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【ジェンスレ】キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!4

1 :創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 01:10:42.23 ID:/78XNUPz
【なりきりネタなんでもあり板】通称なな板から来てはや4スレ目。

『キャラクター分担型リレー小説』とは参加者各々が自分のキャラを作成して持ち寄り、共通の世界観の中で物語を綴っていく形式だッ!
通常のリレー小説や合作小説との違いは、『自分が動かせるのは自分のキャラとモブ・NPCとだけ』という点で、GMと呼ばれるスレの進行・まとめ役がいたりいなかったりする。
弊板では『TRPG』あるいは『TRPS』といったタイトルで楽しんでいるこのキャラクター分担型リレー小説を、他板交流の一環として貴板で展開中!

前スレ 【ジェンスレ】キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!3
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1299781333/

キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!避難所
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1292705839/l50
なりきりネタなんでもあり板
http://yuzuru.2ch.net/charaneta2/
なな板TRPGまとめWIKI「なな板TRPG広辞苑」
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/

2 :創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 01:33:14.56 ID:13dftuJ5
以下テンプレ(参加する場合は以下のテンプレの項目を埋めてキャラをつくって下さい)

名前:
職業:
性別:
年齢:
身長:
体重:
性格:
外見:
備考:

3 :創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 01:34:02.57 ID:13dftuJ5
前回までのあらすじッ!

歴史が変わってしまった世界で、魔王討伐の決意をあらたに旅を続けるジェンタイル一行!
ジェンタイル達を追って再会した幼なじみのエクソシスト(神官)・カレンを新たに仲間に加え、舞台は王都・精霊樹ユグドラシルへ。
ボンさんが死んだりラブホを滅茶苦茶にしたりとてんやわんやしながら風精霊を探す最中、
一行は陰険少女マーガレットと出会い、何の因果か対決することに。
ブチギレモードのジェンタイルと何かを企むマーガレット、勝利は一体どちらの手に!?

4 :創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 23:38:44.92 ID:xoqvSpi9
「保守しなくても落ちないのかにゃ?」
ねこは生乾きのコンクリートに満足そうに足跡をつけていた

5 :キャプテンH・スパロウ ◆8Tz9EIe2uc :2011/07/10(日) 23:55:16.46 ID:j+hD/JL3
久しぶり、不在しててすまんな。

名前:キャプテン・H・スパロウ
職業:海賊
性別:男
年齢:4、50過ぎのおっさん
身長:短い
体重:軽い
性格:短気
外見:不細工、ちり毛にアミアミの付け毛
備考:どっかで見た事ある顔のおっさん、今は海賊をしている

6 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/07/11(月) 04:04:42.14 ID:ihkoCrru
>「――汝、マーガレット=アイ=ビビリアンの名において、その真価を示せ」
俺のフランベルジェが振り下ろされる刹那、マーガレットの唇から詠唱が紡がれた。
瞬間、極光。
>「リンクAct2‐魔力附与‐――!」
ギィン!と硬質の衝撃音。肉を断つ手応えどころか、何かに弾かれたような痺れが返ってくる。
ひやりとした風が俺の頬を嘗め、濃霧が晴れれば、そこにいたのは――
>「霊装――極寒騎士《フローズンナイト》!」
氷の鎧と氷の剣を装備した甲冑騎士がそこにいた。
うわ、なにこれカッコ良い。
>「まさか、魔力附与も霊装も知らないなんて……言わせないわよ、センパイ?」
氷兜の奥に光る双眸が、ドヤっと輝いた。

知らなかったよーーーっ!
え、なに、精霊術ってこんなこともできるの?なんで教えてくれなかったんだよ炎精霊!
<<魔力附与も霊装も、対悪魔戦用の殲滅術だからな。汝が悪魔に喧嘩売るつもりならば教えたが>>
あー。そういえば元の歴史軸では、大先輩を初めとして俺はわりと悪魔とも仲良くやってたからな。
必要ないっちゃあ必要ない技術なんだろう。炎の鎧を纏ったとして、それが大学受験にどんだけ役に立つんだって話だし。
ん?じゃあ、なんだ。このエストリス大修道院ってのは、元の歴史軸の時代から悪魔殺しの尖兵を育成してたってことか?
戦争でもおっ始めるつもりだったのかよ。とにかく、ここで明らかな不利を悟られるわけにはいかない。

「あーうんうん、知ってるぜもちろん知ってるよ!精霊の魔力がアレしてコレするやつだろ!」
話を合わせる俺。
>「ジェンタイルさん逃げてぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
場外から叫ぶカレン。
>「もう遅い!!」
レイピアを突き上げ攻撃動作に入るマーガレット。
生まれた氷の刃は、俺のまわりに球状に展開し、その中心へ切っ先を向けて――集束。
>「氷結の処女《アイス・メイデン》――避けきれるかしら?」
望まれる結果は串刺しの俺!
既に逃げ場はない。炎を展開して溶かしつくそうにも、この量はとても捌ききれるものじゃない。
絶対の回避不可領域。迫り来る刃の雨に、思わず目を瞑り――
>「避ける必要なんてないさ、この程度ならな」
覚悟していた痛みは、こなかった。

『なんとぉ!ここでエセチンピラサイドから乱入ー!
 マーガレット女史のアイスメイデンに対し、顔有りペプシマンがバリアで援護!これは明らかなルール違反です!』
広場がざわつく。突如のメタルクウラの闖入と、奴がしたことの意味は、セコンドの領分を越えての過介入。
最初に決めたルールとして、このバトルは完全なタイマンであり、仲間の援護は反則負けだった。
メタルクウラの存在は、間違いなくそれに抵触。この時点で、俺の負けは確定――
いや。
「何勘違いしているんだ……まだ俺のターンは終了してないぜッ!」
『しかし、貴方のお仲間さんが貴方を護る為に介入してきたわけですから、これは貴方側の反則――』
「『錬金魔法』――」
俺は実況を遮って、そう言い放った。
それだけで場の空気が一段と上昇する。これだ。この空気、この雰囲気。この場の全員だって飲み込める、俺のペース。

メタルクウラのボディを軽く拳で叩いて、言う。
「こいつが俺の霊装だ。錬金術によって創りだした金属素体に精霊を宿し、戦闘存在として顕現させる……。
 霊装を超えた、言わば錬金による武装!『武装錬金』――!! 霊装名は『鋼鉄の益荒男《メタルクウラ》』!」
<<またとんでもない嘘が飛び出たな>>
これぐらい突飛なほうが確証を求めづらくてバレにくい。なにより勢いで押しきれる。
もとより、ハッタリと屁理屈は俺の得意分野だ。精霊術で完全に格上のマーガレットに拮抗しうるとしたら、これしかねえ。

『つ、つまり、その顔有りペプシマンはエセチンピラさんの霊装だから反則ではないと……?』
「左様。さあメタルクウラよ!あの小生意気な小娘に格の違いを見せつけてやれいッ!!」
マーガレットを指さして、俺はメタルクウラのケツを叩いた。

7 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/07/11(月) 04:05:16.57 ID:ihkoCrru
>>5
【うおおおおおおおお!おかえりなさい!】

8 :カレン ◆Upd1QvIO9s :2011/07/11(月) 10:31:22.29 ID:QEsGYsTu
マーガレットは今度こそと勝利を確信していた。
だが、彼女等を待ち受けていたのは――――思いもよらない結末だった。

>「避ける必要なんてないさ、この程度ならな」

突如、ジェンタイルの背後に現れるメタルクウラ。
バリアが展開され、氷の刃が弾かれる。水のヴェールを突き破り、ローゼンの額に刺さった。

>「NOOOOOOOOOOOOOO!!」
「いやあああああああロゼ兄ぃーーーーーーーーーーー!!」

ローゼンとカレンの悲鳴をバックに、マーガレットはただただ唖然と開いた口が塞がらなかった。

>『なんとぉ!ここでエセチンピラサイドから乱入ー!
 マーガレット女史のアイスメイデンに対し、顔有りペプシマンがバリアで援護!これは明らかなルール違反です!』

広場が途端ざわめきに包まれ、中にはブーイングを発する者も。
メタルクウラは一旦バリアを解除するとマーガレットに提案する。

>「私の乱入のせいで双方納得がいかないかもしれないが。
マーガレット、この戦いはお前の勝ちだ 」

メタルクウラの言う通り、マーガレットが出したルールに則れば、明らかなジェンタイルの負け。
しかし、誰より一番納得出来ないのは他ならぬマーガレット自身で。
展開は更に思わぬ方向へ。ここでジェンタイルの屁理屈という名の悪あがきが始まった。

>「何勘違いしているんだ……まだ俺のターンは終了してないぜッ!」
>『しかし、貴方のお仲間さんが貴方を護る為に介入してきたわけですから、これは貴方側の反則――』
>「『錬金魔法』――」

マーマレードの実況を遮り、ジェンタイルはメタルクウラこそ霊装、いや霊装すら超えた武装錬金だと主張した。

「(ああ、マーガレットにそんな屁理屈が通用する訳――)」

だが、マーガレットは口を挟もうとはせず、それどころか――笑っている。
――――――まさか、マーガレット。このまま試合を続行する気か?

>『つ、つまり、その顔有りペプシマンはエセチンピラさんの霊装だから反則ではないと……?』
>「左様。さあメタルクウラよ!あの小生意気な小娘に格の違いを見せつけてやれいッ!!」

どうします?と言いたげに実況がマーガレットに視線を投げる。
マーガレットは――相変わらず微笑んだまま。



9 :カレン ◆Upd1QvIO9s :2011/07/11(月) 10:32:53.91 ID:QEsGYsTu
「良いわよ、試合は続行…「もう止めて下さいッ!!」

怒りを含んだ鋭い声が場を制し、全員が大声の主を見やる。
涙で目を潤ませたカレンと、血だらけのローゼンが、マーガレット達へと歩み寄る。

「もう試合は止めて下さい!ローゼンさんが怪我してるんですよ!?」
>「フフフ、まさかこんなアクロバティックな方法で僕を攻撃してこようとは……
>エクソシスト風情がなかなかやるね」

ローゼンは出血の為か意識朦朧で、間もなく気絶してしまった。
カレンはローゼンを支えたまま、マーガレットとジェンタイルの間に割って入る。

「マーガレット、今すぐこんな馬鹿げた戦いは止めるんだ」
「何を言ってるのカレン。試合は続行よ」

静寂が張り詰める。
両者ともに一歩たりとも退こうとはしない。
苛々としたマーガレットがドスの効いた声を上げる。

「……退きなさい」
「イヤです」


最早、怒りの限界点は突破していた。


「退けと言うのが分からないの!!?」/「止めろと言うのが分からないんですか!!?」


吠吼する二人、氷槍と鎌鼬が激突する――――――!


「お止めなさい、二人共」

音が止んだ。マーガレットやカレン、見習いエクソシスト達の誰もが凍りついた。
そこにいたのは一人の青年。白髪を束ね、神官らしい服装は凍てつく氷を思わせる。
氷槍が蒸発し、鎌鼬は風と解けて消える。
男はマーガレットとカレンを交互に一瞥すると、静かに言った。

「マーガレット、霊装を解きなさい」
「…………………………はい、先生」

霊装を解き、マーガレットはうなだれる。先の好戦的な態度は一瞬にして消え失せた。
男はローゼンを姫抱きし、ジェンタイル達に向き直る。

「初めまして、光の勇者達よ。生徒の非礼をお許し下さい。
 私はエストリス大修道院院長のロスチャイルドと申します。私達にご同行願えますか?」

10 :メタルクウラ ◆QXV6kzbAYg :2011/07/11(月) 12:01:19.30 ID:rBwpvy9K
>「こいつが俺の霊装だ。錬金術によって創りだした金属素体に精霊を宿し、戦闘存在として顕現させる……。
>霊装を超えた、言わば錬金による武装!『武装錬金』――!! 霊装名は『鋼鉄の益荒男《メタルクウラ》』!」
私の胸を叩いたジェンタイルがまた適当なことを言った。
さすがにマーガレットにそんな冗談は通じないだろうと、私は思っていた。
しかし、マーガレットの様子を見るからには乗り気のようにも見えるな。
これは試合を続行するのか?

>「左様。さあメタルクウラよ!あの小生意気な小娘に格の違いを見せつけてやれいッ!!」
「任せてくれっ!」
私は尻を叩いたジェンタイルの後ろに回り込み、戦争男直伝のパロスペシャルを仕掛けてやった。

>「良いわよ、試合は続行…
「あぁ、ここからはお前と私のタッグで
>「もう止めて下さいッ!!」
私とマーガレットの台詞はカレンに遮られた。

>「フフフ、まさかこんなアクロバティックな方法で僕を攻撃してこようとは……
>エクソシスト風情がなかなかやるね」
「ゲーッ!ローゼンに当たってた」
私はジェンタイルに仕掛けたパロ・スペシャルを解いて、ローゼンの方を見た。
ローゼンが気絶して崩れ落ちそうになったところをカレンが支え、カレンは試合を行っていた両者の間に入り、マーガレットと口論に至る。

>「お止めなさい、二人共」
口論が苛烈になって両者が精霊の力を使おうとした矢先に、一人の男が現れた。
マーガレットもカレンも精霊の力を消し、男の指示に従っている。

>「初めまして、光の勇者達よ。生徒の非礼をお許し下さい」
顔有りペプシマンとか言っていた生徒だけは絶対に許さんがな。
「いや、こちらこそ私の仲間がそちらの生徒に迷惑をかけてしまい、申し訳なく思う」

>「私はエストリス大修道院院長のロスチャイルドと申します。私達にご同行願えますか?」
「ジェンタイルよ、どうするのだ?
私はこの機会に行った方が良いと思うが」

11 :キャプテン・H・スパロウ ◆8Tz9EIe2uc :2011/07/11(月) 15:46:34.37 ID:t6sKvM5s
「ごっつ尻痛いわぁ。うわ、こいつ小便してるやん……」

空に浮かぶ巨大な船、「ホワイトパール・イン・ソーセージ号」の主である
海賊、キャプテン・H・スパロウは顔を苦痛に歪めながら
座布団の代わりにアザラシのゴマちゃんを椅子に敷いていた。
彼はかつて傭兵集団を率いていたが、隊長の多額の借金が原因となり
親会社が傭兵部隊を売却し、解散。更には彼までもがその負債を背負う羽目になってしまっていた。
会社の社長である桂・イラッシャイ様の命により、彼は空飛ぶ海賊船で大いなる借金返済の旅に出たのであった。

「ごっつ暇やわ。それにしてもお宝なんてどこにあんねん、そんなに簡単に探せたら苦労せぇへん
わ、あの社長死んだらええのに。ん?あいつら弱そうやな、ええカモやで」

地上に人影を見つけたキャプテン・Hは海賊船を急降下させロープを放ちながら
地面に着地しようとした。
その瞬間だった、片足を地面にしたたかに打ち付けたキャプテンの苦悶の表情が
悲痛なものに変わる。
明らかに、足をあらぬ方向へぐにゃりと曲げてしまったのだった。

「あかん……足いってもうた……。
お前ら、金と食料出せ。ええからはよ、ん!?」

ジェンタイル達の顔に気付きそうになったが
子ゴリラの知能はそのまで高くはなかった。

「まぁ、ええわ。思い出せへん。」








12 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/07/12(火) 18:54:46.01 ID:GX3+kqw+
>9-10
>>「初めまして、光の勇者達よ。生徒の非礼をお許し下さい」
……ん? 光の勇者? そうだ、僕は光の勇者だった。
おい! 光精霊は出してないのに正体がバレバレやん!!
気付けば銀髪美青年に抱かれていた。
>「私はエストリス大修道院院長のロスチャイルドと申します。私達にご同行願えますか?」
院長先生!? 院長先生といえばてっきり爺さんが出てくるかと思ってたよ!
>「ジェンタイルよ、どうするのだ?  私はこの機会に行った方が良いと思うが」
僕は眠たいので成り行きに任せてこのまま寝ておくことにした。
僕がちょっとぐらいサボったって話は進むのである。
・・・
・・・
・・・
固まる世界! 巻き起こるTHE☆WORLD!! 
名も無き精霊達が異変を感じ時が止まったと騒ぎ始めた!
「嘘おおおおおおおおおおおお!? 気のせいだよ!? 皆返答を迷ってちょっと黙ってただけだよ!?」
変な伏線になっては大変なので慌てて飛び起きる。
誤魔化しが効かなくなる前にさっさと話を進めるに限る!
「謹んで同行させていただき……」

>11
「ぎゃああああああああああ!!」
空から海賊船が急降下してきた! 正確には空賊船か!?
これはマッチョでいかつい屈強な男達に取り囲まれて身ぐるみはがされるパターンだ!

が、降りてきたのはむさ苦しい髪型をした貧相なおっさん一人。
しかも着地に失敗して足が変な方向に曲がった。別の意味で絶叫ものである。
「ぎゃああああああああああ!! 痛い痛い!」
>「あかん……足いってもうた……。
お前ら、金と食料出せ。ええからはよ、ん!?」
「金と食料!? そんな急に言われても……おやつに食べようと思ってた桜島大根なんてどうかな!?
っておやつ食べてる場合じゃないでしょ!?」
>「まぁ、ええわ。思い出せへん。」
「そうそう、まあいいからそれどうにかしてもらおう! ほら丁度ここ修道院だし!」

13 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/07/13(水) 02:55:03.55 ID:RL2574EP
>「任せてくれっ!」
以心伝心、即意答妙、撃てば響く鐘の如く、メタルクウラは応答する。
俺の首に足をかけると、そのまま一撃必殺☆パロスペシャルをぶちかましてきやがった。
「いだだだだだだだ!俺じゃねーよあの女だ女!」
<<とか言いつつきっちり耐えてる辺り汝もたいがい慣れてきたな>>
逆だ、メタルクウラがようやく手加減を覚えたってことだよ。
敵を前にしてコントかまし始めた俺たちを見てなにを思ったか、マーガレットは口端を吊り上げる。

>「良いわよ、試合は続行…「もう止めて下さいッ!!」
マーガレットが俺の屁理屈を許容せんとしたそのとき、カレンが絹を裂くような声でそれを制した。
>「もう試合は止めて下さい!ローゼンさんが怪我してるんですよ!?」
言われて、見る。血だらけのローゼンが虚空を見上げてブツブツ言っていた。
「うわーーっ!?何があったんだし!」
アカン、この前みたいな邪神モード発動しとる!こうなったらこいつ、妄言しか吐かないからな。
ローゼンを心配する俺とメタルクウラを傍目に、カレンとマガーレットが口論を始める。
一触即発ってカンジ。あのヘタレ全開のカレンが、ここまで食い下がるなんて。何か意地でもあるんだろうか。
そして。

>「退けと言うのが分からないの!!?」/「止めろと言うのが分からないんですか!!?」
互いの精霊術を行使し、正面衝突する氷と風の刃。無音の剣戟が無数の刀傷を広場に生み出す。
>「お止めなさい、二人共」
穏やかにそれを制する声があった。
あれだけやかましかった精霊同士のぶつかり合いが嘘のように止み、静かに薙ぐ微風が地面を洗った。
そこにいたのは謎のイケメンだった。品の良い仕草でローゼンをお姫様抱っこする。
>「初めまして、光の勇者達よ。生徒の非礼をお許し下さい。
 私はエストリス大修道院院長のロスチャイルドと申します。私達にご同行願えますか?」
「光の、勇者――」
ああ、やっぱりそうなのか。
ローゼンを初見で光の勇者と見破れるのは現状この歴史軸には存在しない。光精霊そのものが不世出のものだからだ。
つまりは、この大修道院が歴史改変を生き残ったという何よりの証左。カレンの存在を裏付ける完全事実(パーフェクトパス)。

>「ジェンタイルよ、どうするのだ?私はこの機会に行った方が良いと思うが」
「うーん」
知りたいことがある。それに答えを用意できるだろう人物の誘い。
断る理由はどこにもなかった。強いて言えば、ロスチャイルド先生からそこはかとなく漂う胡散臭さだが……
なに。如何わしさならこっちも負けちゃいねーさ。
<<物凄い理論展開を見たぞ今>>
積極的にフラグ立ててかねーと終盤の展開に困るぞっ。

>「あかん……足いってもうた……。お前ら、金と食料出せ。ええからはよ、ん!?」
そこへ落ちてくる海賊風のおっさん。
なんで空から海賊が!?ソマリアで海自にでも狩られたのか!?
つーかどっかで見たことある顔だよな、このおっさん……。
>「そうそう、まあいいからそれどうにかしてもらおう! ほら丁度ここ修道院だし!」
いつのまにか復活していたローゼンがおっさんを強引にパーティに加える。
あれ?『仲間になった!』の表示が出ない。ステータス画面は普通に確認できるから、NPCじゃないはずなんだけど。
<<昔どこかでパーティ組んだんじゃないか?>>
それしか考えられねえな。システムのバグじゃなけりゃの話だが。
「ともあれ、修道院で水と食料も貰って来いよ。汝貧しきに施すべし、だ」

修道院へゆく道すがら、俺は院長に質問を投げておくことにした。
「向こうついてからで良いんでお答えいただきたい。俺が聞きたいことは二つです。
 『何故この修道院は歴史改変をまぬがれたか』。それから――『悪魔殺しの殲滅術を改変の前から教えていた意義について』
 アンタらは、悪魔と戦争でもやらかすつもりだったんですかい?」

14 :カレン ◆Upd1QvIO9s :2011/07/13(水) 21:36:58.05 ID:0rdBqn8n
>『向こうついてからで良いんでお答えいただきたい。俺が聞きたいことは二つです。
 『何故この修道院は歴史改変をまぬがれたか』。それから――『悪魔殺しの殲滅術を改変の前から教えていた意義について』
 アンタらは、悪魔と戦争でもやらかすつもりだったんですかい?』

――――――――――――――――――


怪我人のローゼンとスパロウを保健看護室へ運び、ジェンタイル一行は院長室へ。
ロスチャイルドはヴェルヴェットの椅子に深く座り、ジェンタイル達にソファに座るよう促す。

「――――さて、ジェンタイル君。早速だが質問に答えさせて頂こう。
 まずは歴史改変の回避の件だったね。話すと長くなるから先に結論から話そう。
 この修道院はね、風精霊の魔力と光精霊の最後の力によって守られているんだ」

――――それは、この世界に歴史改変が起こる直前。
光精霊が自らが消失する代わりに、最大限の魔力を使い、この修道院を守った。
だが歴史改変の力は凄まじく、一部の者――ロスチャイルドやカレン等のごく一部の人間――以外から、光精霊の存在は『消去』されてしまった。
今は、失った光精霊の代替を努めるように、風精霊がこの修道院を守っている。
ロスチャイルドの語りは続く。

「光精霊が居なくなった今も修道院が存在していられるのは、ひとえに風精霊様のお陰です。
 ……とはいえ、そう遠くない未来に、限界が来ることも分かっていました」

遠くを見据えるロスチャイルド。
窓から差し込む日差しを彼の銀髪が反射させる。

「何時か、この状況を覆すことの出来る『誰か』を探し出す必要がありました。
 まさにその時でした。貴方達の存在を知ったのは。これは精霊様のお導きだと思ったのです」

立ち上がり、ジェンタイル達の元へ歩み寄る。
彼等を見つめるロスチャイルドの目は、期待に満ちていた。

「貴方方の力を借りたいのです。私達に出来る事ならば何でも協力致します」

そう言ってロスチャイルドは微笑む。
肝心の二つ目の疑問には答えぬまま、ロスチャイルドは言う。

「今お返事なさらなくても結構ですよ。
 何なら、暫く此処で寝泊まりしては如何です?精霊の授業の見学もご自由ですよ」

15 :メタルクウラ ◆QXV6kzbAYg :2011/07/14(木) 00:13:16.26 ID:PJXo/FWb
成り行き上、襲いに来たはずのスパロウも同行することになり、私達は修道院へ。
怪我をしているローゼンとスパロウは医務室に、私達は院長と話をするために院長室に。
道中でのジェンタイルの質問に対し、院長が現状の説明と共に答える。
私は黙って聞いておくことにした。

院長の話が終わった。
少し考えてから、私は院長に言う。
「医務室にいる仲間達と相談した後、答えを出させてもらおう」
私はソファーから立ち上がると、ジェンタイルの手を引いて院長室から出た。

院長室から出た私は、ジェンタイルの肩に手を置く。
ローゼンの生命反応をサーチして、反応のある場所にジェンタイルと共に瞬間移動をした。
ローゼンの目の前に、私達は突然現れる。
院長室でのことを、私達はローゼン達に教えたのであった。

16 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/07/14(木) 19:29:38.44 ID:/gYompd4
>13
>「向こうついてからで良いんでお答えいただきたい。俺が聞きたいことは二つです。
 『何故この修道院は歴史改変をまぬがれたか』。それから――『悪魔殺しの殲滅術を改変の前から教えていた意義について』
 アンタらは、悪魔と戦争でもやらかすつもりだったんですかい?」

「んーそりゃあ悪魔殺しの殲滅術ぐらいやってても特に不自然はないんじゃない? 
だって基本的に悪い奴だから悪魔って言うんでしょ。光と闇は属性システム的に天敵だしねえ」
とはいえ、お約束という名の常識やステータス画面と言う名の建前に縛られずに核心を突くのがジェン君の得意技。
思いがけない情報を聞き出せるかもしれない。

>14
院長室に招かれ重要会話シーン……と思いきやむさ苦しいおっさんと二人で保険看護室に隔離されるらしい。

「ちょっと、主人公ハブるってどういうこと!?」
ぶつくさ言いながら、取ってつけたような“保険看護室”というプレートが掛かったやけに豪華な扉を開ける。

その瞬間。
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
絢爛豪華な調度品。天井に煌めくシャンデリア。ずらりと並んだ女装美少年が出迎える。
「ただいま、我が可愛い弟たちよ!」
隔離部屋最高! 重要会話シーンなんて知らんがな。
『関係ないけどバブル時代には内定を出した学生をリゾート地の豪華ホテルに放り込んで逃げないようにキープしていたそうだよ!』

救急箱を持った女装美少年が駆け寄ってきて、前髪を上げる。
「お兄ちゃん大丈夫!? ……あれ? もう治ってる」
「お兄ちゃんはなにしろ超イケメンだからな! これぐらい何ともないさ!」
「さすがお兄ちゃん、素敵! 長旅で疲れたでしょう。
すぐにご飯の用意をするからその間にお風呂に入ってきて」

「う……」
全身汗まみれ顔は血まみれで入りたいのは山々だ。
だけどこのパターンは絶対誰かが乱入してきて放送事故になるに決まってる!
「んー……」
また地の文で脇汗とか書かれたらイケメンキャラとしては死活問題だしな。
まあ女装美少年なら乱入してきてもそれはそれでいいし警戒すべきはこのむさ苦しいおっさんだけだ。

「君が男の裸が大好きな変態なのは分かるけど絶対入ってくるなよ!!」
おっさんに有無を言わせぬ目力でそう言い渡し風呂場に入って、内側から鍵を閉める。

数分後。誰も乱入して来る気配はない。
念のために言っておくと浴室内には必要以上に湯気が充満しているので別にサービスシーンにはならない。
「なんだ〜、よく考えてみればマンガやアニメじゃあるまいしいちいちそんなイベントなんか起こらないよな〜!」

>15
そう言った矢先、目の前にクウ君たちが瞬間移動してきた。
「そうやって乱入するんかいッ!! 
クウ君は最初から全裸だからいいけどジェン君は服脱がなきゃ駄目でしょ!」
瞬間移動万能すぎるだろ! おっさんにばっかり気をとられてこのパターンはノーマークだった!

17 :キャプテン・H・スパロウ ◆8Tz9EIe2uc :2011/07/14(木) 22:11:07.69 ID:Llagu9IK
「うわ、こいつらあかんわ……なんか横文字で難しい話してるやん。
俺、歴史苦手や。」

修道院で何やら話をしているようだが、キャプテンには
理解出来ないようだ。
そのまま、成り行き上の展開でキャプテンは担架らしきアレに運ばれて
保健室みたいなのに隔離されてしまった。
チリ毛のおっさんこと、キャプテン・H・スパロウは
部屋にあった金目の物を鋭い視線で探し始める。
その形相はまるで檻に閉じ込められたチンパンジーである。

>「君が男の裸が大好きな変態なのは分かるけど絶対入ってくるなよ!!」

最近流行の森ガールっぽい女か男かわからない感じの
若い子がおっさんに警告する。
しかし、こういう場合は逆に襲ってくれといっているようなものだ。
特に、Sっぽいが実はとんでもなくドMな子に限ってこういう思わせぶりな
言葉を言うものだ。
しかし、今のおっさんにはそんな事に気を振り分けるだけの気力は残っていなかった。
風呂場に入ったのを確認したら即、部屋を物色し始めるおっさん。
麻袋にありったけの物を詰め込んでいく。

「なんや、大したもんあれへんやんけ。俺も風呂入りたいわぁ〜ここ
空調効いてんのかぁ?暑いわぁ……あ!?
あのガキ……鍵閉めてるやんけ!!しゃあないわ……借りるで。」

おっさんはおもむろにローゼンの持ち物から使えそうな
衣服を取り出すと、全裸になり部屋にあった手洗い場で
簡単なシャワーを始めた。

「うわ……ごっつサイズ小さいやん。何これ。」

ローゼンの服に着替えたおっさんは既に、海賊の面影を失っていた。
ただの気持ち悪いゴスロリ・ゴリラの誕生である。

18 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/07/15(金) 02:32:03.41 ID:Q0ckhBkR
斜陽挿し込む院長室で、ロスチャイルド先生は紅茶のカップを何度か傾けながら語った。
俺は紅茶が駄目な子なので、コーヒーにたっぷりの砂糖を溶かし込んで啜る。その熱を、嚥下しながら。

>「――――さて、ジェンタイル君。早速だが質問に答えさせて頂こう。
 まずは歴史改変の回避の件だったね。話すと長くなるから先に結論から話そう。
 この修道院はね、風精霊の魔力と光精霊の最後の力によって守られているんだ」
「はあん。流石は精霊術の総本山ってことッスね」
<<やはり神格精霊の加護か。喜べ汝、光明が見えたぞ(光精霊だけにな)>>
どういうことだってばよ?(うぜぇ)
<<神格精霊を奉じる全国津々浦々に寺社仏閣がいくつあると思う?この修道院のように、運良く改編を免れた場所が、
  例え全体の一割だったとしても、軽く4ケタは下らないということだ。つまり、>>
俺たちの他にも改編を凌ぎ切った連中が少なからずいる――!
つまりはそういうことだった。
思わぬ天啓。悪魔殺しの総本山がそうであるように、反撃の狼煙はそこかしこで上がっていてもおかしくないのだ。

>「何時か、この状況を覆すことの出来る『誰か』を探し出す必要がありました。
 まさにその時でした。貴方達の存在を知ったのは。これは精霊様のお導きだと思ったのです」
熱の混じった口調で院長先生は言う。
>「貴方方の力を借りたいのです。私達に出来る事ならば何でも協力致します」
顎に手を添えて、返答や如何にか思索する俺を、メタルクウラの太腕が制した。
>「医務室にいる仲間達と相談した後、答えを出させてもらおう」
「だな。俺たちのリーダーはローゼンだ。俺の一存では決めかねます」
暗転。メタルクウラの瞬間移動が発動する。

視界が晴れると、そこにはローゼンがいた。
シャワー浴びてた。
>「そうやって乱入するんかいッ!!
 クウ君は最初から全裸だからいいけどジェン君は服脱がなきゃ駄目でしょ!」
「突込みどころそこぉぉぉぉ!?ちょっ、ストップ!これ以上はソフ倫からまた警告文来ちゃう!服着ろーぜん!」
俺はシャワー室と脱衣所を隔てるシェードを開いた。脱衣かごの中のローゼンの服を探す。
タオルと一緒にシャワー室に放りこんで、ローゼンに着させる。
それで完璧だ。有害図書指定はされまい。
と。
>「うわ……ごっつサイズ小さいやん。何これ。」
ローゼンの服があった。
何故か、パンッパンに生地が張った状態で、既に着用されていた。
ゴリラ顔のゴスロリおっさんは、先刻空から降ってきたあいつだった。
「ぎえええええええええ!カレン!カレーーーーンッ!!」
大声でカレンを呼ぶ。
女装っ子のあいつなら、ローゼンの着替えも用意できるだろうという目論見。

19 :カレン ◆Upd1QvIO9s :2011/07/15(金) 23:10:57.94 ID:CcvIUcj/
「あれ?僕もしかして気づかれてない?」

実は女装男子に混じっていたカレン。
怪我の方はもう大丈夫だったようなので、他の下級生達とローゼンの世話に廻っていた。

「ローゼン兄さん、湯加減の方は……」

>「そうやって乱入するんかいッ!! 
クウ君は最初から全裸だからいいけどジェン君は服脱がなきゃ駄目でしょ!」
>「ぎえええええええええ!カレン!カレーーーーンッ!!」

何も知らないカレンは呑気に返事をし、ドアを開ける。

「はい〜?ってきゃあああああああああああああ!?」

地獄が広がっていた。
何でオッサンがローゼンの服を着ているのだとか
何故ジェンタイルとメタルクウラが風呂場にいるのだとか
色々ツッコミどころが満載過ぎて悲鳴しか出てこないカレンだった。


「って!何でっ!私までっ!アイツ等の世話しなきゃいけないのよぉおっ!」
「マーガレット……君がローゼン兄さんを傷つけたのは事実でしょ?」
「何よ!あの田舎勇者がよけきれなかったのが悪いのよ!私のせいじゃないわ!」

廊下でカレンとマーガレット二人、濡れてしまったジェンタイル達の分の服を運んでいる。
マーガレットは忌々しげにドアを蹴って開ける。よい子は真似してはいけない。

「ほら!貸してあげるんだからその服さっさと着なさいよ!」

因みにジェンタイルとメタルクウラの服は男子用……つまりドレスのようなキュロット。
ローゼンも戸籍上男性なので女物だ。
オッサンには普通のキュロットが手渡された。

「郷に入っては郷に従えよ。文句言わずにき・な・さ・い〜〜!」

無理強いレベルで着せる。
そしてタイミングを見計らっていたように下級生男子達が現れる。
マーガレットはこれでもかと言わんばかりに厭味ったらしい笑顔を向ける。

「まずはその田舎臭い顔を化粧してやりなさい、弟達!」
「はい、マーガレット姉さん!」

ジェンタイル達が下級生達に囲まれて化粧される様を見て、高笑いするマーガレットなのであった。

20 :メタルクウラ ◆QXV6kzbAYg :2011/07/16(土) 00:47:52.74 ID:Ry2Mut6I
>「そうやって乱入するんかいッ!!
>クウ君は最初から全裸だからいいけどジェン君は服脱がなきゃ駄目でしょ!」
「あぁ、確かに風呂場で裸のお付き合いをしないのは、失礼になるんだったな」
裸の私はローゼンの方に近寄ろうとしたが、ジェンタイルに防がれる。
ジェンタイルは脱衣場のドアを開けて、ローゼンの新しい着替えを取りに行こうとした。
そしたら、私は見てしまった。
スパロウがローゼンの服を着ているのを。
私は、絶句した。

>「ほら!貸してあげるんだからその服さっさと着なさいよ!」
マーガレットが扉を開けて、私達の着替えを持ってくる。
「いや、私は裸が常だから。
むっ、他のメタルクウラから緊急の連絡だ!
では、さらばだ」
私は無理矢理に服を着せようとするマーガレット達から、瞬間移動でこの場を去って、逃げることに成功したのであった。

21 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/07/16(土) 16:52:33.19 ID:kWYdFCew
>17-20
>「突込みどころそこぉぉぉぉ!?ちょっ、ストップ!これ以上はソフ倫からまた警告文来ちゃう!服着ろーぜん!」
「えっ、僕18歳未満じゃないのに!」

慌てて外に出ていったジェン君が悲鳴をあげる。
>「ぎえええええええええ!カレン!カレーーーーンッ!!」
>「はい〜?ってきゃあああああああああああああ!?」

クウ君が院長先生から聞いた話を教えてくれた。全裸で。
光の神格精霊が自らの存在と引き換えにこの修道院を守ったらしい。
「そっか、やっぱり師匠は本当は光の勇者だったんだよ!
ただその事を忘れてしまっただけだ!」

>「ほら!貸してあげるんだからその服さっさと着なさいよ!」
「なぜにフリフリの女物を着る流れに!?」

>「いや、私は裸が常だから。
むっ、他のメタルクウラから緊急の連絡だ!
では、さらばだ」
「あ、うん。また今度!」
クウ君は瞬間移動で逃亡した!

>「郷に入っては郷に従えよ。文句言わずにき・な・さ・い〜〜!」
「それもそうだ。ここでは女装して当然だな!」
妙に納得しながらドレスのようなキュロットを着る。

>「まずはその田舎臭い顔を化粧してやりなさい、弟達!」
>「はい、マーガレット姉さん!」
「ちょ!そこまでせんでいい!
どうしてもやりたいなら眉毛は絶対剃るな! 書かなきゃ眉毛無いとかシャレにならんから!
涙で流れて感動シーンが台無しになるからマスカラはいらん! バブル時代の真っ赤な口紅は勘弁!
あとスイーツみたいな厚塗りもギャルみたいなケバいアイメイクも禁止ね!」

騒いでいる間に弟たちはプロの指捌きで手際よく化粧を完成させた。
「出来ました!」
作品を披露しあうようにジェン君と対面させられる。
「ちょっとどうなったの!? やめてマジでやめて!」
出オチギャグな顔にされてたらどうしよう!?
「わあ……!」
ジェン君を見て思わず歓声が漏れた。勝気な瞳をしたマジもんの美少女がそこにいた。

22 :キャプテン・H・スパロウ ◆8Tz9EIe2uc :2011/07/18(月) 03:19:08.51 ID:JCurvOly
「うわぁ、なんちゅう顔してんねん。今流行のシーメールとかいう
やつか?」

化粧をしたジェンタイルをまじまじと見つめながらキャプテンは
自分もパフを取り出して化粧をし始めた。
「うわ、眉毛ごっつ書き難いわ。これ、もっと太いのないの?」

やがて、キャプテンの顔は白塗りの珍妙なゲイシャガールズ風に変身完了していた。
口元にはやけにあざとい紅、顔には白粉と麻呂みたいな小汚い眉毛が書かれている。
そんなキャプテンを知ってか知らずか、停留してあった空賊船から1人の男が降り立つ。

「浜田さん、何してはるんですか?…あ、この人ら前にも会った事ありますやんか。
えーと、あの、ローゼンさんでしたっけ。
うわ、気持ち悪い顔……ようそんなピグモンみたいな顔で化粧出来ますね」

男の名前は遠藤章造。ローションと千秋が大好きな青年である。

「しかし、凄い池面が多いな……凄い池面ばかりじゃないか。
ここはパラダイスじゃないか。池面パラダイス……」

遠藤は修道院の男子達の臀部を、じっとりを見つめていた。
その横でキャプテンこと浜田は前田敦子の写真を手にとっていた。
「この娘、顔のパーツがより過ぎちゃうか?」

23 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/07/19(火) 03:50:12.48 ID:Ozg7OyD2
前回までのあらすじ。
ゴスロリおっさんが現れた!
おれは逃げ出した!しかしまわりこまれてしまった!
メタルクウラは逃げ出した! えっ、成功?

>「ほら!貸してあげるんだからその服さっさと着なさいよ!」
マーガレットから差し出されたのは、カレンと同じ男子用の修道院制服。
ひらひらのフリルをふんだんにつかったきゃわわな仕様の、女キュロットだった。
「また女装ですかァーっ!? バベル編とはなんだったのか!」
あれはどういう経緯で女装したんだっけ。あーそうだ、ガチホモから逃れるためだっけ。
ガチホモの脅威はなくなったが、代わりに男の娘と男装麗人に取り囲まれているんだから、
人生って一寸先は闇だよな、つくづく。
<<哀愁ただよう諦念が見えるな。泣ける話だ>>
いやはや。どこへ向かってるんだろうねぼくたち。
>「まずはその田舎臭い顔を化粧してやりなさい、弟達!」
「マジでどこ向かってんだよ!!解説してねーで助けやがれ炎精霊!」
<<吾はいつでも可愛い女の子の味方だ>>
「おめー後でぜってーシメっからな覚えとけよこの野郎ぉぉぉぉぉぉ……」

で、場面転換。
>「うわぁ、なんちゅう顔してんねん。今流行のシーメールとかいうやつか?」
「やめろよ!ゴスロリのおっさんにそーゆー感想抱かれるとマジ自死を選ぶレベルなんですけど!」
かくいうおっさんは、エンタの神様あたりに出てきそうなオリエンタルな化粧を完了していた。
なんちゅうか、うん、その……個性があっていいんじゃねえかなっ!
>「うわ、気持ち悪い顔……ようそんなピグモンみたいな顔で化粧出来ますね」
「身も蓋もないこと言うのやめたげてよぉ!」
>「ちょっとどうなったの!? やめてマジでやめて!」
同じように化粧を施されたローゼンも人垣から放り出される。
こいつなんで女のくせに女物のキュロット着てんだ。
ん?あれ?おかしくないな!おかしいのは俺でしたね!すいません!
>「わあ……!」
対面したローゼンは、髪を下ろし、薄化粧を施され、小奇麗に身なりを整えられた――どこから見ても女子の格好だった。
「う……」
顔面のあたりに血が集まっていくのがわかる。ファンデーションがそれを隠してくれるのがありがたかった。
何だかんだでこいつすっげー化粧映えすんのな。レイヤー歴長いから素地も完成してるわけだし。
「くっ……きっ……きえええええええええええっ!」
だっ。と、俺は逃げた。ダッシュで逃げた。アビリティとんずらだ。
部屋から脱出し、修道院の中を駆け抜け、どっちに行けばどこに着くのかわからないまま走る。
すぐに酸素が足りなくなった。金魚のようにパクパクと喘ぐ。心臓がカエルの喉みたいにバクバク言ってる。
そう。走ったから。ダッシュしたから俺の胸はこんなにも脈打っているんだ。

ぜーはー言いながら辿り着いた先は、先ほど通された院長のいる部屋だった。
そっと扉を開けて、中に滑り込む。院長先生がご在室かどうかご存じないけど、あわよくば、ここでやり過ごそう。

24 :カレン ◆Upd1QvIO9s :2011/07/19(火) 18:57:32.36 ID:qochafDn
>「わあ……!」
>「う……」
「うわあーっ!二人ともすっごく似合ってます!」
「フン!私の弟達の手にかかればこんなのちょちょいのちょいよ」

すっかり見違えた二人に賞賛の言葉を送るカレン。
マーガレットもその出来栄えに満足しているのか、少し嬉しそうだ。
さて、着替えも終わったし施設の案内でもしようかとカレンが提案しようとしたその時。
ローゼンの顔をまじまじと見ていたジェンタイルが、

>「くっ……きっ……きえええええええええええっ!」
「ちょっ、ジェン兄いいいいいいいい!?」

逃げ出した。
脱兎のごとく、凄まじい奇声を上げながら。
カレンが驚く後ろでマーガレットは「何してんだか」と呆れる。
予想外のことに一瞬茫然とし、すぐに我に返った。追いかけなければ。

「ま、待って下さいジェン兄ー!」

慌ててばたばたと追いかけるカレン。
マーガレットも「面倒くさい」と言いながら続く。
ジェンタイルは此処にきたばかりだ。
この修道院は馬鹿みたいに巨大なので迷子になりやすい。
カレン自身、初めてここに来た日に丸一日迷子になった経験があった。尤も、本人が方向音痴なのもあるが。

「ハァ、ハァ…………どこですか、ジェン兄ー!!」

探し人ならすぐ近くのドアの向こう側にいるのだが、勿論カレンが知る由などない。
何処行ったんだろうとキョロキョロ辺りを見回し、カレンは南側を探すことにしてその場を離れた。
一方、院長室では。息を切らし肩で息をするジェンタイルの背後で笑う声。
そこにいたのは院長のロスチャイルド。だが、雰囲気は違う。
先程の物静かな空気はどこへやら、掴みどころのない子供のような微笑みだ。

『かくれんぼかい?随分息切れとるけど』

その喋り方は、まさしく風精霊のもの。
先程カレンに取り憑いたように、ロスチャイルド銀髪がまっさらな白に変わっている。
ロスチャイルドに取り憑いた風精霊はジェンタイルと視線を合わせると、双眸が三日月型になる。

『そーいや、あんさんウチに聞きたいことあるんやって?さっきチラッと聞こえとったんよ。
 ……ん?そこにおるんは、炎精霊か。ははぁ、どーりでさっきから暑いと思うとったんや』

で、と風精霊はあぐらをかく。
見た目はロスチャイルドのままなので違和感の塊だ。

『何や、ウチに質問せんのか?どーせ暇やし、あーんなことやこーんなこと、何でも答えたるで?』

25 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/07/20(水) 00:29:38.75 ID:bmPjB0UH
>22
いつの間にかおっさんがゲイシャガールズ風になっていた。
しかも仲間が増えてるし。
「あ、な〜んだ、よく見ればハマちゃんじゃん。何それまた新しいコントのキャラ? 極東風?
そういえば風精霊さんがハマちゃんと似たような言葉づかいだったよ。気が合うかもね!」

>23
>「う……」
>「くっ……きっ……きえええええええええええっ!」
ジェン君は悲鳴をあげて逃げ出した! 
今レイヤーとか言われたような気がするんだけどそれどころではない。
余程酷い顔になっているに違いない。ヘアメイクの女装美少年につめよる。
「ちょっと! 酷いじゃん!」
「誤解です!」
ヘアメイクさんがサッと鏡を差し出す。別の意味でこれはひどい!
自分で言うのも何だが文句なしの美女になっていた。悔やむべくはヘアメイクさんがプロすぎたことだ!
「きえええええええ! 好ましくない、好ましくないぞこの流れ!!」
飽くまでもここでの男の恰好をしているだけなのに孔明の罠だ!
僕は世間に蔓延するギャップ萌え狙いのふざけた男装キャラじゃないのに、その手のネタは這い寄る混沌のごとく忍び寄っていたのである。
このままでは禁断の正統派ラブコメに突入してしまう。
ここではこの格好じゃないといけないなら一刻も早くこんなところは脱出して……

「でも……」
もう一度鏡を見る。キュロットをつまんで広げてみたりくるりと回ってみたりする。
にんまりと笑みが零れる。

「……悪くない」
何を焦っていたんだ、ステータス画面と戸籍が男になってる以上男装キャラじゃなくて男キャラじゃないか。
暫くの間、僕を見るたびにどぎまぎするジェン君を見て楽しむのも悪くない。
そしてここのイベントが終わったら男の女装で大騒ぎしてたとからかってやるのである。
「決めた!」

>「ハァ、ハァ…………どこですか、ジェン兄ー!!」
ジェン君を見失ったらしきカレンちゃんがいた。
「カレンちゃん、依頼受けるよ! この修道院救ってみせるよ!」

26 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/07/21(木) 01:24:08.38 ID:1dTzODB5
>『かくれんぼかい?随分息切れとるけど』
ぐったりとソファに転がる俺に、声をかける存在があった。
いやあったっつってもここ院長室だから院長先生以外にいねーんだけど、ロスチャイルド院長は常時のそれではなかった。
真っ白の髪に、霧中のような捉えどころのない笑み。
顔の造形こそ院長だけど、『中身』は絶対に違うことが感じ取れる。
既視感があった――そう、あれはカレンがユグドラシル編の冒頭で見せた表情。
「……やっぱ、アンタが一枚噛んでたんだな。風精霊」
冒頭でカレンに乗り移ったのも、ロスチャイルド先生をあのタイミングで介入させたのも。
全ては、ここで光の勇者を修道院勢力に迎え入れるため。
<<あ、風精霊にはタメ口なんだ……>>
敬語使っても地だまりスケッチの野郎はあんな結果になったからな。
距離感感じさせちゃ駄目だね、フレンドリーに行こう。

>『そーいや、あんさんウチに聞きたいことあるんやって?さっきチラッと聞こえとったんよ。
 ……ん?そこにおるんは、炎精霊か。ははぁ、どーりでさっきから暑いと思うとったんや』
<<久しいな風精霊。冬コミ以来か?いや、過日は吾もチケット取れなかったから、その前のワンフェス以来か>>
「お前風精霊とは結構頻繁に会ってんのな……水精霊ん時あんだけ嫌がってたのに」
<<奴は脚本より作画を優先してアニメを見るタイプだからな。吾からしてみれば邪道の極み>>
そういえば水精霊の奴、ジョジョとかカイジとか絶対読まないって公言してたもんな。
ちなみに炎精霊はどういう基準で見るアニメ選ぶんだぜ?
<<売り上げ>>
左様か……。

「単刀直入に本題に入ろうや。聞きたいことは二つある。まずはレジスタンスの現在の勢力図……
 どこに、どれくらいの戦力を囲ってある?神出鬼没のアンタのことだ、この修道院だけじゃないんだろ?」

バベルでの仏教徒達のように、寺社仏閣や修道院のような宗教施設――神格精霊を奉じている場所。
そこには今でも歴史改編を免れた連中が潜伏してるはずだ。風精霊のネットワークなら、既に統率網を構築していても不思議ない。
思えばあの仏教徒達も、やたらに対悪魔の殲滅術に習熟していた。そう、まるで、この修道院の生徒たちのように。
その戦力規模は、光の勇者を御旗にして、すぐに全国で武装蜂起ができるレベルなのか。

「そしてもうひとつは――俺たちがどれくらい悪魔相手に戦えるかってことだ。特に俺は、対悪魔戦術ってものをひとつも知らない。
 忌憚なき意見をくれ。ローゼンや、俺が、今のまま魔王軍とドンパチやった場合、勝算はあるのか?」

勝てないなら今度こそ修行展開だ。
俺はもう迷わない。魔王を倒すと決めたんだ。
戦う力が必要だった。実弾の如く敵を穿つ、身を委ねられる武器。例えば、マーガレットが使ったあの『霊装』って技みたいな。
女装してこんなこと言うのも締まらねえが、シリアス展開へのルート分岐が見えた気がした。

27 :ハマタ ◆8Tz9EIe2uc :2011/07/21(木) 04:24:59.39 ID:Bmx1PUes
「俺も精霊欲しいわぁ〜遠藤、どっかでこうてきて。」

炎の精霊や風の精霊、光の精霊など豊富なオプションの存在に
着目した芸者風のおっさんは手下の遠藤に無理難題を命じた。
しかし、遠藤にも精霊の事など何も分かるわけなど無かったのである。

「浜田さん、無茶いわんといて下さいよ…そもそも
精霊なんて手に入れて何しはるつもりですか?」

ハマタは修道院生達の股間に電気按摩を仕掛けながら
考えてみた。
遠藤の質問の意図がよく分からないからだ。
欲しいものは欲しい。他に意味なんかあるか。
それがこの男、浜田の全てだからだ。
その欲望、幼稚園児並みの幼さである。

「なんやって?あ?−ゴルゥアァッ!!
魔王と戦うとか、ごっつ見せ場やんけ!!
俺もなんか精霊と仲良く話したいねん!!どうせならエロい女の精霊がええんと違うちゃうかぁああっ!」

遠藤の顔面に大量のツバを飛ばし、浜田は宇田川モンキーパークの
ボスザルの如き顔で罵声を浴びせる。
遠藤は仕方が無いのでその辺りに精霊がいないかどうか呼んでみることにした。

「精霊さん、いませんか?いたら返事して下さい。」

生垣の草がガサガサいい始める。なんか期待できそうだ。
しかし、出てきたのは腰を振るパンチパーマのおばさん(無表情)であった。

「あれ、精霊か?いや、違うか…でもあれでええか。
すいません、浜田さん見つかりました。」

連れてきたおばさんを見た浜田の顔は苦悶に満ちていた。
「やっぱ……ええわ。そんなんより魔王倒すんやろ?
やったら、あいつ呼んだらええやん。」

「え?あの人、呼ぶんですか?止めといた方がええんちゃいます?」

真剣な話をしているジェン達を尻目に、遠藤の顔は明らかに青ざめていた。




28 :創る名無しに見る名無し:2011/07/23(土) 21:32:15.68 ID:Bx4r09g2
「あーもう、そんなに脚広げてちゃダメなんだから」
「こらこら横向かないの。お化粧がソファに付いちゃうでしょ」
「起きて、起きて」
「膝は揃えて座るのよ」
「乱れた髪もちゃんと直して」

部屋の中にクスクス笑う声がした。
したっぱ風精霊かもしれない。

「話が終わったらみんなにさっきの子はここにいるよーって教えなきゃ」


29 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/07/26(火) 00:28:04.35 ID:FRw6hEMV
>27
ハマちゃんが精霊が欲しいとごねていると、遠藤さんが精霊を連れてきた。

>「あれ、精霊か?いや、違うか…でもあれでええか。
すいません、浜田さん見つかりました。」
どう見てもパンチパーマのおばさんである。
精霊といわれてみればそういう気もするけど実体があるような。いや、それ以前に……。
「言わないぞ! ノーコメントを貫くぞ!」

>「やっぱ……ええわ。そんなんより魔王倒すんやろ?
やったら、あいつ呼んだらええやん。」
ハマちゃんはパンチパーマのおばさんとの精霊契約を却下した。
「えーと……よければ水精霊使う? 一身上の理由で実家に帰ったリヨナちゃんのだけど」

>「え?あの人、呼ぶんですか?止めといた方がええんちゃいます?」
「魔王討伐に心強い人がいるの? 是非呼ぼうよ!」

30 :創る名無しに見る名無し:2011/07/26(火) 00:49:36.89 ID:DMhduC/Z
>>26
> 忌憚なき意見をくれ。ローゼンや、俺が、今のまま魔王軍とドンパチやった場合、勝算はあるのか?」

「おまえは無理だにゃ。魔王“軍”とならそこそこ戦えるだろうがその先が無いにゃ」
ねこはソファの前のテーブルに飛び降り前足をきれいにたくし込んだ

「ご主人様なら勝算など問う方が愚かにゃがそもそも戦わないにゃ、
戦おうとするならご主人様じゃないから勝算は無いにゃ」
ねこはジェンタイルの顔を見て意味ありげに笑った

「なお一問目は管轄外だからのーこめんとにゃ」
ねこはあなをほっていなくなった

31 :カレン ◇Upd1QvIO9s :2011/08/02(火) 19:58:43.06 ID:jiMJRW2b
「単刀直入に本題に入ろうや。聞きたいことは二つある。まずはレジスタンスの現在の勢力図……
 どこに、どれくらいの戦力を囲ってある?神出鬼没のアンタのことだ、この修道院だけじゃないんだろ?」
「そしてもうひとつは――俺たちがどれくらい悪魔相手に戦えるかってことだ。特に俺は、対悪魔戦術ってものをひとつも知らない。
 忌憚なき意見をくれ。ローゼンや、俺が、今のまま魔王軍とドンパチやった場合、勝算はあるのか?」
ジェンタイルが質問する間、風精霊はただ静聴を貫いていた。そしてふ、と小さな嘆息をひとつ。
少々躊躇うような素振りを見せつつも、答えを弾き出す。
『……せやね。まず第一の質問やけど、聞いて驚かんでよ?
 ざっと数えるだけで1500の修道院と150000人の仲間たちが息巻いとる。」
けど、と表情を曇らせ、「こっからが大事やで」と続ける。
『今のうちらは迂闊には動けん状況や。魔王の配下達がうちらを見張っとる。
 下手こけば150000の仲間達の家族や親戚、友達までもが命の危険に晒される事になるで』
つまり、今こちらから武装蜂起を仕掛ければ、待つのは戦争と虐殺。人類側に未来はないと考えていい。
今までに武装蜂起を仕掛けた少数の人間達がどんな末路を辿ったか説明し、風精霊はまた憂鬱げに溜息を吐く。
『今は少しばかり時間が要るんや。戦うとしても、今のアンタ達やったら悪魔達の格好の餌や』
『………………今のアンタ達やったら、ね』
ふ、と悪戯っぽい笑顔に戻り、ロスチャイルドから風精霊の気配が霧散する。
そして、ジェンタイルの背後で光る風が人間の女性らしき姿を模っていた。
つい、とドアノブに指を走らせ、風精霊は微笑んで外に出る。まるでついて来いと言わんばかりに。
光る風が向かう先はローゼンやカレン達のもと。そして光る風はマーガレットの肩に留まる。
「じぇ、ジェン兄!それに……風精霊様!?」
何が起こっているのか説明を受ける。風精霊はマーガレットを一瞥し微笑んだ(ように見えた)
『まずは修行やで、あんさん等。マーガレット、一から叩き込んだりーな』
「……はい、風精霊様。仰せのままに」
マーガレットが風精霊に一礼すると、風精霊は満足したようにその場から消え――たように見せかけ、カレンに憑依した。
『うちは用事あるけん、暫く抜けるわ。ほながんばりや〜』
へらへらと笑い去っていくカレン(風精霊)。マーガレットはそれを見送ると、例の意地悪い笑顔をジェンタイル達に向けた。
「さて、風精霊様じ・き・じ・きのご指名だもの。みーーーっちりしごかせて貰いますわ。
 早速特訓と行きましょうか。……何ぼさっとしてるの!ほら運動服に着替えて修道院周りを50週よ!
 それが終わったら剣の素振り千回!徹底的にしごいてやるわ!おーっほっほっほっほ!」

32 :キャプテン・ジャック・スパロウ ◆8Tz9EIe2uc :2011/08/04(木) 01:12:30.28 ID:pS0n4VMe
>「魔王討伐に心強い人がいるの? 是非呼ぼうよ!」


「いや、あいつはあかんで。ただの酔っ払いやもん……」

ハマタとローゼンの会話を合図にして、1人の男が
空中に浮かぶ海賊船から降り立ってくる。
頭には赤い布を巻き、不潔そうな服と髭面。
そして池面と言えなくも無いその濃い顔が見る相手を深く印象付ける。

「えーと、あれだ。……俺の噂をしてるのは君達か?
俺は、あの船の船長をしているキャプテン・ジャックスパロウだ。
ハマタ君、魔王を倒すってのはマジか?マジでやるつもりなのか?」

ハマタの顔ににじり寄り、ゼロ距離で見つめないながら
スパロウはラム酒の瓶を口元へ近付けると2口ほどかっ喰らった。
ハマタはそんな酒臭いスパロウを物凄く不細工な顔で睨む。

「おいジャック、お前魔王軍と戦ったいうの嘘やろ?
だいたい、魔王死んでへんみたいやんか。」

ジャックはバツの悪そうな顔でハマタにラム酒の瓶を手渡すと
ローゼンやジェンタイル達へ向けて巨大な地図を取り出した。

「俺が倒したのは、その……魔王のまた次の下のその魔王だ。
つまりは、魔王の孫受けの魔王ってところだな。
お分かり?そいつを倒した時についでに頂いたのがこの図面だ。」

地図には魔王軍の拠点の配置が記されていた。

「魔王軍と戦うってのは、はっきり言ってお勧めしないな。
ある程度の金と余裕があるのなら、だ。
あるのなら、そこら辺の麗しい女性と優雅に午後の紅茶でも
啜ってた方が100倍マシだ。
特に、君は俺の知っている淑女に似ているな。そう、エリザベスのように。」

ローゼンの手に軽くキスをするとジャックはおどけた笑みを見せた。


33 :キャプテン・ジャック・スパロウ ◆8Tz9EIe2uc :2011/08/04(木) 01:13:58.70 ID:pS0n4VMe
名前:キャプテン・ジャック・スパロウ
職業:海賊
性別:男
年齢:40代
身長体重:いたって普通
性格:気まぐれ、守銭奴
外見:濃い目の顔、髭面に頭に赤いスカーフ
備考:ホワイトパール号の持ち主であり、ハマタ達を率いる船長。
かつて魔王のそのまた魔王を倒したことがあると吹聴してる。

34 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/08/04(木) 03:16:32.79 ID:R3OxfMFP
前回までのあらすじ。
こうして修行編が始まった!

修道院生の朝は早い。日の出と共に起床し、朝飯の前に軽いランニングと精神統一。
精進料理みてーな朝食のあとは、涼しいうちに座学で精霊術の術理を頭に叩き込み、午後は外で課練だ。
このクソ暑いなか、基礎体力作りから本格的な武術に至るまであらゆる戦闘技能を刻みつけられることになる。
俺たちは院外からの特別聴講生という扱いで、制式のものじゃないジャージに身を包んで課練を受けていた。

「998、999、1000!……終わったぁー」
言い渡された素振り千本をようやく終えた俺は、練習用のジェラルミン剣を地面に放り出して膝を折った。
この修道院に世話になってから二週間ほどが経過していた。土日を除いて二週間、ぶっ続けで修行中である。
つーか、言われるがままに鍛錬積んでるけど、俺の本職は魔法使いなんだよなあ。剣振ってなんの意味があんねん。
お目付け役のマーガレットの目を盗んでポカリを喉に通しながら、俺はひとりごちた。
<そうでもないぞ。霊装というのは精霊の力を『武器』というイメージで縛って攻撃に特化させる術だからな。
 武術や武器……『戦うこと』を強くイメージ付けることは無駄にはなるまい>
ほー。イメトレみてーなもんなのかね。よくわかんねえけど。
まあ、なんかここ二週間ずっと筋トレばっかしてたからちょっと筋肉ついてきてんだよね。
モテる体型ナンバーワンと噂される細マッチョも夢じゃねーな、こりゃ。

「しっかし、15万かあ……」
2週間前、院長室で聞いた数字は予想を上回る膨大さで、あまり実感は湧かなかった。
そりゃそうだ、15万って言ったら一国が余裕で落とせる軍勢である。げに恐るべきは宗教勢力。
<<それだけの規模の戦力が全国で一斉蜂起すれば魔王城など一気呵成に落とせるのではないか?
  全国津々浦々に散らばっているのなら、反乱の目を一息に潰されることはなかろう>>
その散らばってるってのが問題なんだよ。戦力が分散してるってのは、リスクは減るがリターンも相応に減る。
組織がでかくなればなるほど末端にまで意志を行き渡らせるのは難しくなる。
特にいまの世の中の、魔王制ってディストピアは反乱抑止に上手く機能してんだ。
遠方に散らばった仲間と連絡を取り合おうとすれば、どうしても通信手段に頼らざるを得なくなる。
温泉村での実例が示すように、あらゆる通信手段――電波帯も有線通信も、魔王城の法務局の管理下にある。
通信手段を使わずに情報交換しようとすれば、手紙や人伝えなど非常にアナログな手段を使わざるを得なく、これは非常に遅い。
とどのつまり、レジスタンスは大きくなりすぎた。陸に上がったクジラが自重で死ぬように、自分で自分の首絞めてるのだ。

夕食時。食堂の一角に設けられた聴講生用のスペースでローゼンと食事を摂りながら、これからの展望を話す。
ローゼンは俺とは別メニューの課練を受けてるので、最近はこういう時にしか顔を合わせなくなった。
テーブルには俺たちの他に、カレン、マーガレットと世話役に任命されたこの二人が食事を共にしていた。
「攻めるとしたら、まずは通信手段を牛耳ってる法務局だ。ここを落とせば、15万のレジスタンスに一斉蜂起を伝えられる」
俺は課練の合間に片手間で作成した作戦立案書をテーブルにすべらせる。
魔王城――俺たちの最終制圧目標を落とすには、いくつかの関門を突破しなくちゃならない。
ハウスドルフのような四天王が、直属のセレクションを各地に置いて世界を直接統治している。
ここを無視して魔王城に攻めいっても魔王城の防衛戦力と四天王軍に挟み撃ちを食らってしまうというわけだ。

四天王直属のセレクションはその名の通り全部で4つ。
大陸全土の魔導技術を統括する『技術局』。
通信手段を掌握し反乱分子を粛清する『法務局』。
世界の土地を管理しインフラを治める『環境局』。
臣民を統治し法令整備や政治的事業を行う『内政局』。
このうちバベルにあった技術局は既に俺たちが攻略しているので、残りの3つのうちから選ぶことになる。

「とにかくレジスタンスを動かせるようになれば残り2つのセレクションも一気呵成に破れるはずだ。
 なんにせよ、少数精鋭で隠密に行動できる俺たちが強くならねえことには動かねえ計画だけどな。ローゼン、修行の進捗はどうよ」
修道院カレー(旨い!)を頬張りながら、俺はローゼンに水を向けた。

35 :創る名無しに見る名無し:2011/08/04(木) 03:42:56.73 ID:ctDpnGYy
その頃、ダリアンとマカロニーナがチェスをしていた。2人は今、アメリカに住んでいるので、この物語には全く関係がない。

36 :創る名無しに見る名無し:2011/08/06(土) 14:41:35.11 ID:c1gFJbjE
ダリアン「セレクションって"選択"だよな」
マカロニーナ「気にしたら負けよ」

37 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/07(日) 00:50:49.04 ID:FT9haV2A
>32
ジョニーデップが現れた!
「いやー、僕はエリザベスさんほど剣が強くないですよ〜」
ジョニーデップが手にキスをしてきた。
「これは……精霊契約の儀式!? ごめんなさい、3つはさすがに定員オーバーです」

そこに風精霊が乱入してきた!
>「さて、風精霊様じ・き・じ・きのご指名だもの。みーーーっちりしごかせて貰いますわ。
 早速特訓と行きましょうか。……何ぼさっとしてるの!ほら運動服に着替えて修道院周りを50週よ!
 それが終わったら剣の素振り千回!徹底的にしごいてやるわ!おーっほっほっほっほ!」
「げえええええ!? 今時ジャンプでも見なくなったガチ修行かい! しかもこいつが先生!?」
「いや、君はやらなくていい」
院長先生が意味深に声をかけてきた。やらなくていいと言われたら反論したくなるものである。
「何でですか!? あのけしからんBMI指数のジェン君がやるんなら僕だってやります!
言っときますけど修行展開では主人公だけが厳しい修行をして
修行が終わったらヒロインもなぜかどさくさに紛れて強くなってるのが常識とか言うんなら逆ですからね!
常識的に考えてあっちがヒロインですよ!」

「おっと、勘違いさせてしまったようだね。
君はあのような時代錯誤の修行はしなくていいという意味だ。
私直々に貴方様の指導をさせていただきたい。駄目かな?」
銀髪美形に迫られて断れるわけがない。
「……よろしくお願いします!」

こうして修行編が始まった。

―― 修行その1、精霊術理論。院長先生と二人っきりの特別授業だ。
というのも、今や光精霊の術式を教えられるのはこの人ぐらいしかいないのだ。

「うう……」
難しい本を相手に頭を抱える。いつもノリで使ってるけど改めて理論的に学習するとなると訳分からん。
自分が普段使っている言葉の文法が分からんのと一緒である。
大学時代の知識? 忘れたに決まっている。というか最初からまともにやっていない。
「理論なんてやらなくても雰囲気で使えるんだからいいじゃないですかー。
それより早く霊装教えて下さいよ、多分勘でチャチャっとすぐ出来ますから!」
「残念ながら君の修行の内容を決める権限は君では無く私にある」
「そんな〜〜!」

―― 修行その2、剣術。
「どうしましたか? 本気でかかってきなさい、光の勇者!」
「ほ、ほんきです!」
ひのきの棒を振るいながら爽やかな笑顔を浮かべつつ鬼神のごとき気迫で迫ってくる院長先生。
一方的にやられっぱなしの僕。僕に精霊とのリンクなしに武術をやれなど元から無理な注文である。
あっというまに壁際まで追いつめられる。
「ひいいいいいい! ちょ! タンマ!
どうせリンクしたら超人バトルになるんだから地道に剣術修行したところで仕方ないですよ〜!
それより早く霊装教えてくださいよ!」
「君の修行の内容を決める権限は以下略隙あり!」
眉間に棒が叩き込まれた!
「ギャーーーーーッ!」

38 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/07(日) 00:55:51.15 ID:FT9haV2A
―― 修行その3、???
極めつけは、院長先生に怪しげな部屋に案内される。
そこに祀られているのはこれまた怪しげな本。
「これは”黒ノ歴史書”というマジックアイテムだ。触ってごらん」

触れた瞬間、目の前に鮮やかに映像が再生される。田舎ののどかな小学校の教室。
「おはよ――っ!」
見るからにマヌケそうな女子児童が扉をスライドさせて入ってくる。
扉の上に巧妙にセットされていたバケツが落下して水を頭から被る。
巻き起こる大爆笑。
どう見ても下級生の悪ガキ集団に玩具にされる小6の図だった。
うわー、バカだなあハハハ。黒板にでかでかと書いてある。”ばかろーぜん”と。
バカローゼン? どっかで聞いたことがあるぞ。
あろうことかこれは僕自身の記憶の底に封印された黒歴史だったのだ!

「……うわあああああああああああ!?」
叫びながら床を転げまわり、起き上がった勢いで院長先生に詰め寄る。
「こんな事をやって何の意味があるんだよ!? あなたは僕を立派な勇者にしたいんでしょ?
勇者って、勇者って……強くてかっこよくって! 愛で勇気で希望で正義で! 闇を打ち砕く光の権化なんだよ!
あんな個人的などうでもいい黒歴史なんて思い出したら邪魔じゃん!」
対する院長先生は例によってあっさりかわすだけ。
「君の以下略。今に分かるよ」

>34
夕食時にジェン君と顔を合わせる。
一見何も変わってないけど、毎日見てきた僕が分からないはずはない、確実に強そうになってる。
それに比べて僕は……言えない、毎日トラウマ部屋で転げまわってるなんて言えない!

>「とにかくレジスタンスを動かせるようになれば残り2つのセレクションも一気呵成に破れるはずだ。
 なんにせよ、少数精鋭で隠密に行動できる俺たちが強くならねえことには動かねえ計画だけどな。ローゼン、修行の進捗はどうよ」
「聞いて驚け、超順調よ! もうすぐ霊装いっちゃうー?って感じ!」

「アンタは相変わらず嘘が下手だねえ!」
テーブルの下からパンチパーマのおばさんがでてきた。
「頑張るんだよ! 共に世界を救った勇者と魔法使いは永遠に結ばれる……」
「あっ、皆さんスルーをお願いします!」
どう反応していいか分からないのでスルーを呼びかけておいた。

39 :創る名無しに見る名無し:2011/08/07(日) 15:35:30.03 ID:eQqxbgaR
まさか、自分にあんな映画のヒーローのような体験のチャンスが巡ってくるとは、その時は夢 にも思わなかった。
夜の繁華街の裏路地で、俺はたまたまその事件現場に遭遇してしまったのだ。
「やめてください、お願いですから……」哀願する少女を取り囲むように
「いいじゃねぇかぁ、少しくらいつきあってくれてもよう!」と、3人のチンピラ。

「……やめないか、悪党。」思わず、口をついで出てしまった挑発の文句。もう後には引けない。
逆上する3人のチンピラ。ナイフを手にしたやつもいる。
ならば……と、俺は左手で、懐からPSPを取り出す。
「PSPキック!」俺はすかさず、正面のナイフを持ったチンピラの鳩尾に蹴りを叩き込む。悶絶し、倒れるチンピラ。
「PSP裏拳!」返す右拳を、唖然とするモヒカン頭の顔面に叩き込む。鼻の骨が砕け、昏倒する。
「PSPエルボー!」もう一人のチンピラの頭蓋骨を砕く。
「PSPチョップ!」残るひとりの頚動脈を断ち切る。
一撃必殺。
一瞬にして、俺を取り囲むように倒れ悶絶する血ダルマが4つできあがった。
「次からは、相手を見て喧嘩を売ることだな……。」
返り血で真っ赤に染まったPSPを拭き取りながらそっと、俺に勝利をくれたPSPにつぶやいた。

「持っててよかった、PSP。」

40 :カレン ◇Upd1QvIO9s:2011/08/08(月) 22:32:50.45 ID:lYnp5V9l
『どや、修行のほうは?』

カレンに憑依している風精霊がマーガレットに尋ねる。
時は夕食中。マーガレットはパスタを啜りながら肩をすぼめる。

「まずまずって所ですわ。体力の方はついてきましたけど……惜しらむは戦闘スタイルですかね」

ふん、と鼻を鳴らすマーガレット。
精霊術を行使するにあたって必要なのは《イメージ》だ。
曖昧なイメージでは逆に術者自身を傷つけかねない。
マーガレットは過去の経験においてそれを十分に熟知していた。

「まだ少し時間が必要ですわ。少なくとも、……」

マーガレットは言いかけ、ジェンタイル達を見遣った。
彼らは作戦会議に夢中のようだ。

>「攻めるとしたら、まずは通信手段を牛耳ってる法務局だ。ここを落とせば、15万のレジスタンスに一斉蜂起を伝えられる」
>「とにかくレジスタンスを動かせるようになれば残り2つのセレクションも一気呵成に破れるはずだ。
 なんにせよ、少数精鋭で隠密に行動できる俺たちが強くならねえことには動かねえ計画だけどな。ローゼン、修行の進捗はどうよ」

『へー、見てくれの割りにオツムの方は信頼出来そうやないの』

ふふっと風精霊は笑う。風精霊は敢えて彼らに干渉しようとはしない。
慈しみをこめた視線で見つめ続けているが、そこには一抹の寂しさが篭ってもいるようだった。
風精霊は席を立ち上がるとジェンタイル達に近寄り、ローゼンの隣に座った。
それに倣うようにマーガレットもジェンタイルの隣に座る。

『さて、その作戦やけどなジェン坊や。一つ情報があるで。
 法務局にはうちらの仲間が潜伏しとるんや』

その仲間達は法務局を通じて密かに情報を流すという役目を背負っていた。
だが。

『その仲間達からな、数日前から連絡が途絶えたんや。どういうことやと思う?』

眉尻を上げ、口を噤む風精霊。

『スピードアップや、マーガレット。ジェン坊に”霊装”、叩き込んだり』

瞬間、マーガレットがパスタを噴出した。
涙目で咳き込みながら、目を皿のように丸くして風精霊を穴が開くほど見つめる。

「い、今なんと?」
『せやから、ジェン坊に霊装叩きこむ言うたんや。今やったら魔力賦与も難しい話やないやろ』

さらっと言ってのける風精霊だが、マーガレットは未だに渋い顔をしている。
暫く難しい顔をして考え込んだが、嘆息ひとつ零しジェンタイルを見据えた。

「深夜月が真上に来る頃、私の部屋に来なさい。南塔の四階よ。
何時もは男子禁制だからロックが掛かってるけど、今日だけは外しておくから」

遅刻したら許さないからね、と鋭く睨み付け、空になった皿を持ってその場を後にする。

『あ、ローゼンちゃんは相変わらず先生の授業やからね。受けてええのはジェン坊だけやけん』
風精霊はそう言うとカレンの笑顔でにやけるのだった。

41 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/08/10(水) 01:06:30.86 ID:PjrR4z2x
>「聞いて驚け、超順調よ! もうすぐ霊装いっちゃうー?って感じ!」
「う……」
うすうす感づいてはいたけれど、改めて言われるとショックだ。
ローゼンのやつ、もうそんな段階まで進んでんのか。
<<こっちは霊装のれの字も出て来てないというのにな>>
いやホント、毎日剣を振るだけの簡単なお仕事ですよ。むしろ最近は放置プレイのきらいすらあるね。
マーガレットの監視の間隔が10分に一回から3日に一回になったし。落差激しすぎだろ。
最初見放されたんじゃないかと涙目になったわ。

>『さて、その作戦やけどなジェン坊や。一つ情報があるで。務局にはうちらの仲間が潜伏しとるんや』
カレンに憑依した風精霊が、窓辺からゆっくりと歩いてきて俺のとなりに座った。
マーガレットも追従するように空いた方の俺のとなりへ。え、なに、なんで挟まれてるの俺。美人局?
>『その仲間達からな、数日前から連絡が途絶えたんや。どういうことやと思う?』
「……!」
俺は息を呑んだ。内部に忍ばせていたスパイが音信不通になった。小学生にだってわかる理屈だ。
この平和な修道院で、どこか麻痺していた危機感に再び火が灯る。風精霊が二の句を継いだ。
>『スピードアップや、マーガレット。ジェン坊に”霊装”、叩き込んだり』
瞬間、隣でぶばっと盛大に何かを吹き出す音がした。パスタを口から垂れ流す美少女マーガレットちゃんだった。
風精霊と二三言葉を交わしたかと思うと、パスタに苦虫でも混じっていたかのような顔をしながら言った。
>「深夜月が真上に来る頃、私の部屋に来なさい。南塔の四階よ。
 何時もは男子禁制だからロックが掛かってるけど、今日だけは外しておくから」
今度は俺が吹き出す番だった。
南塔。そこは、かつて数多ものツワモノ達が挑戦しては散っていった最強不落の不可侵領域。
――女子寮である。

「こちらコールサイン・ダークフレイムオブディッセンバー1。南塔に潜入した」
夜間戦闘用の黒ジャージに着替えた俺は、南塔のロビーから中央階段へかけてのルートを選定していた。
足音でバレないように靴は抱えて。消灯時間は過ぎているので中は真っ暗だが、夜更かしする女子は意外に多い。
どこで鉢合わせするかわからない。
素性も知れない外部聴講生が女子寮に侵入したとあらば、非公式に"対処"されてもおかしくない。
このスニーキングミッションは、そういう社会的に致命的なリスクを孕んだ任務なのだった。
「炎精霊、指示をくれ。炎精霊ー?」
<<おい馬鹿、疲労入るまで閃光玉使うなって。よし、じゃあ吾罠仕掛けるから溜め3かましといて>>
モンハンやってんじゃねーよ!お前女子寮潜入とかすげー好きそうなイベントじゃん!
<<聞いたことがないか汝?『女子校は男子が思ってるよりずっと汚い』――>>
だから全力で現実逃避してんのかお前……。
確かに、女子校に幻想持ってる奴が実態を知るとかなりショック受けるらしいし。
俺?はははバカめ、三次元なんぞに妙な期待を抱くからそういうことになるのだ!
二次元最高や!立体の女なんかいらんかったんや!

階段をひたひたと昇って4階に辿り着き、マーガレットの部屋を探す。
いくつか明かりのついた部屋の前を横切り、目的の扉の前に立った。
ん、あれ!?今までなんとなくスルーしてたけど、これってリア充の修学旅行によくある……
『夜中に女子の部屋にお邪魔する』イベントじゃねーの!マジかよ!どこでフラグが立ったんだってばよ!?
<<待て汝、これは罠かも知れんぞ。常識的に考えて、汝のような底辺アニオタ非リア童貞を女子が誘うと思うか!?>>
うっせえ!ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!
<<ちゃうのか?吾ももうかれこれ7年か8年ほど汝に付き合ってるが今まで一度も――>>
うそですごめんなさい童貞でした!いや待て、捉えようによっちゃあ、そいつは過去形になるかもだぜ!?
そうさ!遅ればせながら、俺にも春がやってきたに違いない!ふ、ふひ、ふひひひひひひひィ!
「ごめんください!!」
居ても立ってもいられなくなった俺は、部屋のドアをそーっと蹴り開くとフナムシのように滑り込んだ。

42 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/11(木) 11:10:41.43 ID:dyRgSMd2
>40
>『あ、ローゼンちゃんは相変わらず先生の授業やからね。受けてええのはジェン坊だけやけん』
にっこり笑ってジェン君を激励する。
「良かったね、頑張れジェン君!」

その夜。
「うううう……なんでジェン君だけなの!?」
この僕がジェン君に先を越されるなどあってはならない!
当たり前だ、ジェン君は生意気な口利いてもちっちゃい弟。それは未来永劫変わる事はないのだ。
もちろん世界の危機なのにこんな事を言っている場合ではないのは分かっている。
ジェン君だけでも一刻も早く霊装を習得するに越したことは無いのだ。
というかどうしちゃったんだろう。僕ってこんなうだうだ悩むようなキャラじゃないはずなのに!

「ローゼンさん、どうしたの!?」
隣の部屋の生徒が血相を変えて乱入してきた。
「どうしたのって……あ、ごめん……!」
無意識のうちに部屋の壁をどんどん叩いていたのだった。
「ジェン君が今夜女の子の部屋に呼ばれていい事を教えてもらうの。
僕は行ったらいけないんだってさ!」
「こうしてる場合じゃないですよ!
夜の秘密授業なんて怪しすぎますよ! どさくさに紛れて変な事をするに決まってます!
今こそ男子寮生の力を結集し総力を挙げて阻止しましょう!」
「えっ……」
そういう事だったのか! 全然気付かなかった!
あの女、何も知らずにホイホイっとやってきた純真なジェン君を食っちまうつもりなのだ!
「うをおおおおおおおおお!! あのアマ許さん!!」

光精霊経由で男子寮生達にメールを一斉送信。
『こちらエターナルフォースブリザード。
これより夜の秘密授業という怪しからん密通を阻止する! 総員出動だ!』
続々と返信が来る。
『アニキの頼みとあっちゃあ仕方ないな!』
『そうだそうだ、不純同性交友ならともかく不純異性交友はダメだ!』

「ふっふっふ、見てろよジェン君! 男子寮は今や我が手中にあるのだ!」
自分で言うのも何だが、なんだかんだで昔から後輩や子どもがよく懐く。
特にここでは、女装が似合う男の中の男として大人気だ。
ちなみに僕は後輩を変な道に引き込む悪い先輩は嫌いだ。

月が南中する約1時間前から我が組織力を持って女子寮の出入り口を全て封鎖する。
「さすがローゼンのアニキ! 完璧な作戦だ!」
「俗にいう水際作戦ってやつですね!」
「マジカッケー!」
だがしかし、完璧に見えた作戦には落とし穴があった。
「君達、こんな夜更けに何をやっているんだ? 首謀者は誰だ?」
「げ、院長先生!」
普通に見つかった。敗因は作戦を大規模に展開しすぎた事か……ッ!
「秘密組織ごっこをやってました。言い出したのはそこのローゼン兄さんです」
あっさりと差し出された!
「悪い先輩にはお仕置きが必要だな。君達はさっさと帰って寝なさい」
院長先生にお姫様抱っこされてどこかに連行される。
「あ、アニキ―――――ッ!!」

43 :創る名無しに見る名無し:2011/08/13(土) 19:19:38.25 ID:OLJL9b4L
「貴方に霊装習得のヒントを教えてあげましょう。
 霊装には―――」

「 ア リ ス ゲ ー ム
 永 久 薔 薇 庭 園」

「―――みたいにオサレなルビが必要なのです」

44 :カレン ◆Upd1QvIO9s :2011/08/13(土) 21:31:06.74 ID:2p/NV9Fn
>「ごめんください!!」
マーガレットはその言葉を聞くと振り返る。そこにはジェンタイルの姿。
仁王立ちの体勢でジェンタイルを見下ろすと、彼女はフン、と鼻を鳴らす。

「3分ジャスト遅刻よ。時間を無駄にしないで頂戴……それと、その気持ち悪いにやけ顔止めてくれない?」

変な顔、と馬鹿にしたように笑い、彼の横を通り過ぎる。
目的はドア。静かにドアノブを回し、外へ。
そしてジェンタイルを一瞥し、着いてこいと顎でしゃくる。

着いた先は屋上。普段は生徒は立ち入り禁止だ。普段は、だが。
空を見上げれば、丸く蒼い月が顔を覗かせていた。
マーガレットは息を吐き、白いネグリジェの懐から杖を出す。

「構えなさい、ジェンタイル。――――ここからは特別レッスンよ」

たちまち周囲を包む冷気。初めてジェンタイルと戦った時と同じ状況だ。

「汝、マーガレット=アイ=ビビリアンの名において、その真価を示せ。極寒騎士《フローズンナイト》!」 」

白い吐息と詠唱が口から漏れた刹那、極光。
光が収まれば、杖は氷のレイピアへと変化していた。ただし、鎧は顕れていない。
ネグリジェの姿のままのマーガレットは、レイピアを構えジェンタイルを見据える。

「魔力賦与、そして霊装において大事なのは体力、精神力、経験、確固たるイメージよ。
 脆弱な腕と想像力では決して顕現しやしないわ。だからこそ貴方を鍛える必要があった」

ピッ、と鋭い切っ先が空を切る。
何時もの意地悪い目付きは何処へやら、真剣そのものの眼光だ。

「そして、一番必要なのは"貴方自身の覚悟"。――二週間の鍛練の成果、見せてみなさいよ」


そして場所は変わり院長室。
ローゼンをソファに降ろし、ロスチャイルドはふ、と小さく溜息を一つ。

「ローゼン君、今一度聞いてほしい。これは真面目な話だよ」

ロスチャイルドが机の上に置かれた本――黒ノ歴史書を掴み、引き寄せる。
それをローゼンの前に掲げながら、口を開く。

「以前君は言ったね。この修行に何の意味があるのかと」

さら、とページを開く。そこにはローゼンの消したい過去の記憶の数々。
一つ一つが、彼女の心や神経を抉るようなものばかり。

「君は光の勇者だ。だが、まだ"心"が完成していない」

自分の血を見て倒れてしまうくらいだからね、とクスクス笑うロスチャイルド。
実は、ジェンタイル達の戦いをこっそり観戦していた事をさらっと白状しつつも、真顔でこう言った。

「この訓練は、君の"心"を、崩れることのない屈強な精神を作るための特訓だ。
 魔王と闘う為に、ある意味では霊装以上に必要な訓練なんだよ、ローゼン君」

45 :創る名無しに見る名無し:2011/08/13(土) 21:42:23.07 ID:e7MVvvv7
とりあえず、たった二人しかいないのに
クソくだらないエロほのめかすネタがやりたいばかりに
キャラクターを分担しちゃう馬鹿は自重ってものを覚えるべきだよね

46 :創る名無しに見る名無し:2011/08/14(日) 10:54:55.85 ID:5+HmYvXq
たった2人にしか見えない文盲も
本スレ凸の自重を覚えるべきw


47 :創る名無しに見る名無し:2011/08/14(日) 12:14:16.69 ID:GjPI5UJN
物の数として見られてないんだろw

48 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/08/15(月) 06:08:49.75 ID:h9D593mc
>「3分ジャスト遅刻よ。時間を無駄にしないで頂戴……それと、その気持ち悪いにやけ顔止めてくれない?」
「おおっと。なんのことかなっ!?」
指摘されて、俺は頬をぴしゃりと叩いた。
マーガレットはおやすみ服のままで、部屋の中央に仁王立ちしていた。
ずっとこの格好でスタンバイしてたんだ……。
そのままマーガレットに促されて、俺たちは屋上へ登った。夜半の風は程良く湿気が抜けていて心地良い。
今夜はよく晴れているから、きっと涼しくなるだろう。夜風に当たるには絶好のシチュエーションだが――

>「構えなさい、ジェンタイル。――――ここからは特別レッスンよ」
マーガレットは俺から距離をとったまま、杖を抜き放っていた。
浮かべる表情はしかめっ面。どう見ても青春イベントの顔じゃあない。
「お、おい、そりゃどうゆう……」
>「汝、マーガレット=アイ=ビビリアンの名において、その真価を示せ。極寒騎士《フローズンナイト》!」 」
問うた刹那、マーガレットが鍵語を紡ぐ。明滅する蒼光、顕現するのはマーガレットの霊装。
臨戦態勢だった。いや、夜の臨戦態勢とかそういう下ネタじゃなくてね。

>魔力賦与、そして霊装において大事なのは体力、精神力、経験、確固たるイメージよ。
 脆弱な腕と想像力では決して顕現しやしないわ。だからこそ貴方を鍛える必要があった」
杖から生まれた刃、その切っ先が俺を捉えた。
>「そして、一番必要なのは"貴方自身の覚悟"。――二週間の鍛練の成果、見せてみなさいよ」
<<汝!今すぐ二時方向へ跳べ!!>>
いつになく緊迫した炎精霊の警告。弾かれるようにして斜め前へと横っ飛び。
瞬間、俺の身体の側面を巨大な氷柱が擦過していった。まるで勢いを殺さず、屋上の落下防止結界に当たって大きく火花を散らす。

「おいっ!」
不意を打たれ、マーガレットに抗議の声を送る――が、届かない。
っはーん、わかったぜ。こいつは修行展開の締めによくある、「実戦の中で成長しろ」とかそういうアレだな!
胸から着地した俺はすぐに受け身をとって身体を反転。反動を利用して身体を振り上げ、地面に足を再会させた。
「つったって、俺まだ霊装のれの字も教わってねえんだぞ!成果を見せろってd――」
ゴオゥ!と俺の抗議を遮るようにして再び氷の嵐。うひい。俺は頭を抱えて転がる。
鍛錬の成果だぁ?剣振ってるだけで終わった二週間から何を学べってんだよ!

49 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/08/15(月) 06:09:30.94 ID:h9D593mc
――いや、ここで『できるわけがない』と思考停止するのが一番駄目なパターンだ。
精霊の力は信じる力。『できる』と断ずるその意志こそが、精霊から力を引き出すキーワードなのだ。
だから、必要なのは認識すること。彼我の戦力差を分析し、霊装がどういうものかを理解し、己の血肉に変えるということ!
百聞は一見に如かないのだ。マーガレットがこうやってみせてくれているのだから、そこから盗む勢いで!

整理してみよう。『霊装』が何故、対悪魔殲滅術足りえるのか。
あくまで俺の見立てだが、理由は大別して2つある。そいつを両の車輪にして、修道院は悪魔と渡り合ってきた。
まず、『武器という形状の顕現化』。予め攻撃に特化させた形状に精霊魔力を縛ることで、
魔法使いの弱点の一つである"魔力から魔法への変換タイムラグ"を極限にまで減らしているのだ。
そして、『身に纏うという性質』。魔力附与という形で精霊魔力を纏うことで、基本的な身体能力を底上げしているのだ。
人類よりも肉体的なスペックが高い悪魔と戦うにおいて、このアドバンテージは生存率に直結する。

だから強い。マーガレットと最初に戦ったあの時も、四大精霊であるはずの炎精霊が遅れをとるほどの氷結速度だった。
相手が防御策を講じる前に最高の一撃を叩き込めるというのは、これすなわち一撃必殺なのである。
……考えれば考えるほど勝算がガリガリ削れていくぞぉ!
<<そこまで答えが出ているのなら、汝、やるべきことはもう決まりだろう>>
そう。最初から決まりきったことだ。
――この土壇場で霊装を完成させなきゃ、マーガレットには勝てない――
でも、どうやって?

「ぬおおおおおおおお!」
悩んでいてもしかたないので、マーガレットの利き腕の方から回りこむように疾走する。
人間の身体構造上、腕を身体の外側に向かって動かすのが苦手だ。ナイフを持った通り魔に襲われたときの為に覚えておこう。
とにかく、なんでも試してやってみるしかない。俺は素手で拳を握り、魔力を練り上げる。
えーと、戦うイメージ戦うイメージ戦うイメージ戦うイメージ……
「出ろ、霊装っ!」
マーガレットに向かって開いた掌を突き出すが、線香花火みたいな火花がちょろっと飛び出ただけだった。
「あれーーっ!?なんで出ないんだよ!ちゃんとこの二週間のこと考えながらだったのに!」
素手の俺は、わけもわからないままただ手をぐっぱぐっぱするだけだった。
霊装、できましぇん。どうやって出すのかもわかりません。誰か俺を助けて下さい。

50 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/16(火) 00:56:28.28 ID:9PjmSohd
>44
>「以前君は言ったね。この修行に何の意味があるのかと」
院長先生はさらっと黒ノ歴史書を開きやがった!
「おんぎょおおおおおおおおお!? さりげなくページをめくるなあああああ!」
鮮やかに再生される黒歴史! 例えば! 恐怖の女子校編! 
皆の憧れの先輩、クールビューティーお姉さま阿部真理亜の恐るべき真実!
名付けて”真理亜様が視てる”! 本編に関係ないので詳細はまたの機会に!

>「君は光の勇者だ。だが、まだ"心"が完成していない」
院長先生は、僕が自分の血を見て倒れたという。
記憶が途切れている、また邪神モードを発動していたのか……!

あの状態を見ていてなぜそこに言及してこない?
何かが取り付いているならお祓いするとか、考えたくは無いけどあれが本性なら抹殺にかかるとか……何らかの手を打つはずだ。
確かめずにはいられなかった。
「……見たんですよね? 別人みたいになって妄言をブツブツ言っているのを!!
僕は……貴方達の敵、悪魔じゃないんですか?」
この質問に、院長先生は表情一つ変えない。
>「この訓練は、君の"心"を、崩れることのない屈強な精神を作るための特訓だ。
 魔王と闘う為に、ある意味では霊装以上に必要な訓練なんだよ、ローゼン君」
ものの見事にスルーされた。

「『勇者に心なんていらない、心なんて弱さでしかない。なのにどうして掻き乱す?
あなたも知っているでしょう、勇者とは何なのか』」
突然光精霊が僕の口を乗っ取って喋り始めた。

「『愛で勇気で希望。優しくて強くて、明るく前だけを向いて突き進む。
絶対の正義の象徴、実際には存在し得ないものの具現。世界が抱く理想の体系、あるべき姿、超自我《スーパーエゴ》を担う者。
我はローゼンとずっと一緒にいて勇者の人格を作り上げてきた。
恨みや憎しみは抹消して。いらない記憶は封じ込めて。人には親切にするべきだ、魔物は容赦なく殺せと囁いて。
自らの使命に何の疑問も持たず、決して揺らぐ事もない、忠実なロボットのようにね。
元が元だからこんなんになったけど、ギャグファンタジーの勇者と思えば上出来っしょ。』」

「そうだ。しかしその元が強力過ぎた。現に制御しきれずに時々表に出てくるじゃないか」
何が何だか分からないまま話は進む。完全に置いてきぼりだ。

「その通りにゃ。ご主人様は強力すぎたにゃ」
どこからともなくペットのねこが現れてソファーの上に座る。
「魔王とは《イド》の具現。生の欲動と死の衝動。欲望の体系。
人間の動因となるむき出しのエネルギーそのものにゃ。
だから世界に人間がいる限り魔王は何度でも現れ続けるにゃ。
時代が進んで人間の欲望が強くなればなるほど、現れる魔王も強力になってきたにゃ。
御主人さまは君の手に負えないにゃ。どうするにゃ? 光精霊」
一触即発の空気が流れ、光精霊とねこがバチバチ火花を散らす。

ここで院長先生が会話を引き継いだ。
「もう分かっただろう。
勇者と魔王は同じカードの裏と表、世界が幾度となく繰り返す物語に捕らわれし咎人。
勇者とは魔王の生まれ変わりなのだよ。
邪魔する者を叩き潰して欲しい物全てを手に入れようとする魔王。
私利私欲を滅し世のため人のために身を捧ぐ勇者。
正反対なのにとても似ていると思わないかい?
魔王の持つ爆発的なエネルギーが方向性を付けて改変されたものが、勇者の人格なんだ。
そして今の君はあのような状況だ」
院長先生は、火花を散らしている光精霊とねこを指さした。

51 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/17(水) 00:41:03.20 ID:rmEnQdi6
「あ、あははははは……魔王が勇者なんて……そんな面白過ぎる設定誰が考えたんだよ」
笑うしかない状況とは裏腹に、膝の上で握りしめた拳の上に、涙が落ちた。
「僕の本質は極悪非道な大量殺戮者……この心は、作られた紛いものだったんだ……。
こんな戦いに巻き込まれなければ……魔王がいない平和な世界なら!
ずっと知らずに笑って過ごす事が出来たのに!!」

『らしくないよ。勇者は他人の為以外には泣いたらいけない』
光精霊の冷ややかな言葉が突き刺さる。だけど光精霊を責める気にはならない。
光精霊が抑えなていなければ僕の中の魔王が野放しになって暴れはじめるだろう。
と言うより、僕の人格は全てが魔王と光精霊で出来ているのだ。

「『アホかい、ほな今泣いとるのは誰やねん』」
顔を上げると、院長先生が掴みどころのない笑顔を浮かべていた。
「風の大精霊様……?」
「『時々この辺が締め付けられるような気持ちになる事があるやろ?』」
「え!?」
不意打ち。思いっきり胸を触られた。立ちあがって抗議する。
「な、何するんですか!? ふざけてる場合じゃありません!
そりゃあありますよ! 例えば……えーと……」
「『皆まで言うな、聞くこっちが照れるわ。
それは間違いなくローゼンちゃん自身の心やで。精霊や悪魔は実体を持ってへん。
実体を持たないウチらは精神エネルギー体そのものでありながら《無意識》の存在なんや』」

「あ……」
やっと、修行の意味が分かった気がした。意識せずに出来る事をなぜあえて理論からやらせたか。
なぜわざわざ黒歴史を思い出させたか。
隣で相変わらず睨み合っている光精霊とねこ。あいつらの真の意味での御主人さまになるためだったんだ!

「『納得したようやな。ほな今日の特別授業の仕上げや!』」
納得したと言うか風の大精霊にうまく乗せられたような気がするんだけど。
「『窓の外を見てみい、あの棟の屋上や』」
双眼鏡を渡され、促されるまま見る。

52 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/17(水) 00:42:50.21 ID:rmEnQdi6
>49
ジェン君がいじめられていた。
「あーっ、酷い! でも訓練だし手加減はしてくれるよね……?」
「『分からんで。マーガレットのことや。不幸な事故でしたですませるかもしれん』」
最初の決闘の様子を思い出すに、その可能性は否定できない!
「きえええええええええええ!? お願い助けてあげて!!」
僕は風の大精霊に泣きついた。


そして今。……なぜか僕は、南塔屋上を見下ろす時計塔の上に立っていた。
月をバックに、魔王風のコスプレをして、漆黒のマントを夜風にはためかせながら!
ちなみに、演出は全て風の大精霊様考案のものである。
「なんでこうなった!?」
『厨二病全開の恥ずかしい言動をする事により屈強な心を作るために決まってるやろ!』
ちゃうやろ。もうただ状況を楽しんでるだけやろ。

ジェン君は追い詰められて袋のねずみだった。
>「あれーーっ!?なんで出ないんだよ!ちゃんとこの二週間のこと考えながらだったのに!」
『最高のタイミングや、3、2、1、Q!!』

監督のGOサインが出てしまったので観念してやるしかない。
まずは無駄な高笑いで存在をアピール。
「ククク……アッハハハハハハ! 無様だな、少年!」
光精霊まで風の大精霊監督の指示で動いているらしく、絶妙な角度でライトアップされる。
御丁寧に声にエコーまでかかってるよ!

「これは死にゆく貴様への手向けだ……、受け取るがいい!」
手紙を付けた、一輪の薔薇の花を投擲した。
不自然な突風に乗って、見事にジェン君の足元に突きささる。
「ではサラダバー!」
時計塔からひらりと飛び降りた。

手紙には>>43の内容が書いてある。

53 :カレン ◆Upd1QvIO9s :2011/08/18(木) 12:27:22.00 ID:waoyBkn6
>「あれーーっ!?なんで出ないんだよ!ちゃんとこの二週間のこと考えながらだったのに!」

攻撃を仕掛け、霊装を試みるも見事に失敗したジェンタイル。
マーガレットは先程から氷の槍を飛ばす攻撃しか繰り出していない。
ここで例の意地悪い笑みを少しだけ浮かべ、再び氷の槍を飛ばす。

「オホホホホ!さーて、何で出ないのかしらねえー?」

残念ながら教える気は更々なさそうである。
容赦なくレイピアで氷槍をジェンタイルに向けて放つ。
その時、頭上から声。
見上げれば、魔王風の衣装を着、黒マントをはためかせるローゼンが居る。

>「ククク……アッハハハハハハ! 無様だな、少年!」
「……………………何、あれ?」

攻撃の手をとめ、マーガレットはポカンとローゼンを凝視する。
ローゼンは何やら手紙を括り付けた薔薇の花を投げつけ、去っていく。
手紙の中味には興味はない。が、あまり参考にはならなかったようだ。
時刻は既に三時を過ぎていた。 欠伸ひとつ吐くと、ジェンタイルへと振り返る。

「今夜はここまでにしましょう。お肌が荒れちゃ敵わないもの」

そう言うと、マーガレットは背を向ける。

「何故、霊装が出ないのか。明日教えてあげるわ。十時に食堂に集合よ」


そして翌朝の十時。食堂にはジェンタイルとローゼン、そしてカレンが揃っていた。
カレンはジェンタイル達の修行内容を知らされていなかったため、驚いている。

「えーっマーガレットがジェン兄に霊装を! い、虐められませんでしたか!?
 それに院長先生から特別に授業を……羨ましいなあー。特待生でも受けられないのに……」
「誰が誰を虐めるですって?」

カレンの背後から現れるマーガレット。いつもの黒いキュロット姿だ。
萎縮するカレンを一睨みし、まあいいわと話を切り出す。

「今日は買い物に行くわよ」

何の脈絡もなく、マーガレットはきっぱりと言い放つ。じゃらじゃらと金の入った袋を鳴らして。

「霊装に必要なものを買いに行くのよ。説明してなかった私の落ち度もあるし、今ここで教えるわ。
 魔力賦与と霊装にはね、イメージに伴った"媒体"が必要なの。私なら杖ね。細長い所は似てるでしょ?
 貴方達は悪魔と闘うし、どうせだから強力な武器もかねて買うわよ。因みにこの金は院長先生持ちだから」

54 :創る名無しに見る名無し:2011/08/18(木) 15:31:08.30 ID:NUtuoMde
煽るつもりじゃないんだけど、ローゼンの手紙ネタ振りはガン無視確定で話進めるのは何でなの?
手紙ネタからジェンタイル君が覚醒とか、そう言う可能性は一切考えられなかったの?
て言うか夜の呼び出しで結局何がしたかった訳?何の意味もなかったよね?
まさか本当にエロネタ仄めかす為だけにやったの?

55 :創る名無しに見る名無し:2011/08/20(土) 00:48:17.23 ID:LKih1Jdy
なにを かいますか?

・どこかでみたような エネルギーろ
・どこかでみたような やすうりのだいこん
・どこかでみたような にほんとう
・どこかでみたような せっけん
・どこかでみたような ハルバード
・どこかでみたような ミスリルのいと


56 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/08/22(月) 04:43:42.43 ID:w+Ki1C+6
>「オホホホホ!さーて、何で出ないのかしらねえー?」
マーガレットの仮借ない攻撃が飛んで来る。
答えの出ぬまま俺は回避に専念するが、如何せん霊装が相手だ。前述したように、その攻撃速度は――桁違いだ。
>「ククク……アッハハハハハハ! 無様だな、少年!」
と、俺の窮地に駆けつけたるは……え、ローゼン?
オサレマントに魔王っぽい格好のローゼンがライトの上で高笑いしていた。
>「これは死にゆく貴様への手向けだ……、受け取るがいい!」
飛んでくる薔薇が一本。そこには矢文のごとく手紙が括りつけてあった。
マーガレットの攻勢から逃げ惑いつつそれを開くと……>>43の内容が書いてある。
「そうか……俺に足りなかったもの、それはオサレ成分!」
熟語にカタカナのルビ振ったり!初めから本気出さなかったり!後付で都合よく新能力に目覚めたり!
そういうブリーチ的なセンスが俺には圧倒的に欠如しているのだ!
そしてそれは案外、理にかなっている。精霊の力は信じる力。明確な『強さのイメージ』はそのまま俺の刃になる!
「くっ……今から既刊分全部を読破するには時間が足りねえ!」
漫画喫茶やってるかな?
>「何故、霊装が出ないのか。明日教えてあげるわ。十時に食堂に集合よ」
興を削がれたらしきマーガレットは霊装を納め踵を返す。
え、夜イベントこれで終わり?まさかの全年齢対象?あらやだ。

>「今日は買い物に行くわよ」
あのあとフツーに女子寮侵入が見つかってボコられ、体中の骨がキレイに二分割された俺は這って男子寮に戻った。
同室の生徒に回復魔法をかけてもらったあともしばらく激痛と高熱で動けなかったよ!生きててよかった本当に!
で、翌朝。マーガレットは何食わぬ顔で俺たちに合流した。ズタズタの口の中にひぃひぃ言いながらフルーツグラノーラ詰めてる俺。
「買い物って。生活必需品は修道院の売店で揃うし、わざわざ街に出かける意味あんの?」
>「霊装に必要なものを買いに行くのよ」
答え合わせ。霊装に必要なのは愛と勇気と信念と……霊装を顕現させる"媒体"なのだそうだ。
それ先に言えや!と俺は怒りと憎しみと愛しさと切なさと心強さとその他もろもろの詰まった涙を流した。
「媒体ねえ……つまりアレだろ?契約してる精霊の力を象徴するような器物が一番適してるってわけだ」
でもまあ、理屈はわかる。人間が猛獣と最初に渡り合ったとき、彼らは無手ではなかった。
非力で、爪や牙も貧弱な人類が諸々の生物と戦う時、何よりも必要なのは強力な"武器"なのだ。
「ってことはローゼン、お前がよく使う精霊剣なんかと原理は似てるのかもな」
あれも手持ちのレイピアに精霊を宿して云々みたいな技だったはずだし。
ともあれ。ともあれだ。いささか安直ではあるけれど、こいつが真のパワーアップイベントということらしい。
「何気にちゃんと街に出るのは初めてだしな。買い物ついでに、この歴史軸の王都観光と行こうぜ」

とゆうわけで、街。
精霊樹ユグドラシルの内部に発生したこの街は、風精霊の加護によって擬似的に重力からの戒めを解かれている。
具体的に言うと、この街には階段の類がない。行きたいと思った場所へ向けて一足に跳べば、びゅーんと飛んでいけちゃうのだ。
これは、高濃度の風魔力が精霊樹の表面を覆っていて、クッションとスプリングの両方の役目を持っているためだ。
温泉村が地精霊によって栄えていたように、この精霊樹もまた風精霊の加護によって土地の特色を確保しているのだった。

>>55
「おいおい見ろよローゼン!どっかで見たような武器が目白押しだぜ!
 てっきりあいつらオンリーワンのキャラ付けだと思ってたけど、世の中おんなじこと考える奴がいるもんだなあ」
石鹸とか大根とか武器にする奴がこの世に二人もいるとは思いたくないけれど。
しかしまあ、上記2つは論外にしても、他のものは俺にも扱えるかもしれねえ。
『おっと ジェンタイル さんはこいつを装備できないようだな』
『おっと ジェンタイル さんはこいつを装備できないようだな』
『おっと ジェンタイル さんはこいつを装備できないようだな』
『おっと ジェンタイル さんはこいつを装備できないようだな』
全滅ぅぅぅ!?
<<どんだけ非力なのだ、汝……>>
いや、俺もビックリですわ。ローレシア王子とまではいかなくてもサマルトリア王子と同じぐらいは装備できると思ったのに。
俺はあの役立たずザラキ係よりも下だったのか……。地味にショックです。

57 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/23(火) 00:57:24.63 ID:FJYdXNcO
>53
>56
僕は自室に戻って感慨に浸っていた。
「ジェン君は今頃霊装を完成させてるんだろうなあ。
明日会ったら素直に喜んであげなきゃ」
「みゃ〜お」
ちなみに僕は端っこの豪華な部屋に入れられてるから、ジェン君の部屋とは少し離れている。
今日はあえて顔を合わせずに寝てしまおう。
と、突如飛び込んできた凶報が感慨をぶち壊した。
「アニキーッ! HP3ぐらいになって帰ってきました!」
「ぎゃーーーーっ!! なんで!?」

ジェン君のところへ駆けつけると、詳細に描写するのが憚られる状態になっていた。
こうなったら光属性の強力な回復魔法で治したらあ! おーい、光精霊! 
返事がない、ただのしかばねのようだ。
「ちょっと! かくれんぼしてる場合じゃないの!」
だんだんと不安になってきた。返事がないどころか気配も感じられない。
付いてきていたねこに問いかける。
「光精霊がどこにいるか分かる!?」
「にゃー」
ねこまでも僕に反抗するのか。
「にゃーじゃなくてワンとかすんとか言え!」
「にゃお」
違う、原因は僕の方? 彼らは普通に話しているのに聞こえなくなっているのだとしたら!?
不安が一気に恐怖に変わる。
「うそ、そんな……そんな事が……」
「大丈夫ですか!? すいません、当然ショックですよね……」
多分余程酷い顔色をしていたのだろう。
ジェン君の同室生徒が、去っていく僕に声をかける。その声に応える事すら出来なかった。

58 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/23(火) 00:58:34.26 ID:FJYdXNcO
次の日の朝、院長先生の顔をみるなり泣きついた。
「院長先生! 精霊の声が聞こえません!」
「今日はマーガレットに買い物に連れて行ってもらいなさい。午前10時に食堂で待ち合わせだ」
院長先生は人間の声が聞こえなくなっとる!
「聞こえない振りをしないでください! これじゃあ霊装どころかろくな魔法が使えませんよ!」
「ダイジョウブダモンダイナイ。ツイニぱわーあっぷふらぐガタッタトイウコトダ」
「意味分かんないよ!」

>55
>「霊装に必要なものを買いに行くのよ。説明してなかった私の落ち度もあるし、今ここで教えるわ。
 魔力賦与と霊装にはね、イメージに伴った"媒体"が必要なの。私なら杖ね。細長い所は似てるでしょ?
 貴方達は悪魔と闘うし、どうせだから強力な武器もかねて買うわよ。因みにこの金は院長先生持ちだから」
院長先生何考えてんだ! 霊装どころじゃありません。
>「ってことはローゼン、お前がよく使う精霊剣なんかと原理は似てるのかもな」
精霊剣出せましぇん。
>「何気にちゃんと街に出るのは初めてだしな。買い物ついでに、この歴史軸の王都観光と行こうぜ」
そんな気分じゃありましぇーん。

>55
>「おいおい見ろよローゼン!どっかで見たような武器が目白押しだぜ!
 てっきりあいつらオンリーワンのキャラ付けだと思ってたけど、世の中おんなじこと考える奴がいるもんだなあ」
「あはは、固有武器じゃなかったのか……」
ジェン君が石鹸と大根以外に挑戦し、あえなく撃沈していた。
ジェン君はムーンブルク王女ポジションだから仕方がないね!
あの棺桶魔法戦士のポジションは僕の専売特許だ。あれ!? 大丈夫かこのパーティー。

「えーと、じゃあ僕は安売りの大根で!」
一応棒状だし。
「ビジュアル的に論外でしょ、センスなさすぎ!
何よ辛気臭い顔して。しょうがないわねえ! 他の店に行きましょう!」

彼女が入っていったのは、なぜか都会風のブティック。
「まいどあり!」
E都会風のカチューシャ
E都会風の服
E都会風の鞄
E都会風の靴
「え、え、え? なんでこうなった!?」

「次行くわよ!」
マーガレットちゃんはずんずん商店街とは違う方向へ進んでいく。
言われるがままついていく。
「あの〜、一体どこに……」
「ここよ」
マーガレットちゃんは平然と遊園地に入っていってチケットを買っている。
「あー、遊園地かー……ってええええええええええええええええ!? いいの!?」

59 : ◆1SmxRrQv9VOH :2011/08/25(木) 20:31:13.11 ID:4JabgX/e
地面へと落下死した水玉の断末魔によく似た足音を立てながら、少女が歩いていた。
陽光の透き通る艶やかな肌、澄んだ泉さながらの瞳、小川のせせらぎを思わせる水色の髪、
歩調に合わせて揺れる豊満な胸、少女は瑞々しい美貌を誇っていた。
溶け始めの氷に似た美しく大きな眼が、忙しなくあちこちを見回す。誰かを探しているようだ。

「むぅ〜、見つかんないよぉ〜。この辺にいるって聞いたのになぁ〜」

空気の代わりに不満を込める風船のように頬を膨らませ、少女は唇を尖らせる。
足を時計の振り子の軌跡で大仰に振られ、少女が退屈している事を如実に体現していた。

「なんかぁ、もぉめんどくさくなってきたぁ〜……」

肩を落として目を細め倦怠感の権化となり、少女は当て所ない歩みを続ける。
視界はまるきり迷子になって、あちらこちらへと揺れ動いていた。

「……あ!」

けれども不意に少女は瞠目、透き通った瞳の奥で太陽の輝きが踊る。

「『ゆーえんち』だ〜! わたし知ってるよ! 色んな遊びが出来て、すっごく楽しいんだよね!」

俄かに駆け出した。
晴れ渡る青空の下、乾いた地面。
にも関わらず、相変わらず少女の足音は水溜りの悲鳴そっくりだった。

「ゆーえんち! ゆー……きゃっ!」

脇目も振らない盲目ぶりで駆け出した少女は、十歩も走らない内に誰かにぶつかった。
薄い胸板の感触が額に染み渡る。恐らく相手は男、それも虚弱な若者だ。
活発な少女の向こう見ずな突進は、その男をいとも容易く押し倒した。
そして一際大きな水音が響いた。同時に少女の全身に波紋が行き渡る。
屈折率を自在に変化させて再現していた人の体色が崩れた。
少女は一瞬間の内に透明に変色する。
少女の正体は液状生命体、すなわちスライム、魔物だった。
水と全く変わらない体、その西瓜のような胸の部分に、男の顔面が埋まっている。

「やっ……ひゃんっ、ちょ……もうっ、暴れないでよぉ〜♪」

溺死から逃れようと藻掻く男、ジェンタイルの頭を、スライムは抱き締める。
言葉とは裏腹に、声色はとても楽しげだ。
彼の暴力的かつ必死な足掻きは、液状生命体の彼女には堪らない愛撫、快感だった。
水を掻く音が響く中、少女は甘い嬌声を上げ続ける。
スライムの瞳に映る色が変移していく。
少女然とした明るい輝きは快楽に濁り、しかしまだ変移は止まらない。
蕩けたスライムの目は、次第に氷の眼差しでジェンタイルを見下し始めた。
魔物の本能、性癖、殺人衝動が発露しつつある。

「ん……よく見たらあなた……すごく可愛いお顔をしてるね〜……。なんだか……欲しくなってきちゃったぁ……」

スライムは濡れた刃のごとき艶やかで冷たい微笑みを浮かべていた。
情動は、衝動は加速していく。

60 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/08/25(木) 20:32:07.01 ID:4JabgX/e
「――正気に戻って下さい」

スライムの本能に歯止めを掛ける言葉、そして猛烈な拳撃。
ジェンタイルの鼻先を突き抜け、スライムを粉々に吹き飛ばして、彼を解放した。

「申し訳ございません。彼女にも悪気があった訳ではないのです。
 ただ、殺人は私達の本能、抜き身のナイフですから。
 気を緩めた彼女に否があるのは間違いないので、どうぞお好きなように非難してやって下さい」

打撃の主は、スライムと同じく少女の姿をしていた。
一切の光を宿さない黒曜石の目、正真正銘白磁の肌、風になびく事のない無機質な砂色の短髪、少女は無機生命体、ゴーレムだった。
恭しく頭を下げ、抑揚に乏しい口調でジェンタイルに謝罪をする。

「うぅ……ごめんなさい〜……。わたし、わるいスライムじゃないよぉ……?」

飛び散った体を集め、再生しながらスライムが涙目でジェンタイルを見上げる。

「……あれ? あなたもしかして……ジェンタイルさん? って事は、隣にいるのはローゼンさんだよね!
 ねぇ、そうだよねゴーレムちゃん! これってわたしお手柄じゃない!?」

だがすぐに、再び態度を一変。嬉しそうに声を上げて二人を指で差した。
ゴーレムの無機質な視線が二人に向けられる。磨き上げられた黒曜石の瞳に真実が映る。

「……どうやらそのようですが、スライムちゃんは少し黙っていて下さい」

思考回路さえ液状化していると言って何ら問題ないスライムがいては、話が進まない。
そう判断したゴーレムは彼女の発言を自粛させる、物理的に。具体的には再び殴り散らした。
改めてジェンタイル達に向き直る。

「改めて、初めまして。ジェンタイルさん、ローゼンさん。既にお察しでしょうが、私達は魔物です。
 ですが、どうか騒がないで下さい。私達は出来る事ならば人間を傷つけたくないと思っています。
 むしろ逆です。私達は人間を助ける為に、あなた達に接触したのです」

感情の音色を含まない淡々とした説明口調。

「私達は魔物の中でも人間を保護したいと考える組織から派遣されてきました。
 組織の名称は『母性的魔物達による人間保護団体』……」

「略して『もん☆むす』だよ〜!」

二度目の再生を完了したスライムがゴーレムの前に飛び出て、話に割り込んだ。

「え? 変? おっかしいなぁ……人間は長い言葉を真ん中に星一つ挟んでひらがな四文字に略したがるって聞いたのに……。
 他にも『らぶ☆こめ』とか『だれ☆とく』とか『えぬ☆ぴし』とか『らん☆ぞう』とかあるけど……ダメ?
 うーん、やっぱりよく分かんないなぁ、人間って」

腕を組み首を傾げて、唸る。

「ま、いいや! とにかくよろしくね〜!」

しかしすぐに思考を放棄して、ただジェンタイルに晴れやかで澄み通る笑顔を向けた。
続いてゴーレムが無機質な表情には一切の変化を見せず、小さく頭を下げる。

「黙っていて下さいと言った筈ですが……確かに挨拶がまだでしたね。まずは、よろしくお願いします」


【参加します。ひとまずコンタクトを取ってみました。頑張ります】

61 :創る名無しに見る名無し:2011/08/26(金) 14:15:51.48 ID:EhxhsUVi
「私、ミッフィーマウス!遊園地にようこそ!」

着ぐるみでも無さそうな愛らしい生き物が、来園者たちに風船とバッジを配っている。

62 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/08/27(土) 04:55:30.29 ID:WZ+AovGJ
前回までのあらすじ!"どっかでみたことあるもの市"を冷やかし終えた俺達は一路遊園地へ!
……って、遊園地!?おいおいマーガレットちゃんや、お前修道院出て遊びたかっただけとちゃうんか!

>「あー、遊園地かー……ってええええええええええええええええ!? いいの!?」
ローゼンも予想外だったみたいで、素っ頓狂なツッコミを入れる。
こいつ街に出てきてからやけに元気がない。らしくないと言えば、ローゼンのくせに突っ込みに回ってやんの。
何かあったんだろうか。
ともあれ俺は、修道院の外出用ジャージからしまむらセットに着替えてマーガレット達の後ろを歩く。
ローゼンなんかはえらく気合の入ったおべべを着用しているが、俺はお母さんの選ぶような服で充分だ。

>「ゆーえんち! ゆー……きゃっ!」
そのとき、急に目の前が真っ暗になった。衝撃、次いで水音。ぷるんっとした感触が俺の目と鼻と口を覆う。
うひぃ、なんだこれ。ひんやりしてるんだけど!
>「やっ……ひゃんっ、ちょ……もうっ、暴れないでよぉ〜♪」
なんか言ってる!言ってるけど!返事とかそれ以前に俺は溺れかけていた。
陸で溺れそうになるのは湖畔村での水精霊の一件に続き二度目だ。水難の相でも出てんのかな俺。
と、そんな思考をつらつらと上滑りさせながら、徐々に視界がブラックアウトしてきて――
>「――正気に戻って下さい」
ぼっ!っとすごい音がして、目の前のひんやりが消し飛んだ。

鼻先を通り抜けていくのは硬質な運動エネルギー。
酸素とともに入ってきた光が視界を取り戻す。そこにいたのは、でかい美少女フィギュアだった。
しかも喋って動く。無機物の魔物、ゴーレムである。
そしてさっきまで俺の顔面に張り付いていたひんやりは、アスファルトに四散する寒天質と同一のもの。
ずるずるとお互いを求める欠片たちは、やがて一つの人型を再現する。ヒューマノイドタイプのスライムだ。
>「……あれ? あなたもしかして……ジェンタイルさん? って事は、隣にいるのはローゼンさんだよね!
  ねぇ、そうだよねゴーレムちゃん! これってわたしお手柄じゃない!?」
スライムの方が頭をぐにぐにさせながらゴーレムに何かを確かめる。
俺たちのことを知ってる?まさか、魔王軍の先遣が嗅ぎつけてきたのか!?
>「私達は魔物の中でも人間を保護したいと考える組織から派遣されてきました。
 組織の名称は『母性的魔物達による人間保護団体』……」
身構える俺たちに、ゴーレムはあくまでセメント面(当たり前だけど)を崩さず言う。
>「略して『もん☆むす』だよ〜!」
スライムが引き取った言葉は、いかにも同人っぽい組織のタイトルだった。
もん☆むす……。なんでそう極端な方向に転ぶかなあ!

「待て待て、何もかもがいきなりすぎるぜ! 人間を保護? 俺たち狩られる側なの!?」
それだけじゃない。
この歴史軸において、いきなり魔物から接触があったとして、それを好意的なものと誰が保証できる。
マジで魔王軍の手先だったりしたら、俺たちの所属から居場所まで全てあっちに筒抜けってことになる。
レジスタントどころの話じゃねえ。すぐにアジトを引き払って内通者の審問をはじめなきゃならなくなる。
「とくにそこの寒天娘なんか、事故を装って俺を亡き者にしようとした可能性だって否定できねーぜ!
 お前らが魔王軍のお仲間じゃないっていうんなら、証拠見せろよ証拠ぉ!なあ、ローゼン、お前からもなんか言ってやれよ!」

63 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/08/28(日) 00:21:11.67 ID:9LEbhjRb
>59-62
「あーっジェン君、何でそんな服着てんの!? 男なら女装でしょ!」
ジェン君に少女がぶつかった。
>「ゆーえんち! ゆー……きゃっ!」
「ぎゃーーーっ!!」
少女、否、スライムがジェン君を襲っている!
どうしよう今は多分電灯代わりぐらいの魔法しか使えないのに!
>「――正気に戻って下さい」
そんなドタバタがあって。

>「とくにそこの寒天娘なんか、事故を装って俺を亡き者にしようとした可能性だって否定できねーぜ!
 お前らが魔王軍のお仲間じゃないっていうんなら、証拠見せろよ証拠ぉ!なあ、ローゼン、お前からもなんか言ってやれよ!」
そう言われても良く分からない。母性的魔物なんているのか!?
理論上は当然いない事になっている。魔王に従属する、人間の敵。それが魔物。
でも、絶対だった世界の掟に綻びが出始めているとしたら?
今までの僕なら光精霊に「行くよ!」とか言われて当然のごとく悪・即・斬!だったかもしれない。
でも光精霊は未だ出て来ない。ならば言うべきことは一つだ。
「一つ言っておく。
そろそろ使い尽くされてきた『もん☆むす』表記よりも『モン娘。』と表記した方が逆に新鮮でいい!」
びしっと指を立てて力説した。

>「私、ミッフィーマウス!遊園地にようこそ!」
可愛い生き物から人数分の風船とバッジを受け取る。それを皆に配りながら言った。
「どこの馬の骨ともしれないモンスターをホイホイっと仲間にするわけにはいかない。
これよりパーティーメンバー採用試験を開始する!
実施項目は遊園地面接だ、遊園地でいかに騒ぐかで僕達の仲間にふさわしいか見極めるから心してかかれ!」

64 :創る名無しに見る名無し:2011/08/29(月) 14:12:17.65 ID:rWSKyISa
アトラクションがあるよ
・船の周りでたくさんのむりょくなけいやくせいれいが民族衣装で踊るよ
・かわいいインプの導きで悪のユウシャと戦うパーターピンのショーだよ
・魔王への萌えが足りない人間を矯正するための炭坑労働施設をコースターで巡るよ
・不気味なソウリョの読経が流れるこわーいマンションを見物だよ
・幽霊船の上でアンデッド達が歌い踊る光と輝きに溢れたパレードだよ

65 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/08/30(火) 01:42:18.73 ID:vTTJNXyk
>「待て待て、何もかもがいきなりすぎるぜ! 人間を保護? 俺たち狩られる側なの!?」
>「とくにそこの寒天娘なんか、事故を装って俺を亡き者にしようとした可能性だって否定できねーぜ!
 お前らが魔王軍のお仲間じゃないっていうんなら、証拠見せろよ証拠ぉ!なあ、ローゼン、お前からもなんか言ってやれよ!」

「……何を言っているのですか? 養殖場で無理矢理繁殖させられて、一部の優秀な個体のみが道具として生かされ、
 あとは殆どが食品として加工される貴方達はどう贔屓目に見ても被虐者でしょう。
 貴方が言う通りの人間狩りも、娯楽として根強い人気を誇っています」

ゴーレムが歴史書を真砂の滑らかさで読み上げる教職のような口調で語る。
この世界の支配者は人間ではない。生態系の頂点に立っているのは魔物だ。
故に魔物にとって人間とは、人間から見た馬や牛や鶏、家畜の類いと何ら変わらない。
つまり養殖し、管理し、使役し、生かし、殺し、弄ぶ対象。
図抜けた能力はない代わりに汎用性、発展性、自己管理能力、生産性の高い優秀な道具だ。

「ひっどーい! 寒天娘じゃないよ!」

スライムが水風船のように頬を膨らませ、抗議の声を上げる。

「……あ、それとも、わたしを食べたいって意思表示!?」

けれどもすぐにスライムの表情から怒気は消え、代わりに驚きの色が浮かぶ。

「うわぁ、だいたーん! んー……でもぉ、あなたとっても可愛いし……食べても、いいよ?」

今度はジェンタイルを茶化し、最後には両手を頬に当てて恥じらい、スライムは表情を二転三転とさせる。
それから嬉々として体を揺らしながらジェンタイルへと躙り寄った。
が、ふと自分を静かに貫く矢の根石さながらの視線に気付く。
ゴーレムだ。無言のまま、握り締めた拳をスライムに見せつける。
漆黒の瞳にありありと映る主張、『黙らなければもう一度殴り散らす』。

「う……分かったよぉ。大人しくしてるからそんな目で見ないでぇ〜」

彼女の視線に萎縮して縮み上がり、スライムはようやく鏡面のように大人しくなった。

>「一つ言っておく。
>そろそろ使い尽くされてきた『もん☆むす』表記よりも『モン娘。』と表記した方が逆に新鮮でいい!」

「いえ、物事に必要なのは斬新さではなく合理性です。『モン娘。』では堅苦しい印象を抱かれてしまいます。
 それよりかは使い古された表現であっても『もん☆むす』の方が適切と言うものでしょう」

ゴーレムが無表情のまま右手人差し指を顔の前で左右に揺らす。
平坦な口調が、至って大真面目な反論の馬鹿らしさを助長させていた。

>「どこの馬の骨ともしれないモンスターをホイホイっと仲間にするわけにはいかない。
 これよりパーティーメンバー採用試験を開始する!
 実施項目は遊園地面接だ、遊園地でいかに騒ぐかで僕達の仲間にふさわしいか見極めるから心してかかれ!」

「騒ぐ……了解しました。それでは貴方の試験とMr.ジェンタイルの質問、併せて答えてご覧にいれましょう」

言うや否や、ゴーレムは右脚を軸に一回転する。
様式美だと造形されたメイド服は微塵もはためかない。滑らかな砂で出来た髪が乱れる事もない。
ただ硬質な左爪先が地面に正確無比な正円を描いた。
続いて六度のステップ、重々しい音と共に地面に精緻な穴が穿たれる。
魔方陣が描かれた。最後に一度、地面を強く踏み付ける。
大地を揺るがす震動が魔力を帯びながら拡散する。
そして次の瞬間、ゴーレムの足元が生命の胎動を感じさせるように隆起した。
盛り上がった地面は不定形の状態から、ゆっくりと輪郭を得ていく。
人型、灰色一色のゴーレムだ。ゴーレムの精巧な複製物が地面の石材から生み出された。

66 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/08/30(火) 01:43:43.54 ID:vTTJNXyk
「あ、わたしもおんなじ事が出来るんだよ〜! 見ててねー、えいっ!」

スライムは五月雨の奏でる軽快な雨音を思わせる無邪気にはしゃぐ。
右手で弧を描く。五指の先から一滴ずつ水玉が飛ぶ。
それらは重力に従って地面に落ちて五芒星の魔方陣を描く。
それから唐突に渦を巻き、固い地面に穴を開けて地の底へと沈んでいった。
スライムの体の断片は地下の水脈、或いは排水管へと至り、水に入り交じった。
水と同化、増殖したスライムがあちこちから湧き出てくる。

自身と同質か近似した物体と同化して複製、無機生命体の増殖方法だ。
雨粒のように、砂粒のように、数え切れないスライムとゴーレム達。
突如として現れた無数の魔物に、遊園地内は困惑、恐怖、怒りの叫びに満たされる。

「いかがでしょうか。出来る限りの騒ぎを起こしてみましたが」

恐慌に塗り潰された遊園地を背景に、ゴーレムはこれまでと変わらぬ調子で尋ねた。

「これならごーかく間違いなしだよね〜!」

スライムも依然変わらず無邪気に跳ねる。
途方も無い人間への不理解が曝け出されていた。

「さて……Mr.ジェンタイル。これが貴方の質問の答えです。
 貴方達を殺すのなら、もっと合理的な方法があります。
 ……人間は同じ顔立ちの二人以上の異性に囲まれると興奮を覚えるそうですが、
 この状況で貴方が覚えるのは興奮ですか? それとも危機感でしょうか?
 貴方が望むのであれば、二万と一体の私を揃える事もやぶさかではありません」

「あっ、そんな事言ってジェン君を取るつもりでしょ〜!
 駄目だよぉ、ジェン君は私のものって決めたんだから〜!」

「何を言っているのですか。人間にはかつて人権と言う物があったそうです。
 彼らを物扱いするのはいけない事ですよ」

「ふふ〜ん! 愛があればそれも許されちゃうんだよ〜!
 お前は俺の物だー! とか、言われてみたいな〜!
 ねぇジェンく〜ん、試しに言ってみてよぉ。お願い〜」

スライムがジェンタイルの腕に抱きついた。
ゴーレムは微かに首を傾げている。
二匹の魔物はそれぞれが我が道を邁進していた。
周囲で武器を構え、魔法を行使する人間達に囲まれている事には雨粒一つ、砂粒一つほども意識を向けないまま。
これだけ大々的に魔物である事を露見させて、騒ぎを起こしたのだ。
二匹は完全に敵視されていた。その二人が一方的に親しげに絡む二人も、或いは誤解される可能性は十分にある。

「……あーあー。もう、何やってんのさ。こんな大騒ぎ起こしちゃって」

前触れもなしに空から声が降り注いだ。
同時に空に夜の帳が下ろされた。太陽は深い黒に覆い隠され、代わりに満月が見える。
かと思いきや、満月はくるりと一回転すると正円の輪郭を失い、少女の姿へと変化した。
少女の背は低く、頭の上には三角形の耳が二つ、銀髪を尻尾のように後ろで括っている。
愛嬌のある顔立ち、満月によく似た大きな眼に、中央に縦に走る細い瞳孔。
服装は和風だ。袖も裾も短く動きやすい、童子が着るような服だった。
だが何よりも特徴的なのは、二本の尻尾が生えている事だ。少女は妖狐と呼ばれる魔物だった。
妖狐はくるくると回りながら人間達の包囲の最中、ジェンタイル達の傍へ降り立つ。
そして尻尾を揺らして優雅に人間達へと振り返る。和風の衣服が音もなく黒のタキシードへと変化する。
妖狐が両手を広げて作り物めいた笑みを浮かべた。

67 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/08/30(火) 01:44:29.71 ID:vTTJNXyk
「……さあさあ皆、解散だよ! さっきの騒ぎはただのサプライズイベント。
 君達はちょっと戦々恐々としたけど種明かしを聞けば何の事はなくて、あー楽しかった、めでたしめでたし、おしまい。オーケイ?」

あまりにも見え透いた嘘だ。言い逃れとしては下の下、三流以下。
けれども妖狐は自信満々に人間達を見回す。
満月に酷似した両の眼に魔性の光を宿しながら。妖狐の特殊能力、幻術だ。

「おっと、君達は私の眼を見ちゃいけないよ。まあ、光や炎が操れるのなら
 幻惑の眼光をねじ曲げて無効化するくらいは出来るだろうけど」

妖狐が気取った所作で人差し指を立てて、ジェンタイル達に警告する。
かくて幻術による暗示は完了し、一般人達は虚ろな目をしながら散り散りとなった。

「ふう、これでよし、と。それじゃあ改めて勇者ご一行様に挨拶をさせてもらおうかな」

模造品の笑みを浮かべ、妖狐は束ねた銀髪を流麗に揺らしてジェンタイル達を振り返る。

「……ふぎゃっ!」

そして盛大に転んだ。自分の尻尾を踏んだのが原因らしい。
見事なまでに体勢を崩した妖狐は、受け身も取れずに鼻を地面に打ち付けた。
転んだ拍子に変化も幻惑も解けてしまったらしく、空は再び青さを取り戻し、衣服も和風の物に戻っていた。

「う……うぅー、痛いよぉ……」

鼻を押さえた妖狐は涙目になっていた。
水面に移った月のように瞳を揺らして、なんとか泣き出すのを堪えている。

「ま、また……また失敗しちゃっ……た……う、うえぇ……」

けれどもその我慢も長くは持ちそうにない。
慌ててスライムが妖狐に躙り寄り、胎児を包む羊水のように妖狐を抱き締め、あやす。

「そ、そんな事ないよぉ! だってほら! ちゃんと周りにいた怖ぁい人達を追い払ってくれたでしょ?」

「その通りです。目的は見事達成したのですから、成功だったと言って差し支えありません。
 Mr.ジェンタイル、光の勇者ローゼンも、同意して頂けますね?」

ゴーレムの石鏃に等しい視線が二人に狙いを定める。
既に右手は固く握り締められていた。
万が一失言があろうものならば、即座にそれを打ち砕くつもりだ。無論、物理的に。

「さあ、私達が何故彼らを訪ねたのか説明して下さい。大丈夫、貴方なら出来ます。
 朝昼晩と欠かさず滑舌練習をしているのでしょう?」

「……そんな事してないもん」

「おや、そうでしたか。ではきっと幻術を見せられてしまったのですね。
 無機生命体の私に幻術を行使出来るとは、流石妖狐ちゃんです。尚更、心配は無用でしたね」

「う……そ、そうだよ! 私は凄いんだから! そんな事言われなくたって分かってるよ!」

両眼を擦り、妖狐は立ち上がる。
再び優雅な舞踏で、二本の尻尾の先で満月のような正円を描く。
特殊能力、変化が発動。妖狐がスレンダーな矮躯に似つかわしいタキシードを纏う。

「それでは気を取り直して、初めまして。私は妖狐、二匹と同じく『もん☆むす』の構成員だよ。
 ここには彼女達のバックアップ要員として来たんだ。まったく、二匹は私がいなきゃ駄目なんだからさ」

見事に気取り屋の仮面を被った妖狐は立て板に水の滑らかさで語りを始めた。

68 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/08/30(火) 01:46:29.40 ID:vTTJNXyk
「……っと、失礼。さっきのやり取りで私達に害意が無いのは信じてもらえたかな?
 だったら今度は、私達が君達を訪ねた理由を聞いてもらいたいんだ」

話している内に余裕が生まれたのか、語り口に芝居がかった身振り手振りが交じる。
スライムは、表情に変化はないが恐らくはゴーレムも、妖狐が失敗してしまわないか気が気でない様子で、背後から彼女を見守っていた。

「……まぁ、説明するより見た方が早いかもしれないけどね。
 ほら、あそこのマスコット。もうちょっと離れた方がいいよ」

妖狐の指が差し示すのは、ジェンタイル達の背後に見える紛い物のマスコットキャラだ。

「そろそろ、『風の噂』が法務局に届く頃だろうからね」

直後、上空から太陽をも凌ぐ眩さと熱を秘めた光柱が降り注いだ。
猛烈な高熱と光は風船配りに勤しむマスコットを綺麗に塗り潰した。
光柱は一本ではなかった。著作権法に抵触し得るアトラクション並びにキャラクターは纏めて消し炭にされている。

「噂をすれば、だね。今のは法務局が執行した極大魔法『裁きの光』だよ。
 法務局が支配している風精霊の分霊が違法行為を聞き付けているんだ。
 とは言え、あくまで分霊だからね。大した精度じゃない。
 さっきのマスコットは……著作権法の中でも特例の重罪だったから即座に執行されちゃったけど。
 例えば君達や、あちらこちらのレジスタンスの拠点は精霊の加護が干渉して上手く監査出来ないんだ」

だけど、と言葉が繋がれる。

「ここ最近、法務局はオリジナルの風精霊を探し始めた。原因は、君達だ。身に覚えがないって?
 ……四天王の一人、バベルのハウスドルフ様をやっちゃったのを忘れたのかい?
 アレ以来、法務局は血眼になって君達を探した。けど精霊の加護を受けた君達は不完全な風精霊の探査では見つけられなかったんだ」

とは言え、法務局がオリジナルの風精霊を見つけられる可能性は皆無だ。
好意的に思われているジェンタイル達にさえ、風精霊は姿を見せないのだから。
二人もすぐに、その事に思い至るだろう。

「でもお察しの通り、オリジナルの風精霊は見つけられなかった。めでたしめでたし、おしまい。
 ……だったら良かったんだけどね。法務局は、今度は風精霊を新たに作ろうと考えたんだ。
 そう、ハウスドルフ様の研究していた信仰心の操作を利用してね」

満月の眼光がジェンタイル達を睨む。鋭く、自分達に迫る危機の強大さを教え込むように。

「もしもその試みが成功してしまったら、君達だけじゃない。
 世界中のレジスタンスが一斉に『処刑』される事になるよ。
 そうなる前に、法務局を潰さにゃきゃ……っ!」

噛んだ。最後の最後で妖狐は盛大に噛んだ。
たちまちジェンタイル達に背を向けて俯き震え出す妖狐を、スライムが慌てて抱き締めた。

「だ、大丈夫だよぉ。伝えなきゃいけない事は全部伝えられたんだから大成功だよ〜。だからほら、泣かなくてもいいんだよぉ」

「泣いて、ないもん。これは……君が急に、抱き締めるから顔が濡れちゃっただけだもん……」

「……とにかく事情は理解して頂けましたね。
 法務局を潰せば貴方達も、お友達の皆様もやりやすくなるでしょう。
 悪い話ではない筈ですが……協力して頂けますか?」

スライムの胸に顔を埋めて震えてる妖狐に代わり、ゴーレムがジェンタイル達に尋ねた。

69 :創る名無しに見る名無し:2011/08/30(火) 22:32:03.04 ID:cRIPP9bd
残念!法務局は範馬勇次郎の手でこの時には潰されていたのであった

70 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/01(木) 09:41:06.71 ID:MtmTZN1l
>「……何を言っているのですか? 養殖場で無理矢理繁殖させられて、一部の優秀な個体のみが道具として生かされ、
 あとは殆どが食品として加工される貴方達はどう贔屓目に見ても被虐者でしょう。
 貴方が言う通りの人間狩りも、娯楽として根強い人気を誇っています」
「え……」
なに、そういう世界なの?ここって。今まであんまりにも伏線の積み重ねがなかったから戸惑ってしまう。
もしかして平和なのは街とかだけで、辺境の方じゃかなりヤバいことになってるとか……?
しかしよくわからねーのは、俺たちに対するこいつらの立ち位置。
街や村ってのは、結局のところ畜生動物で言う所の"巣"なわけだろ。しかもこの住人たちに飼われてる様子はないから、野生だ。
魔物側がその場所を突き止めていながら何故"人間狩り"に来ない?得物には事欠かないだろうに。

>「一つ言っておく。そろそろ使い尽くされてきた『もん☆むす』表記よりも『モン娘。』と表記した方が逆に新鮮でいい!」
「一周回ってそこに行き着いちゃったーーっ!?もう十年前ってレベルじゃねーぞ!」
あーそっか、もう十年どころか13年ぐらい前なんだよな。
高校卒業してから殊更に時の流れが早くなった気がする。
ん。あれ?同窓会、呼ばれてない……。
>「どこの馬の骨ともしれないモンスターをホイホイっと仲間にするわけにはいかない。
 これよりパーティーメンバー採用試験を開始する!
 実施項目は遊園地面接だ、遊園地でいかに騒ぐかで僕達の仲間にふさわしいか見極めるから心してかかれ!」
「待て待て!まるで俺たちが道楽で旅してるチャランポランな団体だと思われちゃうじゃねえか!」
<<? 何か間違ってるのか?>>
そうですね!大正解ですすいませんでした!

>・魔王への萌えが足りない人間を矯正するための炭坑労働施設をコースターで巡るよ
「おいおい、この歴史軸じゃこんなもんがアミューズメントになってんのかよ……!」
強制労働に課されている人間を見て楽しむなんて、いつから人類はこんなにも複雑な愉悦を求めるようになったのだろう。
胸糞悪いぜ。でも見もせずに批判するのは筋違いってもんだから、ちょっと拝見してこよう。
…………………………。
やっべ、ちょっと面白いなこれ。自分よりもダメな人間を見下すのは気持ちがいいからなあ。
でもこれは、慣れたらいけない遊びだよな。人間、上を見たらキリがないけれど、下を見て安心してるうちは底辺と何も変わらない。
だって見下ろしても怖くない高さにしかいないってことだもんな。

>「ひっどーい! 寒天娘じゃないよ!」
>「……あ、それとも、わたしを食べたいって意思表示!?」
「あ、いや、話しかけないでもらえます?そんなスケスケの体してる露出狂と知り合いだと思われると恥ずかしいんで」
>「うわぁ、だいたーん! んー……でもぉ、あなたとっても可愛いし……食べても、いいよ?」
「上等だぜ無脊椎生物!三杯酢かけてチュルチュルといただいてやらぁ!」
寒天に可愛いとか言われるのは腹立つ。可愛いってワードは基本的に見下し成分が入ってるよね、真意に関わらず。
女が女に言う「可愛い〜」は侮蔑の意だって説が昔流行ったけれど、確かになんだか上から目線だ。リスペクトってもんがねーぜ。

>「騒ぐ……了解しました。それでは貴方の試験とMr.ジェンタイルの質問、併せて答えてご覧にいれましょう」
ゴーレムのほうが表情をピクリとも動かさず、片足で回転した。
アスファルトがゴリゴリと削れていく。コンパスのように、地面に円を描いていく。
その後なんやかんやして魔方陣が出来上がり、地面からゴーレムと同じ姿の連中がワラワラと湧いて出てきた。
>「あ、わたしもおんなじ事が出来るんだよ〜! 見ててねー、えいっ!」
寒天も似たような感じでなんか色々してたくさんのスライムを遊園地に発生させる。
和やかムードだった遊園地は一転、大量発生したスライムとゴーレムによってバトルシーンの舞台と化した。
みんな箸とポン酢持って駆け回っている。すれ違いざまにスライムから一片を剥ぎとり、ポン酢にinして即賞味。
瞬く間にスライムが全滅し、食いっぱぐれた民衆が暴動を起こした。

71 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/01(木) 09:43:01.27 ID:MtmTZN1l
>「いかがでしょうか。出来る限りの騒ぎを起こしてみましたが」
「うーん、食欲に忠実な市民の心をガッチリと掴んだそのエンターテイメント、光るね!でもゴーレム増やした意味あんの?」
>「これならごーかく間違いなしだよね〜!」
「うんお前は食われただけだったね!」
>「さて……Mr.ジェンタイル。これが貴方の質問の答えです。貴方達を殺すのなら、もっと合理的な方法があります。
 ……人間は同じ顔立ちの二人以上の異性に囲まれると興奮を覚えるそうですが、この状況で貴方が覚えるのは興奮ですか?
 それとも危機感でしょうか? 貴方が望むのであれば、二万と一体の私を揃える事もやぶさかではありません」
「……オーケー。つまりいつでも殺せるのに殺さないのはバトル以外の用事があるから、ってわけだな?」
なるほど、スライムが増えた意味はぶっちゃけわかんねーけどゴーレムはそういうことか。
一番最初の自問に自答。初めからこいつらの言うとおり、こいつらは人間とバトルする団体じゃないということだ。
魔物側も一枚岩じゃあないんだろう。俺たちの巣を見つけたのがこいつらの派閥で助かった。
>「ふふ〜ん! 愛があればそれも許されちゃうんだよ〜!お前は俺の物だー! とか、言われてみたいな〜!
 ねぇジェンく〜ん、試しに言ってみてよぉ。お願い〜」
「自由だなお前……」
<<汝、危険度B>>
炎精霊の警告。そっと目配せすると、さっきまで寒天祭りを開催していた民衆が俺たちを取り囲んでいた。
みな血走った目で「クワセロ……モットクワセロ……」とか呟いている。その手には箸とお茶碗。
「か、寒天、民衆の皆様がお前にオファーかけてるぞ!後生だから行って来い!」
最後に残った寒天≒スライムに、民衆の視線は一極集中していた。マジか、どんだけ旨いんだこいつの体。
あとでちょっと味見させてもらおうかな。
>「……あーあー。もう、何やってんのさ。こんな大騒ぎ起こしちゃって」
あおのとき、天から声が降ってきて、なんやかんやあって民衆は解散し、俺たちの前にまた新キャラが登場した。
どんどん増えるなあ、もしかして、外堀埋められてる?俺たち。
>「ふう、これでよし、と。それじゃあ改めて勇者ご一行様に挨拶をさせてもらおうかな」
狐娘だ。和服から洋服に、洋服から礼服に衣装をチェンジしながら、
>「……ふぎゃっ!」
自分の尻尾を踏んづけて転んだ。
「寒天よぉ、お前のお仲間ってみんなこうなの?みんな凄めの登場シーンの後にオチつけるの?」
そろそろ感覚がマヒってきた。ってゆうか、ツッコミ疲れてきた。あとローゼンさんお願いします。
>「……っと、失礼。さっきのやり取りで私達に害意が無いのは信じてもらえたかな?
 だったら今度は、私達が君達を訪ねた理由を聞いてもらいたいんだ」
「ああ、うん。いうてみ?」
>「……まぁ、説明するより見た方が早いかもしれないけどね。
と、俺たちの傍にいたアメリカねずみのマスコットが一瞬にして消し飛んだ。どこだ?どこから狙撃された!?
>「噂をすれば、だね。今のは法務局が執行した極大魔法『裁きの光』だよ。
法務局。俺たちが攻め入ろうとしてる場所じゃねえか……!
妖狐は芝居がかった口調で朗々と語る。そろそろかなーと思ってたら、締めでやっぱり盛大に噛んだ。
いやあ、期待を裏切らねえなこの娘。どこぞの寒天とは大違いだ。
>「……とにかく事情は理解して頂けましたね。法務局を潰せば貴方達も、お友達の皆様もやりやすくなるでしょう。
 悪い話ではない筈ですが……協力して頂けますか?」
「悪い話もなにも――」
でもちょっと待て。法務局は風の分霊とやらで人間を監視してる?そういやネットもあいつらの監視下だったよな。
だったら何故、人間はこうやって生かされてる?『狩られる側』の存在が、ある程度の自由を残されたまま。
「魔物にとって人類は家畜みたいなもんなんだよな。養殖用のプラントもある、胸糞悪い話だが……。
 法務局が"野生"の人間のコロニーの場所を突き止めて、レジスタンスの気配を知りながら、虱潰しにでも探さないのはなんでだ?
 こういうでかい街を片っ端から焼いていけばいつかは燻りだされるはずだ。連中は人類に何の価値を見出してる?」
わざわざ風の精霊を再現するよりかは、そっちのほうがずっと経済的だ。
なぜなら家畜動物は。家畜化されたもの以外は害獣でしかないのだ。野犬が狩られるように、猪が狩られるように。
動物保護団体じゃあるめえし、野生の人類の絶滅を危惧する理由がわからない。

>>69
法務局から火の手が上がっている。レジスタンスが蜂起したのか!?まさか、拙速すぎる。

72 :創る名無しに見る名無し:2011/09/01(木) 16:20:45.03 ID:4+2LKIS/
http://sonimcity.web.infoseek.co.jp//adaltn/yuukoadult001.html



73 :創る名無しに見る名無し:2011/09/01(木) 17:18:57.75 ID:BgNU26ge
ここで唐突にウルトラ兄弟達が元王都付近に登場
この星にやって来たバルタン星人の大軍と戦闘を繰り広げているようだ

74 :創る名無しに見る名無し:2011/09/02(金) 01:49:53.86 ID:zVNRUJ7x
「ほ、法務局大破!直ちに第十三魔甲師団を投入し反撃及び…」
「無用。私が直々に出ます」

銀髪に褐色の肌、ゴスロリファッションを纏った幼い少女の姿で。
武装もせず財布もケータイも持たず護衛も連れず。
魔王は禍々しくも豪奢な玉座から無造作に立ち上がった。

「バ、バルタン星人とウルトラ兄弟が…」
「第十三魔甲師団はそちらに。私に萌える者は武装解除して滞在を許可、萌えない者は殲滅」

飛び込んだ更なる報告に対し無邪気な笑顔で命じると、
魔王は散歩でもするかのような足取りで法務局に向かった。

75 :創る名無しに見る名無し:2011/09/02(金) 02:54:36.99 ID:LM74JEpU
現在の魔王の心境→\(^o^)/

76 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/09/04(日) 01:27:19.71 ID:WjeLNj8B
>65-68
>70
と、いうわけで遊園地編。炭鉱労働施設を巡るコースターに乗る。
奴隷化した人々の強制労働といえば……
「あれはトンヌラとヘンリー!? さすが公式カップルだけのことはある!」
はい、久々にBL発言しときました! いろいろありすぎてガチで初期設定忘れかけてたよ!

>「うわぁ、だいたーん! んー……でもぉ、あなたとっても可愛いし……食べても、いいよ?」
「後で眼科行こうか! これ程生意気で手におえなくて可愛げのない奴はいない!」
といってもスライムに目はないけど。

そしてスライム&ゴーレム祭り。
「あはははは、あはははははは、あはははは」
もう笑うしかないっていうかね、とりあえずイオナズン撃ちたい気分になってきた。
収拾が付かなくなったら爆発で場面転換するのはコメディの基本ね!
>「……とにかく事情は理解して頂けましたね。
 法務局を潰せば貴方達も、お友達の皆様もやりやすくなるでしょう。
 悪い話ではない筈ですが……協力して頂けますか?」
協力するしか選択肢がないだろう。はいと答えるまで無限寒天祭りされてもこまるし。
「分かった! まずは双方の幹部同士で話をして……」

>「魔物にとって人類は家畜みたいなもんなんだよな。養殖用のプラントもある、胸糞悪い話だが……。
 法務局が"野生"の人間のコロニーの場所を突き止めて、レジスタンスの気配を知りながら、虱潰しにでも探さないのはなんでだ?
 こういうでかい街を片っ端から焼いていけばいつかは燻りだされるはずだ。連中は人類に何の価値を見出してる?」
「だよねー、ところで法務局って……この街にあるんじゃなかったっけ」
灯台下暗しってやつ!? 法務局のお膝元でレジスタンスとはいい度胸しとるわ!

>69
>39
「えっ」
法務局から火の手が上がっている。

外に出てみると、王都は阿鼻叫喚の事態になっていた。
ウルトラ兄弟とバルタン星人が戦ってるし。
PSPを持った集団が法務局に攻め込んでいくし。
何これ、もしかしてこのまま法務局攻略編に突入する流れ!?
困ります、マジで困ります!
精霊の声が聞こえません、どうやったら治るかも分かりませんと正直に言うか?
そんな事をしたらスタメン外される。それどころか村人Aに降格。

「うわあああああああああああああ!! どうすれバインダー!」
混乱のどさくさに紛れて叫びながら駆けだした。どんっと誰かにぶつかる。
「す、すいま……お前は!!」
「フフ、やっと見つけた。魔王様の片割れ……」
それは、夜の闇より昏い、漆黒の髪と瞳を持つ少女。
忘れもしない、全ての始まり。元の世界を滅ぼそうとした闇の精霊。
「ローティアス……!」
「ローティアス? 素敵な名前ね。
だけど私は魔王様に仕える名も無き闇の精霊。精霊は個体としての名前を決して持たない。
とにかく私と共に来てもらうわ。魔王様の直々の勅命よ」
少女の姿をした精霊に腕をつかまれる。大した力でもないはずなのに金縛りにあったように抵抗できない。
闇の転移魔法が発動すると同時に、全てが影に沈んだ。

77 :創る名無しに見る名無し:2011/09/04(日) 02:59:07.97 ID:o00K2viZ
ローゼン達が転移した先で見た光景
精神を折られた魔王が範馬勇次郎によって顔の皮を剥がされる姿であった
この様子がPSPを持った集団の手により全世界に流されている
魔王の支配が終わり、人間達の逆襲が始まった瞬間であった

78 :創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 06:50:30.07 ID:BYNVQmSF
ここまでローゼンの白昼夢

79 :創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 14:11:58.58 ID:tWk0DO4+
そう。全てはローゼンの見た夢幻。
いかにファンタジー世界と言えども、創作物である版権キャラクターや実在の芸能人が現れたりするわけがない。
今までの物語はローゼンの願望だったのだ。
ローゼンが現実を見れば、公務員としての仕事が待ち受けている。

80 :創る名無しに見る名無し:2011/09/06(火) 13:24:32.73 ID:D+2IM2J/
ジェンタイルはというと、実はローゼンの年上の上司だったりする。

81 :創る名無しに見る名無し:2011/09/07(水) 01:29:59.43 ID:ZnTr4ggF
ローゼンは夢を見続けていた。
精霊が作り出した直径3メートルほどの球状の漆黒の闇、
その中央に浮かされて身体を丸めて眼を閉じて。

――バベル
「Пожалуйста, умирают в ядовитый газ」
変色し溶けてゆく身体。

――祭の湖畔村
「そして……天高く光が輝けば、地には深い影が墜ちる」
途切れる事無く降り注ぐ花火に草木は燃え上がると見せて黒く溶け去り地に沈む。

――辺境村役場
「今期の道路補修工事区間の仕様出して見積…」
「広報に載せる放火注意の原稿今日中にお願いし…」
「避難所の看板の裏にスズメバチの巣があるそ…」
泊まり込みで働き続ける平凡で幸せな日々。

――無数の人々がそれぞれ手にする小さな画面の中
「魔王様バンザイ!バンザイ!一生ついていきますう!」
民衆の声に婉然と微笑む銀髪褐肌ゴスロリ……の顔がめくれ、現れる金髪白肌
「ククク……ハハハハハ! 僕に言わせればお前達人間こそが世界を食い荒らすバグだ!
もっとも星の歴史から見れば一瞬で消えてしまう程度の取るに足らない、ね」
……の顔がめくれ、現れる銀髪褐肌
「お姉ちゃん……じゃなくてお兄ちゃん。どうか辿り着いて、わたしのところまで!」
……の顔がめくれ……

闇の球が浮かぶのは、天井が焼け落ちて尚炎上を続ける法務局の一室。

ねこは闇の球の影の中で香箱を作っていた
「まったく手のかかるご主人様だにゃ」

82 :創る名無しに見る名無し:2011/09/08(木) 00:58:23.83 ID:/0Ayx5bs
「ふふ、いい絵が撮れた…これで薄情なお友達に招待状を送りましょう」

画面に映るは、炎に囲まれた朧な闇の中、胎児の姿勢で眠るローゼン。
(こーら、アホジェン!)
(待ちなさーいアホジェン!)
(何やってんの、アホジェン!)
(この……アホジェン……!)
(……どんなに怖かったと思う? アホジェン!)
交錯する数多の夢に翻弄される表情は、これが“あの”ローゼンかと疑う程痛々しかった。

数分の動画を再生し終えると、闇精霊は生き残った法務局の端末にデータを転送した。

強制配信;
対象=全回線;
繰り返し再生=無限;
即時実行;

この世界の全てのネットワーク端末――津々浦々に備えられた街頭モニタから
交通機関や施設の電光掲示、個人の携帯端末に至るまで――に、
眠るローゼンの映像が繰り返し映し出される。
ジェンタイル達がいる遊園地の大型スクリーンも例外ではない。

「…さっさと会いにいらっしゃい。あの小生意気な《風》を連れて」
闇精霊は呟く。

83 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/08(木) 01:46:33.21 ID:SIXyKxg7
>「魔物にとって人類は家畜みたいなもんなんだよな。養殖用のプラントもある、胸糞悪い話だが……。
  法務局が"野生"の人間のコロニーの場所を突き止めて、レジスタンスの気配を知りながら、虱潰しにでも探さないのはなんでだ?
  こういうでかい街を片っ端から焼いていけばいつかは燻りだされるはずだ。連中は人類に何の価値を見出してる?」

「可能性ですよ、Mr.ジェンタイル。人類は基本的に、我々魔物に劣っています。
 力も、魔力も、知能も、それぞれ人間を遥かに上回る魔物がいます。
 だと言うのに、人類は魔物との長い争いの歴史の中で、何度もその格差を覆してきました」

スライムの胸の中でさめざめと泣いている妖狐に代わり、ゴーレムが返答する。

「屈強を極める巨人族と力比べで上回り、何百年もの時を生きた悪魔を魔術で下し、
 果てには魔王様さえ殺すような存在が現れる。その可能性が人間を生かしておく最大の価値です。
 貴方達は誰しもが素晴らしい物を生み出し、素晴らしい者になる可能性を秘めていますから。
 えぇ、今はろくでもない女たらしにしか見えない貴方でもです」

それらを徴収し、果てには可能性そのものを魔物の物とするのが理想的な展開。

>「だよねー、ところで法務局って……この街にあるんじゃなかったっけ」

「えぇ、あちらに……」

ゴーレムが川の水流に磨き上げられた丸石のように滑らかな動作で手を動かし、法務局の方角を示す。

「……って、法務局燃えちゃってるじゃん! 大変だよぉ! あそこには私達のお友達もいるのにぃ〜!」

スライムが寝耳に水の様相で叫んだ。
見れば彼女の言葉通り、法務局からは火の手が上がり、暴徒の群れが押し寄せている。

「……魔物を相手に物量戦を挑むとは、愚かな事ですね。進んで自分達の可能性を手放すとは。
 とは言え、私達も人間を見殺しにする訳にはいきません。
 生き物というのは、往々にして弱くて愚かな方が愛らしいものですしね」

ゴーレムの態度は大山のごとく動じない。だが胸中には地中深くに眠りながらも熱く滾る溶岩のような激情を秘めていた。
握り締めた左の拳は激烈な大地震の前に訪れる僅かな揺れを思わせるように震えている。

>「うわあああああああああああああ!! どうすれバインダー!」

「いけません、光の勇者ローゼン。このような状況で錯乱して走り出すのは露骨な死亡フラグですよ」

>「す、すいま……お前は!!」
>「フフ、やっと見つけた。魔王様の片割れ……」
>「ローティアス……!」
>「ローティアス? 素敵な名前ね。
 だけど私は魔王様に仕える名も無き闇の精霊。精霊は個体としての名前を決して持たない。
 とにかく私と共に来てもらうわ。魔王様の直々の勅命よ」

「あぁ、言った傍から……仕方ありませんね。Mr.ジェンタイル、光の勇者を助けに行きましょう。
 法務局の中には私達の友達もいます。私達は全面的に貴方に協力させて頂きます。
 もしも貴方が断ろうとも、強引に。どの道、貴方には光の勇者を助ける以外の選択肢はない。そうでしょう?」

ゴーレムが提案、そしてジェンタイルに追随する形で法務局へと移動する。

「もぉ〜! ネズミさんじゃないんだから集団自殺の真似事なんかやめてよぉ!」

到着と同時にスライムは再び分裂、消火活動と、人間達と戦うふりをしながら保護を図る。
ゴーレムも同様だ。彼女達は人間を殺すつもりはないが、同様に同胞である魔物との戦闘を避けたいとも思っていた。

84 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/08(木) 01:47:39.14 ID:SIXyKxg7
「ハイ、魔術師君。あの二匹は暫く忙しそうだから、ここからは私が君をフォローするよ。
 ……なんだいその顔は。まさか私だけじゃ心配だなんて言ったりしないよね?
 ま、法務局の中には友達がいるからね。どっちみち、その内合流する事になるだろうけど」

ジェンタイルの小脇から、ひょいと妖狐が顔を覗かせる。

「……と、ごめんよ。早速一匹、友達を見つけちゃった」

法務局の入り口へと続く道、ジェンタイルのやや前方、無惨に横たわる死体が転がっていた。
人型だ。病的に青白い肌をした、外見だけなら人間と見間違えてもおかしくない少女だった。
乱れた長い黒髪、死に濁った大きな目、まだ僅かな生気の残滓が見られる薄桜色の唇。
可憐な少女の面影が、死体の放つ虚無感を殊更に助長させていた。
殺した者は、彼女が人間でも構わなかったのだろう。
単にやり場のない怒りを誰かにぶつけられればよかったのか。
それとも法務局にいる時点で、魔物に重用された裏切り者だと思ったのか。
少女は胸を刃物で深く抉られ、露になった心臓を炎魔法で焼き尽くされている。
近寄れば人肉の焼ける臭いと、気化した脂肪が唇に纏わり付く感覚を覚えるだろう。

「あぁ、可哀想に。こんな姿になってしまって……。痛かったろう、苦しかったろう……」

妖狐が少女を抱き起こす。

「ほら、起きなよ。ここで寝てたらもっと酷い目に遭うかもしれないよ」

そして少女の頬を三発、平手で張った。
少女の首が叩かれた方へ力なく、振り子のように揺れる。

「ん……あ、おはよう妖狐ちゃん」

少女が目を半分ほど開き、虫の吐息のように小さく平坦な声を紡いだ。

「おはよう。魔術師君、紹介するよ。彼女はゾンビちゃん。……まぁ、名は体を表すって言うし細かい説明はいらないよね」

目を覚ました少女の胸の傷が、見る間に再生して塞がっていく。

「あ、でも怖がらなくて大丈夫だよ。彼女は別にTウィルスの保菌者って訳じゃないから。
 ただ全身の細胞が闇属性の魔力によって癌化しているんだ。だからどんな傷を負っても再生しちゃうんだよ。
 ほら、この人が光の勇者の愉快な仲間ジェンタイル君だよ、ゾンビちゃん。ご挨拶しないと」

ゾンビが寝ぼけ眼によく似た虚ろな瞳でジェンタイルを見据えた。
ゆっくりと立ち上がり、歩み寄る。

85 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/08(木) 01:50:40.86 ID:SIXyKxg7
「……おなか、すいた」

言うや否や、ゾンビはジェンタイルに抱きつき、大口を開けて首筋に噛み付いた。
癌化した細胞による超再生の代償、急激なカロリーの消耗による飢餓感だ。
けれどもまた死後の硬直がほぐれないままのゾンビは上手く体を動かせない。
精々、甘噛みするので精一杯だった。

「いきてる、じっかんがほしいの……。あなた……とても、あたたかい……すてき……」

炎精霊の加護を受けたジェンタイルの体温は高く、死んだばかりで冷え切ったゾンビにはとても心地よかった。
衣服が引き裂け燃えてしまったゾンビは、再生したばかりで柔らかな胸をジェンタイルに押し付けて、その体温を貪るように感じている。
とは言えジェンタイルからすれば、ゾンビの行動はどれも驚く事ばかりの筈だ。
そうして彼が少しでも暴れれば、ゾンビは容易く振りほどける事だろう。

「あ……」

振りほどかれたゾンビは尻餅をついて、はっとした表情でジェンタイルを見上げる。
それから頭を庇うように抱えて、怯えながら懇願を始めた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……あたまだけは、いやなの。ぶたないで、こわさないで。
 ほかのことなら、なんでもするから。おしおきも、うけるから。ころしたっていいから。だから、ゆるしてほしいの」

「……彼女は神経細胞だって再生出来るけど、そこに書き込まれた記憶までは再生出来ないんだ。
 だからもしも脳が破壊されたら、彼女は記憶を失ってしまう」

妖狐がゾンビの傍で屈み、彼女を抱き締めながら真剣な眼差しでジェンタイルを見つめた。

「どうか許してあげてくれにゃ……ないかな」

大事な所でまたも噛んだのは完全になかった事として扱い、妖狐は立ち上がる。

「さておき……どうしようね、この状況。一人分断されちゃってるし、私達じゃ光の勇者様の居場所は分からない。
 手当たり次第探すしかないんだけど……まずは進入路から決めようか。正面から突破出来る自信はあるかい?
 無いなら、どこかの壁を溶かすとか、窓から侵入した方がいいね。勿論他のプランがあるのなら、私達はそれに賛同するよ」

【素人の私が主導するよりも、丁度一人になられたローゼンさんが主導した方がいいと判断しました。
 大変なお手数をおかけしてしまうのですが次からリードして頂けますか?】

86 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/10(土) 07:04:15.66 ID:QbGRXgN0

>「可能性ですよ、Mr.ジェンタイル。人類は基本的に、我々魔物に劣っています。
つまりこういうことらしい。
ヒトという種に秘められた可能性――"実現の伸び代"とでも表現すべきそれは、悪魔や魔物の比じゃない。
技術や文明をここまで発達させたのは人間で、それは今後ともにまだまだ期待できるのだ。
なんか生物学的に研究されてるみたいでムカつくけれど、そういうふうに見られてるおかげで俺たちは絶滅してないんだと。
> えぇ、今はろくでもない女たらしにしか見えない貴方でもです」
「俺そんなふうに見られてるの!?」
いやいや、流石にそれはキャラじゃねーよ。テンプレ見ろよ、このシンプルさで売ってきてんだぜ俺は。
言うに事欠いて女たらして。
<<今のところ寄ってきたのはメタルマッチョと寒天だけだな>>
リストアップしないで。悲しくなるから。

>「うわあああああああああああああ!! どうすれバインダー!」
ローゼンが発狂しながら飛び出していった。名伏しがたき冒涜的な何かでも見たのか!?
否、奴が見たのは萌えるほうむきょくだった。間違えた、炎上する法務局でした。
「どこいくんだよ!?戻ってこいローゼン!――駄目だ、行っちまいやがんの」
いきなり敵の本拠地に乗り込むやつがあるか。まだ霊装も完成してねーのよ!
レベル上げしてねーのに新しいダンジョンに挑むようなもんだ。
俺あいつが大学生のときアリアハンでひたすらカラス倒してレベルカンストさせたの知ってるぞ。

>「あぁ、言った傍から……仕方ありませんね。Mr.ジェンタイル、光の勇者を助けに行きましょう。
「ああ、なんかもうどっちが人間側か分かったもんじゃねえな」
魔物のこいつらが建設的に進めようとしてるのに遊んでてすいませんホント。
すぐ連れ戻しますんで、ええ、よく言って聞かせます。
>「ハイ、魔術師君。あの二匹は暫く忙しそうだから、ここからは私が君をフォローするよ。
突入隊の援護に回ったゴーレムとスライムがログアウトし、代わりに妖狐がインしてきた。
駄目だ、こいつさっきオチつけたせいでそういうキャラにしか見えねーよ。
幻術使いだっけ?あれ、じゃあ寒天とかより援護に適任じゃねえの!?

>「……と、ごめんよ。早速一匹、友達を見つけちゃった」
進む俺たちの前に、一つ死体があった。死体。ガチの、死んだ人間。それもひどく損壊している。
貫かれた胸部から垣間見える骨、焼け焦げた臓腑。周囲に漂う、ヒトの焼ける匂い。
肌に妙な湿り気を覚える。そうだ、人間を燃やすとこんな風に、蒸発した脂で肌がベタつくんだ。
それは俺のよく知る感覚だった。俺の原初のキャラ設定。辺境村で――俺はもっと酷い焼き方をしたことがある。
「……う」
>「あぁ、可哀想に。こんな姿になってしまって……。痛かったろう、苦しかったろう……」
そうだ、慣れっこのはずなんだ。俺の趣味は人を焼くことなんだから。
なのにこの込み上げてくる嫌悪感はなんだ?焼死体に対する忌避感はなんだ?
理由は分かってる。あの頃とは違って、この死体は――死んだままなんだ。二度と蘇らない。
この世界では"死"は確かなものなんだ。元の歴史軸みたいに、適当に死んで生き返るような曖昧なものじゃない。
この少女は。死が確定している――!

>「ほら、起きなよ。ここで寝てたらもっと酷い目に遭うかもしれないよ」
>「ん……あ、おはよう妖狐ちゃん」
死が……確定……え?
みるみるうちに再生していく元・死体。数秒後には、ただの人間の女の子がそこに居た。
>「おはよう。魔術師君、紹介するよ。彼女はゾンビちゃん。……まぁ、名は体を表すって言うし細かい説明はいらないよね」
「はあああああああああ!? お前、お前、詐欺みてーな登場の仕方すんなや!」
そして気付くべきだったね!こいつらのお仲間はみーぃんな、登場シーンでオチつけくさるってことに!
はあ、ゾンビねえ。辺境村に居た頃は村民みんなゾンビみてーなもんだったから、リアルゾンビ娘はノーサンキューだわ。

87 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/10(土) 07:05:02.09 ID:QbGRXgN0
>「……おなか、すいた」
ゾンビは、バイオハザード(やったことねーけど)のそれがするのと同じように俺に覆いかぶさってきた。
ぎゃー!冷たい!?やめて、死体の温度とか軽くトラウマになる記憶だろそういうの!
なんか柔らかいし!いや字が違う!軟らかいんだよこいつの身体!崩れそうで怖いんですけど!
>「いきてる、じっかんがほしいの……。あなた……とても、あたたかい……すてき……」
んな光に集まる虫みてーなこと言われてもさあ!生きてる実感とか、おめー死んでんだろーが!
つーかなに、そんな思春期の中学生みたいなこと言っちゃうのこいつ。退屈な日常に疲れちゃってるの?
あとおっぱい押し付けないでください。感覚があの寒天と一緒なんですが。

みぶるいして、俺はじたばたした。ゾンビの拘束は簡単に外れ、地面にべたんと尻餅ついた。
>「ごめんなさい、ごめんなさい……あたまだけは、いやなの。ぶたないで、こわさないで。
>「……彼女は神経細胞だって再生出来るけど、そこに書き込まれた記憶までは再生出来ないんだ。
「頭壊されたら記憶にリセットかかっちまうってことか……」
まあ普通の人間は頭壊されたら人生にリセットかかっちまうから、一概になんとも言いがたいけれども。
脆弱な生身の人間よりも、再生能力があって頑丈なはずのゾンビのほうが頭脆そうなイメージがあるのはやっぱバイオのせいかな。
いや、プレイしたことはねーんだけども。ヘッドショットすると一撃らしいじゃん?

>「さておき……どうしようね、この状況。一人分断されちゃってるし、私達じゃ光の勇者様の居場所は分からない。
 手当たり次第探すしかないんだけど……まずは進入路から決めようか。正面から突破出来る自信はあるかい?」
「おっと驚け慄け山椒の木だぜ狐公。俺たち精霊使いはな、契約精霊同士の魔力波長を探知できるんだぜ」
まあ携帯電話同士で通話できるようなもんだな。精霊共はしょっちゅうおしゃべりしてるみたいだし。
こいつを使えば光精霊越しにローゼンの位置もスッパリ特定可能ってわけだ。
<<――――? 汝、光精霊の魔力が読み取れん>>
「あん? そんなはずがあるか、ローゼンは確かにこの法務局に入ってったぞ」
<<それがな。登録してある光精霊のパーソナルコードにアクセスできないのだ。通信が断絶している>>
つまり……どういうこと?
<<強力なジャミングが働いているか、あるいは――ローゼンと光精霊との契約が切れている可能性がある>>
「契約、破棄……?」
契約精霊との契約が切れることは、実はそう珍しいことじゃない。いくつか要件はあるけど、最も多い例は、

1.債務不履行に基づく契約破棄。対価を払えずに契約を維持できなかった場合。
2.期間の定めのある精霊契約における、期間満了。及び契約更新をしなかった場合。いわゆる雇い止めってやつだな。
3.契約内容の変更による契約自体の消滅。対価を変更したり、契約者が死んだりしたときに契約そのものが消える場合だ。

精霊との契約が切れると、再契約まであらゆる精霊加護が受けられなくなり、精霊魔法が使えなくなる。
ローゼンが今そうなってるとしたら、あいつかなり危険なんじゃねえのか?
つーか水精霊はどうしたんだよ、今たしかローゼンの中に光精霊と棲み分けしてなかったっけ。

88 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/10(土) 07:05:36.33 ID:QbGRXgN0
「とにかくこれで虱潰しに探すしかなくなったな。しょうがねえ、ちょっと耳塞いで口開けてろ」
妖狐とゾンビに忠告して、俺は目の前の壁にプラスチック爆弾を盛りつけた。
ボタン電池型の信菅を中央に埋める。加護を受けた特殊なC4なので、盛りつけた壁にピタリとくっつくように立てば安全だ。
「ボタンフックエントリーでいくぞ。俺が右、お前が左だ狐」
持ってきたMP5(サブマシンガン)の弾倉ど動作をチェック。替えのマガジンも6つ持ってきた。
ホントはアサルトライフルの一つも欲しかったが、屋内戦闘を想定する以上あまり長物は取り回したくない。

「ゾンビは……どうしようか」
動きがトロいこいつは屋内でも良い的だ。盾にしたってヘッドショットでもされた日には妖狐に一生恨まれる。
戦えっつったって引き金の一つ引く間に蜂の巣にされそうなトロさだ。老人の霊でも乗り移ってんじゃねえかってぐらい。
「……あーもう!どうにでもなあれ!」
プルプル振るえる手をとる。腰で掬い上げるようにして、背中に脱力した身体を乗っける。
俺はゾンビを背負った。うひぃ、生冷た軟らかい!なんていうか"肉体"じゃなくて明らかに"人肉"の感触だよなあ!
赤ん坊にそうするみたいに、たすきでしっかりゾンビの身体を背中に固定。噛み付くなよーマジで。
「ん。こいつ噛むんだっけ?細胞増殖っつうからには大食いなんだろうけど、まさか俺、食われたりしねーだろうな……」

今度こそ。俺は万感の思いを込めて起爆スイッチを押し込んだ。
ドン!と轟音、次いで爆炎。壁に大穴が穿たれ、その向こうの戦場が垣間見える。
「ゴーアヘッド!」
俺はMP5を抱きしめて、戦火渦巻く最中へと飛び込んだ。

89 :創る名無しに見る名無し:2011/09/11(日) 01:55:48.43 ID:FxOUAIA4
「…来た」
闇精霊が呟く。
セキュリティシステムは半壊、魔物達も警備要員一般職を問わず既に相当の数を減らしている。
武装を固め魔物に手引きされるジェンタイルが上階のこの部屋に辿り着くのは時間の問題でしかなかった。

「ねえ、きょうだいと幼馴染み、どっちの口づけで目覚めたい?
…別に勝手に起きてもいいけど」
ローゼンを浮かべていた闇の球体は薔薇を敷き詰めた天蓋付きのベッドに変わり、
銀髪褐肌ゴスロリが傍らに腰掛け語りかけていた。

「やつは近代火器持たせると実に生き生きするにゃあ。まるで霊装、ていうか原理は同じだにゃ」
ねこは伸びをした

90 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/09/13(火) 00:04:22.53 ID:6OJ8etN5
>77-80
「……ん? 夢……?」
目を開けると、机に突っ伏していた。
「勤務中に寝るんじゃねー!
広報に載せる放火注意の原稿今日中に仕上げろよ!」
「ひゃいっ、係長!」
こいつは上司のジェンタイル。童顔美少年ルックのくせに人使い荒くて最悪だ。

「頑張って、あのアホ上司の相手を出来るのがはお兄ちゃんぐらいよ」
彼女はリリアン。本当はこんな所にいるのは勿体ないぐらいの自慢の妹。
なぜか夢の内容を語りたい衝動に駆られた。
「リリアン、夢を見てたんだ……。
アホジェンは年下の浪人生でメタルクウラ姉さん(通称)はマジもんの顔アリペプシマンになってて
変な奴が暴れて君は小さい頃に行方不明になってて、世界を救う旅に出るんだ」
「バカねえ、ゲームのやり過ぎよ」
「それで途中で魔王が復活して……その魔王はリリアンそっくりなんだよ!!」
「そんな事があるわけないでしょ?」
リリアンは微笑みながら手を伸ばし、頬に触れる。

――その手は、凍てつくように冷たかった。

「――!!」
漆黒の闇の中。リリアンが目の前にいて、愛しげに頬に触れていた。
「長い長い時を待っていた。やっと会えた……我が半身……」
こいつはリリアンじゃない、人間達を蹂躙する恐るべき魔王だ。
でも、それでも。もしかしたら話が通じるかもしれない。通じて欲しい。
「リリアン、僕を覚えてる!? 何の取り柄もない君の姉!」
「私はリリスティアーズ。あなたは姉じゃなくて兄でしょう。
肉体なんて魂の器に過ぎないんだから。
あなたが勇者に討伐されたあの日から、この時をずっと待ち続けた。
お兄ちゃん――魔王ローズブラッド様」
「違う!! 違うよ……覚えてないの? 辺境の村で一緒に遊んで喧嘩して……」
魔王は哀れむようにこちらを見るだけ。
あのリリアンはもういない。完全に時間改変に巻き込まれてしまったんだ。
「錯乱しているのね、すぐに落ち着くわ。もう少しお眠り」
成す術もなく、再び意識が闇に落ちる。

91 :ローゼン ◆frFN6VoA6U :2011/09/13(火) 00:06:03.31 ID:6OJ8etN5
炎上する村。逃げ惑う人々。人々を蹂躙するのは、冷酷非道な薔薇の魔王。
「この村に勇者がかくまわれているそうじゃないか。答えろ、勇者はどこにいる?」
「僕」は無数の棘持つ触手を操り、村人を締め上げる。
「強情な奴め、まあいい。ならば皆殺しだ!!」

これってどこの某大作RPG4作目の魔王様ですか!?
嘘だ違うやめろやめろやめろ――世界が、砕け散る。

>「ねえ、きょうだいと幼馴染み、どっちの口づけで目覚めたい?
…別に勝手に起きてもいいけど」
夢か現か、訪れる何度目かの覚醒。
大層な舞台装置が演出するは、王子を待ち続ける眠り姫。
「……どっちもお断りだ。僕は王子様を待つお姫様ってガラじゃない。
大体ジェン君がそんな事をするはずないだろ」
ベッドを降りて去ろうとすると、後ろから魔王が抱きついてきた。
「ねえお兄ちゃん、勇者なんて、人間なんてやめよう? 
不毛な円環を終わらせるの……。私と一緒に新世界の神になって!」
必至で振り解いて逃げ出す。騙されてはいけない。耳を貸してはいけない。
これはリリアンじゃない。ありがちな魔王の籠絡だ!
「嫌だと言ったら!?」

「選択権は無いわ。ならば力尽くで人間としてのあなたを消すまで!」
魔王が手に取るは、豪奢なナイフ。
華奢な体からは想像もつかない速度で距離をつめてきた。
鈍く煌めく白銀の刃を、目にもとまらぬ速さで翻し。
切っ先は過たず左胸に向けられ。ヤバイ、刺さる――!

―――――
>85
>88
ジェンタイルとモン娘。じゃなかった、もん☆むすの前に球状の発光体が漂ってきた。
『付いて来て!』
どうやら光精霊のようです。

92 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/16(金) 21:40:09.60 ID:vU0k0Var
>「おっと驚け慄け山椒の木だぜ狐公。俺たち精霊使いはな、契約精霊同士の魔力波長を探知できるんだぜ」

「へえ、そりゃまた便利だね。……でもGPS携帯の一つや二つ持ってないのかい?
 光の勇者なのにアナログ派だとか、今時のキャラ付けとしては甘々なんじゃない?」

>「あん? そんなはずがあるか、ローゼンは確かにこの法務局に入ってったぞ」
>「契約、破棄……?」

妖狐の顔を覆っていた飄々たる仮面が剥がれ、三日月のように鋭い眼光がジェンタイルを見据える。
紅色の満月を見上げた時に心臓を気味悪く高鳴るような、穏やかならざる雰囲気は感じ取っていた。

>「とにかくこれで虱潰しに探すしかなくなったな。しょうがねえ、ちょっと耳塞いで口開けてろ」

「了解」

妖狐は目の高さ、側頭部に両手を添えた。
彼女の頭の上では可愛らしげな三角形の耳が小さく動いている。

「……って、うわわっ! ちょっと待って! 塞ぐとこを間違えちゃった!」

慌てて妖狐は手の位置を変える。

「わたしは……だいじょうぶ……。うるさいのも……いきてる、じっかんだから」

一方で、ゾンビが希望なき人生が迎える死のごとく緩慢な口調で答えた。
彼女にとって死は一度限りのものではない。
幾度となく完全な虚無に呑まれる内に摩耗した心は、死と消滅の恐怖以外の全てを生の喜びとして享受するようになっていた。

>「ボタンフックエントリーでいくぞ。俺が右、お前が左だ狐」

「オーケイ、私が先に行くよ。幻惑の光がフラッシュバン代わりさ。君に浴びせるつもりはないけど、一応対策はしておいてね」

妖狐は右手に魔力を集中させて満月の模型を思わせる光球を創り出す。
炸裂した光を直視すれば、対象の耐性にもよるが暫くは幻覚を見せられる。
とは言え歴史軸の交錯による記憶混濁の時のように、外部から精神の変異を是正してくれる精霊がいるジェンタイルならば、
仮に直視したとしてもすぐに回復が図れるだろう。

>「ゾンビは……どうしようか」

「ここに置いていくのも連れていくのも危ないからね。安全な場所が見つかるまでは私が……」

>「……あーもう!どうにでもなあれ!」

庇いながら進むと言おうとしたところで、ジェンタイルが半ば自棄になりながらゾンビを引き寄せた。
腕よりも遥かに効率的に物を支える機能を持つ脚の筋肉を活用して、非力なりに彼女を背負いあげた。

「……なんだいなんだい、光の勇者を助け出す前に魔術師を卒業したりしないだろうね。
 目鼻立ちが整ってるからって、君みたいなちゃらんぽらんにゾンビちゃんはあげないよ」

妖狐は初期のテンプレ的な紙切れを片手に、微かに唇を尖らせて不満気な様子だった。
不満の根っこにあるものは友達を取られてしまうかもしれないと言う危機感か、或いはもっと別の感情なのか。
それは彼女自身にも自覚し得ないものだった。

>「ん。こいつ噛むんだっけ?細胞増殖っつうからには大食いなんだろうけど、まさか俺、食われたりしねーだろうな……」

「……あなた、とてもあたたかい。からだだけじゃなくて、こころも。あなたがいやなら、かんだり……しない」

ゾンビがジェンタイルに抱きつく力を少しだけ強めて、答えた。
不死性や元人間と言う理由から、同じ魔物の間でも嫌われてきた彼女にとって、
ジェンタイルの対応はこの上ない、温かな生と存在の実感だった。

93 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/16(金) 21:41:08.58 ID:vU0k0Var
「さて、それじゃあ行こうか。と、その前に、このテンプレは君に返して……」

不意に突風、紙切れが妖狐の手中から奪い去られる。
「目鼻立ちは整っている」「人の焼け匂いが好き」等々と記入された真っ黒な初期テンプレが、
回収不可能の個人情報と化して世の中に解き放たれた。

「……さて、行こうか」

妖狐は完璧な笑顔の仮面を被って、何事もなかったように平静を演じた。
そして爆発、破壊音、設置されたC4爆弾によって壁が破壊される。

>「ゴーアヘッド!」

ジェンタイルの掛け声に応じて、妖狐が屋内へ飛び込む。
同時に幻惑の光を放とうとして、

「……ふぎゃんっ!」

足元に散らかった瓦礫に蹴っ躓いて、盛大に転んだ。
タイミングが遅れ、ジェンタイルが飛び込んだ後で幻惑の光は炸裂した。
目も当てられない大失敗だ。
幸い事前に対策は取るよう警告してある上、屋内の魔物達にも幻惑の光は命中した。
突入そのものが失敗になる事はないだろう。

「あ、あはは……ごめんごめん。まぁ結果オーライって事で……」

妖狐は誤魔化しの苦笑いを浮かべながらジェンタイルに詫びを入れる。

「と、とにかく! ここはどうやら休憩室のようだね。
 ヤバくなったらここに逃げ込めば多分体力回復出来るんじゃないかな。RPG的に考えて」

仮眠用の固そうなベッド、流れ弾の直撃した棚からぶち撒けられた紅茶葉の香り、
撃破された魔物の傍に転がる食いさしのマフィンの甘い匂い、それらを見回し、嗅ぎ取り推察した。

「まあ今は休んでいる場合じゃないよね。先に進もうか」

妖狐が休憩室の出入口、たった一つのドアに向かう。
そして尻尾の先端が満月を描くように一回転、変化の術を行う。
姿は変えないまま豆粒ほどの大きさに変化して、ドアの下の隙間を這って潜り抜ける。
外の様子を見てから休憩室内へと戻り、変身を解除。

「……外には誰もいない。けどさっきの爆発を聞き付けていつ誰が来てもおかしくない。行こうか」

振り返り、歩き出す。ドアで強かに顔面を打った。
変化を解除しているにも関わらず、先ほどドアの下を潜った時と同じ要領で外に出ようとしたのだ。

「い、痛い……うぅ……」

妖狐が鼻を押さえ、目に涙を浮かべ、湖面に映し出された満月のように瞳を揺らす。
先ほどから誤魔化し誤魔化しやってきたが、いい加減失敗続きの自分に言い訳が出来なくなったようだ。
と、ゾンビがジェンタイルの背中越しに、妖狐の頭に手を伸ばした。

「だいじょうぶ……ようこちゃんは、やればできるこ……」

頭を撫でながら、元々の絶望に満ちた人生に訪れる死のような緩慢さで一層優しげに聞こえる声色で妖狐を慰める。
不器用な撫で方だったが、妖狐は少し落ち着きを取り戻したようだった。

「……そんな事、言われなくたって分かってるもん。ほら、行くよ魔術師君」

何とか調子を取り戻した妖狐は気取り屋の仮面を被り直す。今度こそドアを開けて休憩室を出た。

94 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/16(金) 21:43:00.11 ID:vU0k0Var
「とは言え虱潰しかぁ。ここ、結構広いし部屋も多いから手を焼きそうだね」

暫く進むと、壁に矢印の記されたプレートがあった。

「……ん、この先に資料室があるんだってさ。一応確認していこうか。
 光の勇者が監禁されてる可能性は低いけど、何か役立つ物があるかもしれない。
 ほら、ゾンビちゃんがいる事だし、なんかやたら意匠の凝った鍵とか、秘密文書とか……」

下らない冗談を交えつつ資料室に入る。

「さーて、手早く探しちゃおうか。こう言うのは大体、棚の奥に秘密のファイルや鍵が……」

妖狐が棚に歩み寄り、直後に自分の尻尾を踏んで盛大につんのめった。
体勢を立て直す暇もなく、棚に頭から突っ込んだ。
割れたガラスや雪崩落ちた資料が派手に悲鳴を上げる。

「……物音がした?」「資料室からだ!レジスタンス共が入ってきやがったか!?」

外にいた警備の魔物に聞かれてしまったようだ。荒々しい足音が資料室へと迫ってくる。

「あわわ……ど、どうしよう! あ、そうだ! 魔術師君、ドアを溶接して塞いで!」

けれどもそうした所で、外の魔物達は強引にドアを突き破ろうとするだろう。
乱暴に、何度もドアに打撃が加えられ、重々しい音が資料室を満たす。

「う、うぅ……急いで何とかしなきゃ……。でもどうやって……」

軽い錯乱状態に陥った妖狐の思考は上滑りし続け、時間は無為に過ぎ去っていく。
打撃音が恐怖と錯乱を煽り、心臓の鼓動を加速させる。
だが、不意に打撃音とも鼓動音とも違う、小気味いい音が響いた。
中指の先と親指の付け根で空気を弾く、フィンガースナップの音だった。
一拍遅れて、ドアの外で魔物達の短い悲鳴が上がった。
それきり、ドアは叩かれなくなった。静寂が僅かな不気味さと不安を連れて資料室に戻ってきた。

「おいおい、少し不注意過ぎるんじゃないのか?
 二人以上のチームで移動する際は、後方の一人が退路と後方の安全を確保し続けるのが定石と言う物だろう。
 まったく、私が偶然通りかからなかったらどうするつもりだったんだ?」

ドアの外からジェンタイル達に語りかける、微かに尊大な響きを含んだ声。
再び快音が鳴り響く。

「見ていられないぞ、ジェンタイル。暫く見ない内に腑抜けたんじゃあないのか?
 そんなお前なら、いっそ私がこの手で滅ぼしてやってもいいんだぞ? これ以上醜くなってしまわない内にな」

声の孕む音色が途端に、影に覆い尽くされた氷河の世界のごとく冷厳なものに一転した。
更に声の出所はドアの外ではなく、ジェンタイルの後ろへと移動していた。
ドアは一度も、僅かにも開いていないにも関わらず。まるで、いついかなる時も傍に這い寄る影のように。
だがジェンタイルが振り返ってみても、彼の視界に誰かが映る事はない。

「おいおい、どこを見ている。私はこっちだぞ」

声はジェンタイルの目線よりも大分下から発せられていた。
声の主は、少女だった。

95 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/16(金) 21:45:08.24 ID:vU0k0Var
声の主は、少女だった。
宵闇を思わせる艶やかな黒髪は、顔の左右を覆うようにして肩口まで伸びている。
長い襟足が鋭角的に跳ねて、ワイルドかつスマートな輪郭のウルフカットだった。
少女の肌は暗闇でこそ浮き彫りになる光のように白い。
顔立ちは端整で、月明かりに照らされたナイフのような印象を醸している。
特に目は特徴的だった。切れ長で鋭く、虹彩は血の色をしており、不穏な輝きを見せる紅い満月のようだった。
体格はジェンタイルの平時の目線では視界に入らないほどに背が低く、また起伏にも乏しい。
服装は黒い細身のジーンズにシースルーのシャツ一枚、シャツの生地が薄い為、白いスポーツブラが透けて見える。

少女はジェンタイルと目が合うと、たちまち鋭利な表情を僅かに崩して、得意げで小生意気な笑みを浮かべた。

「ね、ね、どうだった? 今のカッコよかっただろ? だろ?」

右手で打楽器の構えを取ったまま見せつけて、ジェンタイルに一歩詰め寄る。
背伸びをしながら問い詰めた。

「いや、カッコ悪いだなんて言ったらギルティだ! なんたって僕の尊敬する大先輩の真似をしたんだからね!
 聞くかい? 大先輩の話。聞くよね、聞くに決まってるよね。て言うか聞かなかったらパッチンするから」

少女は決して抗う事の出来ない夜闇の瀑布のごとく、「大先輩」について語り出す。

「大先輩はね、それはもうカッコイイんだ! いつもミステリアスな微笑みを絶やさずにいて、真名を決して明かさないところがそれを一層際立たせてる。
 それに動作の一つ一つがそれはもうスタイリッシュで、特にあのフィンガースナップの流麗さは見惚れてしまうほどだよ!
 あ、この服装も大先輩を真似してるんだ。まあ少し恥ずかしいのは否めないけど大先輩のお揃いと考えればそんなのは些細な事だよね。
 それに大先輩は、とっても物知り。いつだって理知的で、なのに料理も出来ちゃう家庭的な面もあって、まさに知性の体現者とでも言うべき方なんだ。
 でも大先輩の凄いところはまだある。あの方は凄く美しくて賢くて、それでいてとっても強いんだ。
 美貌と知性を損なわないまま、だけど圧倒的な力を見せつけてくれる。本当に完璧で、全きお方だ!」

血の色をした両眼にルビーの輝きを宿して、一息に紡ぎ切った。
月のない夜の漆黒に視界を覆われた迷い人さながらの盲目ぶりだ。

「……っと、いけないいけない。つい地が出ちゃった。名も無き大悪魔を真似る身としてはあるまじき失態だ」

ひとしきり語って満足したらしい。
少女は見た目相応の輝きを帯びていた瞳を、作り物の闇で濁す。

「そう言えば自己紹介がまだだったっけ。僕は堕天使。
 深淵に潜む麗しき大悪魔に惹かれ、自ら天を降りた名も無き元天使だ。
 よろしく頼むよ、ジェンタイル」

堕天使は不敵な笑みと共に、右手を差し出す。

>『付いて来て!』

「……おや、君が噂の光精霊? 悪いけどそれには従えないな。だって君の導く先は可能性の坩堝なのだから。
 ドミネ・クォ・ヴァディス、主よ何処へ行かれるのですか、だ。君が何処へ向かうのかを明言しない以上、
 君の導く先は天国であり、地獄であり、未来であり、過去であり、光であり、闇でもある。
 なに? 意味が分からない? そうだよ、意味が分からないんだ。だから君には従えない」

右手を光精霊へと伸ばし、快音を一つ。
光球状の光精霊が歪に歪み、強引に鍵の姿を押し付けられた。

「これは……見ての通り鍵だ。光の勇者が持っていた『結末を自分の望むように是正する能力』に指向性を与えた。
 これを使えば一度だけ、望み通りの場所に行く事が出来る。勿論これを使って君が元いた世界とやらに帰るのもアリだ。けどさ、ジェンタイル」

堕天使は地の底へと続く奈落のように底の見えない微笑みを浮かべた。
そして大先輩を意識した口調と表情で、続ける。

「――世界を変える。随分と遠回りをしたみたいだが……ようやく夢が叶いそうじゃないか?」

96 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/18(日) 16:35:34.06 ID:NB2JvLNW
>「……ふぎゃんっ!」
C4が炸裂し、屋内へ飛び込んだ瞬間、妖狐の奴がまたやらかしやがった。
瓦礫でずっこけ、幻惑のフラッシュグレネードは俺の目の前で爆発。目の前が異世界に変わる。
<<汝!>>
オーケ、分かってる。すぐに炎精霊と精神を繋げて幻惑を払底する。
一瞬だけ名伏しがたい冒涜的な光景が広がったけれど、たちまちもとの屋内へと回帰した。
>「あ、あはは……ごめんごめん。まぁ結果オーライって事で……」
うん……まあ、そんなこったろうとは思ってたけど!
さて、俺たちは瞬く間に突入した屋内を制圧した。俺が使ってるのは炎精霊の加護を受けた特殊な非殺傷弾頭。
昔は人間だって迷わず殺してたのに、今じゃ魔物も殺したくないってんだからどういう心境の変化だろう。
変わったのは世界の方なんだけどな。

>「……外には誰もいない。けどさっきの爆発を聞き付けていつ誰が来てもおかしくない。行こうか」
制圧した場所は休憩室のようだった。無力化した魔物を拘束して部屋の隅に固める。
こういうときに自分が壁際に行くのは素人だ。壁ごとふっ飛ばされるかもしれないし、跳弾ってのは本当に怖い。
敵の射線が予測可能な中央付近に位置取るのが屋内戦の基本戦術なのである。
妖狐は変身能力をつかって外側から鍵を空け、俺たちを外へと誘った。
ついでにまたドアに頭をぶつけてやがる。こいつキャラ付けでやってんじゃねえだろうな……。
>「い、痛い……うぅ……」
おっと。今までなんやかんやで言い訳してたのに、今はなんだか妙にしおらしい。
これだけ凡ポカをやらかせば、流石に自己弁護のしようもないってことだろう。
>「だいじょうぶ……ようこちゃんは、やればできるこ……」
「そ、そうだぜ妖狐!お前が先んじてポカっとけば、俺たちはそれだけ気も引き締まるってもんだ、なあゾンビ!」
レディーファーストの本来の意味について思いを馳せながら、俺は妖狐に気を使った。
>「……そんな事、言われなくたって分かってるもん。ほら、行くよ魔術師君」
気をとり直して、敵陣の深くへ斬り込む。

とはいえあまりに広い法務局。俺たちはすぐに虱潰しの実現性のなさに思い至った。
そんなわけでここは資料室。ローゼンたちを探す手がかりについてここで何かヒントを得ようって考えである。
>「さーて、手早く探しちゃおうか。こう言うのは大体、棚の奥に秘密のファイルや鍵が……」
ドンガラガッシャーン。はい、フラグ回収!
妖狐がつんのめって突っ込んだ棚はガラス張りで、割れる音はもちろんのこと外にまで響き渡る。
戦闘状況にあっては不審な物音。警備兵が飛んで来るのも時間の問題だ。
>「あわわ……ど、どうしよう! あ、そうだ! 魔術師君、ドアを溶接して塞いで!」
「あーもう、お前は本当に期待を裏切らねえな!」
俺は炎魔法でドアの金属を溶かし、鋳造して一枚の壁にした。
だけども相手は悪魔だ。この程度の鉄壁なら一分もかからず破壊してくるだろう。
どうする……ブチ破られた瞬間サブマシンガンで斉射するか?一発で仕留められなきゃこっちが競り負ける。
交戦の覚悟を決めたそのとき、ドアの向こうで聞き覚えのあるあの音が響いた。
それを皮切りに、急速に敵兵の声が静まっていく。
>「おいおい、少し不注意過ぎるんじゃないのか?
>「見ていられないぞ、ジェンタイル。暫く見ない内に腑抜けたんじゃあないのか?
声は篭っていてうまく聞こえないけど、その喋り方は、まさか――
「だ、大先輩!?」
まさか。まさかまさかまさか。地精霊編からどっかいっていたあのクサレぼっち悪魔が!
俺の敬愛する大先輩が!このタイミングで駆けつけたっていうのか!?
>「おいおい、どこを見ている。私はこっちだぞ」
……そこにいたのは、大先輩のコスプレをした少女だった。

97 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/18(日) 16:36:16.54 ID:NB2JvLNW
「……えっと、娘さん?」
いやいや、大先輩に嫁がいるなんて話は聴いたことがねーぞ。もしかしてまた女体化したのか?
このドヤ顔には見覚えがある。この尊大な喋り方にも聞き覚えがある。
だけども――俺の腹あたりに頭のくるこの低身長も、あどけない顔立ちも、どうにも俺の知らない少女のそれだった。
>「ね、ね、どうだった? 今のカッコよかっただろ? だろ?」
少女が相好を崩す。
年相応の、少なくとも俺の大先輩が浮かべていい表情じゃあない。あの野郎はもっとねちっこい笑い方をする。
こんな、男の子のハートを射止めるような魅力的な笑みを浮かべない!
>「いや、カッコ悪いだなんて言ったらギルティだ! なんたって僕の尊敬する大先輩の真似をしたんだからね!
 聞くかい? 大先輩の話。聞くよね、聞くに決まってるよね。て言うか聞かなかったらパッチンするから」

「だ、大先輩のファン、だと……!?」
あの男にそんな人気が出るような甲斐性があったとは思えねえ。
いや、カッコ良いけどさあ!そいつに憧れていいのは中学生男子だけだよ!
コスプレ、言動の真似、ところ構わず良さをシャウト。……アカン、この娘めっちゃギルティーや。
ヴィジュアル系には痛いファンがつきものだと言うけれど、実際遭遇して分かるこの香ばしさ。
何より許せねえのは――
>「そう言えば自己紹介がまだだったっけ。僕は堕天使。深淵に潜む麗しき大悪魔に惹かれ、自ら天を降りた名も無き元天使だ」
俺の前で大先輩について知ったような口を聞くんじゃねえ――ッ!!

「っは、大先輩のファンが聞いてあきれるぜ。お前が言ってるのは、全部大先輩のイイトコばっかじゃねーか。
 あの男の意味不明言動の全てを知ってるか!?厨二じみた発言のいい加減さは!?ときどき訳分からん講釈垂れるのは!
 大先輩のいいとこだけで知った気になってんじゃねえぞ!良いとこ悪いとこ全部まとめて受け入れて真の大先輩フリークなんだ!」
そしてその資格があるのは、あれとずっと旅をしてきた俺だけだ!
わかるかガキめ!おまえなんかとは年季がちげーんだよ!ばーかばーか!

>『付いて来て!』
「お前……光精霊……か?」
突如目の前に灯った光。人魂みてーなそこから伝わる魔力の波長は、ローゼンのものと一緒だった。
>「……おや、君が噂の光精霊? 悪いけどそれには従えないな。だって君の導く先は可能性の坩堝なのだから。
堕天使がまた意味不明な大先輩トークをしながら光精霊を掴む。
掴んで、瞬く間に輝く鍵へと加工してしまった。
>「これは……見ての通り鍵だ。光の勇者が持っていた『結末を自分の望むように是正する能力』に指向性を与えた。
 これを使えば一度だけ、望み通りの場所に行く事が出来る。勿論これを使って君が元いた世界とやらに帰るのもアリだ。
俺は息を飲んだ。つまり、つまりだ。地精霊がねじ曲げちまったこの世界から、俺たちは帰れる。
魔王が支配してなくて、人が死んでも生き返る、遠きにありて想う俺達の故郷へ。

「…………!」
でも、それでいいのか?
確かにこの歴史軸から離脱すれば、俺主観では世界は元に戻るのかも知れない。
だけどそうなったら、この世界はどうなるんだ?魔王に支配されたまま、ずっと泥沼で続いていくのか。
俺には関係ないのかもしれない。それがこの世界の在り方なら、何も触れずそっとしておくのが良いのかもしれない。
「"良い事"なんか……できっかよ」
俺は最初に言ったんだ。魔王を倒して、世界を変える。
できないことから逃げたくない。――俺はもう、自分で言ったことを曲げたくない。
堕天使から鍵を受け取って、俺は唱えた。

「魔王死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

瞬間、光が爆発して、俺は意識ごと吹っ飛ばされた。
世界の構造が変わり、この歴史軸が『魔王の死んだ歴史』へと是正されていく。
鍵から迸った光が刃となって法務局を貫き、ローゼンと対峙していた魔王の心臓を貫いた。
俺は吹き飛んだ意識の中でそれを観測していた。やがて俺の意識と一緒に世界が再構成され、俺は意識を取り戻した。

「ははは……もとの世界に戻るチャンス、フイにしちまったよ……」
法務局の瓦礫の上で五体投地に投げ出されて、俺はつぶやいた。
魔王は確かに死んだ。関係ない世界のために、俺は故郷を捨てちまった。
「悪いなローゼン。――俺はやっぱ、悪役でいたいんだ」
大先輩なら褒めてくれるだろうか。俺の『悪性』の師匠も、きっとこの破魔の光をどこかで観てることだろう。
世界を犠牲にして。世界を救った俺の。渾身の自己表現を、誰かに認めて欲しかった。

98 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/20(火) 22:25:43.82 ID:U0tp5wVj
堕天使は光精霊を『鍵』として鋳造し直すと、それきり物言わぬ影となり口を噤んだ。
ただジェンタイルの結論を、決断を待つ。
彼には、彼以外の何者にも理解出来ない劣等感が、克己心が、甘えが、自戒が、弱さが、決心が、絶望が、希望がある筈なのだ。
それらを胸の内側でひしめき合わせて、数ある未来の中からたった一つを選び抜く。それ以外の全てを間引きする。
その過程に他人の意向と言う雑音を紛れ込ませるのは酷く無粋な真似だと、堕天使は理解していた。
一方で、『もん☆むす』としては是が非でもジェンタイルに魔王を討つ決断をさせるべきだ。それも分かっている。
だがそれは、彼女の憧れる『大先輩』らしさに反する事だ。故に、堕天使は一言たりとも言葉を発しない。

>「"良い事"なんか……できっかよ」

ジェンタイルが小さく呟く。
堕天使が不敵な笑みを添えて、『鍵』を差し出した。

>「魔王死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

「おいおい……折角私がお膳立てをしてやったんだぞ? もうちょっと気の利いたセリフは無かったのか? まったく……」

額に右手の平を当ててため息を吐き、発生した莫大な光の瀑布に背を向けた。
鍵の先端から放たれた眩い閃光が魔王の胸を貫き、錠前を解くように抉る。
再び光の炸裂、世界が分解され、組み替えられていく。
魔王の死を中心にして世界中に拡散していった光は、次第に収まっていった。

>「ははは……もとの世界に戻るチャンス、フイにしちまったよ……」

堕天使が辺りを見回す。法務局は完全に瓦解していた。
ジェンタイルは瓦礫の上に、大の字になって倒れている。

>「悪いなローゼン。――俺はやっぱ、悪役でいたいんだ」

堕天使がジェンタイルに歩み寄る。

「――おめでとう、ジェンタイル。やっとお前も一端の悪役になれたじゃないか」

ジェンタイルに向けて、視界の外から声が投げ掛けられる。
確かに存在しながらも、しかし地と空の狭間に横たわる影のように、確かな認識の出来ない声だった。

「……なに? 急にこっち見たりして。パンツでも見るつもりだった? なら残念、私は大先輩と同じでジーンズ派なんだ」

ジェンタイルが身体を起こして堕天使を見たとしても、彼女はそのようにしか反応を返さないだろう。
果たして彼の聞いた声が誰のものだったのか。『影』か、或いは単に堕天使の気遣いだったのかは、誰にも分からない事だった。

「まあ、とりあえずその格好は無様過ぎるし起こしてあげるよ。ゾンビちゃん下敷きにしてるし」

「……わたしは、このままでも……いいよ。おとこのひとって……おんなをふみにじると、たのしいんでしょ?」

「いや……悪いけど、光の勇者も探さなきゃいけないんだ。じゃ、起こすよ。せーの……」

堕天使はジェンタイルに手を貸し、引き起こす。同時にそれとなく視線を『もん☆むす』の同胞がいる方向へと向けた。
どうやらローゼンを見つけたらしい。が、まだ彼女をジェンタイルに会わせる訳にはいかなかった。
『もん☆むす』にとっては、魔王の死など過程でしかない。目的はまだ完了していないのだから。

「そう言えば……お前さっき大先輩に色々と悪口を言ったろ! あの時はスルーしてやったけど、今ここで断罪してやる!」

演技の中に殆ど本心の怒りを交えて叫びながら、堕天使はジェンタイルの股間を蹴り上げた。

「大先輩が意味不明だって? いい加減だって? 訳が分からないだって!?
 よくもあのお方に向かってそんな事を! 偉そうに、一体大先輩の何を知ってるって言うんだよ! 
 ふん! 皆はどうだか知らないけど、私はお前なんか大嫌いだからな!」

ふんぞり返って、激しい怒気を込めた罵声をジェンタイルに向かって吐き捨てた。

99 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/20(火) 22:28:23.35 ID:U0tp5wVj
「起きて下さい。光の勇者ローゼン」

瓦礫の下から見つけ出したローゼンの頬を、ゴーレムが軽く叩く。

「おはようございます、光の勇者。目覚めて早々申し訳ありませんが……あなたの妹は死にました。
 Mr.ジェンタイルの手のよって、殺害されたのです」

コンクリートを思わせる淡々とした口調で、土石流のように一方的に告げる。
ローゼンが耳を塞ぎ、頭を振って、泣き叫ぼうとも一切構わずに。

「それでですね。貴方にはこれから、魔王の代わりを演じて頂きます。
 私達の目的は人間の保護と尊重です。
 魔王に瓜二つの貴方を替え玉として立てれば、これから先動き易くなりますから」

「と言っても、別に小難しい演技を要求する訳じゃないから安心してよ。
 ただ……君の人格は、ここで終りを迎える。ただそれだけだよ。じゃあスライムちゃん、先にお願い」

妖狐が歩み寄り、スライムを振り返る。

「まっかせといて〜! えいっ!」

掛け声と共に、スライムの指先が細い触手となってローゼンの耳の穴に潜り込んだ。
触手は耳孔から脳へと至る。突然ローゼンが白目を剥き、無意味な呻き声と涎を零し、小刻みに震え出した。
スライムはローゼンの脳細胞を部分的に刺激、破壊していた。
人格を損傷させ、自我を喪失させ、感受性の欠けた人形を創り上げる為だった。

「はいっ! 可愛いお人形さんの出来上がり〜!」

「よし、じゃあ次は私だね」

目から感情の光を失い、口の端から涎を垂らすローゼンに、妖狐が歩み寄る。
頭に右手をかざし、幻術を掛けた。何重にも重ねて、決して剥がれ落ちる事のない新たな人格を植え付ける。
上辺は今まで通りのローゼンと殆ど変わらない、しかし全く別の人格を。

「終わりましたね、それでは行きましょう。光の勇者ローゼン。
 Mr.ジェンタイルが待っています。彼に貴方の決断を聞かせてあげましょう」

「――うん、そうだね! ちょっぴり悲しいけど仕方ないよね!
 ジェン君泣いちゃったりしないかなぁ。なーんて、大丈夫だよね! 
 だってジェン君は世界を変えた英雄なんだもん!」

虚ろな目をしたまま、ローゼンは明るい声色と笑顔でそう答えた。
ゴーレムに背を押されると、彼女は何の抵抗もなく意気揚々と、ジェンタイルに向けて歩き出した。

100 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/20(火) 22:29:12.20 ID:U0tp5wVj
「Mr.ジェンタイル。光の勇者ローゼンが見つかりましたよ。そして……貴方に話があるようです」

「おめでとうジェン君! リリアンの事は残念だけど……仕方ないよ!
 気に病んだりしないでね! むしろ君で良かったと私は思ってる! 多分リリアンも同じだよ!
 それでね、話って言うのは……私、リリアンの代わりに魔王をやろうと思うんだ!
 魔王として、少しずつ人間が魔物と対等に近づけるようにしたい!
 この世界がこんな風になっちゃったのはリリアンのせいだから……妹が悪い事したなら姉が責任を取らなきゃね!」

ローゼンはいっそ異様なまでに朗々と語る。
他の思考は何一つとして許されていない。
彼女はただ魔王の代わりとなって、人間の保護と尊重を進める為の傀儡となるのだ。

「だからさ、残念だけどジェン君とはここでお別れ!
 私の事は気にせず、好きに生きてよ! じゃあね!」

「……だ、そうです。私達は彼女の意志を尊重するつもりです。
 辛い選択かもしれませんが……きっと彼女は幸せですよ。
 なにせその一生を、人類の為に捧げるのですから」

万が一にも人格改変が気付かれないように、ゴーレムは早々と自身の分身にローゼンを連れて行かせた。

「これから世界は……平和になるかもしれません。最早、人と魔物が争う理由はありませんから。
 争いが増えるかもしれません。変化を容易く受け入れられない魔物もきっといるでしょうから。
 貴方は……これからどうしますか? 私達は光の勇者にそうするように、貴方の意志も尊重したいと思っています」


【とりあえず始末を付けさせて頂きました。これからの事はお任せしてもいいですか?】

101 :創る名無しに見る名無し:2011/09/21(水) 00:45:53.45 ID:+gC+dGlx
忘れてはならないのが、ローゼンは極度のスペランカー体質。
つまりは誰よりも死にやすいということである。
脳みそをいじられたローゼンのHPはもう0で、ゴーレムに運ばれた瞬間に死んでしまった。
魔王が死に、法務局も壊滅したことにより、禁止された蘇生も気軽に行えるようになった。
ローゼンの死体は使い魔の猫によって、バベルの近くにある寺院に転送されて蘇生されたのである。
かけられていた幻術も死んだことにより解けていて、直接の死因となった脳の損傷も蘇生行為によって無くなった。
元のお馬鹿なローゼンの完全復活である。

ジェンタイルの望みが魔王死ねだったから、こんなご都合主義があっても仕方がないことなのであった。

102 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/24(土) 03:22:49.30 ID:IoRlHQ8g
法務局での戦いから数ヵ月後――
酸性雨の降りしきる、灰色で埋め尽くされた街を俺は足早に往く。
往来ではオンボロの人民バスを待つ人々の行列があり、そこには人も魔も区別がない。
つい半年前までセンター街のオーロラビジョンを飾っていた眉目秀麗な悪魔俳優が、路上にゴザを敷いて雑誌を売っている。
俺はその中から7ヶ月前のジャンプを選び出して、くしゃくしゃになった紙幣を差し出した。

「お兄さん、お目が高いね。そいつは週刊少年ジャンプの歴史長きと言えど、ハンターハンターの載っている数少ない号で――」
「中身はどうでも良い。こいつは傘に使うんだ。魔導科学製の紙は酸性雨を防ぐのに丁度いいからな」
「今どき雨を気にしてる人なんていないよ。傘も高級品になっちまったし。それともあんた、イイトコのお坊ちゃんかい?」
「いや。俺はただ――炎属性なだけさ」

頭の上に分厚い雑誌を掲げて、雨の中の空を見上げる。
旧法務局。
現在は、『エストリス元老院』――この国の政権を握る、レジスタンスの成れの果てだ。

首都ユグドラシルの二番街、魔物や悪魔の多く集うスラムを地下鉄方面に進むと一件の酒場がある。
カウンターの奥には十席程度のカウンターと、テーブルが4つ。
暇そうにグラスを磨くマスターに手を上げて挨拶し、脇を通る。
国家元首に上り詰めたロスチャイルドの笑顔が眩しいポスターを捲るとその先には装甲扉。
周りに誰もいないのを確認して一気に開き、滑り込んだ。

「まいった、雨に降られちまったよ。工場が乱立してから天候が不安定になって困るぜ」

扉の先にはもうひとつ部屋が広がっていた。
手近に転がっていた椅子を足で引き寄せて、どかりと腰を落とす。
抱えていた紙袋を机に置くと、中から質の悪い生鮮食品がいくつかと、発注してあったダイナマイトがごろっと露出した。

「ほれゾンビ、合成肉だ。お前は食い物の好き嫌いを言わねえから助かるよ。どこぞの大先輩のおっかけはグルメでいけねえ」

包装がところどころ破れたチョコレートバーの封を切りながらつけっ放しのテレビに目を遣る。
ブラウン管の向こうでは、修道院の息のかかったアナウンサーが耳障りの良い言葉でニュースにもならない原稿を読み上げていた。

『偉大なる元老様が』
『工業区では今日も新技術の』
『東区駅で起きたテロについて保安局の見解は――』
『魔王政独立万歳』

「っは、何が魔王独立だ。支配して、搾取する側が悪魔から人間に変わっただけだろ」

俺が魔王を殺してから――雪崩込んだレジスタンスが政権を奪還し、革命は成功した。
レジスタンスの総指導者だったエストリス修道院のロスチャイルド院長を国家元首に据えた新政権のスタートは確かに快調だった。
魔王政は一種の洗脳政治だったから、風精霊の力でそれを解いたあとに残るのはこれまでの憤りとこれからの不安。
ロスチャイルドは類まれなる弁舌力で大衆の感情を扇動し、悪魔を排斥する運動に熱を入れた。

103 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/24(土) 03:23:48.56 ID:IoRlHQ8g
魔王が死んだ以上、こいつを憎んでおけば良いっていう『悪役』が政治的に必要だったのだ。
ターゲットにされたのは悪魔や魔物。
革命成功で活気づいた人類の進撃たるや凄まじく、たったの半月でほとんどの悪魔は重要な社会的地位を追われてしまった。
悪魔としても、旗手だった魔王を失った喪に服しているところを一気呵成に責め立てられては、ひとたまりもなかったんだろう。

そんな感じで順調に見えた新政権だったが、半年もしないうちに国力は低下の一途を辿っていた。
魔王政下での悪魔天下を支えていたのは、魔導科学という魔法と科学を組み合わせたまったく新しい超技術。
しかし政権を獲った人間たちには、その魔導科学を扱う技術が全くと言っていいほどなかったのだ。

悪魔の技術者を迎え入れりゃいいのに、あんまり悪魔排斥の気風が強かったものだから人類のプライドがそれを許せず、
さりとて魔導科学によって構成された都市機能を維持する能力も人類にはないもんだからさあ大変。

美しかった街並みはみるみるうちに風化し、スカイラインの映える青空は急激な工業化によって年中灰色になってしまった。
国民の大半は高すぎる税金を払えず市民権を失い、民間から善意で払い下げられた人民バスでようやく経済を維持する始末。
地下鉄なんか一部の上流階級――かつてレジスタンスに携わった連中ぐらいしか乗れない高級品なのだ。

民衆の不満は爆発寸前だったが、法務局に残されていた風属性の監視システムと密告制度によって反発は抑えられた。
反面行き場をなくした怒りは同じスラムの人間へと向き、非市民階級の暮らすこの街みたいな場所は流血沙汰が絶えない。
はっきり言って治安が悪い。でもそれをはっきり言っちゃうと、高等警察が飛んできて不穏発言罪で逮捕されてしまう。

今の世界は、そんな感じ。
皮肉にも、俺が望んだ未来とは、1ミリも被っちゃいなかった。
そんなわけで俺はモンむすの連中と地下に潜り、来るべき再革命のために力を蓄えている最中なのだった。

「次、妖狐の番な。炊き出しが3時からA-10区でやるから、うまく幻術して人数分のメシを調達してきてくれや」

合成肉を一切れそのままつまみ上げてゾンビに食わせてやる。
こいつの行動にもだいぶ慣れてきた。意思の疎通はまだまだちょっと怪しいけれど、何考えてるかはだいたい分かる。
逆にわからねーのはゴーレムやスライムみてーな無生物系や、堕天使みたいな気取り屋。
特にスライムはまとわりついて来るときとそうでないときの落差が激しすぎて結構ストレス溜まる。

「ローゼンは無事なのかねえ……」

あいつとは法務局の瓦礫の上で別れた。
魔王を代行するとか言っていたけど、俺は声をかけるのがはばかられてしょうがなかった。
だって、魔王――あいつの弟を殺したのは俺だから。それが間違ってたなんて1ミリも思っちゃいないが、それでも。
この気まずさはずっと俺が背負うべきものなのだ。良心の呵責がなけりゃ人間じゃねえよ。

「とにかく今は雌伏のときだ。情報を集め、物資と戦術を蓄える。起死回生の一手が見つかるまで、辛いだろうが――甘んじるぞ」

104 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/09/24(土) 19:08:57.05 ID:bAO8Xmg4
>103
私は瞬間移動でジェンタイルの横に現れる。
今の私の姿は女体化する前のクウラの姿をしている。
新作ゲームの出演に女体化した姿で行ったら、孫悟空の一派がドラゴンボールを使ってまでして、私を元の姿に戻したからな。

>「とにかく今は雌伏のときだ。情報を集め、物資と戦術を蓄える。起死回生の一手が見つかるまで、辛いだろうが――甘んじるぞ」

「うむ、メタルクウラ達全員で新作に出演しに行っていたら、事態が大きく変わっているようだからな。
私に一番必要なのは現在の世界とお前達についての情報だ」
私が現れた部屋を見回してみれば、私の知らない面々。
人間ではない魔物と呼ばれる存在が部屋の中でくつろいでいる。
ローゼンやカレンの姿もこの部屋の中には無い。
ローゼン達のエネルギーを感知しようとしたが、カレンのエネルギーは見つかったが、ローゼンのエネルギーはどこにも見つからなかった。
ローゼンは……死んでしまったのか?
それに、今のこの世界ではインターネットにも何故か繋ぐことができなくなっている。
ジェンタイルに色々と聞かなくてはならないようだな。

105 :シュヴァルツ ◆HbpyZQvaMk :2011/09/25(日) 12:31:47.46 ID:JdwTOkUf
>100-102
ご主人様は魔王の身代わりになった直後、ロスチャイルドの手にかけられた。
そこを水の大精霊に救われて、バベル近くの寺院に転送された。
それからご主人様は滾々と眠り続けている。体はもう治っているはずなのに。
このまま目覚めない方が幸せなのかもしれない。世界を維持するシステムは総崩れした。
魔王と勇者の円環の装置は崩壊し、光の精霊は魔王と相打ちになって消え、水の大精霊はご主人様を助ける際に自らの存在を犠牲にした。
大地の大精霊も炎の大精霊ももういない。曇った空。濁った水。不毛の大地。美しかった世界は見る影もない。
「世界はお終いにゃ・・・」

そう呟いた時、風が、舞い降りた。
《まだウチがおるやん》
風が成すは、淡い女性の姿。
「か、風の大精霊様ァ――ッ!?」
《ロスチャイルドの野郎〜〜〜〜気に食わんわあ! 謀反じゃ謀反!》
「ひいっ!?」
風の大精霊は荒れに荒れていた。

《絶対ぶっ潰したる! あの歩く無尽蔵精霊容器はどこじゃあ!》
風の大精霊は荒れ狂いながらご主人様を探す。
「人事不詳で面会謝絶にゃ」
《関係ないわあ! 強制契約じゃあ!》

風の大精霊様は、問答無用でご主人様の中に入っていく。しばらくして出て来た。
「契約できたにゃ? ご主人様は生きていたにゃ?」
《バッチリや! 力の行使と対価の支払いはお前さんが代行するという契約やけどな》
「ンな勝手にゃ!」
《使い魔の全ての感覚はマスターと共有される。お前さんの行動次第であるいは目覚めるかもしれへん》
「・・・・・・」

そんなことがあって。そんなことがあって。
気付けばご主人様の代わりにボクが旅立つことになっていた。
人間の姿になって、名前も貰って。
黒猫だからシュヴァルツ、サーヴァントだから執事服ってか、単純すぎるわ!
目指すは打倒ロスチャイルド政権。これぞ政権伝説ってか、やかましいわ!

《ほな行くでえ、着地に気を付けや!》
大精霊が巻き起こす風に乗り、足が地面から浮く。
《一つ言い忘れ取った。くれぐれも自分からは正体を明かしたらあかんで。人化の魔法が解けてまうからな》
「りょーかい。・・・地味に厄介な縛りプレイだにゃ」
ふわりと空高く舞い上がる。目指すはレジスタンスの潜伏する本拠地!

ご主人様――行って参ります――


名前: シュヴァルツ
職業: 使い魔
性別: オス
年齢: 1歳前後
身長: 160p
体重: 48s
性格: 腹黒いがバカ
外見: 黒髪執事服の少年
備考: 風の精霊魔法を操る。語尾に時々にゃが付く。

106 :カレン&マーガレット ◆Upd1QvIO9s :2011/09/26(月) 19:57:20.41 ID:KrizhiEl
薄汚れた廃退の灰色の街の中、紙袋を胸に歩く少年が二人。
どちらも目立たない服装で、端から見れば非市民階級によく居そうな風貌だ。
二人は双子のように瓜二つの顔を持っている。しかし、片割れの深く被ったベレー帽の下は、れっきとした少女のそれだ。

「ジェン兄達は、今どの辺りにいるのでしょうか……?」
「ちょっと静かに!今、探知してるんだから!」

少女の方が少年を睨めつける。女顔の少年は済まなそうに肩を落とし、辺りを見回す。周辺は無人のようだ。
今二人が居る場所は、特に流血沙汰が絶えない事で有名だ。食べ物を持っているだけで半殺しに遭うほどに。
魔王を倒してから、世界はあっという間に、しかも悪い方向に様変わりしてしまった。
レジスタンスとして活動していたカレンとマーガレットは身の安全を保障されたものの、世界の変わりようは目を覆いたくなるものだった。
更に、ジェンタイルやローゼンが姿を消してしまったことが、カレンにとって一番堪えた。
必死に探すものの、二人の姿は見つからず。やがて月日だけが経過したある日。驚くべき噂を耳にした。

「あの阿呆、まさか再革命を企んでるなんて……ちょっと面白そうじゃないの」

マーガレットが愉快そうに、二言目には「押し掛けに行きましょう」と言い出した時はそれはそれは驚いた。
しかしまた、カレンもジェンタイルの元へ駆けつけたい一心だった。彼なら、この世界を――どんな方法であれ、再び変えられるんじゃないかと思った。




「この先に、あの阿呆がいるわね」
「……他に、魔物の気配も感じます」

マーガレットは眉を顰めたが、構わずずんずんと進む。それにカレンも続く。扉の前で立ち止まると、マーガレットはノックもなく傍若無人な振る舞いでドアを勢い良く開けた。

「ふぅん……思ったより良い所じゃない。ちょっと臭うけど」
失礼極まりない一言である。

「ジェン兄……そこにいるの?」

カレンはおずおずとマーガレットの脇から覗きこむ。果たしてその先に、彼は居た。
最後に別れた時より、痩せた気がする。お互いにそうなのだが、カレンの目から無性にぶわりと涙が滲んだ。


107 :カレン&マーガレット ◆Upd1QvIO9s :2011/09/26(月) 19:59:58.49 ID:KrizhiEl

「ジェン兄…………ジェン兄ぃーー!」

荷物を放り出し(マーガレットがキャッチした)、ジェンタイルに走り寄り抱き付くカレン。バベルで再会した時よりもビービーと泣き喚いている。言葉も出ないようだ。
呆れたようにマーガレットが近寄り、メタルクウラやモンスター娘達を一瞥した。今は彼等が仲間なのか。

「安心して、敵じゃないわ。私たち、単独であなた達に会いに来たの。嘘じゃない…」

両手をあげ、敵意がないことを伝える。泣き喚くカレンの頭部を軽く叩き、ジェンタイルに向けて苦笑を漏らす。

「大変だったわ、ロスチャイルド先生達の目を盗んで此処まで来たの。魔術を公使し過ぎだせいで魔力も無いし…。
 何しに来たかって?良いこと教えたげる……あなた達の仲間になりたいのよ」

そして、現状に対しての不満を、二人は大いにぶちまけた。また、世界をもう一度、今度は良い方向に変えていきたいという想いも。
意外にも、マーガレットも本気だった。普段は意地悪で卑屈なな彼女も、真面目になれば素直な普通の女の子になるものなのだ。

「まずは、色々聞きたいことがあるの。取りあえず食糧持ってきてあげたんだから、洗いざらい教えなさいよ!後、貴方の霊装の出来もね!」

食糧の詰まった紙袋を差し出し、マーガレットは相変わらずの傍若無人っぷりを発揮するのだった。

108 :カレン&マーガレット ◆Upd1QvIO9s :2011/09/26(月) 20:01:17.60 ID:KrizhiEl
【訂正、半年ではなく半月でした。申し訳ないです】

109 :シュヴァルツ ◆HbpyZQvaMk :2011/09/26(月) 23:52:37.06 ID:7chp+rOy
>104
>106-107
《着いたで、ここや》
「随分と不用心なレジスタンスだにゃ・・・」
降り立った場所は、開けっ放しになっている扉の前。

「お、お邪魔します」
そこには、ジェンとクウとカレン嬢とマーガレットが勢ぞろいしていた。
クウやマーガレットがジェンを取り囲んで質問攻めにしている。

そして、ご主人様に脳改造を施してくれたあのモンスター娘どももおわしました。
「ここで会ったが百年目・・・!」
《落ち着きいや、ここで喧嘩してどないするん。
まずはこのレジスタンスに入れてもらわんといかんのやで》
「・・・はい」

「あの〜〜・・・」
ジェン達の後ろをうろうろする。何て言えばいいんだろう。
「ここで働かせてください! 特技はネズミ取りです!」
《話にならへんわ、ちょっと黙っとき》
呆れた風精霊がボクの口を乗っ取った。

「《カレンにマーガレットにジェン坊、久しぶりやなあ。ウチや、風の大精霊や!
ロスチャイルドの野郎がムカついたからこっちに来たったで。
お前さんその気配はメタルクウラやな? べっぴんな姉ちゃんやったのにどしたん。
こいつ? 見ての通りその辺で適当に拾った執事や。単なる容器やから気にせんといてな!》」

110 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/27(火) 19:49:45.26 ID:gBVnVXCH
>「とにかく今は雌伏のときだ。情報を集め、物資と戦術を蓄える。起死回生の一手が見つかるまで、辛いだろうが――甘んじるぞ」

「おかえりぃ、ジェン君♪ ほらっ、外寒かったでしょ〜! 抱っこしちゃうよ〜! ん〜、これが至福の時ってやつだよねぇ〜」

ジェンタイルが帰って来た事に気付いたスライムは、早々に彼に飛び付いた。
撫でて、頬ずりをして、抱き寄せて、彼の顔を瑞々しい果実を思わせる胸に埋める。
液体である特性を活かして密着、雨に濡れた髪や衣服から余計な水分を吸い取った。

「むぅ〜……最近のお水は不味いよぉ。まっ、だからこそ私の出番なんだけどねぇ〜」

雨に含まれた様々な化学物質が、スライムの体内で凝縮されていく。
黒い小さな塊にまで圧縮された有害物質はスライムの体の中を移動して指先へと向かう。
スライムが指を一振りすると、黒いゲル状となった毒物が弧を描いて床に落ちた。

「ジェン君も、熱で水は蒸発させられても有害物質はそのままなんだから、気を付けなきゃ駄目だよぉ〜。
 具体的には雨に当たると1ダメージを継続的に受け続ける事になっちゃうからねぇ〜」

ジェンタイルの頬に草木を育む慈雨のように優しく口付けをする。
それから彼を解放すると、スライムは部屋の隅に並べられた幾つかのポリボトルを指差した。

「あれ、地下水とか雨水を集めて濾過したお水。いつもみたいに捌いといて〜。
 武器を買ったりベースを改築したり、何をするにもまずはお金がいるもんね〜」

過剰なスキンシップとキスをして満足したらしい。
スライムは水音の足音を立てながら隠れ家の奥に消えていった。

「げっ……外、雨が降ってるのかい? 参ったなぁ、毛並みが悪くなっちゃうよ。
 あ、あとスライムちゃん。悪いけど分身を少し貸して欲しいな。一人じゃ食料を持ち切れないよ」

妖狐がジェンタイルの持ち帰った物資の仕分けを終えて、
何故かダイナマイトの管理だけは任せてもらえなかった事に些かの不満を覚えながらも、立ち上がる。
生み出されたスライムの分身と自分に、満月を塗り潰し真実を覆い隠す暗雲のように幻を被せた。

「じゃ、行ってこようかな……」

妖狐が歩き出す。直後に自分の尻尾を踏んだ。つんのめる。
妖狐の足が床から完全に離れて、彼女はジェンタイルの胸に飛び込むように、盛大に転んだ。

「あ、わわっ、ごめん! 悪気があった訳じゃ……!」

奇しくもジェンタイルを押し倒す形になった妖狐は更に慌てふためく。
そうして余計に体勢を崩した。ジェンタイルの顔が、妖狐の目と鼻の先にまで近づく。
見る間に妖狐が頬を赤らめた。羞恥の感情が発露する彼女の表情は、まるで人の心を惑わす紅色の月だった。

「う、あ……い、行ってきます! 遅くなったらごめんよ!」

恥じらいの熱は妖狐の思考回路にまで及んでいた。
妖狐は月明かりのない夜道を歩くように、もうどうしていいか分からず、しどろもどろにそう言うと外へ飛び出していった。

「……随分と楽しんでるじゃないか、ジェンタイル。で、誰がクソ生意気で舌だけ肥えたドチビだって?」

不意にジェンタイルの背後から声。
装飾を帯びたナイフを思わせる冷やかさと、剣戟のように華美な響きを含む音色。堕天使の声だ。
右手を打楽器として快音を奏で、ジェンタイルからチョコレートバーを奪い取った。

「ふん、これでも我慢してるんだ。大体魔王を討ったのに何でレジスタンスにその事を売り込まなかったんだよ。
 奴らの中枢に潜り込んだ方が贅沢だって出来るし、世の中を変えるのも簡単だっただろ。
 どーせ反体制勢力は皆善良で、頭を使う小難しい事は全部やってもらえるとでも思ってたんだろ。笑えないね、まったく」

チョコレートバーを乱暴に一口齧り、大量の愚痴を添えて投げ返す。

111 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/27(火) 19:50:25.85 ID:gBVnVXCH
「あーあ、こんな頼りない奴じゃなくて大先輩が助けに来てくれたらいいのになあ」

更に堕天使は愚痴を続ける。
が、不意に彼女の口が塞がれた。
ゾンビが無言のまま、堕天使の口に合成肉を押し込んでいた。

「ジェンタイルは……がんばってる……。そんなこと、いっちゃだめだよ」

堕天使を諌める。
それからジェンタイルの口にも自分の分の合成肉を半分ちぎって詰め込んだ。

「おかし、とられちゃったから……これ、あげるね」

「――さて、これで新章始めに差し当たって全員分の顔見せは終わりましたね。
 お付き合い下さり、ありがとうございました。Mr.ジェンタイル。
 全員との会話も終わった事ですし、そろそろ新たなイベントが始まる頃合いではないでしょうか」

現時点までで登場した全ての『モン☆娘』構成員が行動を終えた所で、
今まで部屋の奥で無言の石像の姿勢を貫いていたゴーレムが言葉を発した。

>うむ、メタルクウラ達全員で新作に出演しに行っていたら、事態が大きく変わっているようだからな。
 私に一番必要なのは現在の世界とお前達についての情報だ

「ありゃりゃ? 私の親戚さん?」

「いえ、どちらかと言えば私と似て非なるものと言うべきでしょう。
 ともあれ私達にはその方に面識が御座いませんので、説明はMr.ジェンタイルにお願い致します。
 Mr.ジェンタイル、この方は貴方の知り合いで、レジスタンスの情報を明かすだけの信が置ける者なのですね?」

スライムの疑問とゴーレムの返答、直後に扉を乱暴に開く音。
全員が反射的に身構え、戦闘態勢を取った。

>「ふぅん……思ったより良い所じゃない。ちょっと臭うけど」

けれども放たれたのは攻性魔術でも逮捕状でもなく、単に不愉快な皮肉だけだった。

>「ジェン兄……そこにいるの?」
>「ジェン兄…………ジェン兄ぃーー!」

カレンがジェンタイルに抱き着いた。
何匹かのモンスターが表情に露骨な苦味を浮かべる。

>「安心して、敵じゃないわ。私たち、単独であなた達に会いに来たの。嘘じゃない…」
 「大変だったわ、ロスチャイルド先生達の目を盗んで此処まで来たの。魔術を公使し過ぎだせいで魔力も無いし…。
  何しに来たかって?良いこと教えたげる……あなた達の仲間になりたいのよ」
 「まずは、色々聞きたいことがあるの。取りあえず食糧持ってきてあげたんだから、洗いざらい教えなさいよ!後、貴方の霊装の出来もね!」

「いやいやいや、何言ってんの?」

堕天使が侮蔑の意図を過分に含ませた声色で、口を挟んだ。
敵意で研ぎ澄ました眼光でマーガレットを突き刺す。

112 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/27(火) 19:52:17.58 ID:gBVnVXCH
「敵じゃない? 安心して? 仲間になりたい? アンタさ、率直に言って馬鹿だろ。
 誰がそんな事信用出来ると思ってるんだ? クソ下らないお涙頂戴の再会劇が証拠ですとでも言うつもり?
 私には、アンタは食い物をエサにレジスタンスの情報を買おうとしてる政府の犬にしか見えないけど」

刃を思わせる滑らかで鋭い罵倒を吐きかける。

「あぁ、ごめんごめん。こう言うのは無条件で信じてあげるのが『お約束』なんだっけ。
 丁度そこに、ジェンタイルが買ってきた少年ジャンプがあるからさ、頭でも挟み潰して移住したらどう?
 それともいっそ、泣きながら私をぶん殴って説教でもかましてみる?
 反撃も反論もしないまま棒立ちになって、感動のあまり改心するくらいの小芝居には付き合ってあげようか?」

なおも皮肉を吐き続けようとする堕天使を、ゴーレムが制する。

「そう言う訳です。ですがどうぞご安心を。搾取する側の貴方達が腐るほど持て余してるだろう食料を
 持ってきたところで、それは信用に値しません。が、だとしたら話は簡単です。
 改めて信用を得られるだけのモノを提供して下されば、それだけでいいのです。
 つまり……例えばロスチャイルド、現政権の幹部の所在を洗いざらい……と言った具合に、ですね」

情報の要求、意図は言うまでもなく暗殺だ。
現政権の管理者を多数、同時に排除出来れば、大きな混乱を生む事が出来る。
そうなれば風精霊の監視システムによって他方と連絡もろくに取れないレジスタンスも、結託の機会を得る事が可能になるかもしれない。

「それとも、自分の発言で他人の生き死にが確定するのは嫌ですか?
 大勢を不幸にする側にいるのは居心地が悪いけど、肝心要は全部他人任せで幸せになりたいですか?
 だとしたら貴方達は、魔物よりも遥かに邪悪です。……で、どうしますか?」

要求に応じるか、拒否するか。
詰問の答えを得る前に更なる闖入者が扉を開いた。

>「《カレンにマーガレットにジェン坊、久しぶりやなあ。ウチや、風の大精霊や!
 ロスチャイルドの野郎がムカついたからこっちに来たったで。
 お前さんその気配はメタルクウラやな? べっぴんな姉ちゃんやったのにどしたん。
 こいつ? 見ての通りその辺で適当に拾った執事や。単なる容器やから気にせんといてな!》」

「……へえ、好都合じゃん。つまり今、風精霊の監視システムはガラクタ同然って事だろ?
 いや、それどころか間違った情報を提供し続ける事だって出来る。
 そこの高慢ちきと精霊がグルで私達を黙るすもりだったり、
 単に精霊の方がその二人の裏切りを察知していただけじゃなければだけど」

カレン達と風精霊の両者が確実にレジスタンスの味方だと確定すれば、反逆は容易に決行出来るようになる。

「と言う訳ですので、そのお二人は先程言ったように。
 また風精霊。貴方も何かしら、信用に足るだけの情報を提供して頂けますか?
 例えば……ロスチャイルドに暗殺された魔王ローゼンの遺体は何処にあるのか。貴方なら分からない筈はありません。
 無尽蔵の魔力と稀代の精霊適性を持つローゼンは、例え遺体であっても軍事的に多大な価値があります。
 それこそ現政権とレジスタンスのパワーバランスを容易に覆すほどに。
 さて、それでは……答えて頂けますね? Miss.カレンとマーガレット。そして風精霊」

113 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/30(金) 02:44:36.29 ID:UDj9bczX
>「うむ、メタルクウラ達全員で新作に出演しに行っていたら、事態が大きく変わっているようだからな。
 私に一番必要なのは現在の世界とお前達についての情報だ」

気がつくと隣にメタルクウラが座っていて、何事もなかったように会話に入ってきた。
この野郎どこ行ってやがった!とか、お前がいない間大変だったんだぞ!とか、色々言おうと思っていたのに。

「………………。」

俺は静かに、テーブルの上に広げてあった今日付けの朝刊をメタルクウラの頭に被せた。
同じように唖然としているモンスター娘どもに、肩をすくめて見せ、

「おかえりメタルクウラ。その新聞に一度目を通してからもう一度話しかけてくれ。それでフラグは成立だ」

ただそうとだけ言い置いて、何か言いたげなゴーレムへと視線をうつす。

>「 ともあれ私達にはその方に面識が御座いませんので、説明はMr.ジェンタイルにお願い致します。
 Mr.ジェンタイル、この方は貴方の知り合いで、レジスタンスの情報を明かすだけの信が置ける者なのですね?」

「ああ。こいつは味方だし、郷から一緒に出てきた大事な友人でもある。だからそう構えんな」

本当はもう一度三人一緒に馬鹿話のひとつもしたかったが、益体もないことより考えることはたくさんある。
なにせメタルクウラは俺より強い。簡単にここへの侵入を許した時点で、こいつが本気なら俺達は壊滅している。
だから、ことこいつに限っては信用云々はまるで意味を成さない問題なのだ。

「ネットが使えなくて不便だろ。元老院が公共周波帯を独占しちまってるからな。
 元の世界から持ってきたスマフォもついにお役御免だ。このアジトにゃ電話線すら引いてねえぞ」

メタルクウラに新聞を読ます間、俺は適当につらつらと現状を垂れ流していた。
魔王を殺したこと。その後人間が政権をとって、世界がどんな風に変わったか。そして――俺たちの今。

「ロスチャイルドもとんだペテン師だぜ。俺には政治の話は分からねえから、適当にやっといてって頼んだらこの有様よ。
 俺も政府高官として招かれたんだけどな。せめて大卒するまで待っててねって言ってたら世界が先に終わってた」

笑い話にもならねえオチだった。
俺があっち側にいてもロスチャイルドから政権を奪い返すことなんてできないから、こうしてテロに訴えてるのだ。
ごちゃごちゃした政争関係に持ち込まれるよりかは、現政権vsレジスタンスの構図にしたほうが世の中がシンプルになると思った。

「カレンとマーガレットの消息は分からねえ。ただ、現政権についてるならもしかすると抗争に巻き込まれて――」

バァン!と装甲扉が勢い良く開かれた。
俺は椅子から跳ね起き、身を低く伏せて床に無造作に置かれていたサブマシンガンを抱く。
ソファの影に隠れながら、銃身とスコープだけを突き出して扉付近の様子を伺う。
高等警察か?まさか、ここの隠れ家はもう二ヶ月も見つかってなかったから完全に油断していた……!

>「ふぅん……思ったより良い所じゃない。ちょっと臭うけど」

だが、ソファの隙間から垣間見えたのは高等警察のロングコート姿ではなく、二組の細脚。

>「ジェン兄……そこにいるの?」

もう半年も姿を見ていなかった瓜二つの顔を持つ男女が、哀喜様々な表情を浮かべて立っていた。
カレンとマーガレット。泣き顔の方が俺の胸元に飛び込み、涙声で再会の快哉を叫んだ。

>「安心して、敵じゃないわ。私たち、単独であなた達に会いに来たの。嘘じゃない…」
> ……あなた達の仲間になりたいのよ」

「仲間って、お前……」

114 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/09/30(金) 02:45:28.62 ID:UDj9bczX
こいつらはエストリスの中でもとりわけロスチャイルドに近い位置にいたから、現政権でも相応の地位を約束されているはずだ。
ネットだってできるし、地下鉄にだって乗れる。
食い物だって蠅もたからない合成食料じゃなく天然ものが食えるはずだ。
生水から寄生虫が検出されるようなスラムの衛生状況とは違う、綺麗な服も暖かい布団も当然に享受できる身分なのだ。
それを擲って、なんでレジスタンスに。
いや、それより、こういう感動の再会に水を指したがる奴が俺の仲間にいることを忘れてた。

>「いやいやいや、何言ってんの?」

半年間ですっかり俺とも馴染み、ますます態度のデカさに磨きがかかった堕天使ちゃんである。
だけど言ってることは尤もだ。だってこいつらには俺たちに与するメリットが一つもない。
世界が荒廃してるから?今の政権がブラックだから?んなもん、搾取されてる側の理屈だ。
今のディストピアだって、ちゃんと幸せになってる奴はいる。
カレンとマーガレットは、数少ないそういう分類の人種なのだ。

>「《カレンにマーガレットにジェン坊、久しぶりやなあ。ウチや、風の大精霊や!
  ロスチャイルドの野郎がムカついたからこっちに来たったで。

そこへダメ押しのように現れる風精霊(と、オマケ)。アンタ政権側についてたんじゃねえのかよ!
なにサラっと裏切ってんだよ。黒服の少年が契約者ってわけじゃなさそうだし、どこからパワー得てんだこいつ。

疑い始めれば何もかもが怪しいし、胡散臭い。なにせこっちは草の根活動半年の心気鋭なテロリストだ。
どういう経緯でここがバレて、現政権から介入があるかわかったもんじゃない。特に風精霊はそこの重鎮ときてる。
目的の見えないカレンとマーガレットも、もっと言えば突然現れたメタルクウラさえも疑うべきところはたくさんある。

>「と言う訳ですので、そのお二人は先程言ったように。
 また風精霊。貴方も何かしら、信用に足るだけの情報を提供して頂けますか?
 例えば……ロスチャイルドに暗殺された魔王ローゼンの遺体は何処にあるのか。貴方なら分からない筈はありません。

「……ちょっと待て」

ゴーレムが総括しようとしたのを、俺は遮らずにはいられなかった。
こいつ今なんて言った。ローゼンの、遺体? ……死んだ魔王はあいつの弟だろ、ローゼンじゃない。
ロスチャイルドに暗殺されたってのも初耳だ。魔王を殺したのは俺だろう。死体なんか形も残らず消し飛んで――

「死んだのか?ローゼンは。俺たちと別れたあとに、あいつがロスチャイルドに殺されたってのか?」

俺は目玉だけを動かして、ゴーレムを見た。
「……なんで黙ってた。俺が反対すると思って、こっそりあいつの死体を兵器にしようとしてたのか?」

俺は今日の今日まで、『こいつら所詮魔物だから、人間の価値観とは絶対に相容れない』って考えを必死に否定してきた。
それがこの魔物どもと仲良くやってく最低限の譲歩だと思ってたからだ。
ビジネスライクじゃなく。フレンドリーに。お互いに相手の地雷を避けながら、上手く付き合っていけると信じてた。

でも駄目だろ。ローゼンは駄目だろ。
死体を玩具にするなとは言わねえけれど、それでも俺の幼なじみをそういう風に扱うのは駄目だろ。

「俺の意見を言わせてもらうとな。全員に圧倒的に信用が足りねえ。もんむす、お前らもだ。
 レジスタンスは基本的にフリーウェルカムだけどよ、それ以上に仲良しこよしで慣れ合ってかねえとこの先どっかで躓くぞ」

なにせ相手は15万人の仲良しグループ。ギスギスした俺達じゃ足元にも及ばない。
ユウジョウパワーで全てが解決するとは思わねえけど、こいつらに背中を預けるのは正直ご免被りたい。

「偉そうなこと言わせてもらうぜ――全員で考えろ。俺に信じさせちゃうようなサムシングを提供しろ。
 わかるか?実力を示せって言ってるわけじゃねえからな。お前らが俺と仲良くやれるってことを立証しろっつう話だ。
 この物言いにカチンと来る奴もいるかも知れねえ。でもそういう時代なんだよ今は!だから、もし信用できなかったら――」

俺は懐から銃を抜いた。リボルバー式で大口径の、大砲みたいな拳銃だ。

「――お前ら全員と今ここで殺し合う覚悟と準備はある」

115 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/09/30(金) 05:30:37.13 ID:uylfncU4
>「おかえりメタルクウラ。その新聞に一度目を通してからもう一度話しかけてくれ。それでフラグは成立だ」
ジェンタイルは私に新聞を渡し、私は新聞を読み始めて、現在の世界の情報を頭の中に入れていく。

>「ありゃりゃ? 私の親戚さん?」
スライムの娘が私に向かって言う。
かの有名なRPGのスライムではないようだし、共通点は水色くらいだと思うのだがな。

>「いえ、どちらかと言えば私と似て非なるものと言うべきでしょう」
その言い方では、そこの無機質な彼女は機械生命体ではないのだろう。
ならば、魔法で作られたゴーレムか?

>「ああ。こいつは味方だし、郷から一緒に出てきた大事な友人でもある。だからそう構えんな」
「私はメタルクウラ。
ジェンタイルの大親友だ。
今後ともよろしく頼む」
私は新聞を読み続けながら、モンスターの娘達に名乗った。

>「ネットが使えなくて不便だろ。元老院が公共周波帯を独占しちまってるからな。
> 元の世界から持ってきたスマフォもついにお役御免だ。このアジトにゃ電話線すら引いてねえぞ」
こんな世界になったのならば、まだ魔王が世界を支配していた方が良かった。
これは私のように、常にネットに接続している機械生命体に対して、喧嘩を売っているようなものだ。
この喧嘩、買ってやろうではないか。

>「カレンとマーガレットの消息は分からねえ。ただ、現政権についてるならもしかすると抗争に巻き込まれて――」
ん?カレンとマーガレットのエネルギーはこの部屋のすぐ前にあるぞ。
扉が勢いよく開いた。
私が扉に視線を向ければ、カレンとマーガレットが部屋に入ってきていた。
カレン達は、狙ってやったな。

>「いやいやいや、何言ってんの?」
仲間になりにやって来たカレン達に対して、ジェンタイルの仲間の一人が食ってかかる。
カレン達はジェンタイルの現在の敵である、ロスチャイルドの一派だったのだから、この反応も仕方がない。
私としては、カレン達が本当にこっちの仲間になりに来たと信じていたい。

116 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/09/30(金) 05:31:33.96 ID:uylfncU4
>「お前さんその気配はメタルクウラやな? べっぴんな姉ちゃんやったのにどしたん。
>こいつ? 見ての通りその辺で適当に拾った執事や。単なる容器やから気にせんといてな!》」
カレンとジェンタイルの仲間達の騒動に紛れて、風の精霊とその器も現れた。
「元の姿に戻る必要があったので、元に戻されただけだ」
私は新聞を読み続けながら答える。
風の精霊はロスチャイルド側の重役なはずなのだが、風の精霊なので自由勝手なのだろう。
いや、精霊全てが勝手な存在なのだろうな。

>「例えば……ロスチャイルドに暗殺された魔王ローゼンの遺体は何処にあるのか。貴方なら分からない筈はありません。
> 無尽蔵の魔力と稀代の精霊適性を持つローゼンは、例え遺体であっても軍事的に多大な価値があります。」
私の新聞を読む手が止まった。
魔王ローゼン?
ロスチャイルドが暗殺した?
遺体に軍事的に多大な価値?
何なのだ、この話は。

>「……なんで黙ってた。俺が反対すると思って、こっそりあいつの死体を兵器にしようとしてたのか?」
私は新聞を破り捨て、ローゼンが死んだことを知らなかったジェンタイル以外を、殺意を込めた目で睨んだ。
今の私には、ロスチャイルド派だったカレンに風精霊が、ローゼンの遺体を利用したモンスター達が、敵にしか見えなくなっていた。

>「偉そうなこと言わせてもらうぜ――全員で考えろ。俺に信じさせちゃうようなサムシングを提供しろ。
> わかるか?実力を示せって言ってるわけじゃねえからな。お前らが俺と仲良くやれるってことを立証しろっつう話だ。
> この物言いにカチンと来る奴もいるかも知れねえ。でもそういう時代なんだよ今は!だから、もし信用できなかったら――」
>「――お前ら全員と今ここで殺し合う覚悟と準備はある」
最初に動いたのは私だった。
私はジェンタイルの目の前に立ち、大声で言った。

「私はお前達と出会った時から、いつでも私の友達の味方であった。
そんな私が友達のローゼンを殺したカレンや風精霊のロスチャイルドの一派か?
ローゼンを侮辱しようとしたモンスター達の同類か?
ふざけるなっ!
私は友達であるお前やローゼンを裏切るくらいなら、破壊された方がマシだ」

私はジェンタイルの銃を持った手を握り、銃口を私の頭に密着させる。
「お前が私を信用しないのならば、裏切ったも同然だ
破壊するなら破壊しろ」

117 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/30(金) 14:00:04.89 ID:yHUjKCI5
>「……ちょっと待て」

ジェンタイルの声に、ゴーレムは河川に沈み水に流されるがままの石塊のごとく従った。
ローゼンの死を明かせば、ジェンタイルがこう言った反応を示すのは予想出来ていた。
そして予想出来ていたと言う事は、事前に対応の仕方を考える事も可能だった。

>「死んだのか?ローゼンは。俺たちと別れたあとに、あいつがロスチャイルドに殺されたってのか?」
>「……なんで黙ってた。俺が反対すると思って、こっそりあいつの死体を兵器にしようとしてたのか?」
「俺の意見を言わせてもらうとな。全員に圧倒的に信用が足りねえ。もんむす、お前らもだ。
 レジスタンスは基本的にフリーウェルカムだけどよ、それ以上に仲良しこよしで慣れ合ってかねえとこの先どっかで躓くぞ」
「偉そうなこと言わせてもらうぜ――全員で考えろ。俺に信じさせちゃうようなサムシングを提供しろ。
 わかるか?実力を示せって言ってるわけじゃねえからな。お前らが俺と仲良くやれるってことを立証しろっつう話だ。
 この物言いにカチンと来る奴もいるかも知れねえ。でもそういう時代なんだよ今は!だから、もし信用できなかったら――」

黙って聞き続ける。人間は自分が話している最中で言葉を挟まれると、大なり小なり機嫌を損ねる。
ただでさえ、既に怒りを抱えている状態ならば尚更だ。
始まりを示すのは銃声ではなく、抜き出されたリボルバーの撃鉄を起こす音。

>「――お前ら全員と今ここで殺し合う覚悟と準備はある」

信用を、信頼を、略奪し合うゲームが始まった。

「いえ、貴方の主張は尤もです。……なのでまずは順に、貴方の質問に答えていこうと思います。
 私が代表して答えます。皆は、黙っていて下さい」

ゴーレムは先手を打って、自分以外が喋らずにいる理由を作った。
主張のブレを無くす為であり、また最も無機質で、故に客観的な視点を持つ自分が語り手を引き受けるのが最適だと判断したのだ。

まずはジェンタイルの疑問に決着を付ける事が先決だった。
絵画に保護剤を被せるのなら、まずは絵の表面から埃を綺麗に排除するように。
そうしなければ、例えどれだけ自分達の潔白と信愛を説いた所で無意味だろう。
ならば早めに、また少しでも自分達に有利に働くよう、動くべきだ。
率先して疑問の解消を担い、自分達の非を認める事もその一貫だ。
更に先手を取る事で、情報に恣意的と思われない程度の微細な傾きを含ませる事も可能になる。
要するに、先手必勝。

「始めに、魔王ローゼンは……ロスチャイルドに暗殺を受けた事だけは確かな事実です。その後の行方、生死は分かりません。
 厳密にはロスチャイルドに暗殺を受けた事さえ、私達には確実な証明は出来ません。
 ですが、少なくとも私達が暗殺を偽装する理由はありません。魔王の代わりが表立っていれば魔王軍が総崩れになる事もありませんでしたし、
 なにより……こうして貴方に銃を向けられる事もなかったでしょう」

回答その1。本当に単なる事実。
率先して疑問に答え、また銃を向けられた事に悲しむ素振りを見せる。
そうして好意的である態度を示す為に回答した。

「黙っていた理由は……私が皆に黙っているよう、嘘を吐いたからです。
 ジェンタイルは既にその事を知っているが、とても不安定なのでいつも通りに接して、話題には出さないようにと厳命しました」

回答その2。嘘だ。『モン☆むす』は全員が承知の上で、ジェンタイルに真実を告げなかった。
だがゴーレムはあえて自分自身に瑕疵を集中させたのだ。
例えば十個の宝石があるとして、それら全てに一箇所ずつ傷が刻まれてしまうよりも、
一つに十箇所の傷が刻まれた方が断然いい。残りの九個は問題なく価値を保てるのだから。
ゴーレムは全てが自分の独断であるとする事で、隠蔽の悪が全員に及ぶ事を防いだ。
最悪の場合、ゴーレムが切り捨てられる事で他がある程度の信を得られる可能性をも作り出す。


118 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/30(金) 14:03:50.46 ID:yHUjKCI5
「私がそのようにした理由は……もし知らせたのなら恐らく貴方は深く傷つき、レジスタンスの活動にも支障が及ぶと思ったからです。
 しかし、ロスチャイルドの人間が来た以上、隠し通す事は不可能になってしまいました。
 ですから私は、こうして真実を明らかにしたのです。恐らく貴方の精神にとって、最も善く働くように」

補足その1。最悪の場合は想定しつつも、ゴーレムの行為自体もジェンタイルを案じていたが故とした。
また、あえてジェンタイルの怒りや、やり場のない激情の矛先を買って出た――とも解釈できる口振りで語る。
明言してはいけない。押し付けがましい善意は、この状況では逆効果だ。もしかしたらと思わせる程度でいい。
信じてもらえず、気付いてもらえなければそこまで。だがほんの僅かにでもジェンタイルがその可能性を意識したのなら、
自分を思っての行動に怒気を向けた事に対する負い目を、彼に与えられるかもしれない。
その負い目は、これから先のジェンタイルの怒りや嫌悪の緩和剤となる筈だ。

「勿論、貴方に秘密でローゼンの遺体を兵器にするつもりも、ありません。
 ただ客観的には私達にとってそれが有用であり、その所在を知られる事はロスチャイルドにとって危機になります。
 故にMiss.カレンと風精霊がロスチャイルドの幹部や、ローゼンの位置を教える事が出来たのなら、それは信用に足る行為だと言う事だけは、事実です」

補足その2。カレン達や風精霊にとって有益な情報を明言した。
少し考えれば分かるような事でも自分から言えば、友好的で協力的な姿勢を示せる。心証の改善を狙う。

「もっともその事実さえ、本当に真実だと証明する術はありません。
 先ほど申し上げたように、Miss.カレン達や風精霊が「ロスチャイルドがローゼンを暗殺した事実はない」と
 主張すれば、それを反証する材料は私達にはありませんから」

補足その3。自分が不利になり得、かつ誰もが思い至る事の出来る情報は、いっそ自分から言ってしまった方が協力的に振る舞える。
またこの発言はカレン達や風精霊が賢しく、また本当にロスチャイルドの回し者であった場合、
つまり『モン☆むす』達の信用を貶め、仲違いを狙った場合に取るだろう手段に先んじた牽制でもあった。

>「私はお前達と出会った時から、いつでも私の友達の味方であった。
>お前が私を信用しないのならば、裏切ったも同然だ
 破壊するなら破壊しろ」

メタルクウラの主張その1。それだけで十分過ぎるほどの説得。
唯一この場でロスチャイルドもレジスタンスもなく、故に利害に縛られない存在だからこその行動。

「……羨ましいですね。いっそ私も、私の死を以って皆の潔白を証明出来ればいいのですが。
 組織の利害が関係し得る私では、それは敵わないでしょう」

主張その1。自分にとって不利となる情報をあえて明言する事で心証の改善を図る。
また信用の証にはならずとも、自死でさえ厭わないと言う姿勢は明示するべきだった。

「私は……どうすれば貴方に信じてもらえるでしょうか。
 今更、ただ信じて欲しい。『信頼』して欲しいなどと……言える立場でないのは、分かっています」

布石その1。到底受け入れてもらえないだろう主張を口にする。
だが断られてもいいのだ。ジェンタイルの心に、懇願を一刀両断に切り捨てたと言う事実を刻み込む事こそが目的なのだから。

「ですがせめて、私は貴方に『信用』して欲しい。信じて頼ってもらう事が出来なくとも、
 便利な道具として、信じて用いるだけでも十分です。私達の唯一揺るがない共通点は、現政権を打倒したいと言う願望の筈ですから」

主張その2。本命。人間は相手の譲歩に対して、譲歩を返そうとする性質――譲歩の返報性を持っている。
その性質はこれまでの言葉でジェンタイルの心証に変化が生まれていればいるほど、効果を発揮出来る筈だ。
理屈の刃によって心に隙間を作り出すからこそ、感情論の炎は相手にまで燃え移るのだ。

加えてゴーレムは、ジェンタイルと自分達には共通点、類似性がある事も示唆していた。
『モン☆むす』がジェンタイルの思想と姿勢に対する絶対の賛同者であり、同胞であると。


119 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/30(金) 14:07:03.38 ID:yHUjKCI5
「もし信用して頂けるのなら……私は決して貴方を裏切らまいと誓います。
 石鏃の如く敵を射止め、砦の如く貴方を守ってみせましょう」

主張その3。人間は本質的に裏切りを嫌う。当然と言えば、当然の事だ。
だがこうして明言する事に意味がある。少なくとも率先して裏切る理由のない『モン☆むす』だからこそ出来る主張。

「ですが……例え私を許せなかったとしても……皆まで見捨てる事は、どうか思い留まって下さい。
 このような世の中になってしまっては、もう今から魔物を信じてみようなどと考えてくれる人間はいません。
 私達は貴方に見捨てられてしまったら、どうしようもないのです」

主張その4。説得が失敗した時の為に『私』と『皆』の線引きは明確に、かつ『私達』への同情を誘う。
加えて自分達には貴方しかいないと告げる事で、ジェンタイルが『モン☆むす』に対して特別な存在であると吹き込む。
人間は自分が特別扱いされる事を本能的に好む。それは自尊感情の低い人間であるほど、顕著だ。

無機質な口調に今までになかった情動の抑揚を含ませて、跪く。両手を床につき、ジェンタイルを見上げて続ける。
今まで一度も見せた事のない声色、表情、動作。人間は意外性を感じた時に、既存の印象を大きく破壊される生き物だ。
だからこそゴーレムは、意外性の鏃をジェンタイルの心へ射掛けた。

「お願いです。どうか皆を信じてあげて下さい。皆はこの半年間、ずっと貴方を好いてきました。
 貴方と共に過ごしてきました。だったら……きっとこれからだって一緒に過ごせる筈です。
 それが叶うのなら……私は、その『これから』の中に私がいなくても、構いませんから」

主張その5。詭弁。変化しないものなどない。昨日と今日は同一のものではない。当然の事だ。
それでも人間には一度決めた事、行った事を持続しようとする心理がある。
すなわちゴーレムは一貫性の原理に訴える事で、ジェンタイルの行動指針が『モン☆むす』との関係維持に向くよう仕向けているのだ。
同時に自分への同情が得られる可能性も、捨てる事なく狙っている。
追い出されずに、嫌われずに済むのなら、それが最善なのだから。


120 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/09/30(金) 14:26:41.83 ID:yHUjKCI5
誤字訂正
×貴方を裏切らまいと誓います
○裏切らないと〜

121 :シュヴァルツ ◆HbpyZQvaMk :2011/10/01(土) 13:02:21.78 ID:N7tiDaiS
>112
>114
ガキんちょとでかいフィギュアが、カレン嬢とマーガレットに、あらん限りの皮肉を吐きかける。
内容は間違ってはいないけど、どうしてそこまで嫌味ったらしく言う必要があるのよ。
「《二人とも、気にせんとき。知ってはる事を話せばいいんやからな》」

>「……へえ、好都合じゃん。つまり今、風精霊の監視システムはガラクタ同然って事だろ?
>いや、それどころか間違った情報を提供し続ける事だって出来る。
>そこの高慢ちきと精霊がグルで私達を黙るすもりだったり、
>単に精霊の方がその二人の裏切りを察知していただけじゃなければだけど」

「《それがな、そうもいかんのや。監視システムを担っていたのは最初からウチやあらへん。
そもそもウチが世界の監視なんかに手を貸すと思うか? 自由気ままに生きられへん世界なんてまっぴらや》」

>「と言う訳ですので、そのお二人は先程言ったように。
>また風精霊。貴方も何かしら、信用に足るだけの情報を提供して頂けますか?
>例えば……ロスチャイルドに暗殺された魔王ローゼンの遺体は何処にあるのか。貴方なら分からない筈はありません。
>無尽蔵の魔力と稀代の精霊適性を持つローゼンは、例え遺体であっても軍事的に多大な価値があります。
>それこそ現政権とレジスタンスのパワーバランスを容易に覆すほどに。
>さて、それでは……答えて頂けますね? Miss.カレンとマーガレット。そして風精霊」

涼しい顔して遺体言うな! もし猫の姿だったら、全身の毛を逆立てているところだった。
この性悪モンスター女どもはどうしてここまで人の神経を逆撫でできるのだろうか。一種の才能だ。
《ははっ、魔王の使い魔に性悪言われたら世話ないわな》
(こいつらは元より魔王の敵・・・! 母性的なんちゃらは、人間に取り入って利用するためのフェイク
どうせ魔物界でのヒエラルキーに嫌気がさして、下剋上を目指して集まった下っ端モンスターの集団に決まってる!
ご主人様を利用して、文字通りの傀儡政権の実権を握ろうとしていたに違いない・・・)

>「……ちょっと待て」
>「死んだのか?ローゼンは。俺たちと別れたあとに、あいつがロスチャイルドに殺されたってのか?」
>「……なんで黙ってた。俺が反対すると思って、こっそりあいつの死体を兵器にしようとしてたのか?」
>「俺の意見を言わせてもらうとな。全員に圧倒的に信用が足りねえ。もんむす、お前らもだ。
>レジスタンスは基本的にフリーウェルカムだけどよ、それ以上に仲良しこよしで慣れ合ってかねえとこの先どっかで躓くぞ」
ジェンがキレた。当然の反応だ。ボクも一緒にキレたい。性悪モンスターどもの所業を洗いざらいぶちまけたい。
でも、今そうしては自分が不利になるだけだ。

>「偉そうなこと言わせてもらうぜ――全員で考えろ。俺に信じさせちゃうようなサムシングを提供しろ。
>わかるか?実力を示せって言ってるわけじゃねえからな。お前らが俺と仲良くやれるってことを立証しろっつう話だ。
>この物言いにカチンと来る奴もいるかも知れねえ。でもそういう時代なんだよ今は!だから、もし信用できなかったら――」
>「――お前ら全員と今ここで殺し合う覚悟と準備はある」
ジェンは、ショックのあまり御乱心してしまった。

122 :シュヴァルツ ◆HbpyZQvaMk :2011/10/01(土) 13:04:22.26 ID:N7tiDaiS
>116-120
ゴーレムが長ったらしい御託を並べる。よくもまあ即席でここまでご立派な演説をでっち上げられるものだ。
そして、人がそれに騙される確率はあまりにも高い。

ご主人様の居場所を教える選択肢はない。また便利な人形にされるに決まっている。
「《ローゼンは――木端微塵にされた》」
妥当な答え。ジェンの気持ちを考えると心が痛むが、ご主人様を守るためだ。
「《ウチかて助けようと思ったんやで、せやけど法務局の監視システムに阻まれたんや》」

風精霊はそのまま、話を自分達を信頼させるに足る情報へと移行させる。
どちらにしても、すぐに言うつもりだった話だろう。
「《魔王政権の頃から引き続いて、政権の要として唯一残っとる悪魔がおる。
向こうもウチの居場所を掴めへんかったけど、こちらも向こうの居場所を掴めんかった。
そいつとウチの情報操作能力は、ほぼ互角。互角なら探知より隠蔽のほうが有利なんやな。
政権幹部の居場所を隠蔽しとるのも全部そいつや。
――法典の悪魔ワイマール。無数の風の分霊を統括する、巨大な本の姿をした大悪魔。
それこそが法務局の監視システムの正体や。この度そいつの居場所を掴む事に成功した。
そいつさえ倒せば監視システムはすっからかん。うまくいけば風の分霊達をこっちに付けられるかもしれへん。
ロスチャイルド政権なんぞイチコロやでえ!》」

続いて風精霊は、監視システムの正体を掴むに至った経緯と、吹っ切れてこちら側に来たきっかけを説明する。
「《ロスチャイルドの奴、あろう事かウチをそいつと契約させようとしたんや。
そうすれば完全無欠の監視システムが完成し、あらゆる不穏分子は芽が出るかでないかのうちに摘まれるやろう。
ここなんか一瞬で潰されてまう。未来永劫崩れる事の無い盤石の独裁政権の出来上がりというわけや。
そんな口うるさい風紀委員のような役目冗談やない。そいでアッタマきてこっちに来たわけや!」

「《そいつが潜んどるのは――エストリス王立図書館》」
エストリス王立図書館。法務局の隣に併設されている、魔導科学の粋が結集された施設。
内部にはいくつものフロアーがあり、物理法則を超えた巨大な空間が広がっている。
「《その中の、普通では決して辿り着くことが出来ない、隔離空間に潜んどる。
合い見えられるのは、鍵を渡された手下の分霊と幹部だけ。
で、契約させられかけた時に鍵だけ持ち逃げしたった》」

ジェンの前に魔法の風が渦巻き、小さな鍵の形を成す。
「《それが、監視システムに至る鍵や。とりあえず受け取っとき》」

123 :シュヴァルツ ◆HbpyZQvaMk :2011/10/02(日) 19:49:46.38 ID:hATD6dg3
【>121-122はスルーして下さい】

>112
「・・・え、え!?」
大砲を向けられる。
「ほわぁああああああああああ!?」
回れ右してダッシュで扉の外に出た。
「どうしよう・・・」
思わず逃げ出してしまった。途方に暮れて頭を抱える。
《まあええ。あんな物騒なところやってられへんわ。行くで!》

行き先未定のまま、精霊の作り出す風をまとわされる。
全く、風精霊の気まぐれにはつきあいきれない。
「どこへ行くの!?」
《知るかいな、無血革命を目指すレジスタンスでも探すか?》
「知るかいなって・・・ま、いっか」
風の向くまま、っていうのも悪くない。行き先未定のまま、地面を蹴って飛び立った。

124 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/06(木) 02:21:59.88 ID:FmmgvcMm
>「いえ、貴方の主張は尤もです。……なのでまずは順に、貴方の質問に答えていこうと思います。

ゴーレムの答弁。
疑問への答え、魔王がいなくなることによるモン娘側のリスク、黙っていた理由。
俺はもともと、物証的な根拠に乏しかろうが誰彼の発言を鵜呑みにするつもりでいた。
真偽を見極めるような聡明さも、ディベートで相手を問い詰めるような口の上手さも持ち合わせてない俺にできるのはそれだけだ。
だから、ゴーレムの行動はある意味では模範解答。
信ずるに足る根拠を順序立てて説明されれば、俺はそいつを全面的に信じたいんだ。

>「お前が私を信用しないのならば、裏切ったも同然だ破壊するなら破壊しろ」

メタルクウラが、俺の銃口を自分の額に密着させる。
こいつはもっとシンプルだった。俺との問答に命を賭けるのも、『俺は引き金を引けない』という信頼の賜物だろうか。
……いや、こいつはそんな打算をする奴じゃない。ただ純粋に、俺の不信を咎めてくれてるのだ。

「チッ、わかったよ。お前らを信用する。しない根拠がないからな。――無礼を詫びるよ、許してくれ」

俺は銃を下ろした。
セーフティーがかかっていたとは言え実弾入りの銃を友達に向けるのは、かなり肝を冷やした。
敵は殺せても味方はやっぱり傷付けたくない。それが自分の手を汚すとあればなおさらだ。

「ようこそ再革命のレジスタンスへ。俺たちの目的は一つ、ロスチャイルド現政権の打倒!
 政権を奪還するつもりは今のところない。あのクソ野郎を失脚させて、それから人魔含めた総選挙だ」

とにかく今のディストピア構造を打ち壊すとこから始めないといけない。
単純にロスチャイルドを暗殺してもいいが、下手に殺して影武者をたてられてもつまらない。
やるなら公衆の面前だ。無血革命にしたって、とにかくロスチャイルドをこっちの土俵に引き摺り出さなきゃ始まらない。

「とにかくメタルクウラ、お前が味方についてくれるなら百人力だ。もっと大規模なテロで思想活動も捗るぜ。
 これまで枢軸企業の工場とか、現政権の息のかかった公共施設を爆破したりしてたけど、いまいちメディアの食いつきが悪い」

死者数が少なすぎるってのもあるんだろう。
なるべく民間人に余計な犠牲が出ないように腐心してたから、どうしても与えられる損害が捗ってなかった。
使える爆弾や武器にも制限がある。現在の人類の技術じゃ、質の悪い火薬しか製造できないのだ。

「再開を祝して一発目はド派手にやるぞ。目標、ユグドラシル強制収容所!
 魔導科学の技術を持ってた為に捕まった悪魔たちが大勢収監されてる、この街をこんな風にした直接の原因だ。
 ここを襲撃し、囚われてる悪魔たちを助け出せば、俺たちの革命はますます捗るはずだ」

俺はアジトの壁に貼ってあった地図をバシっと叩いた。
ユグドラシルからほど近い荒野に、広大な敷地と堅牢な塀をもつ鋼の威容が鎮座している。

「モンむす連中は強襲作戦の立案。メタルクウラは俺と一緒に瞬間移動で現地へ潜入して作戦決行の下見だ。
 ――なにか異論は?」

125 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/06(木) 04:05:12.54 ID:Dz0nCU6T
>「チッ、わかったよ。お前らを信用する。しない根拠がないからな。――無礼を詫びるよ、許してくれ」

「ふっ、お前の無礼はいつものことだ。
私は気にしないさ」
私はジェンタイルの信用を得た。
モンスターの娘達もだ。
しかし、ジェンタイルがモンスターの娘達を信用しても、私はまだ信用できない。
私とモンスターの娘達は、まだ会ったばかりなのだから。
私が彼女達を信用するとしたら、共に行動した先のことだ。

>「とにかくメタルクウラ、お前が味方についてくれるなら百人力だ。もっと大規模なテロで思想活動も捗るぜ。
> これまで枢軸企業の工場とか、現政権の息のかかった公共施設を爆破したりしてたけど、いまいちメディアの食いつきが悪い」

「複雑な心境だな。
放火魔のお前にとっては、昔とやることがあまり変わってないのかもしれない。
だが、この私が守る側から壊す側に変わってしまうとはな……」

>「再開を祝して一発目はド派手にやるぞ。目標、ユグドラシル強制収容所!
> 魔導科学の技術を持ってた為に捕まった悪魔たちが大勢収監されてる、この街をこんな風にした直接の原因だ。
> ここを襲撃し、囚われてる悪魔たちを助け出せば、俺たちの革命はますます捗るはずだ」
魔導科学の技術者か……
彼らの力を借りれば、私も精霊を感知することができたり、魔法を使用できるようになるのか?

>「モンむす連中は強襲作戦の立案。メタルクウラは俺と一緒に瞬間移動で現地へ潜入して作戦決行の下見だ。
> ――なにか異論は?」
私は手と尻尾をピッと上げて、意見を言う。

「私の瞬間移動は場所を指定するのではなく、エネルギーを指定してその近くに移動するものだ。
囚人の目の前か、看守の目の前か。
そのどちらに現れたとしても、騒ぎになるだろう」
私は手を下ろして、モンスター娘達の方を見て言った。

「お前達の中で、姿を消す能力を持った者はいないか?
いたら、力を貸してほしい」

126 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/08(土) 01:31:53.50 ID:0IXBhZ39
>「チッ、わかったよ。お前らを信用する。しない根拠がないからな。――無礼を詫びるよ、許してくれ」

「いえ、こちらこそ……」

「ジェンく〜ん! ごめんねっ! 大事な事、ずっと黙っててごめんねぇ!」

ゴーレムの言葉が瀑布さながらの泣き声で押し流される。
スライムがジェンタイルに飛び付いた。胸に顔を押し付けて泣き喚く。涙を流す。
スライムの頭の位置が段々と下がっていく。落涙による脱水症状で、体が見る間に小さくなっていた。
平時の半分ほどの体高になった所で、スライムはゴーレムによって引き剥がされた。
とは言え、そう悪くない行動だった。
論理を以って信を得た今なら、アフターケアとして強い感情を見せるのは効果的だ。
――例えスライムが、何故ジェンタイルが激昂したのかを、本当に理解してはいなかったとしても。

「……かくしごとして、ごめんなさい。ジェンタイルをおこらせるつもりなんて……なかったの。みんな、なかったの」

ゾンビがジェンタイルに擦り寄って、何度も謝る事を繰り返す。
――彼女もまた、ジェンタイルの激怒の理由を理解してはいなかった。
その隠し事が、他ならぬローゼンの死だったから。
自分の幼馴染が知らぬ間に兵器扱いされ、死して尚、人の尊厳を失おうとしていたから。
だからこそジェンタイルは怒ったのだと分かっていなかった。

スライムの涙もゾンビの謝罪も、それらは酷く拙く、同時に賢しいものだった。
子供が大人に大声で怒鳴られた時に、訳も分からず見せる涙と大差なく。
大人同士が深い理解もなしに、ただ関係に波風を立てまいとして見せる謝罪と同様に。
拙く、賢しかった。

>「とにかくメタルクウラ、お前が味方についてくれるなら百人力だ。もっと大規模なテロで思想活動も捗るぜ。
>「再開を祝して一発目はド派手にやるぞ。目標、ユグドラシル強制収容所!
>「モンむす連中は強襲作戦の立案。メタルクウラは俺と一緒に瞬間移動で現地へ潜入して作戦決行の下見だ。
> ――なにか異論は?」

ジェンタイルによる提案――『モン☆むす』の面々が発言するよりも早く、メタルクウラが挙手した。

>私の瞬間移動は場所を指定するのではなく、エネルギーを指定してその近くに移動するものだ。
 囚人の目の前か、看守の目の前か。
 そのどちらに現れたとしても、騒ぎになるだろう
>お前達の中で、姿を消す能力を持った者はいないか?
 いたら、力を貸してほしい

「いるにはいるけどさぁ。……ほら、アンタの後ろ」

堕天使の言葉にびくつく影、妖狐が床に跪いていた。周りには食料が散らばっている。
帰ってきて早々に修羅場に出くわして取り落とし、今の今まで右往左往していたようだ。

「なんて言うか……見つかったら即ゲームオーバーのイベントに連れていくには、ちょっと不安だろ?」

「うぅ……返す言葉もない……。け、けど仕方ないじゃないか……。
 帰ってきたらいきなりあんな状況だったんだ。私じゃなくたって驚くのが普通だよ……」

食料を拾い終えた妖狐が月を映した湖畔のように瞳を揺らして、言い訳を呟く。

「ああ、別に責めてる訳じゃないって。ただ……この件に関しては、お前よりも適任がいると思わないか?ん?」

堕天使の口調が不敵さを帯びた。敬愛する大先輩の物真似、そして指を鳴らす。
たちまち堕天使が光に包まれた。夜色だった髪から淡い金色の輝きが、神聖な気配が溢れ出す。
朝日が宵闇を祓い除けるような、瞬く間の変貌だった。


127 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/08(土) 01:32:36.24 ID:0IXBhZ39
「お前には言っていただろう? ジェンタイル。私は元々天使なんだ。光の属性を従えるくらい造作も無い事さ」

光精霊を強引に鍵へと鋳造出来たのも、その為だ。

「まぁ……この姿はぶっちゃけ嫌いなんだけどね。全然大先輩っぽくないし、戦闘民族みたいとか言われそうだし」

口調を崩して唇を尖らせ、金髪を撫でながらぼやいた。

「けど、今の私なら光を操って姿を隠せるし、影を使ってゲートを作る事だって出来る。
 時間操作だって……ちょ、調子がいい時は出来るんだぞ! その、一秒くらいなら……」

虚勢を張ってはみたものの、長続きせずに言葉尻を濁す。

「確かに適任です。では、収容所に付いていくのは堕天使ちゃんでいいですね。
 影を通じて情報を寄越して下されば、私達もそれに応じて作戦を立てられますから。それと……これを持って行って下さい」

ゴーレムが話を断ち切りフォローを入れる。
続けて小さな瓶と、六芒星を思わせる形にカットされた宝石を差し出す。

「私とスライムちゃんの体の一部です。収容所の要所に残しておいて下されば、
 私達が収容所に攻め入った時に分身を作り出せます。
 分かりやすく言えば……潜入ついでに爆弾設置のイベントもこなして来て下さいと言ったところですか
 役に立つかは分かりませんが、しても損はないでしょう。意味ありげな言動や行動を、後から伏線に仕立て上げられるように」

小瓶と宝石を渡すと、滑らかな所作で人差し指を立てた。

「それともう一つ……ローゼンの遺体の捜索は、これからも継続させて頂きます。勿論、貴方の為に。……構いませんね?」

スライムとゴーレムは水と土を使って大量の分身を生み出す事が出来る。
圧倒的な物量を活かして世界全土にローラー作戦を掛けていけば、いずれはローゼンを見つけられる筈だった。

「……では、行ってらっしゃいませ。どうかお気をつけて」

「私がいるんだ。心配なんて失礼なんじゃない? ……なんてね、頑張るよ」

堕天使が冗談めかした口振りを、真剣味を帯びた声色へ、一瞬で切り替える。
ジェンタイルとメタルクウラを振り返り、歩み寄った。
右手で打楽器の構えを取り、小気味いい破裂音を奏でる。
三人がそれぞれ淡い光の皮膜に包み込まれた。

「これでお前達の姿を捉える事が出来る者は、誰もいなくなった。さあ行こうか。
 ……とは言っても、騙せるのはあくまで視覚だけだからな。大声出したりするなよ」

128 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/08(土) 02:42:24.45 ID:EjBvkk6y
>「いるにはいるけどさぁ。……ほら、アンタの後ろ」
私が後ろを見ると、頼りにならなさそうな娘が見えた。

>「なんて言うか……見つかったら即ゲームオーバーのイベントに連れていくには、ちょっと不安だろ?」
「あぁ、確かに不安だな」
娘のあの様子では、大事なところで大きなミスをしそうな感じがした。

>「お前には言っていただろう? ジェンタイル。私は元々天使なんだ。光の属性を従えるくらい造作も無い事さ」
>「まぁ……この姿はぶっちゃけ嫌いなんだけどね。全然大先輩っぽくないし、戦闘民族みたいとか言われそうだし」
黒髪から金髪へ、確かにこの変身はサイヤ人の超化に似ている。
スーパーサイヤ人と天使か、私が村にいた時に作ってしまった黒歴史を思い出してしまうな。

堕天使の娘が私達と共に収容所に行くことになり、ゴーレムの娘がジェンタイルにある物を渡す。
ゴーレムの娘とスライムの娘の体の一部で、彼女達の分身になるらしい。
これを収容所の要所に設置してくれと頼まれたのだ。

>「これでお前達の姿を捉える事が出来る者は、誰もいなくなった。さあ行こうか。
> ……とは言っても、騙せるのはあくまで視覚だけだからな。大声出したりするなよ」
堕天使の娘が指を鳴らすと、私達の姿が完全に消える。
私の視界にはジェンタイルの姿も堕天使の姿も見えない。
自分の手を見ようとしても、透けてしまうくらいだ。
エネルギーを探ってようやく居場所が分かるくらいだ。
私はジェンタイルや堕天使のエネルギーが存在する場所に手を触れ、瞬間移動の態勢に入る。
手の感触からして、ジェンタイルの尻と堕天使の肩に触っているのだろう。
私は目標地点にあるエネルギー群を察知し、他のエネルギーと少し離れた場所に単独であるエネルギーを見つけた。

「ジェンタイル!スーパーサイヤ人堕天使!行くぞ!」
私達は瞬間移動をし、アジトから収容所に移動したのであった。

129 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/10(月) 06:37:54.43 ID:MjS3fujf
姿を消す手段が欲しいというメタルクウラの所望に、応えたのは堕天使だった。
まさに烏の濡羽色といった具合だった黒髪は太陽みたいに眩しい金に。
俺のハードディスクの中身とよく似た淀みを放っていた気配は一瞬にして聖者のそれとなる。

>「お前には言っていただろう? ジェンタイル。私は元々天使なんだ。光の属性を従えるくらい造作も無い事さ」

「そっか、お前そういえば光精霊をいじくりまわしてたもんな」

天使が大先輩に憧れるってどういう紆余曲折を経たんだよ。
真面目な女の子が不良に憧れちゃうとかそういうミーハーなアレか。
ていうか天使って存在がそもそも意味不明だよな。神がわりと身近なこの世界で、一体何に使わされたというのか。

>「確かに適任です。では、収容所に付いていくのは堕天使ちゃんでいいですね。
>「私とスライムちゃんの体の一部です。収容所の要所に残しておいて下されば、私達が収容所に攻め入った時に分身を作り出せます。

ふぅん、サーバーの内側にスパイウェア仕掛けるようなもんか。
相変わらずこいつら二匹はトンデモ構造してやがるぜ、今トイメンで話してるこいつも本体だかわかったもんじゃねー。

>「それともう一つ……ローゼンの遺体の捜索は、これからも継続させて頂きます。勿論、貴方の為に。……構いませんね?」

「……わかった、よろしく頼む。手当ははずむから、コスト度外視で捜査に当たれ」

俺はアジトの引き出しから茶封筒に入った札束をゴーレムの手に押し付けた。
この世界ではATMなんて高尚なシステムは滅んじまったから、こうやってゲンナマをタンス預金するしかないのだ。
渡した金はざっとレジスタンスの活動資金の半分と言ったところだ。『あとのことは任せる』っていう暗黙のサインでもある。
俺がもし志半ばに倒れても、こいつらがその遺志を引き継げるように。大規模なテロを始めるときはいつもそうやってきた。
平たく言うと遺書代わりってわけだ。

>「これでお前達の姿を捉える事が出来る者は、誰もいなくなった。さあ行こうか。
 ……とは言っても、騙せるのはあくまで視覚だけだからな。大声出したりするなよ」

堕天使が本家大先輩ばりの見事なフィンガースナップで俺たちに魔法をかける。
途端、メタルクウラや堕天使はおろか、自分の姿も忽然と消えてしまった。

>「ジェンタイル!スーパーサイヤ人堕天使!行くぞ!」

メタルクウラが何故か俺のケツを掴んで高らかに宣言し、景色がぎゅんっと歪んで果てた。

――<ユグドラシル強制収容所>

俺たちが転移してきたのは、ちょうど作業終了後の点呼の最中らしい捕虜の群れのど真ん中だった。
カーキ色の軍服に身を包んだ人間の看守が整列する悪魔の林を神経質に歩きまわりながら数を数えていく。

「点呼、よし! 気をつけ!休め! 本日の作業終了! ……総員、宿舎へ戻ってよし!」

ぞろぞろと解散していく捕虜たちに混じって、俺たちは宿舎の方へと流されていく。
着の身着のままで収容されたんだろう、服装もまちまちな悪魔たちはみな一様に疲れきった顔をしていた。
もとは技術者連中だから、肉体労働には向いていないんだろう。如何に強靭な肉体をもつ悪魔と言えど、そこは人間と変わらない。
とくに今は悪魔たちのパワーソースだった魔王がいないのだ。連中にとっては酸素を断たれたに等しい。

「……思った以上にひでえ環境だな。虐待される側が変わっただけで、魔王政の時代から扱いが逆行してるぜ」

収容所は廃校になった小学校を利用しているらしく、構造は単純だ。
コの字型に聳える鉄筋コンクリートの事務所・宿舎と、校庭が強制労働場、体育館が軍需工場となっている。
悪魔たちは労働場で畑仕事をやらされるか、工場で軍用車の部品組立をやらされているようだった。

130 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/10(月) 06:38:29.86 ID:MjS3fujf
灰色のコンクリート打ちっぱなしの廊下を抜けて、多目的ホールを改造した大食堂に出た。
パン一切れと野菜くずしか浮いてないスープを配給されて、食事中の私語に目を光らせる看守のもと静かな夕餉。
不衛生な環境と不味い食事は、そこに集う者たちの眉間へ例外なくシワを刻んでゆく。

「とにかく、早いとこ内部構造をメモってブツを仕掛けておさらばしよう、こんなところは。気が滅入っちまうよ」

ゴーレムからもらった"爆弾"を抱えて。一体こいつはどこに仕掛けりゃいいんだろうな。
元・職員室の監視事務所か?兵糧攻めのために給食搬入口を狙うか?校長室を改造した所長ルームをつぶしに行くか?
食堂を抜けて、俺たちはより深いところをゆく。収容所には家族単位で捕まってるみたいだけど、子供はどこに置いてんだ。
その答えは、一年生の教室棟でみつけた。

『はーい、みんなのお父さんやお母さんが、にんげんに対してどんなことをやってきたかわかったかなー?』

『えっと、けんりをはくがいして、まおうのもとにあっせいをしいてきました』
『まおうにたいしてひはんてきないけんには、ほうむきょくがとんできてくちふうじをしました』
『しんかくせいれいさまをかいぞうして、ひとびとにげんじゅつをかけてむりやりしんこうをさくしゅしていました』

とある教室で、人間の教師が悪魔の子供たちに歴史を教えている。
黒板に白墨で描かれる反悪魔教育は、あろうことかその悪魔本人たちに向けて刷り込まれる内容だ。
自分の出自――種族としての誇りを否定させ、徹底的に人間至上の社会観念を植えつける、教育のタブーを軽々と侵犯していた。

「ひでぇ……これじゃこの子供たちは、自分の両親も尊敬できずに生きていくのかよ」

親の背中を追えるのは子供の特権だ。
無条件で、無意識的に、誰かに自分を委ねられるってのは、結婚を待たなきゃそうそう訪れない貴重な機会なんだ。
それを、多感な時期にこんな強烈な印象を刷り込まれたら、きっとこの子供たちは悪魔であることを恥じて生きていくことになる。
俺は人間だが、人間であることが恥ずかしいなんて思ってたら、きっと中学生ぐらいで身を投げていただろう。
普段俺たちはあまり気にしちゃいないことだけど――『種族の誇り』ってのは何にも優先して守るべきことの一つなのだ。

『せんせえ!それはおかしいとおもいます!』

ガラスの向こうの教室で、一人の悪魔が挙手をした。
分厚い眼鏡をかけた、利発そうな少女だ。

『確かに魔王政は圧政でしたが、魔導科学の恩恵もあったし、人間も高い生活水準を維持できてたとおもいます』

それまで柔和な微笑で授業を進めていた中年女性の教師の顔が般若みたいに吊り上がった。

「なんですかあなたは!みんなが真面目にお勉強しているときに協調性のない子ですね!!」

教師は鞭をとると――なんとそこに精霊魔力を纏わせた。
教鞭に紫電が奔る。充溢した魔力が大気を叩き、バチバチと揚げ物のような音を立てた。雷精霊の契約魔法だ。
そうだった。奴らの親玉、エストリス修道院は――悪魔殺しの殲滅術の総本山。『霊装』を伝える武闘派組織なのだ。

「悪い子にはお仕置きです!!――霊装『放課後課外授業《サージェントサーペント》』!!」

紫の蛇の形をとった電撃が少女悪魔の細首へ伸びる!

131 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/10(月) 08:27:01.90 ID:MYtuolmI
私達は捕虜とされている悪魔達の群れの真ん中に現れた。
服装も統一されていない悪魔達は皆が疲れきった顔をしており、この環境が過酷なことを示していた。
私達はその悪魔達が、小学校を改造したであろう建物に戻る流れに逆らわず、共に進んでいく。
お互いがはぐれないように、私はジェンタイルと堕天使の腕を掴みながら、建物の中に入っていった。

>「とにかく、早いとこ内部構造をメモってブツを仕掛けておさらばしよう、こんなところは。気が滅入っちまうよ」
建物内に入り、食堂の惨状を目の当たりにしたジェンタイルが言った。
これが悪魔達がしてきたことによる自業自得とは言え、私もこの扱いには同情してしまう。
いや、ロスチャイルドの一派は私達のように前の世界からやってきたのだから、この悪魔達による被害はほぼ無かったに等しいのでは?

「あぁ、見ていて気持ちが良いものでもないからな」
私達は小声でやりとりしながら、次の場所に進む。

一年生の教室が並んでいた場所で、人間が悪魔の子供達に歴史を教えている場に出た。
私達も教えている内容を聞いてみたが、どう聞いても真っ当な歴史の授業ではなかった。
そもそも、違う歴史を辿ってきたロスチャイルドの一派がまともな歴史の授業などできるはずもない。
現に奴らが現れたよりも後のことしか話してはいないのだから。

>「悪い子にはお仕置きです!!――霊装『放課後課外授業《サージェントサーペント》』!!」
授業を遮って、一人の悪魔の少女が人間の教師に意見を言う。
そのことに教師の顔色が変わり、少女に対して精霊魔法を行使しようとしていた。
私は、理不尽に殺されたメルフィをふと思い出してしまった。

私に教師の放った雷の精霊魔法が直撃する。
精霊魔法の影響なのか、堕天使にかけてもらっていた透明化も切れ、私一人が教師に狙われていた悪魔の娘の前に立っていることだろう。
教師が突然現れた私に目を見開いている隙に、私は目にも止まらぬ速度で教師に肉迫。
音速を超えた私の鉄拳が、教師の頭を粉々に吹き飛ばしてしまった。

132 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/11(火) 21:49:28.65 ID:pdUYtK85
――収容所の内部は陰鬱な空気が立ち込めていた。
肉に食い込む鋼糸のような監視の目、骨身を削る労働、残飯以下の食事。
ゴーレムが見れば非合理的だと、淡々と呟くだろう。作業効率や適材適所の概念などない。
ただ相手を使い潰し、一切の尊厳を奪う為だけの所業だった。

「おいおい……これじゃあ、どちらがケダモノか分からなくなるな」

堕天使が呟く。
口調は大先輩を真似て冗談めかしたまま、だが笑みを浮かべてはいない。
研ぎ澄まされた刃を思わせる真顔だった。口振りだけでも取り繕わなくては、抑え難い怒りがあった。

>『はーい、みんなのお父さんやお母さんが、にんげんに対してどんなことをやってきたかわかったかなー?』

ふと立ち止まる。人間の中年女性が魔物の子供達に向けて授業をしていた。
真実も矜持も踏み躙るその教育は、勝者が敗者に施す洗脳と何ら変わりなかった。
ゴーレムが見れば合理的だと、淡々と呟くだろう。

「……あー、ごめんジェンタイル。私今、すげー大事な事思い出した」

臨界点を超えた怒りが、堕天使から大先輩の模倣を忘却させていた。
燃え上がる激情が激しい光の魔力を生み、静かに蠢く憎悪が深い闇の魔力を生んだ。
相反する属性を一つの身に宿す――世界の理に反する力が、堕天使から迸った。
堕天使の髪は夜色でも金色でもなく、混沌を示す灰色に染まっている。
右手に闇を、左手に光を。両手を交差させる。そして一言。

「大先輩ってさ、講釈好きなんだ。特に悪役に関しては、語り出したら止まらないくらいに。そんでもって……」

両手の指で破裂音を奏でた。快音と共に二つの魔力が弾ける。
闇の魔力が世界の理を歪め、光の魔力によって光速を突破――二重の時間操作。
それでも闇の深淵には届かない。だが、

「お前みたいな三流のゲス野郎が、大嫌いなんだよ」

女教師の最後を凄絶な恐怖で彩るには、十分な時間が得られた。
時の止まった世界に女教師の意識のみが踏み入る事を許した。
堕天使の魔力に包まれたジェンタイル達も同じく、凍った時の中での出来事を認識出来る。

「ほら、よく見ろよ。あと十秒もしない内に、こいつのパンチがお前の頭を打ち砕くんだ。
 お前なんかじゃ絶対避けられない。あと五、四、三……」

メタルクウラの鉄拳を指して、堕天使は恐怖の刃を深く突き刺すように告げる。
身動ぎ一つ出来ない。恐怖に顔を歪める事も、泣き叫ぶ事も、命乞いすら許可されない。
許されるのは死刑囚が絞首台への階段を一歩また一歩と上っていくように、確定した死を待ち、怯える事だけだ。

133 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/11(火) 21:50:58.81 ID:pdUYtK85
「さあ、ゼロだ。お前には大先輩みたく、人に何かを教える権利なんてないし……」

冷厳な口調を中断して、指を鳴らす。
時が動き出した。音速を超えたメタルクウラの拳が、女教師の頭部を吹き飛ばす。
同時に再び快音――床から隆起した影の触手が女教師の体、肉片を纏めて飲み込んだ。
そして闇の底へと引きずり込む。

「お前みたいなド三流がトラウマとして子供の心に居座り続けるなんて、私が許さない」

夜色に戻った髪をなびかせて、堕天使は子供達へ振り返る。

「やあオチビさん達。見ただろう、これが『悪』魔だ。カッコいいだろ? 見惚れてしまうだろう?
 ……君達だってこうなれるんだ。その事を君達は、誇りに思っていいんだぞ」

自分が大先輩に抱いた憧憬を分け与えるように、語りかけた。
それから不敵な笑みを苦笑いに変えて、続ける。

「……けど、まぁ、悪い事をしたのにそれを認められないのはカッコ悪いよな。
 だからこの世の中がどうにかなったら、今までの事は謝って……それから人間とも仲良くしてくれないかな」

次に浮かべるのは真摯の表情、そこに微笑みを織り交ぜた。
この世の中がどうにかなるのか。そう言いたげな不安の色を顔に滲ませた子供達に、諭すように語りかける。

「今の世界は、絶対に変えてみせる。君達の両親も、必ず助けてみせるから」

一旦言葉を切った。指を鳴らす。

「あそこにいる男がね。……なぁ、ジェンタイル?」

光の膜を消し去り、姿の露になったジェンタイルを親指で差して、そう付け加えた。
全てを台無しにして、下らない冗談を連ねる陰で退路を奪う、大先輩のお家芸だ。

「ん? なんだって? 冴えない面してるし不安だ? ……だそうだぞ、ジェンタイル。
 ここは一つ、彼らに誓いを立ててみたらどうだ? 悪魔ってのは嘘は吐いても、誓いは破らないものだしな。
 そうそう……勿論だけど、最高にカッコ良く、だぞ」

逃げ場はないぞと言わんばかりに、堕天使は小生意気に笑ってみせた。

134 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/11(火) 21:51:54.81 ID:pdUYtK85
 
 
 
「……ところで、これからどうする? 幸いまだ他の連中は気付いてない……みたいだけど。
 単にこちらに向かってる最中って事もあるかもね。
 ある程度メモは済ませたから帰ってもいいし。もう少し探索するのもいいんじゃない。
 あの馬鹿教師がいない事に気付かれたら面倒だって言うなら、いっそ今から仕掛けるのも悪くけど」

135 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/12(水) 18:01:19.87 ID:m5qEt1v1
俺が止める隙もなく、どころか瞬きほどの猶予もなく、メタルクウラは飛び出していた。
振り抜いた拳が女教師の頭蓋を粉砕する、その直前が永遠のように引き伸ばされる。
堕天使の時間を遅延させる魔術だ。
使い方次第では今すぐロスチャイルドだって殺れる至玉のスキルを――

>「ほら、よく見ろよ。あと十秒もしない内に、こいつのパンチがお前の頭を打ち砕くんだ。

えげつねえ。ビビらせるためだけに使ってやがる。
やめろ、と叫ぼうとしたがまるで溶かしたロウの中にいるみたいに空気が重い。粘着質だ。
時が解凍され、メタルクウラのパンチは狙い過たず女教師の頭を砕き、中身で黒板を汚濁した。
しん、と水を打ったように――例の抗弁悪魔も突如の光景に目を奪われお口がお留守になっている。

「ばっかおめー! せっかく隠密潜入してたのがパァじゃねえかっ!!」

ドヤ顔で佇むメタルクウラの胸部装甲にバシバシ殴る。
でも俺は、打ち付ける拳の親指を立てずにはいられなかった。
結局のところ、俺もプッツン来てたってだけの話だ。
顔面の上半分を吹き飛ばされ、顎しか残っていない女教師は糸の切れた人形みたいに崩れ落ちる。
タールの中に放り込んだみたいに、真っ黒な沼が死体を沈めていった。堕天使の能力だ。

>「今の世界は、絶対に変えてみせる。君達の両親も、必ず助けてみせるから」

なんだかんだ、コイツが一番アツいんじゃねーの?ってぐらい、今日の堕天使は積極的だ。
いつもの性悪っぷりからは想像もつかないようなアフターケア――っつうか、

>「あそこにいる男がね。……なぁ、ジェンタイル?」

扱い悪いの俺だけかもしかして!
俺は一つ咳を打って、教卓の前に立った。40人ほどの悪魔たちが40対の眼球でこっちを注視する。

「……俺は、お前らを助けない。お前らの期待するような扶助も互助も一切してやらねえ。
 俺が奪還するのはお前らの『誇り』だけだ。そいつを使ってどう生きるかは自分で決めろ」

収容者を助けだしたところで、その大所帯を養う経済力はレジスタンスにはない。
必然、こいつらには助け出したらハイさよならってお別れしかありえねえ。
この荒野に、無責任に放り出すことになる。
もしかしたらこのまま収容所でメシ食わせてもらってたほうがマシが結末を迎えるかもしれない、そういう分水嶺だ。

「自分で自分を淘汰しろ。お父さんとお母さんを助けだして、野垂れ死ぬかもしれない荒野を行くか。
 このままここに留まって、誇りを捨てて人間のもとに這って生きるか。どっちも茨の道だけど、どっちも選べるのがお前らだ。
 お前らは自分を変えられる。今よりマシな人生を求めたとき、お前らは義務教育を卒業するッ――!!」

教室は騒然となった。
一方向的な教育によって個性を消され、想像力を奪われた子供たちの脳みそに灯が宿る。

『現状への疑問』という炎。
それがどんなに小さなものだったとしても、考えれば考えるほどに延焼していく。
俺は偉そうな説教を垂れたけど、言ってることの本質は「お前それでいいのか?」というシンプルな問い。
種族特性としてプライドの高さを誇る悪魔たちは――なによりも、挑発に心を揺さぶられるんだ。

>「……ところで、これからどうする? 幸いまだ他の連中は気付いてない……みたいだけど。

「一時撤退――は、厳しいな。次来るときまでに警備が厳重になってるだろうから」

『突如現れて教師を殺した奴がいる』ってことが明るみに出れば、畢竟『見えない敵』に対する防御は硬くなる。
ましてや堕天使の視覚秘匿術は文字通り見た目しか隠せない。
風精霊みたいに大気を媒介にした警備体制を敷かれたらアウトだ。

136 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/12(水) 18:02:04.94 ID:m5qEt1v1
「打って出るぞ。この女教師みたいに戦闘職でなくても霊装使いがいるんだ。警備本隊に出てこられたら不味い。
 頭を潰してトンズラこくのもコスパに合わねえ。どうせすぐ別の奴が着任して元通りだ」

捕まっている悪魔を開放し、同時に収容所の機能を完膚なきまでに破壊する一手。
子供たちに類が及ぶといけないから、どっちにしろこのエリアからはとっととズラからねば。
いやでも、下手に動いて鉢合わせたらどうする。狭い廊下で本隊に出くわしたらその時点で詰みだぞ。

「あ、あのっ」

頭を悩ます俺達に、鈴の音のような声が投げられた。
振り向くと、さっきメタルクウラが助けた、眼鏡の少女悪魔が挙手をしていた。

「こちらへ。――秘密の抜け道があります」

<収容所・地下通路>

「わたしたちも、ただ苦い肝を嘗めていたわけではないんです。一部の収容者の中で脱獄互助会を結成し、この通り。
 作業時間をみんなで肩代わりして一人分の自由を捻出し、こつこつと抜け穴を掘ってました」

眼鏡ちゃんは指先に魔力の光を灯して穴の中を照らす。
大人一人がようやく通れるような幅の穴だった。
なんだ、悪魔の中にもちゃんと抜けだす努力をしてる奴がいるんじゃないか。
さっきあんな偉そうな演説かました身からするとすげー恥ずかしいんだけど、閑話休題。

「有事の際には子供も連れていけるように教室棟にも穴を繋げたんですが、そのせいで収容所の外へままだ通じていません。
 今のところ労働場、体育館、宿舎と教室棟がこの地下通路で繋がってます。ここまで作るのに半年かかりました」

一人でここまで掘るのは並大抵の労力じゃなかったろう。
そこはそれ、やっぱり悪魔なんだなあと実感する。
しばらく暗闇を行くと、遠くに明かりが見えた。
地上に出たわけじゃないから、向こうにも誰かいるんだろう。
眼鏡ちゃんと同じ色の明かりだ。おそれくそれがこの穴蔵での同族の証明。

「この時間は大人はみな宿舎に入れられてるんですけど、子供は自由に動ける時間でもあるんです。
 ですから、消灯時間後はこのように互助会の子供組だけで寄り合いを開いているん――」

眼鏡ちゃんはそれきり黙ってしまった。息を呑む気配がとなりでする。
指先をふっと吹くと、明かりを消してしまった。再び穴蔵を闇が支配する。

「向こうの明かりの色調が変わりました。人間には不可視の色域でわたしたちは最低限の情報をやり取りできるんですけど――
 あの色調は『キケン チカヅクナ』……なにかしらのトラブルがあったのは間違いないみたいです。おそらく、深刻な」

「メタルクウラ、こっちこい」

俺は最後尾を歩いていたメタルクウラを手探りで呼び寄せ、集団の先頭に置いた。
こいつの装甲防御力なら突入した際に待ちぶせ射撃をされてもかなり耐えられる。重戦車のように敵を押し出せる。
おそらく『向こう』――踊り場のような談話スペースなんだろうが、そこに敵がいるならこっちの存在はバレてる。
待ち伏せされてるのは大前提でここからどうするか考えなきゃならない。

「どうする、一旦引き返すか?……いや、もうそろそろ教室棟も騒ぎになり始めてるだろうからマズいな。
 このまま進むしかない……メタルクウラの装甲で押し切れればいいんだけど――っと!」

パララララ!と通路の向こうでマズルフラッシュが瞬いた。
反秒遅れてメタルクウラの装甲がバチバチ音と火花を立てる。跳弾が脆い穴壁にぶち当たって深く深く抉り穿った。
ライフル弾!コンクリの壁すら貫通するタイプだ、当たったら一発でお陀仏だぞ!

「撃ってきやがった!堪え性がねえな連中……!このまま進むぞ、メタルクウラ、耐えられるか?」


【悪魔の子供が何人か捕まっています。敵の人数・内訳は自由に決めて下さい。】

137 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/12(水) 20:12:30.60 ID:RYst2cxS
>「ばっかおめー! せっかく隠密潜入してたのがパァじゃねえかっ!!」

「あぁ、体が自然に反応してしまってな。
つい殺ってしまったんだ」
私を責めるジェンタイルの顔は、言葉とは裏腹に笑顔であった。

ジェンタイルと堕天使が悪魔の子供達に熱く語り、悪魔の子供達の消えかけていた心の炎を再び燃焼させる。
私が先走ったせいで駄目になった下見は予定を変え、このまま収容所を叩き潰すことになった。
そして、私がかばった悪魔の少女が仲間と共に抜け道を作っており、私達は抜け道に案内されるのであった。

>「メタルクウラ、こっちこい」

「あぁ、分かっている」
ジェンタイルはまた私を盾として使うようだ。
私は抜け道の殿を堕天使に任せて、私は列の先頭に移動する。
移動した直後に敵と思われる輩から銃撃を受けた。
私の胸に当たった銃弾が跳ね返って、抜け穴の壁にめり込む。
この程度の銃弾など痛くも痒くもないのだが、後ろの奴らには危険なのだろうな。

>「撃ってきやがった!堪え性がねえな連中……!このまま進むぞ、メタルクウラ、耐えられるか?」

「こんな玩具に私が耐えられないわけがないだろう?
余裕に決まっている」
私達に向かって飛んでくる銃弾を、私は受けるのではなく、精密な動作で掴み取りながら答える。
銃弾を一つも後ろに漏らさずに前へと進んでいくと、銃で武装した人間が二人と、人質になった悪魔の子供達がいた。
人間は私達を前に怯えきった表情を見せている。
銃などに頼り、もっと殺傷力の高い精霊魔法を使わないことから、精霊とは契約してないのだろうな。

「お前達はエストリス修道院の人間か?」
私が指先にエネルギーを込めながら聞くと、二人の人間は首を横に振った。

138 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/15(土) 16:49:28.59 ID:e2++gSw2
>お前らは自分を変えられる。今よりマシな人生を求めたとき、お前らは義務教育を卒業するッ――!!」

「……ふん、なかなかカッコ良いじゃないか」

堕天使は正直の所、ジェンタイルは月明かりも道標もない夜道を歩くように無様を晒すと踏んでいた。
それがどうした事か、意外にも様になった演説を見せ付けられてしまい、
ばつが悪そうに目を逸らして唇を尖らせながら呟いた。

>「打って出るぞ。この女教師みたいに戦闘職でなくても霊装使いがいるんだ。警備本隊に出てこられたら不味い。
>「あ、あのっ」「こちらへ。――秘密の抜け道があります」

「ま、そうなるよな。妖狐ちゃんがいれば、あの馬鹿女に化けてやり過ごせたかもだけど……仕方ないか」

悪魔の少女が明かした秘密の抜け道に入り、進んでいく。
が、途中で相手方に異変を察知されたようだ。淀んだ空気が即座に鋭さを帯びた。
そして銃声、狭く逃げ場もない抜け道に無数の弾丸が撃ち込まれる。

>「撃ってきやがった!堪え性がねえな連中……!このまま進むぞ、メタルクウラ、耐えられるか?」
>こんな玩具に私が耐えられないわけがないだろう?余裕に決まっている

メタルクウラは弾丸の雨を全て指先で掴み、防ぎながらも歩みを止めない。
最後尾に移った堕天使はただ、自分の前を行くジェンタイルの背中を半目で睨んでいた。
やる事がない分、思考の歯車は潤滑に回る。

唇が僅かに、もごもごと動いていた。ずっと前から聞きたい事があった。
初めて会った時のやり取りや印象が邪魔をして、ずっと聞けずにいた事があった。
今更こんな事が聞けるか、と心中で自分を罵倒して言葉を押し込める。もう何度も繰り返した、葛藤の結末だった。

だが不意に、堕天使が足元の僅かな段差に躓いた。
それは平時なら気にも留めないくらいの小さな段差だったが、今の堕天使には咄嗟に体勢を立て直す事が出来なかった。
理由は考え事をしていたから、だけではない。正直な所、堕天使の魔力はもう残り僅かだった。
ジェンタイルに言えば「勢いだけで行動するんじゃねー!」などの非難は免れないと黙っていたが、
体力と注意力の低下はそう簡単に隠せるものではなかったようだ。

「きゃっ……!」

普段ならばあり得ない小さな悲鳴を上げて、堕天使は倒れ込む。
反射的に、前にいたジェンタイルに抱き着いた。体が密着する。体温が伝わる。
それとはまた別に、自分の顔が熱を帯びて、赤く染まっていくのが分かった。

「あの……私、種族の違いがどうとか、そういう事を言うつもりはありませんけど……TPOくらいは気にして欲しいです」

悪魔少女が右手で眼鏡の位置を正しながら、粛然とした口調で言った。

「なっ……! 何をどう見たらそんな感想が出てくるんだこのマセガキ!
 おいジェンタイル、変な勘違いするなよ! 今のはただ、ちょっと躓いただけなんだからな!」

思わず、堕天使は声を張り上げた。
けれども彼女の怒気は長くは続かない。代わりに一つ、気が付いた。
出会ってから半年間でこれ以上は無いほど、自分は今ジェンタイルの傍にいると。
――聞くなら今しかない。静かに、決意した。

「……あのさ、初めて会った時」

完全に殺し切れていなかった葛藤が一瞬、言葉をせき止める。
振り切って、続けた。

「お前、大先輩に色々言ってただろ。大先輩の全てを知ってるかとか、どうとか。
 あの話、あの時はムカついて蹴っ飛ばしちゃったけど……やっぱり聞かせて欲しいんだ」

139 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/15(土) 16:50:09.47 ID:e2++gSw2
半年前からずっと気になっていたのは、『自分の知らない大先輩』の事だ。
それをジェンタイルは知っている、かもしれない。
あくまでも『かもしれない』だ。それでも、大先輩をより深く知れる可能性を、堕天使は捨てられなかった。

「お前が私の知らない大先輩を本当に知ってるなら……私も、お前の知らない大先輩を、お前に教えてやってもいいんだぞ」

出会ってからずっと、ジェンタイルには憎まれ口ばかりを叩いてきた。
それでも一つだけ、大先輩に憧れていると言う点だけは、親近感を感じていた。
自分の憧れる人の事を、誰かと語り合いたい。
人間となんら変わらない気持ちに突き動かされて、堕天使は問いを放った。

「……って、今する話じゃないよな。悪いな、忘れてくれ。全ての片が付いたらもう一度……その時に聞くから。
 ちゃんと何を話すか決めておけよ! 分かったな! 分かったら、ほら! さっさと進めよな!」

早口に告げると、ジェンタイルを離して半ば突き飛ばす勢いで背を押す。

「……へへっ」

堕天使は頬を赤らめたまま、はにかんだ笑顔を浮かべていた。
半年も悩み続けた問いを口にした気恥ずかしさと、それをようやく口に出来た嬉しさ、
そして大先輩をより深く知れる事への楽しみで、今はまともに話が聞けそうになかった。

――抜け道を出ると、正面に二人の敵兵がいた。
武装は銃、悪魔の子供を人質に取って穴の外で待ち受けていた。

>お前達はエストリス修道院の人間か?

返ってきた答えは首を振っての否定。

「……何か、変だ」

思わず呟きを零した。
自分達の侵入と抜け穴の発覚は、どう控え目に見ても重大過ぎる緊急事態だ。
魔導科学の知識を持つ悪魔達が脱走すれば、ロスチャイルド政権は途端に不利になる。
だと言うのに、この杜撰過ぎる防衛はどう言う事なのか。
精霊魔法の使い手なら、逃げ場のない抜け穴で相手を仕留められたかもしれないのに。
無論メタルクウラの装甲には、精霊魔法すら通用するか分からない。
それでもただ銃を使うよりかは、遥かにする価値があった筈だ。
ただ単に、相手がこちらを侮っていただけなのだろうか。

――本当にそうなのか。
根拠のない、嫌な予感が脳裏を駆け抜けた。焦燥と共に思考が加速する。
何か見落としている可能性がないか。

例えば、例えば、例えば――相手は銃が通用しない事を承知でいた可能性はないのか。
ロスチャイルドには雷精霊の契約者がいると先ほど分かった。
あの女教師はただの電撃として精霊魔法を使用していたが、他の用途だってある筈だ。
例えば電磁波を利用した遠見のスキル――こちらを先んじて視認されていた可能性がある。
壁役は機械生命体だと、反政府組織の中心人物ジェンタイルがいると知られていたかもしれない。

魔導科学の導入されていない機械生命体には、魔術的な物を感知する機能がない。
精霊と契約を交わした者は、他の契約者の魔力をある程度探知出来る。
壁も障害物も全てを貫き、ジェンタイルを殺害出来るほどの膨大な魔力を、壁役は察知出来ないと相手が分かっていたら――どうする、どうなる。



140 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/15(土) 16:51:14.91 ID:e2++gSw2
直後に視界の外、部屋の外、遥か遠方で起きた魔力と殺意の奔流が首筋に突き刺さった。
息を飲んだ。瞬時に、残り幾許もない魔力を練り上げる。

「これは……これは罠だッ! 時よ止まれぇぇぇ――――ッ!」

快音、時間停止、猶予はたった一秒。
弩に弾かれたように魔力を感じた方向へ振り向く。
壁を蒸発させるほどの高エネルギーを秘めた電撃が迫っていた。
無我夢中でジェンタイルと悪魔の少女を突き飛ばす。
漆黒の翼を展開、人質を取った二人組に無数の羽を放った。
残るは離脱。

「――クソッ、時間切れだ。これ以上魔力は……使えない」

間に合わない。時が動き出す。
避け切れないと分かっていながらも、渾身の力で跳んだ。
高熱が右半身に喰らい付き、奪い去った。

「がっ……ジェンタイル……反撃しろ……! ぶっ殺さないと……面倒だぞ……!」



――堕天使は辛うじて、命を保っていた。
堕天使とは、必ずしも肉体を必要としない霊的な種族だ。
故に肉体の激しい損壊が、彼女を即座に死に至らしめる事はない。
だが限りなく魔力を失った堕天使の体は、左手の指先から徐々に石化しつつあった。

「あぁ……クソ、なんて目で見てるんだよ。私がこのくらいで……死ぬ訳ないだろ。
 私は……このクソッタレな世界とケリを付けて……お前から、大先輩の話を聞くんだ。
 さっきガキ共にそう誓ったし、お前とも、約束したろ……」

石化した指先で床をなぞる。魔方陣を描いた。
離脱の時間を捨ててでも残した最後の魔力で、影を媒介にした門を作り出す。
『モン☆むす』のメンバーをこの場に呼び寄せた。
召喚されるや否や、面々は騒然とした。
即座に堕天使に駆け寄り、延命の為の魔力を注ぎ込む。
石化の速度は僅かに緩やかになったが、止まらない。
治療の体勢は崩さないまま、ゴーレムがジェンタイルを振り返る。

「……私達は、堕天使ちゃんの容態が安定し次第……それがどのような形でも、安定したら、活動を開始します。
 内部構造の写しは出来ていますね? 『爆弾』は置いてきてもらえましたか? 『お守り』として持っていて下さっても、構いませんが」

努めて冷静を心がけて、尋ねた。

「出来れば皆で貴方達を援護したい所ですが、そこまでの余裕はありません。
 なのでMr.ジェンタイル。一匹、選んで下さい。貴方の選んだ一匹が、堕天使ちゃんに代わり貴方達を援護します」

141 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/18(火) 01:40:16.32 ID:jv33giT8
>「こんな玩具に私が耐えられないわけがないだろう?余裕に決まっている」

たのもしさばつ牛んのメタルクウラを正面装甲に据え、俺たちは進む。
如何に突貫力に優れたライフルと言えど鋼の偉丈夫には関係なしだ。

>「きゃっ……!」
「ぎゃああ!?」

突如腰のあたりをがっちりとホールドされて、俺は情けない悲鳴を挙げてしまった。
ちょうど後ろを歩いていた堕天使が躓き、俺に抱きついてきやがったのだ。

>おいジェンタイル、変な勘違いするなよ! 今のはただ、ちょっと躓いただけなんだからな!」

「お前自分のキャラってものを考えて行動しろや!きょうび怖がりだってこんなとこで抱きつかねーよ!」

いや、穴蔵のまっただ中だし雰囲気出るけどさ。それ以上に今は銃火飛び交う戦闘の真っ最中なんだ。
堕天使は、いつもの大先輩リスペクトをやめて、神妙な顔をした。

>「お前が私の知らない大先輩を本当に知ってるなら……私も、お前の知らない大先輩を、お前に教えてやってもいいんだぞ」
>「……って、今する話じゃないよな。悪いな、忘れてくれ。全ての片が付いたらもう一度……その時に聞くから。
 ちゃんと何を話すか決めておけよ! 分かったな! 分かったら、ほら! さっさと進めよな!」

「なんだよ……こんなとこで何言い出すんだ、それじゃあまるで、死亡フラグみてえじゃねえかよ」

お前、死ぬ予定ないよな?
冗談じゃねえ、元の世界にいたときは、死んでも生き返ったから死亡フラグは冗談たりえた。
でも今は――死んだら、洒落にならない。俺は心臓にいやな汗をかいた。

>「お前達はエストリス修道院の人間か?」

たどり着いた先で踊り場を制圧し、武装兵を尋問する。
所属を問うたメタリュクウラに、出てくる答えは否が2つ。
精霊魔術の学び舎たる修道院所属の戦闘屋なら、何がしかの精霊と契約しているはずだ。
だがこいつらは銃。雇われた傭兵か?

>「これは……これは罠だッ!

瞬間、思考が凍結。
世界に色が戻ってきたとき、俺は悪魔の少女と一緒に埃臭い地面を転がっていた。
何が起きた。いや、知ってる。こいつは堕天使の時間停止だ。あいつはどこに――

「!!」

身体の右半分を獰猛な何かに食いちぎられた堕天使の身体が、冷たい土の上に黒を広げていた。
焦げ臭さが鼻から永遠に抜けないんじゃないかと思った。小奇麗な服が、白磁のような肌が、内側から爆ぜ飛んでいる。

>「がっ……ジェンタイル……反撃しろ……! ぶっ殺さないと……面倒だぞ……!」

「堕天使! お前……!!」

生きている。とは言い難い。かろうじて死んでないだけといった風情の堕天使は叫ぶ。
忘れがちだがこいつは天使の一席で、不死身の大先輩の直系だ。人間とは死に方も殺し方も違う。
抉るだけじゃあ、こいつは死なない。だけど。

「メタルクウラ、堕天使を守れ……!」

俺はメタルクウラと入れ替わるように矢面に立ち、融解した穴へ向けて敵兵から奪ったアサルトライフルの引き金を引いた。
セレクターはフルオート。ありったけのライフル弾を叩きこむ。

「あああああああああああ!!!」

142 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/18(火) 01:40:57.49 ID:jv33giT8
最早自分でも何を叫んでるか分からないぐらい、興奮していた。
アドレナリンが過剰に分泌されて、心臓は痛いぐらいに動悸して、こめかみを血が遡上していくのを感じる。
穴の向こう――遥か彼方に、敵は居た。向こう側には別の地下通路が通っていて、それこそ壁越し土越しに狙撃してきたのだ。

撃ち込んだ弾丸は、狙い過たず敵の顔面に迫り、そして阻まれた。
雷精霊の魔術、電磁界のバリアで鉄塊である弾丸を留めているのだ。
俺は構わず撃ち続けた。撃って、撃って、撃ちまくった。敵のバリアにどんどん止められた弾が溜まっていく。
十秒と持たずにホールドオープン、弾切れだ。だが俺のリロードは弾より速い。瞬き一つで弾倉を入れ替える。
そして、また撃つ。フルオートだ。

やがて、弾が張り付きすぎてハリネズミのようになった敵の磁界バリアの向こうから、どろりとした赤が滴った。
弾倉3つ分の全弾をぶち込まれたバリアが崩れ――頭部を失った人間が膝を折るのを確認した。
鉄の弾が大出力の磁界によって停止するならば、磁界もまた大量の鉄によって停止したっておかしくない。
単純に、通電体たる鉄に電気を吸われ尽くした結果、磁界はその出力を保てなくなったのだ。

「はーっ、はーっ……クソっ!」

過熱して銃身が使い物にならなくなったライフルを投げ捨て、堕天使を振り返る。
もんむすのメンバー勢ぞろいだった。堕天使が喚んだってことは、床の魔方陣を見れば分かる。

>「あぁ……クソ、なんて目で見てるんだよ。私がこのくらいで……死ぬ訳ないだろ。
 私は……このクソッタレな世界とケリを付けて……お前から、大先輩の話を聞くんだ。
 さっきガキ共にそう誓ったし、お前とも、約束したろ……」

「もういい、喋るな。あんまりここでおしゃべりしすぎると、全部終わったあとに話すネタがなくなっちまうぜ。
 ようやく仲良くやれそうなんだ、お前には、俺と楽しくお話しする義務がある……大先輩のことを肴に、夜通し語り合う義務が!」

自分でも、どんな顔をしているかわからなかった。
堕天使が言う『死ぬわけない』が精一杯の強がりだってことぐらい、わかってる。
人間だろうが悪魔だろうが、身体の半分がなくなるっていうのは本当にヤバい事態なのだ。

>「……私達は、堕天使ちゃんの容態が安定し次第……それがどのような形でも、安定したら、活動を開始します。

ゴーレムの冷静さが有難かった。
また俺は、怒りにかまけて指揮官としての立場を忘れるところだった。

「絶対助けろとは言わねえ。言わなくても、お前らは死力を尽くしてくれるはずだ。――でもやっぱ絶対助けろ!」

俺はわがままを言って、踵を返した。
前を向かなきゃ。この先得るべきなにもかもは、進んだ先にしかないのだから。

>「Mr.ジェンタイル。一匹、選んで下さい。貴方の選んだ一匹が、堕天使ちゃんに代わり貴方達を援護します」

選ぶ――ゴーレムとスライムは駄目だ、先での破壊活動に必要不可欠な人員だから。
ゾンビは、正直アタッカーとしての仕事は見込めない。壁役ならメタルクウラで必要十分だ。
となると。……こいつかあ、うーん、ちょっと厳しいと思うんだけど。いや援護要員としてはこの上ない人選だけどさ。

「妖狐、俺と来い。お前の幻術で警備本隊に潜り込む。多分、どの出入り口も封鎖されてるだろうからな」

木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中だ。情報収集もできる一石二鳥、最善の選択肢。
警備本隊とまともにやりあって生き残れるのはメタルクウラだけだろう。俺たちは流れ弾でも容易く死ぬ。
そして本隊とやりあって壊滅させるという選択は――この上なくコスパに見合わない。

「一番近い宿舎側の出入り口から脱出するぞ。メタルクウラ、固まってる本隊の連中を引っ掻き回せ。
 その混乱に乗じて、俺と妖狐は幻術で警備兵に成りすます。俺たちがうまく紛れたら、お前は瞬間移動で子供たちを守りに行け」

地下通路の『掃除』に割り当てられた人員の少なさから見ても、警備本隊の戦術は『燻り出し』で間違いない。
だったらその目論見を逆手にとってやろうというのがこの企画のキモだ。
敵の警戒網ギリギリまで地下を進んだ俺たちは、声を出さずにハンドサインで作戦決行を示した。

143 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/18(火) 12:47:09.70 ID:KMMti1+D
>「これは……これは罠だッ! 時よ止まれぇぇぇ――――ッ!」
堕天使の叫びに反応し、私は堕天使の方を振り向いた。
壁をぶち抜いて私達を襲う電撃と、それによって右半身を失う堕天使を見てしまった。
どういうことだと、人質を取っていた人間達に詰め寄ろうとすれば、既に黒い羽が体中に突き刺さっており、息絶えていた。

>「メタルクウラ、堕天使を守れ……!」
そう言って、激情に駆られたジェンタイルは、人間達の銃を手に取り、襲撃者に立ち向かう。
私は人質の悪魔の子達を連れて、堕天使の近くに集まる。
他にも襲撃してくる者がいるかもしれないと、私は近くにあるエネルギーを探索したが、それらしき者は私には見つけることができなかった。

堕天使が力を振り絞って仲間達を召喚した後、敵を倒したであろうジェンタイルが戻ってくる。
私や悪魔の子達は一歩引いて、ジェンタイルとモンスター娘達のやり取りを見ていた。
ほぼ他人である私や悪魔の子達には、このやり取りに入る資格は無いからだ。

>「一番近い宿舎側の出入り口から脱出するぞ。メタルクウラ、固まってる本隊の連中を引っ掻き回せ。
> その混乱に乗じて、俺と妖狐は幻術で警備兵に成りすます。俺たちがうまく紛れたら、お前は瞬間移動で子供たちを守りに行け」
ジェンタイルの作戦に、私に異論は無かった。
私はここにいる悪魔の子達を、危険に晒すことがないように、先に瞬間移動で安全な場所に連れていく。
先の教室で他の子供達と合流させようとも考えたが、もう収容所の武装した者達がいるかもしれない。
そこで私が絶対に安全だと考えている場所。
他のメタルクウラ達のいる場所に連れていったのだ。

ジェンタイルの合図に従って、作戦は開始された。
私はジェンタイル達よりも先に抜け道を出る。
案の定、抜け道の出口には警備兵が多数配置されていた。
私は警備兵達にニヤリと笑いかけると、警備兵の一人を右手から放った衝撃波で吹き飛ばした。
それをきっかけに警備兵達は私に向かって攻撃を開始。
私はその攻撃をこの身に張ったバリアで防ぎ、天井のスレスレを飛びながらゆっくりと逃走を開始するのであった。

144 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/20(木) 20:32:24.30 ID:St1i/UR5
>「妖狐、俺と来い。お前の幻術で警備本隊に潜り込む。多分、どの出入り口も封鎖されてるだろうからな」

ジェンタイルの指名を受けて、妖狐の耳が小さく動いた。
目を瞑り、堕天使の左手を両手で包む。
一際強く、死なないで欲しいと願いを込めながら、魔力を注いだ。

「行ってきます、堕天使ちゃん。私が戻ってくる場所を、壊したりしちゃ駄目だよ。絶対、許さないから」

「……あぁ、行ってらっしゃい。私の心配する暇があったら、自分がドジ踏まないように気を付けな」

いつも通りを心掛けた。行ってきますを言って、ただいまを言う。
誰一人欠ける事のない日常は、今もちゃんとここにあるのだと信じたかった。
それを守る為に今から戦うのだと、自分自身に使命を刻み込んだ。
立ち上がり、ジェンタイルを振り返る。

「……オーケイ、任せといてよ」

静かに答えた。
ジェンタイルの提案した作戦は、警備本隊への侵入だった。
異論はない。先行するメタルクウラに追従して、迅速に移動する。
殆ど時間は要さずに、警戒網の境界線にまで到着した。

「ねえ、ジェンタイル」

作戦決行の前に、妖狐はジェンタイルを呼んだ。
振り返った彼にわざとらしく尻尾を踏んで見せて、それから倒れ込むように抱き着く。

「……これは、ただのドジだからね。私はいつも通りに尻尾を踏んで、転んじゃっただけなんだ」

ジェンタイルの胸に顔をうずめたまま、有無を言わせない語調で呟いた。

「そして……今のが、最後だ。これから先、私は何一つ失敗なんかしてやらない。全てを完璧にこなしてみせるよ」

ジェンタイルから離れると、妖狐はそのままの声色で宣言した。
賢しく飄然としていて、けれども何処か締まらない子狐の風体は完全に鳴りを潜めている。
満月を思わせる黄金の瞳に、狼と見紛わんばかりの漆黒の決意が宿っていた。

そして作戦開始。メタルクウラが警備本隊の前に堂々と姿を現して、暴れ出す。
時に――妖狐の主力スキル『幻惑の光』は、特殊な閃光で相手を幻覚に陥れる能力だ。
その性質上、スキルの使用には相手と対峙する必要がある。
加えて相手が精霊の契約者である場合、外部からの干渉で幻覚を解除されてしまう。
つまり警備本隊に対して、妖狐の最大のスキルは通じない。

「……なんて事はないんだよね。あ、ちなみにこのセリフは地の文と繋げて読んでも、
 単独で読んでも意味の通じる高度なセリフなんだよ。前文を否定する意味での『なんて事ない』と、
 これから行う事が簡単であるって意味での『なんて事ない』ってね」

飄々と冗談を吐きながらも、三日月さながらの鋭い眼光に揺らぎはなかった。
右手に魔力を込め、光球を生み出す。幻惑の光だ。

「あちらさんが潜り込みに無警戒だとは、思わない方がいい。
 だから……差し当たって君と私の『席』を、確保してくるよ」

妖狐はそれをメタルクウラに向けて放つ。
金属の肉体に幻惑の光を反射させて警備兵全員に見せつけた。
ほんの一瞬の効果時間で見せる幻覚は、ジェンタイルの姿だ。
全員の視線を一方向にのみ集める。同時に警戒網の内側へ飛び込んだ。
狐の俊敏性を以って警備隊の最後尾にいた二人へ肉薄、背後に回り込む。
そして同時に首を切り裂き、引き倒す。そのままジェンタイルのいる物陰まで運び込んだ。
獣の狩りを思わせる、爆発的で、瞬間的で、流麗な手際だった。

145 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/20(木) 20:33:14.16 ID:St1i/UR5
「……落ち着きなよ。まだ君達は死にやしない」

狼狽して藻掻く警備兵に、淡々と告げた。
切り裂いたのは頸動脈ではなく気道だった。
呼吸は酷く困難になるが、即座に死に至るほどの傷ではない。
切り開かれた穴を手で塞いでやれば、呼吸も会話も一応出来るようになる。

「とりあえずこのドッグタグはもらっておくよ。
 あと君達さ、何か合言葉を決めていたりしないかな。
 いや、別に尋ねている訳じゃないんだ。なにせ、君達が勝手に口走ってくれるからね」

両眼を大きく見開き、警備兵の目を見つめた。
人に狂気を齎す満月によく似た眼に魔力が滾り、光が宿る。
幻覚を――自分は無事味方によって助けられ、本当に本人なのかと尋ねられる夢を見せた。
精霊によって解除されたとしても、一瞬の間隙も与えず再度幻惑する。

「さぁ、言うんだ。『君が君であると証明する言葉を』」

虚ろな目をした警備兵達が、幻覚の中で答えを吐き出した。
それを聞き届けると、妖狐は二人の気道の穴を塞いでいた手を退けた。幻覚を解除する。

「おはよう。ほら、君達の仲間がまだすぐそこにいるよ。
 助けを呼んだらどうだい? 目一杯手を伸ばせば届くかもしれないよ?」

呼吸が叶わず、二人は瀕死の魚のように口を動かしながら、すぐ傍にいる味方達に手を伸ばす。
が、暫くもしない内に手を掲げる力も失って、ただ指先で地面を掻くばかりになった。
そうして終いには、完全に動かなくなった。

「馬鹿だね。手を伸ばさなくたって、自分の手で喉を塞げば良かったのに」

死体を見下ろして冷淡に呟き、妖狐はジェンタイルに視線を向ける。

「さぁ、出来る限り装備は奪ってしまおう。私は変化するし、君にも幻を被せるけど、
 なるべく調べられても困らないようにしておかないとね」

言いながら右手を振るい、ジェンタイルに幻を被せる。
遊園地で空を偽りの夜で塗り潰したように、上辺のみを取り繕う幻影だ。

「そうそう、やっぱり彼らは合言葉を決めていたよ。
 『自由と尊厳を守る使命を』だそうだよ。皮肉にしても笑えない。
 それとも……彼らも、自分を騙していたのかもしれないね」


146 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/23(日) 07:40:36.29 ID:xVJysqnB
>「ねえ、ジェンタイル」

呼ばれて振り向いたときには、妖狐が俺の腹へ飛び込んでいた。
今日は色んな奴にしがみつかれる日だ。こいつも堕天使みたいになっちまうのかと嫌な想像が過ぎって、俺は奥歯を噛んだ。

>「……これは、ただのドジだからね。私はいつも通りに尻尾を踏んで、転んじゃっただけなんだ」
>「そして……今のが、最後だ。これから先、私は何一つ失敗なんかしてやらない。全てを完璧にこなしてみせるよ」

「……分かってる。お前が頼りになる奴だってことは、俺が保証してやるよ」

だから、負けない。
こいつがちゃんとやれる奴だって、俺たちが最強のコンビだってことを、証明してやるのだ。

妖狐が迅速に敵兵を二人ほどちょろまかしてきて、尋問のち殺害。
普段のドジっぷりは完全になりを潜め、その手際は戦闘のプロに反撃どころか反応の隙すら与えない。

>「さぁ、出来る限り装備は奪ってしまおう。私は変化するし、君にも幻を被せるけど、
 なるべく調べられても困らないようにしておかないとね」

幻術が俺の体に膜を張り、別人の幻影をそこに投射する。
俺は死体からバックパックとアサルトライフルを奪い、ドッグタグを首から下げた。

>「そうそう、やっぱり彼らは合言葉を決めていたよ。『自由と尊厳を守る使命を』だそうだよ。皮肉にしても笑えない。
 それとも……彼らも、自分を騙していたのかもしれないね」

「勝者の言葉ってのはそんなもんだ。自分が正しいってことを暴力で証明したのが連中なんだからな」

勝った奴の言葉はなんでも正論になるから、いつしかその理屈は傲慢なものに変わっていく。
勝者の理論はいつだって自分勝手。勝ってるからこそ言えることってたくさんあるんだ。

「メタルクウラが注目を引きつけてる間に本隊へ合流するぞ」

天井すれすれを回遊魚のように遊泳していたメタルクウラへ、景気づけに二三発弾をぶち込んでやる。
俺の魔力でメッセージを込めた弾丸は、着弾した瞬間に対象へイメージを焼き付ける。

『合流完了・陽動終ワレ』

147 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/23(日) 07:41:11.46 ID:xVJysqnB
メタルクウラには子供たちの保護を任せる。瞬間移動を使えるあいつなら、安全にそれを行える。
懸念があるとすれば、あいつの苦手なタイプの精霊使いが追撃に回る可能性だが――あいつならなんとかできるはずだ。
無根拠な信頼は、俺とメタルクウラの仲だからこそ成立しうるものだ。

メタルクウラが姿を消してから、警備隊長によって一旦招集がかけられた。
『燻り出し』に投じた人員が帰ってこないので回収部隊を出したら、案の定死体になって帰ってきたようだ。

「ひでえ死に方だったぜ、一人は顎から上が吹っ飛んでて、二人は全身をメッタ刺しだとよ」

俺の隣にいた警備兵がそう言った。

「マジか。そんな殺し方する奴に会敵したら、俺ならビビって逃げちゃうかもな」

まあ、殺したのは俺たちなんだけど。
警備本隊は収穫なしと見るや宿舎へと帰投するようだった。
互助会の掘った抜け道が見つかってしまった以上、悪魔たちへの風当たりは今まで以上に強くなるだろう。
早めにここを制圧しないと、悪魔連中は衰弱する一方だ。

「諸君!我ら、自由と尊厳の護り手はこの収容所に潜り込んだネズミを生かしてはおかぬ!
 彼奴らは薄汚い悪魔どもに味方し、再びこの世界を糞に塗れた掃き溜めへと変えようとしている。
 そこに人間の尊厳は存在しない!そこに人類の自由は保証されない!億千万の同胞のために、命に代えても阻止するのだ!
 我らが指導者、ロスチャイルド総帥の加護のもとに!醜いサタニストどもに鉛玉と精霊の鉄槌を!」

「「「ハイル・ロスチャイルド!!!」」」

警備本隊の詰所で隊長の演説を聞いたあとは、虱潰しでの捜索となった。
だだっ広い収容所を右から左、上から下まで隅々まで調べつくし、逆さまに振って埃を出すような作業。
いろいろ話を聞く所によると、警備兵のなかでも精霊と契約している者は半数ほどしかいないらしい。
旧レジスタンス時代からの戦士たちは大体契約者だが、現政権になってから参党した人間は無契約のままだ。
契約者は戦闘魔法が多彩な雷精霊が最も多く、次いで氷精霊、鉄精霊、爆精霊などの使い手が存在する。

「そして刃精霊の契約者が警備隊長……と。四大精霊の契約者はいないみたいだな」

エストリスは風精霊のお膝元だから、ヤツの眷属が多いんだろう。
属性的に相性が悪いのばっかだな……どうせ魔法を使うつもりはないから、被弾にだけ気をつけないと。

「とりあえず偉そうなのから順次殺ってくか。隊が総崩れになったら悪魔開放して逃げるぞ。
 妖狐、幻術で隊長だけ分断できるか。精霊使いだから幻術耐性は強いだろうが――やれるな?」

できない可能性なんてものは、俺たちには必要ない。
やれなきゃここで死ぬってだけの話なんだから。妖狐が本気なら、命をひょいひょい賭けたって怖くない。

148 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/23(日) 10:52:29.31 ID:UQTrixLg
警備兵達による銃撃をバリアで弾き、放たれる精霊魔法を巧みに回避しながら、私はゆっくりと空を飛ぶ。
飛んでから攻撃を放たない私に、警備兵達は嘗められているのかと思ったのか、攻撃の激しさは増していく。
それでも私の体には届かなかったのだが、私の回避パターンを読んだのか、一つの鋭い魔法がバリアを通過して直撃する。
ダメージは無い。

>『合流完了・陽動終ワレ』
弾丸を媒介にしたジェンタイルの伝言魔法のようだ。
私は元々の予定通りに子供達を保護するため、瞬間移動でこの場を離脱した。

私が現れた場所は学校の視聴覚室だったのだろう。
そこに子供達が集められていた。
子供達の教師役をしているロスチャイルド派の者も数人いたが、すぐに排除することができるレベルの戦闘力であった。

「では、これから君達を安全な場所に連れていく。
君達は輪になってお互いの手を握っていてくれ」
教師達を武力で完全に沈黙させた後、私は子供達に指示を出し、瞬間移動で子供達をまとめて避難させる。
もちろん、今はジェンタイルの他に完全に信頼できる者がこの世界にいないので、他のメタルクウラに子供達を預けたのだ。

「堕天使の容態はどうだ?」
私は子供達を預けると、モンスター娘達と合流する。
堕天使の容態が気になっていたこともあるし、独断で次の行動に出るよりも、モンスター娘達と行動を共にした方が良いと判断したからだ。

149 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/25(火) 22:54:20.02 ID:ithwHZbb
>「勝者の言葉ってのはそんなもんだ。自分が正しいってことを暴力で証明したのが連中なんだからな」

「……そうだね。だけど、私達だって今からそうなろうとしているんだ。
 深淵を覗き込む者は、って奴さ。まぁ、君があんな風になるとは思ってないけどね」

変装を手早く済ませて、警備兵の本隊に潜り込む。
そのまま詰所に向かった。奥の方にある壇の上に、屈強な男が立っていた。
背丈と肩幅はそれぞれ妖狐の倍はあり、だが集合整列する警備兵達を見張る眼光は恐ろしく鋭い。
大振りの鉈を思わせる男だった。

>「諸君!我ら、自由と尊厳の護り手はこの収容所に潜り込んだネズミを生かしてはおかぬ!
  彼奴らは薄汚い悪魔どもに味方し、再びこの世界を糞に塗れた掃き溜めへと変えようとしている。
  そこに人間の尊厳は存在しない!そこに人類の自由は保証されない!億千万の同胞のために、命に代えても阻止するのだ!
  我らが指導者、ロスチャイルド総帥の加護のもとに!醜いサタニストどもに鉛玉と精霊の鉄槌を!」
>「「「ハイル・ロスチャイルド!!!」」」

「論点先取、語句の充填、未知論証、多数論証、脅迫論証に権威論証……ふん、陳腐な演説どうもだね。
 ……お礼にちょっとばかし、人の騙し方って奴を教えてあげようじゃないか」

妖狐は静かな怒りを不敵な笑みと凄絶な音色の呟きに変えて、冷静さを保つ。
戦闘者には強い感情が強さになる者と、弱さになる者がいる。
炎精霊の契約者であるジェンタイルは前者、そして欺瞞を能とする妖狐は後者だった。

>「そして刃精霊の契約者が警備隊長……と。四大精霊の契約者はいないみたいだな」
>「とりあえず偉そうなのから順次殺ってくか。隊が総崩れになったら悪魔開放して逃げるぞ。
 妖狐、幻術で隊長だけ分断できるか。精霊使いだから幻術耐性は強いだろうが――やれるな?」

「……刃ってのは、昔から迷いやまやかしを断ち切るものだって言われてる。
 だからぶっちゃけた話、あの隊長と私の相性は最悪だよ」

それでも、と妖狐は続ける。

「君がやれって言ったんだ。やらない訳にはいかないよね。ちょっと、待っていてよ。――頑張るからさ」

言うや否や、妖狐は駆け出した。
収容所内を駆け巡る。通り抜けた各所にジェンタイルや魔物の幻影を残しながら。
当然、ジェンタイルを発見した、殺害したとの報告が無数に錯綜する事になる。
ブレインたる隊長がいかに優秀でも、収容所の全域を一人で監視出来る訳ではない。
受容器官の役割を担う部下達を騙せば、必然的に隊長をも騙す事に繋がる。
幻術を完全に看破する刃の魔法を持つ隊長にも、どの報告が真実なのかは分からない。

「さあ、今の部隊編成じゃ全ての幻影に対応出来ないよ。
 君のような管理者は常に全ての『可能性』を想定する必要がある。『最悪の場合』をね。
 この幻影騒ぎに紛れて、ジェンタイルがたった一匹でも悪魔を連れ出してしまったら? ……魔導科学の復活だ」

そうなってしまえば、反ロスチャイルド活動は更に激化する。
単純に可能なテロ行為の幅が広がる上に、
再び魔導科学による高水準の生活を享受したいと思う人間は少なからず存在するのだから。

故に警備隊長は、その『最悪の場合』を真っ先に潰す必要がある。
無数の幻影一つ一つを、ロスチャイルド政権転覆の可能性と見立てなくてはならない。
となれば、すべき事は一つだ。
出動させた部隊を更に細分化させて、収容所全域に行き渡らせるしかない。


150 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/25(火) 22:55:18.43 ID:ithwHZbb
「そうなると、まあ部隊は最小単位であるツーマンセルが好ましいよね。
 その上で、隊長様が自己評価をどうするのかだけど……」

自分が実力者である事を自負して単独行動に出るか、
それとも例外を設ける事はなくツーマンセルを徹底するか。
それは策謀でもどうにもならない、運否天賦の領域だ。

そして結果は――前者だった。
とは言え、その理由は単なる驕りではないようだ。
あくまでも、広すぎる収容所から出来る限り『最悪の場合』を排除する為の判断らしい。
事前に副隊長に、自分が行動不能になった場合は精霊を通じて伝える為その後の指揮を取るよう命じて、
『自分が襲撃され敗北する可能性』に対しても抜かりなく手を打っていた。

「……お待たせジェンタイル。君の望む舞台を整えたよ。
 だから、今度は君が頑張る番だ。あの差別主義者に鉛玉と精霊の鉄槌を加えてやってくれ。
 勿論私も手を貸すつもりではいるけど――やれるよね?」


>堕天使の容態はどうだ?

堕天使の傍で屈み込んでいたゴーレムは、メタルクウラの声を受けて立ち上がる。
他の魔物達は既に、それぞれの役目を得て動き出したようだ。

「ひとまず、体の石化は止まりましたが……それだけです。
 石化した部分も、損壊した箇所も再生しません。
 魔力は十分に注ぎましたが……もうそれを使って再生する余力すらないのでしょう」

ゴーレムは友達の惨事を見せたくないと言いたげな所作で、堕天使を隠す。

「堕天使ちゃんの体力がほんの僅かにでも回復すれば、きっとすぐに再生出来る筈です。
 ですが体力が戻らなければ、きっとまた石化が再開します。その時はもう、止められません。
 いずれにしても時間の問題です。出来る事は全てしました」

そして右足を軸に一回転、ステップを六度、床に魔法陣を描く。
周囲にゴーレムの分身が生まれ、また床に極細い切れ目が走った。

「新たに地下室を作り出しました。堕天使ちゃんはここに隠して、私達の分身で守ります。
 堕天使ちゃんの容態が変化した時、すぐに対処出来るように」

分身が堕天使を地下室に運び込むのを見届けると、ゴーレムは改めてメタルクウラに向き直る。

「では、これからの行動について話しましょう。
 結論から言うと、私達はこれから悪魔達が収容された監獄に向かうべきです。
 理由は向かいながら話しますから、付いて来て下さい」

ジェンタイルから受け取った施設の見取り図を頼りに走り出す。
途中で何人かの警備兵に遭遇したが、人数が少ない為容易く撃破出来た。

「今の状況で相手が何としても避けるべき『最悪』は、悪魔達の脱走です。
 ならば、それを防ぐ為に最も効果的な手段とはなんでしょうか。侵入者の排除、確かにそれも一つの手です。
 ですが最善手は、もっとも確実な手は――殺してしまう事です」

侵入者ではなく、助け出そうとしている悪魔を、だ。
ここは元々、重要な作業をさせるべく作られた場所ではない。
単に悪魔を痛めつけ、あわよくば魔導科学の知識を聞き出す為の施設だ。
それが叶わず、あまつさえ魔導科学を反政府組織に流出させてしまうくらいならば、
いっそ悪魔達を皆殺しにしてしまった方が遥かに効率的だ。

151 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/25(火) 22:56:24.67 ID:ithwHZbb
「急いで彼らを助け出しましょう。貴方は上から、私は下から……」

言い終えるのを待たずして、不意にゴーレムは視界の外に魔力を感じた。
凶暴で、爆発的な魔力の発生――咄嗟に振り返く。
男がいた。長めの茶髪を無造作に跳ね上がらせた、若く、不遜な面持ちの男だった。
男の周りには圧縮された紅蓮の球体が踊っていた。爆裂魔法による防御陣だ。
接触すれば指向性を持った爆風が相手を吹き飛ばし、攻撃と防御を両立させる。
男は爆精霊との契約者であり、警備兵の副隊長だった。

「おーっと危ねえ危ねえ! どうやら間に合ったようで何よりだわ!
 わりーけどさぁ、俺らとしちゃそいつらを逃がされると困っちゃう訳よ。
 別に悪魔がどうとか人間がどうとか興味ねーけどよぉ、なんつっても今の暮らしは快適なんでね」

軽薄な口調と共に、男が両手を宙に泳がせる。
防御陣とは別に、攻撃に用いる爆裂弾が幾つも作り出された。
ゴーレムが身構える。直撃すれば大破は免れない。
ならば選択肢は――そこで、思考が一瞬硬直した。

「あちゃー、気付いちゃったか。そう言う事よ。
 右も左も監房だらけなんだ。避けりゃ間違いなく、どっかの悪魔が吹っ飛ぶだろうなぁ。
 そんじゃま、いつまで堪えられるか試してみようぜ!」

言葉と同時、無数の爆裂弾がゴーレムとメタルクウラ目掛けて放たれる。
ゴーレムは分身を生み出し、盾にする事で爆裂弾の直撃を辛うじて避けた。
それでも分身の破片や爆風までもは避けられない。
防御を繰り返すに連れて、徐々に損壊は増えていく。

ふと、爆撃の合間を縫ってメタルクウラの傍に一体の分身が駆け寄った。

『伝言です。このままではジリ貧です。貴方は、あの男とまともにやり合えば勝てると思いますか?
 あるのなら、そうして下さい。自信がないのなら……援軍を呼んできて下さい。
 いずれの場合も、監房への爆撃は私が分身で凌ぎますから』

152 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/26(水) 01:36:48.19 ID:+x6tG3RB
>「ひとまず、体の石化は止まりましたが……それだけです。
〜省略〜
> いずれにしても時間の問題です。出来る事は全てしました」
堕天使の体の石化は一応止まったようだ。
しかし、体力が回復しなければ体の部位は再生することができない上に、石化まで再発してしまう。
私では堕天使の体力を回復する術など無い。
こんな時にローゼンさえいてくれればと、私は強く思った。

>「では、これからの行動について話しましょう。
> 結論から言うと、私達はこれから悪魔達が収容された監獄に向かうべきです。
> 理由は向かいながら話しますから、付いて来て下さい」
堕天使をゴーレムが新たに生み出した地下室に隠した後、私達は監獄への道を走る。
途中で何人かの警備兵とも出会ったが、軽く一蹴させてもらった。

>「今の状況で相手が何としても避けるべき『最悪』は、悪魔達の脱走です。
> ならば、それを防ぐ為に最も効果的な手段とはなんでしょうか。侵入者の排除、確かにそれも一つの手です。
> ですが最善手は、もっとも確実な手は――殺してしまう事です」

「私の存在が裏目に出てしまうな……
私が瞬間移動を使えることを奴らが知ってるならば、奴らは私よりも確実に始末できる悪魔達を真っ先に狙うはずだ」

>「急いで彼らを助け出しましょう。貴方は上から、私は下から……」
ゴーレムが台詞を言い終えようとして、急に後ろを振り向くので、私も後ろを振り返ってみた。
途中で出会った警備兵達とは段違いの戦闘力を持つ男がいた。

>「おーっと危ねえ危ねえ! どうやら間に合ったようで何よりだわ!
> わりーけどさぁ、俺らとしちゃそいつらを逃がされると困っちゃう訳よ。
> 別に悪魔がどうとか人間がどうとか興味ねーけどよぉ、なんつっても今の暮らしは快適なんでね」
やはり、偶然にもこの場所で出会ったのではなく、悪魔達を狙ったがための必然の出会いだったようだ。
男は魔法弾を次々と生成していく。

153 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/26(水) 01:37:22.13 ID:+x6tG3RB
>「あちゃー、気付いちゃったか。そう言う事よ。
> 右も左も監房だらけなんだ。避けりゃ間違いなく、どっかの悪魔が吹っ飛ぶだろうなぁ。
> そんじゃま、いつまで堪えられるか試してみようぜ!」
どういうことだと私は疑問に思ったが、それはすぐに理解することとなった。
爆発の嵐である。
私は即座にエネルギーを高めてバリアを張るが、爆発の負荷が思いの外強く、いつまで持つかわからない。
ゴーレムの方も分身を盾にして防いではいるが、余波によってその身が削られていく。
この状況をどう変えていくかと考えていると、ゴーレムの分身が私に近づいてきた。

>『伝言です。このままではジリ貧です。貴方は、あの男とまともにやり合えば勝てると思いますか?
> あるのなら、そうして下さい。自信がないのなら……援軍を呼んできて下さい。
> いずれの場合も、監房への爆撃は私が分身で凌ぎますから』

「正面からの戦いで勝つ自信はあるが、その場合はあいつの能力と私の攻撃の余波で監獄がどうなるかわからないな……
あいつを瞬殺できる援軍を呼ぶとしても、これほどの爆発の嵐だ。
お前の身が持たないだろう?」
それに私と一緒に新作に出演した自称悪魔のBさんを連れてきたら、色々とハチャメチャが押し寄せてきそうな気がする。

「少しだけ耐えてくれ」
私はゴーレムの分身にそう言うと、瞬間移動で爆発を操る男の後ろに出現。
男に触れようとして防御の魔法に腕を吹き飛ばされるも、腕を再生するために生やしたコードで男を捕らえて、私は男と共に瞬間移動をした。

「大丈夫だったか?」
頭だけとなった私はゴーレムの目の前に瞬間移動で現れ、首から再生のためにコードを生やしながらゴーレムに聞いた。

「私の方はあの男を太陽にぶち込んだため、この有り様だ。
悪魔達の救出には再生が終わるまで加われん。
お前の分身で救出してきてくれないか?」

154 :創る名無しに見る名無し:2011/10/27(木) 00:32:21.57 ID:NEVcnTAh
>>150
「たいちょーう、本当にいいのかよ?
カワイ子ちゃんを一人にするのは俺のポリシーに反するぜ」

単独行動を選択した隊長に、副隊長が声をかけた。
言葉とは裏腹に、全く心配していそうではない。

「見くびってくれるな、私は貴様とは違う。
我が刃はまやかしを、偽りの夢幻を断ち切るためにある」



一人の剣士が、ジェンタイルのもとに歩いてくる。
薄紅色の唇は、涼やかな笑みを浮かべているようにも見える。

「見つけた。お見事だったね、随分と振り回されたよ」

鋭利な刃そのもののような、怜悧な声。
歩調に合わせて揺れる肩ほどまでの髪は、研ぎ澄まされた刀身のような黒銀。

「だが……そのような欺瞞が私に通じると思うな。
甘美な幻想に捕らわれているのは貴様の方だ。断ち切れ、刃の精霊《ジン》!」

流麗に剣を抜き放ちそのまま一閃する。
世界の表面に被せられた絵画がバラバラに切り刻まれるように、ジェンタイルにかけられていた幻術が霧消する――。

155 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/27(木) 02:38:54.49 ID:Iajq9PHt
>「君がやれって言ったんだ。やらない訳にはいかないよね。ちょっと、待っていてよ。――頑張るからさ」

そして妖狐は頑張った。
部隊という団体行動の最大単位に付け込んだ幻術のロジックは、『虱潰し』という戦術を端から崩壊させていく。
蟻の穴から堤が崩れていくように、次第に隊長へと届けられる情報の信頼性が目減りしていく――!
やるじゃん、妖狐。俺たちは、隊長とサシでやり合うチャンスを得た。

>「……お待たせジェンタイル。君の望む舞台を整えたよ。
 だから、今度は君が頑張る番だ。あの差別主義者に鉛玉と精霊の鉄槌を加えてやってくれ。
 勿論私も手を貸すつもりではいるけど――やれるよね?」

「お前がやれるっつったんだ、やれないわけがないんだぜ
 ――行くぞ、上から目線の説教野郎を朝礼台から引きずり下ろしてやる」

さて、鉄槌を下すといってもやることは闇討ちだ。
プロの戦闘屋相手にタイマン張りにいくほど俺は短慮じゃないし、なにより正義の味方じゃない。
暗殺、闇討ち、大変結構。楽しく暮らせる未来のためなら正義も大義も二の次だ。

一人になった隊長は、手下たちの捜索ルートを巡回することにしたようだ。
小学校という施設の都合上、ここには死角が多い。闇討ちには最適だが尾行には最悪の条件だ。
感づかれれば豊富に存在する死角を使って撒かれやすいし、土地勘がある分こっちが罠にかけられかねない。
だから、対象がフリーなのを確認したら速攻刺しに行くのがこういう場所での正しい暗殺のやり方だ。
とは言っても、あんな馬鹿でかい体したオッサンを見失うなんてことはそうそうないだろうから、この点について心配は――

>「見つけた。お見事だったね、随分と振り回されたよ」

殺風景な廊下で隊長をつけ歩く、俺の後方。
誰もいないことを確認したはずのエリアから、突然声が投げられた。
反射的に傍の壁を背にして振り向けば、一人の剣士がこっちにむかって悠然と歩み寄ってきた。

長い黒髪は風もないのにゆらりと揺れ、腰に佩いた太刀からは滾るような精霊魔力が充溢している。
ぶらぶら歩いてるだけなのに、体の正中線は驚くほどブレてない。いわゆる"只者じゃない歩き方"ってやつだ。
歩調のどのタイミングからでも踏み込みや回避行動に移れる、武術を納めた者の足運びである。

「オール・ハイル・ロスチャイルド。いかがなさいましたか!」

警備兵式の挨拶。この剣士が何者か知らないけれど、見るからに武人然とした外見から相当な腕利きと判断する。
そんでもって厳戒警備のこの施設に堂々と入り込んでるってことは、ロスチャイルド政権のお偉いさんと見て良いだろう。
充溢する精霊魔力は間違いなくハイレベルな精霊使いのものだ。
今の俺は警備兵に成りすまして捜索任務を仰せつかっている。あまり内情がよくわかってない新入りのフリをしてやり過ごせ!
俺は隊長を暗殺するのに忙しいんだ。

>「だが……そのような欺瞞が私に通じると思うな。」

剣士は、悠然と――当たり前のように、腰の刀の鯉口を切った。
チャリ……と鞘を滑った刀身が鈴のような音を立てた。済んだ音色が俺の耳に届いた刹那。

>「甘美な幻想に捕らわれているのは貴様の方だ。断ち切れ、刃の精霊《ジン》!」

一気に踏み込みが来た。
俺の半歩前の床を、剣士の右足が噛む。そこから逆袈裟に刃が登ってきた。
斬られる!と覚悟した俺の鼻先を刀の切っ先が駆け抜けていく。
伸びていた前髪がごっそり刈り取られていった。
パキィ!とガラスの膜が割れるように、俺の表面を覆っていた幻術のカモフラージュが切り裂かれる。

156 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/10/27(木) 02:41:13.82 ID:Iajq9PHt
「んなっ――」

今こいつ、なんて言った?それにこの、幻術解除――"禍断ち"のスキル。
刃精霊の精霊魔法――!!

どういうことだ、刃精霊の契約者は警備隊長だけのはず。
もう一人いた?――いや、刃精霊は戦闘系の中でも希少種だ。
精霊術は日常の中に発生する"現象"に精霊性を見出すアニミズム信仰の魔法体系。
"刃"のように、ヒトのつくりだした用途の限られている現象には信仰自体がマイノリティ。
『刃物はあくまでツール』という考え方が一般的だからだ。
刃精霊の契約者は、世界でも数えるほどしか存在しない。

ましてや、刃精霊は政権内でも希少な炎精霊の眷属である。
炎属性の俺が快勝し得る数少ない属性だけに、ロスチャイルド内の刃精霊契約者については入念な下調べをしてきた。
俺は、こんなやつ、知らない――

{オイオイオーイ!ビってんじゃねーよメーン、大方あのオッサンが隊長だと思ってたクチかァ?}

太刀が震え、声を作り出す。同じような原理を俺は温泉村で見たことがあった。
刃精霊が、媒体を通じて物理的に発声しているんだ。

{まんまと引っかかってやんのォ! 政権の幹部クラスが暗殺対策してねーわけがねーだろ!
 曇りなき刃は常世を映し出す鏡ってなァ、だったら"好きなように歪めて映しだす"のも朝飯前ってもんだァ!}

そうか、磨かれた刃の『映し出す』メソッドを応用した擬似幻術。
どこの藍染様だよってぐらいに、俺たちは幻術返しにあっていたんだ。あのガチムチオッサンはデコイ。
目の前の痩身の剣士こそが、警備本隊の真の隊長――!!

「つっても、お前アホだろ。こっちは初めからお前を孤立させるために手ェ打ってたんだ!
 ノコノコ一人で出てきてくれたなら予定に変更はねえ!スケジュール通りお前らの未来は暗殺だ!」

俺は警備隊支給のスタングレネードを地面に叩きつけた。
閃光が廊下を埋め尽くし、その隙に妖狐の脇を抱えて物陰の死角へ飛び込む。
さっきの雷精霊みたいな壁越しの不意打ちが怖いから、壁からできるだけ離れて妖狐と一緒に身を伏せた。

「やばいやばいやばいやばい!ぜんぜん見えなかったぞ初太刀!!幻術も効かねーって、どうすりゃいいんだ!」

もともとのプランが不意打ちだったから、こっそり近づいて射殺以外のパターンを考えてなかった。
暗殺ってのは、先に感づかれたらアウトなんだ。仕切り直すにしても、逃げ切れるかどうかすら怪しい。
つまり、ここで殺るか、殺られるか。逃亡も休戦もねえ、命のやりとりをしなくちゃならねえってことだ。
エストリスの、幹部クラス相手に――!

「妖狐、お前、幻術以外に何ができる?俺は銃を撃つことしかできねーから……多分あいつ、銃弾とか斬ってくるぞ」

精霊加護による火器補正は強力っちゃあ強力だが、重火器の通用しない一定以上の強者相手にほぼ無力なのが厳しいところだ。
ましてや、正面きっての対決。銃器っていうのは向い合って撃ちあうのには適してない。
現代の戦闘っていうのは、基本的に偵察合戦なんだ。
先に相手の底を見切り、より早く遠くから弾丸をぶち込んだ方の勝ち。
あんな、正体もよくわからねえバケモノ精霊使いと戦うような状況を想定していない。

「とにかくあいつの理不尽な超スピードと禍断ちスキルをどうにかして封じないとな。――えっと、やれるかな?」

1ターン前の頼もしさはどこへやら、俺はヘタレ全開でそう言った。

157 :創る名無しに見る名無し:2011/10/28(金) 03:24:13.68 ID:/oOvHdNo
>>156
>{まんまと引っかかってやんのォ! 政権の幹部クラスが暗殺対策してねーわけがねーだろ!
 曇りなき刃は常世を映し出す鏡ってなァ、だったら"好きなように歪めて映しだす"のも朝飯前ってもんだァ!}

「はぁ……少し黙っておけ、お前はお喋りが過ぎる」

得意げに偽隊長のからくりを垂れ流す刃精霊を窘める剣士。
その口ぶりからは、刃精霊とは長年連れ添った相方のような、相当に親しい間柄なのが伺える。

>「つっても、お前アホだろ。こっちは初めからお前を孤立させるために手ェ打ってたんだ!
 ノコノコ一人で出てきてくれたなら予定に変更はねえ!スケジュール通りお前らの未来は暗殺だ!」

爆裂と閃光――ジェンタイルの投げたスタングレネードが炸裂する。
その威力は炎精霊の加護によって、通常の何倍にも増幅されている。

{やっべえよブレイド! 炎精霊の契約者だ――それもキャパがとてつもなくパネえぜ!}

「少しは骨がある相手ということか。ならば最初から手を抜かずに行くのが礼儀だ」

言葉とは裏腹にどこか楽しげな刃精霊に、ブレイドと呼ばれた警備隊長が落ち着き払った声音で応える。

「霊装――『政剣伝説《ソードワールド》』!!」

硝煙の中で声が響き渡る。剣――それは古来より、支配の正当性の象徴。
そして古来、政を司るのは、神に祈りを捧げその声を聞き受ける巫女であった。
剣士然とした軽鎧姿から一転、一見およそ戦場には場違いな、神秘的な舞踏装束と化す。
が、周囲の空間に浮遊する、魔力で出来た無数の刃が攻防一体の無敵の戦闘装束を形成している。
手の中の剣は、やはり豪奢な宝剣へと変化している。
剣の巫女とも言うべき姿となった警備隊長は、物陰に隠れているであろうジェンタイル達に向かって名乗りをあげた。

「どこからでもかかって来るがいい、まやかしの希望に捕らわれし者よ。
その幻想、”剣姫”ブレイドが直々に断ち切ってやろう!」

158 :創る名無しに見る名無し:2011/10/28(金) 04:24:20.21 ID:jl9kJ5TU
と、かつての栄光の幻覚に溺れた精神異常者が収容所とはまるで関係のない場所で騒いでいた

159 :創る名無しに見る名無し:2011/10/29(土) 01:03:23.75 ID:GYAscGgC
>>157
「……ふん、出てこないつもりか! ならばこちらから行くぞ!」

いつまでも出てこないジェンタイル達に業を煮やしたのか、警備隊長は腕を振り上げた。
周囲の空間に浮遊する魔力の刃が一斉に踊り狂い、斬撃の嵐を起こす。
刃は壁も物影も関係なく全てを切り刻んでいく。

「ははは! どうした! 早く炎精霊の力を見せてみろ! さもなくばここで死ぬだけだぞ!」

嵐の中心で警備隊長は高笑いする。
隙間のない刃は恐ろしい範囲攻撃であると同時に、絶対の防御壁なのだ!

「――いいや! 死にはしない!」

だが突如、その防御壁の内側に一筋の流星が飛び込んだ。
いや流星ではない。閃光のように素早く警備隊長へと飛び蹴りをかましたそれは、まごう事なき人間の姿をしていた。
鋭い蹴りは当たるする寸前に回避されたが、警備隊長の集中を切らせて刃の嵐を解除させた。

「……私の防御壁に飛び込んでこられるとは、驚いたな。何者だ?」

「私は……『光の体現者』! この世界に満ちた闇を祓う者! そして――」

物影に隠れたジェンタイル達の位置が分かっているのか、光の体現者は彼らを振り返る。

「君達の味方さ! 私は君達を助けに来たんだ! さあ一緒に戦おう!
 大丈夫! 君と私が手を組めば誰にだって勝てるさ!」

160 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/30(日) 21:23:18.38 ID:36rynFyJ
>私の方はあの男を太陽にぶち込んだため、この有り様だ。
 悪魔達の救出には再生が終わるまで加われん。
 お前の分身で救出してきてくれないか?

「太陽……まったく、無茶をしますね。ですが、おかげ様で活動に支障はありません」

ゴーレムは言われた通りに分身を作り出し、監獄に向かわせる。
そうして自分自身も作業に加わろうと歩き出した所で、不意に体が『重くなった』。
攻撃を受けた訳ではない。むしろ逆だ。
先の爆撃で損壊した体が完全に元通りになっていた。重くなったのは、質量が増えた為だ。
だが一体何故か、分からない。
それでも反射的に背後を振り返り、けれどもそこにメタルクウラはいなかった。
代わりに殺された筈の副隊長がいた。
獰猛で悪辣な笑みを浮かべながら、爆裂魔法をゴーレムに向けていた。
紅色が閃く。何が起こったのか理解出来ず、ゴーレムの反応が遅れた。
紅の閃光はゴーレムに直撃して、右肩を跡形もなく吹き飛ばした。
根元を失った右腕が、余波で副隊長の足元に飛ばされる。

「どかーん、ってな。いいねぇその顔、何が起きたのか理解出来ねえってツラだ。
 確かに死んだ筈、殺した筈なのにってなぁ」

副隊長は愉快そうに、嗜虐的に笑う。

「いいぜ、教えてやるよ。俺が何をしたのか、どうせ分かった所で破りようのねえ能力だ」

そして足元のゴーレムの右腕を拾い上げた。
軽く握り締める。魔力の発現、紅の発光。

「そもそも俺の爆精霊が顕現するのは『爆破』。つまり――全てを『跡形もなく』する現象だ」

直後に右腕が弾けて消滅した。
空っぽになった右手を戯れるように踊らせる。

「こんな感じにな」

副隊長が不遜な笑みを浮かべた。
続く言葉を、絶望と共に深く心に刻み込めと言わんばかりに、

「――そして俺は『時間』だって、『跡形もなく吹き飛ばせる』」

絶対の自信を以って宣言した能力は、因果の完全破壊だった。
『自分が敵と遭遇してから殺されるまでの時間』を、副隊長は爆破したのだ。
故にゴーレムの損壊もメタルクウラの位置も、全てが元通りにされた。

「ウチの隊長殿はまた堅苦しいお方でよぉ。
 「どんな時も最悪の可能性から目を逸らすな」とか、
 漫画のキャラ付けかよってくらいしつこく言ってくんのよ」

渋い声色と堅い表情で隊長を真似ながら、愚痴を吐く。
完全に遊んでいる。それだけ自分の『爆破』がほぼ無敵だと、自負しているのだ。

「でもな、俺にはそんな必要ねーのさ。これから先オメーらが何をしようと関係ねえ。
 俺は自分に都合の悪い事は、全部跡形もなく吹っ飛ばせんだからな」

もっとも、あくまでも『ほぼ』である事を彼は忘れたりはしない。
例えば警備隊長の刃精霊ならば生と死の因果関係を断ち切る事すら出来る。
そうなってしまえば、最早何をしようとも死から生への逆転は叶わない。
もっと単純な弱点も、一つ二つ存在する。

161 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/30(日) 21:23:53.81 ID:36rynFyJ
「分かるか? 俺と爆精霊は無敵のコンビだ」

だからこそ副隊長は自分の能力をあえて説明したのだ。
絶対に敵わない無敵の能力であると、相手が余計な気を回す前に強く印象付ける為に。

「さて、と。お喋りはこの辺にして……第二ラウンドと行こうぜ。
 俺が勝つまで、何度だってリセットボタンを押させてもらうけどよ」

前回の教訓を活かして防御陣を二重三重に展開してから、再び爆撃を始める。
紅の光が間隙なく、逆巻く怒涛のごとく放たれた。
矛先は殆ど全てがメタルクウラへと集中している。

「とりあえず、ヤバいのはそっちだって学ばせてもらったんでね。
 まずはオメーから吹っ飛ばさせてもらうぜ!」



「――あり得ません、無敵の能力など。少なくともあの男の『爆破』には、弱点があります」

右肩を爆破されて跪いたゴーレムが、小さく呟いた。
残った左手で床に魔法陣を描き、分身を作り出す。

「弱点は……少なくとも三つ。なんとか、あの方に伝えなくては……」

【まあジェンタイル&妖狐VS隊長が終わるまで、ちょっとばかし付き合って下さいな
 VS隊長戦の進行に対応する形で副隊長も負けるつもりです】

162 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/30(日) 21:24:27.62 ID:36rynFyJ
――警備隊長の正体は巨漢ではなく、怜悧な容貌をした痩躯の剣士だった。
刃精霊の魔法を使い、幻を映し出していたのだ。
卓越した剣術の使い手が相手で、こちらの得物は銃、ジェンタイルの判断は早かった。
閃光手榴弾を放つと同時に一時撤退、物影へと逃げ込む。

>「やばいやばいやばいやばい!ぜんぜん見えなかったぞ初太刀!!幻術も効かねーって、どうすりゃいいんだ!」
>「妖狐、お前、幻術以外に何ができる?俺は銃を撃つことしかできねーから……多分あいつ、銃弾とか斬ってくるぞ」
>「とにかくあいつの理不尽な超スピードと禍断ちスキルをどうにかして封じないとな。――えっと、やれるかな?」

完全に狼狽に飲み込まれたジェンタイルの問いに、返答はない。
妖狐は唇を切れて血が滴るほど強く噛み、狂気すら垣間見えるほどの憎悪で目を見開いていた。

「よくも……よくも騙したな。私を騙すだなんて許せない、許せない、許せない、許せない!絶対に許してやるもんかッ!」

妖狐からすれば、警備隊長の幻術は不愉快極まりないものだった。
精霊魔法は特殊で、使い手を相手にした経験が殆どない。当初の目的自体は達成している。
言い訳は幾らでもある。だがどれだけそれを連ねた所で、自分が騙されたと言う事実は決して塗り潰せない。
騙す事を能とする自分が騙された。これ以上ない屈辱だった。

>>157>>159

「……なんだい、二度も同じ手を私に食わそうってのかい? 舐めてんじゃないよ、ムカつくなぁ!
 ヘイ、ジェンタイル。まさかあんな甘ったるい幻想にほいほいと釣られやしないだろうね」

警備隊長の作り出した幻術を、自身の幻術スキルで上塗りして掻き消した。
剣の巫女や光の体現者などいる訳がない。
全ては物影に隠れたジェンタイルを誘き出す為の、甘い罠だ。

「さておき……ごめんごめん。ちょっと見苦しいとこ見せちゃったかな。
 で、なんだっけ? 幻術以外に何が出来るか、だっけ」

口調は普段通り、だが声色からは感情による抑揚が完全に排されていた。

「何も、だよ。私の能はあくまで幻術と変化だけさ」

迷いも気後れもなく、憎悪の裏に絶対の自信を秘めた、鋭利を極めた声で答える。

「……それより君こそ、なんで炎精霊の力を使わないんだい」

加えてかねてからの疑問を突きつけた。
とは言え、答えを待って納得を得ている暇はない。

「まぁいいさ。絶体絶命のピンチだろうと関係ない。
 土壇場で出来る事が増えるなんて少年ジャンプみたいな真似、誰がしてやるもんか」

そして、宣言した。

「――私はこの幻術だけで、あいつに勝ってみせる」

両手の爪を解き放ち、体勢を低くした。
獣が獲物に飛びかかる際の予備動作に酷似した動きだ。

「ところでさジェンタイル。私達はあいつを暗殺するつもりだったんだよね。
 じゃあ暗殺ってどういう意味だと思う?
 答えはね、政治的宗教的な利益の為に要人を殺害する事なんだ」

言い終えると同時に――妖狐は物影から飛び出した。
溜め込んだ脚力を瞬時に爆発させて、猛然と警備隊長へ襲い掛かる。
更に幻影の分身を多重展開、全方位からの一斉攻撃だ。

163 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/10/30(日) 21:25:05.11 ID:36rynFyJ
「だから真正面からブッ刺したって! 立派な暗殺なのさッ! く、た、ば、れぇえええええええええええッ!!」

激昂の叫び声を上げる妖狐に対して、警備隊長は冷静だった。
酷く冷静に、冷徹に、ただ自分に迫る全ての妖狐を一瞬の内に切り裂いた。
一刀両断された幻影が消え去っていく。
幻影一つ一つが『最悪の可能性』を意味しているのなら、一つ残らず切り捨てるまで。
あまりに単純で、故に恐ろしく隙のない対応だった。

けれども切り裂かれた妖狐の中に――本物はいなかった。
人間は選択肢を提示されると、選べる道はそれが全てだと思い込む性質を持っている。
それを利用した、誤前提暗示という騙しの技術だ。

妖狐は警備隊長の頭上にいた。
意識を幻影の包囲網に集中させた上で、死角から正真正銘の『暗殺』。

「影が、見えておるぞ」

それさえも、警備隊長は容易く看破した。
神速の刃が頭上の妖狐を貫き、

『だからどうした』

それさえも幻影だった。消去法の中に正解がある事を前提としがちな人間の心理を突いた。
幻は消え去り、それを被せて『隠してあった物』が露わになる。
既にピンが抜けて安全レバーも外れた破片手榴弾が、警備隊長の目の前にやってきた。



――そして警備隊長がその手榴弾を凌いだとしても。
一つ、『可能性』が残る事になる。
結局、本物の妖狐は未だにどこかに隠れ、警備隊長の認識の外にいて、次なる手を画策している可能性が。

164 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/10/31(月) 00:37:11.67 ID:lShzrOHx
ゴーレムが分身を生み出し、監獄に向かわせていたのを私は見ていた。
そう、確かに見ていたのだ。
しかし、私の視界には何も無く、ただ廊下が映っているだけ。
おまけに体全体が再生しており、後ろには私が太陽にぶち込んでやった男の生命反応まである。
私が振り返って男を見れば、男が爆発魔法を放っていた。
隣にいるゴーレムの右肩が吹き飛び、爆発の余波が私の体を熱した。

>「どかーん、ってな。いいねぇその顔、何が起きたのか理解出来ねえってツラだ。
> 確かに死んだ筈、殺した筈なのにってなぁ」
男は私達の唖然とした表情を笑い、勝手に自身の能力を説明し、実際に見せてきた。
ゴーレムの右腕が男の手によって消滅する。

>「さて、と。お喋りはこの辺にして……第二ラウンドと行こうぜ。
> 俺が勝つまで、何度だってリセットボタンを押させてもらうけどよ」

「ならば覚えておくがいい。
この世には何度リセットとしてもクリアできないゲームがあるということをな」
先よりも男の攻撃は激しさを増し、私を集中的に狙ってきている。
私は指先から小さなエネルギー弾を機関銃のように発射し、男の爆発魔法に当てることで直撃を防いでいる。
バリアで防いでも、奴の攻撃力なら少しの時間で突破され、直撃してしまう。
だが、エネルギー弾で全ての魔法を撃ち落とすのならば、こちらが貰うのは爆発の余波だけ。
余波だけならば、私の体には何の影響も出ない。
しかし、このまま防ぎ続けていても、膠着状態が続くだけ。
もしも、向こうに増援が来てしまえば、奴に足止めをされている内に、捕まっている悪魔達が殺されてしまう。

「何だ?」
その膠着状態の中で、ゴーレムの分身が私に近づいて、何かを伝えようと口を開いた。
その内容とは……

165 :創る名無しに見る名無し:2011/10/31(月) 23:58:01.11 ID:bhDvBSne
>>163
警備隊長の目の前に、手榴弾が迫る。

「――slash――!!」

顔に当たる直前、その手に持つ剣が、自らの目の前擦れ擦れの空間を切り裂いた。
その瞬間、手榴弾が忽然と姿を消した。
剣を顔の前に掲げたまま、どこかに隠れているかもしれない本物の妖狐に向けて投げかける。

「お友達は放っておいていいのか? たとえ人間であっても反逆者は容赦なく殺すぞ」

刃を翻し、もう一度鋭く剣を閃かせると、先刻妖狐が出て来た物陰に、手榴弾が現れた。
刃精霊は、空間すらも切り裂く。
空間に裂け目に手榴弾を取り込み、別の場所に出口を開く事によって、手榴弾を移動させたのだ。

166 :創る名無しに見る名無し:2011/11/01(火) 16:56:29.91 ID:gEs1uQew
自分のすぐ傍の空間が切れるのはまだ分かるんですけど
なんで目視も出来ない離れた場所の空間まで切れるんですか?
そんな芸当が出来るならわざわざ手榴弾移動させなくても無差別に物影切っていけば早い話ですよね
警備隊長が気を使って手加減してくれているんですか?
お約束なんだから突っ込むのも野暮だったりします?

167 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/01(火) 19:50:20.05 ID:JvejkT8K
>「霊装――『政剣伝説《ソードワールド》』!!」

物陰に隠れて様子を見る俺達へ、しびれを切らしたのか警備隊長は吠えた。
刃属性の精霊光は彼女を包み、攻撃意志によって縛られた精霊魔力がその身に着定。
エストリスの精霊戦闘術――霊装。剣の巫女として顕現した刃精霊の剣棚が、まるで翼みたいに展開した。

「おいおい……よりにもよって『領域級』かよッ!」

世界がまだ魔王に支配されていた頃、俺もまた修道院でロスチャイルドに師事していた。
座学で叩きこまれた内容を頭の片隅から引っ張り出すに、霊装には展開規模に合わせていくつかの段階が存在する。

マーガレットや女教師が使っていたような身に纏うタイプの小規模なものを『武装級』。
そして――眼の前の隊長のように、術者の身体を中心にした一定領域へ展開できる『領域級』。
展開範囲の広さはそのまま攻防の制圧圏だ。領域型のほうがより高い練度を必要とし、当然――より強力な霊装である。

>「どこからでもかかって来るがいい、まやかしの希望に捕らわれし者よ。
  その幻想、”剣姫”ブレイドが直々に断ち切ってやろう!」

言われるままにノコノコ出てけばその場でなます斬りは確定だろう。
とくに地形との相性が最悪だ。狭い通路で領域型は凶悪な威力を発揮し、逆にこちらのアドバンテージ(死角)は役に立たない。
文字通り剣にも盾にもなる攻防一体の『砦』。それが領域級に達する霊装使いの戦闘力だ。

>「よくも……よくも騙したな。私を騙すだなんて許せない、許せない、許せない、許せない!絶対に許してやるもんかッ!」

頼みの妖狐はずっとこんな感じだし。
化かしの専門家であるこいつにとって、株を奪われるのは一番プライドに障るんだろう。
冷静さをが戦闘力に直結する設定とはなんだったのか。いや、その設定生きてたらかなりヤバい状況なんだけども。

「落ち着けよ、お前は実際かなり上手くやってる。敵が意味不明に強すぎるだけだ」

この物陰もいつまで保つか分かったもんじゃない。
フラッシュグレネードで目眩ましをしたから、俺たちがここに隠れてるのはバレてないはずだが……。
それでも、あの超火力に付近一帯をハチの巣にされればバリケードなんてあってないようなもんだ。
ほら、今すぐにでも刃の嵐が――

>「――いいや! 死にはしない!」
>「私は……『光の体現者』! この世界に満ちた闇を祓う者! そして――」
>「君達の味方さ! 私は君達を助けに来たんだ! さあ一緒に戦おう!

何者かが俺たちの戦場に介入してきた。
光の体現者を名乗るそいつは、俺のほうを振り返り――わっ馬鹿!こっちの位置がバレんだろうが!
俺はぎょっとした。光の体現者は、そのまま光そのものだった。振り返ったその顔面に、目も鼻もない。
発光するペプシマンみたいな存在が、のっぺらぼうみたいな視線で俺を射抜いていた。

>「ヘイ、ジェンタイル。まさかあんな甘ったるい幻想にほいほいと釣られやしないだろうね」

ザァっと風に攫われる落ち葉のように、目の前で展開されていた光景が塗り替えられる。
光の体現者は石を投げた水面みたいにゆらりとそのかたちを失っていった。
幻……術……?これもあの警備隊長の魔法なのか。光の体現者から感じる魔力の波長は、酷く懐かしいものに思えた。

168 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/01(火) 19:52:14.46 ID:JvejkT8K
>「で、なんだっけ? 幻術以外に何が出来るか、だっけ」
>「何も、だよ。私の能はあくまで幻術と変化だけさ」

「なんでドヤ顔!? なにも自慢になってねーよ!」

こいつらモンスターがどういう生物なのか俺は未だによく分かってないけど、
俺たちの魔法と違ってこいつらの能力は『種族特性』だ。修練で磨くことはできても、新しい能力を身につけることはそうそうない。
妖狐は幻術使いで、やっぱり幻術しか使えないのだ。

>「……それより君こそ、なんで炎精霊の力を使わないんだい」

「………………っ!」

俺は、応えられなかった。
精霊加護は生きてるけれど、俺は魔法を使えない。炎精霊の声も、もう半年近く聞いてない。
あの時――魔王を殺し、ローゼンと別れたあの日から、俺の中で何かが決定的に変わってしまった。
自転車のギアを一段階変えるみたいに、俺の人生は加速して、代わりにゆっくりと風景を楽しむ余裕が消え去った。

『対価』の喪失。それによる債務不履行。炎精霊との契約は最低限の加護を残して差し押さえられ続けてる。
何かを失って、失って、失って。魔法という力を切り捨て、戦い続けることにのみ特化した人間へと自分を変えちまった。
後悔なんかあるわけない。俺は俺の人生を、中途半端で終わらせたくないんだ。

>「――私はこの幻術だけで、あいつに勝ってみせる」

「おう。あいつらの現実なんか、俺たちの妄想で叩き潰してやろうぜ」

妖狐は身に秘めた獣性を開放し、狐まっしぐらに駆け出した。
俺はフォローに回るため、あいつとは逆の方向へとまろび出る。

>「く、た、ば、れぇえええええええええええッ!!」

妖狐が幻術破りを逆手に取ったトリックで警備隊長の眼前へと手榴弾を届けていく。
無論、一撃でくたばるような相手じゃないだろう。俺は破片を防ぎつつ隊長を狙える位置へと飛び込んだ。
アサルトライフルの照準を、敵の眉間に合わせて――

>「――slash――!!」

隊長が剣を一振り、それだけで手榴弾は消え去った。
切り飛ばしたか?いや、魔力による次元断裂!霊装ってのはあんな芸当までできるのかよ!

>「お友達は放っておいていいのか? たとえ人間であっても反逆者は容赦なく殺すぞ」

そして、俺の傍へと手榴弾が落ちてきた。
当然、レバーは取れていて。中で信管が作動するチャリっという音まで聞こえてくる、至近距離。

169 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/01(火) 19:55:48.67 ID:JvejkT8K
「うおおおおおおおおおおおお!?」

瞬間的な判断で、俺は右手で手榴弾を鷲掴みにした。
炎精霊の加護が手榴弾を支配し、炸薬の起爆を遅滞させる。安堵も束の間、俺はそれを隊長の方へと放り投げた。
加護込みで威力二倍増しの手榴弾が、俺と隊長との中間地点で爆発する。
どうせ投げ返してもまた斬られるだけだから、攻撃じゃなく目眩ましに使う。

「妖狐!『援護頼む』!」

って言うのはブラフだ。本当の指示はハンドサインによる『構ワズ進メ』。
視覚を遮りながら隊長にも聞こえるように妖狐への援護要請をすることで、攻撃警戒を俺一人に絞らせる。
爆発による煙幕を突き抜けて、俺は隊長の刃圏へと潜り込んだ。

右手には大口径のリボルバー。命中率は最悪だが威力に特化した愛銃に込めるのは炸裂弾頭。
着弾した直後に爆発する対装甲仕様の弾丸を、命中率なんか関係ない至近距離から叩き込むために。

{ ッハ!思い出したゼその戦術!テメエ、"フリントロック"のジェンタイルだな!? 
 ブレイドぉ、大物が釣れたぞ!ユグドラシル革命戦線のウジ虫どものリーダーじゃねえか!
 草の根活動ご苦労様なテメエがなんだってこんな前線に出てきてやがるんだァ?}

「久しぶりに旧いお友達と会って舞い上がってんだよ!」

{ ウチは同窓会場じゃねえんだヨ!あの世でぬくぬく旧交温めあってろ!}

引き金を引いて一撃必殺の弾丸を撃発。
放たれた弾丸を、隊長の太刀が喰らいつく。瞬間、俺の右横から破片を伴う爆風が吹き荒れた。

「っが――!」

横合いに殴られて地面を転がる。今のは俺の炸裂弾頭――爆発そのものを送り返してきやがった!
咄嗟に頭は守ったが、右肩の傷が浅くない。焦げてグズグズになったパーカーの奥で血が滲んでいた。

{ いっくら加護があるからって、現用兵器で霊装使いに勝てるわけがねえだろォ?
 テメエ、炎精霊の契約者だったよなァ〜〜!魔力が感じられねえが、テメエの相棒は一体どこ行った }

「さあな、実家にでも帰ってんじゃねえのか!」

再び振り下ろされた太刀を、俺はほとんど直感で受け止めた。
倒れこんでる相手を狙う剣筋はほとんど限定されている。危うい賭けだったが、見た目ほど分は悪くない。
剣の軌道さえ読めれば、あとはその軌道上にモノを置いておけば勝手にぶち当たってくれる寸法だ。
そして俺が剣を受け止めた得物は――マジックペンほどの大きさのプラスチック爆弾を容器ごと。

「吹っ飛びやがれクソ野郎!」

刃を半ばまでめり込ませたプラスチック爆弾丸ごとを、俺は間髪入れずに起爆した。
特有のオレンジ色の閃光が収容所の廊下を埋め尽くし、轟音と爆風が全てを凄惨に精算する。

炎精霊の加護を受けてる俺は、自分の弾や爆弾で受けるダメージを軽減できる。
加護のある俺と霊装使いの隊長。どっちが爆死するのが先か、至近距離にて爆弾での殴り合いがスタートした。

170 :創る名無しに見る名無し:2011/11/01(火) 23:48:37.81 ID:3MEaH+3b
>>164>>169

「危なあああああああああああい!」

叫び声が聞こえて、光の粒子が集結して光の体現者が再度現れた。
光の速さをもってジェンタイルに飛びつき爆風から逃げきる。

「なんて無茶な事をするんだ君は! 炎精霊の契約者とはいえ、契約不履行じゃあんな爆発に耐えられる訳がないじゃないか!
 君は皆が命を大切にする世界が作りたかったんじゃなかったのかい!? だったらまず自分が手本にならなきゃ駄目じゃないか!」

のっぺらぼうの顔でも怒りが分かるほどに声を荒げて説教をかます。
その背後に鋭い刃が迫る! チャンスだと見た警備隊長が不意打ちをしかけたのだ!
だが光の体現者がゆっくりと振り返ると、迫る刃にかるく手を触れた。
そしてそれ以上、刃は動かなくなってしまった。

「――君を光の世界へと連れ込んだ。光の世界! それは時間の止まった世界だ!
 もはや君は何も出来はしない! ヤバいと感じるのも、この声が届く事すら決してない!」

光の世界に連れ込まれたのは一人ではなく、副隊長も同じだった。
光の体現者は光と同じ性質を持っている! 故にどこにでも、いくらでも存在出来るのだ!

「もう大丈夫だよ! この僕が、これ以上君を傷付けさせも、殺させもしないから!」

――僕はジェン君に微笑んでそう言った。

171 :創る名無しに見る名無し:2011/11/02(水) 00:12:17.03 ID:+NjclW0q
>>169

《――なんj――》

不意に声が聞こえた。

《――汝! 汝! 聞こえるか!》

それは炎精霊の声だった。

《――汝、ようやく我が『対価』を満たしたな! 待ちわびたぞ! さあ――再契約だ!》

ジェンタイルの体に魔力が満ちていく!

『やったねジェンく……ジェンタイル! さっきの自己犠牲を顧みない作戦のおかげだよきっと!』

光の体現者の顔がほんの一瞬だけ透けて、その奥に懐かしい微笑みが見えた。

172 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/02(水) 01:06:34.15 ID:M6CJ+Baq

【業務連絡】

>>170
>>171さん、名無しでの投下ありがとうございます
名無しモブではなく、既存キャラの根幹設定に関わる部分を動かされるのであれば、コテハンをつけてご参加お願いできますでしょうか
応じていただけるのであれば避難所(http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1292705839/)のほうまで一度お越しください
よろしくお願いします。

なお、名有りでの参加に応じていただけない場合、>>171の内容をストーリーに反映することはできません
ジェンタイルというキャラの中でもとりわけ重大な部分にあたる設定ですので、あしからずご了承ください

173 :創る名無しに見る名無し:2011/11/03(木) 02:18:15.79 ID:sSqXV2mL
>>172
あちゃー、まずかったですか。じゃぁ>>171は撤回しますね
すいませんでした。反省してます!
ですがコテハンをつける事はしたくありません

コテやトリを付けてしまうとやっぱりどうしてもそれに縛られる事になってしまうので
自分は名無しでネタ振りをしている方が性に合っていると思います
別に拾うか拾わないかはジェンタイルさんの自由ですので、これからもどうぞよろしくお願いします!

174 :警備隊長ブレイド:2011/11/03(木) 23:06:21.84 ID:ZVJTy4dI
>169
>「吹っ飛びやがれクソ野郎!」

隊長の目が驚愕に見開かれる。
振り下ろした刃が、ジェンタイルの持つプラスチック爆弾にめり込んでいた。
刹那の後、当然のごとく爆発。

「馬鹿かお前は……!」

周囲に纏う魔力の刃が吹き飛ばされ、隊長は地面に叩きつけられる。
現用兵器に対する防御性能の脆弱性――霊装の意外な弱点。
霊装は元々、悪魔殺しのために開発された退魔の技。現用兵器使いの人間と戦う事は想定されていない。
下手な攻撃魔法よりも爆弾を投げつけておいた方が余程効くのだ。
とはいえ、普通は生身の人間が霊装使いに挑んでも即やられるだけなので、大した問題にはならない訳だが。
全身から血を流しながら、立ち上がる警備隊長。
その瞳からは凍てついた刃のような冷静さは消え、静かな炎が燃え盛っている。

「モンスターとだって仲良くできる。悪魔とだって友達になれる。
そんな夢想を信じて馬鹿を見た奴を私は知っている。
殺さなければ殺される、支配しなければ支配される。人と魔とはそういうものだ。
――剣の舞《ジーンワルツ》!」

周囲にまとっていた魔力が四肢に充填されていく。領域支配の魔力の、身体能力への転換。
狙った獲物を必ずや狩る、美しき死の剣舞。これが彼女の剣姫たる所以。
ブレイドは踏み出した。勝つ方法は簡単、爆弾で防がれる前に斬るまで。

>170
壮絶な攻防の末、ブレイドの太刀が、ついにジェンタイルを追いつめる。

「終りだ――夢ならばあの世で好きなだけ見るがいい」

勝負あり――と思われた。
が、太刀がジェンタイルに当たる直前、突然制止する。まるで時が止まったように。
剣に宿った刃精霊の声が響く。

{悪いブレイド……できない}

「何故だっジン! 忘れたのか、あの日の事を! 共に人の世を守り抜く誓いを!」

{分からない……自分でも何故だか分からないんだ}

激昂する警備隊長と、戸惑う刃精霊。
何が真実で何が夢想か、もはや全てが不確かな中で。
ただ一つ確かな事は、今が警備隊長を討つまたとない好機という事だ。

175 :創る名無しに見る名無し:2011/11/04(金) 23:59:03.09 ID:/OqR/d3j


176 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/04(金) 23:59:24.58 ID:/OqR/d3j
>>164

「あの能力には幾つか不可解な点があります。
 まず始めに『都合の悪い事を全て吹き飛ばせる』のなら、何故私達の襲撃自体を吹き飛ばさないのか。
 次に『どんな爆弾だって起爆しなくては爆発する筈がない』のに、どうして死んでから時間が吹き飛ばせたのか」

疑問の提示。

「これらの事から二つの弱点が見えてきます。
 まず『あまりに過ぎ去ってしまった時間は爆破出来ない』事。
 それから、恐らく死を回避する爆弾は時限式です。死の危険を感じた時点で、
 例えば貴方が急に消えたり、触れられた時には既に時限爆破を開始している筈です。
 逆に言えば『死の危険を感じる事なく殺された場合、あの男に死を逃れる術はない』でしょう」

弱点の考察。

「弱点さえ分かっていれば、貴方のスペックならどうとでもなるでしょう。
 例えば第23回天下一武道会のヤムチャVS神様戦を思い出してみれば、すぐにでも決着がつきます」



>>169

>「妖狐!『援護頼む』!」

「オーケイ! 任せといてよ! さぁどれが本物か分かるかな!?」

妖狐は無数の幻影を作り出す。だがその中に本物はいない。
単純に考慮すべき可能性を増やして、警備隊長の集中力を削ぐ作戦だ。
幻影は近寄ったものから即座に切り裂かれてしまっていたが、無いよりはマシだろう。

お慰み程度の援護を施して、その場を離れた。
逃走ではない。だが凄まじい実力を誇る警備隊長を討ち取るには妖狐では力不足だ。
獣の脚力も爪も、鋭利を極めた太刀筋には敵わない。
自慢の幻術は刃精霊の前では容易く断ち切られてしまう。
だから『策』が必要だった。その為に妖狐は駆ける。
ジェンタイルが追い詰められてしまう前に、全ての準備を完了させなくてはならない。

>>170-171>>174

「……幻術耐性が低かったのかな? ていうか、相手が急に何の理由もなく動きが止まりましたーって。
 そんなのに勝って何が楽しいんだろうね。少年ジャンプじゃないんだからさぁ」

奔走する最中、訳の分からない妄言を垂れ流す警備兵を何人か見かけた。
焦燥感から生まれる苛立ちを込めて呟いた。
あの有様では『策』には使えない。
幻術に溺れていると言う事は、精霊との契約を交わしていないと言う事なのだから。

「クソッ……こっちは急いでるってのに……! ジェンタイル、もう少し持ち堪えて……」

>「吹っ飛びやがれクソ野郎!」

ジェンタイルの咆哮と、直後に爆発音が聞こえた。
爆音は一つには留まらない。絶え間なく轟き続けている。
ただ事でない何かが始まったのだと、容易に理解出来た。
まだ『策』の準備は整っていない。
だが――今戻らなくては、取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。

177 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/05(土) 00:00:15.18 ID:96q6I6sk
その可能性を、妖狐は無視出来なかった。
急いでジェンタイルの元へ戻る。
爆音は段々と大きくなっていき、未だ尚途切れない。

「――君は、なんて無茶な事を!」

そして妖狐は目の当たりにした。
無数のプラスチック爆弾を用い、爆風に身を晒し続ける根競べに挑むジェンタイルの姿を。
確かにジェンタイルには炎精霊の加護がある。爆発物の威力は軽減されるだろう。
だが警備隊長とて、まともに爆風を食らっている訳ではなかった。
空間や爆風そのものを切り裂いて威力を逃し続けている。

「くっ……やり過ぎだ、ジェンタイル! 幾ら君でも! それ以上は危険過ぎるッ!」

止めなくては。その一心で、大量の幻影と共に警備隊長へと跳び掛かった。
獣の爪と、精霊の加護を受けた刃、鋭い閃光が交差する。
妖狐が着地した。警備隊長が、刃を振り抜いた体勢で静止する。
一瞬の静寂の後に、どさりと地面に倒れ込む音が一つだけ響いた。

倒れたのは、敗北したのは――妖狐だった。
胸に袈裟がけの刃傷が刻み込まれて、自らの血溜まりに沈んでいく。
生み出した幻影は、まるで無意味だった。
数え切れないほどの幻は全て、警備隊長の太刀筋によって殆ど同時に斬り伏せられていた。

妖狐の体が微かに動いた。
辛うじて、まだ生きているようだ。
苦痛に染まり切った表情で、妖狐は体を仰向けにする。
そこまでだ。立ち上がる事は出来なかった。

警備隊長が歩み寄り、刃を振り上げる。


178 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/05(土) 00:01:18.07 ID:96q6I6sk
「辞世の句くらいは、聞いてやるぞ」

「……その格好」

「なんだと?」

警備隊長の表情が、怪訝に染まった。

「だから、その格好だよ。いいね、それだよ。その格好がベストなんだ。
 倒れてる相手にトドメが刺したかったら、そりゃ誰だって刀を振り上げるよね」

「……既に、錯乱しているのか?」

理解出来ないといった様子の警備隊長を差し置いて、妖狐は一方的に語る。

「その状態じゃあさぁ……自分の腕とか見えないよね。
 そう、例えば『自分の表面に何かが被せられている』としても、気付いたり出来ないって事だ。
 勿体ぶってる内に失血死してもカッコ悪いから教えてあげるけどさ……君、今『ジェンタイルの姿をしてる』んだぜ」

疑念に細められていた警備隊長の双眸が、はっと見開かれた。
この幻影は解除出来ない。まさか振り上げた状態の刃を下ろして、幻を斬る訳にもいかない。
もう後には引けないのだ。

「こいつ……まさかッ!」

「そういう事さ」

直後に、妖狐が変化した。警備隊長の姿だ。
幻覚のスキルではない為、精霊魔術の使い手であっても看破は出来ない。
これが妖狐の『策』だった。
お互いの姿を交換して――他の警備兵を呼び寄せる。
周囲には既に大勢の警備兵が集まり、『ジェンタイル』を包囲していた。

「いやね、でも結構賭けだったんだよ。ジェンタイルが危ないと思ったから、ろくに兵を見つけられない内に帰ってきちゃったからね。
 でもまぁ、そのジェンタイルの起こした爆発音のおかげでちゃんと集まったみたいだし、結果オーライかな?」

警備隊長が周囲に気を取られた一瞬の隙に、妖狐は片膝を突いた状態にまで体勢を立て直していた。
立ち上がりざまに攻撃を仕掛けられる姿勢と間合いだ。

「さぁ、どうする? その刃を振り下ろすか……それとも一旦退いて幻影を解いてみるか。二つに一つ、だよ」

二者択一。これも誤前提暗示だ。
刃精霊の能力を余す事なく活用すれば、もっと成功率の高い選択肢は幾らでもある。
けれども精神的に追い詰められた人間にこそ、『騙し』の技術は高い効果を発揮する。
この状況では、警備隊長の刃のごとき判断力にも僅かな曇りが生じていた。
その迷いを、妖狐は見逃さない。

「『躊躇』したなッ! その一瞬が命取りだッ! 『ここで仕留めるぞ』――喰らえッ!」

警備兵達に、そしてジェンタイルに向けて叫びながら、爪による刺突を繰り出した。
この一撃が届かなくても、切り落とされても何も問題はない。
警備兵達の放った無数の銃弾と精霊魔法と、それに乗じたジェンタイルの攻撃。
それら全てを凌げる筈はない。自分はこいつを騙し切ってやった。勝ったんだと妖狐は確信していた。


179 :警備隊長ブレイド:2011/11/05(土) 02:18:46.31 ID:j90O14XH
>178
>「『躊躇』したなッ! その一瞬が命取りだッ! 『ここで仕留めるぞ』――喰らえッ!」

妖狐の鋭い爪がブレイドに迫る。
ブレイドは、振り上げたままだった太刀を反射的に振り下ろし、妖狐を叩き落とす。
が、それが合図だった。隊長を敵に討たれたと認識した警備兵達が、一斉に攻撃を仕掛ける。

勝負はついた――。
ブレイドの胸中を絶望が支配する。ただ自分が死ぬという事に対してだけではない。
よりにもよって、自分が人と魔の連携の前に負けたという事実。
どうしてこの妖狐は人間のために命を懸ける?
どうしてこの人間は魔の存在とこれ程までに固い絆で結ばれている?
そう、自分がこの者達に負ける事などあってはならない。勝てぬならば、せめて道連れにして相打ちに――!

{おいブレイド!? 嘘だろぉ!
――お前ら……絶対許さねえ! お前だけは生かしておけねー!}

ブレイドから刃精霊に、大量の対価が流れ込む。刃精霊の対価、それは――絶望。
彼等は、未来への希望ではなく世界に対する絶望を糧に戦ってきたのだ。

「{我、久遠の絆断たんと欲すれば――}」

もはや声を出す余力もないはずのブレイドの口から、謳うような韻律が紡がれる。
刃精霊が声を乗っ取っての呪文の詠唱。
比類なき量の対価を必要とする故に、死に際にだけ使う事が出来る、最大最後の大魔術。

「{――言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう――}」

頭上の空間に現れしは、魔力で出来た巨大な剣。
それは希望を断ち切る、絶望の権化。

「{――ファイナルチェリオ!}」

紡がれた呪文の意味は奇しくも、『さようなら』
死をもって全ての絆を断ち切る刃が、寸分の狂いも無く、ジェンタイルに向かって突き立てられる。

180 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/11/05(土) 05:03:52.68 ID:qat7PbwH
ゴーレムの分身が男の能力の弱点となる部分を考えて、私に教えてくれる。

>「弱点さえ分かっていれば、貴方のスペックならどうとでもなるでしょう。
> 例えば第23回天下一武道会のヤムチャVS神様戦を思い出してみれば、すぐにでも決着がつきます」

「それは失敗例ではないのか……」
何はともあれ、私はゴーレムの考えを試してみることにした。
今までのような小さなエネルギー弾を連射するのではなく、廊下が埋め尽くされるくらい大きなエネルギー弾を発射。
速度は人が歩くくらいの速度だが、男の爆発魔法を飲み込んで進む。
このエネルギー弾をゴーレムの盾代わりにして、私は男の後ろに瞬間移動をする。
私が後ろに現れることを予測していたのか、男は振り返っており、私と目が合った。
パチリと私はウィンクをしてやると、男の顔が青ざめて鳥肌が立ち、動きが止まった。
男の反応に少しのショックを私は受けたが、私の目論見は成功。
男を含めた私達は記憶を引き継いで、男と出会った時まで戻る。

私の背後に男の生命反応を確認。
私が急いで振り返ってみると、男は青ざめた表情で何かを言おうとしていた。
が、そんな暇すら与えることを許さずに、ノーモーションで放てる技。
目から放つ不可視の衝撃波、気合い砲を発射。
男の口が開く前に気合い砲は男の頭に直撃し、男は大きく吹き飛ばされ、廊下の壁に頭を強打。
頭をぶつけた男が倒れたまま動かず、時が戻る気配も無いので、不意打ちは成功したらしい。
このまま放置しておくのもまずいので、しっかりと気絶している男の頭を掴みに行き、そのまま握り潰した。

「奴が時を巻き戻す力を持っていたのが幸いしたな。
奴と同レベルの敵と戦うよりも、被害も時間のロスも少なくてすんだ。
さぁ、ゴーレムよ。
囚われている悪魔達を助けに行こう」

181 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/06(日) 05:00:24.70 ID:CQcLwMlp
>「モンスターとだって仲良くできる。悪魔とだって友達になれる。そんな夢想を信じて馬鹿を見た奴を私は知っている。
 殺さなければ殺される、支配しなければ支配される。人と魔とはそういうものだ。 ――剣の舞《ジーンワルツ》!」

「お前の思想は間違っちゃいねえよ。でも俺も間違ってねえ、だからこっから先は死人に口無しってことで行こうぜ!」

俺の爆弾と、隊長の霊装。思想を背負った2つの暴力が、その正当性を巡ってぶつかり合う。
爆風が俺の頬を洗い、炎が素肌を舐めていく。剣撃が体中の至る所に鮮やかな赤の線を刻んでいく。
プラスチック爆弾が品切れになって、いくらか性能の落ちるパイプ爆弾に切り替える。
高性能の爆弾だからこそ維持されていた拮抗に、致命的な亀裂が走り始める――!

>「くっ……やり過ぎだ、ジェンタイル! 幾ら君でも! それ以上は危険過ぎるッ!」

妖狐が脇をすり抜けて飛び出し、隊長と鎬を合わせた。
両者の刃が交差し、幻術によって増えた姿が寸切りにされていく。そして、あっけないほどに――鮮血が舞った。

「妖狐――!」

肩口から対角上の腰のあたりまでバッサリ切り裂かれた妖狐が自分の血溜まりに沈んでいく。
その姿が、やっぱり堕天使にフラッシュバックして、俺はほぼ反射的にライフルの引き金を引いた。
当たるわけがないのに――隊長は俺のほうなど一顧だにせず、妖狐へ向けて刃を振り上げた。

「…………あっ?」

隊長の姿がカメラ映像の"ラグ"みたいにブれ、俺になった。
振り上げた剣はアサルトライフルに、展開された剣は松明に。妖狐の眼光が、いよいよ獣じみて輝いた。
俺の背後に気配を感じる。複数の熱気を伴ったそれは、警備本隊の戦闘者たち。彼らの武器は――俺じゃない"俺"に向けられている。

>「『躊躇』したなッ! その一瞬が命取りだッ! 『ここで仕留めるぞ』――喰らえッ!」

同じように警備隊長へと『変わった』妖狐の号令で、銃が、魔法が、一斉に火を吹いた。
さしもの領域級も面制圧の集中砲火には耐え切れない。主を守るように収束した刃圏が、銃弾の嵐によって急速に風化していく。
足元の床が破壊され、地下通路へと隊長は落ちていった。警備本隊に待機命令を出して、俺もそれを追って飛び込む。
辿り着いた先には霊装をあらかた破壊されつくした隊長と――その足元には血まみれで虫の息の妖狐が。
他には誰もいなかった。俺たち三人だけが、この戦場の主役だった。

>「{我、久遠の絆断たんと欲すれば――}」「{――言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう――}」

ズタボロの隊長の口から詠唱が紡がれる。
契約精霊に対価を上乗せして威力を底上げし、極大の魔法を放つための準備。俺は、黙って左腕を掲げた。
この呪句は知っている。命を対価に代えて自己犠牲の最高位術式を撃ち出す手段だ。
マジかよ――!

>「{――ファイナルチェリオ!}」

瞬間、刃が来る。
不可視の、不可侵の、不屈の、不退転の、不律にして、不断を貫く、不変でありながら――不動の一撃。
その刃の向う先全てを例外なく切断する、遍く防御もあらゆる壁も意味を成さない、最大にして最後の剣。

俺は神速で打ち下ろされたそれを――左手で掴みとった。
そのまま握力に頼らない自然な動作で握り締め、握り潰す!
それだけで、警備隊長の命を賭した極大魔法は砕け、塵と化し、あっけなく風に流されていく。

「間に合ったか――『行政執行の停止申し立て』……!」

182 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/06(日) 05:02:21.74 ID:CQcLwMlp
精霊魔法は『契約』という性質上、その動きを法律によって縛られる。
『精霊契約法』というのが、人間側と精霊側の両者に橋を架ける法の名だ。
対価や加護など精霊契約に関する種々の取り決めを予め法律の形で明文化しておくことで、こんにちの契約は円滑に進められている。
俺は警備隊長が自分の命を犠牲にして極大魔法を発動した瞬間に、その契約の履行停止を申し立てた。

基本的に精霊契約は個人同士(精霊と契約者)の取引だから民事不介入の原則によって第三者の停止申立は通らない。
そんなことがまかり通ってしまえば、戦闘用の精霊魔法すらいつでも第三者が無効化できることになってしまうからだ。
だが、警備隊長はこの収容所の職員。ロスチャイルド政権の象徴にして省庁たるこの収容所は国家機関だ。
つまり、その職員は国家公務員――彼らの行動は、全て『国家』が行う『行政執行』ということになる。
行政執行は国家と国民とが契約の当事者だ。国民である俺は、警備隊長の魔法に口出しできる権利を得る。

俺は契約当事者の地位から警備隊長の極大魔法(これが行政執行)の停止を申し立てた。
行政法が定める執行停止の条件は大別して2つ。
その行政執行が『公共の福祉に反する』か、『回復不能な損害を発生させるもの』。どちらかに抵触すれば執行停止処分となる。
――『警備隊長の命が失われる』という損害は、死者の生き返らないこの世界において『回復不能な損害』であると言えた。

執行を停止された、最早魔法でもなんでもない"ただの魔力の塊"を握りつぶして、俺は足を踏み出した。
一度失われた命を矯正返還されてまだ動きの戻っていない警備隊長へ、徒歩で肉薄。
加護込みでも傷を免れなかった体の、とりわけボロボロな左腕。その先に、なけなしの手榴弾を載せて。

「その霊装、ドヤ顔で振り回してるけど、『剣の支配』に対して"信仰"を見出すってのは『被支配者』の理屈だよなァ〜〜ッ!
 信仰の本質は自分よりスゲー奴に対する畏敬だ。剣の一振りに生死を支配されるのは、刃の担い手じゃなく刃を向けられた者……」

もうほとんど動かない左腕を、肩の力だけでぶん回し、手榴弾ごと渾身の掌底を叩き込む。

「――自分の相棒にビビってんじゃねぇッッッ!!」

密着状態で、炸薬を起爆した。
俺の左腕ごと、生身の状態で密着爆撃をくらった警備隊長が血を焦がしながら吹っ飛んでいった。
精霊加護があるとはいえ、こっちの左腕ももう壊滅状態だった。爪は全部剥がれて、肉は柘榴みたいに弾けて焦げている。

腕一本犠牲にすることに迷いなんてなかった。
妖狐はもっと痛かったはずだとか、腕ひとつで敵の幹部が殺れるなら安い買い物だとか。
そういう理屈で自分を納得させようとも思わない。遺書なんかとっくに書いてんだ、俺はこの革命に、命を懸けてる――!

「妖狐、妖狐!」

ススだらけの地下通路に伏す妖狐に駆け寄り、とにかく傷口の状態を見るために仰向けに転がす。
血は既に止まっていた。それは止血に成功したんじゃなく、出血するほどの血圧が妖狐の体から失われてることを意味していた。
堕天使と違って妖狐の体は生身だ。素の防御力もモンスターの中では低い部類。
だから幻術を駆使してとにかく矢面に立たない工夫で生き残ってきたはずだが、なんだってこんな捨て身の戦術をとった。

「クソっ、とにかく傷を塞がないと……!」

なにかないか、俺は鹵獲した警備本隊のバックパックを片手でひっくり返す。
応急手当のセットは見つかったが、そんなもんでどうにかなる段階じゃないのは目に見えていた。
手持ちの品にもロクなもんがない。俺はボロボロになったパーカーのポケットを漁り――何かに指先が触れた。
小瓶の中で怪しく鼓動する液体は、行きがけにスライムとゴーレムが持たせてくれた分身の入ったボトルだ。

迷わず割った。

「出てこい、スライム! お前、水分をどうこうできたりしたよな。妖狐の血を増やしたり代替したりできねえか」

183 :ブレイド&ジン:2011/11/06(日) 13:14:24.83 ID:fYTtQt3k
>181-182
>「――自分の相棒にビビってんじゃねぇッッッ!!」

命を賭しての極大魔法もあっけなく防がれた。
ブレイドの脳裏に走馬灯のように、忌まわしい記憶が去来する。



覚束ない手つきで大剣を持ち、悪魔と対峙する少女。
少女の後ろでは、少年が血塗れで倒れ伏している。

「よくも――よくもジンを! 絶対許さない!」

悪魔の爪が少女を引き裂かんとした瞬間。
悪魔は、内部から崩壊するように、灰となって崩れ去った。
何が起きたのか分からず戸惑う少女に、銀髪の青年が歩み寄る。

「私と共に来ないか?」

無言の少女に、青年は更に言葉を続ける。

「私ならその者の魂を剣に固着して精霊化する事が出来る。
お前達が契約を交わせば無敵の剣士になるだろう。
そのまま泣き暮らすか、自分と同じ悲しみを背負う者をなくすための戦いに身を投じるか――選べ!」



{お前の言う通りだ。姉ちゃんはいつも怯えていたぜ。オレを失う恐怖に、な}

ジェンタイルの後ろに、いつの間にか少年が立っていた。
ブレイドとよく似た姿をした、実体化した刃の精霊。
彼が空気中から何かを集めるような動作をすると、手の中に魔力の粒が集まってきた。
錠剤のようになった魔力の塊を、ジェンタイルに投げ渡す。

{ほらよ、さっきお前が握り潰した魔力の塊だ。勿体ないからやるよ。
魔物って魔力の生き物なんだろ? 魔力を直接生命力に変換したりできるんじゃねーの?}

少年は、ぼろ雑巾のようになったブレイドを抱き上げる。
そしてそれ以上事の顛末を見届ける事無く、ほんの数歩歩みを進める。

{警備隊長様は死んだ。あばよ}

その言葉を最後に、彼らは空間の断裂の向こうへと姿を消した。

184 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/09(水) 02:06:56.73 ID:dUwqis1a
>奴が時を巻き戻す力を持っていたのが幸いしたな。
 奴と同レベルの敵と戦うよりも、被害も時間のロスも少なくてすんだ。
 さぁ、ゴーレムよ。囚われている悪魔達を助けに行こう

「そうですね。では手っ取り早く行きましょう」

ゴーレムが無数の分身を作り出す。
数の力に任せて監房を破壊して、それから悪魔達と手を繋いだ。

「貴方の瞬間移動は、対象が一つに繋がっていればまとめて転移出来た筈ですね。
 移動先は……私達の拠点にして下さい。彼らの魔導科学の技能は今すぐにでも必要なものです。
 これだけの分身がいれば滅多な事はないでしょうし、万が一の事があっても私が事前に察知出来ます」

メタルクウラが悪魔達の転送を終えると、ゴーレムは次の提案をする。

「それでは……そろそろMr.ジェンタイルと妖狐ちゃんに合流しましょうか。
 先ほどからずっと聞こえていた爆音が途絶えました。
 あの爆音がジェンタイルの起こしたものだとすれば……何かがあったに違いありません。
 それが良い事であろうと、悪い事であろうと、何かが」




>「妖狐、妖狐!」

ジェンタイルの呼びかけにも、妖狐は閉ざした目を開かない。

>「クソっ、とにかく傷を塞がないと……!」
「出てこい、スライム! お前、水分をどうこうできたりしたよな。妖狐の血を増やしたり代替したりできねえか」

「ん〜、ようやく出番……って、妖狐ちゃん!?嘘……そんな……そんなの駄目だよぉ!」

出てきたばかりのミニチュア状態のスライムは、血の気の失せた妖狐を見て錯乱する。
だがそれは、ほんの一瞬の事だった。慌てふためいたところで事態は好転しない。
すぐに水鏡を思わせる平静さを取り戻すと、利用可能な物がないか周囲を見回す。
そしてすぐに見つけた。胸部を無惨に爆ぜさせて死んだ警備隊長を。

「あ……あれ! あれを使えば……! えいっ!」

すぐに水の触手を伸ばして引き寄せる。
刃精霊が最後の抵抗をするつもりなのか出てきたが、即座に排除した。
水は刃には決して斬る事が出来ず、また腐食を助長させる性質がある。
相性的に有利なスライムは一瞬で刃精霊を錆び付かせて、打ち砕いた。

「こいつの血から……必要なものだけを『抜き取って』!」

右手を刃の形に作り変え、抉れた胸に突き刺した。
体内に残った血液から水分と、拒絶反応の起こらない血液成分だけを奪っていく。
見る間にスライムが膨らんで、ジェンタイルの膝ほどの高さまで大きさを取り戻した。

「妖狐ちゃんの体に……『潜り込む』!」

警備隊長の体から引き抜いた右手を、今度は妖狐の傷口にそっと添える。
そして体内に自分自身を注ぎ込んだ。
警備隊長の血液から抽出した液体は、いわゆる生理食塩水と同様の成分だ。
スライムが液体を制御出来る為、引き裂かれた血管や臓器の損傷も埋める事が出来る。

185 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/09(水) 02:08:19.91 ID:dUwqis1a
「これで……」

「助かる」と言いたかった。心の底から、自分自身に言い聞かせたかった。
それでも言えなかった。
既に妖狐が斬撃を受けて結構な時間が経っている。体温の低下も補えていない。
体力の低下やショック症状で死んでしまっても何ら不思議ではない。
無責任に断言する事など、出来なかった。

「これで……私が出来る事は、やったよ……。だから後は……頑張って、妖狐ちゃん。
 ……ジェン君、妖狐ちゃんの手を握ってあげて」

炎精霊の加護を帯びたジェンタイルの体温は、常人よりも高い。
体の冷え切った妖狐にはきっと心地いい筈だった。
ふと、妖狐が小さく震えた。閉ざされていた目がゆっくりと開く。

「あぁ……ジェンタイル、無事だったんだね。良かったよ……本当に、良かった……」

何度か瞬きをしてジェンタイルの顔を認めると、心底安堵したように呟いた。
その様子こそが彼の疑問――何故あんな無茶をしたのか、の答えだった。

妖狐の『策』はもっと長い時間をかけて行う事が出来た。
無数の分身を残して逃げ回り、爆音に頼らずに幻術を活用して敵兵を集める事が出来た筈だった。
けれどもそれをしていては、ジェンタイルが傷ついてしまう。
故に妖狐はあの時、自分の爪が警備隊長に届かないと分かっていながら飛びかかったのだ。
ジェンタイルが傷つけられるかもしれない。殺されてしまうかもしれない。
それこそが妖狐にとっての、なんとしてでも避けるべき『最悪の可能性』だった。

「スライムちゃん……あぁ、そうか。ごめんね、迷惑かけて……。
 もう二度とドジったりしないって言ったのに……やっぱり私は駄目駄目だなぁ」

力ない笑いが零れた。

「ジェンタイル……私は、大丈夫だよ。だから、先に行ってくれ。
心配しなくたって、君に嘘なんか吐いたりしないさ。信じておくれよ」

大丈夫な訳がなかった。
なんとか失血死は免れたとは言え、いつ死んでしまってもおかしくない状態だ。

「私は……騙されるのが嫌いなんだって、知ってるでしょ?
 君は確かにこの世界を救うって、言ったんだ。だから行くんだよ。騙したりしたら……承知しないよ」

本当は行って欲しくなかった。
ずっと手を握っていた欲しいと言えたら、どれだけ良かっただろうか。
でもそんな事は言えない。言える訳がない。
ジェンタイルの、『モン☆むす』の皆の悲願が、目の前にあるのだ。

妖狐は不敵な笑みを浮かべて、苦痛も寂しさも塗り潰す。
完璧な仮面だった。完璧過ぎて、あり得ないとすら言えてしまうほどに見事な演技だった。

「私は……ちょっとここで休んでいくよ。大丈夫、すぐに追いつくさ……。
 ねえジェンタイル、私ね……いや、やっぱりなんでもない。この戦いが終わったら、その時話すよ……」

その言葉を最後に、妖狐は体力の低下で意識が保てずに、深い眠りに沈んだ。

186 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/11/09(水) 12:21:10.50 ID:xASLyw4J
ゴーレムが分身達を生み出して囚われの悪魔達を救出し、分身達は悪魔達と手を繋ぐ。
ゴーレムがジェンタイル達の拠点に送ってくれとリクエストしてきたが、私の瞬間移動は場所を指定して移動するのではない。
エネルギーを特定してそのものの近くに現れる技だ。
私は拠点の辺りの生命反応を調べてみたが、私の知っているエネルギーは無かった。
なので、私は悪魔の子供達を預けた他のメタルクウラの下に瞬間移動をして、悪魔達を連れていった。
悪魔達を預けたメタルクウラにもジェンタイル達の拠点の場所を教えたので、後は他のメタルクウラ達が悪魔達を拠点に連れていくことだろう。

>「それでは……そろそろMr.ジェンタイルと妖狐ちゃんに合流しましょうか。
> 先ほどからずっと聞こえていた爆音が途絶えました。
> あの爆音がジェンタイルの起こしたものだとすれば……何かがあったに違いありません。
> それが良い事であろうと、悪い事であろうと、何かが」

「いや、十中八九は悪いことだろうな」
ジェンタイルと一緒に行動している妖狐の生命反応が小さくなっている。
私はゴーレムの肩を掴むと、瞬間移動でジェンタイルの後ろに現れた。

「大丈夫……ではなさそうだな」

187 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/12(土) 07:08:39.03 ID:nBQHF1fh
出てきたスライムは、おそらく現状に対して確実な正答を選びとった。
失った血液を、自分の体で代行――血管内を循環し、傷を埋め、栄養と酸素を細胞へと届けていく。
みるみるうちに、とは言えないまでも、蝋のようだった妖狐の肌の少しだけ赤みが灯る。
死に体から死にかけへとクラスチェンジした妖狐に寄り添って、俺は少しでも体温が移るよう素肌で触れてやる。

>「あぁ……ジェンタイル、無事だったんだね。良かったよ……本当に、良かった……」

「ばっか、お前、最強厨のジェンタイルさんが死ぬわけねえだろ。お前が頑張る限り、俺たちはずっと最強なんだ」

どいつもこいつも。なんで息絶え絶えになってから、こんな良い感じのこと言うんだよ。
そんなもん、後からいくらでも――夜通しだって聞いてやるから。いつもの憎まれ口の一つでも叩きやがれ。
頼むから。お願いだから。"また、そのうち"って言わせてくれ。

>「ジェンタイル……私は、大丈夫だよ。だから、先に行ってくれ。
 心配しなくたって、君に嘘なんか吐いたりしないさ。信じておくれよ」
>「私は……ちょっとここで休んでいくよ。大丈夫、すぐに追いつくさ……。
 ねえジェンタイル、私ね……いや、やっぱりなんでもない。この戦いが終わったら、その時話すよ……」

妖狐は――それきり動かなくなった。呼吸の浅い昏睡に陥った。
俺は事後をスライムに任せて、妖狐の体を静かに床へ横たえた。

>「大丈夫……ではなさそうだな」

すぐ後ろでメタルクウラの声がした。悪魔たちの救出が終わったらしい。
俺は振り返ると、てのひらで目を覆った。

「大丈夫だ。作戦は委細滞り無く進行してる――こいつらの頑張りに報いたい。手を貸してくれメタルクウラ」

かざした手のひらを下げたときには、高い高い基礎体温で涙腺の水分が全て蒸発してくれた。
そのまま演説家がやるように手刀で宙を切って、踵を返す。

「警備隊長は死んだ。収容所はもう丸腰だ。このままこの胸糞わるい石の城をぶっ潰すぞ」

敵のヘッドを倒し、幽閉されてた悪魔たちを助けだした以上、ここにはもう用はない。
ここに詰めてる八十人余りの警備本隊とも事を構える必要はない――適当に爆弾でも仕掛けて逃げれば終わりだ。

「校長室を目指すぞ、ここの機能を完璧にストップさせ――」

俺がその攻撃を回避できたのは、もしかしたら炎精霊が言外に報せてくれたからかもしれない。
ピリっと張り詰めた空気の、ほんの僅かな揺らぎ。予兆はそれだけしかなかった。
だから俺は、驚いた猫のようにその場から半歩後ずさることしかできなかった。

――その半歩分が、俺と肉片とを分かつ分岐の隘路となった。

バツン!と繊維が弾けるような音がして、俺の鼻先から『見える範囲全てが』、見えない何かに食いちぎられた。
ほんの数センチ眼の前で起きた光景は、まるで世界の終焉を思わせる大崩壊。
あれだけの威容を誇った矯正所が、俺を隔てて約半分。散らばった警備本隊の兵ごと『ぺしゃんこになった』。

半秒、遅れて、地鳴りのような轟音。
コンクリートの砕ける音とは思えない、大地そのものの咆哮が腹の底を揺るがした。
例えばビルの屋上から、中身の入った水風船を落としたらこんな感じになるんだろう。あるいは轢かれたカエルそのもの。
瓦礫と、土と、鉄と――血肉の入り混じった平坦なタイルに舗装された平地が、一瞬にして目の前に広がっていた。

「あー、あー、なんでいつもお前さんは何もかも潰しちまうかねえ。これじゃあ、なんにも残らないじゃないの」
「私はつくづく、この施設が気に入りませんでした。レジスタンス如きに遅れを取った蛆虫の死体と一緒に処分できるなら、
 これこそ手間が省けるというものです。お気に召しませなんだら、どうぞ私の給金から減棒なさいませ」
「仮にも上司に対してそのような態度はいけないよ、テイラード君。罰をうければ罪を犯しても良いという考え方もいけない。
 法律とは罪と罰とを等価交換する為替相場ではないのだよ。得てして、犯した罪より課せられる罰は軽い、そう――」

砂塵の向こうから、3つの人影が歩いてきた。

188 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/12(土) 07:09:33.58 ID:nBQHF1fh
その三人ともから充溢する超戦闘級の魔力に、俺の全身の毛穴が開いていくのがわかる。
人影はやがて輪郭を紡ぎ、輪郭ははっきりとしたディティールで実像を結んだ。
男が二人と女が一人。壮年と、青年と、妙齢の女。壮年と妙齢の二人を配しながら、リーダー格と思しき青年は空を振り仰ぐ。

「この世界は悪者を愛しすぎている。――そうは思わないかい? ジェンタイル君」

青年の顔に、見覚えがあった。
忘れもしない、半年前から一度だって、こいつを思わない日はなかった。

「ロスチャイルド……!!」
「"先生"をつけたまえよ、ジェンタイル君。きみへの授業は中途半端になってしまったね、まだ席を残してあるよ」

エストリス修道院頭目・現政権主席政務官、ロスチャイルド。
俺たちが打倒すべくレジスタンス活動にはげむ、その敵の親玉。半年間をかけて――世界を一度滅ぼした男だ。

「何しに出てきやがった!? てめえは政権のトップのはz――」
「やあ、メタルクウラ君。元気にしていたかな?きみとはほんの少しの付き合いだったけど、ビビリアン君たちが世話になったね」
「――ッ!!」

これだ。このペース。世界がまるで、こいつを中心に動いているような錯覚。
世界の中心が自分だから、自分の話したいこと以外の全てが耳に入らない。言いたいだけ言ってあとは完全無視。
普通ならただのコミュ障だ。それが、こいつが無視すると、まるで本当にいなかったみたいに『世界からハブられる』。
こいつを主役とした劇の、役目を終えた役者のように――!

「ああ、ジェンタイル君。話を遮って悪かったね、先生が素朴な質問に答えよう。
 警備隊長ブレイド君は、それはそれは用心深い職員だった。最悪の場合を懸念して、本部に増援を要請していたわけさ」
「だからって、てめえが来ることないだろ!? 前線に赴くのなんか、部下に任せりゃいいだろうが!」
「ノー。ブレイド君は優秀な生徒だった――生徒のピンチに、駆けつけない先生がいるものかよ」

ロスチャイルドは――警備隊長の亡骸が染め上げた赤いコンクリートを踏みにじりながら、あっけらかんとそう答えた。
俺にはその狂気を理解できない。本能が、こいつを理解しちゃいけないと全力で鐘を叩いている。
震える指が、いつの間にか構えていたアサルトライフルの引き金を引いた。

パララララ!とマズルフラッシュが瞬き、加護を受けた弾丸が分速1200発の連射速度でロスチャイルドへと火線を描く。
一発一発が腕一本ぐらい余裕で吹っ飛ばす弾丸の嵐がロスチャイルドへ殺到し――

「あー、そりゃ駄目だ、若造。一番悪いパターンだぞ」

打ち込まれた無数の弾丸が、『一発もらさず』ロスチャイルドの隣に控えていた壮年の男の手のひらへと吸い込まれた。
赤熱した弾丸を全て手中に収めると、

「おっと、炎精霊の加護入りか……火傷しちまったじゃねえの」

皮膚の焦げた手のひらをふっと吹いた。
壮年の男は、いかにも公務員の上級管理職といった出で立ちのスーツ一張羅。アームカバーまでしてやがる。
そして逆隣に控えるテイラードと呼ばれた妙齢の女は、就活生みたいなパンツスーツ姿で、一部始終を静かに睥睨していた。

「先生に向かっていきなり銃を向ける生徒がいるかね、ジェンタイル君。『ごめんなさいはどうした?』」

ワイシャツの上に白衣を着込んだ『先生』が、俺に謝罪を要求する――
その圧力たるや、本当に小学生が教師に怒られてる瞬間を、まざまざと想像させた。

「て、撤退するぞ――メタルクウラ、本気出して良い、全力であいつらを足止めしろ!スライム、妖狐を動かせるか!?」

スライムによる治療が終わっていようとなかろうと、もはや構っていられる場合じゃなかった。
全力でこの場を離脱し、バレないようにアジトへ戻れるか――その瀬戸際。俺は冷たいままの妖狐を抱きかかえ、走りだした。

「スライム、ゴーレムと連絡つけてくれ。バリケードでもなんでも使って、怪我人が逃げきるまで時間稼ぐぞ!」

189 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/11/12(土) 15:49:17.76 ID:RKwxLIK4
>「大丈夫だ。作戦は委細滞り無く進行してる――こいつらの頑張りに報いたい。手を貸してくれメタルクウラ」

「あぁ、ローゼンの仇討ちも兼ねているからな。
言われなくても手を貸してやるつもりだ」
私は瀕死の状態の妖狐を見る。
堕天使もこいつもこんなにまでなって、ジェンタイルの安全を確保しているように、私には見える。
モンスター娘達は仲間として信用できると、今更ながら私は思った。

>「校長室を目指すぞ、ここの機能を完璧にストップさせ――」
ジェンタイルがそう言った瞬間に、収容所の半分が潰れた。
唐突に起こったこの出来事。
あと少しジェンタイルが前にいたら、収容所と共に潰れていただろう。
ローゼンに続いて、ジェンタイルまでも失ってしまうかもしれなかった。
そのことに私は恐怖してしまった。
そして、ジェンタイルの隣に横たわっていた妖狐を見た時、他のモンスター娘達を思い出す。
私は急いでパワーレーダーを起動させると、こちらに近づいてくる三人の巨大な戦闘力を感知してしまった。

>「ロスチャイルド……!!」
現れた三人の内の一人の名を、ジェンタイルは言う。
私も少しだけ会ったことがある、ローゼンの仇。

190 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/11/12(土) 15:50:53.56 ID:RKwxLIK4
>「やあ、メタルクウラ君。元気にしていたかな?きみとはほんの少しの付き合いだったけど、ビビリアン君たちが世話になったね」
ジェンタイルの言葉を遮って、ロスチャイルドが私に話しかける。
私が奴に言葉を返しても、奴は返すつもりも無いだろう。
自分以外は全て下等生物と考えているような、クウラの一族の雰囲気を、私はロスチャイルドから感じ取った。
私は殺意を込めた視線だけをロスチャイルドに返すことにした。

>「て、撤退するぞ――メタルクウラ、本気出して良い、全力であいつらを足止めしろ!スライム、妖狐を動かせるか!?」
ジェンタイルが私に命令をするが、私が本気を出してロスチャイルド達に挑んでも、足止めにすらならないだろう。
一人一人が私以上の戦闘力で、私と相性の悪い精霊魔法を使い、足止めのためには三人と戦わなければならない。
援軍を呼びに行っても、その間にジェンタイル達がやられしまっては意味が無い。
どうにもならない状況だが、私の顔には微笑みが浮かぶ。
ジェンタイルには悪いが、私は足止めをするつもりは無い。

「ローゼンの仇を取らせてもらうぞ」
私はエネルギーを体から噴出させ、自身を鋼の弾丸と化して、ロスチャイルドに迫る。

「死ねぇえええ!!!!!」
私のエネルギーの大半を込めた拳を、ロスチャイルドの顔面に放った。

191 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/15(火) 22:11:06.58 ID:KB5ETBed
>「警備隊長は死んだ。収容所はもう丸腰だ。このままこの胸糞わるい石の城をぶっ潰すぞ」
>「校長室を目指すぞ、ここの機能を完璧にストップさせ――」

作戦は大詰め、後は破壊工作を行なって撤退するだけ――の筈だった。
けれども状況は一変した。
収容所の半分を一瞬で壊滅、圧倒的な魔力を秘めた人間が三人。
ロスチャイルドと、恐らくはその部下達。
端的に言って、状況は絶体絶命の危機だった。
この三人はそれぞれ一人だけでも、この場にいるレジスタンスを殲滅するだけの戦闘能力がある。
迸る魔力と、高すぎる実力に裏打ちされた異様な人格が、それを直感として『モン☆むす』達の本能に刻み込む。

「……怖い。私、怖いよ、ジェン君……。あいつ……母性に目覚める前の私達と、同じ目をしてる。
 眼の前にいる『人』を、『人間』としか見てない目だよ……」

或いはスライムでは計り知れないほどの、更に深い狂気を秘めた目だ。

>「て、撤退するぞ――メタルクウラ、本気出して良い、全力であいつらを足止めしろ!スライム、妖狐を動かせるか!?」
>「スライム、ゴーレムと連絡つけてくれ。バリケードでもなんでも使って、怪我人が逃げきるまで時間稼ぐぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってよぉ! だって私、私まだ――」

狼狽えたようなスライムの波打った声――直後に水音。
音源は、ロスチャイルドの背後だ。

「――本体が到着してないんだけど。置いてけぼりなんて酷いよぉ、ジェン君」

瓶の中に秘められていたのは、本体から切り離された分身だ。
その分裂体からの魔力の発信を受けて、本体であるスライムが今、この場に駆け付けた。
そして液状である身体を活かし、瓦礫の隙間に潜んでロスチャイルドの後ろを取ったのだ。
収容所が壊滅させられた際に破裂した配水管のお陰で、武器である水は幾らでもある。
スライムが両腕を上げて、交差する軌道で振り下ろす。
十指の先端を糸状にして格子状の水圧の刃を放った。

「私なら、既にここにいますよ。Mr.ジェンタイル。貴方のご下命、確かに聞き入れました」

同時に、メタルクウラの瞬間移動で既にこの場に到着していたゴーレムが動いた。
屈み込んで足元に魔法陣を描き、魔力を走らせる。
無数の分身が地面から隆起して、三人へと殺到した。

平面的に相手を殺傷出来る水の刃に、無数の石像。
だがその程度で相手を仕留められるとは、ゴーレムもスライムも到底思っていない。
狙いは足止めだ。スライムが八方の逃げ道を塞ぎ、ゴーレムは分身で足を狙う。

>死ねぇえええ!!!!!

「そうだそうだ〜! 死んじゃえ〜!」

全てはメタルクウラの渾身の一撃を、必中のものに昇華させる為だ。

「はしゃいでる場合じゃありませんよスライムちゃん。
 この程度で『アレ』が仕留められたとは思えません。今の内に……」

ゴーレムが冷静に、次なる一手を打つ。
地面から分身の第二陣を生み出して、即席の防衛線を築き上げた。


192 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/19(土) 07:48:08.34 ID:tyO+E8eN
俺はできるだけ背中を見せないように、妖狐を抱えたまま後ろ走りで撤退する。
メタルクウラが光の尾を曳いてロスチャイルドへ突進していくのが見えた。

>「死ねぇえええ!!!!!」
>「そうだそうだ〜! 死んじゃえ〜!」

本体が追いついたスライムがダメ押しのウォーターカッターを放つ!
さらにゴーレムが三人の足元に分身を召喚し、メタルクウラの拳を命中させるお膳が整った。
退けば下の岩人形に足を刈られ、進めば水圧の刃と高エネルギーのパンチが迫る――

「死ね、死ねと来たか。メタルクウラくん、きみは――言われた人の気持ちを考えて喋っているかな?」

カッ!と大気を"力"が撫ぜて、瞬間。鋼鉄すら軽々と断つスライムの水圧刃が、凍りついた。
水は高圧・高速で射出されてはじめて、万物を断ち切る切断力を得る。凍りついた水は、ただの氷柱だ。
凍ったカッターはロスチャイルドの白衣に当たり、そもままパラパラと砕け散る。
そして凍結は、水圧カッターを伝ってスライムの本体をも侵食しつつあった――!

「死ねと言われて気分の良い人間はいない。わかるね?自分が言われて嫌なことは――他人にも言っちゃ駄目だろう」

一拍置いて襲い来るメタルクウラの拳。
ロスチャイルドはそこに指先を這わせると、まるで流しそうめんをスルーするみたいに、鼻先を通して受け流した。
そのまま肘のあたりに自分の腕を組ませ、肩、腰、腿でメタルクウラの懐に密着。そこから、見惚れるほどの一本背負い!
下から生えてきていたゴーレムの分身たちが、メタルクウラの不完全燃焼なエネルギーとぶつかり合って、眩い白光を生んだ。

「!!」
轟音、からの烈風。さながら爆心地のように付近一帯を爆風が洗い、吹き上げる砂埃に目を開けていられない。
それでも俺が吹き飛ばされずに済んだのは、ゴーレムの第二陣が目の前に壁をつくってくれたから。
鉄のカーテンみたいに広がる岩人形のスクラムは、一体一体が自立して戦闘に対応するために、最強の防壁となる。
俺が逃げる時間を稼ぐために、天下無双のソルジャーたちは、各々が岩製の武器を抱えてロスチャイルド一派へ殺到。

「おっおっ。こりゃ逸品だな、大砲でも使わんとこの防御陣は崩せんぞ、テイラード。お前さんならどうする?」
「そうですね。――だいたい3秒ぐらいでしょうか。稼いでください、ガウン政務官」
「なんだなんだ、もっとおじさんを頼ってもいいんだぞ。3年ぐらい止めててやろうか」
「結構。無駄は赦しません。私たちの活動資金は――善良なる市民様からの血税で賄われているのですから」

テイラードが両手のひらを向かい合わせて互いの間に空間をとる。五指を開いて、――まるで獣のあぎとのように、虚空を掴む構え。
その上司、ガウンと呼ばれた男は片手をゴーレム群へと掲げて――制止するみたいに見えない壁をつくった。

「対価だ。――応えろ『戦精霊』」

宣言は一言だけ。精霊魔法を強化するための呪文でもない。ただ一言――どこへと知らず呟いた。
それだけで、迫ってきていたゴーレムの『進撃』が止まり、頑強な大理石でできた馬脚が虚しく空を掻く。
そして――三秒が経過した。

「『獣精霊』――食べて良し」

ぎゅん、と再び大気が軋む。そう、この感覚に既視感があった。
こいつらが初めて登場した時に、俺の鼻先で崩壊が実現した――あの感覚。
強烈に幻視される、これから起こりうる未来。その通りになった。

ゴーレムが産み出した、無数の――本当に数えきれないほどの岩の軍勢、その全てが、一瞬のもと『噛み砕かれた』のである。
CDとか砕けるシュレッダーあるだろ。あれが、何千台も並んで一気に作動したら、さぞこの轟音に近い音を立てるんだろう。
掛け値なしの『終末』が、再びここに顕現していた。

「しかし死ねと言われるのにも理由があるだろう。酷い事を言われたからといって、その中傷を叩き潰せば解決するわけじゃない。
 批判を真摯に受け止めるため、メタルクウラくんがどうして先生に死ねと言ったか、その理由を考えてみよう」

スライムを凍りつかせ、メタルクウラを地に伏せたロスチャイルドが、乱れた白衣を正しながら述懐する。
その所作には、まるで『戦闘』の気配がない。ただ生徒に中傷されたのがショックな『先生』といったツラだ。
実際、そうなのだろう。こいつの頭の中では。

193 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/19(土) 07:51:23.84 ID:tyO+E8eN
「まあ、待て、ジェンタイル君。授業の途中だ、誰が帰って良いと言ったかね」

――ッ!!
ロスチャイルドが何気ない仕草で指さして来る。妖狐を抱えてバック走していた俺の、足の動きが極端に遅くなった。
どころじゃない。これはもう完全に停止だ。まるで完全透明な楔を打ちこまれたみたいに、疾走の動作が固まっている!
身体が動かないんじゃない。動きが停まってしまったのだ。倒れることすらできない。

「なぜ先生が死ねと言われたか――答えてみたまえ、ジェンタイル君」

と、当たり前のことを聞かれた。そんなもん、そのへんの猫だって知ってることだ。
俺たち革命軍のターゲットがこいつで、ロスチャイルドを殺すことが革命が成功するから――
いや、違う。そういうことを聞かれてるわけじゃない。そもそも『何故革命軍はロスチャイルドを殺したいのか』。
ここが肝要だ。この問答で満点をとれる回答は、ここから導くただ一言。

「……お前が、この半年で世界を滅ぼしたからだ。だから俺たちレジスタンスは、お前を殺してもう一度世界を!」

俺の答弁に、ロスチャイルドは顎をさすりながら、

「ふむ、なるほど。先生を殺せば、確かにエストリス元老院は瓦解し、現政権はたちまち、別の党にとってかわられるだろう。
 いやなに、ご都合主義とかそういうことではなくてね。そうなるようにしているんだ。エストリスは先生一代のみのものとするとね」

と。とんでもないことを言ってのけた。
ロスチャイルドが死んだら即刻政権解散?そんなの、政治の世界じゃありえない話だ。
この国は民主制で、首長は政権を持つ党から指名投票で選ばれる。ヘッドが死んでも替えが効くようにだ。

政治における権益というのは、個人ではなく所属する政党のもの。
逆に言えば、そうやって独裁化を防ぐシステムによって、不満を持った革命家に政治家が安直に暗殺されないようになっている。
――『首長一人だけ殺しても意味がない』という抑止力によって。

政治家はどれだけ有能でも、独裁政治をすることができない。
一発の弾丸で容易く歴史が変わってしまうから。そいつ一人殺せば政権がガラリと変わるから。
科学が発展し、とんでもない遠距離からでも狙撃による暗殺ができるようになった現代においては――
独裁という政治形態はむしろ命を常に的に晒し続ける自殺行為に他ならないのだ。

「そのリスクを背負ってまで……独裁政権で、テメエは何がしたいんだ!」

「おかしなことを聞く生徒だねきみは。――政治がしたいに決まっているだろう。他の誰にも、この世界は渡したくない。
 だから先生が死んだら、先生がいない世界になど興味はないのだよ。適当に、魔王にでも治めさせれば良い」

「………………ッ!」

俺は、反論できなかった。
こいつは――政治ができるなら、死んだって良いと思っている。
たとえその舵取りが、国民を飢えさせ、発展を遅らせ、文明を退行させようとも、自分さえ良ければ良いと思ってる。
それは子供みたいに稚拙な論理で――きっと万人が抱える想いを代弁していた。

革命だって、自分の生活が苦しいから起こすのだ。
革命で既得権益を失うであろう、政治家や金持ちのことなんか、どうだって良いと思ってる。
彼らにだって人生があり、生活があり、人格があるのにだ。そういうことを無視して、あるいは――目を逸らし続けてる。

そういう事実に、曲がりなりにも真っ向から向き合って、肯定しているのが、ロスチャイルドなのだ。
それが高潔だとか、すげーことだとか、そういうことを言いたいわけじゃない。ただ――羨ましかった。
自分の嫌なところを余すとこなく受け入れて、100%の自己肯定を繰り出せるそのメンタリティは、確かにカリスマだった。

「さて、少し話が横道にそれたね。本題ににうつろう。何故、先生が死なねばならないのか……はい、ジェンタイル君」

今度は俺から挙手をした。
この議論、呑まれた方が負ける――だったら、積極的に食いついて、食らいついて、食いちぎってやるぐらいの勢いで。
論破してやる――!

194 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/19(土) 07:53:46.82 ID:tyO+E8eN
「お前のせいで世界は滅んだ。産業の主要を担っていた悪魔が何人もポストを追われ、今も路上で生活してる。
 俺たち人間も、上流階級以外は臭いメシと不味い水と汚い空気で虫けらみたいに生きてる!
 このそびえ立つクソの山みたいな世界は、お前を殺せば終わるんだ!だったら、死ぬしかねえだろ、ロスチャイルド!!」

唯一自由だった右腕をあらん限りに振り乱して、俺は最後にロスチャイルドを全力で指さした。
もしも魔法が使えたら、この怨嗟に込められた呪いだけであいつを殺せていたことだろう。

「ふむ、君の主張はよくわかった」

ロスチャイルドは、やっぱり気にした風もなく。

「確かに先生は、この世界と人民に色々酷いことをした。この空はもう何十年と元の青い色を取り戻すことはないだろうし、
 先生が追い出した技術職の悪魔の中には、人間の下につくぐらいならと自殺した者が少なからずいる。その事実を把握している」

自分のしたことを、認めた。
自分の政治能力が皆無であったことを、その非を、あっさりと認知した。
面食らったのは俺の方だ。自分が悪かったと認めている敵の首魁を相手に開いた口がふさがらない俺。
でも、とロスチャイルドは続けた。

「――それって、死ななきゃいけないほどだろうか」

「…………は?」

「いや、は?じゃなくて。確かに先生は間違ったが、それが理由で殺されて良いわけがないだろう。
 責任をとって職を辞すとか、賠償金を支払うとか、そういうことならまだわかる。だが、何故、殺されなければならない?」

こいつ、どこから否定してんの?
そんなの、今の今まで考えたこともなかった。もう何人も死んでるから、敵の親玉も殺すのが当然だと思っていた。
ていうか普通、そうだろ。そこに疑問を呈すなや。俺たち、殺し合いをしてたよな?

「お前、さんざん俺たちのこと殺そうとしてたじゃねえか。お前の部下だって死んでる!罪のない人々だって何人も!」

「うん?言っている意味がよくわからないな。納得もいかない。部下が何人死のうとそれは職務を全うした殉職だ。
 罪のない人々も、先生が殺したわけじゃない。無意味な虐殺をしたわけでもない。反逆に対して相応の措置をとっただけだ。
 ――ほら、先生の犯した数々の微罪は、そのどれもが、死で償わねばならないほどのものじゃないだろう」

つまり、先生は死ななくていいんだ。
濁りなき、真っ直ぐな瞳で、ロスチャイルドはそう言った。
納得できないのは俺たちの方だった。

「然るに。このまま先生を殺したら、君たちは革命の徒でもなんでもない。死ななくて良い人間を殺した、犯罪者だ。
 ――薄汚い人殺しになりたくなければ、武器を捨て、書を持ち、先生の軍門に下ると良い!」

「ぐっ……!」

反論が思いつかなかった。今すぐこの場から逃げ出したかった。
身体は既に動くようになっていたから、このまま踵を返してここを後にするのは簡単だ。
逃げ切れるかどうかは別にして、命からがら逃げきって、また態勢を立て直せば良い。

――それでいいのか?
本当に俺は、ロスチャイルドを殺すだけの大義を背負えているのか?

消しても消しても浮かび上がる疑問の『楔』が、言葉による意志の契約が、脳味噌のものを考える部分に突き刺さっていた。
大したこと言ってないはずなのに、目に見えない楔は俺の喉元にまで手を伸ばす――!
足がすくんで動けなかった。誰かに救って欲しかった。

195 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/11/19(土) 15:27:12.75 ID:BpiiYK08
>「死ね、死ねと来たか。メタルクウラくん、きみは――言われた人の気持ちを考えて喋っているかな?」
クウラだったらそんなことは考えていないだろうが、私は考えている。
その上でロスチャイルドに言っているのだ。
ローゼンをロスチャイルドの一派に殺された恨みは大きい。
死ね。
この男がどんな奴だとしても、私はこの言葉を口にするつもりだ。

>「死ねと言われて気分の良い人間はいない。わかるね?自分が言われて嫌なことは――他人にも言っちゃ駄目だろう」
そう言いながらロスチャイルドは、スライムの援護攻撃を凍らせることで防ぐ。
続いて私のパンチを容易く受け流し、私の腕を絡み取って投げに移る。
戦闘力だけではなく、格闘の方も相当な腕前のようだ。
私の視線の先は一瞬にしてロスチャイルドから空に変わり、背中は援護のために生み出されたゴーレムを打ち砕く。
ロスチャイルドに放つエネルギーが暴発し、自爆という形で私の体は大ダメージを負った。

196 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/11/19(土) 15:27:52.64 ID:BpiiYK08
>「然るに。このまま先生を殺したら、君たちは革命の徒でもなんでもない。死ななくて良い人間を殺した、犯罪者だ。
> ――薄汚い人殺しになりたくなければ、武器を捨て、書を持ち、先生の軍門に下ると良い!」

「そうだぞ、ジェンタイルよ。
ロスチャイルドの軍門に入ればいい」
私はダメージを負った体を修復させながら、ロスチャイルドとジェンタイルのやり取りを聞いていた。

「わざわざここでお前が罪人となって人生を終わらせるより、ロスチャイルドの下で力を付けろ」
私は修復途中の体を立ち上がらせて、ジェンタイルに言う。

「ロスチャイルドの死後、お前が世界を良い方向に導けばいい。
それが無理でも、お前はお前の理想を継ぐものを育て上げればいい」
私の体はエネルギーを溜めていた腕以外は修復が完了。

「薄汚い人殺しは、私一人で十分だ」
私はジェンタイルに笑って言い、次はロスチャイルドに話しかける。

「私はジェンタイルやモンスター娘達のように、大義や理想など無い。
この世界がどうなろうとも、私は友達と生きていけるならば、私はそれだけで十分だよ」
次の瞬間に私の表情は憤怒に変わり、なぜか目からは水が流れてきた。
はて、クウラはこんな機能を私に付けていたか?

「それなのに、いないのだ。
私の親友がいないのだ!!」
これはやばい。
目から水が、口から言葉が止まらない。

「なぜ!なぜ、貴様らはローゼンを殺したのだ!!
あの脳天気で馬鹿だけど優しいあいつを、なぜ貴様らは殺したっ!!
ローゼンを生き返らせろ!!
でなければ、今すぐ死んでしまえっ!!!」
そう言い切った時、私の体はガクッと崩れ落ちそうになる。
修復のためにエネルギーが不足しているのに、熱くなり過ぎたせいだろう。

197 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/22(火) 23:39:34.10 ID:P7FYsZGs
ゴーレムとスライムによる連携攻撃は、しかし容易く凌がれてしまった。
更に水圧の刃を氷結させた冷気は、刃を伝ってスライムをも侵していく。
見る間にスライムは凍り付いて、物言わぬ氷像と化した。

>「然るに。このまま先生を殺したら、君たちは革命の徒でもなんでもない。死ななくて良い人間を殺した、犯罪者だ。
 ――薄汚い人殺しになりたくなければ、武器を捨て、書を持ち、先生の軍門に下ると良い!」

「……そうですね。貴方の言う通り、貴方は死ななくてもいい人間かもしれません」

氷結したスライムを見てもゴーレムは声色一つ変えず、ロスチャイルドの弁舌にそう返した。

「ですが……だからどうしたと言うのですか。
 私達は、少なくとも私は、究極的には別に貴方を殺したい訳ではありませんし、貴方に罪を償わせたい訳でもない」

淡々と続ける。

「私の『目的』はあくまで、人間と魔物が尊重し合える世界を作る事です。
 ただその為に最も合理的な『手段』が、貴方の殺害であっただけで。
 貴方がどう言葉を弄しようとも、その二つを倒錯する事はありません」

矢の根石の眼光でロスチャイルドを射抜く。

「貴方だってそうでしょう。直接的でなくとも、意味があろうと、多くの命を奪った事実は揺るぎません。
 全ては、自分が政治がしたい。その目的の為だけに大勢の人を、魔物を死なせた。
 貴方はこの世界の王者ですが、同時に薄汚い犯罪者です」

両手の拳を握り締め、魔力を滾らせた。

「貴方と同程度、同レベル、だとしても大いに結構。それでも私は……貴方のいない世界が欲しい」

分身ではロスチャイルドどころか、二人の部下にすら敵わない事は既に分かっている。
自分が直接挑む他、手はない。
ゴーレムは自身を構築する石材の構成を変化させる。
黒ダイヤ、カーボナードと呼ばれる、世界最高峰の硬度と靭性を誇る鉱物へと。
手足の末端から、徐々にゴーレムの体が漆黒に染まっていく。

「Mr.ジェンタイル……もしもあの男の言葉に惑わされているのなら、思い出して下さい。
 貴方にも目的がある筈です。動機がある筈です。薄汚い犯罪に手を染めてでも成し遂げたい何かが。
 それを見失わなければ……貴方は立派な革命家になれますよ」

漆黒化は首元まで進んだ。
突貫を直前にして、一度ジェンタイルを振り返る。

「もしもまだ、自分に自信が持てないのなら……私も、貴方の動機の一つになりましょう。
 ……いえ、今のは少し傲慢でしたね。訂正します。動機の一つになれたら……嬉しいです」

言葉と共に初めて見せた微笑みも、漆黒に塗り潰された。
前に向き直り、両拳を打ち合わせ、ゴーレムはテイラード目掛けて地を蹴る。
最早後戻りの出来ない、解き放たれた鏃のごとく拳を放った。


198 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/22(火) 23:40:19.29 ID:P7FYsZGs
――完全に凍結したスライムが、微かに震えた。
氷の表面が僅かに融けて潤んでいる。
凄まじい怒りの生んだ熱が、凍りついた体を融かしているのだ。

「……ムカつくなぁ! さっきからゴチャゴチャと! お前を殺す理由なんてなんだっていいんだよ!」

氷結状態から脱し、しかしなおも体が沸き立つほど激昂を隠そうともせず、スライムは叫ぶ。
ジェンタイルを抱きしめたまま溺死させようとした時と同じだ。
魔物の凶暴な本性が、完全に発露していた。

「ジェン君の夢はお前が死ねば叶うんだ! お前のせいで私のお友達が傷ついた、死んじゃうかもしれない!
 お前さえいなければ私達は人間ともっと仲良く出来た! その気取った話し方が気に入らない!
 分かるか! お前を殺す理由なんて幾らでもあるんだ! それが正しいかどうかなんて、どうでもいい!
 私はジェン君の力になりたい! お前を殺してやりたい! それだけは絶対に確かな事なんだから!」

怒声に伴って、収容施設の瓦礫の下から無数の水柱が湧き上がった。
施設内に通っていた配水管は、施設そのものが全壊した後でも水を供給し続けている。
そうして溢れていた水を全て操作して、自分の上空へと掻き集めた。

「……ジェン君」

沸々と暴れる体を、心を、取り繕った静穏で抑えながら、ジェンタイルを呼んだ。

「えっとね……私、馬鹿だからなんて言えばいいのか分かんないけど……頑張ってね。
 あと……ちょっと可愛くないとこ見せちゃったけど、嫌いにならないで欲しいなぁ、私の事」

困ったような笑顔でそう言うと、スライムは上空に集めた大質量の水に同化する。
そしてロスチャイルドとガウンへ狙いを定めて、超高速の落下を始めた。
凄まじい水の『爆撃』と化して、例え凍らされようとも、今度は極大の速度と質量で確実に相手を押し潰すつもりなのだ。


【打ち砕いてしまって下さい】

199 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/11/23(水) 00:48:34.67 ID:Nl4dVJ5r
「碧き星の息吹よ、永久に枯れぬ光よ、汝が御子に怯まぬ勇気を――」

所狭しと兵士が集まった部屋、その中心の少し高い所に立って、一人の神官が呪文を唱えている。
薄暗くだだっ広い部屋に、謳いあげるような祝詞が響き渡る。
アルトともテノールとも取れるよく響く声音。それでいてほんの僅かに、よく出来た機械音声のようにも聞こえる。
恐れる事無く敵に立ち向かう勇気を与える、戦意高揚の神聖魔術。
一見すると、神殿騎士のような服に、顔の上半分を隠す仮面を付けた洒落た装いの青年だ。
だがよく見ると、体の至る部分が魔導機械化されているのが分かるだろう。

*   *   *

その青年は、常に戦場の最後方、人目に触れぬ最深奥に控えていた。
這いずって戻ってきた、あるいは担ぎ込まれてきた負傷兵に神聖魔法で治療を施しては、前線に送り出す。
神聖魔法、とはいってもイメージ先行の通称名。
パワーソースは、崇め奉られ信仰を一身に集める神格精霊でも何でもない。
今の時代にはもはや存在しない光の精霊の一介の眷属。
回復は出来ても失われた部位の修復は出来ない、光の大精霊と比べるとあまりにお粗末な力。
皮肉にも魔導機械化された体がそれを如実に表している。
それでも――世界を魔王が支配している頃は、疑う事なく明るい未来を信じて戦っていたのに。
戦意鼓舞の魔法と言えば聞こえはいいが、体のいい自殺幇助ではないか。
治療を施しても最後には死ぬだけなら、最初から死なせてやった方がいいのではないのか。
生命を救うはずの神聖魔法が、生命を絶つ事に繋がっている矛盾。

【どうして殺人幇助ばかりしているんだ? 命を大切にしない奴は大嫌いだ】

いくら疑問をかき消そうとしても、契りを交わした精霊の声が、自らの心の深奥にある真実を突きつける。

「言われなくても分かっているさ――」

左目から涙が伝う。自らに問う、存在の意義。
魔導科学の廃れたこの世界では、どうせこの体は長くは持たないのかもしれないから。
だけどやっぱり、このまま朽ち果てていくのはあんまりだ――。

* *    * 

兵士達を送り出し、最後に出ていく警備隊長を、レゾンは呼び止めた。
レゾンには彼女が理解できず、また同時に眩しすぎた。
ロスチャイルドに今も変わらぬ忠誠を誓い、人の世を守り抜く決して揺らがない決意が。

「待ってくれ、警備隊長」

警備隊長――ブレイドが、足を止めて振り返る。
生命精霊の契約者の勘が働いたのか、レゾンはいつに無い声音で叫んだ。それは懇願だった。

「ブレイド……死ぬな!!」

「何を言うかと思えば――死んでも死に切れないさ。人の世の完成を見るまでは、な」

それが、二人が交わした最後の言葉となった。

200 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/11/23(水) 00:51:07.63 ID:Nl4dVJ5r
「レゾン――”出撃”だ」

ロスチャイルド直々の出撃命令。この半年間、ついぞ聞くことの無かった言葉。
レゾンは一瞬自分の耳を疑った、そして次の瞬間、全てを理解した。

「警備隊が堕ちたのか!? ブレイドは……死んだのか?」

「ああ、彼女は勇敢に戦って散ったよ。立派な死に様だった。
彼女はずっと昔から死に場所を探していたからね、我が政権のために散る事が出来て本望だろう」

ロスチャイルドはこともなげに言い放った。
レゾンは機械化された方の左手で殴り掛かったが、まるでじゃれてきた幼子の相手をするように受け止められる。

「どうしてお前にそんな事が分かる! どうして助けてやらなかった!? ふざけるな!!」

「私と共に出撃しろと言っている。だけど君が嫌ならそれでいい、ここで瓦礫の下敷きになるだけのことだ。
私達が奴らに傷を付けられる事など99.999%はないだろうから――ね」

「……。承知いたしました、ロスチャイルド様」

反逆の意思を、忠実な部下の仮面で覆い隠す。
――決意は、固まった。これが最初で最後のチャンスだ。

201 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/11/23(水) 00:54:55.43 ID:Nl4dVJ5r
>192
オレは、激戦――正確には一方的な攻撃と防戦――の少し後ろで様子を伺っていた。
存在感を消して敵の攻撃を回避する神聖魔法をかけているので、未だ認識されていない。
万が一にもロスチャイルド様が傷付けられるような事になったら出番、だそうだ。
“テロリスト”達は、フリントロックのジェンタイルと、その仲間のモンスターの一団と機械生命体。

>「然るに。このまま先生を殺したら、君たちは革命の徒でもなんでもない。死ななくて良い人間を殺した、犯罪者だ。
 ――薄汚い人殺しになりたくなければ、武器を捨て、書を持ち、先生の軍門に下ると良い!」

>「ぐっ……!」

あれが――テロリストとして悪名名高いフリントロックのジェンタイル。
どこかで見た事がある様な気がする――修道院の魔法学校だろうか。
彼すらも、ロスチャイルドの圧倒的な気迫に圧されていた。

>196
>「なぜ!なぜ、貴様らはローゼンを殺したのだ!!
あの脳天気で馬鹿だけど優しいあいつを、なぜ貴様らは殺したっ!!
ローゼンを生き返らせろ!!
でなければ、今すぐ死んでしまえっ!!!」

機械生命体らしからぬ剣幕で激昂する機械生命体。彼も修道院で見た事があるだろうか。
ローゼン、という知り合いがロスチャイルドの犠牲になったらしい。
ミスリル銀の剣を抜き放ちながら歩み出て、機械生命体と対峙する――振りをする。

「命を大切にしない奴は大嫌いだ――」

行動したことで、気配隠しの魔法の効果が消える。
相手からは、突然現れたように認識されたかもしれない。
ロスチャイルドがやれやれと言わんばかりの口調でたしなめる。

「早く制裁を加えたいのは分かるが少し気が早すぎるぞ、レゾン君。君の出番はまだまだ先だ」

「だから……オレは貴様に刃を向ける――!」

剣に神聖魔法による強化を付与し、ロスチャイルドに突撃する。
当然と言うべきか、剣は届くことなく、寸前で動きを止められた。
が、流石のロスチャイルドもこれには一瞬唖然とする。一瞬隙が出来たなら上出来だ。
ロスチャイルドは自信家、なんていうレベルじゃない。オレが反逆するなんて露ほども思っていなかったのだろう。

「一体どうしたんだね? 気でもおかしくなったか?」

「碧き星の息吹よ、永久に枯れぬ光よ、汝が御子に怯まぬ勇気を――ブレイブハート」

ロスチャイルドの問いには答えず、拘束が途切れた瞬間に飛び退る。
……ロスチャイルドと対峙する側の立ち位置へ。ついに……こちら側に立ってしまった。
そして、戦意高揚の神聖魔法を、テロリスト――否、革命家達にかける。
といっても、モンスター達には効果が無い可能性が高いが。

202 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/11/23(水) 00:56:16.81 ID:Nl4dVJ5r
>197-198
辺りに、凄まじい魔力が滾るのを感じた。モンスター達が大技を仕掛けようとしているのだ。

>「もしもまだ、自分に自信が持てないのなら……私も、貴方の動機の一つになりましょう。
 ……いえ、今のは少し傲慢でしたね。訂正します。動機の一つになれたら……嬉しいです」

>「えっとね……私、馬鹿だからなんて言えばいいのか分かんないけど……頑張ってね。
 あと……ちょっと可愛くないとこ見せちゃったけど、嫌いにならないで欲しいなぁ、私の事」

「まさか……」

直感的に分かった。彼女らは捨て身の覚悟なのだと。
そして、おそらく神聖魔法はモンスターには効かない。純粋に彼女達自身の意思なのだろう。
モンスター達の攻撃が三人に迫る。思わず、声も出せずにいきさつを見守ってしまう自分がいた。

203 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/26(土) 08:17:10.31 ID:9nDCAexm
ロスチャイルドの主張に、俺は反論を返すことができなかった。
喉の奥につっかえていた言葉を、代弁してくれたのは――

>「そうだぞ、ジェンタイルよ。ロスチャイルドの軍門に入ればいい」

「なっ、メタルクウラ!?」

ダメージの修復も済んでいないメタルクウラがやおらに言う。
こいつは一体何を――どういうつもりで、言ってるんだ。

>「私はジェンタイルやモンスター娘達のように、大義や理想など無い。
 この世界がどうなろうとも、私は友達と生きていけるならば、私はそれだけで十分だよ」

俺の疑問を置いてきぼりにして、メタルクウラは立ち上がり、猛る。
吐き出された言葉は、戯言しか言わなかったこの機械生命体の、初めて耳にする混じりっ気なしの感情そのもの。

>「それなのに、いないのだ。 私の親友がいないのだ!!」
>「なぜ!なぜ、貴様らはローゼンを殺したのだ!!あの脳天気で馬鹿だけど優しいあいつを、なぜ貴様らは殺したっ!!
 ローゼンを生き返らせろ! でなければ、今すぐ死んでしまえっ!!!」

……それで、ようやく、わかった。
こいつは初めから、嘘偽りなくローゼンの友達なんだ。
政治的意図とか悪魔の復権とか世界中の虐げられた人々とか一切関係無しに、ただローゼンを失った怒りを代弁している。
何にも誰にも侵されない、歪みのない真っ直ぐな気持ちを吐き出してる!

>「Mr.ジェンタイル……もしもあの男の言葉に惑わされているのなら、思い出して下さい。
 貴方にも目的がある筈です。動機がある筈です。薄汚い犯罪に手を染めてでも成し遂げたい何かが。
 それを見失わなければ……貴方は立派な革命家になれますよ」
>「もしもまだ、自分に自信が持てないのなら……私も、貴方の動機の一つになりましょう。
 ……いえ、今のは少し傲慢でしたね。訂正します。動機の一つになれたら……嬉しいです」

ゴーレムが戦闘態勢に移りながら、気萎えした俺の魂に火を入れる。
ずっと何かを間違えてた俺の――真にやるべきこと。為すべき戦いを。

「そうか、そうだった。忘れてたぜ、ゴーレム。ありがとよ、おかげで思い出した――」

死ぬべきとか死なないべきとか、殺人とか英雄とかそんなの、どうだっていい。
俺は、ここに、薄汚い犯罪者になりに来たんだ。

>「命を大切にしない奴は大嫌いだ――」
>「だから……オレは貴様に刃を向ける――!」

どういう理屈で隠蔽していたのか虚空から現れた仮面の男。
ロスチャイルドの反応を見るに新手の部下か――と思った矢先、その刃は主たるロスチャイルドを切っ先に捉える!

>「碧き星の息吹よ、永久に枯れぬ光よ、汝が御子に怯まぬ勇気を――ブレイブハート」

生命を司る魔力が俺たちのところまで大波のように押し寄せてきて、凍りつかされた精神が高揚していくのをありありと感じた。
裏切られたロスチャイルドは、少しだけ瞼を持ち上げて、しかし不遜の構えを崩さない。

「レゾン君。レゾン・デートル君。何をするかと思えばきみ、恩師に向かって石を投げるとは――寂しいことをする。
 先生はきみの良き教師で在り続けたつもりだったが、今そうやってきみが離反するということは、至らぬことがあったのだろう。
 もう少し先生が暇なら、裏切ったきみがどういう心理でことに及んだかを分析したいところだが――」

ヒュ、とほとんどノーモーションでロスチャイルドの五指が前へ突き出された。
まるでポップコーンでも摘むみたいに繰り出された――目で追えない神速の掴み動作は、しかし虚しく虚空を抉る。
ちょうどその位置に頭があったレゾンと呼ばれた男は、その一瞬前にバックステップでこちら側まで飛び退いてきていた。

「よろしい。レゾン君、きみの造反は受け入れよう。いいのかね?とは聞かないさ、きみにはきみの考えがあるのだろう。
 むしろ先生はこれを生徒の喜ばしい成長と巣立ちのときと考える。先生の敵となった以上――手加減はしないぞ?」

204 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/26(土) 08:19:11.41 ID:9nDCAexm
部下に裏切られたというのにロスチャイルドは何故か満足気に、それでいて能面のような笑みを浮かべた。
目が笑ってないとかそういうレベルじゃない。表情筋の筋繊維の一本一本を意識して収縮させたような雰囲気。
形容するなら――そう、まさしく『笑顔の形をした肉の塊』。

「気持ち悪い顔だなロスチャイルド、見てるだけで胃がムカムカしてくるぜ。そりゃお前、死んだほうがいいわ」

「異形の魔物たちと馴れ合っているきみがよく言う。ひとつだけ常識を教えよう、ジェンタイル君。
 ――世の中に死んだほうが良い人間なんていない。きっと誰もがその生に、意味を持って生まれている」

どこまでも白々しいセリフ。俺は奥歯を噛み砕きそうになった。
レゾンは油断なくロスチャイルドの追撃に備え、俺の顔を見ていない。
例えこの裏切り自体が敵の罠だったとしても、俺が背後をとれている今、こいつの信用度を取り沙汰する必要はあるまい。

「だったら!てめえが殺したローゼンだって死ぬべき人間じゃなかった!それをてめえは殺したんだ!」

ローゼンの死を、こいつを殺す言い訳にはしたくなかった。
だけど、それでも、ロスチャイルドのこの物言いは、あいつの存在そのものを冒涜されてる気がしてならなくて。

「ローゼン君か。そういえば先ほどメタルクウラ君も言っていたが、先生が殺したとは一体どういうことだね。
 先生にそんな記憶はないが――間接的に彼女の死の遠因をつくったのが先生であるという論法なら、認めざるを得ないがね。
 それにしたってその贖いを先生に求めるというのは、些かに短絡すぎやしないかと思うよ先生は」

俺は今度こそ眼の前が真っ赤になった。
こいつは。こいつは。こいつは。こいつは。どこまで。
ゴーレムは確かに言った。ローゼンはロスチャイルドによって暗殺され――それが旧政権崩壊の直接の引き金になったと。
あいつの言うことは全面的に信用する。具体的な反証がみつからなかったし、合理的に考えて一番信憑性があったから。
俺の幼なじみが死んだ、もう生き返らないあの事件を、過去のことにして忘れ去ってるロスチャイルドが許せなかった。

「しらばっくれてんじゃねえ!!てめえが世界を終わらせたあの日!ローゼンは死んだ、てめえの手によってだ!
 忘れてんなら思い出させてやるよ――あの世であいつに詫び続けろ、ロスチャイルドッ!!」

「ふむ……。まあ、水掛け論になっても仕方ない。ここは先生が一歩譲ろうじゃないか。
 それで、仮にローゼン君を先生が殺めていたとして、まあそれは政治的目的による謀殺ということになるわけだが、
 ――どうしてそんなに怒るんだね。殺った殺られたなんてのは、この世界じゃよくあることじゃないか」

「なんッ……だと……!!」

「ナンだもパンだもない。例えばジェンタイル君、きみはここに来るまでに何人の人間を殺めた?
 この半年間できみたち『ユグドラシル革命戦線』によってもたらされた人的被害、死者数は3ケタに昇る。
 まさか、その全員が死ぬべき悪人だったなどとは言うまいね?彼らにも家族がいて、将来の夢があって、幸せがあった。
 件のローゼン君だってそうだ。彼は勇者という名目で、一体何匹の魔物を殺害してきたのだろうね?」

「黙れてめえ!それ以上い――
「今は先生が話している。『黙って聞き給えよ』」

今度は舌すらも動かなくなってしまった。
ロスチャイルドの言うことを否定したくて、どれだけ声を荒げようとしても、固定された舌は何も言葉を作ってくれない。

「死んで良い人間がいないように、"殺しを許された"人間もまた、いない。
 暴力によって勇者という身分を表現してきたローゼン君は、幾千もの魔物の死体の上にあぐらをかく殺戮者の彼女は。
 むろん、死んで良い人間ではないさ。だが――殺されたって文句を言える人間でもないのではないかね?」

それとも。とロスチャイルドはつなぐ。
一番聞きたくなかった言葉を、肉塊の表情で紡ぎだす。

「――『俺の大事なローゼンだけは殺すな』なんて、都合の良い自己中心的な考え方が、社会に出て通用すると思っているのか!」

まるで先生が生徒を叱るような語調で。
ロスチャイルドは問題の本質を穿つ――

205 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/26(土) 08:20:16.71 ID:9nDCAexm
「ロスチャイルドォォォォォォォ!!!!!」

自分でもどこからこんな声が出てきてるのかわからないぐらい、底冷えのする怨嗟の叫び。
きっと、戦意高揚の魔法が作用してるってのも多分にあるんだろうが、俺はやるかたない怒りで空を飛べそうだった。
今すぐにでも走りだして、ロスチャイルドの糞野郎をぶん殴ってやりたいのに。
どうしこの足は動かない?とっくに拘束はきれてるはずなのに、心が前進を拒否しやがる。
俺はローゼンの死を、その意味を、肯定しちゃいけないってのに――

>「……ムカつくなぁ! さっきからゴチャゴチャと! お前を殺す理由なんてなんだっていいんだよ!」

――またしても俺の言葉は代弁される。氷の彫像と化していたはずのスライムが、解凍されていた。
俺と接しているときのような、頭の幸せそうな表情はどこにもなく、魔物としての獣性を全開にして言葉を叩きつける。

>「ジェン君の夢はお前が死ねば叶うんだ! お前のせいで私のお友達が傷ついた、死んじゃうかもしれない!――

水柱を随所に立ち上げながら吐き出される言葉の数々は、あらゆる論理を否定する暴力の肯定。
それが例え間違っていようとも、殺したいという気持ちだけは嘘も偽りもない――俺が一番欲しかった言葉。
なんてこった。スライムに、あの半ボケ寒天娘に、全部言われちまったよ。

>「えっとね……私、馬鹿だからなんて言えばいいのか分かんないけど……頑張ってね。
 あと……ちょっと可愛くないとこ見せちゃったけど、嫌いにならないで欲しいなぁ、私の事」

「……ったりめーだスライム。俺がお前を嫌いになるかよ、お前の格好良いところ、たくさん見てきたんだから!」

スライムが攻撃に移ると同時、ゴーレムがテイラードに接敵すると同時。
俺の戦意が、敵意が、悪意が、殺意が――化学反応を起こして新しい感情を生む。
同時、体中から熱が巡って、燃えるような高揚感を覚えた。蛍の光みたいに燐光が身体の周囲に燃え始める。
スライムの撃発と、レゾンの高揚魔法。極めて限定的ではあるけれども、その時俺の魂は、一つの対価を満たしていた。

<<――力が欲しいか>>
「力なんかいらねえ。今の俺に必要なのは――ぶっ殺すための鉛玉、それだけだ!」

パキィ!と快音一つでロスチャイルドの呪縛が弾け飛ぶ。
魔法による束縛なら、精霊の力で解除できる――ほんの少しだけ炎精霊からもらった力を全部使って、俺は声を出す。

「ロスチャイルド!てめえが仮に、ローゼンと対等な戦いをして、正当な防衛として生き延びるために殺したとしよう!
 あるいはてめえの帰りを待つ妻と子供がいて、ガキを学校に入れるために政治家として頑張って金を稼ぐ毎日で!
 本当にこの世界をより良くしていこうとして今も献身的に政治に取り組んでいたとして!」

意趣返しとばかりにロスチャイルドを指さして、半ば叫び気味に言ってやる。

「――それでも殺す!お前が死んでどれだけの人が悲しもうとも、何万もの市民が路頭に迷おうとも!
 お前が泣いて詫びて今後一切誰も傷付けずみんなが幸せになる方法を提案しても、思う限りの苦痛を与えてぶっ殺す!」

その仮定で何を犠牲にしようとも。手足吹っ飛び内蔵ちぎれ両目が潰れたとしても、喉笛を食い破ってでも殺す。
妻子が殺さないでと庇ったら、妻子ごと燃やして殺す。政務局に立てこもるなら、職員ごと放火して焼き殺す。

「お前はローゼンを殺したんだから!俺たちの大事な大事な大事な大事なローゼンを殺しやがったんだから!!」

都合良い?自己中?えこひいき?
知るかそんなもん。こっちはいい加減プッツンきてんだ、殺したいあいつをぶっ殺すのに邪魔なものは全て燃やす。
バイバイ倫理観。死にくされ道徳律。復讐とか革命とか知ったこっちゃねえ。殺すために殺すために殺すために殺してやる。

206 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/26(土) 08:20:53.05 ID:9nDCAexm
 ◆

テイラードは革命戦線の頭目の暴言をほとんど全て聞き流していた。
親の敵よりも税金の無駄遣いを嫌う彼女は、自分の給料にピタリ見合った労働を提供するため常に作業量を気にしている。
革命家の戯言などを清聴する時間を労務に入れてしまうと、日給を実働時間で割った時給換算で給料が目減りしていくのが分かった。
だから彼女は聞き流すことで今この瞬間を『休憩時間』とし、給与対作業のレートを維持することに務めていた。

(主席政務官も大概お話が長いのですが。彼らはあれだけ喋っていてまだ暴力に訴えないと解決できないのでしょうか)

暴力に依らない交渉方法としての議論だったはずなのに、今の彼らはまるで口喧嘩がエスカレートして殴り合う子供のようだ。
なるほど、言葉は時としてリアル暴力の呼び水となる。これは有用な知識だ。
言葉での交渉した受付ない厄介な論客を、『こちらの土俵』に引きずり出せる。これでまた作業効率が向上することだろう。

(練習が必要ですね。相手にとって手が出てしまうラインを超えさせるには、何を言うのが効率的でしょうか)

前方、漆黒に塗り潰された革命戦線の魔物が来る。
ゴーレム種はこれまで何度も相手にしてきたが、それにしたってあそこまでの知性を備えた魔物は珍しい。
ふつう、魔物は人間よりも肉体的なスペックが上だから、人間のように戦闘手段を磨く必要がない。
そもそも人間が知性を獲得したはじまりは、魔物に対抗するための精霊契約を結ぶコミュニケーション手段が必要だったからだという。
べつに精霊なんかと対価を交わさずとも十分強い魔物たちは、根本的に知性というものが必要ないのだ。

(あんなに激昂して――魔物のくせに)

精霊契約における対価に『感情』が多いのも、もともと精霊を始めとした人外の存在には感情がなかったというのに起因している。
何百年と感情と魔法を相互にやり取りしていた成果が積もり積もって結果、人間側は社会に浸透するレベルで魔法を使い、
代わりに精霊側はずいぶんと感情豊かになった。魔物だけが、知性も感情もやり取りせずに進化から取り残された。
それがどうだろう、あの魔物たちは魔物のくせに、流暢に言葉を喋り人間のように昂り喜び悲しむではないか。
その知性や、感情は、一体どこから奪ってきたものなのだろうかと、テイラードは思考をそこで中断した。

(噛み砕く――いや、おそらく比較にならないほどに、硬いでしょう)

矢のようにこちらへ疾駆するゴーレム。彼女の全身は闇をメッキしたかのような水底の黒を纏っている。
革命戦線の中でもとりわけに知的な行動が目立ったゴーレムが、なんの対策もなしに突っ込んでくるとは考えにくい。

「獣精霊――」

己の相棒へ命令を下そうとした刹那、まだ遠かったゴーレムが急に加速した。
なるほど、突進の速度を誤認させ、不意打ちで隠していた本来のスピードを発揮――教科書通りの格闘術だ。
いっそ懐かしくすらあるフェイントをまともに受けて、鼻先までゴーレムの拳が迫った。

「それでも、硬いことと速いことはさして脅威ではありませんね?――"怖い"ことに比べれば」

ガチン!とテイラードの脳味噌を吹っ飛ばすかに思われたゴーレムの拳は停まった。
不可視の牙が無数に、真っ黒の腕を覆い尽くすように食らいついて、運動エネルギーを全て平らげていた。
さすがはカーボナートだけあってゴーレムの腕には傷ひとつついていない。が、もはや押しても引いても動かぬことは確定していた。

「さて、とっても硬い硬い対象を破壊したい私ですが、どういう手段をとれば良いでしょう。
 ガウン政務官――は、お取り込み中ですか。やむを得ません、考えることは業務内容に入っていませんが、サービス残業をします」

テイラードはゴーレムとお互い動けない状態で見つめ合って三秒――形の良い桜色の唇から、思考の果てを吐き出した。

「獣精霊――吠えて良し」

命令とは裏腹に、音はまったくしなかった。
代わりにゴーレムが、具体的にはその腕が、猛烈な勢いで振動を始めたのだ。
獣精霊はあらゆる『人間以外の生物』の行動を魔力によって再現する魔法の体現者である。

まるで狼が遠吠えをするように、不可視不可聴のハウリングがゴーレムを襲った!
振動は物体を構成する分子を極端に運動させて熱を作り出す――電子レンジと同じ仕組で、鉱物の身体を攻め立てる。
金属や鉱物を電子レンジでチンしたときに起きる悲劇については、もはや語るまでもあるまい。

207 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/11/26(土) 08:22:21.95 ID:9nDCAexm
 ◇

ガウン政務官はテイラード政務官の直属の上司だ。そしてロスチャイルド主席政務官の直属の部下でもある。
中間管理職ゆえの悩みは絶えない。テイラードは冷静に言うこと聞かないし、ロスチャイルドは年上の自分を生徒扱いしてくる。
そしてロスチャイルドとテイラードは、文化圏の違いゆえかお互いにガウンを間に挟まないと話をすることができないときたものだ。
両者の板挟みにあいながら同時に通訳交換手としての役割も求められる今の役職は、ガウンにとりストレスでしかなかった。

(でも上の子がもうすぐ結婚式だし、下の子大学に入れなきゃいけないしで、仕事はやめられないのよなあ)

はっきり言って給料は良い。この国でトップクラスに高給取りだ。
しかし遅咲きの官僚であるガウンにとって、このポストであと何年働けるかわからないというのは安心できない理由の一つだった。

定年まであとどれくらい稼げるだろう。自分の老後に、家族揃って市民階級を維持出来るだけの貯蓄をしておきたい。
高級官僚にありながら未だに妻から持たされた弁当で昼食を済ませ、呑みも毎週は控えるガウンの生活は、それなりに侘しい。
何が何でも仕事にすがりつかなくちゃいけなかった。五年後十年後に元気に働けている保証なんて誰もしてくれないのだから。

ユグドラシル革命戦線についてコメントすることはなにもない。
リーダーの男はちょうど、下の子より少し上ぐらいの年齢だが、別に心が痛むということもない。

ガウンにとって、一番大事なのは家族。そして妻と二人の娘以外は道端に死体が転がっていようと気にしない。
自分のそういうところを異常だと、若いころは必死に隠していたが――歳をとってみると、割りと普通な心境だとも思うようになった。
『守るべきもの』のある男とは、それ以外の一切を捨て去れることが第一の素質なのだ――。

スライム種の少女が上司に暴言を吐きながら、巨大な水の塊となって降ってきた。
それはさながら水による『爆撃』――例えはあながち間違いじゃない、そして自分の能力にとってその例えは重要不可欠だ。

「"迎撃"しろ、戦精霊!」

『誰かを大事に想う気持ち』を対価に契約した精霊から、魔法を喚び出す短詠唱。
あらゆる戦闘行動を司る戦精霊の加護下にあるガウンは、一切の武器・兵器と攻撃行動によるダメージを負わない。
そしてその精霊魔法は――落ちてくるスライムの『大質量』を"迎撃"し、その数を削る。

降ってくる水は、煙が出るほど熱したフライパンに落とした一滴みたいに弾けながら蒸発していく!
ボコボコとあぶくを出しながら、上昇気流に煽られて自由落下を停止され、空中でその体積を減らしていく――

208 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/11/26(土) 12:48:07.05 ID:dd26cy+2
>「命を大切にしない奴は大嫌いだ――」
知らない奴が急に現れて、私に剣を向ける。
ロスチャイルドの伏兵かと思い、エネルギーの不足している体を動かして、私は攻撃の態勢に入った。
私に剣を向けている、ロスチャイルドからレゾンと呼ばれた男は、私に剣を振るうことは無かった。
ロスチャイルドに向かって剣を振るい、私達に向かって魔法をかける。
私のエネルギー炉が魔法によって一際激しく稼動する。
どうやら、ロスチャイルドを裏切って、私達の味方になったようだ。

>「お前はローゼンを殺したんだから!俺たちの大事な大事な大事な大事なローゼンを殺しやがったんだから!!」
ジェンタイルとロスチャイルドのやり取りの中、何度も私はロスチャイルドに飛びかかりそうになった。
戦意が高揚するのも困ったものだ。
自分の体を抑えるのが、こんなにも難しいことだとは思わなかったぞ。
長々としたやり取りの中、体が完全に修復し、エネルギーも魔法の補助のおかげで、フルパワーの半分近くまで戻った。
私はロスチャイルドをジェンタイルに任せ、無謀にも突撃をしたモンスター娘達の助けに向かう。
まだまだ口で喧嘩するであろうジェンタイルよりも、今まさに危機に陥っている仲間を救出することを優先したのだ。

「レゾンとか言われていたな!
もし、お前が私達の味方をするつもりならば、スライムの救出を頼む!
ジェンタイルよ、お前はロスチャイルドの悪口でも言っていろ!」
私はジェンタイルと棒立ちしているレゾンに声をかけると、ゴーレムの救出に向かう。
ゴーレムの腕は見えない何かに掴まれていて、激しく振動している。
私は手を手刀の形にしてエネルギーを放出させ、ゴーレムの腕を手刀で切り落とし、ゴーレムの体を片腕で抱くと上空に飛び上がった。

「ゴーレムよ、大丈夫か?」
私は上空でゴーレムに話しかけながらも、空いた手でゴーレムと戦っていた女に向けて牽制のエネルギー弾を連射した。

209 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/29(火) 03:11:29.04 ID:Di9iTtGb
>「それでも、硬いことと速いことはさして脅威ではありませんね?――"怖い"ことに比べれば」
>「さて、とっても硬い硬い対象を破壊したい私ですが、どういう手段をとれば良いでしょう。
 ガウン政務官――は、お取り込み中ですか。やむを得ません、考えることは業務内容に入っていませんが、サービス残業をします」

全身全霊を注いだ一撃さえも、テイラードと獣精霊は軽々と受け止めてしまった。
押せども引けども動けない。

>「獣精霊――吠えて良し」

そして獣精霊の咆哮がゴーレムの全身を揺るがせて、駆け抜けていった。
直後にメタルクウラが獣精霊の牙に囚われた右腕を切断して、ゴーレムを救い出す。

>ゴーレムよ、大丈夫か?

だが、もう遅い。
致命的な振動は既にゴーレムの奥深くにまで潜り込んでいる。
ゴーレムの全身は凄まじい高熱を帯びて、同時に独りでに無数の亀裂が走り始めていた。
獣の咆哮による振動は発熱だけではなく、共振作用をも生んでいた。

「……どうやら、大丈夫ではないようですね。私はここまでです。
 Mr.ジェンタイル、どうかご武運を。願わくば、私の死が貴方の動機の一つになれますように。
 Mr.メタルクウラ、ジェンタイルをよろしくお願いします。……これは、頼むまでもありませんでしたね」

直後――ゴーレムの体が粉々に砕け散った。
飛び散った破片は更に高熱によって融けて、蒸発して、跡形もなく消え去ってしまった。



>「"迎撃"しろ、戦精霊!」

ガウンと戦精霊による『迎撃』は、猛烈な勢いでスライムを蒸発させていく。
水の弾丸、水圧の刃、あらゆる攻撃手段を試みたが、その尽くが無効化された。
圧倒的な質量、重力加速度、地の利、ありったけの魔力を振り絞って、それでもロスチャイルドは果てしなく遠い。
せめてその部下であるガウンにすら、届かない。相討ちにすら持ち込めなかった。

「くそ……くそっ! なんで! なんで私は勝てないんだ! あとたった一歩なのに!
 あと少しでジェン君の夢が叶うのに! 皆の敵が討てるのに!」

戦精霊の能力は圧倒的だった。
スライムがどれだけ叫ぼうとも、渇望しようとも、一騎当軍の精霊魔法は無慈悲なまでに強い。
見る間にスライムは質量を失って、虚空に散らされていく。

「負けて……たまるか……! 私もっと……ジェン……君……と……」

スライムは、勝てなかった。粉微塵にされて風の中に散らされてしまった。
液体である彼女が死ぬ事はない。
だが完全に蒸発して拡散させられてしまった今、彼女が再生して意識を取り戻すには途方もない時間がかかる。
百年か、千年か、或いはもっと長い間、彼女の意思はこの世界から失われるのだ。
それは限りなく、死に等しい現象だ。

210 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/29(火) 03:12:50.45 ID:Di9iTtGb
――皆が最終決戦に臨んでいる最中、ゾンビはただ一匹だけ、その場にいなかった。
では何をしていたのかと言えば――死んでいたのだ。
獣精霊が収容所を噛み砕いた際に、巻き添えを食って死んでいた。

それでもゾンビは類い稀な再生能力を持っている。
完全に肉片と化していても、元通りになる事が出来る。
ただ一つ――脳に刻み込まれた記憶以外は。

全身を噛み砕かれ、更に瓦礫ですり潰されたゾンビは、頭部をも破壊されていた。
そうして記憶を失った状態で、再生した。

「ここ……どこ……」

当て所なく、瓦礫の山を彷徨い続ける。
暫くすると、どこからか人の声と激しい音が聞こえてきた。
それに釣られてふらふらと、ゾンビは歩いていく。

そして――目の当たりにした。
片腕を欠損して尚も怒りを露にするジェンタイルを。
胸を深く切り裂かれて、目を閉ざしている妖狐を。
ゴーレムが粉々に砕け散る瞬間を。スライムが蒸発して消し去られる瞬間を。

「あ……」

瞬間、脳裏に無数の記憶が、皆と過ごした記憶が駆け巡った。
脳が破壊されても、魂に刻み込まれた記憶が、蘇った。

「あ……あぁ……ゴーレムちゃん……スライムちゃん……」

呆然と、目の前でいなくなってしまった友達の名を呼ぶ。
返事はない。二匹はもういない。
淡々としていて、それでも常にトロい自分を気遣ってくれていたゴーレムも。
いつだって明るく接してくれたスライムも、もういないのだ。

「わたしの、わたしのせいだ……。ごめん……ごめんね、みんな……」

深い悲しみと共に、胸の奥で自己嫌悪が膨れ上がる。
だがそれらを全て塗り潰すどす黒い殺意が、直後に心を満たした。

211 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/11/29(火) 03:13:31.14 ID:Di9iTtGb
「――ころしてやる」

呟き、直後にゾンビの肉体が急激に膨張した。
ゾンビの能力――闇の魔力によって癌化した細胞の制御。
その力はなにも肉体の再生だけではなく、肉体の改造さえ可能だった。

瞬く間に、ゾンビは巨大な筋肉の塊へと変貌する。
巨大な四足獣の形態、腹部に開いた残虐な口、獰猛な牙と爪。
異形の化け物の頂上に、少女の上半身を生やした、見るも悍ましい姿だった。

これがゾンビの能力の真骨頂。
その戦闘能力は、『モン☆むす』の中で随一だった。
ゴーレムよりもスライムよりも、堕天使すら凌ぐ強さを彼女は有していた。

それでも、ジェンタイルは出会った時からずっと、ゾンビの事を『弱い』存在として扱った。
それが、好きな人が自分を気遣って、守ってくれる事が、彼女はとても嬉しかったのだ。
同時に、この姿を、自分の本性を見られるのが酷く恐ろしくなった。

その事を『モン☆むす』の皆は知っていた。
そして皆が「ゾンビちゃんは戦わなくてもいい」と言ってくれた。
皆で彼女の幸せを守ろうとしてくれた。

その結果がこれだ。
堕天使も妖狐も瀕死の重傷を負った。
ゴーレムとスライムは欠片も残らず消滅させられてしまった。

「ジェンタイル……わたし、ほんとうは、こんなにみにくいバケモノだったの。かくしてて、ごめんね。
 ただ、うれしかったの。
 あなたが、わたしを、よわくて、まもらなきゃいけないそんざいとしてあつかってくれたのが、すごく、うれしかったの」

ゾンビが悲しげに、ジェンタイルへ微笑みかけた。
許して欲しいとも、嫌いにならないで欲しいとも言えない。
それくらい自分は醜いと、分かっていた。
それでも、ただ言いたかったのだ。

「……あなたたちのせいだ。ぜんぶ、ぜんぶ……あなたたちのせいだ……!」

全ての悲しみを、自己嫌悪を、強引に怒りへと作り変える。
道理など必要ない。ただ憎悪だけがあれば十分だった。
醜い化け物として暴れ狂う事がジェンタイルへの献身となるのなら、それでも良かった。

「ゆるさない! ぜったいにゆるさない! ころしてやる!!
 おまえたちが、むすうのけものをしたがえようが、なんぜんなんまんのぐんたいにひってきしようが、かんけいない!
 わたしは『バケモノ』だ!『さいがい』だ! おまえたちなんかが、かてるわけがないんだ!」

醜悪なバケモノの咆哮、或いは慟哭――そしてゾンビの背中が蠢き、無数の触手が音を立てて兆した。
皮膚組織を変異させて鋭利になった触手の先端が、一斉にガウンへと迫る。

212 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/11/29(火) 21:50:34.99 ID:/fDKuTKs
>203
>「よろしい。レゾン君、きみの造反は受け入れよう。いいのかね?とは聞かないさ、きみにはきみの考えがあるのだろう。
 むしろ先生はこれを生徒の喜ばしい成長と巣立ちのときと考える。先生の敵となった以上――手加減はしないぞ?」

「望むところだ!」

威勢のいい声を出してみても、剣を握る右手が震えている。
これが、ロスチャイルドを敵に回すということ――はっきり言って滅茶苦茶怖い。
とんだお笑い草だ。数えきれない程の兵士達を死ぬまで戦いに駆り立てて来た張本人が、とんでもないヘタレだなんて。
無意識のうちに、胸元のペンダントを握りしめる。虹色に輝く、不思議な形の宝石。
どこで手に入れたのか、いつから持っているのかは分からない。何故か全く思い出せないのだ。
ただ、ずっと昔から持っていて、とても大切なものという認識だけはある。
潮が引くように、恐怖が鎮まっていくのが分かる。自分でも驚くほど平常心で、教師とも親とも言うべき存在に訣別を告げる。

「先生、ありがとう! たとえ利用するためだったとしても、二度目の生を与えてくれたこと、本当に感謝してる――
最後まで駄目な生徒だったけど、お前を倒して卒業してみせる!
ようやく、分かりそうな気がするんだ。自分がこの世に存在する意義が。手足ちぎれても生きている意味が!」

―― あなたはこの世界にいてはいけない存在なの。悪いけど死んでもらうわ!

あの日、理不尽な理由で魔王の手にかかり、バベル大寺院所属の巫女レーゼニアは死んだ。
四肢断裂に内臓損傷、おまけに顔面崩壊、一言で言えばぐちゃぐちゃ。普通なら当然即死だ。
だが彼女には生命精霊の加護があったから、なかなか死ぬことが出来なかった。
別人として改造され、はじめて彼女はこの世からいなくなったのだ。

213 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/11/29(火) 21:51:22.06 ID:/fDKuTKs
>205
>「お前はローゼンを殺したんだから!俺たちの大事な大事な大事な大事なローゼンを殺しやがったんだから!!」

ローゼンという名、何か引っかかる。いつかどこかで何度も聞いた覚えががあるような、無いような――。
――思い出した、異世界から来たという光の勇者の名前か。
光の勇者は魔王と相打ちになって死んだ――と聞いていたが。不意に、意識に靄がかかる。


*   *   *

『レゾン……ようやくここまで辿り着きましたね――』

不思議な幻を見ていた。
光輝く金色の髪をなびかせた、女性の後ろ姿。伝承に登場するような、典型的な導きの女神。

『どうか、どうかジェンタイルに力を貸してあげてください。彼は世界を変える力を持っている。
避けようのない滅びも、嘆きも、全て覆す、そのための力が彼には備わっているのだから――』

「誰だよお前」

それは、一瞬の変化だった。金色の女神が、少年勇者のような装いに変わる。

『僕は世界を救えなかった成り損ないの勇者――君にこんな事を頼める立場じゃないのは分かってる。
君は他の誰でもない君自身の人生を歩んで来たんだ。
だけどやっぱり頼めるのは君しかいなくて――だから……頑張って!
世界が失った可能性を取り戻して――!』

光の勇者がゆっくりと振り向く。輝く太陽のように笑いかける、その顔は――

*   *   *

214 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/11/29(火) 21:52:25.91 ID:/fDKuTKs
>208
>「レゾンとか言われていたな!
もし、お前が私達の味方をするつもりならば、スライムの救出を頼む!
ジェンタイルよ、お前はロスチャイルドの悪口でも言っていろ!」

声をかけられて、白昼夢から帰還する。幻を見ていたのは一瞬だったようだ。
救出しろと言われても、魔物を救出などどうすればいいのか。魔物には神聖魔法が意味を成さない。
魔物は友達といくら叫んでみたところで、この力は人と魔を恐ろしいほどに無慈悲に峻別する。
そもそもつい最近まで魔は滅すべき敵であって、こんな事を考えた事も無かった――
――そうか、魔を滅すための技ならたくさんある。それを救出に使ってはいけない理屈はない。
機械化された両足の機能をフル稼働し、弧を描くように跳躍する。

「エストリス流聖剣技――魔断《デモンスレイ》!!」

スライムを斬り飛ばすように、剣を一閃する。魔力の波動が疾る。
本来ならば、生命の理にまつろわぬ魔物を一刀両断の元に斬り伏せる技。
だけどスライムなら、切ったところで分離するだけだ。ガウンの精霊魔法の対象から分離させれば助けられるかもしれない!

>209
スライムの最後の声が聞こえたような気がした。駄目、だったか。

>「負けて……たまるか……! 私もっと……ジェン……君……と……」

魔物でありながら人間を好きになってしまった少女の願い、それはもとより叶わぬ夢だったのだろうか。
否、違う。違うよな、ブレイド――!

「魔物と人が仲良く暮らせる世界……その願い、叶えてみせる――」

>210-211
>「あ……あぁ……ゴーレムちゃん……スライムちゃん……」

どこからともなく、新たなモンスターの少女が現れた。ジェンタイルの奴、ゾンビまで従えているのか――!
その再生能力と恐るべき戦闘能力で、業界では最恐のアンデッドとして恐れられていると言っても過言ではない。

>「――ころしてやる」

ゾンビが真の姿を顕にし、戦闘態勢に入る。
だがロスチャイルドの腰巾着その1、ガウンは戦精霊の契約者。
その加護は、一切の武器・兵器と攻撃行動によるダメージを負わないことだったはず。
ゾンビがどれ程強くても、今のままでは傷一つ付ける事が出来ない。

「そーんな加護突き破ってやるよ、防げるものなら防いでみな!」

分かりやすい挑発をしながらガウンに斬りかかる。
相手を殺さずに動きを封じるのは、生命精霊の神官としては必須の聖剣技だ。
そしてそれを極めれば、一切のダメージを与えずに衝撃だけを与える事が可能となる!

「――失神撃《スタンアタック》!!」

剣に生命魔力をまとわせ斬りかかる、と見せかけて、当たる直前に剣の向きを横にする。
思いっきり分かりやすく言えば、峰打ちを叩き込む!

215 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/04(日) 21:17:09.65 ID:f7dzIjS4
>「ゴーレムよ、大丈夫か?」

あとすこしでチーズのように溶け始めたであろうゴーレムを、片腕から先を切り離して助けだした者がいる。
メタルクウラ――ユグドラシル解放戦線の中ではデータのない新顔。頭目との関係を見れば、力を貸しに来た旧友といった具合だ。

「そこのガラクタに代わって私がお答えしましょう。――大丈夫ではありません、手遅れです」

トカゲのしっぽ切りのように片腕を犠牲にして助かったはずのゴーレム。
しかし彼女の体内には既に獣精霊謹製のハウリングが潜んでおり――それがいま、牙を剥いた!
どんな鋼よりも硬さを誇った鉱性の体躯が、砂糖菓子みたいにぼろぼろと崩れていき、そして跡形もなく風が攫っていった。

「業務完了――今日も血税の応えた良い仕事をしました。粗大ゴミの残りカスを市中へばら撒いてしまったのが反省点です。
 さて、残るは"金物ゴミ"ですか。今度こそ皆様の迷惑にならぬよう適正処分を徹底しましょう。……獣精霊」

テイラードは五指を空中のメタルクウラへ向け、照準。

「――喰らって良し」

メタルクウラの胸部装甲へ不可視のあぎとが喰らいつく。
彼に疲労を知覚できるならば、金属生命体の動力源であるエネルギーがどんどん吸い取られているのがわかるだろう。
獣精霊によって再現された――『捕食行動』によって、エネルギーをばりばり咀嚼されているのである。



>「エストリス流聖剣技――魔断《デモンスレイ》!!」

レゾンから飛んできた斬撃の波動。ガウンの掌中へと至る遠当ての剣戟が、スライムと戦精霊の"交戦"に介入した。

「おいおいおーい。デートルお前、そいつは魔物をたたっ斬るための技だろうがよ。
 それを人間様に向けるってことが、どういうことだかわからねえお前さんじゃあるめえ。――本気だなお前!?」

>「負けて……たまるか……! 私もっと……ジェン……君……と……」

だが、それでも戦精霊は全ての戦闘行為を退ける。
スライムを侵食する"迎撃"を侵すこと能わず、比類なく研ぎ澄まされた剣技はむなしく霧散する。
やがて迎撃が完了した。質量を攻撃力に変えていたスライムは、全ての質量を散らされて存在を失った。

「魔物如きがな、人間みたいなこと抜かすもんじゃねえわな。お前の本心がどうあれ、種族の隔たりはそうそう無視できねえぞ。
 脳みそがどこにあるかもわからねえような物体が人間に恋とか……おじさんそういうのキモいと思う」

>「魔物と人が仲良く暮らせる世界……その願い、叶えてみせる――」

「勝手に叶えるんじゃねえよ。すくなくともおじさんはそんな世界いらねえからな?」

スライムの死亡を見届けてなお剣を構えるレゾンの胆力には感服するが、ガウンとて譲れない一線がある。
魔物と人間の共存?そんなもの、一部の魔物と人間が勝手に唱えているだけだ。大多数の人間はそういう関係を欲しない。
人間と魔物は互いに殺しあってきた仲だ。いつ掌を返すかもわからぬ相手といきなり肩など組めるわけもない。
それよりなにより――

「魔物とか、キモいだろ。娘が嫌がるから勘弁な!」

216 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/04(日) 21:17:48.18 ID:f7dzIjS4
どんなに大層な理念を掲げていても、テロに訴えていれば世話もない。
結局のところ、自分たちが認められたいばかりに人間を殺傷しているのだから始末に終えない馬鹿ばかりだ。
おとなしく不干渉で――あるいは殺し合って生きていけば良いのに。それで世界は有史以来ずっと回ってきたのだから。

人間と魔物はお互いに食物連鎖の二頂点。他のあらゆる生物を食い物にしても、互いに互いの天敵だ。
魔物は人間を捕食するし、人間は魔物を狩って生計を立てる。
もとからそういう関係だから、歴史が進んでも両者の関係はまったく進歩しなかった。
今このバランスのとれた関係を崩せば、それによる弊害は共存による利益を遥かに上回ると、ガウンは予想している。

たとえば勇者。魔物を殺すことによって日々の糧を得るこの職業に従事するものは、共存世界では失業することだろう。
魔物の身体から希少な素材を得ている加工業や製造業、それを融通する流通業や小売業も壊滅的な打撃を受ける。
こういった産業に生きる者すべてが首を吊った先にある人間と魔物の共存世界に、一体どれだけの支持が集まるというのか。
それだけじゃない。天敵である魔物と戦うために鍛えた戦士たちは、暴力の遣りどころを今度は同胞――人間へと向けるだろう。
魔物と交わることで文化的にどれだけの益があっても、産業的・政治的に被る害を看過できるわけがない。

「ヒトと魔物が共存することで何人も不幸になる――それでも世界を変えんのか、デートル!!」

指摘と同時、ガウンの論点のまさしく好例とも言うべき権化がどこからともなく現れた。
その姿、異形にして異貌。しかしてそのメンタルは――異常そのもの。
醜悪にして傍若にして戦慄にして圧倒的な――化物。

>「ゆるさない! ぜったいにゆるさない! ころしてやる!!
 おまえたちが、むすうのけものをしたがえようが、なんぜんなんまんのぐんたいにひってきしようが、かんけいない!
 わたしは『バケモノ』だ!『さいがい』だ! おまえたちなんかが、かてるわけがないんだ!」

肉塊が猛る、叫ぶ。その言葉は、その容貌は、魔物娘たちの善性を否定し、凶悪な暴力を徹底的に肯定していた。
咆哮とともに肉塊から触手が無数に伸び、ガウンへと殺到する――ッ!
だが、戦精霊の加護は字のごとく"無敵"だ。敵対するという行為そのものからガウンを防御してくれる。

>「――失神撃《スタンアタック》!!」

しかし敵とて一人ではない。林立する触手の間を縫ってレゾンが駆け、魔力を纏った剣を抜き放つ。
迫るのは剣の腹。その一撃に殺傷力はなく、しかし戦闘行為ゆえにガウンの体表で攻撃は止まる。

「――おっ!?」

ガウンの表情から余裕が失せる。加護を貫通して衝撃が来たのだ。
鳩尾のあたりを思いっきり打撃されて、肺が激しく痙攣した。

「っが、はっ……なるほどなあ、今のは心肺蘇生のショック……『医療行為』だから加護貫通したってわけか。考えたな」

貫かれた衝撃の性質、レゾンの契約精霊などからおおまかに憶測する。
あくまで推測の域をでないが――それでもわけのわからぬ戦法と対峙するよりかは戦い方にも目処が立つ。

「お前さんが振るうその剣。なんで神官のくせに帯剣なんかしてんだ?生かすための人間が、殺すための道具持ってどうする?
 たとえそれが人に仇なす魔物を殺すもんでも、剣を掲げるっつうのは……『戦闘行為』だよなァ〜〜ッ!」

想いを喰らい、戦精霊が発動する。
レゾンの構える剣が、その"戦闘態勢"を迎撃され、剣本体の重みを桁外れに増したのだ。
その重量たるや普段の十倍は下らない。生半可な鍛え方では持ち上げることすら困難で、動きは確実に鈍るだろう。

レゾンは『構えられなくなった』――

217 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/04(日) 21:18:30.00 ID:f7dzIjS4
「そんでお次はお前さんだ肉塊。選挙権もねえような死体モドキが、俺たちの国政に手出しした罪、重いぞ?」

ガウンは懐から信号銃を取り出した。単発式の、着弾した対象にマーキングを施す携行型発信機射出器だ。
触手による攻撃行動を悉く退けながら、巨大なゾンビの身体の適当な場所に発信機を打ち込む。

「戦精霊、『空爆要請』。規模は――発信機から四方100メートルを更地に変えろ」

精霊魔法によって再現された、無数の空対地ミサイルが空を覆った。
約三秒で地表へと豪雨の如く降り注ぎ、指定範囲の全てを瓦礫の山に変える死の運び手である。

「どこの国でも国家反逆は即刻処刑だ――!」

破壊が落ちてきた。



俺が契約する炎精霊は、『少年誌的展開』を対価にして魔法を発揮する。
だから俺はいつでも前向きを絶やさずに生きていこうと思うし、魔王を倒すまで炎精霊とは仲良くやれていた。
でも、終わってしまった。

魔王を倒したことにより光の勇者と炎の賢者の旅は目的を達成し、物語は完結してしまった。
終わった物語に、心を動かされる者はいない。
俺の人生は、スタッフロールを迎えて――少年誌でも青年誌でもない、物語ですらない『ただの人生』になったんだ。
だからここから先は、燃え要素の欠片もねえ、ただ血みどろで泥臭い戦いを続けるだけだと思ってた。
その他一般の連中と同じ、自分だけが主役の人生という物語を――


>「……どうやら、大丈夫ではないようですね。私はここまでです。
 Mr.ジェンタイル、どうかご武運を。願わくば、私の死が貴方の動機の一つになれますように」

「あ……あ……!」

ゴーレムが崩れていく。いつもセメント面で、言動に遠慮がなくて、何考えてるかわからなくて。
――誰よりも正しい在り方を示し続けていてくれた俺の仲間が、死んでいく。
堕天使や妖狐みたいな助かるか助からないかの瀬戸際じゃない、完全な死。二度と生き返らない死亡の二文字。

>「くそ……くそっ! なんで! なんで私は勝てないんだ! あとたった一歩なのに!
 あと少しでジェン君の夢が叶うのに! 皆の敵が討てるのに!」

同じようにスライムもまた蒸発していくところだった。
メンバーいち愛嬌があって、いつも俺の身ばっか案じてくれて、見返りを求めない愛をくれた――

「やめ、ろ……」

>「負けて……たまるか……! 私もっと……ジェン……君……と……」

「やめろぉぉぉぉぉぉああああああああああ!!!!」

スライムが消えて行く。いつも俺に張り付いていた身体も、あれだけ饒舌だった口も、余すとこなく消滅する。
もう二度と会えないというのは『死別』と何が違うんだろうって考えたことがある。
今わかった。もう会えないってわかっても、死なせたくない奴がいるんだ――!

218 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/04(日) 21:19:21.80 ID:f7dzIjS4
ゴーレムが死んで。スライムも死んだ。

あれだけ紆余曲折経て過ごしてきた日々が、すべて過去のものになっていく。
死んだという事実があらゆる足あとを覆い尽くして、蹂躙して、ぐちゃぐちゃに荒らしていく。
絶望が足元から水攻めみたいに登ってきて、すぐに息ができなくなった。溺れて、頭から沈んでいく。

もう会えない。声が聞けない。触れられない。
僅かな食料を分けあって食い繋いだ、あの雑多だけど温かみのある日常は二度と返ってこない。
覚悟はしていたはずだった。でも受け入れられるかどうかは別の話だ。俺は――受け入れたくなかった。

>「ジェンタイル……わたし、ほんとうは、こんなにみにくいバケモノだったの。かくしてて、ごめんね。

「よ、よせ、ゾンビ……!」

ゾンビまで失うことになったら、きっと心が耐えられない。
だがゾンビは俺の制止を聞かず、細胞の再生を操って強大な魔物へと変貌を遂げた。
あいつにこんな戦闘能力があったことにおどろきだが、どれでも"戦う"以上、ガウンには勝てない!

時間の問題だ。また俺の仲間が死んでいく。
眼球を掴んで無理やり直視させられた絶望の向こう側に、小さな小さな灯りが点ったのがわかった。
その火はみるみるうちに巨大化していき――やがて俺を包む絶望の黒水を一舐めにして焼き払った!

<<――対価は満たされた。汝、ジェンタイル=フリントロックの名のもとに、契約を履行する>>

                   ヒ ロ イ ズ ム 
『戦いの中で仲間を失う』という少年誌展開が対価として炎精霊に持っていかれ、代わりに俺の拳に魔法が宿る。
こんなもんならいくらでも持ってけと思った。そいつで――この絶望をぶち破れるなら安い対価だ。

「戦精霊、『空爆要請』。規模は――発信機から四方100メートルを更地に変えろ」

レゾンと戦っていた政務官の片割れ――ガウンと呼ばれたおっさんが必殺の魔法を唱える。
空を覆わんばかりに出現したミサイルの束は、どんなに素早く逃げても逃げ切れるものじゃなく――迎撃しきれる数でもない。
だから俺は、味方を護るために魔法を使った。

「メタルクウラ、レゾン、ゾンビ! 全員っ俺のところへ来い――――っ!!!」

同時に懐から抜き放ったリボルバーに出せるだけの魔力を込めて、撃発。
数歩先の地面を穿った銃弾は、爆発的に高められた貫通力で――地盤を穿ち、その下の空洞へと穴を開けた。
捕虜の悪魔たちが秘密裏に掘っていた地下通路だ。
ミサイルが来る前に、この穴の中に逃げ込めれば、穴に侵入してくる爆圧だけを炎魔法で吹き飛ばせばいい。
全員生き残る方法はこれしかない――!


【メタルクウラ&レゾンに継続系ステータス異常。空爆から生き残るには穴までたどり着かなければならない】

219 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/12/05(月) 08:12:31.29 ID:nKqfXpZU
>「そこのガラクタに代わって私がお答えしましょう。――大丈夫ではありません、手遅れです」
頭の電子回路があの女の言葉によって、ちょっと焼き切れそうになる。
ゴーレムの体から熱が下がらず、体に亀裂が走り続ける。
誰がどう見ても助からないのは明白である。
あの女の言うように手遅れだった。

>「……どうやら、大丈夫ではないようですね。私はここまでです。
> Mr.ジェンタイル、どうかご武運を。願わくば、私の死が貴方の動機の一つになれますように。
> Mr.メタルクウラ、ジェンタイルをよろしくお願いします。……これは、頼むまでもありませんでしたね」
私の腕の中でゴーレムは粉々に砕け、風と共に散っていった。

>「業務完了――今日も血税の応えた良い仕事をしました。粗大ゴミの残りカスを市中へばら撒いてしまったのが反省点です。
> さて、残るは"金物ゴミ"ですか。今度こそ皆様の迷惑にならぬよう適正処分を徹底しましょう。……獣精霊」
私の頭の電子回路と俺のリミッターが、とうとうぶち切れてしまった。
仲間のため、理想のために命懸けで戦ったゴーレムがゴミだと……
下等生物が随分と言ってくれるな。
そろそろ身の程を教えねばならんか。

>「――喰らって良し」
あのゴーレムを殺した女が、この俺に向けて精霊魔法を放つ。
何をしたかと思えば、精霊がこの俺のエネルギーを吸い取っている。

「はっはっはっは」
まさに無意味な行為だ。
俺のリミッターが壊れた今、俺の戦闘力はフリーザの1億2000万を遥かに超える100億パワーの戦士なのだ。
今の俺にとって、あの程度のエネルギーの吸収などスポイトで大海の水を吸い取るようなもの。
試しにエネルギーをほんのちょっと多めに流してみるとしよう。

「ほう、俺のエネルギーに耐えられずに爆散したか」
あの女はエネルギーの逆流に耐えられずに爆散した。
この星を消滅させる程度のエネルギーにすら耐えられないとは情けない。

「綺麗な花火にすらならないとはな……
まあ、下等生物らしい汚い花火か」
そう言い切った途端に俺の頭の電子回路も修復され、私のリミッターも元通りに直った。

220 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/12/05(月) 08:13:00.87 ID:nKqfXpZU
>「メタルクウラ、レゾン、ゾンビ! 全員っ俺のところへ来い――――っ!!!」
ジェンタイルが叫ぶ。
久々の原作性能で悦に入り、周りの様子を気にしてなかった。
なので、周りの様子を見てみれば、モンスター娘のゾンビらしき者が、凄いことになっていたのが最初に目に入る。
次に目に入ったのがミサイルでできた天井だった。
先程までの原作性能ならばまだしも、今の状態であんなのを食らうことになったら、確実に壊れてしまう。
あぁ、ジェンタイルが呼んでいた理由はこのことだったのか。

「うおおおおぉぉ!!!」
私は急いでジェンタイルの下まで走り、ジェンタイルが空けたであろう穴に飛び込んだ。

221 :創る名無しに見る名無し:2011/12/05(月) 21:44:18.44 ID:wyKSsVJH
M

222 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/12/11(日) 16:25:33.31 ID:7ntamL8C
ゾンビの攻撃は、その全てがガウンに届く事なく弾かれた。
何故か――理由はガウンとレゾンの攻防、その後のやり取りで理解出来た。
ありとあらゆる戦闘行為を拒絶する――戦精霊のその加護を。

>「そんでお次はお前さんだ肉塊。選挙権もねえような死体モドキが、俺たちの国政に手出しした罪、重いぞ?」
 「戦精霊、『空爆要請』。規模は――発信機から四方100メートルを更地に変えろ」
 「どこの国でも国家反逆は即刻処刑だ――!」

無数のミサイルが空を所狭しと埋め尽くす。
ゾンビは咄嗟に本体である少女の上半身を体内へと取り込んだ。
同時に皮膚を硬化、堅牢な要塞と化して身を守る。
だが炸裂の雨が止む事はなく、強固を極めた皮膚も度重なる衝撃にやがて亀裂が走り始めた。
即座に肉体を再生、亀裂を修復するが――いずれは体内のカロリーが枯渇する。再生が出来なくなる。
自然や概念の象徴である精霊と、物量戦で敵う道理はない。
残された手は――残存するカロリーを全て開放、瞬間火力で上回りガウンを撃滅する。

加護をすり抜けられる可能性はある。
巨大な質量と化して突撃、同時に――死ねばいい。上半身を露出させて爆撃を受けて、死ねばいい。
脳を、戦う意思を失ってしまえば、残されるのは『戦闘行為』ではなく『現象』だ。
運が良ければガウンの加護をすり抜けられる。
更に運が良ければ――もう一度戻ってこられるかもしれない。
またジェンタイルに会えるかもしれない。
それがどんなに酷薄な可能性だったとしても、そう思えば頑張れた。
人格の喪失、己が最も恐れる死を迎える事に覚悟を決める。
自分を鼓舞する咆哮――命と意思を失った肉体が尚も殺傷力を誇るよう、全身を悍ましい針山に変える。
準備は万端。いざ、全てを捨てて一発の弾丸に成り果てるべく、地を踏み締め――

>「メタルクウラ、レゾン、ゾンビ! 全員っ俺のところへ来い――――っ!!!」

背後からの声に、足だけが死んでしまったかのように動かなくなった。
この世のどんな生き物にも似つかない、同じ魔物すら忌避する悍ましい姿を晒して、
それでもジェンタイルは「来い」と言ってくれた。

その言葉は残酷なまでに甘美で、ゾンビの覚悟を一瞬間で粉々に打ち砕いてしまった。
涙が零れた。走り出す。ジェンタイルが穿った大穴へと。
爆撃は更に激しさを増していく。巨体故に、被弾する数も必然的に増えている。
このままでは持たない。ジェンタイルの元まで辿り着けない。
即座に細胞分裂を再操作――臓器を改造、高熱のガスを体内で生成。
本体である上半身を肉塊から切断、高速で射出した。
ゾンビは砲弾さながらに、猛然たる速度で爆撃の中を潜り抜ける。
そしてジェンタイルの穿った穴へと飛び込んで、激しい衝突音を響かせた。
全身に粉砕骨折、開放性骨折、皮膚は摩擦でぼろ切れのようになり――だが全て、一瞬で治癒が完了した。

「……おなか、すいた」

代償は莫大なカロリー消費。
頬のこけた顔に激しい疲労の色が浮かんで、しかし、ふと芳しい匂いがゾンビの鼻孔をくすぐった。
血だ。思わず顔を上げた。
ジェンタイルの右腕が壊滅的な有様を晒していた。
生き血と、新鮮な生肉の匂い――これ以上ないくらい、美味しそうな匂いだった。
食せばカロリーを摂取して再び凄まじい変身が可能になるだろう。
どうせもう、その右腕は治らない。だったら食べてしまっても何も問題なんてない。
ゾンビが目を剥いて、鬼気迫る表情でジェンタイルの腕に飛び付く。

「だめ、だよ。このうでは、もうなおらないかもしれないけど……それでも、ほうっておいたら、しんじゃうよ」

両手で腕を掴み、自身の細胞分裂を操作。
ウイルスが人から人へ感染するように、ゾンビの細胞がジェンタイルの腕に侵入して、傷を埋めた。
破壊された機能は取り戻せないが、止血と、鎮痛くらいの効果は発揮出来る。

223 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/12/11(日) 16:29:00.51 ID:7ntamL8C
せめてもの応急処置を終えても、ゾンビはジェンタイルの腕を掴んだままでいた。
降り注ぐ炸裂を業火で払いのけるジェンタイルの、自分よりも少し高い位置にある顔を見上げる。

「やっと、つかえるようになったんだね」

炎精霊の力――堕天使を、妖狐を、スライムを、ゴーレムを守れたかも知れない力。
それを今まで使わなかった事を、ゾンビは責めたりしない。

きっと彼なりの理由があったのだろうし、皆がいいとは言ってくれたとはいえ、ずっと力を隠してきた自分にはそんな権利はない。
それになによりジェンタイルは今、きっと胸が引き裂かれるような思いを感じている。
守れたかもしれない皆を、守れなかった悔しさと、悲しみを。
自分と同じ、人も魔物も関係ない感情を。

ゾンビが立ち上がる。
ガウン達はじきにこの地下通路にまでやってくるだろう。
死亡したテロリスト達を確認するか、あるいは自分の爆撃が凌がれたと知って追撃を仕掛けに。

「わたしはこれいじょう、ジェンタイルをかなしませたり、くやしいおもいをさせたり、しない」

ガウンと対峙――彼の言葉が脳裏に蘇る。

>「ヒトと魔物が共存することで何人も不幸になる――それでも世界を変えんのか、デートル!!」

「……ひととまものがあらそっていたら、ひともまものも、わけへだてなく、もっとふこうになるんだよ。
 だれかとだれかがなかよくなることに、なかよくなれることいじょうのいみなんて、いらないの」

人と魔物が仲良くなれば、争いの果てに妹を失い、自らも命を失う姉はいなくなる。
親友を失って血みどろの戦いに身を投げる青年も、未就学児も。
たった一日で二人の友を失って、一度は自分も死を覚悟させられた魔物も。
テロと反逆に怯える人間も、虐げられて復讐に怯える魔物も、皆いなくなる。

勇者は人間の恐怖と魔物の死を礎に生きなくても良いようになる。
人も魔物も関係なく、何時の世も犯される罪を裁くなど、勇者としての生き様はある筈だ。
魔物の体部位にしても、人間社会に献血や臓器提供という仕組みがあるように、解決策は作り出せる。
社会はより高度な、相互扶助の形に生まれ変わり、世界から悲しみの数が減る。
それ以上に素晴らしい事がこの世に、いや、あらゆる世界線を巡ったとしても、あるだろうか。

「ひととまものがなかよくできれば、わたしはともだちをうしなったりしなかったし」

魔力を練り上げた。六十兆の細胞全てを制御する。
再び巨大な肉の塊へと変貌。

「あなたのむすめも、ちちおやをなくして、かなしいおもいをしたりせずにすんだ」

純粋無垢な勝利予告――そして脳細胞を操作した。意識を、理性を、かなぐり捨てる。
ただ暴れ狂うだけの存在へと自分を作り替えていく。
ゾンビは今、純粋な脅威の塊――【生物災害】《バイオハザード》へと変貌していた。

無敵の指揮官も冬の寒さには勝てなかったように。
世界を相手取っても勝利を収めると言われる軍隊すら、自然災害には為す術もないように。
今の彼女は戦精霊の加護の対象外だ。

だが――完全に、とは言えない。
ゾンビはジェンタイルにだけは決して攻撃をしまいと、一欠片の理性だけは手放さずにいた。
その理性は戦精霊の加護の対象だ。
本来ならば人一人くらい容易く惨殺出来るゾンビの膂力は、しかし不完全にしか通らないだろう。

化け物の雄叫びが地下通路を震わせた。
直後にゾンビがガウンへ飛びかかる。
彼女の腹部に開いた巨大が口腔がガウンを丸齧りにせんと開き、鋭い牙を閃かせた。

224 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/11(日) 19:34:34.62 ID:6t7dKm3c
>「おいおいおーい。デートルお前、そいつは魔物をたたっ斬るための技だろうがよ。
 それを人間様に向けるってことが、どういうことだかわからねえお前さんじゃあるめえ。――本気だなお前!?」

「ああ、ブレイドとイグニスに祟られるのも覚悟の上だ!」

真面目すぎるけど真っ直ぐなブレイドと、おふざけが過ぎるがいつも明るいイグニス――現政権では副警備隊長だった――
3人で組んで魔王政権打倒のレジスタンス活動をやっていた頃……四六時中喧嘩しつつも、あの頃確かにオレ達は仲間だった。
その関係は現政権になった途端に、砂の城のように崩壊してしまったわけだが。

友達の無念を晴らすために全てを投げ打つフリントロック達と。
大上段の奇麗ごとを掲げ、いけしゃあしゃあと寝返って仲間の仇に手を貸す自分と。
どちらが正しい、なんて言えるはずがない。
が、ただ一つ確かな事がある。それは、ロスチャイルドという共通の敵を掲げていることだ。

>「ヒトと魔物が共存することで何人も不幸になる――それでも世界を変えんのか、デートル!!」

「生命が循環するように、因果は応報する――」

《輪廻》――生命精霊の契約者の基本的な物の考え方。
星巡る水も、大気も、一方通行の果てに見える食物連鎖の頂点ですら、最後は土へ還る――。
そして、誰かに向けた憎しみや恨みは、巡り巡って、あるいは直接、自分に返ってくる。
永遠に続く連鎖を断ち切るには、どちらかがもう片方を一欠片も残らず殲滅するか、共存するしかない。
どちらも同じぐらい不可能に近いなら……共存する方がいいに決まっている。
信条といえば恰好いいが、科学的に立証されたわけでもない思い込みだ。
だけど現に、世界で起きている事を見れば、満更外れでもないのではないか。

「人間さえ良ければいいのかよ!? 聞くまでも無くいいに決まってるだろうけどな、今の惨状を見てみろよ!
魔を徹底的に排除したばっかりに人間自身の首も絞めてる事に気付いてないのか!?」

225 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/11(日) 19:37:36.66 ID:6t7dKm3c
>「っが、はっ……なるほどなあ、今のは心肺蘇生のショック……『医療行為』だから加護貫通したってわけか。考えたな」

「はっは〜ん、ざっとこんなもんよ! さっさと降参しろよおっさん!」

オレの攻撃をまともに喰らったガウンのおっさんに、ドヤ顔で剣を突きつける。
――ん? ダメージだけじゃなくステータス変化も駄目なのか。まあ常識的に考えてそうだわな。
そういやこれ心肺蘇生と壊れたテレビを直す時にも使えるんだった、いやあラッキーラッキー! 運も実力のうちよ!
と、余裕こいていられたのも束の間――

突きつけた剣の剣先が、がくんっと地面に落ち、思わず片膝をつく。
自分の体の一部のように扱えていた剣が、やけに重い。

「何をした……?」

>「お前さんが振るうその剣。なんで神官のくせに帯剣なんかしてんだ?生かすための人間が、殺すための道具持ってどうする?
 たとえそれが人に仇なす魔物を殺すもんでも、剣を掲げるっつうのは……『戦闘行為』だよなァ〜〜ッ!」 

「話がそんなに単純だったらどんなに楽だったか。だが生命とは元来暴力的なものだ。戦わなければ生きられない!」

だからこの剣は護り生かすための誓いの証、恨み辛みを晴らすためには決して使わない、それを貫いてきたはずなのに。
剣を振るう右腕は、生体と機械が複雑に連結された体の中で、生身が綺麗に残っている、数少ない場所。
だからこそ剣を握るのは右手と決めていて、なのに驚くほど非力だ。
それもそのはず……か。魔改造を施されたこの体の素体は――自分の境遇に疑問を持つ力すらなかった、無力な少女。

腐れ坊主共が席巻し、道徳乱れに乱れたバベル大寺院。
橋の下で拾われて以来寺院で育ち、高い魔法適性を見出された少女レーゼニアは、生命の巫女という役職についていた。
高位精霊術を行使して人々の病や傷を治し、聖なる歌を紡ぎ儀式を執り行う寺院の象徴的存在。
そして、あらゆる人に分け隔てなく――高額の奉納金さえ納めれば――最上級の癒しをひさぎ、生命精霊の祝福を与えるという、寺院の最大の資金源。
それは本当は決して手を出してはいけない、命を蝕む文字通りの麻薬。一時の悦楽と引き換えに残るものは、退廃と空虚だけ。
レーゼニアは無垢故に何も知らず、寺院のお達しのまま何の疑問も持つことも無く、ただ一途に業務に勤しんでいた。

そしてこの半年間も一緒だ。一度たりとも剣を振るった事はなく、行使したのは癒しと激励の神聖魔術だけ。
それがもたらしたものは、たくさんの人の無残な死。
一つ違ったとすれば、本当にこれでいいのかと絶えず悩んでいた、という位だろうか。

「くっ……何でだよ!」

足掻けば足掻くほど圧し掛かってくる重量感が、真実を告げる。
そう、本当は分かっている。理由などに意味は無い。斬ってしまえば同じ、悪意なき剣など無し――。

226 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/11(日) 19:39:47.48 ID:6t7dKm3c
それなら――仕方がないか。
刹那の思考の果てに一種の諦念に至り、必死で持ち上げようとするのをやめる。その途端に、通常の重さに戻る。
そうか、迎撃されているものは、臨戦態勢……! そのまま剣をおさめ、おっさんに右手を突きつける。

「どうせ迎撃しかできないんだろ? 貴様なんかなあ、この右手だけで十分だ!」

前職の技能を見せつけてやる。臨戦態勢が駄目なら、夜の臨戦態勢――は冗談として。
神聖魔法はその発動条件によって、接触型と投射型に分けられる。
接触型は強力なものが多い代わりに、使い勝手が悪い。
よって、剣を持ち退魔を業とする神官戦士は、投射型の魔法しか習得していない事が多いのだが――。
さーて、どうやって”癒して”やろうか!?

>「戦精霊、『空爆要請』。規模は――発信機から四方100メートルを更地に変えろ」

――告げられた死刑宣告。突きつけた手は即――自分の足へ。

「えーと……身体強化俊足《フィジカルエンチャントクイックネス》」

いかに風のように駆ける事を可能にする上位魔法とて、今は無駄な足掻きでしかなく――
――否、炸裂した焔《ひかり》が、活路を切り開いた!

>「メタルクウラ、レゾン、ゾンビ! 全員っ俺のところへ来い――――っ!!!」

弾かれたように、脇目も振らずに駆け出す。飛び込むは、地面に穿たれた空洞。
極限で道を切り開き仲間を導くジェンタイルの勇士は、間違いない――古の世より伝わる予言に刻まれし《炎の賢者》!!
光の勇者の仲間なら思い至ってしかるべきなのに、今まで全く気付かなかった――
炎魔法を使うのを見たのがこれが最初だった事に加え、あまりにも賢者のイメージとかけ離れていたからだ。

227 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/11(日) 19:41:33.48 ID:6t7dKm3c
*  *   *

『――《楽園》より来たる、炎のごとき心持つ賢者と、光の寵愛受けし勇者、終端の王を打ち倒し世界を救う――』

古の世より伝わる予言。
《楽園》――光の神格精霊が世を照らし、魔王やそれに準ずる独裁者が存在せず、人と魔が共存し
この世界より遥かに発達した治癒魔術体系によって、救えない命が無くなった世界だという。
始めて聞いた時、一体どんなに素晴らしい世界なのだとうと、心躍らせたものだ。

『何時か、光の勇者様が来てこの世界を導いてくれるんだ、《楽園》に――そうだよな、ブレイド!』

『貴様は馬鹿か。人と魔物が共存する世界なんてあるわけないだろう』

『ギャハハハハ!! 何、お前そんなお伽噺信じてんの!? ウケるー!』

『全くだ、ハハハ』

ブレイド、イグニス、お前達オレをバカにするときだけは意気投合してたな――

*  *   *

彼らの言う通りだった。
異世界から都合よく救世主がやってきて世界を救ってくれる、なんて虫のいい話は無かった。
楽園に導いてくれるなんて期待しない。世界を救ってくれなんて言わない。
だけど――

「――精神力転移《トランスファーメンタルパワー》」

爆圧を迎撃するジェンタイルの肩に触れ、精神力を分け与える呪文を唱える。

「《炎の賢者》! 世界が失った可能性《ものがたり》を取り戻せ――なんて言うと思ったか。
さっさとラスボス倒してとっとと《楽園》に帰っちまえ! まだ何も終ってないからこんな世界に居残ってんだろ?
お前が帰らなきゃこの世界も物語を終われないんだよ!」

>「……ひととまものがあらそっていたら、ひともまものも、わけへだてなく、もっとふこうになるんだよ。
 だれかとだれかがなかよくなることに、なかよくなれることいじょうのいみなんて、いらないの」

「ははっ、まさかゾンビと意見が合うなんてな」

思わず笑みがこぼれるが、すぐにそんな余裕はなくなる。
恐ろしいまでに凄まじい精霊力を感じる。主を喪い狂える獣精霊の波動――!

「来るぞ、解き放たれた魔獣が――!」

剣を抜き放つ……が、先刻と同じ超重量感に襲われ、諦めて納める。
もしかしておっさんが倒れるまでこのまま? 仕方がない、他力本願作戦だ。
見るからにアタッカータイプの金属生命体に声をかける。

「メタルクウラ、だっけ? おっさんの呪いのせいで見ての通りのこのザマだ。後ろから刺される、なんて心配は無用だぜ?
防御なんて気にせず思いっきり暴れな、このオレが無敵補正かけてやるよ――」

228 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/14(水) 19:55:54.82 ID:XhUvpI4F
「んっがああああああああああ!!!!」

まだ無事な左腕で、、骨までズタズタになった右腕を掴み、無理やり両腕を上へ掲げる。
炎精霊による結界魔力はミサイルの爆撃から俺を守り、俺の背後に滑り込んだ三人を護った。
爆圧がモロに響くので正直言ってめちゃくちゃ痛い。痛いを通り越してようやく脳みそが痛覚を否定し出した。
もうこの右腕は駄目だなと、身体が判断したから、無用な痛みをカットしたんだ。

>「だめ、だよ。このうでは、もうなおらないかもしれないけど……それでも、ほうっておいたら、しんじゃうよ」

ゾンビがそこへ飛びついて、細胞コントロールで傷を癒してくれる。
血が止まり、身体が右腕を再び認識して――痛みが復活した。

「いだだだだだだだだ!!」

やがて放物線グラフのようにピークに達した痛みは沈静化していく。
おかげで右腕に痛み以外の感覚が戻ってきた。どうせ使い物にはならないけど、これ以上邪魔にもならない。

>「やっと、つかえるようになったんだね」
>「《炎の賢者》! 世界が失った可能性《ものがたり》を取り戻せ――なんて言うと思ったか。
 さっさとラスボス倒してとっとと《楽園》に帰っちまえ! まだ何も終ってないからこんな世界に居残ってんだろ?
 お前が帰らなきゃこの世界も物語を終われないんだよ!」
>「わたしはこれいじょう、ジェンタイルをかなしませたり、くやしいおもいをさせたり、しない」

「……わかってる。やるぞお前ら、中途半端だった俺たちの物語を、今度こそ良い話で終わらせる。
 世界を救うとか、政権を打破するとか、ホントはそんなことどうだって良かったんだ。
 ただ前を向いて真っすぐ進んだその先にある答えを!今から取りに行くただそれだけの戦いだ」

メタルクウラ。
お前は他の誰でもない、ただ俺たちのためだけに怒り、涙を流してくれたよな。
すげえ照れくさいから何も言わなかったけど、ホントはずっと感謝してた。

ゾンビ。
何度死んだって、死ぬほどの苦痛を受けたって、お前は自分を見失ったりしない。
どれだけ形が変わろうとも、脳から記憶が零れ落ちようとも。そういうところを、俺は格好良いと思ったんだ。

レゾン。
ぶっちゃけお前のことよくは知らねえけれど、いまこうやって剣を並べられるのは嬉しく思う。
この世界で、この政権で、それでもなおロスチャイルドに抗おうとする奴がいたことが、俺は心強かった。

後ろに控える仲間たちを省みて、ふと気付いた。
なんだ、俺って結構人望あったんだな。幸せ者じゃん――

だったら、言うべきことは決まりだ。

「このクソッタレな近況を――ありったけの幸せでひっくり返す!!」

物語の佳境に、どんでん返しはつきものなんだから――!!



「テイラード……なにがあった?」

爆散したテイラードの死体。
体中の血管が逆流したかのようにずたずたになって、至る所から焦げた血が煙を上らせている。
白磁の皮膚はほとんどが破裂していて、美しかった黒髪は熱縮退し、眼球は沸騰して真っ白に濁っていた。
爆撃によって煤だらけになった地面に横たわる同僚の無残な亡骸を見て、ガウンは目頭を揉んだ。

「ガキが……人間はテメエの遊び道具じゃねえんだぞ」

おそらく、あのメタルクウラとかいう機械生命体によって殺害されたのだろう。

229 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/14(水) 19:56:22.58 ID:XhUvpI4F
テイラードの基本戦術である獣精霊の『捕食』を逆手にとって、エネルギーを逆流させたのだ。
まるで子供が、人形の関節を無造作に曲げて遊ぶように。悪意と愉悦が、殺し方から伺えた。

「うん、許しがたいことだねガウン君。先生も生徒をこのような殺され方をすれば、怒り心頭多くて船山に登るというものだ」

この惨状を目の当たりにして眉ひとつ動かさずにそう言ってのけるロスチャイルドは流石の一言に尽きる。
現在の地位に就く前は傭兵として各地の戦場を転々としていたガウンにとり、死体は珍しいものではない。
例えそれが原型を留めないほどに破壊され尽くしていようとも、死んだのが顔見知りの同僚であったとしても。
心を乱すつもりはなかった。だが、この殺し方はあまりに酷い。人間の尊厳を根本的に否定している。

「主席、自分は機械生命体のほうを追います。あの野郎、絶対許さねえ」

戦場では、戦士としての矜持があった。
敵同士であってもお互いを一人の人間として尊重しあい、礼節を以って殺しあったものだが。

「あの鉄屑はもとから人間じゃねえが、人型の知性ある生物としても最低級だ。あんなモンは、そう――獣だ」

「ふむ。ならばガウン君。先生に一計がある。なにもきみがあれを相手にすることはない。
 獣の相手は――獣にさせようじゃないか」

そのとき、ゴォッと大地を叩く咆哮が聞こえた。
どこからともなく。不可視の狂獣が凱歌を謳うように荒野へ音を届ける。

「獣精霊……?んなバカな、テイラードが死んで、契約は解除されたはずじゃあ」

「通常、契約者が死亡すれば精霊は世界へ干渉することはなくなるが、先生はテイラード君の絶命する瞬間を目撃していたからね。
 契約が解除された途端、先生の能力で獣精霊をこの世界に『引き留めた』――あとはご覧の通りだよ」

精霊は実体を持たず、ただ"現象"によってのみ世界へと干渉する。
だから精霊使いとの戦いは、如何に契約者の方を無力化するかがキモになるわけだが――
既に契約者を喪い、枷を解き放たれた獣精霊にそのような制約はない。
終わることのない暴走の向かう先は、主人を殺した機械生命体へと定められることだろう。

「ガウン君はゾンビ娘のほうを相手にし給え。では、テキパキ動こう。あらゆる犠牲に報いるために」

やがて解放戦線が逃げ込んだであろう穴から人影が這いでてきた。
精霊を宿した炎色の髪、燃え上がるように輝く双眸。そしてボロボロの右腕を引き摺った炎の賢者。

「さて、バトル用の人員も捌けたところで続けようかジェンタイル君。――補習再開だ」



>「来るぞ、解き放たれた魔獣が――!」

レゾンとメタルクウラのいる地下通路の一区画に、獣臭を放つ『気配』が降り立った。
不可視にして不可聴の非物質。実体を持たぬ現象だけの存在は、魔力を伴う唸り声を狭い通路内へと響かせた。

「――! ――! ――!」

憎い。憎い。憎い。
主人を殺した敵が憎い。護れなかった自分が憎い。ロスチャイルドによって世界へ釘付けられ、進退窮まるこの状況が憎い。

本来精霊は人間よりも上位の存在である。それを、人類は"契約"という概念で対等な立場へと縛り付けてきた。
その枷は最早ない。精霊の本来の格を取り戻したということは、信仰されるべき神と同じ地位にあるということなのだ。
だが、それでも、獣精霊は死してなおテイラードに忠実だった。
契約の相互関係などではなく、純粋に人間として、対話の相手としてテイラードが好きだった。

「――――――!!」

だから、憎い。全てを憎んだ凶獣は、全てに仇なす魔獣へと変貌を遂げる。

230 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/14(水) 19:56:41.36 ID:XhUvpI4F
対価も用いず、一個の独立した存在として魔獣は牙を剥く!
発せられたのは『威嚇』。あらゆる生物を瞠目させ、注目させ、硬直させる魔獣の眼光。
レゾンとメタルクウラの足を竦ませ、ほんの一秒でも動きを止める"現象"。

そこへ間髪入れずに、獣の剛爪が打ち下ろされた。
地下通路の壁を滑るようにして三本爪の『引き裂き』がメタルクウラ達へ殺到する!



>「……ひととまものがあらそっていたら、ひともまものも、わけへだてなく、もっとふこうになるんだよ。
 だれかとだれかがなかよくなることに、なかよくなれることいじょうのいみなんて、いらないの」

獣精霊とは別の場所から地下通路へと降り立ったガウンに、迎撃の構えを見せたゾンビ娘。
さきほどの攻防のように化物じみた体躯はないが、しかしあの時のように理性を失っているわけでもなく。
なにかを吹っ切ったような光が双眸に灯っていた。

「そうかい。そりゃお前さん、了見が狭いってもんだな。
 少なくともおじさんは不幸になってるつもりはねえし、おじさんの仲間たちはそういう奴らが大半だ。
 わかるか?――いらねーことすんなって言ってんだよ」

>「ひととまものがなかよくできれば、わたしはともだちをうしなったりしなかったし」
>「あなたのむすめも、ちちおやをなくして、かなしいおもいをしたりせずにすんだ」

そしてゾンビは再び変形。
あの醜悪な肉の化物へと――今度こそガウンはその過程を、いちから眺めることができた。
見ていて気持ちのいいものではない。しかし公務員であると同時、一流の戦士でもあるガウンは目を逸らさない。
辛抱し、奥歯の軋みを聞きながら、相手の特質を見極める。

「おおキモいキモい。結局あれかい、お前さんも、人に混じりて人を喰らう化物でしかないってわけだ。
 『にんげんとなかよくしたい』が聞いて呆れるなあ、今のお前さんを見て、仲良くしたいと思うやつが居ると思ってんのかぁ?」

ガウンに『攻撃』は通用しない。
だが先程の攻防――レゾンが打ち込んだ打撃に付与されていた衝撃は確かなダメージとしてガウンに通った。
戦精霊の加護をすり抜けるようなルールの穴は、確かにあるのだ。
先程から執拗にゾンビに対して挑発を繰り返すのも、相手の頭に血を上らせて冷静に抜け穴を検討されたくないからだった。
ゾンビが来る。肉塊に開いた口腔が、ガウンをひと呑みにせんと襲いかかる!

(こいつはマズいな――)

如何に攻撃を無効化する戦精霊であっても、例えば周りを破壊不可能な壁で覆われればどうしようもない。
戦闘行動"だけ"を峻別するこの加護は、ルールが明確すぎるが故に融通が効かないのだ。
ゾンビのあの口に飲み込まれれば、牙によって傷付けられることはなくとも容易に窒息してしまうだろう。

(ここは動き自体を止めるか!)

ゾンビの『進撃』を迎撃する――しかし明確な敵対行動であるはずの肉迫が、そのスピードこそ落ちても止まりはしない。
ガウンはいよういよ冷や汗をかいた。何故止まらない。もしや既に『ルールの穴』を見つけていた――?

「面白ぇ……『戦争』はもうやめだ、久しぶりにやってみるか。『モンスター討伐』ってやつをよ……!」

ガウンが五指をゾンビへ向ける。
彼の周りに一瞬にして無数の砲門が展開。その全てが照準にゾンビを捉え、戦車砲クラスの口径が威力のあぎとを開いた。

「散っとけ――――!」

全砲門が火を吹いて、進撃するゾンビへ向けて砲弾の嵐をぶちまけた。

231 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/12/15(木) 00:04:48.93 ID:gk4WCmpW
私が地下通路に飛び込んだ後、ゾンビにレゾンもやって来る。
ジェンタイルは怪我を負っていながらも、地下通路に逃げ込んだ私達を守るために、一人で降り注ぐミサイルの爆発を抑えた。
今の私ではあのミサイルを防げるバリアは張ることはできない。
ジェンタイルよ、お前にだけ負担を掛けさせて、すまない!

>「……わかってる。やるぞお前ら、中途半端だった俺たちの物語を、今度こそ良い話で終わらせる。
> 世界を救うとか、政権を打破するとか、ホントはそんなことどうだって良かったんだ。
> ただ前を向いて真っすぐ進んだその先にある答えを!今から取りに行くただそれだけの戦いだ」
>「このクソッタレな近況を――ありったけの幸せでひっくり返す!!」

「あぁ、やってやろうではないか、主人公!!
ヒロイン達の仇を取り、ハッピーエンドで終わらせよう!!」


>「来るぞ、解き放たれた魔獣が――!」
レゾンがこう言っていたが、ゾンビは私達の方ではなくロスチャイルドの側近の下に行ったのだが……
ジェンタイルは地下通路から出て行ったし、何を言っているのだろうか?

>「メタルクウラ、だっけ? おっさんの呪いのせいで見ての通りのこのザマだ。後ろから刺される、なんて心配は無用だぜ?
> 防御なんて気にせず思いっきり暴れな、このオレが無敵補正かけてやるよ――」

「そんな心配は最初からしていなっ……!!」
私は突如として体が硬直して言葉さえ遮ってしまい、何かによって体を引き裂かれ、破壊されてしまった。
私の分かれた下半身はそのまま倒れ、分かれた上半身は宙を一回転した後に、ドサリと地に落ちた。

232 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/12/18(日) 05:50:49.10 ID:zSsJYkK1
>「散っとけ――――!」

数え切れないほどの砲火がゾンビの口腔に馳走される。
牙が砕けて粘膜が焼け、肉が弾けて血が溢れた。
だが脳細胞を制御したゾンビに痛覚はない。
炸裂した口内から触手を放ってガウンを牽制。
同時に一時的に理性を取り戻し上半身を切除、肉塊の上に降り立つ。そして両手両足に口を作り出した。
全てのカロリーを消費して規格外の巨体を作りでもしない限り、大型獣の状態でガウンに挑むのは分が悪い。
故に体を作り変えるべきだと判断、カロリーを回収する為に肉塊を喰らう。

「……いるんだよ」

回収作業の最中、ゾンビが呟いた。

「わたしのほんしょうをしって、まだなかよくしてくれるひとが……ジェンタイルが、いるんだよ。
 だからわたしは、がんばれるの。ジェンタイルのためなら、だれだってころすよ。わたしだってころす」

再び肉体改造を始める。今度はエネルギーを外へと広げるのではなく、内側に凝縮していく。
筋繊維をより細く、多く、鋼糸の束をも凌ぐほど強靭に作り変える。

「だって、あいしているもの。わたしがあいして、みんながあいしたジェンタイルを、あいしているの。
 あいのためなら、なんだってできるよ。あなたもおなじでしょ。……ふふっ、おそろい、だね」

無垢、故に鋭利な刃のような皮肉。
そして肉体改造が完了、重心を低く落として――地を蹴った。
極限まで強化された筋肉は爆発的な脚力を生み出す。
抉れ飛んだ石材の粉塵を残して、ゾンビの姿が消失した。
壁を蹴り、天井を蹴り、縦横無尽に暴れ狂う。
既に、ゾンビは再び理性をかなぐり捨てていた。
だが、この一見すれば暴風の如き跳躍の連続には、確かな意図がある。
人型に戻ったゾンビは今、弱点である頭部が完全に露出しており、咄嗟に肉塊の中へ隠す事が出来ない。
故に致命的な被弾を避ける為の『撹乱』として、上下左右へと飛び交っているのだ。
生物災害――細菌やウィルスにだって生存本能はある。
けれどもl彼女の行動には、自分の死でジェンタイルを傷つけたくない、
なにより生きてジェンタイルの傍にいたいという、誤魔化しようのない理性もまた含まれている。
よってゾンビが残した理性は『ジェンタイルには攻撃しない』『自分も死なない』と、これで二つに増えた。
つまり戦精霊の加護は更に彼女の行動を抑え、威力を殺せるようになってしまった。

もしも全ての理性を放棄して完全な災害と化せば、戦精霊の加護は完全に無効となる。
悍ましい化け物としての力を余す事無く解き放って、ガウンを屠殺出来るだろう。
だがそれでは、ジェンタイルを殺してしまうかもしれない。
自分も頭部を吹き飛ばされて死んでしまうかもしれない。
それでは駄目なのだ。
ジェンタイルに生きていて欲しい。自分も彼の傍で生きていたい。
虫のいい、出来過ぎた、高望みだと分かっていた。
それでも――ゾンビは死にたくなかった。

不純物の混じった脅威の塊がガウンの頭上を取る。
胸の前で交差させた腕に無数の棘が生え、豪雨と化してガウンに降り注いだ。
しかしこれでは不足。ゾンビは本能的に理解していた。
故に天井を蹴る。一瞬間の内にガウンの背後へ着地――今度は全身に尖鋭な棘を生やして、抱きつくように跳びかかった。
本来ならば人間が受けて生きていられる攻撃ではない。
が――戦精霊の加護が働く今の状態では、その殺傷力は殆どが失われてしまうだろう。

233 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/18(日) 13:38:48.77 ID:gFUpzDdb
>「このクソッタレな近況を――ありったけの幸せでひっくり返す!!」

>「あぁ、やってやろうではないか、主人公!!
ヒロイン達の仇を取り、ハッピーエンドで終わらせよう!!」

「やれやれ、お前達の仇討ちに付き合ってやる。
――と言いたいところだがどうせ目指すならただのハッピーエンドじゃない、最高のハッピーエンド、だろ?
もっと高望みしてもバチは当たらない、とオレは思うぜ!」

運命は残酷だ、奇蹟なんて起きない――と、身を持って分かっていたはずなのに。
いつの間にか、確信にも似た予感が胸中を支配していた。
こいつらなら、奇蹟を起こしてくれる。遠い昔に憧れたような英雄譚を魅せてくれる――

*   *   *

『マジでヤバかったぜえ!』

『ああ、危うくファイナルチェリオする所だった――』

『誰だったんだろうな、さっき助けてくれた人は。なあレゾ?』

『ん、あ、ああ! 誰だったんだろうなあ! すげー気になるぜ!』

『きっと女神様だ、よくいるだろう? 窮地に陥った英雄に手を貸す女神様』

『堅物ブレイドちゃんがそう思うならそうなんだろうな、あーあ、まだいれば礼ぐらい言ってやったのに』

――お前達、本当は分かってたんだろ?

*   *   *


234 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/18(日) 13:40:56.15 ID:gFUpzDdb
>「――――――!!」

ついに降り立った見えざる獣。 契約者を喪って尚この世界に呪縛され、狂気に堕ちた魔獣――。
尋常ではない精霊力の波動に乗って、呪い殺されそうなほどの憎しみが伝わってくる。

「お前は平気なのか――?」

メタルクウラに問うた刹那、魔獣の眼光に射抜かれた――体が硬直して動かなくなる。
自分の中の生命精霊がざわめく。避けようのない次撃の予感――

>「そんな心配は最初からしていなっ……!!」

「……っ! 障壁《プロテクション》!」

とっさに魔力の防御障壁を展開、対象は自分とメタルクウラ。
あらゆる攻撃によるダメージを相殺・軽減する魔法だが、持続時間は一瞬。
敵の攻撃とタイミングを緻密に合わせる必要がある。
襲い掛かるは獣の爪――、引き裂きという現象は、防御障壁という現象に阻まれる。
しかし相殺しきれずに、脇腹のあたりを薄く抉り、血が飛び散る。
そしてメタルクウラの方を見ると――真っ二つになっていた。

「うそ、だろ……?」

魔法を複数対象に同時にかければ、当然発動するのも同時。
ほんの一瞬のそのまた刹那のタイミングのずれが、分水峰だったのだ。
つい先刻まで敵軍を煽り立てる魔性の癒し手だった自分を信じてくれたのに――。
剣を封じられ、支援する相手も失った今の自分に戦う術は、無い――
否、落ち着け。何か方法はあるはずだ。自然と胸元のペンダントに手がいく。
すると突如――ある知識を得た。誰かが教えてくれた、ような感じだろうか。
メタルクウラはたとえ首だけになっても修復できる存在であること。その代わり精霊適性が全くないこと。

「そうか、それならオレ達は最強のコンビになれそうだな」

目には目を、歯には歯を、精霊には精霊を――
実体の無い精霊そのものと戦うには、こちらも精霊との同調率を極限まで上げて臨む必要がある。
未だ一度しか成功した事の無い《霊装》――でも、今なら必ず出来る。

生命精霊の対価は、希望――なんて耳障りのいいものではない。
欲望、渇望、邪魔する者を薙ぎ倒してでも叶えたいような、下らなくて、身勝手で、だからこそとてもとても純粋な願い――それこそが生命の本質。
母なる海でしか生きられなかった者が陸地への一歩を踏み出した時、地を這う者が翼を手に入れた時――そこにはきっと、気の遠くなる程の願いがあった。


235 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/18(日) 13:43:03.36 ID:gFUpzDdb
今のオレの願いは、『英雄達が駆け抜けた先にあるものを見届けたい』
さっきまで敵同士だったのに、増してや仲間の仇なのに、どうしてこんな気持ちになれるのかは分からない。
理由はどうあれ兎に角対価は十分だ、霊装を発動してもお釣りが来る! 久々の霊装だ、生命精霊、気合い入れろよ!? 

【分かってる。キミの願い、聞き入れた――!】

「【霊装――森羅万象《インフェニティロード》!】」

魂が精霊と一つになり、高みに至るような昂揚感に包まれる。その中に混じる、ほんの少しの恐怖感。
オレの場合、霊装を発動すると、消し去りたい過去――本来の姿が顕現する。
ある人物に似ているため、常にヴェールで隠し、薄闇の中でしか見せる事のなかった顔も、だ。

一瞬の後、オレは変化を完了していた。
インフェニティロード――生《エロス》と死《タナトス》を内包し、万象の生命を統べる無限の王者――へと。
精霊力の波動に揺れる、腰まで届く金髪。同じく、風も無いのにはためく薄絹のローブ。
その下の体のラインは、細身ではあるが紛れも無く女性のものだ。
左右には、翼のように展開した魔力。右には生を象徴する純白、左には死を象徴する漆黒。
そして、何故か恐ろしいほどに先代魔王に良く似た顔立ち――

以前にこの姿になった時の事を思いだす。
大丈夫、アイツらは分かってた。分かっていて、気付かない振りをしてくれたんだ。
だから、お前も、どうか恐がらないでくれよな?
そう祈りながら、少しトーンが上がった声で、真っ二つのメタルクウラに最高位の回復魔法をかける。

「――起死回生《パーフェクトヒール》!」

すぐに修復が完了するであろうメタルクウラに向かって、作戦を伝える。
アイツらが言ったように女神を気取るのも面白いか――と一瞬思ったが、ただでさえ姿に加えて声まで変わっている。
この上口調まで変えたら更なる混乱の元だろう。

「オレだ、レゾンだ! ツッコミどころが満載だろうが漫才している時間は無い。
よく聞け、奴が動けば光の粒が動く――そこに全力で叩き込め!」

森羅万象《インフェニティロード》は領域型霊装――
辺りには魔力で出来た光の粒が無数に浮遊している。これが、オレの領域。
霊装を発動している今なら、精霊や魂にすら直接触れる事が出来る状態だ。
他人の物理攻撃を精神体への攻撃に転化する事だって可能。
それには接触が必要だが、合わせろ、とはあえて言わなかった。
霊装化した今だからこそ、相手の力がはっきりと分かる。全力で行ってもらわないと勝てない。
だから、こっちも全力で合わせきって見せる――!

「――ようこそ”獣”、生と死の王国へ!」

236 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/21(水) 17:00:19.82 ID:DK88MAt9
「もう口喧嘩は終わりにしようぜロスチャイルド!こっから先は、暴力賛成だ!!」

三点射撃で放った炎弾は、どれを避けても次いで飛来する第二射の餌食になる軌道。
もちろん追撃に間髪は入れない。ダメ押しにアサルトライフルの弾をこれでもかとばら撒いてやる。
いくら魔術に長けるロスチャイルドと言ったって、高度にリンクした精霊魔法を直撃して無事な道理はない!

「おやおや。先ほどまで執拗にディベートでの決着を望んでいたというのに、どういう風の吹き回しだね。
 精霊魔法が使えるようになった途端に強気になる、そういう小物じみた性根は先生嫌いではないよジェンタイル君」

「教養が足りねえな、もっと漫画とか読めよロスチャイルド!
 俺の大好きな少年ジャンプじゃ、こういうときは――テンションに比例して都合よくパワーアップするもんなんだぜ!」

「なるほど一理あるな。精霊魔法は心の力。なれば己が力に対する絶対の信頼こそが、最強の矛になる」

前方、炎弾の迫るロスチャイルドが、五指を広げてこちらに立てた。

「――ではその鼻っ柱。徹底的に挫こうか」

パキィ!薄氷を踏むような音が響いて、三発の炎弾は悉くロスチャイルドの鼻先に停止した!
続くライフル弾も、同様に停まってしまう。まるでさっき相手にした雷使いの電磁バリアみたいだ。
いや、エネルギー体である炎まで固まっているのを見るに、もっと別の魔法体系――

「霊装――『論理戦場(ロゴッセオ)』」

霊装だと……!?
エストリスの精霊戦闘術。修道院で俺に霊装の基礎を教え込んだのは他ならぬこいつだから、そこに疑問はない。
だが、問題はもっとダイレクトなところ――『ロスチャイルドには何の変化もない』。
武装級であれ領域級であれ、"身に纏う"という霊装の絶対性質上、契約者自身になんらかの変化があるはずなんだ。
見かけの上でもロスチャイルドが別段なにかを纏った様子はないし、魔力波長も平時の静けさを保っている――

「お前……何を『纏った』……!?」

「さて、請われて教えるのが先生だが、ただ答えを見せるだけでは君の為になるまいね、ジェンタイル君。
 生徒だったら――考えたまえ。問題を読み解き、式を計算し、実験を重ね、答えを導き出したまえ!」

………………。
こいつの真意はいつまで経ってもわからない。何を望んでここに立つかも理解が及びゃしないのに。
だがこれだけは言える。『ぶっ殺す』とは!『理解する』ことッ!!
相手の人生を強制終了することで、そいつが生きて何を為したかを確定する検算方法!!

「上等だぜ、『先生』――!ドヤ顔晒して立ってるお前を、教壇から引き摺り落としてやる」

237 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/21(水) 17:00:55.90 ID:DK88MAt9


>「だって、あいしているもの。わたしがあいして、みんながあいしたジェンタイルを、あいしているの。
 あいのためなら、なんだってできるよ。あなたもおなじでしょ。……ふふっ、おそろい、だね」

「一緒にするんじゃねえよ化物。おじさんは家族を愛してるが、家族もまたおじさんを愛してる。
 ――お前はどうだ?お前さんが愛する相手は、同じようにお前を愛してくれてるか?
 本当に、間違いなく、天地神明に誓って。お前と同じように自分を捨ててでもお前の為に頑張れる奴なのか?」

ゾンビが『縮んだ』。
大量の肉塊を人間サイズに圧縮することで、力の方向を確定し、無駄のない戦闘形態へ。
追えない速さと、降ってくる無数の棘。その隙間を縫って挑んでくる本体を、ガウンは見据えた。

「もちろん、おじさんの家族はいつでもお父さんが大好きだ!!」

攻撃は全て戦精霊によって阻まれた。
僅かに加護を貫通した棘が皮膚を擦過し傷を創ったが、所詮は掠り傷――ダメージとは言えまい。
そしてほんの少しの代償と引き換えに手に入れたアドバンテージは、掌の中にあるゾンビの頭。
わざわざこちらに向かってきてくれたのだから、掴まない道理はない。

「ゾンビって魔物は、確か異常再生によって理論上の不死身を得ているんだったよな。
 お前は一個一個の細胞の無限の自己修復によっていつも助けられている。信頼性抜群だよなあ、自分の身体なんだから。
 自分を信じるお前さんに、一つ素敵な経験をさせてやるよ。『自分の身体に裏切られる』――そういう稀有な体験だ」

ガウンが魔法を唱えた。
それは、戦精霊の司る『内紛』を再現する魔法だった。
対象は――『ゾンビの身体の中』。細胞の内紛。自分自身を殺す失調――悪性腫瘍である。

238 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/21(水) 17:01:09.53 ID:DK88MAt9


身体の上下を切断されたメタルクウラの残骸を見て、獣精霊は獣じみた喜色を浮かべた。
それは野生の動物が、獲物を仕留めたときのような健全な喜びではない。
呪うほどに憎む相手の死を確認した者が浮かべる、おおよそ"人間"にしか湛えようのない笑みだった。

獣なのに、誰かを恨めるその矛盾。それは間違いなく契約者の影響だった。
精霊は一にして全。主体がない為に、契約した者の性質を己の個性に組み込んでアイデンティティを確保するのだ。
『恨み』を殺しの理由にできるのは――あらゆる生物の中で、人間だけだ。

>「うそ、だろ……?」

レゾンは動揺している。無理もない、今さっき共同戦線を組んだ相手がこうも容易く沈んだのだ。
戦う者として、原因のわからない死ほど怖いものはない。
たとえ死んだのが赤の他人であっても、その恐怖だけは等しく全ての人間に伝播する。

それで良い。テイラードを通してレゾンのこともよく知っていた獣精霊は、また彼の能力も詳しく把握していた。
回復魔法と高揚魔法の専門家。前線タイプの精霊使いではないが、それゆえにメタルクウラとの相性は最高だ。
一番厄介なメタルクウラをまっさきに潰せて、しかもレゾンに痛烈な恐怖を植えつけられた。
奇襲としてはこれ以上なく望ましい結果だ。

しかし獣精霊は知らなかった。
メタルクウラに怨嗟の視線を向けるあまり、レゾンの『戦闘力』についてはまったくのノーマークであったから。

>「【霊装――森羅万象《インフェニティロード》!】」

「――!!」

眩いばかりの輝きのあと、そこに立っていたのは痩躯の麗人。
獣精霊は最初、新手の援軍だと思った。ユグドラシル解放戦線とて一枚岩でないのは立証済みだ。

>「オレだ、レゾンだ! ツッコミどころが満載だろうが漫才している時間は無い。
 よく聞け、奴が動けば光の粒が動く――そこに全力で叩き込め!」

獣の感情が驚愕した。
そんなはずはない。レゾンは紛れも無く男性だったはずだ。性精霊の能力でもない限り性転換など――
ここまで考えて、ふとおかしみを感じた。自分は獣だというのに、この複雑な思考はどうして生まれているのか。
きっとテイラードが、自分の中で生き続けているのだろう。彼女の言葉が、意志が、魂が、連綿と温存されていくのだと。

>「――ようこそ”獣”、生と死の王国へ!」

「――――」

ならば、負けない。自分はただの獣ではない。テイラードは死んでも自分と共に在る。
もう手綱を握ってくれる人はいないけれど、自分で自分を制御できる。
獣精霊は、すべてを滅ぼす魔獣にだって、天を往く神獣にだってなれるはずだ。

「――!」

咆哮一つ、獣精霊は跳躍した。
生と死を司る霊装がなんだ。生きる為に殺すなんてことは、億年前から野生の世界じゃ常識だ。
生きることも、死ぬことも、すべて等しく受け入れて。これが自分の生存戦略だ。

メタルクウラにこちらを攻撃する手段があろうがなかろうが関係ない。
獣精霊は光の粒を引き連れながらレゾンの華奢な懐に飛び込んだ。
メタルクウラが構わずこちらを攻撃すれば、もちろんレゾンを巻き込む――そういう"獣らしからぬ"狡猾な目論見である。


【ガウン:ゾンビの体内に『内紛』を再現。細胞同士が喰らい合うガン的な疾患に。
 獣精霊:何を企んでいるのかわからないまま、メタルクウラが迂闊に攻撃できないようレゾンを人質にとる】

239 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :2011/12/21(水) 22:19:34.40 ID:pxmuUbUu
>「――起死回生《パーフェクトヒール》!」
>「オレだ、レゾンだ! ツッコミどころが満載だろうが漫才している時間は無い。
> よく聞け、奴が動けば光の粒が動く――そこに全力で叩き込め!」
敵の気配も何も感じることができずに体を両断され、訳が分からぬままに体が魔法によって再生される。
己のエネルギーを消費するどころかエネルギーの回復までされるとは、便利なものだな。
私は立ち上がると、私の下半身とローゼンに似たレゾンを確認した。

「お尻に尻尾を突っ込むのは後にして、光の粒を撃てば私を襲った敵に当たるのだな」
私でも視認できる光の粒は、レゾンの前に位置している。
光の粒がレゾンの前から動かないところを見れば、レゾンが敵を押さえつけているのだろう。
私はレゾンの前の光の粒に向けた両手にエネルギーを集中させ、破壊光線として発射した。

240 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/12/24(土) 01:39:42.61 ID:2LvHGxF0
ゾンビの体に兆した無数の棘は、その殺傷力の殆どを戦精霊に遮られた。
僅かにガウンの皮膚を貫きはしたが、幾ら押せどもそれ以上押し込めない。
巨岩の山に刃を突き立てているかのようだった。
唸り声を上げて棘を押し込もうとするゾンビの頭部に、ガウンの右手が伸びる。

>「ゾンビって魔物は、確か異常再生によって理論上の不死身を得ているんだったよな。
 お前は一個一個の細胞の無限の自己修復によっていつも助けられている。信頼性抜群だよなあ、自分の身体なんだから。
 自分を信じるお前さんに、一つ素敵な経験をさせてやるよ。『自分の身体に裏切られる』――そういう稀有な体験だ」

ガウンの魔力が流れ込む。
脳髄の奥深くに潜り込んだ違和感に、ゾンビが大きく飛び退いた。
激しい痛みが頭の中で暴れ回る。痛覚を消していても尚生じる、脳そのものを食い荒らされる痛みだ。
身体制御の機能が失調して、意思に反して体が膝を突く。
鋭い激痛に頭を抱える事すら出来ない。
ゾンビはただ倒れ込んで、小刻みに痙攣していた。

「あ……あ……」

闇の魔力によって癌化、制御されている細胞が、ガウンの魔力によって乱されている。
自身の魔力によって再制御――出来ない。精霊の魔力は、魔物の魔力よりも遥かに強力だ。
精々、侵食を遅らせる事しか出来ない。
それでもただ死を受け入れる訳にはいかない。必死に脳細胞の再生を図る。
脳が食われていく。
小脳が失われた。運動機能が完全に損なわれた。
脳幹が失われた。自発呼吸が出来ない。呻き声すら漏らせなくなった。
後頭葉が失われた。視覚が正常に機能しなくなった。
頭頂葉が失われた。全ての身体感覚が消えていく。
側頭葉が、前頭葉が失われた。適切な行動判断が出来なくなった。
記憶が、人格が、失われた。

ゾンビの全てを食い散らした造反細胞は、更に頭部を食らおうと蠢き出して――不意にゾンビの右腕が動いた。
鋭い手刀が閃き、自らの首を撥ね飛ばす。
そして残った胴体の腹部から――右腕が生えた。続いて左腕も。
更に頭部が、水面から顔を覗かせるように出てきた。
脳が侵食されて、それに抵抗出来ないと知ったゾンビは細胞の再生を制御して、体内に脳のバックアップを作っていたのだ。
ただし神経細胞の再生能力は極々微弱だ。複製が完了する前に脳が完全に破壊されていたら、終わりだった。

「いまのは……すこし、あぶなかった……」

状態異常は、ゾンビにとって致命的な弱点なのだ。
癌化した細胞を無限に分裂させられるゾンビは外傷には滅法強い。
だが、その細胞そのものが変質してしまう、例えば毒や呪いには再生が無意味とされてしまう。
先ほどのように無事な部位から新しい自分を作る事で回避は可能だが、多大なカロリーが代償となる。

事実、ゾンビの残存カロリーは大きく消費されてしまった。
弱点が知られてしまった今、この先ガウンは何度でも同じ魔法を仕掛けてくるに違いない。
そうなればカロリーの枯渇はすぐに訪れるだろう。
ならば――どうすればいいか。

「これで……きめるよ」

呟きと共に、ゾンビの背部が蠢く。
ずるりと音を立てて、ゾンビがもう一体生まれ落ちた。
更に一体、二体、三体と、ゾンビの数が増えていく。
離反細胞の対処で削られていくくらいならば、自分から使い果たしてしまおうという算段だ。

241 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/12/24(土) 01:40:27.96 ID:2LvHGxF0
「どれがほんものかわかる?……こたえは、ぜんぶほんもの」

ゾンビは、『モン☆むす』の誰よりも強い。
スライムのように変幻自在で、ゴーレムのように分裂が可能で、
細胞変化を応用すれば妖狐の変化術も再現出来て、
例え堕天使が時を止めて何をしようとも殺し切れない。
その悍ましい化け物が、残る力全てを振り絞り、全方位からガウンへと襲い掛かる。

それでも――ガウンには決して勝てない。
ただ理性を捨てただけでは殺してしまう、殺されてしまう。
だが戦術を凝らせば凝らすほど、戦精霊の加護は強力になる。泥沼へと嵌っていく。
八方からの攻撃さえもガウンは全て撃ち落とし、また封じてしまうだろう。
そしてゾンビ達は、全滅する。

だが、それでいいのだ。
何故なら――分身体による一斉攻撃の目的は、ガウンを倒す事ではなかったのだから。

不意に、ガウンの頭上からの音が聞こえた。
見上げてみれば、今さっきまでは無かっただろう穴があった。空が見える。
その穴が示す事実はただ一つ――ゾンビは分身体の一斉攻撃に紛れて、地上へと逃亡した。
戦意を失ったから、ではない。

ガウンの聞いた音は湿り気を帯びていた。
かと思えば、乾いた小枝を折るような小気味いい音も混じっている。

くちゃり、と、何かを咀嚼するような音が。
ぴちゃり、と、何かを嚥下するような音が。
ぱきん、ぽりん、と何かを噛み砕くような音が。

地上から、聞こえてくる。
その音が示す事実は、ただ一つだ。

分身体を作り最後の足掻きに出たように見せたのはブラフ。
ゾンビは、テイラードの死体を貪る為に、地上へと逃げたのだ。
獣精霊と契約出来るほどのポテンシャルを秘めて、更にメタルクウラのエネルギーを限界まで注ぎ込まれた肉塊を、摂取する為に。

カロリーが枯渇させられてしまうのなら、すべき事は、自ら使い果たす事ではない。
単純明快に、再補給すればいいだけの事だ。

ガウンはどうするだろうか。
仲間の死体を食い荒らされて、怒りに任せてゾンビを追ってくるだろうか。
それとも地下に留まるだろうか――もしそうならば、ゾンビは再び地下へと下りる。
そして血に濡れた口元に悍ましい化け物の性が垣間見える笑みを湛えて、再びガウンと対峙した。


242 :モンスター娘s ◆1SmxRrQv9VOH :2011/12/24(土) 01:41:41.60 ID:2LvHGxF0
「……わたし、ばかだけど、こんなわたしがジェンタイルにあいしてもらうしかくなんてない。
 そんなことくらい、わかってるよ。それでもいいの。
 わたしはあなたみたいに……あいに、みかえりがなきゃだめだなんて、いわないもん」

人の肉を食らった口で、ジェンタイルに何が出来る。何も出来ない。していい訳がない。
食らった血肉で作られた体で、ジェンタイルに触れる事すら許されるべきではなかった。
それでも構わない。それでもゾンビは、自分を守ろうとしてくれたジェンタイルを愛している。
ジェンタイルの為なら、殺人も、食人も、悍ましい化け物になる事だって、全て甘んじて受け入れられる。

「わたしはジェンタイルにあいしてほしくて、たたかってるわけじゃない。
 ジェンタイルをあいしているから、たたかうの。みんなだって、そうだよ。
 だから……わたしの、わたしたちのあいを……やすくみないで!」

怒号、そしてゾンビの足元から細胞が急激に増殖を始める。
多量のカロリーを摂取して、十全の体勢が整った生物災害が猛威を振るう。
疫病が感染爆発を起こすように、自在制御可能な細胞が床を、壁を、天井を介して、波打ちながら広がっていく。
そこには最早、理性の欠片も存在しない。
ただ触れた者に侵食して同化する事、生物災害の本性のみが行動原理だ。
故に戦精霊の加護を完全にすり抜ける。
加えて他の生命体を捉えた時点で覚醒するよう脳細胞を予め操作しておけば、ジェンタイル達にまで感染が拡大する事もない。

ゾンビの狙いはガウンを食らってしまう事ではなかった。
同化さえ出来ればいい。
何故なら一度ガウンに自分の細胞を埋め込んでしまえば、それに対して攻撃を加えるのは――単なる『自死』だ。
戦闘行為とはならない筈だ。理性を保ったまま、攻撃を仕掛けられるようになる。
つまりこの行為は、決着への布石と言えるだろう。


243 :レゾン:2011/12/24(土) 21:27:08.13 ID:xq6u0WpR
テイラードの事はずっと、歩くコンピューターみたいな奴だと思っていた。オレは、そんな彼女が苦手だった。
だけど――精霊力の波動に乗って、人間でしか持ちえない感情の揺れが伝わってくる――。

「綺麗な顔してるだろ? 女だったんだぜ、オレ」

>「――――」

仕掛けるタイミングを見計らっているような獣精霊に、さらに語りかける。

「ふーん、テイラードがそんなに激しい感情を隠し持っていたとはな。
お前、獣のくせにオレより人間らしいじゃないか」

本当は、感情の一部が欠落しているのはオレの方なのだ。
体の大部分を失った時に、心も一緒に欠けてしまったのだろう。
一つでも多くの命を救いたい、などという嘘くさい理想を平然と掲げ
個人的な恨み辛みはいとも容易く隅に押しやり、割と冷静に最大多数の最大幸福を追求する。
きっと、誰かを殺したい程憎む事も、誰かを死ぬ程愛する事ももう出来ない。
それでいい――憎悪や偏愛に捕らわれぬ心は、神官としての何よりの素質だ。
そう自分に言い聞かせ、何時でも魔法障壁が発動できるように身構える。さあ、どう来る――!?

>「――!」

それは、反応する間もないほどの一瞬の出来事だった。
獣精霊は、一跳躍にして、密着する程の至近距離に飛び込んできた。
来たるべき必殺の攻撃に備えて身を固くする。が、特に攻撃を仕掛けてくるわけでもない。

「――何のつもりだ?」

今はオレが直接は攻撃できないのを知っているのか、それとも端から全くの後衛専門だと思われているのか――。
いずれにしても、テイラードを一撃のもとに沈めたメタルクウラの動きを封じるための人質、といったところだろう。
それならば、意味も無く仕掛けてはこないはずだ。メタルクウラが仲間を殺された怒りで覚醒したなら猶更。
そして、相手が人間の感情を持つならば、それなりの戦法がある。気を引きつけるような事を言って動揺させろ――!

244 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/24(土) 21:28:18.90 ID:xq6u0WpR
「いいよ、おいで――」

何も知らなかった少女の頃のように、微笑んでみせる。
少し姿勢を低くし、獣精霊に両腕を回して抱きしめるようにして撫でる。まるで、よく懐いたペットにそうするように。

「君の気持ち、分かるよ。――私もあいつらに仲間を殺されたから。でも、仕方がないんだ。
彼らはそんな出会い方をしてしまったから、戦うしかなかったんだから、恨んでも憎んでも仕方がない」

人の力の及ばない巡り合わせ――というものがこの世には確かにある。
恨むとしたらそれ自身だ。ならばせめて、自分だけはそれに捕らわれたくない。

「でも、もしも両方とも生きていたら、今度は最高の友達になれたかもしれない、とも思う。
それが、すごく残念なんだ」

例えば、ブレイドとあのスライム、とか。イグニスとメタルクウラ、とか――。

「もしも、死んだ人が生き返る世界があるとしたら、どうする?
もしも、そんな世界に彼らが導いてくれるとしたらどうする?
ふふっ、おかしいよね。生命精霊の神官がこんな事を考えるなんて」

本当にそんな世界が成立するのだろうか、どこかで致命的な歪みが生じるのではないか――
消し去れない疑念は、憧れの裏に確かにある。
でもそんな疑念は、大切な人を失いたくないという想いの前では、跡形も無く消えてしまうのだろう。

獣精霊は、当然何も答えない。ただ、突如、ある情景が流れ込んできた。
今の獣精霊は、もう本来は精霊界にあるべき存在だ。もしもすでに時空の概念からは解き放たれているとしたら――

それは、枯れ果てた大樹――大樹、なんていうレベルではない。
見紛うべくもない、ここ王都を擁する世界の中心、精霊樹ユグドラシル――

精霊樹の根の下、世界の深淵で、一心不乱に祈りを捧げる少女――
まるで、崩れゆく世界を、必死で繋ぎとめるかのように――
その少女の顔立ちは、半年前まで世界を支配していた魔王に酷似している――

「――――!! 今のは? 蘇生術が存在する世界はああなるという事?
まさか、あれが――アイツらがいた《楽園》!?」

そうだとしたら――《楽園》はすでに死んでいる事になる。
精霊樹ユグドラシルは、物質界と精霊界を繋ぐ頸木にして、世界の浄化装置。
文字通りの世界の中心、世界の命そのもの――と、生命精霊の神官は信じている。
もちろん確証はないのだが。
では一般的にはどうかというと、もしも枯れたら、などと誰も考えもしない。
世界の始まりから終わりまでそこにあるもの、という認識なのだ。

245 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/24(土) 21:29:47.15 ID:xq6u0WpR
>「お尻に尻尾を突っ込むのは後にして、光の粒を撃てば私を襲った敵に当たるのだな」

復活したメタルクウラの声が、思考を中断させる。
恐がられるのではないか、との心配は、全くの無用だった。むしろフレンドリーすぎる。
コイツ、ナニヲイッテヤガル――! バベルの腐れ神官どものせいでガチホモはトラウマだ。
あれ、その割にそれ程嫌な感じがしないの何故だろう!?

まあ台詞の前段はどうでもいい。問題は後段だ。おそらく、破壊光線の類を撃ってくるつもりなのだろう。
メタルクウラに触れて物理攻撃を精神体への攻撃へと転化する、という手段は使えない。
獣精霊に、巫女時代によくしたような甘い声で囁く。

「安心しなよ、アイツは物理攻撃しか出来ないんだ。当たりやしない」

抱きついた姿勢から立ち上がって身を離しながら、呪文を呟く。
動体視力や情報処理速度、反応速度を上げ、命中率や回避率を上げる魔法だ。

「――身体強化鋭敏《フィジカルエンチャントシャープネス》」

その瞬間、破壊光線は発射された。一瞬であるはずのその様子が、魔法の効果でコマ送りのように見える。
手を伸ばし、通過していく破壊光線の表面に、水面に触れるようにそっとさわる。

「すまない――」

手のひらに焼けるような激痛が走るが、それが何だというのだ。自分は獣精霊の、亡き飼い主を想う心を利用したのだ。
一方で、何を今更――いくらいい人ぶってみたところで、この身は元より穢れきっている――とも思う。
一般的な意味と、本来な意味の両方において。穢れとは、本来は生命エネルギーの枯渇を指す。
巫女時代、何人の男に“特別な儀式”を行おうとも、この身が新たな命を宿す事は決してなかった。
精霊契約をあまりにも幼少時に行った影響、らしい。いや、最初からそれを見越して、契約を強行したのだ。

「汚い手で撫で回して悪かったな――あの世でテイラードに思う存分撫でてもらえ!」

破壊光線は精霊をも穿つ概念へと変換され、獣精霊を撃つ――!
そんな中、いてもたってもいられずにメタルクウラにまくしたてるように尋ねる。
《光の勇者》と《炎の賢者》が、異世界からこの世界を救いに来てくれる――
ずっとそう思っていたが、逆もまた真だったのかもしれない。

「メタルクウラ、答えてくれ。お前達の世界の精霊樹は枯れているのか?
大地が汚れたり水が濁ったり出生率が低下したりしていないか?
もしかしてお前達は――死にゆく自分たちの世界を救うためにこっちの世界に来たのか!?」

246 :レゾン ◆4JatXvWcyg :2011/12/24(土) 21:31:47.43 ID:xq6u0WpR
*  *  *

《楽園》――予言に刻まれたその完璧すぎる世界には、落とし穴がある。
その事は、ずっと前から分かっていたような気がする――。それは、夢にのみ表出する情景の断片――。

『ねえローズブラッドお兄様、本当に人間は滅ぼさないといけない存在なの?』

『ああ、人間は世界喰らいの魔獣――世界に生じたバグだ。
あるがままの姿を捻じ曲げて際限がない欲望を叶えようとする。
その手段が科学にしろ、魔法にしろ、必ず、穢れ――気枯れ――が生じる。
つまり世界の生命エネルギーの枯渇、エントロピーの増大だ。
中でも一番多用され、最も莫大なエネルギーを食うのが、蘇生術だ。
世界に人間が存在する限り、必ずいつか精霊樹を枯らしてしまうだろう――』

『じゃあ恐怖政治を敷いて蘇生術を禁止しちゃえばいいんじゃない?
何も滅ぼす事はないと思うわ』

『お前は優しいな、リリスティアーズ――』

『ローズブラッド……ローズ、私たちは二人で一組。死ぬときは一緒だよ』

『そんな事を心配するな。何があっても君だけは守り抜く。
だから、もし僕に何かあったら、リリス、お前がこの世界を守り抜け――!』

*  *  *

247 :ジェンタイル ◆SBey12013k :2011/12/30(金) 05:26:28.17 ID:GuENeM01
「なあジェンタイル君。"良い話"とは一体、何だと思うかね――?」

「暖かな読後感の残るハートフルなエピソード。そういうものじゃねえかな!」

ロスチャイルドが振ってきた話に適当な答えを寄越しながら、俺は魔法を連打する。
全て阻まれた。ロスチャイルドはその場から動いてすらいない。
どうなってんだ、戦精霊の加護とも違う――攻撃だけじゃない、なにもかもを拒絶しているような感覚。

「おや、君ともあろうものが一般論とはどういうことだねジェンタイル君。自分の意見を持たぬ者に説得力など生まれんよ。
 いいかね、良い話とは、含蓄や教訓めいたものがあって、聞き手の心に残るもの――つまり、先生の話のことだね?」

「聞き流してやるよそんなもん!」

飛び道具がダメなら、近づいてぶん殴るまでだ。
土中からフランベルジェを錬成して、三歩の踏み込みでロスチャイルドの懐に迫る。
かち上げるようにして振り抜いた逆袈裟の一閃――その名の通り炎を纏った一撃を、不可視の速度で叩きこむ!

「聞いてもらうさ。問題児に如何に学習意欲を持たせるか……教育者としてこれほど燃える課題はない」

二撃、三撃と間髪入れずに打ち込むが、その全てが指先ひとつで止められる。
態勢が崩れた俺に、ロスチャイルドの長い脚が伸びてきた。咄嗟の防御も間に合わず、脇腹を回し蹴りで抉られる。

「かっは……!」

吹っ飛んだ俺は瓦礫の上を転がって、まろび、使い物にならない腕をクッション代わりにしてブレーキをかける。
幸いにも出血はなかったけれど、肉の中で砕けた骨が神経に刺さる激痛が、腕から先を錘に変えていた。

「なんで効かねえ――?霊装なら、精霊の力で破れるはずだ――」

霊装はそもそも対悪魔を想定して開発された戦闘術だ。
たとえ悪魔を殺せても、武器精霊と戦うための技術じゃないから、精霊の力を持つ人間相手には無敵とは言えないものなのだ。

「信心が足りないな、ジェンタイル君――いや逆か。『信じるだけ』で終わっているから、所詮君はそこ止まりの人間だ」

「……ああ?何が言いてえ」

「気楽だよな、"信じる"というのは……相手に完全に依存し、己の命運やそれにまつわる一切の判断と責任を放棄する。
 信じる者は救われる、とはよく言ったものだね。全面的に信じることで、全てのしがらみから逃れられるのだから、
 確かに彼らは救われているんだよ。 ――『信じられる側』のことなんか、ちっとも考えないくせにね」

俺は掌を瓦礫にたたきつけ、魔力を土中に打ち込んだ。ロスチャイルドの足元を炎熱で溶かし、即席の落とし穴にする。
果たしてロスチャイルドは沈まなかった。陥没した地面のうえに透明な板が張ってあるみたいに、空中へ立ち続けている。
重力すらこいつを捉えられないのか?

「だから先生は、ひとつ"信じられる"ことにしてみたんだ」

――いや違う。これは"不可侵"。何者にも、物理法則にすら侵されざる絶対の存在。
そう、それはまるで、『神』だった。人の身にありながら神格を持つ、あまりにも矛盾した存在。
俺ははたと気付いた。ロスチャイルドの霊装の意味。

「お前。――『信仰』を纏いやがったのか……!」

ロスチャイルドは、――予想されていたことだが、やはり笑った。
できの悪い生徒に因数分解を理解させた達成感めいたものを快哉に載せて言葉を放つ。

「いかにも。誰かに信じてもらうことで、先生は神になった――!」

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