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BOOKS〜童話系異能者TRPG〜U

1 :◇zWiwPLU/1Y:2013/01/23(水) 21:49:15.19 0
ジャンル:現代異能者物
コンセプト:童話をモチーフにした異能を持つ能力者達が事件を解決したり
      悪の能力者と戦ったりする。
目安:特に無し(シナリオによって変化)
最低参加人数:3人
GM:無し?(立候補制)
決定リール:あり
○日ルール:4日
版権・越境:越境は無し、版権キャラとしての参加はNG
敵役参加:大いに歓迎
避難所:http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1334881317/

2 :名無しになりきれ:2013/01/23(水) 21:53:14.91 0
↑は前スレでした

避難所はこちら
http://yy44.60.kg/test/read.cgi/figtree/1334883037/l50

3 :勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM :2013/01/28(月) 00:04:57.77 0
布団にもぐっていた私は目を疑った。
灰田硝子、と名乗ったお姉さん。布団で視界をさえぎられていた私に姿は見えなかったわけだが。
何故か唐突に姿が見えた。
というか、彼女も布団の中にもぐってきていた。
一つの布団に二人の人影。
そこからどういう事に発展するのか、耳学問しかしていない私でも分かる。

「え、えええええっ!?」

慌てて反射行動を起こすも、逃れる暇もない。そもそも私は運動が苦手だ。
かろうじて布団から頭を出せた辺りで、見事に抱き寄せられてしまった。
ああ、さようなら私の純情……。

遠い目になりかけたあたりで、なにやら周囲の空気が変わっていることに気がついた。
そういえば、視界をこれでもかと埋めていたアンパンが消えている。
そして、なにやら気まずい雰囲気を漂わせつつ叫ぶ琴里。

>「――わ、悪気は…悪気は無かったんですぅううッ!!」

突然の自白。
いや、その……。
その叫びに答えてか、場をまとめようとする店長。

「……」

私は、摺り寄せられてくる灰田硝子の頬を全力で押し返しつつ、もう片方の手で挙手した。

「……求む、説明。とりあえず状況全部」

4 :勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM :2013/01/28(月) 00:05:34.88 0
「……あの量だと、アンパンの道と言うより、埋まってるんじゃない?」

移動しながら一通りの説明を聞いた私は、そう呟いた。


留守番人員は多すぎるぐらいだったので(鈴村先生他、あしなが園の面々。追加で警察の皆さんも)、私達が出かけることに異論のある者はいなかった。
先生方は私や琴里の無事を心配していたが、そこは店長に責任を押し付けた。

アンパン測位システム(すごいネーミングだ)のアイデア自体は、現状私達にできる追跡方法の中では比較的有効な方であるとは思う。
ただし、それは細心の注意をもって送っていた場合のことで、不慮の事故が起きた場合は別だ。
不慮の事故……例えば、『うっかりアンパンを全部一気に送ってしまいました、てへっ♪』とか。

……笑えない。事実だけに。

「頭を下げるか開き直るかの準備はしておいた方がいいかもしれないわね、特に琴里」


車を持っているメンバーがいなかったので、移動は徒歩だ。
硝子の能力でアンパンの馬車……というのも考えたが、目立ちすぎるので却下した。

そういえば、あの釣り人(仮称)を追っていた河童達の状況を聞けていない。
能力を発動すれば確認はできるだろうが……。
こうなると、意識を失うことが能力発動とセットの私の『河童』の不便さが目立つ。

「うまくいかないわねえ……色々と」

早くも疲労で荒くなり始めた息を整えながら、私はぼやいた。

5 :名無しになりきれ:2013/01/28(月) 22:31:26.24 P
<前スレまでのあらすじ>

隔離都市の、ほんの片隅のアパートを震撼させた『河童』事件から数日後。
つかの間に打った舌鼓の根も乾かぬうちから、街に再び騒乱の火の手が上がる。
炎の名は"針鼠"。残虐にして無双の戦闘系BOOKS能力者が、血と煙の尾を引いて隔離都市を駆け巡る。
一方その頃、河童事件解決後からずっと心の片隅に釈然としない物を抱えていた唐空呑は、
立ち寄った喫茶店でガスマスクを被った謎の男と意気投合する。
ガスマスク男、鳥島から持ちかけられたのは、世間を騒がす犯罪者針鼠の"保護"だった・・・

6 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/01/29(火) 23:10:39.12 0
さぁて一体どうしたもんかねェ、これはよぉ。
 目の前にはたった今何かを撒き散らしながらダイナミックな停車を披露してくれた一台のボロ車。
 あまりの突然の事態にどうしていいかわかんねぇ空気が流れる。つかボロ車から大量に溢れ出てるコレぁなんだぁ?
 パン?……ヤマザキさぁん、まだ春は先ですよぉ、そんなに祭りが待ち遠しいからって先走り過ぎだぜぇこりゃぁよぅ。
 って、そんなわけねぇか、宣伝にしたってエキセントリック過ぎらぁなぁ。
 んなおかしな事を考えているとボロ車から大げさに1人のガスマスクを着けた男が出て来る。

>「お初にお目にかかる。君はBOOKS濫用犯の『針鼠』君で間違いないかな?
  俺は『鳥島』。ガスマスクの鳥島。二週間ほど前にこの隔離都市に放り込まれた、就活生だ」

 大げさに出て来たクソガスマスクはこっちの事情お構いなしにご丁寧に挨拶を始める。

>「先のあしなが園で、君が女子中学生とマジ喧嘩してる時に、茶々を入れた男がいただろう。
  あれの仲間が俺だ。彼もここに来ているので、俺とことを構えることはおすすめしない」

 あぁ、話の長ぇクソ説教野郎なぁ。何?強いのアイツ。
 
>「とは言え、俺は君と一触即発するために来ているわけじゃあないんだ。
  あしなが園の時に俺の連れが言ったろうが、改めて説明するとだな――針鼠、君は色々とやりすぎた。
  今や君はこの街のあらゆる能力者、そして司法からおそれられ、同時に敵視されている。
  あしなが園で、妙に警察の包囲が早かったと思わないか?
  君と相性の悪い能力者ばかりがあそこに集い、アウトローも一般市民も一緒くたになって君を取り囲んだ。
  隔離都市は、針鼠を『共通の敵』として設定することで、あらゆる暴力のはけ口を君に求めているんだ。
  スケープゴートにされているんだよ、針鼠、君は――この街のみんなが団結するための、いじめの標的だ」

 いじめ、ねぇ。てかさっきのお祭りにそんな意味あったのかぁ?ま、確かにいつもよりわんわんが集まるのは早かったがねぇ。
 てかコイツも話長ぇなぁ。要はなんなんだよ、てか、わかった。今の時点で大体予想出来た。

>「これからずっと、この街で君は追われ続けることになる。死ぬまで、ずっと石を投げられ続ける。
  たとえ君がどんなに強く、向かってくるもの全て返り討ちにする自信があっても、いずれ必ず追い詰められる。
  そうなる前に――俺と手を組まないか
  この街が君を『共通の敵』認定したように――俺と君にも、『共通の敵』がいる。
  この隔離都市の全てだ。俺は、俺の仲間たちと、この街をひっくり返してそこで王になる。
  針鼠、君の実力は俺の目的の為に有用で、そして君は俺を利用して隔離都市を相手取れる。
  お互いに損のない協定だと思うが――どうだ、この手を取ってみないか?」

7 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/01/29(火) 23:11:16.21 0
 半ば予想通りの話だったなぁ。俺はカリカリと頭を掻く。

「……あー、ま、取りあえずぅ……」

 そう言って、クソガスマスクの握手に応えようと見せかけ、その手を無視し指先をクソガスマスクの顔面に向けた。

「ばぁん!」

 指先から伸びた赤く鋭い針はガスマスクを軽くかすり、音を立てて車に突き刺さる。
 一瞬の沈黙の後、俺は思わす、キシシ、と笑い声を上げた。

「……こうして王様を目指したクソ野郎は死んじまいましたとさぁ」

 未だに表情の読めないクソガスマスクに、俺は口を笑みの形に歪める。
 
「なぁーんて冗談冗談、つかさっきのダイナミックな勧誘のお返しだぁ」

 そう言って俺は指先から伸びた針を引っ込める。

「で、だぁ。テメェあれだな、超弩級の大馬鹿野郎だなぁ。『街をひっくり返して王になる』ぅ?
 キシシシシッ!今時そこら辺のクソ餓鬼だってそんな夢ぇみたいなこたぁ思わねぇし思ったとしても口に出さねぇ。
 それをいい歳した野郎が大真面目に語りやがる!キシシシ!百点満点だなぁ!笑わしてくれるぜぇ!」

 思いきり馬鹿にした口調で言いながら俺はクソガスマスクを値踏みする様な視線で見る。
 ふざけた格好だがぁ、さっきの台詞はマジそのものだなぁ。
 あーこいつぁもしかしてもしかするかぁ。楽しい予感だぁ良い予感だぁ、美味そうな匂いもする。

「……だけどなぁ、俺ぁそういうクソみたいな大馬鹿野郎が大好きだぜぇ。
 まぁ、話が長ぇのは気に入らねぇが。要は俺を利用したいって事だろぉ?だけどよぉ、その意味分かってんのか?
 さっきテメェで言ってけどよぉ、街が俺を敵として認めたって事はだぁ、その俺を利用するお前も敵と見なされちまうぜぇ?」

 ま、このクソガスマスクはそんな事は想定済みだろうがよぉ。
 てかそんな事を考えもせずに俺を利用しに来たんならそれはそれで大したもんだぁ。馬鹿的な意味で。
 
「それを分かってるならぁ、利用されてやる。面白そうだし美味そうな匂いもする。
 ただ、つまんなくなったら見限るぜ俺ぁ。せいぜい飽きさせんなよぉ、クソガスマスク」

8 :名無しになりきれ:2013/02/04(月) 00:20:56.82 0
保守

9 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2013/02/08(金) 23:52:12.70 0
>>275-278,>>3-4
>「ぐぬぬ、もっともな意見である。でもそれは、”大量のアンパンを、全て、一気に、一瞬で運ぶとしたら”ってことでしょ?
時間をおいて、ちっちゃいのを1個ずつ移動させれば、何も問題はないんじゃないかなぁ。
こんなかさばるものを、車みたいに狭くて密閉された空間にぎゅうぎゅう詰めにしたら、そりゃヤバいことになるだろうけどさ。
まさかそんな大惨事が起こるわけないよ、平気だよ!あっはっは!まっさかー!」
「ま、まぁそうですわよね。車の中にアンパンが積み上げられているのに気づかないほど鈍感か、車の中でつい寝てしまったとかでもない限りありませんわよね!
まさか琴里ちゃんが転んだ拍子にあんぱんを全部転送してしまうとかそんな漫画やコントみたいなことあるわけありませんわよね! うふふ!」
「あんぱんを食べられてしまう件ですけど、まぁ少し食べられても余るから大丈夫でしょうね。
…私の親愛なる友人、大食いで食い意地の張ったロリがこちらに来ていなければの話ですけれど…」

10 :名無しになりきれ:2013/02/13(水) 21:49:19.16 P
保守

11 :灰田硝子 ◇8mVJTko00Q:2013/02/14(木) 20:59:52.58 0
> 「あの、灰田さん。よろしければ、先ほどおっしゃっていたように、あなたの能力であしなが園を城塞にしてほしいわ。 
別にせかす訳ではないのだけれど、私としては少しでも早く子供たちを安心にしてあげたくて。」
>「こっちは平気だからさ、そうしてあげてよ、硝子お姉ちゃん」
「それなら既にやっていますわ。…見た目は変化させていないので分かりにくいでしょうけど…。
コックピットまで案内しましょうか? あ、ちなみにこの要塞基地は走行もできるんですの。12時までですけれど」

>「硝子お姉ちゃん!いや、お姉さま、ステイ、ステイだよ!」
降葉ちゃんの布団に走る私を慌てて呼び止める琴里ちゃん。それにしても…
「『泊って』だなんて…琴里ちゃんったら大胆!」
正確にはストップですわ。でもステイだなんて…どうしましょう心の準備が…。とりあえず予定通り降葉ちゃんに…
>「え、えええええっ!?」
「うふふ…そんなに悲鳴を上げなくても大丈夫ですわよ? 私は極めて淑女的な女ですもの。
うふふふふふ…。まぁ、慌てちゃって…可愛い」
私は戸惑う降葉ちゃんを抱きしめます。可愛いですわ…。
しかし安心してくださいませ。私は淑女。降葉ちゃんの貞操を奪うような真似はいたしませんわ

どんがらがっしゃーん

あれ、何でしょう今の何かが崩れたような音…
! 琴里ちゃん!?

見ると、倒れた琴里ちゃん。そして、そこに山積みになっていたはずのアンパンが…ひとつもない
これはもしや? いやいやまさかでしょう
>「琴里ちゃん、大丈夫かー!」
どうやらそのまさかだったみたいですわ。
琴里ちゃんの足がもつれて転び、山積みになったあんぱんを全て送ってしまった。…あれ、ってことは私の台詞って前フリ?
>「えー、こほん。硝子お姉ちゃんの言うことはもっともだ。確かに安全第一。他の人に迷惑がかかることはやっちゃだめだよね。
でもでも!飛行機はこの街には飛んでないし、車なら窓から捨てられるし、自転車なら踏んで転ぶくらいしか危険性はないし…。
そもそも!走って逃げてるという線も十分あるわけで……とまぁ、言い訳はともかく、あたしが言いたいことはですね、」
>「――わ、悪気は…悪気は無かったんですぅううッ!!」
「…まぁ、そういうこともありますわよね。次からは気をつけましょう琴里ちゃん。でもあの量じゃあ車でも窓から捨てきれないし、
自転車で転ぶのも場合によっては大惨事ですわ。ここは無事を祈りましょう」

>「ま、まあ万が一という事があってはいけないからな。
あれだけ送り続ければすでに多少アンパンの道が出来ているはずだ。今すぐ出発しよう。
分かっているとは思うがもしも呑君を攫った連中のアジトを突きとめても絶対突入なんかしては駄目だよ」
「了解ですわ。参りましょうか」

12 :唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y:2013/02/15(金) 20:26:23.92 0
どうやら衝撃で少し気絶してしまったらしい。
僕は鼻いっぱいに広がるアンパンの匂いで目を覚ました。
どうやら、無事に停止できたようだ。
「はぁ…全くどうしてこうなるんだか」
と愚痴を零した瞬間、鳥島が少し焦ったように指示を出す。
僕からは確認出来なかったが、近くに針鼠がいたのだろう。
僕は即座に車から出て、車の背後に隠れた。
とはいえ、針鼠の性格から鑑みて、交渉が決裂する可能性は少ないはずだ。
準備が整ったところで鳥島は針鼠との交渉を始めた。というか就活生だったのか
鳥島はこの街の歪んだ構図を説明し、そして、自身の目的…この歪みを破壊し、この街の王になる旨を話す。
「…革命か」
僕はそう呟く
そもそも、この街がここまで混沌としているのは…大きな組織が存在しないからだと思う。
悪であれ、善であれ、そういう組織の存在が秩序が保持に必要だ。
僕はその為の善の組織を作ろうとした…鳥島は、その逆を行こうとしているのだろう。
…利用しよう。
僕が中心となって善の組織を作るのではなく、あえて対局の組織に身を置き善の組織を育てよう。
鳥島の組織が驚異として見られたなら、その時は、外の政府もそれなりに対抗組織を作らざるおえない。
そうやって、力のバランスが取れるようになれば、この街も前よりもマシになるかもしれない。
仮にもし、鳥島が暴走してテロ紛いのことを始めようとしたなら、僕から情報をリークすることだって可能だ。

そんな考えを知ってか知らずか、針鼠は鳥島の提案に乗った。
「あのーもう出てきてもいいですか」

13 :佐川琴里 ◇Xc4K14NVriOj:2013/02/17(日) 23:39:09.61 0
<動く鉄壁要塞アシナガ>から飛び出た探偵団のファーストミッションは聞き込み調査だ!
ここらへんをアンパン散布車が通りませんでしたかと聞くだけで、住民達は向かった方角どころか、その車の特徴やナンバーまで教えてくれた。よほどインパクトが大きかったようだ。
「はた迷惑だけど、面白い見世物だったよ」「今度やる時はパンを包装してほしいな」「食べ物を粗末にするなバカモン」
等さまざまなご意見、お叱りも頂きつつ、探偵団はターゲットを確実にとらえつつある。
アンパン測位システムは大成功だった、ここまでは。?

探偵団がてくてく歩みを進めるにつれ、あんぱんの数もうじゃうじゃ増えていく。
タイヤ痕は奇妙な曲線を描き、車の下敷きとなったあんぱんが餡を吐いて累々と転がっている。?
>「頭を下げるか開き直るかの準備はしておいた方がいいかもしれないわね、特に琴里」
「あ、あはは、ここで開き直ったらブチ殺されるでしょ…あたしだってそこまで空気読めない訳じゃないよ」
謎のガスマスクから毒ガスをたっぷり噴霧された後、唐空青年から燃える拳骨を食らう未来も、下手をすればありうる。
もし例のアンパン車に詩乃守先生も乗っていたらタダじゃすまない。
手術台に手足を括り付けられ、麻酔なしで切り刻まれ――?
「やめてぇええ、まだ10年も生きてないんです!お願いです、命だけは!!」
?
半狂乱の琴里を現実に引き戻したのは、背後からのクラクションだった。
ぷ、ぷー。道路のど真ん中でヘッドバンキングする琴里に向かって、車がもう一度警笛をならした。
そりゃ邪魔だ。琴里は我に返って横に跳びすさる。それで車は通り過ぎるかと思いきや、なぜか数メートル前進しただけで、すぐまた停車した。
「な、なんなのさ、いったい。」マイナス思考気味の脳は、また負の方向へ転がる。?

(も、もしかしてあれに乗りたるは、ヤのつく仕事のオジサンなんじゃないか…?)
(ま、まさか運転の邪魔した小学生に礼儀の一つでもおしえたろうやないか!?)
なんだか文法さえおぼつかなくなってきた。?

運転席の窓がゆっくりスライドする。

14 :佐川琴里 ◇Xc4K14NVriOj:2013/02/17(日) 23:41:43.70 0
「みなさんヒドいですよ、ボクを置いて出てっちゃうなんて!」
予期に反して、現れたのは安半少年のむくれっつらだった。
「スミマセンでしたぁあっ チャカもドスも勘弁してくださ……て、あれ?なんだアンパン兄さんじゃないか。」
「なんだとはなんだい!…まったく、車相手に徒歩で追跡なんて、どだい無理な話です。
そんなじゃいつまでたってもおいつきませんよ。早く乗ってください!」

全員が搭乗したことを確認すると、安半少年は慣れた手つきでブレーキレバーを解放した。
エンジンのふかす音がしたと思った瞬間、一気に頭がのけぞる。
「よし、一気に距離を詰めますよー!ちゃんと捕まっててくださぁいっ」
安半君は鮮やかで確実なハンドルさばきを保ちつつ、まず硝子に向かって謝罪をした。
この車の本来の持ち主はどうやら彼女らしい。
仲間外れの安半少年は探偵団に追いつきたくてしょうがなく、また緊急事態であることもあいまって、
常日ごろの控えめな態度を覆すような思い切った行動に出たのだ。
ここで『安半君、運転免許取得しているの?』なんて問いは野暮である。
探偵団は素晴らしい足を得た。今はその事実だけを受け取ろう。

  それにしても早い。早すぎる。遠のく景色が目で追いきれない。
後部座席から速度メーターを見ると、針は最速目盛をゆうに振り切っていた。
「アンパン兄さん、ちょっとスピード出しすぎゃッ!」
安全運転を促そうと口を挟んだ琴里は、思い切り舌を噛んでしまう。
車内が大きく揺れ、その直後に急ブレーキが掛かったからだ。
非難がましく運転席を睨むが無視された。安半君は驚愕に両目を血走らせ、前方を凝視している。

「な、なんです、これは…!これ程までの力…見たことがありません!」
彼に習い、琴里も前を確認する。
道路の白線に並行するタイヤ痕。アスファルトに刻まれているなんて生易しい表現ではすまされない。
その軌跡は地面自体を荒々しく抉り取って、それでもまだ執拗に続いていた。
先ほどの衝撃は、その二つのくぼみに両車輪がはまり込んだ時のものだった。?
この場に尋常ではない力が及ぼされたという証拠を、目の前に突きつけられている。
そんな得体のしれない相手と、探偵団はこれから対峙しなければならない。
しかしもう引くことはならないし、そのつもりもない。
少し前の、ギャグな雰囲気とはうってかわり、琴里の顔は引き締まっていた。

傷痕の延長線上、一台の故障車がとぼけた角度で止まっている。
予想を裏切らずアンパンに埋もれた車の、そのすぐ近くで、二人の男が話し込んでいた。
よほど熱中しているのか、琴里達の登場に気づいていないようだった。

15 :名無しになりきれ:2013/02/21(木) 23:14:58.36 P
保守

16 :ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo:2013/02/23(土) 22:35:25.03 0
俺の勧誘に、"針鼠"は手を差し出すことで応える。
それは握手の応じであり、この命懸けの誘いが成立したものに思えたが……
俺は、奴の口端がそれこそ三日月みたいに釣り上がるのを見逃さなかった。
――見逃さなかったからと言って、何ができたというわけでもないが。
そしてそれは確かに起こった。
俺がただならぬ気配を察して身構えるより速く、針鼠のBOOKSが発動する!

「ひいっ……!?」

思わず漏れた悲鳴染みた声は、ガスマスクの中で止まって外には聞こえない。
悲鳴を挙げてしまうような出来事が起きた。針鼠の指先からぐんと伸びたのは『紅い針』。
それは柱の男の血管針攻撃みたく宙に鮮やかな赤のラインを描く。切っ先が、プロボックスに突き刺さる。
実体を伴う軌跡は、俺の頸動脈から皮一枚――ガスマスク一枚分逸れて擦過していた。
その間、実にコンマ1秒!恐るべきはその"伸び"の速さであり、弾丸顔負けの速度で『槍』は完成していた。

「っふ……血の気の多いことは結構だが、その手の虚仮威しは相手を見て使うんだな。
 冗談で済ませるのは一度きりだ、二度目はないぞ」

俺はさも気にしてませんって風に大仰に肩をすくめながら、するすると針をしまう針鼠に釘を刺した。
ガスマスクをしていて良かった、と心の底からそう思う。
心臓はさっきから気でも狂ったようにバクバク言ってるし、きっと顔面は冷や汗で滝のようだろうから。
いやマジで、殺られなくて良かった――!
針鼠はなんか独り合点して俺のことを高く評価してくれているようだし、ここは全力で乗っかっておこう。
ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。

「決まりだな。針鼠、今日から君は俺の同志――俺の立ち上げる組織の一員だ。
 俺達は、武力・暴力並びにそれに連なるあらゆる力を動員して、この隔離都市の覇権を獲る!」

組織を作る。となれば近日中に団体名を考えておく必要があるな。
いつまでも『鳥島さんとマジで愉快な仲間たち』じゃあ座りが悪い。
この俺が名付け親(ゴッドファーザー)になってやろうッ!

「ああ唐空君、もう出てきて良いぞ。改めて紹介しようじゃあないか。
 針鼠、彼とはもうあしなが園で遭っているな?彼は唐空呑君、君と同じく戦闘系BOOKS能力者だ。
 唐空君も、遺恨はあるだろうが努めて仲良くしてくれよ。まあ特別親睦を深めたい事情があるわけでもないがな。
 ……うん、やっぱお前ら仲良くしなくて良いわ、いがみ合って、削り合って、磨き合ってくれれば良い」

切磋琢磨というか、いっそ殺伐としている方が革命結社らしいものな。
慣れ合いを始めた組織に未来などないと言うのが、大学でサークルを運営してきた俺の自論だ。

「死に親、狭いところに閉じ込めてすまなかったな。さあ、歩きで悪いが大通りまで送ろう。
 唐空君、針鼠、その道すがらで第一回目の作戦会議を行おう。今後の方針の決定だ」

俺は手帳を取り出し、レストア専門のBOOKS能力者に電話をかける。
プロボックスの回収と修理を頼むためだ。
幸いにもまだ走行自体は可能なので、レッカーを使わなくて済むのは気が楽だ。
いつの間にかアンパンの雨が止んでいた。電話の奥のコール音を聞きながら、"アンパンあがり"の空を見上げる。

「俺だ。 "小人の靴屋"か?先日おたくで買ったプロボックスだけどな、
 アンパンまみれになってドア吹っ飛んで全体的にボコボコになったので、修理を依頼したいんだが」

電話の向こうでいくつもの「?」が浮かぶ気配がした。
俺だってこの街が能力者の掃き溜めでなけりゃ、目の前の現実を受け入れられなかったろうから無理はない。
詳しい場所を電話口で申し上げていると、街の彼方から車のブレーキ音が聞こえてきた。
ピカピカに磨き上げられた、品の良いセダン車が、俺のつけた轍にハンドルをとられて停車したのだ。

「あいつは――あしなが園の時の!」

17 :ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo:2013/02/23(土) 22:36:03.75 0
運転席に座る、人の好さそうな若い男に見覚えがあった。
先のあしなが園で、女子中学生・美少女と一緒に浮いていた男だ。
俺は奴を"河童使い"だと思っていたが、唐空の話によると別人らしかった。
じゃああいつは一体何の能力者なんだ?いや、そんなことはどうだって良い。問題は、

「馬鹿な、どうやって俺達の居場所を割り出したって言うんだ……!?」

あの男がここへ来たということは、あしなが園から俺達を追ってきたということだろう。
完璧に振り切れたはずだった。
唐空の石礫によって追手を封殺し、現に今この時まで見つからずにいられた。
パチンコ屋、サイゼリヤと、いくらでも追いつけるタイミングがあったにも関わらずだ。

「単純に追いかけてきたわけじゃないはずだ……一度見失ってから、何らかの手段で俺達を捕捉した。
 今度こそ、あの運転席の男の能力か――まさかこの大量のアンパンも奴の仕業か!?」

何故大量のアンパンなのかはわからんが、指定空間に物体を大量発生させるBOOKS攻撃だとすれば説明がつく。
逃げ切ったつもりが実は捕捉されていて、逃げ場のない車内に入った途端に攻撃を受けたのだとしたら。

「なんという悪魔的発想……!針鼠、唐空君、油断するな。
 敵は最も効率的な手段で俺達を殺りに来ている――!」

俺はガスマスクの表面を掌で抑えた。
震えを止めるように――これから俺が戦っていかねばならない戦場で、ビビらず仲間たちと並べるように!

「針鼠!手段は問わない、あの車を強奪してくれ。走れる状態でな。
 唐空君は俺と来い、ここで奴らを叩く、決着をつけるぞ――!」

俺はプロボックスの後部ドアを開いた。

「死に親、重ね重ねすまんが、針鼠が敵を食い止めてくれているうちに逃げてくれ。
 表通りに行けばタクシーを捕まえられる。かかった経費は後で俺に申告してくれれば言い値で払う!」

俺は就活用に作っておいた名刺(面接スマイルの顔写真付き)の裏にアパートの住所を走り書きして死に親に押し付けた。

「土壇場でこんなこと言うのも憚れるが――俺はアンタとまた会えたら嬉しいと思っている。
 次は仕事の話抜きで、コンビニおつまみでも挟みながら話そう」

俺は振り向き、アンパンの山の向こうに停車しているセダンを見た。
運転席の男の他に、何人かの人影が見える――日差しの眩しさと砂埃で、具体的な人数は分からない。
だが、俺の知っている顔は運転席の男だけだった。

「そういえば唐空君、あしなが園では何やら連中と既知の間柄のようだったな。
 教えてくれ、こいつらは一体なんなんだ?ただの仲良しグループってわけじゃああるまい」

俺は唐空を伴って、アンパンの山を飛び越えた。
針鼠の行動がうまく行くように、注意を引くような大仰な動作だ。
そして親指立ててこちらに引くジェスチュアを行った。

「表へ出ろ。大人の話をしようぜ……!」

18 :橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc :2013/02/24(日) 23:52:17.02 0
ちょっとした(?)事故があったものの、アンパン測位システム自体は大成功。
しかし問題が一つ残っていた。

>「頭を下げるか開き直るかの準備はしておいた方がいいかもしれないわね、特に琴里」
>「あ、あはは、ここで開き直ったらブチ殺されるでしょ…あたしだってそこまで空気読めない訳じゃないよ」
>「やめてぇええ、まだ10年も生きてないんです!お願いです、命だけは!!」

「いや、場合によっては”開き直る”覚悟だけはしておいた方がいいかもしれないぞ。
こちらはすぐさま敵対するつもりはなくとも相手はそうとは限らない。
もっとももしもそうなったらすぐに逃げることだ」

そこに、車に乗った安半君が登場する。

>「みなさんヒドいですよ、ボクを置いて出てっちゃうなんて!」

「いやはや、済まない。見ればアンパン作りに夢中になっていたものでつい……うお!?」

>「よし、一気に距離を詰めますよー!ちゃんと捕まっててくださぁいっ」

ジェットコースターのような急発進。その上、よく考えると運転免許を持っているのか微妙な所である。
しかし、私が運転を代わろう――と言う事は残念ながら出来なかった。
私は見た目に違わず運動神経がいい方ではない。
車の運転ははっきり言って絶望的に下手で完璧にペーパードライバーと化しているのである。
そのような人間が運転を代わっては却って皆を危険にさらす事になる。
つまり、大人しく乗っておく他ないのだが……それにしてもスピードを出し過ぎではないか?
琴里ちゃんも同じことを思ったようだ。

>「アンパン兄さん、ちょっとスピード出しすぎゃッ!」

琴里ちゃんが言い終わらないうちに、今度は急停車。

>「な、なんです、これは…!これ程までの力…見たことがありません!」

前方の道路には、えぐり取られたようなタイヤ痕が刻まれていた。
その先には、なんと、というべきか予想通りというべきかアンパンまみれの故障者が停まっているのであった。
車の近くで会話している二人の男は、見紛うべくもなく怪奇ガスマスク男と……針鼠だ!
おそらく、針鼠を自分の組織に勧誘しているのだろう。
呑君を連れ戻すためとはいえ、何の策も無しに行くのは危険すぎる! 幸い相手はまだこちらに気付いていない。

19 :橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc :2013/02/24(日) 23:53:43.28 0
「安半君、バックできるか? 気付かれない場所からこっそり観察しよう」

>「あいつは――あしなが園の時の!」

「何っ、気付かれた……だと!?」

といってもこれだけ堂々と登場すれば普通に考えれば気付かれて当然である。
ガスマスク男が故障車の扉を開けると、中から呑君が出て来たではないか。
そして彼は呑君を伴い、誘うような動作をする。

>「表へ出ろ。大人の話をしようぜ……!」

すぐにでも出て行こうとする皆に、留まるように言い聞かせる。

「”大人の話”を御所望みたいだ。私が行くから君達はここで待っておいてくれ。
硝子嬢、念のために君の能力でこの車を鉄壁要塞にしておくんだ……!
安半君、もしもの時は私の事を気にせず逃げてくれ! 私は大丈夫だから、な」

それだけ言い残し、車を降りた。
言葉面だけ見れば、いかにも自己犠牲の精神に溢れる人が死亡フラグを立てたようだが、そうではなく言葉通りの意味だ。
飛行系能力が最も威力を発揮するのは――ぶっちゃけ逃走の時だ。もしも危なくなっても私一人なら逃げられる。
それに先に皆が逃げておいてくれたら、おっさんが美少女に変身する現場を目撃されずに済むからな。

「私は玩具屋の店主をしている橘川鐘という者だ、そうだな……呑君の知り合い、とでも言っておこうか。
アンパンが大量に送られてしまいすまなかった。ただ追跡するだけのつもりだったのだが……ちょっとした事故があってな。
単刀直入に聞くが目的は何だ? 針鼠がどんな奴かは知っているだろう? そんな危険な奴まで取り込んで何を企んでいる?」

そして、彼の隣にいる呑君の方に向き直る。

「呑君、考え直すんだ。君はその男の素顔すら知らないんじゃないのか? いくらなんでも危険すぎる」

呑君は正義感溢れる少年だ。彼には彼なりの考えがあるのかもしれない。
しかし彼が持つ能力は、純然たる攻撃特化能力。それは剥き出しの攻撃性を胸の内に秘めている、という事を意味する。
針鼠を取り込むような組織に身を置いて、力に呑みこまれてしまいやしないか――そればかりが気がかりだった。

20 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/02/28(木) 19:08:58.52 0
 右足を少し上げると踵から長く赤い針が飛び出す。
 調節ぅ、太さよりも長さを優先、尚且つ俺を支えられる頑強さをプラスすると、こんなもんか?
 それはまるで腕を使わない棒高跳びの様に、俺の身体は宙を舞う。
 着地先は……言わずもがなパン祭りを開催してない車の上だぁ。
 車上に着地した衝撃で身体全体に痛みが走るが、まあいい、問題ねぇ。
 俺は痛みを誤魔化すように口に笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

「ノックノック、ハロー、こんにちはぁ。突然申し訳ねぇんだけどよぉ、この車譲ってくんねぇかなぁ?」

 ガンガンと威嚇するように右の踵で車の天井を踏みつけながら俺は車中の人間に言う。

「嫌なら嫌って言ってくれた方がやり易ぃんだけど、あー、そうだなぁ10秒間やるわ。
 その間に譲ってくれるなら出て来てくれると有難いんだけどぉ……じゃカウント開始ぃ」

 ま、俺はどっちでもいいんだけどなぁ。
 言いながら右の踵に力を集中させる。成人男性腕一本分ぐらいの太さはあろうか深紅の針が踵から伸びていた。
 長さはぁ、そうだなぁ……ちょうど真下の人間の頭部を貫けるくらいかぁ?
 左足を軸に、ゆっくりと右足を持ち上げる。このまま一直線に踏み下ろせば運転席の人間は串刺しだぁ。

「1ぃ、2ぃ、……あーダメだ、メンドくせぇ」

 そしてカウントを始めるが僅か3秒も経たねぇうちに面倒になる。
 てか走れりゃいい、っつてたもんなぁ、じゃ運転席が血塗れでもOKかぁ。

「つか、我ながらまどろっこしいぜ。手段は問わねぇんならいいや。んじゃそう言うわけで中の人さようならぁ」

 そうして右足を真下に勢いよく振り落す。
 車の薄い装甲を軽く突き抜け、その針は運転手の頭から頭蓋を砕き肉体を縦断し串刺しにする、筈だった。

21 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/02/28(木) 19:09:54.74 0
「あぁん?刺さってねぇ?」

 針は鋭い音を響かせはしたが、先端に少し刺さって程度でその動きを止めている。
 力を込めても突き進んでいかねぇ……、てことわぁ、なるほど、強化されてんなこの車。
 ったく、普段より半分以下の力しか出せねぇとはいえ、貫けねぇとはなぁ……。
 どんな本の能力かしらねぇけど、中々良い能力だぁ。
 俺は針を引っ込めると天井からボンネットに降り、車内を覗き込む。

「誰の能力しらねぇけどさぁ、良い能力じゃねぇ?物質強化、とかそんな所かぁ?」

 言いながら蹴る様にフロントガラスに右足を乗せる。

「でもよぉ、鉄ならともかくガラスならどうだぁ?」

 元々、車のフロントガラスは凄ぇ割れやすいらしい。てか粉々に砕けやすい。
 なんでも事故った時に運転手へのガラスの破片の怪我を防ぐためとかなんとかぁ?
 ま、細かい事なんてしったこっちゃねぇ。
 だがぁ、物質強化でそこまで砕けやすいガラスがどこまで硬くなってんのかねぇ?
 運転手の見知った、てか穴だらけにした筈の奴に狙いを定め、再び右足を大きく上げる。
 針の調節だぁ、硬さは最大限にぃ、太さはさっき程ぉ、長さは運転手を串刺しに出来りゃあいい。

「一点集中。次は貫くぜぇ、グサッとなぁ。嫌なら降りなぁ、さっきので解ったろぉ?気長に待ってやるほど我慢強くはねぇんだからよぉ」

22 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/02/28(木) 19:12:12.56 0
>「あのーもう出てきてもいいですか」
>「ああ唐空君、もう出てきて良いぞ。改めて紹介しようじゃあないか。
  針鼠、彼とはもうあしなが園で遭っているな?彼は唐空呑君、君と同じく戦闘系BOOKS能力者だ。
  唐空君も、遺恨はあるだろうが努めて仲良くしてくれよ。まあ特別親睦を深めたい事情があるわけでもないがな。
  ……うん、やっぱお前ら仲良くしなくて良いわ、いがみ合って、削り合って、磨き合ってくれれば良い」
>「死に親、狭いところに閉じ込めてすまなかったな。さあ、歩きで悪いが大通りまで送ろう。
  唐空君、針鼠、その道すがらで第一回目の作戦会議を行おう。今後の方針の決定だ」

 そう言って車から降りてきたのは計3人、うち1人はどうやらメンバーではねぇらしい。
 って、おいおい、実質今のとこ俺含めてメンバー3人だけかよ……これでよくまぁ『王になる』なんぞ言ったもんだなぁ。
 やっぱり超弩級の馬鹿の考えは面白ぇ。ま、あとは口だけじゃねぇってとこ見せてもらうしかねぇなぁ。
 と、その時、車の急ブレーキ音が辺りに響き渡った。
 なんだぁ?もう先走りのパン祭りは十分だっての……て、アイツぁ確か……。

>「あいつは――あしなが園の時の!」

 あー、そうそう、アレだ。顔中穴だらけの男前にしてやった奴だ。

「しぶてぇなぁ……殺さなきゃ幾らでも復活するってかぁ?遊び道具としちゃ合格だけどなぁ。
 いい加減しつこい奴ってうぜぇんだよなぁ。俺が言えた義理じゃねぇけどさぁ」

 ガリガリと頭を掻きながら俺はぼそりと一人愚痴る。

23 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/02/28(木) 19:13:16.08 0
>「なんという悪魔的発想……!針鼠、唐空君、油断するな。
  敵は最も効率的な手段で俺達を殺りに来ている――!」

「殺られそうになってんのはテメェらだけだろぅが、一緒にすんじゃねぇっつの」

 そもそも、パン祭りに俺は巻き込まれちゃいない。巻き込まれたのはクソガスマスク筆頭のコイツ等だけだ。
 その暴走した車で俺をひき殺そうとしたところまで計算されてんなら別だけどなぁ。

「お前らも大概恨み買ってんのなぁ、人の事言えねぇだろぉよ」

>「針鼠!手段は問わない、あの車を強奪してくれ。走れる状態でな。
  唐空君は俺と来い、ここで奴らを叩く、決着をつけるぞ――!」

「……おいおい、最初のお仕事が車泥棒かよぉ。王になる奴のするこっちゃないぜぇ
 まぁ、いっか。『走れりゃ』いいんだなぁ、了解だクソガスマスク。まったく千里の道も何とやらぁ、かぁ?」

 俺はタイミングを見計らい足に力を込める。俺の口は笑みの形に歪んでいた。

「一点集中ぅ!」

24 :名無しになりきれ:2013/02/28(木) 22:33:28.05 0
投下順序修正 >>22>>23>>20>>21
〜避難所464〜

25 :名無しになりきれ:2013/03/08(金) 13:48:55.94 0
保守

26 :名無しになりきれ:2013/03/13(水) 23:27:31.08 P
保守

27 :灰田 硝石◇8mVJTko00Q:2013/03/15(金) 11:30:17.63 0
>「頭を下げるか開き直るかの準備はしておいた方がいいかもしれないわね、特に琴里」
>「あ、あはは、ここで開き直ったらブチ殺されるでしょ…あたしだってそこまで空気読めない訳じゃないよ」
>「やめてぇええ、まだ10年も生きてないんです!お願いです、命だけは!!」
「うふふ、まぁもし琴里ちゃんが殺されそうになったら私が助けてあげますわ」
それはもう命に代えても、ですわ。ええ。
まぁそんな風に琴里ちゃんが道路の真ん中で喚いていると、クラクションが鳴り響いた――当たり前ですわ
>「な、なんなのさ、いったい。」
あ、どうやら琴里ちゃんがネガティブモードに入ったみたいですわ。
ここは抱きしめておきましょう。あら、反応がありませんわ。とりあえず首筋を舐め…いやいけませんわ抑えて抑えて
あら? というかこれ私の車ではなくて?
>「みなさんヒドいですよ、ボクを置いて出てっちゃうなんて!」
>「なんだとはなんだい!…まったく、車相手に徒歩で追跡なんて、どだい無理な話です。
そんなじゃいつまでたってもおいつきませんよ。早く乗ってください!」
「あら、安半さん。どうして私の車が…あ
キーをあしなが園に置いてきたんですのね…我ながら無用心ですわ」
こうして私たちは私の車…ミニカーをシンデレラで変身させた車に乗ったのですわ
「よし、一気に距離を詰めますよー!ちゃんと捕まっててくださぁいっ」
運転しつつ安半さんは私に謝罪しますわ
「いえいえ、気にしないでくださいな。私の私物が皆さまの役に立てたのなら本望ですもの。
それにこの車、かなり頑丈になっていますから…戦場くらいならゆったりとドライブスルーできますわ」
と、安半さんはスピードを上げました。速い、速いですわ。…そういえば安半さん、免許持っているのかしら…
私は持っていますから代わりましょうか…なんて言えるような雰囲気じゃありませんわねこれ
…というか速すぎますわ。うう、気持ち悪い…
>「アンパン兄さん、ちょっとスピード出しすぎゃッ!」
と、急に安半さんは急ブレーキをかけますわ。急でない急ブレーキなんかありませんけど
そしてスピードについて言及しようとした琴里ちゃんはどうやら舌を噛んだようですわ。あとで舐めてあげましょう
>「な、なんです、これは…!これ程までの力…見たことがありません!」
「いったいどうしたんですの…うう」
私は頭を押さえながら前方を確認しますわ。酔い止めの薬も飲んでおきます
見ると、道路には白線に沿って抉り取られたようなタイヤ跡が刻まれていましたわ
「あらあら、これはこれは…」
と、私は一旦下りてそのタイヤ跡を確認してみますわ。…おや? これは……
私はタイヤ跡から黒いものを見つけます。 これはどうやらゴム、ということは…
「溶けたタイヤ、ですわね。このタイヤ跡もまだ暖かいですし、ということはかなりの熱が発生した…?
つまり摩擦熱でしょうかね…? まさか摩擦係数をどうこうする能力なんてことは…いや、摩擦がどうのこうのなんて童話は聞いたことないですわね…」
私は小さく呟きますわ。とりあえず私は車内に戻りましょう…
>「表へ出ろ。大人の話をしようぜ……!」
「くっ、見つかってしまいましたか…」
>「”大人の話”を御所望みたいだ。私が行くから君達はここで待っておいてくれ。
「了解ですわ」
>硝子嬢、念のために君の能力でこの車を鉄壁要塞にしておくんだ……!
「いや、それは…無理ですわ」
それは出来ないのですわ。私のシンデレラは重ねがけ…即ち、一度変身させたものは効果が切れるまで再変身できないのですわ
そしてこの車は私がミニカーを変身させたもの…。ですがご安心ください、鉄壁機動要塞あしなが園程ではないとはいえ…
この車も頑丈な武装車ですわ! そう、戦火を浴びても無事でいられるくらいには! …超攻撃型能力者に狙われたらどうか知りませんが

28 :灰田 硝石◇8mVJTko00Q:2013/03/15(金) 11:30:49.35 0
>「ノックノック、ハロー、こんにちはぁ。突然申し訳ねぇんだけどよぉ、この車譲ってくんねぇかなぁ?」
男が車の天井に乗ってきましたわ。いや、見えませんけれど、振動と声からしてそうなはずですわ
>「嫌なら嫌って言ってくれた方がやり易ぃんだけど、あー、そうだなぁ10秒間やるわ。
 その間に譲ってくれるなら出て来てくれると有難いんだけどぉ……じゃカウント開始ぃ」
「どうしましょ…」
>「1ぃ、2ぃ、……あーダメだ、メンドくせぇ」
(短いですわ! もう少し堪えたらどうなんですの…!?)
まったく、これだから野蛮な男(ヤロー)…もとい殿方は…
>「つか、我ながらまどろっこしいぜ。手段は問わねぇんならいいや。んじゃそう言うわけで中の人さようならぁ」
と、天井に鋭い音が響きますわ。この音は…針?
>「あぁん?刺さってねぇ?」
まぁ、ものすごく頑丈にしてありますからね。…私の遊び心で戦隊ヒーローが乗っていそうな仕様にしておいてよかったですわ
と、男がボンネットに乗り、車内を覗いてきましたわ。ん? 確かこの男、橘川さんに聞いた『針鼠』という人に似ているような…
>「誰の能力しらねぇけどさぁ、良い能力じゃねぇ?物質強化、とかそんな所かぁ?」
どうやら私の能力を『物質強化』だと勘違いしているようですわね。これは使えますわ…
と、フロントガラスに男の足が乗りますわ。ちっ、女性の足ならばともかく、男が私の車を汚しやがって…
>「でもよぉ、鉄ならともかくガラスならどうだぁ?」
…たしかに。勿論ガラスも戦火に耐えられるような頑丈な物質に変えてありますが…この針に耐えられるかどうか
>「一点集中。次は貫くぜぇ、グサッとなぁ。嫌なら降りなぁ、さっきので解ったろぉ?気長に待ってやるほど我慢強くはねぇんだからよぉ」
さて、どうしましょう。どうやらこの男の能力は体に針を出現させるというもので間違いなさそうですが、その針の力はこのフロントガラスを貫けるものか…
あら?
「……」
見ると琴里ちゃんが体を震わせていましたわ。…怖いんですのね。でしたら……
「ひっ」
「ひぃいいいいい! 嫌だ、死にたくないです! たっ助けて! 誰か助けてくださぁい!」
と、私は大げさにうろたえ、泣き叫びますわ
「ゆ、許してください…この車もあげますし、何でもしますからぁ…い、命だけは! 命だけは助けてください!」
…狙い通り、琴里ちゃんは落ち着きを取り戻したようですわ。近くに冷静さを失い叫んでいる人がいると、気持ちが冷静になってくるっていうあれですわ
あとついでに抱きしめておきますがこれはより落ち着かせるためであって別に他意はありませんわ本当ですわ本当ですわ
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないッ!!」
と、大げさに大声で叫ぶ陰で、小声で皆にこう伝えますわ
(皆さん、私さっき外に出てタイヤ跡を確認してみたんですけれど、そのときに向こうの車…アンパンの車から女性の匂いがしたんですの。
今橘川さんと話している男と、そこにいる男、そして車に待機しているであろう女性…少なくとも三人居るようですわ。さて、どうします?
いくら丈夫な車とはいえガラスを蹴破られない保障はありませんし、これ以上の変身はさっきも申したとおり不可能ですわよ
…ま、とはいえこの男をどうにかしないことにはどうしようもありませんわね。逃げるにしろ何にしろ、つまり足止めが必要ですわ。
え? いえ安半さん。貴方はそこで待機していてください。私が行きますわ。うふふ、何言っていますの。こういうときはレディファーストですわよ?)
と、いうわけで私は車の上に上がります
「わかりました。この車は貴方たちにお譲りしても構いませんわ。ただし…『今』ではありません。まっ、それまでお喋りしましょうよ。そのいつかが何時になるかは知りませんけれどねぇ」
ここで私がするべきは、時間稼ぎですわ!

29 :詩乃守 優 ◇/YXR97Y6Ho:2013/03/16(土) 00:23:36.94 0
紆余曲折あり何とか暴走した車は止まり、そしてどういう偶然か探し人を見つけられたらしい。
が、どうやら探し人はどうやら友好的な人物ではなかったようだ。

>「死に親、こんなところまで巻き込んでしまってすまない。だが奴の目の前を横切って逃げるのは危険だ。
  できればこのまま車内で待機していて欲しい。もしも俺が奴に刺されたら――その時は、治療を頼めないか。
  あんたは前に、唐空君に『もう目的のものが得られないから治せない』と言ったな。
  俺が"それ"をあんたに提供できるかどうかは分からないが……まあ、駄目ならそれでも良い。恨みはしないさ」

金色のガチョウを私に抱かせ、そう言ったガスマスクさんからそれは容易に想像できた。
少し強めにガチョウを抱きしめる。暖かく、柔らかく、心地よい。

「・・・・・・ん、ふかふかで気持ちいいですね。ガチョウさんは」

羽毛に顔を埋める。動物特有の野性的な匂いは不思議としなかった。
外の状況がどんな常態かわからないが、この空間は悪くない。

芳しいパンの香り、餡子の甘い香り、ふかふかの羽毛の感触。
まあ、パンと餡子の香りが強過ぎるのが残念だが。

>「死に親、狭いところに閉じ込めてすまなかったな。さあ、歩きで悪いが大通りまで送ろう。
  唐空君、針鼠、その道すがらで第一回目の作戦会議を行おう。今後の方針の決定だ」

どんな状況下も理解できないが、どうやら交渉は成立したようだ。
ガスマスクさんが声をかけてきた。

ぬ、もう少しこの空間に浸っていたかったのに。

「・・・・・・ん、そうですか。少し残念です」

そう呟いた私の声は街の彼方から突如として現れた車のブレーキ音でかき消される。

>「あいつは――あしなが園の時の!」

なにやら慌て出すガスマスクさん。

>「死に親、重ね重ねすまんが、針鼠が敵を食い止めてくれているうちに逃げてくれ。
  表通りに行けばタクシーを捕まえられる。かかった経費は後で俺に申告してくれれば言い値で払う!」

・・・・・・いや、なんで私まで逃げる必要があるのだろうか?
私はあしなが園の人達と敵対した記憶はないのだけれど。
でもまあ、確かにメンドくさい事になるのはなんだか容易に想像できた。

ガスマスクさんはなにやら名刺らしきものに急いで走り書きをすると、それを私に押し付ける。

>「土壇場でこんなこと言うのも憚れるが――俺はアンタとまた会えたら嬉しいと思っている。
  次は仕事の話抜きで、コンビニおつまみでも挟みながら話そう」

そう言うやいなやガスマスクさんは振り向き、あしなが園の面々の乗っているであろう車を睨み付けていた

私は渡された名刺に目を落とす、そこにはガスマスクの下に隠されているのであろうガスマスクさんの笑顔が写っていた。

30 :詩乃守 優 ◇/YXR97Y6Ho:2013/03/16(土) 00:24:08.04 0
・・・・・・なんでガスマスクしてるんだろう?決して悪い顔ではない、むしろ。
いや、今はそんな事どうでもいいことだ。
私は渡された名刺をいつものように、ぐしゃり、と、握り潰し捨てるという行為をせずポケットにしまい込む。
それは私が、彼に多少なりとも興味を覚えたからだ。それがどういう感情なのかはよくわからない。
少なくとも、この不健康で無愛想な私に、コンビニのおつまみを挟みながら話そうと提案するとは。

「・・・・・・ん、少し面白い人みたいですね」

思わずクスリと笑ってしまった。

私は車から降りるとクッション代わりにしていたガチョウを丁寧に地面に置き、体中に付着した餡子とパン屑を払う。
無傷なのはいいけど、とんだ災難だ。いや、むしろこの程度で済んでツイているのか。
多分、人はそんな運を悪運と呼ぶのだろう。

餡子が白衣のシミにならなければいいのだけれど・・・・・・。

そんなことを考えながら、既に臨戦態勢のガスマスク、いや、鳥島さんに声をかける。

「・・・・・・ん、鳥島さん!・・・・・・機会があれば是非、楽しみにしてますよ」

鳥島さんにしか伝わらないであろう言葉を残し、私はその場を悠々と歩き出す。
そう言えばひとつ問題があった。無事にここを抜けられとして、餡子塗れの人間を乗せてくれるタクシーがいるのだろうか?

31 :光明寺 志郎 ◆o2/t.H/q.Q :2013/03/18(月) 11:16:39.09 0
>そう言えばひとつ問題があった。無事にここを抜けられとして、餡子塗れの人間を乗せてくれるタクシーがいるのだろうか?

いるんだなそれが、とでも言うように周りを見渡すと一代のタクシーが見えた

「…フゥ〜」

そのタクシーの運転手は車に寄りかかってタバコを吸っていた
その男、光明寺志郎、彼がなぜここにいるかというとタクシーのガソリンが残り少なくなってしまい
この辺のセルフ給油が出来るガソリンスタンドで給油したからだ

「…」

ふと、光明寺が周りを見渡すと、詩乃森の姿を見つける
近づくとこの言葉をかける

「…乗るのかい?」

タバコを途中で道路に擦りつけて消し、そう聞く

32 :勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM :2013/03/28(木) 05:03:34.35 0
アンパンの追跡は想像以上に容易だった。
町の野鳥のおなかを潤すことになるか、あるいは清掃員に処分されることを宿命づけられたアンパンたちをたどって、私たちは移動していく。

>>「頭を下げるか開き直るかの準備はしておいた方がいいかもしれないわね、特に琴里」
>「あ、あはは、ここで開き直ったらブチ殺されるでしょ…あたしだってそこまで空気読めない訳じゃないよ」

琴里は笑いながらも、いやな予感はぬぐえないらしい。

>「やめてぇええ、まだ10年も生きてないんです!お願いです、命だけは!!」

などと少女は供述しており。
溜息一つ。

「まあ、一番はそれよ。いのちだいじに。
 私だってまだ二十年生きていないのよ? こんな若くて死ぬなんてまっぴらごめんね」

苦笑い。こんな風でも笑えるようになったのはいつからだったかと、ふと思う。


思索は車のクラクションで遮られる。現れたるは……ええと……ああ、そうそう。アンパンを生み出してた少年。

>「みなさんヒドいですよ、ボクを置いて出てっちゃうなんて!」
「ええと、ごめんなさい。影が薄いものだから」
「がーん!」

幼稚園のころには毒舌で他の女の子を泣かす方だった私である。

さておき、徒歩を車に切り替えて、私たちは走る走る。
走る、走……ちょっと速すぎない?
私はあわててシートベルトを締める。即座に急ブレーキ。よかった、後一瞬遅かったら危なかった。
運転手に抗議しようとして、眼前の状況に言葉を失う。

アンパンにまみれた乗用車。廃車寸前といった体だ。ほら、言わないことじゃない。
さて、私たちは謝る? 開き直る?

車の近くでは会話している二人の男。
一人は琴里を連れてきた「お兄さん」。
もう一人は……ガスマスク? 実際にしている人間は初めて見た。
如何にもな二人。そこそこ友好的そうなやり取りが見える。
どういう関係だろう、あの二人……あ、こちらに気がついた。

車の扉をあけるガスマスク男(だろう。多分)。出てきたのは……はいはい、いつもの彼ね。いい加減腐れ縁だ。
いや、今回に限っては私たちは彼を追ってきたわけだからこの苦情は的外れだが。
次いで誰かが出てきたような……え、あの時の女医さん? 彼女もここにいたのか?
彼女はすぐに走り去って、車内からは見えない位置に行ってしまった。こんな状況でなければ、また話してみたかったのだが……まあ、仕方ない。


さて、どうしたものか。
出て行こうとはやるアンパン少年を店長が制する。

>「”大人の話”を御所望みたいだ。私が行くから君達はここで待っておいてくれ。
>硝子嬢、念のために君の能力でこの車を鉄壁要塞にしておくんだ……!
>安半君、もしもの時は私の事を気にせず逃げてくれ! 私は大丈夫だから、な」

「……そんな。それじゃあ店長さんは」

どうするの、という言葉に返事も返さず、店長は車外に出て行ってしまう。
まったく、せっかちなんだから。琴里と顔を見合わせる。
ドスン。
鈍い音が車内に響く。……え?

33 :勝川 隆葉 ◆RPQQNb.TcM :2013/03/28(木) 05:05:40.41 0
>「ノックノック、ハロー、こんにちはぁ。突然申し訳ねぇんだけどよぉ、この車譲ってくんねぇかなぁ?」

声は「お兄さん」の物。車上に飛び乗った? どんな運動能力だと驚きあきれるが、先ほどの血みどろ大惨事を見るにこのぐらいの事はできる人なのだろう。

>「嫌なら嫌って言ってくれた方がやり易ぃんだけど、あー、そうだなぁ10秒間やるわ。
> その間に譲ってくれるなら出て来てくれると有難いんだけどぉ……じゃカウント開始ぃ」

まったく、男というのはせっかちでいけない……という感想を言う暇もない。
ひとまず、シートベルトに縛られたままではどうしようもない。私はシートベルトに手を伸ばし

>「1ぃ、2ぃ、……あーダメだ、メンドくせぇ」

男というのはせっかちでいけない!

>「つか、我ながらまどろっこしいぜ。手段は問わねぇんならいいや。んじゃそう言うわけで中の人さようならぁ」

言葉とともに、ガツン、という響きが車体を揺らす。
……さようなら? え? 今、彼は私たちを……
殺そうと、した?
全身から血の気が引く。
怖い。怖い怖い怖い怖い。
ボンネットに上から誰かが下りてくる。間違いない、「親切なお兄さん」だ。
フロントガラスに足を乗せながら、言う。

>「誰の能力しらねぇけどさぁ、良い能力じゃねぇ?物質強化、とかそんな所かぁ?」
>「でもよぉ、鉄ならともかくガラスならどうだぁ?」

どう聞いても悪役のセリフだった。
とってもいいお兄さんだっていう評価を下したのは誰よ! 今度眼科に行きなさい、琴里、今度があったら!

>「一点集中。次は貫くぜぇ、グサッとなぁ。嫌なら降りなぁ、さっきので解ったろぉ?気長に待ってやるほど我慢強くはねぇんだからよぉ」

正直に言おう。震え上がった。出かける前にトイレに行っていなければ失禁していたかもしれない。
だが、それに対して私が反応を返すより早く。

>「ひぃいいいいい! 嫌だ、死にたくないです! たっ助けて! 誰か助けてくださぁい!」
>「ゆ、許してください…この車もあげますし、何でもしますからぁ…い、命だけは! 命だけは助けてください!」

硝子さんが大げさに騒ぎ始めた。
気分が少しだけ楽になる。というか軽く冷める。
あ、どさくさにまぎれて琴里に抱きついてる。誰かがつっこんでおかないとだめじゃないだろうか彼女。
そんな私の表情を見て、彼女が一瞬笑ったように見えた。……ああなるほど。演技派女優だ。
すぐに演技を再開する傍ら、小声でこちらに状況を伝えてくる硝子お姉さん。そして、車を降りてお兄さんと会話を始める。
いや、車を降りるのはともかく、上に登る意味は何だろう。同じ土俵に立とう、ということだろうか。

……唐突に、私に走る直感。
今、硝子お姉さんには、何の防御の手段もない。しかも、好戦的なお兄さんの眼の前だ。
フラッシュバックするのは、彼にやられ、血にまみれて倒れていた男たちの姿。
硝子お姉さんとは抱きつかれて数回言葉を交わした程度だ。
でも……あんな風にされてしまうのは嫌。

とっさに周囲を見渡す。何かないか、何か……。
店長、ガスマスクの男、硝子お姉さん、お兄さん、彼、禿げたアスファルト、マンホール、スクラップ寸前の車……。
『マンホール』!
能力を発動。同時に叫ぶ。

「琴里、それにアンパン少年、なんとかあの男の気を引いて! 1分……いや、30秒でいいわ!
 河童は水道鉄管を抜けてくる……その隙にマンホールの先の領域に逃げ込むわよ!」

とにかく、あの男の手の届かないところに行かなければ……!

34 :唐空呑 ◇zWiwPLU/1Y:2013/04/07(日) 15:35:36.06 0
僕は鳥島の質問に大雑把に答えた。
・彼らは以前、河童にサイフをスられた時に作ったパーティーのメンバー
・その中に詩之守先生も含まれていた。
・河童の能力者を捕まえた時、揉めてその場で解散
・河童の能力者はその後あしなが園引き取られた。
・あの中で能力の詳細がわからないのは少年とおっさんのメイドの三人
と以上の点を簡潔に鳥島へ伝えた。

鳥島のジェスチャーに誘われるように車を降りたのは鐘川さんだった。
鐘川さんとも短い付き合いだが、その表情は真剣そのものだ。
そして、その視線は鳥島から僕の方へと向けられた。
「…」
鐘川さんは本当に優しい人だ。
この期の及んでまだ僕の心配をしている。
誰に何を言われてきたのか知らないが、それでも尚どこかで僕のことを信用しているのかも知れない。
そんな優しさを感じとった瞬間、僕の中の善意が訴えかけてくる。
ここで鳥島を裏切ったなら、まだそっちへ戻れるかも知れない。
あしなが園での一件がちゃらになるわけではないのは重々承知だ。
おおよそ留置所で二、三日過ごす程度だろう。
…だが、その後待っているのはなんだ。ウンザリしていた毎日に戻るだけだ。
それでいいのか?

ひと呼吸おき、僕は意を決して声を出す。
「鐘川さんは泪鬼屋のぜんざいを食べたことありますか?
 明らかに他のぜんざいとは違うあの甘味の秘訣は隠し味にいれた辛味だそうです」
この場面ではぐらかすようなことをいったのには理由がある。
この場で僕の考えをそのまま話した場合、鳥島からの信頼を失う可能性がある。
だから、本心を隠しつつそのことを伝えようとして、この話を出したわけだが、恐く真意を理解するのは
結末を迎えてからだと思う。
決心したんだ…それでいいと「泣いた赤鬼」の青鬼でいいと
「思ったんですよ。清いだけじゃ駄目だと、汚いことも知らなきゃこの街は変えられないと
 僕は本心からそう思って今ここにいますし、止めようとするなら全力で抗うわせてもらいます。」

35 :佐川琴里 ◇Xc4K14NVriOj:2013/04/10(水) 21:25:57.01 0
西の彼方が少し暮れなずむ空の下の、赤針隆司の両足の下の、少し傷がいった車の天井の下の、硝子の膝の上。
子供が一人、震えている。

>「でもよぉ、鉄ならともかくガラスならどうだぁ?」

フロントガラス越しに見える彼の顔には、躊躇いなど微塵にも感じられない。
治癒系能力者に回復を依頼したのだろう、
数時間前までボロボロだった彼の身体は、負傷を気取らせない敏捷な動きを可能としている。
 上着の下からチラリと見えた真新しい包帯が、琴里が渡した医療トランクからのものだとしたら。
彼にそれを渡したことは、失敗だったのか?
ふとよぎった暗い思考が頭の片隅にこびりついて離れない。

>「ひっ」
頭のすぐてっぺんで、鋭く息を吸い込む音。
 灰田硝子。彼女はなんて運が悪いのだろう。
お手伝いの初仕事が、今日でなければ。琴里の誘いに乗らなければ。
 安半少年にしてもそうだ。
助太刀に来たせいで、詩乃守医師によって救われた命を再び危うくしている。
 隆葉だって。
危険になると分かっていて、それでも年長者として琴里に付き添ってくれた。

彼らの善意が全て無駄で、赤針隆司の暴力が絶対的……?
そんなの。

――そんなの絶対許せない…!

>「ひぃいいいいい! 嫌だ、死にたくないです! たっ助けて! 誰か助けてくださぁい!」

今の琴里に解決策などない。
――ただ、自分が行った人助けに、疑問を持ちたくない。
そして、みんなの行動の結果が悲劇になるなんて、あってはならない。
琴里はそうとだけ思った。

「…泣いても始まらないよ、硝子お姉ちゃん!」
 硝子にきつく抱きしめられたお陰で、体の震えも止まる。
琴里が余裕を取り戻したことに気づき、硝子は微かに笑った。

>(逃げるにしろ何にしろ、つまり足止めが必要ですわ。)

そう言い残した後、彼女は車から飛び出て赤針隆司の前に躍り出る。
瞬発力と殺傷能力で、赤針隆司の右に出るものなど滅多にいない、彼女に何か策はあるのか?
己の身を賭して隆葉や琴里を逃がそうとしているのなら、それは最悪の脱出方法だ。

「どうしよ、隆葉ちゃん…硝子お姉ちゃんが出てっちゃったっ…!」

喚くだけの琴里とは対照的に、隆葉は周囲の状況をどうにか利用しようと頭を働かせており――

>「琴里、それにアンパン少年、なんとかあの男の気を引いて! 1分……いや、30秒でいいわ!
 河童は水道鉄管を抜けてくる……その隙にマンホールの先の領域に逃げ込むわよ!」

――ここは彼女の策に賭けるしかない!

「分かりました、僕の影が薄くないってこと、ここで証明してみせますっ!」
「うん、あたしも隆葉ちゃんを信じる。あの人には言わなきゃいけないこともあるしね。――そっちの準備が出来たら合図して!」

36 :佐川琴里 ◇Xc4K14NVriOj:2013/04/10(水) 21:26:31.98 0
車内から出た二人が目にしたのは、
凶器を手にした人物になんら物怖じせず、ツンと鼻先をつきつけている灰田硝子だ。

「まずいですね…」「…うん」

物質を変化させる能力『シンデレラ』
しかし琴里から見たところ、彼女はその元となる『モノ』を所持していない。
ポケットの中に仕舞ってあるとしても、それを取り出す時間、能力を発動させる時間、変化したモノを使う時間…
それぞれの動作の間に針で一突きされれば元も子もない。ここはなるべく赤針隆司から硝子を離れさせておいた方が良い。
ならば…上等の策が一つ、ある。

「ふぇえ、硝子お姉さま、怖いよぅ、琴里の傍に来てよぅ」
突然、琴里は内股になり小首をかしげ両手を顎に当てて上目遣いをした!
安半少年がウヘェという表情で、気持ち悪そうに琴里から少し離れる。
仕方があるまい、硝子を確実且つ迅速に隆司から離れさせるには、これが効果的なのだから。
灰田硝子の少女を求める飽くなき精神。それは肉体の現界すら凌駕させ、彼女の足は針鼠の針が伸縮する速度をも上回るだろう。

……茶番は済んだ。
「えー、こほん。」
いかにも阿呆そうなポーズから姿勢を正し、琴里は赤針隆司を見つめる。

「赤針さんが欲しいのはこの車って言ってたっけ?じゃあほらキーだよ、上げる。」
琴里は隆司目掛けて車の鍵を投げる。それは彼の足下にカチャリと落ちた。

「これで赤針さんがあたし達を襲う理由はなくなる。そうだよね。
窓ガラスは割れない、席は汚れない、誰も傷つかない…最高じゃないか。
で、せっかく車をタダで上げるんだから、ちょっとはこっちの話を聞いてくれてもいい?」

その真意は隆葉から頼まれた時間稼ぎだけではなく。

37 :佐川琴里 ◇Xc4K14NVriOj:2013/04/10(水) 21:27:03.71 0
「まずは…ありがとう。」
言って琴里は精一杯頭を下げる。

あの騒動の後。
子供たちは小耳に挟んでいた。
あしなが園を襲った集団の中には能力者の子供専門人身売買ブローカーもいたらしい、と。

赤針が彼らを迎え討たなければ、今頃…。
警察官と園の先生が深刻な面持ちでしていた会話の内容だ。

「赤針さんは勝手に戦ってあしなが園を助けてくれた。だからあたしも勝手に感謝する。」
それは結果論だ。彼の行為は偽善ですら無い。琴里は口をつぐむ。
場が沈黙で支配される前に、今度は安半少年が隆司に立ち向かう。
圧倒されないように、彼はキっと前方を見据えて言った。

「あの時…お前に拳を振り上げたのは、こういう理由だ。」
そう言ってから、彼はいつものごとく琴里に向かって素振りを一つし、パンを出す。

「お前にこれを食べて欲しかった。だから、言葉より先に手が出てしまった。」
「…安半のお兄さん、それ、あたしが渡すよ。」

安半少年は油汗を拭った後、その言葉に小さくうなずく。『幸福の王子様』の能力が発動した。
パンはきらきら光に包まれて消え、時を置かずして赤針隆司の針に浅く刺さった。

(>僕には戦う能力はない、こんな僕でも街の平和に貢献するにはどうしたらいいか。
そう、アンパンしかないんです! 美味しい物を食べれば荒んだ人も穏やかになるかもしれない!)
それは橘川店長に語った、彼の本心だ。
そして赤針隆司に対峙した今も、彼の意思は揺るぐことはなかった。

「断って置くが毒なんて入ってないからな。僕達はお前を害そうなどとは思ってない。
それに、そんな卑劣な行為、食べ物への侮辱に値するからね。」

一度目は路地裏で、二度目は先程の車で、安半少年は隆司に殺されかけた。
けれどその心には恨みはない。憎悪もない。
だから琴里は次の言葉を言うことが出来る。

「今の所、あなたは私の大切な人を誰も殺してはいない。
それどころかある意味では守ってくれた…といっても良い。
だから私はまだあなたのことを”良い人”とであると思える…ううん、思いたいんだ。」

これで佐川琴里の時間稼ぎは終わり。お願いされた30秒は裕に超えていると思う。
赤針の針が早いか、それとも河童が速いか。

38 :ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo:2013/04/15(月) 22:30:34.00 0
俺の要請に、針鼠は当意即妙心得たとばかりに跳んだ。
……ん?跳んだ?

「軽業師か、あいつは……!」

針鼠の跳躍。それは、足裏から展開した槍状の刺による、歩幅拡張の『一歩』だった。
さながら、竹馬やら棒高跳びだ。
ひらりと宙を歩いた針鼠は、敵車輌の屋根へと軽やかに着地した。

針鼠のBOOKS能力については、情報屋を頼るまでもなく知っている。
この隔離都市の裏社会において、彼の武勇はあまりにも有名すぎる。
被害者も目撃者も後を絶たないし、傷口と証言を照らしあわせれば、如何なる能力にやられたのか類推は容易だ。

彼の能力は、至ってシンプル。
身体のあちこちから刺を生やす、それだけの能力。
唐空のようにややこしい発動条件もなければ、かといって俺のガチョウのように手品もどきでもない。
極めて単純だが、それ故に強力な、純戦闘系能力である。

刺を生やすだけのBOOKSゆえに、人体や物体の破壊ぐらいしかやることがないと高をくくっていた。
そういった意味で、人を殴るしか使い道のない唐空とは似たもの同士のはずだと二人を引きあわせたのだが……。
刺の伸長力を利用した高速跳躍とは、なかなかどうして一味の効いた応用じゃないか。
針鼠。生まれてもった戦闘センスで、拾い物の能力をここまで使いこなしている。

「いいぞ、このプロボックスの代わりが務まればあとは問わん!
 だができれば綺麗な状態でドライブしたいという運転手の希望も踏まえておいてくれ!」

針鼠の真に恐ろしいのは、この強力無比な攻撃の童話異能力を、切り札にしていないというところだ。
奴は、BOOKSなんてチャチな超能力など初めから頼りにしていない。
あれば便利な道具程度の認識でしかない。
仮にあの男がなんの異能も持たぬ一般人だったとしても、きっと八方手を尽くして車を奪いにいっただろう。
異能による刺が、バールのようなものに変わるぐらいの違いはあるだろうが。

そして――俺は、車から出た唐空と共に中年男と対峙していた。
敵集団のリーダーらしきこの男、名前は橘川と言うそうだが、やはり唐空の知り合いらしい。
かつてこの街をちょっとだけ騒がせた集団スリ事件――俺がこの街に来る前の事件だが、
その折に知り合い、事件解決のために同行していたそうだ。

「そうか、死に親ともその時に知り合ったんだな。俺の中で時系列が繋がったよ。
 しかし唐空君、スリ退治なんてやってたのか……実は正義系の人材だったりするわけか?」

見た感じ実に陰気な男であるから、もっとダークなサイドの人間だと思っていたが。
まあ唐空が街の平和のために東奔西走していようと正味俺の事情には影響しない。
俺のゴール地点である隔離都市の征服は、新しい秩序を作るという点で正義と矛盾しないからな。

「そしてあしなが園に河童の能力者か……もしかして、あのとき俺を襲った三匹の化物がそれか?
 あれ河童なのか。てっきりラブクラフト全集のBOOKS能力者かと思ったぜ」

俺が一人で納得していると、件の橘川さんとやらが『大人の話』にログインしてきた。
話を聞くに彼は、玩具屋の店長をしているらしい……んなことは聞いてねーよ!お見合いか!?
そして例のアンパン大量発注事件だが、どうやら裏で糸を引いているのはこの男だったようだ。

「そうか……お前が全ての黒幕だったのか……!!」

39 :ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo:2013/04/15(月) 22:33:53.88 0
リアルに死にかけたので、俺は激おこぷんぷん丸で橘川店長を指さした。
俺がもし針鼠のBOOKSを持っていたら、このまま刺伸ばしてあのメタボ腹をぶっこぬいてやっていたのに。
そんな葛藤というか渇望を知るわけもなく、橘川さんはこちらに問いを放ってきた。
曰く、目的は何かと。曰く、針鼠みたいな危険人物を擁して何を企んでいるのかと。

唐空がよくわからん地元トークでわけのわからんコンセンサスを橘川と取っている傍で、
俺は激おこぷんぷん丸から激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームまで一気にシフトチェンジした。

「危険な奴だと?針鼠のことを危険な奴だと言ったのか、アンタ。
 それはあの男の能力が他人を傷つけるものでしかないからか?それを振るうことに躊躇いがないからか?
 ……一つ、履き違えているようだから正してやるぞ橘川店長」

本当は、針鼠が危険人物だという評価は真っ当なものだとわかっている。
だが、だからこそ、ここで一つだけ明確にしておかねばならない、俺と仲間たちの方針がある。

「針鼠は、攻撃することしかできない能力を発現した、戦闘系能力者だぞ。
 ――戦闘系能力者に暴力振るうなって言う方が暴論だろ」

娑婆の社会にそのまま応用できる理屈だ。
BOOKS能力は、異能者が『常人に毛が生えた程度のもの』だとするなら『毛』の部分だ。
要不要に関わらず、その他多くの身体的特徴と同じように、降って湧いて備わってしまった特質だ。

「異能者に対して能力の行使を否定するっていうのは、個性の否定と同じだぜ、橘川店長。
 アンタは漫画を描く才能のある子供に、『学校で役に立たないからやめなさい』と否定するのか?
 BOOKS能力も、望まれない才覚の発露も、突出した個性という点では同じものだと俺は思う」

だから、と俺は指先で言葉をつきつける。
同じだ。BOOKS能力をないものとして隔離都市に押し込めた政府。
その隔離都市の中ですら、攻撃能力を『危険』と一絡げにして蓋をする連中。

「今は『要らない者』の掃き溜めでしかないこの隔離都市に、人としての矜持を取り戻す。
 俺たち異能者は、社会からこぼれ落ちた人間以下の存在じゃあ、断じてない。
 たまたまBOOKSという超常能力に目覚めただけの、それでも立派に社会の一員なんだ。
 そいつを『外』の連中に今一度分からせてやるのが俺の目的だ」

そのために力が要る。
武力。この街を物理的にひっくり返せるほどの、文句なしの王の力だ。

「俺たちはこの街に革命を起こす!
 臭いものに蓋をして安心している連中に!肥溜めの中からクソまみれの一撃を食らわせるための戦いだ!」

俺は両腕を広げ、とても気持ちよく演説をぶった。
橘川のおやっさんのチームが俺たちとぶつかるのなら、ここで潰しておかねばなるまい。
知り合いだという唐空には悪いが、そこのメタボ親父と殴りあっていただこう。

40 :橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc :2013/04/15(月) 23:51:46.18 0
>「鐘川さんは泪鬼屋のぜんざいを食べたことありますか?
 明らかに他のぜんざいとは違うあの甘味の秘訣は隠し味にいれた辛味だそうです」

私の問いに、呑君ははぐらかしているとも取れるような返答を返す。
しかし何かが引っかかる。確か泪鬼屋店長の本は”泣いた赤鬼”だったか――
呑君は悲壮な決意を瞳に込めて言葉を続ける。

>「思ったんですよ。清いだけじゃ駄目だと、汚いことも知らなきゃこの街は変えられないと
 僕は本心からそう思って今ここにいますし、止めようとするなら全力で抗うわせてもらいます。」

「呑君、まさか君は……!」

確信は持てないものの、一つの仮説に思い至り驚愕する。
一つだけ確かなのは、もはや穏便な手段では呑君はこちら側には戻って来る事はないだろう、ということだ。
しかし今の状況ではこれ以上呑君の真意について追及する事は出来なかった。

>「わかりました。この車は貴方たちにお譲りしても構いませんわ。ただし…『今』ではありません。まっ、それまでお喋りしましょうよ。そのいつかが何時になるかは知りませんけれどねぇ」

何を思ったのか硝子嬢が車の上に登り、針鼠の前に身を晒している。
恐怖のあまり混乱したのかもしれない。

「そいつを刺激するんじゃない! 危なくなったら逃げろと言っただろう!」

思わず声をあげるものの、私は目下怪奇ガスマスク男と対峙している。駆けつけることはできない。

>「そうか……お前が全ての黒幕だったのか……!!」

そう思っておいてくれれば一番逃げ足が速い私に攻撃が集中しやすくて好都合だ。
それに探偵団を結成しようなどと言い出したのは私なのだから、嘘ではない。

>「危険な奴だと?針鼠のことを危険な奴だと言ったのか、アンタ。
 それはあの男の能力が他人を傷つけるものでしかないからか?それを振るうことに躊躇いがないからか?
 ……一つ、履き違えているようだから正してやるぞ橘川店長」
>「針鼠は、攻撃することしかできない能力を発現した、戦闘系能力者だぞ。
 ――戦闘系能力者に暴力振るうなって言う方が暴論だろ」

41 :橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc :2013/04/15(月) 23:53:04.97 0
私は絶句した。
暴力にも使い方というものが……とか格闘技を嗜む者は喧嘩をしてはならないという鉄の掟がだな、とか
言い返す言葉ならいくらでもあっただろう。
しかしあまりにも堂々とした物言いに、瞬時に言葉が出て来なくなったのだ。
悪のカリスマ。圧倒的な王者のオーラ。そのような物がこの怪奇ガスマスク男から感じられた。

>「今は『要らない者』の掃き溜めでしかないこの隔離都市に、人としての矜持を取り戻す。
 俺たち異能者は、社会からこぼれ落ちた人間以下の存在じゃあ、断じてない。
 たまたまBOOKSという超常能力に目覚めただけの、それでも立派に社会の一員なんだ。
 そいつを『外』の連中に今一度分からせてやるのが俺の目的だ」

「いや、しかしだな……」

私がしどろもどろになっている間に、琴里ちゃん達が行動に出た。

>「赤針さんが欲しいのはこの車って言ってたっけ?じゃあほらキーだよ、上げる。」

何をしている――? そいつが約束を守ると思うのか!?
気が気ではない私を余所に、琴里ちゃんは何を思ったか針鼠にお礼を言った。
そして安半君が出したアンパンを、琴里ちゃんが能力で針鼠に渡す。

>「断って置くが毒なんて入ってないからな。僕達はお前を害そうなどとは思ってない。
それに、そんな卑劣な行為、食べ物への侮辱に値するからね。」
>「今の所、あなたは私の大切な人を誰も殺してはいない。
それどころかある意味では守ってくれた…といっても良い。
だから私はまだあなたのことを”良い人”とであると思える…ううん、思いたいんだ。」

――胸を打たれた。そして気付いた。私はいつの間にか、彼らのような者達がいるこの街をこんなにも好きになっていたのだ。
隆葉嬢の策略のための時間稼ぎだった事は後に知る事になったのだが、それでも言った言葉自体には本心が少なからず含まれていたに違いない。
確かに最初は隔離のために連れてこられた。しかし私は自分の事を不幸だとは思わないし、思いたくはない。

>「俺たちはこの街に革命を起こす!
 臭いものに蓋をして安心している連中に!肥溜めの中からクソまみれの一撃を食らわせるための戦いだ!」

「確かにこの街が出来た経緯は世界からの排斥もしれない。
しかし私はもうこの街が長くてな……。大事な故郷を肥溜め呼ばわりするんじゃない!」

私の体を燐光が包む。BOOKS能力発動の光――

42 :ティンカーベル ◆VYr1mStbOc :2013/04/15(月) 23:54:46.38 0
「お前達がこの街の掛け替えのない日常を壊すというのなら私は――正義の革命の使徒の前に立ちはだかる悪にだってなる!」

美少女妖精戦士ティンカーベルと化した私は、凛とした女性の声で言い放つ。
ついに正体を明かしてしまったが、呑君が向こう側に行ったぐらいの時から遅かれ早かれこうなる予感はしていた。
片手間のヒロインごっこでは太刀打ちできない事態になる時が来るのではないかと――
あしなが園の子供達は、それぞれの行動で勇気を示して見せた。
向こうがどう思っているかは分からないが、私にとって彼らはもはや立派な美少女戦士、共に戦う仲間だ。
そして何より、針鼠がどう動くかは皆目見当がつかず、事態は一触即発だ。
勇気を出して戦ってくれた仲間が傷付くのは、美少女戦士の正体に幻滅されるよりも何倍も耐えられなかった。
妖精の翅を広げ空中に浮かび上がり仲間達の上に金の粉を降らせる。
幸い私の今の仲間達は、すでにこの粉の効果を体験している者と心の純粋そうなすぐに飛ぶ事が出来そうな者ばかりだ。

43 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/05/11(土) 21:47:04.27 0
>「ひぃいいいいい! 嫌だ、死にたくないです! たっ助けて! 誰か助けてくださぁい!」
>「ゆ、許してください…この車もあげますし、何でもしますからぁ…い、命だけは! 命だけは助けてください!」
>「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないッ!!」

 あー、まったくきーきーきーきー五月蠅ぇ女だなぁオイ。騒音撒き散らすなよ近所迷惑も考えてくださぁい。
 思わずうんざりした顔で両手で耳を塞ぐ。喧しい事この上ないぜぇマジで。
 と、今までの騒ぎは何だったのか平然とした顔で騒音女が車から降りてくる。

>「わかりました。この車は貴方たちにお譲りしても構いませんわ。ただし…『今』ではありません。まっ、それまでお喋りしましょうよ。そのいつかが何時になるかは知りませんけれどねぇ」

 そして何を思ったかボンネットの上に乗り俺を前にぬかしやがった。

「……もうちょっと戦略を練ってこいよ騒音大根女。馬鹿なんですかぁ?いや馬鹿なんですねぇ。
 お話も取引できる立場じゃねぇだろお前。この場でざっくり串刺しになるのが嫌ならとっとと車を寄越せ。
 ざっくり串刺しにして欲しいドMちゃんならそのままでいろ。その足りてねぇ脳みそに穴開けてやっからよぉ」

 と、手を気怠そうに上げようとした時だった。

>「ふぇえ、硝子お姉さま、怖いよぅ、琴里の傍に来てよぅ」

 何処か媚びるようなあざとい声が聞こえたと思ったら目の前から騒音大根女が消えていた。
 あまりの出来事に一瞬だが間が空く。
 視界には先ほどの胸やけのする様な声を発したのであろう変なポーズを決めたガキとそのガキに絡みつく騒音大根女が居た。

>「えー、こほん。」

 いかにもな咳払いをし姿勢を正すガキ。なるほどねぇ、騒音大根女救出ってわけだぁ。

>「赤針さんが欲しいのはこの車って言ってたっけ?じゃあほらキーだよ、上げる。」

 足元に落ちる車のキー。

>「これで赤針さんがあたし達を襲う理由はなくなる。そうだよね。
  窓ガラスは割れない、席は汚れない、誰も傷つかない…最高じゃないか。
  で、せっかく車をタダで上げるんだから、ちょっとはこっちの話を聞いてくれてもいい?」
>「まずは…ありがとう。」

 そう言ってガキはぺこりと頭を下げる。はてぇ、このガキに俺は何をしたっけかぁ?
 脳内に思い浮かぶことは無い、とは言わねぇが……礼を言われる筋合いもねぇ。

>「赤針さんは勝手に戦ってあしなが園を助けてくれた。だからあたしも勝手に感謝する。」

 ……言うねぇ、ガキ。いやぁ、ガキにしとくには勿体ないお嬢ちゃんだ。

>「あの時…お前に拳を振り上げたのは、こういう理由だ。」

 いつのまにやらお嬢ちゃんの隣に立っていた制服男はそう言ってから、お嬢ちゃんに向かって素振りを一つし、パンを出す。
 パァン?寸止めでパンを出すどんなおふざけ能力だよ。くだらねぇ。

44 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/05/11(土) 21:47:47.68 0
>「お前にこれを食べて欲しかった。だから、言葉より先に手が出てしまった。」
>「…安半のお兄さん、それ、あたしが渡すよ。」

 そしてそのパンが光ったと思った瞬間、俺の針にそのパンが刺さっていた。
 中身の香りだろう。餡の独特の香りが辺りに広がる。
 先ほどのパン祭りで嗅いだ香りと一緒だ。てぇことはぁ、あのパン祭りはお嬢ちゃんとこの制服男の合作か。

>「断って置くが毒なんて入ってないからな。僕達はお前を害そうなどとは思ってない。
  それに、そんな卑劣な行為、食べ物への侮辱に値するからね。」

 あの撒き散らされたパンは食べ物への侮辱に値しないんですかねぇ?クソアンパン野郎?

>「今の所、あなたは私の大切な人を誰も殺してはいない。
  それどころかある意味では守ってくれた…といっても良い。
  だから私はまだあなたのことを”良い人”とであると思える…ううん、思いたいんだ。」

 そう言ってお嬢ちゃんは話を終える。
 俺はいつの間にか顔に満面の笑みを湛え拍手していた。

「ハッ、お嬢ちゃんの方がそこの騒音大根女よりよっぽど女優だなぁ。
 将来が楽しみだぜぇ。ぜひとも喰ってみたい。絶対に美味いに決まってらぁ
 天然にしろ計算にしろ、ここまでの流れを考え付いた。天性の才能に違いねぇ」

 拍手を止め、針に突き刺さったパンを抜きつつ、俺はお嬢ちゃんを絶賛する。
 その左手であんパンを弄びながら将来楽しみなお嬢ちゃんに『刺し』返した。
 銃弾に負けない速度で伸びる針先。
 鋭いレイピアの様な赤い切先と先端部分についているあんパンがお嬢ちゃんの鼻先で止まっていた。

「悪ぃが餡の類は苦手でなぁ、食えねぇんだ。だからお嬢ちゃんが食うといいさ。
 代わりに俺は車を貰う。そして、お嬢ちゃん達を見逃す、それでいいだろう?」

 お嬢ちゃんがパンを受け取ったのを引鉄に、右手を前にして能力を発動する。
 右の掌から高速で真下に伸び、お嬢ちゃんが投げた車のキーを串刺しにする。
 その針を戻すことによってキーは俺の右の掌に収まっていた。

「んじゃぁ、そういうわけで御車頂戴致しますぅ、っとぉ?」

 ボンネットから降り、乗車しようとした瞬間。金色の粉が辺りに舞い落ちる。
 ……あぁ?なんですかねぇこれは?
 宙を見上げれば、いつぞやのコスプレ女ぁ?いったい何処から湧いて出た?
 つーかなんだこの金ぴかの粉ぁ?毒じゃねぇようだが……。

「ま、どうでもいいか。害が無ぇならミッション完了だぞ、っとぉ」

 コスプレ女には興味があるが……残念、今は食指が動かねぇ。
 ドアを閉め、穴の開いた鍵を差し込み回し、エンジンを掛け、アクセルを勢いよく踏み込む。
 急発進により身体に多少のGが掛かったが気にしねぇ。そしてクソガスマスク達の前で急停車する。

「よぉ、こっちのお仕事は終わったぜぇクソガスマスク。追加のご注文はございますかぁ?」

45 :灰田硝子 ◇8mVJTko00Q:2013/05/27(月) 21:01:43.67 0
>「そいつを刺激するんじゃない! 危なくなったら逃げろと言っただろう!」
「大丈夫ですわ。私が狙われれば少なくとも琴里ちゃんたちはそのまま逃げられます! 私はこう見えてしぶといんですから!」
と、店長の注意喚起に答えますわ

>「……もうちょっと戦略を練ってこいよ騒音大根女。馬鹿なんですかぁ?いや馬鹿なんですねぇ。
 お話も取引できる立場じゃねぇだろお前。この場でざっくり串刺しになるのが嫌ならとっとと車を寄越せ。
 ざっくり串刺しにして欲しいドMちゃんならそのままでいろ。その足りてねぇ脳みそに穴開けてやっからよぉ」
大根? 何のことでしょう。
「え? 串刺しくらい構いませんけど……『寄越せ』? それが人に物を頼む態度ですの? 『申し訳ありませんが、この車を貸していただけないでしょうか』ではなくって?
あーあ、気が変わったなー。そこまで野蛮な態度をとられるとこちらとしても車を使い物にならなくするしかありませんわー。
あー残念ですわー。さっきまでは貸して差し上げてもいいと思ってたのになー。そんな態度をとられてしまいましたらねー。
それに戦略を練っている間に私の大切な琴里ちゃんたちが貴方に傷つけられたらそれこそ死にたくなるほど嫌ですし!
だったらここは私が時間稼ぎも兼ねて肉壁及び肉盾にな……」

>「ふぇえ、硝子お姉さま、怖いよぅ、琴里の傍に来てよぅ」
おーけー。こんなところで喋ってる場合じゃあないすぐに行くッ!!
私は思い切り車を蹴り、宙返りをして車内に飛び込みますわ。可愛い琴里ちゃんのため、マッハで!
「さぁ、もう大丈夫よ。心配しないで、私の妹(ことり)……。私はいつでも、貴女の傍にいるから……」
私は甘えた声を出す琴里ちゃんをやさしく抱きしめ、髪の毛をふんわりと撫でつつ、そっと囁きますわ
…安半さんがドン引きしたかのように遠ざかりますが問題はありますまい

>「えー、こほん。」
私の琴里ちゃんが咳払いをし、真面目そうに針男に向き直ります。さすが私の琴里ちゃん。食べたくなるくらい可愛いですわ

46 :灰田硝子 ◇8mVJTko00Q:2013/05/27(月) 21:02:41.67 0
「赤針さんが欲しいのはこの車って言ってたっけ?じゃあほらキーだよ、上げる。」
「これで赤針さんがあたし達を襲う理由はなくなる。そうだよね。
窓ガラスは割れない、席は汚れない、誰も傷つかない…最高じゃないか。
で、せっかく車をタダで上げるんだから、ちょっとはこっちの話を聞いてくれてもいい?」
「まずは…ありがとう。」
「赤針さんは勝手に戦ってあしなが園を助けてくれた。だからあたしも勝手に感謝する。」
「あの時…お前に拳を振り上げたのは、こういう理由だ。」
「お前にこれを食べて欲しかった。だから、言葉より先に手が出てしまった。」
「…安半のお兄さん、それ、あたしが渡すよ。」
「今の所、あなたは私の大切な人を誰も殺してはいない。
それどころかある意味では守ってくれた…といっても良い。
だから私はまだあなたのことを”良い人”とであると思える…ううん、思いたいんだ。」
「そんなことがあったんですの…」
私はそのときの針男を知りません。琴里ちゃんと安半さんの話を聞きながら、そう呟きましたわ

>「ハッ、お嬢ちゃんの方がそこの騒音大根女よりよっぽど女優だなぁ。
 将来が楽しみだぜぇ。ぜひとも喰ってみたい。絶対に美味いに決まってらぁ
 天然にしろ計算にしろ、ここまでの流れを考え付いた。天性の才能に違いねぇ」
ああ、大根女って大根役者って意味か!
「私みたいな奴は道化くらいが丁度いいんですよ。主演女優って柄じゃありませんわ。そして琴里ちゃんは私のものですわ。貴方の様な短気針男なんかに渡すものですか」

>「悪ぃが餡の類は苦手でなぁ、食えねぇんだ。だからお嬢ちゃんが食うといいさ。
 代わりに俺は車を貰う。そして、お嬢ちゃん達を見逃す、それでいいだろう?」
「味方ながら戦慄しますわね。琴里ちゃん…その度胸と機転、敬意を表しますわ」

>「お前達がこの街の掛け替えのない日常を壊すというのなら私は――正義の革命の使徒の前に立ちはだかる悪にだってなる!」
ふと窓の外を見ると、橘店長が美少女妖精戦士に変身していましたわ!
「かっ…かっこいい! ねえ、見て見て琴里ちゃん! プリキュア、本物のプリキュアだよ!」
と、私は興奮気味に、抱いている琴里ちゃんに言いますわ。プリキュア、それは女子の永遠の憧れにして最高のヒロイン!
「あ、あら? なにかしら、この粉…」
どういうわけか私たちに金色の粉が降りかかりました。どうやら出所は店長のようですけれど…

>「んじゃぁ、そういうわけで御車頂戴致しますぅ、っとぉ?」
>「ま、どうでもいいか。害が無ぇならミッション完了だぞ、っとぉ」
と、走っていこうとする針男に、私は言いますわ
「その前に2つ、貴方には言っておくことがありますわ!
まず1つ、私の名前は騒音大根女ではない、呼びにくいでしょう。私には灰田硝子という某うたのおねえさんと同じ名前があるのですわ!」
一息おき、
「そして2つ! 譲るとは言ったけれどそれは元々私の所有物。通勤に困るし、0時までには返してください! そうでなくとも0時以降は乗らないでください!
0時以降も乗ろうというなら貴方達の安全は保障いたしませんわ!」
完全に見下されているだろうが、しかし私は針男に注釈を入れる。それを聞き受けるかどうかは分からないが…しかしどちらに転んでも、私に害はない
だが琴里ちゃんはこの針男をいい人だと思いたいと言った。で、あれば、この『0時の鐘が鳴るころに、魔法が解けてしまう』車になった魔法のミニカー、
それに潰されることを回避するよう示唆するくらいならばまあ、罰は当たらないでしょう。男を助けるとか癪ですけれど、琴里ちゃんのためならば仕方ありますまい

47 : 忍法帖【Lv=5,xxxP】(2+0:8) :2013/06/04(火) 21:42:58.55 0
test

48 :勝川 隆葉◇RPQQNb.TcM:2013/07/01(月) NY:AN:NY.AN 0
私の掛けた声に呼応して、琴里、そしてアンパン少年は車を降りる。
そしてあろうことか、『お兄さん』に対峙して朗々と言葉を紡ぎ始めたのだ!

「そ、そこまでしてくれなくても良かったのだけど……」

確かに頼んだのは私なのだが、車内からアンパンを頭上に落とすとかそういう方法でもよかったのでは……。
が、琴里の言葉を聞くうちに、彼女の意図がそれだけではないことが分かってきた。

>「今の所、あなたは私の大切な人を誰も殺してはいない。
>それどころかある意味では守ってくれた…といっても良い。
>だから私はまだあなたのことを”良い人”とであると思える…ううん、思いたいんだ。」

「……信じ抜くこと、か」

琴里の発言は、ある意味甘ちゃんと言われても仕方ない発言だろう。
生き馬の目を抜くと言っても過言ではないこの街で生きていくには問題がある、と誰もが言うに違いない。
だが……。

「それがいい。それでいいのよ、琴里」

きっと、それが私に足りない事で、だから私はそれを好ましく思うのだろう。

さあ、制限時間いっぱいだ。
マンホールの蓋が数センチほど開き、中から小さく手を振る物ありけり。
逃げる頃合い……なのだが。

「……もしかして、話まとまってるのかしら?」

なにやら『お兄さん』の表情から険が抜け、笑いながら後ろのガスマスクの男に声をかけているような……。
そういえば、話しかけた最初に琴里が車のキーを渡していた訳で、そうするとよっぽどの無茶を向こうが言わない限りこちらは安全なのでは?
それなら、そんなに慌ててマンホールから逃げる必要はないのではないだろうか。
恐るべきは琴里のネゴシエーション能力……と、戦慄している私の視界の隅。なにやら光る物が映る。

>「お前達がこの街の掛け替えのない日常を壊すというのなら私は――正義の革命の使徒の前に立ちはだかる悪にだってなる!」

……。
何やら店長が見覚えのある変身ヒロインに変身していた。
え、ええー……確かに店長の能力は知らなかったが、そういうことだったの……?

目が点になりつつも……しかし、向こうの状況は緊迫しているようだ。
ならば私たちは当初の予定通り、撤収するのが定石だろう。

私はシートベルトを急いで外すと、車の後部座席を開けて琴里達に声をかけた。

「行くわよ!」

誰も邪魔する者がいなければ、すぐにマンホールの蓋を跳ね飛ばして河童達が大量に現れるはずだ。
そしてその隙に、私達は河童の道案内に従って下水道を通り、近くの市街地まで逃げる、という寸法である。

49 :佐川 琴里  ◆Xc4K14NVriOj :2013/07/14(日) NY:AN:NY.AN 0
>「ハッ、お嬢ちゃんの方がそこの騒音大根女よりよっぽど女優だなぁ。
 将来が楽しみだぜぇ。ぜひとも喰ってみたい。絶対に美味いに決まってらぁ
 天然にしろ計算にしろ、ここまでの流れを考え付いた。天性の才能に違いねぇ」

ぽふ。
鼻に当たるのは、柔らかくて暖かい、出来立てのアンパン。甘い匂いがする。

>「悪ぃが餡の類は苦手でなぁ、食えねぇんだ。だからお嬢ちゃんが食うといいさ。
 代わりに俺は車を貰う。そして、お嬢ちゃん達を見逃す、それでいいだろう?」

琴里がパンを抜き取ると、針はしゅるしゅると縮み始める。
やはり今回も食べてくれなかった…安半少年は落胆に右手拳をだらりと下ろした。
「……」
感謝すべきか、罵るべきか。よく分からない。だけど、

「…うん、ありがとう、赤針さん…また、あたし達を助けてくれたね」

困ったような、悲しいような、それでいて嬉しそうな。
なんともなさけない表情で、琴里は泣き笑いした。

>「味方ながら戦慄しますわね。琴里ちゃん…その度胸と機転、敬意を表しますわ」
「うへへ、。度胸なら絶対硝子ちゃんの方があるよ…心臓止まるかと思ったよ」

硝子が殺されなくて本当に良かった。赤針が人を殺さなくて、良かった。
琴里は、今度こそ人を食ったような生意気な笑顔を完璧に作りあげ、赤針青年に向き直る。

「っじゃ、赤針さん、あたしも将来お兄さんに会うのがとっても楽しみさ!
クレオパトラも裸足で逃げ出す絶世の美女になってあげるから、そっちももっとイケメンになって出直してきてよね!」

50 :佐川 琴里  ◆Xc4K14NVriOj :2013/07/14(日) NY:AN:NY.AN 0
 そうやって命拾いした直後のことだ。

>「お前達がこの街の掛け替えのない日常を壊すというのなら私は――正義の革命の使徒の前に立ちはだかる悪にだってなる!」

まるで天使が吹くラッパのように、透き通った高らかな声。
先程まで店長がいた場所には彼のエプロンが落ちてあり、その上空にはキラキラ輝く人型の物体が浮いている。

>「かっ…かっこいい! ねえ、見て見て琴里ちゃん! プリキュア、本物のプリキュアだよ!」
「違うよ、硝子お姉ちゃん!あれはプリキュアじゃない、あの女の子は――!」

大人向けの薄い本などが高値で売買され、しかもその人気は隔離所の壁をも超え、外の世界でもカルト的な人気を誇る、
あの……あの美少女戦士ティンカー・ベル!!
彼女の私生活は謎のヴェールに包まれており、正体を暴こうとする無粋な情報屋でさえそれを未だ掴めずにいるという。
(そりゃ誰だって分かる訳ないよ!どこをどういじくったらメタボなおじさんがあんな魅惑の細腰になるのさ?!)
BOOKSの能力は質量保存則すら覆す、琴里はそれを再確認したのであった。
 先程のリアクションから察するに、硝子はティンカー・ベルの中身が橘川店長であるということを分かっていないようだ。
彼女の夢を壊さないよう、美少女戦士の正体はバラさない方が良い、と子供心ながら思い、琴里は口をつぐむ。
早くもティンカーベルの虜になった硝子。頬を紅潮させてはしゃぐ彼女の身にキラキラしたものが降りかかる。

>「あ、あら? なにかしら、この粉…」
「ティンカーベルの不思議な粉、空を飛べるようになる魔法だよ。信じて硝子お姉ちゃん、君も飛べる」

金の粉が頭から降りかけられると同時に、琴里の体は浮遊した。そのままぐんぐんと上昇し鳥の視点で地上の状況を把握する。
赤針青年と車、ティンカーベルとガスマスク。未だ見えぬ唐空少年。そして隆葉は――

>「行くわよ!」
声とともに、車のドアがぱかりと開いて隆葉の頭が現れる。
「イエス!待ってましたよ隆葉ちゃん!」

満を持して隆葉の能力が発動した。ひんやりした湿気と腐った苔の匂いが空にまでのぼってくる。
突如マンホールから沸きあがったのは、緑色の下水と見間違うほど 密集した河童の大群だ。
嘴の曲がった河童、片目の河童、大河童に子河童、よく見るとディクティルさんやキトゥさんまで!
制空権を握り、且つ、数もこちら側が圧倒的有利…けれどここは退却しかない!

51 :佐川 琴里  ◆Xc4K14NVriOj :2013/07/14(日) NY:AN:NY.AN 0
 飛行は走行よりよっぽど難しい運動だ。
両手を前方に振り回し、足をバタつかせ、クロールのフォームで全力前進。

「ぜぇ、はぁ、水泳の練習、もうちょっと真面目にやっときゃよかった…!」

そうしてどうにかこうにかガスマスク男爵と対峙しているティンカーベルの方へとたどり着くと、
琴里はバリバリ臨戦状態な彼女のレオタードをぐいっと引っ張った。

「おじちゃ、じゃなくておねえちゃん?…間を取っておばちゃん?――ええい、呼び方なんてなんでもいいや!
隆葉ちゃんの河童達が動き出したよ、物凄い数さ、あの子たちが足止めしてくれる。だからここは一旦退却、一緒に来て!」

上は空飛ぶ子供と美少女、下は河童達の百鬼夜行。
二つの違う絵本を大急ぎでつなぎ合わせたような、一見して無秩序な光景だ。
けれどこれがBOOKSの協力技。自分の絵本と他人の世界を混ぜ合わせて、初めて見える協調。
誰に命令されたのでも、誰に唆されたのでもない、自分達が必死になって知恵を働かせた結果だ。
 マスク下にあるだろう彼の両眼を、琴里はひたと見据えた。

「謎のガスマスクさん。 ……赤針さんをけしかけたり、唐空お兄さんをダークサイドに堕としたり、さんざんやってくれたよね、
正直言って今回はあたしらの大敗北。これから街は恐怖と暴力でどんな風に変わっていくのかな。
――けどあたしは絶対諦めない。君に抵抗し続けてやる。君がしていることは間違いだって証明したげる。」

唐突に、琴里は絵本を右手に取り出した。反対の手にはやはりアンパン。赤針青年から返品されたあれだ。

「色々話したいことはあるけど、もうタイムオーバーだし、最後の最後に一つだけ。だりゃ」

空を漂っている琴里と地に佇むガスマスク男の距離は直線にして5mほどだろうか。
その程度の近距離ならばmm単位での精密な瞬間転送さえも、可能だ。
イメージする。マスクと顔の隙間を。その数cmにも満たない空間を。

「車内アンパン祭の真犯人は、あ・た・し・です!」

消えたアンパンは、今度はなんのミスも無く、想定通りの空間へ転送された。
彼を窒息させようとしている訳ではない。
あのマスクは一人で着脱可能だろうし、万が一そうでなくても彼の傍らにはマジで愉快な仲間達がいる。
もがくボスを見殺しにする訳はない。 パン生地は柔らかいので顔を傷つける心配も無い。
これは賭けだ。
(覆面だなんてフェアじゃないぞガスマスク。君の顔を見せなよ!)
琴里は見たかったのだ。敵の素顔を。妙に象徴化された悪役のシンボルではなく、彼の本当の顔を。

「ほんっと、あれは偶然が重なった事故で、悪気は無かったんだ、ゴメン!お詫びに車上げるからアイコね、許してね、てへっ♪」

グーをコツンと頭にぶっつけ、ガスマスクに向かってウィンクを放った後、琴里はマンホールへと急降下した。

52 :ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo:2013/07/22(月) NY:AN:NY.AN T
俺の暴論に対し、橘川のおやっさんは正論を吠えた。
ここへ放り出された経緯がどうであれ、橘川さんや、その仲間たちにとって、隔離都市はかけがえのない居場所だ。
住めば都、とはまた違うのかもしれないけれど。
配られたカードで勝負するしかない現状で、彼らは必死に切り札をつくろうとしている。

「そうだよな。あんたの言っていることも概ね、間違っちゃいない。
 どっちが正しいかなんておいそれと結論を出せるような問題じゃあないんだ。
 だから俺は証明する!暴力で!恐怖で!貴様らを制圧し俺が正しいということをまかり通らせるッ!!」

橘川さんが身構える。俺も応じるように拳を前に出す(戦えないけど)。

「かかって来い保守派――!停滞を望む貴様らの、偽りの安寧を叩き潰す!!」

瞬間、光が瞬いた。
橘川氏のメタボな身体をまばゆい光が包む!
俺はガスマスクの遮光機能によって、光に隠された真実の変遷を目の当たりにした。

「BOOKSの発動か!」

光の中では、一大スペクタクルが巻き起こっていた。
メタボ親父の骨格がメキョメキョと変形し、分厚い脂肪が胸と尻へと移動する。
薄くなっていた髪は瞬く間に柔らかな長髪へと代わり、さながら輝く粒子でも放ちそうなほどに艶めいていく。
髭がひっこみ、顔が小さくなり、肌に白さと瑞々しさが加わって、小鼻がつんと立ち、唇が薄く、目は大きく、睫毛は長く。
確定していくその姿に、俺は見覚えがあった。

「馬鹿な……まさか……その姿は!」

あしなが園襲撃の際に廃ビルの屋上で俺のもとに舞い降りた美少女。
メタボおっさんが変形して生まれたのは、そいつの姿だった。

「おげえええええええ!!!!」

俺、あいつに結婚してくれとか言っちゃったぞ!
おっぱい見せて^^とかオモクソセクハラして悦に入ってたんだぞ!!

「全部、全部男相手だったと言うのか――!!!」

俺は膝をついた。
両手も地面についた。
圧倒的精神的ダメージが俺を遅い、胃袋に一瞬で巨大な穴が空いた(イメージ)。

「くそぅ……こんなのばっかりだ!俺の人生って!!」

いまどきこんなおっさんですら美少女になっているというのに、俺ときたら!
どうして親は俺を美少女に産んでくれなかったんだ!舐めやがってあの腐れ夫婦が!!
しかし、美少女に変身するBOOKSってなんなんだ?
例えばシンデレラに代表されるような、華やかな姿に変身する童話はいくつも例を挙げられるが、
流石に骨格や性別まで変えるようなBOOKS、それも美少女に変わるBOOKSなんて聞いたことがない。

童話は教訓を含むものが多いが、同時に大衆の願望を実現化したタイプのものも代表的だ。
力強い存在に変身するならまだしも、美少女になりたいおっさんなんて世の中にそうそういてたまるか。
いや、まさかいるのか?俺が知らないだけで、美少女になりたいおっさんが世論の多数を占めるのか!?

53 :ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo:2013/07/22(月) NY:AN:NY.AN T
「美少女、貴様! 人生を楽しんでいるな……!?」

その時、ギュオオオ!とタイヤがアスファルトに噛み付く音。
一台の車が俺の前に急停車した。
運転席にいるのは……針鼠!

「車を奪ってきたようだな。上出来だ、針鼠!これで奴らの足は潰した、一気に撃滅するぞ!」

俺はたっぷりの私怨を込めて美少女を指さした。
この世から美少女が消えるのは大きな損失だが、所詮はまがいもの。
いつか天然ものの美少女が俺の前に現れると信じて!

その時!美少女のレオタードを後ろからぐいと引っ張る手があった。
やめろ!おっさんただでさえ半裸なのにそれ以上引っ張ったら!……ん?
なんと引っ張り手の主は、金色の粉を身にまとった小学生女子だった。

「天然もの来たあああああああああああ!!!!」

イエス!イエス!!
ちいと幼すぎるのが問題点だが……正味問題はない!
幼いなら待てばいいだけだ!齢を取り過ぎているより遥かに上等だ!
しかし女児は、俺のことなどそっちのけで針鼠の方となにやら秘密のコンセンサスをとっていた。

「針鼠!お前……上級者だな!!」

俺は女児と見つめ合う犯罪者に向かって悠然とサムズアップを送った。
まあ、わかるよ。このくらいの女の子にとっては、針鼠のごときチョイ悪は刺激的に映るだろうしな。
実際針鼠はチョイ悪どころじゃなく極悪もいいところなんだけれども。

と、針鼠と別れを惜しんでいた女児がこっちを見る。
その穢れを知らぬ純真な瞳に映るのは、ガスマスクをかぶった紛れも無い変態の姿。
うわ、俺ってパンピーから見たらこんな感じなんだ……。

さておき、女児は俺に向かって敗北宣言を滔々と零した。
確かにこいつらの知り合いらしき唐空をヘッドハンティングできたし、車も略奪できたし、
はっきり言って俺達の大勝利だ。なんと歯ごたえのない連中だ。敗北が知りたい。
女児は、しかし反逆を諦めないこと、そして俺の間違いを証明する旨を俺に宣言した。
素晴らしい。この街はまだ、修正不可能なまでに腑抜けちゃいなかったということだ。

「ククク……良いのか?俺がこの街にもたらすものは恐怖と暴力!それによる秩序!!
 それに歯向かうということは……恐怖と暴力に立ち向かうということだ。
 いたいけな童女の貴様に何ができる……!?戦闘系でもないただのBOOKS能力者ごときが……!」

いやまあ、戦闘系じゃないのは俺も一緒なんだけれど。
そしてこの女児が非戦闘系かどうかすら俺は知らないんだけれど。
やべえ、知らないこと尽くしだな俺。
女児は手にアンパンを一つ持っている。俺を事故らせかけたアレだ。
そういえば、結局あのアンパン大量発注って誰の能力だったんだ?橘川さんじゃあないっぽいし……。

54 :ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo:2013/07/22(月) NY:AN:NY.AN T
疑問した途端、女児のアンパンが消えた。同時、俺の傍を燕の形をした影が横切った気がした。
そして感覚が警報を鳴らす。何か大きな異物感……存在感が、俺のすぐ近くに発露しようとしていること。
それは、車内でアンパンを発見した時の感覚とそっくりだった。
まさか……!

ガスマスクをしているはずの素肌に何かがあたる感触があった。
それはどんどん膨れ上がっていき、ガスマスクは外から触れてもわかるほどに頬の部分が腫れ上がっていた。
マスクの中で、香ばしい匂いがした。
それもやはり車内で嗅いだ記憶のある……焼きたてのアンパンの香りだった!

「貴様かあああああああああ!!!!」

どうやったのかは知らないが、アンパンをガスマスクの中に転送された!
そしてその能力は、紛れもなくあの女児から発動したものだ!
手に持った絵本が見えた。タイトルは『幸福な王子』。
豪奢な王子の像が、行き遅れのツバメに頼んで自分の装飾品を貧しい人々に分け与える童話だ。
そしてたった今俺の身に起きている現象、車を襲った大量のアンパン……推測される彼女の能力は!

「物体を転送する能力者か……!それもガスマスクと素肌の1ミリもない隙間に正確に……!?」

当然だがそんな隙間にアンパンが入る余裕などない。
しかし、アンパンはマスクを押しのけるようにしてそこへ出現しようとしている!
もはや俺のガスマスクは風船のように膨らみ、はちきれんばかりに張っていた。
ガスマスクは頑丈に作られているので、多少伸びはしても破裂するということはないだろうが……。
マスクを頭に固定する留め金は別だ。マスクが内部から膨れるような力のかかり方を想定されていない。

「ごあああああああああああ!!!!」

パギィン!!
留め金がはじけ飛ぶ音を皮切りに、俺の顔を圧迫し続けていたガスマスクが吹っ飛んだ!!
マスクは遥か天高く舞い上がり、血しぶきのように餡が虚空へ飛散する。
覆うもののない俺の顔。久しぶりに浴びた直射日光に、びっくりして視界が白黒する。
不安定になった視野の奥で、女児が美少女をつれてマンホールの中に逃げ込もうとしていた。

55 :ヌケサク ◇aaNgcZ2CEo:2013/07/22(月) NY:AN:NY.AN T
「に、逃がすな!針鼠、追えーーーー!!」

俺が思わず指差した先。
緑色の津波が俺達へ向けて疾走するところだった。

「な、なんだこいつらは!」

津波の正体は、化物。
廃ビルの屋上で俺を襲ったあの河童共と同種の生物だろう、BOOKS具現化物達だ。
彼らはマンホールから這い出るように現れ、そして一瞬にして俺達の視界を河童色で埋め尽くした。

「く、やむを得ん!針鼠、唐空君、俺達も撤退するぞ!」

俺は落ちてきたガスマスクをキャッチし、その足で針鼠の奪ってきた車に飛び乗る。
マスクは留め金がイカれてすぐに被れそうになかった。
こいつは一旦修理をする必要がありそうだ。
唐空も乗り込むのを確認し、アスファルトを切りつけて車は発進した。

「死に親は無事に逃げ切れただろうか……」

俺は針鼠の運転する車の助手席から、走ってくる河童の大群と少しずつ距離が開いていくのを確認しつつ呟いた。
戦闘が開始してから充分に時間が立っているから、タクシーを捕まえ損ねたとしても現場から離脱はできているだろう。
願わくば、また会えることを祈る。
そして、

「このままでは済まさんぞ、あしなが園の連中め……!!」

名前は知らんが、顔は覚えた。
連中があしなが園という児童福祉施設を拠点にしていることもだ。
この先、俺の歩む覇道において、何度も激突することになるだろう……。
そうなったとき、俺は戦えるだろうか。
犯罪を厭わず、暴力という形で奴らを黙らせることができるだろうか。

「だが、勝てば官軍だ……俺は奴らに勝利し、正義という形でこの街と、その虚偽の安寧を破壊する……!」

鳥島さんとマジで愉快な仲間たち、もとい革命結社、隔離都市解放戦線の本当の戦いは、これからだ。
ほとんど揺れない高級セダンのシートに身を埋め、鏡の向こうの素顔を見ながら、俺は決意を新たにした。

56 :ティンカー・ベル ◆VYr1mStbOc :2013/07/22(月) NY:AN:NY.AN T
>「美少女、貴様! 人生を楽しんでいるな……!?」

「楽しんでいないと言ったら嘘になるかもしれないな。
何故ならBOOKS能力とは心の力の具現化……その者が持つ最も根源的な願いと無関係ではないはずだ」

妖精美少女戦士の正体を知ったガスマスク男は物凄い精神的ダメージを受けたようだ。
敵ながら、琴里ちゃん達もこのようにショックを受けるのだろうかと不安になってしまう。

>「よぉ、こっちのお仕事は終わったぜぇクソガスマスク。追加のご注文はございますかぁ?」

>「車を奪ってきたようだな。上出来だ、針鼠!これで奴らの足は潰した、一気に撃滅するぞ!」

「子ども達には指一本触れさせん! 皆早く逃げろ!」

針鼠は意外にも、車だけ奪ってあっさり引き下がる素振りを見せている。
しかし、怪奇ガスマスク男の方は殺る気満々だ!
対する私は月並みな台詞を吐きながら臨戦態勢を取る。その時だった。
琴里ちゃんが私の服を引っ張るではないか。

>「おじちゃ、じゃなくておねえちゃん?…間を取っておばちゃん?――ええい、呼び方なんてなんでもいいや!
隆葉ちゃんの河童達が動き出したよ、物凄い数さ、あの子たちが足止めしてくれる。だからここは一旦退却、一緒に来て!」

マンホールから次々と河童が飛び出し、相手に向かっていく。隆葉嬢の河童だ。

「そうか……河童達よ、ここは任せた!」

足止めを河童に任せ、私は子どもたちと共に退避する事にした。

>「謎のガスマスクさん。 ……赤針さんをけしかけたり、唐空お兄さんをダークサイドに堕としたり、さんざんやってくれたよね、
正直言って今回はあたしらの大敗北。これから街は恐怖と暴力でどんな風に変わっていくのかな。
――けどあたしは絶対諦めない。君に抵抗し続けてやる。君がしていることは間違いだって証明したげる。」

>「ククク……良いのか?俺がこの街にもたらすものは恐怖と暴力!それによる秩序!
 それに歯向かうということは……恐怖と暴力に立ち向かうということだ。
 いたいけな童女の貴様に何ができる……!?戦闘系でもないただのBOOKS能力者ごときが……!」

「子どものヒーローに負かされる情けない大人の悪役という構図は枚挙に暇がなくてな……。
子どもを侮っていると痛い目に合うぞ。いたいけな子どもだからこそ大人が思いもよらない事を思い付く事だってある!」

57 :ティンカー・ベル ◆VYr1mStbOc :2013/07/22(月) NY:AN:NY.AN T
それは例えばこんな事である。

>「車内アンパン祭の真犯人は、あ・た・し・です!」

なんと、琴里ちゃんは相手のガスマスクと顔の隙間にアンパンを転送したのだった!
相手の素顔を隠していた悪役の象徴の仮面が、膨張しついに弾け飛ぶ!

>「ごあああああああああああ!!!!」

狼狽し慌てふためく青年の素顔が見えたのはマンホールに飛び込む直前の一瞬――
だけどたとえ一瞬でも大きな意味がある。
彼はこれから私達が立ち向かうものの総元締めになるのだろうから。

□  □   □   □   □   □   □   □

58 :橘川 鐘 ◆VYr1mStbOc :2013/07/22(月) NY:AN:NY.AN T
「ひとまず逃げおおせたようだな……。
もう気付いているとは思うが……要するにこういう事だ」

我々は下水道を案内役の河童に先導されて走り抜け、無事にあしなが園まで帰還した。
そして皆の目の前で変身を解いてメタボのおっさんに戻る。

「私の本、ピーターパンの主人公は永遠の少年。
舞台は子どもしか行く事が出来ないこの世ならぬ楽園――”ネバーランド”。
ティンカーベルは隔絶された楽園へと子どもたちを誘い……時に一生その地に虜にしてしまう妖精だ。
そう、物語の主人公ピーターパンのように……」

橘川鐘とといてティンカーベル――その心はネバーランドの主。
ネバーランドの魅力に取りつかれた者は大きいお友達へと化していく所まで同じである。
少し勘の鋭い者なら私の正体に気付いてもおかしくはなかったはずだ。
それでも今まで誰一人気付かなかったのは、おっさんと美少女の外見のギャップがあったからこそだろう。

「琴里ちゃん、見事な啖呵だったよ。よくぞ言ってくれた、私も同じ気持ちだ。
相手がどんなに強大だろうと抵抗し続ける。
でもこれは童話じゃない、正義が勝つではなく勝てば官軍が現実だ――
何が正しいかなんて本当は誰にも分からない。
私達が守ろうとしているものは隔絶された世界の偽りの安寧なのかもしれない。
それでもいいなら――」

そこで言葉を一端切り、手を甲を上にして前に差し出す。

「共に、戦おう」

59 :赤針 隆司 ◇1FFH1sXiPY:2013/07/26(金) NY:AN:NY.AN T
 俺はハンドルに顎を乗せながら事の成り行きを見物していた。いやぁ、なかなかに面白い見世物だなぁ。
 車外にはコスプレ女とクソガスマスク、そしてお嬢ちゃんが面白いやり取りをしている。
 クソガスマスクがこっちに対して親指を立てて来てるが……なんだよソレ。

>「針鼠!お前……上級者だな!!」

 上級者ぁとか、いやぁ、ちょっと何言ってんのかわかんないすねぇ。てか分かりたくないすねぇ。

>「車内アンパン祭の真犯人は、あ・た・し・です!」
>「貴様かあああああああああ!!!!」

 んなことを考えてるうちにもトントン拍子で話は進んでいく。
 ちょうどお嬢ちゃんがパン祭りの犯行を自白したところだ、って。

>「物体を転送する能力者か……!それもガスマスクと素肌の1ミリもない隙間に正確に……!?」
>「ごあああああああああああ!!!!」

 クソガスマスクの叫びと共にガスマスクが内部から弾け飛ぶ。
 飛び散る餡が肉の様に見えるからちょっとしたスプラッタだ、が。

「ぶふぅッ!」

 だが、俺はスプラッタなソレを見た瞬間に噴き出した。
 正確には弾け飛んだガスマスクと、クソガスマスクのリアクションにだ。

>「に、逃がすな!針鼠、追えーーーー!!」

 クソガスマスクが何か叫んでいるが俺はそれどころではない。
 ダメだ!く、苦しいウケる笑える!

「―――――ッ!―――――ッ、ゲホッゴホッ!キシッ――――――!」

 ガンガンとハンドルに額をぶつけ、痛みで笑いを押さえようとしても抑えられるもんじゃね。
 あーやべぇ、呼吸困難で死ぬんじゃねぇかぁコレ?

>「く、やむを得ん!針鼠、唐空君、俺達も撤退するぞ!」

「キ、キシシ、あ、あいよぉ了解だぁ。くっ、ほらとっとと乗れ!すぐ出すぜぇ!」

 全員が乗ったのを確認もせずに俺は勢いよくアクセルを踏み込む。
 エンジンが唸りを上げ、タイヤが超高速で回転する。
 身体に掛かるGも痛みも笑いを止める事は不可能だ。クソガスマスクは俺を笑い殺す気かぁ畜生め。

>「このままでは済まさんぞ、あしなが園の連中め……!!」
>「だが、勝てば官軍だ……俺は奴らに勝利し、正義という形でこの街と、その虚偽の安寧を破壊する……!」

「意気込むのは結構なんですけどねぇクソガスマスクぅ。これからどうするかプランはあんのかぁ?
 まさか行き当たりばったりのノープランとかぁ?ま、それも面白そうだけどなぁ」

 キシシ、と浮かんだ笑みを片手で隠し、クソガスマスクに俺は問う。
 まぁ、いずれにせよ楽しくなりそうなのは確かだ。せいぜい楽しませてくれよぉクソガスマスクよぉ。
 じゃねぇとぉ……いやいやぁ、これはまだ早ぇかぁ。キシシシシシ。

60 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2013/08/12(月) NY:AN:NY.AN 0
>「うへへ、。度胸なら絶対硝子ちゃんの方があるよ…心臓止まるかと思ったよ」
「うふふふふ、琴里ちゃんこそまだロリなのに…あんなに大きな殿方に啖呵を切れるだなんて素晴らしいですわ!
私の場合、女の子のためなら必死になれるってだけで――内心ビクビクでしたもの」
まぁ、それでも『絶対に生き残れる』っていう“確信”はあったんですけどね。不幸に身を置く私は、幸福へと導かれるのですわ

>「っじゃ、赤針さん、あたしも将来お兄さんに会うのがとっても楽しみさ!
クレオパトラも裸足で逃げ出す絶世の美女になってあげるから、そっちももっとイケメンになって出直してきてよね!」
「っ…!?」
え、何これはどういうこと? 告白? 私の琴里ちゃんを奪われちゃうの…!?
と、私は平常心を失いかけますわ…危ない危ない。深呼吸深呼吸…

>「違うよ、硝子お姉ちゃん!あれはプリキュアじゃない、あの女の子は――!」
「美少女戦士ティンカー・ベル? 美少女戦士…セーラームーンの仲間かしら。うーん…ネバーランドに代わってお仕置きよ♪ みたいな?」
と、はしゃいでいると突然琴里ちゃんが口を噤む。…どうしたのかしら?
「…あ、琴里ちゃんもしかして、『ティンカーベルの正体が店長である』ことに、私が気づいていないと思ってますの…?
安心してください、ちゃんと分かってますわ。私は何と言いますかその…オーラみたいなもので、見た人の性別をある程度、というか『女の子か否か』が何となく分かりますの。
あの子は見た目こそ女の子ですし、表面的なオーラも女の子ですけど…根源的なオーラは男性でしたわ」
私の百合的審美眼に狂いはありませんわ…。まぁ、それでも魔法少女の類は女の子の永遠の憧れですわ!
え? じゃあなんで顔が紅潮してたのかって? それは勿論決まっていますわ。目の前に魔法少女が現れてテンションMAXだからですの!

>「ティンカーベルの不思議な粉、空を飛べるようになる魔法だよ。信じて硝子お姉ちゃん、君も飛べる」
「空飛ぶ魔法…把握しましたわ! 飛べるというのならやってやります、羽根のように軽やかに大空を舞いますわ!」
私は力を抜き、地面を蹴って肉体を地面から離します…うん、生身で飛ぶなんて初めてだけど、案外いけるものですわね…

61 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2013/08/12(月) NY:AN:NY.AN 0
>「行くわよ!」
「隆葉ちゃん…! ありがとうございますわっ」
マンホールから湧いて出る、河童の大群。隆葉の能力だ。そしてここでの作戦はしっかり感じ取っている。迎撃、ではなく…三十六計逃げるに如かずですわ!

>「車内アンパン祭の真犯人は、あ・た・し・です!」
おっと、突然のカミングアウト! 琴里ちゃんかわいい!
>「ほんっと、あれは偶然が重なった事故で、悪気は無かったんだ、ゴメン!お詫びに車上げるからアイコね、許してね、てへっ♪」
「まー、あれですわね。私にも責任の一端がないわけではありませんけど、あれは不慮の事故ですわ、うん。僅かばかりのお詫びとしてその車は一時的にお譲りしますけど。
0時までしか使用することを許可いたしませんわ。私だって仕事があるんですから…」
私も琴里ちゃんの傍まで飛んでいき、琴里ちゃんの話し相手に向かって言いますわ
「うふふふふ、ふひひ…このアングルからだと琴里ちゃんのスカートの中身が見え……ちっ、スパッツ穿いてやがりますわ!」
おっと、いけないいけない。少し乱れてしまいましたわ。平常心平常心…
まぁ、てへっが可愛かったから良しとしましょう。もしくはチャンスを窺ってスパッツを奪取しましょう…そんな事を考えつつ、私もマンホールへと向かいますわ。

>「ごあああああああああああ!!!!」
琴里ちゃんの幸福な王子の能力で、アンパンが転送されガスマスク男のガスマスクがはじけ飛び、素顔が晒されますわ
「…へぇ、それが素顔ですの…私たちの敵のボスの素顔、嫌々覚えましたわ」

>「に、逃がすな!針鼠、追えーーーー!!」
しかし敵のほうには河童の大群が押し寄せますわ! 彼らが奴らの足止めをしてくれることでしょう…そして
「更なる駄目押しですわ、食らいなさい!」
私はポケットの中の白いピンポン玉に能力を発動し、煙玉に変えますわ。そしてそれをガスマスク男の顔面に投げつけます
「持っててよかった、スモークボール!」
これで更に逃走がしやすくなったはずです。一目散にずらかりますわ!

62 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2013/08/12(月) NY:AN:NY.AN 0
>「ひとまず逃げおおせたようだな……。
もう気付いているとは思うが……要するにこういう事だ」
下水道の中で、ティンカーベルは意を決したように店長へと戻りますわ。うん、やはり私の百合的審美眼に狂いはありませんでしたわね
>「私の本、ピーターパンの主人公は永遠の少年。
舞台は子どもしか行く事が出来ないこの世ならぬ楽園――”ネバーランド”。
ティンカーベルは隔絶された楽園へと子どもたちを誘い……時に一生その地に虜にしてしまう妖精だ。
そう、物語の主人公ピーターパンのように……」

橘川鐘。“鐘”と“ベル”。ティンカー・ベル。そして、子供たちの夢の空間である、玩具屋の店長。ネバーランドの妖精。
…BOOKs能力とは面白いもので、童話の内容とその人の在り方にはどこか似通った部分があるんですのね…
おそらく、私も。灰を被って不幸に身を置き、誰かのために自らの身を削らずには居られない私も、きっとどこかがシンデレラなのでしょう

63 :灰田硝子 ◇8mVJTko00Q:2013/08/12(月) NY:AN:NY.AN T
>「琴里ちゃん、見事な啖呵だったよ。よくぞ言ってくれた、私も同じ気持ちだ。
相手がどんなに強大だろうと抵抗し続ける。
でもこれは童話じゃない、正義が勝つではなく勝てば官軍が現実だ――
何が正しいかなんて本当は誰にも分からない。
私達が守ろうとしているものは隔絶された世界の偽りの安寧なのかもしれない。
それでもいいなら――」
>「共に、戦おう」
「………本来。私は戦うタイプじゃあないんですけれど。私は働く人間ですわ。そして変える人間ですわ」
私の本、シンデレラは『変化』の物語ですわ。カボチャは馬車に変わり、ネズミは白馬に変わり、ボロボロの服は豪華絢爛なドレスに変わり。
そして苛められっこの不幸な灰かぶりは、幸せに満ち溢れたシンデレラへと変わる。だからますます、保守的な雰囲気は似合わないかもしれませんけれど…
「でも、だからこそ…私はこちら側につくのですわ。不幸に身を置くからこそ幸せが約束される。変わらない空間だからこそどこまでも変われる。…それが私の持論ですわ。
よろしくお願いします皆さん…当初の通り、私は馬車馬の如く働きますわ。湯水の如くこき使ってくださいな。
奴隷のように気高く、召使のように輝かしい私の精神。とくとご覧に入れますわ。私はいつだって、女の子の味方です」
だから私も、手を差し出しますわ。いつかは、離れるのかもしれない。何かの拍子で、裏切るかもしれない。けれど今は。
(紛れもない、大切な仲間ですもの…)

64 :店長 ◆VYr1mStbOc :2013/08/20(火) NY:AN:NY.AN 0
臨時避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/9925/1376804242/l50

65 :店長 ◆VYr1mStbOc :2013/08/20(火) NY:AN:NY.AN 0
新避難所
http://774san.sakura.ne.jp/test/read.cgi/hinanjo/1376997759/l50

66 :勝川 隆葉 ◇RPQQNb.TcM:2013/08/22(木) NY:AN:NY.AN 0
疲れた。
一生分ぐらい走った気がする。
数週間前まで引きこもりだった私は、圧倒的運動量を強要される自分の立てた逃走作戦にやや後悔していた。

ここはあしなが園。私の現在のマイホームだ。両手足を伸ばして、全力で休憩の体勢をとる。
色々とあった。色々とありすぎた。
大体うまくいく確信があったとはいえ、下水道を通行するという初体験もしたし、それ以前に命の危険に晒されもした。
そしてそれは、これからも続いていきそうな気配だ。私は、傍らに立つレオタードの少女の方に視線を向ける。
言わずと知れた、謎の美少女ヒロイン(ヒーロー?)ティンカーベル。しかしてその正体は……。

>「ひとまず逃げおおせたようだな……。
>もう気付いているとは思うが……要するにこういう事だ」

少女が光に包まれ、その場所に立っているのは店長……おもちゃ屋の店長、橘河 鐘。私の恩人の一人であり、少々、いやかなり太めのおじさん。
うん、先ほど確認していたとはいえ、やはりギャップが酷い。
そりゃあガスマスク男もショックを受けようという物である。実際、私も未だに現実と思考のすり合わせがしきれていない。

>「私の本、ピーターパンの主人公は永遠の少年。
>舞台は子どもしか行く事が出来ないこの世ならぬ楽園――”ネバーランド”。
>ティンカーベルは隔絶された楽園へと子どもたちを誘い……時に一生その地に虜にしてしまう妖精だ。
>そう、物語の主人公ピーターパンのように……」

ピーターパン。それでティンカーベルか。なるほど、知ってしまえばそのままだ。
ふと、どうでもいい事が気になる。店長は自嘲的に語るが、彼は他人をネバーランドに虜にするような事をした事があるのだろうか。
むしろ、彼自身、夢の国に虜にされた(心は)永遠の子供と言った方が似合うのでは……。
だとすれば、本当の意味での“ティンカーベル”は誰なのだろう?
……本当にどうでもいい事なので、私は浮かんだ疑問を噛み潰す。

>「琴里ちゃん、見事な啖呵だったよ。よくぞ言ってくれた、私も同じ気持ちだ。
>相手がどんなに強大だろうと抵抗し続ける。
>でもこれは童話じゃない、正義が勝つではなく勝てば官軍が現実だ――

数週間前の事を思い出す。
私を包んでいた重苦しい安寧。それを打破したのは他でもない店長や琴里達だ。
正義を信じる訳ではなく、少々乱暴なやり方で。そして彼らは私に勝った。
あのガスマスク達のしている事も、大枠で見るとそれと同じ事なのかもしれない。
私の場合、仮初めの安寧の外側に広がっていたのは、より自然体でいられる安らぎの国。
では、この町のみんなの外側に広がっているのは……なんなのだろう。

67 :勝川 隆葉 ◇RPQQNb.TcM:2013/08/22(木) NY:AN:NY.AN 0
>何が正しいかなんて本当は誰にも分からない。
>私達が守ろうとしているものは隔絶された世界の偽りの安寧なのかもしれない。
>それでもいいなら――」
>「共に、戦おう」

店長が、手を差し出してきた。次いで、硝子も手を差しだし、重ねる。
私は……即座には手を差し出さなかった。

「しばらく前には、こんなこと考えても見なかったのだけれど……」

私は独白する。誰に聞かせるともなく。もっとも、他のみんなには丸聞こえなのだが。

「鳥たちは、いつかは殻を破り誕生するわ。だけど、だからと言って産まれた卵をすぐに割ったら、産まれる事も出来ず無残に死んでしまう」

何故か脳裏に卵かけご飯が浮かぶ。被りを振ってかき消して、私は続ける。

「同じように、いつかは鳥たちは巣を離れ独り立ちする。だけど、その時は……少なくとも、今ではないわ」

それはひょっとしたら、必死で私の殻を割ってくれた皆への裏切りかもしれない。
だけど、と思う。私の本質は、結局こうだ。それは裏切れない。

「私は自分勝手だからね。正義でも官軍でもなく自分本位。だから、自分がいたいと思うところにいるわ」

言うだけ言うと、すっと手を差し伸べる。そして、琴里の方に視線を向けた。
……そういえば、最初に私のために叫んでくれたのは、確か琴里だったわね。

68 :佐川 琴里  ◆i/JKvwsplw :2013/09/03(火) 00:33:55.50 0
 あしなが園で待機していた先生は、下水まみれ汗まみれの一行を見、ただ黙ってお湯に濡らした暖かいタオルを皆に渡した。
ふかふかした綿の布地に顔をうずめる。清潔な石鹸の匂い、優しい家の香り。
その空気を一杯吸い込み、肺に滞っていた下水道の臭気と車の排ガスを吐き出した。
 色々あった、ありすぎた。
ガスマスクを剥ぎ取られた彼の素顔と、赤針隆司と交わした言葉。
二回目の深呼吸で、今日あった様々な出来事を頭から追い出す。
このタオルが、全部綺麗に拭い取ってくれたらいいのに。
そんな、他愛のないことを考えられるまで心は落ち着いたようだ。

 身を整え一段落ついた所で、橘川店長が口を開く。

>「琴里ちゃん、見事な啖呵だったよ。よくぞ言ってくれた、私も同じ気持ちだ。
相手がどんなに強大だろうと抵抗し続ける。
でもこれは童話じゃない、正義が勝つではなく勝てば官軍が現実だ――」

橘川店長はこの街で過ごした年月が長い。
その時間分、彼はこの街を憎み、それ以上に親しみを感じてきたことだろう。
橘川店長の締りのない外見はやはりティンカー・ベルとは似ても似つかないけれど、
常に前向きな口調、そして何より平和を守るという首尾一貫した信念は、
彼がどのような姿をしていても偽ることができない特徴であるということを琴里は悟った。

>「共に、戦おう」

その声に真っ先に応じたのは硝子だった。
彼女の美しくたおやかな手が、店長のふくよかな手に重なる。

>「よろしくお願いします皆さん…当初の通り、私は馬車馬の如く働きますわ。湯水の如くこき使ってくださいな。
奴隷のように気高く、召使のように輝かしい私の精神。とくとご覧に入れますわ。私はいつだって、女の子の味方です」

やはり彼女の言葉は愉快だ。琴里は場違いながら少しだけ笑いをこぼす。
赤針隆司は、硝子を『大根役者』と評したが、役者の真髄とはきっと演技の巧拙だけで決まるものではないのだ。
>(「私みたいな奴は道化くらいが丁度いいんですよ。主演女優って柄じゃありませんわ。」)
道化という自称は硝子に限って言えば自嘲ではない。彼女が損な役割を演じてくれたお陰で、道中は随分明るくなったように思う。
また誰かの言葉を借りるとすればそう、天然にしろ計算にしろ……ということだ。

69 :佐川 琴里  ◆i/JKvwsplw :2013/09/03(火) 00:34:41.43 0
橘川店長と硝子、二人分の重なっている手をしばらく見つめ、隆葉は口を開く。
誰に向けるでもないその小さな声に、琴里は丁寧に耳を傾ける。
>「鳥たちは、いつかは殻を破り誕生するわ。だけど、だからと言って産まれた卵をすぐに割ったら、産まれる事も出来ず無残に死んでしまう」

やや間を置き。

>「同じように、いつかは鳥たちは巣を離れ独り立ちする。だけど、その時は……少なくとも、今ではないわ」

彼女の言葉を元に思い浮かべる。恐怖と暴力で殻を突き破り、孵った雛を。
親鳥ですら食い殺しかねないそれを、一体誰が許容するというのか。
 言い終えた後、隆葉の日に焼けていない白い手が、硝子の手に重なる。
それを見つめていると、一つ。 ふと心に思うことがあった。

(隆葉ちゃんは、変われたんだ)

栄養失調寸前の青白い顔、幽鬼のような立ち振舞いと、外の世界への憎悪と拒絶、拒絶、拒絶…。
変化に怯え殻に閉じ篭っていたのが以前の隆葉であり、変化を他者に押し売ってまわるのが現在のガスマスクだとすると。
正反対の二人に共通していたことは、

「自分を変えようとする努力をしてない!」

突拍子無く始まった言葉にきょとんとする人たち。琴里は構わず続ける。

「努力しない代わりに 自分以外を変えちゃえだなんて、そりゃ手前勝手すぎる、努力の方向性を間違ってる!
……あいつがこの街に絶望して革命を起こそうってんなら、あたしは正反対のことしてやるよ。
つまり、“あの人達もきっと変われる”…って希望を持ち続ける。――前も言った通り、あたしは絶対あきらめない。」

気持ち悪がられそうだけどね。そう言ってひとしきり笑い転げた後、琴里はしゃんと背筋を正した。

「でも分が悪い賭けじゃないよ?だってここに立派な前例がありますから!」

言って、隆葉を見つめる。目が合う。もう一度笑みが溢れる。
続いて硝子。可憐な顔立ちに茶目っ気を滲ませている。
最後に店長。優しくて人を安心させる笑顔。

琴里が全員の顔を見渡した後。
彼等の重なった手の上に、一回り小さな手が差し出された。




童話系異能者TRPG "BOOKs" 第二章 完

70 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2013/09/09(月) 01:46:28.22 P
怪人ガスマスク男こと十六代目ナイトメアこと就活生ことこの俺、『鳥島抜作』とその愉快な仲間達が、
隔離孤児自立支援施設『あしなが園』との小競り合いに勝利してから、数週間が経過していた。
俺がこの街に放り込まれた時にはまだしも穏やかだった日差しも、ここ最近は凶悪さを増して俺達を攻め立て、
北風とでも勝負してんじゃねえかってぐらい、道行く人々は着衣の枚数を減らしていった。

中央区、大通りのオープンカフェ。
日当たりの良いテラス席は今や灼熱地獄と化していて、他の客はみなクーラーの効いた店内に引っ込んで出てこない。
白いシャツと浅黒く焼けた肌が往来を埋める中、ただ一人葬式のように真っ黒なスーツに身を包む人影がある。
俺だ。

クールビズを各企業が自発的に施行し始めて数年が経ち、
もはや糞暑いなか背広を着込むサラリーマンは絶滅したと言っても過言じゃあないが、
どうやらそういう紳士協定はまだ紳士になれていない就活生には適応されないものらしい。

俺はお馴染みのガスマスクの中で汗をだらだらかきながら、隔離都市有志の制作した簡易新聞に目を通していた。
狭い街の中の出来事などたかが知れていて、日刊の新聞などペラ紙数枚程度の情報量に収まってしまう。
しかし今日の刊行分は、いつもの二倍は分厚く気合を入れて増刷されていた。
トップニュースを扱う第一面に踊る文字列は、ここ数日街角各所ののぼりで腐るほど目にしてきたイベントの名。

『隔離都市納涼祭』。

なにはともあれ、季節はめぐる。
隣人でいることを否定され、流行り病の患者のように住む場所を追われ、
果ては社会から『いなかった』扱いになって隔離されてきた爪弾き者の街にも、祭の季節はやってくる。
段々のぼりの高揚と、一晩限りのから騒ぎだけが、囚人に許された最後の楽しみであるかのように。

春が終わり、梅雨を越え、湿った空の向こうから。
隔離都市に、夏が来る。


                  BOOKS
            ――童話系異能者TRPG――
             第三章『隔離都市の夏』
            
                ――開幕――

71 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2013/09/09(月) 01:47:14.44 P
「隔離都市納涼祭……それはこの街が創設された時から毎年行われている、一種の慰問際のようなものらしい。
 具体的には"外"のお偉いさんがたがやってきて、隔離都市の住人に挨拶廻りと物資の供給を行うそうだ。
 『隔離されてくれててありがとう、また一年これ食べておとなしくしててね』……と言った具合にな」

俺は有志のまとめてくれた都市情報誌『隔離ウォーカー』を手に言った。
聴衆はあしなが園攻防戦を経てスカウトしたBOOKS能力者、『赤いハリネズミ』こと赤針隆司、通称"針鼠"。
そしておっぱいの件で意気投合した能力者、『三びきのやぎのがらがらどん』こと唐空呑。
俺達はこの隔離都市南区のサイゼを縄張りとするアウトロー集団だ。
団体名は『鳥島さんと超絶ヤバい連中のコミュニティ』、略して『トリニティ』。
俺は運ばれてきた青豆とパンチェッタの温サラダの半熟卵を潰しながら続けた。

「隔離都市と外部との物資の流通は日常的に行われているが、慰問の際には手土産として特に大量の物資供与がある。
 そうなると都市内で物資の供給過多となり、一時的に著しく物価が下がる。
 そのギャップを埋めるために、『お祭り価格』として特別に値上げをして適正価格に戻す。
 ……というのが、隔離都市納涼祭のカラクリだ」

俺達をこの街にぶち込んだ張本人たちを祭りまでして歓待するなんておかしいだろ!と思ったが、
こうしてしっかりした経済効果があることを考えると、先住民たちの気合の入りようも頷ける。
店を経営してる連中にとっては、実質的に通常の倍近い売り上げを得られることになるし、
消費者側も低下よりかは安い値段で大量に売られている物資を好きなだけ買い溜めできる。
政府主導のお祭り騒ぎなんてそうそう体験できることじゃないしな。

「ここのサイゼも祭りの期間中はメニューが特別仕様になるらしい。さっき店長に聞いた」

俺達トリニティはこの街に革命と変遷をもたらすことを目的に結成された組織だ。
ゆくゆくは隔離都市の全てを制圧し、我が手中に収めるつもりだが、まあそれは時期尚早と言うもの。
手始めに南区のサイゼを強襲し、店長を懐柔することでサイゼを支配することに成功した。
俺はサイゼリアの王になった。

「祭では隔離都市内のあらゆる店舗、学校、施設等が有志として企画を行う。
 都市経済の役に立っていることがお偉方の目に止まれば、資金援助などの特別な支援を受けられるチャンスでもあるからな。
 ――つまりそれは、俺達異能者が政府高官に対して最大限接近できる年一回こっきりの機会でもあるということだ」

マスクのエアフィルターをねじって外し、スプーンに乗っけた青豆を流し込む。
もぐもぐ咀嚼していると、かつての戦闘のことを思い出す。

路地裏での対峙。
俺/唐空/針鼠と相対したのは、美少女に変身するおっさんと、よくわからん女と、優男と、年端もいかない童女だった。
結果的には俺達の大勝利だったが、しかし俺は最後に一矢を報われた。
童女の能力により、ガスマスクと素肌の間にアンパンを送り込まれ、マスクを破壊、素顔を見られたのだ。
俺が超絶イケメンだったからよかったものを、非イケメンだったら土下座しても許さなかったぞ!

72 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2013/09/09(月) 01:47:59.02 P
「あしなが園の連中と、約束してしまったからな。俺のやり方で、世界に俺達の存在を認めさせると。
 ――BOOKS能力者の存在証明!それは能力の行使に他ならない!
 俺達は、能力を発現してしまった可哀想な連中ではなく、異能という長所を持った社会の構成員だ。
 では針鼠、他人を傷つけることしかできない戦闘系能力を、最大限に活用できる方法が何か知っているか?」

俺は二回分淹れてきたエスプレッソをぐびぐびやりつつ、針鼠の答えを待たずに言った。

「軍事利用だ。あるいはもっと小規模な抗争でも良い。
 大抵の戦闘系BOOKSは、シャバのどんな銃器や爆弾よりも隠密性に長け、また確実に相手を倒すことができる。
 ちょうど、俺達がたったの三人で武闘派能力者のたまり場であるこのサイゼを制圧したようにな」

たったの三人っていうか、俺は戦闘系じゃないので実質二人だったけど。
いや俺も活躍したよ!床に相手くっつけて動き止めたりとかね!
話が逸れたな、ええっとつまりその、俺達がいかに凄い連中か全世界に知らしめる方法ったら一つしかない。

「――納涼祭りの慰問パレード。こいつを強襲し、お偉方のいずれかを誘拐する。
 あとは、外の連中がお偉方の命にいくらの値段をつけるかを待てばいいだけだ」

もちろん、相手もそんなことは想定済みだろう。
シャバの武装警官隊はもとより、なんなら隔離都市内の戦闘系能力者を金で雇って護衛につけるまである。
というか既にやってる奴がいそうですらある。
隔離都市開闢から数十年、一度足りともパレード中のお偉方が狙われなかったなんてことはありえないはずだ。

ということはつまり、
1.そもそもお偉方を襲撃するメリットがない
2.とんでもなく強い能力者が護衛についてる
のいずれかが、今年まで欠かさず納涼祭が開催され続けてきた理由だろう。
だが、前者であろうと後者であろうと俺達の作戦を阻害するものはなにもない。
襲撃するメリットは俺達にとっては明確に存在するし、
強い能力者が金で雇われているのなら――もっと高い金額で雇いなおせばいいだけだ。

「針鼠!君に問いたい!この街で最強の能力者を知っているか?
 この街で戦い続けてきた君ならば、直接戦ったことや、その噂を耳にしたことぐらいは在るんじゃあないか?」

隔離都市最強の能力者。
そいつに接触し、お偉方の護衛ならば買収。
そうでなければトリニティの仲間に引き入れ、襲撃の際の戦力とする。
順調に進めば、来週の慰問パレードまでに準備を整えることができそうだ。

夏の空は高く、日は長く、隔離都市のスカイラインをまばゆく染め上げている。
しかしてその足元では、光が強ければ強いほどに、濃い影がその版図を広げていた。


【第三章開始。来週に控えた隔離都市納涼祭に慰問で来るお偉方を襲撃し、誘拐する計画進行中】
【納涼祭は稼ぎ時】

73 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2013/09/10(火) 22:43:45.31 0
「あっちーな……しかも面白そうなもん何にも見つからねーしよぉ」

陽炎揺らめく炎天下、金色の長い髪を揺らしぶらりぶらりと歩く女の姿がひとつ……そう、あたしこと神永千沙である。
通り名は「ラプンツェル」、なんのひねりもなく元となったBOOKSの題名であり、登場する少女の名前だ。
この能力のせいで隔離都市なんて言うつまらない街に閉じ込められた事に憤りを覚えている。
ここには自由がない。楽しいものを探してどこまでも歩いて行けると言う自由が。
あたしはこんな檻から出てもっと自由に世界を歩きたい。それが今の願いである。
とは言え、この堅牢な檻から抜け出すにはあたし一人の力では到底及ばない。
それこそ、この街をひっくり返せるだけの火力が必要だろう。
あたしには力がない。あるのはささやかなBOOKS能力だけだ。これでは全く足りない。
せめて、あたしを退屈させない楽しいものが何か見つかれば良いのだが……。

「しかし暑いし腹減ったな。どうせバイトまで時間もあるしどこか店にでも入るか」

そう呟き、すぐ目の前にあったサイゼに入店する。
店は混んではいない……むしろがらんどうだ。この昼時にほとんど客の姿が見当たらない。
案内しようと近づいてくる店員をスルーして手近な席に腰を下ろす……と、視界の端に妙なものが写った。
ガスマスク……この暑いのに異様なガスマスクに黒の背広姿である。
彼はどうやら向かいの席に居る二人の男性に向けて何事か話している様子だ。というか暑くないのか。
……面白そうな奴、いるじゃねぇかよ。
そう呟いて席を立つ。目的はひとつだ、決まっている。

「よっ、ガスマスクの兄ちゃん。ここは戦場か何かか?っていうか暑くねーの?」

気さくな笑みを浮かべ、初対面の相手に容赦なく話しかける。
別に特別な事ではない。あたしはいつだってこんな感じである。臆したりはしない。
相手は驚いた……のかどうかはよく分からない。マスクで表情が見えないからだ。
こいつ、よっぽど恥ずかしい顔でもしてんのか?いや、それを聞くのはさすがにやめておこう。
一緒に居る二人にも目を向ける。二人とも歳若い青少年だ。
若い方からは危険な香りはほとんどしないが、もう片方はビンビンだ。
なんか人でも殺してそうな顔してんなー、と思う。それも言わない。聞いても意味がないからだ。

74 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2013/09/10(火) 22:45:25.79 0
「ああ、いきなり話し掛けて悪かったな。あたしは神永千沙、ここいらじゃラプンツェルって呼ばれてる。よろしくな」

容赦ない強引な握手。
気に入った。こいつらとは良い関係を築けそうだ。面白そうな連中と知り合いになって損はない。
今までもそうやって、色んな奴と関係を結んできた。良い奴も悪人も居た。
だが、そいつらは一人の例外もなく愉快な奴らだった。あたしの勘に狂いはないのだ。
きっとこいつらも愉快な連中に違いあるまい。あたしを楽しくさせてくれるはずだ。
あたしは今まで「楽しいから」と言う理由で、様々な厄介事に首を突っ込んできた。
いくつかには犯罪行為も含まれた。だがあたしは後悔しないし、そもそも悪いとも思ってはいない。
あたしが楽しめればそれでいいのだ。世界がつまらない方がよっぽど悪い。

「それで、さ。さっきから聞いていたら誘拐とか何とか聞こえたんだが、あんたら要人誘拐でも企ててるのか?面白そうだな、一枚噛ませろ」

初対面でいきなり無茶な要求。相手が戦闘系の能力者だったら危険なところだ。
だが臆さない。こちらの能力は準戦闘系。大抵の事には対応できるつもりでいる。
それに、あたしの勘がこう告げるのだ。「こいつらの仲間になると楽しい」と。
楽しい事に躊躇なんていらない。ただ身を任せ楽しめば良いのだ。
きっとガスマスク他はあたしの事を気の狂った戦闘狂とでも思っているのだろう。それも気にしない。
楽しい事に飢え壊れたあたしは、きっと気でも違っているのだ。
ならばあたしはあたしらしく振舞うだけだ。何の遠慮が要るだろう。

「大丈夫だ、このあたしを信頼しな。何、足を引っ張ったりはしないからよ」

そう大見得を切るあたし。根拠は全くないただの自信である。
私はガスマスクの隣に遠慮なく腰掛けると、メニューを開き店員を呼ぶボタンを押した。
空腹は楽しくない。こんな楽しい席に空腹では勿体無いのだ。
間もなく店員が来ると、私はこう告げた。

「ああ、メニューのここからここまで、全部ね。あとドリンクバーひとつ」

【強引に仲間にしろと要求、てこでも動くつもりはない】

75 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/09/10(火) 23:01:41.89 0
「夏だなあ」
「夏ですねー」

ネバーランドのアルバイトになった安半君と商品の陳列をしながら他愛もない会話をする。

「もうすぐ納涼祭だなあ」
「そうですねー」

隔離都市納涼祭―― 一年に一度、外界のお偉いさんたちがやってきて挨拶兼物資の供給を行う、都市創設以来の恒例行事である。

「橘川さん、祭りって神に祈りを捧げる儀式ですよね。この街の神様は何て言うんですか?」

安半君が意識してかせずかは分からないが、事もなげに鋭い質問をしてきた。
隔離都市創設の経緯をリアルタイムで体験した私は、冗談めかすでも深刻ぶるでもなく事もなげに返す。

「この街の神様はな……私達自身だ。挨拶は文字通りの神を鎮める祈り。
お偉いさん達が持ってくる物資は神に捧げる供物だよ」

「え……?」

「そもそも神って何で神なんだと思う?
何も立派な人格者だからじゃない、世界を創造するような大層な力もいらない。
八百万の神を持つこの国では神のハードルは恐ろしく低いんだよ。
人の力では到底太刀打ちできないような超常の力をもっていればもう神だ、その性質が良い悪いに関わりなく……な」

「なるほど、現代に現れてしまった”神々”を十把一絡げに”封印”した結果できたのがこの街――
納涼祭はどうかこのまま大人しく封印されていてくださいという祈りの祭り、というわけですね……」

「そういうことだ」

76 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/09/10(火) 23:03:23.32 0
だったらこんな絶体絶命サバイバル都市にせずに多額の税金を投入してでも虚構の楽園を創り上げて丁重に祀らんかとも思うが
どさくさの混乱のうちにこんな風に落ち着いてしまったのだろう。それも仕方のない事だ。
現代日本のような大真面目なリアルリアリティ世界にポッと訳の分からん能力者が出て来ればとっさに適応できる方がおかしい。
しかしその場しのぎの政策のしわ寄せはいつか必ず来るもので――

現に今、怪人ガスマスク率いる革命軍は南区のサイゼリアを手中におさめ、隔離都市制圧の機会を虎視眈々と狙っているのである。
その先にある彼らの目的は――隔離都市解放。

「でも……”人”と”神”は本当に共存できないんですか?
あ、もちろん彼らの肩を持つ気はありませんよ! 目的のためには手段を選ばない奴らですから。
でも……正直最終目的自体は満更でもない気もするんです」

「できるかできないかといったら不可能ではないだろう。
でもそれは遠い未来……少なくとも私達が生きている間にはやってこない。
今はまだ、その時ではない。十分に育っていない卵を割ったら雛は死んでしまう。
力で無理矢理解放したって何の意味も無いんだよ」

畏敬と畏怖は紙一重、畏怖と忌避も紙一重だ。
BOOKS能力が出始めた頃――最初こそ超常の能力者としてテレビで取り上げられ持ち上げられもした。
しかし数が増えてくるにつれて距離を取られて持て余されるようになり、能力者による犯罪が出始めると世間の態度は一変。
今でも忘れない、普通の人々が能力者に向ける、恐ろしい物、触れてはいけないものを見るような目――
能力覚醒してすぐにここに連れてこられた若者たちは知らないだろう。
隔離都市の塀はそんな世間の目から私達を守る殻でもあるのだ……。

「さて、少し出てくる。店番をたのむよ」

安半君に店番を頼み、向かう先はあしなが園。
身よりのない子ども達が暮らす孤児院にして、今や悪の組織に対抗する自警団的組織”あしなが探偵団”のアジトである。
目的はもちろん納涼祭対策会議だ。外の世界のお偉いさんが来る格好の機会、奴らが何か仕掛けてこないはずはない。

ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆

77 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/09/10(火) 23:05:10.38 0
【納涼祭対策本部】と実に元気のいい筆文字で書かれた孤児院児童の力作が貼られた一室に私達は集まっていた。
机の上には大量のアンパンとお茶。
ここで探偵団の現メンバーを紹介しておこう。
まずは最年少にして探偵団発足以来の元祖メンバー、佐川 琴里。他人の持ち物を任意の場所へテレポートさせる転送能力者だ。
お次はいわゆる改心味方化代表、勝川隆葉。様々な個性溢れる河童を呼び出す召喚能力者。
あしなが園のお手伝いさんでもある、灰田硝子。物を性能まで含めて変身させる事ができる、変化術使い。
現在店番をしている少年、安半 万。寸止めパンチでアンパンを作り出す異色の能力者。
そして私、橘川鐘。美少女に変身して空を飛んだり物を飛ばしたりするおっさんである。

「この街に入るからには一応警備は厳重にして来るとは思うが奴らが本気でかかれば普通の警察官では太刀打ちできないだろう。
お偉いさん達が街に入り次第一応正義のヒロインとして通っている私が政府高官に接触、護衛を申し出る……」

そこまで言いつつ皆をぐるりと見回す。自分含めちょっと頼りなくは無いか?
実にトリッキーで応用が効く能力揃いで悪くはないのだが……いやいや私は何を考えているのだ。
飽くまでも探偵団、ガチバトル前提の作戦などもってのほかである。

「いや、私達が護衛についても構わず襲ってくるだろうな……。なにせ一回大敗を喫している」

ならばどうすればいい? 簡単な事だ、新たな仲間を増やせばいい。
と言えば難しそうだが、少なくとも体制を壊す過激派集団と平和を守る自警団では断然後者の方がとっつきやすいだろう。
確実に針鼠に勝てる、に越した事はないがそこまで強くなくても問題ない。
負ける可能性がある、そう思わせる事の出来る程度の能力者をこちらに取り込むことができれば奴らが派手な行動を起こしてくる可能性はぐっと低くなる。
なにせ失敗すればテロリストとして牢屋行きだ。

「そこでだ、こちらもそこそこの戦闘能力者を味方につければおいそれと手出しはできなくなるだろう。
まずは思い当たる人がいないかあげてみようではないか」

そう言って暫し思案。自分で言っておいて、なかなか思いつかない。
私と同じように自警活動をやっている者は何人か知っているものの、私と同じように素性不明だったりあるいは極端な個人主義だったり。
結局定かではない噂を呟くのが関の山であった。

「髪を自在に操って戦う凄腕能力者に助けられた、とかいう話を聞いた事があるようなないような……」

78 :赤針 隆司 ◇rgMIqPfoiGKP:2013/09/11(水) 01:35:43.27 0
 ヌケサクちゃん(クソガスマスク)の話を流し半分に聞きながら真イカとアンチョビのピザを頬張る。
 塩味の効きすぎたピザだぁなぁ、てぇかぁ、小エビのカクテルサラダまだかよ。持ってくんの遅すぎだぜぇ。
 もしゃもしゃとひたすらピザを口に押し込み、ドリンクバーの烏龍茶で飲み、流す。

 あのお嬢ちゃんの事件以来それらしい事件は無く(サイ○リア襲撃とかいうショボイ任務はあったが)、鬱憤を晴らすように食い物を口に運ぶ。
 ディアブロ風ステーキを半分に切り、口に押し込み、咀嚼し飲み込む。
 硬ぇ……はぁ、あんま良い肉じゃねーなぁコレぇ。オージーかぁ?まぁ、んなショボイ店に期待すんのが酷ってもんかぁ。

>「針鼠!君に問いたい!この街で最強の能力者を知っているか?
 この街で戦い続けてきた君ならば、直接戦ったことや、その噂を耳にしたことぐらいは在るんじゃあないか?」

「あ?あぁ?知らねぇよぉ、んなの。大体俺が喰った奴は再起不能。食い損ねた奴も探し出して喰ってきたぁ。
 噂ってもねぇ……んぁ?いや、そぉいやぁ、1人いたな。面白そうなやつぅ」

 ようやく運ばれてきた小エビのカクテルサラダにフォークを突き刺し、口に運びながらヌケサクちゃんの言葉に応える。
 従業員は俺とヌケサクちゃんとクソ説教野郎が喰いちらかした大量の皿とプレートを両手で重そうに運んでいた。
 その店員の背中に声を掛ける。

「エビと小柱のドリア追加でぇ、あと、半熟卵のペペロンチーノと辛味チキン追加よろしくぅ」

 無情な言葉に店員は弱々しく、『かしこまりましたぁ……』と残し、その場を去って行った。
 この地区では毎日が戦闘だ。据え膳喰わねばぁ、だったっけぇ?なんか間違ってる気もするがぁ。
 ま、能力に変な制限が無いにしろ、動く以上とにかく腹はそれなりに減るんだなぁこれが。

「でぇ、噂っつうか俺がいずれ喰ってみたい奴の1人なんだけ―――」

>「よっ、ガスマスクの兄ちゃん。ここは戦場か何かか?っていうか暑くねーの?」

俺の言葉を遮って1人の女が唐突に現れた。無駄に長ぇ髪に金髪ぅ……ついでに胸がでけぇ。
あれぇ?こいつってもしかして……。

79 :赤針 隆司 ◇rgMIqPfoiGKP:2013/09/11(水) 01:36:16.84 0
「……んー、あぁ、コイツコイツ。どんな予定調和だよクソみたいなタイミングで現れやがるなぁ」

>「ああ、いきなり話し掛けて悪かったな。あたしは神永千沙、ここいらじゃラプンツェルって呼ばれてる。よろしくな」

「あぁ、確定だわヌケサクちゃん。間違いなくコイツだこの女だ。最強かどうか知らねぇがぁ、強いって有名なのは確かだぜぇ」

 手をブンブンと握られ、振られながら強引な握手を交わしてきた。
 馴れ馴れしいなぁ、まぁ、嫌いじゃあねぇけど。

>「それで、さ。さっきから聞いていたら誘拐とか何とか聞こえたんだが、あんたら要人誘拐でも企ててるのか?面白そうだな、一枚噛ませろ」
>「大丈夫だ、このあたしを信頼しな。何、足を引っ張ったりはしないからよ」

「渡りに船ぇ、ってやつかぁ?ちょうどいいんじゃねぇのぉ、ヌケサクちゃん。
 女はあんまり喰わねぇ主義の俺が喰ってみたいと思った二人のうちの一人だ。戦力にはなるだろうよぉ」

 もう1人はあの『あしなが』のお嬢ちゃんだ。
 あのくらいのガキは少しあれば劇的な進化を見せる、また会う時が楽しみでしょうがねぇ。
 その辺の戦闘系能力者を狩るよりも何倍も何十倍もの刺激が得られるに決まってらぁ。
 いやぁ、比べるのも失礼かぁ。まあいずれにせよ楽しみな事この上ねぇなぁ、お嬢ちゃん?

>「ああ、メニューのここからここまで、全部ね。あとドリンクバーひとつ」

 厨房の奥で情けない声が上がる。何にせよぉ、哀れだなぁこの店ぇ。

「ついでに情報としては極度の大食い、いやぁ、暴食の部類だなぁこりゃぁ。
 よぉ、髪長暴食女ぁ、この店じゃぁ喰い放題だぁ。好きなだけ食え。金はどうとでもなるだろぉよぉ」

 適当に髪長暴食女に言いながら、ヌケサクちゃんに向き直る。

「でだぁ、ヌケサクちゃんよぉ。誘拐目的は金だけかぁ?そんなつまんねぇこと考えるテメェじゃねぇだろ?
 ま、俺ぁ楽しめればそれでいい。自分の暴力を思う存分試せればなぁ。
 でぇ、そりゃあ、まあどうでもいい。ヌケサクちゃんの目的は外へのアピールだったかぁ?
 これはもう絶好なチャンスな訳だぁ。だから誘拐。なるほど絶好なアピールだぁ、なるほどなぁ協力するぜぇ」

 運ばれてきたドリアをスプーンで掬って口に運ぶ。

「でぇ。我等がリーダーたるヌケサクちゃんに聞くけどよぉ。報酬わぁ?
 あぁ、言っておくけど金品云々はいらねぇ……俺が望む報酬、付き合いがそれなりに長いヌケサクちゃんが分かってるんだろぉ?
 よろしく頼むぜぇ。俺の欲望を満たせる奴をなぁ。その髪長暴食女でも構わないんだぜぇ。
 ま、よろしく頼むわぁ。ヌケサクちゃん」

80 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2013/09/21(土) 04:39:27.20 0
あれから数週間。私の車は革命軍に奪われてしまったが、しかしあれはミニカーを変身させたものなので問題ない。
いくらでも代わりは用意できますわ――ですが念のため、何時でも戦闘やら籠城やらが出来るような特殊仕様の装甲車にしておきましょう。見た目はあくまでノーマルに
…私の能力の影響を受けた車を奪われてしまったので、少なくとも向こう側には「そういう能力を持った人間が居る」ということが気づかれてしまったという可能性は高いでしょう。
まぁ、バレたところで特に困るような能力でもありませんがね……

と、まぁそんな車で朝早く出勤した私は、いつものようにお手伝いの仕事をこなす。
とはいえ、あしなが園全域の掃除はもう済ませてしまった。
実は「室内で運動会でもできるんじゃあないか」ってレベルで広い豪邸のメイドをやったことがある私にとって、これくらいは朝飯前ですわ。もう食べましたけど。
食器や小物やらの整頓も終わったし、暇なので園の幼女と戯れていると、店長さんが帰ってきましたわ。
私はコップに人数分のお茶を淹れ、納涼祭対策本部へと運びます。

「この街に入るからには一応警備は厳重にして来るとは思うが奴らが本気でかかれば普通の警察官では太刀打ちできないだろう。
お偉いさん達が街に入り次第一応正義のヒロインとして通っている私が政府高官に接触、護衛を申し出る……」
「正義のヒロインで通っているんですの。羨ましいですわ。私も優しい魔女で通りたいものですわ」

「いや、私達が護衛についても構わず襲ってくるだろうな……。なにせ一回大敗を喫している」
「ま、勝ったくらいで襲ってくるような簡単な方たちでしたら寧ろやりやすいんでしょうけど、でも向こうには当然頭の切れる頭脳労働タイプもいるでしょうからね
ですから襲ってくるにしても単純にはやってきてくれないでしょうね…」
ではどうしましょう。たとえば新しい仲間でも引き込めれば選択の幅は広がるんですけれど…

「そこでだ、こちらもそこそこの戦闘能力者を味方につければおいそれと手出しはできなくなるだろう。
まずは思い当たる人がいないかあげてみようではないか」
と、どうやら店長さんも同じことを考えていたようですわ
「とは言いましても、私ここにはつれて来られたばかりですし…」

「あ、そういえば。関係ないかもしれませんけれど、『美しい金髪のロングで、胸がそこそこ大きい美少女がこの町に居る』という噂を聞いたことがありますわ」

……一応、探偵団に味方している私ですけれど、革命軍のやることがわからないわけでもないですわ
私だって外のことは気になりますわ。いきなり皆と離れ離れにされて、突然閉じ込められて…はぁ
お姉ちゃんや妹たちは今何をしているのでしょう…

がらっ、突然会議室の扉が開きますわ。そこには一人の女性の影が
「あ、あの、その……ここに私のお姉ちゃんが居る、って聞いたんですけれど…」
大人しくて可愛らしい女の子ですわ…んん? この娘…
「あ、申し遅れました……私、硝子お姉ちゃんの妹の、灰田火燐です!」
やっぱりというかなんというか…私の妹でしたわ。というか、え? え?
「火燐…どうしてここに?」
世の中、不思議なこともあるものですわね…

81 :佐川琴里 ◇i/JKvwsplw:2013/10/17(木) 21:57:41.99 0
湿気と共に梅雨が来て、雨雲と共に去る。
蝉の声と共に初夏が来て、初めは控えめであった態度も徐々に尊大に、ふてぶてしく。
未だ暑さは去らず、うちわは風を呼ばず。
 小学校は夏休みを迎えた。
隔離都市の子供達には海も川もない。ついでに言えば連れてくれる親もない。
彼らにあるものといえば、途方も無く暇な自由時間と、無駄に余る体力だ。
街中を飛んだり跳ねたりするのも、いちご味のかき氷にも飽きてきた頃合い、
アニメスペシャル豪華3本立てをだらだらと眺めていた午前中、
甘い香りと、刺激的な非日常を伴って、歓迎すべき客人が現れた。

「えぇーっ?! 納涼祭に怪人軍団が現れるだってー?!」

子供達は歓声を上げた。

大人が見習うべき程柔軟かつ迅速な対応により、納涼祭対策本部が談話室に設けられる。
セロテープで繋げた半紙を看板代わりに、琴里が握る毛筆が激しく踊った。
 普段は使われない長机を『コ』の字に組み合わせてパイプ椅子に店長と子供達が座れば、会議が始まる。

>「お偉いさん達が街に入り次第一応正義のヒロインとして通っている私が政府高官に接触、護衛を申し出る……」
>「正義のヒロインで通っているんですの。羨ましいですわ。私も優しい魔女で通りたいものですわ」
「ぷぷっ。なんで店長がヒロインなんだよー!百万歩譲ってヒーローの間違いだろ?」
「あーそっか。君ベルちゃんの正体……」
「そうそうティンカー・ベル!歌って踊れて戦える宇宙最強の妖精!納涼祭りの時も颯爽と現れてガスマスクなんか一捻りってもんだろ!」

そういえば隔離都市の美少女戦士ことティンカー・ベルの正体を把握している子供はほんの一握りなのである。
琴里を含めたその少数派は、幻に淡い恋心を抱く少年を生暖かい目で見守った。

「そ、そうだね、本気出したベルちゃんがいれば向こうもそうやすやすとは……」
>「いや、私達が護衛についても構わず襲ってくるだろうな……。なにせ一回大敗を喫している
そこでだ、こちらもそこそこの戦闘能力者を味方につければおいそれと手出しはできなくなるだろう。」

子供が形成できる社会集団など限られている。本部メンバーの大半が難しい顔で首を横に振った。

「このままじゃパンチでアンパン出す人が主戦力になっちゃうよヤバすぎ」

82 :佐川琴里 ◇i/JKvwsplw:2013/10/17(木) 21:59:03.59 0
本部作戦会議は早々に行き詰まってしまう。そして熱しやすく冷めやすいのが子供というものだ。
「へくしゃ!」「風邪でも引いた?」「ううん、めっちゃ元気。さては誰かがあたしのこと噂してるな」

等、重要会議に見せかけた単なる雑談が場を横行し始める。
話が進まない代わりに消費されるのは、冷えた麦茶とお茶請けのお菓子だ。
しかし。変化は突然訪れた。

>「あ、あの、その……ここに私のお姉ちゃんが居る、って聞いたんですけれど…」

扉の方を見やれば、なんということだろう!年端のいかない少女が不安そうな表情で立っているではないか!
呆気にとられた皆の視線を一身に浴び、彼女は促されるように自己紹介を始めた。

>「あ、申し遅れました……私、硝子お姉ちゃんの妹の、灰田火燐です!」
>「火燐…どうしてここに?」

納涼祭対策本部にて、灰田姉妹、突然にして感動の邂逅である。

「火燐ちゃん?へえ、硝子お姉ちゃんって妹いたんだ、よろしく。あたしは佐川琴里」

理解の追いつかない一同を代表し、琴里が挨拶を試みる。

「本部は今丁度、人員不足を嘆いていたところでね…君の登場を歓迎しようではないか!
能力説明はおいおいしてもらうとして、まずは座ってアンパンでもどうぞ」

一服のち。

「まだ人数に不安は残るけど、これ以上考えても前に進まないよね。
……前回の敗因は、バカ正直に全員で真正面から立ち向かったってところにあると思うんだ。
ろくすっぽ戦えないあたしが前線で突っ走っても、悪口言うぐらいしか立ちまわれないし。
自分の力を存分に発揮するにはやっぱり、あれ、適材適所?
ってことであたしは今回『こうほうしえん』って役をやってみたいです!」

83 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/10/20(日) 14:18:04.59 0
>「ぷぷっ。なんで店長がヒロインなんだよー!百万歩譲ってヒーローの間違いだろ?」
>「あーそっか。君ベルちゃんの正体……」
>「そうそうティンカー・ベル!歌って踊れて戦える宇宙最強の妖精!納涼祭りの時も颯爽と現れてガスマスクなんか一捻りってもんだろ!」

……なんかいつの間にかやたら探偵団のメンバー増えてないか? あれだ、多分準メンバーってやつ。
しかし、勘違いされがちだがBOOKS能力は日常生活に使える便利系能力が大半で、戦闘に使える能力は比較的希少である。
ちなみにその中でも純粋な戦闘系はもっと希少。
これだけの人数がいながら、私達は戦闘員不足という問題に直面するのであった。
そこに救世主?が現れる。扉が開き、そこに立っていたのは見知らぬ少女。

>「あ、あの、その……ここに私のお姉ちゃんが居る、って聞いたんですけれど…」
>「あ、申し遅れました……私、硝子お姉ちゃんの妹の、灰田火燐です!」

あまりにも突然の姉妹の再開だが、硝子嬢の妹がここにいる事実が意味する事は一つ。
彼女もBOOKS能力が覚醒したということだ。
琴里ちゃんがいちはやく状況に適応し、ナチュラルに作戦会議に参加させる。

>「火燐ちゃん?へえ、硝子お姉ちゃんって妹いたんだ、よろしく。あたしは佐川琴里」
>「本部は今丁度、人員不足を嘆いていたところでね…君の登場を歓迎しようではないか!
能力説明はおいおいしてもらうとして、まずは座ってアンパンでもどうぞ」

「私は橘川鐘。見てのとおりおっさんだが琴里ちゃん達の友達をやらせてもらっている。
気を使わないでやってくれ」

もしも壁の外だったらおっさんと幼女が友達というとそれだけでいかがわしい香りがしてくるものだがそこは隔離都市。
ある意味世間一般の常識から解き放たれた世界でもあるのだ。
火燐嬢に現在の状況を簡単に解説する。

「いきなり仰々しくてすまないね、今この都市では街の制圧を企む悪の秘密結社が暗躍している。
今度の納涼祭に乗じて何か仕掛けてくるだろうから作戦会議をしているんだ」

>「まだ人数に不安は残るけど、これ以上考えても前に進まないよね。
……前回の敗因は、バカ正直に全員で真正面から立ち向かったってところにあると思うんだ。
ろくすっぽ戦えないあたしが前線で突っ走っても、悪口言うぐらいしか立ちまわれないし。
自分の力を存分に発揮するにはやっぱり、あれ、適材適所?
ってことであたしは今回『こうほうしえん』って役をやってみたいです!」

「うむ、琴里ちゃんは安半君と組んで後方からアンパンを送り込むのが適任だろう。
このメンバーだと消去法で私は前線になるだろうな。硝子嬢は……」

硝子嬢の方に目を向けると、感動の姉妹の再開シーンが繰り広げられていた。
水を差すのは無粋だ、暫しの間待つこととしよう。

84 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2013/10/28(月) 00:45:20.57 0
マルガリータピッツァの上のモッツァレラチーズの部分だけちゅうちゅう吸ってた俺に、話しかけてくる女がいる。
まあ、あるよねそういうこと。
俺ぐらいの絶世のイケメンともなれば、女の子から話しかけられることなど日常茶飯事だ。
ついこの間も知らない女から声をかけられて、さる高名な画家の絵について盛り上がった次第だ。
すげーよな、ラッセンの絵。あれ一枚でプロボックスが買えちゃうぜ。
ローン契約してきたけど、就活生にカードの審査って降りるのかなあ……。

閑話休題。
女はサイゼの角席を占領して放課後トークを繰り広げる高校生のような俺達に接触した。
この街の、このサイゼリアでだ。
言うまでもなく、ここのサイゼには店長と店員と俺達三人しか存在しないはずだ。
ここに吹き溜まっていたアウトロー共は、先週の段階で一掃し、看板にはガスマスク柄の旗を立ててある。
どう考えたってカタギの女の子が迷い込むような場所じゃあない。

案の定、女は"同業者"特有の匂いを纏っていた。
アウトローの匂いだ。

「ここが戦場か、だと?良い質問だな――戦場だよ、少なくとも今後はな」

俺は答え、次いで求められた握手に応じた。
女の子と手をつなぐなんて中学生のとき以来だ。
理科の実験かなんかで、クラスの皆が輪になって手を繋ぎ、端の生徒が隣の手を強く握る。
握られた生徒は反対側の手――逆隣の生徒の手を強く握る。
そうして、ニューロンを駆け巡る電気刺激を人の手で再現する授業だった。
俺は次の日から一週間手を洗わなかった。

おっと、また話が逸れたな。
女は神永千沙と名乗り、自身を『ラプンツェル』の能力者だと紹介した。
ラプンツェル。俺も名前と物語のさわりぐらいしか知らないんだが、確かラプンツェルってのは野菜の一種だったか。
確か……魔女の庭のメチャウマな野菜を食いたいが、魔女はその野菜の蔦を使って自室に出入りしているので食わせるわけにいかない。
じゃあ子供をあげるからそいつの髪を伸ばして蔦代わりにすればいいんじゃね?その発想はなかった!
みたいな話だったと記憶している。うーんこの意味不明な論理展開、まさにグリム童話。

で、ラプンツェルの童話異能力と言うからには、やはり蔓関係か髪関係の能力者なのだろう。
というか見るからにやたらめったらと長い金髪。
どう考えても能力の影響だろ、でなかったらファッションに無頓着過ぎる。
事実、針鼠は彼女のことを知っているようだった。

「君が注目しているということは、相応に『使う』手合なのだろうな、彼女は」

針鼠の価値判断基準は至って単純。
『強いか弱いか』――翻っては戦う価値があるかないかだ。
おすぎの映画評より辛口なこいつが『食ってみたい(Not性的な意味で)』とまで言う、この女。
そのアバンギャルドすぎるファッションセンスも含め、只者じゃあねえ。

85 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2013/10/28(月) 00:45:53.62 0
髪長女改め神永は、俺達が周りの迷惑顧みず大声でくっちゃべってた誘拐計画を耳ざとく聞きつけてきたらしい。
そんでもって、面白そうだから一枚かませろと来たもんだ。
遊びでやってんじゃねえんだヨ!と言いたかったが、しかし俺が言ってもまったく説得力がなかった。
ガスマスクでピザのチーズだけちゅうちゅうやってる人間に何言われたって納得できねえよ。
俺もできないもん。

そうこう言ってるうちに神永はウエイトレスでなおざりな注文を投げると、断りもなく俺達のテーブルに相席した。
ソファがギシっと軋み、神永が無防備な身体を俺の隣に投げ出す。
やだ……この子距離が近いっ。
女の子に隣に座られたら好きになっちゃうだろうが……!!
俺は女の子と十秒話しただけで恋に墜ちる自信がある。

「ま、ま、良いだろう。来る者拒まず去るもの待ってねえ行かないでお願いが俺達トリニティの鉄則だ。
 途中参加は結構だが、相応の覚悟をすることだな。俺達がやろうとしているのはガチの犯罪行為なのだから」

いま、この瞬間から神永千沙は俺達トリニティの仲間になった。
トリニティなのに四人組ってどういうことなの……って感じだが、まあここは大人の俺が大人しくハブられようじゃないか。
と、そんなところで落ち着いていると、針鼠が急にグズりだした。
誘拐計画。これは良い。だが、それを完遂した場合の報酬は?と彼は問うてきた。

ふむ、報酬か……。針鼠のことだから端金を掴ませて満足ってことはないだろう。
アウトローなのだから、金は自分で手に入れれば良い。具体的には、奪えば良い。
だから奴が求めているのは、金銭――もとい物質的な満足ではなく、精神面の充足。
針鼠の、BOOKS能力者ないしアウトローとしての存在証明。
強敵との、血沸き肉踊るような戦いである。

「ふっ……相変らずの"食欲"だな、針鼠よ。心配しなくとも君に支払う代償のアテはある。
 誘拐計画には必ず邪魔が入る。常勤の警備員も、お偉方のSPも、雇われの異能力者も、つまみ食いし放題だ。
 食い足りないのなら、ここに唐空君がいる。彼は戦闘系能力の中でも本当に戦闘にだけ特化した『純戦闘系』だ」

針鼠と同じように。
全ての異能力に同じだけのポテンシャルがあるとすれば、その潜在力を全て戦闘に費やした純戦闘系の強力さたるや、
想像に難くない。特に唐空の能力は、マジで人を殴ることにしか使えないのである。
汎用性なぞ糞食らえとばかりに特化しまくった能力は、ゆえに戦闘になれば他の何よりも強い。
例え針鼠が相手でも、そう簡単に遅れを取ることはないはずだ。

「そして、それでもなお食い足りないと言うのであれば――その時は、この俺自らが相手になってやる」

俺は啖呵を切った。100%のハッタリだった。
針鼠はなにやら勘違いで俺の能力を高く評価してくれているみたいだし、これぐらい言ってもバチは当たらんだろう。
マジで戦うことになっちゃったら即刻土下座しかないし、なんなら泣きながら財布を差し出すまであるけれども。
流石に隔離都市の異能者と連戦した後に唐空と戦ってなお、能力を見せてない俺とやり合う気力はないと信じたい。

86 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2013/10/28(月) 00:46:50.65 0
「とはいえ、実働してもらう以上、報酬の前金というものは必要だろうな。
 丁度いい。たったいま君が言ったことだが――神永ちゃん、針鼠。二人で一戦交えてみてくれ。
 なに、命まで取り合えと言う訳じゃない。そんなことをするメリットはない。
 作戦に組み込む以上、神永ちゃんがどれほど『使える』のかを見ておきたいんだ」

俺は言いながら立ち上がった。
流石に店内で異能バトルを勃発させるわけにはいかないので、場所を変えようと思ったのだ。
お会計ボタンを押して、ウエイトレスを呼ぶ。
勤務先がこんな状態になってもシフトに従う健気な女性店員は、束になっていた伝票を恐るべきスピードで検算した。

「お会計こちらになります」

………………!!
ウエイトレスの操作する端末から吐き出されてきたレシートには、見たこともない桁の数字が並んでいた。
具体的に言うと、スーパーカブの新車が一台買えちゃうぐらい。
当然、そんな額の持ち合わせはなかった。

「針鼠、お金持ってる……いや、君に聞いた俺が馬鹿だった。忘れてくれ。
 ――カードって使えますか?」

結局、カードは使えなかったので丁度生活費を持ち歩いていた唐空君に立て替えてもらった。
隔離都市では社会人は容赦なく無収入で放り出されるが、学生はその限りではない。
学生の本文たる勉強だけはしっかり全うできるよう、わりかし手厚い資金援助があるのだ。
唐空は普通に良いマンションを借りれる額の援助金を、安アパートに住むことで浮かせ、
浮いた額をスイーツ食べ歩きに費やしているのだそうな。偉いね!

とまれかくまれ、俺達はアジトたるサイゼを辞し、駐車場に向かった。
そこに停めてあるのは俺の愛車、プロボックス。
あしなが園との小競り合いで鹵獲した高級車は、翌日になると忽然と姿を消していた。
突っ込んでおいた荷物が地面に散乱していて、その中に一つのミニカーがあった。
どういう理屈かは知らんが、このミニカーを巨大化させて自走させる能力、みたいなものを使っていたらしい。
あしなが園のメンバーの能力だろうか。
一杯食わされたってかんじだ。

結局、しばらく足のない不便さを堪能しているうち、修理に出してたプロボックスが戻ってきた。
俺は助手席に唐空、後部座席に針鼠と神永を乗せて隔離都市の四ツ辻をひた走る。
ついたのは、いつぞやのパチンコ屋のだだっぴろい駐車場だった。
今日は定休日なので、従業員の車がはるか向こうに見える以外は閑散としている。
戦闘系能力者が気兼ねなく戦うには最適な空間だろう。

「ルールは一つ。相手に致命傷を負わせないこと。以上だ。
 神永ちゃん、こいつは君の入団テストも兼ねている。そこの針鼠はマジで危険でヤバい奴だ。
 本気でかからねば俺達の仲間になるならん以前に――死ぬぞ」

87 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2013/10/30(水) 22:15:26.17 0
>「火燐ちゃん?へえ、硝子お姉ちゃんって妹いたんだ、よろしく。あたしは佐川琴里」
「ええ、14歳、つまり中学二年生の妹ですわ。私にはあと下に8歳の妹と、上にお姉さまが二人いますの。あとお母様が二人いますわ」
「よろしくお願いしますね、琴里ちゃん…」

>「本部は今丁度、人員不足を嘆いていたところでね…君の登場を歓迎しようではないか!
能力説明はおいおいしてもらうとして、まずは座ってアンパンでもどうぞ」
「アンパン? わぁ、ありがとうございます」
アンパンを受け取った火燐は、それを口に運びもぐもぐと咀嚼しますわ

「わぁ、美味しい! ありがとうございます、こんな美味しいもの頂いてしまって…これ、お礼です!」
そういうと火燐は服の下からマッチの箱を取り出し、琴里ちゃんに差し出しますわ
…そういえば火燐は昔からマッチが好きでしたわね。ライターよりチャッカマンより、マッチをよく使ってましたわ

88 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2013/10/30(水) 22:23:00.37 0
>「私は橘川鐘。見てのとおりおっさんだが琴里ちゃん達の友達をやらせてもらっている。
気を使わないでやってくれ」
と、ここで橘川さんが火燐に自己紹介をしますわ
「よろしくお願いします、橘川さん。…琴里ちゃんとお友達? あっ…」
何かを察したような声を出し、少し後ろに下がる素振りを見せる火燐。
まぁ、そうですわよね。つい最近まで火燐は『外』にいたんですものね…
と、このまま橘川さんにロリコンのレッテルが火燐の中で貼られたまま話が進行すると面倒なことになりそうだったので、
私がかいつまんで説明し、誤解を解きましたわ

>「いきなり仰々しくてすまないね、今この都市では街の制圧を企む悪の秘密結社が暗躍している。
今度の納涼祭に乗じて何か仕掛けてくるだろうから作戦会議をしているんだ」
「街の制圧…? 世界征服じゃなくて? 随分スケールの小さい悪の秘密結社ですね…いえ、それとも隔離人々にとっては、
ここがまさしく『世界』ということなんでしょうか…?」
と、橘川さんの説明を聞いた火燐がそう呟きますわ。ちなみに火燐もプリキュアが大好きですわ

89 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2013/10/30(水) 22:31:09.11 0
「それにしても」
私は火燐の方を向き、言いますわ
「会いたかったですわ火燐〜〜! 心配したんですわよもう! もう絶対離さないんだから! 火燐火燐火燐火燐〜〜!」
「私もだよお姉ちゃん! お姉ちゃんったらいきなりどこかに消えちゃって…寂しかったんだよ? ずっとずっと一緒にいようね、お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!」
火燐と抱き合い、愛の言葉を叫びながら再開を喜びます。火燐は普段は敬語ですが、私に対してだけはこんな風に崩れた口調になるんですの。
まったく、そういうところが堪らなく可愛いですわ!

>「まだ人数に不安は残るけど、これ以上考えても前に進まないよね。
……前回の敗因は、バカ正直に全員で真正面から立ち向かったってところにあると思うんだ。
ろくすっぽ戦えないあたしが前線で突っ走っても、悪口言うぐらいしか立ちまわれないし。
自分の力を存分に発揮するにはやっぱり、あれ、適材適所?
ってことであたしは今回『こうほうしえん』って役をやってみたいです!」
>「うむ、琴里ちゃんは安半君と組んで後方からアンパンを送り込むのが適任だろう。
このメンバーだと消去法で私は前線になるだろうな。硝子嬢は……」

90 :灰田硝子 ◇8mVJTko00Q:2013/10/31(木) 21:16:32.19 0
「はっ…」
火燐と抱き合っていてすっかり忘れていましたが、今は作戦会議の真っ最中でしたわ。反省反省。
私は少し乱れた服を整え、答えますわ
「私も前線で戦えないわけではないですけれど、どちらかというと後方支援向きですわよね。
12時までならば、どんなものも1回限り他のものに変えられる、『シンデレラ』の能力は…」
「えっと…つまりこの陣営は人手不足で、猫の手も借りたい状況だから、私にも協力して欲しいんですね…?
分かりました。協力しましょう。私の能力はですね…」
と、火燐は服の下からまたマッチの箱を取り出し、マッチに点火しますわ
するとなんということでしょう、どこからともなくとても美味しそうで高級そうな料理が現れましたわ。
突然の出来事に皆さん驚いていましたが、琴里ちゃんはその料理に近づき、恐る恐る口に入れました。
すると琴里ちゃん曰く、とても美味しいとのこと。こんな料理を食べられるなんて、まるで夢みたいとか…
そこまで言われたら私も味見せざるを得ませんわね。…うん、確かに凄く美味しいですわ!
他の皆さんも美味しそうに料理を齧りますわ
「そして…」
そこで火燐がふぅ、と息を吹きかけ、マッチの炎を消すと、さっきまでそこにあったはずの料理が跡形もなく消えていましたわ
……これは、まさか…『マッチ売りの――
「と、まぁこのように。『マッチの炎、より正確に表記するなら一度でもマッチを経由した炎が灯っている間、幻を生み出す』―それが私の『マッチ売りの少女』の能力です。
最初は本当に『見た目』だけのささやかな幻影だったんですけれど、沢山練習したら、視覚味覚聴覚嗅覚触覚平衡感覚…全てを騙す幻が生み出せるようになったんです」
「やっぱり、『マッチ売りの少女』…って、火燐。あなたこの街にはついさっき着たばかりじゃあなかったんですの?
それに、『練習』…? BOOKsの能力って、鍛えられるものなんですの…?」
「いや、実はもっと前にこの街自体には連れて来られてるんだ。でも、いきなりのことで怖くなっちゃったから…
与えられた家にずっと引き篭もって、恐怖を紛らわすように一心不乱に能力の訓練をしてたの。…何回か倒れたけど、しばらく寝れば回復したわ
それで実際能力が成長したわけだし…だから実際、練習すれば伸ばせると思うよ。たぶん、だけど…」
私の質問に、火燐は懇切丁寧に答えてくれますわ
「と、言うわけで、皆さんが困っているとおっしゃるのなら、私も協力を惜しみません…! ただし」
火燐はそこで一旦言葉を区切り、いっそう真剣な表情になり、次の言葉を吐きますわ
「ただし、只というわけにはいきません。私は只働きはしませんし、そうでなくても今日はじめて会った人達に、危険を冒してまではいそうですかと協力するわけには行きません。つまり…」
「お金です! お金、つまり日本銀行券! 小銭でも可! お姉ちゃんは女の子のために動きますが、私はお金のために動きます。
さっきの私のBOOKs能力の情報料と合わせて、64000円。それが、私があなた達に協力する、条件…対価です……」
ああ、そうでした。火燐ちゃんは三度の飯よりお金が大好きな、清々しいくらいの守銭奴なんでしたわ…

91 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2013/10/31(木) 21:19:26.61 0
サイゼリアにて怪しげな集団と同席することになったあたしは、ただひたすら食べ続けていた。
来るメニューを片っ端から、ピザもドリアもほぼ一飲みで平らげてゆく。
ほぼ噛んではいない。ほぼ丸呑みといってよかった。
平らげる端から、追加注文をどんどん頼んでゆく。調理場は悲鳴を上げていた。
もはや異次元かと思ってしまう程に平らげる様は、軽く常識を逸していた。

>「ま、ま、良いだろう。来る者拒まず去るもの待ってねえ行かないでお願いが俺達トリニティの鉄則だ。
 途中参加は結構だが、相応の覚悟をすることだな。俺達がやろうとしているのはガチの犯罪行為なのだから」

「応、犯罪は久しぶりだけど慣れてるから安心してくれ。楽しければなんでもいいのさ」

口に物を詰め込みながらそう応対する。話半分しか聞いていないのだが。
食べながら話を聞くに、どうやら話題は報酬の話になったらしい。
報酬……考えていなかったが、楽しければ別に貰えなくとも構わないだろう。
コンビニバイトの少ない報酬では生活は苦しかったが、基本的に頓着しないのだ。
とは言え、正義の味方は儲からないが犯罪者相手なら確実に収入が入る。
犯罪に手を染める彼らは、案外お金のことには細かいのだ。働きに応じた額を払ってくれる。
貰えるものがあるならありがたく貰っておこう。そう結論付ける。
貰ったお金で焼肉パーティーでもすれば良いのだ。地域社会への貢献である。
宵越しの銭は持たないってか。まるで江戸っ子の思考回路だ。

>「とはいえ、実働してもらう以上、報酬の前金というものは必要だろうな。
 丁度いい。たったいま君が言ったことだが――神永ちゃん、針鼠。二人で一戦交えてみてくれ。
 なに、命まで取り合えと言う訳じゃない。そんなことをするメリットはない。
 作戦に組み込む以上、神永ちゃんがどれほど『使える』のかを見ておきたいんだ」

「何?入団試験ってか?面白いねぇ、あたしは強いから覚悟して挑むことを願うね」

そう言いつつあたしも立ち上がる。残された料理をちょっとだけ未練がましい目で見つめながら。
とは言え、今はちょうど腹八分目。食後の運動にもってこいだろう。
ガスマスク男は会計を見て軽く悲鳴を上げていたが、軽く無視をする。
実を言うと今日は財布を持ち歩いていないのだ。ならば何故サイゼリアに入ったのかと問われても困るのだが。
サイゼリアを出て、駐車場へと向かう。そこには一台の車があった。
隔離都市は車社会と言ってよいだろう。公共機関による交通網が発展していないからだ。
大して広くもないこの都市を自由に行き来するには、車か自転車が必要になるだろう。
まぁあたしは自分の足で歩いている訳だけど。などと考えつつ車に乗る。

92 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2013/10/31(木) 21:20:12.59 0
まもなく到着したのは、パチンコ屋の閑散とした駐車場だった。
大方今日は定休日なのだろう。遠慮なく戦うにはちょうど良い場所だ。
しかし、遮蔽物の一切ない空間は不利になるかもしれない。と、ちょっとだけ警戒する。
相手の能力次第であるが、あたしの能力は三次元的機動を得意とするのだ。
言い忘れていたが、あたしの能力「ラプンツェル」は髪を自在に操る異能だ。
伸縮自在、強度増加、様々な場面で使えるとても役立つ能力だったりする。
いつも髪を伸ばしたままにしているのは、いつでもすぐに能力を使えるようにするためなのである。
ふと、足元に転がるコンクリートブロックに気付く。よし、今回の戦闘ではこいつを使おう。

>「ルールは一つ。相手に致命傷を負わせないこと。以上だ。
 神永ちゃん、こいつは君の入団テストも兼ねている。そこの針鼠はマジで危険でヤバい奴だ。
 本気でかからねば俺達の仲間になるならん以前に――死ぬぞ」

「はは、分かってるって。骨のある奴は嫌いじゃないぜ」

そう軽口を叩きつつ、針鼠から距離をとって向かい合う。実はすでに必殺の間合いなのだが。
合図は必要なかった。申し合わせたかのように、二人は同時に動く。
こちらは髪を伸ばして蜘蛛の如く絡め取ろうとする動き。
対する針鼠の攻撃は一直線にあたしを貫こうとする拳からの長い棘だった。まるで槍のような一撃。
ぎりぎりでの回避。慌てていたので髪の操作がおろそかになる。
第一撃での搦め手は失敗した。だが策は尽きたわけではない。第二波に備える。

「棘……いいや針か。そう言うストレートな攻撃、悪くない」

そう笑いながら髪を操作。作った形は拳。操作性に優れているので何かと重宝している技だ。
拳を強く握るイメージ……そして振りかざし、打つ!
大振りに振りかぶった拳はたやすく避けられる。しかし、目的は違うのだ。
振りぬいた拳の髪を解除、展開。今度こそと絡め取りに掛かる。
今度は捕まえた。幾万の髪が絡みついて身動きが取れなくなることだろう。
すかさずそこへ、本命を叩き込む。髪の先に結わえたコンクリートブロックだ。
これで殴られればただでは済むまい。しかし、避ける動きは封じた。

「さて、どう出る針鼠!まだまだそんなものじゃないだろう?」

93 :佐川琴里 ◇i/JKvwsplw:2013/11/18(月) 00:08:42.39 0
>「お金です! お金、つまり日本銀行券! 小銭でも可! お姉ちゃんは女の子のために動きますが、私はお金のために動きます。
さっきの私のBOOKs能力の情報料と合わせて、64000円。それが、私があなた達に協力する、条件…対価です……」

そして眼前に広げられる灰田火燐の両手。琴里は思わず彼女の顔を二度見してしまった。
六万四千円…。正月もまだなのにそんな大金ねえよ!640円にしろ!という雰囲気が場を制した。
6万円あれば何ができる?
美味しいご飯をお腹一杯、電気代だってケチらずに済むし、新しいおもちゃだって買えるじゃないか……
(実のところ、あしなが園の玩具関連の出費についてはネバーランドの好意に甘えまくっている)
 貧乏な子供達は思った。――これは戦いだ、と。

琴里はおもむろにパッツン前髪を七三に分けた。

「うん、火燐ちゃん、お金は大切だよ。お互い後に禍根を残す事が無いためにも、
ここでキッチリとさせようじゃあありませんか。ではまず請求額の内訳から決めていくかい?
君が提示した六万四千円に含まれているのは2つ。
1.灰田火燐への依頼料 2.灰田火燐のBOOKs能力の情報料……こうだね」

ふところから取り出したるは、年季の入ったそろばん板。

「てはじめに『2』について話し合おうか。
君のBOOKs能力は『対象の五感+αを操る』という大変稀有なものだ。
この能力の弱点は、所詮幻覚であり、時間を経ると対象はその呪縛から解き放たれるということ。
そんな重大な情報をあたし達に教えてくれたってことに、火燐ちゃんの誠意を見た気がする!
対価は大きいね、もし情報屋を通して知ったとなれば依頼料3万円は下らないんじゃないかな」

琴里はちらと火燐の様子を見る。どうやら彼女もまんざらではなさそうである。
……よし、今からが勝負だ。

「とここで、火燐ちゃんにとっては残念なお知らせが一つある。
君は金額提示を行う前にあたし達にこの情報を教えてしまった。これは紛れも無く意思表示の不成立!後出し請求は詐欺行為ってもんさ。
それがまかり通るなら、君が食べたアンパンを10万円にして 今から請求してもいいってことになるんだけど、どうだね?もちろんイヤダヨネ?
ってことで『2』にあたる情報料3万円はチャラ!ついでに、火燐ちゃんみたいな可愛い女の子にいきなり不当な額を請求され、
あたしのガラスハートは傷つきました。慰謝料4000円を請求します。これを請求額と相殺させ、残りはぽっきり30000円だ」

94 :佐川琴里 ◇i/JKvwsplw:2013/11/18(月) 00:09:35.95 0
「残り30000円、これが灰田火燐殿を雇用するに当たり、当本部が支出すべき金額となります。
しかし!君がこのプロジェクトに参加しても成功するという保証はないのだ!
履歴書だって面接だって筆記試験だって無いのにいきなり雇用だなんて、
就職氷河期の今の時代じゃ御伽噺だよ。だけどあたしらだって鬼じゃない!
 君の健気な献身精神に敬意を表し、前金のみをここで払うとしよう。
これは計画の成功不成功を問わず君が全額受け取れるものとする。
相場は成功報酬の2割〜4割だね。ここでは3割、9000円としようじゃないか。」

熱弁で乱れた前髪を撫で付けて続ける。

「そしてこれは提案なんだけど、この隔離都市は日本国内に位置しながら政府が権力を行使しづらい、いわば無法地帯とも言える場所だ。
政府の保証がない貨幣など、ただの紙クズ金属クズ!要するに、火燐ちゃんが大好きな日本銀行券の価値って非常に不安定でね?
その代替通貨として広く使用されているのがこの金券、」

琴里はどこから取り出したかも知れぬ緑色の紙束で机をバシ!っと叩いてみせた。

「”ぶっくーぽん”なのさ!」

このクーポン、町内会の好意によりあしなが園の子ども達に無償で配給されたものであった。
町おこしとか地域活性化とか、それらしい

「君にはこの”ぶっくーぽん”5000円分をズギャンと進呈いたそう。
で、のこり4000円を現金での支給にするんだけど…」

琴里は橘川店長にめくばせした。
(……おじちゃん、ねぎりにねぎったけど、どう?4000円払える?まだ交渉してみる?)
以上の大部分は、ドラマとマンガで培ったエセ交渉術だ。
回転が早い割に中身が無い琴里の話術は威勢が全て。相手に考える余裕を与えれば負けとなる。

金額については一旦折り合いをつけたのち。
本部は肝心な戦術に移る。

95 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/11/19(火) 01:55:26.53 0
>「よろしくお願いします、橘川さん。…琴里ちゃんとお友達? あっ…」

危うく誤解されそうになったが、姉である硝子嬢の説明で事なきを得た。
まあ大した問題ではない。すぐに、この街では壁の外の常識は通用しない事を嫌でも思い知る事だろう。
そもそもおっさんと幼女が友達なだけで犯罪者認定されるのは、肉体・社会的地位等全てにおける圧倒的な力の差が無関係ではない。
しかしBOOKS能力に目覚めてこの街に隔離されてしまった瞬間、そんなものは風の前の塵のごとく些細な事になる。
BOOKS能力者同士が戦えば幼女がムキムキマッチョをぶっ飛ばす事も普通にあるし
偉い先生や政治家だってもしこの街に隔離されればそれまでの社会的地位は意味を成さない。
この街ではBOOKS能力とその根源にある己の魂が全てなのだ。年齢性別なんて飾りです、壁の外の人にはそれが分からんのです。
と、美少女に変身するおっさんが脳内で言い訳理論を繰り広げている間に、火燐嬢は自主的に協力を申し出た。

>「えっと…つまりこの陣営は人手不足で、猫の手も借りたい状況だから、私にも協力して欲しいんですね…?
分かりました。協力しましょう。私の能力はですね…」

そして彼女は、自らの能力を実演してみせる。

>「と、まぁこのように。『マッチの炎、より正確に表記するなら一度でもマッチを経由した炎が灯っている間、幻を生み出す』―それが私の『マッチ売りの少女』の能力です。
最初は本当に『見た目』だけのささやかな幻影だったんですけれど、沢山練習したら、視覚味覚聴覚嗅覚触覚平衡感覚…全てを騙す幻が生み出せるようになったんです」

「……すごいじゃないか!」

彼女の能力をもってすれば敵を幻覚で翻弄する事も可能だ。
聞けば、実は彼女は少し前からこの街にいて、今まで密かに能力を磨いてきたという。

>「と、言うわけで、皆さんが困っているとおっしゃるのなら、私も協力を惜しみません…! ただし」

「ただし……?」

一体どんな条件を提示するのかと注目する一同。

>「ただし、只というわけにはいきません。私は只働きはしませんし、そうでなくても今日はじめて会った人達に、危険を冒してまではいそうですかと協力するわけには行きません。つまり…」
>「お金です! お金、つまり日本銀行券! 小銭でも可! お姉ちゃんは女の子のために動きますが、私はお金のために動きます。
さっきの私のBOOKs能力の情報料と合わせて、64000円。それが、私があなた達に協力する、条件…対価です……」

96 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/11/19(火) 01:56:15.12 0
辺りにざわめきが広がっていく。それもそのはず、子ども達にとっては工面できるはずもない大金だ。
もちろん店の経営は一応成り立ってるので私にとっては払えない額では無いが、問題は金額ではない。

「……いや、君の言う事はとてもよく分かる。でも一応ボランティアで成り立ってる組織だからその……ねえ。
それにビジネスライクな雇用関係ってなんだかどっちかというと……」

悪の組織みたいじゃないか、と言いそうになって口をつぐむ。それは漫画やアニメの見すぎによる偏見というものだ。
しかし、もしここで64000円を払って、それを見た皆が自分にもおこずかい頂戴!と言い始めたら、探偵団崩壊か店が倒産の二者択一だ。
それだけは避けなければならない。
どうしたものかと思案していると、琴里ちゃんが突然髪を七三に分けた。何か考えがあるようだ。

>「うん、火燐ちゃん、お金は大切だよ。お互い後に禍根を残す事が無いためにも、
ここでキッチリとさせようじゃあありませんか。ではまず請求額の内訳から決めていくかい?
君が提示した六万四千円に含まれているのは2つ。
1. 灰田火燐への依頼料 2.灰田火燐のBOOKs能力の情報料……こうだね」

そこには年上相手にマシンガントークで畳み掛け、堂々たる交渉術を披露する琴里ちゃんの姿があった。
内容をよく聞くと何かのドラマっぽい気がするが、こういうので一番重要なのは勢いだ。
この女子小学生、只者ではないとは前々から思っていたが、やはり只者ではなかった。

>「君にはこの”ぶっくーぽん”5000円分をズギャンと進呈いたそう。
で、のこり4000円を現金での支給にするんだけど…」

4000円まで持ち込んだところで、私に目配せしてくる琴里ちゃん。
上出来過ぎる程だ、4000円なら強力な見方を仲間に引き入れるためという事で皆も納得してくれるだろう……きっと……多分。
そこに闖入者が現れる。

「現金支給なんて怪しからあんパーンチ!」

突如乱入してきた安半君が火燐嬢に寸止めパンチ。出来立てホカホカのアンパンが現れる。

「食べてみてください。お腹がすいたときはこのアンパンをいつでも食べていい権利、でどうでしょう?」

97 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/11/19(火) 01:57:20.08 0
「これ安半君、だからびっくりするから事前に言ってからにしなさいと……。
突然済まなかったね。どちらを選ぶかは君にお任せしよう。
現物支給という概念があってだな、物での支給も立派な経済的利益の内に入る。
そして安半君のアンパン回数無制限には4000円以上……いや、プライスレスの価値があると思う。
プライスレスとは決して0円の事ではない、敢えて金銭的価値に換算するなら……”無限大”だ。
どちらにするか、食べてみてから君自身で判断してほしい」

こうして現金4000円か無限アンパンかは火燐嬢に委ねられる事となる。
実は無限アンパンは入団者全員についてくる特典だったりもあるのだが、嘘は言っていない以上そこは交渉術のうちだ。

対価の交渉がひと段落ついたところで、議題は作戦の相談へと移っていく。
火燐嬢の幻影能力は作戦の重要な位置を占める事になるだろう。
とりあえず、いくつかのプランを提示する。

「プラン1。オーソドックスにいくなら……。
その幻影は人に被せてかける事は出来るのか? それなら私をお偉いさんに見せかけてこちらを狙わせればいい。
その間に本物のお偉いさんは用事を終わらせて帰っていくという寸法だ」

「プラン2。攻めの姿勢でこの機に勢力拡大を狙うなら。
祭りとは本来神を奉る行事――そこで祭りの演出にかこつけて”私達の考えたこの街の神”を降臨させてしまうのはどうだ?
何、神と言えば大袈裟だがご当地ゆるキャラみたいなもんだ。マスコットキャラクターがいるといないでは人心掌握力が大違いだからな」

どちらにせよ火燐嬢の能力に大きく頼る事となる。灰田姉妹にどうだろうか、という視線を投げかける。

98 :灰田火燐 ◆8mVJTko00Q :2013/11/29(金) 21:45:54.62 0
私が真摯な態度で、正当な対価を要求すると、この場の空気が悪くなりました。「高すぎる」とでも言いたげな。
どういうことだ。私みたいな幼気な少女を戦場に放り込む、つまり私の命を買うってことですよ?
情報料と合わせても安すぎると思うんですけど。同じ理由で琴里ちゃんあたりも要求していいと思う私でしたが、そこで当の琴里ちゃんが口を開くのでした
>「うん、火燐ちゃん、お金は大切だよ。お互い後に禍根を残す事が無いためにも、
ここでキッチリとさせようじゃあありませんか。ではまず請求額の内訳から決めていくかい?
君が提示した六万四千円に含まれているのは2つ。
1.灰田火燐への依頼料 2.灰田火燐のBOOKs能力の情報料……こうだね」
「そうそう、お金は大切なんです。この世は金がすべてです」
と、琴里ちゃんが演説を始めます。説得というより演説、言いくるめの類でしょう、と私は感じました

>「とここで、火燐ちゃんにとっては残念なお知らせが一つある。
君は金額提示を行う前にあたし達にこの情報を教えてしまった。これは紛れも無く意思表示の不成立!後出し請求は詐欺行為ってもんさ。
それがまかり通るなら、君が食べたアンパンを10万円にして 今から請求してもいいってことになるんだけど、どうだね?もちろんイヤダヨネ?
「うん? 忘れたんですか、琴里ちゃん。私がアンパンのお礼にマッチを渡したということを! そう請求されたのならあのマッチを11万円だったことにできるわけですよ。
つまり言ったもの勝ち、やったもの勝ちなんです! 」
>ってことで『2』にあたる情報料3万円はチャラ!
なんと大胆な。有無を言わさず勢いに乗った矢継ぎ早な台詞です。
私は言うけど

99 :灰田火燐 ◆8mVJTko00Q :2013/11/29(金) 21:48:39.96 0
「んー…納得いきませんけど、まあ良しとしましょう。一理あります」
とはいえ、ここは迎合しておきましょう。無理にゴネて稼ぎ先を失っては元も子もありません。
ちなみにこの言葉、「元」は元金という意味で、「子」は利子という意味です。まったくおあつらえ向きな言葉ですね
>火燐ちゃんみたいな可愛い女の子にいきなり不当な額を請求され、
あたしのガラスハートは傷つきました。慰謝料4000円を請求します。これを請求額と相殺させ、残りはぽっきり30000円だ」
「私が可愛いというのなら、寧ろ私がお金を貰うべきなんじゃないですか? ほら、美人に通常の価格より遥かに高いものを買って楽しむ場所があるでしょう。
たしかそう、キャバ――むぐっ」
「shut upですわ!」
ここまで言ったところで、お姉ちゃんが私の口を押さえてきました。私何か変なこと言ったかな…
こんなことをしている間にも、琴里ちゃんの演説は続く続く。
まさに激流、矢継ぎ早というよりマシンガントークですね

>相場は成功報酬の2割〜4割だね。ここでは3割、9000円としようじゃないか。」
「でも待ってください。九千円って払いづらくないですか? 一万円にしましょうよ。諭吉さん一枚で済みます」
どさくさに紛れさりげなく値上げする私でしたが、琴里ちゃんも譲らないご様子で。
>「そしてこれは提案なんだけど、この隔離都市は日本国内に位置しながら政府が権力を行使しづらい、いわば無法地帯とも言える場所だ。
政府の保証がない貨幣など、ただの紙クズ金属クズ!要するに、火燐ちゃんが大好きな日本銀行券の価値って非常に不安定でね?
その代替通貨として広く使用されているのがこの金券、」
「琴里ちゃんもしかして、今お金のことをクズって言いました? 聞き間違えだと良いんですけど、もしそうでないなら私のガラスハートが傷つきましたよ?」

100 :灰田火燐 ◆8mVJTko00Q :2013/11/29(金) 21:49:45.91 0
>「”ぶっくーぽん”なのさ!」
「ぶっくーぽん?」
なんでしょう。肩たたき券みたいなものかしら?
店長に尋ねると、どうやら町内会の好意によりあしなが園の子ども達に無償で配給されたものらしい
>「君にはこの”ぶっくーぽん”5000円分をズギャンと進呈いたそう。
で、のこり4000円を現金での支給にするんだけど…」
「……本当に使えるんですよね? もし使えなかったら琴里ちゃんから慰謝料10万は請求しますよ私」
と、言いながらもちゃっかり受け取る私。疑り深い癖に手が早いですね…我ながら

「現金支給なんて怪しからあんパーンチ!」
「!?」
突然男性が私の顔面に寸止めパンチをしてきました。お姉ちゃん曰く安半さん、アンパン使いらしいですね
怪しからってなんでしょう…あっ、けしからんか。文章にすると一瞬分からなくなりますね
>「食べてみてください。お腹がすいたときはこのアンパンをいつでも食べていい権利、でどうでしょう?」
「ありがとうございます。このアンパンは頂きますね」
ふむ、やはりBOOKs能力製、(突然ほかほかのアンパンが出るなんて異能以外にありえません)絶品ですね

101 :灰田火燐 ◆8mVJTko00Q :2013/11/29(金) 21:55:57.98 0
>「これ安半君、だからびっくりするから事前に言ってからにしなさいと……。
突然済まなかったね。どちらを選ぶかは君にお任せしよう。
現物支給という概念があってだな、物での支給も立派な経済的利益の内に入る。
そして安半君のアンパン回数無制限には4000円以上……いや、プライスレスの価値があると思う。
プライスレスとは決して0円の事ではない、敢えて金銭的価値に換算するなら……”無限大”だ。
どちらにするか、食べてみてから君自身で判断してほしい」
「そうですね。このアンパンは世界一美味しいといっても過言ではないでしょう。これがいくらでも食べられるのであれば、その価値は店長の仰るとおり∞と言えるでしょう。
4000円よりずっと価値があるでしょうね…こんな美味しいパンどんなパン屋さんに大金を積んだところで食べられるものではないでしょう」

102 :灰田火燐 ◆8mVJTko00Q :2013/11/29(金) 21:58:55.67 0
「…ですので、私は現金4000円を請求します!」
しかし私はあくまで現金を求めます。私にとってはお金がすべてなのです
「価値だとか損得だとか、私にとってお金儲けとはそういうことじゃあないんですよ。
いくらアンパンが美味しくとも、アンパンはアンパンでしかありません。対して4000円は、それがあればアンパンは勿論のこと、
メロンパンが買えます。コッペパンが買えます。カレーパンが買えます。食パンが買えます。…お金って、そういうものなんです」
「それに、その権利って貰わなくてもアンパンは食べられそうじゃないですか。例えば、その権利を私が持っていないからという理由で、
私以外が全員食べているのに私だけ食べていない…なんてそんな状況、心優しそうな彼に耐えられますかね?」
「パンチでアンパンを生み出す」。そんな優しい能力を持っている彼が、優しい心を持っていないわけがありません。
他人とは変わった趣味嗜好を持っているお姉ちゃんが、何かを変化させる能力を持っているように。
頭のてっぺんから足の先まで偽物でできた私が、偽物の感覚を生み出す能力を持っているように。
BOOKs能力は、作品以上に所有者の精神に左右されますからね
「と、言うことで現金4000円を請求することを、私はここに宣言します! それと…」
私は鞄から紙を取り出し、それに枠と必要事項を書いていきます
「即興の契約書です。いざ成功したときにすっぽかされたら困りますからね。ここにサインお願いしますね」
そんなこんなで、金額については一旦一件落着しました。それにしても、琴里ちゃんの話術は凄いですね。ありがたく盗ませてもらいましょう

103 :灰田火燐 ◇8mVJTko00Q:2013/12/09(月) 22:32:36.42 0
>「プラン1。オーソドックスにいくなら……。
その幻影は人に被せてかける事は出来るのか? それなら私をお偉いさんに見せかけてこちらを狙わせればいい。
その間に本物のお偉いさんは用事を終わらせて帰っていくという寸法だ」
「当然出来ますよ。幻影で琴里ちゃんを大人に見せかけることも、店長を女性に見せかけることも出来ます。
手触りや匂い、音や声なんかも偽装できますからね。更に言えば幻影だけを一人歩きさせて、
『攻撃されたら血を流して転げまわる』なんて芸当も可能です。……火が消えなければ、ですけれど」
>「プラン2。攻めの姿勢でこの機に勢力拡大を狙うなら。
祭りとは本来神を奉る行事――そこで祭りの演出にかこつけて”私達の考えたこの街の神”を降臨させてしまうのはどうだ?
何、神と言えば大袈裟だがご当地ゆるキャラみたいなもんだ。マスコットキャラクターがいるといないでは人心掌握力が大違いだからな」
「ご当地ゆるキャラですか。良いですね! ではあしなが園から取って…足長…長足…ながあし…ながーし…『ながっしー』なんてどうでしょう!」
完全にパクリでした。ながっしーって。何汁をブシャーするのよ…
「しかしどうでしょう、店長。隔離都市と言えどもここは日本。神が唯一なんて寂しくありません?
1柱より2柱、2柱より3柱。3柱より4柱、4柱より八百万です!
つまり神、ゆるキャラと一緒に、女神…即ち萌えキャラを作るというのは如何でしょう!
ゆるキャラに興味が無い層は、萌えキャラでハートをキャッチする! 萌えキャラに靡かない層は、ゆるキャラで引き寄せる!
ついでに限定グッズやお土産のお菓子とかも用意してみたりして! うふふふふ、いくら儲かるかな…」

104 :灰田火燐 ◇8mVJTko00Q:2013/12/09(月) 22:33:47.69 0
火燐たらまたお金に目がくらんでますわ……しかし萌えキャラ、美少女とあれば私も黙って入られませんわね
「まったく火燐ったら。萌えキャラなんてそんなあからさまな方法……乗りましたわ!
今のご時勢、お菓子や地方自治体にも萌えキャラが付きますからね。その勢いに乗らない手はありませんわ!
琴里ちゃんや隆葉ちゃん、火燐ちゃんあたりにコスプレさせて……お祭りでショーでもすればみんなの視線とハートを独り占めなんじゃあありませんこと!?
それに合法的に女の子に恥ずかしい格好を…こほん、いえ何でもありませんわ。ええ、本当に。
と、とにかく! 衣装や着ぐるみならお任せくださいな! 12時までの限定とはいえ、私のシンデレラで服を変身させますわ!」
「例え人気が無くても、私のマッチ売りの少女で人数を水増しして大人気っぽく見せかけることだってできますよ!
騙しているみたいで罪悪感ありますけど、街のためなら仕方有りません。いや、嘘です。本当は罪悪感なんか微塵もありません」
ともかく、プランAにしろBにしろ、変えられる私や代えられる火燐の能力を利用することになるのは明白ですわね。火を見るより明らかですわ
「ああ、そうだ」
と、火燐が何かを思い出したように言いますわ
「私の情報の対価については後出しだということでなかったことにされましたけど、しかしどうでしょう。当の琴里ちゃんも認めるところの重要情報であるあの情報に、何の対価も無いというのはいただけないかと思われます。
BOOKs能力を明かすということは、相手に自分の持っている武器を全て手渡すのと同義ですからね。なので……
皆さんのBOOKs能力を、私に教えてください! そのくらいの対価、まさか蹴ったりしませんよね?」
なるほど、確かにそうですわ。火燐だけみんなの能力を知らないというのは、状況として危険です。私と安半さんの能力と、琴里ちゃんが後方支援向きだということくらいしか分かっていませんからね…
その提案には皆さん了承したようで、火燐に能力を教えてくれましたわ
「ありがとうございます! 皆さん素晴らしい能力ばかりですね!」
火燐も笑顔ですわ。さて、遅くなった紹介も済んだところで、議論に戻りましょう
「つまり火燐が提案し、私が賛同する『ゆるキャラ+萌えキャラ作戦』……プラン2+αですね。これとプラン1のほかに何か意見はありますか、みなさん?」

105 :名無しになりきれ:2013/12/09(月) 22:35:23.75 0
>>104名前欄訂正
× 灰田火燐 ◇8mVJTko00Q
○ 灰田硝子 ◆8mVJTko00Q

106 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/12/10(火) 23:09:45.69 0
>「…ですので、私は現金4000円を請求します!」

某有名漫画の「だが断る」か! と内心ツッコんだ。

>「価値だとか損得だとか、私にとってお金儲けとはそういうことじゃあないんですよ。
いくらアンパンが美味しくとも、アンパンはアンパンでしかありません。対して4000円は、それがあればアンパンは勿論のこと、
メロンパンが買えます。コッペパンが買えます。カレーパンが買えます。食パンが買えます。…お金って、そういうものなんです」
>「それに、その権利って貰わなくてもアンパンは食べられそうじゃないですか。例えば、その権利を私が持っていないからという理由で、
私以外が全員食べているのに私だけ食べていない…なんてそんな状況、心優しそうな彼に耐えられますかね?」

「ドキッ! バレたか……!」

火燐嬢の金銭への執念と冷静な分析能力を目の当たりにして動揺を隠しきれない安半君。
しかし少し考えてみれば当然と言えば当然の事。
マッチ売りの少女は、貧乏であったばっかりにいたいけな少女が死に至る話だ。
それがBOOKS能力に飛び抜けた金銭感覚として現れても不思議はない。
この金銭感覚と知能は革命軍との戦いにおいてもきっと役に立つ事だろう。

>「即興の契約書です。いざ成功したときにすっぽかされたら困りますからね。ここにサインお願いしますね」

ああ、前金ではなく成功報酬なのだな。
いくら抜け目なくても彼女はやはり”こちら側”の人間だ。

107 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2013/12/10(火) 23:11:12.20 0
「分かったよ、約束だ」

契約書にサインする。
作戦会議は、何故か萌えキャラ祭りをやる方向へと転がり始めた。

「なるほど、 まさにハートキャッチなんとか!というわけだな!? 魔法少女戦隊でもやるか!?
魔法のステッキなどの小道具なら私の玩具屋からいくらか融通しよう」

>「ああ、そうだ」

火燐嬢が何かを思い出したように切り出す。

>「私の情報の対価については後出しだということでなかったことにされましたけど、しかしどうでしょう。当の琴里ちゃんも認めるところの重要情報であるあの情報に、何の対価も無いというのはいただけないかと思われます。
BOOKs能力を明かすということは、相手に自分の持っている武器を全て手渡すのと同義ですからね。なので……
皆さんのBOOKs能力を、私に教えてください! そのくらいの対価、まさか蹴ったりしませんよね?」

「少し前までは企業秘密だったのだが今更隠しても仕方がない。
私の能力は飛行と、かかった物が飛ぶようになる粉を蒔く事だ。
尚その外見の変化を伴い、美少女妖精戦士ティンカー・ベルへと変身する」

>「つまり火燐が提案し、私が賛同する『ゆるキャラ+萌えキャラ作戦』……プラン2+αですね。これとプラン1のほかに何か意見はありますか、みなさん?」

「とりあえずこの方向で考えながら改善していこうではないか。
革命軍を怖気づかせるのに十分な演出……本当に神が降臨したのではないかと思わせる程の演出が必要だ。
巨大怪獣ながっしーをメインに据え大勢の萌えキャラやゆるキャラのお供を引き連れてやって来たと言う設定にするのはどうだろう。
そうなると大物のながっしーは火燐嬢が担当する事になりそうだな。
やはり一度に使える幻影には制限があるのか? ならば硝子嬢は萌えキャラ変身の方のカバーに回ってもらう事になりそうだ。
さて、萌えキャラだが……皆やる気はあるか? 私はやぶさかではないと思っている」

現在の絵面だけ見ればこのおっさん頭おかしいんちゃうかと思われて終了だが、周知のとおり私は自力でも美少女に変身できる。
さらに、メンバーの中ではどちらかというと戦闘向きということを考えれば、やらないという選択肢は無いだろう。

108 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2013/12/15(日) 14:04:54.98 P
さてさて、俺プロデュースによって勃発した神永VS針鼠の異能バトル。
戦闘系同士が仮借なくその能力を発揮した対決は、ゴングの鳴った直後から急展開を迎えた。

先手を打ったのは針鼠。
身体のどこからでも自在に刺を生やすというその異能が、真っ直ぐに神永を貫く槍となって伸びる。
……ってオイ。致命傷を負わすなって俺言ったばっかだよな!?

しかし神永とて戦闘系能力者。俺なら二秒でミンチになる攻撃でも彼女は一歩も退かない。
スウェーバック、紙一重での回避に成功し、射線を右側に潜る。
そこで神永は異能を解放した。オシャレ上級者と見まごうその尋常ならざる長髪が、生き物のように躍動する。

「やはり!髪を伸ばし、操作する能力者か……!」

ラプンツェルの原典において、長い髪を蔦のように利用したように。
彼女はその長髪を編み上げ、自在な形状を構築することができるのだ。
神永が作り上げた形状は『拳』。
巨人の豪腕と化した髪塊がうなりを以て針鼠を打擲せんと迫る。

「繊維が凝集している――すさまじい密度だ、実際の筋繊維以上に!
 確かにその拳は硬かろう、その打撃は重かろう!だが、大振りの攻撃が針鼠に当たるか!?」

大砲の如く打ち放たれた拳が、弧を描く機動で針鼠へ飛翔する。
だが、針鼠はもともと軽快な体躯に加え、俊敏性に優れた体捌きを習得している。
さらには能力を応用したショートジャンプを組み合わせれば、この程度の打撃、造作なく躱せるだろう。
期待を裏切らず、針鼠は踵から伸ばした刺によって高速のバックステップ。
巨人の拳は虚しく空を切ってアスファルトを穿つ――それを飛び越えるように針鼠は前方へ跳躍した!

「まずいぞ神永ちゃん、攻撃にリソースを振り過ぎだ!」

髪を武器に変化させるというラプンツェルの特性上、材料となる髪は有限である。
限りある髪の毛を、どの形状にどの程度の本数割り振るかは、すなわち攻撃の重さに直結する。
神永ちゃんはいま、ほぼ全ての髪の毛を拳の生成に費やしていた。
回避され、針鼠が攻勢に転じた以上、拳の結合を解除して身を守るために使う髪を確保しなければならない。

しかし、針鼠は速い。カウンターをとったのだから当然だ。
拳を振り抜いたばかりの神永ちゃんは、攻撃の慣性力を殺し、髪を解き、手元に戻す三工程を踏まなければならない。
針鼠が、それだけの手順を座視するはずもない。
刺をつかったショートジャンプ。
加速度を得た赤き痩躯が、血染めの弾丸となって神永へ迫る!

「やられたか――!?」

俺は一秒後に訪れる凄惨な未来から目を背けるためにまぶたを閉じそうになった。
しかし、想定していた惨状は訪れなかった。
フォロースルーの途中だった髪拳が、慣性を殺さぬままばっと解け、無数の帯へと変化した。
彼岸花のように開いた金髪の束が、加速度の乗り切らぬ針鼠の矮躯へ殺到し、絡みつく!

「大振りはブラフか――!初めから回避されることも織り込み済みで、結合の解除まで一工程か!」

針鼠は素早い。その動きを見てから捕縛の手順を整えるのでは到底間に合わない。
であれば、初めから二段、三段と工程を先倒ししておけばいい。
回避され、カウンターで突っ込まれることを読み、髪拳に『振り抜いた後、自動で展開』と命令を与えておく。
そうすれば、思考という一工程を挟まず即座に打撃から捕獲へとシークエンスを移行できる。

「もしや、あえて大振りにすることで回避の方向を限定させたのか!」

109 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2013/12/15(日) 14:06:34.83 P
針鼠ほどの戦闘者ならば、カウンターをとれるタイミングで十中八九とりにいく。
何故ならそれが最も効率の良い手段だからだ。戦闘に熟達しているほどに、機会を見逃さない。
逆に言えばそれは、相手の行動をある程度コントロールできるということに等しい。
わかりやすい餌をぶら下げるのではなく、極限の状況で相手がどう動くかを百手先まで先読みする。
その"読み"のセンス――戦闘における嗅覚の駆け引きに、神永は勝利したのだ!

花開いた髪は、さながらハエトリグサが得物を包み込むように針鼠を包囲する。
一瞬で無数の髪が結束し、針鼠を芯材とした毛糸玉を生成。
針鼠は頭だけ出してまんべんなく繭のように覆われた。

「やったか――!」

否、針鼠は戦意を喪失していない。
あの特徴のある笑い声――キシシ、とでも表記すべき声が、髪糸の向こうから聞こえてきた。
しかし神永は既にトドメの工程に移っている。
拘束し、無防備となった針鼠の頭部へ迫るコンクリブロックwithラプンツェル。
こんなもんで殴られたら生身の頭部は豆腐よりも容易く脳漿を振りまくだろう。

「って、だから致命傷を負わすなっつってんだろ!!」

俺の抗議が聞こえているのかいないのか、コンクリは仮借なく犯罪者の脳天へと落とされた。
重力に引かれ、殺傷力を一秒ごとに倍加させながら轢塊が迫る。
そのとき、じゃきん、と鋭い音がした。
見れば、針鼠の簀巻きにされた首から下に、無数の刺が生えている。
ヤツの異能による刺が、簀巻きの繊維の隙間を縫って外に飛び出したのだ。
だが、神永は既に距離をとっている。
刺は届かないだろうし、近づいて刺そうにも脚は封じられている。

「降参するんだ、針鼠!このままでは君は脳をぶち撒けて死ぬことになる!」

俺の提案に、彼はしかし応えなかった。
一体なぜだ、読み合いで負け、既に針鼠には万策が尽きたはずだ。
精一杯刺を生やしたところで、動けなければ意味はないというのに。

――ん。しかし、脚を封じたとはいえ奴は本当に『動けない』のか?

「……まずい、神永ちゃん、防御だ!!」

俺のアドバイスは既に遅かった。
針鼠は、簀巻きにされた状態で跳躍した。
脚を使ったのではない。刺だ。刺によるショートジャンプを自身の背後へと『一点集中ゥ!』し、加速を得たのだ。

しかしこれは常軌を逸している。
通常の跳躍とは異なり、異能により加速するショートジャンプは、着地時にすさまじい負荷がかかる。
それを針鼠は類まれなる身のこなしの軽さと、バランス感覚によって制御してきたわけだが――
いまは、首から下を簀巻きにされて指一本動かせないはずだ。
それでも針鼠は飛んだ。その顔に張り付いているのは、なんともさわやかな笑顔だった。
刺だらけの塊と化した針鼠は、今度こそ大砲の如く神永へと飛翔した。
拘束に髪のリソースを割いている神永に、防ぐ手立てはあるか!?

110 :神永千沙 ◇3ET9DFw4NQ:2013/12/23(月) 23:11:52.56 P
針鼠を捕らえたあたしは、これで勝負が付くと確信しほくそ笑んだ。
相手を縛り上げてのコンクリートブロック攻撃。これを寸止めにして決めれば勝利なのだ。
うかつに攻撃して頭をかち割らないように、振り抜いた髪の毛の勢いをセーブする。と、そのときだった。
じゃきん、という、何かを貫く鋭い音が響く。針鼠だ、無数の彼の針が髪の繭を貫いたのだ。
それだけではない、あろうことかそのまま突進してくる。
驚いた事に、彼は髪の毛だるまになりながらも、棘を伸ばす勢いで跳躍したのだ。
なんと無謀な事だろう。もし数ミリの操作を誤れば無様に転んでしまうと言うのに。
しかし彼はそれをやり遂げて見せた。正確に、素早く、私の懐へと跳び込んで来る。

「くっ、なんて無茶を……ッ!」

一瞬の刹那。
このままではあたしは彼の無数の針に貫かれる事だろう。
髪で包み込んだ繭にコンクリートブロックを振り抜く髪。それだけで髪の9割のリソースを割いている。
9割。そう、あと1割が残っていた。それもあたしのとっておきだ。
まさしく針鼠となった彼の突進を前に、私は大きく跳躍をした。
普通の跳躍では、どこに跳ぼうが彼の攻撃は避けきれない。しかし、その跳躍は違った。
手足に巻きついた筋繊維のような髪の毛。それがあたしの動きをサポートしてくれているのだ。
自由に伸縮する髪の毛をばねにして、あたしは身体能力を大幅に向上させている。
細い金髪の髪だ。いくら巻き付けていても、その髪に気付く者は少ないだろう。
あたしは跳んだ。垂直におよそ2m、人間ではあり得ない跳躍力だ。
そのまま空中で一回転、そして着地する。
振り返ると、針鼠は針を出したまま転がっていた。あれではまともに動けないだろう。

「ふふ、ふはは、あっはっはははははははははっ!」

あたしは笑い転げた。こんなに楽しい戦いは久しぶりだ。実に気分が良い。
それは針鼠も同じだったのだろう。彼も同じように笑い出す。

「ははっ、いいだろう。もう十分に楽しめたぜ。この戦いは引き分けだ」

そう言い放ち、髪の毛を元の長さまで収縮する。針鼠の縛めも解かれた。
あのままでは私が勝っていたかも知れない。しかし、縛めの制御が最後のほうは不安定だった。
彼が全力で解きに掛かれば、勝負は違ったものになっていたかも知れないのだ。
だからこその引き分けである。きっと彼も納得してくれるだろう。

「ガスマスクの兄ちゃんは納得してくれるかい?いい戦いだっただろう?」

そう言って、私はにやりと笑みを浮かべる。
公約通り、あたしは持てる力を披露して見せたのだ。文句はあるまい。

111 :神永千沙 ◇3ET9DFw4NQ:2013/12/23(月) 23:12:35.39 P
場所は変わって車内。あたしは職場であるコンビニまで車で送ってもらう事になった。
食事と戦いに思ったより時間を取られてしまったのだ。車で行かねば間に合わない。
あたしの職場であるコンビニは、先程のサイゼからそう離れてない街外れにあった。
この都市を物理的に隔離する巨大な隔壁、そのすぐ目の前である。
そう、あたし達の住むこの都市は隔離されている。
壁で、法で、人々の恐怖と畏怖で隔離されているのだ。
突如として怪しげな力を持った異能者が現れたのだ。誰だって疎ましく思うだろう。
だが、隔離される側にとってはたまったものではない。
ある日突然異能に目覚め、それが危険だからと封じ込められる。自由はどこへ行った?
ここには自由がない。好きに歩き、好きに楽しい事を見つけられる自由が。
確かにこの街にも楽しい事はある。異能バトルなんて楽しい事は、他の街では出来ないだろう。
しかし、本質的な自由……好きに歩ける自由が、ここにはない。
いつの日か必ず脱出してみせる、この街から。
それが今のところのあたしの願い、目標であった。

「携帯の番号は教えたし、必要があったらいつでも呼んでくれ。いつでも駆けつけるぜ」

そう、後ろから運転席に座るガスマスクに声を掛ける。
私の携帯番号を知っている人間は意外と多い。まぁその多くが、あたしと二度と係わり合いになりたくないはずだが。
なんにせよ、これでいつでも連絡が取れるのだ。安心して待つ事が出来る。
足になるものを持っていないので、連絡があれば迎えに来て貰うことになるだろうが、問題はあるまい。
そろそろ車の免許でも取ろうかなぁ。でも車はあたしの趣味じゃないし。
とりあえず自転車は所持しているし、行動範囲もそう広くないので問題はないはずだ。
それに仲間になったガスマスクの車があるわけだし。移動の際は任せよう。

「ところで祭りまでそう日がない訳だけど、一体どいつを狙っているんだい?
 早めに目標を押さえておかないと、あとでバタバタする羽目になるぜ」

そう問いかける。計画を練るのは人任せだが、こればかりは決めねばならない。
きっとガスマスクの事だ。その知略を生かして壮大な計画を練っていることだろう。
手足となるあたしたちは、その計画に従うまでだ。人には役割と言うものがあるのだから。
こちらの能力などは見せたのだから、参考くらいにはなるはずだ。
盛大に開かれる祭りの舞台。その影であたしたちは暗躍するのだ。とっても楽しみじゃないか。

「雑魚の警備員たちくらいならあたしの能力を使えば、無傷のまま無力化は出来るぜ。
 しかし敵はそればかりではないだろう?異能者の傭兵なんかもいるはずだぜ。
 それに何て言ったか……その「あしか園」とか言う連中も来るんだっけか?」

言うまでもないが、あしなが園の誤りである。人の話はあまり聞いていないのだ。
敵となる異能者集団が立ち塞がる。なんともわくわくする展開じゃないか。
機会があれば、そいつらに会ってみたいようにも思う。どこにいるのかは知らないけど。
まぁ、いずれ会うのだから早いも遅いもない。ただ戦うだけである。
祭りの開始はまだ先だが、事前にそいつらをぶっ潰すのも悪くはない。
しかし、せっかくの祭りに敵の姿がないのも華のない話だ。あとに取っておくべきか。悩ましいところだ。
祭りまであと少し。私は思わず武者震いをしながら、にたりと笑みを浮かべた。

112 :佐川琴里 ◇i/JKvwsplw:2014/01/15(水) 22:10:09.47 0
>「つまり火燐が提案し、私が賛同する『ゆるキャラ+萌えキャラ作戦』……プラン2+αですね。これとプラン1のほかに何か意見はありますか、みなさん?」

琴里はその雑な作戦名に心を躍らせた。分かりやすくインパクトがあるので、子供には大いに受けたようだ。

「納涼祭りに神降臨。なんか心躍るなあっ・・・これは今年だけの一発物にすべきじゃないよ、毎年しようよ!そう、神輿担ぎのごとく、この街の文化にすべきだよー!!」
>「とりあえずこの方向で考えながら改善していこうではないか。
革命軍を怖気づかせるのに十分な演出……本当に神が降臨したのではないかと思わせる程の演出が必要だ」

巨大怪獣ながっしー!あしなが園発祥の愛すべきモンスター。
琴里はクレヨンを手に取り想像の赴くまま、画用紙一杯にながっしーを描く。
サイケデリックな色彩、エキセントリックな表情、グロテスクな角と牙を持った危ないヤツ……。
 お絵かきに熱中する子供を尻目に会議は続いている。
どうやら火燐の能力を主力とした作戦立て。彼女に大幅に頼ることになりそうだ。
萌え担当についてだが、硝子は黙っていれば非の打ち所の無い粛々とした美少女であるし、店長にいたってはマジモノのティンカーベル。
彼女が来たとなれば会場沸き立つ事間違いなし、である。
隆葉があまつさえ萌え衣装を着、衆目にさらされるを好むかは難しいが、
彼女のような文学少女の需要だって無視することができない。華は充分だ。
ということはちびまるこみたいな琴里は目立たなさを利用して客側にいるべきか。

「力がひとところに集まると、万が一の時に身動きが取れなくなっちゃうかも?
あたしは行列には加わらないで怪しいやつがいないか見張る、屋台のパトロール係りになるね!」
「保護者兼お財布役は僕がおおせつかりますっ」アンパン君はまかせろと言わんばかりに胸を張った。
「市民の安全は天下のお琴さまが守って上げるよ!」
本音を言うと屋台を巡りたいというのもあったがそれは心の底に大切にしまっておいて。

113 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/01/31(金) 15:40:26.95 0
店長から前金の4000円を受け取った火燐は、

「わーい! よんせんえん! よんせんえん!」
とハイテンションに喜んでいましたわ。可愛いですわ

>「少し前までは企業秘密だったのだが今更隠しても仕方がない。
私の能力は飛行と、かかった物が飛ぶようになる粉を蒔く事だ。
尚その外見の変化を伴い、美少女妖精戦士ティンカー・ベルへと変身する」
「なるほど! 素敵な能力ですね。まるでセーラームーンですっ」
と、火燐はコメントしましたわ。姉妹ですから、趣味は似通うのですわ…

>やはり一度に使える幻影には制限があるのか? ならば硝子嬢は萌えキャラ変身の方のカバーに回ってもらう事になりそうだ。
「制限ですか? 勿論ありますよ。一度に出せる幻影の数は擦ったマッチの本数まで。対象の火が消えれば幻影も消えます。
そして操作できる数ですが…自動操縦ならいくらでも動かせるんですけれど、手動操縦となると…プレステをしながらWiiをやるようなものですから、
今の私だと10が限界ですね…複雑な動きをするならもっと数が減ります。あ、ちなみに幻影の周囲の状況は火にスクリーンのように映りますから、
より詳細なコントロールをするなら私は火の前に置いたほうがいいですね。ここって暖炉あります?」
火燐は説明し、尋ねますわ。一度マッチを経由しさえすればいいのだから、火が長持ちする暖炉は火燐の能力と相性抜群なのですわ。
まぁ、ないならないで私の能力を使えば問題ありませんわね

>さて、萌えキャラだが……皆やる気はあるか? 私はやぶさかではないと思っている」
「私もいけますわよ〜。と、いうか。私の『シンデレラ』は男性を女性に変身させることも、大人を子供に変身させることも出来ますからね…
演技力さえあるなら誰でもOKですわよ! 12時までなら!」
「私も大丈夫ですよ。出演料は取りますけど」
と、私たちも萌えキャラ役を名乗り出たので、これで3人になったわけですわ。
私としては、琴里ちゃんや隆葉ちゃんもやってくれると嬉しいのだけれど…

114 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/01/31(金) 15:41:23.79 0
「力がひとところに集まると、万が一の時に身動きが取れなくなっちゃうかも?
あたしは行列には加わらないで怪しいやつがいないか見張る、屋台のパトロール係りになるね!」
と、思いましたが、しかし琴里ちゃんはどうやら自信がないようですわ。これは惜しい…琴里ちゃんは磨けば光る原石なのに。
「パトロール役…と言っても琴里ちゃん。貴女、向こうの針使いに顔を覚えられているでしょう? どうやら気に入られているみたいだし…
つまり、普通にパトロールしていても、こっそり狙われたときに対処しづらいし…私たちと合流するとき、本部に入るのだとしたら、普通のお客さんの姿じゃ怪しくないかしら? だから…」
と、言って私は鞄から布などの道具を取り出し、そして琴里ちゃんにピッタリのサイズの古着を広げますわ
「ちょっと待っててくださいね…すぐに済みますわ」
私は布を組み合わせ、古着を改造していく。裁縫は得意中の得意ですわ。実は私の服は、殆どが自作のものですの
「よし、完成!」
私は完成した服を持って、琴里ちゃんに近づき、別室に連れ込んで、着替えさせますわ
「あとは…」
髪形を変えて、髪飾りをつけて、マッサージで表情を整える…よし!
「うん、すっごく可愛くなりましたわ!」
まぁ、所謂コスプレ衣装ですわ。具体的には、琴里ちゃんの黒髪に似合う振袖。お祭りにはピッタリですわね!
…まぁ、振袖っぽいというだけで、構造的には洋服に近いけれど…
「うん、いい感じですわ! 琴里ちゃんはこれで売り子をやれば、お客様も監視できるし、怪しい人に声をかけるという動作も自然に行える。
そして私たちとの合流も違和感なく行えるし、襲われたときに他のお客様に気づいてもらいやすいから、連絡がスムーズに行くし…
さらに振袖ですから、普通にお買い物することも出来ますわ! どうかしら、琴里ちゃん? あ、嫌なら脱いでいいのよ?」
正直、途中から自分でも何を言っているのかわからなくなったが、つまり何が言いたいのかというと、

琴里ちゃんの萌え衣装も見たい!!!!

ということですわ

115 :店長 ◆P178lRPwh2 :2014/02/09(日) 23:54:10.39 0
>「力がひとところに集まると、万が一の時に身動きが取れなくなっちゃうかも?
あたしは行列には加わらないで怪しいやつがいないか見張る、屋台のパトロール係りになるね!」

琴里ちゃんは巧妙な手口で萌えキャラ化回避を試みた!

>「うん、いい感じですわ! 琴里ちゃんはこれで売り子をやれば、お客様も監視できるし、怪しい人に声をかけるという動作も自然に行える。
そして私たちとの合流も違和感なく行えるし、襲われたときに他のお客様に気づいてもらいやすいから、連絡がスムーズに行くし…
さらに振袖ですから、普通にお買い物することも出来ますわ! どうかしら、琴里ちゃん? あ、嫌なら脱いでいいのよ?」

だがしかしここで硝子嬢がお手伝いさんスキルを発動。確かに可愛い。
二人のバトル?の決着は蓋を開けてのお楽しみということで、そろそろ話を祭り当日に移すとしよう。

ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆   ミ☆

祭り開始に先立ち、我々あしなが探偵団は決起集会を行っていた。
暖炉の周りに、まるで仮装集団のような者達が集まっている。
尚、衣装は硝子嬢プロデュース。
小道具として私の店の玩具もいくらか提供した。私手作りのものもある。

「皆の衆、いよいよ納涼祭が始まる!
我々の目的は言うまでも無くこの街の守護神としてながっしーを定着させることだ!」

壁に貼ってある、琴里画伯の絵をどんっと指さす。
当初の目的を忘れているような気がするがそんな事は無い。
ながっしーが定着する→革命軍が恐れ多くて暴れられなくなる
ほら大丈夫だ多分問題無い。

「聖火――点火!」

暖炉にチャッカマンを火をつける。
今回の作戦の要となる幻影能力のための聖火だ。
その時、町内放送が流れた。

『今年もやってきました年に一度の大祭典! いつもは手に入らない物品を手に入れる大チャンス!
今年のゲストは誰が来る!? 待ちに待った納涼祭、始まるよ――ッ!』

とにもかくにも、納涼祭が始まった!

116 :店長 ◆P178lRPwh2 :2014/02/09(日) 23:58:04.64 0
【すみません >>115の後半はキャンセルでお願いします】

117 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/02/10(月) 02:52:12.70 P
刺を自身の背後へと一点集中、それによる爆発的加速。
針鼠のとった戦術は、その後のフォローを考えれば常軌を逸している。
だってあいつ、首から下が動かせない。
人が例え倒れても立ち上がれるのは、何も不屈の意思だとかくじけぬ心だとかそういうメンタル的な理由ではない。
そんなものは、現実社会においてクソの役にも立ちやしない。

転んだって立ち上がれる理由。
それは、両手をついて地面との激突を避けられるからだ。

子供はよく走り回り、そしてよく転ぶ。
ゆえに生傷が絶えないのが子供の常だが、アレはアレで教育上意味のあることらしい。
体重が軽く、転けてもダメージの少ないうちに転けまくることで、『上手な転け方』を体得するのだ。

正確なソースは今ちょっと手元にないからアレだけど、
子供の頃に転けて怪我しまくった奴とそうでない奴とでは、大人になってから大怪我をする確率が結構違うらしい。
曰く、子供時代に怪我した経験がないと、大人になってから転けたときに咄嗟に両手がつけず、
胸や頭を強打――大人の体重・身長ならなおのことダメージはでかい。

まあ余談が長くなったが、転んだときに両手をつけるというのは、ダメージコントロール上非常に重要なことなのだ。
だから、針鼠と同じくらい戦闘に熟達している神永も、針鼠の捨て身の特攻は想定外だったはずだ。

指一本動かせない状態で突貫する針鼠。
能力の源である金髪を拘束に割いている神永。
まったくのノーガードで、ふたりは交差する――!

「ああっ、やったか――?」

俺は目を覆いたくなるような惨状を予想してガスマスクの両レンズを塞いだ。
しかし、聞こえてくるであろう両者いずれかの悲鳴は聞こえてこない。
恐る恐る指を開くと……そこには地面に刺で突き刺さることで無事着地を果たした針鼠と、

「なんだあの跳躍力は……!」

二メートルほど上空を泳ぐ神永の姿だった。
尋常ではないジャンプ力。それはさながら、針鼠のショートジャンプの如く。
ラプンツェルの童話にあのような跳躍強化を可能とする逸話はなかったはずだ。
それに、純粋な身体強化が可能ならば、はじめからそれを使用していたはずである。
俺はガスマスクの狭い視界で神永の脚を注視した。
女の子の生足を凝視した!
そして、僅かにその太ももの表面に輝く筋を発見した。

「あれは……わずかな!極細の!脚に巻きつけた髪をバネにしたのか!!」

おそらく、接近戦を想定して初めから仕込んでおいたのだ。
神永のすらりと長い脚に巻き付いた細い髪はそのまま発条のように彼女の身体を空中へ弾きだした。
どんな大勢からでも、タメを必要とせず、即座に発動できる緊急回避手段!
恐るべきはその汎用性、そして神永自身の応用力だった。

つまり彼女は、無数にある髪の9割に拳の作成、攻撃からの拘束、1割をバネ状にしていつでも弾ける発動準備、
それらの状態を戦闘中常に維持し続けていた。
考えただけで気の狂いそうなほど精密で多角的な操作を、類まれなる集中力で配し続けたのだ。

ふわりと着地した神永が、良い汗かきながらいい笑顔でこっちへ歩いてくる。
俺はそんな彼女の仕草にどきどきしたが、それ以上に高揚の震えを確かに感じていた。

「面白い……!降って湧いた能力を、よくぞそこまで練り上げた!
 改めて、俺達トリニティは君を歓迎しよう、神永千紗ちゃん。
 そして仲間になるからには俺も名乗ろう。俺は鳥島、ガスマスクの鳥島。謎の男だ」

118 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/02/10(月) 02:53:30.33 P
俺はくるりと反転し、神永に背中を見せる。
それは信頼の証だ。後ろから刺されたって文句は言わないという、仲間として最大の敬意だ。

「そして!俺達は、この隔離都市に恐怖と暴力、破壊と混沌、新たなる秩序とほんの少しの既得権益を齎す者達!
 隔離都市解放戦線、『革命結社トリニティ』!君が入って四人になったが、まあ語感の問題だ、気にするな」

そのまま振り返りざまにビシィ!と神永を指さし、

「神永ちゃん、君の戦闘能力を買おう。
 報酬は――そうだな、新しい体制において俺の次ぐらいに偉いポジションを保証する。
 汚職し放題の、私腹肥やし放題だ。多くの民に飢えさせといて、俺達はでっぷりと肥えようじゃないか」

無論、俺の野望はその程度で終わりはしない。
だが、中間目標というか、さしあたっての報奨は必要になるだろう。
モチベ的な意味でも、仲間への報酬的な意味でも。

かくして、雇用契約を結んだ俺と神永ちゃんは、その辺で転がってる針鼠と、暇そうにしてる唐空を連れ立って、
ひとまず彼女のバイト先へと送迎することになった。
帰りの車ん中では神永は俺の隣、助手席には乗ってくれなかった。
クソ、シフトレバー握るフリして太ももとかさわろうと思ったのに……。
MT車の利点ってそんぐらいしかねーだろーが!

しかし、思わぬ収穫はあった。
神永ちゃんから携帯電話番号をもらったのだ。
感動だ……リクナビからのメール受信専用機と化していた俺のスマホに両親以外の電話番号が!
まあ、死に親の番号もリダイヤル履歴に残ってるから、登録して水増しできるけどね!

閑話休題、神永は運転する俺の耳元で囁いた。
ぞわぞわする感触の向こうから聞こえてきたのは、そもそも俺達が誰を狙って行動を起こすのか、という問い。
尤もな疑問だった。

「誘拐対象か。隔離都市に視察に来るお偉さんがいったい誰なのかって話だな。
 まあ長い話になるから掻い摘むが、そもそも隔離都市の運営がどこの管轄か知っているか?」

俺はハンドルから手を離さず述懐する。神永が世情に疎くとも、その名を目にする機会は少なからずあったはずだ。
隔離都市へ放り込まれる直前。俺を拘束し、書類一枚で護送バスへ詰め込んだあの日、やってきた役人はどこの者だったか。

「厚生労働省直轄、『童話型人為災害対策管理局』――通称"童災局"。
 その局長、伊曽保典彰(いそほ でんしょう)。事実上の、隔離都市運営のトップだ。
 そして、BOOKS能力者達を閉じ込める檻……この隔離都市そのものを創設した男でもある」

BOOKS能力がその存在を公的に認められたのは意外に新しく、三十年ほど前のことになる。
今でこそ学校の授業でも少し触れ、ウィキペディアにも載るようになったが、
往時の能力者に対する迫害は今の比じゃあなかったらしい。

BOOKS――当時は『童話異能力』と呼ばれ、今でも公的文書ではその呼び名が正式とされているが、
人知を超越した異能の力に人々はただ恐怖し、石を投げた。
迫害に敵意を募らせた能力者によるテロも頻発し、戦後最大級の混乱が社会を取り巻いていた。

そんななか、異能者と常人が完全に住み分ける隔離政策を提案したのが、今はなき厚生省の若手官僚だった伊曽保である。
どこのコネを使ったのか、関東平野の西の端に充分な土地を確保し、公共事業を投入し、
あっと言う間にインフラを整え街一つをまるごとこしらえてしまった。

伊曽保はその空っぽの街に、全国から童話異能力者たちを誘致した。
黙って迫害を受けるぐらいなら、ここへ来て平和な生活をしませんか、とそんな甘言でだ。
能力者達も、国がやってるんなら信頼できるとばかりに続々と空っぽの街に集まって行った。
次に伊曽保は、『迫害からの防御』という名目で、街の外縁に壁を作り始めた。
だだっ広い街を覆うような壁はすぐには完成しなかったけど、五年、十年かけて壁は築かれていった。

そして、いつしかこの街は隔離都市と呼ばれるようになった。

119 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/02/10(月) 02:54:17.22 P
「――とまあ、そんな生い立ちがあるわけだ、この街にはな。
 いまでも隔離都市では伊曽保を迫害から護ってくれた恩人として英雄視する向きはある。
 年配の異能者は特にそうだ。俺達のような若い世代にはピンとこないかもしれないがな。
 だからこそ、なんにも知らない若造の俺達には、伊曽保をとっ捕まえて文句の一つも言う権利がある」

生まれてもいないような時代の迫害の歴史より、今隔離される迷惑のほうがよほど大きい。
それは、この街の若者の殆どがおよそまともな生き方をしていないことからも容易にわかる。

「パレードに出席する伊曽保を誘拐し、なんやかんやして隔離都市を解放するのが当座の目標だ。
 多くの者が微睡みこけている腐りきった藁のベッドから、蹴り出してやる時がきたのだ!」

この熱が神永にも伝わるといいが。
まあ俺の原動力って殆ど人生がうまく行ってないことについての逆恨みっつうか妬みだから。
あんまり共感してもらえなくてもそれはそれでしゃあないって気はする。
仕事さえこなしてくれりゃいいよ、分かり合えなくても。

さて、話は変わるけど神永はどうやら敵対勢力が気になるようだ。
当座の敵。あしなが園の能力者達。
針鼠奪還作戦では見事に俺達サイドの大勝利だったが、快勝が続くと盲信できるほど俺も楽天的じゃあない。
敵戦力は俺達より充実している。

美少女に変身できるおっさん。
アンパンを人のマスクの隙間に転送してくる童女。
謎のインスマウス面化け物集団。
俺に車のパチもん掴ませやがった謎の能力者。
幸薄そうな優男。

「なんだあいつら、ロクな人間がいねーな!?」

いや、俺達も大概っちゃ大概だけどさあ!
なんでそんな、キワモノ見本市みたいなことになっちゃったの。
見た目考えて人選しろよな。

「気になるか、神永ちゃん。
 君はまだ見たことがないのだったよな……結構ビビるぞ、連中のキワモノっぷりは。
 ヘタするとこちらのキャラが喰われかねん。こころしてかかることだ」

だが、事前情報なしで連中の妨害に相対せよというのも忍びない話だ。
ここはひとつ、謎の男こと鳥島さんが気を利かせてやろうではないか。
話し込んでいるうちに、プロボックスは神永の指定した住所へと到着した。
ここのコンビニで彼女はバイトをしているらしい。
うーん、昼間っから働きもせずガスマスクつけてる俺とは意識の高さがちげーな。

「では神永ちゃん。来週またこの場所で会おう。
 綿密なミーティングののち……納涼祭の本番だ」

俺は次回のアポを取り付けて、神永ちゃんと別れた。
隔離都市納涼祭まであと二週間。会議は踊らず、座して進む。

――――――――

120 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/02/10(月) 02:54:59.32 P
二週間後。
俺達はその後二回ほどの打ち合わせをサイゼで重ねたのち、祭り本番を迎えていた。
俺がいまいるのはとあるコンビニの駐車場。
神永のバイト先だ。彼女のシフトが終わるのを、車ん中で待っていた。
お祭りだっつーのにコンビニの客足は途絶えることがない。
いや、お祭りだからか?露天で飲み物とか買うとたっかいもんなあ。

五本目の「わかば」が燃え尽きた頃、私服にコンビニ袋を提げた神永がバックヤードから出てきた。
シフト上がりの際に、廃棄のおにぎりとかを持ってきてもらった。
流石に毎日サイゼで豪遊できるほど我らが組織の財政は潤沢でないので、こうゆうのすごく助かります。

「さて、神永ちゃん。打ち合わせ通り、俺達は陽動隊とは別にパレードを迎える雑踏に潜んで伊曽保を待つ」

俺はツナマヨおにぎりの封を切り、持参したフードプロセッサにぶち込んでミキサー開始。
数秒後どろどろになった液体にガスマスクの吸水口からストローを伸ばしてちゅうちゅう吸った。
うーむ、端的に言ってゲロみてーな食感に似たような味だぜ!
ツナマヨはまだ具材に汁気があるからうまくほぐれるが、鮭なんかだと本当に悲惨。
俺、なんでこんな罰ゲームみたいなことしてんだろ……。

「既に別働隊、唐空君と針鼠は行動を開始している。
 彼らは俺の合図とともにパレードに強襲をかけ、伊曽保の護衛を蹴散らす」

童災局のトップである伊曽保は超絶VIP。護衛もまた十重二十重に張り巡らされているだろう。
常人のSPであれば、BOOKSを使えば問題なく無力化できるはずだ。
だが、無論、それだけではないだろう。
この街の凄腕の能力者、戦闘系の連中の中でも指折りの実力者が、おそらく伊曽保に雇われている。
隔離都市の英雄を護る任務だ。生半可な手練を選びはしないだろう。

「能力者の護衛……これもできれば針鼠と唐空に任せたいが、これが相手一人だとは限らない。
 二人以上護衛のBOOKS使いがいた場合は、俺達が雑踏から強襲する必要がある。
 そのとき便利なのが君の能力だ、神永ちゃん。
 頭髪の自在化、その能力があれば伊曽保だけを選んで拘束することも、護衛から隔離する壁をつくることもできる」

神永の能力において尤も重要なのはその応用の幅広さだ。
単純に、自在に変成可能な地形をその場に発生させられると考えれば、どれほど強力な効果か一目瞭然だ。
それこそ、落とし穴やトラバサミだって自由自在に設置できる。

「さて、段取りとしてはこんなもんだが……懸念すべきイレギュラー要素があるよな。
 そう、あしなが園の連中だ。間違いなく、奴らは俺達を妨害しに来る」

あんだけ大啖呵をきったのだ。
これで何も起きなきゃ嘘である。

「だが神永ちゃん。きみは奴らの顔も知らないだろう?
 本番土壇場でそんなこと言うのもなんだが――ひとつ、敵情視察と行ってみようじゃないか」

121 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/02/10(月) 02:55:55.84 P
おにぎりシェイクをレトルトの豚汁(ミキサー済み)で流し込んだ俺は、ゴミを袋にまとめてゴミ箱へダンク。
野菜生活の紫を飲みながら、プロボックスにイグニッションキーを叩き込んだ。

「大通りは祭りで歩行者天国だ。ちょいと強引な裏道を使うが――舌を噛むなよ!」

アクセルをぶち込まれた病み上がりの鋼の獣が石油で出来た咆哮を挙げ、力強く走りだす。
コンビニの駐車場を飛び出したプロボックスは、狭い路地に身体を押しこみ、駆け抜ける!
ポリバケツをふっ飛ばし、野良猫を追い立て、路地の窓を震わせながらタイヤが地面を切りつける。
ときにはちょっと壁に乗り上げて、ゴールデンフィンガーでタイヤを吸い付けながら俺はハンドルを斬った。

そして。

「ついたぞ、あしなが園だ……!」

来た。
かつて唐空を連れて針鼠の救出に乗り込み、攻防戦を繰り広げ、撤退を余儀なくされた場所。
あのとき俺は遠くの廃ビルから援護しているだけだったので、実際に降り立つのは初めてだ。
唐空がいれば何か感慨があったかもしれないが、生憎彼は針鼠と共に強襲の為に待機中だ。

「頼もう!俺は謎の男、鳥島!そしてこっちは俺の小指ちゃんであるところの神永っちゃんだ!
 貴様らあしなが園の大きなお友達に暑中見舞いのご挨拶と宣戦布告に来た!」
 
俺は、神永を連れてあしなが園の門を叩いていた。
無論、神永に敵の顔をちゃんと憶えてもらうため、そして奴らの正義、理想、信念を知ってもらうためだ。
同時に俺達の目的と理念もあしなが園サイドに知ってもらおうと思っている。
お互いの大義を知らぬままに戦うのは、とても寂しいことだ。

だから、俺は神永ちゃんをここへ連れてきた。
あしながズの説得に感化されてあっちサイドにつくのであれば、俺と彼女の関係はそこで終了だ。
だが、なお俺についてくれるのならば、俺は彼女を真の意味で信頼し、信用できる。

この戦いには大義がある。
それは双方、どちらにとっても正しくて、だから甲乙のつけがたいものだ。
分かり合うことはできる。だがそれは、意見を重ねることとは明確に別だ。
俺は耳を塞がない。彼女たちの想いを受けて、受け止めて、喰らい尽くして俺の糧にする。

「――来客に粗茶の一つも出さないのが貴様らの正義か?ミロでも可!」

俺は門扉のノッカーをガンガン揺らしながら、応対を待った。

122 :神永千沙 ◇3ET9DFw4NQ:2014/02/13(木) 23:58:18.40 0
車中、ガスマスク…鳥島とか言ったか…から聞かされたのは、この街の根本であるある男の話だった。
伊曽保典彰、童災局々長にして、おそらくこの隔離都市を代表するトップである。
確かに彼を捕獲し言う事を聞かせることが出来たのなら、この街を支配するのも容易いだろう。
ただし、それほどのVIPなら警護の壁は厚く、容易には届かない相手なのだろうが。
だが、敵は強いほど面白い。あたしが本気で戦えるのなら是非もないのである。
あたしにとって最高のご馳走なのだ。根っからの戦闘狂なのだから仕方ない。

あたしは生まれたときから、人より髪の毛が長かったらしい。
能力に覚醒したのは二年前、16歳の頃の出来事だ。
良くは覚えていないが、爺さんの書斎で見つけた一冊の本がきっかけだったように思う。
能力覚醒の噂はあっという間に小さな街を席巻し、あたしは迫害を受けた。
周囲から逃げるようにこの隔離都市にたどり着き、ようやく平穏を得た訳で。
隔離都市の学園はやれカウンセリングだの教育だのと煩く、卒業と同時にフリーターとなった。
今はコンビニ店員として働く傍ら、物騒な事に首を突っ込みつつ暮らしている。
思えばあたしが戦闘狂になったのは、迫害からの怒りによるものだったような。
まぁそんなことはどうでも良い。ただ血沸き肉踊る戦いを体が求めているのだ。

とにかく標的は伊曽保典彰である。顔はニュースで見たことがある。問題はない。
隔離都市を隔離都市たらしめるように設計した張本人である。一発くらい殴る権利があるはずだ。
あたしたち能力者を社会的、物質的に隔離したのは、正直許せる事ではない。
おそらく誘拐するのは困難を極めるだろう。だが大丈夫、あたしたちに出来ないことはない。

>「パレードに出席する伊曽保を誘拐し、なんやかんやして隔離都市を解放するのが当座の目標だ。
> 多くの者が微睡みこけている腐りきった藁のベッドから、蹴り出してやる時がきたのだ!」

「面白いなそれ!あたしも協力は惜しまないさ。革命を起こしてやろうぜ」

喧嘩は派手なほうが面白い。おそらくこの革命は、一世一代の喧嘩となるであろう。
ところで気になるのはその喧嘩の相手となる、あしなが園の連中の事だった。
ガスマスクの情報によると、かなりのキワモノ揃いらしい。一体どんな連中なのだ?
とか何とか話しているうちに、車は目的地のコンビニへ到着。時間も余裕である。

>「では神永ちゃん。来週またこの場所で会おう。
> 綿密なミーティングののち……納涼祭の本番だ」

「応よ、本番が今から楽しみだぜ。準備は怠るなよ、ガスマスクの兄ちゃん」

そう言い手を振って、私たちは別れた。さて、ここからは気持ちを切り替えてコンビニ店員モードだ。
正直退屈極まりない仕事だが、あたしの膨大な食費のためには働くしかない。
ちなみに、本当は駄目なのだが廃棄の食料はほぼ全て貰っている。
お勧めはスイーツだ。最近のコンビニスイーツはなかなか侮れない。
そんな事を思いながら、私はコンビニへと入っていった。

123 :神永千沙 ◇3ET9DFw4NQ:2014/02/14(金) 00:01:01.88 0
それから二週間後。その日もあたしたちは、コンビニの駐車場で落ち合った。
迎えに訪れたのは相変わらずのガスマスク男。あのガスマスク、ちゃんと洗っているのだろうか?
この駐車場で落ち合うのもすでに三回目だ。そのうちこのコンビニもトリニティの手に落ちる日も近いかも知れない。
今日はお祭りだからか、いつもより来店数が多い。浴衣を着飾った者たちも多かった。
まぁあたしはそんなこと気にせず、いつものTシャツにジーンズ姿。
色気など必要ではない。大切なのは、この夏をしのげる通気性と運動のしやすさだけだ。
ちなみに今日のTシャツにはでかでかと「Fuckin’」と書かれてる。喧嘩上等である。

廃棄になったおにぎりの入った袋を渡し、あたしはガスマスクの話を聞く。
まぁ彼も財政難なのだろう。見た目からして定職には就いていないだろうし。

>「さて、神永ちゃん。打ち合わせ通り、俺達は陽動隊とは別にパレードを迎える雑踏に潜んで伊曽保を待つ」

ガスマスクが袋から取り出したおにぎりは、哀れミンチになってストローで吸い上げられていく。
意地でもガスマスクを外したがらない様子だ。今度悪戯で剥ぎ取ってやろうかとも思う。
それにしてもおにぎりが可哀想である。原型を失ったおにぎりなど、すでにゲロではないか。
それをストローで吸うガスマスクの姿は、なんだか巨大なセミのようにも見えた。

>「既に別働隊、唐空君と針鼠は行動を開始している。
> 彼らは俺の合図とともにパレードに強襲をかけ、伊曽保の護衛を蹴散らす」

厳重な警戒網とは言え、護衛の多くは所詮一般人。BOOKS能力者の手にかかれば造作もない。
警戒すべきは能力者の護衛だ。おそらく凄腕の能力者が雇われているはずである。
だがしかし、こちらの能力も伊達ではないのだ。あの二人なら、おそらく能力者の護衛も引き付けられるはず。

>「能力者の護衛……これもできれば針鼠と唐空に任せたいが、これが相手一人だとは限らない。
> 二人以上護衛のBOOKS使いがいた場合は、俺達が雑踏から強襲する必要がある。
> そのとき便利なのが君の能力だ、神永ちゃん。
> 頭髪の自在化、その能力があれば伊曽保だけを選んで拘束することも、護衛から隔離する壁をつくることもできる」

「あたしの能力を買ってくれているのかい。嬉しいね、もちろん余裕でこなしてみせるさ」

応用力のあるあたしの能力を評価してくれているのだろう。確かにあたしの能力、ラプンツェルは応用力が魅力である。
たとえどんな窮地であろうと、その能力は必ず役に立ってくれるのだ。あたしもこれに助けられた場面は多い。
伸ばせば鋼の縄となり、編み込めば鉄の壁となる。殊更防御にはもってこいだ。
もしかしたらあたしのラプンツェルは、無限の可能性を秘めた能力かも知れない。

さて、そこで気になるのが怨敵あしなが園の連中である。
色々とトリニティの連中とは因縁があるらしく、彼らの能力も馬鹿に出来ないらしい。
今回もおそらく妨害に現れることは間違いないとのことだが……一体どんな連中なのだろうか?

>「だが神永ちゃん。きみは奴らの顔も知らないだろう?
> 本番土壇場でそんなこと言うのもなんだが――ひとつ、敵情視察と行ってみようじゃないか」

「いいねぇ、どうせならそのままぶっ潰してやるのもひとつの手だね」

124 :神永千沙 ◇3ET9DFw4NQ:2014/02/14(金) 00:02:09.08 0
そして車でやってきたのがこの場所、あしなが園である。
途中裏路地を通るときに車で相当無理をしたのだが、果たして大丈夫だったのだろうか。
なんか軽く壁面走行とかしていた気がする。ガスマスクの能力なのか?
まぁそんなことはどうでもいい。車はあたしのじゃないし。

>「ついたぞ、あしなが園だ……!」

隣に佇むガスマスクには何やら思い入れのある場所なのだろう。
ガスマスクで表情までは分からないが、妙な空気を漂わせ建物を見上げている。

「ここがあしなが園か。ちゃっちい所だな。潰すのは簡単そうだ」

まぁ潰す気はないのだけど。

あしなが園は児童保護施設であるわけだが、こういう施設は隔離都市内には結構多い。
そもそも隔離都市に住まうのは能力者ばかりではないのだ。
能力者の親や兄弟、その夫婦や子供たちなども一緒に暮らしている場合が多い。
街全体での能力者の割合は、全体の1/3くらいだろうか。
だが、誰もが家族と共にこの隔離都市に移住する訳ではない。
家族から離され、単身でこの街へと送り込まれる者も結構多いのである。
中には幼子でありながら親元から切り離され、この街にやってくる場合も結構あるのだ。
そういう子供はこのような児童保護施設に保護され、生活をしていく訳で。

ちなみに私の場合はすでに16歳だったので、単身寮のある都市内学園に放り込まれている。
両親とは連絡を取っていない。ひょっとしたら、もう二度と会うこともないのであろう。
能力の発現した子供の行く末などそんなものだろう。だからあたしはあしなが園の子供達には同情しない。
彼らは一人で強く生きていかねばならないのだ。同情なんておせっかいもいいところだと思う。
この街はそういう場所だ。誰かに頼って生きていくのは難しい。一人のほうがよっぼど気楽である。
そういう意味では、この街はあたしの性に合っているのかも知れない。
まぁこの街は基本的に嫌いだから、その辺は認める訳には行かないのであるのだが。

とにかく、そんなあしなが園に突然乗り込んでいくあたし達は立派な悪人である。
悪人なら裏口からこっそり、などとは思わない。正面突破こそ王道なのだ。

>「頼もう!俺は謎の男、鳥島!そしてこっちは俺の小指ちゃんであるところの神永っちゃんだ!
> 貴様らあしなが園の大きなお友達に暑中見舞いのご挨拶と宣戦布告に来た!」

「誰が小指ちゃんだボケ」

正門から堂々と名乗りを上げる。なんだコイツ、結構いい声出せるじゃないか。
でも小指ちゃんは本当にやめて欲しい。男の趣味を疑われては困るのだから。

>「――来客に粗茶の一つも出さないのが貴様らの正義か?ミロでも可!」

「おろ、門は開いてるみたいだな。このまま入ろうぜ。不法侵入上等だろうが」

あたしは勝手に門扉を開き、その隙間に体を滑り込ませる。
門から建物は結構遠かった。あたし達の名乗り、ちゃんと聞こえていたのか心配だ。
中はなかなか広い敷地のようだ。万が一戦闘になっても問題はないだろう。
あたしはつかつかと、玄関に向かって歩いてゆく。ガスマスクに付いて来いと促しながら。

125 :佐川琴里 ◇i/JKvwsplw:2014/02/27(木) 02:13:25.13 0
>「よし、完成!」

硝子の手先は見た目に違わず器用で繊細な働き者だ。
まるで魔法みたいに、彼女はその指でもって端切れを今どきの可愛らしい子供服にしたてあげた。
ピンクだのフリルだのはしゃらくせえと常々豪語している琴里だったが、こればかりは素直に着てみたいと思えた。

>「あとは…」
「ぎゃあ何すんだい、やめておくれよ!」

硝子はしかし、これだけに飽きたらず、灰田式表情筋マッサージで琴里の面相すら変えてしまった!

>「うん、すっごく可愛くなりましたわ!」
「こ、これが……あたし!?」

ぱわわと背景に飛び散るキラキラのお星様…まるで少女漫画のヒロインになったようだ。

>「うん、いい感じですわ! 琴里ちゃんはこれで売り子をやれば、お客様も監視できるし、怪しい人に声をかけるという動作も自然に行える。
そして私たちとの合流も違和感なく行えるし、襲われたときに他のお客様に気づいてもらいやすいから、連絡がスムーズに行くし…
さらに振袖ですから、普通にお買い物することも出来ますわ! どうかしら、琴里ちゃん? あ、嫌なら脱いでいいのよ?」
「お、おう……いやじゃないから脱がないっていうか、脱いだらあたしの中の何かが死にそうなので遠慮します」

そして当日。
硝子謹作なんちゃって和服に身を包み、頭にはベルたんプラおめん。手にはうちわを持ったオカッパの子供が、祭りは今か今かと園内をぐるぐると走り回っている。

「ウウッ、血が騒ぐッ!祭り女の熱き血が はしゃげわめけと掻き立てる!」
「やれやれ。これだからお子様はダメだね……ちょっと緊張感ないんじゃない?」
と首を振る安半君、その周りをトテテと駆けながら琴里は言い返した。
「そーいうアンパン兄さんだって浴衣に下駄にねじり鉢巻きと万全の準備じゃないですかぁ」
「そりゃあ僕だってお祭りなんかひっさしぶりだもんさぁッ!!」
「ながっしー?」「イエー!」「隔離都市?」「イエー!」「お祭り?」「「イエーーィ!!」」

ストッパー役だったはずの安半少年と歓声を上げてハイタッチである。

「もう!二人共、元気がいいのは分かったから部屋の外から出て行きなさい!」

先生の注意も上の空、これまた『いえーい!』と言う掛け声と共に二人は外に飛び出した。

「この門をくぐれば別世界ですぜ安半兄さんっ」「おうともさ琴里ちゃん!」

街に広がるのは幻想的な提灯の明かり、通りにひしめき合う屋台の数々、遠くに見えるは祭りやぐら……
ではなかった。そもそも遠くが見えなかった。なんか焦点が合わない程、ぶつかりそうなくらいの近さに暑苦しい一面の黒があった。

>「――来客に粗茶の一つも出さないのが貴様らの正義か?ミロでも可!」
>「おろ、門は開いてるみたいだな。このまま入ろうぜ。不法侵入上等だろうが」
「はいはい、今ちょっと立て込んでるから後でってガスマスクおげぇえ」

まず安半少年が吐きそうな顔で彼を歓迎し、その隣にいる少女の姿を認め、かろうじて喉までせり上がった何かを押し戻す。
琴里はと言えば、考えるより先にサっと防犯ブザーの紐を引っこ抜いていた。ビビビビビ、120デシベルのけたたましいビープ音が園内に危険を知らせる。
次に、肺いっぱいに空気を吸い込み、3秒貯め、ビープに負けず劣らずの音量で叫んだ。

「ぎぃよぇえええええええっ!!不審者よぉおおッ!!変態が出たわぁああッ!!」

126 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2014/03/15(土) 22:06:46.65 0
>「この門をくぐれば別世界ですぜ安半兄さんっ」「おうともさ琴里ちゃん!」

なんちゃって和服に身を包んだ琴里ちゃんが、いつもの探偵団作戦中とはまた違う歳相当の少女の様相を見せる。
普段はツッコミ役の常識人ポジの安半君も、今日ばかりは大はしゃぎ。

「ははは、私も屋台の玩具でも見て回ろうかな」

楽しげな雰囲気。
これから革命軍との戦いを控えているなんて事を忘れそうな位だ。
というか琴里ちゃん達はガチで忘れてるんではなかろうか――いや、そんな事はない、多分。
俄かに玄関付近が騒がしくなる。

>「ぎぃよぇえええええええっ!!不審者よぉおおッ!!変態が出たわぁああッ!!」

「どうしたー!?」

慌てて玄関にかけつける。
そこには、危うく忘れそうになっていた怪人ガスマスクとゆかいな仲間達がドアップで迫っていた。

「あ……、どうも。いらっしゃい」

あまりの出来事に暫し思考停止した後、ようやく出た言葉がこれである。
これから秘密裡に権謀術数渦巻く水面下の攻防を繰り広げる……という時に
自ら敵の本拠地に乗り込んでくるとは何を考えているのだろうか。
しかし、今の所は戦意はなさそうだ。
玄関から堂々と訪ねてきたところを見るに、話し合いの席を設けたいらしい。
もしや大人の世界にありがちな裏取引というやつを持ちかけてくるのだろうか。
その手の交渉なら琴里ちゃんや、金銭が絡む交渉なら火燐嬢が得意とするところだ。
とりあえずここは乗ってみよう、と琴里ちゃんに目配せし、彼らを中へ招き入れる。

「この前は色々と済まなかったね、どうぞ入ってくれ。お茶とアンパンでもごちそうしよう」

こうして探偵団アジトの長机に両陣営向かい合って座る事と相成った。
机の上にはいつも通り、大量のアンパン。――はっきり言って異様な状況である。
もはやこれ自体事件。事件は会議室でも起こるものなのだ。

127 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/03/16(日) 02:12:00.31 0
> 「こ、これが……あたし!?」
「うふふ…このくらいは朝飯前ですわ。
あらゆるものを変身させる能力を持つ私ですけれど、女の子を変身させるのに…能力なんて必要ありませんわ」

>「ながっしー?」「イエー!」「隔離都市?」「イエー!」「お祭り?」「「イエーーィ!!」」
「ふふっ…あらあら、琴里ちゃんったら元気がいいですわぁ…」
お祭りに無邪気にはしゃぐ琴里ちゃんを微笑ましく見守る私。やっぱり可愛いですわ琴里ちゃん…
まぁ、しかしそれにしても、安半さんまであそこまでテンションが上がるとは驚きですわね。
私がそんなことを考えている間に、琴里ちゃんと安半さんは外に飛び出していきましたわ。まるで風ですわね

>「ここがあしなが園か。ちゃっちい所だな。潰すのは簡単そうだ」
「……!」
と、私の耳に微かだが女の子の声が聞こえましたわ。年齢的には私と近い感じですわね…
いえ、今はそんなことは重要ではありませんわ。問題は台詞。そう、軽口か何かでしょうけれど、
おそらく十中八九、革命軍の方たちですわね…さて。
「丁重にお出迎えする用意をしませんとね…灰田硝子、あしなが園の使用人として…」
私はいつものエプロンと被り物(由緒正しきメイド服をイメージしていただくと分かりやすいですわ。メイド喫茶にあるようなのじゃなく)
をしっかりと付け直し、使用人モードへと移行しますわ

>「頼もう!俺は………、鳥島!そして……は俺の…ちゃんであると……の神永っちゃんだ!
 貴様ら…なが園の大きなお友達に……見舞いの……と宣戦布告に来た!」
>「誰が小指ちゃんだボケ」
男性のほうの声はところどころ聞こえませんが、女の子のほうの声(神永ちゃんというらしいですわね)と、
所々聞こえた声からするとどうやらやはり革命軍らしいですわね。宣戦布告とか言ってますし
……こいつは、私としても丁重にお出迎えするしかありませんわねぇ
と、いうわけで私も入り口へ向かいますわ
「お姉ちゃん、私も行く…」
どうやら火燐もついてくるみたいですわ

>「――来客に粗茶の一つも出さないのが貴様らの正義か?ミロでも可!」
>「おろ、門は開いてるみたいだな。このまま入ろうぜ。不法侵入上等だろうが」
と、ふたりの声が聞こえてきましたわ
>「ぎぃよぇえええええええっ!!不審者よぉおおッ!!変態が出たわぁああッ!!」
そしてすぐに防犯ブザーの音と琴里ちゃんの悲鳴が響き渡りましたの
「もう……琴里ちゃんったら。そんなに大声出さなくても聞こえましてよ?」
「不審者…捕まえたら懸賞金出るかな?」
出るわけないですわ…

>「あ……、どうも。いらっしゃい」
どうやら店長も琴里ちゃんの声に釣られていらっしゃったようですわ
>「この前は色々と済まなかったね、どうぞ入ってくれ。お茶とアンパンでもごちそうしよう」
そして店長は彼女らを迎え入れるご様子。…無論、私もそのつもりですわ

「それはそうと、ようこそいらっしゃいましたわ。不法侵入の必要はございません。なぜなら私たちが迎え入れるのですから…。
では、改めて…こほん」
私はいつものように、奴隷のように気高く、召使の如く華麗に、道具みたいに生き生きと――お辞儀をしますわ
「ようこそあしなが園へ。お待ちしておりましたわ、神永お嬢様、鳥島様。どうぞおあがりになってくださいな。
しかし何分突然のお越しでありますがゆえ、何もご用意は出来ませんが…我が家と思って、寛いでいってくださいまし」
そして私は従者のように高尚に、スレイヴみたいにノーブルに微笑みながらそう言いますわ

128 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/03/16(日) 02:14:35.60 0
そして会議室。
「お待たせいたしましたわ。紅茶くらいしか用意できませんでしたわ。ごめんなさいね」
人数分のティーカップと、ティーポットと砂糖とミルクを載せた盆を持って言いますわ
ティーバッグ? 邪道ですわ。緑茶は急須から、紅茶はティーポットから淹れてこそというもの。何でもインスタントに頼ればいいというものではありませんの
…ちなみに、ティーポットと紅茶は私の私物ですわ
「…どうぞ、お上がりください。お砂糖とミルクはこちらからご随意にお取りくださいな。
あ、ロイヤルミルクティーが好みでしたら仰ってくださいね。すぐに作りますので」
ちなみにミルクは別のポットに入っているが、砂糖はシュガースティックですの。角砂糖ではありませんわ
…わざわざシュガースティックを選んだのには理由がありまして。その理由とは私の能力ですわ
私のシンデレラは、どこかしら共通項や類似点があれば12時まで何にでも変身させられる…
つまり、私は好きなタイミングでこの砂糖を『睡眠薬』に変えることが出来ますの
元から糖分が含まれている市販の紅茶ではこうはいきませんが――私が『粉状のものが紅茶に入れられた』ことを目撃する以上。
それを同じ『粉末の睡眠薬』に変更させることは、例え全て溶けた後でも簡単にできますの
…ま、使わないに越したことはありませんけれど、やはり何事にも保健は必要ですもの。
戦闘向きでない私ですから、こういうところで気を引き締めなければならないのですわ

129 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/03/21(金) 23:41:41.76 0
門扉を勝手に開き、傍若無人にも園内へエントリーした俺と神永ちゃん。
それを出迎えたのは優男と、いつかのアンパン少女!
忘れんぞ、この俺のマスクの中にアンパンを送り込み、本体のハンサム顔を白日のもとに晒しくさった転移能力者だ。

「また遭ったな、童女ぉぉぉぉ!残念だがこの俺のハンサム顔はお預けだなああああ?」

ガスマスクをべちべち叩きながら精一杯おどろおどろしく言ってやる。
年齢に比してかなりシニカルな童女であるが、リアルにヤバい人に遭遇した恐怖をぜひ味わって欲しい。
そしてそんな俺の目論見がドンピシャったのか、彼女は実に良い感じの悲鳴を挙げてくれた。
引っこ抜かれた防犯ブザーがビヨビヨビヨ!と大音量で警告をまき散らす。
あしなが園の先生たちが『不審者が侵入したシフト』をとって、子供たちを避難させていくのが見えた。

入れ替わるように、メタボなおっさんが園から出てきた。
先の戦いでは俺に癒えぬ傷跡を残した、あの美少女に変身するおっさんである。
おっさん――橘川店長は、俺の顔を見たとたん「お、おう」的な反応と共に、園内へと招き入れてくれることになった。

「なんだなんだ、この園には廊下にクーラーもないのか。
 俺はともかくこっちには長髪モッサーな新人がいるのだぞ、熱中症になったらどうする?」

神永ちゃんの場合は、まあ頭髪を自在に操って熱が篭もらないようにするなど造作も無いかもしれないが。
そこへ行くとそれこそガスマスクが本当に憎くなる。
誰だよこんなメンドくせーキャラ付けにした奴は……。
廊下の蒸し暑さとは裏腹に、通された応接間は流石に冷房がかかっていた。
安物の応対机を挟んで、俺と神永ちゃんは来客用ソファに腰を沈め、対面におっさんと童女と優男が座ることになった。

「お、良い紅茶だな。粗茶で良いと言ったのにいろいろ世話をかける。あ、これおみやげね」

俺がおみやげのレーズンバターサンドの紙袋を手渡すのと入れ替わりに、
何故かこんもり盛られたアンパンの山を押しのけて、メイドさんがお茶を入れてくれた。
……ん?メイドさん?

「なんでこんな芋を洗うような孤児支援施設にメイドがいるんだ?」

んな金があるなら廊下にクーラーを付けて欲しい。
それともここの従業員の趣味か?コスプレ幼稚園とか言う斬新過ぎる新ジャンルか?
よく考えたら橘川のおやっさんもコスプレと言えなくなくなくもない感じだし……。
瀟洒な言葉遣いで紅茶をサーブしたメイドさんは、わざわざ砂糖とミルクを入れてカチャカチャしてくれた。

「うーん、こんなにサービスしてくれるなんて、さてはこの女、俺のことが好きか?
 そうなのか?小指ちゃん二号店か?チェーン展開を視野検討か?」

いい感じの美少女だし、俺ちゃんまたしても恋に落ちちゃいそうなんだが?
まあ閑話休題だな。

130 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/03/21(金) 23:42:26.57 0
「あれ、ロイヤルミルクティーと非ロイヤルなミルクティってどう違うんだっけ?
 ちょっとまって今ウィキペディアで調べるから」

俺は出された紅茶に手を付けず、スマホを取り出して検索エンジンを呼び出した。
検索欄に文字をぬるぬる入力して、あしながチームに見えない角度で神永ちゃんに見せる。

『敵対関係が明確な相手だ、一服盛られているかも知れん。迂闊に飲むなよ』

自然な動きでその一文だけを神永ちゃんに見せると、俺は検索ウィンドウを閉じた。

「なるほど、牛乳で煮出すのがロイヤルなのか。まあ俺ちゃんこだわりないから平民ティーで結構」

スマホを懐に落とし、ティーカップをとり、ガスマスクの吸気口にストローを刺してカップに沈めた。

「ではいただきます」

ちゅう……と吸った。
それはそうと、熱い飲み物をストローで吸うと火傷するらしいよ!
『すする』という行為ができないから、空気を含ませて温度を下げることができないらしい。
試したい奴はできたてのお味噌汁なんかを啜らずに飲んでみよう。
クッソ熱いから。

「うん、俺には茶葉の良し悪しはわからんが、作り手のまごころのこもった良い味だな」

カップの中身を残らず空にして、俺はそう所感を述べた。
無論のこと、俺はこの紅茶を飲み下してなどいない。
極秘裏に発動したゴールデンフィンガーで、ガスマスクと顔面の隙間に紅茶を『くっつけた』。
ぶっちゃけめちゃくちゃ熱いし火傷寸前だが、無警戒に出された飲み物を口に入れるほど俺は呑気じゃあない。
傍目には、ガスマスクがほんの少しだけ膨らんだようにしか見えないだろう。
「あれ?鳥島っちゃんちょっと太った?」と思われる程度である。
神永ちゃんにも是非ならではの方法で回避してもらいたいものだ。

「さて、貰いっぱなしというのも俺の信念にもとる。テイクにはギブで返すのが俺という紳士だ。
 このレーズンバターサンドを召し上がれ。十個一箱千円もする高級菓子だ。
 生物だし、この気温、ぜひすぐにご賞味いただきたい。そこのメイドさんの分もある」

俺はメイドさんの方を凝視しながら(透けねーかなあの服)、言外の意味を込めて言う。

「もちろん、食べてくれるよな?
 俺たちは貴様らの供した紅茶をありがたく飲ませてもらった。それは貴様らを信用してのことだ。
 ならば貴様らにも、同等の信用でもって応えてもらいたいものだなぁ……?」

当然ながらバターサンドには何も混入させていない。
俺は食べ物に細工を施すような躾の悪いことはしない。
ゆえにこれはリトマス試験紙だ。奴らがまったく無警戒にお菓子を食べればシロ。
もし少しでも躊躇したり、それを隠すような仕草をすれば、何らかの薬を紅茶に盛っていた可能性が浮上する。

このアマちゃん集団だ、劇毒はないにしても、痺れ薬、睡眠薬、何らかのBOOKS具現化物が混入されていてもおかしくはない。
白雪姫の毒リンゴやいばら姫の刺のように、命に別状なく行動不能にする能力は枚挙にいとまがない。
俺達は、そういう危険も承知して敵地に乗り込んできているのだ。

131 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/03/21(金) 23:43:21.99 0
「さて、話を本題に移そうか。今日は天気にも恵まれて絶好の祭り日和だな。
 おかげさまで、都市外のお偉様の凱旋パレードもつつがなく執り行われるようだ」

俺はふところから煙草を取り出し、左右を見回して、灰皿がどこにもないことに気がついた。
まあ、子供がたくさんいるところで煙草吸うのはマナー違反か……。
いや実際のマナーがどんなもんかは知らないけど、ここはNO SMOKE を徹底しているようだった。
社会のルールは破っても、みんなで決めたマナーを破る俺ではない。
煙草を箱に戻し、ライターと共に鞄の中へ突っ込んだ。

「――伊曽保典彰。童災局のトップにして、この隔離都市を築いた男。
 俺達はこの伊曽保のパレードを強襲し、奴を誘拐するつもりだ」

俺はあしながズも食ってるあんぱんの山から無造作に一個選び出し、割って中身を改めつつストローで餡を吸った。

「おっと、剣呑な空気になったな。そうはしゃぐなよ、こんなところで一戦やらかすつもりはあるまい。
 俺と神永ちゃんならば、貴様らの追撃を掻い潜ってここから即刻アディオスすることは可能だ。
 だからこそ、こんな敵陣のど真ん中まで入り込んできてる」

ガスマスクの内側をタプンタプン言わせながら、俺はソファに深く腰掛ける。
背後への警戒は怠らない。不意打ちで殴られればさすがの俺も前後不覚だ。

「ならば何故俺達がここへ来ているか、疑問か?まあ興味なくても教えてやろう。
 まずは宣戦布告ってのがあって、それから貴様らあしなが団の主力をここに釘付けにする目的もある」

彼らは一人ひとりが特色ある能力を持つ集団だが、年少者がいるために戦力を迂闊に分散できない。
どうしてもひとっところに集まっておく必要がある。
その点、大人の俺達は個別に行動することが可能だ。

「すでに針鼠と――貴様らが懇意にしていた唐空君が!伊曽保を捉えるために強襲に行った!
 俺達はここでどっしり一触即発しながら、仲間の果報を寝て待つだけの簡単なお仕事だ!」

別働隊が目的を果たしてこっちに合流すれば、あしなが園からの離脱はさらに容易くなる。
あしながサイドの連中が針鼠達を追いかけるには、俺と神永ちゃん二人を倒していかねばならないのだ。
トリニティの肉弾戦担当を相手に、非戦闘系共が勝ちを奪えればの話だが。

「さあ、歯噛むが良い!鳥島さんの見事な奸計に痺れ憧れながらなあああああああッ!」

132 :佐川琴里 ◇y2GAHxyV3I(代理):2014/04/12(土) 21:57:14.68 0
>「この前は色々と済まなかったね、どうぞ入ってくれ。お茶とアンパンでもごちそうしよう」
>「ようこそあしなが園へ。お待ちしておりましたわ、神永お嬢様、鳥島様。どうぞおあがりになってくださいな」
(ええええ、まじかよおじちゃん、硝子姉ちゃん?!こいつゼッテーなんか企んでるよ、このまま警察つれてった方いーって!)

店長のエプロン、硝子のメイド服の裾をひっぱりながら、琴里は小声で必死に訴えた。
しかし、どちらも妙に対応に自信があるようで……

「し、しかたない。ついてきな。怪しい真似したらタダじゃおかないんだからね!」

ここは二人を信じ、大口を叩いて先導を案内する。お人好し(?)の年長者の代わりに一段と緊張しながら。

>「なんだなんだ、この園には廊下にクーラーもないのか。
 俺はともかくこっちには長髪モッサーな新人がいるのだぞ、熱中症になったらどうする?」
「アンこら、勝手にお邪魔しておいてナマ言ってんじゃないよコノタコマスク」

廊下を歩く1分程度の短い間にも口が回る二人は息をつかせぬ勢いで悪態をつきあった。
鳥島が排気口からぶちぶちと文句を垂れ流し、琴里がいちいちそれを拾う。
客室につきソファに腰掛けても相変わらずの攻防だ。もはや周囲は呆れて口を挟まない。

>「お待たせいたしましたわ。紅茶くらいしか用意できませんでしたわ。ごめんなさいね」
>「うーん、こんなにサービスしてくれるなんて、さてはこの女、俺のことが好きか? そうなのか?小指ちゃん二号店か?チェーン展開を視野検討か?」
「なに勘違いしてんのあんたさっきから自意識過剰すぎ!」
「お、落ち着きなよ」

女と見るとすぐこうか!琴里は白目を剥いて鳥島に噛み付こうとしたが、安半少年に首根っこを掴まれて両腕・両足が空回りするだけにとどまる。

「ねえそこの新メンバーさんよ、こんな色ボケがボスで言いわけ?絶対将来苦労すると思うんだけど!」

憤懣やるかたないと言った風情で、琴里はソファへ乱暴に腰をおろした。ぼろいスプリングがプギュァ…みたいな音を出す。
行儀の悪い琴里とは対照的に、店長はどっしり落ち着いた様子。硝子も英国本場仕込み顔負けの完璧な作法で琴里の前にカップとソーサーを置く。
お子様用に程よく温く、砂糖も多めだ。いつもながら感心するほどの心遣い。やたら殺気立っていた琴里の心にも徐々に落ち着きが取り戻されてゆく。

133 :佐川琴里 ◇y2GAHxyV3I(代理):2014/04/12(土) 21:58:12.22 0
硝子の淹れた紅茶で小休止、ののち。
鳥島はおもむろに脇に抱えていた紙袋を机へと押しやる。

>「さて、貰いっぱなしというのも俺の信念にもとる。テイクにはギブで返すのが俺という紳士だ。
 このレーズンバターサンドを召し上がれ。十個一箱千円もする高級菓子だ。
 生物だし、この気温、ぜひすぐにご賞味いただきたい。そこのメイドさんの分もある」
「……」

むくむく。違和感が首をもたげる。
硝子の車を無理矢理テイクした癖に今の今まで何かギブはあったか?
可愛い女の子を目の端に入れると脊髄反射で口説く男が紳士か?
この男の言葉は、いつも嘘ばかりだ。

>「もちろん、食べてくれるよな?
 俺たちは貴様らの供した紅茶をありがたく飲ませてもらった。それは貴様らを信用してのことだ。
 ならば貴様らにも、同等の信用でもって応えてもらいたいものだなぁ……?」

(この男の言ってることは全部正あべこべだ。つまり、
『俺たちは貴様らの紅茶を胡散臭いと思って打ち遣った。だって貴様らなんか全然信用してねーし。
だから貴様らも、同等の知恵でもって現状を打破してもらいたいものだなぁ……?』 ってところかな)
怪しい奴から貰った怪しいモンを食べるなんて到底できやしない。
体面を保ったまま、――できれば相手に非がある形で――差し入れを断る方法。
 隣に座す安半少年の、微かな身じろぎ。
食いたくない。怪しい。絶対食いたくない。怪しすぎる。という本音を、建前でなんとか押しとどめているのだ。
琴里は彼の膝を軽く叩く。まあ任せろ、という意味合いだ。心の中では再び、めらめらと対抗心が沸きたってきている。こうなりゃ狐と狸の騙し合いだ。

佐川琴里は考える。
紙袋。その中にあるしっかりした造りの菓子箱、その中にあるめっちゃ美味しそうなレーズンバタークッキー。
れーずん、ばたー、くっきー……これだ。

頭の中に小さな投げ独楽が紐から放たれ、威勢よく廻る。

紅茶は……だめだ、熱すぎる。不自然。人の体温……いや、それは本人に危険が及ぶ。
ならば、これだ。

134 :佐川琴里 ◇y2GAHxyV3I(代理):2014/04/12(土) 22:01:01.77 0
「安半兄さん、ちょっとアンパン良いかな」
「え?……、あ、うん、構わないよ」

 ここは内緒話である必要は無い。あくまで自然体を心がけ普段通りの調子で、話す。
しかし、真に伝えなければならないことは暈さなければ。これが琴里のBOOKS能力で言う『制約条件のクリア』であることを気取られないように。
飾り帯に忍ばせた琴里の絵本『幸福な王子』が淡く輝く。琴里はその光を漏らさないよう背中をソファに押し付ける。

”モノ”の転移はなにも物体に限らない。さらに言えば、その全てを転移させねばならぬという道理もない。

(準備完了っと。あとは自然に……)
「あ、これあたしの好きな奴だ。おじちゃん開けて開けて」

レーズンを練り込んだたっぷり生クリームを、さくさくのクッキーで挟んだこの銘菓は、
全ての素材に名店ならではのこだわりとBOOKS能力の工夫がなされている。
当園ではクリスマスや誕生日にしかお目にかかることの出来ない大変珍かなる逸品である。

「これ全部あたし達が食べちゃっていいの?嬉しいなあ、アンタいいとこあんじゃん!」

包みが解かれる。
うまくいっているだろうか、分からない。
だが緊張を表に出さず、あくまで食い意地のはった子供を演じる。

「早く食べたいな、って、あ〜あ…これじゃ食べられないな……」

一計が成功したにもかかわらず落胆の表情を作るのは案外難しいことだった。
中にあった菓子は、だらしなく生クリームがクッキーの端から漏れ、クッキーもしんなりしょげ気味。
そう、先ほど琴里は【アンパンの熱】のみをバタークッキーの生クリームに転送させたのだ。
手を触れず、目に見えず、音も無く。

「ドライアイスも保冷剤も入れてもらってないからね、しょうがないよ。だけど高級なお菓子程取り扱いには気をつけないといけないのさ」

そして当て付けのようにアンパンを食べる。というのも熱を奪われて固くなってしまったパン、という物的証拠を隠滅させるためである。
(ちょっと前のあたしなら、何も考えないであのクッキーを食べてたのにな)
琴里は用心深くなった、裏を返せば人を信用しなくなった。冷めても美味しい餡は、今日ばかりは少し味気ない気がした。
 さて、小細工は成功した。しかし大局は変わらない。鳥島の次の言葉に頭で回転していた独楽が威勢を鈍らせた。

>「――伊曽保典彰。童災局のトップにして、この隔離都市を築いた男。
 俺達はこの伊曽保のパレードを強襲し、奴を誘拐するつもりだ……――
すでに針鼠と――貴様らが懇意にしていた唐空君が!伊曽保を捉えるために強襲に行った!
 俺達はここでどっしり一触即発しながら、仲間の果報を寝て待つだけの簡単なお仕事だ!」

>「さあ、歯噛むが良い!鳥島さんの見事な奸計に痺れ憧れながらなあああああああッ!」

135 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2014/04/15(火) 21:14:24.24 0
突然の悲鳴とブザー音に歓迎されたあたし達は、結局何事もないかのように迎え入れられた。
敵の本拠地と聞いて来たのだが、戦闘の兆しも感じられない。というか、武闘派は居ないようだ。
敵は知略で勝負を仕掛けてくるという事か?ならば結構、正面からぶっ潰してやる。
あたしは戦闘をする事しか出来ない……あまり頭は良くないのだ。こればかりは仕方ない。
ガスマスクからの指令があればいつでも戦えるよう、髪の毛の硬度をあらかじめ上げておく。
意識さえすればこの髪は鋼より強固なワイヤーと化す。ただ振り回すだけで十分な武器となるのだ。

>「なんだなんだ、この園には廊下にクーラーもないのか。
 俺はともかくこっちには長髪モッサーな新人がいるのだぞ、熱中症になったらどうする?」

>「アンこら、勝手にお邪魔しておいてナマ言ってんじゃないよコノタコマスク」

「心配は要らないさ、必要なら髪は短くも出来るぜ」

と、あたしはガスマスクにだけ聞こえるように返す。
髪を操る能力者であることは、なるべく知られないほうが都合が良いだろう。
そういうのも戦略のうちだ。こちらは情報を共有して相手の能力はだいたい把握している。

さて、案内された応接間で、なぜか山盛りのアンパンと紅茶を出された。
ここの手作りなのだろうか、アンパンはまだ温かくふっくらとしている。
実に美味しそうだ。思わず生唾を飲む。

>「お待たせいたしましたわ。紅茶くらいしか用意できませんでしたわ。ごめんなさいね」
>「うーん、こんなにサービスしてくれるなんて、さてはこの女、俺のことが好きか? そうなのか?小指ちゃん二号店か?チェーン展開を視野検討か?」
>「なに勘違いしてんのあんたさっきから自意識過剰すぎ!」
>「お、落ち着きなよ」

さっきからずっとこの調子だ。呆れて口も挟めない。
ガスマスクの軽口に乗るんじゃねーよ。いくら怒ってもキリがないぞ、などと思う。
琴里……と言ったか、この少女。短気は損気だぞ、長生きしたいなら落ち着く事だ。

>「ねえそこの新メンバーさんよ、こんな色ボケがボスで言いわけ?絶対将来苦労すると思うんだけど!」

「そうだなぁ。でもこいつ、結構気風はいいんだぜ?仲間としては悪くないさ」

そんな風に軽く返す。頭の悪い発言は多いが、このガスマスクは結構芯はしっかりしているのだ。
軽口ばかりでなく手を出すようならシメる。容赦なくシメる。だから問題はない。

>「…どうぞ、お上がりください。お砂糖とミルクはこちらからご随意にお取りくださいな。
 あ、ロイヤルミルクティーが好みでしたら仰ってくださいね。すぐに作りますので」

「ありがとな、遠慮なく頂くとするよ。……ふむ、美味いなこのパン。紅茶も良い香りだぜ」

何の思慮もなく目の前のご馳走に挑むあたし。毒物混入だとかそんなことは一切考えていなかった。
味覚は鋭いので変なものが混入されていたらすぐに気付く。
紅茶にも手を出そうとしたそのとき、ガスマスクから予め決められていた合図を受ける。
その手元を見ると、取り出したスマホに文字が入力されていた。

>『敵対関係が明確な相手だ、一服盛られているかも知れん。迂闊に飲むなよ』

アンパンと一緒に紅茶も頂きたいところだったが、言われてみたら確かにそうだ。
あたしは仕方ないとため息をつくと、今飲もうとした紅茶に髪を一束浸した。
毛細管現象、という言葉をご存知だろうか?
極細の管に液体を通すと、その液体が勝手に上昇する現象である。
あたしは髪でその管を作り、紅茶を吸い出したのだ。これならば気付かれずに紅茶を始末する事が出来る。
吸い出した紅茶は目立たないよう床のカーペットに吐き出す。
ちょうどソファーで隠れているし、気付かれる心配はないだろう。

136 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2014/04/15(火) 21:15:28.47 0
その代わりと言っては何だが、あたしはアンパンを平らげる事にした。
アンパンならば何かを混入させている可能性はないだろう。こんなに積まれている訳だし。
それは実に美味しいアンパンだった。こんな美味しいアンパンは初めてだ。
ここで焼かれているパンか?それとも能力の産物?とにかくお金を出して買い占めたいくらいで。
アンパンの山は見る間に嵩を減らしていた。能力でもなんでもなく、単に尋常ではない勢いで食べているためである。
横でガスマスクが喋っているのもお構いなしだった。正直どうでもいい。

ふと見ると、ガスマスクは予め用意していた紙袋を手渡していた。
中身はレーズンバターサンドだ。買うときに同行していたので知っている。
立派な高級菓子だ……ちょっと食べてみたかった。今度強請ってみようか、とも思う。
そのときである。

>「安半兄さん、ちょっとアンパン良いかな」
>「え?……、あ、うん、構わないよ」

違和感のある会話に耳をそばだてる。今の会話は不審だった、何か意図があるのか?
注意して見る。あの様子……間違いない、BOOKS能力を使用している!
あたしは髪でガスマスクの膝の上に文字を書く。そしてチクリと刺して注意を促す。

『いまこのガキ、のうりょくをつかった。ちゅうい』

髪による一筆書きなので漢字は難しかったりする。だが読めれば問題ないだろう。

>「あ、これあたしの好きな奴だ。おじちゃん開けて開けて」

上っ面だけの言葉、空虚な響きなのは注意して聞けば分かるものだ。
何をした、お菓子に何か細工でもしたか……危険があるとは感じなかったので、そのまま様子を見る。

>「早く食べたいな、って、あ〜あ…これじゃ食べられないな……」

箱を開けると、まるで日照りに晒したかのようにクリームは溶けていた。
炎熱系の能力者?否、彼女からはそんな戦闘向けな匂いはしない。
原理は不明だが何らかの能力でクリームに熱を加えたのは間違いない。とんだ策士だ。
おそらくは異物混入に警戒して食べたくなかったのだろう。もったいない話だが、これは戦闘の一種なのだから仕方がない。

結局お菓子は食べさせられなかったが、それで戦局が動く訳でもなかった。
ガスマスクの言うとおり、あたし達はこの場に踏み止まるだけで有利な立ち位置を維持出来るのだ。
本当を言うとあの二人だけで誘拐を成功させるのは難しいのだが、相手にプレッシャーはかけられる。

>「さあ、歯噛むが良い!鳥島さんの見事な奸計に痺れ憧れながらなあああああああッ!」

「ちなみに、この園を抜け出して行こうなんて甘い考えはやめときな。
 抜け出す奴はあたしが全力を持って潰す。容赦なんかしてやらないぜ?」

あたしの髪の間合いは21メートル。すでにこの部屋全体があたしの支配下と言って良いだろう。
捕縛はあたしのお家芸である。ここにいる全員を捕まえるのは容易いことだった。

137 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/04/27(日) 15:13:24.99 0
>「なんだなんだ、この園には廊下にクーラーもないのか。
 俺はともかくこっちには長髪モッサーな新人がいるのだぞ、熱中症になったらどうする?」
>「アンこら、勝手にお邪魔しておいてナマ言ってんじゃないよコノタコマスク」
「大丈夫ですわ。貴方はともかく、神永お嬢様が熱中症になったら私が看病しますもの。……付きっきりで、ね…」
神永お嬢さま。神永千沙ちゃん。噂に違わず綺麗な方ですわ――特に髪の毛。
そんな女の子と二人っきりで看病……汗を拭いたり、お絞りを替えたり、服をはだけさせたり……ふふ、うふふふ……はっ!
危ない危ない、ついつい自分の世界に入ってしまうところでしたわ……

>「お、良い紅茶だな。粗茶で良いと言ったのにいろいろ世話をかける。あ、これおみやげね」
「あら、ありがとうございますわ」
ちなみに、粗茶というのは謙譲語である――つまり頂く側が言うのは適切ではありませんわ
そして、粗茶は緑茶のみに適用されるので、紅茶に対しても使えません。
まぁ、言及する必要はありませんわね。マナー講座でもあるまいし

>「なんでこんな芋を洗うような孤児支援施設にメイドがいるんだ?」
「ああ、これは私の勝負服のようなものですわ。私はここで働いている使用人の灰田硝子ですの。よろしくお願いいたしますわね、鳥島様に神永お嬢様」
と、私は丁寧にお辞儀をして自己紹介しますわ

私が『ご随意に』と申し上げたところ、鳥島さんはミルクも砂糖もそれなりに入れたようですわ。甘いものがお好きなのかしら?
>「うーん、こんなにサービスしてくれるなんて、さてはこの女、俺のことが好きか?
 そうなのか?小指ちゃん二号店か?チェーン展開を視野検討か?」
>「なに勘違いしてんのあんたさっきから自意識過剰すぎ!」
>「お、落ち着きなよ」 
そう言っていただけるのは使用人冥利に尽きますけれど、しかし勘違いさせてしまうのはよろしくないですわね。私レズですし。
そして、おや? おやおやぁ? 琴里ちゃんったら妬いているのかしらぁ? うふふふふ、可愛らしいですわぁ……おっと。
こほん。ともかく、ここはきっぱりとはっきりと、そんなことはないと断らなくては……
と、いうわけで私は「お任せください。しっかり断って見せますわ」とアイコンタクトで琴理ちゃんに伝え(伝わったかどうかはわかりませんわ)
小さく息を吸い込みますわ。そして…
「はぁ!? 何勘違いしてるのよバッカじゃないの!? 別にあんたのことなんて、何とも思ってないんだからね!」
よし。完璧ですわ。ここまで強気にはっきりと断れば後々面倒なことにはならないでしょう。まぁ、ただの軽口でしょうけれど、念のため、ね
――しかし私はこの時、その台詞が所謂ツンデレのそれであるということに、全く気が付いていませんでしたわ――というのは、どうでもいい話ですわね

>「ねえそこの新メンバーさんよ、こんな色ボケがボスで言いわけ?絶対将来苦労すると思うんだけど!」
>「そうだなぁ。でもこいつ、結構気風はいいんだぜ?仲間としては悪くないさ」
あら。どうやらボスとして、一定以上のカリスマはあるようですわね。ただのガスマスクではないということでしょうか。

138 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/04/27(日) 15:14:14.39 0
>「ありがとな、遠慮なく頂くとするよ。……ふむ、美味いなこのパン。紅茶も良い香りだぜ」
「そう仰っていただけると光栄ですわ」
うふふ、神永ちゃん、とっても綺麗ですわね。隔離都市は美少女に事欠かなくて幸せですわ……

>「あれ、ロイヤルミルクティーと非ロイヤルなミルクティってどう違うんだっけ?
 ちょっとまって今ウィキペディアで調べるから」
「お湯や水で煮出してミルクを加えるのが普通のミルクティー、牛乳で煮出すのがロイヤルミルクティーですわ。
もっとも、ミルクだけで煮出すとタンパク質のせいでうまく抽出できませんので、お湯は使うのですけれどね。
ちなみに和製英語ですので『ロイヤルミルクティー』という名称のミルクティーはイギリスにはございませんわ
……と、申しますかその、お食事中にスマートフォンをお使いになるのはお行儀がよろしくありませんわよ?」
聞いてくださればお教えしますから、次からはご遠慮なさってくださいね――と付け足し、鳥島様を窘めますわ

スマートフォンをしまった鳥島様はガスマスクにストローを突き刺し、ストローをミルクティーに沈めましたわ
>「ではいただきます」
「あくまでそれは外さないんですのね……」
そして鳥島様は、ミルクティーをストローで一気に吸い込み、飲み干しましたわ―――って、あれ?
何かおかしいですわね、何か……
>「うん、俺には茶葉の良し悪しはわからんが、作り手のまごころのこもった良い味だな」
ああ――そうか。分かりましたわ。この台詞で溜飲が下りましたわ
要するに、実際のところ鳥島様は――私のミルクティーを飲み下してなどいませんわ。理由は3つ。
まず一つ。私は紅茶の淹れ方には並々ならぬ拘りを持っている。つまり、子供である琴里ちゃんのもの以外は当然、熱湯で淹れていますわ
用意したミルクも温めておきましたし――つまり。それをストローで一気に飲み干すことなど不可能ですし、よしんばできたとしても舌がひりひりすることは免れませんわ。
要するに『その直後から饒舌に舌を回すことなど不可能』ということですわ。……これが2つ目ですわね。
そして3つ目。私は伊達や酔狂でメイドをやっているわけではありませんし、紅茶ひとつ入れるのも本気ですわ。
つまり私の紅茶を飲んだ第一声はため息くらいしかありえませんし、感想は美味しい以外にありえませんわ。
分かる人にしか分からない紅茶なんか淹れませんもの――だから、「真心がこもった」とかそんな当たり障りのない当たり前の台詞なんか出ませんわ
以上の理由から、鳥島様は私のミルクティーを飲んでなどいませんわ。……ではどこに隠したのでしょう?
………………。
…………。
……。
ええ、どう考えてもガスマスクの中以外ありえませんわね。……では、どうやって?
先ほどから動いていても、ミルクティーが零れる様子は見られませんわ。……そう、十中八九能力でしょうね。
では、どのような能力か――いくつかの仮説が立てられますわ。
@液体類を操るタイプの能力A接着系の能力B空間系の能力。

139 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/04/27(日) 15:15:36.58 0
@液体類を操るタイプの能力A接着系の能力B空間系の能力。
@。液体を操る能力で紅茶をガスマスクの中に留めている。この場合、候補として挙げられる本は
『騎士と水の精』『池に住む水の妖精』あたりでしょうか。
A。接着系の能力でガスマスクの裏に紅茶をくっつけている。
この場合、候補に挙げられるのはオーソドックスに『黄金のガチョウ』。履いたら脱げなくなるという部分を拡大解釈して『赤い靴』。もしくは磁石関係の童話か児童文学あたりでしょうね。
B空間系の能力。琴里ちゃんの『幸福の王子』と同じタイプの能力でどこかに転送した。もしくは『異空間を生成する』ような能力でガスマスクの中に異空間を作っている。
この場合は『不思議の国のアリス』とかあたりでしょうね。
……さて、この中でまずBはないでしょうね。なぜなら例のアンパン事故とガスマスクの中にアンパンを転送した件。
空間系の能力なら問題なく対処できたはずですものね。つまり残るは@とA。液体を操ったかくっつけたか――。
……。そういえばあの時の車の足跡。アスファルトなのに結構削られていましたわね。まるで何かに剥がされたかのように。
……あれは何だったのでしょう? やはり能力? さて、あの時あの場所にいたあちら側の方の中で、能力が不明なのは鳥島さんと綺麗な女の人。
そういえばあの方はいらっしゃいませんわね。そしてあの針人間もいませんし……。
まぁ、それは念頭に置いておくとして。手がかりをもとに相手の能力を暴き出しましょう。
少なくともこちらの琴里ちゃんと店長の能力はあちらさんに知られている――このディスアドヴァンテージを何とか埋めませんと。
不自然に抉れたアスファルト。アンパンで暴走した自動車。消えたミルクティー。謎の能力者2人。
……まず、不自然に抉れたアスファルトを『ものすごいパワーの能力によるもの』と仮定する。と、不可解な点が残る。
すなわち『そんな強力な能力を持つ者がなぜ直接戦わなかったのか』。故にあの破壊は能力によるものではなく、あくまで能力を使用した結果なのではないか。
さて、アンパンで暴走した自動車。おそらくブレーキも効かなかったでしょう。つまり何らかの能力を使って止めようとしますわ。誰だってそうします、私もそうしますわ。
ではどうやって止めようとしたか――重力を操る能力? まさか。人が乗っているのに? 巻き添えを食う危険がある以上、重力という広範囲に作用するタイプの能力は使えそうにありませんわね。
質量を操る――いえ、自重でつぶれたらやはり巻き添え。これも考えにくいですわね。
摩擦を操る。摩擦を操り人工ブレーキ。なるほど、これならば可能性は高い。だが、摩擦でアスファルトが抉れるでしょうか……
あっ。そういえば道中、抉れたタイヤ跡のあたりに所々溶けたタイヤとまるで剥がされたかのようなアスファルトが転がっていたような……?
であれば、すなわち。あの謎タイヤ跡の原因は鳥島様で――『接着系の能力』である可能性が高くなってきましたわね
……とはいえ、まだ確証はないし、特定もできていない。このことは頭の片隅にでも置いておきましょう。

そして、神永ちゃんも一度口をつけたカップから口を離し、さらにもう一度付けてから紅茶を飲みましたわ――が、こちらもおそらく本当には飲んでいないのでしょう。

140 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/04/27(日) 15:16:21.65 0
>「さて、貰いっぱなしというのも俺の信念にもとる。テイクにはギブで返すのが俺という紳士だ。
 このレーズンバターサンドを召し上がれ。十個一箱千円もする高級菓子だ。
 生物だし、この気温、ぜひすぐにご賞味いただきたい。そこのメイドさんの分もある」
「あら、ありがとうございますわ。頂きますわね」
……そこは「つまらないものですが」ではないのでしょうか。まさかこの方、礼儀作法を一切学んでいない? いえ、まさかでしょう
「じゅ……十個千円だって? つまり一個100円!? こ、このサイズで? 何、何なの!? この中には金でも詰まってるの!?」
と、火燐は大はしゃぎですわ。……これを売り捌けば、とか言っている気がしますが、華麗にスル―しましょう
>「もちろん、食べてくれるよな?
 俺たちは貴様らの供した紅茶をありがたく飲ませてもらった。それは貴様らを信用してのことだ。
 ならば貴様らにも、同等の信用でもって応えてもらいたいものだなぁ……?」
何故か鳥島様は私を凝視しながら、含みのある台詞で言いますわ。
いや、というか飲んでいないでしょう貴方。同等の信用ってつまり食べるふりして捨てればいいんですの?
それにしても男性に見つめられると鳥肌が立ちますわね。肌をあまり出さないタイプの服でよかったですわ……

>「安半兄さん、ちょっとアンパン良いかな」
>「え?……、あ、うん、構わないよ」
>「あ、これあたしの好きな奴だ。おじちゃん開けて開けて」
>「これ全部あたし達が食べちゃっていいの?嬉しいなあ、アンタいいとこあんじゃん!」
>「早く食べたいな、って、あ〜あ…これじゃ食べられないな……」
ソファーに背中を押しつけた後、開かれたお菓子を見て琴里ちゃんがあからさまに残念そうに肩を竦めますわ
……溶けていますわね。中のクリームかバターあたりが、熱で。
>「ドライアイスも保冷剤も入れてもらってないからね、しょうがないよ。だけど高級なお菓子程取り扱いには気をつけないといけないのさ」
そしてアンパンを食べる琴里ちゃん。しかし、どうしてこうも都合よく溶けていたのでしょう……ああ、『幸福の王子』ですわね。
それならばあの動きにも合点がいく。――と、いうか。琴里ちゃんの能力。『熱』だなんて抽象的なものにも作用するんですのね。味方ながら恐ろしいですわ……
その気になれば敵を打倒する能力にもなり得るんじゃあないでしょうか。紅茶の熱でこれを行い、送り先が人だったら……とか、まぁ、今はいいですわね
しかしどうやら神永ちゃんは終始怪しんでいたようで、琴里ちゃんの動きを観察していましたわ。鋭い、ですわね……

141 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/04/27(日) 15:17:45.89 0
>「さて、話を本題に移そうか。今日は天気にも恵まれて絶好の祭り日和だな。
 おかげさまで、都市外のお偉様の凱旋パレードもつつがなく執り行われるようだ」
>「――伊曽保典彰。童災局のトップにして、この隔離都市を築いた男。
 俺達はこの伊曽保のパレードを強襲し、奴を誘拐するつもりだ」
「へぇ……。それはそれは。私たちとしても、阻止しなくてはなりませんわね」
と適当に相槌を打ちながら、私は考える。鳥島様と神永ちゃん。二人を無力化する方法を……
>「おっと、剣呑な空気になったな。そうはしゃぐなよ、こんなところで一戦やらかすつもりはあるまい。
 俺と神永ちゃんならば、貴様らの追撃を掻い潜ってここから即刻アディオスすることは可能だ。
 だからこそ、こんな敵陣のど真ん中まで入り込んできてる」
「あらあら。舐められたものですわね。個々の職員は皆、あなた方を相手取るには十分なほどの能力を持っているんですのよ?」
と、適当にはったりをかましてみる。引っかかるとは思いませんが、まぁ挨拶みたいなものですわ。
……さて。鳥島様を無力化する方法は思いつきましたが――神永さんをどうにかする方法は思い浮かびませんわね。
どうしたものでしょう……
>「ならば何故俺達がここへ来ているか、疑問か?まあ興味なくても教えてやろう。
 まずは宣戦布告ってのがあって、それから貴様らあしなが団の主力をここに釘付けにする目的もある」
「なるほど、ですわね……」
つまり、逆に言えば気づかれずに脱出できれば問題はない、ということですわね
>「すでに針鼠と――貴様らが懇意にしていた唐空君が!伊曽保を捉えるために強襲に行った!
 俺達はここでどっしり一触即発しながら、仲間の果報を寝て待つだけの簡単なお仕事だ!」
>「ちなみに、この園を抜け出して行こうなんて甘い考えはやめときな。
> 抜け出す奴はあたしが全力を持って潰す。容赦なんかしてやらないぜ?」
「さあ、歯噛むが良い!鳥島さんの見事な奸計に痺れ憧れながらなあああああああッ!」
さて、どうしたものでしょう。この分だとこっそり出ていくのは難しいですわね。
と、私が頭を働かせていると、火燐から合図がありましたわ
『私が幻を作る。琴里ちゃんが転送する。』
私たち姉妹の間でだけ通じる、暗号のようなもの――で私に作戦を伝える火燐。私も了解というサインを送りますわ
『まず私がマッチで蚊取り線香に火をつけて、手元を隠すような幻を作る。そしたらマッチで私の幻を作るから、
私が「右手の人差し指で誰かを指したら」私を外に転送するように琴里ちゃんに伝えて』
という意味のことを、簡単なサインで伝えてきましたわ。……さて、今度はこれを琴里ちゃんに伝えませんと。
「どうしましょう……一気にピンチですわね」
と言いながら、琴里ちゃんに、あしなが園でにわかに流行している忍者ごっこ――その時に作った合図を使い、伝えますわ
『火燐が右手の人差し指で誰かを指したら、火燐を外に転送するように』と……

142 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/04/27(日) 15:18:21.32 0
さて、私は見えないようにこっそりアンパンの餡を指で取り、それを『蚊』に変化させますわ。同じ黒っぽい色ですからね。余裕ですわ
「あっ……!」
その蚊をぺちん、と叩き潰した火燐が言いますわ
「ああ、ごめんなさい。蚊がいるみたいですね。ちょっと待ってくださいね。今から蚊取り線香を焚きますから……」
そういうとポケットからマッチを取り出し、蚊取り線香に火をつけましたわ
「よし。これで大丈夫ですね……」
怪しまれないように、さらにもう少し蚊を作っておくのも忘れませんわ。……ちなみに私のメイド服は黒いので、服の中に仕込んだシンデレラの光が漏れることはありませんわ
「まぁ、それはともかく……」
私は歩いて、神永ちゃんに近づきますわ
「良い食べっぷりですわね、神永お嬢様……。
でも、ダメですわよ? ほら、お口の周りに餡がついていますわ……」
と、必要以上に接近し、口の周りの餡を掬い取りますわ
「うふふふ……。それにしても神永お嬢様、本当にきれいな髪をしてますわね……」
と、恍惚した声を出しながら、神永ちゃんの髪の毛を弄りますわ
もちろんこれは演技。私に神永ちゃんの意識を集中させることで、これから鳥島様に起こる異変と、火燐のマッチを擦る動きを誤魔化すための……
……ごめんあさい。嘘ですわ。本当は趣味ですわ。
でも、私は神永ちゃんに悪戯しつつも、気取られないようさりげなく能力を発動しますわ。
対象は鳥島様。のガスマスクの中のミルクティー。……から立ち込める湯気!
確認したところまだ温度は十分。つまり湯気は当然出ている。念のため、ガスマスク内の紅茶を湯気がたくさん出るように熱めにもしておく。火傷しない程度に、もとより熱くならないように。
そして立ち込めているであろう湯気を『催眠ガス』に変化させた。
ガスマスクをつけている彼に対して効果は薄い方法ですわ――普通なら。しかし、今回のガスの出所は『ガスマスクの内部』。つまり反転して効果は抜群ですわ。
……さて、おそらく鳥島さんを眠らせたとは思いますが、どうでしょう。と、このタイミングで火燐が言いますわ
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! 何発情してるの……! 神永さんは初対面なんだから、びっくりさせちゃダメでしょう……!」
と、私を右手の人差し指で指しながら、窘めますわ……すなわち、合図ですわ
さて、合図通り火燐は外に転送されたのでしょうが、そうとは全く分からないほど、火燐の姿は健在ですわ。
……マッチ売りの少女。精巧さはかなりのものですわね……
「ごめんなさい火燐。それと、失礼いたしましたわ、神永お嬢様。私、きれいな女の子を見るとどうしても歯止めが効かなくなってしまいまして……」
と、丁寧に謝罪しますわ。見ると、琴里ちゃんや店長たちも呆れた顔をしていましたわ。反省反省。
さて、あとは誰を転送するか――というサインを探偵団に送りつつ、私もこの状況を打破する方法を思案しますわ

143 :橘川 鐘 ◆P178lRPwh2 :2014/05/01(木) 01:34:04.85 0
>「ドライアイスも保冷剤も入れてもらってないからね、しょうがないよ。だけど高級なお菓子程取り扱いには気をつけないといけないのさ」

クリームが溶けたお菓子を見て、琴里ちゃんが一計を案じた事が分かった。
よくやったと思うと同時に、この幼さにして用心深くならざるを得なかった境遇に複雑な気分になる。

「これ、折角持ってきてくれたのにそんな言い方はないだろう。まあそうがっかりするな、今度買ってあげよう」

>「――伊曽保典彰。童災局のトップにして、この隔離都市を築いた男。
 俺達はこの伊曽保のパレードを強襲し、奴を誘拐するつもりだ……――
すでに針鼠と――貴様らが懇意にしていた唐空君が!伊曽保を捉えるために強襲に行った!
 俺達はここでどっしり一触即発しながら、仲間の果報を寝て待つだけの簡単なお仕事だ!」

>「さあ、歯噛むが良い!鳥島さんの見事な奸計に痺れ憧れながらなあああああああッ!」

これには流石の琴里ちゃんも面喰ったようだ。
かく言う私も、紅茶を拭き出しそうになった。

>「ちなみに、この園を抜け出して行こうなんて甘い考えはやめときな。
 抜け出す奴はあたしが全力を持って潰す。容赦なんかしてやらないぜ?」

髪の長い新入りが凄んで見せる。
怪人ガスマスクの方は、以前の戦いで自らオラオラ戦う武闘派ではないのは見当がついている。
となれば、この少女の方が武闘派の可能性が高い。
どうしたものかと思案する。
琴里ちゃんの転送能力は脱出に使えそうだが、琴里ちゃん自身は転送できない。当然彼女一人ここに残しておくわけにはいかない。
それに、強襲に行っているというあの二人には、どのみち全員でかからなければ勝てないだろう。
ガチな肉弾戦闘系は一人一人でもそれなりに戦えるが、協力した場合は単純な足し算に近い。
トリッキーな非戦闘系能力者というものは一人では弱いが、能力を組み合わせる事によって相乗効果で力を発揮する側面が強い。
いかにして琴里ちゃんを含む全員で脱出するかというのが第一関門になるわけだ。
やがてあしなが園関係者だけに分かるサインが飛び交い始め、手始めに火燐嬢が転送されたようだ。
火燐嬢を最初に脱出させたのは、妥当な判断だろう。
元々の作戦でいけば、この後火燐嬢は大怪獣ながっしーを出現させる手はずになっているのだから。
それで強襲の奴らがびびって仲間に応援要請してくれれば御の字なのだが……。

>「ごめんなさい火燐。それと、失礼いたしましたわ、神永お嬢様。私、きれいな女の子を見るとどうしても歯止めが効かなくなってしまいまして……」

硝子嬢が先程神永という少女の髪をすいているのを見て、思う事があった。
武闘派にしては髪がやたら長すぎやしないか。
そこから導き出される事は――髪が何らかの形で能力に関係している!?
硝子嬢に蚊を作るついでに、あんを大目にむしりとった蠅サイズの虫を一匹作っておいてもらう。
すでにここにはいない火燐嬢に謝る硝子嬢に続いて、私はお手上げ、といった風で戦意喪失を装う。

「恐れ入ったよ。これでは身動きとれない。じたばたしても仕方がない、このままお茶しながら事態の行く末を見守るとしよう」

蠅が目の前を飛び回るのを、鬱陶しそうに払いながら言う。

「……これではゆっくりお茶もできやしないな。そうだ、折角だから自己紹介がてら見せておこうかな。
私の能力については鳥島君からもう聞いたか? 空飛ぶ美少女に変身するという実にくだらない能力だ」

144 :ティンカー・ベル ◆P178lRPwh2 :2014/05/01(木) 01:36:11.63 0
美少女に変身した私は、近くにあった蠅叩きを手に取り、猛スピードで飛ぶ蠅を追い掛け回す。
飛びながら魔法の粉を、味方の面々やそこらじゅうの家具等に蒔いておく。
多分敵の私の能力に対する認識は、味方や物を飛ばす事が出来る程度止まりで、その条件までは解析されていないと思われる。
妖精が飛ぶときに金色の粉を蒔いていても視覚的演出としてスルーされる可能性が大だからだ。
特に初見の新入りの方は、「目の前でおっさんが美少女に変身した」という衝撃的シーンに気を取られてそこまで気が回らないだろう。

適当な所で蠅をぱしっと叩いて席に戻る。これで開戦の準備は(一応)整った。
髪長少女の能力や攻撃のリーチが不明な以上、決して楽観視はできないのだが……。

「どうも虫が多くてすまないね。
むさ苦しいおっさんより美少女の方がいいだろうしついでにこのままでいようか」

後は火燐嬢が上手くやってくれるのを信じて待つか、こちらから戦いの火ぶたを切って落とすか。
もう少し様子を見て何も起こる気配がなく状況が膠着したままの場合は、以下の作戦を琴里ちゃんに伝える事にした。
先程の要領で熱を天井の火災報知器に転送してほしい、と。
ここは孤児院なので、防災設備は完備してある。
熱を火災報知器に伝えれば、火災報知器連動のスプリンクラーが作動し、全館に水を撒き散らす。
単純に火事だーわーわーきゃーきゃーの混乱に紛れて逃げ出すチャンスを作り出すのが一つ。
もう一つの狙いは、仮に髪長少女の能力が髪に関係のある能力なら派手に水を被れば一時的にせよ能力の足かせになるのではないか?という事である。
水に濡れた状態は髪を痛めるというのは割と有名な話である。
ただしこれをやると香取線香の火が消えてしまうので、火燐嬢が脱出した事がバレてしまう。
しかも神永嬢の能力については憶測の域を出ない。後戻りはできない一か八かの最終手段だ。

145 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/05/01(木) 10:55:56.87 0
>>144
避難所がつながらないのでこちらに書きますわね
火燐が蚊取り線香で作った幻は「火燐の手にあるものを見えなくする幻」ですわ
それで2本目のマッチを隠していますの
でもマッチを擦るような不自然な動作から気取られないように、私が神永さんの気を引いてますの
そして、2本目のマッチを擦って作ったのが「火燐自身の幻影」ですわ
なので、蚊取り線香の火が消えても火燐の姿は消えませんの。分かりづらくて済みません…
火燐は外でマッチの火を蝋燭か何かに移して、その火を通して園内の様子を探っていますわ

146 :ティンカー・ベル ◆P178lRPwh2 :2014/05/01(木) 17:00:02.40 0
【>145
おお、すまない
幸い間違いが一人称地の文の中だけにおさまってるのでそのまま作中のおっさんの認識違いという事で……
避難所どうしよう、とりあえずここでも間借りするか?
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/9925/1376804242/l50

147 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/05/02(金) 23:44:05.13 0
ちょっと時系列が前後するけど、まあ回想的な感じ。
時間軸としては俺がレーズンバターサンドを供して悦に入ってたところに巻き戻る。

「んー?どうした?はやく食べないと悪くなってしまうんじゃないかあ?」

このバターサンド作戦での俺の狙いは大別して二つ。
ひとつは先ほどお呼ばれした紅茶に何か異物が混入されていなかったかを奴らの反応で測ること。
そして――怪しい謎の男から貰ったお菓子を食べる食べないの問答で、要らぬプレッシャーを与える為だ。

それは矛盾した良識のせめぎ合い。
『知らない人から貰ったものを食べてはいけない』という教育と!
『客からもらった土産に手を付けないのは失礼』という礼儀作法!
本来ありえるはずのない二律背反を、この俺が成立させた。

義理か保身か。
暗中の二者択一――!!

だが、俺の幾重にも展開された悪虐非道な思惑は、その牙を果たすことはなかった。
おっさんが梱包を解き、高級紙で織られた箱を開ける。
顔を出したバターサンドは――溶けていた。

「なん……だと……!?」

黄色く色づいたクリームの成れの果てが銀紙に流れ出し、脂に塗れたクッキーとレーズンだけが残っている。
童女はそれを見てさんざか土産の提供者たる俺をDisる。
バカな。確かに保冷剤は入れていなかったが、買ってからまだ30分も経ってないんだぞ。
いくらなんでも早すぎる。それにこの溶け方、外気温でじっくりどろどろになったという風ではない。
『加熱された溶け方』――俺もトーストにバターを塗って焼き直したりするからよくわかる。
バターが透き通るほどの熱は、断熱構造のこの箱の中には発生し得ないものである。
何が起こった――?

その時、太ももに違和感。
ちくりと微かな痛みに見下ろせば、神永ちゃんの髪がうねうねと俺の膝に伸びていた。
やだ……この娘大胆!人が見てるのに……!小学生とか見てるのに……!

とかなんとかやってるうちに髪が俺の太ももの上で形を作り始めた。
ちょうど一筆書きのように、生み出されたのは――文字。

『いまこのガキ、のうりょくをつかった。ちゅうい』

な――に――?

俺は即座にバターサンドの箱を引っ手繰り、その重量を確かめる。
持ってきた時より重くなったという印象はない。
童女のBOOKS能力は、覚えている限りでは物体の転送能力だったはずだ。
この俺のガスマスクにアンパンを転送したあの時のように。

今回も、何かしらの熱源――例えば出来たて熱々のパンとか――を箱の中に転移させたものと思っていた。
だが、箱の中にはバターサンドの亡骸以外に何もない。
童女はこの箱には触れてすらいない。
転移能力で熱源を投入したとして、それを回収した素振りが一切ない。
箱から外部へ転送し直したか――否、おそらくだが彼女のBOOKSは一方通行の転送限定能力だ。
別の場所から手元へ転移させる引き寄せ能力があるのなら、
前回の攻防で俺達がああも綺麗に勝利を収めることはなかったはず。

一体、何をした?
どうすればこんな現象を起こせる?
もしかすると、バターを溶かしたのは童女ではなく、対面ソファの真ん中に座る優男かもしれない。
俺はこいつがどういうBOOKSの使い手なのか、まるで知らない。
そして、確証がない以上、『お前が溶かしとるんだがや!』というような指摘ができないのも自明。

148 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/05/02(金) 23:44:47.85 0
「く……俺としたことがとんだ不注意だ。すまなかったな」

俺は『溶けたバターサンドを土産に持参した間抜けな客』としてこの場を引き取るしかないのだった。
一杯食わせるつもりが、逆に一本とられてしまった。
覚えていろよ……この借りは必ず、一生かかってでもお返ししてやる。

――以上、回想終わり。
時間軸は俺が「鳥島さんの奸計に痺れな」みたいなこと言った時点から再開する。
俺がドヤ顔(ガスマスクだけど)で宣誓し、神永ちゃんが武闘派っぽく牽制したところだ。

そう広くない応接間を、複数の人影と、緊迫の沈黙が埋める。
雰囲気はまさに一触即発、何か脱出行動をとれば、即座に神永ちゃんの能力が飛ぶだろう。
このままじりじりと時間を稼ぎ続ければ俺達の勝ちだ。
奴らは一歩もこの部屋から出さない――!

パチン、と弾けるような音に俺はびくりと肩を揺らす。
メイドさんの後ろに控えていた少女――メイドさんとよく似ている。妹かな?――が手を叩いていた。
妹ちゃんはどうやら蚊を発見し、その殺傷を図ったらしい。
この部屋に入った時、室内に虫のいる気配はなかったが……まあ立て付けが悪けりゃ入り込んでくるか。

「網戸がガタついているんじゃあないか?子供が力加減せずに開け閉めすると、アルミのサッシはすぐ歪む。
 夏場は虫も多いし、早めに修繕することだな」

あいつら網戸の網目に卵産みつけたりするしな。
あそこに産まれると、いくらぴっちり網戸閉めてても内側で孵化しやがるから困る。
俺は夏が来る前に一度蚊取り線香で燻しておいたりするぜ。
と、妹ちゃんはポケットからマッチを取り、蚊取り線香に火をつけた。
燃え盛る線香にふっと息を吹いて火を安定させると、あのなんとも言えない夏の代名詞たる匂いが部屋に立ち込める。
あー、夏って感じするよなあ、この匂い嗅ぐと。

それからしばらく、まったりとした時間が流れた。
メイドさんが神永ちゃんと戯れ始め、神永ちゃんがアンパンを咀嚼する音が時計の音と交互に聞こえる。
クーラーから吹く涼風に靡いた窓際の風鈴が、ちりんと涼やかな音を立てた。
この穏やかさ、穏やかじゃないわね……これでガスマスクの内側がクソ暑くなけりゃ最高なんだが。
本当に、蒸し風呂状態なのだ。さっきから湯気で前が見えねェ……湯気?

おかしい。紅茶をガスマスクに隠してからもう十分は経っている。
いくら熱湯に近い温度の本格紅茶と云えど、十分経ってなお湯気が立つほどの温度を保てるはずがない。
それだけじゃない。湯気の量が増え、顔面にかかる熱が増している。
明らかに、先ほどよりも紅茶の温度が上昇していた。

まさか――何らかのBOOKS攻撃を受けている!?
バターサンドを溶かしたのと同じ能力か?
まずい、このまま紅茶を加熱され続ければ、いかに面の皮の厚い俺と言えども重篤な火傷を負うことになる!
能力を解除して、紅茶をガスマスクから排出せねば――

「――!?」

くらりと目眩がした。
思考にモヤがかかったかのように不鮮明になり、身体を心地よい浮遊感が包む。
これは……睡魔!この唐突な眠気、BOOKS攻撃か!?
『いばら姫』のような、対象を強制的に眠りにつかせる能力者がいるのか?
くそ、湯気で前が見えない、どこに誰がいるのかもわからない――湯気かこれ?
湯気ならばマスクの覗き窓、そのガラスが曇るはずだ。
だがマスク内に充満する気体は俺の視界を塞ぐが、ガラスに水滴として付着しない。
これは湯気ではない!まったく別の、白い色のついたガスだ!
そしてこの眠気、察するにこれは医療用の吸入麻酔……催眠ガス。

149 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/05/02(金) 23:45:39.28 0
これも童女の仕業だとすれば、マスク内に催眠ガスを転送されたのか、
あるいは、紅茶の加熱と同じ新手のBOOKS使いだとすれば、紅茶を変質させ麻酔液とし気化させたか。
いずれにせよ、俺のガスマスクの構造を逆手にとって、ピンポイントでガスを投入してくるとは……

「おのれ、見事なり――!」

俺は仰け反り、そのままソファへと仰向けに沈んだ。
能力が解除され、ガスマスクに溜まっていた紅茶が脇から漏れてうなじを伝い、床へと流れ落ちる。
身体が安定を得たことで一気に睡眠導入が始まり、俺はゆっくりと意識を手放した。

そしてすぐに覚醒した。
睡眠ガスがあらかた排出され、新鮮な空気を得たことで脳みそが活力を取り戻したのだ。
無論、完全に眠ってしまえばいくらガスを取り除いてもすぐに起きることは不可能。
即座の覚醒を可能にしたのは、俺のガスマスクの構造によるものだ。

ガスマスクは通常、吸気缶から合成酸素を吸い込む吸気口と、水などを飲むための給水口がある。
俺は紅茶を飲むために、給水口にストローをぶっ刺していた。
つまり、催眠ガスが充満したマスク内においても、新鮮な外気を俺は吸い続けることができたのである。
気化したガスが肺以外の粘膜から吸収される為、微量を摂取して一瞬だけ俺は眠ってしまった。
だが、すぐに回復できるレベルの吸入だ。正味問題はない。

俺は仰向けにソファに沈み、眠ってしまった振りをしながら、考える。
このタイミングで俺を眠らせてきたということは、なんらかの作戦を以てこいつらは神永ちゃんを完封しようとしている。
起点となったのはおそらく、妹ちゃんのあの蚊取り線香だ。
根拠はたったの一つ。

――普通、クーラー効かせている密室で蚊取り線香なんぞ炊かない。
煙くなるからな。
来客と紅茶を囲んでいる最中ならばなおのこと、彼女の行動は不自然極まる。
ならばその不自然を押し通す理由はひとつ――BOOKS能力の布石だ。

『火』か……あるいは『煙』を媒介とするBOOKSを既に展開済みと考えて良い。
まず俺にピンポイントでガスを食らわせてきたということは、少なくとも蚊取り線香は無差別攻撃系の能力ではあるまい。
神永ちゃんのみを無効化する能力か……あるいは、誰かの何らかの行動を隠蔽する能力。
この状況を打破する為の一撃必殺な能力を準備している可能性も浮上する。

ならば俺のとる行動はひとつ。
やつらがシコシコ裏で取り組んでいる準備を、完膚なきまでに叩き潰す。
俺は指先だけで神永ちゃんにサインを出す。
付き合いの短い俺達はサインで複雑な指示を交わすことはできないが、単純な取り決めだけしておけば良い。
神永ちゃんの能力は、それで問題ないほどの汎用性を秘めている。

指示したサインの内容は――『俺の動きを髪で補佐せよ』。
彼女が針鼠戦で見せた、髪を四肢にまとわせることでの動きの強化。
それを俺にも使ってもらう。発動は一瞬で良い。

「どっっっっせい!!!」

俺は――強化された右足で、思い切り応接間のテーブルを蹴りあげた。
分厚い樫の木でつくられたテーブルは、しかし思ったほどの抵抗なく床と垂直に立ち上がった。
テーブル越しの対面に座っていた三人――橘川店長と、優男と、童女の姿が立ち上がった机に隠れる。

「もひとぉぉぉぉつ!!」

俺はそのまま、立ち上がった机の天板めがけて体当たりした。
90°傾いていたテーブルが、ダメ押しの一撃で完全にひっくり返った。
――逃げ遅れた真ん中の優男を巻き込みながら。

150 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/05/02(金) 23:46:09.81 0
「『ゴールデン・フィンガー』!!」

唱えると、足元に転がっていた鞄が勢い良く開き、黄金のガチョウが飛び上がった。

『イェアアアアアア!さっきは鞄ン中に閉じ込めやがっテ!狭いし暑いしムニエルになるかとオモッタゼ!』

ガチョウが愚痴ると同時、俺が体当りした応接机が金色に輝く。
上に乗っていたアンパンや紅茶のカップ、その中身までがこぼれ落ちるのをやめ、天板にピタリとくっついた。
ソファと机に挟まれた優男もまた、金色に包まれて動きをとめる。
正確には、机に張り付いて離れなくなる。

「一触即発はやめだ、神永ちゃん。こいつらに裏工作の時間を与えるな――ここで全員組み伏せるぞ!」

俺はひっくり返った応接机に足をかけながら懐に手を入れ、内ポケットにねじ込んでいたものを取り出す。
それは、黒光りする拳銃――イタリア製の人気銃ことベレッタである。
無論、本物ではない。

「Amazonって本当に便利だよなぁ……隔離都市にだってちゃあんと届けてくれるんだからよ!!」

俺が通販で買った、おもちゃの拳銃――ガス圧でBB弾を打ち出すガスガンだ。
既に弾もガスも充填済み。スライドを引いて引き金を絞れば、法令を順守した威力の弾が発射される。

「戦闘系の能力者でなくたって、バトルができないってわけじゃあないんだぜぇぇぇ!!」

俺はその銃口を、寝ている間に変身していた橘川さんに向けた。
法定範囲内と言えども、ガスガンの威力は至近距離ならばアルミ缶を撃ち抜きダンボールを貫通するほどだ。
素肌に直撃すればミミズ腫れは必須だし……なによりものすごく痛い。めちゃくちゃ痛い。実証済みだ。
そして橘川店長――変身した姿である美少女は、やたら露出度の高いレオタード姿。
どこ撃ったって泣くほど痛いことになるのは間違いない。

無論、撃って泣かせることが本当の狙いではない。
美少女の能力は、先日の攻防で体験するに物体を飛翔させ射出する念動力。
そしてこれも自分の能力で実証済みだが、物体に作用させるタイプの能力は対象物へ意識を集中させる必要がある。
美少女が何かを飛ばそうとする度に、適当な露出箇所をガスガンで撃つ。
鋭い痛みは、集中力を寸断させるのには十分だ。
これが俺の考えてきた秘策の一つ、美少女封じの戦術。

「エアガンとかガスガンは人に向けて撃っちゃいけませんって、みんな言うよなぁー。
 俺もそう思うぜ、眼とかに当たったら本当に危ないからな。子供は真似しちゃ駄目だぜマジで。
 ――でも俺は大人だから良いのだ!美少女、貴様へ銃口を向けることにこの鳥島、一切の遠慮なし!!」

俺は引き金を引く。
小気味いい反動を伴ってスライドがブローバック。次の弾が自動で装填される。
美少女の念動力ならばこの弾を跳ね返されるかもしれないが、そこはそれ、俺のこの格好だ。
上下をスーツで覆っている上に、顔面には分厚いゴム製のガスマスクが乗っている。
まさしく、俺だけが一方的に攻撃できる妙案であった。

「神永ちゃん!この美少女と優男は俺が抑えこむ!君は童女とメイドさん、その妹を制圧しろ!」

151 :名無しになりきれ:2014/05/11(日) 00:40:36.26 0
test

152 :名無しになりきれ:2014/05/11(日) 00:41:37.93 0
≫146
できれば避難所作成お願い致します…!

153 :店長 ◆P178lRPwh2 :2014/05/12(月) 00:11:24.05 0
>>152
では一応
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20240/1399820987/l50

154 :佐川琴里 ◆i/JKvwsplw :2014/05/19(月) 02:17:38.96 0
>「どうしましょう……一気にピンチですわね」

その言葉とは裏腹に、硝子はおっとりと微笑みさえ浮かべていた。

「ななななんでそんな落ち着いてるの硝子お姉さままじでやばいよ、どうしようやばい危険が危ない!!」

これ以上無いほどテンパってる琴里に、やはり硝子は微笑みを返し、賢人のごとく顎に手を当て思案している。
さすが公式美少女、夕暮れの日差しが窓から微かに溢れ、物憂げで知的なポーズは一際サマになっていた……
はずなのだが、あれ?なんか違和感が……
(……にんにん?)
顎に手を当てていると思いきや、硝子は人差し指を天井に突き立てて珍妙な表情で首を竦めたり左右に振ったりしていた。
(なにやってんのーーー!!?)
にんにん、にににん、にーんにーん。これを2セット。
(――はっ)
まさかあのポーズは。あまりにもあまりな奇行に右半身が砂になりかけた所で、琴里の左脳が活性化した。
(ノウリョク ツカエ タイショウ ハ カリン……?)

そうだった。彼女の奇行には何かしら常に裏の"意図"があるのだ。

(I got it !)

人差し指と親指をくっつけバッチグーのジェスチャーだ。しかし露骨過ぎたことに気づき、
第三者に勘ぐられないよう、急いで逆側の表へ広げて手をつきだした。見た目だけなら小学生が大仏の真似してるみたいになった。
 そこから始まるは、戦うメイドの独壇場であった。もういっそ、何かのミュージカル舞台なんかじゃないのか。
蚊を追ってパチパチと手を叩いたかと思えば、小鳥が囀るように神永を口説いたり、華麗で騒々しいステップを踏んでいる。

>「……これではゆっくりお茶もできやしないな。そうだ、折角だから自己紹介がてら見せておこうかな。
私の能力については鳥島君からもう聞いたか? 空飛ぶ美少女に変身するという実にくだらない能力だ」

店長もステージに鮮やかな花を添えた。久しぶりに見る二人の美の共演である。
空中にチラチラと金粉が舞い、妖精の七色に照り輝く羽が生む得も言わぬ視覚的エフェクト。
そして地上では、なにやらまた百合の花が咲き誇っているし。

>「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! 何発情してるの……! 神永さんは初対面なんだから、びっくりさせちゃダメでしょう……!」

パッ、次にスポットライトが当たるのは灰田妹。準主役級である。火燐はごく自然な所作で例の合図を琴里に示す。

(……ふ、この運び屋お琴サマにドンとまかせい)
琴里はこのミュージカルの裏方なのだ。その心得は『最小の動きで最大の効果を』

「いやああ、不潔!硝子姉ちゃん不潔よぉっ!オンナノコとあれば見境ないだなんて、淑女の風上にも置けないヒトよっ」

もう目も当てられぬと顔を真っ赤にし、琴里は『硝子×神永の図』を、大きなカーテンを広げて遮った。
こちら側は元より、あちら側からも何が起きているかの分からなくする為である。
そして絵本の能力が発動する。あれ?じゃあ光が向こう側に透けるのでは?……心配ご無用、実はこのカーテン、遮光布なのである。
年少園児達のお昼寝時のマストアイテムが、ここに来ても園児たる琴里に助太刀いたしている。
翻るカーテンが作り出す3秒間。火燐が幻影を作り出し、琴里がそれを運ぶ。

>「ごめんなさい火燐。それと、失礼いたしましたわ、神永お嬢様。私、きれいな女の子を見るとどうしても歯止めが効かなくなってしまいまして……」

しゃらり。風を失ってヒダは行儀よく元の位置へと折りたたまれていく。
こちらが仕掛けた第一幕は、とりあえずの所終了。

155 :佐川琴里 ◆i/JKvwsplw :2014/05/19(月) 02:18:29.36 0
幕間。それは休憩を表す言葉 ――。
しかし、トリニティの二人は演者を舞台袖へ返すことはなかった。

>「どっっっっせい!!!」

唐突に、今まで気配を殺していた鳥島が奇声を上げた。彼は続けざま、3人の前にデンと横たわるテーブルを蹴り上げる。
気でも狂ったか、そう野次ろうと口を開けかけた所で、

>「もひとぉぉぉぉつ!!」

第二撃が琴里達を襲う。木製のテーブルが大津波のように眼前へと迫り来た!
逃げ足の早い琴里は「きえええっ」と奇声を返して飛び退り、美少女戦士もなんなく奇襲をクリア…しかし!

「ふ、二人ともちょ、待っ…もげぶ!!」
「安半兄さんっ」

おっとり系の少年はお約束のよう出遅れる。安半は蛙の潰された声をリアルに再現しながらテーブルの下敷きになった。
琴里の脳が警鐘を鳴らす。やばい、このままだと……!

>「『ゴールデン・フィンガー』!!」
「ちょっ?え?なんですこれ、あは、なんかのドッキリですよね?誰ですかテーブルの裏に瞬間接着剤なんか塗ったの!」
「ちっがぁあう!あんた今めっちゃ金色に光ってるっ それからあの喋る鳥!」

二人は同時に叫ぶ。

「「『黄金のガチョウ』!?」」
>「一触即発はやめだ、神永ちゃん。こいつらに裏工作の時間を与えるな――ここで全員組み伏せるぞ!」

戦いの火蓋がきって降ろされた。ここで何より驚いたのは、鳥島が拳銃を持っていたということ。
徒競走で使用されるお遊びの空砲音ですら、琴里には怖い。大きな音がとてつもなく怖い。
銃口が向けられている訳ではない、と琴里は恐怖を振り払う。自分がすべきことをしなければ。
(そうだ、さっき店長が、いざとなったら火災報知機を転送しろって……でもダメだ)
琴里の能力には制約が、所有者の了承を得るという大きな枷がある。
この火災報知機が誰のものと言えるだろう。園長か?それとも先生なのか?はたまた援助してくれた政府なのか?
いずれにせよ彼らはこの場に存在しない。
(じゃあ、前みたいに鳥島のガスマスクへアンパンを転送させて動きを封じれば…!)
ダメだ、条件が違う。彼は今めったくたに暴れまくってる。焦点が定まらない、転送は困難だ。転移先が数cmでも狂えば……。

「……っ」

じっとり、嫌な汗が背中を伝う。どうしよう、どうしよう、先生を呼ぼうか、いや園長先生に電話をかければすぐに助けが――

「琴里ちゃん……っ」

先ほどのなよなよ頼りない口調とは打って変わって、腹の底に響く、しっかりした青年の声だ。
自分よりも狼狽えている者がいると途端に冷静になるタイプ、なのか。年下のワルガキに心配されて泣かれるというのは、やはりシャクに触るのだろう。
キリッとした表情で(しかしソファとテーブルにサンドイッチされている)安半は続けた。

「パニック起こしてる場合じゃないんだ、落ち着いて」彼は琴里以上に、自分へそれを言い含めいている。
「……うん」
「よし。じゃ、いいかい?助けようと思っても、絶対僕に触っちゃダメだ。それこそ鳥島の思う壺なんだから、君までくっついちゃう。
ベルチャンの金粉で飛べるか試したけど、ダメだった。ソファと床は既にがっちり補強済みだ」
「じゃあ一体全体どうしたら」「この場でずっとくっついてる」「はいぃ!?」

156 :佐川琴里 ◆i/JKvwsplw :2014/05/19(月) 02:18:55.00 0
突拍子もない答えに琴里は思わず聞き返した。

「動けなくたって、できることはいくらでもあるってことさ」
>「エアガンとかガスガンは人に向けて撃っちゃいけませんって、みんな言うよなぁー。
 俺もそう思うぜ、眼とかに当たったら本当に危ないからな。子供は真似しちゃ駄目だぜマジで」

鳥島の注意は完全に空中のベルへと向けられている。ついでに銃口もだ。
安半はキッと彼を睨んだ。

「僕と君の力であの物騒な反則持ち込み物をぶっ壊してやろう。何、とってもカンタンなことさ」

そう不敵に笑って、青年はポキポキと両手を鳴らす。両手を――そうか。
スイッチ、オン。敬語口調の優男は今から数時間、別人格へと変貌する。
――両手の自由。それは安半万にとって、何者にもパン作りの邪魔をさせないことを意味する。――

「来いよ兄弟!」「特大ぶちかましてやるぜっ!」

綺麗なフォームが決まった。ぽんっと空中に浮き出るアンパンは少年の拳に触れてはいない。つまり、琴里が触っても彼とはくっつかない。

「その一発だ。一発だけで決めてくれ」

歴戦をくぐり抜け前線を退いた老教官と、彼によく訓練されたスナイパーが初の実戦を経験している。
ベルを狙った瞬間だけ、鳥島は必ず上半身と銃身を固定しなければならない。照準が合うのはその時だ。
片目を瞑り、開いた瞳に照準の丸十字をイメージする。右手には引き金ではなくアンパンを、背中に光るのは琴里の絵本。

>「――でも俺は大人だから良いのだ!美少女、貴様へ銃口を向けることにこの鳥島、一切の遠慮なし!!」

鳥島は引き金をひいた。

――パン!

その発砲音は、どことなく湿っていた。
銃口からくゆっているのは硝煙ではなく、ホカホカあんぱんの湯気。琴里はつぶやく。

「MISSION complete.」

何が起こったのか、スローモーションで解説していきたい。
鳥島が引き金を引く直前、琴里は間髪入れずにアンパンを運んだ。
コマ回し再生でも追いつかない程の速度で、アンパンが銃身をすっぽり包み込む、と同時に弾丸が銃口から射出される。
初速度を大幅に削がれるも、それは健気に空を切り、前進する。しかし、身に纏うはもったりしたあんこだ。
空気抵抗と重力に耐え切れず、弾丸はただの熱い鉄の固まりに成り下がった。

「これで一応のところはベルちゃんに危害は及ばないっと」

ここで琴里の悪い癖が出た。
(あ、ガスマスクと目あっちゃった。あっかんべーしたる)
すぐ調子に乗る悪い癖が。だから気付かなかった。
長い長い髪の毛が、琴里達の後ろに忍び寄ってくることに。

157 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2014/05/26(月) 22:33:31.64 0
細く繊細な髪を鋼の強度に。そしてそれを伸縮自在に操るのが、あたしの能力である。
メインとして扱われるのは伸縮自在のほうだが、本当に便利なのは鋼の強度のほうなのだ。
0.08mmの鋼、それは銃弾をも防ぎ、恐るべき切れ味を持つ凶器となりうるのだから。
ちなみに以前試してみた事があるのだが、髪による捕縛は一度に10人程まで対応可能だ。
両の足首と手首を固定すれば、大抵の人間は身動きが取れなくなる。
全身を簀巻きにする必要などないのだから、楽なものであるのだ。

さて、一触即発と思われた空気の中、あたしは灰田硝子と名乗るメイド女にまとわりつかれていた。

>「良い食べっぷりですわね、神永お嬢様……。
>でも、ダメですわよ? ほら、お口の周りに餡がついていますわ……」

そう言って口の周りを拭われる。子ども扱いでもされているのだろうか?
というか近い近い!顔が近過ぎて、思わず目を逸らしてしまう。

>「うふふふ……。それにしても神永お嬢様、本当にきれいな髪をしてますわね……」

言葉も出ないあたし。完全に彼女に呑まれてしまっていた。
そのせいで、あたしは今起こっている不可解な事象を見逃す事となる。
転送された火憐、謎の攻撃を受けるガスマスク。それらに気付く事が出来ない。
正直な話、私は同世代の女の子と話すのが苦手なのだ。
学校にはあまり馴染まなかったし、ましてやこんな近距離は論外である。

>「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! 何発情してるの……! 神永さんは初対面なんだから、びっくりさせちゃダメでしょう……!」

>「ごめんなさい火燐。それと、失礼いたしましたわ、神永お嬢様。私、きれいな女の子を見るとどうしても歯止めが効かなくなってしまいまして……」

「……次からは普通に頼む。あたしはそういうの苦手なんだ」

謝罪する彼女になんとなく頭を下げてしまう。
そのとき、どうしても拭えない違和感を感じた。先程までと何かが違う。
頭数は揃っている。だが何かが減ったような……よく分からない。
とりあえず顔を上げると、ちょうど橘川という男が変身する瞬間だった。
中年男が見事な美少女に……驚きを隠せないあたしを尻目に、彼?は金の粉を振りまきながら悠然と飛び回る。
まったく、これだから能力者は面白いのだ。

158 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2014/05/26(月) 22:34:42.85 0
そのときだった。なぜかソファーに深くうなだれていたガスマスクが突然立ち上がると、あたしに合図を出したのだ。
合図の意味は『俺の動きを髪で補佐せよ』。とっさに判断し、床伝いに髪を纏わせた。
体にフィットするように巻き付いたそれは、発条のごとく力を倍増させてくれる。
その力を用いたガスマスクは、驚くほどの力で目の前のテーブルを宙に弾く。
そしてさらに一撃。逃げ遅れた少年をテーブルで押し潰し、ゴールデンフィンガーで固定した。
他人にこの技を使ったのは初めてだったが、どうにかうまく発動出来たようだ。
私の能力も、他人と掛け合わせることで更に発展する可能性を秘めているのかも知れない。

さて、ガスマスクはテーブルで押し潰し一人を無力化。さらにモデルガンでおっさん改め妖精をけん制する。

>「神永ちゃん!この美少女と優男は俺が抑えこむ!君は童女とメイドさん、その妹を制圧しろ!」

「承知!覚悟しな」

その通り、残りは女ばかりが三人。戦闘系の能力者には見えないし、あたし一人で対処が可能だろう。
蛇のようにしなやかに、鋼のように強靭に、あたしの伸ばした髪は蠢く。
あたしの髪は、そっち系の能力者くらいしか断ち切ることが出来ない鋼の髪だ。一度捕まったらおしまいである。
まずは一人目。そう呟いて、私は目の前にいた琴里という少女を狙う。
カーペットを隠れ蓑に足元まで伸びていた髪は、恐るべき速度で琴里の手首と足首を縛った。
せっかくなのでそのまま逆さに吊り上げる。これで身動きはとれるまい。
次は……メイド妹を狙うか。なんだかボーっとしているようだし、丁度良いだろう。
今更隠してもしょうがないので、今度は最短距離で髪を飛ばし襲い掛かる。
大した抵抗もなく捕まえる。ちょっと拍子抜けである。こいつは何を考えているのだろう?

「よし、二人確保。残るはメイド、あんただけだぜ? おっと、その前に……っと」

そう言うと、あたしは髪の一部を編み込んで蜘蛛の巣を形作る。
それを扉に引っ掛けて出来上がり。扉を封印したのだ。
これで様子を怪しんだ援軍が訪れる事もない。安心して連中を捕獲出来ると言うものだ。
しかし逆さに吊るしたのにまだ暴れる琴里が非常に鬱陶しい。元気な餓鬼である。

「ちいっと五月蝿いぞ餓鬼。もう少し吊るしてやろうか、うりうり」

そう言って琴里を前後に揺さぶるあたし。このまま目でも回してくれたら助かるのだが。
そんなものは放っておいて、今は目の前に集中する必要があった。
メイドの立ち振る舞いは他と違って警戒すべき相手に思える。
何らかの反撃があると考える必要がありそうだ。
しかし、退路は断った。逃げ場がないのだから捕まえるのは難しくないはずである。
慎重に、しかし確実に、あたしはメイドを追い詰めようとしていた。

159 :ティンカー・ベル ◆P178lRPwh2 :2014/06/10(火) 21:44:19.83 0
>「どっっっっせい!!!」

怪人ガスマスクこと鳥島のちゃぶ台返しが一触即発の会議の終了と戦闘の開始を告げた。
こちらが虎視眈々と裏工作を進めていたのを気付かれてしまったようだ。
何やら物騒な物をこちらに向ける。

>「エアガンとかガスガンは人に向けて撃っちゃいけませんって、みんな言うよなぁー。
 俺もそう思うぜ、眼とかに当たったら本当に危ないからな。子供は真似しちゃ駄目だぜマジで。
 ――でも俺は大人だから良いのだ!美少女、貴様へ銃口を向けることにこの鳥島、一切の遠慮なし!!」

メタボのおっさんなら分厚い腹肉にエアガンが当たっても大した事はないのだが今はレオタード姿の妖精。
しかし変身した時の方が防御力が下がるというのも変な話である。
そこは科学では説明不可能なBOOKS能力、絵面だけ挿げ変わっていてその他ステータスは据え置きという可能性もあるが
(比較実験を行った事はないので正確なところは自分でもよく分からない)
とにかく気分的に痛いのは確かだ。
いや、痛いからといって泣いている場合ではない。
本当にエアガンとかガスガンなら当たっても少なくとも命に拘るほどでは無いのだ。
そしてエアガンやガスガンを本物の銃と偽って脅すならともかく、本物の銃をわざわざエアガンやガスガンと偽る必然性は薄い。
鳥島の目的は飽くまでも自分達の計画の遂行であって、私達の殺害ではないからだ。
私はエアガンの一撃を受ける事を覚悟しつつ何か使えるものはないかと部屋の中を見回す。
粉がかかったものならたとえ痛みに転げまわりながらでも飛ばす事は可能だ。

>「神永ちゃん!この美少女と優男は俺が抑えこむ!君は童女とメイドさん、その妹を制圧しろ!」

今まさに私を狙っている鳥島の指示が飛ぶ。
あの髪の長い少女はおそらくかなりの手練れ。琴里ちゃんと硝子嬢が危ない……!

>――パン!

銃声が響くが、どこか間抜けな音。来るべき痛みは無い。馴染のある湯気を見て私は理解した。
――文字通りパンだった。またあの黄金コンビがやってくれた。
琴里ちゃんと安半君は自分の身の危険よりも私を守る事を優先したのだ。
その結果であろう、琴里ちゃんはその時にはすでに捕えられていた。

160 :ティンカー・ベル ◆P178lRPwh2 :2014/06/10(火) 23:08:03.47 0
>「よし、二人確保。残るはメイド、あんただけだぜ? おっと、その前に……っと」
>「ちいっと五月蝿いぞ餓鬼。もう少し吊るしてやろうか、うりうり」

神永は琴里ちゃんを弄びつつ次は硝子嬢を捕まえようかというところ、今の所私の方はノーマーク。
鳥島の方は”消えた銃弾”に戸惑っている。
この一瞬は琴里ちゃん達が身を挺して作り出してくれたチャンス、無駄にするわけにはいかない。
目についたのは、園児が遊び散らかしたまま床に転がっているガムテープ。
二人同時に後ろから近付け、目隠しになるようにぐるぐる巻きに巻きつける。
無論すぐに剥がされてしまうだろうが、ほんの少しの間だけ時間稼ぎができればいいのだ。
そして部屋の隅にある重たい置物を飛ばし、窓にぶつけて叩き割る。
(園長先生には申し訳ないが、後で弁償して緊急避難的措置という事で許してもらう事とする)
そして窓の外で待機している火燐嬢に聞こえるような声で宣言する。

「やれやれ、一時はどうなる事かと思ったが……
お前達が捕まえているのはぬいぐるみ。私の仲間達はすでに童災局局長の救出に向かっている!
止めたければ追って来い!」

嘘だが、全て嘘というわけではない。捕まっている火燐嬢は幻影だ。
この作戦に踏み切った決め手は、神永が火燐嬢の幻影を捕まえて彼女を捕まえたつもりになっているという事。
火燐嬢の幻影能力は感触までも作り出すと聞いていたが、ここまで見事だとは。
程なくして琴里ちゃん、硝子嬢、安半君、そして火燐嬢の幻影の姿が大き目のぬいぐるみの姿に置き換わる。
頭のいい火燐嬢は私の意図を察してくれたようだ。
私は敵が目潰しから復帰する絶妙のタイミングを見計らい、窓から外に飛び立ってみせる。
追って来てくれと願いながら。

161 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/06/23(月) 22:44:10.15 0
>「おのれ、見事なり――!」
作戦は成功し、ガスマスク男は眠りについた。
……しかし、彼のガスマスクにはストローが刺さったままだった。おそらく効果は薄いだろう。
でも、一瞬だけでも意識を奪えれば十分ですわ。一瞬でも気を逸らせれば、火燐を幻影と入れ替えられるのだから。


>「いやああ、不潔!硝子姉ちゃん不潔よぉっ!オンナノコとあれば見境ないだなんて、淑女の風上にも置けないヒトよっ」
琴里ちゃんが演技を交え、カーテンの裏に隠れこむ。
遮光カーテンを利用したBOOKS発動エフェクトを隠ぺいする――さりげない行動ですわ

私が見つめると、神永さんは目を逸らした――可愛らしいですわ
強気そうな女の子が、弱弱しい姿を見せるというのは良いものですわ。これをギャップ萌えといいます

>「……次からは普通に頼む。あたしはそういうの苦手なんだ」
「うふふっ……わかりましたわ。私もお見苦しいところをお見せして申し訳ありませんわ。今度どこかにランチにでも行きませんこと?」

>「どっっっっせい!!!」
>「もひとぉぉぉぉつ!!」
>「ふ、二人ともちょ、待っ…もげぶ!!」
と、やはり睡眠薬の効きが悪かったようで……鳥島さんが起き上がり、机を蹴り上げ体当たりでひっくり返した。その下敷きになる安半さん
>「『ゴールデン・フィンガー』!!」
>『イェアアアアアア!さっきは鞄ン中に閉じ込めやがっテ!狭いし暑いしムニエルになるかとオモッタゼ!』
黄金色に輝く鳥がカバンから飛び出す。アヒル? いえ、醜いアヒルの子は金色なんかじゃあない。これはやはり私の予想通り……
>「「『黄金のガチョウ』!?」」
>「金のガチョウ……!」
琴里ちゃんと安半君も同じ結論にたどり着いたらしい。『金』と『黄金』はただの表記揺れですわ。

>「一触即発はやめだ、神永ちゃん。こいつらに裏工作の時間を与えるな――ここで全員組み伏せるぞ!」
うふふ、なめられたものですわ。私たちは補助系の能力者。裏工作の時間なんて、3秒もあれば十分ですわ

>「Amazonって本当に便利だよなぁ……隔離都市にだってちゃあんと届けてくれるんだからよ!!」
>――でも俺は大人だから良いのだ!美少女、貴様へ銃口を向けることにこの鳥島、一切の遠慮なし!!」
鳥島さんが店長を狙い引き金を引く。さて、どうしましょう。自分に向かってくる弾丸ならば、狙いやすいので変化能力で無効化できる。
しかし、他人に向かって飛ぶ弾――横から見る弾を狙うのは骨が折れますわ!

>――パン!
という音とともに、鳥島さんの持つ銃の口からは硝煙が立ち上る――って、いやいや。
ありえないでしょうだって……『ガスガン』、ですわよ? さすがに実銃がamazonで買えるはずないですわ。じゃあこの煙は……?
>「MISSION complete.」
と、琴里ちゃんが呟いているのが聞こえた。そうか、そういうことだったんですのね!
この煙――否、湯気の正体は『あんぱん』! 琴里ちゃんは『幸福の王子』の能力で『アンパン』を『銃口』に転送した!
うふふふふ、流石私の琴里ちゃん。やりますわねぇ! こいつは私も負けていられませんわよ――

>「神永ちゃん!この美少女と優男は俺が抑えこむ!君は童女とメイドさん、その妹を制圧しろ!」
>「承知!覚悟しな」
神永ちゃんが髪を伸ばし、琴里ちゃんと火燐ちゃんを捕え、縛る
「くっ……は、離してください! こんなことして只で済むと思ってるんですか!? 高くつきますよ!」
と、火燐ちゃん(の幻影)が暴れまわる。
――幻影なのに暴れまわるっておかしくない? という人のために少々解説しますわ。
火燐ちゃんの幻影は、視覚のみならず聴覚嗅覚味覚触覚――五感を全て騙しますわ。つまり、相手の脳や精神、神経なんかに少なからず干渉しているということ。
『暴れまわっている』という幻影が相手の触覚に――脳に、無意識に働きかけることで、『そうなっているように自分の体を動かしてしまう』。
つまり現実としては、火燐ちゃんがもがいているかのように、神永さんが自分の髪を動かしていることになる。
これが灰田火燐、『マッチ売りの少女』の真骨頂。誤魔化しならばだれにも負けない――ただし、流石に第六感までは騙せないらしいですけれど……
神永ちゃんは勘がよさそうですからねえ……。しかし、まぁここまでくればばれてもばれなくても変わらないでしょう

162 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/06/23(月) 22:48:22.33 0
>「よし、二人確保。残るはメイド、あんただけだぜ? おっと、その前に……っと」
と言って、神永さんは髪を操り扉をロックする。
「『ラプンツェル』……髪を操る能力ですか。やっぱり特殊能力というのは単純だからこそ応用が利き、つまり強いって感じですわねぇ」
私のも『何かを別のものに変える』、という単純なものだから、応用性の高さはぴか一だと自負していますわ。
……さて、私は口角を上げながら「」の言葉を言っている。つまり相手から見れば不敵な笑み――この状況でも余裕の笑みを崩さない何か企んでる少女に見えるだろうが、全くそんなことはない。
琴里ちゃんも火燐ちゃんも捕まった。扉も封じられて逃げ場もない。安半さんも身動きできない――
何このピンチ! 何この逆境! ああ、もう、本当に―――

―――興奮(わくわく)しますわぁ……
………と、思ったがこんなのまだまだ全然足りない。全然どん底(ぜっちょう)じゃないし。まぁでも、髪の毛を使った触手プレイは魅力的かな?
>「ちいっと五月蝿いぞ餓鬼。もう少し吊るしてやろうか、うりうり」
神永ちゃんは琴里ちゃんを弄っているが、隙を見せることはない。寧ろ私を警戒している――あんなこと下からでしょうか?
まったくもう。照れなくたっていいのに。
「………琴里ちゃんと火燐ちゃんを」
私は笑みを絶やさないまま、口を開く。
「琴里ちゃんと火燐ちゃんを捕まえたくらいで、随分とまぁ余裕ですわねぇ神永様? そちらのガスマスクの――鳥島様から聞かなかったんですの?」
私は続ける。
「琴里ちゃんの能力は『物質転送(テレポート)』。それが固体ならなんだって転送できる。当然、人間だって固体ですわ――」
「つまり、琴里ちゃんに対して捕縛とか束縛とか全く意味をなさない。分かるでしょう?」
まるっきり嘘じゃない。真実でもないが。真実を全て伝えずほんの少しの嘘を交える。それが人を騙すコツだと、火燐ちゃんが言っていましたわ。
「うふふ……でも、私の話だけに集中してるわけにもいかなさそうですわねぇ」
神永さんに向かってアンパンが飛来する。店長の金の粉を浴びたことによる、空中浮遊能力ですわ
…………しかし、当然ながら神永ちゃんは髪を鋭い鞭のように扱ってアンパンを弾き飛ばす。
琴里ちゃんや火燐ちゃんの捕縛も、ドアのロックも緩まなかったけれど――気を逸らすことはできた。アンパンに意識を集中させることはできた。
この隙に、店長がガムテープで鳥島様と神永ちゃんを縛りましたわ!
さて、ガムテームはすぐに剥がされてしまうでしょうけれど、その隙に私は能力を使う。
弾かれて飛び散り、蚊取り線香のそばに落ちた餡子。これを私は『花火』に変える。
さり気なく火燐に合図を送りつつ――蚊取り線香の火を『炎』に変える。
火燐が能力を発動。カチ、カチ、という幻聴が発生しますわ

>「やれやれ、一時はどうなる事かと思ったが……
お前達が捕まえているのはぬいぐるみ。私の仲間達はすでに童災局局長の救出に向かっている!
止めたければ追って来い!」
叫んで、店長は窓から飛び立つ。
(全く、無茶ぶりしますね……。マッチをかなり消費しちゃいますよ……っと)
火燐ちゃんがマッチをつけ、私たちがクマのぬいぐるみになったかのような幻影を作り出す。(元々の火燐ちゃんの幻影はタイミングを合わせて消しましたわ)
窓の外に待機している火燐ちゃん(炎からこちらの様子は把握できるので、先に行っていてもよかったが、有事のために待機している)は、自分の姿を隠す幻影で姿を晦ませている。
そして、このタイミングで私がさっき変えた花火に炎が引火。上方向に飛んでいき――火災報知機に肉薄しましたわ
先ほど店長は琴里ちゃんに『火災報知機に熱を転送してほしい』と合図を送っていましたが、どうやら間違って伝わってしまったよう。
なので、私が作戦を遂行することにしました。火災報知機と連動して、スプリンクラーから水が撒かれる。
――当然、ただ水を撒くだけでは終わりませんわ。私はスプリンクラーの水を『塩素水』――プールの洗体槽なんかに使われる、塩素を大量に含んだ水ですわ――に、変化させる。
塩素を多く含んだ水は髪を脱色し、ひいてはダメージを与える原因となります。
さて、あとは彼らが店長を追ってくれればいいのですけれど……

163 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/07/13(日) 12:42:12.31 0
「げらげらげら!当たれば二三日はミミズ腫れが残るぜ!接客に差支えがあるんじゃあないかぁ〜〜〜ッ!?」

俺はご丁寧にガスガンの威力を解説しながら、満を持して引き金を引く。
法律によって規定されているプラスチック弾の威力は1ジュール(J)未満。
1Jというのは100gの物体を1メートル垂直方向に持ち上げることのできる物理エネルギーだ。
ガスガンの弾は市販品で2.0gなので、真上に向けて撃てば50m上空まで弾が飛ぶ計算になる。

そのエネルギーを破壊に費やした場合、スチール缶は無理だがアルミ缶程度なら容易く貫通することになる。
いわんや、人体に向けて撃てばその効果はもっとはっきりと顕れる。
ガスガンでは皮膚を貫通することはできない。
だが、皮膚のすぐ下にある毛細血管を圧迫破壊し、痛覚に激烈な刺激を与えることができるのだ。
つまり、腫れるしめちゃくちゃ痛い。
俺も自分の肌で試してみたが、マジ泣きしながらのたうち回ることになったので効果は保証されている。

俺は美少女の、その眩しく露出した太ももを照準した。
激痛で思考力を奪い、ついでに痛々しい痣を残すことで他の連中にもリアルな痛みを想像させ、牽制する狙いだ。
セーフティの解除されるカチリという音を伴って、引き絞られた撃鉄が薬室を叩く――

パン!

破壊の意思が駆動し、目の前を赤黒いもので染め上げた。

「なに――!?」

飛び散った飛沫がマスクのレンズに付着する。
拭ってよく見てみると、それは炊きたてのしっとりとした小豆餡だった。
キメの細かいザラメを使っているらしく、暗褐色の中に星々の如く輝く白い粒が見え隠れしていて、
また糖分が良いバランスで乳化しており餡全体に張りのあるツヤと照りを添加している。
食べなくてもわかる。これは最高級の小豆餡――!
そしてそれがなぜ俺の手元で飛び散っているかといえば……ガスガンの銃口にパンの残骸が引っかかっている。
破裂したアンパンだった。

「アンパンンンンンンンンン!!また貴様か!!!!」

射撃の瞬間、銃口を覆うようにアンパンが出現!
しょせん2gのBB弾に100gはあるアンパンを破壊する威力はないが、銃口から出るのは弾だけじゃない。
弾を強く押し出す、ハイフロンガスの噴射!
それがアンパンの内部へ弾と共に強烈に注ぎ込まれ、行き場をなくした圧力がアンパンの破裂を引き起こした!

「く、だが弾は一発ではない!再度スライドを引けば新しい弾が装填されて――」

俺はガスガンのスライド(銃身の上半分、ガシャコンと引くアレ)を引き、弾を再装填……できない!

「馬鹿な、飛び散った餡が部品の中に入り込んで――ジャムっただと!?」

言わずもがな、銃というのは精密機械だ。その構造を模したモデルガンやガスガンも同様。
東京マルイが技術の粋を集めて製造したこのベレッタは、高精度な部品だからこそ正確に作動する。
故に、砂粒や埃、ましてや湿り気を帯びた大粒の餡など入り込もうものなら即刻作動不良を起こしてしまう。
飛散した餡は銃身の大部分に降りかかり、ガスガンのブローバック動作によって内部まで侵入していた。
もうこの銃は使えない。

そして銃撃を未然に防がれたこの一瞬、それが美少女に決定的なチャンスを作った。
弾が当たれば発動を阻止できたはずのBOOKS能力が発動し、光を纏ったガムテープが飛んできた。
顔にぶつかったと思った途端、べりべりと梱包音が聞こえて、そして目の前が真っ暗になった。

「なっ!目隠しか!」

164 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/07/13(日) 12:42:41.86 0
ガスマスクのレンズの部分にガムテープが巻かれて、何も見えなくなった。
すぐにはがしにかかるが、そうしている間に何かが起きているらしく、ガラスの割れる音が窓の方から聞こえてきた。
そして、美少女の勝ち誇ったような宣言が響く。
さらに、何故かスプリンクラーまで発動し、大量の水が降りかかってきてスーツがびしょ濡れになった。
やたら塩素臭い水だ。まるでプールに入ったあとみたいに漂白剤の匂いが応接間に満ちる。
俺は必死にガムテを剥がし、視界を回復させた頃には、時既に時間切れ。

美少女の言葉どおり、もはや応接室に人の影は残っちゃいなかった。
あしなが勢の全員――神永ちゃんが捕縛していた三人も含めて――ずぶ濡れのぬいぐるみに置き換わっていた。
奴らはこの応接間を脱出し、童災局長の誘拐を阻止すべくパレードへと急行しているのだ。

「クソッタレ、また一杯食わされたぜ……!」

俺は神永ちゃんのガムテも解いてやり(髪に張り付いていたので慎重に剥がさねばならなかった)、
アタッシュケースからハンドタオルを出して彼女に放ってやりながら状況の整理を行った。

「美少女の言ったことを全面的に信じるなら、やつらはもうこの部屋にはおらず、パレードの方に行っている。
 俺達は追われる側から一転、奴らの阻止を阻止するために追わねばならなくなるわけだ」

強襲班の二人があしなが勢にそうそうやられるとは思えないが、なにせ連中の半数は能力が未知だ。
美少女が、現場に唐空と針鼠がいるとわかって――彼らの戦闘能力を知りながら――阻止に向かったということは、
あしなが勢の能力者の中には、唐空や針鼠のような純戦闘系を無効化できるBOOKSを持つ者がいるということだろう。

もともと、俺達がこうしてあしなが園に出向いたのは、奴らの戦力を局所集中させないことが目的だ。
あしなが勢は、一人ひとりの実力こそ戦闘向きではないが、群れればどんな力を発揮するか未知数。
逆に言えば、分断さえしてしまえば一人ずつ仕留めるのは容易いと判断してここまで来たのだ。

「だが――奴らは本当に、この部屋から一人のこらず脱出できたのか?
 ときに神永ちゃんよ、君の実力を疑うわけではないが、間違いなく童女、メイドさん、妹ちゃんの三人を捕縛したよな?」

その一部始終は俺も銃をつきつけながら横目に見ていた。
神永ちゃんは、確かにBOOKS能力で三人の少女の手足を拘束していたはずだ。
純戦闘系である神永ちゃんに一切気取られずに、ぬいぐるみと入れ替わって脱出するなんてことができるか?

「目隠しをされたあの僅かな時間で、完全な拘束からバレないように抜け出し、細工をして窓から逃げる……。
 逃げるのは美少女の能力を使えば簡単だろうが、どうしても縄抜けのくだりが腑に落ちないな。
 そこで気になってくるのが、妹ちゃんが閉めきった室内で炊いていた蚊取り線香……あの不自然は、BOOKSの布石だよな」

例えば、童女のような転移系の能力で、指定した物体同士を入れ替えるなんてことができるのなら、
縄抜けも脱出も納得できる。
だがそんな能力があるのならもっと攻撃的な運用ができるはずだ。
俺たちを掃除用具入れの中の箒とでも入れ替えれば、簡単に捕縛ができるのだから。

俺は横倒しになった応接机に、張り付いたままの紅茶のカップとポッドを引き剥がし、
ぬるくなった紅茶を自分で注いで飲みながら考える。

「いちばん簡単に説明がつくのは『幻術系』だな。それこそ、はじめからここにいた連中は全部ぬいぐるみで、
 幻術によって人間だと思わせておいて神永ちゃんに拘束させ、幻術を解けばぬいぐるみに入れ替わったように見える。
 だがそれだと童女がBOOKSを使っていたことと矛盾するな。まさかバターサンドの件も幻術だったのか?」

考え出したらキリがない。
だが、考えなしに美少女の言葉を鵜呑みにしてここを出るのは早計すぎやしないか?
そして、奴らが本当にここを脱出したのなら、急いで追いかけないとまずいのも事実だ。
今からパレードへ向かえば、強襲班と俺達とで挟み撃ちにできる。

「……やむを得ん、パレードへ向かうぞ神永ちゃん。やつらのあとを追う。
 その前に、こいつを使ってぬいぐるみを全て拘束してからここを出る」

165 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/07/13(日) 12:43:31.74 0
俺は鞄から小袋を取り出した。
ケーブルやコード類をまとめるのに使う、プラ製の結束バンド。

「ぬいぐるみの手足を後ろに回して、手首と足首に一本づつ巻きつけるんだ。
 人力では外れないし、ハサミを使おうにも後ろ手で固定されてはやりづらかろう。
 俺達は最小限の時間を使うだけで済み、相手には最大の時間を使わせるナイスな拘束術だ」

ふつう、人間相手にこれをやる場合は親指同士を結束するんだけど、
ぬいぐるみに指という概念は存在しないみたいなのでしょうがない。
これで仮にぬいぐるみが本当は人間だったとしても、そう簡単には拘束を抜けられはしないはずだ。

「全て拘束できたな……さあ、パレードへ向かい、針鼠達と合流するぞ」

俺はアタッシュケースを抱えてあしなが園を出た。
駐車場に前向き駐車してあるプロボックスの、運転席には乗らず荷台のハッチを開く。

「車で行くのはやめておこう。パレードの周辺は大変な混雑が想定される。車で渋滞にハマったら終わりだ。
 それになにより――あしなが園と車にまつわるエピソードにはロクな思い出がない」

特にアンパン。
今回もアンパンに邪魔されたというか、毎回あしなが園と関わるとアンパンにまつわる災難に見舞われている気がする。
アンパン難の相でも出てるんじゃあねーだろうな……。

「今回はこいつをつかう」

プロボックスの荷台に寝かせて置いてあった物を、引きずり出すようにして地面に降ろした。
それは、新聞屋さんとか銀行員とかが乗ってくるアレ、国産業務用原動機付自転車二種――スーパーカブ110。
赤く塗装されたボディ、世界のホンダがヘビーユースの為に徹底設計したタフさと燃費に定評のあるエンジン。
リアキャリアはとっぱらって、二人乗りができるように改造されてある。

「郵政公社で配達用に使われてたのが廃車になってこの街に流れ付き、BOOKS能力でレストアされたものだ。
 原付二種だから二人乗りもできるし、排気量も一般道でスピード出す分には十分。
 こいつにニケツしてパレードまで急行するぞ。ほらこれヘルメット、半ヘルだけどないよかマシだろう」

神永ちゃんに投げ渡したのは頭の上半分しか覆わないタイプの、規格メットとしては一番軽いものだ。
安全性はフルフェイスやジェットに劣るが、彼女の能力の都合上頭をすっぽり覆うのは不便だろう。
つーか神永ちゃんの場合、メットかぶらなくても髪で頭部は守れそうだが。
おまわりさんにノーヘル運転で咎められる手間を考えれば申し訳程度に被っておくべきだ。

「ニケツするのは初めてか?俺の腰に手を回してしっかり両手同士を握るんだ。
 多少荒っぽい運転になるから振り落とされるんじゃあないぞ」

俺もジェットタイプのメットをガスマスクの上から被り、カブにまたがってキーを捻った。
キックスターターを蹴りこむと、エンジンが鼓動と歓喜の雄叫びを挙げた。

「準備はいいな?いくぜスーパーカブ110――いまお前に命を吹き込んでやる!!」

俺はアクセルを思い切り煽り、若干ウィリーしながらイロモノ二人を載せたカブは公道を爆走した。
これから俺たちは大通りを南下し、街の中央区で執り行われている式典のパレードへ乗り込むつもりである。

166 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2014/07/31(木) 22:12:19.03 0
童女とメイド妹二人を捕縛し、次いでメイドを縛り上げたあたし。
しかしこの女からは只者ではない気配が伝わってくる。一筋縄では行かなそうだ。

>「琴里ちゃんと火燐ちゃんを捕まえたくらいで、随分とまぁ余裕ですわねぇ神永様? そちらのガスマスクの――鳥島様から聞かなかったんですの?」
>「琴里ちゃんの能力は『物質転送(テレポート)』。それが固体ならなんだって転送できる。当然、人間だって固体ですわ――」
>「つまり、琴里ちゃんに対して捕縛とか束縛とか全く意味をなさない。分かるでしょう?」

「フッ、そんな事か。だったら簡単な話さ、意識を刈り取ってやれば良い」

そう言って私は琴里と呼ばれた少女の首に髪を絡ませる。

「ほら、どんどん絞まるぞ。逃げられるものなら逃げてみろ」

メイドの言っていたことがブラフなのは最初から分かっていた。
人体転送などといった大掛かりな技が出来るのなら、それを使う前から言う必要などないのだ。
奥の手はぎりぎりまで秘密にしておくからこそ価値がある。
だからあたしは、半ば遊びのような気持ちで琴里の首を締め上げている。
それが悪い癖だった。

「っ!」

横合いから飛来する物体。
反射的に、あたしは琴里の首に巻き付けていた髪を解き防御に当たらせる。
鞭の要領で跳ね飛ばしたのは、金色に輝くアンパンだった。何の殺傷性もなさそうな。
しまった、今のは罠だ。そう分かったときにはもう遅い。
次いで飛んできたガムテープに反応しきれず、目を塞がれる。
目くらましか、おそらくはこの隙に逃げるつもりだろう。
ふと鼻につく火薬の香り。まさか、火でも放つつもりじゃないだろうな!?
あたしの髪はどんなに硬化出来たとしても所詮髪は髪。火にはとても弱い。
慌ててガムテープを片目だけ毟り取ると、ちょうど炎が上がりスプリンクラーが作動する瞬間だった。
辺りに立ち込める塩素臭。何故塩素水?プールの水でも消火に使っているのだろうか?

>「クソッタレ、また一杯食わされたぜ……!」

「ああ、やられたな。そんな玩具なんかで戦うからだぜ?」

からかい半分で言葉を返しながら、髪に張り付いたガムテープを取ってもらう。
入れ替わりに用いたであろうぬいぐるみもびしょ濡れだ。とりあえずソファに置いてみる。
ガスマスクからハンドタオルを受け取ったあたしは、髪の長さを女の子らしからぬベリーショートまで縮めて拭いた。手入れは案外お手軽なのである。
あっという間に乾いた髪を確認すると、私はもとの長さに髪を揃えタオルを突き返した。

>「美少女の言ったことを全面的に信じるなら、やつらはもうこの部屋にはおらず、パレードの方に行っている。
 俺達は追われる側から一転、奴らの阻止を阻止するために追わねばならなくなるわけだ」

「相手は空を飛ぶ輩だ。急がないと間に合わないだろうな」

あたしたち二人をこんなにも手玉に取った相手だ。あとの二人も相手取るのは厳しいだろう。
見たところ、ここにいたあしなが園の連中に戦闘能力は皆無だ。
だが、転送能力に飛行能力、そして謎の入れ替わりまで見せたあの能力を考えると、ここから先の戦闘は厳しくなるだろう。

>「だが――奴らは本当に、この部屋から一人のこらず脱出できたのか?
 ときに神永ちゃんよ、君の実力を疑うわけではないが、間違いなく童女、メイドさん、妹ちゃんの三人を捕縛したよな?」

「ああ、間違いない。何なら試してみるか?」

そう言うと、あたしはランダムに狙いをつけ髪を伸ばす。ちょうどあの針鼠が見せた技のように。
ぬいぐるみに髪の束が刺さり、引き裂かれる。あふれ出す綿、人を刺した感触はなかった。
ちなみに刺したのは妹のぬいぐるみだ。特に他意はない、なんとなく選んだ。
殺す気で刺したのでまず本物だろう。それ以外に確かめる方法はない。

167 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2014/07/31(木) 22:35:56.51 0
>「目隠しをされたあの僅かな時間で、完全な拘束からバレないように抜け出し、細工をして窓から逃げる……。
 逃げるのは美少女の能力を使えば簡単だろうが、どうしても縄抜けのくだりが腑に落ちないな。
 そこで気になってくるのが、妹ちゃんが閉めきった室内で炊いていた蚊取り線香……あの不自然は、BOOKSの布石だよな」

「だな、炎や煙を媒介にする能力なんていくらでもあるだろう。
 そいつがおそらくあたしたちの目を欺いた、と考えるのが自然だと思う」

未だガスマスクはぶつぶつと悩んでいるようだったが、私の意識は既にここにはなかった。
あしなが園からパレードまでの順路。そして想定される妨害を考えてみる。
この辺りには路地が多いし、道中で敵に当たる確率は低いだろう。
決戦はおそらくパレードに着いてからだ。いよいよともなれば、連中も本気を出してくるだろう。

>「……やむを得ん、パレードへ向かうぞ神永ちゃん。やつらのあとを追う。
 その前に、こいつを使ってぬいぐるみを全て拘束してからここを出る」

そう言ってガスマスクが取り出したのは結束バンド。割りと便利なアレだ。
あたしとしてはこんなぬいぐるみ、いっそ五体ばらばらに分解してしまうのが手っ取り早いと思うのだが、それをしないのが彼の優しさなのだろう。
拘束方法は至って単純、ぬいぐるみの手足を結束バンドで縛るだけだ。
以前強面のおっさんたちの警備に就いた時、賊をこんな風に縛っていたのを思い出す。
縄を使うよりよっぽど便利な拘束方法なのだ。

>「全て拘束できたな……さあ、パレードへ向かい、針鼠達と合流するぞ」

そう言ってあしなが園から去るあたしたち。すぐ近くに駐車してある車へと向かう。
すぐ車に乗るのかと思いきや、後ろを開けて取り出したのは一台のオートバイだった。
まさかこれに二人で乗るのだろうか?ガスマスクのおっさんと二人……ちょっと嫌だ。

>「郵政公社で配達用に使われてたのが廃車になってこの街に流れ付き、BOOKS能力でレストアされたものだ。
 原付二種だから二人乗りもできるし、排気量も一般道でスピード出す分には十分。
 こいつにニケツしてパレードまで急行するぞ。ほらこれヘルメット、半ヘルだけどないよかマシだろう」

どうやらあたしも乗るのは確定らしい。仕方なしに、渡されたヘルメットを被る。
念のため髪を少々操ってみたが、ヘルメットを被っていてもあまり動作には支障はなかった。
もしもに備えて髪の一部を手足に這わせてある。準備は完璧といって良いだろう。

>「ニケツするのは初めてか?俺の腰に手を回してしっかり両手同士を握るんだ。
 多少荒っぽい運転になるから振り落とされるんじゃあないぞ」

「心配要らないから好きに飛ばしてくれ。あたしは落ちても怪我しないよ」

そう軽口を叩き、ガスマスクの腰に腕を回す。多少胸が当たるが黙っておこう。これも仕事だ。
バイクは勢いよく発進し、目的地に向かい突き進む。
路地を抜け大通りに出たら、パレードまではあっという間だ。
あの飛行する能力を持った奴がどれほどのスピードを出せるかは未知数だが、追いつくことくらいは出来るだろう。
などと考えているうちにパレードが見えてきた。遠目に見る感じだと、未だ騒ぎは起こっていないらしい。
しかしこちらも用意周到だ。作戦を開始する布石は施されているだろう。

168 :ティンカー・ベル ◇P178lRPwh2:2014/08/04(月) 00:58:21.14 0
頃合いを見計らって戻ると、皆は結束バンドで拘束されて転がっていて、火燐嬢がそれを切って回っている最中だった。
結束バンド外しを手伝いながら火燐嬢に経緯を聞く。
連中は一応は騙されてくれたが、その可能性も考えて皆を拘束してから行ったとのこと。
火燐嬢の幻覚が神永に串刺しにされた、もし他の者が狙われていたら一貫の終わりだったとも聞いた。
私はそれを聞いて戦慄した。
一方で、鳥島殿に対しては敵ながらある種の信頼のようなものが出来上がっていた。
使った武器は殺傷能力のようなエアガン。
騙されていた時の保険も、相手を傷付ける事のない結束バンドでの拘束という手段を取った。
それを優しさ……と考える程私もお人好しでは無い。彼は戦闘狂ではなく頭のいい知能犯だ。
いくら自らの信じる正義のためでも手段を選ばない(分かりやすく言えば人を殺す)革新派は
その手段をもって悪役のレッテルを貼られる。
そして肝心の思想は吟味される事もないまま、悪に立ち向かう正義と言う名の錦の御旗を振りかざした保守派に打ち負かされるのはもはやお約束である。
手段を選ばない悪役になってしまっては最後には敗北する――彼はその事をよく分かっているのだろう。
どうか戦闘狂共の手綱をきちんと握っていてくれ、そう願うばかりである。
拘束から解放された皆を前に私は自らの考えを話す。

「これ以上鳥島達を追うのはよそう。危険すぎる」

といってもこのまま諦めるわけではない。
危険を最小限に抑えつつ最大の効果をあげる方法を選ぶだけだ。

「鳥島殿の言った事が本当なら針鼠と呑君がすでに襲撃をかけている。
そこでだ……鳥島達を追うのではなく直接パレードに向かった方がいいと思う。
私達がやる事は今まさに奴らを迎え撃っているであろう護衛の能力者の援護だ。
矢面に立たずに後方支援に徹する……私達が勝つにはそれしかない」

私達だけで奴らとまともに戦っても勝ち目はない。
護衛の能力者もあの二人が相手では苦戦していることだろう。
しかし、私達が後方支援につけばその力を何倍にも引き出す事が出来る。
護衛がどんな能力者かは分からないが、この際戦闘系でさえあれば何でもいい。
今から行けばほぼ同時に付くはず、先に付ければ尚いい。
奴らが出発したのはついさっき。こちらは空を飛べるので直線距離で向かえる。
全速力で飛べばいい勝負だ。

169 :灰かぶり ◆8mVJTko00Q :2014/08/17(日) 00:42:37.29 0
神永ちゃんは髪の毛を短く縮めて水分を完全にふき取ってしまいましたわ。
まあ、そうはなりますわよね――伸縮自在の髪の毛ですか。『ラプンツェル』。流石の応用性ですわね……
ちなみにスプリンクラーの水については塩酸なんかにすることもできたのですけれど、それでは確実に味方を巻き込んでしまいますわ。

>「だが――奴らは本当に、この部屋から一人のこらず脱出できたのか?
 ときに神永ちゃんよ、君の実力を疑うわけではないが、間違いなく童女、メイドさん、妹ちゃんの三人を捕縛したよな?」

>「ああ、間違いない。何なら試してみるか?」
そういうと、神永ちゃんは髪の毛を槍のように束ねて伸ばし、火燐の縫いぐるみの胸を貫きますわ――
ふむ、直情型だとは思っていましたが、まさかここまでとは。
……狙われていたのがそれでなければ大怪我は免れませんでしたわね……



>「いちばん簡単に説明がつくのは『幻術系』だな。それこそ、はじめからここにいた連中は全部ぬいぐるみで、
> 幻術によって人間だと思わせておいて神永ちゃんに拘束させ、幻術を解けばぬいぐるみに入れ替わったように見える。
> だがそれだと童女がBOOKSを使っていたことと矛盾するな。まさかバターサンドの件も幻術だったのか?」
どうやら感づかれたようですけれど――そう。それが幻術系能力の強みですわ。
たとえ能力に感づかれても、どう使ったのかまでは特定できない。どこで使ったのかも特定できない。
あれが現実(ほんと)か幻影(うそ)か、区別がつかなくなる――それが火燐の『マッチ売りの少女』ですわ

>「ぬいぐるみの手足を後ろに回して、手首と足首に一本づつ巻きつけるんだ。
> 人力では外れないし、ハサミを使おうにも後ろ手で固定されてはやりづらかろう。
> 俺達は最小限の時間を使うだけで済み、相手には最大の時間を使わせるナイスな拘束術だ」
さて、拘束バンドを取り出した鳥島さんは、ぬいぐるみとなった私たちの手足を縛りましたわ。


しかし、それで気が済んだのか、彼らはあしなが園を後にしましたわ。どうやら、バイクに乗ってパレードに向かうようですわ
――さて、どうやらもう行った様子。私は二人が居なくなったのを確認すると、『シンデレラ』の能力を発動しますわ。
結束バンドを、千切りやすい紙に変えて、引きちぎる――私の筋力でも十分に脱出可能ですわ。
ここまでくればお分かりいただけるでしょうが、私のシンデレラは『誰のものであっても問答無用で変化させられる』。
何故か――それは琴里ちゃんの『幸福の王子』では、燕は王子に頼まれて物を運んだから――つまり被依頼者だから。
対して私の『シンデレラ』では、魔女がシンデレラを手助けするために魔法をかけたから――つまり授与者だから。
火燐ちゃんにも手伝ってもらい、私たちは拘束から逃れることができましたわ。

170 :灰田硝子 ◆8mVJTko00Q :2014/08/17(日) 00:45:16.58 0
さて、そんなことをしていると店長が戻ってきましたわ。

>「これ以上鳥島達を追うのはよそう。危険すぎる」
>「鳥島殿の言った事が本当なら針鼠と呑君がすでに襲撃をかけている。
>そこでだ……鳥島達を追うのではなく直接パレードに向かった方がいいと思う。
>私達がやる事は今まさに奴らを迎え撃っているであろう護衛の能力者の援護だ。
>矢面に立たずに後方支援に徹する……私達が勝つにはそれしかない」

「ですわね。『転送』『物体浮遊』『変化』『アンパン生成』『河童の召喚』『幻影』――バリエーションは豊かですけれど、お世辞にも戦闘向けとは言えませんわ。
 強いて言うなら河童に戦闘能力があるのなら戦えないこともなさそうですけれど……ん?」
と、ここで私は思いついた。思いついてしまったのであれば言ってみるしかない
「安半さんの能力で生成したアンパンは私の『シンデレラ』で蚊にも花火にも変えられましたし――琴里ちゃんの『幸福の王子』で熱の転送もできましたわ。
以上のことから、BOOKS能力はBOOKS能力による生成物にも効果があるという仮説が立ちます。
さて、ここで私の『シンデレラ』の能力をもう一度解説しますと、『昼と夜の12時までの間、それぞれ一度だけ対象を近い概念の別のものに変化させる』。
たとえば名前、たとえば分類、たとえば見た目、たとえば機能、たとえば属性。共通性を見つけることができれば、何でも、何にでも変化させることができますわ。
そして私の『シンデレラ』は生物にも通用しますわ。原作でもハツカネズミを白馬に変えていますしね。そこで私は考えたのですけれど――
――私の『シンデレラ』で隆葉ちゃんの『河童』を別の妖怪に変えることってできそうじゃありませんの?」
日本の妖怪は多種多様。戦闘能力でいえばBOOKS能力者に匹敵しうるでしょう。
「まあ、でも直接パレードに向かった方がいいと言うのは賛成ですわ。戦えないことはないけれど、戦うタイプではありませんものね」
「あ、でも一応私の『マッチ売りの少女』で私たちの偽物を一部送っておきますよ。マッチはたっぷり補充しました。攪乱や時間稼ぎにはもってこいでしょう」
と、火燐が言いますわ。
さて、サポート特化の探偵団。空を飛んでパレードに駆けつけましょう。
「あ、そういえば」
私はここで思いつきますわ
「神永ちゃんは恐らく直情型――しかも能力の使い方が上手い。だから戦闘すればダメージは免れないと思っていいでしょう。
今回火燐ちゃん以外の人形が狙われていたら大変なことになっていましたし――ですから。『回復系の能力者』を味方につけるのも、考えた方がよさそうですわね
私の『シンデレラ』で健康体に戻せばその場しのぎはできなくもないですけれど、その場しのぎでしかないですわ」

171 :佐川琴里 ◆i/JKvwsplw :2014/08/27(水) 08:14:20.21 0
轢死事故の後始末をする駅員のように、琴里は床に飛び散ったぬいぐるみの残骸を拾い集めている。
彼女は……神永千沙は、生身の人間かもしれないと疑いを持ったぬいぐるみを、躊躇なく刺し貫き、引きちぎった。
結果として、飛び散る綿は白かったけれど。
もし彼女の髪束がきまぐれを起こしていたなら、飛び散るのは赤い色をした、はらわた、だったのだ。
恐怖の他に、諦観にも似た落胆を覚える。
(いつもこうだ)
赤針も唐空も、そして神永も、どうして彼らはこうもたやすく人を傷つけられるのだ。
どうして鳥島はその行為を肯定し、助長させるのだ。
分からない、分からない。
力に任せた革命行為を、その信念を、変えようと決意したが、こうも度々命の危険に晒されるとやるせなさを感じたくもなる。

>「……私達がやる事は今まさに奴らを迎え撃っているであろう護衛の能力者の援護だ。
矢面に立たずに後方支援に徹する……私達が勝つにはそれしかない」
「……ハイハーイ!あたしに名案がありまーすっ」

暗い思いを押し隠し、琴里は努めて明るく手を挙げた。

「セーフのお偉い……、えー、イソップだかイソポンだか言うオジサンを、あいつらの手の届かない場所に保護すればいいんでしょ?
そういうの超得意。要はあたしが能力でそのオジサンを隔離都市外へ放り出せばいいんだよ」

これは「所有者=配達物」 という特殊なケースだが能力が支障なく発動するのは何度も実証済みであった。
(それには自分の身体は自分のもの!という帰属意識が必要なファクターかもしれない)
問題なのは――

「……どうやって肝心のオジサンに会うか。爆走特急 唐空&赤針お兄さんコンビは現地入りしてるみたいだし。
あの2人のことだから、なんだかんだお互い足の引っ張り合いしてくれてそうではあるね」

割と本気で琴里はそう思っていた。

>「まあ、でも直接パレードに向かった方がいいと言うのは賛成ですわ。戦えないことはないけれど、戦うタイプではありませんものね」
「だね!パレード先まで車で20分、空中なら直線でいけるから10分くらい?
……でも実は、最短0.1秒で行けちゃう方法があるのです。……先程のあたくしの発言からもうお分かりかな?」

両手で仰々しく抱えていた大判の絵本は、既に輝きを放っている。
(>「お前達が捕まえているのはぬいぐるみ。私の仲間達はすでに童災局局長の救出に向かっている!止めたければ追って来い!」)
あたかもこの発言通りの行為を実行したようにみせかけ、実力以上の幻術能を演出させることができる。
ただ、あちら側には既に琴里の能力のほぼ全てが露呈している。勘のいい彼らだから、せいぜい『疑心に駆られる』くらいの効果しかないかもしれないけれど。

「あたしは後からすぐ追い掛けるよ。それまで時間稼ぎをお願い。別行動だけど安心してよね。
例えスーパーマンと正面衝突しても 相手さんを大気圏外にぶっ飛ばしてやらあ!」

琴里は、にやん、といたずらをする時のように悪い笑顔を作る。彼らがうなずくと同時に、転送は完了しているだろう。

172 :名無しになりきれ:2014/09/09(火) 23:49:29.53 0
保守

173 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/09/15(月) 12:16:03.89 0
隔離都市の構造は、東西南北の四区に中央区を足した五つの行政区画からなる花弁状だ。
中央区を雌しべとして、それぞれ扇状に東区、西区、南区、北区の町並みが広がっている。
役場を始めとした行政施設は全て中央区に集められていて、パレードもそこで執り行われていた。

「じきに南区を抜ける!Nシステムに引っかかると厄介だ。遮蔽を頼む、神永ちゃん!」

各区の主要な大通り――特に区の境となる道路には、隔離都市独自のNシステムが設置されている。
最新鋭の画像処理機により車のナンバーを読み取り記録するこの装置は、普段はまったくの無害と言って良い。
厄介になる時があるとすればそれは――犯罪を犯して逃亡する際に、足取りを追われること。
すなわち今!俺たちがあしなが縁で器物損壊事件を発生させて市街地を爆走している今現在!
のちの裁判沙汰になった時のためにも、なるべく移動の痕跡は残しておきたくない。

「見えたぞ、中央区の大通りだ」

俺は車体を右に深く沈み込ませ、大雑把なハングオン!
当然そんな動きなど想定して設計されていないスーパーカブ、レッグガードがアスファルトにガリガリと擦れていく。
その摩擦をブレーキングに利用して、二人分の体重を載せたカブは豪快に旋回し、強烈な角度を曲がりきる。
ときには縁石に乗り上げ、宙を舞い、路駐の車の屋根を凹ませながら強引にショートカットしていく。
髪の束を使って自在に重心制御できる神永ちゃんがいなければ、即効でクラッシュしていたに違いない。

やがて俺たちは、中央区を行進するパレードの横合いを100mほど離れた脇の路地から見るかたちで現着した。
あしなが園の連中の姿は見えない。
この距離では、パレードの護衛からは気づかれていない――俺の風体は怪しすぎるから、見咎められるのは時間の問題かもだが。

「唐空君と針鼠は――あそこだ」

片手で覗いていた単眼鏡を神永ちゃんにも放ってやり、状況を確認する。
別働隊の二人は、大通りに面したビル群のうち、ドトールと英会話教室の入った雑居ビルの5階にいた。
あらかじめ下見の上、打ち合わせしておいた場所だ。

このビルの4階から上は貸しオフィスになっていて、5階には不動産屋が入っている。
不動産の中でもとりわけに苛烈な営業を特色とした――まあ半分ヤクザみたいな業者のオフィスだ。
BOOKS能力者の暴力団……とは言え、どちらかというとインテリヤクザの部類に入る非武装の連中だったらしく、
こちらが暴力をちらつかせて交渉したら、快く空き部屋を貸してくれた。
純戦闘能力者が仲間にいると本当に色々と捗るNE!

「連中はパレードがあのビルの真下に差し掛かったら強襲を開始する。
 俺達はあしなが園の妨害をさらに阻止し、強襲部隊をサポートする役目だ」

174 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/09/15(月) 12:16:30.87 0
もちろん、都市規模のパレードだから、そのあたりの危険性は配慮して準備されていることだろう。
例えば賊の潜んでいそうなビルや路地に立哨をあたらせる、などの対策は当然講じているはず。
では何故針鼠達が待伏せできているかと言えば、ひとえにBOOKS能力の隠匿性の恩恵だ。

分かりやすい銃火器や刃物と違い、BOOKSはその殺傷力が見た目で判断しづらい。
『原典』となる本を特定できたとしても、それがどういった形で異能として発現するかは能力者次第だからだ。
例えば針鼠。『あかいハリネズミ』という童話から、彼は自在に棘を生やすして攻撃する能力を得た。
しかし、同じあかいハリネズミでも、攻撃的でない人間に宿れば身を守る為だけの能力になったかもしれない。
むしろ、元となった童話のエピソードを鑑みれば、後者が宿る可能性の方が遥かに高いのだ。
臆病なハリネズミが身を守る為に逆立てた棘で、愛する者すらも傷つけてしまう……そんな童話から、
嬉々として他人を串刺しにする異能を発現した針鼠の方が、よっぽど特異な存在だ。

とまあことほど左様に、BOOKSを原典だけで危険な存在と断定することは不可能。
そして、能力者だからという理由だけで一律にパレードから排斥する、なんてこともできない。
当たり前だが、パレードの参加者であるこの隔離都市の住人は、全員がBOOKS能力者だからだ。
幸いにも唐空は見た目は陰キャラな学生でしかないし、針鼠も髪と服装をどうにかすればちょっと奇抜な人で済む。
二人は合法的に、パレードへの奇襲に適した場所を確保している。

「パレードが強襲地点に差し掛かるまであと10秒」

俺は単眼鏡をしまい、カブのシフトペダルを一回蹴ってニュートラルからローに切り替えた。
朝の住宅街を走る為に静音設計されたエンジン音は、パレードの喧騒の中で殆ど聞こえない。
すぐそばの屋台でケバブを売っている色黒の男が長ナイフを研ぐ音がいやに頭に響く。
幻彩系のBOOKS能力でつくられた色鮮やかな幻が、ビルに切り取られた青空を極彩色に染め上げる。

「9、8、7、6、5、4――」

残りの3カウントは声に出さず、ハンドサインだけで示した。
パレードの中央、黒塗りの防弾セダンの中から手を振る童災局長の姿がはっきり見えるほど近づいた、その瞬間。

「――状況開始!」

100m離れたパレードの中央で、動揺と悲鳴のざわめきが波浪のように発生した。
耳障りな破砕音を伴って、パレード脇の雑居ビルの5階の窓が割れ、そこから二つの人影が飛び出した。
ひとつは赤く、ひとつは黒い。
赤と黒の人影は、それぞれ自由落下の勢いを殺さず空中で光に包まれた。
BOOKSの発動光――次の刹那には、赤も黒も、それぞれの異能力を四肢に纏っていた。

赤の影――針鼠は、赤いライダースジャケットに無数の真紅の棘を生やし、棘玉となってパレードの中に着弾した。
黒の影――唐空は、いつもの学ランに山羊を模した両の手甲を装備し、ビルの壁面に巨大な爪あとを残して跳躍した。

175 :鳥島抜作 ◆aaNgcZ2CEo :2014/09/15(月) 12:17:01.68 0
だが敵もさる者、護衛の者達も即座に伊曽保のセダンの四方を防弾車で固め、次々に黒服達が降りてくる。
都市外からの護衛団は、BOOKSを持たない常人で構成されている。
だが彼らは異能に対してまったくの無力というわけではない。
隔離都市の能力者達を30年間閉じ込め続けてきたのは、他でもない彼ら非能力者なのだから。

黒服の護衛達は懐から黒光りする拳銃を抜き放った。
俺の玩具とは違う、本物の実銃――スライドが引かれ、落下してくる賊へ向かって容赦なく第一射が放たれた。
タタァン!と銃声が連続し、ビルの壁のコンクリが冗談みたいに砕け、剥がれ落ちていく。
幸いにも二人共被弾はしていないようだ。針鼠には当たったが、棘で食い止められている。

「群衆の中に潜れ!地上に入れば銃は使えないはずだ!」

俺はインカムで針鼠達に指示を出す。
自由落下中ならともかく、地上で混戦に持ち込んでしまえば誤射と跳弾を恐れて銃は使えまい。
非殺傷弾に切り替えてくるかもしれないが、集中火線に晒される心配はこれでなくなる。
案の定、黒服たちは銃をしまい、腰に装備した特殊警棒を展開して白兵戦に持ち込み始めた。

「護衛の防弾車が邪魔だな……俺たちも行くぞ神永ちゃん」

こちらの勝利条件は、防弾車に囲われた局長車に辿り着き、中の伊曽保を略取すること。
あちらの勝利条件は、伊曽保を傷つけられることなく、賊を殲滅すること。
局長車の四方を固める鈍重な防弾車は、伊曽保を守る壁であり、俺達にとっての障害だ。
針鼠達は護衛の相手でしばらく動けない。
そして、パレードの側面から襲いかかった以上、もう片方の側面は手薄になるはずだ。

「乱戦を迂回して飛び込む。防弾車の排除を頼むぞ」

俺はカブのアクセルレバーを思い切り煽った。
喧騒にまぎれていたエンジンの咆哮が大気を切り裂き、テールランプの尾を引きながら発進する。
路地を迂回しながらパレードの裏側へ回り込み、乱戦が起こっていない側の防弾車へと突撃した。

「ッ!!」

俺は防弾車の20m手前で急ブレーキをかけた。
立ちはだかるようにして、身長190cmはあろうかという長身の男が立っていた。
急仕立てらしくサイズ感のあっていない黒服の懐から、男が取り出したのは、淡く輝く絵本。
タイトルは――『かわいそうなぞう』。

「……BOOKS能力者の護衛か!」

瞬間、俺達と男との間に燐光が生まれ、形をつくり、実体として結像した。
出現したのは、一頭の痩せた象。
涎に塗れた口からは絶え間なく獣臭と漂わせ、小さな双眸は今や瞳孔が収縮して血走っている。

「飢えた象を召喚する能力か……気をつけろ神永ちゃん、親しみやすいイメージのある象だが……。
 腹を空かせた猛獣であることに変わりはない。加えてあの巨体、蹴られでもしたら人間は簡単に死ぬぞ!」

雇われたBOOKS能力者との戦闘は想定していたが、よもやこの段階で遭遇するとは。
まだあしなが園の連中の所在も特定できていないというのに、予定通りには進まないものだ。

「――来るぞ!」

痩せた象は神永ちゃんの髪を餌の藁とでも認識したのか、象牙を振りかざしながら咆哮し、こちらへ走りだした。

176 :ティンカー・ベル ◇P178lRPwh2:2014/09/21(日) 21:33:46.63 0
>「神永ちゃんは恐らく直情型――しかも能力の使い方が上手い。だから戦闘すればダメージは免れないと思っていいでしょう。
今回火燐ちゃん以外の人形が狙われていたら大変なことになっていましたし――ですから。『回復系の能力者』を味方につけるのも、考えた方がよさそうですわね
私の『シンデレラ』で健康体に戻せばその場しのぎはできなくもないですけれど、その場しのぎでしかないですわ」

「それもそうだが……知っているとは思うが回復系の能力者はおいそれと仲間にできるものではないぞ。
とにかく今は怪我をしないように気を付けよう」

知り合いの回復系能力者は優先生がいるが、彼女は積極的にこういう事に関わるタイプではないだろう。
回復系能力は元々希少な上、厳しい発動制限があったり大きなリスクや代償を伴う場合が多い。
表だって活動する者は必然的に少なくなろうというものだ。

>「……ハイハーイ!あたしに名案がありまーすっ」

微妙な雰囲気になったところに、琴里ちゃんの明るい声が響く。
彼女は努めて場を明るくしようとしているのだ。

>「セーフのお偉い……、えー、イソップだかイソポンだか言うオジサンを、あいつらの手の届かない場所に保護すればいいんでしょ?
そういうの超得意。要はあたしが能力でそのオジサンを隔離都市外へ放り出せばいいんだよ」

「あっ……」

そういわれてみればそうだ。本当に便利な能力である。

>「……どうやって肝心のオジサンに会うか。爆走特急 唐空&赤針お兄さんコンビは現地入りしてるみたいだし。
あの2人のことだから、なんだかんだお互い足の引っ張り合いしてくれてそうではあるね」

「どうやってって……飛んで行って交渉して合わせてもらうしか……」

>「まあ、でも直接パレードに向かった方がいいと言うのは賛成ですわ。戦えないことはないけれど、戦うタイプではありませんものね」
>「だね!パレード先まで車で20分、空中なら直線でいけるから10分くらい?
……でも実は、最短0.1秒で行けちゃう方法があるのです。……先程のあたくしの発言からもうお分かりかな?」

彼女が何を言わんとしているのか理解した。理解した、が――

「ちょっと待て。それだと肝心の琴里ちゃん自身は……」

琴里ちゃんの本はすでに輝きを放ち始めていた。
これはあかん、止めても間に合わないしそもそも彼女がこういう顔をしたときは止めても無駄だ。

>「あたしは後からすぐ追い掛けるよ。それまで時間稼ぎをお願い。別行動だけど安心してよね。
例えスーパーマンと正面衝突しても 相手さんを大気圏外にぶっ飛ばしてやらあ!」

「おう、任せろ相棒!」

こうなってしまってはもはや彼女の作戦を成功させるしかない。
琴里ちゃんの調子に合わせて力強く請け負った次の瞬間、周囲の景色が塗り替わる――

177 :ティンカー・ベル ◇P178lRPwh2[:2014/09/21(日) 21:34:16.72 0
「な、何だね君たちは!?」

最初に目に飛び込んできたのは、豪華なパレード車に乗った中年男性が腰を抜かしている光景だった。
無理もない、襲撃が始まった矢先に目の前の空中に突然怪しい人物が4人も出現したのだから。

「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。妖精美少女戦士ティンカーベル、ただいま見参!
安心してくれ、私達はあしなが探偵団――! テロリストに対抗する勢力、つまりあなたの味方だ」

「あしなが……ああ、あの象使いが言っていた気がする」

像使い……園長先生か。お蔭で私たちをどう信用させるかという課題が一つ省けた。

「よく聞いてくれ。私達のもう一人の仲間の転送能力者が今ここに向かっている。
その子は自分は転送できないから私達が一足先に送られてきたというわけだ。
到着すればあなたを一瞬で都市外へ転送させて逃がすことができる。
必ずそれまで持ちこたえて見せる!」

単独行動の琴里ちゃんが心配でないわけではないが、私の能力で飛べるようになっているので敵に見つからないように上空高めに飛んで来れば大丈夫だろう。
パレード車は豪華なのでかなりの上空からでも見えるはずだ。

「火燐嬢、もしや今こそながっしーを召喚する時ではないか?
硝子嬢はそれに合わせて黒服達を戦闘美少女に変換だ!」

何故美少女にする必要があるのか――その場のノリである。
では流石に酷すぎるので言い訳しておくと、戦闘美少女はよく訓練されたマッチョ男性よりも強いのだ!
そして火燐嬢の能力は単なる幻影能力を超えて、五感全てに働きかける幻覚能力。
大怪獣が現れればとりあえず相手はビビりまくるのは間違いない。

「さあさあ、これからが祭りの本番だ! 街の守護神のお出ましだよ〜!」

私は拡声器でイリュージョンショー開幕を宣言。
隣では安半君がアンパンを撒いて盛り立てる。

178 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2014/09/26(金) 21:02:31.11 0
ガスマスクの能力やあたしの髪を使いスーパーカブは裏路地を爆走する。
風がとても心地良い。冴えないガスマスクの後ろと言う点を除けば、とても気分が良いのだ。

>「じきに南区を抜ける!Nシステムに引っかかると厄介だ。遮蔽を頼む、神永ちゃん!」

「あいよ!」

そう返しつつ、あたしは風になびかせていた長い髪を操作する。
ナンバープレートの遮蔽など朝飯前だ、なんならこのままもぎ取ってやってもいいくらい。
まぁナンバープレートのないバイクが走っていたら警官に見咎められるので、さすがにそんなことはしないが。
一見危うげに爆走しているスーパーカブだが、能力のおかげで安定して走っている。
あたしが髪を振り回して重心を取ったり、ガスマスクが壁面にくっつけたりとしているからだ。
ヘルメットのせいでいつもより髪が扱いづらいが、この程度なら大丈夫。問題はない。

ありえない速度で裏通りを抜けたバイクは、すでに中央通りへ到達していた。
遠くにはパレードの列が見える。待機命令が出ているので、今のところ騒ぎはない。
だがこれから血沸き肉踊る戦いが始まると思うと、思わず武者震いが走った。
今まで大なり小なり犯罪にも加担してきたが、ここまでの騒ぎは起こしたことはない。
これでお尋ね者になってしまうリスクもあるが、構うものか。
戦いに身を投じていたほうが、ずっと自由なのだと感じる。
そう、あたしの欲してやまない自由がそこにあるのだから。

>「唐空君と針鼠は――あそこだ」

ガスマスクから投じられた単眼鏡で二人の姿を確認する。いつでも飛び出せそうだ。
作戦によると、ビルに待機中の二人が頭上からパレードを襲う。
そこを背後からあたしたち二人が急襲し、二人のサポートにまわるのだ。
至って単純明快、あたしにも分かりやすい作戦で助かった。
要するに全力で敵を排除せよ、だろ? うん、実に分かりやすい。

「あいつ、強いな」

護衛の様子を単眼鏡で見ていたあたしは、ぽつりと呟いた。
目に留まったのは黒服の護衛たちの中でも一際体格の大きな男、2m近い大男だ。
単に体格で力が強い、と言うわけではない。BOOKS能力者特有の気配を感じるのだ。
ああいう気配を放つ相手とは、普段からよくやりあっているからこそ分かる。
おそらくは何らかの戦闘系能力者と見てよいだろう。望むところだ。
単眼鏡をガスマスクに付き返し、あたしは指を鳴らした。どうしよう、今からわくわくが止まらない。

179 :神永千沙 ◆3ET9DFw4NQ :2014/09/26(金) 21:02:58.84 0
>「パレードが強襲地点に差し掛かるまであと10秒」

パレードの喧騒が耳に響く。高鳴る心臓が気分を更に高揚させる。

>「9、8、7、6、5、4――」

集中力が極限にまで増大し、視界すべてが手中に収まるような全能感すら感じる。
意識は髪の先まで達し、今にも張り裂けそうな疼きが全身を駆け上がる。そして。

>「――状況開始!」

合図と共にビルの窓から二つの人影が飛び出す。
いよいよ始まったのだ。そう思うと、あたしの体の疼きは更に高まった。
響く銃声、動揺する群集のざわめく声。パレードは終わりを告げ、戦いの幕が上がったのだ。

>「護衛の防弾車が邪魔だな……俺たちも行くぞ神永ちゃん」
>「乱戦を迂回して飛び込む。防弾車の排除を頼むぞ」

「応よ!」

カブは唸りを上げ、パレードの列に接近する。しかし、立ち塞がる者があった。
光る絵本を片手に現れたのは、先程の大男。やはりBOOKS能力者だ。
次の瞬間、光と共に現れたのは一頭の象だった。
目は血走り、荒い息を上げている。よく見ると、肋骨が浮き出るほどに痩せていた。

>「飢えた象を召喚する能力か……気をつけろ神永ちゃん、親しみやすいイメージのある象だが……。
 腹を空かせた猛獣であることに変わりはない。加えてあの巨体、蹴られでもしたら人間は簡単に死ぬぞ!」

「ふっ、たかが象なんてあたしの敵じゃない。一分で片を付ける!」

あたしはカブから飛び降り、かぶっていたヘルメットを放り捨てた。
象は立ちはだかる私に視線を移すと、荒い息を上げてこちらに踏み出す。
瞬間、異変は起きた。足を踏み出した象がよろめいたのだ。
よく見ると、象の足に編み込まれた髪が絡みついている。
象が足を動かすほどに絡みつくそれは、まるでクモの巣を連想させた。
そして、とうとう堪え切れなくなった象は、頭から派手に転倒する。
その瞬間、あたしは前に飛び出すと、能力者の大男の前に肉薄した。
髪を絡めた全身のばねが、唸りを上げる拳の力となる。その拳は、大男の顎を見事に捉えた。

「昇竜拳、なんてな」

ジャンプしながらの拳を放った私は、そう呟く。さすがに回転はしなかったが。
召還系の能力者と戦うなら、操作している相手を潰すのが手っ取り早い。
多くの場合召還物を攻撃しても本体にダメージは入るが、あまり効果的ではないのだ。
さて、この一撃で倒せたのなら象は消えるはずだ。あたしは油断せずに振り向いた。

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