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キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!避難所2

1 :名無しさん :12/02/24 00:12:24 ID:???
レス置き場と兼任です

前スレ
キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!避難所
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1292705839/

2 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/29 09:58:56 ID:???
ロスチャイルドは死んだ。
無残に押し潰され、切り刻まれ、めった刺しにされ、水死体みたいに膨らんで、最後は塵になって消えた。
俺はその時神になっていたから、死んだロスチャイルドの幽体とお話する機会に恵まれた。

「よくも先生を殺したな。まあそれは良いとして、これからこの世界をどうするつもりだね?」

「まあそれは良いんだ……」

こいつの沸点がよくわかんねーよ。
死ぬほど苦しい思いをして、死ぬほど痛い思いをして、最後には本当に死んじまったロスチャイルド。
その苦痛は、その無念は、確実にこいつの中にあるはずなのに、それをおくびにも出さないのは流石の先生ヅラってところだ。

「あー、世界かあ。どうしような、特にこれといったプランはねえんだけども」

「だが、君たちは革命家だろう?そして国家転覆は無事に成功し、政権は君たちのものだ。
 権力には必ず責任というものが付随する。君たちには、世界をより良く導いていく義務がある」

「世界滅ぼしたお前が言うかぁ……?」

「失敗した者にしか言えぬこともあるものさ。なればこそ、先生のようにならないようにね、と言わせてもらおう。
 先生は自分が間違ったことをしたとは全然全くこれっぽっちも思っていないが、しかし。
 ――政治に関してはやっちまったなあと思っているよ。こりゃ革命されても文句は言えまい」

「後悔、軽くねえ!?」

いや、わりと前々からそんなようなこと言ってたけれども!
こいつは反省しちゃいないが後悔はしているという失敗としては最悪のパターンを踏襲している。
こういう妙に人間臭いことを言うから、俺たちにつけこまれて殺されたってこと、わかってるんだろうか。

「はっ、老婆心どーも。もういいからさっさと逝けよロスチャイルド。
 お前俺に殺されてんだからもっと恨めや。汚く罵りながら絶望のうちに死んでいけや。それが敵役の死に方ってもんだろ」

「ほう。悪役ではなく、かね」

ロスチャイルドは敵だ。敵役で、仇役だ。
だが悪ではなかった。こいつのせいで何人も死んだし、今も地べたを這いずりまわって生きてる奴もいる。いるが。
――それって別に、ロスチャイルドが悪党だっていう根拠にはならねえよな。そう思う。
政治に失敗して、結果的に多くの悲しみを産んでしまっただけで、こいつ自身が望んでそうしたわけじゃないから。

だからこいつは、悪役じゃない。
ただの無能な権力者で、政治を誤り身を滅ぼした、歴史を紐解きゃいくらでもいる暗君だ。
決して善人ではないが、悪党でもない……無能だが十五万の人々に愛された、普通のおっさんなんだ。
そしてそれはこいつをあらゆる刃から守る最強の盾となり、やりたい放題を野放しにする最悪の毒となった。

悪人じゃないから、『正義の味方』はこいつを殺せない。
十五万人の庇護を貫き、善良なるロスチャイルドを倒せる者がいるとすればそれは――紛れなく悪役なのだ。

「悪役は、俺だ。知らねえのかロスチャイルド、俺たちは――今までただの一度だって、正義を標榜しちゃいないんだぜ?」

ロスチャイルドは、その能面みたいな無表情に、ほんの少しだけ驚きをにじませる。
そして――俺がこいつに出会って初めて、『にんまりと笑った』。

「……くはは、なるほど。なるほどその発想は面白い。
 本来ならば死してなおこの世に『留めた』先生の魔法が、世界を巻き込んでもう一悶着……のつもりだったが、やめた。
 このまま先生は、悪党の無慈悲な凶弾に倒れた善良なる政治家、として死なせてもらおう」

ロスチャイルドの霊体が、光の粒になって弾け飛んだ。あるべきものが掻き消えた虚空に、残り香のように声が響いた。

「ではさらばだ、我が生徒にして悪辣の犯罪者よ。あの世で貴様が堕ちてくるのを待っているぞ。
 ――そのときは、卒業アルバムでも肴にして飲み明かそうじゃないか」

3 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/29 09:59:40 ID:d+ojEjDk
――――半年後――――

「――であるからして、悪魔の社会参画については未だに根強い反対や議論が紛糾しています。
 一度悪魔に政権が渡ってから辛酸を舐めさせられた人間たちは、どうしてもナーバスになってしまうのですね」

春、花月。魔導技術の恩恵で促成栽培され、あっという間に街並みを飾るまでに成長した桜並木が一斉に咲き誇る中。
旧世代の蛍光灯の明かりがちらつく下で、俺は黒板へチョークを叩きつけるように白を刻んでいた。
窓の外から見える空は青く、冬を超えて元気になりだした太陽が敷かれたばかりのアスファルトを強く照り返している。

「現在は魔導技術を公共の福祉のためだけに用いる、という法案が可決され、悪魔にも参政権が認められました。
 官公庁の人間と悪魔の比率は8:2となっており、これからの人事院の動向に期待されています。
 おっと、こんな時間か。今日はここまで。各自、テキストの182ページから先を復習しておくように」

俺の号令に、40余人の悪魔たちが一斉に板書をノートにとったり、荷物をまとめて帰宅の準備をしたり、
友達と今日のこれからの予定を語り合ったりとやにわにざわつきだす。

「せんせ、今日の授業でちょっとわからないところがあったんですけど……これから時間いいですか?」

眼鏡をかけた理知的な悪魔の少女がテキストを抱えて俺の教卓に駆け寄ってくる。
俺は生徒の写し終えた板書に黒板消しを走らせながら、

「わー、すまん。ちょっと先生、このあとのっぴきならねー用事があるんだよ」

そう断ると、眼鏡悪魔はそうですか……と露骨に唇を尖らせた。

「なんだー先生、もしかして小指ちゃんかぁ?」
「違うだろ、先生ってアッチの気があるんだろ?今でも先生と知らねーおっさんの絡みの動画ようつべで見れるぜー」
「えっ、あれって先生なの?全然いまと雰囲気ちがくない?体つきもほっそりちちゃってるし」
「この前街でガチムチマッチョの顔ありペプシマンと楽しそうに連れ立ってるの見たぞ」

横合いから他の悪魔たちから野次が飛んでくる。

「つーか俺、お前らが普通にネットでゲイ動画を見てることに一番驚きだよ!!」

今時のガキの性事情ってどうなってんの!?親は即刻こいつらから携帯を取り上げろ!
俺が子供の頃ネットでくそみそテクニックとかが流行ってたのとまったく進歩してねーな!

「やっぱり……わたしが何度も誘惑してるのに全然手を出してこないのはそういうわけなんですね」
「お前ら小学生だよな……?」

俺、今年でもう20だよ!?
流石に、一回り近く下のガキに手を出すほど訓練されてねーよ。

「ちゃうねんちゃうねん。俺ちゃんな、今日発表なの」
「それって……カミングアウト的な?」
「すげえ!具体的なこと何一つ言ってないのにだいたいお前が何言いたいか察しがついちゃったよ!
 ……俺の受験の話だよ。今日、合格発表なんだ」

俺はこの王都の最高学府、ユグドラシル王立大学通称ユグ大の入試を一月前に受けていた。
センターの成績はまずまず、2次試験で点さえとれていれば晴れて今春から俺は夢のキャンパスライフだ。

生徒たちに別れを告げ、俺は足早に教室を出た。
エントランスを通り、ロビーから玄関を抜ければ、そこはもう雑踏の最中、大通り。
道行く大勢の人影にはヒトも悪魔も魔物ものべつ幕なしで、すぐ隣の店では悪魔がアイスクリームを売っている。

俺は振り返る。
ついさっきまで授業をしていた五階建ての雑居ビル、玄関のプレートには『受験安心・エストリスゼミナール』と書いてある。
受験勉強の傍ら、生活費と試験代を稼ぐためにバイトで講師をしている塾だった。

  【キャラクター分担型リレー小説やろうぜ! 最終話 『じぇんすれ!―Jane doe Slayer!!―』】

4 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/29 10:00:23 ID:d+ojEjDk
ロスチャイルドを殺した後、俺には選択肢が二つあった。
現在俺の身に宿っている神の力を使い、世界を歴史軸改変の前に戻し、俺たちのもと居た世界へ還るか。
――あるいは、それをしないか。その二択。

でもよく考えたら、神の力とはいえ俺の力であることに変わりはないのだし、別に今しか使えないわけでもない。
この世界がこの先どうなっていくのかを好きなだけ見届けてから、満を持して帰ればいいかなとか、そんな風に思った。
まあ有体に言うと、保留だな。

代わりに俺は神格の力に、一つのことを願った。
全世界の全ての人、悪魔、魔物の記憶から、ロスチャイルドに関する情報の一切を消すこと。
あいつが失敗した政治は、もう取り返しがつかないけど、せめて死んだ奴のことをいつまでも引っ張らないように。
社会の頭のすげ替えが、滞りなく進むように。神の力で、全員からロスチャイルドの記憶を消した。

だからあいつの死は社会的に認識されていないし、あいつの政治によってねじれてしまった社会もいくらか修復された。
ロスチャイルドという人間が存在したことは、役所の戸籍謄本や、更新の遅い文献なんかに残っている程度だ。
それすらも、読んだ人間の記憶が書類から眼を離した途端に消えていくので、実質的にはいなかったも同然になる。
俺は独身の一人暮らしだったロスチャイルドの邸宅から、あらかたの荷物を引き払い、不動産として売り払った。
結構な額になったので、かに将軍で10日ぐらいぶっ続けで遊び尽くした。

残った額で王都に小さなアパートを借りて、俺はそこに下宿し受験勉強の日々を送るのだった。
生活費はすぐに尽きたので塾講師のバイトを入れ、浪人と二足のわらじを履く生活だ。
割の良いバイトだし、生徒には結構慕われてるし、自分の勉強にもなるわで、結構充実した毎日である。

〜〜〜〜♪
新しく買い直した携帯に着信。炎精霊からだった。

『おい汝、まだかかりそうか?もうみんな集まっているぞ』

炎精霊は、俺との契約を強制解約されて野良精霊になった。
俺が神になってしまったからだ。精霊契約は人間と精霊間で魔法と想いを交換する契約だから、神には契約する資格がない。
じゃあ精霊界に帰るのかと思いきや、受肉してこの物理界に留まりやがった。
精霊の身で物理界に影響を及ぼす存在のことを悪魔と呼ぶんだけれど、炎精霊はまさしく悪魔化したわけである。
今は俺のアパートで日がな一日ゲームをして暮らしている。ときどきワンフェスとかに顔を出してるみたい。

「いま塾を出たとこだ。帰りにジャスコ寄ってくけど?」
『把握した。人数分の紙コップとカルピスソーダを買って来てくれ。水精霊がジンギスカンを用意してくれたぞ』
「おっ、いいねえ。風精霊の奴に場所取らせてるから、合流してみんなで行こう」

携帯を切る。足取り軽く、帰路を行く。
今日はこれから、俺の大学合格の前祝い、あるいは落ちてた時の慰め会ってことでみんなと遊ぶ約束をしていた。
みんなというのは、あの日ロスチャイルド政権打倒のために共に戦った仲間たちのことだ。
せっかくいい感じに桜が咲いているので、お花見ついでにバーベキューでもしようって話になったのだ。

ジャスコは花見に向かう客で大混雑していた。俺は神だけど、順番を守らないような下賤な神ではない。
ちゃんと神のプライドを持って、十五分ぐらい並び、頼まれたものを購入した。
割り箸が入ってなかったので入れてくださいって言ったら、レジのお姉ちゃんにすげえ舌打ちされた。神なのに。

ジャスコのある大通りから路地に入って少し行ったところに俺のアパートはある。
少しボロいけど、一階にローソンが入っているし、スーパーも近いし、春にはこうやって桜並木が間近で楽しめる。
あと俺が今年から通う(予定の)大学に徒歩五分で行けるってのが何より素晴らしかった。
角を曲がれば見えてくる。部屋の前に集まる人影。燃えるような赤い長髪は炎精霊のものだろう。

もうみんな集まってるのかな?
俺は無意識のうちに駆け出していた。数カ月ぶりって奴もいるから、テンション上がってるのだ。

「おーい!悪い悪い講義が長引いちゃってさ。待った?」

声をかける。そこにいたのは――

【本編はこれが最後のターンとなります。後日談、エピローグです】

5 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/03/01 04:17:17 ID:???
ロスチャイルドを倒して半年がたち、私達は再び集まることになった。
だが、私達メタルクウラは集まることができずにいた。
バンダイや東映のお偉いさんから、ジェンタイルの所に行くことを禁止されたからである。
私達が向こうで変態になってしまったと思われているからだ。
新作であるアルティメットブラストでの私達の活躍も、私達の出番を消して、クウラを蘇らせて出演させるくらい、変態的で酷かったらしい。
鼻からコードを出して、孫悟空とベジータ相手に触手責めのようなことをしただけなのだが……

「だが、私達はお互いが違う世界に居ても、いつも繋がってるさ」
私は口に出して言った。
友情の絆はどんなところに居ても、どんな時でも繋がっているものだ。
遠い空の向こうに居るジェンタイル達のことを思い、私はガチゲイ学園と言われる学校の小等部。
私が今通っている学校への道を進み始めた。

ジェンタイルと私の物語はこれにて終了となる。
だが、ジェンタイル達との友情は終了することは無い。
いつまでも私達は、友達だ!!


6 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/03/04 03:36:14 ID:???
>「おーい!悪い悪い講義が長引いちゃってさ。待った?」

そこには『影』が立っていた。

「――あぁ、遅かったじゃないか。ジェンタイル」

傍らに旅行鞄を置いて、アロハシャツを着込み、グラサンをかけた影が、立っていた。

「まったく、急にいなくなったりして……本当に心配したんだぞ。
 あちこちお前を探し回って……あ、これ向こうの世界の王都土産。忘れる前に渡しておこう。
 それからこれは火山村、こっちは微風の谷の、あと他にも……」

旅行鞄から鞄の体積を遥かに越えたお土産が出てきて、片っ端からジェンタイルの腕の中に積み上げられていく。

「それにしても……本当に、随分と待たされたよジェンタイル」

けれども影は不意にグラサンを外した。指を鳴らして服装も平時の黒衣に変える。
そして真剣な眼差しをジェンタイルに向けた。

「悪魔を虐げ、世界を統べる元恩師を暗殺……ようやく立派な悪役になったんだな、お前は。
 私は嬉しいよ。これでお前と「来週の日曜日にちょっと世界沈めようぜ」とか、
 そんな下らない会話が出来るようになったのだと思うとね」

影の表情に柔らかな微笑みが浮かび、

「……だが、あれは駄目だ。あれだけはちょっと頂けないな」

けれども影はすぐに表情を一変させる。
眉間に皺を寄せて目を瞑り、腕を組んで首を傾げた。

「ん?なんの事か分からない?とぼけるなよジェンタイル。
 私は知っているぞ。最終決戦で、お前がローゼンの意思を尊重して彼女を死なせた事を」

右斜め四十五度の角度でジェンタイルに向き合った影の、鋭い流し目が彼を刺す。

「いやなに、別にお前が間違っていると言いたい訳じゃない。
 お前はあの時、確かに正しい選択をしたよ。
 ああしなければロスチャイルドには勝てなかっただろうし、ローゼンの覚悟も蔑ろにされていた」

影がふっと笑い――しかし直後に表情を刃のように研ぎ澄ました。

「だからこそ駄目なんだ。正しい選択、ビターな後味、明るい未来、そんなまともな結末を……悪役の私が見逃すと思うか?
 人の覚悟を台無しにして、あれもこれもと欲張るのが悪役だ」

鋭利な面持ちを保ったまま、影は人差し指をぴんと立てる。

「さて、そこでだ……丁度お誂え向きな事に、この物語にはまだ未回収の伏線が沢山ある。
 そう、例えば――ローゼン・メイデンの遺体は結局発見されず仕舞いである事、とかな」

それから打楽器の構えを取った右手をジェンタイルの目の前に運んだ。

「折角だから私が、そいつを有効活用してやろうじゃないか」

そして――快音が響いた。
同時に凄まじく膨大な魔力が迸り、ジェンタイルと影の間で空間が歪み、渦を巻く。

7 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/03/04 03:37:29 ID:???
「これは時空のひずみだ。この中には過去があり、未来があり、一があり、全がある。
 なかなか便利だぞ。冷蔵庫のプリンを誰が食べたのかとかがすぐ分かる。
 手が滑ったら世界が消し飛んでしまうのが玉に瑕だけどな。はっはっは」

世界存亡の危機を限りなく軽い口調で語りながら、影は快活に笑った。

「さて、そんな事を言っている間に……見つけたぞ」

時空のひずみが小さく揺れて、その内側からローゼンの遺体が浮かび上がる。
遺体には僅かな欠損も、腐食もなかった。
ただ眠っているだけで、今にも目を覚まして起き上がるのではないか。
そう思えるくらい綺麗に瑞々しく、ローゼンは死んでいた。

「ふむ、これはまた見事な聖骸だな。分かるか?ジェンタイル。
 規格外の魔力が遺体の損傷を防いでいるんだ。
 規格外と言うのは、量の話じゃない。勿論、量も凄まじい事は間違いないが……
 それよりも更に格別なのは魔力の質だ。
 二つの力を一つの身に宿せば、待っているのは死だとローティアスが言っていただろう?
 ところがローゼンは光と水、二種類の精霊と契約を結び、更にはその力を行使してみせた。
 こいつは生まれながらにして人越の力を持っていたのさ。丁度今のお前のようにね」

ローゼンの聖骸をしげしげと眺めていた影が、不敵な上目遣いでジェンタイルを見やる。

「そしてその力は、たかだか一人の人間の死に引きずられたりはしない。
 イエスキリストが死してもなお奇跡を起こして蘇り、天に昇ったようにね。
 ……と、話が少し長引き過ぎたかな。まあ、とどのつまり、私が言いたいのは――」

それから右手で再び小気味いい音を奏でて、

「――ローゼン、生き返らせてしまおうか」

事も無げに、そう言った。
瞬間、ローゼンの聖骸から眩い光が溢れ、周囲を白く塗り潰す。
数秒ほど経つと光はゆっくりと収まっていき――

「……ジェン……君?」

呆気に取られた顔をしたローゼンが、ジェンタイルの前に立っていた。
青い瞳がぱちくりと瞬いて、ジェンタイルを見つめていた。

「えっと、えっと……久しぶり!……じゃなくて……あはは、困ったなぁ……。
 なんて言ったらいいのか、わかんないや……」

ローゼンが今にも泣き出しそうな顔で笑う。
俯いて、小さく震え出して、不意にジェンタイルに飛びついた。

「あったかい……あったかいよ……僕の大好きな、ジェン君の暖かさだ……」

しがみつくように抱きついて、自分が彼の傍にいる事を、彼が自分の傍にいる事を確かめる。
確かにいる。自分も彼も、ここにいる。
思わず彼の胸に顔をうずめた。涙が堰を切ったように溢れてくる。

「ねえ、ジェン君。僕ね……君に一つ、言いたい事があるんだ」

顔を上げる。涙の浮かぶ瞳に強い意思を沈めて、ジェンタイルをまっすぐに見つめた。
彼を抱きしめる腕に、無意識の内に力が籠もる。

8 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/03/04 03:39:54 ID:???
「ジェン君、僕と……」

「――あぁそうだ、これはオマケだぞジェンタイル」

壊滅的なまでに空気を読まず、影がローゼンの言葉を断ち切った。
三度目の快音が響いて時空が歪む。
そしてその中から吐き出されるように、スライムの姿が空中に――ジェンタイルの丁度真上に現れた。
その後にゴーレムが、妖狐が、堕天使が、ゾンビが、魔王ローゼンのゴーストまでもが続く。
殆ど同時に落下した彼女達が、ローゼンとジェンタイルをまとめて押し倒す。

「あれ〜?ここどこ〜?……あ〜!ジェンタイルだ〜!なんだか分かんないけど、私達生き返ったの〜?」

スライムがジェンタイルを抱きしめる。
出会った時と同じように、液状の胸に彼を溺れさせながら。

「お久しぶりですね、ジェンタイル。その後の世界は、どうですか?」

ゴーレムが問いかける。自分達の託した夢は、今どうなっているのか。
けれども彼女の声色には砂粒ほどの不安もない。今でも彼女はジェンタイルを信じているのだ。

「それと、光の勇者も。貴女には本当に……」

ゴーレムがバツの悪そうな表情でローゼンに視線を向けた。
けれどもローゼンは人差し指を、そっと唇の前に立てる。
折角終わった物語に泥を塗らなくてもいいんだよ、と諭すように。
なにせ彼女はご都合主義で、お花畑のような物語が大好きなのだから。

「……よし!着地成功!やっぱり私はやれば出来る……って、なんで皆してジェンタイルにのしかかってるのさ!
 ズルイよ!私だって久しぶりなのに!」

一匹だけ着地に成功していた妖狐が、ジェンタイルに群がる皆の中に飛び込んだ。
お世辞にもカッコいいとは言えない振る舞いだったが、彼女はもう、そんな事は気にしていないらしい。

「おいおいちょっと待て、信じらんないぞ!大先輩がいる!
 おい起きろよジェンタイル!んなアホみたいな格好してる場合じゃないだろ!」

堕天使がジェンタイルをばしばしと叩いて、彼の腕を引っ張る。
自分だけで大先輩の元に向かうという選択肢は、どこにも無いようだった。

「……ねえジェンタイル。わたし、おなかすいちゃった。もうかれこれはんとしくらい、なにもたべてないの。
 だから……わたしたちもまぜて、おはなみ。わたし、あなたといっしょにごはんがたべたい」

ゾンビが噛み締めるように、ジェンタイルを抱き締める。
もう一度、食べ物なんかよりもずっと飢えていた恋心で、胸を満たしたくて。

「……言っておくが、ジェンタイル。ロスチャイルドとの戦いで貴様の傍にいたのは、あくまでも私なんだからな。それを忘れるんじゃないぞ」

魔王ローゼンが、ローゼンを押し退けてジェンタイルの傍に寄る。
彼女にもまた『ジェンタイルとずっと一緒にいた記憶』はある。ならばそれに伴う恋心もまた――だ。



「――はっはっは、これでいい。
 覚悟も信念も全て帳消しで。苦い後味なんて塗り潰してしまうほど甘い連中に囲まれて。
 そんなお前の未来はこれからも騒々しく、さぞや前途多難な事だろうなぁ。
 どうだジェンタイル。なんて事をしてくれたんだとか、極悪非道とか、この悪魔とか、好き勝手罵ってくれても構わないんだぞ」

そんな風にもみくちゃにされるジェンタイルを、影は楽しそうに見下ろしていた。

「これで全て台無しだ。いやぁ、最後の最後に悪役の務めを果たせて良かったよ」

9 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/03/05 00:01:33 ID:???
ロスチャイルドを倒し、ジェンタイル達と別れてすぐ、オレはがっくりと膝を突いてそのまま倒れた。

「ああ……ちょっとはしゃぎすぎたな」

理由は分かっている。
高位魔法を連発し魔力が尽き果てたため、調整されておらずただでさえ長くは持たなかった魔導機械部分が一気に崩壊したのだ。
悔いは無い、信じた神に剣を捧げて死ねるのだから本望だ。ブレイド、イグニス、父さん、今そっちに――



そして半年後――

「碧き星の息吹よ、永久に枯れぬ光よ、この者の傷を癒したまえ――快癒《ヒーリング》」

時代が移り変わっても、オレは相変わらず回復魔法を唱えていた。淡い光が弾け、目の前の少女を包むこむ。
といっても、今は戦闘中でもない。それどころか剣も持っていない。そんな物騒な物を持っていたら患者が逃げるだけだ。

「はい、もう大丈夫だよ〜。お代はサービスしとくから」

「お姉ちゃんありがとう!」

駆けていく少女の後ろ姿を見ながら微笑む。

「お姉ちゃん……か」

ステンドグラスに、自分の姿を映してみる。
青い双眸に、腰まで届く金髪。白地に赤い模様のローブをまとった女性の姿が映っている。
そして――あのペンダントはもう、無い。
ハウスドルフがくれた三度目の生、炎の神格精霊の浄化と再生の力――要するに、また死に損なったのだ。
と、背後から、呆れたような声がかけられた。

「ボランティアじゃないんだぞ、全く、お前と一緒にやっていると経営が破綻する」

「その心配はいらない。君と足して二で割れば丁度良くなるからな!」

こいつは、他でもない、昔オレに魔改造を施し生きながらえさせた張本人だ。
ロスチャイルドに捕まっていたらしく、死んだつもりがマッパで目覚めて色んな意味で途方に暮れていた時に声をかけてきたのだった。
その本性は、患者から巨額の治療費をぼったくる文字通りの悪魔の無免許天才外科医。
ロスチャイルドからどれ程の大金を絞りとったのか聞いてみたいが、生憎こいつからはロスチャイルドの記憶は、すっぽり抜け落ちている。
そしてオレは今、こいつと一緒に、王都の街はずれで、教会と言う名の診療所をやっている――。
科学と魔法が手を取り合えば、互いが超えられない壁を突破できる――そう考えたからだ。

10 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/03/05 00:03:21 ID:???
魔導科学全盛の時代――。
圧政を敷く者がいなくなった今、技術は目覚ましい速度で進んでいく事だろう。
欠損部分の再生は言うに及ばず、いつか蘇生が出来るところにまで辿り着くかもしれない。
それは世界を幸せへと導く鍵なのか、決して手を出してはいけない禁断の果実なのか――。
その時、人々はどのような決断を下すのか……今はまだ、そんな事は気にしなくていい。
目下気にすべきことは――

「お前さん、そろそろ約束の時間だろ?」

そうだ、そうなのだ。
オレの信じる神様は、自分たちの世界に帰って楽しくやっている、そう思っていたのに――。
平然とお花見の誘いなんて入れてきやがった! メアド交換とかしてないのに! しかも今日大学の合格発表らしい。
浪人生が神様なのは微妙すぎるので、こうなったらせめて大学に受かっている事を祈るばかりだ。

「本当に行くのか?」

「行くしかないだろ、神様にお誘いを受けたんだぞ?」

「そうか……ならばこれを持って行くといい」

性悪医師が差し出したのは、鮮やかな青い薔薇の花束。
それは魔導科学の粋によって作り出された、自然界には決して存在しない花。
かつて架空の存在だったころは、”不可能”の代名詞だった花。
でも実現した今となっては、花言葉は――『夢、叶う』。
必ずや大学に合格しているであろう神様に渡すのに、これ程ふさわしい花はないのではないか。

「……ありがとう! じゃあ、行ってくる」

花束を持ち、キーボードを肩にかける。パソコンのキーボードでは無く楽器演奏のキーボードだ。
世界が平和になったので、ミュージシャン始めました。

「神官とミュージシャンの二足のわらじって……新し過ぎやしないか? 別にどうでもいいが」

「昔よく聖歌歌ってたからな。それにREZONってどことなくミュージシャンっぽい名前じゃないか?」

11 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/03/05 00:05:28 ID:???
そしてそして――ついに神様と逢い見える時がやってきた。神様と会う時ってどんな顔をすればいいんだろう。
というかイメチェンし過ぎてあんた誰って言われそうだ。これじゃあどう見てもファイファンの白魔導士だし。
しかもキーボード持った白魔導士とかシュール過ぎる。

>「おーい!悪い悪い講義が長引いちゃってさ。待った?」

「炎精霊、これを神様に渡してくれ!」

花束を炎精霊に押し付け、走り去る。
そのまま帰ろうとして……やっぱり気になって、気が付けば横の木をつたってアパートの屋上に上っていた。
気付かれないように、下を観察する。

>「――あぁ、遅かったじゃないか。ジェンタイル」

突然知らない悪魔が出てきて、あれよあれよという間に事態は進展して……神様が大勢の女性キャラに押し掛けられて団子に……。

「――ドウシテコウナッタ!?」

>「――はっはっは、これでいい。
 覚悟も信念も全て帳消しで。苦い後味なんて塗り潰してしまうほど甘い連中に囲まれて。
 そんなお前の未来はこれからも騒々しく、さぞや前途多難な事だろうなぁ。
 どうだジェンタイル。なんて事をしてくれたんだとか、極悪非道とか、この悪魔とか、好き勝手罵ってくれても構わないんだぞ」

もみくちゃにされる神様を見ながらひとしきり笑いをこらえ、立ち上がる。
花見の余興に、と思っていたが、まあいいか。新しい世界と、人知れず世界を救った神に捧げる歌を、今こそ歌おう。

12 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/03/05 00:07:34 ID:???
『じぇんすれ!―Jane doe Slayer!!―』

http://sampling.sakura.ne.jp/vipdtm/up/log/vipdtm4914.mid

幾千億の時信じられてきた 伝説も予言も全て幻だとしても
夜空に輝く星々のように 闇を照らす光に僕はなりたい

精霊の紡ぐ歌に 刻まれた地球《ほし》の記憶
風が駆け抜けてゆく 生命《いのち》抱く大地を
戯れる水のせせらぎ 季節は巡りゆきて
春を告げる花が 咲く

新しい時代の 始まりに キミは何を望む?
もしも願い 叶うなら 僕は永久《とわ》の平和を願う
受け継がれるもの 受け継がれざるもの
全ては過ぎ去れば 遠い思い出

優しいそよ風が 雲を吹き散らして
太陽の光が 大樹に降り注ぐ
夢も希望も絶望も 何もかも抱きとめる
僕らがいつか 還る場所

この世界こそがそう 楽園《Beautiful World》!

13 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/03/10 08:36:33 ID:P2IfsFoX
>「――あぁ、遅かったじゃないか。ジェンタイル」

そこにいたのは――アロハシャツを着た悪魔?
旅行かばんを足元において、小洒落たサングラスなんかかけている。

「だ、だ、だだだだだだだだだだ大先ぱぁぁぁぁい!?」

なんの脈絡も伏線もなく再登場しやがった!
エピローグだからってなんでも許されると思いやがって!ああそうだよ大歓迎だよ!めちゃくちゃ久しぶりじゃねえか!
流石の神もびっくりだよ!全知?全能?ありゃうそだ!

「うっわ、いつこっちに帰って来たんだよ?もう丸々一年ぐらい顔見てない気がすっけど!」

>「まったく、急にいなくなったりして……本当に心配したんだぞ。
 あちこちお前を探し回って……あ、これ向こうの世界の王都土産。忘れる前に渡しておこう」

あー、そういや地だまりスケッチ編依頼か。あそこから今の歴史軸に跳んだんだもんな。
ってことは大先輩、俺たちがこっちの世界で血みどろの抗争やってる間ずっと呑気に食彩紀行してたのかよ!
初期のキャラが欠片も残ってねえな!俺も人のこと言えねえけど!

>「悪魔を虐げ、世界を統べる元恩師を暗殺……ようやく立派な悪役になったんだな、お前は。
 私は嬉しいよ。これでお前と「来週の日曜日にちょっと世界沈めようぜ」とか、
 そんな下らない会話が出来るようになったのだと思うとね」

「あ、うん……この春から大学生だし、悪巧みするとしたら授業をサボるかどうかってとこだろうけどな」

落ちてたら世界滅ぼすけど。なんつって、ははは……

>「……だが、あれは駄目だ。あれだけはちょっと頂けないな
> 私は知っているぞ。最終決戦で、お前がローゼンの意思を尊重して彼女を死なせた事を」

「なんで知ってんだよ……恥ずいな……」

もう半年も前のことになる。
俺は、ローゼンの命を使ってロスチャイルドを殺した。消費された命は戻らない。
ローゼンもまた、俺が死なせたようなもんだ。
ローゼンのご両親――元の世界に今もいるあの二人はきっと、娘を死なせた俺のことを赦さないだろう。

>「お前はあの時、確かに正しい選択をしたよ。
  ああしなければロスチャイルドには勝てなかっただろうし、ローゼンの覚悟も蔑ろにされていた」

そして俺も、そういう選択をしたあの時の俺を赦すつもりはない。
俺は正しい選択をしたと今でも自信を持って言えるけど……"正しいから"って割り切れるもんじゃないよな、こういうの。
だって俺たちは、正しく在ろうとして戦ってたわけじゃないのだから。

「ま、ま、後悔もねーよ。あいつがあの世のどっかで、俺を恨み続けてくれればそれで良い。
 その罪を、背負って気楽に生きていくさ。それがローゼンや――魔物娘どもに対する俺なりの筋の通し方だ」

と、ニヒルに決めてみる俺。
しかし大先輩は、斜め四十五度の角度でジョジョ立ちしながら俺のキメ顔を却下した。

>「だからこそ駄目なんだ。正しい選択、ビターな後味、明るい未来、そんなまともな結末を……悪役の私が見逃すと思うか?
 人の覚悟を台無しにして、あれもこれもと欲張るのが悪役だ」

いつもの指パッチン。大先輩のすぐ横に"開いた"空間の渦が、中から一つ、死体を吐き出した。
傷一つない、死んでからもう一年は経っているのに死斑はおろか血の気すら失せていない、ローゼンのなきがら。
大先輩はそいつを流し見して、こう言った。

14 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/03/10 08:37:21 ID:P2IfsFoX
>「――ローゼン、生き返らせてしまおうか」

「は?え、ちょっ、どういう……」

閃光。そしてローゼンの死体が、まぶたを持ち上げた。
透き通るように輝きを取り戻した双眸が、ゆっくりと俺を見た。

>「……ジェン……君?」

「――――」

俺は、声が出ない。

>「ねえ、ジェン君。僕ね……君に一つ、言いたい事があるんだ」

「ローゼ――」>「――あぁそうだ、これはオマケだぞジェンタイル」

大先輩の指パッチンが響いて、急に体が重くなった。
どさどさどさ、とたてつづけに重みが増していき、あっという間に俺は地面にうつ伏せに組み敷かれてしまう。
この重さに覚えがあった。降ってくる声も、背中越しに伝わる暖かさも、半年間でアジトに染み付いた匂いも。

>「あれ〜?ここどこ〜? >「お久しぶりですね、ジェンタイル。 >「……よし!着地成功!
>「おいおいちょっと待て、信じらんないぞ!大先輩がいる! >「……ねえジェンタイル。わたし、おなかすいちゃった。

死んだはずのモンスター娘たちと。

>「……言っておくが、ジェンタイル。ロスチャイルドとの戦いで貴様の傍にいたのは、あくまでも私なんだからな」

俺が消費した魔王ローゼンが、俺の背中の上にいた。
伏せたまま見上げると、大先輩がドヤ顔で俺を見下ろしている。

>「――はっはっは、これでいい」

なにが良いんだこの野郎。
潰れた俺は、突然振って湧いたこの"ぼた餅"に、諦めていたこいつらとの未来に。
一瞬で塗り替えられたこの先の人生は、きっと祝福に満ちているだろう。何も実感がわかないけれど、とにかくそういうことなのだ。

〜♪>>12

空遠くで唄が聞こえてきた。
桜舞うこの空に滲むように響きわたっていく鍵盤の音色は、新しい神とその仲間たちを祝う福音の鐘。
旋律は春の風に溶け、ヒトを、悪魔を、魔物を撫ぜるようにして街に広がっていく。
俺は地面と熱い接吻を交わしながらそれを聞いていた。故郷を思い起こさせる、懐かしくて温かい音律だった。

>「これで全て台無しだ。いやぁ、最後の最後に悪役の務めを果たせて良かったよ」

「ホントに台無しだよ……俺さあ、この半年すっげえ悩んだんだぜ?人知れず夜は寂しく枕を濡らしたりもしたさ。
 それでも、俺は死んだ奴らの想いで生かされてるから。神として、愛された男として……新しい未来を選択しようって。
 悩んで唸って苦しみぬいた挙句に結論を出したんだぜ。もう二度と、誰のためにも泣かないって。それがさぁ、」

俺は顔を上げた。
ぼたぼた眼から落ちる熱い雫が、あっという間に頬と鼻っ柱と唇を濡らした。

「台無しじゃねえかよぉ……!!」

ちくしょうお前ら、よく帰ってきたな。
泣くほど嬉しいのに、今すぐにでも全員とハグしたいのに、俺はまともに奴らの顔が見れない。
俺は今きっと、すごくカッコ悪い顔をしているから。女の子の前ではいつだって、かっこ良くありたいものだ。
そうだろ?お前ら。

15 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/03/10 08:37:45 ID:P2IfsFoX
「こ、この悪魔が!でもそういうところが好き!カルピスの一杯ぐらい奢らせろよこの野郎!」

俺は神の力をつかって500キロはゆうに超える魔物五匹と人間二人の重さから抜けだして、立ち上がった。
涙と鼻水でべちょべちょの顔は絶対に見せないようにしながら、言う。

「さあ、花見の前に俺の合否を確かめに行こう。うまい飯が食えるといいな」

神なんだから大学受験ぐらいちょいちょいと裏口入学できた俺だけど、そういうアンフェアな神になるつもりはなかった。
別に人々の模範たれとかそういうわけじゃないけれど、神の生態として――『信頼』は、裏切りたくないものなのだ。
俺は浪人生と神様の二足の草鞋を履いたこの半年、世界もろくに救わずに勉強ばっかしていた。
ここで受からなきゃ、その後の人生に示しがつかねーぜ。

悪魔と魔物の団体をぞろぞろと引き連れて俺が向かったのは、ユグ大の合格発表掲示板。
今の時代はネットでも合否はわかるけど、やっぱこういうのは桜の下で確かめたい。
そういう考えの奴は居俺以外にも大勢いたみたいで、ユグ大は春からの新入生候補たちでごった返していた。
神の視力をもってすれば、近くに行かなくても番号を確かめられる。

「えっと……俺の番号はっと……」

さすが国内最高学府のユグ大だけあって受験者数も多ければ合格数も多いぜ。
千人はいようかという合格者の番号がずらっと並ぶ発表掲示板は、大教室の黒板三枚ぐらいのでかさ。
その中から6桁の数字を見つけ出すだけでも日がくれちまいそうだ。

「『108242』……だから58列目の15行目から下か」

羅列されている数字の列をひとつひとつ目で追いながら、ゆっくりと視線を下げていく……
108218、108229、108231、108235、10824――そこから下が読めない。読めなくなった。

ズドン!と凄まじい音と共に爆炎が掲示板を飲み込み、瓦礫に変えて吹き飛ばした!
いや俺じゃねえよ!?まだ番号確認しきってなかったし!
悲鳴が轟き、会場に集っていた受験生たちは我先にと逃げ出していく。俺は神バリアを張って人の流れを見守った。
燃え盛る掲示板の向こう、もうもうと立ち上る煙の奥に、誰かがいる。一人じゃない、何人かの影だ。

「我々『憂政公社』はー!悪魔の直接政治権の復帰を政府に要求する正義の使者である!
 政府がこの要求を呑まなかった場合ー、ユグ大の前途ある人間たちを縊殺して国の未来を衰退させることとするー!」

ヘルメットに覆面、ゲバ棒、極めつけにズボンからはダイナマイトがはみ出している。
憂政公社、最近王都で横行してる悪魔の復権を謀る、過激派悪魔で構成された左派テロ組織だ。
ユグ大は人間の中でも殊更に優秀な連中の集う大学で、高級官僚のOBも多い。
なるほど、政府に対する人質としてはなかなか理にかなった選択というわけだ。

そう、理に適っている。
ただしそれは、人の理(ことわり)だ。
彼らにとっての計算外はたった一つ、今この場に立つ俺や、俺の後ろの連中が、須らくヒトから足を踏み出してるってことだった。
俺の合格発表を――邪魔する奴は許さねえ。

「ようお前ら、半年ぶりのバトルパート……あの世のゴロ寝で腕鈍ってねえだろうな?
 いいかくれぐれも殺しちゃ駄目だぞ。奴らは正義の味方なんだから――見下して、強くなるまで生かしてやろうぜ」

16 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/03/10 08:38:07 ID:P2IfsFoX
俺は懐からオイルライターを取り出して、リッドを弾きダブルアクションで点火する。
炎が発生したのはオイルを含んだ紐の先――ではなく、憂政公社の連中の周囲半径50メートルに渡って火の海に変えた。
熱風に煽られ、悪魔たちは驚愕し、腰を落とす。俺は炎の中を悠然と歩いて奴らに肉迫する。

「な、なんなんだこれは一体!貴様らは何者だ――!?」

頭目と思しき強面の悪魔が、ゲバ棒を捨て旧政権時代の三叉矛を俺に向けて構える。
ロスチャイルドが世界を獲ってからは刀狩り令で全悪魔から没収されたものだが、今は少しづつ元の持ち主に返還されているらしい。
そうして、悪魔政権の象徴である矛を取り戻して、気が逸ってこういう過激行動に出てしまう悪魔もいるんだとか。
目の前のこいつも、そういう手合いなんだろう。いやはや、世界ってなかなか良くはならねえもんだな。

                   おまえら
「何者だ……って、それを聞くかあ?。正義の味方の敵なんだぜ?だったら決まってんだろ――」

きっとそれは、バランスの問題なんだと思う。性善説でも性悪説でもそう言ってる。
ただ善いだけの人間なんかいないし、同じようにただ悪いだけの人間って奴も、またいない。
こいつらテロ組織だけど家に帰れば素敵なパパかもしれないし、こいつら正義の味方だけど電車で席も譲らないかもしれない。

万象あらゆる天秤を肩に負って、世界は常に前を向いて進んでいる。だから転んでしまわないよう、どの天秤もバランス重視だ。
善い者も、悪い者も、どちらが多すぎても世界はきっと傾いてしまう。そういうふうに出来てるんだと、俺はこの一年で知った。
だったら――あらゆる多くの悪徳とあまねくたくさんの悪辣を、俺が代行しよう。
俺が悪いことをした分だけ、世界に善い奴がたくさんいられるように。

「――俺たちは、『悪者』さ」

小悪党で、ヘタレで、アニオタで、浪人生で、革命家で、世界一のリア充で。
――世界なんか一つも救わなかった邪神の物語はこれでおわり、『バッドエンド』だ。
スタッフロールのあともまだまだ俺の人生は続くよ!でもそいつは、きっと物語なんて大仰なものじゃない、ただの日常。
エンディングがグッドでもバッドでもトゥルーでも、デッドエンドじゃない限り誰もがその後の語られない物語を紡いでいく。
一人ひとりを主人公にしたスピンオフの物語は、観客動員数がたった一人でも、廃盤になんかならないから。

次の物語では――願わくば、正義の味方でありますように。
俺は進む。仲間たちと。どんな冒険が待っているやら一寸先もわからない、続編への道程を。


――――BADEND――――

17 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/03/10 09:16:05 ID:P2IfsFoX
おはようございます。
キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!、ジェンスレはこれにて完結となります。
一年と三ヶ月にわたって続いてきたこのスレですが、本当に色々なことがあったと今さらながら感無量です。


メタルクウラさん
なんだかんだでずっと一緒にやってきてくれたあなたのことが僕は大好きです
あなたのおかげでこの物語の方向性は決まったと言っても過言ではないですし、とても楽しかった。
またきっとどこかのスレで、一緒に馬鹿騒ぎできる日を待望しています

モンスター娘さん
貴方とはぶつかることも結構、いや多々ありましたけど、常にスレのことを最優先に考えてくれたが故と思います
大先輩とアホみたいにコメディやってるときすげえ楽しかったです
ありがとうございました。挨拶はこのぐらいで。

レゾンさん
素敵な曲をありがとうございます。そして、あなたからは色々なことを教えてもらいました。
同僚間のロールの調整、キャラに対するネタふりの密度、スレの勢いのつけかた……などなど
今でも僕の血肉となって生きている技術はたくさんあります

カレンさん
あなたのもたらしてくれた霊装という概念とロスチャイルドというキャラが、ジェンスレを大きく変えてくれました
僕はこの手のハッタリの聞いたバトル設定が大好きです。とてもうれしかった


ジェンスレを通して伝えたかったこと、テーマの一つに『問い続けること』というのがあります
作中、ジェンタイル君は屁理屈ばかり捏ねる理屈屋の捻くれ者でしたが、同時に疑問多き少年でした
蘇生術の是非、悪役の哲学、世界を変えること、宗教、教育、社会……
様々なことに問いをぶつけ、そして答えを得て成長していった先がこのエンディングです。

当たり前に在るものを、「これはそういうものだから」と思考停止してしまうのは簡単です。
誰だって、なぜ人ははばたけないのか、なぜリンゴは木から落ちるのか、なぜまなびストレート!の二期は製作されないのか、
そういう理不尽や疑問をちくいち考えていくのはめんどくさいと思います。僕はそういうの好きですけどね
左様に理不尽を「そういうものだから」と受け入れることを哲学用語でトートロジーと言います。
ジェンスレでは、そのトートロジーをとにかく回避していくことを主題に据えていました。
すげえざっくりした言い方になりますけど、ジェンスレという物語そのものがひとつの哲学だと言えるわけです

ジェンスレは哲学。語尾に(笑)をつけてみんなに流布しましょう。
物語の発端となった蘇生術、まあぶっちゃけザオリクですが、こんなものがあったらあの世界ヤバいことになると思うんですよ
死んでも死んでも生き返るなら、世界は老人ばっかになるし。エルフもびっくりの平均寿命です。
あ、だからあの世界ってあんなに人少ないのかな?とか思ってみたりして、妄想は止まりません。

ジェンタイルには、そういう疑問を世界に対して発し続ける存在でいてほしかった。
誰もが「そういうものだから」と諦めていた命題に、挑戦し続けること。これこそがジェンスレのテーマだったのです。
そして問うこととは、既に周りが納得ずくのこと蒸し返し、平和を乱すことに繋がります。
平和を乱す存在。悪役です。ジェンタイルというキャラの造形は、このようにして決まって行きました。
ラスボスとして起用したロスチャイルドにも言えることで、彼は逆にみんなが納得した理不尽の上に胡座をかく存在でした。

『理不尽と言う名の平和』を護ろうとするロスチャイルド。
そして問うことでそれを破壊し、世界に再び混沌を齎そうとする悪役、ジェンタイル。
作中の人物たちの目線で見ればこういう構図になるわけで、ジェンタイルはやっぱり悪者なのです。

昨今、人々のゆとり化、情報弱者化に拍車がかかり、人々がメディアを鵜呑みにすることが多くなりました。
昔は活字になったものは全て真実だと信じて疑わない人がいたそうですが、今もあんまり変わってないですよねそういうの。
みんなの満場一致で決まったことに後から疑問を差し挟む奴は、総じて空気読めない奴と誹られ排斥されてきました。
集団社会においては、問うことは罪なのです。疑問を叫ぶものは悪いやつだと後ろ指さされるわけです。

とまあ、そんな感じのことを考えながらこの物語をつくりました。
楽しんでいただけましたでしょうか。このスレに参加して、ほんの少しでもこのテーマに『疑問』を感じてくれれば幸いです。
それでは末筆ながら。ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

18 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/03/10 13:23:38 ID:???
ジェンタイルさん、モンスター娘さん、レゾンさん。
本当にお疲れ様です。

私もこのスレで色々なことを学ばさせてもらいました。
そして、大切なことを改めて認識させてもらいました。
このスレに参加して楽しんだことを、私は誇りに思わせてもらいます。

最後に、私のネタで不快に感じてしまった方達に謝らさせてもらいます。
変なガチホモネタばかり出して、すいませんでした。

では、私はこれにて消えますので、また、お互いのことに気付かずに同僚として会いましょう。
ありがとうございました。


19 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/03/10 22:47:34 ID:???
皆様、本当に素晴らしい物語をありがとうございました。特にジェンタイルさん、本当にお疲れさまでした。
この物語の完走の瞬間に立ち会えた事をとても幸せに思います。あの曲が私にできるせめてものお礼です。
もう何と言っていいのか分からないので
私の大好きなゲームのエンディングからの引用をもって御挨拶とさせていただきます。

こうして、ひとつの物語は幕を閉じる。ながい時間が、すぎて……
つかの間の夢はとおく過ぎ去り……残されたのは、わたしと思い出だけ……。
でも、いつかきっとまた会える、あなた達と、わたしは……。別の場所で、別の時間で・・・・・・。
互いに、そうと気づくことはないかも知れないけれど……。
知らない扉を開いて、もうひとつの現実に出会う、もうひとつの今日を生きよう。
物語は終わっても、人生はつづく……だから、その時まで……ごきげんよう。

20 :モンスター娘s ◆x4IDvh2wBE :12/03/11 09:15:38 ID:???
皆さんお疲れ様でした。出先なのでトリが違うかもしれませんけども
僕も皆さんに倣って少しばかり感想をば

ジェンスレにおいて僕個人が勝手にテーマにしていたのは『理不尽との距離感』です
理不尽って面白いですよね
ある日突然、自分の前を歩いている人の頭上にタライが降ってきたら、降って湧いてきたガチムチと追いかけっこを始めたら
世界を滅ぼせるような大悪魔がその力に似合わずせせこましい事ばかりしていたら
まあ十人中十人とは言いませんけど、それなりの人数が笑いますよね
だけどそれがもしも自分の身に起きたとしたら、きっと笑ってはいられません

あくまで他人事だから笑える
最強厨も真っ青の厨キャラだけどバトルには一切絡まないから笑って済ませられる
それが理不尽との距離感です

大先輩を使って笑いを取ろうとした時は大抵理不尽を利用していた気がします
時空をも操る大悪魔のくせにヒートテックを装備してみたり、幽霊にビビってみたりと
そして同様に、大先輩が悪役っぽい事をする時にも、やはり僕は理不尽を利用していました
ローティアスを何の脈絡もなく噛ませ犬にしてしまったり、友達を見捨てちまえよとジェンタイルをそそのかしたり
そういう誰かにとって身近過ぎる理不尽は、最早笑いではなく悪事だと思うのです

地精霊編以降、世界観が変わってからもそのテーマに変更はありませんでした
モン娘達はローゼンが赤の他人だから、彼女を理不尽に洗脳しても笑っていられましたし
『理不尽な平和』があまりに自分達に近づきすぎたからこそ、ロスチャイルドを殺しました
そして最後にあまりに身近過ぎる『理不尽』でジェン君を泣かせました

誰かが面白いと思っている理不尽は、別の誰かにとっては許しがたい悪であるかもしれない

それが、僕がジェンスレを通して表現したかった事です
凝り固まった観念を振り返らせるという点では、奇しくもジェンタイルさんのテーマとも重なるところがあったかもしれませんね



これは蛇足ですけど
逆説、人を笑わせたかったら誰かに理不尽をおっ被せてやればいいんですよね
ただしそれをした結果、いつか自分がおっ被せられる立場に回ったとしても、それは因果応報ってものですが

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