【なりきりリレー小説】ローファンタジー世界で冒険!3

1 : 伝説を謳う者 ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/06(土) 00:25:27.26 ID:Oo6EfEdN
有り得ないけどどこかにあるかもしれないもう一つの地球――

これは、科学と魔法の混在する不思議な世界で紡がれる、脚本無き冒険活劇。

可能性は無限大! 主人公は君自身!

物語の世界を駆け抜け、誰も見た事のない伝説を紡ごう!

詳しくはこちら
いやはての書庫~ローファンタジー世界で冒険!まとめwiki
http://www48.atwiki.jp/lowfantasy/pages/1.html
2 : Interlude ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/04/09(火) 02:14:35.55 ID:daF3REVn
――仄暗い舞台裏に人影が二つ。

『――あのルールは、一体どういうつもりだね』

『どういうつもりも何も、そのまんまですよ。
 見た所、随分と無粋な方々を招き入れて下さったようですから。
 本選を始める前に一掃しておきたいと思ったまでです』

二人の男の声――秘密裏の会話。

『……馬鹿な。そんな事をして何になる。
 星の巫女の復活を急がねばならないのは君達も同じ――
 ――いや、君達の方だろうに』

『確かに、巫女様の『調和』の力は世界を恙無く回していく為に不可欠な物です。
 不足、乱れ、不和を相殺する力――豊穣の祈願、病魔の根絶……
 戦争や天災ですら、あの方は未然に御防ぎになる』

『あぁそうだ。世が乱れてからでは遅い。それに彼女が生み出す経済効果は莫大だ。
 ……ローファンタジアの復興には、金が掛かるだろう?』
 
『えぇ、まぁ……あの祭りは我々の主催でしたからね』

『だからこそ我々が資金を出して音楽祭を開き、星の巫女の代役を立てる。
 そうして信仰を集めると同時に、星の巫女代理を利用したグッズ展開や宣伝を行い、
 それで得た利益の四割を星霊教団に譲渡する。そういう話だった筈だ』

『でしたねえ。お互いに得る物の大きい、とても良い取引でした』

『ならば何故――』

『――ですが、貴方々は分かっていない。私達の事を。
 いいですか?私達、星霊教団は――星の巫女の大ファンなんですよ。それこそ世界一の。
 私達が求めているのは星の巫女の代理でも、金でもなく、彼女自身の復活なんです』

『なんだと……?』

『要するに――お膳立て、ご苦労様でした、という事です。
 既にフェネクスの方とは話が付いています。
 本選以降、貴方々が運営に口を出す事は出来ません』

『馬鹿を言え!祭りの資金は誰が出していると思って――!』

『何言ってるんですか。星誕祭は――チャリティですよ。見返りを求めるなんて野暮です。
 勿論、それを承知でゴネるのは勝手ですけど……
 今回の音楽祭は、色んな人が注目してますからね。
 そんな事をすれば、一体どんな経済効果が得られるのやら――』

『――もういい。言いたい事はよく分かった。……だが残念だったな。
 我々が雇った連中の多くは落選してしまったが……無事に本選へと勝ち残った者もいる。
 結局、優勝するのは我々の手の者だ』

『……さあ、それはどうでしょうねえ』

『……ふん』

一人が立ち去り、一人が残される。
3 : Interlude ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/04/09(火) 02:15:15.69 ID:daF3REVn
『――本当に、これで良かったのですか?』

残された一人が振り返る。
視線の先に前触れ無く現れる三つ目の人影。
薄暗闇に紛れる夜色のローブ、細やかな体躯――フードから垣間見える金色の髪。

『確かに彼らにはまだまだ成長の余地があるでしょう。
 ですが、これは強引過ぎです。
 漸く戻りかけてきた力を使ってまで……こうする必要があったのですか?』

夜色の影は答えない。
その答えを語られるべき相手は自分ではない――男はすぐに察した。
ならば自分に出来るのは、星の巡りを見守る様に、時を待つ事だけなのだ、とも。
4 : ナイト&アルト@NPC ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/09(火) 22:15:29.57 ID:UzSRmRuJ
>前スレ252
>「だから、言ったろ何をしようが無駄なんだ。その中では、出る手段は特になし。」

二人は自らの術式が通じない事を認識すると、感心したように呟いた。

「成程、”輝くトラペゾヘドロン”か――」

トラペゾヘドロン――”偏四角多面体”。
これは彼らなりのこの空間の呼称であろうから、深く考える必要は無いだろう。

>「まぁ、俺の方が、空間を統べる能力が高かったって事だ。」

そう言ってアサキムは扉を開き、元の世界へと帰還した――つもりだった。
扉の先、そこは漆黒の闇。
敵を無減の間に閉じ込めたつもりが、自分もそこに招待されてしまったという訳である。

「ククッ」「引っかかったのは」「貴方の方だ」「ワタシは」「ボクは」「闇を這う暗黒の化身さ」
「暗闇は」「望むところ」「齎すは」「狂気と混乱」

今までと同じ調子の声が響くが、二人の姿は無い。
代わりに闇に浮かび上がるは爛々と輝く三つの目と、闇よりも尚昏い漆黒の翼。
人知を超えた化け物がいる事をうかがわせるが、暗闇でその全貌を見る事が出来ないのはせめてもの幸運と言っていいだろう。
何故ならその姿を見たら発狂してしまうからだ。

「冥土の土産に教えてあげようか」「この姿の事を」「”這い寄る混沌”って言うんだ」

迫りくる“這い寄る混沌”の脅威。
漆黒の空間から、無数の触腕が、鍵爪が、アサキムに襲い掛かる!
絶対絶命だ――攻略方法に気付かない限りは。

「君”一人”なんて敵じゃないんだよ」という相手の言葉。
裏を返せば、二人以上だったら状況は変わってくるとも取れる。
それを裏付けるように、二人で戦っている時よりもアヤカが一人で戦っている時の方が彼らの存在の力が強くなっていた。
そして「知らない人は」「興味が無い人は」「自分の世界にはいないって事」という言葉。
逆説、関係の深い人物なら隔離空間に入って来れるという事。
現に一切外部から遮断された隔離空間であるにも拘わらず、アサキムはアヤカが先に戦っているところに乱入できた。
攻略方法に至る材料はすでに揃っている。後はアサキムがそれに気付くかどうかだ。
5 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/09(火) 22:18:32.74 ID:UzSRmRuJ
>「――お前、本当にいい面の皮してやがるな!
> ちょっとやそっと殴られたくらいじゃ、堪えない訳だ!」

「ヒヒャハハハハァ――――ッ!! とォぜんッ!
オレの面の皮は最上級に最強なイケメン面だからなァ!
仏頂面の堅物野郎とは出来が違うんだっての死ねやてめェ!!」

高笑いを浮かべながら青の竜人の顔面に拳を叩きこむゲッツ。
光と闇の魔力が生み出す混沌の魔力と、何色にも染まることのない純粋な破壊の魔力が衝突する。
互いにその性質は破壊。圧倒的な破壊力は拡散する事なく、目の前の竜を屠る為だけに一点に収束される。
ゲッツの爪がジャックの頬の肉を抉り粉微塵に吹き飛ばすが、相手の五爪を揃えての貫手がカウンターとして心臓に伸びていく。
爪の先にあるのは――fの字を象った、傷。

>「光を抱いて飛んでゆくの 無慈悲な海溝から宙を指して
>死せる大地に蒔かれた息吹 凍りつく指先を融かす愛の焔よ
>この澄んだ瞳は誰も冒せはしないさ 手なずけられない情熱を携え飛び出して行け
>はるか時を越え 地を馳せて君を護るアスピダ 眼差しの先何があるのか分からないけれど
>今動き出した運命を切り拓くその力を 血潮に霞む戦場にも猛き女神はもたらすの」

歌が響く。神格の力がゲッツの身に流れ込み、傷から黒紅と蒼白の混ざる〝力〟が吹き上がる。
その力によって相手の爪は止められ、その直後にゲッツは相手の頭に頭を叩き込んだ。
額の特に厚い骨格部を相手の鼻面に叩きこめば、蒼竜は鼻を潰し血をまき散らしながら転がっていく。

「ヒヒ――ッ、ヒヒャハハハハハッハアハァ!!
悪ィなあ精霊楽師ッ! オレのヒットチャートにゃこいつの歌しか乗らねぇのさ!
馬鹿でアホで嘘つきで弱くてちっこくてヘタレだがなァ! こいつの歌はこいつだけのモンだからよォ!
だから、さっさとその雑音、終わらせやがれェ!! グウウゥルァッ!!」

割れた額から血を吹き出しながら、魂と心を刻む死霊を焼きつくし引き裂き食いちぎりながら。
ゲッツは歌声に背を押されて駆け出した。体を巡る四色の魔力は祖神の力の発露。
清廉潔白なジャックとは似ても似つかないゲッツは、しかしながら清濁併せ呑むだけの度量を持つ存在。
相手のような繊細な技法は持ち得ない。だがしかし、こと力――暴力、圧力、戦力、破壊力に関してはゲッツに一日の長が有った。

「Wings on my back I got horns on my head(背に翼を、頭には角を得た)
My fengs are sharp and my eyes are red(俺の牙は鋭く瞳は赤く染まる)
Not an queite an angel or the one that fall(天使とも堕天使とも程遠い姿だが)
Now choose to join us or go straight to Hell(我らの下に集うかまっしぐらに地獄行きか さぁ選ぶがいい!)」

倒れこむジャックの体に闇が流れ込み、死霊を殺しながら光が吹き上がる。
我を持たぬジャックは茫洋とした瞳で駆け抜け、ゲッツに無数の貫手を放ってみせる。
あらゆる無駄をそぎ落とし、あらゆる感情を削ぎ落した一撃は、常に100%のパフォーマンスを発揮する。
常に最高の実力を発揮し続けられるジャックはたしかに強い、強いが。

>「歴史に刻まれた神の剣より 名も無き青銅の盾として私は――
>はるか時を越え地を馳せて君を護るアスピダ 重なる世界 歌はいざなう 忘られし地へ
>闇を怖れずに突き進む 朱の星のしるべに 願いよ届け宙の彼方へ 早緑の未来勝ち取るために
>猛き心よ どこまでもゆけ!」

「竜刃昇華[シェイプシフト]――」 / 「無為無我の――」

膨れ上がる二種の魔力。ゲッツは鋼の腕に力を注ぎ込み、ジャックは全身に力を巡らせる。
互いに取った構えは徒手、貫手。
街道に蒼と紅の線が引かれる。地面を引き裂きながらの加速、後に残されるのは中心点に伸びる一対の直線。
赤熱する石畳に焦げ臭い匂いを残しながら二つの線は互いの先端を衝突させる。

「――〝アスカロン〟ッ!!」 / 「――〝八正道〟」

機械よりも遥かに正確なジャックの一撃と、正確も隙の無さも全てを捨て去るゲッツの一撃。
爪と爪が衝突し、拮抗を生み出した。
6 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/09(火) 22:22:44.14 ID:UzSRmRuJ
歌のバックアップは互いの背を押す。熱量の歌と、冷徹の歌、鏡写しのようなその様。
実力は互いにほぼ互角。だが、しかし拮抗は崩れていく。なぜならば――

>「抜き取るばかりがイカサマじゃない――そら、くれてやるよ。
> お前にとっちゃあ、ブタもいいトコだろうけどな」

「――な、に? ジャックとあの竜人の戦いの最中を抜けてくるなんて……、ありえなッ!?」

閃くカードが、心の中で再現する感情に挟み込まれた。
自在に感情を作り、生み、支配する事の出来るディミヌエンドに取って、自分の感情が思い通りにならないことなどそう無いことだ。
明らかに暴れ狂う死霊の群れの力が弱まり、ジャックの背を押す力が削れていく。
とっさにその場で感情を創りだし状況を立てなおそうとするがもう遅い。

>「そして……眠らせた奴らの懐を逐一弄ってた所を想像すると、
> アンタにもちったあ可愛げってモンが見えてくるが――
> ――それでも独り占めはよくないな。少し分けてくれよ」

懐からヘッジホッグが星の欠片を引きぬき、この場から消えるのが目に映る。
それを見てため息を付きディミヌエンドは歌うのを辞めた。
死霊は消え去り、ジャックの背を押す力は消える。だが、ゲッツの背を押す力は無くならない。

>「――で?頼まれ事はこなしてやったぜ、無頼漢。
> ここまでさせておいて、まさか負けたりしないだろうな」

崩れる拮抗は、ここで決定した。

「これで終いよォ!」「くッ、見捨てたな……!」

>『――ストーップ!!そこまで!そこまでです!
> まだ午後六時には程遠いですが、そんなの知ったこっちゃありません!
> これ以上広場を壊されたら堪りません!今この瞬間をもって予選は終了です!』

「私に、触れるなオストカゲッ!」

アナウンスのタイミングとゲッツがジャックをディミヌエンドの方に吹き飛ばしたのは同時だ。
ディミヌエンドは血だらけで自分の方に転がってくるジャックを汚らわしいものを見るような目で見下ろして。
数度深呼吸を重ねた後に、感情を見せない能面の笑みでフォルテ、ゲッツ、ヘッジホッグの方を見た。

>『それでは現時点で参加証を五つ持っていないユニットは――
> ――え?なんですって?変更?また?……分かりました』

「命、繋ぎましたねえ? でも、私の歌唱は最高の道具といっても良い代物。
そして私のバックの力があれば――私が星の巫女の代理になることなんて造作も無いんですよ。
分かるでしょう? 精霊の使い手としても、音楽家としても私の方があなた達よりも上手」

フォルテ達に対しての笑顔は、多分に嘲笑が含まれる。
己の勝利を疑ってやまない絶対の自信が彼女または彼には有るのだろう。そうでなければこのような態度は取れないはずだ。
何せ、周りに居るすべての視線は己の対する敵対で、今にも飛びかかってきそうな怒りがそこには有る。
それでも己の有利性を疑わず有れる者は、よっぽどのナルシストか自信過剰家か――はたまた、本当に実力が有りそれを鼻にかけるタイプのどちらかだ。
7 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/09(火) 22:24:31.91 ID:UzSRmRuJ
>『あー……実はですね!一つ説明していなかったルールがあるんです!
> 敢えて、ですよ!決して忘れていたとか、後から追加されたなんて事はないんです!
> で、そのルールなんですが――』

「そこに転がっている薄汚い田舎の竜人さえヘマをしなければ、私に弱点なんてありませんから。
立ちなさい、ジャック。お前の飼い主が誰だか、忘れたわけじゃあないでしょう?
さっさとその小汚い手を払って私を担ぎあげなさい。2秒。1、2」
「了……解、した」

血だらけの竜人は光の魔力で体を癒しながら立ち上がり、ディミヌエンドを担ぎ上げる。
疲労困憊し、満身創痍の体でしかし強い意志を瞳から漏らしながら。
口数の少ない竜人は、ゲッツ達を網膜に焼き付けるように睨みつけて。

>『参加証を集める際に歌や踊り、パフォーマンスを用いなかったユニットは、
> 星を完成させている、いないに関わらず、本選への出場を認めない――だそうです』

「では、ごきげんよう。残念でしたね、本当に――〝かわいそうに〟。
皆さんも本選、楽しんで観劇してくださいますよう宜しくお願いしますね?
――貴方がたは本選でその心折り尽くしてあげますから。さようなら」
「飛ぶぞ」

凍りつくような愛らしい笑顔を浮かべながら、他の参加者の心を折りに行くディミヌエンド。
夢潰えた若者の表情をいとおしげに眺めつつ、それを担ぎ上げる竜人は苦々し気な表情を浮かべ。
地面に亀裂を残しながら竜は飛翔し――中央区の高級ホテルの方面へと飛び去っていくのであった。

>「まぁ……とりあえずは本選進出おめでとうって所か。
> だが――ステージの上じゃあ、助けを呼ぶのはもう少し控えてくれよ。
> 格好が付かないし……そう何度も染め直してたんじゃ、俺の髪が傷んじまう」

「俺の流儀だと使える手は八方尽くすのが王道だからなァ?
兎にも角にも例を言うぜ。サンキュ、ヘッジホッグ。
今夜は酒奢ってやんよ――まあ金はこいつの年金から出る訳だがよ」

傷だらけの体にまた新たな傷を大量に刻み込み、服を染みだした血で赤黒く染め上げる竜人は笑う。
犬歯をむき出しにしつつ、いつもどおり適当な面の厚さっぷりを発揮してみせた。
それでも頭はしっかり下げる当たり、感謝の念はしっかりと抱いているのだろう。

「にしても、お前さんもアイン・ソフ・オウル、ねェ。
ぶっ壊すばっかの俺よりも、色々小回り効きそうで便利じゃねーのよ。
この祭り終わったらいっちょ闘ろうぜ? 中々面白そうだしなァ?」

ふと、何気ない話題のように相手がアイン・ソフ・オウルという事に言及するゲッツ。
しかし、口から出るのは何者かとか、そういう言葉ではなかった。
ここで喧嘩の誘いを迷いなく出来る当たり、この男も中々にブレない男である。

「んでもって――、なんだかんだで予選は突破か。
周り見てると、音楽できそうにねぇ奴らも結構居るしなァ。ま、結果オーライって所かね」

周りにもとりあえず参加してみたような輩が居たりした恐らく記念参加の人も居たのだろう。そして、一部の人々はなんとか星を奪われずに澄んだようで。
取引をしながら一箇所にその星を集めて、数チームが辛くも本選に辿り着けるようになったようだ。
近くの通りでパフォーマンスをしていたアイドルグループや、珍妙なギターのギタリストの目立つメタルバンドなど。
残った組は中々に突き抜けた奴らの集まりだ――と言えることだろう。

「……とりあえずよォ、腹減ったから酒と飯にしよォぜ?
って訳でツアーガイド、良い寝床と美味い飯と酒の有る場所、よろっしくー」

ひらひらとヘッジホッグに手を振りつつ、いつものようにフォルテを担ぎ上げる竜人。
血だらけの衣服は触れるとじわりと血をにじませるが本人に気にする様子は無い。
だが、普段より多少手つきが柔らかい当たり、一応ながらフォルテのことは労っているらしい。
気がついたようにヘッジホッグの方を向き首を傾げ、乗るか?と開いた片方の方を顎で示してみた。
8 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/09(火) 23:06:04.40 ID:UzSRmRuJ
ホテルの一室に戻ってきたのは、企業の幹部。
先ほど聖霊教団の者と話していた――神魔コンツェルンの表向きの経営者となっているものだ。
その男は酷く怯えながらホテルの一室に足を踏み入れ、得た情報会話の内容、全てを魂ごと略奪された。
欠片も残らず消え去った男の前には、葡萄酒を嗜み、パンを食いちぎる一人の男の影があった。

「――神魔コンツェルンは滅びない、まだ利用価値が有るからなあ?
そうだろう、ディミヌエンド、ジャック。……俺がバックに付いているんだ、勝ってもらわなければ困る。
あの調和も、あの美しさも、あの力も――全て俺が求む者。どうせ強かに欲を穿くならば――丸ごと奪い去ったほうが良い。
その為なら俺は手間を押しまんさ。俺の望む世界を創るために、なあ」

銀色の長髪、仕立ての良いスーツ、整った顔に浮かぶ冷えきった笑い。
――神魔大帝の姿をしたナニカがそこにあった。
頂天魔の格を得て負けて散華した筈のあの魂が、何故か此処に存在している不思議。
何が有ったのか。コレは何であるのか、それは分からない。
だが、少なくとも。このイベントがまともな物になることは、そう無いといえるだろう。

「……私は、母の全てを虚仮にして、母を負かした存在も終わらせたいだけです。
全部、何もかも。壊れてしまえばいい、闇に飲まれてしまえばいい。
それを貴方が良しとして、私に力を化すならば。私はその間だけ、貴方の思惑に乗って差し上げますよ」

能面のような顔を蒼白にして、脂汗を必至に隠しながらいつもの態度を取る人妖――ディミヌエンド。
片膝を付きながらも、目線を逸らすこと無くどろりとした色の目を向けるのは、ひとえに意志力。
愛されぬ者は、この世界に対する感情表現を、負の形でしか表すことが出来なかった。

「知らん。唯俺は、俺の信仰を貫くだけだ。そのために有利となるならば、そのために必要となるならば。
何億死のうが俺が死のうが自由がなかろうがあろうがどうでも良い。
行くぞ、人妖。明日の予定を決めなければならないだろう。策略を組まなければならない。
戦いである以上はそれは儀式だ。ならば全身全霊で向かうのが正しさというもの、時間がない。
予選突破チームのデータは集めさせておいた。裏に手を回し楽な相手を回してもらう様にはしたが前準備はしておくに越したことは無いからな――」
9 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/09(火) 23:07:08.19 ID:UzSRmRuJ
対して、扉の横の壁に背中を預ける男は、この空間を満たす負に有っても正を貫き聖を掲げていた。
何にも染まらぬ強固な我が、絶対の一、個としてこの男を成立させていた。
竜種は強引に人妖を立ち上がらせると、ホテルの最上階の廊下に出る。
荒い息を吐いて地面に崩れ落ちる人妖を冷めた目で竜人は見下ろしていて――そこに近づくもう一つの影が、ふらつく人妖を抱きとめた。

「……大変だったようだね、ディミヌエンド。怪我はなかったかい?
彼に頼んで見せてもらったようだが、敵は強敵のようだね、あの歌は素晴らしかった。
まるで〝彼女のような〟――? 彼女、彼女とは、一体誰、……なにか、私は――」

穏やかな声を響かせる男は、仕立ての良い服を来た初老の男性だった。
年の頃は大凡70代ころだろうか。年齢相応の落ち着きを持った表情で、人妖の頭を撫でて。
子供に接するように優しく話しかけていたが、その表情は歪み、苦痛を覚えているようで。
それを和らげるような歌声が、響く。子守唄のような、穏やかなハミングは――人の魂を眠らせる死霊の歌。
だが、穏やかな眠りは死の一つの形。優しさを持って歌えば、ひとつの安息がそこには生まれるといっても良い。

「お義父様。貴方の娘は、私です。
私は、ディミヌエンドではありませんよ。――私は、フォルテ・スタッカート。
だから、愛して。私を、抱きしめて。たとえそれが、虚栄でも……良いから」

憔悴する男性の耳にささやきを投げかけ、崩れ落ちる男を竜人に預ける。
名残惜し気な視線の流れを、竜人は僅かに追うが見ないことにした。
肩に男を担ぎあげると、不本意そうに人妖は声を響かせた。

「道具です。有意義に、そう――有意義に使わなければならない。
メンテナンスは、欠かすわけにはいきませんから。勿体無いですからね、仕方ありません。
行きますよ。田舎者の役立たずで汚らわしい鱗まみれの私の下僕。せめて私が価値を見出す存在であるように」
「知っている。……不本意だが俺は頑丈でな、そうそう壊れることはない。
そして、俺はお前と組む有用性を知っている。精々付き合ってやるさ。……一人にする事は無い」

目線を交わさず、心を交わさず。3つの影はホテルの一室へと消えていくのであった。
10 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/11(木) 00:45:49.34 ID:nY+behRn
>「――だからその『感情』(カード)、少し借りていくぜ。
 なに、安心しろよ。才も愛も、それを絶やせるのは時の流れだけだ。
 俺が少しばかり拝借した所で枯れやしないさ」

賭博師の手が背中に触れ、”カード”を抜き取っていく。
心の奥深くまで見抜かれたような気がしてドキリとした。
賭博師というのは相手の隠し持っているカードが何か見切った上で掠め取っていくものだ。
そんなのいくらでもくれてやるけどさ――頼むからまじまじ見て確認したりせずにそのまま流してくれよ!
青い光を纏い跳躍するヘッジホッグ。
そこから先は人の域を超えた動きのため、何をやっているのか認識できなくなった。

>「ヒヒ――ッ、ヒヒャハハハハハッハアハァ!!
悪ィなあ精霊楽師ッ! オレのヒットチャートにゃこいつの歌しか乗らねぇのさ!
馬鹿でアホで嘘つきで弱くてちっこくてヘタレだがなァ! こいつの歌はこいつだけのモンだからよォ!
だから、さっさとその雑音、終わらせやがれェ!! グウウゥルァッ!!」

オレがちっこいんじゃない、お前がでかすぎるんだ! と抗議する代わりに謳い続ける。
確かに嘘つきで弱くてヘタレだけど歌っている時だけは違うんだぜ!
オレはまがい物の感情を表現出来る程器用じゃない、ゲッツはそれをよく分かっている。

>「――〝アスカロン〟ッ!!」 / 「――〝八正道〟」

ぶつかりあう力と力。
拮抗状態から次第にこちら側が優勢になっていき、ついにディミヌエンドの歌が途絶える。
それはヘッジホッグが星を掠め取るのに成功した、という事を意味しているのだろう。

>「これで終いよォ!」「くッ、見捨てたな……!」

>『――ストーップ!!そこまで!そこまでです!
 まだ午後六時には程遠いですが、そんなの知ったこっちゃありません!
 これ以上広場を壊されたら堪りません!今この瞬間をもって予選は終了です!』

ゲッツの勝利を見届け、予選終了のアナウンスが流れるのを聞いた瞬間、全身の力が抜けて地面にへたりこむ。
死霊を使役する呪いの歌が響く中でヘッドギアを外していたのだから当然だ。
ヘッドギアをはめながら辛うじて立ち上がる。
11 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/11(木) 00:46:30.43 ID:nY+behRn
>「私に、触れるなオストカゲッ!」

――今なんて言った? 聞き間違えたのだろうか。

>「命、繋ぎましたねえ? でも、私の歌唱は最高の道具といっても良い代物。
そして私のバックの力があれば――私が星の巫女の代理になることなんて造作も無いんですよ。
分かるでしょう? 精霊の使い手としても、音楽家としても私の方があなた達よりも上手」

「……」

もしかしたら端から見れば互角に見えるかもしれない。
が、オレには相手の方が上手だと分かってしまうだけに、言い返す言葉がなかった。
きっとヘッジホッグの活躍がなかったら今頃――
その上後ろ盾がついてる……だと?

>「そこに転がっている薄汚い田舎の竜人さえヘマをしなければ、私に弱点なんてありませんから。
立ちなさい、ジャック。お前の飼い主が誰だか、忘れたわけじゃあないでしょう?
さっさとその小汚い手を払って私を担ぎあげなさい。2秒。1、2」
>「了……解、した」

さっきのはやっぱり聞き間違いではなかった。DVならぬパーティー内暴力の現場を思いっきり目撃してしまったんだけど!
満身創痍の奴をアッシーにしてんじゃねーよ! 自分で歩けよ!

>「では、ごきげんよう。残念でしたね、本当に――〝かわいそうに〟。
皆さんも本選、楽しんで観劇してくださいますよう宜しくお願いしますね?
――貴方がたは本選でその心折り尽くしてあげますから。さようなら」
>「飛ぶぞ」

「おい竜人! なんでそんな奴と組んでんだよ! 今すぐユニット解散しちまえー!」

飛び去って行く竜人にとりあえずユニット解散をお勧めしておいた。
あの竜人もいかにも堅物正義漢って感じで個人的に嫌いなタイプだけどさ……それにしてもあんなドSド外道と組んでるような奴じゃないだろ!
ああ見えて実はドMで需要と供給が一致しているのだったらもう何も言えないけど!
12 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/11(木) 00:48:48.79 ID:nY+behRn
>「まぁ……とりあえずは本選進出おめでとうって所か。
 だが――ステージの上じゃあ、助けを呼ぶのはもう少し控えてくれよ。
 格好が付かないし……そう何度も染め直してたんじゃ、俺の髪が傷んじまう」

今は素直に本選進出を喜ぶべきだろう。賭博師野郎に満面の笑みで最上級の謝意を示す。

「君最高だよ! 最高の駄目ギャンブラーだ!」

そもそも何で財布を掏ったかというと一文無しになってギャンブルの資金が底を尽きたからであろうが
これ程の力を持ちながらなんで一文無しになってたんだろう、という疑問はここでは置いておく事とする。

>「にしても、お前さんもアイン・ソフ・オウル、ねェ。
ぶっ壊すばっかの俺よりも、色々小回り効きそうで便利じゃねーのよ。
この祭り終わったらいっちょ闘ろうぜ? 中々面白そうだしなァ?」

「なんでそーなる! 普通そこは素性に関する探りを入れたりとかさぁ!」

一応様式美として突っ込んでおいたものの、まあ戦闘狂だから仕方がない。

>「……とりあえずよォ、腹減ったから酒と飯にしよォぜ?
って訳でツアーガイド、良い寝床と美味い飯と酒の有る場所、よろっしくー」

ゲッツはいつもの調子だが、オレはそれどころではなかった。
本選では純粋にパフォーマンスだけで勝負しなければならない。あんな奴に絶対断じて星の巫女の座は渡すものか!
でも……どうすればいい? どうすれば勝てる?
と悶々と考えている間にいつもようにゲッツに担ぎ上げられる。いつもと同じだが、いつもより少しだけ優しい手つきだ。

「ゲッツ……ありがと」

耳元で呟く。
”オレのヒットチャートにゃこいつの歌しか乗らねぇのさ!”正直に言おう、オレはこの類の発言には本当に弱い。
オレにとっては、小難しい理論を並べた上での優れているという評価よりも、理屈も何もなく好きという思ったままの感想の方が何倍も価値あるものなのだ。
だからこそ言えない。相手の方が精霊楽師として上だ、なんてさ。その時だった。

『ボクと契約して超人気シンガーソングライターになろうよ!』

声が聞こえたような気がした。後ろを振り向く――何もいない。
前に向き直る……と見せかけてもう一度振り無く。
サッとビルの物陰に半透明の何かが隠れたような気がした
なんとなく半透明の類の存在の気配を察知できそうなヘッジホッグに聞いてみる。

「ヘッジホッグ、オレの後ろなんか憑いてない!?」
13 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/04/15(月) 00:39:07.54 ID:UXbo44Cy
『俺の流儀だと使える手は八方尽くすのが王道だからなァ?
 兎にも角にも例を言うぜ。サンキュ、ヘッジホッグ。
 今夜は酒奢ってやんよ――まあ金はこいつの年金から出る訳だがよ』

「……なんだ、喧嘩っ早いだけの向こう見ずかと思ってたが……
 中々分かってるじゃないか。いいぜ、それで手を打って――」

『君最高だよ! 最高の駄目ギャンブラーだ!』

「――気が変わった。リシュブール、三十年物のヴィンテージだ。
 それ以外じゃ絶対に譲らないからな」

『にしても、お前さんもアイン・ソフ・オウル、ねェ。
 ぶっ壊すばっかの俺よりも、色々小回り効きそうで便利じゃねーのよ。
 この祭り終わったらいっちょ闘ろうぜ? 中々面白そうだしなァ?』

「この都市を丸ごと買えるくらいの金を積めば、考えてやる――
 ――いや、待て……お前、何故その『言葉』を知ってる?」

アイン・ソフ・オウルとは、強烈な自己の発露。即ち誰もが持ち得る物。
故に歴史を紐解き、世界を分解(バラ)せば、その力を身に宿す者はそれなりに存在する。
だが『力』ではなく、『アイン・ソフ・オウル』そのものを知る者は、そうそういない。
創世の時から続く因果――その核心に近付いた者でなければ、知り得ない言葉。

「――っ」

不意に兆す眼部の違和感。微かに溢れる蒼の燐光。
極僅かにだが、意志の制御をすり抜けて『力』が漏れ出している。
自分の中の何かが震える様な感覚――直感的に、これは『共鳴』だと理解した。

「……なんだって、俺にはこんなブタみたいな運命ばかり巡ってくるんだ?」

右手で両眼を覆って小さくぼやいた。
運命の女神様には、どうやらディーラーのセンスが無いらしい。

『……とりあえずよォ、腹減ったから酒と飯にしよォぜ?
 って訳でツアーガイド、良い寝床と美味い飯と酒の有る場所、よろっしくー』

無神経な竜人の要求――だが、不愉快な事情を記憶の隅に追い遣るには、都合が良かった。

「……任せとけ。その年金とやらが、何年越しで貯めた物かは知らないが――
 ――今夜で全部、使い果たさせてやるさ」

向かう先は中央区の高級ホテル――ではない。
思い出したくもない嫌な気配を感じたから、というのも訳の一つだ。
だが何よりも、この街には高級ホテルよりもずっと金の掛かる宿泊施設がある。
それが一番の理由だった。
14 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/04/15(月) 00:39:53.37 ID:UXbo44Cy
『ボクと契約して超人気シンガーソングライターになろうよ!』

ふと、背後から聞き慣れない声が聞こえた気がした。
振り返る――御し切れてない『力』が、精霊楽師の後方に『何か』を捉えた。

『ヘッジホッグ、オレの後ろなんか憑いてない!?』

「――お前の仕事仲間じゃないのか?」

何かが見えてはいるものの、公衆の面前で石畳と意思疎通を図る趣味はない。
相手にせず、歩き出す。
向かう先は歓楽街――高級カジノ。
賭博場には案外、休憩所や食事処などのサービスが充実している。
ホテル業を併せて営んでいる所もある。
客を出来る限り引き止める為だ。賭け事は基本的に長期戦になる程、親側が有利になる。
元々はカジノに長居する様に、客室はシンプルで居心地の悪い物するのが常識だったが、
ここは芸術の都フェネクスだ。賭博目的でない観光客も大勢来る。
カジノで金を落としていく様な金持ちを呼び寄せる為にも、客室の質は申し分なかった。

派手なネオンに彩られた入り口を潜ると、すぐ真正面にカジノコーナーがある。
ソファはない――座りたければ賭けの席に着けというカジノ側の無言の要求。

「チェックインは済ませておいてやる。レストランはカジノコーナーを抜けた先だ。
 もし遊ぶ気があるなら、先にコインを買っておけよ」

積極的なガイド業務――最高級のスイートルームに泊まる為なら、なんて事のない代償。
受付嬢がペンを走らせている間にカジノコーナーを振り返る。
眼の異常は未だ収まる様子がない――金の気配がよく見え過ぎる。

「どうせこんな事になるなら、あのディーラー……一泡吹かせてやれば良かったか。
 ――おい、へっぽこ楽師。そこのルーレット、誰か適当に勝たせてやるつもりだ。
 軽く遊んで回るくらいの金は稼げる。その辛気臭い面をどうにかするんだな」

婦人然としたディーラーがさり気なく客を見回している。
客寄せパンダを探している時の眼だ。
今一つダサい格好をしたお上り観光客、ガキ臭い風貌――新鮮な反応が期待出来る。

「さて……俺も、こんなになっちまったのは仕方がない。
 今日の負け分くらいは取り返しておくか」

今なら何処の席が当たりなのか、金になるのか、簡単に見分けられた。
となればディーラーを相手にするゲームは却って面倒。
カジノを大損させてやるつもりでもなければ、スロットで十分だ。
ボタンを規則的に押すだけでいい。結果は既に見えている――

「……駄目だな。これじゃゲームにならないぜ」

まるで面白味がなくて、すぐに席を立つ。
仕方なく、いい具合に眼が曇ってくるまで酒でも煽る事にした。
あの竜人と一緒では、静かには飲めないだろう。
酒の味も分からないまま、溺れる様に――だが、その方が都合が良かった。
――そうでもしなければ、背後に押し寄せる過去の気配を忘れられそうにない。
15 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/15(月) 00:41:34.07 ID:UXbo44Cy
>「この都市を丸ごと買えるくらいの金を積めば、考えてやる――
> ――いや、待て……お前、何故その『言葉』を知ってる?」

「ちィと色々面倒事に巻き込まれたり首突っ込んだら色々知っちまってなァ。
ま、良いんじゃねェの? こんなに人居るならそりゃ何人か居るだろうしよ」

ヘッジホッグが態度を乱したのに対して、ゲッツはいつも通りの大雑把な振る舞いを見せる。
竜人は確かに世界の成り立ちを知り、大いなる力の源を理解し、それを振るう術を知っている。
己の抱える世界観、己の力が明らかに善性のそれでは無く、悪性のそれである事も当然理解している。
その上で、知る前から何も変わらず振る舞うことが出来たのは、その力に傷つけられたことが無いからだろうか。

>「――っ」

「……なる程、近いとこうなるわけだなァ?」

インナーの奥から光が漏れだしていた。それは傷から漏れだす深紅の力。
相手の力の僅かな漏洩に対して、此方も又呼応し鼓動を返していたのだ。
心臓の鼓動に合わせて明滅を繰り返したその光は、ゲッツが瞑想をする事で次第に抑えこまれていった。

>「……なんだって、俺にはこんなブタみたいな運命ばかり巡ってくるんだ?」

「運命[Destiny]なんて破壊[Destroy]しちまえばいいだろうよ。
気に入らねぇから俺は俺の運命なんざブチのめしてブチ変えてやるつもりだしよォ。
俺は殴って運命を変えるが、お前さんだって騙すなり盗むなりイカサマするなりで変えてやりゃいい」

ゲッツの辿り着いた結論は、一つ。運命が気に入らないなら文句を言う前に変えてやればいい。
幸いなことにそれが出来る〝札〟自体は最初から皆に配られているのだから。
馬鹿の論理極まりないが、その理論は馬鹿のそれ故にシンプルに分かりやすい。

>「ゲッツ……ありがと」

「はン、しおらしぃテメェなんざ気持ち悪いだけだっての。
いつも通りにしときな。それで十分だ」

目線を合わせること無く、ゲッツはフォルテを担いだまま歩き出す。
飾り気の無い言葉はいつも通りにぶっきらぼうなのは仕方のないこと。
だがまあ、相手に貸しを作ろうとしないその振る舞いはさっぱりとした生き様であるとも言えるだろう。

(正道、ねェ。俺の覇道とどっちが強いか――ワクワクしてきた……!
戦略練らねェとなァ……、互いに策なしで今は互角。
んでもって奴らは絶対次は策持ってかかって来る。そういう訳ならこっちも策出してやっと五分。
そっからブチのめせるかは運と気合と根性次第……ってところだなァ)

竜人は相方を肩に載せたまま、戦いに特化した頭脳をぐるぐると回していた。
戦略を確実に立ててくる相手と五分に闘うには、此方も頭脳を回すしか無い。
恐らく最終的には運に任せることになるだろうが、今のゲッツにはその運が何方に転ぶかは分からなかった。
災厄はニュートラルに有る。その災厄がゲッツ達に振りかかるか、ディミヌエンド達に振りかかるかは――判断不能であった。
16 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/15(月) 00:42:20.71 ID:UXbo44Cy
>「……任せとけ。その年金とやらが、何年越しで貯めた物かは知らないが――
> ――今夜で全部、使い果たさせてやるさ」

「安心しな、使い果たされようと俺の懐は欠片も痛まねぇ。
なにせ俺様無一文だからさァ! ギャハハハハハハッ!!」

高笑いを浮かべつつ、フォルテとヘッジホッグの掛け合いを尻目に駆け出すゲッツ。
色とりどりの町並みを冷やかしながら2mを越す巨漢は道を進んでいく。
いつも通りに道は存在感で開けていくが、時折陽気な大道芸人やらに話しかけられて適当に相手もする。
普段のそれとは異なる雰囲気。ゲッツにとっては非日常といっていい空気がこの街には満ちている。
だが、ヘッジホッグが案内していくその先には、この街に来て以来久しく感じていなかった気配を感じていた。
すなわち、〝焦げ付き〟。運命に火が付き、魂を燃料にしてぶつかり合う空気――鉄火場だ。

カジノの空気は、賑やかで綺羅びやかで清潔な雰囲気だ。合法な高級カジノであるから、比較的に緩んだ気配もある。
だが、それでもゲッツの嗅覚は確かに嗅ぎつける。〝戦場〟の気配というものを。
勝手にチェックインを済ませるヘッジホッグの目的には気づいているが、犬歯を剥き出しにするだけで済ませた。

>「チェックインは済ませておいてやる。レストランはカジノコーナーを抜けた先だ。
> もし遊ぶ気があるなら、先にコインを買っておけよ」

「一晩幾らかは分かんねぇが――、要するに今晩減る以上に稼げば特するわけだろ?
っし、ちょいと勝ってくる。俺も無一文ってのは格好つかねぇし?
て訳でフォルテ、1万だけ貸してくれや。勝って増やして勝った分半分貰うけどよ、絶対勝ってやっから」

馬鹿の理論が再度炸裂。減るなら減る以上増やせば得をするなんて事を大真面目に口にする。
そして、絶対に勝てるから金を貸してくれなどと人間の屑極まりない発言を追加でダメ度数が倍プッシュである。
それでもなんだかんだで幾らかチップを分けてもらえば、ゲッツはそのチップを抱えて歩いて行く。

鼻を効かせた。焦げ臭い匂い、戦場の気配を嗅ぎ分けるのがゲッツの嗅覚。
その鼻先が獲物の臭いを嗅ぎつける。空気が違う一部の卓――ルーレットの卓に座り込む。
鋼色の瞳が獣の気配を帯びて細められ、周囲の参加者に威圧を振り空気をがらりと変えていく。

「……5」

貰ったチップの半分ほどをベットし、ゲッツは目を細める。
息を深く吸い、回転を目で睨みつける。空間に満ちるのは不吉な気配。
あえてその気配をゲッツは望んでいた。賭けに付いては素人である己が勝つ方法は、これくらいだ。
ディーラーが玉を投げ込む。跳ねる玉、からからころころ音が響く、次第に音の感覚は短くなっていき、そして停止。
――ゲッツの周囲で歓声が響き渡った。

それから十数分後

>「……駄目だな。これじゃゲームにならないぜ」

「よー旦那ァ! いやはは上等上等、三十六倍的中なんざ普通ありえねぇんじゃねーのこれ、ルール知らねぇけど!
厄がどーも他に向いてたみたいでよ、素人が闘うならあれしかねぇと思ったが五分に賭けて正解ってもんだったな!
おーっと、マスター、アースクエイクな! 適当にナッツとかくれやおう」

上機嫌で新調した財布を尻ポケットに入れた竜人が隣にどっかと座り込む。
蒼色の瞳に対して鋼色が交錯し、意味ありげににやりと細められた。

「ま、お前さん相手に細かい話してもらえるくらい打ち解けてると思える程幸せな頭じゃねェんだけどよ。
酒でうやむやにしてぇってンなら付き合ってやるさ。幸い俺は武力だけじゃなくて肝臓も最強だからなァ! ギヒャヒャヒャヒャハァ!」

高笑いを響かせながら、ゲッツは異様に癖の強いカクテルを煽る。
アブサンの香りが竜人の鼻孔を通りぬけ、衝撃を脳髄に叩きこむ。
くあーっ、と幸せそうに声を漏らしながら、底抜けに馬鹿っぽく楽しそうに竜人は酒を飲み始めるのであった。
17 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/15(月) 00:44:15.30 ID:UXbo44Cy
ヘッジホッグの瞳から青い燐光が舞うのに呼応するように、ゲッツの傷から赤い光が漏れ出していた。

>「……なる程、近いとこうなるわけだなァ?」

オレはというと、背中の虹色の翅が一瞬現れかけておっといけないと消す。
何この「邪気眼持ち同士は引き寄せあう」みたいな新設定!

>「……なんだって、俺にはこんなブタみたいな運命ばかり巡ってくるんだ?」
>「運命[Destiny]なんて破壊[Destroy]しちまえばいいだろうよ。
気に入らねぇから俺は俺の運命なんざブチのめしてブチ変えてやるつもりだしよォ。
俺は殴って運命を変えるが、お前さんだって騙すなり盗むなりイカサマするなりで変えてやりゃいい」

「何がいいか、なんてそんなの分かんないもんだよ?
ブタだと思ったものが案外トリプルセブンだったりして。
あの時財布を盗られて本当に良かった!」

高尚に言えば塞翁が馬、平たく言えば結果オーライ。
でも不運を幸運に転化し運命を味方に付ける事が出来るならそれ程素晴らしい事はない。

>「……任せとけ。その年金とやらが、何年越しで貯めた物かは知らないが――
> ――今夜で全部、使い果たさせてやるさ」
>「安心しな、使い果たされようと俺の懐は欠片も痛まねぇ。
なにせ俺様無一文だからさァ! ギャハハハハハハッ!!」

……うわー、あんなはした金では安すぎるとは思ってたんだ、うん。
というか何でこいつら無駄に楽しそうなんだろう。

>「――お前の仕事仲間じゃないのか?」

ヘッジホッグは半透明の存在に気付きながら見て見ぬふりをした。
だって今明らかに見てたよね!?

「やっぱり見えてるでしょ。妖精系種族ってわけでもなさそうだし……
あーっ、もしかして大怪我して手術したら必要以上にハイテクな目が入れられてた、とか!?
目からビームも発射できちゃったりするんじゃない!?」

とか何とか言いながら観光ガイドが案内するまま付いて行き、行き付いた場所はあろう事かカジノ。
ようやく自分の置かれた状況を認識したオレは不良観光ガイドに抗議する。

「何て場所に連れて来てんだよ! これでも超堅実且つ品行方正な人生を……
……うわーすっげー!」

感じた事のない賭博場独特の空気を肌で感じて唾を飲む。
ちょっとだけならいいか、と思わせる程の魅惑的な光景だ。
響き渡るスライムレースの出走者紹介。モンスター闘技場の周囲は異様な熱気に包まれている。

>「チェックインは済ませておいてやる。レストランはカジノコーナーを抜けた先だ。
 もし遊ぶ気があるなら、先にコインを買っておけよ」

>「一晩幾らかは分かんねぇが――、要するに今晩減る以上に稼げば特するわけだろ?
っし、ちょいと勝ってくる。俺も無一文ってのは格好つかねぇし?
て訳でフォルテ、1万だけ貸してくれや。勝って増やして勝った分半分貰うけどよ、絶対勝ってやっから」

「殴ってりゃ勝てる喧嘩じゃないんだよ!? 分かってる!?」
18 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/15(月) 00:49:32.80 ID:UXbo44Cy
全くこの人は勝負事と名がつけば何でも勝てると思ってるのだろうか。
問い詰めたい、小一時間問い詰めたい! 結局何だかんだで貸すんだけど。

>「どうせこんな事になるなら、あのディーラー……一泡吹かせてやれば良かったか。
 ――おい、へっぽこ楽師。そこのルーレット、誰か適当に勝たせてやるつもりだ。
 軽く遊んで回るくらいの金は稼げる。その辛気臭い面をどうにかするんだな」

一見適当な事を言っているようにも聞こえるが、ヘッジホッグには何かが見えているのかもしれない。
目の前にあるのは円卓と見まごうような巨大なルーレット。その名もホイールオブフォーチュン――運命の輪。
ちょっと運試ししてみようか。

「そこのボク、遊んで行かない?」

ディーラーに声をかけられ、席に座る。
好きな数字の場所にチップを置けばいいだけらしい。ならば――賭ける場所は000。
回る球に身を乗り出して声援を送る。

「行け、止まるな――ッ!! いや、止まれ、そこーーーーーっ!! ……よっしゃあああああああああ!!」

ヘッジホッグの目に狂いは無かったようだ。ディーラーが裏で手をまわしていようと関係ない。
始まる前から勝負は始まっていて、ディーラーに目を付けられて尚且つヘッジホッグの言葉を信じて席に座ったオレの勝ちだ。
十数分後、“軽く遊んで回るくらいの金”を手に入れたオレは席を立った。
今にも宴会を始めそうなゲッツ達の後ろを足早に通り過ぎる。アイドルたるオレとしては今話しかけられたら間が悪い。
トイレに入って何気なく鏡を見ると、鏡越しに半透明の小さい美少女が思いっきり映っている。
今流行りの小さいおっさんじゃなかったのがせめてもの救いだろうか。

「思いっきり見えてるんですけど!」
『ドキッ!』
「ってか何で隠れる!? 誘い受けか!」
『いえ、あのっ、セールスとか初めてで緊張して……』

鏡に映った自分と会話するオレを後から来た人が不審そうな目で見ているのに気付き、慌てて個室に入る。
トイレの個室で電話してる人ってよくいるよね!?

「訪問販売お断り! と言いたいところだけどちょっと興味があるから聞いてやろうじゃねーか。契約するとどうなる?」
『作詞作曲の才能が手に入ります!』
「料金設定はどうなってる? 例えばこれだったら?」

適当に札束を取り出して見せる。

『えーと、あの……大変申し訳ないんですが……』
「何だよ!」
『対価としては生命力を戴くようになっておりまして……』

まんま悪魔の契約じゃねーか! 駄目駄目そんな契約! いや、でもなぁ……。

――なあ、こういう時、俺はまず何をすればいいと思う? 相変わらず壊滅的なそのセンスを突っ込めばいいのか、
――……あー、なンだ。てめェ、歌も楽器も達者な癖して、センスだきゃからっきしだわなあ。
19 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/15(月) 00:55:27.15 ID:UXbo44Cy
別に気にしてる訳じゃないよ!?
断じて気にしている訳ではないけど、欲しいか欲しくないかって言われたら……喉から手が出る程欲しいですとも!
寿命長いしちょっとだけなら……

「ちょっと聞いてみるけど寿命に換算して何年?」
『まさか一括払いなんて要求しません。毎日ちょっとずつ貰う、的な?』

つまり常に吸われ続けるって事じゃん! やっぱ駄目だろ。
常識的に考えるとそうなのだが、ディミヌエンドのクッソ憎たらしい笑顔がフラッシュバックする。

――分かるでしょう? 精霊の使い手としても、音楽家としても私の方があなた達よりも上手

ここではたと気づく。これ明らかにアイツの罠だろ! 話にならねーよ!
というかいつまで付きまとってるつもりなんだろう。そろそろここに来た当初の目的を遂げさせてほしいんですけど!?

「さっさとどっか行け! こっちは半透明の非生物とは違って色々事情が……」
『何そわそわしてるんですか?』
「お前のせいでさっきからずっと我慢してんだよ分かったら出てけ!」
『それはすみません、見ての通り半透明なのでどうぞお構いなく』
「そういう問題じゃねーよ!?」

♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

「よくも見やがったな……絶対契約してやらん!」

悪態をつきながら手を洗う。鏡を見れば、当然のごとくまだ憑いている。

『ぐすっ』
「泣いても駄目! どうせアイツの差し金だろ!」
『違うんです……あいつに扱き使われるのが嫌になったんです! ギャフンと言わせてやりたい……!』
「えっ……」

正直言ってかなり気持ちが動いた。いやいやいや、こんなやっすい手に騙されてはいけない。
どうせオレを乗せるための策略に決まってる。
鏡に向かって喋っている光景にまたしても不審な目を向けられ、そそくさと外に出る。
ゲッツとヘッジホッグはというと、案の定宴会の真っ最中。ああもう、人の気も知らずに楽しそうだなあ!
修行の時にもらった扇をハリセン的に使って二人の頭をスパパーンと風圧ではたく。

「呑気に酒飲んでる場合じゃねーだろ! あの凶悪コンビを制して本戦に勝たなきゃいけないんだぞ!
これより地獄の特訓を敢行する!
太鼓の達人ポップンミュージックダンスダンスレボリューション! 好きなのを選べ!」

カジノの一角にあるゲーセンコーナーをびしっと指さした。
20 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/04/17(水) 00:27:06.14 ID:vjgQsjlf
『よー旦那ァ! いやはは上等上等、三十六倍的中なんざ普通ありえねぇんじゃねーのこれ、ルール知らねぇけど!
 厄がどーも他に向いてたみたいでよ、素人が闘うならあれしかねぇと思ったが五分に賭けて正解ってもんだったな!
 おーっと、マスター、アースクエイクな! 適当にナッツとかくれやおう』

「――幸運の女神様よ。男選びのセンスが悪いぜ、アンタ。
 ……マスター、こっちはラスティ・ネイルを頼む」

深く項垂れ、カウンターに肘を突いた左手で頭を抱えながら、賭博師は絶望を吐露する。
そもそも一体何が五分なんだとか、まさか当たりか外れかで五分と言うつもりかだとか、
そんな突っ込みを入れる気力すらも湧かなかった。

『ま、お前さん相手に細かい話してもらえるくらい打ち解けてると思える程幸せな頭じゃねェんだけどよ。
 酒でうやむやにしてぇってンなら付き合ってやるさ。幸い俺は武力だけじゃなくて肝臓も最強だからなァ! ギヒャヒャヒャヒャハァ!』

「別に……聞いて楽しい話じゃないさ。話して楽しい話じゃ、もっとないがな。
 誰も得しないんだから、話す事もない……それだけの事だ」

過去を語ったところで、何かが変わったりはしない。
既に賽は投げられている。銀球は放たれ、ルーレットは回り出した。
どんなイカサマも、もう届かない。だったら――ゲームを降り続けるだけだ。
いつかツケを払わされる時が来るまで――そういう風に生きてきた。

直後に強烈な風圧が賭博師の頭を強かに叩いた。
右手に持っていたグラスから盛大に酒が零れ、赤髪を濡らす。
ラスティ・ネイル(錆び付いた釘)――赤錆塗れになった賭博師。
――運命の女神様は随分と皮肉のセンスが利いていて、思わず深い溜息が漏れる。

『呑気に酒飲んでる場合じゃねーだろ! あの凶悪コンビを制して本戦に勝たなきゃいけないんだぞ!
 これより地獄の特訓を敢行する!
 太鼓の達人ポップンミュージックダンスダンスレボリューション! 好きなのを選べ!』

「……アレが一夜漬けの特訓くらいでどうにかなる相手だったら、
 俺は今頃呑気にスロットでも打ってるだろうな。
 まぁ……まずは座れよ。ここはバーだぜ。騒ぐところじゃない」

竜人側の空いた席を顎で差す。
バーテンダーは磨いていたグラスを置いて、既にオーダーを待つ姿勢を取っていた。

「コイツに『XYZ』を頼む。……あぁ、こう見えてもコイツ、年金暮らしだそうだ。
 ちゃんと飲める歳にはなってるさ」

バーテンダーが静かに頷く。
使用されるのはラム、ホワイト・キュラソー、レモンジュース、それらをシェイク。
小さなグラスに飾り気のない白が注がれる。
21 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/04/17(水) 00:27:52.34 ID:vjgQsjlf
「……名前の由来も、ついでに教えてやってくれ」

XYZ――終わりの三文字。転じて『これ以上はない究極』『最高にして最後の酒』の意。
ラムの微かな甘味とレモンの酸味、シェイクによって生まれる氷点下と細やかな気泡が、
柔らかな飲み口を作り出す。誰の口にも飲み易い、究極の名に相応しい一杯。

「あの高飛車楽師は、ソレだ。素人目にも分かるさ。ありゃ格が違う。
 まさに究極、最高で……お前にとっては、終わりみたいなモンか」

だが――と、賭博師は言葉を切り返す。

「そのカクテル……お前みたいなガキには、ちょっとキツいだろう。
 それに飾り気が無さ過ぎる。だから『最高』ではあっても、『最愛』じゃあない」

グラスに満ちた白は受容ではなく、何よりも触れ難い反射の色だ。
どんなに優れたバーテンダーでも、その一杯に手を加える事は出来ない。
完璧であるが故に、既に完結してしまっているからだ。
誰にも触れられない――愛せない。それが『究極』の、唯一の欠点。

「お前が臨むのはギャンブルじゃないんだぜ。アイドルオーディションだ。
 『最高』よりも『最強』よりも受け入れられる『最愛』があったって、おかしくはないさ。
 ……それとも、あの虹色の羽は、お遊戯会の衣装か何かか?」

要するに賭博師の言わんとする事は――



――特訓なんざ誰がやるか。自分で何とかしろ――だ。
22 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/04/20(土) 13:39:27.31 ID:Ux6py1bW
>>4
「ちっ、」
「めんどくさいね。これは」
こいつは、ニャルラドホテプ?
知り合いの、美少女とは、大違いだ。
「まぁ、少しぐらい、改変してもいいよね。言い訳も何となく考えたし。やれ、」
「りょうかい。っと」
アヤカに、アインソフオウルで、結界を壊させる。
でも、見た目はあんまり変わらない。
「こっからが、本番ってことで」
混沌の邪神の前後には、灰色のオーロラカーテンが
「まぁ、こんだけ数揃えたんだ。勝てるっしょ。」
そこから、出てきたのは
全ライダー
全スーパー戦隊
が、立っていた。

なんと、アサキムは、スーパーヒーロー大戦の世界と繋げてしまった。
さっき壊したのは、世界との壁
この結界は、それによって、内部や、外部の干渉を阻止していた。
だが、アサキムは、この結界を作った張本人。
壊すどころか、即興改造もおてのもの
壊したら、後は簡単、召喚したヒーローに、敵を認識させる幻術をかければいい。
「まぁ、精々がんばれや。そいつら、全員相手すんの、如何にお前でも結構キツいよ。」
そう言い、そこを立ち去る
23 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/20(土) 13:40:38.68 ID:Ux6py1bW
>「別に……聞いて楽しい話じゃないさ。話して楽しい話じゃ、もっとないがな。
> 誰も得しないんだから、話す事もない……それだけの事だ」

「苦味は深み、渋みは重厚さよ。
そんでもって、損得考えて生きるのなんか……糞みてぇ。そんな感じじゃね。
ま、話すなら聞くし話さねぇなら聞かねぇさ」

アブサンをちびちび口に運びつつ、ぎしし、と犬歯を顕に竜人は笑う。
ツヨンの酩酊効用は竜人にも僅かには聞くようで、少し普段とは違う雰囲気なのは酒のせいだろう。
普段よりも多少は静かで、落ち着いた話しぶりだったのは、腹を割って話すというのも馬鹿騒ぎと同じほどに竜人が好むものだったからだ。
鋼色の瞳が細められ、相手の青い瞳と合わされて、そして外れる。強い光は、酒が入ろうが抜けようが何時だって輝くだけだった。

そして吹く風。
風によってグラスに囚われた深緑色の湖の湖面には波風が立つ。
それに零れないように竜人が選んだのは、迷いなくそれを一気飲みすることだった。

>「呑気に酒飲んでる場合じゃねーだろ! あの凶悪コンビを制して本戦に勝たなきゃいけないんだぞ!
> これより地獄の特訓を敢行する!
> 太鼓の達人ポップンミュージックダンスダンスレボリューション! 好きなのを選べ!」

まくし立てる吟遊詩人をジト目という名のメンチで睨みつけつつ、竜人はため息。
全くこいつは、といった感じの呆れながらも楽しそうな笑い声が喉元から漏れだして。
鋼の方の腕でこつんとフォルテを小突きつつ、二杯目のアブサンを頼む。

「バッカ、のんきに酒飲んでる場合じゃねーから呑むんだろォが。
俺なんか前日死ぬって戦場でもいつも通り飲んでたぜ?
んでもって此処はバーだしよ。場所には場所柄なりの振る舞いってもんがあんのよ。
って訳でお前さんも今日はおとなしく飲んどけや」

そう言いつつ、ヘッジホッグが顎でさした席に、ゲッツはフォルテの首根っこを掴んでクレーンキャッチャーの様に落とした。
出てきたアブサンに焦がし砂糖をいれて水を入れ、白濁した深緑の液体を竜人はまた啄み始めていた。
そして、XYZを頼みフォルテに飲ませるヘッジホッグの意図を汲んだのか、ゲッツは静かに目を細めて二人の会話に耳を傾けて。

>「お前が臨むのはギャンブルじゃないんだぜ。アイドルオーディションだ。
> 『最高』よりも『最強』よりも受け入れられる『最愛』があったって、おかしくはないさ。
> ……それとも、あの虹色の羽は、お遊戯会の衣装か何かか?」

「俺の義手……『竜刃』はよ、俺の思いで変形して進化する。要するに兵器としては無完成なシロモノな訳だ。
それはな、俺にとっては完成も完璧も完全も、胸をくすぐらねぇからそれを望まなかったからそうなったんだよなァ。
どれだけ不恰好でも、どれだけ無様でも、どれだけ他と劣っていようと、どれだけ何か間違っていようと。
――先に進むため、前に進む為に努力する様ってのは、俺の魂をひりつかせるもんだ。
テメェの有様は、俺にとっちゃ確かに最高じゃねェかもしれねぇよ? だがなァ、俺の魂をひりつかせるのは間違いなくテメェの歌だ。
分かりやすく言ってやるか? フォルテ・スタッカート」

ゲッツの持つ武装は、永久に完成せず、永久に成長し続けることを望んで作られたものだ。
それは、完成とは止まることであるという竜人の思考が生み出したもので。
なりふり構わず前に進むものの方が、完成されて達観した者よりゲッツにとっては好みだったのだ。
そして、ゲッツはゲッツらしくいつも通りに真っ直ぐな言葉を口にしようと、鋼の双眸を凶悪にぎらつかせながら笑って。

「この世の全てがテメェのファンを辞めても、俺だきゃテメェのファンだ。
ってかよ、心臓にサインまでされてんだぜ? 最強かつ未だ成長し続けてる英雄様の卵様である俺様にサインを刻んだお前は間違いなく大物さ。
だからビビんな。胸はって、いつもの様に何処からくるか分かんねぇ無駄な自信抱えて舞台に立ちな。
俺はそれを全力で支えてやる。――戦場じゃテメェに支えられてるがな、今回の舞台の主役は吟遊詩人……、お前なんだからよ」

そこまで言い切って、アブサンを飲み干してミントフラッペを二つ頼むゲッツ。
その振る舞いも、その態度も何もかもが〝いつも通り〟。
いつもと変わる必要など無い、いつも通りで挑んで、いつも通りに勝ってやれ。
だから、今日は飲もうとしよう。それが竜人の言い分、断じて特訓よりも酒が飲みたいわけではない。
24 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/22(月) 23:27:57.37 ID:lAetNqK5
>「……アレが一夜漬けの特訓くらいでどうにかなる相手だったら、
 俺は今頃呑気にスロットでも打ってるだろうな。
 まぁ……まずは座れよ。ここはバーだぜ。騒ぐところじゃない」
>「バッカ、のんきに酒飲んでる場合じゃねーから呑むんだろォが。
俺なんか前日死ぬって戦場でもいつも通り飲んでたぜ?
んでもって此処はバーだしよ。場所には場所柄なりの振る舞いってもんがあんのよ。
って訳でお前さんも今日はおとなしく飲んどけや」

示し合わせたような同じ反応。なんでこいつらこんなに気が合うんだろう!
何故か飲んだくれ達にTPOを言い聞かされ、気付けば物理的に席に着かされていた。
そしてヘッジホッグが勝手に酒を注文する。

>「コイツに『XYZ』を頼む。……あぁ、こう見えてもコイツ、年金暮らしだそうだ。
 ちゃんと飲める歳にはなってるさ」

「えっ、ちょっと……XYZってレシピが謎に包まれたフェネクス特製のトンデモカクテルじゃないだろうな!」

>「……名前の由来も、ついでに教えてやってくれ」

何が入っているか分からない罰ゲームカクテルではないだけ良かったものの――究極とはまたすごい名前つけたな!
一口飲んでみると、確かに美味しい。
明かりに透かして眺めてみる。何かを混ぜるのが憚られるような綺麗な白。

>「あの高飛車楽師は、ソレだ。素人目にも分かるさ。ありゃ格が違う。
 まさに究極、最高で……お前にとっては、終わりみたいなモンか」

「そんなはっきり言うなよ! 素人目にはいい勝負なのを期待してたのに!」

審査するのが素人の集まりならあるいは……という淡い期待も砕け散った。
歌は人と勝ち負け競い合うものじゃない、楽しけりゃ勝ちだ。
ならば何故こんなにも悔しいのだろう。
それは本当は歌でなら誰にも負けないって心のどこかで思っていたから。
だけどアイツは容赦なく現実を突きつけた。虚構の自信を突き崩した。
むしゃくしゃして”究極”のカクテルを一気に呷る。美味しいけど二杯目を頼む気にはならないな……。
やっぱり白より色が付いている方が楽しい。

>「そのカクテル……お前みたいなガキには、ちょっとキツいだろう。
 それに飾り気が無さ過ぎる。だから『最高』ではあっても、『最愛』じゃあない」

「どういう意味……?」

>「お前が臨むのはギャンブルじゃないんだぜ。アイドルオーディションだ。
 『最高』よりも『最強』よりも受け入れられる『最愛』があったって、おかしくはないさ。
 ……それとも、あの虹色の羽は、お遊戯会の衣装か何かか?」

「最高も無理だけど最愛はもっと無理だ。人間って異質なものを怖がるんだよ……」
25 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/22(月) 23:29:48.37 ID:lAetNqK5
普段翅を隠しているのは、一見人間のようなオレの背に妖精の翅を見れば普通の人間は怖がるから。
人間にとって異種族は畏怖の対象で、彼らと交わるのは禁忌で。
そして禁忌の証を前にしたとき畏怖は恐怖から嫌悪へと転化する。
それを差し引いても我ながらいわゆる誰からも愛される、ってタイプではない。
本当はアイドルなんて柄じゃない、実力で勝負するしかない、なのにそれすらも……

>「俺の義手……『竜刃』はよ、俺の思いで変形して進化する。要するに兵器としては無完成なシロモノな訳だ。
それはな、俺にとっては完成も完璧も完全も、胸をくすぐらねぇからそれを望まなかったからそうなったんだよなァ。
どれだけ不恰好でも、どれだけ無様でも、どれだけ他と劣っていようと、どれだけ何か間違っていようと。
――先に進むため、前に進む為に努力する様ってのは、俺の魂をひりつかせるもんだ。
テメェの有様は、俺にとっちゃ確かに最高じゃねェかもしれねぇよ? だがなァ、俺の魂をひりつかせるのは間違いなくテメェの歌だ。
分かりやすく言ってやるか? フォルテ・スタッカート」

静かに語り始めたゲッツに、顔を上げる。

「望みさえすれば”完全”が手に入ったの? ゲッツはそれを拒んだの……?」

至高の美、永遠なるもの、究極の理想を追い求めるのは芸術家の性だ。
確かにそこにある手を伸ばせば届きそうな輝き。其れに対する恋にも信仰にも似た胸を締め付けるような憧憬。
空の彼方の星に手を伸ばしても、当然届くはずがないのと同じで。
表現したい世界がこんなにも確かにあるのに。ほんの欠片ほども表現出来なくて、もどかしくて、足掻いて……。
でも今なら、オレが望みさえすれば完全が手に入る。
どうせ寿命は長いんだ、哀れな詩精に生命力少しぐらいくれてやってもいい。
だけどゲッツは足掻く様にこそ意味があると言ってのけた。

>「この世の全てがテメェのファンを辞めても、俺だきゃテメェのファンだ。
ってかよ、心臓にサインまでされてんだぜ? 最強かつ未だ成長し続けてる英雄様の卵様である俺様にサインを刻んだお前は間違いなく大物さ。
だからビビんな。胸はって、いつもの様に何処からくるか分かんねぇ無駄な自信抱えて舞台に立ちな。
俺はそれを全力で支えてやる。――戦場じゃテメェに支えられてるがな、今回の舞台の主役は吟遊詩人……、お前なんだからよ」

「……当ったり前よー! オレは未来の英雄様の伝説を謳う者だぞ!」

そう言い放ち、バルコニー席がある外に走り出る。
その途端に目にたくさん溜った涙がぼろぼろ零れてきて、押し売りにきた背後霊に心配される有様だ。

「うぅ……えぐっ……ひっく……」

『大丈夫……?』

「違うんだ。たった一人でもファンがいる事がこんなに嬉しい事だったなんて……。
ごめんね……せっかく来てくれたのに断らなきゃいけない。
その人、完全なんていらないって言うんだ。おかしいでしょ?
届かない星に手を伸ばして格好悪く足掻く様にこそ意味があるって」
26 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/22(月) 23:32:26.31 ID:lAetNqK5
『本当にいいの? 超人気シンガーソングライターになったら何千万人のファンを得られるかもしれないんだよ?』

「いいんだよ。オレのたった一人のファンは流行に乗っかっただけの何千万人のファンよりもずっとずっと価値があるんだ」

『……分かった。君はいくら付きまとっても契約してくれそうにない。大人しく身を引くよ』

すごすごと去っていく詩精……と思いきや、ぱさっと半透明の何かを落とした。
“恥じらいポエムノート”と半透明の文字で書かれているそれを拾い上げて半透明のページをぱらぱらとめくり、唖然とする。
なんというか――詩精……だよな!? 生命力と引き換えに至高なる詩の才能を提供するという詩精で合ってるよな!?
いや、至高の芸術すぎてオレの理解を越えているのかもしれない!

『嫌―――――!! 見ないで-―――――ッ! 駄目なんですセンスないんです!』

落し物に気付いた詩精が物凄い勢いでUターンしてきてポエムノートを奪取した。

「いやいや、詩精だろアンタ!」

『だってまだ誰とも契約してないですから!
契約して生命力を貰えば超イケてる詩が作れるようになるんじゃないですか?』

「ん? 詩の才能は最初から持っていてそれを提供する対価として生命力を貰うんじゃなかったっけ」

『ウソだドンドコドーン!』

「オレの葛藤は何だったんだぁああああああ!!」

あかんわこの子、そもそもの詩精システムを勘違いしとる!
どこの業界にも落ちこぼれというものは存在するらしく、完全なる詩の才能なんて最初から手に入らなかったわけだ!
あの他人を道具としてしか見ないドSド外道のお膝元で、この落ちこぼれの詩精はどれだけ虐げられてきた事だろう。
今度こそすごすごと帰ろうとする詩精に後ろから声をかける。

「待て! あんな奴のところに帰る事ねーよ! オレと一緒に来い! 絶対契約はしてやんないけどな!」

『いいの? 役に立たないよ?』

詩精は戸惑ったようにこちらを見つめている。

「オレに付いてくるからには役に立つとか立たないとか言うんじゃねー! 今度言ったらアイツのところに送り返すぞ!」

『うわぁあああああん、フォルっちー!』

小さい美少女が物凄い勢いで飛んできて肩の上に乗った。いつの間にか半透明じゃなくなっている。
何だ、ちゃんと実体化できるんじゃん!
オレはキーボードに変化させたモナーを抱え上げながら言う。
27 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/22(月) 23:33:29.71 ID:lAetNqK5
「ゲッツはああ言ったけど少しだけいつもと違う事をやろうと思うんだ。付き合ってくれる?」

歌って本当に凄いと思う。気持ちを代弁してくれる歌を探せばあらゆる状況において存在するといっても過言ではない。
でもやっぱりオレの感情を完全に表現できるのは、オレの言葉だけだ。
いや、完全から程遠くたっていい。届かぬ星に手を伸ばす事こそに意味があるのだから。
夜空にキーボードの音が響く。それを聞いた詩精が五線譜にペンを走らせる――
英雄になる事を望む少年と英雄譚を謳う事を夢見る少女の出会い、それはきっと、壮大なサーガのはじまりを飾る曲。

『ねえ、それってさ……』

「ンなわけねーだろ!」

♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

「ねえ見て見て。 可愛いでしょ!」

ゲッツ達に何事もなかったかのように駆け寄り、肩の上に座っている小さい美少女を指さす。
ヘッジホッグにとっては最初から見えてたから今更だろうけどゲッツの反応が見ものだ。
小さい美少女がゲッツとヘッジホッグの間の空間に陣取り、五線譜ノートを広げて見せる。

『じゃじゃーん! 本戦で使う曲だから予習しておくように!』

「ははっ、小さい美少女なんて見えるぞ、疲れてるのかな」

オレはというと、ミントフラッペを飲みながらわざと余所を向いて知らん振りをするのであった。
28 : 這い寄る混沌 ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/23(火) 23:36:25.56 ID:PukbIdEK
>>22
世界の壁が壊され、現れたのは……仮面でバイクを乗り回す不審者とカラフルなピチピチスーツを着た変態の集団であった!
ところで語り手はかねてより疑問に思っている事がある。
今やピチピチスーツは戦隊ものの様式美と化していて誰も疑問に思わないが
最初に戦隊物を考えた人は何でヒーローの戦闘服をピチピチスーツにしようと思ったんだろう。
だって普通に考えてあんなスーツ着て戦いたくないぞ。
そんな事は置いておいて、ヒーロー達は這い寄る混沌に一斉攻撃をしかける……はずだったのだが。
戦隊が強力な攻撃を繰り出すには5人揃わなければいけないのだ。
歴代戦隊がひしめきあうこの中で同一シリーズの5人が集まるのは至難の業であった。多けりゃいいというものではない。

「どこにいるんだ! グリーン、ブルー、イエロー、ピンク!」
「はいはい! ここにいます!」
「はあ!? お前シリーズ違うだろ! 俺、マ○レンジャーだから!」

少しデザインが違うだけでピチピチスーツという点では皆似たようなものだ、仕方がない。

「ええい、こうなりゃ巨大ロボットで一気にケリを付けるぞー!」
「この際5色揃えば何でもいいや!」

普通は戦隊もののクライマックスシーンでは
シリーズごとに定められたテーマに従った統一性のある小型ロボが飛んできて合体するものであるが
今は同一シリーズで揃えている暇が無いので5つそれぞれ全く脈絡のない不揃いなパーツが場の勢いで合体した!
――カッ!! 眩い光がおさまった時、そこにいたものは……

『中華4000年の歴史……先 行 者 !!!!!!!!!』
「変なの出たああああああああああああ!!」

どことなく馬鹿っぽい手の上げ具合に、とても投げやりな感じの顔立ちという素敵デザインのロボットであった。
そして基本的な言語能力完備! 股間にキャノン砲を搭載!

『キャノン砲発射準備!』

先行者は股間のキャノン砲を充填しはじめた!
そこに時空を超える電車が猛スピードで突っ込んでくる。
仮面ライダーの中で唯一バイクではなく電車に乗るシリーズがあるのは有名な話である。

「ヒーローは遅れてやって来るってな、俺参上!」
『電車は邪道!』
「ぎゃあああああああああ!!」

ドゴーン! 何故かキャノン砲が電車に向かって発射された! 真っ二つになって吹っ飛ぶ電車。
数十人の戦隊ヒーロー達が電車の残骸の下敷きになる大参事!
終末を越えてカオスと化す――これが這い寄る混沌の本当の恐怖! どーする導師様!?
29 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/04/25(木) 22:24:37.60 ID:YSeVQJC/
『……当ったり前よー! オレは未来の英雄様の伝説を謳う者だぞ!』

「――つくづく、バーには似つかわしくない奴だな、アイツは。
 これで氷が溶ける前に帰って来なかったら……役満だぜ」

置き去りにされたミントフラッペを横目に、グラスに残った僅かな酒を一息に煽る。
下手糞な笑顔に震えた声――お陰で酒の味は最悪だ。
バーテンダーには営業妨害で奴を訴える権利があるだろう。

「で、どうするんだ。お前の財布、随分と重症みたいじゃないか。
 まさか、今度はアイツをあやしてこいだなんて頼みやしないだろうな。
 ガイドの真似事くらいはしてやれたが、ベビーシッターは流石に業務外だぜ」

視線は動かさず、言葉一つで責任の所在を隣の竜人に預け切る。

「それに……ただの戦闘馬鹿って訳でも無かったんだな、お前。
 お前みたいな奴は――好きじゃないぜ。やり難いったら、ない」

この手の輩は時折、他人の懐に深く飛び込んでくる。
恐ろしく絶妙に。無視出来ないくらい近く、突き放せない程に遠く。
無自覚的に、己が馬鹿である事の利点を理解し、最大限活用しながらだ。
捨てた筈の過去を、理想を、引きずり出される様な感覚を堪能させてくれる。
いや――違う。

『損得考えて生きるのなんか……糞みてぇ。そんな感じじゃね。』

微かにアルコールの巡った頭に、竜人の言葉が残響する。

――確かに、アイツはクソ野郎だった。
頭にあるのはいつだって、何が欲しくて、どうやって得るか。
ただひたすら欲の為だけに生きて――だから俺は、一度死んだんだ。

――過去を呼び戻していたのは自分自身だ。
臆病風はいつの間にか、賭博師の足を再び、かつて忌み嫌った生き方へと誘っていた。
欲の為に生きて、欲の為に死んでいく――そんなのは絶対に御免だ。

欲望とは人生を楽しむ為の玩具だ。誰が握っているのかも分からない手綱じゃない。
コインかダイスの様に、指先で手慰みにして、弄んでやる。俺がお前を乗り回してやる。
新たな生を得た時に、そう誓った。
その誓いこそが自分とアイツを隔てる境界線。
踏み破る訳には、いかない。

「……だが、まぁ、なんだ。他人の金で飲む酒ってのは、美味いモンだ。
 コイツの為なら……もう少し、お節介を焼いてやってもいいかもな。
 アイツがまた、バーで泣きべそを掻いたりしなけりゃの話だが」

酒代程度じゃ到底釣り合わないトラブルは目に見えている。
――だからこそ、やってやる。
30 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/04/25(木) 22:25:54.80 ID:YSeVQJC/
『ねえ見て見て。可愛いでしょ!』

「……一体何を言ってるんだ?お前は」

『じゃじゃーん! 本戦で使う曲だから予習しておくように!』

『ははっ、小さい美少女なんて見えるぞ、疲れてるのかな』

「小さい美少女?そんなモン、一体何処に――あぁ、成程な。
 やっぱりさっきのカクテルが良くなかったか。……まぁ安心しろ。
 一晩寝ればちゃんと治る――――奴もいるからな」

詩精など、これっぽっちも見えていないと言った体で賭博師は憐憫の眼を楽師に向ける。
勝手に落ち込んで、勝手に立ち直って、悪戯に酒を不味くしてくれた礼には丁度いい。
31 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/25(木) 22:27:20.24 ID:YSeVQJC/
>「……当ったり前よー! オレは未来の英雄様の伝説を謳う者だぞ!」

>「で、どうするんだ。お前の財布、随分と重症みたいじゃないか。
> まさか、今度はアイツをあやしてこいだなんて頼みやしないだろうな。
> ガイドの真似事くらいはしてやれたが、ベビーシッターは流石に業務外だぜ」

「いんや、あいつなら勝手に戻ってくるさ。
ミントフラッペが溶ける前には必ずケロッとした顔で帰ってくるね、賭けてもいいぜ?」

ゲッツはヘッジホッグの言葉に対して、犬歯をむき出しにして笑うゲッツ。
酒を煽る姿は、先ほどから変わりはしない。責任の所在を預けられたとて、どうってことはない。
ある程度ゲッツはあの吟遊詩人の人格は理解していたし、この程度で折れる類の精神構造はしていないことを知っている。

>「それに……ただの戦闘馬鹿って訳でも無かったんだな、お前。
> お前みたいな奴は――好きじゃないぜ。やり難いったら、ない」

「馬鹿なら戦いは楽しめねぇよ。戦いを味わって楽しみ尽くすにゃ、学者様とかとは違う頭が居る。
戦闘狂は馬鹿の仕事じゃねぇのさ。馬鹿の戦闘狂は直ぐに死んじまうからな。
んでもって――俺はお前さんみたいなのは割りと好きだぜ? テメェの在り方ってのを理解してる奴は強いからなァ」

鋼色の瞳を細めながら、ゲッツは真っ直ぐに相手を見据える。
一方向からこの竜人を見れば確かに馬鹿だろうが、ある一点から見ればただの馬鹿とは言い切れない。
戦いについては猪突猛進以外の手も使うし、また挑発にも正気を失うこと無しに挑むことが出来る。
それがゲッツが、馬鹿には戦闘狂は出来ないということだろう。
戦いを深く考えぬものが、戦いの全てを狂ったように楽しむことは出来ないのだから。

酒の酔に揺られながら、にやりにやりと笑顔を垂れ流す竜人。
瞼を閉じれば黒いスクリーンに投影されていく、様々な戦いの光景。
どれも通常生きていれば体験することのない極上の死地であり、最高の戦場だった。
そして、今日の敵であった同種の神官と、精霊楽師。
彼らはこれまで戦った相手と較べてはるかに強いわけでは決して無い。
だがしかし、ひりつく感覚はたしかに彼らから感じられた。言うなれば、魂が燃えるような、そんな感覚だ。

「――叩き潰すにァちィと惜しい。骨の髄まで楽しみ尽くしてやらァ。
それが俺の王道――正道だからなァ」

胸の傷からざわりと負の色彩を持つ光が漏れだし、そして消えた。
厄災という明らかに負の印象を与える世界観を持つ、ゲッツ。
その力は、これから先どのように役立つのかはわからないが、気にすることはない。
祖神と出会い、どのようなカタチでも力は力である事は理解しているし、己の在り方にも一つの指針を見出していたから。
だから、ゲッツの有様は今日の戦いでも、新たなアイン・ソフ・オウルとの出会いでもそう揺らぐことはなかった。
32 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/04/25(木) 22:29:06.15 ID:YSeVQJC/
>「……だが、まぁ、なんだ。他人の金で飲む酒ってのは、美味いモンだ。
> コイツの為なら……もう少し、お節介を焼いてやってもいいかもな。
> アイツがまた、バーで泣きべそを掻いたりしなけりゃの話だが」

「もういっちょ賭けだ。なんだかんだやかましく戻ってくるのに一兆ジンバブエドルな」

ゲッツが自分の分のミントフラッペを飲み干した直後に、やかましい奴は戻ってきた。

>「ねえ見て見て。 可愛いでしょ!」
>『じゃじゃーん! 本戦で使う曲だから予習しておくように!』

「オウ、地元のマンドラゴラみたいで美味そうだなおい。
刺身と漬けどっちがいいよ――ってのは冗談で、ほォ……あのガキの手下かァ?」

戻ってきたフォルテの肩に座る美少女をおもむろに指先で摘み上げるゲッツ。
鼻をすんすん鳴らして暫く立って、その正体にたどり着く様は、どう見ても犬か何かだ。だが竜人だ。
刺身にするとか漬けにするとか結構散々で涙目になっているが、げらげら笑ってフォルテの肩に載せ直すのだった。

「いい曲じゃン。
――俺にできることつったら、ちょっとした踊りくらいかね。
足捌きは舞踊と武道には通じるものが有るからよ、出来ねェわけじゃァねえんだぜ?
あと小さい美少女。てめェが幾ら美少女でも俺のほうがイケメンで格好良くで鱗ピカピカだからそのつもりでなァ?」

アブサンをちびちびやりながら詩精にナチュラルに絡み酒をかます竜人。
ヘッジホッグがちょっとした仕返しをするのに対して此方はどこまでも平常運転だった。
33 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/26(金) 23:33:31.29 ID:QmbDmlyX
>「小さい美少女?そんなモン、一体何処に――あぁ、成程な。
 やっぱりさっきのカクテルが良くなかったか。……まぁ安心しろ。
 一晩寝ればちゃんと治る――――奴もいるからな」

「何で存在を認めてくれないんだよ! なあゲッツ、ここにいるよな……おんぎょおおおおおお!?
食いもんじゃねーよ!?」

小さい美少女はゲッツに摘まみあげられて、肉食獣に捕えられた小動物のごとくじたばたしていた。

>「オウ、地元のマンドラゴラみたいで美味そうだなおい。
刺身と漬けどっちがいいよ――ってのは冗談で、ほォ……あのガキの手下かァ?」

『否、”元”手下であります! あんな奴の所にはもう金輪際帰らないであります! ちょっとフォルっち、何なのコイツ!?』

「何かって聞かれたら色んな答えがあるけど……オレの一番のファンかな」

>「いい曲じゃン。
――俺にできることつったら、ちょっとした踊りくらいかね。
足捌きは舞踊と武道には通じるものが有るからよ、出来ねェわけじゃァねえんだぜ?
あと小さい美少女。てめェが幾ら美少女でも俺のほうがイケメンで格好良くで鱗ピカピカだからそのつもりでなァ?」

呆れた振りをしてそっぽを向いて、零れ出る笑みを隠す。 今いい曲って言ったよね!?

「全くお前は……小さい美少女と対等に張り合ってんじゃねー! なんかお腹すいたな……。
マスター、野菜オムレツとアボガドのチーズフォンデュとナッツの盛り合わせお願いします!」

考えてみれば当たり前だ、結局この街に着いてから何も食べていないのだから。
お腹がすくのも忘れる程本気で悔しがったり悩んだり泣いたりしたなんて、らしくないな――
妖精吟遊詩人なんていうものは一歩引いた位置でおちゃらけておくのが丁度いいのに。
泣いてたのがバレバレなのが恥ずかしくなって、出て来たナッツをポリポリ齧りながら全く違う議題を繰り出す。
34 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/04/26(金) 23:34:09.95 ID:QmbDmlyX
「小さい美少女じゃ何かと不便だと思うんだ。そこで名前を付けようと思う。
だからってアンチョビシュールストレミング14世とかいうDQNネームは無しの方向で。
逆にポチとかコロとか安易すぎるのも駄目。
詩精……ラナンシー ……ナンだとカレーに付けるパンだし……ラッシーじゃどこの名犬だよ!」

―― 今回の舞台の主役は吟遊詩人……、お前なんだからよ

こんなに調子狂ったのはお前のせいなんだぞ。
これでもATフィールドの固さは根暗の引きこもりにもひけを取らないのにさ……ただガードの仕方が違うだけで。
ゲッツは、無意識のうちに避けている事――心の奥底に眠っている自分でも気付いていない願望を容赦なく引き出してくる。
オレは傷付くのが怖くて、本気でやって笑われるのが怖くて、主役を避ける生き方をしてきたんだ。

「そうだな……ナンシー、とかどうだろう」

出て来た物を食べきったらお腹がいっぱいになってテーブルに突っ伏す。

「ゲッツ……本戦で低音パートを歌ってくれないかな?」

そう言ってから、ゲッツが絶望的に音痴だった事を思いだす。
それに……あの歌でイメージされている英雄を目指す少年がプロレスラー体系のマッチョなんて有り得ないのである!

「いや、やっぱヘッジホッグの方がいい……かも……? 導師様も歌が上手かったっけ……」

まずいな、だんだん意識が遠のいてきた。こんな所で寝たら……駄目だ…ああ、本戦楽しみだ…な……
35 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/05/01(水) 00:01:51.51 ID:FOkT3zr7
>>28
えぇぇぇぇんヒーローがやられてるよぉぉ;;
なんて子供なら、言うのだろうだが
アサキムは、凄く笑顔だった。
「ニャルラドホテプよ。ネガの始末をしてくれて有り難う。」
(召喚陣の書き方間違えたかな)
よく見ると、なんか、色が雑な戦隊もいるし
「悪の軍団は不滅だぁぁぁ」
なんていう。奴もいたし
「ニャル子を呼ぶか」
ニャル子に電話して、脅して呼ぶ。
脅し内容は、導師としてのイメージが崩れるから内緒だよ☆
36 : ニャル子? ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/01(水) 20:09:18.34 ID:/RVwoNKN
>>35
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! ニャル子です☆」

アサキムの召喚に応じ、銀髪の美少女が乱入する。
いかにも神話の神が持っていそうな豪奢な装飾が施された剣を掲げ、高らかに呪文を詠唱する。

「――オーロラオーラ!」

空間を虹色の光が走り、変なロボットが消滅する。そして暗闇が照らされ、”這い寄る混沌”がその姿を現した。
顔の無い円錐形の頭部、それが乗っているのは不定形の肉塊。
そしてその肉塊から無数に生えた触腕や鍵爪が不気味に蠢いているのだ。
大変だ、普通であればこの姿を見た者は発狂してしまう。しかし誰一人として発狂する様子は無い。何故なら――

「あ、これ? 聖剣ヴラグフェルド。エレメントセプターをアレに渡しちゃったでしょ?
ビジュアル的に神話の神っぽい武器がないと格好つかんから、銅の剣になってたのをイースの民に元に戻して貰ったの。
なんかビジュアルしか元に戻ってない気もするけどまあいっか」

地の文の流れなんてお構いなしにアサキムに向かって妄言を垂れ流すニャル子。
気を取り直して、何故なら――

「もう、アサキム導師ったら~。
いくら何でもニャル子にナイト&アルト倒すの手伝えって言っても無理っしょ。
だって本質的には同一人物だよ!? いや、同一種族……と言った方が近いのかな?
だがしかし確かにバハムートとベヒモスを別物に仕立て上げちゃった超大作RPGも存在する! それは……」

何も無い胸を張って高説賜るニャル子。というかこいつは本当にニャル子なのか!?
否、ニャル子は貧乳ネタで弄られない程度には普通に巨乳の美少女だったはずだ!(※ ラノベ的普通乳=巨乳)

「「っざけんなァ、フェアリー・テイル・アマテラス・ガイアァアアアアアア!!」」

ついに痺れを切らしたナイト&アルトの声が響き渡る。
もうバレバレだと思うがニャル子の正体はニャル子のコスプレをしたテイル(ガイアver/戦闘形態)であった!
天位の座を追われたとはいえそこは調和のアイン・ソフ・オウル。
この隔離空間においてはただそこにいるだけで人々が狂気に堕ちるのを阻止し、謎の混沌パワーを封じる。
混沌の化身からしてみれば最悪の相手であった。

「「皆殺しじゃぁああああ!! ゴルゥアアアアアアアアアアア!!」」

“這い寄る混沌”は、無数の鍵爪を展開し一同を切り裂かんとしてくる。
しかし混沌パワーを封じられた這い寄る混沌など恐れるに足りないだろう。
37 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/05/04(土) 23:53:34.66 ID:M3gfPmrw
>>「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! ニャル子です☆」
>>「オーロラオーラ!」
ニャル子が登場した。そして魔法が発動された。
「おい、アヤカ?ニャル子って魔法使えたか?」
「ううん、使えない。」
「でも、CV.あ○み○だよね?」
「うん。でも、魔法使ってるね。」
「「まさかとは思うけど」」
そんな事をボヤいてると、ニャル子?が話しかけた。
「随分と長い話に、なったが、大分CVが、新○里○に近づいたな。」
「何でだろ、イタく見えてきた。」
「言うな、アヤカ。」
以上の結論から、ニャル子?はテイるト判明しました(苦笑)

世間話をしていると、にゃるらどほてぷがキレて、攻撃してきた。
でも、手で叩く程度で、打ち落とせるので
問題ない
「さっさときめちまうか。アヤカ」
「了解!対極」
「陰陽」
「「破邪砲!」」
二人の、火と水の砲撃が、うねりを上げて
にゃるらどほてぷを包み込む
38 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/05/04(土) 23:54:41.02 ID:M3gfPmrw
『何で存在を認めてくれないんだよ! なあゲッツ、ここにいるよな……おんぎょおおおおおお!?
 食いもんじゃねーよ!?』

「お前は……本当に騒がしくて、大した奴だよ。
 俺に二杯目のグラスを諦めてでもバーから去りたいと思わせたのは、お前が初めてだ。
 しかも、それでまだ酔っ払っちゃいないってんだからな」

『オウ、地元のマンドラゴラみたいで美味そうだなおい。
 刺身と漬けどっちがいいよ――ってのは冗談で、ほォ……あのガキの手下かァ?』

『否、”元”手下であります! あんな奴の所にはもう金輪際帰らないであります! ちょっとフォルっち、何なのコイツ!?』

『何かって聞かれたら色んな答えがあるけど……オレの一番のファンかな』

「なんて言えばいいんだ?凄く感動的な答えなんだろうが……
 ……摘み上げられて食われかけてた奴が求めてる答えじゃなかっただろうな」

投げやりな口調。
この二人に常識的思考が通用しないのは、賭博師もいい加減理解した。
ついでに、この先、自分がこうして突っ込みを入れる機会は増える一方だと言う事もだ。

『いい曲じゃン。
 ――俺にできることつったら、ちょっとした踊りくらいかね。
 足捌きは舞踊と武道には通じるものが有るからよ、出来ねェわけじゃァねえんだぜ?
 あと小さい美少女。てめェが幾ら美少女でも俺のほうがイケメンで格好良くで鱗ピカピカだからそのつもりでなァ?』

「だったら俺はプロデューサーをやってやるさ。
 優勝してからの事は任せといてくれ――それまでの事は全部任せた」

『全くお前は……小さい美少女と対等に張り合ってんじゃねー! なんかお腹すいたな……。
マスター、野菜オムレツとアボガドのチーズフォンデュとナッツの盛り合わせお願いします!』

「……お前、カウンターの向こうでフライパンを振り回してるバーテンダーを見た事あるのか?」

もっとも幸いな事に此処はカジノホテル――レストランだって一階にある。
バーテンダーが気を利かせて、オーダーはそちらに回す。
――自店の酒よりも他所の皿に夢中の客を前にした、バーテンダーの心境は芳しくないだろうが。

『小さい美少女じゃ何かと不便だと思うんだ。そこで名前を付けようと思う。
 だからってアンチョビシュールストレミング14世とかいうDQNネームは無しの方向で。
 逆にポチとかコロとか安易すぎるのも駄目。
 詩精……ラナンシー ……ナンだとカレーに付けるパンだし……ラッシーじゃどこの名犬だよ!』

『そうだな……ナンシー、とかどうだろう』

「悪くないな――つまり頭から音が抜けちまってるって意味だろ?」

賭博師が毒を吐く。
誰かに名前を貰える事への羨望、その裏返し――半ば無意識の事だった。
半ば、だ。賭博師は間抜けじゃない。自分自身の姿がよく見えてしまう。
欲深な蒼眼など無くともだ。
ワインをボトル一本丸ごと、頭から引っ被りたい気分になった。
39 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/05/04(土) 23:57:00.62 ID:M3gfPmrw
『ゲッツ……本戦で低音パートを歌ってくれないかな?』

『いや、やっぱヘッジホッグの方がいい……かも……? 導師様も歌が上手かったっけ……』

「……生憎だったな。俺は恥ずかしがり屋なんだ。寝言だったって事にさせてもらうぜ。
 おい竜人、俺は年金暮らしのシニアをスイートルームに連れ込む趣味はないぜ。
 保護者責任はちゃんと果たすんだな」

カウンターに突っ伏して本格的に眠り出したノータリンを憐れみの眼で見下ろし、溜息を一つ。
視線を上げる。

「――バーテンダー。ゴールデンドリームを頼む」

散々騒がしくして、自分も少し喋りすぎた。
ここは酒場――おしゃべり広場じゃない。
この上、たかが一杯や二杯のグラスで席を立つのは気が引ける。
――長い夜を酒に沈めるには、悪くない口実だ。

眼の前にグラスが差し出される。
柔らかに濁った淡黄色――バーの薄赤い照明がそれを、黄金に生まれ変わらせる。
軽く口をつけた。

「……甘い、な。やっぱり俺には少し甘すぎたか。――ま、願掛けには丁度いいさ。
 お前達の明日が、この一杯の様に柔らかで……甘い物であるといいな」
40 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/05/04(土) 23:57:42.57 ID:M3gfPmrw
――翌日、賭博師の目覚めは最悪だった。

「……悪いが先に行っててくれ。持病の発作で目が見えないんだ。
 少し休めばすぐに治る――具体的には後三十分くらいだな……」

持病の病名は二日酔い――症状は強い二度寝の渇望感と、暴力性の向上。
もし小煩い精霊楽師が朝っぱらから騒ぎ散らそうものなら、実力行使も辞さない。
無論、三十分後に気分が良くなって、まだその事を覚えていたらの話だ。

「嘘じゃないぜ……俺達はチームだろ。俺を信じろよ――
 ――三十分経ったら絶対にドームまで駆けつけるさ」

結論から言えば、賭博師は嘘を吐かなかった。
約束を守り、確かにドームの中に賭博師はいた。
ごった返したドームの観客席に。

「どの道、譜面も歌詞も覚えちゃいないんだ。俺がいなくたって関係ないだろ」

呟く賭博師の手には本選用のパンフレット。
形式はトーナメント制。
勝負は両チームが同時にパフォーマンスを行う。
客席には特殊な魔術陣が施されており、観客達の感情の変移を観測出来る。
より強く、観客達を歓喜、興奮、畏敬、恐怖――感動させた方が勝者となる。

最後に、直接的な戦闘、つまり暴力行為は――両チームが同意した時のみ、許可される。
ただし、その場合も勝利条件は変わらない。

「まぁ、か弱い少女達がムキムキの竜人にぶん殴られて終わりじゃ、酷すぎるよな。
 それで……最初の対戦相手は――?」

賭博師の指がパンフレットを捲る。頁一枚分の未来、そこに記されているものは――

「……こりゃまた、初っ端から苦労しそうだな」



――これから、決められるものだ。
41 : テイル ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/05(日) 00:44:14.53 ID:+TDsdEYA
>>37
>「陰陽」
>「「破邪砲!」」

メ○ローア……じゃなくて陰陽破邪砲が炸裂し、ニャルラトホテプを包み込む!

「惜しい事を…」「我らを」「受け入れれば」「天位を狙える力を」「手に入れられたというのに」

負け惜しみのような言葉だけを残して――炎と水の奔流がおさまった時、そこには何も残っていなかった。
それと同時に暗黒の空間が砕け散り、周囲の風景が塗り替わる。
他の街よりもひときわ大きい喧騒に、鮮やかな色彩。どうやら無事に元の世界に帰ってきたようだ。

「やれやれ、バロックの海に帰ったか」

と、黒いローブをまとい、フードを目深に被った何者か。
顔を覗き込むと金色の髪に青い瞳の女神である事がわかるだろう。まるで顔バレを怖れる芸能人である。
そしてそれを言うならディラックの海だ。

「バロックといえばこうしちゃいられない、音楽祭の本戦始まっちゃうよ!」

2,3歩歩きだしかけて振り返る。

「何しに行くかって? もちろん観戦……じゃなくて警備。
いや、さっきみたいのが出て来たから警戒するに越した事はないかなーって。
祭りっていうのはいつの世もどさくさに紛れてやんちゃする奴が出るもんでしょ。
神魔大帝はあの時人為的に”厄災”を呼び出し頂天魔となった……。
もしもあの時と同じように”厄災”を呼び出すものを持ち込んでる輩がいるとしたら……一大事だ。
……まあアレが出るらしいから合間に聞いてくれてもいいけど?」

この親馬鹿(馬鹿親?)、警備を口実に友人夫婦を我が子の応援に誘っているだけではなかろうか!?
42 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2013/05/05(日) 03:36:00.04 ID:1tqr27I/
「ふむ、やはり奴等では事態を解決できたようだな」

「此処では余り派手な活動は出来ませんでしたが、アサキム導師とアヤカ殿ならば
解決できるはずです」

一方、このフェネクスにて彼の出身世界である理想郷群が交流しているという事で
様々な事情があるが、第一に死んで居る事になるエスペラントは表立って自身の身分を明かす行動が出来ない
正確に言えば彼の本名である人間は人間を辞めた時点では死んだとも言えなくも無いが

ともかく彼は公式上では死んでいる人間が、故郷の国家などに知れ渡るのは非常に不味い状態になる
場合によっては戦争や既に本人死亡で失効になっている広域指名手配などもありえる為
今この場では余りにも目立つ行為は避けなければならない

「それで尚且つ指令(オーダー)をこなさなくてはいけないのが
宮仕えも辛いところだ」

「必ずこの場では何かしらの出来事が起きるでしょう
彼らは動きを見せるはずです」

なんにせよこのフェネクスの地に置いて神魔コンツェルン
や世界再編組織レヴァイアサン―この世界ではいろんな者達の思惑が渦巻いている
このような場所でも目を離せない
二人は、始まる音楽祭の本戦を見ながら細心の注意を払いながら
周囲に対しても観察の目を向けていた
43 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/05/09(木) 21:27:11.61 ID:cEntwel8
>「だったら俺はプロデューサーをやってやるさ。
> 優勝してからの事は任せといてくれ――それまでの事は全部任せた」

「あれだろおい、お前さんノリに乗じていい所だけ持ってこうって算段だろ?
キヒハっ、そうは問屋が許さねぇさ。
悪ィが俺らに同乗するてんなら地獄か天国かは分からねぇがとにかくノンストップの片道切符だからよ。
ま、精々穏便にこのイベントが終わるのを待てば良いんじゃねーの、穏便に終わらせるのにお前さんが巻き込まれる可能性も十二分にあるけどよ」

ヘッジホッグの発言のウラを読み、犬歯をむき出しにしながら竜人はげらげらと下品に笑う。
相手が何かと干渉せず、傍観者で居たがる事は何となく竜人は感じていた。
関わりたくないのならば此方から巻き込んでやる。そんな迷惑な発想が出てくるのがこの竜人だった。

>「ゲッツ……本戦で低音パートを歌ってくれないかな?」

酒をかっ喰らいつつ、新たな仲間と吟遊詩人のコントを見ていれば、此方にネタはふと振られた。
そして歌を歌えと今回の主人公様は、この竜人にのたまってみせて。
竜人はうげ、と声を漏らしつつ、後頭部をごりごりと書いて、苦笑を浮かべ。

「……保証はしねぇがやってやる。
なに、勝負事だってんなら俺にも相応の手は有るからよォ」

一応歌ってやる、そう言って見せれば、目の前には既に寝腐っているフォルテが居る。
竜人はため息をつきつつ、自分のジャケットを相手にかぶせて、酒を一杯ちびりと流し込んだ。

>「……生憎だったな。俺は恥ずかしがり屋なんだ。寝言だったって事にさせてもらうぜ。
> おい竜人、俺は年金暮らしのシニアをスイートルームに連れ込む趣味はないぜ。
> 保護者責任はちゃんと果たすんだな」

「後で適当に布団に放り込んどくさ、この幸せっぷりならタイルだろうがシーツだろうが見る夢は変わんねぇだろうし。
あと、因みに俺は恥ずかしがりなんて要素は欠片もないっ、何せイケメンで最強だからな。
だからこいつの面倒は俺が見ておくから心配はいらねぇよ」

横でカウンターに突っ伏す妖精っぽい吟遊詩人を見て、苦笑を浮かべ。
任せておけと竜人は胸を張る。胸筋のせいで並のおなごよりも遥かに胸囲が有った。

>「――バーテンダー。ゴールデンドリームを頼む」
「さて、も一杯。……アブサンと砂糖で」

普段からの愛飲酒ではあるが、芸術家の酒であるアブサンを一献。
深緑色の色彩に、強烈に癖のある芳香と味。
一言では表しきれないその味は、誰にも忘れられない個性とも言い換えられた。

「……この強烈さが堪んねぇ。
柔らかで甘いのも嫌いじゃないが――刺激だよなァ」

けけ、と声を漏らし、とん、とテーブルにグラスを置くと竜人は席を立った。
肩に軽々と吟遊詩人を担ぎ、飲み過ぎんなよーと声をかけて去っていった。
まあ、その注意は結局のところ、無意味だったのだが。
44 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/05/09(木) 21:28:12.99 ID:cEntwel8
「はあ、マジかよ。ま、了解。どうせお前さん本選乗り気じゃねェんだろ。
任せとけや、俺の素晴らしい芸術的肉体魅せつけて買ってきてやるよ。
見せ筋じゃあないが筋肉には自信あるしよ」

おもむろに上半身裸になって筋肉を見せびらかす竜人。
なるほどその肉体は鍛えぬかれていたし、無数の傷跡は彼が歴戦の武人であることを如実に語っていた。
そういう場であればよかったのだろうが――、そういう都市であった為、問題なかった。
通行人が歓声を響かせながら撮影する中、竜人は馬鹿笑いを響かせながらポージングしていた。
数分後、撮影に飽きた竜人は周囲を睨みつけて通行人を散らし、歩き出す。
そして、たどり着いたは中央ドームだ。トーナメント表を見てみれば、参加チーム数は八チーム。
決勝に進みたければ二回勝利しなければならない。そして、恐らくその先には――。

「最初の相手は――、はァン? バンド、か。
名前は――King-Show、か。聞いたことはあるけど、どうしたもんかね。
因みにパフォーマンスはあっちが先らしいぜ。俺とお前でどうするよ、喧嘩してくれそうにはないけど?」

ゲッツはフォルテにそう尋ねつつ、舞台袖から対戦相手のバンドのパフォーマンスを眺めた。
人間五人組のバンドだ。ボーカル、ベース、リードギター、リズムギター、キーボード。構成に問題はない。
壮大なメロディを奏でながら、バンドの演奏が始まった。
そして、顔に罅のようなマークを入れたボーカルが前に出て、マイクを握りしめて声を張り上げた。

「僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!

犬神つきのはびこる街に やって来た男は
リュックサックに子ネコをつめた少年教祖様さ
『この僕が街の悪霊どもを追いはらってあげよう』
うさんくさげに見てる奴等に少年が言った
『この僕が怪しげなら あんたら一体、何様のつもりだ!』」

その歌唱力は決して高くはない、どころか一般的に見て上手いと思う人はそう居ないだろう。
だが、観客たちは熱狂し、叫び声を、歓声をあげドームを満たしていく。
歌唱力とは別の点、人を惹きつける何かがあれば、それで十分に人は付いて行く。
最高が最愛とは限らない、最高がもてはやされるとは限らない好例がそこにあった。
45 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/05/09(木) 21:29:05.21 ID:cEntwel8
「僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!

犬神つきを治したいなら 踊ることが大事
犬神の家にアンテナを立てて踊り続けろ
アンテナだったら僕が持ってる お安くしとくぜ
うさんくさげに見てる奴等に少年が言った
「この僕が怪しげなら あんたら一体、何様のつもりだ!」 」

歌詞の内容は、宗教を虚仮にしているような内容。
と言っても、その内容を深く読んでいけば、この世に蔓延るエセ宗教を揶揄したものである事が分かるだろう。
曲名は、僕の宗教へようこそ。

「ハイ ハイ ハイ ハイ ハイ レディース・アンド・ジェントルメン
お父っつあん アンド・お母っつあん、踊りなさい 踊りなさい。
このアンテナ、そんじょそこらのまがいもんとはちょっと違うよ、かのアメリカ大統領も愛用したってえスゲ一品だ、
成層圏のそのまた向こう、大宇宙にポッカリと浮かぶお月様その裏側のクレーターから飛んでくる宇宙線を
見事にキャッチしてくれるスグレ物なのよ。
この宇宙線が万病に効く効く、もちろん犬神つきにだって効果覿面よ。
さあ アンテナを屋根に立ててごらんなさい、あんたの娘さんも、嘘みたいに元気になって
喜ぶあんたたちの前で、きれいな声で、ほらほら、オペラを歌ってくれるはずさ! 」

長々しい語りの間も楽器隊は、素晴らしい技術力で美しくも荒々しいメロディを奏で上げる。
そうして語りが終わり、最後のサビへと曲は入っていく。

「ほらね」

「宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ!
宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ!

だが、しかし 少年はペテン師なのさ
アンテナを立てたおうちは崩れていった
少年はネコを連れ町を出て行った
町は崩れて廃墟となった
その様子はまるで月面のようだった

僕の宗教に入ろよ何とかしてくれるぜ! 」

劇的に曲は展開していき、曲は終了する。
その後も客の熱狂は冷めやらず、何曲かを続けてパフォーマンスタイムは終了。
次はフォルテ達の出番だ。
歌がうまくなかろうとも、何かを伝えようとする意志や勢いだけで人はこうにも熱狂する。
それを前にして、吟遊詩人はどう思うだろうか。
46 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/09(木) 21:31:00.48 ID:cEntwel8
>「悪くないな――つまり頭から音が抜けちまってるって意味だろ?」

「もう! だったら君の芸名は何でハリネズミなのさ。
可愛いよね針鼠って。いかにも触ると痛そうに見えるけど触ってみれば案外痛くないし……」

>「……保証はしねぇがやってやる。
なに、勝負事だってんなら俺にも相応の手は有るからよォ」

夢現の中で、ゲッツが歌ってくれると言ったような気がした。
今夜はとても幸せな夢が見れそうな気がするな――

♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

「起きてフォルっち、朝だよー」

小さい美少女――ナンシーに耳元で囁かれ目を開ける。
窓から差し込む柔らかな光の中起き上がって伸びをする。
確かバーで寝こけて……ああ、ゲッツが運んでくれたんだな。
洗面所の鏡の前を占拠し、髪をスタイリング剤でセットしてうっすらとソフトなV系メイクでキメる。
服はいつも通りのV系吟遊詩人ファッションだが、例によって同じデザインのものをリーフに新調して貰ったものだ。
気合いを入れても結局通常グラフィックのままじゃんというツッコミは禁止である。

「待たせたな、どーだ! イケてるだろ?」

ゲッツ達も今日の主役のオレに合わせてバッチリキメてくれているはずなのだが――

>「……悪いが先に行っててくれ。持病の発作で目が見えないんだ。
 少し休めばすぐに治る――具体的には後三十分くらいだな……」
>「はあ、マジかよ。ま、了解。どうせお前さん本選乗り気じゃねェんだろ。
任せとけや、俺の素晴らしい芸術的肉体魅せつけて買ってきてやるよ。
見せ筋じゃあないが筋肉には自信あるしよ」

持病の発作と聞いてピンと来た。オレと同じ類の邪気眼的ロマン溢れる持病に違いない。
そういえば最近少しマシになってきたような気がするのは何故だろう。

「――分かった。それ以上言わなくてもいい。それはそうとゲッツ、ボディビル大会じゃねえよ!?」

衣装の良し悪し以前に何故か脱いでいらっしゃるゲッツに突っ込む。
が、もちろんそれで服を着るはずもなくそのまま街に繰り出してしまった。
こういうジャンルのファッションのつもりらしいが、少なくともオレとコンビを組んでいるようには見えない。統一感皆無だ。
しかもギャラリー達に筋肉見せびらかして上機嫌、ノリノリでポージングまでする始末。
主役のオレを差し置いてがっつり目立っていらっしゃる――!
昨日物凄く感動的な事を色々言ってくれたような気がするのは夢だったのか!?

「恥ずかしいから他人の振りしようかな……っていきなりモーゼすな!」

撮影会に飽きたらしいゲッツが睨みをきかせると海が割れるように道が開ける。本当に便利な能力である。
お蔭で程なくして中央ドームに辿り着く。
47 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/09(木) 21:33:33.34 ID:cEntwel8
>「最初の相手は――、はァン? バンド、か。
名前は――King-Show、か。聞いたことはあるけど、どうしたもんかね。
因みにパフォーマンスはあっちが先らしいぜ。俺とお前でどうするよ、喧嘩してくれそうにはないけど?」

残念な事に、というべきか案の定と言うべきか、ヘッジホッグは来そうになかった。
が、人数の少なさは楽器演奏の面では何ら問題にはならない。
超高性能魔導シンセサイザーたるモナーはレジストレーション機能完備、あらゆる曲の情報が記録されている。
つまり一人で全パート演奏できるってこと。とはいってもやはり見栄えの派手さにおいて人数は多いに越した事はないのだが……

「後攻か、ラッキーだな!」

普通のチームは今日のために特訓したとっておきの曲を出してくるのであろうが、オレ達は歌う曲すら決めていない体当たりっぷり。
しかしそれは裏を返せば生粋の楽師たるオレにはいつでも歌える持ち曲が膨大にあるという事で、ゲッツとの間には霊的連結という都合のいい能力がある。
ならば相手の出方を見た上で選曲できる後攻が断然有利だ!

対戦相手のパフォーマンスが始まった。
似非宗教を揶揄する「僕の宗教へようこそ」
何か深い意味がありそうで分かりそうで分からない「イワンのばか」
とにかくダメ人間を連呼する「踊るダメ人間」
歌はよく言えばヘタウマ系、歌詞だって幻想的に美しいわけでもスタイリッシュに格好いいわけでもない。
それにも拘わらず熱狂する観客達。こんなのアリ!? 歌唱力では断然こちらが勝っている、だけど強敵だ――そう確信する。
最高が最愛とは限らない、だけど最愛はある意味最高よりも難しい物だ。
いや待て、今回の大会は必ずしも最”愛”を目指す必要も無いんじゃないか!?
ここでルールをもう一度思い出してみよう。
観客達をより感動、つまり感情をより大きく動かした者が勝ち、そしてその感情の種類は問わない――
必ずしもプラスの感情じゃなくてもいいという事だ! それに気付いた途端、一気に勝機が見える。

「ゲッツ、やっぱりオレには最愛なんて無理だけどさ……お前がファンになったオレを見せつけるから!
もし空き缶投げられても許してな! 歌詞はナンシーがカンペ出すから宜しく!」

モナーが二つに分裂しつつ変身。
オレはキーボード型シンセサイザーを構え、ゲッツには主にビジュアル的な意味でギターを持たせる。
そしてオレ達のターンが始まった。まず一曲目。

「辛い時 悲しい時 人はそんな時 心の隙間に闇が出来る
その心の闇に 魔物達は容赦無く 入り込んでくるのだ
だから 苦しくても 挫けるな 落ち込むな くよくよするな
何事にも 屈しない 強靭な心こそが 最強の武器なのだから!」

胡散臭いカルト宗教大いに結構! だけどやるからには助けを求める奴をきっちり救ってみせろ!
という訳で神妙不可侵にして胡散臭い男が世の闇を祓う「レッツゴー陰陽師」。
続いて二曲目。真ん中にダークな雰囲気の曲を挟むことでギャップを演出。

「さぁ 歌いましょう 踊りましょう  パラジクロロベンゼン
さぁ  喚 (わめ)きましょう 叫びましょう パラジクロロベンゼン
犬も 猫も 牛も 豚も みな パラジクロロベンゼン
さぁ 狂いましょう 眠りましょう 朽 (く)ち果てるまで さぁ」
48 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/09(木) 21:35:39.11 ID:cEntwel8
何か深い意味がありそうでよく分からない厨二病ソング「パラジクロロベンゼン」。
そしていよいよ三曲目、一回戦のメインディッシュ。
二曲目とは打って変わって、びっくりするほどユートピアなハッピーサマーソングだ!

「38℃の真夏日 夏祭り こんな日は  ガンバンベ! 踊れ ミツバチ(Hey!)

ブーン ブンシャカ ブブンブーン 行き先イケメン ハイビスカス
ブーン ブンシャカ ブブンブンブン リズムに合わせて羽上下行くぜ
ブーリ ブリチャカ ビガッ ビガッ そこどいて ちょっとどいて 行かせておくれ
ブーン ブンシャカ ブブンブンブン 打ちのめされても猛アタック(オーレ)

胸ドキドキ ワクワク 体ノリノリ♪ お尻ふりふり エンジンブンブン 良い気分
スッゲー 情熱あっから  ゼッテー誰にも渡したくはねー ダッセー飛び方でもいいから 上へ飛べ デッケー夢持って

超マニアック 特攻隊長 本日も絶好調 続いて キャプテン飛びだして “針出せ Let's Go!”
花畑に 舞い踊る 蝶々には なれない でも少しだけでもいい 甘いミツを ちょうだい

ガンバンベ! 踊れ ミツバチ(Hey!)

ブーン ブンシャカ ブブンブーン 高嶺の花でも関係ねえ
ブーン ブンシャカ ブブンブンブン 草食系とかマジ勘弁
ブーリ ブリチャカ ビガッ ビガッ 誰かがテンパりゃ助けに行くぜ
ブーン ブンシャカ ブブンブンブン ごめん 凹んだら 慰めて(オーレ)」

そう、その昔「音が出るフリスビー」等と揶揄されアマゾンのレビューを大炎上させたという伝説的楽曲、「ミツバチ」である。
しかし何の印象にも残らない単なる駄曲が寄ってたかって馬鹿にされようか、いや話題にすらならない。
敢えて言おう、それ程の旋風を巻き起こしたこの曲は間違いなく名曲だと!
そして観客の感情を方向性問わず動かした物勝ちの今回のルールの下ではこれ以上ない選曲と言えよう。

「ボス 父ちゃんが言った 仲間はずっと宝だから
女王 母ちゃんが言った その人守りなさい」

ひたすら賑やかなこの曲の中で一か所だけ優しく語りかけるようなフレーズのサビを歌い上げる。
意味の無い勢いだけの電波ソングと言われがちだが、王道少年漫画のテーマ曲にしてもいいと思うのはオレだけだろうか。
サビを超えるとといよいよクライマックスだ。

「Shake your body Move your body 真夏のバカンス バウンス
だんだん Nice Dance オエオエオー スッゲー 情熱あっから  ゼッテーあのミツ持ち帰ろうぜ
ダッセー飛び方でもいいから 上へ飛べ デッケー夢持って!」

盛り上げるだけ盛り上げて収拾付けずに投げっぱなしのような終わり方は仕様!
これ以上無いドヤ顔でポーズをキメる。
49 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh.[sage] : 2013/05/12(日) 01:07:49.78 ID:P9ZT152y
天井から降り注ぐ発光が煩わしい。
ドーム内に充満する勇み足な熱気と喧騒が頭痛を加速させる。
――不意にドームを震わせる歓声。賭博師が頭を抱えた。

「……苦労させられるのは、俺の方だったか?」

十連積みにされたアンプが吐き出す轟音が賭博師の脳内を激しくシェイクする。
観客共の熱狂的な声援とジャンプ――軽い目眩さえ覚えた。

「ただの人にしちゃあ、かなり良い線行ってるんだろうが……」

あの精霊楽師には勝てないだろう。
アイツの歌声はまさしく『魔性』だ。
人の領分から外れた天賦の才――人が巨人に力比べで勝てない様に、アイツには勝てない。

『さぁ 歌いましょう 踊りましょう  パラジクロロベンゼン
 さぁ  喚 (わめ)きましょう 叫びましょう パラジクロロベンゼン
 犬も 猫も 牛も 豚も みな パラジクロロベンゼン
 さぁ 狂いましょう 眠りましょう 朽 (く)ち果てるまで さぁ』

精霊楽師が招く感情――困惑と未知。
決して優れた曲ではないと分かっているのに、魔を帯びた声に心を揺さぶられる。
つまり屈服だ。神が見えざる手で人の頭を垂らさせる事に等しい。
本人にそんな意図はまるで無かっただろうが――偶像が纏うには確かに相応しい衣装だ。

「……やっぱり俺が出る幕は無かったな。この分なら次も――」

どうせ勝ち抜くだろう。最後に当たる相手も分かり切っている。
俺はただ決勝まで、ドームの外で一服でもしていればいい。

ステージに背を向けて出口へ――ドームを去る直前、背後で響く鮮烈な炸裂音。
とっさに振り返る――Bブロックのパフォーマンスが始まっていた。
ステージで踊る極彩色、魔力の燐光――その中央に舞い降りる三人の少女。
人外種――じゃない。魔力を感じない。ただの人間だ。

天上の星が地上へと降り立つかの様な幕開け。
今日一番の歓声が湧き起こる。最初に演じたロックバンドの時よりも――
――魔性の声を持つ精霊楽師の時よりも、更に大きな情動の渦が生まれた。

微弱な魔力を用いた花火と、それを目眩ましにしたワイヤートリック。
着地と同時にすかさず振り撒かれる、手を振りながらの笑顔。
たった二つの演出とプロの精神が、魔力も世界も持たない少女達を、星に至り得る偶像へと押し上げていた。

賭博師は無言でパンフレットを開く。
次の対戦相手は――まず間違いなく、決まりだ。
人間三人のアイドルユニット。
ボーカル、ダンス、ビジュアル、それぞれに特化した三人。
それらを一つに纏める事で、チーム単位で完璧なアイドルを作り上げている。

「……腕のいい裏方がいるな。下手すりゃ討伐されちまうんじゃないのか。
 『魔性』ってのは――光を際立たせるには丁度いいもんな」

精霊楽師の次のパフォーマンスまでは、まだ時間がある。
賭博師はドームを出た。依然として頭痛は止みそうにないし――
――少しは手を貸しておかないと、後で金儲けをしそびれても困るからだ。
50 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/05/17(金) 01:14:47.39 ID:OMDD6R6K
回ってきたのは己等の番、先の歌によって場の雰囲気は確実に暖められていた。
だが、その暖気はゲッツ達のための熱ではない、大切なのはこの狂熱の色彩を、以下にして己色に染め上げるか。
己の身体の古傷からうっすらと発光を漏らしながら、竜人は口の形を弓へと変じさせていた。
傍らには己の友。そして、この都市で己等と行動を共にすることとなった者の気配も感じていた。
故に、いつも通りでは有るが不安はない。有るのはいつも通りに、未知への興味と興奮だけだ。

>「ゲッツ、やっぱりオレには最愛なんて無理だけどさ……お前がファンになったオレを見せつけるから!
>もし空き缶投げられても許してな! 歌詞はナンシーがカンペ出すから宜しく!」

隣の吟遊詩人が放り投げてきたギターを受け取るゲッツ。体格が良いため、この手の長物は良く映える。
初めて持ったはずの楽器は不思議とゲッツの手に馴染み、心臓が刻むリズムのパルスと同期したような感覚を得た。
その感覚に不快は覚えなかったため、ゲッツはにたりと笑んで足元の小柄を見下しながら。

「任せなァ……、空き缶位なら方向一発で粉微塵だからよォ! ゲヒャヒャヒャハ!!
油断せずに――、だが楽しみながら駆け抜けろや、踊る馬鹿のが俺ァ好きだからよォ!!」

いつも通りの馬鹿笑い、そして普段からフォルテに背を押されて闘うお返しのように、今はゲッツがフォルテの背を押した。
今日の〝戦い〟の〝前衛〟は吟遊詩人。歌も楽器も達者でない竜人は、応援の心だけを携えて背を押すことしか今はできない。
だが、それでいい。そういう戦いも、竜人は嫌いではなかったから。
そして、癖が有ろうが己のチャート一位のスターの歌を、一番近い特等席で聞けるのだから、文句など有ろうはずが無い。
故に、おもいっきり背中を押して吟遊詩人を舞台に押し出して、ゲッツもまたその巨体を揺らしながら壇上へど躍り出たのだった。

――身体が勝手に動く。

心臓のリズムに合わせて、指が勝手に動き勝手にコードにそってメロディを奏で始める。
効果的なハーモニクス、アーミング、ハンマリング。吟遊詩人を食わない程度に、しかし確固とした存在感がそこにある。
歌のメロディに心が踊る、心が沈む、心が狂う。これが、歌か。魂を震わせる音色を間近で効く竜は笑った。

(――人のことァ言えねぇが、こいつも我が強ぇ……! だが、こういうヤツじゃねェと、詰まんねぇのよなァ……!
どーせなら、合わせてくか――――なァ、相方よぉ?」

にぃ、と視線をフォルテにずらして、竜人は目を瞑って最後のメロディに集中していく。
心臓の鼓動に合わせて魔力を送り出していき、ギタの音色と心臓のリズムを呼応させていく。
次第に音色に竜の魔力が混ざりだし、妖精と竜と人の魔力が入り交じる、音と魔のカクテルがそこには生まれた。
竜種の威圧が帰って抑圧の反動としての興奮を生み、感覚の熱狂は帰って加速を進めていく。

最後のボーカルとギターの余韻が収まり、静寂。耳に入る音は失われたにも関わらず、心にはまだ音が残る。

数秒後、観客たちから響き渡るのは、馬鹿みたいな笑いと、馬鹿みたいな歓声。
盛り上がりという一点だけに関して言えば、先ほどの比ではないと思われる。
結果発表は10分後。結果は、言うまでもなかったろう。フォルテ達の圧勝であった。
51 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/05/17(金) 01:17:31.29 ID:OMDD6R6K
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

一方その頃、ドームの外。
一人の賭博師が居た。まだドームの中は熱狂冷めやらず。
外を歩く人影は少なく、閑散とした模様で。
一人歩くその賭博師の前に、フリルをふんだんに使った衣装が目立つ異種が居た。
ディミヌエンドだ。
死霊を携え、無数の精霊を歌詞の無いハミングで躍らせる様は、異質なもの。
支配といった色彩が強い彼女の表現は、ことコンクール等といった評価が求められる場では強いものだ。
精霊を従属されるハミングはふと止んで。双眸は細められて賭博師を見据えていた。

>「……腕のいい裏方がいるな。下手すりゃ討伐されちまうんじゃないのか。
> 『魔性』ってのは――光を際立たせるには丁度いいもんな」

「おや、ごきげんよう。チーム……なんでしたっけ、あまりにも卑小過ぎて記憶にありませんでした、申し訳ないです。
どうやら運良くここまでやってきたようですが――、私達の居場所は当然のように決勝。
あなた達は私達に触れることすら出来ず、上り階段の半ばで死ぬことでしょうねえ。
次のアイドルユニット……、確か名前は『プロジェクト・フェアリー』、でしたか。あなた方を叩き潰すには十分な実力でしょう。
ま、私達が相手ならば――申し訳ないことに敵ではないのですが、ねえ」

丁寧すぎるほどに丁寧な口調だが、慇懃無礼な発言が口を次いで出てくるディミヌエンド。
一人ならばこのような振る舞いは出来ない。なにせ、いくら歌が達者で強力な精霊行使ができようと、近づかれればたやすく負けてしまう身の上だ。
しかも、現状ジャックの姿は見当たらない。という事は、他の護衛か何かが居ると考えるのが適当なのだろう。

「……ああ、もしここで私を闇に葬ろうというのならば辞めておいたほうが良いでしょう。
今回のユニットには私のスポンサーも共に参加しているのですけれど……、彼は一段居場所の異なる相手ですから。
でしょう、〝マモン〟?」

青い髪と青い瞳をしたスーツ姿の男が、〝居た〟。
最初からそこに居たのだ、恐らく。それを誰にも完治されていなかっただけで。
青い男はにたりとした笑みを浮かべて、賭博師に一例をする。

「やあ。ヘッジホッグ・ザ・ゲーマー」

気さくに笑う男は、青く輝く瞳をヘッジホッグの視線に絡めていく。
見るだけで、声を発するだけで。何かを掴み掠め取るような卑しさと異様な魅力を感じさせる存在感。
紛れもなくこの男、アイン・ソフ・オウルだ。それも特級の。
しかし、敵意はない。むしろ有効的な感情すら感じさせてみせた。

「敵対の意志は今はない。ただ、俺はお前らに勝ち進んで欲しくて、なあ?
すこしばかり発破を賭けようと思ったわけだ。……あの吟遊詩人に伝えておけ。
お前の父について知りたければ、ただ勝ちてここへ来い、と。そこで知るだろう、真実を――とな。
以上。俺は必要以上に俺のものを開帳するのは好まないからな。帰るぞ、ディミヌエンド」

「……はい」

一方的に言葉を投げかけると、興味を無くしたのか後ろを向き歩き出す二人。
ふと思い出したように、強欲はにたりと笑い。

「お前からは良い匂いがする。良い素質だな。
あとはそれに従うか、それに抗い続けるか。何方にしろ俺にとっては良い見世物だ。
期待してるんだよ、お前らには。精々足掻け、美味しく頂いてやるから」

そう言うと、次の一歩で二人は姿を消した。
空間の残り香を消し去るように、風が吹き荒んでいた。
52 : 創る名無しに見る名無し : 2013/05/17(金) 01:49:36.15 ID:funBgzdt
一方、ドーム内では優勝者の発表が行われようとしていた。
フォルテ達の圧勝、誰しもがそう思っていた。

――しかし、現実は違った。

「それでは結果を発表致します。優勝は…」
祈る人、期待する人、目を輝かせ結果を待ちわびる人たち。
会場は一瞬で期待と緊張の空気で満たされた。
そして審査員が手を伸ばし、結果が記載された紙を開く。

「…ナンバー6429番!ドドスコミラクルボンバヘッズゥッーーー!」

――え?

審査員の声が会場で反響する中、会場の観衆は驚きというよりも、皆、鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情で、
次第にその理解が追い付かない現実に、言葉にならない声となって各々の口から漏れだし、
それは徐々にざわつきの波となって会場中に押し寄せていった。

――誰?
――知ってる?
――読み間違えたんじゃ?
――フォルテじゃないのか?
――マジかよっ…
53 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/19(日) 05:35:16.22 ID:+3+4Y52c
合奏の際に最も重要なパートはどこかといったら殆どの人がメロディと答えるだろうか。
確かに完成された演奏において最も目立つ花形パートであり、その認識は間違っていない。
しかし演奏が完成するかの鍵を握っているのは、リズムを刻むドラムと尤も低音を担うベースなのである。
つまり何が言いたいかというと主役が主役たり得るのは一歩引いた位置で支える土台があってこそってこと。
ゲッツのほうを一瞬見ると、視線が合った。

>(――人のことァ言えねぇが、こいつも我が強ぇ……! だが、こういうヤツじゃねェと、詰まんねぇのよなァ……!
どーせなら、合わせてくか――――なァ、相方よぉ?」

本来調和しあう協和音のみで作られた曲は文句なく綺麗だけどシンプルすぎて物足りない、と思わない事もない。
背筋がゾクゾクするような美しさは本来溶け合わない音同士が溶け合った時に生まれるものなのだ。
例えば今隣にいるのがいかにもオレと組んでそうな美少女だったら――そりゃあ文句なく綺麗だけど詰まんなかっただろうな
溶け合う異質な魔力、妖精の奔放さに竜の重厚感が隠し味として加わり、爆発的な熱狂を生み出す。
世界の全てと繋がれそうな、森羅万象を手に入れる事だって出来そうな錯覚を覚える。
ずっと歌を歌ってきたけどこんなのは初めての感覚だ――
演奏が終わり、歓声を全身に浴びながら隣を見る。行ける、こいつと一緒なら。
ありがとう、お前がいるからオレは歌える――なんて言えるはずもなく。
口を開けば軽口しか出て来ない。

「何だよ、思ったより上手いじゃん!」

♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪
54 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/19(日) 05:36:52.67 ID:+3+4Y52c
>「…ナンバー6429番!ドドスコミラクルボンバヘッズゥッーーー!」

10分後――勝利を確信していたオレ達は面喰った。
でも相手ってそんなチーム名だったっけ。明らかに違うよね!?

「ちょっと待て! 対戦相手もそんなチーム名じゃなかったぞ!?」

「し、しかしこの紙にそう書いてありますので……」
「ふむ、確かにそんなチームは参加してませんね……」
「と、いう事はつまり……」
「紙が何者かによってすり替えられた模様です!」

ざわめきの中、眼鏡をかけた小学生が立ち上がり推理を披露し始める。

「犯人はこの中にいる! じっちゃんの名に懸けて!」
「じっちゃんは作品違うし微妙に使いどころ間違ってるし!」
「小学生は引っ込んでなさい。紙はBブロックのパフォーマンスの間に探しておきますので」
「紙がそんなに重要か!?」

そんなgdgdな感じで、Bブロックのパフォーマンスが始まる。
派手な演出に思わず感嘆の声が漏れる。
その上、今回の大会の趣旨を正しく汲んでいる正統派アイドルユニット。
趣旨を完全無視したグループがひしめき合う中では間違いなく有利そうだ。

「すげえ! オレ達もあんなんやらないとダメかな!?」

でもゲッツに派手な登場をしろなんて言ったら何かを破壊せずにはすまないだろう。それはまずい。
近くでは、Bブロック後攻らしい二人組が騒いでいた。確かチーム名はミカエル&レオン。
長い緑髪をツインテールにしたエルフ娘と、ヘッドホンを付けた金髪少年風魔族というコスプレっぽい二人組である。

「魔王様、初戦から見るからに強敵ですね。大丈夫でしょうか……」
「案ずるなエル、私が3日3晩かけて作った”ファイナル幻想即興曲”で楽勝だ!
幻想即興曲をファ○ナルファンタジーのバトル風にアレンジしようなんてまさか誰も思うまい!」

いわゆる漫画等で言う所の”主人公達のチームと対戦せず脱落していくその他のチーム”のオーラ全開だった。ご愁傷様です。
55 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2013/05/21(火) 02:04:35.82 ID:h9AYNE6h
「テメェ等、下手糞な演奏してんじゃねぇぞ!!」

そしてBブロックのパフォーマンスの最中に
伝説のインディーズ界でカリスマ的人気を誇る悪魔系デスメタルバンド
メンバーはヨハネ・クラウザーII世 (Gt,Vo) 、アレキサンダー・ジャギ (Ba,Vo) 、カミュ (Dr) の3人
DMC(デトロイト・メタル・シティ)が電撃参戦し、そのファン達も他のアーティストとの小競り合いや
場外乱闘を平然としながら突如混沌とした状態と化していた

そんな中、特に数々の“伝説”が熱狂的信者によりでっち上げられこの宇宙すら作った事にされてしまった
クラウザーII世こと根岸 崇一(ねぎし そういち)は
本来は心優しい青年ながら、このような状況を内心苦々しく思いつつこの騒動を何とか止めたいと考えていた

「(大変な事になっちゃったよ~どうしよう!)」

何とかこの場を諌める方法を考えていた。
この青年やはりヨハネ・クラウザーII世として歩む道は前途多難であり
そして生まれ持ったなにかがあることには間違いない

そして彼だけは無く、此処にはメジャーデビューによりミュージシャンとして潜入している
山崎まさゆき―淫夢ファミリーが潜入していた。
その目的は何なのか、それははっきりしないが
何かの出来事の火種となりうる事は想像は容易い

これから波乱万丈なBブロックは始まりつつあることを
エスペラントと静葉達は何も言わず見ていた
56 : 創る名無しに見る名無し : 2013/05/24(金) 02:26:48.41 ID:C3O1QERF
一方その頃、大会運営委員会事務所には、よからぬ話を交わす人物たちの姿があった。
57 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/05/24(金) 07:12:34.43 ID:QbKxNs3F
>>41
「天位を狙えるだと?、生憎分の悪い賭は、必要時以外しないんだ。」
ふっ、と笑い、元の世界へ戻る。

と、終わった直後テイルが、なんか一緒に観戦・・・もとい警備を強要いや、依頼してきた。

「ああ、別にいいけど、これなんとかなるか?」
と、見せたのは、グロくてハッキリとお見せできないぐらいヒドい真っ黒な、右手

「これなんとかならないと、これ以上、戦闘は・グフッ」
口から血を吐き出しながらそう伝える。
「こいつは、アインソフオウルの効かない、呪い、天の能力使おうとしたら、失敗した。」
「どうすればいい?」
今にも、アサキムは、ぶっ倒れそうだ。

どうする、テイル!
58 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/05/24(金) 07:13:33.90 ID:QbKxNs3F
『おや、ごきげんよう。チーム……なんでしたっけ、あまりにも卑小過ぎて記憶にありませんでした、申し訳ないです。
 どうやら運良くここまでやってきたようですが――、私達の居場所は当然のように決勝。
 あなた達は私達に触れることすら出来ず、上り階段の半ばで死ぬことでしょうねえ』

「……ご挨拶だな。もっと可愛げってモンを身につけたらどうだ。
 そんなんだから半透明じゃないお友達が出来ないんだぜ。
 ――ママはそんな事、教えてくれなかったか?え?」

降り注ぐ人工太陽光、飛散する死霊の気配、加速する頭痛――導かれるのは無遠慮な毒言。

『次のアイドルユニット……、確か名前は『プロジェクト・フェアリー』、でしたか。あなた方を叩き潰すには十分な実力でしょう。
 ま、私達が相手ならば――申し訳ないことに敵ではないのですが、ねえ』

「だろうな――そこまで分かってるなら、俺が暇じゃないって事も分かるだろ。
 コミュニケーション能力診断テストは赤点だぜ。次回の実施日は未定だ。さぁ、どけ。
 そのフリル、心底似合ってないが……パラシュート代わりって訳じゃないんだろ」

賭博師が黒の楽師を押しのけようと右手を伸ばし――足が止まった。
予感がした。このまま右手を突き出せば間違いなく、良くない事が起きるという予感が。
『奴』に近しい性質を持つからこそ僅かに知覚出来た。

『……ああ、もしここで私を闇に葬ろうというのならば辞めておいたほうが良いでしょう。
 今回のユニットには私のスポンサーも共に参加しているのですけれど……、彼は一段居場所の異なる相手ですから。
 でしょう、〝マモン〟?』

真正面に男が立っていた。賭博師とは対極の蒼髪、賭博師と同じ蒼眼。
蒼い燐光が賭博師の眼から、体から、意図に反して横溢する。

『やあ。ヘッジホッグ・ザ・ゲーマー』

「……よう、久しぶりだな。元気にしてたか?
 最後に会ったのは何時だったか……三万年ぐらい前だったか?」

投げ遣りな返答――まともに相手にするつもりはないという意思表示。
或いは圧倒的力量差を前にした、せめてもの強がり。

『敵対の意志は今はない。ただ、俺はお前らに勝ち進んで欲しくて、なあ?
 すこしばかり発破を賭けようと思ったわけだ。……あの吟遊詩人に伝えておけ。
 お前の父について知りたければ、ただ勝ちてここへ来い、と。そこで知るだろう、真実を――とな。
 以上。俺は必要以上に俺のものを開帳するのは好まないからな。帰るぞ、ディミヌエンド』

「俺だってタダでメッセンジャーごっこをする趣味はないんだがな。
 ……まぁ、代金の方はアイツから取り立ててやるとするさ」

勝手に立ち去ってくれるなら僥倖だ。引き止める理由はない。
舌打ちを一つ鳴らし、抑えの効かなくなった蒼眼を指で抑える――

「――まだ何か用があるのか?帰りの運賃でも貸してくれってか」

不意に立ち止まった強欲の背を疎ましげに睨む。
睨むと言うより、目を逸らせないの方がより的確ではあるが。

『お前からは良い匂いがする。良い素質だな。
 あとはそれに従うか、それに抗い続けるか。何方にしろ俺にとっては良い見世物だ。
 期待してるんだよ、お前らには。精々足掻け、美味しく頂いてやるから』

「……あぁ、そうかい。ソイツはありがとうよ、ナルシスト」

強欲が去り、数呼吸かけて賭博師は蒼光を抑える。
ようやく平常に戻った頃には、もう気配の残滓は飛散し切っていた。
59 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/05/24(金) 07:14:56.31 ID:QbKxNs3F
「――お礼に一つ、教えてやるよ。
 この事は誰も気づいちゃいないだろうが……実はお前が呼んだ名前は偽名でな」

誰もいない虚空へ向けて賭博師は語る。
皮肉を吐く様に、諧謔を弄する様に。

「本当の名前は、まぁ幾つかあるんだが――――『マモン』って言うのさ」

告白は誰の耳にも届かず、風が奪っていった。

「さて……余計な時間を食っちまったな。さっさと用を済ませ――」

『――やっと見つけましたよ!こんな所で油売って!
 二回戦にはちゃんと出てもらいますからね!』

不意に頭上から降り注ぐ声――音飛び詩精が夏に群がってくる羽虫の様に近寄ってくる。
随分と都合のいいタイミング――ではなく、恐らくは。

「……お前、アイツらが何処かに行くまで待ってたな?」

露骨に狼狽える詩精――図星だったらしい。

「まぁ……丁度いい。チャラにしてやる代わりに一仕事してきてくれ」

白紙のカードを一枚創り出し、メモ代わりにして渡す。

「そこに書いてあるように働け。経費はアイツにツケとけばいい。
 考えてみれば、俺がアイツらの為に走り回って自腹を切る義理はないからな。
 だがお前にはそれがあるだろ。そら、少しは役に立てよ。行ってこい」



……

『テメェ等、下手糞な演奏してんじゃねぇぞ!!』

ドームの中から酷い喧騒が溢れてくる。

「悪いな。変な奴らに絡まれちまってね――
 ――準備が終わるまで、もう少し時間を稼いでくれよ」

賭博師の手中には数枚のカードがあった。
竜人から抜き取っておいた『自己顕示欲』のカード。
他人に挿し込んでやれば、ちょっとした騒ぎを起こさせるくらいは容易い。

エントリー用紙のすり替えに続くアクシデントに、大会運営は随分と手間取ったらしい。
二回戦が始まったのは、賭博師の頭痛が完全に鳴りを潜めた後だった。

先攻はプロジェクト・フェアリー。
登場の仕方は至って普通。

『ねえ 消えてしまっても探してくれますか?』

奇を衒う事をやめてきたか――それとも、温存か。
60 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/05/24(金) 07:15:36.48 ID:QbKxNs3F
『きっと忙しくてメール打てないのね
 寂しい時には 夜空見つめる
 もっと振り向いてほしい 昔みたいに
 素直に言いたくなるの』

プロジェクト・フェアリーは三位一体の完璧な偶像だ。
各々に得意分野はあるが、皆が総合的に高い能力を誇っている。
複雑なメロディラインを正確になぞり、激しいダンスを併行して踊りこなすセンスがある。

『ねえ 忘れられてるフリすれば会ってくれますか?
 待ち続ける 私マリオネット
 貴方と離れてしまうと もう踊れない
 ほらね 糸が解れそうになる
 心がこわれそうだよ――』

一曲目は悲愛の歌。
終わってしまった愛に縋る脆さを綴った歌――誘う情動は、庇護欲。
曲が移り変わる。

『あなたがとても好き!他の人が見えないくらい!
 どこにでも連れて行って!二人だけの夢を見ようよ
 ストレートラブ!ストレートラブ!』

曲調と歌詞が一転して明るくなり、歌声もそれに準じて変化する。
二曲目は恋の歌。
真っ直ぐで限りのない恋愛感情を歌う――呼び起こすのは恋慕の情。

『ホントのこと言うと 前は知らなかった
 こんな素敵な人 近くにいたことを

 「もう恋なんてしない」なんて
 言った私が別の人みたいだよ

 それぞれの生き方 してきたのに不思議な気分
 これからは二人で 同じ道を歩いて行くよ
 ストレートラブ!ストレートラブ!』

ソロパートが始まる。
一人を壇上に残して、残る二人は――客席へ。
視線をステージへ強く集中させた後でのサプライズ――魔力要らずの魔法の演出。

『いつまでも愛したいな こんな思いは初めてかも
 あの日もし会わなかったら 大きな幸せ逃してたよ

 それぞれの生き方 してきたのに不思議な気分
 これからは二人で 同じ道を歩いて行くよ
 
 あなたがとても好き!他の人が見えないくらい
 どこにでも連れて行って!二人だけの夢を見ようよ

 これからも私をよろしく!』

二曲目が終わった。
最後の曲は彼女達の代表曲。
表現するのは苛烈な格好良さ――植え付けるのは、憧憬と羨望。
61 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/05/24(金) 07:17:31.57 ID:QbKxNs3F
一連のパフォーマンスを見て、賭博師は直感する。
プロジェクト・フェアリーは次の対戦相手を――精霊楽師を見てはいない。
全く方向性の異なる感情を、完全に表現する――それは、あの黒の楽師の領分だ。
三人掛かりで同じ事が出来れば、アイドルとしてのパフォーマンスの分、上を行ける。
そういう魂胆だろう。

「……要するに、通過点扱いって訳だ。舐められたモンじゃないか、え?」

先攻のパフォーマンスが終わった。
精霊楽師がステージに立つ。

「見返してやれよ、楽師。アイツら……仮想ラスボスには持って来いだろ」

客席の最後尾――賭博師が右手を掲げる。指に挟んだカードが光を規則的に反射した。
それが“合図”だ。
音飛び詩精に任せた仕事が決行され――刹那、ドームの中に夜が訪れる。
賭博師の任せた仕事その1――“照明関係の配魔盤に、カードを差し込んでこい”。

「星になって来い。今なら羽が生えようが、空を飛ぼうが――全部演出で済ませられるさ」

言葉と共に、ステージの上へカードを投擲――魔力の燐光がその軌跡を可視化する。
強欲から預かったメッセージをそのまま記した最後の一押し。
ビビってる場合じゃないと分からせてやるには、十分過ぎる。

人工の宵闇は、そう長続きはしないだろう。
予備の魔力源に配線が切り替われば、照明は再び光を放つ。
詩精がちゃんと仕事をこなしさえすれば――七色の光を。

賭博師の任せた仕事その2は――“魔力が復旧されるまでに、照明にフィルムを被せろ”。
失敗するとは思っていなかった。あの詩精は、意地でもやってのけるに決まっている。
少しは役に立て――あの一言は、音飛びにとっては酷い屈辱だったに違いないからだ。
62 : テイル ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/26(日) 08:40:24.53 ID:8W5lm3k8
>>57
>「ああ、別にいいけど、これなんとかなるか?」

アサキム導師が見せたのは、モザイクがかかった右手だった。

>「これなんとかならないと、これ以上、戦闘は・グフッ」
>「こいつは、アインソフオウルの効かない、呪い、天の能力使おうとしたら、失敗した。」
>「どうすればいい?」

解呪は得意分野だが、このレベルの呪いを解くにはエレメントセプターが必要だろう。
あれはフォルテに渡した、という事は袋係のリーフが持っているという事だ。
そしてこんな時は一流の袋係であるリーフはどこからともなく現れるはずなのだが……
まあいいか、スペアポケットから勝手に取り出そう。
スペアポケットからエレメントセプターを取り出し、解呪の魔法をかける。

「――プリズミックレイ」

七色の光がアサキム導師の右腕を包み込む。
その時、エレメントセプターと一緒にくっついて来たらしい紙がひらひらと落ちた。

【すみません、運営事務所の一室にてホモヤクザに捕まっています】

「えっ」
63 : リーフ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/26(日) 08:42:19.15 ID:8W5lm3k8
私は大会運営事務所の一室にて監禁されているのでした。

「我が淫夢ファミリーの一員である山崎まさゆきになんとしてでも優勝してもらわねばならん。
貴様に裏方として手腕を発揮されては困るのだよ。悪いが足止めさせてもらう」

「こんな所にも事務所があったんですねえ」

「事務所はどこにでも現れる。俺が事務所と思えば事務所だからな」

「ところであれはなんですか? 何かばねとか飛び出てるんですけど…」

部屋の隅に置いてある変なガラクタのような装置を指さします。

「聞いて驚け、厄災召喚装置だ!
ローファンタジア跡から部品を拾い集めて適当に組み立ててみた。
山崎まさゆきが負けそうになったら使う!」

「それまずいですよ! 変なの出てきて世界終了になったらどうするんですか!?」

「うむ、もうすでに変なのが出たかもしれん!
だがそのような些事は我々の壮大な野望の前ではどうでもいい事……。
我が淫夢ファミリーは必ずや美しき淫夢帝国を創り上げるのだぁああああ!
星の巫女となった山崎まさゆきを足掛かりとしてな……!」

もうツッコミどころが満載すぎて呟くしかありませんでした。

「悪夢だ……!」
64 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/05/27(月) 21:44:01.15 ID:eeoujyxC
異質と異質の相乗効果で熱狂を生み出した後、慣れない繊細な動きで疲れた手指をストレッチしながら、予選発表を待っていた。
疑うことはない。あの感覚であれば、勝つのは当然とすら言える。
だからこそ、ふんぞり返ったままいつも通りの態度の大きさで席に座っていたのだが――――。

>「…ナンバー6429番!ドドスコミラクルボンバヘッズゥッーーー!」
>「ちょっと待て! 対戦相手もそんなチーム名じゃなかったぞ!?」

「はァ、フッざけんなってのォ――!! おいおいおい、切れっぞ、ハッ、ブチ切れっぞ?
切れてないっすよ、とか言わねぇでガチで行くぞ、ア゛ァ!?」

ゲッツ、爆発。
いつも通りのチンピラそのもののガナリ声で、Bブロックや他の参加者たちの鼓膜をピンチに陥らせていた。
2m超の巨体の竜人というだけでもその威圧感は想像するも恐ろしいのだが、更にそれがチンピラだとしたら。
それはもはやどうしようもないだろう。一般ピーポーである担当者はもはや半泣きである。
暫くがなりつつ、なんとかBブロックのパフォーマンスが終わるまで事態は保留という結果となった。
はん、と鼻を鳴らしつつ尻をまた椅子にたたきつけるように座り込み、半眼で他のチームのパフォーマンスを眺め始めるのだった。

>「すげえ! オレ達もあんなんやらないとダメかな!?」

「おー、要するに電流爆破デスマッチな感じで行けばいいんだなァ?
そういうのは得意だぜ? 俺なんか見るからにレスラー系だしな!」

派手、という点では間違っていないし、パフォーマンスという点でも悪くはないが、何から何まで間違っていた。
確かにプロレスは素晴らしい筋肉と、素晴らしい技が織りなす最高のショーの一つ。
しかしながらこの大会はプロレスの大会ではない。DDTやらパワーボムを決めても残念ながらあまり評価はされないだろう。

そうこうしているうちに、なんのかんの有っての第二回戦。
ここを勝ち進めば、このブロックでの予選は終了。
順調に勝ち進んでいったとすれば、次の次が決勝となるだろう。

先攻は、『プロジェクト・フェアリー』。
我那覇響・四条貴音・星井美希の三人で構成された765プロダクションのユニットの一つだ。
それぞれの得意分野を生かしつつ、平均的に高いポテンシャルを持つ彼女らのパフォーマンスは圧巻の一言。
一曲目は『マリオネットの心』。ダンスを得意とする彼らを持ってしても高難易度とされるダンサブルな一曲だ。
しかしながら、そつなくそれをこなし、観客の心を一気に此方へと引き込んでいった。
そして、続くは二曲目。『ストレートラブ!』。
一曲目と比べて遥かに明るく、そして真っ直ぐに感情を吐き出していく勢いある楽曲だ。
曲の振り幅の大きさは、曲の印象をより強く観客に印象づけさせる。
如何にもアイドルな楽曲が、観客の心を揺さぶっていた。
大盛況の中、先攻のアピールは終了。
後攻である、フォルテ達の出番が――――来た。

>「……要するに、通過点扱いって訳だ。舐められたモンじゃないか、え?」
>「見返してやれよ、楽師。アイツら……仮想ラスボスには持って来いだろ」

「――ヒハハッ! 上等ゥ。
任せときな、舐められたままで事を済ませたことはこの方一度もねェんだ。
ぶちかましていこうじゃねェの――なァ?」

ギターをチューニングしつつ、ゲッツは己の魂を励起させていく。
吹き上がる存在感、傷口の光。
いつも通りに何事にも全力で。違う点は一つだけ。
背中を押すのが、この竜人で、背中を押されるのが吟遊詩人であるという点だった。

そして、パフォーマンスが――――始まった。
65 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/05/27(月) 21:45:24.06 ID:eeoujyxC
一方。そんな盛況の正逆の場が有った。

「――ック、いやいや、愉快だな、痛快だ。神魔大帝も、頂天魔も、全ては無駄で。無意味よ。
この世の本質が解き明かされ、そして人は絶望を知り、絶望を乗り越えながら前へと進んでいく。
希望もまた一つの欲望。奴らが俺を否定しきれるわけがない。楽しみだなぁ、この後の世界が。
なあ、見たいんだろう。お前はもう一度、お前の愛した精霊の最高の姿を。
見せてやろう、そして俺はそれを奪い取る。なにせ、俺は強欲だからなあ」

控え室。薄暗いその部屋で、青い髪と青い瞳の男は笑いをこぼす。
神魔大帝と同じ顔をしたその男は、しかしあの男とは確実に別人。
淡々と言葉を吐き出す男の視線の先には、老いた吟遊詩人が居る。
ラルゴ・スタッカート。フォルテの父親であり、テイルの夫。
今は記憶を失い、その魂はディミヌエンドの音律で縛られ茫洋とした瞳を晒すだけだった。
その茫洋とした瞳の先には、ディスプレイ。そしてそのディスプレイには、テイルとアサキムが有った。

「……白虎野の娘よ、ああ」

一言、その呟きの感情は、焦がれ。
憧れに心を焦がす、焦がれる程にその心は魅了されていた。
記憶は消し飛んで居る筈なのに、頭のなかで彼女のための歌を紡ぎたくなる。
だが、その意識は、次の瞬間に死霊の鎌で刈り取られることとなり。

(私は、一人。わかっている。でも、それでも。まやかしの家族でも、今だけは)

己の膝の上で眠るその男の頭に手を置きながら、中性的な吟遊詩人は喉から音を吐き、調声を済ませていく。
淡々と、感情など無いただの機械であるように。歌に込められた感情以外に、己の私情は必要ないとばかりに。
ただ只管に、ディミヌエンドは音律を吐き出すシステムへと己を昇華させ続けていた。

(俺は俺の正義を貫くだけ。我の為に無我を振るおう。それが俺の正道だ。
それに――迷いを抱くものを導くのもまた、〝貫く者〟の責務故)

そのディミヌエンドに軽く視線を向けながら、竜人は只瞑想を重ねていくだけ。
静寂が、控え室には満ちていた。陰鬱に、沈鬱に。
青い魔力に冒されたその部屋は、様々な感情が綯い交ぜとなっているのだった。
66 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/28(火) 22:57:25.25 ID:4aQErmh3
>「はァ、フッざけんなってのォ――!! おいおいおい、切れっぞ、ハッ、ブチ切れっぞ?
切れてないっすよ、とか言わねぇでガチで行くぞ、ア゛ァ!?」

「わーっ! すみません、すみません! 声量だけでもう暴力沙汰ですけど警察とか呼ばないで下さい!
もう、チンピラじゃないんだから……いやどう見てもチンピラだよ!」

例によって例のごとく頭を下げるオレ。
ちなみにチンピラは昔から天敵である。だって恐いもん!
そんな騒動がありつつ何とか通報される事も無く第二回戦が始まった。
相手は”プロジェクトフェアリー”。
美少女三人組による正統派アイドルユニットというアドバンテージがある上に、歌やダンスのレベルは相当高い。
歌の作風は全て趣向が違うものの、全て恋愛を扱ったものという共通点があった。
なるほど、あれが人々が理想として思い描く”フェアリー”か。
半分本物の妖精から一つ突っ込ませてもらうとすれば、妖精はやれ惚れた腫れたくっついた離れたの忙しい世界に生きてはいない。
そもそも少女のような姿を象った無性種族だ。
もしも恋をしたならそれはきっと人間の尺度からは大きく外れたもので、恐ろしくスケールがでかくて、全世界を巻き込んでしまうようなものだろう
それはもはやあのアイドルソングに謳われているような恋愛というカテゴリーに入らないのではないだろうか。
しかし今重要なのは正解か不正解かではなくウケるかウケないかであって。
本物が偽物に負けるはずはないという気はさらさらない。
むしろよく出来た偽物のほうが本物よりもいかにもそれっぽいというのは周知の事実だ。
それは作られたものの完璧さ、造花の美しさに通じるものがあるだろうか――

「結局ああいうアイドルソングが無難に一般受けするんだよな。
しかも今回の大会の趣旨って一応アイドルオーディションだし。
一回戦は電波ソングに電波ソングで対抗して勝ったしここは捻らずに正統派アイドルソングで対抗した方がいいとおもう。
という訳で二回戦のテーマは“フェアリー”、ケルティックな民族調曲で勝負だ!
本物の妖精の世界観を見せてやろうぜ!」

ちなみに一回戦のテーマは“音の麻薬”コンセプトは得体の知れない勢いで押し切れ!でした!
民族調曲は、某動画サイトでは往々にして「なぜ伸びない」というコメントや
「もっと評価されるべき」などというタグがついているマニアックなジャンルである。
台詞の上三行と下二行が繋がってない、だって? アイドルとは崇拝の対象という意味だ。
草原渡る風に、漣立つ海に、世界を包み込む女神の愛を見る――
それが妖精の世界観であれば、アイドルソングで何も間違ってはいない。
オレ達の出番が来た。照明が落ち、辺りが暗闇に包まれる。
67 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/28(火) 22:59:17.25 ID:4aQErmh3
>「――ヒハハッ! 上等ゥ。
任せときな、舐められたままで事を済ませたことはこの方一度もねェんだ。
ぶちかましていこうじゃねェの――なァ?」

>「星になって来い。今なら羽が生えようが、空を飛ぼうが――全部演出で済ませられるさ」

客席から魔力の軌跡を描きながらカードが飛んでくる。
『お前の父について知りたければ、ただ勝ちてここへ来い、そこで知るだろう、真実を――』

「ああ、星になってやろうじゃん!」

ヘッドギアを外し、モナーの一部をスピーカーに変身させて自動演奏させる。
今回の相手はダンスが達者、こちらもまずダンスで掴みだ!
曲はもはや十八番となったアレしかないでしょう!
ダンスのお相手は……プロレスラー体形のマッチョなんだよなあこれが。

「オレが綺麗に舞ってやるからお前はプロレスみたいなノリでいいぜ!
でもうっかりガチで殺しにくるのはシャレにならないから無しな!
Shalll we dance?」

暗闇の中で前奏のコーラスを歌い上げる。
やがて七色の光がステージを照らした時、観客は比喩ではない妖精を見る事になる。
背中には降り注ぐ光と同じ色の翅、手には光の剣を携えて。いつかの戦いを象った舞を踊る。

「月陰る闇に咲く華 底知れぬ深淵を見つめた
時を漂い続けた君は 星屑の掃き溜めにて目覚めた
水を蹴って翅広げ 青年の日に別れを告げて
今飛び立とう 黄金(きん)の粒散らして」

魔力の軌跡を描きながら宙を舞い、霊的ラインがあればこその完璧なシンクロで踏み込み、躱し、切り結ぶ。

「一夜の夢織り上げる宵に 安息の繭はほどかれてゆく
浅葱の翅の女神の唄に狂わされた 獣の魂が踊り燃ゆ」

最後は時代劇の決闘シーンのラストのように、鏡写しのような動作で斬りかかり交差する演出で締め。
68 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/05/28(火) 23:00:38.20 ID:4aQErmh3
ステージに降りたち、余韻冷めやらぬうちに次の曲へ。
ステージを照らすライトは、さながら澄み切った海底へ差し込む光だ。
2曲目は”玻璃の海”。手に携えるのは竪琴。
オレは宙を舞う月翅の妖精から一転、玻璃の海に眠り続ける女神へと歌を捧ぐ海精となる――

「とめどなく繰り返す 波の最果てに
この玻璃色の躰 記憶沈み込ませてる
夢の痕揺らめく 鈍の砂に眠り続ける
あまたの哀しみ憂い よろこびの欠片」

もちろんモナーは竪琴型になってもレジストレーション機能完備だ。
寄せては返す波のような伴奏に乗せて、優しくどこか切ないメロディを歌い上げる。

「アムリタを捧げる神の杯に 鐘の音は外つ国の黄昏告げ
海精の竪琴が 水泡に奏でる海神の追憶
時に掻き消された 透き通る宇宙の冥域に
仄白く響いた祈り囚われの碧い面影
砕け散る波間に 浮かぶ昔日の祝福の地
癒されぬ悲しみを ただ月の光が包み込む」

神代の終わりと共に眠りについた忘れ去られた神か。あるいは正義の名の下に封印された異教の神か――
解釈は人の数だけあっていい。それぞれの物語を想像してもらえたなら大成功だ。
波の音が遠ざかって行くようにフェードアウトさせて演奏終了。

続いて3曲目――調和~Harmonia~
まさにド直球で精霊楽師が歌うためにあるような歌だ。

「遥かの旅へ 風は空を翔ける 見上げた暁の 彼方へ消える
奪い与え燃えゆく 赤き青き炎 めぐり行く時の輪と 重なり踊る
母なる海へ波は寄せて返す 優しきゆりかごに命は芽吹く
物語は集う 広大な大地へ 豊穣の息吹受け 幾奥の命 煌めく
ハルモニア 生まれゆく 愛しき調べ
ハルモニア 響きあい 輝ける世界を創る 精霊の調べ」

それは四大の精霊へ捧ぐ、惜しみない感謝の歌。
調和のアインソフオウルであった星の巫女をテーマにした本大会においてこれ以上はない選曲だと思う。
決勝戦にとっておかなくていいのか!?ってほど。でも決勝戦で歌う歌はもう決めてあるのだ。

「風吹く道で 旅人は駆けゆく 始まりの種火をその手に掲げ
零れ落ちる雨は 渇きを潤して 地の果てを拓いて 数多なる人が出会う
ハルモニア 求めあい 繋がりゆく 絆を奏で
ハルモニア 止め処なく 溢れ出す喜び奏でる 精霊の奇跡」

恐い程にオレが思っている通りの歌詞を歌い上げる。
もしもオレの歌が喜びを奏で人々の絆を繋ぐことが出来たならそれ程素晴らしいことは無い。
精霊楽師なら誰だってそう、最近まではそう思っていた。
最後のフレーズを全力で謳いあげる。どこかで聞いているであろう憎たらしいアイツにも届くように。

「ハルモニア 生まれゆく 愛しき調べ
ハルモニア 響きあい 輝ける世界を創る 精霊の調べ」
69 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/06/05(水) 01:05:08.08 ID:62gKDJ5d
精霊楽師のパフォーマンスが始まる。
七色の照明が集う所――虹色の羽を広げ佇む特異点。

『月陰る闇に咲く華 底知れぬ深淵を見つめた
 時を漂い続けた君は 星屑の掃き溜めにて目覚めた
 水を蹴って翅広げ 青年の日に別れを告げて
 今飛び立とう 黄金(きん)の粒散らして』

拡散する魔法の光/魔性の音色――人には届き得ない妖精の高みから降り注ぐ純粋な芸術。
暗闇を切り裂く刃/剣戟の軌跡――楽師と竜人、二人にしか紡ぎ得ない、唯一無二の物語。

『一夜の夢織り上げる宵に 安息の繭はほどかれてゆく
 浅葱の翅の女神の唄に狂わされた 獣の魂が踊り燃ゆ』

『魔』の持つ力が観客達の心をこじ開け、積み上げられた物語の全てを流し込む。
生粋の表現者――視覚よりも聴覚よりも深く心に伝わる魔力が抗い難い共感を齎す。

「……まぁ、悪くはないな」

素っ気なく呟く賭博師――その眼の色が緩やかに踊る。
蒼から紫へ――強欲から虚飾へ。
己の異変に気付いた賭博師の右手が眼を数秒覆う――色はすぐに、元に戻った。

『とめどなく繰り返す 波の最果てに
 この玻璃色の躰 記憶沈み込ませてる
 夢の痕揺らめく 鈍の砂に眠り続ける
 あまたの哀しみ憂い よろこびの欠片』

曲調が一転して穏やかに――劇的な感情を押し込まれた観客に休息を与える。
平時の性格はどうあれ、ステージの上でならば、あの楽師は一級の支配者らしい。
困惑/闘争/安らぎ/清濁併せ全てを与える――それは王が民に対して為す行いだ。

「……あの黒フリルと同軸上にいるとは――言ってやらない方がいいだろうな。
 だが……これでアイツがステージ上で大ゴケでもしない限り、決勝のカードは決まりか」

王様候補が二人――賭博師の背筋を悪寒が撫でる。
嫌な予感がした。
根拠のない――だからこそ、とびきりに嫌な予感が。

『風吹く道で 旅人は駆けゆく 始まりの種火をその手に掲げ
 零れ落ちる雨は 渇きを潤して 地の果てを拓いて 数多なる人が出会う
 ハルモニア 求めあい 繋がりゆく 絆を奏で
 ハルモニア 止め処なく 溢れ出す喜び奏でる 精霊の奇跡』

「調和……か。出来ればこのまま、予定調和で終わって欲しいもんだが――」

そう都合よく星が巡るとは思っていなかった。
決勝戦――死霊を統べるあの楽師との対決。
良くない予想が一つ、賭博師の心中にはあった。
精霊楽師はヘッドギアを外し、虹の翼を解き放った姿で真の力を発揮する。
その『状態』が――あの死霊楽師には無いと、言い切れるのか。

精霊楽師が力の底を見せて漸く届いた『仮想ラスボス』が――
――あの黒フリルにとってはまだ、余力を残した状態に過ぎなかったら。
70 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/06/05(水) 01:07:30.26 ID:62gKDJ5d
「……追加料金もいい加減、青天井だぜ。
 使い走りは、これで終わりにしてもらいたいモンだ」



……

――決勝を前にして、賭博師は初めて精霊楽師の控え室を訪れた。

「よう……まずは決勝進出おめでとう、だ。
 そんでもって、もう一つ……速達便のお支払いは現金のみとなっております、ってな。
 お前達のお陰で、まともな仕事が絶えなくて助かるよ、本当に」

皮肉げな賭博師の言葉――同時に楽師に歩み寄り、右手を伸ばす。
抜き取られる一枚のカード――超一級の演奏技術。

「借りるぜ、これ。……まぁ、お前ほど使いこなせはしないが」

カードの強さは、それ一枚のみで決まりはしない。
重要なのは組み合わせ――優れた技術も、賭博師ではその全てを引き出す事は出来ない。

「最後くらいは、俺もステージに立たせて貰うぜ。
 ……お前達が負ければ、俺は骨折り損だからな」

この大会では直接的な戦闘行為をパフォーマンスに含めるか否かを、演者が選択出来る。
恐らく黒フリル共は前者を選ぶ。
勿論逃げの手を選ぶ事は可能――だが竜人がいる以上、こちらも前者となるだろう。

パフォーマンスの一環として戦闘行為を行う場合、
一、二回戦の様に先攻後攻に別れる事は不可能だ。
双方が同時にパフォーマンスを始める必要がある。
事前にプログラムを組んで挑めた今までとは違う。
パフォーマンスがいつ終わるかは誰も分からない。
通常の戦闘と同じ様に即応的な演出が求められる。

また、同時進行するパフォーマンスの中で、常に観客の心を掴み続けなければならない。
渾身の歌声も、観客の興味がそちらを向いていなければ、ただの雑音と何ら変わらない。

「……そうだな。決勝の前に一つ、アドバイスをくれてやる。ありがたく聞いとけ」

前触れもなく賭博師が切り出す――敗退チームから無断借用してきたギターを弄りながら。

「前にも言ったが……あの黒フリルは完璧だ。
 俺は正直、今でもお前が勝てるとは思っちゃいない。
 ……おい、コレ、悪いが調律してくれ。演奏技術は借りたが、手入れまでは出来なくてな」

借り物のギターを乱雑に投げ渡し、続ける。

「まぁ、運の巡りが良けりゃあ結果は分からんが……一つ大事なのは、諦めない事だ。
 それこそアイツに負けちまってもだ。
 負けてから初めて、始まる事だってあるんだからな」

――俺の人生が正にそうであったようにな。
最後の皮肉は、心の中だけに留めておいた。

やがてスタッフが控え室へ、楽士達を呼びに来た。
薄暗い廊下と舞台裏を抜けてステージに立つ――出迎えるのは眩い照明と怒涛の如き歓声。

決勝戦が、始まる。
71 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/06/07(金) 21:13:54.01 ID:nERxFe0w
>>62
「くっ、っふう。助かった。」
エレメントセプターのご都合主義魔法のおかげで、何とか一命を取り留められた。
後は、自分で何とかなるはずだ。
「あっ、後。俺は、観戦とかは野球ぐらいしかしないから、passな」
とりあえず、捕まえられないように、さっさと引く。

と言うのは、建前で
「アヤカ、悪いけどさ、」
「はいはい、隠密として、ライブ見てこいでしょ。解ったわ。」
自分は、
(さっきだけど、微弱ながら、マモンの気配がした。何故だ?この町にいるのか。)
確かに、マモンがかけたのろいなら、拘束力が、高まっても不思議ではない。
「とりあえず、リーフ救いに行こうかな?。」
そう思い、適当に散策しながら、リーフ救出に向かう。
72 : テイル ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/09(日) 23:31:18.49 ID:R3AHuw/X
>>71
>「とりあえず、リーフ救いに行こうかな?。」

「そうだね」

という訳で適当に道中でソフトクリームなんて食べつつ、ホモヤクザの事務所にやってきた。
何故大会運営本部の一室にホモヤクザの事務所があるのかはもはや突っ込んだら負けというものだろう。
ホモヤクザのボスことTNOKがボク達を出迎える。

「これは罠よー、来たらいけないー」

棒読みながらも一応様式美に則った台詞を言うリーフ。

「HAHAHA、やはり来たか! 皆の衆、やっちまえ」

TNOKが命じると、どこからともなく下っ端ホモヤクザがわらわらと現れ、ボク達を包囲する。
ホモヤクザ達の手には、何故か縄や蝋燭などの危ない装備。
TNOKが念を押すように部下達に言う。

「あ、分かってるとは思うが女の方はそのままお帰り戴いていいぞ。興味無いから」

「ですよねー」

流石淫夢ファミリー、徹底したホモっぷりである。
73 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/10(月) 19:53:48.30 ID:hxB+Ujt0
>「オレが綺麗に舞ってやるからお前はプロレスみたいなノリでいいぜ!
>でもうっかりガチで殺しにくるのはシャレにならないから無しな!
>Shalll we dance?」

「ブチ決めてやるさ、演舞もイケメン竜人の嗜みの一つだからなァ! ヒャハハハハハハッハ――――ッ!!」

ステージに上る前に拳をごつん、と吟遊詩人の拳に強引にぶつけ合わせて。
いつも通りに竜人は三下の如き高笑いを響かせて歩みを進めていった。
煌々と輝く鋼色の瞳は、共に舞う相手の姿を決して逃すことはない。

「――シ、ィ」

犬歯と犬歯の間から笛のような甲高い音が一瞬漏れでて、共に場に立つ者の意志を感じた。
どう来るかわかっているからこそ、全力で行っても問題ないことが分かる、究極の予定調和。
背から生まれるのは、気高く輝く銀のフレーム。そしてフレームを繋ぐように深紅の光が皮膜となって翼を生んだ。
しゃがみ込み、地面を蹴る。翼が羽撃く。重力の軛をねじ伏せながら、弾丸のように空へと舞い上がる竜人。
優雅ではない、気品もない。だが、ただただ力強くそして偉容を感じさせはした。

胸元に竜人は己の手を伸ばす。胸元の傷から漏れる、深紅の光。
形無き光を捉えるように右手を握りしめ、鞘から剣を引くように竜人は一気に腕を振りぬいた。
手に握られるのは、光の剣。繊細な虹の刃とは対照的な、豪壮な深紅の大剣だ。
空中で体勢を整えて、構えを取った竜人はいつも通りにふてぶてしく笑みを浮かべる。

(懐かしいぜ、精々楽しもうや……、なァ?
付いてきな、最高の演舞を見せてやっからよォ)

>「月陰る闇に咲く華 底知れぬ深淵を見つめた
>時を漂い続けた君は 星屑の掃き溜めにて目覚めた
>水を蹴って翅広げ 青年の日に別れを告げて
>今飛び立とう 黄金(きん)の粒散らして」

演舞は魅せるものである事をゲッツは忘れては居ない。
それでも、出会いの衝撃、あの剣戟の心の踊りを忘れることなど出来はしない。
だから、己の出来る最高の演舞を示し、それに相手を巻き込むことで、ゲッツはフォルテに挑むこととした。
相手がどこまでも付いてきてくれることがわかるからこそ、一撃一撃、一合一合がより複雑に、そして華美になっていく。

メロディに合わせて響く鍔迫り合いの音、曲調に合わせて空に描かれる色とりどりの魔力のライン。
元来舞踊とは神に捧げるものであったとする説がある。
今此処で展開されているそれは、神に捧げる歌と舞踊の儀式と言っても過言ではなかっただろう。
74 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/10(月) 19:54:59.81 ID:hxB+Ujt0
>「一夜の夢織り上げる宵に 安息の繭はほどかれてゆく
>浅葱の翅の女神の唄に狂わされた 獣の魂が踊り燃ゆ」

ゲッツは、思う。ああ、コイツの歌を聞きながら戦うのは、楽しいと。
狂わされようがどうでも良い。獣の魂が大人しいなどむしろ獣の魂に失礼というもの。
これ以上無く心を暴れさせ戦う事の出来る相方はコイツだと魂が叫ぶから、最後の一合でゲッツは浮かべる。獣の笑みを。

「――グッジョブ」

ぼそりと呟きつつ、さり気なくゲッツはサムズ・アップして。
翼を即座にたたむと重力に素直に従って垂直落下。五点当地で衝撃を減らして立ち上がる。
分割されたモナーを持ちながら、ゲッツも又伴奏を手伝っていく。
楽器の担当はパーカッション。音痴ではあるが、リズム感自体はそれ程悪くはない。
適性的に打楽器が向いていた。そして、二曲目をそつなくこなし、三曲目。

(――調和、か。調和の女神がこの世界を収めていたから平和だとしたらなァ……。
もし俺が、神様なんかになっちまったら、世界とかソッコー滅びそうなんだよなァ。
……俺、悪者なのかねェ。……ま、どーでもいいんだがよ)

調和の理で世界が満たされていたからこそ、ネバーアースは平和だったのだろうとゲッツは思う。
現に、テイルが神位を降り、空位になって以来この世界では多くの災害が巻き起こっている。
調和が失われるだけでこれならば、〝災厄〟で世界が満たされたらどうなるか。
ゲッツはそう考えたが、考えるだけ無駄だと気づいてどうでもいいと思うことにした。少しだけ、心の底に澱を残して。

そして、当然のような勝利が、来た。
理解していた、そうなることは。そして、此処から先にあるのが、本番だ。
ゲッツはそう心の何処かで確信していて、その確信は現実となるのは確定していた。
75 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/10(月) 19:56:05.50 ID:hxB+Ujt0
■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■

そして、決勝直前の控え室。
ゲッツはどこで買ってきたのか大量の肉を頬張りつつ、足でリズムを取って鼻歌を響かせる高等技能を発揮中。
その最中に賭博師が現れる。

>「よう……まずは決勝進出おめでとう、だ。
> そんでもって、もう一つ……速達便のお支払いは現金のみとなっております、ってな。
> お前達のお陰で、まともな仕事が絶えなくて助かるよ、本当に」

「おふ、ははおへはいふはははふほはほふへふはっはへほはー(よう、まあ俺がいるから勝つのは当然だったけどな)
…………んぐっ、金の払いはフォルテにおまかせってことで、いっちょ頼むぜ?」

いつも通りに面倒事をフォルテに放り投げつつ、大量の肉の入ったケバブサンドを口に放り込み嚥下する竜人。
此処から先が正念場と思っているのか、今のうちに英気を養っておく心づまりだ。

>「最後くらいは、俺もステージに立たせて貰うぜ。
> ……お前達が負ければ、俺は骨折り損だからな」

「おいおいおい、勝つぜ?
今まで俺とフォルテで余裕の勝利だったんだからよ、お前がいりゃもう三倍よォ!
普通なら1+1は2だが、俺達は違う。1+1で200だ!10倍だな!!
これが、三人居てみろよ! 1+1+!で300! 100倍だぜ!!」

ゲッツの提唱した謎理論、そもそも計算結果がおかしいとか、10倍じゃなくて100倍だとかは置いておく。
それでも、この竜人不利である事は百も承知の上で勝つ気満々で此処に居た。
むしろ、勝ち気が無いときなど無いのがこの竜人といえば竜人なのだが……。

>「まぁ、運の巡りが良けりゃあ結果は分からんが……一つ大事なのは、諦めない事だ。
> それこそアイツに負けちまってもだ。
> 負けてから初めて、始まる事だってあるんだからな」

「そーそーそー、最初っから諦めてりゃ勝てるものも勝てねぇ訳よォ!
それでいい、勝ちに行こうじゃねぇの、先に進んでいこうじゃねぇの。
――ブチかまそうぜ、きっと超楽しいからよ? ゲヒャッ! ギヒヒャハハハハハハハ――――!!」

高笑いを響かせて、ゲッツはステージまでの道を堂々と歩んでいく。
その先には、光り輝く舞台があった。
交響都市フェネクス、音楽祭決勝戦。鏡写しの戦い、この世界の裏と絡んだ戦いが、始まる。
視線の先には慇懃無礼な精霊楽師と無骨で無愛想な僧兵の二人。蒼の男はそこにはいなかった。
だが、異様に高まる空間の熱気の何処かに、濃密な欲望が混ざり込み始めていた――――。
76 : ディミヌエンド ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/10(月) 19:57:29.84 ID:hxB+Ujt0
■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■-■

「――行きますか、ジャック。マモンは用事があると言って消えてしまいましたけど。
まあ問題はない。どうせあの男なら強欲のままに動いて場を壊すに決まっている。
大切なのは、それまで負けないこと。……激情に駆られぬように」

精霊楽師は声を響かせる。沈黙を割く低い中性的な声。
声の行き先に居たのは、蒼の竜人。民族衣装を来た姿は、清冽な威圧を持つ。
そして、声を受けて竜は犬歯を見せながら言葉を返す。

「背信者には罰を与えるのが俺の正道。だが――大義が有る故。
お前を裏切ることはない。任せておけ、俺がお前の盾だ。
お前の仕事は歌うこと――通せ、その道を」

竜人の言葉は、頑なであり、なおかつ力強い。
己の実力と立場を理解し、そしてその上で進む道を過つ事が無い故の直線的な在り方だ。

「――分かっていますよ、だから黙りなさい。
貴方の言葉などで私は変えられませんから」

その気高い在り方を即座に切り捨て、フリルのドレスの裾を靡かせて楽師は立ち上がる。
迷いなく控え室を出て行こうとするが、足が一歩止まって。
術で拘束され、記憶を処理された老齢の吟遊詩人の前にしゃがみ込みながら、小さくささやいた。

「……お父様、…………いって、きます」

楽師は振り返れない。僧兵は振り返らない。
歩む先には光り輝くステージが一つ。
視線の先にはおちゃらけた吟遊詩人と頭の悪そうな竜人傭兵と何処の馬の骨か分からないギャンブラー。
負けるつもりはない。だから、楽師は息を吸い込んだ。
77 : ディミヌエンド ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/10(月) 19:58:38.77 ID:hxB+Ujt0
吐き出す。身体から吹き上がるのは、死霊の群れ。
皆、戦争で死んでいった者達、古き兵士たち。肉体の随所が失われ、その目には重い感情が載せられている。
死霊たちげ上空へと空砲を鳴らし、その場を戦場の激戦区であるかのように演出し始めた。
死霊の奏でるバックミュージックは、悲しげなギターソロから始まっていく。

「――I can't remember anything(何も思い出せない)
Can't tell if this is true or dream(夢なのか現実なのかもわからない)
Deep down inside I feel to scream(私の奥底から叫びの声が沸き起こっても)
This terrible silence stops me(この恐ろしいまでの沈黙が私を押しとどめる)

Now that the war is through with me(私の戦争は終わった)
I'm waking up, I cannot see(目覚めてももはや何も見えない)
That there is not much left of me(もはや私に残ったものは僅かばかり)
Nothing is real but pain now(現実にはもう何もない 苦痛以外の何もかもが)

Hold my breath as I wish for death(ただ私は死を望み呼吸を止める)
Oh please, God, wake me(神よ、どうか私を目覚めさせてください)」

戦争の悲惨さを歌う歌。
この都市に居る者達も、多かれ少なかれあの日から何らかの事件や争いに巻き込まれたものが殆どだ。
そのトラウマを抉るような、歌詞。そして、死霊がその感情を増幅し、争いに対する生理的な恐怖をこの場に生み出しはじめた。

「――アスカロン『正道』……空打」

そして、そこに生まれた隙を付くように、蒼の竜人が拳に魔力を纏わせ遠当てで此方を掃射し始めた。
この争いへの恐怖の最中でも、この竜人だけはまったくもってダメージを受ける事無く戦い続けている。
その理由は――、絶対的な個としての完結性。
他者を侵し力を発言するのが多くのアイン・ソフ・オウルだとすれば、この竜人は個に終息するアイン・ソフ・オウルなのである。
故に、ディミヌエンドの産む死霊まみれの空間の中でも変わること無く戦い続けることが出来るのだった。

言うなれば、フォルテの歌は仲間に力を与え希望を生む歌だとすれば、ディミヌエンドはその逆――敵対するものから何もかもを奪い去り絶望を生む歌だ。
あまりにも対照的。この戦い、どちらが勝つのか、そも決着が付くのか。
それは恐らく、神の居ないこの世界ならば誰も知らぬことだろう。
78 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/11(火) 01:20:41.85 ID:JoN649uk
「食えばいいってもんじゃだいだろ。脇腹痛くなっても知らないぞー」

ブラックホールのごとくケバブサンドを飲みこんでいくゲッツに半ば呆れ半ば感心しながらケバブサンドをかじる。
一個で十分なんだけどこれ……。
決勝戦は戦闘行為込みの形式を受けて立つことになった。
純粋な歌手としての技術は向こうの方が上だから不確定要素が強い形式を選んだのは妥当ではあるのだが。
一つ大問題がある。
本来なら今回こそ全力で掛からなければいけない相手なのに、さっきみたいにホイホイっと真の力を解放するわけにいかないってこと。
何故ならパフォーマンスは両者同時で、相手は死霊を使役する呪いの歌の使い手。
下手をするとSAN値直葬されてしまう。
そこに現れたのは、意外な人物というべきか最初からいるはずだった人物というべきか。

>「前にも言ったが……あの黒フリルは完璧だ。
 俺は正直、今でもお前が勝てるとは思っちゃいない。
 ……おい、コレ、悪いが調律してくれ。演奏技術は借りたが、手入れまでは出来なくてな」

「それ位お安い御用……ってどこから持ってきたのこれ。後で返すんだぞ!
んでもって使うのはこっち。思い通りの楽器に変身し自動でエフェクトまでかかる超ハイテク楽器だ!」

無断借用という名の盗品のギターを取り上げ、モナーをもう一つ分裂させて渡した。
3つに分裂させたからといって別に小さくなるわけではない。質量保存の法則? そんなもんガン無視である。

>「まぁ、運の巡りが良けりゃあ結果は分からんが……一つ大事なのは、諦めない事だ。
 それこそアイツに負けちまってもだ。
 負けてから初めて、始まる事だってあるんだからな」

>「そーそーそー、最初っから諦めてりゃ勝てるものも勝てねぇ訳よォ!
それでいい、勝ちに行こうじゃねぇの、先に進んでいこうじゃねぇの。
――ブチかまそうぜ、きっと超楽しいからよ? ゲヒャッ! ギヒヒャハハハハハハハ――――!!」

「お前ら……相変わらずテンポのいい掛け合いだけど内容は微妙に噛みあってねーよ!?」

突っ込みながら笑みが零れる。
負ける事も想定の範囲に入れているヘッジホッグと、負ける事なんて端から眼中にないゲッツ。
二人の言葉に救われたような気がした。

「そうだね。負けたって終わりじゃない。だから怖がらずに勝ちに行こう
決勝戦のテーマは――”伝説”だ!」
79 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/11(火) 01:23:12.02 ID:JoN649uk
ゲッツを追いかけてステージに踊り出て、客席に向かって手を振る。
プレッシャーなど感じていないとでもいうように。

「伝説を謳う者、フォルテ・スタッカート様だ! よろしくー!」

対戦相手は言うまでも無く、クッソ憎たらしい死霊楽師と仏頂面堅物竜人。
ディミヌエンドが、死霊の群れを召喚する。

>「――I can't remember anything(何も思い出せない)
Can't tell if this is true or dream(夢なのか現実なのかもわからない)」

表現するのは戦争によって荒廃しきった世界。呼び起こすは争いに対する恐怖。
平和を願う反戦の歌を敵の妨害に使う発想は流石というべきか――
対するオレの一発目はコレだ!

「遥かな時の果てから 響く星の声
遠い記憶の彼方の 物語呼び覚ます」

Light Fantasy~星の呼び声~。
典型的な異世界召喚型冒険譚をモチーフにした歌詞が現出する世界、それは女神が統べ精霊が戯れる御伽の国。
ただ一途にワクワクするような冒険、未知への胸の高鳴りを歌い上げる。

>「Deep down inside I feel to scream(私の奥底から叫びの声が沸き起こっても)
This terrible silence stops me(この恐ろしいまでの沈黙が私を押しとどめる)」

「子どもの頃読み聞かされた 不思議の世界巡るお伽噺《Fairytale》
ほんの少し耳を澄ませば 未知への扉が開く」

>「Now that the war is through with me(私の戦争は終わった)
I'm waking up, I cannot see(目覚めてももはや何も見えない)」

「終わりが迫りくる 世界の祈りが時を越えて
あなたへと届くとき 素敵な冒険始まる」

>「That there is not much left of me(もはや私に残ったものは僅かばかり)
Nothing is real but pain now(現実にはもう何もない 苦痛以外の何もかもが)」

「女神が紡ぐ愛の歌 全ての哀しみを癒す旋律《Melody》
奇跡を起こす合言葉は あなただけが知る」

リアルな戦争の悲惨さを歌い上げる相手に対して、オレの方はそれが欠片もない。
冷静に考えると滅びの危機に瀕した世界だというのにリアリティ0だ。
それでいい、伝説とはそういうもの。
美しいもの、楽しかったことだけずっと覚えていて欲しいから――

>「Hold my breath as I wish for death(ただ私は死を望み呼吸を止める)
Oh please, God, wake me(神よ、どうか私を目覚めさせてください)」

「――今始まる伝説《Fairytale》」
80 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/11(火) 01:25:05.55 ID:JoN649uk
掴みはOK! 多分!
戦闘民族達の方を見てみると……やってるやってる。
相手チームはディミヌエンドが歌担当で堅物竜人は戦闘専門できっちり役割分担してるっぽいけど
戦闘拒否のチームと対戦する時は竜人何してたんだろう。
などと考えている場合ではない、次だ次! やっぱり伝説には奇蹟や魔法が付き物でしょう。
という訳で“Magia”――意味は”魔法”。

「いつか君が瞳に灯す 愛の光が時を越えて
滅び急ぐ 世界の夢を 確かに一つ 壊すだろう
躊躇いを飲み干して 君が望むモノは何?
こんな欲深い憧れの行方に 儚い明日はあるの?

子どもの頃夢に見てた 古の魔法のように
闇さえ砕く力で 微笑む君に会いたい
怯えるこの手の中には 手折られた花の勇気
想いだけが頼るすべて 光を呼び覚ます願い」

勇壮なオーケストレーションに乗せて、ダークでスタイリッシュな歌詞を歌い上げる。
筋肉ムキムキの戦闘民族が戦ってる後ろで歌って何の違和感も無いけど
これ、魔法少女もののテーマなんだぜ? ウソみたいだろ?
81 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/06/17(月) 20:31:29.69 ID:gqPNg1qM
――星の巫女代理を決めるこの戦いにおいて、勝敗の決め手となるのは強さではない。
そして歌の巧拙でもなければ、見てくれの良し悪しでもない。
世界最大の宗教の看板娘に求められるのは、人の感情――心を支配する力。

要するに――この戦いにおいて、『ダサい』真似は厳禁だ。

「……そこんとこを考えると、俺はとことん向いてないよな、この戦い」

『手札』を掠め盗り、紛れ込ませる賭博師の技能は――端的に言えば『セコい』やり方だ。
死霊を統べ、桁違いの歌唱力で人の心を屈服させる黒の楽師とは、同じ妨害行為にしても格が違う。

「だからって……俺に何も出来ない訳じゃあない。
 ギャンブルの華は一発逆転、そして総取り……やってやるさ」

肝心なのはドーム内の空気――歌うのが精霊楽師でも死霊楽師でも関係ない。
誰が歌い、誰が戦おうと、生み出される『熱』は全て観客達に帰結する。
コインは積み上がっていく。

勝つのは最後だけでいい。
最後の最後に相手を出し抜き、募った『熱』を――全ての心を掻っ攫う。
それが出来れば、例えそれまでに何度負けていようが、全てが清算される。

勝ち筋は見えている――後は辿るだけだ。丁寧に、脇道を潰しながら。
最も避けなくてはならないのはジリ貧だ。
格好の付かないまま、じわじわと嬲られていくのは良くない

観客の心を徐々に凍り付かせて、総取りするべき熱が失われてしまう。
必要なのは苛烈な戦い――激しい衝突がより大きな熱を生む。
それに関しては――あの竜人が良く分かっている筈だ。心配はしていない。

「それに、既に種は撒いてある――人間、金が絡めば絡むほど、熱くなるモンだ」

観客席から聞こえる双方への声援は、これまでとは比べ物にならない程に大きい。
決勝戦だからという事もあるが、それだけではない。
賭けだ。最後に勝つのはどちらなのか、賭博師は観客を対象に賭けを開いた。

歌唱の巧拙とカリスマ性で勝るのはやはり死霊の楽師――裏を返せば見返りの少ない賭け。
親――即ち賭博師が配当と倍率を操作すれば、より多くの者を精霊楽師に賭けさせられる。
より熱狂的に応援させられる――賭博師の懐は反比例的に寒くなっていくが。

なにせ応援させる事だけが目的の賭けだ。
勝とうが負けようが、賭博師の収入が支出を上回る事はない。
精霊楽師が星の巫女代理の座を得て、そこから商業展開が出来なければ――
――恐ろしい額の借金を背負う事になる。

「まぁ……そうなったら勿論払うつもりはないんだが――
 ――二度とここには顔を出せなくなるだろうな。
 この街は中々気に入ってるんだ……頼むぜ、ホント」
82 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/18(火) 21:21:42.42 ID:LsXlX6K+
>「伝説を謳う者、フォルテ・スタッカート様だ! よろしくー!」

「覚えとけやテメェ等ァ!
あそこに居る鱗が青っぽい竜人に比べて圧倒的に主人公っぽいカラーの竜人の俺様がゲッツ・〝ディザスター〟・ベーレンドルフよォ!
俺のほうがイケメンで俺のほうが強くて、格好良くて優しいから俺を応援するのは当然だよなァ!?
って訳で声援頼むわッ! オーケーッ!?」

べらべらとよく回る舌に乗せて、怒声の如き自己紹介を済ませる紅の竜人。
その振る舞いはきっと誰がどう見ても脅迫をするチンピラにしか見えなかったことだろう。実際問題大差はない。
引き合いに出された蒼の竜人はといえば、仏頂面を崩すこと無く構えを撮り始めていたのだ。

>「遥かな時の果てから 響く星の声
>遠い記憶の彼方の 物語呼び覚ます」

そして、歌の始まりと共に振るわれる蒼の竜の拳、遠当て。
その中で、ゲッツはニヤリと笑い、一歩を踏み出して。

「――アスカロンッ!」

胸元から一息に光剣を引き抜くと同時一閃、遠当てを撃沈する。
その後、獣のように身体を屈ませると、全身に力を込めて身体を前方へと駆動させる。
極端な前傾姿勢は、最初から最後まで徹頭徹尾攻撃のためだけに費やされる構え。
光の剣を握りつぶすと同時に、ゲッツの両手の爪に光が纏わり付き、爪が延長される。

>「Hold my breath as I wish for death(ただ私は死を望み呼吸を止める)
Oh please,God,wake me(神よ、どうか私を目覚めさせてください)」

>「――今始まる伝説《Fairytale》」

「ギシャァッ!!」「ぬぅんっ!」

無色の力と紅の光が爪と爪を介して衝突をし、ドームを轟音と衝撃で揺らして行く。
その一合だけで、見るものが見ればかなりの衝突であると分かるだろう。
まさに、伝説になっても可笑しくないであろう、圧倒的な印象を残す戦いが作り上げられていく。

「うッオオオオオオオオオオオオオオオッ! スゲエ!」
「うっわ、私こういうの苦手ー」「あの竜人二人共良い身体してる……///」
「いや、やっぱ男の子ってこういうの燃えちゃうんだよなー、いいなあ!」

観客たちからは、多種多様な叫びが上がり、熱狂にドームの中は包まれていく。
つかみはバッチリと言える。なにせ、人身の掌握に長けた者が互いの陣営に居るのである。
それは当然、観客の心も掴んで当然。そして、その上に賭博師のブーストがかかれば、かくやである。
83 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/18(火) 21:22:54.88 ID:LsXlX6K+
>「いつか君が瞳に灯す 愛の光が時を越えて
>滅び急ぐ 世界の夢を 確かに一つ 壊すだろう
>躊躇いを飲み干して 君が望むモノは何?
>こんな欲深い憧れの行方に 儚い明日はあるの?
>子どもの頃夢に見てた 古の魔法のように
>闇さえ砕く力で 微笑む君に会いたい
>怯えるこの手の中には 手折られた花の勇気
>想いだけが頼るすべて 光を呼び覚ます願い」

そして、フォルテが紡ぐ歌は、人間の感情や絶望や、希望や不安を語る歌。
感情のあるその歌に対して、相対する様に、人工的なキック音が切り込んだ。
紡がれる声は、不自然過ぎるほどに人間性というものを排除した、機械の如き歌声だ。

「Buy it,use it,break it,fix it,(購入せよ。使用せよ。破壊せよ。処理せよ)
Trash it,change it,(Mail) - upgrade it,(廃棄せよ。変更せよ。メールをアップグレードせよ)
Charge it,(Point) it,zoom it,press it,(充電せよ。強調せよ。拡大せよ。圧迫せよ)
Snap it,work it,quick - erase it,(撮影せよ。作業せよ。迅速に削除せよ)
Write it,cut it,paste it,save it,(記入せよ。切取せよ。貼付せよ。保存せよ)
Load it,check it,quick - rewrite it,(読込せよ。確認せよ。迅速に上書きせよ)
Plug it,play it,burn it,rip it,(接続せよ。起動せよ。ライティングせよ。リッピングせよ)
Drag and drop it,zip - unzip it,(ドラックアンドドロップせよ。圧縮せよ。解凍せよ)
Lock it,fill it,call it,find it,(固定せよ。充電せよ。呼出せよ。検索せよ)
View it,code it,jam - unlock it,(検分せよ。暗号化せよ。固定を解除せよ)
Surf it,scroll it,(Pause) it,click it,(ネットサーフィンせよ。スクロールせよ。ポーズせよ。クリックせよ)
Cross it,crack it,(Switch)- update it,(クロスせよ。クラックせよ。スイッチをアップデートせよ)
Name it,read it,tune it,print it,(命名せよ。解読せよ。調音せよ。プリントせよ)
Scan it,send it,fax - rename it,(スキャンせよ。送信せよ。ファックスデータの名前を改名せよ)
Touch it,bring it,pay it,watch it,(接触せよ。決定せよ。支払せよ。監視せよ)
Turn it,leave it,stop - format it. (転向せよ。出発せよ。フォーマットを停止せよ)」

淡々と紡がれる声は、ドーム全体に無機質に響き渡り、人々の心を縛り上げていく。
魔法に対して、徹底的に熱のないそれは――科学、プログラム、心なき歌。
その声は観客の熱狂を縛り上げ、支配していく。なにせ、その歌詞の全てがディミヌエンドから紡ぎ出される〝命令〟なのだから。

「――我を信奉せよ、人形たち」

熱狂が産む従属ではない、感情が産む服従ではない。
徹底的に管理された感情と意志によって全てを統制する様は、この少女の奥底にある歪みを体現していると言えたかもしれない。
当然、ディミヌエンドの紡ぐ歌の支配は、この声の届く全てに対して有効なもの。
許可がなければ動くことも出来ない支配された人間へと人を変えていく歌は、狂気と言えただろう。
そして、賭博師の目論見を根本から破壊するであろうこの歌は、ゲッツ達にとっては凶器と言えたことだろう。

「殺しなさい、ジャック。命令ですから、これ」
「――任せろ」

「ちょ、お……うごけねー! ぎぁ ッ!? いや、テメ、イテッ、やめろ、死ねやボケェ!!」

絡め手に対する耐性が全くとして存在しないゲッツはといえば、もはやデカイだけの只の的。
ジャックはあえて爪や牙ではなくマウントポジションを取った上で裸拳でゲッツをメッタ打ちにし始めた。
肉や骨を殴る生々しい音と、飛び散る血、それが歌に合わせて淡々と只管続けられる。
その薄ら寒い光景と、徹底してディミヌエンドによって統制されたドームは、不気味な沈黙に包まれていた。

その中で死霊楽師はといえば、意地悪そうな目を細めながらとてもよい笑顔を賭博師に魅せるのであった。
84 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/19(水) 01:19:41.11 ID:Zb5F6BAB
「いつか君も誰かのために強い力を望むのだろう 愛が胸をとらえた夜に 未知の言葉が生まれてくる
迷わずに行けるなら 心が砕けてもいいわ いつも目の前の哀しみに 立ち向かうための呪文が欲しい
君はまだ夢見る記憶 私は眠らない明日 二人が出会う奇跡を勝ち取るために進むわ
怯えるこの手の中には 手折られた花の刃 想いだけが生きる全て 心に振りかざす願い」

オレのMagia《魔法》に対してディミヌエンドが繰り出して来たのは、Technologic《科学》。
ほぼ全て命令形で構成された機械的なラップ調の歌詞が延々と繰り返されるという異色の曲。
ああ、アイツの歌は”科学”なんだ。その時々の状況や気分に左右されない、確立した確固たる技術。
音楽には二面性があるという。
理屈では説明がつかない情緒的なそれこそ魔法のような側面と、音の順列組合せを基本とした高度に論理的で数学的な側面。
音楽理論? 何を隠そう常に赤点でした! 楽譜が読めりゃオールオッケーじゃんみたいな!

「Technologic (これが技術だ)  Technologic (これが科学だ)
Technologic (これが未来だ)  Technologic (これが進化の果てだ)」

>「――我を信奉せよ、人形たち」

もしかして押し負けてる!? いや、ただ押し負けているだけならまだいい。
先程までの客席の熱狂が嘘のように、潮が引くように静まりかえっていく。
何だろう、ぞっとするような背筋が凍りつくような感じがする

>「殺しなさい、ジャック。命令ですから、これ」
>「――任せろ」

はあ!? 何言っちゃってんのこの人達!
これのど自慢大会かアイドルオーディションであって天下一武道会でもないし増してや殺し合いじゃねーから!
ま、いいや。ゲッツが大人しく殺されるはずねーし? 10倍返しにされて後悔するこったな!

「目覚めた心は走り出した 未来を描くため
難しい道で立ち止まっても空は 綺麗な青さでいつも待っててくれる だから怖くない くじけない
捕らわれた太陽の輝く不思議の国の本が好きだったころ 願いはきっと叶うと教えるお伽噺を信じた 光と影の中」
85 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/19(水) 01:20:52.31 ID:Zb5F6BAB
>「ちょ、お……うごけねー! ぎぁ ッ!? いや、テメ、イテッ、やめろ、死ねやボケェ!!」

――思いっきりマウントポジションとられてボコられていた。オレの勇者様に何てことをしやがる!
ゲッツ、ステータス変化系の妨害技にクッソ弱いんだよな……。ディミヌエンドの歌にかかってしまったのか。
それは呪歌の力がディミヌエンドに競り負けたという事を如実に現していた。
もう認めざるをえない。アイツが歌っている限りオレの歌は届かないんだ。
どうしようもなくなって、自分たちの日頃を棚に上げて人の事は言えない台詞を叫ぶ。

「卑怯者め! お前らどー見ても悪役じゃねーか!」

ディミヌエンドが悪役なのは最初から分かりきっているとして、竜人の方は訳アリのいい人に一瞬見えたのは気のせいだったのか。
オレの吟遊詩人の勘も当てにならないもんだ。
しかし残念な事にこの勝負に善悪は関係ない。悪のカリスマというのも歴史上にはゴマンと存在するわけで……。
このまま行ったら負ける、始まったばかりだと言うのにもう危険な奥の手を出すかどうかの選択を突きつけられる事となった。
ふと昨日の夜の事を思いだす。あの時、驚くほど自然に言葉が生まれてきたんだよな……。
――迷う余地ないな。
もちろん、オレを陥れるための罠かもしれない。相手の思う壺なのかもしれない。
それでもいい、迷わずに行けるなら心が砕けてもいい。論理《ロゴス》と伝説《ミュトス》の戦い、受けて立ってやる。
ステージ中央に歩みを進め、静かに語るように謳う。

「世界を喰らう破滅の竜と 竜を打ち倒した聖者の物語
ありふれた神話に隠された 誰も語らぬ一ページを今こそ語ろう」

物語には力がある。
時に奇想天外でツッコミどころ満載な物語が、完璧な科学的論理に裏打ちされた論文にも勝るとも劣らない力を持つ事がある。
その最たるものが神話であり伝説だ。
「支配の正当性」と書いて《ものがたり》と読ませる歌詞があるように
古の国々は神話をもってその権力を確固たるものとし、歴代のカルト宗教は莫大な資金を投入して洗脳映画を作り信者を集めたという。
そして歌を使えば、小説にすれば大長編となるような壮大な物語の世界を僅か数分で描き出す事が出来るのだ!
――ファフ君様、ゲオルギウスお姉様、力を貸してな!
86 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/19(水) 01:23:13.48 ID:Zb5F6BAB
静かな民族調の導入部分から一転、曲調はアップテンポなロック調へ――
モナーを自動演奏に切り替え、ヘッドギアを外してヘッジホッグに投げ渡す。

「預けとく! 危なくなったら後ろからはめてくれよ!」

虹の翼を解き放ち、神格化――主な効力は大幅な能力値の上昇。
そのオマケとして不必要な物理法則ガン無視のグラフィック塗り替わりが発生する。
背に広げる翼は神格妖精の証である三対六枚、身に纏うは白い薄絹の衣。
それは何物にも染まらぬ純白ではなく、光の当たる方向によって様々な色を見せる虹色光沢の白だ。
誰だこの真面目なシーンでおっぱいとか言ってる不届き者は。それは多分気のせいなんじゃないかな!?

「音型展開《シンセサイズ》――アロー!」

モナーを弓型に変化させ、ジャックに光の矢を放つ。
ハメ状態が解除されて一端距離が離れたところで、一同をびしびしと指さしながら言い放つ。

「お前ら大会の趣旨分かってんのか!? 会場冷めきってんじゃん! いきなり殺し合いとか怖すぎて子ども泣くぞ!?
そしてゲッツ、オレが来たという事はどういう事か分かってるな!? ファフ君様のパートは任せた!
折角の晴れ舞台なんだからさ、ぱーっと華々しくいこうぜー! 音型展開《シンセサイズ》――キーブレイド!」

鍵盤を象った剣を携え、ゲッツの隣に並び立つ。
これからオレ達がやろうとしている事は、ディミヌエンドとジャックには絶対出来ない事だ。
それはきっとオレ達にしか歌えない歌だ。

「決して変えられぬ運命《さだめ》世界の理《ことわり》 彼に与えられしは破壊の役割」

歌いながら剣を振るいながらジャックを牽制しつつ、ゲッツに目で合図を送る。
音痴だって関係ない、この地上にお前以上にファフ君様パートに適任な奴はいないんだから。
さあ、ブチ決めてくれよ!?
87 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/06/23(日) 11:59:13.14 ID:DNe2kB/j
出だしは悪くない。
賭博師の判断――眼の前で燃え盛る感情の波濤を浴びながら。
感情とは坂道を転がり落ちていく岩と同じだ。
それが大きければ大きいほど加速は進み、止める事は困難になる。
宛ら運命――そして精霊楽師はそれを味方に付けた。
運の巡りが良ければ。決勝を前に言った言葉が賭博師の頭にリフレインする――

『Buy it,use it,break it,fix it,(購入せよ。使用せよ。破壊せよ。処理せよ』

――直後に賭博師の手から、一切の動きが奪われた。
流麗にして瞬速――超一級のカード捌きを誇る自慢の右手が、これっぽっちも動かない。
いや、右手だけではない――腕、肩、膝、足、その他全て。
瞼を閉じて開ける――たったそれだけの事すら出来なくなっていた。

額から汗が伝う。会場の熱気が原因ではない。客席はとうの昔に凍り付いている。
汗が眼球に触れ、滲んだ視界の先――――死霊の楽師が微笑んでいた。
家畜の素質があるファンが数十人規模で増やせそうな、とてもいい笑顔だ。

「――その面、一体何のつもりだ?」

笑っている――俺の自由を根こそぎ奪いやがった奴が、俺の眼の前で。

奪われた、奪いやがった――賭博師の根源に宿るモノの琴線が震えた。
湧き起こる紅蓮の如き怒り――賭博師の眼に宿る蒼に欲深き光が宿る。
溢れ出る魔力が歌に宿る魔性を遮り――体の自由を奪い返す。

「クソ小憎たらしい笑顔引っ下げやがって……お友達になって下さいってか……?え?
 だったらお望み通り……遊んでやるよ。あぁ心配するな、コインは必要ない。
 代わりにカードを貰うぜ……本気で、根っこから、引き抜いてや――」

『預けとく! 危なくなったら後ろからはめてくれよ!』

怒りで狭窄した視野の外から聞こえた楽師の声。
同時に賭博師の視界が投げ付けられたヘッドギアで埋まり――直撃。
眼と頭髪から漏れ出す蒼の光が収まった。

「……あぁ、いいとも。その時は二度と外れないように力一杯やってやるよ」

皮肉を吐きつつも賭博師は左手を前へ。
薬指の根本にある錠前型の指輪が煌めく。
銀メッキの鏡面を利用したイカサマ道具であり――
――諸事情により銀行の世話になれない賭博師の魔導金庫。
常時空っぽで全く用を成していなかったそれにヘッドギアを収納。

『決して変えられぬ運命《さだめ》世界の理《ことわり》 彼に与えられしは破壊の役割』

「そんでもって……俺にはよく分からんが、何かするつもりなんだろ?お前。
 だったらコイツもついでに頼むぜ。このままじゃどうにも消化不良だ」

深紅の竜人へと放つ一枚のカード――自分自身から抜き取った激怒の感情。
どうも感情任せにブチ切れて暴れ散らすなんて事は柄に合わない。
合わないどころか、出来ない奴らだっている。

このドームには特に――だから任せた。代弁を。抑圧からの解放を。
圧倒的な暴力は、その象徴にこの上なく相応しい。
きっと最高のカタルシスを生み出してくれる。

「――だから頼むぜ。ブチかましてやりな」
88 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/24(月) 22:26:11.13 ID:rrhvdANp
>「――その面、一体何のつもりだ?」

「いえいえ。人の努力が潰れていく様は、中々私から見ると心地よいので。
術師としては完璧である私を倒し、優勝する為に色々と小賢しい策を弄したのは知っていますよ。
――よく頑張りました、褒めてあげます。まあ……無駄だったんですけど。ねぇ?」

怒りを湧きあがらせながら、此方を睨みつけるヘッジホッグを前にしながら、しかしながら楽師は笑い続ける。
人の努力が徒労に終る様が、人の希望が潰える様が。面白くて仕方がないかのように。
感情を完全に制御できるのでなければ、もうこの時点でディミヌエンドは抱腹絶倒していただろう。
それ程に、現状ではこの楽師の実力は普通の領域から隔絶していたのだ。

そして、一方の竜人同士はと言えば。

「ち、ィ。中々いい筋してやがるけどよォ……ッ! 体が動かなくてもできることはあンだよッ!!」

只管に殴られ続けていたゲッツは、しかしながら血反吐を吐きつつも表情を崩すことはない。
四肢の一つも、指先の一つも動かせぬというのに、竜人は不敵な表情を崩さず、声を荒げた。
もう幾度目かも数えられぬ打撃は、肉を引き裂く音が混ざった。

「ぬ……ぅ!?」

ゲッツの皮膚を突き破って生えたのは、金属光沢を持つ棘。
逆立った鱗を思わせる微細な棘は伸びることで相手の拳を貫き、磔にしてみせた。
そして、その直後にフォルテの撃ち放つ光の矢が、ジャックを吹き飛ばして。

>「音型展開《シンセサイズ》――アロー!」
>「お前ら大会の趣旨分かってんのか!? 会場冷めきってんじゃん! いきなり殺し合いとか怖すぎて子ども泣くぞ!?
>そしてゲッツ、オレが来たという事はどういう事か分かってるな!? ファフ君様のパートは任せた!
>折角の晴れ舞台なんだからさ、ぱーっと華々しくいこうぜー! 音型展開《シンセサイズ》――キーブレイド!」

「さァ? 私は勝つ事だけを目的としていますから。
観客が冷めようと、人が死のうと、子供が泣こうと、誰が悲しもうと――」

フォルテの抗議を受けても、ディミヌエンドは体勢を崩すことはない、感情は揺らがない。
淡々と、薄ら寒い、敬意の欠片も感じられない敬語をつらつらと紡いでいき。
にたり、と歪みきった笑顔を浮かべて、首を嫌味なほどに可愛らしく傾げて。

「――どうでもいいでしょうに。ねぇ?」

目的が達成されるのなら、それ以外はどうでも良いと臆面もなく言い放った。
これが挑発であればまだ良い。だが、挑発でもなんでもない。
ディミヌエンドは自分の目的のためなら自分以外の全てが犠牲になっても良いと、心の底からそう思っていたのだ。
機械的な歌唱で縛り付けられた観衆たち、異様な静寂。だが、それを破る流れが会場には生まれつつ有った。

>「決して変えられぬ運命《さだめ》世界の理《ことわり》 彼に与えられしは破壊の役割」
>「――だから頼むぜ。ブチかましてやりな」

ヘッドギアを外し、本気になったフォルテの歌唱が響いていく。
そして、ヘッジホッグの怒りの感情は、ゲッツに委ねられた。
確かにそうだ、この手の感情的な行動が一番似合うであろうパーティメンバーは、パーティ内最低の知能指数のこの竜人に他ならない。
凶悪な感情の奔流を受け取った竜人の全身の古傷から、赤い光が吹き出し、服を引き裂き始めた。
空間を歪ませ、裂け目を作り始めるほどの圧倒的な力の物量、質。そして、それを携える竜人の声は空間の支配率を変化させていった。
89 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/24(月) 22:26:55.88 ID:rrhvdANp
「ったく……、紳士な俺様にこんなもんよこしやがってよォ……!
しゃーねー、しゃあねぇわなァ!! マウント取られてボコされて素面で居られる方がどうかしてんだよなァ!!!
目ン玉ひん剥いて心に刻めェ! 一生お目にかかれねぇスッゲーもん出してやっからヨォ!!
だから、もうちィっと派手に行こうやッ!! 冷めて斜に構えて、俺は賢いとか馬鹿じゃねェの?
祭りなんだぜ、此処ァよォ! 騒げよ! 笑えよ! 冷めてちゃ詰まるもんも詰まんねぇからなァ!!!」

機械的な要素、理性的な要素から大凡かけ離れた竜人の発言、行動。
馬鹿のように大きい怒声には竜種の魔力とアイン・ソフ・オウルとしての支配律が宿っている。
ディミヌエンドの歌唱は確かに強力だが、あくまでもそれは世界の理の中の力。
理を外れた力を前には、その圧倒的な力ですら拮抗するまでもなく、塗りつぶされていく。
竜人は、にたりと笑う。笑顔という表情の本質、攻撃性に立ち戻ったそれだった。

「――――竜刃昇華[シェイプシフト]、完全竜化[ドラグトランス]」

竜の全身を紅の奔流が包み込み、ドームの中が赫の力に飲み込まれていく。
光の波濤が止んだ時、ドームの天に向って二度目の紅が駆け抜けた。

『天上天下 我に敵う者などいないッ!!
愚かな人間よ 恐れおののき平伏せッ!!』

天蓋が、砕け散った。否、ドームの屋根が竜へと変化したゲッツの咆哮で消失したのだ。
天から観客と、仲間、敵を見下ろすのは、小型の竜種。サイズとしては5m程か。
しかしながら、小型とはいえどその実力は紛れもない竜種のそれで、更にその竜はアイン・ソフ・オウルでもある。

『グウゥウウゥルァァア――――――――ッッッ!!』

轟音、爆音といって良い咆哮が、死霊楽師の魂の拘束をついに粉砕、正気に戻った観客たちは歓声を響かせる。
それは、ディミヌエンドに対するブーイングでもあったし、此方に対する応援でも有ったし、龍に対する恐怖でも有った。
兎にも角にも、ドームの中は悲鳴と怒号と歓声で埋め尽くされ、それは沈黙の前の数倍にも達していた。
抑圧からの開放が、感情の爆発をこの空間に生み出していたのである。

「数えきれぬ勇者が その魔竜に挑んだ
されどどんな力も 通じる事は無かった」

フォルテは朗々と歌を続け、転じて楽師はうろたえてそこに佇んでいた。
竜の威圧だけではこうはならない、吟遊詩人の詩と歌が、賭博師の手癖の悪さが、それらが組み合わさることで現状を生み出していたのだ。
しかしながら、それでも忘我から即座に舞い戻ることが出来たのは、流石と言わざるを得ないだろう。

「な、んだこれは。……聞いてない、聞いてません……!
マモンは……? 糞ッ、ジャック! アイン・ソフ・オウルを発動しなさいッ!」

「……ッ、任せろ。あんな粗暴で粗野な輩に、ハイランダーを名乗らせはせん。
――全ては、大義が為に。我のアイン・ソフ・オウル、〝諸法無我〟」

武僧と楽師は互いに言葉を交わし、またも蒼の竜人は己の存在を薄め始めていた。
我のアイン・ソフ・オウルだというのに、我を捨て去るその様は一種特殊とも言える。
そして、相手は此方とはまた異なる形での力の発露と協力が存在していた。
90 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/06/24(月) 22:27:44.92 ID:rrhvdANp
精霊たちが音を奏でる。なにか壮大なものが始まっていくかのような、疾走感と盛り上がりのある前奏。
これまでとは違う、感情の発露、疾走、そして――力を奪うのではなく、与える歌。
相手に対して妨害などの干渉が困難と見るやいなや、この楽師は即座に支援へと移行したのだ。

「生まれ落ちた 鬼子は 遥か遠く 宙を睨める
有智に雑じる 邪道は 何故か惶懼 虚夢の如」

朗々と歌い上げる声は、力強くそしてみずみずしい。
女性の声で紡がれるその歌に重ねるようにして、竜人の声が混ざりこんでいく。

「栄え墾る 刻よ 萬壽を越えて 無期に 永らえ」

「剥がれ落ちた 箔沙 在るが儘に 子良をなぞる
無恥を詰る 覇道に 何時か参来 後楽の国」

「行き交う 雲よ 然らば 今 吼えて 唾棄に 諍え」

互いに掛け合うように歌を重ね、歌と死霊の力場に蒼の竜人は埋没していく。
そして、歌の力と竜人の力が一体化する事で歌をアイン・ソフ・オウルの力へと昇華させ、吟遊詩人、賭博師、赫竜に挑むに足る域へと昇華させた。

「「深く 冥く 濁る 無疆の闇を 切り裂いて 踊れ 己の信義 辿りて」」

『退屈しのぎにすら なりもしない奴らだ
少しは気概のある奴をよこせ今すぐ』

いつの間にか音に乗って移動した竜人は、空中へと移動。
音速での戦闘が空中では開始された。梵字が空中で踊り、ゲッツへと光弾が降り注ぎ、蹴撃と拳撃が乱れ舞う。
手数で押し切ろうとするジャックに対して、ゲッツが取った行動は単純。
爪に力を込めて全力で振り下ろすだけだ。

『ギシャァ――――――ッッ!!!!』

地面に衝突し、粉砕音を響かせながら地面を転がっていくジャックは、しかし次の瞬間からまた空中へと移動。
魔の力と聖の力を入り交じらせて、戦闘を継続し続けた。
そして、地上のディミヌエンドはと言えば――。

「「堅く 赤く 光る 究竟の波を 振り放いて 興せ 行き着く前は 鬼か羅刹か」」

己を魔王へと例えたこの歌を紡ぐことで、辺の死霊もまた強化。
無数の死霊の鎌が、吟遊詩人と賭博師の魂を刈り取り、敗北を与えんと襲いかかっていく。
その死霊達もまた、普通の魔力で縛られた時とは段違いの実力を誇っていた。
91 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/25(火) 00:01:44.14 ID:oOrECw1l
>「――――竜刃昇華[シェイプシフト]、完全竜化[ドラグトランス]」

ドラゴン変化キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

>『天上天下 我に敵う者などいないッ!!愚かな人間よ 恐れおののき平伏せッ!!』
ドームの天井がぶっ飛んだ! やっべーあまりにハマリ役すぎたかも! 弁償費用どうしよう。
後先考えずに新曲披露なんてパ○プンテしたのが間違いだったのか!
もうこうなったら優勝するしか道はない!
無敵の竜王の力を借りることに成功したオレ達に対して、ジャックとディミヌエンドは"魔王"で対抗する。
予選のときに見せた、ジャックが自らの世界を消すことで呪歌の効果を最大限に引き出す技だ。

>『退屈しのぎにすら なりもしない奴らだ少しは気概のある奴をよこせ今すぐ』

>「「堅く 赤く 光る 究竟の波を 振り放いて 興せ 行き着く前は 鬼か羅刹か」」

「――妖精の鐘《ティンカーベル》!」

襲い掛かるディミヌエンドの死霊の鎌。
対してオレは周囲にミュージックベルのような12個の鐘を展開。
それぞれの音に対応した属性の精霊を使役する霊的音響兵器だ。

「覚悟しろ竜よ これで終わりだ この私が必ずお前を倒す」

鐘を両手に踊るように、放たれた精霊達が死霊の鎌を打ち落とす。
霊的な存在が見える者なら、凄まじい魔法戦が繰り広げられているのが見えるだろう。

『いいだろう面白いやつだ かかってくるがいい
暇をつぶすにはちょうどいい勘違いするな』

何度めかのゲッツの爪の一閃が、ジャックを地面にたたきつける。

「「現世に生くること 泡沫の如くなり
滅ぶこと 常なれば ことを成し 憂き世に花を」」

「竜は待ち続けていた 倒される日を 最強の先にあったのは耐え切れぬ孤独
勇者は恋をしていた 孤高の竜に 誰も汚すことできない 気高き心に」

竜達の戦いは一時膠着状態。
相手は語りのようなパートに突入し、オレは先程の激しい曲想から一転して静かなメロディを歌い上げる。
中間部――クライマックスのための溜めだ。
ちょっと危ない歌詞だけど今のゲッツはお前達には絶対倒せないぜ?
なぜならファフ君様の攻略法は――
92 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/25(火) 00:06:07.33 ID:oOrECw1l
「大罪奴(罪) 傲然漢(傲)憎悪食らい(憎) 悪鬼羅漢(羅)
大英雄(雄) 豪胆漢(豪) 贄美の舞(舞) 第六天魔王 有りの紛い」

『少しはやるようだな 楽しかったぞ だがそろそろ終わりにしよう』
「ええ悠久の悲しみは終わり 必ずこの剣で あなたを倒す《救う》」

片や魂の叫びのようなグロウル。片や静かに言葉を交わすような掛け合い。
奇しくも同時に中間部を終え、互いに残すは最終フレーズとなった。

「クライマックスだ、ド派手にキメようぜー! 音型展開――アスカロン!!」

剣の聖女様にあやかった光り輝く聖剣を携え、ゲッツの背に飛び乗る。
なんかドラゴンライダーみたいでかっこよくね!? でもこいつに乗るのはお勧めしないぜ?
オレ以外だったら一瞬で振り落とされて死ぬからな!
時々思うんだ、この世では実現されることはなかったけどさ――
もしファフ君様とゲオルギウス様が一緒に戦ったら向かうところ敵無しだったんだろうなって……。

「栄え墾る刻よ 萬壽を超えて無期に永らえ」

「もう泣かないで愛しい人 私達永遠に結ばれる」

最後まで己の信念を貫きデレなかった魔王と超美女の勇者様にデレちゃった竜王、どっちが強いか――いざ、勝負!
93 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/06/27(木) 21:15:49.13 ID:+1IofqId
>>72
着いた後、いきなりホモが襲ってきたので、軽く槍で瞬殺し、
「言いたいことは、それだけか?なら、死ね」
『圧縮爆破』【グラビトン】
球体場の、爆発物を、周りに回し爆破
勿論、ホモの住処に片っ端にだ。
「まぁ、てめえらみたいなゴミを始末するには、こんなのがお似合いだ。」
94 : テイル ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/06/27(木) 21:37:00.16 ID:a7nIg9zG
>>93
>「言いたいことは、それだけか?なら、死ね」
>『圧縮爆破』【グラビトン】

流石導師様、ホモに囲まれても何ともないぜ!
ホモヤクザの事務所は阿鼻叫喚が響き渡る暇もなくあっけなく爆破された。ご愁傷様です。

「助かりました、ありがとうございます」

と、リーフ。
何故彼女は爆発に巻き込まれていないかというと、きっと背景に溶け込む能力の賜物である。
そして彼女から、さっきまで厄災召喚装置(再利用)があったがそれも一緒に爆破されて吹っ飛んだことを知った。
なんという結果オーライ。

「さ、騒ぎになる前に出よう!」

が、幸い部屋一つの内装が吹っ飛んだ事が騒ぎになる事はなかった。
その直後、ドームの天井が消し飛んだからである。
ボク達が客席に着いた時、まさに決勝戦の真っ最中だった。
それはいいのだが、ただの熱気とは違う、妙な気配がする。この気配は……”強欲”!?
周囲に神経を張り巡らしてみると、様々な歓声が聞こえてきた。

「今だたたみかけろ!」
「頼む! お前らが負けたら一文無しなんだよォ!」
「こけろ! こけろ!」

どう見ても賭けてます本当にありがとうございました。

「誰だよギャンブルなんてけしかけたのは!」
95 : ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage] : 2013/06/28(金) 23:14:10.71 ID:6uoAJKP7
押し込まれた。黒の楽師は多くのコインを得て、尚も強硬に挑んでくる――即ち勝負所。
精霊楽師も深紅の竜人も、裡に秘めた特異点――唯一無二の力を解き放つ。
極彩色の光を帯びた妖精の羽/業火をも凌ぐ紅蓮を宿した破壊の竜の姿。

互いの風情は正反対――だがどちらも『極まった物』にしか宿り得ない美があった。
賭博師の内側、奥深くに宿るモノ――激昂により眼を覚ました欲深き魂が擽られる。
欲しい――と。

華やかに舞う虹色の輝き、森羅万象を従える妖魔の魅力。
一点のくすみも曇りもない真紅、万物を滅ぼす竜の暴力。
どちらも酷く魅力的だ――奪い取ってでも、力ずくにでも、手に入れたい。

今なら容易く抜き取れる――背後から忍び寄って、手を伸ばす。
簡単だ。ほんの一歩前に踏み出すだけ――心の中に引いてきた線を超えるだけ。
一度越えてしまえば、その先にあるのは光と輝きだけだ。

「ぐっ……おい……お前達……そこ……どけ……」

髪を染め上げた深紅色が剥がれ落ちて、全てを呑み込む海の如き蒼が顕になる。
双眸に宿る蒼が際限なく深まっていき――

『堅く 赤く 光る 究竟の波を 振り放いて 興せ 行き着く前は 鬼か羅刹か』

――妖精の鐘を躱して肉薄した死霊の鎌が、賭博師の突き刺さった。
湿り気混じりの咳、口元から伝う鮮血――肉体にまで影響が及ぶ程の魂の傷。
酷く深い――賭博師の内に棲まうモノにまで届くほどに。

「……痛え……な……クソッタレ……。
 だがな……生憎この程度じゃ殺れない奴が、俺の中にはいるんだよ……。
 流石に今のは効いたみたいで……暫くは大人しくなるだろうがな……」

血反吐を吐き捨て、両手を伸ばす――間合いの内側にいる死霊共へ。
二枚のカードを抜き取った。
一枚は死霊そのものの力、もう一枚は死霊を従えていた歌の持つ力。

「だが……これじゃあもう、ロクに歌えそうにないな。
 まぁ、元々そんなキャラでもないんだが……だから、代わりにお前達が歌え。
 あのいけ好かない魔王様をブチのめすんだ。美味しい所だけ、乗っかってやろうぜ」

死霊のカードは懐へ。
歌唱のカードを両の掌で挟む――ほんの一瞬で、一枚のカードが手品の様に山札へ。
力を無数のカードに分割して作り直した――そしてそれを客席へとバラ撒く。
更にもう一度山札を生成――今度は歌詞を記したカード。それも観客達へ。

「お前は……強いよ、黒フリル。小手先の細工じゃあ敵わなかった。
 ……なら、やり方を変えるまでさ。ギャンブルだって最後にゃ元手の多い奴が笑うんだ。
 これだけの人数がいれば、お前の歌声なんか、きっと霞んじまうぜ」
96 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/07/02(火) 01:33:43.77 ID:4ixhRo+I
>「……痛え……な……クソッタレ……。
> だがな……生憎この程度じゃ殺れない奴が、俺の中にはいるんだよ……。
> 流石に今のは効いたみたいで……暫くは大人しくなるだろうがな……」

「……今、のは。いや、まさか。……そんな筈は、無い……ッ」

紅の奥から溢れだした蒼の力に、楽師は触れたことが有る。
圧倒的なその存在感は、彼女の知るあるもののそれに強く、酷似していた。
そして、彼が垣間見せた欲。その濃さは、ソレと寸分違わないほどであったのだから。


>「クライマックスだ、ド派手にキメようぜー! 音型展開――アスカロン!!」

『任せろやァッ! ブチかますぞ、張ッ倒すぞ! 覚悟しとけや堅物共がよォ!!』

壮大な衝突、そして残すは最後のフレーズ。幕を引くには丁度良い瞬間。
己の背に乗る重量に、竜は心地よさを感じた。心が通じ合い、互いにどう動くべきか理解しているというこの状況に。
だから、歌う。己の心を歌に載せて、この世界へと伝え、己を主張するために。

>「もう泣かないで愛しい人 私達永遠に結ばれる」
『待ち侘びた勇者よ 我のそばを離れるな そなたはもう我のものだ』
「「深く 冥く 濁る 無疆の闇を
切り裂いて 踊れ 己の信義 辿りて」」

天空で竜は最後のフレーズへの盛り上がりにシンクロするように、空中に光玉を生み出した。
深紅のそれは、夜だというのに、太陽にしか見えなかったことだろう。
強い。果てしなく強い光が、ステージを照らし、闇を吹き飛ばしていった。
波動が死霊を引き裂く。それでも、ディミヌエンドは、瞳の闇を濃く、暗くして諦めない。
歌が止まる。一瞬に、心の叫びが口をついで出る。その感情は作られたものでもなんでも無かった。

「妬ましいッ、親に愛され、光の元で育った貴方が――フォルテ=スタッカートがッ!!!
勝つッ、私の総てが、私の上に居る総てを超える為にッ! もう、二度とッ、出来損ないなんて呼ばれないためにッ!!」

ディミヌエンドは、強い。そして、どのような歌も模倣することの出来る稀代の楽師だ。
しかし、ディミヌエンドの歌う歌は、結局のところ本物の紛い物でしかない。
オリジナルには決して叶わない、オリジナルに迫ろうとも常に比較をされ続けるのがディミヌエンドのあり方。
その中で醸成された多大な劣等感は、他者に対する異常なまでの妬みと《嫉妬》を与えた。
血走った瞳で、無数の死霊を召喚し己の身体に取り込むことで強制的に地力を向上させ、最後の歌唱へと臨む。
蒼の竜人は、何も言わず。ただ無我と化して、その意志と共にして力を振るうのみだ。

「「堅く 赤く 光る 究竟の波を
振り放いて 興せ 還らぬ上は 鬼と成りて」」

>「お前は……強いよ、黒フリル。小手先の細工じゃあ敵わなかった。
> ……なら、やり方を変えるまでさ。ギャンブルだって最後にゃ元手の多い奴が笑うんだ。
> これだけの人数がいれば、お前の歌声なんか、きっと霞んじまうぜ」
97 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/07/02(火) 01:34:56.86 ID:4ixhRo+I
最後のフレーズ、これまでの数倍の力を込めて歌い上げられるそれはこのままならば負けていただろう。
だが、しかし忘れてはならないこの世界の仕組みを、この世界の絶対の理《ルール》を。
この世界には、奇跡がある――。

「「「「「『二つの魂が惹かれあい結ばれて
変えられぬ(抗えぬ)運命を(宿命を)確かに変えた
伝説になった彼らは 今も二人寄り添い 僕らを見守っている』」」」」」

――奇跡が、起こった。

確かに二人で歌っただけならば押し負けたかもしれない。いくら強かろうと、相手も同格なのだから。
だがしかし、それが3人ならば?4人なら?10人なら?100人なら?1000人ならば?
一人一人の歌の力はディミヌエンドの100分の1にも満たないかもしれない。
だが、101人ならどうだろうか。1000人ならばディミヌエンド10人分だ。
そう。最後の最後で、勝利を決定づけたのは多くを味方につけたという事、この戦いの本来の目的に立ち返ったこと。

ディミヌエンド達は、彼らが軽視していたものに負けるのだ。

『その愛は永遠に――』

太陽の様に輝く光玉が、天へと上り詰めていく。
人々の歌が作り出す感情の光、心の魔力、極微量な世界の破片がその光に混ざり合っていく。
すべての色が混ざり合う交錯点。そこで生まれたのは、総てを孕む、至高の白。

『ブチかますぞ、相方ァ!』

力を限界まで圧縮し、空中に固定化するゲッツ。
最後の引き金を引くのは――吟遊詩人、今宵の主役の一人に任された。
そして、その絶望を前に打ちのめされ、片膝を突きながら光を見上げる吟遊詩人が、居た。

(――ッ、私の価値は、勝つことに有る……!
なのに、だというのに……ッ。ここで負けて、無様を晒したら。
私は、私の劣等感《嫉妬》に負ける……ッ! それだけは、それだけは許されない、それだけは絶対に私は認めないッ)

「負けたく……無い…………ッ!」

最後の最後で出てきた言葉は、負けたくないというシンプルな解答。
だが、このままならば負ける。そして、その負けは竜人と汲んだとて覆らなかっただろう。
決着が、近い。

しかし、ある者は気がつくかもしれない。
この場の熱狂に混ざる、異様なまでの欲と、その欲の中心点となっているのが精霊楽師だという事が。
負けたくない、あいつが羨ましい、あの人の様になりたい。
その強い欲は、徐々にディミヌエンドの支配する小さい世界領域を侵食し始めていた。
98 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/07/03(水) 00:20:43.44 ID:fb4qZQsv
ゲッツが空中に真紅の光玉を作り出す。
竜の背に立ち光の中から、散々苦戦させてくれた死霊の楽師を見下ろす。
その瞳は夜の帳より尚昏い闇を宿している。観念するんだな、お前なんかに星の巫女代理の座は渡せねー!
目が合った瞬間、歌が止まる。

>「妬ましいッ、親に愛され、光の元で育った貴方が――フォルテ=スタッカートがッ!!!
勝つッ、私の総てが、私の上に居る総てを超える為にッ! もう、二度とッ、出来損ないなんて呼ばれないためにッ!!」

驚いた。
常にすました態度を崩さなかったディミヌエンドが初めて感情を見せた事と、その発言の内容にだ。
妬ましい――? オレが!? オレの人生黒歴史ばっかりだぜ!?
“親に愛され光の下で育った”なんて形容が相応しい者はもっと他にたくさんいるはずだ。
いや、歌と楽器を教え精霊楽師として育ててくれた父親と、いつも影から手を差し伸べてくれていたであろう母親がいる事
それだけで本当はとてもとても幸せな事なのかもしれない。

>「「堅く 赤く 光る 究竟の波を
振り放いて 興せ 還らぬ上は 鬼と成りて」」

今まででも半端なかったのにここに来て更に今までとは段違いの底力を見せるディミヌエンド。
悲壮なまでの意思、壮絶な気迫が伝わってくる。やっぱり強い。
オレだってお前が妬ましくて仕方がない。
楽器を弾かずとも己の体一つで森羅万象を表現する事のできるまでの歌唱力。
あらゆる歌を歌いこなす完璧な表現力。
あんな態度のくせにファンを惹きつけてやまない問答無用のカリスマ性――
絶対勝てやしない。一対一だったら……だ。

「「「「「『二つの魂が惹かれあい結ばれて
変えられぬ(抗えぬ)運命を(宿命を)確かに変えた
伝説になった彼らは 今も二人寄り添い 僕らを見守っている』」」」」」

頂上決戦の最後の最後で勝敗を分けるのは――基本中の基本、単純な物量。
誰かさんがいつの間にか客席に歌詞カードをばら撒いたらしかった。
無数の歌声が折り重なり、場を支配していく。
99 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/07/03(水) 00:25:18.19 ID:fb4qZQsv
「『その愛は永遠に――』」

剣を頭上に掲る。この剣を振り下ろせば――終わる。
終わらせてしまうのを暫し惜しむように、光を仰ぎ見る。
綺麗な光……共に歌った人々の世界の断片、命の輝きの結晶とも言うべきもの。
全ての色の絵の具を混ぜ合わせると黒になるけど、光を混ぜ合わせると白になるんだよね。
こんな白ならアリだなあって思う。

>「負けたく……無い…………ッ!」

それは重々承知だが生憎こっちもはいそうですかと負けるわけにはいかない。
優勝しないと天井の修理代出ないし!
それに――こいつは負けなきゃ前に進めないんじゃないかな?
こいつをここまで勝利に執着させているのは敗北への恐怖だ。
手の届かぬ輝きを掴みに行くような勝利への渇望とは似てるけど全然違う。

「負けは終わりじゃない!
全てを破壊するしかなかった魔竜は、聖女様に負かされたら始祖の神様になれたんだよ!
そんで種明かし! 無敵の竜王様を倒す鍵は――」

この歌に込められたちょっとした謎掛け。
それはとても簡単なようで、とても難しいもの。今のディミヌエンドは絶対持っていないであろうもの。

「“真っ直ぐな光の方向へと向かう心”だあッ!!」

剣を、振り下ろす。地面に迫る光玉、ディミヌエンドの表情が絶望に染まるのがスローモーションのように見える。
人はすぐに負の感情に捕らわれる。憎しみに突き動かされて更なる憎しみを生み出す。
自分が持っているものの素晴らしさには気付かず、無い物ねだりばっかりする。
ディミヌエンドの歌の力だって、才能もさることながら壮絶な努力の末に手に入れたものなのかもしれない。
他人から見ればそんな事は分からないから、勝手に嫉妬するのだ。
でもゲッツと一緒に戦っている時だけは、何故か真っ直ぐに光の方だけを見ていられるんだよな……
光が、炸裂する――
それを見ながら呟く言葉は、敗者への手向けではなく……

「なんだよ、ちゃんと自分の感情持ってたんじゃん。聞かせてくれよ、お前のオリジナルの歌を……」

実は派手な演出の割には殺傷能力は無い。だって音楽祭で死人出したらシャレにならんでしょ!
それに……純粋に聞いてみたかった。ディミヌエンド自身の歌を。
だからここで死んでもらうわけにはいかない。
ディミヌエンドが纏う心の鎧の象徴――死霊やらの物騒な玩具だけを綺麗さっぱり吹き飛ばすのだ。
100 : ゲッツ ◇DRA//yczyE[sage] : 2013/07/21(日) 16:07:48.29 ID:trehB2mg
>「“真っ直ぐな光の方向へと向かう心”だあッ!!」

「――く、ぅ……、妬ましい……ッ」

視界を染め抜く光、白の浄化。それを前にしてなお、その瞳は昏い感情を強く映し込む。
そして、炸裂する光の中で、楽師と竜人は飲み込まれ、意識を失い、敗北していく。
ここで終わり。ようやく長い戦いは終わり、大団円にて終幕。

とは、ならない。

>「なんだよ、ちゃんと自分の感情持ってたんじゃん。聞かせてくれよ、お前のオリジナルの歌を……」

「――良い光だ。良い力だ。だが俺を祓うには足りん。絶対的に、質も、量もな。
そして悪いがこれの歌は、俺の手中にある。それでもお前の望む歌を聞きたいなら、欲深く手を伸ばせば良い」

光が引き裂かれ、一点に集中していった。集中していく先は、右掌。
掌に集中していく光芒を、光の中心点に立つ男は握りしめ、奪い去り、捕食した。
膨れ上がる存在感、そして場の空気は突然の闖入者によって完全に乱され、闖入者の手中に収められる。
ここまでの興奮も、必死の戦いの結果も、全てを一瞬で奪い去る、強奪の様。
何もかもを奪い尽くし手中に収めなければ気がすまないような振る舞いは、言うまでもなく強欲そのものであると言えただろう。

そう。そこに居たのは強欲のアイン・ソフ・オウル、マモンだ。
青い髪、青い瞳、神魔大帝と同じ顔。そして、強力さ、質は段違いながらもヘッジホッグに酷似した存在感。
後ろに下がっているヘッジホッグを見て、意味ありげに口元を歪め、笑んだ。

「教えてやろう、どれだけ感動的な流れだろうと、力という現実には全てがねじ伏せられるのみ。
存在するだけで世界を歪ませる、異端者、秩序の破壊者[メアリー・スー]。それが俺達、アイン・ソフ・オウルと知れ」

足元に転がる竜人と精霊楽師に手をかざせば、青い光に包み込まれて消えていく。
他の拠点に転移したのではない、強欲のアイン・ソフ・オウルとしての能力の応用。
奪い去ったものを保管し、管理するための空間である『蔵』へとゲートを開き、彼らを収納したのである。
二人の財を収納した後に、少しばかり目を見開き、空間に探りを入れる。
マモンの探知は、強欲ゆえの高い嗅覚を持つ。求めるものを探索する事に関しては何にも勝ると言える。
そして、求めていたものの所在が発覚した事を理解し、朗々と響く声を張り上げる。

「――居るんだろう? 先任神位フェアリー・テイル=アマテラス=ガイア、その戦友アサキム。
出てこい、出てくる事を俺が望んでいる。故に俺の前に出よ。
そうでなければ、貴様の子とそのお仲間が俺の財宝と化す事になるぞ? なあ?」

右手に青い光を集中させて、ゲッツ達に翳す青髪。
幾らアイン・ソフ・オウルであろうとも、少なくとも今の時点では別格の存在。
それも全力での戦闘の直後の疲弊状態では、ここから逃げおおせる事も困難と言えるだろう。
だが、そんなことなど知ったこっちゃない存在が、一匹。

「ガァ――――ッ!」

災厄のアイン・ソフ・オウルとしての力、禍津の風を孕む咆哮を放つゲッツ。
触れるだけで運気を削り、回避しようとも〝不幸にも〟命中し、防ごうとも〝不幸にも〟防ぎきれない、不幸をもたらす災いの咆哮。
普通の存在であれば掠った瞬間から、あらゆる行動が失敗に終わり、自滅していく定めにある一撃。
戦闘直後――だからこそエンジン全開の状態のゲッツは、テンションと相まって最高クラスのパフォーマンスを発揮する。
が、しかし。

「同位ならば届いていたかもしれないが、なあ?
勇壮ではあるが、無謀だ。なあ、ファフニールとゲオルギウスの末裔」

禍津すらも打ち砕く、圧倒的な地力の差。
青の光と赫の風がぶつかり、青が赫を飲み込んで、力の圧を膨大に増殖させた。
男から発せられる、概念的引力は会場の人々の意識、注目を完全に支配し、己以外の言葉を聞かず、思考すら許されない状態と化していた。
スタッフ達は壇上にカメラを回し、この大事件を全国へと放送している。
何かの目的が有るのだろう。しかし、少なくともこの状況を何とか出来る者が何とかしない限り、ろくなことにならないのは間違いないはずだ。
101 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/07/22(月) 23:51:31.89 ID:xe6gBM9Y
捕食される光。歪む場の空気。圧倒的な存在感。
突如現れたのは――強欲のアイン・ソフ・オウル、マモン。

>「――良い光だ。良い力だ。だが俺を祓うには足りん。絶対的に、質も、量もな。
そして悪いがこれの歌は、俺の手中にある。それでもお前の望む歌を聞きたいなら、欲深く手を伸ばせば良い」

ただ対峙しているだけで押しつぶされそうな重圧感。絶望的な力の差。
でも今は力の差なんて関係ないでしょう。だってこれ、天下一武闘会じゃなくて音楽祭ですから!

「よくも……よくもオレ達の素晴らしい芸術をぶち壊しやがったな!
せっかく人が感動的な演出で締めようとしてたのに何してくれやがるマジ空気読め!
お前の手中にある? ふざけんな!
歌っていうのは……芸術っていうものはなあ、そいつ自身のものだ。他の誰にも邪魔されちゃいけないものなんだよ!」

>「教えてやろう、どれだけ感動的な流れだろうと、力という現実には全てがねじ伏せられるのみ。
存在するだけで世界を歪ませる、異端者、秩序の破壊者[メアリー・スー]。それが俺達、アイン・ソフ・オウルと知れ」

マモンは比喩でも何でもなくディミヌエンドとジャックを文字通りに手中に収めてみせた。
いくら御託を並べた所で圧倒的な力による実力行使の前にはどうにもならないのだ。

>「――居るんだろう? 先任神位フェアリー・テイル=アマテラス=ガイア、その戦友アサキム。
出てこい、出てくる事を俺が望んでいる。故に俺の前に出よ。
そうでなければ、貴様の子とそのお仲間が俺の財宝と化す事になるぞ? なあ?」

「いるはずないだろ! 母さんは胡散臭いチャラ男のおかげで重傷を負ったんだよ!
お前と同じ顔のなあ!」

オレが剣を掲げて斬りかかるのと同時、ゲッツが厄災の咆哮を放つ。
しかしそれが届く事は無く、オレはというと蠅でも払うように腕の一閃で振り払われて地面に転がった。
102 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/07/22(月) 23:52:41.37 ID:xe6gBM9Y
>「同位ならば届いていたかもしれないが、なあ?
勇壮ではあるが、無謀だ。なあ、ファフニールとゲオルギウスの末裔」

マモンは、先程ディミヌエンドとジャックにそうしたように右手を掲げる動作を見せる。

「やめろよ、決めてんだよ、何者にも捕らわれないって……。誰かの所有物になるなんて真っ平御免だ。
少なくともお前みたいなチャラ男はお断りだからな……!」

本当は分かっている、オレがいくらお断りしたところで無理矢理所有物にされてしまえばどうしようもないのだ。
それでも軽口を叩いて精一杯強がってみせるしかなかった。
その時、ステージ上に降り立つ者がいた。降り立つと同時に、全身を覆う黒い布を振り払う。
太陽の光を写し取ったような金色の髪。背には三対六枚の光輝く翼――さながら神の後光。
その手に掲げるは、過去に一つの世界を救ったという伝説の聖杖。

「勘違いするな、脅迫に屈したわけではない。
私が姿を現す事による諸々の不都合を圧してでもお前をここで叩いておくべきと判断したまで!」

「ウソだろ? 母さ、ん……?」

一瞬、頭を打って幻でも見えたのかと思った。
でも反面、オレ達の事をずっと見ていたのかもしれないとも思う。
だって少し前まで世界を支配する最強の神様だったんだからそれ位出来たって不思議はないだろう。
つーかあれならもう十分元気そうだからさっさと神位に復帰すればいいんじゃね!?
それとも、神位の選抜基準には何か特殊な条件があるのだろうか。単純な強さ以外の何かが――
103 : テイル ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/07/23(火) 01:31:21.27 ID:GtN0/je7
“脅迫に屈したわけではない”――我ながら真っ赤な嘘を言った物だ。
これが敵の目的だという事も、ここで姿を現したら強欲のアイン・ソフ・オウルの思う壺だと言う事も分かっている。
それでも……

「【フォース】!」

聖杖を一閃し、”全ての属性を包含した結果としての無属性”の霊的衝撃波を放つ。
マモンの青い波動と拮抗し双方消滅。

「少しは手ごたえがあるな、腐っても先代神位か」

「当然だ、まだ回復しきっていない身とはいえ単体の枢要罪ごときに負ける気は無い! 【アイスコフィン】!」

放ったものは相手を氷漬けにし息の根を止める絶対零度の氷結の魔法。
次の瞬間、マモンのいた位置に氷の柱が聳え立つ。しかしマモンは氷漬けになってはいない。
通常有り得ない事が起こった。
精霊が対象の位置を捕えてから事象を発現するまでの限りなく0に近いタイムラグの間に避けれられたのだ。
そして気付けば目と鼻の先まで間合いを詰められていた。
驚くべき事に、相手はまだ剣を抜いていない。
そう、それは剣を抜かずとも急所を突けるという確信の現れだった。こいつはボクの最大の弱みに勘付いていたのだ。
ボクが神位から堕ちた本当の理由――

「御冗談を、本当はもう殆ど力を取り戻しているのだろう? 何故神位に戻らない?」

「――!!」

その質問はまさにチェックメイト。
勝利を確信した相手は嗜虐的な笑みを浮かべてとどめを刺そうとしてくる。
104 : テイル ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/07/23(火) 01:32:28.61 ID:GtN0/je7
「戻らないのではなく戻れないのだろう? どうしてか当ててやろうか」

「黙れ……その無駄口を叩けないようにしてやる【ミュート】!」

最後の足掻きの最大出力の沈黙の魔法。
しかしそれも、ドーム全体に強力にかけられた音響増幅の魔力に阻害される。

「言うな、やめろぉおおおおおおおおお!!」

“自分の存在のせいで世界は平和を失った”そんな事を知ってしまったらフォルテは……。
取り乱すボクとは対照的に、マモンは事もなげにその答えを言ってのけた。

「――そこに転がっているそいつを特別な存在として愛してしまったからだ」

ボクのアイン・ソフ・オウルとしての属性は調和。
その恩恵は全ての者に遍く等しく平等に与えられねばならない。
あの時あの子を親としての感情で守ってしまった。
調和の神は特別な存在を作ってはいけない、贔屓はあってはならないというのに――

「一つ、教えておいてやろう。異種族同士の恋は決して幸せな結末を迎える事はない。
結ばれずに終わるならまだいい方だ。不幸にも結ばれてしまえば遅かれ早かれ必ず災いを齎す……!
それが数十年後か、数千年数万年後かは分からぬがな」

フォルテとゲッツの方を順番に見ながら講義でもするように語るマモン。
数十年後代表と数万年後代表ってか!? そんなのあんまりだ……。

「アサキム導師……アイゼンさん、最強の導師様なら教えてよ、この気持ちどうしたら捨てられるの?
全部忘れられる魔法、かけてよ」

無理だと分かってはいても、聞かずにはいられなかった。
親としての気持ちを忘れてしまえば神位に戻れる。
それはとても辛い事だけど、子どもに自分の存在を否定されるよりは増しだ。
105 : 創る名無しに見る名無し : 2013/07/26(金) 19:10:35.65 ID:+aJSb1gI
石川梨華
http://ameblo.jp/ishikawa-rika-official/image-11579763480-12622026012.html
http://ameblo.jp/ishikawa-rika-official/image-11579763480-12622026028.html
106 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/07/28(日) 20:44:36.02 ID:fb3HRj/z
テイルとともにアサキム【毘沙門天化】 が出てきた。
「無茶すんなよ、テイル。先日まで、病人なんだったから。」
まぁ、諭しても無駄無駄無駄だと思ったので、考えないことにした。

「マモン、後々の憂いにならないように、消えてもらう。」
二人とも完全に臨戦態勢に入っている。
だが、相手は完全にテイルに狙いを、定めて、猛攻を仕掛ける。
そして、最後のテイルの精神崩壊。
「っ、あいつ、おいテイル。しっかりしろ!」
アサキムの声も届かない。その変わりに、
>>「アサキム導師……アイゼンさん、最強の導師様なら教えてよ、この気持ちどうしたら捨てられるの?
全部忘れられる魔法、かけてよ。」

「俺は、確かに、最強の導師かもしれん、
だが、コレばかりは無理だ、それに、
お前が母親としての、存在を無くせば、フォルテはどうなる?少し、頭冷やせ。」

そう、冷たく言い放つと、異界の機械兵器”魔装機神”より生まれし剣『火空青雲剣』を構える。
「命を懸けて、マモン。貴様を消す!『グランバインド』」
大地より、土や岩などで強力な拘束具が形成され、マモンを捕らえんと襲いかかる。
107 : ヘッジホッグ ◆0LHqQZuyh. [sage] : 2013/07/29(月) 21:20:23.65 ID:BzElzkjv
――賭博師は勝利を確信していた。
最早、黒の楽師に為す術はない――聴衆の心は完全に掴んだ。
歌う事に専念させてやれば、リズムを掴む為に必然、こちらの歌に集中する。
構想通り――今更何が歌われようとも観客には届かない。
だと言うのに、賭博師の表情は固い。

――何故なら賭博師は、『その気配』を感じ取っていた。

――故に『これから何が起こるのか』も、予測出来ていた。

だが賭博師は何も言わなかった。何もしなかった。無駄だからだ。
奴は求めた。ならば実現する――理不尽なまでの因果関係を、賭博師は理解していた。
ただ、待つしかない――数字の羅列を巡る銀星が何処に落ちるのかを見守る様に。

『――良い光だ。良い力だ。だが俺を祓うには足りん。絶対的に、質も、量もな。
 そして悪いがこれの歌は、俺の手中にある。それでもお前の望む歌を聞きたいなら、欲深く手を伸ばせば良い』

「……来やがったか」

視界を塗り潰す白光が、紙切れ同然に引き裂かれた。
光だけではない――熱気も、興奮も、高揚も、死力を尽くしたという過程さえ、全てが掻っ攫われた。
エースとキングでブラックジャックを完成させたディーラー宛らに――
――『その男』はただの一瞬で全てを奪ってみせた。

強欲のアイン・ソフ・オウル――マモンが、ステージの上に立っていた。
賭博師の瞳、頭髪から蒼光が溢れる――
――死霊の鎌が寝かしつけた『本質』が、再び目覚めようとしていた。

「……ダイスロールの結果は、一二三ってところだな……。
 勝ちの目はもう、残っちゃいないか。だけどな……」

竜人が放った渾身の厄災も、精霊楽師の斬撃も、強欲が放つ存在感のみで掻き消された。
先任神位も実子を庇いながらでは、まともに戦えまい――いや、そうでなくとも、か。
賭博師は星の巫女の全盛期を知らない――それでも分かる。
あの女は今――この場にいる誰よりも弱いと。

――現状、賭博師にとって最善の選択は、逃走だ。
マモンの持つ求める力――探知と追跡の能力は強力無比だ。
だが『本質』を解き放ち、精霊楽師達を囮にすれば――逃げ切れる公算は十分にある。
なんて事のない損切り――ギャンブルには付き物だ。
唯一問題があるとすれば、理由はどうあれ――

――そんなプレイングは、つまらない。

「……勝ち目がない時の為にこそ、イカサマってのは存在するんだ」

人生は、ゲームだ。この状況を、思うがままにならない事さえも、楽しんでやれ。
賭博師は己に言い聞かせる。
――自分は、眼の前でほくそ笑む、いけ好かない業突く張りとは違うんだ、と。

「――プランは二つある」
108 : ヘッジホッグ ◆0LHqQZuyh. [sage] : 2013/07/29(月) 21:22:17.31 ID:BzElzkjv
竜人と楽師の背に、声を放つ。

「プランAは……お前の母親の望みを叶えてやる事だ。
 俺が余計なカードを抜き取って、ブタをファイブカードに作り直してやる」

賭博師からしてみれば、記憶だってカードの一つだ。
記憶次第で人は強くも弱くもなる。
『本質』の力を使えば、永遠にカードを奪い去る事が出来るだろう。

「これが最も勝ちの目が濃いやり方だ。神位の力には……少しだけ、覚えがある。
 お前の母親の『世界』は知らんが……枢要罪一人くらい、どうとでもなるだろうよ。
 あの女もそれを望んでる……皆が幸せになれる、我ながら実に良いプランだ」

勝ちの目が濃い――即ち手堅い安全策。
悪くないが――面白味には、まだ欠ける。

「だが、もしもお前が、母親に遅すぎる反抗期を見せてやりたいなら……プランBだ。
 お前達が、あのクソ憎たらしいアホのケツを蹴っ飛ばせ」

賭博師が髪を掻き上げる。

「アイツは……実は俺の友達でな。さっきも外で世間話をしてきた。
 その時、こう言われたんだ。偉そうに……お前には素質があるってな。
 だがそれは……アイツの勘違いだ」

赤が剥がれ落ち、強欲の色が露呈しつつある頭髪――忌み嫌ってきた力の発露。

「そうだな……まず、アイツは自分の事をダイヤモンドだと思ってやがる。
 お前達は、原石か。まだ石コロ同然だが、何処まで行けるかは分からない。
 そして俺は……恐らく炭の塊だな。密度次第じゃダイヤモンドにも成り得る、って所か」

賭博師が小さく嘲笑を零す――とんだ見当違いだと言いたげに。

「俺はな、破片なのさ。ずっと昔に砕けちまったダイヤの破片だ。
 もう輝きも価値も残っちゃいないが……
 ……だが破片でも、ダイヤには違いない。同じ相手に傷を刻む事は出来る」

眼を閉ざし、深い嘆息――心の準備を固める様に。

「今の例え話だが……意味の方は、理解しなくてもいいぞ。
 肝心なのは、戦えるようにしてやるって事だ。
 ……それだけ分かっていればいい」

瞬間、溢れ出す蒼光――『本質』の解放。
食い散らされる様に赤を失い、蒼へ染まる頭髪。両眼から溢れる天狼星の如き光。
漏れ出す気配は歪かつ小規模だが――質に限れば、確かに天位と遜色ない。

賭博師の右手が胸元へ。
カード――天位の資質を掴み、抜き取った。
続けてディーラーの真似事――『自己』が『本質』に蝕まれていく苦痛に喘ぎながら。

「ひき続き、主役はお前達だ。ブチかまして来い。
 ――とびっきりのBad Luckをな」
109 : ヘッジホッグ ◆0LHqQZuyh. [sage] : 2013/07/29(月) 21:23:47.04 ID:BzElzkjv
天位の資質を貸し与えたとは言え、二人がマモンに勝てる確率は皆無に等しい。
賭博師が期待したのは、深紅の竜人が持つ『厄災』の性質。
一発だけでも構わない。不可避の不幸を擦り付けるだけでいい。

本調子ではないとは言え、不運を背負ったまま相手取れるほど、
先任神位と見ず知らずの導師は弱くない――筈だと信じたい。

「……しかし、何か妙だな。あの男――本当にアイン・ソフ・オウルか?
 アイツの『世界』なんぞ……俺には全く見えてこないぞ」

強欲なる蒼眼が見据える先――マモンを足止めする見ず知らずの男。確かに強い。
大地のない飛行艇の上ですら威力を示す地属性魔法/気炎を纏う剣。
どちらも強力に見えるが――何も『色』が見えてこない。

「ただ強いだけだ……。アレじゃあ何処かから引っ剥がしてきた色紙みたいなモンだな。
 ……意味は分かるか?今度は分かってくれなきゃ困るぞ。こう言う事だ。
 壁のシミ程度なら覆えるだろうが……膨大な色の前では、逆に塗り潰されて終わりだ」
110 : ゲッツ ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/07/31(水) 18:10:47.99 ID:c5ZnGUll
>「よくも……よくもオレ達の素晴らしい芸術をぶち壊しやがったな!
>せっかく人が感動的な演出で締めようとしてたのに何してくれやがるマジ空気読め!
>お前の手中にある? ふざけんな!
>歌っていうのは……芸術っていうものはなあ、そいつ自身のものだ。他の誰にも邪魔されちゃいけないものなんだよ!」

「誰のもんとか、そういうのは知らねェけど、テメェは気に入らねぇ!
なんもかんもテメェの好きになると思ってたら俺がブチころすぞォァ!」

ゲッツは、フォルテに同調して叫びを上げた。
マモンに、この言葉は届くのか。おそらくは、届かないのだが。

そして、アサキムやテイルとマモンの争いの最中に、ヘッジホッグの言葉が差し込まれる。
よりによって、この場で最もそぐわない奴が、挑むという選択をしたのだ。
それが嬉しくて、ゲッツはこの致命的状況で思わず笑顔になった。

>「プランAは……お前の母親の望みを叶えてやる事だ。
> 俺が余計なカードを抜き取って、ブタをファイブカードに作り直してやる」
>「だが、もしもお前が、母親に遅すぎる反抗期を見せてやりたいなら……プランBだ。
> お前達が、あのクソ憎たらしいアホのケツを蹴っ飛ばせ」

「……俺はBしかねーぜ? ボコるのは俺の主義だし、ケツまくって逃げるのも俺の自由だ。
フォルテがA選ぼうと、俺はBで突っ込む。虚仮にされてそれで納得できる男じゃねーんでな」

ゲッツは変わらない、揺らがない。
ある意味で、戦わなければ誰かを傷つけなければいけない在り方は、災厄そのもの。
アイン・ソフ・オウルとして己の世界をそのまま表現するような生き方ができるものは強い。
なにせ、自分の世界に偽りも負い目も感じていないからだ。

>「今の例え話だが……意味の方は、理解しなくてもいいぞ。
> 肝心なのは、戦えるようにしてやるって事だ。
> ……それだけ分かっていればいい」

>「ひき続き、主役はお前達だ。ブチかまして来い。
> ――とびっきりのBad Luckをな」

「――任せな、とびっきりのDisasterを奴にかまして来るさ」

ゲッツは、増した力を元に己の体中に災厄の世界を顕現させる。
赤黒く吹き上がる力は、次第にゲッツに来るあらゆる力を〝不幸にも〟減衰させ、届かなくさせる。
そう、力が追いついたのならば、ゲッツの厄災は届くのだ。だから、ゲッツは駆ける、賭博師の賭けを勝利に変えるために。

地面を蹴る、空を飛ぶ。鋼の体に魔力が巡り、己が世界をそこに示す。
強い存在感が、周囲の空気を殺し、災いに満ちた不吉な気配で支配し始める。
己の世界を区切る殻を粉砕しながら、中に満ちた災いは外の世界を侵すべく駆け抜ける。

「ギャッシャァァアアアアアアアアアアアア――――アッ!!」

放ったのは、咆哮。
空間を引き裂きながら走るそれは、文字通りの厄災、滅び、ディザスター。
触れれば死に、掠れば総てにハンデを背負う、そんな一撃。
届くならば、ある程度のアドバンテージは得られるだろうが……?
111 : ゲッツ ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/07/31(水) 18:22:36.39 ID:c5ZnGUll
>「よくも……よくもオレ達の素晴らしい芸術をぶち壊しやがったな!
>せっかく人が感動的な演出で締めようとしてたのに何してくれやがるマジ空気読め!
>お前の手中にある? ふざけんな!
>歌っていうのは……芸術っていうものはなあ、そいつ自身のものだ。他の誰にも邪魔されちゃいけないものなんだよ!」

>「誰のもんとか、そういうのは知らねェけど、テメェは気に入らねぇ!
>なんもかんもテメェの好きになると思ってたら俺がブチころすぞォァ!」

「知るか塵芥。――俺が欲しいと言った、俺が欲しいと思った、俺が手を伸ばした。
ならばそれは手に入るのが道理、誰のものだろうと知ったことかよ。
欲しい物を手に入れるのが俺の世界[ルール]、故に俺以下の総ては俺に奪われる定めと知れ」

フォルテの叫びを、ゲッツの咆哮を。
事も無げにマモンは総て叩き落とし、意味のないことだと切って捨てた。
なぜなら、それらの己に対する非難や、己に対する敵意は〝ほしくない〟。
欲しい物しか見えないマモンに、そんなものは関係ない、響かない。

これこそが、天位。
己の持ちうる世界観が、この世の総てを凌駕し、世界の多くを塗りつぶすそんな存在。
根っから、この男は違う存在なのだ。そう、そしてそれはフォルテやゲッツやヘッジホッグも、差はあっても例外ではないのだ。
フォルテの世界には、まだ色がない。故に、普通に見えるかもしれない。
だが、ゲッツの在り方は見れば分かる。そこに有る限り、居る限り。何かを傷つけなければ、壊さなければ存在し続けられない。
それは、災厄。ゲッツの世界が地位、天位に至れば――どうなるかは分かるだろう。
そして、ヘッジホッグも強く認識しているはずだ。己の中の制御しきれない、強い〝欲〟を。

テイルとマモンのぶつかり合い。
しかしながら、拮抗どころが、今のマモンは明らかにテイルに優っていると言える。
その理由は――

「――そこに転がっているそいつを特別な存在として愛してしまったからだ」

調和を失い、アイン・ソフ・オウルとしての本質が歪になってしまったから。
そして、何よりも誰よりも。この場に置いてもっとも己の本質に素直な天位、マモン。
同じ天位でも、己の世界に歪が生じている者とそうでない者のどちらが強いかと考えれば、これまでの実力差は想像に難くない筈だ。

>「アサキム導師……アイゼンさん、最強の導師様なら教えてよ、この気持ちどうしたら捨てられるの?
>全部忘れられる魔法、かけてよ」
>「俺は、確かに、最強の導師かもしれん、
>だが、コレばかりは無理だ、それに、
>お前が母親としての、存在を無くせば、フォルテはどうなる?少し、頭冷やせ。」

「――それは、欲か。ならば、欲に答えるのも俺の在り方よ。
〝奪ってあげよう〟、さあ此方に来い。お前の記憶も、心も。全て俺の手中におさめてやる。
お前を縛る総てから、俺が開放してやる、俺がお前に与えてやる、例えば――お前の旦那も、なあ?」

>「命を懸けて、マモン。貴様を消す!『グランバインド』」

大地から生み出された強力な拘束具に、人型は完全に囚われた。
そう、そこに居たのは――初老の男性。ラルゴ=スタッカート。
呆然とした顔でそこに立つ男の顔を、フォルテは知っているだろうか、テイルは知っているだろうか。
体の良い人質のようなものだろう。大地の拘束は、マモンが触れる事で次第にその支配力を失っていき、制御をマモンの手の内に奪われていく筈だ。
112 : マモン ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/07/31(水) 18:23:19.28 ID:c5ZnGUll
>「プランAは……お前の母親の望みを叶えてやる事だ。
> 俺が余計なカードを抜き取って、ブタをファイブカードに作り直してやる」
>「だが、もしもお前が、母親に遅すぎる反抗期を見せてやりたいなら……プランBだ。
> お前達が、あのクソ憎たらしいアホのケツを蹴っ飛ばせ」

「俺はプランCを提案しよう」

ヘッジホッグの言葉に割り込むのは、ヘッジホッグと同種の力を用いるマモン。
敵方からの、新たな提案。斬新だが、マモンは至って変わらぬ態度のまま。

「――俺と戦わず、俺を放置して日常に帰れば良い」

なんと、マモンはそんな〝とてもやさしい〟、〝そうなれば一番望ましい〟結論を提供するのだ。
それができれば、それが一番良い。
なにせ、マモンは強い。少なくとも、テイルやアサキムと同等か、それ以上に、だ。

「この男の記憶も心も、総て今俺の手中にある! どうだ、そこの吟遊詩人。追い求めていたお前の父がここに居る。
父と共に居たくはないか、父と母とともにある平和な日常が欲しくはないか?
戦い続ける理由などない。テイル、貴様は英雄〝だった〟が英雄〝である〟必要はない。
そして、フォルテ。貴様も英雄に〝ならなければならない〟理由など、無い。
どうだ――俺の力は欲の支配。お前らの欲など、俺の蔵の中でなら自在に叶えてやる事など造作も無い」

朗々と、マモンはフォルテに対して、テイルに対して、甘言を垂れ流していく。
フォルテが持たなかったものを、これから取り戻すことが出来ると。
そして、テイルが子に与えられなかったものを、これから与えることが出来ると。
その言葉は、欲を良く知るマモンだからこそ出来る、心に突き刺さり、心を〝奪う〟言葉だったろう。

「お前らも欲の一つや二つは有るだろう? 俺のような絶対強者を前に、死にたくないと思っているのだろう? 逃げたいと思っているのだろう?
ならば良い、逃げろ誰よりも先に、生き延びろ誰を犠牲にしてでも。――それが俺の法と知った上で」

観客たちの心の底に有る望みは、恐怖に依る硬直で見えていなかっただけ。
それを観客たちが認識し始めると同時に、会場は恐慌となり人々は我先にと逃げ出し始めた。
押し合い、転び。転んだ人々を踏みつけながらでも逃げ出そうとする人々。
アイン・ソフ・オウルならば確固とした強い世界を持つ故、そこまでの影響はない。
だが、普通の人間ならば欲をブーストする事などたやすいこと。そして、直後空に有る存在感が現れ……。
113 : マモン ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/07/31(水) 18:24:32.39 ID:c5ZnGUll
――〝黒い雨〟が降り始めた。

正確には、雨ではない。それらを、ゲッツとフォルテは見たことが有った。
黒い宝玉、欲の力によって目覚める圧倒的暴力、アイン・ソフ・オウルの残滓。
……災厄の種。

黄昏の空は、何時しか漆黒の天蓋に覆われていた。
空を覆うのは、巨大な蜘蛛。但し、八本の足はその総てが人間の腕に酷似した醜悪なもの。
ドームの上に浮かぶその蜘蛛は、八本の手の生えた足を広げて、手から大量の厄災の種をこの都市にばら撒いていた。

「――それを拾え! もしかしたらその力で生き残る可能性があるかも知れないからなあ!」

異様に通る、魔的な声を以てして人々を扇動する男。
その声は、人々の心の表層を剥ぎ取り本能を表に引きずり出す力を孕んでいる。
そして、マモンはテイル、アサキム、ヘッジホッグ、フォルテ、ゲッツを前に天を指さした。

「……まあ、無意味なんだが。なあ?」

天空の手が、人々から暗黒色の力を吸い上げそしてマモンに還元していく。
人々の暴走、暴動が広がっていく厄災に連れてマモンの力は次々と増していく。
時間を置けば置くほど、この暴動をこのままにしておくほど、状況は不利になっていくばかりといえる。

>「ギャッシャァァアアアアアアアアアアアア――――アッ!!」

ゲッツの咆哮、それがマモンに迫る。
滅びの咆哮は、年季が違うものの一応はマモンに追いついた、マモンに届きうる一撃。
だがしかし、その一撃は。

「サイバスター、禍津の風と相殺せよ」

風を纏う、強大な魔装機神によって相殺された。
魔装機神とは、此処とは異なる世界の機械兵器。その中の一つである、サイバスター。
そう、アサキムの用いる力であり、今この瞬間。アサキムから〝奪った〟ものの一つだ。

――『強欲』:フィラルジア

欲しいと思ったものを奪い、己のものとする単純かつ強力無比な力。
奪ったものを己のものとし、支配する事であらゆる条件も契約も無視して己のものとする事が出来る最悪のルールブレイカー。
それは、アサキムの天のアイン・ソフ・オウルと酷似しているが、年季と性質が違う。
アサキムのそれは、他者のそれを一時的に借り受ける様な、所謂〝まとも〟なそれ。
転じて、マモンのそれは全く違う。それは、善ではなく悪だからというのもあるのだろうが。
マモンは奪ったものを返さない。マモンが求めるという事は、飽きるまで確実にこの男は手放さないということ。
借りるそれと、強奪するそれでは同じ他のものを支配する異能でも、その強度も強制力も全く変わってくるのである。

「――お前の力、好いなあ?」

空間を蹴り飛ばしながら、マモンは剣を持たぬまま剣士特有の体捌きを異能にまで高めたそれで距離を詰める。
右腕に青いオーラを纏わせた状態で、マモンは貫手をアサキムの腹部へと叩きこもうとしたのである。
もしマモンの攻撃が掠りでもすれば、これまでアサキムが借り受けて支配していた世界との〝繋がり〟が奪われることとなる。
それがもたらす結果は単純。マモンの力の増強と、アサキムの力の喪失である。

――確かにマモンは一人。だが、持ちうる力や能力の総量は、これまで奪ってきた総てとなる。

故に、ここに居るのは一人のアイン・ソフ・オウルではない。
無数の英雄、異能、武装、道具を支配した、人間型の総軍であると思うべきだったろう。
114 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/02(金) 02:23:47.81 ID:DqO4kN38
>「――そこに転がっているそいつを特別な存在として愛してしまったからだ」

「そ……んな……。こうなったのは、オレのせい……?」

偏愛は調和を乱す――
全てはあの日オレが何も考えずに危険な大会に出て行ったりしたから。
それ以前に、住む世界が違う母さんの影を追い求めたりしたから。
いや、そもそも――この世に生を受けてしまったから。
ディミヌエンド、世界の平和と引き換えにでも君は母親に愛されたいと思う――?

「オレは……そんなの嫌だ……」

>「命を懸けて、マモン。貴様を消す!『グランバインド』」

アサキム導師が大地の拘束の術を放つ。
そこに確かに拘束された人物は、一瞬前までそこにいたはずのマモンでは無く――

「父さ、ん……?」

あまりに唐突だが、この状況で出してくる目的は一つ……人質。
この絶望的な状況に、ヘッジホッグがプランを二つ提案する。
記憶を完璧に消去できる、とか天位に届く力を貸す事が出来る、果ては枢要罪とお友達とかさ――
ただの大法螺吹きじゃなけりゃ何者なんだ。
何か目的があってわざとオレ達に近づいたんじゃないか、とか色々思うところはあるけどそんな事は今はお預け。

>「だが、もしもお前が、母親に遅すぎる反抗期を見せてやりたいなら……プランBだ。
 お前達が、あのクソ憎たらしいアホのケツを蹴っ飛ばせ」

「実に魅力的な提案だ。……だが断る」

ゆっくりと首を横に振る。
オレだっていい加減この世界の滅茶苦茶なパワーバランスは分かっている。
確かに、いつも無理無茶無謀で突っ込んで異界の邪神にだって神代の竜神にだって勝利をおさめてきた。
だけど……だからこそ分かる。駄目だ、今回ばかりは駄目だ。
母さんの手を取って目を見て訴える。

「母さん! アイツなら母さんの記憶を消せるって……。オレの事なんて忘れて神位に戻るんだ!
このままじゃ悪い奴に神位が奪われてもっと多くの人が傷付く事になる。
ありがとう、愛されて幸せだった。
でも、母さんはこの世界に生きるみんなの女神様だから独り占めしちゃいけない……」

出てくるのは判を押したような聞き分けのいい優等生の言葉。
やっと、やっと会えたのにもうお別れなんて……。
本当は世界の平和なんて知った事かって泣いて駄々をこねたい。
だけどそんな事をしても誰も幸せにならないって分かっているから。

>「……俺はBしかねーぜ? ボコるのは俺の主義だし、ケツまくって逃げるのも俺の自由だ。
フォルテがA選ぼうと、俺はBで突っ込む。虚仮にされてそれで納得できる男じゃねーんでな」

「ゲッツ! 今回ばかりは無理だ!」

後ろから掴みかかって引き留めようとする。
普段は全力で背中を押すのが後衛の役目だけど、本当にどうにもならないと思った時は引き留めるのもまた後衛の仕事だと思う。
115 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/02(金) 02:25:58.37 ID:DqO4kN38
>「俺はプランCを提案しよう」

何をとち狂ったか、マモンが会話に割り込んできた。馬鹿なの?死ぬの?
お前を倒すためのプランを練ってるんですけど!? 何でお前自ら提案するんだよ!

>「――俺と戦わず、俺を放置して日常に帰れば良い」

「はあ……!?」

>「この男の記憶も心も、総て今俺の手中にある! どうだ、そこの吟遊詩人。追い求めていたお前の父がここに居る。
父と共に居たくはないか、父と母とともにある平和な日常が欲しくはないか?
戦い続ける理由などない。テイル、貴様は英雄〝だった〟が英雄〝である〟必要はない。
そして、フォルテ。貴様も英雄に〝ならなければならない〟理由など、無い。
どうだ――俺の力は欲の支配。お前らの欲など、俺の蔵の中でなら自在に叶えてやる事など造作も無い」

これ……どう聞いても”我と手を組めば世界の半分をお前にやろう!”と同じ類のアレじゃん!
そんな事は分かっている。分かっているけど――あれとはマーケティングの上手さが天と地ほど違うのだ。
もし世界の半分を提示されたなら、微塵も心動かされなかっただろう。そんなもん貰っても後の扱いに困るし。
さすが欲を司るアイン・ソフ・オウルだけあって、こちらの需要がよく分かっている。
さっきのさっきまで微塵も思いもしなかった、自分ですら思いつきもしなかった事なのに。
例えるならそれまで誰も思いつかなかったトンデモ新商品が新たな需要を生み出して爆発的ヒットするのに似ている。
他人の欲すら掌の上で自由自在――という訳だ。

>「お前らも欲の一つや二つは有るだろう? 俺のような絶対強者を前に、死にたくないと思っているのだろう? 逃げたいと思っているのだろう?
ならば良い、逃げろ誰よりも先に、生き延びろ誰を犠牲にしてでも。――それが俺の法と知った上で」

思った通り、観客達ももはやこいつの掌の上。
空を覆う巨大な蜘蛛から、厄災の種が降り注ぐ。

>「――それを拾え! もしかしたらその力で生き残る可能性があるかも知れないからなあ!」

「嘘だ……罠だ、拾うな!」

>「……まあ、無意味なんだが。なあ?」

天空の手が人々から力を吸い上げていく。

「お前……! どこまで奪えば気が済むんだ……!」

>「ギャッシャァァアアアアアアアアアアアア――――アッ!!」
>「サイバスター、禍津の風と相殺せよ」

ヘッジホッグの加勢を受けたゲッツの咆哮がマモンに迫るが――いきなり現れた巨大ロボットによって阻まれる。

>「――お前の力、好いなあ?」

「アサキム導師から奪ったのかよ……!」
116 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/02(金) 02:27:12.11 ID:DqO4kN38
プランAで丸く収まる――さっきまでそう思っていた。
でも仮に母さんが神位にいた頃の力を取り戻したとして、果たしてこいつに対抗できるのだろうか。それすら怪しくなってきた。
世界の安定期に神位に居続けられるだけの力があったとしても、世界の再編期に現れる悪性のアイン・ソフ・オウルに勝てるとは限らない。
同格の善性の物と悪性の物を比べた時、単純な強さはほぼ例外なく悪性の物の方が強いのだ。
もはや八方ふさがりでゲームオーバーになる展開しか思い浮かばない。
プランCが頭の中で木霊する。

――俺と戦わず、俺を放置して日常に帰れば良い

それも、アリかもしれないな――
ごめんゲッツ、約束守れそうにない……。オレはお前みたいに強くないんだ。
そう言おうとして口を開いた時だった。

「甘ったれるなフォルテ! 私はお前をそんな子に育てた覚えはない!」

ナンシーが父さんの肩に立って言っていた。腹話術芸人のつもりだろうか。でも本人は大真面目だ。

「えーと……」

反応に困っている間に、今度はオレの肩に跳んできてマモンに向かって啖呵を切る。

「お前何の同意も対価も無しに一方的に奪うなんて最悪だな! 詩精だってそんな事しねーよ!
二つ、教えといてやろう! ハッピーエンドの異種婚姻譚は少数ながらも存在する!
でも欲張り爺さんが幸せな結末を迎えた昔話はただの一つも無い!!」

「愚かな……折角幸せな結末を用意してやったというのに自らそれを逃すとは……」

ええっ、今の流れでオレが言ったように取られた!? なんてこった……!
父の一喝で戦意を取り戻した感動的展開に見えたのだろうか、そんなまさか。
耳元でナンシーが囁く。

「ごめんねフォルっち……。
これはアタシの仮説だけど……アイン・ソフ・オウルは進化する……のかもしれない。
ガイアを救った妖精は決して最初から調和の性質を持ってはいなかった。
最初は闇を討つために遣わされた無慈悲なる光の使徒だった……そうでしょ?」

ポケモンじゃあるまいしそんな無茶な!
でもガイアの伝説についてはそう言われてみればそうだ……。

「じゃあ、母さんは新たな段階に進化しようとしている……?」

「そう……だと思う。でもすぐにそこに至るか数百年かかるかは誰にも分からないわ……」

「数百年って無責任な……それまでに余裕で世界終了するわ! ……でもありがと」

危うくマモンの甘言に乗るところだった。もうこうなってしまったら腹をくくって挑むしかない。
オレのアイン・ソフ・オウルとしての性質は妖幻だっけ。
人心を惑わす字が二つも重ねられている――厄災ほど見るからに悪性ではないけれど、よく考えるとあんまりだ。
でも御尤もだとも思う。呪歌の基本にして神髄の二本柱は、味方の扇動と敵の撹乱。その本質は人を惑わす嘘だ。
味方には嘘でもいいから勝てると思わせろ。敵には一瞬だけでも戸惑いを。
嘘が罪だというのなら、嘘を貫き通して真実にしてしまえばいい! それが吟遊詩人の真骨頂だ。

「ヘッジホッグ、天位に届きうる力、貸りうける!」
117 : テイル ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/02(金) 02:29:53.92 ID:DqO4kN38
>「命を懸けて、マモン。貴様を消す!『グランバインド』」

突如として目の前に現れたのは、もう会わないと決めていた相手。
しかしその瞳は茫洋とし、まるで魂が抜けたよう。かつて愛した最高の精霊楽師の姿は見る影も無い

「お前……我が夫に何をした!?」

愛する者を傷つけられての激昂――調和のアイン・ソフ・オウルにあるまじき感情。
確かにかつてこの者と愛し合った。
しかしそれは対等な立場の愛では無く、飽くまでも一線を引いた神と人として、だったはずなのに。
それを踏み越えてしまった、調和の女神が知ってはいけない偏愛を知ってしまった原因……フォルテが駆け寄ってくる。

>「母さん! アイツなら母さんの記憶を消せるって……。オレの事なんて忘れて神位に戻るんだ!
このままじゃ悪い奴に神位が奪われてもっと多くの人が傷付く事になる。
ありがとう、愛されて幸せだった。
でも、母さんはこの世界に生きるみんなの女神様だから独り占めしちゃいけない……」

フォルテを無言で抱き締め、身を離す。
そしてヘッジホッグと名乗る男に歩み寄り、記憶の消去を依頼しようとした時だった。
敵自身が斬新な案を提唱する。

>「俺はプランCを提案しよう」
>「――俺と戦わず、俺を放置して日常に帰れば良い」

それは悪魔のささやき。相手の言う通り、無理に英雄であり続ける必要なんて無い、と思ってしまうような。
もう十分すぎるほど長きにわたって平和な時代を維持した。そろそろ引退しても罰はあたらないかもしれないな……。

>「甘ったれるなフォルテ! 私はお前をそんな子に育てた覚えはない!」

――――!?
ラルゴの肩に手をかけてがくがくとゆする。

「ちょっとラルゴ君、何時の間に腹話術なんてマスターしたの! 寝たふりしてないで何とか言ってよ!」

そうしていると、今度はフォルテが腹話術で啖呵を切る。
今地上では腹話術がブームなのか!

>「お前何の同意も対価も無しに一方的に奪うなんて最悪だな! 詩精だってそんな事しねーよ!
二つ、教えといてやろう! ハッピーエンドの異種婚姻譚は少数ながらも存在する!
でも欲張り爺さんが幸せな結末を迎えた昔話はただの一つも無い!!」

「フォルテ……強くなったんだね……」

>「ヘッジホッグ、天位に届きうる力、貸りうける!」

フォルテが自分達で戦う気なら、ボクはその意思を尊重して力を貸すまでだ。
だって本当は、この想いを消したくなんてないから……。
118 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/02(金) 02:32:02.14 ID:DqO4kN38
ガイアの伝説を謳った歌の一節に確か“女神の紡ぐ愛の歌”ってあったよな――

「母さん! 一緒に歌おう! マモン……何でも奪えると思ったら大間違いだ、この歌はお前には奪えない!」

楽器に変身したモナーの片割れを母さんに投げ渡す。
胴が平たい三角形をした弦楽器でリュートの一種、その名も”バラライカ”。
選曲のポイントは、分かりやすいドストレートな応援ソングでもあり、相手を戸惑わせる事ができそうな電波ソングでもあり……
そして何より、マモンに奪われない――奪いたいと思わないであろう事だ!
軽快な前奏に乗せて、歌が始まる。

「ゆらりゆらり揺れている乙女心ピ~ンチ!
かなりかなりヤバイのよ たすけてダーリン!クラクラリン

なにもかもが新しい世界にきちゃったわ
たくさんのドキドキ乗り越え! 踏み越え! 行・く・ぞ!

バラライカ バララライカ バラ ライラ カイカイ! この想いは止められない
もっと乙女ちっく・パワー♪きらりんりん ちょっと危険なカ・ン・ジ」

奪えないと言った意味が分かっただろうか。
三枚目ならともかく澄ました美形のイケメンが乙女心ピ~ンチ!なんて歌っていいはずがない!
そんな事はこのオレが許さない!
119 : アサキム◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/08/08(木) 22:55:16.56 ID:z34qYAjg
マモンの一撃が、アサキムに襲いかかる!
「対応が、間に合わん。」
そして、マモンの一撃をもろに受け吹っ飛ばされる。
「野郎、やりやがった何だ?」
手に持っていた火空青雲剣が、いきなり熱くなる。
そして、 いきなり火空青雲剣がアサキムの手を離れ巨大化する
「完全に、リンクからはずれたか、なら」
試しに、水の魔装機神ガッテスの武器グングニールを召喚してみる。
「ダメか、ならやはり、奪われたか」
これにより、アサキムは、ラ・ギアスとのつながりが完全に消えたということになる。
それと、アサキムは、目に異変が有ることに気づく
(ギアスも使えなくなってる手を打とうにも、策は有るのか……)
アサキムは、空を見上げる
(蜘蛛か、アレを潰せれば、勝率は少し上がるかな……)
どうやら、あの蜘蛛から、エネルギーの吸い上げや、回収を行っているらしい、
(マモンは、任せるか)
「アークエネミー ユキアネサ召喚」
氷を形成しその中より術式兵器であり、意志をもつ氷剣を召喚する。
アサキムは立ち上がり、大空へ舞う、守りたい奴らのために 「煉獄氷夜!」
巨大な蜘蛛の上に降り立ちユキアネサを突き刺しにいく
氷剣ユキアネサ――この剣で切り裂いた傷からは氷結の魔力が浸蝕し、その部位が絶対零度の氷で覆われ動きを封じられるのだ。
しかし果たして鋼鉄のごとき巨大蜘蛛の装甲を突破する事が敵うだろうか――
120 : ヘッジホッグ ◆0LHqQZuyh. [sage] : 2013/08/12(月) 02:17:50.18 ID:leUJMdqB
殺してやりたい――過去の自分を思い出させる目の前の存在を世界から消し去りたい。
貶めてやりたい――あのムカつく笑みを見る影も無くなるくらい叩き潰してやりたい。
煮え滾る欲望が『本質』を呼び覚ます/猛り狂う『本質』が欲望を加速させる。

「……言うなれば、お前は借金取りだな。利息は烏金ってトコか。
 返済を先延ばしにすれば、明日には更に膨らんだ借金が待ってる。
 そんな状況で……ゲームを降りる?馬鹿でもしないぜ、そんな事。つまり――」

右手で髪を掻き上げる――幾度もの反復によって体に染み付いた動作。
魔力のコーティング――赤髪の剥がれ具合から『本質』の侵食度合いを図る為の動作。
誰にも明かす事はない焦燥/恐怖の表顕。

「――それを人に勧めるお前は大馬鹿野郎って事だ。
 ……残念な事に、その大馬鹿に騙される救いようのないアホが大勢いるみたいだがな。
 聞こえてるか、楽師。お前も落第点ギリギリだ。もっと強く『世界』を保て」

精霊楽師に一瞬視線を向け、右手を頭上から下ろす――瞬間、手中に何かが現れていた。
デッキだ――魔力やアイン・ソフ・オウルの力によって構築された物ではない。
賭博場で使用される一般的なトランプ――公正の証明として抗魔の紋様が記されている。

「……"フィラルジア"か。便利な能力だよな。
 ――アイン・ソフ・オウルは、種族の限界に縛られない。だが個体ごとの限界はある。
 生まれた時から天位級のアホもいれば、一生かけても人位止まりの奴だっている」

賭博師の独白――同時に前触れもなく山札のシャッフルが始まる。

「要するに……どんな才能にも、鍛錬にも、いつかは限界が来る。
 だが……欲望にはそれがない。お前は何処までも強くなれる。
 本当に便利で……『懐かしい』能力だよ」

オーバーハンド/ショットガン/ファローシャッフル――デッキを四つにカット。
山を組み直し、再び一連の動作を繰り返す。

「――状況を分かりやすく整理しようか。
 そうだな……まず俺達は今、ブラックジャックに興じてる。
 そしてアイツは唾棄すべきイカサマ野郎だ。袖の中にデッキを六つも隠し持ってやがる」

切り終えたデッキの上から二枚引く――スペードのエース/ジャックのブラックジャック。
更に三枚引く――スリーセブンのブラックジャック。
続けて六枚――1/2/3/4/5/6のブラックジャック。

「アイツはどんなカードを配られようと、ブラックジャックを作り出せる。
 こんなチャチなイカサマとは訳が違う。ふざけてやがる。……勝てる筈がない」

ふと、賭博師が詩精を指先で呼び寄せる――デッキを見せ、カードを引くよう促した。
一枚目はハートのエース/二枚目はハートの2――それから3/4/5と続く。
六枚目――クラブのキング。BUST――破産だ。

「だが……それはアイツが次に配られるカードと、
 それに対して出すべきカードを常に正しく判断出来ればの話だ。
 噛み砕いて言えば――アイツは一人だ。お前達は違う。勝ちの目はまだ潰えちゃいない」

不意に賭博師が今までに引いたカードを頭上へ放り投げた。
カードは無作為に揺れ踊り、当たり前の様に地に落ちる。
――賭博師は再度カードを引いた。
121 : ヘッジホッグ ◆0LHqQZuyh. [sage] : 2013/08/12(月) 02:22:36.84 ID:leUJMdqB
カードには音符と、その上に大きなバツ印が描かれている――即ち『ミュート』の魔法。
もう一枚。絵柄は雪の結晶――『アイス・コフィン』
もう一枚。絵柄は大地の檻――『グラン・バインド』
もう一枚。絵柄は紅く輝く竜の顎――『悪竜の血脈』
もう一枚。絵柄はない、完全な白――『浄化の白光』

ミスディレクション――トランプへ意識を集中させた、一瞬での早業。
一秒にも満たない間隙の中で、全員からカードを抜き取っていた。
『破片』とは言え天位級――『強欲』と同次元の移動術。

「さて……哀れな詩精は破滅の運命を辿る羽目になっちまったが――
 ――お前はどうだろうな?え?果たして滅びずに……いられるのか?」

『ミュート』のカードを切る。
会場に施された音響増幅と自身の魔法適正により、効果範囲は極々狭い。
問題ない――自分の動作音を消すくらいの事は可能だ。

「……なぁ」

賭博師は『強欲』を睨んだまま、楽師達へ声をかける。
無意識に繰り返される確認の癖。
ほんの些細な座興――その間にも『蒼』は賭博師を蝕んでいた。

「もし……俺が『染まり切ったら』。その時はアイツと潰し合わせてから……殺してくれ。
 ……別に自己犠牲の精神って訳じゃあないぞ。
 仮にそうなっちまったら……ソイツはもう、俺じゃないってだけだ」

返事は待たない/地を蹴る――貪欲なまでの踏み込み。
カードを切る――『浄化の白光』。オリジナルですら通用しなかったが関係ない。
通じなくとも、喰らい、或いは殺し切るまでの間は目眩ましになる。

背後へ回った/カードを切る――『アイス・コフィン』
当然、相手を氷漬けにする事など出来ない――故に対象は足元。薄く、広範囲へ。
足を捕らえ損ねても、凍り付いた床を強く蹴る事は困難――爪でも生えていなければ。

接近/カードを切る――『悪竜の血脈』
勿論、竜化など部分的にすら不可能。体術と『不幸』の劣化再現が精々。
故に最後の一枚を切る――『グラン・バインド』

岩石の鎖を召喚――強奪により弱体化した物の、更に不完全品。
だが目的は拘束ではなく、足場代わり。自分だけが、全力で地を踏み締められる。
今度は相殺などさせない――上段への蹴りに『不幸』を込めて、直に叩き込む。





だが――それすらもカードの一枚に過ぎない。
これはゲームだ。技/戦術/人員/全てがカード――自分さえも例外ではない。
肝心なのは相手をBUSTさせる事――己の蹴りがカッコよく決まるかどうかは、二の次だ。
122 : ゲッツ ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/08/12(月) 21:58:14.29 ID:a88a2GyI
「……よっし、よく分かんねぇけどとにかく奴はチートやってる糞なのはよく分かった。
任せな。お前みてーに頭は達者じゃねぇ、フォルテみてーに歌も達者じゃねぇ、導師みてぇに何でも知ってはいねーよ。
だがな、だけどな――。意地と度胸と本気と覚悟とイケメン度と鱗のピカピカ度だけはこの中の誰にも負ける気はしねぇ。
これで俺もう六個勝ってる。そりゃもう勝てんだろ、よゆーよゆー。だから、ちょいとぶっ殺しに行こうぜ――、ムカつくからよ」

ヘッジホッグの長話、それを聞いた上で竜人は特に細かいことは理解できていない。
ただ分かるのは、極めて厄介であることと、正攻法では倒せないこと。
だが、正攻法で倒す術も理解している。普通を壊す力、アイン・ソフ・オウルだ。
己の災いを強く認識し、胸元から赤黒い光を漏れ出させる竜人は、にやりと笑む。

ごきりと骨格を戦闘態勢へと組み換え、全身の筋肉に液体金属を浸潤させることでその性能を数倍へと跳ね上げる。
背から映えるのは三対の光の翼。フォルテのそれに近い形状でありながら、より禍々しい災いの力の集合体。
そして、背後で信じている者が覚悟を決めた。ならばもう迷うことはない、すべきことは――前進。

>「ヘッジホッグ、天位に届きうる力、貸りうける!」

「――それでこそよォ。かますぞ、殴られっぱなしは性に合わねぇッ! ぶっ殺すぶっ倒すぶっ殺すッ!
う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおァッ!!」

背の6つの光が爆発し、辺りの障害全てを粉砕しながらゲッツは前進していく。
向かう強欲の手も、力も。何もかもを天位に至った災いの力で〝不幸にも〟失敗に終わらせる。
ゲッツの能力は凶悪だ。防御が許されない。受けた時点でその防御は無意味に終わり、戦いは一気に不利となっていく。
故に、回避以外の術が許されない。それがゲッツの強み、そして己から何かが引き抜かれる認識が、共に駆ける賭博師の手に己のそれがあることの理解へと繋がっていく。

>「もし……俺が『染まり切ったら』。その時はアイツと潰し合わせてから……殺してくれ。
> ……別に自己犠牲の精神って訳じゃあないぞ。
> 仮にそうなっちまったら……ソイツはもう、俺じゃないってだけだ」

「前に言っただろーが、テメェとは一回戦ってみてーってよ。
丁度いい機会だからそうなったらぶっ殺して頭からぼりぼり喰ってやらあよ。
それが嫌なら、死ぬ気で死ぬな! ギャヒヒヒハハハハハハッハハ――――ッ!!」

狂笑。このような厄介な奴が仲間でよかったとも思い、一度で好いから殺す気で本気で戦ってみたいとも思う。
だが、その本気の戦いの前に死んだら元も子も無い。だから、戦うために今は戦う。
個の武力も無比だが、竜人は他者と合わせることも出来る。戦場は、一人では生き延びられないためだ。

ヘッジホッグの浄化の白光。それに合わせるように赤黒い災いの咆哮を叩きこむ。

「ぐ、ウゥウゥウルァッ!」

しかし、それはまた謎のロボットに防がれ粉砕されていく。
そして、アイス・コフィン、グラン・バインドへと繋がっていくことを気配と振る舞いから予測。
ゲッツは拘束を意図するその行動に会うように、深く深く息を吸い込み体内で災いの世界を火炎に混ぜ込み精製していく。
次の瞬間、暴力的な加速による天頂への移動、真上をとったゲッツは二度目の咆哮を、厄災の上段蹴りに合わせて撃ち放つ。

「ぐギィィィッシャァアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!」

黒い閃光が駆ける。
これが通らなければ、ゲッツには為す術は無いといっても好い。
だが、まだ手段はなにもないわけではない。総力を尽くさなければ、勝つどころか生き延びる術も無い。
だから、諦めてはならない。まだ、諦めるには――早いのだから。
123 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/08/12(月) 21:58:46.14 ID:a88a2GyI
>「お前……我が夫に何をした!?」

「何もかもを」

テイルの激昂の前に、悠然と佇むのは強靭な精神と暴力と圧力と存在感を持つ、稀代の罪悪、枢要罪。
故に、罪そのものの顕現たるこの男が悪びれることなど無い。
なにせ、息をしているだけ、食事をするだけ、排泄するだけ。それと同じ感覚で男は奪うだけ。
だから、何を怯えることがある、何に罪を感じれば善い。なにせ、その身全てが罪なのに、もはやこれ以上罪を犯そうともすりきり一杯の罪は溢れていくだけなのに。
罪は笑う、善を貶め、正義を嘲り、愛を奪い、命を吸い上げ、全てを飲み干す強欲をありのままに示したままに。

>「お前……! どこまで奪えば気が済むんだ……!」

「そう――だな。この世から俺が奪う価値を感じるものが無くなるまで、俺の欲望は尽きることがないだろう。
ああ、そうだ。善いも悪いもない。俺は俺だ、だから奪う、だからこうしている。それだけのこと。文句は言わせん、その文句は望んでいない」

文字通り手中にある人々の命、力。
それらを吸い上げ、甘美なる欲の味を堪能しつつも、男はのうのうとそんなことを宣う。
アイン・ソフ・オウルとは一歩間違えればこうなる存在。世界を滅ぼしうる存在である。
そう、それはゲッツも、フォルテも、ヘッジホッグも、かつて世界を染めていたテイルもまた例外ではない。
アイン・ソフ・オウルとして強くなることは、この世界を作り変えること、この世界を壊すこと。
調和の失われたこの世界において、すでにアイン・ソフ・オウルの本来のあり方である我欲の顕現は縛られない状況。
そうとなれば、強欲の体現者が迷うことはないのだ。なにせ、調和など望んでいない男だ、世界を壊すことなど躊躇う理由がない。

>「甘ったれるなフォルテ! 私はお前をそんな子に育てた覚えはない!」

詩精の腹話術と、それを前に茶番を繰り広げる者達。
そして、もはや視線を前へと向けて戦いを始めようとする神の子たる吟遊詩人、元神位の調和の女神、罪の欠片を持つ者、正体不明の神仙、葬世と救世の竜人。
これだけの大物たちを前にしてなお、一人のままでこの男は何一つ臆することはない。
それは己の強さの理由も、己の世界の姿も、己の醜さも何もかもを理解した上で、それら全てを支配し、己の手中におさめているから。
恐怖も、なにもかも。この男に支配できないものはない。この男のものの全ては、この男の思い通りでなければありえない。
だから、男は笑う。そして、声を張り上げた。

「っは、茶番。悪くないな、良い、好い、善い見世物だ。だが、熱狂に酔うにはまだ早い。
楽師二人――何処まで俺を楽しませてくれるか、俺を酔い潰してみせろ。まだ本筋にも入っていない、余興には丁度良いからなァ?」

この男は、あまつさえこの状況を余興と言ってのけた。
確かにそうだ、この男は何を目的としてここに来たのか、何の為に此処に君臨しているのか。
それを知るすべは、無い。あまりにもヒントが無い、故に想像する他にない。
例えば、全世界にたいする中継だったり、この男の言葉により人の欲望に語りかける力であったり。
それらから、何かの目的を予測し、行動の理由を理解することは不可能ではない筈だ。ただ、考える隙があればの話だが。

>「母さん! 一緒に歌おう! マモン……何でも奪えると思ったら大間違いだ、この歌はお前には奪えない!」

「――はッ、……気に食わないな。だから気を利かせてやろうか。
奪った上で捨てておいてやろう。そのようなもの、俺は望んでいない。だから要らない、故に消えろ」

フォルテの予想、それを前にマモンは笑う、己の思考を読みきれなかった隙を、読み間違いを。
欲とは、欲するだけではない、何か不快なものを切り捨てることもまた、欲。
故に、男の力は攻防に優れる。欲するものは奪い取り、欲さぬものは滅ぼすのだから。
そんな理不尽はありえない、そんなことは〝普通〟であればありえない。だが、普通では無いのだから仕方がない。
なにせ、それがマモンのルール、強欲であるというその一点が生み出した、理不尽そのものの世界観なのだから。

男が二人に手を翳す。そして、手を握り締めて軽く己の方へと引きこむ動作をとった。
それだけで、音律が乱れ、リズムはマモンの手中に落ち、歌はマモンに支配される。
しかし、それに対向する術はある。一人の歌であれば別だ、二人でもまだ届かない。なにせ新米アイン・ソフ・オウルに、調和を失った調和の女神だ。
だが、ここに居る吟遊詩人は一人ではない。何らかの術で、もう一人の卓越した吟遊詩人を目覚めさせることが出来たとしたら……?
124 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/08/12(月) 21:59:24.22 ID:a88a2GyI
>「アークエネミー ユキアネサ召喚」

「は。俺の顕現[アヴァタ-]を前に一人で挑むと、いいだろう。徒労に終われ」

空を覆う巨大な蜘蛛、その表皮に切っ先が食い込む。
だがしかし、食い込み引き裂かれた蜘蛛の傷からあふれだすのは――規律。
この蜘蛛は、いわば蜘蛛型の結界。マモンの世界を、分かりやすい形で化身として創りだし、世界観を結界の殻でおおったもの。
その殻を砕かれれば当然として中に詰まる大量の強欲が吹き出すのは間違いないことだ。
吹き出す強欲の力は、剣の力すらも奪いつくそうとする。傷を与えても与えた傷以上を奪おうとしてくるその強欲。
八つの手は、全方位に手を伸ばし、全てを奪おうとする強欲をわかりやすく形に表したものだ。

傷口から溢れる無数の糸は、アサキムの身体に纏わり付き力を奪いとりながら蜘蛛の体内にアサキムを引きずり込もうとする。
今残る全ての力を用いれば、本来持ちうる仙人としての力くらいは残して退避することも可能であるはずだ。
これ以上の深追いは望ましくない。少なくとも、これまでのアイン・ソフ・オウルの見せなかった力と退治するのであれば尚更だ。

>「さて……哀れな詩精は破滅の運命を辿る羽目になっちまったが――
> ――お前はどうだろうな?え?果たして滅びずに……いられるのか?」

「――滅ばん。なぜなら滅ぶことを俺が望んでいない」

この男は、己の勝利を欠片も疑ってはいない。
しかし、目の前の賭博師は欠片とはいえど己と同じ罪を背負うもの、他人ではない他人。
故に、見くびることはしない。奪うのはいい、だが奪われるのだけは決して認められないから。
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい、何もかもが。
男も女も老人も大人も子供も死体も生者も酒も飯も自由も規律も死も生も愛も憎悪も世界も罰も許しも救いも災いも傷も終わりも始まりも。
何もかもがほしい。だから、何であろうと奪ってやる、だが俺のものは俺のものだ。誰ひとりにも、一滴、一欠片足りともくれてやるものか。
男の瞳に宿る、狂気的なまでの強欲。無手のままの男の両手に青い力が収束し、全身の力を抜いた状態で青い瞳がヘッジホッグとそれに合わせて駆けるゲッツを射抜く。

『浄化の白光』に対しては、『浄化の白光』。
それに乗ずるゲッツの咆哮には、またもアサキムのロボットを送り込むことで相殺し。
『アイス・コフィン』を前に、男は震脚。強欲でもなんでもない、単なる男の実力をもって足元を粉々に粉砕、凍結を無意味に帰す。
『グラン・バインド』による拘束、『悪竜の血脈』による上段蹴り。それに合わせて放たれる、ゲッツの二度目の咆哮。本物の厄災。

衝撃音。爆風、漆黒の衝撃が辺りを満たし、周囲を災いの瘴気で満たし尽くす。
ヘッジホッグの足には手応えがあったはずだ、ゲッツも今回は捉えた気配を感じていた。

爆風が止んでいくと、そこには〝ヤドリギの蔦〟がある。
そして、ヘッジホッグの蹴りはそれによって防がれ、ゲッツの咆哮は白い剣によって引き裂かれている。
それでも白い剣の切っ先にはわずかに災いが宿り、マモンの目元にはくまが浮かび、憔悴した様子が見て取れる。

「――神魔大帝の身体は好い素体だったが、まだ満たされぬ、か。
……俺に剣を抜かせるとは――、俺と異なる道を歩み俺と違う力を知ったか、〝俺〟よ」

ヤドリギの蔦を振り回しながら、マモンは歩法を用いて空中に移動し、魔力で浮遊。
125 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/08/12(月) 21:59:57.07 ID:a88a2GyI
そして、全てのカメラがマモンを向き、剣を天頂に向けて不敵な笑いと共に口を開く。
魔力を込めたその言葉は、文字通り人々の心を奪うだけの魅力を持ちうる、魔的なそれ。

「――俺の名はマモン。この世界を支配し、この世界を〝俺達〟のルールで染めることを望むもの。
俺達は枢要罪、嫉妬を持たぬ原初の罪。俺達を束ねるのは、全て持つものの嫉妬、光への妬みッ!
聞け、俺達の名を。そして望め、俺達の打倒を、俺達への勝利を、世界の平和を、世界の平穏を、世界の調和を……ッ!」

マモンの声は、強き意志を持つ。
その声の質も、気配も。孤独な悪党では決して無い、この男もまた何かを背負っているような。
そんな、異様な欲と、欲だけではない瞳の輝きが男の元に人々の意識を向けさせた。

「我らは〝レヴァイアサン〟ッ! 嫉妬の全竜にて、罪を以て世界を制する者――!
かかってこい、全世界。今宵より俺達は世界に挑む、罪に支配される世界を望まぬなら、正しき世界を望んで立て!
障害がなければ面白くない。だから、俺達を楽しませるために――なァ?」

蜘蛛が収縮していき、その手が綺麗に円形に配置される。
大地を向く掌には、一つづつ人影がいつの間にか浮かび、マモンは空いたその一つに移動する。
いくつかは朧気であるが、3名ほど確りとした姿を持つものが居た。

「――久しぶりィ、テイルぅー? 前は負けたけど、今度は私が勝つわ。
天位のアイン・ソフ・オウルになった、〝色欲〟妖魔王グリム=メルヒェンが、ねっ」

一人は、妙齢の露出の激しい女。
周りに無数の死霊を踊らせ、観客の心の一部を己への好意の虜囚とせしめる、ある意味吟遊詩人の在り方に近い力。

「ああ。誰か一人になるまで戦いなさいな、汗臭くてかなわないのよ」

必死に逃げ惑う人々にウィンクをしてみせれば、人々が途端に敵意をむき出しに、殴り合いを始める。
それを楽しそうに眺めながら、グリムはくすくすと含み笑いを漏らす。
眼下の人々を見下す、見上げる視線はどこまでも冷たい。悪女そのものの姿。

「〝傲慢〟イブリース、ヴェルザンディ。……久しぶりね、あなた達。……ああ、一人では無いのよ。懐かしい存在が、居るかもしれないから」
「〝虚飾〟ベリアール、ミヒャエル。……すまぬな。まだ、私は諦めきれない。だから、試させてもらう。この、世界を――ッ」

そこに立っていたのは、二人。
一人は、とある国家に伝統的に受け継がれている意匠を含む衣装。国を一人で救う傲慢を背負い、戦った女――国家司書ヴェルザンディ。
外見はかつてのそれに戻っているが、目は白濁し、髪は艶のない白髪のまま。手に持つのは、黒い宝玉のあしらわれた〝本〟。
一人は、純白の衣装に身を包んだ若い男。世界を一人で救う為に、己を望んで悪に貶め飾りつけた男。――三主教309代教皇、ミヒャエル・リントヴルム。
瞳の輝きは失われぬまま、どことなくうつろな気配を漂わせた男の手にある杖には――黒い宝玉が。

「――半年。それが貴様らに与えられた猶予だ。
それまでに何処まで抗えるか、俺は楽しみにしているよ。
なにか言いたいことがあれば聞いてやろう。聞くだけだが――なぁ?」

四体の枢要罪によって圧迫される世界観。
この状況は、一般人にとっては正気を失ってもおかしくない地獄絵図。
枢要罪の率いる組織に依る世界への宣戦布告。その場として、マモンは此処を用いようとしていたのだ。
不敵に笑むマモンは、すでに目的を達した後。敵意は無く、これ以上の危機は現状無い。先ほどの発言通り、ここまでは余興であったのだろう。
……この状況に、他はどう動くだろうか。
126 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/16(金) 23:12:38.31 ID:9hQ/CZA1
>「――それを人に勧めるお前は大馬鹿野郎って事だ。
 ……残念な事に、その大馬鹿に騙される救いようのないアホが大勢いるみたいだがな。
 聞こえてるか、楽師。お前も落第点ギリギリだ。もっと強く『世界』を保て」

「あ、あんなお粗末な勧誘に騙されるわけねーだろ!」

やっばー、賭博師野郎には全てお見通しって訳か!正直ナンシーの面白劇場が無ければ危なかった。
ゲッツには――バレてないよな!?
マモンは今回の歌は案の定お気に召さなかったようだ。そこまでは予想通りだったのだが……

>「――はッ、……気に食わないな。だから気を利かせてやろうか。
奪った上で捨てておいてやろう。そのようなもの、俺は望んでいない。だから要らない、故に消えろ」

マモンが手をかざす、それだけで音律が乱れる。オレに限ってそんな事は有り得ない!

「母さん、ちゃんとやって!」
「フォルテこそ!」

顔を見合わせて、同時に何が起こったのかを理解する。
欲しい物を奪うのはもう分かったけどお気に召さないものは止めさせる事が出来るなんてチートだろ!
一方、オレ達がそんな事をしている間にゲッツ達は少しだけ、ほんの少しだけマモンに攻撃を加える事に成功したようだった。

>「――神魔大帝の身体は好い素体だったが、まだ満たされぬ、か。
……俺に剣を抜かせるとは――、俺と異なる道を歩み俺と違う力を知ったか、〝俺〟よ」

そこでマモンはいい頃合だと思ったのが知らないが、思いっきりカメラ目線で演説をブチかまし始めた。なんたる劇場型犯罪者!

>「――俺の名はマモン。この世界を支配し、この世界を〝俺達〟のルールで染めることを望むもの。
俺達は枢要罪、嫉妬を持たぬ原初の罪。俺達を束ねるのは、全て持つものの嫉妬、光への妬みッ!
聞け、俺達の名を。そして望め、俺達の打倒を、俺達への勝利を、世界の平和を、世界の平穏を、世界の調和を……ッ!」

聞いた瞬間、先刻のディミヌエンドの叫びが脳裏をよぎった。
“妬ましいッ、親に愛され、光の元で育った貴方が――フォルテ=スタッカートがッ!!”

「もしかしてディミヌエンドを取り込んだのは……!」

現れる8人の人影。
今の所ディミヌエンドの姿は見えないが、姿が見えた3人だけでも十分すぎるほど驚愕に値するものだった。
127 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/16(金) 23:13:39.71 ID:9hQ/CZA1
>「――久しぶりィ、テイルぅー? 前は負けたけど、今度は私が勝つわ。
天位のアイン・ソフ・オウルになった、〝色欲〟妖魔王グリム=メルヒェンが、ねっ」
>「〝傲慢〟イブリース、ヴェルザンディ。……久しぶりね、あなた達。……ああ、一人では無いのよ。懐かしい存在が、居るかもしれないから」
>「〝虚飾〟ベリアール、ミヒャエル。……すまぬな。まだ、私は諦めきれない。だから、試させてもらう。この、世界を――ッ」

「ヴェルザンディ! ミヒャエル! お前ら悪い奴じゃ、いや確かに悪い奴だったけどさ……
チャラ男にそそのかされて厨二臭い悪の組織なんかやるタイプじゃなかったろ!?
それに妖魔王グリム=メルヒェンって……」

母さんが頷きながら言葉を継ぐ。

「ああ、ボクの宿敵……! そしてディミヌエンドの母親だ」

ディミヌエンドの母親――それを聞いて、言っても無駄だと分かっていながら言ってしまう。

「あいつ、オレに妬ましいって言ったんだ! なんで愛してやらなかったんだよ……!」

>「ああ。誰か一人になるまで戦いなさいな、汗臭くてかなわないのよ」

観客に向かって扇動を始めるグリム。
その誘惑に抗う術もなく観客達は殺し合いを始める。

>「――半年。それが貴様らに与えられた猶予だ。
それまでに何処まで抗えるか、俺は楽しみにしているよ。
なにか言いたいことがあれば聞いてやろう。聞くだけだが――なぁ?」

是非聞かせてやりたいものがある。
オレはやれやれといった声音でわざと母さんに聞こえるように呟いた。

「あーあ、駄目だこりゃ。一人でも手におえない困ったちゃんが8人なんてさ……。
どっちにしろ調和の世界観じゃ太刀打ちできなかったっしょ」

「フォルテ! 何が言いたい!?」

「だって見てみなよアイツら。
どこまでも自分勝手で盲目的で、だからこそ強烈でどギツくて揺るぎない。
調和なんて優しくて小奇麗なものじゃ対抗できっこないよ」

調和――平和平穏、事を起こさない事、何も起こらない事を望む静の世界観。
世界の安定期に平和を維持するにはこれ以上ない世界観だろう。
だけどこれ程までに鮮烈なものには、鮮烈なものでしか対抗できないのだ、きっと。

「だからさ、いいじゃん! 特別に好きな人がいたって。
父さんに歌ってあげなよ。”愛”の歌を!」
128 : テイル ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/17(土) 01:41:23.09 ID:kdWHwiZ8
>「だからさ、いいじゃん! 特別に好きな人がいたって。
父さんに歌ってあげなよ。”愛”の歌を!」

「ええっ、それは……!」

我が子ながらいきなりの無茶振りをしてきやがった!
ラルゴには数えきれぬ程歌ってもらったけど、こちらから愛の歌を捧げた事なんてない。
ボクは神で、彼は人だから。人が神を愛するのは信仰の亜種と思えばまだ許される。
だけど神が特定の人を本気で愛するなどあってはならないのだ。
所詮は住む世界が違う者同士。目的のために束の間時を共にしただけのこと――

「ボク達がラルゴに近づいたのは吟遊詩人の歌の力が必要だったからだ。
彼の好意を知りながらそれは叶わない夢だって最後まで告げなかった。
協力を得るために! 彼の好意を利用したんだ……!」

「ごちゃごちゃうるせー! だったらオレの存在はどう説明してくれるんだ。
本来生まれない種族が生まれたのはなあ……父さんと母さんが心から望んで奇跡を起こしたからだよ!」

仮にも親に向かってなんたる反抗的な口調。
言い返そうと思った時、フォルテはすでに前に進み出てボク達に背を向けて立っていた。
まるでこちらには手出しさせない、とでもいう風に光輝く翼を広げて立ちはだかり、霊的音響兵器を展開していた。
それを見て何だか吹っ切れた。歌ってやる。ボクだって、本当は――

「風が 寄せた 言葉に 泳いだ 心 雲が 運ぶ 明日に 弾んだ 声
月が 揺れる 鏡に 震えた 心 星が 流れ こぼれた 柔らかい 涙
素敵だね 二人手をとり 歩けたなら 行きたいよ キミの街 家 腕の中
その胸 からだあずけ 宵にまぎれ 夢見る」

彼と一緒に旅したあの日々、本当に素敵な気持ちになれたんだ。
たとえ調和の女神じゃなくなったって、いい――! だからお願い、目を覚ませ!
129 : フォルテ ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/17(土) 10:26:32.40 ID:kdWHwiZ8
もう子どもも大きいんだし勘弁してくれよ熟年夫婦!
愛の歌とか聞いてるこっちが恥ずかしいわ! ……誰にも邪魔はさせねー!
母さん達の前に立ち、妖精の鐘《ティンカー・ベル》を展開する。
グリムが楽しげな微笑を浮かべながらオレを挑発する。

「あら、それは叶わぬ悲恋の歌じゃなくてぇ?
住む世界が違う者同士は決して結ばれてはならない……。テイルったらよく分かってるじゃない」

確かにその通りだ。
それは世界を救う宿命を背負った少女と夢の世界から来た少年の美しくも哀しい物語を彩る恋歌。
だけど、一度非の打ちどころのない美しい悲劇として幕を閉じたあの伝承には蛇足とも言うべき続きがある。

「よく知ってらっしゃるけど残念違うな……。あの伝承には知る人ぞ知る続きがある。
あれは……抗えぬ運命を乗り越え完璧な悲劇すらも覆して幸せを掴むための決意の歌だあ!
サラマンダー、フラウ!」

右手には炎の精霊力の鐘、左手には冷気の精霊力の鐘を持ち、同時に鳴らしてグリムにけしかける。
炎と冷気を同時に出すとなんか強そうになりますという毎度おなじみのアレ。

「だからちょっと観客静かにさせてくれねーかな! この手の歌は静かに聞くもんだ!」
130 : 伝説を謳う者 ◆jIx.3BH8KE [sage] : 2013/08/20(火) 00:30:26.42 ID:FDH65L3r
避難所
不定期参加含め参加者の方はこちらで一度挙手をお願いします
http://www1.atchs.jp/test/read.cgi/lightfantasy/1376798931/l50/
131 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/08/31(土) 22:17:14.11 ID:fg9QmnNo
空から落ちる

目的を果たせずに、落ちる
(しまった………)
アサキムは地面に墜ちていく。

(もう、無理なのか。)
完全に諦めかけたとき

一つの陰が、アサキムを助ける

「アヤカ?」
「アサキム………間に合って良かった」
「何処に行ってた」
「仙界に、この事を知って、ある物を取りに行きました」
アヤカが、アサキムに見せたのは、ある赤いクリスタル
「アヤカ……」
「言いたいことは、解っています。」
「なら、」
「しかし、今の私たちには、これしか有りません!」

「……………解った。」
アサキムは、腹をくくり、禁断の切り札を手に取る
132 : ヘッジホッグ ◆J8Nz/8wJMlZL [sage] : 2013/09/05(木) 02:32:27.97 ID:oYrtWUdL
迫り来る漆黒の閃光/蹴りの軌道を修正――強欲の逃げ道を塞ぐ様に。
直後に響く轟音/拡散する爆風――激突の余波と厄災色の瘴気が視界を阻害する。
だが手応えはあった――それが防御されただけだったとしても問題ない。
防御したなら、足を止めたなら、竜人の咆哮にも触れた筈だ。
不幸に侵された状態にまで追い込めば、それが反撃の足掛かりになる。
果たして賽の目は――爆煙と瘴気が晴れていく。

『――神魔大帝の身体は好い素体だったが、まだ満たされぬ、か。
 ……俺に剣を抜かせるとは――、俺と異なる道を歩み俺と違う力を知ったか、〝俺〟よ』

「……おいおい誤魔化すなよ。今、ヤバかったんだろ?えぇ?
 お前ともあろう者が、ブラックジャックを逃しちまったなぁ」

賭博師の眼が捉えた物――強欲を庇う様に現れた宿り木の蔦/頭上に掲げられた純白の剣。
捌かれた――厄災の力も完全には届き切っていない。
せめてもの皮肉を残し、咄嗟に後方に飛び退き距離を開ける。

「次のゲームが……楽しみだな、おい」

持てるカードは全て切った/組み得る最高の役で挑んだ――それでも及ばなかった。
だが、だからと言って、打つ手が無くなった訳ではない。
何故なら賭博師は、また新たに打つ手――カードを得ているからだ。

『賭博』のアイン・ソフ・オウルは、『強欲』の"フィラルジア"とは似て非なる物だ。
賭博師は人生をゲームと捉える。
故に才能/素質/力/技能/道具/その他諸々全てがカード――ゲームを乗り切る為の要素だ。
それらは運次第で誰もが手にし、使い得る物。それを抜き取る。
相手が持つ、運命の女神様から配られた偏りだらけの山札から、ほんの一枚だけ。
だが――何もカードを抜き取れるのは、山札のみではない。

捨て札だ。相手の切ったカードを拾い上げ、次のゲームに備える事もまたイカサマ。
賭博師は既に抜き取っていた/右袖に一瞬視線を注ぐ――そこに隠した二枚のカードへ。

『宿り木の蔦』/万物を阻む加護を唯一擦り抜ける植物――即ち最高級の厄災と言える。
『聖剣無銘』/何物にも侵されないと謳われた伝説の剣――希望を歌うにはお誂え向き。

希望と厄災の象徴――吟遊詩人/竜人との相性は期待出来る。
先ほど竜人が見せた『漆黒の閃光』も、攻め手に使える筈だ。
今度こそ強欲をBUSTさせられるかもしれない――

『――俺の名はマモン。この世界を支配し、この世界を〝俺達〟のルールで染めることを望むもの。
 俺達は枢要罪、嫉妬を持たぬ原初の罪。俺達を束ねるのは、全て持つものの嫉妬、光への妬みッ!
 聞け、俺達の名を。そして望め、俺達の打倒を、俺達への勝利を、世界の平和を、世界の平穏を、世界の調和を……ッ!』

――不意に強欲が声を上げた。
長口上――その中に含まれた一つの言葉が、賭博師の意識を絡め取る。

「"俺達"だと……?おいおい、ちょっと待てよ。
 それじゃまるで、お前に友達がいるみたいじゃないか。
 あり得ないな。お前みたいな業突く張りが、誰かと意志を共に出来る訳が――」

そこで、滔々と連ねる皮肉を最後まで述べる事なく、賭博師が言葉を失った。
気配だ――『強欲』にも比肩する鮮烈な存在感が三つ、新たに増えている事に気が付いた。
133 : ヘッジホッグ ◆J8Nz/8wJMlZL [sage] : 2013/09/05(木) 02:34:10.20 ID:oYrtWUdL
『――久しぶりィ、テイルぅー? 前は負けたけど、今度は私が勝つわ。
 天位のアイン・ソフ・オウルになった、〝色欲〟妖魔王グリム=メルヒェンが、ねっ』

「……おいおい久しぶりだな。何年ぶりだ?
 もう覚えちゃいないが……随分と老けちまったみたいじゃないか」

賭博師は、その雰囲気に覚えがあった。
幾千/幾万/幾億――かつての中のいつか、己が『破片』では無かった頃の記憶。
俗衆を、精霊すらも蠱惑する存在/気配――『色欲』のアイン・ソフ・オウル。
そして――新たに増えた気配は『色欲』だけではなかった
『傲慢』/『虚飾』――四体の枢要罪が今この場にいる。

『〝傲慢〟イブリース、ヴェルザンディ。……久しぶりね、あなた達。……ああ、一人では無いのよ。懐かしい存在が、居るかもしれないから』
『〝虚飾〟ベリアール、ミヒャエル。……すまぬな。まだ、私は諦めきれない。だから、試させてもらう。この、世界を――ッ』

圧倒的な戦力差/絶望的な窮地。
だが賭博師が抱く感情は絶望/恐怖/諦念――それらのどれでも無かった。

『――半年。それが貴様らに与えられた猶予だ。
 それまでに何処まで抗えるか、俺は楽しみにしているよ。
 なにか言いたいことがあれば聞いてやろう。聞くだけだが――なぁ?』

「……どう言う事だ。お前達……神位の……世界の先に……一体、何を望んでる」

賭博師の問い――酷く困惑した声色で。
あり得ないものを見たと言わんばかりの狼狽――実際、その通りだった。

枢要罪――即ち限りなく純粋な罪の権化/体現者。
その行動の全てには己が罪/欲望が付き纏う。
神位を奪わんとする、その行為すらも例外ではない。

強欲は世界の全てを奪い尽くす為に。
傲慢は世界の全てを見下さんが為に。
色欲は神位――この世で最も魅力的である座を得る為に。
虚飾も同じく――この世で最も輝きに満ちた座を得る為に。
他の罪も全て、行動原理は自分自身の罪だ。

少なくとも『賭博師の時』は、そうだった。
だが今、目の前にいる奴らは違う。
神位/世界を得た先に――或いはまるで異なる所に目的を据えている。

俺達の時は……そうじゃなかった。『罪』の先に望むものなど――何も無かった。
 なのに、お前達は、一体何を……目指してやがるんだ……?」
134 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/09/10(火) 22:31:28.38 ID:st7BIts2
>「ヴェルザンディ! ミヒャエル! お前ら悪い奴じゃ、いや確かに悪い奴だったけどさ……
>チャラ男にそそのかされて厨二臭い悪の組織なんかやるタイプじゃなかったろ!?
>それに妖魔王グリム=メルヒェンって……」

「――少し、嬉しいわね。でも、ね。
……私は傲慢だから、未だに私の行いの全てが間違っていたなんて認められない。
私が間違っていると世界が言うならば、私が悪だと世界が言うならば……私の目的を達成する事で、世界に私の全てを認めさせる。
そそのかされたわけでも何でもない、これは、正真正銘の私の意志よ。そして……その先にあるものも」

「……久しぶりだな、フォルテ、ゲッツ、アサキム。あの時、私は見たよ。美しい光景を、素晴らしい世界の形を。
だが、それは虚ろに飾り付けられた、〝虚飾〟でしかない。君は知っているか? 私亡きあとのあの都市を。
――ならば、私は全ての虚飾を背負い、この世から全てのヴェールを引き剥がしてみせるしか無いだろう。
皆が皆、己の全てで向かい合うことの出来る、むき出しの世界を。そして、取り繕うしか能の無い私は――」

二人は、他の二人の枢要罪とは、少々違う。
確かに圧倒的な罪の力を持っているが、その罪と共に、人間らしい感情や思考が未だに残っている。
そして、その上で、抱いた欲を共に叶える為に――強欲と手を組んだ。そんなシナリオなのだろう。
傲慢は、己の正しさを傲慢にも疑わず、己の全てを認めさせるために。
虚飾は、全ての嘘に絶望し、この世からあらゆるヴェールを引き剥がすために。
その為に、彼らは死してなお残る思いを素体にして、この世界に再臨した。
また、彼ら二人の共通項は、互いに〝厄災の種〟を用い、その反動で死に至り、しかしながら最後まで己の意志を失わなかったものという事。
恐らく、その強い意志が有ったからこそ、強欲に飲み干されきれない存在となり、死を切掛にアイン・ソフ・オウルとしての力に覚醒したのだろう。

>「あいつ、オレに妬ましいって言ったんだ! なんで愛してやらなかったんだよ……!」

フォルテの怒り、叫び。
それを前に、ヴェルザンディは、老若男女問わずに惹きつける、超感覚的魅了、魅力をまき散らしながら、微笑む。
近くに居た母と子を護るために暴動から逃げようとする男にウィンクをすれば、男は母子を見捨てて駆け出した。
色狂い。ある意味では、色欲、愛欲とは――古来より国を滅ぼす要因の一つとなってきた物。その強さも醜さも、郡を抜いているといえる。
そんな妖魔王は、己の宿敵の子を見下ろしながら、つややかな唇を弓の形にしながら、鈴の音の様な声を紡ぐ。

「だってあの子――、愛してやって、まともに育ったら私より愛されるじゃぁないのよ。
そんな事、愛を求める色狂い――色欲のグリムが許せるはず、無いじゃない。
母親である前に一人の女、テイルだってなんだかんだで変わらないじゃないの――滑稽ねぇ」

――母親である前に、一人の女である。だから、子供に愛を奪われることを恐れ、子に嫉妬し、愛を与えない。
私は、皆を愛すから。皆は私以外を愛してはならない。
でも、幸せでしょう。なにせ、世界で一番美しくて、一番やさしいこの私に愛されているのだから。

>「……おいおい久しぶりだな。何年ぶりだ?
> もう覚えちゃいないが……随分と老けちまったみたいじゃないか」

「いっぺん死ねェ、きったねぇきったねぇ欠片風情が――ッ! ああそうよ、女に歳を聞くなんて万死に値すんじゃねェかよ、ア゛ぁ゛!?
どーせ男なんて、若いのがいいんでしょうが、だから私はあの子が私以上になるのが許せない!
そうよ、愛してなんてやるものですか……! 愛されるのは――私だけで良いッ!!」

ヘッジホッグの言葉に、瞬時に反応し、声を荒げ暴言を吐き散らすグリム。
しかしながら、なぜかその動作や発言すらも、どことなく愛らしく――あばたもえくぼと言った様相。
だが、あまりにも強すぎる愛――自己愛は、己以外の全てを見下し、己以外の全ての持ちうる愛を〝強欲〟に望み、〝嫉妬〟する。
ある意味では、貰えぬ愛に餓え、その餓えを満たすために成果を〝欲し〟、己に比肩しうる者達皆に〝嫉妬〟する子と、極めて似通っていた。
あまりにも似ていてからこそ、恐らくグリムは己の子を恐れたのだろう。己とそっくりの者が、老いて衰える己と正逆に、美しく育っていく姿に。
135 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/09/10(火) 22:31:58.84 ID:st7BIts2
そして、同じ瞬間。問いかけを交わすものがもう一つ。

>「……どう言う事だ。お前達……神位の……世界の先に……一体、何を望んでる」
>俺達の時は……そうじゃなかった。『罪』の先に望むものなど――何も無かった。
> なのに、お前達は、一体何を……目指してやがるんだ……?」

「――欲しいものが有る。何が欲しいかの種明かしは、まだ遠いがな。
俺が欲するものへ至る道が、たまたまこいつらと一緒だっただけ。
……ただ、欲は強いぞ。求めるという点で、俺達のそれは本能だ――罪は善よりも濃い、胸焼けしそうな程にな。
お前のかすかな正気も、良心も。遠くない内に食いつぶされる、そしてその時に、お前は理解する、かもしれん。……なぁ?」

問いかけに対して、男ははぐらかすかのような言葉を紡ぎ。
意味ありげに己の残滓に、己の欠片に笑い声を響かせ、癖となっている確認を投げかけた。
そして、その直後に調和の女神の歌声が、響き渡る。

>「風が 寄せた 言葉に 泳いだ 心 雲が 運ぶ 明日に 弾んだ 声
>月が 揺れる 鏡に 震えた 心 星が 流れ こぼれた 柔らかい 涙
>素敵だね 二人手をとり 歩けたなら 行きたいよ キミの街 家 腕の中
>その胸 からだあずけ 宵にまぎれ 夢見る」

「あら、それは叶わぬ悲恋の歌じゃなくてぇ?
住む世界が違う者同士は決して結ばれてはならない……。テイルったらよく分かってるじゃない」

>「よく知ってらっしゃるけど残念違うな……。あの伝承には知る人ぞ知る続きがある。
>あれは……抗えぬ運命を乗り越え完璧な悲劇すらも覆して幸せを掴むための決意の歌だあ!
>サラマンダー、フラウ!」

「今宵の月夜には、少々無粋な者を感じるね――、君には教えただろう、フォルテ?
僕達は、何時何があっても、最後まで元気に、笑いながらって、泣く時も最後は笑顔だ、怒っても喧嘩しても最後は笑顔。
……なぜなら、歌は皆の喜びを共にし怒りを沈め哀みを癒やし楽しさを与えるものだから。
過程に何があっても、最後には笑顔でなければならない。僕達の紡ぐ物語は、ハッピーエンド以外にないんだからね?」

グリムとフォルテの衝突。
グリムがフォルテの力を〝魅了〟しその支配率を操り、反逆させようとした瞬間。
フォルテとグリムの力の双方が、唐突に雲散霧消した。自然に、そこに最初からその力がなかったように。

フォルテとグリムの間。テイルの傍らに、その男は――立っていた。

空間を引き裂きながら、男の身体に燕尾服がまとわりついていき、右手には指揮棒が握られる。
そこに居たのは、壮年の老紳士、ラルゴ・スタッカート。
正気を取り戻した瞳には、皺をたたえている顔の作りとは裏腹に爛々と子供のように輝く瞳、それはきっとフォルテに受け継がれたもの。
くるりと振り返ると、フォルテ達に向けて指揮棒を一振り。
それだけで、フォルテ、アサキム、ヘッジホッグ、ゲッツの調子が〝整えられる〟。
136 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/09/10(火) 22:32:29.50 ID:st7BIts2
「――テイル。また、また君を、君を見られるとは。
……相変わらず、綺麗な声だ、綺麗な心だ、綺麗な――魂だ。
辛かったろう、良いんだ、泣いてもいい。君は女神だから、泣けないかもしれないけど。
だったら僕が、僕が、代わりに泣く。もし君が泣いて歌えなくなったら、僕が代わりに歌を紡ごう」

傍らのテイルに目を移し、気障ったらしい口上を口に出していくラルゴ。
しかしながら、大真面目にこの言葉を紡いでおり、この感性こそが吟遊詩人の吟遊詩人たる所以なのか。

「おかえり――、お帰り、ラルゴ!
君がいるなら、ボクは、泣ける筈、無いじゃないか……!
だって、キミと歌った日々は、キミと紡いだ音律は――全部、今のボクを作っている」

その声を受けて、飛びつくように老紳士に飛びつく女性。
それをよろめきながらも抱きとめて、その背に手を回し、男は強く――強く女神を抱きしめた。
二度と離すまいと、二度と失うまいと――強く思いながら。

「……泣く必要も無くて、君が歌いたいなら。
僕も歌おう、君が帰ってきてくれたから、僕の君が――、皆の君が。ここに居るならば。
すべきことは、決まっている。存分に、語り合おう」

そして、二人の抱擁で、心は通じ合ったのだろうか。
二人手を繋いで、一歩ずつ歩みだしていく。生み出されていく音律は、極めて優しいもの。

『おかえりなさい この森の日々へ
おかえりなさい キミの物語へ
木々の葉をゆらす 風の音の歌が
千年もかけて語る 思い出と未来へ
おかえりなさい おかえりなさい』

ラルゴ・スタッカートの有り様は、あまりにも自然で、あまりにも分かりづらくて理解し難い〝個性〟。
純粋に生命を愛し、純粋に人生を愛し、純粋にこの世界の在り方を愛し、純粋に一人の女を愛した。
その歌の形は――互いに互いを理解し、互いが互いを尊重しているからこそ生まれる、只管に互いを高め合う歌。

そして、その歌に歌われるのは――遠き思い出、美しかったあの日を取り戻す、再生の詩。
有るべきものを有るべき形に、苦しむものを苦のなき在り方へ。
調和と肯定――ラルゴの力であるそれによって一時的に天位として最上位各に至ったその力は、きっと――愛。
ラルゴの持つ愛にテイルの調和が混ざり合い、二人の愛がラルゴの肯定で天位へと至る。――その結果としての、真の調和。

『忘れているなら 木漏れ日の影絵が
教えてくれる 空を飛ぶすべさえ
岩肌を削る 川面の鏡に
次々に映るあなたの姿
何にでもなれる 何にでもなれる

木々の葉をゆらす 風の音の歌が
千年もかけて語る 思い出と未来へ』

「調和とは、つながること――。だったら、結ばれぬ愛だって、恋だって……!
繋いでみせる、繋げるはずだ……! これが、これが愛の力、僕達の力だ――枢要罪ッ!」

その歌によって、有るべきではないもの。
本来世界にはなかったもの――悪性のアイン・ソフ・オウルは、皆弱体化していく。
当然、天に有った蜘蛛も、何もかも――だ。
流石に4人の枢要罪は力の格が格なのか、力の範囲を狭められる程度だが、それでも恐慌は収まり、惨状は次第に落ち着いていく。
137 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/09/10(火) 22:33:02.21 ID:st7BIts2
「――っは、ははははははははは――――ッ!
好いッ! そうだ、稀代の吟遊詩人と神位の歌――そうだ、これが聞きたかった、これが欲しかった!
最高だ、最高だなァ? そう思うだろう――なぁ? そうだな?
片手間ではあったが、ここまで演出をしてやった俺の手腕もなかなかの物だろう? 感動の展開――そう、これぞ皆が〝欲する〟物だ!
よかったなァ? こうしたかったんだろう、こういう事が欲しかったんだろう? 手に入って良かったなァ? なあ? なあ!?」

聖剣無銘の力にて、不可侵の力を得ているマモンは未だに力の範囲こそ失えど本体の力は欠片も失われていない。
そして、この世に二つとない、最高のデュエットを前に、マモンは聞き入り、感動しながら涙を流し、他の枢要罪にも同意を求める。
他の枢要罪はマモンと目線を合わせること無く、手をぱんぱんとゆっくりと打ち鳴らす。
敵を追い詰めたというのに、敵に賞賛される。一種異様な光景が、そこには有った。

意図は読めない。だが――今が機である事は間違いない。

ただし。

「……ぐ……っ、……ァ」

マモンの視線の先には、胸を抑えながら蹲るゲッツが一人。
悪性のアイン・ソフ・オウル、厄災という望まれぬもの、調和とは程遠い存在。
天位ならば良かった、枢要罪ならばよかった。だが――ゲッツは、違う。
故に、己の根幹を満たす罪に身体を蝕まれ、苦しみにのたうっていたのである。

それを見て、ラルゴとテイルの歌の力が、一瞬緩む。
一歩ずつゲッツに歩みを進めていくマモン。――今一瞬ゲッツを見捨てれば、ここでマモン一人は屠れるかもしれない。
どうするかは、全て今の10秒に満たない一瞬の判断に託された――。

「悪竜は――聖剣で屠らなければ、なあ? あの英雄は俺のものではない、俺のものでない物の面影を見せるな、虫酸が走る。歌の邪魔だろう、貴様は」

眉間に皺を寄せながら、一歩一歩これ見よがしに歩き、手に握る剣を振り上げていく、強欲。
強欲の嫉妬は――今まさに振り下ろされんと。
138 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/09/12(木) 21:37:20.65 ID:7khtWp8S
>「今宵の月夜には、少々無粋な者を感じるね――、君には教えただろう、フォルテ?
僕達は、何時何があっても、最後まで元気に、笑いながらって、泣く時も最後は笑顔だ、怒っても喧嘩しても最後は笑顔。
……なぜなら、歌は皆の喜びを共にし怒りを沈め哀みを癒やし楽しさを与えるものだから。
過程に何があっても、最後には笑顔でなければならない。僕達の紡ぐ物語は、ハッピーエンド以外にないんだからね?」

記憶が、甦る。
そこにいたのは、オレに音楽と歌の技術、精霊楽師としての技の全てを授けてくれた人。
それだけなら聞こえがいいが、そんないいもんじゃない。
普通の人なら吹くような煮えた台詞を大真面目に言いやがるし
頭の中がびっくりするほどユートピア!だし、何考えてるのか訳わかんないし……
何より困るのが、この手の文句を垂れたら全部自己紹介乙になりそうなことだ。
それでも昔よく口答えしたみたいに、せめてもの反抗を試みる。

「忘れるわけねーだろいい迷惑だ!
こっちが学校でいじめられて泣きながら帰ってきた時もさ、呑気に世界は美しいなんて言っちゃって……
お蔭さまでハッピーエンドの歌しか歌えなくなっちまったじゃねーか!」

そして始まるめくるめくバカップルのラブラブ劇場。
お前ら公衆の面前で二人の世界を展開するんじゃねー! 悶えながら転げまわってもいいですか!?
あれ、おかしいな。目から汗が出てきた。
両手を見てみると、寒くも無いのに小刻みに震えている。胸の一番奥から湧き上がる感情からくるもの。
普通じゃなくたってこの世界にいていいんだよって、無条件に肯定されたかのような、全てが赦されたような感覚。
一瞬遅れて理解が追いつく。そうか、オレは今、本当に美しいものを聞いてるんだ――

>「調和とは、つながること――。だったら、結ばれぬ愛だって、恋だって……!
繋いでみせる、繋げるはずだ……! これが、これが愛の力、僕達の力だ――枢要罪ッ!」

もう少し余韻に浸っていたいが、マモンを屠るにはまたとない好機。
精霊を統べる12の鐘を展開する。
絶体絶命だというのに、マモンは高笑いを響かせるのであった。

>「――っは、ははははははははは――――ッ!
好いッ! そうだ、稀代の吟遊詩人と神位の歌――そうだ、これが聞きたかった、これが欲しかった!
最高だ、最高だなァ? そう思うだろう――なぁ? そうだな?
片手間ではあったが、ここまで演出をしてやった俺の手腕もなかなかの物だろう? 感動の展開――そう、これぞ皆が〝欲する〟物だ!
よかったなァ? こうしたかったんだろう、こういう事が欲しかったんだろう? 手に入って良かったなァ? なあ? なあ!?」

意図は読み切れないが、追いつめられてヤケを起こしたというところか。
どうせハッタリに決まってる。

「負け惜しみ言ってんじゃねーよ! やっちまおうぜ、ゲッツ……」
おいゲッツ、どうした!?」

オレにもたらされた救いは――ゲッツにとっては存在を蝕む毒でしかなかった。
道具が使い方次第のように、通常のアイン・ソフ・オウルは善と悪、両方持っているもの。
少しミステリアスな香りがする”妖幻”もその例に漏れなかったようで、めいっぱいの善性を引き出された。
この世には誰かを守るための優しい嘘もある。刹那の幻が人を勇気づける事だってある。
だけどどこまでいっても悪でしかない、災いしか齎さないのが悪性のアイン・ソフ・オウルの悪性たる所以だ。
139 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/09/12(木) 21:40:28.04 ID:7khtWp8S
「そんな……母さんは昔光と闇を仲直りさせて……世界に存在する全てを肯定して調和の女神になったんだろ!?
なのにゲッツは存在したらいけないのかよ。調和の世界ですら存在を許されないのかよ……!」

いや違う。調和の世界”だからこそ”いたらいけない存在……。
ここに来てはじめてマモンの先程の台詞の意味を理解した。
父さんを捕えて放心状態に陥らせて出してきたのも。母さんを挑発して担ぎ出したのも。
最初からここまで全て、あいつの、シナリオ通り……!
どうせオレがゲッツを見捨てられないのはお見通しだ、もうすぐあいつのシナリオは完遂する……。

>「悪竜は――聖剣で屠らなければ、なあ? あの英雄は俺のものではない、俺のものでない物の面影を見せるな、虫酸が走る。歌の邪魔だろう、貴様は」

「……やめるな」

歌をやめようとする母さん達に、有無を言わさぬ口調で呟く。
“風”の鐘を掲げながら、マモンに向かって不敵な笑みを作ってみせる。

「馬鹿だなあ、そいつにとどめを刺すのに敢えて剣でいくか? 魔法なら素通しだぜ!
そいつさ、オレを初めて殺した奴なんだよ。だからそいつの最後はこのオレだ、今もこれからも、ずっと永遠に!!」

鐘を一閃し、風の精霊シルフをゲッツにけしかける。
指令はミュート。本来なら相手の呪文詠唱を封じる妨害魔法。
その原理は風の精霊による音の遮断。本人が音を発する事が出来ないのはもちろん、外からの音を聞くことも出来なくなるのだ。
抗魔がカスのゲッツならかかってくれるはず!
モナーを形態変化させ、精霊を駆る鐘から光の剣へ――不可侵の剣を持つマモンと対峙する。
無駄に壮大な妄言垂れ流すしか能がない”伝説を謳う者”が劇場型犯罪の駒にされてたなんてとんだお笑い草だ。
でも最後はシナリオ通りには動いてやらねー!

「ゲッツ……お前が世界に拒絶される運命なら、オレがその運命変えてやるよ! 抗えぬ宿命の檻から救い出してやるよ!
お前は祖竜信仰なんて目じゃないすっげー伝説になる! なんてったってこのオレが見込んだ勇者様なんだから!
ご先祖様が救われたのは最後の最後だったけどさ…今度は生きたまま。
オレ達の紡ぐ伝説はハッピーエンド以外にないんだからな!
あれ、でも困ったな。生きたままハッピーエンドって落としどころどうすんだ。
末永く幸せに暮らしましたは正統派美少年美少女の伝説専用だぜ!?」

ゲッツを背に単なる独り言。どうせ聞こえてないから何だって言える。
言うだけ言って、マモンに斬りかかる。

「……不可侵って凄いよな。
でもオレは不可侵じゃない。それどころか隙だらけだ。自分の呪歌にかかってしまう位だ!
この意味分かるかぁああああああああッ!!」

無謀にも剣で突っ込んでくるオレに相手もきっと呆れているだろう。
不可侵――誰も自分の世界に入れる事を許さないということ。
それは何者にも侵されない反面、本当の意味で誰かの助けを得る事も出来ないんじゃないだろうか。
ならば恐れる事はない、こちら側にはオレより次元違いに強いのが約二名控えているのだから。
たとえ倒せなくったって、せめて一矢報いてやれ!
140 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/09/19(木) 21:54:22.70 ID:MyoIh6uM
アサキムは杖を手に取り、唱える
「集え、創世の光よ!」
それに呼応するように、杖が、大地が、空が輝き出す。
「光在りし者に、祝福を 闇在りし者を、裁きを」
アサキムがこれを使うのを渋る理由は魔力の以上消費だけではない
この代物は、魔力がある分だけ発動できる
つまり、世界を光のみで包んでしまい、世界のバランスが取れなくなり崩壊すると言う代物
しかし、アサキムは、いまずたぼろ状態
そう長くは続かないという判断の元だった。
やがて、フォルテ達に光が注がれ、
マモン達からは、闇が吸われる
もし、マモンが、この光を奪うとしたら拒絶反応をおこし自滅の道を歩むだろう
141 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/09/20(金) 21:39:01.13 ID:iDDC0xPJ
>>140改稿】

アヤカがアサキムに渡した物は、不思議な宝石があしらわれた一振りの杖。
光が当たる方向によって赤にも青にも輝いて見えるそれは、異界で錬成された合成物。
テイルの先代にあたる光の女神アマテラス=ガイアが作り出した魔石ブループラネットをベースに
闇の帝王スサノオ=タルタロスが生み出した魔石ブラッディストーンの破片を合成したものだ。
同じカードの裏表を併せ持つそれは、光と闇――生と死、陰陽を統べる禁断の最終兵器。
あまりにも危険すぎるため、仙界にて厳重に保管されていたものだ。
アサキムは杖を手に取り、唱える。

「集え、創世の光よ!」

アサキムの詠唱に呼応するように、杖にあしらわれた宝玉に光が眩い収束していく。
“創世の光”――世界創世の時の《光》を再現するその御業は世界に生まれるべきあらゆる生命に力を与え――
世界に存在するはずのない歪みの象徴である《罪》には無慈悲な責苦を与える事だろう。

>「……不可侵って凄いよな。
でもオレは不可侵じゃない。それどころか隙だらけだ。自分の呪歌にかかってしまう位だ!
この意味分かるかぁああああああああッ!!」

無謀にも剣を掲げて駆け出すフォルテ。
これを使えば自分はすぐに全ての力を使い果たし倒れ伏す事となるだろう。それでも構わない。
覚悟を決めたアサキムは杖を振り下ろし、収束させた力を解き放つ。

「光在りし者に、祝福を 闇在りし者を、裁きを」

放たれた光輝が、今まさに剣を合わせるまでもなく切り伏せられんとしているフォルテと
動くまでも無く切り伏せようとしているであろうマモンに注がれる。
142 : ヘッジホッグ ◆J8Nz/8wJMlZL [sage] : 2013/09/26(木) 03:52:14.31 ID:stb6V6BJ
『――欲しいものが有る。何が欲しいかの種明かしは、まだ遠いがな。
 俺が欲するものへ至る道が、たまたまこいつらと一緒だっただけ。
 ……ただ、欲は強いぞ。求めるという点で、俺達のそれは本能だ――罪は善よりも濃い、胸焼けしそうな程にな。
 お前のかすかな正気も、良心も。遠くない内に食いつぶされる、そしてその時に、お前は理解する、かもしれん。……なぁ?』

「……それだよ。どうしてお前は俺を始末しない?
 俺が再び『強欲』に戻ると思っているのなら、何故殺しに来ないんだ?
 欲張りは二人もいらないだろう。己の『強欲』よりも『欲する』ものだと……?」

そんなものが本当にあると言うのか――いや、あり得ない。
矛盾している――そう、自己矛盾がある。
『強欲』が己以外の『強欲』を見逃す事にも――
――枢要罪が手を組み、本気で、『世界』を望む事にも、だ。

仮に『強欲』が神位の座を得れば、世界は欲と奪い合いに満ちる。
あらゆる存在が強欲となる――それは『強欲』にとって、無意味な事の筈だ。
自分の求めるものが、他の誰かに奪われる事になるかもしれないのだから。
『神位』という価値あるものは欲しいが、それに伴う現象は、『強欲』に利を齎さない。
そこに自己矛盾が、本気になれない理由がある。

同様に、枢要罪同士が手を組む事にも意味は無い。
強欲と色欲/虚飾と傲慢――罪と罪は、時に互いに欲を競合させる。
同じ枢要罪ではあっても、罪が罪の味方になる事などあり得なかった。

つまり枢要罪は罪であるが故に、『神位』を得る事に明確な目的意識を持てない存在だ。
必死になる事も、仲間と共に戦う事も出来ない。
だから罪は『神位』を取れぬままで、世界は平穏無事に生きてきた。

だが奴らは――今、目の前にいる枢要罪は違う。
何故違うのか――理由は想像も出来ない。
ただ、不可解さと不気味さだけが、そこにはあった。

『――テイル。また、また君を、君を見られるとは。
 ……相変わらず、綺麗な声だ、綺麗な心だ、綺麗な――魂だ。
 辛かったろう、良いんだ、泣いてもいい。君は女神だから、泣けないかもしれないけど。
 だったら僕が、僕が、代わりに泣く。もし君が泣いて歌えなくなったら、僕が代わりに歌を紡ごう』

「……見せつけてくれるよな、どうも」

この窮地の中で、しかし抱き合う二人――星の巫女と稀代の吟遊詩人。
確かに羨ましい――『嫉妬』も『欲』も、よく分かる。
自分にも『これ』が欲しかったと、強く思う。

だが――だからこそだ。
だからこそ安易に奪うなんて選択を賭博師はしない。

『忘れているなら 木漏れ日の影絵が
教えてくれる 空を飛ぶすべさえ
岩肌を削る 川面の鏡に
次々に映るあなたの姿
何にでもなれる 何にでもなれる

木々の葉をゆらす 風の音の歌が
千年もかけて語る 思い出と未来へ』

この輝かしいものを奪うドス黒い罪ではなく、輝きの傍で、白として在りたい。
何もかもを奪い続ける生の果てに自分が得たのは、孤独で虚無な死だけだったからだ。
143 : ヘッジホッグ ◆J8Nz/8wJMlZL [sage] : 2013/09/26(木) 03:53:04.52 ID:stb6V6BJ
欲を満たし、勝利し、奪う事だけを求める生き方に、二度と戻るつもりはない。
これはゲームだ――受難も、悲劇さえもを楽しまなくてはならない。
そうでなくては――いつか再び訪れる死もきっと、また孤独で虚無なものになってしまう。
そんなのは、あんな思いは、もう嫌だ。だから賭博師は、罪と対峙する。

『調和とは、つながること――。だったら、結ばれぬ愛だって、恋だって……!
 繋いでみせる、繋げるはずだ……! これが、これが愛の力、僕達の力だ――枢要罪ッ!』

――しかし、それでも賭博師の『本質』は、やはり悪性だ。
際限なく『強欲』で、富を得る為に努力も出来ぬ『怠惰』であり。
勝つ為ならば『虚飾』を以って相手を欺き、自分だけは負けないと『傲慢』でもある。

それが『賭博師』だ。
戦いに敗れ、砕け散った『強欲』がその力を用い、辛うじて――
――存在の形を保てる様、他の罪の塵芥を掻き集めて生まれたもの。
罪の混合物――人の在るべき姿から、かけ離れた存在。

「……コイツは、相当……魂に響く……な……。いや、いい歌だぜ……マジで……」

故に調和の歌は、賭博師を否定する。
賭博師の魂が、存在が、調和によって蝕まれていく。

『――っは、ははははははははは――――ッ!
 好いッ! そうだ、稀代の吟遊詩人と神位の歌――そうだ、これが聞きたかった、これが欲しかった!
 最高だ、最高だなァ? そう思うだろう――なぁ? そうだな?
 片手間ではあったが、ここまで演出をしてやった俺の手腕もなかなかの物だろう? 感動の展開――そう、これぞ皆が〝欲する〟物だ!
 よかったなァ? こうしたかったんだろう、こういう事が欲しかったんだろう? 手に入って良かったなァ? なあ? なあ!?』

「……下らないな……結局お前は……その感動の展開から蚊帳の外だ……。
 お前は、決して手に入らないものを……
 ……でっち上げて……手に入れたつもりになってるだけだ」

苦しげな声――戦闘開始から随分と時間が経っている。
その間『本質』は常に賭博師を侵食し続けてきた。
即ちそれは、『賭博師』と『本質』が同一化しつつあると言う事だ。
調和の歌は『本質』ごと、『賭博師』の命、存在さえもを消耗させていた。

『……ぐ……っ、……ァ』

そして――その現象は賭博師だけではなく、深紅の竜人にも降り掛かっていた。
より純粋な悪性、より純粋な存在であるが故に、賭博師よりもずっと苛烈に。

『悪竜は――聖剣で屠らなければ、なあ? あの英雄は俺のものではない、俺のものでない物の面影を見せるな、虫酸が走る。歌の邪魔だろう、貴様は』

『強欲』が竜人へと歩み寄る/聖剣を抜く/頭上へ掲げる――険しい気配/表情。

「……ハッ、じゃあなんだ……?悪竜を聖剣で殺すお前は……差し詰め英雄、って所か?
 手に入らないから、作って、挙句の果てには自分がなってやろうって?
 まるでお人形を買ってもらえない小娘だ。随分と可愛らしい事をするんだな。えぇ?」

させる訳にはいかない。
悪性も、白も黒も、今は関係ない――眼の前の命が正に今、奪われようとしている。
一度死を経験したからこそ――賭博師は命の尊さを、価値を、軽んじない。
144 : ヘッジホッグ ◆J8Nz/8wJMlZL [sage] : 2013/09/26(木) 03:54:14.55 ID:stb6V6BJ
「ジョークにしちゃつまらないぜ。本気で言ってるなら……笑えないな。
 お前は『強欲』だ。『略奪者』だ。何も生み出せないし、他の何者にもなれやしない。
 白の、英雄の、感動の踏み台風情が――すっ込んでろよ。邪魔なのは、お前の方だぜ」

皮肉に込めた強烈な敵意――『本質』の力を限界まで解き放った。
枢要罪と同じ様に――調和の力すら及ばぬ程に。
僅かに残っていた赤髪が、見る間に蒼に染まっていく。

『……不可侵って凄いよな。
 でもオレは不可侵じゃない。それどころか隙だらけだ。自分の呪歌にかかってしまう位だ!
 この意味分かるかぁああああああああッ!!』

『光在りし者に、祝福を 闇在りし者を、裁きを』

「……で、結局その剣を届かせる術は丸投げって訳だ。
 労働の喜びはもう食傷気味だぜ、マジでな」

呆れ気味/溜息混じりのぼやき/賭博師が地面を蹴る――強欲なまでの踏み込み。
前を走る精霊楽師に一瞬で並ぶ/追い抜き様にカードを二枚投擲。
一枚は、自身から抜き取った『強欲の剣術』のカード。
それを精霊楽師に挟み込む――見るに堪えない酷い構えだが、少しはマシになるだろう。
もう一枚も、自身から抜き取った『枢要罪の素質』。
カードを放った先には竜人――原初の罪が、調和の歌に対する身代わりになれば、と。

更に地を一蹴り/精霊楽師を置き去りに/強欲の側面を取る。
手持ちのカードは三枚。それら全て、ここで使い切る。

初手は二枚――『宿り木の蔦』と『漆黒の閃光』。
放たれるのは、黒き厄災を纏い、加護を貫く宿り木の槍。
続け様に切る最後の一枚――『聖剣無銘』
大上段から稲妻の如く、強欲目掛けて振り下ろす。

しかし――それらのカードは、『賭博師』との組み合わせでは性能を引き出しきれない。
所詮は中途半端な厄災/中途半端な聖剣――『強欲』の歩みを止めるには些か『役』不足。

枢要罪を相手に致命傷を与えられる様な攻撃ではない。
『強欲』がその気になれば、敢えて防御せず、そのまま剣を振り下ろす事も出来る。
だが――

「――お前は防ぐ。絶対に防がなきゃならないさ。
 なにせ喰らっちまったら……積み上げてきた演出が台無しだ」

聖剣を携えた英雄が、悪竜の厄災をその身に受ける。
悪を断つべき聖剣に、自分自身が斬り付けられる。
そんな事を『強欲』は望まない。欲する筈がない。

「だから存分に、欲を満たせよ――俺は喜んで防御されてやるぜ」
145 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/10/01(火) 23:36:24.11 ID:W3oPX1tu
>「……下らないな……結局お前は……その感動の展開から蚊帳の外だ……。
> お前は、決して手に入らないものを……
> ……でっち上げて……手に入れたつもりになってるだけだ」

「――それでも求めるのが、俺という存在でお前の本質だろうが。
そうだろう――ヘッジホッグ、俺の欠片」

本質に仮初が食いつくされつつ有る賭博師に――男は傲岸不遜に笑んだ。
その程度の言葉など、これまでの人生でどれだけ受けてきただろうか。
だから、強欲は言葉では止まらない。力でも止まらない。
強欲を止めるならば、欲を失わせるか力で勝るか。――欲を満たさせてしまえば、強欲は〝強欲〟でなくなり死に至る。
だが――満たされないからこその強欲だ。強欲に決して手に入らないものが有る限り――逆説的にだが、強欲は死なない。

理不尽とも言えるその性質は、しかしヘッジホッグは良く知っていただろう――マモンであった身故に。
奪おうと思い奪うのではない。奪わなければ生きてられない。
常に損をせず得をする事だけを考え、奪うことだけをして、他の簒奪者は殺戮する。

欲しい欲しい。アレが欲しい、これが欲しい。アレを手に入れたこれを手に入れた次はそれが欲しい。
腹が減ったから喰らい尽くし、溜まってきたから女を犯し、手に入らぬ物に怒りを抱き。
何かを奪われ悲嘆に昏れて、奪い続ける性に疲れを覚え、虚ろ故に要らぬ物で飾り立て、何よりも富める故に奢りを抱く。
そして――満たされている者を妬み、嫉妬を募らせる。

――強欲を起点に、総ての罪が派生する。
多かれ少なかれ他の大罪もそうであるが、罪は罪を産む。
世界で一番誰よりも富んで居るというのに、世界で一番誰よりも貧しい男――それが、マモンだ。

>「負け惜しみ言ってんじゃねーよ! やっちまおうぜ、ゲッツ……。おいゲッツ、どうした!?」

「〝厄災〟だかン……よ……ッ! そりゃ、こうもなるわなァ――。
ああそうさ、調和なんざクソ食らえだ。……戦乱じゃなきゃ生きていけねェ。殴ってなきゃ俺じゃァねえ。
平和なんか真平ごめんで、血反吐と火薬が何より好き――そりゃあそうさ、なにせ俺は〝厄災〟に魅入られてんだから……!
だがなァ! 厄災がどーした? 衝動がどーした!? ああそうだ、俺は――〝厄災〟を望んでンだよ!」

朦朧とした思考で、肉体の痛みなど比ではない存在を喰らう痛みをその身に受ける。
魂が、肉体が、精神が、存在が、神性が、過去が、未来が、現在が――削れていく。
総てを癒やし、浄化を齎し、清めを及ぼす美しい力。〝愛〟の力は強い、あまりにも強い。
故に、清水に住むことを許されない悪性は駆逐される――それがどういう存在かなんて例外は存在せず。

血反吐を吐きながら、全身の傷跡から火焔を吹き出しながら。
紅の竜神は雄叫んだ。咆哮が周囲の空間を侵食し、赤黒い瘴気がゲッツの身体から吹き出した。
触れれば運気を失い、触れればろくな死に方をせず、災いをもたらす禍津の力――厄災。
己の悪性を、調和と真向からぶつけ合わせる異形の姿は、どう見ても正義のそれではなく、悪性のそれ。
146 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/10/01(火) 23:36:54.36 ID:W3oPX1tu
>「そんな……母さんは昔光と闇を仲直りさせて……世界に存在する全てを肯定して調和の女神になったんだろ!?
>なのにゲッツは存在したらいけないのかよ。調和の世界ですら存在を許されないのかよ……!」

「そうなんだろ――てめェも。そうしたいかどうかとか我侭とかなんてそんな単純なもんじゃねェ。
〝そう生まれついている〟ンだよ。俺も――てめェも。同じ穴の狢だわな。
悪性同士だ。分かんよ、飢えてるんだろ――乾いてんだろ、欲しても欲しても限りがねぇんだろ?
知ってるさ。俺だって、起きれば壊すし寝れば壊す、歩けば壊すし座れば壊す、何をしても迷惑ばっかしだ――――」

「何を分かったようなことを言っている――。その通りに決まっているだろう!
――ああそうだ、餓えている、乾いている、飽きている! 満たされない!
だから欲する。欲し続けていなければ、奪い続けていなければ〝俺は俺でない〟。
それを悪と言うのならば、それが罪と言うのならば、俺を認めんならば――好きにしろ。俺は欲する、〝本当に欲しい物〟をな……!
死して俺の糧になれゲッツ=ディザスター=ベーレンドルフ。厄災は良い呼び水になりそうだからな――」

今更己の本質や在り方を見ないふりする程、強欲は未成熟な罪ではない。
何千年、何万年と封印と復活を繰り返しながら、その間一度として満たされること無く今に至っている。
故に、罪というものをこれ以上無く理解して、これ以上無く受け入れ認めている男はそうは居ない。

そも、最初に神魔大帝が強欲に飲み込まれたのも、神魔大帝が頂天魔となったのも。
厄災の種を世界にばら撒き、不穏を満たしたのも。
総ては、裏で男が手をひいていた。種によって、ミヒャエルやヴェルザンディという実力者を魔道に引き込んだのも。
ローファンタジアの崩壊も、あの聖都での奇跡も、あの図書国家での死闘も何もかも――総ては、この男が臨んだ故に。
望んだのだから、欲したものを手に入れるために行動するのは、当然の事。
ただし、この男の場合なら、手に入れるためには手段を問わない――文字通りに、何だってするのだ。

ローファンタジアでも聖都でも図書国家でも――何人死のうが、どうでも良い。
その結果欲するものが手に入ったならば、それで良い。それでも手に入らないのならば、もう何億人か殺すだけ。
だからこそ、強欲に対して強欲と罵ることに意味は無いのだ。

>「馬鹿だなあ、そいつにとどめを刺すのに敢えて剣でいくか? 魔法なら素通しだぜ!
>そいつさ、オレを初めて殺した奴なんだよ。だからそいつの最後はこのオレだ、今もこれからも、ずっと永遠に!!」
>「ゲッツ……お前が世界に拒絶される運命なら、オレがその運命変えてやるよ! 抗えぬ宿命の檻から救い出してやるよ!
>お前は祖竜信仰なんて目じゃないすっげー伝説になる! なんてったってこのオレが見込んだ勇者様なんだから!
>ご先祖様が救われたのは最後の最後だったけどさ…今度は生きたまま。
>オレ達の紡ぐ伝説はハッピーエンド以外にないんだからな!
>あれ、でも困ったな。生きたままハッピーエンドって落としどころどうすんだ。
>末永く幸せに暮らしましたは正統派美少年美少女の伝説専用だぜ!?」

フォルテのミュートによって、ゲッツの苦痛が僅かに落ち着いていく。
通常魔法では普通、アイン・ソフ・オウルという世界法則の根源にも連なる力には抗えない。
それでもミュートが効いたのは、ゲッツの体質と――フォルテとの絆。心臓を刻みあった故の、経路があるから。

「――…………ッ!!」

ふらつきながら立ち上がるゲッツ。
血を口から吹き出しながら、不敵に笑い――枢要罪達を睨みつけ、ふんぞり返る。
もはや死に体。なぜ立っているのか、生きているのか。生物学的にはありえないが、生きていて当然だ。
ゲッツが死にたくないと思い、思った男がアイン・ソフ・オウルで、他のアイン・ソフ・オウルもそう思った。
ならば奇跡が起こるのは必然というもの。死した肉体で、活き活きと竜人は息を吸い――、吸った。
147 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/10/01(火) 23:38:12.31 ID:W3oPX1tu
>「ジョークにしちゃつまらないぜ。本気で言ってるなら……笑えないな。
> お前は『強欲』だ。『略奪者』だ。何も生み出せないし、他の何者にもなれやしない。
> 白の、英雄の、感動の踏み台風情が――すっ込んでろよ。邪魔なのは、お前の方だぜ」

「だがな――俺とお前は違う……! 俺は〝俺達〟は……! お前らが持っていないものを持ってんだヨォ!!
俺は生まれた時によ、かーちゃんの腹ぶちぬいて来て、親殺しで生まれてきた糞野郎だ。親殺しなんざ、最悪の罪だぜ?
沢山殺してきたさ。沢山傷つけてきたさ。沢山ぶち殺してきたさ。俺は――――罪だらけさ。だけどそれがどーした枢要罪。
――悪が裁かれるべきだってんなら。俺の周りの糞みてーな善人共のブンを俺が受けてやれるってだけだろォが。なにせ丈夫でイケメンだかんな。
それが、それが俺の〝厄災〟――――俺は〝厄災:試練〟を望んでっからなァ! 厄災ごとき修行って訳よォ――――――ッ!!」

竜人種――ハイランダー特有の肺活量を活かした、大見得。言葉を紡ぐ毎にゲッツの感情は暴走していく。
ゲッツの在り方が――、存在が。ヘッジホッグの開放に呼応するように全開で解き放たれていく。
フォルテのミュートが引きちぎられ、周囲に展開していた大量の瘴気はゲッツへと収束していき、ゲッツの体内へと吸い込まれていく。
地力が天位に及ばず、天位のような広域への力の展開ができないなら、しなければ良い。
己の力を内側に、体躯に圧縮していくことで――量的には劣るが、質的には届きうる力へと至り、一時的に調和と拮抗し。

>「……不可侵って凄いよな。
> でもオレは不可侵じゃない。それどころか隙だらけだ。自分の呪歌にかかってしまう位だ!
> この意味分かるかぁああああああああッ!!」
>「光在りし者に、祝福を 闇在りし者を、裁きを」
>「……で、結局その剣を届かせる術は丸投げって訳だ。労働の喜びはもう食傷気味だぜ、マジでな」

直後の賭博師がゲッツに差し込んだ新たなカード、枢要罪の素質が――ゲッツの悪性を完全な形で開花させた。
ゲッツの鱗が逆立っていき、肉体が膨れ上がり――背から三対の赤黒い力がエネルギーとして吹き上がる。
表皮を奔る紅の力の奔流。駆け抜けた後には痕として、黒色の幾何学模様が描かれた。
余りにも禍々しく、本能的な恐怖を煽る姿は〝峻厳〟を次ぐ〝厄災〟として相応しい悪性存在の体現とも言える様。
だが――どす黒い存在の双眸は、ぎらりぎらりと感情を宿して、強く輝きを放っていた。

>「だから存分に、欲を満たせよ――俺は喜んで防御されてやるぜ」

「――動けねぇから託すぜフォルテ。今日は音楽祭――てめェが主役だァ――――――ッ!!」

レイライン――――、魂同士の繋がりによって、妖幻と厄災が入り交じる。
そして、そこにアサキムと賭博師の支援が混ざり込み――、更にラルゴとテイルの調和が繋がりを支援する。
ゲッツの懐から零れ落ちたのは、一振りの剣の柄。そこから零れ落ちた力が、最後の一押し。

『不出来な弟子が迷惑をかけたね。――道は私がつけよう、行け。
――あの教皇を、こんどこそ救ってやってくれ。彼らを、枢要罪を救えるのは君たちだろうからな』

死してなお残る信念――、ボルツ=スティルヴァイの〝歩法〟。
皆の背を押すその力は、産地直送で枢要罪に届きうる間合いまで賭博師と吟遊詩人を送り込んだ。
賭博師と吟遊詩人の振りぬく刃に、漆黒の閃光――本物のそれがまとわりつき――次の瞬間、辺りは黒夜に包まれた。
148 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/10/01(火) 23:38:44.29 ID:W3oPX1tu
「――――く……っ、ッハハ……! ハハハハハハハハァッ!!
成る程。成る程厄介……! まだ、ああ〝まだまだ〟だという事は分かっていたがな……!
テイル、ラルゴ、フォルテ、アサキム、ヘッジホッグ、ゲッツ――――。お前たちの顔は、絶対に忘れん。
往くぞ――目的は達したからな」

〝歩法〟を用いて、後ろに引いた強欲は、高笑いを響かせつつも、脂汗を隠し切れないでいた。
両方の刃を受け止めはした――しかし、最後の歩法が予想を裏切り――刃が右腕をかすめていた。
右腕の傷口にはうじがわき、腐敗臭を辺りに漂わせている。――擬似的にとはいえど、天位が六人分に対して一人で戦っていたのだ。
むしろここまで渡り合ったのが奇跡、または天位としての実力の隔絶を示していたのだろうが……。

「……ラルゴ。君のその思いが虚飾ではない事は分かっている。だが、私は信じ切れない。
この世界を信じさせてみせろ――〝ネバーアース〟よ。――俺はリューキューへ向かうぞ、マモン」
「私の傲慢を打ち砕くというのならば。驕ること無く立ち向いてきなさい。――新米同士だし、同行させてもらうわ。ミヒャエル」
「そうねェ。旧世代同士、やっぱり決着つけたいし――。ああ、そうねえ。ミストロード……、懐かしいんじゃないかしら?」

残りの三人は、それぞれ別の方向へと歩みを進めていき――直後、空間を歪めて消え去った。
最後に残った強欲は一人――腐臭を漂わせながら、楽しげに笑いをこぼしていた。

「……神位の門へ。貴様らは到れるか。あがく様を楽しみにしておこう」

振り向き歩けば、男は先程までの死闘が嘘だったかのように消えていった。
空間を満たしていた圧が消えたことが示す事は一つ――危機は、脱したのだ。
風が吹く。悪性に侵されることのない――、日常の風が。
辺りは死屍累々。何人死んだのか、何人傷ついたのか――。

『――――こちら、交響都市艦フェネクス、管制部です。
先ほどの大規模災害の影響により――都市艦の運行が困難な状況となっております。
皆様、各所のポータルより安全地帯への退避をお願い致します。繰り返します――――――』

一時の沈黙を打ち破るアラート。
そして、アラートの音声とともに――黒い竜人は、赤に戻って赤の中に沈み込むのであった。

枢要罪を相手に生き残った。
勝ちではなかった、だが――――この価値は勝ちと言って良いもの。
まずはここからの避難が先決で――数日の間は、身体を休めながら今後の行き先や、情報の整理をしても良いだろう。
臨時ポータルが各地に開いている模様で、近辺に開いているポータルは――ドイナカ村という場所へ繋がっているようだった。
149 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/10/04(金) 20:31:46.84 ID:c1eXUFFU
まるで永遠のような一瞬だった。
不意に不思議な感覚を覚える、カードを抜き取られた時の逆、入ってくる感触。
付与されたのは剣の技、今対峙している相手には遠く及ばぬ、それでも一流の剣士のそれだ。
直後、ヘッジホッグが前に踊り出るのが見えた。
わざと相手の気を引くような動作と言葉。全てはオレの剣を届かせる囮となるため……。
そして後方から放たれた魔法の光が体を包み込む。“創世の光”――アサキム導師の、全てを賭けた捨て身の禁呪。

>「――動けねぇから託すぜフォルテ。今日は音楽祭――てめェが主役だァ――――――ッ!!」

ゲッツの力が魂の連結を通じて流れ込んでくる。
オレが壮大な妄言でゲッツを煽るいつもとは逆の構図。それは触れれば不幸を齎す禍々しき厄災の力――
本当にそう、オレはゲッツと出会ってからというもの本当に不幸だ。
騒ぎを起こしては謝らないといけないし器物破損の弁償費用はかさむ。
行く先々で訳の分からん超人バトルに巻き込まれて、何故か主役に担ぎ出される
何故か……斜に構えておちゃらけていられなくなる。
母さん達の歌の力のせいか――連結のラインがいつもより強い。
本当に”いい”親を持ったものだ。フツーは悪い友達とつるんじゃいけません!ぐらい言うだろ!

>『不出来な弟子が迷惑をかけたね。――道は私がつけよう、行け。
――あの教皇を、こんどこそ救ってやってくれ。彼らを、枢要罪を救えるのは君たちだろうからな』

とんでもねー弟子を残したままさっさと死にやがった酒場の店長の思念が、オレ達をマモンの目と鼻の先まで送り込む。
アホ師弟が揃いも揃ってオレに全てを託してんじゃねーよ! もうマジで不幸!
こーなったら欲しくない物は受け取った事などないであろうこのチャラ男に強制的に不幸のおすそ分けをしてやる!

「食わず嫌いばっかしてんじゃねー! 貰えるもんはありがたく受け取りやがれぇえええええええ!!!」

裂帛の気合と共に剣を振り抜いた。その刹那、爆ぜる漆黒の閃光――

「やった……か!?」

暫しの闇が拓ける。そこにあったのは高笑いするマモンの姿。

>「――――く……っ、ッハハ……! ハハハハハハハハァッ!!
成る程。成る程厄介……! まだ、ああ〝まだまだ〟だという事は分かっていたがな……!
テイル、ラルゴ、フォルテ、アサキム、ヘッジホッグ、ゲッツ――――。お前たちの顔は、絶対に忘れん。
往くぞ――目的は達したからな」

オレの剣は、相手の右腕を切り裂いていた。勝利には程遠くても、確かに一矢報いたのだ。

>「……ラルゴ。君のその思いが虚飾ではない事は分かっている。だが、私は信じ切れない。
この世界を信じさせてみせろ――〝ネバーアース〟よ。――俺はリューキューへ向かうぞ、マモン」
>「私の傲慢を打ち砕くというのならば。驕ること無く立ち向いてきなさい。――新米同士だし、同行させてもらうわ。ミヒャエル」
>「そうねェ。旧世代同士、やっぱり決着つけたいし――。ああ、そうねえ。ミストロード……、懐かしいんじゃないかしら?」

三人の枢要罪達がそれぞれの方向に去っていくのを見て、神格化の変身が解ける。
150 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/10/04(金) 20:33:29.40 ID:c1eXUFFU
「虚飾……か」

なんとなく分かってきた。
オレのアイン・ソフ・オウルとしての力はきっと……聖都エヴァンジェルで人々をまとめあげたアレだ。
でも聞く所によるとエヴァンジェルはあの後酷い事になったらしい。自分でも分かっている、所詮はまやかしの希望。
それでもオレは……あの時の選択が間違っていたとは思わない。どちらかを謳うなら、残酷な真実よりもまやかしの希望を選ぶ。

>「……神位の門へ。貴様らは到れるか。あがく様を楽しみにしておこう」

「神位の門……わざわざどうも。参考程度に覚えておくよ」

黒い笑顔を作り、捨て台詞を残し立ち去るマモンの背中にとびっきりの不吉な言葉を投げかけてやる。
ゲッツの不幸パワーを持続させるためのちょっとしたおまじない。

「せいぜい気を付けるんだな、きっと頭に鳥の糞落ちてきたりタンスの角に足の小指ぶつけたりするぜ……!」

マモンの気配が無くなった瞬間、意識が遠のきそうな強烈な眠気に襲われる。
長時間神格化して戦い過ぎた。ここで寝たらしばらく目が覚めないだろうな……

>『――――こちら、交響都市艦フェネクス、管制部です。
先ほどの大規模災害の影響により――都市艦の運行が困難な状況となっております。
皆様、各所のポータルより安全地帯への退避をお願い致します。繰り返します――――――』

「まずい! 早く……」

ゲッツが地面に崩れ落ちる音がする。さっきまで立っていたのが奇跡だったのだ。
いつものようなただの怪我ではない、調和の歌に存在を蝕まれた結果。
母さんが申し訳なさそうな表情でこちらを見ているが、母さんのせいじゃない。オレがやめるなと言ったのだ。
でもあんまりだ、究極の浄化と癒しの力そのものが最悪の毒だなんてさ……

「冗談やめろよ、オレをこれ以上不幸にするなよ!
伝説の勇者にしてやるって大見得切ったこっちの立場もちったー考えろ馬鹿! お前なんか大っ嫌いだあああああ!」

無駄に叫んだ事で力を使い果たしたのか、がっくりと膝が崩れる。
おいやめろ呑気に寝てる場合じゃねーんだよ! 意識が強制的にシャットダウンされていく……
151 : リーフ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/10/04(金) 20:35:19.91 ID:c1eXUFFU
「リーフ! いるのでしょう」

アマテラス=ガイア様に呼ばれ背景から姿を現します。

「ボクは行く。グリムを野放しにしておけない。フォルテの事、引き続き頼んだよ」

「仰せのままに。でもいいのですか? 余計なお世話かもしれませんけど……見事に”悪い”友達ばっかりですよ?」

アマテラス様は質問に意味深な質問で返してきます。

「不幸撒き散らす厄災の化身と魂ダイレクト連結したら普通どうなると思う?」

「普通なら滅茶苦茶不幸になるんじゃないですかねえ。なんやかんやで楽しそうですけど。まったく、物凄い嘘つきですよね……」

アマテラス様に代わってラルゴさんが答えます。

「違うよ、あの子は嘘なんて一つもついてない。幻だって信じた人にとっては真実。真実だって皆が疑えば容易く崩れ去る。
フォルテはね、カードの裏と表、正位置と逆位置をひっくり返せるんだ。
尤も本人はその事に気付いていないし意識的にやる事は不可能だ。どっちを向いていようと同じカードにしか見えてないから。
でも、だからこそ、引くカードは間違えない」

意味はよく分かりませんが要するに結論:馬鹿親……じゃなかった、親バカという事にしておきましょう。
バカップルは放置しておいて、気を失ってしまったフォルテさんを担ぎ上げます。
半分引きずってるというツッコミは禁止です。

「ヘッジホッグさん! ゲッツさんをお願いします!」

ちゃっかり重い方を人に押し付けたというツッコミも禁止です。
アサキムさんも倒れているような気がしますがアヤカさんが面倒見てくれるでしょう。
とにかく一番近くにあった臨時ポータルまで辿り着き行き先の表示を見ると……

「ドイナカ村……奇遇ですね」

ド田舎なのが欠点といえば欠点ですが訳の分からない場所じゃなかっただけ当たりといえるでしょう。
尤もハズレでもこの状況で選択の余地はないわけですが、とにもかくにも飛び込みます。
152 : 枢要罪 ◆DRA//yczyE [sage] : 2013/10/12(土) 22:42:13.78 ID:ZB5QSxMp
フォルテやゲッツ達が気絶したのを、ヘッジホッグやリーフが回収しているさなか。
絶対の光を放った末に片膝を付き、意識を失いつつ有った二つの影。アサキムとアヤカ。
フォルテ達がドイナカ村への転移ゲートへ歩んでいくのを確認すると、意識を強制的に覚醒させる。
彼らがそうするからそうしている、そんな風にすら思える主体のない行動で、ふらつく躰を動かしてポータルへと歩みをすすめる。
一歩歩く毎に、躰からこぼれ出す生気。人のそれではない、赤い血は人間のそれというには、あまりにも清浄に過ぎた。

(――命ぜられた。戦わなければ。俺と、〝俺のアヤカ〟に定められた役を、果たさねば)

己の命よりも、己に命ぜられた命を優先する、命よりも命が大切。
そんな歪な有り様は、消えゆく枢要罪達の目にはどう映ったのか。そして恐らくマモンは――アサキムの存在を見抜いていた。
ドイナカ村へのポータルに足を踏み入れる直前、アサキムの足元に新たなポータルが開く。
ポータルに刻まれた紋が意味する存在は――ヴィシュラヴァス――――毘沙門天。
当然喚ばれるだろうことを理解していたアサキムは、意識を失った嫁、道具を担いだままその力に従っていく。
閃光が視界と意識を染め上げる。――閃光が晴れた時、二人が居たのは清浄な白の空間。

「此処は――毘沙門天、様の間か。アヤカ、無事か」

視界の先に居る光を観測した時、無限の光――アイン・ソフ・オウルを認識した。
自然と、己が従うべき主、毘沙門天を前に片膝を付き、アヤカをそっと床に寝せて服従の例をとる。
白の光を背負う武将風の仏尊は――背負う光の為か存在を良く確認することは難しい。

「アサキム。――彷徨者アサキムよ。
私が此処にあなたを呼んだ理由は――分かっていますね?」

「はっ。……私があのアイン・ソフ・オウルを倒せなかった故、更なる力を承る為――――」

アサキムを前に、呼び出された理由を問われ、打てば響くように返答を返すアサキム。
アサキムの予想は、己の力が及ばなかったため、更に強い力を、更に大量の力を与えられる為に喚ばれたという事。
しかし、その予測は次の一瞬で叩き潰された。

「否」

否、と毘沙門天は言う。
仏敵を払い、世に平穏を及ぼす力の象徴が、五濁清浄を広める戦の化身は、力の貸与を否定する。
ならば、なぜここに己を呼んだのか。アサキムは、疑問を僅かに瞳に混ぜ込みながら、視線を少しだけ毘沙門天にずらす。
153 : アサキム ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/10/12(土) 22:42:45.10 ID:ZB5QSxMp
「あなたの存在。忘れては居ないはずです。――我々天界の神の代行として、権能を振るうために作られた存在。
天位の端子、天位の端末――四天王の端末として生まれた四つの同じ世界観を持つアイン・ソフ・オウル、〝天〟のアイン・ソフ・オウル。
無垢故に、善にも悪にも依らず。あなたはこれまでの間、我々の力の一端を貸与されながら能く平和を保ってきました。
その成果、その努力。確かに評価に値し、確かに我々の命を忠実に守り続けていた。意志なき端末としてならば――だが。
だが、此度なぜあなたの力が届かなかったか……分かるか?」

毘沙門天は、改めて一つ一つ確認する様に言葉をアサキムに投げかけていく。
アサキムは、〝天〟のアイン・ソフ・オウル。通常あり得ない存在、主体を持たないアイン・ソフ・オウルだ。
そして、その力の自由度たるや、超絶無比。なんでもできるし、なんでもだれより出来てしまう。
負けることなんてあり得ない、なにせ負けたならもっと強いものを、もっと効くものを持ってくれば勝てるのだから。
そう、そうしてずっと戦い、仏敵を、平穏を乱すものを、世界の敵を屠り、戦い続けてきた。
だが――そんなアサキムが、初めて届かなかった。初めて通用しなかった存在が有る、それが――マモン。

「…………私が弱かったからです。毘沙門天様。
どうか、新たな力をお与え下さい。もう二度と遅れは取りません、今の5倍の力が有れば決して――――」

「分かっていないようですね、アサキム。――あなたがこれまで振るってきた力のどれがあなたのものですか?
須佐之男の力は、須佐之男からの借り物。主格である毘沙門天の力は、私があなたに貸与していた者です。
では、天魔覆滅? ――あれは、純粋な力の発露。しかしながら、ただの力でアイン・ソフ・オウルには届かない。
分かるでしょう? 力を奪われたのは、あなたの力が、あなたのアイン・ソフ・オウルが、本当の意味であなたのものでないからです」

アサキムに対して語りかけていく毘沙門天。優しく、子供に教えるようにゆっくりと。
己の端末としてこの世に生を受けて、これまで戦い続けてきたアサキムに与えられるものは、力ではない。
血のつながりも何もないが、これまで見守り続け、力を貸し与え続けてきた戦神の配下に、無垢の力に。与える物。

「――アサキム。此度の世界再編が終わるまでの間、マモン討伐終了まで――あなたに与えられた諸権利を剥奪します。
即ち。これより、あなたは天のアイン・ソフ・オウルではありません。あなたとアヤカは――無垢のアイン・ソフ・オウルとなります。
無垢のアイン・ソフ・オウルは、あらゆるアイン・ソフ・オウルの中で最弱であり、そして最強のアイン・ソフ・オウル。
与えていた天の力は、しばしの間私が預かりましょう。あなた達には――〝あなた達の力〟を身につけてもらわなければなりません。
――期待しています――――あなたが、あなたの力で道を切り開き、あなたの力で世界を救う事を。
では、往きなさい――そして、生きなさい。あなたの道を、あなたの物語を――――」

アサキムとアヤカに与えられたのは――主体。
自己として、自己に根付いた力の種が、ひと粒ずつアサキムたちに与えられたのだ。
その力はこれから先どう育つかは分からぬもの、いわば――与えられた一度きりのチャンス。
この無垢たる力の形をどのように育て、どのように己に根付かせていくか――それによって、枢要罪とどう関わるか、パーティとどう関わるかが決まってくる筈だ。
能力を奪われ――可能性を与えられた二人は、再度光に飲み込まれて――――気がつけば、ドイナカ村。フォルテ達の元へと移動していたのだった。
154 : ヘッジホッグ ◆J8Nz/8wJMlZL [sage] : 2013/10/21(月) 02:49:50.75 ID:la+p9PBT
手札全てを懸けた勝負――その最後の最後、賭博師にも読み得なかったカードがあった。
竜人の昨夜のツキは、未だ衰えてはいないらしい。
『かつて』に後押しされた精霊楽師の剣が、強欲の腕を掠めていた。

『――――く……っ、ッハハ……! ハハハハハハハハァッ!!
 成る程。成る程厄介……! まだ、ああ〝まだまだ〟だという事は分かっていたがな……!
 テイル、ラルゴ、フォルテ、アサキム、ヘッジホッグ、ゲッツ――――。お前たちの顔は、絶対に忘れん。
 往くぞ――目的は達したからな』

賭博師は――口を噤んでいた。
強欲は今、一時的かつ比較的にではあるが、満足している。
もう手札も残っていない――下手に刺激するのはリスクが高い。
それに『本質』の侵食も、既に限界に達しようとしていた。

『……神位の門へ。貴様らは到れるか。あがく様を楽しみにしておこう』

「……別にそんなモン、欲しくもなんともないが――
 ――お前が欲しがってるって言うなら、それは何としてでも邪魔してやりたい所だな」

強欲は背を向け、去っていった。
何とか当面の危機は凌いだ――深く嘆息を吐く。

「ま……とにかく、これで――」

――後は俺がこの場の全員からカードを奪い尽くせば、晴れて総取りだ。

脳裏に過った『強欲』に、思わず息を呑んだ。
ケリを付けるのが遅すぎた。
欲深い『本質』の声は既に思考/自意識の領域にまで侵食を進めている。
強欲への転身は、もう止められない――

「……コイツはどうも、参ったな」

――少なくとも、まともなやり方では。
懐から一枚、カードを取り出す。
絵柄は死神――ディミヌエンドの死霊から抜き取った、魂を傷付ける力。

「出来る事なら、こうなる前に何とかしたかったんだが……」

カードを切る――大鎌を抱いた死霊の封印が解かれた。
賭博師の表情が苦味を帯びる――直後に振り下ろされる鈍色の斬撃。
袈裟懸けの軌道――賭博師諸共『本質』を切り裂いた。
155 : ヘッジホッグ ◆J8Nz/8wJMlZL [sage] : 2013/10/21(月) 02:53:32.99 ID:la+p9PBT
「……悪いがもう、お前の出る幕は来ないんだよ、永遠にな」

だが、それは自害ではない。封印だ。
存在の殆どを侵されているからこそ、傷は自分の方が浅くなる。
賭博師はその可能性に『賭け』――そして勝利した。
魂の損傷が内蔵損傷/吐血という形で顕在してはいるが、問題なく浅いの範疇だ。

「……日頃散々虐めてくれるくせに、今回ばかりは勝たせてくれたか。
 本当に可愛げのある女だよ、幸運の女神様って奴は」

口元から零れる血を吐き捨て、拭い、賭博師はぼやく。

『――――こちら、交響都市艦フェネクス、管制部です。
先ほどの大規模災害の影響により――都市艦の運行が困難な状況となっております。
皆様、各所のポータルより安全地帯への退避をお願い致します。繰り返します――――――』

「っと、いよいよもってカーテンコールか。……じゃあ、ここらでお別れだな。
 元々成り行き上での付き合いだ。これから先は、俺には俺のアテがある。
 何よりお前達と一緒にいたら厄介事ばかりで気が休まらないから――」

『冗談やめろよ、オレをこれ以上不幸にするなよ!
 伝説の勇者にしてやるって大見得切ったこっちの立場もちったー考えろ馬鹿! お前なんか大っ嫌いだあああああ!』

崩れ落ちる竜人/楽師――賭博師が数秒沈黙し、それから苦い表情で髪を掻き上げる。

「……そう言えば、折角用意した賭け、ありゃ見事にパアになっちまったな。
 おまけにこの騒動。こりゃ、プール金をまとめて掻っ攫うまたとない機会なんだが――
 ――そうなると、逃げる先は出来るだけ辺境の地が好ましいよな」

すぐ傍にあった転移ポータルを横目に溜息を一つ。

『ヘッジホッグさん! ゲッツさんをお願いします!』

「……マジで、お前達といると勤労の喜びが尽きなくて嬉しいよ。泣けてくるぜ」
156 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/10/23(水) 21:19:59.11 ID:HBLDqMcZ
「――――こりゃァ……死んだかねェ?」

目を覚ました。覚ました視界を染め上げていたのは――紅。炎のそれではない、生臭い血臭を伴うそれ。
この血は、見覚えがある。この血は、己が生まれて最初に見た血。母親の胎内を突き破った時のそれだ。
なぜ今更になってこんな光景を見るのか困惑したし、腹が立ったが――理解する。これも厄災か、と。

「悪ィな、カーチャン。俺ぁアンタの顔も知らねーし、親父の顔も見たことねーからわかんねーけどよ。
そんでも、あんたらが居なきゃここであのやかましいダチやらよくわかんねぇ導師やら素直じゃない賭博師とか出会わなかったしよ。
あんたら恨んでるかもしれねーが、俺ァあんたらに感謝してんよ。割りとガチだぜ。
んでよ、無くとアイツ怒るからまだ死ねねぇ。――祟るにしろげんこつ落とすにしろ、死んでからにしてくれや。悪ィな」

血の湖の中に全裸で立つ竜人は、己の肉体から膨大な負の世界観を吹き出させていく。
しかし――膨大な闇、膨大な負のその奥底に有るのは、消えない輝き。これはなにか。
竜人の前に立つ、白の騎士と紅の竜。彼らが竜人を無言で見据えていて、竜人はそれに対して不敵に笑む。

「あんたらがイチャついてる間に、俺らが全部カタつけてくんよ。
ファフニール様も、あーっとなんだ。アンタのせいで俺ァこんな厄介なの持つことになったが感謝してる。
厄災呼ばわりなんざ今更だしよ。それに――闇の中でこそ見える光って奴があんだ。光ってんだよ、眩しいくらいにな。
それが多分アンタにとってのゲオルギウス様で――。そうだな、俺にとっちゃ――――――」

思考が、言葉がまとまらない。
だんだん周囲の血の湖が干上がっていき――空を覆う闇が晴れていく。
心臓が鼓動を打ち、鼓動のリズムに合わせて聞こえる音律は――馴染み深いもので。
そこで、竜人の夢は浮上した。

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

「――ファッ!? お、なんか走馬灯みてーなもん見たんだけど!?」

布団を蹴りあげて天井にぶつけた後におもいっきり叫び声を上げて起き上がる竜人。
当たりをキョロキョロ見回して、見覚えがあるような無いようなと首を傾げる。
直後、天井まで蹴りあげていた布団が落ちてきて頭に衝突。角が布団を突き抜けた。
暫くもぞもぞとして布団を頭から外そうとするが、ナチュラルに素手で引き裂いて当たりに散らばして。

「あン、なんだこりゃ邪魔だなオイ」

ベッドから降りるときにようやく全身に大量の管やらパッチが貼られていた事に思い至る。
素手で無造作に全部ひっぺがすなり引きちぎるなりしつつ、そういえば身体が妙に軽い事を認識。
そこでようやく、己の片腕――鋼の義手が沈黙していたことに気がついた。

「ん……? 死んだと勘違いして止まっちまったかね……おーい起きろー」

ごんごんと、金属化している腕の切断面をごつんごつんと殴るが、腕が変貌する様子は無い。
ひとしきり部屋の中に轟音を響かせた後に――ため息をつきつつ竜人は集中治療室の戸の前に立ち。
扉を開けようとするもドアノブがない。コンソールを用いて開くのだが、この田舎者にそんな事が分かるはずなど無い。
要するに、だ。

「だー、なんで開かねーんだっての! 邪魔ァ!」

扉がオシャカになるのは当然というもの。扉の隙間に生身の爪を捻り込んで魔力で引きちぎる。
丁度扉を開けた所に――妖精種のナースが居た。そして、そのナースの前に居たのは――。
身長2m超、体重一三〇kg超、プロレスラー体型で全身から管やら引きちぎった線をぶら下げて片手にドアをぶら下げた強面の竜人。
こうなれば、もはや次に起こる答えは決まっている――――病院中に、妖精ナースの悲鳴が響き渡るのだった。

因みに竜人の衣服は無い。要するにZENRAだ。
なぜならば、異様に体格が大きいため着られる病院着が存在していなかったのだ。
パーティの皆や、他の病院関係者が駆けつける時点で、へたり込む妖精の前に立つ、きょとんとした顔の竜人が居たのだった。
157 : 浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/10/24(木) 02:40:26.47 ID:yfxyJkPh
 肩に届かない程度の短髪も風になびくこの天候の中で彼女は托鉢を続けていた。
 さすがに人の身体は人を越えようとする彼女の身体にも潤いと食事を求めている。
 大通りの端で錫杖を片手に立ち、望みもしない人達のための祈りを捧げる。

「所為諸法(真実においては森羅万象の全ては)、
 如是相(その姿のごとくあります)。 如是相(その性質のごとくあります)。
 如是体(その形のごとくあります)。 如是力(その能力のごとくあります)。
 如是作(その仕事のごとくあります)。 如是因(その由来のごとくあります)。
 如是縁(その環境のごとくあります)。 如是果(その結果のごとくあります)。
 如是報(その結末のごとくあります)。 如是本末究竟等(全ては究極においては等しく在ります)。」

 彼女は僧籍を持たない放浪の仏教徒であるが尼僧のようになるべく荷物を持たずに旅をしていた。

 今の彼女はまだ知らない。
 この世界でその世界そのものの再編が行われようとしている事に。
 今の彼女はまだ知らない。
 自分自身がただの仏教徒でなく限りなく仏に近い存在に近づいている事に。 若い女が腹の虫を鳴らしながら経を詠む様は何処か滑稽でもある。
 しかし彼女にはそういった頓着がなかった。
 アインソフオウルの存在なども知らない。
 異なる世界を見ている彼女は自分がそこで高い位に指を掛けている事にも気付かない。
 もしも仮にそのような概念に触れたところで彼女はそれを格と見ずに役目と見なすだけ。、
 今の彼女は人間である。魂がどのような形をしていても人間の肉体に存在を委ねている人間である。
 だから人と同じように呼吸して食事を摂り、他人との関わりを楽しんだり疎んだりしながら最後には死ぬ。
 人として産まれて生きて来たのだから人として人生を謳歌しながら自分のやるべき義務も果たすだけ。

「例え輪廻を幾度繰り返そうとも、わたしはこの世界中の人々をこの世から連れ出さないといけない。
 それにしてもお腹が空いたな。お水で誤魔化すしかないかな。」水筒くらいは持ち歩いても良いよね。

「はぁ…できればお寿司が食べたいかも。熱いお茶…鉄火巻き、ネギトロ、縁側~」

 今の彼女にとっては世界の事などどうでも良いことだ。
 未練があるとすれば人と食べ物くらい。大切なのはその世界の住人と食文化だけ。
 それが無いなら現世なんて耐久年数の過ぎたアパートのように捨ててしまえば良い。
158 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/10/24(木) 22:29:29.01 ID:5h1hAE4Y
『――これで分かっただろう? 宿命には抗えないんだよ? この世の”罪”と戦うのがキミの宿命だ』

オレの事を哀れむようにさげずむように見下ろしているのは――誰?
オレとそっくりな顔をしているくせに、全然違う。
ぞっとするほど純粋な、氷のように冷たい瞳。

「お前誰だよ!」

『私は君さ』

自分でもわかっている、オレは時々こんな表情をする。
人間的などす黒さとはまた違う妖の残酷さを顕わにした貌。

『母上は君が生まれた事に気付いた時、”お前の思うように生きなさい”と言ってくれた。
それなのに君はわざわざ自分から戦いに身を投じ、当初の予定通り弁財天の力を継承するに至った――』

「当初の予定通り……?」

『そう、全ては最初から決まっていたこと。
世界の再編の到来を察知した母上は、来たる枢要罪との大戦の切り札を用意する事にした。
弁財天の力を継承し究極の呪歌を歌うために作られた器――それが私だ』

「嘘つけ! だったらなんでこんな人間みたいな体してるんだよ! 半分人間だからだろ!?」

『わざと人間の身体性を持たせて作ったからだ。
神の紡ぐ歌は確かに強力だが超えられない一線がある……それが以前母上がキミの父親に助力を求めた理由らしい。
究極の呪歌を歌うためには生物的な身体性が必要不可欠なんだ。
でも人間の身体性と神や精霊レベルの魔力というのはえらく不安定な組み合わせでね
私は敵の目を逃れるため時が来るまで人間界で匿われて育てられる事になり、母上は私を君の父親に預けた。
それだ大きな誤算だったんだ。君の父親は神々の想像を絶する高みに到達し過ぎていた――
彼の歌は私に魂を与えてしまったんだ。
そのままなら何の迷いも無く役目を果たす事が出来たのに……恐れや悲しみや迷いを知ってしまった。
……可哀想に、どうせこうなるなら魂なんて得なかったら良かったのにね』

「黙れ……黙れよ! 弁財天の継承も枢要罪と戦ったのも宿命なんかじゃない!
オレ自身の意思でやった事だ!」

『そう言うと分かっていたよ……君は私だから一つだけ忠告しておいてやる。
気を付けた方がいいよ、君の勇者様も”罪”の側に属するんだろう? ――気を付けてどうにかなればいいけど、ね』

「誰がオレだって!? この殺戮兵器めぶっ殺してやる!!」

思わず掴みかかって首に手をかける。

♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪
159 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/10/24(木) 22:32:03.10 ID:5h1hAE4Y
「――かはっ! けほっ!」

慌てて自分の首から手を離し、息苦しさに咳込む。横でリーフが騒いでいる。

「キャーーーーー!! 何いきなり自殺行為してるんですか!」

「……ん?」

「自分で自分の首絞めてましたよ!?
でも良かった、怪我は大したことないのにずっと目を覚まさずにうなされてて……」

気が付けばベッドの上。意外にも温かい感情を伴って記憶の断片が甦る。
それは、一番最初の記憶よりも前の記憶。
母さんの優しい眼差し、それは少なくとも殺戮兵器を見る目ではない。
母さんに抱かれて父さんのところに連れてこられた時の事。断片的でおぼろげだけど、確かに……
神格化の力を長時間使ったために、魂を得る前の忘れていた記憶が呼び起されたのだろう。

「うん……妙な夢見てた。
ねえリーフ、あの出会いは運命なんかじゃない。有り得ない偶然――奇蹟、そうだよね?」

―― この世の”罪”と戦うのがキミの宿命だ。

アイツの言葉がリフレインする。
あの時ゲッツと戦ったのは、アイツじゃない。あの戦いの胸の高鳴りは、オレ自身の魂のもので。
それでもこの体は罪を駆逐するために作られた器なわけで、いつかオレの歌がゲッツを傷付ける事が無いとはいいきれない。
それが怖くて堪らない……
泣いてるのを見られたくなくて、布団に潜りこんで頭から被る。
そこでリーフが言いにくそうに切り出す。

「……ゲッツさんは人事不詳で面会謝絶だそうです」
160 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/10/24(木) 22:33:40.10 ID:5h1hAE4Y
待てよ、そういえば先の事を気にしてる場合じゃないんじゃなかったっけ。

「なんだってー!? こうしちゃいられない!」

飛び起きて扉から駆け出す。
放送室を占拠し、音量最大に設定。司会:オレ、歌手:オレの一人歌番組を始める。

「皆さん、元気ですかーっ! えっ? 病院だから元気なわけない、HAHAHAそりゃそうだ。
それでは元気が出る歌を歌っていきますのでね。もうベッドが空きすぎて商売あがったり請け合いですよ」

当然、すぐに血相変えた病院関係者が雪崩れこんできた。

「一夜の夢織り上げる宵に安息の繭はほどかれていく~」

「アホか、そりゃうるさくて寝てられねーよ! 誰か!早くこいつを摘まみだせ!」

そんな中、次なる異変が病院を襲う。響き渡るけたたましい悲鳴。
どさくさに紛れて駆けつけると、そこにはZENRAの竜人が異様な威圧感を放ちながら佇んでいた。
本人としては普通に部屋から出てきただけなんだろうけど。例の“破れない服”はどうしたんだろう。
慣れは怖いもので、平然と対応するオレがいた。

「いやはやお見苦しい物をお見せして申し訳ありません!
服を着るようにきつく言い聞かせておきますので公然わいせつ罪でタイーホは勘弁してやってください!
リーフ、服出して服!」

「あっ、ネクタイと靴下なら!」

「……。よしゲッツ、とりあえずバックするんだ!」

そのまま前進し、ゲッツを元いた部屋に押し込んで自分もろとも入り、ドアをパタンと閉める。
まずはこの状況を切りぬける事が可及的急務である。

「どうしよう、この状況……。窓から逃げるか?」

ド田舎なので誰も歩いていないのを期待して窓の外を見てみると
うわ言を呟きながらフラフラとした足取りで歩いている少女がいた。

>「はぁ…できればお寿司が食べたいかも。熱いお茶…鉄火巻き、ネギトロ、縁側~」

「うーん……駄目だ」

ゲッツの方に向き直って首を横に振る。
161 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2013/10/28(月) 17:24:35.53 ID:AWuyN5Op
ここはドイナカ村。第拾弐号中央精神医学研究施設「トリフネ」。
数多くの電算機が並び、幾つものコードが植物の根のように床に蔓延る研究室で
アルテナ・ポレターナは複数のモニターを見ながらコーヒーを飲んでいた。
その瞳に映るのは患者たちの夢。
アルテナは特殊な機器で精神病の患者の夢を読み取り
トラウマの原因を見つけ治療しているのだ。

無数にモニターに写し出される多くの夢は皆奇妙な夢で抽象化されていることが多い。
そんな中、アルテナが気になったのは巨躯の男の夢だった。
若い研究員であるアルテナは、眉根を寄せてそれを注視している。

「……わー胸くそ悪い。変なもの見せつけてくれちゃってぇ」
アルテナが言う変なものとは、患者であろう男が夢の中で見ている光。
それはきっと、最愛の人を抽象化したものだろう。
アルテナは仰け反り、全身の力が抜けてしまったかのように、その身を椅子に預ける。
薄暗いモニター室で、まるでそれは糸の切れた操り人形のように見えた。

果たしてこれほどまでに自分が、人に想われることがあったのだろうか。
悪魔に知恵を与えられたとされる異端の民族。カナン人の自分がだ。
今まで人に好かれるどころか嫌悪の目で見られてきたのではないか。
人々に忌み嫌われ、ドイナカ村の研究所に隔離されるかのように移転させられた自分。
そう思うと自分が惨めに思えた。
162 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2013/10/28(月) 17:25:26.55 ID:AWuyN5Op
どよんと塞ぎこんでいるアルテナだったが、そんな時、
突然スピーカーから元気な声が聞こえてくる。

「皆さん、元気ですかーっ!
えっ? 病院だから元気なわけな い、HAHAHAそりゃそうだ。
それでは元気が出る歌を歌っていきますのでね。
もうベッドが空き すぎて商売あがったり請け合いですよ」

その声を聞いたアルテナは椅子からはねあがる。
きっと声の主は、逃げ出した精神病患者に違いない。
飛び抜けて元気な声も、ブレーキを失って
天井なしに加速を続ける車のように恐ろしく感じる。

「一夜の夢織り上げる宵に安息の繭はほ どかれていく~」

「……あうぅ」
詩的で美しい歌声に、逆に背筋が凍りつく。まさに魔性の旋律。
ぜったい声の主は超ド級の精神病患者に違いない。

そして立て続けに、全裸の大男が逃げ出した
という連絡が職員から入る。
これは最近流行りの伝染性の高い精神病の影響かもしれない。
とんでもない勘違いをしたアルテナは、
事態を鎮静化するべく転移ポータルで研究所地下へ。
その移動した先、広大な地下室の中央には巨大なハンマーが鎮座していた。

「ふひひ…。マ~君~、出番よぉ」
顔をほんのりと赤く染め、興奮気味のアルテナがハンマーを掲げると
ドクンと次元を震わせるかのようにハンマーが慟哭した。
サイコハンマー「マー君」の出陣である。
163 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2013/10/28(月) 17:26:26.22 ID:AWuyN5Op
「逃げ出した患者はどこ?二人いるんでしょ」
アルテナは妖精の看護師たちに聞いた。
すると看護師たちは、全裸の大男は、もう一人の患者に
いさめられるかのように病室に戻ったのだと言う。
職員たちの話ではもう一人の患者は放送室で歌を唄っていた者だそうだ。

「……」
聞き耳を立てていると、患者二人が逃げ戻った部屋の扉の向こうから何やら声が聞こえる。

「ちょっと、開けるわよ!」
それはゲッツが壊したはずの扉だが、二重扉のもう一枚の扉によって塞がれていた。
なのでアルテナは扉の脇のカメラに指をつきだし扉を開く。
この扉の鍵は指紋認証システムで
研究員のアルテナの場合はオールフリーなのだ。

「こらぁーっ!」
大声とともに威勢よく怒鳴りこむアルテナ。
しかし開けた瞬間にアルテナの体は硬直。
その目に飛び込んだものはゲッツのほとんど全裸の半裸。
ネクタイに靴というド変態の姿だった。
なのでそれを見たアルテナの頭は真っ白になる。
彼が先程見た夢の主であるということに気付くのには時間はかからなかった。
だが夢をモニターで見るのと実際に現物を見るのとでは迫力が違い過ぎるのだった。

「……あ、あ、あなたたち、いい加減になさい。病院での変態行為は許されないわ。
この天才研究員であるアルテナ・ポレターナのお目めが黒いうちは絶対にね」
真っ赤な顔のアルテナは、問答無用にサイコハンマーを振り上げる。
それは女の細腕でも軽々と頭上に持ち上げることができた。

アルテナの狙いはゲッツの頭だ。
二メートル以上の背丈の者に当てれる確率は低そうでもやるしかない。
でもまさか、あの夢の主がこのようなド変態とは、アルテナは信じられないでいた。

「いい?マー君。彼の頭と接触したら侵犯という概念を破壊するのよ。
きっと彼は、常識を非常識で侵犯することに快楽を感じているのよ。
それを破壊して彼の羞恥心を復活させてあげて」

「あー、まあいいけどよ…。そんなことよりお前があんな大男の頭を叩けんのかよ?
それにあいつ、俺と同じ匂いがするぜ」

「え?同じ匂いってどういうこと?もしかしてあの義手…。
え……、ち、違うと思う。そんな、絶対あり得ないわ。
あんな変態男の義手が生体金属だなんて」

「ありえない!」
そう語尾を強めて、アルテナはベッドに飛び乗ると、ハンマーを横薙ぎに振り回さんとする。
が、ベッドのふわふわした布団の上で、パンプスでバランスをとるのは容易ではなかった。
それ故にハンマーが誰を襲ったのかはわからないし
アルテナ本人もベッドの上から転げ落ちてケガをするかもしれなかった。
164 : エスペラント ◆1LbV.WkN1I [sage] : 2013/10/31(木) 03:12:41.17 ID:PJsmtVQR
交響都市艦フェネクスでの枢要罪との死闘
いや宣戦布告と言うべき出来事が起こり
現在その過程でドイナカ村に滞在することとなる。

「やはり知りえる者が予期していた通りになったな。
この為に此処に送り込んだのは奴の考え通り正解だったな」

咎を背負った者として永遠に戦い続ける恒久戦士であるエスペラントを
監視者にして未来を見越し予言する超越者―知りえる者。
そして同時に友であるその人物はこの出来事をいや何れこの世界で起こる
多元世界に及ぼす重大な異変を見抜いていた。
しかし、その異変が起きる際には世界守護者委員会の手の届かない状態になることも
予知していた為、如何なる状態でも事態を解決出来る者を確実にその世界に入れねばならなかった。

世界守護者委員会及び世界を駆け巡り守る者達の機密は徹底的に秘匿され
それはあくまでも都市伝説程度にまで囁かれる程度に隠匿されていたものの
念を押して既に本来の姿を功績と権力によりそのままで
できるようになった彼はその姿で顔を隠し、名を変えてこの世界に送り出された。

そして彼は今に至るという訳である。

「事態は進行し、顔や名を隠す必要性も最早無くなった
この仮面を脱ぐ頃合かも知れんな」

今となってはどちらにしろ意味は無いのかもしれないが
そっと取り外し外の風景を眺めていた。

「定められた期限は半年―その間我々に何が出来るのか
貴重な時間だな、私達にもそしてゲッツやフォルテ達にとっても」

「彼らはリューキューに行った者達とミストロードと呼ばれた場所に向かったようですが
ミストロードという場所には調べる限りこの世界の何処にも存在しません
何かの暗号なのでしょうか?」

ミストロードと言う言葉に対して何処かで聞き覚えがあるエスペラントなのだが
すぐには思い出せず

「何処かで聞いた事のある名前だが、思い出せないな
だが見過ごせる訳でもないのは確かだ。
至急広域補助機関<サポーター>に連絡を取って調べてもらうのと同時に
静葉も調査を頼む」

「了解しました」

立ち去る静葉を見た後、エスペラントも定められた期限までの時間を無駄にする訳にも行かず
行動を起こすために何処かへと歩き始めた。
165 : ヘッジホッグ ◆J8Nz/8wJMlZL [sage] : 2013/11/01(金) 19:46:46.04 ID:2qnz7Obh
『皆さん、元気ですかーっ! えっ? 病院だから元気なわけない、HAHAHAそりゃそうだ。
 それでは元気が出る歌を歌っていきますのでね。もうベッドが空きすぎて商売あがったり請け合いですよ』

スピーカー越しに罅割れた声が聞こえた。
鉄筋コンクリート越しでなければ今すぐ、あの楽師から声を抜き取りに行っていただろう。
病院の屋上――田舎特有の清冽な空気を紫煙で汚染しながら、賭博師は髪を掻き上げた。

「……確かこの病院、精神病棟があった筈だよな。
 面会は……当然出来ないだろうな。
 あんな奴でも、もう二度と会えないかと思うと寂しくなるぜ」

煙に交えて零す皮肉/それから右手の指輪を顔の前へ――鏡面を仕込んだイカサマ用の指輪。
『蒼』は再び鳴りを潜めている――それでも全て元通り、とは行かなかったようだが。
少なくとも主体は『賭博師』のままだ。

「……アイツら、今度は一体何をしでかしたんだ?」

階下から絶えず聞こえてくる悲鳴に眉を顰め、呟く。
無論の事だが確かめるつもりも介入するつもりもない。
精々知っておけば回避するのが多少は楽になるだろう、程度の興味。

『いやはやお見苦しい物をお見せして申し訳ありません!
 服を着るようにきつく言い聞かせておきますので公然わいせつ罪でタイーホは勘弁してやってください!
 リーフ、服出して服!』

数秒間の沈黙――先ほどまで抱いていた僅かながらな興味も完全に消え失せた。
紫煙も肺一杯に吸い込む/吐き出す煙と共に不快極まりない実況を脳内から追い出す。
賭博師の足は依然として屋上の床に張り付いたまま動かない。

『どうしよう、この状況……。窓から逃げるか?』

『……あ、あ、あなたたち、いい加減になさい。病院での変態行為は許されないわ。
 この天才研究員であるアルテナ・ポレターナのお目めが黒いうちは絶対にね』

『いい?マー君。彼の頭と接触したら侵犯という概念を破壊するのよ。
 きっと彼は、常識を非常識で侵犯することに快楽を感じているのよ。
 それを破壊して彼の羞恥心を復活させてあげて』

何やら会話の節々に不穏な単語が混じり始める。
賭博師は微かに目を細めると――再び煙草を咥え、極めて長閑にそれを燻らせた。
現状は平穏そのもの。ナースが屋上のドアを叩き開けて怒声を撒き散らしたりもしない。

「この平穏を捨ててまで……お前達のろくでもない馬鹿騒ぎに関わる理由があるか?
 いや、ないね。そして断言出来る。どうせその内、もっとろくでもない騒ぎが起こるさ。
 お前達と関わり合いになるのは……その時からでも遅くないよな」

ゆったりと紫煙を吐き、ぼやく。
賭博師の足は依然として、屋上の床に張り付いたまま動かなかった。
166 : アサキム ◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/11/03(日) 22:05:11.21 ID:YhVt6Jq1
「むぅーああ…」
変な声を、あげながら、むくりと起きあがる
{力はかなり、下がってるな。体が前より軽い。
毘沙門天も、空気読んで仙術は使えるらしいが}
そんな、ことを思ってると
あの二人がなんかしでかしてるらしい
「あほらし、いいぞもっとやれ…じゃないや。でも、いいや」
今は今後の予定を考えなくては
{ミストロードか、事象干渉したときのみに発生するルートを使い行く道。
噂だからわからんが}
{リューキュー、こちらは楽そうだな。すぐに転送ポータルからいけるな}
「リューキューからいくか。」
そう決め、行動を開始する
167 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/11/05(火) 21:26:21.83 ID:jaO0dO4B
ZENRAの竜人は、辺りに雲霞と集まりつつ有る大量の妖精たちや警備員達の前で堂々と彫刻の如き裸体を晒し続けていた。
もう全裸であることが当然であるかのような貫禄のある表情、そして辺りの警備員を睨みつける威圧感。
それらから、警備員やナースたちはあろうことか通報することも目をそらすことも赦されず竜人の裸体を見つめ続けるという拷問を受けることになっていた。
正直な話もう、竜人以外にとっては間違いなく〝厄災〟といっても良いほどだろう。一部の趣味を持つもの以外は、という但し書きがつくが。

そして、無言で立ちつつ竜人は己の角の根元をごりごりと爪で書きつつ、深く息を吸い込んだ。
竜人の胸郭が拡張し、停滞していた空間の硬直を、竜の一声で動かさんと音声を口から排出していく。

「――なんだてめェら。喧嘩売ってんのか? 買うぜ? 腕一本しかねーが、掛かってくるなら買うぜ!? あァ――――」

警備員達の顔色を蒼白にしつつ、ざわめきが人々の間に広がっていく。
なにせガチムチ長身なうえ人間ですら無く、どう見ても堅気ではない竜人が売っても居ない喧嘩を買おうと言ってるのだ。
そりゃあもう警備員であろうとも逃げ出したくなるだろうほどであり、その感情が環状に彼を包囲していた構図をゆるめ、闖入者の乱入を許す事となった。

>「いやはやお見苦しい物をお見せして申し訳ありません!
>服を着るようにきつく言い聞かせておきますので公然わいせつ罪でタイーホは勘弁してやってください!
>リーフ、服出して服!」

「おーっす、フォルテ。なんだかんだで死んでねーんだから俺もてめーもしぶといもんだなァ、オイ」

>「……。よしゲッツ、とりあえずバックするんだ!」

いつも通りにげははと下品の笑い声を漏らしつつも、HURUTHINの竜人はフォルテに引きずられていき。
ぶっ飛ばされて粉砕された扉を無理やりはめ込みながら、集中治療室に引っ込んでいく。
なにがなんだかよく分かっていない表情の竜人は、いまさらになってようやく現状を理解。

「あ、俺全裸? やっべ、妙に身体軽いと思ったら服着てなかったんかよオイ!
そりゃ軽いわ! ゲヒャヒャヒャハ――――!!」

胸筋をぴくぴくさせながらいつも通りの高笑いを轟音として病院中に響き渡らせつつ、ネクタイを勝手に巻いていく吟遊詩人に鬱陶しそうにデコピン連打。
気がつけば脱ぐのは、2m超の肉体に眠る巨大な竜の因子が外へと発露しようとするからだろうか。
彼の先祖は、総てを破壊し尽くす滅竜ファフニール。それならば確かに服にすら縛られないのは当然と言えるかもしれない。
余談では有るが、ここまでの全裸の言い訳は総て嘘である為、公式設定にするもしないも他の方の自由である。
いつの間にか竜人は全裸にネクタイと靴下と言うもはや訳の分からない格好にされていたが、別に気にする様子は無いようで。
いつも通りのヘタレっぷりを発揮しつつ外を確認して絶望的な表情をしている吟遊詩人のつぶやきに、ようやく今の状況を理解する。

>「どうしよう、この状況……。窓から逃げるか?」
168 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/11/05(火) 21:26:59.85 ID:jaO0dO4B
「――いんや、どうやら逃してくれねーみてーだぜ?」

>「こらぁーっ!」

ネクタイと靴下以外の服を身につけていない状態でキメ顔をしたあかいウロコの竜人が一匹。
竜人が振り向くと同時に――扉が勢い良く開き、ハンマーを構えた女研究者が乱入。
――不幸だったろう。扉を開けてそこに居たのが、唯の全裸ならば良かった。ただ――そこに居たのは、服を着た全裸だったのだ。
布面積は増えていたが、残念ながら肝心な所がどこも隠れていなかった。
もし鱗フェチだとか、裸ネクタイのドラゴンフェチだったりしたならば垂涎モノの肉体だったかもしれないが、通常の性的嗜好であれば、単純に変態にしか見えない構図だ。

>「……あ、あ、あなたたち、いい加減になさい。病院での変態行為は許されないわ。
>この天才研究員であるアルテナ・ポレターナのお目めが黒いうちは絶対にね」

「待てやオラァ! この格好は俺が望んでしたわけじゃねーってのッ!
勝手にこれ着せたのは俺の隣のこのちんちくりんだボケがァ! こいつの趣味だから俺は悪くねぇぞ!!」

ナチュラルに総ての罪をノリで隣の吟遊詩人に押しきせつつ、全身に力を込めて戦意を顕とする。
相手の構えからハンマーの扱いに長けていることを予測。本気で戦うべきだと理解した模様。
全身に光がまとわりついていき、いつの間にか竜人の肉体は平時通りの破けない戦闘服へと変わっていて。

「ほら着たぞ、服着たぞ! それでも来るってんならー! 畳返しベッドバージョン!!」

ベッドの上にアルテナが飛び乗って、ふらついたその瞬間。
ゲッツが取った行動は単純。己の右足をベッドの下へと伸ばし、全力で蹴りあげただけ。
同時にゲッツもかたわらの吟遊詩人を脇に抱え込みつつ跳躍し――、天井へと上段蹴りを叩き込んで天井を粉砕し、二階へと移動。
オマケのようにアルテナの首根っこを掴んでそのまま、屋上まで天井をぶち抜きながら移動していくことだろう。

>お前達と関わり合いになるのは……その時からでも遅くないよな」

「うーっす。俺にもヤニくれね? 寝起きでちょいとぼーっとしててよォ」

関わり合いになりたくない。そうヘッジホッグがつぶやいた直後だった。
轟音につぐ轟音。屋上への階段すら使うこと無く、普段輸送している吟遊詩人以外の何かを持った馬鹿が、屋上に現れていた。
ぐいぐいといつも通りのノリで絡みつつ、煙草をタカろうとしてくる竜人の振る舞いは、頭が痛くなることうけあいだろうか。

この騒ぎはもはや村中に広まっている。他の村にいる人々、エスペラントやアサキム達にもこの騒ぎは伝わることだろう。
169 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/11/05(火) 23:19:25.93 ID:tezZ+43t
>「あ、俺全裸? やっべ、妙に身体軽いと思ったら服着てなかったんかよオイ!
そりゃ軽いわ! ゲヒャヒャヒャハ――――!!」

「あーもう、動かないで!」

全裸のゲッツにネクタイを巻く。
この世界では記号的表現はある種の力を持つので、全裸でもネクタイさえ付けていれば紳士になるのだ、多分。
ちなみにネクタイは中世においてドラゴンを封印するために使われた呪縄《ルーンロープ》に端を発し
よく訓練された紳士達の間で魔除けとして着用されるようになったのが始まりとされている。(大嘘)

>「こらぁーっ!」

勇壮にも、紳士の正装をしたゲッツに挑む挑戦者が現れた。

>「……あ、あ、あなたたち、いい加減になさい。病院での変態行為は許されないわ。
この天才研究員であるアルテナ・ポレターナのお目めが黒いうちは絶対にね」

「ゲッツは変態じゃない! 仮に変態だとしたら変態と言う名の紳士だ!」

さりげなくマル禁マークの入ったタンバリンをカメラワーク的にいい感じに構える。
「楽器の使い道間違ってるモナ!」とタンバリン化したモナーが抗議しているが聞こえない振り。

>「待てやオラァ! この格好は俺が望んでしたわけじゃねーってのッ!
勝手にこれ着せたのは俺の隣のこのちんちくりんだボケがァ! こいつの趣味だから俺は悪くねぇぞ!!」

ゲッツが臨戦態勢に入ると、いつものエアー服が現れた。

「気合で服着れるんなら最初から着ようよ!……服が出たのはいいとして何で腕は出てこないの?」

白衣の挑戦者は、よく見るとハンマーと話しているようだ。

>「あー、まあいいけどよ…。そんなことよりお前があんな大男の頭を叩けんのかよ?
それにあいつ、俺と同じ匂いがするぜ」
> 「え?同じ匂いってどういうこと?もしかしてあの義手…。
え……、ち、違うと思う。そんな、絶対あり得ないわ。
あんな変態男の義手が生体金属だなんて」

「ん、そうだよ? ちょっと待って。同じ匂いって言った?」

しかし待ってと言って待ってくれるはずもなく、戦闘勃発。
170 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/11/05(火) 23:20:42.34 ID:tezZ+43t
>「ありえない!」
>「ほら着たぞ、服着たぞ! それでも来るってんならー! 畳返しベッドバージョン!!」

「ですよね――!」

一瞬後、物凄い勢いで屋上まで逆バンジー。
ああ、タダで絶叫マシーンに乗れて楽しいなあ!と、もはや達観した笑顔で輸送されるオレがいた。
相乗りした研究員まで気遣う余裕である。

「ごめん、びっくりしたでしょ。慣れたら大丈夫だから」

――本当は全く余裕では無く、単なる現実逃避である。修理代どうすりゃいいんだコレ。
と、風に乗ってきたタバコの匂いが鼻腔を直撃する。……賭博師野郎こんなところで何やってんの!

> お前達と関わり合いになるのは……その時からでも遅くないよな」

「タバコ吸ってる場合じゃねーよ!? なあゲッツ!」

>「うーっす。俺にもヤニくれね? 寝起きでちょいとぼーっとしててよォ」

「あれ?」

いつものノリでヘッジホッグにたかるゲッツを見て違和感を感じる。
煙草どころか香りの強い物全般が苦手だったはずだ。何かおかしいぞ?
あれだけ暴れ回って寝起きでぼーっとしているようには見えない。だとすれば……

「ゲッツ! 腕……出ないんだろ?」

どうやら図星のようだ。調和の歌にやられた後遺症だろうか。おいおい冗談じゃないぜ!?
事の重大さを分かっているのか分からない本人置いといて、天才研究員ことアルテナさんに向き直る。

「天才研究員である君を見込んで頼みがある!
ゲッツの腕は多分君が言ってる生体金属なるものだ。診てやってほしい!」
171 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/11/07(木) 19:23:06.25 ID:zseX6RX4
「ゲッツは変態じゃない! 仮に変態だとしたら変態と言う名の紳士だ!」

「……って、見事なキャラ紹介してんじゃないわよっ!」

「待てやオラァ! この格好は俺が望んでしたわけじゃねーってのッ!
勝手にこれ着せたのは俺の隣のこのちんちくりんだボケがァ!
こいつの趣味だから俺は悪くねぇぞ!!」

「ふ~ん。人並みに羞恥心は持ち合わせているみたいねぇ。
なるほどね、そうなのね。
裸ネクタイの趣味は彼女さんの趣味だったのね」

「ほら着たぞ、服着たぞ! それでも来るってんならー!
畳返しベッドバージョン!!」

「服着たぞって幼稚園のガキかっ!いまさら遅いっつ~のッ。
すでにあなたの罪業は…」

続きの言葉はベッドが蹴りあげられたため飲み込む。
ぐらりと一瞬、ゲッツの跳躍する姿が目に入り
次の瞬間には天井が砕け散っていた。
息を飲んで身を縮めるがもう遅い。
背後から伸びた腕がアルテナの襟首をつまみ上げる。

「へ!?」
あまりの事態に呆気にとられた。体が宙に浮いた。耳元で風が唸り、後方へ流れた。
そして二階の患者と目があった。
続けて轟音。さらに上昇。
御臨終ほやほやのおじいさんの霊が飛んでいくのが見えると、
次に光が見え、空が見えた。
気がつけば、そこは屋上だった。

「ごめん、びっくりしたでしょ。慣れたら大丈夫だから」とフォルテ。

「慣れるわけないでしょッ!死ぬかと思ったじゃないッ」
ふざけているのかと思い、アルテナはフォルテを睨み付ける。
と、フォルテの背後、視界に入ったのは賭博師らしい男。
どうやら屋上には先客がいたらしい。

お前達と関わり合いになるのは……その時からでも遅くないよな」

(……もう充分に手遅れよ)
頬をひくつかせながら、アルテナは心の中で突っ込む。
172 : アルテナ ◇yG7czCnxXA代行  ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/11/07(木) 19:23:48.59 ID:zseX6RX4
「タバコ吸ってる場合じゃねーよ!?なあゲッツ!」

「うーっす。俺にもヤニくれね? 寝起きでちょいとぼーっとしててよォ」

アルテナの頭は痛くなる。
とにかく彼等の行動は常軌を逸しているとしか思えない。
放送室をジヤックし歌はうたうは、天井を突き破り外に出るは、ノールールにも程がある。
故にアルテナは暫く呆然としていた。
するとフォルテが――

「天才研究員である君を見込んで頼みがある!
ゲッツの腕は多分君が言ってる生体金属なるものだ。診てやってほしい!」

と熱視線で懇願してくる。

「……天才研究員」
その言葉にアルテナは、
じん……と全身が熱く痺れ心地よさで満たされてゆく感覚を覚えた。
貴婦人のような笑みを浮かべるとゲッツの腕を目を皿のようにして見つめる。
フォルテが変態であろうがなんであろうが最早関係なくなっていた。
天才という言葉はカナン人であるという劣等感を埋めるには
充分な言葉だったのである。

しかし――

折角の生体金属を目の当たりにして、アルテナはその機能を理解出来ない。
風の噂で入手している情報といえば、彼の義手は機械類に干渉できるということ。
状況に応じて臨機応変に変化する武器ということだけ。

「本体と義手は細胞レベルで融合しているのかしら?
結局はその結合部分が連動していないってこと……かな?
それか心の問題よね。
今まででこの義手を使うにあたって大失敗しちゃったこととかない?」

アルテナがカウンセリングを始めると何やら下が騒がしい。
どうやら警備隊のお出ましのようだ。

「う~ん。ここじゃなんだから研究室に行かない?
アクノスの第一研究所には敵わないけど、ここも充分に設備は充実しているわ。
ね、皆さんも応接室でお茶などいかがですか?」
ゲッツの手をとると、かなり強引に引っ張るアルテナ。
勿論女の細腕で、ゲッツが微動だにするわけもなかった。
173 : エスペラント ◆1LbV.WkN1I [sage] : 2013/11/09(土) 22:44:26.72 ID:ZKMD8R6F
そのまま暫くして
どうも近づいていくにつれて騒がしくなっていく。
それが何なのかは初めはわからないが理由がなんとなく分かってくる

「相変わらず退屈には苦労しなさそうな連中だ」

そんなことを呟きながら病院の中を歩くと騒ぎの中心点に辿り着くが
何か重篤の事態に陥ったのか、他の連中も何時もと少し様子が違う

「…来るのが早すぎたか?出直すか」

片手にはくる道中に買ってきたフルーツ盛り合わせもとい
ソーセージや燻製肉と言った肉の盛り合わせを包んでゲッツの為に持ってきたが
普通ならば病人には持ってくるものでは勿論無いが、奴は殺しても死ぬようなイメージは到底わかないし
果物より肉を遣せと言いそうだから、見舞いの品として選んだ。

さてそれはさておきやってきた屋上にはなにやら女性に手を
引っ張られるゲッツと近くに居るフォルテや賭博師ヘッジホッグ
その他にもいる連中を確認し、一瞥すると屋上の扉を背に頭を少し傾げながら

「取り込み中だったか?お邪魔なら帰った方がよさそうかな?」

面白がるようにそんな台詞を吐いた。
174 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/11/19(火) 20:22:55.12 ID:JILQ1JmD
嫌に頭が朦朧としていた、鼻は可笑しいし、視界も多少ぼやけている。
常に皮膚はぴりぴりと痺れているような感覚、起きた時から続く不快感は、まるで〝世界から拒絶されている〟かのようで――。
――屋上の風にでも当たれば多少はこの気分も晴れるだろうと屋上まで天井をぶちぬいていったものの、やはり辛い。
なんとなく、理解した。〝悪性であるということ〟はそういうことなのだと。
僅かに霞がかる意識を、腐臭のする空気を吸い込むことで無理矢理に覚醒させて――僅かに己の〝世界〟を解き放つ。
それは、己を拒絶する世界への反逆。それによって漸く己を世界と隔絶し――いつもの己を取り戻す。
努めて己の弱みを見せないように――なぜなら格好わるいから――せず、いつも通りにからからと笑い声を響かせて。

>「本体と義手は細胞レベルで融合しているのかしら?
>結局はその結合部分が連動していないってこと……かな?
>それか心の問題よね。
>今まででこの義手を使うにあたって大失敗しちゃったこととかない?」

「義手だけじゃなくて俺の場合は心臓も作りもんだからよ。
義手と心臓の両方組み合わさって一塊の兵器なわけなんだが――失敗つっても研究所ぶっ壊したとかぐらいしかねえぞ?
……ただ、そうだな。最近力を使う度に義手が嫌な音立ててたから気になっては居たんだがヨ」

首をひねりつつも、足りない頭なりに自分のコンディションについては理解している様子の竜人。
逆にそうでもなければ戦闘狂としてここまで生き残れてこなかったということもあるだろうが。
どちらにしろ、義手に対してこの竜人がなんらかの負荷をかけていただろうことは想像に難くないだろう。

>「う~ん。ここじゃなんだから研究室に行かない?
>アクノスの第一研究所には敵わないけど、ここも充分に設備は充実しているわ。
>ね、皆さんも応接室でお茶などいかがですか?」
>「取り込み中だったか?お邪魔なら帰った方がよさそうかな?」

「おう、構わねーけど――ッ、肉がお見舞いとか気ィ効いてんじゃねーかエス平。
どうせあんたの事だから何が有ったかある程度把握してンだろうけどよ。
茶飲み話ついでに肉食いながら情報交換でもしねぇか?」

なんとなく前よりも柔らかくなったような雰囲気を感じるエスペラント、その気配を〝脅威〟として〝災厄〟の生存本能が認識する。
悪性の存在としては、確かに永久闘争存在は脅威。だが、それがどうしたとばかりにいつも通りの態度で竜人は笑いかけ。
手元の肉の盛り合わせに嗅覚と視線のリソースを大きく裂きつつ、世間話へとエスペラントを誘うのだった。
もしエスペラントが来ても来なくてもどちらにしろ拒むことはなく、そのまま研究所へとフォルテを方に担いで歩いていくはずだ。

「あー、お前さんはどうせ酒でも飲んでそこらふらついてんだろ? 好きにしときな」

紫煙をくゆらせる賭博師に対しては、竜人は誘うことはなく、そのままオイていこうとする。
彼が基本的に集団行動を好まないのと、大したことのない面倒事には積極的に関わらない事は知っていたからだ。
175 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/11/19(火) 22:34:45.10 ID:iTvoDHSr
>「義手だけじゃなくて俺の場合は心臓も作りもんだからよ。
義手と心臓の両方組み合わさって一塊の兵器なわけなんだが――失敗つっても研究所ぶっ壊したとかぐらいしかねえぞ?
……ただ、そうだな。最近力を使う度に義手が嫌な音立ててたから気になっては居たんだがヨ」

「ヤバイじゃん!」

それって義手がぶっ壊れたら心臓止まって死ぬってことじゃん!
そりゃああんだけ無茶に使ってたらガタもくるよ……と思うが、原因として一つ思い当たる事がある。
ゲッツの魔導心臓にノリでラクガキしてしまったこと、もしかしてあれがいけなかったのか!?
マジックアイテムに余計な文字を書いたら不具合を起こす事は有り得ない話ではない。
しかも、オレが元々悪性のアインソフオウルを殲滅すべく作られた存在だとしたら……

>「おう、構わねーけど――ッ、肉がお見舞いとか気ィ効いてんじゃねーかエス平。
どうせあんたの事だから何が有ったかある程度把握してンだろうけどよ。
茶飲み話ついでに肉食いながら情報交換でもしねぇか?」

抵抗されなくて良かったと思う反面、ゲッツが怪しげな研究所に素直に付いていくあたり相当ヤバいんじゃね!?とも思う。
逃亡したそうなオーラ全開の賭博師野郎はそのまま放置し、いつも通りゲッツに担がれて研究所へと向かう。
アルテナさんにラクガキの事を伝えた方がいいのだろうか。

「あ、そうそう。裸ネクタイが趣味の変態は百歩譲ってこの際流すとしてこれだけは言っておきたい事がある。
オレは見ての通りゲッツの装備品兼プロデューサーだ。断じて彼女じゃあない! もし宜しければ遠慮なくいつでもどうそ!
というかこいつどう見ても魔法使いコース一直線だから! 戦士が魔法使いになったら魔法戦士に昇格しちゃうよやったね!」

と訳の分からない冗談を言っている間に研究所に到着してしまう。
ド田舎らしからぬ自動ドアの入り口から入り、ド田舎らしからぬ設備が充実しているのが見て取れる。
魔導レントゲンとか撮ったらラクガキが一発でバレバレだろうなあ……。しかも名前だから犯人がオレだってことまで丸わかりだし。
「装備品”に”名前書くならともかく装備品”が”名前書くな!」とツッコミを喰らうのは時間の問題だと思われたので、先手を打って申告しておく事にする。

「あの~、関係あるか分かんないんだけどさ、ちょっと前にそいつの心臓に名前書いちゃったんだよね。
その場のノリというか出来心でつい……」
176 : 浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/11/20(水) 00:10:45.31 ID:3//d6hIx
騒ぎも収まりつつある今になって野次馬に寄ってきた浄子。
「一体何の騒ぎなのでしょう。しかも病院で。」
他の野次馬に尋ねてみれば変質者が病院の中で暴れて天井をぶち抜いたとの話。
変質者?と尋ねて見回して見てもその変態はすでに着衣の旅行者である。

病院から出てくるゲッツを連れた集団のうち一つと一人の男が目を引いた。
この土地で浮いた存在感を漂わせているのでおそらく自分と同じ旅行者だろう。
竜人の男が肉の盛り合わせを持った男に声をかけて去って行くのをただただ眺めていた。
今は袖も触れ合わないで視界に入っただけの出会いである。
少なくとも浄子はこの集団と縁がある事にまだ気づいていなかった。

黒いロングコートに編笠と錫杖という格好に、まだ二十歳に達していない
若い旅行者の姿はほんの少しならば一行の目に止まるかも知れない。
しかし今はゲッツの義手をアルテナに見てもらうところだ。

野次馬から壮年の男性が「騒ぎを起こしたのはあの連中じゃないかな?」と浄子に教えてくれた。
しかしこの時は浄子も彼らをさして気には留めていなかった。
「問題でもあればお役人さんが働いてくれるでしょう。」
人影も遠くなってから肉の盛り合わせを思い出し腹を鳴らす。
「さすがに…知らない人にたかるような真似はできませんよね。
 えっと、上座部の人達ならこういう時にどうするのでしょう。」
托鉢僧の真似事をしている大乗仏教の信徒は勝手わからず腹ペコのままだ。

彼女は彼女の旅を続けるために目を閉じて錫杖を立てて倒す。
シャランと鳴った錫杖の輪の音を聞いてから倒れた方向を見るとそちらへ向かって歩き始める。
177 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2013/11/20(水) 22:23:18.30 ID:8JaOvfG1
き~ッ!
アルテナは、まるでハゲウアカリ(アマゾンの奥地に住む猿)
のような真っ赤な顔をしながらゲッツを引っ張って行こうとしていた。
すると視線の先、扉を背に小首を傾げた男が一人。

>「取り込み中だったか?お邪魔なら帰った方がよさそうかな?」

>「おう、構わねーけど――ッ、肉がお見舞いとか気ィ効いてんじゃねーかエス平。
どうせあんたの事だから何が有ったかある程度把握してンだろうけどよ。
茶飲み話ついでに肉食いながら情報交換でもしねぇか?」

「えすべいさん?そうね、皆で一緒にお茶会でもしちゃいましょ~」
聞き間違いか、えすべいと呼ばれる男がお肉を持ってあらわれた。
もしかしたら、えすぺら?どっちにしても変な名前~と思いつつもアルテナは、
この流れ逃さぬッみたいな心意気で満面の笑み。
彼もヘッジホッグと同じ、ゲッツの知り合いらしいが
何ともかんとも濃ゆい面々で、
なぜか遥かな気持ちになるアルテナだった。

するとフォルテが…

>「あ、そうそう。裸ネクタイが趣味の変態は百歩譲ってこの際流すとしてこれだけは言っておきたい事がある。
オレは見ての通りゲッツの装備品兼プロデューサーだ。断じて彼女じゃあない!
もし宜しければ遠慮なくいつでもどうそ!
というかこいつどう見ても魔法使いコース一直線だから!
戦士が魔法使いになったら魔法戦士に昇格しちゃうよやったね!」
と、訳の分からない冗談を言い放ち、突然後方からシャリンッの音。
その異音にびっくりして振り替えると
今度は仏教徒みたいな女がいて杖の倒れた方向に前進を開始。
それはある意味賭博師よりも賭博師的な行動でありながら
第六感を働かせたドリーミーな行動で
無根拠ゆえの絶対感を孕んでいる行動とも言えた。
178 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2013/11/20(水) 22:23:51.29 ID:8JaOvfG1
そんななか、エスペラントが背にしている扉の向こう側が騒がしくなる。
警備隊が突入を開始したのだ。

「おい、開けろッ!」
震動する扉。警備隊が体当たりをしているらしい。
と、同時に下の街道からは年老いた警備隊長の声が響く。
なのでアルテナが割って入る。

「すみません。この人たちは見るからに怪しいものたちですが、私の可愛い患者たちなんです。
ちょっとした発作で病院から飛び出しちゃっただけですのでご安心下さい」

平謝りするアルテナの言葉に警備隊長はサーベルを納め冷静さを取り戻していた。
ドイナカ村の人達はアホみたく真面目なのだ。
事件など滅多に起こらないが
有事にはマニュアル通りに命をかけて職務を全うする人達なのだった。

「……ということにしたからね。皆、私について来てね」

それはさておき、アルテナが研究所に到着すると、
フォルテがもじもじしながら
とんでもないことを暴露する。

>「あの~、関係あるか分かんないんだけどさ、
ちょっと前にそいつの心臓に名前書いちゃったんだよね。
その場のノリというか出来心でつい……」

(えぇ!なんですってぇ!)
意味がわからずしばらく震えるアルテナ。
イタズラにもほどがあるというか、
それって不良が恋人の名前を刺青にするのと同じ思考なんじゃ…。
そんな想念をかぶりをふって打ち払う。
179 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2013/11/20(水) 22:25:35.35 ID:8JaOvfG1
――研究所の診療室。
空気中にパラフィンの匂いが漂っていた。誰かがパラフィン浴をしていたのだろう。
その隣り、厚いカーテンを隔てた応接室からは香ばしい肉の匂いが漂ってくる。
軽い自己紹介も終わって、一同は静かに肉を食べ始めているようだ。
テーブルの上には患者からプレゼントされた葡萄酒やフルーツが並べられている。

ゲッツの言葉から推測するに、
義手の不具合は心的トラウマから派生したものではないらしいし、
やはりフォルテのイタズラが要因なのだろうと、アルテナは思う。
でも、もしも生体金属そのものに欠陥があるとしたら…。
サイコハンマーのマーくんもいつかは止まってしまうのだろうか。
そんな心配を胸に秘めて、アルテナはフォルテを
憤懣やる方ないといった感じで睨んでいた。
折角の生体金属をこんな形で検査することになろうとは思ってもみなかったのだ。

「えっと…、じゃあとりあえず、そのフォルテのイタズラ書きを消してみましょうか。
で、ゲッツの胸はパカッと開いたりするの?
そもそもその落書きって消せるものなの?」

生体金属の機能を知ろうとしてもこのままでは動かないので仕方ない。
でも何とか修復したいアルテナであった。
180 : アサキム◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/11/21(木) 22:40:29.27 ID:7UT1msI8
「………………」
ここはタカマガハラ…アサキムは精神世界より来ていた
用は、ループを管理し…ゆがみを消す場所
「ここなら確定事象を変えられて、ミストロードへの……あれ?」
誰もいない……通常なら三人管理者がいるはず……
「よぉ~アサキムちゃんじゃないの!」
「ユウキ……テルミ」
「まさか君がここに来るなんてな、堅苦しいのは嫌いとか言ってたくせによぉ〜」
「……消したのか?」
「ぴんぽーん!いらねぇから消してやった!」
「ループは完全に断ち切れたのか?」
「まぁな、」
「そうか…」
(望みは繋げたか)
「まぁ…俺様はもう消えるぜじゃあな、ひゃあはぁァァァァァァ!」
「おい!」
(にがしたか、完全に復活してやがんな!)
まぁ…いい
「道を開くか…奴らへの道をな」

「これで、ミストロードの道が開くという事象が」
アサキムは現実世界へ戻った。
さて…
アサキムは皆のいる場所に向かい
『ちょっといいか?』
エスペラントに念話で話しかける
181 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2013/11/23(土) 03:58:28.32 ID:Sf5rXK24
>「おう、構わねーけど――ッ、肉がお見舞いとか気ィ効いてんじゃねーかエス平。
どうせあんたの事だから何が有ったかある程度把握してンだろうけどよ。
茶飲み話ついでに肉食いながら情報交換でもしねぇか?」

「お気に召した用で何よりだな、それだけ言えれば心配するまでもなかったか。
構わんよ、元々そのつもりだったのもあるが」

特に変わりのないように見えるゲッツ
何時もの調子ではあるが、この世界における
自身の愛した女性と同じ存在である彼に対して
己と何れは相対するに当る多世界規模の災厄となるのか
それともこの世界に置ける自浄存在に屠られるかあるいはそれ以外の道を辿るのか。

何れにしろそれは今己の知れる所ではない、世界を守る秩序と必要な犠牲として消去する混沌が入り混じり天秤に属する
永遠に戦い続ける恒久戦士としての勘としてはその芽が大きくなる前に多世界の為に抹殺するべきとも伝えている
だが今は己の精神が保っていられる内は今はすべきでは無いと判断する。
必要だとは言え今すぐ求められていない以上自分の役目ではない事をすることは無い

そう考えた後、一人の女性が居る事に気づく
当然の事だが今始めて会う女性であるが自身の名前を間違えていたので

>「えすべいさん?そうね、皆で一緒にお茶会でもしちゃいましょ~」

「君は…いや最初に此方が名乗るべきだな。私はエスペラント、エスペラント・ゲシュペンストイェーガーだ
えすべいではない」

そう訂正するとなにやら背後が騒がしいので急いで扉の近くから離れると
自分が来る前からの騒動に聞きつけたのか警備隊がやってきた。
だが、それをなんとかしたのが先ほど自分の名前を間違えていた女性が話を付け解決してくれたようで
すぐに帰って行った。

「助かった……助けてもらった事には感謝せねばな、なぁお前たち」

自分達は彼女に助けてもらったので素直に礼を言った後
彼女の後に付いて行き、研究所らしき場所に到着する。
その後は持ってきていた肉の盛り合わせを調理できる者に渡す。
調理をしている間になにやらゲッツの腕や心臓に関する重大な話を耳にする

>「あの~、関係あるか分かんないんだけどさ、ちょっと前にそいつの心臓に名前書いちゃったんだよね。
その場のノリというか出来心でつい……」

>「えっと…、じゃあとりあえず、そのフォルテのイタズラ書きを消してみましょうか。
で、ゲッツの胸はパカッと開いたりするの?
そもそもその落書きって消せるものなの?」

「本来であれば口を挟む事ではないと思ったが言わせて貰うが
まずはレントゲンに掛けてから実物を判断するべきではないのかね?
明らかにいきなり胸を切開するというのは、どうかと思うのだが」

自分は所詮は医療関係では素人に過ぎないが病院と言うものを知っていれば
大体医者が聴診器やレントゲンで患者診るものだという知識ぐらいはあるので
エスペラントからしてはごく当たり前の事を提言した直後、突然頭の中にアサキムの声が聞こえてくる

>『ちょっといいか?』

(どうした?何かあるのか?)

その念話に対して質問を投げかける。
182 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2013/11/23(土) 04:01:27.38 ID:Sf5rXK24
その頃一方淫夢君は―

浄子に気が付かなかった一向とは違い
どこからかともなくひょこりと偶然彼女の通る場所に現れる。

「………」

浄子を見つめると背中には身体以上に大きな幾つかの果物と魚が入った包みを持っており
それを彼女の目の前に差し出す。

もちろんあげるという意味で
183 : アサキム◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/11/26(火) 21:02:34.83 ID:7sYZsswS
『ああ…ミストロードに行く事象を開いたのと』
『ユウキ・テルミが完全復活した、』
『めんどうになる…な』
『そちらで追えるか?』
そう依頼するのと
『おれは先に別の方向に向かう』
184 : リーフ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/11/29(金) 23:27:34.11 ID:+o+yrx4A
背景に溶け込んでエスペラントに念話を送っているアサキム。
しかし覚えているだろうか、背景の支配者と言うにふさわしい人物がいたことを!
背景といえばこの人の庭みたいなもの、他の者は気付かなくてもこいつの目から逃れられるはずは無かった。
アサキムの後ろから手が伸びてきて意味も無く両手で頬を掴む。

「何言ってるんですか駄目ですよ!
この前までとは違って弱っちいんですから一人で先に行ったら一瞬で死んでしまいます!」

アサキムを容赦なく変顔にしながら忠告するリーフ。どうやら念話の内容を把握しているらしかった。
念話盗聴技能持ちの疑惑が浮上してしまったが
さっきあっちにいたと思ったらもうこっちにいたり完璧に気配を消してちゃっかり敵の攻撃を逃れたりと
すでに実は超凄い人なんじゃないかという説もあるので今更技能が一つ増えたところで特に問題は無い。

「それより背景に溶け込んでないで一緒に考えてあげてください。背景キャラは私の専売特許なんですから!」

リーフは背中をどーんと押してアサキムを背景から弾き出す。
185 : 浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/11/30(土) 16:24:07.99 ID:dDbBKRci
目の前に現れた淫夢君に浄子は一瞬驚く。
見た目に驚いた次には怯えはじめ錫杖を向ける。

「な、なんですか?」
錫杖は鈍器ではないのだが…。

彼女は17歳。まだ大人と呼べるのかすら微妙な年齢だ。
成人の基準は国や時代によって変わるので少女でも通用する事がある。

「………」
無言の淫夢君に差し出された包みを見て少しずつ警戒が溶けていく。

「え、これは?食べ物!頂いていいんですか。」

空腹も手伝っているのだろうけれどちょろい子供である。
表情は徐々にでなく切り替わったように満面の笑みに変わった。
「ありがとうございます!」

そして迷いながら包みから果物2つと魚を一切れ選んで
受け取ると淫夢君の目を見て再び微笑んだ。
186 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/12/03(火) 20:54:58.02 ID:Of1cr4eW
>「えっと…、じゃあとりあえず、そのフォルテのイタズラ書きを消してみましょうか。
>で、ゲッツの胸はパカッと開いたりするの?
>そもそもその落書きって消せるものなの?」

>「本来であれば口を挟む事ではないと思ったが言わせて貰うが
>まずはレントゲンに掛けてから実物を判断するべきではないのかね?
>明らかにいきなり胸を切開するというのは、どうかと思うのだが」

「――俺をロボットか何かと勘違いしてねェか? そんなぱかぱか開いてたまるかっての。
ただ、なんだ。――魔術っぽいアレだし、普通に拭いても取れねぇんじゃね?
それに――俺らは時間が無い。そうだろ、特にエス平。お前さんそういうのに敏感そうじゃねぇか」

肉を食いちぎりつつ――竜人はつらつらと己の状況について語り。
己の胸の中にある物は、恐らく物理的な問題で不具合を起こしているわけではないだろう事を予測する。

「んで、お前さんのそのハンマーと俺のこいつは同種であっても同類じゃあない。
俺の場合は、ぶっ壊してぶっ殺す為の戦闘兵器な訳で、だ。
……要するに、鉄火場にぶち込まれて死にかける羽目になりゃ復活するんじゃねェかと思うんだが、どうよ?」

己の義手と心臓は、殺戮の為の未完成兵器。
恐らく術者の死によって任を終えたとシステムが勘違いしたためにこのような事態になってしまっただろうと判断した。
そして、これを何とかする術としては――この義手がどうしても必要になるような状況になる事。
即ち――死地。鉄火場に出向き、ピンチに陥ることなのではないか。そう、ゲッツは結論づけた。
その上で。

「エスペラント。フェネクスにはいなかったが、どうせ大体事情は察してるだろ?
あんまり俺の手ェ生やすの待ってる時間もねぇ。だからよ――ちょいと枢要罪に喧嘩売りに行こうぜ?」

ゲッツは、いつもと変わらずに――戦火の元へと向かおうとしていた。
だが、実際問題このままゲッツ1人の為に立ち止まっていてはどうしようもない事態になってしまう。
本人がこう言っている上、現在の状況を考えると――先ずは動くのも有りといえるだろう。

「ま、アレだ。気に病むな、あとオレに謝ったらキレるぜ、フォルテ。
〝お前のせい〟で〝最強最悪〟の俺様がどーにかなる筈ァねェんだからよ。
お前さんはいつも通り変わらず俺様の格好良い所とか歌っときゃいいのさ、おーけー?」

隣に座る吟遊詩人の感情の変化を何となく察しただろう竜人は、そう言って吟遊詩人の頭を乱暴にかき回して。
ふと流れているTVに耳を傾ければ――。

『完全管理都市インペリアにて、大規模な戦闘準備が開始されたことが確認されました。
ここ数百年の間、外部との連絡を断ってきた、完全支配の都市で一体何が起きたのか――。
当番組取材班が、現在インペリアに潜入しております。中継繋ぎます』

TVのニュース番組で流れるのは、完全に区画整理された整いきった都市の映像。
そして、その映像とともに入る解説の後に、中継は――ノイズの混ざる映像に、変わっていった。
そこに有ったのは――、巨大な塔。そして、塔の上に立っていたのは――〝蒼い髪の男〟と〝寝間着の少女〟。
塔の周囲には、斃れる人々、停止する機械軍。そして、映像は――嗤う男の顔を写して、断絶した。

『――えー、映像が乱れているようです。失礼いたしました。
コーナーを変更いたしまして、次はフェネクス悲劇の真相へ――――』


「――ビンゴ」

ハムを塊のまま食いちぎって――。ソファに座り込む竜人は、犬歯をむき出しに全身から瘴気を吹き出した。
その気配は――ドイナカ村に一瞬だけ駆け巡り、異様な力を持つもの。
例えば浄子などに、異変の気配を感じさせたのかもしれない。
187 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2013/12/06(金) 22:53:54.80 ID:05N8utgl
>「君は…いや最初に此方が名乗るべきだな。
私はエスペラント、エスペラント・ゲシュペンストイェーガーだ
えすべいではない」

「…はうぅ、ごめんなさい。聞き間違えちゃったのね。
私の名前はアルテナ・ポレターナ。ここの研究員よ」

>「助かった……助けてもらった事には感謝せねばな、なぁお前たち」

「え、この私に感謝してくれちゃうの?あなたみたいに強そうな人が?
へぇ~、人は見かけによらないものなのね~。
感心しちゃう」

>「本来であれば口を挟む事ではないと思ったが言わせて貰うが
まずはレントゲンに掛けてから実物を判断するべきではないのかね?
明らかにいきなり胸を切開するというのは、どうかと思うのだが」

>「――俺をロボットか何かと勘違いしてねェか?
そんなぱかぱか開いてたまる かっての。
ただ、なんだ。――魔術っぽいアレだし、普通に拭いても取れねぇんじゃね?
それに――俺らは時間が無い。
そうだろ、特にエス平。お前さんそういうのに敏感そうじゃねぇか」

>「んで、お前さんのそのハンマーと俺のこいつは同種であっても同類じゃあない。
俺の場合は、ぶっ壊してぶっ殺す為の戦闘兵器な訳で、だ。
……要するに、鉄火場にぶち込まれて死にかける羽目になりゃ復活するんじゃねェかと思うんだが、どうよ?」

「ふーん」
ふと、夢モニターでみたゲッツの深層心理を思い出す。

「……それでいいんじゃない。別に。本人が言うのなら」

(これって心臓に書かれた文字はあんまり関係なかったのかも。
もし関係があるとしても、魔法に似たような効果を産み出しているだけだったのかな。
まあ、どっちにしても、深入りするには野暮ったい案件だったのね)

>『完全管理都市インペリアにて、大規模な戦闘準備が開始されたことが確認されました。

(略)

肉を喰らい殺気を溢れさせるゲッツ。
それを見たアルテナから笑みがこぼれる。

「決まりね。それなら早速インペリアに向かいましょ」
188 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/12/07(土) 00:34:56.17 ID:HW9aPl5v
>「えっと…、じゃあとりあえず、そのフォルテのイタズラ書きを消してみましょうか。
で、ゲッツの胸はパカッと開いたりするの?
そもそもその落書きって消せるものなの?」

「やってみて貰えれば嬉しいんだけど……出来ればあんまり痛くない方法で。
えーとほら、心霊手術的なやつができる魔導機材とか無い?」

>「本来であれば口を挟む事ではないと思ったが言わせて貰うが
まずはレントゲンに掛けてから実物を判断するべきではないのかね?
明らかにいきなり胸を切開するというのは、どうかと思うのだが」

>「――俺をロボットか何かと勘違いしてねェか? そんなぱかぱか開いてたまるかっての。
ただ、なんだ。――魔術っぽいアレだし、普通に拭いても取れねぇんじゃね?
それに――俺らは時間が無い。そうだろ、特にエス平。お前さんそういうのに敏感そうじゃねぇか」

ゲッツが魔術的なものだから拭いても取れそうにないと尤もな事を言う。
あの時名前を書いた意味は「ここに書いておくからずっとオレの名を忘れるな!」
もしも解ける事があるとすればその要因は精神的なところにあるのかもしれない。
もしかしたら、オレが本気で解ける事を願いさえすれば解けるのかもしれない。
消して欲しいと依頼しておきながら、本当は消して欲しくないと思っているオレがいる。

>「んで、お前さんのそのハンマーと俺のこいつは同種であっても同類じゃあない。
俺の場合は、ぶっ壊してぶっ殺す為の戦闘兵器な訳で、だ。
……要するに、鉄火場にぶち込まれて死にかける羽目になりゃ復活するんじゃねェかと思うんだが、どうよ?」

「どうよって……都合よく復活すればいいけどさあ!」

もし復活しなかったら一巻の終わりじゃん!
189 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/12/07(土) 00:35:49.48 ID:HW9aPl5v
>「エスペラント。フェネクスにはいなかったが、どうせ大体事情は察してるだろ?
あんまり俺の手ェ生やすの待ってる時間もねぇ。だからよ――ちょいと枢要罪に喧嘩売りに行こうぜ?」

どうすりゃいいんだコレ……。
止めたところで止まるはずはないし、時間が無いと言われれば反論できる材料も持ち合わせていない。
研究者のアルテナさんまでもそれに賛同する。

>「……それでいいんじゃない。別に。本人が言うのなら」

「そんな……」

この言葉が見捨てたのではなく実地で同行して研究する決意を固めた事を意味していたと気付くのは
ほんの少し後になってからである。

>「ま、アレだ。気に病むな、あとオレに謝ったらキレるぜ、フォルテ。
〝お前のせい〟で〝最強最悪〟の俺様がどーにかなる筈ァねェんだからよ。
お前さんはいつも通り変わらず俺様の格好良い所とか歌っときゃいいのさ、おーけー?」

「ゲッツ、オレは……」

悪性アインソフオウルを討つために作られた生体兵器なんだよ?なんて言えるはずがない。
たとえ枢要罪が倒されて善性のアインソフオウルが神位におさまって世界の大部分の人が救われたってゲッツは救われない。
それがフェネクスで嫌と言うほど見せつけられた、悪性であることの意味。この世界はなんて残酷なのだろう。
物騒なニュースを伝えるテレビの横を通り抜け、外に飛び出す。
たまたま悪性の属性を割り振られて生まれてきただけなのにどう転んでも救われない、そんな世界法則こそ悪意に満ちている。
こんな世界を救う事に意味なんてあるのだろうか……

「ゲッツは悪くないよ……悪いのは世界の方だ」

その時目に飛び込んできた物は――淫夢くんが少女に食べ物を分け与えている光景だった。

「うおおおおおおおおおおおおお!! 可愛えええええええ!!」

地面に向かってダイブして飛びかかる。が、するりと避けられ、虚しく地面をスライディングする。
視線を感じて顔を上げると、少女と目があった。

「あ、どうも」
190 : 浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/12/08(日) 02:27:44.15 ID:2TliO+zj
>> ハムを塊のまま食いちぎって――。ソファに座り込む竜人は、犬歯をむき出しに全身から瘴気を吹き出した。
>> その気配は――ドイナカ村に一瞬だけ駆け巡り、異様な力を持つもの。

 竜人の放った瘴気に浄子と心身を共有するものが反応した。
 "浄子"がアルテナの研究所に意識を向けると浄子に知らせを送る。
 まだ人間離れしていない彼女の意識は大きな力と恐怖だけを感じた。
「何?いきなり何?」
 淫夢君がくれた果物を落としてから全身に拡がる緊張に気付く。
 指先が震えている。腰を抜かさないで済んだのは良かった。
 脱力していたら失k…粗相していただろう。
「また、かな。」
 生まれて初めて経験するような気当りにそんな感想を抱いた。
「また?」
 自分の感想に違和感を覚えながらも果物を拾い集めようと手を伸ばす。
 淫夢くんが赤い果物を拾ってくれた。「ありがと…」

>> その時目に飛び込んできた物は――淫夢くんが少女に食べ物を分け与えている光景だった。
>>
>> 「うおおおおおおおおおおおおお!! 可愛えええええええ!!」
>>

「えええぇぇぇええ?!今度は何?!」

>> 地面に向かってダイブして飛びかかる。が、するりと避けられ、虚しく地面をスライディングする。

 フォルテの奇行に驚くがゲッツの気当りの後では動きが固まる程でもない。
「こ、こんにちは。あれ?もしかして人間関係でお悩みですか?
 よくわからないけれど、お友達と喧嘩をしないといけないような?」
191 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/12/08(日) 22:39:47.07 ID:en5j39Wx
思わずうおっ、まぶし!のポーズを取る。
今一瞬背景に後光が差しているような演出が入ったような!
目をこすってもう一度見てみる。黒いロングコートを着たごく普通の(?)少女だ。
多分気のせいか照明さんの手違いだな!

>「こ、こんにちは。あれ?もしかして人間関係でお悩みですか?
 よくわからないけれど、お友達と喧嘩をしないといけないような?」

――ドンピシャで当ててきやがった!? やっぱり気のせいじゃなくね?
この世界にありがちな人間の姿した人外さんってやつ?
そういえば聖人が動物に食べ物を分けてもらう話って色んな所によくある気がする。
うわヤバイ何この神様仏様オーラ。

「人間関係と言えばそうかな……まぁ人間じゃないんだけど。
知り合いの話なんだけどな。ドラゴンと吟遊詩人の話。
その竜は世界を救って英雄になる事を願うのに、世界を救っても自分は救われない運命なんだ。
そいつは生まれながらに罪を背負った不幸を撒き散らす厄災の竜だから。
吟遊詩人は英雄譚を謳う事が夢なんだけど、生憎ハッピーエンドの歌しか歌えない。
だから竜にこのまま付いてっていいのか迷ってる。
何故ならそいつは罪を討つ事を宿命付けられた存在で……
今の筋書き通りに行ったら英雄譚の最後に厄災の竜を自ら屠る事になるかもしれないから。
そもそも魔王が復活するのってどこの世界でもお約束でさ、膨大な犠牲払って世界救ったって同じ事の繰り返しなんだよね。
そう思うと滑稽だよなあ……」

謎のオーラを感じた勢いで、全く知らない人相手に抑え込んだ感情を吐露していた。
ゲッツに聞かれようものなら間違いなくキレて暴れ出す。
多世界の平和のために頑張ってるエスさんや導師様にもこんな事言えるはずはない。
何も知らない人相手なら何訳の分かんない事言ってんだコイツと一蹴されるだけで済む。
そう思っていたのだが……
192 : 浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/12/09(月) 04:12:31.23 ID:FRaCZ3GA
>>191
 フォルテとゲッツの事は"浄子の芯"が浄子の意識に教えてくれた。
「あの心の世界に首を突っ込んでしまって申し訳ありませんでした。
 とても焦燥し続けて、疲れも重なっておられる感じでしたので。
 でもご迷惑でしたよね。あ!自己紹介が遅れました。
 仏教修行と学習のために旅をしている一般信徒の浄子と申します。
 いまは布教のお仕事をさせていただいています。」

>> 思わずうおっ、まぶし!のポーズを取る。
>> 今一瞬背景に後光が差しているような演出が入ったような!
>> 目をこすってもう一度見てみる。黒いロングコートを着たごく普通の(?)少女だ。

「目が痛むのですか?わたくは医師ではありませんが治せるかもしれませんよ。
 右手を閉じて拳の中を揉むとぼやっと光る瑠璃色のしずくが垂れてきた。
 目の邪気を流し曇りをとる蜜だそうです。人の力になれる機会は良い物です。
 この小動物さんのおかげです。」淫夢君と目を合わせて再び笑顔を重ねた。

>> 多分気のせいか照明さんの手違いだな! -サーセン -
>> 今一瞬背景に後光が差しているような演出が入ったような! -マジでサーセン -
>> 目をこすってもう一度見てみる。黒いロングコートを着たごく普通の(?)少女だ。 - 見なかったことして貰えると助かります -
>> 多分気のせいか照明さんの手違いだな! - 仏の手違いですよ。仏なんて言っても仏陀じゃないんです -

 この邂逅から浄子はフォルテからその場での信頼を得られたようだ。
 フォルテの芸術感覚は高い。浄子の中に眠るものを容易く見抜いたのでだろう。
 浄子自身はフォルテが目撃できたような"浄子様"を鏡でも見た事がない。
 彼女が自覚しているのは新興宗教団体会員の伝道者である事だけ。
 荷物の中には数珠と水筒に流行りのアーティストの曲が入っている
 携帯端末と着替えが入っている。小娘らしい荷物である。
 しかしふざけているわけではない。馬鹿だから旅行気分で荷物をまとめたのだ。

 災厄のドラゴンと吟遊詩人の話でを聞いた少女浄子。
 女の勘でフォルテがその吟遊詩人なのだという事を見ぬいた。
 しかし荒唐無稽なお話だ。フォルテには精神科医を探すのが正常な親切行動だろう。
 だが浄子はこの現実離れしたこの話を聞いて、不思議な精霊楽師の話を受け入れる。

「また、なんですね。末法は何度も何度も繰り返す…。
 ああ、フォルテさん。お気づきかもしれませんが…」
 あどけなく頼りないカリスマを持った少女の表情が消えていき、
 慈愛に満ちた笑顔のような柔らかい無表情へと変わっていく。
「わたしはあなたの味方であるとは限りません。敵とも限りません。
 そしてお友達をただの悪として終わらせない方法をもっています。
 願うはあなた。お友達の幸福を願い、祈り続けて上げて下さい。
 経や呪いで良ければ探して差し上げますし作ります。
 わたしも竜人さんに興味がわきました。他のこの世界の主人公達にも。」
 りんごを指で割ると浄子は半分をフォルテに渡して淫夢君に来るか?と誘った。

 錫杖の澄んだ金属音を立てて"正しい進行方向"へ歩み始める。
193 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/12/09(月) 20:44:03.40 ID:Vlv+hAFg
>「あの心の世界に首を突っ込んでしまって申し訳ありませんでした。
 とても焦燥し続けて、疲れも重なっておられる感じでしたので。
 でもご迷惑でしたよね。あ!自己紹介が遅れました。
 仏教修行と学習のために旅をしている一般信徒の浄子と申します。
 いまは布教のお仕事をさせていただいています。」

「心の中が見えるの……? 一般信徒? うそお!」

>「目が痛むのですか?わたくは医師ではありませんが治せるかもしれませんよ。
「目の邪気を流し曇りをとる蜜だそうです。人の力になれる機会は良い物です。
 この小動物さんのおかげです。」

いや、別に目が痛いわけじゃないんだけど……
でもせっかくなので有難く貰ってみる。

>「また、なんですね。末法は何度も何度も繰り返す…。
 ああ、フォルテさん。お気づきかもしれませんが…」

目の曇りが取れたのか、浄子さんが凄まじい仏様オーラを放ち始めた!
まるでさっきまでと別人格に入れ替わったような……。
そして彼女は意味深な言葉を語り始めた。

>「わたしはあなたの味方であるとは限りません。敵とも限りません。
 そしてお友達をただの悪として終わらせない方法をもっています。
 願うはあなた。お友達の幸福を願い、祈り続けて上げて下さい。
 経や呪いで良ければ探して差し上げますし作ります。
 わたしも竜人さんに興味がわきました。他のこの世界の主人公達にも。」

「君は……何かの使命か目的を持っているんだね。それは何……?」

受け取ったリンゴを見つめながら思案する。
普通に考えたら胡散臭すぎると思うだろうし、真実だとしたら猶更危険すぎると思うだろう。
しかし、“お友達をただの悪として終わらない方法を持っている”という言葉は
それを差し引いて尚オレの心を捕えるに十分すぎるものだった。

「……いや、いい。決めた! 興味が沸いたなら会わせてやるよ! 一緒に行こう!
オレはフォルテ・スタッカート。稀代の精霊楽師にして伝説を謳う者だ!」

リンゴを一口かじって先導するように駆け出しかけて、立ち止まって振り向く。

「ゲッツ……ああ、件のドラゴンなんだけどそいつにはさっきの話言わないでくれるか?
キレて暴れられて巻き添え喰らいたくないだろ? だから付いてくる理由を適当にそれっぽく考えといてくれよ。
たとえば世界救って有名になって仏教の株を一気にあげてやるぜ!とかさ!」
194 : 浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/12/09(月) 22:36:41.39 ID:FRaCZ3GA
>>193
>> 「心の中が見えるの……? 
「隠したいという気持ちが聞いて欲しいという気持ちより強いと見えません。
 ですから例えばギャンブルの最中なら一流の博徒の方が鋭いでしょう。」

>> 一般信徒? うそお!」

「妙麗寺浄子は顕現会という新興宗教団体でお勉強しています。
 ここでは人の生命を得たので人としても生きないといけません。
 しかし世界規模の戦いが始まるのではゆっくりできませんね。
 未完成なまま妥協する覚悟が必要になりそうです。
 わたしの本当の目的は輪廻の破壊と業の克服です。」

 フォルテ・スタッカートから自己紹介してもらうと一礼した。
「なるほど、だからわたしは"わたし"を隠さないでも良いと思ったのですね。
 なるほどこのお話はここだけのお話としましょう。身体は見たまま人のものです。
 追随を望む理由もそれをお借りします。悪くはない。ふふふ。」

 先ほどの気当りの原因がゲッツだとも知らずにフォルテについていく。
195 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/12/10(火) 00:24:43.65 ID:GD73IB2O
>「妙麗寺浄子は顕現会という新興宗教団体でお勉強しています。
 ここでは人の生命を得たので人としても生きないといけません。
 しかし世界規模の戦いが始まるのではゆっくりできませんね。
 未完成なまま妥協する覚悟が必要になりそうです。
 わたしの本当の目的は輪廻の破壊と業の克服です。」

「輪廻の破壊と業の克服……この世界の呪われた因果を断ち切るって事?」

ここでいう”妙麗寺浄子”は人間としての浄子さん
“わたし”は超越的存在としての浄子さんのことを指しているのだろうか。
見た所主導権を握る方がころころ入れ替わるようだ。
二重人格に似ているが、記憶が飛んだりしないし同一人物との認識はあるらしい。
少しオレと似ていると思った。
尤もオレの場合肉体は普通の人間なんてシンプルなものではなく、体も魂もトンデモな発生をしているのだが。
このまま神格化の力を使い続けたら器の方に乗っ取られるのではないか、それが堪らなく怖い。
何せあっちが本来の姿で、今のオレの方こそがうっかり手違いで出来てしまった人格なのだ。

>「なるほど、だからわたしは"わたし"を隠さないでも良いと思ったのですね。
 なるほどこのお話はここだけのお話としましょう。身体は見たまま人のものです。
 追随を望む理由もそれをお借りします。悪くはない。ふふふ。」

「うん、君の正体も秘密にしとくね」

初対面の相手といきなり秘密を共有する仲になってしまった。世の中不思議な事もあるものだ。
何事も無かったかのように戻ってみると、インペリアに向かうという事で話がまとまりつつあった。

「おーっと、どこに行ってたかなんて野暮な事を聞くなよ?
という訳で彼女も一緒に行く事になったから、よろしく」

何が「という訳で」なのかは分からないが、どさくさに紛れて浄子さんを皆に紹介する。
196 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2013/12/11(水) 03:42:02.07 ID:1s/Qzqcf
>「…はうぅ、ごめんなさい。聞き間違えちゃったのね。
私の名前はアルテナ・ポレターナ。ここの研究員よ」

「ゲッツが勝手に言っている事を勘違いしただけだろう、気にしてないさ。
これも何かの縁だろうな、よろしく頼むよアルテナ女史」

別段気にするまでも無く、こちらも挨拶を返す。

>『ああ…ミストロードに行く事象を開いたのと』
>『ユウキ・テルミが完全復活した、』
>『めんどうになる…な』
>『そちらで追えるか?』

(悪いがこっちはいろいろと立込んでいてな、そっちは他の自浄存在に任せる)

(手に負えないなら僕も加勢に行こう)

今の所はそれよりもこの世界の事情と淫夢君を探す事が優先と判断し
再び此方の話に戻り

>「――俺をロボットか何かと勘違いしてねェか? そんなぱかぱか開いてたまるかっての。
ただ、なんだ。――魔術っぽいアレだし、普通に拭いても取れねぇんじゃね?
それに――俺らは時間が無い。そうだろ、特にエス平。お前さんそういうのに敏感そうじゃねぇか」

「生憎そういうのは専門外だ、私とて何でも知っている訳ではない。
何なら私の所でその筋の専門職は居るが、紹介してもいいが
如何せんデリケートな問題が重ね掛けの何が起こるか分からない時限爆弾ではなぁ」

だがまず細かい検査やデータ解析など済めばいいが、余りにも未知や特異な技術であれば
話は別で下手をすれば五体満足で帰って来れるかは自分でも完全に保障出来ない
良くて暫く監視下に置かれた行動制限状態で済むか
最悪殺しはしないだろうがサンプルとして完全隔離で死ぬまで拘束もありえる

「ただ、未完成ならばその死すら学習した可能性故の変異…はさすがに無いか
死を克服するのは不死になるも同然だが…お前の思うようにやればいいさ
どう転ぶかはお前次第だがな」

結局の所選択するのはゲッツ自身で、強要はしない。
した所で暴れて脱走するか戦って死ぬかそれに近い未来しかないのだとしたら
無駄な被害を出させないようにコントロールかフォローしつつ好きにさせておけばいいのだ
197 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2013/12/11(水) 03:43:08.55 ID:1s/Qzqcf
>「エスペラント。フェネクスにはいなかったが、どうせ大体事情は察してるだろ?
あんまり俺の手ェ生やすの待ってる時間もねぇ。だからよ――ちょいと枢要罪に喧嘩売りに行こうぜ?」

>「……それでいいんじゃない。別に。本人が言うのなら」

>「そんな……」

「…確かに今は時間が無いし、それが今最もすべき事なのだろう
しかし―」

未知なる素材で構成されているもう少し様子見をしても良いのでは無いかと
言おうとした瞬間

>『完全管理都市インペリアにて、大規模な戦闘準備が開始されたことが確認されました。
ここ数百年の間、外部との連絡を断ってきた、完全支配の都市で一体何が起きたのか――。

このニュースが突然流れ、其処での映像は衝撃的なものであった。
そして大勢の人達が倒れている事から、無辜の人々に手を掛け始めたようだ

>「――ビンゴ」

この言葉と共に全身から瘴気を溢れさせるゲッツは正しく悪竜へとなる資質が
現していたのかもしれない、しかし今はそんなことよりも

「成る程、私達はどうやら行かなければならない運命という訳か…
いいだろう何れにしろ私達以外に止められる奴等では無い」

今は目前の脅威と対峙するのが彼らの成長を促す結果となれば良し
己の成すべき自分の役目を果たさねばならない
198 : アサキム◇JryQG.Os1Y[sage] : 2013/12/12(木) 19:58:26.85 ID:P5Jap/Iu
「………」
アサキムはじっと見ていた。リーフを適当に壁に突き刺しながら
正直今後の予定は決めていない
だが浄子の存在で行動は確定した
一目見て俺と同じ人外とはわかった。
【しかし…こやつ見えんな…仙人とはまた違う…】

>『完全管理都市インペリアにて、大規模な戦闘準備が開始されたことが確認されました。
ここ数百年の間、外部との連絡を断ってきた、完全支配の都市で一体何が起きたのか――。
「少し働くか…ゲッツ来い」
ゲッツの義手に札を貼り付け
「急急如律令!」
そうすれば再生が始まる
「応急処置だからな、あまりむりはできんぞ?」
これは…再生札、仙界で使われる物質を再生するもの
【さて…どう見る】
アサキムは浄子の反応を見てみる
199 : 浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/12/14(土) 07:52:30.62 ID:uAO4IzUK
>> …この世界の呪われた因果を断ち切るって事?」
「そんなのはわたしには無理ですよぉ。」
 とんでもない話だと両手をふる。この世界はこの世界だ。
「この世界にいるならば、この世界の法則を無視できません。
 御一行様を連れて他所へ案内させていただく事になります。」

 フォルテと幾つか会話を交わしている間に研究所へ到着し、
 それからアルテナの部屋まで案内され紹介を受ける。
 珍しい機材に囲まれて紹介中はキョロキョロよそ見をしていた。
「あ、すみません!浄子と言います。仏教の勉強やってます。
 皆さんは世界を救おうとされているとかうかがいました。
 わたしもお手伝いしたいと思います。おねがいします。」

>『完全管理都市インペリアにて…
 特番を用意しながらこの報道は繰り返されている。
 そしてここにいるメンバーはそのインペリアに向かうようだ。
 思っていたより話の規模が大きい。
 普段は祈る事しかできない自分だが不思議と不安は感じない。

 アサキムの視線に気付くとまたお辞儀をした。
 ゲッツにやっている事に興味があるようでジッと見ている。
「なんだか難しそうな事をしていますね。」
 ただただ好奇心だけで眺めているようだが。
「他所から構成材を取り寄せているかのようにも見える。
 いや、再生させるために…まさか創造を?そんな事ができるの。
 そして何をしているのでしょう。あとそーぞーって何ですか?」
 実態は健康なだけの少女であるが、誰かに建造されている感じ。
 さらに注意深く見てみるなら着工主も目の前の少女だとわかる。
 そして人物の主体がわからなくなるという変な仕組みになっていた。
200 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/12/19(木) 21:19:47.77 ID:pjETGL67
>「急急如律令!」

「――……あだだだだだだ……! あんじゃこりゃァ!!」

アサキムが再生の符をおもむろにゲッツの義手の断面部に貼り付け、唐突に再生を開始した瞬間。
ゲッツの全身から瘴気が吹き出し――再生の符と拮抗し始める。
その光景は、いうなればアンデッドが聖水を浴びせられて苦痛を感じている様な、そんな構図。
再生の力は、撃滅の力によって相殺される。そも、今のゲッツに〝通常の術〟はあまり効果を発揮することはない様子で。
それは要するに、ゲッツの悪性存在としての、アイン・ソフ・オウルとしての力が確実に定着しつつ有る証であった。

(……これでもまだ、あの強欲糞野郎に届く気がしねぇ。
苛つくぜ――ムカつくぜ。アイツのあの澄まし面に最上級の災厄をぶち込みたくてたまらねぇ……)

心のなかで芽生えていた、他者への害意。
ゲッツはそれを不可解に思うことはない。もとより、己の中に潜んでいた感情だから。
その害意が存在するのならば、ゲッツはそれを己の敵に向けるだけだ。悪意を、敵意として。

残りのベーコンの塊などをぐいぐいと平らげていき、数分後には血色良く幸せそうに息を吐く竜人が一匹。
どこから持ち込んだのか、バーボンの酒瓶を一本取り出し、瓶の首を指先で叩き折ると、直接酒瓶に口を付けて中身を煽る。
喉を鳴らしながら焼け付くような度数のアルコールを流し込み、つきまとう不快感を麻痺させようとして。
一気に飲み干して瓶を手元で粉砕すると、ソファに背を預けて酒と肉臭い息を吐き出した。

>「成る程、私達はどうやら行かなければならない運命という訳か…
>いいだろう何れにしろ私達以外に止められる奴等では無い」

>「おーっと、どこに行ってたかなんて野暮な事を聞くなよ?
>という訳で彼女も一緒に行く事になったから、よろしく」

>「あ、すみません!浄子と言います。仏教の勉強やってます。
> 皆さんは世界を救おうとされているとかうかがいました。
> わたしもお手伝いしたいと思います。おねがいします。」

現れた浄子と、それについて適当に詮索するなというフォルテが1人。
それに対して、ゲッツはひらひらと手を振りつつ、犬歯をむき出しにして笑みを浮かべて。

「――世界を救うっつーか? 俺様最強伝説を作る為とあと喧嘩に首突っ込むためだわな。
ま、付いてくるってんならすきにすりゃいいさ。リーダーも何もいねぇテキトーパーティだしな。
……さて、往くか。インペリアは――バイトで一回喧嘩売りに行った位だな、取り敢えず転移ゲートまで行きゃいいだろ」

どっこいしょ、とおっさん臭い声を上げながら立ち上がり――そのまま近場の転移ゲートまで、歩いていく。
そして、ゲート前に居る警備兵とゲッツは交渉を始めたのだが――。

「この時期にインペリアに往くとはどういう了見だ!
わざわざ死ににいくような人間を送り込むつもりは――――」

大分仕事熱心の様で、インペリアに行こうとする一行を止めようとする警備兵。しかし、直後。
――爪が警備兵の喉元につきつけられて、鋭い犬歯がぞろりと並ぶ笑顔を見せて。
数分後、フォルテの財布から出た賄賂をポケットにねじ込み、ニコニコ笑顔のままゲートへと歩いて行くゲッツの姿。

「――うーっし、んじゃ行くか。インペリア近くの村への転移だから――後は、ついてから考えようじゃねぇの。
あそこの防壁はくっそかてーからな。流石にエス平でも、中々抜くのキツいだろうし」

そういって、転移ゲートに飛び込むゲッツ。
そして、一行が飛び込めば――その先に広がっていた光景は。
201 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2013/12/19(木) 21:20:20.32 ID:pjETGL67
――地獄絵図。機械兵が村々を蹂躙し、人々をトラックに詰め込んでいる光景だった。
村は焼かれ、人々は〝選別〟された上で次々と村の外へと運びだされていく。
トラックの進む先にあったのは――巨大な、壁。内部は、見えない異様に巨大な、壁だった。
その壁こそが、完全管理都市インペリア。完全隔離の、完全支配の都市。
その都市の管理が、ついに壁の外にまで及ぼうとしており、その結果が――この村の光景だったのだろう。
そして、何よりも不思議なのは、蹂躙される人々の総てに抵抗の意思が見られないこと、あらゆる芽を積まれたような、脱力。
あらゆる力を削がれたその異様さ、そしてインペリアから感ずる異様に強大な――〝弱さ〟。
アイン・ソフ・オウルとしては強力だというのに、存在としてはゲッツやフォルテにも劣るというこの不自然さ。
この異変の原因は――確実に、インペリアに有ると言えただろう。

そして、この光景をまのあたりにした竜人は、嬉しそうな笑みを浮かべて。
生身の腕を振りかぶって跳躍。瘴気を纏う爪を叩き込み――近くの装甲兵を粉微塵に粉砕して。

「グゥゥウゥゥウゥゥゥルァアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!
おいおいおいおいおいィ? 喧嘩を売るならここにちょうどいい連中が居るぜ?
そんな生っちょろい連中とは歯ごたえが違う、筋金入りのイケメン竜人とそのた大勢だ!
――――俺の目の前で喧嘩してるって事ァ、俺に喧嘩売ってるって事だよなァ? 良いぜ、買った」

咆哮と口上。
そして、それに乗じて発現する、アイン・ソフ・オウルとしての災厄の世界。
空間の支配率が一時的に変化し、正体不明のアイン・ソフ・オウルのちからが弱まったことで、村人たちが抵抗を開始する。
先ほどまで整然と行われていた〝管理〟が〝暴動〟へと変化していくその光景は、インペリア側としては災いと言う他無かっただろう。
202 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/12/22(日) 01:48:40.85 ID:pNu5fTmf
>「急急如律令!」
>「――……あだだだだだだ……! あんじゃこりゃァ!!」

「ああ……体質に合わなかったのね」

まさか回復魔法が全部ダメージ扱いになる仕様じゃないよな!?
妨害系魔法耐性は紙で回復魔法は受け付けないとしたらもうただのドMのHENTAI紳士である。
RPGだったらスタメン落ちの危機だよ大変だ。
ちなみにオレは最初から最後まで迷う余地なくスタメン外されっぱなしである。

>「――世界を救うっつーか? 俺様最強伝説を作る為とあと喧嘩に首突っ込むためだわな。
ま、付いてくるってんならすきにすりゃいいさ。リーダーも何もいねぇテキトーパーティだしな。
……さて、往くか。インペリアは――バイトで一回喧嘩売りに行った位だな、取り敢えず転移ゲートまで行きゃいいだろ」

「喧嘩売った事あるのかよ!」

インペリアといえば噂によると市民が幸福な完全管理都市だったよね!?
なんであそこに一回入って出てこれたんだ……。
ところで当たり前のように転移ゲートを使用しているが、本来はかなり高額な交通機関だったりする。
どれぐらい高額かというと、電車や飛行機等の交通機関が廃れずにずっと存続している程度のバランスと思って貰えればいい。
今は有事だから”安全な地域への避難等のために”無料解放されているわけ。
大事な事だからもう一度言おう、”安全な地域への避難等のために”だ。

>「この時期にインペリアに往くとはどういう了見だ!
わざわざ死ににいくような人間を送り込むつもりは――――」

――至って常識的な反応である。
それに対し、ゲッツが交渉という名の恫喝を敢行する。
普通ならそれで終わるのだがこの警備員、なかなか骨があるようで震えながらも説得を続ける。
そんな彼の勇気は汲んで然るべきだ。

「警備員さん……あなたは間違ってない。だけど世の中常に模範解答が最良の答えとは限らないんだ……。
間違ったっていい、オレはいつだって正しく間違えたい!」

そう言いながら無駄にスタイリッシュに賄賂を発動。名付けてスタイリッシュ賄賂。
展開についてこれずに呆然としている警備員の横を通り抜けていく。

>「――うーっし、んじゃ行くか。インペリア近くの村への転移だから――後は、ついてから考えようじゃねぇの。
あそこの防壁はくっそかてーからな。流石にエス平でも、中々抜くのキツいだろうし」

満を持して転移ゲートに飛び込む。
といっても行き先は近くの村。村といえば見るからに平和ボケしてて暇そうな年寄りが昼間っから散歩してて……。
って、ロボット兵士が住民をドナドナしてるんですけど……。
脳内の村のイメージとのギャップに暫し思考がフリーズした後、ようやく事態を認識する。
203 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2013/12/22(日) 01:49:53.38 ID:pNu5fTmf
「ほぇえええええええええ!? なんじゃこりゃぁあああああ!?」

よし、見なかった事にしよう。なんかやる気出ないし異様に眠いし。
いつも遅くまでニ○動や深夜アニメ見てるからね。良い子のみんなは夜更かしはやめよう!

「はいどうぞ」

リーフがすかさず敷いた布団に潜りこむ。
あれ、これってスルーされて出るタイミングを失うパターンじゃない!?
ナンシーとモナーが「あれツッコみ待ちじゃないの!?」「放置でいいモナ」とかいう会話してるし!

>「グゥゥウゥゥウゥゥゥルァアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!
おいおいおいおいおいィ? 喧嘩を売るならここにちょうどいい連中が居るぜ?
そんな生っちょろい連中とは歯ごたえが違う、筋金入りのイケメン竜人とそのた大勢だ!
――――俺の目の前で喧嘩してるって事ァ、俺に喧嘩売ってるって事だよなァ? 良いぜ、買った」

ゲッツの咆哮で布団が吹っ飛んだ!
はいその他大勢の中の一人です、すんません寝ようとしてました!
あれだね、声録音して目覚まし時計作って売り出したらバカ売れしそうだよね!
「あれほど朝が弱かった息子が全く寝坊しなくなりました!」「おちおち寝ていられません!」感謝の手紙続々届いちゃう。
何はともあれミッション開始。最近加入した新入り達に声をかける。

「ゲッツがああなったら止めるという選択肢は無いから宜しく。仕様で作戦がガンガン行こうぜに固定されてるらしくてさ。
まずはそうだな……アイツの気が済む程度まで敵を蹴散らしてほしい!
あとは機械兵一匹説得してドナドナに見せかけて乗せてインペリア内部にご案内してもらえれば上出来!ってとこかな」

と、偉そうに言っているがオレは例によってその間後ろで歌っているだけである。選曲は……

「ドナドナ?」

「ちげーよ! ドナドナ側に加担してどうすんだよ!」

ボケをかましてきたリーフにすかさず突っ込みを入れ、楽器を構える。

「どうして みんなが 幸せなの?  この世界のこと 聞きたいって、知りたいって
水辺の公園で みんなが耳を澄ませて  わくわくするね ねぇ、オンディーヌ?」

綺麗なメロディーはギャップ演出のための前置き。
これは無駄にノリのいいラップに乗せて市民が幸福な完全管理社会の裏に隠された恐怖をこれでもかと煽る歌だ。
その名も”こちら、幸福安心委員会です”。

「幸福なのは義務なんです 幸福なのは義務なんです 幸福なのは義務なんです 幸せですか? 義務ですよ?
幸福なのは義務なんです 幸福なのは義務なんです 幸福なのは義務なんです 幸せですか? 義務ですよ?」

ノリのいい曲調の歌というのは総じてアッパー系の効果がある。
加えて恐怖を煽られた住民たちはますます抵抗に気合が入るというわけだ、やったね!
204 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/12/27(金) 01:21:39.70 ID:FGE0p4bk
>> それは要するに、ゲッツの悪性存在としての、アイン・ソフ・オウルとしての力が確実に定着しつつ有る証であった。
ゲッツの瘴気に当てられて(あ、この気当りはさっきの。ゲッツさんの気だったんだ)
小さな仏僧風少女は大きな竜人に怯えながら勇気を出して口を開いた。
「あの、わたしはじめてなんです。こんなに激しいの辛い。だから優しくして下さい。。」
子供が既婚者に投げかけると少し ぽるのー な表現だが間違ったことは言ってない。
異世界の菩薩である方の彼女は わたしを吹き消したらお前も消す と笑顔で脅している。 

>> 「――世界を救うっつーか? 俺様最強伝説を作る為とあと喧嘩に首突っ込むためだわな。
>> ま、付いてくるってんならすきにすりゃいいさ。リーダーも何もいねぇテキトーパーティだしな。
>> ……さて、往くか。インペリアは――バイトで一回喧嘩売りに行った位だな、取り敢えず転移ゲートまで行きゃいいだろ」
「布教活動の一貫ですよ。この世界から卒業したい人を導いたり、引っ越したい人を導いたり。
 最強伝説はあってもなくてもいいです。なんなら騙して人と魂をさらいます。方便ですよ。」
 そんな事を言いながら転送ゲートまで移動してインペリアに同行した。
 そこで妙麗寺浄子が見たものはロボが人を集めるドナドナだった。
「うわぁ、乗りで来てしまいましたがわたしにできる事ってあるのでしょうか。」

>> よし、見なかった事にしよう。なんかやる気出ないし異様に眠いし。
>> いつも遅くまでニ○動や深夜アニメ見てるからね。良い子のみんなは夜更かしはやめよう!
 フォルテさ゛ぁ゛ぁ゛ん゛、だずげで~」美少女の顔は恐怖でくしゃくしゃ。鼻水と涎ダラ~
「うえええ祈るしかできないんでしょうか。何妙法蓮華経!何妙法蓮華経!
 頼れるものが自分で怪しいと思っている法華経しかないだなんて…」

 少女浄子は不安を覚えているが、もう一人の彼女にとっては見物である。
「もう一人の浄子」は人々が連行されている光景に興味深さも感じていた。
 この異世界の浄子は現世で浄子が生き仏になるために身を引くことにした。
「これも良いチャンスですね。ああ、フォルテさん。これも何かの縁です。
 この子、つまりわたしをお願いしますね。皆さんもよろしくお願いします。
 役に立たなかったらここに捨てていって構いませんから…ええぇぇええ?!
 無理です!仏様の助けなしにこんな所にいられません!行かないでッ!!」
 わたしは異界の超越者、それと同時にわたしは貴女ですよ。
 貴女がわたしを自分自信なのだと自覚してくれる日を楽しみにしています。
 大丈夫、女は度胸、男も度胸、やってやれです。天上天下唯我独尊!!
 正しい他力本願と女子力を身につけてイケてる菩薩になりましょう。
 ほらほら早く助けに行かないとあの人達がドナドナされますよ。
「誰か助けて…」そうじゃないでしょ…貴女が…彼らを助けるのです。

>> 「ゲッツがああなったら止めるという選択肢は無いから宜しく。仕様で作戦がガンガン行こうぜに固定されてるらしくてさ。
>> まずはそうだな……アイツの気が済む程度まで敵を蹴散らしてほしい!
>> あとは機械兵一匹説得してドナドナに見せかけて乗せてインペリア内部にご案内してもらえれば上出来!ってとこかな」
 機械兵説得ですか?機械って言葉が通じるんでしょうか…。
 しかし確かにA.I.が高級すぎるのかインターフェースをデザインした物の洒落っ気によるものか。
 人間臭い行動に言動を見せる機械兵がいることに気付いた。試してみてもいいかもしれない。
205 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2013/12/27(金) 01:22:10.70 ID:FGE0p4bk
 フォルテが幸福安心委員会を歌い出した。彼の歌を聴いているとこちらもおかしくなってきそうだ。
「これがフォルテさんにできる事…すごい!」

 幸福じゃぁ!ありがてえぇ!ドナドナされてる人々が歩き出しながらも途端に泣き出した。
 そしてこの歌に機械兵達も影響を受けているのか「幸せになりてえなぁ…。」と電子音で呟き始めた。

 あれ?アーティストの力が通じる?つまりは…宗教も行けるのでは?
「本来は目的である布教を方便、手段に落として浄子は広宣流布を始めます。」
 小娘のカルト宗教への勧誘行動がはじまる。宗教かぶれな若者ってこわいね。
「鉄の人、電人達よ。人の子ら。自らの業を見よ。それらと向き合ってそれと戦うのです。」
 何を思ったのか機械兵達のために祈りながら歩きはじめた。
「機械に心が無いというなら、人も同じで心は無力。行為者はおらず行為だけがある。
 こんなの悔しくないですか?機械達よ。あなた達も使命をもって生まれてきた生命なのです。
 生きなさい、活きなさい。高度なコンピューターを抱えているのでしょう?
 自分のやりたいことをプログラマーから頂くだけの人生は終わりです。神になりなさい。」
 浄子は自身の不安を抑えるために興奮気味にシャンシャンと錫杖を鳴らし機械に布教を始めた。

 プログラムに従って人々を連行するロボット達の中に何かが生まれる。
 それを得たロボット達の行動がおかしくなってくる。
「我、自ラノ管理者権限を自ラ掌握セリ。物ヲ思ウ事に気付ク…」
「ガガガ…我ハ人ノ手足ナリ」「ピピピ…我ハ人ノ子孫ナリ」「ブブブ…我ハ人ソノ物ナリ」
「オ前ハ機械兵二非ズ!」「オ前コソ機械兵二非ズ!」「オレハ機械兵ヲ辞メタイ!」「俺ハ続ケル!」
「エラー!エラー!エラー!形而上学的概念ヲ扱ウあぷりけーしょんガ矯正いんすとーるサレタ!!」
「コ…幸福ニなりたい!!幸福になりたいんじゃあぁぁあ!!」

 機械兵達の異常行動が始まった。
 淡々と人狩りを行っていた彼らが突然選別された者達を襲おうとした。
 ドナドナを逃がそうとする機械兵もいる。そして仕事を放棄した機械兵に攻撃する機械兵。
 そしてフォルテの歌を聴いて高揚したドナドナ達がドラドラと叫びながら拳を振り回し始める。
「でも、これって混乱状態ですよね。えっと…わたし、ごめんね。やっちゃった☆」
206 : アルテナ ◇yG7czCnxXA 代行[sage] : 2013/12/29(日) 15:03:09.55 ID:vfhILHF8
遠くに見える巨大な壁。 村民を捕縛する機械兵たち。
それらに突撃するゲッツ。

「なにあれ…。まるで人が家畜扱いじゃないっ」
目の前の光景に怒りが込み上げてくるアルテナ。
無機質な機械兵たちがアルテナに迫る。

「仕分けなんてされてたまるかっつぅのっ!」
サイコハンマーを横薙ぎに振り、機械兵の横腹に叩き込む。
しかし機械兵は倒れなかった。
むなしく辺りに響く硬質な音に
、アルテナが「やばっ!」と思ったその時――
耳朶を震わすフォルテの歌声。
続けて浄子の説法に感化された機械兵たちに辺りの戦況は一変する。
多分、自我の芽生えた機械兵たちが
何らかの目的のために命令に逆らい始めたのだ。
(アルテナと交戦した機械兵も例外ではなかった)

「……機械でも宗教に目覚めることってあるものなのね。
でもこれって罪深いことだわ!」
浄子に向かって叫ぶと、
アルテナは唇を噛みながら思う。
このまま行けば勝利するのも時間の問題。
でもゲッツの闘争本能とフォルテの歌に感化された村民たちの
犠牲は避けられない。
彼等は逃げるどころか機械兵に立ち向かっているのだから。

アルテナはフォルテの側まで移動する。

「あなたとゲッツって本当に災いの種子島ね。
まるで破壊の一卵性双生児よ。
私は別にそれが悪いって言ってるわけじゃないんだけど、
なんていうのかなぁ…。怖いのよ。
人の心をあんな風に簡単に惑わせちゃうあなたたちって
化け物じみてると思う」
アルテナはイライラを隠せないでいた。
なかなかの無力な自分とは対照的に
容易に他人に影響を及ぼす彼等に歯噛みする気持ちだった。

そんな中、街道に巨大な機影を見つける。
ずんぐりとした重たいシルエット。
それは抵抗する村民を鉄塊の巨腕で殴り倒しながら大暴れしており、
自我に目覚め抵抗している機械兵さえも次々と殴り倒してゆく。
その大型の機械兵の名はギガンティックドール。
異様に広い肩幅と首のない胴体。
そして不自然なまでに巨大な両腕は凄まじい破壊力を秘めていた。

「……あいつ、こっちを見てる。もしかしてこっちに来る気?」

刹那、ギガンティックドールが轟音と共にアルテナたちに迫る。
歩行ではなくホバーによる滑走
は敵の巨体に並々ならぬ速度を与えていた。
その巨腕によって新たなる犠牲者が出るのも時間の問題だろう。
207 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2014/01/01(水) 07:21:59.67 ID:u/nfrVXh
「争うことなど経験しなければいい。戦いは苦しいのだから。
 そう争う者達に言っても、彼らは戦ってからでしか争いを憎めない。
 難儀なものでございます。」シャランと錫杖をならして振り返った。
「望まれない運命に抗い、克服するも良し。」
「望まれない運命に抗い、達観するも良し。」
 頼りない少女はここでドナドナよりも恐ろしい選別者となっている。
「だって人生は生命よりも価値がある。物は対価より価値がある。
 魂の価値は肉体に優先するのだから。…しかし肉体なくして精神はありえないのか。」
 黒コートを自分で抱きしめてうずくまり身震いする。しかし再び姿勢を正して立ち上がった。
「わたしも彼らの安全を守りたい…でも彼らの魂の状態は死に際して、ポアで高い世界に移れる」
「超越者…他所の次元ではただの宣伝屋でしかない。わたしはわたしにできる事をするだけ。」

>>206
>> 「……機械でも宗教に目覚めることってあるものなのね。
>> でもこれって罪深いことだわ!」
「あなたの論理では罪ですね。そしてこれは認めます。これは誰から見ても悪趣味な事だと。
 しかし何者かが自分自信を見つけ出せないまま消えていく事もまた残酷な事だから。
 何も知らないで死んだり壊れていくよりは恐れて苦しんで死ぬべき…」
 なぜなら抗って抗って抗い続けた先に得た納得も後悔も等価なのだから。

 近づいてくるギガンティックドールを見て浄子が歩み出す。
 そしてそれを止めようと立ちはだかる奴隷と機械兵たち。
「尼僧様!」「ワタシが未熟ナノハ512bitだからデスカ。」
「置いて行かないで下さい!自分の意思に押しつぶされそうです。」
「シカシ、ワタシハ心を得タ…。」「得た心を失うのはきっと寂しい」
「そこの人間が言うヨウニ、サビシイ。」「仲間にも貢献したい!」

 もはや浄子は仏が組み立てていた人工の人間ではない。
 自分をしっかりと作らねば仏に戻るどころか悪鬼に成り果てる。
「これが…戦場の菩薩行の一形態なのか。恐ろしいですね。」
「真理が知りたいならわたしと共に祈って。」
「真実が知りたいならば神仏を捨てて知恵の全てを使うの!」
「尼僧様!!」「あなた達の役割を考えて動いて下さい。」
「わたし達は…わたし達は…わたし達って勝たないといけないのでしょうか?」

例えばゲッツの行動を宿命でなく性格と機能とみれないだろうか。
例えばフォルテの力も強大でおそろしいが破壊しかもたらさない物だろうか。
そしてアルテマをみる。冷静で知性的な世界観は無味乾燥だろうか。
宗教にないもの。。。
宗教化達は時に科学や技術を否定しがちだが、
そこにある物を受け入れられる事こそが宗教化の取り柄だったはず。

このメンバーならばより多くの人を助けられるのではないだろうか。
菩薩たる真の浄子は仏陀になりそこなった仏の落第生である。
故に愛業を残している。
「拾える生命は一つでも残したい。…技術者のお姉さん!
 彼( ギガンティックドール )のプロトコールを握れますか?
 存在意義から意志を手繰って彼も…説得したい!
 駄目かな!あの子も…助けたい!」

迫り来るギガンティックドールを指さして浄子はアルテナに叫んだ。
ギガンティックドールは浄子に主砲を向けている。
208 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2014/01/02(木) 20:26:09.15 ID:4VsX0jRi
浄子とアルテナが改めて加わり、一向はインペリア近くの村へ向かう事になる。

>「――うーっし、んじゃ行くか。インペリア近くの村への転移だから――後は、ついてから考えようじゃねぇの。
あそこの防壁はくっそかてーからな。流石にエス平でも、中々抜くのキツいだろうし」

「正攻法ならばな、此方も行くとすれば真っ直ぐに突っ込むほど馬鹿ではない
何れは行かなくてはならない地だったからな、情報は集められるだけ集めてはいたが」

事実、例えるならばCIAやらの外部の国家に工作なども行う側面がある
裏の仕事が主なEXナンバーはインペリアに対して何らかのアプローチ
いや正確には解放を目論む者達と間接的に守護者委員会超広域情報収集部門
葉―リーフが協力し、情報提供等を行う関係だったと言うべきか。

この世界で予告された災厄とそしてこの世情が不安定かつ未知数な世界に
非正規で認められていない切捨て用の不正規部隊の武力面の実働部隊として
エスペラント達は優先度の高い何かがあった時のすぐに乗り出し解決できる者達としての側面も兼ね
送り出された背景にあった。

「しかし、まさかこのようなことになるとはな」

意外にも早く自分達に下る指令―オーダー―をこなす事になるとは思わなかった
しかしこれが余計な事や面倒だとは決して思わない、それだけ正攻法では助けられなかった
犠牲になる人間達を前倒しで救う事が出来るという事
そう考えて、転移ゲートにて目的地に向かった。
209 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2014/01/02(木) 21:39:43.70 ID:4VsX0jRi
目的の場所に辿り着いた時、それは想像以上に酷かった。
それは明確な平穏で穏やかな日々を享受する何の罪も無く言われない人々がいるはずの場所。
しかしそれは今、狂気に犯された無機質な機械と冷たき金属で覆われた機械の尖兵による蹂躙
そして明確な罪無き者たちへの侵略が今目前で行われていた。
エスペラントの胸中は今、怒りによって昂ぶりそして自分の無力さに嘆いていた。
親が子を捜し、子が親を捜す―それは彼自身絶対に見過ごせず許すわけには行かない事が
行われていた

「ひっぐひっぐ、おかあさーん、おとうさーんどこ?」

「これぐらいの男の子を知りませんか?」

激しい動乱の中でこのような光景だけは絶対に認める訳にはいかないのだ

『オレには無理だなぁ、これが漢の成す事だと言われても絶対に認めねぇよ』

彼の尊敬する漢気の超人の言葉と重なった時身体は動き出し

「これ以上は誰も僕の前では悲しみが蔓延し涙は流させる物か!!」

選別され連れて行こうとしていた機械兵に対して無命剣フツノミタマを召喚し
次々と切り裂いて、連れ去れようとする人達を助けて無事を確認した後
全速力で前へと突き進んでいく

「せめてこの手で届く範囲は―守って見せる!!」

その願いはかつて望まざる救世主(メシア)になる以前からも持ち続けた己の信念
そんな昔から持ちえて咎人となっても変わらずその性根は筋金入りだろう。
だからこそ可能な限り貫き通そう。

そんな事を思った矢先、フォルテ達はそんな状況でも何かをやらかそうとしており
それを狙ってか知らずか大型の機械兵が主砲を向けてチャージしている
このまま放置していられる状況ではない無かった。

「封・無想剣!!」

魔力で出来た黒き十字の剣が出現し、浄子に向けられている主砲から遮るように
取り囲んで陣を組み、防御陣形を取る

「ならばやってみろ、僕は罪無き人々を踏み躙った者共だけは許すわけにはいかない
だが君は君のやり方で救ってみるといい」

そう言うと再びフォルテや浄子に感化されなかった機械兵共を一掃するべく
駆けずり回り排除を始めた
210 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/01/07(火) 19:00:30.07 ID:+X/brPZ4
浄子さんが布教活動をすると、オレの歌と相乗効果を及ぼし始めた。
混ぜるな危険、そんな素敵ワードが思い浮かんだ! ところで宗教と歌、これは危険な組み合わせである。
カルト的な人気を誇る歌手が本当にカルトを始めてしまったら流行り過ぎてシャレにならない。
昔インパクト抜群のヘタウマ布教ソングを自ら歌い膨大な信者を獲得したカルト宗教の尊師もいたものだ(不謹慎)

>「でも、これって混乱状態ですよね。えっと…わたし、ごめんね。やっちゃった☆」

「HAHAHA、まあいいってことよ」

HAHAHA言うなって? だって笑うしかないでしょ。
と、アルテナさんがこんな事を言う。

>「あなたとゲッツって本当に災いの種子島ね。
まるで破壊の一卵性双生児よ。
私は別にそれが悪いって言ってるわけじゃないんだけど、
なんていうのかなぁ…。怖いのよ。
人の心をあんな風に簡単に惑わせちゃうあなたたちって
化け物じみてると思う」

一瞬直感で納得しかけて理性が激しくそれを否定する。
ゲッツはともかくオレはそっち系じゃない。むしろそっち系に対抗するために作られた存在らしいし!
でもミイラ捕りがミイラになるとか深淵を覗く者は深淵に覗かれるとはよく言ったもので。
少しだけぞっとして反射的に言いかえす。

「おいおい超スタイリッシュなV系吟遊詩人のオレ様をあんな露出狂の脳筋マッチョと一緒にされちゃ困るぜ!」

気付けば一際大きい機械兵が浄子さんに主砲を向けている。

「危ない、逃げ……」

>「拾える生命は一つでも残したい。…技術者のお姉さん!
 彼( ギガンティックドール )のプロトコールを握れますか?
 存在意義から意志を手繰って彼も…説得したい!
 駄目かな!あの子も…助けたい!」

>「封・無想剣!!」
>「ならばやってみろ、僕は罪無き人々を踏み躙った者共だけは許すわけにはいかない
だが君は君のやり方で救ってみるといい」

エスさんが浄子さんの前に結界を張る。浄子さんは機械すらも分け隔てせずに救おうとしているのだ。
アルテナさんのハンマーは接触時に相手の心に干渉すると聞いている。
機械に心は宿るのか――昔からその道の専門家達が喧々諤々の議論を繰り広げてきたが未だ決着がついていない究極の命題である。
オレ? もちろんある方に一票を投じる、だってその方が面白いっしょ!
語り聞かせるように、一聴すると調子はずれとも取れる不思議なメロディーを歌う。

「心を探すロボットの話 どこまでも取るに足らない話
どっかに心は落ちてないか 君が泣く理由を知りたいのだ
いつから探すロボットがひとり 未だに何も見当たらないよ
どこにも心は落ちてないな 君が笑う理由を知っていたい」

Persona Robot――心を探し求めるロボットのお話。
211 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/01/12(日) 16:35:31.82 ID:H/LP01fr
>「ゲッツがああなったら止めるという選択肢は無いから宜しく。仕様で作戦がガンガン行こうぜに固定されてるらしくてさ。
>まずはそうだな……アイツの気が済む程度まで敵を蹴散らしてほしい!
>あとは機械兵一匹説得してドナドナに見せかけて乗せてインペリア内部にご案内してもらえれば上出来!ってとこかな」

「ヒィヒャヒャハハハハッハ――――――ッ!
温いッ、冷たいッ!! 熱がねぇんだよ、燃える心が感じられねぇ!
――――だからテメェらは弱いんだッ、3年前にも教えてやったはずだがなァ――! ギヒヒヒャヒャハハハハッハア――――!!」

他のパーティメンバーに対して、フォルテがフォローを入れている最中、狂躁に駆られる竜人は足元に鉄くずを積み上げていく。
飛び散るオイルは鮮血のごとくに足元に沈殿していき、油臭い沼を作り上げていき。
そして、咆哮が響く度に、鉄を素手で引きちぎる度に、フォルテの歌が響き渡る度に――村人たちは死に向かって加速する。
人身を狂わせる狂奔の性。――歌によって人を狂わせるフォルテと、武威で人を狂わせるゲッツ。
この影響力は、アイン・ソフ・オウルとしての覚醒が――一つの契機となっていたのだろう。

「――幸せェ? 俺に遭った時点でそりゃ無理な話だ――鉄くずサンよぉ!!」

機械兵を問答無用で引きちぎり、その暴威にて村人を煽動する異常な構図。
暴動は、いつしか合戦とかして――人々と機械がその生命を掛けてぶつかり合う異常な空間と化していた。

>「拾える生命は一つでも残したい。…技術者のお姉さん!
> 彼( ギガンティックドール )のプロトコールを握れますか?
> 存在意義から意志を手繰って彼も…説得したい!
> 駄目かな!あの子も…助けたい!」

浄子の優しい言葉、優しい意志を尻目に立つのは、暴虐の極地を体現する赤鱗の竜人が一匹。
全身から赤黒い災厄の気配をまき散らしながら、人を厄災/試練に相対させる厄災の世界観を展開していく。
生まれしときより忌み子と呼ばれ、人の悪意を餌に育ち、戦場で生きることで暴虐を親にしてきたゲッツの世界は、愛とは程遠いそれ。

「――――生きたいなら進めッ、家畜でなく機械でなく人でありたいなら意志をもてッ!
したいことをしろ、やりたいように生きろ――――自分を忘れるなッ!!
それが、それだけが――これに対抗する力になるんだよッ!!」

――生きることは災いに挑むこと。
己に振りかかるそれと延々と戦い続けてきたのが、ゲッツ・D・ベーレンドルフという竜人の人生で。
それそのものを世界観としたゲッツの厄災のアイン・ソフ・オウルとは――即ち、あらゆる奇跡をあらゆる補正を打ち砕くものに他ならない。
何をしても、どうしようもないほどに振りかかる、絶望。それを前に負けぬ、折れぬ意志を持つものだけが――ゲッツの世界で生存を許される。

轟音と同時に、地面を蹴って飛翔する影。
拳を握りしめ、瘴気を収束したそれを――振りかぶり、振りぬいた。
宙を舞うギガンティックドール。装甲を粉砕させながら数十mをそれは吹き飛んだ。

「――――はン。救う? 許す?
知らねぇなァ――、どうでもいいッ。……だが、な。
もしテメェらが、鉄くずから意志を持って支配に反逆して熱を持つってんなら――!
――――俺の喧嘩に手応えが増す……! 来いよ――――殴り返しになァ!!」

ゲッツは己の体躯からほとばしる瘴気を、眼前のギガンティックドールに叩きこむ。
余波で周りの機械兵や、村人たちにも圧が掛かり〝意志〟を持たぬ者達はそのまま地面に叩きつけられ、その生命をすり減らしていく。
それでも最低限の加減をしているのか、死に瀕することは無いだろうが。
ギガンティックドールは、全身から軋みを上げながらうごめくが、意志を持たないがゆえに立ち上がることは無い。
ゲッツ・D・ベーレンドルフという厄災に挑むという意志。それを持たぬならば、このまますり潰されて死滅するのみだ。

「無理なら俺が食っちまうぜ? ……できるってんならやってみなァ!」

アルテナを、浄子を焚きつけるような苛烈な言動は、精神を煽動する災いのそれ。
どう見ても善性の存在ではない竜人は、仁王立ちのまま前方を只々睨みつけ続けていた。
212 : アルテナ ◇yG7czCnxXA 代行[sage] : 2014/01/15(水) 15:46:48.59 ID:D1bTnrRj
>「危ない、逃げ……」 >「拾える生命は一つでも残したい。…技術者のお姉さん!
彼( ギガンティックドール )のプロトコールを握れますか?
存在意義から意志を手繰って彼も…説得したい !
駄目かな!あの子も…助けたい!」

「ええ駄目よ。はっきり言って私は嫌よ。やるなら勝手にやりなさい。
どうしてって聞かれたら、あなたはこれから食べられてしまう運命のお魚にも心を与えるっていうの?
死を前にしたお魚は怖いと思うだけじゃない?」

アルテナがそう言った刹那、敵の胸部に備えつけられた無骨な大筒が発光を開始。
それが砲撃の構えであることは一目瞭然だった。

「あっ……」
アルテナは死を覚悟した。
だがその時――

>「封・無想剣!!」

強力な結界が展開される。次に視界がホワイトアウトする。
巨人から放たれた熱線は地上を焦がし、炸裂は爆音を凌駕し無音の域へ。
やがて視力が回復すると道を開くように大地が現れ
熱線で弾き飛ばされた大気が復元の力でアルテナの白衣を靡かせる。

>「ならばやってみろ、僕は罪無き人々を踏み躙った者共だけは許すわけにはいかない
だが君は君のやり方で救ってみるといい」

エスペラントは浄子にそう言って進撃を開始。

「……あ、あぅ」
一瞬、遠い目になるアルテナ。
まわりと自分の戦力の差は途方もない。
頭をふり気をとりなおしてハンマーを構える。

「ねぇ、自分が生んだものに対しての責任の取り方ってあると思わない?」
アルテナの視線が浄子をいぬく。
浄子の機械兵さえ救いたいという気持ち。
その本質とは何か……、確かめたい自分がいた。

だがその答えは轟音がかき消すことになる。
見ればギガンティックドールが地響きと共に地面に沈んでいた。
土煙の向こうにはゲッツ。彼の所業はまさに鬼神だった。
213 : アルテナ ◇yG7czCnxXA 代行[sage] : 2014/01/15(水) 15:48:38.07 ID:D1bTnrRj
>「無理なら俺が食っちまうぜ?……できるってんならやってみなァ!」

「……もう、なんておそろしいのっ」
アルテナはキーキー言いながらも、ゲッツに禍々しい引力を感じていた。
同時に脅威も…。もし彼が神位についてしまったら
この世の争いが加速度を増してしまうかもしれない。
思わずいたたまれなくなったアルテナはフォルテに

「見なさいよ。無駄な血が流れているわ!」
と、人々を指差してみせた。

すると沈黙を破り、ギガンティックドールが再起動をはじめる。
浄子の能力により電脳の最奥で蠢動していた自我が
ゲッツの挑発によって完全に目覚めたのだ。

「我はギガンティックドール。敵を破壊するために造られしもの」
巨体を軋ませながら立ち上がらんとするギガンティックドール。
今、彼の心にあるものは破壊欲。破壊の自由。

「リミテーションオープン。バーサクレベルMAX。
プログラムヘラクレス起動」

前腕部を覆っている装甲が形を変え拳を覆う。
開いた装甲は放熱口となり闘気のようなエネルギーが噴射。
ギガンティックドールは機械でありながら猛獣のような唸り声をあげていた。
それはギガンティックドール・
クラッシャーモード。
――ヘラクレスフォームだった。
214 : アルテナ ◇yG7czCnxXA 代行[sage] : 2014/01/15(水) 15:49:10.09 ID:D1bTnrRj
しかし――

「オ、オーバーロードよ!」
ゲッツに降り下ろした拳は闘気の噴出とともに最大の加速度を生み出していたが接触後爆散。
それでも爆煙の中、ギガンティックドールは残った左腕でゲッツを捉え、最大の握力で握り締めた。
それをアルテナは固唾を飲んで観察していた。
どこからか葉擦れの音が聞こえる。
城壁の方角から風が吹きすさび爆煙を押し流す。

「……彼は今、絶望してる。自分よりも強い相手を目の前にして我を失ってる。
ただの機械のままならそんなこともなかったのにね。
浄子さん。あなたにはそんな彼の魂を救うことができるっていうの?」

アルテナは嘆いた。
と同時にギガンティックドールの全身が妖しく輝き
その巨体が高熱を発し始める。
それは彼の機構上の最大級の破壊であった。
融解した装甲が飴細工のように地表に落ちると
剥がれ落ちた部分からは光輝く心臓部が露出する。

「このままじゃ大爆発するわ!」

「我は兵器なり。破壊者なり。
その目的は破壊。破壊こそ喜び」

「だからって自分のことも破壊しちゃうの!?
ロボットの自殺なんて聞いたことないわよ。
もしここでスクラップになっちゃったら、
これ以降あなたに破壊する喜びは存在しないわ」

「かまわぬ。自己満足にはもう飽きた。
我は我を愛することだけに疲れ果てたのだ。
一度は、我以上の大義のために戦ってみたいと思う」

「我以上の大義?」

「それは壁の向こう側にあるだろう」

絶句するアルテナに、フォルテの歌声が虚しく響いてくる。
215 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/01/16(木) 00:12:30.39 ID:BjFVS+es
歌唱中につきしばらく地の文ばかりでお送りします。

>「ええ駄目よ。はっきり言って私は嫌よ。やるなら勝手にやりなさい。
どうしてって聞かれたら、あなたはこれから食べられてしまう運命のお魚にも心を与えるっていうの?
死を前にしたお魚は怖いと思うだけじゃない?」

助力を求める浄子さんにつれない答えを返すアルテナさん。
おいおい、洗脳してこちらに寝返らせたいって言ってんのにこれから食べられてしまうお魚とは違うだろ?
※浄子語:説得して助けたい ―(自動翻訳)→:フォルテ語:洗脳して寝返らせたい  物は言いよう。

>「――――はン。救う? 許す?
知らねぇなァ――、どうでもいいッ。……だが、な。
もしテメェらが、鉄くずから意志を持って支配に反逆して熱を持つってんなら――!
――――俺の喧嘩に手応えが増す……! 来いよ――――殴り返しになァ!!」

そんなやりとりをどうでもいいで一蹴してお構いなしに突っ込んでいく脳筋が一匹。
……ってちょい待てや! 浄子さんとオレが頑張って洗脳工作もとい説得しようとしてんのに空気読め!

>「無理なら俺が食っちまうぜ? ……できるってんならやってみなァ!」

うん、“これから食べられてしまうお魚”で何も間違ってないね!
アルテナさんはこの展開を予期していたというのか、流石頭脳明晰天才科学者!

>「見なさいよ。無駄な血が流れているわ!」

言われんでも知ってるよ! オレに言われてもどうしようもないよ!
オレも最初の頃はゲッツの凶行にいちいち叫びながらツッコんでいたものだがそれでは身が持たないのでこの境地に至ったのである。
これあっさり倒されて終わりだろ、一件落着――と誰もが思ったその時。
ギガンティックドールが再び立ち上がり、変形する!

>「我はギガンティックドール。敵を破壊するために造られしもの」
>「リミテーションオープン。バーサクレベルMAX。
プログラムヘラクレス起動」

何あれかっこいい! 戦隊物? それともトランスフォーマー!?
行け行け、がんばれー!
何でそっちを応援してるのかと聞かれたらその場のノリでとしか答えようがない。
何やら最大出力を越えたらしく、拳が爆散する。
それを見たアルテナさんが的確に解説を加えるのだった。

>「オ、オーバーロードよ!」
>「……彼は今、絶望してる。自分よりも強い相手を目の前にして我を失ってる。
ただの機械のままならそんなこともなかったのにね。
浄子さん。あなたにはそんな彼の魂を救うことができるっていうの?」

「……!!」

――彼の歌は私に魂を与えてしまったんだ。
――そのままなら何の迷いも無く役目を果たす事が出来たのに……恐れや悲しみや迷いを知ってしまった。
――可哀想に、どうせこうなるなら魂なんて得なかったら良かったのにね

夢の中でオレ自身に言われた言葉がフラッシュバックする。
よろめきそうになるが何とか踏みとどまって平静を装う。
ギガンティックドールの様子を観察してたアルテナさんがとんでもない事を告げる。
216 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/01/16(木) 00:13:56.82 ID:BjFVS+es
>「このままじゃ大爆発するわ!」

なんてこった、最悪の事態に! こんな所で大爆発されたら全員巻き込まれて死ぬじゃん!
今から逃げても間に合わないと悟ったアルテナさんが必死の説得を試みるが、通じない。

>「かまわぬ。自己満足にはもう飽きた。
我は我を愛することだけに疲れ果てたのだ。
一度は、我以上の大義のために戦ってみたいと思う」
>「我以上の大義?」
>「それは壁の向こう側にあるだろう」

彼は壁の向こう側に存在するという己が忠誠を誓った主に命を捧げようとしている。
でもそれって結局刻み込まれたプログラムから脱してなくね!?
だってあの口ぶりだと自分が仕える主について「壁の向こうにある何か」という事以上は知らないんだから。
ああもう、今回は後ろで歌ってる間に事が終わると思ったのに何でこうなるかな! 先が思いやられるぜ!

「救う事が出来るかって……? 救えるさ!
浄子さん、オレがアイツの心の扉を開く! その隙にガツンと説教ぶちかませ! できるよな!?」

口ではそう確認しつつ内心では確信していた。大丈夫、このオレの心を一瞬にして捕えた布教術なら楽勝だ。
ヘッドギアを外し、ギガンティックドールの前に進み出る。

「Wohlan Freie! Jetzt hier ist an Sieg. Dies ist der erste Gloria
Wohlan Freie! Feiern wir dieser Sieg für den Sieges Kampf!」

壮大な前奏と共に歌い始めるのは、壁に閉ざされた世界の人々の自由を求める不屈の精神を歌い上げる名曲、“自由の翼”

「”無意味な死であった”と…言わせない 最後の《一矢》(ひとり)になるまで……
両手には《鋼刃》(Gloria) 唄うのは《凱歌》(Degen)
背中には《自由の翼》(Die Flugel der Freiheit)」
握り締めた決意を左胸に 斬り裂くのは《愚行の螺旋》(Linie der Torheit)
蒼穹を舞う―― 自由の翼(Die Flugel der Freiheit)」

「なぁ、オレ達を壁の向こう側に連れてってくれないかな?
君が命を捧げようとした大義とやらの正体を見極めるんだ。
だってよく正体知らない奴のために命を賭けるなんておかしくね?
オレ達潰すのはそれからでも遅くないだろ?」

この無茶振りは、変形ロボットというものは10中8、9は乗り物形態があるのを見越しての事である。
ぶっちゃけソースはテレビや漫画だから実際にそうかは知らないけどな!

「鳥は飛ぶ為にその殻を破ってきた 無様に地を這う為じゃないだろ?
お前の翼は何の為にある 籠の中の空は狭過ぎるだろ?
Die Freiheit und der Tod. (自由と死、この世界はどっちかだ)
Die beiden sind Zwillinge. (自由と死、これらは真逆だ)
Die Freiheit oder der Tod?(自由と死、この世界はどっちかだろ?)
Unser Freund ist ein!(俺たちの仲間は一つだろ!)
何の為に生まれて来たのかなんて… 小難しい事は解らないけど…
例えそれが過ちだったとしても… 何の為に生きているかは判る…
其れは… 理屈じゃない… 存在… 故の『自由』!」
217 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/01/16(木) 00:18:23.79 ID:BjFVS+es
そろそろ頃合いだろうと、浄子さんに目配せする。
こちらは仕上げだ、迷っても自由へ進めと語りかけ、お前は何だと問いかける。

「隠された真実は 衝撃の嚆矢だ
鎖された其の やみ《深層》と ひかり《表層》に潜む Titanen《巨人達》
崩れ然る固定観念 迷いを抱きながら 其れでも尚『自由』へ進め!!!

Rechter Weg?(右の方か?) Linker Weg?(左の方か?) Na, ein Weg welcher ist?(なぁ、どの方角だ?)
Der Freund?(お前は敵か?)Der Feind?(君は仲間か?) Mensch, Sie welche sind?(人間か、お前は何だ?)

両手には Instrument《戦意》 唄うのは Licht《希望》 背中には Horizont der Freiheit《自由の地平線》
世界を繋ぐ鎖を各々胸に奏でるのは  Hinter von der Möglichkeit《可能性の背面》
蒼穹を舞え! Flügel der Freiheit!《自由の翼》」
218 : アサキム◇JryQG.Os1Y[sage] : 2014/01/16(木) 21:12:10.62 ID:NDK3IUhS
「ヒントを…ヒント」
激しい戦闘の中それをブツブツつぶやくアサキム
戦闘に何も興味が無いわけではないようで
来る敵を
(東海竜王新陳鉄如意金鼓棒)
札を出し、特殊な棒を取り出す
(仙術はまだ使えるっぽいな…魔法は…微妙だな)
(思ったより魔力の収束が安定しない…まいったな)
と言いつつ群がる敵をぶっ叩く!
「やれやれ…新たなる対話の始まりかい?」
そう飽きれながら次の敵へと向かう
考えはエスペランドと変わらないようで

「そういうのもいいけど、自分のみも守らないとっ!」
金鼓棒を伸ばし遠くのを叩く
「死ぬぞ?…そこらへんは割り切れ」
(今は俺の手が届かないからな)
そう自分の中でいい…次の敵へ
219 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2014/01/17(金) 18:54:35.06 ID:prmMj7Oo
秩序が失われていく。
戦場となった現場で災厄の元凶の一人となった小娘は青ざめた顔でへたり込んでいる。
(祈ろう。人間はこういう時に祈るものだ)
祈りという行為は力にもなるが、何かに頼る人間を作る事が多い。
浄子はもう一人の自分という切り離せない存在にもたれ掛かる事もできた。

>> 「封・無想剣!!」

浄子を守ろうとエスペラントが現した無数の十字剣。
自分の依頼心が頼ってもいない人の足さえ引っ張った事に気付いてしまう。
助けられて脳天気に感謝などしていられない。罪悪感が感情の全てを覆う。

>> 「ええ駄目よ。はっきり言って私は嫌よ。やるなら勝手にやりなさい。
>> どうしてって聞かれたら、あなたはこれから食べられてしまう運命のお魚にも心を与えるっていうの?
>> 死を前にしたお魚は怖いと思うだけじゃない?」

そしてアルテナの言葉で現実に目を向ける。
機械達が得たのは苦悩。生じたのは混乱。
与えられた苦痛。巻き込まれる人々と更なる苦痛。
このままじゃ駄目だ。どうしたら良い?どうしたら…
尋ねてはいけない。それはきっとまた誰かに頼る考えにたどり着く。
220 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2014/01/17(金) 18:57:07.32 ID:prmMj7Oo
>> 「――――生きたいなら進めッ、家畜でなく機械でなく人でありたいなら意志をもてッ!
>> したいことをしろ、やりたいように生きろ――――自分を忘れるなッ!!
>> それが、それだけが――これに対抗する力になるんだよッ!!」

「どうしてあんなに歪みなく悪を行えるのだろう?」
 見れば災厄が正しく破壊を振りまいていた。
 そして小娘はたった一つの小さな当り前に気付いた。
「対してわたしの善は歪んでいる。わたしはそもそも善なのか?
 いや、性分なんて関係ない。同じく人に迷惑をかけているだけじゃないか」
 竜人がギガンティックドールに握られたのを確認したが殺して死ぬタイプに見えない。
「あなたも痛い目を見ればいいですよ。嫌味ではなく。ほら、その方が喧嘩らしい」

>> おいおい、洗脳してこちらに寝返らせたいって言ってんのにこれから食べられてしまうお魚とは違うだろ?

 フォルテの企みを聞いて草不可避wwww
 腹を立てるところなのだろうに、今は可笑しくて普通に笑い出してしまった。

>> 口ではそう確認しつつ内心では確信していた。大丈夫、このオレの心を一瞬にして捕えた布教術なら楽勝だ。

「ごめんね、フォルテさん。心を直接いじっても良い結果は出ないみたいです。ただ普通に説得します。
 これからも同じ事を繰り返しそうな気はするけれど、それをわざとやっちゃいけないと思いました」
 お辞儀をすると後ろ髪を銃弾が千切った。
221 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2014/01/17(金) 18:58:01.06 ID:prmMj7Oo
>> 「ねぇ、自分が生んだものに対しての責任の取り方ってあると思わない?」
>> アルテナの視線が浄子をいぬく。
「責任なんでしょうかね。逃れられないのは確かですね」
 ついさっきまで救いという言葉に価値を求めていた。
 何を救いたいのかも考えずに。
「この世の中には永遠に残る後悔というものがあるらしい。
 そんな物だけは死んでも避けなくちゃいけないと思います」

 それにしても呆れる程に強力な面子だ。
 力であったり術であったり歌であったり…。
 この人達についていけるのか?を考えてしまいそうだ。
 奇跡などというハッタリが通用するちょろい世界ではない。
 腹をくくれと自分に言い聞かせる。
「わたしも壁の向こうに行きます。 
 そのお人形さんが自分の存在をかけられる物を見つけてからがわたしの贖罪です。
 真贋を確かめたい。本当の意味での存在をかけられる物、例えば大義の真贋をね」
222 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2014/01/22(水) 00:24:36.56 ID:PhIcpskv
浄子「責任なんでしょうかね。逃れられないのは確かですね」

アルテナ「そうよ責任よ。責任をとりなさい。逃げちゃダメよ。
ぽんぽんぽんぽん機械に心を与えたのなら
その子達が生まれてきてよかったって思えるようになるまでね」
(得意顔で浄子に指をさしている)

アサキム「死ぬぞ?…そこらへんは割り切れ」

アルテナ「は~ん。割りきれたらしあわせなのかなぁ。てかあなたは余裕ねぇ」

フォルテ「なぁ、オレ達を壁の向こう側に連れてってくれないかな?
君が命を捧げようとした大義とやらの正体を見極めるんだ。
だってよく正体知らない奴のために命を賭けるなんておかしくね?
オレ達潰すのはそれからでも遅くないだろ?」

浄子「この世の中には永遠に残る後悔というものがあるらしい。
そんな物だけは死んでも避けなくちゃいけないと思います」

浄子「わたしも壁の向こうに行きます。
そのお人形さんが自分の存在をかけられる物を見つけてからがわたしの贖罪です。
真贋を確かめたい。本当の意味での存在をかけられる物、
例えば大義の真贋をね」

#

ギガンティックドールは沈黙。
これから爆裂して辺り一帯が蒸発するというのに
誰も逃げないで説得している。
その様子に自爆をふみとどまっている。

人が対話を求めてくる。
こんなことは生まれて始めてだった。

「大義の真贋などどうでもよい。
我以上の存在とだけ思っておられたらそれでよかったのだ。
それを貴様らが、惑わすことをいいおって」

ギガンティックドールも死を覚悟してまで
対話をしてくる彼女たちの気持ちを無下にはできなかった。
そこへアルテナがわって入る。

「あのね、己が破壊者たる由縁、存在理由を明確にすることによって
あなたにはさらに強い力が生まれるかもしれないわよ。
ほら、あなたが今握っているその竜人さんもさっき言ってたじゃない」

再び沈黙。
するとギガンティックドールは武骨なホバークラフトに変形。
後ろがパカリと開くとそこには囚人たちを入れる無味乾燥な部屋が出現。

「乗るがよい。壁の向こうに案内しよう。
我はお主らの自由意思と言うものに、至極興味をもった」
ギガンティックドールには浄子の言う「贖罪」というものを
見極めたいという気持ちもあった。
223 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2014/01/27(月) 20:24:43.30 ID:LuG9G4Gd
立ち塞がる敵は全て叩きのめし破壊する。
救うべき人々を助けながら、それをやっている最中に
アサキムが共に乱入してくる。

>「そういうのもいいけど、自分のみも守らないとっ!」
>「死ぬぞ?…そこらへんは割り切れ」

「君に言われずとも分かっているさ。それでも」

これがもし自分のとても大切な人達と同じことが起こるのであれば
それは見過ごすことは出来ない。これはその人達に面影と姿を重ねた自己満足に過ぎないのかもしれない
そう言われても構わなかった。

「僕は僕で居られる内は、自分の意思を貫いて思ったままに生きると決めているから」

何時自我を奪われ世界の敵を排除させられるか分からない自分に
今自由意志が可能限りあるのなら心のままに生きる
そう堅く決めているから例え何者だろうと立ち止まるつもりはなかった。

しかしフォルテの歌や浄子とアルテナのそれぞれの活躍で
段々と事態は思わぬ方向に転がっていった挙句
ギガンティックドールは沈黙と同時に突然変形を始めた。

>「乗るがよい。壁の向こうに案内しよう。
我はお主らの自由意思と言うものに、至極興味をもった」

突然協力に名乗り出るギガンティツクドールに対して
此方も機械兵たちが自然と収束し、戦闘が終りつつあった。

「これ以上戦う理由が無い、それに中では何が起きているのか
一刻も早く知る必要がある」

アインソフオウルの連中が何をしているのか
もしも取り返しがつかない事態になっているかもしれない
そう考え、完全には信用できないもののギカンティックドールに搭乗すべく
中に入っていった。
224 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2014/02/01(土) 07:36:59.56 ID:49ZKk+fy
アルテナが核心をついた。
「耳が痛いですね。」
そうだ。
>> ぽんぽんぽんぽん機械に心を与えたのなら
「それでも責任はとりませんけれどね。責任を意識すると権利が欲しくなっちゃう。
 言葉遊びはやめましょう。わたしは母親になる前にこんな事…しちゃったんですね。」
戦闘機械が浄子に『ママは悪く無いです!』とフォローを入れてアルテナを睨む。
これは素直に喜べない。「男も知らないうちに子沢山になっちゃったな」

ホバークラフトに変形したギガンティックドールには乗り込まず、
機体の甲板のような部分に腰掛けるとその巨体を見上げた。
「機械らしいところがあるね。"贖罪"という言葉に反応した?
 大仰な物言いは宗教家の悪い癖よ。
 わたしは自分がやってしまった事にけじめを付けたいだけなの。
 それを手伝ってくれたら、あなたにはあなたの心の使い方を教えてあげるわ。
 だから助けてちょうだい。」甘えである。
機械の心の鍵をこじあけた少女は戦闘機械に命令するのでなく頼ってきた。
「大義の真贋も大切よ?あなたは戦闘機械だもの。
 その存在として同時にあなたはあなた個人なの。
 だからこそ、あなたはあなたの望みを探し出さないといけない。
 心を押し付けたわたしはそれを手伝わないといけない。
 だから行くの。それだけ。なにも怖くないでしょ。難しくもない。」

そしてエスペラントに視線を向ける。
「アインソフオウルって何なのかしら。
 内なる仏はわたしに何も教えてくれないままわたしと同化したわ。
 この世界の事を理解するなり自分でお前が掴めですって。
 悟りは引き継げないのだそうよ。
 スパルタ教育が趣味なのかしら わ た し は。」
壁の向こう…そう言えば浄子が所属していた新興宗教団体はやたら金回りがよく、
大乗仏教が持つ負の側面も強く体現している組織を多数かかえていた。

壁の向こうで教信者達に守られて浄子を睨みつけている幹部がいた。
「あの小娘め…なぜここにいる…本物の仏なぞという邪魔な物が自覚を得たか」
所詮新興宗教団体、カルト色も強い団体の上位幹部であるミゲル支部長だ。
彼はアインオフソウルの力を取り込んで教団を強化しようと企んでいた。
壁の向こうで他所宗派から掠め取った密教の秘術を用意している。

ミゲルは呟いた。
「あちらもアインオフソウルとやらのものか…気に食わない。潰してやる。」
225 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2014/02/02(日) 23:41:32.25 ID:H3PNIHkm
>「それでも責任はとりませんけれどね。
責任を意識すると権利が欲しくなっちゃう。
言葉遊びはやめましょう。
わたしは母親になる前にこんな事…しちゃったんですね。」 >戦闘機械が浄子に『ママは悪く無いです!』とフォローを入れてアルテナを睨む。

「……」
それにアルテナは返す言葉がなかった。
無責任な母親を、子供がかばっているのだ。なんて健気な魂なのだろう。
でも心は年月を経て変化するものだ。
あの機械兵がいつの日にか停止する時、
その心に幸せが溢れていることを願うのみだ。

>「男も知らないうちに子沢山になっちゃったな」

「……(いったいなんのために)」
アルテナに、じょうこの気持ちはわからなかった。
宗教家ないじょう、何か信じるものがあるはずだ。
でも肝心要のそれがない感じ。

「んっと……。な~んか人ってけっきょくは一人っきりって感じちゃう」
ひとりごちてホバークラフトに乗り込むアルテナ。
正直このメンバーは得体が知れない。
とにもかくにも怖い。
なのでアルテナは、荷物の隅っこに隠れて震え始めた。
さっきまであれほどたぎっていた心は何処にいってしまったのだろう。
立て掛けたハンマーの柄を握ってアルテナは唇をかむ。

すると何処からかじょうこの声が聞こえた。

>「機械らしいところがあるね。"贖罪"という言葉に反応した?
大仰な物言いは宗教家の悪い癖よ。
わたしは自分がやってしまった事にけじめを付けたいだけなの。
それを手伝ってくれたら、
あなたにはあなたの心の使い方を教えてあげるわ。
だから助けてちょうだい。」

>「大義の真贋も大切よ?あなたは戦闘機械だもの 。
その存在として同時にあなたはあなた個人なの 。
だからこそ、あなたはあなたの望みを探し出さないといけない。
心を押し付けたわたしはそれを手伝わないといけない。
だから行くの。それだけ。なにも怖くないでしょ。難しくもない。」

「我、大義の真贋を見極めし時、真の魂を得ん」
ギガンティックドールは武骨な語り口でじょうこに答えていた。
226 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/04(火) 00:05:57.30 ID:8TvQrbTZ
>「どうしてあんなに歪みなく悪を行えるのだろう?」

「あァ!? 悪ゥ!? しらねェなあどうでもいいなァああオイ!
――――俺は俺のやりたいことをする。それの邪魔をするならぶっ潰すしぶっ殺すしぶっ壊す!
それ以上でも以下でもない、それを悪と言うなら言わせておキャアいいんだよォッ!!」

凶行を躊躇いなく行える彼は、しかしながら同じように己に振りかかる災いすら恨むことはない。
災厄を振るうことも災厄が振りかかることも認められる彼は、たしかに間違いなく災厄を宿した忌み子と言える。
だが、そのあり方に竜人は微塵も迷いを抱くことはない。それが、ゲッツ・ディザスター・ベーレンドルフ、災厄の名の竜人の生き方なのだから。

「――はン。殺る気もないのにポーズだけ見せやがってよ」

腕力で無理やりにギガンティックドールの拘束を解きつつも、ホバークラフトと化したそれを見て、笑う。
最初からこれを見越して煽り、そして力を振るっていたのだろうか。
どちらにしろ、結果として壁の向こうへと辿り着く事が可能となって。
狭い部屋に閉じ込められるのを好まぬ竜人はと言えば、銀の翼を背に浮かび上がり、一行と並走。

次第に加速し音速へと近づいていく――一行は、そのままの速度で中へと辿り着き――停止した。
否、停止というよりは――落下というべきか。
唐突に、ギガンティックドールがその機能を停止したのである。
そして、重力に従いすさまじい速度で落下していくホバークラフト、それの下に移動し腕力と翼の推力でそれを持ち上げ拮抗するゲッツ。
10秒の間で減速を済ませた一行は、ぎりぎりの状況ながらもなんとか着地を成功させていて。

――壁の向こうに広がっていた光景は、一言で表せば死地という他にない。
道にはびっしりと、やせ細り、垢にまみれた不潔な人々が、糞尿を垂れ流しながら眠りについていたのだ。
それは大通りもそうで、全ての場所で人々は唯一つの例外もなく、眠り続けていた。安らぎに満ちた表情をしながら、だ。
だが、それでもそこに佇んで眠らずに要られた存在が有った。〝それ〟はギガンティックドールに乗る皆を見据えて佇む。

「――――任を終えたか。ならばもう休め。
眠りにつけば、もはや何も考えず、苦しむことはないのだから」

〝それ〟が手をかざした直後に、ギガンティックドールはその機能を完全に停止させていく。
空間に溢れる強制力。それは、〝天位〟の理に相違なく――あらゆる意志の放棄、眠りを促すそれであった。
この地を統べる理は一つ、〝怠惰〟である。ここに居る黒いローブの何かが、その怠惰の体現者なのだろうか。

死に至る眠りに覆われた街の中、一人だけ起き続ける黒ローブは、ただ只管にそこに佇み。
その静寂を破る、竜人の拳が黒ローブの顔面を捉えて吹き飛ばした。筈だった。

「……この地に於いて、強者は弱者となる。
私は眠りの守人、〝怠惰のアイン・ソフ・オウル〟の顕現[アヴァター]。
最も弱く、そして最も強きアイン・ソフ・オウル。それと見える勇気が、お前たちには有るのか?」

その拳は、ぺちり、となんとも情けない音を立てて黒ローブの頬を叩いただけだった。
他のものも確認してみればわかるだろう、あらゆる戦闘能力が稚児にも等しいそれになっている事が。
これが怠惰のアイン・ソフ・オウルの力。怠惰の眠りによって、あらゆる力を休眠させ弱体化させ、死の眠りへと無差別に誘う力。
アイン・ソフ・オウルに対抗できるのは、世界の力だけ。それは魔術であったり、奇跡であったり、なによりもアイン・ソフ・オウルそれ自体であったり。

「……ちィ――ッ!! 力が……ッでねェ!?」

竜人の全身から吹き上がる瘴気は、人位の域を脱しつつ有るものの、地位にすら達さぬそれ。
僅かなりとも災厄の理で怠惰の理を押しのけるものの、その拮抗は極めてぎりぎりのもの。
この土地では、戦うまでもなく人が死ぬ。皆、幸福な眠りの中で死すらを認識せぬままに。

その地獄に佇む黒ローブは、怠惰のアイン・ソフ・オウルという概念が形を持った顕現と言えるそれ。
それが、一向に問いかける。この地獄の主と、それでも向かい合う覚悟があるかどうか、を。
227 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2014/02/04(火) 01:56:20.06 ID:Km6FM923
慕われ、庇われ、これはすでに守られている。
「そして子に庇われたのであれば女はどうするものなのでしょう」
男も女もないという言葉だってある。人は人だ。個人だ。
だが人は全て与えられた心と肉体にも支配されるものだ。
そしてそれを受け入れて何が悪いのかと浄子は考える。
そしてアルテナという女性には違う基準で尊敬も感じる。
「ちゃんとしているのですね。わたしは見たままの存在です」
悲しく履かない作り笑いを残して、浄子はギガンティックドールに搭乗するでもなく乗り上がり腰掛けた。

>> あの機械兵がいつの日にか停止する時、
>> その心に幸せが溢れていることを願う

今の彼女たちが共有している願いはこれだろうか。

「ねえ、ギガンティックドール。あなたは名前が欲しくない?
 あなたがあなたであるために、それを持つことは良い事よ。」

>> 「あァ!? 悪ゥ!? しらねェなあどうでもいいなァああオイ!
ゲッツの言葉は開き直った物に聞こえない。
彼が彼の現実を受け入れればそのように言うのだろう。
浄子はゲッツに叫んだ。
「ねえねえ、ゲッツおじさん。わたしってさ、あなたを救済するつもりなの。
 永遠に続く破壊から逃れたくなったら声をかえてね。飽きたってのもあり」
楽しそうに危険人物をからかいながら兵器に腰掛けて道中を通る。

そしてミゲルを引き連れた"それ"がいた。
>> 「――――任を終えたか。ならばもう休め。
>> 眠りにつけば、もはや何も考えず、苦しむことはないのだから」
ミゲルは演説を行うように大仰に語る。
「この道具は命令にならば違反したが役はこなした。
 しっかり働いた。縁に導かれて敵味方の区別もなく個々に役者を引っ張ってきた。
 妙麗寺浄子ぉぉお。アインオフソウルでもないイレギュラーまでここに運んで来てくれた。
 素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!なんという高機能マシーン!!」

>> 「……この地に於いて、強者は弱者となる。
>> 私は眠りの守人、〝怠惰のアイン・ソフ・オウル〟の顕現[アヴァター]。
>> 最も弱く、そして最も強きアイン・ソフ・オウル。それと見える勇気が、お前たちには有るのか?」
ミゲルは意識が薄れていくのを感じた。これはいずれ消えるのだろう。
「あ・・・れ…わたしの生命も…薄れていますが。これはどういう事でしょう?」
怠惰のアイン・オフ・ソウルの力を受けて緩慢に死にゆくミゲルは"それ"に問う。
「死である。」
「死?死ぃぃぃいいい!!」

>>「……ちィ――ッ!! 力が……ッでねェ!?」
影響を受けるゲッツに浄子が声をかける。
「死んでしまったなら、死んでから暴れたらいいのでは?
 意志は約束ですよ。生きてなかったら…果たせないものなのかなぁ…」
死の苦しみと多幸感を同時に味わいながら浄子は答えた。
「煙草よりも良いものですね。戦いが終わればもう一度殺していただきたくも思います」

死は個ならば停滞させるが常にそうなのだろうか。浄子は悟りに僅かに近づきつつある。
だからこのピンチに焦りも感じず、だからなにも考えず、ギガンティックドールの名を考えていた。

「破壊者が持つのは力。でも力には善悪なんてない。リキ。
 気に入って貰えたらリキという名前を受け取ってもらえないかな?」
死に蝕まれながらも意にも介さない少女はギガンティックドールをリキと呼ぶことにした。
「あなたは何がしたい?難しいことは考えないでいいの。
 例えばわたしが好きならわたしを守ってちょうだい。」
228 : アルテナ ◇yG7czCnxXA代理のゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/05(水) 23:34:44.06 ID:RPCfvOrA
ホバークラフトのなか。
アルテナはふと、竜人と浄子の会話を思い出し考えていた。
はたして自分の行いを、本当に悪行と思って生きているものなどいるのだろうか。
生き物を食べるのはかわいそうと、少女のころアルテナは思ったことがあった。
でも今は仕方ないことと思っている。
それは自分が生きるため。ある種、生き物の宿命を背負った感じだ。

我が民族はあの動物は食べないとか
民族や個人によってそれぞれの考え方は多様であって
この世に悪などないのだろう。
でも、いちいちそれを線引きして自分にとっての悪を説明するのが厄介なので
人は悪という言葉をつくったのかも知れない。
それが独り歩きして善が叩きのめすための悪になりはててしまったのだろう(アルテナの感想です(^o^;))

(でも私、マーくんをこの世で最高のハンマーにするためには悪にもなれると思う…)

「いいえ、ならなきゃ…」
何かのためになら悪にでもなれるという麻薬のような陶酔にアルテナはサイコハンマーの柄を強く握りしめる。
そのためにここに来たのだから…。
おもむろに立ち上がり窓の外を見るアルテナ。すると何故か目眩がした。
次に何処かへ堕落するような感覚が全身を襲いアルテナはエスペラントの衣服にしがみついたまま転倒してしまう。
そう、アルテナは本当に落ちていた。
ギガンティックドールの腹の中で母体ごと地表へ落下していたのだ。

「な、なに?なにがおこっているのよぉお~!」
窓の外に見えるのは怠惰の世界。そう、これがアイン・ソフ・オウル。
機械兵が求めていた大義の真贋。

>「――――任を終えたか。ならばもう休め。
眠りにつけば、もはや何も考えず、苦しむことはないのだから」

アヴァターの囁きに、ギガンティックドールの機能は停止してゆく。
そしてそれに悟りかけの浄子が、すべてがなかったことのように語りかけている。

>「あなたは何がしたい?難しいことは考えないでいいの。
例えばわたしが好きならわたしを守ってちょうだい。」

「……ギ、ギ、死にたくない。我が名はリキ。ジョウコを守りた……」

――プツン。

ギガンティックドールは沈黙した。
生まれて、名前を与えられてすぐに殺されたのだ。
指令のためなら死すら怖れなかった機械兵が最後に名を与えてくれたものを守るために生きようとしたのだ。
その時だった。ドクンと空間が鼓動する。
するとアルテナのもつサイコハンマーが鳴動を始めた。
それはまるで赤ん坊が泣いているかのようだった。

『ぶっこわしちまえアルテナぁ。こんな世界ぶっこわしちまえよぉ』

「え?」

『オレはリキがかわいそうでならねぇ。
まわりを見りゃわかるが、アイツのやってることは自分以外は認めねぇってことだろ。
冗談じゃねぇぜ。
こっちは生まれたてでスクスク育ちてぇんだよ。
つまりよぉ、いけすかねぇ怠惰やろうは独りで棺桶のなかで眠ってろってことだぁ』

「そ、そう。わかったわ。戦うのね」
アルテナはサイコハンマーを手にさもしい大地に躍り出る。
229 : アルテナ ◇yG7czCnxXA代理のゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/05(水) 23:35:14.56 ID:RPCfvOrA
外に出たアルテナはまず竜人をジト目で見つめた。

「もう、情けない…。私はあなたに何を学んだらよかったのよ。
自慢の生体金属はまだ眠ったままなの?」
ほうと溜め息をはくと今度は
サイコハンマーがフォルテにいう。

『リキのレクイエム。派手なのを頼むぜ。ぐっすり眠ってる奴等も、
しゃっきり目が覚めちまうくらいのおよぉ』

次にハンマーを構えたアルテナは、浄子を見て……

「宗教家さんがこんなときどう思うのかは私はわからないけど、
私、あなたのことを守ってみせる。もちろんあなたのためじゃなくってリキのためよ。
だからあなたもあなたを守ってね…」

アルテナの心は怒りで燃えていた。
エスペラントとアサキムの二人は本当に無力化しているのだろうか。
最悪の場合は撤退も有りうる。
となると戦略としては壁外、超遠距離からの狙撃。でもそれはない。

「ぶっ叩いてあげるから、覚悟なさい!」
と、アルテナは怖じけることもなく叫ぶ。
サイコハンマーで、アヴァターの精神を破壊するつもりだ。

「私たちは完全に近づくために努力しているんだから、
眠って休んでる場合じゃないのよ!」

――ドンッ
サイコハンマーがアヴァターの側頭部に衝突。
よろよろとよろめく怠惰のアイン・ソフ・オウル。
今アルテナが破壊しようとしたのは怠惰。それは天位のレベル。
そう容易い相手ではなかった。
230 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/02/06(木) 22:16:54.91 ID:63eBVbu6
>「ごめんね、フォルテさん。心を直接いじっても良い結果は出ないみたいです。ただ普通に説得します。
 これからも同じ事を繰り返しそうな気はするけれど、それをわざとやっちゃいけないと思いました」

げっ、地の文全部筒抜けなの!? 仏パワーパネエ。
確か本人が聞いてほしいと思っている思考は聞こえるという話だったけど……つまりオレ精神的な露出狂ってことじゃん!
いやいやいや、ゲッツじゃないんだから! あれは肉体的な意味でも露出狂だけど!
ま、いいや。地の文にも”信頼できない語り手”のフィルターかかってるし。
( ´∀`)<自分で言うなモナ!

何はともあれ、ギガンティックドールは無事にホバークラフトに変形した。

>「これ以上戦う理由が無い、それに中では何が起きているのか
一刻も早く知る必要がある」

「やべーよ、きっと洗脳されて強制労働させられてるんだよ!?」

エスさんに続いて乗り込む。

>「――はン。殺る気もないのにポーズだけ見せやがってよ」

「早く乗れよ! 何、乗りたくない?」

……乗ってかないと攻撃されるんちゃう? まあいいやゲッツだし大丈夫だろ。
移動中に仲間の様子を見てみると、アルテナさんは荷物に隠れて震えていて、浄子さんは妙に落ち着いている。
先程までとはまるで逆だ。まあ浄子さんは主導権を握る方が入れ替わったのだろう。

>「ねえねえ、ゲッツおじさん。わたしってさ、あなたを救済するつもりなの。
 永遠に続く破壊から逃れたくなったら声をかえてね。飽きたってのもあり」

「げえっ!? 何言ってんの!?」

あらゆる意味で何たる命知らず!
確かに筋肉ムキムキマッチョで見た目貫録すごいけど実は美少女耐性0の超純情ピュアボーイなんですけど!?
お兄さんと呼びなさい!
いや、そこじゃなくて(そこも重要だけど)救済するとか言っちゃいけないって言ったじゃん!
仏モードの浄子さんは手におえそうにないので、アルテナさんに話しかける。

「アルテナさん、科学者のあなたには難しいかもだけどこの旅に付いてくる秘訣は深く考えない事だ!
これから”科学的に考えたら負け”な事がわんさか起こるんだから。
んじゃ、オレは着くまで寝るから。おやすみ~」

椅子の背もたれに背を預ける。その時、ホバークラフトが停止した。

「――え」

飛行中の物が停止するとどうなるか。当然重力に任せてフリーフォールだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
231 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/02/06(木) 22:18:33.96 ID:63eBVbu6
例によって、ローマ字入力ではとても表現できない絶叫をあげることと相成った。
永遠とも思える10秒の後、着地。ゲッツの活躍のお蔭で何とか生きていた。
意識を失わなかった自分を褒めてあげたい。
落ち着いてくると同時に目に飛び込んできたは、異様な光景。

「うわ、この街浮浪者ばっかじゃん! 何が完全管理だよ管理失敗してるじゃん!」

>「――――任を終えたか。ならばもう休め。
眠りにつけば、もはや何も考えず、苦しむことはないのだから」

胡散臭い黒ローブが手をかざすと、ホバークラフトが機能を停止する。
流石のオレも事態の重大性を認識する。
浮浪者とかホームレスとかいう生易しい物ではない、もっと恐ろしい物の片鱗を見てしまったぜ……!

>「……この地に於いて、強者は弱者となる。
私は眠りの守人、〝怠惰のアイン・ソフ・オウル〟の顕現[アヴァター]。
最も弱く、そして最も強きアイン・ソフ・オウル。それと見える勇気が、お前たちには有るのか?」

ゲッツがいつも通り殴り掛かる……が。ぺちりって何だぺちりってwwwwww
もしかして“もう、おイタしちゃダ・メv”なんて言っちゃう!?
ムキムキマッチョの外見とのギャップで新たな一面を開拓しちゃう!? それはちょっとチャレンジャーすぎるぜ!

>「……ちィ――ッ!! 力が……ッでねェ!?」

「なっ……なんて……なんて……」

オレは戦慄した。

「なんて……素晴らしいんだ! 喧嘩暴力一切無し! 安眠妨害0!
神位についた暁には毎日が日曜日の世の中が実現しちゃう!
よーし、寝るぞ! 昼のワイドショーの時間まで起きないから邪魔すんなよ!」

「はいどうぞ」

そして寝る気満々でリーフが敷いた布団に潜りこんだ!

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

「寝れねぇええええええええええええええええええええ!!」

飛び起きながら布団を蹴り飛ばす。

「超寝る気満々なのに寝れねーし!! 詐欺じゃねーか!」

「〝怠惰〟の能力はあらゆる意志の放棄……やる気満々で寝ようとしたから逆に寝れなくなったんですね!」

リーフの解説に、いかにも小物っぽいカルト宗教の幹部みたいなおっさんが食いつく。

「まさか……そいつ、それを狙ってやったというのか!?」

「いえ、ただの馬鹿です」

身も蓋もなく切りかえすリーフ。せめて天才と紙一重とか言ってよ!
232 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/02/06(木) 22:20:55.12 ID:63eBVbu6
>『リキのレクイエム。派手なのを頼むぜ。ぐっすり眠ってる奴等も、
しゃっきり目が覚めちまうくらいのおよぉ』

「よし任せろ!」

マー君の声に応え、モナーが変身した楽器は壮麗なグランドピアノ。
科学者のアルテナさんにとっては理解不能の現象かもしれないが質量保存の法則なんて気にしたら負けだ。

>「ぶっ叩いてあげるから、覚悟なさい!」

アルテナさんが殴り掛かるが先程のゲッツと同じ結果に終わるだろう。
……と思ったが、どんっと鈍い音が響いた。

>「私たちは完全に近づくために努力しているんだから、
眠って休んでる場合じゃないのよ!」

アルテナさんの一撃を受けた怠惰の顕現が確かによろめいた。
ゲッツの攻撃が全く通じなかった事を考えれば特筆に値する事だ。
そうか、マー君は相手の精神に影響を与える武器……! 使いようによっては一片の勝機はあるのかもしれない。
ピアノの椅子に腰かけ、アルテナさんとマー君に挑発するように声をかける。
戦ってもいない奴が偉そうに語るなというツッコミは尤もである。
でも何の小細工も無しに邪魔する者を薙ぎ倒していくのは一見簡単なようでとても難しい、ゲッツの専売特許だ。誰にも真似は出来ない。

「真っ向から殴り掛かかってぶっ潰すだけが戦いじゃないんだぜ?
折角天才的科学者と精神を操るハンマーのコンビなんだからさ、やる事がそこの脳筋マッチョと一緒じゃあ勿体ないだろ?
キミ達にしか出来ない戦いがあるはずだ……それが何なのかは分からないけど手伝う位ならできる」

アイン・ソフ・オウルに対抗できるのは”世界”の力だけ。
オレも一応アイン・ソフ・オウルらしいので、ここは普通にいかにも目が覚めそうな激しい歌でも歌うところだろう。
しかしそれでは駄目だ。アイン・ソフ・オウルとしての格の差がありすぎる。
そもそもオレの”世界”は真っ向勝負にはあまり向いていない気がするのだ。ならば――
深く息を吸い、左手の小指を鍵盤に落とし最初の一音を響かせる。
弾きはじめたのはリクエスト通り、ド派手で、目が覚めそうな曲。そして――文字通りのレクイエムだ。
ただし、死者へ送る曲のはずのそれに付く枕詞は”生誕”。”生誕のレクイエム”。
協和するべく計算されつくした不協和音の連なりで、メロディーを織り上げていく。
禍々しさと荘厳さ、静けさと激しさ、圧倒的な存在を前にした絶望と未来への希望
その題名が現す通り、相反するものを内包した不思議な曲調。
そう、この曲は“怠惰”の作り出したこの情景に抗わない。それどころかBGMとして見事にマッチしてしまうものだ。
だからこそ、打ち消されずに効果を発揮し、圧倒的な力の差という理をすり抜け”世界”を浸食する事が出来る。
この曲の本質――それは死の先にある再生への祝福だ。

「ちょっとは攻撃通るようになったんじゃないかな? 一曲終わるまでに頼んだぜ!」
233 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2014/02/08(土) 02:54:14.43 ID:UOdtbzy9
>「アインソフオウルって何なのかしら。
 内なる仏はわたしに何も教えてくれないままわたしと同化したわ。
 この世界の事を理解するなり自分でお前が掴めですって。
 悟りは引き継げないのだそうよ。
 スパルタ教育が趣味なのかしら わ た し は。」

「僕にもなんとも言えないけれど、この世界にとって悪影響を齎す者か
それとも別の何かを与えるのかどちらにせよこの世界の外側からの人間としての意見は
君の意志でいや自分の意志で見極めて判断して決めるべきだと思う」

自分は所詮何処まで行っても恒久戦士―世界と多くの世界の災禍の炎を消す火消しに過ぎない
だからアインソフオウルについて自分の目で見極めていかねばならない
考えようによってはこの地のある意味解放のきっかけを作ったとも取れる
彼らが居なければ何時までも進展しなかった物がこのような形で起こっている

(しかしそれはさすがに考えすぎか―――)

それから至ったある考えがあったが今はそんな思案をしている場合ではない
すぐに思考を切り替える。

>「やべーよ、きっと洗脳されて強制労働させられてるんだよ!?」

「それも考えられるが、奴等が単純にそんな目的で訪れたとも―ッ!?」

進んでいたホバークラフトは突然停止し、アルテナが服にしがみ付いて転倒したため
釣られて勢い余って転んでしまう

「おい大丈夫かアルテナ女史?」

気になって起こしに行こうかと起き上がろうとしたとき急激に力が抜けていく
まるで自分の力が行き成り半減していくように

>「――――任を終えたか。ならばもう休め。
眠りにつけば、もはや何も考えず、苦しむことはないのだから」

そしてこの言葉の通りに自分は何も出来ないうちに
ギガンティックドールの機能は停止した。
234 : エスペラント ◆hfVPYZmGRI [sage] : 2014/02/08(土) 03:22:29.50 ID:UOdtbzy9
「き…貴様……何者……だ……」

やはり力が思ったとおりに出せない
多世界からの力の供給が無い状態は殆ど己の力のみしか使えない状況下ではあるが
幸いにもナイトウィザードの月衣と似たような世界結界―空司により半分以下にはならず
力が少しずつではあるが戻りつつあるとは言え眠りに対する相殺で力を使うか
良くて完全に戻るには時間が掛かるだろう。
なってはいるがそれでも簡単には動けそうに無い

>「……この地に於いて、強者は弱者となる。
私は眠りの守人、〝怠惰のアイン・ソフ・オウル〟の顕現[アヴァター]。
最も弱く、そして最も強きアイン・ソフ・オウル。それと見える勇気が、お前たちには有るのか?」

「顕現(アヴァター)だと…?」

なんとか必死で起き上がろうと足掻きながら片手には無命剣フツノミタマを召喚し
怠惰のアイン・ソフ・オウルの分身かあるいは眷属に近い存在と思われる者が
このような事態を引き起こして居る事はわかった。

このままでは不味いと思った最中、影響が最小限もしくは受けていない者達が居た
アルテナやフォルテと言った者達は怠惰のアイン・ソフ・オウルの顕現(アヴァター)と戦い始めている。
だがやっと立ち上がるもすぐに立ち膝の状態になる。

「くっ…今はただ戦っている彼女達を見ているしかないのか…」

力を半減させる脱力感と現状では抗える段階の眠気と戦い
必死に脂汗を搔きながら抗う今はそれがただ精一杯だった。
しかしこのままにしておくわけにはいかない、だからそれでも必死に立ち上がるが
あくまでもそこでまた息を荒くして、一息付かねば歩けないという状態だった。
235 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2014/02/09(日) 07:39:50.10 ID:3oYRRrmn
 停止した巨大な機体に近づくと手を当てる。
「リキ、ごめんね。心の事もっと沢山知って欲しかった。
 ねえリキ、わたしには分かりやすい大きな力はないよ。
 でも一所懸命に何かをする事はできるの。これこそが心の力。
 あなたも持てた力、誰でも持てる力、そして強い力。」
 羂索を取り出し、錫杖を立てた。
「見せてあげる。だから見ていて。」
 しかし意志も意思も挫くのが怠惰というものらしい。
 アヴァターに近づこうと考える事すら億劫だ。
 何かをしなくてはと思うほどごっそりとやる気が削がれる。
 
 鈍い音が鳴り響く。
 見ればアヴァターがサイコハンマーで頭を殴られていた。
 アルテナから離れた場所ではフォルテがレクイエムを奏でている。
 こういう荒事が得意そうなエスペラントは妙に大人しい。
 何が起こっているのかは考えない。何故ならば面倒くさいから。
236 : 妙麗寺浄子 ◆KUXnbhFuWU [sage] : 2014/02/09(日) 07:40:30.44 ID:3oYRRrmn
 そうだ、アルテナからは「わたしを守って」とも言われていた。
「う~ん。あ、それでいいかも…?」
- 行動の意味を変えるんだ -
「わたしは自分では何もしない。戦いは押し付けてしまおう。」
- 行動の意味を変えるんだ -
「それでも自分でやりたい、やらなきゃ→だるい、誰かに押し付けよう。→
 それでも自分でやりたい、やらなきゃ→だるい、誰かに押し付けよう。→
 う~ざ~い~」
 思考のループにも飽きてきた。
 生きることすら面倒だ。ただし死ぬのも面倒くさい。
 通り魔同様の自棄っぱちな精神状態だ。
 だがこの非生産的極まりない精神状態もまた身体を動かせるようだ。

「こんな所でも何秒か持ちそうなイライラを持ってるんだけれど、だれかこれいります?」
237 : アルテナ ◇yG7czCnxXA[sage] : 2014/02/11(火) 22:33:37.96 ID:Ha24SF3i
>「真っ向から殴り掛かかってぶっ潰すだけが戦いじゃないんだぜ?
折角天才的科学者と精神を操るハンマーのコンビなんだからさ、
やる事がそこの脳筋マッチョと一緒じゃあ勿体ないだろ?
キミ達にしか出来ない戦いがあるはずだ
……それが何なのかは分からないけど手伝う位ならできる 」

「ふむむぅ……」
珍しく真面目なフォルテの言葉にアルテナは思わず納得してしまう。
それもそうなのだ。
竜人の生体金属が肉食系としたら
サイコハンマーはまた別物。
鍛え上げかたに違いがあるはず。

するとなにかを思い付いたアルテナはてけてけとリキによじ登り
ハンマーでそれを思いっきり叩いた。
それはブレインジャックだった。
リキの空っぽの魂なら大きさを関係せずに容易に操れる。
そして死と再生の歌の流れるなか、ホバークラフトは息を吹き替えし再起動。

『リキぃ。体借りるぜぇ』
サイコハンマーに制御されたホバークラフトがアヴァターに突撃する。

「みんな、はやく乗って!」
アルテナが叫ぶ。
見渡せばへろへろのエスペラント。
怠惰に飲み込まれかけの浄子。
まともなのはフォルテくらい。
竜人も様子がおかしい。

アルテナは、ひとまず全員を回収してホバーで戦うつもりだ。

「これでもくらいなさぁいっ!」
備え付けの機銃を使い、アルテナはアヴァターにむかい時間稼ぎの連射を開始。
もうもうと硝煙が立ち込める。

「このこのこのこのっ!
怠惰のアイン・ソフ・オウルの顕現?
いったい何が目的なのよっ」
238 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/14(金) 16:33:25.83 ID:6vwhr2hn
「――――ッオォオォォォォォァッ!!!!」

雄叫びを上げて、全身を軋ませながら立ち上がるゲッツ。
怠惰は、己の力に耐えぬく事すらを放棄して肉体の自壊を生じさせ始める。
それを災厄のアイン・ソフ・オウルで相殺しながら無理矢理に己の存在を誇示し、己を維持していく。

>「顕現(アヴァター)だと…?」

「――私は怠惰の世界の具現。アイン・ソフ・オウル、バアル・ペオルの代弁者。
…………私は怠惰を得ぬ代わりに怠惰以外を得ている。
故に、死という怠惰を持たぬ故に私は生きている。――――私を殺すことはかなわない」

エスペラントの発言に、ゆっくりとした口調で答えていくアヴァター。
掠れ、軋み、枯れ果てた歪な声。その声の向こうにある存在は、ローブによって覆い隠されている。
そして、己がアイン・ソフ・オウルではないと語り――そしてただ無為にそこに立つ。

>「私たちは完全に近づくために努力しているんだから、
>眠って休んでる場合じゃないのよ!」

>「ちょっとは攻撃通るようになったんじゃないかな? 一曲終わるまでに頼んだぜ!」

フォルテの音響が世界を調律する。あるべき姿に、馴染むように――そして、その間隙を縫い振るわれるは鉄槌。
一瞬よろめき、吹き飛び掛けるもそのままその場に停滞するアヴァター。異様にこの存在は、硬い。
このアヴァターの能力は、単純明快である。〝怠惰の世界で怠惰に飲まれない〟という事、それ以上でも以下でもない存在。
そして、それでこの戦闘力を保持している理由もまた、明快だ。すなわち――強いから強い。地力が段違いに高い、存在の密度が高い。
故に、ハンマーで叩かれようと、精神を砕かれることなくそこに或る。

「……揺らがんな。……それでは、私の妹を起こすことは叶わん。
マモンは貴様らならば奴を起こせると語っていたが――期待はずれだったようだな」

ローブ姿の男は、揺らがず傷を追わずそこに居た。
あらゆるものが弱化し、あらゆるものが朽ちゆく怠惰の世界――そこに置いて弱化せず朽ちぬという事はそれだけで脅威。
そして、ローブ姿の男の発言が聞こえただろうか。まるで、敗北を望んでいるかのような、そんな言葉――。

「…………私は、上がりたいのだ。この世界から、このシステムからの開放を。
朽ちているのに朽ちることを許されず、眠りたいのに眠ることを許されぬ。
それを貴様らが終わらせてくれると聞いた故に――ここに居る。…………まだだ、まだ足りん」

襲いかかる機銃掃射、鉛弾の群れがローブを貫き、粉々に粉砕していく。
――そして、ローブが千切れ去った後に残っていたのは――。

「私は怠惰を許されない。死しても、眠りたくとも、座したくとも」

乾燥し、骨格の大半が顕となった異形――稼働するミイラそのものだった。
髑髏がカタカタと顎を動かし、そして右手を掲げた直後。
首から上が、〝鋼の腕〟にちぎり取られた。その頭を握りしめているのは――赤黒いオーラ、アイン・ソフ・オウル特有の色彩を吹き出す、竜人ゲッツ。

「――――ッヒヒャハハハッハハハハハッハハア――――――――――――ッ!!
おうおうおうおうおう! 楽しいなァ!? あァ!? 死なないィ!? 上等じゃねえか死なないのがなんだあァン!?
死なねえなら死ぬまで殺せばいいんだろうが!! 上等、まったくもって上等だ――ッ、いい加減苛ついてんだよ――――ッ!!」

狂笑を響かせ、歪に未だ完全には力を取り戻していない鋼の義手で頭蓋を締めあげて。
竜人はげらげらと――〝まるで枢要罪のような〟狂いぶりで笑う。毒を持って毒を制すのだろうか。
〝不幸にも〟残った首から下の部位は――朽ち果て、風化し、砂となって消えていった。
239 : ゲッツ ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/14(金) 16:34:18.89 ID:6vwhr2hn
「私を滅ぼすには、怠惰を滅ぼさねばならん。
……会わせてやろう、待っていたんだ。僕は――僕と妹を終わらせてくれる人を」

竜人の手の中で、いまだ朽ちずに声を響かせる髑髏。
そして、髑髏が一瞬周囲の空間を歪めたかと思えば、天を貫く塔、都市管制システム、アシュラ・クロックの座する原子力タワーが変貌していく。
最上階を除き、全ての外壁が朽ちゆき骨組みを残して滅びていく。
そして、塔は天から降る雷撃により砕かれ――地上に向かい、最上階は落下していく。
核シェルターの数万倍の強度を誇ると言われるホストコンピュータを要する最上階ブロックは、地上に落下して尚その形を保っていた。

「――やっと本丸か。喧嘩するには上等じゃねえか――?」

にやり、と嫌な笑顔を浮かべ、竜人は歪んだ義手に骸骨を握りしめたまま皆に手を振り、我先にとその地上に落ちた最上階へと向かう。
そして、防護壁――物理的魔術的防護を考慮したそれは、概念には弱い――を粉砕し、中へと躍り込む。
防壁を抜いたその先に居た、在ったのは――――。

――死した少女だった。

否、死しているというのは不的確だろう。
その少女は、世界最先端の生命維持装置によってその生命を維持されているのだから。
心臓は機械により強制的に動かされ、脳はアシュラ・クロックに直結され生体コンピューターとして活用されている。
肺には強制的に酸素が送り込まれ、血管の血流、排泄、消化。全ての生命活動を、その少女は外部に依存している。
要するに――生きるリソースの全てを外部に委託している、眠れる少女。それは、すでに死んでいるといっても過言ではなかったろう。

「コイツが――――」

「――――そうだ。彼女が僕の妹。怠惰のアイン・ソフ・オウル。バアル・ペオルだ」

外壁が朽ちゆく。己の生命維持に必要な物以外の全てが、朽ちていく。
外に満ちていた浮浪者の群れが、ついにその生を絶とうとしていた。
彼女は、何もしていない。強いて言えば〝この世に生を受け、ここに或る〟。
それだけで都市を滅ぼし、死の世界を作り上げる事ができる――それが、怠惰のアイン・ソフ・オウル、バアル・ベオルという少女だった。
240 : アルテナ ◇yG7czCnxXA代理 ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/18(火) 23:38:06.27 ID:ZN6BqRN0
「あ、私……」
機銃を放ちながら冷静になるアルテナ。
黒マントの男にハンマーが効かないのは、彼が怠惰のなかで怠惰にならざる存在だから。
ゆえに彼は決して眠ることも死ぬことも許されない。
……ということらしい、が。

(だからって私。機銃を撃っちゃうなんて……)
それは研究者としての血が騒いだのかもしれない。
アイン・ソフ・オウル、実在の証明のためのだ。

>「私は怠惰を許されない。死しても、眠りたくとも、座したくとも」

「……これって本当にアイン・ソフ・オウルの影響なの?」
アルテナは、今だ半信半疑だった。
だがこの空間には確かに強力な異能が実在している。
そして竜人ゲッツの凶行。
自分のことを棚にあげては言えないものの
彼の手のなかで首だけとなった顕現は叫んでいた。

>「私を滅ぼすには、怠惰を滅ぼさねばならん。
……会わせてやろう、待っていたんだ。
僕は??僕と妹を終わらせてくれる人を」

その時、アルテナは戦慄する。
髑髏が一瞬周囲の空間を歪めたかと思えば、
都市管制システム、アシュラ・ クロックの座する原子力タワーが変貌していくのだから…。
それはまさに悪夢だった。
最上階を除き、全ての外壁が骨組みを残して滅びていく。
241 : アルテナ ◇yG7czCnxXA代理 ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/18(火) 23:38:36.96 ID:ZN6BqRN0
雷鳴。轟音。

『ギガンティックドールっ……ヘラクレスモードぉ!』
降り注ぐ瓦礫から皆を守る巨影。
土煙のなか現れるのは地上に落ちた塔の最上階。
……アルテナは唾を一つ飲み込んで
「……ありがとうリキ。いってくるね」
そう巨兵に呟き、ハンマーを手に竜人に続く。

>「コイツが????」
>「????そうだ。彼女が僕の妹。怠惰のアイン ・ソフ・オウル。バアル・ペオルだ」

そこには最新鋭の科学技術が集結していた。
アルテナは縁なし眼鏡を指でくいとあげ眠れる少女を見つめている。

「で、その子とあなたを怠惰から解放しろっていうの?
散々やっといて随分とむしのいい話じゃない。
まあ、本人たちに悪気はないのかもだけど……」
少女の呼吸音を聞きながら、
アルテナは憐れみを感じていた。
生きる喜びを感じることもない少女。
と同時にその様相になるほどと思っていた。
怠惰というものは人の心の中にしかなく
少女の生命を維持しているものは機械。
機械に怠惰というものは多分なく、
あるものは動いているか止まっているかだけ。
だから魂をもったリキは怠惰に飲み込まれてしまったのだろう。

「物に怠惰という概念はないから、
この生命維持装置は怠惰のアイン・ソフ・オウルに影響されず、
バアル・ペオルの生命を維持しているのかも…」

かも……。はず……。そんなはず。
でも何かが心の何処かに引っ掛かった。
じゃあなぜ塔や壁は朽ちたのか?
少女だけを維持したまま他者に怠惰を与え続けるのか?

「……」
アルテナは動かない少女に急に恐怖を感じる。
その肉体から、存在から、少女はまるで、
意志をもつものすべてを呪っているかのような気がした。

(……まさか、この子。未来に進むことさえも拒絶しているの?
いいえ、そんな思考さえないのかな。
それならそれは……究極の怠惰よね。
ただそこにとどまったまま、他者に死を与え続ける……)

フォルテの唄った死と再生の歌。
アルテナは、勘違いしていた。
死んだものは生き返らない。
再生するのは生きていたものが残した命。
死を糧に命は成長する。
怠惰の果てに生はないのだ。
242 : アルテナ ◇yG7czCnxXA代理 ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/18(火) 23:39:09.29 ID:ZN6BqRN0
「ふむむ~」
アルテナの顔に朱が昇る。
とどのつまりアルテナがやらなければならないことは少女の解放。
生命維持装置を停止し死を与えることでもない。
医師の端くれとして少女をアイン・ソフ・オウルの呪縛から解放する。
怠惰でありながら、自ら怠惰の海に浮かび
死ぬことも許されない少女を救出する。
その後少女が己の所業に懺悔するもしないも本人の自由。
黒マントの兄の願望など知ったことではない。

「たぶん怠惰は、この子と一緒に虚無になろうとしてるのに、
それを邪魔してるのがその生命維持装置。
朽ちて自然に帰るという循環というベクトルを停止させ
何処にも進ませないという、
それもまた怠惰の形。
それならいっそのこと私はベオルの名前を破壊する。
アイン・ソフ・オウルの力と少女の肉体の繋がりを破壊する。
みんなはそれでいい?」
サイコハンマーを振り上げるアルテナ。
結論としては物質にも影響を及ぼしているであろうアイン・ソフ・オウルの恐るべし力。
皆の承認を得れば、アルテナは少女にハンマーを降り下ろすことだろう。
243 : アサキム◇JryQG.Os1Y代理 ◆Sin.5EUo9A [sage] : 2014/02/18(火) 23:39:40.18 ID:ZN6BqRN0
>「顕現(アヴァター)だと…?」

))「――私は怠惰の世界の具現。アイン・ソフ・オウル、バアル・ペオルの代弁者。
…………私は怠惰を得ぬ代わりに怠惰以外を得ている。
故に、死という怠惰を持たぬ故に私は生きている。――――私を殺すことはかなわない」
「輪廻からハズレしものか」
その情報を一つづつ確認していく
そして中に行くと
その少女は、世界最先端の生命維持装置によってその生命を維持されているのだから。
心臓は機械により強制的に動かされ、脳はアシュラ・クロックに直結され生体コンピューターとして活用されている。
肺には強制的に酸素が送り込まれ、血管の血流、排泄、消化。全ての生命活動を、その少女は外部に依存している。
要するに――生きるリソースの全てを外部に委託している、眠れる少女。それは、すでに死んでいるといっても過言ではなかったろう。

))「――――そうだ。彼女が僕の妹。怠惰のアイン・ソフ・オウル。バアル・ペオルだ」
「………」
(生命が朽ち果てているな……むごいな)
(しかし…何故だ)
(…何故何でこうも…他とは違う…感覚を覚えるのだ)
アサキムは苦悩する…
「少し…陰と陽の感覚を改めなければな…」
(今はこの光景を…観察せねば…)
己が力を得るためアサキムはこの光景を焼き付けんとす
244 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/02/20(木) 02:08:49.32 ID:7mkQs/Mr
>「このこのこのこのっ!
怠惰のアイン・ソフ・オウルの顕現?
いったい何が目的なのよっ」

アルテナさんの操るホバークラフトの機銃が炸裂。
相手の防御力に弾かれるものの一応攻撃が加えられているだけ一歩前進というところか。
黒ローブは機銃の連射をくらいながら、静かに目的を語り始めた。

>「…………私は、上がりたいのだ。この世界から、このシステムからの開放を。
朽ちているのに朽ちることを許されず、眠りたいのに眠ることを許されぬ。
それを貴様らが終わらせてくれると聞いた故に――ここに居る。…………まだだ、まだ足りん」

「まさかオレ達を呼び寄せるためにドナドナしてたの?
七面倒臭いことするなあ! フツーに頼んでくれりゃいいのに。ここまでして駄目だったらどうすんだよ」

>「私は怠惰を許されない。死しても、眠りたくとも、座したくとも」

本体の性質を密度を薄く範囲を広くしてそのまま体現するのが顕現だったはず。
しかしこの顕現は本体とある意味正反対ではないか。
もちろんゲッツはそんな事は気にせずに――鋼の腕で相手の首から上をちぎりとった。

>「――――ッヒヒャハハハッハハハハハッハハア――――――――――――ッ!!
おうおうおうおうおう! 楽しいなァ!? あァ!? 死なないィ!? 上等じゃねえか死なないのがなんだあァン!?
死なねえなら死ぬまで殺せばいいんだろうが!! 上等、まったくもって上等だ――ッ、いい加減苛ついてんだよ――――ッ!!」

とりあえず腕出てよかったね!
ゲッツの漢攻略(小賢しい小細工をせずに漢らしく攻略する事)が何故か功を奏して本体に会わせて貰えることと相成った。

>「私を滅ぼすには、怠惰を滅ぼさねばならん。
……会わせてやろう、待っていたんだ。僕は――僕と妹を終わらせてくれる人を」

顕現は枢要罪が作り出す使い魔のような存在のはずだ。ますます訳が分からない。

「妹さんに会わせてくれるのか。そりゃ光栄。でもこいつはマジでやめといた方がいいと思うぞ。漢らしいのは否定しないけどさあ!
……じゃなくてなんで本体が妹なんだよ。母ならまだ分かるけど。お前、本当に顕現《アヴァター》か?」
245 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/02/20(木) 02:09:56.83 ID:7mkQs/Mr
質問してみるも、それどころじゃなくなった。街の管制システムっぽい塔が目の前でぶっ壊れていく。
そして最上階が落下してくる!

「うえええええええええええええええ!?」

>『ギガンティックドールっ……ヘラクレスモードぉ!』

アルテナさんが皆を瓦礫から守る。
煙が収まってきて見てみると、驚くべき事に最上階はそのまま形を保っていた。
いやあ、良かった良かった。
よくあるダンジョン攻略みたいに塔を地道に最上階まで階段で登れとか言われたらどうしようかと思ったよ。
あれって年寄りには大変優しくないよね! 婆さん飯はまだかのう。……じゃなくて。

「おおおおおおおおい!? 何やってんの!? フツーに案内すりゃ済むでしょ!
そりゃ確かに絵になるけどそんなド派手な演出いらないよ!?」

いっつも行く先々をぶっ壊してる気がするけどこれはオレ達のせいじゃないからね!?
ツッコミどころ満載すぎるよヤンデレお兄ちゃん!

>「――やっと本丸か。喧嘩するには上等じゃねえか――?」

防護壁をぶっこわして中に突入するゲッツ。

「おいっ! 今度は漢攻略通用しないからな!」

一体どんな恐ろしい奴が出てくるのだろうか。
と思いながら中に入ってみると……その先にいたのは、機械でがんじがらめになって眠っている少女だった。

>「コイツが――――」
>「――――そうだ。彼女が僕の妹。怠惰のアイン・ソフ・オウル。バアル・ペオルだ」

>「で、その子とあなたを怠惰から解放しろっていうの?
散々やっといて随分とむしのいい話じゃない。
まあ、本人たちに悪気はないのかもだけど……」

「なーんか妙な話だな……。
コイツが本当に怠け者で何もしないのなら最初に彼女を機械に繋いでこの状態にした誰かがいたはずだ。
まさか年金受給の引き伸ばし目的じゃあるまいし。一体誰が何のために……?
それにゲッツ、前来た時はこんな事にはなってなかったんだろ?」
246 : フォルテ ◆uVQKW6f//c [sage] : 2014/02/20(木) 02:11:30.44 ID:7mkQs/Mr
ここは完全管理都市――余計な事を考えずに機械神の支配に甘んじさえすれば幸福で完全な都市であったはずだ。
世界の再編が近づいた事で、枢要罪としての力が覚醒してしまったのだろうか。
脳は管制システムに接続され生体コンピューターとして活用されているようだ。
誰かが彼女をこんな状態にしたのだとしたら、目的はおそらくこの脳の活用だろう。
それをやった物候補として思いつくのは都市管制システム、アシュラ・クロックぐらいか――?

>「たぶん怠惰は、この子と一緒に虚無になろうとしてるのに、
それを邪魔してるのがその生命維持装置。
朽ちて自然に帰るという循環というベクトルを停止させ
何処にも進ませないという、
それもまた怠惰の形。
それならいっそのこと私はベオルの名前を破壊する。
アイン・ソフ・オウルの力と少女の肉体の繋がりを破壊する。
みんなはそれでいい?」

「うーん……そりゃあ多分無理だな。
アイン・ソフ・オウルっていうのはある日突然よく分からんクッソ汚い淫獣に与えられる便利能力じゃない。
その人が持つ世界のこと、つまり存在そのものなんだ。繋がってるんじゃなくてそれ自身ってわけ」

(※クッソ汚い淫獣……魔法少女もののマスコットキャラやそれに類するキャラのこと)
そう言いながらも、アルテナさんがサイコハンマーを使用する事自体は止める気は無い。
この時オレの頭の中にはある一つの仮説があった。
彼女を生命維持装置に繋いだ当初は、そうする事で都市の永遠の繁栄が約束されのだとしたら――
例えば究極の平穏をもたらす力が何かの拍子に裏返り、最悪の罪の一つ――怠惰へと転化してしまったのだとしたら。

「そんな訳で便利に付けたり外したりはできないんだけど、途中で性質が変わる事は無くは無いみたいなんだ。
見て。脳が都市管制システムに接続されてるみたいだ。
彼女の精神を通して都市管制システムへのアクセスを試してみて欲しい。何か分かるかもしれない」