ。
 まずは自己紹介でもしてもらおうか。ついでに書類も片付けてくれや」

スタンプはそう言うと、山のように積み上げられた書類を手にとり、目を通すのだった。
明日から、君たちアゲンストガードの忙しい日々が始まる――――

【第1シナリオ終了!】
【1ターンほど日常パート入ります、自己紹介の後に好きに行動してくださいませ】
52 : アッシュ ◆T59d.omBjU [sage] : 2012/01/18(水) 18:54:47.39 O
どんなに強い人間だって皮膚が裂ければ血が出る。
そして出血している状態で動き続ければ血はとめどなく溢れ出て、貧血状態に陥る。
「ふぅ…。」
敵のボスは2人に任せて俺は陰で一服させてもらう事にした。
タバコというのもギャンブルと同じで一度ハマるとなかなか止められない。
ちなみに俺のタバコの銘柄は「アンラッキー・ストライク」
……こんな名前のタバコを吸っているから運が逃げていくのだろうか。
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
敵のボスはオリジナルの魔法を使うちょっと厄介な相手だ。
新入り希望の2人で本当に大丈夫かと心配になり影から顔を出して様子を見ようとすると、先ほどの黒髪のお嬢ちゃんが大丈夫かと声をかけにきた。
「あ、ああ。割と大丈夫。ちょっと貧血気味だけど。」
俺の様子を確認するとパタパタと他へ行ってしまった。

気を取り直して2人の様子を確認……
そこには笑みを浮かべながら敵のボスの首へ向けて刃を振り下ろす幼女の姿が…。
「ちょっまっ―――」
駄目だ、どう頑張っても間に合わねぇ。
>「―――――――――はい、そこまで」
聞き覚えのある声と共に上空から落ちてきたコートが2人に覆い被さる。
「ようやくお出ましか…。」
颯爽と現れたのは俺の上司でありアゲガのリーダー…
>「おいアッシュ、何だあのザマは。オメーはもうちょいデキる奴だと思ってたんだがな」
「ひでーなぁスタンプの旦那。こんだけ出血した状態で魔法使い2人潰したって所を評価してほしいね。」
まったく…少しは部下をねぎらって欲しいもんだ。
誉められては伸びるタイプだから、俺。
53 : アッシュ ◆T59d.omBjU [sage] : 2012/01/18(水) 18:56:59.04 O
よっこいしょ、と重い腰を上げるとパトカーのサイレンが聞こえて来る。
>「お前ら、……そこのチビとチビもだ。面倒だから着いてこい、誤認逮捕されたくなきゃな」
ギャンブルに負けて頭まで割られて、更に誤認逮捕なんてシャレになりません。
さっさと逃げさせていただきます。
>「あ、あの!」
おっと、そうだ忘れてた。
お嬢ちゃんからキスのお礼を…
>「あっありがとうございました!お礼は必ずします!」
飛びっきりの笑みでそれだけを言い残し、去って行くお嬢ちゃん…。
まあ…その笑顔だけで十分お礼になったって事にしとくか…。

ギルドに帰って真っ先に止血だけしてもらい、一命を取り留める。
もうちょっと遅かったらちょっとヤバかったらしい。
あんな雑魚にやられて一生を終えるなんて笑えない冗談だっての。
「おっ。ありがとメルシィちゃん。」
メルシィちゃんに出された紅茶を飲みながら最後の1本に火をつける。
>「ま、結論からいえばお前さんらは【合格】。女ガキにしちゃ良い戦いっぷりだったぜ。
 明日から早速頼むよ。何分、ここは何時も人が足りないんでね」
2人は無事にギルドに入る事が決まったようだ、良かった良かった。
>「おっとそうだ、これを言わなきゃ始まんねえよな――――ようこそお前ら、ギルドへ。
 まずは自己紹介でもしてもらおうか。ついでに書類も片付けてくれや」
「はーい。それじゃあ先輩の俺から。
 俺はアッシュ。好きな物は酒と女とギャンブル。アゲガに入った動機は……」
っと…これは女子供の前でする話じゃねぇか。
こほん、とごまかすように咳払い。
「アゲガに入った動機は女の子にモテるかなーって思ったからでっす。ま、2人共気楽によろしく頼むよ。」
上手くごまかせた…かな?

2人の自己紹介を聞いた後、俺はすぐさま部屋を出る。
書類の片付けなんてやってられるか!
俺は残り少ない所持金でタバコを買いにコンビニを目指した。
54 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/01/19(木) 18:52:55.72 0
返り討ち自決
55 : ルイーネ ◇4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/20(金) 12:08:47.22 0
【第1シナリオ・終了】

>「―――――――――はい、そこまで」
>「もーちょい見てたかったんだが……流石に身内から犯罪者を出す訳にはいかんのでね」

(こ、この人……できる!!)

突如視界の外から現われた男の雰囲気に圧倒され、言葉を失うルイーネ。
彼女は彼が近づいてくる気配を察知出来なかった。斧槍術に関して言うならば達人の域にあるはずの彼女が、である。
額を伝う冷や汗が自らの怒りを冷ましていくのを感じ、ルイーネはハルバードを収めた。

はい、というわけでアゲンスト・ガードのリーダー、スタンプ・ファントム氏の制止により
ルイーネ・アイゼンツォルン(73歳)は何とか人殺しになることもなく、無事最初のお仕事を終えたのでしたー。
ふっ……お互い命拾いしたな!ゲオルグ!

>「あっありがとうございました!お礼は必ずします!」

「え?お互いの名前も連絡先も伝えてないのに、どうやって……?」

自分は火傷を負い、トトはお気に入りのジャケットを燃やされ、アッシュは後頭部に大怪我をした。
タダ働きの危険性を感じとり思わず呟いてしまうルイーネ。
どうもこのドワーフには他人を信頼するという気持ちが少し足りないようだ。
しかしながらこんなご時世で口約束を信じろというのも、確かに難しい話だろう。

ルイーネが「世の中捨てたものじゃないな」と思えるのは、もうちょっと先の話のようだ。

(せめて、治療費ぐらいは出ないかなー……)

ルイーネはサイレンの音から逃げつつ胸中で呟いた。
未練がましいことこの上ないが、アゲンストガードに請求するしかないだろう。

ま、とりあえずはお疲れさまと言わせてもらおうか。ルイーネ。
56 : ルイーネ ◇4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/20(金) 12:10:03.44 0
>>スタンプ・ファントム
【ギルド内、ビルディング最上階】

>「ま、結論からいえばお前さんらは【合格】。女ガキにしちゃ良い戦いっぷりだったぜ。
> 明日から早速頼むよ。何分、ここは何時も人が足りないんでね」
>「おっとそうだ、これを言わなきゃ始まんねえよな――――ようこそお前ら、ギルドへ。
> まずは自己紹介でもしてもらおうか。ついでに書類も片付けてくれや」

「あ――ありがとうございますっ!!」

採用決定。
スタンプの話の聞きながら、一体自分はいつどういった類の試験を受けていたんだろうと不思議に思うルイーネ。
まあ当人にしてみればこれで再就職が決まったので割合どうでも問題である。刹那で忘れてしまった。

「ルイーネ・アイゼンツォルンと申します。ドワーフです。元SEをしておりました。アゲガに志望したきっかけは……」

後半はつまんないので省略。
その後、山済みの書類整理を任されながらも彼女は何とか日暮れには帰宅することができた。
以下、ルイーネが焦げ臭い服と自分の身体を嗅いだ入浴前の一言。

「あ……火傷の治療費…………」

諦めろ。

57 : ルイーネ ◇4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/20(金) 12:11:18.24 0
>>アッシュ
【ギルド内、ビルディング最上階】

閑話休題。
時はルイーネとトトの自己紹介までさかのぼる。

>「はーい。それじゃあ先輩の俺から。」

「いたんですか」

メルシィに淹れてもらった紅茶を一口含み、ルイーネは率直な感想を述べた。
スタンプとのやりとりからこの組織における彼の立ち位置を彼女なりに見抜いた上での発言である。
それにしても……もうちょっとオブラートに包んでもいいような。

>「俺はアッシュ。好きな物は酒と女とギャンブル。アゲガに入った動機は……」
>「アゲガに入った動機は女の子にモテるかなーって思ったからでっす。ま、2人共気楽によろしく頼むよ。」

「はい、どうぞよろしく……」

  ◆ 

「……よろしくしてあげない」

書類整理に手を動かしながら、ルイーネは溜息まじりにそう呟いた。
紙面から目を外し、げんなりと周囲を見回す。アッシュは何処へ?いない?そうか、いないのか……何たるアバウト!!

(そんないい加減な性格で、モテたいなんて嘘でしょう?)

自分が対象外であることも材料に含め、先ほどの彼を分析するルイーネ。
概して異性に関心のある男性というものは、不真面目なようで仕事に対してもっとマメな性格をしているものだ。
先ほどのアッシュは何かを誤魔化し、そして心中ではいつもそのことばかり考えている――ルイーネはそう思った。

流石はドワーフ娘。見た目はロリでも中身はババア。伊達に70年も生きてはいない。
58 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2012/01/20(金) 12:12:14.29 0
「フー…フー…大丈夫にゃ」
声をかけたお嬢様に対し、トトは熱気冷め止まぬ表情を不細工に隠して返した。
「世の中舐めてるからこうなるのにゃ!手一個ぐらい授業料にしては破格にゃん」
絶叫をあげ芋虫のように丸々ゲオルグを見て満足したのか
トトは拳を解き、警察らしく拘束しようとした瞬間だった。
ドワーフの持っていたショットガンがハルバートに変形した音を聞き
思わず振り返るとそこには、朗らかな笑みを浮かべ死刑執行を行なおうとせんとすドワーフがそこにいた。
「…最悪殺すとしても、こいつのオヤジを強請ってからにするにゃん
 そうしないともったいないにゃん」
明らかに正気を失いかけているドワーフを目の前にしてトト
経験から(非合法ではあるが)金儲けの話を持ちかけ、頭を冷やそうと試みるが効果はいまひとつらしい。

とそこへ颯爽と現れた青髪の男が割って入ってくる。
惚れ惚れするぐらいの手際で銃を構え、ゲオルグとドワーフを大人させた
「お見事にゃ」
ゲオルグを気絶させたのはいい判断だったかも知れない。
戦意喪失したとはいえ、命の危機に対し抗わない奴はいない。
恐らくこのままにしておけば、無事なほうの拳を爆発させ逃亡なりなんなりしていただろう。

ともかくこれで危機は去ったかにみえた。
息をつく間もなく聞こえてきたのはよく聞きなれたサイレンの音だ。
「んーたしかに配属初日に前居た場所の世話になるのはまぬけにゃ」
と青髪の男に促されるようについていこうとしたとき
先ほどのお嬢様が回り込んできた
「んにゃ?まぁ気にすることないにゃん」
丁寧にお礼をいうお嬢様に対し、トトは微笑みながら手を振って彼女を見届ける。
「…あっ名前聞くのわすれたにゃ」

【ギルド内、ビルディング最上階】
メルシィから書類不備の話を聞かされ、トトはそれに呆れ不安を覚えた。
そういう大事な書類がまともに行きかわないことが不思議でしょうがなかったからだ。
とギルドに対しての不満はそれぐらいにし、自己紹介を始める。
「トト・リェンにゃ、歳は27、階級は警部補だったにゃ
 格闘技は十二流虎形拳と捕縛術を少し、一応銃は使えるにゃ」
とざっくばらんに済ませ、ドワーフの自己紹介を聞く

「あーいうタイプは絶対に出世できないにゃ」
ルイーネと共に書類整理をしながら、グチるようにトトは応える。
トトの中で、アッシュの印象が「アテにならない奴」に固まるのも時間の問題かもしれない。
59 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2012/01/20(金) 12:14:56.87 0
「ん…なれないことをしたからお腹がすいたにゃ」
書類整理を終わらせ、ビルの外へ出た第一声がそれだった。
正確にいうならば、慣れてない書類整理のせいではなく、あれだけ暴れたのが原因なのだが
問題はそこではない。
おもむろに時計を確認する。
「かなり遅くなったにゃ、この時間帯でやっている店は…
 あそこのレストランがいいにゃ…お金もそこそこあるし、久々にステーキでも食べるにゃ」
本日の晩餐が決まったところで、トトはすぐさま目的の店に向かって走りだす。
店に着き、まだやっているか確認するとトトはすぐさまカウンターに陣取った
「極厚ステーキ、塩薄めで玉ねぎ抜きでお願いするにゃ」
口の中で溢れそうな涎を押さえながら、注文をする。
ノンビリ目当ての品が来るまで店の内部を見回す。
流石に時間が時間なだけに、客はトトしかいないようでほぼ貸切状態といってもいいぐらいだ。
そんなちょっとした贅沢気分を味わっていると
「オゥ!まだやってるかぃ」
いささか酔っ払った純人種の男が入ってきた。
店員に案内されるよりも先にヅカヅカと男はトトの隣へ座る。
いやがおうにも、男へ視線を向けるトトの顔から嫌悪感が浮かんだ。
「とりあえず、ビール持って来いよ、あと…んー?なんか獣くせぇぞ」
嫌味ったらしい男の独り言にトトは舌打ちをした。

話が変わるが、獣人種の社会的立場は非常にややこしかったりする。
宗教色の強い国へ行けば、獣人種は神の使いのような扱いを受ければ
その反対に悪魔と蔑まれ忌み嫌われることが多々ある。
これは、多腕族や鬼族のような亜人種にも当てはまることなのだが
歴史の中で獣人種は、主にその身体能力から奴隷として扱われたり
富豪達の特殊な性癖を満たすために弄ばれたり、挙句、戦時中のとある国では
不当な理由で収監し、虐殺を行なったこともあるらしい。
そういった歴史からなのか、社会的に低く見られ不当な扱いを受けることが度々あったりする。
現在、そのようなボーダーは少なくなり、獣人種も大統領選挙に出馬出来たりするほど
社会的地位は見直されたが、しかし、差別が完全になくなったとは言えない。
60 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2012/01/20(金) 12:27:05.02 0
男が隣に座ってから、トトはしばらくの間我慢していた。
「獣くさい」から始まり「毛むくじゃら」「檻に入れとけよ」「生肉でいいだろ」等々
と男は言いたい放題の中、トトは顔を引きつらせながら耐えた。
それもこれも肉のためである。
「お待たせしました」
遂に、念願のステーキの姿を目の当たりにした時、トトは思わず感動した。
しかし、その感動は長く続かなかった。
次の瞬間、手にしていた酒をこともあろうに、ステーキにぶちまけたのだ。
盛大にあがる水蒸気、咽るほどのアルコールの匂い
「おねーさん、ちゃんと冷やさなきゃ駄目だよー猫舌なんだからー」
男の戯言はもう耳には入ってはいなかった。
トトは何も言わず、フォークを振り上げると
なんの躊躇もなく男の手に振り下ろす。
「こんのクソがぁぁぁあぁぁ!!!」
こうしてアゲガ配属初日の夜は更けていくのだった。
61 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/01/24(火) 10:37:09.15 0

【ギルド内ビル最上階】

ゲオルグの件から数日経ったある日の昼過ぎ、トトとアッシュに召集がかけられた。
因みにルイーネはメルシィと出掛けたのでここには来ていない。

外はバンプスが起こした爆発騒ぎのお陰で、「KEEP OUT」のテープがそこかしこに張り巡らされている。
先日、戦場と化した路地裏には何人かの刑事達が調査を進めている。
ギルドに入る際は、路地に立つ数人の警官達の冷たい視線を浴びることになるだろう。
ともあれ、最上階に辿り着いた二人がドアを開ければ、それを目にすることになる。

「ようお前ら。悪いが俺のブラックマウンテン探してくんね?
 アイツ足が生えてるからよォ、すーぐどっか行っちまうんだ」

……無様に地面に腹這いになった駄目親父もとい、スタンプの姿を、だ。
彼が言うブラックマウンテンとは、二人の傍にあるデスクの下の煙草のことである。
しかも裸だ。下半身はギリギリパンツを履いているものの、見ていて見苦しいことこの上ない。
此処がギルドで、スタンプの自室でなければ、トトに手錠を嵌められても文句は言えないだろう。

オッサンが朝から必死になって煙草を探す駄目っぷりを発揮したところで、本題だ。
ようやく服を着たスタンプが腰掛け、二人にも座るよう促す。

「まー掛けろ。その爪で引っ掻くんじゃねえぞ?……んで、だ。二人を呼んだのは他でもねえ」

一言区切ると、アッシュとトトを交互に見るや、深ーい溜息を吐く。

「昨日の件でちょっとな。
 アッシュ、お前腕が落ちたんじゃないか?お前ならあと3~4人位、ワケなかったろ。
 それとトトもだ。釘を刺すようだが、俺達の扱いは一応『一般市民』だ。
 ギルドにゃ同じ一般市民を無闇に傷つけちゃいけねえって決まりもある。手加減ってのを覚えにゃな」

ポケットから棒キャンディーを取り出して口を開いたかと思えば、まさかのお小言が始まった。
ギルドでは3つのルールが存在する。
「カタギは殺すな」
「上司に逆らうな」
「仲間を裏切るな」
実に簡潔、ストレートだ。これを破れば同じギルドの面々から顰蹙を食らう。
場合によってはギルドを永遠追放、なんてのもよく聞く話である。
アゲンストガードに至っては、「市民と街を守る」のが仕事だ。
いくら相手が魔法使いであるといえど、市民にカテゴライズされている内は自重というものを覚えなければならない。
その点において、正当防衛といえどトトはやりすぎだ、ということだ。
ゲオルグに手を掛けようとしたルイーネも今頃、同じ事をメルシィからきつく言われていることだろう。


「そんでだ。お前らにちょっとした『修行』を課そうと思う」

62 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/01/24(火) 10:40:47.09 0

何が言いたいのか、といえば。スタンプがニヤリと笑った。
『明らかに何か企んでます』、と書いてありそうな位、顔にありありと浮かんでいる。
スタンプはまず説明するより早く、手慣れた様子で大きめの封筒を差し出す。
入っているのは、無線機が二つ、地図と書類を幾つか。

「本来はアゲガ内で『ちょっとした』腕試しでやる事なんだがな。
 二人には今から、ある男を捕縛してもらう。勿論、『無傷』でだ」

書類には一人の男の写真とプロフィールが記載されている。
地図はニューラ―ク市内のものだ。ショッピングモールから裏路地までの詳細がびっしり書き込まれている。

男の名はビリー・イーズデイル。
痩せぎすで左腕に蛇のタトゥー、スキンヘッドが特徴だ。
34歳、元公務員だが暴力事件を起こし辞職。
現在は無職。窃盗の前科があり、麻薬密売人としての嫌疑が掛けられている。

最大の特徴として、彼は自身の犯した罪の痕跡を出来るだけ残さない。
警察が何度も捕まえようとしたが叶わず、お手上げ状態。ギルドにお鉢が回って来たわけだ。
しかしビリーは、何度か別のアゲガに捕縛されかけるも、全て逃げおおせている。

そのすばしっこさと証拠隠滅の周到さに、ギルドの一部では彼を捕縛することがちょっとしたブームになっているのだ。

「コイツを、出来る限り無傷で捕縛しろ。これはリーダーとしての命令だ。
 スタートは30分後。5分前には『クライストンビル』で待機。返事は?」

その空白の30分は何なのか。と尋ねられても、スタンプは肩を竦めるだけだろう。
返事を聞くと、スタンプは手で蝿を追い払うように出て行けというモーションをし、ソファに寝転がった。
二人はその30分を使って何をしてもいい。
仲間にビリーの情報を聞くなり、街を散策するなり、準備をするなり。
しかし忘れてはいけない。
5分前にはニューラ―ク市最大の建築物『クライストンビル』に到着せねばならない。
でなければ、ビリーの捕縛は適わないだろう……とスタンプは付け加えた。
そして「無傷で捕縛できなければ」どうなるか。

「お前らは絶対、指一本でもそいつにゃ触るなよ。お前らが手を出したと分かった場合――コレ、だ」

手でシュッと首を切る動作を見れば、おおかた予想はつくだろう。
時間は午後3時30分。任務予定開始時間は――4時。


【第2ステージ:麻薬密売人候補を『無傷』で捕縛せよ!】
【1ターン目は好きに過ごして下さい。ビリーの情報に関することは避難所でお答えします。
 それ以外(街の様子など)は自由に描写してください。】
63 : アッシュ ◇T59d.omBjU [sage] : 2012/01/26(木) 21:46:47.70 0
「だーるーいーなー。」
スタンプの旦那から呼び出しを受けギルドに向かう途中、ドンパチ騒ぎを起こした路地裏では警察が一生懸命捜査を進めていた。
仕事熱心なのは結構だけど、冷ややかな視線を送るのはやめて頂きたい。

>「ようお前ら。悪いが俺のブラックマウンテン探してくんね?
 アイツ足が生えてるからよォ、すーぐどっか行っちまうんだ」
……このパンツマン、マジで人をなめてやがる…。
上司じゃなかったら殴り倒してるところだ。
こっちはあの冷ややかな視線を受けてまで来てやったってのに…。
いっそのこと煙草なんてやめちまえばいいんだ。
高いし、体に悪いし、周りに迷惑だし……
それでもやめられないのが煙草の怖い所なんだけど。

「ほれ、あったぜ。」
デスクの下から煙草を発見し、旦那に手渡す。
大事な大事な恋人を簡単になくしちゃいけませんよ。

>「まー掛けろ。その爪で引っ掻くんじゃねえぞ?……んで、だ。二人を呼んだのは他でもねえ」
そこまで言うと俺とトトちゃんを交互に見て深い溜め息をつく。
何よ、何なのよその溜め息。

>「昨日の件でちょっとな。
 アッシュ、お前腕が落ちたんじゃないか?お前ならあと3~4人位、ワケなかったろ。
 それとトトもだ。釘を刺すようだが、俺達の扱いは一応『一般市民』だ。
 ギルドにゃ同じ一般市民を無闇に傷つけちゃいけねえって決まりもある。手加減ってのを覚えにゃな」

うっ…痛い所を突きやがる。
確かにあんな雑魚相手に傷を負わされたのは大いなる失態だ。
だが、まさかそんな小言を言う為だけに俺達を呼び出したわけじゃあるまい。
>「そんでだ。お前らにちょっとした『修行』を課そうと思う」
やっぱり?
やっぱりそういう展開になる?
やめろ、いますぐそのムカつく笑みをやめてくれ。
イライラするから。
64 : アッシュ ◇T59d.omBjU [sage] : 2012/01/26(木) 21:47:16.08 0
説明の前に大きめの封筒が差し出される。
中身を確認すると無線機2つと地図と書類……宝探しでもやらせる気か?
>「本来はアゲガ内で『ちょっとした』腕試しでやる事なんだがな。
 二人には今から、ある男を捕縛してもらう。勿論、『無傷』でだ」
説明を受けながら書類を1枚取り出すと左腕に蛇のタトゥーを彫っているスキンヘッドの男と、その男のプロフィールが書いてあった。
>「コイツを、出来る限り無傷で捕縛しろ。これはリーダーとしての命令だ。
 スタートは30分後。5分前には『クライストンビル』で待機。返事は?」
これまた面倒な事を…。
無傷で捕縛ってのがどんだけ大変な事か、旦那だって分かってるだろうに。
しかももし手を出したのがバレたらクビときたもんだ。
リスク高すぎだろ。

「さて…それじゃあ後ほどクライストンビルでね、トトちゃん。」
ギルドの入り口でトトちゃんに別れを告げる。
旦那の反応を見た限り、30分という時間は自由に使っていいらしい。
トトちゃんとは一旦別れて各自で準備をする事にした。
無傷で捕縛する為にはそれ相応の準備が必要だからな。

「オヤジー。傷付けないで人を捕縛出来る武器をくれ。」
「旦那ぁ武器屋に人を傷付けない武器なんてあるわけないじゃないですか。」
俺は行きつけの武器屋を頼る事にした。
ここの主人は獣人種という事で虐げられていた所を助けた事がきっかけで、色々とご贔屓させてもらっているのだ。
外見がちょっと違うだけで亜人だ獣人だと騒ぎ立てるバカが未だに数多く居やがる。
多種族国家の大きな問題である種族間の溝というのは悲しい事になかなか埋まらない。
「そこをなんとかさぁ~。頼むよ~オヤジぃ~。」
「気色悪い声を出すんじゃねぇ。とりあえず探してみるだけ探してみるよ。」
「ありがとよん♪」

65 : アッシュ ◇T59d.omBjU [sage] : 2012/01/26(木) 21:47:39.34 0
現時刻、3時55分。
タクシーをぶっ飛ばしてもらってギリギリ間に合った。
「お待たせ~。」
トトちゃんと合流し、クライストンビルを見上げる。
見れば見るほど馬鹿でかいビルだ。
どこのどいつがこんなビルを建てようと思ったのかは分からんが、こんな所に無駄な金をかけやがって。
そんな金があんならもっと別の所に金を回せってんだ…。
不況だ何だって言ってもある所には金があるんだなぁ。
…っと、今は考え事をしている場合じゃない。
「それじゃあトトちゃん、そろそろ行きますか?」
66 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2012/01/28(土) 18:32:52.12 0
その日、トトはイラついていた。
先日のバンプスやレストランでの喧嘩を引きずっている訳ではないのだが
とにかくイラついていた。
そんな日に限ってスタンプからの呼び出しがあるのだからたまったものではない。

用件を手短にすませ、適当にストレス発散しようとギルドに向かう最中
この前暴れた路地にはよく見たテープと顔を良く知っている元同僚の姿が確認できた。
「おつかれにゃん」
愛想なくそいつらに適当な挨拶をして通り過ぎる。
通りすぎている最中、背中に視線が刺さっているのを感じる。
当然のことだとトトは思った。
自身の転勤日とバンプスの証言、おまけに違法魔法使いたちに付けた爪跡
どんなに勘の悪い奴でも疑いを通り越して確信するだろう。
しかし、そこまでの証拠があってもココでトトを止めないのは
自分らが手を焼いていたバンプスを壊滅させた手柄なのか、それとも、複雑な何かがあるのか
深く考えるのをやめ、トトはビルの中へ入っていった。

「…」
ほぼ無感情に近い面持ちで、トトはパンイチのスタンプをただ見ていた。
あまりのアレさ加減に切れる気力も起きないのだ。
アッシュがタバコを見つけ、ようやく本題に入ろうとした所
「…チッ!」
スタンプは冗談のつもりで引っ掻くなと忠告したのだろうが、トトにはそれが癪にさわったようだ。
聞こえるように舌打ちし、一瞬スタンプを睨んだ。
それ様を見たのか見てないのかわからないが、スタンプは話を続ける。
単純に内容を説明するなら、昨日の一件はどうみてもやりすぎ、自重しろ
とのことだ。
「赤いドレスを着て闘牛の目の前に飛び出した奴のことを『一般市民』とは言わないにゃ」
トトはそう文句を垂れるも、しぶしぶスタンプの話を聞く

スタンプの小言は終わり、本題である仕事の話が始まった。
渡された封筒をあけ、ざっと書類に目を通すとトトは声を漏らす。
ビリー・イーズデイル、トトが殺さずに捕まえた数少ない内の一人だ。
ただその時は、窃盗で逮捕しただけで、麻薬のバイヤーであることは初耳だった。
取調べの時に臭うことを言っていたのかもしれないが、取調べは別人が行った為耳に届いていなかったのかもしれない
トトはそれを知り、苦虫を潰したような顔で頭を掻いた。
ただでさえ無傷で捕まえることが苦手な上に相手が相手なのだから仕方が無い。
しかし、やらなければならない。それが社会人であり
「はい」
アゲガなのだから
67 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2012/01/28(土) 18:33:49.38 0

25分後、上から下までゴスロリで決めたトトがクライストンビルの前で立っていた。
今回のターゲットと面識があるトトがこのままいけば確実にバレるに違いないと考えた末に
ゴスロリで変装という、頭かくして尻が隠しきれているかどうか妖しい
いや、寧ろホタルのように光っているかも知れない結論に行き着いたからだ。
「…自分でやればよかったにゃ」
しかし、変装にゴスロリを選んだのはトトの意思ではない
変装の為の服を見繕いにブティックに入り、物色していたところを店員に話しかけられ
ついつい、他人を間違われるぐらいイメージチェンジがしたいと言ってしまったのが間違いだった。
慣れないスカートの感覚に少しもじもじしているとアッシュが到着した。
「んもぅ~大事遅刻だよ~お兄ちゃん♪」
いつもの三倍以上に猫を被り声も変え、アッシュの元へ駆け寄る。
猫を被りすぎて語尾までぶっ飛んでいる始末だ。
>「それじゃあトトちゃん、そろそろ行きますか?」
といきなり正体をばらしたアッシュのつま先を踏みつける。
変に誤解されないよう、義妹が甘えているようにカムフラージュしながら
「私が好きでこんな格好していると思っているのかにゃ?
 態々ウィッグまでつけてきているのに、いきなり名前で呼ばれたら台無しだろうが」
耳元でそうアッシュに忠告し、離れる。
「行こうお兄ちゃん!キティ欲しいものがあるの」
キティって柄じゃねーよ
68 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/01/30(月) 00:17:14.57 0
【午後3時55分 クライストンビル48階】

クライストンビル――合衆国最大の高層ビルとして、その名を知らない者は居ない。
最頂部含め高さは496m(四捨五入すれば実に約500メートル!)、付いたあだ名は「ヒマラヤ・ビル」。
階数は全99階で屋上があり、この内50階までがショッピングモールやエステ等の娯楽施設、それ以上はホテルとなっている。
7POAT(セブンポート・7大アメリク観光ポイントの略)の一つとされ、多くの観光客も訪れる。
なお、48階は一面ガラス張りの空中大庭園となっており、カップルや家族連れも多い。


「(5分前――そろそろか)」

一足先にスタンプはビルに到着しており、空中庭園の中に設けられたカフェの端の席に腰掛けていた。
観賞用の生い茂る熱帯植物を鬱陶しく感じ眉間を顰めつつ、腕時計に目を落とす。
予定では、トトとアッシュがビルに到着している頃だろう。
コートのポケットに手を突っ込むと、携帯電話を出しコールをかけた。

「……よう、俺だ。あ?誰が詐欺だぶちのめすぞ。
 二人揃って合流したか……よし、今から作戦を伝えるぜ。
               ターゲット
 お前らには言ってなかったが、目標には必ず部下……というか仲介役がいる。
 麻薬の値段交渉や取引場所とかも仲介役を通し、絶対に姿を見せる事はねえ。
 ……ってー事情があってよ。今から俺がそいつと『取引』をする。囮って奴だな。」

会話しつつ、チラ、とエレベーターの方向を見る。
6つある内の、右端の殆ど動かない、運搬用のエレベーターが稼働している。
例の『仲介役』が来る合図だ。スタンプの三白眼が鋭く光る。

「48階に来い。カップルか家族でも装って此処に来るんだ。

 いいか、作戦はこうだ。
 仲介役が来たら、偽の『取引』を開始する。そしてお前らが来たら、頃合いを見て『場所を変えよう』と指示する。
 お前らは俺達を自然に『尾行』しろ。袋小路にでも連れ込んだら適当に脅すなりしてビリーの居場所を吐かせる。
 兎に角早く来い。奴さんはスピード主義でな、交渉はなるべく長引かせるが、怪しまれたら終わりだからよ。」

チン。右端のエレベーターが軽快にベルを鳴らす。
ドアが開き、大人しそうな眼鏡を掛けた紳士風の青年が出てきた。

『仲介役』――ビリーと同じく、警察やギルドの網を何度もくぐり抜けて来た謎の存在。
変装の名人であり、彼(或いは彼女)と接触した麻薬買収者達の、仲介役に関する証言が一致することは一切ない。
またビリーとの関連性を一切見出さないことで、ビリー確保の失敗に一役買っていた。
謎めいたビリーの右腕『仲介役』。その存在を知る者は警察やギルドの一部に限られてくる。

そして今、その『仲介役』がスタンプの眼と鼻の先にいる――――――!

「……こんにちは。スタンプさんで間違いないですか?」
「ああ。そういうアンタは、ジェントリさんで合ってるのかい?」

スタンプは数週間前からあらゆる手を尽くし、ようやく仲介役との接触までに辿り着いた。
お膳立ては十二分だ。ここまでくれば、ビリー確保はあっという間だろう。

適当に会話を挟んで友人同士の振りを装いつつ、スタンプは二人が来るのを待った。
だが、一つ思わぬ誤算があった。
月に一度、空中大庭園へと繋がる6つのエレベーターは、定期検査の為、3分おきに1機が使用不可となる。
それが何と今日なのだ。午後4時ぴったりから検査は始まる。一階では既に二人が乗る筈のエレベーターは止まっているだろう。


【MISSION1:なんとしてでも48階へGO!】
【現在時刻は午後4時、人が多く目的の48階までは約10分ほどかかります。
 3分おきにエレベーターが止まるため、足止めを食らう可能性大】
69 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/01/30(月) 18:43:40.80 0
ほしゅ
70 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/01/30(月) 19:49:46.97 0
>>69
「……ありがとうございます」

ぐっじょぶ d(`・ω・´)

しかし、いきつけだったあんなスレやそんなスレが全部消えてしまったよーだ……(´;ω;`)
71 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/01(水) 19:20:19.22 0
【>>ルイーネ クライストンビル】


一方、メルシィとルイーネもクライストンビルに到着していた。
メルシィは金のウィッグを被り、紅を基調としたドレスという姿。
片手にはブランド物のハンドバックを携え、一見すればブルジョアジー。
傍から見れば、金持ちの母子が買い物をしに来たように見えるだろう。
――これで、魔術師が着るようなローブを着てなければ、の話だが。

「ルイーネちゃんは初めてかしら、こういう所来るの?」

メイクをばっちり決めた顔を後方に向け、ルイーネに尋ねた。
その両脇で、メルシィの姿を認めたビルの関係者たちは次々頭を下げる。
現在、二人はクライストンビルの地下――第一級セキリュティルームへ来ていた。
今回、メルシィ達は買い物に来た訳ではない。れっきとした仕事だ。

道具屋とは、魔法具の扱いに長けた者達のための、魔法使いにとって最上級の職業の一つである。
道具の精製法から呪法具の解呪法など、仕事の内容もバラエティに富んでいる。
因みに、道具屋にもレベルという物が存在する。
レベルは5段階に分けられ、高ければ高いほど仕事内容も高度なものになる。
メルシィの道具屋レベルはグレード4。かなりのベテランである。

具体的には、――――百聞は一見に如かずだろう。

「此処はね、いわゆる上層階級の人達の私用銀行みたいな所なの。
 時価1000万ドルのダイヤとか、固有財産をしまっておくためのね」

クライストンビルのセキリュティーの高さは普通の銀行よりも群を抜いて高い。
それは一重に、メルシィのようなベテラン魔法使いやセキリュティー専門家の協力があってこそである。
通常のロックに加え、更に外部にトラップ魔法具や禁固魔法等のが掛けられている。
だが機械とは違い、魔法は年月が経つにつれ効力が薄くなる。
そのため、定期的にこうして検査しにくるのである。

「此処のトラップ魔法を創ったのは私の師匠なの。こういう凝った魔法を掛けるのが好きな人でね~」

合鍵を持ってなければ扉に触れただけで鋼鉄の檻に変化する魔法、
特定の人物以外が暗証番号を解こうとするとボタンが一斉に噛みついてくる魔法、
合言葉を時間内に言わなければピクシー妖精が一斉に攻撃してくる魔法などなど。
10を超えるそれらの検査を全て済ませるのに、ゆうに1、2時間はかかっただろうか。
何せ全て、文字通り体を張って魔法を作動させ、また掛け直すのだから。

「あぁあー疲れたぁー!」

残った一匹のピクシーを指で弾き、メルシィはへたりと座り込む。

「はぁーあ……ルイーネちゃん、ここから先は私一人でいかなきゃいけないの。
 だから終わるまで、上で遊んでらっしゃいな。5時には戻ってきてちょうだい」

へとへとですと言わんばかりの表情で、ルイーネに向けてそう言う。
時刻は既に4時ちょうどを差していた。

【ルイーネ→自由時間です】
72 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/02/04(土) 06:31:51.73 0

【第2ステージ】【ルイーネ宅】
 
爽やかな朝。
スーツの袖をだぶつかせ、桜咲く春の校門をくぐりぬける小学校一年生が如く、
初々しくも微笑ましい出で立ちでアパートの戸を開く緑髪のドワーフ娘が一人。
肩にはマッドブラックに焼き入れされた機械斧槍《マシン・ハルバード》。
数日前から新生活を始めた、ルイーネ・アイゼンツォルンの通勤姿だ。

アゲンストガードは基本的に服装の自由が認められているのだが、ルイーネはあえて指定の制服を上司に申請した。
あ、そこの君、関心してやる必要なんてトロールの知能ほどもないからね。
彼女の場合は単に「毎朝私服を選ぶのがメンドクセー」というモテない中学生のような、それこそものぐさ者の発想にすぎないのだから。

結局のところニューラーク支部のアゲガに女性のドワーフがルイーネしかいなかったので、ご覧の有様である。ざまあ。

「およ、ルイちゃん、今から出勤?」

扉を施錠するルイーネに子どもを抱いたハーフエルフが呼びかける。

「あ、お隣さん、おはようございます。そちらは丁度ご帰宅ですか?」
「んー、そうなのー、撮影の帰りでねー……」
「お疲れ様です」
「全くよ。流石の私も一度に五十人相手のカラミは大変だったんだから」
「いえ、そこまで聞いてません」
「つれないなー。ま、今の職場クビになったら教えてよ。大家に追い出される前に私がビデオの仕事紹介してあげるからさっ♪ 
 ドワーフの女の子って最近結構需要あるみたいよ?」
「……そんな日が来ないようちゃんと頑張りますので」
「ぶー、そんな言い方しなくてもいいのに」
 
早朝から全年齢対象の場でかような落ち着きの無い会話をさせてしまって申し訳ない。
亜人種は純人よりも長命な種族であることが多い。
しかし、往々にしてその精神年齢は見た目とほぼ変わらないことが多いようだ。
こちらの子持ちハーフエルフさんの見た目も二十代前半といったところで、気持ちの面でもだいたいそれぐらいである。

「ほら、ルイちゃんにいってらっしゃーいは?」「いってらっらーい!」

ちなみに、彼女の年齢は現在274歳。

「……いってきます」

《そちらの業界》では70年近く活躍されている、人気女優さんなのだとか――げに、エルフとは恐ろしい種族である。
73 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/02/04(土) 06:37:25.86 0
>>71 GM
【クライストンビル 地下】【休憩時間】
>「はぁーあ……ルイーネちゃん、ここから先は私一人でいかなきゃいけないの」

横道にそれるのはこれぐらいにして本筋に戻ろう。
現在ルイーネは『道具屋』メルシィのアシスタントとしてこの場に来ている。
彼女曰く、ドワーフのルーンスミスが彫る刻印やアーティファクトとは違い、
こういった媒介の無い魔法は経年によって効力が薄らぎやすいのだと云う。

>「だから終わるまで、上で遊んでらっしゃいな。5時には戻ってきてちょうだい」

(遊んでらっしゃいって……完全に子ども扱いですね、メルシィさん)

自分のほうが年上なのにとぼやきたくなる反面、仕方無いとも感じるルイーネ。
直属の上司なのでいちいち抗議するわけにもいかない。亜人はこういうとき複雑だ。

(タバコでも吸ってこよう)

ポケットからディアボロのブラックメンソールを取り出し、喫煙所を探す。
その背中にビルの警備員が声をかけた。

「そこの君。こんなところに入っちゃ駄目じゃないか。もしかして迷子かい?」

警備員に全く悪意はなかったのだが、ルイーネが如何にも不機嫌な眼つきで彼に振り向いたのは言うまでも無い。
ドワーフは首に下げた通行証を彼に突きつけた。

「……あ、失礼しました。アゲガの人でしたかw」

ルイーネは彼に喫煙所の場所を尋ねた。残念ながら地下には無いという。
休憩なら48階の空中庭園にあるカフェがいいと薦められたので、ルイーネはそこに向かおうと思った。
客用と運搬用のエレベーターは点検で停まってしまう可能性があるというので、他のものに乗る。
こういったビルには客が入れないフロアにも【複数】のエレベーターを設置しているのである。

【クライストンビル 48階】【午後4時 ○○分】

カフェに到着したルイーネは以外な人物を目撃した。

「……Mr.ファントム。何故こんなところに?」

声をかけようとして、踏みとどまる。いつもと様子が違ったからだ。
彼女の知るアゲンストガードのリーダーは基本裸族であり、こんなところで優雅に茶をしばいたりなんかしない。
ましてや見知らぬ人間と会談中とあればなおのことだ。

【カフェに到着】【スタンプを様子見】
74 : アッシュ ◆ZWyVTej02M [sage] : 2012/02/05(日) 14:57:51.68 O
お兄ちゃん……まったくなんて素晴らしい響きなんだ!
体の奥底から何かが湧き上がってくるような感覚すら覚える!
ああ…俺に妹が居れば毎日お兄ちゃんと呼んでもらえたのに…。
今は亡き父母よ…何故俺に妹を産んでくれなかったのだ…。
>「私が好きでこんな格好していると思っているのかにゃ?
 態々ウィッグまでつけてきているのに、いきなり名前で呼ばれたら台無しだろうが」
あうちっ!
痛いよトトちゃん!
つま先は反則じゃん!
つま先は踏んじゃ駄目なところじゃん!
>「行こうお兄ちゃん!キティ欲しいものがあるの」
「お…おう……何でも買ってやる…よ…。」
猫の皮を被った虎か……う~怖い怖い…。

若干ぎこちなくはあるが、兄妹を演じながらビルの中へと歩を進めると携帯の着信音が鳴り響く。
>「……よう、俺だ。あ?誰が詐欺だぶちのめすぞ。
 二人揃って合流したか……よし、今から作戦を伝えるぜ。
               ターゲット
 お前らには言ってなかったが、目標には必ず部下……というか仲介役がいる。
 麻薬の値段交渉や取引場所とかも仲介役を通し、絶対に姿を見せる事はねえ。
 ……ってー事情があってよ。今から俺がそいつと『取引』をする。囮って奴だな。」
いきなり俺って言うから詐欺かと思ったじゃないか。
まあ、ちゃんと「スタンプの旦那」って表示されてたけどさ。
>「48階に来い。カップルか家族でも装って此処に来るんだ。
 いいか、作戦はこうだ。
 仲介役が来たら、偽の『取引』を開始する。そしてお前らが来たら、頃合いを見て『場所を変えよう』と指示する。
 お前らは俺達を自然に『尾行』しろ。袋小路にでも連れ込んだら適当に脅すなりしてビリーの居場所を吐かせる。
 兎に角早く来い。奴さんはスピード主義でな、交渉はなるべく長引かせるが、怪しまれたら終わりだからよ。」
そこまで言って電話は切れた。
エレベーターに向かいながら旦那の話をトトちゃんにも説明する。
「まずは48階に行k…」
エレベーターの前まで来て愕然とする。
今の時刻は4時ちょい過ぎ……エレベーターは……止まっていた…。
よりによって今日が月に1度の定期検査だとっ!
「こうなったら……!行くぞ妹よ!!」
泣きたくなるような展開だが仕方が無い…階段を全力で駆け上がるのだ!
それ以外に道は無い!
75 : トト ◇WD5pUJgsds [sage] : 2012/02/07(火) 16:05:31.80 0
ぎこちなく歩くアッシュの腕を引っ張りながらビルを散策していると
スタンプから連絡が入った。
「全く脱帽ものだにゃ」
ぬいぐるみに仕込んだ携帯に耳を近づけ
スタンプの作戦を聞きながら、トトは呟いた。
麻薬捜査で犯罪組織に捜査官を潜り込ませることはよくあることだが
スタンプのように自ら取引相手と偽って接触を図ろうとする話は聞いたことがなかった。
それもそのはずだ。麻薬取引は危険なギャンブルだ。
事を知られずに成立すれば強大な財源を得られるが、
下手をうてば、その先にあるのは絶望しかない。
だからこそ、彼らは取引相手を慎重に選び、徹底的に調べ上げる
警察という組織に属している人間には出来ない芸当だ。
電話が切れたのを確認し、ぬいぐるみを仕舞うとアッシュと共にエレベータへ向かった。

が、目の前にあったのは「ご迷惑をお掛けしております。ただ点検中の為~」
と書かれた看板と、世話しなく作業をしてる作業員の姿だった。
「んもー、なんでこんな時に点検中なのー
 仕方ないな、エスカレーターでって待ってお兄ちゃん」
エスカレーターという選択肢を捨て、階段という苦行を選んだアッシュを
追うようにトトも階段へ向かった。
獣人特有の身体能力に加え、趣味と実益で続けていたパルクールの技能のお陰で
すぐさまアッシュに追いついた。
そのまま、五階ほど登ったあたりでトトは足を止めた。
「流石に階段で行くのは無理にゃ」
お互いまだ体力に余裕はありそうだったが、
仮にこのまま48階へ着いた時のことを考えるとやはり、違う方法を考えるべきだと思う
肩で息をしながら、兄妹のように歩くゴスロリ獣人と男…怪しすぎる。
しかし、快適な移動手段は無いに等しい
「安心するにゃ、方法ならあるにゃ」
とトトが指を刺した先にいたのは、窓の外でリフトに乗りながら
手馴れた感じで窓を拭いている清掃員の姿だった。
「エレベーターには敵わないけど、階段よりはマシにゃ」
そうアッシュに告げると、すぐさま清掃員との間合いをつめ
窓ガラスを切り裂くと、窓の外へ飛び出しリフトに飛び移った。
「ここから落されたくなかったら大人しくしてるにゃ」
爪を突きつけ清掃員が余計な真似をしないよう脅す。

【アッシュを追って階段を登る】
【バレそうな気がしたので、清掃員のリフトをジャックする】
【45階辺りで同じようにビル内へ戻る予定】
76 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/07(火) 20:01:03.38 0
ちょwwwwおまwwwwwwww
77 : 名無しになりきれ : 2012/02/08(水) 03:33:43.35 i
今更なのですが、次のターンからでいいので入れて貰えたりしないでしょうか(´・ω・`)
78 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/08(水) 11:52:21.52 O
>>77
それは新規参加希望、と受け取ってよろしいでしょうか?
でしたら大大大歓迎でございます!
79 : 名無しになりきれ : 2012/02/08(水) 21:30:05.81 i
>>78
はい、新規参加させてください!
明日の夜までにはキャラシートあげるので、参加可能なタイミングを教えて頂けますか?
80 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/08(水) 22:00:38.76 0
早く消えろ自演野郎
81 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/09(木) 08:04:34.48 O
>>79
GMの俺がまともにレス書けてないという体たらくぶりなので、参加するなら今がチャンスですよー
82 : 名無しになりきれ : 2012/02/09(木) 22:44:50.30 0
俺も参加俺も参加
83 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/10(金) 21:11:32.54 0
【5階 リフト】

今日というこの日を、雇われアルバイト清掃員(25)は一生忘れることは無いだろう。

午後4時を回った頃、アルバイト清掃員はリフトに乗り清掃に精を出していた。
一面のガラスの壁を一望し、ガラスワイパー片手に窓を磨く。
ガラスが景色を反射させ、青い空と白くたなびく雲を映し出す。
普通の人間ならば滅多に見られないこの光景を一寸たりとも曇らせるまいと、彼は必死に窓を磨く。
高い所、特に空が好きな彼にとって、窓切りという仕事は正に天職。
リフトという絶景スポットから見上げる空は、格別以外の何物でもない。

鼻歌交じりに窓を磨き続け、5階まで到達した際に、それは起きた。

「ん?」

ふと、ガラス越しに、ゴスロリを身に纏った獣人種の娘と目が合った。
幼さが残る顔で、こちらを指差しながら隣の銀髪の青年に何やら話しかけている。
きっと窓切りを見るのは初めてなんだろう、微笑ましいなあと思いつつ、アルバイト清掃員は作業に集中し直した。
獣人娘が、窓を斬り裂き、リフトに飛び乗って来るまでは。

「ひぃいいいっ!?なっ何何々!?」
>「ここから落されたくなかったら大人しくしてるにゃ」
「ひゃぃいいっ!!?」

可愛らしい顔立ちとは裏腹に、鋭い爪を首筋に突きつけ恐喝してくる獣人娘。
銀髪の青年も乗り込んでくる。止める術など無い。
突如リフトをジャックした二人の要求は、45階まで自分たちを運ぶこと。
若き清掃員に戦闘経験などあるわけもなく、ビビりながら従うのみ。

「え、えーと、45階ですね……」

だが、清掃員もただビビってるだけでは終わらない。
清掃員はリフトを操作すべく、コントローラーを手にとる。
このコントローラーは、レバーを前に倒せばリフトは上へ上がり、後ろに倒せば下へと降りる。
しかもコントローラーの裏には、警備室へ非常事態を知らせる緊急ボタンが設置されている。
それを気付かれぬよう、指を滑らせる。

「(隙を見てこのボタンを押して、警備の人達に助けを……!)」

徐々にリフトが上を目指す最中、清掃員はひたすらチャンスを待った。
このまま二人に気付かれずにボタンを押す事に成功すれば、たちまちリフトは急停止する。
そうなれば、武装した警備員と二人が一悶着起こすことは必須になるだろう。


【48階・大庭園】

「(っそー……遅いなあの二人……)」

一方その頃スタンプは、中々来ないアッシュとトトに苛立ちを尖らせていた。
不機嫌さを表に出すことは無いが、それでも僅かに不穏な空気を纏わせる。
この作戦は何よりもスピード重視。尚且つ相手を「無傷で」捕えることにある。

二人に指示を出して早20分ほど経過。
4時を回った頃から、人の数は徐々に減り始め、まばらに点在するだけとなっていた。
下の階で行われる、某有名レストラン主催のパーティーに人が集まっているせいだ。
だがそれでも、本来の待ち人であるアッシュとトトの姿はない。
元々そこまで会話にボギャブラリーのないスタンプは、早くも会話のネタ切れで焦っていた。
84 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/10(金) 21:18:22.68 0
一方の仲介者といえば、時計を気にしながらコーヒーを啜っている。
とても、麻薬を扱う一級犯罪者の右腕とは思えない温和な態度を余裕で見せつけながら。
余りに隙だらけ。余りに無防備。こいつは本当に犯罪者なのかと、目の前にしているスタンプでさえ疑ってしまう。

「時に、えーと……スタンプさん」
「おぉうっ!? な、何だ…じゃなくて、何でしょう?」
「そんなに驚かなくても……。コーヒーのお代わりをしても?」
「あ、あー……構いませんよ?」
まさか作戦がバレたかと思ったが、そんなことは無かったようである。
ウェイトレスにお代わりを頼む仲介者の後頭部を、スタンプは固い表情で見ていた。
「ねえ、スタンプさん」
仲介者が振り返り、向けて来た朗らかな笑顔を、スタンプも同じく笑顔で返す。

「そろそろ止めません? このお芝居」

笑顔が、凍りついた。
平穏な大庭園に設置された喫茶店の一角で、そこだけまるで別世界のような剣呑とした雰囲気に包まれる。
ウェイトレスがコーヒーを運んできた瞬間にその雰囲気は仕舞われたが。
仲介者は、今しがた口に出した発言を忘れたかのように、出されたコーヒーを煽る。
スタンプは一瞬だけ表情を固めた。が、再びポーカーフェイスを取り戻し口を開く。

「……お芝居たぁ、どういう事ですかねえ?」
「とぼけた所で遅いですよ、スタンプさん」
す、と仲介者がスタンプの後方を指差した。首を少し捻じり、スタンプは驚きに目を見開く。
その先にいるのは、こちらを観察するルイーネの姿。 まさかこんな所で遭遇するとは思わなかった。誤算その2である。

「お仲間を連れてとは、良い度胸ですね。大方、麻薬取締り官ってところですか?」
刹那、スタンプは足元に脅威を感じた。
脛に、鋭い刃物の切っ先を押し付けられた感覚。恐らく足元に何らかの武器を仕込んであるのだろうか。
だがあくまでも、スタンプは表情を崩さない。ここから先、少しでも隙を見せた時点でアウトだ。
仲介者はにこりと笑うと、スタンプにしか聞こえぬよう声を落として囁く。

「良いですねえ、彼女。『分解(バラ)』して売ったら、幾らになるでしょう?」
その一言は、スタンプを戦慄させるには充分な一言だった。
仲介者は笑顔を湛えたまま立ち上がり、ルイーネへと近づく。

「こんにちはお嬢さん、スタンプさんのお知り合いだそうですね。一緒にお茶でも如何ですか」
人の良い笑みを浮かべた仲介者は、スタンプに対しても意味深な笑みを向けた。
これはスタンプに対しての、遠回しの脅迫。
ルイーネもまた、仲介者に触れられた瞬間にただならぬ気を感じ取っただろう。
それはそのまま、人の良い笑みを浮かべた青年が「ただならぬ何者」であるかを露呈した一瞬でもある。

「コーヒーでもどうですか?それとも紅茶派でしょうか?」
青年は笑顔でルイーネに話しかける。 だが、仕込みナイフの先端はスタンプの脛に押しつけたまま。
尚且つ、ルイーネとスタンプの視界に入るか入らないかの所で、スーツの裾から銃口をちらつかせた。
ルイーネに接触した時点で、仲介者はルイーネを「人質」として使うと決めたようだ。

「スタンプさん、他にもお友達はいらっしゃるのでしょうか?何時頃いらっしゃるので?」
「…………………………」

これに対し、スタンプの解答は「沈黙」。
仲介者がしびれを切らすギリギリまで、何もアクションを起こすつもりはないという意思表示。
それと同時に、なごやかな雰囲気にそぐわない気配を纏う事で、ルイーネに非常事態を伝えるためでもあった。
なんとか、お互いの立場を逆転させなければ。「その瞬間」が来るのを、スタンプはひたすら待ち続けるしかなかった。

【トト&アッシュ組→リフトジャック成功なるも、緊急ボタンを押される5秒前。
          押された時点でリフトは止まり、武装した警備員と鉢合わせの可能性も!?】
【ルイーネ→仲介者が接触、お茶会に誘うと見せかけてルイーネを脅迫用の人質に】
85 : 名無しになりきれ : 2012/02/11(土) 17:53:50.66 0
気持ち悪い
幻影旅団のパクリ
86 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/12(日) 11:51:30.49 0
幻影旅団があらわれた



ドローン
87 : トト ◇WD5pUJgsds : 2012/02/13(月) 19:14:36.11 0
エレベーターのように早くは無いが、三人を乗せたリフトは
目的の階へ向かって上昇していた。
振り向けば、ここからだけでしか得られない絶景とエレベーターでは味わえない
開放感を満喫できるのだが、時間に追われているトトにそんな余裕はなかった。
「間に合いそうにないにゃ」
時計を確認し、焦りの息を漏らす。
その焦りからなのか、リフトを操作している清掃員に対して注意を向けず
これからのことについて暫し思考を巡らせる。

そろそろ目的の階に近づいてきているのに気がつき
ふと清掃員のほうへ視線が向かった。
その瞬間である。
「てめぇ何してんだ」
警報スイッチに伸ばした清掃員の腕を乱暴にひねりあげ
おさせまいと取り押さえようとするが、清掃員も負けじと暴れ
よしんば、抑えられていない腕や頭で押そうとしている。
なんとか操作パネルから清掃員を引き剥がすとトトは清掃員に対し怒鳴りつける
「ただでさえ遅れているってのによぉ、何してんだよ
 もう頭にきたぞ、本当は何もするつもりはなかったが、お前のせいだからな」
そう告げると、トトは手加減して清掃員を殴り倒した。
「ったく、手間かけさせやがって」
そうぼやいて、リフトを止めるとトトは何かに気づき
その場にしゃがんだ。
「コイツのことで頭がいっぱいで48階まで来てることに気がつかなかったにゃ」
気づかれてないか確認する為にリフトから顔を覗かせ、中の様子を伺う
スタンプと取引相手を思われる男は反対側の窓辺で話していた。
「とりあえず、バレてはいないみたいにゃ…アレ?」
何か違和感に気がついたのか、もう一度覗く
「なんでにゃ?なんでルイーネがいるにゃ、それに何か様子がおかしいにゃ」
88 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/14(火) 22:05:18.73 0
【48階・大庭園 >>ルイーネ >>べネフィート】

取引きをするにあたって、事前に相手の情報を知るという事は基本中の基本だ。
仲介者が現在に至るまで警察の手を逃れ続けられたのも、情報があってこそである。
情報は、使い方によってはどの重火器よりも威力ある武器となる。
また、鋼鉄の盾よりも軽く強固な防壁となり、守ってくれる。
仲介者は何者よりも、情報を大事にし、多大な信頼を寄せていた。
だからこそ今回、スタンプ=ファントムという相手に対して、過敏過ぎるほどに警戒していたのだ。

「(スタンプ=ファントム……どんなに情報を洗っても、血液型すら分からなかった……)」

あらゆる手を使い、それこそ藁の山から髪の毛一本を探す気でスタンプに関する情報を探った。
だが、幾ら探せど彼の事は一切分からなかった。
スタンプが仲介者の指示通りに、事前に送って来たプロフィールのみが唯一の情報。
勿論、そんな物をハナから信じるつもりはなかった。
プロフィールを送って来るのは、あくまでも信用に値するかどうかのテストなのだ。
こちらで調べた情報とプロフィールが一致して初めて、取引を開始する。
だから、洗っても洗っても素情の出てこないスタンプを、仲介者は"脅威"と受け取った。

最初は取引きを断ろうかとも考えた。
見えない正体の候補――警察の関係者。プロの麻薬取締官。それ以上の組織――?
正体が掴めないことは、今までにない経験。どんな相手であれ、その中身を暴いてきた彼からすれば、薄気味悪い存在なのだ。
だがビリーは「構うことはない、取引しろ」と命令した。彼の一言は絶対だ。

一応、武装はした。脚部にナイフを仕込んだ脛当てを装着し、何時でもその足を捌けるように。
仕事仲間であるべネフィートも誘い、付近に待機させてある。
「万が一」の場合に備えてだ。仲介者自身は、戦闘経験はほぼゼロといっても過言ではない。
そして現在、スタンプとドワーフ少女……ルイーネへと目を滑らせ、微笑みをたたえながら二人を観察していた。

「(二人ともに焦りが見えませんね……余裕のつもりでしょうか)」

もし二人がグルだった場合、標的である仲介者が接触すればそれなりのアクションを見せるものと思っていた。
だが肝心のルイーネに、仲介者が予想したような表情の変化は見られなかった。
となると。ルイーネは全くの部外者であり、自分を追っていたのはスタンプ一人ということになる。
そもそも仲介者がスタンプを敵と明確に認識したのは、先程の山張りがあったからに他ならない。
仲介者の問いに対するスタンプの沈黙は暗に、自分の正体を明かしたようなもの。
――――待てよ。これは好機かもしれない。

「申し遅れました、私、スタンプさんの友人のジェントリと申す者です。
 輸入関係の仕事をしておりまして、今回はスタンプさんとある輸入物についての打ち合わせの最中だったんです。
 ……ときに不躾ではありますが、スタンプさんとのご関係は?」

流れるような嘘をいけしゃあしゃあと吐きつつ、ルイーネに何気なく尋ねる。
彼女が部外者ならば、何の猜疑心もなく問いに答えてくれるだろうと踏んだのだ。
沈黙か、或いは嘘を吐くような素振りを見せればクロ。どちらにせよ決定的な情報を捕まえることができる……だが。


「ああ、コイツ俺の『恋人』なんですよ」


ルイーネが答える前に、スタンプがバッサリそう言い切った。
89 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/14(火) 22:06:17.33 0

「……スタンプさん、私はお嬢さんにお尋ねしているのですが。と言いますか犯罪ですよ」
「ご安心を。こいつは俺より年上ですし、昨今の世の中には合法ロリという言葉がありますから」

そういう問題ではないのだが、どことなくスタンプの顔は得意満面である。
ガンジーも助走付けてグーパンチするレベルだが、本人は上手い事言って誤魔化した、と言いたげだ。
疑わしいといわんばかりの視線を向けられれば、恋人を装おうとルイーネの手を握り、

「信じられないってなら、ここで一つ熱烈なキスでも……」
「いえ結構です。お連れ様が可哀想ですから」

これは酷いセクハラ発言。
ルイーネに殴られようと訴訟を持ちかけられようと文句は言えないレベルである。
だがそんなふざけたことを言っている間にも、握った小さな手のひらに素早く指で文字を書いた。

『今は 俺に 合わせろ』

ルイーネに素早くウインクすると、スタンプは取ってつけたような笑顔を向けた。

「……って訳で、麻薬取締官だとか言われても何のことだかサッパリなんですよ。映画の見すぎじゃないですかね?」

はっはっはと笑うスタンプ。別の意味で仲介人は冷めた視線を送る。
これ以上追及しても適当にはぐらかされてしまいそうである。さてどう攻めたものか。
何気なく視線を逸らし外へと向けた時、ふと何か違和感を感じた。
視界に入ったリフト。それ自体は別にどうという事は無い。問題は搭乗者だ。

「(今見えた影……明らかに清掃員の格好ではありませんでしたね…それに影が二つ……)」

仲介者の中で疑惑が首をもたげる。
べネフィートも気付いているだろうか。あのリフトの搭乗員に。
もし彼も気付いて疑念を持ったなら、何かしらの方法で探るだろうが……念には念をだ。

右手の指二本で眼鏡を押し上げ、視線をガラスの壁――不審な人影の見えたリフトに向けて投げかけた。
どこかで自分を見ているだろうべネフィートに対し、サインを送る。
この時既に、取引開始から30分が経過していた。

【べネフィート→サインを送る:リフトに怪しい奴が二人いるぞ、可能ならば始末しろ】
【ルイーネ→とんだセクハラ発言、今は適当に話を合わせてくれ】
90 : ベネフィート ◆xmrGHZzwWo [sage] : 2012/02/14(火) 23:17:13.88 0
今回の仕事の取引主、その仲介者たる彼……名前は何と言ったか
……どうも他人の名を覚えるのが得意ではないので思い出せないが
ともかく、“彼”が少し離れた場所に居る少女に向かって歩きだした時
ベネフィートは庭園内の喫茶店でも端の席。周りのソレとなんら変わりのないテーブルに着き、呑気に四皿目のサンドウィッチを頬張っていた
“彼”に誘われてノッた今回の話だが……正直な所、変化の無い状況に退屈を感じつつあったのも事実だったので
“彼”の行動はベネフィートの意識をサンドウィッチから引き離すのに十分効果的であった

(おや?)

今回の取引相手であるという男は、目の前にいるというのにどうしたと言うのか……?
ベネフィートは“彼”の行動の意図を理解しかねた
もしかすると、あの少女が“彼”が警戒していた脅威の一部だとでも言うのか?
……とてもそうは思えないが、人を見かけで判断するわけにもいくまい
だというのならばそろそろ自分の出番が来るのだろう
予想される攻撃を捌き、喧嘩慣れしていない“彼”を回収し、撤収する
そんなベネフィートに与えられたロールが機能するということだ

“彼”と少女、そして例の男から目を離さないようにしつつ、皿の上に残っていたサンドウィッチを急いで食べきり、伝票の下に料金分の紙幣を滑らせる
これで、いつでも動き出す準備は出来たわけだが
それでも“彼”は動き出さない
やれやれ、杞憂だったか。と、ベネフィートが考え出した時、“彼”が動いた
……と言っても、少女や男に対して何らかの行動を起こしたわけではない
右手の指二本で眼鏡を押し上げる動作、確か……『あちらを見ろ』だったか?
“彼”がちらりと見た方向を向くと、そこには見事なまでに磨き上げられたガラスの外壁と、作業用のリフト
そして、明らかにその場にそぐわない格好の男と獣人の少女が居る

(調べろ、場合によっては……ということですかね)

ベネフィートはスーツの内にある二つの得物の確認をし、ふぅ、と浅いため息をついて席を立った
そして、軽い足取りでリフトの方へと近づき、何の気もないように、側の換気用の窓を開けて、顔を出す
何事も、第一印象が大事である、ベネフィートは、少なくとも口元だけは爽やかな笑顔で、サングラスに隠された顔をバンダナの男と獣人娘に向けた

「やぁ、どうも……いいお天気ですね、そんな所でデートですか?」

【調査のため、トト&アッシュと接触】
91 : アッシュ@代行 ◇T59d.omBjU [sage] : 2012/02/15(水) 20:01:04.72 0
全速力で階段を駆け上がる。
48階というとてつもなく長い階段だが、エレベーターが使えないとなるとしょうがない。
>「流石に階段で行くのは無理にゃ」
あっという間に追いついてきたトトちゃん…やはり獣人の身体能力は計り知れない。
「何か良いアイデアでも?」
>「安心するにゃ、方法ならあるにゃ」
トトちゃんが指差した先には一生懸命お仕事をする清掃員さんの姿が…!
>「エレベーターには敵わないけど、階段よりはマシにゃ」
確かに…確かにその通りだが流石に可哀想な…
>「ここから落されたくなかったら大人しくしてるにゃ」
oh……
行動が早い。
俺が止める間もなく、窓ガラスを切り裂きリフトに飛び乗った。
ここまできたらしょうがないよな…乗るしかない。
「いや~ごめんね。ちょっとこっちも野暮用でさ。」
この人もお気の毒に…俺達のような面倒なのに目をつけられて。

>「間に合いそうにないにゃ」
トトちゃんがふと漏らした言葉に反応し、時計を確認する。
「あっちゃ~。こりゃちょっとまずいかも…。」
万が一間に合ってもギリギリ…十中八九間に合わないとは思うけど…。
「よ~しそろそろこの辺で…」
>「てめぇ何してんだ」
「へ?」
清掃員さんの腕をトトちゃんがひねりあげている。
清掃員さんの手には警報スイッチが握られていた。
グッジョブ!
よくやったトトちゃん。
「ただでさえ遅れているってのによぉ、何してんだよ
 もう頭にきたぞ、本当は何もするつもりはなかったが、お前のせいだからな」
でも…あの…その……殴り倒すのはどうかと…。
一応手加減はしてるんだろうけどさ。

リフトが止まると、トトちゃんはその場にしゃがみこむ。
俺も釣られてしゃがみこみ、リフトから中の様子を確認する。
92 : アッシュ@代行 ◇T59d.omBjU [sage] : 2012/02/15(水) 20:01:38.44 0
多分ここは48階…だと思う。
だってスタンプの旦那と取引相手っぽい人が居るんだもの。
マズったな…もうちょい下で降りる予定だったんだけど。
>「なんでにゃ?なんでルイーネがいるにゃ、それに何か様子がおかしいにゃ」
「なぬっ!…あ、マジだ。」
トトちゃんの言う通り何故だかルイーネちゃんの姿があった。
この馬鹿でかいビルのよりによって48階に居るなんて…運命感じるわ!

取引相手と思われる男はルイーネちゃんにも話しかけている。
ルイーネちゃんは今回の件に関わっていない筈…。
という事はスタンプの旦那にとっても不測の事態が起こってるわけだ。
まったく悪い事ってのは重なるもんだな。
>「やぁ、どうも……いいお天気ですね、そんな所でデートですか?」
……そんなに重ねなくてもいいじゃん。
神様の馬鹿。
換気用の窓から顔を出しているサングラスをかけた男…十中八九敵。
というより敵と考えた方が良い。
俺は半ば観念して立ち上がり、にこやかな笑顔をサングラス男に向ける。
「どうもどうも。今日は兄妹水入らずでデートでしてね。
 天気が良いからリフトを借りてリフトデートをしていたところです。」
93 : 名無しになりきれ : 2012/02/15(水) 22:58:39.15 0
パァーン







ヴィク…
94 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/17(金) 00:53:44.82 0
uiuyyiuy
95 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/02/17(金) 04:43:10.64 0
>>84 GM スタンプ&仲介人

人間には2種類存在する。
バレンタインデーが終わった後に笑ってる人間と、そうでない人間だ。
ちなみに、語り部はどちらかというと前者に分類される。今年は3つもらった。母親と祖母とバイト先の子が配っていた義理チョコだ。

ではルイーネ・アイゼンツォルンの上司、スタンプ・ファントムという男はどちらに分類されるのであろうか?
――少なくとも、彼が今日次の機会にもらえるはずだった義理チョコを一個減らしてしまったのは間違いないようだ。

【48階・大庭園】【with 仲介者】

>「こんにちはお嬢さん、スタンプさんのお知り合いだそうですね。一緒にお茶でも如何ですか」
>「コーヒーでもどうですか?それとも紅茶派でしょうか?」

気付かれないように様子を覗っていたつもりのルイーネであったが、残念、全然バレていた。
おまけにスタンプの客人は結構剣呑な方であるらしい。
ルイーネはこういった現場での推理力に関してはずぶの素人だ。状況がさっぱり把握できていない。
しかし、仲介人が垣間見せた強烈な殺気に気がつかないほど、ドワーフ娘は鈍くもない。ハルバーディアーとしての六感が告げる。

こいつは敵だ。

スタンプから発せられる只ならぬ気配が裏付けとなる。


>>85-86

「H×Hは面白いですね」

しかし残念。語り部がWJで一番好きな漫画は『magico』である。

「特に作者が毎号ちゃんと描いてるところに好感が持てます」

うん、それ普通なんだけどね。
96 : セガ社員 忍法帖【Lv=10,xxxPT】 [sage] : 2012/02/17(金) 05:29:12.29 0
別に魔法と科学は融合出来るよ!?♪。
97 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/02/17(金) 05:46:31.71 0
>>88 GM スタンプ&仲介者

はい、ここで残念なお知らせ。
語り部が良いお知らせを持ってきたことがないというツッコミはこの際気にしない。アーアーキコエナーイ(゜Д゜)
ルイーネは現在ハルバードを所持していない。丸腰だ。

どうか彼女を怒らないでやって欲しい。
担いだままカフェテラスに入ろうとしたらホテルマンに止められたのだ。
……まーね。如何に武器所持の規則が緩いつったって流石に限度があるよね。常識で考えて。
と、いうわけで彼女の『柊』は現在48階のクロークに補完されている。

姑息な前振りは以上。さて、何も知らずにノコノコと現われた眼鏡ドワーフの運命や如何に!?


【48階・大庭園】【with 仲介者】

>「スタンプさん、他にもお友達はいらっしゃるのでしょうか?何時頃いらっしゃるので?」
>「…………………………」

(……え?)

自分に害意を向けておいてその反応は一体全体どういうことなのか。
鈍いぜルイーネ。しかし、結果的にその自然な反応が仲介者の判断に迷い生じさせている。結果オーライ。プラマイゼロだ。

>「申し遅れました、私、スタンプさんの友人のジェントリと申す者です。
> 輸入関係の仕事をしておりまして、今回はスタンプさんとある輸入物についての打ち合わせの最中だったんです。
> ……ときに不躾ではありますが、スタンプさんとのご関係は?」

 「あ、はい。ええと――」

>「ああ、コイツ俺の『恋人』なんですよ」

うむ、お見事www
スタンプが止めていなければルイーネはナチュラルに「職場の上司です」と応えていただろう。
この先の会話はまさに突っ込みどころ満載で多いに笑わせてもらったのだが、当のルイーネはあたふたするばかりであった。
ふん、つまらん。刃物だけでなくもっとリアクションを磨いて欲しいものだ。芸人の道は厳しいんだぞ。

それでも……彼の放った『メッセージ』に気がついたのは僥倖と言えよう。

>「……って訳で、麻薬取締官だとか言われても何のことだかサッパリなんですよ。映画の見すぎじゃないですかね?」

(ああ――そういうことでしたか。って、無理あるでしょ!?)

ここに来てようやく事態を把握できたルイーネ。なるほど、ボスは仕事中であらせられる。
目の前にいるのは犯罪者。ロリコンは合法だ。セクハラもこの場合グレーとしよう。
ルイーネの灰色の瞳が半眼となる。

「あら、お仕事中だったんですかー?お邪魔してすいませんでした~」

言いつつスタンプの腕にすがりつくドワーフ娘。その構図――まさに犯罪。
しかし、先のお礼に靴の爪先をしっかり踏んづけておくことも忘れない。

「実は私、“友達”と待ち合わせしてるんですけど、ちょっと早く来すぎちゃって……ねえ、ダーリン。もう少しここにいても、いい?」

演技力、皆無wwww しかし、これで選択肢は広がった。
ルイーネはスタンプこう尋ねているのである。即ち、「自分はここから離れるべきか、否か」と。


【こうですか?セクハラ上司殿】
98 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/02/17(金) 22:38:47.00 0
おや、まだ幻影旅団があらわれrない
99 : トト ◆WD5pUJgsds [sage] : 2012/02/20(月) 16:52:53.41 0
アッシュと共に暫し中の様子を伺う。
スタンプの話の中でルイーネのことは一言も出ていない。
いくら経験豊富なドワーフ言えども、ほんの数日前まではただの一般人を
麻薬取引という危険な場所に呼ぶほどスタンプは浅はかな人間ではないはずだ。
となると、これはトラブルということだ。
ならば、尚いっそう行動には注意をしないといけない。
そう考えを巡らせている途中、窓が開く音が聞こえた。
>「やぁ、どうも……いいお天気ですね、そんな所でデートですか?」
この状況の中で声を掛けられるとは思っても見なかった。
驚きで全身の毛を逆立てながら、声の主のほうへ向きを変える。
そこにいたのは、換気用の窓から顔を覗かせるサングラスの男
おそらく、あの取引相手側の人間と見ていいだろう。
ただの一般人が態々その程度のことで聞いてくるとは思えない。
となると、こいつの仕事はアイツの警護と邪魔者の排除と考えてもいいかも知れない
非常にマズいことになった。
>「どうもどうも。今日は兄妹水入らずでデートでしてね。
 天気が良いからリフトを借りてリフトデートをしていたところです。」
笑みを浮かべながらサングラスの男に嘘をつくアッシュ
だが、それでは駄目だ。
何故ならば、今足元でのびている清掃員について説明できなくなるからだ。
「た、助けてください!!!この人誘拐犯なんですぅー!」
怯えてた眼差しでサングラスの男にそう訴えかける。
あえてアッシュを誘拐犯に見せかけることにより、
のびた清掃員とバレバレな嘘の理由をでっち挙げることが可能になった。
さて、ここからが問題だ。
相手が何かしらのアクションを見せる前に、このグラサンが引き上げる状況を作らねばならない
出来ればアッシュと揉み合う振りをして、上昇か緊急スイッチを押せればいいのだが
はっきり言ってうまくいく気がしない。
アッシュからしてみれば、これは突拍子も無いアドリブであり
グラサンもとい、売人側からしてみれば、どちらにせよ取引の邪魔だ。
さぁどうなる?
100 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/22(水) 01:00:05.05 0
【>>トト、アッシュ、べネフィート】

「(………………… あ、頭が…………割れる……)」

48階という高所で、奇妙な三人の邂逅が為された時。
偶然にも、清掃員は頭上で繰り広げられる会話を目覚まし代わりにぼんやりと意識を取り戻した。
頭が上手く回らない清掃員が理解できた事は一つ、余り穏やかとは言えない空気が流れていることだけ。
そして清掃員の意識を完全に覚醒させたのは、

>「た、助けてください!!!この人誘拐犯なんですぅー!」

他でもない、清掃員を気絶させたトト本人の助けを求める大声だった。
清掃員は薄眼を開け、リフトを乗っ取った謎の二人組の様子を伺う。
虎娘も銀髪の男も、意識をある方向に集中させており、清掃員が意識を取り戻したことには気づいていない。
悟られぬよう、ゆっくりと身を起こす。
換気用の窓から顔を覗かせる男と目が合い、咄嗟に人差し指を唇に当てる。

「(にゃろう、俺の聖地(リフト)を乗っ取っておいて――――!)」

敵意剥き出しの目でトトとアッシュを見据え、唇を噛む。
清掃員は二人を、完全に敵とみなしていた。
気絶してからも手放さなかったハンドワイパーを力強く握り締め、予備のもう一本も反対の手で掴む。
そして、彼にとっての聖地を乗っ取った憎きリフトジャックに向け、二本のハンドワイパーが振り下ろされる!!

【 >>ルイーネ】

>「あら、お仕事中だったんですかー?お邪魔してすいませんでした~」

息の詰まるような空気の一瞬――ルイーネの瞳がすぅーっと細められたかと思えば、
無邪気にスタンプの腕にしがみつき、「あどけない恋人」を見事演じてみせた。
ルイーネはこの状況を理解したのか、瞬時にスタンプに話を合わせてくれた事にひとまず感謝すべきか。
これで爪先を踏んづけてこなければ完璧なのだが。
ドワーフ娘の仕返しで引き攣りそうな口元を無理矢理真一文字に結び、なんて事はないと言いたげな表情を作る。
仲介者はそんな二人を未だ猜疑の目で見つめていたが――。

「(杞憂でしたか……脅威とは足りえませんね。)」

一先ず、ルイーネは自分の身の危険を脅かすに足らない存在だと認識した。
挑発のつもりで微かに殺気をちらつかせたが、ルイーネは反応を示さなかった。
つまり、彼女は一般人だ。脅迫材料として利用出来る確率もぐんと上がった。

>「実は私、“友達”と待ち合わせしてるんですけど、ちょっと早く来すぎちゃって……ねえ、ダーリン。もう少しここにいても、いい?」
「「!」」

二人は同時に反応し、瞬時にそれぞれの思惑を巡らせる。
101 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/02/22(水) 01:00:33.19 0

「(奴さんはルイーネを俺への牽制に使う気だろう。となれば、ここは退場させた方がいいかもな)」

「(『私が彼女を自身への牽制として利用する筈、だから此処は一先ず距離を置かせた方が無難だろう』
 ……と、彼(スタンプ)は思っているでしょうね。そうはさせません、貴方の化けの皮を剥ぐ絶好の機会です)」

「(更にあちらさんは絶対俺という存在を危ぶんでる、ルイーネを使って何が何でも俺という脅威を知りたがる筈だ。
 トトとアッシュに『一般人を巻き込むな』と言った手前、俺も『現在』一般人であるコイツを巻き込む訳にはいかない!)」

「(もし私が彼なら、絶対この少女を巻き込む訳にはいかないでしょうね。ますます利用し甲斐があるというもの!
 ―――――――――だが、ここで一つ問題が発生する!”この場での私と彼等の立場”!)」

「(幸いこの質問に答え、ルイーネの行動に自由と牽制を掛けられるのは俺の方だ!
 どんなに奴さんが頼んだ所で、立場上恋人である俺が『帰れ』と言えばルイーネはこの場から退場出来る!)」

これだけはしたくなかったのだが、仕方ない。仲介者は渋い顔で、眼鏡をクイ、とあげた。
スタンプはルイーネへと振り返りかけた、その時。

「がっ!?」

若い女性の悲鳴、陶器がけたたましく割れる音とが同時に響き渡った。
次いで、弾丸が如く飛来した白いカップが見事スタンプの額にブチ当たり、テーブルに突っ伏した。
三人が座るテーブルに視線が集まる。
ウェイトレスが転倒したらしく、「すみません」を繰り返しながら割れたカップの欠片を拾い集める。
皆が視線をウェイトレスに集める間、仲介者は素早くスーツの袖の下から注射器の先を出した。

「お、お客様、大丈夫ですか!?」

ウェイトレスが、コーヒーを引っ掛けてしまったお客、ルイーネをタオルで拭いているその時、
即効性の睡眠薬をチクリとその首筋に素早く刺した。

「――君、友達が君のドジのお陰でカップで頭をぶつけてしまってね。ちょっと救急室からお医者さんを呼んでくれませんか?」
「はっはい!」

ウェイトレスが慌ただしくその場を去り、仲介者は密かに唇の端を吊り上げた。
誰が思っただろうか――先のウェイトレスが、仲介者の仲間であった等と。
ルイーネは気付くだろうか――先程のウェイトレスが、巧妙に化けた、隣に住むあのハーフエルフであると。

ウェイトレスが派手にコーヒーをぶちまけたのは、女優歴の長いあのハーフエルフだからこそ為せた演技だ。
考えたくなかった万がいち――もしも対象を何らかの形で連れて帰る場合の合図が実行されたのだ。
「どんな手を使ってでも気絶させろ」。正直無理があったが、これで彼女ごと連れ出せる口実が出来た。

「中々きませんね、お医者さん…仕方ありません、私が病院に連れて行って差し上げましょう。幸い、今日は来るまで来てますからね」

後は二人を誘拐して正体を割り出し、場合によっては始末すればいいだけの話だ。
携帯電話を取り出し、べネフィートへメッセージを添えたメールを発信する。

『計画変更、一時撤退します。危険因子の駆除は任せました』


【リフト組→清掃員、トトとアッシュに殴りかかる】
【ルイーネ→スタンプ気絶、車で送って差し上げましょう(撤退&誘拐フラグ)】
102 : ベネフィート ◆xmrGHZzwWo [sage] : 2012/02/22(水) 21:32:57.24 0
>>91 >>99 >>100-101
>「どうもどうも。今日は兄妹水入らずでデートでしてね。
>  天気が良いからリフトを借りてリフトデートをしていたところです。」

バンダナの男が、ミントの味でもしそうなほど清涼感のある笑顔でベネフィートの問いに答えた
だが――
(……どう考えても、嘘でしょうね)
先ほどまでしゃがみこんでいた意味、彼らの足元で伸びている清掃員
そして何より、隠しきれていない男の警戒心
それらが男の発言から信憑性を奪っている
とはいえ、無闇にアクションを起こす様な事は好ましくない
要は“彼”の邪魔さえさせなければいいのだ、無駄な労力は使いたくない
ここは一度男の嘘に乗っておくか、そう思った時だった

>「た、助けてください!!!この人誘拐犯なんですぅー!」

隣のトラ娘がそんなことを言い出した
(墓穴、ですね)
思わず、ベネフィートの口元が湧き上がる愉悦に歪む
彼女の発言のお陰でベネフィートは『男を取り押さえる口実』を得たのだ、それも仕方あるまい

「なるほど、そうなのですか……失礼ですがお兄さん、少しこちらでお話を伺いましょうか?」

先ほどと変わらない笑顔で、しかし、心持ち冷ややかな声でベネフィートがバンダナの男に尋ねる
幸い、換気用とはいえ、今ベネフィートが開けている窓は大きい
ベネフィートの身体能力であれば這い出てリフトに飛び移る位は容易である

だが、今にも飛びかかろうとしたベネフィートを、止める二つの事態が発生した
1つは、リフトに乗る作業員が起きた事だ
作業員は、こちらに静かにするようにサインを送ったかと思うと、あろうことか二人に手持ちのハンドワイパーで殴りかかった
しかし、ベネフィートはそれを止めなかった
ベネフィートを止めたもう一つの要因は、ベネフィートの携帯がこの場にそぐわない軽快な電子音を奏でたことである
“彼”からの、計画の変更を伝えるメールが届いたのだ

「失礼、すぐに終わらせます」

ベネフィートはリフトの上の2人(3人)に微笑んでそう言うと、“彼”に返信する
《変更了解、私はリフトの2人の足止めをしておきましょう》
メールを送ると同時に、ベネフィートは再びニヤリと笑った
103 : アッシュ@代行 ◇T59d.omBjU[sage] : 2012/02/23(木) 21:01:15.58 0
>「た、助けてください!!!この人誘拐犯なんですぅー!」
…なん……だと…!?
ここにきて俺を誘拐犯扱い!?
裏切るつもりかトトちゃん!
いや…まてまて…短い付き合いとはいえトトちゃんが俺を裏切るなんてあり得るわけがない!(と信じたい!)
ここはトトちゃんに乗っかって誘拐犯になりきってやる…
>「なるほど、そうなのですか……失礼ですがお兄さん、少しこちらでお話を伺いましょうか?」
サングラスの男は窓からこちらに飛びかかる体勢をとった。
来るかっ……いや、来ない。
視線をこちらに向けたまま一瞬動きを止めると、男の携帯から軽快な電子音が聞こえてくる。
>「失礼、すぐに終わらせます」
「ごゆっくりどう…ぞっ!」
俺は振り向きざまに裏拳でハンドワイパーを2本へし折る。
トトちゃんが俺を誘拐犯にしたてあげた理由は倒れていた清掃員さんの理由を仕立て上げる為か…今頃気が付いたよ。
あの男がこっちに飛びかかるのを躊躇したのは清掃員さんがハンドワイパーを振りかぶっているのが見えたから…
「暴力は良くないなぁ清掃員さん。今回は見逃すけど…次は無いぜ?」
清掃員さんが俺だけじゃなくトトちゃんにも攻撃しようとしているのを見られてしまった以上、俺とトトちゃんが共犯者という図式が男の中で確立されてしまっただろう。
…もしかしたらとっくに確立されていたのかもしれないが。
「時に妹よ、俺達が傷付けちゃいけないのはターゲットだけだったよな?」
念のため確認。
あくまでも傷つけちゃいけないのはターゲットであり、麻薬組織関係者全てを傷つけていけないわけじゃない。
何よりあの男がそう簡単に見逃してくれるとは思えないし。
あの窓からリフトに乗り移ろうとしていたという事は身体能力には自信がある筈だ。
「あのグラサンは俺が何とかしよう。2人揃ってこれ以上足止めをくらうわけにはいかない。」
小声でトトちゃんに告げ、男が待ち構える窓へと跳び蹴りで飛び込む。
「ダイナマイト・エントリー!」
…そこ!パクリとか言わない!
104 : トト ◇WD5pUJgsds [sage] : 2012/02/26(日) 19:32:42.07 0

怯える素振りをしながら、トトはサングラスの男の出方を伺っていた。
サングラスの男は不敵に微笑む。どうやら、やるつもりのようだ。
しかし、その様子はトトが想定していたものとは違っていた。
銃を取り出し狙いをつけようとする訳でもなく、体を乗り出し
まるでそこから出てこようとしているように見えた。
「(こいつ何を考えているにゃ)」
縦横無尽に町を駆け回るトトもそんな真似をしようとは考えない。
何故なら、この高さに加え、ガラス張りの壁には掴めそうな取っ掛かりも無い。
翼や飛行能力があるならまだしも、常人ならばそのまま落下するのが目に見えている。
ベネフィートがこちらへ飛び移ろうとしているのを露知らず、
トトはベネフィートの一挙一動を警戒していた。

徐々に空気が張り詰める中、軽快な電子音がソレを破った。
どうやら、サングラスの携帯らしく、彼はそのまま携帯を確認する。
それを確認した瞬間、アッシュの裏拳がトトの頭上を掠め、清掃員が振り下ろしたワイパーを弾き飛ばす
「!?」
肉食獣の視野は狭い、それは人と獣の割合が4:6ぐらいの獣人であるトトも同じで
純人種や純人種よりの亜人種よりもやや狭い、それゆえに普段から周囲を意識しているのだが
今回はサングラスに集中するあまりに、背後の清掃員に全く気がつかなかったのだ。
この時点で、アッシュを誘拐犯に見立てた三文芝居がバレた上
一層自分たちが怪しさをアピールする結果になってしまう。
「殺さない程度に痛めつけるのは大丈夫にゃ、多分」
アッシュの問いかけにそう返す。
どうやらアッシュがあのサングラスを引き付けるようだ。
それを確認すると、視線を中へ移す。
詳しくはわからないが、状況は悪化しているように見える。
もはや一刻の猶予もない。
アッシュがサングラスのいる窓に飛び映ると同時に、トトは窓を突き破って店内へ突入した。
105 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/02/27(月) 20:49:49.56 0

誰がこの事態を想定したであろうか。いや、誰もしていない(反語)。
夜明け前のテンションで登場させたNPCがよもやこのような形で牙を剥いてくるなどとっ!

彼女の名前はユヅキ・シェスティナ・ローエンブレア。日系のハーフエルフである。
デビュー当時の1950年代。
映画が発明されたばかりの時代、彼女の出演はエルフ・純人両種族にとって非常に衝撃的な大事件であった。
ハーフとはいえエルフがスクリーンであんなことをっ!?
エルフのコミュニティは往々にして閉鎖的であり、かつ高所得者が多いためそっち系の仕事をする女性は非常に稀である。
まさかそのような時代が来るなどと、かつては誰も考えたことがなかったのだ。
神社の巫女さんを思わせる清楚なビジュアルとハードな絡みは今も業界随一と評され、
芸歴70年の間に出演したビデオ(映画含む)の本数は10000本を突破。ゲネスワールドレコードにも登録されている。
ゲネス何やってんの!?
彼女の初期出演作品は現在百万ドル単位で取り引きされるほど希少価値があるという。
新米ユーザーから老紳士まで、幅広く愛されている彼女――シェスティナは世界が誇る大女優なのだ(あっちの業界で)!

そんな彼女が何故犯罪者の片棒を担いでいるのか。

……それには深いわけがあった。
どうやら彼女が今育てている息子の父親に関係しているとか、いないとか。
というわけでGMさん、あとは任せた。

(――いや、そこでパスされても困るから!!)

おやおや、ルイーネ。誰に突っ込んでいるのかね。まあ言いたいことはわかる。
語り部とてその気持ちは一緒だ。頑張れ。ベストを尽くせ。
106 : ルイーネ ◆4XLpJjDayU [sage] : 2012/02/27(月) 20:50:17.10 0
【GM(スタンプ&ジェントリ)、トト】

>「中々きませんね、お医者さん…仕方ありません、私が病院に連れて行って差し上げましょう。幸い、今日は車で来てますからね」

一部勝手に変更・解釈させていただいた部分についてはお許しを。
とりまテーブルに突っ伏してしまったスタンプ・ファントムの危険が危ない。
無論ルイーネはウェイトレスの正体に気付いてなどいない。
だが、ボスの昏倒にはルイーネの目から見ても明らかに不審な点があった。

先のゲオルグ事件の際に自分を止めた身のこなし。
あれ程の動きが出来る人間がカップをぶつけられた程度でこうも簡単に崩れ落ちるものだろうか。
ドワーフは考察する。

薬物――古より多くの英雄がこの力に屈してきた。
力なき者が己が野望を手にするために、標的を歴史の闇へと葬り去るべく用いる外道にして確実な常套手段。
もっとも、神話においては英雄すらもこの力に頼るときがあるのだが。

(何にせよ、ここから連れ去られるのはまずいですね……)

ジェントリと名乗ったこの男が犯罪者であるのは間違いない。
仲良く車に詰め込まれるなど以ての外だ。どうする、ルイーネ。

「え、ええそうですか。車で。それは助かります!」

策はなし。言われたことのオウム返し。しかし、行動は起こす。
ルイーネはスタンプの肩をとり、担ぎあげた。スタンプの体重は不明だが、本来なら小柄な女性が運ぶには無理がある。
しかし、ドワーフの怪力は伊達ではない。
少なくとも目の前の男の手に委ねるよりは幾分マシというものだ。

(ああ、でもどうしよう。このまま私が一人で病院まで運ぶって言ったら確実に怪しまれるだろうし……)

ルイーネの脳裏に浮かぶのは「撤退」の二文字。
だがそこへ新たな展開が持ち込まれた。

店内にガラス窓の割れる音が響きわたり、見知った顔がそこにあった。トト・リェンだ。

【スタンプを担いでオロオロ】【遅れてすいません】
107 : ベネフィート ◆xmrGHZzwWo [sage] : 2012/03/01(木) 23:27:55.92 0
>「ダイナマイト・エントリー!」

バンダナの男がベネフィートを目掛けて飛び蹴りを放つ
それと同時に、獣人娘の方もガラスを突き破ってビル内に突入した
ガラスの割れる激しい音と、二人の闖入者に大庭園のあちこちが騒然とする
そんな中、ベネフィートは男の飛翔を認めると共に、身を捻り最小限の動きで男の攻撃を躱した

「これはまた……お盛んな兄妹ですね……ッ!」

ベネフィートは左手で、懐にしまってある拳銃を探りつつ
内心の焦りを隠すように見る者の気が薄ら寒くなる笑みをベンダナの男に投げかけた
勿論、視界の端にはしっかりと獣人娘を捉えている
(さてさて、“彼”の邪魔をされない程度に、なんて出来るのでしょうかね……)
相手は2人、否、あの獣人娘はバンダナ男にベネフィートを任せ、“彼”を狙うだろう
その様な状況でも足止めをし続ける自身はベネフィートにはなかった
(……となると、私がするべきことは――)
――片方を素早く叩き、もう片方をヤる、といった所か
ベネフィートは契約を守れそうにもない自身の情けなさにため息を吐き
再度、正面を見据える

「先に仕掛けてきたのは、そちらですよ?」

言うやいなや、ベネフィートは左手で素早く銃を構え
少し離れた位置にいる『トトに向かって』二度引き金を引いた
108 : アッシュ ◇T59d.omBjU [sage] : 2012/03/04(日) 11:56:43.70 0
ちっ…!
外したか…。
鮮やかな身のこなし方だこと……やっぱりただ者じゃねぇな。
「何ニヤついてんだこの野郎…。」
野郎は気分悪くなるような笑みを投げかけながら左手で懐を漁っている。
>「先に仕掛けてきたのは、そちらですよ?」
懐から取り出した手に握られていたのは、拳銃。
…銃口は俺にではなく別に向けられていた。
野郎…俺じゃなくトトちゃんに…!
「トトちゃん!!!」
俺は野郎を見据えたまま大声で叫ぶ。
野郎から視線を外す余裕は無い。
トトちゃんが無事に銃弾を外していてくれる事を祈り、俺と野郎との距離を一瞬で潰す。
「おイタはいけねぇなぁ…大切な妹が傷付いたらどう責任取ってくれんですかー!?」
至近距離なら銃は脅威にならない。
そしてこの距離は俺の距離…!
「くたばりやがれー!」
某エリート戦士のような掛け声と共に拳の雨が野郎を襲う……が。
…当たらない!
俺の拳はことごとく空を切る。
一発…一発で良いんだ。
一発当たるだけでも十分にダメージは与えられる筈。
しかし…
「当たらねー!うぜー!……ま、まあ別に良いし!お前倒すのが目的じゃねぇし!」
負け惜しみ…?
アーアーキコエナイー。

109 : トト@代理投稿[sage] : 2012/03/05(月) 03:24:33.81 0

突入と同時にスタンプとルイーネの様子を確認する。
ぐったりとルイーネにもたれ掛っているところから何かされたのは確かだ。
血は出ていないようだが、毒を盛られた可能性もある。
視線を取引相手に移す。
突然の出来事に唖然としているのか、動く気配はない。
ルイーネ達とも少しばかり離れているのであれば、人質を取られる直前に拘束することは可能だ。
ある程度の状況を把握し、トトはバンプス戦のときの用に脚に力を溜める。
姿勢を低くし、相手にタックルを仕掛けようとしたその時、
銃声と共に、銃弾が右腿を打ち抜いた。
「がぁぁぁぁ」
肉食動物が最も隙を見せるのは、得物を狙う瞬間だとよく言うがまさに今のトトはそれだった。
目標に集中しすぎて、ザングラスの男の挙動に全く気がつかなかったのだ。
「…てんめぇ…!!!」
床に這い蹲りながら、サングラスの男を睨みつけるが、状況は悪化する一方だ。
千載一遇のチャンスをふいにし、目標を前にしてこの様だ。
「…フゥ…フゥ…フゥ…」
トトは呼吸を整えながら、目を閉じ普段微塵も信仰していない神に祈った。
「(あと一回チャンスをくれとは言わない、
  ただ、こいつが手負いの虎を人質に取るような愚か者であってくれ)」
脚を怪我した者を人質にする奴はいないことをトトも十分理解していた。
人質を取る理由は二つある。
誘拐犯やテロリストのように自分たちの意見を強制的に聞かせる場合か
安全に逃走する為の取引材料として利用する
この二つだ。仮にこの状況で人質を取るならば、後者に当てはまるのだが
その際、脚を負傷している者を人質に取った場合、確実に足手まといになるからだ。
「(ちょっとでもいい、この手に届く範囲まで近づいてくれば)」
110 : GM ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/03/09(金) 23:37:02.64 0
>「え、ええそうですか。車で。それは助かります!」

期待通りの反応に、仲介者は僅かに唇の端を吊りあげ頷いた。
順調だ。このまま車に乗せ、アジトまで連れ去ってしまえばこちらのもの。
あとはじっくりと「詰問」し、正体を探るのみ――。
だが満足げだった仲介者の表情も、次の瞬間には破顔する。
何せ、見た目幼い少女が何の躊躇いもなく大の男を担いだのだから。

「(何という怪力……暴れられたら大変でしょうね)」

念の為、車に乗り込んだら彼女も眠らせなければ。そう判断し、「さあ、こちらへ」と促したその時。
仲介者――ジェントリにとって、最も最悪たる事態が起きてしまった。

飛び散る硝子の破片。沸き上がる悲鳴。騒然とする室内。
ハリウッド映画張りにダイナミックに降り立つは、ゴスロリ姿の虎娘。
虎娘の標的が明らかに自分であることは、殺気立った目を見れば明らかであった。
ここで普通ならば、不測の事態にパニックを起こすだろう。
しかしジェントリはアクシデントには慣れていた。不自然な程冷静でいられるほどに。

「トトさん!?」

隣でルイーネが驚愕の表情を浮かべる。成程、彼らは知り合い同士のようだ。
思わぬ情報が手に入ったとほくそ笑む。彼らとスタンプの関連性も掴めそうだとも気付いた。
虎娘は脚部に力を溜め、今にもこちらへ特攻せん勢いだ。
無意識のうちに、仲介者は盾としてルイーネの肩を掴んだ。その瞬間。

>「がぁぁぁぁ」
銃声が轟き、虎娘の太腿を弾丸が貫いた。室内は更に混乱を極める。仲介者はチラリとべネフィートへと視線を向ける。
ルイーネが駆け寄ろうとしたが、仲介者が肩を強く掴んでいる為動くことも出来ない。
キッと鋭い灰色の瞳が仲介者を射抜くが、まるで動じない。

「放して下さい!あの人は……」
「お友達ですか?随分とやんちゃですね。まるで子猫です」

更に批判的な視線を受けたが、さらりと流して続ける。
「急ぎましょう、ルイーネさん。このままだと警備員さんに捕まって、スタンプさんを病院へ運べなくなりますよ」

そう言って踵を返そうとしたが、ルイーネは動こうとしなかった。スタンプを抱えたまま、足早にトトへと接近し肩を貸す。

「なら、トトさんも一緒に病院に連れてって下さい!!」

少しばかり目を丸くし、やれやれと首を振った。困ったお嬢さんだが、従わなければ梃子でも動かないつもりだろう。
この距離なら万が一の時べネフィートが居る。虎娘もろとも連れて行くのみだと、徐々にその距離を縮めていった。
111 : ベネフィート ◆xmrGHZzwWo [sage] : 2012/03/10(土) 22:39:07.64 0
>「おイタはいけねぇなぁ…大切な妹が傷付いたらどう責任取ってくれんですかー!?」

そう言いながら、男が距離を詰め、その拳をベネフィートに叩きつけようとする
――が、その悉くをベネフィートは躱し、捌き、受け流す
いくらアッシュのパンチが素早く、一つ一つが威力のある一撃でも
その全てを“見て”いるベネフィートにとっては大した意味を持つものではなかった

「そうですね……貴方がお嫁に貰ってあげたらいかがでしょう?」

先刻のアッシュの台詞に、猛攻を避けながら、涼しげな顔で返すベネフィート
だが、彼も心の内に、焦燥を隠し持っている

(隙が見つかりませんね……なかなかどうして、厄介だ)

アッシュの拳を捌き続けるのは簡単だ
しかし、攻勢に転じるのは、現状難しい
2人の間で止まらない膠着状態が続く
ベネフィートは回避行動をしつつ、横目で獣人娘の方を窺った

(ッ――)

“彼”が脚を撃ち抜かれた獣人娘にのこのこと近づいていく
動けなくなった彼女に、わざわざ手を出す必要はないはずだというのに、だ
止めた方が良い、止めなくては
そんな思いがベネフィートの思考を支配する

「すみませんね、貴方の相手をしている暇はなくなりました」

ベネフィートは素早くトレンチナイフを抜きアッシュの攻撃の間に無理矢理捩じ込むようなタイミングでそれを振るった
そのタイミングは、確実に一発貰うタイミングだ
だが、そんなことは気にしてられない
せいぜい、アッシュの攻撃力が吸血種のキャパシティを超えていないことを願うだけだ
112 : ベネフィート ◆xmrGHZzwWo [sage] : 2012/03/11(日) 21:43:25.15 0
一応、保守しておきましょうかね
113 : トト ◇WD5pUJgsds [sage] : 2012/03/13(火) 16:07:47.96 0
虎の狩りはチーターのように脚力でゴリ押すものではない。
また、ライオンのように集団で狩るわけでもない。
ぎりぎりまで接近し、一気に襲い掛かり仕留める、例えるならば暗殺者のような狩り方をする
それは、トトもまたそれに準じている。
気配を消し、尾行し、自分の間合いに引き付け取り押さえるという流れは
刑事時代での黄金パターンであったし
バンプス戦のときのように強引に接近戦に持ち込み決着をつけるのもまた然りだ、
ようは近づきさえすればこっちのものなのだ。

脚を打ち抜かれ、絶望的な状況に置かれていても悲観的にならないのは
自身を見縊り、誘われるように近づいてくる目標がマヌケにしか見えないからだろうか
「お願いがあるにゃ…簡単なことにゃ、私が合図をしたら思いっきり一歩を踏み出してほしいにゃ」
ルイーネの耳元で囁くと、トトは頭を下げうな垂れる。
どうやら動脈が切れたようで、銃創からは止めどなく血が溢れ、顔色も青ざめている。
ルイーネは止めようとしたがトトは首を横に振り拒絶した。
そうしている間にも目標がトトの間合いに侵入してくる。
「今にゃ」
ルイーネに声を掛けると、彼女は力強く一歩前に脚を踏み出す。
それとシンクロするようにトトは目標の腹部に掌底を叩き込んだ。
「十二流発剄『虎吼(ココ)』にゃよく覚えておくにゃ」
おそらく腹部に受けた衝撃で悶えかけている目標に対しドヤ顔を決めると
即座に腕をひねり上げようと掴みかかった。

114 : GM[sage] : 2012/03/23(金) 19:46:03.56 0

「どうしました?今更抵抗しようと無意味ですよ?」

最早本性を隠すことも止め、仲介者は一歩一歩二人へ(正しくは三人へと)近づいていく。
トトとルイーネが密談しあう内容も、些細な抵抗を策しているのだろうと認識する程度。
血液を失い蒼褪めた対象に対し注意など微塵にも払わず、一歩一歩近づいていく。

>「今にゃ」

そしてその一瞬。仲介者が彼女等の間合いに入った刹那。

>「十二流発剄『虎吼(ココ)』にゃよく覚えておくにゃ」

仲介者に隙があったとすれば、まさにその一瞬だった。
トトの力強い掌底が仲介者の下腹部にこれでもかと叩き込まれた。
声を出す事も叶わず、(吹き飛びはしなかったものの)激痛に悶える。
だがそれでも、トトが即座に腕を捻り上げようと飛び掛かった一瞬、横へ回転し避ける。
腹を押さえながらも、千鳥足で立ち上がった。

相手は予想以上に体術に長けていると見た。
動きを封じる為に掴みかかる動作は警察関係特有の動きだ。
――――――マズイ、これ以上相手にするのは得策ではない。仲介者はそう判断した。
もうすぐ騒ぎを聞きつけた警備員たちが駆けつけてくるだろう。
そうなれば事情聴取を受けるなり、彼女等が証言すれば暴行罪なりで現行犯逮捕は免れられない。
特にべネフィートだ。彼は公衆の面前で銃を使用してしまった。

結論・三十六計逃げるが勝ち。

視線をべネフィートに向けた。商談は破綻とみなし、また手負いの身としては1人では逃げられない。

「残念ですが此処は一度退きましょう。流石に目立ちすぎました」

べネフィートに向かって声を掛け、暗に自分も連れて帰るようジェスチャーで指示した。
今は退避が一番だ。彼らとて恐らくは組織に縛られている身。
自分達を逃せば組織から信用を失い、暫くの間は自分達に接触する事はないだろう。
少なくとも、もうすぐ来るであろう警備員たちに包囲されている間は、の話だが。

「トトさん、動かないで!これ以上体を動かしたら体に響きます!アッシュさん、お医者さんを!っていうかスタンプさんは早く起きて!!」

逃げる背後からルイーネの鋭い声が響いてきた。あと5分もすれば警備員たちがくる。
彼らが包囲されれば自分達を追うどころか、トトという女も病院へ連れて行くために警備員たちと追いかけっこをする羽目になるに違いない。
幸い、仲介者の真の正体が知られることはないだろう。彼らに再び相見えることがなければ。

「さーてべネフィート。帰り際に胃薬でも買いましょうか。彼(ビリー)のお説教は胃に響きますから」

そう言って仲介者は苦笑いを浮かべるのだった。

【一撃は食らったものの捕まる前に横回転で回避、ずらかろうぜべネフィートさん】
【5分もすれば警備員たちに包囲されます。その前に何らかの手段を使って脱出を!】
115 : ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/04(水) 12:57:36.54 0
【クライストンビル48階襲撃事件より数日後】

ギルド内で一番背の高く年数を感じる建設物【ギルド・ニューラ―ク支部】の最上階。
だだっ広い部屋には硝子のデスクと一対のベルベット製ソファーのみ。
向かい合って座る顰め面のスタンプに向け、新聞越しに妙齢の女性が言葉を発した。

「『お騒がせアゲンストガード・500万ドルを下らない損害、ギルドの信用崩落か』……どう思う?スタンプ」

トントンと、艶やかな声の主は新聞を指先で叩く。その言葉には棘が混じっている。
新聞紙の外からのぞくエルフ特有の尖った耳をピクリと震わせ、銀にも近い白髪がさらさら揺れた。
窓から見えるクライストンビルは、破損した48階の窓ガラスの修理を着々と進めている。
麻酔針を刺された項を擦り、スタンプは深く溜息を吐いた。


結局の所――――

あの後、仲介者一行を逃し、アゲンストガード達は警備員に包囲され拘束された。
重傷を負っていたトトと薬を打ちこまれたスタンプは病院へ搬送。トトは未だ入院中だ。
アッシュとルイーネは長い事情聴取を受け、その後騒ぎを聞きつけたメルシィが迎えにきたとのこと。
仲介者と赤髪の男――べネフィートは、今のところ所在はつかめていない。
結局、修行どころかニューラ―ク市内を騒がせる一大事件を起こしてしまっただけで終わってしまったのだった。

「新聞に顔が載らなかっただけマシと思いなさいよ、スタンプ。厳罰はきちんと受けて貰うわ。
 ちゃんと反省してくれないと困るのよ。こっちだって処理に追われてるんだから」

呆れ声も意に介さない様子のスタンプに、先が思いやられるわね……と支部長の艶やかな嘆息が漏れた。

「スタンプ・ファントム。ギルド本部及び12支部長会議からの通達よ。
 ギルド条例第135条より、貴方の統括するアゲンストガードチームの解散、アゲンストガード・リーダーの資格の剥奪。
 心配には及ばず。1ヶ月後に新たなアゲンストガード・リーダーが本部から派遣されるわ。
 それまで各アゲンストガードは2人1組のチームを編成し街の巡回に当たること。
 おめでとう坊や、貴方は平アゲガに逆戻りってワケ。事の重大さ、お分かりになられて?」
「ああ……おめでてーニュースだな、そりゃ」

渋い顔で通達を受け取るスタンプに、支部長がクスクスと笑った。
眉間の皺の数を増やし見やると、笑いを止めぬまましみじみとして支部長は言った。

「貴方をアゲガのリーダーに昇格させる時も、ギルド会議では揉めに揉めたわね。
 ギルド設立以来の問題児と言わしめた貴方にリーダーが務まるものか、って……」

スタンプは知ったこっちゃないとばかりに肩を竦める。
立ち上がって踵を返すスタンプの背中に、支部長の些か低くなった声がかけられた。

「貴方自身の信用もがた落ちだし、これからは今までよりやりにくくなるかも知れないわね。貴方も早い所、信頼できるパートナーを探すべきよ」

その言葉には耳を貸さず、スタンプはニューラ―ク支部を後にした。

【エピローグ完了】
116 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/05(木) 22:21:03.15 0
前日談(直接には本編に無関係)
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1224773469/193-194

ワクワクするような冒険がしたい。退屈な毎日なんてまっぴらだ。
増してや現代にありがちな組織に縛られたつまらない大人になるぐらいなら死んだ方が増しだ。
オレは舞台の上で踊る人形。束の間の夢幻と、刹那の享楽を生きる人形。

ニューラーク市内の一角の公園のすべり台の中。ここがオレの目下の住居だ。
親父がある日「解散!」と叫んでこうなったと思ってもらえば大きな間違いはない。
ホームレス中学生ならぬホームレスダンサーである。
これでもつい最近まで、超人気旅芸人一座《幻影旅団》の花形ダンサーだったのだ。

「腹減ったなあ……」

財布の中身とにらめっこ。いくら見ても所持金残り3$。
当初は路上で踊っておひねりでも貰いながら生活しようかと思ったが、子どもに石を投げられるのが関の山だった。
世の中は想像以上に世知辛い。
天下の《幻影旅団》の花形ダンサーがこの体たらく、それもこれも師匠(幻影旅団総元締め)が解散なんかしたせいだ。

―― ギルド連合、お前はアゲンストガードなんかが向いているかもしれないな

師匠の言葉がフラッシュバックする。
横に置いてある、師匠が餞別にくれたガントレットとグリーヴに目をやる。
諦めてアゲンストガードに就職希望に行くか? ――冗談じゃない。
オレは刹那の享楽を生きる人形。組織に縛られるなんてまっぴらだ。
そんな事を考えていると……

「きゃぁあああああああ!!」

すぐ横の通りから、女性の悲鳴が聞こえてきた。
さっきまでの腰の重さはどこへやら、気付いた時にはガントレットとグリーヴをはめ、滑り台から滑り降りて駆け出していた。
困っている人は助けなければいけないとか、悪は成敗しなければいけないとかいう使命感からではない。
もっと不謹慎な理由からだ。
確信に近い予感がする。ワクワクするような冒険が始まる予感がする――!
117 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/07(土) 22:12:01.83 0






――――――P P P P P P P Pッガチャンッ! 


「……………夢かよ、チキショー」

ブラインドから差しこむ日光に青い目を細め、男……もといスタンプは呟く。

随分と現実味の無い夢を見てしまった。酷いものだ。夢の中身は忘れてしまったけれども、とにかく酷かった。
きっと疲れているのだろう。こんな時に限って同じ夢ばかり見る。
景色が180度逆なのもきっと疲れているからだ。決してベッドから落ちた訳ではない。
額と後頭部が重心的に痛みを訴えてくる。額を擦ると血が滲んでいた。
おそらく脇に転がる血の付着した目覚まし時計のせいだろう。
やっぱりベッドから落ちたんじゃないかとか言ってはいけない。

「スタンプー、遅いから迎えに…………どうしたの?その格好」
「よおメルシィ、何も聞くな。出来ればそこの煙草とってくれると嬉しいんだけど」

スタンプの私室のドアを開けた男性(彼自身は女性を自称しているが)、メルシィに
対し答えをはぐらかすと、脱ぎ捨てたズボンやシャツを拾い上げその場で袖を通す。
眉を顰め訝る表情のメルシィが投げよこしたブラックマウンテンをキャッチした所で、はたと何かに気付いた。

「オイ、何でお前が此処に来るんだよ。ルイーネはどうした?」
「あの子は暫くお休みよ。それに昨日言ったでしょ?貴方のパートナーが決まるまでの間は私の助手代わりだって。
 なのに貴方、時間になっても全然来ないどころか連絡一本も寄越さないから心配になってきてみれば……」
「そうだっけ?」
「そ う よ !いい加減覚えなさいこのズボラ!」

ヒステリック気味に叫ぶメルシィを余所に、煙草を咥えて呑気に腹なぞ掻いている。
昔からスタンプという男はこうなのだ。いい加減で不摂生で無頓着。おまけに捻くれ者ときた。
典型的な喪男の部屋を見回し、この男だけは相変わらずねとメルシィは溜息を吐いた。
幾ら時は流れようとも、この男だけは一切変わらない。外見も性格も、出会った当初のままだ。

「とにかく!早速仕事入ったから着いてきてちょうだい!」
「へーへー。……その前に目覚めの一杯h」

「良 い か ら 来 る ッ ! !」

「…………………………………………YES,sir」


ええい、クソッタレ。

118 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/07(土) 22:13:03.16 0

現在地、ニューラ―ク市内ダウンタウン・グラマスの街並み。

メルシィは上機嫌に、その3歩後ろをスタンプが不機嫌そうに歩く。
今日は顧客リストの中にある客全員に販売した魔法グッズの点検ということで一軒一軒回っている。
冗談じゃない。ブラックコーヒーの一杯すら飲まされずこき使われるとは誰が想像しただろう。
先々代アゲンストガードリーダーだってこんな酷い仕打ちはしなかった。これだから女という生き物はロクなもんじゃない。

「(いや、そもそもメルシィは女としてカウントするのか?
  そもそもコイツ、サキュバスかインキュバス、どっちなんだ?)」
「あらスタンプ、何か言った?」
「なにも……腹減ったなって…………」

グラマスは比較的閑静な住宅街だ。学校が2つと幼稚園が1つほどあり、至る所に公園がバカスカ存在する。
そのせいで昼間から嫌いな子供の姿を山ほど見るわ顔を見て泣かれるわでうんざりしてしまっていた。
何も食べていない時に限って子供の泣き声なんかを聞くと尚更神経を削られる。

「(帰りてぇなー。でも帰ったらキレるんだろーなー)」

垣根を挟んで、メルシィは婦人と世間話なぞしている。完全に手持無沙汰だ。
何か面白いことでも起きてくれれば退屈凌ぎになるのに、そう思った直後。

>「きゃぁあああああああ!!」

突如、絹を裂くような女性の悲鳴が上がる。それと同時に、ケリーバック片手にスクーターを爆走させる男がこちらへ接近してくる。

「誰かーーーー!ひったくりよーーーー!」

どうやら事件発生のようだ。取り乱す会話相手の婦人にメルシィは「大丈夫よ」と宥める。
スクーターはこのまま突っ切って逃げ切るらしく真っすぐこちらへ向かってくる。その進行方向に立ち塞がる男達が居た。

「おいおい、チャリンコ相手なら誰でも道を開けるとと思ったか?」

スタンプが仁王立ちで待ち構える。スクーターは止まる気配はない。
このままでは確実に轢殺されること必須。だがスタンプは避けるどころか、スクーターへと突進していく!

「世の中ってのは、お前や俺みたいな小説より脳味噌のネジ外しまくった馬鹿で溢れてんだ。
 つまり何が言いたいかってーと答えは N O だ!! メルシィ!」

スタンプの掛け声に応じ、メルシィが指をパチンと鳴らした。刹那、辺りを突風が吹き抜ける。
このままではぶつかる!その場に居た誰もがそう思っただろう。結論から言えば、そうはならなかった。
助走をつけジャンプしたスタンプの体は僅か一瞬の間宙に浮き、両足を引き寄せるように曲げたまま引ったくりの頭上へ。
引ったくりが避ける間もなく、腹立つ笑顔でその顔にドロップキックを決めかまそうと――――。

「ぶべらばっ!?」

だがここで決まらないのがスタンプという男。思ったよりスクーターの速度が速く、
タイミングを見誤って引ったくりの頭を掠るだけに終わり、見事地面に落下。
「あの馬鹿……」とメルシィは目も当てられず。
しかもスクーターはそのまま逃げ切ろうと、更に速度を上げ、偶々姿を現した銀髪縦ロール少女へと突っ込んでいく!

「そこのガール、危ない!」
「退け、糞ガキィーーーーーーーーー!!」

メルシィの魔法が発動するより、スクーターが少女を轢き殺す方が早いだろう。少女の運命は!?
119 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/08(日) 22:37:04.00 0
「第一幕――ボーイ・ミーツ・ガールは序章の基本だ」

呟きながら、5,6段の公園の階段を一っ跳びに飛び降りる。

>「そこのガール、危ない!」
>「退け、糞ガキィーーーーーーーーー!!」

道から飛び出すと、スクーターの男が激走してくる。
なるほど、絵に書いたような子どもの飛び出しによる交通事故が起こりそうな構図だ。
男の手には、とても本人のものとは思えないケリーバックが握られている。
てめえ、そのツラでそんなカバンをコレクションしてやがるのか! 自分で買えよ!

舞台上でするように、片足を軸に一回転。これが能力発動のスイッチ。
元々は、劇の格闘シーンで使っていた芸事だ。
踊っている間、オレは文字通り重力の枷から解き放たれる。
流星のように宙を舞い、隕石のように地に堕ちる――この舞を、妖星乱舞と人は呼ぶ。

回った動作から続けて、軽く地面を蹴る。羽根のように軽いかのように、ほぼ垂直に飛び上がる。
その下に、全速力のスクーターが入ってくる。
落下に転じるところで体を上下反転させ、巨大な鉄の塊のように重い拳を叩き込む。

「【彗星衝突《ディープインパクト》】!!」

そのまま前転の要領で半回転して地面に着地。恭しく一礼する。
一方向こうさんはその後ろで、バラバラになって飛び散っていた。
窃盗男が……ではなくスクーターの部品が――だ。
拳を叩き込んだのは窃盗男が座っていた場所の少し後ろ、後輪の上あたりだ。
何をぶっこわしてもいい、むしろ物損事故は迫力が出ていいが人身事故だけは起こすな、とよく訓練されていた癖である。
当然スクーターは大破、男は白目をむいて街路樹に突っ込んでいた。
近くに転がっていたケリーバックを拾い、地面にこけているおっさんの頭上でプラプラさせる。
横には彼の連れらしい女装したおっさんがいるし、そっち方面の二人組なのか?

「おっさーん、これアンタの?」

言いながらあれ?と思う。
普通ならここで美少女が出てきて世界の命運をかけた壮大なる大冒険へと誘うんだろ?
これじゃあボーイ・ミーツ・おっさん。否、外見基準で言うとおっさん・ミーツ・ガール。
――あれ? どっちにしろ何か少し違う物が始まってしまう予感がする。
120 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/10(火) 00:00:10.12 0
誰もが予想した最悪の事態は、あらゆる意味で裏切られる形となる。
ワンターンしたかと思いきや、銀髪の少女は風もなく蝶のように舞い上がり。
全速力で爆走するスクーターの真上で全身を上下反転。
その華奢な腕からは想像もつかない破壊力をこめた拳が叩き込まれる!

>「【彗星衝突《ディープインパクト》】!!」

誰もが(正しく道路の真ん中で伸びきったどこぞの駄目親父以外は)その光景に目を奪われた。
恭しくお辞儀する少女の背後でスクーターはスクラップに。
運転手の引ったくりはといえば、街路樹をクッションに気絶していた。
一瞬の沈黙の後、現場を見ていた住民達の喝采があたりに響く。

「んん……あれ?」

その喧しさで、ようやくスタンプが目を覚ます。今日は頭部に凶相が出ているようだ。
ふいに影が差し、頭上を見上げる。妙にド派手な少女がいた。
硝子のような青い瞳がこちらを見降ろし、ケリーバックをぶらつかせていた。

>「おっさーん、これアンタの?」

スタンプの表情が一瞬間の抜けたようになり、今度はムスッと不機嫌を露わにした。

「おっさんて呼ぶな。つーかそこのオカマじゃあるめえし、そんな悪趣味ねーよ」
「何ですってロクデナシ!もっぺん言ってみなさいよ!」

よっこいせと立ち上がると、少女からケリーバックを引っ手繰った。
金切り声で詰め寄るメルシィを押しやり、少女に向けてニヤリと腹の立つ笑顔を寄越す。

「それに、そんな格好で俺の上に立つと、パンティー見られちまうぞ」

しれっとそんな事を言い放った後、何食わぬ顔で駆けつけた元の持ち主であろう女性に渡す。
女性は何度も「有難う」を繰り返しつつ少女の手を握っている。

「本当、何とお礼を言ったらいいか……!」

当然だが、感謝の対象にスタンプは含まれておらず、唇を尖らせそっぽを向いている。
もうすぐ警察が来るであろう、サイレンが遠くから聞こえてくる。

「スタンプ、アンタも何か一言言ったら?」
「ハァ!?何で俺が!」
「あのままじゃあの引ったくりを逃がしてたかもしれないのよ?」

明らかに嫌そうな顔を見せるスタンプ。メルシィの言うことは正論だが。
少女をチラと見下ろすも、直ぐに逸らしてしまい中々言葉を発さない。
大人としての下らないプライドだとか、単に捻くれた性格から感謝の言葉が出なかったりだとか、彼の胸中は複雑だ。
やれやれ呆れた大人だこと、とメルシィは首を振るや、少女と目線を合わせてニッコリ笑った。
121 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/10(火) 00:04:43.94 0
「ごめんなさいね。このオジサン、素直じゃないから」
「だからオジサンっていうな。年だったらお前のが断然50以上も上だろうが!」

バキッ! ゴンッ!

「――おまけに、女性に対してデリカシーもなくて」
「テメ、この……一度打った場所は反則……!!」
「後でお姉さん達が家まで送ってあげるわね。お家はどこかしら?近所?親御さんにもお礼言わなきゃね」

後頭部を抱えて悶えるスタンプを尻眼に、殴りつけた拳から白い煙を発しつつ笑顔をキープ。
代わりに感謝の言葉と勝手なことを述べるメルシィの背中と少女を恨めしげに見つめる。
その時、つんつんと背中をつつかれた。鬱陶しげにそれを払いつつ、振り返る。

「何だよ、今忙しい……」
「ああすいません、警察の者ですが。少々時間を……貴方、もしかしてリェンの所の上司さん?」

不機嫌全開だったスタンプの顔が、ゲッ、と言いたげに全体的に引きつる。
警官の格好をした女は幾度か事件で顔を合わせたニューラ―ク市警の婦警。確か部下であるトトの同僚だ。
相手もスタンプだと認識すると明らかに侮蔑的なものに変わった。無理もない、アゲガとは警察とは相容れぬ存在だ。

「おいメルシィ、あと頼んだぞ!」
「え?ち、ちょっと!待ちなさいよぉ!」

犬猿の仲、あるいは天敵を相手にとる行動は一つ。即ち――三十六計逃げるが勝ち。
事情聴取で長時間縛られる上に先程の失態を知られるくらいならばと、メルシィを身代りに、
制止も振り切って全速力で逃げ出した。何故か、銀髪の少女を脇に抱えて。

【某所 カフェ内】

「アホか、俺は」

少女を向かい側に座らせ、ぼやく。――これは誘拐未遂というやつか。
……否、違う。これは先の礼代わりだ。事情聴取のせいで若い少女を遅くまで束縛させるなど言語道断だ。
どうせだから適当に何か頼ませて、さっきの失態の口止め料も兼ねよう。そうしよう。
脱力感の赴くままコーヒーを一つ頼み、しばらく逡巡した後、少女にメニューを放り出した。

「おら、好きなの頼めよ。このストロベリーサンデーとか美味そうだぜ」

ほぼ投げやりな態度で言い、煙草を取り出す。しかし禁煙席ということに気付き、舌打ちすると黙ってライターを仕舞った。
パトカーのサイレンはまだ聞こえてくる。ニューラ―ク市内では平均的に1日10件は大なり小なり事件が起こるのだ。
窓越しに外を眺め、「全く嫌な世の中だな」、と1人ごちると、少女へと振りむいた。

「おいガキンチョ、名前と住所教えろ。食い終わったら家まで送ってやる」
122 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/10(火) 22:40:20.49 0
>「おっさんて呼ぶな。つーかそこのオカマじゃあるめえし、そんな悪趣味ねーよ」
>「何ですってロクデナシ!もっぺん言ってみなさいよ!」

オカマもといお姉様は連れの方だけで、おっさんはただのおっさんのようだ。

>「それに、そんな格好で俺の上に立つと、パンティー見られちまうぞ」

世界七不思議の一つ(嘘)―― 魔導人形族瑠璃のパンティー。
スカートの下に重ねられた何層ものスカートが鉄のカーテンを形成し、ここに永遠の謎を創り上げているのである。

「おめでとう、ただのおっさんがセクハラおっさんに昇格した!」

かくして、バックは無事に持ち主の女性の元へ帰る。
女性はオレの手を握りしめて感謝する。
未だかつてこんなに感謝された事があっただろうか。

>「本当、何とお礼を言ったらいいか……!」

「え、その……いいんだよ、礼なんて!」

>「後でお姉さん達が家まで送ってあげるわね。お家はどこかしら?近所?親御さんにもお礼言わなきゃね」

「家? それはなんというか……」

そこに警察が来る。
ひったくりを捕まえたのだから、表彰されても良さそうなものだが――
彼等と警察の関係が友好的なものではない事は分かった。

>「おいメルシィ、あと頼んだぞ!」
>「え?ち、ちょっと!待ちなさいよぉ!」

「おっ!?」

おっさんはオレをひょいと小脇に抱え、走り出す。
警察と相容れない組織に連れ去られる。これは来る、きっと来るぞ!
向かう場所は秘密結社のアジトか!? はたまたカルト宗教の施設か!?
123 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/10(火) 22:41:17.10 0
果たして――ついた場所は、何の変哲もないカフェでした。
しかしついてみて唐突に思い出した。オレは今猛烈に腹が減っている!
このおっさん――デキる!

>「おら、好きなの頼めよ。このストロベリーサンデーとか美味そうだぜ」

「超うまそうじゃ~ん! これとこれとこれとこれを頼む!」

右手でオムライスを口に運びながら、左手でサンドイッチを頬張る。
パトカーのサイレンが妙に耳に入ってくる。
こんなに治安悪かったっけこの世界。

>「おいガキンチョ、名前と住所教えろ。食い終わったら家まで送ってやる」

手に持ったストロベリーサンデーを置き、口の横についたクリームを舐めとる。

「――グラン・ギニョール《人形劇》。住所は――定めた事がない。
夢と現実の狭間を渡り歩く幻影旅団の踊り手。
それも今は昔――オレの踊る幻影の舞台は、本当に幻のように消えちまった」

面白い事を思いついてしまった。
おっさんを少し困らせてやろう。浮かべるは、芝居がかった不敵な笑み。

「おっさん――オレを誘拐してくれよ。
大丈夫さ、捨てられた人形を連れ去ったところで誰も騒ぎやしないだろ?」
124 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/13(金) 06:41:21.65 0

> 「――グラン・ギニョール《人形劇》。住所は――定めた事がない。
> 夢と現実の狭間を渡り歩く幻影旅団の踊り手。
> それも今は昔――オレの踊る幻影の舞台は、本当に幻のように消えちまった」

グラン・ギニョールと名乗った少女は、ストロベリーサンデーを押しやった。
やけに芝居掛かったような口上を、スタンプは眉を顰めたまま静聴する。
幻影旅団といえば、その道で有名な旅芸人一座だと耳にしたことがある。興味がないため知識は曖昧だが、
彼女の言うことを事実と肯定すれば、珍妙な格好やあの身のこなしも説明がつく。
そして判明したことは、どちらにせよ彼女の住所は分からず仕舞い。つまり、

「浮浪児ってことか。参ったなこりゃ」

保護者がいれば送って行って食事代を請求してやろうと思ったが。
事態は思ったより(恐らく当の本人が気付かないレベルで)深刻なようだ。
住所不定で保護者もいない、そうなると彼女が行く先は擁護施設か貧民街くらいのもの。
擁護施設は浮浪児を拾った者が果てしなく面倒な手続きをしなければならない。
かといって、貧民街に捨てるなんて非人道的な行為は論外だ。ギルドから叩きだされてしまう。

こりゃ面倒事を抱えこんじまったと、頭痛を感じ眉間を揉むスタンプ。
更に目の前の少女はその頭痛を増やすような発言をかましてきた。

>「おっさん――オレを誘拐してくれよ。
> 大丈夫さ、捨てられた人形を連れ去ったところで誰も騒ぎやしないだろ?」
「そーかそーか、誘拐しちまえば捨てることも手続きもしなくて済むな――って阿呆かっ」

迷わず銀色の頭を叩いた。周りの視線が集まろうものなら「見世物じゃねえっ」と客を一睨み。

「何でお前なんかを誘拐しなきゃいけないんだ。
 言っておくが、俺は女とガキが一番嫌いなんだ。天敵だ、本来なら一生縁なんざ作りたくねーんだよ。
 それにお前を誘拐して何のメリットがある?俺にゃ生憎そんな性癖は無いし『犯罪』に手を染めるつもりもねーな。
 大体、誘拐してくれなんてマトモな神経持ってる奴の台詞かよ、おい?お前の頭の中は生クリームで出来てるのか?」

こめかみの辺りで人差し指をくるくる回す動作をし、鼻で笑う。性格が悪いにも程がある。
さりげなくストロベリーサンデ―に突き刺さったポッキーをつまみ食い。
それにしたって、子供が自ら誘拐してくれなんて言い出すとは中々世の中も狂っていらっしゃる。
アジア系の某巨大国に人身売買という形で売り飛ばせばかなりの額になるかもしれないが、
折悪しくスタンプはそういった外道達を捕まえる側の人間なのである。

「次ふざけたこと言ってみろ、首根っこ捕まえて貧民街のゴミ箱にぶちこんでやる」
125 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/13(金) 06:42:10.19 0
そう言い締めた後で、やけにパトランプが喧しいことを訝しむ。
ふと何気にカフェ内のテレビに視線を移せば、午後のニュースが流れていた。
先日のクライストンビル事件のことをまだ引っ張るつもりらしい。苛々して視線を外そうとした時だ。
画面が急に切り替わった。

『ここで速報をお知らせします。ニューラ―ク市内のアメリアゴブリン銀行に銀行強盗が立てこもりました。
 犯行グループは5人、銀行内の職員と一般市民を人質にとり1時間以内に1億ドルを用意しろと要求している模様です。』

スタンプの目が画面に釘付けになった。銀行の周りには多くの警察と野次馬が集っている。
場所には見覚えがあった。走れば3分で着く場所だ。道理でパトカーがお忙しいわけである。
こういう時こそ自分の出番だ。別に目の前の少女から逃げたい訳ではないと一言断っておく。

「(武器の数、足りっかな)」

スタンプのトレンチコートには小型化魔法が仕込まれており、180cm以下のものであれば何でも・幾らでも仕舞える。
例えそれがキーホルダーであろうとマシンガンであろう小さな子供であろうとだ。
但し重量は変わらないため、仕舞うには注意が必要だ。そんな事より。
武器はサブマシンガンが一丁と拳銃(装弾数は5発)。いけるか。相手は5人と言っていた。
経費削減の為にも極力弾は使いたくない。何とかなるか。

「おいガキ、80ドルやる。ここで金払ったら電車で役所まで行って待ってろ。俺は用事済ませてから行く」

早口気味に言うと、80ドルとグランを置いてわき目も振らずカフェを飛び出す。
行き先は勿論、アメリアゴブリン銀行だ。

【→アメリアゴブリン銀行】

思ったより多い。主に警察と野次馬とマスコミの三種類で周辺は人ごみに溢れている。
犯人が出て来た様子は無いみたいだ。警察はかなり手間取っているとみえる。
1時間以内に1億ドルなんて用意できる筈もなく、双方共に緊張が走っている。

いちかバチかと、路地裏を通って裏口に回ってみた。見張りが居る。2人だ。
警察はまだ手を回していないように見受けられる。見張り2人はスタンプに気付かずお喋りしている。
2人とも頭の天辺から爪先まで武装しており、手には猟銃。もっとマシな武器があるだろと1人ツッコミ。
困った。裏でドンパチやれば中にいるであろう他の仲間に自分の存在がばれる。それだけは避けたい。
スタンプは考える。この壁をどう乗り越えるか。
126 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/15(日) 12:19:35.73 0
>「そーかそーか、誘拐しちまえば捨てることも手続きもしなくて済むな――って阿呆かっ」

「もう、ロマンが分かってないなあ! 観劇なんかしたことないんだろ?
そもそも誘拐の依頼は一種の定型句であって……」

>「何でお前なんかを誘拐しなきゃいけないんだ。
 言っておくが、俺は女とガキが一番嫌いなんだ。天敵だ、本来なら一生縁なんざ作りたくねーんだよ。
 それにお前を誘拐して何のメリットがある?俺にゃ生憎そんな性癖は無いし『犯罪』に手を染めるつもりもねーな。
 大体、誘拐してくれなんてマトモな神経持ってる奴の台詞かよ、おい?お前の頭の中は生クリームで出来てるのか?」

「おいおいおっさん、オレは女でもガキでもねーぞ!」

>「次ふざけたこと言ってみろ、首根っこ捕まえて貧民街のゴミ箱にぶちこんでやる」

「貧民街か……ちょっと、覗いてみたいかも」

噛み合わない会話を数ターン繰り返した後、おっさんはカフェを飛び出していく。

>「おいガキ、80ドルやる。ここで金払ったら電車で役所まで行って待ってろ。俺は用事済ませてから行く」

「ちょっと待てよ!!」
「おっとお客さん、お会計を」
「ツケで頼むよ! 演劇が好きならオレの顔知ってるだろ!?」
「いや知らん」

慌てて後を追おうとして店員に捕まる。
そういえばそうだった。毎回役柄に合わせて幻影魔法で顔を変えていたから、誰もオレの本当の顔を知らないのだ。
会計を済ませて外に出た時、すでにおっさんの姿は見えなくなっていた。

「あーあ、逃げられた。折角面白くなりそうだったのに!」

これからどうしようか。
公園の滑り台に帰ってもいいが、どうせ予定も無いし交通費もある。
そこで、言われた通りに役所に行ってみる事にした。
127 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/15(日) 12:24:36.00 0
カフェのすぐ前の電停から電車に乗り、ものの数分で到着する。

『ニューラーク合同庁舎前、ニューラーク合同庁舎前でーす』

ニューラーク合同庁舎。
市の庁舎と国の出先機関を一挙に擁するこの巨大な建造物は、あらゆるリアル公務員略してリア公達が跋扈する牙城である。
城のようなデザインの建物を見て、感嘆の声を上げる。

「うわ~、すっげー!」

「あなたがグランちゃんね?」

後ろから声をかけられて振り返る。
尖った耳、眼鏡に黒いローブ。いかにもエルフの魔法使いといった出で立ちの女性が立っていた。

「お姉さんとドライブ行こうか。今しがた、アシュレイから手紙が来た。
あなたが物語の本筋から離れてしまう事を危惧してた。そういうのを業界用語でシドるって言うのかしら?」

手紙というのは、伝書鳩による手紙のことだろう。
電子機器が使えない魔法使い達の間で、近距離間で携帯メール代わりに使われる通信手段なのだ。
それよりも……アシュレイは、師匠の偽名の一つだ。

「師匠を……師匠を知っているのか!?」

「師匠……? ああ、アシュレイのお弟子さんなのね。
ええ。昔色々あって旧知の仲でね。でもアタシも素性とかは何も知らないわよ?
ねえ、アタシと一緒にドライブに行かない? アタシはこういう者。怪しい者じゃないわ」

そう言って、名刺を渡してきた。
【ニューラーク魔法局  魔法使い管理課 アイリーン・ディスティニー】

「勤務時間中にドライブに行っていいのかという心配は無用よ。
これは”見回り”と称して車の走行距離を稼ぐ作業なの。
走行距離が規定値に届かないと年度末に没収されちゃうから」
128 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/15(日) 12:26:43.09 0
戸惑いながらも、ドライブに行く気満々のアイリーンの後ろをついていく。
“車庫”にあったのは、カボチャ型の馬車。アイリーンは意気揚々と御者台に乗り込む。

「なんじゃこれ」

「うちの官用車だけど何か? 車検はクリアしてるから大丈夫よ。
さあ乗って乗って。飛ばすわよ――ッ、はいどー!!」

オレが呆然としながら乗り込むと、馬車は猛スピードで発進した。

「ちょっと危ない近道通るねッ!」

アイリーンはそう言うと、狭い路地へと馬車を走らせる。

「ここは……」

思わず顔をしかめた。酷い生活環境の場所だ。
路傍で靴磨きをする少年や道端でマッチを売る少女がそこかしこにいる。
アイリーンは少ししんみりとした声で言った。

「行き場の無い人が集まる貧民街と華やかな都会が隣り合わせ、それがこのニューラークよ……」

その時、馬車のタイヤが道端に積んであったトマトの箱に当たり、トマトが散乱する!
しんみりとした空気が台無しだ。怒号とトマトが飛んでくる!

「危ないじゃねえかゴルァ!」
「ぎゃああああああああ!」

そうしている間に何時の間にやら馬車は貧民街を抜け――

「なあ、何処に行くんだ?」

「魔法使いとカボチャの馬車ときたら……今から行くのは素敵なダンスパーティーといったところかしら?」
129 : ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/15(日) 12:35:11.58 0
スタンプの元に、一匹の鳩が飛んできて手紙を落としていく。

『俺は”幻影の魔術師”アシュレイ。幻影旅団の総元締め――人形を遺棄した不良親分だ。
解散などしたくなかったが俺は故あってこの”世界”にいる事が出来なくなった。
だが元団員達が全員新たな道を踏み出すのを見届けるまでは帰るに帰ればない――
あそこで会ったのが何かの運命だと思って諦めて欲しい。“ダンサー”を……グランを頼む。
アイツは必ず来る――』

普通に考えて、自分の命が残り短い事を詩的に表現しているか、妄想に捕らわれた精神異常者のどちらかであろう。
読み終わると、文字は幻のように消えて行った。後に残ったのは、何も書かれていない白い紙だけ。

そこに、何かの冗談のようなカボチャの馬車が走ってきて止まる。
――ふざけた税金の無駄遣いと名高い、魔法局の官用車である。
130 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/15(日) 13:02:08.79 0
「魔法使いが舞踏会に雄姫様を連れて参りました! じゃあアタシはこれで」

「ここがダンスパーティー会場か、随分シケたところだなあ」

雄姫様は、おひめさま、と読む。
読んで字のごとく、男の娘の姫様バージョンの事である。
オレが馬車から降りると、アイリーンは馬車を走らせてさっさと帰って行った。
全身武装した衛兵達が一瞬ビビって我に返ったという感じで怒鳴ってくる。

「な、なんだてめえら! ふざけてんのかゴルァ!」

「ふーん、アンタらが見張りの衛兵? 変わった格好してるな。
おひめさまがダンスパーティーに来たら黙って通すもんだぜ?
それとも……オレと踊るか? 二人まとめて相手してやる!」

武装した衛兵達の手を取ろうと、至近距離に歩み寄る。

「ええい、頭が痛い……。撃てえ、撃ってしまえ!」
「駄目です近すぎて撃てません!」

衛兵は手に持った長い棒のようなものを持ち上げて何故か四苦八苦している。
131 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/18(水) 00:15:10.61 0

「(うーん、中々動かねえな)」

状況が、という意味合いも含めてだが、裏口を固める見張り二人は今の所動く気配なし。
立ち往生とはこの事。作戦も碌に練らないで飛び出すとこうなる。昔からの悪癖の一つだ。
最悪、現在地から発砲という手もあるが、外れればこちらが袋叩き。

「ん……?」

その時、頭を抱えるスタンプの元に一羽の鳩。嘴に紙切れを咥えている。
紙切れを離すと、鳩は飛び去って行った。視界に入った文章を何となしに読む。
何のことない、アシュレイとかいう奴が誰かに宛てた手紙のようだ。かなり精神を病んだ奴らしい。
支離滅裂で理解不能の文章だが、最後の行、グランの名前で視線が釘付けになる。
内容から察するに、この人形とやらはあの糞餓鬼のことで、彼女を捨てた事を自白しているともとれた。

「(相当キてる奴だな。このアシュレイとやら。それより、文面からしてアイツを引き取る相手がいるってことか……)」

手紙の相手が自分である可能性は、面識も心当たりも無い事から零に等しい。
文章は暫くすると幻のように消滅し、残ったのは白紙のみ。何だったんだ、一体。
その瞬間、スタンプが隠れている繁み、その背後から飛び出す一台の南瓜型の馬車。
スタンプの頭上を飛び越え、見張りの前に着地。スタンプも見張り二人も硬直する。

>「魔法使いが舞踏会に雄姫様を連れて参りました! じゃあアタシはこれで」
>「ここがダンスパーティー会場か、随分シケたところだなあ」
「」

言葉もない。いや何故市役所に行った筈の彼女が此処にいるのか、あのふざけた馬車は何なのか。
グランを乗せていた馬車はとっとと走り去っていく。何がしたかったのか。税金泥棒め。

>「ふーん、アンタらが見張りの衛兵? 変わった格好してるな。
おひめさまがダンスパーティーに来たら黙って通すもんだぜ?
それとも……オレと踊るか? 二人まとめて相手してやる!」
>「ええい、頭が痛い……。撃てえ、撃ってしまえ!」
>「駄目です近すぎて撃てません!」

そうしてる間にも、グランは銃器を恐れる様子もなく見張り二人に接近する。
グランの態度に困惑し、至近距離から猟銃を撃てず振り回すことで追い払おうとしている。かなり滑稽だ。

「なら、これはどうだ?」

スタンプは繁みから飛び出し、拳銃を構え隙を見せていた1人の手の甲に一撃。
悲鳴を上げて猟銃を取り落とした所を拾い上げ、グリップの部分で顎をかち上げる。
舌を噛んだかもしれないが知ったことではない。即座に背後に回り、片腕を捻り上げこめかみに銃口を突き付け、盾にした。
132 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/18(水) 00:15:31.55 0
「動くなよ?大事な共犯者を1人でも減らすのは惜しいだろう……?」

そうしておいて、今度はグランを睨みつける。

「何で着いて来た?大人しく役所で待ってろって言っただろう?」

刹那、盾にした見張りを手刀で落とす。「野郎!」と銃を構えたもう一人の見張りの太腿を容赦なく撃ち抜いた。
悲鳴が喧しいが、テレビ局のヘリの音や野次馬の喧騒で生憎と他の一般人達には聞こえていない。

「良いか、糞餓鬼。耳かっぽじって良く聞け。すぐに帰れ、今 す ぐ に だ。
 『面白い』だとか『興味半分』で来る所じゃないんだよ、『こういう所』は。
 巫山戯た態度で踏み込むと痛い目を見る、それがこの世界の鉄則なんだよ。分かるか、ガール?」

気力で銃を掴もうとした見張りの手に、またも容赦なく鉛玉が撃ちこまれる。

「何が悲しいってな、お前みたいな何も知らない餓鬼ほどこういう『危険』に首を突っ込みたがる。
 お芝居みたいな決まりきった展開や、絵にかいたようなハッピーエンドなんざありゃしないんだ。
 アメコミや映画みたいな幻想に憧れて、でもって無情な現実に打ち砕かれてくたばっちまうのさ。
 さしずめ、さっきお前を連れて来た南瓜の馬車は黄泉の川を渡る船渡しってとこか?滑稽なこった」


「アイリーン女史、盗聴とは趣味が悪いですね」
「シッ、黙ってて下さい」

グランを連れて来た馬車は、銀行からそう遠く離れていない場所で留まっている。
別の意味で視線を集める車だが仕方ない。それよりもアイリーンは別の事に気を取られているようだ。
部下はアイリーンに訝るような表情で伺う。

「あの……さっきアシュレイがどうとか仰ってましたけど。あの子、何かあるんですか?」
「……あら、ごめんなさい。説明し忘れてたわね」

アイリーンはようやく部下の方を向く。

「アシュレイは貴方も聞いた事があるでしょう?」
「ああ、確かサーカス団の……身内が作ったから使ってくれってこの馬車の設計図押し付けてきたヒトですよね」
「そうそう、お陰で私達魔法局は税金の無駄使いとか言われてるんだけど……まあそれはさておき」

咳払いひとつ。

「あの子はね、今現在魔法局が確認する中で唯一現存する魔導人形族なの」
「ええっ! 確か、かなり昔に人工的に創られた亜人種……でしたっけ?生まれてから死ぬまで姿を変えないっていう……」
「そう。私はアシュレイと知り合って初めてあの子の存在を知ったわ。かなり驚いたわよ……外見は人間とほぼ変わらないから」
133 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/04/18(水) 00:15:49.45 0
「ちょっと待って下さい」、部下が一旦話を切る。

「彼女が魔導人形族ってのは分かりましたけど……じゃあ、何故此処に連れて来たんです?
 絶滅危惧種保護条約が適合される筈ですよね。こんな危険な所に連れて来たんです?」

唯一現存する種族ならば、絶滅危惧種保護条例が発動される。
即ち、絶滅危惧種と認定された種族が、しかるべき優秀な人物及び組織団体の下で擁護される権利があるという条約だが。
だが、アイリーンは首を横に振った。

「魔導人形族は、公式では絶滅したことになっているわ。一部ではまだ数体個体が存在するって言葉も合ったけど……。
 だから生憎、彼女は保護条約の対象にはならない。私達魔法局が保護することは出来ないの。上が許さない」

だから、とアイリーンは言葉を続けた。

「アシュレイはそれを危惧して、私に教えてくれた。グランにもしもの時の為に、呪い(まじない)を掛けたって。
 彼女を本当に守る事が出来る可能性のある人間がグランと接触した際、強制的にかかる呪文よ。追跡束縛契約呪文というのだけどね。
 此処に連れて来られたのも、その呪文の効果ね。多分、掛けられた側も、グラン自身もこの事実にはまだ気付いてないんじゃないかしら」

部下は唖然と口を開きっぱなしにしてその説明を聞く。
ならば、グランはもう自分を守ってくれる可能性のある人間に接触したということか。
だとしたらその相手は…………とんでもない置き土産を残してくれた物だ、そのアシュレイとやらも。
アイリーンは愉快そうに人差し指を唇に押し当て、盗聴相手の会話に耳を欹てる。

「ここからが見ものよ、シェレン。選ばれた行き遅れの王子様は、どんな選択肢をするのかしらね?」
「……………女史。やっぱり貴女、サイッコーに悪趣味です」


視点は変わり、スタンプはひとしきりグランを罵倒すると荒い息を押さえる。
一般人が事件に絡むとどうも激情にかられてしまう。一重に理由は「邪魔だから」だ。
アゲンストガードは一般市民という立場にありながら、同じ一般市民を守らなければならない立場にある。
故に、格好の的になりやすい非力な連中にうろうろされては迂闊に仕事も出来やしない。
それ以外にも、挙げていけばキリがない。余談だが、この感情は警察がアゲンストガードに対して抱くものとよく似ている。

「良いか、中にはまだ3人もこいつ等みたいな――俺なんかよりもよっぽど凶悪な連中がいるんだ。
 中で人質を取って、蟻地獄のウスバカゲロウよろしく餌の金を懐にせしめようと狙ってる。
 さっきの引ったくりとはまた訳が違うんだ。こいつ等と同じになりたくなきゃ、今すぐ回れ右しろ。
 それでも着いていくというなら――勝手にしろ。せめて、死ぬ時までも俺の足だけは引っ張るなよ」

それだけ言うと、さっさと裏口を開けて中へと突入する。人の気配はない。
先程の見張り立ちの会話から、人質は二階、犯人グループは1階のロビーにいると聞こえた。
ならばまずは犯人達の手足でも撃ち抜いて、悪事を働かせたことを後悔させてやるとしよう。
足音を立てぬよう、スタンプはロビーを目指す。
134 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/19(木) 22:29:50.70 0
>「なら、これはどうだ?」

スタンプのおっさんが繁みから飛び出し、あっという間に一人を人質にした。

>「動くなよ?大事な共犯者を1人でも減らすのは惜しいだろう……?」

「ひゅ~、やるう!」

鮮やかな手腕を賞賛しただけなのに、何故か睨まれた。

>「何で着いて来た?大人しく役所で待ってろって言っただろう?」

「着いてきたんじゃねーよ、連れてこられたの」

>「何が悲しいってな、お前みたいな何も知らない餓鬼ほどこういう『危険』に首を突っ込みたがる。
 お芝居みたいな決まりきった展開や、絵にかいたようなハッピーエンドなんざありゃしないんだ。
 アメコミや映画みたいな幻想に憧れて、でもって無情な現実に打ち砕かれてくたばっちまうのさ。
 さしずめ、さっきお前を連れて来た南瓜の馬車は黄泉の川を渡る船渡しってとこか?滑稽なこった」

「悲しいのは現実に疲れたつまらない大人になっちまったお前の方、だからおっさんなんだよ。
分かってるさ、世知辛い現代には幻想の時代の遺物がいる隙間は無いってことぐらい。
でも魔法の人形は夢を見るのをやめたら魔法が解けて死んじまう」

>「良いか、中にはまだ3人もこいつ等みたいな――俺なんかよりもよっぽど凶悪な連中がいるんだ。
 中で人質を取って、蟻地獄のウスバカゲロウよろしく餌の金を懐にせしめようと狙ってる。
 さっきの引ったくりとはまた訳が違うんだ。こいつ等と同じになりたくなきゃ、今すぐ回れ右しろ。
 それでも着いていくというなら――勝手にしろ。せめて、死ぬ時までも俺の足だけは引っ張るなよ」

スタンプはそう言うと、裏口から入っていく。
喜劇によくある押すなよ?絶対押すなよ?を思い出し、思わずニヤリと笑う。

「オレは刹那の享楽を生きる人形、ダンスパーティーに乱入して死ぬなら本望だ」

スタンプが入って少し経った後、そう呟いて突入する。
135 : ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/19(木) 22:38:07.81 0
―― 一方、盗聴組

「随分命知らずですねえ、魔導人形にはロボット三原則は搭載されてないんですか」

シェレンの呆れたような呟きに応え、アイリーンが解説する。

「魔導人形の始祖達は、それぞれの用途に合わせて作られた。
大昔、魔法の時代の爛熟期……上流階級の間で魔導人形同士を戦わせる娯楽が流行っていたらしいわ。
おそらくそのために作られた個体の血筋が入っているのね」

「ふーん。それじゃあ彼女を守るのは苦労しそうですねえ。しかも……相性最悪じゃないですか?」

「いやいや、相性最悪から始まる話はよくある話でして……」

「はいはい」
136 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/19(木) 23:01:55.32 0
一流のダンサーたるもの、足音を立てずに歩くのは朝飯前だ。
途中に階段があり、スタンプのおっさんがその前を通り過ぎて行くのが見えた。
ならば違う方に行ってみようと思い、二階へと上っていく。

ドアを開けると、大勢の人の視線が一斉に集まる。皆一様に手を縛られ、怯えた目をしている。
その視線が恐怖から徐々に、誰だこいつ的な怪訝な物へと変わっていく。

「犯人グループの伏兵……?」
「ではどう見てもないよな?」

「安心しろ、怪しい者ではない。
これが人質を取っての籠城戦ならば――
私は捕らわれの王子王女を救出しに来た流星《ほし》の舞姫――といったところか」

「大変だ、キちゃってるぞ!」
「犯人とは別の意味で怖い……」

とは言ったもののこの大勢をぞろぞろ連れて出たら流石に気付かれる。
隠れておいて隙を見て犯人を気絶でもさせるのがいいだろう。
一番いい隠れ場所は何処か。樹を隠すなら森。
オレは唖然とする人質たちの中によっこらしょと座り、人質達に混ざって自ら人質になった。
137 : スタンプ[sage] : 2012/04/22(日) 22:36:26.19 0

【一階 ロビー】

「(――――で、だ)」

ロビー前にまで辿り着き、通路に身を隠してスタンプはロビーの様子を伺う。
犯行グループは5人。その内2人は裏口で撃破(?)した。残るは3人。
しかし、視界に入った人数は2人のみ。裏口の二人の惨状に気付いてないのか、
外が喧しいのも気にせず、カウンターに腰掛けてポーカーなぞしている。
自分たちが強盗であるという立場すら忘れているかのようだ。実に呆れる。
こんな奴等を相手に警察は手こずっているのかと思うと言葉も出ない。

気をとりなおし状況確認。
正面玄関である自動ドアはシャッターが下ろされ外から状況は確認できない。
更に、正面から如何なる手段でも侵入できないようMS(侵入規制システム/マジック・セキュリティー)を起動済みときた。
これはどの銀行にもあるシステムで、各入口に設置された小型のボタンを押すことで設定・解除できる。
MSが起動された状態で一歩でも入れば、たちどころにトラップが作動し捕縛されてしまう。
因みに今回、確認したところ襲われた銀行には裏口にMSが無かった。
犯人グループの2人が見張りに立ったというところか。ならば奇襲を視野に入れて警察が近くで待機していた筈。
しかしそれらしい影は見当たらなかったように見受けられるが……。

『ハァイ、ミスター。調子はどうでしょう?』
「ッ!?」

肩が跳ねる。不意打ちな耳元から脳内に響くような女性の声に心臓がバクバクと喧しい。
ポーカーに興じる犯人グループには聞こえていないようだ。

「(誰だ!?)」
『お初にお目に……いいえ、お耳にかかります。魔法局のアイリーン・ディスティニーと申します。
 只今建物外より、念信術でこうして声のみでの挨拶となることをお詫び申し上げます。
 好きな物はアールグレイの紅茶とベノアのスコーン、嫌いな物は無愛想で不潔な男性です。お見知り置きを』

魔法局。確か魔法使い取締りや魔犯罪(魔法や魔道具を使った犯罪)を対象に結成された行政機関の一つだ。
国家試験をトップクラスで合格した精鋭の魔法使い・魔女揃いの優秀集団。そして何より変人が多い。
ギルドが喧嘩っ早い不良、警察がお固い優等生だとすれば、魔法局は何を考えているか分からない気難しい委員長タイプ。
何だか俗っぽい表現の仕方だが、概ねそんな感じだ。故に、この3つの機関はお互いに、そして救いようのないくらい険悪の仲だ。

「(ほー、魔法局のねえ。随分な挨拶ありがとさん……で、そんな人が俺に何の用だ)」

声を落とし、アイリーンに返答する。どうせ向こうにはどのような囁きも全て筒抜けだ。

『先程のお手前、見事でした。さぞや長く戦闘訓練を重ねた戦闘のスペシャリストとお見受けします。
 そうですね、例えば――何処のギルドのアゲンストガードリーダーさんなんかを彷彿とさせます』
「(それはそれは、とっても光栄なことで)」

何だよ、こっちの事知ってるんじゃんよ、と小さく毒づく。
アイリーンは独語を聞こえない振りをしたのか無視し、言葉を続ける。
138 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage 何という酉ミス、すまんこ] : 2012/04/22(日) 22:37:08.00 0

『何の用、と仰いましたね。お転婆お姫様をお連れした手前、ほら、私達にも面子というものがありましてね』
「(何ぃっ!?じゃあ、あのクソガキを連れて来たのはお前らか!!)」
『半分は正解ですかね』

クスクスと笑う声が癪に障る。分かった、コイツ絶対エルフだ。
神経に障る言い回しだとか人をおちょくったような態度がギルド・ニューラ―ク支部長によく似ている。

『私達としても、勇猛果敢な王子様とお姫様の怪物退治に協力させて頂く所存ですの。
 それに、変な馬車を乗り回しているだけの奇天烈集団などと言われましては立場が無いものでして』
「(ああそうかい、それは大変な事だな。だがお生憎様。こんな生温い連中、俺一人で充分だ)」

グランの姿は見えない。外で待っていてくれるのが理想だが、理想とは必ず期待を裏切るものだ。
一番マシなのは中で迷子になっているだとか、トイレに引き籠ってくれていてほしいものだ。
視線を軽く犯行グループに向け、マシンガンの引鉄に指を添えた。
しかし。

『お待ちになった方がよろしいかと。ミスター、ニュースは御覧になられましたか?』
「(? ああ、見たさ。だから此処にいるんだろうが)」
『ニュースの情報は全て把握済みでないように思われますが。私が貴方だったら魔法使いの一人は連れますね』

どういうことだ、と声を若干荒げる。犯人達は互いのカードの采配について口論を始めた。

『犯人グループはどうやって銀行を制圧したかご存じで?』
「(ああん?そんなの正面から客の振りして入ったに決まってんだろ)」

ワープでもしたのなら話は別だが、魔法にも限度というものがあり、転送魔法などというものは存在しない。
魔法の定義において、「時間捜査」「空間移動」「死者の蘇生」は魔法学会最大の壁なのだ。
過去に歴史という形で残っているが、現代で使えるものなど皆無。
それはさておき、アイリーンはスタンプの仮説を真っ向から否定した。

『転送された防犯カメラのデータによると、どうも事情が違うようです。
 彼らは正面から入った形跡もなく、いきなり≪カウンター前で姿を現し≫、銃を突き付けたのです』
「(何だ?それじゃあ、奴等は転送魔法を使えるってことか?)」
『いいえ、それは有得ません。そんな魔法が使えるのなら今頃魔法学会が大パニックです。
 『突然』『カウンター前で』『姿を現せる』事が出来る可能性があるとするならば――』
「(ああもう!俺は魔法に関しちゃからっきしなんだ、だったら目の前の奴等に聞くのが”ベスト”だろ!!)」

アイリーンが制止を入れるより早く、スタンプは既に引鉄を引いていた。

「HOLD UP!!FREEEEEEEEEEEEEEZE!!」

銃声が轟き、カウンター越しにつかの間の銃撃戦が始まった。
139 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/04/25(水) 02:01:51.20 0
さて、暫くたっても犯人達がやってくる様子はない。
人質は放置で一階でドンパチやっているのだろうか。

「まさかこれ程の物が転がり込んでくるとはな――」

突然、背後から声。
振りむこうとすると、羽交い絞めにされ、喉元にナイフを突きつけられる。
周囲から人質達の悲鳴があがる。
どこからも入ってきた様子は無く突然現れ、手にするのは銃器ではなく時代遅れの凶器。
魔法使い――。それもよく見知った種別の魔法、幻影魔法の使い手だ。

「お前は1億ドルなんかより余程価値がある――”人形”! 私と共に来い!」

「嫌だと言ったら? ――【ウェイトコントロール《重力操作》】!」

犯人が手にしたナイフに、瞬間的に膨大な重力をかける。
犯人が体勢を崩したすきに、拘束からすり抜けて走り出す。

「――ッ! 貴様、重力使いか!」

姿を消せる敵とこのまま戦うのは分が悪い。
相手が背景と同化して姿を消しているのなら、銀行によく強盗対策用に置いてあるカラーボールを投げつければ――
階段を駆け下り、ロビーを目指して走る。
多分カウンターの裏辺りに……

「おりょ?」

ロビーでは、2人の犯人とスタンプが銃撃戦を繰り広げていた。
少し遅れて、オレを追ってきた犯人が入ってくる。
幻影の魔法使いが銃を持った二人に告げる声と、オレがおっさんに注意を促す声が被る。

「お前ら、そのガキを捕まえるんだ。1億ドルなんて目じゃないぞ」
「気を付けろ、こいつ、幻影魔法の使い手だ!」

主犯格らしい魔術師が何事か呪文を唱えると、部下二人が分裂してぐるりとオレ達を取り囲んだ。
どれが本物なのかさっぱり分からない。

「わ~お。おっさん、どれが本物か分かるか?」
140 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/04/29(日) 23:37:54.84 0
銃撃戦開始から10分。状況はかなり芳しくない。
ソファーでバリケードを作ったものの撃破されるのも時間の問題だ。
ショットガンに加えてグレネードランチャーまで装備しているとは汚すぎる。
対してこちらはサブマシンガンと拳銃のみ。テロでも仕掛ける気か。
外は、スタンプ達の銃撃戦の音に更に興奮が増したのか、報道陣や野次馬の声が尚のこと喧しい。
出来る事なら、奇声を上げてる強盗犯達の神経を逆撫でさせない為にも、静かにしてほしいものだ。

「(ま、相手は銃の扱いははっきり言って下の上。そこまで手こずる相手でも……)」
>「お前ら、そのガキを捕まえるんだ。1億ドルなんて目じゃないぞ」
>「気を付けろ、こいつ、幻影魔法の使い手だ!」

…………なんてこった。神様とやらにスタンプはとことん嫌われているらしい。
鉛弾の雨を掻い潜って現れた銀髪の少女を目にし、額にべチンと掌を当てる。
もう呆れて言葉も出ないとはこのことか。このお子様は余程の死にたがりと見た。

で、追って来た相手はというと、グランより少しばかり年上にしか見えない少女だ。
ぼさぼさのブロンド髪を振り乱し、猟犬のようなギラギラとした目でグランを見ている。
強盗犯二人が銃撃を止めた。ということは、この目の前の少女が銀行強盗の主格犯とみていいだろう。
年端もいかない少女が大の大人を使って銀行強盗とは、本当に世も末だ。アーメンの糞野郎。

「ん?あの女……」

ふとスタンプが少女の足を一瞥した途端、視界はネズミ算式に増えた強盗犯達によって遮られる。
八方塞がりとはこのこと。まるで地獄絵図。

>「わ~お。おっさん、どれが本物か分かるか?」
「お前は全くもって呑気だな、本当に!!」

迷わずサブマシンガンを乱射。相手には当たらずともバリケード
苛立ち気味に返し、双眸を細めて幻影魔法によって増えた強盗犯達を見据える。
幻影魔法は名の通り対象に幻影を見せる技だ。類似した技に錯覚魔法というものが存在する。
両者は同じなようで微妙に違う。
幻影魔法の場合、例えばあるカップルがテーマパークに居るような「幻覚」を見せられたとする。
これは個人の脳が「そこに居る」と思わせているのではなく、目に映る幻を脳がとらえている状態だ。
反し、錯覚魔法は脳が勝手に視覚を作るよう働きかける。自分の部屋にいる筈なのにテーマパークにいる。そんな感じだ。

「(オーキードーキー、落ち着け俺。相手は実質≪2人のまま≫!他の幻影が俺達に危害を加える事はない!)」

幻影の恐ろしい所は、実物と全く寸分もなく違いがないことだ。影さえも作り出し違和感を打ち消す。
目に映る幻を自身の脳が実物と捕えようとする為、時に触感ですら自ら騙す。
故に、魔法を解くには二つ。自らの視界を封じるか、痛覚等で脳にショックを与え幻影を打ち消すしかない。
141 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/04/29(日) 23:38:29.50 0

「(と、いうことはだ!)おいグラン、走れ!」

そう言うや、バリケードへと一直線。幻影も銃を撃つが所詮は幻影、痛覚を与えることはできても傷をつけることはできない。
バリケードは死角、そこまで転がりこみ敵に何発か撃ちこんで牽制。
そしてグランへと振り返る。

「おい糞餓鬼、歯ァ食い縛れ!!」

グランの顔を両手で挟み無理矢理振り向かせる。そして至近距離まで顔を近づけ――

「ッおらァアアアああああ!!」

ガッツーン!!
……頭蓋骨同士が激しくぶつかりあう音がロビー中に響く。
強盗犯達は目を丸くし、穴だらけのバリケードを食い入るように見つめる。
そして――――

「…………ハン、大当たりだな。2人に戻ってやがる」

額に特大のたんこぶをこさえ、半分涙目気味のスタンプが現れる。
強烈な痛覚を伴い、なおかつ脳に直接ショックを与える手段――要は、頭突きで幻術を突破したのだ。

「おい、そこの馬足女。グーラだろ?お前」
「……ちぇっ、ばれちゃったか?一応、ブーツで隠してたんだけど」

そう、女は只の人間ではない。馬や山羊の足を持つ精霊族(ジン)――屍鬼・グ―ルだ。女性の場合はグーラと呼ぶ。
中東で砂漠を彷徨う悪霊として知られ、主に見目麗しい女に化けて近寄り、旅人を襲い血肉を食らう。
旅人を惑わす為のあらゆる罠、ことに低級魔術を知り尽くした種族でもある。
だが、グ―ルにも弱点が存在する。「鉄」、これに尽きる。
つまり、鉄分を多く含む物……昔ならば斧、現在では主に銃等を嫌う傾向にある。
成程、それなら合点がいくこともある。彼女が一人でいたのも、仲間を使うだけで自分が動かなかったのも、仲間の持つ銃を嫌ったからだ。

「アタシとサシでやろうっての?良い度胸じゃない」

グーラはナイフを取り出す。鉄を嫌う彼女でも使えるよう改良された銅とステンレスの混合成分が含まれた逸品だ。
彼女は更に呪文を唱える。すると今度は――100は超えそうなナイフの数が現れる!

「やれるものならやってみな!Fuck off and die!!」
「糞餓鬼、死ぬほど不本意だが、そっちの2人は任せたぜ!」

【幻影ナイフが飛んでくる。当たってもダメージはないが激痛がヤバイ】
142 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/05/03(木) 15:02:34.56 0
>「(と、いうことはだ!)おいグラン、走れ!」

言われるがままに走る。

>「おい糞餓鬼、歯ァ食い縛れ!!」

おっさんはオレを振り向かせ、至近距離まで顔を近づける。
決してロマンスな展開ではありません。嫌な予感がするぞ!?

>「ッおらァアアアああああ!!」

――綺麗なお星さまが見えましたとさ。
でももっと痛いのはおっさんの方だ。
魔導人形の骨組みは超固い魔法鉱物オリハルコンで出来ているとも言われている。

「あいたた、いきなり何すんだ……ん?」

>「…………ハン、大当たりだな。2人に戻ってやがる」

確かに、手下の男達が2人も戻っていた。
こんな斬新な幻術の解き方アリぃ!? 解呪の魔法を使うぐらいしか発想が無かった。
間違いない、このおっさん、相当な歴戦の猛者だ!
143 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/05/03(木) 15:05:05.12 0
>「アタシとサシでやろうっての?良い度胸じゃない」

グーラが呪文を唱えると、ナイフが無数に増えた。
これは、アレだよな? 飛んでくる展開だよね?

>「糞餓鬼、死ぬほど不本意だが、そっちの2人は任せたぜ!」

そう言われて横目で見ると、左右から手下の二人が突進してきている。生け捕りにする気だ!
と、二人はグーラの方を見て一瞬目を見張る。
その隙に、サッと後ろに飛び退り、手下二人を盾にする。
幻影魔法は目に見える幻を作り出す魔法のため、対象の近くに寄ると効果範囲に入ってしまうらしい。

「ぎょええええええええええええ!?」

激痛に奇声を発しながらも、姿勢は崩さない二人。大した精神力である。

「お嬢、味方に攻撃するなっていつも言ってるじゃないッスかー!」

「いつも!?」

……こういう事に慣れているらしかった。
おもむろに銃を捨てる手下達。代わりに抜き放つのは、弧を描いた白銀に輝く刃。
シャムシール――円月刀である。何が悲しゅうて原始的な武器に持ち替えたのだろうか。

「やはり銃なんぞ肌に合わん。
しけた銀行強盗の振りはやめだ――砂漠の盗賊団”クイーンジョーカー”の実力を見せてやろう!」

ああ、銃を使い慣れてなかったのね……。見張りの二人なんていかにもそうだったし。
クイーンジョーカー ―― 
『ジョーカー』を頭に、『スペード』『ダイヤ』『クラブ』『ハート』で構成される、砂漠を渡る旅人を襲う五人組だ!
よく見ると、カウンターに彼等のトレードマークのトランプが散らばっていたりする。
しかし、砂漠の盗賊団が街に進出しては風情も何もあったものではない。
たんっ、と床を蹴って飛び上がり、空中一回転して着地。
砂漠地帯のステップを踏みながら挑発する。

「熱砂の舞――ベリーダンス。来いよ、踊ってやるぜ?」

「ふざけやがって……。行くぞ、”スペード”」
「おう、”クラブ”」

スペードと呼ばれた方が放った中段の突きを腰を捻って回避。
続いて来たもう一人の上段の払いを、上体をそらして避ける。

「大都会ニューラークの流儀を教えてやる! ブレイクダンス――とお!」

そのまま逆立ちして右手を軸に回し蹴りを放つ。

「はあれええええええええええええ!?」

間抜けな声を発しながら、二人が宙を飛んでいく!
144 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/05/07(月) 21:43:09.98 0
空中を裂いてこちらへ飛んでくるナイフを、右へ左へと避ける。
幻術であるとはいえ、当たってしまえば痛いものは痛い。
グーラは次から次へと、それこそ夫の浮気がばれた時の妻のヒステリックも真っ青な位ナイフを投げ飛ばす。
応戦するようにマシンガンを撃つものの、相手もすばしっこく銃弾を避ける。
あちらとは違いこちらは撃てば弾は無くなってしまう。じり貧だ。

>「ぎょええええええええええええ!?」
>「お嬢、味方に攻撃するなっていつも言ってるじゃないッスかー!」
>「いつも!?」

因みに、避けた幻影ナイフは全部部下達に突き刺さるという仕様だ。おお恐ろしい。

「あら、貴方達がそこでポケーっとしてるのが悪いのさ。とっとと捕まえな!」
「とんだじゃじゃ馬お嬢様だな……ッと!」

頭を逸らした瞬間、ナイフが顎すれすれを突っ切っていった。
しかし今度は、幻影であるにも関わらず顎に切り傷が出来、血が滴り落ちる。
目を見張りグーラへ視線を向ける。腹の立つ笑みを浮かべ、グーラは自らのシャムシールの腹を撫ぜた。

「”魔法に不可能なんてない”――今のは分裂魔法よ。避け切れるかしら?」
「チッ!何でもありかよ!」

ナイフと同時に撃った五発とも、グーラが横にステップしたため金髪を掠めるだけに終わる。
【分裂魔法】
魔力を昇華し、元ある物質をオリジナルに複製(コピー)を作り出す高等魔術。
大量の魔力を消費するが、コピーの出来は術者の魔力と腕次第。ピンからキリなのだ。
だがグーラは低級精霊族。こんな芸当が出来る筈もないが……?何かカラクリでもあるのだろうか。
どちらも互いに射程範囲ぎりぎりの距離を保ちながら、近づいたり離れたりを繰り返す。

ガチンッ!カチッカチッカチッ!!

「(! 弾切れかよぉおお~~~~ッ!!)」

だがそれも長くは続かない。
先程の銃撃戦で消耗しすぎたせいかマシンガンの方が先に弾切れとなってしまったのだ。
その様子を見たグーラが勝機を得たといわんばかりに笑みを浮かべ、更にナイフを飛ばす!

「今度こそ終わりだ!痛みでヨガリ狂っちまいなよオニーサン!」
「ハッ、女でもねーのにヨガルのはごめんだな。泣きを見るのはお前の方だ」

スタンプは逃げるどころか、銃を降ろしたままナイフの雨の中を突っ切っていく!
グーラはすっかり目の前の男が尻尾を巻いて逃げるものだと思ったから、
笑みから一転し焦ったように後方へステップ。だが追うようにスタンプも追走する。

「ち、ちょっと……!アンタ頭おかしいんじゃないの!?」
「コンクリートの街で強盗なんぞする砂漠の盗賊団に言われたかないぜ、クイーンジョーカー!」

その時、スタンプの頭上に影。見上げると、

>「はあれええええええええええええ!?」

シャムシールを手にした間抜け二人が落ちてきた。
145 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/05/07(月) 21:43:31.94 0
それを見たスタンプは銃を手放し、

「っしゃおらああああッ!!」
「「ぎええええええっ!?」」

落ちてくるスペードとクラブの腕を掴み、地面へ容赦なく叩きつける!
首からまっ逆さまに落ちた二人は完全にダウン。首の骨が折れていないだけマシだと思え。

「ったく……!たかがガキとオッサン相手に、この私達が……!?」

舌打ちし更にバックステップ。だがその時、背中全体が後退出来なくなってしまった。
遂に壁際まで追い詰められ、いよいよグーラはパニックになり始める。
魔法使いはズバリ、接近戦に弱い。魔法に頼りっきりで肉弾戦はからっきし、なんてのは魔法使いの典型的な例だ。
現に、スタンプのナイフの動きにぎりぎり着いていくだけで精いっぱいだ。

キィッ――――ン!

「さぁ、もう後は無いぜ?盗賊団さんよお?」

グーラのナイフが弾かれ、シャムシールの切っ先が細い喉に突き付けられる。
背には壁、退路はなし。誰もがこのグ―ルが降伏すると思うだろう。
だが――彼女はホールドアップするどころか、不敵な笑みさえ浮かべていた。

「……まさか、これしきで私達が降伏するとでも?」
「ほー、それじゃあまるで、この状況で俺達から逃げおおせる策があるみてーな言い分だな」

せせら笑うスタンプに対し、グーラも笑みを崩さない。未だ勝機はわが手に有り。そう言いたげだ。

「……コンビネーションの【スペード】と【クラブ】、見張りはお任せ【ダイヤ】と【ハート】。
 そして私はそれらを纏める【クイーン】。…………あらら?誰か足りないねえ」

すっ、と伸ばした人差し指には、それまで誰も気付くことが無かった指輪がキラリと光る。
その指輪をついっと、もう片方の人差し指が優しく撫ぜた。


「――――何事にも、切り札【ジョーカー】は付きものでしょう?」


瞬間、閃光と煙幕が充満する。
目も眩むような眩さに誰もが目を閉じ、煙で咽込む。そして光と煙が失せ、そこには――――

「う、嘘だろ……!? 『魔人』って、そんなの有りかァーーーーーッ!?」

天井を突き破らんばかりの赤い肌の巨漢――表現するにこれほど適切な言葉は存在しない。
『魔人』――数少ない高位精霊族にして第一級絶滅危惧種族の一つだ。
普段実体を持つことは無く、魔力の籠った古い金属器にのみ棲みつくといわれる正に希少種だ。
その存在は古い文献に数多く存在し、共通する特徴は――宿った金属器の持ち主の願いを叶えること。

「魔人よ!そこのオッサンをぶっ潰して、銀髪のガキを捕まえなさい!!」

魔人は咆哮を上げるや、足が竦んで動かないスタンプとグランに向かって巨大な拳を振るう!!
146 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/05/11(金) 02:42:33.02 0
>「っしゃおらああああッ!!」
>「「ぎええええええっ!?」」

息ピッタリの間抜け二人は、おっさんによって床に叩きつけられKOと相成りました。

「おっさんナイス!」

2対1に持ち込み波に乗ったオレ達は、ついにグーラを追いつめる。べべんべん。

>「さぁ、もう後は無いぜ?盗賊団さんよお?」

>「……まさか、これしきで私達が降伏するとでも?」
>「ほー、それじゃあまるで、この状況で俺達から逃げおおせる策があるみてーな言い分だな」
「私"達”? もうお前一人だろ!」

それに答えるように、自らのグーラは盗賊団の構成員の解説を始める。

>「……コンビネーションの【スペード】と【クラブ】、見張りはお任せ【ダイヤ】と【ハート】。
 そして私はそれらを纏める【クイーン】。…………あらら?誰か足りないねえ」

「あれれ? アンタが【ジョーカー】じゃなかったの? ……と、いう事は……!」

グーラの指に、意味ありげな指輪が光る。
よく劇の題材にもなるランプを巡る伝説には、持ち主の願いを叶える魔人が宿る、魔法の指輪が登場するが――

>「――――何事にも、切り札【ジョーカー】は付きものでしょう?」

強烈なフラッシュがたかれたような光に目がくらむ。煙がもくもくと立ち込める。
煙が晴れた時、そこには、赤い肌の巨人――魔人がいたのです。

>「う、嘘だろ……!? 『魔人』って、そんなの有りかァーーーーーッ!?」

オレは、恐怖とはまた別の感情で呆然となっていた。
すごい、指輪の魔人に会えるなんて、夢みたいだ。

>「魔人よ!そこのオッサンをぶっ潰して、銀髪のガキを捕まえなさい!!」

呆然としてる間に、巨大な拳が振りぬかれる。避けるのは間に合わない。
とっさにわざと同じ方向に飛んで派手に吹っ飛ばされて衝撃を最小限に抑える。
それでも壁に叩きつけられて一瞬貼りつく。ずり落ちながら憤然と抗議。

「おいおい、オレの知ってる指輪の魔人はいい奴なんだぜ!」

隙を狙って一発叩き込むのが世の接近戦闘派重力使いの基本的な戦法だが――
このレベルの強敵になると、流石にワンパンマンでもない限りワンパンKOは不可能である。
床に転がっていたシャムシールを二本拾い、両手に一本ずつ持って迎え撃つ。

「剣舞、ソードダンス!」

振り下ろされた拳を避けながら、シャムシールを振るう。刃が表面を薄く薙ぐ。
取るに足らない掠り傷。

「当ててみろよ!」

蹴りだされた足に、また傷をつける。
塵も積もればなんとやらで、少しずつ体力を削る作戦だ。
147 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/05/17(木) 02:00:54.51 0
理性が戻って来るまでに約3秒。

魔人の拳がスタンプの目と鼻の先に肉薄する瞬間、横薙ぎに振り抜かれる拳から
床に身を這い蹲るようにして回避する。目標を失った拳の威力はそのまま壁にぶち当たり
小さなクレーターを作り、ただでさえスタンプの顔色の悪さに拍車が掛かった。

グランはといえば、受け身をとり衝撃を最小限に留めたものの壁に叩きつけられた。
一瞬「これは実にヤバイんじゃないだろうか」と冷や汗が伝ったが、

>「おいおい、オレの知ってる指輪の魔人はいい奴なんだぜ!」
「ハッ、盗賊の元にいる時点でお察しだろうよ」

まだ軽口を言うくらいの元気さがある限り大丈夫だろう、多分。
魔人から距離を取りその巨体を見上げる。見れば見るほどでかい。
といってもロビーの天井に頭をぶつける程度だから巨人と比べれば小さい方だろうが。

「(しかし、魔人か……厄介な手合いだ)」

魔人とは高位精霊族に分類されるものの、大半の魔人の正体は膨大な魔力の塊のようなものだ。
普通の精霊族や他の種族と違い、自我や主体性というものは彼等の中に存在せず、故に自分の住処である
金属器の持ち主の意思に従い行動する。善悪の区別もなく、魔人達の行動理念は金属器の持ち主ありきだ。

つまりこの時点で「仲間に引き入れる」「説得」などの交渉術は使えない。

>「剣舞、ソードダンス!」

更に膨大な魔力を有し、疲れを知らない体を持つというスタンプ達にとっての不親切設計だ。
グランは体力を削る作戦に出たようだが、その前にこちら側の体力が尽きてしまうだろう。
またグランがつけた傷も、古いものから順にじわじわと消えていく。焼け石に水だ。

こうなると方法はただ一つ。スタンプは魔人の攻撃を避けつつグーラへと視線を向けた。
魔人の動きは全て持ち主の意のまま。そこにつけいる隙が生まれてくる。

魔人は金属器を介して持ち主の命令に従う。つまり裏を返せば、魔人の金属器を持ち主から離してしまえばいい。

「グラン!耳を貸せ!」

グランの襟首を掴んで引いた瞬間、鼻先を魔人の足が掠めた。
「臭い足を近づけるんじゃねえ!」と罵りつつ、バックステップで離れ、スタンプはグランの耳元で囁いた。

「(良いか、あの魔人の相手は俺がやる。幸い奴さんは俺を潰す方を優先にしてるみたいだ。
  その隙にグーラから指輪を奪え。お前相手なら奴も油断するだろう。そうすれば魔人は引っ込む……筈!)」

「任せたぞ!」と背中をバシンと叩き、同時に叩き潰そうとした魔人の手から転がり避ける。
グランがグーラから指輪を奪い取るまでにこの鬼ごっこを維持できるかどうか、それだけが心配だ。
148 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/05/23(水) 01:25:33.51 0
>「グラン!耳を貸せ!」

おっさんに名案があるらしく、耳打ちしてくる。

>「(良いか、あの魔人の相手は俺がやる。幸い奴さんは俺を潰す方を優先にしてるみたいだ。
  その隙にグーラから指輪を奪え。お前相手なら奴も油断するだろう。そうすれば魔人は引っ込む……筈!)」

魔人――宿っている金属器の持ち主の意のままに動く魔力の化身。
指輪を奪ってしまえばこっちのものというわけだ。
コントローラーが取られたらお終い繋がりで、魔人だけにマ○ンガーZを思い出した人は惜しい。
それは鉄○28号である。

>「任せたぞ!」

「了解! 聞いたぞ、お前の弱点!」

そう言ってグーラに対峙する。
グールは極めて高い能力を持つ種族で、首を斬られても手足をもがれてもすぐにくっつけて元に戻ってしまう。
しかし……弱点がある。
円月刀を構えながら嗜虐的な笑みを作って見せる。
弱点を入れ知恵されてとどめを刺そうとしていると思わせるように。

「な、なんだい!?」

「部下達とさぞかし強い絆で結ばれてるんだなあ。自分の弱点を持たせるなんて。
グールの弱点はシミターで腹を断ち割られる事」

「ああ、こいつらとは乳兄弟の契りをかわした仲さ! 出来るもんならやってみな!」

グーラは先程のように幻影ナイフを作り出す……が、ナイフは辛うじて5本程度に増えただけだった。

「魔力切れ残念! 円舞――ワルツ!」

両手の円月刀で弧を描くように振るいながら、ナイフを全て弾き落とす。
相手は魔力切れした魔法使い、すぐに追い詰める事が出来た。

「終りだ!」

右腕を高々と振り上げる。

「させるか!」

グーラは案の定、腹を守ってきた。両手でオレの腕を掴んで軌道を逸らす。
その隙に、左腕のもう一本の円月刀を振るう。
しかしその刃は腹を断ち割る事はなく、グーラの左腕を切断した。
そこまではいいのだが、勢い余って飛んで行く左腕。
その人差し指には指輪がはまったままだ。

「しまった、最初からこれが狙いか……!」

グーラに先に拾われてくっつけられてしまっては元の木阿弥である。
オレとグーラは、飛んで行った左腕に向かって同時にダッシュする。
149 : グラン[sage] : 2012/05/27(日) 22:08:30.06 0
走りながらグーラと横に並ぶ。睨みあって火花を散らす。

「そりゃ!」

足払いをかけられてすっ転ぶ。

「うふふ、惜しかったわねえ」

グーラは勝ち誇った笑みを浮かべながら右腕で左腕を拾い上げる。
その瞬間、オレは左腕に重力操作の魔法をかける。

「なんの! 【ウェイトコントロール】!!」

「ちょっと! 人の右腕に何してくれんのよ!」

グーラの右腕は重量級となった!
グーラが腕を持ち上げようと難儀している間に、転がっていって腕を掴む。
向こうは片腕しか使えないのに対して、こちらは両腕が使える。
取り合いになれば、単純に考えてこちらが勝つ。

「返しなさい!」

「言われなくても返すって!」

グーラが腕の取り合いに躍起になっている隙に、もう片方の手を指輪に伸ばす。

「あ、こら! 殺すよ!」

当然気付かれるが、グーラが指輪を抜き取るのを阻止しようと思うと一回腕から手を離さないといけない。
かと言って腕から手を離したら腕をこちらに取られるわけで……。
グーラは逡巡している間に勝負はついた。
オレは指輪を高々と掲げ、バラエティ番組で素潜りで魚を捕った芸人のごとく、勝利の雄たけびをあげた。

「指輪捕ったどーーーー!」
150 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM[sage] : 2012/05/31(木) 01:36:28.73 0
「それにしてもでけえなー」

存外動きが愚鈍な巨人、もとい魔神を見上げてスタンプは一人呟く。
魔神の動きを見る限り、必ずしも行動が制御しきれないように見受けられる。
指輪の所有者が低級精霊族のグーラだからであろうか。それとも所有者自身が未熟なせいか。
それ抜きにしても動きが不規則な故に、いつ攻撃がくるか分からない。
拳や魔法が頬や背中を掠る度に肝が冷える。

>「そりゃ!」
>「うふふ、惜しかったわねえ」
>「なんの! 【ウェイトコントロール】!!」
>「ちょっと! 人の右腕に何してくれんのよ!」

「何だこのポピーザぱフォーマー……いや、失礼か流石に」

どちらに、とは言わないでおく。
(見た目は)可愛らしい少女が二人、腕を追い掛け押し合いへしあい。
魔神の攻撃を避けるすがら巨大な股の間から見える攻防戦はいっそシュールの領域。
手助けしてやりたいが目の前には巨大な一枚の壁が如き魔神。

だが決着は(意外に)早くついた。重力魔法を駆使したグランが一枚上手であった。

>「指輪捕ったどーーーー!」
「っしゃ!」

グランの咆哮につられるようにスタンプも汗ばんだ拳を握る。
その瞬間、一瞬の隙を見せたスタンプの頭上に魔神の巨大な鉄拳が降り注ぐ!―――――が、拳はスタンプを通過した。
そしてそのまま、スゥーっとホログラム映像のように魔神の姿はかき消えていく。
指輪の所有者が居なくなった為に顕現化出来なくなったのだ。

「グラン。その指輪、絶対取られるなよ」

スタンプが見据える先は、最早丸裸同然の盗賊達。最早彼等の脅威は取り除いたも同然だ。

「さて…………残党狩りといきますか?」
151 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/06/03(日) 01:41:34.57 0
指輪を手に入れると、魔神は徐々に薄くなり、掻き消えた。それを見てガッツポーズ。

「やりぃ!」

>「さて…………残党狩りといきますか?」

「ああ、残るはグーラだけだ!」

……と思ったが。
見張りの二人がよろよろしつつも入ってきた。気絶から復活したのだろう。
手にはロープを持っている。

「お嬢、申し訳ありません! 変な奴らにのされて侵入を許してしまいました!
速く捕まえなければ……」
「特徴は……あーっ! 丁度こんな奴らです!」

グーラが二人を怒鳴りつける。

「遅いっ!! 罰としてあいつをとっとと捕縛して指輪を取り返しなさい!」
「は、はいっ!!」

元・見張りがロープをひゅんひゅん回しながら迫って来る――!

「とう!」「はう!?」

元・見張りは回し蹴りであっさりと倒れ、再び戦線離脱した。圧倒的ザコだった――
そいつが持っていたロープを拾い上げ、ニヤリと笑う。

「グーラ捕ったるぞーー!」

「何すんのよ! やめなさーい!!」

投げたロープがグーラにくるくると巻き付く。
152 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/06/07(木) 01:22:01.86 0
さて、残党狩りと銘打ったものの、二人で狩るまでもなかった。

>「グーラ捕ったるぞーー!」

芋虫よろしくロープでぐるぐる巻きにされた盗賊達。
柱に全員まとめてふん縛ったところで警察が突入、人質は全員解放され事件は一件落着。
……と一筋縄にいけばよかったのだが、現実は非情なり。

≪ガチャンッ≫

「おいちょっと待てェ!何で俺まで逮捕されなきゃいけねーんだよ!」
「しらばっくれるな極悪面め!お前も強盗団の仲間だろう!」
「この顔は生まれつきだっつーの!良いから離せ!冤罪だーー!」
「サブマシンガンまで所持しておいて強盗団じゃなけりゃ何なんだ?アゲガか?」
「お前分かっててやってんだろ!?」

結局解放してもらえたのは太陽が西へと沈み始める頃。
盗賊団たちは身元を調べた後でしかるべき罰を受けることになるだろう。願わくば真人間(?)に戻ってもらいたいものである。

「しっかし奴ら、指輪の魔人なんて持ってたとは意外だったな」

適当なカフェへと場所を移し、スタンプはグランへと会話を振る。
指輪は本来なら当然、証拠品として警察に提出されて然るべきだが、未だグランの手の中にある。
その理由は、スタンプ達の隣のテーブルに悠然と腰かける女エルフにあった。

「警察に黙っててよかったのかい?指輪のこと」
「魔人はグランさんと同じく第一級絶滅危惧種族……粗暴な警察なぞに任せられません。
 私たち魔法局が責任をもって手厚く保護させていただきます」

アイリーンはすまし顔で言い切るとコーヒーを飲み干した。シェレンはムーンドロップケーキに夢中だ。
そんな七面倒臭い事起こすから警察と魔法局にさらなる亀裂が入るのではないだろうか、と思いはしたものの
スタンプはさほど興味なさげに「フゥン」と相槌を打ち、煙草を咥えたまま深く吸い込んだ。

「……で、グランさん。これからどうしたいですか?」

アイリーンは会話のネタをグランのこれからについてにすり替えた。
彼女等の説明から、グランが魔道人形族であることは既に把握済みだ。おそらく魔法局に保護されるのが彼女にとっても一番だろう。

「(…………?)」

煙草を灰皿に押し付けたその時、右手の甲に小さな痣らしきものが浮かび上がっていることに気付いた。
戦闘の際にどこかでぶつけたのだろうか。しかし手を持ち上げて何度か観察してみると、痣というよりは……。
小さく文字が書かれているようだが、何と書いてあるかまでは分からない。アメリク語でないことは確かだ。
訝しげに何度も角度を変えてみているうちに、アイリーンが顔を覗き込ませてきた。
153 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/06/07(木) 01:22:43.61 0
「あら、これ。契約紋ですね」
「契約紋?」
「ええ。グランさんにも似たようなものがありませんでした?」

アイリーンがグランに促す。グランも探せば、体のどこかに似たようなものがあるかもしれない。

「で、何だよ契約紋って」
「そんな事も知らないんですか?追跡束縛契約呪文をかけられると、契約した証明として顕れる印ですよ」
「呪文だぁ?そんなのかけられた覚えは……」

言葉を紡ぐ最中、何故か「あの手紙」のことがスタンプの脳裏に過る。
そういえばあの手紙の文章が消える直前、何か印のようなものが顕れていたような……。

「…………一応聞くが、その追跡束縛契約呪文ってのはどんな内容なんだ?」
「むぐっ、ハイ私知ってます!印の顕れた契約者同士……この場合ファントム氏とギニョール女史がですね、
 何時如何なる時も魔力による縁で文字通り引かれ合い、万が一離れることがあったとしても念じるだけで
 相手の位置が分かるという大変便利な呪文なのですよ、ハイ!過保護な飼い主がペット相手によく使う手ですね!」
「ぬわにぃいいいいっ!?冗談じゃねえええ!!」

つまり、契約がある限りスタンプとグランは何度でも引き合されるということで。
今後もこのじゃじゃ馬お嬢様にこれ以上ないまでに振り回される可能性を示唆され、
シェレンの説明を聞いて青ざめたスタンプは猛烈に右手の印を消さんばかりに擦りはじめる。

「無駄ですってばファントム氏。契約主が解かない限り印が消えることはありませんよ」
「ふざけんな!じゃあその契約主って奴を連れてこい!」
「うーん、呪文を掛けたアシュレイが居なくなった今、グランさんに代理契約主の権限があるけども……」

そう言うとアイリーンはグランへと振り返った。

「グランさん、どうしますか?」
「ジョーダンじゃねえ!グラン、今すぐ取り消せ、なっ!?」

【事件終了。カフェにて衝撃の事実発覚】
154 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/06/08(金) 01:27:51.26 0
その後、盗賊団が全員簀巻きになったところで見計らったように警察がタイミングよく突入。
というか本当に見計らってたんじゃないのか?

>≪ガチャンッ≫
「あれ?」

全員タイーホと相成った。
取り調べやら何やら受けて、夕方になってやっと釈放される。
なんと、スタンプ達は師匠が再就職先に勧めていたアゲガだったらしい。
取り調べを通して、アゲンストガードが警察から日夜嫌がらせを受けている事もよく分かった。
魔人の指輪は、アイリーンからテレパシーがあったので、警察には渡さないでおいた。
そうでなくても渡してしまうなんて勿体ない! 上手く手懐ければ……ワクワク。
155 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/06/08(金) 01:28:31.42 0
>「しっかし奴ら、指輪の魔人なんて持ってたとは意外だったな」

「盗賊団だから元は盗品だったのかもな~、どういうルートで渡って来たんだか」

>「警察に黙っててよかったのかい?指輪のこと」
「魔人はグランさんと同じく第一級絶滅危惧種族……粗暴な警察なぞに任せられません。
 私たち魔法局が責任をもって手厚く保護させていただきます」

そっか、そうだよな。ん? 『グランさんと同じく』って事はオレも一緒に保護?
何時の間にやら魔導人形族は絶滅の危機に瀕していたらしい。

>「……で、グランさん。これからどうしたいですか?」

「……いいのか? 保護しなくて」

スタンプが怪訝な顔をして手の甲を見つめている。

>「(…………?)」
>「あら、これ。契約紋ですね」
>「契約紋?」
>「ええ。グランさんにも似たようなものがありませんでした?」

「あーっ! 左手の甲にあるぞ!」

――追跡束縛契約呪文。呪文をかけたのは師匠らしい。

「師匠……」

>「グランさん、どうしますか?」
>「ジョーダンじゃねえ!グラン、今すぐ取り消せ、なっ!?」

オレはにんまり笑って椅子から飛び降りる。

「こうしちゃいられない、ギルド連合に面接受けに行くわ!
もちろん希望はアゲンストガードで!」

こう言うと当然スタンプはアイリーンに助けを求めるだろうが……

「といっても普通に保護する選択肢は最初から無いんだろ?
だったらあんなややこしい事をせずに最初から問答無用で保護すれば済むもんなあ。
つまり……堂々と保護するわけにはいかない理由があると見た!」

夜の帳が降りる中、ギルド連合ニューラーク支部へと歩き出す。
民家の屋根の上に、一瞬、幻影の魔術師の姿が見えたような気がした。

―― Good Luck

こうして、オレの公園の滑り台生活は終わりを告げたのだった。
156 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/06/10(日) 23:14:19.32 0
――で、結局のところ。

「その子を引き取ることになったと?」
「究極的に不本意だがな!」

例の銀行強盗事件から数日後。
ニューラ―ク支部長とメルシィとの三人でテーブルを囲むスタンプ。会話の内容は例の人形少女についてだ。
スタンプは事の顛末を事細やかに報告し終わると、飲んでいたコーヒーのカップをソーサーに勢い良く叩きつけた。
グランと契約を(非常に不本意ながら)交わしたスタンプには、更なる重役が課せられた。

『身元引受人ンんん!?俺がぁ!?』
『彼女の師匠……アシュレイが見つかるまでの間だけで良いのです』
『ふっざけんじゃねえ!訳の分からん呪いをかけられた上に保護者になれだぁ?いい加減にしてくれ!』

アイリーンはスタンプに対しグランの身元引受人……保護者になることを要求してきたのだ。
冗談ではない。大の女子供嫌いを自負するスタンプにとって(グランはその両方を兼ねているのだから天敵もいい所だ)
眩暈を引き起こしかねないような展開にまで発展しようとしていた。

『大体、グランはその……第一級絶滅危惧種族とかなんだろ?お前等が保護すりゃいい話じゃねーか!』
『事態はそう簡単にいくものではないのです。ここだけの話、彼女等の一族は公式には絶滅扱いされていますから……』

そう、グランは知る由もないだろうが、魔道人形族は公式では絶滅したことになっている。
>>133でも説明されているが、グランには保護条約が適用されず、アイリーンら魔法局が保護することはできないのだ。
故にアイリーンは、アシュレイの魔法を基準に、おそらく現時点でグランが一番安全に暮らせる場所はスタンプの元だと判断したのだ。

「納得いかねえよな~~……クソッタレ」
「あら良いじゃない。コンビの相手見つかったし、ワタシの使いっぱしりから解放されて」
「お前まだ根に持ってるのかよ……」

メルシィの皮肉ぶった視線から逃げるように新聞を広げた。
紙面には対銀行強盗でのグランの活躍が踊っている。端の方には手錠をかけられたスタンプの姿もあった。
新たなコンビを見つけたはいいものの、これからどうなることやら……
先が思いやられ、重い溜息が尽きないスタンプであった。


「そういえばグランの住居ってどうなるのかしら?スタンプ、もし一緒に住む事になったとしても手を出すなんてことは……」
「するかバカッ!」

本当に、先が思いやられる。


【VS銀行強盗編終了!お疲れ様でした!】
【新メンバーを今日から3~4日かけて募集したいと思います!気軽にどうぞ!】
157 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/06/17(日) 23:52:47.53 0
ウィッチ・ハイ・レースを一言で表すなら「馬鹿の気狂いによる奇天烈共の祭典」だ。
説明すると障害物ありのカーレースのようなものだが、この行事は世界的に有名な行事だ。

「俺の皿も出せよ、隣の棚だ。間違ってもパワーパフガールズの皿は使わないからな」

しかし興味皆無のスタンプからすれば、まだニューラ―クタイムスのペット自慢コーナーの方が興味をそそられる。
そんなことよりもまずは目の前のアイスだ。グランが来てから煙草も絶つ羽目になったため、甘いものが最近の娯楽だ。

「”イタダキマス”って知ってるかグラン?東の国のヒノモトって国特有の習慣なんだが、飯を食う前にこうやって手を合わせるそうだ。
 ここはアメリクだけど、オヤジがずっとこの習慣続けててさ。お陰で俺も30過ぎて未だに抜けなくてなー」

≪P L L L L L L……≫

レースのことを忘れさせようと下らない話題で気を逸らそうとした時、運悪く電話が。
アイスの事を懸念したが、舌打ちを忘れず電話に出る事にした。

「アロー?10秒以内に用件を言いやがれ。アイス溶けたら承知しねーぞ」
『アイスなんかどうだっていいから窓を開けてくれよ旦那!』
「ハァ?……グラン、悪いが窓を開けてくれ」

電話口の相手が誰なのかも分からぬままグランに窓を開けさせる。
グランが窓に近づけば見る事になるだろう。銀色の長髪を靡かせた男が窓に飛び込むところを!
開けようと開けくとも、男は足から蹴破るように室内に飛び込み、テーブルの上を滑ってアイスの皿を蹴散らしていく。

「ハァーイ旦那。御機嫌麗しゅう、なんちゃって」

テーブルから飛び降り、へらへらと笑う銀髪の男。
目の前でアイスをおじゃんにされたスタンプの表情は計り知れない。

「……お前は相変わらず元気だなァ、アッシュ。俺のアイスをぐっちゃぐちゃにするくらい元気で何よりだぜー?」
「ギャーッごめんって!笑顔でサブマシンガンはヤメテェーーっ!」

その人物は黒いバンダナと革のジーンズとパーカーという暑苦しい出で立ちで登場し、アイスまみれの足でスタンプから逃げ惑う。
『アゲガ1適当な男』アッシュ。スタンプの元部下の1人である。

「そこの銀髪縦ロールちゃん助けてー!お菓子あげるから!」
「グランそこを退け、アイスノウラミハラサデオクベキカ……!」
「きゃー怖いいー!! って、チミが噂のグランちゃん!?俺アッシュってんだーヨロシク。じゃなくて助けてー!」

グランを挟んで行われるやりとり。スタンプは完全に怒りで我を忘れているし、アッシュはグランを背に命乞いをする。カオス。
これは両者をどうにかして落ち着かせないと話は進まないだろう。

【どうにかして二人を落ち着かせよう!グランさん任せた!
 レースの内容は次ターンで説明入れようかなと思います】
158 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/06/17(日) 23:54:45.16 0
季節は夏。

『――――レディースエーンドッジェントルメン!今年もこの季節がやって来たッ!
 真夏の日射とアスファルトの熱に浮かれた馬鹿野郎共による祭典"ウィッチ・ハイ・レース"!
 年に一度行われるレース、今回の舞台はここニューラ―クに決定しました!』

≪ブチッ≫

「ハッ、この暑いのにレースなんざよくやるぜ……全くよ」

TVのリモコンを放り投げ、スタンプの気だるげな声が室内に響く。
夏のニューラ―クは朝から喧騒に沸き、ビルの外から何台ものトラックが陽炎を吐き出している。
スタンプは相変わらずパンツ一丁というだらしない格好でソファに沈み、暑さで火照る手足を投げ出す。
カレンダーを見やると、スタンプがグランを引き取って早1週間が経過しようとしていた。

例の銀行強盗を逮捕した日まで遡る。
あの後、ギルド連合に赴きアゲンストガードを志望したグランは、強盗逮捕という功績を称えられギルド入り。
ただし彼女は現在職がないため、まだ(仮)アゲンストガードという状態である。


「アゲンストガードってのはあくまで自主的に街を守ろうって名目で先代―オヤジが立ち上げた団体でな。
 元々最初はギルドにすら入ってない独立した集団だったんだ。
 勿論、当時はボランティアみたいなもんだから他に職を持つ奴が多かったのさ。
 ギルドに加盟してからは給金も出るようになったものの、専属でって奴はそうそういねーのよ。

 例えるならトトって刑事が居るんだが、コイツはニューラ―ク市警からギルドに転属された。
 表面上は警察とギルドは協力関係にあるからな。アゲガに就いても役職は一応刑事のままだ。
 後、ルイーネってドワーフはメルシィの助手って肩書きがある。ま、つまり現在無職のお前はまだ正規ギルド員じゃねーってこと。
 
 俺?俺は例外。先代(オヤジ)の跡を継いでそのままアゲンストガードリーダーになったからな。要はお前と一緒で職無しってこった。
 早く別の職に就かねーと上が喧しいし……かと言って働くツテがあるわけでもないけど。つーか働きたくない」


スタンプはグランにギルドについての歴史やルール等、色々な事を叩きこんだ。
事情を知った支部長の計らいでコンビに認定されたため、少しでも彼女にここでの「やり方」を学んでもらおうという心意気だ。
だがスタンプはここ数日で思い知った。グランの好奇心旺盛ぶりや無茶に首を突っ込もうとする性格……。
お陰で辛酸を舐める思いをしたのも事実だ。

「おいグラン、壊れてるからエアコン付けるなよ。後、冷蔵庫からホーキーポーキーアイス取ってきてくれ」

つい先程TVを消したのも、ウィッチ・ハイ・レースをグランに見せたくなかったからだ。
彼女の性格からして絶対に「出場したい!」とせがむに決まってくる。もう目にありありと浮かんでくるから苦笑いすら出ない。
スタンプからすれば、自分のためにもなるべく彼女を面倒事に巻き込みたくないのだ。

(コイツ、呆れるくらい”似てる”からなー…何が何でも出場させるもんか)
159 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/06/17(日) 23:59:33.69 0
ウィッチ・ハイ・レースを一言で表すなら「馬鹿の気狂いによる奇天烈共の祭典」だ。
説明すると障害物ありのカーレースのようなものだが、この行事は世界的に有名な行事だ。

「俺の皿も出せよ、隣の棚だ。間違ってもパワーパフガールズの皿は使わないからな」

しかし興味皆無のスタンプからすれば、まだニューラ―クタイムスのペット自慢コーナーの方が興味をそそられる。
そんなことよりもまずは目の前のアイスだ。グランが来てから煙草も絶つ羽目になったため、甘いものが最近の娯楽だ。

「”イタダキマス”って知ってるかグラン?東の国のヒノモトって国特有の習慣なんだが、飯を食う前にこうやって手を合わせるそうだ。
 ここはアメリクだけど、オヤジがずっとこの習慣続けててさ。お陰で俺も30過ぎて未だに抜けなくてなー」

≪P L L L L L L……≫

レースのことを忘れさせようと下らない話題で気を逸らそうとした時、運悪く電話が。
アイスの事を懸念したが、舌打ちを忘れず電話に出る事にした。

「アロー?10秒以内に用件を言いやがれ。アイス溶けたら承知しねーぞ」
『アイスなんかどうだっていいから窓を開けてくれよ旦那!』
「ハァ?……グラン、悪いが窓を開けてくれ」

電話口の相手が誰なのかも分からぬままグランに窓を開けさせる。
グランが窓に近づけば見る事になるだろう。銀色の長髪を靡かせた男が窓に飛び込むところを!
開けようと開けくとも、男は足から蹴破るように室内に飛び込み、テーブルの上を滑ってアイスの皿を蹴散らしていく。

「ハァーイ旦那。御機嫌麗しゅう、なんちゃって」

テーブルから飛び降り、へらへらと笑う銀髪の男。
目の前でアイスをおじゃんにされたスタンプの表情は計り知れない。

「……お前は相変わらず元気だなァ、アッシュ。俺のアイスをぐっちゃぐちゃにするくらい元気で何よりだぜー?」
「ギャーッごめんって!笑顔でサブマシンガンはヤメテェーーっ!」

その人物は黒いバンダナと革のジーンズとパーカーという暑苦しい出で立ちで登場し、アイスまみれの足でスタンプから逃げ惑う。
『アゲガ1適当な男』アッシュ。スタンプの元部下の1人である。

「そこの銀髪縦ロールちゃん助けてー!お菓子あげるから!」
「グランそこを退け、アイスノウラミハラサデオクベキカ……!」
「きゃー怖いいー!! って、チミが噂のグランちゃん!?俺アッシュってんだーヨロシク。じゃなくて助けてー!」

グランを挟んで行われるやりとり。スタンプは完全に怒りで我を忘れているし、アッシュはグランを背に命乞いをする。カオス。
これは両者をどうにかして落ち着かせないと話は進まないだろう。

【どうにかして二人を落ち着かせよう!グランさん任せた!
 レースの内容は次ターンで説明入れようかなと思います】
160 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/06/18(月) 00:01:24.93 0
【代行ミスりましたorz >>157は飛ばして読んでください】
161 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/06/20(水) 00:52:25.50 0
「マリーカート面白れー」

レースカーが、絨毯が、ほうきが、走る走る。
オレの操るほうきにまたがった美少女は現在トップを走っている。
そこで後ろから飛んできた亀の甲羅がぶちあたってスピン。川に落っこちた。

>『――――レディースエーンドッジェントルメン!今年もこの季節がやって来たッ!
 真夏の日射とアスファルトの熱に浮かれた馬鹿野郎共による祭典"ウィッチ・ハイ・レース"!
 年に一度行われるレース、今回の舞台はここニューラ―クに決定しました!』

「レース……?」

スタンプが急にテレビを消す。

>「ハッ、この暑いのにレースなんざよくやるぜ……全くよ」

「ん? スタンプもやるか?」

オレがアゲンストガードに入ってから1週間がたとうとしていた。
入ってから分かった事だが、実は職業を持たないと正規アゲンストガードにはなれないらしい。
そんな事を言われてもダンサーの求人なんて滅多に無い。
――最近未成年者を働かせているのがバレて問題になった
セクシーな衣装で歌とダンスを披露させる類の店は論外として。
正規会員になれるのはいつになる事やら。
162 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/06/20(水) 00:54:49.57 0
>「おいグラン、壊れてるからエアコン付けるなよ。後、冷蔵庫からホーキーポーキーアイス取ってきてくれ」

「ほいほい」

冷蔵庫を開けてしばらく涼んでからアイスを取り出す。

>「”イタダキマス”って知ってるかグラン?東の国のヒノモトって国特有の習慣なんだが、飯を食う前にこうやって手を合わせるそうだ。
 ここはアメリクだけど、オヤジがずっとこの習慣続けててさ。お陰で俺も30過ぎて未だに抜けなくてなー」

「ヒノモトかあ、丁度100年前ぐらいに行ったなあ。鹿鳴館で公演やったっけ」

お前何歳やねん!とスタンプが突っ込む間もなく電話が鳴る。

>≪P L L L L L L……≫

>「ハァ?……グラン、悪いが窓を開けてくれ」

「へいらっしゃ~い!」

開けた窓から、銀髪の男が飛び込んできた。遊びに来た友達か。
窓を玄関代わりに使うのは、一昔前の少女漫画にはよくある事である。

>「ハァーイ旦那。御機嫌麗しゅう、なんちゃって」

男は足をアイスまみれにしながら素敵な笑顔を浮かべた。
アイス様を粗末にするとは恐ろしい事を……!
そして案の定、恐ろしい事になった。

>「……お前は相変わらず元気だなァ、アッシュ。俺のアイスをぐっちゃぐちゃにするくらい元気で何よりだぜー?」

アッシュ、といえばアゲガ1適当な男と聞いている。
この人は本職は持っているのだろうか、気になるところだ。

>「そこの銀髪縦ロールちゃん助けてー!お菓子あげるから!」
>「グランそこを退け、アイスノウラミハラサデオクベキカ……!」
>「きゃー怖いいー!! って、チミが噂のグランちゃん!?俺アッシュってんだーヨロシク。じゃなくて助けてー!」

アッシュはオレを盾にして命乞いし、スタンプは迫る。
いわゆるお兄ちゃんどいてそいつ殺せない! の構図となった。

「むむむ……、とりあえず頭を冷やすんだ! とう!!」

ひらりと跳んでエアコンのリモコンを手に取る。
二回転ほど前転し、無駄に華麗な動作でエアコンのスイッチを入れた。

次の瞬間、エアコンの送風口から灼熱の熱風が吹き出し、部屋は灼熱地獄と化す!
なんてこった、そういえば壊れてるんだった。
しかしあまりに過酷な環境のため、体力気力の面で、これ以上のバトル続行は不可能だろう。
163 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/06/23(土) 22:29:06.00 0
ホス
164 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/06/27(水) 00:00:07.82 0
>「むむむ……、とりあえず頭を冷やすんだ! とう!!」
「げげぇっーー盾に逃げられたーー!アッシュ22年間の人生最大のピーーンチ!」
「フハハハハハァ、くたばれ外道がー!!」

グランは身軽に跳び上がりエアコンのリモコンを手にする。
そして芝居掛かった優美な動作で、禁断の運転ボタンを……押した。
だが先述の通りエアコンは壊れている。長い間酷使したためにどのボタンを押しても暖房にしかならない。
なので頭を冷やすどころか、丁度エアコンの真下にいたスタンプの頭にモロにぶち当たった。

「っ……ぎゃーーー!あぢーーーーーーっ!!」
(グラン……恐ろしい子ッ!)

強烈な熱に逃げ回るスタンプ。アッシュはエアコンの位置を気にしつつ退避。
数分後には茹でダコになった駄目親父がソファに突っ伏していた。

「……で、何しにきた?まさか俺達のアイスにスライディングキックかます為だけに来た訳じゃねーだろ?」
「いやはははアイスの件については不可抗力というか事故っていうかね?」

替えのアイスを頬張りようやく元気(と冷静さ)を取り戻し、アッシュを睨んだ。
実を言うとアッシュがこのような奇行をしでかすのは一度や二度ではない。
そして理由も、大概がロクな物ではないのだ。

「まー結論から言うとさー……俺って結構なギャンブラーじゃん?人生賭けるなんてしょっちゅうじゃん?」
「そうだな、ギルドの安月給オンリーで生活してる辺り相当人生賭けてるな」
「でさ、俺ギャンブル弱いじゃん?しょっちゅう負けるじゃん?金なくなるじゃん?借金しちゃうじゃん?それの繰り返しじゃん?」
「ああうん、大体読めてきたが、何が言いたい?」
「早い話が、暫くの間匿ってくんない?」

『クソッ、こっちにも居ねえ!』『アッシュー!先々月貸した5000ドル早く返しやがれーー!!』
「……………………………成程。道理で外が賑やかだと思ったんだ」

とどのつまり、金を返せなくなったのでしばらく借金取りから隠れたいということだ。
窓から入ったのも借金取り達の目から逃れるため。予想が的中しスタンプは呆れて溜息も吐けない。
ようやく借りた分の金を貯めたとしても、生来の適当ぶりが災いして返すのを忘れ、また全てギャンブルに使いこむという負のスパイラルだ。

「懲りないなお前も。ついこの間も追い回されてたじゃないか、そっちの件はどうなったんだ?」
「知り合いのツテでバイトやってた。4週間謎のお薬を飲んで規則正しく生活するだけで3000ドル!お釣りがきたくらいさ。
 薬飲んだ後、体のあちこちが石化したり目からピンク色の液体が出たりしたけど、バイトが終わったらもう治ったし」
「…………そうか。今元気ならそれでいいさ。でも今回はどうすんだ?返すアテはあるのかよ」

何も聞かなかった振りをしてスタンプは投げやりに質問した。遠回しに「匿う気はない」と言っている。
アッシュは「その言葉を待ってました」と言わんばかりにニンマリと笑った。つまり「ある」らしい。
165 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/06/27(水) 00:01:24.94 0
「WHR(ウィッチ・ハイレースの略称)さ、旦那」
「お前、まさかアレに参加するつもりか?」

スタンプはウィッチ・ハイレースの単語が出るや顔を顰めた。先程ようやく話題を逸らそうとした途端にこれだ。

ウィッチ・ハイレースは19世紀にルヴォワール共和国で初めて開催されたレースである。
魔女と呼ばれた女性たちが箒に跨り優雅に空のコースを飛ぶことで、その美しさと速さを競う競技として認識されていた。
時代の流れと共にその競技内容は変化していき、車が登場してからは陸のコースも追加された。

原則として陸上部門と上空部門のどちらか一方の参加が可能。機体についてだが、

上空部門
・箒、魔法絨毯
・上空専用ゴーレム
・体長10メートル未満の有翼族(近年、ハーピー族の参加の是非についてWHR愛好会で詮議されている)

陸上部門
・陸上専用ゴーレム
・二輪車or四輪車(改造車は認めない)
・大型契約獣

の使用が認められている。30年ほど前までは機体に制限はさほど付いていなかったのだが
「だったら一輪車で出たっていいじゃない!」と本当に一輪車で参加した猛者(アホ)がいたからだ。
(因みに一輪車の彼はベスト10にすら入らなかったもののパフォーマンス性に富んでいるとしてMVP賞を掻っ攫っていった。)

「けどよ、俺だったら1万ドル詰まれたってお断りだな。アレは狂人の祭典だぜ」
スタンプがそう切って捨てるには訳がある。その訳こそがWHRが人々を熱狂の渦に巻き込む理由にも繋がる。

≪武器や魔法の使用・及びレース参加者同士による妨害は可とする≫
一見目を疑うような内容だが、れっきとしたルールとして認められている。
何せWHRの原点は、宗教上の理由で魔女狩りに遭っていた魔女たちによる上空での自衛術。
それがレースとして広まり世界に浸透した訳だが、そのルーツは決して明るいものではない。
余談だが、グランがプレイしているマリーカートのマスコットキャラ・マリーは、魔女と噂され
WHRの始祖と名高いルヴォワール共和国王妃マリー・アントワネアがモデルとなっている。

「まあ黙って聞いてくれよ。あのレースのスポンサーの中にキングストン・カンパニーがいるんだよ」
「えっと……確か大手ゴーレム製造会社だっけか」
「そのとーり!その新作ゴーレムを試乗するんだよ、レースで。それでデータを取るんだと」

「それで……」とアッシュは身を乗り出した。

「モノは相談なんだけど…データを取る際に陸と空、両方取りたいらしいんだよね、あちらさんとしては。
 だから、なるべくパートナーっていうか、一緒にレースに参加してくれる人を探してるんだけど…良い人知らない?って話」

チラッとグランを見、スタンプへと視線を戻した。

「俺の強さは旦那だって知ってるだろ?心配することなんかヘチマもありゃしないって」

【レースに一緒に参加しません?ってお話。ゴーレム以外での参加もできますよー】
166 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/06/28(木) 00:00:09.18 0
>「っ……ぎゃーーー!あぢーーーーーーっ!!」

――ご愁傷様です。
アッシュの話を要約すると
(自らのギャンブル癖によって)日々極限の生活を送っているいたいけな青年が
恐ろしい借金取り達に追いかけられ、敬愛する(?)スタンプの兄貴に助けを求めてきた。
そんな彼が見出した(借金を返すための)最後の希望が、WHRだった!

>「けどよ、俺だったら1万ドル詰まれたってお断りだな。アレは狂人の祭典だぜ」

WHRは武器や魔法を使用しての参加者同士の妨害が認められているらしい。
と、いう事は……

「マリーカートとストライクウィザーズのコラボキタ―――――!!」

>「まあ黙って聞いてくれよ。あのレースのスポンサーの中にキングストン・カンパニーがいるんだよ」
>「えっと……確か大手ゴーレム製造会社だっけか」
>「そのとーり!その新作ゴーレムを試乗するんだよ、レースで。それでデータを取るんだと」

「発売前のゴーレムを試乗できるのか!? すっげえ!」

>「モノは相談なんだけど…データを取る際に陸と空、両方取りたいらしいんだよね、あちらさんとしては。
 だから、なるべくパートナーっていうか、一緒にレースに参加してくれる人を探してるんだけど…良い人知らない?って話」
>「俺の強さは旦那だって知ってるだろ?心配することなんかヘチマもありゃしないって」

「はいっ! 借金取りに追われるいたいけな青年を救うためなら危険はいとわない!」

オレは高々と手を上げて立候補した。その時、外から声が聞こえてきた。

『見つけたぞ!』『借金返しやがれぇええええ!!』

なんと、借金取りが街路樹からこちらに飛びこもうとしているではないか。
なかなか根性のある借金取りだ。

「重力操作《ウェイトコントロール》」

跳ぶ直前、魔法をかける。効果は、体重を少し重くするという嫌がらせのようなものだ。
借金取りはあと一息というところで窓にとどかず、断末魔の悲鳴をあげながら落下していった。

『覚えてろぉおおおおおお!!』

オレはアッシュに向き直って言った。

「……と、こんな風に重力魔法を使えるんだ。上空部門は任せろ!」
167 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/01(日) 21:58:12.82 0
「……悪いがな、アッシュ」

スタンプは組んでいた足を戻し、アッシュに刺すような視線を向けた。
(特筆するまでもないが、この段階でスタンプはまだパン1である。)
「生憎とそんな命知らずは俺の知り合いにゃ居ない。悪いがお引き取り願……」
>「はいっ! 借金取りに追われるいたいけな青年を救うためなら危険はいとわない!」

……居た。スタンプは右手で顔を覆いこれ以上になく深い溜息をついた。
反対に、グランの言葉を聞いたアッシュは喜びにうち震え、グランの手をとった。

「~~グランちゃん!君は良い子だ、天使だァ~~!」
「おいグラン!俺がそんな真似許すと思ってんのか。
 保護者の許可なしに勝手なことすんなってあのエルフ女(アイリーン)にも言われたろ!」
スタンプは額に青筋を立て制止に入った。
「べッっにお前の事が心配な訳じゃないんだからっ」とかそういのではない。
考えてもみよう。耳タコレベルに繰り返すが、魔導人形族は絶滅危惧種。保護されて然るべき対象。
そんな彼女を危険と隣り合わせのWHRに参加させようものなら、魔法局のアイリーンが黙っちゃいないだろう。
ギルドと魔法局に更なる溝が深まる事は必至、うちの支部長もそれを良しとしないはず。
エルフ達に目をつけられることがどれだけ恐ろしいことかスタンプは骨身に沁みている。

(こりゃ何としてでも止めなきゃ――俺がミンチにされる!!)
>『見つけたぞ!』『借金返しやがれぇええええ!!』
「やべっ、金貸しの連中だ。ああいう輩ってのは金貸した相手にどこまでも鼻が敏いんだよなァ~~!」

外を見れば、借金取りの一人が街路樹によじ上り窓へ飛び移ろうとしている。
中々アグレッシブだが、敵に回した相手が悪かった。

>「重力操作《ウェイトコントロール》」
ジャンプした金貸しの手が窓のへりにかかる直前、体全体に鉛がかかったかのように重くなる。
結果、金貸しの手は届かず、直下の街路樹へ真っ逆さま。
>『覚えてろぉおおおおおお!!』
>「……と、こんな風に重力魔法を使えるんだ。上空部門は任せろ!」
「おおー……頼りになるぜグランちゃん!」
アッシュは窓を見降ろし感嘆の声を上げる。上空という戦場においてこれほど力になるものはない。
約束の時間まで後1時間。善は急げだ。アッシュはグランを担ぎ走り出す!
勿論パン1のスタンプが後を追えるわけがない!

「んじゃ旦那!しばらくグランちゃん借りるぜ~~!」
「あ、ちょっ待てアッシュ!コラーー!!」

【大手ゴーレム製造会社 キングストンカンパニー】

キングストン・カンパニーの工場はニューラ―ク市の郊外に位置している。
広大な敷地内に到着したアッシュとグランは、待ち合わせていた案内役と共に工場を巡る。

「……こちらが我が社が誇る新作ゴーレム、KシリーズUSA51-2012モデルとなります。
 アメリクの国鳥を意識してデザインされたもので、新作のUSA51-2012モデルは早くも予約が殺到しております。
 鳥以上に滑らかな飛行を売りとし、従来のゴーレムに比べて知能指数も大幅に高く500以上の指令に柔軟に対応。
 最高速度は約マッハ3、加速度、耐久度共に申し分なく並大抵のビル風にも負けません。自動追尾式ミサイルも搭載!
 ナビ機能も充実で、目的地まできっちり届けます!ラクラク快適な空の旅!……ここまでで何か質問は?」
「お姉さん、夜に予定はありませんか?」
「残念ながら仕事ですの。……そちらのお嬢さんは?」
白衣姿の案内役は眼鏡をついっと上げアッシュを華麗にスルー。
グランに質問の有無を促し、その他ゴーレムの操作について基本的な説明をした。

「レースは明日です。朝の10時にWHRの上空部門受付に集合して下さい。実験後の報酬金は口座に振り込みますので……」
168 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/01(日) 21:58:47.72 0
【夜・ニューラ―ク市内のどこかのビル】

「いやー、グランちゃんが協力してくれて助かったよ。明日のレース優勝を願って乾杯!」
ニューラ―クの夜は昼と打って変わって秋のように涼しい。
工場を後にした二人はビアガーデンで食事をとっていた。流石にスタンプの元に戻る気にはなれなかったのだ。
(というより戻ったら間違いなくキレたスタンプに蜂の巣にされる未来が見えたからなのだが。彼ならやりかねない)
アッシュはビール片手にすっかり上機嫌で、少ない金でグランにディナーを奢るといって聞かなかった。
スタンプも一応グランにいつも財布は持たせているが、あの状況下で持ち出せたかどうかは定かではない。
それはともかくとして、アッシュはローストチキンを頬張りつつグランを観察していた。

「んん、昼間に旦那が言ってたんだけどさァ…グランちゃんの保護者って。グランちゃんって旦那の娘ってこと?」
実際には只の身元引受人なわけだが、早くも軽く酔っ払ったアッシュに言っても上の空だ。
アッシュがグランについて知っていることはそんなに多くない。
対銀行強盗での彼女等の活躍と、ギルドで聞きかじった幾つかの噂だけ。
新たな情報を元に想像した自分の元上司が幼い少女を育てる姿、そのギャップを愉快に思ったようだ。

「へ~、じゃあ旦那とは一緒に暮らしてンの?それとも住居は別とか?
 あのオッサン気遣いなんてゼロだから一緒に暮らすとなると肩身狭い気分味わいそうだよなー」
酔いからくるハイテンション、野次馬根性から根掘り葉掘り聞きだそうとする。
周りの喧騒が更に気分を昂らせることだろう。腕時計で時間を確認すると、気づけばもう10時を回ろうとしていた。
「あらま、長居しちゃったかな。どうするグランちゃん。家に戻るかい?帰り辛いなら俺の家でも構わな……」
「グラン!」

後方から疲れ切ったような怒声が掛かる。アッシュが振り返ると、汗だくのスタンプが仁王立ちしていた。
体力不足で息を切らし、それでも肩で風を切り二人の元へ足早に歩み寄る。相当お怒りの様子だ。
アッシュは「あちゃー」と言わんばかりに冷や汗を垂らした。留まっても逃げても死亡フラグの予感。
「……こんな所にいやがったか、手間取らせやがって。帰るぞ馬鹿」
鉄をも斬りそうな三白眼でグランを睨みつけ、グランの腕を乱暴に掴んだ。

「レースに出るだの訳の分からんこと抜かしやがって。銀行強盗の件といいお前に危機管理能力はねーのかよ。
 『俺の許可なしに危ないことすんじゃねえ』『変な夢想を見るんじゃねえ』! 分かったか」
それを聞いたアッシュの表情が一変する。アッシュの手がスタンプの手を強く弾き、男二人は睨み合う。

「……今のは聞き捨てならねーな旦那。流石の俺も見過ごせねーぜ?」
「何だアッシュ。思えばお前が事の原因だろうが。黙ってろ」
「いーや、黙らないね。さっきからグランちゃんに命令ばっかしやがって、いっちょ前に親気取りかよ」
アッシュは細い双眸を見開き歯を剥く。
悪く言えば適当、よく言えば自分に正直に生きるアッシュにとって、今のスタンプの態度は許せるものではないらしい。

「ああ、確かに誘ったのは俺さ。レースは危険だし過酷、心配するのも分かる。
 でも選んだのはグランちゃんだ。だったら行動する権利はグランちゃん自身の筈だ、アンタじゃない。
 朝から疑問だったけど、アンタ本当にグランちゃんのこと考えて物言ってんのか?どうなんだよ、スタンプの旦那」
アッシュの言葉にスタンプは言葉を詰まらせ、目を泳がせた。それが肯定であるか否定であるか判断する事は難しい。
立て続けにアッシュは、スタンプの手から自由になったグランの腕を優しく引いた。

「グランちゃん、こんなオッサンの言いなりになることねーぜ?今なら引き返してもいいし、このままレースに出ても良い。
 けどそのオッサンの所にいることだけは絶対に間違ってる。悪いことは言わねーから一緒にいるのは止めとけよ」
「……馬鹿なこと言ってんじゃねえ。適当な事ばかり言いやがって、流石はアゲガ1適当な男だな。
 こんな奴の戯言真に受けてないでとっとと帰るぞ。アッシュ、お前は別の相方見つけることだな」

少女を挟んで、二人の男は尚睨みあう。正しいのはどちらか、選ぶのは少女だ。
169 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/07/04(水) 23:23:57.49 0
>「んじゃ旦那!しばらくグランちゃん借りるぜ~~!」
>「あ、ちょっ待てアッシュ!コラーー!!」

あれよあれよという間にキングストンカンパニーに連れて行かれた。
新形ゴーレムを前に、お姉さんが解説をする。

>「お姉さん、夜に予定はありませんか?」
>「残念ながら仕事ですの。……そちらのお嬢さんは?」

「はいはい! バトルを盛り上げるための通信機能はあるんですか!?」

――めっさどうでもいい質問だが、疑問に思った事はないだろうか。
ロボットアニメ等でロボットに乗ってるのに
味方同士ならともかく何で敵同士で会話が成立してる事があるんだろう!?
バトルを盛り上げるためにお互いに通信を出来るようにしているとしか考えられない。

>「レースは明日です。朝の10時にWHRの上空部門受付に集合して下さい。実験後の報酬金は口座に振り込みますので……」

「いえっさー!」

びしっと敬礼をしてカンパニーをあとにする。

>「いやー、グランちゃんが協力してくれて助かったよ。明日のレース優勝を願って乾杯!」
「かんぱ~い」

ビールとオレンジジュースで乾杯。
アッシュがおもむろに爆弾発言。

>「んん、昼間に旦那が言ってたんだけどさァ…グランちゃんの保護者って。グランちゃんって旦那の娘ってこと?」

……オレのお茶返せ、じゃなくてオレンジジュース返せwww
と思いながら左手の甲の契約印を見せる。

「オレは100年以上の時を変わらぬ姿で生きる人形。
色々と大人の事情があって表向き保護者という事になっているらしい。
本当は……運命に導かれた相方ってやつだ」

>「へ~、じゃあ旦那とは一緒に暮らしてンの?それとも住居は別とか?
 あのオッサン気遣いなんてゼロだから一緒に暮らすとなると肩身狭い気分味わいそうだよなー」

「行くところがないから一緒に暮らしてる。
そうそう、いっつもパンツ一丁だし! まあ別にいいけどな」

「ぎゃはははは!」

と、飲み会というのは往々にしてその場にいない人を弄って盛りあがるものである。
気付けば夜十時。
170 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/07/04(水) 23:26:06.10 0
>「あらま、長居しちゃったかな。どうするグランちゃん。家に戻るかい?帰り辛いなら俺の家でも構わな……」
>「グラン!」

現れたスタンプは息も絶え絶えになっており、相当探し回った事が伺える。
それを見てあれ?と思い、次の言葉でその疑問は確信に変わる。

>「……こんな所にいやがったか、手間取らせやがって。帰るぞ馬鹿」

追跡束縛契約呪文とは。
何時如何なる時も魔力による縁で文字通り引かれ合い
万が一離れることがあったとしても念じるだけで 相手の位置が分かるという大変便利な呪文である。

――!?

師匠のかけた追跡束縛契約呪文はインチキだった!?
ただ同じ印が出るだけのペアルック魔法です、なんとなく引かれ合う気がします。みたいな。
運命に導かれた相方という超ドラマチックな展開がぶちこわれだ、どうしてくれる!
そんなオレをよそに、アッシュとスタンプはオレを取り合って口論を始めた。
これって俗にいうところの修・羅・場!? オレって罪なオンナ。
ここでお前男の娘だろ!というツッコミはある層の方々が狂喜乱舞するからやめようね!

>「グランちゃん、こんなオッサンの言いなりになることねーぜ?今なら引き返してもいいし、このままレースに出ても良い。
 けどそのオッサンの所にいることだけは絶対に間違ってる。悪いことは言わねーから一緒にいるのは止めとけよ」
>「……馬鹿なこと言ってんじゃねえ。適当な事ばかり言いやがって、流石はアゲガ1適当な男だな。
 こんな奴の戯言真に受けてないでとっとと帰るぞ。アッシュ、お前は別の相方見つけることだな」

二人の議論は平行線、判断はオレに委ねられた。
レースに出たいか出たくないかと言えば、もちろん出たい。
しかし――コンビを組むと決めたからには相方を困らせるべきではない。
スタンプが止めるのは大人の事情によるところが多分にあるだろうが、それは問題ではない。
というよりこっちが大人の事情を利用して無理矢理相方として押し入ったようなものなんだから、今更それを否定するのは卑怯というものだ。
そして出した結論は――

「帰らないよーだ! 絶対優勝するから部屋でパンツ一丁で寝転がりながら見とくんだな!」

ひし、とアッシュの腕を掴む。どっちが正しいかなんて分からない。これはある事を確かめるための実験だ。
171 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/07/04(水) 23:30:57.10 0
――――――――――――――――――――

再びアッシュと二人になった後――この選択の真意を伝える。

「魔法の人形は、正しい事よりも、面白い事、ドラマチックな事を選ぶ。
だから……試してみたんだ。この契約が本物なら、何があっても引かれ合う」

「ん~、契約が本物かどうかがそんなに重要なのか?」

「戯曲《ドラマ》には小道具《ガジェット》が欠かせない。
例えば、魔法の契約――」

額の宝石を見せる。
科学文明の発展と比例するかのように年々、魔法を使えなくなる者が増えてきているという。
ならば、それ自体魔法の塊である魔法生命体は……どうなる?

「魔法の人形は、いついかなる時でも戯曲《ドラマ》を踊る。
100年前ぐらいまでは……まだ神秘に包まれた森がたくさん残っていた頃はたくさんの戯曲《ドラマ》が生まれていた。
でもいつの間にかドラマが生まれにくい時代になってしまったから……
みんな魔法が解けて止まってしまった……オレは世界で一人ぼっちだ。
こんな重要機密を話していいのかって? いいのさ、誰もしんじやしない。
信じるか信じないかは――キミの自由だ」

こうしてニューラークの夜は更けていく――
172 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/08(日) 20:33:39.75 0

ニューラーク湾に浮かぶベドゥロウ島に聳え立つ銅像『微笑の女神』は、アメリクの象徴として世界に知れ渡っている。
だがそのルーツはあまり知れ渡っておらず、何時誰が何のために創ったのかもわからない。
アメリク大陸が発見された時には既に存在しており、ようやく発見されたのも約150年前のこと。
製造方法も一切謎で、多くの研究者たちによって解析が進められているものの、未だ解明されていないことが多い。
神秘の塊のような存在は数多の伝説を作り、今でも一人歩きしている状態だ。

曰く、新大陸に棲息していた巨人族が儀式のために製造したものだとか。
はたまた移住してきたドワーフ族の先祖たちが手掛けた最高傑作であるとか。
或いは魔導人形族や魔人のように魔力や無機物を媒体にした種族の末裔ではないかとか、とにかく数えればキリがない。
で、その微笑の女神像の視線の先にぶつかる場所に、ニューラーク合同庁舎が存在する。
城のような外見の塔の部分に位置するのが、魔法局である。

「お疲れ様です。アイリーン女史、お先に失礼します!」

ネイビーブルーのマントを翻し、アイリーンへ頭を下げる一人のニンフ。
緑髪に小麦肌、縁の太い眼鏡とくれば魔法局では一人しか居ない。
「お疲れ、シェレン。最近何だか楽しそうだけど何かあるのかしら?」
「ふっふ~ん、内緒です、ハイ!」
シェレンは黒い目をぱちぱちとさせ、バッグを振り回しながら上機嫌で舎を後にする。
室内はどこもWHRの宣伝で目まぐるしく、妖精たちが宣伝ポスターを手にせっせと上空を飛びまわっている。

「(ウィッチ・ハイ・レースに出場します、なんて、冗談でも言ったらアイリーンさんは驚くでしょうね、ハイ)」

ライトに照らされ、夜景に映える城を振り返りながらシェレンは考える。
シェレンもまた、ウィッチ・ハイ・レースに出場しようと意気込んだ事はあった。
しかし……如何せんシェレンは生真面目だった。そのうえ奇妙な妄想癖があり臆病だった。
なので夢は夢のまま、実現などすることなく今まで過ごしてきた。

『…………ご用件のある方は、ピーっという発信音の後に……』
「……ん~、出ないですね。まだお仕事中なんでしょうか、ハイ……」

箱形念信器(ハードバンク社製)から耳を離し、シェレンは溜息をついた。
電話の相手が出ないなら仕方ない、今日は一人で呑もう…シェレンの足は最近オープンしたビアガーデンへと向かっていた。
が……

「(あれ?)」

気のせいだろうか、ビアガーデンから出てくる二人組にシェレンは見覚えがあった気がした。
だがそれが誰なのか気づく前に、

「グラン、待てっ!」
「ひゃえっハイ!?」

ぼーっと背中を見送っていたシェレンにぶつかる男の声と体。
小さいシェレンは勿論、180センチオーバーの巨体に押しつぶされることとなる。

「痛い痛い痛いタップタップ!……って貴方はファントム氏!?ですね、ハイ!」
「あだだ……! お前、魔法局の!」
173 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/08(日) 20:34:31.66 0
     ○

「はー、そんな事が……。道理で間男に結婚三年目の嫁を掻っ攫われたような顔してる訳ですね、ハイ」
「妙に生々しいから止めろ、その表現」
数分後、ビアガーデンには大量の視線を集める変わった二人組がエールを呑み交わしていた。
シェレンは若干哀れむような目でスタンプを見ると、先程頼んだチョコケーキ(本来ならデザートだ)を一口。
フィッシュ&チップスをソースに絡めて指で弄び、それも一口。

「でも、何故追いかけないんです?今なら貴方達に掛けられた呪文を一発で……」
「出来ないんだ」
「え?どういうことですか、ハイ?」
「言葉どおりさ。言われた通り念じてみても、アイツの場所なんて分かりゃしねえ。インチキじゃねーかこんな魔法!」

ダン!とジョッキの底を勢いよくテーブルに叩きつける。
テーブルの皿が2、3ミリほど浮いて、着地。シェレンはパチパチと目を見開いてみせた。
青筋が浮かぶ右手の契約紋をしばし眺め、おもむろにシェレンはバッグを漁り、一冊のぶ厚い本を出した。

「何だそれ?新手の凶器か?」
「失礼ですね、魔法全書ですよ。えっと追跡束縛契約呪文はっと……あっありました、ハイ。
 恐らく話を聞くに、お二方のシンクロ率が問題かと思われます、ハイ」
「シンクロ率?水泳でもやれってか?」
「……言い替えるならお互いに対する感情移入の深さ、と言っても過言ではありませんね、ハイ。
 例えば物語でも、運命の出会いだとか憎んでも憎みきれない宿敵だとかがあるでしょう?
 あれは互いの間に結ばれた絆だとか……正負関係無く深く注いだ感情……に関係してるのです。
 追跡束縛契約呪文はそのシンクロ率が高ければ高いほど相手を探しやすくし、出会いを安定させるのです」
「つまり、俺達にはそれが無い、と?」
「いえ、相性の関係もあるのですが……恐らく、変動しているのはないでしょうか。
 つまり、ファントム氏はギニョール女史にどう対応して良いか分からず、戸惑いの感情を持っている。
 それに呪文が反応しているのではないか、これが私の推察です、ハイ」
「何でそれが分かる?」
「アイリーン女史の言葉を借りるなら、『女の勘』って奴です。ハイ」

とびっきりの笑顔と共に言い放つシェレンに、スタンプは「下らん」と一蹴。
疑問は解けたものの、彼から最早追いかけようという気概すら見受けられなかった。

「……それに、追いかけて連れ戻した所で、何が何でもレースに出たがるだろうしな、アイツは」

半ば不貞腐れたような表情でそういうと、「付き合ってられるかっ!」と自棄っぱちになって酒を煽り続ける。
そんな彼の様子を見ているうち、シェレンはこんな事を言い出していた。

「…………なら、いっそレースに出ちゃえば良いんです」
「は?どういう……」

「王子様というのは、姫のピンチに颯爽と駆けつけるものでしょう?」
174 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/08(日) 20:35:08.75 0
【翌朝 レース登録受付場】

『レディースエーンド!ジェントルメーン!やってきた!遂にこの季節が巡ってきたッ!
 スピード狂共、準備は良いか!?小便は済ませたか?神様にお祈りは?車体の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?
 狂人の狂人による狂人共の祭典『ウィッチ・ハイ・レース』第66回!!
 今日も暑いぜぇ~~暑さ極まって脳味噌フットーパッカーンしちゃわねェように気をつけなァーーっ!

 あ、受け付けは車体保管所の隣で行うから死んでも間違えんじゃねーぞ糞共!
 生命保険と自動車保険及び空動災害保険も受け付けてるから安心だな!
 レース開始は11:00キッカリだ!一秒でも遅れたら即刻失格とみなすぜイーーッハァーー!!』
「……キチガイはあの実況担当だと思うんだけどどう思う?グランちゃん。あのアナウンスもう25回目だぜ」

アッシュは眠たげに眉を顰め、グランの横で小さくぼやく。
結局二人は借金取りの目を盗んでアッシュの家で一夜明かした(※猥褻な意味ではない)が、
スタンプが二人を追いかけてくる事は無かった。もし来た時の為にと徹夜で待ち構えていたのだが、骨折り損だったらしい。

「(何考えてるんだ、旦那も……)」
なんだかんだでグランを心配して迎えに来る事を少しでも期待していただけに、アッシュは少なからず失望していた。
自分の元上司がこんなにも詰まらない人間だったなんて、……グランの立場も考えるとやるせない。
契約が本物でないと知った彼女は、何を思うだろうか。アッシュは「誰も信じやしない」と語っていたグランに同情してしまっていた。
ドラマティックが彼女の生きる糧なら、スタンプと共にいるのも本当に間違いかもしれない。
「(なんせ旦那は、筋金入りのリアリズムだからなぁ~……ガチモンで相性最悪だろ)」

何はともあれ、二人は上空部門の受付場に向かう。
二人のエントリーはカンパニー側が既に済ませており、案内役が二人を待っていた。
案内役は二人分のゼッケンを渡し、レース開始直前の最後の説明を始めた。
簡潔にまとめると、

・通信機能は同社の製品のみ可能。敵と会話したければジャミングを行使しなければならない
・ジャミングは相手の念信器に向け魔力を流し、ゴーレムに搭載された念信器と周波数をシンクロさせればOK。
・自動追尾式ミサイルは爆発魔法のかけられた超磁鉄弾に追尾魔法をかけたもの。
 発射したければ座席のオーブモニターから命令を下せばよい
・また操縦基からやむなく離脱する場合は、座席の肘かけにセットした風圧遮断バッヂを装着すること

「うはーっ、こりゃすげえ!」
鳥をモチーフにした車体は普通のゴーレムに比べかなり小さく、サイズは小型トラックより少し大きめといったところ。
洗練されたフォルムは構造からして戦闘機を思わせる。座席は前にひとつ、後ろにひとつだ。
アッシュは操縦基に入るや、感嘆の声を上げた。男の浪漫が詰まった光景に言葉も無い様子である。

「断っておきますが、これはあくまでテストですので優勝は二の次です。機体の破損を防ぐことを第一に考えて下さい」
案内役は役目を終えると、アッシュが念信器コードの番号を聞く間も無く去って行った。

「(ん?あの人は……見間違いか?)」
案内役の背中を未練がましく見送ったアッシュは、不意に見覚えのある青髪を見かけた気がした。
だがそれも一瞬のことで、あっという間に人ごみに紛れて見失った。

「まさかな……」
レース開始まで時間はある。アッシュはゴーレムの横で待機しつつも、ひしめきあう人ごみをじっと見つめていた。

【次ターンからレース開始、コースの説明を始めます】
175 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/07/11(水) 01:27:36.62 0
―― アッシュの家

どうせ来ないからいいと言っても聞かず、アッシュは寝ずに見張りをしている。
オレは寝転がりながらある事を思いついた。
追跡束縛契約呪文が本物かどうか確かめるには、こちらからも試してみればいい。
スタンプど~こだ?

「……うん、分からん!」

そのまま寝付いたオレは、夢を見た。夢の中のオレは、霊鳥を駆る無敵の戦姫。
銀髪の騎士団長と共に、悪の帝国の竜騎士団一個大隊を迎え撃つのだ!
雑魚共を次々と薙ぎ払うオレ達。しかし、一際大きな飛竜を駆る大ボスに追いつめられる!
「騎士団長!援護を!」「うわーだめだー!」「フハハハハ、終りだあ!」
カッキーン!「何!?」
絶体絶命のピンチに純白のペガサスを駆って現れたのは、青い髪をした隣国の王子。
「見苦しい恰好をお許しください。着のみ着のままで駆けつけました!」
「そのような事を気になさらないで……」
そう言う彼の下半身は……パンツ一丁だった。
「……って本当に見苦しいよ!」
それに対し、王子は真っ直ぐな瞳で答えた。
「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」

起き上がって思わず叫ぶ。

「なんだっそら!」

―― レース会場

受付場に来たオレ達は、ゼッケンを受け取って機体の説明を受ける。

>「うはーっ、こりゃすげえ!」

「おおっ!」

気高き霊鳥を想起させる洗練されたフォルム。
一見科学文明の産物に見えて、実はゴーレム――
魔術師がよく使役するあの岩の人形の進化系だというのだから驚きである。

>「まさかな……」

アッシュが不意に呟いた。

「どうした? ……げっ、族の集団エントリーかよ!」

オレの視線は分かりやすく目を引くものに留まり、それ以外の物に気が付くことは無くなってしまった。
人ごみの中で、一際目立つ暑苦しい一団が集会を開いていたのだ。
「押忍!」「夜露死苦!」
「いいかお前ら、我が団の財政は火の車だ! なんとしてでも賞金を勝ち取れ! 強敵は囲んで潰せ!」
「応!」
今巷を少しばかり賑わせている、龍人族飛竜種の青年をリーダーとする珍走集団――
怒羅魂《ドラゴン》である。

ふと、昨夜の夢をぼんやりと思い出した。鳥、竜、銀髪の青年……。

「まさかな……」

ふるふると頭を振ってその考えを打ち消す。
白馬の王子様ならぬパンツの王子様なんて来るはずはないのだ。
176 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/13(金) 23:57:19.57 0
    ○

――木漏れ日の差す大木の下、一組の少年少女が丘の上の花畑でたわむれている。
青髪の少年は、眉間に皺を寄せ必死にシロツメクサの花冠を編もうとやっきになっていた。
少女はそれを楽しそうに、やや愉快そうに眺めつつも、編むコツを指南する。

やがて出来上がった花冠を見て、少年は喜んだ。それを少女の頭に乗せて、二人して無邪気に笑い合う。
その時、一陣の強い風が吹き、花冠を攫っていってしまった。それを眼で追う少女の目が、空へとむく。
青い空では、何百という数の箒や絨毯や獣が飛び交い、殺戮を繰り広げていた。
荒んだ光景を目の当たりにし、少年は泣き出す。けれども少女は唇を真一文字に結んで、拳を固く握っていた。

雲を突き破って、大木にドサリ、と何かが落ちた。無惨な姿となった血塗れの鷹だった。
少女は鷹を抱きしめて、歩き出す。少年は涙を浮かべながら、衝動的に待って、と呼びかけた。
けれども少女は振り返って、微笑むだけだった。背中から突如生えた銀色の翼をはためかせ、少女は空の戦場へと飛び立った。
少年の掠れた声は、言葉にならずに、風に揉まれて消えた。伸ばした手は何も掴めずに――

「…………………」

嫌にクリアかつリアルな夢だ。スタンプは起き上がり、髪を掻き上げる。汗びっしょりだ。
子供の頃の自分が登場する夢は久しぶりに見た。スタンプにとって子供とは無力の象徴だ。皮肉られている気分だ。
煙草に手を伸ばしたが、中身が空だと知りゴミ箱へと放る。時間は夜中の4時を過ぎたばかりだった。

あの少女は何者だったのだろう。日差しが強くて顔までは見えなかった。でも力強くて、優しい笑みだった。
無力で不安ばかりだった自分を支えるような笑顔。それを見るのは初めてでなかったように思える。
遠い記憶の中に置き去りにされた淡い思い出の一部。それが何故今になって鮮明に浮かび上がるのだろう。
ベッドに近寄ると、酔い潰れたシェレンが幸せそうに涎を垂らして寝ている。ニンフとは思えない情景に苦笑い。
皮張りのソファが寝汗でべとつくので、シーツでも敷くかと立ち上がり、窓の外を見やった。

――行動する権利はグランちゃん自身の筈だ、アンタじゃない。
――アンタ本当にグランちゃんのこと考えて物言ってんのか?

――帰らないよーだ! 絶対優勝するから部屋でパンツ一丁で寝転がりながら見とくんだな!

(…………………………)
もう一度、右手を額に当てて念じてみた。グランを想像し、居場所を探る……が、矢張り分からない。
それにグランを思い浮かべた一瞬、夢の中の少女の笑顔がフラッシュバックし邪魔をする。
何故だかそれに奇妙な意図を感じた。何かの予兆ではないか――そんなことを考え、自嘲する。

「……阿呆か。心配するなんて、……ガラじゃねーっつの。」

予感――胸の奥で燻るもやもやを振り払うかのように、頭を振った。
ニューラ―クを見守る月はとても輝いていた。明日はよく晴れそうだ。

    ○
177 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/13(金) 23:58:22.99 0
>>174->>175同時時刻 レース登録受付場】

>「押忍!」「夜露死苦!」
>「いいかお前ら、我が団の財政は火の車だ! なんとしてでも賞金を勝ち取れ! 強敵は囲んで潰せ!」
>「応!」
「…………なんだ、ありャ」
「確か……龍人族を中心に集めた珍走集団・怒羅魂《ドラゴン》ですよ。ほら、アレがリーダーです」

同じ頃、レースの登録に来ていたスタンプ達は、世にも奇妙な集団を目撃していた。
シェレンが指した青年を見て、スタンプは訝るように目を細める。
飛竜種に見られる、赤髪金瞳に赤い鱗、蝙蝠のような力強い翼。人間の血が入っているらしく、顔が人のそれであった。
迷彩柄の空軍用の戦闘服に身を包み(舎弟と思われる連中も同様の格好だ)、一際強いオーラを放っていた。
竜族特有のハ虫類顔の舎弟達が、リーダーへ熱い視線を向ける。

「良いか!俺達はあと一歩の所でいつも優勝を逃している。この十余年の屈辱を忘れてはならない!
 お前達に告ぐ――誇り高き龍人の血に賭けて、『賞金と勝利』両方確実に手に入れるッ!良いな!!」
「オオオオーッ!!」「流石兄貴!痺れるぜェ~~~~ッ!!」

「うへーっ。若い奴等ってどうしてこう……なァ。若いって羨ましいけどヨ」
「熱中出来ることがあるとは素晴らしいことです、ハイ。ああして心を燃やすが如き情熱は命を輝かせるものです。
 ファントム氏も見習ってみては?」
「ご冗談。そんな体力ねーよ。……で、俺達の車体はどれ……」

周りを見回した時、周辺に轟くエンジンの炸裂音。その騒音に何人もが振り返る。
ギャラリーが目を皿のように丸くして見守る中、その改造バイク集団は現れた。
集団は一様に悪趣味なゴーグルを装着し、わがもの顔でバイクを転がす。別角度から見ていたアッシュは、その集団に見覚えがあった。

「『バンプス』か……!あいつ等、もう出てきやがったのかよ」

珍走集団に続き現れた過激派不良集団。リーダーのゲオルグは右手に包帯を巻いており、飛竜族のリーダーに目を付けた。
怒羅魂のリーダーも金色の瞳から射殺すような視線を出し、互いに火花を散らしている。
この二つのグループは、リーダー同士の年齢が近いこともあり、以前から激しい縄張り争いを起こしているのだがさて置き。

「よォ蜥蜴野郎、相変わらず辛気臭ェ面だな。優勝が逃げてく訳だぜ」
「そっちこそ、その見苦しいゴリラ面は変わらないんだな。ご自慢の爆発魔法で整形しないのか?」

片や青筋浮かべたニヤケ面、片や涼やかな仏頂面で睨み合う過激な二人。
まさに一触即発。互いの舎弟達は間に割って入り仲裁する度胸もなく、周りもハラハラと見守る。

だがゲオルグの方が怒羅魂リーダーの肩越しに何かを見つけるや、ギョッとした顔をしてそそくさと去っていった。
怪訝そうな顔でリーダーが後方を見ると、笑顔とは相反した、アッシュの剣呑な瞳と目が合う。
リーダーは合点がいったのか、フッと挑戦的に微笑み去っていく。

「グランちゃん、気を引き締めていこうぜ。今回のは……特に荒れる気がする」

双眸を細め、アッシュはグランに忠告する。その視線は、数人のバンプスが手にする箒にも向けられていた。
その言葉が合図だったかのようなタイミングで、レース受付終了のアナウンスが鳴り響く。
その頃、スタンプ達はといえば……。
178 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/13(金) 23:59:18.45 0
「で、何だこれ」
「私達が乗る車体ですが何か」

げんなりとした顔で、スタンプは「それ」を見た。童話に出てきそうな車体……魔法局の馬車だ。
それに繋がれているのは、翼を生やした馬・ペガサスだ。鳥の羽を持ち、勇者を背に乗せ空を駆ける伝説の馬。
ペガサスは決して乗せた人を落とすことはなく、またペガサスが牽く馬車もまた空に浮かぶことが出来る。
上空でこれほど頼りになるパートナーは居ない。だが……スタンプの頬が自然と引き攣った。

「なァ、俺嫌な予感がするんが、まさかこれに乗るって言わないよな?」
「何言ってるんですか、さっさと乗って下さいよ、ハイ」

空から探すほうが手っとり早いとは言え、やっぱりか……がっくりと項垂れ、渋々馬車に乗り込んだ。


一方で、アッシュ達はゴーレムに乗り込み、首尾よくスタートするための準備にいそしんでいた。

「前と後ろ、好きな方に乗っていいぜ。目的地を設定したら、後はどうせ自動飛行だしな」

アッシュは液晶画面をタッチし、飛行ルートを設定する。
こうしておけば、二人共席を外してもゴーレムが指令通りに巡航してくれるので問題は無い。
念の為バッヂを左肩に着け、システム確認を済ませる。

『ハァーイ、皆さんの準備も整ったところで、確認の為にルールとコース順路を説明しまーす!
 スタートはニューラ―クから、各ポイントで目印のフラッグを回収しつつ、ベドゥロウ島を折り返し地点としゴールを目指します。
 フラッグは一つでも足りない、また協会側がレース続行不可能ないしは参加者がリタイアを宣言した時点で失格です!
 それ以外はフリーダム!観客とスポンサー様方に迷惑をかけない程度に大暴れしちゃってくださーい!
 数多くの罠と戦火をくぐり抜け、どうかその手に勝利を掴め!ウィッチ・ハイ・レース、いよいよ開幕です!!』

ワアッ!と空気を裂くように歓声が上がる。アッシュはそれこそ表情を引き締めた。
スタンプはサブマシンガンを抱いて、獲物を探すかのように窓の景色を睨んだ。
その向かい側で、シェレンはペガサスを操るべく手綱を握り、意思疎通(シンクロ)を図る。

『スタートまで、…10!9!8!』

各々がそれぞれの願望を胸に秘め。

『7、6、5、4!』

その先に未来を、勝利を、目標を見据えて。

『3、2、1!!』

――――フラッグが、振り切られた。


『ッ……スター――――ートォ―――――――――――!!!』


【レース開始!!】
179 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/07/18(水) 00:35:15.43 0
>「『バンプス』か……!あいつ等、もう出てきやがったのかよ」
>「グランちゃん、気を引き締めていこうぜ。今回のは……特に荒れる気がする」

「知り合い……?」

不良集団バンプスとは何らかの因縁があるようだ。
まあアゲンストガードと魔法使い率いる不良集団だから、何もないほうがおかしいかもしれない。

>「前と後ろ、好きな方に乗っていいぜ。目的地を設定したら、後はどうせ自動飛行だしな」

いそいそと前に乗り込む。確か、500以上の指令に対応する人工知能を搭載している、とかだったな。
音声認識システムも搭載しているらしい。

「全速力で飛ばせー!と言いたいところだけど最初に飛ばし過ぎると集中攻撃を受ける。
最初は適当に速度を調整しつつクライマックスでドカーンとだな」
『言ッテイル意味が理解デキマセン』

流石にアバウトな表現は理解できないようだ。

「今日のニューラークの天気は?」
『晴レデス』
「よし! 勝てるってさ!」
「何でそうなる!? というか最新型の携帯電話か!?」

一瞬、どう見てもMVP賞狙いの馬車が見えたような気がするが、とりあえずスルーしておく。
180 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/07/18(水) 00:36:40.50 0
>『スタートまで、…10!9!8!』

カウントダウンが始まる中、アッシュに話しかける。

「オレ、優勝したら、胸を張ってスタンプの元に帰るんだ。
馬鹿みたいな夢想じゃないって見せつけてやる」

「グラン……」

アッシュがしみじみと語るかと思いきや、言いにくそうに一言。

「それは死亡フラグだ!」
「えっ」

別にこの戦争から帰ったら結婚するんだ、なんて言ってないぞ!?

>『ッ……スター――――ートォ―――――――――――!!!』
「レッツハッピーフライト!」

こうして最新型ゴーレムによる快適な(?)空の旅が始まった。
同時にほうきにまたがった人達や有翼種達が、一斉に飛び出す。
出来ればチンピラ集団二つには、互いで仲良く潰しあってほしいところだ。
と、心配するまでもなかった。

「燃えちまいなトカゲ集団!」「ウボァ」「よくもアニキを! ファイアボール!」

開始早々、火の玉が目の前を飛び交う。慌てて上空に離脱。
前半は目立たないようにしておくに限る。それから暫くは何事もなく……

「順調だなあ、アッシュ」
「ああ、まるで嵐の前の静けさみたいだ」
「こやつめハハハ。今日のニューラークの天気は?」
『大荒レトナルデショウ』
「えっ」
181 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/22(日) 14:25:40.49 0
ペガサスの馬力は普通の馬のそれを圧倒的に凌駕する。
重い馬車だって何のその。轟、と景色があっという間に後方へ流されていく。

>「燃えちまいなトカゲ集団!」「ウボァ」「よくもアニキを! ファイアボール!」
「初っ端からおアツいこったな」
「近づいたら私達まで火傷しかねませんね、ハイ。上昇しましょう」

レース開始から五分と経たず、バンプスと怒羅魂達による過激な潰し合いが始まる。
飛び交う火球と爆発魔法に巻き込まれまいと、多くの機体が上昇していく。
中には戦闘に巻き込まれ、早速地上へ真っ逆さまに落下していく者もいた。

「おいおい、助けなくて大丈夫かアレ」
「心配ありませんよ、このゼッケンがありますから」

ペガサスを繋ぐ手綱を片手で束ね、シェレンはゼッケンをつまんで見せた。
上空部門の参加者に渡されたゼッケンは様々な魔が施してある。
参加者が何らかのトラブルに巻き込まれた場合、ゼッケンを身に着けていれば防護呪文が働いて身を守ってくれる。

事実、落下していく参加者達は、地面に激突する直前に見えないクッションに弾かれるように跳ねた。
気絶はしているものの傷一つ追っておらず、スタッフによって救護室へと運ばれていく。
ゾッとしない光景だが、とりあえず死にはしない事が分かったのでスタンプは顔を引っ込めた。

「ま、墜落すれば失格ですけどね。落ちないに越した事はありませんね、ハイ。それはそうと……」
『うわああああ!』

また一機、煙を上げて墜落していく機体を見た。
チラ、とシェレンの視線が外へ向けられる。何時の間にやらバンプスの部下達に挟まれていた。
分散したメンバー達が、各々標的を見つけ、少人数で囲って撃墜させるといった所だろう。
窓越しに敵を視認したシェレンは、一度視線を前に戻し、見据えたままスタンプに尋ねた。

「ファントム氏、浮遊する相手を狙撃した経験は?」
「無いと言えば嘘になるが……俺ァこの試合で人を撃つ気はねーぞ」

あくまでスタンプの目的はグランの確保だ。なんとしてでもレース中に彼女を捕まえなければならない。
後は棄権するだけ。敵を無闇に作るつもりもなかった。
シェレンはそれを聞くと「そうですか……」とだけ呟き、手綱を当然のようにスタンプに手渡した。

「ああ?」
「私が外の相手をします。ファントム氏はギニョール女史を探す事に専念して下さい」
「お、おい、御者なんざそれこそやった事ねーぞ!勘弁してくれ!」
「ペガサスは相手の感情を察する程に賢いですから問題ないですよ。それにファントム氏、こんな格言をご存じですか?」
「?」
「――何事もチャレンジ精神です、ハイ」

振り返ったシェレンの笑顔は、寒気を覚えるくらいに眩しかった。
スタンプは引き攣った笑顔を浮かべ、こめかみから冷や汗が一筋流れる。この女、結構ヤバイ。
かつてない緊張で固まった駄目男を余所に、シェレンはキッと上空の敵を睨めつけた。
182 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/22(日) 14:26:27.20 0
ローブから木製の杖を取り出し、バンプスの部下達に先端を向ける。

『【我等ドリュアスを護りし神聖なるオークの樹よ、デーメーテルの加護において邪なる男達の心を捕えたまえ!】』

シェレンが放った言葉は常人には理解できない言語だが、訳すと上のような台詞となる。
ニンフ――と一言に纏めても、住む場所によってその名や特徴は変わってくる。
海に棲むならばネレイド、川や泉ならばナーイアス、山ならばオレアード等々。シェレンは樹木のニンフ、即ちドリュアスだ。
しかしドリュアスは宿った樹木から出ることはないとされているが、何故シェレンはこうして外を出歩くことが可能なのか。
それは後に彼女の口から語られることがあるだろう――機会があればの話だが。

話を戻す。神話によれば、ドリュアスの魔術は苛烈なものとして有名だ。
水場を枯らしたり、果樹や穀物が実らぬよう呪いをかけたり、木に巣を作る蜂に命じて人を襲わせるなど、中々にエグい。
或いは、男達を誘いこんで樹木の中に気の済むまで閉じ込め、体内時間を狂わせるという。
ドリュアス達の得意とする魔法は――『樹木や地を媒介として用いた魔術』!

「束縛せよ!」

本来ならば上空においてドリュアスは無力だが――魔法局をあなどるなかれ!
杖からみるみると幾えもの枝を生え、養分を求めて箒や魔法使いたちに絡みつく!

『うわあああ!何だこれェ!』
『燃やせ!このままじゃ落とされる!』
『馬鹿野郎、燃やしたら俺達まで丸コゲだ!ぎゃあ!』
「ファントム氏、ペガサスに命じてこのまま上昇して下さい」
「……アンタ、マジでエグいな」

【一方、アッシュ&グラン組】

「早速お出ましみたいだぜ、グランちゃん」

機内放送をかけ、アッシュはグランに外を見るよう促す。
ゴーグルを付けた男達……バンプスだ。掌に火球を顕現させ、早くもこちらを攻撃する気でいる。
アッシュは命令式を出し、すかさず結界を展開させる。不可視の壁に火球がぶつかり、その余波が機体を震わせる。

「ッ……!奴等、マジにやる気だぜグランちゃん。アイツ等を叩き落せるかい?あの金貸し達みたくサ」

もしグランが外に出ようと思えば、横のボタンを押せば頭上を覆うドーム状のハッチが開くだろう。
アッシュはモニターで敵の位置を確認した。バンプス達が雲の中に隠れようと、これで割り出せるという寸法だ。
数はさほど多くない。強いて一つ気になるといえば、先程からゴーレムの下でフラフラと動く何かだが……攻撃してくる気配は感じられない。
アッシュは害意はないと判断し、敢えてグランには伝えないでおいた。

「敵さん達は雲の間から俺等を狙ってる筈だ!俺が場所を割り出すから、近づいた瞬間を狙って落としてやれ!」
183 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/07/26(木) 22:36:05.70 0
>「早速お出ましみたいだぜ、グランちゃん」

見れば箒に跨った魔法使い達が、こちらを狙っていた。
アッシュが結界を展開するや否や、オーソドックスな攻撃魔法、火炎球《ファイアボール》が炸裂する。

>「ッ……!奴等、マジにやる気だぜグランちゃん。アイツ等を叩き落せるかい?あの金貸し達みたくサ」

借金取りは、飛行能力が無い者のジャンプだったので、飛ぶ瞬間に体重を重くしてやればわりかし簡単に落とせた。
しかし今回の相手は飛ぶ力を持つ者達。あれと同じ純粋な魔法投射で落とそうと思えばかなりの出力が必要。
一人か二人も落とせばバテてしまうだろう。
しかし――

「もちろんだ! オレは天下の幻影旅団のトップダンサーだぜ!」

ダンスとは漢字表記すると舞踏――踏むは文字通り地上でステップを踏む、そして舞うは宙を飛ぶという意味だ。
地上で戦う事のいつもの身のこなしも、重力操作の魔力があってこそ。
魔力を調整してやれば、空中を飛ぶように跳ぶ事も出来る。

>「敵さん達は雲の間から俺等を狙ってる筈だ!俺が場所を割り出すから、近づいた瞬間を狙って落としてやれ!」

アッシュが相手の位置を割り出したのであろう、機体が雲の中へ突入していく。
相手が見えてきた瞬間、オレは機体から文字通り躍り出た。
まるで重力がほとんど無い月面であるかのように、ふわりと跳ぶ。

「蒼空を舞えてこそ真のダンサー……花蝶風月《バタフライダンス》!」

「正気か……!?」

外へ跳んだオレの方を呆然と見ている箒のバンプス員の上に陣取り、必殺の蹴りを放つ。
184 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/07/26(木) 22:37:30.60 0
「彗星衝突《ディープインパクト》!」

足に重力を乗せて箒の柄を蹴ってやる、これだけ。

「あぁあああああれぇえええええええええ!!」

相手は箒が回転して振り落とされ、真っ逆さまに落ちていく。
オレはというとかかる重力量を瞬時に元に戻し、ふわふわとゆっくりと落下。
そこにアッシュの操縦で滑り込んできたゴーレムに回収される。

「任務完了!」
「その調子で頼むぜ!」

そして同じ事を繰り返し――

「覚えてろぉおおおおおお!!」
「やーなかーんじぃいいいいいい!!」

バンプス員達が次々と断末魔の悲鳴をあげながら落ちていく。
しかし、何回目かの時だった。

「アッシュー、こっちこっち~」

機体がオレを回収する――と思いきや横を素通りしていった。

「「あ」」

操縦が狂って少し軌道がずれたらしい。
この落下速度だと下まで落ちる心配はないが――

「ふははははは!! 隙ありィっ!」

鬼の首を取ったとばかりに杖を突きつけファイアボールの詠唱に入るバンプス員。
気付いても、足場が無いのでどうする事も出来ない。大ピンチ!

「アッシュー! 早く切りかえせ!」

機体が来るべき下に視線をやる。と――
……あれー? 下にも何かいません……?
185 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/31(火) 20:08:43.19 0
【スタンプ&シェレン組】

「大分、敵の数が減ったな」
「油断は禁物ですファントム氏。最初のポイントまで気を緩めてはいけません、ハイ」
二人を乗せた馬車は、高度3000メートルを滑空していた。
頭上にある雲の中でも激しい戦闘が繰り広げられているらしく、どこへ行こうとも戦闘の音が絶えない。
既にこの時点で参加者の約1/5がリタイアしている。死者数0の字が唯一の救いだろうか。
実況用の飛行船から、現在の状況を伝えるアナウンスが聞こえてくる。

『さーてスタートから早20分が経過!そろそろポイント1に辿り着く頃でしょうか!
 現在トップはゼッケン519番ハンス・リューデル選手!その後にハユハ選手が続きます!
 次にハ―ロルト・マクミラン、選手等々、優勝候補がズラリと並んでおります!これは圧巻だーー!』
「……ところで、ポイントってどれの事だ?それらしいのは見当たらないが……」
スタンプがポイントらしきものがないか探す。
すると、突如として大量の羽が頭上から舞い落ち、『クスクス』と脳に響くような声が聞こえてくる。
二人は顔を見合わせてバッと窓から身を乗り出すと、

『こっちよーんッ! キャハハッ』
「……こいつァたまげたぜ。クソッタレ!」
参加者達の間を縫うように、フラッグの山を背中に背負い、レースクイーンの格好をした鳥人間達が飛び交っている。

「『セイレーン』!!レース委員会は死者を出すつもりですか!?」
彼女等の名はセイレーン、魔性の歌で船乗りたちを惑わせ死へと誘う妖女である。
セイレーンには半人半鳥と半人半魚の2パターンが存在するが、その生態に差異はあまり見受けられない。
どちらも、強力な魔力を乗せた歌で人々を狂わせるという点においては、だ。

『アタシ達からフラッグを奪えばポイント通過よー』『でも出来るかしら?人間如きに』
『やだ、ドリュアスまで居るじゃない。コブ付きなんて妬けるわねー』『墜落させちゃおうかしら!』
セイレーンの声は、ただ言葉を発するだけでも惑わせる。
精神を強くもたなければあっという間に虜となり、皆箒から手を離したり機体から飛び降りてしまうのだ。
現実、スタンプも頭の中でセイレーンの声が大音響に響くせいで、手綱を掴むのが精いっぱいだ。

「ファントム氏、耳を塞いで!歌を聞いたらお終いです!」
「馬鹿!そんなことしてみろ、ペガサス達が逃げちまう!!」
『キャハハ、必死ね~』『上にもイイ男達がいっぱ~い!食べちゃいたいわッ』
『レースなんかよりイイ事しまショ?』『女なんて放っておきなさいよー』『こっち向いて~!』
「この……あっち行きなさい!!」

セイレーン達は参加者を惑わし、次々と脱落者を増やしていく。
そして馬車の頭上の雲の中、アッシュとグラン達にもその魔手は伸びていた!



>「アッシュー! 早く切りかえせ!」
「オーライ……いいっ!?」
数ミリのズレによりグランを回収しそこねたアッシュ。
すかざずゴーレムに命令式を打ちこみ機体を回転、グランの真下へと飛びこむ。
だが、グランの爪先がゴーレムの機体に触れる直前、グランの姿が消えたではないか!
奇しくも次の瞬間、ファイアボールがゴーレムの鼻先を掠め、雲を突き抜けて爆発した。
何事かとアッシュが見上げると、セイレーンがケタケタと笑いながらグランの足首を掴み逆さに持ちあげている。
186 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/31(火) 20:09:32.69 0
「なっ、その子を離せ!」
『ちっちゃーい!こんな娘にご執心なんて、オニーサンってロリコン?』
アッシュは怒りに目を見開くと、慣れた動作でゴーレムに一時停止の命令式を与え、
機内に格納された武器―自身の双剣を掴み、飛び出す。

「頼むよボインのネーちゃん。俺は女に手を出したくない。その手をちょいと離してくれるだけでいいんだ。
 ついでにそのフラッグもちょいとお借りして、今夜のデートの約束も取り付けたい所なんだけど、どうかな?」
『えー、どーしよっかなーっ。そりゃボクだって男日照りだけど――って何言わせるのさ!』
セイレーンはプクーッと頬を赤く膨らませ、呆けるバンプス団員へとジロリと一瞥した。

『きーめたっ! 【そこの間抜け面、このオニーサンを丸焼きにしちゃえーっ!】』

セイレーンの歌に乗せた命令を聴くや、バンプス団員の目がトロンと虚ろになり、アッシュへファイアボールを発射する!
あわや大惨事か、そう思われた時。

アッシュは凛とした双眸で火球を見つめ、両腕を舞うようにうねらせる。
一歩、非常にゆっくりとした動きで足を運び、双剣の切っ先が互いにぶつかり合い、刃音を響かせる。
薙ぐような動作で二度、火球を剣で軽く押し流すように、払う。
すると、火球がバンプスの方へ跳ね返されたかと思えば、十字の形の切れ込みが刻まれ、派手に爆散した。

「双琉弐式、『断罪』。オリジナルは音すら立てずに消すけど、何分盗んでアレンジした技なんでな」
『き、斬っただけで火球を消した!? ”魔力を一切感じなかったのに”――!?』

爆風でアッシュの銀髪がなびく。剣先からは微量だが魔力とは違う気配が漏れ出していた。
セイレーンはそれが何であるか察する様子もない。知る由がないからだ。

―気―

それは万物が持つ魂の力。魔力とは概念が異なる。
魔力とは粉塵のようにそこら中を舞い、蓄積するもの。
魔法の扱いに長けた者は、=魔力を大量に蓄積させる器を持つ者。
長寿であればあるほど、また器が丈夫であるほど、魔力の蓄積量が多くなる。
しかし、器が脆くなれば魔力は漏れ、やがては砂のように零れ落ちていく。
魔法使いの人間の数が最も少ないのは、寿命の短さと、老いによる器の老化によるものではないかと言われている。

反対に、気は万物の内側に存在し、流れを作り、循環し続けるエネルギーだ。
決して費えることなく、気の流れを操作すれば外側に放出する等し、エネルギーをぶつける事が出来る。
アッシュは剣に気を流しこみ、気のエネルギーで火球を切ったのだ。
さながら、水圧で鉄を切るかのように。この技術や概念は東洋にしか存在しない。

セイレーンは興奮してグランの足首を持つ鳥足を緩めた。今が逃げるチャンスだ。
187 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/31(火) 20:10:28.42 0
「なっ、その子を離せ!」
『ちっちゃーい!こんな娘にご執心なんて、オニーサンってロリコン?』
アッシュは怒りに目を見開くと、慣れた動作でゴーレムに一時停止の命令式を与え、
機内に格納された武器―自身の双剣を掴み、飛び出す。

「頼むよボインのネーちゃん。俺は女に手を出したくない。その手をちょいと離してくれるだけでいいんだ。
 ついでにそのフラッグもちょいとお借りして、今夜のデートの約束も取り付けたい所なんだけど、どうかな?」
『えー、どーしよっかなーっ。そりゃボクだって男日照りだけど――って何言わせるのさ!』
セイレーンはプクーッと頬を赤く膨らませ、呆けるバンプス団員へとジロリと一瞥した。

『きーめたっ! 【そこの間抜け面、このオニーサンを丸焼きにしちゃえーっ!】』

セイレーンの歌に乗せた命令を聴くや、バンプス団員の目がトロンと虚ろになり、アッシュへファイアボールを発射する!
あわや大惨事か、そう思われた時。

アッシュは凛とした双眸で火球を見つめ、両腕を舞うようにうねらせる。
一歩、非常にゆっくりとした動きで足を運び、双剣の切っ先が互いにぶつかり合い、刃音を響かせる。
薙ぐような動作で二度、火球を剣で軽く押し流すように、払う。
すると、火球がバンプスの方へ跳ね返されたかと思えば、十字の形の切れ込みが刻まれ、派手に爆散した。

「双琉弐式、『断罪』。オリジナルは音すら立てずに消すけど、何分盗んでアレンジした技なんでな」
『き、斬っただけで火球を消した!? ”魔力を一切感じなかったのに”――!?』

爆風でアッシュの銀髪がなびく。剣先からは微量だが魔力とは違う気配が漏れ出していた。
セイレーンはそれが何であるか察する様子もない。知る由がないからだ。

―気―

それは万物が持つ魂の力。魔力とは概念が異なる。
魔力とは粉塵のようにそこら中を舞い、蓄積するもの。
魔法の扱いに長けた者は、=魔力を大量に蓄積させる器を持つ者。
長寿であればあるほど、また器が丈夫であるほど、魔力の蓄積量が多くなる。
しかし、器が脆くなれば魔力は漏れ、やがては砂のように零れ落ちていく。
魔法使いの人間の数が最も少ないのは、寿命の短さと、老いによる器の老化によるものではないかと言われている。

反対に、気は万物の内側に存在し、流れを作り、循環し続けるエネルギーだ。
決して費えることなく、気の流れを操作すれば外側に放出する等し、エネルギーをぶつける事が出来る。
アッシュは剣に気を流しこみ、気のエネルギーで火球を切ったのだ。
さながら、水圧で鉄を切るかのように。この技術や概念は東洋にしか存在しない。

セイレーンは興奮してグランの足首を持つ鳥足を緩めた。今が逃げるチャンスだ。
188 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/07/31(火) 20:11:17.36 0
しかし怒濤の展開はこれだけでは終わらない。

「――なら、コレはどうだい?」
『キャッ!?何よぉ!』

新たな声が振りかかり、圧し流すような強風が吹きつける!
バンプス団員は風に押し流され、アッシュは辛うじて踏ん張るも、頬を不可視の風の刃に斬りつけられた。

「よっ」

雲が裂け、人影が現れる。
影はニヤリ、と唇の端を歪め、金色の瞳がグランとアッシュを射抜いた。
怒羅魂のリーダー、飛竜族の青年だ。ズタボロになったゲオルグを片手で易々とぶら下げている。
もう片方の手に、何時の間にやらフラッグを掴んでいた。

只者ではない――ゲオルグの実力を知るアッシュは咄嗟に身構えた。
セイレーンは完全に飛竜族の青年に気を囚われている。グランならば、彼女からフラッグを取る事も容易いだろう。

「気になってたんだ、ゲオルグがあんなにビビるもんだから一体どんな奴等かと思ってね」

強風で雲の上半分が取り払われ、日差しが容赦なく照りつける。
青年の背から生えた翼が、バサッ、バサッと力強い羽音を放つ。

「その子、妹か何かか?助けてあげようか」
「余計なお世話だ……グランちゃん、逃げろッ!!」

気流が激しく乱れる音、直後に、青年の片腕が不可視のブーメランでも持つかのような手の形をする。
ブン、とそれを振り下ろした瞬間、セイレーンの背中から左翼にかけて大きく裂け、身の毛もよだつような絶叫が空に響く。

「優勝は舎弟達に任せてある――俺はドミニク、レースと喧嘩と美しい髪をこよなく愛するのさ。遊ぼうぜ、銀髪兄妹」



▼ ENEMY NPC ▼

名前:ドミニク・グァルディオラ
年齢:20
種族:龍人族飛竜種と人間のクォーター
容姿:赤髪金眼、空軍用の迷彩柄戦闘服
性格:冷静、好戦的。身内の前では熱血キャラ
職業:珍走集団『怒羅魂』のリーダー
能力:風魔法、ファイアブレス等
備考:珍走集団『怒羅魂』の頭領。
   貧乏なため常に金欠。ゲオルグのチームとはしょっちゅうぶつかり合っているらしい。
   龍なだけあって美しい髪に目が無い。
189 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/08/04(土) 08:57:58.66 0
「おっ!?」

突然、足首が何者かに掴まれ、逆さに宙づりにされる。
人間の子供と同程度の重量があるオレを軽々とぶら下げる足は――鳥? 否。ただの鳥ではない。

>「なっ、その子を離せ!」
>『ちっちゃーい!こんな娘にご執心なんて、オニーサンってロリコン?』

人間の上半身に、鳥の翼と下半身。
そして最大の武器である魔力を持った妖艶な声。
妙なる歌で旅人を惑わし船を難破させるという妖女――セイレーンである。

>『きーめたっ! 【そこの間抜け面、このオニーサンを丸焼きにしちゃえーっ!】』

怒ったセイレーンが、魅了の歌でバンプス団員に命令を出す。

「! アッシュ、避けろ!」

しかしアッシュは避けなかった。
さも当然のように火球を切って跳ね返して消したではないか。
聞いた事がある。東洋には魔法のようで魔法でない概念があると。
最も有名な例では、みんな大好きか○はめ波である。

>「双琉弐式、『断罪』。オリジナルは音すら立てずに消すけど、何分盗んでアレンジした技なんでな」
>『き、斬っただけで火球を消した!? ”魔力を一切感じなかったのに”――!?』

セイレーンは怯んでいる。チャンスだ。
オレは不敵な笑みを浮かべて意味ありげに言った。

「知らないのか? ――東洋にのみ伝わる概念『気』!! ファイトぉおお…!!」

『何を……』

「いっぱあつ!!」

足を思いっきり振り切って、セイレーンの拘束から逃れる。
そして滞空しているゴーレムの上に着地した。

「ちなみに今のは気でも何でもなくただの気合いだ」

『馬鹿にしてんの―――っ!?』
190 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/08/04(土) 08:59:59.80 0
>「――なら、コレはどうだい?」
『キャッ!?何よぉ!』

吹き抜ける突風。とっさに自分にかかる重力を大きくして持ちこたえる。

>「よっ」

姿を現したのは、竜の翼持つ青年。
哀れなバンプスリーダーは、狩りで捕ったどー!した獲物のようにぶら下げられていた。
彼は噛ませ犬になる星の下に生まれたのだろう、合掌。
ともあれ、今がフラッグを取るチャンスだ。
ふわりと跳んでセイレーンが背負っているカゴに飛びついて、フラッグに手を伸ばす。

『勝手に飛びつかないでーっ! 離れなさい!』

セイレーンはオレを振り落とそうとぐるぐる周り始めた。

「やめい! 目が回るだろ!」

>「その子、妹か何かか?助けてあげようか」
>「余計なお世話だ……グランちゃん、逃げろッ!!」

フラッグを2つ一緒に掴んでしまったのにも構わず、セイレーンの背中から飛び退く。
次の瞬間、青年がセイレーンを切り裂いた。

「おいおい、いいのか―っ、仮にも主催者側に怪我させちまって!」

そう言いながら、大事なフラッグをいそいそとゴーレム内にしまう。

>「優勝は舎弟達に任せてある――俺はドミニク、レースと喧嘩と美しい髪をこよなく愛するのさ。遊ぼうぜ、銀髪兄妹」

「遊んでいる暇はない……といっても逃がしてくれるわけもないよなあ!」

『怒羅魂』のリーダー、ドミニクとのバトルが始まった!
手始めにドミニクは腕を一閃し、無数の真空刃を放ってきた。
それをアッシュが双剣をふるい霧消させる。これも『気』の力を使っているのだろう。

「ごめんっ!」

「ぎゃあ!?」

オレはというと通りすがりの箒にまたがったバンプス員を落とし、すかさず箒をキャッチする。
飛行手段を手に入れた! それに跨るのではなく、手に持つ。
普通は跨らないと自重で捕まっておくのが精一杯になるので跨るのだが
自身にかかる重力を操作できるオレは持ってさえいれば問題はない。
さて、敵さんに早い所失神してもらわなければ。

「ほいさー! 彗星衝突《ディープインパクト》!!」

箒を振り上げ、後ろからドミニクに殴り掛かる!
191 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/08/05(日) 20:04:45.45 0
(ちっとヤベーかな、こりゃ)

真空刃を打ち消すアッシュの額には、玉のような汗が浮かんでいた。
気は永久的に出せるものではない。体力を大幅に削られる技だ。
ドミニクは余裕綽々の表情で風の刃を放ってくる。
フラッグを手に入れた時点でこの場に用はない。ドミニクと戦うメリットもない。
退散したい所だが、相手は完全に闘る気でいる様子。どうしたものか。

>「ほいさー! 彗星衝突《ディープインパクト》!!」
「!」

刹那、二人の頭上に少女の声と影が落ちてくる。
闘気を察知したドミニクが咄嗟に右手を振り上げ、グランに突風を浴びせた。
しかし箒の先がバシッと振り上げられた右腕に当たり、ドミニクはよろけた。
更に。ゲオルグを提げていた筈の左手首を力強く掴む手があった。

「うっ!?」
ドミニクがそれに気を取られ、気絶していた筈のゲオルグの目が合った。
その瞬間―爆音。火薬の匂いと熱風がドミニクを中心に爆散する。
アッシュはその隙を逃さず、半ば転げ落ちるように操縦席へと戻り、ゴーレムを発進させる!

「グランちゃん、乗れっ!」
ゴーレムを旋回させ、グランを回収し二人を乗せたゴーレムは雲を突っ切ってドミニクを振り切った。
硝煙と熱風が収まると、ドミニクは少々火傷を負った程度であり、まだ参加は続行できるようだ。
剥き出しになった左手を見つめ、ゲオルグが落下していった雲を睨むと、ゴーレムを追って飛び去った。

【スタンプ組】

同時刻。雲の下はあらぬカオスに包まれていた。
「ら”ーーら”らららぁーーーー!!!」
『きゃぁあーーーー!何よこの酷い歌はーー!』
セイレーン達の悲鳴と、聞けば脳を破壊されるような歌らしき騒音が周囲に木霊する。
騒音の正体は顔を真っ赤にして声を張り上げるスタンプだ。その酷さにはペガサスも取り乱す程である。

かの冒険譚にある一節――セイレーンの声から逃れるには、3つの手段が存在する。
一つ、栓で耳を塞ぎセイレーン達の歌声を遮断する。
一つ、体を柱などにくくりつけて体を束縛し動けないようにする。
一つ、セイレーン達と同じく歌で対抗する。
両手が塞がっているスタンプは、恥をかなぐり捨てて歌で対抗することにしたのだ。
その効果は予想以上で、毒のような歌声に耐え切れず、次々にセイレーン達が逃げていく。

「す、凄いですファントム氏!あっという間に居なくなっちゃいましたよ、ハイ!」
「こっちは羞恥で飛び降りたい気分だよ…」
嬉しそうなシェレンとは反対に、スタンプは口から魂が抜けだしそうな程に顔色が悪い。
フラッグは獲得できなかったものの、グランを見つけることを目的とするスタンプはさして気にも留めていない。
192 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage ] : 2012/08/05(日) 20:05:34.87 0
その時だ。

――ドォオンッ!!

「うおおおっ!!」
「きゃーっ!!?何ですかー!?」
頭上から爆音と衝撃が降り注ぎ、馬車が揺れる。その直後、何か重いものが天井を突き抜けた。
二人の間に割って入るように落ちて来たそれは、男だった。傷だらけの上に少々焦げていた。

「痛てて…ざまーみろってんだ蜥蜴ヤロー……」
むくりと起き上がったは、ゴーグルを掛け直し勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
スタンプと男の目が合った。すると次の瞬間に、男は野太い悲鳴を上げた。

「てってめーはアゲガの!俺様に恥かかせやがったあのガキ共の親玉だな!」
「お知り合いですか?ファントム氏」
「いや、見た事無いな」
「シレっと嘘吐いてんじゃねーよ、俺様をぶん殴った癖によぉ!」
ゲオルグは後部座席に座り直し、(ちゃっかりシェレンの隣を確保しつつ)喚く。
とんでもない拾い物をしてしまったと嘆息したスタンプの目が、一機のゴーレムを捉えた。
雲を突き破って猛スピードで去っていく鳥型の機体に、見慣れた銀色を見つけたのだ。

「面倒だから初対面ヅラしてんだよ、空気読め(知らねーっつってんだろ)」
「本音と建前逆になってんぞ糞親父!まあそれは良い、とっととアイツを追eびばしっ!?」
男もといゲオルグは、まるで自分に決定権があるかのように振る舞う。
苛ついたスタンプはその顎に速やかにアッパーカットを食らわせ、手綱を振るわせる。

「見つけたぜ、馬鹿娘……!」

文句を言いかけたゲオルグと、止めようとしたシェレンが双方共に押し黙る。
獲物を捕える猛獣のそれによく似た男の瞳に、えもしれぬ恐怖を感じたからだ。
ペガサスも怯えたように、空を駆ける足を速めた。既に半数が脱落、折り返し地点へと突入する。

「……ワオ。今回の障害考えた奴、マジに頭イカれてやがるぜ……」

スタンプ以外の全員が蒼褪める。身を乗り出して次なる障害を見据えたゲオルグは、そう漏らした。
その先に立ち昇る巨大な黒い影。夏の風物詩、積乱雲が立ち塞がっていた。

『さて、次のポイントは"上空の天災"人工積乱雲!参加者達は無事、この難関を乗り越えることが出来るでしょうかーーっ!?』

積乱雲の中は雷が幾つも発生し、突風や豪雨が襲うだろう。
フラッグを探すべく、もしその中心部に突入すれば、参加者たちは巨大な何かの影を見るかもしれない。
193 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/07(火) 22:24:51.04 0
アメリク合衆国にはフリークマンと名乗る純人種が存在する。
頭のネジが一本外れた彼らは数ある魔法使いの中でも魔法を戦闘・より効率的な殺人へ昇華させてきた家系である。
多種族間で争いが絶えなかった時代、彼らの魔法は重宝されその功績によって富と地位を得てきた。

といってもそれは昔の話。
今はただ魔法使いの家系というだけである。
フリークマンの歴史を知る者からは色眼鏡で見られることもあるが──

特に当代フリット・フリークマンはくそ真面目な人間である。
裕福な家庭で育ち、魔法使いとしての才にも恵まれた彼は常にエリートのポジションだった。
逆を言えば挫折や失敗、無力感という言葉を齢20過ぎても知らなかった。
そして自分自身も知らぬ内に高いプライドという厄介な性情を抱え込んでいたのだ。

忘れもしない大学四年、就職活動の時期。
フリークマンの志望はもちろん魔法局であった。
魔法局が魔法使い達にとって一つの目標であるのは今更特筆する必要はあるまい。
もちろん、修める分野によれば違う事もままあるが。

この時点でフリークマンは魔法使いにとって必需品のライセンスも取得済み。
筆記・実技も何一つ問題ない。後は──そう、面接。
いや途中までは問題なかったのだ。途中までは。


「貴方の特技を教えてください」

面接官が放ったこの一言がいけなかった。
平時は冷静なフリークマンの眼が爛々とした。

「あります。自分は魔法使いですが人並みに機械を操れると自負しています」

得意満面で答えた。
フリークマンの胸中とは裏腹に面接官達は訝しんだ。
本当に操れるのならそりゃあ凄いがそんな人間を彼らは一人も知らない。
テレビのスイッチを入れるのに三十分かかる、ということでテレビを購入しない魔法使いなど珍しくない。
だからこそ目の前の青年の言葉が真実なのか確かめる必要があった。

「ああ~……そうだな……うん、じゃあ事務のチャップ君呼んで。彼は魔法使いじゃないから」

魔法局といえど全員が魔法使いというわけではない。
煩雑な事務仕事などには機械の方が数倍効率がいい。
人員を大勢確保する必要がないので魔法使い以上に狭き門となっているのは言うまでもないが。

しばらくして鼻のでかい及び腰の男ドワーフが入室。
次いでよう分からん機械の塊(※魔法使い視点)が運び込まれた。
194 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/07(火) 22:29:40.42 0
ごほんと大きく咳払いして男ドワーフが説明を始める。

「知らない人は居ないかと存じますが、見ての通りノートパソコンです。これからそちらの方、えーと……」

「フリークマンです。フリット・フリークマン」

「……フリークマン氏にはこれで魔法局のHPを開いてもらいます。インターネットには既に繋がっています」

男ドワーフの説明が終了して、面接官一同にどよめきが走った。
パソコンってあれだろ?全てのマシンの機能を兼ね備えた……とにかく凄いんだろ?
私は新聞を毎日読めと息子に説教したら鼻で笑われたよ。「パソコンあるからいいじゃん」ってね。
だから上層部に何度も言ったんだ。それよりさっさと魔法使いが機械音痴な原因を究明しろって。

魔法使い達にとってパソコンは最も理解不能な機械の一つだ。
マウスを動かすと画面の矢印が動く時点でもうワンダフルだ。何が何やら分からない。
某有名魔法使いは『パソコンは世界で最も高等な魔法』というジョークを残している。
しかし我らがフリークマンともならばそうはイカのなんとやら。
余裕を崩すことなくガタッとパイプから立ち上がった。

「それが要望であれば───自分が皆さんに最上のネットサーフィンを披露しましょうッ!」

よく分からない専門用語(※魔法使い視点)を自信満々に吐く姿はまったく頼もしい。
面接官一同「今年はスゲェのが来た」とブツブツ話し合っていた。
一方でドワーフは謎の盛り上がりに思わず肩を竦めた。
フリークマンはノートパソコンの前に姿勢を正して着席。精神を研ぎ澄ませマウスに触れた。

今、魔法使いによるネットサーフィンの極致が展開される────!



………三十分後、見る影もなくバラバラに分解されたノートパソコンが面接官の前に並んだ。

拙文では表現しきれない微妙な空気が全員を息苦しくする。
なにゆえこのような惨劇が起こったのか───とても語るに忍びない。
フリークマンは腑に落ちない様子で顔を下に向けたまま沈黙した。
誇りとかプライドと呼ばれるものが音を立てて崩れていく事実だけは、ハッキリと理解できた。
ふとした拍子に面接官達が吐いた大きい溜息がそれに止めを刺したようで。

「………壊れてたんだな」

それだけを言い残してヨロヨロと部屋から立ち去った。
面接はまだ終わってなかったが、もうどうでもよかった。
今すぐ逃走せねばどうにか繋ぎとめているモノが砕け散りそうだった。

結果は、当然不採用。
以後他の面接でも同じことを繰り返して悉くお祈りを貰った───
どうやらフリークマンも先代達の御多分に洩れなかったらしい。
追い討ちをかけるように鈍物として歯牙にもかけなかった連中が魔法局に就職が決まったと聞いて遂に心が折れた。
人生で初めて現実という高い壁に激突してノックアウトされたのである。
関係性は不明だがフリークマンの部屋から頻繁に嗚咽が漏れるようになったという。

そんな彼が最後に辿り着いたのが『ギルド連合』だ。
一般にギルドのメンバーに必要なのは腕っ節の良さで、人格はある程度無視される。
というのも仕事がおしなべて危険なもので実力者すらちょっとした拍子で病院食生活の世界だからだ。
こんな職場で働くぐらいなら親のスネでもかじった方がマシだろうが働き口は既にここしか残されていなかった。
オマケに給料も微妙ときて、合法な機関とは名ばかりのブラック企業だと大学時代は笑い飛ばしていたのに。

こうして紆余曲折を経て『アゲインストガード』に入ったのだが……。

………完全にエリート街道の真逆を突っ走っていた。
195 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/07(火) 22:34:17.87 0
現在。
思い描いていた未来と180度逆の薄給で黙々と仕事をこなしていた。
といってもアゲインストガードは本職を持つ必要があるようで実質『無職』である。
しかし結果的にそれでよかったのだ。底辺職の肩書きなど欲しくもない、経歴と矜持に傷がつくだけだ。
まあ折れて使い物にならないゴミを後生大事にしているだけなのだが。

さてそんな底辺職のお陰でフリークマンは今日も仕事に駆り出されることになった。
キチッとスーツを着こなし右手には硬質なアタッシュケースを携えている。
真夏にも関わらず表情が涼しげなのは事前にスーツに冷却魔法を施したからだ。
周囲は熱気を帯びた観客達で満たされ、それを抑える警官達と騒々しい事この上ない。

「ウィッチ・ハイ・レース………か」

空中を疾走する箒やゴーレムを見上げて、ぼそりと呟いた。
ウィッチ・ハイ・レース。一年に一度開催される狂人達の祭典。
観戦するだけなら楽しいが、頭のイカれた奴らが雁首揃えて集まって揉め事を起こすのが厄介だ。
レースを失格になって暴れる奴や賭けで負けて暴れる奴と枚挙にいとまがない。
中にはお祭り騒ぎに乗じて単に暴れまわりたいだけの迷惑な奴までいる。
よって当日はニューラークの警官総出で警備に当たっていた。
それでも数が足りないのか一部のアゲインストガード達もクソ暑い中警備をやらされることになったのだ。
余談だがフリークマンが一人なのは先日相棒が負傷で入院したためである。

異常がないかコースに沿って外側を歩いていると観客の喧騒に混じって怒声が聞こえる。
フリークマンはふう、と溜息を吐いて祈るように視線を移す。

「畜生ッ!俺はまだやれるッ!!落っこちたぐらいで失格だと!?フザけやがてッ!!」

果たせるかな、牛の獣人が豪腕で係員を吹っ飛ばし暴れ始めたらしい。
祈りは神に届かなかった。存在を信じてもいないのに祈るなどと都合が良すぎたのだろう。

「どうか冷静に。上空部門は墜落した時点で失格ですので……ご了承ください」

青い細身のネクタイを左手でいじりながらフリークマンは獣人の眼前に立つ。
ちらと係員の方に一瞥くれ、大事でないことに安堵しながら不遜な態度で頭を下げた。

「知るかァッ!その謝罪の気持ちゼロの態度が腹立つから直ちに腹に鉄拳ブチこまれて昨日の晩飯ゲロっちまいなくそお坊っちゃんがァ────ッッ!!」

長ったらしい前口上を垂れて牛の獣人は拳を振り抜く。
瞬間、ネクタイの結び目に術式紋が淡く光を帯びて浮かび上がった。
振り抜かれた拳は鉄板を殴りつけたような音を響かせ、牛の獣人は小さく悲鳴を上げる。
拳圧で吹いた風が黒い髪と頬を撫でた。

「レース参加者の獣人による暴行が発生。………制圧開始します」

鉄拳からフリークマンを守りしは青い鞭状の刃に形を変容させた細身のネクタイ。
それはネクタイだったときの結び目を基点に可動し、蛇のように空間を這った。
196 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/07(火) 22:38:33.42 0
頭のネジが一本(場合によれば五本くらい)外れたフリークマン家にファベル・フリークマンという人物がいる。
彼は魔道具の製作に長け、よく非合法な魔道具を作っては裏に横流ししていた厄介な男である。
フリークマン家は「合法にヤバイ魔法を創作しよう」がモットーだったので彼は身内の恥晒しでもあった。

あれはファベルが友人の殺し屋のホームパーティーに訪れたときだ。
「魔法使いはいいよなぁ。最近は要人を暗殺しようとするとまず武器の持ち込みに苦労するんだよ、世知辛いぜ」
天啓の如き圧倒的な閃きがファベルに降り注いだ。───持ち込めないならその場で即席の武器を作ればいい。
こうして生まれたのが『切断魔法』である。物体に刀剣類の性質を付与して最適化する。
それに予め魔力を注いでシールに施し、貼り付けた瞬間に魔法が発動するようにしたものが。
殺し屋の間で一時期流行ったシャープエッジ・ステッカー、SEステッカーと呼ばれる魔法道具だ。

ネクタイにはその切断魔法が施され、更に「硬化」「耐熱」「伸縮」「思念操作」を同時に組み込んである。
必要に応じて魔力を流せば即座に思念で動く青い刃鞭に形状変化するという仕組みだ。
複合切断魔法『ウィップエッジ』。フリークマンの十八番魔法である。


「お前、魔法つか───」

牛の獣人が言葉を言い終えるより早く青の刃が閃いた。
抵抗する間もなく蛇の如く獣人の身体に巻きついて動きを拘束する。
厄介な行動を取られて手間取るのは嫌だった。
膂力で裂こうと牛の獣人は奮闘するが、その度に刃が肉に食い込んで獣人は悲鳴を上げた。

「動くのはあまりおすすめしません。貴方の御身体を引き裂く真似はしたくない」

フリークマンは辟易しながら事務的に忠告する。
それに牛男のサイコロステーキという凄惨な食べ放題は精神衛生上よろしくない。
やがて牛の獣人も怪我をするだけ無駄だと悟ったらしく暴れるのを止めた。
暴徒の制圧はこれでもう十二件目である。

「もう大丈夫です、立てますか?」

振り向いて倒れていた男性係員の状態を改めて確認。どうやら足を怪我しているらしい。
拘束した獣人を警官に引渡して怪我人を運ぶためアタッシュケースから携帯電話を取り出した。
どうやら未だに機械慣れしている設定らしい。自分の中で。
だがフリークマンがどうボタンを押してもウンともスンとも言わなかった。
電源が入っていないのだ。

「………壊れてるんだな」

さりとて「ケータイが壊れたから」と拘束を解いて人を呼ぶわけにもいかず。
炎天下の中、その場から動けず途方に暮れた。
197 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/08/08(水) 02:21:51.43 0
突風を浴びせられ、吹き飛ばされる。それが結果的に幸いした。
噛ませ犬ゲオルグが丁度いいタイミングで爆発を起こしてくれたのだ。
ゲオルグに満面の笑みでグーサインを贈る。

「ナイス、噛ませ犬!」

>「グランちゃん、乗れっ!」

これ以上ここにいるのは野暮というものだ。
後は血気盛んな若い二人にお任せし、オレ達はその場から退散した。

「なあ、あいつまた突っかかって来るかな」

「さあ、何度来ようと振り切るまでさ!」

こうして、第一ポイントはクリアーした。
しばらく飛んだ後、目の前に立ち上る非常識な積乱雲を見て呟く。

「天気予報当たったな……」

「ああ……」

>『さて、次のポイントは"上空の天災"人工積乱雲!参加者達は無事、この難関を乗り越えることが出来るでしょうかーーっ!?』

「突撃―――っ!!」

積乱雲の中に突っ込んで行く。
中は案の定、凄い嵐だった。生身の参加者が次々と落ちて脱落していく。

「お疲れ様です! 最新型ゴーレム万歳!」

と言っている矢先、乱気流に巻きこまれ、ジェットコースター状態に。

「おんぎょおおおおおおおお!?」

「つかまれ、グランちゃん! ……なんだこりゃあ!?」

制御不能となり、ぐるぐる回りながら中心部の方へ投げ出される。
そしてゴーレムのセンサーが、巨大な何かを察知しているのだった。
198 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/11(土) 20:35:45.21 0
【→フリークマン】

――WHR総合本部――
レースで重傷を負った患者の緊急治療や、暴徒と化した参加者を留置する為などの管理施設である。
また、警備に駆り出された警官やアゲインストガードの休憩所ともなっている。
万が一に対応出来るよう、モニタールームでは100ヶ所以上に設置されたカメラとオーブを通じて
現場を監視できるよう、厳戒態勢を強いている。それだけこのレースは過酷なのだ。

「……カメラ66番、フリークマンによる暴徒鎮圧を確認しましたにゃ」
モニターを監視していた女刑事が不機嫌そうに声をあげる。虎獣人のアゲンストガード、トト・リェンだ。
クライストンビルの一件で病院に運ばれ、ようやく退院した矢先に仕事に駆り出されたのだ。
相方は休みでいないわ、刑事でありながらアゲガに所属した肩身の狭さ、更に今回の仕事配分。
トトの眉間の皺は増すばかりだ。「彼」がいたら、せめて肩慣らしの相手にはなったろうに――
「? 何してんだにゃ、アイツ」
フリークマンが携帯電話を一度出したにも関わらず、再び仕舞い途方に暮れている。
首を捻るトトであったが、ここに来る前に耳にした彼に関する噂を思い出し、納得した。
「機械音痴の癖に機械を扱えると公言する変わった魔法使いがいる」。確かフリット・フリークマンといったか。
迎えを寄越してやろうと思ったが、周りの警官達は自分のことで精いっぱいらしい。
仕方ない、とトトは立ち上がり、持ち場を離れてフリークマンの元へ向かった。

「お疲れ様にゃー、……こりゃまた随分と派手に『暴れてくれた』にゃ」
足を骨折したと見られる係員を軽々と担ぎ、フリークマンに鎮圧された暴徒を冷めた目で見下ろす。
怪我人を増やされた嫌味、というよりも、獲り損ねた獲物を目で追う獣のような表情だ。
だがその直後には「怪我人も居る事だし早く戻るにゃ、レモネードが飲みたいにゃー」と無邪気に言い放った。

――二人が戻ると、総合本部が尋常ではない騒がしさに包まれている。

「んにゃ?何かハプニングでもあったかにゃ?」
「スポンサーのレースクイーンが複数の参加者に襲われたんだとよ。酷い話だ」
どうやら異常事態のようである。怪我人を緊急治療室に運び、その際、背中に裂傷を負ったセイレーンを見た。
モニタールームには大勢の警官達が集まり、指揮官のブリーフィングに耳を傾けている。
トトもレモネードを片手に真顔で(心なしか目を爛々とさせて)静聴する。
「先程、WCA(西海岸航空)のレースクイーンが複数のレース参加者に暴行される事件が発生した!
 WHR総合本部は審議の末、A級(※1)危険指定人物と認定した!何としてでも確保しろ!
 目撃証言を元に容疑者候補を選出してある、後で確認するように!」

WCAはアメリク有数の航空会社であり、ウィッチ・ハイ・レースのスポンサーだ。
事は予想以上に重大である。現場に緊張が走った瞬間、トトが盛大にレモネードを噴き出した。

「そこ!何が可笑しい!?」
「ゲホッ、笑ってないです!何でもないですにゃ!」

口元や顎に伝うレモネードを拭い、トトは焦燥と困惑の入り混じった表情でモニターを見る。
警官に混じったアゲガメンバーの何人かも、トトのリアクションに同意せざるを得ないとばかりの苦い表情を浮かべた。
赤髪の龍人、ゴーグルの青年、馬車に乗ったドリュアス、銀髪縦ロールの少女等の濃い面子に混じって、
「アゲガ1適当な男」と「ギルド1のロクデナシ」が揃って、VTRに映っていたのだから。
199 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/11(土) 20:36:15.34 0
「無茶です!最新鋭ゴーレムならいざ知らず、馬車で積乱雲を突っ切るなんて自殺行為ですよ!」
「そーだぜ、ネーさんの言う通りだ!大人しくそのガキンチョ達が出るのを待とうぜ、な?な!?」

積乱雲を目前にして、馬車は滞空し、車内では作戦会議という名の説得が繰り広げられる。
何せスタンプが、「積乱雲に突入する」と言って聞かないのである。シェレンとゲオルグは兎に角必死だ。
シェレンからすれば、魔法局の馬車をスクラップの危機に晒すような真似はしたくない。
ゲオルグは単純に落雷を恐れてのことと、先に積乱雲に突入したドミニクがあわよくば事故でリタイアする事を期待してのことである。

「何とでも言え、俺は行く。早い所あの馬鹿共をとっ捕まえてタンコブアイスと説教のセットを食わせなきゃいけねーんだよ」
「行くって、アイツ等は雲の中だぜ?探すにしたって骨が折れるし、出てくるのを待つって選択肢は…」
ゲオルグが最後まで言い切る直前、それを遮るようにスタンプの手が襟を乱暴に掴んだ。
その目に焦りの色が浮かんでいた。「If」が脳裏を駆け巡る。
待ってる間にあの二人が乗ったゴーレムがもし墜落したら?トチ狂った喧嘩狂いのドンパチに巻き込まれたら?
あの博徒共(リスキーラバーズ)を止められなかった自分は、どんな面してギルドに戻れるというのか。

クライストンビルの一件にしてもそうだ。
軽い修行気分で犯罪者に関わったせいで、三人の部下の命の危機に晒し、数千人の一般市民をパニックに陥れた。
リーダーとして失格だ。重い責任を感じていた。そしてまた、過ちを犯そうとしている。

「仮にも不良纏めてるテメーなら分かるだろう。何があろうとも、下(アイツ等)の尻拭いすんのは上(オレ)の役目なんだよ……!」
例えるなら野獣の牙のような、三白眼にゲオルグが気圧されかけたその時。

『ゼッケン142番!143番!194番!貴様らは包囲されている!速やかに武装解除し両手を挙げろ!』
全員が外を見ると、目を見張るような光景が広がっていた。
何十体ものの、鷲と馬が合体した幻獣――ヒポグリフが、背に警官を乗せ馬車を包囲している!
ヒポグリフは、グリフォンと雌馬を交配することで生まれる個体である。
頭部、翼、前脚が鷲、胴体と後脚が馬という出で立ちだ。親のグリフォンが神々の戦車を曳くとされるだけあり、曳き馬としては非常に優秀。
アメリクでは車に乗れない魔法使いや一部の資産家などに愛用され、魔法局でも導入が検討されている。

「あれは……!WHR総合本部のヒポグリフ部隊です!相手が悪すぎます、ハイ!」
『繰り返します、車体No.M-1464の馬車に乗車中のゼッケン142番と143番、194番の三人!速やかに武装解除し両手をあげなさい!』
別の声が再び投降を呼びかける。何故そこらの犯罪者のような扱いを受けなければならないのか、三人は知る由もない。
だがこれだけは理解出来る――従っても従わなくても、檻の中は確実であろう。

「……ペガサスってよ、どんな重い物だろうが軽々と運んじまうよなァ。重さなんて感じてないみたいだ」
「(…?)ハイ、そりゃ神話の中でも様々な物の運搬役として重要なポジションを得ている位ですから……」
「そんなに凄いのか。なら、『1体いなくなっても問題ないな』」
え、とシェレンが声を漏らす前に、コートから引き出したサブマシンガンが何度も火を噴いた。
機械に弱い魔法使い二人の悲鳴を余所に、銃弾が一頭のペガサスを繋ぐ金具を次々に破壊していく。
遂に手綱一本だけになった自由なペガサスは、銃声に驚き、翼をばたつかせ飛び上がる。
スタンプはゲオルグが作った天井の穴から垂れさがったペガサスの手綱を掴み、警察の包囲網をくぐり抜ける!

「えっ……ええええーーーーーっ!そんなのアリーーーーーーーーーっ!?」
「ゼ、ゼッケン143番が逃亡!件の容疑者と思われます!……何してる愚図共っ、追え、追えー!」
罵声を下に、スタンプは天馬の背に無理矢理よじ登ると、体勢を立て直し真っ直ぐ積乱雲へと突っ込んでいく。
ヒポグリフ達は滅多に相見えることのない好敵手に興奮しきり、嘴をカチカチ鳴らしながらその後に続いていった。
200 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/11(土) 20:38:23.85 0

積乱雲の中、乱気流に揉まれ、雹に叩き落され、落雷で墜落する参加者達が見受けられる。
その中、ペガサスは本能に従い「最も安全なルート」を辿り進んでいく。
それでも、身も凍るような寒さや薙ぎ倒されそうな強風は、生身のスタンプにとって辛い。
光はぶ厚い雲によって遮られ、視界は夜のように真っ暗。僅かな雷光やレース参加者が灯したライトが貴重な灯だ。

(グランは何処だ?まさか墜落なんかしてねーよな……!?)

焦燥にかられ、周囲を見回す。柄じゃないと分かっていても、探さざるを得ない。

スタンプという男は、他人に無闇に干渉しない。他人と多く関わる事を好まない。
一身上の理由で、外界と関係を持つ事を良しとしなかった。ギルド内の人間以外との接触もなるべく絶ってきた。
ギルドでも、アゲンストガードのリーダーという権限を振るう事で関わって来たに過ぎなかった。
碌にコミュニケーションを取ろうとしなかった故に、デリカシーなんて御大層な物も培うこともしなかった。

けれども、リーダーの権限を剥奪され、メルシィによって外に連れ出され、変わった。
今まで仕事の邪魔でしか感じなかった一般人(グラン)との新たな繋がりが、少なからずスタンプを変えていたのだ。
それは以前まで持つことのなかった責任感だとか。自分以外の誰かに関心を持つ事だとか。
たかが数週間過ごしただけの同居人に情が移ったなんて、スタンプ本人は認めないだろうが。

(何処だ、何処だ、何処だ――!)

縋るように、固く目を閉じ、熱を帯び始めた右手の甲を額に圧しつけた。
稲妻があちらこちらを駆け抜け、その度にペガサスは怯えるように嘶いて飛び続けた。


【→グラン】

「……これは…………」

アッシュとグランを追っていたドミニクは、積乱雲の中心に蹲る「それ」をまじまじと見つめた。
ゴーレムのセンサーが捉えた物は、『微笑の女神』――その頭部に鎮座する、雷を纏った巨大な鳥。
眠っているように見えるが、その巨体から絶えず稲妻を放ち、乱気流が鳥の体躯を取り巻いていた。
そして注目すべきは、鳥の足元。次のフラッグだ。

(サンダーバードか。セイレーンの時といい、WHRのスポンサーは血がお好みの様子だな)

サンダーバード――雷と嵐の精霊。しばしば鳥の姿をとって人前に現れるという。
グラン達の乗るゴーレムより二周りほど大きく、鷲によく似た姿をした凶暴な雷鳥である。
両足は逃げられることがないよう、足枷を施されている。まさに旗の番人というわけだ。

(成程、胆力と飛行センスが問われるな)

その時、ドミニクは何かを思いついたらしく、乱気流の中を突っ切りサンダーバードの足元へ。
フラッグなどには目もくれず、足枷に強烈な火炎ブレスを吹きつけ、更に真空刃を放つ。足枷を破壊するつもりだ!
このままドミニクを野放しにすれば、いずれ足枷は壊され、サンダーバードを野に放つだろう。
そうなれば、逃げたサンダーバードがどのような被害をもたらすか、想像に難くはない。
201 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/12(日) 22:17:19.21 0
「……買い替えたばかりだったんだがな」

うだるような暑さの中でフリークマンは独りごちた。
何故買い替えたかって、答えは想像力を働かせれば自ずと分かるだろう。
少なくとも機種が古くなったとかそんな理由ではない。

「やむをえない、魔力の浪費だがここは念信魔法で────」

>「お疲れ様にゃー、……こりゃまた随分と派手に『暴れてくれた』にゃ」

不意に現れた虎獣人が労いの言葉を投げかけた。
同じアゲンストガードで刑事のトト・リェンである。

「わざわざご足労おかけしました。何分携帯電話が故障していたようで」

故障、の部分でトトが微かに眉を寄せた。我らが機械音痴様は気付かなかったが。
トトはその体躯に見合わぬ腕力で係員を担ぎ上げると拘束された牛獣人に視線を移す。
獰猛な殺気を敏感に感知した牛獣人は「ひっ」と怯えた声を出すと「アンタに捕まって良かったよ」と漏らした。
この一連の流れが理解できなかった愚鈍なフリークマンは疑問符を浮かべたままWHR総合本部へ戻ることになった。


WHR総合本部に戻ると、厳戒態勢とは異なった独特の慌しさが迎えてくれた。
フリークマンは尋常でない様子に居心地を悪くしながら怪我人を治療室へ運ぶ。
そこで背中に痛々しい裂傷を負ったセイレーンを目の当たりにして、表情は怪訝さを増した。

ともかく騒ぎを確認するためモニタールームへ訪れると、そこでは警官達がブリーフィングを始めていた。
トトはレモネードを飲みながら何処か状況を楽しむように現場指揮官の言葉に耳を傾けている。

>「先程、WCA(西海岸航空)のレースクイーンが複数のレース参加者に暴行される事件が発生した!
> WHR総合本部は審議の末、A級(※1)危険指定人物と認定した!何としてでも確保しろ!
> 目撃証言を元に容疑者候補を選出してある、後で確認するように!」

これでようやく腑に落ちた。
参加者も最高にハイ!な状態にでもなっていたのだろうが調子に乗りすぎたらしい。
御尊顔を一目見ようとモニターに顔を向けると、その面子に思わずフリークマンは目を丸くした。
見間違いを考慮して目を指で擦りもう一度。ああ、やっぱり間違いじゃなかった。
トトも覚えのある面々にレモネードを噴き出している。

映っていたのはアゲガ1適当な男と“元”アゲガリーダーのダメオヤジ。
アゲンストガードになって日が浅いフリークマンすら彼らのことはよく知っている。
前者は称号通り悪い意味で有名であり、後者とは上司であったときに形式的な会話を交わしたことがある。
仕事を休んでいると思ったらWHRに参加していたらしい。ご丁寧にこちらの仕事まで増やしてくれた。

そして怒羅魂のドミニク・グァルディオラに『バンプス』のゲオルグ・ヴィオレッタ。
どちらもニューラークの警察を困らせる厄介な社会の鼻つまみ共である。
残りの銀髪縦ロールの少女とドリュアスは知らない顔だ。誰だろう。

と、いってもフリークマンは彼らの正体やプライベートなど全く興味がない。
そして仕事に私情を持ち込むのも好まない。
問題は彼らが容疑者候補であることで、そいつらをしょっぴくのがフリークマンの仕事であることのみ。

(………さて、また一仕事しなくちゃあいけないらしい)

壊れた(※機械音痴視点)携帯電話を捨てて念信機を警察から拝借。
フリークマンは早速『容疑者候補』達の確保へ動き出した。
202 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/12(日) 22:30:18.71 0
積乱雲の中は混沌たる有様だ。
乱気流と雨が箒やゴーレムの操縦を困難にさせる。
降り注ぐ雹は容赦なく参加者達に襲い掛かり、落雷が一人また一人と脱落者を生み出す。
こっそり死人が出ていてもおかしくはない。まさに恐怖の坩堝である。

グランを必死に捜索するスタンプは気付くだろうか。
一頭の影が、彼の駆るペガサスに接近していることに───

「ゼッケン143番、スタンプ・ファントム。
 貴方にはWCAのレースクイーンに重症を負わせた容疑が掛けられています。
 ………無実を証明したくば速やかに武装解除し総合本部まで出頭してください」

丁寧な口調と相反する不遜な態度でスタンプにレースの一時中止を促す。
声の主はペガサスと並走するヒポグリフの上に乗るフリークマンであった。

「と、言った警察から貴方は逃げたのでしたね。……つまり『拘束』の必要があるな」

訂正。最初から強引に連行する気である。
フリークマンは魔法を発動させてネクタイを鞭剣に変化、ペガサスの右翼に巻きつかせた。
両翼で羽ばたけないためにペガサスは一度がくんと大きく体勢を崩す。
それでも神話に登場するのは伊達ではない。意地で飛行をやってのける信念である。
仮に仕事中でなければフリークマンは素直に膝を打っていただろう。

「戦闘は面倒なので。ペガサスから落ちたところを回収させてもらいます」

ペガサスには申し訳ありませんが、と付け加え翼に巻きついた鞭剣でペガサスを左右上下に力任せに引っ張り回す。
積乱雲の中という悪環境であるのも災いして上に乗っているスタンプは今にも振り落とされそうだろう。

しかし驚くべきことに巻きついた右翼には切り傷が一つもなかった。
どうやらペガサスが怪我をしないよう鞭剣の切断力を極端に下げているらしい。
これは、まあ、罪なき生き物への最大限の配慮ということだ。ただし容疑者には一切しないが。
加えてセイレーンに危険な攻撃を加える犯人と伍するのを良しとしない心情も働いていた。

「往生際が悪いのは見苦しいですよ。……それに、微笑の女神に近づくのは止めておいた方がいい」

警備担当のフリークマンは次にフラッグを守っているのがサンダーバードであるのを知っていた。
もし今居るのが家のテレビの前であるならこれほど興奮する出し物はないだろうが……。
元上司を仕事でパクろうとしてサンダーバードにパクっとされちゃうのは御免被りたい。切実に。
203 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/08/13(月) 22:15:36.23 0
「ふぅ、助かった……」

ジェットコースター状態がおさまった時目の前にいたのは……雷まとう巨鳥

「――サンダーバード!!」

雷と嵐の精霊であるこの狂暴な巨鳥の足元に、次のフラッグはあった。
大会主催者はこんな生きた自然災害をよくもまあ……。
今となっては先程のセイレーンなんて可愛く思えてくる。
アッシュが操作盤をあれこれ操作しながら頭を捻る。

「うひゃー、いけるかな」

「小回り効いた方がいいだろ、箒でひとっとびしてとってくるわ!」

その時真っ直ぐにサンダーバードの足元に飛んでくる者がいた。
先程のドミニクだ。おそらく旗を取りに来たのだろう。

「先越されてたまるかーっ!」

箒を持って外に出ようとした時。火炎ブレスの熱波が頬をなでていった。
ドミニクはフラッグを取りにいかずに、サンダーバードの足枷を攻撃していたのだ。
こんな自然の猛威の権化が解き放たれれば、レース会場はもとより下手すりゃニューラークに甚大な被害が出てしまう。

「――ウェイトコントロール《重力操作》!」

ドミニクに最大出力で荷重をかける。精神力との兼ね合いで持続時間は一瞬。
不意を突かれたドミニクはがくんっと高度を下げる。

「何しやがる」

「それはこっちの台詞だ!! そいつを逃がすつもりか!?」

「はっ、てめーにゃ関係ないだろう?」

確かに、こいつを止めるのは大会主催者の仕事だ。
只の参加者のオレはここでフラッグをかすめ取っておさらばしても何の問題もないのだけど……
どうしてか、喧嘩を売っていた。賞金持って帰ってスタンプに見せてやらなきゃいけないのに。
相手をしている暇なんてないのに。
何故か、あの日スタンプと出会った時、バッグを取り返した時の嬉しそうな女性の顔が頭をよぎった。
そうか、そうなんだ。オレはそこに《ドラマ》を見出したんだ。だったら……仕方ないな!

「関係ある! アゲンストガードは……市民を守る正義の味方だから!!」

鋭く飛びかかり、構えた箒を横なぎに払う。
ドミニクとのバトル二回戦が始まった!
204 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/15(水) 20:04:26.00 0

グランは見つからぬまま、視界に入る物は大粒の雹や参加者らしき影、ぶ厚い雲の幕のみ。
耳元で轟々と乱気流が掠め通り過ぎて行く。なのにはっきりとスタンプの元に届くほど、彼の声はよく通っていた。

>「ゼッケン143番、スタンプ・ファントム。
 貴方にはWCAのレースクイーンに重症を負わせた容疑が掛けられています。
 ………無実を証明したくば速やかに武装解除し総合本部まで出頭してください」
スタンプがすかさず右を向く。黒い雲の向こうに、一つの影を視認した。
余所見をした一瞬、小さな雲の一部に勢い良く突っ込んだ。纏わりつく雲を振り払うと、既に影の正体が並走していた。
ネクタイをキチッと締め、スーツをかっちりと着こなし、この悪天候の中で表情一つ変えぬ好青年。
有名商社のエリートサラリーマンの典型のような外見の青年が、何故総合本部のヒポグリフ隊なんぞにいるのか。

「って、お前フリークマンか!?『機械音痴の機械オタク』フリフリちゃん!」
数少ない純人種の魔法使い、フリークマンの系譜。その癖『機械を扱える魔法使い』を自称する変わり者。
何時だったか、ギルド技術局ご自慢の改造パソコンが軒並み『解剖』されるという事件があり、その犯人がフリークマンであると噂されたほどだ。
思い出した。以前アゲンストガードリーダーを勤めた際、何度か顔を合わせた事があった。
一度思い出せば芋づる式に想起するものだが、彼に関しても碌な情報が無かった気がする。
そう、例えば――

>「と、言った警察から貴方は逃げたのでしたね。……つまり『拘束』の必要があるな」
「いやフリークマン、これには色々諸々の事情があってだな――ってぇえっ!?」

重心が大きく右に傾き、危うく落下する所だった。ペガサスの首にしがみ付き、手綱をしっかり手に巻き直す。
ペガサスの右翼に、フリークマンのネクタイが生物のように巻きついている。
片翼を封じられても抵抗し飛翔を続けるペガサスもだが、動きを制限するフリークマンも中々である。
そうだ、とびきり嫌な事を思い出した。――フリークマンはギルドに所属するものの、魔術の腕は魔法局に勝るとも劣らないのである。

>「戦闘は面倒なので。ペガサスから落ちたところを回収させてもらいます」
「うおおおおおっ! お前っ、正気か!?墜落死したらどう責任とるつもりっ、おうわーーっ!!」

そしてもう一つ。
フリット・フリークマンも、変わり者であるとはいえ、『あの』フリークマン家の人間である。

(コイツ、本気で墜落させる気だ!)

安定しない裸馬の背中で必死に体勢を保ち続け、しかも乱気流に揉まれるというのは異常に体力を消耗する。
その上呼吸もまともに確保できず、集中力が途切れ始める。このままでは時間の問題だ。
綱を握る手が汗で滑る。神経を摩り減らされる。脳が揺さぶられてまともな思考が働かず、いつもの悪知恵も浮かばない。

(まずい、このままじゃ本当に、落ち――――っ!)

ペガサスが首を捩った瞬間、身体が浮遊感に包まれ、視界が270度回転した。というより反転した。
全身が投げ出され、たかと思いきや足に痛みを伴う緊縛を覚え、スタンプの上半身がペガサスの横っ腹に直撃。
客観的に表現するならば、手綱がスタンプの足に偶然絡まって宙釣り状態、というのがベストだ。状況的にはベストどころかワーストレベルだが。
205 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/15(水) 20:05:19.44 0
(ぬおおお血が、頭に血が上る!けどギリギリセーフッ!今なら爪先にキスしてやったって良いぜ奇跡の神様とやら!)

宙釣り状態から腹筋を使って気合で手綱を掴み、よじ登ろうと躍起になる。
――と同時に拳銃を引き抜き、ネクタイに向かって発砲。効果なし。その様子を静観していたフリークマンが口を開いた。

>「往生際が悪いのは見苦しいですよ。……それに、微笑の女神に近づくのは止めておいた方がいい」
「生憎と、往生際が悪いのが俺の性分でなっ、…………とぉ!」
宙釣り状態から立ち直り、ペガサスにしがみつく(跨っているのではなくしがみついているのである)。
まずはこの状況を打破――フリークマンを振り切らなくてはならない。
「遊び半分でレースに参加した同居人を家に連れ返したいから見逃してくれ」なんて言って
「ハイそうですか」で済ませるような輩では無いだろう。「こちらで捜すから大人しくお縄につけ」と言われるのがオチだ。
レースクイーンを傷物にした覚えなどないが、言った所で証拠がない。疑惑はあれど。

「雲の中にいる間で良いから見逃して……くれそうにないな、うん」
不服そうにペガサスが嘶く。離せ、こちとら自由に空を飛びたいだけなんだと言いたげに。
頭を働かせろ、スタンプ・ファントム。フリークマンを見据える。魔法使いに完璧はないのだ。
ネクタイに右翼を拘束されている今、彼を振り切ることは不可能、離れられない。
いや待て。離れられないのなら――そうだ、『近づけばいい』のだ!

(すっげー痛い作戦だがよぉ!やるっきゃねえ!)
「ペガサス、自由になりたいなら耳を貸せ。
 いいか、合図したら、俺ごとあのいけ好かねえ奴等に思いきり体当たりしてやれ。後は俺が何とかする!」
耳元でそう囁くと、ペガサスは信じていいものかと一度逡巡したが、僅かに頷く動作を見せた。自由になれるなら何でも良いらしい。

「フリークマン、よく考えろ。俺みたいな人間が、たった一人で、空飛ぶレースクイーンを相手出来ると思うか?」

必要なのは、タイミング。それを作る為には、隙を突かなければならない。

「『このクソぶ厚い雲の中のどこかに、俺の仲間がいる』『そいつ等がお前の背後から首を掻き切る』…そうは思わなかったのか?」

あらぬ方向に思わせぶりな視線を投げかける。勿論、そこには何もない、ぶ厚い雲があるのみ。

「今だ!!」

だがそれでも、一瞬でいい……フリークマンの意識が逸れればいいのだ。それが反撃のチャンスなのだから!
ペガサスがスタンプがしがみ付いている側、身体の右側面をヒポグリフに勢いよく叩きつける。
これしきの事でヒポグリフはフリークマンを落下させるようなことはしないだろう。だがそれで良い。

「ハァーイ。さっきはエキサイティングなメリーゴーランドを有難うよ、フリフリちゃん?」
ヒポグリフが喋ったのではない。鷲頭から首にかけて、スタンプが両手両足を使ってしがみついている。
スタンプの目的はヒポグリフに乗り移る事だったのだ。鷲馬は煩わしげに頭を振るが、中々その手は離さない。
「ヘイ動くなよ鷲の子ちゃん。おいフリークマン、この雌馬のお尻一発でいいからぶっ叩いてやれよ。躾がなってないぜ?」

――ヒポグリフに関する、ある慣用句がある。
『鷲に頭を垂れ、蹄に誠を誓うべし』。ヒポグリフの出身とされる某国での言葉だ。
王者を象徴する鷲=国家を尊び、国を敬い愛せという意味合いが含まれている。また、ヒポグリフへの対応の仕方を暗喩している。
ヒポグリフは非常にプライドが高く、自分を貶める者を許さない。ヒポグリフに乗る際は一礼し、頭を出来るだけ下げることで機嫌を取る必要があるほどだ。
206 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/15(水) 20:08:07.46 0
「――っあ”ァあ、ぐっ――!」
次の瞬間、猛るヒポグリフの嘴が、無礼者の左肩に容赦なく食らいついた。
下顎がスタンプの鎖骨に食いこみ、骨ごと砕かんとする。しかし上顎はコートを食い破ることに失敗し、肩の骨に音を立てるだけに終わった。
これはフリークマンのネクタイと同じく、コートに強化魔法がかけられているため。
手触りや重さは普通の皮のコートそのものだが、銃弾や刃物から身を護ってくれる防具だ。

「……へっ、ここまで『思い通りになる』とはある意味予想外だったな!」
勝ち誇った笑顔と共に、スタンプの右腕が鷲頭の嘴をホールドした。これで嫌が応でも離すことはできない。

「さぁてフリフリちゃんよ、どうする?俺のウェイトは90kg弱、このままじゃ鷲の子ちゃんの首がへし折れちまうぜ?
 ――それが嫌なら今すぐ俺達を解放しろ。用事が終わったら武装解除なり何なり従……」

次の瞬間、一際強い乱気流がペガサスとヒポグリフを押し流さんと吹き荒れる。
このまま押し流されれば、その方向には微笑の女神とサンダーバード、そしてその足元で闘うグランとドミニクを見る事になるだろう。

  ○

そう遠くない昔の話だ。アッシュがアゲンストガードに所属する以前の話。
当時、住宅街で多発していた引ったくりを見事アッシュが捕まえたのだが、逆に加害者側の家族に裁判を起こされた。
「入院が必要な程の怪我を負わされた」等と難癖をつけられた挙句、
「アッシュが女受けを良くする為に自分を脅したため、仕方なくやった」とまで言われる始末だった。
加害者の少年は罰金を支払うだけで釈放され、手柄を立てた筈のアッシュは後ろ指を差された。
その加害者が未成年であり、ある国会議員の子息であることを後日知った。
友人達は「よくある話だ、くよくよするな」と慰めるだけだった。
そう、よくある話。金を持っている者が正しくて、持っていない者が間違っている。

貧富の差と人種差別の消えないアメリクでは、よくある話だ。

  ○

【→グラン】

>「関係ある! アゲンストガードは……市民を守る正義の味方だから!!」
「駄目だグランちゃん、そいつは罠だ!戻ってくるんだ、――グランちゃん!」

アッシュの呼びかけも虚しく、グランはドミニクへと向かっていく。
横薙ぎに払われた箒を紙一重で避け、愉快そうにグランの攻撃を「寸での所で避けている」。
あれは、サンダーバードの足枷にちょっかいを掛けたのは――挑発だったのだ。
サンダーバードを解き放てば、真っ先に狙われるのは近くにいるグランやアッシュだ。無論、ドミニクも。
自身が雷鳥の餌になる事も厭わず、グラン達が自分の行為を阻止するべく向かってくる可能性に賭けたのだ。

(アイツもアイツでクレイジー過ぎるだろ……!)

ドミニクと目が合う。お前も来い、と挑発する目だ。
ゲオルグがまだ常識人に見えるレベルほどに、戦い方や手段に自分の命を省みるものすらない。
ただ純粋に血を楽しみたい――自分の血が流れるとしても、それすら喜びだろう。
なんちゃってチンピラとは違う、龍人族特有の残虐な性格だ。

「市民を守る正義の味方?ちゃんちゃらオカシーぜグランとやら!
 お前が持ってるその箒!そりゃお前の言う「市民」を空から突き落として手に入れたもんだろう!?
 バンプスだって不良だろうが「いち市民」であることに変わりはないぜ?違うか?」

グランの攻撃を紙一重で躱しつつ、真空刃を放ちながら、ドミニクは更に煽ろうとする。
頬笑の女神の頭部、王冠の突起の一つに留まり、ギラギラとした瞳で人形少女を見据えた。

「それでなくともだ、オレだって走り屋なんぞやってるが、ニューラ―ク規模でいやあ充分『市民』だ!
 お前は、市民を守るとか言いながら市民に手を上げてるんだ。矛盾してるぜ、糞餓鬼が!」

徐々に叫ぶドミニクの表情が、嫌悪に近いものとなっていく。
207 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/15(水) 20:11:18.40 0
ドミニクは正義という言葉が嫌いだった。
龍はお伽話の中では「悪者」だ。猟奇的な性格から、正義の味方である人間達に「悪」として駆逐される存在。
たかがお伽話の中の話を鵜呑みにした同級生達に、何度馬鹿にされ、虐めぬかれた事か。


4分の1だけ、龍人の血が入っているだけで。綺麗な髪が好きで、少し頭に血が昇りやすいだけで。

何故、「悪者」にならなきゃいけない?自分の心を誤魔化すためだけに、自ら「悪」に染まらなきゃならない?

「何が正義の味方だ!俺ァそんな畑の肥やしにもなりゃしねえ台詞聞くために、お前に喧嘩売った訳じゃねーんだよォオ!!」

ドミニクが激情に駆られ、強風、鎌鼬に怒りを乗せ、次々にグランにぶつけていく。
悪者になるのは簡単だ。外見やちょっとした身ぶり手ぶり一つで、人は善悪を簡単に決めつけるのだから。
「良い子」になるのは、とうの昔に諦めた。愛想を振り撒くより、喧嘩を売る方が遥かに楽だ。

「ほらほらァ、正義の味方さんよぉ?正義は勝つんだろ?だったら勝ってみろよ、俺によォ!?」

最早、闘う事に熱中してタガが外れたような恍惚の表情を浮かべていた。
だが突然、ドミニクは身を翻し後方へ避ける。一瞬遅れて、剣戟が撃ちつけられ、耳障りな高音を立てた。

「……っガタガタ喧しいんだよトカゲ!女のコ相手に見苦しいぜ?」

ゴーレムに乗ったアッシュが双剣を握り、ギロリと射殺さんばかりに睨んだ。
それから後方のグランを一瞥し、憐憫に近い表情を浮かべ、またドミニクに視線を戻した。

「グランちゃん。君には酷かもしれないけど……アゲガ(俺達)は正義の味方なんかじゃない。少なくとも、俺に関しては」

双剣を握り直し、口にした言葉は、鉛を含んだかのように重々しい。
サンダーバードは未だ夢の中、雷鳴は止まず、雹と雨が入り混じり降り注ぐ。

「俺さ、前科者なんだ。脅迫罪と暴行罪……冤罪だけどね。学生の頃に、引ったくりやらかした後輩を捕まえたんだ。
 けど逆に、俺が後輩に引ったくりを示唆してたって事にされて、1年くらいムショにぶちこまれたんだ。
 ……たった一歳差さ。俺が年上で親の稼ぎが少ないってだけで、立証するには充分だってヨ。馬鹿げてるよな」

だから今でも警察や裁判所は好かないんだよね、とアッシュは無理矢理軽い口調で誤魔化す。

「でも、……いや、だからかな。俺はアゲンストガードになった。前科者だろーがギルドには入れるってのもあるけど」

でもそれ以上に、と。アッシュは続ける。

「アゲンスト・ガード……本来はAgainst・Guard(立ち向かい、護る)だけど、俺の場合はGird(愚弄する)だ。
 市民として街を守って、市民を気取る馬鹿野郎共にひと泡吹かせたい――ただそれだけの為に、俺はここにいるんだ」

「只の自己満野郎か。純粋に正義の味方気取ってる奴と変わんねーな」

ドミニクがせせら笑い、不意打ちに真空刃を放つ。が、いとも容易く双剣の片割れがそれを叩き割る。

「良いんだよそれで。ギルドの奴等だけじゃない。皆、テメェの自己満でテメェの世界を守ってるもんなんだよ。
 自己満で街イッコ守れるんなら上等だろ。……な、グランちゃん?」

ニッとアッシュは笑って見せる。アッシュは何も、グラン自身の中の正義までも否定した訳ではない。
彼女自身が、アゲンストガードでなく、彼女自身が望む「ドラマ」の為に闘うならば、彼もを支えることだろう。

「グランちゃん、アイツも確かに市民だけど……君がアイツを傷つけちゃいけないって事にはならない。そうだろ?」
208 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/18(土) 18:47:49.18 0
フリークマンの目論見に反してスタンプはしぶとく食らいつき続けていた。
実力ゆえか、それとも幸運の女神を味方につけたのか、理由はともかくとして。

(こんな、人間一人……格下ごとき叩き落すだけにもたついている……?)

そしてその事実が堪らなく許せない。
今や掃き溜めの人間だが過去には優秀な側にいた者である。
ギルド連合の、まして降格処分を食らったような人間如きに苦戦しては矜持が廃る。

>「フリークマン、よく考えろ。俺みたいな人間が、たった一人で、空飛ぶレースクイーンを相手出来ると思うか?」

苦し紛れの弁明か、と構わず聞き流そうとして───ふと嫌な可能性が頭をもたげる。
記憶が確かであれば事件当時レースクイーンは一人でなかったはずだ。
今こうして墜落しそうなスタンプが空中戦で複数のセイレーンを御しきれるものだろうか。

(まさか、スタンプ・ファントムには仲間がいる………!?)

どこを見渡そうがこの場に仲間はいない。となれば「彼ら」は何処にいるのだろうか?
何故こんな単純なことに気付けなかった?

(……ここからは仲間の可能性も考慮して対処しなくては。不意打ちを食らうこともありうる)

フリークマンは自身の愚鈍さに心底辟易した。
だが真に危ういのは、経験値の不足と、それに伴う戦いに対するものの考え方の浅さ。
今まではなまじ戦闘能力が高いだけに問題が表面化しなかっただけである。
ゆえにフリークマンは『仲間の可能性』を迂闊に呑みこんだ。

>「『このクソぶ厚い雲の中のどこかに、俺の仲間がいる』『そいつ等がお前の背後から首を掻き切る』…そうは思わなかったのか?」

可能性を後押しするように、スタンプの一言がそっと刺す。
ご丁寧に視線をそれっぽい方向へ移してくれている。
やはりな、とフリークマンは一人ほくそ笑んだ。
その可能性は既に織り込み済み。不意打ちにも余裕をもって対処できる。
お調子者のごとく敵のセリフを先読みしてやることだって可能だ。

「貴方の次のセリフは『かかったな!スタンプはおとりがっげおッッ!?」

どや顔で後ろを振り向き、そして、強い衝撃が襲いかかり、脳を大きく揺さぶった。
乗っているヒポグリフに何かがぶつからなければこんな衝撃まずありえない。
フリークマンは崩れた姿勢を元に戻し明滅する視界で周囲を見渡す。

(ペガサス……!奴がヒポグリフに体当たりをッ!?)

スタンプのペガサスがヒポグリフの左側面に全力で体当たりをしたのだ。
けれどそんな隙を自分が見逃すはずがない。通常ならば。
そこまで思考を巡らせて、フリークマンはようやく事態の全貌を把握した。
何てことはない。単純な嘘に引っ掛かったというだけなのだ。

>「ハァーイ。さっきはエキサイティングなメリーゴーランドを有難うよ、フリフリちゃん?」
>「ヘイ動くなよ鷲の子ちゃん。おいフリークマン、この雌馬のお尻一発でいいからぶっ叩いてやれよ。躾がなってないぜ?」

フリークマンはスタンプの嘲るような言葉を聞きながら怒気を漲らせていた。
幼稚園児でも見抜けるまったく馬鹿馬鹿しいそれによって。
敵に接近され、あまつさえヒポグリフに乗り移られる、本来起こりえぬ失敗を犯したのだ。
スタンプが───そして何より、自分が。憎い。許せない。余りある自負心が現状を容認しなかった。
209 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/18(土) 18:49:26.75 0

「パパでもママでもない貴様がッ!僕をニックネームで呼ぶな毒虫がァァァ─────ッッッ!!!!」

装っていた冷静さを憤怒に塗りつぶしてフリークマンは負の感情を吐き出した。
スタンプの、嘲りの雑じった言葉に酷く自負心を傷つけられたのだ。
許容量を超した感情はどこかへぶちまけてやらねばならない。

それはヒポグリフも同様である。
誇り高い生き物もまた、首にしがみつく無礼者を容認できなかった。

>「――っあ”ァあ、ぐっ――!」

突然の激痛に、スタンプはひきつれた叫びをあげた。
みれば肩に嘴が噛み砕かんとする気勢で食い込んでいた。
ヒポグリフは猛り狂った唸りを鳴らして下顎へググッと更に力をこめる。
それは偶然の産物ではあったが、フリークマンには付和雷同してくれたように映った。

>「……へっ、ここまで『思い通りになる』とはある意味予想外だったな!」

それでもスタンプはしたり顔で嘴をホールドしてヒポグリフを完全に抑え込んだ。
純人種ならば既に肩の骨は砕け、肉を食いちぎられていてもおかしくない。
おそらくは衣服に防護系の魔法を施してあったのかのだろう。

(くうっ……こんなクズごときに!この僕が追い込まれているなどと……!)

今にも噛み付きそうな形相でキッと睨みつけ、フリークマンは相手の出方を窺った。
もしヒポグリフの首の骨をへし折られでもしたら警察から請求書が届くことになる。
パラシュートなしのスカイダイビングという憂き目はもとより念頭にない。
それは、自分だけ生き残れることを示唆していた。
ただそれではギルド連合の顔に泥を塗り自分にも泥を塗るハメになる。
加えて誰も確保できなかったとあっては無能の烙印を押されるのは確実。
それだけは避けようと、現状打破の作戦を捻り出すべくお坊っちゃんの賢いお頭をフル回転させる。

>「さぁてフリフリちゃんよ、どうする?俺のウェイトは90kg弱、このままじゃ鷲の子ちゃんの首がへし折れちまうぜ?
> ――それが嫌なら今すぐ俺達を解放しろ。用事が終わったら武装解除なり何なり従……」

そのとき不思議なことが起こった。
悪人顔全開で交渉と名ばかりの脅しを仕掛けたスタンプの顔が、叩きつけられたような変顔になった。
次いでフリークマンは視界が完全に上下逆転、ヒポグリフから投げ出されたのだと悟る。
ペガサスの右翼に繋いだままのネクタイがばっさばっさと揺れているのが端にちらと映った。

ここは積乱雲。強い乱気流に巻き込まれて然るべき世界。
けれども一方の側面で捉えれば、それは幸運の女神による神風であった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

突如発生した風の激流でフリークマンは木の葉のように積乱雲内を舞った。
つまりダンスっちまっているわけだが前述の通り魔法を使えば問題なく対処可能。
大した見せ場は残せないが自分が生き残る術だけは十重二十重に残している。エリートは伊達じゃない。

「っ………ネクタイ、巻き取れッ!」

複合切断魔法『ウィップエッジ』に施した魔法の一つ「伸縮魔法」を起動させる。
ネクタイはこれによって自在に伸び縮みし、敵を遠方から切り刻むことを可能にしているわけだが。
さて、現在ネクタイはペガサスの右翼に絡みつき飛行を阻害している。
これをリールのように巻き取っていけば自然とペガサスに辿り着くのだ。
210 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/08/18(土) 18:53:30.58 0
ペガサスの背中に無事乗り込むことに成功すると抵抗の様子もなく飛行を続けた。
どうやら自由に飛べればそれで良いらしく、そのまま消えたスタンプの行方を捜す。
そこまで遠くへ流されていないはずだが目視できる範囲にはいない。

(あれは……微笑の女神。こんなところまで流されたのか………)

美しさと荘厳さを秘めたアメリクの象徴と視線がぶつかった。
その頭頂部では伝説の雷鳥が静かに獲物を待ち構えている。
足枷で拘束されてなお風格は消えず、フリークマンは気圧されそうだった。

「……奴らは………!」

一足早いクリスマスプレゼントに思わず声を漏らす。
女神とサンダーバードの足元で交戦するはドミニクとアッシュ・グランのコンビ。
いずれも容疑者リストに載っている面子が呑気にまあ戦っているではないか。
そしてこの周辺にいるであろうスタンプ・ファントム。
もし。もし仮に全員を捕まえることができれば汚名返上してもお釣りがくる。
これをヒノモトでは取らぬ狸の皮算用というのだが、極東の慣用句など知る由もない。

「そこまで。貴方達にはセイレーンを傷つけた容疑がかかっています。
 ただちに武装解除し両手を挙げてください。………パーティーは終わりです」

風で乱れた髪を即座に整えキリッとした丁寧な口調で三人に呼びかける。
間違っても僕とかママとは言わない、仕事スイッチがオンになった状態である。

「……断っておきましょう。貴方達はA級危険人物に指定されています。
 噛み砕いていえば、容疑者を半殺しにして捕まえてもいいということです
 それでもやさしく任意出頭を促すのは自分が『慈悲』をくれてやってるからに他ならない」

慇懃無礼に、フリークマンは淡々と言葉を紡ぎ出した。
要約すると戦って捕まえるのが面倒だから黙ってパクられろという意味である。

「もう一度いいましょう、反抗はおすすめしません。その自慢の翼を切り落とされたくなければね」

ネクタイをひとさし指と中指で挟みながらドミニク達へ向けて微かに殺気を放った。
しかしスタンプ戦で醜態を晒したフリークマンに、読み手を納得させる迫力を醸し出すのは不可能だ。
211 : 名無しになりきれ : 2012/08/21(火) 17:36:30.12 0
保守
212 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/08/22(水) 00:57:30.93 0
――こいつ、強い! やはりバンプスリーダーをのした実力は伊達ではない。
オレの攻撃を紙一重で避け続けるドミニク。まるでこちらをからかうかのように。

>「市民を守る正義の味方?ちゃんちゃらオカシーぜグランとやら!
 お前が持ってるその箒!そりゃお前の言う「市民」を空から突き落として手に入れたもんだろう!?
 バンプスだって不良だろうが「いち市民」であることに変わりはないぜ?違うか?」

えっ、それはその、落ちても死ぬことは無いって聞いてるし……。
何てことは無い挑発だが、攻撃の手が僅かに鈍るのを感じる。

>「それでなくともだ、オレだって走り屋なんぞやってるが、ニューラ―ク規模でいやあ充分『市民』だ!
 お前は、市民を守るとか言いながら市民に手を上げてるんだ。矛盾してるぜ、糞餓鬼が!」

「善良な……多少善良じゃない市民でもサンダーバードを解き放つか!? 屁理屈言うなーっ!」

箒を大上段から振り下ろす。
ドミニクはそれを真剣白刃取りのようにしっかと受け止めた。

>「何が正義の味方だ!俺ァそんな畑の肥やしにもなりゃしねえ台詞聞くために、お前に喧嘩売った訳じゃねーんだよォオ!!」

そのまま突き放すように投げ飛ばされる。今“お前に喧嘩売った”と言ったか!? ここに来て気付く。
こいつ、ただオレ達に相手をしてほしいがためにあんな行動に出たのか。
つい前職の癖が抜けずにてっきりニューラーク全土を巻き込む壮大な陰謀が裏で働いてるのかと思っちまったぜ!
放置していけばいいところをまんまとこいつの作戦に引っかかってしまったわけだ。
強風にぐるぐる回りながら飛ばされ、鎌鼬が頬を掠めていく。
赤い血の代わりに、黄金の循環水が滲む。

>「ほらほらァ、正義の味方さんよぉ?正義は勝つんだろ?だったら勝ってみろよ、俺によォ!?」

目がヤバい――完全な戦闘狂だった。ここに来て初めて恐怖を感じる。
その時だった。

>「……っガタガタ喧しいんだよトカゲ!女のコ相手に見苦しいぜ?」

「――アッシュ!! 一緒にこいつやっつけようぜ!」

しかし、アッシュは重々しく告げた。
213 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/08/22(水) 00:59:50.95 0
>「グランちゃん。君には酷かもしれないけど……アゲガ(俺達)は正義の味方なんかじゃない。少なくとも、俺に関しては」

「アッシュ……?」

雷雨の中、自らの過去を語りはじめるアッシュ。
理不尽に冤罪を押し付けられた酷い話。本当は正義の味方なのに……。
否、事実がどうあれ、社会によって犯罪者のレッテルを貼られれば、もはや世間的には犯罪者なのだ。
不良もそうだ。一度不良のレッテルを貼られれば、おいそれとそのイメージを払しょくできるものではない。
そして、開き直って何時の間にやら本当の悪人になっていく者も少なくない。
それでもアッシュは笑って見せる。

>「良いんだよそれで。ギルドの奴等だけじゃない。皆、テメェの自己満でテメェの世界を守ってるもんなんだよ。
 自己満で街イッコ守れるんなら上等だろ。……な、グランちゃん?」

その笑顔は、とても眩しく見えた。

「アッシュが否定しても、オレから見たら十分正義の味方だよ。
自分の役割《ロール》を決めるのも縛るのも、最後は自分だけ。本当はオレ達は何にだってなれるんだ」

同じ事実を基にした台本でも、解釈と演出によって全く違う物語になるように。
人生における周囲の環境、起こる事実は自らの力が及ぶところではない。
でもそれに意味を与え《ドラマ》に仕立て上げるのは、主人公且つ語り手である自分の特権なのだ。

>「グランちゃん、アイツも確かに市民だけど……君がアイツを傷つけちゃいけないって事にはならない。そうだろ?」

「……そうだな!」

オレは新しい遊びを思い付いた子どものように笑っていた。
少しばかり面白い事を思いついてしまったのだ。

「なあ《ドラゴン》。ヒノモトにも龍にあたるものがいるんだけどさ。
こっちとは全然扱いが違うんだぜ? 彼等は――超常の力を持つ神様なんだ。
当然、神聖な龍をいじめる奴は悪い子ってこったな」

正義と悪なんて、前提の設定を少し変えてやれば、時にいとも容易くひっくり返る。
ドミニクは正義の味方という言葉に異常に反発していた。
人が過剰に反発するものは、自分の中に潜むコンプレックス、もしくは――手の届かない憧れの対象
そのどちらかだと言う話を聞いた事がある。

「何が言いたいかってーと……ちょっと役割《ロール》交代してみようぜえ!?
オレは神聖な神様をいじめる怪しからん悪だ!」

「いい子ちゃんが悪役なんて出来るのかねえ!」

「役者魂なめんな! 心の持ちよう一つで何にだってなれるさ――重力操作《ウェイトコントロール》!」

ドミニクの周囲の雨粒の重力を極限まで軽くする。
すると、無重力に限りなく近くなった水はまとまって球体となり、ドミニクを閉じ込める――!
悪役なので悪質な卑怯技も使い放題だ。
214 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/08/22(水) 01:00:59.29 0
「――!? がばげべごぼ」

魔法の持続時間が切れて、水の球体が弾ける。

「やりやがったな糞餓鬼!」

その時オレはドミニクのすぐ頭上にせまっていて。
箒の一撃をまともに肩に叩きつけた。

「彗星衝突《ディープインパクト》!!
こらこら、正義の味方さんは糞餓鬼、なんて言わないぜ!!」

「やってくださいましたねお嬢様!!」

言葉と共に飛んでくる真空の刃。

「お前は執事か!?」

華麗に空中宙返りしてよける。
オレの思いついたお遊戯に、ドミニクも満更でもなさそうに乗ってきた。
しかし楽しいパーティーは思わぬ形で終わりを告げる事になった。

>「そこまで。貴方達にはセイレーンを傷つけた容疑がかかっています。
 ただちに武装解除し両手を挙げてください。………パーティーは終わりです」

現れたのは、ペガサスにまたがったパンツ一丁……ではなく、ビシっとキマった何やらエリートっぽい服装の人物。
一気に現実に引き戻された。というか誰だコイツ。

「なんだよ!
ドラマチックに負けロールをして命からがら敗走するところまでやらせて欲しかったのに!」

>「……断っておきましょう。貴方達はA級危険人物に指定されています。
 噛み砕いていえば、容疑者を半殺しにして捕まえてもいいということです
 それでもやさしく任意出頭を促すのは自分が『慈悲』をくれてやってるからに他ならない」

「怖ぇえええええええ!! お前が危険人物じゃないのか!?」

>「もう一度いいましょう、反抗はおすすめしません。その自慢の翼を切り落とされたくなければね」

「ドミニク、設定変更!! 龍をいじめる悪い奴はアイツだ――っ!!」

エリート君に対峙するドミニク。一方のオレはさりげなーくフェードアウト……

「逃げたら殺すぞ!?」

「あ、やっぱし……?」

エリート君との対決は避けられそうにない。パーティーは二次会に突入だ。
215 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/08/25(土) 00:15:45.75 0

216 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/26(日) 22:18:51.99 0
>「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

強烈な乱気流に攫われ、ヒポグリフに騎乗していたフリークマンは姿を消す。
ペガサスも視界からフェードアウトし、スタンプはヒポグリフもろとも流された。
「このっ、大人しくしろ鷲公!」
不安定な気候の中、ヒポグリフはスタンプを振り払おうと首を振り回し躍起になる。
主人が居なくなり、己を愚弄した不届き者をこれ以上首に巻きつけていたくないのだろう。
だがスタンプとてそう簡単にふり落とされる訳にもいかない。空中の攻防戦が続く。

「いいか、どこにあるか知らねーがその小汚ねー耳かっぽじってよく聞きな!」
左肩に食い込む嘴の力が強くなる。激痛に耐え、歯を食い縛りながら言葉を続ける。
「テメ―は仮にも曳き馬だ、そうだろ?なのにご主人を落馬させるたぁザマァないな!価値が下がるってもんだ!
 この事が公にされてみろ。お前ら凶暴なヒポグリフは用無し、あのペガサス共がお前らの代わりに脚光を浴びる事になるぜ!
 それでいいのか?ファミリーレストランの新メニューにヒポグリフのグリルって載りたいなら話は別だがよぉ?」

一瞬、ヒポグリフの動きが止まった。猛禽類の目がやや怯えの色を見せる。
かかった、と鉄面皮の下でスタンプはほくそ笑んだ。ヒポグリフの弱点はそのプライドの高さだ。
ヒポグリフにとって命とプライドは同等である。下手に刺激すれば牙を剥くが、上手く煽ればこちらの術中にはまりやすい。
加えてペガサスだ。ヒポグリフは何かとペガサスを目の敵にする(似た者同士だからだろう)。

だがヒポグリフも馬鹿ではない。挑発の裏に隠れた言葉を汲み取ろうとする。
その意思表示として、左肩への圧力がやや弱まった。
猛禽の双眸を圧倒するように、蒼い瞳の三白眼が圧力を放つ。

「今だけ手を組もうぜ、ヒポグリフ。お前は俺を乗せて俺の命令に従う、
 その代わりに俺はお前の主人を探して、落馬させたミスを何としてでも揉み消してやる。どうだ?」

鷲の目が勘ぐるように窄まった。果たしてこの人間を信用して良い物かと品定めしているようだ。
先程まで自分を散々馬鹿にしくさり、あまつさえ脅すような口振りをする男だ。
プライドを土足で踏みにじるような奴を乗せるなど、それこそその矜持が許さない。
しかしこのまま男を宙に放り捨てた所で、無人の鞍の説明をすることは不可能。
彼の言う通り、自身のミスが露呈して二度と空を舞う事が許されなくなったら……?

プライドか、自身のライフラインか。究極の二択を突きつけられた、ヒポグリフの答えは。

「うおわぁあっ!?」
何の前触れもなく、勢い良く遥か上方へ放られるスタンプの体。説得は失敗か――

(やばっ――――)
これまでか、と固く目を瞑る。が――ぽすんっ。

「――――あれ?」
浮遊感が消失し、代わりに股間全体に固い感触(猥褻な意味ではない)。
おそるおそる瞼を開けると、前方のヒポグリフの首がこちらを向いて冷ややかな視線を向けてくる。
ぼけらっと放心する駄目親父を叱咤するように、ヒポグリフは鋭く嘶く。お陰で我に返ったスタンプは手綱を取った。

「あんがとさんよ……って言ってるよりも、とっとと探した方が良いな、お前の主人」

全くだ、とばかりにヒポグリフは一声鳴いた。
217 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/26(日) 22:19:47.58 0
視界を覆っていた雲が僅かに晴れ、スタンプ達の前に微笑の女神の後ろ姿が現れる。
もうこんな所まで流されていたらしい。少し視線を落とせば、雷電を放つ巨大で荘厳な鳥の姿。
羽の一枚一枚が膨大な魔力を蓄積し、雷や放電という形で放出している。
幾ら無感覚で無感動な男と云えど、滅多に見る事のない希少な光景に釘付けとなる。

「……ッ!」
発光し続ける雷鳥を見続けたせいか、はたまた生の体で上空に居続けたせいか、刺すような頭痛が襲う。
出血のこともある。早くグラン達(とフリークマン)を見つけ出さねば。 
積乱雲に突入した辺りから、どうにも右手の甲がやけに熱い。皮膚の内側からせり上がって来るような熱さだ。

「どこに居るんだ……多分近くには居る筈……」
>「そこまで。貴方達にはセイレーンを傷つけた容疑がかかっています。
 ただちに武装解除し両手を挙げてください。………パーティーは終わりです」

事務的で冷静そのものの凛とした声。微笑の女神の影からそうっと様子を伺ってみる。
ペガサスを駆り、怒り全開のボクモードとは打って変わって仕事人の顔を見せるフリークマン。
対峙するは、空中でホバリングする龍人と、飛翔型ゴーレムに乗る二つの影。
物影に隠れて姿は見えないが、青年と少女ということは分かる。

>「なんだよ!
  ドラマチックに負けロールをして命からがら敗走するところまでやらせて欲しかったのに!」

最早懐かしささえ覚える、聞き慣れた少女の声。飛び出したいのを堪え、まだ様子を伺う。
しかしフリークマンの切り替えの速さには舌を巻く。先程までボクだの毒虫だの喚いていた男と同一人物とは結びつかない。

>「……断っておきましょう。貴方達はA級危険人物に指定されています。
 噛み砕いていえば、容疑者を半殺しにして捕まえてもいいということです
 それでもやさしく任意出頭を促すのは自分が『慈悲』をくれてやってるからに他ならない」
>「怖ぇえええええええ!! お前が危険人物じゃないのか!?」
>「もう一度いいましょう、反抗はおすすめしません。その自慢の翼を切り落とされたくなければね」

一人、フリークマンの言葉を静聴していた龍人ドミニク・グァルディオラ。
グランと漫才じみたやり取りを済ませ、戦いに水を差しに来た闖入者へと視線を投げかける。

「ポリ公が来るにしちゃあ遅かったな。しっかしあのパンダ共も、もっとマトモなのを連れて来りゃあいいのに」

ニヤリと再び悪人面の挑発的な笑みを浮かべた。制服でない時点で、フリークマンが警官でないことは見抜いている。
だがそんな事は関係無い。元よりフリークマンが警官であろうと。ドミニクからすれば「鴨がネギ背負ってきた」の何ら変わらない。
不穏な風がドミニクを中心に、微笑の女神像の周囲を取り巻いていく。
218 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/08/26(日) 22:22:15.24 0
「こーんな枯れ木みたいなヒョロヒョロ女男、火でも点けたら良く燃えそうだ――なァ!?」

不意打ち。ドミニクの口から噴射された火炎放射がフリークマンを襲う!
だがそれだけでは飽き足らない様子で、演説者のように両手を大きく広げた。
掌からはつむじ風が二つ生まれ、やがて小さな竜巻となる。

「俺の熱烈ブレスじゃあ物足りないだろうからよォー、もっと派手に燃やしてやるぜェ!」

言うや何を思ったか、人工竜巻に向けてブレスを放つ。竜巻は貪欲に火炎を飲み込み、炎の渦巻となる!
炎の竜巻は風をどんどん取り込み肥大し、火力も洒落にならないほど増していく。
誰の目からどう見ても、風と炎の複合魔術の完成だ。

「只の龍人だと思うなよ?あのゴリラもどきのゲオルグとは違って、こっちはキチンと魔法使いの資格取ってんだ」

得意気に怪しく微笑む。真紅の双眸は再びあの戦闘狂のそれに代わっていた。
そしてフリークマンの居た場所めがけて指を振るい、炎の竜巻をぶつける!

「脳味噌焼きプディングになっちまいなァ!」

標的はフリークマンだけに留まらない。もう一つの炎の竜巻はグランめがけ、飲みこまんと遅いかかる!

「グラ……!」
「危ない!」

スタンプが飛び出すより早く、アッシュがグランを突き飛ばした。
グランは竜巻の範囲から僅かに逸れ、アッシュは炎の壁と隔てられる。
直ぐに燃やされることはないだろうが、剣士の丸焼きが出来るのも時間の問題だ。

「あはっあはは、アハーハHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAAAAAAAA!!」

ドミニクに至っては最早最高にハイって奴を通り越してぶっ壊れている。

ドラゴンへのタブーとして、言葉回しに「逆鱗に触れる」というものがある。
顎の下にある逆鱗という鱗に触れると怒り狂って手が付けられなくなる状態になるのだが、
龍人族は魔力を大量に使うと疲弊し、混乱して制御が効かなくなり、「逆鱗に触れた」状態となるのだ。

「あばばばばばばば!これじゃ迂闊に近寄れねー!」
「ケーン!(このヘタレ!男なら特攻して見せなさいよ!)」

逆鱗状態のドミニクは、機関銃よろしくところ構わずブレスやら真空刃やら火炎竜巻をそこら中にぶっ放す。
マシンガンはマシンガンでもサブマシンガン一つ装備のスタンプは迂闊に近寄れず、遠くから見ているしか出来ない。

(糞!せめてあのドラゴン野郎の動きが止まればグランに近づけるってのに……!)

もっと困った事に、ドミニクの攻撃はサンダーバードの足枷にまで及んでいた。
着実にだが、特殊なオリハルコン製の足枷が衝撃に耐えられず、傷を増やしていく。
そして余りの喧しさに、サンダーバードの瞼がゆっくりと、持ちあがりつつあった――。
219 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/01(土) 00:29:24.43 0

>「ポリ公が来るにしちゃあ遅かったな。しっかしあのパンダ共も、もっとマトモなのを連れて来りゃあいいのに」

「不本意ながら所属はアゲンストガードです。認識を間違えないでもらいたい」

銀髪縦ロールの少女は無視してフリークマンはドミニクへ視線を向ける。
二人の戦いは一部始終眺めていたが、無法者にしては魔法が三流のそれでない。戦い慣れもしている。

(それに比べ他の二人……『アゲガ1適当な男』は疲労気味、少女の方は………ふんっ)

アッシュは『気』の連発で見るからに疲弊し、少女は実際の実力はともかく───魔法使いとして三流だ。
ゆえに最も注意を払うべきは龍人の男。加えて空中で自在に飛行できる地の利もある。

>「こーんな枯れ木みたいなヒョロヒョロ女男、火でも点けたら良く燃えそうだ――なァ!?」

不意にドミニクの口から炎の息吹が吐き出された。
乱気流や雨をものともせず猛火はフリークマン目掛け直進。

「ペガサスッ!!」

フリークマンは冷静にペガサスへ指示を飛ばし、飛来する炎を躱す。
そして次の攻撃に備えすかさず魔法を発動しネクタイを縦横無尽の蛇へ変化させる。

>「俺の熱烈ブレスじゃあ物足りないだろうからよォー、もっと派手に燃やしてやるぜェ!」

「何ッ……あれは……!」

両手に発生させた風魔法にドラゴンブレスを放つ。
風は炎を更に猛らせ、炎の渦を形成する。
単純な応用であるものの火力が先の比でないのは想像に難くない。

>「脳味噌焼きプディングになっちまいなァ!」

炎の如く双眸を怪しく燃やし、螺旋する業火は周囲の者に等しく襲い掛かった。
額にじわりと汗を滲ませながらフリークマンはチッと小さく舌打ちする。

(どうする……!?広範囲な上に、そもそもネクタイが媒体のウィップエッジでは防げない……!)

ネクタイには耐熱魔法を掛けていたが高火力の竜巻を防げるほどではない。
さりとて回避しようにも広範囲の渦に巻き込まれること必定。

「ペガサス、そのまままっすぐ突っ込めッッ!!」

フリークマンの強い瞳を見て、少し躊躇った後にこくりと頷き、両翼に力を込め渦の側面へ疾駆する。
防御策はある。無傷というわけにはいかないが、残された手段はこれしかない。

「伸縮魔法・耐熱魔法・冷却魔法────!」

フリークマンはスーツの上着を脱ぐと、即座に三種の魔法を発動。
上着は伸縮魔法で縦横に大きく伸張しフリークマン達に覆いかぶさり。
耐熱・冷却魔法によりスーツは炎から身を守る即席の防火衣となる。
黒い塊となったペガサスは、無謀にも分厚い炎の壁へ呑み込まれていった────
220 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/01(土) 00:37:05.27 0

>「あはっあはは、アハーハHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAAAAAAAA!!」

制御の枷から解き放たれた龍人は、魔法を乱発し鋭利な風や炎の渦を撒き散らす。
そこには何もなかった。喧嘩によって発散される欲求も充足感もない。ただの、無益な破壊行動。
果たして理性も知性も忘れ去ったドミニクに気付けるだろうか。
燃え盛る巨大な炎の竜巻の中から、影が一つ。火の粉を散らし飛び出したことに。

「っ…………はぁ………!」

咄嗟の機転によって、一人と一体は無事生存に至った。
命に別状はないが、所々の火傷が酷く痛む。何より高級スーツを丸コゲにする尊い犠牲があった。
治癒魔法を唱え応急処置をしながらフリークマンは心中を怒りで満たした。

(味な真似をしてくれたな。あの毒虫は最優先で潰す………!)

とはいえウィップエッジで遠距離から攻撃するにしても、あの炎の雨を潜り抜けるのは至難の技。
打開策を考えつつペガサスにドミニクの攻撃を避けさせていると一機のゴーレムが映った。
フリークマンはその操縦席に入るのが誰なのか知っていた。

名はアッシュ。
アゲンストガードで最も不名誉な称号をもつ男。

搭乗しているゴーレムは炎の竜巻に包まれ、その熱によってキャノピーが融解し始めていた。
あれではアッシュの丸焼き完成まで一刻の猶予もない。
焼き加減はウェルダンといったところだろうか、とフリークマンは推測した。

「グランちゃん、俺のことは気にしなくていい!自分の尻くらい自分で拭けるから、ねっ」

操縦席から立ち上がるとアッシュは横面にあるボタンを押した。
キャノピーがゆっくり開き、ゴーレムの上部装甲板に躍り出る。
同時に空調機能によって保たれていた操縦席の涼しい空気が外気へ流れ、灼熱の空気がアッシュを襲った。

「あっちーな……まっ、タバコの火には丁度いいかも」

余裕を崩さぬままタバコを取り出して火に近づける。ぼうっと着火し、タバコは見る影もなく黒い炭へ。
アッシュは少しだけ顔を顰めると双剣を逆手に持ち直し、構えた。
瞳を閉じ精神を集中、循環する生命力を体中から集め剣へと収束させる。

「─────!」

瞬間、ゴーレムの周囲を渦巻く炎の一部が大きく裂けた。
その光景にフリークマンは絶句し、驚嘆と賛嘆と嫉妬が入り混じった感情で込み上がる。
アッシュはよっしゃとゴーレムを動かしどうにか火炎竜巻からの脱出に成功。
だが顔色は悪く、息を大きく乱し滝のような汗を流していた。
221 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/01(土) 00:39:26.06 0

「"気"は滅多に使うもんじゃないな、やっぱり使用は控えた方がいいか」

ゆっくりと呼吸を整えながらアッシュはサンダーバードの足元にあるフラッグへ視線を向けた。
位置的にドミニクがフラッグを守るような恰好。彼を無視してレースを続けるのは実質不可能といえる。

「いつもならテキトーに休憩するとこなんだけど……今回ばかりはそんな悠長なことしてらんないな」

ふらつく足で双剣を再び構えてアッシュは乾いた笑みを浮かべた。
敵はドミニクだけではない。サラリーマンみたいな同僚らしいニーチャンもいるのだ。
更にサンダーバードに目覚めでもされたらフラッグの回収が面倒になる。
グランの実力を疑っているわけではなかったが、流石に荷が勝ちすぎるだろう。

「グランちゃん、俺が奴の攻撃を防ぐ!けど体力的に長くは持たないから───速攻で決めてくれッ!」

アッシュは気を巡らせた剣を炎へ向けて何度も振るう。
"気"による『飛ぶ斬撃』が次々と風魔法や火炎竜巻を相殺し、あるいは爆散させていく。



「確か枯れ木だの焼きプディングなど散々侮辱してくれたな。
 いいだろう、貴方がそれを望むならばッ!一切の慈悲なく制圧を開始する───!」

一方出番を食われ気味のフリークマンの自慢のウィップエッジが遂に閃いた。
鋼鉄すら両断するネクタイの刃は風魔法を弾いて次々に打ち消す。
ときにはドミニクを牽制して攻撃そのものを妨害。珍しくちゃんと活躍(?)しているのは構わないが……。
ここぞとばかりにアッシュの尻馬に乗ったようにしか見えないのが悔やまれる。
ちゃっかり炎を防ぐ気ゼロなのもポイントだ。

とはいえ、二人の猛攻はドミニクの連続攻撃の勢いを確実に削いでいた。
今ならば反撃も可能といえるだろう。
222 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/09/05(水) 05:11:10.38 0
>「ポリ公が来るにしちゃあ遅かったな。しっかしあのパンダ共も、もっとマトモなのを連れて来りゃあいいのに」
>「不本意ながら所属はアゲンストガードです。認識を間違えないでもらいたい」

こちらの思惑通り、ドミニクとエリートリーマンは火花を散らしあうように戦いを始めた。

「アゲンストガード……!?」

アゲンストガードらしからぬ服装とエリートオーラ。
しかしどこまでも服装フリーダムな当該職場においては
リーマンのコスプレをした人がいてもおかしくないののもまた真実かもしれない。

>「脳味噌焼きプディングになっちまいなァ!」
>「危ない!」

半ば観戦モードに入っていた所を、アッシュに突き飛ばされる。
直後、ほんの目と鼻の先で灼熱の火炎が渦を巻く。

「アッシュ……!?」
>「グランちゃん、俺のことは気にしなくていい!自分の尻くらい自分で拭けるから、ねっ」

炎の壁の向こうに隔てられたアッシュの身を案じるも、ただ無事を祈る事しかできなかった。
所詮は虚構の舞台で蝶よ花よと飾り立てられ踊ってきた人形。
そこでは争いすらも全て美しい紛い物で――本当の戦いも、殺し合いも、オレはまだ知らない――。
無意識のうちに左手の甲を押さえる。先刻から燃えるように熱い。
223 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/09/05(水) 05:12:14.54 0
>「グランちゃん、俺が奴の攻撃を防ぐ!けど体力的に長くは持たないから───速攻で決めてくれッ!」
>「確か枯れ木だの焼きプディングなど散々侮辱してくれたな。
 いいだろう、貴方がそれを望むならばッ!一切の慈悲なく制圧を開始する───!」

炎の渦からの脱出に成功したアッシュと、リーマン(仮称)がドミニクの攻撃をけん制する。
オレは蚊帳の外でマーク外になった感があるが、だからこそチャンスだろう。
オレは微笑の女神の肩に立ってドミニクを見下ろす。

「――重力操作《ウェイトコントロール》」

無重力の水滴は物体にひっつく性質があるのを利用して、先刻やったようにドミニクを雨粒の中に閉じ込める。
すぐに脱出されるだろうが、一時隙が出来ればいい。
直後、自分にかかる重力を最大にして、女神の肩から飛び降りる。

「彗星衝突《ディープインパクト》!!」

文字通り隕石が衝突するように左の拳が炸裂した。
増幅された重力と自由落下の加速度、それ以上に何かの力の後押しがあったような気がするのは気のせいだろうか。
ドミニクは眼下の雲を突きぬけて姿が見えなくなった。
倒せたかどうかは分からない、むしろ倒せていない可能性の方が高いが、暫くは上がってこないだろう。
だから今のうちにやっておく事だある。

「アッシュ、来てくれ! フラッグを回収するんだ!」

寄せて来たゴーレムに、オレはフラッグをひっつかんでゴーレム内に運び込む。

「え、回収って……」

「全部だ!! 見ただろう、さっきの。ありゃ戦闘狂の目だ。
フラッグをここに置いて逃げたらまた他の参加者とドンパチやる。
サンダーバードが逃がされるのもお構いなしにな!」

「多分まだ脱落していない参加者の殆どがこの辺で揉まれてる。
下手すりゃ参加者ほぼ全員に追われる事になるぞ? ――こりゃあ面白い事になってきたな」

「逃げ切ってみせようぜ! スタンプに一泡吹かせてやろう!」

何か指名手配されてるらしいが、MVP賞でももらってしまえば有耶無耶になるんじゃないかな!?
という希望的観測のもとにレースを続ける気満々だった。
それは、あのパン一王子が近くにいるような気がしていたからかもしれない。
実際に近くにいるだなんて、この時のオレは夢にも思わなかったのだが。

このまま特に何も起こらなければ、フラッグを積み込んだ最新型ゴーレムは全速力で復路を飛び始めるだろう。
224 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/09/10(月) 23:47:52.27 0
――時を同じくして、積乱雲下方もまた、小さな戦火に包まれていた。
警官隊と応戦するは、バンプスのリーダー・ゲオルグと魔法局魔法使い取締り課所属シェレン術師。
……とはいっても、戦っているのはゲオルグ一人だけだ。

「おいまだかよネーさん!流石の俺様もそろそろ弾幕切れちまうぜ!」
「んに゛ゃー、こなくそーーっ!つーえーよーうーごーけぇええーー!ハイィーーー!」

汗だくのゲオルグが振り返る。爆発呪文はゲオルグオリジナルの複雑な術式であるため、かなり体力を削られるのだ。
振り返った先のシェレンは、恨みがましげに歯を剥いて、火花散らす杖をブンブンと振り回す。
セイレーンの唄を食らった時から、どうにも杖が言う事を聞かなくなってしまったのだ。

「降伏しなさい、繰り返します、降伏しなさい、降伏しなさい降伏しなさい降伏しなさい降伏しなさい
 降伏降伏降伏降伏降伏降伏降伏降伏降伏降伏降伏降伏降伏降伏!!
      ...
 いい加減降ッ伏しろ屑共めらがァァアーーーー!!」

「るせえ豚野郎がァーーーー!豚ロースにしてやらァーーーーーー!!」

何度も降伏を促す警官隊の魔術師の一人が、氷槍を雨霰の如く馬車に向け放つ。
同時に、馬車の周囲に張られた結界、そのピンポイントに開いた隙間からゲオルグの爆発呪文が発射される。
巨大な氷柱と爆弾が空中でドッキングし、大気を幾度となく揺らす。

埒が明かない。拮抗状態から已然抜け出せず、ゲオルグは苛立ちから拳を握り、遥か上空を睨んだ。
積乱雲の中では何が起こっているのか。先程から感じる、肌を静電気が撫でるような嫌な空気。
その中心にドミニクの魔力を微量に感じ、悪寒が背をなぞった。
後を追うように、腹の奥から敗北した羞恥心がせり上がり、ゲオルグの闘争心を煽りたてた。

「だークソ!あの糞トカゲ、いつかゼッテー燃やしてやるッ!」
「あーもー!いい加減にしないと薪にくべてしまいますよッ!?」

ゲオルグとシェレンの怒りが同時に声を突いて出た瞬間、杖の先からバチッと光がほとばしる。

「あっ戻っ…………ハイ?」

シェレンの笑顔が咲いたのもつかの間、杖先からにょっきりと生える蔦。
喜ぶ暇もなく、蔦はジャックの豆の木の如くみるみる伸びていき、あっという間に車内をジャングルに変え、
遂には天井を突き破って結界をも力ずくで破壊してしまったのである!

「きゃああーーーーーーーっ?!何ですかこれェーー何でこんな事するんですかーーっ!?」
「オメーがやった事だろが何とかしろォーッ!!」

蔦は止まることを知らず、術者の意に反して伸びる伸びるどんどん伸びる!
馬車を根城にペガサスに絡みつき、四方八方に伸びて警官隊へと魔手を飛ばす。
ヒッポグリフは巻き込まれて堪るかと乗り手に反して四散し、空中は大混乱を極める。
ぎりぎりの所で逃げおおせた警官隊の一人が目にしたのは、宙に浮かぶ蔦の篭城であった。

 ○ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 

※余談であるが、このレスを書いている最中に書き手のパンツが本当に破けた。縦に破けた。
体勢を変えた直後に起きた出来事で、驚きのあまり椅子から転げ落ち右足首を捻挫した。奇跡が起きた記念に記しておく。
225 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/09/10(月) 23:48:47.77 0
「け、警察が近寄れなくなったのは良いですけど……どうしろって言うんですか、コレェ~~」
「何てことしてくれやがんだ糞ッ、糞ッタレ、これじゃマスも搔けやしね……うん?」

車内は無数の太い蔓が縺れ合い、二人も蔦の間に挟まって動けないでいた。
ゲオルグは恨みがましげに天井を見やり、フと目を窄めた。積乱雲を突っ切って、何かが高速で落下している。
正しくは人型の何かがこちらに急接近している。人型で羽の生えた人間がこちらをマッハの勢いで急落して――

「おわああああああああああああああーーーーっ!?」

大気を震わせる程の轟音を立て、蔓の絨毯へと落下した。

「ハイィ!?女の子でも落ちてきたんですか!それとも天使?デーメ―デルからの使い!?」
「……女の子ならよっぽどキュートで良かったんだがなァ。あの糞親父共、一体あの中で何やらかしやがってるんだ?」

眼前に落下してきたそれを見て、ゲオルグは吐き捨てるように呟き、積乱雲へ目配せした。
落ちて来たのは女の子でも天使でもなく、気絶したドミニクその人であった。

 ○

積乱雲の中で何が起き、彼等に立ちはだかる次の障害とは。数分前に遡る事。
微笑の女神の影に隠れていたスタンプは、覗き見ようと顔を出しかける。刹那、爆音が空気を震わせ、術の余波が頬を裂いた。

「……上だ。ココからじゃ様子を見ることも出来ねえ」

埒が明かないとヒッポグリフを駆る。蒼褪めるスタンプを乗せ、ヒッポグリフは上空へ。
左肩が熱を持ち、激しく痛む。早くグランを連れ戻さなければ。微笑の女神の肩部分まで上昇する――

居た。銀髪をはためかせ、下方を見据える華奢な少女。見つけた。右手を伸ばす。

「グラ…………」
>「彗星衝突《ディープインパクト》!!」

グランが飛び降りるその一瞬、スタンプの右手の指先がグランの左肩を掠めた。
少女は背後のスタンプを振り返りもせず、ドミニクにむけて急降下。
彗星衝突をモロに食らった龍人は、雲の下へとフェードアウトしていった。

>「アッシュ、来てくれ! フラッグを回収するんだ!」
「!?」

半ば茫然と見下ろしていたスタンプだったが、グランの発言に度肝を抜かれた。
ここまで来て、まだ彼女は危機を背負おうとしている。どこまでも命知らずな少女だ。
普段は放任主義で他人に気を掛けないような男の中で、怒りの臨界点を突破しようとしていた。
226 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/09/10(月) 23:49:38.88 0
「あの特大莫迦娘、拳骨で済まそうなんて考えが甘かった」

ヒッポグリフの毛が逆立つ。肌が粟立つ悪寒を男から感じ取り、不安げに低く鳴く。
怒っていた。この男もまた、少女に対し我を忘れる程に憤怒していた。
痛みも忘れたかのように左手で手綱を撓らせ、右手にFN P90を装備し、微笑の女神を駆け降りる!

「お外に出たらチビって家から出られなくなる位に"世間の恐ろしさ"ってのを叩き込んでやる。
 楽しいレースの終わりは、『鳴く』子もイッちまうお仕置きの時間だぜ、グ ラ ン ?」


『フリークマン、フリット・フリークマン氏、状況報告願います!どうぞ!』

親父がブチ切れて垂直特攻する最中、警官隊の一人からフリークマンに念信が入る。
フリークマンが積乱雲に突入し、早三十分弱が経過していた。

『こちらはゲオルグ・ヴィオレッタ、ドミニク・グラルディオラ、シェレン=ドリュアスの三名と交戦中!
 一体そちらはどうなってるんです?「何故積乱雲が肥大しているのですか」!?ポイント確認を優先して下さい!』

……サンダーバードは通常、卵から孵って、死ぬまで積乱雲の中で生活する。
個体に合った積乱雲の大きさというものが存在し、活動の状態によって変動する。
例えば活発な状態であればニューラ―ク州を丸々覆える程の雲を形成することもある。
一番積乱雲が小さい時は、巣(積乱雲)の主が眠っている状態であるという証拠だ。
もうお分かりだろうか。「積乱雲が肥大している」という言葉の意味が。

スタンプは怒りに任せてヒッポグリフから飛び降り、グランの眼前に着地した。
嗚呼、爆発寸前の怒りに満ちたその表情は正に悪鬼、羅刹、修羅、形容し難い!

「こ ん の 糞 餓 鬼 共 ! も う 勘 ッ 弁 な ら ね ぇ!!」

P90のグリップを握る右手の甲の紋章がやけに赤い。血の色のように、活火山のマグマのように、煮え滾った赤の色だ。
怒りと興奮に色を付けて、ないまぜにしたら丁度こんな色になるだろう。
現に彼自身、右手が焼け爛れてしまいそうな程に熱を感じていた。

「だ、旦那!旦那!落ち着けって!」
「命乞いなら聞かねえぞ。人が心配して追っかけてみりゃ、まだチキンレースに挑む気か?もう充分楽しんだろ!?
 お前等は、何回、命捨てるような真似すりゃ満足するんだ!!100回か?1万回か?それとも10億回か!?」

激情に任せて弩級の怒鳴り声を散らす。段々怒鳴っているうちに情けなくなり、足元に視線を落とした。
最初から自分が止めていれば、こんな思いをせずに済んだはずだ。グランを叱り飛ばすような事をせずに終わったことだ。
中途半端で捻くれた性格が招いたも同じだ。最初から、素直に「心配するから止めろ」、そう言えば少しは――

「俺の寿命縮めるようなことして、楽しいか?そんなに俺を怒らせるのが好きなのか?どうなんだ、グ ラ ン!!」

違う。本当に言いたいのはもっと別の事だ。自分が前に犯したミスを、繰り返させたくないだけなのに――

「旦――グ――逃げ――サン――――雷――」

鼓膜を突き破るような落雷の音。アッシュが何か叫んでいるが、耳に届かない。
背後から太陽と錯覚するような光熱と、空を裂くような鳥の声が轟き、所構わず雷撃が落ちる。
その幾つかが、フリークマンやグラン達の元にも落ちた。
恐竜のような鳥の足を拘束していた鎖が、砕けて転がり落ちていく。

サンダーバード、覚醒。

【エマージェンシー:サンダーバード覚醒、暴風+雷撃+目が潰れる程のフラッシュ。各自避難しなきゃ危険が危ない】
227 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/16(日) 01:05:23.44 0
残り少ない魔力を惜しげもなく魔法に変えて、炎と風は無差別に周囲を侵略した。
その弾幕を打ち消すのに手一杯で思うように敵へ攻撃できない。
例え接近しても精々が牽制程度の役割しか果たせなかった。

(ちっ……「一枚刃」では準備不足だったか……!)

単なる警備だと思って最低限の用意しかしていなかったのは失敗だった。
こちらは「炎」や「風」といったシンプルな魔法の分野を専攻していたわけじゃない。
もちろん初等クラスは一通りマスターしていたが。
そうやってチマチマしている間に、ドミニクの綺麗なツラへ拳がクリーンヒットした。

>「彗星衝突《ディープインパクト》!!」

その小柄な体躯に見合わぬ重い一撃は相手を流星に変え、積乱雲を突きぬけ、彼方へと吹き飛ばした。
フリークマンは龍人が点となって消失した方向へ一瞥くれて視線をグランへ向き直す。

「絶対に許せん。公私共に許せん……!おつむの弱そうなガキの分際でェェェッ……!」

込み上げてくる怒りで自然と眉根が寄る。
例え腹立たしい容疑者が倒されようと逮捕できなくては意味を為さない。
よってドミニクに抱いていた怒りは自然と彼を倒したグランへ転嫁される。
何より相手を捕まえるのが仕事だ。事務的にやるか、私情込みでやるかの違いでしかない。

そんな煮え滾る感情に、突如として冷却剤が投下された。

>『フリークマン、フリット・フリークマン氏、状況報告願います!どうぞ!』

警官隊からの念信に熱を帯びた思考が急速に冷えていく。
自分を客観視してみて冷静さを欠きすぎていたことに羞恥心を覚えた。
そうしてクールダウンした頭はようやく警官の声色が尋常でないのを認識した。
とにかく報告に応じようとポケットから携帯念信機を取り出すと再び通信が届く。

>『こちらはゲオルグ・ヴィオレッタ、ドミニク・グラルディオラ、シェレン=ドリュアスの三名と交戦中!
> 一体そちらはどうなってるんです?「何故積乱雲が肥大しているのですか」!?ポイント確認を優先して下さい!』

「積乱雲が、肥大………?」

思わず質問を質問で返すとフリークマンはそれに心当たりがあることに気付いた。
嫌な予感が頭をもたげる。いや、正確に言えば事実から目を背けたいだけだったのだろう。

「サンダーバードが──────」

途端に視界を白が塗り潰した。突如のフラッシュに思考も追いつかなかった。
慌てて追いついた思考はそれが閃光だと理解し本能的に跨っているであろう天馬にしがみつく。
更に暴風が殺到すると風の激流に大きく流されペガサスが何度も揺れる。
空中へ幾度なく投げ出されそうになりながら、必死にしがみついていたお陰でどうにか耐え切った。

「目を覚ましただけでこれほどとはな……」

一難去って安堵と同時に独りごちた刹那。頭上から不穏な雷鳴が轟く。
回避の思考を遂げる間もなく鋭い光を伴って雷が降り注いだ。
出し抜けの落雷ゆえに回避も間に合わず、フリークマンは「うわぁっ」と小さく声をあげ硬く目を閉ざす。
だが雷撃はすぐ真横に落ちたため感電死の恐怖は杞憂に終わった。

(い、いかん……命中したら死んでいたな……日ごろの行いが良かったのか……!)

如何なる原理によって回避が為されたのか───ようはスタンプが乗っていたときと同じ理屈。
空を翔ける天馬は危険の匂いを本能で察知し避けようとする性質が作用したのだ。
決して日頃の行いが良いわけではない。決して。
228 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/16(日) 01:06:49.28 0
やがて視界に色が戻り始め、暗澹とした積乱雲の様相を掴むことができた。
目を細めて周囲を見渡すと雲の隙間からまばらに光が漏れるのが見える。
反射的に数分前のことを想起してしまい、生きた心地がしなかった。

(積乱雲の中で奴らを捕まえるのは些か困難か……
 いったん泳がせておいて外に出た瞬間を狙う、これがベターといったところか)

サンダーバードが目覚めた以上今までよりも捕縛は困難を極める。
先回りして外に出た方が安全・確実だろう。

(それに何度も言うが、枷をつけられているとはいえ
 精霊級の化物の周りをウロウロ飛び回るのは危険す…………)

サッ、とフリークマンの顔から血の気が失せる。
何故ならば微笑の女神を飛びたたんとする"それ"目にしたからに他ならない。
鎖の呪縛から解き放たれた巨鳥───

「こちらフリークマン!警官隊応答してくださいッ!
 サンダーバードが覚醒し、枷が外れました!繰り返します、ヤツを縛っていた枷が外れたッ!!」

気付いたときには携帯念信機に向かってがなり立てていた。
おそらくはドミニクの放った炎が鎖を溶融し枷が外れたのだろう。

「枷は特別頑丈だったんじゃないのか……!?魔法的な防御策ぐらい講じていろ……!」

あの足枷には"鎮静"の魔法でサンダーバードの活動を抑制する働きがある。
しばしば犯罪者を大人しくするため警察の手錠などに使われる手法だ。
当然この手の魔法は媒介が壊れてしまうと意味がない。

サンダーバードの厄介なところは風と雷、天候を操り大規模な被害を齎すことだ。
このまま積乱雲が拡大すれば観客にも暴風雨と落雷のセットが襲うだろう。
狂人の祭典といえど流石に死人はまずい。
それどころかニューラークを巻き込む嵐に発展すれば人的、経済的な被害は計り知れない。
責任はWHR運営、賠償金はもちろん今後のレース開催すら危うくなる。
超えちゃいけないライン、考えろよというわけで。

「危険人物を野放しにするのは癪だが。警備の義務を全うするのが道理ッ!」

仕事内容を考慮した上でフリークマンは優先順位を変更した。
倒すとまでは行かずとも積乱雲から参加者を逃がす時間稼ぎくらいはできる。
───何より観客といった関係のない人間が死ぬのは寝覚めが悪い。
ウィップエッジを発動して、鞭状の刃をサンダーバードへ振るう!

が、しかし。

「くぅっ……また風か………!」

巨躯の雷鳥が飛行の前動作に翼を三度羽ばたかせた。
それだけで暴風が吹き荒れ、フリークマンは振り落とされぬよう手綱を握り締める。
自己防衛に意識を向けたため同時にウィップエッジの挙動も止まった。
思念操作でネクタイを動かす仕様上の弊害である。

風が止んだところで再びネクタイを操り、青刃をサンダーバードへ伸ばす。
横薙ぎに放たれた刃は巨鳥の左翼に命中したがそこに傷一つもなかった。

(刀剣並みの切れ味ではナマクラか……!次はより切断力に偏重させる……!)

魔力を込め直し、ネクタイは再び左翼めがけて袈裟切り。
同時に翼は高く持ち上がり惨めにも刃は空を切った。
229 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/16(日) 01:08:03.70 0

「遂に飛ばれたか………!」

フリークマンは忌々しそうに舌打ちしたが足は震えていた。
間違いなくヤツはこの鬱陶しい蚊トンボを狙うだろうな───
これから訪れる風雷の雨霰に考えを巡らせていると、ガキッと何かが引っ掛かる嫌な音が鳴った。

「………は?」

どうも残っていた足枷にネクタイが引っ掛かったらしい。
まあ砕けたのは鎖の部分であって枷そのものは足首に残っているからおかしくはない。
問題はサンダーバードが飛翔しどんどん高度を上げていることだ。
それに比例してネクタイが引っ張られてフリークマンの身体も引っ張られていることだ。
ペガサスの手綱を必死で掴むのも虚しくブチッと綱が切れる音と共に、一人の男が宙へ舞った。

「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………‥‥‥‥‥‥‥」

耳も塞ぎたくなるような大絶叫の不協和音が積乱雲を衝く。
その姿はあるいは季節外れの鯉のぼり、あるいはケツの筋肉が緩い金魚のフンである。
諸君らも鳥の足首に引っ掛かっている人間を見つけたら是非助けてあげて欲しい。
230 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/09/19(水) 00:56:08.64 0
>「こ ん の 糞 餓 鬼 共 ! も う 勘 ッ 弁 な ら ね ぇ!!」

パン一王子が名状し難き表情で目の前に降り立つ。
一瞬何が起こったか分からずに唖然とする。

「スタンプ……!? なんでここにいる!?」

>「だ、旦那!旦那!落ち着けって!」
>「命乞いなら聞かねえぞ。人が心配して追っかけてみりゃ、まだチキンレースに挑む気か?もう充分楽しんだろ!?
 お前等は、何回、命捨てるような真似すりゃ満足するんだ!!100回か?1万回か?それとも10億回か!?」

スタンプはひとしきり烈火のごとく怒り狂うと、俯いた。
その姿を見て、制止を振り切って出場を強行した目的を思い出した。目的は果たされた。
左手の甲を目の前に掲げる。

「そっか、来てくれたんだ。来てくれたんだね……。
いついかなる時でも引き寄せあい、決して離れることは無い。契約は、本物だった」

オレは、文字通り人形《ドール》のように微笑んだ。
231 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/09/19(水) 00:57:16.95 0
>「俺の寿命縮めるようなことして、楽しいか?そんなに俺を怒らせるのが好きなのか?どうなんだ、グ ラ ン!!」

スタンプの怒りがすぐにおさまるはずはなく、落雷の音が響き渡る。

「ひいっ!?」

やけに演出が凝ってらっしゃる。でも音響さん、ちょっと効果音でかすぎ!
……そうじゃなくて! リアルにそこらじゅうに雷が落ちまくっている!

>「旦――グ――逃げ――サン――――雷――」

オレは声をはりあげて叫んだ。

「二人はゴーレムに乗って逃げろ!! オレは魔法使いだから箒が使える!」

スタンプが言う事を聞くとも思えないが、一応そう告げるしかない。
なぜかというとゴーレムは2人しか乗れないからである。
というかスタンプどうやってここまで来たんだ。

>「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………‥‥‥‥‥‥‥」

「……」

素敵な歓声が響き渡る。
目の前をリーマン(仮)が爽やかにスカイダイビングをしながら横切って行った。
次の瞬間、オレは弾かれたように足場を蹴り、跳躍した――。
何も困っている人は助けないといけないとか聖者や聖人君子のような思想があるわけではない。
演劇において例えば“うわああああああああ!”っと叫びながら鳥の足に引っかかって振り回されている人を放置すると話が進まなくなるわけで。
単なる前職の職業柄の脊髄反射である。

「ディープインパクト!!」

サンダーバードの足枷に狙いを定め、拳撃を叩き込む。
足枷は砕け散り、リーマン(仮)は自由の身となった。

「一人で立ち向かおうなんて無茶だ! ここは一端退いて……」

そう言っている間に、サンダーバードがこちらに向き直る。
周囲にバチバチと魔力をハジケさせながら。
―― 目を付けられた、ガチで目を付けられた!

「ははは、えーと、どうする?」

ジャングルでライオンに会った時以上の素敵な笑みをうかべながら、リーマン(仮)と顔を見合わせた。
232 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/09/28(金) 00:09:29.17 0
同時刻、積乱雲下にて。

「―――――――!!」

警官隊全体に、かつてない緊張が走る。
ゲオルグと応戦していた警官隊の魔術師が、念信器から耳を離すや視線を積乱雲へ向けた。
事情を知らないゲオルグ達も、肌を幾度も刺す予兆を不審に思い、顔を顰める。

――空に聳え立つ巨大な雲柱を突き破り、ジェット機の如く飛び出す一つの影。
太陽を背にして、悠々と空を舞うその巨躯は、TV中継を通じてニューラ―ク中の、いや、世界中の人々の目に留まる。
誰もがその光景を見て、一瞬、水を打ったような静けさに包まれたことだろう。
そのあまりに、あまりにも大きすぎる鳥の姿を視認した警官隊の一人は、頬をひくつかせた。


『こちらフリークマン!警官隊応答してくださいッ!
 サンダーバードが覚醒し、枷が外れました!繰り返します、ヤツを縛っていた枷が外れたッ!!』


ニューラ―ク中が混乱に包まれるその数分前のこと。
耳を劈く雷鳴、体中を叩きつける豪雨、人間の身体など木の葉のように吹き飛ばさん勢いの強風。
アンハッピーセットのフルコンボが、その場にいる全員に襲い掛かる。
特大の雷鳴が一つ、微笑の女神の脇を掠めた。視界が白く染まり、目も開けられない。

「うがッ!?」
>「二人はゴーレムに乗って逃げろ!! オレは魔法使いだから箒が使える!」
「おいグラン、何処に行く気だ?オイ――糞ッ!」

閃光で目を潰された一瞬の隙に、目の前からグランの気配が消失する。
闇雲に腕を突っ込むも勿論のこと彼女を捕まえることは叶わず、どころか首根っこを掴まれた。
そうして抵抗する間もなく、流れ作業よろしく座席に押し込められ、視力が回復する頃にはハッチが閉まってしまった。

『ハァイ旦那、強制的だけど空の旅へごあんなーい』
「テメッ、アッシュ!今すぐ出しやがれ!!――うわぁああっ!?」

プシュン、と外界を遮断する音の直後にアッシュのアナウンスが流れる。
窓ガラスを叩いて外に出すよう主張するスタンプを黙らせるように、急上昇し積乱雲を突破する。

「~~~~頭ぶつけちまったじゃねーかマザーファッカーめ!何の真似だ!」
『シートベルトお締めなすって旦那、頭冷やしなよ。あ、フラッグには触るなよォ』

見れば、座席一杯にレース用のフラッグが百味キャンディセットのように詰められている。

『グランちゃんがよ、あのクレイジー蜥蜴野郎が他の参加者達に手ェ出さないようにさ、
 あえて皆から囮になろうってんで必死こいて集めてたんだぜ。あの娘ってホント、ケナゲだよなァ~~』

アッシュは前方の席で、深く吐き出した煙と共に、感慨深げに言葉を紡ぐ。

「……そんなのは健気じゃない。無謀っていうんだ。馬鹿で脳味噌のネジが緩みきった奴のすることだ」
『でもよォ、あんなクレイジーの極みカマせるなんざ、並みの女のコがするもんじゃねーや。
 旦那、賭けていい。ありゃイイ女になるよ。どんな方向であれ、とびっきり突き抜けた子供ってのは極上の大人になるもんだ』
「そもそも成長するかすら怪しいもんだがな。
 それにしたって、随分とアイツがお気に入りみたいだが、……まさかあんな小便臭いガキにほだされでもしたか?」

一見すれば軽薄で、誰にでも親しく接するこの男は、どうしてそう簡単に心を開く性分ではない。
誰かの肩を持つことも、ましてや舌を熱くするほど他人を評価する事も滅多にない男が、結構な入れ込みようだ。
知らずか切羽詰まった色を帯びたスタンプの声色に、アッシュはプッと吹き出した。
233 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM [sage] : 2012/09/28(金) 00:10:15.26 0
『……ハハ、ナーイスジョーク。俺が惚れるのは、何時だってオムネが自慢の可愛いブロンドちゃんだけさ』

「そうかよ。……で、どうする、あの状況?」

ゴーレムは体勢を戻し、サンダーバード周辺を旋回する。
既にその巨体を何十ものヒッポグリフが並走することで包囲しているが、一定の距離を保っている。
捕獲ランクA級(専門ハンター10人分)の代物だ、簡単に手出しすることが出来ないのだろう。
積乱雲はサンダーバードを追うようにどんどん肥大化し、被害を及ぼしていく。
本土に被害の範囲が届くまで余裕があるが、残された時間は限りなく少ない。

『! おい旦那、あれを見ろ!』

アッシュ達の視線の先に、乗り手のいないペガサスと、サンダーバードの足枷に引っ掛かったフリークマンが居る。
そして直後、銀色の弾丸が雷鳥とフリークマンを繋げていた足枷を完全に破壊したのだ。
雷鳥は非常に驚いただろう。魔力の塊が足元に特攻してきたのだから。
それが人型の生物二匹とくれば、おのずと敵であると認識するのは時間の問題だった。
遠目からでも分かる。紫電が空中を走り、雷鳥の敵意が瞬時にグランとフリークマンに向けられた!

「『させるか!!』」

スタンプは力任せにハッチの継ぎ目を蹴飛ばして無理矢理こじ開け、外へ飛び出す。
アッシュの指先がゴーレムのオーブモニターから命令術式を展開し、ゴーレムの両翼が開かれる。
顔を出したのは、自動追尾式機能付き超磁鉄弾――弾幕ミサイル。
元々、USA51は軍用機として開発された、対空戦専用戦闘ゴーレムである。
それを民間用に設計し直したものが試運転2012モデルだが、ミサイルの威力は軍用のそれ同様だ。

『3 2 1……F I R E!』

次々と発射されるミサイルは、サンダーバードの巨体向けて放たれる!
サンダーバードはその攻撃に気付くや、グラン達に向ける筈だった雷撃でミサイルを叩き落とす。
雷鳥の意識がゴーレムに逸れたほぼ同時、スタンプはゴーレムから飛び降りた。目下で駆けるペガサスの鞍へと!
悪態を吐いて千切れた手綱を掴み、ペガサスを上へと駆り立てる。電光石火の如き速度で、グラン達へ肉薄する。

「捕まえ…………!」

右腕がグランの襟首めがけ、伸びる。
その瞬間、上からモロに風圧を受けた。

「うわっ……!」

サンダーバードが威嚇するように羽ばたく。
そのまま二人が空中に留まり続ければ、もれなく風圧で吹き飛ばされることだろう。
しかもこのままでは、ペガサスに跨ったスタンプと激突し、固い両腕をクッション代わりにすること請け合いである。
234 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/29(土) 23:36:45.72 0
巨大なチキンの足に鯉のぼり状態で気分はさながら死へのエクストリームジェットコースター。
ネクタイ千切れて流れ星が先か。参加者のゴーレムにバードストライクでバラ肉が先か。
いずれにせよ碌な死に様ではあるまい。

(まずは引っ掛かったネクタイを外さなければ……!でないと身体がもっ、もたたたたたたた)

身に襲い掛かる風圧を五体一杯に受けてゆらゆらと宙を揺れる。
叩きつける風はサンダーバードが飛ぶ際に生ずるものだけではなかった。
おそらくは超質量ゆえにスピードに乗るまで風を操って飛行を補助しているのだろう。
絶叫マシンを凌駕する未経験の恐怖で満たされフリークマンは思考すら許されない。

だが流石というべきはサンダーバードの恐ろしき姿か。
羽ばたく翼は畏怖の象徴、鋭い眼光は雷の一筋。
暗雲から雷を招来しては総てを引き裂くように啼いた。

「うわあああああ‥‥‥‥うわあああああああ…………‥‥‥」

合いの手にフリークマンが悲鳴を木霊させて精霊とエリートの協奏曲。
これぞパーフェクトハーモニー。完全調和だ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………‥‥‥」

そこに情けない音をすり抜けて迫る影が一つ。

「うわぁ、うわぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁあぁあああああああ…………」

影はあらゆる柵──重力からも解き放たれたように、拳を引き、目標を見据える。

>「ディープインパクト!!」

衝撃。
踊り子は自由を奪う束縛を破壊して一人のエリート無職を救う。
だが残念なことに物理法則という束縛からは解き放ってくれなかった。

「う、お、お、ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………………‥‥‥‥‥」

そのまま僅かに放物線を描いてフリークマンは真っ逆さまに落下開始。
ノーパラシュートスカイダイブで生命までうっかりノーになりそうだ。

(いかん、いかん……!と、にかく落ちるのは…………!)

恐怖信号が思考を白に染めながら生存本能が使うべき魔法を記憶のページを捲る。
だが突如として浮遊感と共に落下は止まり、フリークマンは命を繋ぎ止めた。
宇宙空間を漂うみたいに空に静止する男の傍らには銀髪少女がいた。

(重力魔法………『三流』か………)

助かったことに安堵し推定有罪の毒虫とはいえ救ってくれたことに感謝した。
それでもフリークマンの中で捕まえるべき敵というスタンスは揺るがない。
上の命令か、眼前の少女が犯人でないないと示す客観的な証拠でもない限り。
235 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/29(土) 23:38:57.02 0
九死に一生を得たのは良いが一つ腑に落ちないことがある。
どうしても彼女が自分を助ける理由が見当たらないことだ。
まさかアレで恩を売ったわけではあるまい。それはそれ、これはこれだ。

>「一人で立ち向かおうなんて無茶だ! ここは一端退いて……」

銀髪少女はこちらへ振り向くなりご丁寧にも戦術論を説いてくれた。
半拍遅れて「何故助けた」とか「何の真似だ」といった詰問しようとしたのに、その機会を見事潰される。

戦略的撤退。なるほど確かにもっともな意見だ。
おつむが弱いくせに存外冷静な判断力じゃないか、とフリークマンは感心した。
確かに仕事を果たすだけならそういう賢い一手もある。
代わりに罪もないレースの参加者達が危険に晒されるだけだ。
でも、それを知りながら逃げるのは、なんというか、その、それこそ────

「………プライドが許さなかった」

あの凶悪なサンダーバードに立ち向かうのが無謀であることなど先刻承知だ。
当然情けないくらい醜態を晒して酷くプライドが傷つくというのも。
だがあの時フリークマンは少しでも時間稼ぎをするのがベストだと判断した。
結果はご覧の有様。幸いなのは誇りがさほど傷つかなかったことだろう。

奇妙な話、その理由はどうにも見当たらなかった。
何度も風に流されて高慢な性情まで吹き飛ばされてしまったか。
フリークマンはそっと自身の左胸に手を重ねた。

(あれも見当たらない、これも見当たらない……か……)

どうも"優れた者"を自負し、冷徹に仕事をこなす自分らしくない。
ふうと溜息を吐いて───ぞくりと背筋に悪寒が駆け抜けた。

>「ははは、えーと、どうする?」

諦観に境地に達したか、調子外れの軽い声は災厄の報せだった。
強烈な殺気が発せられる方へ振り向くと暴虐の巨鳥と視線が衝突。
何事を寄せ付けぬ敵意が空中をスパークし何度も大気を震わせた。

「童話みたいに白馬の王子がやって来るのを夢想しては?お似合いでしょう」

皮肉たっぷりに現実逃避を奨励したのはどこか危機感の足りない態度に苛立ちを覚えたからだ。
そして頭の中を引っ掻き回している恐怖に対する精一杯の強がりでもあった。
現にフリークマンの体は細かく震え、逆流する胃液を必死で飲み下しながらサンダーバードに対峙していた。

(生意気を言ってみたが……自分が飛べない以上、このままでは逃げることすら……!)

どう頭を捻らせたって八方塞だ。あるのは数分ばかりの延命の手段。
死ぬほど腹立たしくて、認めたくもないが、自分がどうしても荷物になってしまう。
荷物。役立たず。クズ。フラッシュバックするのはお祈り通知を両手いっぱいにもらったあの頃。
早鐘を打つ心臓の音がフリークマンの鼓膜をしきりに叩く。
余りある自尊心が言葉を絞り出すべく口を動かす。

「……僕は………!僕は"一流"だ………ッ!」

どうせ死ぬなら抵抗の牙を突き刺して死ぬ。自分が見下す無能として死ぬのだけはお断りだ。
あの化物と戦っている間にお隣の脳内お花畑のお子様はスゴスゴと逃げればいい。
感謝しろ。尊い命を吸ってお前という粗大ゴミは生き延びられる。
フリークマンは──それが捨て鉢だろうが薄っぺらい自負心を守らずにはいられなかった。
236 : フリークマン ◆LtICClXKsY [sage] : 2012/09/29(土) 23:45:23.16 0

「優秀でなくては意味がない……!有能でなければ価値がない………!!」

過去の失敗ゆえに『優れた人間』であらんとする強迫観念染みた執着心。
仕事以上に、純粋に他人を守るため動いた男の面影はどこにもない。
在るのは己は珠だと釜の底で叫ぶ憐れな男である。

サンダーバードの周囲を走る紫電がこちらへ向く。
対決するためウィップエッジを発動させた瞬間、思わぬ救いの手が差し伸べられる。

>『3 2 1……F I R E!』

灰色の流星群が尾を引いて暴虐の鳥へ殺到する。
フリークマン達へ向けられた雷はミサイルの迎撃に放たれ、激しい爆音を響かせた。
更に薄氷を踏むような行動をする男が一人。
己に口先だけで泥を塗ってみせた元上司、スタンプ・ファントムだ。

(この局面で、よくものこのこと……!)

憎き毒虫を認識した刹那、一つの影がフリークマンを攫っていった。
それは鷲の前半身に馬の後半身をもつ誇り高き伝説の生物、ヒポグリフ。

スタンプの舌先三寸に従いヒポグリフはずっと自身の乗り手を捜していた。
遂にフリークマンを見つけ出し危険も厭わず救い出して見せたのだ。
ヒポグリフはぐったり手綱を握る主人へ顔を向けて低く鳴く。
「これで白い馬公より私の方が上って証明できたかしら」とでも言っているのか。

フリークマンは心音が静かになっていくのを感じながら、酷く虚しさを覚えた。
優れた人間であろうとすればするほど無能と呼ばれる人種へ近づいている。
現に、自分の命は誰彼に助けてもらってようやく成り立っていた。
そうして容器の中の虚しさは捨てられて、代わりに憎悪と嫉妬が注がれていく。

「よりにもよって社会のクズに……!情けをかけたつもりか……?それとも僕を嘲る気か……?」

グランの余計なお節介がフリークマンの自負心の、水脈に近いところを掘り当てた。
怨恨が噴水のように心を浸す。路傍の石が宝石に勝る道理はない。あってはならない。
ゆえにあのスタンプや銀髪少女の存在は容認できない。今すぐにでも奴らを五分刻みにして───

(ちっ………馬鹿馬鹿しい。落ち着け、私情に流されるな。優先順位を間違えるな。
 どうまかり通ろうがサンダーバードを止めるのが先決だ。下手をすればニューラーク中が危ない……!)

寸でのところで理性が危ない思考を打ち切って、フリークマンは状況把握に努めた。
巨躯の鳥を警官隊のヒポグリフが取り囲みアッシュのゴーレムがサンダーバードへ攻撃。
銀髪少女とスタンプは、まあ死んではいないだろう。死んでもらっては困る。

「まずは仕事を果たす……!目標、サンダーバード───」

幸いなことに注意はゴーレムへ向いており、自分はサンダーバードの背後。
そこでフリークマンがまず翼を攻撃。機動力を奪って隙を作る。
後は警官隊なりミサイルなりがサンダーバードを手羽先かチキンナゲットにしてくれるだろう。

「制圧開始………!」

切断能力に魔力をつぎ込みウィップエッジを起動。
秋水の如き長大の剣が、暗雲を裂き巨鳥の左翼へ唐竹割るように飛来する──!
237 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/10/03(水) 21:59:17.70 0
>「………プライドが許さなかった」

「理由なんか後付だ。考えて出来るようなもんじゃない。
そういうのって、嫌いじゃない。いかにも物語の主人公みたいだから!」

そう言ってオレは場違いな、文字通り人形のような微笑を浮かべる。
オレが命知らずなのは、勇敢からじゃない。ただ単に魔導人形だから。
こんな状況でも笑えるのは、きっと対戦用に作られた魔導人形の血筋ならぬ魔力筋が混ざっているから。

>「童話みたいに白馬の王子がやって来るのを夢想しては?お似合いでしょう」

「白馬の王子様は無理でも……白馬のおじさまなら本当に来るかもしれないぜ!?」

>「……僕は………!僕は"一流"だ………ッ!」
>「優秀でなくては意味がない……!有能でなければ価値がない………!!」

そう言って青年は、何かに取り憑かれたように一人でサンダーバードに立ち向かおうとする。

「そんな寂しい事言うなよ。
人が誰かにとって大きな意味を持ってしまう事に優秀か、なんて重要な事じゃないんだ……
無職でも、貧乏でも、パン一で部屋の中をうろついたって、関係ないんだよ。
そりゃあ欲を言えば物語の理想の主人公像に近いに越したことはないけどさ!」

青年に言っていたはずが、途中からは自分に言い聞かせるように呟いていた。
縁って、神様の悪戯なのかもしれない。
噂をすれば――

>「捕まえ…………!」
>「うわっ……!」

ペガサスにまたがった白馬の王子(?)が背後に迫っていた。
もう魔法の契約が本物かなんてどうでもよくなっていた。
風圧に飛ばされ激突する直前、重力を操り自らペガサスの後部座席におさまる。

「もう逃げも隠れもしないぞ? でもあの人、放っとけない……!」

あの青年は自らが優秀だと世界に刻みつけるためなら、命すら犠牲にするだろう。
本人が気付いていないだけで、彼の事を何よりも大切に思っている人がいるかもしれない
仮に今はいなくてもまだこれから先、誰かにとって無条件で価値のある宝物になるかもしれない。
238 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/10/03(水) 22:01:01.59 0
>「制圧開始………!」

迷わぬ決意を秘めるように、それでいて焦燥に駆られるように、サンダーバードに突っ込んで行く青年。

「格好つけるために格好よく死のうなんざ許さないぜ!
仮に命を犠牲にしていい場面《シーン》があるとしたら、本気で世界で一番の宝物を守りたいと思った時だけだ!」

大きな対象に術をかけるには、それ相応の魔力が必要だ。
サンダーバードを縛るように、空中に巨大な術式を展開していく。
青年が魔法で作り出す大剣が巨鳥の翼を切り裂いた刹那――

「――重力操作《ウェイトコントロール》!!」

魔力を解放し、最大出力でサンダーバードの巨体に負荷をかける!

「―――――――!!」

巨鳥が表記し難い悲鳴をあげた。
片翼を切られバランスを崩したところに負荷がかかり、地上へと堕ちていく――!

☆  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

一方、積乱雲の少し下にいるチームといえば――そう、シェレン・ゲオルグ・ドミニクの三人組である。
警官隊と乱闘していた三人であるが――上から巨鳥が迫ってきた!
驚いた警官隊が蜘蛛の子を散らすように場所をあける。

「ちょっとばかり大掛かりですね……」

そんな中、シェレンは堕ちてくるサンダーバードを見据え木製の杖を構えた。

「――束縛せよ!」

通常サンダーバードが纏っている積乱雲が、今は無い。
刹那にして、森の様に成長した樹の枝がサンダーバードを拘束していく。
数秒後には、枝で簀巻と化した巨鳥の元を辿れば小柄な女性が棒一本で支えているというシュールな光景が展開されていた。
無論魔力が切れるまでにどうにかしなければならないのだが――シェレンは誰にともなく問いかけた。

「えーと……どうしましょう!?」
239 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM[sage] : 2012/10/09(火) 22:17:23.63 0
【馬車組 数分前】

「な、何だ、ありゃ……………!?」

ゲオルグは我が目を疑った。疑うしかなかった。
太陽さえ覆い隠してしまわんばかりの巨躯。常人ならばほぼお目にかかることのない霊鳥。
蔓が突き破った天井の隙間からでも、それが積乱雲から飛び出しす場面を視認することが出来た。

「オイ、蜥蜴野郎テメエ!一体ありゃ何だ?お前、一体何やらかしやがった!?」

蔓を引き千切り、ゲオルグはドミニクの襟首を掴み揺さぶる。シェレンも驚愕に満ちた表情で天に釘付けになっていた。

「……ハッ、サンダーバードだよ。見りゃ分かるだろう。ちょいと暴れたら目を覚ましやがったのさ。
 鎖って脆いのな。俺の魔法でも簡単に取れちまったぜ!あーユカイ、ユカイだ!」

「なっ……お前、自分でしでかしたコト理解してんのか?でなけりゃ脳味噌がプディングで出来てんのか!?」

「二人とも喧嘩は止めて下さい!」

シェレンが割って入り、今にも一悶着起こしかねない二人を諌める。
上空では既に、戦闘が開始されていた。警官隊と一機のゴーレムが包囲している。
その内、宙に浮く人影の一挙一動を視認したシェレンは驚いた。

「グランさん!?何て危ないことを……!」
「あ?グランか。とことん行動がクレイジーの斜め上をイッてるぜ。
 まーだ正義のヒーローごっこ続けてるんだな。飽きねえなァ、さっさと逃げりゃいいのに。
 あのセイレーンの二の舞になっちまうかもってのにな。あれは俺がやっただけだけど……」

軽い調子で、ドミニクは笑いながら言ってのけた。
シェレンは怒りに満ちた目でドミニクを睨んだ。先程から聞いていれば、この男の無責任なこと。
だが、小さな握り拳が開かれるより早く、ゲオルグの重い鉄拳が飛んだ。

「…………ッ!」
「俺も大概性根腐った奴だけどよ……お前ほどじゃなかったらしい」

ゲオルグは歯軋りし、見下ろした。ドミニクを見下ろす両目は、失望の色に満ちていた。
擦れた心を抱えて、世間に中指を突き立てる者同士、通じ合う物があると信じていた。

「何だ、お前も今更正義のヒーロー気取りたいのか?過激派『爆弾屋』らしくもない。
 俺達にゃ悪役がお似合いなのさ。たかだか州1つパニックに落とす位で何を怒る?」

そりゃあ、街を壊したり喧嘩に明け暮れてばかりの厄介者扱いだったが、それは今の社会に納得できない心情の表れで。
だからこそ、対等に接しあえる仲だと思っていたのに。

「心底ガッカリだぜ、ドミニク」

自棄っぱちの瞳が、ゲオルグを見上げた。そして、諦観の入り混じった自嘲を浮かべた。

「……………………ご期待に添えなくて残念だ、ゲオルグ」

いたたまれない空気に、シェレンはどうすればよいか分からず、おろおろと二人の顔を見た。
上空では戦闘が続いている。――こんな時、アイリーンがいれば。不甲斐ない発想が脳裏をよぎる。
だが激しく首を振り、すぐにその発想を改めた。こんな時に、なんて情けないことを。
自分だって、対魔法使い課の魔女じゃないか。魔法使いの味方が、自らの役目を全うしないでなんとする!
240 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM[sage] : 2012/10/09(火) 22:18:10.48 0
「ドミニクさん――」

ドミニクの傍らに座りこむ。金眼の鋭い眼光に一瞬たじろぐも、強い眼差しで見返した。

「貴方は重大な規定違反を犯しました。貴方の証言が全て事実ならば、魔法律全書第109条において、
 魔法使いの資格永久剥奪は確定、裁判にかけられれば最低でも第二級犯罪者の烙印は免れないでしょう」

でも、とシェレンは続けた。

「貴方はきっと、反省したいのですよね?だからわざわざ、批判されることを承知で、自分がした事を白状したのですよね?」

ドミニクは唇を噛んだ。その僅かな動作をシェレンは見逃さない。彼が固執していた一つのワードをちらつかせる。

「正義のヒーローに、なりたかったのですか?」
「……莫迦らしい。ドラゴンは悪の象徴だぜ。あのチビと同じ綺麗事をほざくのか?」

嘲笑うかのような面様だが、目は戸惑いの色へ変わっていた。
やはり。シェレンはドミニクの心情を分析した。彼のような青年が非行に走るには何らかの切っ掛けがある。
ドミニクの場合はおそらく「コンプレックス」だ。正義に対する、隠れた憧れ。それが彼を凶行へと及ばせたのだ。

「ドミニクさん、一言で良いんです。
 反省していると、自分の行いを悔いていると言って下さい。YES(ハイ)と一言、心をこめて言って下さい」

「……それで、何か変わるのか?俺のやった事が帳消しになると思うか?」

「そういう問題じゃないんです。今しかチャンスは無いんです。この瞬間しか、きっと貴方を助けるチャンスは無いんです。
 ニューラ―クを助ける時は沢山あります。でも貴方みたいな人を救えるのは、きっとごく僅かな一瞬なんです。
 そしてそれが今なんです。私、貴方を救いたいんです、ハイ!」

ドミニクもゲオルグも、上空の惨状を忘れてシェレンに注視した。

「私は魔法使いの味方です!自分にしかない力で、大切な物を守る人の味方です!」

バッと指を差す、その先は上空。多くの警官隊と、魔法使い達が闘っている。
ニューラ―クを、自身のプライドを、己の在り方を守るという使命の為、闘っている。

「私、ハッキリいえば弱いです!魔法だってショボイしよくトチります!おっちょこちょいだし、失敗ばっかです!
 でも、――――それっぽっちの事で、綺麗事を、やりたい事を諦めたくありません!だから!」

杖を強く、握った。笑ってばかりの膝を叩いて、笑顔を作った。

「――もう、悪い子なドミニクさんは、辞めちゃいましょうよっ!
 私が、対魔法使い課シェレン=ドリュアスが、僭越ながらお手伝いします!」

 ○

雷鳥の風圧に圧されつつも、ペガサスは特攻せんと嘶く。
積乱雲以上の猛威に、馬上のスタンプは、放り出されない事すら奇跡に近い。

「こっ……の…!………」

千切れた手綱を掴む手が、汗で滑る。体が浮き上がり、後方に投げ出されんとする。
それでもスタンプがペガサスの背に跨り続けていられたのは、

>「もう逃げも隠れもしないぞ?」

背後に、小さなグランがしがみついていたからに他ならない。
241 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM[sage] : 2012/10/09(火) 22:23:21.90 0
千切れた手綱を強引に動かせない左腕に縛り付け、右手で無造作にグランの頭を掴んだ。
先程までマグマの如く噴き出していた怒りが、スゥっと消えていくようだった。
それでも完全に怒りが消失したわけではない。表情に出すことはなく、スタンプは静かに言った。

「……そうか。で、どうするグラン。もう帰りたくなったか?」
>「でもあの人、放っとけない……!」

グランに倣い視線を移す。そこには、ネクタイに術式を施し、サンダーバードと対峙するフリークマンの姿。
警官隊でさえ迂闊に近寄らない相手にたった一人で挑むのは殊勝な心構えだが。
内心では、先程まで敵対し罵り合っていた男を助けるという選択肢はない。
向こうの性格を察するに、助けられたいとも思わないだろう。敵意の矛先がこちらに向くとも分からない。

>「制圧開始………!」

だが一方でこちらには、一度言い出したらテコでも聞かない我儘お嬢様がいらっしゃる。
そのお嬢様が放っておけないと言ったならば槍が降ろうが雷が落ちようが放っておかないのである。
助ける義理は無い、でも選択肢は二つに一つ。なんというジレンマ。

「……だぁあああっもう!こうなりゃヤケだッ!!」

旋回するゴーレムの乗り手、アッシュは、それを気取られまいとひたすら雷鳥の気を引く。
雷鳥が一声上げ、雷撃を落とさんと魔力を収束させる。
その隙にフリークマンの魔力がつぎ込まれたウィップエッジ、その切っ先が翼を狙う。
サンダーバードがその魔力に一瞬早く気づき、防御せんと電磁波の膜を形成しようとした。

だが、ペガサスを駆り、サンダーバードへと急接近。しかし只接近するのではなく、その頭上へ。
サンダーバードの死角を取り、その両目へ向けてスタンプのP90が火を噴いた。
焼けるような目の痛みに恨めしげな喚声が空を突き破る。
グラリとサンダーバードの巨体が揺らめいた。その翼の表面を、ウィップエッジが抉るように裂いた。

「今だグランッ!やっちまえ!」
>「――重力操作《ウェイトコントロール》!!」

グランの最大出力――サンダーバードの体重を地へと突き落とす程の重力が掛けられる。
みるみる巨体は墜落していく、下方に控える警官隊と馬車の下へと!
メルヘンな馬車の天井には、一人の女性が、杖を構え巨体を凛と見据える。

>「――束縛せよ!」

杖の先から伸びる伸びる蔦と樹の集合体。それらはあっという間に樹の檻と化し、雷鳥を閉じ込める。
雷鳥はあらん限りの不満の声をあげ、脱出しようと必死に足掻く。

>「えーと……どうしましょう!?」
「阿呆か、お前はああっ!ちったあ考えて術を使えよおおーーーーっ!」

杖を掲げたままプルプル震えるシェレンにドミニクが一喝し、腕を一振り。
鎌鼬が杖と蔦の檻を切断した直後、雷鳥の全身から雷が放射された。
警官隊は予測出来ない電撃に右往左往し、ゲオルグは雷撃から防御すべく爆撃魔法で相殺。辺りが黒煙に包まれる。

「ゲホッ、やったか?」
「……ゲオルグさん、セオリーって知ってます?」
「あのなあ、ゴリラに期待するのもあれだけど、相性ってもん考えろ馬鹿ゴリラ……」
242 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM[sage] : 2012/10/09(火) 22:28:38.14 0
馬車は黒煙の幕から脱出し、上空で滞空するアッシュやグラン、フリークマン達と並んだ。
ゲオルグの爆発魔法、その属性は火。爆炎魔法の火が自然の檻を炎上させ、サンダーバードは脱出を完了していた。
片目を潰され、ダラリと力無く片翼を垂らし、それでもサンダーバードはまだ羽ばたいている。

『ヒュー。あそこまで意地見せられると、いっそ尊敬すら覚えるね。最優秀賞あげたくなるよ』

軽口を叩くアッシュだが、声は若干の焦りを滲ませている。
視認できる限り、サンダーバードの周囲を薄い電流の膜が球状に覆い、ガードの役目を果たしている。
そのガードを破り、弱点を突かなければ勝つことは出来ない。

「あくまで予想だ。サンダーバードは翼以外に『何か』飛行する手段があるか……翼自体に秘密がある。
 恐らくそれが弱点だな。そこを叩けば、今度こそサンダーバードを止める事ができる筈だ。

 課題はあの電流のガードだな。全部破壊するのは無理だろうから、一点集中で穴を作る必要がある。
 それに奴を捕まえる檻も必要だ」

「それなら私達に任せて下さい!時間を下されば、今度こそやり遂げてみせます!」
「えっ俺もやんの!?確定なのネーさん!?」
「……言っておくが、俺は協力するなんてまだ言ってないぜ」

「オーケイ、良い返答だシェレン」

アッシュが不意に口を挟む。

『成程。でもさ、一息にサクッと殺っちゃうって発想はないのかい?いつもの旦那らしくないぜ』

「――――」

言葉が出ない。何故と問われても、その素朴な問いに答えられるだけの理由が思いつかなかったからだ。
確かに以前の自分ならば、屠ることを選ばなかっただろう。心境の変化?馬鹿な。
らしくない、その言葉が脳を巡る。降格されてから「らしくない」日々が続いている。
暫く黙り込んだ末に、スタンプは腹痛を訴えるような表情と共に、言葉を絞り出した。

「そりゃあ……………………………………その、鳥だって『カタギ』だからな」

一瞬間をおいて、アッシュの大爆笑が木霊した。笑いすぎて噎せる声まで聞こえた。
我ながら素っ頓狂な解答に、羞恥で耳まで赤くなったような錯覚を覚えた。
実際赤いのかもしれない。

『あっはは!そうだな、鳥はマフィアでも麻薬密売人でも密猟者でもないもんな!そりゃーそうだ!
「カタギは殺すな」 「上司に逆らうな」 「仲間を裏切るな」か。さもありなん!
 でもよ、俺は女子以外にゃ優しくないぜ!だから早いとこ済ましちまおうぜ、なあ。ミサイルも残り少ねーし』

残るはフリークマンとグラン。振り返ることなく、スタンプは懐から煙草を出す。
グランがやって来てからライターを捨ててしまった為、久し振りに咥えるものの、肝心の火がない。
243 : スタンプ ◇ctDTvGy8fM[sage] : 2012/10/09(火) 22:30:12.00 0
「さて、お坊ちゃん。……俺は色んなモンさんざ相手してきたがよ。
 真正面からあんなヒヨコちゃんを相手するのは流石に初めてなんで、まるで勝手が分からん」

警官隊は士気を取り戻し、再びサンダーバードを包囲し直し始めている。
そこかしこに電流を放出させる雷鳥を見据え、スタンプは新たにマガジンを装填する。

「無理を承知で頼むぜ。俺達が時間を稼ぐ間、奴の弱点を見つけるんだ、坊ちゃん。
 ……それとも、お膝のコサックダンス教室で忙しいかい?」

ぼやぼやしている内にサンダーバードの攻撃範囲はこちらにも及ぶだろう。
足止めしているとはいえ、このまま突破されてしまえばニューラ―クの大惨事は免れられない。

「グラン、坊ちゃんのアシストに回るぞ。……放っておけないんだろう?」

サンダーバードは一旦攻撃を止め、自身の防御と回復に魔力を集中させることにしたようだ。
しかし元々攻撃されることが殆どなく、自然回復に頼りきりだった雷鳥に高度な回復スキルはない。
攻撃と防御、それが切り替わる間に僅かなタイムラグが発生する。
その瞬間が迎撃のチャンスである。

「それと、お説教は帰ってからだ。俺はまだ怒ってるんだからな、グラン」

サンダーバードが片翼を振るった。夥しい量の羽が襲いかかる。
ペガサスが空を蹴り、自身も翼をはばたかせ、威力を殺す。
それでも向かってくる羽の幾つかはスタンプが射撃で撃ち落とした。

「さあ臆病者共(チキンズ)、お待ちかねの鴨狩りの時間だ。しくじんじゃねーぞ!」


【1ターンで決めようぜ!VSサンダーバード最終戦!】
【MISSION:サンダーバードを捕獲or討伐せよ!ベストはノーキル】
【サンダーバード→PC:雷+羽攻撃、時折風圧。攻撃と防御・回復の繰り返し。状態:片目と片翼に損傷】
244 : 名無しになりきれ : 2012/10/21(日) 18:30:14.97 0
保守
245 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/10/23(火) 00:33:47.06 0
シェレンが植物の網でサンダーバードを拘束し、それをゲオルグが爆破する。
辺りが黒煙に覆われ、晴れた時――サンダーバードはまだ滞空していた。
片翼を負傷し、普通の鳥ならまず飛べない状態だ。

「なんであの状態で飛べる!?」

>「あくまで予想だ。サンダーバードは翼以外に『何か』飛行する手段があるか……翼自体に秘密がある。
 恐らくそれが弱点だな。そこを叩けば、今度こそサンダーバードを止める事ができる筈だ。
 課題はあの電流のガードだな。全部破壊するのは無理だろうから、一点集中で穴を作る必要がある。
 それに奴を捕まえる檻も必要だ」

>『成程。でもさ、一息にサクッと殺っちゃうって発想はないのかい?いつもの旦那らしくないぜ』

アッシュの言う事は最もだ。
様々な異種族が跋扈するこの世界だが精霊には人権はないどころか、動物保護団体ですら管轄外
それどころか生物ですらない。

>「そりゃあ……………………………………その、鳥だって『カタギ』だからな」

大爆笑するアッシュに冗談めかして言う。

「満更笑い事でもないぜ? ”ウンディーネ”って戯曲知ってるか?
水の精霊ウンディーネととある人間の青年が恋に落ち、二人は晴れて結ばれるが
人間の女性に心移りした青年はウンディーネの父親である水霊界の王によって殺されてしまう――
もしかしたら、あの鳥だって……サクッと殺ったら恐ろしいことになるかもしれないぞ!」

>「グラン、坊ちゃんのアシストに回るぞ。……放っておけないんだろう?」
>「それと、お説教は帰ってからだ。俺はまだ怒ってるんだからな、グラン」

「分かってる――必ず全員生きて帰るぞ!
シェレン、蔦の網を! 足場にする! 不良コンビはとにかく電気のバリアーを破れ!」

「分かりました――生い茂れ!」

シェレンが魔法を発動、空間に蔦の足場が出来上がった。
蔦から蔦へ飛び移り、サンダーバードを翻弄する。
サンダーバードの方は蔦が邪魔して思うように飛べずに、さっきから殆ど同じ場所に滞空している。
246 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/10/23(火) 00:35:44.87 0
「もしかして……重力操作《ウェイトコントロール》」

サンダーバードに少し荷重をかけてみる。
ちなみにギリギリのバランスで飛んでいる普通の鳥は、少し負荷をかけてやるだけですぐ堕ちるものだが……
案の定、この程度ではバランスを崩す素振りもみせない。
その代わりに、サンダーバードの首元が光ったような気がした。

「やっぱり……そうか!」

――飛空石、というマジックアイテムがある。
反重力発生装置、平たく言えば物体を宙に浮かせる力を持つ古代魔法文明の遺産だ。
おそらく紐状のもので首にかかっているのだろう。羽毛に埋もれて付いているのに気が付かなかったってわけか――
首をかききらずにネックレスだけ外すには絶妙なコントロールが必要だ。
踊って殴るのを専門とするオレは刃物の絶妙な取り扱いはできない。それが出来そうな人は――

「開いたぞ! 早くしろ閉じちまう!」

不良コンビ(なんだかんだ言いつつ協力してくれたらしい)の活躍で電気バリアーに小さな穴か開く。
そこでアッシュが気の力をまとった剣を一閃。電気バリアーの穴を引き裂き広げる。

「今だ――やっちまえグラン!!」

この場合のやっちまえとは“殺っちまえ”という事なのだろう。
ゆっくりと首を横に振り、リーマン風の青年に語りかけた。

「アイツをあそこまで粘らせてるのは首についてるマジックアイテムだ――外してやってくれ」

オレはというと次の魔法の準備だ。
外れた瞬間に、サンダーバードは今度こそ真っ逆さまに堕ちていくだろう。
すかさず重力軽減の魔法をかけてやらねば。
247 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM : 2012/10/29(月) 22:45:33.76 0
>「分かりました――生い茂れ!」

各自が行動に移り始めた。
サンダーバードの攻撃が続く中、シェレンは蔦を螺旋階段の如く生成。
グランは雷鳥の猛攻を蝶のように避け、意識を自身に向けさせる。
お陰でフリークマンは完全に雷鳥の意識から外れ、若きエリートは目を皿にして弱点を見つけ出そうと集中する。

一方で不良共はといえば。
そのエリートからバリアを撃破する作戦を指導され、所定の位置にいた。

「かァーッ、何で俺達がこんな事……しかもあんなポッと出のモヤシに……」
「うっせ、黙ってやれゴリラ」
「しかも何でテメーまで指図してんだ!元はといえばテメーが招いたトラブルだろうが!」
「お二人共、私を挟んで大声を上げないで下さい!集中力が切れるでしょう!?」

馬車をギリギリの位置まで引き寄せ、不良二人が屋上に立つ。
ゲオルグは大きく息を吸い込み、――拳に灼熱の火炎を宿らせ、叩きこむ!
炎の一撃を食らった、電磁バリアの一部が赤く輝き、焦げるような音を立てる。
そこにドミニクが冷風を纏わせた風撃。急速に冷えた突風がバリアを穿つ。
ピシリ、とバリアが軋む。熱と冷却のコンボで、バリアが悲鳴を上げ始める。

「退いてな、ボーイズ!」
サッと馬車が退き、アッシュが双剣をクロス状に構え――気撃を一息に放つ!

「開いたぞ! 早くしろ閉じちまう!」
バリアもまた、こじ開けた所で雷鳥の魔力によってすぐ閉じられてしまう。
時間の勝負。フリークマンは魔力探知――つまり、魔力の出所を叩くことで鳥を墜落できると考えた。
そこでグランのアシストにより、サンダーバードの滞空し続けるカラクリも判明した。
しかし、何故、鳥にとって最も必要のない、反重力装置が首にかけられていたのか?

>「アイツをあそこまで粘らせてるのは首についてるマジックアイテムだ――外してやってくれ」
フリークマンは「もしかすると罠かもしれない」、と言い出す。
反重力装置を外せば雷鳥も滞空し続けることは出来なくなる。
だが……本当にそれだけで終わりだろうか?

「……ま、確かに怪しさプンプンだわな」
それについてはスタンプも同感だ。
サンダーバードが逃げ出したことは、第三者による完全な事故。
逃がす切っ掛けを作ったドミニクが仕組んだとも考えられないことはないが、暴れたいだけの一不良には動機がない。
そもそもドミニクにとっても反重力装置は縁の無い代物、障害の正体を知らなかったのも容疑者から外れる一因だ。

「でも、うだうだ考えてても仕方ねえ。敢えて罠に乗ってやろうじゃねーの」

スタンプはニタリ、と悪人面で挑戦的に笑った。
反対にフリークマンは青筋をたて「これがもし本当に罠で、命を落としかねない惨事に陥ったらどう責任を取るのだ」と喚いた。

「ま、そん時ゃ腹括って地上にオダブツだな」
スタンプは肩を竦めてそう言うや、フリークマンの背後、ヒポグリフの尻に飛び乗った。
そして手綱を奪い取り、GOサインの代わりに綱を強く撓らせる。
弾かれるようにヒポグリフは二人を乗せ、バリアの裂け目に飛び込んだ。

「ただ集中しろ、お坊ちゃん。お前の相手は魔具の首飾りだ」
再び至近距離でサンダーバードと対峙し、ひたすら「首飾り首飾り首飾り」と念じている。
その集中力を断ち切ろうとするかのように、雷鳥の眼がフリークマンを見据えた。
しかし、その目に迷いなく銃弾が撃ち込まれ、何度目かの雷鳥の悲鳴が空に轟く。
248 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/10/29(月) 22:46:55.98 0
「――今だ、断ち切れ!!」

ウィップエッジが唸りをあげ、飛空石は一刀両断された――――


◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

薄暗くただ広い室内で、6人の影が円卓を囲んでいた。
室内で行われているのは、観賞会。スクリーンに映し出されているのは、先日のWHRのVTRだ。
戦闘不能になったサンダーバードが警官隊によって回収されていく様子まで克明に表示している。

「今回のレース、中々愉快でございましたね」

ムービーが止まり、一人が愉悦の色を声に滲ませて切り出した。
スクリーンに最も近い影は、口元に歪んだ笑みを刻んでいる。
違う声が哀れっぽい声を上げた。

「あの飛空石、中々の高値でしたのに……壊すためだけに取り寄せるのは忍びありませんでしたわ」
「抜けぬけと仰いますがな『王女』、飛空石で戦う時間を長引かせようと言い出したのは貴君ですぞ」
「あらあら、そうだったかしら。そうかもしれないわ。ああでも忍びないですわ」

紳士然として語る男に、『女王』はころっと声色を変えて面白おかしく歌うように言う。
二人の会話は、まるで初めから雷鳥が人間を相手に戦い、飛空石を使う事態まで想定していたかのような口ぶりだ。
映像がコマ送りにされ、不良達が警官を相手に戦う姿が映し出される。

「中々に好戦的な連中だタヨ、ウチの組に欲しいあるですネ」
「フン、龍族の面汚しに出来損ないの不良少年ですか。戦果は期待できませんね」

次に、ヒポグリフの上で口論し合うフリークマンとスタンプが映された。
何を言い争っているかは分からないが、穏やかでない内容なのは確かである。

「フリークマン家のお坊ちゃんでないの。変わり者とは聞いていたが、まさか警備員などやっているとはな」
「彼は将来有望ですわ。私達の望む"候補"に最も近い」

スタンプについては一切触れず、またも映像が切り替わる。
この後、試合はそのまま続行された。勝利については――この6人は興味を示していない様子だ。
それよりも、12の目はある一人に釘付けとなっていた。

「WHRのスポンサーに就いていて正解でした。まさかこれほどの『上玉』とはね」
「ええ、ええ、全く。彼女こそ一番ふさわしいと思いますわ」
「早計ですぞ。候補はまだまだいる。これから厳選せねば」
「まだ揃わないのは『少女』と『まだ割れない卵』、それに『芋虫』か。『兎』もまだ『鼠』とお昼寝中ときた」
「なあに弟よ、まだ時間はある。『猫』が動かん限りは物語は始まらない。そうだろう、『帽子屋』?」

「勿論ですとも。さあ皆様、お茶の時間ですよ」

【レース編終了!勝敗の行方やいかに……?】
【飛空石はあらかじめ仕組まれた物。背後にはWHRのスポンサー? その謎はまたの機会に……】
249 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/10/30(火) 22:20:52.65 0
>「――今だ、断ち切れ!!」

飛空石が一刀両断のもとに砕け散り、破片の輝きが宙に舞う。

「やりい! 重力操作《ウェイトコントロール》」
「拘束せよ――」

――かくして、自由落下から逃れたサンダーバードをシェレンの魔法の枝が拘束していく。
魔力が解け出すように、サンダーバードが消えていく。
やばっ、消滅させちゃった!? と思ったが。
アッシュが、シェレンの杖と木で編まれた鳥かごを切り離す。
鳥かごの中には、インコのようなサイズの鳥がいた。

「あらら、こんなに小さくなって……」

とシェレン。
こうして物質界に顕現した雷の精霊は、迷子のペットの鳥を引き渡すがごとく警官隊に引き渡されたのであった。
それを見届け、オレはアッシュに声をかける。

「行こうぜアッシュ!」
「……どこへだ?」
「レースはまだ終わっちゃいないぜ! ゴールまで走り抜けるのさ!」
「アッハハハハ、そういやそうだな!」

オレ達はゴールへ向かって一直線!
もちろんその後ろを(今度は比喩的な意味で)雷を落としながらスタンプが追いかけてきて
更にその後ろを怒り狂ったエリート君が追いかけてきたのは言うまでもない!

☆ ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆
250 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/10/30(火) 22:21:51.18 0
『――――レディースエーンドッジェントルメン!今年もこの瞬間がやってきたッ!
 真夏の日射とアスファルトの熱に浮かれた馬鹿野郎共による祭典"ウィッチ・ハイ・レース"!
 年に一度行われるレース、受賞者が決定しました!』

オレ達が団子になって雪崩れ込むようにゴールした時、やたらめったらハイテンションなナレーションが響き渡る。
結果発表らしいが、入賞どころか今だ捕まらずに野放しになっているのが不思議という有様である。

「アッシュ……また警察に捕まらせてしまうかもしれない!」
「なんてこったハハハ」
「ハハハ言うな」

やたらハイテンションに上位入賞者が発表されていくが、オレ達には関係ないことだ。

「今年はMVP賞が大量だあ! 上空部門スタンプ&シェレンチーム、グラン&アッシュチーム
ドミニク・グァルディオラとゲオルグ・ヴィオレッタ」

エリートリーマン(仮)の方をちらっと見ると、何でこいつらがと怒り心頭のようだ。
今にも食って掛かって来そうになった瞬間――

「――あと参加者ですらないけど会場警備のフリットフリークマン!」

それを聞いた時のエリートリーマン改めフリークマンの顔といったら!
様々な疑問は、割れるような拍手と歓声とバカ騒ぎにかき消されていくのであった。
もしかしたら裏に隠された陰謀が又の機会に語られる……のかもしれない。

とにかく――馬鹿の気狂いによる奇天烈共の祭典は、これにて閉幕!
251 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/11/05(月) 22:05:35.15 0

【レース後日談】

――大画面のTVに、先日のレースの様子が映し出されている。
画面の中では、MVP賞を振り回す青年と少女が、怒り心頭の中年男に追いかけ回され、
更にその後ろで苦い顔をしたエリート風の青年がMVP賞の銅板を睨んでいる。
中年男が警官の一人に手錠を掛けられるまでをニュースキャスターが面白おかしく伝えたところで、チャンネルが切られた。

「生中継、見てましたよ。中々の活躍じゃ御座いませんでしたか」
「そりゃどーも。お土産の一つでもくれりゃ最高だったんだがな」

アイリーンが振り返る。にやにやと笑っている。
リモコンを放り投げ、スタンプは苦々しいを全面に押し出した表情を滲ませた。

WHRは、少々のアクシデントを見逃せば大団円で終了した。
惜しくもアッシュ達は1位を逃したが、MVP賞とゴーレム会社からの報酬金で事無きを得たようだ。
肩に重傷を負ったスタンプは病院に担ぎ込まれ、一ヶ月の入院を言い渡された。当然だ。
シェレンはアイリーンから大目玉を食らい、ゲオルグとドミニクは数日間警官と追いかけっこの末に逮捕された。
余談だが、フリークマンからは「二度と関わりたくない」と渋い顔をされた。

「で、何しに来たんだ?魔法局は暇人さんばっかなのかい?」
「ええ――。一つ、忠告に参りましたの」

コートを羽織るスタンプの手が止まる。

「お忘れなきよう。ミス・グラン・ギニョールは現存する唯一の魔導人形一族です。
 彼女の身に何かが起きた場合、責任は貴方一人だけの問題に留まらないのですから」

冷ややかな声でアイリーンはそう宣言する。
「それに、」と続く。

「貴方自身もご自愛なさいますようにね。……魔法局とギルドの安寧のためにも」

「ご忠告どうも。……余裕があれば、覚えておくよ」

スタンプは相も変わらず不遜な態度を取る。
両者の間にピリピリとした雰囲気が漂う中、唐突に携帯の着信音が鳴り響く。
電話に出るべきかどうか逡巡し、アイリーンに目配せする。
彼女は「構わない」と顎で示唆し、スタンプはボタンを押した。

「どうした?」
『トト・リェンですにゃ。ご相談したい事がありますのでそちらに向かいますにゃ、Mrファントム』
「待て待て、初めから話せ。何の話だ?」
『すみません。病み上がりの所申し訳ないですけど――仕事のお話ですにゃ』



夏も過ぎ、涼やかな風が金木犀の香りを運んでくる頃。秋である。
秋とくれば、そう――入学式だ。

252 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/11/05(月) 22:07:40.81 0
アメリクでは9月から学校が始まる。
外を歩けば、真新しい制服に身を包んだ新1年生の緊張した面持ちとすれ違う。
初々しさと期待に満ち、様々なイベントも豊富な、人々にとってまさに心躍る季節だ。

しかし、大通りを歩くスタンプ達がこれから向かう先は、それらとは全く縁のない場所だ。
トト・リェン、スタンプ、グラン。全く不釣り合いな三人がこれから立ち寄る先は、
泣く子も滅ぶアメリク最大の刑務所、「ノクターンプリズン」。

「良いかグラン、頼むから、頼むから、良い子にしてろよ。
 これから俺達が行くのは、決してレジャーランドじゃねーんだからな」

バスの中で、スタンプはグランに対し執拗に同じ事を繰り返す。
それを呆れるように横目で見るのはトト・リェン。ニューラ―ク警視庁所属、獣人族の刑事である。

「二人共、レースでお見かけしたと思ったら親子だったんですかにゃ。……似てませんね」
「たりめーだ。似てて堪るかっつの、こんなじゃじゃ馬娘」
そもそも親子でない、と念を押すも、トトはさして興味がないのか軽く流す。
しかし何故この三人が刑務所に向かうことになったのか。きっかけは、トトの一言だった。


「女子学校で、麻薬密売?」
「はい。かなり被害の数が拡大しているんですにゃ」

スタンプとグランの暮らす事務所に、トトは緊迫した表情で赴いた。
そして相談の一言目が、「ある学校で麻薬の密売が行われている」という情報だった。
(閑話休題。来訪に応対したスタンプは何時も通りパンツ一丁で現れ、
 更に奥からグランの姿を確認したトトが怒りのあまり発狂し、危うく手錠を掛ける所であった。話すと長いので割愛する。
 「あの時は本当に犯罪の臭いを感じたにゃ、次は絶対警察に突き出してやるにゃ」「どうあっても警官ってのは俺を犯罪者にしたいのか?」)

「校長から、個人的に頼まれたんですにゃ。卒業生として、どうか解決に手を貸してくれって。
『学校の面子に関わるから表沙汰にしないでくれ』って泣いて頼まれてしまって……校長には恩があるから、頼みは聞いてあげたんですにゃ」

トトは渋い顔で俯いた。余程切羽詰まっているらしい。
しかしなあ、とスタンプも眉を顰めた。部下とはいえ学校に縁はないし、助けてやる義理もない。
仕事が無いからといって、私情をはさんだ得体のしれない依頼を受けるのも気が引けた。

「だからって、何で俺の所に来るんだよ。同僚達に頼めばいいじゃないか。そもそも刑事だろ、お前。検挙しろよ」
「アッシュが『困ったら旦那の所に行ってみな、正義のヒーローが助けてくれるさ』って……」

あの野郎。
今頃カジノでひいこら喘いでいる男のニヤケ面を思い出し怒りがこみ上げる。
間違いなくグランの事を指している。レース後嫌がらせとして書類を全部回したお返しに違いない。

――結局、交渉(「どうしても協力して下さらないなら、グラン・ギニョールに対する性的虐待で訴えてもいいんですよ?」「卑怯だぞお前!」)
の結果、最低限の協力は保障するという名目で今この場にいる。グランは置いていけないので連れて来ただけに過ぎない。

(それにしても、何でこんな時にばっかり俺に頼るんだ?他に手はあるだろうに――)

スタンプは気取られないよう、トトを見やる。
雲り気味の金色の瞳は、外の景色をぼうっと眺めていた。

【新章:学生の麻薬密売を阻止せよ!
 プロローグ・ノクターンプリズンへ向かおう】
253 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/11/07(水) 21:21:06.87 0
あの後スタンプに大目玉をくらった事は言うまでも無い。
オレはスタンプにとって、大きな意味を持ってしまったのかな――?

――お忘れなきよう。ミス・グラン・ギニョールは現存する唯一の魔導人形一族です。
――彼女の身に何かが起きた場合、責任は貴方一人だけの問題に留まらないのですから

「なーんて、な」

オレは魔導人形族の最後の生き残りで、スタンプは政治的事情で保護者として任命されてしまった。
もし何かあったら魔法局とギルドの政治的問題にまで発展するのだ。
あの態度も当然というものだろう。

そして今、オレ達は猫耳娘に連れられて何故か刑務所に向かっていた。

>「良いかグラン、頼むから、頼むから、良い子にしてろよ。
 これから俺達が行くのは、決してレジャーランドじゃねーんだからな」

「だーっ、分かったって! 耳にタコだよ!」

ノクターンプリズン――確かにテーマパークっぽいネーミングではあるけど。
流石に凶悪犯が集う刑務所で暴れるほど馬鹿じゃないぜ!
やがて目的地近くに停車したバスから降り、トトの先導でノクターンプリズンに向かう。

「ん、現場は学校なのになんで刑務所なんだ?」

「まあ付いて来るにゃ」

そういえばオレがまだギルドに入る前、とある麻薬密売人を捕まえる依頼で大騒動になった事があったらしい。
それが原因でスタンプが平アゲガに降格したとかなんとか……。
その密売人とやらは捕まったのかな。

「……おおっ」

アメリク最大の刑務所はいかにもなオーラを放ちながら聳え立っていた。

「ここがノクターンプリズン……感じる、奴の魔力を!」

「打ち切り最終回にならないように二人ともくれぐれも粗相のないようににゃ。
特にパン一だけは許さないにゃ」

トトはオレのネタを軽く受け流しながら裏口へと向かう。
254 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/11/09(金) 21:11:00.95 0
>「ん、現場は学校なのになんで刑務所なんだ?」
>「まあ付いて来るにゃ」

バスを降り、トトが「こっちだ」と目配せする。
それにグランが軽い足取りで付いていき、その後ろを冬眠明けの熊のような足取りでスタンプが続く。
ノクターンプリズン(暗闇の刑務所)。
名前の由来はその外観と、建築された場所が関係している。

>「……おおっ」

ノクターンプリズンは、監獄というよりも中世の塔を思わせる景観をしている。
階層ごとに罪状と刑罰が異なり、上へ行けば行くほど重大な罪を犯した犯罪者が収容される。
有刺鉄線のような、脱走者を逃がさない自動発動型術式が絡みついたそのデザインに、
何時誰が言ったか「眠り姫の塔」とも皮肉られた。
加えて、ノクターンプリズンの半径約30kmは、モンスターの出る鬱蒼と茂る森、
通称"自然の死刑執行所"に囲まれた形となっている。

>「ここがノクターンプリズン……感じる、奴の魔力を!」
>「打ち切り最終回にならないように二人ともくれぐれも粗相のないようににゃ。 特にパン一だけは許さないにゃ」

二人が軽口を叩く横で、スタンプの顔色はいつにも増して土気色だ。
裏口へ向かうすがら、何度も塔の最上階を見上げる。
スタンプの様子を訝ったトトが、控えめに話しかけた。

「気分でも優れませんかにゃ?もし寒気でもするなら、外で待つ事をお薦めしますにゃ」
「いや、大丈夫だ。それよりグラン、中に入ったら出来るだけ下を向いて俺達に付いてこい。良いな?」

裏口の警備を担当する警備員達にトトが警察手帳を見せる。
すると警備員は黙って敬礼の姿勢をとり、トトはジェスチャーで付いてこいと促した。

所内は尋常でない冷気に支配されている。
まだ9月の初旬であるにも関わらず、所内で吐く息は白い。
ロビーでトトが関係者と話し合いをする間、グランとスタンプは待たされる。

不意にスタンプは視線を落とした。グランにも「見るな」と合図する。
二人の前を、黒い影が横切って行った。外見はリビングデッドや死神の類を彷彿とさせる。
足音を一切立てず、地面を音も無く這いずるように移動し、消えていく。

「……さっきの忠告だが、正しくは、”看守”の奴等と目を合わせちゃ駄目だ。精気を吸い取られちまう」

”看守”。ノクターンプリズンの象徴ともいえる存在。しかしその正体は誰も知らない。
アンデッドないしはゴースト系の一種とされているが、種族名や分布などは一切不明。現在はノクターンプリズンで見ることが可能らしい。
――しかし、一度会えば誰もが「二度と会いたくない」と思うだろう。

「奴等は、記憶の中から心ある者なら誰でも持つ感情――
 「後悔」や「罪悪感」、「未練」を引きずり出して吸い取り、脱力感を与える。
 記憶の中の感情がデカければデカい程、奴等は喜んで吸い上げるのさ。アイツ等と毎日顔を合わせるなんて、これ以上ない罰だと思わないか?」

似たような種類に、吸魂鬼などが存在するが、それはいずれ後述する。
吐き捨てるようにスタンプは説明を終えた。額に脂汗を浮かべ、刑務所に入る前より大分やつれている。
それは決して只の疲れからくるものではないようだった。
255 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/11/09(金) 21:12:52.11 0
「Mrファントム、グラン、手続きが終わりましたにゃ。今から地下に行きますにゃ」
トトが二人の元へと戻って来る。
先導役の看守(こちらは人間だ)の案内のもと、階段を下りて行く。

「トト、そろそろ俺達をここに連れて来た理由を話しても良いんじゃないか?」
「……ええ、ですがその前に。Mrファントム、クライストンビルの事件は覚えてますかにゃ?」
スタンプの表情が凍りつく。
忘れもしない、彼にとって特別な、忌まわしいあの事件。過去に戻ってやり直せたらと何度思ったろうか。
沈黙を肯定とみなし、トトは再び言葉を続ける。

「まずは――被害の遭った女子高についてお話しますにゃ」

彼女の話はこうだった。

現場は私立聖マリア女子高等学校。主に聖職者、シスターを志す者が多く集う学校である。
(「お前がそこの卒業生とはイメージつかんな」「志望校を落ちたから親の言う事に逆らえなかったのにゃ……」)

切っ掛けはゆるやかに、影のように訪れる。
半年前、清く正しく美しくがモットーのこの高校で、初の被害者が出た。
まだ16の誕生日も迎えていない将来有望の少女は、突然退学届を提出し、更生施設に放り込まれた。
次の被害者も、突然校内で暴れ出し、そのまま拘束された。そちらは錯乱魔法が掛けられたという事で解決させたそうだ。

「でも、これ以上隠しようがないって……閉鎖された空間だから、校内に居る誰かが手引きしていることは間違いないらしいですにゃ」
「……なるほどな。これで納得した。お前がここに連れて来た理由も」
「はいですにゃ。……あ、グランは知らないんですっけ。ノクターンプリズンの地下は麻薬使用者更生施設の一つになってるんだにゃ」

そう、ノクターンプリズンの闇――地下は麻薬使用者更生施設として利用され、麻薬密売人の牢屋も同時に存在する。

「最初の被害者は未だここで治療を受けてますにゃ。
 ……しかも彼女は、麻薬密売人ビリー・イーズデイルの関係者と接触した可能性がある」
「! それは確かか」
「使用された麻薬と、辛うじて得た本人の証言から、ウラは取れてますにゃ。
 後は麻薬を斡旋している人物の正体が分かればいいんですがにゃ……」

「出してェエーーーーーーーーーーーッ!!」

突然、トトの言葉を遮り、ガラスをも突き破らん程の悲鳴が反響する。
乱暴に扉の一つがバン、と開かれ、白い服の少女が髪を振り乱し、こちらに向かって走ってくる。
咄嗟に前に出たスタンプにしがみつき、気が触れたように叫び狂う。

「助けて、殺される、殺されちゃうよおおーーーーーッ!!」
「お、落ち着けッ……!」
「警察はマフィアと通じてるのよ!私、口封じに殺されるんだわ!
 ああっほら見えないの!?鳥頭の悪魔がこっちを見て笑っているの!私を食べようとしてるんだわ!何で誰も信じてくれないの!?
 お願いよぉ、ここから出してぇええーーーー!!!
 しにっ、死にたくないぃいーー!!かえる、お家かえるのぉおおおーーーーー!!ママァーーーーーーーーーー!!」

違う。完全に彼女は狂ってしまっている。ありもしない妄想を喚き、奇声を上げる。
スタンプは絶句する。予想以上の『進行』に、精神をヤスリで乱暴に削られるような錯覚を覚える。
トトも顔を歪ませ、これ以上聞いてられないとばかりに少女に手刀を落とした。
256 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/11/09(金) 21:13:43.73 0
スタンプの腕の中で崩れ落ちた少女は、主治医達に連れられいずこへと姿を消す。
それを見送りながら、トトは静かに語る。

「……Mrファントム。校長への恩とは別に、私は純粋に後輩達を助けたいんですにゃ。
 ビリーのような麻薬密売人をのさばらせ続けるのは、心が痛むんですにゃ」

「斡旋者をあぶりだせば、ビリー達に近づくヒントにもなりますにゃ。
 もしリベンジを望むなら、これ以上ない切っ掛けだと思うのですにゃ」

スタンプは渋い顔のまま、黙って頷く。
今更正義漢ぶるつもりはない。しかし、視点の定まらないあの落ち窪んだ目を見て、少なからずショックも受けた。
ビリー逮捕……確かにそれも重要だ。汚名返上にもってこいだ。

「私達で潜入して情報を収集しつつ、犯人をあぶり出しましょう。その方が手っとり早いです」
「そういう事なら賛成だ。だが無茶はするなよ」

それにしても、「これ以上犠牲を出す訳にはいかない」なんて人並みの感性を未だに持ち合わせていたとは自分でも驚きだ。
当面の問題はグランである。彼女が問題を前にして簡単に引き下がってくれるような性分でないことは重々に承知だ。
何か良いアイディアは無い物か。

(潜入――学校―――― ! )

その時スタンプに天啓が下る――!

「…………グラン、お前は今のことは忘れて、先に家に帰れ」

今までなら、スタンプはそう冷たく突き放しただろう。

「――なんて、お前が聞く耳持つ訳ないわな。首突っ込むつもりなら、それなりの覚悟してもらうぞ」

しかし、やけにあっさりとスタンプはグランの介入を許した。
勿論、能天気に許可を出した訳ではない。彼とて企みの一つや二つはする。
まず1つ、介入させるにしても、あまり深く関わらせることはしない。潜入だけに留め、犯人を深追いさせるような事はしない。

「聖マリア女子高はノクターンプリズンとはそう離れてませんにゃ。
 学校に通いつつ、刑務所で彼女から情報を得られるよう、根気良く話をしましょう」

そしてもう一つ。グランが学校に通うとはつまり、「ギルド学生支援補助金制度」の発生だ。
あまり触れないようにしてきたが、アゲンストガードとしての薄給だけで二人分の生活費となると、家計は苦しい。
しかしグランの身分が学生となれば、ギルド学生支援補助金を受けられるようになる。
私立校に通うとなれば、それなりの援助金が約束されるのだ。うはうはである。
そこなお嬢さん、『他人を使って金を得ようなど卑怯千犯な税金泥棒め』などと罵るなかれ。
大人なんて汚く生きてナンボのもんじゃいだ。野菜が値上がりする度に戦慄する日々を味わえば嫌でもこうなる。

「そういうことでしたら、編入の件はお任せ下さいにゃ」
「いやあ助かる。持つべきは有能な部下だな」
「……あ、Mrパン1氏は自分で何とかして下さいにゃ」
「えっ」

【せんにゅーしましょう! 学校の描写はお任せします!】
257 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/11/12(月) 21:47:14.64 0
>「奴等は、記憶の中から心ある者なら誰でも持つ感情――
 「後悔」や「罪悪感」、「未練」を引きずり出して吸い取り、脱力感を与える。
 記憶の中の感情がデカければデカい程、奴等は喜んで吸い上げるのさ。アイツ等と毎日顔を合わせるなんて、これ以上ない罰だと思わないか?」

「スタンプ……」

スタンプは”看守”の影響をもろに受けているようだった。
その後の話から、麻薬密売人を取り逃がしたのをずっと後悔している事が伺えた。
ノクターンプリズン地下に案内されたオレ達は、麻薬中毒者の惨状を目撃したのであった。

>「…………グラン、お前は今のことは忘れて、先に家に帰れ」
>「――なんて、お前が聞く耳持つ訳ないわな。首突っ込むつもりなら、それなりの覚悟してもらうぞ」

スタンプの言葉にこくり、と頷く。
今度こそ、とっつかまえてやろう、な!

>「そういうことでしたら、編入の件はお任せ下さいにゃ」
>「いやあ助かる。持つべきは有能な部下だな」
>「……あ、Mrパン1氏は自分で何とかして下さいにゃ」
>「えっ」

そういえばスタンプはどうやって潜入するんだ!?
一瞬女子高の制服を着たスタンプを思い浮かべ、慌ててその図を脳内から追い出す。
教師……は無理だったら用務員さんあたりか?
258 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/11/12(月) 22:27:02.37 0
そして――いよいよ潜入の日がやってきた!
私立聖マリア女子高等学校――小高い丘の上にある理想的なフォルムのお嬢様学校である。
オレはシスター服をモチーフにしたようなワンピース型の制服に身を包み、校舎へと続く坂道を上っていた。
通常は私立には途中から入る事は出来ないので、系列姉妹校からの転校という名目である。
厳格なミッションスクールらしく、前もって聞かされた情報によると、DSや漫画持ち込み禁止はもちろん携帯電話もご法度。
(無論、携帯電話は鳴らないようにしてこっそり鞄に入れているが)
他にも化粧禁止、スカート丈は膝が少しでも出たらアウトと様々な校則がある。
“ディスコ禁止”なんていう死後が含まれた校則がそのまま残っていたりもするぞ!

――言葉づかいにも気をつけるにゃ。間違えてもオレ、なんて言ったら駄目にゃ

トトの言葉が思い起こされる。百ウン十年ぶりの学校、増してや高校に至ってははじめて。
果たして上手く潜入できるだろうか。
やがて校舎に到着する。
聖堂の鐘が鳴り響き、純白のマリア像が当校する乙女達を出迎える。
見回していると、シスター服を着た女性が近づいてきた。

「今日転入のグラン・ギニョールさんですね? 我が校へようこそ。」

「いかにも、わたくしがグランです。このような素晴らしい学校に来ることが出来て光栄ですわ!」

そこは元役者。演技している気分で流暢なお嬢様言葉で答える。
問題があるとすれば若干芝居がかってしまう事である。

「早速ですがクラスに案内しますね。1年B組への転入になります」

オレの外見年齢は人間で言うと中学生ぐらいらしいので、1年への転入だ。
教室に行って自己紹介を無難にこなしたオレは、自分の席を与えられる。

「はい、ではそちらの席にお座りになって」

指し示された席は、獣人種のネコ耳少女の隣の席だった。

「よろしくお願いしますわ……あっ」

獣人種のネコ耳少女……トトがぷっと噴出したように見えた。
同時に転入すると怪しまれるといけないので、トトは少し時期をずらして先に潜入していたようだ。

「口調変わり過ぎにゃwww流石元役者だにゃwww」(ひそひそ)
「放っとけ。まさかの席隣かよ」(ひそひそ)

「そこ! 私語しない!」

「はい、申し訳ありません!」

教師からぴしゃりと注意が飛び、慌てて前を向くオレとトト。
こうして潜入高校生活が始まったのであった!
259 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/11/18(日) 23:06:15.50 0
潜入当日――
中世のバロック建築を意識した、一国の城の如く聳え立つ私立聖マリア女子高等学校。
俗世と隔てるかのような白い壁の向こうは、"自然の死刑執行所"の森を挟んでノクターンプリズンが見える。

「お早うございますわ、皆さま」
「お早うございます、"お姉様"!」

門をくぐれば、そこはもう異世界。
清浄な空気に包まれ、ブルジョアジー溢れる装飾があちらこちらでお目にかかれる。
もしここに正規入学させたなら莫大な費用がかかるだろう。
潜入という名目で校長からタダ同然で入れて貰えたのは奇跡に近い。

で、当のスタンプはというと。
グラン達が授業を受ける西塔付近の中庭に、くたびれた作業服を着る掃除用務員が一人。
移動教室のため庭を横切る少女たちが、用務員を見て嫌悪感を顔に出した。

「やーねぇ、汚らしい」
「それも男よ、男。きっと浅ましい理由で働いてるに違いないわ」
「やだ、こっち見てる。気持ち悪ーい」

好き勝手言いながら、お嬢様達はさっさと別の塔に姿を消す。
煙草に火を付け、スタンプは深い深い溜息を吐いた。

「…………ケッ。女でガキの集団がうようよ、か。罰ゲームも良い所だな」

スタンプは一人ごち、ベンチにどっかり座りこんだ。
今頃グランは授業を受けているだろう。真面目に受けているといいのだが。

しかし、思ったより状況は芳しくない。
お嬢様学校と聞いていたが、ここまで男を嫌悪する存在だったとは。
学級ヒエラルキーが比較的曖昧なだけ幸いだが、男がここまで虐げられる場だとは予想外もいいところ。
情報収集は女達に任せる他ないだろう。

「……トト、グラン、聞こえているか」

『何ですかにゃ。今授業中なんですけど』

超小型念信器に語りかける。この学校は規則違反を厳しく取り締まる為、機械類は持ち込めない。

「矢張りというか、俺では迂闊に生徒と接触出来ん。さっきなんぞバナナの皮をぶつけられた。内部は頼んだぞ」

『まあ予想はしてましたけどにゃ。昼休みにどこか人気のない所で合流しましょう』

【昼休みまでに情報を収集せよ!】
260 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/11/21(水) 03:36:12.32 0
>「矢張りというか、俺では迂闊に生徒と接触出来ん。さっきなんぞバナナの皮をぶつけられた。内部は頼んだぞ」
>『まあ予想はしてましたけどにゃ。昼休みにどこか人気のない所で合流しましょう』
『予想してたって……昔からそうだったのか』

男性用務員では生徒とあまり話せないだろうとは思っていたが
ここまで酷い扱いを受けているとは思わなかった。
お嬢様学校の内情、恐るべしである。

【休憩時間1回目】
休憩時間になると、早速同級生たちが寄ってきた。
転入生が来るのは普通は無い事なので、興味津々だ。

「何処から来たの?」
「かわい~い、お人形さんみたい」

真理を突いた言葉に一瞬ドキッとしつつ、用意してあった設定で質問に答えていく。

「それにしても立て続けに2人も転校生が来るなんてね」

そこでトトがすかさず核心に斬りこんでいく。

「にゃんで2人共このクラスなのかにゃ。
このクラスだけ人数が少なかったのかにゃ?」

「それはね……」
「こらルーシー、言ったら駄目よ!」

噂好きそうな生徒を、真面目そうな生徒が窘める。
すかさずに聞きたそうなキラキラとした視線を向ける。

「いいじゃないメアリー、誰にも秘密よ? いい?」

こくこくと頷く。
こうやって、世の中に公然の秘密という概念が出来上がっていくのだ。
予想通り、突然退学した生徒がいた事と、その少し後に暴れ出して拘束された生徒がいた事が語られる。
問題はここから先だ。
二人の共通点を聞き出せれば糸口になるのだが……。

「その二人は仲が良かったの?」

「いえ、特に……ねえ」
「ええ」

やはり話はそれ程簡単ではないようだ。
261 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/11/21(水) 03:37:02.89 0
【休憩時間2回目】
「ところで……青い髪のオッサン用務員は昔からいるのかにゃ?
今日目が合ってしまったにゃ」

どう聞いてもスタンプの事だ。思わず吹き出しそうになった。

「あいつ昨日か今日からよねー!」

「他には最近来た先生とかっている?」

「そういえば……最近多いわね。家庭科のグリーン先生に化学のブラウン先生。
二人ともこの前のハロウィーンパーティーでコスプレして大ハッスルだったわ。
クリスマスパーティーでもまた大はしゃぎするんじゃないかしら」

トトによると、
「クリスマスパーティーまでに何とかしないとまた被害が広がる予感がするにゃ。
刑事の勘にゃ」とのこと。

【休憩時間3回目】
移動教室中に職員室の前を通ったので、そーっと中を覗いてみる。

「あっちがグリーン先生であっちがブラウン先生……」
「若い美人とイケメンだにゃ……。怪しいにゃ」

「あら、何か御用かしら?」
「な、何でもないですにゃ」

教師に声をかけられ、そそくさと踵を返す。

【昼休憩】
昼食に行く振りをして、スタンプとの待ち合わせ場所に向かった。

「ああ、紅葉が綺麗だにゃあ」(棒)
「お弁当を食べるのにぴったりですわね」(棒)

実際には晩秋の木枯らしが吹く中、裏庭のベンチに腰かけてスタンプを待つ。
262 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/11/27(火) 20:46:08.74 0
『それはね……』
『こらルーシー、言ったら駄目よ!』

トトの通信機に入ってくる女子二人の音声を捉え、
スタンプは箒で塵取りに落ち葉の山を放り込む作業を中断させた。
中庭を横切る女子たちの黄色い声が、秋の空に反響する。
冷え切った風が耳たぶを冷やし、軍手をはめた手で押さえつけた。

『その二人は仲が良かったの?』
『いえ、特に……ねえ』
『ええ』

『でも、二人共すごく勉強熱心で、いつも上位の成績を収めてたわ。
 午前の授業が終わると、アクティビティーにも参加せずに、まっすぐ図書館へ向かっていくのを何度も見たの』

ルーシーの証言に、スタンプは眉間の皺の数を増やした。

通常、この学校は月曜日と水曜日に4回、その他の日に3回授業を受け、1時間の休憩の後にアクティビティが存在する。
アクティビティといっても内容は様々で、工場見学や社会研修、スポーツクラブも存在する。
他校の生徒と交流するクラブも存在し、スタンプ個人としてはそこが麻薬の流れ所ではと睨んでいる。
しかし、被害者の二人はどちらもアクティビティに参加していなかったようである。
そして二人に浮上した共通点、図書館。

その後も二人は、怪しまれない程度に生徒へ次々と質問していく。
中には訝る生徒も居たが、トトがそれとなしに誤魔化して流した。

(さて、こっちは……)

用務員として潜入した長所は、どのような場所にいても怪しまれないこと。
流石に女子トイレに入ればお縄物だが、教務室や廊下にいても誰も気に留めない
(最も、面白半分でちょっかいを掛けてくる『お転婆な女の子』たちを除けば、の話だが)

「あら、お仕事お疲れ様です」

ギクリと身を固める。背後にはいつの間にか、エルフの女教師がにこやかな笑顔で立っていた。
リサ・グリーンといったか。魔法科の、日常において使う魔法を教える家庭科教師だ。
隣の尖り耳の男も同様に教師だ。グレゴリー・ブラウン、普通科の化学教師である。
(※注釈しておくと、ここでいう化学は原子や単子などを研究対象にした無機化学、ほか物理化学を指す。
 化学とは別に生物科学、人文科学なども存在するが、それは追々。)

スタンプは無愛想に帽子を深く被り直し、一礼してやり過ごす。
しかしすれ違った直後、グリーンが振り返った。

「校舎内では脱帽してくださいね。規則ですから」
263 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/11/27(火) 20:46:56.40 0
秋は早く時が過ぎるもので、時計は既に昼休みを指していた。

>「ああ、紅葉が綺麗だにゃあ」(棒)
>「お弁当を食べるのにぴったりですわね」(棒)

「……猿芝居も、ここまでくると笑いすら出んな」

待ち合わせの場所に足を運ぶと、女二人がベンチでランチボックスを膝に乗せて待っていた。
相変わらずの憎まれ口を叩きつつ、帽子を振って二人の視界に入る。
しかしベンチには座らず、二人と背中合わせになる形で、反対側のベンチに腰を下ろした。

「こっちは教師を中心に調べてみた。が、特に怪しい奴は浮上しなかったな。

新しく赴任した二人の教師の内、リサ・グリーンは子持ち。以前はモノホンの修道女だったらしい。
化学教師のグレゴリー・ブラウンは経歴不明だが、こっちの線は薄いだろう。なにせ、男だからな」

「うーん、教師の線は薄そうですにゃ」

「となると、怪しいのは……上学年の生徒だな」

二人の報告を聞き、自身の推論を打ち立てながらサンドイッチをかじる。
この学校の特色は「上学年への異常なまでな従事心」だ。早い話が、「お姉さま」に対して服従のしきりなのだ。
先輩の言葉は絶対、女学校ではよくある現象だ。
「悪い先輩」にそそのかされて非行の道へ……可能性はゼロとは言い難い。

「ひとまず二人は、共通点と思われる例の図書館について調べてくれ。何か関係があるかも知れん。
 俺は念の為に教師側をもう一度洗い直してみる」

「了解ですにゃ、…ん?」

トトが何かを見つけたようだ。ランチを食べる手を止め、注視する。
グランたちと同学年であろう、一人の眼鏡の少女が、夢見るような足取りで石畳の道を歩いている。
そして不意に、分厚い眼鏡がこちらを見た。反射的にスタンプはベンチからずり落ちる。
こちらをしばし見ていた眼鏡の少女は、首を捻りながら再び歩き出す。

「ミラだ。こんな時間に学校に来るなんて珍しいにゃ」
「誰だ、そいつ?」
「ミラ・ホーカーです。週に1、2日ほど、学校にフラッと現れるんですにゃ。
 授業にもあまり出ないし、アクティビティもしませんし、読書ばかりしてる変わった子ですにゃ」

スタンプは身を起こし、落ち葉を払いながらミラの行き先を注視した。
その先は、図書室。三白眼が静かに細まる。

「グラン、お前は運動神経が良い。スポーツ系クラブの路線から攻めてみてくれ。
 トトはクラブで顔を知られてる可能性がある。引き続き、図書館の話も集めてくれ」

「アイサー」
264 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/12/01(土) 06:23:27.05 0
>「こっちは教師を中心に調べてみた。が、特に怪しい奴は浮上しなかったな。
新しく赴任した二人の教師の内、リサ・グリーンは子持ち。以前はモノホンの修道女だったらしい。
化学教師のグレゴリー・ブラウンは経歴不明だが、こっちの線は薄いだろう。なにせ、男だからな」
>「うーん、教師の線は薄そうですにゃ」

「この学校の男の不遇っぷりを見れば……な」

しかし、件の教師はエルフ。
※ただしイケメンは除く の但書が適用される可能性は捨てきれないが。

>「ミラだ。こんな時間に学校に来るなんて珍しいにゃ」
>「誰だ、そいつ?」
「ミラ・ホーカーです。週に1、2日ほど、学校にフラッと現れるんですにゃ。
 授業にもあまり出ないし、アクティビティもしませんし、読書ばかりしてる変わった子ですにゃ」

「不良高校ならともかくこんな名門でもサボリ常連がいるのか……!」

授業サボってやる事が暴走行為やゲーセンではなく読書というのは流石名門校といったところか。
これがいかにも不良ならともかく、まさか……ね。

>「グラン、お前は運動神経が良い。スポーツ系クラブの路線から攻めてみてくれ。
 トトはクラブで顔を知られてる可能性がある。引き続き、図書館の話も集めてくれ」
>「アイサー」

――放課後。

「初めまして、グランさん。ダンスは初めてかしら?」

「いえ、実は少しばかり齧っていて……」

スポーツ系クラブ、ということでダンスクラブに潜入する事にしたのだった。
体育館の割り当てられた区画の外壁には、数人の見物客がたかっている。その理由は……

「キャーーーーー、マリア様―――――!」
「こっち向いてーーーーー」

……ダンス部のキャプテンマリア様の追っかけだった。
長身の美人でダンスが上手い彼女は、そのいかにもな名前も相まって
下級生達に(同級生にも)カリスマ的人気を誇っているそうだ。

「今はクリスマスパーティーで披露するダンスの練習をしているの。
今からやるから見ておいてね」

部員の皆が踊るダンスを、見よう見まねで踊る。

「こうですか? お姉さま」

「――!! あなた、少し齧ったどころじゃないわね!?」

思いっきり驚かれた。ぶっちゃけ本職でした、サーセン。
こうしてしばらく踊り、今日の練習は終わりと相成った。
265 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/12/01(土) 06:24:37.58 0
「グランさん? ちょっといい?」

帰りがけにマリアに呼び止められる。

「はい、お姉さま」

「後で図書室の書庫に来て下さる?」

「ええ、もちろんです」

――来た! きっとヤクの受け渡しが行われるのだ。
オレは警戒しながら図書室の書庫に向かった。
マリア様が情熱的な瞳でこちらを見つめている。

「わたくしと踊るパートナーにふさわしいのはあなたしかいないわ。
わたくしと、付き合ってくださらない?」

返事を聞く前に、オレの背中に手をまわして顔をよせてくる。
え、何これ。これ何。いきなり!? オレはストロベリーなパニックに陥った!

「あ、いえ、あの! 貴女の事はとってもダンスが上手いし恰好いいと思うのですが
こういう事はじっくりとお互いの事を知ってから……今日はもう帰ります!」

書庫から駆け出した時に、丁度図書室の偵察に来ていたトトとぶつかった。

「うわー!」
「何でそんなところから出てくるにゃー!?」

後から冷静になって考えればああやって下級生を虜にしてから麻薬を出すという可能性もあるのだ。
捜査のためにはもう少し話に乗ってただの百合かそうではないかを見極めるべきだったのだが……。
容疑者は増える一方である。
266 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/12/06(木) 21:52:19.86 0
(……やっぱり辛気臭ェ場所だな)

さて、グラン達が上手く事を運んでいることを祈りつつ、図書室へ向かう。
図書室と呼称されているものの、規模は立派な市立図書館といい勝負だ。
アクティビティの時間、ここに人は滅多に来ない。

「何か御用でしょうか?」

受付から厳しそうな声色がスタンプの背中を刺した。
振り返ると、生真面目そうな少女が座っている。
隣では、本を膝に乗せて、胡散臭そうな視線を投げつけてくるもう一人の少女。
声で気づいた。司書らしき方は、グランと同じクラスのルーシーだ。
おそらくもう片方はメアリーだろう。

「……………………」

ここの学生とは極力関わらないに限る。
受付を横切ろうとしたとき、目の前を何かが瞬足で横切った。

「すみませぇ~ん、品のない男性の入室はお断りしてマース」

意地悪く笑うメアリー。眼前を横切ったのは、空中で浮遊する本だ。
女尊男卑、ここまでくるか。それとも元からこういう性格なのか。
顔を強ばらせ、スタンプは無視して素通りしようとする。

「ちょっと、お耳付いてるのォ?」

機嫌を損ねた声色が背中を撫ぜた瞬間、浮遊感。次の瞬間、背中から思い切り叩きつけられた。

「がふっ……!?」
「メアリー!校内で、しかも一般人に魔法を使っちゃいけないでしょう!?」
「えー、でもコイツ超生意気じゃん?それに最初はルーシーだって無視してたじゃない」

遂にルーシーが怒り出す。しかしメアリーはどこ吹く風だ。

「それにさ、私らが何しようが先生たちは見て見ぬ振りだし?パンピーに何しよーがどうせ怒りっこないって」
(! それはつまり、教師の管理不届きということか?)

この事を校長は知っているのだろうか。だとすると、事情は少し変わってくる。
風紀に厳しく管理の行き届いた環境。そこにヒビがあるのだとすれば、ヒントはそこに眠っている。

>「うわー!」
>「何でそんなところから出てくるにゃー!?」
「げぶおっ!?」
「お待ち下さいませ、ミス・ギニョールー!私とダンスをーーーー!」

俄然やる気は出てきたものの、直後に飛び出してきたグラン達によって轢かれた。
後日、グラン達はマリアとのあらぬ噂がたち、さらにはマリアに容赦なく追跡される日々が始まることとなるのだが、それはまた翌日の話。
267 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/12/10(月) 01:46:00.21 0
その日はマリアの追跡を何とか振り切ることに成功した。
しかしこれは実録☆マリア様が視てる、の恐怖の始まりにすぎなかったのだ!

スタンプはというと、メアリーに酷い仕打ちをうけたようだった。
どうやらこの学校、表向き厳しい校則を持つ厳格な学校という体裁をとりながら
教師が生徒の狼藉を黙認するという奇妙な構造があるらしい。

――次の日。

「レッツダーンス!」「掃除道具入れの中に息をひそめるなぁああああ!」
「さぁミス・ギニョール、わたくしと踊りましょう!」「天井に張りつくな!」
「あ、あんな所に不自然な段ボール箱が……!」「怖いよー!」

マリア様の追跡を振り切るだけで一日が終わってしまい、放課後。
マリアはダンスクラブに行くので、ようやくまともに情報収集ができる。
勉強する振りをして図書室のミラに近づくことにした。
本を読んでいるミラの隣に座り、何気なく話しかける。

「はじめまして。今回転校してきたグランです。
どんな本を読んでるの?」

ミラは目の前に積み重なっている本を指さした。

『黒魔術辞典』『幻想狂気の世界』などというタイトルが見える。
怪しいわ! この子怪しいわ!
そうしていると、後ろから声がかけられた。

「ミラさん、よければうちのお菓子クラブに参加してみない?
今日は化学クラブと一緒に元気が出るお菓子作りをするのだけど……。
あなたは……転入生のグランさんね。よければ参加してみない?」

家庭科のグリーン先生だった。
不登校のミラの元には、時々こうしてクラブの誘いがくるらしい。
ミラは無言で頷いた。
当のグリーン先生は、自分で誘っていながら驚いたような顔をしている。
まさか本当に参加するとは思わなかったのだろう。

「本当!? グランさんも参加するわよね!?」

元気の出るお菓子作り、となればなんとなく怪しいので参加する他はない。
まさか分かりやすく怪しい粉を入れたりしないよな!?
さて、本日お菓子クラブと合同でお菓子作りをするのは化学クラブ――別名ブラウン先生ファンクラブ。
女尊男卑のこの学校においては異端の一派である。
やはりイケメンエルフ好きはどこの世界にもいるもので、その者達によって構成されているらしい。
何のことは無い、やる事はちょっとした魔法薬を使ったお菓子作りらしいのだが……。
268 : グラン ◆3rZQiXcf5A [sage] : 2012/12/10(月) 01:46:59.54 0
「ミスギニョール~~! こんな所にいたのね!」

ケーキ生地を混ぜていると、マリア様が突撃してきた。ダンスクラブが終わったらしい!
生地のボールを取り落とし、生地が床に散乱する。

「あらあら、用務員に掃除させましょう」

グリーン先生が事もなげにそう言って内線電話をかけ、何事もなかったようにお菓子作りは続く。
こちらはたまったものではない。

「えーと、あの、今はお菓子を作らせて戴けたらうれしいです! 出来上がったら一つ差し上げますから!」

「わたくしが踊りのお相手するから我慢するにゃ」

トトがやっとの思いでマリアを大人しくさせる。
オレはブラウン先生のところに、新しい魔法薬を貰いに行く。

「すみませーん、あの通り落としてしまったので……」

「はい、分量は計ってあるからね」

その瞬間、化学クラブの面々から黄色い声があがり、それをお菓子クラブの面々が生暖かい目で見るのであった。

「キャーー! 直々に手渡しよ!」
「何て羨ましい!」

ブラウン先生ファンクラブ、ここまで重症か――!
269 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/12/15(土) 13:49:16.30 P
保守
270 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM [sage] : 2012/12/16(日) 22:54:23.99 0
『ケーキ用の生地をぶちまけてしまったので掃除にきてほしい』

スタンプはこの時点で嫌な予感は感じ取っていた。
まさかケーキを顔面にぶちまけてやりたいから面貸せよ、
なんてことは流石に無いだろうが、第六感は『どうせロクなことにはなってないぞ』と警告していた。

「入り辛ぇー……」

キャアキャアと黄色い声が飛び交う扉の前で渋い顔を作った。
何故女子というものは動物園のサルのような声をあげることに嫌悪感を抱かないのだろう。
周りの視線も厳しくなってきたため、舌打ち一つ零し扉を開けようとして、

「!?」

扉が勝手に開いた――というのは勘違いで、内側から誰かが開けたのだ。
ミラが分厚い眼鏡越しに、眠たげな目でスタンプを見上げてくる。
咄嗟に本をぶつけられる、或いは家庭科室であるし包丁が飛んでくるのでは、
などと邪推して半歩ほど下がったが、ミラはそのような蛮行に及ぶことはなく、
扉を開けるだけにして、小脇に本を何冊もかかえ、さっさと出て行った。

(何なんだ、あの娘……)

なんとなしにミラの背中を眺め、扉越しに室内へ目をやる。

「…………」

カオスが広がっている。
エプロン姿のトトが麗しのお嬢様とダンスを披露し、
床にはぶちまけられたケーキの生地だったものが広がり、
グランは化学教師のブラウンに薬を渡されただけで周りから黄色い声を浴びている。

(関わらぬが吉だな)

渋い顔のまま、他人の振りを貫かんと、そそくさと脇を通ろうとした。
しかし、化学教師の持っていた瓶の中身を見て、サッと顔色を変えた。

「ちょっと通してくれ!」

女学生たちを押しのけ、二人の元へズンズン歩み寄る。
突然現れた第三者(しかも男)の存在に女学生たちがブーイングを入れるが、それどころではない。
グランの手を掴み、乱暴に薬を取り上げた。
再びブーイングの声が上がるが無視し、スタンプの鋭い視線がブラウンに向けられた。
271 : スタンプ ◆ctDTvGy8fM : 2012/12/16(日) 22:55:08.03 0
「おい、これを何処で手に入れた?」
「何ですか貴方、無礼にもほどが……」

不穏な空気を感じ取ったグリーンが割って入る。
生徒に暴行を加えるのではと危惧したのだろう、声を荒げそうになるグリーンへ向け、
スタンプは先ほどの瓶を突きつけた。

「マンドレイクだ。しかも人間の血に浸して乾燥させて粉末にしたタイプとみた。
 この学校ではそんな危ないものをケーキに混ぜて学生に食わせるのか?」

ブラウン、グリーン共にサッと顔色を変えた。
トトを含めた生徒の何人かも、言葉の意味を察し、一斉にケーキを注視した。

マンドレイク――別名マンドラゴラ。人呼んで恋ナスビ。
魔法使いならば誰もが知る貴重な薬草だ。
用途は魔法薬、呪術や黒魔法での供物など多岐に渡る。
概ね伝承では絞首台の下で自生し、引き抜くと身の毛もよだつ悲鳴を上げ死に至らせる。

しかし、マンドラゴラは声だけでなく、薬となって尚、人を殺すことが可能だ。
煎じ方でその効能は様々。惚れ薬、睡眠薬、痛み止め、――製法によっては毒薬、麻薬にも姿を変える。
見分け方は簡単だ。マンドレイクを煎じた麻薬は、人間の血を吸って毒々しい赤紫色になる。
この麻薬を吸おうものなら、幻覚を見、幻聴を聞き、狂ったように泣き叫ぶ。
あの監獄に閉じ込められた少女のように。

「ミスターブラウン、どういう事ですか!?マンドレイクは所持すら禁止されている筈!それを…」
「誤解だ!こんな薬、私は一度も……! とにかく!皆さん、ケーキには絶対口をつけないで!」

学生たちの注意が教師二人とマンドレイク入りのケーキに向けられている隙に、
トトがさりげなく近寄りスタンプとグランに耳打ちする。

(さっきの…ブラウン先生がマンドレイクを所持していたとは考えにくいですにゃ)
(どうしてそう考える?)
(実はさっき、出来立てのケーキを一つだけ口にしたんですにゃ。でも、食べた感じでは、今さっきのは只の元気薬でしたにゃ…)

ならば、今あるケーキは安全ということになり、偶々グランが渡された薬だけがマンドラゴラということになる。
陳列した薬は、先ほどのマンドラゴラ以外は普通の薬に見える。
スタンプはさりげなく、開け放しの戸棚から幾つか薬瓶をくすね、ツナギの中に滑り込ませた。

(グラン、トト、一応全部のケーキを一部分でいい、怪しまれないように回収しろ。後で他に麻薬が入っていないか検査するぞ)
(イエッサー)

もうすぐ、騒ぎを聞きつけて他の教師たちがやってくる。
最悪警察が調査に赴いて、ケーキを没収されるかもしれない。
その前に証拠として、ケーキを先に回収する必要がある。

ところで、騒ぎに紛れて、いつの間にか数名の学生が――ミラ、ルーシーとメアリー、
あれほどグランにご執心だったマリア、容疑者候補の学生たちが、忽然と姿を眩ませていた。

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