【颶風来寇】・ななし#########################

61 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 22:57:42 0
【颶風来寇】壱:東方蠢動

フィジル島より遥か東方。
東方大陸の東端に魔海域があり、その海域のどこかにあるといわれる晃龍諸島。
その正確な位置は東方大陸諸王達すら知りえぬといわれている。
それは現世と幽界との間にあるからとも、魔海域を回遊する神獣の背にあるからともいわれている。
そこにはフィジル島魔法学園と同様に晃龍魔法学園があった。
中央の島を囲むように四つの島があり、更には小さな島々がそれを囲む。

中央桃源島が学園中枢であり、総合施設が集まっている。
それとは別に系統ごとに東部扶桑島、西部天竺島、南部崑崙島、北部蓬莱島と各独立した学園機能を持つ。
これは東部大陸の文化差異が大きい為であり、各術系統ごとに住み分けがなされているのだ。
四島の自治権は各島生徒会に委ねられ、治外法権を保障されている。

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麗らかな春の日の午後、東部扶桑島に島内放送が鳴り響く。
「東部扶桑島総代ヒミコ・ヤマタイノミコです。
パープル・シキブノジョウ。長谷川虎蔵。
以上二名は本日正午、中央桃源島理事長室に出頭してください。」
放送は流麗にして荘厳。
東部扶桑島を統括する生徒総代の言葉であった。

「流石はヒミコ殿。お嬢様を選ぶとは。」
「流石?為時、このような事は流石とは言わぬ。
顔に目がついており脳ミソがあれば当然の選択ぞ。
それより虎蔵なぞを選ぶ処は流石などとは到底いえぬわ。」
「御意に。」
放送を耳にし、言葉を交わす二人。
いや、正確には一人と一本。

一人は十二単を纏い亜麻色の髪をしなやかに伸ばす少女。
整った顔立ちにその瞳は青く、眼光は鋭い。
放送で呼ばれたパープル・シキブノジョウ、その人である。
それに対するは白髪を蓄えた老人であった。
髪は無く、刻まれた皺はその生きてきた年月を現している。
しかし最も特徴的なことは、その老人に身体が無い事であった。
身体の無い代わりのその首から一本の棒が映えている。
人頭杖為時。
パープルの使い魔である。

パープルは人頭杖為時を手に取ると、満開の藤棚から一歩出る。
その先に広がるのは広大な人口庭園。
植え込みが壁となり、迷路と化している。
ここはパープルのお気に入りの場所。
庭園迷路の所々で、鋏を持った者達が手入れをしている。
が、手入れをしている者達の中に命を持つものはいない。
皆カラクリと呼ばれる命なき人形達なのだ。

「ふふふ、鬼姫よ。お主が言うフィジルがどれほどのものか、いざ、参ろうぞ!」
パープルは誰にいうでもなく呟き、術式を軽やかに完成させる。
術式は展開し、現われた扉を潜り藤棚の庭園を後にした。

残されたカラクリたちは黙々と作業を続ける。
主が治療の為にフィジルに旅立ち数ヶ月。
変らずにただ与えられた使命を果たし続けるのであった。


62 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 22:57:49 0
パープルが藤棚で放送を聞いた同時刻、もう一人の呼ばれた男もその放送を聞いていた。
その場所は東部扶桑島武道場。
相手の男を倒し、一息つきながら天井を仰ぎ見る。
「うーん、お呼びがかかったか。まあ遠征ってのも悪かねえな。つう訳だ。勝ち逃げで悪いが行くぜ。」
倒した相手の肩をポンと叩き去っていく。
隻眼に長髪。黒いスーツを着た男。
パープルと共に呼ばれたもう一人、長谷川虎蔵その人であった。

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東部扶桑島で放送があったように、同じく他三島でも同様の放送がなされていた。
「よろしいので?あの爛れた姉弟で?」
「よいよい。問題はあるがアレで中々いいからネ。」
南部崑崙島で放送を終えた崑崙島八葉が一人に数えられる生徒が笑顔で答える。
南部崑崙島は総代を置かず、通称【八葉】と呼ばれる八人の頂上生徒達の合議制で成り立っている。

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「我に天命下れり!」
「うむ。フィジルの同志達からの知らせも在る!」
西部天竺島では指名された二人が熱く手を握り合っていた。

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三島でそれぞれの思惑が入り混じり、それぞれに中央桃源島に向かっている頃。
ここ北部蓬莱島でも一人の少年が中央桃源島に向かって歩き出していた。
年の頃はまだ10歳ほどだろうか。
あどけない顔だが、表情は読み取れず、何の感慨も無く歩いていく。
ここ北部蓬莱島で選ばれたただ一人の少年が。

#######################################

その日の午後、各島で招集された七人は中央桃源島の理事長室にいた。
七人を前にするのはなんと一匹の亀であった。
鹿の角が生え、白い髭をたらしている以外は全くの亀である。
しかしこの亀こそが晃龍諸島魔法学園の理事長なのだ。
「さて、既に察しているだろうが、諸君らを呼んだのは他でもない。かねてよりの事案であったフィジル島魔法学園視察の為ぢゃ。」
そう言い放つと学園長は唐突と話し始める。

フィジル島魔法学園と晃龍諸島魔法学園は姉妹校ではあるが、その呪術体系の違いから実質的な交流は無いに等しい。
東方大陸からフィジル島魔法学園に進む者はいるが、一旦魔法学園に入学してしまえば他の魔法学園に生徒が移る事はないに等しいのだ。
しかし、東部扶桑島のキキが治療の為にフィジル島に赴いた。
その後、そのまま学園生活を送っているのだが、なかなかに適応できている。
それを受け、徐々に交流を深めていこうという提案がなされていた。
様々な調整を経て、今回晃龍諸島から七人の代表生徒を視察団として送り込む事になったのだ。

「予感はあったけどね。で、いつからいくんだい?」
長谷川虎蔵がにやりとしながら尋ねると、学園長はにこやかに応える。
「勿論、今からぢゃよ。」と。
突然の出発に驚く生徒達だが、学園長は全く意に介さない。
「常時即応。いついかなるときでも即対応。我が校の校訓の一つのはずだが?」
そう、準備など常に出来ている。
常に身を真剣勝負の場に置き続ける。
数多の魔法学園においても武闘派と言われる晃龍学園ならではの校訓だった。
そう言われてしまえば生徒達も二の句も告げず、諦めたようににやりと笑うしかない。
この短いやり取りで七人全員既に覚悟を完了させたのだ。


63 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 22:57:55 0
「では諸君、フィジルを見て、感じ、そして帰ってくるように!」
言い終わるや否や、学園長の輪郭がぶれ始める。
そしてついには形をなくし、再度輪郭が整ったとき、そこには亀はいなかった。
変りにいたのは長居しろ髭をたらした老魔術師。

「ようこそ晃龍の諸君。私がフィジル島魔法学園の理事長だ。」
亀の代わりに現われた老魔術師は堂々と宣言をした。
気がつけば調度品なども代わっている。
そう、既にここはフィジル島。そして理事長室。
二人の理事長の魔術により、七人は全く気付かぬうちに遥かなる距離を越えフィジル島に移動したのだった。

それから暫く・・・
「では諸君。君らのフィジル島での自由を保障しよう。
存分にフィジルの空気を吸い、感じてくれたまえ。」
短い話の後、学園長は言い放つ。
どこに案内するわけでもなく、何の注意を与えるわけでもない。
ただ自由にフィジル島を満喫せよ、と。
「理事長、いいのかい?
晃龍の流儀でやらせてもらうが、俺達の首に綱付けておかなくても。」
「ふぉっふぉっふぉ、構いはせんよ。そうではなくては君達が来た意味が無いからの。」
長谷川虎蔵の挑発的な言葉を軽く笑い飛ばし、学園長は七人を送り出す。

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「あの爺さん、伊達に学園長はやってねえな。気に入ったぜ。」
「ふん、口の減らぬ奴じゃ。同島として恥ずかしいわ。我は行く。着いてくるなよ?」
「我らも目的がある。」
「うむ、いこう。」
「ねえジューイン。折角だから散歩したいわ?」
「姉様がそういうのなら・・・。」
「・・・」
「どいつもこいつも協調性が無いねえ。まあ俺もだけど。
さて、フィジルがどれ程のものか、ふらついてみっか。」
校外に出た七人は短く言葉を交わし、それぞれ散っていった。


64 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:02:07 0
【颶風来寇】弐:朋友再会

校舎から出たパープルは紙を片手に歩いていた。
東方の衣装が珍しいのか、道行く生徒達の視線を一身に受けながら全く意に介す事無く。
自分がフィジル行きのメンバーに選ばれる事は当然のように思っていた。
そして、選ばれたその日に出発する事も。
だからこそ事前に連絡を取り、待ち合わせの場所を決めていたのだ。

程なくしてその目的地が見えてきた。
学園から少し離れた丘の上。
決して大きくは無いが、楓の樹が一本聳えるその場所へ。
紅葉が華美に舞う中、赤い敷物と番傘で野点の席が設けられていた。
そこに佇むのは先にフィジルに治療目的で着ていたパープルの友、キキであった。

「パープル・シキブノジョウ!久しいな。為時も壮健そうでなによりぢゃ。」
「お久しゅうございます、キキ殿。」
「キキ・キサラギ。胸の具合はよさそうじゃな。」
再会の歓びと共に挨拶を交わし、二人は野点の席へとついた。
キキが茶を点てる中、どちらからとも無く会話に花が咲く。
フィジルでの出来事、晃龍での出来事。
そして今回、派遣されたメンバーの話へと移っていく。

「全く、わらわ以外は不適格者ばかりぢゃ。まずは扶桑からは寅蔵が選ばれた。」
「長谷川寅蔵か!あちこちで刃傷沙汰を起こしてそうじゃのぅ。」
憤慨するパープルに対し、キキは苦笑を浮かべている。
長谷川寅蔵と聞き、その喧嘩っ早さを思い浮かべてだ。
以前のキキならばパープルと同じように憤慨し、頭を抱えていた事だろう。
しかし、今はフィジルの懐の深さを知っている。
騒動を起こしたといっても、それはフィジルの日常に溶け込む者なのだから。
そして何より、暫く離れた故郷と晃龍の、扶桑の、懐かしい名前を聞きつい笑みが浮かんでしまうのだ。

そんなキキを見るパープルは少しむっとしたがそれを口に出す事はなかった。
笑い事ではないぞ!と言いたかったが、これから先が本当に笑い事ではなくなるのだから。
「次は崑崙からぢゃが、フォン姉弟が来ておる・・・」
「・・・なんじゃと!?八葉は何を考えておるのじゃ!?余所の島とはいえ正気を疑うぞ!」
パープルの続く言葉を聞き、キキの苦笑も吹き飛んで叫び声をあげる。
「満場一致で決まったそうぢゃ。」
茶を差し出しながら唸るキキ。
パープルは静かに、そして重く頷きながら茶を手に取る。

「そして天竺からは南海の獣ラジャと葬炎のパシュゥ・アンダーテイカー。」
それを聞き、強張っていたキキの表情にどんよりと暗いものが加味された。
「天竺とはあまり親交は無いでおぢゃるが、それでも知っておるぞ。
南海の獣というより、南海のケダモノじゃろ?その相方の葬炎・・・。」
ぐったりと疲れたようなキキに更に畳み掛けるようにパープルが口を開く。
「最後に蓬莱からぢゃが・・・」
そう言おうとしたパープルに、キキが手を上げて制する。
「ああ、もうよいでおぢゃる。
蓬莱からはどんな化け物がきても変らぬわ。」
「まあ、それもそうぢゃの。」
言葉を途中で止められてもパープルは気にする事無く頷いた。

そしてゆっくりと茶に口をつけ、一息。
「のう、キキよ。風靡な場所。見事な楓・・・ぢゃが、これは幻であろ?」
「ほう、気付いておったか。」
茶器を置き、にやりと笑うパープルは風水の術を得意としている。
風水とは空間の繋がりや成り立ちを司る術である。
それゆえに、空間に実体を持ってあるものかどうかくらいはわかるというものだ。
キキのほうも先刻承知のようで、悪戯っぽく笑うと背後に合図を送る。


65 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:04:25 0
【颶風来寇】参:血風触発

「おいおい、フィジルってのはもやしっ子ばっかか?」
体育館裏で鼻で笑うのは長谷川寅蔵。
その足元には五人の男子生徒達がうめき倒れていた。
学園長室から出た長谷川虎蔵はガラの悪そうな生徒達に喧嘩を売って歩き、今に至る。
五人連続相手にしても息も切らさず、その手ごたえの無さに呆れるばかり。
「もうそろそろ見切りをつけようと思うんだが、お前は強いのか?」
にやりと笑いながら振り向くと、そこには一人の男子生徒が立っていた。

「五人を軽く倒すとは、お前は強いのだ!
俺はわくわくするぞ!」
長谷川虎蔵の後ろに立っていたのはロックだった。
お互いの笑みが交錯する。
それが戦闘開始の合図となった。

「わくわくか!言うねいっ!」
瞬動で五歩の間合いを一気に詰め正拳を繰り出す長谷川寅蔵。
回避不能のタイミングだが、ロックにはそれを防ぐ防御手段がある。
「はー!ハードニング!」
拳が当たる瞬間、身体硬化術を発動させるロック。
鉄の硬度を持ったロックは繰り出される拳をまともに受けた。
が、勿論ダメージを負ったのは生身の拳の方だ。
拳を受けきると同時に杖を振る。
そこから繰り出されるのは高熱蒸気。
まともに浴びれば重度の火傷必死の高熱蒸気だが、長谷川虎蔵は瞬動で距離を取り躱す。

「いちちち。あぶねえ。
フィジルのもやしっ子もやるねえ!ちったあこっちも本気を出すか!」
その言葉はハッタリではない。
ザワザワと擬音が聞こえてきそうなほど長谷川虎蔵の纏う妖気が膨れ上がってきているのだから。
背中が盛り上がり、漆黒の鴉の翼が広げられる。
そして眼帯を外すと、躊躇無くその眼窩に手を入れる。

「平群天神奇峰伊予が岳に棲まいし大天狗!太郎丸より継ぎし大団扇!
妖嵐暴風を巻き起こす!
央基五黄!一白太陰九紫に太陽!乾坤九星八卦よし!宗州草薙!!」
眼窩から取り出した大団扇はその妖力の強さで周囲に嵐を呼ぶ。
そして呪文が終わる頃にはその形を巨大な剣と成していた。

「むむ!凄いのだ!」
「ありがとよ!だが褒めても手加減はしてやらねえぞ?」
「当然なのだ!」
ロックと長谷川虎蔵の真なる戦いがここに始まる!


66 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:10:20 0
【颶風来寇】屍:爛潰姉弟

ここは中庭の隅。
リリアーナは見慣れない生徒を目の当たりにしていた。
見慣れない薄い布を幾重にも重ねた中華風なドレスは柔らかく光を反射している。
髪は吸い込まれるような黒さを持ち、鮮やかに背にかかっている。
額と左目には包帯が巻かれ、左腕はギブスをしている。
脚はドレスに隠れて見えないが、包帯が巻かれているのかもしれない。
なぜならば、少女は豪奢な車椅子に乗っているからだ。
美しいドレスと不似合いな車椅子と包帯。
しかし、木漏れ日の中、小鳥と戯れる少女の姿はその不似合いさも含めて一つの完成された美を体現していた。

思わず見とれてしまった自分に気付き、一人咳払いをしてから少女に近づいていく。
「こんにちわ。私はリリアーナ。あなたは・・・。」
「あら、こんにちは。フィジルの方ね。」
リリアーナの挨拶にあくまで柔らかな声で答える少女。
初めて会う、しかも同性だというのにその声に思わず鼓動が早まりのを感じてしまう。
そんな様子に気付いたのか気付かないのか、少女はくすりと笑って言葉を続ける。
「私はフォン・イーリー。晃龍諸島魔法学園から来たの。
フィジルはいいところね。この子達とお友達になったところよ。」
そう言いながらイーリーは人差し指の止まる小鳥をそっと見せる。
「晃龍諸島・・・魔法学園?」
その言葉にリリアーナの脳裏に今朝の出来事が浮かび上がっていた。
今朝、アルナワーズが出がけに東方の魔法学園から生徒視察団がやってくる、と言われたのだ。
それを思い出し、リリアーナの顔がぱっと明るくなる。
「そうなんだ。ようこそ、フィジル島へ!
私も小鳥さんのようにあなたのお友達になりたいわ。」
満面の笑みで歓迎を伝えるリリアーナに対し、イーリーの笑みの何かが変った。
なにがと言われても困るだろうが、強いて言うならばその印象。
表情は変わらぬはずなのに、どこと無く冷たいものを感じたのだ。

「嬉しいわ。リリアーナ。お友達になってくれるだなんて・・・。」
柔らかな笑みと共に手を動かすと、小鳥が羽ばたき飛んでいく・・・筈だった。
だが、小鳥は羽ばたけども飛べずにそのまま地面に着地。
小鳥は不思議そうに羽ばたくが、一向に宙を舞う気配は無かった。
「?・・・この子どうしたのかしら?」
不思議そうに首をかしげ小鳥を見るリリアーナの前にイーリーがそっと差し出す。
その手には羽が二枚、摘まれていた。
「この子の風斬り羽根よ。
たった二枚羽を取るだけでもう飛べない・・・私のお友達になれたわ。」
「・・・な!!!」
あまりに当たり前のように言うイーリーに思わず絶句するリリアーナ。
一体何を言っているのか理解できなかったのだ。
数瞬後、それを理解し、堰を切ったように言葉が溢れる。

「なんて酷い事をするの!そんな友達のなり方なんて無いわ!
鳥さんがかわいそうじゃない!」
あまりのことで思わず大声を上げてしまい、はっと息を呑むが相手の反応は更に意外なものだった。
不思議そうにきょとんとして首を傾げているのだ。


67 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:10:29 0
そんな二人のやり取りに何も知らずにやってきた不幸な人物がいた。
日傘を差しのんびり散歩する男。
不幸の星の下に生まれた吸血鬼、ヴァンエレン。

「何を大声上げていると思えば、貧乳ではないか。何をして・・・?」
間の悪い事この上なし。
怒りのやり場に困っていたリリアーナが【貧乳】に反応し、きっと睨む。
その眼力に圧倒され思わず眼を逸らし、イーリーに眼を向けると、ヴァンエレンは気付いた。
それはヴァンエレンが不死者の貴族であるヴァンパイアであるが故に。
「な、何を怒っておるのだ?
それより、死霊課の新作か?よく出来たアンデッドだな。」
「ええ?この子、アンデッド??」
ヴァンエレンの思いがけない言葉に驚き、グリンと首を回しイーリーに目を向ける。
「うむ。香の香りにまぎれておるが、アンデッド特有の臭いがするぞ?」
事情がつかめずとりあえず感じたことそのままを語るヴァンエレン。
全く判別のつかないリリアーナは眼をぱちくりさせるのが精一杯だった。

「誰だ!姉様に何をしている!」
茂みから現われたのはイーリーそっくりの顔をした道服の男だった。
服装と髪の長さ、そして包帯などは違うが、全く同じ顔である。
男の眼は敵意をむき出しに二人を睨みつけている。
「あら、ジューイン。リリアーナ、私の双子の弟、フォン・ジューインよ。」
紹介されると、片膝をついて目線の高さを合わせるジューイン。。
イーリーに向けられる視線は先ほどの敵意は微塵も無く、柔らかな笑みと成っている。
「姉様、大丈夫?
やっぱり一人で散歩なんて危険だよ。」
「あら、そんな事無いわ。リリアーナは私の友達になってくれるって。
ねえ、あの子の瞳、とっても綺麗だわ・・・。」
心配するジューインを余所に、イーリーは柔らかく微笑む。
その言葉と共にジューインは立ち上がり、再度視線をリリアーナたちに向けるのだが、しっかりと敵意は篭っている。

「判ったよ。その前に・・・
フィジルの青っちろいキャリアが、姉様の事を汚らわしいアンデッドといったな!」
敵意などという生易しいものではない。
禍々しい気を発しながらヴァンエレンに視線を送り懐に手を入れる。
突然の事に訳もわからず思わず身構えるが、ジューインの方が早かった。
「墓守の灯篭!」
懐から取り出した小さな石灯篭が霊気の篭る青白い光を放つ。
するとその光に照らされている範囲の景色が一変した。
先ほどまでは気持ちの良い木漏れ日のさす中庭の隅であったのに、突然そこは薄暗く霧の立ち込める墓地と変ったのだ。
「な、な、な!!ひ〜!」
突然の変化にヴァンエレンの逃走本能に火がついた!
フィールドが墓地に変れば元気でそうなものだが、ヴァンエレンを舐めてはいけない。
いつもいる図書館地下、死王の領域での亡霊は平気でも、未知なる異国の霊気漂う墓地は十分恐怖の対象なのだ。

「無駄だ!鬼籍に降りた身で俺に抗う事など不可能!」
ジューインの残酷な宣言と共にそれは起こった。
**ビッタァーーーン**
脱兎の如く駆けはじめたヴァンエレンだが、ほんの数歩走る前に派手に倒れてしまう。
しかし転がる事はない。
かなりのスピードだったというのに!
なぜならば、地面から伸びた朽ちかけた手が、ヴァンエレンの足首をしっかりと握っていたのだから。
「ひいいい!!!ぎえええ!!」
恐怖の絶叫ととにがむしゃらに足首を掴む手を自由なほうの足で蹴るが、全くびくともしない。
ヘタレであっても吸血鬼。
その力は常人をはるかに凌駕するというのに、朽ちかけた手はしっかりと掴み放さない。
それどころか、ヴァンエレンを地中に引き摺りこんでいく!
「ぎゃあああ!お助けええ!!」
半泣きの叫びを残し、ヴァンエレンは地中に消えていった。


68 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:10:42 0
「・・・っはっ!ちょっと!いきなりなんて事を!やめてあげてよ!」
あまりの出来事に呆然としてしまったが、我に返り抗議の声を上げる。
が、抗議の声を向けたその先で更に驚くべき光景を目の当たりにするのであった。
イーリーが額の包帯を解き、立ち上がっているのだ。
包帯の取れた額と左目は朽ちており、眼窩は黒く、何も入っていない。
「確かに綺麗な瞳だね。姉様に似合うと思うよ。」
「やっぱりそう思う?
さあ、リリアーナ・・・お友達になりましょう?」
左手のギブスから突き出る鋭く長い爪。
その姿にヴァンエレンの言葉が正しかった事を思い知る。
しかし今はそれどころではない。
この双子が何をしようとしているか、理解できてしまっているから。

話し合いが通じる気配はない。
逃げなくてはならない。
だが、身体が上手く動かないのだ。
固まってしまったような脚を苦労して漸く一歩後ろにずらすことに成功した。
が、双子はゆっくりとだが、それでもリリアーナより十分に早く迫ってくる。

後数歩の間合いまで詰められたとき、突如としてリリアーナの足元の土が盛り上がった。
「だああああ!助けてくれええ!!」
その盛り上がりは弾け、ヴァンエレンが飛び出してきた。
しかもなぜか半裸で。
「ひいいい!老婆が!老婆が私を!!」
ガタガタと震えながらリリアーナに縋るヴァンエレン。
その様子を見ながらジューインがニヤリと笑う。
「ほう、奪衣婆から逃れるとは・・・俺が直接滅してやるか!」
袖からすらりと銭剣を抜くジューイン。
それを見たヴァンエレンはリリアーナを小脇に抱えジャンプ一番逃げ出した。
「逃げるぞ貧乳!あいつらはやば過ぎる!」
本能的にも体験的にも危険を実感したヴァンエレンは今度こそ全力で逃げ始めた。
その速度は速く、あっという間に墓守の灯篭の領域を抜ける。

「ジューイン、折角お友達になれると思ったのに・・・逃がすだなんて嫌だわ。」
「そうだね、姉様。」
ジューインは静かに頷くと、墓守の灯篭と車椅子を懐にしまう。
そして双子は足跡だけを残して消えた。
常人にはありえない速度で駆け、ヴァンエレンとリリアーナを追っていったのだった。


69 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:24:10 0
【颶風来寇】伍:巡礼邂逅

校舎から出て来た異様な二人。
二人ともマントを纏い、フードを目深に被っているのでその容姿をうかがい知る事はできない。
しかしそれでも、その異様さは隠せないでいた。
一人は見上げるような長身。
だが、その高さに対してあまりにも幅がなさ過ぎるのだ。
もう一人は対照的に、それ程高くは無い身長に対し、あまりにもその幅が広すぎる。
横にも奥にも。いわば球体といえようか?
巨漢なのだが、隣に細く高い人影があるために、それ程高さが目立たないでいる。
このように容姿が見えずともシルエットだけで十分に異様さを表している。

ゆっくりと男子寮のほうへと進むと、その進行方向を遮るように一団が現われた。
5人ほどの集団も二人と同じようにマントを纏い、フードを目深に被っている。
やがて二つの集団は一刀足の間合いを置き、対峙した。

「ナマステー。」
男子寮からやってきた一団がフードを取り、両手を合わせて二人に謎の言葉をかける。
それに応えるように二人もフードを取る。
「・・・コンニチワ。」
長身の男、ラジャが頭を下げ挨拶をする。
笑顔を浮かべているのだが、それはあまりにも不気味だった。

普通ならば引いてしまうような笑顔にも5人は誰一人引くことはない。
それどころか満面の笑みを浮かべ、両手を広げて二人を迎え入れるのだった。
「ようこそ!晃龍の同志達よ!」
「はじめましてネ。フィジルの同志達!色々話したい事はあるケド、まずはフィジルに女神が降臨された事を!」
「ええ、詳しく中へ。」
口数の少ないラジャに変り、巨躯の男、パシュゥが人懐っこそうな笑み浮かべて話す。
とはいえ、褐色の肌に白いボディペイントをしているのでこちらもかなり不気味だった。
だがパシュゥは全く自覚のないようで、早口に用件をせがむ。
5人は言わずともその気持ちはよくわかる!と、男子寮へとラジャとパシュゥを先導して行った。

#######################################

所は変わり、男子寮地下室。
一般生徒はその存在すら知らぬ場所。
薄暗い室内で幻灯機を囲いラジャとパシュゥを含む男子生徒達が顔を突き合わせていた。

実はここ、フィジル島で密かに信仰されているヒンヌー教徒の秘密本部。
ヒンヌー教とは貧乳が大好きな男達の集まりなのである。
当然のようにラジャとパシュゥもヒンヌー教徒であり、日頃から手紙での交流を持っていた。
数ヶ月前、フィジルのヒンヌー教機関紙が送られてきており、そこに女神降臨の知らせを受けていたのだ。

幻灯機から映し出されるのはリリアーナ。活発に動き、笑う姿が映し出されるのを見て・・・
「おお・・・まさに・・・!女神だ!」
寡黙にして知られるラジャの言葉。
それとは対照的に口数が多いパシュゥは言葉を発する事も出来ず立ちすくんでいた。
ただ、二人に共通して言える事は・・・
いや、この部屋にいる男達に共通して言える事は、皆涙し、跪いている事だった。
リリアーナに、いや、その胸に彼らは女神を見ているのだから。

「ぜ、是非とも実物を見たいのですが?」
「勿論!今日この日の為に情報屋と契約を結んでいます。現在地は直ぐ判るので行きましょう!」
パシュゥの願いを叶えるべく、一人が案内をする。
なぜ一人なのか?というパシュゥの問いに、男は応える。
女神リリアーナを取り囲み困惑させぬよう、協定を結び、無用の接近を硬く禁じているのだ、と。
もしこれが無ければ四六時中ストーカー・・・もとい、巡礼の的になってしまうのだから。
ラジャとパシュゥはフィジルのヒンヌー教徒の思慮の深さに感服しながら後についていくのであった。


70 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:24:21 0
校庭を駆け抜ける黒い影。
いわずと知れたリリアーナを小脇に抱えたヴァンエレンである。
その後ろから津波のような禍々しいオーラが迫ってきている。
振り向かずともそれをひしひしと感じ取るヴァンエレンがリリアーナに尋ねる。
「おい、貧乳!奴らは見えるか!?」
「ひ・・・うん・・・イーリーさん・・・こわっ!前習えの体勢でピョンピョン跳んで来てる!凄いスピード!」
有無を言わせず抱えられ、疾走状態。
その上貧乳といわれカチンと来るが、今はそれどころでないことは十分わかる。
怒りをぐっと抑え、流行く景色の向こうから追って来ている二人を確認。

リリアーナの言葉にヴァンエレンはイーリーの正体を正確に突き止めていた。
東方の吸血鬼、キョンシーである、と。
今ここに東西吸血鬼大戦勃発・・・しませんでした。
ヴァンエレンの逃走本能は全開です。

そんな四人の姿を見て驚いた三人の人影。
貧乳女神ことリリアーナ御拝謁に来たヒンヌー教徒の三人。
「な、なんだあれは?」
驚く生徒を余所に、ラジャとパシュゥはほぼ正確に事態の経緯を察していた。
「むう・・・タチの悪い奴に・・・」
「パシュゥ・・・我らはヒンヌーの教徒!」
その禍々しいオーラに追っているのがフォン姉弟と察知していた。
思わず二の足を踏んだパシュゥだったが、ラジャの言葉に目が見開かれる。
口数が少ないからこそ、ラジャの言葉には重みがあるのだ。

「うむ!フィジルの同志よ。アレは我らと同じ晃龍の者。
我らが女神を救おう!危険なのでここにいてくれ!」
パシュゥはそういうと、マントを剥ぎ取り宙をかける。
ラジャも同じく、パシュゥを追って宙を駆けるのであった。

######################################

「キャーー!来る!もう来る!」
「わかっとるわい!」
凄まじい速さで流れる景色と、どんどん大きくなってくるフォン姉弟の姿に悲鳴をあげるリリアーナ。
しかし、そんな事を言われずとも背中でひしひしと感じる禍々しいオーラを感じるヴァンエレンが半泣きの声で怒鳴り返す。
引き離すどころかどんどん間を詰められているのだ。
「リリアーナ、どうして逃げるの?お友達になりましょう?。」
【前習えの姿勢】のまま跳ねて追うイーリーの声は穏やかだが、そのオーラは全くそんな事を言っていない。
朽ちて黒い穴をさらす左の眼窩は雄弁に物語っている。
お友達になることには群を抜いて寛容なリリアーナでも、問答無用で目玉を抉り取られると判っていては話すことも出来ない。

追いかけっこの最中、ヴァンエレンの踏み込んだ足元がひび割れ、盛り上がる。
直後、地面から巨大な蛇が出現し、二人は宙を舞う事になる。
「カアアアアーーーー!!」
巨大な蛇は大きく口を上げ毒気を吐き出しながら追っ手であるフォン姉弟を威嚇する。
突然の巨大な蛇の出現に溜まらず足を止め構えるイーリーとジューイン。
一方、宙を舞ったヴァンエレンとリリアーナはそれぞれ力強く抱きとめられた。


71 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:24:26 0
「良くぞ女神を守った・・・。」
ヴァンエレンを救い上げたラジャが巨大蛇の頭に着地しながらポツリと漏らす。
突然の事に訳もわからず混乱するヴァンエレンだったが、事態は勝手に進んでいく。
「ラジャ。私は友達になりたいだけなの。邪魔しないで?」
イーリーが柔らかく言葉をかけるが、それに対するラジャの態度は決して柔らかくはない。
巨大な蛇と共に闘気を隠す事無くフォン姉弟へと向ける。
「・・・女神を傷つける事は許さん。
私とこの女神の使徒がお前達を止める。」
ボソボソとした呟きのような宣言だが、はっきりと言い切った。
そう、はっきりと。
「・・・え?使徒って?・・・もしかして私も数に入ってる?」
状況はつかめないが、嫌な予感で一杯なヴァンエレンが恐る恐る聞いてみると、ラジャは不気味な笑顔(本人にとっては満面の笑み)を以って応える。

「奴ら二人は強い。
しかし我ら二人が死力を持って当たれば死中に活あり。」
「・・・それって駄目元ってことじゃないか?」
「安心しろ。女神を守って死ぬは殉教。貧乳の野に召されるはヒンヌー教徒の至高なり。」
「なにそれぇ〜?」
とても説明や説得が聞きそうにないと判ってしまう程の信じ切ったラジャの目を見てないてしまうヴァンエレン。
二人のやり取りの仲、フォン姉弟は完全に戦闘体勢になっていた。
まるで禍々しいオーラの海原に取り残されたように感覚に陥る。
「貴様、姉様の友達作りを邪魔して・・・!蛇もその薄汚いキャリアも揃って冥府に叩き落してくれるわっ!!」
ジューインの怒声が合図となって、戦いは開始された。
ラジャにとっては愉快な殉教の旅出かもしれないが、ヴァンエレンにとっては災害以外何物でもない戦いが。

#######################################

一方、リリアーナは、パシュゥにお姫様抱っこをされて宙を舞っていた。
禍々しいオーラに追われている途中、突然宙に跳ね上げられた。
その上受け止めたのは見ず知らずのデブ。
「いっ?きゃああああ!!」
普段ならば大喜びでお礼を言っていたところであろうが、代わりに出たのは悲鳴だった。
ただでさえデブったパシュゥの顔には白く不気味なペインティングがけばけばしく施されていたので仕方もなかろう。

しかし、そんな悲鳴でさえパシュゥにとっては天使の響き。
「突然で失礼。緊急時により御無礼します。
タチの悪い者どもに追われておりますが我らが命を賭してお守りしますので御安心ください!」
女神と崇めるリリアーナを抱けて興奮のあまり声が上ずっているが、それても的確に説明をすることに成功した。
その言葉と共にふわりと着地。
一切の衝撃を感じさせぬパシュゥの配慮であった。

説明と行動に少し落ち着きを取り戻したリリアーナだが、まだ礼を言えるほど事態は落ち着いてはいない。
後ろでは巨大な蛇の咆哮やヴァンエレンの鳴き声が響いている。
激しい戦いが繰り広げられているのだから。
そのことはパシュゥも判っているようで、振り向きもせずに更に駆け出すのであった。
少しでもフォン姉弟から離れるために。


72 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:30:01 0
【颶風来寇】六:集結来訪者

校舎から少し離れた丘の上。
雅に野点を楽しむ二人。
楓の木に目をやるパープルにキキは肩を竦めながら応える。
「悪戯というほどでもないでおじゃる。演出というものぢゃ。」
その言葉に応えるように、楓の幹が膨らみ、その中から一人の女生徒が現われた。
アラビアンな民族衣装に身を包み、漆黒の髪をたなびかせる幻術の使い手、アルナワーズ。
このかえではアルナワーズの幻術によって作り出されたものだったのだ。
「はぁい。アルナワーズ・アル・アジフよぉん。
始めまして、ようこそフィジル島へ!」
挨拶をしながら歩み寄り、パープルに手を差し出す。
「ほう、そなたが・・・
晃龍からきた、パープル・シキブノジョウぢゃ。」
アルナワーズの名はキキからの手紙で何度か出てきていたので覚えていた。
パープルも立ち上がり、アルナワーズへと歩み寄る。
表情はにやりと笑っているが、とても友好的なものとは言い難い。
そう、パープルも晃龍の生徒。
その力が如何程のものか、話程のものか、確かめずにはいられないのだ。

「キキからお話は聞いているわぁん。
実際お会いして感心だわぁ〜。お友達が多そうで・・・。」
「友達?」
パープルの不敵な笑みをさらりと受け流し、一言発する。
が、その一言にパープルがピクリと反応した。
一瞬の反応を見逃さず、アルナワーズはニタリと笑みを浮かべる。
話に聞き、実際に会い、この一言を出せば反応する。
全て読みきっての言葉だったことをパープルは察した。

互いに握手の手を差し出しているが、その手を握り合う事はない。
隙間数センチに何か見えないものがあるかのようにお互いの手がそれ以上近づかないでいたのだ。
実際、凝縮された気がお互いの手の間でぶつかり合って鬩ぎあっているのだから。

「友達、とな?異な事を!
そなたが感じておるのは皆我が下僕ぢゃ。
フィジルも見たところ下僕以上になりそうなものはいなさそうぢゃの。」
パープルが見下したように吐き捨て、頬を歪ませる。
それとは対照的に、アルナワーズが震える。
歓喜に、愉悦に、身震いをしたのだ。

「あら豪胆だこと。頼もしいわぁ〜。
でも気をつけて。
フィジルという果物は焦って齧ればとても苦いの。
舐めてかかると毒に当たるわよ?
手間隙かけて皮を剥かないと甘い果肉は食べられないわぁん。
せめぎ合う気を押し潰すように手に力を入れるアルナワーズ。
だが、パープルの手は微動だに動かなかった。

「はっ!苦かろうが毒があろうが皿ごと喰ろうて下僕にするがシキブノジョウ家の家訓ぢゃ!」
パープルが目を見開き言い捨てると、こちらも更に手に力を入れる。
二人の掌の間でせめぎあっていた気が目に得る形でスパークする!
その瞬間、大轟音と振動が辺りを包み込む。
血まみれになった巨大な蛇が丘に降って来たのだ。
土ぼこりや飛礫が襲い掛かるが、三人は微動だにしない。
ただ、キキが物言わずとも出現した傀儡【千歳】が三人にぶつかる軌道の飛礫を尽く打ち落としていった。


73 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:30:07 0
「シャアアアアア!!!」
「びえええええ!!」
のたうつ血まみれの巨大な蛇の咆哮に紛れて小さくヴァンエレンの悲鳴もこだまする。
そして宙には四つの人影が舞っていた。
「ジューイン!いい加減似せぬと我が葬炎にてお前の姉を葬るぞ!」
「やれるモンならやってみろよクソが!!」
激昂したジューインの怒声が響く。
葬るなどできるはずがないのだ。
イーリーは反魂の術で蘇ったキョンシーであるが、ジューインの魂も分け与えているので純粋なアンデッドではない。
故に、通常の死霊退治の術は効かないのだ。
「酷いわ。お友達になりたいだけなのに邪魔するだなんて・・・。」
か弱そうな声でうなだれるイーリーだが、リリアーナはとても慰める気持ちにはならなかった。
今目の前で巨大な蛇を血だるまにするイーリーを見ているのだから。

「リリアーナ!また騒動を起こしているのか?」
「おうおう、俺も混ぜやがれ!」
そんな混乱する丘に現われたのはロックと長谷川寅蔵。
二人揃って顔がボコボコに晴上っている。

二人は暫く闘った後、腹が減ったと仲良く食堂に行っていたのだった。
そこで並々ならぬ妖気の波動を察知し、駆けつけたところだ。
「ち、ちがーう!もう何がなんだかわからないけど助けてよ!馬鹿ロック!」
騒動を起こしたと言われ、今まで言葉を失っていたリリアーナが再起動した。
この混乱の最中でも声が出せたのはやはりロックであるが故だろうか?
その言葉を聞き、ロックと長谷川寅蔵も戦いに参加すべく、跳んだ。

#############################################

丘から少し離れたところで一連の騒動を見ていたものがいた。
年の頃十歳ほどの少年。
小さく息を付き手に黒曜石のナイフを具現化させる。
「全く、フィジルについて一時間も経っていないのにもう・・・。」
呟きながらおもむろに黒曜石のナイフを自分の掌に付きたてた。
皮膚を引き裂き、ナイフを走らせる。
血が滴る中、掌に【定】の一文字を刻み込んだ。
「・・・生まれろ、僕の世界!」
その宣言と共に、丘の上は凍りついた。

のた打ち回る巨大な蛇も、その巨体に押し潰されて呻くヴァンエレンも。
宙に舞い、激突寸前の四人も。
鬩ぎあっていたパープルとアルナワーズ。
そしてキキとリリアーナ。
丘の上にいる全員がその場に固定されたかのようにピクリとも動けなくなっていた。

「ディ、ディエン・ビエン・フー・・・・!」
「なんじゃと!?まさか!蓬莱の者か!」
突然の変化に全員が固まる中、パープルが押し殺すように発する名前。
それに反応したのはキキだった。
驚きの声にただ一度、こくりと頷いて応える。

蓬莱から来ている六人とキキは今の状態の意味がわかったが、フィジルの三人はそうは行かない。
いきなり金縛りにあったことに・・・いや、金縛りではない。
本来飛行能力の無いロックも跳ねていた空中で固まって動けないでいるのだ。
まるで空間に固定されたかのように。



74 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:30:15 0
固まり動けずとも会話はでき、キキが晃龍について説明をする。
中央桃源島を中心に、四島を持って構成される晃龍諸島魔法学園。
東部扶桑島、西部天竺島、南部崑崙島はそれぞれ系統別に構成されている。
しかし、北部蓬莱島だけは違う。
全面的に個人的才能に依存する能力や、規格外の能力を持つ者。
一種の天才達の隔離島なのだ、と。
そして今、この状況を引き起こしているものが・・・

ディエン・ビエン・フー。
全員が固定したのを見て現われたのは、まだ10歳くらいの男の子だった。
「視察が目的だったのに、どうしてこんな騒ぎになってるの?」
呆れたように六人に尋ねるフー。
「クソ餓鬼が!邪魔してんじゃねえ!!」
「フー、私はただお友達になろうとしていただけよ?」
フォン姉弟が対照的な口調で話し、全身に力を入れる。
呪縛を振り払おうと抵抗しているのだ。

その抵抗は呪力の源であるフーの掌に現われる。
刻み込まれた「定」の字がミシミシと小さく音を立てながら歪むのだ。
が、それを一瞥しただけで、ぎゅっと掌を握る。
「無駄だよ。僕の世界には逆らえない。」
ギリギリのところで鬩ぎあっているのだが、一切そんな素振りは見せず余裕の態度を貫いてみせる。
そして更に続ける。
「止めずにそのまま消滅させても良かったんだよ?」
10歳の少年に出せる言葉ではなかった。
台詞としては誰でも口に出せるが、実力を伴ってわからせる言葉に出来るのはフーが天才たるゆえんだろう。

フォン姉弟が言葉に詰まると、小さな溜息と共に術を解く。
それと共にフーの掌は消えていく。
「皆、もう帰る時間だよ。一定レベルの騒動を超えたら自動的に帰還する事になっていたんだ。」
突然の期間の言葉にショックを受けるのはラジャとパシュゥだ。
女神リリアーナとのあまりに短い面会にショックは隠せない。
が、実際にここまで騒ぎを大きくしてしまったので強く反論も出来ない。

「興が冷めたわ。フィジルの者達よ。
これからフィジル、晃龍の交流は段階的に広げられていくじゃろう。
次はお前達が来い。晃龍は全島挙げて歓迎する所存故の。」
痺れる手を振りながらパープルが踵を返す。
短い時間ではあったが、それなりにフィジルの生徒達の実力を認めたのだ。

「リリアーナ、残念だわ。ぜひ晃龍に着てね。」
イーリーが名残惜しそうにリリアーナに告げる。
そこには何の悪意もない。
それが故にリリアーナは引きつった笑みを浮かべて見送るしかなかった。

晃龍から来た七人はやがて輪郭がぶれ、消えていく。
そして残された四人は大きく息をつくのであった。
「・・・まさに颶風来寇だったわねぇ。」

フィジルの生徒達が結局なんだったのか全貌を知るのは翌日のデイリーフィジルを待つことになるのだった。


75 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:32:56 0
名前・パープル・シキブノジョウ
種族・人間
性別・女
年齢・18
術・風水・召喚門・空間操作
容姿・容姿端麗・亜麻色ロングストレート・青瞳・切れ長の目・気の強そうな表情
服装・十二単
体格・標準体型
装備・簪・魔法媒体・人頭杖為時(使い魔)
所属・東部扶桑島
座右の銘・毒を喰らわば皿まで
尊敬する人・母
苦手なもの・祖母
備考・ シキブノジョウ家の長女。
   中央大陸出身の母と東方大陸の名家シキブノジョウ家の父の間に生まれたハーフ。
   閉鎖的な名家環境ゆえにハーフとして生まれ様々な苦労をしてきたが、それを実力でねじ伏せてきた。
   それゆえ少々傲慢気味。負けず嫌い。 
   キキとは親友。


名前・長谷川寅蔵
種族・鴉天狗
性別・男
年齢・17
術・古神道
容姿・黒髪ロング・隻眼眼帯・痩身長身
服装・黒スーツ・高下駄
体格・標準体型
装備・天狗の団扇・宗州草薙
所属・東部扶桑島
座右の銘・なんとかなるでしょ
尊敬する人・奥羽山の大天狗太郎丸
苦手なもの・気持ち悪い系の虫
備考・喧嘩っ早い鴉天狗。
   普段は人間形態をとっているが、戦闘体勢になると漆黒の羽が生える。
   戦いを楽しむタイプで遺恨を後に残さない。


76 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:33:55 0
名前・フォン・ジューイン
種族・人間
性別・男
年齢・18
術・幽玄導師
容姿・童顔・黒髪短髪
体格・標準体型
服装・道服
装備・符・銭剣・単鐘・墓守の灯篭
所属・南部崑崙島
座右の銘・死よ、驕る無かれ
尊敬する人・燃灯道人
苦手なもの・蛾
備考・幽玄導師。
フォン・イーリーの双子の弟。シスコン。
    イーリーが病死した為、反魂の術を使い無理やり生き返らせる。
    常識通りキョンシーとなったが、己の魂の一部を分け与える事により制御を可能にした。
    イーリーを完全に蘇らせる為、研鑽を続ける。
    *墓守の灯篭・小型の石灯篭。青白い光を放ち、光が照らす範囲をジューインのフィールドである墓地へと変える。
     有効範囲は直径50mほどで、開放型異空間。故に誰でも出入り自由。

名前・フォン・イーリー
種族・キョンシー
性別・女
年齢・享年15
術・道術
容姿・フォン・ジューインと同じ顔。髪は長く整っている。
服装・羽衣・中華的儀礼服・額、左目、他各所に包帯。左手、両足にギブス。
装備・車椅子
所属・南部崑崙島
座右の銘・なし
尊敬する人・太一真人
苦手なもの・強い光
備考・フォン・ジューインの双子の姉。
   3年前に病死しているが、ジューインの術により復活。
   キョンシーんに転生するが、ジューインの魂の一部を与えられているので自我を保っている。  



77 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/08/28(木) 23:35:41 0
名前・ラジャ
種族・人間
性別・男
年齢・18
術・蛇使い・ヨガマスター
容姿・褐色・痩身・手足が長い・彫が濃い
服装・ターバン・マント
装備・ラーガ籠
所属・西部天竺島
座右の銘・手足なんて飾りです。偉い人にはそれがワカランのです!
尊敬する人・マハラジャ・ムハマンド
苦手なもの・巨乳
備考・蛇使いで、ラジャの持つラーガ籠には無数の蛇が蠢いているという。
   南海の獣と異名をとる。
   生粋にヒンヌー教徒であり、巨乳は苦手。
   口数は少なく造形的にも表情が不気味。
   その半面繊細な心を持っているのでビックリされるとちょっと凹む。


名前・パシュゥ・アンダーティーカー
種族・人間
性別・男
年齢・19
術・呪い・葬炎
容姿・彫が濃い・口ひげ・激ポチャ・ボディーペイントで全身白粉を塗っている
服装・ターバン・腹巻・ベスト・ズボン
装備・短剣・頭蓋骨・藁人形
所属・西部天竺島
座右の銘・因果応報
尊敬する人・世界に満ちる全ての精霊
苦手なもの・生魚
備考・ボディーペイントで不気味に仕上がっているが、中身は陽気なデブ。
   歌って踊れる呪術師。葬祭儀礼のエキスパート
   生粋のヒンヌー教徒であり、ヒンヌーの為には命を懸ける。


名前・ディエン・ビエン・フー
種族・人間
性別・男
年齢・10
術・世界法則支配「神の碑文」
容姿・大人しく朴訥としている・小柄
服装・簡素なシャツとズボン
装備・なし
所属・北部蓬莱島
座右の銘・生まれろ、僕の世界
尊敬する人・なし
苦手なもの・医者
備考・具現化した石で身体に刻んだことがそのまま顕在化させる能力を持つ。
   有効範囲は50m
   ある種の天才児で、飛び級で現在の課程にいる。
   ボーっとしていてあまり好奇心などがない。


フラグ講座############################

121 名前:フラグ講座[sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/01(水) 23:18:59 0
(元ネタ魔法少女5避難所2 193.198)

ラルヴァ「ラルヴァと」
キサカ「キサカの」
二人「フラグ講座〜」
キ「というわけで現時刻を以って始まります「ラルヴァ&キサカのフラグ講座」」
ラ「司会はこの私、「本番数分前まで本気なのかドッキリなのかわからなかった」ラルヴァ・ケラスと」
キ「「報酬に釣られてスタッフにホイホイついてきた」キサカがお送りします。
  とはいえプロデューサーが拾ったネタ帳から始まったこの企画、
  まさか元ネタ主も実現するとは思っていなかったでしょうね」
ラ「ところでほとんどぶっつけ本番で始まったのでカンペ前提の番組ですが、
  その辺キサカさんどう思います?」
キ「「面白ければいいじゃない」の一言に尽きますね。グダグダ喋ってるとギャラに響き得ますので
  とりあえず始めたいと思います」
ラ「では早速行きましょうまずは一つ目」

【シーン1】
敵「ヒャッハーここは通さないぜェーッ!」

ラ「・・・これは死にますね」
キ「というよりもう死んでますね。たわらばー」
ラ「コーラを飲んだらゲップが出るくらい確実に死んでますね」
キ「では次のフラグ」

【シーン2】
女「私・・・この戦いが終わったら、あなたに伝えたいことがあるの。だから必ず帰ってきて」
男「女・・・」

キ「リア充とかマジ死ねよ」
ラ「いきなりそういうこと言わないで下さいスタッフ引いてます」
キ「口元を押さえて俯きながら震えてる奴がいるのは気のせいですかそうですか」
ラ「で、フラグとしてはどう思いますか?普通に男死亡フラグな気もしますが」
キ「これはむしろ男が負傷して帰ってきて
  「怪我するなんてあなたらしくないわね・・・でも・・・
   でも、帰ってきてくれて本当に良かった・・・!」
  みたいな流れになるんじゃないでしょうか」
ラ「変化球ですねぇ。ボク嫌いじゃありませんよそういう恋愛小説みたいな流れ」
キ「「もう全部終わったんだ。だからそんな顔するな」
  「・・・男、私ね・・・ずっと、あなたのことを・・・」」
ラ「ラブロマンス!」
キ「ラブロマンス!」
ラ「ジュッテーム!」
キ「オールヴォワール!」

【シーン3】
敵「そろそろとどめを刺してやろう・・・」

キ「刺せませんね」
ラ「むしろこいつが刺されます」
キ「「こんなところで死ねるかよ・・・!
   この程度死んだら、アイツに合わす顔がねぇんだよ!」」
ラ「これはいい熱血。ピンチで覚醒するのは主人公枠の特権です」
キ「そんなことはないです。断じて」


122 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/01(水) 23:19:59 0
【シーン4】
馬鹿「殺人犯がいるかもしれない部屋で寝れるかよ!!俺は一人で寝るぜ!」

キ「一昔前のサスペンスのお約束乙」
ラ「実はこいつが犯人だったとかいう変化球は無いものでしょうか」
キ「また随分と斜め上ですね」

【シーン5】
(ベッドの上で目覚めて)
主人公「あれ・・・夢・・だったのか」

ラ「しかし枕元には彼女から貰った花が!」
キ「むしろ毛布の中にヒロインが寝ているのを希望します。半裸で」
ラ「エロ過ぎるのはよくないと思います」
キ「ハーレム野郎が何言ってんだ貴様」
スタッフカンペ(キサカ!口調!口調―!)

【シーン6】
敵「悪いが一瞬で終わらせてもらう」

ラ「折角決めたのに思わぬ反撃に苦戦した挙句逆転されるフラグですね」
キ「というか物理的に無理でしょう常考。喋ってる暇があったら攻撃しろと」
ラ「「ブッ殺す」と心の中で思った時!」
キ「既にその行動は終わっているんだッ!」

【シーン7】
女「あ〜!腹が立つ!アイツってほんと最低ね!」

キ「しかしそれは恋」
ラ「嫌よ嫌よも好きの内って言いますよね」
キ「「アイツと二人っきりってだけで・・・
   どうしてこんなにドキドキするんだろう・・・」
ラ「ラブロマンス!」
キ「ラブロマ(ry」



キ「さて、そろそろお時間のようです」
ラ「あっという間でしたね。実際大して時間も経ってないみたいですが」
キ「そもそもこの番組自体が一発ネタみたいなものですし」
ラ「給与明細見て涙腺が緩んでも知りませんよ」
キ「現物支給ですので問題ないと思います。今日はどうもありがとうございました」
ラ「皆さんも自分の言動には責任を持ちましょう。ではごきげんよう」


 この番組は
  ベアトリ薬局
  シュガーローン
  ハカタの死王
 の提供でお送りしました


123 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/01(水) 23:20:50 0
【番組終了後 楽屋】

キ「ところでラルヴァ、ちょっと訪ねたいことがあるんだが」
ラ「何?」
キ「この雑誌の切り抜きなんだけどさ」

  『週刊女性フィジル』

本誌独占インタビューに成功!!
「僕はキョニュリストだから・・・勃つか心配です。」
メラルの炉乳をラルヴァが斬る!
赤裸々に語るラルヴァの巨乳への想い・・・

キ「なにこれ」
ラ「いや、なにと言われても・・・えーっと」
キ「何?信者に喧嘩売ってるの?死ぬの?」
ラ「いや、そういうわけじゃなくてさ、ただ単に好みの問題で」
キ「尚更だ馬鹿野郎いいかよく聞け。幼女は可愛い。可愛いは正義。
  よって幼女は正義という世界最強の三段活用があってだな・・・」


5年後物語・夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI################

153 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:45:16 0
【5年後物語・プロローグ】

一通の手紙は、全てを越え
一通の手紙は、全てを見つけ
一通の手紙は、全てを伝え
魔の者どもを繋ぎ止める
友情と言う名の繋がりを以って


154 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:45:22 0
【5年後物語・中央大陸東部三諸国連合】

中央大陸東部。
周辺三ヶ国にまたがる森。
その森は大森林や樹海と言われるような大きな森ではない。
大人の足で三日もあれば縦断出来てしまう程度の森である。
しかしその森は最近二人の魔女が住み着き、変質してしまった。
普通に入っていけば何事もなく通り過ぎられる。
だが、邪な心積もりで入ると、森は牙を剥き翻弄された挙句森の外へと叩き出されてしまうという。
しかし、魔女に気に入られれば世界で類を見ないほどの薬と毒の庭園に辿り着く。
そして万病に効く薬や、調停ごとをスムーズにこなす助言をえられると言う。

噂を頼りに病人や薬問屋、闇のドラッグ組織などが森へと向かう。
だが、今ここにはそのような者達はいない。
代わりに、三ヶ国合同討伐軍が陣を敷いていた。

########################################

事の発端は嵐から始まった。
中央大陸東部に位置する三ヶ国をまたいで嵐は突然沸き起こり、猛威を振るい続けた。
一ヶ月にも及ぶ嵐が明け、人々が復興に取り掛かろうとしていたときに・・・

現われたのは一人の魔女。
言葉巧みに人心を操り、三ヶ国の王子達を誑かし、籠絡させる。
王子達を虜にした魔女は面白半分に国を混乱に陥れるのだった。
次世代をになう三ヶ国の王子達は堅い友情で結ばれていたが、一人の魔女を巡って対立し始める。
対立は次第に大きくなり、ついに三人の王子達は決闘に至るまでになった。

「私の為に殿方がいがみ合うのは耐えられないわぁん。
戦いを止めるのだけが私に出来る精一杯の手向けよ〜。
私がいては三人の仲も悪くなるからここから去りますわ。」
決闘の場で魔女は術をかけ、去っていった。
魔女の術により、三王子の決闘は回避された。
しかし、その回避方法が問題であった。
それぞれの王子は自分の事をそれぞれ蛇、蛙、蛞蝓と思い込み、一歩も動けなくなっていただけなのだから。
以来、三人の王子達は睨み合ったまま動けなくなってしまった。

王子達にかけられた呪いを解く為、王達は魔女の行方を追いついには突き止めた。
魔女一人捕らえるのにいかほどの兵力を要すると言うのであろうか?
だが、現実的には三ヶ国連合討伐軍を編成するに至ったのは訳がある。
森に住む二人の魔女が想像を絶する相手だったのだから。
天災指定B-15・【蠱毒の寵姫】ベアトリーチェ
天災指定A-22・【狂嵐二重奏】アルナワーズ
森に住む二人は共に天災指定を受けた魔女だったのだから。

天災指定とは、本人の望む望まざるに構わず周囲に甚大な被害をもたらす危険がある人物に指定される。
一個人に地震や火山など自然災害と同じ扱いを当てはめているのだ。
代表される例はドラゴンや上位巨人、邪神など。
各ランクとナンバーは、被害範囲、危険性、活発度などで算出される。
S・A・B・Cとクラス分けされ、更にそこからナンバーによって序列を与えられる。
国によっては討伐対象になっていたり、忌避対象となっている。


155 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:45:28 0
討伐軍の陣で、一人の女戦士が瞑想していた。
先鋒に名乗りを上げた巨躯の女戦士。
その後ろには、屈強な兵士達が女戦士の号令を待ち静かに闘志を燃やしている。

そんな女戦士の頭上に小さな光球が現れ、ぱっと散ると、そこから一枚の手紙が舞い降りてきた。
静かに二つの指で手紙を受け取り、文面を確認。
その文面に女戦士の目は見開かれ、立ち上がる。

女戦士は後ろに控える部下達に解散命令を出すと、陣中央へと歩いていく。
そこにいるのは三人の王達。
片膝をつき王に礼をとると、ここで漸く口を開いた。
「王様方。性悪女に灸を据えようとおもっとちゃが、もう森にはいないけぇの、無駄足じゃったわ。
今から行っても森にかけられた幻術で翻弄されるだけの骨折り損ぢゃ。
私と部下は抜けさせてもらうきぃ、王様方も帰りんさい。」
そう言うと、女戦士は立ち上がり、陣を後にする。
「大丈夫じゃて。
こうなったらからには王子様方にかけられた呪いももう解けとるはずぢゃけえの。」
後ろから引き止める王達の声を聞き、最後に言葉を残して。

女戦士の言葉通り、王子達の呪いは解けていた。
そして、女戦士の忠告を聞かずに森に進んだ王達が手痛く翻弄され森からたたき出されたのも後から女戦士クドリャフカの耳に入ってくることになる。

だが、もはやクドリャフカにはそれも関係ないこと。
今はたた手紙を持って仕立て屋に行く事が最重要なのだから。
今から仕立て始め、ドレスは間に合うだろうか?
それがクドリャフカの脳を占める疑問であった。


156 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:45:35 0
【5年後物語・中央大陸シルベリア永久氷原】

一年を通して吹雪が唸り、氷が覆いつくす大地。
中央大陸北部シルベリア地方。
永久氷原と言われるこの土地に、摩訶不思議な空間が広がっていた。

その場所だけは氷はなく、暖かな日差しと緑の芝生が広がっている。
広い敷地の中央に立つのはなぜか氷の館。
しかし、その氷は触れても冷たくなく、見事な色彩に彩られた館は俄かに氷とは信じがたい。
不思議な空間ではあるが、一番不思議なのは、その敷地に無数にいる猫・猫・猫・猫。

そう、ここは永久氷原の中ポツンと佇む猫屋敷なのである。

その日はシルベリアにあっても中々巡り合えない強い吹雪の日だった。
雪をはらんだ強い風が渦巻くように館の周囲を駆け巡る。
だが、その風が敷地内に入ってくることはない。
「今日はやけに吹雪が強いですわね。
いい加減にしなさい!猫ちゃんたちが寒がっていますじゃないの!!」
館の主人、フリージアが空に向かって怒鳴りつける。
すると、吹雪を起こしていた精霊氷狼が、空中で凍りつき砕けてしまう。
氷狼達が凍りつくなどと言うありえない現象をただの一喝で引き起こすフリージアは今や氷系術者としては押しも押されぬ第一人者となっていた。

「ふふふ。そんな理不尽な叱られ方したのでは氷狼達も涙目になるわよ。
久しぶりね、フリージア。」
「あら!メラルさんじゃありませんか!」
氷狼たちが退散し、静かになった館に美しく成長したメラルが笑いながら訪れた。
この吹雪の中平然と来訪するだけでも、メラルもまた氷系術者随一の使い手となっている事を現していた。
とにもかくにも数年ぶりの再会を喜び、フリージアはメラルを館に招き入れる。

「相変わらず凄まじいわね。この永久氷原でこんな空間を維持するだなんて。
フリージアの家は貴族だと聞いていたから、ここを作ったと聞いたときは驚いたわ。」
出されたお茶を飲みながらメラルはしみじみと言う。
フリージアの家は氷系術者の名門にして、シルベリアでも有数の貴族である。
能力はともかくとして、地位に興味も示さず猫屋敷を築いてしまう辺り実にフリージアらしいと思わないでもないのだが・・・
「あら、それでしたらメラルさんこそ。
当主になれたのに、研究施設だけもらって引いたのですから、私と変りませんわ。」
そう、メラルは卒業後、家に戻った。
家督争いなどが待ち受けていたが、メラルはそれに勝ち抜き、当主たる地位を手に入れられたのだ。
が、あえて身を引き、研究施設を手に入れている。
最も、その研究施設は国家規模の研究施設でも追いつかないほどのものなのだが・・・
フリージアの言葉にメラルは微笑むだけでその事は口には出さなかった。

「それで、今日はどうしましたの?」
フリージアがメラルの来訪予定を聞くと、メラルはそっと頭上を指差した。
「占いでね、出たの。」
その言葉を待っていたかのように、二人の頭上に光球が出現し、手紙を残して消えていった。
その手紙を見たフリージアの表情が崩れていく。
「あらあら、そうでしたの。
メラルさん、先を越されましたわね。
ラルヴァさんは・・・ぁっ・・」
フリージアの言葉は最後まで続きはしなかった。
流石にフリージアも空気を読めるようになってきたようだ。
言ってはいけない言葉を言ってしまった事に気付き、思わず口を噤むがもう遅い。
「ラルヴァ・・・ね。ええ、彼は・・・!」
言葉を穏やかだが、手にしたカップが凍りつき、コメカミに青筋が浮かび上がっているのを見逃しはしなかった。



157 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:45:44 0
【5年後物語り・西方大陸辺境『世界の果て』】

「ラルヴァ、封印が終わったなら行こうぜ?」
「・・・うーん・・・うん。」
中央大陸某所で、ラルヴァは霊穴の封印をし終えて物思いにふけっていた。
呼びかけるキサカは祝辞の清書をしながらラルヴァを待っている。

この二人、以前魔法放送局で行ったフラグ講座が受け、今や押しも押されぬパーソナリティーコンビとして有名になっている。
しかしパーソナリティーは仮の姿で、世界中に発生する危険な霊穴を塞いで回る封印業を主としている。
その仕事上、世界中を飛び回っているのだ。
それに伴う弊害は確実にラルヴァを蝕み、この腰の重さがその重篤度を物語っていた。

「なに?もしかして怯えてる?半年振りだっけ?」
面白そうにラルヴァを茶化すキサカは本当に楽しそうだった。
二人が手にした手紙は確実に二人を交わらせる。
そしてそこで巻き起こるであろう修羅場も。
それが楽しくて仕方がないのだ。

「・・・怒っているだろうな・・・。」
「女の悩みなんて贅沢な事言っている奴に同情なんてしねえ。行くぞ。」
キサカはラルヴァの首根っこを掴むと楽しそうに歩を進めるのであった。


158 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:45:50 0
【5年後物語・南部大陸密林】

360度を熱帯樹木に囲まれた密林でグレイブは途方にくれていた。
「お前ら、一応確認するぞ?」
【オーエー、どんと来い!】
【ああ、一応・・・ね。】
「俺達は中央大陸に向かう為に南部大陸最北端の港町にいたよな?」
【おーいたいた!あそこの刺身はサイコー!】
【う・・・うん、いたよね。】
「寝る前に言ったよな。明日朝一で船出だから大人しく寝てろって・・・。」
【え・・・?言ったっけ?そんな事?】
【いや、言ったよ。確かに。】
一人でぶつぶつと呟く姿は傍から見れば、密林の中一人きりで錯乱したかと思われるかもしれない。
しかし、グレイは一つの体に三つの魂を持つ人狼である。
今まさに三つの魂が会議を開いている最中なのだ。
表面に出ている蒼髪で切れ長の眼を持つグレイブの肩が怒りにプルプルと震えだす。
三人の中では最も冷静で頭の回転が早い。
持ち前の冷静さで勤めて状況整理に勤めていたのだが、暑さも相まって苛立ちが隠し切れなくなり、ついには爆発する!
「な・の・に!どうしてこんな密林にいるんだああ!!!」

密林にこだまするグレイブの叫びに魂の存在であるグレイルとグレイズが説明を始める。
グレイブが寝入った後、グレイルが人格交代して表層に出てきた。
暫く旅をした南部大陸も今宵が最後。
最後の記念に散歩をしようと言い出したのだ。
元々体力バ・・・もとい、体力の有り余って余り物事を考えないグレイル。
散歩を始めて気付けば見知らぬ場所へと言っている事も少なくない。
それを危惧したグレイズは強引に肉体の主権を奪った。
この判断は正しい。
これならばグレイルの暴走を止める事が出来るからだ。
それが夜で、しかも満月が空に輝いてさえいなければ、だ。

三人の中で人狼の血を一手に引き受けるグレイズは、夜に肉体に入ると人狼化し、朝まで変る事が出来なくなる。
南方大陸の熱気と満月が人狼と化したグレイズを駆り立てた。
何に駆り立てたかは全く以って不明だが、夜が明けたときには見知らぬ密林にポツリと佇む事になる。

事情を聞いてグレイブの怒りは静まるどころか、コメカミの血管が切れそうになったのは言うまでもない。
「どうするんだよ!日数もないのに!」
【まーどうになかるんじゃね?】
【R・・・もう頼むから黙っててくれ・・・】
怒りに任せて吼えるグレイブ。
マイペースにグレイブの怒りに油を注いでいる事にも気付かないグレイル。
そして、自分が原因な為、口を出すに出せないグレイズが脱力しながらグレイルをたしなめる。

グレイの手に握られた手紙に記された日付までに果たして辿り着けるのだろうか?


159 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:45:56 0
【5年後物語り・中央大陸メガロシティ】

中央大陸メガロシティ。
大陸でも有数の大都市であり、文化・芸術・軍事・そして金融のメッカである。
そんな大都市の一等地に白亜の宮殿とでも言える豪邸が建っていた。

この建物は大陸全土に支店を持つ『シュガーローン』の中央本社なのだ。
貸した金は例え邪神からでも取り立てる!と豪語する女社長が一大で築いた金融会社。
その勢いからも敵も多く、よくない噂も少なくない。
だが、その裏で孤児院に毎年匿名で莫大な寄付を行っている事はあまり知られていない。

そんなシュガーローン中央本社は今、人だかりが出来ていた。
そしてその中では・・・
「検察局特捜部一級検事、マオ・ミゼットである!
ふふふ、ミルク、とうとう年貢の納め時だな。
エリートの僕自らが幕を引いてやるのは旧友のよしみと言う奴だ。ありがたく思いたまえ!」
そう、人だかりの原因はこれである。
最年少で一級検事に上り詰めたマオ。
その能力は高く評価され、巨大汚職事件や重大事件を担当している。
まさに司法の剣と称されるマオが、とうとうシュガーローンに切り込むとあっては人だかりもできようと言うものだった。

「げっ!マオ!あんた・・・
い、いや、そんな事より!令状出してみなさいよ!令状!」
突然のマオの来訪に慌てて扉を閉めて言い返す。
その後ろでは秘書達が慌てて裏帳簿などを一箇所に集めていた。
勿論ミルクのメギドで一発焼却するためだ。
「ふっ、無駄な抵抗を・・・。ブランカート君!」
「マオマオ、久しぶりになったと言うのにあまり喧嘩腰にならなくてもいいのではないか?」
「ば、馬鹿者!プライベートの呼び名でよぶんじゃないっ!」
顔を真っ赤にしながらヴァンエレンの差し出す令状をひったくり、扉に叩きつけた。
その瞬間、中央本社全体を包むように魔法陣が浮かび上がる。

この令状は裁判所の許可書であると同時に、家宅捜索を滞りなく行う為に一帯の魔法を無効化させる効力があるのだ。

こうなってしまえば扉を押さえている意味も、施錠の呪文も、そして証拠隠滅のためのメギドすら無効となる。
諦めたミルクは大人しく扉を開け、入ってくるマオとヴァンエレンを迎え入れるしかなかった。
「ヘボ吸血鬼じゃないの。あんた学園に括られてたんじゃないの?」
「ミルク、言葉に気をつけるがいい。ブランカート君は今や検事補佐だ。
それに・・・ヴァンエレンへの侮辱は主人である僕への侮辱も同義だぞ?」
ヴァンエレンの存在に驚き、声をかけるが、それに応えたのはマオだった。
オロオロするヴァンエレンとは対照的に、きっとミルクを睨んで言い放つ。

ヴァンエレンはマオと主従契約を結ぶことにより、古き契約の括りを解かれ学園を出ることに成功したのだった。

室内に入ると中央のテーブルに積み上げられた裏帳簿の山。
それを見てマオはにやりと笑う。
「ほほう、自ら証拠を用意していてくれたとは、感心感心。」
ドカリとテーブル前のソファーに座り高笑いをあげるマオ。
その後ろに控えて立つヴァンエレン。
それとは対照的にうなだれて向かいに座るミルク。


160 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:46:06 0
そんな三人の頭上に突如光球が現われ、手紙が三通舞い降りてくる。
不思議に思い手紙を見た瞬間、三人の動きが止まる。
その中でいち早く動き出したのはミルクだった。
手紙を手に固まるマオとヴァンエレンの隙をつき、マッチをする裏帳簿の山に投げつけた。
元々証拠隠滅を前提に作られた裏帳簿は瞬く間に燃え上がる。
捜査令状は魔法を無効化するが、一般物理現象にその効果は及ばないのだ。

「ああ!な、なんて事を!」
慌てて消化呪文を唱えようとするマオだったが、捜査令状の魔法無効効果により呪文が紡げない。
そうしている間にもあっという間に暇裏帳簿の山を嘗め尽くし、灰の山とかしていた。
「まーまー。そんな事より、めでたい手紙が来たんじゃない?
仕事なんかやっている場合じゃないよ!
さーて、盛大な花火を上げにいかなくっちゃ!」
証拠隠滅に成功したミルクは言葉も軽く手紙を持って窓から飛び出していった。

「行くぞ!ヴァン!」
「え・・・?どこに?」
窓から飛び出るミルクの背を追い、マオが立ち上がる。
この流から言えば当然、ミルクを追うのだろうが、それでもヴァンエレンは聞かずにいられなかった。
なぜならば、追うぞ、ではなく、行くぞ、なのだから。

「そんなこと・・・!決まっているだろう!」
にやりと笑って応えるマオに目は輝いていた。
そしてそれに大きく首を縦に振り馬へと変身するヴァンエレンの目も。

ミルク、マオ、ヴァンエレンの目的地は一つ。
そしてそれが追う事にもなるのだから。


161 名前:夜+鳥 ◆NUE/UO/DFI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/10/17(金) 22:46:13 0
【5年後物語・フィジル島】

「レイド先生、どうもありがとうございます。」
「ん〜、ああ。構わんさ。めでたい事だしな。」
「アブブー。」
深々と頭を下げるリリアーナにレイドは頬をかきながら応える。
ここはフィジル島事務局。
卒業生達の名簿が並び、魔法儀式によって現在の居場所に手紙を届ける事が出来る。
同窓会やOB会などの招待状はここから出される事になる。

「おめでたいと言えば、レイド先生、二人目ですって?」
「ああ、アルテリオンは今実家に戻っていてな。予定日は五ヵ月後だ。
子供はいいぞー。もうパパメロメロでちゅー。」
「キャッキャッ!パパー!」
そういいながら背負った赤ん坊に舌を出して面白顔をつくりあやしているレイド。
既に1歳の誕生日を迎え、歩き出しそうなほどに育っているのだが、親馬鹿と化したレイドは背負って離そうとはしなかった。
そんなレイドの変りように苦笑しながらリリアーナは思う。

こんな幸せな家庭を自分達もこれから築いていくのだ、と

「リリアーナ、最後の便の陣を発動させるぞ。」
「ええ、あなた!」
手紙を転送させる陣を立ち上げながら呼びかけるその男へと駆け寄るリリアーナの顔は幸せで埋め尽くされていた。

こうして各地に散った二人の友人達に手紙は送られる。
幸せ一杯な結婚式の招待状が・・・

一通の手紙は、全てを越え
一通の手紙は、全てを見つけ
一通の手紙は、全てを伝え
魔の者どもを繋ぎ止める
友情と言う名の繋がりを以って