BOOKS~童話系異能者TRPG~

1 : ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/04/20(金) 09:21:57.47 0
ジャンル:現代異能者物
コンセプト:童話をモチーフにした異能を持つ能力者達が事件を解決したり
      悪の能力者と戦ったりする。
目安:特に無し(シナリオによって変化)
最低参加人数:3人
GM:無し?(立候補制)
決定リール:あり
○日ルール:4日
版権・越境:越境は無し、版権キャラとしての参加はNG
敵役参加:大いに歓迎
避難所の有無:近いうちに用意します。
2 : ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/04/20(金) 09:22:37.79 0
昔々、今は現代
これは私たちの世界と少し違う世界の不思議なお話
その世界の住人は自分だけの本を見つけ出すことで
不思議な力を使えるようになるのです。
昨日、本を見つけた彼女はうっかりボヤ騒ぎを起こしてしまいました。
隣の家のお父さんは、本を見つけた途端、飼い猫が人の言葉を話しだし
敏腕マネージャーとしてその手腕を振るっています。
うそつきで有名はイタヅラ小僧は鼻が伸びてしまってさぁ大変
でも、もっと大変なのは本を見つけていない人達
彼らのことを恐れた本を持たない人たちは、彼らの為に街を作り
そこに彼らを押し込めるように住まわせました。
本を持っていない人たちは安心しました。
でも、大きな問題あったのです。
本を持っている人間は善人だけではなかったのです。
そんな危険で不思議な街でいったい何が起こるのでしょうか?

物語の始まり始まり~

テンプレ
名前:
性別:
年齢:
職業:
外見:
性格:
本の題名:(能力の説明も加えてください)
備考:

本について
この世界では本を手に入れる(=覚醒する)ことで異能で使うことが出来る。
本は一人につき一冊のみ
本の内容は全て昔話や童話などの児童文学
能力はその作品に対する持ち主の感想や印象、イメージによって決まり、どんな内容の本でも使える能力は一つだけ
また同じタイトルだとしても同じ能力になるとは限らない。
本が使い物にならなくなった場合、昏睡状態になってしまう。
能力は体のどこか一部分に本が触れている状態でないと使えない(ブックカバー越しでもOK)
3 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/04/20(金) 09:51:06.82 0
http://yy44.60.kg/test/read.cgi/figtree/1334883037/l50
4 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/04/20(金) 21:37:31.58 0
僕はバスの車窓から代わり映えしない町並みを眺めていた。
この街に隔離されてから大よそ一年ほどたったのだろうか
いきなり一人暮らしをしなければならなくなり、初めはいろいろあったが
今ではすっかり慣れてしまった。しかし、僕は未だに
この街が好きになれずにいた。
別にコンビニが近くに無いとか、娯楽施設が無いとかそんな不満では無いし(充実しているほうだと思うし)
物騒なのは困るが、別にそんなのはどこでも同じようなものだ。
僕が最もこの街を好きになれない理由それは、
この街で暮らしていると自分が人間として扱われていないんじゃないか
という被害妄想をしてしまうからだ。
ただ本があるというだけで今までの日常を奪われ、こんな辺鄙な街に押し込められるなんて
これじゃまるで囚人じゃないか
…まぁただの学生がウダウダ言ったってどうしようも無いわけだけど
僕は深くため息をし、窓に向けていた視線を自分の膝元にある雑誌に目を向ける。
「ヘンゼル亭のミニお菓子の家セット…まだ残ってるかな」
僕はこの街が好きではないが、一つだけ気に入っていることがある。
それは、旨い飲食店が多いことだ。
ただ単に腕のいいコックが集まっている訳ではない。
本の力を有効利用できないものかと実験的にやったのが大成功し
それに便乗するように、他の所持者が次々と店を出していった結果がこれであるだけ
「それにしても、男一人でケーキ屋か…」
いつからだろう?購買のパンで我慢できなくなったのは?
一年前までは食べ物なんて食べられればどうでもいいと考えていたのに
今では、この通り、放課後や休日はグルメ雑誌を片手に食べ歩きだ。
これも本の力のせいなのか?
だが、しかし、このセット実に旨そうだ。
雑誌に目を向けている間にバスは目的地近辺にまで来ていた。
僕はブザーを押し、運転手に次のバス停で降りることを告げた。


名前:唐空 呑(とうから どん)
性別:男
年齢:17歳
性格:無口、無愛想、グルメ
外見:学ランをきっちり着こなし、目つきは悪い、若干天パー気味
題名:三匹の山羊のがらがらどん
能力発動時に山羊の頭を模したグローブ装着され
その状態で殴ると、一発目はそのまま、二発目は一発目の倍、三発目は一発目と二発目の合計の倍の威力で殴り付けることが出来る
しかし、条件があり、非常にカロリー消耗が激しいため、栄養補給するまで使い物にならないのと
二発目、三発目を放つ際は「次は今より大きい」と宣言しなくてはいけない

うわさ1:能力のせいか、食に関して煩くなったらしい(山岡士郎並)
うわさ2:偏見の目で見られるのが凄く嫌らしい
5 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/04/20(金) 21:57:04.19 0
このスレッドは天才チンパンジー「アイちゃん」が
言語訓練のために立てたものです。

アイと研究員とのやり取りに利用するスレッドなので、
関係者以外は書きこまないで下さい。

                  京都大学霊長類研究所
6 : 潮崎 双目 ◆p1MsgmBLGI [sage] : 2012/04/22(日) 05:19:52.53 0
名前:潮崎 双目(うしおざき ざらめ)
性別:女
年齢:17歳
職業:高校生
外見:制服(ブレザー)/優しい顔つき/髪の色や形はその日によって様々
性格:穏やか、少し天然過ぎる嫌いがある。流行には疎いタイプ。
本の題名:『ラプンツェル』
頭髪の長さや形、色や質感などを自由自在に変化させる能力。
柔らかな羽毛を形作って優しく包み込む事も出来れば、
鋭い刃物を形作って激しい斬撃を繰り出す事も可能。
※が、今のところ本人はオシャレとしてしか使っていない※
うわさ1:本人の身体能力は極めて低いらしい。
うわさ2:その反面、頭は良い……というわけでもないらしい。
うわさ3:自分は何の取り柄も無い人間だと思っているらしい。
うわさ4:つい他人に色々世話を焼く性分だが、煙たがられる事が多いらしい。


【面白そうなスレですねぇ】
【というわけで参加申請させていただきます!】
【よろしくおねがいします~】
【私のプロローグ(?)も、また後ほど投下したいと思います】
7 : 潮崎 双目 ◆p1MsgmBLGI [sage] : 2012/04/22(日) 17:44:10.10 0
――突然の、ことでした。


河原で小さな女の子が絵本を読んでいたんです。
いつもそこに一人で座っていました。
その子のことは、以前から学校帰りによく見かけていて、
だから私、つい気になってしまって、声を掛けてみたんです。
その子は、お母さんがお仕事から帰ってくるのを待っていると言いました。
それで、私もお母さんを一緒に待ってあげることにしました。
すると、とても嬉しそう笑って、私の手をぎゅっと握りました。
今でもあの笑顔は忘れられません。

お姉ちゃん、ご本読んで。

女の子は、そう言って一冊の絵本を差し出しました。
絵本のタイトルは、『ラプンツェル』。
とても長く美しい髪を持つ女の子の話、私は読んだことがありませんでした。
私は、その本を手に取りました。すると……


"少女はその先のことになると、固く口を閉ざしてしまいました"
"ともあれ、こうして彼女もまた、不思議な力を使えるようになったのです"
"『潮崎 双目』、お砂糖のような名前を持つ少女のお話は、こうして始まります"
"これからの彼女の人生は、甘く容易いものでしょうか?"
"これからの彼女の人生は、辛く険しいものでしょうか?"
"それが分かるのは、もう少し先のお話"
8 : 潮崎 双目 ◆p1MsgmBLGI [sage] : 2012/04/22(日) 17:46:26.98 0
カタン、と玄関から聴こえた硬質な音。
その音は、いつも決まった時間にやってくる。
双目は喜びを隠そうともせず、玄関扉を開けて外に出る。
郵便受けを開くと、中には薄い手紙が一通。
先ほどの物音は、この手紙が郵便受けに投函された音だった。
その手紙の差出人は、双目の母だ。
双目は、定期的に"外"で暮らす母と手紙のやり取りをしている。
だから、今日も郵便受けの音を待ち遠しく思って耳を澄ませていたのだ。


「……。……わぁっ、私に妹が出来るんだぁ~…!」

花模様のあしらわれた便箋には、母が女の子を身ごもった旨が書かれていた。
元々は双目と母の二人暮らし、つまり『シングルマザー』だった。
三年前に双目がこの街に送られて、互いは一人きりになってしまった。
それから暫くして、年上の男性と再婚したことを、双目は手紙で伝えられた。

「どんな子かなぁ…。私に似てるかな?ふふ、それはまだ気が早いかなぁ」

双目は新しく購入していたレターセットを取り出すと、急いで母に返事を書くことにした。
封筒や便箋には、『凱旋門』や『自由の女神像』など、様々な世界遺産が躍っていた。


【とりあえず個別プロローグ(…になるんですかね?)終了です、改めてよろしくおねがいします!】
9 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/04/22(日) 18:48:44.32 0
名前:姫郡 久実(ひめごおり くみ)
性別:女
年齢:14歳
職業:中学生
外見:白地黒襟のセーラー服(時折、武道着に袴姿)・
凛とした雰囲気・ポニテorうなじで束ねた長い黒髪
性格:真面目・曲がったことが嫌い・意外に家事は出来る方
本の題名:『瓜子姫』(ポケットサイズの絵本)
植物の瓜が腕から生えてきて、武具として使用可能
蔓は鞭・(硬化して)木刀・(集束して)ドリルの三変化する武器
(基本形態は鞭、変形には各1秒かかる)
葉は巨大化でシールド(蔓との同時使用は出来ず、換装には1秒かかる)
花の付いた果実は爆弾(24時間に1回しか使えない)     
うわさ1:亡くなった祖父に、色々と護身の技を仕込まれている
うわさ2:街に来てからは、同様に隔離された子供達のための児童施設で
生活し、年下の子達の面倒を見ている
うわさ3:街での暮らしは「武者修行」と表向き割り切っているものの、
時にはやはり実家を思って寂しい気持ちになることも…

(プロローグは思いつかないので割愛させていただきます(汗))
(どうぞ宜しくお願いいたします~)
10 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/04/22(日) 19:35:43.63 0
(すみません、プロローグ思いつきましたので…w)

裏路地。
ボロ雑巾のように痛めつけられた男が、自分を取り囲んで嘲笑している
男達に…必死で懇願している。
「金は払ったじゃないか…もう許してくれ!」
「そうは行かねえんだよ、『都会のネズミ』の旦那…」
「そのチュウチュウ言う口はしっかり封じとかないとな」
ニヤリと笑う3人のチンピラ達の口には、鋭い肉食獣の牙。
そして、両手の指からは同様に獲物を引き裂く爪が伸びる。
チンピラ3人組の肉体に発現したそれは、イタチのもの。
『ガンバの冒険』のノロイ一族か、『日本昔話』の化け鼬か…。
「オラァ、死ねや!」
「ひいっ!?」

だが、振り下ろされようとした爪は…投げつけられた石飛礫に
激しく打たれ、チンピラが苦痛の声を上げて手首を押さえる。
「いてえ!?だ、誰だ!?」

白装束に紺袴、薄衣を被った細身の影が、暗がりから現れる。
その顔を上げると…禍々しい造形の鬼女の能面!
「瓜から生まれた…」
能面を取り、少女は名乗りを上げる。
「瓜子姫!!」

「何でえ…よく見りゃ中坊くせえガキじゃねえか」
「そう思うのはそちらの勝手…お金のある人に弱みを見つけての恐喝…
この瓜子姫、天に代わって鬼退治します!」
「かまわねえ、やっちまえ!性的な意味でもな」
「あ、それからもうひとつ…もうじき『犬のおまわりさん』が来ますので、
それまで伸びててもらいます」
11 : 狼原 良士 ◆T1bUUtDkcQ [sage] : 2012/04/22(日) 22:37:17.68 0
名前:狼原 良士(おおかみはら りょうし)
性別:男
年齢:22歳
職業:無職
外見:変な文字がプリントされたシャツ(初登場時の文字は『牛丼』)
   黒のサングラスで隠れた狼の様な瞳。オールバックの銀髪。
性格:不真面目
本の題名:『赤頭巾』
丈夫な毛皮と鋭い牙と爪を持ち、人間を遥かに凌駕した速度と力を有す狼人間になる。
     
うわさ1:せこい詐欺の真似事や、暴力に携わる仕事で食べているらしい
うわさ2:悪役の狼であるという事から、街の人間の多くは彼の事を嫌っているようだ
うわさ3:子供が大嫌いと公言しているとのことだ
うわさ4:金欠で喘いでる姿が良く見られる

わんわんお!っと
12 : 狼原 良士 ◆T1bUUtDkcQ [sage] : 2012/04/22(日) 22:46:10.59 0

『こうして、狼は川に落ちて死んでしまいました』

『赤頭巾ちゃんは道草をした事を反省し、それからは道草をしなくなったそうです』

『めでたしめでたし』




「ああ、畜生。腹が減ったぜ……」

昼間であるというのにじとりと湿った空気が漂う、痛んだ畳が敷かれた六畳一間。
薄汚れたその部屋の中央に敷かれた、スポンジが剥き出しになった布団の上で男は力なく呟いた。
手近にある鞄を引っくり返しても埃以外は出てくる事はなく、
枕元に投げ捨てるようにして置いてあるマジックテープ式の財布を振ってみても、硬貨の一枚すら出てこない。

「くそ……この三日間、水とカイワレ大根しか食ってねぇのに何でこんなに金がねぇんだよ……」

働いてないから。
そんな全うな回答が出てこないのは何故かとは思うのだが、とにかく男は困窮している様である。
ぐぅぐぅと鳴く腹の虫を騙す為に水道に近づいたが

「……ん?」

蛇口を捻ったが、出るべき物が出てこない。

「……んん?お、おいおい、待てって。これ、本気か?冗談だろ……?」

もう一度蛇口を捻ったが、やはり水滴の一つも出てこない。
――――そう、いつの間にか、水道が止められていたのである。
この事態に、男の顔色が一気に青くなる。
食料だけならまだいい……だが、水が無いのは死活問題だ。人間は水なしでは一週間と生きられないのだから。

「これは、やべぇ……と、とりあえず外に出ねぇと。
 不良狩りなりカツアゲなりして、何とか金を稼がねぇと……!」

こうして命の危機を感じた狼は、
サングラスを掛け、お気に入りのシャツを着込んで住処から外へと出て行ったのでした。
目指すは街の路地裏。カモと、狼気取りのカモが屯している空間。
はてさてそこではどんな出会いがあるのでしょうか?

【プロローグ・了!】
13 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/04/22(日) 22:46:37.28 0
>>6>>9>>11
よろしくお願いします。
あとちゃんと避難所への誘導ができていなかったのでもう一度出させていただきます。
http://yy44.60.kg/test/read.cgi/figtree/1334883037/
14 : 赤堀君香 ◆7t5W3I8ViZgC [sage ] : 2012/04/22(日) 23:38:50.46 0
赤い靴。
綺麗な真っ赤な、私のヒール。大好きなお母さんが遺してくれた、たった一足だけの赤い靴。

赤いくつ。
貧しい少女が、ずっと赤い靴を履く話。大嫌いなお父さんが遺してくれた、たった一冊だけの本。



――なのにどうして。ねえ、神様。私のお父さんとお母さんは、どうして私の所に居ないの?



「君香ー、もう上がっていいぞ」
「はいはいー、お疲れ様です!」

ゼペット・カフェ、本日も休業中。もとい営業中。ここに客が来る事は殆どない。

胸元でチリンと銀の十字架が揺れ、赤茶色のおさげが陽に照らされてふわりと舞う。
君香はフリルのついたエプロンと支給された給仕服を脱ぎ、いつもの私服へと着換えた。
鏡の前でカチューシャの位置がずれていないか確認。おっと、ほっぺにケーキのつまみ食いの跡発見。
店長に見つからない内にふき取る。これでよし。時計を確認。もうこんな時間。

「それじゃあ、また夜にお願いしまーす!」
「はいよ、帰り道は充分気をつけな。最近、変なのがまた増えて来たからよ」
「それなら大丈夫ですよ!私達には神の御加護がありますから!」

君香はそう言うと笑顔で、胸元の十字架を指でつまみ店長に見せびらかした。鼻で笑う店長。

「神ねえ。そんなのが居たら、今頃俺達ゃここにいねえよ」
「あららー。そんなことばかり言ってるから、このお店流行らないんですよ。きっと」
「やっやかましっ!そんな事言う奴は給料やらねーぞ!?」
「へへーん、そしたら辞めてやりますよーだ。私以外に此処で働きたいなんて人、いるんですかね?」
「こ、こんにゃろ~~……じゃあもう来んな!ばーか!!二度と来んな!」

店長の罵詈雑言を背に受けるのもいつものこと。なので君香は気にせずドアへと向かう。
どうせ彼の言っていることは大体あべこべなのだ。
正しいことを言うと鼻の代わりに不運が伸びる『ピノキオ』だなんて、彼も可哀想に。

「…………あー、君香」
「何でしょう?」

「……ボランティア頑張れよ。また明日な」
「――はい!また明日!」

あーあ、きっとまた不運が増えた。難儀な人だ。君香は小さく苦笑いして、店を出た。
今日は君香がいつも通う教会のプログラムで、街の路地裏を拠点にホームレス等を対象にした食事サービスを行う予定だ。
食事を巡ってトラブルも絶えないが、君香は充実感と安心感を得ている。
さて、今日のボランティアは平和でありますように――――いや、難しいかな?
15 : 赤堀君香 ◆7t5W3I8ViZgC [sage ] : 2012/04/22(日) 23:39:34.72 0
名前:赤堀 君香(あかぐつ・きみか)
性別:女
年齢:17
職業:喫茶店の従業員
外見:赤茶髪の三つ編み、カチューシャ、赤いヒール
   服装は胸元に十字架のネックレス、カントリー風なスカートを着用、それなりの体型
性格:おおらかで親孝行だが時に罰当たり、信心深い
本の題名:アンデルセンの『赤い靴』 ポケットサイズの文庫本
砕いて言えば脅威的な『脚力強化』。ギネスも真っ青なスピード・瞬発力・ジャンプ力を誇る。
強化されたのは脚力のみで体力はからっきしなので使える時間は少ない。

うわさ1:父母を早くに失くし、親戚の祖母の仕送りやらをやりくりして一人で暮らしているらしい
うわさ2:週に一度、ボランティア活動で貧困者に食べ物を配って歩いているらしい
うわさ3:意外に怒りの沸点が低く、ことに自分の中で悪人と決めつけた相手に対しては容赦ないらしい
16 : 稲葉 史郎 ◆WVCfIfr0cowU [sage] : 2012/04/23(月) 00:31:20.04 i
名前:稲葉 史郎
性別:男
年齢:26
性格:飄々
職業:スポーツショップ勤務
外見:ぴっちり系ランニングスタイル 顔はプロレス調の覆面
題名:因幡の白兎 和綴じ本
空中に足場を作れる ただし時間制限あり

うわさ1:まともなスポーツよりエクストリーム系が好きなんだそうだ
うわさ2:やたら身が軽い割に喧嘩は弱いんだそうだ
うわさ3:何でも以前いざこざがあって全身皮を剥がれたんだそうだ
うわさ4:神道には信心があるんだそうだ
うわさ5:不法侵入だなんだで警察に随分お世話になってるんだそうだ
17 : 稲葉 史郎 ◆WVCfIfr0cowU [sage] : 2012/04/23(月) 01:35:39.10 i
街の端っこ、閑静な住宅街に似合わない、酷い喧騒。
立派な洋館の壁を見上げているのは、警察、セコム、あとは番犬と館の主だ。
見上げる先には、いかにも異様な風体の男。
石造りの隙間に指と爪先をねじ込んで、必死に落ちまいとしがみつく。

「おまわりさん、下にいちゃあ危ねえぜ……」

警察に追われて追い詰められ、やむなく壁に取り付いたはいいが、そろそろ筋力が限界。
屋根まであと一歩なのに、次の手がかりを求める左手も虚しく石を撫でるばかり。

「今降りてきたら受け止めてやるぞ!」
「落ちたら大怪我だぞ!大人しく降りて来い!」

下で警官が随分叫んでいる。どうせ捕まるのに誰が降りるか。
でも……指が汗でっ!

「南無八幡っ!」

無様に落ちるよりマシだ、と壁を蹴って身を踊らせる。
館の主の老紳士はさっと退き、警官達は男を受け止めようと集まって手を伸ばした。
しかし、男は警官を下敷きにして助かろうなんて厚かましい輩ではなかった。

「おまわりさん、お疲れ様でっす!小市民、いつも感謝しております!」

館相応の高い立派な煉瓦屏。それに指先だけでぶら下がれた。
慌てて引きずり降ろそうとした警官より先に慌ててよじ登り、塀の上で敬礼。
きっと赤目の覆面の下はほくそ笑んでいるに違いない。

「では、俺はこの辺で!お仕事頑張ってください!」

慌てて門へ走っていく警官を尻目に、塀から飛び降りて男も駆け出す。
あと三軒程民家にお邪魔すれば振り切れるだろう。
今日は街でお仕事があるのだ、その日に警官にぶつかるなんて、なんたる不幸。
覆面だけで職質かけないで欲しい。
走りながら、ウエストバッグのジッパーを開け、手を突っ込んで中身を確認する。
ちゃんと全部あった、こんな値打物を落としたら一大事だ。
改めてジッパーを閉め、また塀をよじ登る。
18 : 笠原諸友 ◆7IOhafD146 [sage] : 2012/04/23(月) 06:16:57.22 0
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねみんな死ね)

男はいつでも下を向いて歩く。
周りの視線を受けたくないから。

実のところ、人間はそんなに道ですれ違う他者について気になど留めてはいない。そんなことは分かっている。
でも男は、悪い方へ悪い方へ進む思考回路を止めるつもりなどさらさら無い。
――ほら、今の女は絶対俺のことを心の中で笑ったぞ。
――今すれ違ったカップルは、きっと「キモーイ」なんて言いながら後で俺を小馬鹿にするんだ。

本と出会い覚醒したのは、いつ頃のことだったか。虐げられ続けてきた人生の中で、数少ない幸せな時期だったと思う。
でも結局、持て囃されたのはその本の力だけで。自分自身は相変わらず嘲笑の的だと悟ってしまって。

心が容姿に影響を与えているのか。醜い容姿は心さえ醜く変えてしまうのか。
生きていく理由も目的もない癖に、死ぬ勇気すら持てず。
他人を心の中で見下し、貶し、罵倒する。

「なぁ、そこのデブ。お小遣いくれね?」

1人、暗い雰囲気で歩いていれば。絡まれてしまうのも別に珍しいことではない。路地裏などに連れていかれて、

「2000円ぽっちかよ。しけてやがんな」

ゴミクズのようにされて、放置されるのももう慣れたものだ。あまり現金を持ち歩かないのも、それが理由。
男達が去った後。溜息もつかずにゆっくりと立ち上がって、懐から本を取り出す。
突如として宙に現れた薬壺から中身を無造作に手に取り、傷を負った箇所に塗りたくる。
みるみる修復されてゆく身体の傷。『何もなくなった』ことを確認。黒いシャツ、血は目立たない。
そして男はまた街の喧騒の中を、下を向いて歩き出す。

(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねみんな死ね)

何一つ、変わらぬままで。
――菩薩のような心で、その力を無条件に使っていたとしたら、一体どれだけの人を救えたのだろう?
だが男は、自分の為にしかその薬を使わない。
19 : 笠原諸友 ◆7IOhafD146 [sage] : 2012/04/23(月) 06:18:21.40 0
名前:笠原 諸友(かさはら もろとも)
性別:男
年齢:22歳
職業:フリーター
外見:チビの肥満体、シャツにジーンズ。帽子を被っている
性格:基本的にクズ
本の題名:『河童の薬』
能力が発動すると掌サイズの薬壺が現れる。中の薬は軟膏タイプで、塗ると傷がたちどころに治る。
適量手にとって口に含むことにより体力の回復や病気の治療などもある程度は期待出来る。

うわさ1:現状見るに耐えない容姿だが、別に痩せてもイケメンにはならないらしい
うわさ2:帽子を外さないのは頭頂部の若ハゲを隠す為らしい
20 : 皆川 呉作 ◆VOACf8e.7. [sage] : 2012/04/23(月) 20:07:34.48 0
名前:皆川 呉作(みなかわ ごさく)
性別:男
年齢:19歳
職業:学生
外見:学生服 ギンギンにおったてた髪
性格:明朗快活
本の題名:『お月さまに行ったウサギ』
能力が発動すると宇宙服のような戦闘スーツを身に纏う
格闘戦に秀でている

うわさ1:喧嘩に明け暮れており、不良少年として知られている
うわさ2:しかし理由のない暴力、弱いものいじめは嫌っているらしい
21 : 皆川 呉作 ◆VOACf8e.7. [sage] : 2012/04/23(月) 20:17:27.58 0
「あ~腹減ったなぁ。そろそろ、こいつでも食おっかなぁ~!!
いつもコンビニで売り切れだったから、初めて食うんだよなぁ…」

太陽が落ちようとする夕暮れ時、裏路地で見るからに「頭の悪そうな」学生服の
青年・皆川呉作がパンを手に歩いていた。
その向こうで、何か声がする。多くは、まるで何かを楽しんでいるかのような声。
そしてもう1つだけは、誰かに助けを請う声。

「やめてくれよ!!これは妹に食べさえてやる分なんだよ!!」

「あ?妹だ?今時、かっこいい兄ちゃん演じてもうけねぇーんだよ!!
おい、やれよ。」

高校生の集団が、1人の華奢な中学生らしい少年を囲んで暴力を振るっている。
そして、中学生が財布を奪われても必死で守っていたパンの入った袋を
リーダーらしき男が手にし水溜りに投げつけ、踏み潰した。

「おい、お前らハイエナか?1人じゃなんもできねぇーから群れるなんて
カッコ悪いったらないぜ。」

五作はリーダーの男の手に肩を置くと、振り向きざまに拳を振るう。
あまりに一瞬の出来事に、呆気に取られた高校生たちを千切っては投げ
殴ってはぶっ飛ばす呉作。
喧嘩とはいえない一方的な出来事が終わると、呉作は傷ついて倒れている
少年に手を伸ばす。

「おい、このパン……良かったら持って行けよ。
妹の喜ぶ顔、見たいんだろ。」

少年は痛む頬を擦りながら、少しだけ微笑んでそれを受け取った。
22 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/04/25(水) 19:04:55.52 0
バスから降りた僕は、グルメ雑誌を見ながら目的の店へ向かっていた。
邪魔さえ入らなければ10分もかからずにつけそうだ。
そう思った瞬間
「!」
嫌な気配を感じ、僕は雑誌を閉じて振り返った。
振り返った先には誰もいない。気のせいかそれとも虫の知らせか
少しだけ僕は怖くなり、あの忌々しい本を取り出し、胸ポケットにしまった。
出来れば能力は使いたくは無いが、そんな贅沢を言えるほど、この街は安全ではない
「…こんなことなら予約しとけばよかった。」
僕はそうぼやき、少し駆け足で店に向かった。

暫くして、あと曲がり角を二つほど曲がれば店に到着するところまで来たとき、僕は足を止めた。
あの角の先でどうやらトラブルが起こっているようだ。
男達の怒声と同い年ぐらいの女の子の声が聞こえる。
僕は恐る恐る角から現場を覗き見た。
獣のような爪を生やした男達に相対するは、ちょっと時代錯誤をした格好の女の子
「…うわぁ関わりたくないなぁ」
正直な感想が口から漏れた。
勝てる要素が無いとかそういうのじゃなく、ただ単に時間が惜しいだけだ。
ああいうのは、蚊帳の外にほっぽって、ちょっと遠回りすればいい話
急がば回れ、まさしくそれだ。
ということで、今目の前にしている喧嘩をスルーする為に僕は少し遠回りをしようと視線を前に向けた
「へぁ?」
一瞬視界に入ってきたものに対応しきれず、頭が真っ白になった。
落ち着かせようと頭を振り、もう一度、それを見た。
それは、とんでもなくダサイTシャツを着た、いかにも不審人物っぽいグラサンだった。
そして、ソイツは今こちらに向かってきている真っ最中であること
僕は先ほど感じた嫌な気配のことを思い出してしまい、そのグラサンが
ただ通り過ぎて終わるような人物には見えなかった。
ここまで来たのに逃げたくはない。進むならば前か右か
23 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/04/25(水) 19:05:39.41 0
>>10
「そこをどけ、邪魔だ」
僕が選んだのは右、1:3の喧嘩に乱入すること
女の子の身を案じた訳じゃない。
早急にチンピラ三人を片付け、追ってきたグラサンを2:1の形で
もしくは、女の子とやりあっている隙に、僕だけ店に行く形に持っていくためにあえてこっちを選んだ。
僕はすぐさま能力を発動し、ヤギをイメージしたデザインの金属製のグローブを具現化し装着した。
「なんだとてめぇ!」
鋭い爪で攻撃してきたチンピラの攻撃をかわし、腹に一発叩き込む
だが
「なかなかいいパンチじゃねぇか、だが全然威力がねぇな」
チンピラの素振りを見る限り、あんまり効いてないみたいだ。
まぁそりゃそうだ。一発目だもの

『一匹目のがらがらどんは言いました』

「そうか?なら一つ言っておく、次はもっと大きいのが来るよ」
僕の能力は二発目以降がその本領を発揮する。
「ハッタリかましてんじゃねぇよ」
どうやら挑発してしまったらしい、さっきよりも動きが荒々しくなっているがその分動きが荒い
「だから宣言したろ?次はおおきいって」
二発目を叩き込んだ瞬間、チンピラの動きは止まり、顔を歪めているが
時間さえ与えれば、また襲ってきそうだ。

『二匹目のがらがらどんは言いました』

「残念なお知らせだ。次のはもっと大きいぞ」
「うぁ…やめ…やめ…こうさ」
悪いが止める気は更々無い!

『三匹目のがらがらどんはトロルを谷へ突き落としました』

チンピラの顔面に三発目を叩き込んだ瞬間、車に撥ねとばされたかのようにぶっ飛び沈んだ。
【逃げるように姫郡の喧嘩に乱入、一人をぶっ飛ばす】
24 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/04/25(水) 20:47:43.69 0
【突然の乱入者に…ほんの少しだけ驚いた表情を見せるものの】
「…御助力、感謝します」
簡潔に礼を述べ、罵声を上げながら突っ込んで来るチンピラの1人に対し…
(右拳、正面上段の突き…)
慌てることなく、爪に抉られない距離で相手の腕を両手で取り、
抵抗しようとする力を逆利用して…投げ倒す。
「いてえ…このお!」
受身もとらず、アスファルトに背中をしこたまぶつけたチンピラは
なお立ち上がり、爪を振り上げて袈裟懸けに切り裂こうと飛びかかってきた。

ガキン。

「うえ!?」
振り下ろされた爪は、少女のたすきがけした袖から覗く白い二の腕…
否、そこから直に「生えた」緑色の、長く伸びた「何か」によって
受けられ、跳ね返されていた。

「遅い!」
「ぐおっ…!?」
【緑の木刀】とでも呼べばいいのだろうか、正眼に構えられたそれが
一瞬でチンピラを打ち据え、叩き伏せる。

「残るは貴方1人…観念して、縛につかれますか?」
視線を、目を回しているチンピラ達から…リーダーらしき男に向ける。
25 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/04/26(木) 01:29:09.85 0

――どうかKAPPAと発音してください(とある小説の副題)

* * *
「やあやあ、今日も大漁だ」

そう言うと、ティクティク氏は笑いながらばらばらとお札をまき散らした。

「いつも言うけど、下品よ、ティクティクさん。少しは拾い集める身にもなって」
「おう、これはすまん。嬢ちゃんにどぶさらいのような真似をさせちまったか、ははは!」

かんらかんらと笑うティクティク氏のその顔は、人の形をしていない。河童と名乗る彼ら特有の、扁平な顔。
もうだいぶ見慣れたが、最初は驚いた物だ。

「しかし、本当に今日は多いわね。何かあったの?」
「さすがに目ざといねぇ。いやなに、何やらもめ事を起こした連中がおってな。喧嘩両成敗で隙を見て全員ひょいひょいと」
「警察に見つかって無いでしょうね。最近は犬のお巡りさんでも仕事に慣れたんだから、煩いわよ」

眉をひそめる。盗る事自体に罪悪感を覚えなくなったのはいつからだっただろうか。
まあ、ティクティク氏……スリの名人、いや、名河童……と付き合っていてはそんな感覚も摩耗して当然だろう。。
私の言葉に、ティクティク氏はにぃと笑う。

「小銭は残す、カードも残す、ついでに野口の旦那も1人だけなら。嬢ちゃんのお願いは履行中さ。
 もちろん、それでなくとも足の付くような真似はしないがね」
「あ、そ。ならいいけど……」

くらり、視界が震えた。
またお休みの時間、か。
それを察したのか、ティクティク氏は手を振る。

「では、またな、嬢ちゃん。わしは帰るが、若い衆ともよくしてやっとくれよ」

何も言わず手を振り返すのがやっと。
左手に抱えていた文庫本がぱたりと落ちる。
それとともに、ティクティク氏の姿はかき消え、残るは下品にまきちらされた日本銀行券ばかりなり。

左手で額を抑え、かぶりを振った。

「……は」

自嘲の笑みがこぼれる。
ティクティク氏も言ってくれた物だ。

「どぶさらい、ね。……きっと、私はずっと」

どぶさらいをして生きていくのだ。
彼らと一緒か、1人でかの違いはあるにせよ。

意識が眠りに落ちようとする中、文庫本のタイトルが目に入る。
そういえば、この本は短編集だけれど、私は表題作の片方しか……。


『河童・或阿呆の一生』
26 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/04/26(木) 01:31:05.98 0
名前:勝河 隆葉(かつかわ・りゅうは)
性別:女
年齢:13
職業:中学生(不登校)
外見:背が低いが成長不全というほどではなく(四捨五入して150になる範囲の低い方)、
   やせているがガリガリというほどではない少女。
   深い青色のワンピースを好み、いつも同じ種類の服を着ている(衣装ダンスにはその服が何着もあるらしい)。
   烏の濡羽色の黒い髪を、膝のあたりまで伸ばし放題に伸ばしている。
   洗髪はしているのだが、このレベルまで伸びてしまっては外見上は焼け石に水であり、
   目にした人からは「貞子の親戚かと思った」「毛の塊が歩いてるように見えた」と散々な言われよう。もっとも、本人はどこ吹く風。

性格:髪の長さのエピソードからも分かるように、相当の変人……を演じている。
   それは、自分に極度に自信が無く、他人と直接対話する事を避けるため。
   他人と接したら必ず自分が傷つくと信じて疑っていない。
   他方、彼女の能力で出現する者たちに対しては屈託なく喋りかけ、笑いあう。
   彼らが語りかける言葉は彼女の未熟さを(あるいは、皮肉に満ちた原作を)投影するかのように歪んでおり、
   それにのみ応対する彼女の言葉も少しずつ歪んでいっている。
   彼女の演技が演技でなくなる日は近い。
本の題名:芥川龍之介『河童』
   能力が発動している間、「河童」を視認し、会話することが可能となる。
   「河童」が彼女の能力の産物なのか、それともそういう何かが本当に存在していたのかは正確には不明。
   (前者で説明はつくので、今の隆葉は前者だと考えている。「河童」達は後者だと主張する)
   「河童」は以下のような存在である。
   ・複数の個体が存在し、それぞれ好き勝手に動き回っている。
   ・「能力発動中の隆葉」以外の存在には認識されない。
   ・独自の自我を持ち、会話が可能である。ただし、「河童」の声を聞き実際に会話が可能なのは前項の通り隆葉のみ。
   ・人間世界の倫理観を軽視し、しばしばそれを無視しようと隆葉を唆す。
   ・物体に触れ、動かす事が出来る。その力は人間の大人並。隆葉が直接視認していない状況でも可能。
    ただし、次の二項の例外を除く。
   ・能動的に「河童」でない生物の体に触れる事が出来ない(触れようとしない)。
    「河童」が持っている物質(無生物)が他の生物に触れる事は可能である。
   ・「河童」が物を持っている最中に能力が解除された場合、「河童」はそれを手放してしまう。
   ・非常に俊敏で、やみくもな攻撃ではひょいとかわしてしまう。
    ただし、爆発や狙い澄ました攻撃等、かわせないような何かが発生した場合はダメージを受け、場合によっては死ぬ。
    (その死体は隆葉にしか見えないが)
    「河童」が死んだりダメージを受けても、隆葉にダメージが発生したりはしない(死に対する心理的な物以外)。
   ・個体差があるが、五感を持つ。見た内容を口に出す事もできる(それを隆葉が聞けば隆葉も内容を知れる)
   ・隆葉に対しては比較的好意的で、大抵の頼みには応じる。時には個人的な人生相談に乗ったりも。
   ・時折、一芸に長けた「河童」が出現する。スリの名人、機械工、詩人、など。
    隆葉は「河童」と会話し、個体名を出して彼らを(伝言ゲームで)呼び出す事が出来るが、能力持続中に現れるかは運次第。
   ・どの個体も人間基準でかなり醜悪であり、長時間認識することで精神的に摩耗する。
    具体的には、1時間河童を認識した状態を継続すると隆葉は精神的に疲弊しきり、同じ程度の時間を休んで過ごさないといけなくなる。

うわさ1:町はずれの幽霊長屋には少女が1人きりで済んでいるらしい。
うわさ2:1人しか住民がいないはずなのに、よく会話するような話し声が聞こえるらしい。
うわさ3:最近少女と直接声を交わしたのはこの近辺の宅配便の担当者だけらしい。
うわさ4:近所の中学校にはここに住む少女の籍があるが、入学以来一度も学校には表れていないらしい。
うわさ5:長屋の近くを通ると誰ともすれ違っていないのにスリに会うらしい。
27 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/04/26(木) 02:06:36.42 0
>>25訂正
(ラスト3行削除)
28 : 佐川 琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/04/26(木) 18:29:36.98 0


病室に兄妹がいた。
夕日を背に、兄が妹に絵本を読み聞かせていた。
兄はベッドに、妹は傍のパイプ椅子に、それぞれの格好で座っていた。
たんたんとページを手繰る音が響いていた。兄の声は心地よい響きだった。
妹は身を乗り出して挿絵を眺めた。斜陽を受け、絵本の全てが朱色に染まった。それは兄妹もまた同じだった。
「―心地よい自己犠牲に身を委ねた独りよがりの聖人と、
その破滅を幇助した愚鈍な善意。何の努力も労せず幸運に見舞われる貧者。その他群集。後味が悪いね。聞いていてそうは思わなかった?」
兄はシーツの横に用済みの本を放り投げた。妹は危なっかしくそれを両手で受け取り小首をかしげた。
「童話は教訓を含んでいなければいけない、多かれ少なかれ。琴里みたいな子が読んで、何かを学び取るための教科書なんだから。
これはその役割を放棄している。善人が損をするなんて、そんなの現実だけで十分だよ。ファンタジーには夢と希望が溢れているべきだ。」
兄は、体に繋がれている数本のチューブと吊るされた点滴のパックを眺めながらそう呟いた。
「良く分からないや。兄さん、もっと優しい言葉を使って。小学生でも分かるようなさ。」
「うん、よろしい。我が最愛の妹よ。このツバメにも劣る脳みその持ち主よ、君はそれでいい。」
「あんたに馬鹿にされるのは慣れているけど・・・」
妹は子供らしく頬を膨らませた。それは幾分作為的だった。兄はますます笑みを深めた。
「ツバメも君ほどのお馬鹿さんだったなら、きっと幸せを運ぶ事にになんの躊躇いも無かったし、寒さで死ぬことも無かったろうね。」
「父さんと母さんに言いつけるぞ。」
「彼らは仕事で手一杯だ。僕の相手どころじゃないだろ。
・・・さ、またいじわる兄貴と口喧嘩して泣きべそかきたくなかったら、お家に帰りなさい。面会時間も過ぎるころだよ。」
兄は白い手をそっと妹の頬に当て、少しだけ名残惜しさをにじませて告げた。
「だからぁ・・・・・・ま、いっか。うん、また来るね。二人に何か伝えることはない?」

「一つある。」 「何さ。」

兄は妹の両手にあった絵本を何気なく取り上げ、代わりに封筒を差し出した。
丁寧で美しい文字が、あて先に並んでいた。兄妹の両親の名だった。
「大切な手紙だ。僕の意思と遺志。」
兄の眼に微かな覇気が宿った。妹はそれを見過ごした。
「いし?」
「お馬鹿さんには教えない。じゃあね。」
兄は綺麗な間隔で手を振り、妹が見えなくなるまでそれを続けた。
とても慣れた仕草で無駄が無く、手を振ることの意味を忘れた、記号的な動作だった。
その動きも、ドアの閉まる音と同時にピタリと止まった。彼の利き手は次に、自身の目蓋にあてがわれた。
先ほど妹の頬に触れたときのように、彼はその眼球を目蓋の上から優しくさわった。
ずいぶん長いこと、彼は目蓋を、眼球を、撫でていた。

「小さなツバメさん。動けない僕の代わりに、届けておくれ、僕のこの――」





妹はその後、とある街に連れて行かれた。
彼女が兄と会う事は二度と叶わなかった。
29 : 佐川 琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/04/26(木) 18:30:57.84 0

名前:佐川 琴里 (さがわ ことり)
性別: 女
年齢: 9
職業: 小学生
外見: おかっぱ頭にリボン。ほっぺは真っ赤。
性格: 人見知りせず、道化のようにお調子者。
    大人をからかうのが好きだが、優しさや慈しみには素直に応じる。
本の題名:「幸福な王子」他人が持つなにかを第三者へ与える。
・物体でなければ、その効果は一定期間のみ。
・元の持ち主には了承が必要。移行側には不要。
・自身の所持物は移行できない。
・移行される者は自身であってはならない。
噂1: かけっこ、かくれんぼをすると学校一番なんだって。
噂2: 算数と図工が得意なんだって。
噂3: 弱いことは自分が一番良く分かっているんだって。
噂4: だから仲間に見すてられる事を一番怖がってるんだって。
備考: 判断力、戦闘能力ともに低ステイタス。他キャラを補助する役割。
    うまく利用するとかなり役立つかもしれない。
30 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/04/26(木) 20:29:08.39 0
名前: 橘川 鐘(きっかわ しょう)/妖精美少女『ベル』
性別: 基本は男/能力発動時は女
年齢: 45
職業: 玩具屋『ネバーランド』店主/美少女妖精戦士
外見: メタボのおっさん/妖精美少女
性格: 純粋な乙女の心を持ったまま歳をとっておっさんになったオトメン。
本の題名:『ピーターパン』
能力を発動すると二対四枚の翼を持つ妖精美少女『ベル』に変身し、本に出てくる妖精の魔法が使えるようになる。
具体的には飛行能力と、かかると空を飛べるようになる粉を振りまく能力である。
物体にかけた場合は、その物を念動力のように操れる。
人間にかけた場合は、かけられた側が空を飛べると信じる事によって、一定時間空を飛べるようになる。
備考:純粋な乙女のような心を持ち続けるおっさん。
普段は玩具屋の店主をしているが、ひとたび事件が起これば美少女妖精戦士『ベル』となり
街の人々の夢を守るために日夜戦うのだ!
もちろん鐘とベルが同一人物だという事は最高機密である。
31 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/04/26(木) 21:44:18.00 0
私は橘川鐘、とある夢の街に小さな城を持つ城主だ。

「はい、ベルの魔法のステッキだよ~」
「わあ、ありがとう!
えへへ、私しょうらいは美少女戦士になって悪い奴たくさんやっつけるんだ!」

玩具の魔法のステッキを持ち、笑顔で走り去っていく少女を見ながら
どうかずっとその純粋な心を持ち続けて欲しいと願う。
玩具屋『ネバーランド』、ここが私の城。
子ども、いや、何も子供に限った事ではない、大きいお友達でもいい。
私は玩具を買いに来てくれた人の笑顔を見るのが大好きだ。

―― ここは、閉ざされた街。童話に魅入られた者達の集まる夢の街。

その割に物騒な事件は多いが、何も矛盾する事ではない。
夢の集まる場所では、夢を貪り喰らう悪もまた蔓延る。

客がはけて暇になったので、新聞を読む。

「スリ多発か……夢食い《ナイトメア》め。
この街に私がいる限り、お前の好きなようにはさせない!」

暴力沙汰に窃盗は日常茶飯事、この街では非行が横行している。
私は、人々を非行に走らせる強大な黒幕を自らの脳内で設定し、それを夢食い《ナイトメア》と名付けた。
戦闘美少女としてはその方が気分が盛り上がるからである。
むさ苦しいメタボのおっさんが何を言っているんだって?

「おっ、見回りの時間だ」

私は店の表に外出中の張り紙をし、店の裏手に回って、”飛び立つ”。
ただし先程までの只のおっさんの姿では無く、二対四枚の翼がある美少女の姿だ。
妖精美少女『ベル』、これが私の真の姿。なぜなら私は純粋な乙女の心を持っているからである。
忘れがちだが、オトメンは若きイケメンでないといけないという決まりは特にないのだ。
さて、今日もまた一つ強大な悪の陰謀を阻止するとしよう。
32 : 佐川 琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/04/26(木) 23:30:51.58 0


「うわぁ、やっぱり姫姉ちゃんの仕業だったのか。」

リボンが揺れる。電柱の影からひょっこり、小さな影が飛び出した。
「さっき表通り歩いてたらさ、いきなり男の人があたしの頭の上をぶっ飛んで来るんだもん。びっくりしちゃった。
ひょっとして隣りのお兄さんは姫姉ちゃんの仲間? ちょっと手加減しようよぉ――こっちの人なんか顔ぐちゃぐちゃじゃない・・・えげつな・・・」
口ではそういうものの、琴里はどこか楽しそうに倒れ伏す男達を見下ろす。
「まあ、でも姫姉ちゃんが暴れるってことは、この人達、何か悪いことしてたんでしょう?」
ネズミの風貌の男が中心になって、事の顛末を語った。彼は鼬のワル共に弱みを握られ不当な額の現金をせびられ続けていたらしい。
二人が悪を成敗してくれたものの、使い込まれた金は戻ってくるわけでもなく、彼の表情には落胆の色も少なからず含まれていた。
琴里はそれを見て、おもむろに背中のランドセルを開く。
「そういうことなら得意。任せてよ。」
中にあるものは、もちろん、琴里の能力の根源。少し大きめの絵本だ。

「そこの倒れてるオジサン、生きてる?生きてるなら返事して!」
地面に伸びる男を、彼女は足でちょんちょんとつつく。
「ううーん」
「アンタ、このネズミの旦那からお金貰ったのね?」
「うーん」
どうやら男には意識はないが、条件反射で生返事を返しているようだ。
これは都合が良い。琴里はにやりと笑った。
『じゃあ、そのお金、全額返してちょうだいよ。私が届けてあげるから。』
「・・・う、ん」
チンピラ男はただ唸った。その音にはなんの意思も感情も含まれていなかった。
しかし。
無様な鼬が搾り出すように呟いた「了承」を琴里が聞いた途端。
鼠旦那の頭の上で、カサリカサリと乾いた音が鳴る。
「わーお、鼠の旦那、さすが貯め込んでらっしゃる!」
当事者はあまりの出来事に声を失っていた。ただどこからともなく湧き出るお札に埋もれ、彼は呆然と座り込んでいる。
「これはお礼として貰っておくね。いいでしょ?」
風に漂ってきた一枚をちゃっかり掴み取り、琴里は笑う。
「じゃあ、あたしこのお金でおもちゃ屋に行って来る! 
姫姉ちゃん、バイバイ!今日の夕飯はハンバーグがいいな~。こんなグチャグチャ惨劇見た後だけど。
横にいるお兄さんも、ちょっとは非力な通行人のことを考えてから喧嘩してよね。
あ、それから私見たんだから、『透明な何か』が財布の束をかっぱらってどこかに向かってったの。
あれ、お兄さんの能力の一部?いくら悪人からと言っても、窃盗は犯罪だよ!」

久実がピンハネした万札を見咎める前に、琴里は表通りへ駆け出す。

33 : 狼原 良士 ◆T1bUUtDkcQ [sage] : 2012/04/26(木) 23:54:25.27 0

「ああん?なんか騒がしいな。マッポでも出たのか?」

空腹に原を鳴らす狼原が、街の人々から露骨に避けられながら路地裏へと差し掛かると、
いつもはどぶ川の様な不愉快な静寂を保っているその場所から喧騒が響いてきた。
サングラスの下の瞳を向ければ、そこには複数の少年達と女が一人。

「はっ、なんだよ喧嘩ただのか。つまんねぇな」

どうやら、見る限りでは不良とその被害者らしき連中が喧嘩をしている様だ。
情勢は何時も通りに悪役たる不良たちが不利。
どんな童話かは知らないが、特殊能力に泡を吹かされているらしい。
狼原はそんな情けない不良達に対し

「まあ、俺には関係ねぇわな。さっさとグッドでパーフェクトな金儲けの準備しねぇと」

当然の事ながら干渉はしない。
一般人の逆襲を受けているのが金持ちならば、助けて金でもせびったのであろうが、
一介の不良が持っているであろう金など微々たるもの。
一食の代金にすらならなそうな行動は極力しないのがこの男の主義なのである。

「ぬぬぬ……いよーし、決めたぜ。確か、今日はこの辺りで乞食共への炊き出しがあった筈だ。
 俺はその炊き出しのフリして糞不味い料理を出して、食った奴らから無理矢理食事代を巻き上げる。
 乞食の奴らは以外に金持ってるからな。毟れるだけ毟ってやるぜ!グハハハハ!」

邪悪な笑みを浮かべながら大もうけを夢想する狼原であったが、
そこでふと自身が立てた稚拙な作戦の穴に気付く。

「あ……?待てよ、よく考えたらこの俺は有名人だから乞食共にも顔が割れてんだよな。
 売り子には代役をたてねぇと、この俺のパーフェクト作戦が失敗しちまうんじゃねぇか?」

そもそもホームレスが金を溜め込んでいるというのは狼原のイメージに過ぎないのだが、
確かに狼原の言っている事は間違っていない。
悪役として無駄に有名な狼原が炊き出しなどしていれば、誰もが詐欺と疑わない事だろう。

「っち、仕方ねぇな……その辺のやつとっ捕まえて無理矢理手伝わせるか。
 ついでに不味い料理も作らせれば、俺の手間も消えて一石二鳥ってもんだ!
 そんな発想が出来る俺、カッコいいなぁおい!」

小声でそう自画自賛し周囲を見渡せば、そこには

紅いヒールを刷いた女。低身長で肥満気味の暗そうな男。ホラー映画に出てきそうな長い髪の女

の三人が居た。三者三様に何かをしているようであるが、そんな事は狼原には関係がない。
どいつもこいつも利用しやすそうだと皮算用してから。三人に聞こえる様な声で恫喝する様に声を出す。

「おいそこのてめぇら!そうだ、てめぇらだよ!こっち向け!
 いいか、俺はこの近辺の乞食共に飯をくれてやる善良なボランティア様だ。
 今から飯を作るから、ボコボコにされたくなかったら深く考えずに俺の言う事を聞くんだな」

狼原は三人に声をかけたが、その全員に反応を期待した訳ではない。
そのうちの一人でも反応すれば構わないと思っていた。
なぜなら、こういう場面で反応してしまうような奴こそが基本的に『カモ』であるからだ。
そういう人間なら、たとえ狼原の事を知っていたとしても暴力で言う事を聞かせられる。
そう考えての言動であった。
34 : 潮崎 双目 ◆p1MsgmBLGI [sage] : 2012/04/27(金) 02:30:47.28 0
>>8から続く形として)

まだ見ぬ妹への期待と、母への祝いの気持ちを精一杯したためた手紙。
それを送ったのが、半年程前。
母からの返事は、未だ届かないままでいた。
始めの数日の内は、双目もさほどそのことを気には留めていなかった。
およそ一週間程度の間隔でやり取りをしているが、二~三日のズレが生じるのはよくあることだったからだ。
それから数日が経つと、双目は郵便局側の手違いを疑い、窓口に出向いて確認をした。
だが母の氏名が記載された手紙は、只の一通も届いていなかった。
今の母は身重だ、きっと色々と忙しいのだろう。
郵便局からの帰り道、双目はそう納得することにした。
更に数週間、一ヶ月、二ヶ月と過ぎると、双目の心には次第に不安が募っていった。
もしかしたら母の身に何かあったのではないか、そう考えた時には既に体が動いていた。
電話の受話器を起こして、手早く母の家の電話番号をプッシュする。
声を聴くと寂しくなるからという理由で、これまで一度も掛けたことはなかった。
だが、今の双目は確かめずにはいられなかった。変わらず元気な母の声を。
ただ一言だけで良い、そう願う一心で受話器の向こうに耳を傾けた。

「《お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめになって、もう一度……》」

機械的な女性の声。
慌ただしく通話を切ると、今度は一つ一つゆっくり辿るように番号をプッシュしていく。

「《お掛けになった電話番号は、現在……》」

だが、何度繰り返しても結果は変わらなかった。
35 : 潮崎 双目 ◆p1MsgmBLGI [sage] : 2012/04/27(金) 02:39:50.43 0
きっと母に何かあったのだ、双目はそう確信して手早く身支度を始めることにした。
衣服、金銭など二~三日は凌げるであろう荷物、母が住む家の住所が記載されている封筒を、新品同然のキャリーバッグに詰めていく。
これはいつか母の元に帰れる日が来たら使おうと、購入してからも大事にしまっておいた物だった。
白地に淡い色のリボンが飾られた可愛らしいキャリーバッグを引きずりながら、双目は飛び出すように自宅を後にした。

それから一週間程が経ってから、ようやく母からの手紙が届くことになる。
その中には、『新しい住所と電話番号』を記したメモが入っている。
母は産まれてくる子供のことを考えて、新居に引っ越すことを決めたのだった。
結局のところ、『色々忙しいのだ』という双目の予想は当たっていた。
引っ越しに関する詳細、色々と準備にかまけている間に返事が遅れてしまったこと、
そんな内容が幸せいっぱいの文面で綴られており、最後はこんな一文で締め括られていた。

ここにあなたがいてくれたら、と。
ママはいつもそれを願っています。
いつか絶対に、必ず一緒に暮らせる日が来るから。
だから、それまで元気で。くれぐれも体には気を付けてください。

便箋の隅には、水滴が垂れて乾いたような跡が幾つもあった。
双目がこの手紙を読んでいれば、恐らく家を飛び出すことはなかっただろう。


"いいえ、もしかするとこれはただのきっかけに過ぎなかったのかもしれません"
"塔の上で髪を垂らして待つだけの人生に、少女はいつしか我慢がきかなくなっていたのではないでしょうか?"

"『潮崎 双目』、お塩のような苗字を持つ少女の旅は、こうして始まります"
"そして、少女は二度とこの家に戻ってくることはありませんでした"
36 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/04/27(金) 02:41:14.44 0
「脇が…がら空きですよ!」
「ぬぐぉ…っ!!」
緑の木刀で、強烈なレバーブロー…すなわち肝臓を強かに打ち据える
攻撃を食らい、リーダー格の男も昏倒する。
「…ふう。ご安心を…これでも、手加減はしましたから」
そもそも彼女の振るう武器に刃は無いので、峰打ちも何もないのだが…。

まるでCGのように、緑の木刀が揺らいで元の状態──瓜の蔓に戻り、
巻尺のようにシュルシュルと彼女=姫郡久実の腕の中に吸い込まれていく。

「大丈夫ですか…立てます?」
「あ、ああ…すみません。有難う」
『都会のネズミ』──実業家としては有能過ぎるほど有能なのだが、
成功すればするほど…トラブルや弱みを抱え込むリスクも
負ってしまう能力者氏は、手を引いてもらって申し訳無さそうに立ち上がる。
「…私が言うことでは無いかも知れませんが、警察では」
「いえ、分かっています。事情聴取には正直に応じますよ」
37 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/04/27(金) 03:23:54.77 0
>>32
…と、そこへ。
「え、琴里!?」
先刻までの凛とした冷静さと真摯さは何処へやら、突然顔を出した
妹分兼トリックスター兼トラブルメーカーの出現に、目を丸くして
ギョッとなる久実が、そこに居た。
……
「まあ、でも姫姉ちゃんが暴れるってことは、
この人達、何か悪いことしてたんでしょう?」
「暴れ…あのねえ、これは暴れてるんじゃなくて自警団活動だって…
ちょ、お姉ちゃんの話、聞いてるの?」

そう。一応この街も行政区である以上、セキュリティは存在している。
が…住民の大半が「BOOKS」と呼ばれる特異能力者であり、通常では
考えられないトラブルや事件が頻発してしまう性質上、能力者と非能力者の
混成による警察や消防では対処しきれないことも多く…
半ば「暗黙の了解」的に、能力者住民有志による【正当防衛の範囲内での
自警団活動】が認められていた。
それは明治維新以前の日本における奉行所と岡っ引きの関係に、
似ていなくもなかったが…。
……
「これはお礼として貰っておくね。いいでしょ?」
「!?…こら、あんたはまた…待ちなさい!!」
慌てて手を伸ばすが…武道で培った久実のそれをもってしても、まるで
エサを攫っていくツバメのような琴里のすばしっこさには届かない。
「もう、あの子は~~~!!あ、す、すみません…よく言って聞かせます、
お金も必ずお返ししますから…」
「あ、いやいや、いいんですよ…」
急に降ってわいた日本銀行券の山に、再び腰を抜かした『ネズミ』氏に
平謝りし、自分も散らばったお札をかき集め始める久実。
「ああ、いたいた。おーい、大丈夫かい?」
「あ、野田山さん…こっちです。あの、大きな袋ありませんか?」
顔見知りの…『犬のおまわりさん』率いる警官隊・救急隊に手を振りながら
久実はふと、ある大事なことを忘れていることに気づいた。
「あ、えーっと、遅くなりました…さっきは助太刀、どうもありが…
あれ?どうしました?お腹、やられたんですか?」
38 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/04/27(金) 03:49:58.20 0
痛みにうめきながら搬送されていく3人組を横目に、
お札回収や警官隊への対応、そしてもう1人の見知らぬ学生服の少年への
声掛けなどを一度にこなしながら…久実の脳裏にはもう一つ、気がかりな
ことがこびりついていた。

アレは琴里が言うような『透明な何か』では無い。
それこそ「目にも止まらぬ早業」で、ぬめぬめとした『碧色のような
何か』が、慣性の法則も何もかも無視して、その場にいる人間達の
ポケットや懐から少しずつ…サッサッサッという感じで目ぼしいものを
掠め取って行ったのだ。
その時点で闘いに臨んで貴重品をコインロッカーに預けてきた久実は、
被害を受けていない。琴里は…どうだろう、帰ったらお小言ついでに
何か無くなっていないか尋ねてみよう。
そう、あれは多分…妖怪の類。となると、山羊のグローブで敵を1人
減らしてくれた彼の仕業ではあるまい。ちらりと見える、彼の持つ
「本」の表紙を見てもそれは明らかだ。

それにしても…あのヌメッとした碧い手で、袖口や胸元の懐や袴の中を
探られなくて済んだ…と考えると、少女は年相応の恥じらいでもって
ぶる、と身を振るわせたのだった。
39 : 詩乃守 優 ◆2Q1O8pP0eqqj [sage] : 2012/04/28(土) 05:33:26.18 0
名前:詩乃守 優(しのかみ ゆう) 詩乃守 優#sinigaminoyuu
性別:女
年齢:23
職業:無免許医師
外見:白髪のショートカット 病的なまでに痩せ形 目に酷い隈、三白眼、貧乳。
   ブカブカの汚れた白衣にボロボロのTシャツにジーンズ。
性格:基本的に無気力無関心だが興味(好意)を持った人物には依存する。
本の題名:『死神の名付け親』
備考: あらゆる病気・怪我を特別な薬草を用いて治せる。
    ただし、病気や怪我を治すには自分の寿命を使わなければならない。
使用する寿命の量は病気や怪我の程度によって変わる。
薬草は優のみが扱える。なお即死、即座に死に至る傷などは『基本的』に治せない。
だが反則技として1度だけ即死、致命傷の怪我の治癒も可能。2度目は自分の命と引き換えに。

 うわさ1 基本的に子どもの怪我や病気しか治さない
 うわさ2 大人は金持ち、貧乏平等に治さない。(よっぽどのことがない限り)
 うわさ3 本人は非力、武術は習ったこともないし、凶器は触れたことも無い。
      ただ、本の恩恵で人間の急所は熟知している。
40 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/04/28(土) 05:35:03.92 0
「……うん、これで大丈夫」

 翡翠色に輝く一枚の薬草。それを子どもの腕被せ包帯を巻きながら私は呟いた。
 ほんの十秒前まで痛みで泣いていた子どもは、その痛みが嘘だったかのように笑みを浮かべている。

「わあ、もう全然痛くないよ! ありがとう! お姉ちゃん!」

 そんな満面の子どもの笑みに、私は僅かに顔を綻ばせる。

「……ん、お礼は、いらない。それよりも、怪我に気を付けて」

 私はそれだけ言うと、使いもしない医療器具が入ったトランクを持ち、子どもに背を向けて歩き出す。
 後ろから浴びせられる子どもの感謝の声に、多少身体をくすぐられる様なむず痒さを感じる。
 やがてその声も聞こえなくなると、心に残るのは微かな空虚感。
 私は一体何をしているのだろうか? 何の為にこんなことを?
 隔離されたこの街で根無し草に歩き回っている私は一体何者だろう?
 そんな考えを邪魔するかのように、くぅ、とお腹が空腹を訴える。
 白衣のポケットに入っていた一欠けらのクッキーを口に頬張り、空腹を訴えてるお腹を黙らせる。
 これで食料も尽きた。 能力行使や寿命で死ぬ前に私は餓死で死ぬのじゃないだろうか?
 お金も尽きた。食料も無い。明らかにチャックメイトが掛かっている。
 ま、それもいいか。一応、私の能力で未来ある子どもを結構救えたのだ意味のある人生だ。
 では、命尽きるまで歩いてみよう。歩けなくなった時が、私の死に時だ。

 手に抱えた一冊の本を取り出し、ぱらぱらと最後のページを捲る。
 
 自らの欲の為に死神の力を使った男は、その死神によって命を絶たれた。
 でも私は男を愚かだとは思わない。少なくとも彼は人を何十人と救ったのだ。
 その見返りが少しはあってもよいだろうに、自らに与えられた本を読む度に私はそう思う。

 まあ、私は自らの欲を満たす前に、自分の命を使い果たしそうだけど。

 パタンと本を閉じ、私は再び歩を進める。目指す場所のない一人旅。死んだらそこまで、それもまあよいだろう。

(参加希望です、さっそくトリップミスったので変更します……すいません)
41 : 詩乃守 優 ◆2Q1O8pP0eqqj [sage] : 2012/04/28(土) 06:01:23.46 0
というのは全部嘘でーす
うんこまんこちんこあはははは
42 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/04/28(土) 22:16:47.63 0
彼女が最後の一人を打ち据えている間、僕はそれを見ていた。
なんとか、何とか見れていたというのが正しい。
何故なら、僕は今猛烈な空腹と倦怠感で立っているのがやっとの状態だからだ。
能力を使用した後はいつもこうだ。
三匹目のがらがらどんがトロルを谷へ突き落とした後、
丸々と肥えるほど三匹が草を食べたように、僕の能力は使用すると異常なまでに腹が減ってしまう
というやっかいな特性がある。

三人目の男が倒れると同時に、僕も立つのが辛くなりその場に倒れこんだ。
幸い、先ほど見かけたグラサンはこちらには向ってこなかったが
ここから一人で目的の店に向うのは難しいかも知れない。
朦朧とした意識の中、小さな女の子の声が聞こえる。
話ぶりから察するにあの女の子の知り合いのようだ。
何者かに金を奪われたといわれた瞬間、僕は恐る恐る財布の中身を確認した。
「…んっだよ」
小銭は無事だったが、そこそこあった札が千円札一枚だけになっていた。
その瞬間、疲れがドッと増したように感じ、うな垂れた。
怒りやその他諸々の感情は湧いたが、何分腹が減っているせいか
ただ絶望に似た感情だけが胸中を渦巻いている。
そんな中、あの女の子が駆け寄ってきた。
「いや…殴られてはいない…ただ腹が減りすぎて」
『ボルルルルルルル!!!』
会話を遮るように腹は雄たけびのような音を上げる。
「悪いんだけど、そこの角を曲がったところにあるケーキ屋まで肩を貸してくれないか?」
情けないが、今はこれしか方法が無い。

「うんまぁー!うっは超うめー!」
ヘンゼル亭の喫食スペースにて僕は我を忘れてショートケーキ(1ホール)にがっついていた。
ケーキの代金については、謝礼という形で「ネズミ」の人に立て替えてもらった。
出来ればショートケーキではなく、あのセットにしたかったが、
残念なことについさっき最後の一個が売れてしまったらしい。
ふと、視線を前に向ける。
目の前にはさきほどここまで連れて来てくれた彼女がそこにいる。
というより、僕が無理やりつき合わせたのだが
「…悪いね。初対面なのにつき合わせちゃって」
彼女の様子を伺いながら、僕はケーキを口に運びつつ話を続けた。
「ちょっと話がしたくなってね。とりあえず、自己紹介からしようか?
 僕は唐空呑、本は『三匹の山羊のがらがらどん』職業は見ての通り学生だ」
ただのショートケーキでここまで旨いとなるとあのセットはもっとなんだろうな
僕はそんなことを考えつつ、彼女、姫郡の自己紹介を聞いた。
43 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/04/28(土) 22:17:08.73 0
「お互い聞きたいことはそれなりにあると思うけど、先に僕の話を聞いて貰いたい
 どうしてこの街はこんなに物騒なんだろうね?
 ただ歩いているだけでトラブルに巻き込まれ、こんな風に金をスリとられる
 運が悪ければ殺されることもありえるかもしれない。
 それで考えた。なんで皆こんなに節操がないのか?
 そしたら、この街にあることが無いことに気がついた。
 この街はただ隔離してあるだけで、本に対してどう向き合うべきなのか、それを考え行動する
 機関や組織が全く無いんだ。どうりで多いわけだよ」
皮肉るように笑い、僕は話を続けた。
「原因が分かったなら、あとは動けばいいだけなんだけど
 ただの学生がそこまで出来る訳がない…僕はいつもそこで諦めてた。
 ついさっきまではね」
先ほど空腹のせいで紛れた怒りが沸々と湧き上がるのが分かる
「さっき金をスられた瞬間、ガマンの限界が来たね
 もううんざりだ。こんなイカれた街で平穏を保って生活なんか出来はしない
 誰もやらないなら僕がやってやる。そういう組織を作って徹底的にこの街を変えてやる
 …悪いね。ちょっと力が入りすぎた。
 まぁ要約すると『自警団+本の社会的活用法を考え実行する組織』を作ろうかなっていう話
 とここまで長々と話を聞かせるために君を付き合わせた訳じゃない
 出きれば、一緒にやってみないか?
 本格的にそういう組織として動くことになれば、敵対する人間による妨害をうける可能性がある
 その時のために腕の立つ人間も欲しくてね」
思いつきでここまでやってしまったが、彼女は乗ってくるだろうか?
常識的に考えて見ても、100%断られるのが目に見えてはいるが
「まぁ入るか入らないかは今答えなくてもいいさ
 とりあえず、僕はこれから僕の金をスリとった奴を取っちめに行くつもりだけど
 どうだい?暇潰しのつもりでもうちょい付き合って見るか?」

【姫郡さんをスカウト】
44 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/04/28(土) 23:00:32.40 0
>>32《琴里》
ある日、少女が玩具を買いにやってきた。ここまではなんのことはない日常だ。

「いらっしゃいませ~」

が、少女の手にはその年齢に似つかわしくない一万円札が握られていた。
まあこれもこの街ではなんのことはない日常茶飯事だ。

「そんな大金、どうやって手に入れたんだい?」

大方盗んだとかスったとかいうところだろう。
持ち主を聞き出して返しに行くか。
45 : 佐川 琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/04/29(日) 02:52:48.09 0

「やあやあ、店主。ご機嫌いかが? お得意様のお通りだよん。」
琴里は今、オモチャ屋の店内にいる。
ドールハウス、おままごとセット、ぬいぐるみの山、彼らはいつものように、その存在をもって来客を歓迎した。
入り口近くのテディベアを、少女はそっと撫でる。滑らかな毛並みが指の動きに沿う。
釣り下がった操り人形達は空調で微かに揺れ動く。最初は足並み揃って、徐々に不均一に。
(ここは静かで賑やかなところ。)
それが琴里の「ネバーランド」に対するイメージだ。
もう何度もこの店を訪れているのに、彼女が感じるわくわくは初めての時となんら変わらない。
「いらっしゃいませ~」
この人物の年に似合わない笑顔も、店の名物だと言える。
それこそ正真正銘のお子様である琴里より純粋な表情で、彼は人と接する。
 琴里は手汗で少し湿った一万円札を、彼の前にひらひらして見せた。
「ふふん、おじちゃん。今日のあたしは一味違うよ。ビー玉の一粒や二粒でおさまるようなお子様じゃない。
 さぁひれ伏すが――「そんな大金、どうやって手に入れたんだい?」
「.......」

 彼女は眉根に皺を寄せた。それはもう、深く深く。琴里は窃盗や詐欺をしばしば疑われた。
能力の性質上、それは仕方のないことだが、琴里には子供なりの美徳があった。盗みはいけない。
ちゃっかり感は否めないが、この金についても琴里自身では筋を通しているつもりだ。
街の住人は、故郷の景色を忘れ去るのと同じ速度で 長年の倫理感や道徳心を捨てていく。
ルールで縛られない人間は頭脳を持つ獣だ。そしてここに住む獣達には、奇妙な力が備わっている。
もしまた元いた場所へ帰れたら、人々はそれらをどんな目で見るのだろう。彼女は怖かった。

 琴里は手のひらを額へぱちんとぶつけ、大げさによろけた。
「失礼しちゃう!なにさ、その目は。正真正銘、あたしが稼いだ一万円よ。鼠さんからのご褒美だ。」
それでも何かいいたそうなので、琴里は矢継ぎ早に話題を変えた。
「もう、そんなに誰かを盗人に仕立て上げたいなら適材がいるから。
...さっき裏路地で得体の知れない化け物が、人のポケットから器用にお札だけ抜いて逃げてったよ。」
彼女は自身の言葉を機に、あの奇妙なぬめりを思い出す。もちろん気味が悪い。
目にも留まらぬ速さで駆け抜け、懐を探り、金だけひっつかみ、財布だけをまた戻す。
カッパだ。分かりやすい獣だ。異能の象徴だ。
(私もいつか、彼らのようになるのか。倫理を忘れた獣になるのか。)
ここは人外さえも許容する街だが、琴里がそれを見たのは初めてのことだった。
あからさまなアナーキストに、彼女は嫌悪と興味を同時に覚える。

「未知あるところに我あり!おじちゃん、暇なら一緒に犯人探そうぜ!?」





46 : 大河原万次郎ヘブンズドア[sage] : 2012/04/29(日) 03:08:16.40 0
私の名前は大河原万次郎。
子供の頃にある本を手に入れて以来、奇妙な体験している。
しかしそんな事は大したものではない。
私は大財閥、大河原一族の御曹司なのだから。

「暇……だ。こんなに退屈ではどうにかなりそうだ。
そうだ、町に出よう。」

私は町に出ることにした。
ショ・ミーンに接することで何か楽しいことがありそうだから。
47 : 大河原万次郎 ◆K2IPho2eGc [sage] : 2012/04/29(日) 03:14:33.50 0

テンプレ
名前:大河原万次郎(おおかわら まんじろう)
性別:男
年齢:29
職業:財閥御曹司
外見:亜麻色の七三分け、白のスーツ
性格:自己中心的、世間知らず
本の題名:白雪姫と7人の小人
備考:能力を使用すると、7人の小人(白色の妖精のようなもの)が
出現する。
それぞれが意思を持っており、勝手に行動することもある。
おつかいから、戦闘まで幅広く対応。

 うわさ1 超金持ちだが世間との認識のずれが激しい 
 うわさ2 時代劇が大好きで台詞をよく拝借する
 うわさ3 やたら眉毛が濃いが、地毛らしい
48 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/04/29(日) 10:00:05.32 0
>>42
警察に向かう『都会のネズミ』氏を見送った後──
頼まれるがままに、久実は『山羊のグローブの彼』をケーキ屋まで
送っていくことにした。
財布はコインロッカーに置いたままなので、申し訳なくお水だけ
いただいて…見ているだけで胸焼けしそうな彼の食いっぷりに
目を丸くしつつ、話を聞くことにした。

>>43
「えっと、私は中学2年の姫郡久実…『うりこひめ』です」
『とうから どん』…世の中には珍しい姓名の人がいるものだと妙に
感心しつつ、互いの学生証をチラと見せ合って名前と身分を確認しあう。
……
「あ、あの、ちょっとすいません」
手助けしてもらった恩もあるし、しばらくは黙って聞き役に徹していたが…
「ん?」
「お話やお気持ちはよく分かりましたし、賛同できる部分も多々あるん
ですけれど…ちょっとスケールが大きすぎて。能力を使った自警団活動や
ボランティアをしてる方々は何人か存じ上げていますが…まとまって
活動するとなると、大人の方の支援も必要になってくるし、学校の生徒会
みたいには、そうそう…」

『月のうさぎ』の皆川さん、何故か決して素性は教えてくれない
『ティンカー・ベル』さん、それから…ボランティアで児童施設にも
ときどき慰問に来てくれる『赤い靴』の君香さん…。
その他、何人か相談に乗ってくれそうな顔は浮かんだが…
今、彼らを紹介するのはさすがに気がひけた。

「どうだい?暇潰しのつもりでもうちょい付き合って見るか?」
そうそう、暇でもないのだけれど…幸い、今夜の食事当番は
同じ施設で暮らす友人のターンだ。
心配性の園長にも予め「少し、遅くなるかもしれない」と言って出てきて
いるし…。

「…分かりました。助太刀のお礼もまだですし、門限までの間なら」
久実は少しの間考え、ややあってうなずいて見せた。
多分、彼…唐空さんは自身の「燃費の悪さ」を恐れているのだろう。
1人KOしただけで、彼は力を使い果たしてしまう。
だから、いざという時の用心棒として…自分を必要としている、と。
そう内心で納得しながら、久実は立ち上がった。
「…あ、一つご注意を」
「何だい?」
「私の能力では…食べられる瓜は作れないんです。またお腹が空いた時の
ために、何かご用意されていっては?」

そう。
久実の生み出す瓜の蔓は…子供達の空腹を満たすためには使えない。
ましてや、民話の『瓜子姫』のように、綺麗な織物など…。

護ると言えば聞こえはいいが、私には、相手を傷つける力しか備わって
いない。
それが時々…ずん、と重くのしかかって来る。
ふう、と息をつくと、久実は振り向いて、出会ってから初めての笑顔を
唐空に見せた。
「さ、善は急げです。手掛りがありそうなところに行きましょう」
49 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/04/29(日) 20:13:36.40 0
 大人は誰も私を救おうとしてくれなかった。だから、私も大人を救わない。

 パチリと目を開けばそこは公園だった。滑り台にブランコ、シーソーに砂場、様々な遊具が並んでいる。
 幼い頃、大体の人が来た事があるだろう憩いの場。そんな公園のベンチに私は身を横たえていた。
 一瞬何故自分がこんな所で寝ているのか分からなくなるが、それも一瞬の事。

 ……あぁ、昨日は、結局歩き疲れてここで野宿したんだっけ?

 モノを盗られた形跡はない。そもそも、盗るほどのモノも無いけど。
 あるとすれば医療器具の入ったバックか、本ぐらい。どちらも枕代わりにしていたので取りようもないが。

 私は一度大きく欠伸をし、両手を伸ばすと、パキパキと身体が音を響かせる。
 それと同時にお腹が、くぅ、と音を発し空腹を訴えた。
 昨日はクッキー一欠けらに水道水……今日はクッキーの一欠けらも無いから水道水のみ。

「……お腹へった」

 公園の水道から水を飲み、誰に言うでもなくポツリと呟く。自然と口から洩れた言葉だった。
 この時代にこの年齢で餓死とは中々あり得ない死に方だ。新聞の片隅位には乗るかもしれない。
 そんなくだらない考えごとをしながら私は歩き出す。歩けるうちはまだ大丈夫だろう……、足取りは少し怪しいけれど。
 歩き出して10分もたった頃だろうか、甘い香りが鼻腔を掠めた。
 気が付けばスイーツショップの前。どうやら無意識に香りに引き寄せられてしまったようだ。
 途端に、くぅくぅ、と身体は食料を要求し、口内からは無意識に涎が溢れる。
 だが、私は生憎の文無しだ。犯罪を犯してまで食料を得る気も無いし、そもそもそんな能力は私に備わっていない。
 こんな所で小汚い女が突っ立てても店にとって営業妨害だろう。
 私は、ふぅ、と小さな溜め息を吐くと、再びふらふらとした足取りで歩き出した。 
50 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/04/29(日) 23:51:51.02 0
>>45《琴里》
少女の名は琴里。ネバーランドの常連客である。
彼女はおどけた動作で、疑惑をきっぱりと否定した。

>「失礼しちゃう!なにさ、その目は。正真正銘、あたしが稼いだ一万円よ。鼠さんからのご褒美だ。」

琴里ちゃんは根は素直ないい子だ、嘘をついているとは思えない。 
根拠? そんなものは目を見れば分かる!(どんっ)
しかし鼠さんとは何のことだ? 某アメリカネズミか? 夢の街だけに。

>「もう、そんなに誰かを盗人に仕立て上げたいなら適材がいるから。
...さっき裏路地で得体の知れない化け物が、人のポケットから器用にお札だけ抜いて逃げてったよ。」

「得体の知れない化け物だって!?」

反応する! ベルセンサーがビンビン反応するぞお!
説明しよう、ベルセンサーとは妖精美少女戦士ティンカー・ベルが持つ邪悪を察知するセンサーの事である。
ただしそんな異能は本には無く、例によって私の脳内設定だ。

>「未知あるところに我あり!おじちゃん、暇なら一緒に犯人探そうぜ!?」

「うむ、人様が汗水流して稼いだお金を盗むとは許さん!
一緒に犯人をとっつかまえようではないか!」

私は店の入り口に『ちょっと出かけます』の張り紙を貼り、服の内ポケットにある物が入っているのを密かに確認する。
永遠の少年の物語『ピーターパン』――私を妖精魔法少女たらしめるもの、ポケットサイズの小さな本だ。

「よし、行こうか」

幼女とおっさんの探偵コンビが意気揚々と店を出る。

>>49《優》
「むぅ……やはりそう都合よく犯人と遭遇とはならないか」

犯人探しは早速行き詰っていた。当然と言えば当然である。
美少女戦士たるものドンパチやっているところに現れて颯爽と解決するのが基本なので、探偵業務は慣れてない。
現在地はスイーツショップの前に差し掛かった辺り。

「琴里ちゃん、おやつでも食べながら作戦を考えようか……む?」

若い女性が浮浪者のようにふらふらした足取りで歩いてくるではないか。私は驚いて声をかける。

「どうしたんだい? お嬢さん」

彼女が答えるまでもなく、くぅ、と音が聞こえる。ひどくお腹がすいているらしい。
おやつに誘ってみる事にした。

「今ちょうどおやつを食べようと思っていたところなんだ。良ければ一緒にどうかな?」

そう言って彼女をスイーツショップの中へ促す。
51 : 大河原万次郎 ◆K2IPho2eGc [sage] : 2012/04/30(月) 01:02:51.07 0
大河原万次郎の優雅なおやつ―

「この店にあるス・イーツとやらを食してみたい。
さぁ、遠慮はいらない。私を満足させてみたまえ。」

たまたま立ち寄ったスイーツショップにて、「東海の王子」こと
大河原万次郎はスイーツショップの店員を相手に尊大な態度で
フォークとナイフを手にしていた。
横には手を洗うフィンガーボール、更には白いスーツの胸元に
ナプキンも用意してある。
周囲の客の奇異の目も知らず、大河原は店に入ってこようとしている
団体客にようやく気付くと笑顔でそれに声をかけた。

「おぉ、君達は私を歓迎する為に現れた庶民ではないかね?
いいぞ、私はこれからス・イーツなる庶民の食事を楽しむところだ。
君達の分も、金銭を払おうではないか
さぁ、そこの小姓。メニューを持ってきなさい。」

小姓と呼ばれた店員が怪訝な顔をしながら、客達にメニューを
配り始めた。
52 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/04/30(月) 18:30:50.20 0
>>49
荒らしは書き込むなよ邪魔だ
53 : 佐川 琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/04/30(月) 21:09:54.70 0
>>51

 意気揚揚と洋菓子屋に繰り出した琴里だったが、入った途端、店内の異変に気づき後続の大人達を手で制す。
ある一角がギリス王朝風のオーラで区切られ、周囲から浮き上がっているのだ。
その中心に鎮座する男が、来店のドアベルを聞き優雅に振り返った。
>「おぉ、君達は私を歓迎する為に現れた庶民ではないかね?」
「そ、その独特なイントネーション、パリッパリのホワイトスーツ、何より舞台化粧かと見間違うほど濃ゆい眉毛…あんたは!」
一旦言葉を溜めて、琴里は周囲の注意を引く。

「資本主義の悪しき権化、大河原万次郎!」

見ないふりを決め込んでいた良識ある客も、その大声に体を強張らせた。
万次郎の周りに集中線が結ばれる。

「噂には聞いてたけど、なんたるブルジョワジー…こんなところに何しに来たのさ。」
>「私はこれからス・イーツなる庶民の食事を楽しむところだ。」
「大河原財閥の富をもってすれば専属パティシェを雇って食べ放題だろうに…
さてはあたしら庶民を馬鹿にしようって魂胆だな?
ねえ二人とも。こんな店出ちゃおう、きっとあいつ札束見せびらかしながらケーキ食うよ?!」
しかし、万次郎は金持ちならではの余裕で、琴里の罵倒を無視し、寛大な提案を口に乗せる。


>「君達の分も、金銭を払おうではないか」
「貴方のことはこれ以降、若殿と呼ばせて頂く。」

その転身ぶりはいっそすがすがしかった。
忠義堅い老中の如き迅速な反応で、琴里はその場に片膝つく。
「それがし、佐川琴里と申す者。人呼んでツバメ返しのお琴でござる。
あ、小姓殿、水とおしぼり三人分追加で。」

54 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/05/01(火) 00:14:09.11 0
彼女のお答えは予想通りNOだった。
当たり前だ。初対面なのにいきなりこんな話をされた挙句
立ち上げてさえいない組織からの勧誘、僕だって断る。
だが、まぁまんざら脈無しではなさそうだ。
理由は彼女が断った理由、彼女はただ「実行するにはスケールが違いすぎる」だけで断った。
自分には向いてないとか、私情諸々と断る理由はあれども、それは挙げず。たったそれだけ
まぁオブラートに包んでやんわりと断ったという考えが出来なくもないというか
常識的にそうなんだろうが、彼女の場合は少し訳が違った。
先ほど僕らは同じ火中の栗を拾ったが、その目的は全く違った。
僕は脅威から逃れる為に彼女を利用しようと手を突っ込んだ。
だが、彼女はどうだろうか?彼女と都会ネズミの間には何のかかわりも無い
そのつもりになれば見過ごせる喧嘩に突っ込んでいったことになる。
そこから考えられることは二つ
1、正義のヒーローを気取った自警行為がしたい
2、自身の嗜虐心を満足させるため
この二つのどちらか、もしくは、両方に当てはまるのではないかと思う。
ようするに、彼女も能力を持て余している訳だ。
その答えに、勧誘は蹴ったがスリの件は協力すると言った。
「そんじゃ早速…」
と立ち上がろうとした瞬間、僕の足はピタリと止まった。
「…」
がーんだな。出鼻を挫かれた。
「しょうがない…持ち帰り用のケーキでも頼もうか」
虎の子の野口…今日の晩メシ代も含まれている以上
ここでは使いたくは無いが…と躊躇していると
やたらと傲慢そうな奴が入店するや否や、騒いでいる。
うるさいな…こっちは今苦渋の決断を…
と眉間に皺を寄せて考え込んでいると、視界を遮るように店員がメニューを掲示してきた。
話を聞くと、どうやらあの傲慢な奴がご馳走してくれるらしい
「…ガトーショコラ1ホール!一番大きい奴で」
ありがたい。あぁいうタイプのバカには是非破産してほしい。
「僕の問題はこれで解決した。善は急げというが、せめてケーキが来るまでは待とう」
再び彼女に座るよう促すと、僕はかばんの中から先ほどまで読んでいた雑誌を取り出した。
僕はそれをバラバラと捲り、店の地図が書いてあるページを開く
「ただ闇雲に探してもラチが空かないと思うんだ
 多分だけど、やり口といい手際といい、犯人はそうとうヤリ手だ」
そういうと僕は先ほど喧嘩をしたあの場所に印をつけた
「となれば、僕以外にも被害者はいるはずだ。
 どのへんで、どんな風にスられたのが調べれば、もしかしたら犯人のアジト
 もしくは、狩場を突き止めることが出来るはずだ。」
僕は早速携帯を取り出し調べ始めた。
55 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/05/01(火) 00:14:59.22 0

予想外だった。大漁…まさにそれだ。
まさかここまで節操の無い奴だとは思わなかった。
「まさか、こんな短時間でここまでやれるとは思っていなかった。」
無数の印が刻まれた地図を見ながらそんな言葉が漏れた。
だが、これで目的の場所がはっきりした。
「スリはここを中心に起こっていると見ていいだろうな」
僕が指をさした地点、それは怪奇スポットとして有名な幽霊長屋
なるほどアジトにするには丁度いい物件かもしれない
場所が分かった以上、あとはケーキを受け取って殴りこむだけだ。
とそう意気込んだ瞬間、横から妙な視線を感じた。
「…知り合い?」
視線の先にいた妙なおっさんを指さして、僕は彼女に尋ねた。
反応から察するにクロのようだ。よく見ればさっきのチビっ子も居る
「…もしかして、聞こえてた?」
じっとりと脂汗が流れる。だって、このオッサン妙に気色悪いんだもん。
そこに割ってはいるように店員が持ち帰りようのケーキを持って来る。
「あの…もしかして興味とか湧いちゃいました?」
恐る恐る僕はオッサンたちに話かけた。
オッサンの様子から察するに興味深々とみて間違いは無いだろうな
連れていきたくは無いが、付いてくるに決まっているだろうな
56 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/05/01(火) 00:21:01.21 0
>>50 >>51 >>53
>「どうしたんだい? お嬢さん」
 
 スイーツショップからふらふらと立ち去ろうとした矢先、後ろから呼び止められる。
 振り返ればオジサンと小さな女の子。自然に考えれば親子だろうか?
 私がそのオジサンの言葉に答えようとした時、くぅ、という音と共に『お腹がすいてます』と身体が自己主張する。
 堪え性のない身体にかなりの恥ずかしさを感じた。恥ずかしさの余りに顔が熱を帯び赤くなるのが分かる。

>「今ちょうどおやつを食べようと思っていたところなんだ。良ければ一緒にどうかな?」

 それでもなんとか体裁を取り繕おうと私は掛けられた言葉に冷静な風を装い返事を返す。
 無論、他人から見れば悲しい努力であろうが……。

「……ん、いえ、結構です。私、お金持ってないですし。
 それに、私みたいな汚い人が居ては気を悪くする人も、きっといます。なので、私は」

 遠慮します、と続けようとしたところで再びお腹が、きゅ~、と鳴った。
 今度は取り繕える小ささではなかった、まるでお腹に小動物でも抱えているのか? と錯覚するような音。
 どうこの場を取り繕い離脱しようかと考えていた時、店内から演技掛かった口調が響いてきた。

>「おぉ、君達は私を歓迎する為に現れた庶民ではないかね?」

 どのような環境にいてどのような教育を受ければこんな言葉遣いになるのだろうか?
 その言葉にいち早く反応したのは一足早く店内に入っていた女の子。

>「そ、その独特なイントネーション、パリッパリのホワイトスーツ、何より舞台化粧かと見間違うほど濃ゆい眉毛…あんたは! 資本主義の悪しき権化、大河原万次郎!」

 女の子は一拍間を置いた後、大声でその男の名を呼ぶ。
 こんな小さい子でも知っているのだからきっと相当な有名人なのだろう。
 一か所に留まらない根無し草で年中貧乏な私にはきっと一生縁の無いような人物だろうというのはその身なりから容易に想像できた。

>「噂には聞いてたけど、なんたるブルジョワジー…こんなところに何しに来たのさ。」
>「私はこれからス・イーツなる庶民の食事を楽しむところだ。」
>「大河原財閥の富をもってすれば専属パティシェを雇って食べ放題だろうに…
 さてはあたしら庶民を馬鹿にしようって魂胆だな?
 ねえ二人とも。こんな店出ちゃおう、きっとあいつ札束見せびらかしながらケーキ食うよ?!」
57 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/05/01(火) 00:22:30.27 0
 がうがう、と犬のように男に噛みつく女の子、金持ちが嫌いなのか、それとも彼個人が気に入らないのか……。
 というか、私はいつのまにか人数に加わってしまっている。私みたいなのがいるのは明らかに場違いだろう。
 というよりも、何よりもこの親子(?)の団欒に水を差すのはよくない。

「……あの、私は」

 私が改めて断ろうと言葉を発しかけた時だ。

>「君達の分も、金銭を払おうではないか」
>「貴方のことはこれ以降、若殿と呼ばせて頂く。」

 この彼の一言にて完全に女の子は180度態度を翻す。その転身ぶりは見ていていっそ清々しい。

>「それがし、佐川琴里と申す者。人呼んでツバメ返しのお琴でござる。
あ、小姓殿、水とおしぼり三人分追加で。」

 テーブルの上には既に人数分の水とおしぼり、完全に逃げ場を失った……。
 ここで断ってしまってはかえって失礼に当たるかもしれない。
 私は席に着く前に周りのお客さんに謝罪の意味を込めて頭も下げる。
 そして目の前の親子(?)と大河原さんにも頭を下げる。

「……ん、あの、家族の団欒に水を差してしまったようで申し訳ありません。
 それと、大河原さんも、その私みたいのが同席してよいものか……えと、ありがとうございます、ごちそうになります」

 言い終えた後、あ、と思い出したかのように声を上げる。

「……私、詩乃守 優と言います。あの、よろしくお願います」
58 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/05/01(火) 20:29:23.93 0
>>51
何だか、お菓子…もとい、おかしなことになってきた。
この街で一番の資産家・大河原氏だ。
『都会のネズミ』の社長からも話は聞いていたが、本人を見るのは初めて。
財界においても社交界においても、「セレブ」としては
色々と浮いている人とかで…。
上流階級のことはよく分からないけれど、彼もまた「この街」に隔離されて
いる1人には違いないだろう。
それにしても…

>>54
引きとめられ、久実は再び(店員さんに「すみません…」と頭を下げて)
腰を下ろした。
確かに…調査と言っても下準備は必要。
「それで、具体的には…」
口を挟もうとして、そのままポカーンと開いたままになる。
これだけの被害が出ていることも驚きだが、僅かな時間でそれらを
収集できる情報網…。
(この人、何者なんだろう…!?)
何かがざわつく。風に葉が揺れるみたいに。
そう言えば。
──先刻、笑顔で立ち上がった瞬間によぎった違和感を思い出す。
59 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/05/01(火) 21:26:27.59 0
>>53
「こ~~~と~~~り~~~!?」
ゴゴゴゴゴゴゴ。小学生の背後に怒りのオーラを放つ黒い影。

全く、シリアスに熟考する間もありゃしない。
「何してんのこんなところで!早く帰りなさいって…あ、こ、こんばんは」
『ネバーランド』の店長さんも一緒だと気づき、慌ててぺこりと一礼。
クリスマスに雛まつり、こどもの日に七夕…街の子ども会でも何かと
施設ぐるみ、お世話になっている玩具屋さんだ。
「あの、この子がまた何かご迷惑を…?」

ちなみにこの店長=橘川さん、何の『本』持ちかは…
前に聞いてみたけれど笑って教えてくれなかった。
なにぶんプライベート、かつ人によってはデリケートな話題なので、
(サンタクロースとか福の神とか、そんな感じかな?)
そう思うことにして、それ以後は特に話にも挙がっていない。

>>57
じたばたする琴里を背後から押さえ込みながら、ふと、連れの女性と
目が合う。
「あ…」
あのときの。
「あ、あの…その節はお世話になりました…えっと、
覚えていらっしゃいますか?
うちの施設の子が、墜ちて怪我をしたときに応急手当してくださって…」

「落ちて」ではなく「墜ちて」。空を飛ぶ能力があるのはいいのだが、
毎回墜落やら不時着やら、まともに着陸できた試しがない少年。
その子の持ち本は…いや、それはまた別のお話。
改めて、施設に招き入れてお礼を…と思っていたら、いつのまにか
居なくなってしまっていたその女性が、目の前にいる。
「琴里、あんた…この先生…と知り合いだったの?」
60 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/05/02(水) 01:04:44.19 0
店に入ると、異様な光景が展開されていた。

>「おぉ、君達は私を歓迎する為に現れた庶民ではないかね?
いいぞ、私はこれからス・イーツなる庶民の食事を楽しむところだ。
君達の分も、金銭を払おうではないか
さぁ、そこの小姓。メニューを持ってきなさい。」

>「資本主義の悪しき権化、大河原万次郎!」

「何!?」

大河原財閥当主、大河原万次郎――彼による大人買いで、店の経営はかなり助かっている。
買いに来るのは使用人なので、本人を見たのはこれが初めてだが。噂通りの凄い眉毛だ。

>「大河原財閥の富をもってすれば専属パティシェを雇って食べ放題だろうに…
さてはあたしら庶民を馬鹿にしようって魂胆だな?
ねえ二人とも。こんな店出ちゃおう、きっとあいつ札束見せびらかしながらケーキ食うよ?!」

「う、うむ……そうだな」

店の経営を考えると、今後とも贔屓にしてくれるように挨拶でもしておきたいところだが
純粋な少女に大人の事情を見せるわけにはいかない。

>「君達の分も、金銭を払おうではないか」
>「貴方のことはこれ以降、若殿と呼ばせて頂く。」

大河原殿の提案に、琴里ちゃんはすっかり乗り気だ。
こうなれば私としても断る理由はない。

「やあやあすまない、お言葉に甘えて御馳走になるとしよう」

>「……ん、あの、家族の団欒に水を差してしまったようで申し訳ありません。
 それと、大河原さんも、その私みたいのが同席してよいものか……えと、ありがとうございます、ごちそうになります」

「何遠慮することは無い、と言っても払うのは私ではないが。はっはっは」

>「…ガトーショコラ1ホール!一番大きい奴で」
>「僕の問題はこれで解決した。善は急げというが、せめてケーキが来るまでは待とう」

一回外に出かけていた先客が戻って来る。
大河原殿は私達のみならず、先に店内にいた高校生らしき二人組のお代も持つようだ。

>「……私、詩乃守 優と言います。あの、よろしくお願います」

「私は橘川鐘、玩具屋の店主をやっている。
こっちは佐川 琴里ちゃん、うちの大事なお客さんだ」

こうして奇妙な顔ぶれのおやつの時間が和気藹々と流れていく。
61 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/05/02(水) 01:18:25.21 0
ふと、興味深い話が耳に入ってきた。
高校生らしい少年は、スリの犯人の推理をしている。

>「あの…もしかして興味とか湧いちゃいました?」

私は親指を立てて満面の笑みで答える。

「ビンゴ! 奇遇だなあ、丁度私達もスリの犯人を捜そうとしてたところだ」

今度は、二人組の少女の方が、怒りのオーラを放ちながら琴里ちゃんに詰め寄ってきた。
というか琴里ちゃんの児童施設の先輩の久実ちゃんだ。

>「こ~~~と~~~り~~~!?」
>「何してんのこんなところで!早く帰りなさいって…あ、こ、こんばんは」

「ははは、そんなに怒らないでやってくれ」

>「あの、この子がまた何かご迷惑を…?」

「迷惑だなんてとんでもない、いつも楽しませてもらってるよ」

久実ちゃんは、意外な人に話しかける。

>「あ、あの…その節はお世話になりました…えっと、
覚えていらっしゃいますか?
うちの施設の子が、墜ちて怪我をしたときに応急手当してくださって…」

>「琴里、あんた…この先生…と知り合いだったの?」

「いや、今そこで会ったばかりだと思うよ。
それにしてもよく集まったもんだなあ。
ここで会ったのも何かの縁だ、皆でスリ事件解明と洒落こもうじゃないか」
62 : 佐川 琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/05/03(木) 01:27:06.32 0

>>59>>60
>「こ~~~と~~~り~~~!?」
「ひ、姫姉ちゃん...コンバンハ~」
>「何してんのこんなところで!」
「なにって資産階級のティーブレイクを...」
久美の手は今度こそ確実に琴里の襟を捕まえた。
橘川店長が取り成してくれたことで、なんとかゲンコツは免れた。
(サンキューおじちゃん)
しかし余程信用ないのか、いつまでたっても久美は琴里の傍を離れず、その動きを封じている。
抵抗すればますますがんじがらめに囚われてしまうだろうが、そうせずにはいられない。琴里はとりあえず不満の意を表すために手足をばたつかせ続けた。
久美はと言うと、琴里を捕まえながら器用にも大人達に挨拶をして周っている。
>「琴里、あんた…この先生…と知り合いだったの?」
>「いや、今そこで会ったばかりだと思うよ。」
「そだよ、さっきそこでおじちゃんがナンパした。」
負けじとへらず口を叩き、久美がしかる。琴里は反省せずにまた茶々を入れ、それを久美が...――
二人が揃えばいつでもどこでも、児童施設内での日常が再現されるのだった。

そんなこんなで久美がお小言を終え、琴里はやっと解放された。
「うへぇ、服伸びちゃったじゃない、どうしてくれんのさ...」
恨めしげに上着の皺を伸ばしていると、
>「それにしてもよく集まったもんだなあ。
ここで会ったのも何かの縁だ、皆でスリ事件解明と洒落こもうじゃないか」
橘川店長の掛け声が店内に響く。
琴里は肝心の河童討伐の作戦を聞いていなかったが、まあどうにかなるだろうと構えた。
その一方で、少し気がかりなこともある。

「あのさ、詩乃守先生。もし暇だったらあたし達についてきてくれるかな。」
隣りでおとなしく座る女性に、琴里はこっそり耳打ちした。
「姫姉ちゃんてね、ハッスルすると激ヤバ。今まで人殺さなかったのが不思議なくらいなの。
隣りのお兄さんも負けず劣らずハチャメチャバイオレンスだし...。
あたしじゃ、ストッパー役なんて務まんないよ。お願い、一緒に行こ?」

63 : 大河原万次郎 ◆K2IPho2eGc [sage] : 2012/05/04(金) 01:53:39.19 0
>>53
>「貴方のことはこれ以降、若殿と呼ばせて頂く。」

急に態度を変えた女児に、流石の私も驚いたが
万札を小姓に渡すと早速ス・イーツを注文する。
この「小栗・今が旬のアラモード」なんていいだろう。

女児の連れだろう。いささか汚れた衣服を着た女と
やや歳をとった男がやって来た。

「ん?君は何処かで見たような。見てないような、いや見たような。」

男の方はどこかで見たことがありそうだが、思い出せないので
無理には思い出さない。
しかし、気にはなる。なんだかこういう感覚は気持ちが悪いものだ。

>「……私、詩乃守 優と言います。あの、よろしくお願います」

女の挨拶に、私はテーブルに足を投げ放ち光り輝く笑みを浮かべる。
これが大河原万次郎の、大菩薩スマイルである。

「あぁ、宜しく頼むよ。さぁ、腹を満たすがいい。」

食事の途中、スリの話を耳にし私は少しばかり気になった。
庶民の間では、金銭や金品等を相手から無理やり奪い取る行為をそう
呼ぶらしい。

「ほぅ、スリとは面白い。そんなに他人の物を強奪する遊びが流行っているのか。
いずれそのスリをする庶民にも会ってみたいぞ。」

私はスリの公式スポンサーになろうかなと思いながら
小栗を口に入れた。
64 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/05/04(金) 04:05:13.15 0
>>55 59 62
 自己紹介を終えた私は、なんとなしに周りの人の会話に聞き耳を立てる。
 最近この近辺ではスリが多発しているらしく、2人組の男女はその調査を独自にしようとしているらしい。
 2人とも見た目からして学生だろう。
 まあ、私なんかは、何もそんな面倒くさそうな事件に態々首を突っ込まなくてもいいだろうに、と思う。
 ほっといても警察がなんとかしてくれるだろう。この国の警察はそこまで無能では無い筈だ。
 そんなことより、と言わんばかりに私はもふもふ、と、大河原さんに奢って頂いたケーキを頬張る。
 ふわふわのスポンジに甘いホイップクリームの絡んだ苺のショートケーキ。
 苺の微かな爽やかな酸味と、くど過ぎないクリームの絶妙な甘さ、そしてふわふわとした食感がたまらない。
 こんな美味しいモノを食べたのはいつ振りだろう。思わず少し涙目になる。何せまともな食事さえ久しぶりなのだ。
 がっつきそうになるのを押さえながら、一心不乱に小さく切り分けたケーキを口に運んでいく。
 結局そのケーキを食べ終わるまで、周りの雑音など私の耳には届いてこなかった。

 ふう、と満足気な溜め息をつきつつ紅茶を飲む。満ち足りた、とはこういう事を言うのだろう。
 そんな事を考えていると、ふと、先ほどの2人組の女性と目があった。何処かで見かけたような?
 私がそう思った時、彼女が、あ、と声を上げた。

>「あ、あの…その節はお世話になりました…えっと、
  覚えていらっしゃいますか?
  うちの施設の子が、墜ちて怪我をしたときに応急手当してくださって…」

「……ん、あ、あの時の」

 私もそこで思い出す。一日に何人かの子どもを治療しているが、高所から墜落した子は珍しかった。

>「琴里、あんた…この先生…と知り合いだったの?」
>「いや、今そこで会ったばかりだと思うよ」
>「そだよ、さっきそこでおじちゃんがナンパした。」

 私が言うより先に橘川さんと琴里ちゃんが彼女に説明する。ナンパはされていないが……。
 
「……ん、ナンパはされてませんけど、そういう事です。
 あと、先生は止めてください。免許持ってるわけではありませんし……」
65 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/05/04(金) 04:07:56.41 0
>>61 62 63
私が彼女にそう言った直後の事だった。

>「それにしてもよく集まったもんだなあ。
ここで会ったのも何かの縁だ、皆でスリ事件解明と洒落こもうじゃないか」

おかしな台詞が橘川さんの口から放たれた。……? 私は紅茶を飲みながら思わず首をかしげる。
 橘川さんの言う『皆』には私は含まれているのだろうか? 含まれていないのならいいのだが、それを口にする勇気はない。
 多分、それを口にしたら、きっと、ほぼ、いや、確実に巻き込まれる。
 いや、だって、さっきも思ったけど、そんなの警察に任せておけばいいじゃないか。
 そんな事を考えてた矢先の事、琴里ちゃんがこっそりと私に耳打ちしてくる。

>「あのさ、詩乃守先生。もし暇だったらあたし達についてきてくれるかな。
  姫姉ちゃんてね、ハッスルすると激ヤバ。今まで人殺さなかったのが不思議なくらいなの。
隣りのお兄さんも負けず劣らずハチャメチャバイオレンスだし...。
あたしじゃ、ストッパー役なんて務まんないよ。お願い、一緒に行こ?」

 そんなデンジャーな人達のストッパーなんて私にも務まるわけがない、
一言、確実に言えるのは、警察に行ってください、お願いですから。
 しかし、私にも、ケーキをご馳走になった恩がある。まあ実際にご馳走してくれたのは大河原さんだけど。
 スイーツショップの前で橘川さんと琴里ちゃんが声を掛けてくれなければこのケーキは食べれなかった。
 だからと言って……そんな……面倒な、ことに……。
純朴な瞳でこちらを見上げてくる琴里ちゃん。その視線に、私の心はパキリと折れた。

「……ん、分かりました。でも危ないことは、駄目です。
私は、危険だと判断したらすぐに逃げますから、それでよければ」

 こうして私も、この事件に(半ば強引に)巻き込まれていくことになった。
まあ、子どもたちが怪我したら治さなきゃだし。しょうがないかな……。

>「ほぅ、スリとは面白い。そんなに他人の物を強奪する遊びが流行っているのか。
いずれそのスリをする庶民にも会ってみたいぞ。」
 
「……ん、あの、大河原さん? スリは遊びじゃなくて一応犯罪なんで……」

 大河原さんの呟かれた常識はずれな言葉に、小さな溜め息を吐きながら、一応突っ込んでおいた。
66 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/05/06(日) 22:00:45.56 0
『なんで学校行ってるの?』と言われると、困る。
だって別に勉強は家でもできるし、友達とは外で遊べるし、いまどきは試験さえ受ければ高卒資格とれるもんね。
勉強したり、友達と会うだけなら、学校じゃなくてもできる。むしろ朝礼とか通学とか、無駄な時間でさえある。
だって考えてもみなよ、一週間のうち5日も連続して同じ時間に起きて同じ時間机に座って同じ道を歩いて……なんてのは。
どこか麻痺しちゃってるけど、客観的に見たら、正気の沙汰じゃないよ。軍隊だってもう少し起伏に富んだメニューをこなす。

じゃあ学校行かなければいいじゃんって考えにもなるんだけれど、ていうかそういう理屈でサボる奴もいっぱいいるけれど。
僕らはどうしても週五日のルーチンワークを手放せない。決して安くない学費を払って、学生って身分にしがみついている。
なんでそうまでして学校という場所に拘るのかと言えば、きっと期待してるんだろうな、と思うのだ。
活躍を。友情を。恋愛を。闘争を。小中高と十年以上の学校生活の中で、誰にでも巡り得る株上げイベントのチャンスを。
全校生徒ウン万人で青春という名の配当を目指す、気の長い宝くじみたいなものなんだろう。

そう。
僕らは青春をしに行くんだ。
67 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/05/06(日) 22:13:14.53 0
目的が一致してしまった僕達はケーキ屋を後にし
スリがアジトにしていると思われる幽霊長屋に向った。

向う道中、確認の為に合流した4人と共にもう一度状況を説明するついでに
先ほどスリ被害について調べていた時に見つけた別の情報も教える。
「スリの被害はとある廃屋、通称『幽霊長屋』を中心に発生していることがわかった
 おそらく犯人は、そこをアジト、もしくは仕事の拠点として構えていると僕はふんだ
 スリの手口はいつも同じで、人間では無い緑色の生物がすばやく札だけを奪い取って逃げる
 とまぁ外の人間が聞いたらUMA騒ぎが起こってもおかしくない手口だけど
 恐らく本を使って作り出した生物だと見ていいかも知れない」
一度、各々の様子を伺う。詩之守先生のノリ気の無さが目立った。
「僕らの目的は、スリを実行している者を発見して、捕まえること
 出来れば手荒な真似はしたくはないけど、贅沢は言ってられないかな」
まぁ場合によっては抵抗しなくてもするかも知れないけどね。

しばらくして、目的の幽霊長屋へ到着した。
幽霊長屋といわれるだけあって、人も住んでいるとは考えがたいぐらいボロボロだ
まぁそれがかえって、悪事を働くのに好都合なのかもしれない。
「早速中に入ろうと思うんだけど、その前に一つ
 とりあえず、中に入ったら基本固まって動こう。そっちのほうがもしもの時に対応出来る
 もっと細かく言うなら詩之守先生と琴里ちゃんはなるたけ後ろの方に」
非戦闘員タイプの詩之守先生と幼い琴里ちゃんを前に置くわけにいかないし
2人とも能力も支援向きな以上、この配置であっていると思う。
「んでその前に姫郡さんとオッサン、一番前が僕と大河原で行こうと思うんだけど」
能力の詳細が分からない二人をどう使えばいいか、ちょっと悩んだが
とりあえず、一番腕の立つ姫郡を中に置いて、前にも後ろにもサポートできる体制を作ったがどうだろうか
「んじゃ…はじまりはじまりってことで」
そういうと僕は、今にも倒れそうなドアを蹴破って幽霊長屋へと足を踏み入れた。
68 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/05/07(月) 01:13:40.23 0
>>61
>ここで会ったのも何かの縁だ、皆でスリ事件解明と洒落こもうじゃないか
(えええええっ!?)
店長の口からそんな言葉が出るとは予想してなかった。
特に自警活動をやってると聞いたこともないし…若い子たちだけで
動こうとしてるのを心配してくれてるのだろうか?いや、それなら
まず「危ないことはダメ」と制止するだろうし…。
大丈夫、だろうか?
人物としては充分信用・信頼できる小父様なのだが、だからこそ余計に心配。

>>62
>「うへぇ、服伸びちゃったじゃない、どうしてくれんのさ」
一応この子も女の娘…その辺には一人前に気を使うらしい。
修復系の能力者に頼めば、それぐらいのことは何とかなると…
この街の住人なら分かっていて、そういう憎まれ口を叩くのだから
はねっ返りというか何と言うか…。

で、今度は何やら詩乃守先生に耳打ちしている。久実に聞こえないように
話しているのは、おそらくまた怒りの沸点を越えられるような話だから
だろう。

>>63
「そんなに他人の物を強奪する遊びが流行っているのか」
???
えっと…この人、日本有数の大財閥の一族…の御曹司、だったはず。
それだけの身分の人なら…それに見合った高等教育やら何やらを受けて、
どこに出しても恥ずかしくない紳士として…。
それとも、何か理由があって暗愚を装っているだけなのだろうか?
ひょっとすると…この人が『本持ち』になったのを一番歓迎したのは、
彼の親族や系列企業のトップ御一同の皆さん、なのかも知れない。
他人事ながら、久実は目の前で優雅に茶を啜っている男性が
気の毒になってきた。
69 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/05/07(月) 02:27:39.36 0
>>64 >>65
>「……ん、分かりました。でも危ないことは、駄目です。
>私は、危険だと判断したらすぐに逃げますから、それでよければ」
あー…やっぱり。
久実は額と両目に手を当てて、がっくりとうなだれる。
いや、先生のリアクションそのもの、に対してではなく。
琴里が何を吹き込んだのかを想像して…。

「あの、先生?いえ、童話の世界には『ウィッチ・ドクター…魔法の
お医者さん』のお話はいくつもありますから、そう呼ばせていただきますね。
ご存知のとおり、この街の治安はあまり良くないです。外から、刑事さんや
お巡りさん達も派遣されて来ておられますけれど、皆さんが『本持ち』な
わけでもなく…『本』を悪用する人には対処しきれていないのが、現実
みたいです。で、市民有志で自警活動を行っている人達もいる、と」
それだけ説明すると、久実は改めて、相手の女性の目を見つめる。
「…そういうわけなので、本来ならご同行をお願いする筋合いでは
無いんです。
それでも…ということでしたら、危なくなったら仰ったとおり、すぐに
逃げてください。近くに警察があったら駆け込んでいただけると…
助かりますけれど、その判断はお任せします」

久実は頭を下げると、横目で琴里の方をジロリ、と睨む。
あれこれ小言を並べるより、こういう視線だけで全ての感情を伝えたほうが
効果的なこともあるのだ。
危機的状況に陥ったら、詩乃守先生に琴里を連れて逃げてくれるよう
頼みたかったが、さすがにそこまで申し入れるのは気がひけた。

>>67
先刻出会ったばかりだが…唐空さんは仕切るのと引っ張るのが上手い。
それだけは今までの一連の流れで久実にもよく分かった。
何につけてもテキパキ、キビキビとしているし、ソツがない。
しかし…それでも一抹の不安がよぎる。
久実が協力の申し出を受諾して、笑顔を見せたとき…
目の合った彼の瞳の奥は、決して笑っていなかった。
それは、大河原さんから鷹揚にスイーツをごちそうする旨を告げられた時も
同様。
相手を値踏みするような…見込んだのは能力や価値であって、人柄では
決してないというか…。
『もううんざりだ。こんなイカれた街で
平穏を保って生活なんか出来はしない。
誰もやらないなら僕がやってやる。
そういう組織を作って徹底的にこの街を変えてやる』
彼が一息にまくし立てた言葉の断片を思い出す。
…大丈夫、だろうか?色んな意味で。

じっくりと悩むヒマもなく、唐空さんは長屋の入り口を蹴破って
中に入るよう一同に促す。
「あ…警察に自警活動の届を出していますので、後で報告書さえきちんと
提出すれば…多少のことはお目こぼしされますので」
久実もそう同行者たちに説明し、ふう、と息を吐くと歩きだした。

鬼が出るか、蛇が出るか…願わくば、この事件が…援けを求める誰かの
SOSでありますように。
70 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/05/09(水) 01:08:34.55 0
>>26 能力差し替え


本の題名:芥川龍之介『河童』
能力解説(基本編):
   能力が発動している間、「河童」が彼女の周辺に現れる。
   「河童」が彼女の能力の産物なのか、それともそういう何かが本当に存在していたのかは正確には不明。
   (前者で説明はつくので、今の隆葉は前者だと考えている。「河童」達は後者だと主張する)
   「河童」達は隆葉に好意的で、口頭でお願いをする事で手助けをしてもらえる。
   能力が解除されると「河童」は一斉に姿を消し、隆葉は気絶する。気絶する時間は能力発動時間に比例。
   また、能力を発動したままでも3時間程度で気絶してしまう。

能力解説(詳解編):
   「河童」は以下のような存在である。
   ・1m前後の人型をとっている。複数の個体が存在し、それぞれ好き勝手に動き回っている。それぞれ独自の自我を持ち、人の言葉で会話が可能である。
    人間世界の倫理観を軽視し、しばしばそれを無視しようと隆葉を唆す。
   ・人間の大人並の身体能力、知覚能力を持つ。隆葉が「河童」を認識していなくとも活動できる。
   ・皮膚の色が周囲の景色に応じて変わる。隠れようとするときには有利だが、全く見えないレベルではない。
   ・能力が発動していない間も「河童」は存在している、と「河童」自身は主張するが、能力が発動していない間の事は教えてくれない(隆葉にも)。
   ・防御力は人間並み。傷を負った場合、普通の生物と同程度に活動に支障があり、場合によっては死ぬ。
   「河童」が死んだりダメージを受けても、隆葉に直接ダメージは無い。
   ・時折、一芸に長けた「河童」が出現する。スリの名人、機械工、詩人、など。
    隆葉は「河童」と会話し、個体名を出して彼らを(伝言ゲームで)呼び出す事が出来るが、どの程度の時間で現れるかは運次第。
71 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/05/09(水) 01:09:05.10 0
お坊さんのお経と、ひそひそ話をする声が私を包む。


その光景は奇妙に歪で、現実味がなくて。
ああ、これは夢だ。私はそう理解する。
そういえば、髪の毛が脚に触れる感触がない。
つまりこれは過去の夢だ。私の中の客観視する部分がそうつぶやく。

周りの人たちが、ちらり、ちらりと私を見る。
そしてまた、ひそひそ話を続ける。
お坊さんは、私の方を見もしない。
ただ一心に、お経を唱え続ける。

誰もが一様に暗い表情をしていて。
誰もが一様に沈痛な面持ちで。
だけれども、何故だか私には、彼らのそれが嘘だと分かっていた。

今の私であれば、だって、河童の方がよほど人間じみた顔つきをしているもの、とでも評しただろうけど。
過去の私は、河童と出会っていなかったから、そう言う事は出来ず。
代わりに、子供じみたこんな感想を抱いていた。

こんな顔の人たちしか世界にいないなんて。
本当だったら、悲しすぎるから。


お経が響き、ひそひそと耳障りな声が響き続ける。
いつまでもそれが続いているような錯覚すら覚え始めた私が、ふと我に返った瞬間。
目の前で扉が閉まる音がした。

堰を切るように過去の私がわめき始める。
馬鹿。今さらわめいたってどうにもなるものか。私の中の客観視する部分が嘲る。
もちろん過去の私にはそんな声は聞こえず、ただただ叫び続けるのだ。

助けて、誰か助けて。
早くあの扉を開けないと……。
72 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/05/09(水) 01:09:54.08 0
扉が乱暴に蹴破られる音で目が覚めた。
無理な姿勢での眠り……と言っていい物かどうか……に悲鳴を上げる体に鞭を打って、体を起こす。
ついに来るべき時が来てしまったのだ、という感慨に耽ろうとする頭を、抱える代わりにひっぱたく。

部屋の中は一瞬前の記憶のまま、日本銀行券が散らばっていた。
まだ、この部屋に誰かが侵入した形跡はない。
助かった。一手で詰みまで持っていかれていたらどうしようもなかった。
音の大きさからして、あれはこの長屋……という名のアパートの入口の扉を破った音だろう。
まだ、時間的にある程度余裕はあるはずだ。
私は、まず部屋に散らばる日本銀行券をかき集め、一枚残らず衣装箪笥の2番目の引き出し……普段は使わず、空き段だった……に突っ込む。
この間、約5分。

次に、私は部屋に転がる文庫本を見、数秒思案する。
馬鹿正直に手に持っていては、これは大事な物です、と言っているような物だ。
どうするべきか。選択肢はあまりなかった。

「……やれやれ。いざとなると変な結論しかでないのね」

私はため息をつくと、ワンピースの胸元を数度、試すように引っ張った。

73 : 状況説明 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/05/09(水) 01:10:54.67 0
>>68
幽霊長屋。
それは、町はずれにある木造の二階建てアパートの通称である。
管理が放棄されていて荒れ放題……と、呼称を聞いた人間は考えがちだが、
実際に足を踏み入れた人間は、そこまでひどくはない、という感想を持つだろう。
老朽化は否めないが、実は人が住んでいる、と言われてもぎりぎり納得できるレベルの荒れ具合ではあった。

唐空が蹴り破った扉を開くと、ロビー、というべきだろうか。畳を敷けば四畳半程度の広さの部屋があった。
板張りの床がむき出しだが、埃は薄い。誰か掃除した人間がいるのだろうか?
そこからは、左右に幅2m、長さ10mほどの廊下が伸び、正面には2階に上がる階段がある。
74 : 佐川 琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/05/09(水) 21:49:10.53 0

>>69
久実の目は三角に尖って琴里を刺す。
視線の意味など気にもせず、琴里は鷹揚に言った。
「詩乃守先生という貴重な良識派ゲットだぜ!おまけに姫姉ちゃんの簡単かつ的確な紹介まですませちゃいました。」
久実の拳骨が飛ぶ前に、琴里はさっと、詩乃守医師の白衣の後ろに隠れた。



>「んじゃ…はじまりはじまりってことで」
がらがらどしゃーん
木造家屋の儚さを物語る破壊音がした。
「だから...少しは手加減...もうなんでもいいや。」
琴里はそれでも客としての作法に則り、形式的に玄関脇の呼び鈴を二度押す。
中からの反応は無かった。それどころか呼び鈴がちゃんと機能したのかも危ぶまれた。
長屋の家主がはいはい言って出て来るとは誰も期待してはいなかったが、
感じないで済んだはずのむなしい間をたっぷり味わってしまい、失敗したなと琴里は思った。

河童被害対策部隊の隊員達は連なって屋内へ侵入し始める。
湿っぽい。陰気である。なんか臭い。
その程度の感想しか湧かぬ。
遊園地のお化け屋敷のような、血塗られた障子やおどろおどろしい仕掛けを想像していた者は拍子抜けしたに違いない。
何気なく、廊下の手すりを指でなぞると、ちくりとささくれが肌を突いた。
琴里は顔をしかめる。
「ここ、小学生の間じゃ結構有名な心霊スポットなの。長屋にどこまで近づけるか度胸試ししたりね。
院長先生なんかあたしらが悪さすると『幽霊長屋に閉じ込めてしまいますよ!』って決め台詞。
でも実際目の当たりにすると、古き良き日本家屋なんだねぇ...安心したと言うか幻滅したと言うか。」
指先をぺろりと一舐めするとすぐに血は止まった。
あっけない。部屋を一間ずつ改めれば、その分だけ、この場所が持っていた不気味な魅力が薄まる。
「次で最後の部屋だ。あそこに何も無ければ今日のところはお開きかなぁ。」
それはとても眠たげな声だった。
琴里は緩みきっていた。
75 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/05/09(水) 22:26:48.84 0
>「ん?君は何処かで見たような。見てないような、いや見たような。」

大河原殿が私に奇妙な既視感を覚えている。
妖精美少女ベルの姿の私を見た事があるからだろう。なかなか勘がするどい。

「直接には会った事はないはずだがいつもうちの玩具を買ってもらって嬉しく思っているよ。
これからも宜しく頼む」

>「ほぅ、スリとは面白い。そんなに他人の物を強奪する遊びが流行っているのか。
いずれそのスリをする庶民にも会ってみたいぞ。」

「人が汗水流して稼いだ金を奪うなんていかんぞお!」

規格外の大金持ちに向かって汗水流して、と言ったところで良く分からないかもしれないが。
気付けば、琴里ちゃんが医者のような女性――優さんと言うらしい、を仲間にひきこんでいた。

>「詩乃守先生という貴重な良識派ゲットだぜ!おまけに姫姉ちゃんの簡単かつ的確な紹介まですませちゃいました。」

私は琴里ちゃんに向かって密かにGJ、の親指を立てた。

そして私たちは、幽霊長屋に向かう。
久実ちゃんと一緒にいた少年、呑君が場を仕切る。

>「早速中に入ろうと思うんだけど、その前に一つ
 とりあえず、中に入ったら基本固まって動こう。そっちのほうがもしもの時に対応出来る
 もっと細かく言うなら詩之守先生と琴里ちゃんはなるたけ後ろの方に」
>「んでその前に姫郡さんとオッサン、一番前が僕と大河原で行こうと思うんだけど」

さて、ここで一つ問題がある。
私には正体がバレてはいけない、という魔法少女の掟があるのだ。
まあ、能力を使う事態になったら場が混乱しているからどさくさに紛れてどうにかなる……なるなる。
76 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/05/09(水) 22:27:32.20 0
「んじゃ…はじまりはじまりってことで」

「うむ、早速お邪魔しようか……」

と言い終わらない間に、扉は蹴破られていた。いきなり乱入者モード全開だ。

>「だから...少しは手加減...もうなんでもいいや。」

呼び鈴を押すも、案の定、返事は――無い。
いよいよ屋敷内に突入する。
様々な罠が侵入者を待ち受ける!……でもなく、何事も無く探索は進む。

>「ここ、小学生の間じゃ結構有名な心霊スポットなの。長屋にどこまで近づけるか度胸試ししたりね。
院長先生なんかあたしらが悪さすると『幽霊長屋に閉じ込めてしまいますよ!』って決め台詞。
でも実際目の当たりにすると、古き良き日本家屋なんだねぇ...安心したと言うか幻滅したと言うか。」

「ワクワクドキドキするようなものって、案外そんなものなのかもしれないな――
謎があるからこそ面白い」

>「次で最後の部屋だ。あそこに何も無ければ今日のところはお開きかなぁ。」

琴里ちゃんは退屈して眠たそうだ。

「油断は大敵だぞ。ボスは一番奥の部屋で待ち構えているものだからな」

と、冗談めかして言う。
自分で言っておいてなんだが、ここまで来て漫画のような展開はなさそうだ。
普通に考えれば、扉を蹴破った時点でビビッてこもっているのだろう。
緩んだ空気の中、最後の扉を何気なく開ける。

「失礼……どなたかいるかな?」
77 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/05/11(金) 03:21:10.62 0
>>73
しばらく周囲の様子を伺って、久実は感想をもらした。
「生活感は…ありますね。ある程度の家事はされている、と…」
施設では、日頃から交代制で年長の子たちも家事や育児を
手伝っている。「隔離」される子供たちの数も増えてきているし、
先生たちだけでは手に負えない部分も多いのだ。
そこでの(あるいは実家での、それまでの)経験から…久実はそう
結論づけていた。

>>74
>おまけに姫姉ちゃんの簡単かつ的確な紹介まですませちゃいました
本当にもう、この子は。
人をバーサーカーかトリガーハッピー(いや、銃なんて手にした経験も
今のところは無いが)みたいに言うの…いい加減にして欲しい。
群がる敵をバッサバッサと刀の錆にしていく娯楽時代劇…祖父の影響で
大好きなのは今も変わらないが…それでもこの年頃になればそれらが
ファンタジーであることくらい、分かって楽しんでいるのだから。

>院長先生なんかあたしらが悪さすると
>『幽霊長屋に閉じ込めてしまいますよ!』って決め台詞
児童施設の院長先生…とても優しく、身体も心も大きな人。
この街に放り込まれて以降、久実の最大の恩人である。
院長先生が『BOOK』の力を見せることは滅多にないが…
多分それは、地上最大の哺乳類の凄まじいパワーだろう。
ひとりぼっちのニートな巨獣。一念発起して様々な職に挑戦しては失敗し、
しょんぼりを繰り返しながら最後にめぐり合った適職…それは
「ひとりぼっちの子供たちが集まる、ようちえんのせんせい」。
不器用ながら心優しき大きなゾウ、その名は…。

>それはとても眠たげな声だった
「…お琴、あんたまた昨夜、こっそり夜更かししてゲームしてたね?
今夜はお姉ちゃんの横で寝なさい。見張ってるから」
小声で背後にささやきながらも、周囲に対する目配りは緩めない。
今のところ、何の物音も気配もしないようだが…。

そういえば、大河原さん付きのボディガードさん達はどうしたのかな、
いてくれればある程度は頼りになるのに…そんなこともチラと脳裏を
よぎるが、そうこうするうちに最奥の部屋が待っていた。
78 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/05/14(月) 22:51:17.53 0
>>
 結局のところ、私は『先生』で固定されてしまったみたいだ。そんな立派な存在ではないのに。
 そして姫郡さんから現在の街の現状を丁寧に教えてもらう。根無し草が過ぎたのかどうにも私は世情に疎い。
 まあ新聞もTVも読まないし見ない、携帯だってとっくの昔に動かなくなっているのだからしょうがないと言えばしょうがない。
 ともかく、今、この街は釣合のバランスが全く取れていない状況なのは理解できた。要は処理オーバーだ。

>「詩乃守先生という貴重な良識派ゲットだぜ!おまけに姫姉ちゃんの簡単かつ的確な紹介まですませちゃいました。」

 叱る様な姫郡さんの視線など物ともせずに琴里ちゃんはそんな事を言ってのけた。
 いや、物ともせずは言い過ぎか。本当に何とも思ってなければ私の後ろに隠れはしないだろう。
 ところで先ほど琴里ちゃんに危険人物と称されたうちの1人の姫郡さん。彼女は多分そこまで危険人物ではない。
 ハッスルすると激ヤバ、とは言うけど、ギリギリで自分をセーブのできる子だ。まあ、琴里ちゃんも大げさに言ったのだろうけど。
 それで、もう1人の危険人物。唐空さん……彼はよく分からない。今のところは正義感に燃える若者と言ったところだろうか?
 そんなこんな考えていれば噂の幽霊長屋に到着する。
 どうやら此処が件のスリ騒ぎの首謀者の活動拠点らしい。唐空さんは一体どうやってこんな情報を入手したのやら。
 唐空さんから軽い陣形の説明を受け後、彼が蹴り壊した扉から幽霊長屋に潜入を開始した。
 前衛、中衛、後衛の3つに分け、幽霊長屋を進み歩く。一歩歩を進める度にギシリと床が軋んだ。
 カビの匂い、腐った木の匂い、へばり付く様な粘着質な空気。だけども、私にはあまり不快に感じない。
 というよりも、壁と屋根があるだけで十分上等だ。水道があれば泣いて喜ぶところだろう。
 
>「ここ、小学生の間じゃ結構有名な心霊スポットなの。長屋にどこまで近づけるか度胸試ししたりね。
  院長先生なんかあたしらが悪さすると『幽霊長屋に閉じ込めてしまいますよ!』って決め台詞。
  でも実際目の当たりにすると、古き良き日本家屋なんだねぇ...安心したと言うか幻滅したと言うか。」

>「ワクワクドキドキするようなものって、案外そんなものなのかもしれないな――
謎があるからこそ面白い」

>「次で最後の部屋だ。あそこに何も無ければ今日のところはお開きかなぁ。」

>「…お琴、あんたまた昨夜、こっそり夜更かししてゲームしてたね?
  今夜はお姉ちゃんの横で寝なさい。見張ってるから」

「……ん、だったら早めに寝た方が良いです。寝不足はお肌の敵ですよ? 若いうちはまだ実感わかないと思いますけど、ね」

 琴里ちゃんの早くも眠そうな言葉と囁く様な姫郡さんの言葉。それにつられるように私も小さく薄く笑うように呟く。
 橘川さんの言う通り、『噂の内』がもっとも面白い物なのかもしれない。
79 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/05/14(月) 22:53:37.48 0
>「失礼……どなたかいるかな?」

 先程まで漂っていた緊張の空気は弛緩し雲散していく、それでも橘川さんの言葉と共に全員が扉に注目している時。
 私は後方を確認していた。というよりも、逃走経路のシュミレーションを何度も頭の中で繰り返していた。
 いざという時は逃げる、最初から宣言していた通りに。私一人でも無事に逃げ切る。
 今、目の前にいる正義の皆様には申し訳ないが、私にとっては、誰がどの能力をどう使おうと、どうでもいい。
 犯罪に使おうと欲望に使おうと好きにすればいい。そして、出来れば私に迷惑を掛けないでくれると有難い。
 これが、私の今現在の素直な心境。多分、この中で一番の異物だろう。
 私はぶかぶか白衣の内側の掌に、先ほどトランクから抜いておいたメスを忍ばせる。
 人体をバターのように切断する切れ味を有するこのメスは、下手なナイフよりも危険物だ。
 使ったことはないし、使わないに越したことはないが、『何か』に襲われたら使わざるを得ない。
 しかし、何はともあれ逃げる事。一応、ここまでついて来たことでケーキの恩は支払っただろう。多分。
 後方に注意を払いながらも、僅かな意識を前方に向ける。いつでも逃げれるように。
 私の目的は正義でも救助でもなく『治す』こと、そしてその欲望は……。
80 : 大河原万次郎 ◆K2IPho2eGc [sage] : 2012/05/19(土) 23:22:54.69 0
>>67
>「んでその前に姫郡さんとオッサン、一番前が僕と大河原で行こうと思うんだけど」

「ん?私か。私が先駆けを担うとは…いや、か弱き庶民を守るのも高貴なる私の義務か。
致し方ない。さぁ、ついて来るがよい。」

私はお化け屋敷と呼ばれた不気味な館の扉へ向かうと、蹴飛ばされたそれを跨ぎ颯爽とした
足取りで向かった。
中に入り、周囲を確認するがどうにも人が住むような場所には思えない。
それとも、最近の庶民はこんな部屋に住むのが流行っているのか?
部屋をいかに汚くするか―が流行っているのだ、そう考えると何とか納得は出来そうだ。

「なんというカビ臭さだ……これが庶民の流行の汚・へーアなのだな。」

私は頭にかかった蜘蛛の巣を払いもせず、ただただ感心していた。
81 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/05/21(月) 07:59:22.96 0
呼び鈴が鳴る。
明らかに順番が逆だ。侵入者たちも混乱している……という理解でいいのだろうか。
もちろん素直に応対する気はない。順番が逆なら引っ掛かってしまったかもしれないが。

やがて、ぎし、ぎし、ぎし、と音がする。
誰かが廊下を進んでくる音だ。
時間が無い。
私はきついブラジャーのホックを無理やり止めると、ワンピースを元に戻した。

扉ががちゃがちゃ、と音を立てたのはその時だ。
腐ってもアパート、個室に鍵は当然かかっている。いきなり鍵を破る事は、今回は無いようだ。
そして、なにやら人のよさそうな成人男性の声がする。

>「失礼……どなたかいるかな?」

扉は薄いので、声は筒抜けだ。
私は数回深呼吸をすると、答える。

「……誰ですか、こんなところに。宅急便の人ですか?」

まあ、今さら宅急便の人です、と言ったって信じはしないけれど。
82 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/05/23(水) 23:54:06.32 0
「元々取り壊しが決まっている物件だ。業者が壊す前に壊したって大した問題じゃないさ」
後方で鳴らない呼び鈴を押す佐川ちゃんに僕はそう答え、辺りを見回す。
幽霊長屋の中は、思っていた以上に綺麗だった。
まるで誰かが掃除していたかのように不自然なまでに…
もしかすると、ここにはスリ以外にもホームレスが住み着いている可能性もある。
となると少しばかり厄介なことになるかも知れないな
僕は小さくため息をして、探索を続けた。

慎重に部屋を調べていたが、ホームレスどころか
目的のスリの姿さえ見つかりやしない。
もしかしたら、さっきので逃げられた可能性もあるか…だとしたら参ったな。
と眉を顰めていると佐川ちゃんが話し出す。
「バッカだな。むしろ何も無いからこそ怖いんじゃないか
 一見普通に見えるからこそ、異常が起きた時のショックは大きいだろ
 僕はそういう感は無い方だからわからないけど、
 もしかしたら、本当にトンでもない場所の可能性だってあるわけだし」
ワザと脅かすように佐川ちゃんにそう言って、僕は様子を伺った。
出来ればいまので少しだけでもビビッてくれたら助かるのだが、
これは決して脅かしたいとか、そういう僕個人の欲求の為ではなく
彼女がコレを機に平気で禁忌を犯すのを防ぐための言葉だ。
大抵、こういう廃墟などにそういう類の怪談や都市伝説がつくのは
ただ出そうだからとか、そういう単純な理屈からではなく
子供だけでそんな危険な場所に立ち入らないようにと大人が流行らせるのが通例だ。
なので、現実を見て興ざめしている彼女には是非怖がっていただきたいのだが…
どうだろうか?最近の子は舌が肥えているからな
そんなことを考えつつ、僕は最後の部屋の戸に手をかけた
「?」
今までの感覚とは違う硬い感覚を感じた。
鍵がかかっている。
ということは、誰か居るのか?
83 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/05/23(水) 23:54:31.73 0
すぐさま鐘川のオッサンが呼びかけると、それに応じるように的外れな答えが返ってきた。
女性…少女の声だ。おおよそではあるが、姫郡と同じぐらいだろうか?
一瞬、頭を過ぎったのは『誘拐』というワードだった。
この街に置いてそれは、無意味な行為に近い
何故なら、それぞれが持っている本には脱走防止用のICチップが付けられており
常に衛星から監視されている状態であるが故に、誘拐をしたとしても
すぐに居場所も素性もバレてしまてしまうのだ。
なので、その線は限りなく薄いといえる。
となると、あと考えられることは大きく分けて三つ
1。たまたま住み着いたホームレス(なら何故施設暮らしでは無いのか気になるが)
2。目的のスリ(か関係者)
3。立ち退き料狙いの占拠屋(の関係者)
これぐらいか?どれにしろ不法占拠には変わらないし
床が抜けて死なれたら業者が面倒だろうから、とりあえず、出しておく必要はあるな
僕は考えをまとめると、口の前に人差し指をつけ周りに「静かにして」おくよう促す。
特に大河原に対しては、睨みつけ、鐘川のおっさんと場所を入れ替える。
さっきからコイツの話を聞いていたが駄目だ。
視点が同じ国で生きている人間だとは思えないほど、コイツは世間知らずだ。
今からやる芝居を妨害する可能性が大いにありえる。

とりあえず、一通りの準備を済ませると僕は大きく息を吸い
「ボケたこといってんじゃねぇぞゴラ!!!いつまでここに居座ってんだよボケが!!!」
荒々しい口調と戸の向こうの人間に怒鳴りつけ、戸を二、三度蹴りつける。
いきなり人が変わったような行動をして周りを驚かせてしまったと思い
僕は他のメンツに視線を向け、向こうに伝わらない程度の声で「お芝居だから勘違いしないでくれ」と伝える
そして、僕は鐘川のオッサンにも耳打ちをする。
「立ち退かせ屋とその舎弟ってことでちょっと芝居うってもらっていいですかね
 あぁ別に無理して乱暴な言葉を使わなくてもいいですよ。
 人のよさそうな感じのほうが案外コロっと騙されますし」
そう手短に打ち合わせを済ますと、僕はまた戸を蹴りつける
「さっきから黙ってんじゃねぇぞ!てめぇが立ち退かねぇせいでこっちの仕事がすすまねぇんだよオイ!」
84 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/05/24(木) 05:23:46.89 0
>>78
>早めに寝た方が良いです。寝不足はお肌の敵ですよ?
「早寝早起きは三文の得…ですよね」
久実も警戒は怠らないながら、クスリと笑みをこぼして先生にそう応じる。
それにしても…先生のやつれた様子といい、この長屋といい…
隔離するならするで、社会はもう少し福利厚生というものを…。
まあ、世界的に不景気な中、そんな余裕は無いのかも知れないけれど。
一介の女子中学生に出来ることなど、たかが知れている。
せめて…このまま穏便にことが解決すれば、先生には今度こそ、
施設にご案内して宿を提供しよう。

>>80-83
正直、先刻のドア蹴破りは止める間もなかったが…「マズいな」と
思ったのは確か。
向こうが何者なのかは未だ不明だが、あれで警戒されたのは間違いない。

>「……誰ですか、こんなところに。宅急便の人ですか?」
多分、本気で宅急便の人だとは思ってはいないだろう。
まともな精神の持ち主ならば…。
いや、それ以前に。
(女の子…の声?)
それも、声変わり(女の子だって、声変わりは有る)するかしないかの
年代…?
そんな子が何故、こんな場所に…。
能力を制御できず、他に行く場所が無いのだろうか。
だとしたら…。

>「ボケたこといってんじゃねぇぞゴラ!!!いつまでここに居座ってんだよボケが!!!」
反射的に、久実は琴里を左手で抱き寄せ…ついでに口を塞いでいた。
唐空さん…本当に何者なんだろう?ここが「取り壊しが決まっている物件」
っていうこともアッサリと知っていたし。

まあ、先刻は琴里の無鉄砲さに釘を刺すようなことを言ってくれたことだし、
ここは彼の作戦に相手がどう出るか…それを確かめようと
久実は判断した。
85 : 佐川 琴里 ◇Xc4K14NVriOj[sage] : 2012/05/26(土) 02:03:47.55 0
>>75-83
>「油断は大敵だぞ。ボスは一番奥の部屋で待ち構えているものだからな」
「そうだねぇ。道端に転がってる大魔王なんて示しがつかないや。」
携帯用ゲームを遊ぶように両手を空中でぴこぴこし、琴里は自前の効果音を小声で呟いた。
今回の敵がギトギトコッテリのあからさまな悪者河童のような姿であればいいと思う。
ある程度ダメージを与えると第二形態にトランスフォームしたりして。馬鹿なことを考えている琴里を見透かしたような声で、久実は振り返った。
>「…お琴、あんたまた昨夜、こっそり夜更かししてゲームしてたね?今夜はお姉ちゃんの横で寝なさい。見張ってるから」
「なんとご無体なっ!借りてたソフト、明日で返さなきゃいけないの、後生だから見逃しておくんなせえ...」
なんとなく江戸時代っぽい言い回しは、久実がよく見ている時代劇の台詞に由来する。
ヨヨヨとしなを作り、代官に虐げられる町娘を装ってみるが、効果は無いに決まってる。
>「……ん、だったら早めに寝た方が良いです。寝不足はお肌の敵ですよ? 若いうちはまだ実感わかないと思いますけど、ね」
「へへ、授業中に眠るからいいんだよう。あたしなんかより、詩乃守先生の方こそ寝不足っぽい顔してるじゃん!隈あるし。」
そんなのんきな会話をとがめるかのように、前を行く唐空青年が重苦しく口を挟んだ。
内容について、なるほど一理あるなと、琴里は思った。普段優しい人こそ怒った時は超怖いという例の法則だ。
身近に良い例が一人いるので、とても身に染みる言葉である。
だがしかし!
その優しさに漬け込み、ぎりぎりまで自分勝手をし、沸点に到達するかしないかのコーナーを攻めるのが楽しいのである!
人物に限らず、あらゆる物質、事象に対してデッドオアアライブをさ迷う緊迫感!琴里にとってそれは生きる楽しみなのだ。
とまあ、そんな本音は懐中にしっかりしまい込み、
「おお、身に染みる忠告だ。怖い怖い。」
と言った。せめて形だけでも従順でいよう、と自分の悪ガキぶりに半ば反省したのだ。
そう、したのだが、
>「これが庶民の流行の汚・へーアなのだな。」
「若殿も流行の波に乗ってみようぜ。あたしなんか、自分の部屋じゃなくても散らかしちゃう、最先端を走る女だよ。
なんなら若殿の屋敷を劇的ビフォーアフターしたげるし。」

悲しいかな、その決意すら、一分たたず薄れ行く。
86 : 佐川 琴里 ◇Xc4K14NVriOj[sage] : 2012/05/26(土) 02:05:07.53 0
青年のドス声が頭蓋骨にぐわんぐわん響く。

突然のことに腰が抜けた琴里はへにゃへにゃよろけたが、久実の腕に抱きとめられてことなきを得る。
どうしちゃったのよ、と叫ぶ前に口をふさがれ、ただ「もがが」とくぐもった音が出た。
それすら唐空青年の執拗な足蹴り音にかき消されるのだ。
「さっきから黙ってんじゃねぇぞ!てめぇが立ち退かねぇせいでこっちの仕事がすすまねぇんだよオイ!」
怒鳴り蹴りバイオレンスの限りをつくしながら、芝居だよ、と青年は目線を寄こす。
それならそうと先に言ってくれ、琴里は恨みがましく彼を睨みつけた。
姿を現さない住人の声は、確かに女性のものだった。
こんなあばら家に独りで住んでいるなんて到底考えられない。
窃盗犯はグループで、扉の裏に隠れている子は無理矢理こき使われているのかもしれない、そう思えてくる。
脅すのは可哀想だな、もしあたしなら泣いちゃうだろうな、
同情的な思いが心の中に現れたがここまで来てどうする訳にもいかず。
琴里はただ、久実の腕をぽんぽんと軽く叩いてもう大丈夫だよという合図を示した。

87 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/05/27(日) 23:48:13.72 0
>「なんというカビ臭さだ……これが庶民の流行の汚・へーアなのだな。」

>「若殿も流行の波に乗ってみようぜ。あたしなんか、自分の部屋じゃなくても散らかしちゃう、最先端を走る女だよ。
なんなら若殿の屋敷を劇的ビフォーアフターしたげるし。」

「おおっ、流行の最先端を行く汚・ギャルがこんなところに!
しかし玩具箱をひっくり返したような部屋は嫌いじゃない」

果たして、私の呼びかけに返ってきたのは、少女の声だった。
それに対して、呑君がいきなり乱暴な言葉で返す。

>「……誰ですか、こんなところに。宅急便の人ですか?」

>「ボケたこといってんじゃねぇぞゴラ!!!いつまでここに居座ってんだよボケが!!!」

>「立ち退かせ屋とその舎弟ってことでちょっと芝居うってもらっていいですかね
 あぁ別に無理して乱暴な言葉を使わなくてもいいですよ。
 人のよさそうな感じのほうが案外コロっと騙されますし」

なるほど、中でドンパチするのは危険という判断だな。
そう思い、芝居に乗る事にした。

「やあやあ、うちの若い者が熱くなってすまないね。
しかし立ち退いてもらわないと我々も困るんだよ。
ここが取り壊しが決まっているのは君も知っているだろう?」

そこまで言いながら、考える。こんな幽霊屋敷に一人で住んでいるのだろうか。多分両親はいないだろう。
出てから行く宛てはあるのだろうか。おそらく、無い。
もしかしたら、お金が無くて困り果てて仕方なくスリをしているのかもしれない。

「ご両親はいないのかい? そうか……出たところで行く場所は無いのか。
知り合いに施設を経営している人がいる。紹介してあげるからとりあえずそこに入りなさい。
いつまでもこんな所で粘っているわけにはいかないだろう」

途中まで芝居だったはずが、途中からいつの間にか本心になっていた。
88 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/05/30(水) 13:06:35.81 0
>>81-87
>「……誰ですか、こんなところに。宅急便の人ですか?」

 その少女の声に足に込めていた力を抜く。どうやらいきなり襲いかかって来るとか最悪の展開にはならないようだ。
 軽く息を吐き、身体にため込んでいた緊張を解きほぐす。
 と、前方の唐空さんは口の前に人差し指を付けるジェスチャーをする。静かにしてろという事だろう。
 そして……

>「ボケたこといってんじゃねぇぞゴラ!!!いつまでここに居座ってんだよボケが!!!」

 と怒鳴り散らし乱暴に戸を蹴りつけた。思わず肩が驚きでビクンと跳ねる。
 芝居するならするで先に言っておいて欲しいモノだ。心臓が早鐘のようにバクバクと音を立てている。
 琴里ちゃんもビックリしてよろけるが、姫郡さんの腕に抱きとめられた。

>「さっきから黙ってんじゃねぇぞ!てめぇが立ち退かねぇせいでこっちの仕事がすすまねぇんだよオイ!」

 ……チンピラだ、しかもマンガとかドラマに出てきたら主人公とかに100%叩きのめされる小物のチンピラだ。
 そしてお次は橘川さんが優しげな口調で割って入る。

>「やあやあ、うちの若い者が熱くなってすまないね。
  しかし立ち退いてもらわないと我々も困るんだよ。
  ここが取り壊しが決まっているのは君も知っているだろう?」

 これはアレだ。やくざ者の脅しか警察の取り調べのやり取りそのものだ。
 唐空さんがバックアップ役で、橘川さんがフロント役、という設定だろう。
 簡単に言えば脅し役と宥め役、もっと砕くなら飴と鞭? これはちょっと違うか。

>「ご両親はいないのかい? そうか……出たところで行く場所は無いのか。
  知り合いに施設を経営している人がいる。紹介してあげるからとりあえずそこに入りなさい。
  いつまでもこんな所で粘っているわけにはいかないだろう」

 橘川さんが優しそうに言う。私の位置からじゃ少女の反応は特に掴めないが、現時点で少女が何か出来ると思えない。
 出来たとしても隙をついて逃げる事くらいだろう。
 この人数相手に蹴散らせる程の能力を持ってるのならスリなどしないと思うし。
 捕まるにしろ逃げるにしろ、早く終わってほしい。そして出来れば此処を今日のねぐらに……。
 心臓の鼓動も既に落ち着いている。私は、うーん、と唸りながら背を伸ばし壁によっかかると退屈そうに、くあ、と欠伸をした。
89 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/06/05(火) 00:08:10.41 0
乱暴な声と、扉を蹴り飛ばす音。
こういう人種に出会うのは初めてではないが、この場所にまでやってきたのは初めてだ。
暴力的な音に、思わず体が竦む。

……彼は何と言った。居座り? 立ち退き?
馬鹿な。そんな話は初耳だ。管理人は何をしているのだ。

そう、こんな廃墟まがいの場所でも、管理人という名の土地の所有者はいる。
齢90は数えようかというのに老いの影響を感じさせない、妖怪のような老婆だ。
さすがにここに住む気にはなれないと見え、数百メートル離れたマンションに暮らしており、
ここにはたまにしかこないが。
……そういえば、数ヶ月前に家賃の取立てに訪れたのを最後に彼女の姿を見ない。
まさかとうとうお迎えが来たか。はたまたついに私に愛想を尽かしたか。
ただ同然の家賃はあと3ヶ月分はまとめて払っているから、文句を言われる筋合いはない。
とすると、前者か……さて、困った。

ちなみに、家賃を支払う収入源は、親戚が私名義の養育手当てを銀行口座に振り込んでいる
……という事にしている。
奴らがそんな殊勝なことをしているのはこの13年見たことがないし、そもそも私は口座など
持っていないが。
普通に口座を持っているならこんな場所など借りない、と気づくほど聡明な老婆なら、私は
最初から門前払いだったろう。
そういう意味で、ここは非常に都合がよかったのだ。

さて。困った。どうしよう。
90 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/06/05(火) 00:10:33.31 0
と、思考をめぐらせている間に、また声がかけられる。今度は最初の人のよさそうな男性だ。

>「やあやあ、うちの若い者が熱くなってすまないね。
>しかし立ち退いてもらわないと我々も困るんだよ。
>ここが取り壊しが決まっているのは君も知っているだろう?」

「……知りません。初耳です。あなた達は誰ですか。
 何の権利があってこんな事をしているんです。警察を呼びますよ」

ひとまず、通り一遍の文句を述べてみる。
警察など呼べるはずもなかったが。まじめに生活費の出所を追及されたら捕まるのはこっちだ。
(ひょっとしたら奴らも捕まってくれるかもしれないが、それで私の罰が軽くなるはずもない)

>「ご両親はいないのかい?

「二人とも、7年前にお花に囲まれて扉の向こうに行きました。それから会っていません」

無駄な詩的形容に、我ながら含み笑いが出る。
でも、ほんとのことだ。
夢の中の私は、人並みの長さの髪しかなかった私は、本気でそういう風に信じていたのだ。
だけど、そうやってごまかした私も、二度と両親に会えないことぐらいはわかっていて。
だから……。

「叔父さんと叔母さんは本を持っていませんから、ここには私一人です。
 家賃は管理人のおばあさんにちゃんと払っています。
 出て行く筋合いはありませんし、出てもどこにも……」

>そうか……出たところで行く場所は無いのか。

びくり、と体が震える。言葉が詰まる。
そうだ。どこにも行く場所はない。
笑わせる。半分は自分で言ったことなのに。
河童たちの囃し声が聞こえる。まだ能力は起動していないのに。
でも……。
91 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/06/05(火) 00:12:20.62 0

>知り合いに施設を経営している人がいる。紹介してあげるからとりあえずそこに入りなさい。
>いつまでもこんな所で粘っているわけにはいかないだろう」

能力を起動した。

「粘ってって……だから、私はきちんと家賃を払っています。誰に咎められるいわれもありません。
 なぜ施設なんかに入らないといけないんですか」

起動しつつも、私は普通に会話を続け、注意をこちらにひきつけようと試みる。
起動自体には特殊な現象が伴わないのが私の能力の特徴のひとつだ。ここは最大限活用させてもらう。
そして、発動した以上もう後には引けない。
私の能力のもうひとつの特徴は、発動終了後意識が失われてしまう事だからだ。
その時間は起動時間に比例するが、いずれにしてもこの状況で気絶しては終わりでしかない。
こんな状況で能力を起動するのは自殺行為かもしれない。
でも……。

「私はいやです。他人は私を馬鹿にするか貶めるか陥れるだけ。それなら一人で暮らしていきます。
 お父さんもお母さんもいないなら、私は一人で過ごしていたいんです。それが今はできているんです。
 だから、帰ってください。施設になんて入りません。帰って!」

演技というには少々生々しい話も交えつつ、私は言葉を継ぎ続ける。
もう少しだ。時間はかかるだろうが、こうして声を張り上げていれば『彼ら』も事態は察するだろう。
ドアの向こうに何人がいるのかはわからないが、それに対抗できるだけの人数で来てくれるはずだ。

私の能力……それは、「能力を起動している間、河童たちが『どこからともなく』現れること」

私は右手に持った新書を握り締めると、ぎゅっと胸に手を当てた。
92 : 状況説明 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/06/05(火) 00:13:09.41 0
隆葉が能力を起動してから10数分後。

外を警戒しているものがいれば、その光景に驚いたことだろう。
扁平な顔の人型の生き物が、一体、また一体とどこからか姿を現していたからだ。
その数、実に数十体。
一体一体は1mたらずで非力そうだが、数が集まれば侮れない力となる。
彼らは一様に、アパートの中から聞こえる少女の悲鳴じみた声に耳を傾けていた。
(数体耳のないものもいて、彼らは耳を傾ける者の姿を眺めていた)

破られたアパートの扉。悲鳴交じりの住民の少女の声。
何も知らない者がそれを聞けば、どちらが悪役に見えるかは自明だろう。
何より。
彼らは、少女の言葉しか信じないのだ。

(能力起動から20分前後で、河童がアパートを取り囲み、突入を開始します)
93 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/06(水) 02:04:11.85 0
>>86
>琴里はただ、久実の腕をぽんぽんと軽く叩いてもう大丈夫だよという合図
久実はうなずくと、そっと琴里の手を離す。
琴里の目の中に怯えたような、扉の向こう側にいる「彼女」を案じるような
色が見えたからだ。
久実は微笑むと、琴里の頭を──拳骨でも平手打ちするでもなく、そっと
撫でた。

>>87
>知り合いに施設を経営している人がいる。紹介してあげるから
店長、グッジョブ。
その思いを視線にこめて、久実は橘川店長が『いいよね?』という感じで
こちらを振り向いたときに何度もうなずいた。
久実が言いたかったことを、いい感じで代弁してくれた。

>>88
>うーん、と唸りながら背を伸ばし壁によっかかると退屈そうに、くあ、と欠伸
先生は「彼女の声」を聞いて危険がないと判断したのか、少し安心した
ような素振りをしている。
…そうか、先生はあのとき、居合わせていなかったから。知らないのだ。

一口に『BOOKS』能力者と言っても、様々な種類やバリエーションが
ある。
肉体強化系、変身系、移動系、念力系、感応系、修復系、使役系…
ある友人が分類しようとして、あれこれ頭をひねっていたのを思い出す。

『使役系』…もしも、もしも向こう側の『彼女』があのときの『河童』の
主的存在ならば、彼女自身に戦闘能力は無くても…。
94 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/06(水) 02:43:16.03 0
>>89-92
>叔父さんと叔母さんは本を持っていませんから、ここには私一人です
『彼女』の言う事が本当なら、親戚はいる…が、経済的援助は受けては
いないのだろう。
受けているなら、好きこのんで…こんな場所に隠棲していたりはしない。
能力的に他者との接触・共存が難しいのか、
一連の事件の犯人が『彼女』で、真っ当ではない収入で暮らしているから
なのか…あるいは、その両方?

>家賃は管理人のおばあさんにちゃんと払っています
──しまった。
「幽霊長屋」なんていう先入観に囚われて、土地・建物の持ち主の有無や
居住者の現状について、何も調べないまま此処に来てしまった。
「本持ち」がこの街から逃げればすぐに追っ手がかかるのだから、
調査にもう少し日数を費やしても良かったかも…でも、もう遅い。

>他人は私を馬鹿にするか貶めるか陥れるだけ
……。
久実の表情が曇る。
私達は、もう既に『彼女』を引っ張り出すための一芝居をうってしまって
いる…つまり、騙している。
今から本当のことを言って、ドアを開けてもらって中にお邪魔して…
どう言葉をつむいでも、人間不信の『彼女』の心をほぐすには難しいところ
まで来てしまっている。

久実は唐空さんの肩を後ろからぽんぽんと叩いて振り向いてもらうと、
小声でこう囁いた。
「一度建物の外から…窓から室内の様子を覗けるか、試してみませんか?
このままだと埒があかないし…向こうはもう既に、何か仕掛けて来ている
かも知れません」
95 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/06/07(木) 22:42:03.65 0
おっさんもとい、鐘川さんをこの芝居に付き合わせたのは正解だったのかも知れない
いや、芝居というよりも、元々人当たりのいい性格の人なんだろう。
と僕は鐘川さんの問いかける姿にそう思いながら、戸に耳をつけて中の様子を探る。
もしかしたら、声の主以外に何者かが息を殺して隠れている可能性があると感じたからだ。
うまくいけば、ごまかすために指示を出すスリの声が聞けるかもしれないと期待したが…
声どころか、他の誰かが蠢いているような音は聞き取れなかった。
確証はないが、おそらく、この部屋には彼女しかいないのかもしれない。
そうしていると、鐘川さんの問いかけに誘われるように答えが返ってくる。
「しらばっくれてんじゃねぇぞオラ!!!警察だぁ?呼べるもんなら呼んでみろや!!!」
と本職の人間のように道理を無視して、怒鳴り返す。
むしろ警察を呼ぶのなら好都合だ。残念ながらこちらはただの一般市民の集まりだ。
警察が来たとしても、せいぜいこちらには注意しかないし
スリの犯人を追ってきたといえば、逆に彼らも協力的になる可能性も少なくはない
そもそも、この建物自体、電気も水道もガスも止まっている以上、110番にかけることは不可能だ。
いやまぁ携帯電話使えば済む話だけど、満足に充電することさえままならないはずだ。

それはそうと、なんだコイツは?
さっきから言っていることが若干ズレているような気がしてならない。
ホラ、まただ。
両親について聞いたのに、無駄に分かりにくく返してくる。
「テメェ!!!おちょくってんのか」
ダンダンとイラついてきているのか、ついつい本音混じりの言葉が出た。
怒鳴りつけたせいか、次に彼女は分かりやすく自分の身の上話を話し出す。
彼女はさぞ自分の身の上が不幸であるかのように語るが…
僕や、姫郡、佐川ちゃんも同じようなもんだと思う。
というか正直言って、経済的な問題があるならむしろ施設で生活するべきだと僕は思うが…
そんな些細な疑問を気にかけていると、彼女の主張と共に何かの気配が強くなってきていることに気がついた
その時になってやっと僕は理解できた。戸の向こうにいる彼女こそが追っていたスリなんだと
96 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/06/07(木) 22:44:04.01 0
僕は一旦戸の前から離れ、姫郡の案を聞く
「…確かに今ならまだ仕掛けられる前に退くことは出来るか…」
意地でも離れないと言っている以上、すぐに逃げられる心配は無いのかもしれないし
確実な証拠を押さえてからでも遅くは無いか
仕方ない…口惜しいがここは退くほうがいいかもしれ
その時だった。今の今までおとなしくしていた問題児が爆発したのは…
恐る恐る振り返ってみると、そこには蹴破られた戸とドヤ顔の大河原の姿だった。
どうせアレか、ここまでの一連の動作が庶民の遊びにでも見えて、やってみたくなったのだろう。
怒りに身を任せ、大河原に暴言を吐こうとした瞬間、蹴破った戸の向こう側から
複数の河童が大河原に飛びつく、そして、それが攻撃合図のように周囲に潜んでいた河童が姿を現し
こちらに向ってくる。
「アイツだけはケーキ屋に置いてくるべきだった」
もう後の祭りだ。囲まれたこの状態で退くのは難しい
ならばいっそ強硬手段に出て、彼女の本を奪ったほうが手っ取り早いかもしれない
「もうこうなったら突っ込むしかない。佐川ちゃんと先生と共に彼女の部屋にに入ってくれないか
 僕らがこっちを食い止めている間に、説得なり本を奪うなりしてくれ」
僕はそう姫郡に伝えると、顔に引っ付いた河童をはがそうとやっきになっているこのアホの襟を掴みあげる。
「お前のせいでこんな目になっているんだ。せめて体を張って責任取れよぉ!」
そう叫びながら、通路に群がる河童立ちめがけ、大河原を思いっきり突飛ばして突撃させた。
「鐘川さん!俺らでここを食い止めましょ…あれ?鐘川さん?鐘川さん」
気がついたら鐘川のおっさんの姿が消えていることに気がついた。
まさか、逃げたか?いや、それとも河童につれさられたのか?
どっちにしてもマズいことになってしまったぞ!
97 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/06/07(木) 23:30:47.88 0
>「粘ってって……だから、私はきちんと家賃を払っています。誰に咎められるいわれもありません。
 なぜ施設なんかに入らないといけないんですか」

宥める方向でいくつもりが、怒らせてしまった。
嘘を吐いているようにも見えない。管理人が取り壊しになる事を伝えていないのかのしれない。

>「私はいやです。他人は私を馬鹿にするか貶めるか陥れるだけ。それなら一人で暮らしていきます。
 お父さんもお母さんもいないなら、私は一人で過ごしていたいんです。それが今はできているんです。
 だから、帰ってください。施設になんて入りません。帰って!」

「……唐空君、今は混乱しているようだから出直そうか」

私は一端退くことを提案した。
少女の剣幕に圧されたからではなく、ある事に気が付いたからだ。少女が右手に握りしめた新書。
BOOKS能力者の能力発動の条件、それは本に触れる事――!
久実ちゃんも同じような事を思ったようだ。

>「一度建物の外から…窓から室内の様子を覗けるか、試してみませんか?
このままだと埒があかないし…向こうはもう既に、何か仕掛けて来ている
かも知れません」

>「…確かに今ならまだ仕掛けられる前に退くことは出来るか…」

一端退く流れにまとまりかけた時。大河原殿が扉を蹴破って突入してしまった。
状況は一変、大勢の河童のような生物(?)が現れる。
間違いない、これが少女の能力だろう。

>「もうこうなったら突っ込むしかない。佐川ちゃんと先生と共に彼女の部屋にに入ってくれないか
 僕らがこっちを食い止めている間に、説得なり本を奪うなりしてくれ」

「おおっ!?」

いきなり河童の体当たりをくらった。
転げたついでに、メタボな私は廊下を角まで転がっていく。
角を曲がり死角になったところで、本に力を乞う。弱気を守り悪しき者を討つ妖精戦士としての力を――!

「――変 身!!」

服の中の本から放たれた異能の光が私を包み込む。
98 : ティンカー・ベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/06/07(木) 23:52:03.46 0
一瞬の後、私は透き通る羽根を持つ美少女と化していた。
メタボのおっさんに代わり、ようやく妖精美少女戦士のターンである。
私は魔法の粉を振りまきながらさも当然のように現れる。
妖精戦士ベルは事件が起こるとどこからともなく現れるのが定石となっているので、多分特に怪しまれることは無い。

「危ない!」

呑君に襲い掛かろうとしている河童に、蹴破られた戸の残骸をぶつけた。
私の魔法の粉がかかったものは、一時的に空を飛べるようになる。
そのうち、無生物については念動力のように私の意思で操れるのだ。

「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! 妖精戦士ティンカー・ベル参上!
共にここを食い止めようではないか!」

穏やかな口調のおっさんから、勇ましい口調の美少女へ変わったように見えるが――
実は外見と声以外何も変わっていない。もしも小説などの文章媒体なら同一人物なのが一目瞭然だろう。
しかし、人間は情報の大部分を視覚に頼っているという。
中でもメタボのおっさんと美少女は、世界でもっとも重ならない存在なのだ。
99 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/08(金) 10:40:50.04 0
>>95->>97
>「テメェ!!!おちょくってんのか」
多分…違う。
中の『彼女』は、ご両親を亡くしたことをそういう風にしか表現できない
ほど、心の傷として抱えているのだろう。
施設にもそういう子は何人か居るし、院長先生もそのことについては
心を痛めている様子だったから…。

>「……唐空君、今は混乱しているようだから出直そうか」
>「…確かに今ならまだ仕掛けられる前に退くことは出来るか…」
橘川店長の話では、この長屋が近く取り壊し予定なのは間違いない情報
らしい。ただ、それを言っても今の彼女が信じてくれるとは思えない。

久実も、その段に至ってはこれ以上粘るより、一時撤退の方に票を投じる
気になっていた。何故なら先刻から…。
そう、濃密な違和感、イヤな空気──ハッキリ言ってしまえば、殺気。
表情から察するに、唐空さんも感づいているようだ。

ドバンッ!!
背後で何かが激しく壊れる音。
反射的に、右の二の腕から瓜の蔓がシュルシュルと伸び、形を変え、
緑色に輝く木刀になる。その間、1秒。
振り向いた久実の目に映ったのは、ゾンビ…ではなく
押し寄せてくる河童の群れ。
「……っ!!」

咄嗟に琴里と詩乃守先生を背に庇い、得物を構える。
「先生、琴里、逃げ…」
元来た通路を指そうとして、ギョッとする。
入り口からも、別の連中がピョンピョンと、あるいはペタペタと、
通路を塞ぐように迫ってくるではないか!
それだけではない。二階に通じる階段からも…ぎし、ギシ、と
複数の足音が一階目指して降りてくる。
この様子では、他の空き部屋の窓からの脱出も難しいだろう…。
100 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/08(金) 10:43:05.52 0
最初にあの河童を目撃したとき…周辺には少女らしい影は居なかった。
ということは…視界外の離れた場所からでも、複数体「召還」可能
なのだろう。
(囲まれてる…)
嫌な汗が、こめかみから頬を伝って流れる。


>「僕らがこっちを食い止めている間に、説得なり本を奪うなりしてくれ」
橘川店長は、河童のスクラムに押されて見えなくなってしまった。
もうこうなったら、それしか方法は無いだろう。
>「お前のせいでこんな目になっているんだ。せめて体を張って責任取れよぉ!」
「ちょ、唐空さん!?何を…」
止める間も無かった。
経緯が経緯とは言え…やり過ぎだ。
どうする?橘川さんと大河原さんを助けるには多勢に無勢、ここはやはり…。

>>98
>「妖精戦士ティンカー・ベル参上!」
「ベルさん!!」
良かった、増援だ…!
原典とキャラがあまりに違いすぎるのはいつものことで…今はそんなことに
構っちゃいられない。
「男性が二人、捕まっています。足止めと、出来れば救助を!」
それだけ呼びかけると、久実は先生と琴里を誘導しつつ、
『彼女』…河童を操っている主の部屋に踏み込んだ。
101 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/06/09(土) 03:52:24.45 0
>>90-100
 本当に帰りたい……もうこれは素直な私の本音だった。
 帰る場所など無いけれど、いつまでこの出来過ぎた演劇を観賞しなければならないのか。
 こんなのだったら外で怪我をした子ども達を探してたほうがよっぽど有意義だ。
 正義の味方さん達と少女の話を半分聞き流しながらそう思った。

>「……唐空君、今は混乱しているようだから出直そうか」

 橘川さんの言葉に私は反応する。あぁ、ようやく解散の流れですか。
 そう嬉々と態度と言葉に出さなかったけれど。
 と、その時だ。何を思ったか大河原さんが戸を蹴破った。しかもドヤ顔だ。
 それが引き金となったのか、大量の河童?らしき生物が現れる。
 咄嗟に姫郡さんが庇うように私と琴里ちゃんの前に立つ。その手には緑色に輝く木刀が握られていた。
 いつの間に、そう一瞬だけ思案するがソレが姫郡さんの能力だとすぐに納得する。
 それにしても……失敗したなぁ。私は軽く、いや大分後悔していた。
 何度もシュミレートした逃走ルートは河童?と、そして私達を庇おうとした姫郡さんによって封鎖されている。
 これは無傷で逃げられる可能性が低くなってきた。最悪、この河童に殺されるかもしれない。あぁ、メンドクサイ。
 途端に気分がダレる。メンドクサクなる。どうでもよくなる。
 まるで此処ではない別の空間からTVでも見てるような感覚に私は陥った。

>「もうこうなったら突っ込むしかない。佐川ちゃんと先生と共に彼女の部屋にに入ってくれないか
  僕らがこっちを食い止めている間に、説得なり本を奪うなりしてくれ」

 大した無茶振りだ。この状況の中どうやって少女の元に行き、本を奪えというのか。
 いまだわさわさと湧き出て来る河童達。両手を上げて『逃がしてください』とお願いすれば通じるだろうか。
 多分、無理だろう。淡い願望だ。私だけでも逃がしてほしいモノだが……。

>「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! 妖精戦士ティンカー・ベル参上!
共にここを食い止めようではないか!」
>「男性が二人、捕まっています。足止めと、出来れば救助を!」

 もう何が来ても驚かない……。それが例えアニメの中でピンチの時に予定調和の如く都合よく出現する美少女戦士でも……。
 はっきり言って全てがメンドクサクなっている。この状況も、何もかも。これを人は自暴自棄と言う。
 私は姫郡さんに誘導されるがまま、少女の部屋に踏み込んだ。予想通りの居心地のよさそうな狭い部屋。
 今夜の宿に使えないのがとても残念。空気を読まずにそんな事を考える。目の前にはこちらを睨み付ける少女の姿。
 唐空さんと謎の美少女戦士、それと大河原さんでどれ程の時間を稼げるだろうか。
 私は軽く溜め息を吐き、姫郡さんと琴里ちゃんが言葉を発する前に口を開いた。
102 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/06/09(土) 03:54:09.79 0
「……あの、逃がしてくれません?」
 
 今までの展開についに限界が来たのか私はついに本音をぶっちゃける。
 いきなりの敗北宣言にその場に変な空気が流れる。が、私は空気をまるで読まずに言葉を紡ぐ。

「……ん、いや、私はほら正直、貴女がどう能力を使おうが勝手だと思ってます。貴女には微塵の興味もありませんし。
 私も自分の都合で能力を使ってるから貴女をどうこう言う資格もないですし。
 それに、話半分に聞いてましたけど、人と接するのが嫌ならソレも結構だと思います」

 言葉の最後に、1人で勝手に生きて勝手に死ぬのもまた人生ですし、と付け加える。
 私も15歳あたりからそうやって生きてきたし、そしてこれからもそうして生きていくだろう。
 無論、ここを生きて出られたらの話だが。

「……私は貴女に危害を加える気はありません。能力も戦闘向きではありませんし。
 なので、逃がしてくれると大変有難いのですが……」

 そこまで言うと、私は小脇に抱えた本を少女の足元に放り投げる。
 ついでにトランクと、隠し持っていた鈍く輝くメスも少女の前に同時に放り投げた。

「……逃がす気がないならそれで私を殺してください。本を手放しているので能力は使用できません。
 無傷で此処を出るのは難しそうですし、正直こうなっちゃうと無理矢理逃げるのもメンドクサイいんで。
 ちなみに痛いのは嫌なので出来れば即死させていただけると嬉しいのですけど……。
 ……あ、それとも、私を人質にとって逃げてみますか?人質の役割を果たせるか疑問ですけど」
 
 私は無気力気味に勝手に要求と本音を突き付ける。我ながら無茶苦茶だ。後ろの2人も呆然としている事だろう。
 しかしまあ、もしかすると近いうちに餓死してた命だし、今ここで失ったって遅いか早いかだけだ。
 それに、私の場合、能力を使い過ぎて寿命だってもうそんなに残っていないだろう。長くて10数年ぐらいだ。
 ともかく、殺すなら殺す。逃がすなら逃がす。人質にするなら人質にするで早く決断してほしい。
103 : 佐川琴里 ◇Xc4K14NVriOj[sage] : 2012/06/13(水) 04:50:15.42 0
・・・なんか最初の目論見よりも随分やばい。
いざとなれば昼間の出来事と同じように、自分の本の能力でスられた金を持ち主に戻せばいーや、
と思っていた琴里は、自身の浅はかさにここでようやく気づく。
交渉は決裂に終わった。被疑者は激昂し、人数に関して優位と思われた討伐隊は一気に形勢を逆転されたのだ。
野次馬根性で窓を覗き込んだ琴里は、その光景を見て早々に後悔し慌てて久実と詩乃守医師の元に戻る。
昼間のあの青緑の影。そして外にいた異形達。
それらはするりとイコールで結ばれた。スリの首謀者は間違いなく、目の前にいる彼女だ。
河童は象徴的な悪だと決め付けてかかったが、その主犯たる少女は、人の脆弱さや悲しさを塗り固めたような人間で、
「悪即断」という単純な原理は適用されない。
もんもんと考えているうち、後ろから絶望しきった声が響いた。

>「……逃がす気がないならそれで私を殺してください。」
詩乃守医師だ。無気力な彼女らしい、世の中の全てを諦めたような物言いに、琴里はカっとなった。
「死ぬとか殺されるとか、悲しいこと言わないで!」
これ以上ややこしくさせないためにも、人質志願者の前に立ちふさがる。必要とあらば足に食いついてでも止めてやる。
琴里は威勢で、河童の主人にも怒鳴った。
「君!警察が来る前にスリなんて馬鹿なことや止めて!捕まったら少年院送りだよ?!君はさっき、施設での生活を拒んだけど、
それと比べ物にならないくらい酷い場所だ!自由がない檻の中で、看守は君を陥れ貶め馬鹿にするんだ、犯罪者のレッテルを貼られた君を!」
104 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/06/19(火) 21:10:08.78 0
>「男性が二人、捕まっています。足止めと、出来れば救助を!」

久実ちゃんが私に声をかける。
“二人の男性”のうち一人は多分私、そしてもう一人は大河原殿の事だ。

「了解した!」

部屋に突入した私は、さりげなく部屋の中を一回り飛んで魔法の粉を部屋全体にかける。
まずは人質の救出だ。
鉛筆やボールペンを、大河原殿を羽交い絞めしている河童の目にめがけて飛ばす。
生物ではなくとも目らしき物があるなら、そこに飛んでくる物があれば反射的にガードするのを狙っての行動だ。

「今の君なら飛べる。窓からはやく逃げるんだ!」

人質志願している優さんに声をかける。
魔法の粉をかけられた者は、空を飛べると信じる事によって飛べるようになる。
よって、彼女が飛べるかどうかは――微妙だ。
でも久実ちゃんと琴里ちゃんは、今までにも私の魔法で飛んだことがあるので効果があるのが確実だ。
そして、重力から自由になる事は、戦いにおいて大きなアドバンテージになる。

「BOOK所有者である限り本を必ず体のどこかに隠し持っている……。
久実ちゃん、琴里ちゃん、彼女から”本”を奪ってくれ!」
105 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/06/20(水) 02:00:00.51 0
意外に思われるかもしれないが、私こと勝川隆葉は、自身を不運だ、不幸だ、と思ったことはない。
ただ、私の出来上がり方がどうしようもなく間違っているだけだ、と認識している。
私はどうしようもなく出来損ないで、社会の要求水準に適応できていないだけ。
その出来損ないの後始末を、お父さんとお母さんにまでさせてしまっただけ。
だから、私は不幸を呪わない。不運をなじらない。
ただ、現実に適応しようともがくだけだ……。


扉が蹴破られた。
その時には、すでに河童たちは結集しており、すぐにその不埒者を捕らえようと動き出す。
それはすぐに完了した。……というか、なぜか向こうから放り投げられて空中を飛んできた。
なんだろう、仲間割れだろうか。いずれにせよこちらには好都合だ。

蹴破られて全容が見えた。相手は子供も含めて全部で6人。うち1人はすでに捕まえた。

「不埒な連中を捕まえよう、皆の衆! 我らの平穏を守るのだ!」

シャウさん(バリトン歌手)が持ち前のいい声で河童たちを先導する。
彼はそれしかやる事がないから、声にも気合が入ろうというものだ。
それにつられてか、チュチさん(ラグビー選手)がタックルを決め、太った男性を吹き飛ばす。
彼はそのまま遠くに転がっていってしまった。……何なのだろう。遊び?

そして、滑り込むように部屋に入ってきたのは3人。
薄汚れた白衣姿の女性。
こまっしゃくれた感じの子供。
セーラー服姿の、私と同年代程度の娘。
奇しくも全員女性だ。表から声をかけてきていたのは男性だったのだが……まあいい。

彼女たちは私の姿を見て、どう思っただろうか。
膝を折って地面にぺたんと座り、床まで伸びた髪をざんばらにした、濃い青色のワンピースの少女を見て、
何を思っただろうか。
憐憫? 侮蔑?
残念、どちらも私には不要なものだ。
だから……と、口を開きかけたところに。

>「……あの、逃がしてくれません?」

「……」
 
超展開。
これには私も呆然とするしかなかった。

106 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/06/20(水) 02:00:50.41 0
>「……ん、いや、私はほら正直、貴女がどう能力を使おうが勝手だと思ってます。貴女には微塵の興味もありませんし。
> 私も自分の都合で能力を使ってるから貴女をどうこう言う資格もないですし。
> それに、話半分に聞いてましたけど、人と接するのが嫌ならソレも結構だと思います」
> 言葉の最後に、1人で勝手に生きて勝手に死ぬのもまた人生ですし、と付け加える。

「……え」

肯定? 私の生き方を肯定しただって?
嬉しいとか悲しいとかより前に唖然とするほかない私。

>「……私は貴女に危害を加える気はありません。能力も戦闘向きではありませんし。
> なので、逃がしてくれると大変有難いのですが……」
> そこまで言うと、私は小脇に抱えた本を少女の足元に放り投げる。
> ついでにトランクと、隠し持っていた鈍く輝くメスも少女の前に同時に放り投げた。

「な、なな、なにを……」

失礼、噛みました。
あまりの展開に頭がついていっていない。

>「……逃がす気がないならそれで私を殺してください。本を手放しているので能力は使用できません。
> 無傷で此処を出るのは難しそうですし、正直こうなっちゃうと無理矢理逃げるのもメンドクサイいんで。
> ちなみに痛いのは嫌なので出来れば即死させていただけると嬉しいのですけど……。
> ……あ、それとも、私を人質にとって逃げてみますか?人質の役割を果たせるか疑問ですけど」
 
「望みとあらば」

え。
いや、この地の底から這い出るような声は、私の声ではない。
これは……。

「……ディクティルさん?」
「然様、然様。覚えてくれたようですな、嬢さん」

そういって一歩進み出てきたのはディクティル氏(医師)だった。
白衣をずるずると引きずって歩くさまは、目の前の女性とあいまって医師に対する戯画化に見える。

「我輩の所見では、そこの女性は産道で答えを間違えたと見えますな。
 いや、それとも何かの間違いで聞かれなかったのか」

思い出す。河童のエピソードのひとつ。
出産直前の胎児に、産まれるか否かと問いかけるシーン。
産まれたくない、と答えた胎児には……。
当然、人間にはそんな機会はない。

「なれば、来た所に返すが相当でしょう。
 そうできなければ、それに似たところに返すが相当でしょう。
 なに、痛むことはない。我輩は医者ですからな」

そういうと、ディクティルさんはメスを拾い上げ、クルリ、とまわした。
それが妙にさまになっていて、私は笑むように口を開ける。
なぜか、口の中はからからに渇いていた。

>「死ぬとか殺されるとか、悲しいこと言わないで!」

子供がわめく。
うるさい、何もわかってないくせに。
『彼ら』がどういう存在か、そもそも読んだこともないくせに。
『彼ら』がそうしているのは、人間が、私がそのようにしてきたからなのに!
107 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/06/20(水) 02:02:31.29 0
>「君!警察が来る前にスリなんて馬鹿なことや止めて!捕まったら少年院送りだよ?!君はさっき、施設での生活を拒んだけど、
>それと比べ物にならないくらい酷い場所だ!自由がない檻の中で、看守は君を陥れ貶め馬鹿にするんだ、犯罪者のレッテルを貼られた君を!」

「嗚呼! ティクティク翁め、しくじったな!」

シャウさんがわめく。

「かくなる上は、かくなる上は! かくなる上は口を封じねば!」

「うるさいわ」

苛立ったような私の声に、ぴたり、とシャウさんが黙る。

「やっぱりそういう理由だったのね。立ち退きだなんて、いやな冗談。最初からそういえばいいのに。
 でもね。罪があれば、罰がある。……そんな理屈で罪をやめさせようなんて、甘いわよ、子供」

まったく、舌だけはうまく回る。
『彼ら』と生活するうちにすっかりそうなってしまった。

「罪には罰がある。なら、生きることが罪なら、生きようとするために罪が必要なら、私はどう生きればいいのかしら?」

ガキの理屈だ。自分でもわかる。
でも、私はそれにすがって生きるしかないのだ。

「ディクティルさん、手早くね。それから、他の皆さん、早く……」

早く、何をしてといおうとしたのか。
自分でもわからないうちに。

「クァァァァッ!」

青年を羽交い絞めにしていたパッパさん(ゴロツキ)の悲鳴が上がった。
見ると、彼の目をめがけて執拗に文房具が飛んできている。
おかげで、羽交い絞めにしていた腕が離れてしまったようだ。

何事かと見回すと。

「……妖、精?」

もうなんでもありだった。
右手の新書と、胸を押さえる左手に力が入った。
108 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/22(金) 10:19:46.96 0
>>102
ああ、そうか。
先生と少女は「似た者同士」…。
「本」を得てしまったがために隔離され、
何も無ければ手を差し伸べてくれるはずだった(かもしれない)
庇護者にも友人にも出会えず…ここまで来てしまった。
先生も、この世を倦んでしまっている人。琴里が言ったように
「貴重な良識派」では無かったのだ。

だけど、それでも。余計なお節介と言われても。
ここで黙って、人が殺されるのを見過ごすわけには行かない。
ましてや、彼女は施設の弟分の恩人だ。

>>103
もう…遅い。
少女は既に、窃盗の罪を犯してしまっている。
今の状況を打破して、家捜しをすれば「証拠」は出てくるだろう。
どういう処分になるかは…司法が決めること。

>>105
部屋に入ると、そこに彼女は居た。
…ここに来る途中、コインロッカーに寄らせてもらって
トイレで着替えが出来たのは良かった。
相手と対峙するのに、威圧的な武道着よりセーラー服姿の方が良い場合も
多々ある…色んな意味で。

(髪の毛さえ何とかしたら、けっこう可愛くなる子だな)
それが、久実の──状況とは不釣合いな第一印象。
しかし、もうここまで来たら相手にビビったりせず、度胸を据えるしかない。
幸い、少女は先生の言葉に驚いた様子を見せている。
横合いから迫ってきた河童の一体に対し、みぞおちに木刀を突き立てて
転げ回らせながら、久実は素早く目を動かし、観察を続けた。
右手には新書…友人が同じ本を持っていたような記憶がある。
確か、短編集だったはず…だとしたら、あれはフェイク。

そう、以前に関わった事件でも、同じ手を使った犯人がいた。
解決後、久実も「それ」を更衣室でこっそり試そうとして──
ある程度以上のボリュームを持たないと「無理」という結論に達し、
しばらくヘコんだことも…ある。
109 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/22(金) 11:18:14.62 0
>>106->>107
>なれば、来た所に返すが相当でしょう
>かくなる上は口を封じねば!
>ディクティルさん、手早くね。それから、他の皆さん、早く

……!
もう、悠長に説得している猶予はなさそうだ。
人が本を使役しようとして、逆に本に呑まれてしまっている。
その本の内容が内容なら、尚更……!

>>104
>BOOK所有者である限り本を必ず体のどこかに隠し持っている
ベルさんの「粉」のおかげで、しばらくの余裕と、少女に動揺=
僅かな隙が生まれた。

>右手の新書と、胸を押さえる左手に力が入った
手近な河童の頭の皿を、木刀で唐竹割りに打ち据えると、
木刀をシュルリと蔓の状態に戻し…久実は少女との間合いを一気に詰める。
右手の「本」ではなく、相手の目をじっと見つめたまま、
彼女の胸を抑える左手首のツボをぐい、と親指と人差し指で掴み…
捻って極める。
中国武術の「按抓折腕」という技だ。
本気を出して腕を傷めさせることも出来るが、手加減しても相手は充分
抵抗が出来なくなる。

背後から近寄ってきた別の河童に、空いた左腕でしこたま肘鉄砲を
食らわせた勢いで、久実は左手を少女の襟元にすべり込ませた。
(背中に挟むのは案外難しい…ならば、やはり本物の隠し場所は…前!)

果たして、手ごたえは──あった。
久実は掴んだ紙の感触を、そのまま引っ張り出し、そして叫んだ。
「お琴、パス!」
110 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/06/27(水) 23:29:32.71 0
二方向から迫り来る河童の群れ、それを迎え撃つのは武術の心得など全く無い僕。
正直、食い止められる気がしない。
僕はグローブを握り締めながら、必死に現状を打破する術を考える。
しかし、あちらは易々とそんな時間は与えてはくれない。
「…しまった!」
背後から迫り来る河童の存在に気が付けれどももう遅い。
どうがんばっても反応することが出来ないところにまで迫ってしまっている。

どこからとも無く飛んできた残骸が河童を弾き飛ばした。
僕はふと飛んできた方向に目を向けると…何アレ?

視線の先に居た人物のあまりのぶっ飛び加減に僕は呆然としてしまった。

「え…あ…え…えー!」
そう呆然としている中、姫郡が頼るように状況を伝える様に僕はもう一度驚く。
姫郡から信頼されているということは、味方として考えていいのかも知れない。

とここで僕はあることに気がつく、先ほどまで何の変哲も無い廊下が
まるで砂金でも振りまいたかのようにキラキラとしているのだ。
加えて、そこに居た河童達がまるで溺れているかのように、空中でもがいているではないか!
…恐らくそれが彼女の能力と見ていいのかも知れない。
「あの!あっちの通路にもソレお願いします。」
これはチャンスだ。
いくら河童といえども浮かされてしまえば身動きが取れないことが判った以上、
あとはもうコッチのものだ。
まず、僕は大きめの残骸を手に持ち、盾のように構えると
「ダァァァ!!!」
もがく河童達の群れに突っ込んでいく。
浮いている河童たちは僕の突撃を交わすことも出来ず。
尚且つ浮いているから勢いも損なわれない。
まるでブルドーザーのように河童たちを突飛ばすと視線を背後へ向けた。
彼女の姿はなかったが、既にそこには先ほどと同じように
もがく河童の群れがそこに居る。
「これで仕舞いだ!」
僕は助走を付けて一番手前に居た河童をグローブの着いた手で殴りつける。
踏ん張ることも出来ない河童は玉突のように後ろにいた河童にぶつかった。
しかし、僕の攻撃はまだ終わっちゃ居ない。
「次はもっと大きいぞ!!!」
先ほど殴りつけた河童を倍増した力でもって再度殴りつけた瞬間、
河童の群れはまるで、ヒーローに殴り飛ばされる悪党のように吹き飛んでいった。
「一通りはこれでいいかな?」
あらかた片付けたことを確認すると、
僕は能力を解除し適当な場所に置いていたケーキに手を付けた。
111 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/06/27(水) 23:34:49.09 0
「あぁそうだ…一つ聞きたいことがあったんだ」
今回の元凶を姫郡が取り押さえたタイミングで、僕は部屋へ入室した。
右手にフォーク、左手には1ホールのケーキとカッコはつかないが
今はそれどころじゃない。
「あ…一応廊下に居た河童の群れは片付けたから、逃げるなら今の内だよ。
 ま…その必要もなさそうだけど」
そう周りに伝えて、僕は蔑んだ視線をスリに向けながら近づく。

「さて本題だ。さっき人に干渉されたくないって言ってたけどさ、
 んじゃ、お前はどうなのさ?
 別に僕はお前が仙人のように俗世と離れてどこで住もうが知ったこっちゃないけどさ。
 そういうところに身をおいている癖に、一方的に干渉するのってどうかと思うんだけど…
 どう考えている訳?」
ふうっと一呼吸を入れると、僕は妖精の彼女に視線を向ける。
「ちょっとこれも浮かせてもらっていいですか?」
そう言ってケーキを彼女に預けると、
僕は財布から唯一残っている野口さんを出して彼女に突きつけた。
「これ?何かわかるよな?
 所謂「金」って言われている紙キレだよ。
 力を入れれば、こんな風に容易く破れるし、マッチ1本で簡単に燃える」
演技であれ彼女と会話し、こうして目の当たりにしてわかったことがある。

こいつには明らかに罪の意識が無い。

そして、やたらと自分は不幸だと言い自身の行動を正当化させている彼女の言い草に僕は正直ムカついていた。
だからこそだ、ここで完全に叩き潰す必要がある。
「だけど、こいつが中々曲者でね。
 群れれば聖人きどりな人間の化けの皮を容易く剥ぐこともできるし、
 たった一枚だけ無くなっただけで人の人生が劇的に変わってしまうぐらいの力がある。
 た っ た 一 枚 だ け で も ね 」
心なしか語尾が強くなっているような気がしなくも無いが続ける。
「お前のせいで何人の人生が変わってしまっただろうな?
 んじゃ、改めて聞くけどさ、干渉されたくないくせに
 一方的に干渉してくるお前はなんなの?
 なんの権限があって干渉してくるわけ?
 なぁ…なぁ、なぁ、なぁ!!!
 馬鹿にされたくないとか、蔑まれたくないとか言ってるけどさ、
 人のことナメくさっているお前に言う権利無いよね」

とりあえず、なるたけ抑えてしゃべったつもりだけど、これでも何か言い返してくるなら
正直、僕は冷静で居られなくなるかもしれない。
112 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/06/28(木) 02:31:35.66 0
>>104 106 108 109
気が付けば全てが終わっていた。少女は姫郡さんに取り押さえられ、少女の本は琴里ちゃんの手の中にある。
どうやら死ぬ必要は無くなったらしい。無傷で此処を出られるようだ。
私は取り押さえられている少女のそばのトランク、そして本を拾い上げる。
少女が本を手放したことにより私を殺そうとした河童は消えた。だから床にメスだけが刺さって残っている。

「……ん、ごめんなさい」

その謝罪の言葉は琴里ちゃんに対してのものだ。怒られた子どもの様にペコリと頭を下げる。
先程の『殺して』という言葉も本気で、今の謝罪の言葉もまた本気だった。
……そりゃあまあ、確かに、目の前で人が死んだら琴里ちゃんの様な小さな子には衝撃的だろう、トラウマ級だ。

「……それから、ありがとうございました」

この言葉は妖精戦士さんに対してのもの。再びペコリと頭を下げる。
結局飛ばなかったものの向こうはこちらを助けてくれようとした。ともかくお礼は言うべきだ。

>>110 111
ふと気付けば唐空さんが少女にお説教している所だった。いや、アレはお説教と言えない。
完全に上からの目線で少女を『責め立てている』。その唐空さんの物言いに無意識に言葉が出た。

「……唐空さん、貴方の言葉は正論ですが。私は嫌いです。それが例え罪を自覚させるためのものであってもです。
 それに『正論』の言葉って意外と通じないものなんですよ?ましてそんな言い方じゃ……。
 ……一方的に暴力的な言葉で人を押し潰す事しか考えてないような言い方、反吐が出ますよ」

一瞬、私を此処に放り込んだ大人の顔が頭をよぎる。あまりに唐空さん言い方が似ていたからだ。
それだけ言うと、おもむろに姫郡さんに取り押さえられた少女に近寄る。

「……気を悪くしたならごめんなさい。ただ、個人的に気に入らなかったものでつい」

唐空さんに言いながら膝をつき、握っていた手を広げると翡翠色の一枚の葉があった。
内臓が捻じれる様に痛むがそれも一瞬の事、葉を精製した代償だ。この葉の代金は寿命4、5日と言った所か。
私はその葉を意識があるのかどうかも分からない少女の口に押し込むように入れる。
意識混濁、喪失に対して効くかやったことがないからわからないけど、多分悪くはならないだろう。
此処にいる全員の「何をやってるんだ?」という視線が突き刺さる。

「……ん、私の目的は子どもを治す事です。それがどんな子であっても私は治します。
 ……だから今、この子も治しました。本を取られているので能力は使えないでしょうが。
 他にも怪我をした人がいるならどうぞ、治しますので。ただし子どもに限り、ですが」
113 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/06/29(金) 22:25:23.72 0
>>109 さすが、久実の動きは流れる水のように無駄がない。
あんたはどこのストリートファイターだ!と突っ込みたくなるほどの美しい体さばきである。
あの関節技ヤバい。まじヤバい。とひやひや観戦していたところ。
「お琴、パス!」
いきなり自分の名前を呼ばれてギョっとなる。
なんと、少女の胸から抜き取られた本が鋭い弧を描いてこちらへぶっ飛んできた。
「え?ええーっ!」
琴里は両手を上に伸ばし(イメージは真剣白刃取)奇跡のタイミングで本をキャッチする。

クライマックスはたぶんここだった。
 ぱたん。軽い埃を立てて、女の子は畳に倒れふした。
本を閉じた時の音にちょっと似ているな、と琴里は思った。

後始末。

>>112
>「……ん、ごめんなさい」
「許しません。」
少し複雑な心境で、琴里はそうつっぱねた。
「・・・ここで簡単に許したら、『先生の命は軽いです』って言ってるようなもんじゃないか。」
詩乃守医師は無気力に見えるが、実は、自分のしたいことは優先するし、思ったことをそのままいう、ある意味芯が一本通った人間だ。
彼女の自己認識を変えることは難しいだろうが、やはり一言言わなければ気がすまなかった。


>……一方的に暴力的な言葉で人を押し潰す事しか考えてないような言い方、反吐が出ますよ」
口の立つ唐空青年が詩乃守医師に反論する前に、琴里は慌てて口を挟む。
「ね!ひとまず今日はもう暗いし帰ったほうが良いんじゃないかな!
それと、この女の子をここに一人ぼっちにさせる訳にもいかないし、誰かあたし達の施設まで負ぶってくれる人いない?!」
114 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/06/30(土) 08:18:43.45 0
久実ちゃんが本を奪い、琴里ちゃんがキャッチする。
一件落着――。

>「……それから、ありがとうございました」

「いや、あまり役に立てなくてすまない。しかしもう死ぬなんて言わないでおくれ。
琴里ちゃんが怪我したら治してもらわないといけないからな」

>「あぁそうだ…一つ聞きたいことがあったんだ」

呑君、満を持して入室。
正義の味方が敵を倒した後にちょっと格好良さげなことを言って話を締めるお説教タイムである。
……のはずだが、ケーキを持っているのはツッコミ待ちだろうか。

>「ちょっとこれも浮かせてもらっていいですか?」

「あ、ああ」

別にいいが何故にケーキ!?

さて、お説教タイムには鉄則がある。
事件の直接の被害者や過去に同種の事件にあってトラウマがある者が行ってはならないという事だ。
無関係なところからお節介に降って沸いて解決する正義のヒーローだからこそ、他人事としてちょっといい事が言えるのだ。
呑君もまた、金によって人生を狂わされた事があるのかもしれない。

>「……唐空さん、貴方の言葉は正論ですが。私は嫌いです。それが例え罪を自覚させるためのものであってもです」

ストッパー役は優さんに任せ……私はこっそり部屋を出て変身を解除した。
115 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/06/30(土) 08:36:01.56 0
メタボのおっさんに戻った私は、何事も無かった風を装ってさりげなくまた部屋に入る。
妖精の粉の継続時間内で未だ浮いているケーキだけが、先刻までの戦闘の名残を残していた。
丁度、呑君と優さんの舌戦が始まりそうなのを、琴里ちゃんが阻止しているところだった。
琴里ちゃんはまだ幼いが、なかなか大人なところがある。

>「ね!ひとまず今日はもう暗いし帰ったほうが良いんじゃないかな!
それと、この女の子をここに一人ぼっちにさせる訳にもいかないし、誰かあたし達の施設まで負ぶってくれる人いない?!」

「いやはや、済まなかった。河童にもまれているうちに終わってしまったようだな。
せめてこれぐらいは貢献しよう」

そう言って、少女を背負う。

「人は時に金という魔力に振り回されて人生を狂わせる……。
BOOK持ちもまた、時に本の異能に振り回されて人生を狂わせる。同じなのかも、しれないな。
さあもう遅い、帰ろう」
116 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/30(土) 09:35:35.87 0
>>110
廊下から、河童達の「クェエエ!」「クワァグ!」という悲鳴が響く。
なるほど…3発しか技を放てないなら、ボウリングか将棋倒し戦法、と
いうわけか。
その点、久実は素直に唐空さんの機転には感心していた。

>>111
本を奪われた「彼女」は、急速に脱力し…目の焦点も定まらなくなる。
あれだけの数の「河童」を召還していたのだ、その反動による疲労も
すさまじいに違いない。
案の定、目に見える形で持っていた本はダミーだった。
BOOKS能力の源となる本は「一冊一物語」でなければならない、と
いうのが鉄則。掌編、短編、いくつもの章からなる長編にせよ。

極めていた「彼女」の手首から自分の手を離し、必要以上に関節や筋を
傷めつけてしまっていないか確認する。
唐空さんが足音も荒々しく部屋に入って来て、「彼女」を糾弾しはじめた。
久実は押さえ込みの体制を解除すると、今度は「彼女」の身体をそっと
抱きかかえる。
──濡れているわけでもないのに、「彼女」の体温はまるで長時間
水の中にいたかのように、冷たかった。

>聖人きどりな人間の化けの皮を容易く剥ぐこともできる
自分のことも「正義のヒーローきどりな、暴力的で痛い女の子」みたいに
思われてるのだろうか?
”自称正義の執行人”と”困っている人のための正義の味方”は違う…
人と違う能力を持っている以上、相応の責任も伴う…日々、個人的には
そう自戒しているのだけれど。
能力の反動で、放っておいたら常に餓死の危険がつきまとう(だろう)
唐空さんからすれば、ハラワタが煮えくり返る思いなのも、
分からなくは無い。だが…。
「彼女」を見ると、朦朧としてはいるものの意識はまだあるようだ。
久実は黙って、そっと「彼女」の言葉にも耳を傾けた。
(今夜にでも…『河童』、読んでみよう。芥川全集が図書室にあった
はずだから。
もしも「彼女」のBOOKが『ガリバー旅行記』だったら、結末は
同じように「人間不信」だとしても…事件の様相は全く違ったものに
なったかも知れないな…人間のネガみたいな言動をとる河童と、
人間の理想像を投影した高潔な馬族)
そんな考えが、チラリと久実の脳裏をよぎる。
117 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/30(土) 10:21:37.51 0
>>112
床に刺さったメスをそっと引き抜き、刃の部分を自分に向ける形で
持って先生にお返しする。
「こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした…危険な目に
遭わせてしまいまして」
改めて、頭を下げる。

>握っていた手を広げると翡翠色の一枚の葉があった
>内臓が捻じれる様に痛む
詩乃守先生の生成した薬草?を「彼女」に含ませると、憔悴しきっていた
彼女の頬に、少しずつ赤みがさしてくるのが分かった。
久実の腕や胸に寄りかかっている部分にも、徐々に人肌の温もりが戻って
いく。
しかし──ほんの一瞬だけ、先生の表情が僅かに苦痛の色を浮かべたのと、
白衣の裏に垣間見えた「…付け親」という活字を、久実の瞳はハッキリと
捉えていた。
(『死神の…名付け親』…!)
元々、武術鍛錬の息抜きで読書を楽しむのが趣味だったこともあるが…
街の自警活動を行うようになってからは必要にかられることもあって、
久実は童話や児童文学の類を片っ端から濫読する習慣を身につけていたのだ。

(もしかしたら、この先生は…ううん、そう考えたら全部説明がつく)
施療行為を通じた、緩慢な自殺。
そんな風に至るまで、この女性はどれだけ…。

>>113
あ、そうか。
琴里の能力は、本来の持ち主(奪った物はダメ)の同意と、第三者への
転送しか出来ないんだった。
まあ、結果オーライ。

>「ね!ひとまず今日はもう暗いし帰ったほうが良いんじゃないかな!
>誰かあたし達の施設まで負ぶってくれる人いない?!」
「そうだね…皆心配してるだろうし。院長先生にもメールしとくね」
久実はうなずくと、ポケットから本…ではなくスマホを取り出した。
送信先は…懇意にしてくれている、警察署少年課の担当者さん。
あらかじめ打ち込んでおいたテンプレの文章を呼び出し、現在位置の地図と
共に送信する。
『連続窃盗事件の被疑者と本、確保しました。
被疑者は心身衰弱激しいため、今夜は当方施設でお預かりします。
現場の家宅捜索、宜しくお願いします。 ”瓜子姫”』

自警活動である以上、けじめはつけないといけない…。
118 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/06/30(土) 10:54:23.97 0
>>114->>115
>「あ、ああ」
>別にいいが何故にケーキ!?
ちょっとびっくりした様子のベルさんに、「唐空さんの能力、
維持や発動には大量のカロリーが必要みたいですね」と微笑んで
声をかけ、頭を下げる。
「今回も、ありがとうございました、ベルさんが来てくださらなかったら
どうなっていたか…」

…と、そう言えば大河原さんは?
慌てて周囲を見回すと、背の低い複数の影~河童ではないようだ~が
ちょこちょこと動き回って氏を介抱している。
揺れる三角帽子、大きな鼻…中には自身の背丈ほどの金槌を軽々と
担いでいる者もいる。
おそらく…彼らも河童の群とと一戦交えてくれたのだろう。

そうこうするうち、いつの間にか橘川店長も腰をさすりながら
合流してきた。
大した怪我も無いとのことで、ひょいと「彼女」を背負ってくれる。
「河童にもまれているうちに終わってしまったようだな」とは仰るものの、
多分能力を使って切り抜けられたのだろう。
「ところで…あの小人さんたち、店長さんのですか?」
やっぱり気になったので…とりあえず、尋ねてみた。

……
帰り支度が整ったところで、詩乃守先生に声をかける。
「あの、今夜はどうぞ、私達の施設にお泊りください。
お食事とお風呂、それに来客用の寝室もご用意させていただきますので」
お礼をお詫びの気持ちを込めて、そう申し出てみた。
何人かの知人・友人の内、『星のひしゃく』『養老の滝』を持つ2人の
顔が浮かぶ。
生命力回復効果のある飲料を生成できる彼女と彼ならば、あるいは先生の
消耗も…。
(一度、相談してみよう)

すっかり静けさを取り戻したアパートの部屋を去る際、もう一度
振り返って中の様子を見る。
じきに、すられた金品の隠し場所も判明するだろう。
報告や立会いで、明日以降も呼び出しがあるかも知れない。

「唐空さん」
解散する段になって、久実は静かに声をかけた。
「今日のお話の件ですけれど…御縁が無かったということで
参加は見合わさせていただこうかと思います」
何の感情も交えず、淡々とそれだけ告げる。
「お疲れ様でした…さ、帰るわよ、琴里」
119 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/07/01(日) 01:06:25.63 0
>>109
一瞬の隙を稼げればいいと思っていた安っぽい仕掛け。
しかし、それでは一瞬すらも稼ぐことはできなかった。

「痛っ……!?」

まさに一瞬の出来事だったと思う。
セーラー服の少女が、シャウさん(バリトン歌手)の皿を緑色の木刀で打ち据え
→瞬間移動するかのように私の目の前に現れ
→私の左手をつかみ
→捻って
→激痛が走った。

さらに、助けに入ろうとしたKAPP(プロレスラー。リングネーム)に肘打ちを食らわせ、
→手が襟元から私の胸に……。

胸に、といっても、別に18歳未満お断りの展開ではない。
私は、右手にはまったく関係ない新書本を持ち、本物の『本』は胸元に仕込んでいて、それが見破られた。
それだけの、つまらない話だ。

本が掴まれ
→引きずり出されて
→本が私から、はな
              れ

                て


120 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/07/01(日) 01:07:25.52 0
みんないなくなった。
KAPPも、パッパさんも、ディクティル氏も、チュチさんも、シャウさんも。
みんないなくなってしまった。


何のことはない、本をとられて私の能力が強制的に解除されただけだ。
だが、それは私に強烈な無力感と脱力感を与える。
冷静に考えたならばこの感覚も、能力解除の際の副作用を錯覚しただけだが。
今の私に、冷静に考えている余裕はなかった。

>>111
青年が私に何かがなりたてている。
どこか聞き覚えのある声。最初のチンピラじみた声の男(おそらくあれも演技だろうが)だろうか。
彼なりに何か憤るところがあったのだろうけれど。
残念ながら、今の私の朦朧とした意識では彼の発言は半分も聞き取れなくて。
だけど、ひとつだけ理解できたことがあったから。

「そう」

最後に青年を見据えて、言ってやった。

「あなたも私に生きるなというのね」

発言と同時に、意識が完全に闇に飲まれるのを感じた。
反論は後でゆっくり聞こう。聞く機会があったら。











>>112
……。



……苦い。

何かが口にねじ込まれたと思ったら、それが強烈な苦味を持って私に襲い掛かってきた。
あの、私意識を失ったばかりで反応できないんですけど。
「苦っ!?」とかいう感じのリアクション芸を期待してるならよそにお願いできますか。

と、間抜けな反応を脳が返していたところ。
おや、なんだろう。なんだか体が楽になった、ような……。
良薬は口に苦しという。ということは、今のものも良薬だったのだろうか。

とはいえ、さすがに一気に目が覚めるほどではない。
昏倒が睡眠に変わるぐらいの効果しか今はなかったようだ。
まあ、体の回復という意味では段違いだろうけれど。

眠りの中で、私は夢を見る。
今度は、いつもの過去の夢ではなく。
どんな夢だったかは覚えていないけれど。

夢の中で私は、笑っていたような気がする。
121 : 状況説明 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/07/01(日) 01:50:12.40 0
翌日。日が高く上るころ。
久実のスマホに一通のメールが届く。
発信者は、少年課の担当者である若年の刑事、井沼。
自身もBOOKS能力者である彼は、瓜子姫のよき理解者の一人だ。
ちなみに本は『いぬのおまわりさん』。
本と絡めてイヌヌマと言い間違えられることが多いのが悩みの種だとか。

話がそれた。

メールの内容は、まとめると以下のようなものだ。

・役所に照会した所、幽霊長屋に少女……勝川隆葉が住んでいること自体は書類上も間違いはなかった。
 食料の通信販売の宅急便なども頻繁に届いていたようだ。
・幽霊長屋の管理人は先日亡くなり、親戚たちが遺産相続でもめている。
 が、長屋を取り壊すこと自体では一致しており、これは決定事項と見ていい。
・管理人の親戚たちは長屋に人が住んでいることを把握しておらず、隆葉に連絡が遅れたのはそのため。
 隆葉が外部に連絡を取っていなかったのも影響していると思われる。
・隆葉の自宅からは衣類などの生活用品一式のほか、数十万円分の現金が発見された。
 状況的に現金はスリによって入手したものと思われるのだが、確実な物証としては扱いにくい。
 現金輸送車やATMでもない限り、お札のナンバーをまともに控えている事などまずなく、どこから入手したものかは分からないからだ。
 (一応こっちで照会はしてますけど、あまり期待しないでください。とは井沼氏談)
・スリ事件の被害を見ても、現金だけがきれいにすりとられており、彼女が本当にスリの犯人であったとしても他の物証が出てくるとは考えずらい。
・よって、彼女の今後については、彼女に「話を聞いて」、その結果によると思われる。最も重くて能力者少年院送り、
 軽ければ保護観察程度で済むだろう。


ちなみに、隆葉はこんな話がされているとは知らず……いや、想像はしているかもしれないが……静かに眠り続けている。

【シナリオラストの自由選択肢。勝川隆葉をどうしよう?】
122 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/01(日) 22:05:37.82 0
名前:鳥島抜作 (とりしま ぬけさく)
性別:男
年齢:22
職業:就活生(浪人一年目)
外見:黒のリクルートスーツに常時ガスマスク
性格:シニカル

本の題名:『金のガチョウ』
     触れたものを磁石のように自分の身体にくっつけることができる。
     また、くっついたものは磁化された鉄のようにほかのものをくっつけることができる。
     (足→靴→壁のようにくっつけて壁面に立つことも可能)
     くっつくパワーは非常に強く、彼が触れ続ける限り如何なる剛力を用いても引き離すことは不可能。
     身体から離すと"くっつき"も解除されるが、頑張れば手元から離してもしばらくの間"くっつき"を維持できる。
     ただしパワーと精度は下がり、極めて集中力を要するため並行して他のものをくっつけることはできない。
     地面や空気など、巨大すぎるものや目に見えないものをくっつけるのにも多大な集中を要する。
     抜作はこの能力のことを個人的に『ゴールデンフィンガー』と名付け、呼んでいる。

人物:いわゆる「キラキラネーム」とは対局の「ゴミクズネーム」を親につけられた。
   想像に漏れず名前のせいで就活に苦労し、ようやく決まった就職先にいざ入社というところでBOOKS能力が発現。
   街に隔離されたせいで内定取り消しの憂き目に遭う。
   名前のせいで虐げられた過去みたいなものはないが、本人はいたく気にしており、若干強迫観念気味。
   常時ガスマスクを着用しているのはペルソナ(心理的な壁)の代用であり、また見た目のインパクトで名前の件を霞ませるため。
   故にガスマスクを外すとまともに人の目を見て話せなくなる。



【次シナリオから参加したいと思います】
123 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/05(木) 00:54:35.97 0
眠っている少女を施設まで送り届けて、その日はいったん帰った。
翌日様子を見に行ってみると、少女はまだ眠っている。
久実ちゃんのところに、犬のおまわりさんからメールの返信がきたようだ。
迷っている様子の久美ちゃんに、お節介にアドバイスをする。

「証拠不十分で本人の証言次第、という事か。
被疑者は自らに不利益な証言はしなくていい、とは法律の定めるところだ。
能力者であってもそれは変わらない。……あとは彼女自身に任せるのがいいんじゃないかな」

犯罪者とはいっても、快楽のために命を奪う凶悪殺人犯ではない。
彼女にとっては生きるためにああするしかなかったのだろう。
全てを正直に話して罪を償うというのならそれに越したことは無い。
黙秘を通して罪を逃れたとしても、今度は能力を人のために役立ててくれるならそれでいい。

ところで、能力犯罪者の数に対して、それに対抗できる能力持ちの警官が圧倒的に足りていないのが現状だ。
それを補う苦肉の策として、危険度の高い能力犯罪者を捕まえるために
危険度知名度の低い服役中の能力者が極秘で使われている、と都市伝説で聞いた事がある。

何にしろ今度は、仲間として共に戦う事があるかもしれない――なんとなくそんな気がした。

とにかく――こうしてまた一つ、夢の街に救うナイトメアの野望は潰えたのだった!
124 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/07/05(木) 03:18:38.66 0
パジャマは、施設の中学女子組がそれぞれ1着ずつ提供することにして。
長ーい髪は、寝癖がつくと大変なので、整髪ウォーターをつけて
櫛とブラシで丁寧に梳かして、三つ編みのお下げに結って。

色々されても目を覚ますことなく、まだ彼女はこんこんと
布団の上で眠っている。

「……」
井沼さんからのメールを読み返し、久実は改めて溜息をついた。
やはり、「彼女」=隆葉さんがあの長屋に近いうち居られなくなるのは
確定だったのだ。
不動産屋さんや工事業者さんが、河童の被害に遭う前に彼女と接触できたのは
幸い、というべきだろう。
その意味では、彼=唐空さんによる迅速な提案と行動は正解だった。
ただ…今後も行動を共に出来る相手かと言うと。
(ちょっと…ね)

>>123
そうこうするうち、橘川店長が顔を出した。
院長が出迎え、昨日のお礼を申し上げたりお茶をお出ししたり。
警察からのメールについても(琴里が聞き耳立ててないか確認して)
応接室に同席させてもらい、報告する。
状況証拠と、彼女が目覚めてからの自供…まだまだ話はこれから。

「……あとは彼女自身に任せるのがいいんじゃないかな」
その店長の言葉に、ふとTV時代劇にもなった小説の内容が思い浮かぶ。
人情の機微に通じた火付盗賊改方長官の密偵として働く、
罪を赦された…元盗賊達。
「そうですね…それしか、ないですね」

もっとも…彼女自身が新しい生き方を選んだとしても、今度はあの河童達を
どう御するかが問題になってくるだろう。
彼らにとっては、人間社会のルールやお約束事も「滑稽な」の一言で
片付けられてしまうのだから。

隆葉さんも、最初は罪の意識に苛まれたり、河童達のマイペースぶりに
振り回される日々だっただろう。
しかし、慣れというものは恐ろしいもので…異常な状況もやがては普通に
なり、その状況に応じた「役割」を果たすのが当然と思えるようになって
くる。
何とか心理学入門、みたいな本にそんなことが書いてあったような。

それまで黙って話を聞いていた院長先生が、口を開いた。
「…なるべく軽い保護観察処分で済むよう、私からも出来る限りの
口添えはしよう。身元引受人として、ね」
久実は何も言わず、ただ…コクリとうなずいた。

と、井沼刑事から追加のメールだ。
「『街の外』に住む勝川隆葉くんの親戚数名…
遺言書の偽造と遺産横領容疑で、地元警察が聴取中」

……!
『あなたも私に生きるなというのね』
貴女はあのとき、そう言ったけど。
貴女のご両親は…きっと、あなたに生きて欲しかった。
彼女が目覚めたら、まずそのことを伝えよう。
久実はそっと、潤みかけた瞳を指で拭った。
125 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/07/05(木) 16:10:38.02 0
名前:灰田硝子
性別:女
年齢:16歳
職業:女子校生。メイド・家政婦(アルバイト)
外見:地味な服にボロボロのエプロン、古びた頭巾。リュックサックのようなものを背負っている
服装は地味だが美少女。しかし性格が色々と残念である
性格:M。百合。本好き。子供好き。世話好き
本の題名:『シンデレラ』コミックスサイズ
0時まであらゆるものを変身させることができる。
古着をドレスにしたり、カボチャを馬車にしたり、ネズミを白馬にしたり。
0時(深夜・正午の二回)になると強制的に能力は解けるが、この時気付かずに落としてしまったものだけは何故か変身が解けない。
備考:女子校に通っている。
年上の女性を『お姉さま』と呼んで慕う。年下の女の子には『お姉さま』と呼んで貰いたいと思っている
魔法少女ものが大好き。プリキュアも好き。好きなライダーは電王。
最近クトゥルフ神話にはまっている。
自分を不幸で不遇な状況に置くことを好んでおり、よく頭には灰を被っている。
満たされないことで満たされ、苦しむことで癒される変態。二人の姉がいる。
本は何でも読む。リュックサックの中には本が詰まっている。
タブレットも持っており、電子書籍が入っている

//参加しても大丈夫でしょうか
126 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/07/05(木) 18:40:34.66 0
「今みたいな生き方、ならな。現実から逃げるな」
事切れるように眠りにつく少女に僕はそう言った。
「…」
少女に同情してなのか、それとも、何か気に入らなかったのか先生は僕を咎めた。
終始無気力な雰囲気を漂わせていた彼女が、こうも食って掛かるということは
よほどのことなのかもしれない。
だが、それで退くつもりは無い。
「やさしい言葉だけじゃどうにもならないことだってあるんですよ。
 それに正論がとおr」
治療中の先生に反駁しようとした瞬間、佐川ちゃんが割って入った。
…確かに、ここで口論するなら、さっさと事後処理を始めたほうがいいのかも知れない。
「…ッ」
僕はそっぽを向き、浮かせておいたケーキをまた食べ始める。

視線を玄関のほうへ移すと、橘川さんが申し訳なさそうに部屋に入り
少女を背負う役目を引き受けてくれた。
「…大事なのは本をどう使うかじゃなく、本とどう向き合うべきか。
それが大事だと僕は思ってます」
彼が不意に漏らした一言に、つい言葉が漏れた。
外の人間はただ危険というだけで、僕達を隔離した。
しかし、そうやって乱暴に押し込めるだけでは何の解決にもならない。
本も車の運転免許のように、使い方、向き合い方を教える機関や組織があれば
外の世界でも普通に暮らせるはずなんだ。

そうしている最中に姫郡が(施設にメール、と言っているがおそらくは)
警察に連絡する。
もう暫くもすれば、警察がここに来て…そして、この事件は終わりだ。

ふいに、姫郡が淡々とあの件について告げる。
「…そうか、気が変ったら言ってくれ」
僕は彼女の顔も見ずに、そう返した。
ケーキ屋での返答とは違って、戸惑いからではなく何かあるような言い方だ。
これ以上の勧誘は無駄なのかもしれない。
でも、勧誘には失敗したが…きっとどこかでまた会うことになるかも知れない。
127 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/07/05(木) 18:45:32.27 0
あの後、事情聴取を受け、そして──

数日後、あの事件の担当の刑事から電話を貰った。
彼女が自供しない限りは、スリの犯人として逮捕することは難しいようだ。

…正直、悔しい。
仮に河童が勝手にスリをしていたとしても、彼女が能力を行使しなければ済む話だし
あの時、確かに彼女は自分の意思で能力を使い、河童たちを僕らに差し向けた。
つまり、初めからそうするつもりでスリを働いていたってことになる。
事情聴取のときもそう答えたつもりだが…人情か、それとも同情の念か。
まぁ、二度とこんな真似が出来なくしただけでも満足しておくか。
僕はその件について考えるのをやめると、鞄からグルメ雑誌を取り出し適当にページを捲った。
「…そうだな、久しぶりに『猿蟹』のおにぎり定食でも食べるか」
128 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/07/05(木) 18:47:29.07 0
http://yy44.60.kg/test/read.cgi/figtree/1334883037/

(避難所です、ご新規様もこちらに~)
129 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/07/05(木) 20:58:25.29 0
>>118

>「あの、今夜はどうぞ、私達の施設にお泊りください。
  お食事とお風呂、それに来客用の寝室もご用意させていただきますので」

結局のところ、何もしていないのにそんな恩を受けるわけにはいかない。
そう言われた私は辞退しようとしたが、自分のお腹は素直に、くー、返事を返した。
そうしてそのままなし崩しにその日は姫郡さんの施設にお世話になることになった。
久しぶりの温かい食事、温かい寝床、温かい雰囲気……。
まるでその施設はぬるま湯に浸る様な、心地の良い空間だった。
だからこそ、理解した。私は此処にいてはならないと。
この場所は温かい空気に溢れている。自分の様な人間には……不釣り合いだ。
翌日の昼間、誰にも見つからないように隙を見て、私は施設を出た。
客室には置手紙を置いて。

『昨日はありがとうございました。久しぶりの温かい食事、寝床に感謝します。
 まことに勝手で申し訳ありませんが、私にはこの施設の空気は不釣り合いなので出ていくことにします。
 一宿一飯の恩の代わりになるか分かりませんが、医療器具の入ったトランクを置いて行きます。
 新品同様なので質屋などで売ればそれなりの金額になるかと思います、これ位しか恩返しが出来なくて申し訳ありません。
それでは施設の皆様に幸せが訪れることを心より願っています。 
PS 琴里ちゃん、貴女の『許しません』の一言、とても嬉しかったです。心からありがとう 詩乃守 優』

トランクの無くなった右腕は軽い。父親から餞別にと貰ったものだが、医療知識が無いので使う機会がない。
施設の金銭面で役に立ってくれるといいのだけれど……。
そんな事を思いながら身支度を整え外に出る。
天気は快晴、お腹も膨れてる。また何日かは子ども達に治療を施すことが出来そうだ。
施設を出た私は、うーん、背伸びをすると当てもない治療の旅へと歩き出した。
130 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/07/06(金) 00:44:31.39 0
――出て行け! この悪党めが! 貴様も莫迦な、嫉妬深い、猥褻な、ずうずうしい、うぬぼれきった、
   残酷な、虫のいい動物なんだろう。出ていけ! この悪党めが!
(ある男、ある話を終えた後に曰く)

* * *

あるところに女の子がいました。
女の子は食うに困ったので盗みを働いていました。
ですが、女の子にはとてもとてもかわいそうな事情がありました。

(中略)

女の子は軽いお説教で済み、女の子をいじめていた叔父叔母は捕まりました。
そして、女の子は心配事がなくなったので、毎日幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。

* * *

……いやいやいや。
読者がいたら抗議殺到間違いなしのご都合主義展開である。
私が読者でも本を投げ捨てる事請け合いだ。

が、一度書かれてしまった物語はもう書き直せない。
ましてこれは、私自身に書き込まれた物語。
神ならぬわが身には二択しかなかった。
つまり、受け入れるか、すべてを捨てて打ち切るか。
他人事ならぬ私は、何とか別の選択肢はないかとねじ込んだ。
ここから先はつまり、私執筆の不恰好な別の選択肢である。

* * *

個室などという贅沢な施設が、今の私に与えられるはずも無い。
なので、人口密度畳1枚に一人という脅威の広さの大部屋が、今の私の居室である。
ちなみに、ざっと見回したところ、私以外の住人は皆畳一枚で寝るスペースが足りそうだ。

軽い脂汗が出続けているのが実感できる。
何を隠そう対人恐怖症気味の私に、このコンディションは荒療治以外の何物でもなかった。
園長は用事で外出。琴理と久実は何か買い物があるらしく、しばらく前に出かけていっていない。
ほとんど面識の無い子供たちの相手を私一人がまともにできるはずも無く、部屋の隅で固まったままの状態が続く。

ため息ひとつ。見慣れない三つ編みが2本、視界の両隅でゆれた。

私は、勝川隆葉は思考する。
私はここにいて本当にいいのか。
あの警官……「いぬのおまわりさん」に正直に何もかも話して、素直に縄にかかるべきだったのではないのか。
園長や久実は、私が決めたのならこれでいいと言ってくれたが……。

「逃げるな」

誰とも知れない誰かの言葉が、脳裏に反響していた。
131 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/07/06(金) 00:45:53.93 0
「おねーちゃん、おねーちゃん」

と。一人の少年が、なにやら笑みを浮かべながらこちらに話しかけてきた。手には一冊の本。

「……なに」
「おねーちゃん、この本読んで」

目を丸くしたのがわかったのだろう。少年は笑みを絶やさぬまま続ける。

「あのね、おねーちゃんが来てくれて、みんな喜んでるんだよ。新しいおねーちゃんが増えたって。
 だから、そんなかちんこちんになってないで、一緒に遊んでほしいんだ」

邪気の無い言葉に、ますます目が丸くなるのが自覚できる。
……自分から壁を作っていたのがばからしくなるような一言だった。
久しぶりに、自分の顔にシニカルでない笑みが浮かぶのが分かる。

「ええ、いいわ。読んであげる」

私は精一杯の笑顔を浮かべながら、本を開く。
本の一行目にはこうあった。

「かっぱかっぱらった」




……数十分後。室内の名状しがたき状態を見て久実が大いに怒ったのは、また別のお話。

BOOKS
BOOK1「河童」
――読了
132 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/07(土) 22:55:04.11 0
『金のガチョウ』

昔むかしとあるクソ田舎に住んでいた三人兄弟の末っ子は、頭の出来がお粗末だったために「ヌケサク」と呼ばれていました。
間抜けではあるものの心優しい青年だったヌケサクは、飢えた小人の老人に施しをし、お礼に金のガチョウを貰いました。
早速それを売りに行こうと街まで出かけ、その晩に宿を取ったヌケサク。
金のガチョウを欲しがった宿の主人は、頭の抜けたヌケサクを言いくるめ、まんまとガチョウを持ち出しました。
するとあら不思議。
宿の主人の手は、ガチョウを持ったまま離れなくなってしまったではありませんか!
その驚きの吸着力に、主人は女将を呼んでガチョウを引き剥がさせようとします。
するとまたまたあら不思議。
女将の手もガチョウに、そしてそれを持つ主人の身体にくっついてしまったのです。
騒ぎを聞きつけ駆けつけたヌケサクは、まあヌケサクなので街の知恵者に相談しようと外に出ました。
ゆく先々で、色々な人がガチョウを引き剥がしにかかり、そして尽く失敗し、くっついていきました。
気づけば、先頭を行くヌケサクの後ろには、続く続くの長蛇の列。

一方その頃お城では、お姫様が不感症に悩んでいました。
事態を重く見た王様は、お姫様を笑わせた者には王位を継がすとまで言い出す乱心ぶり。
幾多もの旅芸人達が、お姫様を笑わせんと挑戦し、そして散って行きました。
そこへ颯爽と現れたヌケサク。
彼の後ろには、老若男女問わず城下町の全ての人が列になってぞろぞろとついてきているのでした。
これにはお姫様も苦笑い。
そんなこんなで、ほんの少しの親切から、ヌケサクは王様にまでなってしまったのでした。

――――――――
133 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/07(土) 22:56:06.12 0

……この話から俺達が得るべき教訓は、『人に優しく、正直に生きましょう』ってところだろう。
親がこういう感じの訓話が大好きな人で、小さい頃から読まされて育った俺は、それはそれは真っ直ぐな子に育った。
お伽話のヌケサクのように、都合よく親切にした人がキーパーソンで、都合よく俺を成功に導くと信じていた。
例えば街中で助けた老人が、偶然これから面接を受ける会社の重役だったり。
筆記試験の成績がボロボロでも、「なかなか見所のある青年じゃ」とか言って合格させてくれたり。
ああ、早く道端で胸を押さえて苦しんでいる金持ちそうな爺さんとかに遭遇しねえかなあ!

「だ、誰か……」

その日、俺が就職活動に向かうべく街を歩いていると、道端で胸を抑えて苦しんでいる老人を発見した。
即座に身なりをチェック。ポロシャツにチノパン、あまり金を持ってそうな格好ではない。

「チッ、惜しいな」

リーチだったのに。
俺の舌打ちが聞こえたのか、老人は顔を上げてこっちを見た。
額には脂汗が浮いていて、顔が青ざめている。傍目にも苦しそうだ。

「きゅ、救急車を呼んでくれんか……?」

俺は黙って携帯電話を取り出した。
119番をプッシュ、発信ボタンに指をかけ――そこで躊躇う。
救急車を呼んでしまえば、俺はそれを誘導するためにこの場に留まらなくちゃならない。
爺さんの病状はわからんが、場合によっては、救命措置として心臓マッサージだのAEDだのもせにゃならんかも知れん。
周囲を見回す。平日の昼間、とくにサラリーマン達のベッドタウンであるこの街の住宅地は空っぽだ。
誰かに代わってもらうことはできない。時計を見る。面接の時間は刻一刻と迫っていた。

どうすっかなあ。
今回面接を受ける会社は、三次選考まで進んだ貴重な持ち駒だ。
待遇も給与もこの氷河期には珍しく申し分ない。ここで絶対に内定をとっておきたい会社である。
頭の中で、天使と悪魔が出現し、左右から俺の耳に意見を投げてきた。

「カレーがいいな」
「いいえ、カツ丼にしましょう」

……夕飯のメニューは聞いてねえよ!
134 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/07(土) 22:56:59.45 0
当てにならない天使と悪魔は捨ておいて、俺はままよとばかりに発信ボタンを押した。
この爺さんはパンピーだけど、その孫娘が街一番の美少女である可能性に賭けるしかない――!
案の定、爺さんの呼吸が止まったので、俺は自動車教習所で習ったばっかの人工呼吸を施した。
凄まじい加齢臭が俺のファーストキッスを奪い去った。
畜生、絶対元取ってやる。
やがて救急車がやってきて、証言のために俺もそこに同乗した。
会社に電話を入れたところ、選考は後日に延ばしてもらえることになった。


翌週、俺は今度こそトラブルなく会社にたどり着き、面接を受ける段になった。
念入りにクリーニングをかけてきたリクルートスーツを着こみ、面接用の会議室に入室。

「あ、あんたは!」

俺は驚愕した。
面接官席に座る老人に、見覚えがあった。先週助けたあの爺さんじゃないか!
爺さんに促されて、他の面接官が補足した。

「本当は面接をドタキャンするなど言語道断だが、常務が『なかなか見所のある青年じゃ』と言うのでね」

マジで!こんなに都合の良い事があっていいの!?
爺さんはニコニコして俺を見ている。面接官達も、どこか角のとれた雰囲気で俺を迎えてくれる。
もしかしたら、既に内々定が出ていて、形式だけの面接なのかもしれない。
人助けしといてよかった――!!

「そういえば、まだ君の名前を聞いておらんかったな」

爺さんが問う。
人に優しく、正直に生きましょう。俺は、嘘偽りなく自分の名前を言った。

「――ヌケサクです!」


俺は落ちた。


――――――――
135 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/07(土) 22:57:54.16 0
こと人間関係において、名前が占める要素は小さいようで大きい。
それが初対面の人間にとっての第一印象ならなおさらだ。
例えば、同じ程度の容姿の、似たような性格をした女の子二人がいて、片方が「うんこ山クソ美」なんて名前だったら。
誰もクソ美ちゃんとは付き合わないと思う。とくに、結婚を考えるなら。
それは本人に問題があるからではなく、むしろ子供にそんな名前をつける人間が義両親になることに対する危惧だ。

同様に、就職活動の現場においても名前がもたらす影響が深刻視されている。
この先40年間雇う人間が、"まとも"であるかどうかの判断は、書類やたった三回の面接じゃあ難しい。
人事担当としては、人格を判断する根拠が一つでも多く欲しいところだ。
昨今叫ばれている「ゆとり世代」――その最も恐ろしい部分は、大人たちが当然に持って然るべき『常識』を持たない点にある。
言わずとも伝わる、社会全体の空気感に順応すること……古くから美徳とされてきたその概念が、ゆとりにはない。

ではここで視点を少し変えてみよう。"ゆとり"とは、そもそも何を表す言葉なのか?
――学校教育における道徳指導の簡素化。いわゆる『ゆとり教育』の弊害である。
文科省主導の国家的プロジェクトにより、公立学校のカリキュラムから道徳の時間が大幅に減った。
理念としては、学校は子供を育てる場所ではなく、学ぶことに専念する場所にする。
家庭と学校とで機能を分立化することで、現場の負担軽減と家族間の関係親睦化を狙ったのだ。

これまで『道徳の時間』で学校が教えてきた、社会生活における最低限わきまえるべき……常識。
その常識を指導する場を、家庭へと完全に移行する政策であった。

家庭で子供を指導する。つまり親が子供に常識を教えるというのは、当たり前のことのようにも聞こえる。
事実、明治時代に教育勅語が発布され、義務教育が制定される以前は、学校に通わない子供が大多数だった。
彼らは親に師事し、その背中を見て育つことで、教育を受けずとも社会に適応する常識を身につけることができた。
文科省は、その古き良き時代を、現代の家庭においても再現しようとしたのである。

しかし、誤算があった。
義務教育が始まってから一世紀。最早学校に通わない子供など存在しなくなった時代。
『学校が当然教えてくれる』という認識の染み付いた世代には、"常識の教え方"など分かるはずもなかったのだ。
教育を学校に依存しすぎ、家庭でものを教えるということのできる親など、一握りしかいなかったのである。

その弊害の最たるところは、世間を定期的に騒がす『キラキラネーム』の存在だろう。
こんなもん子供につける名前じゃねーだろ常識的に考えてと思うような突飛な名前を平気でつける、若い親たち。
彼らには悪意があったわけではない。ただ、子供をケータイと同じ感覚でデコレーションしてしまっただけ。
『子供とケータイは違う』という常識を、持っていなかったというだけのことだ。

そんな親に育てられた子が、はたして企業の求める『常識』を持っているか否か。
答えはノーではないかもしれない。反面教師の要領で、謙虚で誠実な大人に育っているかもしれない。
しかし、人事担当にそれを知る術はない。あるのは履歴書にかかれた読めない名前だけ……。
136 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/07(土) 22:58:48.57 0
「そりゃ子供にヌケサクなんて名前つける親、に育てられた子なんて誰も採りたくないわな」

俺は旧三級品の安タバコを灰皿に放り投げて、肩を落とした。
今すぐにでも俺にこんな名前をつけやがった両親を絞め殺してやりたいが、生憎と実家は北陸の山の中。
大学からこっちに下宿している俺の、この腕が200キロメートルぐらい伸びないとそいつを叶えるのは不可能だ。
もう三桁枚は書いた履歴書の、名前欄には達筆で俺の名前が踊っている。

『鳥島抜作 (とりしま ヌケサク)』

本名である。
そしてもう一枚、俺の名前の書いてある紙が、手の中にあった。
鳥島抜作殿を当社に是非迎え入れたい旨の通知書。採用通知書だ。
ほんの気の迷いで受けた、名前を出せば誰でも知っているような、激務薄給のブラック企業だった。
つい先日も、一人過労死を出している。
名前にとらわれず俺の本質を見てくれた企業がここだけだと思うとぶわりぶわりと涙がでる。

でも、ま。それでも一社、受かったのだ。
例えそこが、毎年千人単位で離職者を出すようなとんでもない真っ黒企業でも。
俺を必要としてくれる誰かが、そこに居る。

「よっし、これから40年、身を粉にして働くぞっ」

今日は就職先の内定式だ。
俺は気合を入れすぎて、開催二時間前には社屋の前に到着してしまっていた。
まあ、遅刻厳禁は社会人の"常識"だしな。早く着すぎていけないってことはないだろう。
でもホントに早く着すぎたな……まだ式場の設営も終わってないみたいだ。
しょうがない、駅前にブックオフがあったし、ちょっくら時間でも潰すか。

俺はブックオフに行った。
週刊少年ジャンプの本棚から適当に単行本を取ると、それは何故か児童書籍コーナーにあるはずの絵本だった。
題名は『金のガチョウ』。

――二時間後、俺は会社の内定式ではなく、隔離都市への護送バスの中にいた。

――――――――
137 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/07(土) 22:59:22.83 0
国から会社の方に連絡があったらしく、数日後には内定取り消しの詫び状が俺の元に届いた。
いきなり隔離都市放り出されて、途方に暮れていた俺の癪に、ものすごく触る措置だった。

「さらなる御躍進をお祈りします……じゃねえよ」

詫び状を丸めて、ライターで火をつけて灰皿に突っ込む。
半ば無意識に目を遣った窓の外では、相変わらず青い空に、灰色の隔離壁が無粋な稜線を描いている。
隔離都市に来て、既に二週間が経とうとしていた。
隔離されてきたBooks能力者のうち、幼い者は同じような境遇の連中のあつまる施設に入れられるらしい。
いちおうこの街にも学校はある。といっても、Books能力者だけの学校なんて、母数が少なすぎて一校二校で間に合うようだが。

成年者、とくに娑婆でも一人暮らしをしていた者は、国からしばらくの間住む場所を貸与される。
俺の場合は、隔離壁にほど近い三等地にある小さなアパートだ。
三等地とは言えコンビニが一階にあるし、バス停も歩いて三分ほどの場所なので、結構住み心地は良い。
ただし、この街での仕事が決まり、収入ができたら、きちんと家賃を払わなければならない。
娑婆で勤務経験のある社会人達ならともかく、職歴なしのまま新卒カードだけ失くした俺は、やっぱり途方に暮れるのだった。

なにせ、この街にはおおよそ『事業所』と呼べるようなものがない。
事業所を構えてまでするようなビジネスが、この街では発生しないからだ。
隔離都市という性質上、この街にはBooks能力者しか住んでいない。例外は、宮仕えの役所職員がごく少数。
一般人で本を持ってない奴は、国から立ち入りを厳しく禁じられている。
だから、娑婆の企業がこの街に進出するには、『社員がBooks能力を発現した』という偶然に頼るしかない。
そしてその偶然は、事業計画として確実な利益が見込めるほどに高頻度で起きなければならない。
そんなもん、どんだけ天文学的な確率だ。
……もっとも、隔離都市の治安はヨハネスブルグばりに劣悪だから、まともなビジネスなんて成り立たないと思うが。

そんなわけで、娑婆のどんな会社も隔離都市での事業進出に足踏みをしているのが現状である。
つまり、働き口が圧倒的に少ない。就職のチャンスがあまりにもわずかなのだ。
現在この街で求人を出しているのは、能力者が経営している個人店のアルバイトと、国営の工場で期間工ぐらいなもの。
大卒の身としては、きちんと正社員として雇われたいものである。

「ま、うじうじしててもしょうがねえな。今日も1日頑張って就活すっか」

俺は外出すべくワイシャツに袖を通した。
今日の予定は、西区のあたりをうろつくつもり。
つもりというのは、俺は未だにこの街のどこにどんなものがあるのかわかってないからだ。

この隔離都市では、情報インフラがびっくりするほど未発達だ。
ネットやケータイで街の外とやり取りすることはできるけど、『街の中』になればなるほど情報密度は下がっていく。
国の隔離政策で生活インフラ(電気とか水道)や街並みは綺麗に整っているが、この街にはまともなマスコミ媒体が存在しない。
有志が同人誌のノリでグルメ情報誌なんかを作っていたりするが、それで全てをカバーできるわけもなく。
この現代において『情報屋』なんていうアナログな情報媒体が第一線を張っていたりしやがるのだ。
かくいう俺も、『長靴を履いた猫』という情報屋と懇意にさせてもらったりしている。

ネクタイを選び、鏡の前で綺麗に締め、アイロンバリがけの背広を羽織る。
ぴかぴかに磨いた靴を履き、財布とケータイと煙草とライターの所在を確認して、玄関に立った。

「さて」

最後に、靴箱の上に横たえてあったガスマスクを被り、バンドで固定した。
とっくに使用期限の切れた吸気管をきゅぽっとマスクの口部分に嵌め、コー、ホーと呼気の通りを確認。

「今日も男前だな」

俺は、この街に来てから外に出る時は欠かさずガスマスクを着用することにしていた。
この顔で人と会えば、確実に名前を聞かれないで済むからだ。
そも、名前とはその者と他者を区別するための呼び名である。
だが、『ガスマスクの人』と言えば十中八九俺と分かる。ゆえに、名前で呼ぶ必要がない。
ヌケサクというゴミクズのような名前と、完全に決別できる。
ってきます、と誰も居ない室内に声を投げて、俺はドアノブを捻り、外に出た。
138 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/07(土) 23:00:03.06 0
――――――――

>唐空呑

クソタレ暑かったので、本日の就職活動はここで切り上げ、俺は遅めの昼食を摂ることにした。
この街は何気に美味いものが多い。
料理にBooks能力を応用しているから、娑婆では食えないような料理が目白押しだ。
こういうのを壁の外に輸出すりゃあ儲けられるんじゃねえか、と思ったが、すぐに思い直す。
娑婆じゃ、未だにBooks能力者に対する偏見と差別があるんだったな。

お昼時は外したはずなのに、店内はとてもとても混雑していた。
店員に相席でも良いかと聞かれたので、できるだけ物静かな奴となら良いとだけ伝えた。
ここ、定食屋『猿蟹』は隔離都市の中でも指折りの名店として紹介されている。
特におにぎり定食というシンプルにもほどがあるだろっていうメニューが一番人気で、平日昼間でも行列ができるほどだ。
今のこの混雑はまだマシなほうで、酷い時なんか昼飯を待ってる間に夕飯時になっちまうって話だ。

ややあって、店員が俺の手を引いて席に誘った。
注文通り、物静かっつうか、陰気っぽい奴だ。この街に一つだけある進学校の制服を着ていた。
……って、ん?よくよく見たらこの天パ気味の髪に三白眼、『がらがらどん』の唐空呑じゃねえか。
俺はこいつを知っていた。といっても、俺が一方的にこいつの情報を仕入れたってだけなんだが。

「よう兄ちゃん、今日もあっついなあ」

俺はつとめて初対面といった風で席に腰掛けた。
汗を吹いてるわけもないガスマスクのつるりとした額をハンカチで拭う。
いかにも大衆料理店らしく、この店は分煙されていなかったので、吸気管を外してそこに煙草を突っ込み火をつけた。
ガスマスクの中を燻しながら、フィルターで濾された煙が俺の肺に流れ込み、マスクの排気口から紫煙を立てる。

『がらがらどん』は――わりとレアな戦闘特化型のBooks能力だ。
具現化したグローブで相手を殴る度に威力が上がる、おおよそ人を殴り飛ばす以外に使い道の思いつかない能力だ。
だが、ゆえに。人を攻撃するという目的に関してならば、おそらく右に出るものはないほどに強力な能力である。
『長ネコ』が言うには、Books能力の元となる『本』はその個人の性質や内面に強く影響するらしい。
というか、順序が逆だな。感受性の高い子供の頃に童話を読んで人格形成をされるから、今の自分があるのだ。

俺はこいつが内面に抱える強烈な攻撃性――膨れ上がる抑制の効かぬ情動に、注目していた。
『長ネコ』に高い金を払ってまで、俺のお眼鏡にかなう奴を探してきてもらったのだ。
――俺がこの街で、『やりたいことをやるために』。

「なにやら浮かねえ顔をしてるな、兄ちゃん。そんな顔じゃあ、美味い飯もまずくなるぞ。
 なにか不満とか、不条理みたいなのを抱えてるのか?なんだったら愚痴ぐらい聞くぞ?」

ガスマスクによって隠された顔や、くぐもった声からは、俺の年齢を察することはできないだろう。
あくまで年輩の、世話焼きなおっちゃんといった体で、唐空に問うのだった。
予定よりいささか早いが、丁度いい。ここで接触する。

「――どうせなら、美味いメシを食おうや。ケヒョヒョ」


<<唐空クンに接触。よろしくおねがいします>>
139 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/07/08(日) 15:02:09.54 0
『シンデレラ』
灰かぶりの娘。舞踏会。魔女。カボチャの馬車。ガラスの靴。めでたしめでたし。
これだけで何となく分かってしまうほど有名な童話、それがシンデレラである。
姉や継母に扱き使われていた少女は、掃除ばかりで頭に灰を被っていたことから『灰かぶり(シンデレラ)』と呼ばれておりました。
いつも姉や継母に厳しくされていたシンデレラですが、めげることなく家事や手伝いをしておりました。
そんなある日、お城で舞踏会が開かれることになりまして。勿論お洒落の手伝いをシンデレラにさせる継母と姉たちでしたが。
しかしこう言うのです…「シンデレラはお留守番よ」。しかし女の子であれば誰でも憧れる舞踏会。シンデレラだって行きたい。しかし姉と継母の命令に逆らうわけにもいかない。そんな彼女の元に、魔女が現れたのです。
魔女は魔法でシンデレラの服をドレスに変え。靴をガラスの靴に変え。
カボチャを馬車に、ハツカネズミを白馬に変えて、シンデレラを舞踏会へ行かせてくれたのでした
「私の魔法は0時には解けてしまう。0時の鐘がなる前に帰るんだよ」という言葉を残して。
そしてシンデレラは舞踏会に行き。王子様と踊ります。シンデレラに一目惚れした王子様。いつまでも踊っていたいと思ったのですが。
しかし時計を見るともうすぐ0時。シンデレラは帰らねばなりません。その事を伝え、慌てて帰るシンデレラ。しかし慌てていたせいか、ガラスの靴を落としたことに気付けなかったのです。
さてさてシンデレラに一目惚れした王子様はというと。その靴を広い、家来たちを集めてこう言います。「国中の家を回ってこの靴に合う足の女を探せ。その人を私の妻にする」…と。
そして命令通り国中を回る家来たち。しかし偶然にもその靴に合う足を持つ女は存在せず。最後にはシンデレラの家を訪れました。
継母と姉たちは頑張って履こうとしますが、しかしサイズが合いません。
そして最後に家来たちはシンデレラに靴を履かせます。するとどうでしょう…ガラスの靴はシンデレラの足にピッタリはまったのです
こうして、シンデレラは王子様と結婚し、幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。
…と、まぁこんな話が有名だろう。しかし、継母と姉たちがガラスの靴を履くために自分の足を切ったという話もあるから恐ろしい。
この、不幸だった少女が一気に幸せになる話から、何でもないような人が一気に勝ち組になる事を、『シンデレラストーリー』なんて言ったりするのですが、さてさて。
140 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/07/09(月) 17:46:41.89 0
名前: 赤針 隆司(あかはり りゅうじ)
性別: 男
年齢: 19
職業: 無職
外見: 真赤に染めたオールバック、耳に無数のピアス
    黒いライダースーツにダメージジーンズを着用
性格: 好戦的、気分屋
本の題名:赤いハリネズミ
     身体の全身や任意の部分に赤い針や棘を生やせる。
     生やす箇所を纏めるほど針や棘の強度は上がり、分散させるほど強度は下がる。
     また、生やす事は瞬時に出来るが折られた部分を再生するには数分必要。

うわさ1 他人から金を巻き上げて生活している(日給7~8万程)
うわさ2 本を手に入れる前から喧嘩に明け暮れていたので身体能力はとても高い
うわさ3 本を手に入れ隔離されたが本人はご満悦。
141 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/07/09(月) 17:48:25.46 0
「……おいおい、なんだよ? もう終わりですかぁ?」

 俺は赤く染まった拳を舐めるとそう呟く。口の中に鉄の味が広がった。
 威勢よく襲いかかってきた割には、期待外れの肩すかし、ちっとも面白くねぇ。
 地面に伏している男の頭をサッカーボールよろしく蹴り上げる。
 鈍い音が薄暗い路地裏に響き、壁に赤い飛沫が散った。

「おおっと、いけねぇいけねぇ。これ以上は死んじまうなぁ……てか、もう死んでんじゃねぇの?」

 ソイツの髪の毛を掴み、顔を上げる。呼吸はしている、が……どこが鼻か目か分かんねぇ。
 なんせ俺の能力のせいで顔中穴だらけ。アレだ、アニメに出て来るチーズに似てんなぁ。
 ま、生きてるなりゃいいやな。いくらこの街の警察がグズだからって殺しちまうと色々うるせぇだろうし。

「キシシ、男前になったじゃねぇの? これに懲りたらよう、人選んでカツアゲしろや」

 だけどまぁ、こういう勘違い野郎のお陰で金稼ぎがやり易くなってるってのも事実だ。
 弱いガキや女、親父や爺婆から金を奪うのは、いくら俺でもほんの少しは罪悪感が募る。
 だからこういう馬鹿ガキにゃあ感謝しなくちゃなぁ。金づる的な意味で。

「2の3の4、っと、おっとっと……結構持ってるなぁお前、諭吉サン4枚かぁ? こりゃ今日一番の当たりだな」

 空になった財布を倒れてるソイツの前に投げ捨てる。

「ま、この金もどうせカツアゲで稼いだんだろ? アレだほら、弱肉強食ってヤツ?
 テメェが弱い奴から奪って、テメェから強い俺が奪う。当然の摂理ってヤツだ、わかるか?
 ……聞こえてねぇか。ま、いいや。この金はよう、俺がキチンと有効活用してやっから、んじゃごっそーさん」

 キシシと笑い、手をひらひらと振りながら路地裏から立ち去る。外はまだ陽が明るい。
 本当に、この街は良い出来をしてる。力さえあれば大概の事は押し通せる。
 外の世界なんかよりもよっぽどシンプルで俺みたいにゃクズにはとても生きやすい。

「それもこれも、コイツのお陰だなぁ」

 ライダースーツの懐から取り出したのは1冊の本、『赤いハリネズミ』と書かれた絵本。
 可愛らしい赤いハリネズミが書かれた表紙を開いたことは一度も無い。本の内容すら知らない。
 まったく、俺にゃメルヘン過ぎて似合わねぇ、が。この本のお陰で此処に居られる。

「キシシ、やりたい放題し放題まったくもって最高だぜ。この街はよう」
142 : ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/07/09(月) 23:02:35.05 0
今日はこないだよりも心なしかついているような気がする。
この間のようなトラブルもないし、金を掏り取られることもない。
加えて、あまり待たずに『猿蟹』にも入れた。
正直、ここまで順調だとかえって不安さえも覚える。
まぁ、トラブルと言ってもそこまで突飛なことは怒りようがないはずだ。
目的のおにぎり定食が届く合間、僕は外の景色を眺めながら物思いに耽った。
とそのときだった。
店員が相席になる旨を伝え、適当に返事を返した。
なんとなく前に座った奴がどんなのか気になってしまい視線を向けた瞬間


…こうきたか
目の前にいるのはガスマスクを装着した素性のわからない変人だった。
そのインパクトに一瞬だけ思考停止してしまったというか、いきなりこんなのが目の前に出てきたら
誰だって頭が真っ白になるって
どうしようあんまり絡まれたくない…僕は不意に視線を背け、この場を乗り切ろうとするが…
「…あ…えぇ」
まさかあっちから絡んでくるとは、駄目だ。このしっぺ返しは乗り切る自信が無い
そうやって僕が内心慌てふためいているのを他所にガスマスクは話を続ける
「…」
それは、あんたのせいですよ。
この異常事態に直面して困惑している様が悩み事で困っているように見えてしまっているのか
ガスマスクが気をかけてくる。
「…あ」
一瞬出かけた言葉を飲み込んだ。
この間のスリのときに橘川さんの第一印象も否定的なものだった。
だが、実際はどうだったろうか?彼の人間性のお陰で彼女の現状を聞きだすことが出来た。
僕の勝手に抱いた印象だけで拒絶していたら、あんな風に上手くいかなかったはずだ。
組織を作ろうと考えている人間がたかが第一印象だけで拒絶する訳にはいかないだろう。
「しあわせの青い鳥って話は知ってますか?
 幼い兄妹が幸せの青い鳥を探して色んな場所へ旅をしたけど
 結局青い鳥は自分の家に居たって話
 この街に来てから、なんで青い鳥が自分の家に居たのかが分かった気がしましたよ」
話している最中、おにぎり定食が来たが手をつけず話を続けた。
「当たり前のように日常を過ごせるってことが一番の幸せなんじゃないかなって
 当たり前のように朝起きて、当たり前のように家を出て
 当たり前のように勉強や仕事をして、当たり前のように家路につき
 当たり前のように寝て次の日を迎える…正直、この街に来てからどれもまともに過ごせなくなりました
 朝は何かがぶつかったり、爆発する音で目を覚まして
 外に出ればトラブルに合い、飯を食おうとすれば目の前の変人に絡まれる」
ちょっとだけ本音が漏れたが、ジョークのように聞こえなくもないだろう
「夜は夜で強盗や不審者が部屋に入らないか冷や冷やしながら眠りにつく…
 正直、おかしいと思いませんか?
 僕らはただちょっとした才能があるだけなのに、こんなイカれた生活を過ごさなきゃいけないなんて変ですよね
 …だから、まぁ少しでもまともな日常に戻そうと決意したんですけど…
 何から手をつければいいか全くわからなくて…ね」
と思い切ってぶっちゃけたところで僕はおにぎり定食を食べ始めた。
143 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/10(火) 23:28:47.12 0
私の名は橘川鐘。本に魅入られた者達が集う夢の街で、玩具屋を営んでいるおっさんだ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。
ひとたび事件が起これば妖精美少女戦士ティンカーベルとなり、夢を喰らう強大な悪と日夜戦うのだ。

「針鼠出没か……ナイトメアめ、この街に私がいる限りお前の好きなようにはさせん!」

スリ事件が解決し、街が平和になったのも束の間――また、新たな能力犯罪が町内新聞紙面を賑わせていた。
ナイトメアというのは、私が脳内で設定している、この街に潜み能力者を悪事へと駆り立てている黒幕の名である。
私はおもむろに新聞を閉じ、立ち上がる。日課のパトロールの時間だ。

「――変・身!!」

何とも分かりやすい掛け声と共に妖精美少女へと変身した私は、誰にも見られぬように店の裏口から出て飛び立った。

・・・数十分後。

「今日は何事にも遭遇しなかったな。それでいい。何事もないのが一番いい事だ。」

町内を一通り周り、何事も無く店に戻ろうと、裏口に面した路地に入る。
血塗れで地面に倒れている者が目に飛び込んできた。慌てて駆け寄って声をかける。

「君、大丈夫かっ!?」

大丈夫なはずはない。一目瞭然だった。針で刺されたような穴だらけの顔――”針鼠”の仕業だ!
顔は原型をとどめていないが、服装などから推測して少年だろうか。
呼吸は浅く、瀕死、といった感じだ。私が出かけていた数十分の間の犯行――
ずっと店にいれば、もしかしたら気が付けたかもしれないと思うと悔しさが滲む。

魔法の粉の力でふわりと浮かんだ彼の体を抱いて、再び飛び立つ。
今すぐに病院に連れて行かなければ……否、この様子ではそうしても、助かるかどうか分からない。
治癒の能力者の力を借りられればいいのだが……。

その時、私の脳裏にある人物が思い浮かんだ。
“彼女”は一度久実ちゃんの施設に招かれたが、すぐに自分から出て行ったと聞いている。
私は一縷の望みをかけて、”彼女”がよく目撃されるという公園に飛ぶ。

果たして――”彼女”はそこにいた。

「優さん! この子を助けてやってくれ!」
144 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/07/11(水) 01:00:06.67 0
久しぶりの穏やかな日向ぼっこ、ホームレスも同然だけど気分はいい。
相変わらず空腹だけど心の満足感はある。今日だけで数人の子どもの治療が出来たからだ。
と、言っても、公園での治療は打ち身に擦り傷、ちょっとした切り傷その程度。
だけど、子どもの感謝の言葉と笑顔は私にとっては至上の喜びだ。

「……いただきます」

子どもからお礼にと貰った数枚のクッキーをもぐもぐと頬張る。今日の昼食だった。
蕩ける様な甘味とサクサクとした食感が良い。むふー、と満足気に溜め息を吐くと、私は立ち上がる。
施設にトランクを置いて来てから身体が軽い。さて、今日も当てのない治療へと行きましょうか。などと考えていた時だった。

>「優さん! この子を助けてやってくれ!」

急に自分の名前を呼ばれ思わずその方向を見ればいつぞやの美少女戦士が宙に浮いていた。

彼女は常時この恰好なのだろうか?その割には全く噂の類は聞かないのだけれど。
いやいや、これだけ目立つ格好をして宙に浮かんでいるんだ。私が世間の噂に疎いだけか。

だけど、そんなくだらない考えは彼女に抱かれている血塗れの少年を見て即座に消し飛んだ。

「……!早くその子をこっちに!」

珍しく自分の声が無意識に大きくなる。美少女戦士が少年を地面に下ろす。
顔面が原型を留めていない程に損傷しているけど、姿形から少年だろうと推測は出来る。
この子が少年だとするなら迷う事はない、私は目を瞑ると意識を集中する。
少女を治した時や子ども達を治す時とは比べ物にならない形容しがたい痛みが私を襲う。
まるで内臓を握り潰され、内部から炎で焼かれる様な感覚。
しかし、極力苦痛を顔には出さずに握っていた手を広げる。翡翠色の薬草が手の中にあった。

今の痛みから察するに代金は寿命半年分、って所か。大分持っていくなぁ、死神様も……。

ともかく、私は少年の顔にその薬草を添え当てる。
薬草が光り輝き、少年の顔を再生、修復していく。薬草の輝きが無くなった頃には少年の顔は元通りに癒えていた。

「……ん、先ほどの傷は針の穴、みたいですが。どうやったらこんな風な傷が?
 ……正義の味方さん達はまた何か厄介ごとを抱え込んでるみたいですね」

先程の痛みからじわりと額から流れる汗を気取られないように、ほんの少しの皮肉を交えて言葉を紡ぐ。

「……巻き込まれるのはゴメンですが、怪我人・病人の治療には協力しますよ。子どもに限りですけど。
 ……ところで、貴女は怪我、大丈夫ですか?もし怪我している所があったら治しますけど」
145 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/07/11(水) 13:55:28.35 0
『最近不信人物の目撃情報がたくさんよせられてます。』
放課後、てくてく家路を辿る琴里は少し心細かった。
この街の治安が悪いのは元からだが、さらに、窃盗、傷害事件、果ては殺人事件さえも増加しているのだそうだ。
攻撃系の能力でも、召還系の能力でもなく、ただ他人の物品を移動させるだけの琴里に身を守るすべなどない。
せめてもの足しになるか分からないが、帰りの会で先生がおっしゃっていた注意事項を頭の中で繰り返す。
『防犯ブザーを鞄につけ、ひとけのある場所を、一人にならないで帰りましょう。』

ランドセルの側面を確かめる。ブザーの代わりに給食袋がつるされている。
キョロキョロ辺りを見回す。誰もいない暗い小道。猫がゆうゆう前を過ぎる。
それをぼけっと見つめる琴里は、もちろん一人ぼっち。
「あたしってばマジ問題児!言いつけを一つとして守ってないぜ?!」
そんな声を誰が聞いてくれるわけでもなく。
そろそろ日も暮れに差し掛かる頃合。おどけてる場合ではあるまい。
とにもかくにも大通りに出るべきだ。
そう思い足を早めた直後、何かが飛ぶ音と共に空から強い風が吹き抜けた。
そして、ぽたり。頬に、生暖かい液体が落ちる。
(うぇ・・・鳥のフンかな)
慌てて手で拭うと、それは予想に反して赤い色をしていた。
「あは、あはは、・・・なに、これ。」
引きつる頬から、口の端へ、赤い色が、垂れる。塩辛くて、錆びた鉄の味。
すさまじい吐き気と嫌悪が琴里を襲う。耐え切れず地面に目を伏せた。そしてそこに広がる光景は。
「―――!!」
施設へ続くはずの道に、転々と大量の血跡が続いている。
それは子供がパニックを起こすには十分なほど、衝撃的な場面だった。
まるで締めそこねた兎のような悲鳴を上げ、琴里はわき目も振らずただひた走る。
忌まわしい血から遠ざかるよう。誰かに会いたい、独りは嫌だ、助けて!
そしてブレーキが利かず、
「う、ぎゃー!」
何かにぶつかる。
しりもちをついた拍子に、ランドセルの止め具が外れて教科書と大切な童話が地面に散乱した。
「ご、ごめんなさ…っそ、それよりも警察、事件があったの!警察を呼んでくださいっ!」

その人物は、振り返り、きしし、と笑い声を上げた。
146 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/07/11(水) 21:51:14.05 0
>「う、ぎゃー!」

 機嫌よく歩いていると突然後ろから叫び声と共に衝撃を感じた。
 別にそんなに強かったわけでもねぇからさしてよろけることも無かったが
 ぶつかって来やがった張本人がどうやら派手にスッ転んだようだ。
 
「あぁ?」

 思わず声を上げて後ろを振り返る。メスガキがそこに無様に尻餅をついてスッ転んでいた。
 そのメスガキのランドセルの中身は今の衝撃で地面にぶち撒けられている。

>「ご、ごめんなさ…っそ、それよりも警察、事件があったの!警察を呼んでくださいっ!」

 一瞬の沈黙の後、メスガキの慌てようとその醜態にキシシ、と思わず笑い声が漏れた。
 事件、事件、事件、事件ン? この辺りで先程起きた事件ってったら1つしか思いつかねぇなぁ。
 路地裏でやったのに見つかるの早ぇなぁ、オイ。どっすかな? 素直に警察呼んだら俺まで取調べだ。
 そいつは厄介だな。いっそここでこの目撃者のメスガキ、ヤッちまうかぁ?

「…………おいおい、お嬢ちゃんよォ。事件発見時の鉄則って知ってっかぁ? ワンワンに連絡ぅ?
 キシシ、いやいや違ぇよ、全然違ぇよ。まったくもって間違いだぁ」

 そう言いながらゆっくりとガキの頭に手を持っていき、そして……くしゃくしゃと撫でた。

「まずは自身の安全な場所への避難が最優先だろぉよ。そのあとワンワンに連絡、だろ」

 ぶち撒けられた教科書やら何やらを拾い集め、持ち上げる。
 このガキ、ヤッちまうのはやめだ。理由は3つ。
 1つ、今日は十分稼いだ。2つ、このガキは金を持ってるように見えない。
 最後3つ、何より弱そうでヤリ合っても全然楽しめそうじゃない

「おら、お嬢ちゃん、家ぇ近いのか? 護衛してやるから安全な所まで行くぞぉ。
 安心しなぁ。こう見えて、っていうか見たまんま戦闘系能力者だからよ、俺は」

 キシシ、と笑い声を上げながらガキの荷物を手に持つと案内を促した。
147 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/07/12(木) 02:37:08.29 0
(琴里がうぎゃーな目に遭遇する、数時間前──)

お昼休み。
「ハリネズミ?うん、ウチにもいるよ」
さすがに患畜で来たことはなかったと思うけどねー、と
姫郡久実の同級生である、動物病院兼ペットショップ
「ドリトルどうぶつ診療所」の一人娘は、お弁当の後の
デザート=スナック菓子をもふもふ食べながらうなずいた。
「ハリネズミって、ペットになるんだ? 危なくないの?」
一つちょうだいねー、と断りを入れて対面相手の菓子をつまみ、
久実は尋ねる。
「ううん、けっこう人には慣れやすいし、甘えたりもしてくるよ。
トゲトゲも安心出来る相手には逆立てたりしないし、寝かせたままだと
ただの剛毛だしね。ヤマアラシと混同してる人もいるけど」
「ふうん…」
「で、ハリネズミがどうかしたの?」
「え…あ、うん。ちょっと施設の小さい子に聞かれてね」
何でも知りたがる年頃の子が多いから、と笑って誤魔化す。

仮に、『ある時期から』としておこう。
BOOKS能力者達が暮らす街で、ときおり「大小様々な太さの刺し傷を
全身に受けた重傷者」が病院に担ぎ込まれる事件が起こっていた。
刺し傷…それも刃の類ではなく。
アイスピック。かんざし。錐。縫い針。サボテンの棘。
突き刺すことに特化した、先端の尖った「何か」。

被害者は、ほぼ全員…街に隔離され、そのまま一帯をシマにしていた
能力者のチンピラや不良学生達。
ある者は両眼を貫かれて失明し、ある者は声帯を潰されて喋れなくなり、
またある者は脳に後遺症…と、
必ずと言っていいほど「死なない程度に口封じ・再起不能」状態にされていた。
治癒能力を持つ街のBOOKS有志も病院に協力してくれてはいるが、
そんなこんなで犯人像の聴取も遅れがち。
ただ、被害者の所持していた金品が必ずごっそりと奪われていることから
「金回りの良い能力犯罪者の、更に上前をはねる連続強盗」
と結論づけられてはいた。

犯人(仮に”針鼠”と呼ぼう)に対しては、警察のみならず──
被害者の仲間や兄弟分連中も(報復目的で)血眼になって探している状況。
それでも一向に被疑者逮捕の報せは出ず、警察による誤認逮捕や
チンピラヤクザ達の思い込みでの喧嘩やリンチ事件が増えるばかりであった。

『この街に隔離された時点で…素行の悪い人はブラックリストに載せるとか
脱走防止用のシステムで監視とか…出来ないんでしょうか?』
前に、そんなことを市警の井沼・野田山両刑事に久実が尋ねたことも
あった。
『ブラックリストはもちろんあるとも…ただ、完全なものではないんだ』
『我々も精一杯のことはさせて貰っているが…本当に申し訳ない』
揃って口を濁し、すまなさそうに頭を下げられては…それ以上なにも
言えなかった。
148 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/07/12(木) 03:34:11.98 0
それから数刻──午後の授業も終わり、
「久実たん、どっか寄ってく?」
「あー、ごめん、また今度ね」
時たま武道系部活の助っ人を頼まれる以外は帰宅部…ではあるが、
施設のことやら自警のことやらで気楽に放課後を過ごせるわけでもなく。

(”針鼠”の件は、院長からも警察からも「いくら腕が立っても
女子中学生が深入りしていい相手じゃない」って言われちゃったけどね。
そりゃ、何人かの被害者は”針”も使われずにKOされてたらしいから
素で相当の実力はあるんだろうけど…)
無用の暴力は振るう気も無いけれど、それでもやはり最初から「敵わない」
扱いされるのも、正直悔しい。
(ま、今日は新しくお手伝いのお姉さんも来るし、
隆葉、ていうか河童達が大人しくしてるか心配だし、
この前頼まれた『人探し』も進展してないし…
あーとりあえずは…お琴を回収して帰ろう、うん、そうしよう)

で、中学校の隣にある小学校。
久実を待っていたのは、「琴里ちゃん?独りで帰っちゃったよ」という
同級生の子の証言と、机の中に放置された防犯ブザー。
「……」
(うん、何だかこういうことになりそうな予感は思いっきりしてたんだけどね…)
周囲の小学生達を怖がらせないよう、極力怒りのオーラを抑えながら、
久実はそのまま家路につくことにした。
149 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/07/13(金) 00:35:37.26 0
「輪こそが肝心なのであります」

死屍累々と横たわる子供たちを前に、白衣に黒帽子の河童が熱弁をふるう。

「我らが『良し』と感じる香りの物質は須らくこの輪を持っているのです。
 輪を持つもの全てが良い訳ではないですが、良き物は輪の中にこそある」

誤解を生まないように言っておくと、子供たちは退屈で寝ているだけだ。
私も混じって眠りたくなる衝動に何回も駆られたが、今回の趣旨から言ってそれはできない。

「つまりは、この輪の構造を元に弄り回してやれば、いつかは天上の香りにたどり着くに違いないのです。
 我らの科学がその段階まで至る事、願ってやみませぬ」

趣旨。
端的に言ってしまうと、「私の能力とうまく付き合う訓練」、である。

* * *

先日の事件以来、分かったことがひとつある。
それは、私自身がこの河童達とうまく折り合っていけていない、という事実だ。
河童が消えると気絶するという能力特性にもっとも顕著に現れるように、
先日ディクティル氏が優医師を殺害しかけたことからも明らかなように、
私の体と心は河童達を統御し切れていない。
今回は久実たちの活躍で事なきを得た(得てない、という突っ込みは拒否する)ものの、
いつまた暴発してしまうか分からないのだ。

能力暴発の恐怖。
それはBOOKS能力者なら誰もが歩む道(らしい)、とはいえ、私のそれは少し極端だ。
一旦発動すると自律的に動き続ける、という能力の特性上しかたなくはあるのだが、そういって諦める訳にはいかない。

決めたのだから。
環境に甘えきらず、幸運に甘んじすぎず、
不幸に浸りすぎず、現実から逃げ切らず、
自分とみんなで、生きていこうと。

そして、さしあたっての第一歩として、数日前から、河童を出現させては彼らと話し合う期間を設けているのだ。
なお、学校はどうせついていけるはずが無いので休学を続行している。
私の勉学の遅れをなめてはいけない。いろはと九九を間違えず書けるだけでも自分を褒めたいというレベルである。
話がそれた。ともかく、河童達と話し合おうと今日も河童を呼び出しているのだが……。

* * *

「玄妙なる天上の香りも全ては物体の特質の混じりあいに過ぎないのであります。
 すなわち、そこにこそ我ら調香の徒の付け入る隙があるのでありまして……お嬢、聞いておりますかな?」

「……聞いてるわ」

かろうじて。という文の後半部分は自発的に削除。
河童達は我が強く、話し合うというより、独演会を私が聞く、というパターンになってしまうことが多い。
今回のパッショ氏(調香師)もそのパターンを見事に踏襲していた。
ちなみに、施設の子供たちは面白がって聞いていたのだが速攻で退屈して寝た。これもここ数日でいつものこと。

「よろしい。では、彼の賢人の言葉を持って今回の講義を終えたいと存じます」

パッショ氏は咳払いをすると、朗々と言った。

「『輪を持って尊しと為す』」

字が違う、と突っ込める気力は残っていなかった。
150 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/07/13(金) 00:39:44.78 0
異変が起きたのはそのすぐ後のことだ。
ご清聴感謝します、とお辞儀をしたパッショ氏が、突然ひっくり返って痙攣し始めたのだ。

「く……qwack,qwack」
「ちょ、ちょっとちょっと……」

なにごとか、と思う。
しかし、パッショ氏の相手をしようとした瞬間、間の抜けた呼び鈴の音が空気を裂いた。
園長先生も久実もいない今、私が出るしかない。
やむをえず、死屍累々と転がる河童一匹と子供たちを置いて、私は玄関に出た。
そこにはお琴と、きしし、という笑いがやけに耳障りな、一人の男がいた。

「お帰り。それと……どちらさまですか?」

半眼になっただけですんだのは自分でも良くやったほうだと思う。

* * *

未来を先取りした話。
ずっと後で、パッショ氏が意識を取り戻した後語ったところに拠る話。
彼が気を失ったのは、濃密な血の臭いにあてられたからだという。
それも、一朝一夕についた臭いではない、幾度も幾度も返り血を浴びたかのような、そんな臭いを感じたからだ、と。
そんな臭いの持ち主が……近くに来ていたからだと。

それを知るのは。
もう少し、後のお話。
151 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/13(金) 00:45:28.21 0
『幸せの青い鳥って話は知っていますか?』

唐空クンは、寝不足の日に限って朝礼のスピーチ当番が回ってしまったかの如きトーンで語り始めた。
メシ食う所でいきなりガスマスクつけたおっさんに絡まれておきながら、その低調な言葉に淀みはない。
すっかりスレちまっているって感じだ。
この街に来て、慣れる程度には長く、割り切れるほどには長くないのだろう。

彼は言う。
治安が悪すぎて夜も枕を高くして眠れない、と。
娑婆での、クソタレ退屈だった平穏な日常も、この街では金に等しい価値のあるものなのだと。
その日常を取り戻そうと努力したいが、どうしたらいいかわからない、と。
俺は相槌をうちながら、最後に深く頷いて、言った。

「なあ、兄ちゃんよ」

俺は、こんなときにどういう言葉をかけてやればいいのかは、知らない。
もとより優しく慰めるつもりなんてない。
俺は俺の目的のために、言いたいことを言うだけだ。

「俺たち男の子は何故、こんなにも。――おっぱいに心惹かれてやまないんだろうな」

運ばれてきたおにぎり定食の、おにぎりの中央にフォークを突き立て、言葉を連ねる。

「成長過程に秘密があると俺は捉えるね。女の子の二次性徴の時期、そいつはほぼ全員が学生の時分だ。
 男子は、女子のおっぱいが年々肥大化していくのを、一番近い所でリアルタイムに目撃している。
 割りたての生卵みてーにささやかだった胸が、出来立てのオムレツみてーにふくらんでいくそのサマをな。
 ――男とは本来、変化を受け入れる生き物だと人は言う。生まれたときから育ちもしねえクソタレ貧乳よりも。
 変化をその身に宿した巨乳を男たちが求めるのは、生物行動学的に見ても極めて理にかなっているサガなのだと」

ビジネスバッグから取り出したミキサーに分割したおにぎりと、付け合せの漬物と味噌汁を全部ぶち込み、スイッチを入れる。
女性店員の握力でふんわりと握られた米は一瞬で解け、味噌汁と一緒に高速で撹拌された。

「だが俺は、声を大にして言いたい。――俺は貧乳が好きなんだよ!
 二次性徴が憎い。二次性徴を作った神と、そいつを受容したアダムとイブのクソタレアベックが死ぬほど憎い!!
 成長という逃れざる呪縛の前には、未成熟という幻想は儚く、脆い……だが儚いからこそ価値があるのだと俺は思うよ。
 俺の青い鳥は、手ブラと胸の隙間にいた」

ドロドロのペースト状になったおにぎり定食を、持参したマイストローでちゅうちゅう吸ってごくごく飲む。
クソタレ生暖かい塩味のマックシェイクを飲んでる気分だった。
ガスマスクにはものを食べられるような隙間がないから、こうやってなんでもペースト状にしてストロー使わなきゃならんのが難点だ。

「だから、わかるぜアンタのその想い」

俺は手を差し伸べた。

「――失われた貧乳(もの)を取り戻そうとあがくその姿勢に、俺は絶大なシンパシーを得ている」

閑話休題。
俺はおにぎりペーストを飲み干すと、お冷も一気に煽って、ウェイトレスに皿を下げてもらった。
ついでに食後のアイスコーヒーを、唐空クンの分も一緒に注文する。
152 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/13(金) 00:47:35.01 0
「日常を取り戻したい、って話だったな。
 つまり具体的には、この街がどうなりゃ俺達は日常に戻れるのか。
 ――そもそも、この街ってなんでこんなに治安悪いんだ?ってのが問題だな」

いや理屈ではわかってる。
ある日突然、超常の力に目覚めたパンピーが、その力をどう使っていいかわからなくて……ってパターンだろう。
そういう意味じゃ国の隔離政策は、対症療法としちゃ下の下だな。
腐ったみかんを一箇所にあつめて、臭いものにフタすれば、知らない間にとんでもないものが出来上がるのは自明の理だろうに。

「つまり、政治が悪い。もしも本気でこの街をどうにかしたいってんなら、政治家になるべきだな。
 しょせん今の俺達は、国の思惑に翻弄されるだけの木っ端に過ぎない。
 理不尽な暴力に、同じく暴力で抗ったって、そりゃ繁殖したシロアリを一匹一匹潰すような話だ。
 BOOKS能力者――この隔離都市の人口は、年々加速度的に増え続けてる。母数がでかけりゃ、犯罪に走る奴も多くなるわな」

娑婆ではそれなりの立場や、責任や、財産のあった連中もいるだろう。
だが隔離都市では、その全てが無意味。能力強いかどうかという、まったく別物の価値判断基準がまかり通ってしまう。
娑婆で積み上げたものが、全てリセットされてしまうのだ。

この街はいま、服を着た原始人達が武器を振り回して闊歩しているのと一緒なのだった。
では、かつて原始時代に暮らした人々は、どうやって平和を築いてきたか?
――絶対的な指導者、『王』を立てたのである。

「この街にいま一番必要なのは、全ての住民を等しく傅かせ、全ての住民を等しく庇護下におく、『指導者』の存在だ。
 保身に走りくさったクソタレ国家からこの隔離都市を奪還し、新たな支配と秩序を、それによる平和を手に入れるんだ」

運ばれてきたアイスコーヒーを啜り、俺は朗々と言う。

「ホントは俺自らこの街を支配したいが、生憎と俺の能力は戦闘には不向きすぎる。
 だが、君は違うだろう。――『がらがらどん』の唐空呑、この街でも有数の、戦闘特化型能力の持ち主たる君ならば」

やるべきことがわからない、と唐空は言った。
こいつには戦う力があるのに。殴り合いなら誰にも負けない鉄血不屈の異能力を持っているのに。

童話異能力、BOOKS能力を悪用する者は後を絶たないが、その実戦いに特化した能力というのは意外に少ない。
童話に登場する『暴力の担い手』は、往々にして主人公たちの機転によって手痛いしっぺ返しを受けるものだからだ。
童話を書いた作家が、それを出版した会社が、それを読ませた親が、暴力はいけないものだと教育するために。

だが、唐空呑が発現した『がらがらどん』の物語は、それらの教訓とは明確に異なる物語だ。
化物・トロルに遭遇した三匹のヤギは、明確な害意を持ってトロルを殺している。
強大な敵を相手に知恵と勇気で立ちまわるのではなく、真っ向から殴りあってぶち殺しているという点で、異質。
『がらがらどん』という能力が、相手を殴り殺すためだけにしか使えない特化能力たる所以だ。

「やるべきことがわからないなら、俺がその道を示そう。
 どうだ、唐空君。この街に平和をもたらすため――王様になってみる気はないか?」

語りに熱が入りすぎて、どうやって唐空の名前と能力を知ったかとか、
そういう説明を全部置いてきぼりにしていることに気がついたけど、追伸するチャンスは結局訪れなかった。


<僕と契約して、王様になってよ!>
153 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/13(金) 00:53:13.77 0
>>144
>「……!早くその子をこっちに!」

少年を優さんの前に降ろす。
優さんは、彼女の異能である薬草の生成を始めた。
気のせいだろうか、その時の彼女は、平静を装ってはいるがとても苦しそうに見えた。
ただでさえ珍しい治癒系の能力者の中でも、彼女は傷や病をたちどころに癒す奇跡といってもいい能力だ。
奇蹟にはそれ相応の代償が必要という事だろうか。
そうだとしたら彼女は……。

>「……ん、先ほどの傷は針の穴、みたいですが。どうやったらこんな風な傷が?
 ……正義の味方さん達はまた何か厄介ごとを抱え込んでるみたいですね」

治療を終えた優さんの声に、思考が中断する。
少年は、先程までの惨状が嘘のように完全に治癒しており、穏やかな寝息をたてている。
それを見て、ひとまず胸をなでおろす。

「”針鼠”……最近暴れている能力犯罪者だが、詳しい事は掴めていない。
今までの被害者が軒並み半殺しではっきりとした目撃証言が無いんだ……」

>「……巻き込まれるのはゴメンですが、怪我人・病人の治療には協力しますよ。子どもに限りですけど。
 ……ところで、貴女は怪我、大丈夫ですか?もし怪我している所があったら治しますけど」

「ありがとう、私は大丈夫だ」

そうか、一応私も美"少女”戦士だから外見上では子どもの部類に入るらしい。
先程思い当たった能力の代償の可能性に少しためらいつつも、言葉を続ける。

「しかし今病院にはこの子と同じ犯人にやられた人がたくさん入院しているだろう……
行って力になってやってくれないか」
154 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/07/13(金) 22:36:29.07 0
>>153
>「”針鼠”……最近暴れている能力犯罪者だが、詳しい事は掴めていない。
今までの被害者が軒並み半殺しではっきりとした目撃証言が無いんだ……」

針鼠、どうやらそれが今現在、街を騒がしている犯人の名前らしい。
未だに遭遇していないのは私の悪運が無駄に高いからだろうか?

まあ、私に危害を加えてこなければ何したって構わない。大して興味も湧かないし。

>「しかし今病院にはこの子と同じ犯人にやられた人がたくさん入院しているだろう……
  行って力になってやってくれないか」

今更だが私の能力は自身の寿命を代償として発現する。今までで多くて1年持ってかれた。
小さな能力を使い続け、偶に大きな能力を使用する。そんなこんなで私の寿命は残り既に十数年。
能力の影響か黒かった髪もすっかり白くなったし、なんだか体力も落ちた気がする。

閑話休題。大怪我をしている子どもが沢山いるというのに、其処に行かない訳にはいかない。
というか望む所だ。今しがた治療した子どもクラスの怪我人がいるのならそれを治すのが私の願望。
例えそれで私の寿命が尽きることになろうと、それも本望。

その全てを踏まえたうえで、私は満面の笑顔を浮かべ頷いた。

「……ん、そういうことなら喜んで協力しましょう。
 ……その子はお任せしてもよろしいですか?私はこのまま直接病院に向かいますので」

そう言ってさっそく病院に向かおうとし、思い出したかのように振り返る。

「……ありがとうございます。私は病院にいますので何かあったら是非」

その『ありがとうございます』の意味は1つ。
私の欲望であり願望を満たす場所を教えてくれた事に対しての感謝の意味だ。

そして今度こそ私は振り返らずに公園を後にした。
155 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/15(日) 00:02:47.44 0
>「……ん、そういうことなら喜んで協力しましょう。
 ……その子はお任せしてもよろしいですか?私はこのまま直接病院に向かいますので」

優さんは、私の申し出を満面の笑みを浮かべて快諾した。
その笑みは、物語に出てくる”聖女”を彷彿とさせた。
聖女――他人を救うという目的のために生き、いざその時が来れば平気で自分を投げうつ役回り。
表裏一体の強さと危うさを併せ持つ存在。
一人で行かせたくはないような気がして、声をかける。

「しかし…一人で大丈夫かい?」

>「……ありがとうございます。私は病院にいますので何かあったら是非」

なんとなく付いていける雰囲気ではなく、私はその場に残された。
といっても冷静に考えればこの格好のままで一緒に病院に行ったら目立ち過ぎる。
それに針鼠の被害者は、ほとんどが不良やチンピラ。
優さんが襲われる事はまずないだろうと、自分に言い聞かせる。

「さて……君にはとことん協力してもらうぞ」

私は眠っている少年に声をかけ、店へと向かう。謀らずも貴重な証言者を手に入れた。
とりあえず連れて帰ってから証言を聞きだすとしよう。
156 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/07/17(火) 23:32:33.14 0
咀嚼しながら僕は彼の返答を予想しながら待った。
大方気休めにもならない励まし辺りだろう「まぁ気長にやるしかねぇんじゃないか」とか
その辺りが妥当…大体の目安がついた瞬間、ガスマスクが声を発した。

「ブホッ!」
あまりにも予想外な返答、いや、返答ですらないおっぱい論に思いっきり噴出してしまった。
僕のリアクションなどお構い無しにガスマスクは力強くおっぱい論を語る。
一方僕は、予想外の展開と周りからの視線で軽いパニックに陥ってしまい
もっとTPOに気を使えと、邪道食いは許さんと声を大にして突っ込みたくてもツッコムことが出来なかった。

何故彼がいきなりおっぱい論を語り出したのかは理解できないが
それが彼なりの理解の姿勢であることは分かったような気がする。
お世辞にも良き理解者とは思えないが、それでも僕のことを理解してくれた人が居たのはそれなりに嬉しかった。
そして、僕は差し出された手を握った。
「理解してくれるのは嬉しいんですけど…僕は女性の魅力は総合力で評価するものだと思います」
男には絶対に譲れない性癖がある。
例えそれが理解者だとしても、そこは譲りたくは無かった。

食後、注文したアイスコーヒーを待つ間、先ほどとは違うトーンでガスマスクが話しを切り出す。
というか、さっきのおっぱい論はただの茶番だったのか?
そう考えると少し恥ずかしいものを感じる。
そうしている間にも、ガスマスクは話を続ける。
この街が抱える問題、その原因、そして…その解決方法
結局のところ、彼もまた同じ結論に行き着いていたのかもしれない。
だが、彼は続けた。
自分の能力では目的を達成することが出来ない、だが…
「…!!!」
青天の霹靂とはまさしくこのことなのだろうか…
まるで稲妻に打たれたかのように衝撃が体を走った。
…ただ、その感覚とは裏腹にある疑問が過ぎった。
なんで僕の名前だけではなく本の題名…いや、能力まで知っているんだ?
その疑問を抱いた瞬間、熱弁する彼の姿が少し不気味に見えてしまう。
そんなことを露知らず、彼は誘いをかけてくる。
「…」
僕はそれに対する返事をする前に少し間を置き、何を言うべきか思案する。
「少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?
 …あんた何者なんだ?態々能力まで調べ上げて、ただのおせっかい焼きだとは思えない
 言えない事情があるなら言えるところまででいい、名前さえ分からない相手を信じるほど能天気じゃないんでね」
自分が警戒していることを伝えると僕はアイスコーヒーで口を潤し言葉を続けた。
「あんたが何を企んでいるかで僕をスカウトしにきたのかは知らないが…
 お互いが目的のためにお互いを求めている以上、断るつもりはありません。よろしくお願いします」
正直、油断できない相手だとは思うが…今はこの誘いにのるべきだと僕は判断した。
とここで、僕は今後のために一つ言っておかなければならないことを思い出した。
「あぁ、そうだ。あと、あなたとはもう二度と同じ食卓を絶対に囲まない」
そうお断りをいれて僕は話を続ける
「ところで、まずは何から始めるつもりなんですか?」
157 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/20(金) 01:33:40.26 0
―― 玩具屋”ネバーランド”

「ん……ここは……」

ソファーに横たわっている少年が目を覚ます。
“針鼠”を目撃した大事な情報源だ。私はなるべく警戒させないように話しかけた。

「大丈夫かい? 道で倒れていたから保護させてもらった。
私は橘川鐘。この玩具屋の店主だ」

少年ははっとしたようにソファの上に正座して、礼儀正しくお辞儀をした。

「そうだ、そういえば……。助けて戴いてありがとうございます!
僕は安半 万(やすなか よろず)って言います」

「いや、私は何もしていない。
礼なら優先生……公園によくいる白衣の能力者に今度もし会ったら言ってやっておくれ」

しかし、意外だ。
針鼠の被害者は大半が不良やチンピラと聞いていたが、彼はとてもそうは見えない。

「いえ、この程度のお礼はさせてください」

そう言って、少年こと安半君は突然パンチを繰り出してきた。
私は反射的に身をのけぞらせる。

「な、なにを……!?」

お礼はお礼でもお礼参りか油断も隙も無いと思ったが、パンチは寸止めで止まり、手の中に何かが握られている。
安半君が手を開くと、そこには一つの丸いパンがあった。
158 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/20(金) 01:34:38.32 0
「面白い手品だな……!」

「手品ではありません。寸止めパンチでアンパンを作り出す――これが僕の能力です。
食べてみて下さい」

私は言われるままにアンパンを一口齧り――衝撃を受けた。
香ばしくそれでいて全てを包み込むような柔らかいパンと
傷付いた魂すら癒すかのような甘美な味わいの、それでいて甘すぎない餡が織りなす絶妙なハーモニー。
命の星が宿ったかのごとき奇蹟のアンパンがそこに存在していた。
私はアンパンを平らげ、本題に入ろうとする。

「ところで君みたいな少年が何で針鼠に襲われたんだ? まさか……」

「はい、そのまさかです。
僕には戦う能力はない、こんな僕でも街の平和に貢献するにはどうしたらいいか。
そう、アンパンしかないんです! 美味しい物を食べれば荒んだ人も穏やかになるかもしれない!
いかにも荒んだ感じの彼にもアンパンを食べさせようと思って寸止めパンチを繰り出したら一瞬で……」

何だかいたたまれなくなってきた。

「もういい、分かったからそれ以上は言うな……!
犯人の顔は覚えているか? 私達が必ずこらしめるからそいつの特徴を教えてくれないか?」

アンパン少年は、掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってきた。

「こらしめるよりもアンパンを食べさせないと僕の気がすみません!
偉大なるやなせたかし神も言っています。
右のアンパンを殴られたら左のアンパンも差し出せと……!」

「いや、そんな事は言ってないと思うぞ」

と言いつつも、私の脳裏に常連客にして小さな友人である琴里ちゃんの顔が思い浮かんだ。

「しかし私の知り合いならそれが出来るかもしれない。
そろそろ学校が終わった頃だから今から会いに行ってみようか」

琴里ちゃんの能力は、人の所有物を誰かに与える事。確か、貰う側の同意は不要。
彼女なら、犯人にアンパンを強制的に送りつけるという注文が叶えられるだろう。
アンパン少年の願いを聞くことにした理由は、純粋に琴理ちゃん達にこのアンパンを食べさせてみたいと思ったからだ。
どんな反応をするのか、考えただけでもワクワクする。
私は針鼠の目撃証言を聞くのもすっかり忘れ、アンパン少年を伴って施設へと歩き始める。
159 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/07/20(金) 02:31:32.58 0
「…まだ帰ってない!?…分かりました。心当たりに寄って、
そこにも居なければ戻ります」
受話器にそう告げて、久実はスマホを切った。
「ふう、とりあえず…ネバーランド、かな」
施設は施設で、隆葉がうまくやってくれているか心配ではあるが…
先生方もいるし、何より「本と、能力と上手に付き合っていけるように
努力してみる」と…彼女の方から言ってくれたのが、今でも嬉しい。
聞けば彼女、琴里くらいの歳に(これは警察でも調査済だが)
両親と死別・本を得て親戚一同からネグレクトされたので、小学校も中退…
らしい。
しばらくは施設の先生方が交代で家庭教師をやって、遅れを少しずつでも
取り戻すしかないだろう…と院長の判断。
ふと、久実の脳裏で隆葉と優先生の姿が重なる。
(先生も、多分…同じような境遇だから、あのとき…)
否応無く、「自分たちはマイノリティなのだ」という現実が重く
心に広がっていく。
21世紀の日本で、まさか…かつてのゲットーやアパルトヘイト
みたいなことが起こっているなんて。
日本政府は…いや、国連やサミットもいったい何を…!?

商店街に入り、ネバーランドの近くまで来ると、ちょうど
橘川店長が…誰だろう、高校生?くらいの少年と一緒に店を出るところ
だった。
琴里は…一緒ではないようだ。店長は店のシャッターを閉めている。
「店長!」
急いで呼び止め、鞄をカタカタ鳴らしながら駆け寄る。
「あの、お急ぎのところすみません。ウチの琴里…どこかで
お見かけになりませんでしたか?まだ施設に帰ってないんです」
160 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/21(土) 08:39:23.29 0
店を出ようとした時、聞き覚えのある声で呼び止められた。

>「店長!」

久実ちゃんが駆け寄ってくる。少し焦った様子にも見える。

「おお、どうした? 久実ちゃん」

>「あの、お急ぎのところすみません。ウチの琴里…どこかで
お見かけになりませんでしたか?まだ施設に帰ってないんです」

「なんだって?
実は少しばかり琴里ちゃんに力を借りたい事があって施設に行こうとしていたところなんだが……。
それは心配だな。しかし琴里ちゃんの事だ、きっとどこかで面白いものでも見つけたのだろう。
私も一緒に探すよ」

「放っておけません、僕も一緒に探します」

アンパン少年も捜索を申し出た。
久実ちゃんが荷物等を置くためにいったん施設に戻るというので、付いていく事にする。
161 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/07/22(日) 08:44:39.07 0
>>146
>「まずは自身の安全な場所への避難が最優先だろぉよ。そのあとワンワンに連絡、だろ」
乱雑に撫でられぼさぼさになった髪をそのままに呆然と彼のことを見る。
>「おら、お嬢ちゃん、家ぇ近いのか? 護衛してやるから安全な所まで行くぞぉ。
 安心しなぁ。こう見えて、っていうか見たまんま戦闘系能力者だからよ、俺は」
青年はご丁寧に荷物まで持って、先を促した。


>「お帰り」
「ただいま、隆葉ちゃん。遅くなってごめんねえ」
琴里の後ろに立つ男の姿を認めた隆葉は、とても怪訝そうな顔をしていた。もちろん彼と出会ったいきさつを説明する。
「このお兄さんとても良い人なんだ。独りじゃあ危ないから一緒にここまでついてきてくれたのよ!」
パニックに陥ったところを落ち着かせてくれ、園路はるばる施設まで送ってくれ、おまけに荷物まで持ってくれるなんて!
琴里の中で隆司は救世主のように見えていたのだった。
「お兄さん、適当なところに座っておいて!今おやつとお茶出すからねぇ!」
靴をほうリ投げて台所に急ぐ。
来賓用の棚から紅茶の缶を取り出して葉っぱをつまみ、電子ケトルのスイッチを入れる。大忙しだ。
お菓子を吟味するために冷蔵庫を開けようとして、
「とと、その前に!」肝心なことを思い出した。
(>まずは自身の安全な場所への避難が最優先だろぉよ。そのあとワンワンに連絡、だろ)
「今こそ その時、だね!」
琴里は固定電話の受話器を取り、1,1,0を押すが、
『ジージジー』
 耳を当てても砂嵐の音が聞こえるばかりで・・・
「おろろ、電話壊れた?」
久実の電話番号も試してみる。
「あ、ひめおねえちゃ」
一瞬だけ繋がったが、久実の返事を聞くことも出来ずに切れた。
「この、お・ん・ぼ・ろ電話め!…隆葉ちゃーん、君の河童の中に電気工事できる子いないかなー?!」
ケトルの中の水が何分待っても沸かないことに、誰がいつ気が付くか。
162 : ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/07/22(日) 08:52:37.05 0

その5分前。
あしなが園の周囲を複数の影が取り巻いていた。
粗野で下品。不潔で醜悪な姿。彼らはこの街のならず者だ。
赤針と同じく、弱者から金を巻き上げ、欺き、暴虐の限りを尽くす犯罪者だ。
そんな金のためならなんでもする奴等が、公費でかつかつ賄えるかどうかの施設に何の用なのだろうか?

 彼は園の門を人目も忍ばず堂々とくぐる。
と同時に開け放された窓から、男とも女とも、老いも若いも見当のつかない悲鳴が漏れてきた。
>「く……qwack,qwack」
それを聞いた男達は、歪な笑みを浮かべた。
彼らの目的は勝川隆葉だ。正確に言えば、隆葉率いる河童の一匹、『ティクティク翁』。
「河童スリ事件」解決から、隆葉は裏の界隈で一躍注目を集めていた。
スリの能力に長けたかの河童を仲間に率いれば、きっと毎日の現金収率があがるに違いない。愚劣で浅い考えだ。
犯行時間を昼にしたのは、たかが子供と高をくくっていたから。院長含めた大人達が出払う時刻は情報屋から仕入れたようだ。
一人の男が懐からおもむろに本を取り出した。題名は「月夜のでんしんばしら」だ。
握手をすれば電気がびりり。そのまま攻撃にも使えるが、彼は今回、用途を少し変更させた。

♪ ドッテテドッテテ、ドッテテド、タールを塗れる長靴の 歩はばは三百六十尺~

直径100メートル程の見えない円陣が施設を中心に軌跡を描く。
その空間内での電子機器全てにジャミングをかけてしまう能力。
これで電話もパソコンもケータイも使い物にならない。
外部に助けを求めることもできず、子供たちは孤立してしまったのだ。

ただ一つの誤算は,赤針隆司の存在である。
彼らの中に、片目が潰れた者、鼻がもげた者がいたら、それは赤針の被害者だと思って良いだろう。
隆葉をさらい、隆司に復讐を。
そいつらは一石二鳥を狙うかもしれない。
163 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/23(月) 00:22:09.93 0
『少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?』

俺の誘いに、唐空はしかし安直な踏み出しを厭うた。
当然といえば当然、彼からしてみれば偶然相席しただけのガスマスク男が、自分の名前と能力を知っているのだ。
B級ホラーだってここまでの恐怖はあるまい。
故に唐空は、然るべき応じを俺に求めた。俺が何者か、話すべき時が来た。

「そうだな、まずは名乗っておくべきだった。礼を欠いたな、謝ろう。
 俺は――『鳥島』。下の名前はあまり好きじゃあないんでな、ガスマスクの人と憶えておけば間違いはあるまい。
 もしも俺と同じ姓を持つ者と会ったらば、ガスマスクの方の鳥島さんと呼べば俺が返事をしよう」

俺は安タバコ『わかば』に火をつけた。
洋モクなみのニコチン量を持ちながら、一箱250円という驚きのコストパフォーマンスを誇る名煙だ。
味については、まあ値段相応だが。

「君のことは情報屋を使って調べをつけた。『長靴を履いたネコ』通称長ネコ、裏を取りたければ後で訪ねてみると良い。
 安心して欲しいのは、君自身の身柄をどうこうするために調査したわけではないという点だ。
 君の――『がらがらどん』のように、純戦闘系の能力を捜していたら君に辿り着いたというわけだな」

『長靴を履いたネコ』は、隔離都市の低所得層を中心に活動する女子高生情報屋だ。
編み上げのブーツにポンチョという時代錯誤な格好を、球技系運動部特有の絞られた肢体に纏っている。
世間話の中で出てきた情報を統合するに、高校生活の傍ら、遊ぶ金ほしさに情報屋を営んでいるそうだ。
唐空の同級生かもしれない。その能力は、テストで良い点取るには最適なものであるし。

長ネコは、他の情報屋と同じように、自身のBOOKS能力を使って超常的な情報収集を実現している。
『情報と物品の物々交換』――奴が今欲しがっているものを渡すと、それを使って的確なアドバイスを出力する変則サイコメトリー。
電子辞書が欲しいニャンと言うので新品を買ってやったら、プリセットデータに唐空呑の情報が入力されていた次第である。

「そして君の能力を俺が知っているのに、俺の能力を君が知らないというのも些か不公平だな。
 あまり他言されても困るが……あくまで、こいつを見せるのは信頼関係の証だということに留意されたい」

俺は足元に置いていた、アタッシュケースを机の上に引っ張り出した。
ジェラルミン合金で構成された、銀一色のごく一般的なアタッシュケース。
中身も大したものは入ってないが、しかして俺の『本』は、それらと一緒にここにしまってあった。
『本』が文庫本サイズの奴らは運が良い。持ち運びに便利だからな。
俺の『金のガチョウ』は、大判の児童書サイズのため、こうやって鞄かなにかに入れないと酷く持ち歩き辛いのだ。
そうして取り出した絵本を、俺は適当なページで開き、唱えた。

「出てこい、『ゴールデン・フィンガー』!」

求めに応じるように、開いたページが眩い光を放った。
光は金色。閃きは一瞬。目が慣れた頃には、光の代わりに、同じ色に輝く荘厳な毛並みをもった――ガチョウがいた。
ガチョウは一瞬あとには、けたたましく喋り始めた。

『ケヒョケヒョケヒョ!久しぶりの発動ダナ!オレっち暇過ぎて苔が生えちまいそうだったぜェーッ!
 これがホントのコケコッコーってか!やかましいワッ!』

「こいつが俺のBOOKS、『金のガチョウ』。ついほんの二週間ほど前に覚醒したばかりだ」

『おいおい無視カヨ!"お前、ニワトリちゃうやろ"ぐらいのキレのある突っ込みが欲しいゼ!なぁヌケサグェッ!?』
164 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/23(月) 00:22:58.11 0
なにやら致命的な情報漏えいを引き起こしそうだったので、俺はガチョウの首を捻って黙らせた。
能力を発動するといつも勝手に出現しては、好き勝手喋りまくる意味不明な付属品。
別にこいつがいなくても能力は使えるが、能力を使うと自動的に出てくるので俺の始末の埒外だ。
というかこの鳥、情感豊かにおしゃべりするのはいいんだが、見た目は一切デフォルメされてないリアル鳥なんだよなあ。
アフラックのCMみたいなガチョウが、人間みたいに発声するのは、些かキモい光景だった。

「こいつを生成することが俺の能力というわけじゃない。
 本題はここからだ。疲れるから二度はやらない、よく活目して見ておけよ――ぬん……!」

右手に一本だけ立てた人差し指に、意識を集中する。指先が金色に輝き出した。
その状態で、机においてあったコーヒースプーンの尻の部分に指先で触れる。
すると、水に墨を落としたみたいに、スプーンにも金色が伝播し、指先と同じ色で輝き始めた。
ゆっくり指を持ち上げると、まるで接着剤でもつかったみたいに、指先にスプーンがくっついて一緒に持ち上がった。

「見たか!これが俺の能力、『触れたものをくっつける能力(ちから)』だ……!」

指につながったスプーンを、ぶらぶらさせながら他のスプーンに触れさせる。すると、そのスプーンもくっついた。
金色に輝く2連結のスプーンを、飲みさしのアイスコーヒーの中にざぶんと漬ける。
しばらくかちゃかちゃかき回して、スプーンを引っ張りあげた。
がぽっと音を立てて、スプーンに繋がったスプーンに繋がった、『コーヒー』がグラスから引っ張りあげられた。
コーヒーの分子同士をくっつけたので、まるで金色のコーヒーゼリーみたいにぷるんぷるんとスプーンの先で震えている。
俺はそこにストローを突き刺して、音を立てて全部吸い上げた。
コーヒーを一滴残さず飲み干すと、役目を終えて輝きを失ったスプーン達が次々に落下し、机上を跳ねた。

「……俺はこの能力を『ゴールデン・フィンガー』と呼んでいる。個人的にな。
 場末のマジシャンのやる手品みたいなもんだが、あいにくとこっちにはタネも仕掛もない」

『タネと仕掛けさえあれば同じことができる程度の超能力に、何の意味があるんだろうナ!ケヒョヒョ!」

だから、唐空の力が必要なのだ。
いかなるタネを弄しても、どんなに仕掛けを施しても。常人には絶対に届き得ない、戦いの力。
支配者になる者の力――王の力だ。
俺は児童書をパタンと閉じる。やかましく存在していた金のガチョウが、吹き消されたロウソクの灯みたいにふっと消えた。

「さて、お互い自己紹介も済んだことだし、早速具体的な行動を始めよう。
 "仕事"の話をするにはここは人が多すぎる。場所を移すか――ああ、良い、ここの会計は俺が持とう」

俺は唐空から彼の伝票をひったくった。
内定先の会社とは既に雇用契約を交わした状態で隔離都市に放り込まれたので、職安から失業保険が下りたのだ。
額としては大きいとは言えないが、少なくともこれから仲間となる少年におごってやるぐらいのことはできる。
俺と唐空は街を歩きつつ――平日午後に学ランとガスマスクの二人組は、些か人の目を引いたが――
街中を南に向かって下っていく。この街の南側は、主に低所得者層や未成年者の多く住む、スラム的な区域だ。

「仕事というのは他でもない。戦闘系の君に依頼するのだから、当然、戦う仕事だ。
 『針鼠』。という通称の犯罪能力者に聞き覚えはないか?そのあからさまな手口から、最近頭角を表しているそうだが……。
 欲を出しすぎたな。既に正義感の強い能力者や、『同業者』から、出すぎた杭を叩かんと狙われ始めているらしい」

その気運に乗っかるぞ、と『わかば』を吹かしながら俺は言った。

「君にはこいつを――『保護』してもらいたい」


<依頼内容:『針鼠』という犯罪者を保護し、他の能力者から奪還して欲しい>
165 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/07/23(月) 01:02:04.22 0
>「お帰り。それと……どちらさまですか?」

 ガキの案内(護衛)で安全な場所まで付いて来てみりゃ其処は小汚ぇ児童施設だった。
 玄関では怪訝そうな顔をした髪の長ぇガキがこっちを見ている。

>「このお兄さんとても良い人なんだ。独りじゃあ危ないから一緒にここまでついてきてくれたのよ!」

 俺が口を開く前にガキが勝手に紹介を始めやがった。
 とんだ善人様に勘違いされたもんだなぁオイ。事件起こした張本人だってのによぉ。
 ガキはいいねぇ、ちょっと親切にしてやれば人様を疑う事を知らねぇからなぁ。

>「お兄さん、適当なところに座っておいて!今おやつとお茶出すからねぇ!」

「っておい、いらねっつの、もう帰っからよぉオイ」

「おろろ、電話壊れた?」
「あ、ひめおねえちゃ」
「この、お・ん・ぼ・ろ電話め!…隆葉ちゃーん、君の河童の中に電気工事できる子いないかなー?!」

 こっちの声が聞こえているのかいねぇのか、急にわたわたと騒ぎ始めるガキ。警察なんぞ呼ばれたら厄介だ。
 はぁ、とワザとらしく溜め息を吐くとチラリと髪の長いガキを見る。
 
「おい、髪の長ぇお嬢ちゃんよぉ……俺ぁ帰るからあのお嬢ちゃんにそう伝えといてくれ。んじゃあ」

 そう言って振り返って玄関の扉に手を掛けた時、複数の汚らしい気配に気付く。
 おやぁ? おやおやおやぁ? これはこれは随分と沢山いらっしゃるなぁ。目的は俺かぁ?

「……髪の長ぇお嬢ちゃんよぉ、怪我したくなかったら、今から……あー……30分は外には出ねぇことだなぁ。
 中でわたわたやってるお嬢ちゃんにも付け加えて伝えといてくれ、どんな音が聞こえてもだぞぉ。怪我してぇなら別だけどな」

 その言葉の後に、キシシ、と笑い声を付け加え扉を開き、そして閉めた。
166 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/07/23(月) 01:04:20.99 0
「おーおー、俺が男前にしてやった奴が何人かいるなぁ。男前になり足りねぇってかぁ、なぁおい」

 俺が施設から外に出ると、男前になった何人かの顔が青ざめた。
 
「おい、聞いてねぇよなんでアイツが此処にいんだよ!」
「……しらねぇよ、針鼠がこんな所にいるなんて情報……」
「いつからガキ相手の子守りに転職したんだよ、あぁ!?」

 あぁ? この反応は此処に俺が居るたぁ、予想してなかったってツラだなぁ。
 んじゃあ、なんでこの小汚ねぇ施設を狙う? ……ま、いっかぁ、そんなのどうだって。
 思わず俺の顔が歪む。無論、三日月の様な笑みの形に、だ。舌で唇をペロリと舐めた。
 既に今日は十分稼いだがぁ、まだまだ腹減ってンだ。だから、ちょうどいい。

「……ま、テメェ等の狙いがなんにせよぉ、これなら楽しめそうだわなぁ」

 俺が両拳に力を込めると親指程度の長さと釘程の太さの赤い針が無数に生える、例えるなら太めの剣山って所か。
 両拳を彩る赤い針山は、これから先の未来を見越してか既に血の様な深紅に染まっている。

「舐めてんじゃねぇゾこらぁッ! 針鼠ィ!」

 バットを振り上げ威勢よく襲いかかってきた1人の右足の脛に踵を使った前蹴りを撃ち込む。
 足を撃たれた衝撃でその場に蹲った相手の顔面に流れる様に容赦のない右ストレートを全力で叩き込んだ。
 その衝撃でビクンと一回身体が跳ねるが、男は叫び声を上げる事も出来ずに両腕をだらりと力無く垂らす。
 能力使用時の棘付の一撃だぁ。その顔面はぐちゃぐちゃになってるだろうよぉ。
 もしかしたら死んじまったかもなぁ、キシシシシシ。

「キシシ、ほらほらぁ、一斉にかかってこねぇとよぉ。全然足りねぇぞコラ。
 もっとヤラせてくれよぉ足りねぇんだよ穴だらけにしてやっからよぉ」

 突き刺さった右拳を男の顔面から『引き抜き』、構え直す。
 その行為で集まった奴等の半分はビビったようだが残り半分は殺気立った。

「おい針鼠。調子こいてんじゃねぇぞ! 俺はテメェに弟分やられてんだよ! 今までチョロチョロ逃げ隠れしやがって。
 ちょうどいい機会だ逃がさねぇ! 復讐だ! ぶっ殺してやる! 覚悟しろよ針鼠!」

 興奮したガタイのいい男が俺に向かって叫ぶ。

「あん? 復讐ぅ? ハッ、復讐上等ぉ、何の為にこんな目立つ髪型や恰好してやってっと思ってんだコラ。
 テメェ等みたいな奴等がよぉ、覚えやすいようにだろうが、えぇ? なのに絡んできた奴らが殆ど再起不能だぁ。
 グズな警察やテメェ等は俺が口封じの為にやったなんつってるがぁ、誤解もいいとこだぜぇ。
 『逃げ隠れ』ぇ? 冗談じゃねぇ冗談じゃねぇってんだよまったくよぉふざけてるよなぁまったくぅ。
 俺はもっともっと全力でヤリてぇんだよヤリ足りねぇんだよ。だからよぉ、楽しもうぜオイ!」

 その言葉を合図に群がる集団目掛けて突っ込んでいく。
 刺し殴り、刺し蹴り、殴り殴られ、蹴り蹴られ、自分の血と相手の血を混ぜ合わせる。
 ガキの施設に似つかわしくない血塗れの、俺にとっての最ッ高に楽しい至福の時間が其処にあった。
167 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/07/24(火) 00:29:38.62 0
私、灰田硝子は何時ものように掃除をしている…自宅でお姉様達の為に、メイドとして。
「~~~~~♪♪♪ ふぅ。終わりましたわ」
誰かに扱き使われるのは本当に気持ちが良いですわ~
「お姉様、お姉様、お掃除終わりましたわよ!」
「ご苦労様、硝子。よく頑張ったわね…って、あら? ここ、汚れが残っているみたいだけど…」
「きゃあ!それは大変ですわ! この灰田硝子一生の不覚! ああ、お姉さま…! この愚かで卑しい私めにお仕置きを…」
「いやいやいや! 何で汚れが残ってるくらいでお仕置きしなくちゃならないのよ。貴女私をどんなキャラだとおもってるの!?」
「えへへー」
「いや全く誉めてないんだけど…まぁ、それはともかく。今日はもうこのくらいで良いわよ。そうだ、一緒に本屋にでも行かない?」
「本屋ですか? 行きますわ! 私、一度クトゥルフ神話TRPGというものをやってみたかったんですの」
「あれ結構高いんだけど…まぁ良いわ。お金はあるのよね」
「勿論ですわ」
「じゃ、行くわよ」
168 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/07/24(火) 07:31:20.05 0
自然と、施設に向かう足の歩幅も早くなる。

店長と一緒にいた「安半さん」というお兄さんとは、簡単に挨拶を交わし、
歩きながらも(それぞれ信用できる子、との店長の口添えで)
お互いの能力を紹介しあった。
「…あの、とっても素敵な能力だと思います。でも」
何の説明もなしに寸止めパンチはやめておいた方が…とひとまず忠告。
武道の心得のある人なら咄嗟に反撃してしまうこともあるし、
相手が喧嘩っ早ければ尚更、危険。
相手が子供ならビックリして泣いちゃうかもしれないし。

それにしても…BOOKS能力も本当に色々だ。
久実のように──持っている絵本の人物自体に戦闘能力がなくとも、
その属性や種族特性に応じた武器や技を使える能力者も(数は多くないが)
存在している。
院長先生は「君は元々武道を習っていたし、瓜子姫は地母神・あるいは
水神の使いという説もある(日本神話には、植物や水をモチーフにした
女神が何人も登場する…)。その辺が関係しているんじゃないかな?」
と仰っていたけれど。

かと思うと、安半さんのように「空腹の人々(主に子供達)にパンを
分け与え、かつ平和を脅かす悪人や怪物とも果敢戦う」絵本のヒーロー
から、前者の非戦闘能力だけ受け継ぐ人もいて…。

と、スマホに着信。送信元は…施設の置き電話だ。
「はい、久…」
『あ、ひめおねえちゃ』
プツリ。
……!?
慌てて施設にかけ直してみるが──繋がらない。ツーツー音が延々と。
施設に先に帰っているはずの中学生の子…そのケータイにかけてみるが、
『おかけになった電話番号は…』。

「店長、安半さん。急ぎます…琴里は施設に…でも、何かあったみたいです!」
そう言うと、久実は走り出した。
ポケットからシュシュを取り出し、走りながら手早くストレートの髪を
ポニーテールに結い上げる。
(今の時間帯…高校生はみんな部活かバイトでいないし、留守番の先生も
戦闘能力のない鈴村先生だけしか…)

×××××××××
その頃、児童施設『あしなが園』。
「何か…ヤバい連中が来てるみたいだ」
「どうしよう、久実のケータイにも通じないよ…あたし達だけで追っ払えそう?」
施設にいる中学生組が、困惑した様子で相談していた。
「…パソコンもダメね。台所もケトルどころか、冷蔵庫も食器洗いも
全部、停電してる」
「…鈴村先生」

お世辞にも裕福とは言えないが、曲がりなりにも児童施設。ましてや
各自が特殊能力を持つ子供達を集めた生活の場で、大人が全員出払って
不在…ということは極力無いように院長が取り計らっていた。
今日も、何とかスケジュールを調整し、女性の保育士が1人待機して
奥で事務処理をしていたのだが…。
「みんな、子供達を集めて。いざとなったら裏口から逃げるのよ」
169 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/25(水) 00:42:25.61 0
相手が飛び道具使いや射撃能力使いの場合を除き、

>「…あの、とっても素敵な能力だと思います。でも」

久実ちゃんがアンパン君に、寸止めパンチの危険性を説く。

「ハハハ、私もそう思うぞ。意外性があって楽しかったが、な」

アンパン君は上の空。久実ちゃんの言葉の前置きの方に感動してしまっていたからだ。

「素敵な、能力……」

「君は戦闘系能力に引け目を感じているかもしれないが隣の芝生は青く見えるものだよ。
君の能力を羨ましく思う戦闘系能力者だってたくさんいるだろう」

現に久実ちゃんも、食べられる瓜を出せないのを残念に思っている素振りを見せた事がある。
不意に、久実ちゃんのスマホが鳴る。

>「はい、久…」

「どうした?」

>「店長、安半さん。急ぎます…琴里は施設に…でも、何かあったみたいです!」

携帯が突然繋がらなくなったらしい。
久実ちゃんが髪をポニーテールに結い上げる――並々ならぬ何かを察知した証拠、戦闘準備だ!
こんな時、武闘家である彼女の勘はよく当たる。
只事ではないのを確信した私は、走る速度が追いつかない振りをして自然にわざと少し置いて行かれた風を装う。

「店長さん……?」

「私は見ての通りメタボだからな、先に行ってくれ、すぐ追いつく!」

「はいっ!」

アンパン君が走り去ったのを確認し、私は変身する。妖精美少女戦士、ティンカーベルへと。
170 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/07/25(水) 01:10:34.05 0
「――!!」

施設に到着した私は、思わず息を呑む。
あろうことか子ども達の健全な成長を目指す施設前で、血みどろの饗宴が繰り広げられていた。
その饗宴の中心にいるのは……

「あ、アイツだ……!」

アンパン君があげた声ですぐに分かった。

「”針鼠”か――!」

施設を襲いに来たチンピラ達から守っているような構図に見えなくもないのが引っかかるが、それにしても残虐すぎる。

「あれ、何時の間に……」

突然現れた、妖精姿の私を見て驚くアンパン君。
二人に魔法の粉を振りまきながら答える。

「美少女戦士たるもの、平和を脅かす者いればいついかなる時でも現れるものだ!
二人とも、まずはアイツの攻撃が届かない位置に飛べ!
久実ちゃん……今回ばかりは接近戦は絶対駄目だ!」

久実ちゃんが接近戦が得意なのはよく知っているが、今回ばかりは危険すぎる。
彼女の顔が穴だらけになるなど絶対にあってはならない。
相手が飛び道具使いや射撃能力使いの場合を除き、空中にいれば攻撃を受けることは無いのだ。
171 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/07/25(水) 15:21:10.72 0
「……キシシ、いいねいいねぇ、やりゃあ出来るんじゃあねぇかよぉ」

 そんな軽口を叩いちゃあいるがこっちも結構な重傷を喰らっている。一対多だ、無傷で済むわきゃねぇ承知の上だぁ。
 ナイフや能力による切傷、鉄パイプやらバットの殴打による身体の骨の数か所に亀裂、罅、炎症に皮下出血。
 だがまあそれと引き換えに既に集まってきた大半のグズ共を再起不能にしてやった。
 キシシ、こうでなくっちゃこうでなくっちゃよう戦いってやつぁ! 楽しいねぇ最ッ高だねぇ!
 非戦闘系能力者もしくは能力を使いこなせてないグズは速攻で潰してやった。殆どが一撃で沈んだがまぁ当然ちゃ当然かぁ。
 てか、獲物持ってる時点で能力に自信ありませんって言ってるようなもんじゃねぇか。分かりやすいんだよぉ。
 後の残りは戦闘系だが俺に言わせりゃあ能力に頼りっぱなしだぁ。そういう奴ほど楽に潰せる。
 一回能力見れば大体は対策立てられっからなぁ、つか1パターン過ぎる。まあそういっても大分攻撃貰ってんだけどよ。
 
「そんな満身創痍でよく軽口が叩けるもんだな針鼠。まだまだ終わんねえぞコラ」

 でぇ、まだ残ってるグズの中で愉快で厄介な奴はコイツくらいだろうなぁ。
 鍛え上げられた肉体に人間とは思えないサイズの身体の各所の大きさを変化させる能力。
 加えて喧嘩慣れしてやがる。いいねぇ、すっげぇいい。たまんねえなオイ。
 ……って、なんだありゃ? 
 視界に入ったのは上空に浮かぶ3人の人間。
 制服着たガキにコスプレしたガキ、さらには先ほど顔面を潰した奴までいやがる、てかなんで無事なんだぁ?
 なんて思っていた次の瞬間、男が目前まで迫ったかと思うと、ズドン、胸部から腹部に掛けてに衝撃が走った。
 肋骨がミシリと嫌な音を立て、肺の空気が全て口から吐き出され、身体が吹っ飛ぶ。
 懐に入っている本が無傷だったのは不幸中の幸いだぁ。

「何よそ見してんだよ針鼠。まあいいや、テメェがぐちゃぐちゃになるまで潰してやんよ。
 ハッ、これでテメェも終わりだな針鼠よぉ。これが調子に乗った鼠野郎の末路だ」

 近づいて来た男の足のみが巨大化する。どうやらそのまま踏み潰そうって魂胆らしい
 人間大に巨大化した足が俺を潰そうとする刹那、男の本の題名がチラリと見えた『ジャックと豆の木』ぃ?
 そして次の瞬間、その巨大な足は俺を……潰せなかった。
172 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/07/25(水) 15:24:53.39 0
「ギッ、ガァァッ!」

 愉快な叫び声が施設全体に響き渡る。耳に染み渡るすっげぇ心地のいい悲鳴だぁ。
 男の巨大な足は中世の騎士が使う円錐型の巨大なランスの様な赤い針に貫かれその動きを止めていた。
 自分で言うのもなんだがぁ、こりゃあもう針じゃあねぇなぁこれ。でっけぇ槍だ槍。

「ゲボッガハッ、あぁー……こりゃ肋骨何本か逝ってるわ、凄ぇ一撃だったなぁオイ。びっくりだぁ。
 で、お返しの一点集中の針のお味はいかがですかぁ? 巨人野郎ぉ」

 拳を大きく覆うように生えた赤く長く巨大な針を戻すとその場から素早くエスケープし立ち上がる。
 そして足を通常サイズに戻して痛がっている巨人野郎を抱擁し耳元で囁いた。

「……なぁ、鉄の処女ってしってっかぁ? 中世の拷問器具なんだけどよぉ。
 俺はそれを能力で再現出来んだよ。楽しませてくれた礼だぁ……味わってみなぁ」

「な? やめ―――」

 言葉を言い終える前に男の背面から、生える様に無数の赤い針が飛び出した。
 抱擁をやめると、男は糸の切れたマリオネットのようにぐにゃりとその場に崩れ落ちる。
 男の左胸部一か所のみ無傷な箇所があるが、流石に俺の本ごと貫くわけにゃあいかないからなぁ。
 ま、急所は外してやったが、もう本も身体もボロボロのコイツは2度と満足に動けねぇだろうよ。キシシ。

「キシシ、んじゃ次ぃ、ってもぉ、もうテメェ等の中にゃマトモにヤレそうなヤツぁいねぇかぁ」

 集まったグズ共はほぼ再起不能、残りも戦意喪失……なさけねぇなぁオイ。
 それじゃあ、上だぁ。空中に浮いてる3人に視線を動かす。

「テメェ等はなんだぁコイツ等の援軍ですかぁ? つーかよぉなんだぁそのイカれた組み合わせ。
 コスプレ女に制服女。後……てか顔面潰したよなお前、なんでピンピンしてやがる?
 自己治癒能力にでも長けてるんですかぁ? まぁ、どうでもいいかそんなの。でぇ? テメェ等ヤルかい?
 こちとら結構満腹だけどよぉ、まあデザートは別腹ってなぁ。安心しなぁ男女差別はしねぇ主義だからよぉ」

 全身傷だらけの重症だがぁそんなのどうだっていいんだよ。俺はまだ動けるまだヤレる。
 疲労感も痛覚も高揚感で完全に麻痺してやがる、中々味わえねぇ経験だなぁ。
 自分とグズの血液に染まった顔を笑みの形に歪めて空中にいる連中に問いかけた。
173 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/07/27(金) 19:27:30.47 0
(その頃、一方…)

僕の問いに対して、ガスマスクもとい「鳥島」は快く返答する。
どうやら、僕の情報はあの『長ネコ』から買い取ったものらしい。

確かに彼女の探知能力なら、本の題名だけではなく
能力の詳細も丸判りか…。
長ネコの名前を聞いて、一瞬だけ顔を顰めた。

そういえば一度、軽い気持ちでテスト範囲を知ろうとしたことがあった。
遊び半分で聞きに言ったのが間違いであることを、その時の僕は知らなかった。
長ネコは情報の精密さは高い反面、報酬に何を要求するかわからないのがデメリットだ。
情報に見合わないほどの高価なものを要求することもあれば、あまり交渉の場に出したくないものを強請るときもある。
もちろん、これは時々の話ではあるが、このときは色々と運が無かった。
その時、彼女が提示した物は、だめもとで立ち寄ったらたまたま買えた「甘味処 栗倉」の期間限定の特製かすてらだった。
彼女からしてみれば、ただのおやつなのかも知れないが、あの店の限定品の価値を知っている僕からしてみれば
これは、苦渋の決断だった。
結局、僕はかすてらを彼女に渡し、テスト範囲を得ることは出来たが、特製カステラを口にする機会を二度と失った。
そういう苦い思い出からか、僕は彼女ではなく、愛読しているグルメ雑誌の著者である
『聞き耳頭巾』のルポライターを利用するようにしている。
彼の能力は能力で具現化したパーカーを羽織っている(フードも被って)状態のときだけ
動物と意思疎通が出来るというもので、情報量ならば長ネコよりも優れている上、
買う側のデメリットがないのも優秀だ。
しかし、情報を買うとなるといささか値が張るのだが、そこは彼のグルメ雑誌を定期購読を契約することで
なんとか割り引いてもらっていたりする。
この間の河童の情報も彼と動物達からの物だ。

そして、彼は次に「自身の能力について説明する」と言って足元に置いていた
アタッシュケースから自分の本を取り出す。
本の題名は『金のガチョウ』。そこそこ有名な童話だが、読んだことがない僕には
そこから鳥島の能力を推理することは出来ない。まぁ、今から実演する訳だし考える必要はないか。

彼が『ゴールデン・フィンガー』と唱えた瞬間、眩い黄金の光が僕の視界を遮った。
一瞬、目が眩んだが、光はすぐに収まり、そして、目の前には黄金のガチョウがそこに居た。
「…うわっ、下品な奴」
黄金はただ華々しい色ではなく、時には神聖さを纏う。
金閣しかり、ツタンカーメンのマスクしかり、人はそれが放つ輝きに神を見る。
だが、使い方を謝れば、ただ悪趣味なだけのガタクタに成り下がる。
鳥島が具現化したこのガチョウもそうだ。
黙っていれば気品溢れる佇まいなのに、低俗的なマシンガントークのせいで
ただ悪趣味なおしゃべりクソ野郎に成り下がっている。
この気持ちは、秀吉の黄金茶室を目の当たりにしてブチ切れた千利休に通じる何かがあるのかも知れない。
174 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/07/27(金) 19:38:46.65 0
鳥島もかねがね同じことを考えていたのか、
それとも、ここまでの流れがいつも通りなのかガチョウを黙らせると、
能力の説明を実演込みで続けた。

黄金に輝く人差し指がスプーンに触れ、その輝きが移ったスプーンが他のスプーンに触れると
次々とくっ付いていく。まるで、磁石の実験を見ているような光景だ。
だが、彼の能力はこれだけではない。
くっ付けたスプーンをアイスコーヒーの中へ入れると、アイスキャンディーのように
液体のままのアイスコーヒーが引き抜かれた。
一通り説明を終えると、彼は引き抜いたアイスコーヒーを飲み干し、
輝きを失ったスプーンは重力に逆らうことなく、テーブルの上に落ちた。
「…」
確かにマジックと同程度だ。
殴る以外に能力の使い道が無い僕がいうのも難だが、使いどころに悩むのも問題だ。

「仕事」の話は別の場所で…ということで店を後にした僕は、そのまま鳥島に同行した。
行き先は南のスラム──この街の中でも一番治安の悪い地区だ。
と、適当なところで鳥島は仕事の話を始めた。
『針鼠』。話を聞く限り相当危ない奴だと聞くが…そいつをどうするつもりなんだ?
そして、鳥島は続ける。
「…ハァ?あの、一緒に潰すんじゃなく、保護?
 そんな、そんなロクでもない奴なんか保護したって、こっちが危ない目に合うだけじゃないんですか」
鳥島の依頼に僕は思わず声をあげた。
彼には彼の考えがあってのことだと思うが、僕には理解できなかった。
「…ちょっと待ってください。今、人探し向きの情報屋に連絡しますから」
僕は携帯を取り出し、『聞き耳頭巾』に連絡をする。
『針鼠』の過激なやり口ならば、きっと彼のブラックリストにも入っているはずだ。
おそらく、彼の現在地を調べるにはさほど時間はかからないだろう。

彼からの折り返しの連絡を待つ間、暫し鳥島について考えてみた。
先ほど彼は、僕の質問に対して、一つだけ答えを伏せた。
それは、下の名前ではなく…彼自身の目的だ。
彼は僕を「王」にするといったが、果たして彼に何のメリットがあるのだろうか?
コンサルタントとして得られる金銭?フィクサーとしての権力?
それとも、また別の何か?
単なる私兵がほしいだけならば、あんな誘い方をせずにもっと別のアプローチにすると思うが…。
とここで、『聞き耳頭巾』から返事が返ってきた。
彼からの返事はこうだ。

『針鼠』は今「あしなが園」にいる。
でも、今は行かないほうがいいかも知れない。
さっき堅気じゃない奴らが、同じこと聞いてきたから。
PS:もしかして、ここって河童のときの子達が居る場所じゃない?

それを見た瞬間、冷や汗がドッと溢れてきた。
なんでよりによってソコにいるんだ?話じゃ『針鼠』が狙う相手は不良や
自分に敵意を向ける相手だけのはずじゃないのか?
「堅気じゃない奴ら」は仲間か、それとも敵対グループか?

まさか…姫郡が警察の手伝い目的で喧嘩をふっかけたのか。
あるいは、佐川ちゃんが何か悪戯を仕掛けて怒らせた、とか。
それでお礼参りに…?
考えれば、考えるほど最悪の想定が次々と頭を過ぎる。
「針鼠は今、あしなが園にいるそうです。あまりいい状況じゃないみたいだし、急ぎましょう」
175 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/07/28(土) 00:26:59.58 0
「…………情けない」

腕に刺さった点滴の針を見ながら私は小さく呟いた。
場所は病院の待合室のソファーの上、状態は立てない程の憔悴っぷり。

針鼠に怪我を負わされた子ども達を治療しに病院に来たのはよいものの、これでは意味がない。

なんでも6人目の子を治療した瞬間に盛大に吐血し卒倒したのだという。
というか4人目辺りから死神様の寿命の持っていく時の痛みで記憶が曖昧でよく覚えていないが。

『凄まじい光景でしたよ。治療を終えた瞬間にですね。口から、ごぶしゃー!と大量に吐血しまして。えぇ患者の顔面に。
 その一瞬の沈黙の後に貴女が白目剥いて盛大にぶっ倒れまして。えぇ、もちろん患者の顔面に。
 いやー、医者やって長いですけどあんな光景にお目に掛かったのは初めてですよハッハッハッ』

私が目を覚ました時に変に明るい医者が笑って教えてくれた。笑い事じゃないだろうに。

ちなみに卒倒した後に治療室に移送され身体検査を受けたが特に異常は無いとのこと。
だからこんな風に乱雑に待合室のソファーにて点滴を受けている、という無様な状態に至っている。

「……いや、なんとも情けないなぁ……」

2度目の呟きが口から洩れた。

6人分の治療の代償は寿命約3年分。これで私の寿命は多分10年あるかないかだ。
とにかく、動けるようになったら再度子ども達の治療に戻らねば。

などと考えていた時だ。隣のソファーに誰かが座る。それは先程の変に明るい医者だった。
176 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/07/28(土) 00:27:39.75 0

「詩乃守さんはもう子どもの治療に参加しない方がいいですね」

それは何の前置きも無く、本当に唐突に放たれた一言だった。

「……ん、それは、何故ですか」

少し驚きながらも私は冷静に言葉を返す。

「僕は能力者じゃありませんけど医者ですからね。何となくですが分かるんですよ。いえ、医者じゃなくても分かりますよ。
 先ほどの検査では身体には異常無しでした。でも、あの吐血量は明らかに異常です。明らかに身体に何らかの害を及ぼしてる。
 貴女はもう能力を使うべきじゃない。能力を使い過ぎた先にあるのは明らかな破滅です」

先程とは明らかに違った医師のその真剣な表情。

多分、私を心配してくれての事だろう。昔、1人でもこんな大人にあの頃に会えていたら。
……いや。そんな想像上の『昔』になんの意味も無い。こんな大人がいなかったから今の私が在るのだから。

「……それでも、破滅しても、私は構わないです」

むしろ、子どもを助けて死を迎えられるのなら、それこそが私の望んだ理想の未来。
そして出来るなら、私を、私の事を……。

「……そうですか。なら、身体が回復したら、病院から出て行ってください」

少しの沈黙の後、医師はそう言った。

「病院は生きたい人が『生きる為』に来る場所です。そして医者はそれを手助けするのが仕事です。
 ですから自殺の手助けは、出来ません。ですが子ども達を助けてくださった事には感謝しています。
 しかし今後、貴女の能力の助けは当院では絶対に借りません。それでは詩乃守さん、お元気で」

医師は『今回の謝礼です』と言い、白い封筒を私の手に置くと去って行った。
耳に残るのは医師の台詞。そして胸に穴が開いたような虚しい感覚。しばし天井を見上げる。

「……あぁ、またか」

居場所を失う空しい喪失感、空虚感。そしてまた、自分の願いを叶えられなかった悔しさ。
慣れている筈だけれども、それでも呟かずにはいられなかった。
177 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/30(月) 00:13:52.89 0
『針鼠は今、あしなが園にいるそうです。あまりいい状況じゃないみたいだし、急ぎましょう』

なにやら贔屓にしている情報屋と連絡をとっていた唐空が、結果を俺に報告する。
ありがたいことに、針鼠の居場所の特定を身銭をきってやってくれたらしかった。

「あれだけ恨みを買っていて、逃げも隠れようともしない……ただの馬鹿か、それとも」

情報取得の能力者たる情報屋を頼っても、人探しというのは存外に難しい。
探知の能力があるのと同様に、そういった追手から巧妙に姿を隠す能力を持つ者だって、もちろんいるからだ。
例えばいくつかの童話に登場する魔法のアイテムの中には、被るだけで透明になれるマントや、誰にも認知されなくなる帽子など、
『傍観者』としての立場をスムーズに進めるためのガジェットが存在する。幽霊なんてその最たる例だ。
だからこの街には、そういうBOOKS能力を生業にした『隠し屋』とも言うべき職業も、あったりするのである。

そして逆説的に、多くの敵意を向けられてなお、隠し屋を使わず身を衆目に晒し続ける針鼠は。
隠す能もないか、よほど自身の戦闘能力に自信があるかのどちらかだ。
自分を狩りに来た能力者が大挙して押し寄せても、全て返り討ちにできるという、尋常ならざる自信が。
いずれにせよ、動くなら早急だ。遅刻してパイを喰い逃すなんてことがあってもつまらない。

「あしなが園か……確か、この街にいくつかある未成年能力者の支援施設。ここからだと、少し遠いな」

俺はスマートホンでマップを呼び出す。
隔離都市ではロクな地図が売っていないが、衛星写真を地図化したGPS機能なら娑婆と遜色なく使える。
最短ルートでも、徒歩では三十分ほどかかる場所だった。バスを待ってる暇もない。

「まあ、距離はさしたる問題ではあるまい。アシならアテがある……ここだ、唐空君」

やにわに色めき立った唐空に、指差しで教える先には、一軒のボロアパートがあった。
サークルKをテナントに持つ、ごく一般的な三階建て都市型アパートメント。その最上階に、俺の部屋があった。

「本当なら、俺の部屋で茶でも出しつつ話し合いの席を設けるつもりだったが、予定変更だ」

俺はアパートの外階段には目もくれず、その裏へ回りこむ。
アパート住民が入居時に強制的に契約される、月極の駐車場。そこに、俺のマイカーを停めてあった。
プロボックス。トヨタ自動車の誇る超汎用型ライトバンであり、古くから中小企業向けの営業車として需要のある名車だ。
その特質は、無駄なものを一切省いた故に実現された圧倒的低コストと、まるで鉄の塊みたいな頑丈さ。
運転席以外はパワーウインドウすらついていないが、その分機構が単純で故障も少ない。
業務用として乗り回すなら必要十分な性能と、強引な走行にも耐えうるエンジン、そして長く乗れるタフさがこの車の魅力だった。

隔離都市へ放り込まれた翌日ぐらいに、街の中古屋で購入したものである。
いくら安い車と言っても中古相場で実売70万ぐらいはするものだが、こいつは野晒し雨晒しの展示品価格で30万。
聞くところによると、スクラップになっていたのをBOOKS能力でレストアしたものだそうだ。
いくら能力で修理されたからといって、ボディフレームとかガタガタなのに走りは新車と遜色ない頑丈さには頭が下がる。
初めて乗る唐空に、乗り心地はお世辞にも保証はできないが、バスを待つより歩くより、こっちのほうが何十倍も早く現着できる。
俺は助手席に唐空を、後部座席にアタッシュケースとスーツの上着を投げ入れてハンドルを握った。

「少し飛ばすから、舌を噛まないようにな」

ガスマスクは視界が狭いから、田舎はともかく街中を飛ばすには些か不便だ。
だが、俺は素顔を晒すつもりはなかった。自動速度取締機に顔を撮られたくなかったからだ。
キーを強引に叩き込み、鋼の獣は咆哮する。俺と唐空を乗せた走る棺桶は、墓場ではなくあしなが園へ向けて駈け出した。

178 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/30(月) 00:15:04.54 0
「針鼠、それからそれを狙う者と対峙するにあたって、おそらく戦闘は避けられ得ないと思う。
 戦いの中で、君にはみっつほど検証してほしいことがある。君自身の能力、『がらがらどん』の性能についてだ」

急激すぎるハンドリングにタイヤが空滑りし、アスファルトに黒い痕を刻み付ける。
赤信号を突破し、法定速度を粉砕し、縁石ぐらいなら迷わず乗り越えながら、俺は唐空に言った。

「ひとつ。『能力の効果範囲』……その能力は、必ずしも人体にのみ有効なのか、あるいはコンクリなどの器物にも発動できるのか」

原典たるがらがらどんの物語では、トロル相手にしか使っていないから、具体的な効果範囲がわからない。
もしも人間だけじゃなく、地面や建物にも有効ならば、戦略の幅はぐっと広がる。

「ふたつ。『能力の誤差範囲』……発動対象のまったく同じ箇所を殴らないと発動しないのか、
 例えば一発目は腹、二発目は腕とかでも威力が上がるのか。もし同じ箇所でないと駄目なら、誤差は何センチまでか」

一口に人体と言っても、四肢と胴体じゃ勝手も違う。
がらがらどんの能力が、発動対象を『相手の腹』としてカウントするか、『相手』と十把一絡げに認識するかの問題だ。

「みっつ。『能力の限界範囲』……これは一言で言っちまえば、『四発目は存在するのか』ってことだ。
 今まで三発で必ず相手を仕留めてこれたのなら、必要ない検証かも知れんが、切り札は多い方がいい」

俺は唐空が戦っているところを実際に目にしたわけではないので、三発目がどれくらいの威力なのか知らない。
しかし、この先もっと強い敵と戦い続けるならば、筋トレよりも効果的な戦力増強になる。

「この三つの案件を、戦闘の中で調べてみて欲しい。
 三つ全てを必ずこの戦闘で検証しろってわけじゃないから、まあ気長にやってくれ」

俺のエクストリーム運転テクにより、あしなが園が前方に見えてきた。
ガスマスクに仕込んである望遠レンズで確認したところ、真っ赤に染まった針鼠と、その周りには死屍累々。
アレ全部あいつが一人でやったのか?っだとしたら、とんでもない強さじゃねえか。
そして、その針鼠が見上げる先には、三人の人影が宙に浮いているのだった。
後ろ姿でしか判別できないが、女子中学生の制服姿とパンピーっぽい男と……巨大な羽虫?が、そこにいた。

「なんだあのワクワク不可思議生物は……ともかく唐空君、俺は君を現場に送り届けたら離脱する」

戦闘系じゃないからな、と俺は付け加えて、

「俺は遠くばせながら、君と針鼠の対話を支援する。とにかく君は、邪魔者を排除しながら針鼠を戦闘領域から救出してくれ。
 いいか、説得が不可能なようなら――殴り飛ばして気絶させてでも連れ出すんだ。責任は俺が持つ」

あしなが園の敷地に突入する寸前でブレーキ。
プロボックスは大きくドリフトしながら、唐空のいる助手席を園の方へ向けて、滑り気味に停車した。

「――Good Luck!!」

助手席のドアから唐空を追い出して、俺は再びハンドルを切り、あしなが園が見えなくなるまでアクセルを踏み続けた。
179 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/07/30(月) 00:15:52.74 0


俺は近くのコンビニに車を停めて、あしなが園に戻ってきていた。
今度はこっそり、バレないようにである。いい加減暑いので上着は車に置いてきた。
今の俺はワイシャツと、ネクタイ、ガスマスクだけの姿。手には肌身離さず持っているアタッシュケース。

俺はそのケースを開き、中から伸縮式の釣竿を取り出した。
バス釣り用の、ルアーを投げてリールで巻き取るタイプの小型竿だ。
手早くテグスをセットし、その先にはルアーの代わりに円錐型の真鍮を取り付けた。ルアーを沈めるために使う錘だ。

「さて、さしあたって唐空君の障害になりそうなのは、あの空中三人組か」

俺は手近な背の低い廃ビルの、屋上に身を潜めて、望遠レンズであしなが園を見た。
空中に浮かぶ女子中学生と男と羽虫……いや、人間サイズの妖精か?ハイレグっぽい衣装まで着ている。
あれらはおそらく、針鼠を討伐しに来た連中だ。唐空と針鼠の交渉の、邪魔となる連中だ。
あのうちの一人ぐらいなら、俺の力で排除できる。野郎は論外だし、妖精はなんていうか関り合いになりたくない。
なら決まりだ。

「そりゃっ!女子中学生一本釣り!!」

俺はよーく狙いを定めて、竿を振り抜いた。慣性を受けて、テグスに結わえ付けられた錘がびゅーんと飛んでいく。
狙い過たず、女子中学生の側頭部へ――そのとき、強烈な横風が吹いた。

「あっ」

俺の投擲した錘が、風に煽られて軌道を変えた。大きく左に逸れて、妖精の背中に当ってしまった。
既に発動していた『ゴールデン・フィンガー』が、テグスを伝って錘と妖精とをくっつける。

『ケヒャヒャ!気付かれちまったゾ、ヌケサク!今から錘を回収してもバレバレダゼェェェ!』

「クソッ、やむを得ん、あの妖精を釣り上げる!」

ガチョウに笑われながら、俺はリールを一生懸命巻きまくった。
御存知の通り釣竿に人間を引きずるほどの強度もパワーもないが、相手が空中にいるのなら話は別だ。
踏ん張るもののない空中から、錘を介して糸をつけた妖精を、猛烈な勢いで引き寄せる!


<離れた所にある廃ビルから、美少女戦士に錘ルアーを接着。リールを巻いて引き寄せる>
180 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/07/31(火) 04:44:17.50 0
>「私は見ての通りメタボだからな、先に行ってくれ、すぐ追いつく!」
「…分かりました、では到着次第、子供達の保護を」
店長の方は見ず、走りながら声をかける。

>久実ちゃん……今回ばかりは接近戦は絶対駄目だ!
「ベルさん、でも…このままでは」
目の前の惨状と、夏の日差しによって立ち上がるムッとする血臭に顔をしかめながら、
久実は現れたベルさんの指示にひとまず従って(安半さんを地上に1人残すわけにもいかず、
宙に浮くお手本を示す必要もあったので)上昇しつつ…唇を噛んだ。

久実達がベルさんと合流したとき、その男は…丁度、これまた人相よろしくない巨漢の
チンピラと壮絶な殴り合い──、いや、殺し合いと言うべきか…の真っ最中だった。

(とりあえず、今の内にしておけることを…!)
ポケットを探り、先刻は琴里との通話が途切れてしまったスマホを再び手の感覚だけで操作する。
自警活動を行っている者が、警察から特別に手持ちの通信機器に備えてもらっている、
凶悪犯罪者に対する非常手段。
ブルッ、と一度だけ振動が指に伝わる。
(良かった、これは動いた…となると、助けを求める手段を封じられたのは…
あしなが園の方!?)

>男の巨大な足は中世の騎士が使う円錐型の巨大なランスの様な赤い針に貫かれ
「……!」
主武器である『緑の木刀』あるいは『緑の衝角』を使えば、間合い──リーチの差で
何とかなる、と思っていた。
だが…その目論見は甘かったと、久実は眼前の現実に思い知らされる。
久実の持つ『瓜の蔓』も、延長には限界がある。せめて長槍や薙刀、六尺棒くらいまで
伸ばせないものかと日々試行してはいるものの、せいぜいもって1m弱の大刀サイズがいいところ。

>テメェ等はなんだぁコイツ等の援軍ですかぁ?
「……そう、見えますか?その見るからに不良っぽい人達の仲間に?」
>自己治癒能力にでも長けてるんですかぁ?
「他者治癒能力に長けた能力者さんが助けてくださったそうです」
(ここに来る途中、優先生の助力の件は店長から聞いていた…やはり、
また無理をしているらしい…病院では、どうなっているだろうか)
>テメェ等ヤルかい?安心しなぁ男女差別はしねぇ主義だからよぉ
「その前に、教えてください。そこの施設…子供達は無事なんでしょうね?
それから…普通なら路地裏や河原でやるような喧嘩、どうしてこんな
住宅街のど真ん中で始めちゃったんですか?」

ああ、この男は典型的なバトルマニアのリスクジャンキー…しかも喧嘩と
怪我の興奮で、久実達が「あしなが園」の関係者だという可能性も頭には
浮かばないらしい。
挑発に乗らないよう、冷静かつ淡々と「マジレス」を返しながら…久実は
努めて時間稼ぎに徹することにした…先生や子供達が、無事でいてくれる限り。

伝承上の弁慶は、牛若丸を「小童」と侮ったために敗北した。
佐々木小次郎も、宮本武蔵の「さんざん焦らす」作戦で冷静さを失い、以下同文。
万が一このまま殴り合いに突入しても、一撃離脱戦法と…あまり使いたくは無いが
「最後の武器」で何とかなるかも知れない。

先刻ベルさんに言いかけた言葉、「このままでは…逃げられてしまいます」。
しかし、この男の戦いたい欲求と興奮が冷めやらなければ、その心配も回避できる、かも。
181 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/07/31(火) 05:46:23.57 0
だが、『針鼠』が強敵であることに変わりはない。
能力は依存するものではなく、使う者自身が生かすもの──
我流の喧嘩殺法にしろ、この男はそれを実戦で修得している。
久実はすう、と静かに深呼吸した…脳裏に、先生達、友人達、子供達の顔が
浮かぶ。

と…予期せぬことは予期せぬタイミングで起こるもの!
>離れた所にある廃ビルから、美少女戦士に錘ルアーを接着
「…えっ!?」
ベルさんにくっついた…釣り糸?その伸びた方に素早く目をやると、
「危ないから子供達は入っちゃダメ」と日頃から言い聞かせている廃ビルの屋上に人影が。
(こんな時に…新手!?)
向こうがベルさんをどうしようか分からないが、このままにはしておけない。
魔法の粉の効果が切れて、安半さんに危害が及んではことだ。

久実の腕から、瓜の蔓がシュルシュルと伸びる。
それも、数本。それらは螺旋に絡まり合い、久実の拳と手首を包みこんで
先端が鋭く尖った、ドリル状の角──『緑の衝角(ラム)』を形成した。

ビュウウウウウ…。
『緑の衝角』を取り巻く空気が、渦を巻き始める。
蔓が腕から生えている構造上、衝角自体がドリルのように回転するわけではないが…
角の外周に合わせて猛烈な勢いで回転し、貫通力と切断力を高めた旋風が、そこにあった。
セーラー服のリボンが、ポニーテールの髪がはためく。
「物理法則は!?」と何処かから突っ込みが入りそうなものだが、今はそんなことを
気にしている場合ではない。もとより、BOOKS能力とはそういうものだ。

「ベルさん、じっとしてて!」
素早く回り込むと、久実は衝角の周囲に発生させた『気の竜巻』を、釣り糸に押し当てる。
能力で作り出したものでなければ、摩擦で糸を断ち切ることが出来るはず…!


<追加情報>久実がスクランブルをかけましたので、数分後にパトカー数台と拳銃で武装した(場合によっては被疑者射殺も許可された)
警官隊が駆けつけます。
182 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/08/02(木) 20:34:06.54 0
>「ベルさん、でも…このままでは」

「遠距離攻撃は……無いか」

BOOKS能力は所有者の心が具現化されたものだという。
もともと格闘技をやっていた久実ちゃんが近接戦闘に特化しているのは想像に難くない。
私の方も、周囲に手頃な飛ばせるものが見当たらない。
玩具のダーツでも持っていればいいのだが
おっさん時と美少女時に同じ物を持っていては正体を特定されるので、武器は基本現地調達である。
久実ちゃんが時間稼ぎをしてくれているが、このままではラチがあかない。

「あの、アンパン出しましょうか……」

とアンパン君が申し出る始末。
久実ちゃんが静かに深呼吸をする。近接戦でたたみかける覚悟を決めたようだった。
しかし膠着状態は思わぬ形で終わりを告げた。
強烈な風が吹くと同時に、何かが私の背中にくっついた。

>「…えっ!?」

そして、訳も分からず後ろに引っ張られていく。

「何ィいいいいいいいいいいい!?」

>「ベルさん、じっとしてて!」

久実ちゃんの対応は早かった。
風が巻き起こったかと思うと、背中にくっついている何かが離れた。

「久実ちゃん、助かった!」

落ちようとする何かをキャッチ。
釣り糸に、釣りで使う重りをくっつけたもののようだ。つまり、武器ゲット。
釣り糸は先の方で切断されたためあまり長くはないが、それでも人を2~3周巻く程度の長さはある。
廃ビルの屋上から何者かに仕掛けられたようだが、今は目の前の針鼠に集中した方がいいだろう。

眼下にもう一人人影が現れた。
また針鼠の援軍かと一瞬思ったが、違う。スリ騒動で一緒に戦った呑君だ!
久実ちゃんにその事を告げる。

「呑君が来てくれた。……私はこれを操って気を引く。3対1なら行けるだろう。
同じ美少女戦士として信じて送り出すぞ!」

信じて送り出すとはいってもいざとなったら優先生がいる、という思いがどこかにあっての言葉なのだが。
この時の私はまだ彼女の能力の代償の大きさも、私が送り出した先の病院で大惨事になっている事も知らないのであった。
私は重りつき釣り糸を針鼠の前で躍らせ、重りで殴る動作を見せたり、釣り糸で絡み付いてみたりする。
183 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/08/03(金) 02:36:26.60 0
まただ…
また鳥島は肝心なことを隠した。
『針鼠』の保護、その真意はあのガスマスクの裏に隠されたまま、
車は猛スピードであしなが園へ向う。
鳥島は運転の最中、僕の能力について確認したい点を話した。
1、能力の効果範囲
2、能力の誤差範囲
これはこの間、チンピラを殴り飛ばしたときに確認できたが…
もしかしたら、別の場所を殴ったことで威力が下がった可能性もあるかもしれない。
3、能力の限界範囲
「あの…能力のデメリットとかって、長ネコから聞いてなかったんですか?」
三つ目のそれを聞いた瞬間、僕はついそんなことを口走った。
僕の能力は殴る度にカロリーを異常に消費し、三発目まで打ったときには
まともに歩くことさえ満足に出来なくなるほど燃費が悪い。
その状態で四発目…その一打が存在してもしなくても、死ぬのが目に見えている。
知らずに言っているのか、知ってて言ってるのか…
あぁでも、やり方さえ工夫すれば、四発目を打てる分は残せるかも知れない。
もしかしたら、それを含めて言っているのか?
揺れる車内の中、僕はアレコレ考えながら、鞄に入っている非常用のカロリーメイト(ポテト)を
二箱ポケットに入れた。

鉄火場につくやいなや、鳥島は僕を残して颯爽と去って行った。
ここは彼になんだかんだと言いたいところだが、そんな余裕は無い。
戦場と化したあしなが園の門前に居るのは、返り血で血まみれになった針鼠と思しき男と
(恐らくその周りで倒れたり、へたり込んでいるのは…聞き耳頭巾が言ってた連中か)
それに相対する…今最も会いたくない二人がそこに居た。
最悪だ。想定どおりの最悪が目の前に広がっている。
どう動こうか頭を回らせるよりも先に、ベルさんがこちらの存在に気がつき
そして、先ほど飛んできた錘(消えかかってはいるが、うっすらと金色の輝きを残していたから…
恐らく鳥島の物だろう)を振り回し針鼠へ迫る。
それに付随して針鼠が動くのが見えた。
(マズいッ!)
僕は咄嗟に駆け出す。そして、次の瞬間──

「ぐぅ…」
僕は2人の間に割って入った。
左腕でベルさんの振るう錘を絡ませ(たが、錘が顔に当たり軽く額を切ってしまい)
右腕で針鼠の針を受け止めた(が、針は具現化させたグローブを突き破り深く刺さった)
痛い、痛いがガマンできないレベルじゃないし、少し堪えれば脳内麻薬である程度紛れる。
深く深呼吸し傷の具合を確認したところで、僕は2人を振り払った。
184 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/08/03(金) 02:53:22.68 0
「…言いたいことや聞きたいことがあるだろうけど、まず一言言わせろ。
 こ こ を ど こ だ と 思 っ て い る ん だ !
 ここはコロシアムか?リングか?それともスラムの薄暗い路地か?
 わかってねぇから言ってやるよ!ここは親元を離れた子供達が住んでいるところなんだよ!!!
 どういう事情かわからないが、子供を巻き込まないように動くべきところじゃないのか?
 見ろよこの有様、俺がこの様を見たら絶対に夢で見るね!!!
 なんで放ったらかした?なんでここまで暴れた?訳わかんねぇよ」

僕は乱入するや否や、まずは言おうと思っていたことを思いっきりぶちまけた…
その場にいる全員に。
流血のせいか…変に興奮し、かなり激しめの口調になっていることに自分でも驚いた。
「何鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔しているんだ。
 僕はただ悪い奴が嫌いなんじゃない、日常をメチャクチャにする奴が大嫌いなだけだ。
 例え、それが正義を謳っている者でも、昨日の友だったとしても…それは変わらない!!!」

正直、本心からの言葉ではない。
本当なら、怒鳴りつけるべきはベルさんや姫郡ではなく、針鼠のほうだ。
近くの路肩に、姫郡のものらしき学生カバンが放置してあったのも先刻、見た。
学校帰りの姫郡が連絡を受けて駆けつけた、あるいはたまたま帰宅した時点で、もうこの有様だったんだろう。
しかし、咄嗟にこうでも言わないと、目的を達成するための口実が無いのも事実だ。
「誰が仕掛けたとか、そういうのはどうでもいい。
 僕は、この状況を作り、子供達を危険に晒したこの場にいる全員に問題があると考える!」

嘘だ。
好きでこんな状況を作ったわけじゃないはずだ。
彼ら…姫郡やベルさん、それにもう一人の見知らぬ少年…はただ間に合わなかっただけであって、
そのことに対して咎め立てするのはお門違いだ。

「だから、あんたらにコイツをどうこうする権利は無い!
 この男は僕が連れて行くことにする!」
我ながらトンチンカンなことを言っていやがる。
「つーわけで、大人しく来てもらおうか針鼠」
一応駄目元で針鼠を連行しようと説得してみるが、もうエンジンが掛かっている様を見るかぎりじゃ
3(4?)対1、いや三つ巴の戦いは避けられそうも無いな。
そう確信し、僕は満足に動く左手をポケットに入れて
鳥島に援護要請のメールを送った。
185 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/08/03(金) 16:28:30.90 0
 制服女がいちいち丁寧に答えてくる。要はデザートじゃねぇってことか……。
 チッ、軽く舌打ちする。腹がデザートモードに入っていただけに残念無念だなぁオイ。
 未練がましく空中に浮かんでいる奇妙な3人組を睨み付けた時、異変が起こった。

>「何ィいいいいいいいいいいい!?」

 コスプレ女が背中に引っ付いた何かに引っ張られていく。
 一本釣りかぁ? コスプレ女の? クレイジーな趣味の奴がいたもんだなぁ。

>「ベルさん、じっとしてて!」

 その言葉と共にコスプレ女の背中についていた何かは断ち切られた。
 制服女の手に装着されてるのは緑色の槍ぃ? いやドリルかぁ? 
 何にせよどんな能力にせよ、あの制服女の機転に能力の使い方、とても美味そうだぁ。
 デザートだぁ? とんでもない、ありゃメイン級だなぁ。今ヤルのは勿体ねぇかもなぁ。

>「呑君が来てくれた。……私はこれを操って気を引く。3対1なら行けるだろう。
  同じ美少女戦士として信じて送り出すぞ!」

 コスプレ女の言葉に我に返ると何か一人増えていた。
 1人の制服男だ。てかなんだぁ? やっぱりヤル気なんじゃねぇかよ。

「おいおい、なんだよなんなんだよぉ! 結局ヤルってかぁ? なら焦らすなよオイ。
 てかコスプレ女ぁ! 作戦こっちに聞こえちゃあ意味ねぇだろぉよオイ。即席チームなんですかぁ?
 つーか、テメェでテメェを美少女ってなんだよどんだけ自意識過剰なんですかぁ痛々しくて軽く引くわぁ」

 コスプレ女自身で言った作戦通り、重り付の釣り糸が目の前をウザったくダンスを踊る。

「おーおーおー、今度は俺を一本釣りですかぁ? 人間釣るのが流行中ってかぁ? 楽しいこと考えてんじゃねぇかオイ」

 垂らされた糸を針の生えた拳に絡ませ、逆に引っ張って顔面を蹴り刺してやろうかと考え拳を出した瞬間。

>「ぐぅ…」

 突然乱入してきた制服男にその拳は止められた。つっても、拳を止めた右腕は無事で済んでない。
 なんだぁテメぇ。と言おうとするがそれより早く乱入野郎が口を開いた。

>「…言いたいことや聞きたいことがあるだろうけど、まず一言言わせろ
  こ こ を ど こ だ と 思 っ て い る ん だ !
  ここはコロシアムか?リングか?それともスラムの薄暗い路地か?
  わかってねぇから言ってやるよ!ここは親元を離れた子供達が住んでいるところなんだよ!!!
  どういう事情があるかわからないが、子供を巻き込まないように動くべきところじゃないのか?
  見ろよこの有様、俺がこの様を見たら絶対に夢で見るね!!!
  なんでほったらかした?なんでここまで暴れた?訳わかんねぇよ」
186 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/08/03(金) 16:32:00.39 0

 その制服男がなんやかんやだーだーだーだーわーわーと説教を捲し立てやがる。
 なんだぁ? お仲間さんじゃねぇってか? つか長ぇし五月蠅ぇよ。こっちが訳わけわかんねぇよ。

「……あー、なんか冷めたし萎えてきたぁなぁオイ」
 
 俺はボソリと呟いた。
 一気に身体の力が抜けていくのが分かる。自身の気力はMAXから一気にどん底だ。
 ズキン、とさっきの巨人野郎にやられた肋骨が痛みだす。殴られた部分や切られた部分も熱を帯び始める。
 あーあーダメだなこりゃあ。ヤル気が完全に失せたわ。こんな気分でこいつ等とヤッても全然楽しくないだろう。

>「つーわけで、大人しく来てもらおうか針鼠」

 半分以上男の言葉を聞いてなかった俺はなんでそんな話の流れになったのかさっぱりわかんねぇ。

「いやどんな流れで俺を連れてく話になったんだよ? ま、いいや」

 俺は拳から生えた無数の針を引っ込め、ヒラヒラと両手を振った。

「OKだよクソ説教野郎ついてってヤルよ。なんだか美味そうな匂いもするしなぁ」

 連れて行かれた場所がわんわん達の住処でもそれはそれで楽しそうだ。
 そーいやぁグズなわんわんとヤリあった事ぁねぇなぁ。キシシ。
 そんな俺の言葉が予想外だったのか、男は少し驚いた表情で俺を見ている。

「なんだぁ? 俺の答えが予想外かぁ? 確かにぃ今のヤリ合いじゃちょい満腹にゃあ届かねぇ。
 ホントは其処のコスプレ女と制服女とヤリ合ってみたかったんだがぁ、今の気分じゃ楽しくヤレそうもねぇしなぁ」

 ベロリ、と唇を舐める。特にそう、あの制服女の能力、デザートにゃあ惜し過ぎる。
 ヤルならよぉ、メインじゃねぇとなぁ。ぜひ空腹万全の状態でヤリ合いたいねぇ。

「んじゃあ行くかぁ? クソ説教野郎。てかどこ行くんだよぉオイ、場所はぁ?」

 未だ唖然としているクソ説教野郎に言いながら無防備に背を向ける。
 あ、そーいやぁ……あの制服女の質問に答えてなかったなぁ。
 首だけをグルリと制服女の方に向ける。

「そうそう制服女ぁ。さっきの質問の答えだぁ。1つめぇ、中にいるお嬢ちゃん達は全員無事だぜぇ。
外に出るなっつー俺の言いつけを守ってればぁ、の話だがなぁ。
 それとぉ2つめぇ、このグズ共が勝手に此処に集まって来たんだよ。最初は俺狙いかと思ったがぁ
 俺が此処から出て来た時にゃグズ共等いかにも、意外ですぅ、ってツラしてたからなぁ。俺狙いだったらんなツラしねぇだろ。
 金銭目当てにしたってこんな小汚ねぇ施設よりも良いとこあんだし。つーことはこの施設の中に欲しいモノでもあったんじゃねぇの?
 それとも欲しい能力者かぁ? ま、そんな訳で此処でヤラせてもらったわけですぅ、納得出来ましたかぁ制服女ぁ」

 そう言って、キシシ、と短く笑い俺は再び歩き出した。
187 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/08/06(月) 05:23:24.04 0
>>161
琴理は目をきらきら輝かせながら、男がいかにいい人であるかを説明する。
琴理の言うとおりなら、確かに、子供でもお構いなしに危害を加える極悪人、というわけではないようだ。
(仮にそうだったらまず琴理が無事では済んでいない……後で久実に絞ってもらわなくては)
もっともそれは、彼が真性の善人であるということを意味しないのだが。
捻くれた善意、あるいは気まぐれの善行。そんな物の産物かもしれない。
私はそんな印象をぬぐえずにいた。事ほど左様に、第一印象の作用というのは偉大である。
琴理の思惑はともかく、彼自身に長居する気がなさそうなのが不幸中の幸いか。

しかし、血まみれの惨事とは。ティクティク翁から聞いてはいたが、この町の治安が悪いと言うのは心底事実らしい。
数年間ほぼ引きこもりの生活を送っていた私にはいまいちピンとこなかったのだが、やっと実感が伴ってきた。
と、そんなことを考えていると。

>「この、お・ん・ぼ・ろ電話め!…隆葉ちゃーん、君の河童の中に電気工事できる子いないかなー?!」

「機械工のメクナクさんがいるにはいるけれど、あてにしすぎると怖いわよ。回線の問題かもしれないし……ん?」

些細な違和感。脳内を精査し、その原因を探る。
数秒で気がついた。テーブルの上のデジタル電波時計。表示は88時88分なり。
どこの異次元だ。もちろん故障だろう、が。

「こんなに立て続けに、電化製品ばかりが故障……?」

偶然、とは思いにくい。
では、これは一体何を意味するのか。
……いやな予感しかしないで困る私を尻目に、男がため息をつくとこちらを見て、言った。

>>165
>「おい、髪の長ぇお嬢ちゃんよぉ……俺ぁ帰るからあのお嬢ちゃんにそう伝えといてくれ。んじゃあ」

ええ、と返事をしたかしないかの間隙。
ノブを握った男の顔が歪んでいくのを見て、私は思わず言葉を飲み込む。
それは、笑みであった……そう呼ぶには余りに凄惨で、酷薄だったが。

>「……髪の長ぇお嬢ちゃんよぉ、怪我したくなかったら、今から……あー……30分は外には出ねぇことだなぁ。
> 中でわたわたやってるお嬢ちゃんにも付け加えて伝えといてくれ、どんな音が聞こえてもだぞぉ。怪我してぇなら別だけどな」

「……そ、それって」

どういうこと、と言う声は、耳障りな笑い声と、ドアの閉まる音でかき消された。
ど……

「……どうしよう」
188 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/08/06(月) 05:23:55.49 0
「……どうしよう」

外の様子を伺った私は、今度こそ本当に途方にくれて呟いた。


男が出て行った後私がしたことは、ひとまず、園内部の面々全員の居場所を把握し、一箇所に集まってもらうことだった。
幸いそれはすぐに済んだ……(私と違ってちゃんとした)中学生組や、保育士の鈴村先生も協力してくれて(>>168)、
なんとか園内の全員の無事を確認し、建物中央にあるお昼寝室(通称)に全員を集めることが出来た。
(先刻気絶したパッショ氏のみ、どうやっても起きなかったので放置したが)
その後、「琴理を事件現場から連れてきてくれた親切なお兄さん(仮名)」の言伝を伝えきったところで……
一匹の河童(シャウさん(バリトン歌手))が私の横に現れ、耳打ちしたのだった。

「お嬢、外が一大事です。先ほどいらしていたご友人は、この園を血の池に沈めるつもりと見えますな。
 あそこまで見事な怒号と悲鳴のコーラスは、不肖このシャウ、初めて聞かせていただきました」

眩暈がしてきた。
「琴理を(中略)お兄さん(仮名)」は、現在進行形で傷害罪(あるいはそれ以上の何か)を積み重ねている最中らしい。
図らずもその事実を知ってしまった私は、鈴村先生にこっそり耳打ち。
血相を変えた鈴村先生は、園の子供達に「誰も出てはならぬ」と言い渡すと(口調が変だった。混乱していたのだろうか)、
自分は状況把握のため、外の見える場所に移動していった。
私がついていくのを止めなかったのは、状況を聞いている私なら直接事態を見ても混乱しないだろう、という判断だったのだろうか?
正直に言う。止めてもらった方が良かった。
そうすれば、貧血を起こすのは先生だけで済んだはずなのに……。
おそらく、私は後三日ぐらいはお肉を食べられないだろう。


そして現在に至る。
女二人が急性の貧血に苦しんでいる間に、「(略)お兄さん」は着々と獲物を平らげていき、残るはリーダー格らしき男との
一騎打ちのみ、と言ったところのようだ。
(その「獲物」となったごろつき達がどこから来たのかは謎だが、今はそこまで気を回している余裕は無い)
その時。

「おや、あれは久実嬢とティンカーベル嬢ではないですかな?」
「っ!?」

シャウさんの暢気な声に、私たちは再び血相を変える。
普段なら久実の帰還はありがたい限りだが、今度ばかりは状況が悪い。
何しろ、「(略)お兄さん」の戦闘力は圧倒的だ。久実やティンカーベルでも相手になるかどうか……!
189 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/08/06(月) 05:24:40.14 0
……と思ってからの展開は速かった。
ごろつきの最後の一人の惨劇(お肉食べられない期間、4日に延長)
ティンカーベルへの謎の一本釣り攻撃とそれへの対処。
そして、対決が決定的になったか、と思ったところで。

「……また、彼……」

知ってるの? と聞きたげな鈴村先生に軽く頷く。
呑とか言ったか。私の部屋に押し入ってきた時の首班である彼は、今回も独自の動きを見せた。
なんと朗々と正論を語り、双方の戦意を萎えさせたのだ!

「狙ってやってるならすごいけど……違うのでしょうね」

たぶん、彼は自分の感情の赴くままに行動しているだけだ。
私の部屋に来たときのように。
私に語ったときのように。
今の私に、その裏の意図を分析できるほどの度量はなく。
それよりは、その結果起きた事実と、それでも解決できない事象への対処に気が行った。

「シャウさん。KAPPさん(プロレスラー)とキトゥさん(相撲取り)に声をかけて、琴理のところに行って。
 それで、あそこの廃ビルの屋上に河童三匹を送れるかどうか聞いて頂戴。可能なら送ってもらって」

眼前の戦闘が収束気味の今、対応すべきは廃ビルの上の釣り人(仮名)だ。
琴理の能力が、「個人を特定できない相手」にも有効なら話は早いのだが……。

私は考えをめぐらせながら、窓越しに久実に手を振った。
190 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/08/07(火) 23:10:30.48 0
「おいおい、物理法則とかどうなってんだ」

望遠レンズの向こうに広がる光景を見て、俺はひとりごとを漏らしてしまった。
妖精の背中にくっるけた錘、それと俺の手元とを繋ぐテグスは、女子中学生によって切断された。
まあ、それはいい。しょせん市販のテグス、特筆するほど強靭というわけでもない。
能力の応用で分子同士の結合を強め、頑丈な糸にするという使い方がないでもないが、錘に"ゴールデンフィンガー"を配分しすぎた。
だから適当な刃物があれば、このテグスをぶった切ることなど造作も無いはずなのだが……

『ありゃどー見たって刃物ジャネーナ!形容するならそう、"かまいたちのドリル"!』

ガチョウが解説する通り、女子中学生が振るったのは腕に形成された緑色の角のようなものだった。
そしてそのまわりに渦巻く風が、真空波の如き切断力で持って、妖精を俺の竿から解放せしめたのだ。
原典はどういうBOOKSなんだ。腕からドリル出す童話なんて聞いたことがない。

「あるのかもな……俺が知らないだけで、『腕ドリル姫』みたいなタイトルの童話が……!!」

と、そこへようやく唐空が現着したようだった。
俺が送り届けてからコンビニに車停めて廃ビルに上って錘投げるまで何してたんだあいつ。
激突必至の針鼠と妖精の間に単身飛び込んだ唐空は――

『ヒュゥーっ!やるじゃねーカ、唐やん!』

なんとその身を挺して、両者の攻撃を見事に制したのだった。
見事っつっても、華麗ではない。拳にトゲが貫通してるし、頭から血も流している。
俺と行動している時は随分陰気な男だと思っていたが、なかなかどうして熱血なところあるじゃないか。
感心していると、懐でケータイがブルった。ついさっき交換したばかりのアドレス、唐空のものだった。
文面は簡潔に、援護要請。

「援護……ったってなあ、錘はあの妖精に取られちまったことだし」

とっとと車で迎えに行くか……いやしかし、そうなると空中組が邪魔だ。
というか死屍累々の散らばる中に車で突っ込む勇気はない。流石にこの歳で――この都市で、殺人者になりたくはない。

そのとき、考え中だった俺の横を、あしなが園の方から飛んできた何かが横切った。
ガスマスクの狭い視界の中で、辛うじて捉えられた影は――小さなツバメの形をしていた。

『ケヒョヒョ!ヌケサク!なっかなかタフな状況になってきたナーッ!』

ずお……!と突如背後に強烈な存在感が芽生えた。
冷や汗に押されるようにして振り向くと、そこには三匹の「何か」が存在していた。

音もなく。
前触れもなく。
そこにいた。

「――――っ!」

俺が美少女だったら可愛らしい悲鳴を挙げて気絶していただろう。
しかし残念ながら俺は美少女ではないので、股の間にぶら下がる度胸袋が、俺に失神を許してくれなかった。
失神していた方が、発狂してしまったほうが幸せだったに違いない。
何故なら俺の背後に出現したそいつらは――形容するのにラヴクラフト先生のお言葉を借りねばならぬ容貌をしていたからだ。
そのあまりに醜悪な姿形に、俺はせり上がってきたおにぎり定食の成れの果てを必死に嚥下する。

「なんだお前ら……いつからそこに居た?どっから入ってきた?」

この廃ビルは、廃ビルだけあって当然ながら封鎖されている。
施錠と目張り、それから解体業者が置いていったバリケード……通常の手段でここに足を踏み入れることは不可能だ。
『俺のように独自のルートを持っているか』、何らかの能力で空でも歩いてきたか。
あるいは、こいつらの存在そのものが能力の賜物――『特定の場所にこの化け物を具現化する』という能力なのか。
191 : 鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/08/07(火) 23:11:19.20 0
三体の化物は、明らかに人間ではない。
BOOKS具現化物特有の、質量があるのに掴みどころのない感じによく似ている。
そしてこの街にこの手の化物は――意外に多い。
化物に変身する能力者や、化物を具現化して使役する能力者は、童話という原典においては特に珍しくもない。
特に中国系の昔話は、登場人物の大抵が何かしらの変化能力を標準装備していたりするしな。

俺はゆっくりと後ずさった。
三匹の化物は、有機的にばらけた軌道で俺を取り囲むように足を運んだ。
傀儡とは思えぬ複雑な動作……それでいて、能力者が傍にいて細かく指示を出している様子もない。
この廃ビルに居るのは俺と三匹の化物だけだ。

「遠距離から、自律行動可能なほど高度な具現化物を同時に三体も?それこそ化物だな、こいつらの親玉は……!」

この化け物共が、何者かによるBOOKS攻撃だとすれば、その目的はなんだ?
化物の出現タイミングから見て、妖精にちょっかいかけた俺を黙らせに来た公算が高い。
だが、唐空含めたあの場に居る全員の能力は既に見た。こんな化物を召喚する能力持ちなど――

「……あいつか?」

そういえば、一人だけあの場で能力を見せていない者がいた。
女子中学生と共に宙に浮かぶ、パンピーっぽい男。こいつの能力は、まだ知らない。
妖精を援護する目的でここに化物を送り込んだのであれば、『化物使い』はあのパンピーに違いない。
俺は携帯を取り出し、唐空に繋いだ。

「唐空君!こっちもBOOKS攻撃を受けている。おそらく女子中学生の隣で浮いてる男の能力だ。
 速やかに排除願う。それが叶えばすぐに俺が車を回し、君と針鼠を回収してこの場を離脱する!」

実際には離脱までにもうひと頑張り必要だろう。
女子中学生と妖精は、確実に俺達の逃亡を妨害しにかかる。針鼠をみすみす逃がすわけにはいかないからだ。
となれば、戦闘系らしき女子中学生と、それを的確に支援する妖精の両方を、唐空と針鼠に露払いしてもらわねばならない。

「そして俺は――行くぞ、『ゴールデン・フィンガー』!」

『YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAR!!!!!』

ガチョウが羽撃き、鱗粉のように散った金色の粒子を俺の両腕に纏う。
そして腕を左右に開きながら姿勢を低くし、俺は渾身の力で地面を蹴った。
蹴りだす瞬間だけ靴と地面を『くっつけ』、スパイクの原理で地面に十全に蹴り足の力を伝える。
ゆえに、疾駆は高速。疾走は疾風の如く。
三匹の化物の中で、いかにも格闘系っぽい体つきの二匹を除外し、文化系っぽい一匹に飛びかかる。
黄金に染まった腕で、化物の腹をしっかりとホールド。能力が発動し、決して解けぬ枷と為す。

「おおおおおおおおおお!!」

化物にタックルをかけて、それでも俺はとまらない。
能力によって抜群の踏ん張りを得た俺は、そのまま相撲みたいに化物ごと屋上の端まで走り切る。
目の前には縁。そこから先は青空。夏陽に焼けたアスファルトは、遥か10メートル下にある。

俺は躊躇わず踏み出した。
ゴールデンフィンガーが靴裏とビルの壁をくっつけ、踏み出す足と蹴りだす足を交互に壁と接着する。
実現されるのは、化物を抱えて壁を垂直に走る、俺。
封鎖された廃ビルの屋上に俺が存在できた、『独自のルート』とはまさに外壁のことである!
192 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/08/09(木) 20:05:01.90 0
「あ、亜梨子と火燐も行きましょう」
二人の妹も誘う。つまり私、硝子は姉が二人妹が二人の5人姉妹なのだ…大家族、である
「………それなら、私も、行こう、かな…」
「本屋さん、楽しみ楽しみ♪」
193 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/08/12(日) 18:00:38.59 0

「――というわけで、この河童二匹を、その人物の元に届けて欲しいのです。」
シャウ氏は後ろに佇む巨漢河童の方を顎でしゃくって見せる。
KAPP氏とキトゥ氏は、緑苔に覆われた小岩のような河童であった。
隆葉と寝食を共にするにつれて河童への恐怖や嫌悪はかなり薄れていったので、琴里は動揺することなくうなづく。さすがに夜中のトイレではち合えば失神ものだが。
「その、本当に大丈夫なんでごわすか?」「移動中に体が空中分解とかねえだろうな?」
やはり河童といえどある程度は人間に似た感情の動きというものがあるらしい。その人間離れした相貌にちらちらと不安の色が浮かんでいる。
「うん、平気! 前に生きたネコを運んだことがあるからね。着地の保証はしないけど。」
重さも大きさも、有機物だろうと無機物だろうと、BOOKS能力の前ではなんの障害にもならない。
それでもまだ不満ありげな顔だったので、琴里はまあまあと適当にあしらう。
「…で犯人の居所がつかめたら、これを使って欲しいんだ!」
手に握られていたのは、蛍光ピンクの小さな犬笛だ。ついさきほど友達から借りうけた物である。
「これすごい音でるからさ、少しくらいの距離ならここからだいたいの目星はつくかなって思って…くちばしで吹けるかはちょっと確証ないけどね。」
きょとんとしている河童の、たぶんプロレスラー河童の首へ笛をぶら下げてから、琴里はめちゃくちゃ久しぶりに自分の絵本を取り出す。
「そんじゃ、KAPPくん、キトゥくん、河童初の瞬間移動の旅、とくとご堪能あれ!」
幸福の王子様という題名のくせにハッピーとは程遠いプレゼントだが、しかたがない。
次の瞬間、緑の愉快な河童達はまるで最初から存在しなかったように、こつぜんと姿を消した。

「……これでよし。」
しかし琴里はまだ絵本の能力を発動させたまま、解除しようとはしない。
「鈴村センセ、ちょっと救急セット貸して!」
それは詩乃守医師が以前、あしなが園に寄付してくれた例のトランクのことだ。
管理人の一人である鈴村先生の許可を得ることができれば、園に帰属するものを移動させることが可能になるのではないだろうか、と考えたのだ。

送り先は…、もちろん、赤針隆司にだ。
なんせ琴里の中で彼は、は園の危機に一人で立ち向かい、その身を挺して子供達を守ってくれた英雄なのだから!
(あたしがあのお兄さんを巻き込んじゃったんだ…ぜったい助けなくちゃ!!)
「でぇえぃっ あのお兄ちゃんの元へ、届けトランク!」
194 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/08/13(月) 03:07:54.77 0
一方その頃……

 「…………」

病院から追い出された私はとあるファミレスに来ていた。
……いや、来ていたというよりも、何となしにファミレスに入ってしまったのだ。

理由は言わずもがな……お腹が減っていたから、それと自棄食いがしたかったからだ。

薄汚れた白衣の内ポケットには先程の病院にて謝礼として受け取った封筒が覗いていた。
白い封筒の中には1万円札が数枚入っている。正確には数えていない。
しかし、このファミレスの支払いをするのには十分すぎるほどだ。
私は片手を上げてウェイターを呼ぶ。すぐにそれに答えてウェイターがやってきた。

「……特選黒毛和牛のフィレステーキ、伊勢海老のカクテルサラダキャビア添え。
 それからコーンスープ、デザートにティラミスを。飲み物はアイスコーヒーをブラック……以上で」

それだけ言い終えると私は上品なテーブルに突っ伏す。未だ消えない倦怠感が身体を支配していた。
手の指先の痺れが取れない。視界が数分に一回僅かに霞む。さっきは何も無いところで転んだ。

……確実に能力の影響ですね。でも、なんの後悔もない。

ふと視線を感じると、ウェイターが先ほどの姿勢のまま訝しげな視線で私を見ていた。

あぁ、なるほど。こんな薄汚い女があんなに大量注文したんだ。それにこの挙動不審な態度。
食い逃げを疑っておかしくない。そりゃ、怪しむ。

私は身体を起こすと懐から白い封筒から中身を全て出し、ウェイターに手渡した。

「……ん、先払いで。お釣りは募金箱にでも入れておいてください」

ウェイターは気まずそうに慌てた様子で頭を下げてその場から立ち去っていった。
それを確認すると、私は再び身体をテーブルに突っ伏した。
数分後、頼んだ料理が次々と所せましにテーブルに並べられる。

「…………」

私は無言で鉄板の上で音を立てているステーキをナイフで切り分け口に運ぶ。

「……まっず」

思わず口に出してしまう。それほどにそのステーキは不味かった。
普段、笑顔と感謝と共に子ども達から貰うクッキーの方が何百倍も美味しい。
いや、比べること自体、クッキーに対して失礼だ。

……能力得てお金貰って食べる料理が……こんなに不味いなんて。

それでも私の身体は目の前の料理を食べ続ける。普段の栄養の不足を補うかのように。
次々と無表情で料理を口に運びながら、私は思っていた。

…………私は、これからどこにいけばいいんだろう。
195 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/08/13(月) 10:22:01.38 0
>>182
ベルさんが手にした釣り糸は、錘やら何やらが付いた、ごく普通のものらしい。
(物質操作系能力…?)
『針鼠』も本心か芝居かは分からないが…「お前ら、何遊んでんだ?」という顔。
その態度が前者なら、別の何者かが介入して来た可能性が高い。

と…ベルさんが今度は黄金の粉を釣り糸にふりかけ、巧く『針鼠』との距離をとって翻弄する
役割を引き受けてくれた。
その間に久実も戦闘態勢を建て直しながら、『針鼠』の様子を確認する。
全身が自分と喧嘩相手の血で真っ赤、そして体内から突き出した針のために上着もシャツもズボンも靴も
穴だらけ…。
(じゃない部分、あった! 本の場所は…)
『針鼠』の右胸、そこの衣服だけ綺麗に破れていない箇所がある。
(本を貫いて機能不全を起こさせる、チャンスは一瞬…)
目には目を、歯には歯を、針には槍を…!!
最後の手段…奪い取れなければ、破壊するしか…。

>>183-184
と、『針鼠』が動いた。
ベルさんも、武術としての捕縄術や鎖術を学んでいるわけではないようで、どうしても素人の動き。
「ベルさん、危な…!」
飛び出そうとした瞬間、人影が両者の間に割って入る。
「唐空さん…!?」

何故ここに、と尋ねる間もなく、唐空さんは手から血がボタボタ落ちるのもかまわず、
『針鼠』と久実達に大声でまくし立て始めた。
>ここは親元を離れた子供達が住んでいるところなんだよ
「え、ちょ…」
いや、確かに門柱に『あしなが園』の看板はあるけれど、まるで最初から知ってたみたいに…。
少なくとも久実の記憶では、唐空さんが施設を訪ねて来たことは無い…はず。
>なんで放ったらかした?なんでここまで暴れた?訳わかんねぇよ
そんなの、血まみれの『針鼠』と、走って来て汗だくになってる当方一同を見比べれば想像もつくでしょうに。
>この男は僕が連れて行くことにする!
「ええっ!?」
何でそういう結論になる?そもそも、何処に…誰のところに連れて行こうと?

唐空さんの目が泳いでいる。明らかに挙動不審。
独自の情報網を持ち、それを生かして何かと作戦を練るのが好きな反面…それが上手く運ばなければ途端にキレて
感情を爆発させる人…というのはこの前の事件で分かったが、今回はまた違う。
ぶっつけ本番で、とにかく勢いでこの場を押し切ろうとしている。
唐空さんの「一芝居好み」が迷走しているというか、何と言うか。

「『自警団+本の社会的活用法を考え実行する組織』を作ろうかなって」
「…大事なのは本をどう使うかじゃなく、本とどう向き合うべきか」
正直、今回の唐空さんは先日の話からだいぶ軸がブレてる気がする。
196 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/08/13(月) 11:40:31.43 0
>>185-186
『針鼠』がペロリと舌なめずりをして、久実を見ている。
あの目はもうげっ歯類のつぶらな瞳どころか、腹を空かせた大型猛獣レベルのそれだ。

>「OKだよクソ説教野郎ついてってヤルよ。なんだか美味そうな匂いもするしなぁ」
「……!!」
唐空さんは自分(?)の計画を実現するために力を求め、『針鼠』は思う存分暴れられる戦いの場を欲して…
両者の利害は一致したということか。
でも、それでは…。

子供達は無事、それだけでもまず安心。
この場での乱闘が偶然の産物というのもまあ、嘘ではないだろう…。
>ことはこの施設の中に欲しいモノでもあったんじゃねぇの?
>それとも欲しい能力者かぁ?
「…そうなんですか?」
油断無く『針鼠』や唐空さんの挙動に注意しつつも、久実は近くのブロック塀にもたれて
腰を抜かしている不良の一人(軽傷)に問いかけてみた。
「お、俺は何も知らねえ…」
「そ う な ん で す か ?」
「ひぎゃっ!? …あ、ああ、そ、そうだよ!スリの名人がいるから一儲けで」
「…ありがとうございます」

つかんでいた不良の胸倉を放し、再び2人…鼠と羊に向かい合う。
「ご回答どうも…大体の事情は分かりました。あと、私達のこと『制服女』とか『コスプレ女』とか
いかがわしい商売みたいに言わないでください。『小娘』とか『ガキ』って言われた方が個人的には
まだマシです」
「唐空さん…私の代わりにその人…『針鼠』さんをスカウトしに来たんですか?
自動車教習所を作ろうとして、気づいたらテロになってました…なんて洒落にもならないと思うんですけど」

そう言いながら、ゆっくりと歩いて2人の進行方向に立ちはだかる。
「申し訳ありませんが…」
ここを通すわけにはいきません、と言い切らないうちに…待っていたものが来た。

気取られないようサイレンを消した数台のパトカーが、全ての道を塞ぐように止まり、
警官隊がバラバラと姿を見せる。そのうちの2~3人は避難誘導のため、あしなが園の中に入っていった。
井沼・野田山の両刑事は、まだ到着してくれてはいないようだ。それでも…!
「通称『針鼠』、傷害の現行犯で逮捕する! 無駄な抵抗はやめ、すみやかに能力の本を放棄しなさい!」

制服警官達は…もちろんのこと、全員が警棒と拳銃で武装していた。

>>187-191
屋上の方でも、動きがあったようだ。
遠目にはハッキリと見えにくいが…緑色の影が複数、チラチラと動いているのが視界の隅に入った。
(隆葉…!そうか、さっきの合図は…)
窓越しに彼女の姿を認めた際、とりあえず「逃 げ て」と口の動きで返事したものの、理解してもらえただろうか?

すると、釣竿を操っていた人影が河童を抱えてビルから落下…いや、壁面を垂直に走って降下しだした!?
「すみません、あの人も確保してください…関係者です!」
制服警官の中に見知った顔がいたので、久実はとっさに依頼してみた。
「分かった、自分が行く!自警活動の君達は下がっていてくれ!」

<鳥島さん:制服警官のお巡りさんが1人、そちらに向かいました>
197 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/08/13(月) 12:26:18.71 0
(『あしなが園』内…)
鈴村先生が吐き気と貧血を必死にこらえながら、「美女と野獣」の能力で
やっと生み出した薔薇の花…猛る野獣の精神すら落ち着かせるその芳香で、
先生自身と隆葉は何とか動けるくらいにまでは回復した。

しばらくして、窓の向こうに1人の警官が姿を見せ、手帳を見せて中に入れてくれるよう
依頼してくる。
「皆さん全員、裏口から速やかに避難してください…本官が誘導します」
警官は何事かを鈴村先生にだけ耳打ちすると、彼女の表情が更に青ざめた。
「…分かりました。みんな、定期訓練どおりに落ち着いて行動してね。男の子達は
隆葉ちゃんが気を失うようなことがあったら支えてあげて」

>>193
いくら子供達を守るためとはいえ…出来れば、威嚇でも銃声なんて聞かせたくない。
(避難が早く済んでくれればいいんだけど…)
久実は武器を仕舞うことなく、安半さんを庇うように下がりながらも事態の動きを伺う。
(それから、さっきの話…園長先生に報告はしないといけないだろうけど、隆葉自身には絶対に
聞かれないようにしないと)
せっかく新たな一歩を踏み出した隆葉が、また優先生みたいなことになったら何にもならない。
(それに…「狙われる危険性」なら、施設の子供達はみんなそう。年長メンバーで、私のように自警活動やってる人達は常に
『お礼参り』の危険があるし…犯罪利用目的で誘拐されるなら、お琴も含めほぼ全員が標的になりえる。
だからこそ、社会はこの街を作って隔離を──)

どすん。
「!?」
いきなり出現したのは、見覚えのあるドクター鞄。
しかも、受取人は位置関係からして、『針鼠』の男。
「お琴? あの子、何考えてるのよ…!?」
198 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/08/14(火) 23:19:26.57 0
>「おいおい、なんだよなんなんだよぉ! 結局ヤルってかぁ? なら焦らすなよオイ。
 てかコスプレ女ぁ! 作戦こっちに聞こえちゃあ意味ねぇだろぉよオイ。即席チームなんですかぁ?
 つーか、テメェでテメェを美少女ってなんだよどんだけ自意識過剰なんですかぁ痛々しくて軽く引くわぁ」

「私はいつも美少女戦士であれ、と自らに課している。
美少女戦士とは外見の事ではない……
弱きを守る優しさと勇気を持ち合わせた者に与えられる称号なのだ!
君だって心の持ちよう次第で美少女戦士になれる!」

「……せめて美少年戦士にしてあげてください」

後ろでアンパン君が呟いたような気がした。

>「おーおーおー、今度は俺を一本釣りですかぁ? 人間釣るのが流行中ってかぁ? 楽しいこと考えてんじゃねぇかオイ」

針鼠が動く。まずい、調子に乗って近づきすぎたか――
次の瞬間だった。

>「ベルさん、危な…!」
>「ぐぅ…」

久実ちゃんよりも尚早く、呑君が私達の間に割って入っていた。

「呑君、助かった……、怪我は大丈夫か!?」

しかし呑君は、この前のように突然まくしたて始めた。

「ちょっと待て、落ち着け……!」

>「何鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔しているんだ。
 僕はただ悪い奴が嫌いなんじゃない、日常をメチャクチャにする奴が大嫌いなだけだ。
 例え、それが正義を謳っている者でも、昨日の友だったとしても…それは変わらない!!!」

彼が平穏な日常を願っているのは前から言っていた。しかし何かが不自然だ。
BOOKS能力は、心の具現化。
呑君の能力は、殴る事に特化した純然たる攻撃能力だ。
平穏な日常を願いながらも、むき出しの攻撃性を内に抱える自己矛盾。
そこを誰かに付け入られたとのだとしたら――
199 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/08/14(火) 23:20:57.03 0
>「誰が仕掛けたとか、そういうのはどうでもいい。
 僕は、この状況を作り、子供達を危険に晒したこの場にいる全員に問題があると考える!」
>「つーわけで、大人しく来てもらおうか針鼠」

彼にこれ以上争う気はないらしい。目的は針鼠を連れ帰る事か……。

>「んじゃあ行くかぁ? クソ説教野郎。てかどこ行くんだよぉオイ、場所はぁ?」

針鼠の方も素直についていく気になってしまった。
施設の子ども達も無事なようだし、一件落着――か? いやいやいや、何処に行く気だ。
悪の秘密結社など始められたらシャレにならない。

>「通称『針鼠』、傷害の現行犯で逮捕する! 無駄な抵抗はやめ、すみやかに能力の本を放棄しなさい!」

久実ちゃんの手配で警察が駆けつけた。

>「すみません、あの人も確保してください…関係者です!」
>「分かった、自分が行く!自警活動の君達は下がっていてくれ!」

なんと釣竿男が壁面を走って降下しているではないか。
ただの磁石釣竿使いだと思いきや、壁を走れるとは只者ではない。その上河童を抱えているように見える。
大変だ、隆葉ちゃんの河童がさらわれる! 河童は隆葉ちゃんにとって大切な友達なのだ。
私は一直線に釣竿男の元に飛んだ。そして間近でその容貌を見て確信した。
というより自分でも半ば冗談だった脳内設定と化学反応を起こしてしまったのである。
壁を走る男と同じペースで降下しながら自らの推理を自信満々で披露した。

「やっと見つけたぞ……この街に巣食い人々を悪事に走らせる黒幕――”ナイトメア”!!
手口は有能な能力者を集めては洗脳し闇のエージェントに仕立て上げる、というところか。
そしてお前の”本”も大方見当がついている。
そのマスクはフォースのダークサイドを自在に操る闇の帝王へのオマージュだろう!」

この後『貴様、なぜ我の正体が分かった……!?』という展開になると当時の私は信じて疑いませんでした。
この時の私はさぞ素敵なドヤ顔をしていた事だろう。
200 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/08/18(土) 21:41:57.73 0
針鼠の返答は僕の予想をあっさりと裏切るものだった。
「ハァ!?」
恐ろしいぐらいに素直すぎるぞコイツ!
普通こういう類の人間って、指示されたりするのが一番嫌なタイプのはずだろ?
「暴れられりゃあ細けぇことは何だっていい」クチか?

まぁいい。こっちも利き腕に穴が空いている訳だし、助かったといえば助かったか。
だが、ここで一安心してはいけない。
もう一つの問題が残っている。
「テロ?」
僕は努めて冷静に返答した。
「僕の話を聞いていたか姫郡? 僕は、他人の日常を壊す奴はどんな立場であれども
 嫌いだと言ったはずだ。
 その僕がテロリストのような真逆の存在になることを許すと思うか?
 それとも可能性があると見て、そんな目でこっちを睨んでいるのか?」
目の前にはこっちを睨みつける姫郡が居る。

この前、僕は彼女をスカウトしたときに『自警団+本の社会的活用法を考え実行する組織』を提案した。
それに対し、このたび出会ったガスマスク男こと鳥島の目指すところは更に先鋭的で…
そのための尖兵として?危険極まりない喧嘩屋である針鼠をスカウトすることすら計画している。
僕と鳥島は所詮、利害の一致で結びついているに過ぎず、その中には数々のズレがある。
姫郡が不審に思うのも当然だろう。
厄介な相手を目の前にし、どうするか思考を巡らせようとしたとき、携帯が震える。
姫郡の様子を伺いながら確認すると、それは鳥島からの着信だった。
「…え」
どうやらこうしている間に、鳥島が何かされたようで援護を求めたつもりが
逆に救援要請をうけてしまった。
無理だと言っても、鳥島が潰されてしまったらどうしようもない
僕はあきらめて通話を続けたまま、鳥島の指示した男に視線を移す。

あの2人に負けず劣らず正義感が強そうな少年ではあるが、彼の視線はまっすぐ針鼠を見ていた。
「…本当にその男なんですか?攻撃の特徴はなんですか?」
どうも彼では無いような気がしてしまい、僕はそう返した。
電話口の向こうから聞こえてくる音声は変わらず騒がしい。
『クワック! クワック!』
「!!」
(違う、これはあの男の能力じゃない…この声はあのガチョウでもなく…先だってのアレだ! とすると…)

鳥島の誤解を解くために思考を巡らせるも、状況は少しも待ってくれない。
電話をしている最中にこっちの状況はもはや詰みの一歩手前のところまで差し迫っている、
先程まで姫郡1人だった眼前には、警官達が万全の用意で銃を構えている。
僕はとっさに暴れだしそうな針鼠を手で抑えた。あれ、こいついつの間に鞄なんか持ってたんだ?
ここで下手な動きをしてら任務失敗どころか僕の命さえも危うい。
ベルさんがどうやら鳥島が潜んでいる方向へ飛んでいったのは、せめてもの救いか?
そんな中、鳥島からの返答が返ってくる。
201 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/08/18(土) 22:08:28.19 0
そして、極限の状況、絶体絶命のこの状態、僕は深く息を吸い考えを巡らす。
…………
(まず、この惨状の原因を考えろ…)
………
(そして、今の鳥島の状況…)
……
(鳥島の証言、そんで針鼠の鞄…どこかで見たような気もするが、それは今はいい…)

(これだ!)

「鳥島さん、その怪物は多分、放っておけば消えるんで…上手く立ち回ってください。
 それと、ベル…いや、敵がもう1人そっちへ行きました」
おそらく、鳥島が今襲われている相手は、勝川隆葉の河童と見て間違いないだろう。
だが、釈然としないことが一つある。
「もう1人の能力は、自分の燐粉がかかった物を自在に飛ばす能力ですが、生物にかけた場合は
 しばらくは自分の意思で飛ぶことが出来るそうです。うまく使えば…どうにかなりますよね」
僕はそれを伝え、電話を切った。

先日のスリ事件の後、僕は関わったBOOKS能力者達の基本情報を一通り調べておいた。
その中でも、彼女=ティンカー・ベルの能力の詳細は簡単に調べ上げることが出来た。
街の自警活動者の中でも、ヒーローとして一番派手に動いていたのだから、当然の帰結だ。

それよりも…河童たちは確かに素早かったが、ここで具現化した河童たちを鳥島の元へ向わせたのなら
少なからず、現場に近い僕らはそれを視認できたはずだ。
勝川の召還能力にも限界がある。いきなり遠く離れた場所に河童を出現させるのは不可能だろう。
それなのに気がつかなかったということは、誰かがそこまで送り飛ばしたということになる。
そんな真似が出来て、尚且つこの施設にいる人物…それは佐川琴里。
僕らがこの状況を脱するには…逆に彼女の力が必要だ。
「僕が盾になる。だから、先に施設内に行け」
針鼠にそう指示を出すと、僕は彼と警察の間に割って入り壁になりつつ、施設内へ逃げ込む。
身長的にカバーにはならないが、誤射の危険性がある以上彼らは撃つことはできないはずだ。
「止まりなさい!」
警官たちの制止の声が、空しく響く。

目論見通りに事が進んでいるのを確認すると、すぐさま僕も施設内へ逃げ込む。
「佐川!佐川琴里!返事をしろぉ!」
ここまで来たらもう時間との勝負だ。
一秒でも早く佐川を見つけ、口八丁手八丁で鳥島の元へ飛ばなければ、このまま僕も御用だ。
佐川を見つけるよりも早く、子供達を誘導していた警官と鉢合わせることになったが、問答無用で殴り飛ばす。
警官の叫び声と少女達の悲鳴が交差するが、構わず見知った顔を探す。

ようやく、見つけることが出来た。
「…さっき河童を不審者に飛ばしたよな?僕とこいつもそこに飛ばせ、河童だけに任せておくには心配だ」
突然入って来て警官を殴り倒したうえに、いきなりここまで言うのも色々とおかしいのは判っている。
だけど、上手く誤魔化せる方法が全然思いつかなかったのだからしょうがない。
「僕とコイツはその不審者に爆弾をつけられてしまってね。あと30分でソイツをどうにかしないと爆発してしまうんだ。
 だから、早く飛ばせ。巻き添えで死にたくないだろ!」
もうヤケクソだ。出鱈目言っちまえ!!!
202 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/08/18(土) 22:48:50.60 0
「あら、みんな出掛けるの?…ふふ、大丈夫。この家のことは私に任せて、行ってきなさい」
一番上の姉、風香が言う
「うふふ、お姉さまったら大袈裟ですわね。それではまるで永遠の別れみたいではありませんの。ただ本屋へ行くだけですのに」
思えばこの会話は伏線だったのかもしれない。しかしこの時の私には気づけなかった…気付ける筈もなかった。
と言うか誰が気付けますのかしら? ただいつも通りに行った本屋で、自分の慣れ親しんだ街と別れることになるなんて…

そんなわけで私達は本屋に装着した。私はクトゥルフのルルブを買うため、ゲーム攻略本コーナーへ向かう
「ありましたわ! クトゥルフ神話TRPG!」
私はその本を手に取った…筈だった。しかし私の手にあったものはコミック程のサイズで、しかも表紙には『シンデレラ』の文字が…
203 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/08/18(土) 23:56:41.98 0
やはり、何かチグハグだ。
「自分がこの街に閉じ込められて、始終トラブルに巻き込まれる境遇を
何とかしたい」それが根本的な動機…きわめて個人的だけど、きっかけとしては
分からなくもない。
その反面、唐空さんは先日の道中…こんなことも言っていたように覚えている。
『BOOK能力だってさ、運転免許みたいに、使い方・向き合い方を教える場所があれば
外の世界でも普通に暮らせるはずなんだ…みんな元いた場所に、帰れるんだ』
少なくとも、あのときの唐空さんには曲がりなりにも「志」があったはずだ。
それが今、再会してみれば…。

>それとも可能性があると見て、そんな目でこっちを睨んでいるのか?
「私、そんなに怖い顔してますか?さっきから…『悲しいなあ』としか思ってないんですけど。
…さっき他人に日常を壊されたくないって仰ってましたけど、そう言いつつ
暴力に訴えてでもこの街を変えてやる、って意気込んでた貴方は何なんですか?
なんの権限があって?
何か事件を解決するのに無関係の人を巻き込むのは当然、論外ですけど…
街の体制を変える、住民=BOOKS能力者の意識を変えようとするのも、
じゅうぶん他人様の日常に干渉する行為だと思うんですが?」
この前、彼が隆葉に言い立てた主張を、アレンジして返してみる。

>鳥島さん、その怪物は多分、放っておけば消えるんで…
「鳥島…!?」
それが、現在彼と組んでいる相手だろうか?
久実(だけでなく、他何人かの自警活動者もだが)はその姓に聞き覚えがあった。

そう、外の都市にある某企業…そこの常務さんから。

「彼を採用するよう周囲を説得していたところ、再び体調を崩して寝込んでいる間に
他の重役達が不採用にしてしまった。残っていた履歴書から彼を探したら
時既に遅く、BOOKSの街に…。
何とか彼を見つけ出して、BOOKSの街で商事会社をしている知人の世話になるよう
導いてもらえないだろうか?
名前のことくらいどうとでもなる。その程度のことで命の恩人を見捨てるほど、私は恩知らずでは無い…!」

そんな依頼が、この街の物流を担っており…自警活動の支援もしてくれている「わらしべコーポレーション」の社長さんを通じて
先日あったばかりだったのだ。
204 : 姫郡 久実 ◆uRIiKoQBUM [sage] : 2012/08/19(日) 00:42:36.80 0
~あしなが園・施設内

「待て、止まれ! うわあっ!?」
子供達を庇うために一瞬スキを見せた警官が、殴り飛ばされ…
ガラスの割れる音と共にアルミサッシごと庭に吹き飛ぶ。
女の子達の悲鳴が響いた。
「みんな、止まらないで!早く逃げて!」
鈴村先生が、必死に自身の怯えと闘いながら子供達に避難を促す。

>僕とコイツはその不審者に爆弾をつけられてしまってね
「琴里ちゃん、そのヒト嘘ついてるよ…だから、何もあげちゃダメ」
「泉ちゃん!?逃げなきゃダメでしょ」
鈴村先生が慌てて止めるのも構わず、琴里より1学年下の少女は…
金銀2本の斧がX字にクロスしたペンダントを右手に乗せ、
乱入者を静かに見上げて、そう言い放った。

「あの声は…!! くそ、公務執行妨害であの学生も押さえろ!」
数人の警官と一緒に、久実は奥の裏口に向かう。
>「佐川!佐川琴里!返事をしろぉ!」
遠くから、怒声が響く。

「…何が『他人の日常を壊す奴は許せない』よ。そう言う自分はどうなの?
琴里やみんなに何かあったら…それこそ絶対に許さない…!」
205 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/08/19(日) 03:00:27.47 0
代理依頼されてた内容に比べると、ここに投下されたレスがかなり加筆されてるようだけど
そういうことしていいのん?
206 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/08/19(日) 04:45:33.86 0
 制服女とクソ説教野郎の身内会話、わんわん達の到着ぅ。よく分からねぇイレギュラーの出現……。

「なんかもうアレだなぁ、滅茶苦茶だなぁオイ」

 誰に言うともなく呟く。危機感はまるで無い。此処から切り抜ける程度の自信はあるからなぁ。

>「通称『針鼠』、傷害の現行犯で逮捕する! 無駄な抵抗はやめ、すみやかに能力の本を放棄しなさい!」

 あーあーあー、お決まりの常套句頂きましたぁ。拳銃相手とか、初めてじゃねぇんでいいけどよ。
 そりゃこの周辺で暴れまくってんだそっちの筋のヤツの相手だってしたこたぁある。
 こっちも危うく死に掛けたがアイツ等ももれなく全員一生介護が必要な身体にしてやった。
 ま、その思い出はいいや。そんじゃヤリますかねぇ……あ?
 一歩前に踏み出した時に俺の行動を妨げるモノが2つ。1つ、いつの間にか手に握られた鞄。2つ、クソ説教野郎の手だ。

「おいクソ説教野郎、テメェなんのつもり――」

 そんな言葉なんぞ聞きもせずに俺を押さえたまま誰かと携帯で話すクソ説教野郎。
 大したクソ度胸だ、穴開けんぞコラ。

>「僕が盾になる。だから、先に施設内に行け」

「……はぁ?」

 ますます意味がわからねぇ、なんでわざわざ逃げ道の無ぇ施設の中に行かなきゃいけねぇんだよ。
 正面突破の方がまだ可能性があるっつーのてか押すな押すなオイコラ! 言わせろ押すんじゃねぇよクソ説教野郎!
 むしろクソ説教野郎が間に立っているせいで施設内以外に退路が無い状態になっている。だー畜生め。
 半ばヤケクソでクソ説教野郎の思惑通りに施設内に逃げ込む。血塗れの俺の姿を見たガキどもがギャーギャー喚きだす。
 絶賛トラウマ生産中だコラぁ。クソ説教野郎はそのガキどもを避難誘導していたわんわんを容赦なく殴り倒す。
 これでクソ説教野郎も犯罪者の仲間入りィ……てかホントに何がしてェんだコイツは。
 と、ようやく目当ての人物を見つけたのかクソ説教野郎はソイツに話しかける、てか、あのガキじゃねぇか。

>「…さっき河童を不審者に飛ばしたよな?僕とこいつもそこに飛ばせ、河童だけに任せておくには心配だ」
>「僕とコイツはその不審者に爆弾をつけられてしまってね。あと30分でソイツをどうにかしないと爆発してしまうんだ。
  だから、早く飛ばせ。巻き添えで死にたくないだろ!」
>「琴里ちゃん、そのヒト嘘ついてるよ…だから、何もあげちゃダメ」

 クソ説教野郎は無茶苦茶な嘘を言う、てか即バレてる、なんなんだよホント。
 ぎゃーぎゃー何かやりとりがあったが、もう既にこのおかしな茶番劇に飽き飽きした俺は投げやりに言う。
 
「あーオイ、もう茶番劇は十分だろオイ? てか、もう俺のやり方でやらせてもらうぜぇ。
 よく分からねェし、なんかまどろっこしいんだよテメェのやり方はよクソ説教野郎」

 俺は先程入ってきた施設の入り口に引き返す、クソ説教野郎が何か言ってるが無視だ無視ぃ。
 ふと先ほど出会ったばかりのガキと目があった。

「騒がせて悪ぃなぁお嬢ちゃん。ま、あとちょっとしたら静かになると思うからよぉ」

 キシシ、と笑って声を掛ける。全身血に染まったその姿はガキにどう映ったのか。興味が尽きねえなぁ。
207 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/08/19(日) 04:51:02.77 0
 戻る形で入り口から顔を出せば、施設の正門を守っているわんわんと鉢合わせた。
 人数は3人。武器は拳銃、警棒を持ってるが使う気がねぇのか腰に差しっぱなしだ。

>「針鼠! 貴様に対し射殺の許可も出てる! 無駄な抵抗はやめ、すみやかに能力の本を放棄しろ!」
 
 荒い口調のわんわんだねぇ……つかさっきの常套句を少し変えただけじゃねぇか芸が足りねぇなぁオイ。

「あー、はいはい。これだろぉ? 俺も撃たれたくねぇからよぉ。オラ、くれてやんよ」

 ライダースーツの内側から取り出した本を3人の警官たちの前に捨てる様に投げる。
 素直に投げられた本に3人の視線が集中する。その隙は明らかに致命的だ。俺は全速力で走り出す。
 3人のわんわんが気付いた時にはもう遅ぇ、俺は正面のわんわんに手に持ったバックを投げつけた。

「……わんわんちゃん達、悪ぃなぁ、素手だと加減効かねぇんだわ」

 本の能力を使用しない、純粋な俺個人の暴力。人間を壊す為だけに覚えた技能、久しぶりに使わせて貰うぜぇ。

「なっ?!」
 
 簡単な囮兼目潰しだがそれなりの重量のあったバックはわんわんの態勢を崩すのに十分な効果があった。
 態勢を崩したわんわんを無視しその右隣のわんわんの股間目掛けて掌打を放つ。
 ぐちゃりと何かが潰れ、それに続き、べきりと何かが砕ける。その感触が拳に伝わる。久しぶりに使ったなぁ恥骨砕き。
 武道においての禁じ手、封じ手、裏技。人間の人生に障害を残す、本を与えられる前に俺が一番好んだ技だ。
 絶叫を上げようと思い切り空気を吸い込み、股間を押さえ前かがみなったわんわんに対し追撃の膝を撃ち込んだところでまず1人目ぇ。
 真後ろに立っているわんわんは既に銃の引き金に指を掛けている。わお、絶体絶命ぇ!

「なんちゃってぇ!」

 俺はその場で身体に捻りを加えると、渾身の裏拳をそのわんわんの銃を握っている手に叩き込んだ。
 わんわんの手の砕ける感触と共に銃がその手から弾き飛ばされる。暴発しなかったのは俺の悪運が良かったからか? キシシ。
 そのまま間髪入れず喉に平手を撃ち込み渾身の力で握り締め、そして潰す。首の中から潰れる様な砕けた様な音が鳴る。
 
「これで2人目ぇ……で、ラストぉ」

 先程のバックの奇襲からようやく態勢を立て直していたわんわんの拳銃を、言いながら軽く左手で払う。
 拳銃の照準をこちらに合わせる間を与えず、右の掌打を胸に撃ち込んだ。肺の空気がその掌打により無理矢理吐き出される。
 胸を撃たれた衝撃で後ろにわんわんはよろけるが不幸かな、パトカーを背にしているせいで倒れる事が出来ない。
 倒れる事の出来ないわんわんをパトカーに磔にして掌打を連続で胸に撃ち込み続ける。
 1発、2発、3発、4発……8発を超えたあたりでわんわんは血の塊を俺の顔面に吐き掛け、もたれる様に倒れ込んだ。
 
「はい終了~、ッと。テメェ等の敗因は銃に縛られ過ぎた事ぉ、素手で3人掛かりなら、まあ可能性はあったんじゃね?」
208 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/08/19(日) 04:52:59.40 0
 ま、本は「おまけ」ってねぇ。にしても武道が暴力にやられちゃあ世話ねぇなぁオイ。
 俺は貰い物のバックと自らの本を拾い上げると後ろを振り向く。数人の警官が既に各々装備して包囲している。
 前には施設の門を塞ぐ様にパトカーの列、後ろにはわんわん達。絶体絶命ぇ? んなわきゃねーだろ。
 すぅ、と、一回大きく息を吸うと施設の中にいるであろうクソ説教野郎と制服女に向けて叫ぶ。

「おいクソ説教野郎! 目当ては俺だろう? だったらまた見つけてみなぁ! テメェが無事此処を切り抜けられたらなぁ!
 あと制服女ぁ! 機会が在ったら次はヤリあってみようぜぇ! 多分、いや、お前となら楽しくヤレそうだからなぁ! 
 キシシシシシ、それじゃあ皆様ぁ! お騒がせしましたぁ! 御機嫌ようぅ!」

 俺は一歩前に踏み込み足に力を込める。
 何をするかって? キシシ、そりゃあ見てのお楽しみってもんだぁ。

「一点集中ぅッ!」

 踏み込んだ足を覆うように太く長い赤い槍が飛び出し、俺の身体を宙に浮かした。
 棒高跳びならぬ槍高跳びってかぁ? キシシ!
 赤い槍に乗り宙を飛ぶ光景を、わんわん達は唖然と見ている。パトカーを軽く飛び越し、槍を消して着地ィ。包囲脱出ッとぉ。
 そして俺はそのまま走り出した。振り向けばあの施設はもう小さくなっている。

「キシシ……あ~楽しかったぁ」

 顔に満面の笑みを浮かべながら南地区のある場所を目指しながら走り続けた。
209 : 唐空呑 ◇5J1c2Ac8j6 [sage] : 2012/08/19(日) 14:08:43.70 0
針鼠の返答は僕の予想をあっさりと裏切るものだった。
「ハァ!?」
恐ろしいぐらいに素直すぎるぞコイツ!
普通こういう類の人間って指示されたりするのが一番嫌なタイプのはずだろ?
まぁいい、こっちも利き腕に穴が空いている訳だし、助かったといえば助かったか
だが、ここで一安心してはいけない。
もう一つの問題が残っている。
「テロ?僕の話を聞いていたか姫郡、僕は他人の日常を壊す奴はどんな立場であれども嫌いだと言ったはずだ。
 その僕がテロリストのような真逆の存在になることを許すと思うか?
 それともなる可能性があるから、そんな目でこっちを睨んでいるのか?」
目の前にはこっちを睨みつける姫郡が居る。
厄介な相手を目の前にし、どうするか思考を巡らせようとしたとき、携帯が震える。
姫郡の様子を伺いながら確認すると、それは鳥島からの着信だった。
「…え」
どうやらこうしている間に、鳥島が何かされたようで援護を求めたつもりが
逆に救援要請をうけてしまった。
無理だと言っても、鳥島が潰されてしまったらどうしようもない
僕はあきらめて通話を続けたまま、鳥島の指示した男に視線を移す。
あの2人に負けず劣らず正義感が強そうな少年ではあるが、彼の視線はまっすぐ針鼠を見ていた。
「…本当にその男なんですか?攻撃の特徴はなんですか?」
どうも彼では無いような気がしてしまい、僕はそう返した。
聞こえてくる音は変わらず騒がしい。

だが、状況は少しも待ってくれない。
電話をしている最中にこっちの状況はもはや詰みの一歩手前のところまで差し迫っている、
先程まで姫郡1人だった眼前には、警官達が万全の用意で銃を構えている。
僕はとっさに暴れだしそうな針鼠を手で抑えた。あれ、こいついつの間に鞄なんか持ってたんだ?
ここで下手な動きをしてら任務失敗どころか僕の命さえも危うい。
ベルさんがどうやら鳥島が潜んでいる方向へ飛んでいったのは、せめてもの救いか?
そんな中、鳥島からの返答が返ってくる。
210 : 唐空呑 ◇5J1c2Ac8j6 [sage] : 2012/08/19(日) 14:09:35.65 0
そして、極限の状況、絶体絶命のこの状態、僕は深く息を吸い考えを巡らす。
…………
(まず、この惨状の原因を考えろ…)
………
(そして、今の鳥島の状況…)
……
(鳥島の証言、そんで針鼠の鞄と…)

(これだ!)

「鳥島さん、その怪物は多分ほっとけば消えるんで、上手く立ち回ってください
 それと、ベル…いや、敵がもう1人そっちへ行きました。」
おそらく、鳥島が今襲われている相手は勝川の河童だ。
だが、釈然としないことが一つある。
「そいつの能力は、自分の燐粉がかかった物を自在に飛ばす能力ですが、生物にかけた場合は
 しばらくは自分の意思で飛ぶことが出来るそうです。うまく使えば…どうにかなりますよね」
僕はそれを伝え、電話を切った。
彼女の能力の詳細は簡単に調べ上げることが出来た。
ヒーローとして動きすぎた結果だ。

それよりも、河童たちは確かに素早かったが、ここで具現化した河童たちを鳥島の元へ向わせたのなら
少なからず、現場に近い僕らはそれを視認できたはずだ。
気がつかなかったということは、誰かがそこまで送り飛ばしたということになる。
そんな真似が出来て、尚且つこの施設にいる人物…それは佐川琴里だ。
この状況を脱するには彼女の力が必要だ。
「僕が盾になる。だから、先に施設内に行け」
針鼠にそう指示を出すと、僕は彼と警察の間に割って入り、壁になりつつ、施設内へ逃げ込む。
身長的にはカバーにはならないが、誤射の危険性がある以上彼らは撃つことはできないはずだ。

目論見通りに事が進んでいるのを確認すると、すぐさま僕も施設内へ逃げ込む。
「佐川!佐川琴里!返事をしろぉ!」
ここまで来たらもう時間との勝負だ。
一秒でも早く佐川を見つけ、口八丁手八丁で鳥島の元へ飛ばなければ、このまま僕も御用だ。
佐川を見つけるよりも早く警官と鉢合わせることになったが、問答無用で殴り飛ばし
ようやく、見つけることが出来た。
「…さっき河童を不審者に飛ばしたよな?僕とこいつもそこに飛ばせ、河童だけに任せておくには心配だ」
いきなりここまで言うのも色々とおかしいのは判っている。
だけど、上手く誤魔化せる方法が全然思いつかなかったのだからしょうがない
「僕とコイツはソイツに爆弾をつけられてしまってね。あと30分でソイツをどうにかしないと爆発してしまうんだ
 だから、早く飛ばせ死にたくないだろ!」
もうヤケクソだ。出鱈目言っちまえ!!!
211 : ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/08/19(日) 14:12:51.49 0
>200-201は正しくは>209-210です。
読みにくくなって申し訳ありませんが脳内差し替えお願いします!】
212 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/08/19(日) 18:47:17.29 0
気付くと私は、見知らぬ街の、見覚えのない家の、知らないベッドの上に居た。
「どうなっていますの…?」
ともかく、私は起き上がろうとする。手を付く。すると、何やら固いものが
「これは…本? 『シンデレラ』…って、あの時の! 大変ですわ、私お金払ったかしら? 記憶が曖昧ですわ…」
ともかく、私は手掛かりとなりそうなシンデレラの本を手に取る。そして読む。ふむ、何の変哲もない、私の大好きなシンデレラのお話……あら?
頭に何か流れ込んで来る…BOOKs? 能力…? どういうこと、かしら。つまり私が能力者?
ともかく、ここから出て色々調べてみる必要がありそうですわ
213 : 名無しになりきれ : 2012/08/21(火) 17:37:39.28 0
保守
214 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/08/23(木) 11:04:44.22 0
乱立継続の為、再度保守
215 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/08/23(木) 16:22:29.21 0
「さて、とりあえずこの部屋を探索してみますわ」
私はこの見慣れない部屋の探索を始める。………ふむふむ、なるほど…
「私がいつも身に付けているリュックサックと、最低限の家具はあるようですわね…」
本屋に行ったときに身に付けていたものは部屋の中にあった。それと生活必需品。それくらいしか見つからなかった
「ということはどういうことなのでしょう。まさか…誘拐?」
と、そんな物騒なことを考えていると。
『ピンポーン』
「宅急便でーす!」
来客…宅急便のようだ
「はーい!」
しかもこの声は女の子。女の子だ。そう、女の子……である
ともかく私は玄関へと駆け出した。可愛い女の子の声。行かない訳にはいかない…そうでなくとも宅急便だし。
「あ、灰田硝子様ですね。これに判子お願いします」
そこに並んだのは山程の段ボール箱…多っ! 荷物多っ!
まあ、とりあえず判子を押しながら。
「ねえ、貴女綺麗ですわね…。私と付き合う気はありませんこと?」
「いや初対面に何言ってるんですか!? ありませんよ!」
「そうですか…」
まあ、ともかく。この荷物が何なのか確認する必要がありそうですわ
216 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/08/24(金) 10:53:32.60 0
確かめた結果、段ボールの中身は全て私の私物だということが分かりましたわ。しかしそれにしたって妙ですわね。荷造りした覚えもないのにどうして…?
「…とりあえず、本屋に行った後の事を思い出してみましょう」
私は目を閉じ、自分の記憶の中を探る。……ふむ、ふむふむ、段々思い出してきましたわ。能力によって記憶を消された、というわけではないようですわね。
まず、本屋で…………。
「なるほど、つまり私はそういった経緯でBOOKS能力者に覚醒して、護送バスでこの隔離都市へ送られたわけですの…。
しかし、ならばどうしてあのタイミングでBOOKSのことを知ったんですの…? …………ま、そんなことはどうでもいいですわね。荷物はおいおい置いていくとして」
私はとりあえず玄関のポストを確認してみましたわ。すると、案の定郵便物が
「何々…『あしなが園』…?」
郵便物の中にはあしなが園という所からの招待状のようなものが。まあ詳しくは省きますけれど、つまるところ要するに…私に新しい『お手伝い』として来てほしい、とのことですわ
「ふむ、『お手伝い』…つまりメイドや家政婦のようなものですわね…!
記憶によるとしばらく戻るのは難しいようですし、仕事や学校はどうしようかと思いましたけれど…。ふふ、思いがけない天職が転がりこんできましたわ!
そして、何時から行けば…って今日!?」
そんなこんなで、私は荷物の中にあったミニカーを本物の車に変え、(こう見えて免許は取得済みですわ。淑女のたしなみですの)地図とナビを頼りに『あしなが園』に向かうことになったのですわ…
【シンデレラ-灰田硝子/プロローグ…end】
【to be cotinued…?】
217 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/08/29(水) 21:12:03.94 0
保守
218 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/09/02(日) 22:05:05.21 0
佐川のリアクションよりもはやく聞きなれない声がそれを遮った。
ふいにその方へ視線を向けると、恐らく施設の子だろう。その子が斧のペンダントを片手に冷ややかな視線を向けている。
一瞬、反論しようかと思ったが…やめた。
恐らくこの子の本は金の斧と銀の斧で、嘘を見抜くことに特化した能力と見ていい。
そんなことを考えている最中、飽きたのか見限られたのかは定かではないが針鼠は入り口に戻っていく
止めようとも考えたが、ここで止めても状況が好転する訳ではない。
去り際に満更でもないことを言っているところを見ると、今は無理矢理引き留めるよりも、本人に任せるほうが無難か…捕まったのならそれまでの奴だってことだし、鳥島には申し訳ないが、あいつの件は後日に回そう。
それよりも、今は自分のことだ。
「そうだよ。嘘さ…だけど、あいつに急用があるのは本当だよ」
どうせ、取り繕っても無駄だ。
ならいっそ開き直ればいい。
「切羽詰まっているのも本当だし、爆弾は無いけど、彼女が僕を飛ばさないととんでもないことが起こるのも本当だ
 嘘を見抜ける能力ってのも使いようによるな
 下手に正義感が強かったりしたら、自分の首を絞めることになるからね…黙ってればよかったのに」
斧の彼女に軽く揺さぶりをかけたあと、再び佐川に視線を移す
「まぁ最終的な判断は君なんだけどね。
 僕は飛ばせとは言わないけど、酷いものを見たくないなら、飛ばすことをお薦めするよ」
軽め口調で話しかけるが、万が一のため拳を力強く固めていた
219 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/09/06(木) 19:21:40.15 0
唐空青年に睨まれた少女はその小さな肩をふるりと震わせる。
人見知りが激しくて消極的な彼女には、重すぎるプレッシャーだったろう。
「泉ちゃん、ありがとう。でも、もうお逃げよ。」
その言葉を聞いて、泉は2,3歩後ずさりした後、転ぶように教員のもとへひた走っていった。
彼女を見届けてから琴里は、唐空青年の方へ向き直る。
>「まぁ最終的な判断は君なんだけどね。」
これには思わず乾いた笑いが漏れ出てしまった。泉の力を借りないでも分かる。
「う、そ、つ、き。…君がグーを握っている時点で、あたしに選択肢はないんだよ」
 戦闘能力者は万能だ。なんせ殴って脅せば非戦闘能力者を言いなりにすることができるのだから。
日頃大人達によってぼやかされていたヒエラルキーが今、唐空青年と琴里の間に、でん、と横たわっている。
怯えを気取られるのは癪だった。だから、肩をすくませていつものようにおどけてみせた。
「OK.飛ばそうじゃないか。」

転送の注意を簡単に説明した後、琴里はぽつりと呟いた。
「…河童の事件の時ね、唐空お兄さんは乱暴者だったけど、とっても頼りになってかっこよかったよ。」
正義が苛烈すぎこそすれ、彼は常に正論を言い、それに従って行動する男だった。
獣のような力を圧倒的な理性で御し、唐空呑は今まで本の能力を悪用しなかった。
(だから、嘘をつかれようと、脅されようと、)

能力が発動し始め、絵本がほのかに光り始めた。
それと同時に唐空青年の体も無数の淡い光の粒に覆われる。実体が足元から徐々に消えていく。
その曖昧なシルエットに向かって、琴里は言葉を振り絞った。
「あ、たしは…信じたい。――今回も、最後はお兄さんが皆を守ってくれるんだって…!」
220 : 河童三匹 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/09/14(金) 00:11:01.13 0

>>190>>191
勝川隆葉に協力し、佐川琴理の手によってビルの屋上に移動した河童達。
彼ら(河童にも性別は厳然として存在する)は、ビルの屋上にいたガスマスクの男を三方向から包囲する。

>「なんだお前ら……いつからそこに居た?どっから入ってきた?」

「ははは、説明する気になると思ったかね。君は恵まれた少年時代を過ごしたと見える」

軽口をたたきながら、中央に陣取ったシャウ(バリトン歌手)は油断せずに腰を落として構えた。
彼も、非戦闘職とはいえ河童である。並大抵の人間なら勝てない程度に、相撲には習熟している。

が。彼はひとつの致命的な勘違いを犯していた。
『並大抵の人間』などというものがこの町にいるはずが無いのである。
それは、目の前のガスマスクの男とて然り……。

ガスマスクに覆われた口で、男が叫び、そして。

「quack!?」

シャウの口から驚きの声が漏れる。
それほど鮮やかな、タックルだった。
シャウの腹を抱えたガスマスクの男は、そのまま屋上の端まで爆走する。
虚を突かれたほかの二匹が慌てて追うも、追いつくことはかなわない。
彼らとて、肉体的に少し優れている他は普通の生き物のようなものでしかない。能力で物理法則を味方につけた男の走りに勝てる道理も無かった。

そして、男はそのままビルの壁面に足をつけて駆ける。
すわ心中か、と色めきたったシャウの内心も知ればこそ。男の走りは止まらない。

「qua,qua!! 離せ、離しなさい、離せば分かる!」

シャウがわめく。……念のために言っておくと、離されたら自然落下して河童のミンチが一丁上がりである。
修正する余裕があるものはここに居ないようなので、ここに特に記す。
さておき、シャウに出来ることはわめく事しかない。

そして、二人を見下ろす肉体派河童二人も事情は同じだった。
キトゥはただの相撲取りだし、KAPPはただのプロレスラーである。
世の中にはアフガン何とかとかルチャ何とかとかいう空を飛ぶ相撲取りやプロレスラーも居るそうだが、そんなけったいな物ではない。
ただ見下ろすしかでき……おっと、KAPPの方にはもう一つだけ出来ることがあった。
KAPPもすぐにそれに気がついたようで。

廃ビルに、高らかな笛の音が響いた。
221 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/09/14(金) 00:11:51.22 0
笛の音を聞きながら、私は意識を保つのに必死だった。
凄惨な光景を見たから、だけではない。河童の能力の継続時間が限界に近づいているのだ。
こればかりは、少なくとも一朝一夕ではどうにもならない。

河童達に出来ることは河童達に任せるしかない。
私に出来ることは、せいぜい、河童達が『逃げ』ないように意識を保ち続ける事ぐらいだった。
鈴村先生の薔薇で意識を覚醒させながら、園内を進む。

突然の乱入者。……また、あの男……!
朦朧とした意識に鞭を打ちながら、私はただ見ていることしか出来なかった。
……琴理が彼をビルの屋上に飛ばすのを。

「………」

私は琴理を見た。黙って。

「琴理。私の意見だけ言うわね。
 ……あれは、ただの台風よ。人間が関わったら、ろくなことにならないわ」

琴理の返事を待つ。
……この会話が、少しでも私の意識をつなぎとめてくれますように。

222 : 河童三匹 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/09/14(金) 00:12:25.89 0
>>199

ガスマスクの男の下にティンカーベルが飛来する。
見覚えのある存在の飛来に、シャウが悲鳴を上げる。

「か、怪奇空飛ぶ女! 敵か味方か!?」

……そういえば前回は敵としての邂逅であった。
シャウが混乱するのも無理は無い。
が、シャウは河童ではあったが阿呆ではなかった。すぐに思考を切り替える。

「敵でなければ助けてくれ! こいつの手が外れないのだ! それと……」

ちらり、視線を上に向ける。

「屋上に仲間が二人居る! そいつらを飛ばしてくだされ!」
223 : ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/09/19(水) 07:25:20.50 0
離せ離せと、脇に抱えられた化物が叫ぶ。
インスマウス面しているこいつらだが、その内面は意外にお喋りさん達だ。
化物とのボーイズトークに付き合うつもりはない。ガールズトークだったら付き合っていたが。

「くそ、なんで俺は美少女じゃないんだ……!!」

太陽を白く照り返す、アスファルトはもうすぐそこだ。
突如、化物が頭上に向けて注意を放った。俺はつられて、走りながら上を見た。
かげろうのように薄い二枚翅を羽ばたかせて、俺と同じ速度で落ちる半裸の美少女と目が合った。

「結婚してくれ!!!」

俺は迷わず叫んだ。
美少女はナイトメアがどーたら、フォースのダークサイドがどーたらと電波なことを言う。
正直言って常識人の俺は話題についていけなかったので、美少女のコスチュームを食い入るように鑑賞して時間を潰した。

「いかにも、我こそが十六代目暗黒帝王ナイトメアの銘を襲名せし者(八年ぶり3回目)!」

俺は慈愛の表情で(ガスマスクだけど)、美少女の妄言に乗っかった。
こんな美少女にはお目にかかったことがない。きっとうんことかしないんだろうな。

「くっ……思考にノイズが……!馬鹿な、こいつの人格は完全に支配したはず……!!」

俺は『悪いやつに精神を乗っ取られたけど、最後の力を振り絞って抵抗している』設定でガスマスクを掻きむしった。
予定ではとっくに地面に到達しているはずだったけど、美少女と長くお喋りしたいがためにだいぶ減速していた。

「今だ!僕がこいつを押しのけていられる時間はもう残り少ない!
 僕の精神力が残っているうちに、早く!一刻も早く!!」

右脇に化物を抱え、左手でガスマスクを掻きむしる、意味不明存在と化した俺は、美少女に指示を送る。

「―― 一刻も早くおっぱいを見せるんだ!
 おっぱいから放たれる聖なるエネルギーでこいつを浄化するんだ!!」
224 : ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo [sage] : 2012/09/19(水) 07:26:01.20 0
そのとき、頭上から巨大質量が降ってきた。
いや巨大ってほどでもない、人間一人分の重さ。
何故か、あしなが園に行ったはずの唐空が、壁面を走る俺の真上に出現し、直後に重力の虜となった。

「ぐえ」

もうほとんど地面に近づいていたから、俺の身体は唐空と地面のサンドイッチになっても大した怪我にならなかった。
胃袋が圧迫されて、ペースト状になったおにぎり定食がせり上がってきたのを、必死に飲み込んで立ち上がる。

「随分と前衛的な帰還方法だな唐空君……」

俺と化物の身体がクッションになったらしく、唐空君もまた今の墜落で怪我を負わなかったようだ。
しおかし、彼の右手からは依然としてだらだらと血が流れている。相当に深く刺されたらしかった。

「話はあとだ、逃げるぞ唐空君。さらばだ美少女!次会う時までに花嫁修業を済ませておくんだな!」

空中にいる美少女に手をふりつつ、俺は化物を抱えたまま、唐空の手を引いて走り出した。
さらばとは言ったが美少女がこのまま逃してくれるとは考えづらい。
唐空君が電話で言っていた『敵』とはこの美少女のことなのだろうから。

「この化物は人質だ。どうやらこいつも、あの美少女達の仲間のようだからな」

俺はポケットからポケットナイフを取り出して、化物の首につきつけた。
それでもって美少女を牽制しつつ、通りの角を曲がる。
すぐそこのコンビニの駐車場に、俺の愛車が駐車してあった。

「そら、乗り込め唐空君!」

俺は河童を後部座席に放り込み、エンジン始動。
唐空が助手席に乗ったのを確かめてからシートベルトなしでおもいっきりアクセルを踏んだ。
排気量1500CCのトヨタ・エンジンが鉄塊に命を吹き込み、磨り減ったタイヤがアスファルトを刻んで走りだす。

「じきに追撃が来るぞ、迎撃頼む、唐空君!」

運転に集中したい俺はハンドルにかじりついている。
『物体や人を飛ばす能力』を持つ美少女が敵に回ったということは、追手がかかるとしたら空からだ。
唐空君が対空攻撃手段を持っているかどうかは不明だが、この逃避行の成否は彼の双肩にかかっていた。
225 : ティンカー・ベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/09/21(金) 21:34:21.73 0
>「結婚してくれ!!!」

なんと怪奇ガスマスク男、いきなりのプロポ―――――ズッ!!
乙女としては嬉しくないわけでもないが、いきなり結婚はいかん。
まずはじっくりお付き合いをしてお互いの事をよく知ってからだな……。
いや、そういう問題ではない。こいつはフォースのダークサイドを自在に操る悪の黒幕である。

>「いかにも、我こそが十六代目暗黒帝王ナイトメアの銘を襲名せし者(八年ぶり3回目)!」

「やはりそうか――! 貴様の野望はここまでだ、覚悟ッ!!」

容疑者からの自白を得た私は、臨戦態勢に入る。
しかし、しかしだ。

>「くっ……思考にノイズが……!馬鹿な、こいつの人格は完全に支配したはず……!!」

「何だ!? 貴様……そいつの体を乗っ取っているのか!?」

これは厄介な事になった。
悪い奴に乗っ取られた無垢な青年をぶっ飛ばすことなどできはしない。
226 : ティンカー・ベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/09/21(金) 21:35:27.37 0
>「今だ!僕がこいつを押しのけていられる時間はもう残り少ない!
 僕の精神力が残っているうちに、早く!一刻も早く!!」
>「―― 一刻も早くおっぱいを見せるんだ!
 おっぱいから放たれる聖なるエネルギーでこいつを浄化するんだ!!」

おっぱいから放たれる聖なるエネルギー……その言葉を聞いて、とても私の口からは言えない光景が浮かんだ。
さて、突然だが昔特報王国というくだらないバラエティ番組があった。
その中で『父から乳が出る!』というネタがあり、文字通り中年のおっさんの乳から乳が出るという誰も得しないネタであった。
話を元に戻し、私はおっぱいを見せるかどうかの究極の選択を迫られていた。
いくら普段の姿がおっさんでも、変身している限りは美少女。当然乙女の恥じらいもある。
しかしそれでこの青年に取り付いた悪が浄化されるのならば――おっぱいの一つや二つ安い物だ!
そう覚悟を決めた時だった。

>「ぐえ」

呑君が空中に突然現れ、ガスマスク君を下敷きにした。
一瞬呆然として反応が遅れる。

>「話はあとだ、逃げるぞ唐空君。さらばだ美少女!次会う時までに花嫁修業を済ませておくんだな!」

「……しまった!」

>「敵でなければ助けてくれ! こいつの手が外れないのだ! それと……」
>「屋上に仲間が二人居る! そいつらを飛ばしてくだされ!」

そう言う河童の首に、刃物がつきつけられる。
人質――! けん制されて身動きがとれないまま、車に乗り込んで発進されてしまった。
もちろん河童も積み込んで。
こうなっては一人で追うのは得策ではない。私はいったん屋上へと飛びあがった。
するとそこには案の定、成す術もなく右往左往している肉体派っぽい河童が二匹。
彼等に魔法の粉をふりかけながら共に来るように促す。

「君達の仲間が悪の組織にさらわれてしまった! 追うぞ!」

私は肉体派河童二匹を引きつれて飛び、オンボロ車に迫る!

「行け! 突入して仲間を助け出すんだ!」

河童達に声をかけて、自分はというと道路に転がっている小石達を浮かして猛スピードでタイヤに打ち込む。
ピストルほどではないにしてもかなりの衝撃になるはずだ。うまくパンクしてくれれば儲けものなのだが。

「――ストーンブラスト!」

どうだ、それらしい技名を叫んでみるといかにも戦闘魔法少女みたいであろう。
227 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/09/26(水) 07:12:24.97 0
「…」
何も言えなかった。
つい最近見知っただけの仲なのに、平然と嘘をつかれたのに、
…暴力をチラつかせ脅されたのに、それでも佐川ちゃんは僕を信用していた。
いや、そうやって誤魔化さないと平静を保てないのかも知れない。
どっちにしろ、僕はそのとき言葉が出なかった。
そして、間もなく佐川ちゃんの能力が発動し、視界が一転する。
「ッ!」
青空、そして、明らかにベクトルの方向が違う引力
自分が高所から落下していたことに気がつくのは、
河童と鳥島に重なるようにした地面に叩きつけられてからだった。
「…グゥ」
落下の衝撃で軽い呼吸困難にはなったが、動くところを見ると怪我はしてないようだ。
すぐさま僕は立ち上がり鳥島へ視線を向ける。
「そっちこそ、何であんなとこから飛び降りてるんですか」
軽口を叩けるところを見ると、鳥島も特に目立った怪我はしていないみたいだ。
お互い無事であることを確かめると、すぐさま鳥島は撤退宣言をし、河童を人質にして
車へ乗り込んだ。
「いや、なんで河童持ち帰ろうとしてるんですか」
そんなツッコミはお構い無しに、車はアクセル全開で動き出す。
相手が常人ならばこれで終わるのだが、相手は空を自在に飛べ、物体を宙に浮かせる相手だ。
なんとかしないとここままじゃ逃げ切れないだろう。
と逃げる手段を考えようとした時、鳥島が口を開く
「ハァ?」
まさかの丸投げに思わず声が出てしまった。
とはいえ、無理を言ったとしても鳥島にできることは限られている以上
鳥島の言うとおりここは僕がなんとかしなくてはいけない。
「…じゃあ」
一瞬考え付いたことを口に発しようとしたが、躊躇った。
正直、この方法は馬鹿げてるし、失敗すれば捕まるどころではなくなる。
だけど、多少なりとも無茶をしないとこの状況は打破できない。
僕は覚悟を決め、言葉を続ける。
「今から車の上にあがるんで、上がったらゴールドフィンガーを発動してください
 無理でも無茶でもやってください。んじゃ」
そう鳥島に無茶を言うと、窓を目いっぱい開け、外へと体を出す。
アクション映画で車にしがみ付き、車内へ入るシーンがあるが、これはそれの真逆の行為に近い
容赦ない風が吹き付ける。
きっとこれからの人生でこれほどの無茶は二度と無いだろう。
228 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/09/26(水) 07:14:13.96 0
いつ振り落とされてもおかしくない状況の中で、車の上に立ち上がった。
呼吸を整え、迫り来る敵を確認する。
飛来する河童が二体(風体から察するに力士とレスラーっぽい)、そして、ベルさんだ。
単純にベルさんを潰せば、追従する河童も地に落ちるはずだが、そう上手くはいかないだろう。
「南無三」
鳥島を信じ、不安定な足場で血まみれの拳を力士カッパに振るう
いくら飛べるからといっても、その状態ではまともな格闘技は使えない
案の定、拳は力士カッパに見事命中するも…撃退には到ることは無かった。
「次はもっと大きいぞ」
次の拳は組み付こうとしてきたレスラーカッパだが、これも効果は無かった。
散々無茶をして迎撃してきたのに、結果は散々なものだ。
残すのはあと一撃のみ、この状態でカッパとベルさんをどうにか…
急に意識が朦朧としてきた。
体にも力が入らず、立っているのもやっとだ。
言わずもがな、重症を負い、止血もせずにここまで暴れたんだ。
失血に加え、能力の代償であるカロリーの消費で体が限界を向かえてしまった。
バランスが崩れる。
いくらゴールドフィンガーでも関節までは固定出来なかったのか
徐々に電動ヤスリのように高速で動くアスファルトが近づいてくる。
死ぬ…死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死死死死死死死死死死死死死
「死にたく…なぁい!!!」
死にものぐるいで僕は両腕を動かし、アスファルトへ叩きつける。
『さぁこい!こっちには二本のやり(角)がある』
叩き付けた瞬間だった。いつもの三打目とは違う感覚が両腕に伝わったかと思った瞬間
『おまけに、大きないし(蹄)も二つある』
アスファルトが砕け、弾けとんだ。
『これで肉も骨もこなごなに踏み砕くぞ』
229 : 河童二匹 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/10/02(火) 00:21:58.84 0
「おお、空間を駆け、空を飛び、今のワシは誰よりも身軽な河童でごわす!」
「はは、キトゥどん、俺のほうが身軽だぞ、ほれほれ」

魔法の粉を振りかけられた二人の河童は年甲斐も無く(そもそも彼らに年があるのかという話だが)はしゃぐ。
が、すぐに表情を引き締める。

「おおっと、それどころではないでごわす。シャウ殿を助けなければ」
「然り然り。幸い、俺達の速度は速い。すぐに追いつける」

飛行速度は彼らではなくティンカーベルの手柄だが、そこに突っ込む者は誰もいなかった。

そして、彼らの言葉のとおり。3人(一人と二匹)はすぐに車に追いついた。
なんと、車の上には一人の少年が仁王立ちしている。

「むむ、貴様は!」
「知っているのかキトゥどん!」
「然り! 先日アパァトでの一戦の折、ワシらを一気に吹き飛ばしてくれた輩だ!」
「なんと!」

どうも、先日のアパートでの騒動の際、キトゥは廊下側にいたらしい。
そのせいで、廊下側に対応していた呑のことも覚えていたのだろう。

「なれば」
「なれば」
「「積年の恨み、今こそ晴らさんとす!」」

積年の恨み(一日分)を込めて、二匹が呑に接近する。
呑が拳を振るうが、その威力はまだ平凡なものだ。二匹を追い払うには及ばない。

そして。

「む、自滅か?」
「否、見よKAPP! あれは……」
「な、なんと……!」

河童二匹は絶句する。
その眼前に位置する、呑の姿は……。
230 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2012/10/08(月) 23:07:41.89 0
「『ゴールデンフィンガー』!唐空君と車の屋根とをくっつけろッ!」
『ケヒョヒョ!任せときナァー!』

窓から身を乗り出して、器用に車の屋根の上へと登っていく唐空。
俺は彼が振り落とされないように、異能を発動。唐空は未曾有のグリップ力を得ることだろう。
しかし、唐空の『がらがらどん』は極めて限定的な近接攻撃能力。
航空系能力者とは極度に相性が悪いはずだ。実際、苦戦している。
追いすがってきた美少女と、奴が従える二匹の化物――屋上に居た奴だ――を相手に、有効打をとれていない。

『ヤベーぞヌケサク!唐やんバランス崩してんゾ!』

バックミラーで確認すると、唐空が膝を折っていた。
爆走する車の屋根の端でその体勢がどういう意味を持つか……当事者は切実に理解したのだろう。
後方から唐空の悲鳴が聞こえてくる。

「落ち着け、唐空君!体を丸めて重心を安定させるんだ!振り落とされるぞ!!」

こっちも必死になって指示を怒鳴るが、風の音とエンジン音に掻き消されてとてもじゃないが届きやしない。
そしてそれどころじゃない唐空へ、無慈悲にも美少女の石礫が放たれた――!
ズドン!と、響いたのは車がパンクする音でも、人間が摩り下ろされる音でもなかった。
唐空のいるあたりから輝きが発生し、同時に反動のような衝撃を受けて車体が大きく傾いだ。

「唐空君……?」

車の後ろからばっと巻き上がる礫塵が、追手の三人を覆い隠す。
土煙を背景にして、唐空の姿がバックミラーの中にあった。
殴るごとに威力が上がるという触れ込み付きのヤギ型グローブ――唐空のBOOKS具現化物。
片手にしか存在しなかったはずのそれが、両腕に装着されていたのだ。
おまけに今の衝撃、おそらく人間ではなく地面を殴ったのだろう。
効果範囲が広がっている……?

「は、ははは……」

俺はハンドルを握りながら、笑いがこみ上げてくるのを抑えられなかった。

「はははははは!素晴らしい、素晴らしいぞ唐空君!俺の見立てた通りだ、BOOKS能力は――『成長する』ッ!!」

たった今実例を目の当たりにしたばかりだ。
どういう条件でそれが起こるかは定かじゃないが、唐空の能力は確かにより強力なものへ進化した。
おそらく生死を分かつ極限状態に晒されて、心因的な変化が彼の中にあったのだろう。
BOOKSは精神に依存する力。故に、精神的な成長があれば、BOOKS能力もまた同様に成長してもおかしくはない。

『感動すんのは良いから、早く唐やん助けてやれッテ!』

俺はプロボックスのブレーキを思いっきり踏んだ。
タイヤが地面に噛み付き、シートベルトが肩に食い込むほどのGが発生する。
バランスを崩していた唐空の身体も、慣性によって屋根の上に強引に引き戻された。
俺はすかさずゴールデンフィンガーを発動。
唐空を屋根に再び固定して、アクセルを踏んだ。

サイドミラーを覗く。追手の姿はない。
唐空の放った土砂礫が奴ら全員を行動不能に追い込めたとは希望的過ぎる観測だが、良い目眩ましになったのだろう。
すぐさま俺は大通りから路地へと潜り、左折と右折を繰り返して追手を撒いた。

俺達は、逃げ切ったのだ。
231 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2012/10/08(月) 23:08:44.90 0
「そうか、針鼠は離脱したか……」

唐空の報告を聞いても、俺の心に特に落胆は訪れなかった。
もとより、状況が悪すぎた。美少女と腕ドリル姫、それから三匹の化物の介入は完全に想定の範囲外だ。
こうして唐空を回収して無事に現場を立ち去れたことすらも、結構な幸運に恵まれていてこそだ。

「気にしなくて良い。というより、針鼠に関しては再び遭いに行くことは然程難しいことでもないはずだ。
 奴は身を隠さない。暴れる時は派手にやる奴だから、この街で発生する事件を逐一捕捉していればいずれ奴に辿り着く」

情報屋とマメにやりとりをしていれば、針鼠を追い掛けることは容易だ。
むしろ、簡単に追い詰められるのに何人も返り討ちにできるからこそ、針鼠は強者足り得るのだ。

パチンコ屋の屋内駐車場にプロボックスを停めて、俺は後部座席から連れてきた化物を引っ張りだした。
特に武器を持ち込んでいないことを確認し、猿轡と目隠し、それから結束バンドで両手足の親指同士を縛り付ける。
完全に身動きをできない状態にしてから、パチンコ屋のトイレの個室に放り込んでおいた。
化物が餓死するかは知らないが、これで店員が掃除のときにでも見つけるだろう。

そして唐空の処置だ。
彼を屋根から降ろし、後部座席のシートを倒して作った簡易ベッドの上に寝かす。
唐空の怪我は、見た目以上に深かった。特に針鼠に貫かれた右腕は夥しい出血をしている。
一応止血は施したものの、今も少しずつ血はにじみ続けているし、何より戦闘で血を流しすぎた。
これ以上放置していれば、間違いなくリアルに命に関わることだろう。
効果があるかはわからないが、鞄の底で溶けかけていたスニッカーズの封を切って臥せる唐空に銜えさせた。

「死なせはしないぞ唐空君。君の持ち得る可能性を全て、つまびらかにするまではな……!」

俺は鞄の中から手帳を取り出した。
この街で活動するにあたって、予め有用そうな能力者のリストを長ネコに頼んで作ってもらっておいたのだ。
唐空もここに載っている。針鼠もだ。そして俺が今から参照するのは、『怪我しちゃったときは』の欄。
そこにメモってある番号を、携帯電話に打ち込み、コール。

「……もしもし。突然お電話差し上げて申し訳ないが、火急の要件故にそのまま切らず聞いて欲しい。
 連れに怪我人がいるんだ。出血が酷く、俺の持ち得る道具と知識では如何ともし難い。
 このままでは遠からずこいつは死んでしまうだろう。だから、貴方の力を借りたい」

電話の向こうの気配の主は、きっと良い気分ではないだろう。
教えても居ない電話番号に、知らない男から突然電話がかかってくるのだ。
すぐに切られても文句は言えない。むしろそういう反応があって当然だ。
だから、これも賭け。唐空が生きるか死ぬか、そういうチップのかかったギャンブルだ。

「俺は貴方の居所を知らないから、この依頼を受けてくれるなら今から指定する場所で落ち合おう。
 南地区の、『すずはら』バス停の傍にあるサイゼリアで待ってる。喫煙席だ」

そのサイゼリアは、南地区でもとびきりに治安の悪いエリアの入り口にあるため、
スラムの住人と他地区の人間が会合する時によく使われる。
故に、血塗れの人間やガスマスクの人間が居座っていても割りと本気でスルーされる素敵な接客姿勢を持つ店だ。

「目印は、血塗れの少年とガスマスクだ。重ねて頼む――『死神の名付け親』さん」
232 : ティンカーベル ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/10/09(火) 00:06:48.32 0
呑君は、私達を迎撃するために驚くべき行動に出た。なんと、窓から出て車の屋根の上に立ち上がったのだ。
彼の能力は殴打に特化した純粋な攻撃能力だったはず。何故この状況で立っていられるのだろうか。

>「なれば」
>「なれば」
>「「積年の恨み、今こそ晴らさんとす!」

車上にて、アクション映画も顔負けの立ち回りが始まった。
1撃、2撃とパンチが放たれ、残るは3撃目。私は河童二匹に警告する。

「気を付けろ、三発目が本番だ!」

私がタイヤに向かって石つぶてを放った時だった。
呑君の体が揺らぎ――前のめりに地面に頭から突っ込んでいく。
すわスプラッタの大惨事かと一瞬青くなったものだが――

>「死にたく…なぁい!!!」

呑君が両手を地面に叩きつける。
するとまるで爆発が何かのように、アスファルトが弾けとんだ。
飛んできた無数の破片が体に突き刺さる。
同時に粉状になったアスファルトが舞うわ目に入るわで盛大に足止めを喰らう。

「いて! あいたたたた!」

粉塵がおさまってようやく体勢を立て直した時、車の姿は見えなくなっていた。
しばらくその一帯を飛びまわった後、脇にいるであろう河童に尋ねる。

「見失ってしまった……どうする!?」

しかし、返事はない。
怪訝に思って周囲を見回してみると、いつの間にか河童の姿は跡形も無く消えていた。
隆葉嬢が力尽きたか――。
一旦引いた方がよさそうだが、この場合攫われた河童はどうなるのだろうか。
普段歩いていて河童にぶつかる事はないため、普段の河童は見えないし触ることも出来ない存在と考えられる。
ならば、自力脱出は可能だろう。
そう結論付けて、あしなが園の方に引き返す。
233 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/10/09(火) 00:07:45.66 0
能力による変身を解いた私のもとに、安半君が駆け寄ってきた。

「何処に行ってたんですか? 大変だったんですよ!
“針鼠”が現れて、それでティンカーベルさんが来てくれて……がらがらどんとか色んな能力者が…」

「すまなかった、その~ちょっと井戸端会議につかまってしまってな。
話は先程ティンカーベルさんから聞いた」

「施設の子ども達が心配です。早く行きましょう」

「ああ、君のアンパンを食べさせてやってくれ」

そして私達は、鈴村先生に施設内に通されたのであった。
234 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/10/12(金) 21:18:40.02 0
先程立ち寄ったファミレスでの募金は丁重に遠慮され、精算時に返却された。

なので未だに私の手元には数万円の入った封筒がある、さて、一体どうしたものだろうか。
そう考えた時、懐に在った数世代前の携帯を思い出す。もはや時代遅れどころではない代物だ。
携帯の通話料・通信料は親の銀行口座から引き落とされ続けてるらしいが既に電源が入っていないし、そもそも使えるのかコレ?という状態。
そもそも、掛ける相手も掛けてくる相手もいないからどうでもいい、と感じていた代物だけど……。

「……どうせ、泡銭だし……まぁ、いっか……」

ひょんな思い付きから、私は携帯ショップに足を向けていた。
そして適当に最新の携帯(スマートフォンというらしい)と前携帯とのデータ引継ぎを完了し、店を出た所で急にソレは鳴り出した。

液晶に表示されているのは以前の携帯に登録されていた番号ではない、知らない番号。
以前の私なら絶対に出る事は無かったであろうが、なんとなく、出てみようと思った。

私は取りあえず事前にショップの店員から受けた説明通り、タッチパネルを操作して出てみることにした。

>「……もしもし。突然お電話差し上げて申し訳ないが、火急の要件故にそのまま切らず聞いて欲しい。
  連れに怪我人がいるんだ。出血が酷く、俺の持ち得る道具と知識では如何ともし難い。
  このままでは遠からずこいつは死んでしまうだろう。だから、貴方の力を借りたい」

取りあえず、私はその電話に出た事を後悔した。

絶対にトラブルだ。しかも、超ド級にめんどくさそうな香りがプンプンする。
うわぁ、どうしようスッゴイ切りたい。スッゴイ関わりたくない……。

>「俺は貴方の居所を知らないから、この依頼を受けてくれるなら今から指定する場所で落ち合おう。
  南地区の、『すずはら』バス停の傍にあるサイゼリアで待ってる。喫煙席だ」

そんな私の考えを察してもいないのだろう、男は勝手に場所まで指定してくる。

ダメだ。これはダメだ。無視して切ろう聞かなかったことにしよう、それがいい。いやそうするべきだ。

誤って変な所をタッチしてスピーカーモードにしてしまったせいだろう、耳からスマフォを離しても男の声が聞こえてくる。
タッチパネルを操作しようと手が液晶に触れた瞬間、男の最後の言葉が耳に届いた。
235 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/10/12(金) 21:21:01.67 0

>「目印は、血塗れの少年とガスマスクだ。重ねて頼む――『死神の名付け親』さん」

その言葉が終わるか終らないかのうちに私の指は通話終了のボタンを押していた。

……何て?今、この正体不明の男は最後に何て言った?
……目印がガスマスク?いや、それはいい。ぶっちゃけ気になるけどどうでもいい。
血塗れの少年?そう男は言った。確かに言った。つまり、怪我人がいる?子どもの?……そして私を頼ってる?

厄介事、面倒事はゴメンだ。メンドくさいし、巻き込まれたくない。でも、そこに怪我をした子どもがいるのなら?

先程まで灰色だった景色が途端に色付いて見えた。それはきっと行く場所が出来たからだろう。

「……ん、しょうがないですね」

言いながらも私の顔には少しの笑みが浮かんでいた。

それじゃ、向かうとしましょうか。男が指定した場所、南地区の『すずはら』バス停の傍にあるサイゼリアに。

その時の私は違和感さえ持っていなかった。何故、男が私の能力を知っていたか。そして、なによりも何で携帯番号を知っていたのかを。
『トラブルメーカー』意味、災難を作る人、災難の原因になる人、または、災難を引き寄せてしまう人の事。
さあ、今この状況の場合、いったい誰の事を指すのだろうか。
236 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/10/18(木) 15:04:05.94 0
朦朧とした意識の中で、目の前に広がるのは灰色のアスファルトではなく綺麗な青空だった。
あぁ死んだのかと一瞬思ったが、痛みと空腹感とGが生きていることを確認させる。
さっき車から落ちかけていたというのに、何で今車の上で大の字で寝そべっているのかはわからないが…
カッパやベルさんが視界に入らないのを見るとなんとか逃げ切れたらしい。

しばらくして、車はどこかの駐車場でとまり、鳥島が出てくる。
聞きたいことはあったが、それよりも先に言うべきことを言ったほうがいいだろう。
「勧誘には成功したんですが、あそこから逃げるときにトラブルがあって…結局のところ、逃げられました」
鳥島のポジティブな反応に少し驚いたが、状況が状況なだけに大目に見られたのかも知れない。
それから、鳥島は人質として連れてきた河童を拘束したまま、どこかへ置きに行った。
その間に屋根から降りようとしたが、どうやら本格的にヤバい状態のようで
体に力が入らず、思うように動けなかった。
結局、戻ってきた鳥島の手を借りて、車の中へ戻り、応急処置を受けたが、状態が良くなる訳が無かった。
本当はここで、鳥島が何を企んでいるのか問い質したかったが、喋る体力さえも惜しい。
「…うぇぐ」
せめてカロリーだけは補給させようとおもったのだろう。
鳥島は鞄に入っていたスニッカーズを口にねじ込んでくる。
化学調味料臭さに思わず嗚咽してしまったが、背に腹は変えられない。
なんとか吐き気を抑えつつ、それを胃に押し込み、僕はしばし眠った。

…なんでここなんだ。
明るい内装、作業的な接客と流行の歌が流れるBGM、甘ったるい臭いと其の他諸々が混じった臭い
南地区のサイゼリア、闇医者的な誰かと待ち合わせるには余りにも場違いな場所
こんな状態でなければ、散々文句を言ってしまうのだが、そういう余裕も無い
目の前にあるメニューにさえも手を伸ばさず、僕はぐったりとソファーにもたれる。
しばらくして、鳥島が呼んだであろう医者がやってきた。
とりあえず、白衣を着込んだ医者らしい出で立ちというのが分かったが、
その人が誰なのか認識することが出来なかった。
治療料や状況説明等は呼んだ当人で鳥島に任せることにして、
とりあえず、僕は穴の開いた腕を治療しやすいようにテーブルの上に置いた。

【誰が誰だかわからなくなるほどにグッタリ、詩乃守先生に気付かずに治療の準備をする】
237 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/10/20(土) 22:38:25.20 0
>>221

唐空青年が跡形もなく消え去った後のあしなが園。
>「琴理。私の意見だけ言うわね。
 ……あれは、ただの台風よ。人間が関わったら、ろくなことにならないわ」
「それは…うん、一理あり。」
隆葉が彼を良く思わないのは当然かもしれない。
彼女の大切な友人である河童達は、あの強烈な拳を何度もお見舞いされている訳だし、
隆葉自身も、正論とは言え一方的に辛辣な言葉を浴びせ掛けられた事があるのだから。
河童事件の時の唐空青年は隆葉にとって、間違いなく台風の目だった。
しかし、それを言うなら琴里だって、隆葉や河童の素顔を知るまでは彼女達のことを恐ろしい化け物扱いしていたし、
良い悪いは抜きにしてもその日常を壊した。
「確かに、お兄さんは台風みたく、周りを巻き込んで、通った後をごっちゃごちゃにかき乱して行くよね。怖いくらい、強いから。
でもそれで、お兄さんを避けて、みんなで関わらないようにしたら、私達をこの街に強制的に追いやってる奴等となんにも変わんない。
まずアユミヨルドリョクヲスルベシ、ってヤツよ!
それに、あたしが隆葉ちゃんと一緒にいられるのは、間違いなく唐空のお兄さんのお陰だし。」
琴里はそこまで言ってから、確認するように隆葉を見上げる…が、彼女の様子はどこかおかしかった。………思い当たる節はただ一つ。
「 って、なんかフラフラしてるけど…もしかして気を失う5秒前…だったり?」
こんな状況で不謹慎ながら、『M K 5 !』という死語が琴里の脳裏をよぎった。
238 : ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2012/10/24(水) 21:54:13.02 0
「ミラノ風ドリア、辛味チキン、マルガリータピッチャのチーズ増量を一つづつ。
 それからドリンクバーを三つつけてください」

ガスマスク男の注文に、眉一つ動かさず頷いて伝票へペンを走らせるウェイトレス。
このサイゼリアではいつものことだ。
何故なら他の席には血塗れの少年やガスマスクよりよほど奇抜な格好をした連中がうようよいるのである。
『こぶとりじいさん』のBOOKSが暴走したのか、コブが生えすぎてでかい肉の塊にしか見えない男の脇を抜け、
俺はドリンクバーでQooのすっきり白ブドウ味を二人分のグラスに注ぎ入れると、死にかけの唐空の元へ戻った。

「水分をとっておくと良い。気休めだが、血圧の急低下による意識失調を抑えられる」

献血に行くとやたら飲み物を勧められるのと同じ理屈だな。
聞くところによると、戦場で被弾して失血死するケースでは、死に際の兵士がやたらに喉の渇きを訴えるそうな。
人間の体内水分量は70%。このうち四割程度が血液だが、さらにこのうち半分を失うと失血性ショックによって死亡する。
唐空はどれほど血を流しただろう。
俺はグラスにストローを差して、唐空のかさかさになってしまった唇に咥えさせてやる。

「さて、『死神の名付け親』が来なかった時のことを考えないとな。
 具体的には力及ばず君が死んでしまった場合のことだ、唐空君。この街で能力者が死ぬと、どうなると思う?」

特段、珍しい話ではない。
娑婆でだって人は死ぬのだ、当然隔離都市にだって住民が死亡するケースを想定した決まりごとがある。
俺は辛味チキンを箸で器用に解体しながら、もう喋ることすらままならない唐空へ述懐した。

「隔離都市での人の死に方には、大別して三つのカテゴリがある。
 一つは自然死。寿命を全うしたり、あるいは疾病などで臓器不全を起こし、脳死に至るケース。
 一つは事故・事件。交通事故、業務上過失による事故はもちろんのこと、場合によっては殺人事件だって起こる」

骨から身と皮を綺麗に分離して、つるりとした鶏骨をガスマスクの給水孔へ差し込み、しゃぶる。
俺はサイゼリアの、化学調味料と脂でギトギトで安直な味付けが大好きだ。

「だがまあ、この二つについては特別な決まりごとはないんだ。娑婆と同じ。
 死亡後、速やかに行政機関が遺体を回収し、隔離都市から引き揚げられる。そして娑婆の遺族の元へ送還される。
 無縁仏にしたって、ちゃんと娑婆で一般人と同じ墓に一般人として入れられるんだ。何故だかわかるか?」

あつあつのピザが運ばれてきた。
俺は丸鋸みたいなピザ・カッターをチーズの平野に走らせ、大地を切り開く。
天地開闢の頃の原始大陸パンゲアの如く、ひとまとまりだった地平がユーラシア大陸とアメリカ大陸に切り開かれる。

「――能力者は死亡した時点で、能力者ではなくなるからさ。BOOKSは消滅し、法的にも隔離前の身分に戻される。
 バカは死ななきゃ治らないと言うが、BOOKS能力者も死ねばパンピーに戻れるというわけだ」

グラスに指していたストローを抜き、未だ余熱を以てとろとろに液状化しているチーズに突き立てる。
吸気口から一気に吸った。口の中に広がる、モッツァレラチーズの爽やかなのに芳醇な香り。
239 : ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2012/10/24(水) 21:54:55.86 0
「問題は、第三の死亡ケース。つまり、『BOOKS能力によって攻撃された結果、死亡した場合』だ、唐空君」

唐空は、死人のように真っ青だ。
針鼠と腕ドリル姫によってぶちまけられた肉の分だけ、ぽっかりと身体に空いた穴から今も血が止まらない。

「俺はこの街に来る前に、この街について勉強した。隔離都市で暮らす上でのルールや法関係は特にな。
 ……BOOKS能力によって殺害された者の身柄は、その者の身分に関係なく隔離都市がその処理を請け負うそうだ。
 この意味がわかるか?『被害者が一般人であっても』、能力によって殺された遺体は隔離都市行きなんだよ」

そして、遺体が遺族の元に送り届けられることはない。
死亡理由も適当なものに改ざんされて、行政庁のデータベースの奥深くにしまい込まれることになる。

「国は、『BOOKS能力』と同じぐらい、『能力によってもたらされたもの』が外に流出するのを嫌う。
 それが例え不運な被害者であっても、BOOKSによって生み出された死であるなら、隔離され、なかったことにされるんだ。
 国家にとってBOOKSは、存在そのものがタブー。隔離都市に来た時点で、『いなかったことにされた人間』なんだよ、俺達は」

ミラノ風ドリアにフォークを突き立てて、灼熱を封じた米を撹拌する。

「俺はそれが気に入らない。何故、BOOKS能力ばかりがこんな風に隔離され、封殺されなければならない?
 出過ぎた杭や、強すぎる力が問題なら、トップアスリートや兵器類が社会に台頭して能力者が日陰を歩む理由にはならない。
 俺達BOOKS能力者は、足の早いやつや頭の良いやつと同じように、一つの抜きん出た個性として受け入れられるべきだ」

斬新過ぎるキラキラネームが、社会においてタブー視されるように、BOOKSを取り巻く現状は依然理不尽だ。
だから、俺は、世界を変えたい。変えるために、唐空の力が要る。

「――俺達は、能力者とか言う名前の生き物じゃあない。その異能も含めて人間であり、非能力者の隣人なんだ」

語りに熱が入るうち、時間を忘れていたが、サイゼに入ってそろそろ30分になる。
ここまで待って来なければ、『死神の名付け親』はやはり来ないのだろう。当然といえば当然の結末だった。
仕方があるまい。気持よく演説もぶてたわけだし、ここで果てたとしても悔いはない。
まあ果てるのは俺じゃなくて唐空なんだが。

しかし諦めかけた俺の思考とは裏腹に、気付けば目の前に白があった。
白衣。白衣を纏った細身の女性。長ネコの情報通りならば、これが『死神の名付け親』……。

「思っていたのと違うな。もっと病的なイメージがあったんだが、随分しっとりとした美人じゃあないか」

俺が声をかけるのと時を同じくして、唐空が動いた。
ゾンビのように、赤黒く染まった腕を、机の上に投げ出したのだ。
しゃぶり終えた辛味チキンの骨を入れておいた小皿に腕がぶつかって、音を立ててはねた。

「早速、頼む。あんたの治療は大変高度なものと聞いたが――ん、なんだ、その様子だと……知り合いか?」
240 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/10/28(日) 00:22:32.91 0
さて、そんなこんなで『あしなが園』に到着しました。駐車場に車を止めます
「ふむ、さて…まずは職員室か事務室ですわね。どこにあるのかしら…」
とりあえず園に入ってみましょう
「ごめんくださいませー」
お、地図を見つけましたわ
「事務室は向こうで、職員室はあっちですのね…ここから近いのは事務室…よし!」
まずは事務室に向かいますわ
…到着しました。どきどきと高鳴る心臓の音を抑え、私は扉に手をかけますわ―
「失礼いたしますわ」
241 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/10/31(水) 02:11:46.58 0
私の問いかけに、琴里はしばし考え込み、そして言う。

>「それは…うん、一理あり。」

まず出たのは肯定の言葉。しかし、単純に私の言葉を鵜呑みにしたわけではないようだ。
その証拠に、琴里はしばしの沈黙の後、続ける。

>「確かに、お兄さんは台風みたく、周りを巻き込んで、通った後をごっちゃごちゃにかき乱して行くよね。怖いくらい、強いから。
>でもそれで、お兄さんを避けて、みんなで関わらないようにしたら、私達をこの街に強制的に追いやってる奴等となんにも変わんない。

思い出す。お坊さんの読経と、ひそひそ話す声。
河童よりも人間味のない、能面のような顔、顔、顔。
嗚呼。
私は意図せずして、彼らと同じ道を歩もうとしていたと言うのか。

>まずアユミヨルドリョクヲスルベシ、ってヤツよ!

びしっ、と効果音のしそうな表情を決めた後、琴里ははにかんで、言った。

>それに、あたしが隆葉ちゃんと一緒にいられるのは、間違いなく唐空のお兄さんのお陰だし。」

「……そうね。琴里の言うとおりだわ」

私はゆっくりと手を伸ばすと、琴里の頭をよし、よし、と撫でた。

「琴里は、強いわね。私も、そのぐらい……」

強く、なれたら。
信じる強さを、持つことが出来たら。

その言葉は、空気を震わす前に喉に詰まり、私の平衡感覚を狂わす。
いや、言葉云々は関係ない。これは、ただの、いつもの限界だった。

>「 って、なんかフラフラしてるけど…もしかして気を失う5秒前…だったり?」

「……正解。賞品は私を抱きかかえる権、利……」

つまらない冗談を言う暇もあればこそ。
そのまま、私は琴里を押し倒していた。


その後の記憶はない。
いつもと同じ、単に意識を失っただけの、つまらない結末がそこにあった。
242 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/11/03(土) 04:14:28.88 0
……ガスマスクに、血塗れの少年、ね。なるほどなー。

個性的な面々の客の多い(本が暴走したのだろうか?)サイゼリアの中でも彼らの姿は一目でわかった。
……というか、1人は知り合いだった。唐空さん、なるほど彼が『血塗れの少年』か。
ケガの理由が予想出来るのは唐空さんだからだろうか。おそらく何か余計な事に首を突っ込んだんだろう。

そんな事を考えながら私は彼らの前まで歩を進める。

>「思っていたのと違うな。もっと病的なイメージがあったんだが、随分しっとりとした美人じゃあないか」

ガスマスクの男が言った。

その言葉に思わず私は自身の顔を触ってみる。……普段より温かい。
先程のレストランでの栄養補給が効いているのだろうか?味は最悪だったが栄養はあったみたいだ。
まぁ、今はそれはいい。

>「早速、頼む。あんたの治療は大変高度なものと聞いたが――ん、なんだ、その様子だと……知り合いか?」

「……ん、そうですね。ただの知り合いです」

『ただの』の部分を強調しつつガスマスクの男の言葉に答え、無造作に投げ出された唐空さんの腕を見る。

「……唐空さん、失礼しますよ」

意識が混濁して聞こえてるか分からないが、一応断りを入れておく。
素人目でも分かるくらいに傷が深いし出血もかなり酷い。ほっとけば命に係わるだろう。

……それにしても、この傷。
今日見るのはこれで何度目だろう。大きな針の様な刺し傷、これは……病院の子ども達と同じ?
いや、考えるのは後にしよう。……いやいや、考えて何になる?面倒事になるだけだ。それより今は……。

「……ん」

唐空さんの腕に自分の手を添えて意識を集中する。次の瞬間、唐空さんの腕と私の手の間から翡翠色の光が漏れる。
それに伴い、ゆっくりじわじわと、内臓を握りつぶされる様な圧痛が腹部を襲う。
喉から込み上げてくる熱く赤いソレを吐き出さないように耐えながら翡翠色の光が収まるのを待つ。

そして光が収まった頃には唐空さんの腕の傷は綺麗に無くなっていた。痛みからして寿命3~4ヶ月って所か。
それにしても今日は寿命の大盤振る舞いだ。過去最高記録じゃないだろうか。

口の端から漏れた赤い血液を気取られないように拭きながらそんな事を考える。

「……ん、腕の傷は治しました。後は」

そう言って再び手に意識を集中する。今度は胸に何かが刺さる様な痛みが走った。
けど、これは大した痛みじゃない。持ってかれる寿命も2~3日程度だろう。

光り輝く一枚の薬草を、唐空さんの口内に何の断りも素振りも無く無理矢理捻じ込み、手で口を塞ぐ。
多少の抵抗があったがすぐに唐空さんは大人しくなった。

「……ちょっとした気付けです。あと少し安静にしてれば元通りになりますよ」

私はそう言って、驚いたような顔、といってもガスマスクしてるから分からないけど、雰囲気をしている男に説明した。
243 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/11/06(火) 01:55:20.50 0
途中で、事務室に入って行こうとする少女に出くわす。

>「失礼いたしますわ」

「君、無事か!?」

少女はこの騒動に何ら動じていない様子だ。

「ああ、お手伝いに来ることになっていた灰田さんね。ごめんなさいね、突然こんな事になっていて……」

と、鈴村先生。

「お手伝いさんか、ならば……最初の仕事だ。
怯えている子ども達の話し相手になってやってくれ。
私は見ての通りおっさんだからな、君の方が適任だろう」

施設の子どもと左程変わらぬ年齢の彼女に頼むのもどうかと思うが、これ程肝が据わっているなら頼める。
少女を伴って進んでいくと、倒れている隆葉嬢とその下敷きになっている琴里ちゃんに出くわした。
慌てて隆葉嬢を抱き起し、琴里ちゃんを救出する。

「大丈夫か!? 話は聞いた。呑君が変な奴に唆されて連れて行かれたらしいな。
河童の事は心配だが……透明ならきっと脱出してこれるだろう」

琴里ちゃんを一人にしておくのは心許ないので、隆葉嬢の意識が戻るまではここに留まることにする。
ふと思い立って、私は琴里ちゃんに子どものような笑みを向けた。
そして隆葉ちゃんと出会った事件で彼女が言った言葉を借りて、唐突な提案をする。

「"未知あるところに我らあり”――私と一緒に探偵団を結成しないか?
業務はもちろん……この街に巣食う強大な悪の正体を暴き出す事だ!
もちろん危ない事は抜きで! 戦闘はヒーロー達にお任せだ!」

“この街に巣食う強大な悪”が文字通りのものであるとは限らない。
この都市の社会構造なのかもしれないし、この隔離都市に私達を追いやった何かかもしれない。
244 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2012/11/08(木) 18:10:41.95 0
なんとか腕を出すことは出来たが、意識がより一層薄らいでいくのがわかる。
あぁこのまま僕は死ぬのか…と思った瞬間だった。
奇妙な感覚が落ちゆく意識を引き止める。
まるで傷痕周辺の細胞達が一斉に蠢くようになそんな不思議な感覚だ。
気がつけば鋭い痛みは無く、傷痕は消えていた。
だが、意識はまだ混濁している。
肉体的な損傷は治ったが、血液の損失はどうにもならないか
まぁそれぐらいなら、輸血でなんとかなるか…とそんなことを思った矢先
白衣の医者は口に何かねじ込んでくる。
思わず吐き出しそうになったが、抑えられた。
鼻に異常なまでの青臭さが抜ける。
噛むたびに気が遠くなるほどの苦味が容赦なく襲う。
なんとかして飲み込んだときには、性も根も尽き果て
僕はテーブルに突っ伏した。
だが、気は失っていなかった。
先程と似た感覚と口の中に残る苦味が気絶を許さなかった。
今度は、全身の骨が失われた分を取り戻そうと血液を搾り出しているみたいだ。
薄れていた意識も、徐々に鮮明になっていく。
「にっ・・・・・・・・・・・・・・・・・がー」
思いっきり貯めて言いながら、僕は頭を上げる。

白衣の医者は詩乃守先生だった。
そのことを知った瞬間、妙な気まずさを感じ、思わず視線を逸らしてしまった。
だが、流石にそれでは礼に欠けると思い、視線を戻し頭を下げた。
「ありがとうございます。お陰で助かりました。」
とりあえず、言うべきことは言わないとな
ただ、少し気にかかることがあったので、僕は言葉を続けた。
「ただ、少し気になることがあるんですけど、いいですか?」
頭を上げ、今度は視線を外さずに話しを続ける。
「先生は河童の時に治療できるのは子供だけって言ってましたよね?
 いや、別に子供扱いするなって言いたい訳じゃないんですよ
 確かに未成年ですし、でも、同じような年齢で自立している人間もいる以上
 結構あやふやな年齢だと思うんですよね。」
一呼吸置き、鳥島が持ってきた飲み物を一口飲む
「単刀直入に言うと、能力の代償に何を払ってるんですか?」
245 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/11/09(金) 01:40:53.66 0
>>243
>「君、無事か!?」
「はい、私は何ともありませんけれど…一体何がありましたの?」
人が暴れているのでしょうか…? この町に連れてこられたばかりだからよくわかりませんわ…

>「ああ、お手伝いに来ることになっていた灰田さんね。ごめんなさいね、突然こんな事になっていて……」
「私の知らないうちに何かあったようですわね…。子供たちも怯えているようですし…すみません、こちらには連れてこられたばかりなもので、
事件や出来事には疎いのですわ…」
やはり何か事件があったようですわね…こんなことならしっかりテレビを見ておくんでしたわ…
ん、そういえば、この方たちの言い方を考えると、私にも巻き込まれる可能性があった…?
246 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/11/10(土) 01:42:25.67 0
>「お手伝いさんか、ならば……最初の仕事だ。
怯えている子ども達の話し相手になってやってくれ。
私は見ての通りおっさんだからな、君の方が適任だろう」
「了解ですわ。はーい、みなさん! 私が来ましたからにはもう大丈夫ですわ! 落ち着いて下さいませ!
この方たちやあなた方の様子から察するに、何やら事件か事故があったようですけれど…
私はここに来るまでの間、一切そのような事件には巻き込まれていないのですわ。
つまり、この町にも安全地帯が存在するということですの。ですから大丈夫ですわ。多分この園も安全地帯にしてしまえば、ここにいる限り襲われることはありませんもの。
私の『シンデレラ』で“あしなが園”を“要塞基地”に変えますわ」
247 : ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2012/11/11(日) 01:38:52.10 0
なんとなくだが、治療の能力って奴は対象の自己治癒力を強化したり、もとの状態へと強制変化させる、
いわゆるビデオの逆再生みたいな方式で傷を治す方式だと思っていた。
しかし、死神の名付け親(この際"死に親"とでも略そうか)が唐空の傷に手を翳した途端、予想以上の現象が起きた。

「まるで、体組織をあたらしく植えつけ直しているようだな」

肉体の上書き、とでも言えば妥当だろうか。
死に親の掌から放射された翡翠色の光は、まるでインクジェット式のプリンタの如くだ。
みるみるうちに、唐空の赤黒く固まった傷口に肌色が塗りつけられていき、しまいには健康的な色味を帯び始めた。
その間、僅かに一瞬。失われた血液さえも補充されたのか、皮膚や唇に瑞々しさが戻ってきている。

少し安静にしていれば元通りになる。死に親は額に浮いた汗を拭ってそう言った。
サイゼリアの空調が特別効きすぎているとは思わないし、ガスマスク被ってる俺より暑いわけもないから、消耗しているのだろう。
BOOKS能力の行使による、体力の消耗。あるいは精神の摩耗だ。

これほどの高度な治癒能力を、何の制約も対価もなく使えるとは思えない。
BOOKSが如何に超常の異能と言えども、世界は依然として質量保存の法則によって縛られている。
なにもないところに何かが発生するとき、その分の質量が別のどこかから欠落しているのだ。
唐空の深く抉られた傷は、つまるところ肉体の一部を欠損しているのと同義。
ではその傷を埋めるあたらしい肉は、一体どこからやってきた?
唐空も、同じ疑問に突き当たったようだった。

「それは俺も知りたいところだな。いやなに、個人的興味だ。他意があるわけじゃあない。
 そしてその前に、まずはあんたのご足労を労うべきなのだろう。急ぎ故に礼を欠いた、すまない」

俺は、ガスマスクと顔の隙間に指を突っ込む。
じっとりと湿り気を含んだ肉とゴムの間を掻き分け、右目の下の頬のあたりで目当てのものを探り当てた。
ずるり……と引っ張りだしたのは、黒い二つ折りの財布である。
中にはクレカとツタヤの会員カード、運転免許証と少しばかりの現金が入っている。

「連れを救ってくれてありがとう。――電話口の俺を信じてくれて、ありがとう。
 こいつはその謝礼だ。治療代、交通費込みでここから好きなだけ抜いてくれ」

死に親に、財布を丸ごと押し付けた。

「二万は入っているはずだが、足りないなら言ってくれれば更に二万を用立てよう。
 その代わりカードと免許は勘弁してくれ。口座には家賃と光熱費しか入ってない」

免許証は、この隔離都市ではあまり意味をもたないものの一つだが、俺にとっては重要だ。
なにせタスポを作っていないので、免許がないとコンビニで煙草を買えなくなる。
今も俺は、懐で残り少なくなった"わかば"を大事に残数計算しながら吸っている。
隔離都市は流通の都合上、娑婆よりも物価が高い。
場合によってはシケモクに手を出さねばならぬかもしれぬ。

「それと、俺からも一個質問をさせてもらいたい。
 ――話が全然見えてこないが、ご両人の話し振りを見るに浅からぬ縁があるようだな。
 参考までに聞かせて欲しい。そいつが俺にとって、この先の新生活を充実させる一助となることを祈りながらな」

俺は火を消しておいた吸いかけの煙草を再び咥え、消し炭になった先端を指で擦った。
『ゴールデン・フィンガー』によって極めて強い摩擦が発生し、火は簡単に点いた。

「事情によっちゃ、"死に親"。あんたにもう一つ頼みごとをすることになるかもしれない」
248 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/11/12(月) 02:35:32.57 0
>>246続き
仕事柄私は人と接することに慣れていますし、女性相手ならさらに親密に話すことができますわ
なので私は笑顔で子供たち…私と同じくらいの子供たちに語りかけます。
勿論『シンデレラ』の能力であしなが園を要塞基地にすることも忘れません。
…見た目こそ変化はありませんが、防御力と機能は段違いですわ
そして私もこのおじさまに連れられ歩いていると、気絶している女の子と下敷きになってる女の子に逢いました。
「可愛いですわ…」

>「"未知あるところに我らあり”――私と一緒に探偵団を結成しないか?
業務はもちろん……この街に巣食う強大な悪の正体を暴き出す事だ!
もちろん危ない事は抜きで! 戦闘はヒーロー達にお任せだ!」
「あの…つかぬ事をお聞きしますけど、それって私も入るんですの?」
249 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/11/13(火) 22:05:50.76 0
>「……正解。賞品は私を抱きかかえる権、利……」
ふわふわ優しい手つきで琴里の頭を撫でた後、隆葉の体は能力の限界に耐え切れずにくらりと傾く。
「うわい!ヤッタネ!河童の皆さんの嫉妬の視線が心地良い・・・なんて言ってる場合じゃなかったー!危ない、隆葉ちゃん!」
床は堅くて冷たいフローリング、このまま頭から激突してしまえば、たんこぶの一つではすまない。
童話に出てくるイケメン王子様なら、白馬の上から颯爽と隆葉を抱きかかえて、ときめきのワンシーンを飾る事ができるのだが、実際にいるのは、ちんちくりん小学生である。
できることと言えば、倒れこむ隆葉を一旦抱きとめ、その重さに耐えかね、精一杯重力に抗いつつ、最終的には・・・
「うぐぎゅ・・・」
身を呈してマットレス代わりになるくらいだった。
(背中冷たい、お腹暖かい。そして重たい。隆葉ちゃんなんかいい匂い。)
この時、奇跡のタイミングで橘川店長が現れていなければ、ペタンコせんべいが一枚出来上がっていたことだろう。
>「大丈夫か!?」 「おじちゃん…た、助かったぁ」

大き目の座布団を二枚繋げ、その上に隆葉の体をそっと横たわらせる。
「ちょっと眠れば、また目を覚ますから、大丈夫だよ、だいじょうぶ。」
園で隆葉と日常を共にするにあたり、彼女が気絶した時の対処法について琴里は一通り心得ていた。
タオルケットを被せながら、何度も大丈夫と呟く。まるで自分に言い聞かせるように。
「…でも、かなり消耗しちゃってる。こんなになるまで能力を使い続けて、河童を出してくれたんだね…
……隆葉ちゃんが頑張ってた間、あたしはさ、ただちょっとモノを移動させて、へらへらしてただけだったよ」
いつものおちゃらけも怒ったり呆れてくれる人がいるからできるもの。

>「この方たちやあなた方の様子から察するに、何やら事件か事故があったようですけれど… 」
橘川店長に連れ立って現れたこの美少女は、この園の新しいお手伝いさんだそうで、子供達の世話と隆葉の看病をとても手際良くこなしてくれた。
顔一杯にはてなマークを飛び散らしているシンデレラ嬢の為に、鈴村先生が隆葉の能力の特徴と、今までの経緯を軽く説明した。
少女は、ふむ、としばし思案した後、誰も予想しなかったであろう提案をこともなげに打ち出す。
>「私の『シンデレラ』で“あしなが園”を“要塞基地”に変えますわ」
「そ、そんな大掛かりなことができるの?!だとしたらすばらしいわ、外から誰も入れない砦なら子供達も少しは心を落ち着かせることができるでしょう。
 灰田さん自身に、能力の使いすぎによる副作用や反動が無いのなら、ぜひお願いしたいです。」

 守られすぎている、と思う。
今の今まで無関係だった少女でさえ、こんなにも自分達の身を案じ、そして素晴らしい働きを見せてくれるのに。
(なにかしなければいけない、なにか、なにか、なにか。)
しかし、その「なにか」が思い浮かばない。佐川琴里、知恵を絞れ。役立たずでないことを証明するのだ。
>「"未知あるところに我らあり”――」
その言葉にハっと顔を上げると、橘川店長が子供のようにあどけなく、しかし年相応の落ち着いた微笑みを浮かべ琴里を見つめていた。
彼は続ける。
>「私と一緒に探偵団を結成しないか? 」 「たんてい、だん?」
>「業務はもちろん……この街に巣食う強大な悪の正体を暴き出す事だ! 」
自分に何ができるか、分からない。河童や唐空青年を飛ばしたことが、正解だったさえも、まったく分からない。
赤針隆司の真意、唐空青年を唆した黒幕。
謎に、未知に、ただ翻弄されているだけでいいのか?
「……そうだね、おじちゃん、未知あるところに我等あり。忘れてた。」
>「あの…つかぬ事をお聞きしますけど、それって私も入るんですの?」
硝子の問いに、琴里はにっかり笑って答える。
「無理にとは言わない、だけど、我ら探偵団はとても間口が広いぜ!いつでもどこでも助手を募集中さ、お姉ちゃん!」
鉄壁要塞あしなが園で、じっくりことこと事件の終わりを待つなんて、そんな悠長なことはしてられない。
「あたしができる『なにか』を探す……行くぜ、おじちゃん、未知があたしを呼んでる」
250 : 詩乃守 優 ◇vTRssb2suY9J[sage] : 2012/11/17(土) 01:00:02.76 0
>「にっ・・・・・・・・・・・・・・・・・がー」

その言葉と共に突っ伏していた頭を起こす唐空さん。これだけ跳ね上がる様に起こせれば大丈夫だろう。
一瞬、頭を起こした唐空さんと視線がぶつかるが、すぐに唐空さんはその視線を逸らす。
前回の別れが別れだ。気まずさもあるだろう、この態度も致し方ないのかもしれない。

>「ありがとうございます。お陰で助かりました。」

しかし、やはり礼儀は弁えてる様で逸らしていた視線を戻し、ぺこりと頭を下げる。
その言葉を聞いた時、突如、胸に妙な違和感を覚えた。

……あれ?なんだろう、これは?何も、感じない?喜びがない?

いつも子どもを救う時に、笑顔を見る時に、お礼を言われる時に感じる喜び、それがまるで感じられない。
唐空さんの言葉は、まるで実体のない目に見える塊が身体を通り抜けていくようで……。

>「ただ、少し気になることがあるんですけど、いいですか?」
>「先生は河童の時に治療できるのは子供だけって言ってましたよね?
  いや、別に子供扱いするなって言いたい訳じゃないんですよ
  確かに未成年ですし、でも、同じような年齢で自立している人間もいる以上
  結構あやふやな年齢だと思うんですよね。」
>「単刀直入に言うと、能力の代償に何を払ってるんですか?」
>「それは俺も知りたいところだな。いやなに、個人的興味だ。他意があるわけじゃあない。
  そしてその前に、まずはあんたのご足労を労うべきなのだろう。急ぎ故に礼を欠いた、すまない」

矢継ぎ早に質問が飛ぶとは、こういう事を言うのだろうか。
私が少し考え事をしている間に質問がテトリスの様に積み重なっていく。

しかし、それを一旦断ち切ったのはガスマスクの男だった。
ガスマスクと顔の隙間に指を突っ込むと、2つ折りの財布を取り出し、私に押し付ける。

>「連れを救ってくれてありがとう。――電話口の俺を信じてくれて、ありがとう。
  こいつはその謝礼だ。治療代、交通費込みでここから好きなだけ抜いてくれ」
>「二万は入っているはずだが、足りないなら言ってくれれば更に二万を用立てよう。
  その代わりカードと免許は勘弁してくれ。口座には家賃と光熱費しか入ってない」

ただ押し付けられている財布を見ながら、未だに私は混乱していた。

唐空さんを治した時に、何も感じなかった……。これは、ああ、そうか。

>「それと、俺からも一個質問をさせてもらいたい。
  ――話が全然見えてこないが、ご両人の話し振りを見るに浅からぬ縁があるようだな。
  参考までに聞かせて欲しい。そいつが俺にとって、この先の新生活を充実させる一助となることを祈りながらな」
>「事情によっちゃ、"死に親"。あんたにもう一つ頼みごとをすることになるかもしれない」

また質問が積み重なる。しかも、答えようによっては多分、何か面倒な事に巻き込まれる。

「……ん、まず、順序良く1つづつ答えますいいですか?」

頭の中で、言葉を探す。このガスマスクの男は知らないが、唐空さんは鋭い。
下手な誤魔化し、嘘、詭弁は通用しない。そう考えた方が得策だろう。
251 : 詩乃守 優 ◇vTRssb2suY9J[sage] : 2012/11/17(土) 01:01:59.82 0
「……まず、1つ目。唐空さんの質問から、私の子どもの第一基準は見た目です
 経済面や精神的に自立していても、見た目が子どもなら、私は治療します。これがまず1つ目の質問の答えです」

私は座席に座ろうとせず、立ちながら唐空さんに話しかける。

「……そして2つ目。それを聞いてどうしようというのですか?私の能力の代償が仮に寿命だったとしましょう。
 唐空さんを治した事で2~3年の私の人生が削られたとしましょう、で、それを知ってどうするんですか?
 ……また、あの時みたいに人の意志を無視した反吐の出る『正論』を振りかざしますか?自身の正義を押し通しますか?
 ……言い過ぎましたね。ともかく、私の代償は大したことありません、ただ『痛い』だけですから」

本当の代償は寿命、それを『仮』として、付属の痛みを『本当』の代償と設定し、説明する。
半分嘘で半分本当。痛いのは事実なのだから、全てが嘘ではない。それにこの代償の説明に反論は不可能だろう。
自身の寿命を刈り取り他者に与えるなんて、私が寿命を使い切り最期を迎えるまでどうやっても証明できないのだから。

「……それで3つ目、の前にガスマスクさん、私はお金目当てで子ども達を治してるわけではありません。
 私の目当ては全く別の物ですので、なのでこれは丁重にお返しします」

そう言って、ガスマスクさんに押し付けられた財布を返す。

「……ん、それで3つ目でしたね。先ほども言いましたが、ただの知り合いですよ。
 ……それ以上でもそれ以下でもありません。まあ、あまり良い印象を持っていないのは事実です。
 ……正直、あまり友好的とは言い難いと思います。それは先程の私の言動を見れば分かると思います」

少しうんざりした顔で、私はその積りに積もった質問を淡々と消化していく。

「……ガスマスクさんの最後の頼み事ですが、一応、聞きますが期待はしないでください。面倒事は嫌いなので。
 ……後それと、多分もう私は唐空さんの事は治しませんので。誤解が無いように言っておきますが、私の個人的感情ではありません。
 ……ただ、もう唐空さんからは目的の物が得られなくなってしまったので。私が治す意味が見当たりません」
252 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/11/19(月) 23:55:28.58 0
>「ちょっと眠れば、また目を覚ますから、大丈夫だよ、だいじょうぶ。」
>「…でも、かなり消耗しちゃってる。こんなになるまで能力を使い続けて、河童を出してくれたんだね…
……隆葉ちゃんが頑張ってた間、あたしはさ、ただちょっとモノを移動させて、へらへらしてただけだったよ」

「気にすることは無い、BOOKS能力が人それぞれ違うように人にはそれぞれ与えられた役割があるんだ。
出来る事を精一杯やればいい」

琴里ちゃんは、私の探偵団の提案に乗ってきた。
お手伝いさんが、おずおずと尋ねる。

>「あの…つかぬ事をお聞きしますけど、それって私も入るんですの?」
>「無理にとは言わない、だけど、我ら探偵団はとても間口が広いぜ!いつでもどこでも助手を募集中さ、お姉ちゃん!」

「そうだな、無理にとは言わない。
だけど君のその冷静さと能力は我が探偵団にとって必ず大きな武器になると思うぞ」

>「あたしができる『なにか』を探す……行くぜ、おじちゃん、未知があたしを呼んでる」

「流石はお琴! そう来ると思っていたよ!
まずは隆葉ちゃんが起きるまでの間根回しといこうか。早速だが君の力を借りたい」

怪人ガスマスクは、あの様子を見る限り呑君を味方に取り込みたいようだった。
表立って病院に行くわけにもいかない者が重症を負った呑君を連れて行ける所と言えば……。

【呑君を死なせないでやってほしい。
詩乃守 優――彼女なら何も言わずに治療してくれるはずだ。居場所は不確定だが公園によくいる】
【突然妙な事を頼むがすまない。
もしもガスマスクを付けた男が呑君を連れて現れたら出来るだけ素性を探っておいてくれ】

机の上に散らばっていたお絵かき用の紙に走り書きをして、琴里ちゃんに渡す。

「こっちを呑君、こっちを優先生に送ってくれ……ああそうだ。
これも一緒に頼む。君達の分も後で出して貰うからな」

【PS.とても美味しいので是非食べてみて欲しい】

すっかり存在を忘れられかけていた安半君のアンパンを、袋に入れて添えた。
当たればもうけもんのダメ元だが、何もせずに待っているよりはいいだろう。
253 : 唐空呑 ◆zWiwPLU/1Y [sage] : 2012/11/22(木) 00:14:39.11 0
僕の質問に続くように、鳥島が僕と先生の関係について尋ねた。
別に隠すような間柄じゃないが、この場ではいささか僕からは話しにくい
何故ならば、お互いが出会った切欠が先程襲われた河童が絡んでくるからだ。
鳥島に言うだけならばいいが、詩乃守先生に聞かれたなら、怪しまれるのは必然だろう。
まぁ僕が隠しだり、誤魔化しても、詩乃守先生次第か
少し間を置いて、詩乃守先生は質問に答え始めた。
まずは第一、子供の判断は先生に主観によるらしい。
極論を言えば、老け顔で年以上に見える未成年はアウトで、その逆に
身分証明書を見ない限り、子供にしか見えない成人ならば治療は可能らしい。
「…いえ別に、能力の代償が何であれ、先生がその代償を受け入れている以上
 何も言うつもりはありませんよ。」
どうやら、触れてはいけない部分に触れてしまったのか、捲くし立てられてしまった。
ただ、その割りには正確な答えは返ってはいない。
もしかすれば、代償について何か隠したいことがあるから、あそこまで言ってきたのかも知れない
…まぁ本人が隠す気でいる以上、聞き出さないほうがいいか
そして、詩乃守先生は最後の返答をする。
詩乃守先生は僕との関係を「あまり良い印象を抱かない顔見知り」と説明した。
的を外さず、尚且つ、丁度河童の話題を避けたいい説明だ。
ついでとはいかないが、鳥島がこの場で詮索しないように耳打ちをする。
「詳しいことは車に戻ってから話ますから」

一通り話し終え、一息つく、薬草の苦さで忘れていた飢餓感がどっと沸いてくる。
あんまりこういうところで食べたくないというか
隣の惨状が目に入るたびに、食欲が空腹感に反比例するように萎えてしまう。
そんなときだった。ビニール袋が目の前に落ちてきた。
恐らく佐川ちゃんによるものだと思う。
同時に詩乃守先生の元へと送られてきたのを見るとそうらしい。
袋の中には手紙と何故かアンパンが入っている。
僕はまず、画用紙の手紙に手を伸ばし、他に見えないように内容を確認した。
「…これは」
手紙の内容は、僕宛では無かった。
おそらく、佐川ちゃんが送るときに間違えてしまったのだろうか。
とりあえず、それは置いといてだ
この手紙は恐らく佐川ちゃん以外のものと判断していいだろう。
僕だけではなく鳥島も追跡対象になっているのを考えると、ベルさん辺りが妥当か
まぁ、運よくこの手紙とアンパンがこっちに来たんだ。
あっちが間違いに気がつく前にここから離れたほうが得だろう。
「お互い用が済んだんだし、さっさと帰りましょうか」
僕はそう言って、鳥島に領収書を握らせ、押すように席を立たせた。
254 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/11/27(火) 21:34:44.29 0
 自分とグズの血液を吸い込んですっかり重くなったジャケットを脱ぎ捨て、俺は走り続ける。
 既にとっぷりが陽は暮れた。行き着いた先は目の前にあるのは築四十年になるであろう古ビルの中。
 俺はその一室を思い切り蹴破った。途端にヤニと酒、そして診療所特有のアルコールの匂いが鼻をつく。

「まったく相変わらずくせぇし汚ねぇなぁ。『医者の不養生』って言葉知ってるかオイ?」

 安っぽい椅子に背を掛け、酒を煽っていた性別不詳のクソ医師がこちらを向く。
 机の上には様々な種類の酒瓶、缶が並べられ、灰皿には吸殻が溢れ、床には宅配ピザの空箱が複数散乱している。
 こんな不摂生な生活をしているのにもかかわらず、クソ医師の体型は整っている。少なくとも外見は。
 にしても、あーあー、すっかり出来上がってます、って面だなぁオイ。顔赤ぇぞ。

「そっちこそ診療時間が見えない目なら取ってしまうと良い。分かるかい?とっくに診療時間外だ」

 『ホワイトスノー診療所』、診療時間午後13時~13時30分。
 確かに表の看板にはそう書いてあった。

「ざけんな。たった三十分開業の診療所なんざ聞いたこたぁねぇぜ」
 
 そう言って俺はジーンズの後ろポケットから曲がらなくなった血塗れの財布を医師に投げつける。
 中の金はここ2週間程度で稼いだ全額だ。
 軽く100万近くは入ってたと思う、いちいち数えてねぇけどなぁ。

「ほらよぉクソ医師、これがテメェの目当てだろうがぁよぉ。とっとと治せコラ」

 クソ医師は気怠そうに財布の中身を見ると、にやり、と口を歪める。

「分かってるじゃないか。流石うちの上客だ。『金の無い奴は野垂れ死ね』、私の信条さ」
 
 そう言って俺に対してベッドに横になれと、指示をし、ふらふらと立ち上がり治療の準備を始める。
 相も変わらずあからさまに不衛生なベッドに気分は萎えていく感じた。

「毎度毎度言うのもなんだがよぉ、もうちっと綺麗にしろやこのベッドぉ」

 既に赤茶色に変色した液体が染みついたこのベッド。
 明らかに患者の衛生上よくねぇだろ。精神的にもなぁ。まぁ、なんだかんだ言って座るんだけどよぉ。

「なに、気にするな。どうせ此処の患者は君ぐらいなもんさ。私の治療に耐えられるのも、ね。
 にしても今度も酷い傷だな。今度こそいい加減に死ぬんじゃないか?」

 そう言ってクソ医師は手のひらに乗せた一個の赤い林檎を差し出す。
 いつものお約束のくそったれな儀式だ。有難いもんだなぁオイ。

「『謀には毒林檎』。さ、いつもの様に食べるといい。あぁ、床に転倒されても面倒だから、ベッドでね」

 俺は乱暴にクソ医師の手からその林檎を乱暴に奪うとガブリと頬張る。
 甘酸っぱい味が口に広まったと思えば、途端に眩暈、吐き気、そして全身の傷口が押し広げられる感覚が広がる。
 思わずクソ汚ぇベッドに倒れ込み、身悶える。
 身体中を伝う熱い液体は俺自身の血液だろう、だってなぁ、ベッドがまた赤くそまってやがるんだから。

「く、はっ……毎度毎度よぉ、な、れねぇなぁ……これぁ」

「ほう、びっくりだ。まだ意識があるか、しかし無理をするな。意識を保てば保つほど、キツイぞ私の能力は。
 さ、とっとと気絶するといい。死んでなかったらまた会おう」

 クソ医師野郎の言葉を最後に、忍耐不可能な痛みが俺を襲い、そして意識が強制的にシャットダウンした。
 それからどれくらい時間が経過しただろうか、意識が覚醒した時、窓から見える景色はまだ仄かに薄暗かった。
 午前かぁ?それとも午後かぁ?てか、どれくらい時間経ったんだよオイ。
 起き上がろうとするが身体を上手く動かせない。ごわごわする全身には各所に包帯が巻かれてやがる。
255 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2012/11/27(火) 21:36:44.46 0
「おや、相変わらず凄いな。すぐに目覚める。今度こそ死ぬかと思ったが、今回も死なずに済んだようだ。おめでとう」

「ありがとよぉクソ医師ぃ、で今何時だ」

「ふふ、聞いて驚くなよ、君の全治療を終えてから1時間もたってない。毎度の事ながら君はとんでもない肉体の持ち主だ。
 私の能力は治癒系だが、多くは患者の肉体、精神に依存する。『毒林檎』で肉体の傷んだ細胞を殺し、そして再構築する。
 その間に私は傷の治療をするのだが傷が深ければ深いほど、細胞を殺す痛みと再構築の過程で発狂するか死んでしまうんだがねぇ。
 まったく、タフな身体と言うか馬鹿な身体と言うか、滅茶苦茶だな君の肉体は」

 酒が入って気分が良いのか、クソ医師は饒舌に語りやがる。
 だが、悪ぃがんなことに俺は興味ねぇ。

「おい、機嫌良いとこ悪いんだけどよぉ。俺はどれくらいで元通りになる?」

「ん?そうだな。立ち上がって歩けるまでに10分、普段通りの動きが出来るまでに12時間、今日みたいな大乱闘が出来るまで3日って所か。
 それまで大人しくしている事だな、縫った傷口が開く。縫い直しは面倒だからね」

 まあ、そう言ったところで君はそんな言いつけ守らないだろうけど。と付け加えクソ医師は笑う。

「そうかよぉ。ところで、この包帯は?こんなクソ汚ぇ診療所にこんな小奇麗な包帯があったのかぁ?」

「いや、それは君の持ち物だ。ほら、ドクターバックを持ってたろ?そこから勝手に拝借させてもらったよ。
 薬品とその他医療道具諸々もね。それにしても手入れの行き届いた素晴らしい医療道具だな。これも奪品かい?」

 あー、あのバック、ドクターバックだったのか。道理で割と重量があった訳だ。

「あぁ?違ぇよ、多分貰いもんだぁ。気付かねぇうちに手に持ってたんだよ」

 俺の言葉にクソ医師は、わからねぇ、という顔をする。そりゃそうだ、俺にだってよくわかんねぇんだから。

「ふむ、まあよく分からないが少なくとも10分は動けないだろう。その間だけでもゆっくりしていくといい。
 君は金ヅル、そしてとても良い実験体だ。出来れば長生きをしてほしい。
 それに、此処には私の許可した者以外は入れない。そういう能力者に恩を売って住まわせてるからね。
 つまり、動けない君が襲われる心配もないというわけだ」

 そう言って笑うクソ医師に思わず俺も笑い返す。

「キシシ、前半の素直過ぎる態度は好感が持てる。後半はまったくもっての大きなお世話だがなぁ」

 しかしまぁ、そう言ったものの動けねぇのも事実だ。しばらく寝かせて貰うとするかぁ。
 そう考えながらベッドに身を任せる。たっぷり俺の血を吸い取ったベッドは、ぐじゅり、と湿った嫌な音を立てた。
 ……にしても、ホント、気持ち悪ぃベッドだ。
256 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2012/12/03(月) 00:54:39.05 0
「『痛み』か……程度の差はあれど、なるほど能力の対価としては扱いやすい部類だな」

なにせ痛みだけなら、耐えればいいだけだ。
これだけ高度な治療能力なら対価の痛みも相当な激痛だろうが――死ぬほどじゃあない。
痛いだけなら、それにこしたことはないのだ。

この世界は質量保存の法則によって支配されていて、物理法則を無視できる異能もこれだけは逆らえない。
世界が存在するための、最も基礎的な要素だからだ。
例えば唐空は、パンチの威力を自分の筋力以上に向上させることができる。
その際のエネルギーはどこから来る?――ダイレクトに、莫大なカロリーを消費しているのだ。
だから、撃てば空腹で倒れそうになる。普通に消化して吸収する以上の栄養を失うのだから当然だ。

俺のゴールデンフィンガーは逆に、消費ではなく創り出すことで代償としている。
『くっつける』とは、密着すること。お互いの距離を、そこにある質量を、消失させること。
俺の能力は対象同士の間の質量をかき消すことでくっつけ、消した分の質量は――ガチョウに変えて存在させる。
そんな風にして、プラスとマイナスのバランスをとることで、BOOKS能力という物理上の矛盾が許容されているのだ。

では、"死に親"は?
怪我を癒すには失った血肉を補填する必要がある。
それはなにもないところから生み出しているのではない。
必ずどこかから、血と肉を持ってきているはずだ。
どこかから。――どこから?

「まさか、その『痛み』というのは……」

自分の血肉を、抉る痛み――!
そうだとすれば、"死に親"の能力は治癒なんて生易しいものではない。
他者の痛みを、自分の身体に引き受ける能力!

BOOKS能力者は、自分の能力の代償を知らずに行使することはない。
であれば、死に親は、全て納得ずくで無償の治療を行なっているのだ。

「好きでやっているなら、良い。だが金は払わせてもらうぞ」

俺は唐空と向かい合っている死に親に聞こえないように呟き、彼女のポケットにこっそり万札をねじ込んだ。
これは命の対価だ。その支払をないがしろにすることは、命に対する侮辱だ。

死に親となにやら暗黙のコンセンサスがとれたらしい唐空が、俺に出立を促した。
どうやら二人は、あまり仲が良くないらしい。
どうやらというか、死に親の方はズバリ嫌悪感を示していた。
車に戻ったら唐空と話をしよう。首を突っ込むつもりはないが、純粋に興味が湧いた。
257 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2012/12/03(月) 00:55:45.58 0
会計を済ませて、俺達は席を立った。
わざわざご足労願ったのだから、死に親をこんな治安の悪い場所でハイ解散というわけにもいくまい。
俺はプロボックスの中を手早く掃除して、助手席に唐空、後部座席に死に親を誘った。

「とりあえずファブリーズはしておいたが、煙草の匂いが気になるなら窓でも開けておいてくれ」

俺はイグニッションキーを回し、プロボックスに魂を吹き込んだ。
スクラップになる前は営業車として20年近くも皆勤していたらしい古兵が、重い雄叫びを上げた。
一応通りを警戒しながら、すばやく車道へと滑り出す。

シフトレバーをがちゃがちゃしてトップギアにクラッチを繋いだあと、ラジオを付けた。
FMで適当にチャンネルを回すと、近くの県のラジオ局に繋がった。
午後の、楽曲紹介番組。
パーソナリティの田舎臭い喋りが、娑婆で流行りのポップスを呼んだ。
ときおりノイズを走らせながら、地元への愛と親への感謝を謳った明るい曲調を垂れ流す。

「頼みと言うのは、大したことじゃないさ。俺達は人を探している」

流石に人を乗せてる時に煙草は吸えないので、口誤魔化しにクロレッツを数個放り込んだ。
ラジオから流れる曲は、地元を出て都会の生活を始めた若者の希望を歌っていた。

「"針鼠"――おそらくアンタも聞いたことがあるはずだ。奴の被害者には、不良少年もいたからな。
 『太い針でつけられたような無数の傷』……そういうのを治療した覚えなんてのもあるんじゃないか?」

歌詞は、人ごみに飲まれ、まともな食事も作れず、母親の料理が恋しくなった若者の郷愁にテーマを移していた。

「その針鼠だが、つい先刻寸でのところで取り逃がしてな。
 しかし浅くない手傷を負っていた。専門的な治療を受けず、放置していれば命に関わるような」

仕送りのダンボールの底に慎ましく置いてあった、手作り惣菜入りのタッパー。
若者は懐かしい味に涙を流し、再び頑張っていく決意を固める。

「だが奴は、多くの人間を傷付けてきた犯罪者だ。普通の医者にはかかれまい。
 治療のBOOKS能力者。通常の医療ではない、闇社会の闇医者を探すはずだ。
 ちょうど、俺達のようにな」

つまり、と俺は言葉をつないだ。

「アンタも治癒の能力者なら、同業者にも詳しいんじゃないか?
 ――犯罪者だって構わねえで治しちまうような、マッドな闇医者の存在。知っているなら教えて欲しい。
 おそらく針鼠はそこに居る。寝込みを襲って、今度こそ捕獲する」

車は市街地に向かっている。
死に親が協力してくれないならそこで降ろすし、協力してくれるならこのまま攻めこむ所存だ。
258 : 灰田硝子 ◇8mVJTko00Q[sage] : 2012/12/05(水) 20:48:50.32 0
鈴村先生という人から降葉ちゃんの能力の説明を受けますわ。ふむふむ、なるほど、河童と会話する能力ですか、なるほど。
私も見てみたいですわ、妖怪。特に雪女とか
「そしてそんなことが…今まで気づかなかったのが不思議ですわ…」
本当にどうして巻き込まれなかったのでしょう…いえ、この町に連れて来られた経緯を思い出すために家に籠もってはいましたけれど、
連れ込まれている間に巻き込まれないとも、ここに来る間に巻き込まれないとも言えないわけですし…まぁ、運がよかったと受け止めておきましょう
>「そ、そんな大掛かりなことができるの?!だとしたらすばらしいわ、外から誰も入れない砦なら子供達も少しは心を落ち着かせることができるでしょう。
 灰田さん自身に、能力の使いすぎによる副作用や反動が無いのなら、ぜひお願いしたいです。」
「ええ、問題ありませんわ。私はこの町に連れてこられたばかりだから能力についてあまり詳しくはありませんけれど…。
少なくとも私の能力―『あらゆるものを関連性のある別のものに変える能力』に、どうやら代償や副作用は無いようですから」
まぁ、時間制限(タイムリミット)はありますけどね―具体的には、午前と午後の0時には強制的に能力が解けてしまいます、と補足するのも忘れない
「更に言えば変身が解けたものは30分以上のブランクを置かないと再度変身させることはできませんし、時間内であっても既に変身させているものをさらに変身させることはできませんわ」
能力について教えてもらったお礼、になるかどうかはわかりませんが、私も能力の説明をしますわ

>「無理にとは言わない、だけど、我ら探偵団はとても間口が広いぜ!いつでもどこでも助手を募集中さ、お姉ちゃん!」
「…!」
琴里ちゃん―私がにらんだところではおそらく9歳くらいの少女が、天使のように可愛らしい笑みを浮かべてそう言いますわ(主観)
相変わらず幼女の笑顔の破壊力は底知れない―可愛いですわ、キュートですわ…はっ
落ち着け私、クールになるのですわ、素数を数えて落ち着くのです…23571113
こんなところで幼女を抱きしめたり、ぺろぺろしたりして問題になったら大変ですわ、変態扱いですわ―負けるな私
>「そうだな、無理にとは言わない。
だけど君のその冷静さと能力は我が探偵団にとって必ず大きな武器になると思うぞ」
「はっ…!」
リーダーらしきおじ様の言葉に、というか声に私は正気…理性を取り戻しますわ
「ありがとうございます。もちろんあなた方のお役に立てるなら喜んで参加しますわ。
使用人のように酷使し、奴隷のようにこき使ってくださいまし」
スカートの裾を持ち、淑女のように綺麗に、侍女のように丁寧にお辞儀をします
「灰田硝子ですわ。お手伝い件、探偵団団員となりました。改めてよろしくお願いしますわね、皆様!」
私は笑顔でそう自己紹介しました
259 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/12/08(土) 23:02:44.48 0
>>258
>「ありがとうございます。もちろんあなた方のお役に立てるなら喜んで参加しますわ。」
「ありがとう、うれしいな、探偵仲間が増えたね!」
「使用人のように酷使し、奴隷のようにこき使ってくださいまし」
「「「………!?」」」
ザワ…美少女のドM発言は周囲に衝撃を与えた。
琴里は困惑して橘川店長を見上げる。鈴村先生はさらにおろおろとしだす。安半君はなぜか顔を赤らめる。
>「灰田硝子ですわ。お手伝い件、探偵団団員となりました。改めてよろしくお願いしますわね、皆様!」
しかし一転、彼女が姿勢を正して一礼をすれば、その背後には無数の百合が咲き乱れるかのような雰囲気が醸し出された。周囲の目はくらむ。 か、可憐だ。
先ほどの奴隷云々は幻聴だったと思い込むことにして、琴里は元気にあいさつを返した。
「うん、よろしくね、お手伝いさんのことはこれから硝子姉さんと呼ぶことにする!あたしは琴里!」
>>252
>「こっちを呑君、こっちを優先生に送ってくれ……ああそうだ。」
2通の手紙を琴里に手渡す前に、橘川店長は何かを思いつき、所在無げに突っ立っている少年に目配せをした。
すると、彼は顔を輝かせ頷き、――あろうことか眠っている隆葉の顔面に向かって拳を握り大きく振りかぶった。
「な、なにをするだぁーッ!?」度胆を抜かれた琴里は暴挙を止めようと、とっさに少年の右腕にすがる。
スナップが効いたその動きは、子供一人分の重さなどものともせずに加速して、隆葉の顔面に突進する!
(やばい、拳ごと隆葉ちゃんにぶつかる!!)
しかし、予想した衝撃は何時まで経ってもこない。琴里はおそるおそる少年を見返した。
「安心してください、寸止めです。」彼は握っていたそっと拳を開いた。するとそこには、なんと優しいかたちをした楕円がほかほかと湯気を立てているのだ。
 少年、安半君は、そこでようやく自分の能力について、『パンチの素振りで相手にアンパンを与える』ことだと説明をした。
「自分なりに研究してみたんですけど、どうやら『繰り出すパンチと相手との距離』に比例して、美味しいパンができる上がるんです。
動かれるとやりづらいんで、ほら、彼女は気を失っているから、当てやすいかなって。」
「いやいや、万が一、あのタイミングで隆葉ちゃんが起きたらどうすんのさ!!」「ハ、それもそうか。」
そんなやり取りを後目に橘川店長はあんぱんをビニール袋に入れ、その上に手紙をセロテープでペタリと張り付けていた。
>「 これも一緒に頼む。君達の分も後で出して貰うからな」「はは、そんな。後でと言わず、今!今出しますよ!」
安半君は、くるりと琴里の方を振り向く。
ジャムおじさんの慈しみ、バタ子さんの母性、そしてアンパンマンの奉仕の精神、――そのすべて内包した、聖職者のごとき表情を湛えて。
「ま、まさか」琴里は2、3歩後ずさった。
そのまさか。安半君は静謐な面持ちのまま、琴里に向かってこぶしを握りなおしていた。
突然のジャブ!「ぬぐぉ?!」間髪入れずストレート!「ふぬぁ?!」息する間もなくアッパー!「うわぅ!」
「だめだよ避けちゃ!おいしいのできない!」続けざまにボディーブロー!「い、いや、分かってる!わかってるけど!!」 
もちろんそれらは全て素振りだ。しかし、一発一発がプロボクサーばりのキレを持ったパンチである。
そんなモンを鼻が潰れる1cm手前の近距離で体感するのは肝が冷えるし寿命も縮む。頭では分かっていても、体の方が全力で防衛本能に従えと言ってきかない。
貰う本人が逃げ腰なので、安半君も満足できるクォリティのパンを作ることが困難になり、謎の死闘が続いた。
最終的に琴里が散らかった積み木に足を引っ掛けて転ぶまでの10分間で、あしなが園はあんぱんだらけになってしまった。
「――これで君も終わりだ、お嬢ちゃん、大人しくしな…」
そして、無情に振り下ろされる最後の一発。
「さぁ、できたてあんぱんをたんとお食べ」
安半君はべちゃっとなってる琴里の前に佇み、右手のあんぱんを握らせたのだった。
260 : 佐川琴里 ◆Xc4K14NVriOj [sage] : 2012/12/08(土) 23:03:50.88 0
「すっかりアンパン作りに夢中になっていましたけど、僕達が今しなければならないことって、」
安半君は申し訳なさそうに、テーブルの端に追いやられている紙を見つめた。その横で、出来立てのアンパンを貪る一同。
「まずはその2通の手紙を届けること、でしたよね……。」
「そうそう。ぶっちゃけアンパンはおまけ的な。……それにしてもおいしいな、もう一個おかわり!」
安半君は無言の素振りで返答した。もちろんその手にはあんぱん、琴里は大喜びでそれを受け取る。ここまでくればもう殴られる方も慣れたものだ。
冷えた牛乳を一口飲む。喉に残るアンコがまろやかに溶け出す。もう一生朝食これでいいやと思ってしまう程の絶妙な味わいだ。
「唐空お兄さん達…それと赤針…さん、両方ともどこにいるかさっぱり分からない。これも問題だよね。どうやって探そう。」
アホの一つ覚えでまた本の力を使い誰かを飛ばし、面と向かってコンニチハと言ってもけむに巻かれそうだ。
また、探偵団の団員達は全員が全員、戦闘向きの能力ではない。本で脅されればスゴスゴ引き返すだけになってしまう。
ここはまず穏便に、彼らの動向、目的、万が一悪事を働いているのなら、その証拠を探るべきだ。
ならば、「赤針隆司のいる近くに生えてる木の影」とか「唐空呑から5m程後ろに立ってる電柱」とか、
そういう尾行に最適な場所へ誰かを飛ばすことがベストだが、いくらBOOKSと言えどそこまでの期待には答えられるはずもなく。
「んー…良い案が思いつかない。まぁ、まずは目の前の手紙から片付けちゃうか。
あ、そうだ、さっきの隆葉ちゃん殴って作ったパン、さめちゃったからさ、あたし殴って作りなおさない?」
「それはいい!なんでも出来立てが一番美味しいしね、――では遠慮無くッ」
シュビ! ライトに突き出されたパンは唐空青年の分。 シュバ! レフトにさばかれたパンは詩乃守医師の分。二つとも申し分ない出来である。
牛乳のお代わりをついでくれる鈴村先生が、あきれた口調で二人に言う。
「ヤマザキも春も関係ないのに、まるでパン祭りね。散らかってたアンパンは先生がまとめておきましたけど、あれはどうするつもりなの?」
「あ、お手数掛けてスミマセン、僕が責任を持って捨てておきます。」「…それはちょっともったいないわね。」
先生は困った顔で大きな山積みのアンパンを見る。それらはいびつな形をしていてビー玉ほどの大きさしかないものも沢山あった。
途端、琴里の頭上にひらめきの電球が灯った。
「お、思いついちゃった。すっごく探偵っぽい尾行の方法!このアンパンを使って!」
琴里は興奮してガタンと椅子を張っ倒し立ち上がる。
「手順はカンタン、あたしの本の力でこのちっちゃなパンを一定の間隔で届け続けるだけ! 
最初はさ、ラッキーて思って食べたりポケットに貯めるかもね。それでもめげずに落とし続ける。アンパン地獄。
そしたら段々お腹も一杯になるし、ポケットもパンでパンパンになっちゃうでしょ?
そこで、相手の次に何をする?!――そうさ、もったいないと思っても、捨 て ち ゃ う ん だ よ !」
奇妙な作戦会議は続く。
「それこそが今回の鍵なんだ。捨てられたアンパンを辿っていけば、
ターゲットが寄った場所や通った道のりを特定できるんじゃない?!名付けて、アンパン測位システム!」
もし落し物が見つからないとしても、空中からあんぱんを浴びせ掛けられる人間なんてこの街でも珍しいはずだ。かならず目撃者が出るだろう。
琴里は右手のコップを本に、左手のあんぱんを2通の手紙に持ち替えて、瞬時に消して見せる。
「手紙はこれでヨシ。では名探偵おじちゃん、1番助手に指令を与えておくれ!最初に居場所を突き止めるのは――?!」
261 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/12/13(木) 04:14:26.50 0
急に宙から落ちてきた一枚の手紙とビニール袋。
書いてある内容は………?

私に対する記述だ。
ちらりとさりげなく横目で唐空さんを見ると、どうやら唐空さんも手紙とビニール袋を受け取ったらしい。
しかしどうにも内容がおかしい、おそらく誰かが唐空さんと私に送る手紙を間違えたのだろう。

私は、ふぅ、と軽く溜め息を吐くと、その手紙をくしゃりと握りつぶした。

これは多分、面倒事だ。この手紙を誰が書いたのかは知らないが、この手紙の内容を私は既に果たしている。
私の知り合いだろうか?まあ、どうでもいいか。面倒くさいし、厄介な面倒事は懲り懲りだ。

パンの入ったビニール袋だけを白衣のポケットに入れると、握りつぶした手紙を店のゴミ箱に投げ捨てた。

>「好きでやっているなら、良い。だが金は払わせてもらうぞ」

店を出る前、そう言ってガスマスクさんは有無を言わさず私のポケット万札を捻じ込んできた。

半分以下までに減った所持金が微妙に増えてしまった……まあ、いいか。
お金目的ではないにしろ、今捻じ込まれた万札を再び押し返すというのは失礼にあたる。
それに多分、このガスマスクさんは私の能力の代償に少なからず気付いている。もしかしたら唐空さん以上に鋭いのかも。
気付いた上でこのお金を握らせたというのなら、これはガスマスクさんなりの誠意なのだろう。
笑顔を向け、感謝してくれる子どもより心地よくは無いが……先ほどの様な妙な空虚感も感じない。
しかし、こういう金銭によって感謝を示されるのはなんというか、慣れていない。
取りあえずこのガスマスクさんには、借りを作った、という事にしておこうか。

>「とりあえずファブリーズはしておいたが、煙草の匂いが気になるなら窓でも開けておいてくれ」

流れ的に解散になると思っていたが、どうやら安全な所まで送ってくれるらしい。
ほんのり香る煙草の匂い。別に嫌いではない。むしろ、これくらいの香りなら少し好きだ。

「……ん、いえ、大丈夫です」

一応それだけ言葉を返す。
262 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/12/13(木) 04:17:19.73 0
>「頼みと言うのは、大したことじゃないさ。俺達は人を探している」

あぁ、そう言えば『頼みがある』、とか何とか言ってたような……。

>「"針鼠"――おそらくアンタも聞いたことがあるはずだ。奴の被害者には、不良少年もいたからな。
  『太い針でつけられたような無数の傷』……そういうのを治療した覚えなんてのもあるんじゃないか?」
>「その針鼠だが、つい先刻寸でのところで取り逃がしてな。
  しかし浅くない手傷を負っていた。専門的な治療を受けず、放置していれば命に関わるような」
>「だが奴は、多くの人間を傷付けてきた犯罪者だ。普通の医者にはかかれまい。
  治療のBOOKS能力者。通常の医療ではない、闇社会の闇医者を探すはずだ。
  ちょうど、俺達のようにな」
>「アンタも治癒の能力者なら、同業者にも詳しいんじゃないか?
  ――犯罪者だって構わねえで治しちまうような、マッドな闇医者の存在。知っているなら教えて欲しい。
  おそらく針鼠はそこに居る。寝込みを襲って、今度こそ捕獲する」

流れる景色を眺めながら、BGM代わりにガスマスクさんの話を聞く。
……治癒系の能力者、ね。
知らない事も無い。
私がこの街にやって来た時、何処で知ったのか私の能力目当てに何人かの能力者が組もうと話を持ちかけてきたことがあった。
無論、全員断ったが何人からかは名刺を渡された。残念ながら全部公園のゴミ箱に捨てたが。
しかし、妙にしつこく食い下がって来た人なら覚えている。
263 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2012/12/13(木) 04:18:49.40 0
『君自身に価値は無いが、君の能力には価値がある。どうかな、私と組まないか?大金が稼げるぞ』

そう言って何度も何度も執拗に勧誘を受けた。まあ断り続けてるうちに諦めたか、来なくなったが。
しかし、何度も言われたせいかその人の住所には覚えがある。そしてその人の能力はおそらく治癒系だ。
勧誘時に能力を披露されたのも印象深かった。といっても私にはただのリンゴにしか見えなかったが。

「……ん、ガスマスクさん。本来、私は面倒事が嫌いです。なので協力する必要はないのですが……」

そこまで言って、ちら、と先ほど無理矢理捻じ込まれた万札を見て、溜め息をつく。

「……借りは返す主義です。治癒能力者かは分かりませんが1人だけ心当たりがあります」

ルームミラーに映っているガスマスクさんの表情は伺えない。

「……ん、南地区の古ビルに診療所を構える能力者。多分、大金さえ払えば誰の傷でも治す性格かと。
 ……確か、診療所の名前は、『スノーホワイト』……リンゴを出す能力と診療所の名前からして本は『白雪姫』だと思います、まあ憶測ですけど」

そこまで言うと私は再び流れる景色に視線を移した。
264 : 名無しになりきれ : 2012/12/17(月) 20:21:35.74 P
保守
265 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2012/12/21(金) 21:18:11.22 0
お手伝いの少女は琴里ちゃんを愛しそうな視線で見ている。
流石ここにお手伝いにくるだけあって、子どもが好きなのだろう。

>「ありがとうございます。もちろんあなた方のお役に立てるなら喜んで参加しますわ。
使用人のように酷使し、奴隷のようにこき使ってくださいまし」

まさかのブラック職場環境志願に、琴里ちゃんと顔を見合わせる。

>「灰田硝子ですわ。お手伝い件、探偵団団員となりました。改めてよろしくお願いしますわね、皆様!」

それこそよく訓練された使用人のようにも、良家の令嬢のようにも見えるお辞儀。
さっきのブラック志願は気のせいだったことにしようと琴里ちゃんと視線で申し合わせた。

「私は橘川鐘、近所で玩具屋をしていてここの子ども達にはよく贔屓にして貰っていてね。こちらこそよろしく頼むよ」

そして繰り広げられるパン祭りの末に、琴理ちゃんが凄い案を思い付くのだった。

>「それこそが今回の鍵なんだ。捨てられたアンパンを辿っていけば、
ターゲットが寄った場所や通った道のりを特定できるんじゃない?!名付けて、アンパン測位システム!」

「すごいぞ琴理ちゃん!」

ヘンゼルとグレーテルの要領だな! と言いかけてやめておく。
あれはパンの欠片が食われて作戦失敗するんだよな。
でも丸ごとのアンパンが大量にあれば、すぐに消えてなくなることは無いだろう。

>「手紙はこれでヨシ。では名探偵おじちゃん、1番助手に指令を与えておくれ!最初に居場所を突き止めるのは――?!」

「そうだな、呑君の身が心配だ。もし治癒系能力者の元に行っていないのなら一刻も早く治療を受けさせなければ……!」

言いながら、ちらりと隆葉ちゃんの方を見やる。
寝ている間に急展開で探偵団が結成されていてびっくりするに違いない。
そうだ、起きたら彼女にもアンパンを食べさせてあげよう。
266 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/12/25(火) 00:11:58.83 0
……夢を見ていた。

そこは質素ながら幸福感に満ちた部屋の中。
私は一匹の少年河童と向かいあい、話している。
話題は、とりとめもない事。ティクティク翁のことだったり、シャウさんのことだったり。
しかし、彼は相槌こそ返してくれるものの、どんな話題にもあまり興味がないようだった。
そして、ついに私の発する言葉が尽きたとき、少年河童は言葉を発した。

「どうやら、わたしのところに来るのが早すぎたようだね」

頭上に疑問符を浮かべている私に対して、さらに一言。

「物語を終えたくなったら、また来なさい」

そこで夢は終わり、そして……。
267 : 勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2012/12/25(火) 00:12:50.38 0
なぜかパンの山に埋もれていた。

「……。
 ……え?」

状況が把握できない私。
ええと、落ち着こう。まずは記憶をたどろう。
いつもの通り能力の時間切れで意識を失った。これはいい。
よく見るとわたしは布団に入っている。これは琴里か鈴村先生が敷いてくれたのだろう。
それで……何故パン。しかもよく見ると全部アンパン。

たどっても把握できなかった。


困惑が深まる中、ようやっとはっきりしてきた視界の中に何人かの人影が動く。
ニコニコ笑ってこちらを見る店長。
面白そうに何かを見ている子供達、そして鈴村先生。
同じく何かを見る、見覚えのないお姉さん。
そして、子供達の視線の先でなぜか直立不動で立ち尽くす琴里と、それに向かってパンチの寸止めを繰り返す少年。

……最後の面白映像はなんだ。


ひとまず、声を発さなければ始まらない。
私は意を決して、唯一こちらを見ている店長に声をかけた。

「ええと、これは一体どういうこ『ぐぅぅぅぅぅぅ~』と……な……」

高らかに腹の虫がなった。
……は、恥ずかしい……!
おもわず頭から布団にもぐりこむ私だった。
268 : 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q [sage] : 2012/12/29(土) 01:00:31.95 0
>>259
>「「「………!?」」」
「…?」
どうしたのかしら? 皆さん急に戸惑いだしたりして…。私何か変なこと言ったかしら?
それにどういうわけか安半さんとやらは赤くなっていますし…はっ!
まさかこの人、橘川さんを見上げる琴里ちゃんの可愛さに…!
>「うん、よろしくね、お手伝いさんのことはこれから硝子姉さんと呼ぶことにする!あたしは琴里!」
「硝子姉さん…うふふ」
ああ何この子可愛い可愛い可愛すぎますわまさにエンジェルですわ!
くっ、落ち着け私落ち着け私落ち着け落ち着け理性を失うな…!
琴里ちゃんの可愛い笑顔。可愛い声…
ああ。駄目だ。これはもう…
「うふふふ…可愛いですわ、琴里ちゃん。硝子姉さん、だなんて…」
抑え切れない。
「でも」
私は琴里ちゃんに近づき、顎を指で持ち上げますわ
「呼ぶんなら…」
そして、琴里ちゃんのおでこにそっと口付けし(唇にしなかったことを褒めて欲しいくらいですわ)
「お姉さま、じゃなくって?」
耳元でそっと囁きましたわ
269 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2013/01/03(木) 02:33:11.41 0
車に乗り込むと僕は手紙についてきた餡パンを取り出した。
本当は詩之守先生を降ろし、鳥島との話を終わらせてからにするつもりだったのだが
鳥島と詩之守先生との会話を聞くにそこまで悠長に待つのは難しいと思ったからだ。
改めて餡パンを見やる。
それなりに大きく、形もスタンダードなアンパンだ。
香ばしい香りが鼻をくすぐることを見ると、焼きたての物を送ってくれたのかもしれない。
僕は二人の話に耳を傾けながら、早速齧り付いた。
「ッ!?」
驚いた。
普通アンパンやクリームパンの類は、見た目に反して中身がスカスカということが多々ある。
それは、具材に残っていた水分が蒸発して、不本意な空洞を作り、尚且つ、その分膨れ上がった外見との
ギャップのせいでそれが目立ってしまうのだが、
この餡パンは、まるで大福や饅頭のように中にぎっしりと餡が入っている!
熟練のパン職人によるものか、いや、恐くこれも能力で作ったものだろう。
味もなかなかのものだ。
甘さが凄い、いや、むしろ、凄い甘さだ。
なんというか、それしか言えない。
複雑だ。複雑な甘さなんだ。
能力で作ったものではあるが、恐ろしい完成度の高さではあるが…
「牛乳が欲しいな」
つめも甘いな。
餡の量が普通の餡パンと同じだったなら、賞賛できたが
この餡パンの餡の量はそれ以上のものだ。
確かに餡のクオリティーは素晴らしいが、度が過ぎれば、その甘さがうっとおしくなるのは必然だ
仮に人に売るなら、もっと苦味などでアクセントをつけるか、それを考えた上で餡の味を調整するべきだろう。
おそらくではあるが、この餡パンに対するこだわりから察するに
作った奴は人としても甘すぎる奴なんだと思う。人に厳しく接することも覚えたほうがいい。

とそんな感じで餡パンを食べ進めている中、詩之守先生が闇医者について話す。
「白雪姫…ですか?」
それを聞いて、思わず声が出てしまった。
その本から人を治癒する能力が出てくるとは思えなかったからだ。
いや待て、逆に考えるんだ。
元々闇医者の人間がBOOKSに目覚めたと考えるのが正しいかもしれない
「…まぁいいや、ところで鳥島さん、そろそろ降ろしてもいいんじゃないんですか?
 これ以上行くとかえって危なくなるんじゃないんで…!」
そう鳥島に告げた時だった。何かが僕の額に当たり、膝の上に落ちた。
視線を向けると、そこにあったのは、ピンポン玉大の茶色い球体があった。
拾いあげてみると、それはさっき食べたパンと同じものだと分かった。
鳥島に一瞬視線を向けるが、分かるわけもない。
「いたずらのつもりか?」
僕は車の窓を開けると、それを投げ捨てた。
270 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2013/01/03(木) 02:48:51.91 0
ラジオから流れる流行歌の、ギターソロを聞き終えるぐらいの沈黙。
やがて死に親は、その形の良い唇を開いた。
どうやら彼女の協力を得られる向きが立ったようだ。
借りは返す主義、と死に親は言ったが、どちらかと言えばこっちが借りを作ってるようなもんだ。

この女の価値観は、おそらく俺達と少しだけ違う。
そしてそれはきっと、俺達が持たないからこそ、尊いものであると思う。
人との出会いは価値観の正面衝突だ。
唐空と死に親がそうであるように、俺も彼女との向き合い方を、俺なりに形成できた気がした。

「診療所『スノーホワイト』、白雪姫のリンゴ……それって確か、毒リンゴじゃあなかったか?」

ディズニー映画のおかげで世界で最も有名な童話の一つに数えられるであろう、『白雪姫』。
その若さと美しさに嫉妬した悪の女王によってもたらされたリンゴは、白雪姫の命を奪う毒の果実。
そのあとまあ、なんやかんやハリウッド的なご都合主義の紆余曲折で、白雪姫は生き返るわけだが……。
どう考えても傷を癒すタイプのBOOKSじゃねえよな。いやまてよ、聞いたことがある。

「原典では七歳の幼女に嫉妬する年増の策略で、幼女が死んでは生き返り死んでは生き返る意味不明活劇になっていてな。
 おそらく治癒系の能力はそこから生まれたものだろう。『死んでリセット』。業の深い話だ」

原作版の白雪姫は、継母があらゆる手段で娘を殺し、娘の後見人達があらゆる手段でそれを蘇生する応酬だ。
この『死亡と蘇生』のサイクルを『受傷と回復』に置き換え、毒リンゴをメタファーとして抽出したもの。
それが、推測される『スノーホワイト』のBOOKSの正体だ。

「とにかく南区ならば丁度いい。このまま向かうぞ唐空君……何を食ってる?」

意見を求めようと横を見たら、唐空は何故か頬を膨らませてもぐもぐやっていた。
こいつ……人が真面目な話をしてるときに何を、つうかどこから持ってきたんだ食い物なんて。
と憤慨していたら、俺の太もものあたりに何かが落ちる感触。
片手でハンドルを操作しながら拾い上げてみると、それは手のひらサイズのパンだった。
焼きたてなのか、特有の馥郁たる香りがガスマスク越しに伝わってくる。
表面に振られたケシの実からして、こいつはアンパンだろう。

「このナリ(ガスマスク)じゃあ生憎と喰えんな。唐空君が頬張ってるのもそれか。
 どこで拾ってきた?あまり口やかましいことは言いたくないがな――拾い食いはクセになるから気をつけろよ」

まあ俺も金欠になるとよく公園とか行ってシケモク拾って吸ってたりするから、人のことは言えん。
知ってるか?ハトのエサって意外にうまいんだぜ。
――と。ハトの話をしていたからか知らんが、フロントガラスを鳥の影が横切った気がした。
前方を見ながら、ギアの切り替えをするためにシフトレバーを手繰る。
271 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2013/01/03(木) 02:51:25.18 0
「……?」

シフトレバーの硬質な手応えではなく、柔らかくしっとりとした感触が手の中にあった。
思わず視線を下げると、いつの間にか俺はアンパンを握っていた。
さっきのものと同じ、しかしサイズは一回り小さいアンパンだった。

「おいおい、誰だこんなところにアンパンを放置したのは――」

落としていた視線を前に向ける。
フロントガラスが内側からアンパンで覆われていた。

「何ィィィィィ!!?」

慌ててハンドルを切る。
アンパンで隠されたフロントガラスの向こう側で、対向車がクラクションを鳴らした。
焦って思考が上滑りする中、また一つ新しいアンパンが、目の前で虚空から出現し、足元に落ちた。

「こ、これは……!」

驚くそばから今度は二つ、次は四つ、一度に出現する数はまちまちだが、しかし確実にアンパンが出現。
足元にはあっという間にアンパンが堆積し、潰れて飛び出た餡が静脈血のように俺のスーツを黒く染める。
俺は振り向いた。唐空や、死に親の席も同じ現象に見舞われていた。

「間違いない!俺達は今、何者かのBOOKS攻撃を受けている――ッ!
 物体を転移させるタイプの能力か?密閉空間でこれはマズい、前が見えない!」

フロントガラスに張り付いたアンパンを押し退ける。
大型トラックの二つのライトと目が合った。

「うおおおおおおおお!!」

ハンドルを思いっきり回して、慣性で車が傾くのを感じながら、間一髪でトラックとの衝突を避ける。
プロボックスの側面が削られ、塗りつぶされていた前の会社のロゴマークが露出する。

「と、とにかくブレーキを――馬鹿な!足元が圧縮されたアンパンで埋まってペダルが動かないだと――!?」

最悪なのは、ブレーキと一緒にクラッチペダルも固定されてしまっていることだった。
つまりこのプロボックスは、アクセル踏みっぱの動力繋ぎっぱのままハンドル以外の操作を受け付けなくなってしまったのだ。
突如出現した大量のアンパンによって、プロボックスは暴走状態のまま南区を爆走する――!
272 : 詩乃守 優 ◆vTRssb2suY9J [sage] : 2013/01/05(土) 01:59:11.46 0
さて、いったい私が何をしたのだというのだろう。前世の業なのか、それにしたってコレは酷い。

もっふもっふ、と、積もりゆくパンを尻目に私はそんな呑気な事を考える。
パンから感じ微かな温もりは作り立てだからだろうか、干したばかりの布団に包まれているような感覚を覚える。

微かに見える窓の景色しは尋常じゃない勢いで流れていく。つまりは、相当の速度が出ているって事になる。
しかしまあ、いずれはこの景色もパンに埋め尽くされ、浸食されていくのだろうけど。
はあ、と、ひとつ溜め息を吐く。この速度で何かにぶつかれば、恐らく痛みを感じる間もなく即死だろう。
しかし、既に視界を埋め尽くしつつあるこのパン。おそらく、サイゼリアで受け取った物と同様の物なのだろうけど。
多分このパン、これがクッションになって、即死は免れるだろう。かといって怪我を負わない訳がない。
普通なら重症、酷くて瀕死+気絶か、それとも運が良くて骨折か軽傷……いずれにせよ、痛い。
あぁ、メンドクサイ。とっても、酷く、メンドクサイ。痛いのはすごくメンドクサイ。

>「間違いない!俺達は今、何者かのBOOKS攻撃を受けている――ッ!
  物体を転移させるタイプの能力か?密閉空間でこれはマズい、前が見えない!」
>「うおおおおおおおお!!」
>「と、とにかくブレーキを――馬鹿な!足元が圧縮されたアンパンで埋まってペダルが動かないだと――!?」

既に視界もパンで埋め尽くされ圧迫されているこの状況では、ガスマスクさんがどのような状況に陥ってるか知るすべもない。
ただ、声の狼狽具合で考えると……まあ、とてもヤバい状況の様だ。ブレーキが利かずに加速しっぱなし。
先程、微かに見えたそれだけでも相当の速度が出ていることは余裕で理解出来た。
しかし、即死なら良いとして、中途半端な、死にきれないような怪我を負うようなら治療を行わなければ。
自分自身を治療するなんていつ以来だろう。あぁ、でもメンドクサイ。即死か、そうでなければ無傷でなんとかしたい……。

「……ん、ガスマスクさん。サイドブレーキはダメですか?」

パンに埋もれつつある車内。免許を取得していないので車の構造は詳しくは知らないが、サイドブレーキの存在は知っている。
フットペダルが効かないなら、サイドブレーキで何とかしてしまおうとの安直な考えなのだけれども一応提案してみる。
確か、フットペダルよりも減速力はないが、徐々にスピードは落ちるしこれ以上スピードが上がる事はないだろう。
まあ、こんなにパンに埋もれた空間だ。サイドブレーキが利かなくてもしょうがないが……。
その場合、どうしようか。私の手はドアに届く。ロックを解除し外に出る事も出来る。しかしこのかなりのスピードだ。
死ねればいいが、死ねないと厄介だ。私は痛いのが好きではないのだから。

「……厄介事は好きじゃないのに、なんでこんな厄介ごとに巻き込まれるんですかねぇ……」

騒然とする車内の中、溜め息を吐きながら私はボソッと愚痴を紡いだ。
273 : 灰田硝子 ◇8mVJTko00Q[sage] : 2013/01/05(土) 02:00:32.61 0
「パンチの素振りでアンパンを作り出す能力…。変わった能力ですわね」
あんぱんを齧りつつ、私は言いますわ
「美味しい…」
この能力さえあれば食料に困りませんわね。バリエーションは私の能力でどうとでもできますし
>「唐空お兄さん達…それと赤針…さん、両方ともどこにいるかさっぱり分からない。これも問題だよね。どうやって探そう。」
「聞き込み調査と、そして何より足ですわ。…とはいえ、情報が何もないままでは文字通り雲を掴むような話になってしまいますわね…。
私の能力でその辺の鳥の目をカメラに変えるとか、降葉ちゃんの河童に協力してもらうとか…ふーむ」
しっくり来ませんわね…

>「んー…良い案が思いつかない。まぁ、まずは目の前の手紙から片付けちゃうか。
あ、そうだ、さっきの隆葉ちゃん殴って作ったパン、さめちゃったからさ、あたし殴って作りなおさない?」
>「それはいい!なんでも出来立てが一番美味しいしね、――では遠慮無くッ」
「私の能力で出来立ての状態に変えるのは駄目なんでしょうか…」

>「あ、お手数掛けてスミマセン、僕が責任を持って捨てておきます。」「…それはちょっともったいないわね。」
「あ、それなら私が持って帰りましょうか? お手伝いとして責任を持って処理しますわよ」

>「私は橘川鐘、近所で玩具屋をしていてここの子ども達にはよく贔屓にして貰っていてね。こちらこそよろしく頼むよ」
「橘川さんですわね。よろしくお願いしますわ」

>「お、思いついちゃった。すっごく探偵っぽい尾行の方法!このアンパンを使って!」
突然琴里ちゃんががたりと立ち上がる。可愛いですわ
>「手順はカンタン、あたしの本の力でこのちっちゃなパンを一定の間隔で届け続けるだけ! 
最初はさ、ラッキーて思って食べたりポケットに貯めるかもね。それでもめげずに落とし続ける。アンパン地獄。
そしたら段々お腹も一杯になるし、ポケットもパンでパンパンになっちゃうでしょ?
そこで、相手の次に何をする?!――そうさ、もったいないと思っても、捨 て ち ゃ う ん だ よ !」
>「それこそが今回の鍵なんだ。捨てられたアンパンを辿っていけば、
ターゲットが寄った場所や通った道のりを特定できるんじゃない?!名付けて、アンパン測位システム!」
「なるほど、流石琴里ちゃんですわ! プロジェクトヘンゼルですわね!確かにその方法なら見つけられそうですわ…ただし」
そこで一旦言葉を区切りますわ
「ただしいくつか問題点がありますわね。まず第一に、本家ヘンゼルとグレーテルよろしく他の生き物にアンパンを食べつくされたらまるで機能しないこと。
それについては私の能力でアンパンを改造すれば良いから大丈夫ですわね。
第二に、その方法は相手が徒歩で移動することを前提としているということ。車やバイクでで移動しているなら積極的に捨てることはできないでしょうし、
もしかしたらアンパンが交通事故の原因になるかもしれませんわ。まぁ、乗用車ならまだ良いとしても…
電車やバスに乗ってたら、それはもう大問題ですわよね。捨てたくても捨てられないアンパン。その間にもアンパンはどんどん堆積していき…
事故脱線全線停止、更に酷ければ圧死なんてことも…。更に飛行機なんかに乗った日にはもう…墜落確定ですわ」
琴里ちゃんは可愛いが、お手伝いとして私も言わなければならないでしょう
「以上の問題点をどうにかする必要がありますわ」

>「ええと、これは一体どういうこ『ぐぅぅぅぅぅぅ~』と……な……」
女の子…おそらく降葉ちゃんが目を覚ましましたわ。お腹の音に照れたのか、再び布団に潜ってしまいましたが…。可愛い!
「うふふ、私は灰田硝子。この園にお手伝いとして来た者ですわ。貴女も如何? 美味しいですわよ、このアンパン。
それともアンパンは好みじゃないかしら? それならメロンパンにでも、コロネにでもカレーパンにでも変えますけれど…ともかく美味しいですわよ」
さっき安半さんが作り直したアンパンを手に、降葉ちゃんの布団に潜り込み、そっと抱き寄せながら言いますわ…いえ別に他意はありませんわよ?
274 : 赤針 隆司 ◆T3dM0eTybiFN [sage] : 2013/01/09(水) 01:59:57.99 0
 ゴブォゴブォ、と液体を無遠慮に嚥下する音が静かな室内に響き渡る。
 うるせぇなぁ。もうちっと静かに飲めよぉクソ医師ぃ。
 施術が終わったクソ医師はあれからヘラヘラと笑みを浮かべながら瓶に入った酒をラッパ飲みしている。
 よっぽど上機嫌なのだろう……こっちは不快極まりねぇがなぁ。
 てかよぉ、やっぱダメだわコレ。このベッド、気持ち悪ぃ。
 俺は掛布団を剥ぎ取るとむくりと起き上がる。
 全身が熱ぃしゴワゴワするけど、それでもさっきよりは大分マシだわなぁ。

「おや? 身体はもういいのかい?」

 身体は動かさず、視線だけを俺に向けてクソ医師は問いかける。

「うるせぇよ。もう治った、つか、こんなクソ不衛生なベッドで寝てたら別の病気にならぁ。
 ま、歩くのにゃあ支障はねぇし。普段通り動けねぇけどぉ……ま、何とかなんだろぉ」

 そう言いながら両足で地に立ち、両手を握って動作を確かめる。
 30%、ってところかぁ? 襲われたらいつも見てぇに楽しめぇが仕方ねぇ……。
 
「おいクソ医師、俺の本、あと前に此処に置いてったライダースーツ在ったろぉ? それ何処だぁ?」

 流石に上半身、包帯スタイルはマズイだろぉ。弾痕だらけでも羽織れるものが欲しいんだよ。

「服ならホラ、そこらへんに落ちてると思う。ゴミを退かして勝手に探してくれ。
 それと君の本はちゃんと私が預かってる。ほら、受け取るといい」

 言いながら放り投げられる本。
 人の私物をぞんざいに扱うなってのになぁ……本にしてもライダースーツにしてもだ。
 投げられた本を掴み取り、瞬時に能力を発動する。
 右の掌から伸びた、鋭く、指程の太さを持つ長く赤い1本の針がピザの空き箱を貫き、その下のライダースーツを突き刺す。
 そしてゴミごとスーツを持ち上げると針を伝ってスルスルと俺の右手に引っかかる。

「このゴミの中探すの面倒だからよぉ、普段から掃除しとけやぁクソ医師」

 一緒に伝ってきたピザの空き箱を投げ捨て、俺は弾痕だらけのスーツを羽織った。

「そうだね、そのうち掃除屋でも呼ぶさ。気が向いたら、ね」

「テメぇでやれよクソ医師ぃ。ま、いいや。んじゃ、世話になったなぁ。
 あぁ、あとそのドクターバッグ……お前にやんよ。どうせ俺じゃ使い方がわからねぇからなぁ」

 そう言って俺はドアノブに手を掛ける。

「……毎度あり、またのおこしを」

 かけられた言葉にひらひらと手を振りながらドアを閉めた。
 外の空気も、クソ医者の診療所に比べたら大分マシだなぁ。
 古ビルから出た俺が暴走車を目撃するのはそれからほんの少したってからの事だった。
275 : 佐川琴里 ◇Xc4K14NVriOj[sage] : 2013/01/14(月) 23:31:38.31 0
>>268
>「お姉さま、じゃなくって?」
硝子の可憐な容貌がドアップで映し出される。耳元で妖しく何事かをささやかれ、額に何かが触れた感触。
極め付けは盛大なリップ音だ。
ハートマークが飛び散る。飛び散っては爆発する。
硝子の瞳は、まるで獲物を捕らえる肉食獣のごとき光を宿していた。

>>265
>「そうだな、呑君の身が心配だ。もし治癒系能力者の元に行っていないのなら一刻も早く治療を受けさせなければ……!」
「おじちゃんならそういうと思ったよ。分かった、あたしにドンっと任せて!呑なだけに!」
と意気投合し合う二人だったが、ここで思わぬ人物からアドバイスを得る。
>「ただしいくつか問題点がありますわね。」
 マイワールドから脱却し正気を取り戻した硝子だ。彼女は橘川店長が見抜いた通りの冷静さで事態を客観的にとらえていた。

>――以上の問題点をどうにかする必要がありますわ」
「ぐぬぬ、もっともな意見である。でもそれは、”大量のアンパンを、全て、一気に、一瞬で運ぶとしたら”ってことでしょ?
時間をおいて、ちっちゃいのを1個ずつ移動させれば、何も問題はないんじゃないかなぁ。
こんなかさばるものを、車みたいに狭くて密閉された空間にぎゅうぎゅう詰めにしたら、そりゃヤバいことになるだろうけどさ。
まさかそんな大惨事が起こるわけないよ、平気だよ!あっはっは!まっさかー!」
276 : 佐川琴里 ◇Xc4K14NVriOj[sage] : 2013/01/14(月) 23:33:19.23 0
落ちたアンパンを小動物が食べてしまう可能性については、保留となった。
ここはおとぎ話の森ではない。いるとしても野良猫、野良犬、鳩くらいだ。
人間が地面に落ちてるパンを食べるかというと、この街の貧民層のひっ迫した状況から、NOと断ずることはできないのだが、
100個落として100個全てがなくなってしまうことは、さすがに考えにくい。
そのうち5つ、6つでも残っていれば、足取りをつかむ手掛かりとしては十分だから、
街中の腹ペコ達にも気前よくアンパン祭りに参加させてやろうではないかという太っ腹な心意気である。

「あの、灰田さん。よろしければ、先ほどおっしゃっていたように、あなたの能力であしなが園を城塞にしてほしいわ。 
別にせかす訳ではないのだけれど、私としては少しでも早く子供たちを安心にしてあげたくて。」
「こっちは平気だからさ、そうしてあげてよ、硝子お姉ちゃん」

そういう訳で、なまあんぱんを、10秒に1個ほどの間隔で移動させ続けていたのだが。
序盤にも関わらず、悲劇は起こる。

>「ええと、これは一体どういうこ『ぐぅぅぅぅぅぅ~』と……な……」
部屋の隅で、おなかのなる音がした。それだけならまだ良かった。
「おめざめだね、隆葉ちゃん。」
そう声をかけつつも、琴里は、依然自身の能力のコントロールに集中し、慎重にアンパンを運び続ける。
先ほどの言葉通り、受け手側に万が一の事故が起こらないようにという配慮を第一に考えていたからだ。
琴里は、ちょうど10個目のアンパンを送り付け、11個目に手を伸ばそうとする。あんぱんの山は、まだまだ小高い。
その横を、音速で駆け抜けていく何かがあった。それが放つ殺気めいた気迫を、琴里は確かに覚えていた。
(…ッ!硝子お姉ちゃんが覚醒した?!)
フラッシュバックするのは、10分前の光景。――そう、佐川琴里は、灰田硝子によってファーストッキッス(おでこ)を略奪されたのである。
あの百合の香漂う麗しき魔物に、隆葉のクチビルも奪われてしまうのではないか。
隆葉は、そのへんの9歳児よりもよっぽど複雑で多感な年頃の少女だ。過剰なスキンシップを好まない性質でもある。
「硝子お姉ちゃん!いや、お姉さま、ステイ、ステイだよ!」
これ以上アブノーマルなシーンを演出させてたまるか、と意を決して硝子を引き留めるべく、琴里は駆け出した。が。

なぜか足がもつれた。

堅い何かがつま先に触れる感覚。 崩れるバランス。   そしてデジャブ。
反転する視界の端にて捉えたカタチは、一つの積み木。
そう、安半君とのデスマッチで、琴里を敗北に陥れた、あの積み木だった。

前回と違うのは、琴里の利き手に発動中の絵本があったこと。
そして、倒れた先の着地地点がフローリングではなく、アンパンの山だったこと。

悲劇はこうして起こったのです。

 居心地の悪い間の後、琴里はむくりと起き上る。
「えー、こほん。硝子お姉ちゃんの言うことはもっともだ。確かに安全第一。他の人に迷惑がかかることはやっちゃだめだよね。
でもでも!飛行機はこの街には飛んでないし、車なら窓から捨てられるし、自転車なら踏んで転ぶくらいしか危険性はないし…。
そもそも!走って逃げてるという線も十分あるわけで……とまぁ、言い訳はともかく、あたしが言いたいことはですね、」
一拍置く。一同静まり返る。琴里はそれをぐるり見回してから、叫んだ。

「――わ、悪気は…悪気は無かったんですぅううッ!!」
277 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2013/01/18(金) 00:41:13.18 0
>「呼ぶんなら…」
>「お姉さま、じゃなくって?」

あっと思った時にはすでに遅く、硝子嬢が琴里ちゃんのおでこを奪っていた。
どうやら彼女はそっちの方面で子どもが好きなようだ。それも女児専門かもしれない。
今回はおでこだったからまだしも、これ以上進んだら一大事だ。
しかし硝子嬢は今のが嘘だったかのように、アンパン作戦に対して冷静に起こり得る最悪の事態を想定する。
やはり幻でも見たのだろうか。そういう事にしておこうか。

>――以上の問題点をどうにかする必要がありますわ」
>「ぐぬぬ、もっともな意見である。でもそれは、”大量のアンパンを、全て、一気に、一瞬で運ぶとしたら”ってことでしょ?
時間をおいて、ちっちゃいのを1個ずつ移動させれば、何も問題はないんじゃないかなぁ。
こんなかさばるものを、車みたいに狭くて密閉された空間にぎゅうぎゅう詰めにしたら、そりゃヤバいことになるだろうけどさ。
まさかそんな大惨事が起こるわけないよ、平気だよ!あっはっは!まっさかー!」

そんな中、隆葉譲が目を覚ます。

「目が覚めたか、隆葉嬢。アンパンを食べてみるといいぞ。きっと元気になる」

お腹が鳴った音は聞こえなかった振りをしつつ、隆葉譲にアンパンを勧めていると……

>「うふふ、私は灰田硝子。この園にお手伝いとして来た者ですわ。貴女も如何? 美味しいですわよ、このアンパン。
それともアンパンは好みじゃないかしら? それならメロンパンにでも、コロネにでもカレーパンにでも変えますけれど…ともかく美味しいですわよ」

硝子嬢がアンパンを手に猛ダッシュ!
――気のせいではなかった! 小さな子どもだけではなく同年代もアリらしい。油断も隙もあったものではない。
とにかく、これ以上刺激的なシーンを多感な琴里ちゃんに見せるわけにはいけない。
隆葉嬢の布団の前に立ちはだかり阻止しようとする。
278 : 橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc [sage] : 2013/01/18(金) 00:41:54.75 0
>「硝子お姉ちゃん!いや、お姉さま、ステイ、ステイだよ!」

が、先程おでこを奪われた琴里ちゃんは気付いてしまった!
そして悲喜劇的な連鎖は起こる。脚がもつれ、転んでアンパンの山に突っ込み―― 一瞬後にはアンパンの山が消えた。
何とも言えない沈黙の後、慌てて声をかける。

「琴里ちゃん、大丈夫かー!」

>「えー、こほん。硝子お姉ちゃんの言うことはもっともだ。確かに安全第一。他の人に迷惑がかかることはやっちゃだめだよね。
でもでも!飛行機はこの街には飛んでないし、車なら窓から捨てられるし、自転車なら踏んで転ぶくらいしか危険性はないし…。
そもそも!走って逃げてるという線も十分あるわけで……とまぁ、言い訳はともかく、あたしが言いたいことはですね、」
>「――わ、悪気は…悪気は無かったんですぅううッ!!」

私は琴里ちゃんの言葉にうんうんと頷き、提案する。

「ま、まあ万が一という事があってはいけないからな。
あれだけ送り続ければすでに多少アンパンの道が出来ているはずだ。今すぐ出発しよう。
分かっているとは思うがもしも呑君を攫った連中のアジトを突きとめても絶対突入なんかしては駄目だよ」

当初予定していたよりは早くなったが、あしなが探偵団いよいよ出動である。
果たして行き付く先は悪の組織のアジトか、アンパンの悲劇に見舞われた事故車か――
279 : 唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y[sage] : 2013/01/18(金) 00:45:12.68 0
「拾い食いなんてするわけないじゃないですか、これは貰い物ですよ」
不機嫌そうに僕は鳥島を見やる。
どうやら、僕狙いに定期的に送ってきているらしく、鳥島の手にも先ほど捨てた餡パンがあった。
一体なんのつもりか、皆目見当がつかない。
深い溜息をついてから、これから向かうであろう針鼠に対して考えを巡らせようとした。
その瞬間だった。
一瞬のうちに視界がアンパンに埋め尽くされてしまった。
そして、そのまま体が大きく左右にシェイクされる。
「これが狙いなのかッ!?それともBOOKSの能力を発動させてしまったか」
猛スピードで爆走するプロボックスの中で考えを巡らせる。
恐く餡パンを送ってきたのは佐川ちゃんで間違いないだろう。
そうなると佐川ちゃんが意図的にこんなエグい状況を作ったとは考え難い。
ならば、この状況はこの餡パンを作った能力に関係しているのかもしれない。
「食べ物を大切にしなさい」という教訓の話は腐るほどあるから、そういう能力が合ってもおかしくはない
いや、それよりも、この危機的状況を打破しなければいけない。
万一事故に遭ってしまえば、それこそ終わりだし、仮にこの餡パンがエアーバックの代わりになったとしても
廃棄てた車から足が付く可能性だってある。
だが、何をするにも体を圧迫しているこの餡パンが邪魔だ。
かろうじて先ほど捨てる為に窓を開けたお陰で左腕はなんとか動けるようだ。
「すいません、鳥島さん」
すぐさま、僕は車のドアを開け、餡パンを掻き出す。
後方の車両には悪いが、これ以外に助かる方法はない。
大きな音を立てて、開けたドアが千切飛ぶ、電柱に当たった衝撃で壊れたのだろう
ちょうど、その瞬間、なんとか視界を確保できるまで餡パンを掻き出すことが出来たが
まだ一息つくことは許されない。
この車が目の前にあるビルに向かっているのがわかったからだ。
鳥島のほうを見るが、まだブレーキを踏み込れそうにない。だが、サイドブレーキならどうにかなりそうだ。
「鳥島さん!後はお願いします」
すぐさま、僕はシートベルトを付け直すと、強引にサイドブレーキを上げ、慣性の法則に備える為に歯を食いしばった。
280 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2013/01/21(月) 21:26:07.28 0
暴れ狂う車中、九死に一生レベルの危機に何度も直面しているのに、死に親は涼しい顔だった。
パンに埋もれながら。あるいはそれは冷静とかではなく、単に無抵抗なだけかもしれなかったが。

「サイドブレーキ?そうか、その手があった……!」

停車時に車を固定するためのブレーキだが、制動力もそれなりにあるはずだ。
もちろん走行中にブレーキをかけることを想定した構造ではないので、確実に車体に負担はかかるだろうけど。
背に腹は代えられない。
なにせさきほどアンパンの隙間から垣間見えたスピードメーターは、法定速度にダブルスコアをつけていたからだ。
さすが世界のTOYOTA。無駄によく走る。

「くそ、アンパンが邪魔でブレーキレバーに手が届かない!」

サイドブレーキはおろか、その奥の助手席に座っているはずの唐空の姿すら覆い隠されてしまっている。
びっしりと積み上げられたアンパンが形成する壁は、もはや監獄。そんな形容が頭をよぎる。
アンパンに隔てられた向こう側から、唐空の声がくぐもって聞こえた。
途端、ぼろぼろぼろ……と室内を圧迫していたアンパンが崩れだす。
――堰を切ったように、向こう側へと流れていく。

「ドアを開けて、アンパンを掻き出したのか……!」

加速度的にアンパンの『水位』が下がり、視界がどんどん晴れていく。
窓を覆っていた夥しいアンパンも取り払われ、俺はなんとか走行車線に戻ることに成功した。
これでとりあえず、対向車と正面衝突したり、アンパンで溺死することはなくなった、そして――
唐空がアンパンの山の中に手を突っ込み、サイドブレーキのレバーを引く。
制動力が四輪を押さえつけ、車体が大きく前のめりに傾いだ。

「まずい、制動距離が足りない!このままではあのビルに激突する!」

ドアを開いたとはいえ、構造上唐空の膝から上のアンパンしか排出することができない。
俺の足は未だアンパンの中に埋まったままで、フットブレーキはまだ踏めない。
そして、サイドブレーキの弱い制動力で止まるのに必要な制動距離は、現在の速度から見積もって80メートル!
そして目測で50メートルほど前方、T字路の交差点に面した、こ汚い古ビルがそびえ立っていた。

「唐空君!しっかりサイドブレーキを握っていろよ……!」

俺はハンドルから両手を離した。左手でサイドレバーを握る唐空の肩に触れ、右手は車のダッシュボードへ。
そこには、俺がアタッシュケースから出して放り込んでおいた、『金のガチョウ』の絵本がある。
掴んで、唱えた。

「出てこい、『ゴールデン・フィンガー』!」

ボッ!と空気が押し退けられる音と共に、目に痛い発色のガチョウが死に親のとなりの席に出現した。

『YEEEEEAAAAAARRRR!出てきて早々、ピンチみてーだナ、ヌケサクゥ!
 なんか女の子とか居て俺っちちょっち恥ずかしいんだけどよォーーーー!』

金色のガチョウが死に親の方をチラチラみながら頬を赤らめる。
鳥類のクセに色気づいてんじゃねーぞ家畜が。羽毛で覆われてんのにどうやって頬染めてんだお前。

「ゴールデンフィンガー、『アスファルト』と『タイヤ』をくっつけろ!」

ガチョウの羽撃きが黄金の鱗粉を産み、俺の手から唐空の肩を伝って金の輝きが腕の先へ伝播する。
唐空の手を通してブレーキレバーへ、ブレーキ機構からタイヤへ、タイヤからアスファルトへ伝っていき、

『発ッ動ォー!』

タイヤとアスファルトが接合した。
281 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2013/01/21(月) 21:28:33.25 0
一瞬、車が停車したかと思うと今度はアスファルトが地盤からべりっと剥がれて車は再び滑りだす。
剥がれたアスファルトと路上のアスファルトを更に『くっつけ』、剥がれては更にくっつける!
ばきばきべりべり、車体の下から破砕と圧着の音を立てながら、プロボックスは小刻みに何度も揺れる。
やがて――古ビルに激突する一歩手前で、いつの間にかドリフトしていた我が車は停止した。
振り返れば、道路には散らばったアンパンと、ブレーキ痕なんてもんじゃない凄まじいわだちがくっきりと深堀りされていた。
あれ修復すんのにいくら税金必要なんだろう。ともあれ、

「た、たすかった……!」

俺はハンドルに額を押し付けた。
死に親の助言がなかったら、唐空がレバーを引いてくれなかったら、マジで重大な事故になるところだった。
アンパンがクッションになるとしても、あの速度での事故の衝撃はとてもじゃないが生易しいもんじゃないからな。

ぐったりと脱力した俺の頭上に、新しく生成されたアンパンが落ちてきて、軽く跳ねた。


とりあえず足元に溜まったアンパンを掻き出して、俺はアクセルから足を離した。
同時にブレーキも踏んで、エンジンの回転を抑えこんでから、キーを捻って停止させる。
ボンネットがわずかに黒煙を上げていた。おそらく、内燃系統にそうとうな負担がかかっていたんだろう。
よく見たら助手席側のドアがなくなっている。何したんだ唐空の奴。

「俺の三十万が……」

命あっての物種とはいえ、これじゃしばらくプロボックスちゃんはメンテ屋に入院だろう。
BOOKS能力でレストアするにしたって、パーツの取り寄せとか時間かかるだろうしな。
公共交通機関がろくに整備されてない隔離都市で、アシの不在はなんとも不便なことだった。

「ここから先は、自分の足で探して回るしかないか、針鼠を。
 ああ死に親、流石にそこまで付き合ってもらうのは悪いな。送ってやれなくてすまないが、ここで解散にするか――」

言いかけながら死に親の方を振り向いた、その先。
針鼠と眼が合った。

俺はガスマスクのレンズを指で拭って、曇がないことを確かめる。
ちょうど俺達が激突しそうになって、その鼻先に停車した、古ビル。
そこから当たり前のように出てきた男は――服装こそ若干異なるが――針鼠その人だった。
俺達は、ときおり思い出したようにアンパンが降ってくる車の窓越しに、不意の再開を果たした。
……まあ俺は直接会ったことはないので、向こうからしてみればはじめましてなんだろうけれど。

「唐空君、静かに車を出て、アンパンの山の影に隠れていてくれ。
 俺は今から針鼠に接触する。交渉が決裂して、奴が俺に攻撃しそうになったら、飛び出して迎撃を頼む」

幸か不幸か、助手席はドアが吹っ飛んでいるので、音もなく脱出することができるはずだ。
それから、と俺は金のガチョウを死に親に抱かせた。盾代わりにはなるだろう。

「死に親、こんなところまで巻き込んでしまってすまない。だが奴の目の前を横切って逃げるのは危険だ。
 できればこのまま車内で待機していて欲しい。もしも俺が奴に刺されたら――その時は、治療を頼めないか。
 あんたは前に、唐空君に『もう目的のものが得られないから治せない』と言ったな。
 俺が"それ"をあんたに提供できるかどうかは分からないが……まあ、駄目ならそれでも良い。恨みはしないさ」

死に親は、能力の対価に金銭を要求しない。
もっと別の、なにか特別な理由を求めて動いている……と思う。推測だが。
そして唐空は、それを提供する術を失った――あるいは死に親自身が唐空にその価値を見出だせなくなった。
それは『良い事すると気持ちがいいから』というボランティア精神なのかもしれないし、
あるいは宗教的に、強迫的に、誰かの役に立っていないと自分を表現できない類の病的献身なのかもしれない。

金で動かない人間ってのはそれはそれで厄介だ――しかし、付き合って面白いのはそういう人間なんだろう。
童話異能力、BOOKSとは、十把一絡げにできない強烈な個性の体現で。
そこには確かな物語があるのだから。
282 : 鳥島抜作 ◇aaNgcZ2CEo[sage] : 2013/01/21(月) 21:29:03.83 0
俺は運転席のドアを開けて、唐空の脱出を隠せるよう大げさな動作で車から飛び降りた。
靴の中まで詰まった餡を篩い落としながら、スーツの襟を正し、ネクタイを締め直した。

「お初にお目にかかる。君はBOOKS濫用犯の『針鼠』君で間違いないかな?
 俺は『鳥島』。ガスマスクの鳥島。二週間ほど前にこの隔離都市に放り込まれた、就活生だ」

言いながら、針鼠の様子を確認する。こういうとき、目線のバレないガスマスクは便利だ。
あしなが園では決して浅くない傷を負っていたはずの針鼠だが、見た限りでは既に治癒を完了しているようだった。
やはり、『スノーホワイト』のBOOKS治療を受けたのだ。概ね、死に親の読み通りだった。

「先のあしなが園で、君が女子中学生とマジ喧嘩してる時に、茶々を入れた男がいただろう。
 あれの仲間が俺だ。彼もここに来ているので、俺とことを構えることはおすすめしない」

言いながら、俺は両腕を挙げて敵意がないことを示した。

「とは言え、俺は君と一触即発するために来ているわけじゃあないんだ。
 あしなが園の時に俺の連れが言ったろうが、改めて説明するとだな――針鼠、君は色々とやりすぎた。
 今や君はこの街のあらゆる能力者、そして司法からおそれられ、同時に敵視されている。
 あしなが園で、妙に警察の包囲が早かったと思わないか?
 君と相性の悪い能力者ばかりがあそこに集い、アウトローも一般市民も一緒くたになって君を取り囲んだ。
 隔離都市は、針鼠を『共通の敵』として設定することで、あらゆる暴力のはけ口を君に求めているんだ。
 スケープゴートにされているんだよ、針鼠、君は――この街のみんなが団結するための、いじめの標的だ」

閉鎖的な環境では、特定の個体を皆で攻撃することで全体の統率を図る心理的な動きがあるそうだ。
平たく言うと学校でのいじめなんかがそれにあたる。
もっと平たく言うなら、ドラクエ世界ではモンスターがいるから、人間同士の争いが起こらない。

そこへ行くと針鼠なんか適任だろう。
明確に暴力行為という"悪いこと"をしているし、見た目からしてなんとも悪そうだし、口も悪いし、
――なにより一人だ。みんなで力を合わせればいびり殺せないこともない、格好の標的だ。

「これからずっと、この街で君は追われ続けることになる。死ぬまで、ずっと石を投げられ続ける。
 たとえ君がどんなに強く、向かってくるもの全て返り討ちにする自信があっても、いずれ必ず追い詰められる。
 そうなる前に――俺と手を組まないか」

俺は両腕を降ろし、針鼠に向かって差し出した。

「この街が君を『共通の敵』認定したように――俺と君にも、『共通の敵』がいる。
 この隔離都市の全てだ。俺は、俺の仲間たちと、この街をひっくり返してそこで王になる。
 針鼠、君の実力は俺の目的の為に有用で、そして君は俺を利用して隔離都市を相手取れる。
 お互いに損のない協定だと思うが――どうだ、この手を取ってみないか?」
283 : ◆RPQQNb.TcM [sage] : 2013/01/28(月) 00:06:43.87 0
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BOOKS~童話系異能者TRPG~Ⅱ
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