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現代幻影TRPG

1 :人形 ◆3rZQiXcf5A :2013/08/20(火) NY:AN:NY.AN 0
いつの世も、世界は科学と魔法で満ちている――!

この世界から「科学」と「魔法」、二つの相反する概念が発見されてどれくらい経つだろう。
人類とそうでないもの、即ち亜人や獣人や精霊などの類の生物たちが、
時に戦い、時に手を取り合い、歴史を創り上げてどれくらいの時が過ぎただろう。

時は21世紀。世間は便利になった。
高層ビルが立ち並び、異形の者たちがスーツを着こなす世の中である。
今や、人類を含めた全ての種族たちが手を取り合って、生きている。

亜人も、獣人も、小人も、巨人も、アンデッドも、同じ社会に組み込まれている。
さりとて平和かといえばそうでもなく、差別や貧困、価値観の差異で争いも起こる。
それでも皆、時代の波に揉まれながら、懸命に今を生きている。

舞台は、多種族および多国籍国家・アメリカ合衆国。
最も多くの人口と種族数を誇り、自由と平等を掲げている。国鳥はハクトウワシ。
科学と魔法、両方の面で発達した国であり、多数の宗教も認めている。
一歩都会を出れば多くの自然と触れ合うことができ、あまたの野生のモンスターも確認されている。
また、この国は民間人による「銃の所持」と「魔法の使用」が認められているため、犯罪も多い。

「科学」と「魔法」!
相反する二つの概念は、現在に至るまで多くの学者たちによって研究されている。
現在の課題は、「なぜ、魔術師が科学を理解し操ることができないのか」、ということだ。
機械やコンピューターが主流となっている現代において、この課題は今最も注目されている問題だ。

さて、「科学」と「魔法」の満ちるこの世界において、市民の平和を保つために様々な機関が活躍している。

和と秩序の行使者、「警察機関」。犯罪を未然に防ぎ、或いは法を犯した者の捕縛に尽力する。
法と魔術の裁定者、「魔法局」。魔術師たちで構成された、ありとあらゆる魔法の管理や、裁判を司る。
力と正義の代弁者、「ギルド組合」。元は民間の自衛組織や商会によって結成された秘密組織だ。

ほかにも、この国では様々な職業で生計を立てている者も多くいる。
まだ発見されていない、あるいは絶滅したと思われた種族も生き残っているかもしれない。
時は移り変わろうと、まだまだ世界は不思議や驚き、つまりは「未知」で満ちている!

現代シティーアドベンチャー、ここに開幕!


キャラクターテンプレ

名前:
性別:
種族:(純人種・亜人種・獣人種・小人族ets…創作の場合は説明もどうぞ)
年齢:
容姿:(髪の色、瞳の色、服装など)
装備:(武器や道具などはこちらで)
性格:
職業:
能力:
備考:

2 :人形 ◆3rZQiXcf5A :2013/08/20(火) NY:AN:NY.AN 0
避難所
http://774san.sakura.ne.jp/test/read.cgi/hinanjo/1376928417/l50

3 :名無しになりきれ:2013/08/20(火) NY:AN:NY.AN 0
ほあ

4 :グラン ◆3rZQiXcf5A :2013/08/22(木) NY:AN:NY.AN 0
アイリーンはオレの頼みを快く引き受けた。
それもただ引き受けただけではなく氷の粒を高速回転させ壁を作る!
同時に、霧が氷となり視界が開けた。
しかしそこにボルンの姿は――無い。いや、床を影が動くのがうっすらと見えた!

「……上か!」

相手の姿を探そうととっさに上を見上げたのが間違いだった。
眩い光で目が見えなくなる。
と同時に頭上で微かな風切り音が聞こえた――

「が……あっ!」

水撃の直撃を受け床に倒れ伏す。
しかしよく見るとずぶ濡れになっているだけで出血等はしていない事が分かるだろう。
実は槍の刃先が直撃する直前、重力操作《ウェイトコントロール》を発動。
重力が働かなくなった水は球体になろうとするため、鋭利な刃先が無くなる。
それでも大量の水の衝撃力は殺し切れず床に倒れるには十分なものなので、半分演技であって半分演技ではないのだが。
これで仕留めたと思ったのか、幸いケルピーの方はボルンにターゲットを移している。
倒れた姿勢のまま、もう一丁重力操作《ウェイトコントロール》!
対象はボルン、効果は軽量化だ。
この魔法で敵の妨害をする際には重くするべきか軽くするべきかの判断が肝心なのだが、
基本的には身軽な素早さを武器にしている相手は重くしてやればいいし
大きくて重いガタイを一つの武器にしている相手は軽くしてやれば妨害になる。
今回は分かりやすい、迷う余地なく後者だ!

5 :バルムンテ:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN 0
アイリーンの魔法で霧が開けた。
が、ボルンの姿は見えない。

その時、グランの声が響いた。

>「……上だ!」

つられて上をみるバルムンテ。
同時にホワイトアウトする世界。

だがバルムンテは、しっかりと見ていた。
サングラスの下からボルンのいやらしい顔を。

「おりゃ〜っ!」

怒号。

爆発する筋力。

バルムンテの握り拳固が、唸りをあげて
ボルンに迫る。

6 :◇ctDTvGy8fM:2013/08/26(月) NY:AN:NY.AN 0
水が放つ殺傷力を侮ってはいけない。
水を用いた魔術は用途が幅広く、ポピュラーである。
水は形を持たず、ありとあらゆる姿に変えることができるからだ。

>「が……あっ!」

ケルピーは少女の悲鳴を聞いたこの瞬間、勝利を確信していた。
水槍が脳天を貫き、少女の肢体を一直線に串刺す様が目に浮かぶ…はずだった。

『……!?』

だが床に倒れこんだグランは、血一滴流していない。
殺傷力を極力削り取り、グランは衝撃だけ受け止めたのだ。
ケルピーは相手を討ち取れなかったショックで、一瞬だけ気がそれた。
それが命取りとなる。

>「おりゃ〜っ!」
『がああ…!』

確実に目を潰した。彼女はそう確信していた。
しかし現実に、バルムンテの視線はまっすぐボルンの巨体へ向けられている!
明らかな誤算であった。
ケルピーがもしサングラスという物を知っていたならば、また結末は違ったかもしれない。

『くっ!!』

空を裂き、バルムンテの拳が肉薄する。
やむなくケルピーは、ボルンの筋肉のみでそれに応戦せざるをえない。
腕をクロスし、拳を真正面から受け止める。腕がミシミシと音を立てる。
ついには吹き飛ばされ、地面を二、三度バウンドした。

移動の連続とバルムンテとの連戦、加えて巨人の血肉を食らい続けた弊害が、ボルンの体を衰弱させていた。
あまりに分が悪すぎる戦い。彼女はようやく、敗北の味を思い出し始めた。
彼女の足を未だに引き止めるものがあるとすれば、それはプライドであった。

『今更引けるものか…!たかがガキとエルフ、巨人になり損なったガキ風情にィい…!』

ケルピーは吼える。そしてがむしゃらにバルムンテへ再び飛び掛かる。
刹那、ひとつの影がバルムンテの肩を飛び越え、飛び出した。
ボルンの手が巨人に触れるより早く、スタンプは盛大な頭突きをケルピーの脳天に落とした。

「俺を忘れんなよ、馬公」

今度こそ床にノビきったケルピーに向けて、スタンプは親指を下に突きつけた。
大浴場にて、人知れず「赤い水」事件が終結した瞬間であった。

7 :◇ctDTvGy8fM:2013/08/26(月) NY:AN:NY.AN 0
十数日後。

現場に駆けつけたハンターと警察により、ケルピーたちは回収された。
殆どのケルピーはブルーランドに戻されたが、リーダー格のケルピーとボルンは、
第二級危険指定生物と認定され、より監視を強めた施設へ移動されることになったという。

メディアはブルーランドの管理体制を激しく批判し、謝罪会見が行われた。
逮捕に貢献したバルムンテには、警察から賞状が送られ、多額の補償金が支払われた。
いっぽうギルドでは、

「一般人を巻き込んで公務を行った上、戦闘まで加担させるとはどういう了見だ」

とスタンプは上層部にたっぷり搾られた。そのうえ、

「そんなに腕の立つ奴をなぜギルドにスカウトしないのだこの能無し!」

とやっぱり怒られる羽目になった。世の中とはえてして理不尽である。


「結局、俺は怒られ損か」

無事退院し、渋い表情のままスタンプは自宅のソファにふんぞり返った。
警察(トト)はあれから事務的な処理を済ませたあと、別の事件の処理に追われている。
アイリーンはつい先日「ケルピーの逮捕に貢献したので褒められちゃいました」と自慢して憚らない。
赤い水事件が解決したNYは、相変わらず騒々しい。

「…………ハァ」
「ずいぶん辛気臭い溜息ですね」

背後からアイリーンが声をかける。スタンプは別段驚きもしない。
こちらが望まなくとも、客が勝手に押し入るので、慣れてしまっていた。

「それより貴方、あの事件の前日、お酒を大量に摂取していたそうですね?」

指摘する声は刺々しい。
彼女の言うとおり、ケルピーと戦闘した前日、スタンプはビールを大量に飲んでいた。
ケルピーがあのような嫌悪を示したのは、彼の体に溜まった大量のアルコールが原因なのである。

「なんだよ、また説教か」
「反省してください!貴方はグランさんの保護者なんですから、そろそろ自覚を持ってもらわないと困ります!」

保護者に仕立て上げたのは手前の癖に、と出かかった言葉をどうにか飲み込む。
どうにもスタンプは、このアイリーンというエルフが苦手で仕方がない。
スタンプの無言をどう受け取ったか定かではないが、彼女は深く嘆息した。

8 :◇ctDTvGy8fM:2013/08/26(月) NY:AN:NY.AN 0
「ま、今回は小言はこれくらいにしておきます。ゆっくり養生なさってくださいな」

涼やかな目元がチラリとスタンプの右腕に巻かれた包帯を見やり、冷ややかな声で言った。
もうすぐ夕方である。ウルズの泉フリーパスチケットを眺め、アイリーンは口を開く。

「そういえば、例のケルピー達が逃げ出した日……」

「監視カメラに一瞬だけ、妙な影が映ったそうです。それも複数。現在魔法局が、ケルピーの脱走に関連性があるか調べているそうで」

「へえ。珍しくそっちが情報教えてくれるなんざ、浴場で頭打ったか?」

スタンプは冷ややかな笑みを浮かべたが、アイリーンの眼差しにはただならぬものがあった。

「…そういやお前、いやにタイミングよくあの温泉に駆けつけてきたよな。何か関係あんのか?」

「そういう貴方はどうなんですか」

「ありゃただの偶然だ」

「ならば私のもただの偶然です。変な邪推はよして下さい」

にべもなく彼女は跳ねのけると、しばらく口を閉ざした。
暫くなにか言い淀んだが、やがてこう言葉を紡いだ。

「……気をつけてくださいね。近頃、NYは穏やかでないですから」

「…ハッ。ずいぶん今更だな」

「ああ、それから」

差し出されたのは、ニューヨーク総合病院のマーク入りの封筒。
訝りつつスタンプがそれを受け取ると、健康診断の報告書が入っていた。

「勝手に調べさせてもらったんですけど、貴方、生活習慣病一歩手前ですって。これを機に、禁酒禁煙なさったらどう?」

けらけら笑うアイリーン。診断結果をみるうち表情が変わるスタンプ。
自身の髪より真っ青な顔色で診断書とにらみ合う男を残し、アイリーンは去っていった。

更にその翌日から、バルムンテの経営するスポーツジムに新顔が増えた。
青髪の中年男は、堕落しきって落ちた体力と筋肉を取り戻すべく、
ニヤニヤ笑うエルフ達の監視のもと、頑張っているそうな…。

9 :グラン ◆3rZQiXcf5A :2013/08/27(火) NY:AN:NY.AN 0
こうして赤い水事件は解決したが、二つほど謎が残った。
ケルピー達の脱走の手引きをしたのは何者かということと、ケルピーがスタンプの血を嫌がったのは何故かということだ。

「脱走の日、ブルーランドの監視カメラに変な影が映ったそうですよ。
それからもう一つはほぼ検討がついているのですが聞きたいですか?」

「そうなのか、流石魔法局!」

「酒の飲み過ぎです」

「どっせぇえええええい!」

盛大にずっこけて床をスライディングする。
実は聖別された血筋とか古に滅び去った種族の末裔とか若かりし時代に受けた光の加護とかいう設定をほんの少しだけでも期待したオレが馬鹿だった!
いや、このまあパン1おっさんに限ってそんなはずはないとは思ってはいたけどやっぱりそんなはずは無かった。
何はともあれこれで一つの謎は解明されたのであった。

「はいいち、にー、さん、しー! あ、おじいちゃんおじいちゃん、逆! 右右!」

あれからというものオレ達はバルムンテのジムに通うようになった。
オレは壊れた浴場の修理代を体で払うべく(いかがわしい意味では無く)しばらくダンスプログラムの講師のアルバイト。
一方スタンプは堕落した肉体を脱出すべく常連客と相成った。

「そうそうバルムンテ、この前の活躍に上層部が目を付けたらしくて
もしもギルドに入れば破格の待遇だろうから考えといてくれよな!」

もちろん時々ジム店主への勧誘も欠かさない。
はてさて、次はどんな事件が舞いこんでくるのだろうか――

10 :バルムンテ:2013/08/31(土) NY:AN:NY.AN 0
>「そうそうバルムンテ、この前の活躍に上層部が目を 付けたらしくて
もしもギルドに入れば破格の待遇だろうから考えとい てくれよな!」

「そんなわけわかんねーもんに俺が入るわきゃねーだろ。
一般人を守るのを優先とか意味がわかんねーんだよ」

そう言いながらも、力を認められたバルムンテはうれしく思う 。
その反面、もしも自分がギルドに入ったとしたら、
スタンプやグランのように人のために戦う気持ちになれるのか、と
そんな不安が過る自分もいた。

「ちっ、ぜってぇギルドには入らねぇよ」

独語し、事務室の奥に消えるバルムンテだった。

11 :人形 ◆lgEa064j4g :2013/08/31(土) NY:AN:NY.AN 0
第一話『脱走魔獣を捕獲せよ』完! 第二話開始!

12 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/08/31(土) NY:AN:NY.AN 0
オレとスタンプがバルムンテのジムの常連になって少したった頃――今年もあの季節がやってきた!
ニューヨークメインストリート大運動会!
そう、要するに大規模な町内会の運動会である。
通りに面しているスポーツジムや店、自主編成の市民によるグループが参戦し、親睦を深めあう……という趣旨で間違いないのだが。
優勝チームにはこの国の国鳥であるハクトウワシの黄金の像が贈られることになっている。
黄金という時点で結構なお値段なであることは確かなのだが、それだけではない。
優勝してから人生が変わった!等というある年の優勝者の眉唾もののブログが話題になったのがきっかけで背びれ尾びれ付いて評判が一人歩き。
終いには幸運の魔法がかかっている等という噂がまことしやかに広がり、今やプレミアがついてしまっている。
……という訳で黄金のハクトウワシを巡って今年も熱い戦いが繰り広げられるのだ!

13 : ◆lgEa064j4g :2013/08/31(土) NY:AN:NY.AN 0
――その頃、運動会実行委員会ではちょっとした騒動が巻き起こっていた。
怪盗ファントムを名乗る謎の人物から突如犯行予告文が届いたのである。

「『黄金のハクトウワシは戴きに参る。怪盗ファントム』……ってどう見ても只の悪戯じゃないですか……」
「いやしかし犯行文が届いた以上一応警備等を頼まなければ……」
「こんなので仰々しく警備を頼むのか? おいおい、勘弁してくれよただでさえ予算が苦しいのに」
「事件は会議室で起こっているんじゃない、現場で起こっているんだ!」
「いや、だから現場では何も起こりませんよ」
「ここは一つどうでしょう、何も見なかった事にするというのは……。
幸いこの事を知っているのはここにいる私達だけですし破って捨てて全てを忘れれば万事解決です」
「そ れ だ!!」

――と折角話がまとまりかけた時。

「あの……ドア開いてますよ〜」

通りがかったのは耳の尖った魔法使い。
悲しいかな、会議を繰り広げているのは合同庁舎だった。
魔法局の魔術師だって通りがかっても不思議はない。

「き、貴様は魔法局所属の……!」

アイリーンは役所内でも有名人のようである。どういう方向性かはともかくとして。

「いけませんねー、魔法使い犯罪の香りがしますねー」

「はい、だから今いかに低予算で警備を頼もうかと考えていたところです。
証拠隠滅してもみ消そうとしていたなんて滅相もありません!」

「よろしい! 丁度安く引き受けてくれそうな所を知っているので手配しましょう」

何もギルドに転がり込んでくるのは一般人に頼めないような危険な依頼ばかりではない。
一般人に頼めないようなしょうもない依頼も舞い込んでくるのである。

14 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/09/01(日) 00:02:05.32 0
「チーム・ウルズの泉! 優勝するぞー!」
「おー!」

ウルズの泉では参加予定者達がいつもに増して真剣にトレーニングを繰り広げ、壁には参加チーム募集中のポスターが貼ってある。

「運動会かー」

スタンプの方をちらりと見る。
こいつはまかり間違えても絶対運動会に出ようなんて言わないだろうな。
別にそれ程運動会自体に興味は無いけど、黄金のハクトウワシには興味は無くは無かったりする。
家に帰ると、ギルドの上司がやってきた。中に通されるなり、第一声。

「まず最初に……この犯行声明文を出したのはお前ではないな?」

突きつけられた犯行予告文のコピーを見て、ずっこけながらツッコミを入れる。

「そりゃ確かにファントムだけどさあ!」

どう見ても犯人のネーミングセンスが単純だった事による偶然の一致です本当にありがとうございました。

「うむ、確認までに聞いてみただけだ。確認ついでに依頼を受けて欲しいのだが……」

「ついでかよ!」

依頼は、運動会の警備。
それも、犯人を警戒させないために参加者として潜り込んで警備しろとのお達しである。
尤もただの悪戯でそもそも何も起こらない可能性が10中8、9らしいのだが、報酬もそれなり。

「どうする? この際ウルズの泉チームに入れてもらおっか」

15 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/09/02(月) 21:08:34.11 0
>「まず最初に……この犯行声明文を出したのはお前ではないな?」

帰ってきて早々、トラブルがまいこんできた。
ギルド幹部の一人が、ご丁寧に帰宅直後を狙って突撃訪問をかますなり、これである。

「『黄金のハクトウワシは戴きに参る。怪盗ファントム』……ねえ」

文章が安直である。二重三重の意味でだ。変に小洒落た言い回しより好感は持てる。

>「そりゃ確かにファントムだけどさあ!」
>「うむ、確認までに聞いてみただけだ。確認ついでに依頼を受けて欲しいのだが……」
>「ついでかよ!」

グランがちょっとした漫才を繰り広げている横で、スタンプは予告状を眺め回した。
長い歴史の中で、鮮やかな盗みで名をあげた怪盗は多い。
だが怪盗ファントムという名など聞いたことがない。おそらく無名の泥棒だろう。

「しかし、黄金のハクトウワシ像がこれ一体って訳じゃあないんだろう?」
「ああ。毎年、市が予算を出して手製の像を作らせてるのさ。因みに予算の7割くらいが像の製造に費やされてる」

実に阿呆臭い。
ということは、ほかにも所有者が存在しているということだ。
わざわざ大運動会で贈呈される一個体を狙うというのは、些か理解しがたい。

「どうも引っかかるな……パフォーマンス的にもネームバリュー的にも、あまりにお粗末じゃないか?」
「さあてな。だがこうして犯罪予告を送りつけてきた以上、こちらも警戒せざるを得ないのでね」

頼んだよ、と押し付け、断る隙も与えずさっさと幹部は帰っていった。

>「どうする? この際ウルズの泉チームに入れてもらおっか」
「……まあ、それが一番だろうがな……あー面倒くせー、面倒くせー!」

わああっとスタンプは頭を抱えた。
どうやらトラブルの神様は、まだまだ自分を見逃してくれるつもりはないらしい。

「……あー、いろいろあって俺たちも参加することになった。よろしくな」

参加するにあたって、バルムンテへの挨拶は必須である。
朝から渋い表情を顔いっぱいに広げ、スタンプはジムに赴いていた。
流石に「像泥棒をとっ捕まえるから潜入捜査で参加します」などといえず、
「医者に運動不足を解消するよういわれて」との言い訳で通すことにした。

「いいかグラン、うっかりでも依頼のことは喋るんじゃないぞ。わかったか」

相方への注意も忘れない。
だがここで、スタンプははたと思い至り、普通の人ならば耳を疑うようなことを口にした。

「……運動会って、具体的に何するんだ?かけっこか?」

まず彼に運動会が何たるかを教える必要がありそうである。

【依頼を受諾、チームに入ろうか】

16 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/09/04(水) 21:09:54.71 0
【>15の前にこのレスが入ります】

昔から、運動はどちらかといえば好きではなかった。

過保護な親が「病気を貰ってはいけない」と同年代の子と遊ぶことを禁じ、
病弱であるが故に外に出してもらえず、結果、外で遊びまわるという術を知らなかった。
外に出ても木陰で読書するか、同じ年頃の子供たちが駆け回る姿を眺めていたくらいだ。
それが当然のことだと思っていたし、別段羨んだりもしなかった。
スクールに通い始めてからも、体育だけはいつも見学していたと記憶している。

『ねえ、そうやっていつも本を読んでるけど、楽しいの?』

それを「彼女」は「おかしなこと」だと思ったらしかった。
ある日突然、自分の日常に現れた「彼女」は、出会い頭に本を取り上げた。

『運動なんて楽しくないし、興味もない。本、返せよ』
『あら、あなた運動したことないんでしょ?知ってるわよ、走ったことすらないんでしょ』

彼女は太陽を背にして見下ろしていた。
艶やかな髪が陽の光を反射させ、とにかく眩しかった。

『かけっこで私に勝ったら、本を返してあげるわ。まあ、その頃にはもう本なんて要らないって思うでしょうけど』

言うや、彼女は手をひいて、小さな丘を指差した。
誰かと走って競うことを知らなくて、人知れず胸が高鳴った。
あのときは、とにかく本を返してほしくて、二つ返事で了承したのだ。

『それじゃ、位置について。よーい……』

     ○

甲高い電子音が鳴り響き、スタンプは我に返った。
ルームランナーのモニターが、設定した距離を走りきったことを告げている。
まったく気づかなかった。どうも走り続けていると、頭がついつい別のことを考えてしまうらしい。

(結局、あのかけっこはどっちが勝ったんだったか…)

>「チーム・ウルズの泉! 優勝するぞー!」
>「おー!」

なにやら騒々しいが、おおかた予想はついている。
壁一面に貼られたカラフルなポスターをみれば、彼らの熱気の理由もしれるというもの。
春のウェディングフェス、夏のウィッチ・ハイ・レース、冬のクリスマス・ダンス・パーティーにならぶ、
ニューヨークの一大イベントだ。

「元気だな、たかだか運動会くらいで。そう思わないか、バルムンテ…って、お前さんも若かったか」

もちろん、興味のかけらもない。
たとえ大のお祭り好きの相方から意味ありげな視線を受けようとも、やる気は狸寝入りを決め込むに限る。
ただでさえ年だというのに、これ以上疲れるようなことをしたくないのが本音。

「『夜の大運動会』なら、喜んで参加するんだがなあ」

誘われても精々、このようなおっさん臭い下品なことをぼやくくらいのものだ。
血気盛んなムードに包まれるジムをよそに、ジムを後にする。
黄金のハクトウワシなんかより、余計なトラブルのない人生のほうが、よっぽど彼にとっては重要であった。

17 :バルムンテ:2013/09/05(木) 22:24:56.12 0
「あ?運動不足を解消してぇから運動会に参加するって
なんか動機がおかしくねぇか?」

バルムンテは不思議そうな顔で言った。
すると案の定、スタンプは、運動会というものの意味がわかっていなかった。

「まあ、いいわ。参加すりゃわかるわ」

バルムンテは半眼で飽きれ顔。
内心は、運動会なめんな、恥をかけ、そんな気持ちである。
恥ずかしい思いをして初めて己の不摂生を思い知ればよい。
そう思うバルムンテ。

「それじゃ、たまころがしにでも出るか?グランと二人でよ」

ギルドの二人が、どうせ体力に期待出来ないとたかをくくったバルムンテは
点数が低い種目の参加を要求する。

そして、グランに念を押すのだ。

「おめーまさか、隠れて魔法は使わねえよな?
魔法はぜってぇやめろよ。ぜってぇだ」
人指し指を、グランの鼻先へ、ずいとつき出すバルムンテだった。

18 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/09/05(木) 23:58:09.20 0
ウルズの泉チームに入れてもらうため、バルムンテのもとに挨拶に赴く。

>「いいかグラン、うっかりでも依頼のことは喋るんじゃないぞ。わかったか」

と、道中でしっかり口止めされたのだが――

>「……あー、いろいろあって俺たちも参加することになった。よろしくな」

スタンプ、表情渋すぎィ! これじゃあ本当は参加したくないのが見え見えである。

「あはは、ごめんごめん。 ほらスタンプ、もうちょっと楽しそうな顔しろよ!
医者から運動不足を解消するように言われて半分無理矢理連れて来たんだ」

>「あ?運動不足を解消してぇから運動会に参加するって
なんか動機がおかしくねぇか?」

確かにこの運動会は黄金のハクトウワシを狙って結構ガチなチームが参加するので
運動初心者は浮いてしまうかもしれない。
と、スタンプから衝撃発言が飛び出した。

>「……運動会って、具体的に何するんだ?かけっこか?」

「運動会は運動会だよ、玉入れとか組体操とか騎馬戦とかダンスとか!
そりゃかけっこもあるから間違っては無いけどさあ!」

>「まあ、いいわ。参加すりゃわかるわ」

やる気の無さ全開で参加お断りされるのではないかとヒヤヒヤしたが、なんとか許可が出た。
呆れてどうにでもな〜あれと思っているようにも見えるが許可が出た事には変わりはない。

>「それじゃ、たまころがしにでも出るか?グランと二人でよ」

>「おめーまさか、隠れて魔法は使わねえよな?
魔法はぜってぇやめろよ。ぜってぇだ」

「使わねーよ! 第一使っても意味ねーし」

この運動会は、純粋な身体能力の勝負という趣旨で魔法は禁止となっている。
夏に行われるウィッチ・ハイレースが魔法使いの祭典なら、運動会は肉体派の祭典にあたるだろう。
余談だが一口で魔法使いとは言っても、大きく分けて二種類存在する。
片や、魔法使いと聞いて一般体に想像される通りの魔法使い。
アイリーンのように学習すればあらゆる魔法を使いこなす事が出来るようになる、俗に魔術師と呼ばれる人達だ。
魔法使いとしては上位に位置するが、反面機械類は使う事さえままならない者が多い。
もう片方は、オレのように特定の方面の魔法だけに天性の適性を持つ者達。
その能力は多種多様で一見魔法のイメージにあてはまらない物も多々あり、異能者と呼ばれたりもする。
魔法使いの格としては魔術師に劣るが、機械類は得意ではないものの普通に使う分には左程問題ない傾向がある。
話は戻って使っても意味がないというのは、オレは重力魔法しか使えないので玉ころがしには全く意味がないのだ。
玉が鉄球でもない限りは。

19 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/09/06(金) 00:00:30.43 0
何はともあれ、大運動会に参加する事になったオレ達。
表向きは警備のために入れて貰いますなんて言えないため、やる気満々の元々の参加者達と一緒にトレーニングに励むことと相成った。

「玉ころがしは足腰が命! しっかり走るように!」

速度を上げるルームランナー……。ずり落ちそうになるオレ。

「おっとお! こんなのに本当に意味あんのかよ! ……何か外が騒がしくないか?」

「そうやって気を逸らそうとしてもそうは……ん?」

勢いよく扉が開き、あまり上品では無い集団が怒声と共に押し入ってきた。

「オラ、ウルズの泉はここかあ! 出てきやがれ怪盗ファントム!」

オレは声のした方を一瞥し、相手が誰かを認識すると事もなげに尋ねる。

「なんだ、またお前らか〜。で、今回は何の用?」

彼らの名はバンプス――純人族の巨漢ゲオルグ・ヴィオレッタを首領とする過激派不良集団である。
何かと暴れてはその度にオレ達に鎮圧され、今や半分顔見知り。
言ったら気の毒だが何時の間にやら少年漫画でいうところの噛ませのお騒がせ雑魚ポジションにおさまってしまっている。

「とぼけんじゃねえ! 俺らのシマにこんなものが送り付けやがってよお!
お望み通り今すぐ潰してやろうじゃねえか! 黄金のハクトウワシをいただくのは俺達だ!」

そう言ってゲオルグが見せつけたのは、例の超分かりやすい犯行予告文だった。
どうやら犯人は調子に乗って予告文を複数の箇所に送ってしまったようだ。

「犯人、それを色んな所に送ってしまったんだな……。
ところでもしかして……怪盗ファントムってスタンプの事だと思ってる!? ちげーよ!?」

「しらばっくれるな! 野郎どもやっちまえ!」
「押忍!」

ゲオルグの号令に応え、不良集団が一斉に襲い掛かってくる。
不良集団というのは見た感じあまり知能が高くはなさそうだが、やっぱり見た目通りあまり知能が高くはないらしい。
ファントムというだけで、いつも懇意にお付き合いをしているスタンプだと思い込んでしまったようだ。
犯人の単純なネーミングセンスのおかげでいい迷惑である。

「くらえ、ブレイクダンス!」

群がってきたモブ不良たちを適当に吹っ飛ばす。
襲い掛かってくるものは仕方がないのでとりあえずいつも通りに適当にのしておこう!

20 :スタンプ ◇20VaJIlRuQlX:2013/09/07(土) 21:16:45.87 0
>「運動会は運動会だよ、玉入れとか組体操とか騎馬戦とかダンスとか!
  そりゃかけっこもあるから間違っては無いけどさあ!」
「んなこと言われても、俺はその『運動会』に参加したことねえし。……おい、その目をやめろ!」
>「まあ、いいわ。参加すりゃわかるわ」

スタンプの発言に対し、いつもはマイペースなグランもこの反応。
やいのやいの言い合うギルドコンビに、バルムンテは呆れがちな表情で諌める。

>「それじゃ、たまころがしにでも出るか?グランと二人でよ」
「あっあー……その辺はお前に任せるよ。ドーセワカンネーシ」

OKが出たはいいものの、いきなり玉転がしと言われてもピンとこない。
競技や人選はバルムンテに丸投げするスタンスのつもりだ。やる気が微塵も感じられない。
スタンプたちの目的は、あくまで「黄金ハクトウワシ像を怪盗ファントムから守ること」。
運動会はその隠れ蓑に過ぎない。

「にしても、怪盗ファントムかあ……紛らわしい。困ったもんだ」

 ○

>「オラ、ウルズの泉はここかあ! 出てきやがれ怪盗ファントム!」

本当に困ったもんだ。

参加表明を宣言して数日後。
大運動会に向けてトレーニングと称し、グランを含めた参加者たちにしごかれている最中であった。
ルームランナーの上でずっこけるグランを眺めながら休息をとっている最中に、「これ」である。

>「なんだ、またお前らか〜。で、今回は何の用?」

鷲鼻にゴリラ顔、黄と黒のライダースーツが目印の巨漢といえば、ゲオルグを置いてほかにはいない。
ゲオルグは怒髪天をつく勢いでスタンプらに迫ると、一枚の紙切れを突きつけてがなりたてる。

>「とぼけんじゃねえ! 俺らのシマにこんなものが送り付けやがってよお!
  お望み通り今すぐ潰してやろうじゃねえか! 黄金のハクトウワシをいただくのは俺達だ!」

例の犯行予告文だ。一字一句違わず、以前見せられた内容と一致している。
ゲオルグの騒ぎたてぶりに、周りのジムのメンバーたちも眉を顰める。
グランが必死に誤解を解こうとするが、聞く耳もたず。

『怪盗ファントムだって…?』『ハクトウワシ像を戴く?』『そういえばグランちゃんのお父さん、ファントムって名字だっけねえ…』
「お前な……仮に俺が怪盗とやらだとして、これから泥棒やるやつが本名名乗るか?フツー」

反論しながら、スタンプの眉間とこめかみの辺りがピクピクと震え始める。
周りまでもが好奇と嫌疑の視線を向け始めているのだから、愉快でないことは当然だ。

>「しらばっくれるな! 野郎どもやっちまえ!」
>「くらえ、ブレイクダンス!」

ボスの号令と同時に、バンプスの舎弟たちが襲い掛かる。
ジムの会員たちがきゃあきゃあと逃げ出すなか、それに応戦するのはグランだ。

21 :スタンプ ◇20VaJIlRuQlX:2013/09/07(土) 21:18:05.98 0
「こりゃ堪らん、バルムンテさん呼んで来い!」「きゃああ、お尻に火が!」

戦闘に巻き込まれてはかなわないと、みな一目散に奥へと隠れる。その中にはスタンプもいた。
今現在、スタンプ達は一個人であり、公務を宣言しない限り一般人との戦闘は許されていない。
ギルドバッヂを回収してグランに手渡さなければ、罰せられるのは自分たちだ。
バッヂはロッカールームの中だ。それに見取り図によれば、ロッカールームに非常時魔力制御装置が設置されている。
そろりそろりと人ごみを抜け、ロッカールームへ向かうが……。

「あ、こいつ!一人だけ逃げようってハラか!?」

目ざといバンプスの一人に見つかってしまった。
ロッカールームはジムの出入り口側にある。バンプス団員と真正面から対峙する形となった。
咄嗟に、スタンプは団員に向かって駆け出した。相手が構える間もなく、体当たりを決める。

「こりゃ、ルームランナー走ってた成果が出たか?」

完全にただの不意打ちでしかないのだが、かまわずロッカールームへ。

「どこだ、怪盗ファントム!男なら潔く出て来い、俺様が成敗してやる!」

ゲオルグは完全に憤っている。しかし、彼らの十八番である爆発呪文を使っている気配はない。
室内であの呪文を使うのは気が引けてるのか。だとしたらまだ行動しやすいほうだ。
問題は、バルムンテに怪盗ファントムのことが知れる可能性だ。
参加の時も若干、不審がるそぶりを見せていた。そんなタイミングで彼に知られたら……。

(畜生、何で俺ばっかりこんな目に〜……!)

物陰から様子を伺うと、どうやらグランは団員たちを相手に素手で戦っている。
バンプスの舎弟たちもまた、素手でグランと応戦しているようだ。
ゲオルグはバルムンテを見つけるや、ずんずんとそちらに向かって近寄る。

「おいお前、ここの経営者か?スタンプっつーオッサンを出せ。そうすりゃ何もせずすぐに引きあげてやる」

まずい、と直感した。ゲオルグの目的はスタンプだ。
スタンプが騒動の原因だと知られたら、バルムンテのことだ、すぐさまつまみ出すやもしれない。
そうなればせっかくの潜入も水の泡とかす。それだけは避けなければならない!

「アイツは怪盗ファントムだ!黄金ハクトウワシ像を盗むって、堂々と俺様に宣戦布告しやがったんだ。出しやがれ、あの腐れ親父をよォ!」
「リーダーやばいよ、相変わらずグランの奴つよ、ぐえっ」
「自分らでどうにかしろ!いいか、あの黄金ハクトウワシは俺のジジイの遺作なんだ。俺様が貰うってのが道理ってもんだ。
 それを横から掻っ攫うなんざ俺がゆるさねえ!アイツを庇うってならデカブツの兄ちゃん、お前もかまわず潰してやる!」

舎弟たちはグランを相手に身体強化の術でやり過ごすのが関の山らしい。
ゲオルグはこちらに背を向けた状態で、バルムンテを相手に喚いている。
ロッカールームに進入するためには、どうしたってバルムンテの視界の中を動かざるをえない。

(頼むから気づかないフリしてくれ……!)

【ロッカールームにバッヂを取りにいく、ついでに非常時魔力制御装置を起動しにいく腹づもり】
【ゲオルグはスタンプの身柄を要求、これを拒否すると戦闘態勢に入るっぽいよ】

22 :バルムンテ:2013/09/12(木) 22:49:40.36 0
「はあ?スタンプが怪盗ファントム?」
口をぽっかりあけて、バルムンテは不思議そうな顔。
いやいやありえねー、俺は奴を信じているぜ。
なんて思う間柄でもない。
だが今、視界のなかでコソコソしてるオッサンはいちおう客。
このパンプスたかバンプスだかわけのわからないものたちの
言うことを鵜呑みにすることも出来ず、悩むバルムンテ。
そんな気持ちも知らず大暴れのグランを妬ましくも思う。

「おめーはいったいなんなんだ?バカか?お人好しか?
なんのためにその力を使ってんだ?
他人よりも強い自分を証明でもしてんのかよ?」

騒動をおさめるためのグランの暴力に、バルムンテは皮肉を言う。
そしてゲオルグに剣呑な顔で語るのだ。

「スタンプがファントムっていう証拠はなんだよ?
それと爺さんの遺作って、ありゃ手作りだったのか?
そりゃたまげたわ」

23 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/09/12(木) 23:38:46.66 0
視界の端にスタンプがロッカールームの方に行くのが見えた。
いくら連戦連勝とはいえ流石に正当防衛の範囲内でしのぎ続けるのは楽ではない相手。
一刻も早いバッジの到着が望まれるところだ。

>「おいお前、ここの経営者か?スタンプっつーオッサンを出せ。そうすりゃ何もせずすぐに引きあげてやる」
>「アイツは怪盗ファントムだ!黄金ハクトウワシ像を盗むって、堂々と俺様に宣戦布告しやがったんだ。出しやがれ、あの腐れ親父をよォ!」
>「自分らでどうにかしろ!いいか、あの黄金ハクトウワシは俺のジジイの遺作なんだ。俺様が貰うってのが道理ってもんだ。
 それを横から掻っ攫うなんざ俺がゆるさねえ!アイツを庇うってならデカブツの兄ちゃん、お前もかまわず潰してやる!」

ゲオルグがスタンプを出せとバルムンテに迫る。
何気に黄金のハクトウワシが爺さんの遺作と言うのは初耳である。
バルムンテはどうしたものかと悩んでいる様子。

>「おめーはいったいなんなんだ?バカか?お人好しか?
なんのためにその力を使ってんだ?
他人よりも強い自分を証明でもしてんのかよ?」

「よく見ろ、一応こうやって向こうから襲ってきた奴をな……はっ!」

こちらからは手を出さずに襲ってきた奴を蹴散らす――それがバッジがない時の戦闘方法だ。
過剰防衛になる可能性もあるがそこはこの少女の外見にかなり助けられている。
外見と戦闘能力が必ずしも比例しない世の中でありながら、やはり人は外見に流されるのである。

>「スタンプがファントムっていう証拠はなんだよ?
それと爺さんの遺作って、ありゃ手作りだったのか?
そりゃたまげたわ」

視界の中をスタンプが横切っていくも黙認。
幸いな事に、バルムンテはゲオルグの主張を鵜呑みにはしなかった。

「おおそうよ。全身全霊をかけて完成させた次の日に死にやがった!
証拠か? 舎弟が郵便受けに紙を入れたあと逃げていく犯人らしき後姿を激写した!」

そう言って出して来たのは、一枚の写真。
映っているのは、スタンプに似た髪型と服装をした……引き締まった細身の体格の(おそらく)若い男の後ろ姿。
――どう見ても無実の証拠です本当にありがとうございました。

「別人じゃねえかああああああああああああああ!!
スタンプが帰って来たらよく見ろ、生活習慣病一歩手前だから運動しろと言われてここに入ったんだぞ!
こんないい感じに引き締まった体のわけがない!」

「いや、実は自分もこんなスリムだったっけって気はしてたんすね……」

手下の中にも何か変だなと思っていた者はいたようで、オレのツッコミに反応してざわざわし始める。
偶然髪型と服装の趣味が一緒なだけかもしれないが、スタンプに変装してるつもりであれば怪盗を名乗るには変装が下手糞なことこの上ない。
そもそも何で郵便で出さずに自ら郵便受けに入れに行くし!
とにかく、ファントムで先入観があった上にこれを見て思い込んでしまったのだろう。思い込みって怖いね!

24 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/09/15(日) 21:48:31.82 0
>「はあ?スタンプが怪盗ファントム?」

バルムンテが素っ頓狂な声をあげた。
その際ばっちり彼の視界に入っている上に目線まで合っちゃった訳だが、騒ぎ立てようともしない。

(よしっ、恩にきるぜバルムンテ!)

下手をすれば騒ぎの原因として突き出される可能性もあっただけに、安堵も大きい。
急いでロッカールームに駆け込み、自分のロッカーを探す。

(あった!)

乱暴にロッカーを開け、トレンチコートを引っ張り出す。
ポケットにはちゃんと、スタンプとグランのバッジが収まっていた。
グランの身分は学生であるため、保護者であるスタンプが二人分のバッジを保管しているのだ。

(魔力制御装置は……だめだ、壊れてやがる)

しぶしぶ引き返し、グランたちの元へ駆けつける。
丁度、ゲオルグが写真と思しき紙を突きつけていた。

>「別人じゃねえかああああああああああああああ!!
>スタンプが帰って来たらよく見ろ、生活習慣病一歩手前だから運動しろと言われてここに入ったんだぞ!
>こんないい感じに引き締まった体のわけがない!」

「ぎゃああーーーーーー!それを言うな馬鹿野郎ォーーーーーー!!」

身内以外の第三者に生活習慣病と知られ、怒りと羞恥のあまり叫ぶ。
叫ぶついでにグランに向け、剛速球でバッジを投げる。
ゲオルグ達が一斉に振り向く瞬間、バッジが輝く。

「『正義の名の下、公務を宣言する』!バルムンテ、危ないから下がってろ!」
「ついに出たな、この泥棒野郎!」

ゲオルグが吠え、右手をゴキリと鳴らす。
室内とはいえ、前回と違い障害物の多いジム内で爆炎魔法を使う可能性は低い。
じりじりと間合いをはかる。

「なあゲオルグ、俺が言うのも何だが、落ち着け。俺が泥棒なんぞして何のメリットがある?」
「俺の知ったことかよ!一度ならず二度までも喧嘩売りやがって、舐めてんのか!?」

今度はスタンプが素っ頓狂な声をあげた。
一瞬できた隙を突き、ゲオルグは右手から火花を散らす。
瞬く間に、火花の群れは蛇のように空中をうねり、陣を描く。
するとグラン、バルムンテ、スタンプ、三者の足元に全く同じ模様が浮かび上がった。
反射的に、スタンプは懐に手を入れていた。

「何の真似だ!」
「動くなよ、怪盗ファントム。一歩でも出たら火達磨だぜ」

おそらくは拘束のための魔法だろう。
ゲオルグの言葉から推察するに、出たら即魔法の炎が襲い掛かるに違いない。

「これから、俺様が華麗なる推理を披露してやる。心して聞きやがれ」
「(大人しくしていたほうが良いぜ)」
「(そうそう、こういう時のリーダーって話の腰を折られると癇癪起こすからな)」

グランとバルムンテの背後で、舎弟たちがそう忠告する。

25 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/09/15(日) 22:37:10.43 0
「まず、俺の実家はヴァルカン・カンパニーっつーでっけー金属興業会社なんだけどよ。
 その当主が毎回、会社の宣伝も兼ねて黄金のハクトウワシ像をこさえてたんだ」

ヴァルカン・カンパニーの名はアメリカで知らない者はそういない。
元はイタリアで企業した会社であったが、イマイチ名が売れず新天地アメリカに移転。
アメリカ内で戦争が勃発した際、魔導兵器を幾つも生産したことで成功した、かなりブラックじみた一面を持つ。
余談であるが、ゲオルグの本名はジョージ・ヴィオレッタ・ヴァルカンである。至極どうでもいい。

「この手紙が届いたのは、うちのジジイが死ぬ一週間くらい前のことだ」

取り出したるは一枚の紙。怪盗ファントムの予告状だ。
達筆で『黄金のハクトウワシは戴きに参る。怪盗ファントム』と記されている。

「怪盗(Pphantom thief)ファントム(Phantom)とか、お前ネーミングセンス壊滅的なんてレベルじゃねーぞ。ナメてんのか」
「だから俺じゃねーって。何度言ったら分かるんだ、このゴリラ、ケツ毛毟るぞ」

メンチを切りあう二人。
「リーダー、推理!推理!」と舎弟たちに諭され、咳払いひとつし話を続ける。

「そんでここに!俺の舎弟が撮影した決定的瞬間がバッチシ写ってる!」

次に見せるは、ある男の後ろ姿である。
撮影した時は夜だったらしい。ライトに照らされ、トレンチコートを翻した男が、巨大な門の前を駆けていく。
魔術をかけたカメラで撮影したのか、男が何か紙を郵便受けに押し込み、逃げていく姿がループしている。
髪型と服装だけ見れば、スタンプに見えないこともない。

「体型が違うのは、あれだよ。写真届けた日からバカ食いし続けたから体型変えたんだろ。馬鹿だな」

なんと適当な推理か。これにはスタンプも呆れてものも言えない。
馬鹿はお前だ、とよっぽど言ってやりたいが、怒らせた所でロクな未来が見えない。
「それにな!」とゲオルグは指を突きつけた。

「ショーコはもう一つ、じゃなかった、あと二つ残ってんだぜ!見ろ、これを!」

全員に見せるように、ゲオルグはそれを掲げた。
古く黄ばんだ紙に、「黄金のハクトウワシは戴きに参る」と記されている。
しかし肝心の差出人の名前は滲んでいる。かろうじて「Ph nt m」と読める。
筆跡は、最初に見せられた予告状と酷似している。

「これは5年前に、俺の家に送られてきた予告状だ!つまり怪盗ファントム、テメーは一度ウチに侵入した!
 が、この時は黄金のハクトウワシ像は盗まれなかった。何せこの俺が!像を守ったんだからな!
 俺という堅固な番人のおかげで像を盗みそこねたお前は、雪辱のため再び俺に手紙を送りつけた!」

そして!と、もう一枚写真を取り出す。

「俺の舎弟が、一枚目を撮ったあと、後を尾けて撮ったんだ!」

その写真には、一枚目の写真の物と同一人物らしき男が映っている。
白熱灯の黄色い光に照らされ、グリーンに輝く髪の男、金髪でツインテールの少女、2m以上もありそうな巨大な男が立っている。
三人とも一様に怪しげなマスクをつけ、なにやら頭を寄せ合い企んでいるかのようにも見える。

「どうだ!お前と、そこのチビ(グラン)じゃねえのか!
それにそこのデカブツ!これ、よく見たらお前じゃねえのか?こんなにデケー奴はそうそういねーからな」

ジロジロとバルムンテを見上げ、写真の巨大な男と同一人物かどうか見極めようとしている。
このままでは、「三人揃って怪盗ファントム一味」などと言いがかりをつけ始めるのも時間の問題である。

【炎の檻発動。魔法陣から外に出ると炎が襲い掛かってきます】

26 :バルムンテ:2013/09/17(火) 10:44:39.86 0
バルムンテはグランによく見ろと催促された。
よく見れば、グランは攻撃してきたものを攻撃している。
それをなんでわざわざ見ろと言ったのか。
きっとグランは、オレ、悪いことはしてないぜ。
みたいなことを訴えたいのだろう。

「けっ、いいこぶりやがって。
本当は魔法の力で人を倒すのが気持ちいいんだろ?
なんか暴れてるオメーは生き生きして見えるぜ」

皮肉をこめてグランにいい放つ。
別にバルムンテは平和主義という訳でもないのだが、
グランの異能を見せつけられるのは癇にさわるのだ。
とくに筋肉を使用するわけでもなし、
まるで武道の達人のような動きを見せるグランの身のこなしは
反則的に見える。

それはさておき、バルムンテの問いかけに
ゲオルグは一枚の写真を取り出した。
それは郵便受けに手紙をいれたのち、逃走する男の写真。
彼の話では五年ほど前にも同じように予告状が届けられたという。

「ふーん。しっかしそのファントムらしき男を写真で撮った舎弟さんってのも
随分と用意がいいよな…。まあ、五年前にも同じようなことがあったってんなら、
納得のゆく話でもあるけどよ」

そうは言ったものの、この話にバルムンテはほんの少しだけ気になるところがあった。
話の流れとしては

@郵便受けに予告状が入っていた。
A逃げる男を舎弟がカメラにうつす。

ただそれだけのことなのだが、
何かがおかしい。
都合が良すぎるというか何と言うか。
タイミングが良すぎるのだ。

27 :バルムンテ:2013/09/17(火) 10:46:00.89 0
「な〜んか腑に落ちねぇな」
くしゃくしゃと頭をかきむしるバルムンテ。
たぶんゲオルグは嘘を言っていない。
だが何かこの話には裏がある。
そう思った瞬間、見せられたのは
ファントムらしき男と一緒にうつっているグランらしき者と
自分らしき者の写真。

「なんじゃこりゃ!ふざけんなよテメーら。
真面目に聞いてた俺がバカだったわ」

バルムンテは頭を抱えた。
いったいこれはどういうことなのだろう。
壮大なイタズラなのだろうか、
それとも何者かの罠?
罠だとしたら誰の仕業なのか。
ピンポイントでこの三人を貶めようとする意味は?

ゲオルグの勘違いなど問題外だが、これはファントムらしき男の撹乱作戦なのか、
それともただのアホな行動なのか
よくわからない出来事に頭が痛む。
だが普通に考えたなら、この三人組がファントム一味なのだ。たぶん。

「えっとな。この写真はいつどこで撮った写真だ?
そんでこのあとこいつらはどこ行った?
今、目の前にいるとか変なジョーク飛ばしたらぶん殴っぞ」

拳を握り締めながら、バルムンテはゲオルグの舎弟に詰め寄るのだった。

28 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/09/18(水) 23:15:46.13 0
>「けっ、いいこぶりやがって。
本当は魔法の力で人を倒すのが気持ちいいんだろ?
なんか暴れてるオメーは生き生きして見えるぜ」

なーんかやたらオレに突っかかってくるんだよな。
魔法の素質というものは完全に天性のものらしく、
魔法を使えない者の中には魔法に対してあからさまにコンプレックスを持ったり嫌ったりする者もいる。
(たまに途中で魔法が使えるようになる人もいるが、それは元から素質を持っていたけど開花していなかっただけ、と解釈されている。
本当のところはどうか知らない。もしかしたら気合いと根性で会得した人もいるかもしれない)
しかしバルムンテは素で殆ど異能レベルの怪力があるのだからコンプレックスを持つ事も無いと思うのだが……

「その言葉はそっくりそのままあっちに言ってやりな……」

オレは半ば呆れながらゲオルグの方を指さした。
不良のムキムキマッチョでその上爆発魔法なんて絵に書いたような歩く危険物である。

>「ぎゃああーーーーーー!それを言うな馬鹿野郎ォーーーーーー!!」

スタンプが断末魔の絶叫と共に投げたバッジを受け取る。

『正義の名の下、公務を宣言する!』

決まり文句に反応して輝くバッジ。実はこのバッジ、法的な意味以外にも実利的な意味がある。
ギルドメンバーに支給される魔力を持たない者にも使えるマジックアイテムで
合言葉で魔力の手錠が出せたりとちょっと便利なおまじないが何個か込められているのだ。
『正義の名の下、公務を宣言する!』も実は”雑魚はちょっとひるむ”という効果を発揮する合言葉で、リアル水○黄門の印籠みたいなものである。
以上豆知識でした!

>「何の真似だ!」
>「動くなよ、怪盗ファントム。一歩でも出たら火達磨だぜ」

印籠効果は舎弟にはちょっと効くけど親分には効くはずもなく、ゲオルグは室内なのをお構いなしに爆発魔法を使ってきやがった。
拘束のためとはいえ万が一爆発したらどうするんだよ……。
そんな事まで考えないのがチンピラのチンピラたる所以である。

>「これから、俺様が華麗なる推理を披露してやる。心して聞きやがれ」
>「(大人しくしていたほうが良いぜ)」
>「(そうそう、こういう時のリーダーって話の腰を折られると癇癪起こすからな)」

舎弟達にも忠告され、もはや大人しく聞くしかない。
怪盗ファントムさん、ポッと出かと思いきや5年前にも活動してたのね……。

>「怪盗(Pphantom thief)ファントム(Phantom)とか、お前ネーミングセンス壊滅的なんてレベルじゃねーぞ。ナメてんのか」

改めて言われてみれば確かにこれは酷い。「馬から落馬」や「竜巻トルネード!」みたいなもんである。

>「体型が違うのは、あれだよ。写真届けた日からバカ食いし続けたから体型変えたんだろ。馬鹿だな」

うん、確かに逃走のために整形する人はいるね!
しかしバカ食いし続けて体形を変えたというオバカはあまり聞いた事がない。
極めつけにオレ達に似てるけど微妙に(かなり?)違う3人組が出てきたよ……。

29 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/09/18(水) 23:17:35.51 0
>「どうだ!お前と、そこのチビ(グラン)じゃねえのか!
それにそこのデカブツ!これ、よく見たらお前じゃねえのか?こんなにデケー奴はそうそういねーからな」

オレ金髪じゃなくて銀髪!と突っ込む気力も無い。
どうせ染めたとか言われるのがオチだろう。

>「なんじゃこりゃ!ふざけんなよテメーら。
真面目に聞いてた俺がバカだったわ」

黙って聞いていたバルムンテがついに声をあげた。
写真を撮ったという舎弟に詰め寄る。

>「えっとな。この写真はいつどこで撮った写真だ?
そんでこのあとこいつらはどこ行った?
今、目の前にいるとか変なジョーク飛ばしたらぶん殴っぞ」

巨体の迫力は相当なもので、素直に答える舎弟。

「ひぃいいいいい!!
丁度アジトに帰って来たらこの場面にはちあわせたんすよ!
この後は気付かれて……追おうと思ったら煙玉みたいなものを炸裂させて消えやした!
ぶっちゃけ俺達がでっちあげてるんじゃないかと疑ってるんすよね!?
うちのような由緒正しいチームがそんな事するわけないじゃないっすか!
まあ別人とは思いますけど……はっ!」

ポロリと本音を漏らした舎弟は今度はゲオルグににらまれ、必死に言い訳を始める。

「あ、いやいや兄貴に逆らうなんて滅相も……ぎゃあああああああ!!」

鉄拳制裁が炸裂――ご愁傷様です。

「あァ!? こいつらの味方するってんのかよぶっ殺すぞてめー!」

引くに引けなくなっているのか、舎弟の本音ポロリを聞き入れる気は毛頭ないようで。
もはや収拾をつけるためには手段を選んでいられない、本当の事を話すしかないようだ。スタンプには口止めされているが仕方がない。
それに幸いと言ったら不謹慎だがバルムンテもすでに巻き込まれてしまったため、真相を知っても参加を拒否される事はないだろう。

「仕方ねー教えてやる!
オレ達は怪盗ファントムからハクトウワシを守るようにギルド上層部から直々に依頼を受けてんだよ!
盗み出そうと思ってる奴がわざわざ参加者として参加なんかするかよ。
嘘だと思うならギルド本部に問い合わせてみればいい!
ちょっと考えても見ろ、ここでオレ達が潰し合ったら真犯人の思う壺だぞ!」

「そ、そうっすよ! 参加者として参加しながら泥棒も出来る程こいつら器用じゃないっすよ」

「ほ、ほら! もしもハクトウワシが無くなったら「お前らのせいだーっ」てぶっとばしに行く大義名分が出来やしたし今日の所は……」

流石にゲオルグの思い込みに付いていけない者も多いらしく、舎弟の援護も入る。
若干滅茶苦茶言われている気もするが、それでも今は有難い。
暫し沈黙し思案する素振りを見せるゲオルグ。うまくいってくれればいいのだが……

30 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/09/21(土) 20:14:01.35 0
>「なんじゃこりゃ!ふざけんなよテメーら。
  真面目に聞いてた俺がバカだったわ」

ゲオルグの推理をすっかり聞いた、バルムンテの第一声がそれだった。
全くもって同意する、とスタンプも渋い顔を浮かべる。
納得がいかないのか、迫力たっぷりに迫るバルムンテに、バンプスの舎弟もたじたじのようだ。
素直に白状する舎弟も、兄貴分のゲオルグに睨まれ鉄拳制裁を食らっている。
板ばさみ状態とはこのことだろう。

(ま、俺とて釈然としない部分もあるんだがな)

「理由」だ。
仮に写真の男たちが、怪盗ファントム一味だとする。
怪盗ファントムが同じような服装・背格好でスタンプ・ファントムに扮したとする。

「その理由は何だ」?

スタンプは、怪盗ファントムとの面識はない。正体に心当たりもない。
だとすると、向こうが一方的にこちらを知っているということになる。
確かに同じ「ファントム」ではあるが、名前の一致だけで罪を被せるものだろうか。

写真も怪しさ満載だ。
スタンプだけでなく、特定の人物を陥れるような構図。
タイミングよく現れ、「いかにも」な手法で去っていったという三人組。
考えれば、初めから分からないことだらけなのだ。

「どういうことか、教えてほしいもんだ…」

>「仕方ねー教えてやる!
オレ達は怪盗ファントムからハクトウワシを守るようにギルド上層部から直々に依頼を受けてんだよ!(中略)」
「おーーーーーーーーいッ!?何しれっとバラしてんだお前ェーーーー!!」

ギョッとした表情を浮かべるバンプス一同。
それはゲオルグも同じことだが、一番驚いているのはスタンプのほうだった。無論、別の意味で。
バッジを付けている間、公務の内容を一般人に公開することは通常、禁じられている。
緊急を要する場合は後日、会議で評議されるのだが、その間、ギルド組合員としての行動は一切禁止される。

(それ、分かってて言ってんのかよ、グラン――!!)

>「そ、そうっすよ! 参加者として参加しながら泥棒も出来る程こいつら器用じゃないっすよ」
>「ほ、ほら! もしもハクトウワシが無くなったら「お前らのせいだーっ」てぶっとばしに行く大義名分が出来やしたし今日の所は……」

グランの暴露を耳にし、舎弟たちは一斉にゲオルグに詰め寄る。
当のゲオルグは、沈黙し何かを考えあぐねている。というより、半ば困惑の表情も混じっている。
刹那、ゲオルグはピンッと人差し指を突きたてた。
室内の温度が急上昇する気配を感じ、スタンプの背筋は逆に冷えていく。

「腑に落ちねえことが幾つかある」

ゲオルグの人差し指が、三人をそれぞれ指す。
まるで、銃口を突きつけられた気分に陥らせる動きだ。

「さっき見せた写真、あれは8日前の『夜9時半』くらいのだ。まずはお前らの『8日前の夜9時半』のアリバイを聞こうか」

31 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/09/21(土) 20:14:42.24 0
要は「手紙を出してきた時間帯に3人がいなかった証拠」を求めているらしい。
ゲオルグは手始めに、容疑の薄そうな二人の説明を聞くことにしたらしい。
スタンプは記憶を思い出しつつ、自分の順番が回ってくると、話し始めた。

「その日なら俺は無罪だな。ちょうど、ある依頼が入ってて、一日中仕事してたんだ」
「ほー。アリバイってのは証人が必要なんだぜ。当然、いるんだろうな?」
「いるとも。だけど、その、相手がな」

急に口をもごもごとさせ始める。
なんだよ、とゲオルグは視線で促す。

「もう終わった依頼だから話しても問題ないだろうが、プライバシーってもんがあるし」
「言えって。でないとお前が怪盗ってことになるぞ」

はあ、とため息をつく。観念した様子で、打ち明ける。

「浮気調査だったんだよ。その数日前に男がきてな、妻の動きが怪しいから浮気してないか調べてくれって」
「ほお、それで?」
「それで調べてたんだ。そしたら、色々トラブルがあって、そのー」
「はっきりしねえな。何だよ、そのトラブルって」

「その妻は男の睨みどおり、浮気してたんだ。
けれどその浮気ってのがまた特殊で、何でも匿名のメンバーが集まってコスプレして何やかんやする出会い系みたいなものでよ。
俺はそれを事前に知ってたから、俺もその出会い系に潜り込んで、ターゲットに近づいて徹底的に証拠をつかもうと思ったんだ。
そしたら向こうから声をかけてきてな……オフで会わないかって」
「それで?」

おもむろに、スタンプは黙り込む。
そして左手で輪を作り、右手で輪に指をつっこむしぐさをしてみせ、開き直ったかのように舌を出した。
はじめ、ゲオルグは訝るように眉をひそめるが、その真意を汲み取った瞬間、みるみる表情が変わる。

「うわ、お前…サイッテーだろ!?サイテーだ、腐ってるにも程があるぞ!?」
「か、確実な証拠は掴んだからオッケーかなーって。双方納得してたし」
「ミイラ取りがミイラじゃねーかァアア!ただれてやがる!おいグラン、こいつ怪盗以前に別の罪で裁かれるべきじゃねーの!?」
「怪盗じゃねーけど、『戴きました』、なんつって」

省略。
その時間帯、スタンプには(少々恥ずかしすぎる)完璧なアリバイがあったということになる。
つまり、写真の男がスタンプであるはずがないのだ。

「ま、まあ、そのアリバイは認めてやるとして……だったら、こいつ等はなんなんだよ!?」

こいつ等とはつまり、写真の男たちだ。
予告状を送りつけてきたのがスタンプらに扮しているなら、別の疑惑が持ち上がる。
「なぜ、スタンプらに扮装する必要があるのか」?

「こう言っちゃなんだが……この写真、俺とグラン、バルムンテをピンポイントではめようとしているかのように見えるんだよな」

スタンプは率直にそう意見をのべる。

「共通点でいえば、ジムのメンバーでしかない俺たち3人を、しょぼい怪盗なんぞに仕立て上げようとする理由……か」

舎弟たちは、「さあこれでもまだ犯人を捜そうなんて言うんじゃないでしょうね」という視線を兄貴分に向ける。
ゲオルグもようやく興奮の熱が下がってきたようで、無言で灼熱の檻を解除した。
だが、まだ不満があるのか、帰る気配を見せない。
何かしら「怪盗ファントムの正体を知る何か」あるいは「彼を納得させる案」を提案しない限り、てこでも動かないだろう。

【アリバイに欠点がなければゲオルグの灼熱の檻解除、しかしまだ納得がいっていない様子】

32 :バルムンテ:2013/09/25(水) 00:09:16.93 0
「その時間帯は普通にジムで働いてたぜ。
仕事帰りの運動不足のサラリーマンを相手に
ダイエット教室を開いてたんだ」

そして三人の写真を見ながら
スタンプの話を聞く。

「まあ、ギルドの二人は誰かに恨まれる心当たりはあるかも知れねーが
俺までセットでいる理由は不思議だな。
もしかして、ライバルチームの罠か?
それかグランが言った通りの作戦を事前に潰すための作戦か?」

考え込むバルムンテ。
となると、どの時点で指令が漏洩したのか。
というかそれだとファントムは予告状を出した日に
ギルドの二人に指令が下ると知っていたことになる。

「しっかしよ。犯人はやたらにこっちの人間関係に詳しいな。
こんなふうに俺らが揉めることも計算してたんか?
としたら、この状況で誰が何の得をする?」

そのとき、あ!っとバルムンテは気がついた。
ゲオルグに向かって指をさす。

「今、おめーんちってガラガラじゃねぇの?
こんだけ手下引き連れて、黄金の像は誰が守ってんだよ!?」

怪盗ファントム。
写真を利用したりと、小細工の好きな相手が
正攻法で盗みにくるとは限らない。
大会が始まる前にことを起こそうとしているのかも知れないのだ。

33 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/09/25(水) 00:58:35.98 0
舎弟達にも総出で説得される状況に及んで困惑を垣間見せながらもまだ粘るゲオルグ。
子分大勢引き連れて威勢よく突撃した手前引っ込みがつかなくなってんじゃないだろうか。
君子豹変す――という言葉があるがこの爆発ドラ息子にそれを期待するのは酷というものだ。
ヴァルカン・カンパニーの未来は危うい……。

>「その時間帯は普通にジムで働いてたぜ。
仕事帰りの運動不足のサラリーマンを相手に
ダイエット教室を開いてたんだ」

実に健全且つ非の打ちどころのないアリバイである。
さて、夜9時半といえば品行方正な高校生が出歩いてはいけない時間。
いつも二人で任務を遂行するスタンプもあの日は何故か一人で仕事に赴いた。
当然アリバイなどない、はずなのだが……

「友達とゲーセンで遊んでましたー! すんませーん!」

……表向き名門女子高で通っていても内状はこんなもんである。
が、その直後、スタンプが一人で仕事に言った理由が明かされる。
意味ありげなジェスチャーをして見せるスタンプ。例によってずっこけながら突っ込む。

「なんですって!? オレというものがいながらぁー!」

その方面の風習?は魔導人形族には無いが、130年も生きていれば知識としては知っている。
どうやら彼はハクトウワシではないものを戴いてしまったようだ……。

>「ミイラ取りがミイラじゃねーかァアア!ただれてやがる!おいグラン、こいつ怪盗以前に別の罪で裁かれるべきじゃねーの!?」
>「怪盗じゃねーけど、『戴きました』、なんつって」

こういう方面にはまだまだ青いゲオルグに比してオレはこう見えて外見年齢より一つほど0が多いので冷静である。
言うまでも無くオレとスタンプは恋人ではなく、親子といっても表向きのものでそもそも本当はオレの方が遥かに年上。
飽くまでも相方としてやれやれ、という感じで肩をすくめてみせる。

34 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/09/25(水) 00:59:48.57 0
>「ま、まあ、そのアリバイは認めてやるとして……だったら、こいつ等はなんなんだよ!?」

>「まあ、ギルドの二人は誰かに恨まれる心当たりはあるかも知れねーが
俺までセットでいる理由は不思議だな。
もしかして、ライバルチームの罠か?
それかグランが言った通りの作戦を事前に潰すための作戦か?」

考えても分からないし運動会当日に出てきた所を捕まえるのが一番手っ取り早いと思うのだが、それではゲオルグは帰ってくれないだろう。
多分、自然な帰る流れを作ってやらないと彼自身帰るに帰れないのだ。困ったもんである。
皆であーでもないこーでもないと推理を繰り広げていると、バルムンテが突然あっと声をあげた。

>「今、おめーんちってガラガラじゃねぇの?
こんだけ手下引き連れて、黄金の像は誰が守ってんだよ!?」

「流石にすでに役所に引き渡して厳重に保管してるんじゃ……。それに大企業一家なら家もセキュリティとか完璧だろうし」

言い終わらないうちにゲオルグの顔色がみるみる変わっていく。

「え、まさか……まだ引き渡してないのか!? もしかして心配すぎて自分のアジトに置いちゃったとか!?」

「しまったぁああああああああああああああ!! 野郎ども、撤収だ!」

慌ただしく撤収していく一同。来るのも突然なら帰るのも突然。忙しいものである。

35 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/09/28(土) 09:39:05.59 0
>「まあ、ギルドの二人は誰かに恨まれる心当たりはあるかも知れねーが
俺までセットでいる理由は不思議だな。
もしかして、ライバルチームの罠か?
それかグランが言った通りの作戦を事前に潰すための作戦か?」

そう発言したのはバルムンテだ。
成程、この秋の大運動会で優勝を狙う者は多い。それこそ個人から大学の運動チームまで、その参加者数を数えればきりがない。
元々スタンプやグランをよく思わない輩たちが、これ幸いと蹴落としにかかることもあるのかもしれない。

「しかし、それならわざわざ怪盗なんて古臭い、面倒な手を使うか?
 もし俺だったら、そんな意味のないことせずに、選手に下剤をしこむとか、一人きりの夜道を襲う方を選ぶがな」

そこまで意見し、「あ、もしもの話なだけであって、本当にやったことは無いぜ」と言い訳する。
よしんばライバル達がその手を使ったとして、バルムンテには両方とも効果がないような気もするが。
しかし、スタンプたちの正体や任務内容が漏れていたとなると話は別だ。
今回の任務内容こそしょうもないものだが、それでもギルド組合が扱う情報なのだから外部に漏れるわけがない。
もし怪盗ファントムが事前にスタンプ等の潜入を知っていたとすると、とんでもない結論に至る。
つまり、情報を流した者が存在するということになるのだ。それも、ギルドの内部に。
でなければ、最悪の場合、ギルド組合の中に怪盗ファントムが潜んでいる可能性が浮上する。

「こりゃ、思った以上に深刻な問題だぞ……ウォーリーを探すより難しいんじゃないか」

うむむ、と不精髭の散った顎を撫でると、ぱたん、と何か開く音がする。
それはスタンプの脳内の記憶の扉が開く音で、「ウォーリー」の単語に自ら反応したからに他ならない。




記憶の中の自分は今より10歳ほど若く、TVのそばで本を開いていた。
向かい合うように、「彼女」がいる。

『相変わらず読んでるのね。……あら、絵本だなんて珍しいじゃない。ウォーリーを探せ、でしょ。それ』
『視覚探索力を鍛えてるんだよ。たまには文章を読むだけじゃなくて、脳自体を鍛えないと』
『ああ、もう!私の前でむずかしい言葉を使わないで!』

彼女は喚いて、本を取り上げる。返せ、と眉尻をさげると、いやよ、と笑われる。
買ったばかりのTVでは、近頃話題のドラマが流されている。
熱血敏腕弁護士が、『怪盗』の濡れ衣を着せられた青年の無実を晴らすという内容だ。

『怪盗かあ、本当にいるのかなあ。アルセーヌ・ルパンだって、結局はフィクションでしょ』
『空想に憧れて真似るような阿呆なら、いるんじゃないのか。ほら、最近英国で騒がれてるこそ泥とか』
『ファン何とか、だっけ。大胆不敵に予告して、狙った獲物は必ず奪う!有限実行なところは、かっこいいね』
『毎回、ぎりぎりの所で失敗しているらしいけどな』

「彼女」はタオルケットを体に巻いて、「ふはーはは!」と高らかに笑う。怪盗の真似のつもりらしい。

『誰も姿を見たことがないんでしょう?なんだか幽霊みたいよね、彼』
『彼女、かも。怪盗らしく変装でもしてるんじゃないか?』
『どうかしら、そうなのかしら。私が怪盗になったら、誰に変装しようかしら』
『へえ。君が怪盗になったら、何を盗むんだい』
『何を言ってるのよ、私は物を盗んだりなんかしないわ。盗むフリだけよ、ちゃんと返すわ』
『……じゃあ、怪盗になる意味がないじゃないか』
『意味はあるわよ。魔法を使わずに、幾多の罠を潜り抜けて、皆の前で颯爽とお宝を手にするのよ?
 絶対、びっくりするわよ。それで、そんな凄い奴が盗もうとしたお宝ってどんなだろうって、見にくるでしょう。
 ……あっ!怪盗の目的って、もしかして案外それだったりして。結局は、皆に見てもらいたいだけなのかもね』

なんだか、サーカスのピエロみたいね。彼女は一人合点すると、にっこりと笑っていた。



36 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/09/28(土) 09:40:04.31 0
>「今、おめーんちってガラガラじゃねぇの?
こんだけ手下引き連れて、黄金の像は誰が守ってんだよ!?」

バルムンテの一言で、スタンプははっと我に返る。
流石にそりゃないだろう、とグランは意見する。話題は黄金像のセキュリティについて移っていた。
まったくの同意見……と言いたいところだが、この不良は毎回必ず何か「トラブル」を引き起こす。
それこそ、地面に埋め込んだ地雷のように。つまりは、油断ならないのである。
現に、ゲオルグの表情はみるみると青ざめていく。

>「え、まさか……まだ引き渡してないのか!? もしかして心配すぎて自分のアジトに置いちゃったとか!?」

ことごとく当たっていたようである。
最初は笑っていた舎弟たちも、兄貴分の表情を察して同時に顔色を変える。

>「しまったぁああああああああああああああ!! 野郎ども、撤収だ!」

わっと表に飛び出すバンプスのメンバー。
スタンプはそれを目で追いながら頭をかき、グランに振り返る。

「グラン、俺はあいつ等を追う。黄金像に何かあっちゃ大変だからな。それと……」

決まり悪そうにバルムンテのほうへ振り向いた。
先日の嘘と潜入捜査のことがばれた今、ジムのメンバーとして参加する意味もないだろう。

「悪かったな、また変な騒ぎに巻き込んで。今日のことは悪い夢だと思って、忘れちまいな。
 って、無理があるか……大運動会、俺の参加は取り消しておいてくれ。もう要らないからな」

バンプスが消えた方へ目をやり、追いかけ始める。
ゲオルグたちのアジトはヴァルカン社の付近にあると見ていいだろう。
ストリートを走り、箒に乗ったゲオルグたちの姿を探す。

「(お、あんな所にいた。案外、箒ってトロイのな)」

姿を見つけるや、走るスピードを上げる。そういえば、あまり息切れしないな、と感じた。
大運動会に向けて、ずっとトレーニングしていた成果かもしれない。

「(参加できないのはちょっと、勿体無かったかもな)」

【ゲオルグのアジト】

バンプスのアジトは、ヴァルカン社のすぐ近くにある倉庫を改良したものだ。
外見は普通の小屋だが、中は広々とし、様々なトラップがかけられている。
ゲオルグ自身がかけた罠も幾つか存在し、最奥部に黄金像が保管されている。

「早くトラップを解除しろ!」
「そ、それが、……知らない複合魔法が掛けられてて!」
「はあ?どういうことだ!おいどけ、俺が解除する!」

スタンプがたどり着くと、バンプスのメンバー全員が入り口の前で立ち往生している。

「……なんだこれ!『堅牢の呪護』じゃねえか!誰がこんなトラップを!」
「こ、これ、大爆発魔法か、でなきゃ同じくらいの力でぶち抜かない限り無理ですよ!どうするんです!?」

ゲオルグは悩んでいる。アジトに向けて大爆発魔法なんて使ったら、黄金像に傷がつきかねない。
さりとて、この魔法を物理的な力で抜く道もなさそうである。今のところは。

【ゲオルグのアジトにて謎のトラップが出現。特大のパワーでしかぶち抜けないっぽい】

37 :バルムンテ:2013/10/01(火) 11:00:35.18 0
わっと表に飛び出すバンプスのメンバー。

「やれやれ。ん〜なこったろうと思ったぜ」

ゲオルグは自信家だ。
五年前は怪盗ファントムを自ら迎撃したと言った。
それに予告状が来た時点でスタンプを犯人と決めつけて
いたとしたら、誰から何を守るために
警備員を配置する必要があるというのか。
いつも通りのセコムで良いはずだ。

>「悪かったな、また変な騒ぎに巻き込んで。今日の ことは悪い夢だと思って、忘れちまいな。 って、無理があるか……大運動会、俺の参加は取 り消しておいてくれ。もう要らないからな」

「いいぜ、べつに。世の中には面倒に巻き込んでおいて
ちょっと注意しただけで逆ギレするやつもいるしよ。
最近、素直に謝れる人間って偉ぇと思うわ。
まあ、おめーらが抜けたら優勝する可能性がふえるわけだし、
ぜんぜん気にすんな」

そう言ってバルムンテは微苦笑。

そして、バンプスのアジトへ向かうと
メンバーたちが立ち往生していた。
彼らの話しでは、どうやら結界が張られているらしい。

「怪盗ファントムの行動を何故って理由付けしてたら、
腑に落ちねぇことだらけだが
ただ優勝トロフィーを盗まれちまったら俺等が困るんだよな。
つーことで……」

バルムンテは上着を脱ぐと『堅牢の呪護』に両手をかける。
そして全力で抉じ開ける。

「おら、とっとと怪盗ファントムを見つけて取っ捕まえっぞ」

バルムンテが抉じ開けた穴から、
ゲオルグを先頭にぞろぞろと皆で潜ってゆく。

38 :グラン ◇lgEa064j4g:2013/10/05(土) 21:04:47.41 0
こうしてオレ達はバンプスのアジトへ向かった。
箒にまたがった不良の集団というのは何となく微笑ましい光景だが
ゲオルグはあれで一応魔法使いなので機械類との相性が悪く、安全面を考慮すれば必然こうなるのだ。
付けば早速団員達が手をこまねいている。
でも問題ない、そんじょそこらのトラップならスタンプに任せておけば朝飯前……とはいかなかった。

>「……なんだこれ!『堅牢の呪護』じゃねえか!誰がこんなトラップを!」
>「こ、これ、大爆発魔法か、でなきゃ同じくらいの力でぶち抜かない限り無理ですよ!どうするんです!?」

魔法トラップに対する正攻法は解呪の魔法をかける事だ。
某エルフの魔法局員の顔がすぐに思い浮かぶが、生憎今回は居合わせない。
解く方法はもう一つあり、一定以上の衝撃を一気に叩き込んでやれば解ける。要するに力技。
どれぐらいの衝撃力が必要かは呪護の強力さによるが……

「バルムンテ、同時にパンチを叩き込めば壊せるかも……ほげぇええええええ!?」

助走も何も無しに魔法の守護がかかった扉を平然とこじ開けるバルムンテ。
後ろに控えていた舎弟達ともども驚愕の叫びをあげ、理想的なフォルムの驚き役を全うする。巨人の腕力恐るべし。

>「おら、とっとと怪盗ファントムを見つけて取っ捕まえっぞ」

「あ、ああ……」

というわけでめでたく開いた穴からぞろぞろと中に入っていく一同。

「堅牢の呪護をかけたのが怪盗ファントム一味だとすれば魔術師か……。
よく分からないけど中に立てこもっている可能性が高い!」

さっさと持って逃げればいいのにわざわざ入り口を固めて立てこもるとは何がしたいのか。
入るなり壁に『怪盗ファントム参上』とペンキででかでかと書いてある。
そしてまたもや舎弟達が呆然と突っ立っていた。
その視線の先では、天井から吊り下げられた鎌みたいな巨大な刃が左右にいったりきたりしている。

「ベタすぎるだろ!」

何がしたいのか、というかどういう系統の相手なのかが何となく分かってきた気がする……
しかし短時間の間にこれ程の大掛かりな仕掛けを作るとは一味には魔術師だけでなくリフォームの匠もいるのか!?
いや待てよ、相手はファントム……“幻影”だ。果たしてこれは本物なのだろうか。

39 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/10/05(土) 21:06:03.71 0
>「怪盗ファントムの行動を何故って理由付けしてたら、
>腑に落ちねぇことだらけだが
>ただ優勝トロフィーを盗まれちまったら俺等が困るんだよな。

「……おいおい、何でお前まで来てるんだよ」

バンプスが奮闘している最中、背後から声が。
振り返ると、グランはまだいいとして、てっきり店にいるとばかり思っていたバルムンテまでもが仁王立ちしている。
正直な所、これ以上一般人(?)が介入することは喜ばしくない。

>つーことで……」
「お、おい、何するか知らねえけど……」

呼び止めるも耳を貸すつもりはないらしい。
上着を脱ぎ捨て、『堅牢の呪護』がかけられた扉に手をかけた。
しかし如何に彼が怪力とて、一人で開けるには無理があるのではないか。
その場にいた全員がそう思い、またグランも同じことを考えたらしく、声をかける。

>「バルムンテ、同時にパンチを叩き込めば壊せるかも……ほげぇええええええ!?」
「う、うええええええええええっ!?」

青白い光が、バルムンテの怪力に反抗するように、バチバチと鳴る。
巨人の腕に負けてなるものかと、呪いが咆哮するかのようだ。
だがお構いなしに、バルムンテはその扉を、容赦なくこじ開けた。
力に押し負けた呪いの印が、断末魔をあげるような音を立て、光とともに霧散する。

>「おら、とっとと怪盗ファントムを見つけて取っ捕まえっぞ」
「お……おお!俺が先頭をいく、お前らも続け!」

一瞬は呆然としたバルムンテだが、威勢よく中へと入っていく。
室内は外観より広く、玄関から廊下へと一直線に進む。

「黄金像はどこに?」
「最奥の金庫の中だ!俺たちがかけた術もあるから、迂闊に手を出せねえとは思うが…」
>「堅牢の呪護をかけたのが怪盗ファントム一味だとすれば魔術師か……。
 よく分からないけど中に立てこもっている可能性が高い!」

屋敷に入るなり、その場にいた殆どの人間が絶句した。
壁一面に大きく、「怪盗ファントム参上」とペンキで汚く落書きされている。
更に、唯一の進行方向である廊下を、巨大な刃物が行ったり来たりしている。

>「ベタすぎるだろ!」
「インディ・ジョーンズかよ……ここはアマゾンの遺跡か何かか?」

呆れて物も言えない、とはこのことだ。
しかし、何となくではあるが、怪盗ファントム達の目的が見えた気がした。

「だがよ、これで分かった。アイツ等はまだ、黄金像を盗めてないだろうな」
「ああ?何で分かるんだよ、んなこと」

ゲオルグが食って掛かる。
暑苦しい、とゲオルグを押しのけ、スタンプは罠が張られた廊下を見据える。

「簡単だよ、メリットがねえ。盗んだ後ならば、とっくにオサラバしても良いはずだ。
 わざわざ呪護やトラップなんて手の込んだもの仕込んで嫌がらせするほど、あいつ等も暇じゃねえはず」

40 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/10/05(土) 21:06:52.25 0
ならば、何のために呪いや罠を仕掛けたりするのか。

「発想の逆転だ。『わざわざトラップや妨害を作る理由』が、怪盗たちにはある」
「じゃあ、その理由は何なんだよ」
「考えてもみろ、『黄金像を手に入れてない』前提で、トラップを仕掛けるとすれば、どういう理由だと思う」

はあ?とゲオルグが素っ頓狂な声をあげる。その時、部下の一人がおずおずと手をあげた。

「そ、そういえば……この辺り、俺が侵入者用にトラップを仕掛けたはずなんだけど…
 こんなトラップしかけた覚えがないんスよ。多分、解除された上で、このトラップ魔法が仕掛けられてるんじゃ…」

スタンプは頷いて、言葉を続ける。

「ゲオルグだって底抜けの馬鹿じゃねえ。怪盗用の対策魔法くらい掛けている。とすれば、それを解除するにも時間がかかる」
「あ!じゃあこの魔法、俺たちが駆けつけてきた時のための足止めってことか!?」

注釈しておくと、トラップ魔法にもいくつかの法則が存在する。
トラップを発動している間、術者にも負担がかかるし、トラップを破れば術者もそれを感知する。
つまり、トラップが解除されれば、怪盗は自身に敵が近づいていることを知ることができるのだ。

「堅牢の呪護が解けた時点で、相手も俺たちに気づいてるだろうな。こっからはスピード勝負だ」
「け、けど、このトラップはどうすんだ!俺たち総出で解除するにも、5分はかかるぞ!」
「じゃ、お前たちはそうしてろ。
 バルムンテ、お前もこの先はくるな。グラン、バルムンテを見張ってろ。ここで怪我でもされたら適わん」

まるで邪魔なハエでも追い払うかのような、厳しい言葉を放った。
縦横無尽に動き回る刃物のトラップは、何物も、近づこうものなら引き裂いてやる、という気概を感じる。

「俺は、『ここを切り抜ける』」
刃物よりも、スパッと切れのある答えを出し、クラウチングスタートのポーズをとった。
移動式トラップは、スピードこそ早いが、規則正しく動いている。
タイミングさえ見計らい、その間を潜っていけば、抜けることはできる。

「(1、2、3……刃の数は4つか。ギリギリだな)」
おいおいまさか、と周囲が眉を顰めるが、気にしない。
誰かがおい、止めろよ、と言う暇も与えず――地面を蹴る!

待ってましたとばかりに、刃物が迫る。
八つ裂きにしてやる、という意思を持つがごとくだ。一つ目の刃が、空を裂く音を呻らせる。

避けた。勢いあまって、刃は壁に突き刺さった。本物の刃を使っているらしい。
すかさず、二本目の刃に意識を向ける。
鎖の先端にぶら下がる鎌の刃が、スタンプを真っ二つにせんとする。
これも辛うじて避け、刃先が壁にめり込んだ。冷や冷やしつつ、先に進む。

「おい、後ろ!」
3本目を見据えたその時、誰かが大声をあげた。
その大声でとっさに、スタンプは後ろを見る。しかし全員、誰かが声をあげた様子はない。
罠だ、と気づいた瞬間、胴体に。切り裂くような激痛が走る。

「あああああーーーーッ!!!」

実際に胴体が切れたわけではない。
刃はスタンプの体をすり抜けて、悠々とぶら下がっている。3本目は幻覚の刃だったようだ。
しかし幻覚魔法は、精神に直接痛覚を与えてくる魔法だ。実際に切り裂かれたかのような痛みも襲ってくる。
激痛に耐えかね、スタンプは動けなくなってしまった。
まもなく、4本目が、倒れて身悶えする不運な男にむけ、慈悲なき刃を振るう!

41 :バルムンテ:2013/10/10(木) 23:05:58.45 0
スタンプはグランに、バルムンテを止めるようにと指示した。
それを聞いたバルムンテはヤレヤレと盛大なため息をはく。

そして小さなグランなぞ、無視。
まるで視界に入ってないかのごとくズンズンとスタンプに続く。
どうせグランには止めるすべなどないだろうし、
バルムンテも止まる気などない。
この行動で、グランがどの様な対応をするのかは、
少し楽しみではあったが……
次の瞬間、それは起こった。

「な、なにぃ!?」

転倒するスタンプ。
幻影の刃に精神が斬断されたのだ。
その前に、何者かの声が聞こえたような気がしたが、
だがそれがなにかと思考する暇もなしに次の攻撃がスタンプを襲う。

「やべぇ!」
この距離では助ける時間がない。
バルムンテの自慢の筋力は例えるなら蒸気機関車だ。
俊敏性には欠けるのだ。

「仕方ねぇ、行けグラン!」
グランを掴み、スタンプに投げつける。
すると二人は刃をすり抜け、もんどりうって
通路の奥の階段を転げ落ちてゆく。

「だ、大丈夫かーっ?」
下の階に降りて、二人に問うバルムンテ。
だが地下は真っ暗で何も見えなかった。

「ちっ、電源はどこだ?」
しばらく暗闇の中を進む。
その次の瞬間……

「う、うおお!?」
突如、バルムンテが絶叫する。
何かに突き飛ばされて落下する。
ヤバイと思い、何かを握りしめる。
そして何かが光り輝くと眼下に現れたものは……。

42 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/10/11(金) 01:19:40.65 0
>「簡単だよ、メリットがねえ。盗んだ後ならば、とっくにオサラバしても良いはずだ。
 わざわざ呪護やトラップなんて手の込んだもの仕込んで嫌がらせするほど、あいつ等も暇じゃねえはず」

「その説があったかー! てっきり単にド派手な事が大好きな愉快犯かと……」

確かにスタンプが言っている方が可能性は高いだろう。
もしも単なる愉快犯目的なら余程の酔狂である。

>「堅牢の呪護が解けた時点で、相手も俺たちに気づいてるだろうな。こっからはスピード勝負だ」
>「け、けど、このトラップはどうすんだ!俺たち総出で解除するにも、5分はかかるぞ!」
>「じゃ、お前たちはそうしてろ。
 バルムンテ、お前もこの先はくるな。グラン、バルムンテを見張ってろ。ここで怪我でもされたら適わん」

「もう思いっきり事件の当事者になってんのに来るなって言ってもなあ……
まあスタンプに考えがあるらしいからここは見といてやってくれよ、ちょっと聞いてる!?」

スタンプやオレの言葉など耳に入っていないかのごとくずんずん邁進するバルムンテ。
後ろからしがみついて止めようとするも、そのままずるずる引きずられる。
体の大きさからして段違い、純粋な力ではかなうはずもない。
重力操作でもかけたろうか、と思ったその時。

>「あああああーーーーッ!!!」

3本目の刃がよそ見をしたスタンプを切り裂き……はしなかったがこのままでは4本目の刃に切り裂かれるのは時間の問題!

>「仕方ねぇ、行けグラン!」

次の瞬間、バルムンテの剛腕から繰り出される剛速球。球はオレだ!
一つ目と二つ目の刃を良いルートでクリアーし、スタンプの元へ到着。
瞬時にスタンプを軽量化して抱え、ほぼ水平に跳躍。4つ目の刃をすり抜ける。
以上一連の展開が一秒も無い刹那の間に繰り広げられ……
そして勢い余って階段らしきものを転げ落ちる。

「おおおおおおおおおおおお!?」

>「だ、大丈夫かーっ?」

「うん、なんとか……」

バルムンテの声が聞こえてきたので答える。辺りは真っ暗だ。
そのまま暗闇の中を進む。と、バルムンテの叫び声。

>「う、うおお!?」

43 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/10/12(土) 23:29:48.51 0
バルムンテの声が響いた次の瞬間。
何者かに突き飛ばされ、その先には何故か床がなく落下する……ところだったがとっさに床の縁を掴む。
横を見るとバルムンテも同じような状態になっているようで。
穴の底を見てみると、蓋の開いた金庫らしきものが見える。
この状況から推測するに、怪盗ファントムはすでに黄金のハクトウワシを手に入れ
逃走の足止めをするために穴に突き落としたという事だろうか。
このままいけば次に突き落とされそうなスタンプに注意を促す。

「スタンプ気を付けろ! 奴が近くにいる!」

44 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/10/15(火) 21:20:15.82 0
神経をズタズタに引き裂かれたような痛みが、全身にまわる。
幻影魔法の特徴は、視覚的な幻を脳に刷り込み、あたかも本物に触れたかのような錯覚を与えることだ。
トラップも例に漏れず、真っ二つに切断されたかのような感覚を与えた。
おかげで、指一本動かすこともままならない。

「(あ、これ、死んだかな)」

呑気にも、激痛でイカれてしまいそうな脳味噌で、スタンプはそう考えた。
以前も何度か死にかけた経験はあったが、こんな間抜けな死に際もなかろう。
なんとか痛みに抗って、這って逃げ出すこの瞬間も、空を切り裂き、真っ直ぐ刃が落ちてくる気配を感じる。
いよいよおしまいか、と思われた、その時。

視界が、吹っ飛んだ。
何かに抱きかかえられるまま、ハリケーンの風に煽られたように、吹き飛んだ。
そしてそのまま、廊下の先にある階段へと落下した。

>「おおおおおおおおおおおお!?」
「あっだっ、いでっ!?」

階段を転げ落ち、スタンプは背中から全身を強かに打ちつけた。
まやかしの痛みは抜け落ちたものの、今度は現実で食らった鈍痛がうったえてくる。

>「だ、大丈夫かーっ?」
>「うん、なんとか……」
「……俺は、大丈夫じゃねえよ……降りろ、グラン……ってえ!」

虫の息とはこのことか。スタンプが下敷きとなったため、グランは事なきを得た。
意識がはっきりしてくると、スタンプはがばりと起き上がる。

「お前、何してんだ!バルムンテを見てろって言ったろ!」

そう、本来ならばトラップの向こう側にいるはずのグランがここにいる。
しかも、危険を冒して、自分を助けたのだ。
状況を理解したスタンプは、腹の奥底から怒りが沸き上がるのを感じた。

「この、バカ!考えなしのアホンダラ!お前ごと真っ二つになってたらどうする気だ!」

先ほど、自分こそ無理強いしてトラップを切り抜けようとしたことは棚に上げ、ぎゃんぎゃんと喚き散らす。
一方で、トラップよりあちら側では、解除に成功したゲオルグ達とバルムンテがこちらに向かってくる。

「グラン、俺は言ったはずだ。バルムンテを止めろって。何故そうしない?
 お前なら重力を扱うなりで、あいつを抑え付けるくらい簡単だったはずだ」

合流したゲオルグ達が、何事かと様子を見ている。勿論、傍にはバルムンテもいる。

「お前、『もう殆ど当事者だし、事件に関わっちゃったから〜』とか、フ抜けた考えしてたんじゃないだろうな」

スタンプの三白眼が釣り上がる。

「この際だから言っておく。『邪魔』だ。御用じゃないんだよ。忘れるな、これはギルドの仕事だ。
 どれだけ当事者ヅラしてたって、一般人(バルムンテ)にゃ関係のない話なんだよ。
 いくら駄々こねられたって、ギルドの人間としちゃ、巻き込むわけにはいかねえな。分かったら帰れ、帰れ!」

しっしっと蝿を追い払うが如し。にべもない言葉で、バルムンテを帰らせようとする。
例え反論されようと、意地でもこれ以上介入させるつもりはなかった。
が、意外にも、異議を唱える男がいた。ゲオルグだ。

45 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/10/15(火) 21:20:52.52 0
「でもよお、アンタを助けようとしたのはバルムンテも一緒だぜ」
「だから何だ。感謝すべきだろうがな、それとこれとは話が……」
「それに、呪護のかけられた扉を開けたのも、バルムンテだよな。お前は?何も出来なかったじゃん」

この反論には、うぐ、と言葉に詰まる。
確かに、スタンプ自身は何もしていない。
扉のトラップを開けたのも、スタンプの救助に一役買ったのも、バルムンテだ。

「お前よりよっぽど、バルムンテの方が頼りになるぜ?俺は気に入ったよ、こいつのこと」
「」

最早、ぐうの音もでない。
アジトの家主すら、彼の肩を持つ以上、こちらが何か言ったところでつまみ出されるのだろう。
何だか仕事を横から掠め取られたようで、別の怒りと悔しさがこみあげてきた。

「……じゃあもう、好きにしろ!何かあったって俺は知るもんか!」
「役立たずだからってヒネてんなよ、オッサン」

暗闇の中、ゲオルグが作り出した小さな火の玉の明かりだけを頼りに、先に進む。
部下達は万が一のために、各所に散らばって見張りをしている。
奥に進むは、グラン、バルムンテ、ゲオルグ、そしてスタンプの4人。

「良いか、こっから先は自己責任だからな。俺は手を貸さねえし、貸されるのもごめんだぞ!」
「あのさあー、そう捻くれねえで素直に協力してくれって言えばいいじゃねーか。つーか煩い」
「い・や・だ・ね!俺にもメンツってもんがあるんだよ!」
「(俺も大概だけど、ガキかよ、このオッサン……)」

小姑のように喚くスタンプに、さしものゲオルグもゲンナリせざるをえない。
スタンプからしてみれば、怪盗だと疑われたり、一般人を巻き込んだり、あまつさえ助けられたりと、気に食わないことだらけなのだ。
酒や煙草を我慢していることも相まって、ストレスが溜まっているのである。

>「う、うおお!?」

その時、突如、バルムンテが悲鳴を上げる。
何事かと驚いて足を止めると、今度はグランが姿を消した。

「お、おい!?大丈夫か!」

急いで駆け寄ると、床がない。ぽっかりと穴が開いて、暗闇が見える。
否、よく見ると、暗闇の中心に、開け放たれた金庫がある。

「まさか、もう怪盗が……?」
>「スタンプ気を付けろ! 奴が近くにいる!」
「(奴?何のことだ?)分かったから落ち着け、今引き上げてやる……」

床のへりに四つん這いになり、まずはバルムンテに手を差し出そうとする。
さっきは自己責任だと騒いでおきながら、いざハプニングが起きると民間人を優先する。
最早、癖のようなものだ。だが、それより早く、別の誰かの悲鳴があがった。

「うわああっ!!」
「ゲオルグ!?」

まるで突き飛ばされたかのように、ゲオルグが真っ逆さまに落ちていく。
そちらに手を伸ばそうとするが、圧倒的に足りない。
だがゲオルグとて、ただ落ちるだけの馬鹿ではない。咄嗟に掌を下方に向け、小規模な爆発を起こす。
その爆風で体を浮かし、激突だけは免れた。

46 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/10/15(火) 21:21:31.36 0
「大丈夫かー!?」
「こんくらいの落下、どうってことねえよ。それより黄金像が!」

ゲオルグは血相を変えて、金庫に駆け寄る。
存外元気そうなので、スタンプは安心して二人を引き上げようとする。

「あった!像はまだ盗られてねえみたいだ!」

ハクトウワシ像は、金庫の中で鈍く輝いている。
その事に安心したゲオルグは、胸を撫で下ろしている。だがスタンプは、何か引っかかるものを感じていた。
今までのトラップが、怪盗ファントムが仕掛けたものだと仮定する。
ならば何故、黄金像は目の前にあるのか。こんなに無防備に、鍵まで開いているのに。
金庫が開いたまま、放置されている。ならば……それ自体が罠なのではないか。

「ゲオルグ!そいつに触るな!」
「へ?」

その時、予期していた不安が現実となった。
金庫の形が、ぐにゃりと歪み、突如として肥大し始める。
硬質な外見は、分厚く毒々しい色合いの皮膚となり、その形は不定形に変わる。
金庫の扉は、歯のない巨大な口となって、黄金像をばっくり飲み込んだ。

「『ミミック』だ!ゲオルグ、逃げろ!」

ありったけの声で叫ぶが、ゲオルグは目の前のミミックにすっかり腰を抜かしている。

「だ、駄目だ……逃げらんねえよ……俺、ブヨブヨとか無理ぃいーーーーーーー!」
「女子か、テメーはァアア!」

どうやら、ゲオルグは恐ろしさのあまり動けないらしい。
言うが早いが、スタンプは飛び降りた。着地地点は、ミミックの頭部。
まさか戦闘になるとは思わなかったが、コートを着たまま正解だったようだ。
コートからデザートイーグルを引っ張り出し、銃口をミミックの皮膚に突きつける。

「これでも……食らえ!」

ゼロ距離射撃。容赦なく、ミミックを撃ちぬく。
しかしミミックは堪えた様子がない。急所を外したようだ。

「クソッ……グラン!重力でゲオルグ達を逃がせ、お前なら出来るだろ!?」

ミミックの体から、ニュルリと触手が生え、ゲオルグに狙いを定める。
スタンプはすかさず、触手を撃ちぬいた。

「早くしろ!コイツは相当腹ペコと見た。このままじゃ、全員食われるぞ!」

問題は、それだけではない。
おそらく像か、その周辺にも、ゲオルグが仕掛けたトラップがあるのだろう。
それを解くことが出来なかった怪盗は、ミミックに像を食わせることで、ゲオルグに何かアクションをさせようとしている。
ならば、近くに怪盗もいるはずだ。

▼MONSTER DATA▼
ミミック/擬態生物/危険度・中
洞窟やダンジョンに生息する、不定形生物。
宝箱や宝石、美しいものなどに化け、近寄ってきた獲物に襲い掛かる。
スライム系とは違い脳や心臓を持つが、その位置は個体によってさまざま。

【トラップ・ミミック発動】

47 :バルムンテ:2013/10/20(日) 01:06:41.22 0
「ぐぷぷぷ…」
バルムンテは下唇をかみ笑いをこらえていた。
何故ならグランがスタンプに怒られているからだ。

「まあまあいいってことよ」
そう言ったあと落とし穴に落下。
自己責任とさんざん言っていたスタンプが
助けようと手を伸ばしてくる。
が、ゲオルグが先に落ちて、後を追うスタンプ。
落とし穴の底ではミミックが暴れてゲオルグを襲う。

「なんじゃありゃあっ!」
むちゃくちゃ気持ち悪いものにスタンプは飛び降りて発砲。
グランにゲオルグの救助を要請。
それを見ていたバルムンテは壁と壁を左右に跳躍しながら
降りて、そのままミミックの横腹に蹴りを叩き込む。

「さっき見ていた様子だと、ミミックは黄金の像を飲み込んだように見えたけどよぉ。
いったいファントムの狙いはなんなんだよ〜っ?」
それはわからないが、まるで悪夢でも見ているかのようだった。

48 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/10/20(日) 23:20:11.49 0
>「お前、何してんだ!バルムンテを見てろって言ったろ!」
>「この、バカ!考えなしのアホンダラ!お前ごと真っ二つになってたらどうする気だ!」
>「グラン、俺は言ったはずだ。バルムンテを止めろって。何故そうしない?
 お前なら重力を扱うなりで、あいつを抑え付けるくらい簡単だったはずだ」
>「お前、『もう殆ど当事者だし、事件に関わっちゃったから〜』とか、フ抜けた考えしてたんじゃないだろうな」

このおっさんはオレ達が言いつけどおりにしていたら自分が死んでいた事を果たして理解しているのだろうか……。
と思われるだろうが、しばらくスタンプと組んでいるうちになんとなく分かった、理解しているから余計こうなのだ。
最初こそ言い返していたが、そうすればますますヒートアップするだけという事をいい加減習得済みである。
もはや病気の発作みたいなもんとしかいいようがない。
おそらく、多くは語ろうとしない過去に何か原因があると踏んでいるのだが……

>「ぐぷぷぷ…」

バルムンテが他人事と思って笑っているが、案の定矛先はそちらにも向いた。

>「この際だから言っておく。『邪魔』だ。御用じゃないんだよ。忘れるな、これはギルドの仕事だ。
 どれだけ当事者ヅラしてたって、一般人(バルムンテ)にゃ関係のない話なんだよ。
 いくら駄々こねられたって、ギルドの人間としちゃ、巻き込むわけにはいかねえな。分かったら帰れ、帰れ!」

「巻き込むわけにはいかないのは分かるけどさ……散々助けてもらってそんな言い方はねーんじゃないの?
バルムンテ、この通り梃子でも動かないから帰ってくれると嬉しい……」

と、やんわりとバルムンテを帰らせようとしたところ、アジトの家主その人がバルムンテに加勢。
流石のスタンプもこれには黙るのであった。

>「お前よりよっぽど、バルムンテの方が頼りになるぜ?俺は気に入ったよ、こいつのこと」

この言葉に益々拗ねるスタンプ。
ゲオルグ相手にやいのやいの騒いでいるのを聞きながら先に進む。

λ   λ   λ   λ   λ   λ   λ   λ   λ   λ

49 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/10/21(月) 00:09:41.73 0
そして現在、オレ達は何者かに突き落とされ落とし穴にぶら下がっているのである。
次はスタンプだと踏んでいたのだが……

>「うわああっ!!」
>「ゲオルグ!?」

ゲオルグが真っ逆さまに落ちていく。
重力軽減で衝撃を和らげようかと思ったが、その前にゲオルグが下方に向かって爆発を起こした。

>「大丈夫かー!?」
>「こんくらいの落下、どうってことねえよ。それより黄金像が!」

当然、黄金像がの次には「無い!」という言葉が続くものと思われたが……

>「あった!像はまだ盗られてねえみたいだ!」

あったのか。それは良かった。……でも何かおかしくね?

>「『ミミック』だ!ゲオルグ、逃げろ!」
>「だ、駄目だ……逃げらんねえよ……俺、ブヨブヨとか無理ぃいーーーーーーー!」
>「女子か、テメーはァアア!」

嗚呼、色んな意味で大惨事。重力軽減しふわりと着地する。

>「これでも……食らえ!」

スタンプがゼロ距離で銃弾を撃ち込むが、あまり効果はないようだ。
こいつを倒すには心臓や脳といった急所に攻撃をあてる必要がある。
よって一点集中型の銃の攻撃は急所にあたる可能性が低く、効きにくいのだ。

>「クソッ……グラン!重力でゲオルグ達を逃がせ、お前なら出来るだろ!?」
>「早くしろ!コイツは相当腹ペコと見た。このままじゃ、全員食われるぞ!」

「よしきた、そーおれ!」

危うく食われかけたゲオルグをすんでのところでスタンプが助ける。
戦力外状態のゲオルグに重力軽減をかけてバレーボールのレシーブのように上に弾き飛ばした。
さて、スタンプはゲオルグ”達”を逃がせと言った。
お次はバルムンテ、と思ったところ、バルムンテはすでにミミックに蹴りを叩き込むところだった。
スタンプはオレならバルムンテをあしらうのは簡単と思っているようだが、バルムンテの怪力は只者ではない。
ここで退け退かぬの小競り合いをしては余計ミミックに隙を与えるだけである。それよりも早く決着が付けた方がいい。

>「さっき見ていた様子だと、ミミックは黄金の像を飲み込んだように見えたけどよぉ。
いったいファントムの狙いはなんなんだよ〜っ?」

「黄金像自体に何か魔法的な仕掛けがしてあってそのままでは触れなかったとしたら……
それをミミックもろとも爆発魔法で吹っ飛ばさせるのが狙いかもしれない!
スタンプ、銃で気を引いておいてくれ!」

普通に駆け寄るとその間に相手に身構えられるので、その間を与えぬよう一っ跳びに接敵。

「――ボクシングダンス! あだだだだだだだっ!」

技名の通り、やっている事は超高速でパンチを連打しているだけの話である。平たく言えば百○拳。
一撃に全てを叩き込むいつもと違い一発一発の打撃力はそれほどでもないが、攻撃範囲を広範囲に分散させる事が出来る。
相手は急所が限られている反面装甲は固くない。効く可能性はあると十分に判断した。
とはいえあまり長時間接敵しているのは危険。10秒と経たぬうちに跳び退り、様子を見る。

「どうだ……!?」

50 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/10/27(日) 22:54:58.32 0
>「よしきた、そーおれ!」
グランは軽快な調子で、ゲオルグを重力で上方へ弾き飛ばす。
あの巨体がゴムボールのように弾んでしまうのだから、魔法ってものは恐ろしいものだ。
たまに彼女の魔法を見ていると、いずれ自分がバレーボールの玉代わりにされる日も近いのでは、と戦々恐々する。
仕事は評価できるのだが、同居人としては複雑な心境である。

>「さっき見ていた様子だと、ミミックは黄金の像を飲み込んだように見えたけどよぉ。
 いったいファントムの狙いはなんなんだよ〜っ?」
>「黄金像自体に何か魔法的な仕掛けがしてあってそのままでは触れなかったとしたら……
>それをミミックもろとも爆発魔法で吹っ飛ばさせるのが狙いかもしれない!
「ハッ、だとすりゃ嬉しい誤算だな!」

グランの言う通りならば、怪盗ファントムはゲオルグの好戦的な性格を見越していたことになる。
しかし、彼の弱点までは把握しきれていなかったようだ。
だが、それだけだろうか?ただ吹き飛ばすだけで解除されるような魔法なら、こんな乱暴な手を使ったりはしないだろう。
ミミックは、バルムンテから強烈な蹴りを食らったダメージからか、ぶよぶよと震え、触手を一斉に差し向ける。
すかさず発砲し、触手を弾き飛ばすが、捌ききれない。幾つかはバルムンテを締め上げようと迫る。
蹴りを浴びた部分は、泥のような体色から、よりどす黒く変色し、膨らんでいく。損傷すると、変色して膨張するらしい。

>スタンプ、銃で気を引いておいてくれ!」

「オーライ、マシな作戦なんだろうな!?こうなりゃバルムンテ、お前も手伝え!」

ミミックから飛び降り、ぎょろつく目玉と目が合う。
胴体部分から伸びる触手に向け、発砲すると、触手の幾つかが一斉にスタンプへ向かう。

>「――ボクシングダンス! あだだだだだだだっ!」

妨害がいくらか減ったところで、グランがミミックへ肉迫し、先ほどバルムンテが蹴りをいれた場所に高速で拳を叩き込む。
拳が接触した部分が、紙にインクが染み込んでいくように、みるみるどす黒くなっていく。
そして、パンパンにヘリウムを注入したかのように、膨らんでいく。

>「どうだ……!?」
「! 下がれ、グラン!」

スタンプは咄嗟に、コートを放った。ほぼ同時に、勢いよく、膨張していたミミックの胴体が弾け、液体を放出する。
液体をモロに被ったコートは、硫黄のような臭いを発しつつ溶けた。
ミミックの弾けた部分は、粘土をこね合わせたかのように元に戻っていく。

「消化液だな……ああやってダメージを食らうと、消化液をばら撒くんだろうよ」

体液を放出したからか、ミミックのサイズが幾らか小さくなっている。
皮膚も薄くなり、血管や消化器官、そして、鈍く輝く黄金像が、うっすらと見えてくる。

「こりゃ、やりやすくなったな。このまま奴こさんに液を吐かせ続けりゃ、急所が見えてくるかもしんねえ。
バルムンテ、ミミックの背中側に回って特大のキツイのを叩き込んでやれ!
グランはサポートだ、バルムンテに消化液が被らねえよう上手く弾け!
例によって俺が疑似餌だ、奴をひきつける!」

【作戦開始!】

51 :バルムンテ:2013/10/30(水) 23:23:11.37 0
なんと、ミミックの消化液によりスタンプのコートが溶けてしまった。

「なっ!」
これはとんでもない消化力だ。
このままではミミックの体内の黄金像までも溶けてしまうかも知れない。

「ちっ、時間がねーぞ。もう一回蹴りあげて
お宝を吐き出させてやるしかねぇかもな!」

縮むミミックを見ながら叫ぶバルムンテ。
するとスタンプが…

>「こりゃ、やりやすくなったな。このまま奴こさんに液を吐かせ続けりゃ、急所が見えてくるかもしんねえ。
バルムンテ、ミミックの背中側に回って特大のキツイのを叩き込んでやれ! グランはサポートだ、バルムンテに消化液が被らねえよう上手く弾け!
例によって俺が疑似餌だ、奴をひきつける!」

「けっ、またかよおっさん。
どうにもこうにも人間ってヤツは自己犠牲心が強ぇ生き物だぜ。
俺ら巨人族からしたら考えられねぇ思考だわ。
そもそも物事ってものはよ。自分の利益ために成功させるもんじゃねぇのかよ?」

バルムンテは盛大な溜め息を吐く。
ギルドのルールのために毎回命を張る中年の心を理解出来ない自分に、苛立っているかのようにも見えた。

「まあいいわおっさん。今回も遠慮なく利用させてもらうぜ。
……いくぜグラン!」

ミミックは囮となったスタンプに襲いかかる。
触手を鞭のようにしならせながら次々とスタンプへと繰り出してゆく。
それを一言で表すなら猛攻。
ミミックのすべての攻撃はスタンプに集中している。
スタンプの陽動作戦は見事に成功したようだ。
今、この好機の瞬間に成すべきことは最早一つしかない。

「てめーこらっファントム!黄金の像はなぁ、
運動会の大切な商品なんだよぉ!おめーだってよぉ、
まともに盗む気があんなら、もっと丁重に扱いやがれぇ!」

ミミックの背後に難なく回り込めたバルムンテは、その体を目掛け強く背中を蹴りあげる。
するとミミックは、天井に大口をむけてひっくり返り、消化液を頭上に噴出。
それを見たバルムンテは急いで踵を返し
巨体を動かすために右足を踏み込んだ。だが…

「うおお、やべぇ!」
ポタリと一滴、消化液が背中に落ちた。
バルムンテに俊敏な動きは期待出来ない。
広範囲に噴出された消化液の雨が、彼に降り注ぐのも時間の問題だろう。

52 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/10/31(木) 00:07:51.65 0
>「消化液だな……ああやってダメージを食らうと、消化液をばら撒くんだろうよ」

とっさにスタンプがミミックに被せたコートは原型を留めなくなってしまった。
黄金像は金なので解けずに済んでいるのだろうが……生身の生物はそうはいかない。
あれに食われたらひとたまりもないだろう。
しかし、消化液を吐き出した事でミミックのサイズが小さくなっている。

>「こりゃ、やりやすくなったな。このまま奴こさんに液を吐かせ続けりゃ、急所が見えてくるかもしんねえ。
バルムンテ、ミミックの背中側に回って特大のキツイのを叩き込んでやれ! グランはサポートだ、バルムンテに消化液が被らねえよう上手く弾け!
例によって俺が疑似餌だ、奴をひきつける!」

>「けっ、またかよおっさん。
どうにもこうにも人間ってヤツは自己犠牲心が強ぇ生き物だぜ。
俺ら巨人族からしたら考えられねぇ思考だわ。
そもそも物事ってものはよ。自分の利益ために成功させるもんじゃねぇのかよ?」

「安心しろよ、スタンプは悲劇の自己犠牲ヒーローになんてなったりしない。
だって似合わないだろ!?」

バルムンテの疑問に軽口で応える。

>「まあいいわおっさん。今回も遠慮なく利用させてもらうぜ。
……いくぜグラン!」

「応ッ!」

スタンプが陽動している隙にバルムンテがミミックの背後に回り込み、特大の蹴りを叩き込んだ。
まだ先程のように膨張する様子は無い……と思いきや
ミミックは突然上を向き、噴水のように消化液を上に向かって噴出したのだった。
バルムンテもこれは予想外だったようで、反応が遅れたようだ。

>「うおお、やべぇ!」

「――重力操作!」

消化液にかかる重力を限りなく0に近づける。とはいえ重力操作は長時間は持たない。
すかさずジャンプし、球体に近い形のいくつかの塊になりつつゆっくり降りてくる消化液を蹴りの風圧で壁に弾き飛ばす。
その際多少消化液が付着するが、オレのガントレットとグリーヴはミスリル銀製なので、強酸性の液にも耐えられるのだ。
ミミックを見れば、先程より一段と小さくなり、黄金像や急所と思しき箇所が顕わになっている。そこで……

「もう一回重力操作!」

対象はミミック……ではなくその中の黄金像。
黄金は元が重いので、重力を増加させて重しにするにはもってこいだ。
ほんの短い時間ではあるが、ミミックにほぼ移動不可能という隙が作られる。

「今だスタンプ、撃て!」

53 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/02(土) 23:48:05.95 0
>「けっ、またかよおっさん。
>どうにもこうにも人間ってヤツは自己犠牲心が強ぇ生き物だぜ。
>俺ら巨人族からしたら考えられねぇ思考だわ。
>そもそも物事ってものはよ。自分の利益ために成功させるもんじゃねぇのかよ?」

スタンプはバルムンテへと振り返り、眉を吊り上げる。
いつかどこかで、似たような言葉を聞いたように思えた。
中々思い出せず頬を掻く。

>「安心しろよ、スタンプは悲劇の自己犠牲ヒーローになんてなったりしない。
  だって似合わないだろ!?」
「悪かったな、似合わなくて」

弾はポケットに入れていた予備を含め、残り9発。
ここからは慎重にいかなくてはならない。
ミミックが鞭のように触手をしならせる。反射的にそれを撃ち、後ずさる。

「ま、自己犠牲と俺が縁遠いのは確かだ。損得勘定抜きにして、誰かを助けたいと思ったことなんざ、一度も無いからな」

何の気なしに、グランの方を一瞥した。
はたと、自分は何を暢気に語っているのだと我に返り、小さく舌を鳴らす。

「……年をとるとどうもお喋りになっていけねえな。続きは後だ!」
>「まあいいわおっさん。今回も遠慮なく利用させてもらうぜ。
……いくぜグラン!」
>「応ッ!」

その言葉と同時に、ミミックの露出した目玉に向け、一撃を放つ。
合図のように、バルムンテとグランが飛び出す。
ギョロリと残った一つの目が、どちらを追うべきか算段している。

「こっちだ、デブ!」

敢えて目玉のスレスレを狙い、こちらに集中させる。
ミミックに深く思考する能力はないのか、すぐさまスタンプに意識を向けてきた。
相当怒りに駆られているらしく、他の二人の存在を忘れ、肥えた触手が迫る。
擬態能力の影響か、触手は蛸だったり烏賊だったり名伏しがたい何かだったり、もう無茶苦茶だ。

>「てめーこらっファントム!黄金の像はなぁ、
運動会の大切な商品なんだよぉ!おめーだってよぉ、
まともに盗む気があんなら、もっと丁重に扱いやがれぇ!」

どこぞで隠れているかもしれない怪盗に向かって、バルムンテが吠える。
そして丸太の如く太い足で、ミミックの軟らかい背中を容赦なく蹴り上げた。
蹴られた箇所はみるみる、黒くぶっくりと膨れていく。
その時、ミミックが突如、天井へ大口を開けた。
何事か察する間もなく、消化液が噴水のように噴射され、バルムンテへと降りかかる。

「逃げ――!」
>「――重力操作!」

グランが動いた。
限定範囲で消化液のみを無重力化させ、跳躍し、球体となった消化液を蹴りの風圧で消滅させていく。
それを安堵の溜息をつき、見届け、バルムンテへと駆け寄る。

54 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/02(土) 23:48:54.15 0
「おい、背中見せてみろ!」

幸いなことに、消化液は服に穴を開けただけのようだ。
心配はなさそうだと判断すると、バルムンテから離れ、消化液の処理に追われるグランを見やった。
グランがもう一度、今度は黄金像に重力をかける。

>「今だスタンプ、撃て!」

大量の体液を消費したおかげか、急所が丸見えだ。
最後の抵抗なのか、ミミックの触手が鋭い槍に変化し、まっすぐバルムンテの喉を狙う。
同時に、銃声。あと数ミリで巨人の喉を捉える直前、弾丸がミミックの皮膚を突き破り、脳へとめり込んでいた。

「まったく、今回ばかりは素直に感謝しないとな」
フン、と鼻を鳴らす。その横顔は、どこか嬉しそうだ。
脳が機能しなくなったミミックの体は、グズグズと沸騰するように溶けていく。

「今さっきのな、損得勘定の云々。あれは嘘だ」

ぽつりとスタンプは、そう漏らした。

「人間ってのは弱いからかな、自分より弱いもんを見ると、つい助けたくなる性分らしい。
 俺も大昔、一度だけ、損得だとか利益だとか、そんなもん一切抜きにして、助けたい奴がいた」

目を細める。

「呆れるほど真っ直ぐで、単純で、お人良しで、困った奴を放っておけないバカでさ。
 その癖、自分のことなんざ全く省みない。弱いし、後先考えないし、すぐ騙される。
 けどな、そいつの周りには何時も、人がいた。そいつの周りは誰もが、幸せそうだった」

ミミックの体が蒸発していく。カラン、と乾いた音を立て、黄金のハクトウワシ像が転がる。
巨大な怪物がいた場所には、像と黒い染み以外、何も残っていなかった。

「昔の俺は、そいつみたいになりたかった。ただ誰かを助けられる人になりたかった。
 もしかしたら、目指していたものはもっと違うものだったかもしれない。
 ……どちらにしろ、所詮は叶わぬ夢だったがな」

拾い上げようとしてみると、ヂリッと火花が散り、触れるものを焦がそうとする。
どうやら、ゲオルグの拘束呪文の発展版らしい。腐っても魔術師、上級レベルの魔法だ。

「理解できないか?ま、ギルドのルールを守り通すのは、あくまでも只の『こだわり』さ。
 弱い奴は弱いなりに、譲れないもんがあるんだよ。どんなに馬鹿げていてもな。
 物事を利益だとか損得だけで考えていたら、社会ってのは機能できないもんなのさ。案外」

おーい!と頭上から声がかかる。
どうやらゲオルグはようやく動けるようになったらしく、舎弟たちと共に降りてくる。
真っ先に降りてきたゲオルグは、気まずそうに顔を真っ赤にしている。

「……恥ずかしいぜ、俺ァよ。大事な像が奪われそうだってのに、半ベソで何も出来ねえなんて。
 盗まれるかもしれねえってのに、他の奴らに任せっきりにしてよお……俺ァ……馬鹿野郎だ……」

すっかり先刻の醜態を思い出して、凹んでいるらしい。
スタンプは少しだけ眉を顰め、ケッとぼやいた。

「ガタガタ弱音吐いてねえで、さっさとコレが本物か確かめろ。熱すぎて触れやしねえ。
 ミミックの胃液ですら溶けねえ呪文って、タチ悪すぎだろ。全く、メチャクチャな魔法だな」
「う、うるせえな!像は素手で触ったら最後、ソイツを所有者と認めるっつー魔法が掛けてあるんだ。
 関係ない奴が触ったら、もう渡せなくなっちまうんだよ。こんくらい警戒するのが普通だっつーの!」

ぎゃんぎゃん喚きつつも、ゲオルグは指をクイッと曲げる。
黄金像が宙に浮かぶと、ゲオルグはゴーグルを掛け、地球儀のようにクルクル回して点検している。

55 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/02(土) 23:50:13.99 0
「あちゃぱー、ミミックまでヤっちゃったかー。それにしたって、坊ちゃんがヌルヌル嫌いとは……チョイスを誤ったな」
「予想外の倒し方だね。どうする?」

屋根の上に、三人の男女がいる。
水晶に映る巨人や少女を眺めながら、青年と少女が額をつけあって会話する。
夜風が吹きすさび、少女の金髪が弄ばれる。

「……プランを変えるか?」
「ノン!ナンセンスだ。せっかく彼らを巻き込んだ意味がなくなる」

巨体の男が口を挟むが、青年は指をチッチッと横に振る。
青年は緑色の髪を撫で付ける。掌の下から、髪に沈殿していた緑色が青に変化し、煙となって霧散する。
少女はクスクス笑い、水晶を覗き込んで、人間たちの行動を監視している。

「そもそもさー、怪盗ファントムなんてふざけずに、別の方法で回収したほうがよくなーい?」
「否。こんなふざけた方法だからこそ、良い。誰も本当の目的に気づかず、只のイカレポンチの乱痴気騒ぎで終わる。ハッピーエンドだ」

青年は唇の端を歪める。巨体の男は馬鹿馬鹿しい、とばかりに鼻を鳴らした。
ツインテールを指でいじりながら、少女も理解しがたいと言いたげな表情だ。

「だからって過去の自分をネタにしなくてもいいだろうに。Phantom/thief/Phantomって……ネーミングセンス最悪」
「う、ううう煩いな!若気の至りだよ、昔の僕は英語分かんなかったの、ノリでつけたの!仕方ないじゃん!」
「いい年したオッサンが「の!」とかキンモー」

その後の会話については省略する。
ああでもないこうでもないと言い合う二人を、大男が諌める。

「で、次はどうする、怪盗さんよ。このまま何もせずに、当日を待つか?」
「ンン……それは彼ら、ギルド側の動き次第だ。僕らがやれる事は一つ、『あの像に疑念を抱かせる』ことだ」
「『ギネン』ねー。このアホ面共に何が出来るっての?」

少女は水晶を指差す。そこにはスタンプ、バルムンテ、グランらが映っている。

「彼らには是が非でも、踊ってもらわねば。僕らはその為の舞台を整え、客人たちをもてなすだけだ」
「楽しい舞踏会になればいいけどね。で、指揮棒はいつ振るの?私たちはいつでも準備できてるよ?」
「まだだ。彼らはようやくディナージャケットに袖を通しただけにすぎない。ダンスの相手を見定めてもらわねば」

青年はずれた仮面を直し、意気揚々にメロディを口ずさむ。

「あの像の秘密を、栄誉の棚に収めて終わりにはさせない。暴かせなければ。表の人間たちに」

顎を引くと、少女と大男は青年の後に続く。

「忙しくなるぞ。『オリンピア』、『ウールヴヘジン』。幕によっては君らにも踊ってもらわねばなるまい」

【ミミック撃破。怪盗ファントムサイド、ミミックの退治を確認】

56 :バルムンテ:2013/11/04(月) 23:21:59.60 0
ということで一先ず黄金の像は守られた。

そして大会当日。
選手宣誓も終わり競技は予定通りに行われている。

「おしっ、そろそろ大玉転がしの時間だぞ」
グランの首根っこを掴みスタンプへ押し付けるバルムンテ。
現在ウルズの泉チームはトップ。
このまま上手くいけば黄金の像は自分たちのものだ。

「おらっ、はやくいけって。あっちで集まってんだろ。
あ、それとこれ持ってけ。これで俺がナビしてやっからよ」
そう言ってバルムンテはインカムを二人に投げ渡す。
大玉転がしの素人のスタンプやグランには意味不明かもしれない。

「玉転がしは余興みてぇなもんだから意味なんてわかる必要もねぇんだ。
いきゃわかるよ」

大玉転がしのスタート地点(ワープゲート)には子どもたちがわらわらと集まっており、その小さな目を爛々と光らせている。
そう、彼等は小さくても立派なアスリート。
ぐねぐねとストレッチを繰り返し気合い満々だ。

※大玉転がし特別ルール。
魔法の力で造られた盤状の世界の中央に魔方陣がある。
参加者は盤状世界へワープ後、その中央にある魔方陣の中に、自分たちの転がす大玉を移動させ、
十秒間、魔方陣の中に大玉を維持し続けなくてはならない。
盤状世界に移動後は出口は中央の魔方陣しかない。
一位抜けから順に元の世界へと戻ることができる。

「よーい、スタート〜!」
「わ〜!」

盤状世界の内部は池や橋、砂、沼、無数の障害物があり時間によって傾いたりもするらしい。
そしてグランの前を我先に子どもたちが玉を転がしてゆく。

「おう聞こえるか?とにかく大玉転しながら魔方陣を探せ。
あとは見つけた魔方陣の中に大玉を十秒間入れてワープエネルギーをチャージしろ。
元の世界に帰ってきた者から順位がつく。
一位は十点。ビリはマイナス十点だ。最低でもビリにはなるなよな!」
インカムからバルムンテの声が聞こえる。
その時だった。

「みゃあああおお」
十メートルはあろうかと思われる猫の泥人形がスタンプたちの大玉を弾き飛ばしじゃれ始めた。
グランが大玉を取り返そうとしたら猫パンチを繰り出したりすることだろう。

[巨大な猫の泥人形]
ファントム一味の妨害工作かもしれない猫のゴーレム。
足が沢山生えている。どろどろしていて柔らかい。
本体は呪いの招き猫で、大玉に目がない。

57 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/11/06(水) 20:54:53.22 0
スタンプの放った弾丸がミミックを仕留める。
そしてスタンプは、普段あまり語ろうとしない過去の一端を語り始めたのだった。

>「昔の俺は、そいつみたいになりたかった。ただ誰かを助けられる人になりたかった。
 もしかしたら、目指していたものはもっと違うものだったかもしれない。
 ……どちらにしろ、所詮は叶わぬ夢だったがな」

スタンプの憧れた人は今はもういないのだろうか。
過去形で語られるその人は、少なくともオレが知る人ではない事は確かだ。
どこか遠くに行ってしまったか、あるいは――

λ   λ   λ   λ   λ   λ   λ   λ   λ   λ

時は少しばかり流れ、運動会の日がやってきた。
スタンプはすっかり参加を辞めた気になっていたのだが直前になって
取り消し忘れていたか代わりの人員の補充が効かなかったか何かで、参加者として登録されていたことが発覚。
否が応でも大玉転がしに出場する事となった。ご愁傷様である。

>「玉転がしは余興みてぇなもんだから意味なんてわかる必要もねぇんだ。
いきゃわかるよ」

言われた通り行ってみると、魔法を使った大掛かりな仕掛けが設置されていた。
子ども達がスタート地点にやる気満々で集まっている。

>「おう聞こえるか?とにかく大玉転しながら魔方陣を探せ。
あとは見つけた魔方陣の中に大玉を十秒間入れてワープエネルギーをチャージしろ。
元の世界に帰ってきた者から順位がつく。
一位は十点。ビリはマイナス十点だ。最低でもビリにはなるなよな!」

「障害物っていってもモンスターが襲ってくるわけじゃないんだろ? よーし、行くぞスタンプ!」

普通の子供たちが出場しているのだ、そんなに物騒な物が飛び出すわけがない。
意気揚々と大玉を転がしだす。
すると……

>「みゃあああおお」

「うっそおおおおおおおん!?」

巨代な猫の人形が大玉でじゃれはじめたではないか。無茶苦茶である。
まぁウィッチハイレースではサンダーバードが暴れ回った事もあるし、これがニューヨーククオリティなのだろうか。
ダッシュで大玉を蹴り飛ばしてスタンプにパスする。
一応魔法禁止というルールがあった気がするので、重力パンチを叩き込むわけにもいかない。

「逃げろおおおおおおおおおお!!」

沢山ある足を高速で動かして追いかけてくる巨大猫ゴーレム。こいつは某映画に出てくる猫のバスか!?
暫し走っていると前方に川が見えてきた。ちょっと巨大猫は通れそうにない幅の橋がかかっている。
見るからに水に弱そうな猫ゴーレムを振り切るチャンスかもしれない。

58 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/09(土) 23:24:14.14 0
大運動会祭、当日。
別名フィールドワーク・デイ・フェスティバル。
約1万人のスタッフと、約150万人もの参加者および応援客で大いに賑わっている。

「っはー、毎回思うんですけど、多いですよねえー」

セントラルパークは南北8km、東西1.6kmの広さがある。
要するに冗談じゃないくらいに広い。移動手段に車を使うぐらい広いのだ。
広大すぎるが故、時たま遭難者がでるという噂さえあるくらいだ。
高度に計算された巨大公園は、しばしば映画の撮影や様々なイベントにも使われる。

「そりゃそうだろ。海外からもエントリーする奴がいるくらいだしな」

今回の大運動会にしても、同じく。
セントラルパークの東西南北と中央の5箇所に、ドームが設置されている。
それぞれ年齢、種族、体格のグレード、競技に合わせ、5つのドームで同時進行で行われている。
現在、スタンプたちは中央ドームにて、出番を待っている。

「……ひとつ、良いか?」
「なんでしょう」
「なーんでお前までいるかな、アイリーン」

ジロリと睨みつけた先に、すまし顔なアイリーンがいる。
おおよそスポーツの祭典には相応しくない、ハイエルフ特有の衣装だ。

「応援にきたに決まってるじゃないですか。ほら、差し入れのランチセットです」
「……普通に旨そうだな」
「どういう意味ですかっ!こほん……まあそれはさておき、情報を仕入れにきたんですよ」
>「おしっ、そろそろ大玉転がしの時間だぞ」

やんや言い合っている間に、バルムンテがグランを寄越してくる。

「は?どういうことだ」
「あっそういえば参加者名簿に貴方の名前ありましたよ。大玉転がしで」
「はあああっ!?」
>「おらっ、はやくいけって。あっちで集まってんだろ。
 あ、それとこれ持ってけ。これで俺がナビしてやっからよ」
「おいこらっこの間、参加取り消すって言ったよな!?バルムンテ、おいっバルムンテー!?」

怒りの咆哮空しく、会場に引きずられる。
スタンプの分のスポーツウェアまで用意されてあった。仕方なく着替える。
ワープゲートには子供たちがわんさかと集まり、目を輝かせている。

>「玉転がしは余興みてぇなもんだから意味なんてわかる必要もねぇんだ。
  いきゃわかるよ」
「後で覚えとけよ、この性悪筋肉……!」

恨みがましげな視線でバルムンテを射抜き、やけくそ気味に飛び込んだ。
盤上の小さな異世界は、セントラルパークをそのまま小さくして円形にしたかのようだ。
周りを見渡す限り、子供がメインの競技らしい。大人は子供の付き添いといったところか。

59 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/09(土) 23:25:47.01 0
『ハーーイ、キッズ&ジェントルマンズ!《北欧天地創造》へようこそー!』

やたらテンションの高い女性の声が響き渡る。
どうやらルール説明の時間らしい。

『この競技はぁー、かの北欧神話の天地創造をモデルとされていまァす!
 皆は神様として、ユミルの体をそれぞれ運んで、世界を作らなければなりません!
 でも気をつけて!霜の巨人たちがたっくさん邪魔してくるよ!』

ただの競技でなく、ストーリー仕立てのようだ。
簡単に説明が終わったところで、全員がスタートラインにたつ。

『それではレディー……ゴー!!』

わっと子供たちが飛び出していく。
無邪気なのは構わないが、大人であるスタンプ他数名がやたら目立つ。

>「おう聞こえるか?とにかく大玉転しながら魔方陣を探せ。

先ほど貰ったインカムからバルムンテの声が届く。
どうやら兎にも角にも、中央の魔方陣に早く辿り着くことが一番らしい。

>「障害物っていってもモンスターが襲ってくるわけじゃないんだろ? よーし、行くぞスタンプ!」
「へーへー。元気でいいねえ、お前は」

俄然やる気なグランに対し、いまいちノれない調子のスタンプ。
しかし成程、トラップの数々を見る限り、足腰を鍛えろというジム仲間の言葉は正しかったようだ。

60 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/09(土) 23:26:38.63 0
「ま、これ位、この間のえげつねートラップよりはマシ……」

ズシン、と不吉な地鳴りが響いたのは、その時だった。
不意に大きな影がさし、子供たちの甲高い悲鳴が響き渡る。

>「みゃあああおお」
>「うっそおおおおおおおん!?」

猫のゴーレムだ。10メートルはあろう巨大な盲目の猫が、大玉めがけじゃれてくる。
咄嗟にグランがボールを蹴飛ばし、スタンプがパス。ボールは軽いので、持ち運ぶ分には苦労しない。

『おおーっと、猫ゴーレムの登場です!アース神族を快く思わないヴァン神族による妨害か?!お父さんがんばれー!』
>「逃げろおおおおおおおおおお!!」
「早速これだぜリトルジャンボ!おっ死んだらヴァルハラの親父の前でお前を告発してやるうおおおこっち来んなーー!」

猫ゴーレムはボールを転がすスタンプに狙いを定め、全力疾走。
唯一の救いは、ゴーレムであるが故にスピードが遅いことだ。
前方に川が見え、猫ゴーレムの体格では通れないくらいの橋がかかっている。
これなら振り切れる!ゼエゼエ喘ぎながら、橋を渡りきる。

「なっ……!」
だが、読みが甘かった。
橋を渡れないなら、飛び越えるまで。猫ゴーレムが宙を舞い、スタンプの目の前に着地する。
だが着地した衝撃と自重で、ゴーレムの足がボッキリと折れてしまった。
ゴーレムは自身の足を再生するため、土の体を少し小さくし、足を生やしていく。

「グラン、ギリギリバレない程度に魔法を使え。俺が許可する!」

バルムンテが聞いていようとお構いなしの態度だ。ゲス顔でインカムを叩く。
体育祭なぞ糞食らえ極まるスタンプからすれば、ルール違反も辞さない構えらしい。
まあ聞け、とスタンプは続ける。

「ゴーレムの額か首筋に、emethの文字があるはずだ。
 あいつに飛び乗って、そのeの部分だけを消すんだ!そうすりゃゴーレムは止まる!たぶん!」

61 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/09(土) 23:27:37.77 0
同時刻、観客席にて。
アイリーンは大玉転がしの様子を眺めながら、おずおずとランチセットを差し出した。

「あの、お昼まだでしたよね?もしよかったらコレ……」
「おうい、バリー!どこだ、バリー?」

アイリーンの声を、野太い声が遮った。人ごみをかき分けて、ゲオルグがやって来る。
やがてバルムンテを見つけると、おうい、と手を振った。
両手にチュロスやらドーナッツやらのバケットを抱えて、バルムンテの隣に陣取る。

「いやあ探したぜ!てっきりグレードDの会場(※)にいるとばっかし思ってたからよ!」

(※グレードD:3m未満の参加者。オーガ種、オーク種、巨人種、竜人種などがこれにあたる)
ゲオルグは「食べるか?」とバケットをよこし、会場に目を落とす。

「あ、バリーってのな、バルムンテって名前長いからよ、そっちで呼ばせてもらうぜ」

バルムンテの左隣では、アイリーンが冷ややかな目でゲオルグの食べる様子を見つめた。
唇を尖らせながらランチセットを仕舞い、競技の行く末を見守ることにする。

「あんれ?グランとオッサンも出てんのか。おいこらー!ウィッチハイレースん時の勢いはどうしたーっ!?」

見知った青髪と銀髪を見つけるや、野次を飛ばし始める。
アイリーンはやれやれと首を振り、「インカムで通さないと声は届きませんよ」と諭す。
すると、背後から白髪の初老の老人がしずしずと歩み寄ってくる。
いかにも執事らしい風体だ。

62 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/09(土) 23:30:02.06 0
「坊ちゃま、ここにいらっしゃいましたか」
「おうマシュー、お前もこっちに来て見ろよ!」

マシューはバルムンテとアイリーンを視界に認め、「どうも」とぺこりと頭をさげる。
会場の魔法陣に、徐々に子供たちが集まり始めている。
だがグランとスタンプはまだ辿り着けていない。下手をすればビリになる可能性もある。

「オオッあいつら大丈夫か!?これピンチじゃねーの!?」

ゲオルグははしゃぎ通しで、何故か半ば嬉しそうな声をあげる。
しかし中央でも、また別のトラップが発動していた。
トップで辿り着いた親子が、地球を模した円陣に足を踏み入れた瞬間、再び地鳴り。
土が盛り上がり、魔法陣をぐるりと取り囲んで、塀を作り上げてしまった。
更に堀が出来上がると共に、15mはあるだろう泥で出来た人型の巨人が、姿を現す。

『おおーっとおーー、知恵比べの巨人、ヴァフスルーズニルだーーっ!』

じろり、とヴァフスルーズニルが子供たちを見下ろす。

ヴァフスルーズニルといえば、オーディンとの知恵比べで有名な巨人族だ。
ガグンラーズと名を偽ったオーディンと自身の首をかけて問答し、最後は命を落としたとされている。

『ヴァフスルーズニルの謎解きに答えなければ、魔法陣には辿り着けません!さあ皆、なぞなぞに答えられるかなー!?』

ヴァフスルーズニルは顎鬚を撫でる仕草をすると、胡座をかいたまま問題をふりかける。
子供たちは出された問いかけにうんうん唸っている。
どうにも分からないらしく、こっそり問題を解き合う子供たちもいるが、一人一人出された問いは違うもののようだ。
強行突破しようとしても、すぐさま大玉をむんずと掴み、放り投げてしまう。

「なぞなぞですか。こういうのは私、好きですよ」
「俺だったらあのゴーレム、爆破してんな……でも、謎解きなんてあったか?」

バルムンテを挟んで、和気藹々のアイリーンとゲオルグ。
しかし、運動会で謎解きというのも妙な話だ。大運動会の常連も首を傾げている。
まずはともかく、妙にしつこく付き纏う猫ゴーレムを振り切ることが最優先だろう。

63 :バルムンテ:2013/11/09(土) 23:31:19.65 0
>「グラン、ギリギリバレない程度に魔法を使え。俺が許可する!」

「え、ちょっ…。待てオラっあ!
バレなきゃいいって問題じゃねぇんだよ。魔法なんて邪道だっていってんだろ。
そりゃあスポーツマンシップに対する冒涜だろうがぁ……ぐあっ」

突如、バルムンテの鼓膜を雑音が叩いた。
ゆえに巨人は、慌ててインカムを耳から離す。

「くっ、インカムにイタズラをしてやがるっ!まったく、ガキみてぇなことしやがってぇ」
スタンプのゲス顔を想像し歯噛みするバルムンテ。
そんな喧騒のなか、すっと差し出されるのはランチ。白魚のような指。
その指先から視線を辿れば知性を宿した瞳があった。
魔法局のアイリーンだ。

>「あの、お昼まだでしたよね?もしよかったらコレ……」

「あ?おめぇ誰だっけ」
インカムを片手に呆けるバルムンテ。
その顔をまじまじと見つめながらも、
アイリーンのことを思い出せそうで思い出せないでいる。

はて、どこで…。つーか、こいついつからいた?
記憶を巡らせ、やっと思い出したその瞬間…。

>「おうい、バリー!どこだ、バリー?」

「バリー?」
人混みを縫ってゲオルグが現れる。
彼はやっと見つけたとか、ドーナツを食べるか?
など言いながら慌ただしく席につく。

>「あ、バリーってのな、バルムンテって名前長いからよ、そっちで呼ばせてもらうぜ」

64 :バルムンテ:2013/11/10(日) 00:35:31.33 0
「あん?好きに呼んでくれよ。俺は今それどころじゃねぇんだわ」
バルムンテは会場の様子が気になって仕方ない。
途中、ゲオルグの執事らしい年配の男が現れ会釈してくるが
コクンと頷くような軽い会釈で返すだけ。

>「オオッあいつら大丈夫か!?これピンチじゃねーの!?」

「う、うそだろおいっ。ただの大玉転がしだぞ!」
とは言ったものの、あの猫のゴーレムは少し凶悪すぎるし怪しすぎるようにも思えた。
それゆえに、バルムンテの脳裏に浮かぶのは怪盗ファントムのこと。
やはり何かおかしい。しかしまだ半信半疑だ。

>「なぞなぞですか。こういうのは私、好きですよ」

>「俺だったらあのゴーレム、爆破してんな……で も、謎解きなんてあったか?」

「…いや、謎解きなんてなかったはずだぜ。
もしかしたらあれはファントムの仕業かもしれねぇ。
……おい、聞こえるかグラン。
さっきはああは言ったがよ、やばいようなら魔法は使ってもいいぞ。
そのかわり競技はその時点で棄権しろ。
一生懸命にやっている子どもたちに失礼になるからな……」
と、バルムンテは静かに語ったがその拳は強く握られていた。
おもむろに立ち上がると大会本部に出向き、スタッフに問いかける。

「今年の大玉転がしの障害は誰が企画した?
今、仕掛けを制御してる奴は何処にいる?」
今だ正体不明の敵、ファントムに、バルムンテはいてもたってもいられなくなる。
自分の目的はウルズに黄金の像をもたらすこと。
それは優勝すればいいだけの簡単な話だ。
そしてそれを邪魔するファントムは絶対に許されないのだ。

65 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/11/12(火) 00:23:34.47 0
>「グラン、ギリギリバレない程度に魔法を使え。俺が許可する!」

>「え、ちょっ…。待てオラっあ!
バレなきゃいいって問題じゃねぇんだよ。魔法なんて邪道だっていってんだろ。
そりゃあスポーツマンシップに対する冒涜だろうがぁ……ぐあっ」

インカム越しに喧嘩を始める二人。
バレない程度にっていってもどうすりゃいいんだ。いつものごとくド派手に粉砕したらバレてしまいますぜ!
と思ったところ、スタンプに秘策があるようで。

>「ゴーレムの額か首筋に、emethの文字があるはずだ。
 あいつに飛び乗って、そのeの部分だけを消すんだ!そうすりゃゴーレムは止まる!たぶん!」

「なるほど、それなら……!」

規則違反はせずにここを切り抜けられるかもしれない。
一部の魔法使いには意識せずに常時発動しているアドバンテージがある。
オーソドックスなものとしては多くの魔術師が身に付けている魔法耐性――普通の人よりは魔法攻撃に強いってやつだ。
一点特化型の魔法使いなら、扱う属性に応じた能力を持っている場合が多い。
オレの場合、軽やかな身のこなしがそれにあたるわけだ。
これが”魔法”にあたるかは微妙なところだが、魔法使用禁止であって魔法使い参加禁止になっていない以上、これで違反にはならないはずだ。
尤もちょっと身軽程度の騒ぎではない動きを見せる事になるので最終的には主催者の判断にゆだねられることになるのだが……

「とうっ!!」

地面を蹴り、大ジャンプして猫ゴーレムの背に飛び乗り、首の部分まで走る。
そこにはスタンプの言った通り、真理――emethという文字が刻まれていた。
泥人形だけあって靴の底でeの部分をこすると案外あっさりと消え、さっきまでが嘘のように動きが止まった。

「meth――死んだ、か……うおおおおおおおおお!?」

猫ゴーレムの体が音を立てて崩れはじめ、滑落しながらも慌てて飛び降りる。
これにて後はつつがなく……とは問屋が卸さない。
一難去ってまた一難、謎掛け巨人が現れた!

66 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/11/12(火) 00:24:40.72 0
>『ヴァフスルーズニルの謎解きに答えなければ、魔法陣には辿り着けません!さあ皆、なぞなぞに答えられるかなー!?』

>「…いや、謎解きなんてなかったはずだぜ。
もしかしたらあれはファントムの仕業かもしれねぇ。
……おい、聞こえるかグラン。
さっきはああは言ったがよ、やばいようなら魔法は使ってもいいぞ。
そのかわり競技はその時点で棄権しろ。
一生懸命にやっている子どもたちに失礼になるからな……」

「そういう事か、流石におかしいと思ったんだよ!」

というか本当に敵の妨害が入っているのならもはや競技どころではないと思うのだが
この巨大規模の行事で事態が明らかになれば怪我人続出の大混乱に発展しかねないため、秘密裡に事を進める事となっているのだ。
オレ達に出された謎掛けは、「どういう経緯で本大会において黄金のハクトウワシが賞品となったか」というもの。

「知るかンなもん!」

他の出場者達も無理難題を吹っかけられているようで、誰一人として突破者が出ない。
謎掛け巨人はやはり、猫の時と同じように巨大な泥の人形。
それならば動いている原理は同じかもしれない。
もう今となっては問答無用でド派手に粉砕してもいいのだが――人々に非常事態である事を悟られる一因になりかねない。
それに、オレの予測が当たっているなら普通に戦うよりもゴーレムの性質を利用した方が効率よく仕留められるだろう。

「スタンプ、球を頼んだ!」

謎掛け巨人の膝に飛び乗り、凹凸を足掛かりにジャンプしながらに上っていく。
振り払おうとするのを避けながら頭上まで辿り着き、近くで見ると額にうっすらとemethの文字が刻まれていた。
頭上までのぼりアライグマのごとく額のeをこする。

67 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/17(日) 21:58:34.49 0
【→会場の外】

>「…いや、謎解きなんてなかったはずだぜ。
>もしかしたらあれはファントムの仕業かもしれねぇ。

「ファントム?」

ゲオルグとアイリーンが同時に反応した。
どちらも、今しがたバルムンテの口から飛び出した、その単語のせいだ。
グランに指示を与えると、不意にバルムンテは席を立った。
つられるようにゲオルグたちも立ち上がる。

「ちょっと、バルムンテさん!?」
「マシュー、席見張ってろ!おいバリー、待ってくれ!」

深々と頭を下げる執事を置いて、その場を去る三人。
ずんずんと進むバルムンテを、ゲオルグ、アイリーンの順で追う。

「ど、どうしちまったんだよバリー、気分でも悪いのか?」

巨人の目指す先は、同じドーム内に設置された大会本部の受付。
数人のスタッフが、バルムンテたちを見て何事かと注視する。

>「今年の大玉転がしの障害は誰が企画した?
 今、仕掛けを制御してる奴は何処にいる?」

その場にいた全員が顔を見合わせた。
突然押しかけてきて何を言い出すんだ、この男は、と誰もが不安と戸惑いの視線をさまよわせる。
ゲオルグとアイリーンが息を切らして追いつく頃、クレーム担当のスタッフも姿を現した。

「誠に申し訳ありませんが、その、大会の仔細については部外者の方にお教えするわけには……」

そう説明するスタッフの頬にも冷や汗が浮かんでいる。
無論、凄みを効かせる巨人を目の前にして、臆しているからだ。
その丸太みたいな腕でひき肉にされちゃ、堪ったものではない。怒らせぬよう、誠心誠意をこめて頭を低くしている。
アイリーンは、徐々に周囲を漂い始めた不穏な空気を察し、バルムンテの腕を引く。

68 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/17(日) 21:59:22.59 0
「ここは一度引きましょう。これじゃ私たち、悪者扱いされちゃいます」

言うが、バルムンテの腕を引いて歩き出す。ゲオルグも「何なんだよお」と後に続く。
先ほどの席に戻ってみると、大玉転がしも佳境に入ったからか、より熱気が高まっていた。

「お帰りなさいませ、坊ちゃま。今までどちらに?先ほどファインプレーが起こりましてな、試合は大盛り上がりですぞー」
「マシューお前、地味に楽しんでるのな……」

どこから手に入れたのか、年甲斐もなくプラスチックのメガホンを振り回したマシューが出迎える。
アイリーンはバルムンテを座り直させ、競技場には目を向けることなく口を開く。

「バルムンテ氏、いったいどこで『怪盗ファントム』のことをお知りに?」
「へっ!?」

驚いた声を出したのは、ゲオルグのほうだった。なぜお前が知っている、という視線を向けてくる。
周囲が競技場のほうへ熱中していることをこれ幸いに、アイリーンは顔を近づける。

「先日、大会本部に怪盗ファントムから挑戦状が届いたんです」
「あっ、もしかして、これか!?」

ゲオルグがサッと紙きれを取り出す。それを読むと、アイリーンは頷いた。
アイリーンは簡潔に、かつ要領よく今回の顛末を話した。
大会本部がファントムの予告状を隠蔽しようとしたこと。
偶然、事件のことを知ったアイリーンが、解決に乗り出したこと。

69 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/17(日) 22:00:21.18 0
「ですから、魔法局がこの件に関して引き受けたのですよ。ファントム氏とギニョール氏にも協力してもらう形でね」
「なにっ、魔法局!?アンタみたいな美人が!?」

目の前のエルフが「魔法局」の出自であると知るや、ゲオルグは態度を一変させた。
不良魔術師のゲオルグからすれば、魔法局は敵も同然だ。
ドーナツのバケットが一瞬にして、すべて苦虫に変わったかのような顔つきになるのも仕方のないこと。
ゲオルグは胡散臭そうな目つきでエルフを睨み、不満そうな声を漏らす。

「ま、それは良いとしてだ。何だってバリーはアレが……」

ゲオルグはヴァフスルーズニルのゴーレムを指差し、

「……怪盗ファントムの仕業だなんて思うんだ?オッサンやチビ達にちょっかいかけて、何か得でもあんの?」

アイリーンは顎を撫で、しばし沈黙する。

「……とにかく、あのゴーレム達が怪しいのは確かです。ゲオルグさん、協力してください」
「お、俺?」
「ヴァルカン・カンパニーはこの大会の一大スポンサー。今回の企画にもかなり深い所まで関わっているはずです」

だからこそ、子息たるゲオルグの協力が得られれば、思わぬ情報も獲得できるやもしれない。
アイリーンはその選択肢に賭けるつもりでいるらしい。

「そ、その、俺は〜……て、手伝ってやりたいのは山々だけど〜〜……。
 ほら、こないだのアジトのことで、オヤジにこっぴどく絞られてさぁ……だ、だから……」

しかし予想に反し、ゲオルグは言葉を濁している。先日とは打って変わって逃げ腰だ。
以前から、常日頃の素行の悪さから、父親に「これ以上擁護することはできないぞ」と釘を刺されていた。
それに、先日かかったトラップ(ミミック)を思い出すと、鳥肌がとまらない。
もし怪盗を追い詰めたとして、また同じように手も足も出なかったら……そう考えると、素直に頷けない。
ゲオルグは少々悩むそぶりを見せていると、隣のマシューがゲオルグの肩に手を置いた。

「坊ちゃま、私めとて坊ちゃまの世話役、坊ちゃまの腕白ぶりは重々承知。
 しかし同じ腕白をしでかすにしても、お友達の助けの言葉を無下にする道理などありませぬぞ」

ゲオルグは一瞬言葉を詰まらせ、バルムンテを見やり、コクンと頷いた。

「分かった。バリー、あのフザケた野郎をとっちめてやろうぜ!その為なら俺、協力する!」
「決まりですね。まずはあのゴーレムをどうにかしなければ……」

アイリーンは会場を見下ろし、ヴァフスルーズニルを見下ろす。
会場内では、大勢の参加者とヴァフスルーズニルが対峙している。

『おいリトルジャンボ、バルムンテ!聞こえるか!』

バルムンテのインカムにスタンプの怒声が届いたのは、まさに丁度そのときだった

70 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/17(日) 22:02:16.06 0
【→会場内】

『15$のペン(犬用のフェンス)が250台売れ、500$の犬14匹が売れた。より高値なのはどちらかな?
 なお消費税は3%とし、犬のワクチン代は含むものとする』
「そ、そんなの分からないよぉ〜!ぼく、まだ4年生だもん〜!」

『神聖暦6530年当時の霜の巨人が、城の外壁を塗り替えるために、何人の巨人を必要としたかな?』
「れ、歴史なんてわかんないよおお!お、お父さ〜ん」
「む、むう……神聖暦は授業でとらなかったからなあ……」

『ホワイト・アンデッドが、1+1を計算出来ない理由はなんでしょう?20単語以内で答えよ』
「うわーん!私のこと馬鹿にしてるんだわ!グールだって足し算くらいできるわよおお!」

阿鼻叫喚。その場を表現するにふさわしい単語があるとしたら、まさにそれだ。
猫のゴーレムを倒したかと思えば、次は謎解きときた。付き合っていられない。
ゴーレムの土色の目玉がギョロリと、スタンプたちへと向いた。

『お次は主らじゃ。この大運動会では黄金のハクトウワシ像が優勝景品となっておるが、像が景品にいたるまでの経緯を答えよ』
>「知るかンなもん!」
>「スタンプ、球を頼んだ!」

グランは答える気など更々なく、ボールをスタンプに預け飛び上がった。
猫のゴーレムを相手にした時のように、しなやかな身のこなしと跳躍力で、土の巨人の体を駆け上がる。
頭上まで一気に駆け上がると、額に刻まれたemethの文字を削りとった。
巨人はブルッと体を震わせ、頭部がサラサラと崩れ落ちていく……

『いかんよ、君ィ』

が、グランの華奢な体を、巨人の腕がむんずとつかんだ。
文字を消され、頭は無惨にも消失したのに、首から下は依然として動いている。

『今はアトラクションの出し物に集中したまえよ。君のお転婆は、もっと別の場所で使ってもらいたいものだ』

その口調は明らかに、グランの今後を予言するかのような口ぶりだった。
腕はグランを荒々しい動きで地面に降ろす。その肩の付け根に、小さく文字が見えた。

「……読めたぜ。見ろグラン、ゴーレムは一つじゃねえ、『体のパーツごと』が一体のゴーレムなんだ。
 つまり両手両足、あと胴体のゴーレムが残ってやがる。こいつを動かしてるゴーレム使い、相当の腕だな」

目の前の巨人の正体は、複数のゴーレムが合体した、複合ゴーレム。
並大抵の術師でないと同時に、ここまで手の込んだ土人形を創ったということは、制御者も只のスタッフではないだろう。

71 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/17(日) 22:03:58.28 0
「おいリトルジャンボ、バルムンテ!聞こえるか!」

インカム越しにバルムンテに呼びかける。

「手短に言うぞ。会場のどこかにヴァフスルーズニルを制御してる奴がいるはずだ、どんな手を使ってもいいからソイツをひっ捕まえてくれ」

そしてグランに対しては、

「俺たちはこっちで時間を稼ぐぞ、グラン。制御者を動かすわけにはいかねえ」

ゴーレムは動きは鈍いが、腕力は相当のものだ。まともに戦えば、グランの小さい体などぺしゃんこだろう。

「おしゃべりの方は俺がひきつける。グラン、お前はスタンバイしてろ。俺に考えがある」

そして、スタンプが一歩前に出た。巨人の体がぎっくりと曲がり、スタンプのほうへと向く。

『君が、回答者かね?』
「そうさ。賭けをしねえか、ヴァフスルーズニル?」
『ほう、賭けか。一体どんな?』

声色が少し楽しげなものに変わった。
スタンプはスゥ、と小さく息を吸い、巨人を見据えた。

「これからテメエの問題に、俺が全部答える。全部だ。俺がひとつ正解するごとに、参加者を一人通す。どうだ?」

そう提案すると、グランに目配せした。
ゴーレムの制御者は外にいる。内側にいる以上、手出しはできない。
なら外に出る必要がある。それも、腕の立つグランの方を先決に。
巨人の制御者はしばらく沈黙していたが、やがて言葉を発した。

『……良いだろう。ただし、通す子供は、お前が解いた問題を本来、受けるはずだった子供だけだ。それと、こちらも提案してよいかな?』
「…………なんだ?」
『もしお前が一つでも解けなかった場合、そうだな……そこのお嬢さんの首を捻るというのはどうだろう?』

巨人が大きな腕で指差した先にいるのは、グラン。
参加者全員が驚愕を表情に浮かべる。無論、外側のスタッフも流石に異変を察知し始めていた。
しかしどういう訳だか、外側の会場の人間たちがこちらに来る気配がない。

「(細工されてやがる、と見て間違いないな)」
『こちとら首を壊されたんだ、妥当なところだろう?似たようなものじゃないか。それとも、そこの子供たちの首にするかね?』

その言葉は、「お前も土人形と類似した存在なんだろう」と仄めかしているようにも聞こえる。
何人かの大人は顔を蒼白させ、子供たちは競技どころでなく、ガタガタと震えている。
自分次第で、グランの首がもがれる。スタンプの頬に脂汗が滲む。

72 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/17(日) 22:05:04.17 0
「…………グラン、この間のアジトでのこと、覚えてるか?お前が俺を助けたときのことを」

スタンプは一度、指をさされた少女を一瞥した。

「俺はな、正直今でも腹が立っている。お前に助けられたことも、お前が言うことを聞かなかったことも。
 何より、「俺の命令を無視してお前が俺を助けてくれた」ことを少しでも喜んじまった自分に、何より一番腹が立っている!」

だから、と強く言い放つ。


「今度は俺にその命を預けろ。それで、俺を助けたことはチャラだ。……ま、それこそ本気でヤバくなったらアレを倒せ。良いな?」


あまりにも一方的で我侭な約束事。守る価値など一切ない屁理屈を言い切ると、答えも聞かず巨人と向かい合った。

「…………第一問、数字は一切関係ない。ペン(筆記具)は乾いたら買い換えないといけないが、犬はずっといてくれる、だからペンのほうが高い」
『正解だ』
「…………第二問、巨人の数は0。何故なら花嫁に扮したトールが暴れ、外壁は壊れてしまったから塗りかえれない」
『ふむ、これも正解』
「第三問、ホワイト・アンデッドはつまり骸骨のこと。骸骨には脳みそがない、だから計算はできない」
『これも正解だ!』

スタンプが答えるたび、子供たちは通されていく。首をへし折られちゃかなわないと、皆一目散に魔法陣へ。
いよいよグランに投げかけられた質問を答える時と相成った。

『ではいよいよ、お前たちの問題だ。解けるかな?』

大運動会における、黄金のハクトウワシ像が優勝景品にいたるまでの経緯。
結論から言ってしまえば、スタンプはその答えなぞ「一切知らない」。
だからこそ、全員分の問題を解くと提案したのだ。これは賭けだ。
この時間稼ぎで、外のメンバーがゴーレムの制御者を捕まえることを祈るしかない。

73 :バルムンテ:2013/11/17(日) 22:06:34.84 0
>「分かった。バリー、あのフザケた野郎をとっちめてやろうぜ!その為なら俺、協力する!」
> 「決まりですね。まずはあのゴーレムをどうにかしなければ……」

「……あ、ああ」
(人間ってのは弱ぇからお互いに協力する気持ちが強ぇんだっけか……)
スタンプの言うことにはそうらしい。

>「おいリトルジャンボ、バルムンテ!聞こえるか!」

「っ!そんな大声あげなくても聞こえるっつの」

>「手短に言うぞ。会場のどこかにヴァフスルーズニルを制御してる奴がいるはずだ、
どんな手を使ってもいいからソイツをひっ捕まえてくれ」

「ああ、言われなくたってもそのつもりなんだけどよ」

ぽりぽりと頬をかく。

「いったいどこに……」
企画者も制御室もわからない。
もう一回大会本部に喰ってかかってもいいが
事を荒げてしまっては大会中止という場合もある。

「ゴーレムがおめぇらの動きを細かく見聞きしてるってことはよ。
ゴーレム使いはおめぇらのことをよく見える場所、聞こえる場所にいるってことだよな」
インカムの向こう側のグランにバルムンテは言う。するとアイリーンが……

「……実況室」
と呟いた。
その一言に一同は顔を見合わせる。
そして次の瞬間には疾駆していた。

「おう!邪魔するぜ!!」
実況室のドアを蹴破る。

74 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/11/17(日) 23:33:24.03 0
>『今はアトラクションの出し物に集中したまえよ。君のお転婆は、もっと別の場所で使ってもらいたいものだ』

「あら?」

巨人の腕に掴まれ地面に降ろされる。倒したはずなのに――だ。
現に頭部は崩れ去って無くなっている。
そしてもう一つ重要な事は、ゴーレムが喋ったということ。
自律式では無く、制御者がゴーレムを通して喋っているとみるべきだろう。

>「……読めたぜ。見ろグラン、ゴーレムは一つじゃねえ、『体のパーツごと』が一体のゴーレムなんだ。
 つまり両手両足、あと胴体のゴーレムが残ってやがる。こいつを動かしてるゴーレム使い、相当の腕だな」

複合ゴーレム――複数のゴーレムを組み合わせて一体のゴーレムのように見せた物。
複数のゴーレムを同時に動かす魔力量に加え緻密な制御力が必要となる、高位魔術師の専売特許だ。
しかし、そいつはどこからゴーレムに指令を出しているのだろうか。
魔法による隔離結界内の会場を隈なく観察できる場所といえば、限られてくる。
スタンプも同じことを思ったようだ。

>「おいリトルジャンボ、バルムンテ!聞こえるか!」
>「手短に言うぞ。会場のどこかにヴァフスルーズニルを制御してる奴がいるはずだ、どんな手を使ってもいいからソイツをひっ捕まえてくれ」

>「ゴーレムがおめぇらの動きを細かく見聞きしてるってことはよ。
ゴーレム使いはおめぇらのことをよく見える場所、聞こえる場所にいるってことだよな」

「あぁ、死角が無さすぎて最初自律式ゴーレムだと思ったぐらいだ」

よく考えるとそれは逆なのだが。
あれ程の巨体なら、普通に目で物を見ていれば死角だらけのはずなのだ。
それが、頭部ごとなくなっても起こる事全部認識している始末である。
自律式ゴーレムであるはずがない。

>「俺たちはこっちで時間を稼ぐぞ、グラン。制御者を動かすわけにはいかねえ」

「実力行使、行きますか」

相手はなにしろでかい。それだけならまだしも、死角がない。
それでもオレの素早さをもって立ち回れば当たる確率は低いが、ひとたび当たれば致命的だ。

75 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/11/17(日) 23:35:02.88 0
>「おしゃべりの方は俺がひきつける。グラン、お前はスタンバイしてろ。俺に考えがある」

スタンプの「考えがある」は嫌な予感しかしないような気がするような……。
スタンプは、なぞなぞに自分が全部答えると言って相手の興味を引き付けはじめた。
なるほど、こういうゴーレムを出してくるぐらいだからゴーレムの中の人(外の人?)は知恵比べに目が無いんだろう。
そして、高位魔術師というのは良くも悪くもプライドが高い者が多いので約束は守りそうだ。
上手くいけばオレが一足先に外に出られる可能性もある。

>『……良いだろう。ただし、通す子供は、お前が解いた問題を本来、受けるはずだった子供だけだ。それと、こちらも提案してよいかな?』
>「…………なんだ?」
>『もしお前が一つでも解けなかった場合、そうだな……そこのお嬢さんの首を捻るというのはどうだろう?』

「何!?」

流石に大会の演出としてこれはアウトだ。今までギリセーフだったとしてもアウトだ。
しかし、主催者側が動く様子は無い。一体どうなってんだ!?

>『こちとら首を壊されたんだ、妥当なところだろう?似たようなものじゃないか。それとも、そこの子供たちの首にするかね?』

恐怖に恐れおののき震えはじめる子ども達。

「ふざけんじゃねー! 本気で怖がってんじゃねーか! それに器物破損と殺人は全然違うわボケ!!」

そう自分で言ってからはっとする。
こいつ――もしかしてオレが魔導人形《ドール》だという事を見抜いてる!?
これでも亜人種として社会的に人権を認められているので、実際にオレの首を取ったら殺人になるわけだが――
歴史を紐解いてみるとどの種族を人として認めるかは必ずしも絶対の基準があるわけではないという。
オレだって一歩間違えれば魔法生物枠だったかもしれないのだ。魔法生物、この前躊躇なく粉砕したミミックと同じ……。
そんな中、スタンプがオレに語りかける。

76 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/11/17(日) 23:38:27.49 0
>「…………グラン、この間のアジトでのこと、覚えてるか?お前が俺を助けたときのことを」
>「俺はな、正直今でも腹が立っている。お前に助けられたことも、お前が言うことを聞かなかったことも。
 何より、「俺の命令を無視してお前が俺を助けてくれた」ことを少しでも喜んじまった自分に、何より一番腹が立っている!」

素直に喜べばいいのに素直じゃない奴!
でもこれが人間だ。緻密なプログラムよりもずっと複雑な、一筋縄じゃいかない感情。

「オレが忠実に命令を聞いた日にゃあ大変だ、ゴーレムと一緒になっちまう」

>「今度は俺にその命を預けろ。それで、俺を助けたことはチャラだ。……ま、それこそ本気でヤバくなったらアレを倒せ。良いな?」

「オレが死ぬのは夢を失った時だからなあ! それ以外で死にゃあしない!
あんなのに倒されてやるかっつーの! それに首取れても引っ付けたら戻るかもしれないし。試した事は無いけど!
だからな……安心して間違えやがれ!」

いつものように軽口を叩いてスタンプの依頼を請け負う。
オレの覚悟を余所に、スタンプは次々と問題に答えていく。スタンプは探偵だけあってあれでなかなか物知りなのだ。
子ども達の避難は済んだ。後はゴーレムの操縦者が捕えられてくれれば万々歳なのだが……まだその気配はない。

>『ではいよいよ、お前たちの問題だ。解けるかな?』

これは分かる訳ないよなあ……。
沈黙が続き、ゴーレムが時間切れ宣言をしそうな寸前、おもむろにインカムに向かって話しかけた。
魔導人形は退屈すると死んでしまうとはよく言ったもので、やっぱり何もせずに待ってるだけなんてオレには性に合わないのだ。
インカム越しの会話で、バルムンテの近くにゲオルグがいるのは分かっている。

「ゲオルグ、いるか? 黄金のハクトウワシが大会の景品になった経緯って知ってる?」

何の事は無い、堂々たるカンニングを敢行したのだ。試験だったら即退場。
しかし大会のルールを大切にするバルムンテがインカムを渡してくれたぐらいだから、外部との通信は禁止されていないのだろう。
要するに規則違反ではないけど規則の網の目をすり抜けた脱法行為である。しかも、実の所ゲオルグが答えを知っている保障もない。
全てが上手くいく淡い期待も無いでは無いが、主な目的は時間稼ぎの延長。この相手なら少なくともどうしたものかと少しは反応に困るはず。
出鱈目を答えて即不正解認定を受けるよりは多少は時間稼ぎにはなるだろう。
相手がオレの首を狙って来たら、その時は腹をくくって立ち回りだ。
インカムからの返答を待ちつつ、もし初撃が来たら避けられるようにゴーレムの動きを注視して身構える。

77 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/28(木) 20:36:49.19 0
その部屋には、山ほどの機材が所狭しと置かれてある。
どれも、会場内にアナウンスするために必要なものである。現在部屋を支配している彼女にとっては無用の長物だ。
一心不乱に、彼女は部屋中に貼り付けたゴーレムの操作盤に指を走らせる。
彼女の眉間にはまった青い宝石が瞬き、男の声を発する。

『異常はないかな、スパランツァーニ』
「ああ。ここまでは計画通りだね」
『まったく、君の仕事ぶりには感服せざるを得ないよ』
「恐縮だ、ドン。これからどうすればいい?」

チラリと、彼女は窓の下に視線を落とす。
真下には大玉転がしの会場が見え、数人の子供たちが泣きながら戻ってくる。
何人かのスタッフが、異世界に残った人間を救助しようと、介入を試みている。
フン、と彼女は鼻を鳴らす。妨害呪文を突破するには、時間がかかることを承知しているからだ。

『動きがあれば逐一連絡する。戦闘も視野にいれてくれ』
「あーあ、『また』クサい飯食う羽目になんのかあ。まっそん時は助けてね、ドン」
『言わずもがなだ。さあ、君も役に入ってくれ。もうすぐそっちに彼らが来る』
「了解」

彼女は一度だけ背後の出入り口を見、視線を再び操作盤に戻す。
深呼吸し、来る未来に備える。もうすぐ開幕だ。

【→実況室】

ドームの実況室は、会場を一度出て、螺旋状のゆるやかな長い廊下のつきあたりにある。
バルムンテを先頭にした三人が実況室へ向かうすがら、インカムからグランの声が。

>「ゲオルグ、いるか? 黄金のハクトウワシが大会の景品になった経緯って知ってる?」

「あん?んなの簡単だぜ!こちとら、アンヨもしねえ頃からジジイに 嫌ってほど聞かされてるからよお!」

魔術師は機械を扱えないため、バルムンテを通して会話が伝えられる。
ゲオルグはバルムンテと並走しながら、得意げに声を張り上げた。
ジジイ、と口にした途端に、祖父の今際の際が脳裏をよぎった。
一瞬だけくしゃりと顔を歪ませたが、インカムに向かって(つまりは巨人の耳元へ)続ける。
幼い頃、安楽椅子に腰掛けて語る祖父を思い出しながら。

【以下読み飛ばし可】

そもそも、大運動会が開催されたのは、かの第二次世界大戦終結から10年後のことだ。
戦争の終結に伴い、家電製品の発明、家庭用魔道具の一般普及による経済の活性化などでアメリカは好景気の絶頂にあった。
しかし一部の土地では魔女狩りやアンチ・デミヒューマン(亜人種否定派)の風潮は拭いきれず、小さな内戦は世界大戦後も続いていた。
1950年以降のアメリカは、純人種と亜人種の確執、自由と人権を巡る第二の戦国時代だったといえよう。

やがて当時の亜人種肯定派の資産家や上流貴族、亜人種の代表貴族が結託し、亜人種の差別化解消や平等化を訴える運動として、大運動会が発足された。
そのメンバーの中には、金属製家庭用魔道具で一旗あげた、ゲオルグの祖父ラードゥロ・ヴァルカンもいた。
この頃ヴァルカンはイタリアで鉱山事業に失敗し、アメリカで金属興業会社を設立して儲けに儲けていた。

黄金のハクトウワシ像は、ヴァルカンが身一つで渡米した当時、お守り代わりの唯一の財産だった金を材料に、
彼の手によって、平等や自由の象徴として造られるようになったのだ。
本来は只のシンボルでしかなかったのだが、優勝商品にすることで参加者を増やす客寄せパンダとしての効果を得たのである。

【ここまで】

78 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/28(木) 20:37:43.03 0
とまあ大体そのような事をゲオルグはつらつらと(多少誇張を交えつつ)語った。
彼に語らせるとあまりにも長すぎるので、これでも大分省略したほうである。
丁度同時に実況室まで辿り着き、バルムンテが渾身の蹴りでドアをぶち開けた。

>「おう!邪魔するぜ!!」
「抵抗せずに大人しくしなさい!」
「えっえーと……警察呼ぶぞ!!」

三者三様に叫びながら、転がるように部屋へ突入する。
部屋の中は機材や音響装置などが無造作に置かれ、実際の部屋の面積より狭い印象を与える。
部屋の奥には、女が一人。一心不乱に操作盤を指で弄くっていた。
ウェーブがきつい金髪をひとつに結え、度の強そうな瓶底眼鏡をかけている。
三人が飛び込んできても知らん顔だ。

「……………んえ?うひゃわぁああっ!!ビックリしたー、いつ入って来たの!?」

振り返って三人を視認した瞬間、女は飛び上がって驚いた。
どうやら本当に気づいていなかったらしい。ゲオルグとアイリーンは拍子抜けする。
女は頬を膨らませて、手をヒラヒラと振り「出て行け」とジェスチャーする。

「ちょっとちょっとー、ここは関係者以外立ち入り禁止よ!看板が見えてないの?」
「出て行くつもりはありませんよ。貴方が制御者でしょう?」

ズイ、とアイリーンが一歩前に出る。女は目を少しだけ見開き、眉を釣り上げた。
そばかすを散らした頬に、笑みを浮かばせ、瓶底眼鏡をクイッと上げる。
その時、アイリーンは女に既視感を覚える。

「……へえ。気づいたんだね、私が何なのか。止めにきたんだ?」
「それもありますが、少しお時間を戴きます。貴方には色々と聞きたいことがあるので……」

アイリーンが杖を抜くモーションを見せる。
するとエルフがそれを振るうより早く、女は操作盤の一つに手を伸ばす。

「おおっと!動かないでね。君たちのお仲間が粉々に砕かれちゃってもいいのかな?」

【→会場】

「……つまり、WW2以降も続いた亜人種問題の早期解決を願った運動として大運動会が発足され、
大会を盛り上げるためにそのシンボルとなった黄金のハクトウワシ像が優勝商品にした!どうだ!」
『…………正解だよ。それにしても腹立つしたり顔だね』

ゼイゼイと息を切らしながらも、ドヤ顔のスタンプ。
ゲオルグの語り(リアルタイム解説)を忠実に答えたのである。

「さ、ちゃんと答えたんだ。通してもらおうか」

79 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/28(木) 20:40:34.74 0
しかし、相手側から返事がない。数拍の沈黙が、会場を包む。
ゴーレムの動きもなく、にわかに不穏な空気が漂い始めてきた、直後。
土の巨人の腕が、突如としてグランとスタンプに襲いかかる!

「っァあ!何しやがる!俺はちゃんと答えたじゃねえか!」

巨人の掌に拘束され、スタンプは約束を反故された事に怒り喚く。
グランは無事なのか心配だが、今の体勢では確認することは叶わない。

『ンッンー、このままアッサリ通すのはつまらないからねえ。それに答えたのは全部、君じゃないか』
「そういう約束だっただろう!」
『巨人さんは納得していないみたいだよ。だから次は……お嬢さんに答えてもらおうか』

なんと声の主は、次にグランへと謎解きを仕掛けようとしている。
スタンプは土の巨人の手から逃れようともがく。その拍子に、インカムがずれて地上に落ちる。

「無視しろ、グラン!こいつをぶっ壊してしまえ!」

スタンプの喚き声を遮るように、姿なき声が巨人を通してグランへ語りかける。

『今までは僕らが君たちに問題を出してきた。今度は君に、……そう、【お嬢さんに、問題を出して貰う】。
僕らが答えることが出来なかったら、お父さんを離してあげるし、もう妨害はしないと約束しよう。
おっと、僕らに関する問題は……食事の予定やメールアドレスを聞くなんてのはナシだ。面白くないからね』

ふざけているのか、と問いただしたくなる。
しかしゴーレムが動いている以上、バルムンテ達はまだゴーレムの制御者を見つけ出していないのかもしれない。
焦りを滲ませるスタンプの様子を、女はいやらしい笑みを浮かべて見ている。

「ご名答、私が……この天才ラビ・スパランツァーニこそが!あのゴーレムの製造者よ」
「スパランツァーニ…あっ!思い出しました!確か5年ほど前にNY都市内でゴーレムを暴走させて逮捕された魔術師!何故ここに!?」
「なに、昔馴染みにちょいと仕事を頼まれたんでね、脱獄したのさ」

まるで買い物の途中であるかのような調子でスパランツァーニは答える。
彼女の手には金色に輝く操作盤が握られている。

「これが、今動いているゴーレムの操作盤。
こいつ1枚あれば、何十体ものゴーレムを同時に操作できる。技術の進歩って目覚ましいね!」

裏を返せば、彼女が現時点で更なる数のゴーレムを所持している可能性を示唆している。
もっと深く突っ込めば、その操作盤の使い道によっては、凄惨たる未来が待ち受けていることも。

「おっと、私からこいつを取り上げてぶっ壊そうとか、考えないほうがいい。
何せ一部の鉱山でしか採取出来ない特殊な金を使ってるからね。並大抵の怪力じゃ、傷ひとつつかないよー?
どうする、試してみる?」

80 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/11/28(木) 20:41:37.80 0
スパランツァーニは操作盤を指で撫でる。
すると、室内の機材が不穏な音をたて、産声をあげるように揺れる。
よくみれば、機材の幾つかに、カモフラージュされた魔法陣が浮かび上がり、光を帯びる。
それらはひとりでに積み上がり、接着し、天井にまで届くかと思われるゴーレムに変形する!

「パシフィック・リムみたいでカッコいいだろー?」

即席ゴーレムの顔と思しき部分が、バルムンテらに注視する。
室内の空気が、殺気を含んだものとなる。

「やれ、ナタナエル!潰しちゃえー!」

【VSスパランツァーニ】

名前: スパランツァーニ
外見:クシャクシャの金髪にブルーアイ、瓶底眼鏡。眉間に青い宝石。
肉体年齢は20代後半。体型は女性らしく、スレンダーでノッポ。白衣を思わせるローブを着ている。
職業:【ラビ】ユダヤ系魔術師
能力:ゴーレム操作術
備考:ユダヤ系フランス人。5年前、NYで何体ものゴーレムを暴走させる大騒動を起こした魔術師。
騒動を起こす以前の経歴は不明。逮捕され、服役していたはずだが、脱獄した模様。
怪盗ファントムらしき人物の共犯らしいが関連性は不明。

81 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/02(月) 23:10:01.72 0
>「あん?んなの簡単だぜ!こちとら、アンヨもしねえ頃からジジイに 嫌ってほど聞かされてるからよお!」

インカムからゲオルグの得意げな声が返ってくる。
幼少時より耳にタコができるほど聞かされてきたようで、まずは第一関門突破。
それをスタンプがリアルタイムで忠実に答える。

>「……つまり、WW2以降も続いた亜人種問題の早期解決を願った運動として大運動会が発足され、
大会を盛り上げるためにそのシンボルとなった黄金のハクトウワシ像が優勝商品にした!どうだ!」
>『…………正解だよ。それにしても腹立つしたり顔だね』

いける、こういう台詞が出た時は葛藤しつつも約束を守って解放するのがお決まりの流れだ。
が、オレの予想は見事に裏切られる事になった。
ゴーレムの腕がスタンプを掴みあげる!

>『ンッンー、このままアッサリ通すのはつまらないからねえ。それに答えたのは全部、君じゃないか』
>「そういう約束だっただろう!」
>『巨人さんは納得していないみたいだよ。だから次は……お嬢さんに答えてもらおうか』

「巨人さん……? 仲間がいるのか!」

自分一人の判断だけで操作しているわけではなく、すぐ側に指図をしている者がいるようだ。
多分巨人さんとは、写真に写っていてバルムンテ疑惑がかけられたあれだろう。

82 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/02(月) 23:11:11.87 0
>「無視しろ、グラン!こいつをぶっ壊してしまえ!」

そうしたいところだが、スタンプを人質に取られた今それは出来ない。
よもやしないとは思うが、あのゴーレムならその気になれば人一人握りつぶすのなんて簡単だ。

>『今までは僕らが君たちに問題を出してきた。今度は君に、……そう、【お嬢さんに、問題を出して貰う】。
僕らが答えることが出来なかったら、お父さんを離してあげるし、もう妨害はしないと約束しよう。
おっと、僕らに関する問題は……食事の予定やメールアドレスを聞くなんてのはナシだ。面白くないからね』

「別に聞きたくもねーよ!!」

相手の情報を探る質問は禁止。
かといって「今日の朝ごはん何食べたと思う?」なんて絶対こちらにしか分からない個人情報も問題として成り立たない。
答えの立証のしようがないからだ。
かといってなぞなぞを知り尽くしていそうな相手にそれで挑むのは不利。
となればクイズで勝負するしかない。狙い目は答えが確定していてかつ相手には答えられない物……。
全く世話の焼けるパン1野郎だ。そういえば今朝も家の中をパンツ一丁でうろついていた。
ん、パンツ一丁……? そ れ だ!

「スタンプの今日のパンツのガラはな〜んだ! 簡単だよな、手の中に握ってるんだからなあ!」

簡単な事だ、手中にある物を見て確かめればいいだけの話である。
今相手はスタンプの生殺与奪を握っているのだから。
しかし、しかしだ。簡単に握りつぶせるからといって簡単にパンツの柄が見れるとは限らない。
いかにゴーレム操作術に優れているといえども、物理的な制約までも克服する事はできない。
あの太い指ではスタンプを拘束したまま目的を達成するのは至難の業。
答えを得ようとする過程で隙だらけとなるわけである。
当然、スタンプはパンツが公衆の面前に晒されるまで律儀に大人しくしているはずはない。

83 :バルムンテ:2013/12/07(土) 23:58:31.26 0
>「やれ、ナタナエル!潰しちゃえー!」

ゴーレムがバルムンテめがけ、倒れこんでくる。
きっと、潰すということはそういうことなのだ。

だがなんのために……。
あのゴーレム使いにどれほどの欲望があるというのか。
真剣勝負に横槍を入れられた選手たちの気持ちはどうなる?

刹那、実況室に響く硬質な音。
衝突音。
バルムンテに蹴りあげられたゴーレムはこをえがき転倒。

「こんな玩具じゃ、何百体あったって俺には勝てねぇぜ。
俺は女だってぶん殴るし降参するなら今しかねぇぞ。
別に制御板を壊す必要もねぇんだからな。
おめぇを失神させりゃどうせゴーレムは止まんだろ」

睨み付けるバルムンテだった。

84 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/08(日) 00:00:04.77 0
大玉転がしの予期せぬ展開で、ドーム内がてんやわんやしている頃。

一人の眼鏡をかけた大男が、体躯に似合わぬ自然な、それでいて静かな足運びで人垣を抜ける。
巨大な体は存在感が極限にまで薄められているかのようで、誰も気に留めようとしない。
大男は席を移動し、もっとも競技場がよく見える座席へとどっかり座り込んだ。

「おいドン、いつまで謎解き(リドル)で遊ぶつもりだ?」

大男は涼やかな目で競技場を見下ろし、おもむろにそう口にした。
その隣には、いかにも凡庸な見てくれの男がバケットを抱え、チュロスを齧っている。
男はチュロスのシナモンをぬぐい、唇を歪める。

「これも計画の一部さ。向こうもそろそろ、僕らに気づく頃だ。こういうのは第一印象が肝心なんだよ」

まあ黙ってみてなって、と男はドーナッツがぎっしり詰まったバケットをよこす。
大男は太い眉を少し動かしただけで、何も言わず口を開けてバケットをひっくり返した。
水を飲むがごとく、揚げたてのプレーンドーナッツは大男の口の中に次々と消えていく。
乱暴に口元を拭いながら、大男はその場で胡坐をかいた。

「シスターズとスパランツァーニは?」
「姉妹はもう別の会場で準備してるよ。スパランツァーニは……まだ取り込み中らしい。透視眼鏡で見てみるといい」

ふうん、と大男は眼鏡を押し上げた。眼鏡のレンズに映る景色が、不意にゆがんだ。
水面に小石が投げられて波紋を広げるように、映るものが変わっていく。
そして大男の視界に、薄暗い実況室と、四人の男女の姿が現れる。

「ようやく尻尾をつかんだって所か。トカゲの尻尾だがな」
「だが我々の体の一部には違いないよ。これからイベントは急激に進展する。彼らには必要なポイントだ」

バックンとチュロスの最後の一口を放り込む。

「僕らと対決するために。真実の片道切符を彼らに手渡すために」
「……やり方が少々、回りくどいと思うがな」

大男が零した一言を耳ざとく聞きつけ、男は自信たっぷりに微笑む。

「それで良いんだよ。過不足なく、順序立て、ゴールへ進む。真実ってのは貞淑な乙女みたいなもんさ」
「……語るもんだな。童貞の癖に」
「どどどど童貞ちゃうわ!……っと、彼女の選択は決まったようだ」

男はインカム状の念話装置を装着した。
彼女……銀髪の魔導人形、グラン・ギニョールとの対決だ。

>「スタンプの今日のパンツのガラはな〜んだ! 簡単だよな、手の中に握ってるんだからなあ!」

「……………………」

男は、念話装置を外した。

聞き間違いだろうか。今、いたいけな乙女の口からパンツという単語が飛び出した気がする。
もれなくオッサンのパンツのガラを当てろと言われたような気がしなくもない。
オーライ、落ち着け僕。
動揺するな。ここ連日、仕掛けの数々をこなしてきたので、疲れがたたっているのかもしれない。
いやでも少女の口からパンツなんて単語を空耳するなんてよっぽど疲労が溜まっているに違いない。
疲れと性欲は比例するって偉い人も言ってた気がする。じゃあきっとこれは僕の内なるエロスが囁いてるんだあれ何だろう目頭が熱い。
自身が封印した性癖と再び向き合うって辛いね。クールビー、僕。

85 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/08(日) 00:03:14.59 0
『……えーと、ごめん。君のお父さんのパンチ力が何だって?』
「下着の柄当てろってさ、ドン」
『ああやっぱそっちねトランクスの方ねってコラ―――――――!』

堪りかねて、なぜか大男の眼鏡を叩き落とす。
男は激怒した。必ず、かの破廉恥極まる少女の発言を除かなければならぬと決意した。
関係ないが、上の会話はグランたちからすれば一人ノリツッコミにしか聞こえない。

『何でパンツ!?よりによってなんでオッサンのパンツ!?あと女の子がパンツって言うんじゃありません!』
「ドンのほうがパンツパンツ煩いぞ」
『もっと他にあるだろう!こう……ホラ!君のパンツの柄を当てるとかなら大歓迎なんだけど、僕!3秒で当てる自信あるよ!』
「ただのセクハラじゃねーか」

男はある一点において純粋だった。『うら若き乙女は貞淑でしかるべき』という価値観が根底にあった。
男はある一つの性癖を抱えていた。女子の下着、ことにパンティの類に関しては並々ならぬ執着とプライドがあった。

少なくとも彼にとって(外見だけでも)幼い少女がいけしゃあしゃあと「パンツ」なんて口にすることは絶対に許されないことだった。
何が悲しくて「パンツの柄を当ててみろ」なんて罰ゲームを強いられなければならないのか。
しかもオッサンのパンツである。美少女のレースのパンティとかそんなんじゃない。むさくるしいトランクスだ。泣けてくる。
だが今は泣く時ではない。これはプライドの問題だ。封印したパンツへのフェティシズムが彼を突き動かした。
男は装置のマイク部分を強く握り締めた。

『……はるか神の御世、この世界に創られた人間が初めて身につけたものはたった一枚のイチジクの葉だった。
 そして何千年もの歴史の中で、流行の流行り廃れや文化の形成の中で、常に人間のそばにあったものは何だ?
 神か?刃か?盾か?魔法か?それとも本か?
 否!パンツだ!
 たかだか股間を隠すためだけに!形を変え研究され試行錯誤され、今のパンツがある!パンツ・イズ・ヒストリーだ!』

あまりに唐突で突拍子のないこれだけの長い演説で、誰も男に気づかない。
当然だ、彼の仲間のお陰で魔法で身を隠されているからだ。
感極まったか、鼻水を啜る。隣の大男は無反応だ。

『いいかいお嬢さん。君が思っている以上に、パンツという存在は畏れ多く、神聖なものなんだ。
 不思議に思わないか。ただの一枚の布切れが、かくも人の心を惑わせ、時には悪の道へと誘う。たった一枚の布がだ!
 嗅いでよし被ってよし頬ずりしてよし味わってよし煮てもよし飾ってもよし。
 履く以外の用途でこれ以上に活用出来る魅惑の布があろうか?
 かくいう僕も若かりし頃はパンツの魅惑にとり憑かれた1人だ。僕は自身の限界を知らない挑戦者だった。
 若さ故のエネルギーに身を任せて愛しのジェーン・ドゥから失敬しようとしたことも一度や二度じゃない。
 水溜まりの鏡に映る乙女のスカートの下を覗いて悦に浸るなんてしょっちゅうだった。
 今は失われたチラリズムが生む可能性を探究し、それだけのために魔術の教えを乞うこともいとわなかった。
 それだけ僕は密かにパンツへ情熱を注いだ。今僕は、仲間内から受ける侮蔑と批難を覚悟して語っている』

さらっと余罪を告白したところで、男は語気を強めた。

『僕は女子のパンツをこよなく愛している!僕の内なるパンツ道にかけて!矜持にかけて!間違っても小汚いオッサンのパンツの柄を言い当てるなど、できない!!』

ここまで言い切ると、男は泣いた。男泣きした。
周りが一切気づかなくとも男は咽び泣いた。己の信じた貞淑な乙女像を叩き潰された現実に涙した。
今後仲間たちから受ける軽蔑の視線を考えて泣いた。これからのあだ名はパンツおじさんになるだろう。洒落にならない。

「なんだこの変態ワールド……」

そう呟いたのは、競技場内のスタンプだった。
彼を拘束するゴーレムは、ピクリとも動こうとしない。
ひとつ、理解できたことがあるとすれば、グランが謎掛けに勝利したということだけだ。
鼻水を啜る音が盛大に響き、語り手は沈んだ声でこう言った。

86 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/08(日) 00:04:28.81 0
『参った。君の勝ちだ、お嬢さん。いま、開放しよう……』

その時だ。
まず異変を察知したのは、会場の外で術を破ろうとしている術師のひとりだった。
異世界に繋がる陣に上書きされた、阻害の術を破ろうとした直後、地鳴りを聞いた。
顔を上げると、ゴーレムがスタンプを握っていた手を、予告なく離したのだ。

空き缶を放り投げるように、上に向かって。

「おおおおおおおおおおおっ!?」

スタンプの体は一度弧を描き、それから重力にしたがって落下する。
それだけでなく、ゴーレムは猛烈に両腕を動かし、むやみやたらに暴れ始めた!
まるで制御を失い、暴走しているかのようだ。人間などどうでもいいとばかりに、無差別に拳を振り下ろす。

実際、ゴーレムは制御を失っていた。
時間は少し遡り、視点は実況室、つまりスパランツァーニとバルムンテ達の対決にうつる。

まずゴーレム使いは、強烈な金属音を殴る音を耳にした。
正確には蹴飛ばされたのだが、とにかく硬い物同士が衝突する音が鳴り響いた直後、ゴーレムが倒れた。
蹴りが入った部分にはくっきりとバルムンテの足跡が残り、その威力を物語っている。

>「こんな玩具じゃ、何百体あったって俺には勝てねぇぜ。
俺は女だってぶん殴るし降参するなら今しかねぇぞ。
別に制御板を壊す必要もねぇんだからな。
おめぇを失神させりゃどうせゴーレムは止まんだろ」

それを聞くと、スパランツァーニは眉を釣り上げ、鼻を鳴らした。
明らかに馬鹿にした笑みを浮かべ、制御盤を操作する。
バルムンテに蹴飛ばされ、盛大に凹んだパーツが音を立ててひとりでに抜け落ちる。

「おお怖い。確かに君の言い分は当たっている……ただし半分だけだ。君、学校の授業って真面目に聞かないタチかい?」

黄金の制御盤がキラリと輝き、ゴーレムの体に異変が起こる。
損傷した部分がせりだし、ゴロンと床に転がった。
直後、部屋の隅に積まれた機材のひとつが浮かび、がら空きになったゴーレムの空洞部分にぴったりと埋まり込む。
すると再びゴーレムは動き出し、バルムンテの両腕をがっちりとつかんだ。
それを皮切りに、ゴーレムが次々に……はじめのゴーレムよりもやや小さい、動物を模したもの……が生み出される。

「通常、ゴーレムや魔具の類は使用者の魔力を動力とし、呪文や制御装置がストッパーや調整の役を果たす。
 けど道具の中には、道具や素材自身が膨大なエネルギーを抱えてるものが存在する。この制御盤も同じさ」
「つまり、このゴーレム達を動かす源がその制御盤だ……とっ!?」

ゲオルグが咄嗟に犬を模したゴーレムの一体を殴り飛ばした。
狭い実況室で魔法を使うには無理がある。アイリーンは結界を張って身を守るのが精一杯のようだ。
その通り、とスパランツァーニは制御盤を胸に抱いてうなずいた。

「さっきも言ったけど、この制御盤は稀少で特別な金でできている。
 これはほんの一部を混ぜただけだけど、多分、時価で億単位はつくよ。
 更にこの金属は、多量の魔力も含んでいる。みんな喉から手が出るほど欲しいだろうねぇ。
 ほら、黄金のハクトウワシ像とおんなじくらいにさ。あれも、作り手が特別な金で造ったみたいだしねえ」

「だから、なんだって……んだ!!」

ゲオルグはバルムンテの助太刀に入った。
人型ゴーレムがバルムンテに正面から対峙している時、後方から鳥のゴーレムが巨人の頭を狙っていた。
後頭部を狙って突撃した鳥を、バルムンテをみならって思いきり殴りつけたのである。
鳥は正しいルートから逸れ、巨人と人型ゴーレムの脇をかすめ……スパランツァーニに激突した。

87 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/08(日) 00:05:39.38 0
「きゃあああっ!?」

まともにぶつかったスパランツァーニは悲鳴をあげ、倒れた。
金髪の少女は強かに頭をぶつけ、倒れる。
制御盤が彼女の手から離れ、コロコロと転がる。

まさにその瞬間。実況室を、異質な空気が支配した。
始めに、小型のゴーレムたちが動きを変えた。バルムンテらを襲うのをやめ、静止した。

「な、なんだ……?」

ゲオルグが固唾を呑んだ。
スパランツァーニが制御盤を手放した瞬間に、その場の気配ががらりと変わったのだ。

変化は突然だった。
人型以外のゴーレムが我先に制御盤に突進し、実況室は混乱の渦に巻き込まれた。
お互いを攻撃したかと思えば、バルムンテたちに襲い掛かる。
ナタナエルと呼ばれたゴーレムだけは、ひたすらバルムンテを組み伏せようとする。

「魔力が暴走してるんですよ!きっと!」

アイリーンは混沌の中で金切り声を上げた。
制御盤が本来の動力だとすれば、本来の制御役はスパランツァーニだ。
ストッパーを失ったことで、制御盤が本来の魔力を放出し、ゴーレムたちが暴走したのだ。
それとほぼ同時に、会場の巨大ゴーレムも暴れ始めたのである。

「ゴーレムを倒すには魔力の元を断つか、emeth(真理)のeの文字を消すしかありません!」

ゲオルグの視線は床に転がっている制御盤に向けられた。
ゴーレムの群れを掻い潜り、盤に向け拳を振るう。

「『ウルカヌスの火よ、万物を打ち砕け』!でりゃああああああ――ッ!!」

拳からは魔法の炎が生じ、黄金の盤を殴りつけた。
しかし炎はまるで盤に吸い込まれるように消失し、ただの男の拳が叩きつけられただけだった。

「ッ……てええエーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

拳から全身に激痛が駆け巡り、涙目で悲鳴をあげた。
魔力を絶つことは出来なかったが、ただの金でないことはこれではっきり証明された。
更に悪いことに、ゲオルグの炎を得てか、ゴーレム達がとんでもない熱を放ち始めた。
実況室はありえない熱で充満し、ゴーレムらの体に触れれば火傷は免れられないだろう。


【グラン→クイズに勝利、しかし巨大ゴーレム暴走!】
【バルムンテ→スパランツァーニ気絶、ゴーレム暴走、ゲオルグの火を吸収して熱を放ち襲い掛かってくる】

88 :バルムンテ:2013/12/08(日) 00:06:44.41 0
ゲオルグに助けられた。

(人間ってのは弱ぇから支えあうんだっけか)
ふとスタンプのことを思い出す。

「ちっ、情けねーぜ。俺自身がよ」
高まる室温。拳を痛め、のたうち回るゲオルグ。
すでにゴーレム使いの女は気絶。
バルムンテのイライラはつのる。

「……ゲオルグてめー!むかつくことやってんじゃねぇぜ。
まったく、どいつもこいつもよぉ!」

制御盤に手刀を降り下ろすバルムンテ。

「俺は強ぇんだ。誰かに助けられるなんてありえねぇんだよっ!」
このピンチだって一人で切り抜けてみせる。バルムンテは誓う。

轟音。床に生まれる亀裂。
はたして制御盤は……。

89 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/09(月) 23:31:39.21 0
>『……えーと、ごめん。君のお父さんのパンチ力が何だって?』
>『ああやっぱそっちねトランクスの方ねってコラ―――――――!』

相手は、予想外の質問に動揺を隠しきれないようだった。
さっきまでの謎めいた雰囲気がきれいさっぱり吹っ飛んでしまっている。

>『何でパンツ!?よりによってなんでオッサンのパンツ!?あと女の子がパンツって言うんじゃありません!』
>『もっと他にあるだろう!こう……ホラ!君のパンツの柄を当てるとかなら大歓迎なんだけど、僕!3秒で当てる自信あるよ!』

それにしてもパンツという言葉に異常に動揺し過ぎでは無かろうか。
生憎魔導人形族のパンツは鉄壁のカーテンに阻まれ、古代から現代に至るまで今だに解明されていないのである。残念。
そして何故かパンツ演説が始まる。
スタンプが拘束されている以上、オレはその変態演説を生暖かい目で御静聴するしかなかった。
パンツイズヒストリー、世の中真面目にパンツの歴史を研究している人もいるので確かに間違ってはいない。

>『いいかいお嬢さん。君が思っている以上に、パンツという存在は畏れ多く、神聖なものなんだ。
(中略)
 それだけ僕は密かにパンツへ情熱を注いだ。今僕は、仲間内から受ける侮蔑と批難を覚悟して語っている』

ツッコミどころ満載だ―――――! むしろツッコミどころしかない!

「う、うん。まあ……そうだろうな。つか何で言ったし!」

いくら詩的に言ってみたところでやっている事は自身の変態犯罪歴を公衆の面前に大公開してる事に変わりは無い。
まぁネット上の一部では立派な変態紳士として讃えて貰えるかもしれないが、彼が失う様々な物を考えるとあまりにも割に合わない。

>『僕は女子のパンツをこよなく愛している!僕の内なるパンツ道にかけて!矜持にかけて!間違っても小汚いオッサンのパンツの柄を言い当てるなど、できない!!』
>『参った。君の勝ちだ、お嬢さん。いま、開放しよう……』

90 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/09(月) 23:32:36.33 0
勝手に演説して勝手に降参しやがった―――――!!
彼は勝負よりも自らの信念を取ったのである。と言えばカッコイイがパンツはパンツだ。
何はともあれ当初の狙いとは違う過程を辿ったものの、結果オーライだ。
かくしてスタンプは解放されたのだが……解放のされ方があまり丁寧ではなかった。
というか投げられた!

>「おおおおおおおおおおおっ!?」

「《ウェイトコントロール》! おいまだ負けを認めないつもりか!」

スタンプに重力制御をかけ、落下の衝撃を和らげる。
悪あがきにしては何か違和感を感じる。ゴーレムの動きが明らかにおかしい。

「いや違う……制御を失ってる!?」

滅茶苦茶に暴れ回り拳を振り下ろすゴーレム。
頭上に迫ってきた拳を横に飛んでかわし、ゴーレムの腕に飛び乗る。
その上を肩の方に向かって走るが、ゴーレムが腕を振り切り遠心力で吹っ飛ばされる。
ぐるぐる回転しながら着地。

意図的に狙ってこないからいいようなものの、動きの予測が付かない分やりにくいったらありゃしない。
コイツを止める方法はただ一つ、パーツ一つずつのemethのeを消していくこと。
頭部は位置が分かりやすかったが、他の部位の文字を見つけ消していくのは至難の業。
いや、方法はもう一つある。魔力を元から断ち切る事だ。
今は先程までとは違って、出場者達は全員避難済みだ。
そもそもゴーレムを通してその背後にいる者とやり取りする事に意味があったのだ。
制御を失ってただの泥人形となったゴーレムに構っている暇はない。

「スタンプ! よろめいた隙に逃げるぞ!」

拳に魔力を集めながら少しばかり助走を付け、地面を蹴り飛ぶ。

「《ディープインパクト》!!」

拳はゴーレムの背中?にクリーンヒットした。
効果のほどを確かめる暇も無く、反動を利用して魔法陣の方へ体を跳ばす。

91 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/15(日) 01:38:19.77 0
【→バルムンテ】

さて、観戦席の男が一人力んで大演説をかます傍ら。
その隣で眼鏡を叩き落された大男は、地面に転がった眼鏡を拾い上げる。

>「……ゲオルグてめー!むかつくことやってんじゃねぇぜ。
  まったく、どいつもこいつもよぉ!」

透視眼鏡は、見たいものをリアルタイムで生中継してくれる有難いアイテムだ。
遠隔透視呪文に始まり、7種類もの魔術がかけられてある。
そのお陰で、まるでTVの画面越しよりもはるかにリアルに、遠くの場所を透視できる。

状況は混沌の一途を極めている。
スパランツァーニが気絶したことで、制御盤はストッパーをなくし暴走。
室内のゴーレムはトチ狂ったように暴れまわっている。
どうにかエルフ女(アイリーン)が結界を張って寄せ付けないようにするのが精一杯のようだ。
眼鏡を一度はずし、競技場を見下ろすと、案の定巨人の土人形も我を失っている。

「どうせ僕なんかどうせ僕なんかどうせ僕なんか」

隣で男は男泣きを続けていた。
「トンでもない性癖を暴露しちゃったけど今後の僕の扱いを考えて同情してくれ」というオーラをひしひしと感じる。
大男はにべもなく無言の威圧を無視した。
そもそもパンツ演説など右から左へと流していた。
大男の関心は、もっぱらある一人の男に向けられていた。

>「俺は強ぇんだ。誰かに助けられるなんてありえねぇんだよっ!」

バルムンテが怒声と共に、満身の力をこめ、手刀を振り下ろす。
大男はその動きを一意専心、注視した。
手刀が制御盤にめりこむ。叩きつけられた力に拮抗し、制御盤がミシミシと音を立てる。
一瞬先に、床に亀裂が生まれた。床が嫌な音を立てる。
制御盤がなおも音を立て、ピシリと亀裂が入った。

キンッ……と、透き通るような音が響いた。

全てが一瞬だった。制御盤は真っ二つに割れ、カランと転がる。
直後、割れた場所から、燦然と輝く黄金のオーラが、霧のように迸り出た。
不定形な霧の群れは、巨人の眼前で渦を巻き、鳥の形をつくる。

荘厳なハクトウワシの姿だ。
金色の一対の目が、まっすぐバルンムテを見た。
何の感情もない瞳をしていた。すると金色の瞳に、一瞬の情景が広がる。
老人だ。ゲオルグに瓜二つの鷲鼻の老人が、金色の霞のワシの目を通して、バルムンテを見ていた。

「な。なんだったんだ、今の……なあバリー、今何か見えなかったか?」

ハクトウワシは意味ありげな表情(バルムンテにはそう見えるだろう)を残し、その形は跡形もなく消え去った。
傍で見ていたゲオルグが、必死に喉の奥から声を絞り出す。
だが直後、嫌な音がいっそう大きくなった。
同時に、「バルムンテさん!」とエルフ女が叫ぶ。今、自分たちがいる場所がどこか、思い出したようだ。

「あの!確かここ(実況室)って、競技場の真上――――!!」

注釈。
実況室はホールの天辺に位置し、要するにホール全体を見渡せる位置にある。
クラブのミラーボールを想像すれば分かりやすいだろう。
球状にぶら下がり、長くゆるやかな廊下ひとつと繋がるドア以外に、部屋から出る場所はない。
長い間修繕ひとつしなかった脆い床をぶち壊して、紐なしバンジーを決行するとなれば、話は別だが。

92 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/15(日) 01:39:20.44 0
「きゃああーーーーーーーーー!?」
「うおおおおーーーーーーーッ!?」

すべてをアイリーンが言い終える直前、バルムンテを中心にして、床が崩れた。
ゴーレム使いを含めた四人とゴーレムが、雨霰のごとく降り注ぐ。
その真下には、特殊なバリケードを張った異世界競技場がある。
さらに一直線に落下し続ければ、外に繋がる魔法陣が陣取っている。
このままでは激突して、ミンチコースまっしぐらだ。

「バリー!アイリーン!」

ゲオルグが声を張り上げ、ナックルをはめた血まみれの右手を振り上げる。
右手から炎が迸る。異世界競技場の外殻を突き破って、魔法陣の中を突っ切るつもりだ。
陣の中に突入すれば、落下する力を全て魔法陣が吸収し、すくなくとも激突死は免れるはずだ。
瞬時にアイリーンも意図を察し、杖を下へと向けた。

「「『フラゴル(爆ぜろ)!!』」」

杖から閃光が迸り、ナックルの炎が外殻を焼く。
だが足りない。外殻に皹は入ったが、割れるには至らなかった。
このまま激突か――二人の顔が青褪め、固く目を瞑った。
悲鳴や絶叫、そして幾つもの破壊音が、ホール中を包んだ。

【→グラン】

話の腰を折るが、時間を数分ほど巻き戻す。
落下するスタンプが、丁度グランの重力魔法によって助けられた瞬間だ。

>「《ウェイトコントロール》!

地面に直撃する、まさに数ミリ地点で、スタンプの体が急停止した。
あと数瞬遅ければ、ミートパイの中身のようになっていただろう。
それを想像して、背筋に嫌な汗が流れた。

>おいまだ負けを認めないつもりか!」

グランが怒りの声をあげるが、答えはない。
この時、男は号泣し続けており、返答どころではなかった。

>「いや違う……制御を失ってる!?」
「バルムンテ達がやってくれたんだろうな。だが……タイミングが最悪すぎる!」

巨大ゴーレムは敷地内をあっちゃこっちゃ引っ掻き回し、見境なく破壊を続ける。
長居は無用だ。逃げなければ。すると、男女の悲鳴が入り混じった声が一際高くなった。

>「スタンプ! よろめいた隙に逃げるぞ!」

グランが助走をつけ走り始めた時、何かが割れる音がし、二人の上に影ができた。
しかもただの影ではない。点ほどの大きさが、徐々に大きくなり、しかも聞きなれた悲鳴が接近してくる。
嗚呼、神様、こんな時に限って!最悪の想像を振り払い、スタンプは魔法陣の淵で構えた。

「やれッ、グラン!!」
>「《ディープインパクト》!!」

グランがゴーレムの背中に拳を叩き込むと同時に、ゴーレムが盛大な音を立てて崩れた。
反動で吹っ飛んでくるグランを待ち構え、スタンプが飛び上がる。
そして、グランを胸板で受け止めると、半ば弾きとばされるように、魔法陣に飛び込んだ。
陣の線がのたうち回り、怪物のようにすべてを飲み込む。
グランも、スタンプも、外殻を突き破って飛び込んできた、巨人たちも。

93 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/15(日) 01:40:42.92 0
【→グラン、バルムンテ】

「……なあ、お前ら。俺をクッションにするのって、もしかして流行ってたりすんのか?」

スタンプは心底、うんざりした声をあげた。
彼は目下、文字通りの意味でバルムンテらの尻に敷かれている真っ最中だ。
魔法陣は無事、彼らを外部に吐き出すことに成功したようである。
全員、まったくもって不思議なことに、かすり傷や打ち身程度の軽傷で済んでいた。

「大丈夫ですか!今救急班を呼びましたので……」
「本部に連絡しろ、球場の補修をしなきゃ!」

スタッフが入れ替わり立ちかわり、この場の混乱を収めるために右往左往している。
全員が立たされ、強制的に本部の救急室に連れ込まれた。
外、つまり観客席の人間たちは興奮しきり、事の詳細を知りたがっている。

救急室に、気絶した例のスパランツァーニ、ゲオルグ、アイリーンが寝かされた。
スタンプは備え付けの椅子を遠慮なく引っ張り出し、どっかり座り込む。

「…………で、何があった?詳しく聞かせてくれ」

ズズッと鼻をすする音がした。
スタンプが振り返ると、二人の治療スタッフらしき男らがいる。
一人は何処にでもいそうな平凡な男で、変ちくりんな色眼鏡とマスクをつけている。
もう一人はバルムンテと同じくらい巨漢の持ち主で、なぜかひび割れた眼鏡をかけていた。

「実況室で何があった?この女(スパランツァーニ)は何モンだ?まさかお前の元カノだなんて言わないでくれよ」

あと、とスタンプは付け加える。

「もうすぐ警察がくるかもしれねえ。その時はお前ら、分かってるよな?」

目を細め、お口はチャックの動作をしてみせる。

「今回のトラブルに関しては一切、知らぬ、存ぜぬを決め込め。シラを切り通すんだ。OK?
 でなきゃ、大運動会の出場停止どころか、器物破損諸々の冤罪で両手が後ろに回る事態にもなりかねないからな」

94 :バルムンテ:2013/12/15(日) 01:41:51.22 0
スタンプを下敷きにしていたバルムンテだが無表情で立ち上がる。

「なんだ、ずいぶんと小汚ねーマットかと思ったらおめぇか」
機嫌は最悪のようだ。

救急室。

スタンプと、ついでにグランにことの経緯を説明。

ゴーレム使いを元カノと茶化された時には青筋ぴきぴきで
殺気だってしまったが詳しく実況室で起きたことを説明をする。
そして小言を一言。

「ゴーレムなんざ所詮は人形だからよ。
怖くねぇんだよ。自律してようが何をしてようが
生身の強い意思ってのがねぇから薄っぺれぇのさ。
同じ1トンの圧力でも単なる石と、意思をもって向かってくる肉塊じゃ
雲泥の差があんだよ」

ゴーレム恐れるに足らずとバルムンテは熱弁。
さらに体験したことを続けて語る。

「でもよ、ありゃちょっとしたホラーだったぜ。
なんせゲオルグそっくりの爺がこっちを見ていたんだからな。
にしてもあのハクトウワシは一体何なんだ?
優れた芸術家は原石に埋まってる魂の形を掘り出して作品にするとか言うが……。
ひょっとしたら黄金の像とゴーレムの制御盤は元々は同じものってことなのか?」

机に座り溜め息。
視線の先にはゲオルグ。
彼はバルムンテに罵声を浴びながらもバルムンテを助けた。
今はお昼寝中の幼児のように呑気に横になっている。
ゆえにバルムンテはやれやれといった顔。

「おい、おめぇの爺さんとハクトウワシにはどんなつながりがあるんだ?
具体的に言やあ、なんで金のハクトウワシなんかおめぇの爺さんはつくったんだよ?」
そう問いかける。

その後スタンプがこう言う。

>「今回のトラブルに関しては一切、知らぬ、存ぜぬを決め込め。
シラを切り通すんだ。OK?
でなきゃ、大運動会の出場停止どころか、器物破損諸々の冤罪で
両手が後ろに回る事態にもなりかねないからな」

「あん?そいつは市民の命が第一のギルドにあらずべからずのセリフじゃねぇの。
まあいいけどよ。うまくゴマかさねぇとな。
あのゴーレム使いと怪盗ファントムのつながりがゼロではないと考えると
これからもかなりやばくなりそうだ……」

95 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/15(日) 16:30:17.44 0
ゴーレムが盛大に倒れる音を聞きながら、スタンプと共に魔法陣に雪崩れ込む。
どさくさに紛れて他の物も雪崩れ込んでくる。
周囲の風景が揺らめき、ワープ魔法陣特有の浮遊感に襲われる。

>「……なあ、お前ら。俺をクッションにするのって、もしかして流行ってたりすんのか?」
>「なんだ、ずいぶんと小汚ねーマットかと思ったらおめぇか」

何故かバルムンテがいた。一緒にスタンプを尻に敷いている。
普通に考えればバルムンテに乗られただけで甚大なダメージを蒙りそうなものだが、
スタンプは自動発動スキル「クッション」でも持っているのかもしれない。
周囲にはアイリーンとゲオルグと見知らぬ女が倒れている。

>「大丈夫ですか!今救急班を呼びましたので……」
>「本部に連絡しろ、球場の補修をしなきゃ!」

あれよあれよという間に救急室に運ばれる。

>「…………で、何があった?詳しく聞かせてくれ」

実況室での出来事を語るバルムンテ。
あちらもゴーレムとの激戦があったらしいが、ゴーレムなど恐れるに足らないと熱弁を振るう。

96 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/15(日) 16:32:16.28 0
>「ゴーレムなんざ所詮は人形だからよ。
怖くねぇんだよ。自律してようが何をしてようが
生身の強い意思ってのがねぇから薄っぺれぇのさ。
同じ1トンの圧力でも単なる石と、意思をもって向かってくる肉塊じゃ
雲泥の差があんだよ」

「……だといいんだけどな」

彼の言う通り、ゴーレムというものは常に人に操作されているか
自律式でもあらかじめ組み込まれた単純な命令に従って動いているに過ぎない。
しかし極稀に高度な思考回路を持つ自律式ゴーレムも存在するという。
それらも意思を持っていないと本当に言い切れるのだろうか。
ベッドに横たわるゴーレム使いの女性を観察する。
前髪の合間から青い宝石がのぞいているのに気付く。

「……!?」

>「でもよ、ありゃちょっとしたホラーだったぜ。
なんせゲオルグそっくりの爺がこっちを見ていたんだからな。
にしてもあのハクトウワシは一体何なんだ?
優れた芸術家は原石に埋まってる魂の形を掘り出して作品にするとか言うが……。
ひょっとしたら黄金の像とゴーレムの制御盤は元々は同じものってことなのか?」

>「今回のトラブルに関しては一切、知らぬ、存ぜぬを決め込め。シラを切り通すんだ。OK?
 でなきゃ、大運動会の出場停止どころか、器物破損諸々の冤罪で両手が後ろに回る事態にもなりかねないからな」

>「あん?そいつは市民の命が第一のギルドにあらずべからずのセリフじゃねぇの。
まあいいけどよ。うまくゴマかさねぇとな。
あのゴーレム使いと怪盗ファントムのつながりがゼロではないと考えると
これからもかなりやばくなりそうだ……」

「ゼロではないというより10中8、9繋がってるとみるべきだろうな。
しかもこの女、人間じゃないかも……。警察が来る前に話を聞ければいいんだけど」

そう小声で言いながら後ろをちらりと見ると、医療スタッフらしき二人組が控えている。
流石に彼らの面前で堂々と尋問というわけにもいかないだろう。
よく見ると眼鏡とマスクで、ありがちな変装みたいな恰好をしている。
もう一人は眼鏡がひびわれてて異様にでかいし……。なんとなく怪しくね!?
試しに話しかけてみる。

「という事なんで何も聞かなかった事にしてくださいね。
ところで眼鏡ひびわれてるけどどうしました? もしかして騒動に巻き込まれた……?」

97 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/21(土) 01:21:50.88 0
スタンプは眉間に皺を寄せたまま、ただ静聴した。
実況室で起こった仔細を逐一、脳内のメモ帳に叩き込む。
バルムンテが熱弁を振るう横で、グランは例のゴーレム使いを観察している。
無意識にスタンプも彼女にならい、スパランツァーニを一瞥した。彼女はまだ、眠っている。

>「……!?」

と、グランの顔色が変わった。
何事だろうか、と何気ない気持ちで彼女の視線を追う。

>「でもよ、ありゃちょっとしたホラーだったぜ。

だが、バルムンテの一言のほうに強い興味をひかれ、そちらに視線を向けた。
故にグランが驚いたその原因、スパランツァーニの額に埋め込まれた青い宝石に気づくことはなかった。

>ひょっとしたら黄金の像とゴーレムの制御盤は元々は同じものってことなのか?」
「……そいつぁ興味深い話だな」

スタンプはテーブルに肘をつき、顎を手で撫でる仕草をする。
彼から聞いた話をすべてまとめ、整理する。
バルムンテによってかち割られた、莫大な魔力を持つ制御盤。
そこから現れた、霞がかった黄金のハクトウワシ。
両目に映っていた、ゲオルグの祖父らしき老人。
その祖父・ラードゥルが創り上げた黄金のハクトウワシ像を、怪盗が狙っている。
ゲオルグが話していた、若きラードゥルのお守り代わりの財産である、像の材料となった金。

>「あん?そいつは市民の命が第一のギルドにあらずべからずのセリフじゃねぇの。
「市民の命が第一なら、尚更今は沈黙しているほうがいいのさ。
 考えてもみろ、この公園にはのべ150万人もの参加者や客がいる。
 ここで明け透けにベラベラ喋ってみろ、話に背びれ尾ひれがついて大混乱が起きるぞ」

バルムンテは、スタンプの忠告にやや突っかかるも、一応は納得してくれたらしい。
グランもまた、警察が到着しないうちにスパランツァーニへの尋問をすべきだと意見する。
二人とも、ゴーレム使いが怪盗ファントムと繋がっているのではないか、という一点では、意見が一致した。

>「という事なんで何も聞かなかった事にしてくださいね。
ところで眼鏡ひびわれてるけどどうしました? もしかして騒動に巻き込まれた……?」

救急隊に先ほどの会話を聞かれたかと懸念して、グランがさりげなさを装い尋ねる。
少女に尋ねられた方の男が、ジロリと三人を睨む。
ゴーレム使いの容体を確かめようと、スタンプがベッドに近寄った、その時。

スパランツァーニが唐突に、パッチリと目を覚ました。
前髪がフワフワと揺れ、額の真っ青な宝石がキラリと輝く。
その時、宝石の奥に、スタンプは確かに「emeth」の文字を見た。

救急室の状況は、瞬きひとつしない内に急変する。
スパランツァーニが懐に手を突っ込む瞬間、アイリーンの瞼が不意に開いた。
ゴーレム使いの細い指が引き抜かれるより早く、エルフの杖の先がその喉笛に突きつけられる。
かと思えば、眼鏡をかけた大男が、体躯に似つかわしくない俊敏さで跳びあがった。
一瞬怯んだスタンプに大男が蹴りを浴びせ、アイリーンに圧し掛かる。

「ストーップ!」

全員がそれぞれのアクションを起こした直後、よく通る声が不気味なまでに室内で反響する。

98 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/21(土) 01:23:05.99 0
大男はアイリーンに圧し掛かったまま。エルフの杖はゴーレム使いの喉笛を突いたまま。
スパランツァーニの杖先は真っ直ぐバルムンテとグランの中間を狙ったまま。
平凡な外見の男が、いつの間にかグランの首筋に杖を当てており、なめるように全員を見回した。
一瞬だけ、場が静寂に包まれた。

「……スパランツァーニ、杖を下ろすんだ。それからユーレニカ、退いてやりなさい。女性に圧し掛かるなんて失礼だろう」

男の声には強制力があった。
ゴーレム使いは杖を下ろし、大男はアイリーンから飛びのく。
アイリーンは咳き込みながら、平凡な外見の男を睨んだ。昏睡した振りをして、機会を窺っていたようだ。
平凡な外見の男はといえば、杖を下ろさぬまま、グランに恭しく一礼した。

「先刻ぶりだね、お嬢さん。話は全て、聞かせてもらっていたよ」

スタンプは横目に、男を睨んだ。この男、間違いなく巨人土人形の声の主だ。
まさか相手から仕掛けてくるとは!接触してきたことは予想外だが、チャンスでもある。
銃を携帯しておけばよかった、と後悔する。手元にあるのは万年筆のみ。武器としては心もとない。

「ま、ま、ま。肩の力を抜きたまえよ。ちょいと軽くお喋りでもしようじゃない」

ニコッ、と男は笑う。唇が少々、歪んではいるが。

「安心してくれていい。警察は来ないだろうし、実況室の件は老朽化が原因による事故ってことで片がつくだろうさ」

何故そんなことが言い切れるのか、と問い詰めようとし、ある直感が働いた。
まさか、とスタンプの顔が引き攣る。その予感は、男の一言で確信に至った。

「本部にいる僕の仲間達が、うまく手配してくれたからね。持つべきは犯罪者仲間ってやつだ」

男は足で椅子を引き寄せ、杖の先端は外さないままに、器用にグランの横に座った。
ユーレニカと呼ばれた大男は、まるで牽制するようにゲオルグのベッドの端に腰掛ける。
長い前髪の間から、バルムンテに視線をぶつけつづけている。

「まず、自己紹介からいこうか。僕はドナテロ、皆からはドンって呼ばれてる。勿論、偽名だけどね。
 ああ、君達には怪盗ファントムって名乗ったほうが分かりやすいかな?」

いとも容易く、男あらためドナテロは、自らが怪盗ファントムであることを明かした。
マスクを外し、色眼鏡をとる。外見はいかにも凡庸で、作られた顔、という印象を受ける。
実際、作っているのだろうなとスタンプは見当をつけた。
こうやって実際に顔をさらすということは、変装をしているか、整形しているかのどちらかとみていい。

「で、こっちはユーレニカ、僕の友達だ。スパランツァーニの方は、彼女が何者か、もう聞いてるね?」
「彼女の言う昔馴染みというのは、貴方のことだったのですね。怪盗ファントム」

アイリーンはドナテロとスパランツァーニを交互に睨みつける。
いかにも、と怪盗ファントムは微笑んでみせた。

「スパランツァーニとはかれこれ20年位の付き合いでね。僕の可愛い妹みたいなもんさ」
「私のほうが50歳くらい年上だけどな」

スパランツァーニはそう反論した。そうだね、とドナテロが相槌を打つ。
怪盗は目を細めて、グランへと視線をうつした。

「君なら察しがついているだろう?彼女が自分と同類だってことを」

99 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/21(土) 01:24:13.57 0
「魔導人形!?」

スタンプは驚愕するが、エルフは無反応だ。アイリーンは唇を歪め、ゴーレム使いを注視している。
アイリーンはスパランツァーニの正体を知っていた。
しかしあえて伏せていたし、口にする必要もないと決め込んで、口にしなかったのだ。

「ま、私はそっちのチビッコドールとはちょいと事情が違っててさ。一緒にしないで欲しいね」

フフン、とスパランツァーニは優越感を滲ませてほくそ笑んだ。

「ま、これを見てみなよ」

彼女は唐突に服を脱ぎ、上半身だけが一糸纏わぬ姿となる。
人間の女性と同じように胸があり、女性らしい体つきをしている。どうみても「女性」だ。

「かつて人間の祖、アダムは土から作られた。
 私のガワやら何やらはフランス物だけど、基盤はイタリアの土と金と父の血で出来ている。
 ……つまり、私は自律する土人間《ゴレマン》さ。
 額の宝石は《瑠璃》だけど、私の体は女性だし、所謂「子作り」だって不可能じゃない。何なら見る?ズボンとパンツのし・た」
「こらっはしたない!そういう下品な発言はやめなさいっていっつも何度も言ってるでしょっ!」

けけけ、と笑うゴーレム使いを、ドナテロは顔を真っ赤にしてたしなめた。
スパランツァーニは惜しげもなく裸体を曝したまま、バルムンテへと振り返る。

「そーいえばさ、さっきから聞こえてたよ。《ゴーレムなんざ怖くない》だって?笑わせるじゃないか。
 私は滅多に怒らないけど、ここまでコケにされちゃ黙ってらんないね。今度はサシで勝負したっていいんだぞ?」
「はいはいストップ。それといい加減、服を着なさい。こっちはそろそろ鼻から血が出そうなんだ」

巨人に密着する勢いで詰め寄るスパランツァーニ。恥じらいの欠片もない。
ユーレニカにどうにか引き戻され、上着を着せられても、まだ鼻息を荒くしている。
オホン、とドナテロが咳払いひとつして、どうにか全員の注目を集めようとする。

「まあ色々積もる話はあるだろうが、兎にも角にも僕らの話を聞いてもらいたい。先人いわく、《時は金なり》だ」
「お前がほしいのは金だろ、怪盗ファントム。今すぐグランから杖を離せ、さもなきゃゴールドの″D″すら発音できなくしてやる」

今にも喉元に噛みつかん勢いでスタンプは捲し立てた。
ドナテロは肩を竦ませ、やや芝居がかった動きで杖をしまう。
怪盗から引き剥がすように、スタンプはグランの肩を引き寄せた。三白眼が怒りで燃えている。

「これで満足かい、ドタコン君?さてどこから話したものか……ああそうだ、僕は君たちの知らない事実を色々と知っている。
 黄金像が莫大な価値があることも知っているし、像を狙っているのは僕らだけじゃないってことも知っている。
 何ならもっと言ってあげようか。あの黄金にまつわる、素晴らしくも恐ろしい話だって、盛りだくさんだ」

淀みないイタリア訛りの英語で、一息に言い切る。
自分がいかに重要な情報をもっているかちらつかせ、再び唇を動かす。

「バルムンテ君、君は先程、貴重な体験をした。君が見たものは《物質の追体験》というものだ。
 不思議なことに、物質にも記憶は宿る。そして時には、他者にその記憶を見せることがある。
 物質が強力なエネルギーと衝突すると、物質の中に閉じ込められた「記憶」が溢れだす。
 君はその一部を体験したわけだ。……黄金が像として象られ、その創造主と対面した記憶を、だ」

即ち、バルムンテが破壊した制御盤には、黄金像の一部が埋め込まれていたということだ。
その時、アイリーンが口を挟む。

「ちょっと待ってください。私の調べでは、黄金像が過去に盗まれたという報告は一件もありません。
 過去の優勝者が、黄金像を誰かに譲ったという報告もです。一体、どこから?」

アイリーンがこの会場に赴いたのは、それをスタンプに報告するためだった。
怪盗の狙いが黄金像ならば、過去の優勝者たちが襲われている可能性もあったからだ。

100 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2013/12/21(土) 01:26:16.75 0
ドナテロは薄い笑みを浮かべ、お金を表すジェスチャーをしてみせた。

「盗んじゃいないさ。そもそも、盗むつもりはなかった。5年前に買ったんだよ」

誰から、と周囲が尋ねるよりも先に、怪盗は答えを提示した。

「親愛なるラードゥロ・ヴァルカンからね」

はぁ!?と素っ頓狂な声をあげざるを得なかった。
5年前といえば、一度怪盗ファントムがヴァルカン家に侵入し、盗みを働こうとした時期と一致する。
ゲオルグの言葉を信じるのであれば、彼の盗みは未遂に終わったはずだ。

「確かに手紙は送り付けた。ただし、あれは盗みの手紙じゃなくて、文字通り『戴きにきた』だけだったのさ」
「でも、ゲオルグは予告状だって……」
「あははっ。それはね、坊っちゃんの勘違いだったのさ。文面と僕の名前を見て、盗みに来たと勘違いしたらしい」

当時を思い出したのか、怪盗は口元を抑えてクスクスと笑う。

「確かに僕自身は泥棒をしていたんだけどね。ラードゥロと僕は商売仲間って奴だったのさ」
「商売仲間?」
「そっ。ちょっと口じゃ言えないような連中からちょいと珍しいものを色々失敬して、お得な価格でラードゥロに売る。
 で、ラードゥロは僕から買った盗品で商品を作る。ついでにお駄賃ももらう。これの繰り返しさ。
 盗まれた側は入手経路が真黒だから警察組織には訴えられない。だから僕は捕まらない。リンチ寸前まで追い詰められたことはあるけど」

なんと、怪盗は盗品をヴァルカン社に売りつけ、ヴァルカン側も盗品であることを承知で受け取っていたらしい。

「ちょいとつけ加えると、僕の顧客はほかにも沢山いる。相手はみーんな有権者とかマフィアの連中。
 要は僕の犯罪履歴をサッとひと拭きで揉み消してくれる連中ってことさ。だから今まで暮らしていけたんだけど…」

まあそれは関係ないね、と話を元に戻す。

「僕は軽い悪戯心であんな名前にしたわけだけど、とにかく僕はラードゥロと取引した。
 僕は黄金像を手に入れて、その一部をスパランツァーニに売ったんだ」
「! なら、5年前のゴーレム騒動は…!」

チッとスパランツァーニが舌打ちした。恥じらいからか、顔がやや赤い。

「スパランツァーニは、お父上殿に似てか些か高慢と自己顕示欲が度を過ぎていてね。
 黄金の魔力がどれほどのものかテストしてみようとして、あの大騒ぎというわけだ」

かくして、スパランツァーニの暴走の一部がこうして暴かれたわけだが。
訝ったアイリーンが、再び口を挟む。

「しかし、何故今さらこんな暴露を、よりによって私たちに?」
「その話は追々だ。ほかにも君たちには知ってもらわなくてはならないことがある」

その上で、とドナテロは足を組んだ。

「僕自身の口から暴露できるのはここまでだ。ここから先は君たち自身が、知りたいという意思を示してくれないとね」

101 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/23(月) 00:52:43.31 0
>「先刻ぶりだね、お嬢さん。話は全て、聞かせてもらっていたよ」

「その声……みんな大好きパンツ博士じゃねーか!」

男の声を聴いた瞬間、杖を突きつけられながらもそう突っ込まずにはいられなかった。

>「ま、ま、ま。肩の力を抜きたまえよ。ちょいと軽くお喋りでもしようじゃない」
>「安心してくれていい。警察は来ないだろうし、実況室の件は老朽化が原因による事故ってことで片がつくだろうさ」
>「本部にいる僕の仲間達が、うまく手配してくれたからね。持つべきは犯罪者仲間ってやつだ」

伝統ある大運動会の本部がパンツ博士の手中におさめられていたとは世も末である。

>「まず、自己紹介からいこうか。僕はドナテロ、皆からはドンって呼ばれてる。勿論、偽名だけどね。
 ああ、君達には怪盗ファントムって名乗ったほうが分かりやすいかな?」

どうせ偽名ならもう怪盗パンツマンでいいと思うよ! なんかパンツ専門泥棒みたいな名前だな!
パンツへの愛のあまり怪盗になったんだとしてももはや一向に驚かない。
話題はゴーレム使いスパランツァーニの正体に移る。

>「君なら察しがついているだろう?彼女が自分と同類だってことを」
>「ま、私はそっちのチビッコドールとはちょいと事情が違っててさ。一緒にしないで欲しいね」
>「ま、これを見てみなよ」

「何を……!?」

唐突に上半身一糸まとわぬ姿になるスパランツァーニ。
体形を隠す白いローブの下から現れたのは、人間の女性の体そのものだった。
でも額にあるのは紛れも無く魔導人形族の証たる宝石。どういうことだ……?

102 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/23(月) 00:53:47.20 0
>「かつて人間の祖、アダムは土から作られた。
 私のガワやら何やらはフランス物だけど、基盤はイタリアの土と金と父の血で出来ている。
 ……つまり、私は自律する土人間《ゴレマン》さ。
 額の宝石は《瑠璃》だけど、私の体は女性だし、所謂「子作り」だって不可能じゃない。何なら見る?ズボンとパンツのし・た」
「こらっはしたない!そういう下品な発言はやめなさいっていっつも何度も言ってるでしょっ!」

彼女はオレとは全く型の違う新型の魔導人形らしい。
魔導人形でありながら人間と全く同じ体――それはもはや人体錬成と言っていいだろう。
それは古代の偉大な魔術師が幾度となく挑んだがついに辿り着けなかった神の領域だ。

>「まあ色々積もる話はあるだろうが、兎にも角にも僕らの話を聞いてもらいたい。先人いわく、《時は金なり》だ」
>「お前がほしいのは金だろ、怪盗ファントム。今すぐグランから杖を離せ、さもなきゃゴールドの″D″すら発音できなくしてやる」

スタンプが凄んで見せて、ようやく解放される。
パンツ博士ことドナテロとゲオルグの祖父ラードゥロは商売仲間だったこと
5年前の予告状は盗んだのではなく買った時のものだということが明かされる。
しかしラードゥロさんが一所懸命に作ったハクトウワシを分解して他の物の材料にしてしまうとは。
どうやらラードゥロさんの作ったハクトウワシに魔力を宿るわけではなく、材料の黄金自体に魔力があるようだ。

>「しかし、何故今さらこんな暴露を、よりによって私たちに?」
>「その話は追々だ。ほかにも君たちには知ってもらわなくてはならないことがある」
>「僕自身の口から暴露できるのはここまでだ。ここから先は君たち自身が、知りたいという意思を示してくれないとね」

情報を暴露する事自体に何らかの意図があるようだが、今そこを問い詰めても埒があかないだろう。
ならば相手の提案に乗ってやる事にしよう。

「ハクトウワシの材料に使われている金に魔力があるってことか。
ラードゥロさんがイタリアから持って来たんだっけ。普通の金と何が違うんだ?」

103 :グラン ◆lgEa064j4g :2013/12/24(火) 23:40:31.59 0
「そうだな、君は錬金術というものを知っているかい?」

「学校では大昔の原始科学として習うけど」

「その通り、危険すぎるとして歴史の表舞台からは姿を消した。
だがその系譜は今も脈々と受け継がれているのだよ。
等価交換を基本原則とした科学的な手法を使った魔法体系と思って貰えばいい。
しかし一説には科学とも魔術とも異なる体系とも言われているね」

これだけならただのトンデモオカルト話だが、金の話題でこれを出してきたという事実が意味する事は一つ。
にわかには信じがたい話であるが、魔法っぽいもので作られた金なら魔力が宿っていても不思議はない。

「人類は金の錬成に成功していたというのか!?」

「ああ、まさしくラードゥロの金は彼らによって錬成されたものだ」

それをお守り代わりに持って来ちゃったらしい。そりゃ確かにご利益がありそうだ。

「驚くのはまだ早いよ。錬金術には様々な流派があってね、金の錬成だけではない。例えば生命の創造――」

そう言ってスパランツァーニの方を見やるドナテロ。

「さっき基盤がイタリアの金だって……そういうことか!」

ハクトウワシの成れの果ての操作盤を使った際に制御しきれずにゴーレムが暴走したのは、
同じ材料で出来ている故に制御しきれなくなるほどの高い感応性を示したと言う事だろう。

104 :バルムンテ:2014/01/05(日) 14:01:42.99 0
グランが話しかけた眼鏡男、それは怪盗ファントムだった。
彼等はスタンプたちに危害を加えグランを杖で威圧。
その横暴さにバルムンテの戦闘本能に火がついたのだが
スタンプが凄むとファントムはあっさり杖を引く。

「おいおい。なんなんだよテメーら。やんのかやんねぇのか?
余裕ぶっこいて上から目線で物言ってんじゃねぇぞ。
大乱闘始めて今すぐ白黒つけてやってもいいんだぜ!?」
挑発するバルムンテ。
巨人はファントムのかわすような態度が気にくわなかったのだろう。
だからと言って易々と挑発に乗る相手にも思われない。

そして明かされるスパランツァーニの正体。

>「ま、私はそっちのチビッコドールとはちょいと事情が違っててさ。一緒にしないで欲しいね」

「あぁ!?」
バルムンテは今になって二人が人形なのだと理解した。
物事に対して自分より強いか弱いかくらいの価値観しかない男がバルムンテなのだ。
その後スパランツァーニはあられもない姿でバルムンテに食ってかかるも
またもやドナテロに制止され怪盗の話は続く。



バルムンテは錬金術のことを聞き剣呑な顔。

「んじゃあ俺らが優勝したあとその黄金像はお前らに売るわ。
色々な奴が狙ってるものなんて怖くてジムに置いてけねぇしよ」
果たしてその金が、法律的に売買してよい物かは別として、
バルムンテはポリポリと頬をかく。
黄金の像が欲しいのなら他へ当たれと言っても
ここにしかないのだろうから彼等はここにいるのだろう。
ゴレマンを造れる者はいても錬金できる者は現存しない。
もしくはそう簡単に一般に流出するしろものでもないのかも知れない。
実際、目の前に二人のゴレマンが存在していたとしてもだ。

「なあ、よくわかんねぇんだけど、何がどう違うんだオメーらって。
いや、形とかそんなんじゃなくってよ。
オメーも錬金術で出来てんのかグラン?
つーか人造人間みてぇなものって勝手に造ってもいいのかよ?
倫理に反したりしねーの?ギルド的にもよ」
バルムンテはグランの頭を鷲掴みにして問いかける。
この小さな者を人形と思えば哀れみも感じる。

「それとファントム。オメーがゲオルグの爺から買った金は何に使った?
わざわざ大金はたいてガラクタゴーレムでも作ったか?
ちげーよな。希少な錬金で人間作る意味も俺にはわかんねぇ。
人間なんて何十億もいるしよ。
そこに何らかの特別な理由でもねぇ限りなぁ……」
バルムンテは静かに怪盗を見つめている。

105 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/12(日) 00:39:59.51 0
>「そうだな、君は錬金術というものを知っているかい?」

グランの問いをきっかけにして、怪盗は「錬金術」について語り始める。
いわく、ラードゥロが持ち出した金は錬金術により練成されたものだというのだ。
一連の会話を聞き終え、バルムンテは険しい表情で口を開いた。

>「んじゃあ俺らが優勝したあとその黄金像はお前らに売るわ。
 色々な奴が狙ってるものなんて怖くてジムに置いてけねぇしよ」

「はっはっは、『俺らが優勝した後で』ときたか。まあ、その時はイロをたっぷりつけるとしようか」

怪盗は探り伺うようにユーレニカを一瞥した。
先ほどから一言も言葉を発さないどころか、その視線はバルムンテに釘付けだ。
話題は意思ある人形たちへとうつる。

>「なあ、よくわかんねぇんだけど、何がどう違うんだオメーらって。
(中略)
倫理に反したりしねーの?ギルド的にもよ」

スタンプは一瞬眉を顰め、アイリーンに目配せした。
意外すぎる形でグランの正体が露見してしまったが、今の時点で問題はあるまいと判断する。

「……魔法を使用しての生命の創造は一般的には認められてねえ。国の許可が必要だ(※)
 一方で、魔導人形族は一応「文明的亜人種族」として認められている。だから生命倫理には反しちゃいねえ」

魔導人形族には幾つか種類がある。
魔術師の手によって製造されるもの、魔術的手段で生殖するもの。
グランが創られたものか自然に生まれ落ちたものかさておき、ギルド的にはOKということだ。
バルムンテの発言に、スパランツァーニがキーキーと声を荒げる。

「だーからさぁー、ソイツと一緒にすんじゃないわよ !
私はねえ、失われた技術(ロストテクノロジー)から発展した高尚な魔導技術によって生まれた土人間!
そこらの量産型といっしょくたにされちゃ適わないっつーの!
ほら触ってみなさいよ私のおっぱい柔らかいでしょパインポインでしょ!?ナインペタンの洗濯板とじゃ訳が違うわよ!」

「なぜ触らせたがる!?ここはお触りパブじゃありません!!」

騒動は省略。
落ち着いたところで、バルムンテが再び質問する。

>「それとファントム。オメーがゲオルグの爺から買った金は何に使った?
(中略)
そこに何らかの特別な理由でもねぇ限りなぁ……」

「ほう、そこを知りたがるか。けど生憎、それには答えられないな」

「どういうことです?」

すかさずアイリーンが口を挟む。怪盗は苦笑いを浮かべると、メガネを押し上げた。

「そもそも僕は使っちゃいない。彼から買った後、別の相手にもっと高値で売ったのさ」

106 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/12(日) 00:41:12.42 0
ついでに言うと、と怪盗は付け足す。

「今回の怪盗騒動、発端を作ったのは僕じゃない」

「何!?」

「犯行予告をはじめに――大運動会実行委員会に送りつけたのは僕じゃない、別の誰かだ。
理由は知らんが心当たりはある、が誰にせよ僕の名を騙った罪は重い。見つけ出して「お仕置きしてやるつもりだ。
坊ちゃんのアジトのトラップも、ミミック以外は別の誰かが仕込んだものだ。腹立たしいね」

怪盗の目が静かな怒りに燃えている。
想像以上に、黄金のハクトウワシ像は色んな連中に狙われているらしい。

「君たちも気をつけるんだな。僕の名を使ったということは、裏稼業の人間かもしれない。
 今こうしている間にも像を盗もうとしているのかもしれないし、別の目的もあるのやも分からん」

「ほー。で、お前はわざわざそれを言いにくるために来たのか?あんな騒ぎまで起こしやがって」

「分かりやすい敵を作り出したまでさ。ああも派手に動けば、別の連中もこちらに警戒せざるをえまい。
 要するに僕らは陽動。その隙に別の仲間が本当の敵を炙り出すだろうさ」

つまり、あの大玉転がしの騒動は茶番だということらしい。
いかにもな「不届き者」が立ち回れば、「別の怪盗ファントム」もその正体を気取るだろう。

「お前たちの陽動を、逆に利用されるってことは考えなかったのか?」

「勿論、想定内さ。委員会が警察に泣きつけず、ギルドが出張ってくることもね。
 仲間には既に対策を言い渡してある。君らに接触したのは……ま、ぶっちゃけ取引だ」

主としてはそこの彼にね、と怪盗はバルムンテへと視線を向けた。
怪盗は二つのブレスレットを卓上に置き、バルムンテとグランに見せた。

「午前の点取り合戦は終了した。君らのチームは大玉転がしでビリッケツ、10点を失い僅差で最下位に転落。
 これって実はピンチじゃないの?そおーんな君たちに朗報です!」

テレホンショッピングさながらのノリで、怪盗が身を乗り出す。

「午後から行われるのは個人戦による点取り合戦だ。午前と違いお互いの持ち点を賭けて戦うことがルールだ。
 トーナメント式で行われ、大抵は同意書を書かされるくらいの危険度の高いものばかりだ」

「……お前たち、あんだけ騒動を起こしておいて、運動会が続行されると思うか?」

「ところがどっこい、するんだなーこれが」

そう、委員会の中には怪盗の仲間も紛れている。
イベントを続行させることなど、彼らにかかれば無理ではないらしい。
その組織力の高さ、規模の大きさを伺わせる。

「僕らのチームは現在、繰上げで1位。君らとは20点の差がある。
 そこでだ。僕らのことを黙秘し、尚且つこっちの出す条件を幾つか呑んでくれれば。
 ……僕らの点をごっそり君らにやろう。それに、面白いおまけもくれちゃって良い」

つまり、八百長を持ちかけてきたのだ。
スタンプも身を乗り出し、額と額を突き合わせるくらいの距離で見据える。

「条件は何だ」

107 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/12(日) 00:46:37.59 0
【このレスは>>106の前に入ります】

「売っただと?」

「そうさ。別の目的で使う理由があったんだけど、買い手と利害が一致したからね。
 けど今回の『仕事』とは何の関係もない。買い手の情報だとかは聞き出すだけ無駄だよ」

怪盗は指でばってんを作り、黙秘を示す。この話に関しては触れないほうがよさそうだ。
スタンプは先ほどから引っかかっていた疑問をふることにした。

「お前、あの金は錬金術で創られたっていってたよな?
だがゲオルグは、ラードゥロが鉱山から採掘したといっている。この矛盾はどう説明する?」

そう、ハクトウワシ像にまつわる話で、ゲオルグは確かに言ったのだ。
「ラードゥロは金をイタリアで採掘し、合衆国に持ち出した」のだと。

「どちらにも偽りはないよ。金は確かに錬金術で生み出され、そしてラードゥロが鉱山の中で発見した」

怪盗は肩をすくめる。

「何も難しい話じゃない。金を練成したどっかの誰かさんが、鉱山に巧妙に隠した。
 それをラードゥロが偶々見つけて、持ち出してしまった。シンプルだろう?」

問題はその「どっかの誰かさん」だ。
原則として、国に無断で金を製造することは法律で禁止されている。
何時の時代に創られたにせよ、このことが露見すれば大問題だ。

「実を言うと、今回の仕事もその「どっかの誰かさん」が絡んでるんだよね。
 自分で創った金が表の世界で出回ってるって聞いて、そりゃもう焦ってる。
 だから、残りをすぐ回収しろって依頼されたのさ」

108 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/12(日) 00:47:43.66 0
「まず一つ、本物の黄金のハクトウワシ像は僕らに譲渡し、一切を黙秘してほしい。金ははずもう。
 次に一つ、このブレスレットを装備した上で、「偽ファントム」の候補者と相手してほしい。理由は後でする。
 最後に一つ、バルムンテ君……僕らのチームと試合するにあたって、ユーレニカと戦ってほしい」

「こっちのメリットはどうなる?」

「僕は仮にも裏稼業の人間だ、ギルドが追ってる犯罪組織の情報のふたつやみっつくらい握っている。
 どうだ、ただ僕らをノシて捕まえるよか、よっぽど良いと思わないかい?」

【取引しませんか?】

109 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/01/12(日) 23:37:18.49 0
>「なあ、よくわかんねぇんだけど、何がどう違うんだオメーらって。
いや、形とかそんなんじゃなくってよ。
オメーも錬金術で出来てんのかグラン?
つーか人造人間みてぇなものって勝手に造ってもいいのかよ?
倫理に反したりしねーの?ギルド的にもよ」

「おいちょっと落ち着けよ、ちゃんと市役所に住民登録もしてあるっつーの」

頭を鷲掴みにするバルムンテに気圧されながらどう言った物かと思案する。
魔法に対する抵抗感は、当然魔法で作られた物にも及ぶのだ。

>「……魔法を使用しての生命の創造は一般的には認められてねえ。国の許可が必要だ
 一方で、魔導人形族は一応「文明的亜人種族」として認められている。だから生命倫理には反しちゃいねえ」

魔導人形族は古代に人間達の下僕として作られたのが始まりとされている。
追加生産の手間すらも省くために魔術的な生殖能力を持たせたのが、皮肉にも後の世で亜人種族として認められる決め手になったという。
魔術師の手によって作られた者は”オリジン”、魔導人形族同士の”親”によって作られた者は”サクセサー”と呼ばれる。
オレがどっちかは自分でも分からない。いわゆる素性不明である。物心ついたときには前職である劇団に所属していた。
これまた素性不明の団長に聞いても、貰い手の無い人形を拾った以上の事は言わなかった。

>「だーからさぁー、ソイツと一緒にすんじゃないわよ !
私はねえ、失われた技術(ロストテクノロジー)から発展した高尚な魔導技術によって生まれた土人間!
そこらの量産型といっしょくたにされちゃ適わないっつーの!
ほら触ってみなさいよ私のおっぱい柔らかいでしょパインポインでしょ!?ナインペタンの洗濯板とじゃ訳が違うわよ!」

「何故におっぱいアピールしたがる! ……折角なのでちょっと触らせてもらってもいいですか」

彼女を作った技術が如何ほどのものなのか、純粋に興味が沸いてきたのだった。
怪盗ファントムはパンツ博士だが、スパランツァーニを作った錬金術師はおっぱいにこだわりがあったのだろうか。

「――結構なお手前で御座います」

――素晴らしいおっぱい技術であった。

「相手して触らなくていいから!」

110 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/01/12(日) 23:40:19.38 0
話を本題へ戻そう。
怪盗ファントムによると最初に実行本部に犯行予告を送りつけたのは偽物。
怪盗ファントムは怪盗ファントムでハクトウワシを狙っていて、錬金術によって金を作ってしまった人からの回収するようにとの依頼らしい。
そして、それに協力してほしいと取引を持ちかけてきた。

>「まず一つ、本物の黄金のハクトウワシ像は僕らに譲渡し、一切を黙秘してほしい。金ははずもう。
 次に一つ、このブレスレットを装備した上で、「偽ファントム」の候補者と相手してほしい。理由は後でする。
 最後に一つ、バルムンテ君……僕らのチームと試合するにあたって、ユーレニカと戦ってほしい」

黄金のハクトウワシ像の譲渡については何ら問題は無い。
元々本気で黄金のハクトウワシを狙っているわけでもないし
バルムンテの言うように、そんな曰く付きの物を手に入れたとしても物騒でおちおち持っていられない。
ただそれ以前に、一応こいつらも泥棒一味だからギルドとしては捕まえなきゃいけない立場なのだが……。
そこをすかさずスタンプが質問する。

>「こっちのメリットはどうなる?」

>「僕は仮にも裏稼業の人間だ、ギルドが追ってる犯罪組織の情報のふたつやみっつくらい握っている。
 どうだ、ただ僕らをノシて捕まえるよか、よっぽど良いと思わないかい?」

ぶっちゃけこいつら放置したところで善良な市民に大した害はなさそうである。
狙われるのは悪人だけだし、そもそもパンツ博士とおっぱい魔導人形とそのツッコミ役の漫才トリオだし……。
それならもっと凶悪な犯罪組織の情報を貰った方がいいというのも一理ある。
それによく考えると、今回のギルドからの依頼は”大会本部に犯行予告を送ってきた奴への警戒”だ。
つまりギルドとして対峙するべき敵は偽ファントム。そこにおいてこいつらと目的は一致している。
その上、大会本部を手中に収めている上に偽ファントムの見当はすでにつけているというのだ。
手を組めば大幅に任務達成率は上がる。ここはとりあえず乗ってみるのがいいだろう。

「いいよ、偽ファントムと戦ってやるよ……!」

ドナテロの言う事が本当なら、スタンプは偽ファントムのせいであらぬ疑いをかけられたりインディ・ジョーンズみたいなトラップで死にかけたりしたのである。
いやさっきのゴーレムバトルでも十分死にかけたけどそれも元はといえば、ねえ。
罪深き偽物に鉄・拳・制・裁をくらわせてやらねばなるまい。

111 :バルムンテ:2014/01/16(木) 21:15:37.58 0
グラン、スパランツァーニのじゃれあいを遠い目でみたあと、
バルムンテはファントムの話を納得することにした。
嘘か真か、無理に見通そうとしても時間の無駄だろう。
なにより真実は向こうからやってくるという確信がバルムンテにはあった。
それゆえに巨人はファントムの次の言葉を待つ。

>「まず一つ、本物の黄金のハクトウワシ像は僕らに譲渡し、一切を黙秘してほしい。金ははずもう。
次に一つ、このブレスレットを装備した上で、「偽ファントム」の候補者と相手してほしい。理由は後でする。
最後に一つ、バルムンテ君……僕らのチームと試合するにあたって、ユーレニカと戦ってほしい」

「ああ、いいぜ。別に断る理由はねぇ。
お手柔らかにな、ユーレニカちゃん」
それは何があっても自分は勝つという自信からの発言。

>「いいよ、偽ファントムと戦ってやるよ……!」
どうやらグランも乗り気のようだ。
ゆえにバルムンテは先ほど彼を人形と哀れに思ったことは取り消すことにした。
彼等を哀れに思うことがあるのならそれは人形は弱いということだけと再認識する。

112 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/20(月) 00:37:52.19 0
【????】

――大運動会会場、北ドーム地下5階。
幾つもの堅牢なセキュリティを抜けた大広間に、それはある。
スポットライトを浴び、黄金色に輝く「黄金のハクトウワシ像」。
魔力を帯びた金には擬似生命が宿り、金のハクトウワシは毛づくろいをしている。

「ふうぅーん、ワシってだけあって、鳥にしちゃイッケメンじゃなーい?」
「姉さん、見とれてないで仕事してよ」

――しかしこの姉妹の手にかかれば、何重にかけられたセキュリティもどうということはない。
二人の名はビスチェとテディ。「鍵破り屋」だ。
姉妹は特殊な異能を持ち、その能力をいかして、今まで多くのセキリュティシステムを破った経歴がある。
この二人もまた、怪盗ファントムの協力者だ。

彼女らの仕事は、像を失敬しにくるかもしれない偽ファントム(仮称)の待ち伏せ。
地味だが、今回の任務内容としては重要な仕事だ。

「アタシとしちゃ、サオのない相手よりアッチの立派な男たちとドンパチしたかったんだけどナー」
「姉さんのドンパチはどうせベッドの上でしょ。既婚者の癖にとんだビッチだわ……ダンナが可哀想」
「良ーのよ、アタシの浮気癖はダーリンだって知ってるし」

こうして大声で過激なエロトークをしていても、警備員たちは全く気づいた様子はない。
先程、ドナテロが熱心にパンツを語っていたときと同じ状況だ。

「でさ、テディ。今回ぶっちゃけ、相手はどんな奴だと思う?」
「さてねー。ドンが心当たりあるって言ってたし、私たちみたいな連中ってことかしら」

この姉妹とて例外なく、今回の顛末を知っている。
ドナテロが便宜上「怪盗ファントム」を名乗ったことがあるが、表の世界で知られたことはない。
怪盗ファントムを知る者は、同じく裏の世界に顔がきくものだろう。

「ドンってあの性格と仕事のせいで結構恨み買ってるし、私怨かもね。
 案外アタシら、偽者にハメられてるのかもな!ハメるだけに。……あれ、テディ?」

刹那、視界を白い煙幕が包む。ビスティが気取るより早く、周囲の状況は一変していた。
隣にいた筈の妹が消失し、先程まで大量にいた警備員やSPもいない。
この変化を「危険」と見なしたビスティは、直感的に出口へ向かって走り出す。
だが、苦心して作った侵入ゲートは固く閉ざされ、開く気配を見せない。

「やっべー、マジでハメられたんじゃね……!?」

笑顔を引きつらせるビスティ。その背後から、足音が聞こえてくる。
咄嗟に姿を「消し」たものの、足音はまっすぐビスティの方へ向かってくる。
煙幕の向こう側から、男の声が聞こえてきた。

「君がドナテロの使いか。待っていたよ」
「……!(野郎、ハナっから先読みしてましたってか!?)」

煙幕に人型の影が映り、その足が煙を裂いた。
その人物を目の当たりにした刹那、ビスティの表情が驚きに歪む。

「――! アンタ、何で――!?」

113 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/20(月) 00:40:24.28 0
>「ああ、いいぜ。別に断る理由はねぇ。 お手柔らかにな、ユーレニカちゃん」
>「いいよ、偽ファントムと戦ってやるよ……!」

ドナテロから出された提案に、グランとバルムンテの二人が乗った。
ユーレニカは表情ひとつ変えず、まっすぐにバルムンテを見返した。
だがスタンプは無言を貫き、表情は渋いままだ。

「さて、色よい返事ももらえたところで説明に移ろう」

敢えてドナテロはスタンプに何も声をかけず、二人に向き直る。
赤と金に彩られたブレスレットが、キラリと輝く。

「まず、このブレスレットは君らの護身用、兼《偽ファントム発見器》のようなものだ。
 君たちの身に何かあったとき、このブレスレットが守ってくれる」

「発見器?そういえば、貴方は誰が犯人か、見当がついてるって言ってましたよね」

アイリーンが訝るようにテーブルの上を覗き見る。
彼の言葉が正しければ、このブレスレットは偽ファントムを見つける何かが埋め込まれている。

「その通り。だが相手は身を隠すことに関しては相当の手練でね、僕でも中々捕まえられない。
 だが、苦労の甲斐あってソイツの霊波の抽出に成功したんだ」

ドナテロいわく、偽ファントムが帯びる魔力の波を捉える術式が施されているようである。
もし偽ファントムと接触したり、気配を感じ取ることがあれば、ブレスレットが教えてくれるという寸法だ。

「だが、その偽ファントムがこの会場に来るって保証はないだろう」
「いいや、来る。僕は奴の性格をよく知っている。何せ、顔見知り……いや、奴に顔はなかったな」

怪盗は失笑し、二つのブレスレットを取り上げる。

「奴の顔は誰も知らない。だが奴の名前なら知る人ぞ知る。
 ある時は無敗の弁護士、或いは無名の錬金術師、またある時は人を狂わせる行商人」

両手にブレスレットを一つずつ握り、「トレ、ドゥーエ、ウーノ」と唱える。
ぱっと両手を翻した時、それぞれのブレスレットはグランとバルムンテの手首にはまっていた。

「奴の名は――怪人【コッペリウス】」

一瞬だけ、シン――、と妙な静けさが室内を支配する。
不意に初めて、ユーレニカが口を開いた。

「おい、ドン。午後の試合まであと30分もないぞ」
「なんだって、もうそんな時間か。会場まで車で10分もかかるってのに」

怪盗は慌ただしく立ち上がり、急いで車の手配をするようにと念話を飛ばす。
ユーレニカは巨人と向かい合い、改めて凝視する。

「……私はお前の監視役だそうだ。まったくもって喜ばしいことにな」

その時はじめて、ユーレニカは表情を見せる。獰猛な犬歯が見えるほどに、ニタアッと笑った。

「お前、あのボルンも簡単にぶっ飛ばしたそうじゃないか。よくもまあ、やってくれたもんだよ。
 ウチの者が奴らを生け捕りにし損なって逃がした時ゃびっくりしたが、まさかまた檻に戻すとはね」

「! お前、まさか赤い水事件の――!?」

114 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/20(月) 00:41:42.82 0
スタンプとアイリーンは驚愕した。
ケルピーが脱走した騒ぎに関する一連の情報は、ある程度規制されていた。
それも、目の前にいる大男が、その騒動に関係しているというのだ!
ユーレニカは見定めるように上から下までバルムンテを見、舌舐めずりする。

「一切合切を知りたけりゃ、私と戦うことだ。好きだろう?強い奴と戦うってのはさ」

その目は明らかに、ご馳走を前にした飢餓状態の狼そのものだ。
束ねた長い黒髪が、風もないのにゆらゆらと揺れている。

「嗚呼、……それにしても良い体つきじゃないか。これであと少し脂肪つけて年を食えば…」

「テメェエ、怪盗ファントムーーーーーーーー!!
「うわあああっ!?」

その時だ。ゲオルグが勢いよく起き上がり、ドナテロに飛びかかった。
怪盗は咄嗟に仰け反って避けたが、その先にはバルムンテとユーレニカがいる!
ブレーキが追い付かず、ゲオルグの右ストレートが飛んでくるが――

「……私好みの男になるかもな」

片手で易々と拳を弾き、ゲオルグの手首をつかむ。
小枝でも投げるようにゲオルグの体をバルムンテに押し付け、笑みを消す。

「糞っ、この泥棒野郎ども!まとめてケシ炭にしてやる――!!」
「やばやばやばやば、誰かこの爆竹っ子なんとかしてー!」
「やめてください、その人は一応敵じゃ……」

寝起きで状況を把握しておらず、ゲオルグは敵を前にして完全に頭に血が上っている。
このままではもう1ラウンド勃発しても不思議ではない。
事態を落ち着かせるためにも、早急にゲオルグを戦闘不能にしなければならない。
そもそも話が進まなくなるので、スタンプも重い腰をあげ、怪盗ファントムを背後に隠す。

「退けオッサン!まとめて焚火にすっぞオラァ!」
「落ち着けっての。このコソドロ親父を薪にくべるのは反対しないが――」「こ、この薄情者!」

おもむろにスタンプは、アイリーンとスパランツァーニの背中に両手をかける。

「……その前に別のモノを燃やすってのはどうだ?」
「……ッ!?!?」

手品のように、女性2人の服がずり下げられ、見事な生乳セットが露わとなった。
目の前の衝撃映像に、ゲオルグは脳の許容量がオーバーし卒倒(怪盗も巻き添えを食らい、鼻血の海に倒れた)。
ドヤ顔で脱がし芸を披露したスタンプには、相応の折檻が加えられたという。

115 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/20(月) 00:42:42.81 0
【移動中―車内にて―】

車内を改造した小型のバスが、怪盗一味と愉快な仲間たちを乗せて会場へ向かう。
ゲオルグは未だノビたまま、スタンプは新たにこさえた傷を手で押さえている。

「競技の内容は、午後の試合の前に抽選で行われる。発表は試合開始直前だ」

スパランツァーニとユーレニカに挟まれる形で、ドナテロが座っている。

「とはいえ、ある程度僕らが操作している。バルムンテはユーレニカと上手くはち合うようにね」

先のユーレニカの言動を思い出し、スタンプは妙に心配になった。
が、彼の心配を余所に話は進む。

「コッペリウス本人は僕らに気が付いているに違いない。多分、手下か何かを寄こしてくるだろうな」

窓の外で、大勢の観客や参加者たちが行き交っている。

「奴は罠を仕掛けるのも得意だし、他人の思考や感情を思いのままに操作する能力を持ってる。
 どっかの赤の他人ですら、奴の手先になりうる可能性があるということだ」

逆にいえば、もし操られている他人にブレスレットが反応すれば、近くにコッペリウスがいるという事だ。

「ところで、そのブレスレット。何故俺には寄こさない?」

スタンプが尋ねた途端、怪盗は明らかに馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「僕だって相手を選ぶよ。『今度は俺にその命を預けろ(キリッ』とか言っておきながら、
 あっさり敵の手に落ちるような弱い人にキーポイントを預けるっていうのはちょっと、ね?」

自責の岩がスタンプの頭に次々と落石する。
羞恥やら何やらで悶える姿を見て、多少は不満が解消されたらしい。
空を見ると、飛行船が飛んでいる。

「やあや、我らがイタリアのカリオストロ大統領の飛行船だ」

飛行船は、一行が乗るバスと同じドームを目指している。
大運動会は世界中からアスリートが参加し、各国の首脳も集まるほどの注目度を集めている。

「今年は20ヶ国の大統領が渡米してきている。審査員にはギルドの頭目らが選ばれたそうだ。
 こりゃ、大会の内容的にも派手になりそうだねえ……!」

【そろそろ後半戦です。】

116 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/01/22(水) 00:14:11.32 0
ユーレニカ(一瞬モーホーを疑ったけどよく考えたら女性名だよね)が赤い水事件の関係者だった事が発覚したり
ゲオルグが暴れたりスタンプが素晴らしいマジックを披露したり一悶着あって現在会場へのバスの中。
スタンプはしこたまアイリーンに往復ビンタをされた。ご愁傷様である。
探偵廃業したらマジシャンになれるんじゃね? しかし世知辛い世の中、脱がせ芸一本でやっていくのは厳しそうだ。

>「奴は罠を仕掛けるのも得意だし、他人の思考や感情を思いのままに操作する能力を持ってる。
 どっかの赤の他人ですら、奴の手先になりうる可能性があるということだ」

手首にはブレスレットがはまっている。対峙する敵の名は怪人コッペリウス。
聞く所によるとパンツ博士とは段違いのかなりの強敵だ。
いやパンツ博士も組織力が凄いしパンツ演説で自爆しなけりゃ強いんけど。とにかく思ったより大事になってきた。
そんな中、スタンプがある疑問を発する。

>「ところで、そのブレスレット。何故俺には寄こさない?」

>「僕だって相手を選ぶよ。『今度は俺にその命を預けろ(キリッ』とか言っておきながら、
 あっさり敵の手に落ちるような弱い人にキーポイントを預けるっていうのはちょっと、ね?」

やめたげて! スタンプのHPはもう0よ!
あかん、こいつ公衆の面前でパンツ演説をしちゃうドMのくせにドSや! ドM兼ドSや!

>「やあや、我らがイタリアのカリオストロ大統領の飛行船だ」
>「今年は20ヶ国の大統領が渡米してきている。審査員にはギルドの頭目らが選ばれたそうだ。
 こりゃ、大会の内容的にも派手になりそうだねえ……!」

「ほえええ…」

さすがに“町内会の運動会の派手なやつ”という認識では無理があるようだ。
道理で大怪盗にも狙われるし権謀術数渦巻くわけである。

117 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/01/22(水) 00:16:33.20 0
会場に到着すると、物凄い人ごみで熱気に包まれていた。
午後に行われる競技が掲示されている。

「午後の競技はどんなのがあるかな?」

【ヴァルハラ英雄選抜】(借り物競争人間版)
戦女神ヴァルキリーとなって英雄を集めよう!
指令書で指定された格好をしたスタッフが会場内のどこかにいるぞ! 早く見つけて連れてきた者が勝ちだ!

【北欧世界樹探検】(巨大障害物競走)
世界樹ユグドラシルをモチーフにした巨大アスレチックを踏破せよ!

【世界終末大決戦】(変則玉入れ)
背中のかごに球を入れられない様に逃げながらライバルのかごを目がけて球を投げろ!
終了時にカゴに入っていた玉が少ない者が勝者。

【黄金林檎争奪競争】(バトル?レース)
コース上に隠された黄金のリンゴを集めながらゴールを目指せ!
ライバルから奪い取るのも可! ゴール順位とリンゴ個数で勝者が決まる。

まだ向こうにも掲示してあるようだが見えない。もっとも見た所で出場競技は抽選によって決まるので選べないのだが。
明らかにどつきあい公認してる競技とかあるし、巨大アスレチックなんて何が飛び出すか分かったもんじゃないし……。
何にせよ、午後の競技は随分過激そうである。

118 :バルムンテ:2014/01/25(土) 22:04:22.73 0
車に揺られて何処かに進む恐ろしく濃いメンバーたち。
言うならば花いちもんめをやっていても
誰も「あのこがほしい」と言われないような異形のものたち。
そんなものたちで溢れかえる車内。
バルムンテは眉間にシワを寄せ、真剣にユーレニカのことを気持ち悪いと思っていた。

(歳くって脂肪ってなんだよ)

まさにどんびき。
ちゃん付けして挑発するつもりが
こっちのメンタル駄々下がりの倍返し。
得たいの知れない恐怖が這いよってくる。

そんななか、一行は競技場に到着。
【黄金林檎争奪競争】に参加することになった。

「おいこら、ユーレニカ。てめぇホントに強ぇのか?
失望させんじゃねぇぞ」

スタートラインに立ち並ぶ。

「よーい……」

バンッ!

「まずは正攻法に、林檎探しとゆくかよ」

バルムンテがコース場を進めばキラリと光るものが見えた。
それは高い棒の天辺、
その他は透き通る池の中、巨大な氷の中、
燃え盛る火の中など色々な場所で光っていた。

まず始めに、バルムンテは巨大な氷を持ち上げ火の中へと放り投げる。
すると炎は消化され氷は砕けちり黄金の林檎を2つゲットできた。

「コースも序盤だから難易度も低いみてぇだな」
余裕のバルムンテはリュックサックに林檎を入れると次に棒へ向かう。
棒には選手が何人かへばりついていたが
構わず根本から折ると振り回し、
ついでに池の中の林檎も棒で叩き出す。

「これで4つ。あとはどこだ?」
バルムンテはコースを探索する。

119 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/25(土) 22:08:01.65 0
【幕間、読み飛ばし可】

大運動会メイン会場、東ドームVIP観戦席。
各国大統領や王族、亜人族長などが出入りする特別席である。
当然、SPの人間も多数、席の周辺を守っていることになる。

「あれェ。トトちゃん?」

ある虎獣人の少女の背中を見つけ、銀髪の男が声をかける。
トトは振り返ると、「アッシュ!」と驚いた表情で名を呼んだ。

「一般人がなーにやってるニャ、こんな所で!見つかったらお縄だニャ」
「違うよ、俺はれっきとした警備担当。ほら、IDリング」

VIP観戦席の出入りはすべて、手首に装着したIDリングで管理されている。
即ちそのリングを所持していない限り、誰も近寄れないように設定されている。
トトは何度も疑わしげにリングを確かめ、アッシュを見上げた。

「にしても、よくこんな所に警備を任されたニェ」
「いやあこうみえて俺ってばしばらく真面目に仕事してたからね?実績がものをいうってやつ?」

得意げにあっはっはと笑うアッシュ。
その背後に、無言かつ凄まじい形相でアッシュを睨む男がいる。

「ニャ、フリークマンもニャ?」
「げっフリークマン!いつからそこに!」
「さっきからいましたよ……イボイボ鼻ニキビの呪文を思い出そうとしていた所です」

揃いも揃って、ギルドのメンバーが集うVIP観覧席の廊下。
見れば、観覧席の警備を任された者たちは、誰もが戦いの経験を匂わせている。
ギルドの顔なじみもチラホラ、それに他国のSPの姿も伺える。

「大運動会の警備なんて初めてだけど……こんな物々しいもんなんだな」
「まあ、ちょうど5年前の大運動会の数日前も、物騒な事件が相次ぎましたからね」

ああ、とアッシュは生返事する。何体ものゴーレムが大暴れした騒動のことだろう。
トトも、やれやれとばかりに首を振る。

「今年も今年とて、物騒な事件ばかりだけど、っていうか毎年物騒なこと起きてるけどね。NYは」
「それに今年集まったVIPの中には、純人党出身の大統領だとか、アンチ・デミ派もいるらしいですよ」
「ははぁん。そりゃ、テロのひとつでも起きかねないわな」

純人党とは、数十年前まで存在した、名のとおり純人種のみで結成された党だ。
「亜人は純人によって管理されるべきである」という理念から、亜人と激しく対立していた過去がある。
アンチ・デミなど、名前からしてお察しだ。亜人が名前を耳にしただけで唾を吐く存在である。

「それと……噂ですけど、大運動会の実行委員会に予告状なんてものが送られてきたとか」
「予告状ぉ?それってあれか、『煌く星の夜にあなたの心を奪いにいきます』……みたいな、そういうの?」
「全然違います。泥棒ですよ、ど・ろ・ぼ・う」
「ふぅん。警察にはそんニャ話、全然きてニャいニャ。マユツバものだにゃん」

雑談する三人の横を、リングをはめた一人のVIPらしき男が、SPを連れて通り過ぎる。
三人は一瞬黙り込むと男に頭をさげ、去っていくのを確認しまた口を開く。

「なんにしろ、泥棒かどうかも分からないような奴の相手だけはごめんだな」
「そんな仕事請ける人、よっぽどの暇人でしょうね」
「全くニャ。どうせならテロリストとかの相手のほうが燃えるニャ!」
「いや、それはさすがに勘弁」

120 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/25(土) 22:10:37.29 0
【一般観覧席】


「――ハァックショイ!!」

東ドームVIP観戦席の眼下、ファミリー用一般観戦席にて。
オッサン二人が揃って、豪快にくしゃみをかます。
隣のスパランツァーニは眉を顰めて、二人から離れるように身をよじる。

「やーね、オッサンのクシャミって。ホンット下品」
「あらあら、他人の乳を露出させるのが趣味なんですから、”お上品”に決まってるでしょう」

アイリーンも皮肉を口にしながら、双眼鏡を目に当てた。
【黄金林檎争奪競争】にはバルムンテらが参加しており、その勇姿を目に納めんと探している。
バルムンテは早くも林檎を見つけ、順調に数を集めていく。

「ウワー、人いるのに容赦なくソレへし折るか、ドンダケ怪力なのよ」
「ふふん、バルムンテ氏の剛力はあんなもんじゃありませんよ。あのユーレニカとやらも、敵わないに違いありません」
「それはどうかしらね」

不敵な笑みを向け、スパランツァーニは指を振る。

「ユーレニカの子孫は、何てったって巨人と敵対した、あの戦の神の加護を受けてるのよ?」
「戦の神……?それって……」
「で、そのユーレニカは……っと。いたいた!」

121 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/25(土) 22:12:54.25 0
【競技場内】

競技場内、大樹の一本の枝にて。

「うーん」

ユーレニカは逆さになっていた。
靴は脱ぎ捨て、ファーのついたジャケットとズボンのみだ。(眼鏡は予備の物と替えた)。
リュックサックを担ぎ、蝙蝠のごとく足の指一本で木の枝にぶら下がっている。
ユーレニカの体重に負けて枝はしなりにしなっているが、寸でのところで折れていない。

林檎集めは熾烈を極めているようだ。
なかでもバルムンテの動きは手にとるように分かる(何せやることが派手だ)。
現時点でユーレニカが集めた林檎の数は12ほど。

「(金だから匂いで丸分かりなんだよな)」

ユーレニカは能力の特性上、匂いの強いものに敏感だ。林檎の位置など目を瞑っていても分かる。
つまらなさから溜息を漏らす。集めるだけならさして面白くもない。
くいっと上を見上げて、得点表を見た。

会場の外から、競技場からでも見えるように林檎の数と得点表が表示されている。
それぞれ誰がいくつの林檎をとったか、賭けの点数はいくらかと記されている。
だがこの後、参加者は林檎を集める中で気づくはずだ。

「(林檎の数には限りがある。そうなると起こるのは当然【林檎の奪い合い】)」

わざと少なめに林檎を収穫し、それを理由にバルムンテとの戦闘にこぎつける気でいた。
失望させるな、というバルムンテの言葉を思い出し、一人笑う。

「(こっちの台詞だぞ、バルムンテ……お手並み拝見といこうじゃない……)」

べきり、と枝の折れる音がする。

「か?」

ユーレニカの重みに耐え切れず、ついに枝がへし折れたのだ。
咄嗟に一回転し、弧を描いて華麗に飛び降りる。だが降りた位置がまずかった。

「あっ」

バルムンテが何個目かの林檎を獲得したその瞬間、まさにユーレニカが降ってきたように見えるだろう。
偶然にもユーレニカは、バルムンテが手にした「林檎の真上」に着地したのだ。
その重さは外見とは全く異なり、羽が落ちてきたかのような感覚に陥るかもしれない。
だが次の瞬間には、見た目と伴った重量が手にかかる。

「……っと!」

ユーレニカは蛇のようなしなやかな動きで飛び降りた。
バルムンテがユーレニカに攻撃を仕掛けるならば、そのしなやかな動きで大抵の攻撃をかわす。
それでも拳なり蹴りなりが直撃するならば、太い腕をクロスさせて防御に移るだろう。

122 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/01/25(土) 22:15:19.42 0
「何だあいつ。曲芸師みたいだな」

ギョッとしつつも、ゲオルグがぼやいた。
完全に忘れられているが、ゲオルグも一応運動会の参加者である。
ゲオルグが回収した林檎は6つ。他にも舎弟が1人参加し、こちらは2つ目を見つけたばかりだ。

「手を貸さないんスか?」
「いや……止められてっからな。下手に手を出したら何されっか分からねえ」

もう一度目を覚ました後、ゲオルグには全く別の説明がなされた。
起きた直後、ゲオルグは錯乱してドナテロ達を怪盗と思い襲い掛かったが、それは濡れ衣。
ドナテロらは怪盗を釣るために囮捜査をしているギルドのメンバーだということを伝えられている。

何せ事態がややこしいだけに、本当のことは知らされていない。
「余計な口を挟まない、知ろうとしない」「バルムンテとユーレニカの戦いには手を出さない」
この約束を守る代わりに、ようやく解放されたのだから。

「今はバリーが勝つって信じるしかあるめえよ」
「そ、そうっすか」

どすどすと先へ進むゲオルグの背を見ながら、この人も変わったなあとしみじみ痛感する。
以前は我儘で唯我独尊、気に食わなければ魔法で一撃、と無茶苦茶な性格だった。
なのに今では、異種族を友とし、我慢することも覚えた。

「(兄貴は何より強いもんが好きだもんな。あのバリーって人を慕う気持ち、何となく分かる気がする)」
「おっグランのちびっ子じゃねーか。もうこの辺りは林檎ねーからな、お前の分よこせ!」

当の本人は、林檎集めを諦めて略奪へとシフトチェンジしたようだ。
一部の魔術師には魔法耐性が存在するのは周知の通り。
だが訓練すれば、その魔法耐性を極めることもまた可能である。

グランが身のこなしの軽さであれば、ゲオルグの魔法耐性は火に関するもの。
しかも今回使われている林檎は、金属で出来ているのである。

「お前が嫌がっても、そのうち自分から貰ってくださいって言うようになるぜ?」

ゲオルグが自信たっぷりに笑う。その理由はすぐに解明されるだろう。
アトラクションの炎に勢いが増し、氷は解け始め、水が湯に変わり、木は枯れる。
これらの現象が示す彼の魔法耐性――つまり、熱の操作だ。

「はっはっはー!ほれ見ろ、リュックサックが燃えちまうぜ!?」

金属の林檎も熱を持ち、ジュウジュウと音を立て始める。
だが彼はすっかり忘れていた。この条件には自分たちも組み込まれているのだ!

「あ”−−っぢゃぢゃぢゃーー!!アニキ、熱操作とめて!燃える、燃えちゃいますって!!」
「えっ、あーー!!俺のリュック燃えてやがる!やいテメエのせいだぞグラン、どうにかしろ!!」

123 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/01/28(火) 21:07:29.67 0
オレとバルムンテは黄金林檎争奪競争に参加する事になった。
この競技はオレにとってはしめた物だ。
何故なら……

「よっと」

大ジャンプし、頭上高くにあるリンゴを取ってリュックに入れる。
リュックにはすでに並々とリンゴが入っているが、薄く重力操作をかけているのであまり重くならない。
かの偉大な科学者はリンゴが木から落ちる様子を見て重力を発見したというのはあまり関係ないが
この競技はオレの能力と相性がいいのだ。
ところで、この競技は魔法を使っての他人の妨害は禁止となっているのだが、ここに一つからくりがある。
一般人が魔法と聞いてイメージするような“云々かんぬんなんたらかんたら派ァ――ッ!”
っていうのがいわゆる狭義の魔法。
今回の競技で禁止されている魔法もそちらの意味だ。
裏を返せば、魔術師連中が持つ魔法耐性に代表されるような自動発動スキルは禁止の対象外なのだ。
自動発動スキルは物によっては意識せずに常時発動するため
そこまで禁止すると魔法使いが全員参加できなくなってしまうので認容されたというのが経緯らしい。
パンツ博士の予想によると、こちらが何もしなくても敵さんが手下か何かを仕掛けてくるそうなのだが……。

>「おっグランのちびっ子じゃねーか。もうこの辺りは林檎ねーからな、お前の分よこせ!」

現れたのは舎弟を一人従えたゲオルグでした!
よこせという位なのであまりはかどってはいない模様。
それもそのはず、攻撃特化の爆発系能力は使い道はないだろう。
魔法を使っての妨害行為は禁止されている……はずだ。

124 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/01/28(火) 21:08:38.24 0
>「お前が嫌がっても、そのうち自分から貰ってくださいって言うようになるぜ?」

アトラクションの炎が燃え盛り、木が枯れていく。炎魔法か……!

「おいっ、失格になるぞ! ……いや違う?」

一瞬魔法を使ったように思ったが違う。ゲオルグは一切の詠唱や発動動作をしていない!
これなら確かにルールに抵触はしていない。
少し暖かくしたり涼しくして周囲の環境を快適にする程度の熱操作なら炎使いにはよくあるがここまで極めたとは……!

>「はっはっはー!ほれ見ろ、リュックサックが燃えちまうぜ!?」

「ぎゃーーーーーっ! カチカチ山のタヌキにする気か!」

慌ててリュックを背中から離して手にぶら下げる。

>「あ”−−っぢゃぢゃぢゃーー!!アニキ、熱操作とめて!燃える、燃えちゃいますって!!」
>「えっ、あーー!!俺のリュック燃えてやがる!やいテメエのせいだぞグラン、どうにかしろ!!」

「お粗末だーーーーー!! 文字通りの意味で頭冷やそう!」

発生源が真っ先に熱くなるのは致し方の無い事で、本人のリュックが真っ先に燃え始めた。
賞賛に値する凄い能力だが、残念ながら※ただし自分は除く という便利機能は付いていなかったらしい。

「ウェイトコントロール!」

近くの池の水に重力操作をかけ、球形に浮かび上がらせて蹴り飛ばす。
尚、思いっきり魔法を使っているがこれは緊急的消火活動なので妨害には当たらない。
ゲオルグに当たった瞬間に弾ける水の球。当然ゲオルグは濡れ鼠になったが火だるまになる事は免れた。
すたこらさっさと走り去ろうとして立ち止まる。
ただでさえいつ敵さんが仕掛けてくるか分からないのに、この調子で油断も隙も無く邪魔されては鬱陶しい事この上ない。
どのみちリュックはいっぱいでこれ以上は大して増やせないし、もし共闘に回ってくれればそれなりに役に立ちそうだ。
ゲオルグの興味を引きそうな台詞を吐く。

「到着順位も加味される以上奪い合って遅くなるよりそこそこで逃げ切った方が有利。
積極的に戦いたがる奴はそういないだろう。でもオレに付いて来れば”奴ら”が仕掛けてくるかもしれない。
もしそうなったらそいつらから奪い取るチャンスがある……かもな」

125 :バルムンテ:2014/01/30(木) 19:19:13.20 0
>「……っと!」
ユーレニカが落ちてきた。

「…!」
バルムンテは女を凝視。
一瞬、ユーレニカに感じる違和。

(なんなんだこいつよぉ。やっぱり気持ち悪ぃぜ)
得体の知れない不安。
果たしておれはこいつに勝てるのか?
敗北の予感を払拭すべく
バルムンテは拳に力をこめる。

「いくぜおらぁ!」
ど迫力の体躯でバルムンテは拳の連打。
続けて踏み込み、その長い足で首を刈るかのような上段蹴り。

だがそれはしなやかな動きでかわされる。

「てんめぇ、なんだそりゃ!?」
ユーレニカの身の軽やかさに驚愕するバルムンテ。
これは武術か、それともグランのような異能か。
出会った時に感じた気持ち悪さの正体はこれだったとバルムンテは思う。
もしかしたら勝てないかも知れない。
見えないユーレニカの底力に
夜の沼に潜む大蛇のような不気味さを感じていたのかも知れない。

「……ちっ、すばしっこい女だぜ。見た目と違ってよ」
バルムンテは苦笑しながら身構える。
防御に撤して林檎を狙うユーレニカの捕獲、
体力の消耗を待つ作戦だった。

「こいよユーレニカ。他のことはもうどうでもいい。
てめぇとはとことんやりやってやるぜ」

126 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/02(日) 00:57:17.03 0
【幕間、読み飛ばし可】

砂男という怪談がある。
夜眠れぬ子供らの枕元に立ち、目玉に砂をかける。
すると目玉は子供らの眼球は飛び出し、砂男に奪われるという。

「ホフマンの『砂男』は知っているかね?」
「ああ……婚約者がいながらも、主人公の青年が人形に恋をするって話か」

ドイツの古典文学作品、E・T・A・ホフマン著『砂男』。
『砂男』の存在を信じる根暗な青年の狂気の物語である。
あらすじはググレカレー。

「あれはコッペリウスが実際にしでかした悪事をモデルにしているんだ」

ドナテロは望遠鏡を覗きこみ、競技場を凝視している。

「そういえば、その奇怪な弁護士がコッペリウスって名前だったな」
「そう。彼はスパランツァーニ教授と共謀し、自動人形を作ろうとした。失敗したがね」

スタンプは隣のスパランツァーニを見た。
ドナテロは視線の意図を察し、首を横に振る。

「いや――彼女は違う。教授は自ら創った人形すべてを「オリンピア」と呼んでいたがね。
彼女は5代目のオリンピアだ。そして最後のオリンピアでもある」

それまでのオリンピアについて聞くべきか。スタンプはしばし迷う。
だが代わりに、違う疑問を口にした。

「あのミミックの仕掛けを仕込んだのはお前らだと言っていたな?何のためだ」
「もしかして根に持ってるのかい?まあいい、別に黙っていろとは言われていないしね」

人差し指をびっとさし、ドナテロは答える。

「ミスター・ヴァルカンからの依頼さ。息子を見張ってくれってね」
「それは…ゲオルグの父親のことか」

ドナテロから語られた真実はこうだ。

ゲオルグは例の挑戦状(ドナテロが差し出した物)を受け取り、像が奪われるのではと危惧した。
しかし父親は既に、万が一の時を考え、よくできた贋作を用意していたのだ。
ゲオルグは贋作を本物の像と思い込み、これをアジトに持ち帰った。
これを知った父親は、ドナテロに経過を監視するよう依頼したのだ。

「坊ちゃん以外とは付き合いがあるもんでね。断るわけにもいかないし」
「ふん。既に父親はコトの全容を知ってましたってか?性格悪い連中だな」
「全て、ではないけどもね。此度の僕らの活動も、ミスター・ヴァルカンの影の援助があってこそだ」

スタンプは忌々しげに怪盗をにらみ、ドーナツに噛り付く。

「あのミミックは僕からのちょっとしたプレゼントさ。まさか倒すとは思わなかったけど」
「とことん性格悪いなお前。こちとら死にかけたんだぞ」
「だけどまあ、僕らは君たちという戦力を、君たちは僕らやコッペリウスと関わるきっかけを得た。物事は何事も順序が必要だ」

もはや巻き込まれたに近いと思うのだが、つっこむだけ無駄だろう。

127 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/02(日) 00:58:36.29 0
一方で、スパランツァーニとアイリーンの会話。

「おー、押してるねユーレニカ。さっすがー」
「ば、バルムンテ氏も負けてませんわ!ほらそこ、右フック!」

先程の剣呑な空気は多少和らぎ、アイリーンは警戒こそしているものの会話している。
利害が一致するともなると、こうも態度は変わるらしい。単に、ドームの熱狂的な空気に流されているせいもあるのだろうが。

「ふふふーん、パンチに迷いが見えるよ。やっぱ相手がユーレニカじゃねえ」

戦況を観察するスパランツァーニは、確信めいた表情を浮かべている。
救急室でのやりとりを根に持っているのか、言葉の裏に敵意がにじんでいる。

「ユーレニカは戦神オーディンの加護を受けた最強の戦士よ。たかだかチビの巨人一匹で倒せるもんですかっての」

128 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/02(日) 01:02:06.61 0
【競技場内、ユーレニカ】

「どうした、終いか?」

拳の突きの連打、上段蹴り、それら全てをユーレニカはあっさりとかわした。

肉弾戦において重要視されるのは、パワーでもスピードでもなく、反応速度である。
無論、力が無ければ相手を倒すことは適わないし、速度が無ければ先制することもできない。
だが何よりまず、相手の動きに反応して先を見切ることこそ、戦いにおいて重要である。

>「……ちっ、すばしっこい女だぜ。見た目と違ってよ」

バルムンテには傍目から見れば、すばしこく見えるかもしれない。
だが、あくまでユーレニカは動きを見切り、紙一重でよけているにすぎない。

>「こいよユーレニカ。他のことはもうどうでもいい。
>てめぇとはとことんやりやってやるぜ」

来い、と挑発し迎撃の体勢をとるバルムンテ。
ユーレニカは目を細め、眼鏡を外した。

「――お前、『自分は筋肉ダルマだからすっ鈍い』とか考えてないか?」

ユーレニカが彼に向けた言葉は、返事でも挑発の返しでもなく、疑問であった。

ここでちょっとした注釈を入れねばなるまい。
ユーレニカが実際よりも素早く見える種明かしについてである。

まず前提として、戦いの中で反応速度より重視されるものがある。
それは、何物にも屈しないタフな精神力だ。
根性論を馬鹿にしてはいけない。
実際に戦闘の場面に直面したとき、屈強な精神力こそがものをいう。

ユーレニカの防御手段はシンプル。拳がくるならば避け、蹴りが来るならば腕で防ぐ。
彼女はあくまでバルムンテの攻撃のパターンをコンマ数秒先読みして動いている。
攻撃する際、筋肉には力が入り、動く。そして繰り出すためのモーションを出す。
モーションにはそれぞれ癖がある。これを見抜けば、ある程度の攻撃は避けられる。後は実戦で積んだ経験が活きる。

「筋肉ってのはな、多くついてるほど速度も増すってものだ。筋肉ダルマだから足が遅いってのはただの妄想なんだよ」

つまり攻撃の速度はあくまで、バルムンテの方が上なのだ。
ユーレニカはそれを動きの先読みで見切っているだけにすぎない。
筋肉の量が多いほど、パワーもスピードも力量を増す。
だが決定的な要素はやはり、精神面だろう。

「もしかしたら勝てないかも知れない」。
それは、彼の中の遺伝子が警告を発しているのかもしれない。
バルムンテがユーレニカにその印象を抱いた時点で、彼は敗北の崖っぷちに立たされているのだ。
プレッシャーが与える体への制御はそれほどまでに大きいものである。

129 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/02(日) 01:03:03.73 0
「まあいい。お前がそう言うなら遠慮なく……いくぞ!」

彼女は攻撃にうってでた。
右手で殴る、と見せかけ左手で脇を平手打ち。
バルムンテが反撃に出れば、ユーレニカは防御の体勢に戻る。
だが怯んだり防御に出れば間髪入れず次の平手打ちを側頭部、腕、そして腹と、とにかく平手で力強くはたいてくる。

殴る、蹴るなどの攻撃は体の内部にダメージを与える攻撃だ。
しかし平手打ちは皮膚、体の表面に痛みを与える。
たかだか平手打ちと侮るなかれ。実際に叩かれると分かるが、とても痛い。
普通に殴る、蹴るよりダメージは少ないが、痛みは強烈だ。
皮膚に染み渡るダイレクトな痛みは、体よりも相手の闘志に深いダメージを負わせる。

「ただの運動会と思うな。私を殺すつもりでこい。私もお前を殺すつもりでいく」

バルムンテがユーレニカの攻撃パターンにはまってしまえば、勝率は大幅に減るだろう。
逆に彼女へ一撃でも与えられたなら、その動きは止まり、勝率は上がるやもしれない。

彼女の名前はユーレニカ。
ユミル殺しの申し子、戦神オーディンの加護を受ける者。
由緒正しき人狼ウーヴルヘジン、またの呼び名を狂戦士(ベルセルク)。
戦いのために生き、戦いのために死ぬ狼の精神を継ぐ一族。

彼女は全力で戦いたいのだ。彼女は全力の巨人と戦いたいのだ。
それは遺伝子に刻まれた宿命。巨人殺しの神から受け継いだ狂戦士の精神が駆り立てる。
無論、彼と戦うには別の理由も存在するが、さておき。

【一方で、ゲオルグサイド】

「いやー危なかったですね兄貴。危うく美味しく焼かれるトコだったスよ」
「やいグラン、もっと上手くやれなかったのかよ。せっかく髪セットしたのに台無しじゃねーか……ったくよー」

火事騒動はグランの魔法によって鎮火され、どうにか落ち着いた。
騒動の張本人は濡れ鼠と化し、すっかりむくれている。リュックは燃えたため、ゲオルグが脱いだジャケットで包んだ。
グランの言葉通り頭を冷やしたのか、やや落ち着きは戻ったようだ。グランに対する敵意は感じられない。

さてグランとの対峙で魔法耐性があまり使い物にならないと分かった以上、熱で脅す作戦は使えそうにない。
やはりステゴロで奪うべきか、と物騒な発想がゲオルグの脳裏を過る。
それにしても、魔耐の余韻か、やけに暑い。

>「到着順位も加味される以上奪い合って遅くなるよりそこそこで逃げ切った方が有利。
>積極的に戦いたがる奴はそういないだろう。でもオレに付いて来れば”奴ら”が仕掛けてくるかもしれない。
>もしそうなったらそいつらから奪い取るチャンスがある……かもな」
「奴ら?奴らって、怪盗ファントムのことか?」

グランの思わせぶりな言葉に、ゲオルグはすかさず反応した。
確かに、到着順位は林檎の数より重要視される。正確には林檎の数と到着順位にそれぞれ評価点があり、その評価点の平均で決定される。
(ドナテロとスタンプがでっちあげた)話によれば、グラン達はこの大会で怪盗ファントムと接触する可能性があるらしい。

「兄貴、まさかノる気じゃ…」
「う、うるせえな!」

グランの強さはゲオルグも認めている。
しかしこれでは半ば他人任せのようで癪に障るのも事実。
幸い、ゲオルグは生身でも腕っ節は強いほうだ。舎弟は魔術を使えない非術師だが、自分の身を守るくらいはできる。

130 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/02(日) 01:03:56.87 0
「だっ大体、オメーが大人しくリンゴ渡せば魔耐も使わずに済んだんだ。リュックが燃えた分の働きくらいしてもらわなきゃなあ!?」
「兄貴、後半なんかそれ本来グランが言うセリフッス」
「ルセー!じゃあどーやってリンゴ集めろってんだ?いちいち探すのもう面倒なんだよ!」

真面目にコツコツ、を何より苦手とするゲオルグらしい台詞ではある。
楽はしたい、がライバルと共闘するのも癪。難儀な性格である。

その様子を、高みから覗く男がいる。
背の高い、外見からして老人のようである。いかにも高貴な風体をしている。
老人の傍には、巨躯の男が控えている。

『始めようか』

老人は誰に言うでもなく、ラテン語でそう口にする。
手袋をした両手が指揮棒のように振られた。
まさに刹那、ドナテロが渡したブレスレットが激しく振動し始める。

「!? おい、なんか震えてるぞ。そのブレスレット」

ゲオルグは仰天してそれを指差す。
ブレスレットの石一つ一つがにわかに輝き、アルファベットを綴る。

「WATCH OUT(気をつけろ)?何が……」

ゲオルグの頭上に一陣の風が吹き、直後ドカン!、と固い物を破壊する音がする。
顔を上げると、巨大な氷柱――おそらくアトラクションのものと思われる――が木に突き刺さっている。

「ああンッ!?何だコリャァ!?」
「あ、あの、兄貴?すんごい言い辛いんですけど、その……」

ギョっとして氷柱を凝視するゲオルグの服を、舎弟は震える声で引っ張った。
何だよ、それどころじゃねえよ、と不満な声をあげようとして、今度こそ絶句した。
いつの間にか、型で切り取ったかのように同じ姿の、真っ黒で巨大な人間に囲まれている。

「うおわああっ!?なんだ、こんなに参加者いたっけか!?」
「な、な訳ないでしょ!?多分アトラクションの一部か……」

真っ黒な巨大人間は一斉に、氷柱だの引っこ抜いた木だの、めいめいに殺傷力の高そうなものを構えた。
明らかにこちらに向けて投げる気満々である。

「……うわあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

投げてきた。

131 :バルムンテ:2014/02/02(日) 01:05:08.07 0
>「筋肉ってのはな、多くついてるほど速度も増すってものだ。
筋肉ダルマだから足が遅いってのはただの妄想なんだよ」

「あ?いきなり何いってんだよ、おめぇ。
おれは首から下が足だけってわけじゃねぇんだぞ。
タコじゃあるまいしょお〜。
足の上には立派な上半身がついてるんだぜ」
意味不明の台詞だが、要するに
胸筋たくましい上半身が重いと言いたいらしい。
バルムンテは攻撃してくるユーレニカを
捕らえんと腕を伸ばすも避けられる。
それは巨人の足が緊張からか動いておらず
体の動きと言うものがバラバラになっていたのが理由だ。
彼の下半身は上半身を重く感じ、
上半身は動かない下半身を重く感じているらしい。

(ちくしょう。なぜ避けられやがる!)

それはユーレニカが、経験ですべてを先読みしているのと、
バルムンテの腰がひけているのが理由。

>「まあいい。お前がそう言うなら遠慮なく……いくぞ!」
ユーレニカが攻撃を仕掛けてくる。
右手で殴る、と見せかけ左手で脇を平手打ち。
バルムンテが反撃に出れば、ユーレニカは防御の体勢に戻る。

「くっ、いてぇんだよ。このくそあまがーっ!」

叫び、怒り、ふと巨人族の里を思い出すバルムンテ。
彼は一族の中では小さい巨人だった。
それなのに仲間の大きな巨人はバルムンテよりも速く強かった。
ゆえにバルムンテは族長にもなれず、
里を降りて都会で負け犬のように暮らしている。

(なんでだよ。筋肉を鍛えりゃ、速く強くなれるんじゃなかったのかよ……?)

ユーレニカの動きに巨人族の族長との戦いを思い出す。
滑らかに動く巨体。あれはいったいなんだったのか。
上には上がいる?ただそれだけの話?
敗北の記憶が甦り、バルムンテは奥歯を強く噛み締めた。

132 :バルムンテ:2014/02/02(日) 01:06:08.83 0
>「ただの運動会と思うな。私を殺すつもりでこい。
私もお前を殺すつもりでいく」

「ああ!上等だぜコラっ!」
バルムンテは迷いを吹き飛ばすかのように大声で返すと
連撃の雨のなか、最小限の反撃を試みる。
ユーレニカの翻弄する動きに慣れてきたあと
肘で平手打ちを受け止めたのだ。
地味だがうまくゆけば手首にダメージを与えられる。
振り回すあしげりや拳を避けられるよりはましだと思った。
それに自分から動くよりも相手を見易い。

持久戦――

バルムンテは持久戦に持ち込んで何とかするつもりだ。
しかし、ユーレニカの長所は見極めること。
肘での反撃はそう連続出来ず、
攻撃パターンを変えた平手打ちが
さらにバルムンテを襲う。

(ちっ、イラつくぜ。ユーレニカの攻撃が読めねぇ。
なんでだよ。なんで……)

左右どちらからくるかわからない。
攻撃が嘘か本当かわからない。
無数の攻撃発想に対応したかと思えば
それらをなかったかのように捨て、
新たな攻撃を繰り返してくる。

「……ん、そうかよ」
ふと、バルムンテは思う。
ユーレニカの読めない攻撃。
それなら自分も読めない攻撃をくり出せばいいのだと。

「……なあユーレニカ。
おめぇにはなんか主義を感じたぜ。
そんなおめぇが、どうしてあいつらの片棒を担いでんだ?」
バルムンテはドナテロや人形女にはそれほどの意思を感じられなかった。
運動会にあれやこれやわざわざ仕組む意味をだ。
まるで肩書きだけで薄っぺらい道化ような感じで、熱がこもっていない。
そんな印象しかなかった。

「まさか銭じゃねぇよな?
まあいいぜ。あとでゆっくり聞かせてもらうことにするぜ」
バルムンテは捨て身の猛攻を仕掛ける。
平手打ちの衝撃から計算するに、
ユーレニカの攻撃で気を付けるべきは大技のみ。
小技はそのまま受けきり、拳、蹴り、頭突き、
すべての攻撃をユーレニカに繰り出すのだ。

133 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/02/02(日) 23:25:08.53 0
>「奴ら?奴らって、怪盗ファントムのことか?」

「……ああ」

オレは思わせぶりに頷いてみせた。
ゲオルグは細かい事情は知らないので正確には認識にずれはあるのだが
少なくとも偽ファントムも怪盗ファントムを名乗っている以上嘘ではない。

>「だっ大体、オメーが大人しくリンゴ渡せば魔耐も使わずに済んだんだ。リュックが燃えた分の働きくらいしてもらわなきゃなあ!?」
>「兄貴、後半なんかそれ本来グランが言うセリフッス」
>「ルセー!じゃあどーやってリンゴ集めろってんだ?いちいち探すのもう面倒なんだよ!」

回りくどい言い方だが要するにゲオルグはオレの提案に乗る気になったようだ。

「言い争ってる暇があったら行くぞー」

歩き出しかけてはたと立ち止まる。

>「!? おい、なんか震えてるぞ。そのブレスレット」

「もうお出ましかよ!」

このブレスレットは偽ファントム発見器。
ドナテロが言うには手下等をよこしてくる可能性が高いという事だったが、いきなりご本人の登場か!

>「WATCH OUT(気をつけろ)?何が……」

敵の姿は見えない。さあ、どこから来る――?
辺りを警戒していると、いきなり木に氷柱が突き刺さった。

「危ねー!」

一応最初は競技の範囲内でくるかと思ったがいきなりそう来たか!
尤も、今の不意打ちなら当てようと思えば当てられたはず。わざと外した可能性の方が高いが。
ならば狙いは……

134 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/02/02(日) 23:26:18.99 0
>「ああンッ!?何だコリャァ!?」
>「あ、あの、兄貴?すんごい言い辛いんですけど、その……」

「派手な演出に注意を引きつけてるうちに手配を整える、マジシャンの常套手段だな」

オレ達はいつの間にか巨大な人影に囲まれていた。

>「うおわああっ!?なんだ、こんなに参加者いたっけか!?」
>「な、な訳ないでしょ!?多分アトラクションの一部か……」

「多分どっちも違うな……おそらく怪盗ファントムの傀儡!」

巨大な人間達は、普通なら持つ事すらできないような巨大な凶器を各々構える。
なんだか嫌な予感がする。

>「……うわあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

嫌な予感と言うのは当たるもので、予想通りぶん投げてきた!

「二人ともこっちに寄れ! 重力操作《ウェイトコントロール》!
間に合え―――――!」

対象指定は自分を中心とした周囲の空間、出力最大で持続時間は一瞬。
飛んできた巨大な凶器達は自身の重さによって勢いを失い、ぎりぎりのところで地面に落ちた。
周囲に氷柱やら木の幹が折り重なる。

「早い所こいつら倒して本体引っ張り出すぞ! ゲオルグ、爆発魔法だ!
すり抜けて来たのはオレがやる!」

モブを一掃するのはイ○ナズンもとい爆発魔法と相場が決まっている。
魔術で作られた傀儡なら、魔法を使って攻撃しても参加者自身に危害を加えた事にはならない。

「分かった、仕留め損ねるんじゃねーぞ!」

爆音が炸裂し、爆煙が巻き上がる。
それでも爆風に耐えた何体かがかいくぐってくる。そこにすかさず……

「ディープインパクト!」

重力を乗せた打撃を叩き込む。

「えっ、魔法使っていいんスか!? アニキィー!」

おたおたしている舎弟そっちのけで殲滅戦が始まった。

135 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/08(土) 13:04:43.29 0
【幕間、読み飛ばし可】

「成程、お陰で疑問の幾つかは解消できた」

ドーム内は様々な雄叫びで満ちている。
歓喜の声、失望の唸り声、野次、応援の声、エトセトラ。興奮の空気が満ちる中、スタンプの声だけが厳しい。
まだ何か聞きたいことでもあるのか、とドナテロは眉をつり上げた。

「まだ肝心のコッペリウスとやらが何を企んでるのか分からねえ。教えろ、ソイツの狙いは何だ?」

そもそも偽ファントムの行動原理が謎だ。

像がほしいのならば、予告状なんか送りつけずこっそり盗めばいい。
あるいは優勝者から奪ってもいい。手段は幾らでも存在する。
それにドナテロの名を借りたというくらいならば私怨もあるのだろう。
とすると、そのコッペリウスとの因縁が気になる。

ドナテロはしばし物思いに耽り、眼鏡を押し上げた。

「僕はあくまでも悪党だ。必要とあらば盗みも殺しも厭わない類の日陰者ってやつだ。
 だが奴は……人を騙したり陥れたりすることに何の感慨も感じちゃいない。悪党としての美学もない。唾棄すべき悪だ。
 そのコッペリウスがわざわざ僕の名を騙り、像を盗むなどと予告した。
 金も狙っているんだろうが、奴の考えることは悪意に満ちている。まず泥棒騒ぎじゃ終わらないだろうな」

ワッ、と一際観客席の歓声が大きくなった。
【黄金林檎争奪競争】内での戦いが、観客の熱狂に拍車をかけている。

「裏の世界の人間は裏の世界の人間がカタをつける。それが僕ら悪人のやり方だ。
 巻き込まれたことについては諦めてくれ。何、つつがなく終われば只のイカレポンチの騒ぎとして丸く収まる」

そうは言うものの、ドナテロの表情に余裕はみられない。
彼の言葉と同時にスタンプは、あの「写真」のことを唐突に思い出した。
本格的に巻き込まれた原因は、ゲオルグの舎弟が撮ったあの奇妙な写真ではなかったかと。

「(もしかして……はじめっからこいつ等は俺等がギルドの人間だと分かってて……!?)」
「場合によっては、君の仲間が敵に回ることも覚悟しておくといい。防御の策は与えたが、君の仲間がコッペリウスの手に落ちないとも限らない」

運動会はまだまだ、終わらない。

136 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/08(土) 13:05:50.49 0
【VSユーレニカ】

>「くっ、いてぇんだよ。このくそあまがーっ!」

巨人が怒りに吠える。その形相たるや鬼気迫るものだ。
だがユーレニカは臆せず、むしろ踏み込んでいく。
鉄のように硬い表情の下に喜色や興奮を抑えつけ、バルムンテの皮膚に掌を叩きつける。

>「ああ!上等だぜコラっ!」

怒声を返すバルムンテの動きに、徐々に変化が現れ始めていた。
ただ平手を受けるだけだった巨人は、意図的に肘で掌を受け止めている。
単に平手で攻撃するよりも、手首に負担がかかる。いわば防御を使った反撃といえる。

「(これは……持久戦に持ち込む気か!)」

確かに、男、それも巨人の体力に比べればユーレニカは腕力も体力も一歩及ばない。
長期戦にもつれこめばユーレニカの勝機は下がる。だがユーレニカはあえて、

「――臨むところ!」

彼の思惑に自ら乗った。更に攻撃の手数、パターンを増やし、鋭い平手打ちを浴びせ続ける。
表面への攻撃は、相手の闘志を削り、集中力を乱すことに意味がある。
裏を返せば、一撃の攻撃力に大したダメージはなく、相手をノックアウトさせることはまずない。
もし相手を気絶させたり倒したいのであれば、ストレートに殴る・蹴るという大技を使えばいいのだ。
だが彼女はその大技をあえて封じた。

>「……なあユーレニカ。
おめぇにはなんか主義を感じたぜ。
そんなおめぇが、どうしてあいつらの片棒を担いでんだ?」

戦いの最中、巨人の口から出てきた言葉に、ユーレニカは僅かに目を見開く。

>「まさか銭じゃねぇよな?
>まあいいぜ。あとでゆっくり聞かせてもらうことにするぜ」
刹那、巨人は思い切った行動に出た。一切の防御の体勢を捨て、一身に突っ込んできたのである。
捨て身の突進は自殺行為とも呼べる。
防御をしないということは、それだけ手傷を増やすことになる。
よく、「攻撃は最大の防御」とも言うが、成程理にかなっている。
だから、防御をしない相手こそ恐ろしい。

137 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/08(土) 13:08:03.97 0
「くっ…!」

ここで初めて、彼女は焦りをみせた。接近戦での突撃。ユーレニカは一瞬迷う。
防ぐ構えがないということは、自分が与えるダメージが無視されるということだ。
しかもこちらが攻撃すれば隙ができ、絶対に相手の攻撃が当たるということになる。

ならば……いっそ「攻撃しない」!

「フッ!!」

平手打ちを仕掛ける、と見せかけ、ユーレニカはただ突進した。
否、ただの突進とは少し違う。
真正面から巨人に突進し、バルムンテの初撃に自身の攻撃技、つまり強烈な平手の一撃をぶつけた。
そう、たった一撃のみ、何の小細工もしないストレートな一撃だ。

「がっ…!」

無論、純粋な力勝負ならばバルムンテが上だ。押し負ける。
相殺しきれるほどではなく、吹き飛ばされる。受身を取ろうとも攻撃のダメージは体に伝わる。
だが、初撃でユーレニカとバルムンテの距離が開いた。

「(…………今のは、効いたな……)」

つとめてポーカーフェイスを保つが、巨人から一撃を食らった代償は大きい。
もし彼がこの先も、防御のない攻撃を続けるのであれば、勝利の望みは薄いだろう。
さらに、この競技の制限時間は30分という長さだ。運動会の順位に興味はないが、この時間内に決着をつけたいところだ。

「……主義、か。生憎、私にそんな高尚なものなど存在しない。お前がどうかは知らんが」

ユーレニカの爪が禍々しく変化する。
ギラギラと輝く爪先は、切先が鋭く黒曜石を思わせる。
耳は亜人のように尖り、狼のように毛が生える。だが全体的には人の姿のままだ。

「……お前も仲間外れだろう。匂いで分かる。力もなく惨めで、群れを追われたんだろう」

これが彼女の能力――人狼化。
狼のようにしなやかにそして疾風のごとく駆け、鋭い爪は牙を象徴するかのような鋭利さ。
突き詰めて説明するならば身体強化、そして刃物のような鋭い爪を顕現させた。

「同じさ。私も同じだから分かる。そう、よおく知ってる匂いだ。負け犬のそれだ」

ユーレニカは自嘲的に笑った。唇の隙間から大きな犬歯が覗く。

「狼に倣い、狼の衣を纏い、狼に変化し生きる。それがウーヴルヘジンだ」

ユーレニカはクラウチングスタートの姿をとった。
かと思えば次の瞬間、バルムンテに肉薄。
先程とは比べ物にならない速度でバルムンテに襲い掛かり、その鋭い爪で抉らんとする!

138 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/08(土) 13:09:20.12 0
【VS???】

「もう無理ッス〜〜〜〜〜〜っ!!」

舎弟は目の前の攻防にすっかり腰を抜かしきっていた。
巨人のような気色の悪い影がうようよと彷徨い歩き、或いはグラン達により倒されて煙のように消失する。
彼は戦闘に参加できないと直感で判断したゲオルグにより、炎の結界で守られている。

「チィ!次から次へとめんどくせえ……!」

彼が拳を振るう度、爆発魔法がフィールドに広がり、辺り一面は砂埃と煙で満ちる。
今回の競技のルール上、他人に魔法を使用しての妨害は禁止されている。
だが、魔法同士をぶつけ合うこと自体は合法だ。
その場合はただの妨害行為とみなされるためである。ただし、非魔術師に向けて使用した場合は論外である。
かなり狡いルールのすり抜けだが、致し方あるまい。

「本体はどこだ……!?絶対この中にいるはず!グラン、【探知】してみろ!」

探知とは、いわゆる霊波探知のことである。

この地球上に存在する万物には、多かれ少なかれ魔力を内にはらんでいる。
そしてその魔力は霊波となり、体の表面から静電気のように絶えず漏れている。
霊波は指紋やDNAのように同じパターンは存在せず、霊波によって個人を特定できるものである。
(余談だが、非術師が魔術に目覚めるのは魔術師から発せられる霊波に影響されるからなのでは、という説もあがっている)。

「(どこだ…!どこにいる、こいつ等の本体……!)」

ゲオルグは必死に霊波を特定しようとする。
だが、まるで体の中からノイズが発生しているかのように、霊波を特定することができない。
傍にいるグランや舎弟の霊波すら、薄いもやのように感じられてつかめないのだ。

「ああったく!イライラするぜ……!」

苛立たしさにガシガシと頭をかく。心なしか体温が上昇し、嫌な汗がとめどなくあふれ出る。

一方、グランはクリアに霊波を探知できることだろう。
ドナテロが渡したブレスレットは、コッペリウスの霊波の動きを組み込んである。
霊波を探知すればまもなく、襲ってきた傀儡たちの霊波の流れをたちどころに感知できるはずだ。
のっぺりとした巨大な人間たちの手足や首の付け根から、細い霊波が糸のように立ちのぼっている。
言い換えるなら、マリオネットの操り糸のように、天井から伸びているかのように見えるのだ。

数々の糸は上を見るにつれだんだん収束し、一本の太い糸となってのびている。
フィールドの上空を舞う一羽の大きな鷲。マリオネットの糸はその鷲の動きに合わせているのが分かる。
鷲を捕獲するなり霊波の糸をすべて断ち切らない限り、巨大人間は消えるそばから次々生み出され、襲ってくる。

139 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/08(土) 13:11:00.03 0
『思ったより骨があるようだ。あのコソドロの仲間なだけはある』

老人は呟き、ニマリと笑う。
傍で控える巨体の男もまた、競技場で暴れる巨大人間と同種のようだ。
コツコツとハイヒールの音が鳴り、老人の背後でピタリととまった。

「ようやく仕込みが終わったようだね」
「はい。二人は何時でも動けます。なんなら今すぐにでも」

老人の背後に立った者は――女のようである――感情のこもらない声で言った。
ドームは興奮の嵐に包まれていた。
小さな巨人と女狼戦士のガチンコバトルに、賭けまで始まる始末。

「もう少し待ちなさい。まだまだ盛り上げねば」
「はい」
「あやつ等も、わざわざ大暴れして私を牽制したつもりだろうが……君の下らん策ごときが通用するもんかね」

意地悪く老人が笑う後ろで、女は不気味なまでに黙していた。

「それで、金の黄金像はどうなさるのですか」
「おお、そうだ。まだ見つからないのか」
「申し訳ありません。関係者を端から『人形』にしても、皆知らないの一点張りで」

そうか、とさして興味もなさそうに老人は相槌を打つ。
女は何か気づいたそぶりをし、口を開く。

「あれは……魔導人形ですか」
「左様。あやつめ、新たに仲間として引き入れおったらしい。今ちょっかいをかけとる所だ」
「始末しますか。それともお人形にしますか」

老人はその問いに返事をしない。どうやら集中しているようだ。
女は何も言わず、踵を返して引っ込む。首にはVIP専用のカードをぶら下げ、優美な仕草で歩き回る。
警備に当たっている者たちは、女を見るや一礼して近寄る。

「これはこれは、カリオストロ大統領。SPもなしにどちらへ?」
「……小用だ。通せ」

女の外見は初老の老人となっていた。イタリアの大統領カリオストロの外見だ。
警備の人間がいなくなることを確かめ、カリオストロはドーム内の使われていない一室のドアを開ける。

「そろそろ出番だ、姉妹。命令はわかっているね?」
『はい、ご主人様』

そこには、虚ろな目をした姉妹がいた。
両手に、爆弾を始めとした物騒な武器を抱えて。

140 :バルムンテ:2014/02/08(土) 13:12:43.58 0
>「……主義、か。生憎、私にそんな高尚なものな ど存在しない。お前がどうかは知らんが」

>「……お前も仲間外れだろう。匂いで分かる。力もなく惨めで、群れを追われたんだろう」

> 「同じさ。私も同じだから分かる。そう、よおく知ってる匂いだ。負け犬のそれだ」

>「狼に倣い、狼の衣を纏い、狼に変化し生きる。それがウーヴルヘジンだ」

ユーレニカかがくる。
だがバルムンテの鍛え上げられた筋肉からは力が抜けていた。
力の入れすぎによる疲労か力が入らない。

(やべぇな。勝てるのか)

バルムンテにユーレニカは、おまえも仲間外れかと言っていた。
それに……

「主義になんて高尚も糞もねぇだろ。
おれはおれを笑ったやつらを見返してぇから
最強になろうとしてんだよ。
おめぇだってそうなんだろ。なあユーレニカ」

無意識。

無意識で体が動いていた。
疲労した筋肉は生きるために
最短の攻撃を産み出す。

より強くより速く。
踏み込んだ足から胴体に力が伝わり
拳にすべての力が凝縮した。
そこに一切の無駄はなかった。

生きる。

唸りをあげた拳が放たれたあと
その風圧で砂煙がまう。

「……おめぇがここで戦う理由。
それがどんなだろうとそれはおめぇの主義だ。
それを卑下すんじゃねぇ!」

怒鳴り付けたあと
バルムンテは苦笑していた。

「へっ、狼女か。よくみると可愛いじゃねぇか……」
ぐらりと揺らぐ巨体。
それは力尽き、その場で倒れていた。

141 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/02/08(土) 14:19:06.13 0
拳をくらわせた巨大な人影は、煙となって立ち消える。
やはり魔術によって作られた傀儡だ。

>「本体はどこだ……!?絶対この中にいるはず!グラン、【探知】してみろ!」

「探知か……この混戦では難しいぞ。ん――?」

傀儡の一つ一つから霊波の糸が伸び、どこかに繋がっている。
それを追って目線を上に向けると、大きな鷲が飛んでいた。

「上だ、鷲に化けてやがった……!」

重力魔法をかけてやれば地上に引きずり落とす事はできそうだが……
ここで問題なのは、参加者本人に対しては魔法を使ってはいけないということだ。
相手が上空を飛んでいる今の状態では攻撃もままならない。
傀儡の糸を断ち切る方が先だろう。
当然、普通の武器や物理攻撃では非物質的な霊派は断ち切れない。
魔力によって引き起こされた事象や魔力のかかった武器が必要だ。
しかしオレの能力は基本打撃系。切断には向かない。ゲオルグも切断系の技は持っていなさそうだ。
あれを試してみるか……!

「ゲオルグ! 詠唱するから敵避けを頼むぞ!」

詠唱――長年の研究によって解明された定型のセンテンスを唱える事によって行う、主に魔術師が行う魔法の発動所作。
異能者は普段、簡単な動作や単語一つで直感的に魔法を使っているので、あまり行う事はないのだが
自分の持つ属性やその周辺分野の魔法については、詠唱を行う事によって使える場合があるのだ。

「――万象を地に縛る無慈悲なる戒めよ、暫し我が声に応え断罪の刃となれ」

重力とは空間の歪みだそうだ。
重力を平面状に圧倒的な密度に凝縮する事によって空間の連続性を断ち切る刃を作り出す魔法――らしい。
ぶっちゃけよく分からないが、研究職ではない魔術師には魔法の原理を分からずに使っている人なんてゴマンといる。
パソコンの中身がどうなっているか分からない人でもパソコンが使えるのと同じ事だ。
そして、魔法の詠唱文を紹介した実用書は世に溢れかえっている。

「重力刃《グラヴィティブレード》!」

膨大な魔力が凝縮し手の中に現れたのは、巨大な重力の刃。
大ジャンプし、鷲に届きそうで届かない位置に肉薄する。飽くまでも狙いは操り人形の糸だ。
刃を横に振るい、鷲の下の空間、霊派の糸が密集している部分を薙ぎ払う。

142 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/16(日) 01:55:10.66 0
大抵、初撃というものはかわされることが多い。
重要なのは初撃からどう続けて攻撃を当てられるか、である。
だがユーレニカの選択は、正面から突貫だった。狙うは首筋。
チャンスは一度きり。外したら次はない。その理由は後述にて。

「(これで――決める!!)」

爪を振りかぶった。まさにその刹那。

「――――!」

ほぼ、直感であった。
何かが見えた訳ではない。振りかぶった爪を、引っ込められるほど器用ではない。
だがしかし、彼女は自身の――揺るぎようのない敗北を――悟った。

>「主義になんて高尚も糞もねぇだろ。
おれはおれを笑ったやつらを見返してぇから
最強になろうとしてんだよ。
おめぇだってそうなんだろ。なあユーレニカ」

バルムンテの拳と、ユーレニカの爪。
風が唸り、衝撃と衝撃がぶつかり合い、砂埃が舞う。
パキン、と乾いた音が鳴った。ついでユーレニカの皮膚が裂け、血が迸る。

先に膝をついたのはユーレニカであった。
爪は微塵に砕け、腕は力に押し負け、負担が全身に行き渡る。
咄嗟の判断で力をいなしたものの、折れなかったのが不思議なくらいだ。

> 「……おめぇがここで戦う理由。
それがどんなだろうとそれはおめぇの主義だ。
それを卑下すんじゃねぇ!」

ユーレニカの目がカッと見開く。フラッシュバックする、過去の苦い記憶が。
雪が全てを覆う世界で、彼女が元いた世界と決別させられた日のことを。

>「へっ、狼女か。よくみると可愛いじゃねぇか……」

その言葉を聞いて、ユーレニカの表情が氷のように固まるのもつかの間。
巨体がぐらりと傾き、倒れ伏す。
瞬間的に発揮した力が、バルムンテに多大な負荷をもたらした結果だ。

負けた。先に膝をついた時点で、彼女は自身が本当に負けたのだと実感した。
狼女は黙していた。粉々に砕けた己の爪を凝視し、黒い瞳が揺れる。
つかの間の沈黙に包まれる。ユーレニカがおもむろに口火を切った。

「……お前も気づいてるかもしれないが……私は完全な狼じゃない」

彼女の能力は完璧ではない。
人狼の変身能力は通常、ほぼ完全な狼となるか、二足歩行の狼に近しい姿となる。
その体には弾丸は通らず、ほぼ不死に近い能力を得、銀以外では倒すこともかなわないとされている。
だがユーレニカの姿は、ほぼ人間に近い。狼らしい特徴は僅かにしか見受けられない。

143 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/16(日) 01:56:31.11 0
彼女は回想する。彼女は立派な人狼の父と母の間に生まれた。
しかし狼の衣を纏っても、その姿はお粗末にも狼とは程遠く、仲間から爪弾きにされた。
群れの最下層として目立たなく生き、体だけ一人前になったのを機に追い出されたのである。

「私は落ちこぼれだ……狼にもなれず人とも馴染めない……それ故に群れを追われた……」

人狼の力をもってしても、巨人から受けた傷は少しずつしか癒えない。不死身と謳われる力を、彼女は有していない。

「……羨ましいな……お前は自分を誇ることが出来る……自分が自分たるための主義(イズム)がある…」

バルムンテには、彼が彼たる芯がある。
他者の助けなど要らない、己が強ければそれでいいという、危なっかしくも真っ直ぐな理念がある。
彼女は――否定され続けた人生から――そういった「自分が自分たる何か」を見出せずにいた。
筋肉の中心に骨がなければ只の肉であることと同じように。
ただ強くなろうとも、強くあるための芯がなければ、それ以上の力で圧倒されるのみだ。

「主義は皆が認めて初めて主義(イズム)になる……誰からも認められない主義はただの理想だ。ホラと一緒だ」

爪先から、太い腕へのび、肩を這い、頭の先から足に至るまで、目に見えないどす黒い鎖が彼女を縛っている。
一本の太い蛇にも似て、心を縛る枷である。その名は「強迫観念」。
それこそが、バルムンテがユーレニカに感じた不気味な気配の正体だ。

「ドンは言っていた。お前のような奴ほど……強くて、主義(イズム)に拘る奴ほど…コッペリウスに目をつけられ易いと。
 腕力沙汰において、巨人を仲間にするほど心強いものはない。だから私が監視に割り当てられた。
 いざという時――お前が敵の手に落ち、敵に回るその時には……始末できるように」

バルムンテに向けられた視線には、僅かに嫉妬の色が滲んでいた。
ユーレニカは感情を殺し、理想や拘りと縁を切って生きてきた。
周りを見返したいから強くなると、堂々と言い切れるバルムンテに対し、羨望にも似た感情を覚えたのだ。

「今の私は犬だ。吼えることも忘れ、行き場もない捨て犬だったのをドンに拾われて、活用されているだけに過ぎない……」

ユーレニカは唇を噛む。
狼の世界では、自分の力は誰かの為に使われなければ意味がないことを、ユーレニカは教え込まれてきた。
だから捨て駒であろうと囮であろうと何であろうと、その力を認められる内はまだマシな方だ、と彼女は思い込まざるをえなかった。

一瞬、不意に目頭が熱くなる。
ユーレニカは目から溢れるものを堪えることもできず、無事な方の手でバルムンテの首に爪先を当てた。

「私はな、バルムンテ。私より強くて、自由で、何にも縛られないお前が……憎くて羨ましくて仕方ないよ……!」

144 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/16(日) 01:57:40.24 0
【グランサイド】

北欧神話において、黄金の林檎と鷲は切っても切り離せない関係にある。
黄金の林檎は永遠の若さを約束する果実であり、神々の所有物でもある。
これを管理していた女神をイズンというが、鷲に化けた巨人がこれを林檎ごと略奪した、というエピソードがある。

>「上だ、鷲に化けてやがった……!」

「なにっ鷲だと!?」

ゲオルグが驚いて見上げれば、確かに悠々と空を舞う鷲の姿を確認できた。
だが、相手の位置があまりにも離れすぎている。飛行魔法でも使わない限り、射程距離に入らない。

>「ゲオルグ! 詠唱するから敵避けを頼むぞ!」
「ああ!?わ、わぁったよ、任せろ!」

敵は後から後から沸いてくる。恐らく遠隔操作と分裂魔法を応用した術に違いない。
だが、無差別に倒すだけなら訳はない。

「さっきからすんげームカムカするってか……力が沸いてくるんだよなぁー!!何なんだ、こりゃあ!?」

ゲオルグはかつてない程までに魔力が満ち満ちているのを感じ取る。
それを両手に収束し――円を描くように術をイメージし、爆発させる。
グランとゲオルグを中心にして、円形の爆風が敵を襲い、枯葉を燃やすように殲滅させる。

「はっはぁーー!!どんなもんだってんだ!チビ、いまだ!!」
>「重力刃《グラヴィティブレード》!」

グランの手に重力の刃が顕現した。少女は大きく跳躍し、重力の刃で一閃。
果たして、霊糸は溶けたチーズのように容易く裂け、敵は跡形もなく四散する。

「っやったぜ!」

ゲオルグは自分の手柄でもないのに思わずガッツポーズ。
だが鷲はさして動じる様子もなく、金色の瞳がグランを見据える。

「(重力魔法で切断とは――思いきった事を考えるものだ。見事也、あのコソ泥の仲間であることが惜しい位だ)」

鷲は重々しい声でグランの脳内に語りかける。
その体はバルムンテより大きく、羽を広げただけで5mはありそうだ。
観察すれば分かるが、生き物にしては作り物の印象を与える。

「(【祭り】が始まるまでまだ少し余裕がある――もっとこの老いぼれと遊ぼうではないか)」

祭り、という言葉からして不穏な気配を漂わせている。
鷲は大きな羽を羽ばたかせ、風を生む。そよ風は強風へと変化し、フィールドに変化をもたらす。
一際暴風が吹くと、周辺の木々が巨大な刃で切断されたかのようにへし折れる。

「(さあ、嵐に鎌鼬、悪風、どれがお好みかな?おや、あそこにいるのはお友達かね。あれらにぶつけるのも楽しいだろうね)」

鷲の目は目敏く、はるか後方の参加者たちも捉えていた。
ゲオルグとその舎弟、体力切れで動けないバルムンテと負傷したユーレニカ、そしてほかの参加者たちも。
早く鷲をとめなければ、皆が一様に、敵意をはらんだ風の猛威を受けることとなる。

【ユーレニカ戦、バルムンテの勝利。巨大鷲が風での全体攻撃を開始】

145 :バルムンテ:2014/02/16(日) 01:59:08.80 0
>「私はな、バルムンテ。私より強くて、自由で、何にも縛られないお前が……憎くて羨ましくて仕方ないよ……!」

「……それが本心かユーレニカ?
どんのために戦った自分を、
自分は誉めてやれねぇって言うのかよ?
じゃあおめぇは本当の負け犬じゃねぇ。
心の何処かに、まだ噛みつきてぇって心がのこってんじゃねぇか……」

悲しげな笑みを浮かべるバルムンテ。
彼は泣いているユーレニカを見てこう思っていた。

(そういやスタンプが言っていたな……。
人間は弱ぇから協力しあうんだっけか)

ユーレニカの涙の理由。
彼女を縛りつける苦しみの本質。
それは己の弱さから来るものなのだろうか。
そうなのだとしたならスタンプはどうなる?
あの中年は、人間は、永遠の業のなかで窒息死してしまうのではなかろうか。
そうでなければ彼等人間は、閉塞のなかで自己満足し、
妥協して生きてゆけるのかもしれない。
しかしバルムンテは違う。
弱い自分をまだ認められない。

(わかんねぇな。人間は傷をなめあってりゃそれで満足できるってぇのかよ?)

きっとユーレニカは錯覚のような人のぬくもりを、
心に抱いたまま離せないでいるのだろう。
ゆえにバルムンテは深くため息をつく。

「おれが羨ましいってんなら、おれになっちまえよ。
その涙が嘘じゃねぇっつうなら

おめぇの気持ちのなかで一番強ぇのは今の気持ちだろ?
それでも人の絆っつうものが捨てられねぇんなら
おれを死ぬまで妬んでやがれ」
バルムンテは眉根を寄せて目を閉じている。
その顔はどこか照れているようにもみえた。
すると何処からか聞こえてくる葉擦れの音。

「……お、おい。なんだありゃ?」
はっと気がつき、ぴくぴくと片目を痙攣させているバルムンテ。
問いかけながらも彼は薄々とその正体に気づき始めていた。
嵐の予感。黒幕の出現……。
飛翔する化け物を見つめる巨人の思考は
自身を翻弄したものへの怒りで溢れかえってゆく。

146 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/02/16(日) 11:11:21.43 0
霊糸を切断され一斉に霧散する敵達。

>「っやったぜ!」
「降りてこい、正体現しな!」

>「(重力魔法で切断とは――思いきった事を考えるものだ。見事也、あのコソ泥の仲間であることが惜しい位だ)」
>「(【祭り】が始まるまでまだ少し余裕がある――もっとこの老いぼれと遊ぼうではないか)」

常識外れに巨大な鷲が翼を羽ばたかせると、危険な香りがする風が巻き起こる。
破壊の魔力を孕んだ風。

「同じ土俵で戦う気はないってか!」

>「(さあ、嵐に鎌鼬、悪風、どれがお好みかな?おや、あそこにいるのはお友達かね。あれらにぶつけるのも楽しいだろうね)」

「お友達? バルムンテか……!」

目視できる範囲にはバルムンテはいない。
相手は相当な広範囲を攻撃するつもりだ。
このままでは会場全体に甚大な被害が及んでしまう。

「はっ!」

木を足場にして2段階ジャンプし、鷲の背に飛び乗る。
飛び乗ってみて気付いたのだが、この鷲は本物の鷲ではなく作り物だ。
なるほど、これも所詮人形ってわけか!
おそらく憑依か何かの術を使っているのだろう。
さっきのが操り人形ならこれは着ぐるみか。

「一回乗ってみたかったんだ。チビ一匹位乗せてもどうってことないだろ?」

そう言いながら、自分にかかる重力を徐々に重くする。
要するに子泣きジジイ状態。
他人にかける重力操作は操作の大きさと持続時間の制約があるが
自分にかけるなら基本能力の範囲なので、ある程度の範囲なら自由自在だ。
普段の身のこなしと打撃も、自分への重力操作によるものだ。
じきに鷲は飛ぶ方に専念しなければならなくなり、風を起こす余裕は無くなるだろう。

147 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/24(月) 23:22:03.78 0
【読み飛ばし可】

「何が起きている……!?」
会場が興奮の渦に包まれ、いよいよその熱は最高潮に達するかというところ。
スタンプは別の光景を目にして愕然としていた。

グラン達に襲い来る大勢の影、それに鷲。
只の競技上の演出とは思えない。先程のドナテロ達とのやり取りを思い出す。

「奴だ。コッペリウスのお出ましだ」

同じく異変を察知したドナテロが呟く。
スパランツァーニも先程と打って変わって、厳しい顔つきとなっている。

「ドン、私は予備のゴーレム達を見てくる」
「なら僕らは競技場の出口に向かおう。ユーレニカ君らと合流せねば」

【バルムンテサイド】

>「……それが本心かユーレニカ?
 どんのために戦った自分を、
 自分は誉めてやれねぇって言うのかよ?
 じゃあおめぇは本当の負け犬じゃねぇ。
 心の何処かに、まだ噛みつきてぇって心がのこってんじゃねぇか……」

ユーレニカの告白を受け、巨人は寂しげな笑みを湛えながら諭す。
その言葉に若き狼女は、目の覚めるような感覚にとらわれた。
自らの弱さを受け入れてしまい、本心からずっと目を背けて生きてきた彼女だけでは到底辿り着かなかった答えだったから。

今の自分に納得していた訳じゃない。ただ分からなかった。
己の爪と牙の本当の使い道も、この言葉に替え難い感情をどこに向ければいいのかも。

>「おれが羨ましいってんなら、おれになっちまえよ。
>その涙が嘘じゃねぇっつうなら 、
>おめぇの気持ちのなかで一番強ぇのは今の気持ちだろ?

「俺になれ」。それは決して容易なことではない。
孤独で強くあることは、生きていく上であまりにも難しい。
狼は群れの中だからこそ生きられる。人も同じだ。だから、群れから離れることが何より怖い。

>それでも人の絆っつうものが捨てられねぇんなら
>おれを死ぬまで妬んでやがれ」

知ってか知らずか、巨人の言葉は的を得ていた。
ユーレニカは大きく見開いた目をすっと細め、首を絞めていた手を放す。
どこか照れた様子の巨人の顔を見つめているうち、彼女の中で燻っていた悲憤は収まっていた。
出口のない、真っ暗な夜の森の道に、月明かりが差し込んだかのような心持ちになっていた。

「……私は……」

……突然、憂いを帯びた目に暗い光が差し込む。
筆で引いたような太い眉が釣りあがり、鼻が危険の匂いを察知した。

148 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/24(月) 23:23:56.65 0
>「……お、おい。なんだありゃ?」

バルムンテも勘づいたらしい。不穏な風と空模様に、両者共に険しい表情となる。
巨人にやられた片腕は、まだ治るのに時間はかかる。だが片腕と両足があれば大丈夫だ。

「掴まれ、バルムンテ。私の首にしがみつく位は出来るだろ」

言うや否や、ユーレニカは自身の背にバルムンテを乗せる。
身長や体の幅は巨人の方が上だが、力の使い方を心得ていれば無理な話ではない。
ユーレニカは空を見上げ、フンと鼻を鳴らした。
恐らく敵……コッペリウスだということは見て取れる。
だがバルムンテもユーレニカも満身創痍だ。
(なにせ敵に回っても戦力にならないよう全力で戦っておけと指示されていたが、これほどの消耗とは思わなかった。)

「前門の虎後門の狼とはよく言ったものだな……どうする?」

ユーレニカは、判断をバルムンテに託した。ここで戦うか、一度退くか。
答えを受け取れば、たちどころにユーレニカは巨人を背負い駆けるつもりでいる。


一方、嵐の中心では。
すっかり蚊帳の外となったゲオルグの舎弟は、結界の中からただただ成り行きを見守るしかない。
明らかに異常自体であるにも拘らず、外部の人間は驚くほど何も騒ぎ立てない。
この騒ぎすらも競技の一環だと思っているのかもしれない。
興奮で沸き立った人間は、感情が麻痺して少々の異常も受け入れてしまうものだからだ。

>「お友達? バルムンテか……!」

その一言で、場外の老人は密かに微笑む。
何の気なしに放った一言だが、巨人もまたあのこそ泥に手を貸していることはこっrで確信した。
鷲の目と同調する深度を深くし、そのバルムンてとやらを探し出そうとする。
だが思惑通りにはさせまいと、グランも行動を起こした。

>「はっ!」
>「一回乗ってみたかったんだ。チビ一匹位乗せてもどうってことないだろ?」

気を足場に、グランは軽やかなステップで鷲に飛び乗る。
加えて、グランは自身に重力を乗せ続けることで、徐々に鷲へ負荷を与えている。
同調の魔術は、ある程度、操作対象と感覚を共有している。
つまり、鷲に与えられた負荷は老人にもかかるのである。

「(ホ……老体は労わるものだよ、お嬢さん(リトルレディー)?)」

重力の負荷を数字で表すとすると、老人にかかる負荷は鷲が受ける負荷の1/5ほどだ。
負けじと鷲もグランを振りほどかんと羽ばたくが、風魔法を行使する余裕が減りつつある。
だがここで思わぬ所から助太刀が入った。ゲオルグだ。

「何やってんだ、鳥野郎テメー!そのチビから離れろ!!」

見上げる形で闘いを目撃していたゲオルグは、遠くからでは詳細を把握できず、グランが鷲に連れ去られると勘違いしたのだ!
ゲオルグは両手の掌を空に翳し、鷲に狙いを定める。
彼の魔力は噴火する直前のマグマのように熱く滾り、放出されたくて堪らないとばかりにゲオルグを煽っていた。
若い魔術師は先程から体内で悶え狂う力を、有りっ丈掌に集めた。

149 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/02/24(月) 23:25:37.17 0
「食らえ……ェええーーーーー!!」

掌から火の粉が弾け、炎の鳥となってグランと鷲へと飛翔する。
鷲の目を通してそれを目にした老人は、これ幸いにと、鷲にその熱を「食わせた」のである。

「(ほほお、力漲る熱じゃのう!?)」

背に乗っているグランは、凄まじい熱を感じるだろう。
魔力から生まれた炎を飲み込み、一度体内で分解し、体全体から熱を放出させたのだから。
まともに食らえば火傷は免れられない。ただの熱でも火傷して死ぬことはあるのだ。
鷲はゲオルグの火を取り込んだことで、自身も火の属性を得た。

「(お返しだ、童!)」

鷲は胸を仰け反らせ、嘴からどす黒い火炎を辺り一面に放射させる!
この時、既に競技上のルールにおいて彼らは失格扱いとなってもおかしくなかった。
だが審判も実況も、ルール違反などまるでないかのように、ただその光景を見ているだけだ。

150 :バルムンテ:2014/02/24(月) 23:28:58.99 0
>「前門の虎後門の狼とはよく言ったものだな…… どうする?」

「仲間を助けにいく。
なぁんて言うとでも思ったか?
おれには仲間なんていねぇよ。
ん?あのガキ?あいつは得体のしれねぇ魔導人形だぜ。
人の真似して正義ごっこでもしてんのかもしれねぇけどよ。
なんの主義もなくただ最後に悪は許せねぇからやっつける
とかそんな行動するやつなんて薄気味悪ぃんだわ。
まるで何かに操られてるかのような中身がみえてこねぇやつ。
それでいて恐ろしいほどの慧眼で何でもわかってるような風に行動出来やがる。
それって全体をどっかから見てるやつがあのチビを操ってんじゃねぇかと思うとすげぇ怖ぇんだよ。
あのタバコくせぇおっさんのほうがまだ可愛げがあるぜ。
実際はそうでもねぇけどな」

バルムンテはスパランティーニから始まったゴレマンの不信感に
グランまでにも敵対心を強めていた。
ゴレマンたちは元からバルムンテには理解出来ない存在で
何のために戦うのか体を張れるのかわからない。
人間でもないのに人間に協力している行動原理の不明な存在。

(やっぱわかんねぇ)
かぶりをふり気をとりなおし
思考をもとに戻す。

「すまねぇ。話がずれちまった。
まあ、おめぇがどうするもこうするも好きにすりゃいいじゃねぇか。
おれが邪魔なら捨てていきゃいいんだぜ。
おめぇはおめぇのやりたいことをやりゃあいいんだ。
まあそれでもおれの意見を尊重してくれんならよ。
おれは運動会をメチャクチャにした奴等を許せねぇしその真意を確かめてぇ。
こんだけやったからにはこんだけやる大層な理由があるはずなんだろうけどよ」

バルムンテは眉根をよせて戦況を見つめている。

「おめぇはおれに、本当のことがわかるように行動してくれたらいい。
もちろんそれは強要じゃねぇ。おめぇがいいと思ったらやるんだ。
わかったかユーレニカ?」
弱々しくユーレニカの肩を掴むバルムンテ。
巨人はユーレニカの思うことを思いのままやれば良いと考えていた。
……バルムンテがおれになれとはそういうことだ。

151 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/02/26(水) 01:21:25.60 0
>「(ホ……老体は労わるものだよ、お嬢さん(リトルレディー)?)」

負荷は伝わってはいるものの、思ったほど劇的な効果は無い。
憑依や変化ではなく感覚共有を伴った遠隔操作なのかもしれない。
それでも徐々に風魔法に割けるリソースが減ってきたようだ。

>「何やってんだ、鳥野郎テメー!そのチビから離れろ!!」

ゲオルグが炎魔法で援護に入る。
何か勘違いしているような気がするが、助かることには変わりはない。

>「食らえ……ェええーーーーー!!」

>「(ほほお、力漲る熱じゃのう!?)」

ゲオルグの炎の魔力が鷲に取り込まれるのを感じた。

「あっつ――! そんなんアリかよ!?」

反射的に鷲の背から飛び退る。
そこで反応できたのが不幸中の幸いだった。

>「(お返しだ、童!)」

火炎属性を取り込み火の鳥となった鷲が、辺り一面に灼熱の炎を吐き散らし始めた。
すでに飛び退いていたお蔭で至近距離での直撃は免れたが、木に燃え移りでもして大惨事になるのは時間の問題だ。
滞空に近いペースでゆっくり地面に降りながら、炎に炙られながらも呪文を詠唱する。

「――万象を地に縛る無慈悲なる戒めよ、星辰の漆黒の深淵となりて万物を飲み込め!」

これは本来はブラックホールのような強力な重力場を発生させ相手を圧し潰す恐ろしい魔法だが、そんな事は到底できない。
が、炎を引きつけさせる程度ならできる。
鷲を中心に発生させた重力場が吐き散らされた炎を引きつけ、鷲を取り囲んでファイアストームのように凄まじい渦を巻く。
それを確認して、ゆっくりと地面に降り立つ。

「お前……」

ゲオルグが驚いた顔でこちらを見ている。それで思った以上に炎の被害を受けている事に気付いた。
服はところどころ焼け落ち、外見上人間の皮膚を模した表面装甲が焦げている。
魔法発動時に付き出した右腕に至っては表面装甲が溶け、魔導金属が露出している。
見た目はびっくりするかもしれないが、見た目ほど大したことは無い。
でもオレが魔導人形じゃなければどうなっていたかは分からない。

「……大丈夫、人間に似せるためのガワが溶けただけだ。この程度なら時間が経てば自然に治る。
オレは人形。赤い血の代わりに魔法の循環水を、心臓の代わりに魔導核石を持つ人形だ。
そんな事よりあいつ……これで終わるわけがないぜ。まさか自分で吐いた炎で焼け死ぬはずは無いしな。
気を付けろ、人間があれを受けたらこの程度じゃ済まない!」

次の攻撃を警戒しつつ、炎の渦がおさまるのを見守る。

152 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/06(木) 02:00:40.29 0
火炎が渦巻く競技場を目の当たりにし、スタンプの目の色が変わる。
グランがあの場にいたことは先程確認している。
嫌な予感が背筋を走り、スタンプは係員のもとへ駆け寄る。

「おい係員、何してる!?ありゃあルール違反なんてもんじゃ……」

胸倉をつかみ揺さぶりかけたところで、はたと気がつく。
審判の目は虚ろで、光を宿していない。あらぬ方向を見定めており、まるで人形のようだ。

「駄目だ、既に奴の術中にはまってる」

瞳孔を確かめ、意思が感じられないことを悟ると、苦い顔でドナテロはつぶやく。
ますますもって焦燥感が彼を突き動かす。
だがその首根っこをドナテロが押さえ込む。

「止めておけ、君が入ったところで足手まといだ」
「煩い!大体ッ、お前らが巻き込んだんじゃねえか。アイツ等に何かあったら……!」

スタンプの瞳が、ギラギラと怒りの炎が揺らめく。
反対に怪盗はつとめて冷静だった。係員が敵の手中に落ちているという事実。
それが示すのは、つまり。

「……何かあるとしたら、今だな」
「何のことだ、なあ、お前一体、何を」

まさにその瞬間、爆発の轟音が盛大に空気を震わせた。
悲鳴があちこちで沸きあがり、観戦席からは黒い煙が立ちのぼる。

「やられた……!!」

153 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/06(木) 02:01:26.73 0
【時間は少し遡り、競技場内】

>「仲間を助けにいく。
なぁんて言うとでも思ったか?

問いかけに答えた巨人の言葉に、ユーレニカは怪訝そうに首を傾げる。

「…あの子供はお前の仲間じゃないのか」
>ん?あのガキ?あいつは得体のしれねぇ魔導人形だぜ。

小さな魔導少女グランを語るバルムンテ。
彼の言葉からは、人ならざる少女に対する不信感と敵対心が滲み出ている。
ユーレニカは巨人の横顔を一瞥し、その真意を読もうとした。
だがすぐに、話題をすりかえられてしまう。

>「すまねぇ。話がずれちまった。
(中略)
おれは運動会をメチャクチャにした奴等を許せねぇしその真意を確かめてぇ。
こんだけやったからにはこんだけやる大層な理由があるはずなんだろうけどよ」
>「おめぇはおれに、本当のことがわかるように行動してくれたらいい。
もちろんそれは強要じゃねぇ。おめぇがいいと思ったらやるんだ。
わかったかユーレニカ?」

肩を掴む力が弱弱しい。
戦況を見定めようとするバルムンテから目を逸らし、目を閉じる。

お前の好きなようにしろ。そう言われたのは、群れを追い出される時に母に言い放たれて以来だ。
でも、違う。母は自分を捨てたいがためにそう吐き捨てた。
けれど彼が口にする「好きにすればいい」は、どことなく心地いい。


自分はどうしたい。今まで、自分自身で決断することなどなかった。
私が彼になるために、私が今すべきこと。それは、ただ一つ。
「共感」することだ。彼と同じ目線に立つことだ。彼と目的を共にすることだ。
そうすればきっと、見えてくる。自分が欲する、何かが。

154 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/06(木) 02:02:46.88 0
「……私だって、――例えどんな事情があろうと…――ドンの敵は許せない」

轟、と風が吹き抜け、次の瞬間には炎の波が押し寄せる。
巨人を担いだまま、即座にユーレニカは木の上に避難した。
高い視点から見れば、敵の位置はすぐわかる。
ユーレニカは自身の肩にかけられた手をしっかと握り、芯の通った声をあげる。

「行こう、バルムンテ。今だけ私は――お前のために戦いたい」

不意に彼女は微笑むと、巨人の返事を待たずして、敵陣に向け疾走する。

155 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/06(木) 02:04:00.61 0
【同時進行、グランサイド】

「ほっほう、ほっほーう!」

炎の渦に取り囲まれる鷲。老人はただ愉快そうに手を叩く。
グランが作り出した重力の渦が炎を引きつける。
業火の舌に舐められ、表面装甲が焼け落ちた少女を目にし、老人は性的興奮さえ感じている。

炎がようやく雲散霧消すると、既に鷲はボロボロの姿になっていた。
余裕があれば「鳥の丸焼きにしちゃ不味そうだな」とくらいはいえた物だが、相手の心情は伺えない。
ゲオルグは薄気味悪さに生唾を飲み、じりじりと後ずさりする。

「(重力魔法に格闘技術か、面白い。知っているぞ、確か名はグラン・ギニョール、そうだろうお前さんや?)」

鷲はしわがれた声で、声に愉悦を交えて問いかける。

「(風の噂で聞いた、あのペテン師野郎の子飼いの人形。そうか、お前さんか。会えて嬉しいよ)」
「な、何だ?グランお前、知り合いなのか?」

ゲオルグは老人の声が口にした意図が理解できず、グランに問いかける。
誰もあずかり知らぬことだが、この老人は世にある魔導人形の事情はすべて周知していると自負している。
故に、グランの名前や能力等といったプロフィールを齧った程度に知っているだけに過ぎない。

「に、逃げやしょうよ兄貴ぃ……お、俺もう立てねえ……!」

舎弟はすっかり腰を抜かし、地面にへたりこんでいる。
すると、ギロリと生気のない鷲の目が目ざとく彼を見た。

「(おや、それは困る)」

刹那、鷲の口が大きく開かれた。
底が見えぬ口腔の闇から突如、何本もの糸がうねり飛び出し、舎弟の腕やら足やらに突き刺さる。

「う、うわ……!助けて兄貴ィイ!」

糸は人体をまるで布地でも縫うかのように雁字搦めにしていく。
ゲオルグは悲鳴をあげ、舎弟に絡みついた糸を解こうと躍起になる。
驚いてる暇もなく、糸は次々飛び出してグランやゲオルグを狙う!

だがしかし、グランにはドナテロから譲り受けたブレスレットがある。
ブレスレットは糸の魔力に反応し、バリアでもあるかのように糸を弾く。

「(フム、お嬢さんを仲間にできないのは残念だ。代わりに、彼等にも仲間になってもらおうか)」
「! バリー、来るなぁあ!」

ゲオルグは、こちらに接近しつつあるバルムンテらに気づき、警告する。
しかしそれも虚しく、無数の糸がバルムンテ達をも絡めとらんと襲い掛かる!

「さて、こちらも準備ができた。そろそろクライマックスだ」

その時だ。VIP観戦席が突如、文字通り爆発した。
悲鳴や怒号、混乱の嵐が今まさに、東ドームを包み込んだ!

156 :バルムンテ:2014/03/06(木) 02:05:27.35 0
>「行こう、バルムンテ。今だけ私は――お前のために戦いたい」

「……そうかよ。後で後悔するんじゃねぇぞユーレニカ」
バルムンテはユーレニカに心境の変化を感じた。
女にはある種の責任感が芽生えている。
他人のために他人を思いやるのと
自分のために他人を思いやることは違うのだ。
そう、その心の中心となるのは己なのだから……。

そして二人は、鳥のいる場所へと接近し驚愕することとなった。

「……グラン!」
視線の先で、とろけているのは魔導人形。

>「(フム、お嬢さんを仲間にできないのは残念だ。代わりに、彼等にも仲間になってもらおうか)」
>「! バリー、来るなぁあ!」

「うおぉおお!?」
おそいくる糸。爆発するルーム。

「やべぇ!おれを捨てて逃げろ。ユーレニカぁ…」
迫りくる糸が操り人形のように体に巻きつき、
バルムンテとユーレニカを引き剥がす。

「ちくしょおっ!はなしやがれ!」
のたうちまわるものの力が入らず抵抗をやめるバルムンテ。

「ちっ…。いったいオメーの目的はなんなんだよ?
……ここまでおれらを追い詰めることができたってことは
それは大した力だぜ。運命が強者としてオメーを選ぶんだとしたならよ、
現時点ではオメーの行動原理は正しかったってことだ」
巨人は戦況を虚ろな目に映す。
どろどろにとろけているグランを見つける。

「……けっ。おめぇは正義のヒーローじゃなかったのかよ」
なぜかバルムンテからは悲しい笑みがこぼれていた。

157 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/03/08(土) 04:45:15.88 0
>「(重力魔法に格闘技術か、面白い。知っているぞ、確か名はグラン・ギニョール、そうだろうお前さんや?)」
>「(風の噂で聞いた、あのペテン師野郎の子飼いの人形。そうか、お前さんか。会えて嬉しいよ)」

鷲は丸焼き状態になったものの、本体自体は堪えた様子はない。
それどころかこの状況を楽しんでいるようにも感じられる。

>「な、何だ?グランお前、知り合いなのか?」

「いや、こいつ……多分人形マニアだ……!」

戦術からして、本体は姿を現さずに人形を使ってばかり。
霊糸を使った傀儡の術なんていかにもそれっぽい。
そう思っていたら、鷲の口から伸びた糸が襲い掛かってくる。
幸いオレはブレスレットの魔力が発動して糸をはじくが、ゲオルグと舎弟は糸の拘束を免れない。

>「(フム、お嬢さんを仲間にできないのは残念だ。代わりに、彼等にも仲間になってもらおうか)」
>「! バリー、来るなぁあ!」

「バルムンテ!? なんでここに!?」

バルムンテとユーレニカがこちらに向かってくるが、彼らもまた糸の餌食になる。
その時VIP観覧席が爆発。阿鼻叫喚の事態となった。

>「ちっ…。いったいオメーの目的はなんなんだよ?
……ここまでおれらを追い詰めることができたってことは
それは大した力だぜ。運命が強者としてオメーを選ぶんだとしたならよ、
現時点ではオメーの行動原理は正しかったってことだ」

諦めたのか、抵抗をやめて悟ったように語っているバルムンテ。
バルムンテもオレと同じブレスレットを付けているはずだが、当人の魔法適性によって効果に差が出るのだろうか。

>「……けっ。おめぇは正義のヒーローじゃなかったのかよ」

「見てのとおり正義のヒーロー役のからくり人形さ。
元を辿れば魔法で作られた仮初めの生命……
時々思うんだ、この心は偽物なんじゃないかって……だから人形は物語《ドラマ》を求める。
お前の言う通り、これはこれで美しい悲劇《トラジェディ》かもしれないな。でも……」

小さく詠唱し、手に重力の刃を作り出す。

「オレは断然、喜劇《コメディ》の方が好きかな!
人形は人形でもな。オレは……オレ達は、操り人形じゃねー!」

跳躍し、鷲の口から伸びる糸を断ち切る。

「ギルドに入る前は気に入らない脚本はアドリブでぶっこわしちまう不良役者でな……よく怒られたもんだ。
諦めるのはまだ早い!
地面に引きずり落とすからその隙に総攻撃を仕掛けてくれ! 重力操作《ウェイトコントロール》!」

丸焼き状態の鷲に、出力最大の重力をかける。
これを倒した後は本体を探し出さなければならないが、ああいう連中というのは変な所に律儀なもので
予告通りに黄金のハクトウワシを盗みに現れるのではないかというのがオレの予想だ。

158 :名無しになりきれ:2014/03/09(日) 04:15:47.84 0
tst

159 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/15(土) 21:12:35.09 0
【読み飛ばし可】

暴れ狂う怪物のように、ドーム全体を包む黒煙の蛇。
狂喜の赤と狂気の黄、不穏を象徴する黒が渦巻き、朦々と立ち昇る。

VIP観覧席は酷い有様であった。
あちらこちらが崩れ、硝子は砕け散り、惨憺たる様相と化していた。
この惨状の中、一角だけ青白く輝く半円状が蹲っている。
表面には記号が生物のようにうねり、半透明に発光するそれは、人を衝撃から守るための結界だ。

「防護結界術≪シャットダウン≫。何とか間に合いましたね」
「あああああビビったマジビビった生きててよかった有難う神様ホンットジーザス」
「ひっ、ひっつくにゃバカ!セクハラで訴えるニャ!」

VIP観覧席のガードを任されていたギルドの三 人である。
フリット・フリークマンは結界を解除し、周囲を観察する。

「二人とも、私から離れないでください。結界の効力が薄れますから」

生真面目な男は、一にも二にも状況を把握せねばなるまいと動き出す。
このフロアで生存者がいる望みは薄い。がしかし、仕事なのだから行かねばなるまい。
アッシュ、トトの二名は後に続く。
トトは煙たさに眉を顰め、アッシュもまた凄惨な現場に顔を顰めざるを得ない。

「ひでえ……誰が一体こんなことを。そもそも何のために……」
「最悪のケースが現実に起きたと考えていいでしょう」

トトが「テロってことニャ?」と問うと、「私がいながらこの惨状…許し難いことです」とフリットはやや苦い表情で頷く。
三人 は瓦礫や火を避けながら先へ進む。不思議なことに、死傷者は誰もいない。
それどころか、誰か人間がいた様子すら見受けられない。まるで、皆幻だったかのようだ。

「妙だ。まるで指し示したみたいに誰もいやがらねえ」
「ここに来れば……すべて分かるんじゃないですか?」

フリットがネクタイを緩め、爆風で歪んだ「特別招待客席」の扉を見やる。
彼の魔法・ウィップエッジが布のように鋼鉄の扉を二つに裂く。
この先の惨劇――大統領らの変わり果てた姿を想像し、三人は身構える。
重々しい金属音の先で、彼らを待ち受けていたのは――

「…………なんじゃこりゃ!?」

何もない、ただ爆破されただけの、空っぽの部屋であった。
死体はおろか、何もない 。砕け散った豪華な椅子や、部屋の中の設備の残骸が転がっているのみだ。

「これは、どういう……確かにここに皆いたはずじゃ……」
「ち、ちょっと!外も大騒ぎだニャ!このままじゃ二次被害が起きるニャ!」

混乱に続く混乱に、トトとアッシュは「何とかしなきゃ」とあくせく頭を働かせる。
だが、同じく驚いていたフリーマンは、何か思うところがあるらしい。
生真面目な眉間に皺が寄っている。外の騒ぎと、この観覧席で起きた爆発。
そして彼の脳裏にふと過ったのは、三人と先ほどすれ違った老人のこと。

160 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/15(土) 21:14:54.51 0
「! 誰だ!?」

不意に、視界の片隅で何者かが動く気配を感じ取る。
同じく獣人としての勘が働いたのか、一歩早くトトが動く。
その鋭い爪と小さな体に似合わぬ剛腕で、影を捕える。

「! フリット、アッシュ!来てニャ!」

二人はトトの側に駆け寄る。そこにあったのは、等身大のボロボロの木偶人形だ。
しかも何かの切れ端が付着しており、それは人の顔にも見える。
もっと注意して見れば、この大会の特別招待枠にいた上流階級の人間の一人の顔にそっくりと分かった。

「どういうことだ?なんでこんな気持ち悪いものが……」

木偶人形はトトに捻じ伏せられたまま力なく動いている。
アッシュが気味悪げに、顔らしき部分を覗き込む 。硝子の目玉が、感情なく見返している。

【読み飛ばし可・ここまで】
【競技場・外】

「つまり、奴の筋書きはこうだ」

ドナテロは腕を組み、脳内で整理した推理を言葉で形にする。

「奴は僕に個人的な恨みを持っている。だから僕が必ず乗るであろう挑発をかけ、罠に仕掛けようとした」

それが例の、成り済ましの予告状だ。
案の定、ドナテロはそれに釣られ、コッペリウスを炙り出そうとした。ゲオルグやバルムンテ、ギルドのメンバーも巻き込んで。

「人を陥れることに掛けて奴の右に出る者はいないだろうな。
 コッペリウスは大衆の面前でテロを起こし、僕をその首謀者として吊し上げるつもりだ。
 大方、特別招待に招かれた【反デミ派】に反 発する過激派とかに仕立て上げようとしてる、とか」

「……しまったとか言ってた割りには、随分冷静じゃないか。このままじゃお前、泥棒どころか立派な戦犯扱いだぞ」

「予想していた範囲内だったからね、君たちでも予想できないような対策は施してある。
 僕が一番危惧しているのはそっちじゃない、例の黄金像のことだ。奴が場所に見当をつけたとしたら……」


【競技場内】

バルムンテを背負う女狼は、次の瞬間肌が粟立つものを感じ取る。
何かくる、身構えて躱そうとする刹那。物考えぬ無数の敵が襲来する。

>「うおぉおお!?」
「な……!(糸!?)」

一撃目は体を捩って避ける。だが敵はユーレニカらを追撃し、絡め取ろうとする。
だが、まだ癒えきらぬ右腕を一本の糸が貫き、堪らず「キャァア!」と悲鳴をあげる。
ユーレニカが怯む一瞬をついて、無数の糸が頭のない怪物のように二人を取り巻く。

> 「やべぇ!おれを捨てて逃げろ。ユーレニカぁ…」
「ッこのォ、紐風情がァア!」

見捨てるという選択肢はなかった。瞬時に動く片手の爪を人狼化させ、糸を裂く。
だが片手のみでは無理がある。糸を斬る速度より、糸が絡みつくスピードが上回る。
ユーレニカの爪を敵分子とみなした糸が、彼女の残った腕をも貫く。

161 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/15(土) 21:15:29.56 0
> 「ちくしょおっ!はなしやがれ!」
「バルムンテ!バルムンテぇ!」

あっけなく引き剥がされ、吊り上げられるバルムンテとユーレニカ。
巨人の鍛え上げられた肉体に、無数の糸が空中に束縛するかのように縫いついている。
痛みは与えられないが、貫かれた糸から心臓が脈打つ鼓動のようなものを感じる。
体力のないバルムンテは抵抗を諦め、鷲へと鋭い声で問いかける。

>「ちっ…。いったいオメーの目的はなんなんだよ?
>……ここまでおれらを追い詰めることができたってことは
>それは大した力だぜ。運命が強者としてオメーを選ぶんだとしたならよ、
>現時点ではオメーの行動原理は正しかったってことだ」

その時、作り物の鷲の瞳の向こうが感情を露わにした。
出来の悪い子犬が芸を覚えたことを喜ぶ、調教師のそれによく似ている。

「(ほう、その若いナリで物事の流れをよく分かっているようだ、巨人の申し子よ。
 だがそれは少々勝手が違う。運命は≪選ぶ≫ことなどせぬ。人が運命の軌道に乗せられているだけにすぎない。
 迷路の入り口から出口までの過程をなぞるように、万物もまたあるべき未来に進んでいるだけのことだ)」

少々御託が過ぎたかな、と哂い、老獪な声が言葉を続ける。

「(儂の目的が知りたいか。なに、そう難しいことじゃない。ちょっとしたお使いと野暮用じゃ)」
「バリー、こんな奴相手にしちゃダメだ!コイツ、とんだ頭のネジ緩んだイカレ野郎だぜ!」

ゲオルグが罵ると、まるで汚物でも見るかのような目で鷲は頭を動かす。

「(フン、盗人の孫が随分と抜かしおる。まさにリンゴは木の近くに落ちる、孫は爺に似るということか)」
「んだとテメエ!俺の爺を馬鹿にすんのか!」

身内をけなされて、ゲオルグはすっかり立腹だ。カカカッ、と鷲は奇妙な笑い声をあげた。

「(ヘン、ヘン、貴様らが喉から手が出るほど欲しがっている黄金のハクトウワシ像とやら、悪趣味にも程がある。
 せっかくの儂の一大作品を盗んだ挙句、あのような無様なガラクタにしおって、不届き千万じゃ!)」

声は次第に興奮を交え、声高に主張する。

「(そうとも、この儂が!あの黄金を創造した稀代の錬金術師、 コッペリウスとは儂のことだ!
 儂が丹精こめて創り上げた芸術を、あのクソ若造とスカした泥棒、それにあの能無しのカリオストロが掘り出して盗み出しおったのよ!
 笑わせてくれるわ、シチリアのヤマ師どもめ!あの金は間違いなく、儂のもの――)」

そこまで言い切ると、急速に老人の声は勢いを萎めた。
喋りすぎたと判断したのかもしれない。老人が語ったことは、全員が知らされていない重要事項だ。
唐突に明かされた事実に、ゲオルグはたじろくしかない。

「ふ、ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ……!」

ゲオルグの右手の拳が煙を放ち、爆ぜるように燃え上がる。
真紅の炎は瞬く間に霊糸を燃やし、消滅させる。

162 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/15(土) 21:16:27.41 0
「(――あのヤマ師共は然るべき方法で儂が仕置きしてやらねばならん。
 貴様らも儂の駒≪ドール≫として、おおいに活躍してもらうぞ……)」

だがその時、一太刀の刃が糸を裂く。
軽やかに、華やかに、鮮やかな一振りで、霊糸はハラハラと散る。

>「オレは断然、喜劇《コメディ》の方が好きかな!
 人形は人形でもな。オレは……オレ達は、操り人形じゃねー!」

皮膚は焼け落ち、服も焦げついてボロボロであるにも関わらず、少女は美しい。
活き活きと輝く蒼い瞳は本物の命のように躍動するかのよう。老人は生唾を飲み込む。
欲しい。あの人形が、断然欲しくなった。

「バルムンテ、大丈夫か!どこも傷まないか!?」

もがくように己の糸を断ち切るや、ユーレニカは巨人の体を受け止めると、執拗に絡まった糸を解きにかかる。
本来、コッペリウスから身を守る筈だったブレスレットは何の機能も果たすことなく、沈黙している。
コッペリウスの霊波を感知してか、僅かに震えるのみだ。まるで、見えない何かに邪魔されているかのように。

>「ギルドに入る前は気に入らない脚本はアドリブでぶっこわしちまう不良役者でな……よく怒られたもんだ。
諦めるのはまだ早い! 地面に引きずり落とすからその隙に総攻撃を仕掛けてくれ! 重力操作《ウェイトコントロール》!」

またもグランによって、多大な圧力が鷲のボディにかかる。
既に散々なまでに痛めつけられ、これでは最早、鷲は使い物にならない。
そう判断した老人は、次なる手段に出た。鷲のボディが突如、空中で分解し、飛散する。
鷲の形を象っていた銅が粉々に砕け散り、その場にいる全員を襲う!

「うわ……ッ、この!」

ゲオルグは拳で弾き、ユーレニカは巨人を庇いながら爪で叩き落とす。
だが墜落にとどまらず、破片は再び空中に浮かびあがり、何度でも彼らを襲う!
破片の一つ一つはまたも霊糸で繋がっており、断ち切らない限り何度でも飛来してくる。

「(どうだ、さしもの君でも全ての破片に重力を与えるのは辛かろうて)」

破片は縦横無尽に飛び掛かり、一つに重力をかけるごとにまた別の破片が襲ってくる。
更に襲いくるのは破片だけではない。その場の木の破片や岩にまで糸は伸び、無数に彼らへ引き付けられるように発射される。
ユーレニカは状況は不利と判断し、グランらへ呼びかける。

「チビ、アホ坊!一度撤退だ!これじゃ埒が開かない!」

バルムンテのブレスレットにかけられた守護の呪が発動しない今、この場に留まることは危険だ。
相手はグランの魔力が尽きることも計算に入れて攻撃を仕掛けてくる。
今ここで、彼らの負担を増やすくらいならば、退くことも重要だと考えた。

【自らのボディを分解して細分化、霊糸で破片を繋ぎつつ投擲攻撃】

163 :バルムンテ:2014/03/15(土) 21:17:36.76 0
巨人とユーレニカの体に無数の糸が突き刺さる。
だがそれには痛みがなく、体内を縫うかのように広がって行く。
おまけにそれは鼓動のように脈打っていた。

「うぇえ……。気持ちわりぃ」
痛みという拒絶もなしに、
糸が体内を蠢くことに恐怖を感じるバルムンテ。
おもに異物が体内で馴染んでいることがげせない。
それにブレスレット。
ずっと光りもせず守りもしない。

(あのくそやろうが。なんの詮索もなしに条件は全部のんでやっただろうが!)
諦念に押しやられ、逃げ場を失った怒りが込み上げてくる。
だが仕方ない。
そして老人は、運命とは迷路だといい
続けてゲオルグに触発されると、己の正体をコッペリウスと明かした。
それにバルムンテが驚いているとグランの声が聞こえる。

>「見てのとおり正義のヒーロー役のからくり人形さ。
元を辿れば魔法で作られた仮初めの生命…… 時々思うんだ、
この心は偽物なんじゃないかって……だから人形は物語《ドラマ》を求める。
お前の言う通り、これはこれで美しい悲劇《トラジェディ》かもしれないな。でも……」

>「オレは断然、喜劇《コメディ》の方が好きかな!
人形は人形でもな。オレは……オレ達は、操り人形じゃねー!」

斬断される糸。

164 :バルムンテ:2014/03/15(土) 21:19:57.03 0
>「バルムンテ、大丈夫か!どこも傷まないか!?」

「あ、ああ。大丈夫だ」
ユーレニカの鋭い爪がバルムンテの拘束を解く。
と、鳥が重力操作により落ちてくる。
しかし自ら砕け、弾と化す。
目の前で目まぐるしく変化する戦況。
それはまるで万華鏡だ。

「……けっ、ガキが。
人形はドラマを求める?それはどういうことだよ?
ドラマチックでより人間らしくあることに憧れでもしてんのか?
それとも作りもんは作りもんの世界がふさわしいと妥協してんのか?
炎で焼かれても死なねぇなんて普通に化けもんだろ。……そりゃ泣けねぇぜ。
まあ、おめーごときで泣かせられたらたまったもんじゃねぇけどな」
人形が求めるドラマ。故に潰されてきたドラマは
かつてどこかの誰かが求めたドラマなのだろう。
感情的な相手に、綺麗事、道徳的なことを押し付ければ
それは拒絶されてしまうのは当然だ。
それでは自分でいる意味がない。人は皆、自我を持っているのだ。
生臭坊主の説法のようなことを
得意気に語られ
目から鱗が落ちました。なんて
言う馬鹿などいない。
人は親身になってもらいたいものだ。
自分が悦に浸りたいだけの言動は茶番劇であり
ナンセンスなことなのだ。

(でもそれは、あいつに限った場合仕方ねぇことなんだよな。
そもそも人形のあいつは人の痛みを知らねぇんだからよ。
味覚のねぇやつにうまいもん作れって言ってるのと同義だ)
人形は喜劇が好きという価値観を持っているらしい。
その半面、バルムンテの価値観は強いか弱いか。
それはこの世に平等に造られた法則。
正しいから、お気に入りだから、物語の主役だから、
などわけのわからぬ偏見の入る余地などない。
勝つために用意してきたものが多いほうが勝つという単純な法則だ。
バルムンテはコッペリウスの声に語りかける。

「人生は迷路だなんて、すんげぇ良いことを言うじゃねぇかコッペリウスのじじいがよ。
だがよ。とっととゴールしてぇんならおれらと遊んでる暇なんてねぇんじゃねぇか?
スケベ心出してねぇでまっすぐ行けよ。
ここでもたもたしてたら、あんたの敵に出し抜かれちまうかもしれねぇぜ」
先程の彼の発言から、自分たちをなぜ攻撃してくるのか?
そんな疑問が沸いていた。
だがそれも彼以外にはわからないこと。
すべての問題はコッペリウスを誘きだした時点で解決するという淡い希望も
今は霧散しかけているようだ。

165 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/03/17(月) 01:55:21.12 0
>「……けっ、ガキが。
人形はドラマを求める?それはどういうことだよ?
ドラマチックでより人間らしくあることに憧れでもしてんのか?
それとも作りもんは作りもんの世界がふさわしいと妥協してんのか?
炎で焼かれても死なねぇなんて普通に化けもんだろ。……そりゃ泣けねぇぜ。
まあ、おめーごときで泣かせられたらたまったもんじゃねぇけどな」

カッチーン! スタンプに負けず劣らず素直じゃない奴!
こっちは一応頑張って助けるために動いたのに悪態つくかフツー!?
しかし今ここで口喧嘩してその間にやられたら笑うに笑えない。

「誰が泣かせるもんか! 化けもんで結構!」

これではっきりと分かった。彼は訳の分からないものが嫌いなのだ。
もしかしたら彼は今までの人生において理不尽に翻弄されてきたのかもしれない。
彼が唯一頼るのは力――物理的な力のみ。
明確な数値で強い弱いが計られる、何の思惑も入る余地もない単純明快だからこそ残酷な原理。

「でもな……オレに言わせりゃお前だって十分化けもんだぜ?
魔法とか意味不明なものに頼らずにあれ程の怪力が出せるなんてな……。
だからな……御託並べてぼーっと突っ立ってんじゃねえ!」

多分ユーレニカとの戦いで力を使い果たしたのだろう。それを分かった上での駄目元の煽りだ。
鷲がバラバラの破片になって襲い掛かってくる! 意地でもオレ達を足止めするつもりか!
飛んできた破片を蹴り飛ばす。
バルムンテを庇うように戦っているユーレニカの声が飛ぶ。

>「チビ、アホ坊!一度撤退だ!これじゃ埒が開かない!」

一方のバルムンテは、相変わらず戦う様子を見せないまま核心を突く質問を突きつける。
その間も、ユーレニカはバルムンテを庇い続けている。
二人の間に戦いを通して何か芽生えたものがあったのだろう。

>「人生は迷路だなんて、すんげぇ良いことを言うじゃねぇかコッペリウスのじじいがよ。
だがよ。とっととゴールしてぇんならおれらと遊んでる暇なんてねぇんじゃねぇか?
スケベ心出してねぇでまっすぐ行けよ。
ここでもたもたしてたら、あんたの敵に出し抜かれちまうかもしれねぇぜ」

是非とも答えを聞きたい誘惑に駆られるが――

「駄目だ、逃げるぞ!そいつは凄腕の人形遣いだ……。
もたもたしてたらお前の大嫌いな人形にされちまう!」

下手したらオレの危惧している事がズバリ今オレ達に絡んでいる目的かもしれないのだ。

「一定区間ごとにリタイア用の脱出魔法陣があるはずだ! そこまで走ろう!
重力操作《ウェイトコントロール》!」

早く走れるように、全員の体重を極限まで軽くする。これは賭けだ。
重力操作の出力と持続時間はトレードオフ。
出力を取る選択をしたので、すごく速く走れる代わりに長くは持たない。

「みんないいか? 振り返らずに全速力だ!
ユーレニカ……バルムンテを乗せて走ってくれ!
置いて行って敵に回りでもしたらマジで厄介だからな!」

166 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/24(月) 23:40:42.72 0
【読み飛ばし可】

少々時間は遡る。
会場に湧き上がる熱い声のうねりを背に、二人の女が飛び出す。
一人はスパランツァーニ、一人はアイリーンだ。
女二人はレンタルの箒に揃って跨り、空を駆ける。周りの熱で火照る頬が、向かい風で冷えていく。

「こっち!グズグズしてないで」
「あ、あなたが、走るのが早すぎるんですよ!」

二人は会場から離れた、公園内の森林エリアにある小さな格納庫に辿り着く。
そこには、いくつかの予備のゴーレムが隠されてあった。
もしもの事態を考え、スパランツァーニらが迎撃用として用意しておいたものだ。
スパランツァーニがゴーレムに乗り込み、作動確認と調整を行う。

「スパランツァーニ、 聞きたいことがあります」
「何?手短に頼むわよ」

アイリーンはす、と浅く息を吸いこむ。
喧しく鼓動する心臓をどうにか押さえつけ、問いかける。

「貴方達の――黄金像回収の依頼主は、上流階級に属する方ですね?それも、大統領や首脳、魔法局長クラスのような」

ゴーレム遣いの手が止まる。沈黙は肯定とみなしてもいいのだろうか。
アイリーンには知識がある。百年以上かけて積み上げてきた膨大な知識と経験。
そこから基づく推測にすぎない。それでも予感のようなものがあった。

「錬金術で錬成された金など、普通ならば犯罪です。だけど同時にそれは価値あるものです。
 魔力ある金属なんてどうとでも扱えます。それこそ、大量殺戮兵器の道具にするこ とも出来る――」
「だから……何?私らがお国に頼まれて黄金泥棒捕まえろって命令されたとでも?」

違うのですか、と尋ねると、スパランツァーニは押し黙る。
肌を突き刺す沈黙、それを振り払うように頭を振る。

167 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/24(月) 23:41:24.32 0
「……今回の事は複雑の上に複雑な事情が重なってんの。いち脱獄者の私がホイホイ何でも知ってるかってーの」
「では、やはり依頼者は大統領か同じ位の権力を持った方、という解釈でよろしいのですね」

ぐ、と土人形は言葉に詰まる。
彼女の反応を見るまでもないことだが、でなければいち犯罪者がこんな大規模な人数を動員できる訳がないのだ。

「そ、それだけ分かれば十分でしょ。私たちが今すべき事は、黄金の回収とコッペリウスをぶちのめすこ とだけ。
 巻き込まれただけのアンタには関係ない規模の話でしょ!」

ホラ乗って、と話を中断させるかのように、無理矢理操縦席へアイリーンを押し込む。
自身も席に飛び乗ると、操縦術式をワンタッチし、ゴーレムを起動させた。
間もなく、四足歩行のゴーレムは格納庫の扉をぶち破り、元いた東ドームへと急ぐ。

「待って……ドンから連絡だ。東ドームでテロが発生したって」
「て、テロ!?あそこには万を超える観客と各国の首脳や上流貴族が集まって…!」

驚き、声が裏返るアイリーンを「落ち着いて」と背中をはたく。

「コッペリウスは『とびっきりのイカレ』よ。嫌がらせのために何万人の命も、国家を揺るがすようなテロも厭わない。
 ある意味じゃこ っちの想定の範囲内ね。まっ、まだちょーっとばかし救いはあるかな?」

どういう意味です、と首を傾げるエルフに、土人形はむふっと変な笑顔を浮かべる。

「私たちだって、本気でコッペリウスを捕まえたいの。だから……こんな事だってできちゃう。
 百聞は一見に如かずってね。ごらんよ?」

ゴーレムはドームの前で急停止する。
スパランツァーニの言葉を理解できないアイリーンは、パニックに陥っているであろう、ドームを見上げ――
思わず、言葉を失う。

「な、これって…………!!」

168 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/24(月) 23:42:07.20 0
【競技場内】

>「人生は迷路だなんて、すんげぇ良いことを言うじゃねぇかコッペリウスのじじいがよ。
 だがよ。とっととゴールしてぇんならおれらと遊んでる暇なんてねぇんじゃねぇか?
 スケベ心出してねぇでまっすぐ行けよ。
 ここでもたもたしてたら、あんたの敵に出し抜かれちまうかもしれねぇぜ」
>「駄目だ、逃げるぞ!そいつは凄腕の人形遣いだ……。
もたもたしてたらお前の大嫌いな人形にされちまう!」

「(やれやれ、最近の若人というものは寄り道やリスクの楽しさというものを知らんのか……!)」

巨人は、姿を見せぬ敵に対し大胆にも煽るように問いただす。
ユーレニカとしては馬鹿、挑発するんじゃない、と叱り飛ばしたい所だが、そんな余裕もない。
一方のコッペリウスは、突如としてよく回る舌を止めた。
答えに窮したか、はたまた別の思惑があるのか、図りかねる沈黙だ。

>「一定区間ごとにリタイア用の脱出魔法陣があるはずだ! そこまで走ろう!
  重力操作《ウェイトコントロール》!」

グランもこの状況を不利と判断したか、一時撤退の案に賛成する。
その場にいる全員が、不意に体の重力が一切消え去ったかのような錯覚を覚える。

>「みんないいか? 振り返らずに全速力だ!
 ユーレニカ……バルムンテを乗せて走ってくれ!
 置いて行って敵に回りでもしたらマジで厄介だからな!」

「へっ、なら殿は任せろ!鼬の最後っ屁どころじゃねえ、最大出力を奴にブッ飛ばしてやる!」

ドン、と自信たっぷりに胸を拳で叩くはゲオルグである。
熱暴走を起こしたり、かと思えば漲るほどの魔力を得たりと、彼の体は興奮していた。
体の興奮は精神を昂ぶらせ、ゲオルグはますます闘争心を露わにしている。

「バルムンテ、私の背に乗れ!」
「3、2、1で俺が奴にぶっ放す、そしたら走れ!」

ユーレニカは瓦礫の一つを弾き飛ばし、バルムンテへ素早く背に乗るよう指示する。
全員が構えた瞬間を見計らい、ゲオルグは今にも降り注がんとする瓦礫の群れと対峙する。

「行くぜ……3!」

彼の体内を魔力が循環する。大量の魔力が熱と共に駆け 巡り、更なる魔力を蓄積する。

「2!」

蓄積した魔力を右の拳に集中させる。今までにない高出力の熱魔法を放つつもりだ。
陽炎がそこかしこで揺らぐ。彼は満ち満ちた魔力を全て拳にこめ、解き放つ姿勢をとる。
彼は高揚していた。無限の魔力が自分の中にあると感じるほどに。

169 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/03/24(月) 23:42:41.23 0
「い……」

その時、貫いた。

腕が、たった一本の腕が、ゲオルグの鍛え上げられた肉体を易々と貫いた。
ゲオルグは目を見開く。誰が、誰だ、自分の真後ろには仲間しかいない筈なのに。
何故、お前なのだと、驚愕と疑問と 怒りとがないまぜになった表情で、振り向く。

「……お、おま、え……!」

腕の持ち主は、他ならぬゲオルグの弟分のものであった。
先程まで泣き言を叫んでいた姿はどこにもない。ただ無表情で、一寸の躊躇いもない。
逃げ出す姿勢をとっていた舎弟は、突然すべての行動権が誰かに移されたかのような動きをとったのである。
まるで、あらかじめプログラミングされた動きを再現するかのような所作だ。

「(そ こ か)」

老人の嘲笑うような声が響く。

ゲオルグは貫かれたが、血は流れていない。
代わりに、黄金の波が噴出し、霧のように辺りに満ち、やがて姿を象る。鷲の姿だ。
それは、グランの体内を流れる黄金の循環水を彷彿とさせた。

「 (小癪なラードゥルめ、″儂の黄金″をどこにやったかと思えば……体内、それも孫の体か!考えおるわい!)」

目の前に広がる光景は、バルムンテが実況室で見たあの現象に非常に酷似している。
ドナテロが語った「物質の追体験」。魔力を持つ黄金が見せた、あの特性だ。
ラードゥロは魔力を持つ黄金の核――つまり最も魔力の成分が高い黄金を――あろうことか孫の体内に隠していたのだ。
黄金は形状を変え、より体の奥深くに隠されているのか、その実態はいまだ見えない。

「か……あ……!」

苦しみに悶えるゲオルグ。
攪乱のための爆発魔法は不発に終わり、ゲオルグは今まさに敵の手に陥落しようとしている。
ユーレニカは咄嗟に、こう叫んだ。

「選べ、バルムンテ!」

ゲオルグを見捨てるか、救うか。ここで逃げ出すか、それとも戦いを続行するか?
彼女はその選択肢を、あえてバルムンテに託した。
そして、彼が望むのならば、彼女はどちらであろうとも、死力を尽くすつもりだ。

170 :バルムンテ:2014/03/24(月) 23:45:39.49 0
>「でもな……オレに言わせりゃお前だって十分化けもんだぜ?
魔法とか意味不明なものに頼らずにあれ程の怪力が出せるなんてな……。
だからな……御託並べてぼーっと突っ立ってんじゃねえ!」

「うっせぇぜ。おれだって好きで突っ立ったんじゃねぇよ。
つか、巨人の怪力なめんなよ。
おれらは神話の時代じゃ天空を支えていたんだぜ。
重力なんざ屁でもねぇんだよ」

>「駄目だ、逃げるぞ!そいつは凄腕の人形遣いだ……。
もたもたしてたらお前の大嫌いな人形にされちまう!」

「はあ?人形にするだぁ!?」
バルムンテは思う。果たしてそんなことができるのだろうかと。
だが先程の、己が肉体を貫いた霊糸は
痛みすら与えず体内を蠢いていた。
それは痛みを感じない人形と同じことだ。
もしかしたらあの感覚の先に無限に近い可能性があるのではないか。
そう実感するバルムンテもいた。
ある種、世界と一体化する感覚。それは死に近いところにあった。
ゆえに魂が拒絶したのだ。

(……神は生き物じゃねぇ。宇宙そのものだ。
だとしたら無生物の鉱物や人形のほうが神に近い存在なのかもしれねぇ。
だから死んだら人は神の国にいくっていうのかもな…)

ふと、巨人の体が重さを失う。
グランの重力操作によるものだ。

>「みんないいか? 振り返らずに全速力だ! ユーレニカ……バルムンテを乗せて走ってくれ!
置いて行って敵に回りでもしたらマジで厄介だからな!」
>「へっ、なら殿は任せろ!鼬の最後っ屁どころじゃねえ、最大出力を奴にブッ飛ばしてや る!」
>「バルムンテ、私の背に乗れ!」

「あ、ああ……」
生返事のバルムンテ。
逃げることに最早それほどの抵抗はなかった。
もともとの役目はすでに終わっているし
コッペリウスを倒すと約束したわけでもない。
バルムンテにとっては単にコッペリウスもドナテロも運動会の進行を邪魔する者に過ぎず
今、気になるのはお膳立てしてやったドナテロが現れないことのみだった。

171 :バルムンテ:2014/03/24(月) 23:46:29.22 0
とりあえずはドナテロの指示通りにやっているわけだし
コッペリウスの目的も知れた。
それは盗んだ者と盗まれた者の醜い争い。
それにしても最近、他所でやれと突っ込みたいことがらが多い気もするが
それが無理ならこちらが他所にいくだけのこと。
ゲオルグのカウントダウンを背に、バルムンテは撤退を決意する。
しかし――しかしだ。
沈黙に振り替えればゲオルグの苦悶の顔。

「……!?」

>「選べ、バルムンテ!」

「黄金像?なぜここに……。
つーかそんなことよりもよ」
ゲオルグを貫く腕の主を睨み付けるバルムンテ。
こんなことをできる人間は限られている。

「なめたまねしやがって……」
詮索はせずバルムンテはユーレニカの背から降りると、ふらふらしながら前身。
その両眼を怒りで静かに燃やしながら
コッペリウスに語りかける。

「おいコッペ爺、その黄金像ってのはもともとおめーのものなんだろ?
なら今すぐその兄ちゃんの体の中から取り出してやってくれよ。
それをおれは止めやしねぇし止める理由もねぇ。
なんなら手伝ってやることも可だぜ」
バルムンテはゲオルグを見捨てなかった。
今のバルムンテに何か思うものがあるとすれば
それはゲオルグを見捨ててはいけないということだった。

「わりぃなユーレニカ。おれはあいつを見捨てられねぇ」
バルムンテはここでゲオルグを見捨ててしまえば
きっと後悔するし自分も惨めと思っている。
……そう。惨めなのだ。

172 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/03/28(金) 20:49:10.21 0
>「うっせぇぜ。おれだって好きで突っ立ったんじゃねぇよ。
つか、巨人の怪力なめんなよ。
おれらは神話の時代じゃ天空を支えていたんだぜ。
重力なんざ屁でもねぇんだよ」

「おっ、少しは元気出てきたじゃん!
天空を支える怪力……か。なんだかワクワクするな!」

巨人族が闊歩していたという神話の時代に思いをはせる。
彼らは魔導人形族はもちろん、もしかしたら人間よりも原初の種族なのだ。

>「へっ、なら殿は任せろ!鼬の最後っ屁どころじゃねえ、最大出力を奴にブッ飛ばしてやる!」

ゲオルグが撹乱のための魔法を放つ――と誰もが思った。しかし。

>「……お、おま、え……!」

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!
「モブキャラ舎弟が能力値付きNPCの自らの主人に会心の一撃」
な……何を言っているのかわからねーと思うがオレも何が起こったのか分からなかった。
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか寝返りとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

>「 (小癪なラードゥルめ、″儂の黄金″をどこにやったかと思えば……体内、それも孫の体か!考えおるわい!)」

溢れだす魔法の黄金。
ゲオルグを貫いた腕の持ち主は全くの無表情。先程までのヘタレの舎弟はどこにもいない。
それだけなら敵の術にかかったとも考えられるが、この素手で人体を貫ける程の能力は説明がつかない。
コッペリウスが最初から紛れ込ませていた人形だったのか――!

>「か……あ……!」

「ゲオルグ……!」

乱暴だし馬鹿だしそもそもしょっちゅう街の平和を乱すお騒がせな奴だけど……流石にこれはなあ!
しかしバルムンテはとてももう戦えるような状態ではない。
バルムンテはユーレニカに逃がしてもらってオレ一人で元舎弟をどうにか……できるのか?
しかしユーレニカは敢えてバルムンテに問う。

173 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/03/28(金) 20:50:16.19 0
>「選べ、バルムンテ!」

「選べって……無茶だ!」

>「黄金像?なぜここに……。
つーかそんなことよりもよ」
>「なめたまねしやがって……」

ふらついた足取りで、コッペリウス操る舎弟へと詰め寄るバルムンテ。
すぐさま食って掛かると思いきや、意外な提案をした。

>「おいコッペ爺、その黄金像ってのはもともとおめーのものなんだろ?
なら今すぐその兄ちゃんの体の中から取り出してやってくれよ。
それをおれは止めやしねぇし止める理由もねぇ。
なんなら手伝ってやることも可だぜ」

「ん〜〜? ちょっと待てよ……」

その発想はなかった。言われてみれば確かにそうなんだけど何かおかしい気がする。
ドナテロは、金を作った張本人に回収を依頼されたと言っていたが
コッペリウスは、金を作ったのは他ならぬ自分だと言う。
コッペリウスがドナテロに依頼した……んなわけはない。
そうだとしたら、現にこうして両陣営に分かれて戦っている意味が分からない。

>「わりぃなユーレニカ。おれはあいつを見捨てられねぇ」

バルムンテの瞳に宿るのは、揺らぎのない覚悟。それを見てはっとした。
意味は分からないが、戦っても勝ち目の無いこの状況。
黄金をお土産に持たせてやって皆助かるなら儲けものだ。
バルムンテは、ゲオルグを見捨てず、且つ一番勝算のある道を選んだのだ。
これは、彼の戦えない時なりの戦いなのかもしれない。
そう思い、オレもバルムンテに加勢する。

「えーと、未だに全貌はよく分かんないけど少なくとも黄金を取り返すのが目的の一つであることは間違ってないよな?
黄金は持ってっていいからそれで今回はお開き、というのはどうだ?
爆破とかギルドとしては見逃せないけどそれはまた次の機会にって事で。
そんなに悪い条件じゃないと思うけどどうだろう」

174 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/04/06(日) 22:08:44.11 0
【読み飛ばし可】
「どう?何か分かったかニャ?」
「静かにして下さい。今視ている所です」

ギルドの三人は、燃え盛るVIP席からどうにか脱出していた。
ひとまず火の届かない所まで避難すると、フリークマンは木偶人形を調べにかかる。
なぜVIP席に誰もいないのか、何故こんなものがうろついているのか、疑問は山ほどある。
その答えがここにある。フリークマンはそう睨んでいた。

「記録逆再生(プレイバック)……開始!」

木偶人形に掛けられた術が作動する。
フリークマンがかけた術は、この木偶人形を生成した術師の情報を引き出すためのものだ。
視界がモノクロに染まり、フリークマンの眼前に過去の光景が映し出される。

視点は木偶人形のものだろうか。そこはVIP観覧席であることが窺える。
その場には十数人の立派な身形の男達と、術師と思われる複数の男女がいる。
その顔ぶれのなかには、異国の大統領や議員らの姿もあった。

『テロ対策とはいえ、自分の分身というのはあまり気分のいいものではないな』

一人の男が顔を歪める。どこかで見た……そうだ、木偶人形のガワと同じ顔の男だ。
術師と思われる、顔に特徴のない眼鏡の男が肩を竦める。

『ご容赦ください。これも、貴方がたの身の安全のためでございますから』
『本当に……来るのか。その、コッペリウスとやらは。我々に危害を加えると?』

眼鏡の男は深く頷く。『私は奴めをよく知っています。必ずや仕掛けてくるこ とでしょう』
隣で、同じく眼鏡をかけた細身の女が一歩前に出る。額の宝石がチカチカ輝いた。

『策には策を、です。会場にも幾つか仕掛けを施しましたが、万が一ということがあります。
 大丈夫、デコイの出来は万全です。見破られる心配はまずありません』
『いざという時の切り札も御座います。どうか我々の技術と作戦をご信用くださいませ』

その顔は自信に満ちている。どこぞの三流重力使いを彷彿とさせる顔立ちだ。
確かに、並べられた人形らは、本物と瓜二つ、型にはめて作られたかのような精巧さだ。
男らはその答えを以て十分としたか、その場を後にする。
その最中、男らの間で交わされる会話を聞き、フリークマンは目を大きく見開いた……。

「… …どうだ、何か分かったか?」

逆再生を終わらせても、フリークマンは俯いたままだった。
アッシュの問いには答えず、眉間を指で捏ねくり回し、浅く深呼吸する。

「……分かった所の騒ぎじゃない。馬鹿にしやがって……!」

どういうことだ、と尋ねるより早く、フリークマンは木偶人形をぞんざいに投げ渡す。

「最初からこんな所、来る必要なんてなかったんだ。糞っ、もっと早く気付くべきだった…」
「な、なあ。お前、何を視たんだ?」

振り返ったフリークマンの目つきを見るなり、アッシュは黙り込んだ。
それほどまでに、彼の瞳は怒りで満ち満ちていた。

「まずはここを出よう。こんな所、出て然るべきだ」

175 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/04/06(日) 22:10:06.64 0
【会場内・競技場内】

本題に入る前に、注釈を入れねばなるまい。

ゲオルグの舎弟は、疑似人格を所有するコッペリウスの人形だ。
あらかじめ人形に偽の記憶を刷り込ませ、ゲオルグの側に置くことで逐一情報を入手。
人形は直前まで自身が人形であることすら気づかず、当たり前の人間と錯覚するので、疑われることもない。
加えて、ゲオルグが数多くの仲間を引き連れていたことも幸いし、目立つことはなかった。
ちなみにアジトでのトラップ攻防戦の際、どこからともなく聞こえた第三者の声も人形のものである。

何故、コッペリウスがここまで黄金に固執するのか。無論、黄金を取り返すためでもある。

彼は大昔、錬金術を用いて黄金を生み出した。
ここで記述する黄金とは、ただの金としての物質という意味だけではない。
膨大な時間と魔力と財を投げうって完成させた、魔力増幅装置。形なき「魔道具」だ。
その物質は気体でもなければ個体でもなく、液体と呼ぶにも相応しくない。
彼がそれを使い、何を成そうとしたか、それは定かではない。
だがそのパワーが測り知れないことは、既に証明されている。

ユーレニカも、ドンの口から黄金が持つ可能性を聞かされていた。
彼女とて、全容を知っていたわけではないが、ドンの計画遂行のために動くつもりでいた。

>「黄金像?なぜここに……。
つーかそんなことよりもよ」
>「 おいコッペ爺、その黄金像ってのはもともとおめーのものなんだろ?
なら今すぐその兄ちゃんの体の中から取り出してやってくれよ。 」

だから彼女は戸惑っていた。
思いもよらぬバルムンテの提案に、彼女はあんぐりと口を開ける他なかった。
今まで積み上げてきたドナテロの計画が、全部ひっくり返りかねない展開だ。
だが思考と関係なく体は動くようで、足元が覚束ないバルムンテの体を支えにかかる。

>「わりぃなユーレニカ。おれはあいつを見捨てられねぇ」

そう語る彼の目を、ユーレニカは吸い込まれるような心持ちで見つめる。
孤独を恐れない癖に、誰かを孤独にさせられない。それがきっと、彼なのだろう。
狼女は、巨人に対しそんな印象を抱いた。

「……選べといったのは私だ。謝ることはない」

ふっ、と笑ってみせる。本心からの笑みだ。

「今の私はお前の手足で、力だ。余計なことは、考えなくていい」

「(素晴らしい、友情というやつかね?)」

元舎弟の人形は、操り手であるコッペリウスの指示を待つ。
その手で体を刺し貫かれたゲオルグは、致命傷ではないものの、息も絶え絶えといった風である。

176 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/04/06(日) 22:10:59.94 0
>「えーと、未だに全貌はよく分かんないけど少なくとも黄金を取り返すのが目的の一つであることは間違ってないよな?
(中略)
そんなに悪い条件じゃないと思うけどどうだろう」
「や、やめ……ろ……!」

ゲオルグは苦しげに息を吐き出し、掠れる声で拒絶する。
憎い相手に黄金を渡すことも、バルムンテらがコッペリウスのいいようにされるのも、彼からすればごめんだった。
だが、他に選択肢があろうか?老人は「よかろう」と一言のみ呟いた。

「ちく……しょお……!」

人形の手がグルリと円を描き、勢いよく引き抜かれる。
刹那、ゲオルグの体が宙に浮かび、ぽっかり空いた空洞から、黄金色の霧が竜巻のように迸る。
炭酸が弾けるような刺激が肌を叩き、膨大な魔力の結晶が眼前に顕われる。
無数の霊波の尾が光を反射し、まるで一つの巨大な宝石のように瞬く。
老人は感動の溜息を漏らし、堪らずといった様相で足を踏み出す。

グランとバルムンテには、まるで降って湧いたように、その老人が現れたようにみえるだろう。
何の変哲もない、眼鏡をかけた鷲鼻の老人。彼こそがコッペリウスであることは、誰の目から見ても明白だ。

「おお……素晴らしかろう……懐かしき儂の宝(ムスメ)よ……よくぞここまで……」

その場に、先程まで敵対していた相手がいることも忘れて、老人は魔力の塊に見惚れている。
だが、不意に振り返るなり、底知れぬ笑みを向ける。

「協力感謝するよ、諸君。だが君らの願いを全て聞き入れるわけにはいかんな」

コッペリウスが指を鳴らすなり、競技場が煙のように雲散霧消する。
荒れ果てた競技場に人の気配は殆ど感じ取れず、誰も彼も逃げ出したという印象が伺える。
ひとつ、視界に入るものがあるとすれば、そこには無様にも霊糸で拘束されたスタンプがいるということだ。

「君らはあの小癪なコソドロ君と手を組んでいた。それは許し難い事実だ」

彼もその一人だね、とスタンプの頭に指を押し付ける。
次の瞬間、スタンプの喉仏が激しい苦悶の声とともに震え、ぐったりと動かなくなる。

「なに、殺しちゃいない。儂と交渉といこうじゃないか」

小枝のような細く骨ばった指を絡め、蛇を思わせる舌をちろりとみせる。
コッペリウスは周りを見回し、「かくれんぼといこうじゃないか」と切り出した。

「あのコソドロめは、この哀れな男を置き去りにして雲隠れしおった。
本来なら八つ当たりとして君たち全員をお人形にしてやりたい所だが、それではつまらんというもの。
そこでだ、君たち、あのコソドロを見つけ出して連れてきちゃくれんかのお」

そうすれば全員、無事に帰してやろうじゃないか。と老人は笑顔をたたえたまま言う。
彼の言葉から察するに、ドナテロを見つけ出さない限り、次は他の者にも手を加えるつもりだろう。

177 :バルムンテ:2014/04/06(日) 22:12:27.92 0
ゲオルグを突き刺した舎弟の手刀。
コッペリウスのほくそ笑み。
それは単なる偶然か。
なんと黄金はゲオルグの体内に隠されていた。
どうやらゲオルグの祖父は、運動会の商品として、
黄金像を手放すつもりはなかったらしい。
……しかし今ここで起きたことは奇跡の偶然といえる。
誰かが巧妙に仕組んだことでもなければ、それはそうなのだ。
大きく息を吸うとバルムンテは舎弟を睨み付ける。

「ややこしいなおいっ!もともと手紙を持ってきたやつを
怪しいと思って写真にとるやつとかいるわけねぇし、
最初からなにが嘘かほんとかわかんねぇんだよ!」
満身創痍でなければ、巨人は舎弟をボコボコにしたことだろう。
さらに舎弟の言葉を思い出し、拳を震わせるバルムンテ。
何年か前に犯行予告があったからカメラを持って待ってましたとかありえない。

そして、どこからともなく現れるコッペリウス。
気がつけばスタンプもおり、すぐさま気絶。
みごとに人質となっていた。
それにバルムンテは顔をひくつかせる。
ゲオルグと違い、スタンプには父性愛が芽生えるはずもない。

>「あのコソドロめは、この哀れな男を置き去りにして雲隠れしおった。
本来なら八つ当たりとして君たち全員をお人形にしてやりたい所だが、それではつまらんというもの。
そこでだ、君たち、あのコソドロを見つけ出して連れてきちゃくれんかのお」

「……はあぁ、しょうがねぇ糞じじぃだな。わかったぜ。
でもよ。見つけ出すより誘き出したほうが早ぇんじゃねぇの。
黄金像とあんたを土産に、このユーレニカに手引きしてもらうってのはどうだ?」
要するにドナテロを罠にかけようというのだ。
バルムンテにとってはどちらも親友でもなんでもなく突然現れた厄介者たち。
どうなろうとも正直関係ない。

次にバルムンテはユーレニカに話しかける。

「なあ、結局ドナテロの目的もそれだったんだろ?ちがうのか?」
バルムンテのいうそれとはコッペリウスが始末されること。
その方法や結末はなんでもいい。そう予想した。
しかし、考えれば考えるほどバルムンテの怒りは脹れあがる。
あっさり雲隠れしたドナテロたちのことを思うと腹立たしくなる。

「……なんかあいつら。これといって主義もなさそうだったしなぁ。
すんげぇ偉いお友だちがいっぱいいるとかよ。
そう言ってるようなやつってやっぱヘタレなのかもな。
まったく金が目当てのコソドロにまんまとやられたわ」
バルムンテは身も心も疲れ果てているようだ。
コッペリウスの返答も待たずグランに視線を移す。

「なあグラン。ドナテロたちを探せるか?ここだっていう臭い場所とか思い当たるか?
まあ、嫌ならいいんだけどよ。
おれは今、行き場のない怒りの矛先を何処にも向けられないでいる。
なんというか虚しいっつか、おれの運動会はこいつらに踏みにじられちまったんだよ……」
肩を落とし目を閉じるバルムンテ。
現状では自分たちにコッペリウスを倒す戦力もなし、彼に従うしかないように思えた。
半溶解したグランも、復元するには魔力か体力てきなものを消耗してしまうのではないか?
それに時間。これだけの騒ぎが起これば市警も動き出しているはず。
バルムンテは行き場のない怒りと空しさに無の顔になるしかなかったのだ。

178 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/04/08(火) 03:56:01.89 0
>「よかろう」

コッペリウスはこちらの条件を呑んだようだ。
ゲオルグの体から不定形の魔力の塊が取り出され、その前に突然老人が現れる。

>「おお……素晴らしかろう……懐かしき儂の宝(ムスメ)よ……よくぞここまで……」

「随分満足したようだな。約束だ、そいつを返してくれ」

>「協力感謝するよ、諸君。だが君らの願いを全て聞き入れるわけにはいかんな」

コッペリウスが指を鳴らす、それだけで一瞬にして競技場のセットが掻き消える。
そこには人っ子一人おらず、と言いたいところだが、スタンプだけがしっかり人質にされていた。
このところのスタンプは人質として敵に大人気過ぎである。一昔前のヒロインじゃないんだから!

>「君らはあの小癪なコソドロ君と手を組んでいた。それは許し難い事実だ」

「それがどうした。返してもらうぞ!」

スタンプに歩み寄ろうとするが、コッペリウスはスタンプにただ指を向けるだけで気絶させやがった。

「何しやがる!」

>「なに、殺しちゃいない。儂と交渉といこうじゃないか」
>「あのコソドロめは、この哀れな男を置き去りにして雲隠れしおった。
本来なら八つ当たりとして君たち全員をお人形にしてやりたい所だが、それではつまらんというもの。
そこでだ、君たち、あのコソドロを見つけ出して連れてきちゃくれんかのお」

>「……はあぁ、しょうがねぇ糞じじぃだな。わかったぜ。
でもよ。見つけ出すより誘き出したほうが早ぇんじゃねぇの。
黄金像とあんたを土産に、このユーレニカに手引きしてもらうってのはどうだ?」

179 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/04/08(火) 03:57:10.61 0
バルムンテが半ば投げやりに言うが、それって普通に名案なんじゃないだろうか。
ドナテロからしてみても、コッペリウスと黄金がまとめて姿を現したこの状況はチャンスのはず。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。

「名案だバルムンテ。
確かにどこまで本当か分からないけどさ、ユーレニカの仲間なら少しは信じてやってもいいんじゃね?
オレ達はともかくユーレニカまで見捨ててただ逃げたとは思えないんだ。
そうだろユーレニカ?」

オレには一向に心を開かないバルムンテがユーレニカとは旧知の戦友みたいになってるんだもの。
そのユーレニカが仕える奴なら少しは信頼してもいいはずだ。
約束を反故にしたのはコッペリウスの方だ、こうなったらドナテロの一味総動員させてとっ捕まえてやる!

>「なあグラン。ドナテロたちを探せるか?ここだっていう臭い場所とか思い当たるか?
まあ、嫌ならいいんだけどよ。
おれは今、行き場のない怒りの矛先を何処にも向けられないでいる。
なんというか虚しいっつか、おれの運動会はこいつらに踏みにじられちまったんだよ……」

「犯行予告が黄金像の奪取だからねえ……普通に考えりゃ一応黄金像の回収に行くんじゃないかな?」

今となっては本当に行っている保障はどこにもないが、それぐらいしか手掛かりはない。
ここに黄金の本体があるということは、ゲオルグの祖父はここから毎年少しずつ取り出して像に使っていたのだろうか。

「ユーレニカ、黄金像がしまってある場所って分かるか?」

180 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/04/15(火) 20:51:53.73 0
老人はバルムンテの膨れ上がる怒りを感じ取り、ほくそ笑んでいた。

コッペリウスは感情を操作し、支配する術を識っている。
故に他者の感情、それも直情的なものを敏感に察知することができる。
「コッペリウスは人ではない」。ドナテロは老人をそう評した。
まさに彼は「人ではない」。術師である以前に、人間という枠を遥かに逸脱した存在だ。
彼にはバルムンテの憤怒が手に取るようにわかる。

>「……はあぁ、しょうがねぇ糞じじぃだな。わかったぜ。
でもよ。見つけ出すより誘き出したほうが早ぇんじゃねぇの。
黄金像とあんたを土産に、このユーレニカに手引きしてもらうってのはどうだ?」

巨人はある提案を示す。それはコッペリウス自身が囮となり、手引きするというもの。
老君は皺で囲まれた目を細め、軽く唸る。

>「なあ、結局ドナテロの目的もそれだったんだろ?ちがうのか?」
「……まあ、その通りだ」
>「名案だバルムンテ。
(中略)オレ達はともかくユーレニカまで見捨ててただ逃げたとは思えないんだ。
そうだろユーレニカ?」

ユーレニカは首を縦に……振れなかった。可能性は無い、とは言い切れない。
今回の仕事はドナテロらにとって大規模なものだ。
少しでも成功率を上げるためならば、多少の損切りもいとわないだろう。
だが、それを認めたくないのが人の性だ。

>「なあグラン。ドナテロたちを探せるか?ここだっていう臭い場所とか思い当たるか?
まあ、嫌ならいいんだけどよ。
(中略)
なんというか虚しいっつか、おれの運動会はこいつらに踏みにじられちまったんだよ……」

失望を浮かべる巨人の横顔を見つめるうち、罪悪感を噛みしめるような表情を浮かべ、ふいと逸らす。

181 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/04/26(土) 06:15:08.20 0
「これがドンの『仕事』なんだ……分かってくれ」

分かってくれ、とは随分な我儘だと承知している。
彼だけではない、多くの人間がこの祭りを楽しみにしていたことは重々承知だ。
だが悪人はあくまでも冷徹でありつづけ、仕事と情を天秤にかけ、自らの目標の為だけに動く。
例え多くを犠牲にしようと自身のノルマを達成できれば良い。そういう生き物だ。

>「犯行予告が黄金像の奪取だからねえ……普通に考えりゃ一応黄金像の回収に行くんじゃないかな?」
>「ユーレニカ、黄金像がしまってある場所って分かるか?」

肯定の意をこめ、ユーレニカは頷く。
表向きでは、東ドームを出て車で10分ほどの場所、北ドームの地下五階に黄金像は仕舞われることになっている。
さしものドナテロも、本物の黄金の居所が人体に隠されているとは思うまい。
まずはコッペリウスが現れる可能性が一番高い、北ドームへ向かうはずだ。

「まあ、儂は構わんよ。だがね、……おお、思わぬ客人じゃ」

その言葉に被せるように、一体の四足歩行ゴーレムが壁を破壊し現れる。
搭乗者はアイリーンとスパランツァーニの二人。
アイリーンが搭乗席から身を乗り出し、声を張り上げる。

「みなさん、早くこちらへ!」

老人が右腕を振るうや、棘だらけの太い鞭が如く変貌した霊糸がゴーレムに襲い掛かる。
ゴーレムは巧みに避けるが、バルムンテやグランらに近寄ることは適わない。

「! ドンはどこ!?」

スパランツァーニは、仲間でありボスである男を目視できないことに疑問の声をあげる。

「おっかしいな……霊波がキャッチできるってことは、確かに此処にいるはずなのに!」

彼女の言葉は大いなヒントとなる。
スパランツァーニは意図せずして、ドナテロがまだこの場にいるということを示したのだ。
それも、彼らからそう遠くない位置に、である。

182 :バルムンテ:2014/04/26(土) 06:15:52.56 0
>「これがドンの『仕事』なんだ……分かってくれ」

「……すまん。そうだよな」
バルムンテの納得は強いものは何をしてもいいという主義からくるものだった。
世の中やったもん勝ちなのだ。

>「ユーレニカ、黄金像がしまってある場所って分かるか?」

と、グラン。

「……そっか。そりゃそうだよな」
納得してバルムンテはのこのことついてゆくことにした。
いる可能性があるのならそこだけだ。
だがしかし、スパランティーニらの駆るゴーレムが現れ
意外なことを口走った。

>「おっかしいな……霊波がキャッチできるってことは、
確かに此処にいるはずなのに!」

「どこだよ?どこにも見えねーぞ。
まさか、怖い怖いコッペリウスの爺を倒さなきゃ
出てこれねぇつうんじゃねぇだろうな?」
ドナテロは世渡り上手なただの泥棒だ。金目当ての……。
そうバルムンテは認識していた。
でも、霊波はこの近くにあるという。

(……単なる金目当てのコソドロがあくまでも黄金は諦められねぇってか。
にしてもやることはかなり派手だったじゃねぇか)
バルムンテはわかりかけていた。
それは凄く単純なことだ。

「霊波は存在するけど体は見えねぇって、そりゃゴーストじゃねぇか。
上質な黄金でオリジナルの肉体でもこさえるつもりかドナテロよぉ!」

バルムンテはふわりと跳躍しゴーレムの背を蹴りグランの背後に着地。
逃走するときにグランの使用した異能、
無重力の力をまだその身に宿していた。

「おるぁっ!いい加減にしろよドナテロよぉ!」
霊糸でグランの首が締まる。
コッペリウスとゴーレム、グランが霊糸で結ばれ
グランの首を締め上げるようにとバルムンテが結びつけたのだ。

「いつの間にとりついた?出てきやがれドナテロ。
ゴーストが浸入するなら痛みを感じねぇ人形が適材のはずだよなぁ?」
果たして、バルムンテの推理は当たっているのだろうか?

183 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/04/26(土) 06:16:39.26 0
置いて逃げられた可能性は否定できないという素振りを見せるユーレニカ。

>「これがドンの『仕事』なんだ……分かってくれ」

「どうしてそこまで……!」

本当の信頼とは、こいつになら裏切られてもいいと思える事、とどこかで聞いたことがある。
ドナテロに仕える事でリスクを差し引いてでもお釣りがくるほどの利益があるか
もしく――は裏切られるのも覚悟で献身してもいいと思えるほどの何かがあったか。
例えば一人ぼっちだったところに手を差し伸べた……とか。
とにかく、黄金像の安置されている場所に向かおうとした時だった。

>「まあ、儂は構わんよ。だがね、……おお、思わぬ客人じゃ」

壁をぶっ壊し、ゴーレムが現れる。
乗っているのはスパランツァーニとアイリーンだ。

>「みなさん、早くこちらへ!」

コッペリウスが霊糸を放ち、ゴーレムの進路を妨害する。
そのさなか、スパランツァーニが放ったのは意外な言葉だった。

>「! ドンはどこ!?」
>「おっかしいな……霊波がキャッチできるってことは、確かに此処にいるはずなのに!」

>「霊波は存在するけど体は見えねぇって、そりゃゴーストじゃねぇか。
上質な黄金でオリジナルの肉体でもこさえるつもりかドナテロよぉ!」

「もしくは透明化や迷彩の魔法を使って姿を消してるか……変化の魔法を使って他の物に化けてるか……
うわっ、何しやがる!」

突然霊糸が首に絡み付く。

>「おるぁっ!いい加減にしろよドナテロよぉ!」
>「いつの間にとりついた?出てきやがれドナテロ。
ゴーストが浸入するなら痛みを感じねぇ人形が適材のはずだよなぁ?」

バルムンテは、ドナテロがオレに取り付いていると推測したようだ。
なるほど、霊的な力である霊糸ならゴーストを捕える事が出来るのかもしれない。
誤解を招かないように言っておくと、魔導人形にも痛みに相当する感覚は搭載されている。
ただしそこは人工物の合理性、その感覚が齎すものは飽くまでも危険を察知する、という本来の効用のみだ。
痛みのせいで動きが鈍ったり、激痛でショック死などという事は起こらない。
その意味で、痛みを感じないというのはあながち間違ってはいないのかもしれない。
間違ってはいないんだけど……

「おいっ、落ち着け! 落ち着いて餅付け!」

これでは身動きが取れない。
両手で糸をゆるめようとして腕を上げ、視界に、腕に付けた宝石が映る。
ドナテロから受け取ったブレスレットだ。
そういえば、コッペリウスとエンカウントした際は忠告文も浮き上がってきた。
もしかしたら、ドナテロはこれを通してこちらの様子を観察しているのかもしれない。
ダメ元でブレスレットに向かって語りかける。

「いるなら出てこいよドナテロ! オレの首が巾着になっちまう!」

184 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/04/26(土) 06:17:26.99 0
>「霊波は存在するけど体は見えねぇって、そりゃゴーストじゃねぇか。
上質な黄金でオリジナルの肉体でもこさえるつもりかドナテロよぉ!」
>「おるぁっ!いい加減にしろよドナテロよぉ!」

バルムンテは自身の体にまだ付与されたままの重力を用い、跳躍。
コッペリウスの霊糸を利用し、何を思ったかグランの喉を締め上げる。

>「いつの間にとりついた?出てきやがれドナテロ。
ゴーストが浸入するなら痛みを感じねぇ人形が適材のはずだよなぁ?」
>「おいっ、落ち着け! 落ち着いて餅付け!」

バルムンテは推測した。気配はあれど姿はなし。ならばドナテロの正体は肉体を持たぬものである、と。
他者に憑依する魔法生命体。それは確かに存在しない訳ではない。
確かに彼の読みは、半分あたっていた。ドナテロの正体を当てた途端、ユーレニカの顔が強張り、明らかに動揺したことがその証拠である。
コッペリウスは白い髭を蓄えた顎に手を当て、感心したようにバルムンテへ視線を注いでいる。

>「いるなら出てこいよドナテロ! オレの首が巾着になっちまう!」

半ば自棄になったグランは、ブレスレットに向かって必死に呼びかける。
だが応答はしない。そこにドナテロは居ないからだ。ならば彼はどこにいるのか。
ここで、先程起きた、ブレスレットに関連するある現象について振り返ってみよう。否、言葉を変えるならば「起こらなかった」現象について。
コッペリウスの魔手から身を守るためのブレスレット。グランの物は発動し、彼女に補助の効果を与えた。
しかしバルムンテのブレスレットは持ち主を保護するどころか、忠告すら与えもしなかった。

「『魂分け』というものを知っておるかね、巨人の仔よ」

グランを組み敷くバルムンテに、老人は不意にそんな一言を放った。
魂分けとは、術師であるなら誰もが知る、禁断の術だ。
そも、魂とは一本の木のようなものと考えていい。
例えるならば、根は生来より存在する無意識、幹となる部分は己の「素」、枝や葉は記憶や感情で形成された表面的な自身の感情、性格。
魂分けは、枝分かれした自身の記憶や人格を、強制的に他者や物質に移す行為だ。肉体は死んでも、記憶があればコピーを作れる。俗にいうクローンと似たような技術だ。

ドナテロはブレスレットにその術を施した。自身の魂を切り分け、保険とした。もし自身より強力な力を見つけたならば、利用し自分の利益とするために。
コッペリウスを倒すために編み出した、彼の術。いざというとき、ブレスレットに託した半身が力を発揮するために。

185 :スタンプ ◇4z2BSlJwrs:2014/04/26(土) 06:17:57.34 0
「灯台下暗しというが……哀れなり巨人の仔よ。選ばれたのは君のほうらしい」

老人の枝のような指先がバルムンテへ向けられる。
真紅の光が一本の光線となり噴出する瞬間、咄嗟に危機を察知したユーレニカが前に躍り出た。
光線がユーレニカを直撃した瞬間、ユーレニカは声もなく倒れ伏す。

「その通り、あのコソ泥は亡霊よ……儂を恨み、あらゆる手を以て復讐せんとする哀れな男のなれの果てだ。
だが同時に奴は儂を畏れている。だから儂の前には常に「代理人」を寄越してくるのだ。てっきりお嬢さんだと思ったが、違ったようだ」

バルムンテの太い手首にはめられたブレスレットが激しく振動を始める。
ブレスレットの石が、バルムンテに告げる。「UNDERSTUDY(代役)」。同時にバルムンテはブレスレットから力が漲ってくるのを感じるだろうか。

「奴は儂に殺された者たちの代理人。この金を創るため、儂は何十、何百“体”もの命を糧とした。
 人間、エルフ、妖精、小人、魔獣……ああ、巨人もいたかね。材料にしなかったのは、愛する人形たちくらいのものだ。この金は即ち、生命の黄金とも呼ぶべきものなのだよ。
だから美しい。だから誰もが欲しがり、儂の手から奪っていく」

黄金は、生きた命がもつべきだった輝きを燦然と放っている。
アイリーンが信じ難いものを見る目で黄金を見つめる。

「その話が本当ならば……魂分け以上の重罪です。他者の生命を利用した魔術は、未来永劫罪となり、許されることはないと聞きます。なのになぜ……誰もこの黄金のことを知らないのです!?」

「それだけ利用価値があるからじゃ。あまたの禁忌を見て見ぬふりし、欲するほどの価値がのう。
 もっとも、あのコソ泥(ドナテロ)は儂が気に喰わんらしゅうてのう、何かと理由をつけては儂にけしかけてくるのじゃ。ま、儂も人のことはいえんがの」

であるからこそ、コッペリウスの名が世に広く知られることもなく、黄金のことも伏せ続けられてきたのだ。
コッペリウスはとても愉快そうだ。

「奴は君の中におる。それはそのお飾りが証明した通りじゃ。ところで、魂分けについてじゃが、面白いことを教えてやろうぞ」

老人から発せられる霊糸が更に数を増し、そこかしこから瓦礫を集め、繋げていく。

「魂を分けた術者は、その分寿命を減らす。文字通り命を削るわけじゃ。そして……魂分けの器とされた者を殺してもまた、術者は命を減らし――――死ぬ」

瓦礫の山は不恰好ながらも徐々に人の形を象り、一体の身の丈15mほどの巨人と化す。
人の形と呼んでいいかすらも分からない、四つん這いの醜すぎる巨体が、バルムンテやグランらを見下ろす。
老人が見上げ、指揮するかの如く指をふると、生命の黄金が蠢き、醜い巨人に纏わりついていく。

「悪いが、やはり君らにはここいらで消えてもらおう。お嬢さん、生き延びたいのならば儂に着いてくるのも手だがね」

186 :バルムンテ:2014/04/26(土) 06:18:57.17 0
>「いるなら出てこいよドナテロ! オレの首が巾着になっちまう!」

「このやろう、この期に及んで巾着とか変なギャグぬかしやがって。
まだ余裕あんじゃねぇかっ!」
余裕があるのはドナテロではなくグラン。

>「灯台下暗しというが……哀れなり巨人の仔よ。 選ばれたのは君のほうらしい」

「なんだとこらぁ!?」
結論から言うと、ドナテロの魂は自分の身に付けたブレスレットに入っているらしい。
それもコピーされた形としてだ。
だが自分が死ねば、ドナテロも死ぬのだという。
(亡霊が死ぬって消えるってことか?)
少し疑問はあったが、そういうことならばコッペリウスに狙われるのは自分だ。
そして今まで自分は、ドナテロに試されていたのだ。
(……まあ、べつにいいけどよ)
振動するブレスレットから力が溢れてくる。
(まったく、むかつくやろうだぜ。このおれを代役とかなめてやがる)
苦笑いのバルムンテ。
その視線の先には聳え立つゴーレム。輝く命の光。

「もとが命からつくった錬金じゃそりゃ上質だろうよ。命を弄びやがって。
てめぇはそこまでして人形をつくりてぇのかよ」
老人は人形にある種の完璧さを求めているのかもしれない。
だがそれをバルムンテは叩きのめすつもりだ。

いったいその理由はなにか。ひとつ目は考えるまでもない。
――ただ強さを証明する。それだけのこと。
それと二つ目はドナテロのことだ。

(ただのコソドロかと思っていたら見直したぜ。
やり方は汚ぇけどよ。嫌いじゃねぇよ。その必死さはよ)
お人好しのグランと違い自分は自由人だ。
最後の手段としてドナテロは自分の魂を餌にこの戦いを仕組んでいたのだろう。

(もしかして、コッペリウスに仲間でも殺されたか?)
心のなかの独り言。それをドナテロが聞いているかはわからない。
だが人間は、仲間に危害を加えられたら怒ることをバルムンテは学習していた。
それは自分たちの弱さを棚にあげてもだ。怒るものは怒るのだ。

187 :バルムンテ:2014/04/26(土) 06:19:43.32 0
バルムンテは四つん這いの巨人の動きに目を見張る。
巨人のそれに、複数の種族の特性が生々しく感じられたからだ。

いっぽうでグランはコッペリウスに勧誘されているようだが
あの魔導人形は人間好きらしいから然程気にしてはいない。
彼女が人間の善悪を何で判断しているのかは不明だが
気にくわない劇は潰すと言っていた。
たぶん、先程のアイリーンの話で人形なりに正義とかいうものを感じ、目を爛々と輝かせているに違いない。
もしかしたら人形にしか見えない正しい道というものがあるのかもしれない。

それはさておき、バルムンテは名前も知れない黄金の巨人を前に余裕の笑みを見せていた。
どうやらユーレニカとの対戦は無駄ではなかったらしい。
今までにはない体の使い方の体得と、おまけに損傷していた筋肉の回復が
バルムンテをさらに強くしていたのだ。

(体の何処かに力が入れば、そこで力はとどこおる。だからすべてをひとつの流れにする)

――空中前転。
同時に両足で大地を踏み込む。
刹那、発生したのは地割れ。
黄金の巨人はその亀裂に半身をめり込ませ身動きがとれなくなった。

「わりぃがよ。どんだけ素晴らしい錬金でつくられたバケモンだろうがよ、
強い意思がなきゃただのブリキのおもちゃなんだわ。
これじゃあ飴玉握ってはなさなぇ幼児のほうがよっぽど握力強ぇぜ」

バルムンテはコッペリウスを睨み付ける。

「ってことだぜ爺。おめぇのつくった人形に価値はねぇ。
あんのは奪った命そのものの輝きだ。
はっきり言えばおめぇは立派な材料使ってゴミを作ってんだよ。
グランに魅力を感じてんのも、おめぇが自分で作れねぇからだ。
なあコッペリウス!借りてきた衣装で王様気取ってんじゃねぇよ!」
手のひらをコッペリウスに向け凄まじい勢いで突き出す。
大砲のような音と一緒に空気の衝撃波が老人を襲う。

188 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/04/26(土) 08:03:40.77 0
>「『魂分け』というものを知っておるかね、巨人の仔よ」
>「灯台下暗しというが……哀れなり巨人の仔よ。選ばれたのは君のほうらしい」

反応したのはバルムンテのブレスレットの方だった。
バルムンテのブレスレットの石が、彼が代役である事を告げる。

「そっちか……!」

>「その通り、あのコソ泥は亡霊よ……儂を恨み、あらゆる手を以て復讐せんとする哀れな男のなれの果てだ。
だが同時に奴は儂を畏れている。だから儂の前には常に「代理人」を寄越してくるのだ。てっきりお嬢さんだと思ったが、違ったようだ」

ドナテロはコッペリウスに家族や親しい者を殺された遺族なのだろうか。
もしくは、文字通り殺された者自身の亡霊か――

>「奴は儂に殺された者たちの代理人。この金を創るため、儂は何十、何百“体”もの命を糧とした。
 人間、エルフ、妖精、小人、魔獣……ああ、巨人もいたかね。材料にしなかったのは、愛する人形たちくらいのものだ。この金は即ち、生命の黄金とも呼ぶべきものなのだよ。
だから美しい。だから誰もが欲しがり、儂の手から奪っていく」

>「その話が本当ならば……魂分け以上の重罪です。他者の生命を利用した魔術は、未来永劫罪となり、許されることはないと聞きます。なのになぜ……誰もこの黄金のことを知らないのです!?」

法律上の難しい事はよく分からないが、要するに黄金を作るのにたくさんの人々を犠牲にした事は確かだ。
何のためにそこまでしたのかは分からないが、純度の高すぎる純粋は狂気に至ると言う。
きっと究極の人形を追い求めるあまり、狂気に堕ちてしまったのだろう。

>「悪いが、やはり君らにはここいらで消えてもらおう。お嬢さん、生き延びたいのならば儂に着いてくるのも手だがね」

「そりゃ楽しそうだ。付いてったら普通には絶対見られないようなすっげー魔法たくさん見られるんだろうなあ。
――だが断る。
魔導人形族の起源を知ってる? オレ達魔導人形族はね――人間の友として作られたんだ」

魔導人形族は、古代の魔術師によって様々な仕事に従事するために作られたのが起源だ。
友と言えば聞こえはいいが、使用人や召使、更には奴隷といっても差し支えは無い。
それでも人間に寄り添う存在として作られたことは確かだ。
創造主を神と呼ぶのなら、オレ達にとっての神は人間なのだろう。
だから、魔導人形族は誰しも根底の部分でどうしようもないお人好しの性質が刻み込まれているのかもしれない。

>「わりぃがよ。どんだけ素晴らしい錬金でつくられたバケモンだろうがよ、
強い意思がなきゃただのブリキのおもちゃなんだわ。
これじゃあ飴玉握ってはなさなぇ幼児のほうがよっぽど握力強ぇぜ」
>「ってことだぜ爺。おめぇのつくった人形に価値はねぇ。
あんのは奪った命そのものの輝きだ。
はっきり言えばおめぇは立派な材料使ってゴミを作ってんだよ。
グランに魅力を感じてんのも、おめぇが自分で作れねぇからだ。
なあコッペリウス!借りてきた衣装で王様気取ってんじゃねぇよ!」

バルムンテが地割れを発生させ、衝撃波を放つ。
オレは今、神話の時代に天空を支えたという巨人の怪力の一端を目にしていた。
ドナテロの半身が彼に力を与えているのだ。
ゴーレムが身動き取れない間にコッペリウスに歩み寄り、最後の魔力で作った短剣サイズの重力の刃を突きつける。
さっきみたいに霊糸を一気に切断できる巨大な刃はもう作れなかったのだ。
しかし一部分でも切断する事が出来れば、再接合するまでの間それが繋がっているゴーレムの部位が動かなくなり、妨害にはなるだろう。

「ついていくのは無理だけどな……せめて一緒に踊ってやるよ。たまには自分で踊ってみろよ」

老人の眼前に身を躍らせ、霊糸の切断にかかる。

189 :バルムンテ:2014/07/01(火) 20:35:54.06 0
数日後。
バルムンテはとんでもない運動会だったなと思っていた。

おわり。

190 : ◆lgEa064j4g :2014/07/11(金) 21:43:56.06 0
地面の亀裂にめりこむゴーレム。

>「ってことだぜ爺。おめぇのつくった人形に価値はねぇ。
あんのは奪った命そのものの輝きだ。
はっきり言えばおめぇは立派な材料使ってゴミを作ってんだよ。
グランに魅力を感じてんのも、おめぇが自分で作れねぇからだ。
なあコッペリウス!借りてきた衣装で王様気取ってんじゃねぇよ!」

>「ついていくのは無理だけどな……せめて一緒に踊ってやるよ。たまには自分で踊ってみろよ」

バルムンテが放った空気の衝撃派がコッペリウスに襲い掛かる。
普段なら難なく防いだ事だろう。
しかし、次の瞬間に眼前に踊り出る人形の少女。
人形遣いである彼は霊糸を守る事を優先する。そのせいで反応が一瞬、ほんの一瞬遅れた。
後ろに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる寸前に魔力で体勢を立て直したようにも見える。

「立派な材料を持っているのにそれを全く生かせていないのは人間どもの方だ……。
まさしく宝の持ち腐れ。儂はそれを有効活用してやっているに過ぎん!」

轟音を立てながら地面の割れ目から巨大ゴーレムが抜け出てくる。

「お主ら、少しはやるようだな。
お望み通り儂自ら踊ってやろうではないか。人形よ、儂と一体となれ!」

宙空に浮かび上がるコッペリウス。
巨大ゴーレムがいくつかのパーツに分解――コッペリウスの体を囲うように再構築されていく!

「見せてもらうとしようか、意思の力とやらを!」

巨大な二足歩行型のゴーレムが地面に拳を叩きつける。
ただそれだけで、殺人的な量の瓦礫が弾け飛び、一行に襲い掛かる。

191 :バルムンテ:2014/07/12(土) 21:00:42.17 0
>「見せてもらうとしようか、意思の力とやらを!」
巨大な二足歩行型のゴーレムが地面に拳を叩きつければ、
殺人的な量の瓦礫が弾け飛び一行に飛散する。

「おおっ!上等じゃねぇかコラァ!!」
負けじとバルムンテも地面を叩けば、生ずるは巨大なクレーター。
そしてバルムンテは、激しく瓦礫を四散させながら、
その中心へと沈んでゆく。
ゴーレムと一体化したコッペリウスの巨体を巻き込みながら。

「見ろや。おれとおまえじゃパンチの質がちげぇんだよ。
おれは誰にも負けねぇために毎日努力を積み重ねてきた。
だがよ。おめぇのその体はなんだ?
単なる思い付きの付け焼き刃じゃねぇか……」

192 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/07/14(月) 01:50:05.59 0
「うわっ!」

振動で空中に放り投げられ、転ぶ。
礫の攻撃はアイリーン達が操るゴーレムが防いでくれていた。
気付けば地面に大穴が穿たれている。
縁までいって覗き込むと、クレーターの中でバルムンテとコッペリウスの決戦が始まろうとしていた。

「バルムンテ、今……何すんだよー!」

加勢しに飛び込もうとした所を、アイリーン達のゴーレムに摘まみあげられて回収される。

「あなた、もう魔力が残っていないでしょう?」

「でも……!」

「いいんだよ、サシで決着付けさせてやろうじゃないか」

スパランツァーニにもそう言われ、しぶしぶゴーレムの中に収まる。
そうしている間に、バルムンテとコッペリウスの戦いの火蓋が切られた。

>「見ろや。おれとおまえじゃパンチの質がちげぇんだよ。
おれは誰にも負けねぇために毎日努力を積み重ねてきた。
だがよ。おめぇのその体はなんだ?
単なる思い付きの付け焼き刃じゃねぇか……」

「思いつきの付け焼刃とは人聞きの悪い。臨機応変と言って欲しいものだ。
力とは筋力だけではないぞ。儂とて永きに渡りあらゆる術を磨いてきた。
それこそお前さんとは比べものにならぬぐらい永きに渡ってな」

二人の超絶殴り合いが始まる。
その最中、コッペリウスは歓喜の声をあげる。

「流石に始原の種だけの事はある。いいぞ、その意思、その気概!
喜べ、貴様は我が崇高なる理想の礎となるのだ……!」

コッペリウスの黄金は他者の生命を材料にして出来たもの。
あいつ、バルムンテを殺して黄金に取り込む気だ……!
コッペリウスが少し距離を取ったかと思うと、バルムンテが動かなくなった。
しまった……霊糸で拘束された!?

193 : ◆lgEa064j4g :2014/07/14(月) 01:50:50.14 0
バルムンテを霊糸で締め上げながら、コッペリウスは語り出す。

「冥土の土産に教えてやろう。
私の目的は……人形を越えた究極の人形、新たなる人類というべき種を作り出す事……!
永い寿命と優性遺伝性を持つ彼らはやがて今の人類に取って代わる。
その時にこそ理想の世界が実現するのだ! そう、我が娘が望んだ理想の世界が……!」

もしもバルムンテが彼の言葉に興味を持ったなら、霊糸を伝ってコッペリウスの記憶が伝わってくるかもしれない。

それはまだ魔導人形に人権が認められていなかった時代。
彼の”娘”は人形だからという理由で無残に打ち捨てられた。人々は無邪気に笑っていた。
仕方がない、当時はただのガラクタを壊したという認識に過ぎなかったのだから。

『お父様、どうか人間達を恨まないで。憎しみからは何も生まれないから。
いつか、優しい人ばっかりの世界、みんなが笑って暮らせるような世界になりますように……』

そう言って娘が息絶えた時から――彼は狂った。

「話は終わりだ……新たなる世界のために死んでもらおう!」

バルムンテを拘束したまま、ロケットパンチのように腕のパーツを連射する。

194 :バルムンテ:2014/07/15(火) 19:19:39.12 0
>「話は終わりだ……新たなる世界のために死んでもらおう!」

バルムンテに流れ込んでくるコッペリウスの記憶。
それに彼は少し苛立った。

(……ほんとうによ。人形ってのはわけがわかんねぇな。
自分が惨めに殺されたっつうのに、憎しみは捨てろだと?
それが優れた心とでも思ってんのかよ?
バカいえ。そんなの言いようにマインドコントロールされた奴隷じゃねぇか)

そして、コッペリウスの拳が迫る。

「おめぇは、根本的に間違ってんだよ!
聞こえねぇのか?黄金たちの嘆き声がよぉ」

鼓動が轟く。
刹那、筋肉の躍動に四散する霊糸。
手刀で斬断されるコッペリウスの拳。
それを見て、ユーレニカがぽつり。

「家畜に、野獣は倒せない」
長い髪が戦いの風でなびく。

バルムンテの価値観は強いか弱いかだ。
たしかにコッペリウスの編み出した人形仕掛けは強力だ。
しかしバルムンテは、生きている鷹の爪。狼の牙のほうがよほど強いと思っていた。
悲しいことに彼の知恵は黄金を、
人間を効率的に殺す小賢しい兵器へとなり下げている。
そう、彼は根っからのマッドサイエンティストなのだ。
人形の娘さえも理想の産んだ紛い物なのではと、バルムンテは怪訝に思う。
そして魔導人形が人間の理想のために造られ制御されているのだとしたらそれも悲劇だ。

「哀れなコッペリウスよぉ。
おめぇは、おれの前に立つんじゃねぇえぇ〜っ!!」

一撃。会場に響き渡る衝撃音。
巨人の拳がコッペリウスを粉々に砕く。

「どうだ。参ったかコッペリウス。
おめぇが弱ぇってことを思い知ったかこんちくしょう。
今の弱ぇおまえなんかに世界を変えることなんてできやしねぇんだよ。
それでも世界を変えたいのなら、まずおめぇが強くなれ。
何かや誰かじゃねぇ。まず始めに自分を鍛えあげろってんだ!」

コッペリウスに背を向けるバルムンテ。

「そうすりゃあいつかは黄金たちの気持ちがわかるかもしれねぇぜ。
魔導人形の娘の気持ちは、おれにも理解は出来ねぇけどよ……」

195 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/07/17(木) 00:15:14.60 0
「バルムンテーッ! おいアイリーン、どーにかしろよ!」

「怒鳴らないで下さい今考えてますから!」

「落ち着け、大丈夫だ」

絶体絶命のピンチだというのに、ユーレニカは妙に落ち着き払っている。
まるで勝利を確信しているかのように。
そうしている間にも、飛来する岩の拳が身動きが取れないバルムンテを叩き潰そうとする!

>「おめぇは、根本的に間違ってんだよ!
聞こえねぇのか?黄金たちの嘆き声がよぉ」

霊糸が四散し、飛んできた岩の拳は手刀で木端微塵にされた。

「霊糸を筋力で引きちぎったですって……!」

顔を見合わせて驚くオレとアイリーン。しかしもっと驚いているのはコッペリウスである。

「馬鹿な……そんなはずが……」

全ての疑問に答えるかのように、ユーレニカがただ一言呟いた。

>「家畜に、野獣は倒せない」

「そういう事さ、私らはどんなに足掻いても人形なんだよ、良くも悪くも……な」

スパランツァーニがそっとオレの肩に手を置く。

>「哀れなコッペリウスよぉ。
おめぇは、おれの前に立つんじゃねぇえぇ〜っ!!」

渾身のストレート。爆音のような衝撃音。
何の仕掛けも小細工もないただただ強力な拳撃が炸裂した――

196 :グラン ◆lgEa064j4g :2014/07/17(木) 00:15:56.79 0
>「どうだ。参ったかコッペリウス。
おめぇが弱ぇってことを思い知ったかこんちくしょう。
今の弱ぇおまえなんかに世界を変えることなんてできやしねぇんだよ。
それでも世界を変えたいのなら、まずおめぇが強くなれ。
何かや誰かじゃねぇ。まず始めに自分を鍛えあげろってんだ!」

勝敗は決した。コッペリウスは息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
その間にも、彼の体には罅が入っていく。

「見事だ、巨人の仔よ……お主の言う通り儂もまだまだ研鑽が足りぬようじゃ。
だがその言葉、ゆめゆめ忘れるな。儂は更なる進化を遂げ必ずやまた現れる。
それがいつになるか、またお主と合い見えるかは分からぬが、強弱の原理がこの世を支配する限り……」

>「そうすりゃあいつかは黄金たちの気持ちがわかるかもしれねぇぜ。
魔導人形の娘の気持ちは、おれにも理解は出来ねぇけどよ……」

全身に罅が入ったコッペリウスは、その言葉が終わると同時に文字通り粉々に砕け散った。
彼もまた人形だったのだ。
自らの魂を人形に換装していたのか、それとも、これもまたダミーで真の本体は別にあるのかは分からない。
最後の言葉が単なる負け惜しみなのか、それ以上の意味があるのかも分からない。
だが、少なくとも今この場はバルムンテの勝利で一件落着ということは確かだ。
その事を告げるように、バルムンテのブレスレットが砕け散った――

「なんとか終わりましたね……。とにかく黄金は危険なので魔法局で保護……あっ」

アイリーンが黄金を回収しようとするが、いつの間にか現れていたドナテロが手中に収めていた。

「ちょっと、あなた何時の間に!? こちらに渡しなさい!」

「そんな事よりあそこで倒れている間抜けの心配をしてあげた方がいいんじゃないかな?」

ドナテロが指さした先には、霊糸の拘束から解き放たれ地面に倒れているスタンプ。
指摘されたからというわけではないが慌てて駆け寄る。

「スタンプ、大丈夫か!?」

「ここは!? コッペリウスはどうした!?」

オレ達がそうしている間に、ユーレニカがバルムンテに短い言葉をかける。
言葉少なだが、これは彼女なりの別れの挨拶なのだろう、直感的にそう思った。

「バルムンテ、ありがとう。お前に会えて良かった」

197 :バルムンテ:2014/07/20(日) 09:37:02.92 0
>「バルムンテ、ありがとう。お前に会えて良かった」

「ん?あ、ああ。おれもだぜユーレニカ。
おめぇのおかげでおれも強くなれた」
バルムンテは他意もなく素直にそう思っていた。

そしてコッペリウスの残骸を見つめる。

「……人形に人間は負けねぇよ。
生き物ってのは土汚くて図太くてしたたかなんだ。
だからそんな闘争本能みてぇなもんの息抜きに運動会とかスポーツがあんだよ。
おめぇはそんなことも知らねぇで暴れまくりやがってよ。
……許せるわけねぇだろうが」

バルムンテの怒りの言葉。
続けてドナテロたちが黄金を奪いさってゆく。

「まったくどいつもこいつもよぉ。黄金を利用したってテメーが強くなるわけじゃねぇだろうが…」

遠くの会場から歓声が聞こえてくる。

「おしっ、いくぞグラン!スタンプ!」
かけてゆくバルムンテ。
彼のチームの優勝する可能性はまだ残されている。

198 :グラン ◇lgEa064j4g:2014/07/27(日) 09:11:47.11 0
>「……人形に人間は負けねぇよ。
生き物ってのは土汚くて図太くてしたたかなんだ。
だからそんな闘争本能みてぇなもんの息抜きに運動会とかスポーツがあんだよ。
おめぇはそんなことも知らねぇで暴れまくりやがってよ。
……許せるわけねぇだろうが」

思わずスパランツァーニと顔を見合わせて苦笑してからふと気づく。
スパランツァーニはそんなにいい子ちゃんでは無かった気がする。

「ん? それでいくとお前は十分人間だよな? 昔暴れ回って前科持ちだし……」

「黙れ!」

そんな他愛もないやり取りをしている間に、黄金をちゃっかりドナテロに持って行かれてしまった。

>「まったくどいつもこいつもよぉ。黄金を利用したってテメーが強くなるわけじゃねぇだろうが…」

周囲から歓声が聞こえてくる。

「……んあ? どういうことだこりゃ」

意識を取り戻したゲオルグが周囲の状況についていけずに戸惑っている。
そりゃそうだ、こんな騒動があってまだ運動会続いてんの!? そんなのってアリ!?
――ま、いっか!
この運動会を全力でやり遂げる事が哀れな人形遣いへのせめてもの弔いだ。
そんな気もした。

>「おしっ、いくぞグラン!スタンプ!」

「よっしゃあ! 巻き返すぞ!」

「マジかよぉおおお!」

バルムンテに釣られてすっかり乗り気で駆け出すオレに、何やかんや文句を言いながらも付いてくるスタンプ。
そして運動会の結果は――ご想像にお任せします。
運動会が終わった時には当然ながらドナテロ一味は綺麗に雲隠れしていましたとさ。
めでたくもありめでたくもなし。
オレ達のとてつもなく非日常な何気ない日常はこれからも続いていくのだから。

いつの世も、世界は科学と魔法で満ちている――!

この世界から「科学」と「魔法」、二つの相反する概念が発見されてどれくらい経つだろう。
人類とそうでないもの、即ち亜人や獣人や精霊などの類の生物たちが、
時に戦い、時に手を取り合い、歴史を創り上げてどれくらいの時が過ぎただろう。

時は21世紀。世間は便利になった。
高層ビルが立ち並び、異形の者たちがスーツを着こなす世の中である。
今や、人類を含めた全ての種族たちが手を取り合って、生きている。

亜人も、獣人も、小人も、巨人も、アンデッドも、同じ社会に組み込まれている。
さりとて平和かといえばそうでもなく、差別や貧困、価値観の差異で争いも起こる。
それでも皆、時代の波に揉まれながら、懸命に今を生きている。

これは、そんな世界で繰り広げられた壮大なる科学と魔法の年代記の、ほんの小さな一頁。

―現代幻影TRPG―とりあえず完!

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