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【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!V【オリジナル】

1 :名無しになりきれ:2011/07/30(土) 14:36:18.55 0
前スレ
【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!【オリジナル】  レス置き場
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1306687336/

過去スレ
『【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!【オリジナル】 』
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1304255444/


避難所
遊撃左遷小隊レギオン!避難所
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1304254638/

まとめWiki
なな板TRPG広辞苑 - 遊撃左遷小隊レギオン!
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/483.html

2 :名無しになりきれ:2011/07/30(土) 14:37:33.81 0
>「お・こ・と・わ・り・だ!」

カシーニの振るった必殺の剣。その刃先は、少年の胴体を袈裟切りに割断する軌道。
決まれば得られる結果は勝利。相手にもたらす災禍は死。剣先空抉り込めば、刃のない剣でも斬撃は容易だ.
それを、少年は真っ向から迎え撃った。振り出された短槍の穂先がジャマダハルの先を捉え、衝突。弾かれる。

「おお――ッ!!」

舌を巻くのは純粋な驚嘆のみで。
カシーニの老練こそが為せる予測不可軌道を、完全に読み切り、読み勝った。
卓越した動体視力と、破滅的なクソ度胸がなければ成し得ぬ所業だ。それを、人を殺したこともなさそうなこの朴訥とした少年が!

>「悪いけど、俺の知ってる極上の女は、そう簡単にゃやらせてくれないんだと思うよ!
  それこそ、横っ面でもひっぱたかれるんだろうな!」

眼前、槍を振り抜いた少年の姿が消えた。間髪入れずに胴へ衝撃。不可視不認識の速力で、少年が体当たりを敢行してきた。
その威力、砲もかくや。体幹へと手ぎつい一撃を入れられ、カシーニはバランスを崩す。その崩れは、致命的な隙を生む。
この体当たりは決めじゃない。武器を持っておきながら、無手の突進をする意味は一つ――

>「何より、名前の響きがだっせぇんだよ!!!」

――刃を合わせた瞬間からの全ての行動が一つに繋がり、少年の振り抜く槍を最良の一撃へと変える!
体制を崩されたカシーニの顔面。加速した手槍の柄が激突した。刃先を回避できただけでも僥倖、命だけ拾ってカシーニは吹っ飛ぶ。

「……っが!」

操舵室を端から端まで吹っ飛び、壁に頭から激突した。後頭部を強打し、四肢もまともに動かない。
対する少年は五体満足。いつでもトドメを刺せる構え。どちらに決定的な優位が存在するか、誰の目にも瞭然だった。

「この……俺たちの誇りの象徴を……!言うに事欠いてダサいだとぉ……!!」

それでも、カシーニは言わねばならなかった。
上手く回らぬ呂律を気力で制御し、痙攣する左腕で宙を掻き、少年を睨み据える。呪詛の如く、枯れた喉から言葉を吐いた。

「――ダサいなら仕方ないな」

言ったきり。カシーニは沈黙した。

 * * * * * * 

3 :名無しになりきれ:2011/07/30(土) 14:37:53.43 0
 * * * * * * 

>「姐さん、お望み通りくれてやるぜ!!」

ハイマウントが魔物使いへと一撃くれようとした刹那、三度目の強風。

「!!」

風の塊とでも形容すべき不可視の槍が甲板を洗い、ハイマウントを強烈に煽る。
大きく揺れたゴーレムの中で乗り手は舌を打った。いくらなんでも偶然が重なりすぎる。
ハイマウントはバランスを崩し、それを立て直す為の姿勢制御処理に演算能を奪われた。
そしてその隙こそが、彼の命を生と死に振り分ける分水嶺となった。

>「お前の死因は一つ、暴風は『三度』吹かないと過信したことだ」

右方、無力化したと思っていた弓使いの手に、見覚えのある得物の存在。
薙刀に似たそれはハイマウントに装備されていた近接武装。二度目の風で取り落とした自身の武器だった。
さりとてゴーレムが振るうことを想定して設計された武装である。生身の人間がそんなものを抱えてどうすると言うのか。
現に、あの弓使いは抱えるだけで精一杯で構えることすらできていないではないか。

「……まさか」

抱えているのではない。構えているのでもない。あの弓使いは、『番えている』のだ。
その弓に、薙刀を。そんな出鱈目な使い方があるか。張りの強い弓でも、あのレベルの長物を撃ち出すなど不可能だ。

――『不可能だ』という考え方こそが、遺才持ちを相手取るおいて最も命取りになる愚考だということに、彼は終ぞ気づかなかった。

『  ス ト ー ム フ ゙ リ ン ガー
 三 度 穿 つ 風 の 牙』

薙刀が甲板を駆け抜けるのに一瞬をも要さなかった。薙刀は真っ直ぐ一条の威力となり、ハイマウントの装甲へと突き立った。
レイスティンガーほどの質量がないため周囲の全てを吹き飛ばすことはなかったが、あれはそもそもがオーバーキルである。
ゴーレム相手にゴーレム用の武装ならば、当然の如くそこに破壊が完成する。
操縦者ごと貫かれたハイマウントは、中の人の動きを再現して膝から崩れ落ち、四肢を痙攣させながら沈黙した。

* * * * * *

4 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/07/30(土) 17:08:02.58 0
* * * * * *

『――ピニオンからクランク6へ。』
「わかっちょりやす。湖賊の連中はもうちっと使えるとおもっちょったんですが」
『一本気といえば聞こえはいいが、あの船長は実のところただの馬鹿だからな。こうなることは割合予測できていた』
「自分としても時間稼ぎになれば必要十分程度にしか頼りにしてねえですわ」
『ということは?』
「"クラーケン"、いつでも出撃可能でさぁ」
『結構。帝国本土揚陸の橋頭堡となるこのウルタール湖制圧作戦、コールネーム"クラーケン"――状況開始だ』

* * * * * * 

「ええ、ええ。そうであります。お魚はロキさんが命がけで……ううっ」

スティレットは鼻を啜りながら念信器に向かって仔細を報告した。
結果的に、ロキ一人の犠牲で四人の命が助かったわけであるから、数字の上では「被害・軽微」で済んだのである。
しからばなおのこと、払った犠牲の大きさに一同は涙を飲まずにはいられなかった。
いつでも笑顔を絶やさず、チームのムードメーカ足り得た彼女の最期(?)を想うにつけ、やりどころのない悲しみとやりきれない痛み。
仇を討って溜飲を下そうにも、当事者たる巨魚はロキが魔門の向こうへと連れていってしまった。

『……分かった。ハティアの件はおれが後の処理をする。お前らは無事なのか?』
「それが、シキマどのは人事不省、アルフートちゃんは水をたくさん飲んだであります。今ガルブレイズちゃんが応急治療を……」
『ああ、さっきからずっとあいつからも念信が来てる。混乱してんのか、何言ってるかわからねえからお前に繋いだんだ』
「あのガルブレイズちゃんがそこまで……」

どちらかといえばものをずばずば言うタイプのセフィリアは、クールで真面目な印象を持たれやすい。
事実としてそうなのだろう。だからこそ、起こってしまった不可予測の事態に対応しきれず混乱してしまっているのだ。

『とにかく一旦帰投しろ。こっちもあらかた片付いた。漁船の方じゃねえ、湖賊船に乗り込んでる。
 クロイツにドッグを探させてるから、そっからゴーレムごと搬入しろ。それから部隊の再編成だ。ガルブレイズを連れてこい』
「了解であります」

念信を切り、スティレットはオーブをバックパックに納めた。
今、彼女が浮かぶのは漁船を左方に置く拓けた湖面だ。周りは巻き上げられた瓦礫やら剥がれた鱗やらが一緒に浮いている。
スティレットはバックパックに入っていた緊急展開できる浮き袋を腋の下に括りつけて、水上での安定を得ていた。
瓦礫の山がふらふらと流れてきたところを見計らい、水から這い出て瓦礫の上に揚がる。直射日光が失われた体温を補充してくれた。

「ガルブレイズちゃぁーん!アルフートちゃーん!課長から帰投命令が出たでありますよぉー!」

大声で呼びながら、瓦礫伝いに飛び移りつつサムエルソンへと接近する。
最後の一跳躍のため、膝に力を貯めた瞬間、跳んでもいないのにスティレットの視界は上空へと放り出された。
現象の因果を辿ればそこには巨大な何かの影。巨魚を10匹並べてようやく匹敵しうるサイズを誇る、それは船だった。

「ええええっ!?」

ただの船ではもちろんない。まるで帝都の研究塔を横に寝かせたかのような長大さ。
その上部には、通常船には欠かせないはずの甲板がなかった。鋼によって閉ざされた船殻は、傍目に見れば巨大な鮫にも見える。
そう、鋼の鮫。湖面に突如として浮上したこの巨大な船を端的に表す言葉だった。

「ふ、ふ、船がどうやって水の中に!?」

その上部に突き出た、鮫の上ヒレの部分になんとかしがみついたスティレットは、驚きのあまり水を飲むのも厭わず口を開けた。
船が水の中に潜るというのは、それが沈没するとき以外にありえない。
"たらい"を水に浮かべた図をイメージするとわかりやすいが、そもそも船の浮力というのは『浮かんでいるから発生する』ものだ。
たらいに水を注げば沈んでしまうように、船の内部に一度水が入ってしまったら、二度として浮かぶことはありえない。

おそらく鋼の鮫に甲板がないのは内部へ水が流入するのを防ぐためであろうが、水圧に耐えられるほどの治金技術などこの国にはない。
この国どころが、大陸全土のどこを捜してもこの規模で船全体を覆えるほどの鋼を用意することも鍛えることも不可能だ。
ストラトスの用いる遺才ならばシルトデアイージスのような潜水艇も製造可能だろうが、鋼の鮫は全てのスケールが桁違いだった。

5 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/07/30(土) 17:08:29.52 0
所属不明の『潜る船』は浮上の余波で漁船と湖賊船に津波を叩きつけながら、ゆっくりと旋回する。
上部の水密扉と思しきハッチが開き、中からこれまた巨大な長砲がせり出してきた。魔導砲ではない。長距離射程の実体砲だ。

「!!」

ドッ!っと大気が鳴動。長砲から発射された鋼の実体弾がとてつもないスパンでのアーチを描き、ウルタール湖を横切る。
そのまま十里はあろうかという先のウルタール観光協会の建屋へと着弾した。
一秒置いて大爆発。観光協会は跡形もなく消し飛び、爆風はこちらの湖面まで洗った。

「わたし、ずっとウルタール湖の水龍はあのお魚だと思っていましたが……どうやらラスボスは別に存在していたようでありますね」

誰に言うでもなく、スティレットはつぶやいた。放心せざるを得ないぐらいには、この鋼の鮫の登場は彼女にとって衝撃だった。
この鮫こそが、ウルタール湖発足の時代から度々目撃されていた『水龍』であることに、何の疑いもなかった。
再び別のハッチが開く。そこから出てきたのは、飛翔機雷の垂直発射ポッドだった。その数、実に数千は下らない。
射出。快晴だったウルタール湖の空は、幾千にも達する超大量の飛翔機雷によって埋め尽くされた。
さながら豪雨の如く、漁船、湖賊船、サムエルソンと別け隔てなく降り注ぐ!

* * * * * *

>「あとあまり艦内に逃げないで下さい。潰しちゃダメらしくて。」

逃げ惑う湖賊たちを掃討しつつ進むストラトスの念信器に、ボルトからの念信が入る。

『クロイツ、予定変更だ!お前はこのまま操舵室に向かってバリントンと合流。迎撃管制システムを掌握して"アレ"に対処しろ!』

船内にいる彼女の耳にも聞こえてくることだろう。死を喚ぶ無数の術式の雄叫びが。

『スイ、お前は漁船の護りに全傾しろ!そこにいるのはみんな民間人だ、軍人の誇りにかけて一人も傷つけるな! 
 サジタリウスも操舵室に入れ。飛翔機雷の出所を突き止めて破壊しろ。ガルブレイズはアルフートをつれて敵船の死角へ!』

そこへ第一波の爆発音が聞こえた。湖賊の生き残りが魔導砲での迎撃を試みたのだ。
ボルトはスレイプニルに乗ったまま機雷の嵐の中へと取り残されていた。脱出する間もなく飛翔機雷が到達する。

『……チッ、おれの悪運もここまでか。――お前ら、給料が欲しけりゃちゃんと生き残れよ。
 あとのことはアイレルかオブテインの指示を訊け。それも駄目だったら、サジタリウス、お前が指揮をと――』

最後まで言い切るより早く、轟音が念信を強制的に遮った。

* * * * * *

「どうするガキィ……!このままじゃあ、俺たちみぃんな肉片だぁ……!」

いつの間にか気絶から覚醒していたカシーニが、どこか楽しそうな声音でウィレムへと声をかける。
彼の目にも、流星群の如く降り注ぐ飛翔機雷の束が見えていた。

「ピニオンの野郎、俺たちごと湖を制圧するつもりでいやがったなぁ……!妙に親切だと思ったが、こんな裏があったかぁ!」

言いながら、衝撃で折れ曲がってしまったジャマダハルを基部から取り外す。
すると空洞となった鍔の部分から、ごとりと何かが転がりでてきた。それは、エルトラス軍が使う対艦用の吸着機雷だった。
対象に直接取り付けて爆破する単純な機構のタイプだ。シンプル故に炸裂術式へつぎ込める魔力量が多く、威力は高い。

「ガキィ、お前は目がいいんだろぉ……?この飛翔機雷がどこから発射されてるか見つけられれば、あとは直接こいつをぶつけて、
 飛翔機雷の出所を壊せるかもなぁ……もっとも、そいつをするにはお前が命を捨ててくっつけに行かなきならねえわけだがなあ!」

言いながら、カシーニはウィレムの足元へと吸着機雷を転がした。

【カシーニ・ハイマウント撃破!】
【『鋼の鮫』クラーケン出現。ビジュアルは全長300メートルぐらいある巨大な鮫型の潜水艦をイメージしてください。
 カシーニからウィレムへ吸着機雷をプレゼント】

6 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/07/31(日) 21:14:32.70 0
ダニーに応えて名乗りを上げたフィンは、ついでに彼女の脱衣を簡単に注意した。
「ハッ、破ける服の方が悪いんだよ」

軽く言い返す彼女の態度はどこか遊んでいるような印象を受けるが、繰り出している攻撃は
一人前の戦士が余裕で悶絶もしくは昏倒するような威力を持っていた。
当然だが受けようと思ってできるようなオイシイ攻撃ではない。それ故にダニーは二人が
如何にして間合いを取るのか警戒していたのだが、初撃でそのアテは見事に外された。

相手の体ではなく、腕に埋まっていた。己の拳が正しく防がれたのはいったい何時以来のことだろう。
尾撃の方も流されたらしく綺麗過ぎる感触が帰ってくる。これくらい半ば決定事項だ、予想でさえない。
しかしその逃れ方は彼女にとっては有り得ない方法だった。ダニーは呆然と腕を引っ込める。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しげしげと不思議そうに見つめると、フィンに止められた腕を触る。
肉に刺さらず骨も砕けず内蔵を潰した感触もない、打点から肘を抜け肩の付け根まで伝わる衝撃。
確認がてらおもむろに足元を殴ると、乾いた音を立て地面を割いた拳が埋まる。
味気ない手応えだった。

この間に既にノイファが距離をとり回復を始めていたのだが、ダニーは胸にこみ上げる感動に
それどころで無かった。彼女はやや興奮したようにじっとフィンを見つめる。
明りの下で改めて見る彼は美形(ダニー視点)でこそないが、なんとも爽やかな好漢だった。

(俺は今年の運を使い切ったのかも知れないな)
この短期間でいい男にこれだけ縁があるとそう思うのも無理のない話である。
ただ皮肉なのはどちらも戦いとは縁が切れてないことだ。

フィンが投げた矢に意識を引き戻されると鎧の部分に当ててこれを避ける、
その後彼女は裂けんばかりに口の端を吊り上げ、まるで狐か狼のような獰猛で稚気に溢れた笑みを浮かべる。

「お前凄いな、言い方は悪いけどずっと殴っていたい。こんなのは久しぶりだ」
うっとりとそう告げると、今度はノイファへと視線を移す。

「アンタもいいな、さっきのアレ、是非食らってみたいよ」
ダイナストの尻尾が嬉しそうに左右に振れる、回復を望んでいること隠そうともしない。

自分たちが消耗しているのに短期決戦ではなく敢えて持久戦を選ぶのは、ダニーの弱点が
バレたからではなく、切り札を何度も切ろうということなのだろう。

7 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/07/31(日) 21:16:14.19 0
それが「できる」し「やる」という能力と気概はフィンからはありありと見て取れる。
それとは別にノイファも先ほどの技、或いはまだ奥の手があるのか、それを決めれば勝てるという
自負と風格があった。

単調な攻撃でも相手に圧力が掛けることができればそれは脅威に早変わりし、
有り余るタフネスは生きているだけで敵の戦意を削ぐ。
ダニーにとっても長期戦は十八番であり、一番楽なやり方だった
ー本来ならばー

「気を付けろよ!さっきよりも強めに打つぜぇぇー!」
前よりも力を込もった拳は事実と異なり、遅く感じるような粘りと重さを持ってフィンに放たれる。
たったの三人しかいない筈の通路に一軍にも等しい殺気が吹き荒ぶ。

一度変身をしてからダニーの体は変化していない。常人が扱うのと何変わる所なく同じ仕組みで稼働している。
そして筋肉だけでなく神経や血管、骨や内蔵も強化されるのだが、それでもなお彼女の筋量は
過剰だった。むしろ自信の内的な機関が増強されたことに甘えて本性を表したとさえ言っていい。

彼女がより力を込めて蹴りや拳打を繰り出す度に白骨の鎧は軋み、悲鳴を上げる。
今はそれほどでもないが、相手がこの先彼女を注視していれば、ダイナストが痩せ衰えていく様子に
気付くのは想像するに難くない。

人間は全力は出そうと思っても出せない。自身の体が全力の不可に耐えられず、リカバリできないからだ。
それは彼女にも同じ事だった、一つ違う点があるとするならばそれは、
常人の千より上を行く力を持つ彼女は、一般的な「意識化での」百の力さえ満足に出せないことだった。
その為身体機能を常人に近づける為に、所有者の負担を引き受ける緩衝材の役目を担っているのが
魔導鎧、ダイナストである

彼女のもう一つのファイトスタイルもこの矯正具も、彼女を守る物の一つに過ぎない。
ただし、それは「敵」ではなく他ならぬ「彼女自身」からダニーを守るために存在している、
にも関わらず彼女には一度高揚するとそれらをあっさり手放してしまう致命的な精神的欠陥があった。

「二対一でもさあ、相手が怪物だと二人が頑張ってるように見えるよなー、
でも人間同士なら一人で二人も食い止めてる感じになるよなー、俺達は"どっち"だろうなぁっ!」

哄笑を響かせながら巨大な獣人は嬉々として攻め続ける。その反動で、
自分を守るもう一方の骨が傷ついているとも知らずに。

「楽しいぜ!なあぁぁーーーーーー!!」
【ダニー、フィンさんに喜んで攻撃を継続、ノイファさんの回復を待つ、ダイナストの耐久度減少】

8 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/07/31(日) 21:38:56.24 0
>「あ゛あ゛あ゛ぁぁああぁぁっ!ちくしょおおぉぉおおおおおぉぉぉおおぉぉおおっっ!!」

やぶれかぶれにルインが突き出した一撃――非殺傷の石突による打突が老人の頭蓋へ着弾する。
人ならば、頭蓋の中身を揺さぶられ人事不省にと陥っていただろう。しかしてこの老人、人ではなかった。

果たせるかな、ルインの石突は老人の頭を貫通した。さながら煙に拳を突き出すように、老人の頭蓋が砕け、散っていく。
そこに一抹の血肉もなく、さりとて頭部を失った老人の身体は糸の切れた操り人形の如くくずおれた。
埃一つ落ちていない、瀟洒な絨毯の敷かれた床面に老人の持っていたランタンの青白い炎が流出する油に乗って広がった。

静寂。
襲撃者を倒したルインとサフロールだったが、この静寂に身の安全を感じることはないだろう。
殺気、敵意、害意、悪意、それらの動く意志の蠕動――押しなべて言って『ヤバい気配』は未だここに満ちている。

老人の身体は急速に風化し、吹いてもいない風に流されるようにして散っていく。その先に、無数の光があった。
光の正体は老人と同じ脂ぎった眼光。闇に溶ける猫のように、2つで一つの光がいくつも揺らめいていた。

「墓荒しか」「墓荒しだ」「墓荒しかな?」「墓荒しだろ」「墓荒しですね」「墓荒しかと」「墓荒しだな」
「どうする」「どうするとは」「どうやって殺すかということだ」「なるほど」「自明の理だ」「よくわかった」
「肉を裂こう」「四肢を引きちぎろう」「おれははらわたをもらう」「骨の髄はわたしが」「ちゅるちゅると啜ろう」

波間に揺れる海藻に人の形があったなら、きっとこのような動きを体現することだろう。
あるいは蝋燭の火。地に足のついていない、捉えどころのない、雲をつかむような動作の不安定さ。

『彼ら』は、老若男女の姿をしていた。『彼ら』は、みな一様に猫科の眼光と、思い思いの工具を担いでいた。
螺子切り、金切鋏、六角棒、鉄線断ち、圧着器、奴床、金鑢、長鋸、自在鋏、金梃子、大金槌、大ノミ。
それらは武器ではなく――人体を解体する為の彼らの『仕事道具』だった。

「ここは墓場」
「死者のみが立ち入りを許される場所」
「ここになお立とうとするならば」
「――死者となるが良い」

言うやいなや、総勢19人からなる墓守の集団はサフロールとルインへ向けて疾走を開始した。
ある者は愚直に正面から。ある者は存在を壁や床へと溶けこませ、不意打ちを狙う構え。ある者は金槌で釘を弾丸のように撃ち放つ。

彼らひとりひとりの戦闘能力は見た目ほどには高くない。
だが果たして、この量を、この連携を。崩落の危険ある手狭な空間で、サフロールとルインは全力を出しきれるだろうか。


【20人の墓守(老人が一人減って19人)の襲撃。決定リール可、ワンターンキル可です】

9 :ティア ◆xqHfIkE3xo :2011/08/01(月) 00:36:29.25 0
オイラの名はセイブ・ザ・クイーン。長いからセイって呼んでな!
外見は、どこの魔法少女が持つかと思われる、五芒星を象った豪奢な装飾が目立つ魔法の杖。
なんでアイテムがべらべら語っちゃってんのかって?
まあ自分で言うのもなんだけど古代魔法王国時代に作られた意思を持つ伝説のアイテムってやつらしいぞ。
どーだ、すごいだろ!?
でもつくづく自分を作った奴を恨むね! だって動けないし喋れないし意思疎通する方法ねーんだもん。
認識してもらえなきゃ端から見たらただのはっちゃけたデザインの棒なわけよ。
酷い扱いされても変な場所に置き去りにされても抗議もできない。
ピンと来ない人は、ベッドで全く身動き出来なくて端から見て意識不明で、実は会話とか全部聞こえちゃってる状況を想像して欲しい。
ちょっとした……ぶっちゃけものすごいホラーだろ。
これから語るはまあそんな感じの、御伽に彩られた恐怖の物語。本当は怖いグリム童話の始まり始まり〜。

10 :ティア ◆xqHfIkE3xo :2011/08/01(月) 00:37:05.75 0
>5
膝丈のフレアスカートをはためかせながら、ウルタール観光協会の屋根の上から湖を見下ろす美女。
「フフ。セイ、到着早々鋼鉄の水龍がお出迎えよ。ステキ! とってもワクワクするわ」
そうかいオイラは最悪の気分だよ。
こいつはティターニア=グリム。通称ティア。認めたくないけどオイラの使い手、ご主人様ということになる。
悔しいけど美人だ。まるで神話の世界から出て来たような、女神か妖精のよう。
悠久とも思える時をずーっと大層に祀られてて、ある日この美女と旅立つ事になった時。
嬉しかったなあ。オイラもやっと英雄物語に名を刻む時がキタ――ってな!
じゃあなんで最悪なのかって? すぐに分かるさ!

轟く轟音。鋼の巨大弾丸が迫ってくる。ティアは軽くスキップでもするように、屋根を蹴った。
屋根を穿つ爆音と共に、高々と飛翔するように跳躍する。足に爆破の魔力を籠めて跳ぶ事で、反動により跳んだのだ。
これがティアの遺才、虚無の元素魔法『ゼロス・エレメント』。
そもそも紅璃夢《グリム》とは、結界によって閉ざされた里”レヴァリアース”に住まう、古の四大属性魔法を受け継ぐ一族。
誰しもが地水火風のどれかの属性の祝福を受けて生まれてくる。
そんな一族において、ティアはどの属性の祝福も受けず生まれてきたらしい。
そのままだったら良かったものを、ある日、目覚めてしまったのだ。虚無の属性に。
そして彼女は一族の期待を一身に受けて外の世界に旅立つことになった。というのは建前。
ティアは言う。何も生み出さない忌まわしき破壊の力故に里を追われた、と。
そしてそれはおそらく真実だろう。

お次は空が飛翔機雷で埋め尽くされる。ティアは何食わぬ顔でロッド、つまりオイラを一閃した。
放たれたのは、無属性故の純粋な魔力による不可視の弾幕。
彼女に当たるであろう軌道の飛翔機雷が一斉に爆ぜる。
ティアは笑っていた。この世で一番美しいものでも見ているかのように。
「綺麗な流れ星。今ので何人の人が円環の理に還ったかしら。
悲しむことは無いわ、醜悪な人間としての生は罰、なれば死は救済。
千の風になってやがて美しい花として生まれ変わるのよ」

もうお分かりだろう、最悪な理由が!
結界に閉ざされた楽園で純粋培養されたお嬢様は、故郷を出た途端にプッツンキレて人格崩壊しちまったわけだな!
これぞまさしくメ○ヘルメルヘン、なんちゃって。笑えねー!
当初は、訳分からん未開の部族を野放しにするのはアレなので親善大使をVIP待遇して丸め込もうとか
色々な大人の事情によりもっとまともな隊に迎え入れられる予定だったらしいが
こりゃーやっぱりいかんと急遽遊撃課に回される事になり、今到着したというわけである。

ティアは瓦礫を飛び石のように使って何度か飛翔し、岩の塊の上に着地した。
スレイプニル、と呼ばれるゴーレムの肩の上に乗ってティアは辺りを見回す。
「一体何がどうなってんの? 課長さーんどこ〜?
ティターニア=グリム、ただいま到着致しました! って言うんだっけ?
えーと、とりあえずあれをぶっ飛ばせばいいんでしょ!?」
その辺に大声で呼びかけた。
蚊でも払うようにロッドを振り、降り注ぐ飛翔機雷を一つ残らず撃ち落としながら。

【スレイプニルの肩に着地。その辺に存在をアピール】

11 :ウィレム ◆uBe66UnnCY :2011/08/02(火) 01:16:14.95 0
「――ふぅ」

辛くも、勝利。人事不省となった男の姿を見下ろし、ウィレムの口からは小さな溜め息が漏れる。
しかし、これで終わりではない。ウィレムの受けた指示は舵を奪うことであって、今の戦いは障害を排除しただけ。
勝ちに酔う間もなくウィレムは移動して操舵手の男の首筋に手槍を突き付ける。

「てことで、この船は頂くっスよ。ま、抵抗さえしなけりゃ悪いようにはしないっスから」

舵を奪えと言われたってウィレムには操舵の技術はないし、ここで操舵手を倒してしまったら困るのは自分だ。
小刻みに首を縦に振る姿を視界に入れながら、ウィレムは腰につけた念信器を手に取る。

「――制圧完了、っス」

そしてもう一度、溜め息を付いた。

12 :ウィレム ◆uBe66UnnCY :2011/08/02(火) 01:16:28.84 0
***

肩の止血などをしている最中、何気なく見ていた外が違和感で埋まる。
映ったのは、鋼。
浮かんだのは、船。
浮上に伴う波に否応なく揺れる床。必死で踏みとどまりながら、視線は決してソレから目を離さない。

威嚇するかのように一発放たれた砲撃の次。降り注いできた無数の飛翔機雷。
いくら武装しているとはいえど、この賊船もあの数の機雷相手ではそう長くはもたないだろう。
ややもすればとっくに錯乱状態になってしまってもおかしくはないが、ボルトからの念信でなんとか気持ちを落ち着かせる。
きっと、俺がするべき道を指し示してくれるはずだ。それを信じて。全神経を耳に集中させる。
だが、それもすぐに終わる。

>『……チッ、おれの悪運もここまでか。――お前ら、給料が欲しけりゃちゃんと生き残れよ。
> あとのことはアイレルかオブテインの指示を訊け。それも駄目だったら、サジタリウス、お前が指揮をと――』

「えっ、ちょ――えっ」

念信が轟音とともに途切れた。その理由を考えるのは、非常に容易い。
掃討組のみんなに指示を出してくれていた、その流れでウィレムにも指示があると思った。それを待った。
しかしそれがないまま、強制的に閉じられた。無事を祈りたい、しかしそれは厳しいに違いない。
そして俺は、何をすればいい?
この操舵室に向かっているであろうストラトスとアルテリアを待つぐらいしかないのだろうか?

>「どうするガキィ……!このままじゃあ、俺たちみぃんな肉片だぁ……!」

聞き覚えのある声。さっき聞いたばかりだ。早くも意識が覚醒し、すでに現状を把握している。
倒れている間に手足の自由を奪わなかったことを後悔しつつウィレムは構えるが、男に戦意はなさそうで。
それはむしろ楽しそうとも捉えてもおかしくないほどの声色で。
まるで『お前がなんとかしろ』とでも言わんばかりの。

>「ピニオンの野郎、俺たちごと湖を制圧するつもりでいやがったなぁ……!妙に親切だと思ったが、こんな裏があったかぁ!」

「ピニオン?……あんた、あれについて何か知ってんスか?」

>「ガキィ、お前は目がいいんだろぉ……?この飛翔機雷がどこから発射されてるか見つけられれば、あとは直接こいつをぶつけて、
> 飛翔機雷の出所を壊せるかもなぁ……もっとも、そいつをするにはお前が命を捨ててくっつけに行かなきならねえわけだがなあ!」

「人の質問に答えろよ……だけど、これはありがたく頂く。くっつけに行くには……ちょっとした、アテがある」

頭に思い浮かべたのは、ボルトの指示でこちらに向かっているだろう、おっぱい――もとい、アルテリア-サジタリウス。
彼女の遺才は、長めの武器を弓矢のように正確に射ることだと聞いた。先ほど、実際に見た。
ならばだ。例えば、長槍などにロープを括り付けて。ロープの片端には自分を縛って。射出すれば。
その遺才で、あの鮫みたいな船の所まで、行けるんじゃないか。降り注ぐ飛翔機雷をすり抜けて。
それこそ、ハッチが開いた瞬間に、正確に、その中へと。

その移動手段は一方通行、帰りの道はない。だがウィレムは一応戻ることについても考えはある。
転がされた機雷を拾い、ウィレムは男の前に立つ。

「ウィレム。ウィレム・バリントン――俺の名前。
 ずっとガキ呼ばわりされるのも癪だし、あんたもガキに負けたことになるだろ。
 こぞくはダサいし……人生を、この湖の内側だけで過ごすなんてつまらない。
 たとえばこの湖を出て、世界の海を股にかける大海賊とかならあこがれるっス。
 だから、その時に。また――誘ってくれ」

飛翔機雷が弾ける度に、船の揺れは勢いを増す。

【ストラトスとアルテリアとの合流待ち。
 合流次第、アルテリアにウィレムを武器と一緒に射出することを提案します】

13 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/08/02(火) 01:16:44.07 0
>>5
空が見えました。
直前の記憶は頭部への衝撃と水面だったはずですが。

顔を起こすとゴーレムの指がファミアのお腹を押していて一瞬パニックを起こしかけましたが、
サムエルソンだとわかると落ち着きを取り戻しました。どうも溺れているところを救助されたようです。
乙種ゴーレムで人工呼吸ができるのもセフィリアの遺才があったればこそでしょうか。
生卵を掴んだりすることも可能なのかもしれません。

サムエルソンの掌の上に立ち上がって見回せば、水面を埋める瓦礫、瓦礫。
バハムートの姿はどこにもなく、未だに握っている牙や波間にきらめく鱗がその名残をとどめているに過ぎません。
よくよく見れば明らかに沈んでしまいそうな壁石や金属製の門扉まで漂っています。
(なんであんなものが浮いてるんだろう? ……何か忘れているような)
『何か』なのか『誰か』なのか――考えてみても脳幹にまで達する一撃を食らった頭では答えは見つかりません。

>「ガルブレイズちゃぁーん!アルフートちゃーん!課長から帰投命令が出たでありますよぉー!」
探しあぐねるファミアの耳にフランベルジェの声が届きました。
首を巡らせ視界に認め、手を振り返そうとした矢先、見つけたばかりのその姿が掻き消えます。
湖面を割って浮上した何かによって、上空に吹き飛ばされたのだと気づくのに少し時間を要してしまったのも無理もないこと。
安否を確認するよりも先に、引き起こされた波が壁のように立ち上がって周囲に広がって行きます。
ファミアはサムエルソンの指を抱え込んで落っこちないように耐え、
それが過ぎ去ってようやく浮かんできたものの全容を目にすることができました。

いや、正確には「全容」ではありません。
『ウルタール湖の水竜』、クラーケン。その巨大さはファミアのいる位置からだといいところ半分程度しか視界に収まらないほどです。
ちょうどその視界に収まっているあたりが持ち上がって、どうやら扉になっているらしいその中から長い筒が生えてきました。
悠々と向きを変えていたクラーケンはその『口』でもって咆哮を上げます。
音ではない何かがファミアの全身をひっぱたいて、刺さったままの角灯を通して脳を揺さぶります。
観光協会の建物が吹き飛んだ音は、耳の中から聞こえる高い音のせいで聞き取れません。
クラーケンの『ヒレ』にしがみつくフランベルジェの口が動いているのが見えましたが、やはり声は聞こえませんでした。

14 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/08/02(火) 01:18:17.39 0
それからクラーケンの背の別の所が開いて、また中からなにか生えてきました。
空を衝くそれは最初に出てきた砲とは比べるべくもないほど短いものですが、数えている間に粥が炊けそうなほどの量があります。
発射筒だと気づいた時にはもう一斉に火を噴いていて、撃ち出された機雷は白く長い煙の尾を引きながら太陽を追ってまっすぐに空をかけ上がって行きました。
が、近づきすぎて羽が溶けたわけでもないのでしょうが、くるりと向きを変えて落っこちてきます。

ファミアは一瞬たりとも躊躇わず頭の角灯を引っこ抜いて、バハムートの牙と一緒に飛翔機雷群の中へ投げ込みます。
炎と白煙、引き裂いて飛来する次弾――ファミアはそれを素手で引っつかみました。
ありがたい事に術式の起動法は接触式だったようです。でなかったらミンチよりもひどい事になっていたでしょう。。
向きを変えてから手を離すと、放たれた機雷は『仲間』のところへ駆け戻って胸の内をすべてぶちまけました。
またも炎と白煙。その向こうには新たに天へと伸びる煙の尾。

とっさの行動がたまたまうまく行ったからと言って、次があるとは考えないほうが良いものですし、
このままサムエルソンの手のひらの上で頑張っていてはセフィリアもやりにくかろうと考えて、ファミアは水に飛び込みました。
抜き手を切って湖面を割いて、クラーケンまでたどり着きます。
同じ手は取らない方がいいと考えた割にやっていることはバハムート戦と全くおんなじでした。

触れるほど近くに来ればその異質さがより仔細に見て取れます。
継ぎ目すらない美しいフォルム。
どんな素材でできているか調べればわかるでしょうが、ファミアには興味ありませんでした。
なんにも手がかりがないので、おもむろに船体に手を当てて力いっぱい握ります。装甲が少し凹んで指がかかるようになりました。
何度かそれを繰り返して、甲板なのか船首楼なのか艦橋なのか、とにかく『上』に出ます。
船なのは間違いないようですし、それならばクルーがいる筈ですが、どこから中に入れるのかが全くわかりません。
まあ、入れたところで敵の真っ只中に突っ込んでしまうだけなので、それはむしろ僥倖というものでしょうが。
「えーと、どうすれば……」
言うことまでバハムート戦とおんなじでした。

【握撃で船体をクライミング】

15 : ◆xqHfIkE3xo :2011/08/02(火) 19:33:51.82 0
【すいません、>9-10のレスを取り下げます】

16 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/08/02(火) 21:05:39.50 0
青白い光の描く老人の頭部は、ルインの一撃で容易く粉砕された。
沈黙――されど消え去る事のない殺気、魔力の流動。

「おい間抜け……安心するのはまだ早えぞ」

>「墓荒しか」「墓荒しだ」「墓荒しかな?」「墓荒しだろ」「墓荒しですね」「墓荒しかと」「墓荒しだな」

暗闇に灯る新たな青火、老若男女、解体道具――墓守達、襲撃。
即座にサフロールは思考を開始。
防壁――形成が阻害される。周囲に満ちた魔力の影響。
迎撃――同様の原因で出力が不足している。
判断――出力不足の『飛翔』で周囲に立てられた無数の墓標の陰へと飛び込んだ。
魔力の翼を隠す。先祖である堕天使を模した姿は遺才を最も強く発揮出来るが、この状況では目立ち過ぎる。
ならばそれを逆利用――魔力の羽を舞い散らせて、何箇所かに集中させた。
目眩まし、時間稼ぎ、思索を始める。
攻防共に、この空間では術式の使用が阻害される。どうすればいいか。
切れる手札――『分析』の遺才、そこから発展する分解と再構築。類い稀な魔力制御の芸当。

「……見つけたぞ」

不意に響く声。

「見つけたか」「見つけたの」「見つけたとも」
「どっちだ」「こっちか」「そっちだ」「あっちだ」

打ち合わせる墓守達。

「三つ進んで右を貫け」「まっすぐ二つ左に一つ、振り下ろせ」

二体の墓守が指示通りに動く。
移動、金切鋏の刺突、大金槌が振り下ろされる。
刃の刺さる音、粉砕音――崩れ落ちる二体の墓守。相討ちだ。

「はっ……馬鹿共が」

サフロールの嘲笑。手のひらに魔力を迸らせた。青白い光を模した魔力を。
サフロールの戦術――魔力を制御、変質、偽装。
周囲に満ちる、墓守達を構成する魔力に限りなく近付けた。
殆ど同質である為、この空間でも問題なく使用可能。

「そっちじゃない」「いいやあっちだ」「違うこっちだ」
「お前が偽者か」「いやお前が偽者だ」「わたしが偽者だよ」
「おれを殴ったな」「違うわしじゃない」「そうだやったのはあいつだ」

墓標の陰に身を隠し、撹乱、同士討ちへの誘導、闇討ちを続行。

「生憎、分解は俺の独壇場《セカイ》だ。テメェらの出る幕はねえんだよ」

解体道具への皮肉。
墓守達の連携能力に致命的な亀裂を刻み、『分解』する。

「よう間抜け、二時方向から十時方向へ二匹、テメェの前を通り抜けるぜ。ぶち抜いてやりな」

そして撹乱と撃破に平行して行う作戦――ルインが包囲殲滅、不意を突かれぬよう援護。
加えて敵を誘導、墓守達をルインの殺傷範囲へ。
周囲の魔力によって雑音混じりの念信で指示を飛ばす。

17 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/08/03(水) 00:14:10.41 0


「――――任せろっ!!!!」

両の足に力を込めて、湿った石の床を音を鳴らし踏みしめ、
ノイファの問いにフィンは短く力強く応える。
後ろは振り返らない。何故なら、その行為はフィンにとって必要の無い行為だからだ。
必要なのは、これより先眼前の猛者の攻撃を、一撃たりとも己が背後に通さぬ事。
仲間の傷が癒えるまで、自分が傷つき続ける事なのだ。

>「お前凄いな、言い方は悪いけどずっと殴っていたい。こんなのは久しぶりだ」

「はっ、上等だぜ!!あんたの拳が割れねーように気をつけろよっ!!」

まるで陶酔したかの様な恐るべきダニーの言葉にも、
フィンはまるで揺らぐ事は無い。ダメージの残る体を隠し、
敵の注意を引く為に、更に強い言葉で笑みすらも見せる。
それに応える様にダニーは嬉々とした殺気を放出すると


暴力の嵐が吹き荒れた


先ほどの一撃よりも更に重い、必殺の打撃。
巨木の如き拳は空をなぎ払おうとでもいうかの如く、
巨岩の如き脚撃は大地を砕こうとするかの如く
休み無く放たれる攻撃は、全てフィン=ハンプティの身体に叩き込まれる。

骨が軋む
血液が爆ぜる
肉が削げる

一撃一撃がすべて一撃必殺。まさしくそんな攻撃だった。
圧倒的なその暴力の前には、人間など塵芥の如く屠られるだろう
だが、それでも――――それでも尚、フィン=ハンプティはその暴力を受け止めていた。


18 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/08/03(水) 00:15:39.61 0
一撃を受ける度に彼の身体に接する岩は砕け、抉れる。
一撃を受ける度に彼の肉体は砕け、血管が爆ぜ血を噴出し、骨は悲鳴を上げる。
拳を受けている腕だけではなく、全身がダメージを受けているのは、
「天鎧」という遺才の影響だ。フィンが自身の身体を媒介として衝撃を
地面に受け流している以上、受け流しきれないダメージは当然フィンの全身に叩き込まれるのだ。
それは言うなれば、巨大な鉄の板で身体を何度も強打されているに等しい。
一撃で腕が砕かれたりする様なことは無いが、その苦痛たるや想像を絶するものだろう。

>「二対一でもさあ、相手が怪物だと二人が頑張ってるように見えるよなー、
>でも人間同士なら一人で二人も食い止めてる感じになるよなー、俺達は"どっち"だろうなぁっ!」

「そんなの自分で考えやがれっ!!
 あんたが怪物になりたいのか、人間でいたいのか、それだけの事だろっ!!」

それでも、自分自身を守る鎧をすり減らせ戦う女に、
自分自身という鎧を削って守る青年は、血まみれの笑顔で答える。
ダニーの拳を受ける度に血に染まり、今や息も切れ切れ。それでも、その瞳から光は失われない。

殴られ倒れそうになる度に立ち上がる。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
意思と意思との衝突。この状況において精神が勝敗を左右するというのであれば、
フィンは最後まで決して折れる事は無かっただろう。

だが

「ぐ、っ!?」

ボキリ、という樫の杖を折ったかの様な音が響いた。
音の起点はフィンの左腕。たった今、ダニーの拳を受け止めた腕である。
フィンの顔に苦渋の色が浮かび、その膝を地に着ける。

度重なる必殺の乱打に、全身にダメージを広げているとはいえ、
それでも最も負担が大きい状態にあったフィンの腕が限界に達したのだ。

骨折。

戦闘においてその損失は大きい。
腕が一つ無い事と、神経が直接与える苦痛は、人間を立ち上がらせる事すら困難とさせる。
それ程に強大なダメージなのだ。もはやフィン単独での戦闘は極めて困難なのだが――――

「……は、はっ、どうした? こんなもんかよ!痛くもかゆくもねーぜ!!」

それでもフィンは立ち上がる。残った右腕を前にして。
それは、己が背後に居る仲間に、敵の害意を通さない為。
例え死んだとしても仲間を守り抜く。そんな異常な強さの決意で相手の目を見据える。

【フィン ノイファの回復時間を稼ぐ為に防御を続けるが左腕骨折。
 ダニーの鎧に関しては気付かず】

19 :ルイン ◆5q.yyAvL6. :2011/08/05(金) 00:02:08.06 0
石突きが頭蓋を貫通する感触に目が点になった。
殺す気はなかったんです過失なんですだから化けて俺を恨むのはやめてください。

半ば錯乱したように大荒れの精神もようやく平静を取り戻し、動く気配のない老人に対して覚える違和。
貫いた頭からは血も脳漿も流れない。スカスカでピーマンのようだ。
ルインの中で不安心が募っていく。先から周囲も嫌なぐらい静かで、何かあるのかもしれない。

案の定、臆病者の予感は的中する。
老人の体が風化し塵の如く掻き消えた後闇で点々と幾つもの光が揺れ動いた。

「ふぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああ!お、お、お、おば、ばばばばばばばばっばっばっば!!」

正体は当然人だ。双眸を爛々とさせ19もの墓守が姿を現した。
不安定な、不気味な挙動で、臆病者を震え上がらせるには十分にすぎる演出。

「どぅわぁぁああああああぁぁぁああああああぁぁぁああ!!許してくだしああああああああああ!!!」

最早半端に胸に溜め込むよりこうして叫びまくってる方が楽だと判断したのだろう。
声量の訓練とでも言うように心赴くままに悲鳴悲鳴悲鳴。
解体道具を引っ提げ迫る墓守達に、ルインはただただ臆病を口から吐き出すのみ。

「ひーーーーッひーーーーーーッ!!!こっちくんな……こっちくんなぁ………!
 あーーーーーーもうダメダメダメダメ死ぬ死ぬ死ぬ俺が死ぬーーーーーーーッ」

サフロールは持ち前の分析で敵を同士討ちを誘う一方で。
一方この素敵なチキンは逃げる、槍で威嚇、逃げる、槍で威嚇を繰り返していた。
幸い連携が乱されていたお陰で躱すことに徹するのは用意だ。
が、鼻水と涙でその顔を汚しながら逃げる姿を見れば普通の敵ならまず軽蔑することだろう。

>「よう間抜け、二時方向から十時方向へ二匹、テメェの前を通り抜けるぜ。ぶち抜いてやりな」

「すんません。覚悟未完了なんで半永久的に待ってもらっていいでしょうか………ひぃ、やっぱ無理ですよね……」

ノイズ雑じりの念心を聴き、袖でごしごしと泣きっ面を擦るが残念ながら臆病までは拭えなかった。
できるなら闘争という闘争の一切を捨て逃走に全力を注ぎたいものだが、そうも行かない。
これも仕事の一貫なのだから例え精神的苦痛だとしてもやらねばならないだろう。

(うっ……でもやるしかない……そうだ……仕事だぞ……ここだけ頑張れ。墓守達を蹴散らせば後は金銀財宝が待ってる。
 そうだ!頑張れ!敵は19人そこそこじゃないか!同僚もいる。怪我するかもしれないけど、絶対に流されるなよ。臆病に。)

なけなしの義務感と闘争心を奮い立たせ、ようやくスイッチを入れることに成功。

「うは、っは、ははははは………へへへ。おおおおおおおおおおお!こうなったらどうとでもなれってんだ!!」

サフロールの分析はピタリ的中し眼前に二人の墓守が通り抜けんとしている。
まず目の前の一人へ接近、解体道具を振るうよりも速く穂先が敵を裂く。
単純に得物のリーチが違うのだ。

「こ、れ……でも………食らってろッ!」

敵の攻撃を受け流して隙を作ってから刺突。これで二人。
呼気は不規則、動悸もてんで落ち着きがないがまだやれる。ちょっとだけだ。頑張れ俺。
吐きそうになったが、まだ大丈夫。たぶん。きっと。

手近な敵をもう一人切り払った後、がん、と穂先が墓に貫通した。
自戒と共に槍を引き抜く。ここは長物を振り回すには少々窮屈と言える。
もし攻防の最中、槍がどこかに刺さると本気で洒落にならない。


【覚悟未完了、当方に迎撃の用意あり】

20 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/08/06(土) 04:12:11.38 0
神聖魔術が為しえる奇跡は、術者が為したい奇跡をどこまで精密に描ききれるかで決まる。
ゆえに他者よりも家族や仲間といった近しい者、ひいては自分自身への方がより望んだ効果を発揮できる。

(……覚悟はしてましたけど、たった一度使っただけでこれ程の負荷ですか)

イメージするのは光。そして万全の自分。
しかし今のノイファはそれには程遠い。

まず右腕が完全にいかれている。たとえ少しでも動かそうものなら笑うしかないような激痛が襲って来た。
次いで両脚。こちらは利き手程ではないが高速斬撃の基点となった部位だ。
足の裏の皮膚は裂け、大腿にも鈍く重い痛み。

>「アンタもいいな、さっきのアレ、是非食らってみたいよ」

ダニーの挑発に笑みで返す。
果たして巧く余裕がある調子を演じられただろうか。若干引き攣っていたかもしれない。
彼女が望むのは他でもない、重弩を退けた出来損ないの魔剣。
手負いの此方を先に狙わないのは、それが偽りのない本心であることの証明だろう。

(簡単に言ってくれますねえ)

先代の剣鬼が、自身の才に溺れることなく、己が人生をかけて研ぎ澄ませた至高の剣技。
本来なら瞬きの間に数十を超える斬撃を閃かせるそれは、およそ人に向けて振るうには過ぎた代物だ。
人など足元にも及ばないような、より強力な個体を殲滅するために生み出された技なのではなかろうか。

(とはいえ、出し惜しんで負けたのでは本末転倒ですけど)

そう、躊躇して勝てるような手合いではないのだ。
己の腕に自信がないわけではないが、ダニーの身体能力の前に生半な剣速では刃圏に捉えられそうにない。

>「気を付けろよ!さっきよりも強めに打つぜぇぇー!」

ダニーの拳打を受けて、フィンの体が嵐の最中の木の葉のように激しく揺らぐ。
前へ踏み出そうとする脚を叩きつけ黙らせた。
文字通りその身を削り、稼いでくれている時間を無駄にするわけにはいかない。
ぎり、と歯の根が軋む。

「まだ……、もう少し……っ!」

口を衝く焦燥。それに応じてか、右腕が微かに反応を示しだした。
初めは指一本。次いで五指全てが。間接が挙動を取り戻し。握り締めた拳を一振り。
開いた指先で空気を弾く。

良し、と顔を上げる。唇を引き結び細めた視線は前へ。
それと同時、枯れ枝を踏み抜いたような音と共にフィンの左腕が挫けた。

>「……は、はっ、どうした? こんなもんかよ!痛くもかゆくもねーぜ!!」

圧倒的不利を跳ね除け、フィンが吼える。
大地から引き剥がした脚はもう止めない。自分が振った無茶な注文をフィンは成し遂げてくれた。
ならば次は、それに此方が答える手番だ。

「お待たせ――」

すれ違いざまフィンに言葉を残しダニーへと加速。姿勢は地を這うように低く。左手で刀の鞘を握り右手は鍔元をなぞる。

「――それじゃ反撃開始といきましょうか!」

ノイファは気合と共に白刀を一閃させた。

21 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/08/06(土) 04:15:51.88 0
【ノイファ:重傷→軽傷。
 フィンの前に出て、ダニーに対して刀で薙ぎ払います。】

22 :アルテリア ◇U.mk0VYot6 :2011/08/06(土) 11:06:41.50 0
「そんな馬鹿げたロマンを抱く奴がいるから、海賊は縛り首にされるんダ」
そうウィレムに釘を刺し、アルテリアは操舵室に到着した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

それから、暫して、ストラトスと合流し、ウィレムの提案を聞く
「…駄目ダ」
少し間を置き、いささか重いトーンで提案を却下した。
いささか不満そうなウィレムを一睨みし、アルテリアは言葉を続ける。
「お前から死ぬ覚悟も生きる意地も感じられなイ
 死ぬかも知れなイ、でも、運よく生き残りたイ…そんなんじゃ話にならなイ
 死んでもやり遂げル、絶対に生きて戻ル…どっちかに完全に振り切って
 初めてそういう作戦は成功すル…わかるカ?」
そう諭すようにウィレムに話すとアルテリアは念信機を手に取る
「それに、内部に突入するなら一人よりも人数が多いほうが有利だロ」
そういって視線をウィレムからカシーニへ移す
「でダ、そこのカエルの親玉、貴様にも働いてもらうとしよウ
 拒むのなラ、私刑か縛り首か選ぶことになル
 協力するのなラ、条件付で貴様らの身の安全を保障しよウ
 さぁやるならさっさと生き残っている部下共に伝えロ」
アルテリアはカシーニの返答を待たず、念信機に向かって話す。
「課長の命によリ、これから私が指揮をとル、生き残っている奴はすぐに応答しロ
 …これからあの敵艦を制圧すル。
 スティレット、まずお前は敵艦の装甲を破壊しロ、大規模にナ
 その後、こちらから魔導砲等で集中砲火を浴びせ侵入口を作る
 付近の課員は、出来た侵入口から敵艦内へ突入、突入後、操舵室の制圧
 もしくは、動力部の破壊を目標とすル…作戦開始は30秒後ダ
 じゃア…状況開始ダ」


23 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/08(月) 04:11:50.10 0
"墓守"は舌を巻いた。
ここを守ってもう何年になるか定かではないが、幾人もの墓荒しを捻り潰してきた己の策が破られようとしている。
敵は二人。長髪・痩身・鎧のように装身具で武装する男。引き腰だが確かな打を放つ槍使い。
いずれも生者で――この空間に置いては絶対的な下位が位置づけられている者達である。

ここは死者の園。
それは揶揄的な表現ではなく、実質的な力関係を意味している。
ギルゴールド家の墓地はそこ全体が隔離結界となっており、一歩足を踏み入れた瞬間から侵入者は一つの法則によって縛られる。
『死者は生者に優先する』という概念によって定義付けられたこの結界内においては、どうあっても生者は死者に勝てない。
生者の行動には負の補正が入り、逆に死者には正の補正が入る。サフロールの魔術を阻害するのはこの理が作用しているからだ。
そう、20人の墓守は、死者だった。

二年前の大災厄を地下でやり過ごした墓守の一族は、水底に沈んだ自分たちの雇い主の安否を知ろうとしなかった。
何世紀も前にギルゴールド家と墓守の一族とが交わした契約は、『何があってもここを離れず、ここを守る』という一点のみ。
それだけを己に課して、それだけを拠り所にして、墓守の一族は世代を下してきた。それはこのニ年で何も変わらなかった。
変化があるとすれば――外界との連絡が完全に断絶したことによる、無補給のニ年で。
墓守の一族は、最も若い一人を遺して全て死に絶えたというぐらいであった。

まだ垢も抜けない少年だった墓守は、死人の肉から反魂法によって魂を抽出し、擬似的な降魔術によって煙に宿らせた。
何度も失敗を重ね、ようやく実践に耐えうる出来になったのが20ばかり。その中には少年の兄や、祖父の魂もあった。
少年はそれを使役することで墓守の契約を履行してきたのだ。

24 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/08(月) 04:12:54.05 0
その、無攻不落の城塞が。
たった二人の侵入者によって撃滅されようとしていた。
必殺となっているのは槍使いの一撃だ。概念によって防護された煙人形が、紙風船でも啄いたかのように容易く砕け散る。

不可侵であるはずの概念防御を断ち切る根拠はただ一つ。ルイン・ラウファーダに宿る天性の才覚だ。
『遺才は理を超越する』。その槍に貫けぬものなし、あらゆるものを過たず貫けるからこそ、彼の槍は遺才足りえるのである。

そしてサフロールの卓越した魔力掌握能力。
結界の性質をいち早く見抜き、魔力波長を死者のものと同質化させることで概念の裏をつき、撹乱から誘導までやってのけた。

墓守が動けば。サフロールの魔力が目測を誤らせる。気付けばそこにルインがいて、頭部を槍が貫通していく。
最強の防衛術もカラクリが崩されれば脆いもので、20人の墓守は半数になり、やがて数人を残して殲滅されてしまった。
若い男と、老婆と、壮年。3体の煙人形は誘導対策として一箇所に固まり、相対する者を分析する。

「なぜだ」「なぜ」「それほどの力がありながら」「我らの墓を荒らす」「ここにはなにもない」「あるのは死者と」「我らの誇り」
「守らねばならない」「何を守るのか皆目とわからないが」「それでもここを侵すものは認めない」「守ることこそ我らの矜持」
「だから」「だから」「だから」

「――守る以外の生き方ってやつをさ、知らないんだよ。俺たちは」

闇の奥から、一人の少年が現れた。

25 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/08(月) 04:14:50.19 0
ぼろ布のような衣服を纏い、腕から頬まで骨張っている。ぼさぼさの髪は長く、前髪は眼窩を覆い隠していた。
それでも――彼の周囲を子を守る母猫のように携わる死人たちとの決定的な差異を見分けられる。
眼光に、理性の光が宿っているのだ。

「上で何かがあったってのは知ってる。でもそれ以上は知らない。知る必要がないからだ。
 二年前からやたらに墓荒らしが増えたけど、ギルゴールドは何をしてるんだい。もしかしてみんなおっ死んだのかな?」

まあ、どうでもいいことだけどね。と少年は嘆息。
ところどころ発音がおかしいのは、言葉を覚え切る前に教えてくれる大人が滅んでしまったからだろう。

「俺たちは、ここに墓以外の――盗賊共が生唾飲み込むような何が隠されてるのか寡聞にして知らない。ただ俺が思うことは、
 そんなものがあるせいでこの二年間退屈しなかったってことだけさ。それが良いことなのか、それも知らないけど。
 いっそアンタらに持ってかれちゃったほうがいいのかな。静かになりそうだしね。いや、もう関係ないか、そんなの」

言うや、墓守の少年は両腕を広げた。
同時、煙の墓守達が溶けるようにして地面に吸い込まれていく。

「殺るならちゃっちゃと殺ってくれ。ここを守りきれなかった時点で、俺の存在価値ってやつは終了してるんだ。
 我ながら嫌な境遇だと思うし、生まれが普通だったなら――いや、どういう生まれが普通なのか、俺はやっぱり知らないけれど。
 あんたらは、普通の生まれの人なのかな?どうなの?やっぱ人生楽しかったりする?俺って可哀想なほうなのかな?」

少年は墓守だ。職業としてそうなのではなく、最早宿命として決定づけられた『墓守という生き物』なのだ。
サフロールとルインの力ならば、残りの数人を総動員してかかったところで全滅が少し遅くなる程度だろう。

26 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/08(月) 04:17:38.39 0
墓を守れない墓守に、何の価値がろうものか。ギルゴールドによる実利を徹底した契約は、彼らを命まで縛り付けていた。
死んでも守れ。守れなくば死ね。契約は教えとなり、教えはその者の価値観の礎となる。少年は、本気で自分を終了させていた。

「言い残すことは……ないな、やっぱり。"勇敢なる墓守、ここに死す"みたいな文字を、そこらへんの墓石にでも掘っといてよ。
 俺は字の読み書きができないから、掘ってあっても読めないけどね。うわあ、ないないづくしだな、俺の人生。
 こりゃ死んだほうがマシなわけだ。あれだけ大事にしてた家族の顔すら浮かばないなんて、どうかしてるぜほんと」

でも、と少年は目を細めた。対峙する二人よりもずっと向こう、遥か未来か遠い過去のいずれかを見ているようだった。
薄暗い穴蔵で、ずっと一人で生きてきた。その地獄のような日々から解放されることを、小躍りしそうな喜びで受け入れていた。
だから言える。長口舌による時間稼ぎは、たった今完了した。

「――守りたいもの、守るべきもの、守って死ねるならこれ以上の人生はなかったと、そう思えるよ」

サフロールとルインの背後に、音もなく巨大な刃が出現した。
半透明の実体化曲刃をもつ大鎌――その出所を辿れば、乙種ゴーレムに負けぬ巨躯を誇る死神が刃を振り上げていた。
『死者の園』最終術式。巨大な鎌で全てを一様に切断する、範囲殲滅型の攻性術式である。
その本質は全てに訪れる平等な死。文字通り、結界内の全ての生ある者を例外なく殺断する無慈悲の刃である。
刃の先にあるのが術者であってもだ。
発動。不可避の刃が全てに終焉をもたらすべく振り下ろされる!

【防衛結界『死者の園』撃破!最終形態に移行。投降しに来た墓守ごと全員殺しにかかる】

27 ::GM ◇N/wTSkX0q6:2011/08/08(月) 08:15:20.37 0
【探索組:ノイファ・フィン組vsダニー組】

戦いも佳境に入った彼らの耳が未だ周囲に払う注意を残しているならば、一つの音が聞こえるだろう。
それは微振動を伴う擦過音。石臼で粉を挽くような、極めて鈍く低い音。
しかし危機感を伴う音だった。なぜならば、音源がゆっくりとではあるが確実に近づいてきているのである。

やがて、彼らの横合いから脅威は姿を見せるだろう。
音の正体は岩。それも重力によって自走する形状――すなわち球の形をした巨大な岩だった。
帝都の書店を探せば似たような記述をした冒険写本をいくつも見つけるだろう。洞窟トラップの定番、岩玉である。
通路の幅ちょうどに直径を揃えられているのは確実に作為だ。メニアーチャのトラップ技師が遠く帝都でドヤ顔してるに違いない。

言うまでもないことだが、このままつっ立っていれば玉の餌食。のし烏賊のように平らに仕上がってしまうことだろう。
さりとて闇雲に逃げれば良いというものでもない。この手のトラップにありがちな、都合よくやり過ごせる窪みがあるわけでもない。
幸いにしてジョナサンが先行し明かりを灯してくれたおかげで洞窟内の見晴らしはよかった。

ずっとずっと進んだ先――鋼鉄の扉があった。常人の力じゃびくともしないであろう重厚な鉄扉である。
そしてその手前に毒蛇が大量に飼われたプール。さらに手前にはアトランダムに設置されたギロチン落とし。そして埋没機雷原。
およそ屋内系のトラップに挙げられそうなものが目白押しに集っていた。ここまでくると無節操にも無計画にも凄みがある。
そしてその全てが不可視加工されているわけである。追われるまま闇雲に逃げれば――どんな強運の持ち主でも必ず引っかかる。

無論、メニアーチャとてこの先にあるのは墓であるから、墓参りの為に快適に通行できる罠の解法とも言うべきものがあるのだが。
岩玉に追われる精神的圧迫感の中、冷静に状況を見極めるのは指南の技である。
ましてや、彼らはみなが手負いである。独力での突破は相当な困難を極めることであろう。


28 ::GM ◇N/wTSkX0q6:2011/08/08(月) 08:15:55.52 0
 * * * * * *
>「ウィレム。ウィレム・バリントン――俺の名前。ずっとガキ呼ばわりされるのも癪だし、あんたもガキに負けたことになるだろ。
  こぞくはダサいし……人生を、この湖の内側だけで過ごすなんてつまらない。
  たとえばこの湖を出て、世界の海を股にかける大海賊とかならあこがれるっス。だから、その時に。また――誘ってくれ」

「そこに気付くとはやはり天才かあ……!確かに俺は海の男だが、ここは湖だったなあ。
 そりゃ、こんな年端もないガキに負けるわけだ。いや、もうガキじゃあない……ウィレム・バリントン。憶えよう。戦士の名だ」

カシーニは苦笑。そこへ巨乳の弓使いが操舵室にやってきた。
アテというのはこの女のことだろうか。ハイマウントを倒した手際を鑑みるに、物体を弓で発射する技能持ちのようだが。

>「お前から死ぬ覚悟も生きる意地も感じられなイ死ぬかも知れなイ、でも、運よく生き残りたイ…そんなんじゃ話にならなイ
  死んでもやり遂げル、絶対に生きて戻ル…どっちかに完全に振り切って初めてそういう作戦は成功すル…わかるカ?」

「がはは、駄目出しされたなあ、ウィレム。だが海の男も、そこの巨乳と同じことを思ったぞお。言わなかったがな」

>「でダ、そこのカエルの親玉、貴様にも働いてもらうとしよウ 拒むのなラ、私刑か縛り首か選ぶことになル
  協力するのなラ、条件付で貴様らの身の安全を保障しよウ さぁやるならさっさと生き残っている部下共に伝えロ」

「言うじゃあねえか、巨乳。海の男に、命惜しさで敵に手を貸せと抜かすかあ……!」

カシーニはやおら立ち上がり、まだふらつく足を抑えて巨乳へと歩み寄る。
一触即発の雰囲気を立てながら、しかしカシーニはそのまま巨乳とすれ違った。その背後にある伝令管の送話口を取る。

「野郎ども、一時休戦だ。各自、下せねえ溜飲もあると思うが、そんなものは海に吐き出して魚の餌にしちまえぇ。
 海の男は切り替えが早いことで有名なんだぞお……!ほら、整列。点呼。何人死んだ?……意外と少ねえな。
 ちょうどいい。『ピニオン』の野郎が裏切りやがった。あのデカブツは俺たちも纏めて消しにかかってるらしい」

眼をぐるりと回し、窓の外の銀塊を睨む。

「――嘗められてるな。気に入らねえ、ブチ殺せ」

瞬間、操舵室にいてもはっきりとわかる咆哮が上がった。
それはまたぞろ敵船の砲声かと思えば、そうではなかった。この船に集った男たちの、艦長に応ずる声。

「「「「「アイ・アイ・サー!!!!」」」」」

カシーニは送話口を置き、巨乳に向き直った。

「別にお前らに協力してやるわけじゃあねえ。武力に下ったわけでもねえ。俺を殺したきゃいつでも殺せえ。
 でもなあ、たとえ海のように寛大な海の男たちだって、許容できない怒りはある。海の男が最も嫌う三ヶ条!
 マズイ飯!病気持った女!そして――一度交わした杯をブチ割るその不誠だあ!」

カシーニは操舵手に託けて、換えの左腕を持ってこさせた。
今度は剣ではない。筒状の金属物は、飛翔機雷の携行発射管だった。既に初弾は装填されている。

「質問に答えてやろう、ウィレム。『ピニオン』というのは、最近津々浦々の裏組織に武器や人材を供与してる団体だあ。
 俺たち湖賊も、そこの巨乳がぶっ倒したハイマウントや飛翔機雷、水進機雷なんかを貰ってる。
 とにかくとんでもない技術を安売りしてやがる連中だ。あの艦を見たろう、ああいうものを平気で作る奴らだなあ」

なにやら部隊へと指示を出していた巨乳と、ウィレムにカシーニは親指である方向を示す。
操舵室から直接ドックへ至る通路のハッチがあった。

「ボートも、ゴーレムの水上機もいくつか置いてある。好きに使え。
 でもその前に、あの飛翔機雷をどうにかしなきゃ近づくことすらままならんなあ……!」

カシーニは再び伝令管へ歩くと、なにやら指示を出す。しばらくして、甲板から圧縮空気の抜ける快音が聞こえた。

「吸着式のワイヤーフックを敵艦の表面に食いつかせた。この飛翔機雷の中じゃ四半刻と持たないだろうが、足場になる。
 どう使うかはお前らに任せるぞお、海の男は、まだまだやらなきゃならないことが目白押しだからなあ……!」

29 ::GM ◇N/wTSkX0q6:2011/08/08(月) 08:18:21.78 0
【『クラーケン』内部・艦橋・艦長席】

情報表示羊皮紙のほの明るさに囲まれた艦橋で、一人の男が椅子に深く腰掛けている。
男は軍服に身を包み、帝国海軍のキャプテンハットを目深に下げている。
その額部分に錦糸で刺繍してあるはずの帝国旗マークが、一筋の黒糸で横一文字に縫い直されていた。

クランク6。本名をティンバー=ピオニアと言うこの男は、元帝国海軍の戦闘艦乗りだった。
ただし艦長だったわけではない。整備系の乗員であり、その職分はあくまでヒラの兵士だ。
彼が丹精込めて整備した機体は、艦も列車もゴーレムもよく動いた。
調整の完璧さは同科の誰にも追いつけず、あらゆる部署が腕利きの整備兵として彼を求めた。
「彼は鉄の声が聴こえるようだった」というのが、当時の彼を知る全ての者に共通する認識である。

しかし、そんなティンバーにも一つ欠点があった。鉄の声が聴ける――その異才は、一つの弊害を生んだ。
整備対象に感情移入しすぎてしまったのである。

言うまでもないことだが、道具というのは使い減りしてなんぼである。使い捨てという性質すらある。
もちろん、壊れやすい武器を何度も整備して使い続けるよりかは、いくつも同じものを用意して使い捨てにするほうが効率は上がる。
特に戦艦なんてものは、人間の代わりに戦争を代行させる代物であるから、傷つくことが仕事だとさえ言えるわけで。
ティンバーには、それが我慢ならなかった。

あるとき、乗り合わせた戦闘艦で、敵の進軍を食い止める為に自艦を捨て駒にして時間を稼ぐ作戦が発令された。
乗員の全てを避難させ、当時既に配備済みだった自律航行システムで敵艦へ体当たりするという内容。
艦長は艦と添い遂げるつもりで操舵を請け負ったが、そこに異を唱えたのが若き日のティンバーである。
この艦のことは自分が一番把握しているから、必ず作戦を成功させてみせる。そう断言し、艦長を艦から降ろして舵を握った。
その覚悟に、英断に、全ての同僚と上司が賞賛を浴びせた。艦長などは、感極まって自分の艦長帽をティンバーに贈ったほどである。

かくしてつかの間の艦の主となったティンバーは、敵の密集地帯まで赴き、その直前で大きく舵を切った。
大転進。敵前逃亡。ティンバーの艦は敵艦隊に船尾を向けて、明後日の方向へと帆を張ったのだった。

それが始まり。
ティンバー=ピオニアがクランク6となったきっかけの話。
閑話休題である。

 * * * * * * 

「飛翔機雷垂直発射、初段の全放出完了しました」
「けっこう。次段の発射管に注水開始。主砲は納めろ、威嚇は済んだ」
「アイ・アイ・サー。次段注水開始、主砲格納」
「探知室から。船体表面に極小の生体反応を確認。熱形状を分析するに人間だと思われます」

クランク6は、整備兵によくある眼窩から下の溶接皺を大きく撓ませて広角を上げた。
艦橋には20人ほどの管制官が集い、『クラーケン』の挙動をリアルタイムで制御している。
ゴーレムには重くて載せられないような探知兵装をいくつも載せているおかげで、窓のないこの艦でも外の様子はありありとわかる。
本来ならば水流の細かい挙動すら感知して、水中及び水上の詳細なデータを掌握できるほどの性能なのだが、
折しも例の巨大魚が水流を乱しまくってくれたお陰で動くに動けなかったのだ。潜水艇にとって、水中での衝突事故は致命的に危険だ。
それが何の因果か賊を差し向けた漁船が巨魚を退治してくれたらしく、脅威を取り除かれたクラーケンは満を持して浮上というわけだ。

「緊急浮上するこの艦に取り付けるたあ、普通の人間じゃあおまらんのお。どうやって張り付いとる?」
「アイ。それが、両者ともに素手でしがみついているらしく……」
「素手ぁ?んなアホかい、この艦の外装にしがみつけるたぁ、剛力種の魔物でも無理なこっちゃぞ」
「武装しているようです。このままだと何かしらの攻撃を受ける可能性が」
「ふぅむ。あいわかった。ワシが対処する」

言うなり、クランク6は腰から杖を抜き放った。否、杖ではない。先端に鋼鉄の錘のついたそれは、金槌。
柄を握ると、クランク6の魔力が一つ上の段階へ切り替わるのを周囲の誰もが感じた。
始まる。整備兵上がりという経歴にして、一艦の艦長となり得た彼のスキルが。

「遺才発動――『ブラックスミス』」

艦が、命を得た。

30 ::GM ◇N/wTSkX0q6:2011/08/08(月) 08:18:52.82 0
* * * * * *

>「スティレット、まずお前は敵艦の装甲を破壊しロ、大規模にナ」

「おおっ、そういうわかりやすいお話を待ってたであります!了解!」

ずっと鋼の鮫の背ビレにしがみついていたスティレットは快哉を叫んだ。
ボルトは最後の瞬間に、スティレットの念信だけを切っていた。彼女の能力がメンタルに著しく左右されることを考慮したのだ。
しかして当人は、何も知らぬまま館崩しを振りかぶり、一閃――

「ありっ!?」

ぐにょん、と。硬質な鋼の鮫の体表が、まるでスティレットの斬撃を避けるように、思い切りへこんだ。
刃は触れてすらいない。刃の軌道を露骨なまでに避けた船殻の「たわみ」は、剣が通りすぎると同時にもとに戻った。

「そんなのアリでありますか――あっ!?」

刹那、再び鋼の表面が躍動する。今度は刺の形に盛り上がり、ピンポイントでスティレットを狙って突き出した。
咄嗟に館崩しを盾にするが、刺に押し出されるようにしてしがみついていた手を離してしまう。

「わ!わ!わ!」

しゃきん!しゃきん!しゃきん!と連続して無数の刺が今度はスティレットの足を狙う。
船殻を滑り落ちるようにして逃げるスティレット。その先に、何故かファミアが船殻に張り付いているのを発見した。

「あ、アルフートちゃん!ぶつかるでありますうううううう!っていうか助けてえええええ!」

* * * * * * 

クライミングの要領で船殻をよじ登るファミアのすぐ真横でズドンと音がした。
音源の船殻から、つい先ほどにはなかったはずのワイヤーが生えている。先端が船殻に吸着し、固定されていた。
間髪入れずに上空から声が降ってくる。

「あ、アルフートちゃん!ぶつかるでありますうううううう!っていうか助けてえええええ!」

船殻から生える刺に追いかけられながら落下するスティレットであった。


【カシーニ:協力要請を受諾。ドックからボートや水上ゴーレムが使えます。ワイヤーフックを敵艦に噛み付かせ、自艦とを繋げる
 スティレット:船殻から刺が生えてきた!追いかけられるようにしてファミアの元へ落下。このままだとふたりとも刺の餌食に】



名前:クランク6
性別:男
年齢:28
性格:温厚だが趣味の話になると熱い
外見:軍装に艦長帽
血筋:鎚の眷属『練鋼』
装備:整備兵時代から使い込んでるスレッジハンマー
遺才:『ブラックスミス』……鋼の形状や硬度を自在に変えられる
マテリアル:ハンマー
前職:帝国海軍一等整備兵
異名:鉄の声を聴く者
左遷理由:敵前逃亡
基本戦術:船体の鋼を操って攻防自在
目標:クラーケンを最強の艦にする
うわさ1:艦にガチ惚れした変態らしい
うわさ2:愛する者を護るために軍の命令に背いた過去がある
うわさ3:実家は製鉄業。帝都に卸す鉄材の半分はここから

31 :名無しになりきれ:2011/08/08(月) 08:23:31.58 0
順番待ちがえてしまいました。ごめんなさい。
>>27
>>29
>>28
>>30
の順番でお願いします。

32 ::スイ ◇nulVwXAKKU:2011/08/08(月) 17:30:52.02 0
遠目にアルテリアが巨大な薙刀をゴーレムに当てるのが見えた。

「沈黙確認。やっぱすげーな」

ほえーと言いながら眺める。
そして、それは突然現れた。
鉄の、いや、鋼の塊。

「おいおいおい、あれってまさか…」
「(船、だな。)」

観光協会が爆破され、続いて垂直発射ポッドが現れる。
そして、次の瞬間、轟音と共に空が飛翔機雷で埋め尽くされた。

「にゃろっ…」

条件反射で、船の周りに風の結界を張る。

>『スイ、お前は漁船の護りに全傾しろ!そこにいるのはみんな民間人だ、軍人の誇りにかけて一人も傷つけるな!』
「もうやってるっつの!!それよりなんだよこれ!!」

念信機に叫び返し、誰に言うでもなく叫びを上げる。

「結界だけじゃどうにも何ねーな。…よし。」

風の勢いが一気に強くなる。

「吹き荒れろ」

呟かれた言葉と共に、周囲に鎌鼬が発生した。

>『……チッ、おれの悪運もここまでか。――お前ら、給料が欲しけりゃちゃんと生き残れよ。
 あとのことはアイレルかオブテインの指示を訊け。それも駄目だったら、サジタリウス、お前が指揮をと――』

爆音。
強制的に切られた念信機は繋がらない。

「…課長?」
「(…どうなったんだろうな。被弾したことは確かだろう。取りあえず、命令に従ったらどうだ)」

表の言うことに従い、念信機をアルテリアにつなげた。

「姐さん。命令を求める。俺は何をすればいい?」

【漁船周囲に防御用鎌鼬発生。アルテリアさんの命令待ち。】

33 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/08/10(水) 22:39:58.27 0
楽しい、たのしい、タノシイ、只管に楽しい、こんなに晴れ晴れとした気分になったのは初めてだった。
ダニーはいつも、持て余す自分の力の使い道を考えていた。何に用いるのが正しいのか、
どうすれば間違いにはならないのか、それをよく考えていた。
だがいつも答えは出ない。望む使い方ができないのは、数年前の"あの日"に分かっていたからだ。
だからこそ、答えが出ない。行き場のない力毎、彼女の思考は彷徨い続けた。

そんな悩みが無価値に思えるほどに今は楽しかった。フィンが自分の一撃一撃を受け止める度、
ダニーの中にいくつかの真理が浮かび上がっていく。この暴力に一切を委ねる事、
己の獣欲に正直に従うこと、それが自分という生き物にとって間違いではなく、
この上なく気分が良いという事だった、そしてもう一つ、これは彼女の望む力でも無ければ、
望む使い方でもない、彼女の理想像は今、彼女の目の前にいた。

彼女の力は「討ち滅ぼす力」、フィンの力は「守り通す力」、守る為に戦うなどという
題目が出来もしない屁理屈未満の嘘っぱちである事は、自分とこの男の存在ではっきりと分かった。
自分は滅ぼす為に滅ぼし、彼は守る為に守るのだろう。両者の違いはダニーにとって、
理想の終焉、自分の力が「誰かを守るためには使えない」という真理を浮き彫りにした。

攻め勝っているはずの自分が、精神的に風下に立たされている。
風上に立つ男は血を流し、肉が抉れ、痣を増やしているのに、事もなげに
彼女の問いに答えさえする。

>>「そんなの自分で考えやがれっ!!
 あんたが怪物になりたいのか、人間でいたいのか、それだけの事だろっ!!」

(そうだな、その通りだな、けどさ・・・)
やりたいことが、やれないと、なりたい者に、なれないと、
自分が決めた望みの先には何も無い。
既存の言葉を借りるなら彼女もまた"否定の最果て"にいた。

急速に闘志が凍てつき殺気は密度を薄め、それに反比例してダニーの全身に力が行き渡る。
(それじゃダメだったんだよ)
破願一笑、笑みの質をすり替えて放った拳はついにフィンの腕を折る。

大出血や大火傷、全身強打や生命力の低下、重傷という意味ではこれより上はまだある。
しかし、骨折ほど人の意気を挫くものはない。そういう傷を負わせたのに、彼はまだ立っている。
燃えるような瞳を見ながらダニーは改めて認める、彼が自分の英雄像で、いつかのなりたい自分だったと。

34 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/08/10(水) 22:42:46.44 0
それを自らの手で手折ろうとする。夢の終わりを象徴するような瞬間だったと、
後のダニーは思う。しかし、構えを取り続けるフィンを倒そうと身を乗り出した時、
彼の後ろから女性が滑り出てくる。ノイファが回復したのだ。

滑るという言い方こそ正しいが、疾い。
灯りに照らされ滑らかにこちらへと伸び上がる剣閃に思わず目を奪われる。
受けてみたいと思える斬撃だった。戦いはその最中に独特の重力圏を創りだす。殺気と重圧、
陰影と距離感、加速しきった思考と等身大の時間、この重力圏で相手を捉える為には
戦いの間だけ発生する様々な「引力」を駆使しなければならない。

他者を引き寄せる風圧、呼吸によるリズム、精神的な優劣に、逆に無重力を思わせる機械的な正確さ、
それらの中でも一際特異な引力が「魅力」である。攻撃という認識を狂わせるものと、
却ってその攻撃に好奇心や感動を喚起させ惹きつけるものがある。
ダニーの目に映るノイファの剣は後者だった。この年であり得る動きではないが、それだけに美しい。

銀の直線は、ダイナストの脆くなった部分ごとダニーの身体を切り裂く。
腹から胸、肩にかけて一文字に剣が通ったことを、傷口に追従する血液が示す。
即座に筋肉を絞めて出血を抑えるが、驚愕に値するのは刀身が筋肉に銜えられずに抜けた事だ。

腕に見合う獲物を持っている。それがまた彼女の魅力を引き立たせる。だが見るべきはそこではない。
傷を見た後、ノイファを見る。年齢に不相応な落ち着きに、たおやかな物腰、
ダニーから見た彼女は恐らく自分の中の全てのことと、周囲の多くの事柄に至極真っ当な答えを出し、
折り合いを付ける正しい部類の人間に思えた。

きっと「誰かを守るために戦う」ことでさえ彼女は本当の事にしているし、事実そうして
剣を振るっているのだろう。堪らなく悍ましいが、彼女もまた自分にとっての理想形である、
ノイファの目や雰囲気から直感的に悟ると、輝ける獣は、静かにその蒼い目を閉じた。

高揚していた気分が、陽が沈むように静まっていく。
ダニーは傷を撫でて自分の血を眺めると、小さく嘆息して戦いの構えを解く。

すると見計らったように遠くから地鳴りと地響きが足元に伝わってくる。
もしかすると自分がいち早く気づいてようにも見えたかも知れない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
邪魔が入ったようだな、と告げると首を後ろに逸らす。
聞こえてくる音は先程よりも徐々に大きく、近くなっているようだ。

35 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/08/10(水) 22:45:23.76 0
「止めだ・・・・・・・・・・・・俺の負けだな・・・・・・・・・・・・楽しい時間は、あっという間だ・・・・・・」

"人として"の敗北を認めると、彼女は歩きだす。この邂逅において、多くのものを得て、
そして失った彼女の今の心は戦意を保てぬ程に乾いていた。自分は、彼らにはなれない。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
先へ進むよう促すと、ダニーは二人に向けて頭を下げる。手荒な真似をして済まなかったな、と
未だに身体は変身したままだったが、精神は既に素の彼女に立ち戻っている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
次は場所も身体もベストな状態でやりたいと、ちらりと周りを見回して一人ごちる。
未だ冷めない興奮の余韻からか、さっきから口数自体はあまり減っていない。

割れた大地はフィンが自分の攻撃を受け止め続けた証だ、まともに歩けない状態にまで窪んでいる。
ノイファには未練がましい目で、時間切れだと零す。本心から彼女の剣を受けてみたかったのだ。

地面の破損と地鳴りを追加した通路を進もうとする中で、ダニーはふと思った。
今日という日は間違いなく自分の人生にとって最悪か、もしくは最高の日のどちらかに入るのだろうと。
奇妙な満足感を覚えながら。

「・・・・・・・・・」
急いだほうがいいだろう、なんならおぶって走ろうか、とダニーは申し出る。
彼らが受けるかどうかはさて置き腕を折った負い目もあったし、
フィンの痩せ我慢もそろそろ限界だろうと言う配慮もあった。それに何となくだが、
そろそろ走った方がいいような気がし始めていたのだ。

まあいざともなれば彼女にも身を張って止めるくらいのつもりはあるのだが。
【ダニー、ノイファさんの攻撃を受け負傷(軽傷)、
戦意喪失後に戦闘を停止、罠に気づき二人に先を促す】

36 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/08/11(木) 04:29:13.61 0
撹乱、誘導、撃破――墓守達の数は見る間に減っていく。
損耗、半壊、壊滅的――残る墓守は三体、最早撹乱の必要すらない。
魔力制御による複製、濫造――物量で押し潰し、包囲する。

>「なぜだ」「なぜ」「それほどの力がありながら」「我らの墓を荒らす」「ここにはなにもない」「あるのは死者と」「我らの誇り」
>「守らねばならない」「何を守るのか皆目とわからないが」「それでもここを侵すものは認めない」「守ることこそ我らの矜持」

サフロールは無言、眉を顰める――非感傷的、ただ財宝が無い事を危惧。
どう贔屓目に見ても狂気の輩――そもそも財宝の事など知りもしない可能性が大きい。
が、それ以上の思考は無意味、終了――結局、確認すれば全てが解決する。

>「だから」「だから」「だから」
>「――守る以外の生き方ってやつをさ、知らないんだよ。俺たちは」

不意に墓の奥から声――みすぼらしい格好をした痩躯の青年が現れた。
青火の死者共が青年を守るように囲う、青年の瞳には理性の光。
推察出来る事実、青年の正体――生者、術者、墓守。

>「上で何かがあったってのは知ってる。でもそれ以上は知らない。知る必要がないからだ。
> 二年前からやたらに墓荒らしが増えたけど、ギルゴールドは何をしてるんだい。もしかしてみんなおっ死んだのかな?」

「だったらどうするってんだ?財宝の分配比の相談でも始めようってか」

皮肉――青年は無反応。
サフロールが舌打ちを一つ、剣呑に目を細める。

>「殺るならちゃっちゃと殺ってくれ。ここを守りきれなかった時点で、俺の存在価値ってやつは終了してるんだ。
> 我ながら嫌な境遇だと思うし、生まれが普通だったなら――いや、どういう生まれが普通なのか、俺はやっぱり知らないけれど。
> あんたらは、普通の生まれの人なのかな?どうなの?やっぱ人生楽しかったりする?俺って可哀想なほうなのかな?」

けれども続く言葉に、サフロールの両眼が微かに見開かれた。
習慣化した悪意の発散ではない。正真正銘の、ルインに向けたものと同質の怒りが兆す。
背後に魔力の流動を感じた――放置、怒気が相手を完全に否定してやりたい衝動に変わる。

>「言い残すことは……ないな、やっぱり。"勇敢なる墓守、ここに死す"みたいな文字を、そこらへんの墓石にでも掘っといてよ。
> 俺は字の読み書きができないから、掘ってあっても読めないけどね。うわあ、ないないづくしだな、俺の人生。
> こりゃ死んだほうがマシなわけだ。あれだけ大事にしてた家族の顔すら浮かばないなんて、どうかしてるぜほんと」
>「――守りたいもの、守るべきもの、守って死ねるならこれ以上の人生はなかったと、そう思えるよ」

サフロールの怒りの原因――自身と墓守を繋ぐ共通項。
生まれながらに持ち合わせた才――与えられた宿命。
決して曲げる事の出来ない道。
サフロールは墓守の青年に、自分自身の影を見た。
そして幼い頃に抱いた望み、目を背けた願い――普通の生まれ、楽しい人生を垣間見た。

37 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/08/11(木) 04:31:29.59 0
「こっちが黙ってりゃ好き勝手言いやがって……」

だからこそ、散々自分を卑下した青年の言葉は、サフロールにとっては自分への侮辱にも等しかった。

「俺達が哀れだとでも言いてえのか?俺達の末路はテメェだってか!?
 気に入らねえ!俺は認めねえぞ!」

怒号、憤激――理解させようとも思わない、発散出来ればいいだけの激情。
魔力を全力で解放――殆どが漆黒に染まり切った、根元に微かな純白を秘める翼。

「死んだ方がマシだぁ?だったら意地でも死なせてなんかやらねえ!精々不幸に苛むこったな!
 守れなかった?だったら地べた這いずり回ってでも次の守りてえモンを探しやがれ!
 下らねえ意地にしがみついて贅沢抜かしてんじゃねえぞ!」

黒――自分に似ていながら、しかし幸福になる余地がある者への嫉妬。
黒――にも関わらず軽々とその可能性を捨てる愚行への怒り。
黒――手首を切り落としても、意地を捨てても尚付き纏うもの。
   頭を吹き飛ばして頭脳を撒き散らし、首を裂いて全ての血を流し、命と共にしか捨てられない遺才。
   それに対する途方もない、無意識の絶望。

羽が舞い散る――必殺の大鎌が振り下ろされた。
超高濃度の魔力、『世界』を展開――死者が生者を上回る空間を分析。
そして塗り潰す、塗り替える。

「とうの昔にくたばった奴らなんぞに、縛られてんじゃねえ!
 死人は死人だ!何の力も、意志も持ってやしねえんだよ!」

大鎌が生者三人の体をすり抜ける――新たな概念結界、死者が完全なる無力の世界。

「……分かったか、このクソ間抜け。
 この世界にゃ、死者の居場所なんてこれっぽっちもありゃしねえんだ。
 テメェの頭の中も、胸の奥も、テメェだけのモンなんだよ」

辛辣な言葉。死者の望み、などと生ぬるい事は言わない。

「それでもテメェがまだ死にてえってなら……今の間抜けな死神の鎌で、ここの墓守は死んだ。
 そう言う事にしときやがれ。つーかしろ。異論は認めねえ。死人気取りの間抜けの意見なんざ知った事かよ」

一方的に生を押し付ける。
白――無自覚の、ごく僅かな良心。

「さて……で、確かテメェは財宝の所在は知らねえんだったな。
 仕方ねえ、探すとするか。まずは……そうだな。せっかく墓守共を皆殺しにしたんだ。
 墓荒しらしく、してやろうじゃねえか」

魔力の羽が飛散、『粉砕』の術式を行使――無数に並ぶ墓標が全て一斉に破壊された。
墓の下に財宝が隠された可能性を確認。同時に死者を完膚なきまでに黙らせる。

「ビビリ、テメェも探せ……って、なに寝てやがる。あんな出来損ないにビビりやがって、情けねえ。
 おい、墓場なら棺桶の一つでもあんだろ。持って来い。こいつを背負って帰るなんざ俺は御免だぜ」

38 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/08/11(木) 05:17:24.79 0
>>30
上に出た、とはいうものの、丸みを帯びた船殻のその頂点に到達したというわけではなく、
確固たる足場を求めるのであれば今しばらく登攀を続ける必要があります。
鮫肌だったらもう少し楽だったのでしょうが、鋼の鮫などという割にお肌がすべすべなので、
そこを無理やりへこませながら登るのはさすがに少々堪えました。

船殻に手のひらをぺたりと当てて、握りこむのではなく五指全てで何かを摘むように力を入れ、
出来たへこみを手がかりに身体を引き上げ、先ほどまでは手がかりだったへこみを今度は足がかりにして姿勢を確保。
ザイルもカラビナもハーケンもないにしては良いペースで行程を消化していきます。

そこに不意の轟音と振動。少し手元を狂わせたものの幸いにして滑落はまぬかれたファミアは、何事かと首を巡らせました。
すぐ横手、まっすぐ腕を伸ばせばなんとか触れられるほどの近さに、ワイヤーが打ち込まれていました。
いやいや少しずれていたら磔になっていたところだなあ、と、呑気に考えて登攀を再開――

「できるかー!!」
不自由な体勢からのノリツッコミはあまり推奨できる行為ではありませんが、
衝動というものは往々にしてそうしたルールやモラルを踏み越えてしまうものです。
「当たったら死んじゃいます!」
湖賊船での一幕など知らないファミアは、そもそもこれが何で、どこから来たものかとワイヤーの伸びる先へ視線を向けました。
その刹那。

>「あ、アルフートちゃん!ぶつかるでありますうううううう!っていうか助けてえええええ!」
視線の先にあるものを認識するいとまもあらばこそ。声の方へと顔を向けると、船殻を滑り降りてくるフランベルジェが見えました。
そして、その背後に次々と屹立する研ぎ澄まされた騎槍の穂先ようなものも。
両者が到達するまでは長く見積もっても一秒、その間にファミアの脳裏を思考が走り抜けます。
導きだされた結論は――

「ごめんなさいっ!」
落っこちてくるフランベルジェをぺちんと横へ受け流しました。
両手持ちの剣を抱えて落っこちてくる人間を、ヤモリよろしく貼っついたままで受け止めろなんてどだい無理な話というものです。
運が良ければワイヤーに引っかかるでしょう。悪くてもこの高さならまだ水面に叩きつけられて再起不能ということにはならないはずです。
むしろひっぱたいてしまったおしりのダメージのほうが大きいかもしれません。
受け流すために崩れた姿勢を回復しきれないうちに、まさに眼前の船殻が隆起しファミアの眉間へ向けて突き出されて、
がちん、と硬い音が頭蓋を駆け抜けました。

さて遺才にも種々様々あるものですが、主たる技能の他に『それを発揮するのに必要な能力』が強化されるものが多く存在します。
ウィレム・バリントンが自身の速度に目がついていかずに見事に滑って転ぶことはありませんし、
アルテリア・サジタリウスにとって重すぎてつがえられない矢は世に存在しません。
ファミアの『超力招来』(マイティマイティ・マイト)も同様の特性を持っています。
遺才の発動中は発揮している力に耐え得るよう、皮膚や腱、それに骨や――歯の強度が非常識なレベルで高くなるのです。
例えば、顔を目掛けた致命の刺突を文字通りに『食い』止めることが可能になるほど。

そんなわけで鋼の味を嫌というほど噛み締めているファミアは、伸びたトゲに押されて船殻から引き剥がされました。
歯を支点にぶらぶら揺れてる姿を衆目に晒すというのは年頃の乙女としていかがなものかと思うので、
トゲを掴んで身体を振り上げ、新たに伸びてきたトゲを(無自覚に)回避。
上を見れば同じようなものがほぼ等間隔に続いています。ファミアはそれをひっつかんで跳躍、
それを繰り返して身体を一気に引っ張りあげました。
このまま行ったら敵陣一番乗りということになりかねませんが、水中や壁面で同じような攻撃を受けては身がもたないので、
トゲが引っ込まないうちに両の足で立てる場所までは急いだほうが良さそうです。
上部まで行ければ後続が取り付く手助けもしやすいことでしょう。

【クライミングから段違い平行棒へ移行】

39 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/08/13(土) 01:20:59.68 0

意識を蝕む痛覚の絶叫。折れた腕から齎されるそれを、
己が歯を食い縛る事によりフィンは無理矢理に無視する。
明滅するその視界の中には、ダニーの拳。
圧倒的な暴力の象徴。
例え一秒であれ気を逸らせば、其処には絶望的な結末が待っていることだろう。

だからこそ、フィンは歯を食い縛り、迫り来る拳から決して視線を逸らさない。
自身の痛みなど省みず、ただ己が守るべき者の為に、
他者の犠牲になる為だけに、其処に立ち尽くす。
どれだけ己が砕けようと、害意の刃を己が味方に届かせはしないという意思で。
そうして、ダニーの拳がとうとうフィンを砕かんとしたその時

>「お待たせ――」
>「――それじゃ反撃開始といきましょうか!」

フィンの横を一陣の風が駆け抜けた。
神の奇跡の如く、その身体を癒し、風は再び駆け抜けたのだ。

「……待ってたぜノイファっち!!」

流れ出る血と混ざった赤い汗を流しながら、フィンは笑顔を作る。
流麗にして美麗。剣舞の如き、それでいて明確な剣技であるノイファの業。
いったいどれだけの修練を積めば辿り着けるのか想像も出来ないその業は、
ダニーの鎧に線を刻み、その肉体をも奔り抜けた。
驚嘆、といった雰囲気を纏いだしたダニーを見て、フィンは内心で安堵する・
それは戦局が少なくとも五分に戻った事に対してでも在るし、
ノイファの傷が癒えた事に対してでもある。

かくしてこの戦いは、少なくとも終結への糸口程度は見せた、かに思えたのだが

>「止めだ・・・・・・・・・・・・俺の負けだな・・・・・・・・・・・・楽しい時間は、あっという間だ・・・・・・」

突如としてダニーの口から生み出されたのは、敗北の宣言だった。
先ほどまでの激情はどこにいったのか、淡々とフィンとノイファに先に行く事を促す。
攻撃に対する謝罪の意まで添えて。

「……」

そして、当然の事ながら、唐突に戦いの打ち切りを宣言されて
それを素直に受け入れられる人間など居る筈がない。
全うな人間なら、それが何かの罠であると疑う事だろう。
仮にそうでない人間がいるとすれば、それは余程の強者か大物か――――

「よっしゃ!!勝ったぜ!!!!」

或いは、余程のバカか、である。
ダラリと垂れ下がる腕を押さえつつ笑みを浮かべたフィンは、少なくともバカではあった様だ。
もしくは、痛みで意識が朦朧としているのかもしれないが、それを知る術は無い。
その時間もなかった。何故なら

40 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/08/13(土) 01:21:40.63 0
「は……な、んだあれ!やっべーぞノイファっち!!俺の後を走っ――――」

球形の岩石。隙間無く面を制圧する巨大な質量が、迫ってきていたからである。
通路は直線で逃げ場は前面しかない。そして、フィンは度重なる趣味である「冒険」の経験から
知っていた。追い立てる物の先には、悪辣な罠が存在するという事を。
そんな罠にみすみす仲間を傷つけさせないが為に、自身が「毒見役」となり先に進もうと考えた
フィンであったが……その言葉は途中で途絶える。
一歩足を踏み出そうとした瞬間気付いたのだ。
洞窟の崩落に際する落石による負傷。そしてこの度のダニーの攻撃による負傷。
それによって今の自身が、走ることもままならない程のダメージを受けてしまっている事に。
逃げる為の足手まといと化してしまっているという事に。

一瞬、歯噛みする様な表情を作ったフィンだったが、
その表情は一瞬で消え去り不敵な笑みに挿げ変わる。

「――――ノイファっちは、先に行って罠をなんとかしてみてくれ!!
 代わりに、岩は俺が楽勝で防いでみせるぜっ!!!」

フィンはノイファとダニーに血まみれの背を向け、振り返る事すら無く
迫り来る岩石を睨み付けまだ機能している己が右腕を突き出した。

或いは、万全の状態であったなら、その言葉は間違っていなかっただろう。
或いは、十全の状況であったなら、その嘘を真実に変えて見せただろう。

だが、残念ながら今のフィンは満身創痍。
仮に、一時が万事上手く行き、片腕だけで岩を食い止めたとしても、
その衝突のエネルギーを逃がしきれず、崩落する洞窟の岩石の下敷きになるのが関の山だろう。

しかし、フィンはそんな判りきったはおくびにも出さない。
そう出来て当然とでも言うかの様に、英雄の如き態度を取る。

「ダニー!あんたが俺達に負けたっていうなら、一度だけ頼みを聞けっ!!
 ――――ノイファっちと協力して、無事に扉の向こうに逃げてくれ!!」

自己の命を、誰かを助ける為の道具の様に扱うという、その行為。
一度や二度なら英雄的と言えるだろう。だが、先の開拓地での戦いやこの洞窟での危機といい、
フィンは、その選択を何度も行い過ぎてはいないだろうか?
それも、仲間とはいえ最近であったばかりの人間に対して、だ。
これではまるで――――まるで、自分で自分を否定しきっている様ではないか。

【フィン:ダメージの蓄積で走れず。その為、片腕で岩石を食い止め、
     最低でも生き埋めになるであろう事を承知で、ノイファとダニーを逃がそうとする】

41 : 忍法帖【Lv=6,xxxP】 :2011/08/13(土) 01:23:26.58 0
インフィニティタクティクスブレイズ!?♪。

42 :ウィレム ◆uBe66UnnCY :2011/08/18(木) 05:13:48.85 0
内心。ウィレムの腸は煮えくり返っていた。
思いついた提案を却下されたからではない。ウィレムは所詮戦闘経験などそれほどない。
穴だらけだろうとは思っていたし、あくまで一例を挙げただけ。他にいい案があるならば、それを採択すればいい。
怒りの理由はただ1つ。

>「お前から死ぬ覚悟も生きる意地も感じられなイ
> 死ぬかも知れなイ、でも、運よく生き残りたイ…そんなんじゃ話にならなイ
> 死んでもやり遂げル、絶対に生きて戻ル…どっちかに完全に振り切って
> 初めてそういう作戦は成功すル…わかるカ?」

――ウィレムには、まだ若いながらも一丁前に自負がある。誇りがある。矜恃がある。
死ぬ覚悟がない?んな訳がないだろう。別に死んでもいいって、本気で思っていたんだ。
戻ることにも考えがある、なんて言ったけどそんなの嘘っぱちに決まってるだろう。
どう考えたって死だ、死だ、死しかないんだ。それでもいいと思ったから、俺は提案したんだ。

誰かの役に立った上でなら、どんな死に方だって後悔はしない。大往生だ、そういう心構えでいる。
実際死を目の前にしたらその時に頭の中がどうなるのかなんて、そんなのはわからないけれど。
ともかく、そんな覚悟は「感じられない」の一言で切り捨てられた。
それは、大袈裟に言えば今までの人生全てを否定されたに等しい感覚があって。
少しずつ、それは怒りに変わっていった。

もちろん、その怒りを表に出したりはしない。長い使いっ走り人生で学んだことだ。
たとえ不満があろうともそれを飲み込んで人に尽くす。そうやって、生きてきたんだ。
上に誰かが居るのなら、誰かの指示があるならば。俺という「個」は、どこにもない。
この怒りも、結局はただの子供じみた拗ねのようなものだろう。
ただ、そう簡単に感情はコントロール出来ないというだけで。

>「質問に答えてやろう、ウィレム。『ピニオン』というのは、最近津々浦々の裏組織に武器や人材を供与してる団体だあ。
> 俺たち湖賊も、そこの巨乳がぶっ倒したハイマウントや飛翔機雷、水進機雷なんかを貰ってる。
> とにかくとんでもない技術を安売りしてやがる連中だ。あの艦を見たろう、ああいうものを平気で作る奴らだなあ」

「……なんで?」

供与するのは構わないがその理由がよくわからない。技術の安売りして、なんの得があるのだろう。
しかもさっき、この船長は『俺たちごと湖を制圧』と言っていた。湖族も一網打尽にするなら武器の供与など必要なくて。
まるで――今日、ここに俺達が来ていることが分かっているみたいだ。
だが、今そんなこと考えても意味のないことだとはすぐに気づく。後回しでいい。
今は――アレをどうにかすることの方が重要だ!

43 :ウィレム ◆uBe66UnnCY :2011/08/18(木) 05:14:03.90 0
>「ボートも、ゴーレムの水上機もいくつか置いてある。好きに使え。
> でもその前に、あの飛翔機雷をどうにかしなきゃ近づくことすらままならんなあ……!」

「うん、俺はいらね。
 ゴーレムとか俺にはぶっちゃけ論外だし、ボートとか俺じゃたぶん飛翔機雷にドカンでお陀仏っスね。
 それよりも、俺には……」

>「吸着式のワイヤーフックを敵艦の表面に食いつかせた。この飛翔機雷の中じゃ四半刻と持たないだろうが、足場になる。
> どう使うかはお前らに任せるぞお、海の男は、まだまだやらなきゃならないことが目白押しだからなあ……!」

「こっちの方が、ありがたいかな」

ウィレムは操舵室を飛び出し甲板へ向かう。アルテリアの指示に、ウィレムの名指しはなかった。
つまりは、『何をしてもいい』ということだ、とウィレムは拡大解釈をする。
『付近の課員』に含まれてるだろって?あぁ、それは聞かなかったということでお願いします。
何より、ウィレムはやっぱりまだ怒っているから。少し、気持ちが大きくなる。

甲板に立つ。ここから一直線に敵艦まで伸びる紐――ワイヤー。
上を見上げる。未だ落ち続ける飛翔機雷。正直甲板に居るのすら危ないと思っていたのだが、
結界のようなものが張られているのだろうか?こちらに向かってくる飛翔機雷は非常に少ない。
安堵をしつつ、前と上を交互に見比べる。

飛び交う飛翔機雷。ウィレムの動体視力で見続けていれば、次第にその動きを把握出来てくる。
落下地点を予測し、ワイヤーの周りに落ちて来ないその瞬間を狙って、ウィレムはワイヤーに足を乗せる。
体勢を崩す前に走り出す。綱渡りするその姿は曲芸師にも見えるだろうか。いや、目に見えないかもしれないが。
ゆっくり歩いていては、やがて平衡感を保てなくなり水面に転落してしまうことだろう。
右足を乗せる。左足を乗せる。右足が崩れる前に右足を動かす。左足が崩れる前に……。
走り続けるほど、その姿勢は保たれる。
人の理解を超えた超速度が、それを可能にする。

敵艦にだいぶ近づいた、といったところで横からの衝撃にウィレムは大きく体勢を崩す。
前しか見ていなかったウィレムは突然の状況に対応することが出来ず、やがてワイヤーから足を滑らす。
横からぶつかってきたモノが見知った顔であることを目視したウィレムはその人物を右手で抱え、
落ちてたまるものかと必死で左手でワイヤーを掴み、ぶら下がる格好になる。

「……重い……」

右手で抱える人物は崩剣の使い手。ファミアが弾き飛ばしたことなんて当然ウィレムは知る由も無い。
あと重いって言ったのは彼女が両手持ちの大剣を持っているからであって決してフランベルジェが重いと言ってる訳ではない。

「……んと、あんたこいつを近くで見てたんスよね?飛翔機雷が出て来た時とかも見てる?
 どこが開いて飛翔機雷出てきたのかとか、だいたいの場所、わかるっスか
?」

名前呼ぼうとして名前ちゃんと覚えてないことに気づいてあんたで誤魔化す。
飛翔機雷の射出口を聞いたのはそれを壊したいからで。まだ、諦めてない。
この機雷の射出さえ食い止めることができれば、きっと味方の総攻撃も楽になるはずだ。

「……くぅ」

ワイヤーを掴む腕がプルプルしてくる。ウィレムはそれなりに鍛えてはいるが、限界というものは存在する。
実のところ腕を離しても大事にはならない高さではあるがあまりそこまで頭が回っていないようだ。

【フランベルジェを抱えながらワイヤーにぶら下がる】

44 :名無しになりきれ:2011/08/18(木) 17:29:25.21 O
暗黒闇最大級最強最高潮機械崩壊斬。

45 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/20(土) 04:52:22.36 0
>「死んだ方がマシだぁ?だったら意地でも死なせてなんかやらねえ!精々不幸に苛むこったな!
  
激憤。痩躯の男は、眉を立てて牙を剥いた。
背から放たれた魔力の波動が概念結界を侵食し、その構造を書き換えていく。
あるべき姿への回帰。死者が生者に優先する因果の歪みが、黒く、それ故に真っ直ぐな魔の輝きに修正されていく。
死神の鎌は、その斬撃を『無力化』され、虚空すら断つに叶わない。

>「とうの昔にくたばった奴らなんぞに、縛られてんじゃねえ!死人は死人だ!何の力も、意志も持ってやしねえんだよ!」

侵入者は、現状に甘んじなかった。現実に、絶望しなかった。
その生命を炉にくべて前へ進む力に変換し、あらゆる逆境に抗って抗って抗い尽くすその執念。
化物染みた、それでいて英雄の如き進撃力。現実の喉笛に食らいついた一匹の狼。

今ならわかる。
これが、『生きる』ということ――!!

>「……分かったか、このクソ間抜け。この世界にゃ、死者の居場所なんてこれっぽっちもありゃしねえんだ。
  テメェの頭の中も、胸の奥も、テメェだけのモンなんだよ」

「でも、俺にはもう何もないんだ。居場所も!理想も!傍にいるべき誰かもッ!!どこにもいけないし、何にもなれないんだよ!!」

住む場所も職も学も生きる目的すらない人間に、野ざらしの生を与えたところで、どう生きろと言うのか。
死んだほうがマシと言うのは、なにも精神的な面だけをとらまえてのことではない。
具体的な生き方も、生きて何を為すかも、墓守は知らなかった。

>「さて……で、確かテメェは財宝の所在は知らねえんだったな。

瞬間、墓守の背後で爆発。連鎖的に全ての墓石が一様に吹き飛び、墓場は更地になった。
完膚なきまでに。侵入者によって齎された破壊は、文字通り墓守のすべてを粉砕した。

「……やれやれ、押し付けがましいな。アンタは神様か何かか?」

力技にも程があると思った。
具体的な解決策もなにもなしに、ただ一方的に死を退け、強制的に生を押し付ける。
あらゆるしがらみと論理的な問題を飛び越えたところにある、絶対的な『力』。その偽善に満ちた暴力は、神にすら等しかった。
その揶揄は間違っていない。信仰とは、冷静な暴力。根底にある本質は同じ、論理の否定なのだから。

「だけど神様が生きろと言うなら仕方ないな。なにせ神のご啓示だ。死ぬのは怖くないけど、来世はやっぱり人に生まれたいからね」

墓守は、崩壊した墓石の残骸に腰掛けて侵入者たちの作業を眺める。
彼なりに幼い頃からの記憶を辿り、断片的な情報を紡ぎ合わせ、一つの解答を生成する。

「神様に俺から一つお供物をしよう。花束の代わりに情報を受け取ってくれ。確か――これぐらいの『穴』だ」

墓守は指先で小さく穴を作って見せる。幅にして大人の人差し指ほど。そして厚みはほとんどない。
板バネに使われる、細長くて扁平な金属板が、丁度こういう形をしているのだろう、そんな形状だ。

「俺がまだ小さい頃、ギルゴールドの人間が、もう一人別の家の人間をつれてここへ来たのを覚えてる。
 たぶん、ここに閉じ込めた宝物の定期チェックかなんかだったんだろう。そのときに、『何かを挿し込む音』がした」

常識的に考えればそれは、鍵だったんだろう。だが鍵開けの魔法というのは帝都に広く普及していて、防犯手段においては時代遅れだ。
現在の殆どの重要物件には個人認証の施錠術式が施されていて、物理的な錠前は庶民層のものと相場が決まっている。
メニアーチャと比肩する帝都三大豪商であるギルゴールドが用いるにはあまりに脆弱な施錠だ。

「あ、だんだん思い出してきたぞ……そう、細長い金属。それを、なんでか手の上に滑らせてから、穴に差し込んでたんだ。
 それをしたのはギルゴールド側の人間じゃない……ってとこまでは覚えてるんだけど。なにぶん、十年以上前の話だしなあ。
 とりあえず、鍵穴を捜してみなよ。……と言っても、この散らかり具合じゃどうにもならなさそうだけど」


【墓守から情報提供。財を隠した場所には『鍵穴』があった】

46 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/08/21(日) 00:31:38.06 0
剣閃。
振り抜いた腕に残る硬質な鎧と、それよりも固い肉の感触。
脇腹から胸を経て、肩口へと抜けた一振りは深く、並みの手合ならば斬り伏せるのに十分足り得ただろう。

「ふぅん、たいした生命力だわ。」

口をつく皮肉とは裏腹に、ノイファは即座に地を蹴り距離をとる。
負傷のため思い通り力が振るえなかったわけではない。むしろ会心と言えるだけの一閃だった。
剣士としての勘も、切先の感覚も、そのどちらも確かに深手を負わせたと告げているのに、ダニーが負ったのは僅か一筋の裂傷のみ。

(……さて、参りましたね。生半可な攻撃は通じたところで意味が無い、ではね)

ノイファは殺しに因る解決を良しとしない。
二年前の魔物大強襲や、それより以前の出来事に起因する感情。
人が人として死ねない、そんな惨状を目の当たりにしてきたからだ。
甘いと謗られたのは数え切れない。しかしその意地を圧し通すだけの努力を怠ったつもりはない。

ダニー程の強者を前にしてもそのポリシーは曲げない。
故に、ダニーの能力が厄介なのだ。致死と打倒の境界線が予測出来ない。
動揺を表に出さないように口端を吊り上げ、引き戻した長刀を顔の高さで水平に構え、視線はダニーを見据える。

>「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

しかし対するダニーは構えを解く。
先程までの烈火の如き戦意は見る影もない。

>「止めだ・・・・・・・・・・・・俺の負けだな・・・・・・・・・・・・楽しい時間は、あっという間だ・・・・・・」

そして紡がれる敗北宣言。
突然のことに先ず耳を疑い、次いで疑問符を浮かべた。
未だ戦況を覆すまでには至っていないのだ。

「は……えっ?ちょっと本気で――」

とんだ肩透かし。振り上げた長刀が所在無さ気に鈍く光る。
手放しで喜ぶフィンを尻目に、ダニーの真意を問い詰めようと口を開いたところで――異変に気づいた。
始めは小さな振動。それが次第に大きく、終いには不吉を喚起する重低音を伴い洞窟内を震わせる。
視線を巡らせる。反響のせいで発生源の特定が容易ではない。判るのはそれが近づいて来ているのだということだけ。

>「は……な、んだあれ!やっべーぞノイファっち!!俺の後を走っ――――」

フィンが警告の声をあげる。振り向いた先には巨大な岩玉。
通路の幅一杯に揃えられた球体が、轟音を響かせ迫る様は、起きながら悪夢を見ているような錯覚に陥る。
もと来た道は岩が塞ぎ、都合よく避けられるような横道などは勿論無い。逃げる先は奥への只一本。

「……会ったら絶っ対に、ぶん殴ってやるんだからあああああっ!」

何処かでほくそ笑んでいるに違いないトラップの製作者へ向け、怨嗟の絶叫を上げながらノイファは駆け出した。

47 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/08/21(日) 00:32:53.54 0
剣帯に吊るした刀と剣がぶつかりあって耳障りな音を奏でる。
毎晩の手入れを欠かさず行うほどには愛着のある二振りではあるのだが、今ほど煩わしく思ったことは無い。

巨岩の玉は速度こそさほどではないが、巻き込まれれば絶命必死。
背後から迫る岩よりも先に、遥か前方に見える鉄扉を潜れなければ一網打尽なのだ。

「と、言っても。この先絶対まだ何かありますよねえええっ!」

絶叫と共にひた走る。舌を噛みそうになったのは気づかれなかっただろうか。
ここまで罠をかい潜ってきて判ったことは、製作者が狂気とも言えるほど念には念を入れる人物だということだ。
ならば当然この先に罠の一つや二つ、隠されているに違いない。

>「――――ノイファっちは、先に行って罠をなんとかしてみてくれ!!
  代わりに、岩は俺が楽勝で防いでみせるぜっ!!!」

そしてフィンもそれに気づいていた。
此方が隠された罠を解除する時間を作るため、岩玉を防いでみせると立ち止まる。

だが、理由はそれだけではあるまい。
ダニーとの戦闘で負傷した体。ノイファも並走した際に気づいていた。
既に走ることもままならないのだろう。そんな状態で迫る大岩に立ち向かえばどうなるか、子供でも判ってしまうことだ。

>「ダニー!あんたが俺達に負けたっていうなら、一度だけ頼みを聞けっ!!
  ――――ノイファっちと協力して、無事に扉の向こうに逃げてくれ!!」

「こんの――」

踵を打ちつけ慣性を殺す。疾走状態からの急停止。がりがりと岩肌が悲鳴をあげた。

「――冗談じゃないわっ!」

踵を返しフィンの肩へしがみ付く。視界の先には音を立てて迫る大岩。知ったことではない。

「命を犠牲にするな、なんて言わない。それが必要な時はどうしたところで有るのだから。
 でも、死に急ぐのはやめて。見っとも無くたっていい、生き残ることを放棄しないで。」

引き寄せ、手を取り、フィンに目を真っ向から見据え、言い聞かせる。

「フィン君の力が及ばなくても誰も攻めたりしない。
 それは貴方だってそうでしょう?何度も助けてくれたわ。
 だから、足りない部分は補い合えば良い――」

指を解き、右目を拭う。黒から赤へ。魔力の光が瞳に灯る。

「――それにこの程度。絶体絶命の危機なんて呼ぶには程遠いわよっ!」

未来視『予見』、発動。眼の奥が溶けるような痛みと熱。耐えられない程ではない。

「ダニーさん悪いけれどフィン君をお願い。
 それともう一つ、貴方の力を"買いたい"の。この先にあるはずの財宝……山分けってことでどうかしら?」

一方的な商談を持ちかける。残念なことに返答を聞いている暇は無い。
岩がすぐそこまで迫ってきている。

「あの先に扉が見えるでしょう?
 そこまでの正確な道順を提示するから、あの扉を思いっきりぶち壊してちょうだい!」


【フィンの提案を却下。ダニーを買収。】

48 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/08/23(火) 23:40:40.53 0
>「……やれやれ、押し付けがましいな。アンタは神様か何かか?」

「ハッ、そんな薄情者のクソ野郎と一緒にされるたぁ心外だぜオイ?
 その神様に助けてもらえなかったから、優しい優しい俺が助けてやったんだろ?」

この上なく強引、かつ傲慢に生を強制した男の白々しい皮肉。

>「だけど神様が生きろと言うなら仕方ないな。なにせ神のご啓示だ。死ぬのは怖くないけど、来世はやっぱり人に生まれたいからね」
>「神様に俺から一つお供物をしよう。花束の代わりに情報を受け取ってくれ。確か――これぐらいの『穴』だ」

「穴ぁ?……おいおい、まさかそれでおしまいじゃねえだろうな。
 実験台のネズミ代わりにした方がまだ役に立つってもんだぜ」

サフロールが僅かに目を細める。
だがどうやら墓守の言葉はまだ続くようで、彼の皮肉はすぐに鳴りを潜めた。

>「俺がまだ小さい頃、ギルゴールドの人間が、もう一人別の家の人間をつれてここへ来たのを覚えてる。
 たぶん、ここに閉じ込めた宝物の定期チェックかなんかだったんだろう。そのときに、『何かを挿し込む音』がした」
>「あ、だんだん思い出してきたぞ……そう、細長い金属。それを、なんでか手の上に滑らせてから、穴に差し込んでたんだ。
 それをしたのはギルゴールド側の人間じゃない……ってとこまでは覚えてるんだけど。なにぶん、十年以上前の話だしなあ。
 とりあえず、鍵穴を捜してみなよ。……と言っても、この散らかり具合じゃどうにもならなさそうだけど」

「やりゃあ出来るじゃねえか。テメェを生かしといた甲斐があったってもんだ。
 ……で、なんだって?どうにもならなさそうだ?
 おいおい、神様呼ばわりした傍からそりゃねえだろ」

バックパックから短刀を取り出す。
暗がりの中で放たれる鋭利な自己主張の輝きを、サフロールは自身の腕に埋めた。
皮膚を、肉を、血管を裂く。自傷行為、鋭い痛み、激しい出血、腕を前に伸ばす。
床に血溜まりが出来て――独りでに動き出した。
血管の軌跡を再現するかのように微細な網目状を描き、外へ外へと広がっていく。
血液が帯びた魔力により、サフロールは血が届く限りの床、壁、全ての表面を精査出来る。

「穴蔵暮らしのモグラ野郎の目に映る真実なんざ、こんなモンだ。幾らだってやりようはあんだよ。
 居場所がない?ここに比べりゃ帝都のハードル外だって天国に見えるだろうよ。
 理想がない?誰もいない?元からそれを持ってねえし、得られねえ奴だっているんだぜ。死人気取りが贅沢抜かしてんじゃねえ」

とは言えこのまま失血死でもしたら笑い話にもならない。
魔力で傷口を塞ぐ。肉体を再生させるのではなく、裂けた血管を粒子化させた魔力で繋ぎ合わせた。
失った血液も同じく魔力によって、その機能を代替させる。

「それにな、俺はクソッタレな神様と違って平等主義者なんだよ。
 ……なんだその目は、嘘じゃねえぞ?俺からすりゃ皆平等にクソ以下だ。
 だからくそクソなりに役に立ったテメェにゃ対価をくれてやる。生きる術って奴だ」

情報の対価――生きる術、情報を語る。

「例えばテメェらを雇っただろう『ギルゴールド』は二年前にあった大災厄でくたばって、『先代』扱いになっちまってるとか。
 ギルゴールド『当主』は、『先代』の悪名を濯ぐ為に躍起になっていて、
 ここでテメェが先代から墓守を任されていたと名乗り出りゃ、そりゃあ奴にとってイメージアップの格好の材料だとか。
 万一捨て置かれたなら、ギルゴールドを悪者扱いしたいクソ共に泣きつきゃ、
 それはそれで格好の材料としてちやほや扱ってもらえるだろうとかなぁ。
 ま、それでも駄目なら……さっきの術式はなかなか面白かったからな。実験台のネズミとして飼ってやるから安心しろよ」

そうしている間にも血液は精査の範囲を広げていく。
そしてもしも目当ての『鍵穴』を見つけたらのならば、
血液はそこに集中――『液体の鍵』と化して解錠が可能かを試みるだろう。

【血液で壁や床などの表面を探査。鍵穴が見つかった場合は血で合鍵の制作を試みる】

49 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/08/26(金) 20:36:01.70 0
>>「よっしゃ!!勝ったぜ!!!!」
勝利を受け入れてくれたフィンの勝鬨の声を耳にした時、ダニーは自分の傷を見た。
水々しい切れ目は乱暴に肉を食いちぎったものでないことを表していた。

獣の異才のみなら過負荷は生じない。彼女に混じった傍流の異才が、
振るう力の御し方を知らない未熟な力が、より濃い血の力に引き寄せられて発現した為に
彼女を苦しめる、しかしそれは何も悪いことばかりでなかった。

姿を保てないことは筋肉の厚みを増すことに繋がり、引いてはどれほどの斬撃であれ、
まず横薙ぎの攻撃では内蔵に届くような危険は無くなった。
とは言え、流石に何度も切られれば筋肉を締めて出血を抑えるという方法はとれなくなっていく。
ノイファは一度引いてくれたが、有効打を積み上げられれば厳しくなるのはダニーも変わらないのだ。

故に先程のノイファの奥の手とも言える高速の連撃が決定打になるか否か、
それを知ることは重要なことでもあったが今となっては過ぎた話だった。

何故なら現在は迫り来る巨岩から退避している最中だ、よって戦っている暇はない。
通路を横は勿論のこと天井一杯まで届くソレは自重と周囲との摩擦から速度は遅い、
「だからなんだ」と言われればそれまでだが。

力ずくで止めるのはまず無理だ、轢かれる程の速さがないので扉の先の罠に追い込むか、
扉と挟んで圧死させるかが狙いだろう。まあ寝転がれば轢かれることは可能だが意味はないだろう。
やはり二人を担いで扉まで行こうかと思っていると、先にフィンが声をかける。

>>「ダニー!あんたが俺達に負けたっていうなら、一度だけ頼みを聞けっ!!
 ――――ノイファっちと協力して、無事に扉の向こうに逃げてくれ!!」

振り向けば自分との交戦で手負いとなった彼の背中がそこにあった。
岩を防ぐと言う当人の容態は、限界の二文字を良く物語っている。
ダニーでも分かるのだから相方には言わずもがなだろう。

>>「命を犠牲にするな、なんて言わない。それが必要な時はどうしたところで有るのだから。
 でも、死に急ぐのはやめて。見っとも無くたっていい、生き残ることを放棄しないで。」

走り戻ってフィンを叱るノイファはまさに人の良い人だった。彼女も無理だと思ったが、
本人が言うのだからいいかと思っていた、自分と人の温度差を再確認する。

50 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/08/26(金) 20:38:00.12 0
二人の様子を見ているとノイファが何やら言ってくる。内容は手を貸せということだが、

>>「ダニーさん悪いけれどフィン君をお願い。
 それともう一つ、貴方の力を"買いたい"の。この先にあるはずの財宝……山分けってことでどうかしら?」

その言葉にふと、クローディアの姿がダブって見える。
(・・・・・・・・・・・・"・・・・・・"・・・・・・・・・)
ダニーは思った、どいつもこいつも素直に"手伝ってくれ"の一言ぐらい言えないものかと。

今の今戦っていた相手にそんなこと普通は言えないものだが、言えたら相手は相当の無神経だろう。
肩を竦めながらくるりと鉄扉の方へ向き直ると、腰だめに拳を構えて尻尾を地面に突き刺し
「三脚」の体勢をとると、次にゆっくりと両の拳を前に突き出す。

急激に通路内の気温が下がる。元々は戦闘時に使うはずだった奥の手だ、
心境と状況の変化から使いそびれて、せっかく高めた力はエンスト寸前だった。
どうせ戻すくらいならとダニーは二つの力を再び練り上げる。

片方は「気」、体内に満ちる生命力を集中し一時的に増幅させたものである。
一端の戦士などは知らずに気を使っていることが多い。
気は攻撃に乗せる時や逆に攻撃を受ける時に筋肉や神経にある種の増幅を齎す。
剣士に至っては獲物に這わせることで間合いや切れ味に磨きをかけることもできる。

片方は「魔力」、この国では今や至る所で構造化されており、様々な異常事態を引き起こす
魔法の元となる力、術式で以って自分の意に沿う現象を引き起こすための燃料。

魔法全盛のこの国ではほとんど知られていないが、この闘気は少しだが魔法と似た使い方ができる。
とは言っても細かく用途を定める術式は無いので攻撃魔法のように放出したり、
せいぜい個人の気質にあった属性を持たせるくらいである。

足元を根として汲み上げるように気を練り、それを左の掌に留め置く。
そして北国の大寒波を想起し高めた魔力は右の掌に集める。

左は右回転、右は左回転と左右で内側に巻き込むように異なる渦を発生させる。
気は放出できる程度に高められると属性を伴うようになり、その属性は使用者によって異なる。

51 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/08/26(金) 20:40:31.92 0
ダニーの属性は「氷」、そして一見すれば魔力と縁の無さそうな彼女だがこの世界では
それこそ子供のレベルまでそれは浸透している、当然彼女だって一応は納めている。
なによりダイナストは「魔導鎧」である。持ち主の魔力によって異才と共に発動する。

次第に両手が白く輝き始めると、辺りの湿り気を帯びた箇所が凍りついてゆく。
>>「あの先に扉が見えるでしょう?
 そこまでの正確な道順を提示するから、あの扉を思いっきりぶち壊してちょうだい!」

ノイファの言葉と指示に頷くと、彼女は体を向きを修正する。
「咲き誇れ、幻冬の氷種(ひだね)」
その言葉を合図に付き出した手を組み合わせる

凍っちまいな  コールドシルバウム
           氷  菩  提  樹

一拍の間を置いて、ダニーの拳から大輪の雪の華が互いにその身を食い合いながら
咲き乱れ、その中心を回転の異なる気と魔力の凍気の渦が突き進む。

放った超低温の暴風の反動と極寒の余波に耐えながら放った渦は途上の物を粉砕し、
進路を真白に塗りつぶしながら鉄扉毎空間を吹き抜けて行った。
後には小さな雪の絨毯と氷のアーチだけが残されている。

「・・・・・・・・・・・・」
これでいいのかとダニーはノイファ達に呼びかける。体全体が軋んで悲鳴を上げていたが
大した事ではないと自分に言い聞かせる。これで先に進めるはずだ。

【ダニー ゲージ技で扉を粉砕、ノイファ達を呼ぶ】

52 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/08/27(土) 22:48:32.75 0
>「命を犠牲にするな、なんて言わない。それが必要な時はどうしたところで有るのだから。
>でも、死に急ぐのはやめて。見っとも無くたっていい、生き残ることを放棄しないで」

届かない

>「フィン君の力が及ばなくても誰も攻めたりしない。
>それは貴方だってそうでしょう?何度も助けてくれたわ。
>だから、足りない部分は補い合えば良い――」

死地へと向かったその肩を引き、手を取り、見据えられながら放たれた、優しい言葉。
力強い言葉。陽光の様な輝きを持つその言葉。
その言葉はけれど、フィンという青年の心に、決定的に届かない。

「……それじゃあダメなんだ、ノイファっち。
 誰が責めなくても、そんな俺は、俺が許せない」

ポツリとそう言ったフィンはその手を払おうとするが、もはや肩を上げる力も無いのか、
僅か数十度傾斜を上げただけでその手はダラリと下に下がり、
咳き込み出る息には血飛沫が混じった。

「っく、そっ……!!」

フィンは軋む程に歯をくいしばりつつ、岩を睨み付ける。
何にせよ、この状況では自身が命を賭けて岩を止める事こそが、最もノイファ達の生存確率を高める。
そう思っているのだ。そう思い込んでいたからこそ、

53 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/08/27(土) 22:50:03.31 0
>「――それにこの程度。絶体絶命の危機なんて呼ぶには程遠いわよっ!」
>「ダニーさん悪いけれどフィン君をお願い。
 それともう一つ、貴方の力を"買いたい"の。この先にあるはずの財宝……山分けってことでどうかしら?」

紅く其の眼を輝かせて放たれたノイファの言葉。そして

>  凍っちまいな  コールドシルバウム
>          氷  菩  提  樹

その言葉を受け放たれる、眼前に君臨していた堅牢な扉を
いとも容易く食い破った、ダニーによる凍気の狂風。
非情な現実を打ち破るそれらの力達に、眼を見開くこととなった。

「……」

自身が命を賭けて成そうとした事を、容易く……ではないのだろうが、
少なくとも命をベットする事無く遣り遂げらてしまったフィンは

「……よっ、しゃ! すげーな、ノイファっち!サンキューなダニー!
 これで全員生きて辿り着けるぜ!……後は、ノイファっち!
 物理的な罠があったら、教えてくれ。多分、あの岩以外なら今の俺でも何とか出切る」

『笑顔で』そう言った。まるで先程の自己犠牲に関する事など、どうでもいいと言うかの如く。
……恐らく、今度の言葉は本当であろう。
ダニーの放った冷気の余波によって、地雷や毒蛇は多くが不発や仮死と化している。
不意打ちのギロチン落とし程度なら、今のフィンでも何とか軌道を逸らし抜けられる。
運悪く不発にならなかった地雷や蛇も、ノイファの能力によって回避出切る。

早足程度の速度で足を引きずりつつ走るフィンは、扉へと辿り着き、
倒れる様にして扉の内部へと、足を踏み入れる―――――

【フィン、満身創痍ながらもギロチンの刃を受け流したりしつつ、扉へ近づき、そこへ飛び込もうとする】


54 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/30(火) 16:53:32.36 0
重力に引っ張られてスティレットは自由落下する。頬を叩く風は機雷の爆熱で暖かく、焦げ臭い。
両者の距離は一瞬にして零と化す。対して、ファミアがとった行動は実にシンプルだった。

>「ごめんなさいっ!」

片手を振り上げ、スティレットの臀部をぴしゃりと一撃。
彼女は尻で機雷が爆発したような錯覚を得た。

「っきゃああああああああ!?」

まるで投石機だ。スティレットは天地を逆さにしたまま空中に放り出され、軽やかにアーチを描く。
何が恐ろしいって、放物線のスパンがとてつもなく長いことである。一体どれほどの力で打撃すればこうなるのか。
人体の中でもとりわけ緩衝性に優れた部位である尻を打たれたからこそスティレットは涙目になるだけで済んだが、
ファミア・アルフート。年端もいかない少女の身で尋常ならざる膂力の持ち主であった。

「わっ!」

しばらく重力の戒めを解かれて吹っ飛んだところで、背後から衝撃。どうやら空中で誰かにぶつかったらしい。
何故空中に?と目を遣れば、湖賊船から敵船までワイヤーが伸びてきている。これを渡っている最中だったらしい。

>「……重い……」

落ちそうになったところを捕まれ、水面ぎりぎりのところで宙吊りになった。
見あげれば、遊撃課のウィレム=バリントンが彼女を水没から救っていた。

「ば、バリントンどの、怪我してるでありますかっ!?」

右肩から少なくない出血が見える。そうでなくてもズタボロで、明らかな疲労が見えた。
彼は確か掃討組に編入されていたはずである。おそらくこの湖賊船を味方につける過程で戦闘があったのだろう。

>「……んと、あんたこいつを近くで見てたんスよね?飛翔機雷が出て来た時とかも見てる?
 どこが開いて飛翔機雷出てきたのかとか、だいたいの場所、わかるっスか?」

「ええもう!バッチリと視認したでありますよ!ですが、そこまでたどり着くのにあのトゲトゲ祭りを乗り越えねば!」

今はワイヤーにぶら下がっているために刺が襲ってこないが、船殻に未だ張り付くファミアは未だそれと格闘していた。
スティレットは身体を振り上げて足でワイヤーをがっしりとホールド。そのまま腹筋を使いワイヤーに手を掛けた。

「バリントンどの、手を貸してください。ってゆうか貸して欲しいのは足なのでありますけど」

ウィレムの機動力ならば刺が迫る前に船殻を走り抜けることができる。
破壊対象にまで運びきってしまえばこちらのものだ。スティレットがいる以上、破壊任務に失敗はない。
ウィレムをワイヤーの上に引っ張り上げて――バランスをとれないのでしがみつく格好であったが、なんとか体勢を立て直す。
スティレットはバックパックから『吸着』の術式を施した符を取り出してウィレムに手渡した。

55 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/30(火) 16:55:10.79 0

「これを靴の裏に。魔力を通すと接地面同士を吸着させる術式であります」

うまく扱えば壁だって走れる優れものだ。
デリケートな魔力のコントロールが必要なのでスティレットには使えないが、感覚で走れるウィレムならばあるいは。
スティレットは有無をいわさずウィレムの肩に乗った。軽鎧で固めた腿で彼の首をホールド。

「はいやーっ!突撃であります!!」

文字通り騎士となったスティレットは剣を振り抜き行き先を示し、騎馬(ウィレム)に鞭を入れた。

 * * * * * * *

銀肌のフリークライミングを終え、どうにか敵船の直上まで辿り着いたファミア。
見回せばすぐに気付くだろう。彼女が船殻を掴んで登ってこれたのは、その類まれなる膂力もさることながら、
刺を出せば出すほど他の部位の装甲が薄く、脆弱になっていたからである。

無敵に思われるこの船もいくつかの弱点を抱えている。とりわけ顕著なのは、『船体に使われる鋼の総量は変わらない』ということだ。
鋼を攻撃に回せば回すほど他の部分は必然的に薄くなるし、それ故に伸ばせる刺の数には限界がある。
超巨大な飴細工みたいなものなのだ。波状攻撃に弱いからこそ、最初の飛翔機雷で敵の大部分を壊滅させようとしたのである。

彼女の目には映ることだろう。ワイヤーにぶらさがったウィレムとスティレットを狙い撃ちするべく、船殻の鋼が流動するのを。
このままだと長大な刺が完成し、ウィレム達の命を血煙に変えてしまう。

 * * * * * *

「風使い!こっちの帆にも風を送れぇ!」

キャプテンカシーニは念信器に向かって怒声を上げた。爆音が断続して響くため、ろくに声が通らない。
巨乳の弓使いがハイマウントを倒した時、影の功労者がもう一人いた。遊撃課の風使い、スイである。
戦闘データから魔力の発信源を割り出したカシーニは遊撃課の回線をつかってスイに呼びかけ、アルテリアの指示を伝えた。

「お前さん、風を使って衝角結界を張れるかぁ?もう我慢ならねえ、この船ごとあの腐れ鮫にぶち込んでやる」

カシーニの作戦。風の結界を湖賊船の全面に展開し、飛翔機雷を弾きながら敵船の横っ腹目掛けて特攻。
鋼の鮫とて自分の懐に潜り込まれれば爆発物で攻撃はできなくなる。そうなればあとは白兵戦しかない。
敵の最大の攻撃を封じる手としては、この上なくクレイジーでピーキーな手段だ。

「結界を張ったら、遠慮はいらねえ、帆なんかぶっ壊すぐらいの勢いで風を吹かせろぉ!」


【スティレット→ウィレムに助けられる。肩車で機動力アップ
 カシーニ→スイに結界の展開と湖賊船ごと敵船に体当たりする作戦を伝令】

56 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/31(水) 02:08:55.45 0
【メニアーチャルート】

大玉を始めとしたあらゆるトラップから逃げ切り、見事に最後の鉄扉を開いたノイファ、フィン、ダニー。
彼らに待ち受けているのはもはやトラップではない。扉から先は、本家の人間が金庫をあれこれするために無風地帯だ。

メニアーチャの宝物庫。帝都三大豪商に数えられる大商人の隠し金庫は、意外にもがらりとしていた。
盗賊が入った形跡はない。普通の賊ならあのトラップの時点で潰えている。
質素だが品のある意匠を施された空間。その中央には台座があり、一振りの細剣が納められていた。

ノイファが腰に下げているものと比べれば、メニアーチャ相伝のスウェプトヒルトと家紋でそれが家宝の一つだとわかるだろう。
その中でもとりわけ瀟洒な装飾がされ、見るものに直観を与える。
財宝が少ないわけではない。このレイピア一振りでメニアーチャの全財産と同じ価値があるのだと。

税金対策にはよくある話だ。当面動かす予定のない資金を何か別のものに変えて所有しておく。
この"何か"が直接的に資産価値のないもの――たとえば、『どこか別の、他人の金庫の鍵』などであれば、
いくら国でも鍵を削ってもっていくわけにもいかず、税をとられる心配がないという仕組みである。
国家過渡期で商人に重い課税がされていた頃などは、商人同士が資産を護るためにこぞってお互いの金庫の鍵を交換したそうだ。

おそらくこのレイピアもその類。レイピアに金庫の開放権が附与されているのか、あるいはそのものが鍵なのか。
いずれにせよこの剣を手に入れた者こそが真にメニアーチャの隠し財産を得る権利を持つわけである。
そして――当然だが、剣は一振りのみ。ここに到った三人二組の探求者、どちらかがパイを食い損ねるのは明白だった。

 * * * * * *

【ギルゴールドルート】

>だからくそクソなりに役に立ったテメェにゃ対価をくれてやる。生きる術って奴だ」

手首から血液を掻き出しながら、サフロールは述懐する。
彼の術式。血液を媒介にした広範囲精査術。まるで触手のように伸びる赤の束は、あらゆる隠蔽を無に帰す。

>「例えばテメェらを雇っただろう『ギルゴールド』は二年前にあった大災厄でくたばって、『先代』扱いになっちまってるとか。
>さっきの術式はなかなか面白かったからな。実験台のネズミとして飼ってやるから安心しろよ」

「神様のくせに優しいじゃないか。ただま、自由は自由だね。これからどう生きようか選択できるというのは代えがたい幸福だ。
 この穴蔵の中で、ずっと考えてた。もしも俺がこういう境遇でなかったなら、どこへ行って、何を見て、どうしようかってね。
 そいつを実現できるのなら――運命にだって俺の前途は優先するさ」

57 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/08/31(水) 02:09:38.31 0
やがてサフロールの精査術に反応があるだろう。
林立する墓のいちばん奥に据えられた、一点の継ぎ目もない滑らかな壁面。
手入れが止まってからのニ年が堆積させた埃が薄く乗っているだけで、少し拭いを入れれば街中のそれと大差ない。
そこに穿たれた、小さな穴。墓守が示したものと同じ大きさである。侵入したサフロールの液錠が、内部をまさぐっていく。

「ッ!」

鍵穴が反応した。甲高い音が術式の起動を示し、液錠を精査していく。サフロールの血液を識別する。
数秒が経過し、ビシっと音がして液錠が弾け飛んだ。鍵穴の術式に拒まれたのである。

「――便利な術式ね。一家に一台欲しいぐらいだわ」

不意にサフロールの背後から声が聞こえた。もしも彼が声のした方を振り向いたのなら、闇の向こうに二人組の姿を視認するだろう。
墓場の入り口から現れたのは、一人の少女と一人の男。男の方は手斧をぶら下げ、その刃先は墓守の喉元を捉えていた。

「ごめん神様、輝かしい未来に思いを馳せてたら不覚をとっちゃった」

今の墓守に戦闘能力はない。ニ年の歳月で組み上げた概念結界は先程サフロールが破壊したばかりだ。
少女は緩やかにウェーブした亜麻色の髪を後頭部で纏め、質素な衣服に袖を通しているが、その所作にはやんごとなき気品が見える。
犬歯を見せる、強い笑みを浮かべていた。人質をとり、優位に立った者特有の余裕。それでいて挙動に油断はない。

「墓参りってわけじゃなさそうね。ギルゴールドの財宝狙い?ムリムリ、本家の人間でもなきゃ最近の錠前術は解けやしないわ」
「クローディアさん、あまり喋りすぎると……せっかく不意をつけたのに」
「しみったれたこと言ってんじゃねーわよナーゼム!こーやって何か知ってる風な感じ出しとくと馬鹿がよく釣れるのよ!」

クローディアと呼ばれた少女。ナーゼムと呼ばれた男。
二人は油断なく優位な位置取りを徹底しつつ、サフロールに対峙する。

「べつに追い剥ぎしようってわけじゃないわ。アンタ達の所属、目的、それから――帰り道を教えなさい。

クローディアはポーチに手を入れる。出した掌には、1枚の銀貨が載せられていた。

「これは脅迫じゃないわ。……アンタの情報を、『買う』」

刹那、魔術が発動。
有形無形を問わず万物を金銭で購入する遺才が、サフロールから情報を引き出すべく不可視の楔を放った。


【メニアーチャ:宝物庫に到達。そこにあったのは一本のレイピア。一本しかないけどどうしましょう
 ギルゴールド:鍵穴発見。サフロールの血がはじかれる。クローディアとナーゼムが登場し、サフロールに術式を放つ】

58 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/09/01(木) 17:11:14.33 0
>>55
片手で掴んだトゲを両手で握り直し、体を振りあげてその上に立って、さらにそこから跳躍。
傾斜がだいぶ緩くなった外殻へ、ファミアはぺたりと張り付きました。
滑落しないように即座に手に力を込めて壁面を無理やりホールドします。
遺才を発動していない状態で紙を握りこんだように、装甲材がくしゃりとひしゃげました。
側壁とは明らかに違う感触です。
(薄い……上部が弱い、のかな?)

危うく握り抜きそうになった装甲材から慌てて手を離し、
(金属の破断面を思い切り握ったりしたら、手がずたずたになってしまいます)
緩く握りなおして姿勢を確保、身体を引き上げます。
ここまで来たのなら、見事に一撃で初見の壁面を制覇したと言って良いでしょう。

ファミアは腹這いの体勢から膝立ちになって、両拳で天を突きました。
瓶入りの滋養強壮剤を親指一本で開栓して飲み干したいところですが、あいにくそんな暇はなさそうですし、そもそも現物もありません。
足が滑らないぎりぎりのところまで行って下を覗き込んでみると、ワイヤーの上でもつれ合う、ウィレムとフランベルジェが見えました。

「お二人とも、今ロープを――」
水中で作業をするのに、綱と、それを切るための刃物を持って行かないなどということはあり得ません。
もちろんファミアの背嚢にもそれはしっかりと収められています。
声をかけながら、肩紐を掴んで逆側の腕を抜きつつ体の前に持ってきて、口を開け、手を突っ込んで中を探ります。
「あれ?」
一連の動作全てに対して、なんの感触もないので視線を向けると、バックパックがいつの間にかエアーなバッグに変わっていました。
「…………落とした」
恐らく、バハムートの胃ぶくろを脱した際に紛失していたのでしょう。もちろん念信機や吸気管もありません。

――故に、課長の身に起きたことも未だファミアの知るところではありませんでした。


59 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/09/01(木) 17:14:28.75 0
上から直接的に登攀を手助けすることができない以上、ファミアはまず自分が初撃を与えなくてはいけないと考えました。
作業中、水流によって押し流されるのを防ぐための吸着呪符は、当然フランベルジェも所持しているはず。
それを使って二人が(あるいはどちらかだけが)登ってくるのを、ぼけっと待っていられれば結構なのですが、そんなことをしていたらお互い良い的です。
攻撃を加えることで敵の注意を逸らして、間接的に登攀を補助し、状況を引き継いで後退する必要があります。
戦術的な面から言えば後退の『必要』はないのですが、心情的には譲れない線なのです。

とはいえ、具体的にはさてどうしたものだろうと一思案。
機雷の発射管近辺を狙うのは無理です。怖いので。
足元の外殻はだいぶ薄く、ここなら手で引き剥がすことはできそうですが、
うかつに中に入ってしまったら、狭い場所で四方八方からトゲに狙われるだけでしょう。

(ちぎった部分をただ投げ捨てるだけでいいかなあ?)
などと考えるファミアの目の前を、『波』が通り過ぎて行きました。
鋼板の隆起が行き着く先はワイヤーの上の二人のそば。先ほどファミアを襲ったものよりも大規模な一撃になりそうです。

青ざめかけたファミアの顔が、何かに気づいたようにぱっと明るくなりました。
俊敏に一歩後退、それから即座に前進、そして――
「やー!」
べこん、と金属が派手にへこむ音をその場に残して、ファミアは思い切り良く跳び出しました。
まっすぐに身体を伸ばした状態から、膝を抱え込むように体を丸めて回転。さらに捻りも加えつつ再び伸展して、足から落下していきます。

この勢いでワイヤーの上に着地できれば、十分に沈み込ませられるでしょう。
ワイヤー上の二人はその反作用によって上への力を得ます。それで一気に、というわけにはいかないかもしれませんが、距離を稼ぐことにはなるはずです。
そして、二人を狙った一撃は、何もいなくなった空間を通り過ぎるのみ。
これぞ補助、後退、回避を一度に解決する妙策です。

なお、飛び出したファミアの脳内には、
落下中に迎撃されたらとか、下の二人とタイミングが合わなかったらとか、そもそもワイヤーを外したらどうしようとかいう考えが一切ありませんでした。
成功するといいですね。


【パラシュートなしでベースジャンプ】

60 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/09/01(木) 21:38:06.03 0
>「風使い!こっちの帆にも風を送れぇ!」

アルテリアの代わりに聞こえてきた声は、野太い男の声だった。
先程まで敵船だった船のキャプテン・カシーニの声だ。
突然のことに僅かに驚きつつ、だがこれはアルテリアからの命令の伝言だと瞬時に判断した。

「さて、姐さんは次に何をお望みなんだい?」

漁船の甲板を勢いよく蹴り、そのまま空中に身を躍らせる。
ふわりと風が発生し、スイの体を持ち上げ漁船にはった結界から出た。
空中に停滞しながら、カシーニの船の位置を確認する。

>「お前さん、風を使って衝角結界を張れるかぁ?もう我慢ならねえ、この船ごとあの腐れ鮫にぶち込んでやる」
「衝角結界、か?やったことは無いが、出来ないこともねえ。…その特攻作戦、乗った!!」

パチン、と指を鳴らし、一気に風の結界を湖賊船の全面にはった。

「おまけだ!!」

ついでにもういっちょ、と言わんばかりに船の周りに鎌鼬を発生させる。
そして、ゆっくりと湖賊船に近寄った。
強い風を操るなら、対象に近い方が失敗しないからだ。

>「結界を張ったら、遠慮はいらねえ、帆なんかぶっ壊すぐらいの勢いで風を吹かせろぉ!」
「いいんだな?しっかり掴まってろよ?俺様の風は荒いぜぇ!?」

帆を張る柱が軋むほど、スイは爆発的に風を発生させ、帆に向かわせる。
そして、自分は湖賊とは反対側の敵船の腹に向かう。

「これでも−−−−くらいやがれッ!!」

巨大化させた鎌鼬を一枚、渾身の力をこめてスイは敵船の腹に叩き込んだ。



61 :ウィレム ◆uBe66UnnCY :2011/09/04(日) 03:35:07.41 0
>「はいやーっ!突撃であります!!」

「……頭おかしいんじゃないの」

思わず呟いてしまう。まさか戦場において他人を肩車する羽目になるとは思いもしていなかった。
ウィレムの機動力とこの名前忘れたけど語尾が変な人の破壊力を両方とも活かすには一番の布陣なのかもしれないが、
しかしもっと何かなかったのかよと思わずにはいられない。これだとただの乗り物ではないのか。

借りた符は靴の裏にもう貼ってある。正直なところワイヤーの上で貼るとか狂気の沙汰だった。
何度も平衡感覚を崩しそうになったもののことなきを得たので安心していいのだろう。さぁ、行こうか。
不安要素といえば魔力を通さないと吸着しないらしいがあまり魔力を使った記憶がないので大丈夫なのだろうか。
だがぶっつけ本番でいくしかない。失敗したら、死ぬだけだ。それだけ、答えは単純。

いざ進もうとした所で、こちらに向かい船の方から長い刺が伸びてくるのが視界の隅に映る。
瞬時に逃げようとするがここはワイヤーの上、逃げられる方向はかなり限定されている、というか無理。
いつもの癖で、飛び上がろうとしてしまう。跳べない。しまった、この靴はいつもの魔靴じゃなかったんだ。ただの革靴。
勘違いから起こる判断の失敗は確実にウィレムの頭を白に塗りつぶし、次の行動を起こせなくなる。
足が固まりかけた――刹那だった。

>「やー!」

ウィレムの耳に入ったかは分からないが、そんな声が聞こえた。ワイヤーに向かって落ちてくる、人影。
思わず受け止めてしまう。かなりの勢いで落ちてきたようで、ウィレムの体に深刻な衝撃。そして、足場は大きくたわむ。
大きく曲がったワイヤーが元に戻ろうとする力は、元の形を通り越して今度は山のような形になり。
上に乗っていたウィレム(+2名)は投げ出されることになる。一瞬の浮遊間があり、着地するのは、さっき居た場所。
――に、伸びてきていた、長大な刺の上!

判断は一瞬。ウィレムは走り出した。
仕留め切れなかった刺は、そのまま伸ばしている理由などない。元の船殻に戻るため、するすると縮んでいく。
そして、その刺の上。縮んでいく早さよりも速く!走り抜ける姿がある!
ちょうどいい、近道だよなぁ――そんなこと思いながら、駆け抜けた時間はもう過去の話。
船に接触。そして、飛び蹴りでもするかのように靴を船体に付ける!吸着!吸着!吸着!

「っだらああああああ!!」

船体を駆け登る様に走り抜ける。叫び声をあげてしまったのは、限界などとうの昔に通り過ぎてしまっているから。
さっき受け止めたのは確かファミアとか言ったか、とんでもない力のある人だったと思う。話したことないけど。
俺に出来るのは走ることだけ。その場に連れて行くことしかできないから。ただの移動手段でしかないけど。
俺が肩車している崩剣の人も、今俺が抱えてるファミアも。この船をどうにかするのには絶対必要だ。
だから、運ぶ。
女性とはいえ2人分の負荷がかかっていて満足に走れるはずはない。速さには問題はないが、体力的に無理がある。
それでも、足を止める訳にはいかない。俺が止まってしまったら、そこでおしまい。海にドボンか、刺に貫かれるか。
体を、命を。切り崩しながら。その全てを推進力に変えて。
その垂直にも近い船体を。ウィレムは登り切った。その、脚で。

「うっしゃ、ぶちかます!」

崩剣の人の声に従いウィレムが辿り着いたのは飛翔機雷が発射されるハッチが開いたらしい場所周辺。
大体でいいんだ、この辺ならばそれでいい。この辺りをぶち壊せば、もう飛翔機雷など出すことはできない。
船長から渡された吸着機雷をその場に投げ捨て、軽く踏む。魔力を通し、すぐにその場から離れる。
じっとしていて巻き込まれたくないし、刺とかも迫ってくるかもしれないから。

――やがて、背後から爆発音が響いた。ウィレムの鼓膜が大変なことに。

62 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/09/04(日) 05:13:34.67 0
色を失った世界が白く塗りつぶされる。
荘厳にして酷薄。あらゆる生命の営みを否定する停滞した世界。

「これが――」

遅れること一拍。
その幻視は現実のものとなって、視界を純白に染め上げた。

「――貴女の"切り札"ですか……。」

背後に迫る巨岩も頭から抜け落ち、ノイファは呆然と呟く。
なんのことはない。どちらも本気では無かったのだ。
いや、本気で無かったというのは語弊があるだろう。奥の手を切らなかったに過ぎない。
此方は命を奪いたくなかったという理由だが、ダニーの方は純粋に戦闘を楽しみたかったといった所か。

>「……よっ、しゃ! すげーな、ノイファっち!サンキューなダニー!――」

フィンの言葉を切欠に思考の淵を脱却。
眼前に在った無数の罠は、ダニーの"氷菩提樹"に蹂躙され悉く機能を停止している。
まだ辛うじて動作しそうな物もあるにはあるが、物の数では無いだろう。

背後の大岩にしても然り。
通路をくまなくコーティングした氷は、道幅丁度に誂えられた岩玉の速度を減衰させていた。
もしそれすら狙ってやったのだとしたら、ダニーの脅威度を一段以上高く見積もる必要がある。

(それにしても……)

駆けながら思う。フィン=ハンプティのことだ。
度量が大きいと言えば聞こえは良いが、あまりにも滅私に過ぎる。

懸念するのはそこだ。このまま世界が彼の味方であるのならば、英雄と呼ばれる者たちと肩を並べることも出来よう。
だがそうでないのならば、周りを巻き込んで破滅の道をひた走る結果となりかねない。
賭けるにはリスクが大き過ぎるし、導くにはノイファ自身の力量では荷が勝ち過ぎている。
"直属"の上司ならば巧くやれるのだろうか。

「まあ、そんなこと――」

更に駆けた。緩慢な動作で落下する断頭を斬り上げ、軌道を逸らす。
扉はすでに目の前。吹き荒れた氷の突風を受け、ひしゃげた蝶番に辛うじて下がっているだけのそれを蹴り飛ばす。

「――ぶちぶちと考えたところで答えなんか出ないわ!」

がらんごろん、と重々しい音を立てて転げる鉄扉。
それを蹴り付けたままの姿勢で見下ろしながら、ノイファは答えを出していた。
たとえ僅かの間とはいえ仲間であるならば信じるだけだ。そして道を外れたらその度修正すれば良い。

「今までもそうしてきたし、そうされて来たのだものね。」

63 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/09/04(日) 05:15:19.36 0
「えーと……道を間違えた……なんてことはないわよね?」

蹴り開けた扉の先。
待っていたのは堆く積み上げられた金銀財宝、では無かった。
徒に広がる空間と、その中央に台座が一つ。そしてそこに納められた一振の細剣。
それが帝国屈指の大商人メニアーチャーの宝物庫にある財の全てだった。

「うーん……、課長の話では豪邸百軒が余裕で建てられる額って話だったのだけど。」

頬に手を当て唸りつつ、ノイファは台座のレイピアを睨め付ける。
最も素直に受け取るならば、この剣一本が豪邸百軒分の価値ということになるか。

(まあ……それも無いとは言い切れないのですよねえ)

たかが武器一振、と侮ることは出来ない。
伝承歌や御伽噺にも、強力な宝剣銘剣を購う代価が国一つ、などという話がある。
実在する物では降星都市『バ・ラム・アハウ』の"彗星弓"が有名だ。
"星の欠片"で造られたその弓は、抜群の威力や精度に稀少性も相まって、大型ゴーレム数十機分の値段が付くこともあるらしい。

だからこのレイピア一本に、豪邸百軒分の価値が無いとはあながち言えないのだ。
遠目ではあるものの、しげしげと眺めてみれば、随分と瀟洒な拵えでもある。
これで刀身素材が稀少金属であったり、強力な魔術付与が為されてるともなれば、価値は跳ね上がることだろう。

(でも――)

それでは正直困るのだ。
理由は財宝が現物一品しか無いという点。ダニーとの取引を反故にしてしまう。
換金するにしても帝都のしかるべき機関に預けた後ということになる。
そしてそうなれば、平課員の交わした口約束など考慮すらされないに違いない。

「むむむ……。そうなると後可能性がありそうなのは……。」

今度は額を抑えて独りごちる。レイピアそのものに価値は無いと仮定。
その場合、剣は証明書の代わりや、あるいは別の宝物庫の鍵ということになるだろうか。

「なるほど……有りだわね。」

最後は口許へ、口端を吊り上げ呟く。その可能性は極めて高い。
昔、商人達は重税から逃れるため互いの金庫の鍵を交換し、法の追求を逃れていた。修道院で受けた、帝国史の講義の記憶を紐解く。

「フィン君、ダニーさん。これは最後の罠よ。
 この剣自体も結構な価値がありそうだけども、おそらくそれ自体が財宝ではないわ。
 多分、どこか別の宝物庫の鍵……いいえ、きっとそう。
 帝国史で習った覚えは無い?重税から財を守ろうとした商人達の知恵よ。」

口調に熱が籠もる。

「互いに互いの金庫の鍵を交換して、ってね。問題は"これ"が何処の鍵かってことか。
 でも、わざわざレイピアにしたってことは、細くて小さくて、長い穴に挿すのだと思うんだけど……。」

台座に納まった剣へ手を伸ばし、途中でぴたりと静止。

「――ところでこの剣って、取り外しても大丈夫なものかしら……。」

今までのトラップ群の数々が頭を過ぎり、ノイファは二人へと呟いた。


【きっと鍵に違いない!と推理。でも何処の?】

64 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/09/04(日) 23:33:23.13 0
血液の合鍵は与えられた使命を全うする事なく弾け、飛散した。
帝国の三大豪商ギルゴールド家の金庫は、『分析』の遺才による偽装さえ見抜き、拒んだ。
サフロールは剣呑に目を細め、

>「――便利な術式ね。一家に一台欲しいぐらいだわ」

不意に背後から投げ掛けられた声に、無言で振り返った。

>「ごめん神様、輝かしい未来に思いを馳せてたら不覚をとっちゃった」

墓守が喉元に手斧を添えられて、人質に取られていた。
サフロールが更に双眸を研ぎ澄まして、舌打ちを一つ。
男と女の二人組――少女の見せる優越感に満ちた笑みが、サフロールの苛立ちを加速させる。

>「墓参りってわけじゃなさそうね。ギルゴールドの財宝狙い?ムリムリ、本家の人間でもなきゃ最近の錠前術は解けやしないわ」
>「クローディアさん、あまり喋りすぎると……せっかく不意をつけたのに」
>「しみったれたこと言ってんじゃねーわよナーゼム!こーやって何か知ってる風な感じ出しとくと馬鹿がよく釣れるのよ!」

ふざけた会話とは裏腹に、二人の立ち回りに隙はない。
墓守を人質に取られた状況から無力化する事は、不可能だ。
真っ先に思い浮かぶ最良の選択肢――墓守を見捨てて、戦闘を開始。
墓守もろとも『爆破』すれば、一転して有利な状況から戦闘を始められる。
だが一度助けた墓守を自ら見捨てる事には、感覚的な抵抗があった。

一貫性の原理――人間は一度自分で決めた事を、継続しようとする。
何の事はない、ただの仕組みだ。そう言う風に出来ている、それだけの事だ。
墓守は持っている情報を吐き出した。価値はない。自分が惜しむ理由など何処にもない。

>「べつに追い剥ぎしようってわけじゃないわ。アンタ達の所属、目的、それから――帰り道を教えなさい。
>「これは脅迫じゃないわ。……アンタの情報を、『買う』」

貨幣を弾くような音と共に、方向性を得た魔力がサフロールに迫る。
咄嗟に防壁を展開――止まらない、透過された。
直撃、しかし痛みの類いはない。代わりに口が自らの意志に反して開いた。
咄嗟に魔力で口を閉ざす。魔力と魔力の拮抗――だが相手の術式の方が遥かに強力だった。
遺才による術式は、ただの術式では拒めない。
ならば『分析』――間に合わない。そもそも遺才の分析を完璧に行う事は、サフロールには出来ない。
口の端が微かに開く。
不愉快だった。他者の意志によって行動を強制される事が。

「舐めてんじゃ……ねえぞクソアマがぁ!」

響き渡る怒号、サフロールの振り上げた右手から凄まじい魔力が迸る。
彼の怒りの強大さを示すかのように、獰猛に輝く紅蓮色――『爆破』の術式だ。
打ち込まれた術式もろとも、術士である少女を粉微塵にするつもりだ。
が――思い留まった。どうしても、墓守を見捨てる事への抵抗感が拭い去れない。
憤怒の形相のまま、サフロールは暫し沈黙。

「……ふん、テメェを見捨てて状況を打破するなんざ、凡人のする事だ」

言い訳染みた言葉を吐き捨てて右手を握り、『爆破』を消し去った。
同時に少女――クローディアの術式に対する抵抗をやめる。

65 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/09/04(日) 23:35:57.26 0
「……俺達は遊撃課、要は国の使い走りの犬ころって事だ。
 間抜けで業突く張りの商人共が隠した金を、
 真っ当でろくでもねえ使い道に乗せる為にここまで来てんだ。もう少しいたわってもらいてえな」

質問に対する答えを返す。あえて回りくどく、過剰な冗談と皮肉を交えて。
言葉に秘めた薄っぺらな望み――僅かにでも精神的な隙が生まれれば僥倖。

「で、帰り道は……テメェのその、銅貨一枚ほどの価値もねえ見すぼらしい胸とは反対方向だ。
 分かるか?つまり不愉快過ぎて賠償金もののテメェの惨めなケツが向いてる方だぜ。
 つーかテメェ、つまるところ迷子なんだろ?だったら素直にそう言えよな。みっともねえ」

滑らかに吐き出す長ったらしい罵倒。

「そうそう、こっちからも一つ質問だ。テメェがそうも貧乏臭え身なりしてやがんのはどうしてなんだ?
 いっそグロテスクとすら言えるその体が目に毒だと訴えられでもしたか?
 可哀想になぁ。そんな風に作っちまった神様相手に訴訟でも起こしたらどうだよ」

更に罵詈雑言。そのもう一つの目的――時間稼ぎ。
鍵穴を探すべく拡散させた血を再度操作――暗闇と瓦礫の陰を通して二人に躙り寄らせる。
狙いはクローディアの捕縛。魔力で制御した血液は、掴む事も切断も困難な拘束具になる。


【→捕縛成功】

血液の触手はクローディアの脚を伝い這い上がると、即座に全身を絡め取る。

「……さぁて、と。それじゃあもう少しばかり質問させてもらおうか。
 本家の人間しか開けられねえのはよーく分かった。だがテメェらが本家の人間とも思えねえ」

血液内に魔力を注ぐ。紅い明滅、爆殺を示唆する脅迫。

「何かアテがあるんだろう?そいつを教えてもらおうじゃねえか。
 ……まさか何のアテもなくここまで潜ってきた訳じゃねえよな?」


【→捕縛失敗】

だが血液の触手はクローディアを捕らえる前に察知されてしまった。
サフロールが小さく舌打ちする。

「仕方ねえな……おい、死んでも恨むなよ」

墓守を見据え一言、同時に血液を魔力の導線として術式を展開。
多方面から放つ砲弾のごとき『烈風』――狙い澄ました術式は直撃すれば、
墓守と二人組をそれぞれ別方向へと吹き飛ばすだろう。

「仕方ねえなあ、仕方ねえよなぁ。気付きさえしなけりゃあ、平和的な解決が図れたってのによぉ」

成否はどうあれ、背中から魔力の――白黒斑の翼を生やす。
そうしてクローディア達に一歩、尊大な歩調で距離を詰めた。

「こうなりゃ仕方がねえ。テメェらを叩きのめして、それからじっくりと鍵を開ける術を考えさせてもらうぜ。
 あぁ、解錠のアテがあるなら今の内に言っておけよ。そうすりゃ五体満足で済ませてやる」


【捕縛成功→脅迫:捕縛失敗→風圧の砲弾で墓守とクローディア達の分離を図る】

66 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/06(火) 07:01:29.54 0
>「……頭おかしいんじゃないの」

「あ、頭ーーーーっ!?」

ときおり生暖かい眼で見られることは薄々気付いていたけれど、ここまで直裁に言われるとは思ってなかった。
スティレットはその程度の暴言で傷付くほど繊細な心の持ち主ではないが、それにしたってびっくりだ。
見るからにヘタレそうな顔をしているのにこの毒舌。一体湖賊船で何があったというのか。

「って、前!前!刺刺が来てるであります!」

咄嗟に剣を構える――が、それで防げるはずもない。敵は自在に刺を操ってきている。
この剣を迂回して二人を串刺しにすることなど休日大工よりもお手軽な作業だろう。
そこへ、

>「やー!」

登っていったはずのファミアが何故か落ちてきた。
ウィレムがそれを受け止め、まるで矢を番えた弓の弦のようにワイヤーが沈む、沈む。
この場合矢とはウィレムとそれに張り付く女子二人であり、そのまま矢弾よろしく彼らは空中へと発射された。
とはいえ人間三人寄れば百貫の重みである。丁度空ぶった刺の上に上手いこと着地し、ウィレムは疾走を開始した。

>「っだらああああああ!!」

重装備の人間二人を抱えているとは思えない速力。彼もまた遺才の申し子、風の眷属・韋駄天である。
刺が追うより早く、速く。船体を踏切り、加速し、発射管までたどり着く!

「いかにもここであります!ていうか今も景気よく撃ちまくってるでありますよ、速やかに破壊しましょう!」

>「うっしゃ、ぶちかます!」

どこから持ってきたのか吸着機雷。設置から間髪入れずに起爆、爆発的に広がった破壊性の魔力が未発射の機雷達に襲いかかる!
構造上、いくつもある機雷発射管のどれかが暴発しても他に誘爆することはない仕組みになっているが、そこへ。

「いい加減黙るでありますっ!」

館崩しの一撃が放り込まれた。遺才の加護を受けた剣撃は、『誘爆防止の機構』を正確に叩き壊す。
意識してのことではない。『破壊したいものを必ず壊す』という天才の性質が、最も甚大な破壊をもたらす最適解を導いたのだ。
結果、装填されていた全ての機雷が誘爆し、未曾有の大爆発となって船体を揺るがした。まるで火山の噴火である。
爆風の煽りを受ける三人。それでも固まっていたことが功を奏したのか、遠くまで吹き飛ばされることはなかった。

「これで飛翔機雷は潰しました!課長、次の指示を!――課長?」

ここで初めて念信機をとったスティレットであったが、応答がない。うんともすんとも言わない。
ウィレムやファミアへ状況を問おうとして、眼下で更に轟音が発生したのを聞いた。

67 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/06(火) 07:02:20.36 0
 * * * * * * * 

「――飛翔機雷発射管大破!全損です!そんな、安全装置が作動しなかった……!?」
「三番隔壁閉鎖、内部で発生した火災に即応班を向かわせます!」
「E区画の船底に衝撃!やられました、敵船の舳先がめり込んでます!衝角結界で強引に接舷してきたものと思われます!」
「クソッ、水密扉がやられました、D区画の浸水を止められません!」

艦橋は恐慌状態に陥っていた。それでも彼ら乗組員が業務を手放さなかったのは、この船そのものでもある『守護神』の存在。
クランク6が腰すら上げずにどっしりと構えているのを間近に感じていたからである。
艦長帽の下の日焼けした相貌がゆっくりと閉ざされ、そして開かれた。

「D区画は2番出撃ドックだったな。乗組員避難状況を確認、避難が完了次第放棄せえ」
「アイ・アイ・サー!避難状況、残り40秒で完遂の見込みです!」
「結構。艦内戦闘員を1班から5班までE区画に送れ。装備は好きに選ばせれ」
「アイ。――! F部からI部にかけての船殻が破損!波状攻撃です!」
「被弾分析――魔力波長の解析結果から、衝角結界と同じ術者による風術系の魔術攻撃と思われます!」
「タネが割れてきたか……」

どうやら敵は、こちらの弱点を突き止めつつある。
クランク6の遺才『ブラックスミス』によって流動する鋼に攻防を守護された『クラーケン』だが、無論のこと無敵ではない。
例えば波状攻撃。遠距離から広範囲に渡って打撃するような攻撃には、クラーケン最大の特性である局所防御が意味を成さない。
同じように、術者であるクランク6が知覚ほどの速さで移動されれば当然追い切れないし、不可視の攻撃には対応できない。
意外にも、対艦戦において無双の性能を誇るこの船は、生身で戦略級の攻撃力を持てる敵には滅法弱いのである。

そこにクランク6の非はない。『ピニオン』に要求された性能が戦争に特化したものだったというだけの話だ。
そもそも個人でここまでの攻撃ができる相手などはじめから想定外に決まっている。いくらなんでも出鱈目だ。
ずん、とダメ押しに船が大きく揺れた。
飛翔機雷を潰されたことで、今まで迎撃に手一杯だった湖賊船から反撃が届いたのだ。
その数は順当に増していき、やがて船殻を削り落とすほどに苛烈な波状攻撃へと辿り着いた。

「船殻の鋼材量が危険値を切りました!このままでは船体自体を維持できません、自壊します!」
「やむを得んな。非戦闘員から脱出ポッドへ向かえ。タイムカードは忘れるな、給料出なくなるぞ」
「アイ・アイ・サー。――お疲れ様でした、艦長」
「おう。ワシはちょっとやり遺した作業を終わらせてくる。残業代の欲しい奴はついてこい」
「了解」

 * * * * * * *

68 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/06(火) 07:03:30.60 0
飛翔機雷発射管が誘爆し、船底に敵船が突き刺さり、船殻に甚大な裂傷を負った『鋼の鮫』。
内部では乗り込んだ湖賊達による散兵戦が乱発し、既に船は戦略的な行動が不能に陥っていた。

『頑張るのうおまんら。ところでこういうものを拾ったんじゃが、お気に召すかのぉ?』

ウィレム、ファミア、スティレット達3人から少し離れた場所に、突如人間が『生えてきた』。
人影は2つ。ひとつは鋼でできた人を模した塊。そしてもう一つは――

「か、課長!」

スティレットの叫びの通り、先の飛翔機雷によって生死が不明となっていた遊撃課長ボルト=ブライヤーその人だった。
相貌は硬く閉ざされており、額からは一筋の血が乾いているが、肩が上下しているのを見るに命は助かっているようだ。
そして声の主は鋼の人型から。口を模った場所の奥に張られた鋼の膜が、ヒトの声帯と同じように震えて声を作っている。

『大破したゴーレムにしがみついて漂っとるのをうちの監視班が回収したんじゃ。腕章からしておまんらの仲間じゃろ。
 仲間は大事よな、ワシもよくわかる。なぜならいまワシは、部下を逃がす為の時間が欲しいからじゃ。
 ――じゃけえ、露骨に時間を稼がせてもらう』

鋼人形はボルトをウィレム達の目の前に放り捨てた。
そして深く注意を払えば見えただろう、うっちゃられたボルトの身体の下に、接触起動式の炸裂術式が描かれたのを。
この術式の特徴は、一度触れた相手の魔力を感知し、再び離れた瞬間に爆発するという性質である。
地面などに隠蔽して施術しておくと、知らずに踏んでそのまま通り過ぎ直後にドカン!――という仕組みだ。

ボルトの身体をどかせば爆発。さりとて不安定な船上である、いつ意識のない彼の身体が揺れで転がって爆発しないとも限らない。
そうなれば今度こそ、ボルトは確実に絶命するだろう。それを込みで、敵は止めを刺さなかったのだ。

 * * * * * * *

空中を闊歩しながら的確に船殻を打撃していくスイ。その姿を照準鏡のレクティルに捉える者があった。
狙撃用の魔導長砲にしがみつくようにして構えるのは、クランク6直属の狙撃兵。
もとは大陸北部の森で優秀な猟師をしていたが、その才能をピニオンに見出されて徴用された男である。

狙撃長砲は誘導性こそないものの、クランク6の加護を受けた鋼の実体弾を装填することによって、亜音速に迫る初速を獲得。
かつ設定した目標に近づいた瞬間弾体が急激に膨張し、その高質量で対象を確実に消し飛ばす特別製だ。

「俺たちの船にバカスカかましかがって……これでもくらいやがれ!」

スイが攻撃のために一旦歩みを止めた瞬間を狙って、抱きしめるように砲のトリガーを引き込んだ。


【クラーケン中破。ボルトの身柄が炸裂術式の上に。下手に動かすとドカン】
【スイを撃ち落とすべく狙撃作戦発動】

69 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/09/08(木) 21:12:31.52 0
ダニーの攻撃により通路は正面のみならず周囲をも凍てつかせていた。
やはり狭かったか、と彼女は思った。結果としては功を奏したものの、
一歩間違えれば二人を巻き込む所だったかも知れない、
手加減することを考慮に入れていない技なので仕方が無いといえば仕方が無い。

>>「これが――」
「――貴女の"切り札"ですか……。」

ノイファの声にああ、と応えながらブルっと一つ身震いする。
どさどさと頭や体に積もった雪が落ちる。奥へと進みながら体の具合を確認。

氷菩提樹は変身していない状態で放つと、自分が凍結し、
最後には凍りきっていない部位の筋肉に引っ張られて体が"割れる"ので
ダニー自身、この技を使う時は内心冷や冷やする。

幸いどこも凍りついてはいなかった。やはり毛皮は暖かいということなのだろう。
短所といえばすぐに臭って来ることと抜け毛ぐらいだ。

>>「……よっ、しゃ! すげーな、ノイファっち!サンキューなダニー!
 これで全員生きて辿り着けるぜ!……後は、ノイファっち!
 物理的な罠があったら、教えてくれ。多分、あの岩以外なら今の俺でも何とか出切る」

ノイファが走る一方でフィンもまた駆けて行く。
傷だらけの体を抱えて尚守ろうとするフィンの姿にはしかし、何か焦っているかのような
印象をダニーに抱かせる。それは無理も無いこと。

ある種の力を持っている者は、その力を行使している時のみ己の存在を認められる、
そういう麻疹のようなものにかかる時期が必ずあるからだ。

守る為の力を持っている者ならば、誰かを、何かを守っている間だけ
討つ為の力を持っている者ならば、誰かを、何かを壊している間だけ
自分を肯定することができる。

その幻想は、達成か挫折、いずれかへの到達を以ってしか終わらせることはできない。

どこか歯痒いものを感じながら先へ進むと、そこには開けた部屋に細身の剣が一振り。
細工や家紋、装丁など一目見た瞬間"キャッシュバック"という単語を彼女に閃かせるが、
この剣だけでという疑問に頭の電球は点灯不良気味だ。

70 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/09/08(木) 21:15:45.02 0
>>「うーん……、課長の話では豪邸百軒が余裕で建てられる額って話だったのだけど。」
横で聞こえた女剣士の呟きに、彼女の懐疑的な思いは強まり気持ちも強引に切り替えさせられる。

だいたい金持ちはどこかで致命的に頭が悪い所がある、とダニーは心中で愚痴を漏らす。
一つの物に全財産分の価値をつぎ込んでそれだけの価値を物、例えばこの剣に換えたとしよう。
全財産分の価値がこの剣にはあるが、この剣からどうやってそれだけの価値が生まれるというのか。
有態に言えば、どうやって剣から金やその元となる資産に戻すかということだ。


金を注ぎ込んでそれだけ費用のかかった剣を作っても、結局は一振りの剣に過ぎない。
現にこうして男女三人まんじりともせず手をつけることさえできておらず、
下手をすると全員取りっ逸れる怖れさえある、びた一文の分配さえ覚束ないではないか、
金で出来ることを金でできた剣ができるとは限らないのだ。

しかしそんな文字通り採算のつかないことを金持ちはすまい。となればどういうことか。
こういう高価すぎて最早高価なのかどうかも分からない物を取り扱うどこか頭の悪い人種はいる。
奇しくもメニアーチャ家と同規模の相手の墓がここにもある。偶然と考えるには却って不自然だ。

ここまでのダニーの考えはこうだ。有事の際は換金もしくは税金逃れを行うために、
もう一方の墓にはこの剣と等価になるような金品が納められているのではないかと。
なんとフレキシブルなことか、などど勝手に納得しそうになっているとノイファは言う。

>>「フィン君、ダニーさん。これは最後の罠よ。
 この剣自体も結構な価値がありそうだけども、おそらくそれ自体が財宝ではないわ。
 多分、どこか別の宝物庫の鍵……いいえ、きっとそう。
 帝国史で習った覚えは無い?重税から財を守ろうとした商人達の知恵よ。」

常々懐が大自然に近い彼女は、その考えは無かったなと感心する。
ついでに言うとダニーは教導院中退の身である。習った覚えも無い。

取り敢えずフィンの傷の手当をしたほうがいいのではとノイファに促す。
骨が割れてはいないので、最悪折り直せばすぐ治るだろう。
剣の方もこれを三分割というふうにはいくまい

「・・・・・・」
それからしばらくの間思案に暮れた後、クローディアに聞くか、とダニーは呟く。
確かクローディアはこの家の縁者らしき今回の依頼主だと二人に説明した。

71 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/09/08(木) 21:18:32.57 0
剣の処遇も決めかねるので、この家の者に聞いたほうが早いと思ったのだ。
今はギルゴールド家の方に行っているはずだと付け加える。
クローディアが彼らと面識があるとは知らず、ダニーは事も無げに話す。
ノイファも家紋付きの剣を持っていたが、こちらもまあ偽物とかではないから大丈夫だろう。

とは言っても引き返すにしろこの部屋から脱出経路らしきものが見当たらず、
来た道を引き返すのも今となっては厳しい。自分で蒔いた雪だがどうすることもできない。
合流するにしても道は塞がっており連絡手段や部屋の位置関係等も把握できていないのも不味い。

「・・・・・・・・・」
ダニーはノイファたちに何か外に連絡できるような手段はないかと聞く。
何にせよこのままでは立ち往生だ、こんな時にジョナサンがいれば少なくとも
出口くらいはなんとかなりそうだったのだが、いないのでは仕方ない。

することも特に無いので、ダニーは改めて二人を見た。自分より年上のようだが
まだピークは過ぎていないように見える。さっきの手応えから分かったことだが
この二人はまだまだ強くなるだろう。その確信が、彼女のある欲求を刺激する。

ー彼らに「気」を教えてみたいー

闘いにおいて、いやそれ以前に身を護るという点で考えても、相手の成長を促すことは
自殺行為である。それでもダニーはもっと先にいる二人を見てみたいと思った。

"強くなる奴を強くさせない方がいい"昔は彼女もそう考えていた、それは逸れることにもなる。
しかし師である父は言っていた。"皆が一歩進むために、誰かが百歩損することはない" 
選ぶことを止めてあげるなと諭されたものだ。

幸か不幸かダニーは百歩進んだ。今でもあの言葉を「甘い」と思うことがある。
にも関わらずこんなに他人に関心を持つのも、一重に彼らの強さに惹かれたからだ。
そしてそれ故に、もどかしい。

やはりダメ元で、言ってみようか。彼女は道場に勧誘する言葉でも考えることにした。
現状も自分の出来そうな事は見当たらない以上じっとしてるくらいしかなかった。
(・・・)
まあ果報は寝て待て、待てば海路の日和ありとも言うしな、とダニーは思った。

【剣について聞く為クローディアに会うことを二人に提案、二人を勧誘しようか考え中】

72 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/09/09(金) 01:06:18.43 0
>>61>>66>>68
自由落下に入って数瞬ののち、ファミアはちょっと飛距離が足りないことに気が付きました。
このままだとウィレムの上に落ちます。ということは、すでにそこに座を占めているフランベルジェに串刺しにされてしまう可能性があるのです。
慌てて手で風をかいて、空を泳ごうと試みました。
(あっ!ちょっと進んだ!)

奮闘の結果、誤差の範囲で落下点がずれたところで着弾。ファミアの体は館崩しをかすって、見事にウィレムの腕の中に収まりました。
二人分の体重を受けていたワイヤーが、三人目の体重と重力加速度まで加えられて大きくたわんで、
そうして返ってきた『お釣り』は期待したほどのものではありませんが、少なくとも用には適いました。
虚空を貫いた一撃の上にウィレムが降り立ち、そのまま走り出します。フランベルジェと、ファミアを連れて。

「えっ?」
後退するはずだったのになぜ離した距離をまた戻っているのだろう、と考え終わる前にファミアの『発射地点』へ。
「えっ?」
即座にそこを通り過ぎて、飛翔機雷の発射管近辺へ。状況が整理できずにいるファミアを置き去りに、立て続けの爆発が船体を揺るがしました。
「わっ」
爆風に押された二人を反射的に受け止めて、その衝撃で摩擦係数の低い船殻上を押し戻されて、そこでようやく一段落。
フランベルジェが念信機で課長を呼び出しますがいらえは無く、代わりと言うわけではないのでしょうが横手から轟音が聞こえました。

首を巡らせてそちらを見れば、船が綺麗に突き刺さっています。そして、強行接舷したまさにそのままの状態から砲撃を始めました。
その絵面のインパクトが強すぎて逆の舷側にいるスイには気が付きません。
船からは切り込みも行われているようで、砲声や風吼に混じって怒号と金属音が聞こえてきます。
拿捕されるまでもう幾ばくもないでしょう。クラーケンの上に留まっている三人に声がかけられたのは、ちょうどそんな時でした。

>『頑張るのうおまんら。ところでこういうものを拾ったんじゃが、お気に召すかのぉ?』
戦況から眼を剥がしてそちらを見ると、なんだかやたらと黒光りしている人間と、肩を支えられたもう一人の姿が目に入りました。
金属的な声だなあ、とファミアは思いましたがそもそも体が金属です。もう一人は――

73 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/09/09(金) 01:07:15.22 0
>「か、課長!」
経緯を知らないファミアには何がどうなってここにいるかはわかりませんが、フランベルジェの叫びの通り、それはブライヤー課長でした。
怪我をしていますが、それ自体は命に関わるほどの深手というわけではないようです。
意識はないとはいえ、呼吸は自発的に行われていますし、そのリズムがおかしいということもありません。

>『大破したゴーレムにしがみついて漂っとるのをうちの監視班が回収したんじゃ。腕章からしておまんらの仲間じゃろ。
> 仲間は大事よな、ワシもよくわかる。なぜならいまワシは、部下を逃がす為の時間が欲しいからじゃ。
> ――じゃけえ、露骨に時間を稼がせてもらう』
言うなり鉄男は課長を放り出して、そのまま船殻へ「沈んで」行きました。
露骨な時間稼ぎという割に、特段目立った行動をとったわけではありません。
こう入った状況下で取られる手段はなにか。ファミアは幼年学校での講義を思いだしていました。

「多分……罠です。遺棄された装備や友軍の負傷者を動かしたら、押さえられていた仕掛けが動いたりするたぐいの」
倒れた課長に慎重に近づいてみると、探るまでもなく術式の記述が垣間見えました。
こういう時に使われるのは、示威効果も狙った爆破系がほとんどです。迂闊にどかせばもろともに木っ端微塵。
重量感知式ならごまかすのは容易ですが、明らかに魔力式です。

「じゃあ、畳みましょうか」
ファミアはさらっと言ってのけました。つまり、動かすと危険なら動かないように固定してしまえばいいわけです。
船体内部の損傷の修復に回しているため、外殻は非常に薄くなっています。
術式本体を下手にひん曲げてしまうと暴発の危険があるので、少し気を使うところはありますが、
ファミアの力であればたやすく引き剥がせるでしょう。
それで課長をくるんで安全を確保したら、あとは後退して術式の処理です。

作業の終了後、フランベルジェは進入路を確保。崩剣ならば一挙に中枢区域まで貫き通せるでしょう。
ウィレムは突入して敵の撤退を阻止。ひたすらに機動力が求められるこの状況、他に任せられる人材はいません。
そしてファミアは課長の後送。成人男性に鋼板の分も足した重量を支えて、普通に動きまわるのは他の二人には無理なこと。
一分の隙もない完璧な役割分担です。

ファミアは自身の腹案を掻い摘んで二人へ伝えました。
もちろん、大手を振って戦闘から遠ざかれるとか、上役を直接救助したということで心象が良くなるのを期待したりとか、
そんな打算にまみれていることは言うまでもないことなのですが、それはまったく面に表れていませんでした。



【課長にスモールパッケージホールド】

74 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/09/13(火) 00:11:57.80 0

そうしてとうとう開け放たれた扉。その先には……何も無かった。
金銀財宝、煌めく宝石、至宝の美術品。おおよそ金銭的な価値がありそうな物は一切無く、
ただ、其処に存在していたのは、たった一振の剣であった。

「おおっ。ひょっとして宝は、伝説の剣だったりすんのか?
 だとしたら、すげー格好いいじゃねーか」

扉の内部に踏み込んだ時点で体力が尽きたのだろう。
フィンは岩壁にその背を預け、力尽きたかの様に座り込んでいる。
それでも尚、台座に鎮座する剣を見て笑みを浮かべるのは、その気性故にだろう。
だが、現状においてそんな笑みを浮かべている人間はフィン一人。

>「フィン君、ダニーさん。これは最後の罠よ。
>この剣自体も結構な価値がありそうだけども、おそらくそれ自体が財宝ではないわ。
>多分、どこか別の宝物庫の鍵……いいえ、きっとそう。
>帝国史で習った覚えは無い?重税から財を守ろうとした商人達の知恵よ。」

「……んー。そういや、俺も昔そんな話を聞いたな気がすんなー。
 俺、勉強とかの時は大抵寝てるから、すっかり忘れてたぜ。
 英雄譚とかなら暗唱出来るんだけどな」

同行していたノイファとダニーは各々に真剣な表情を作り、剣に対する考察を開始していた。
ノイファの推理によれば、この剣は財宝の在りかに対する何らかのキーであるという事。
そして、奇しくもその推理は先ほどまで敵対者として対峙していたダニーが齎した情報によって
その信憑性を補足される形となった。

ダニーの口から語られた事とは、彼女の雇用主がかつて遊撃課が対峙した
クローディアという女性だという事。そして、そのクローディアはギルゴールド家の墓標へと
向かっているという事。

「あー……つまり、クローディアはこっちの部屋にあるのが鍵だけって知ってたから、
 もう一個の部屋へ向かったって事か?鍵は力づくで何とかする算段で……んん?
 ああっ、わっかんねーぜっ!!」

フィンの頭には既に幾つものクエスチョンマークが浮かんでいる。
趣味の冒険で謎解き等はなれているが、こういった商人同士の詐術に対しては疎いのだろう。
座り込む姿勢のまま暫く頭から煙を出していたフィンだが、結局、自身には理解が難しいと見たのか、
やがて背中を岩壁から外し、地面に大の字で寝そべる。
……ちなみに、大の字といっても片腕が折れているため、通常の人体では表現不可能な文字になっているのだが、
あまりの激痛の為脳内麻薬によって鎮痛されているのか、フィンはさほど苦しそうには見えない。
やがて、無事な方の手を自身の額に当てながら、口を開く。

75 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/09/13(火) 00:12:47.21 0
「まあ、何にせよダニーが言ったみてーに、クロなんとk……クローディアに会って
 話をしてみた方が早いかもしれねーな。宝をどうするかはそれから決めても遅くねー。
 ……けど、まずはこの入口をどうすりゃいいか、だよな。
 ていうか、こんな構造で剣の元の持ち主が間違って罠を作動させてここに迷い込んだらどうなるんだ?
 ひょっとして内側にスイッチでもあったりすんのか?」

フィンは大の字になったまま頭だけを動かし、自分達が入ってきた入口を見る。
先ほどまで開かれていた扉は……今や、新たな扉。転がってきた岩石によって封鎖されていた。
頑強なその岩は、どう見てもフィンが殴る蹴るをした程度で破砕出来るようには見えない。
この部屋から外に出られないのでは、クローディアに会うも何も無いだろう。

フィンは岩石を見つめつつ、眉間に皺を寄せうんうんと唸りながら何事かを考えていたが……
やがてパッと表情を明るくし、キラリと歯を光らせつつ「いい事を思いついた」とでも言いた気に口を開く

「なあなあ、ダニー!お前さっきのすげー技ってもう一回撃てるか?
 俺にはあんな岩を壊すなんて出来ねーから、もし出来るならお前が岩破壊してくれ!
 んでもって、もし出来ねーならさっきのあの技、俺に教えてくれ!
 そしたら、俺があの岩ぶっ壊して見せるぜ!!」

フィンが思いついた事は、やはりろくなものではなかった。
少し考えれば判るが、ダニーが先ほどの技をこんな密閉空間で放てば、
ノイファと傷だらけのフィンはまとめて氷付けになってしまう事だろう。
そして、先ほどの技。あんな物を一朝一夕の練習で身につけられる筈が無い

ちなみに、フィンは知らないが、先ほどダニーが用いた「気」という概念は
少なからず才能に影響される。そしてそうである以上、凡百の才能の持ち主ではない
ノイファとフィンならば、僅かな確率であれ、その技巧を極めるとまでは
いかないものの、身につける事くらいは可能かもしれない。

フィンは背筋をバネに立ち上がると、フラフラとした足取りで入口を塞ぐ大岩の前に立つ。
まるで早く教えろと言わんばかりに無茶を見せる。

【フィン。クローディアとの合流を容認。気で岩を壊せないか尋ねる】

76 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/09/15(木) 07:26:48.59 O
ゆっくりと風を操りながら空中を移動する。
時々足を止めては鎌鼬を出して、船体を傷つけていく。

「んー…血が足りないなぁ…船攻撃すんの地味だ。人殺りてぇ」

つまらない、そう呟きつつもアルテリアの指示のサポートに徹する、と決めたことはやめない。
傭兵の期間が長かったせいか、上の命令に従うことが体に染み付いている。
溜め息を吐きながらも、移動を止めた。
その瞬間、風が異常な早さで接近してくる。
咄嗟に風で自分の体の至近距離に障壁を張る。
障壁に飛んできたものは接触し、爆発した。

「っ、ガッ!!」

爆発の衝撃をモロにくらい、体が後ろに吹き飛び、海へと落下する。
海面スレスレで風を発生させ、どうにか体を受け止める。

「へぇ……イイ真似してくれるじゃん…そういう不意打ち、大好きだぜぇ」

恍惚とした笑みを浮かべながら体をわずかに起こした。
そして、そのまま体を海面スレスレのまま飛行させ、先ほど自分を撃とうとした発射筒の上に乗る。
ボウガンを手に納め、矢の先を自分を狙った男性の額に突きつけ、ニタリと口端を上げた。

「あの初速…普通じゃできねぇよなぁ?なぁ、教えてくれよ。さっきのこの船の変形といい…
お前らのとこに、鉄関係を操れる異才の奴がいないかい?」

突きつけられた矢は男性の返答次第によっては、その頭を撃ち抜くだろう。
久々に血が見れる悦びにスイはますます笑みを深くした。

【狙撃手さんに質問】


77 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/09/16(金) 20:47:47.93 0
「そうしたいのは山々なのだけど、彼は――」

フィンの手当てをしてはどうか、という至極当然なダニーの提案。
それに答えを返そうとノイファは口を開き、しかし頭を振る。

「――いえ……ええっと、そうよね。
 フィン君、ちょっと良いかしら。痛いと思うけどじっとしててね。」

言われるまで気が付かなかったことに深く悔いる。
フィンが負傷していることを忘れていたわけではない。
ただ、あらゆる魔術を阻害するフィンの体質を知っていたが故に手を拱いていた。
あらゆる負傷を神聖魔術に頼って治療してきた弊害。応急手当という考えが端から抜け落ちていたのだ。

「ごめんなさい……気付かなくて。
 とりあえずこんな所かしら。どう、きつくない?」

剣帯につながる鞘の止め具を外し、引き抜いた鞘を折れた腕にあてがい、止血布でぐるぐると巻き付ける。
やや不恰好に過ぎる風ではあるものの、固定するという目的は一応果たせただろう。

「さて……問題はこっちよねえ。」

うんざりとした様子で立ち上がるノイファ。
いかに重税対策とは言え録でもないことを考え付くものだと、多分に恨みのこもった視線を投げかけ、溜め息を洩らす。
三人寄り合い、頭を悩ませたところで一向に処遇は定まらないままだ。

>「・・・・・・」

思案に暮れること暫し。依頼主に聞くか、とダニーが口を開いた。

「メニアーチャに縁があるって……、もしかしてクローディア=バルケ=メニアーチャのこと?
 あらら。それが本当だとすれば、今頃向こうは一悶着ありそうだわね……。」

脳裏に浮かぶのはダンブルウィードで対峙した、一人の勝気で瀟洒な少女。
ダニーの雇い主が彼女であり、ギルゴールド家の道筋を辿っているのだとしたら、ルインはともかくサフロールとの衝突は免れまい。

とりわけ厄介なのはその能力だ。貨幣を媒介としての召喚術。
それを用いれば、先刻どうにか踏破したトラップ群を丸々再現することさえ可能だろう。
戦闘経験の少なさを補った場合、かなり厄介な手合へ化けることは想像に難くない。

>「あー……つまり、クローディアはこっちの部屋にあるのが鍵だけって知ってたから、――」

ダニーの言葉を受けフィンが疑問符を浮かべる。

「うーん……どうかしらねえ。鍵があるって分かっていたのなら力づくでどうにかって発想には至らないのじゃないかしら?
 多分クローディアさんも鍵の在り処までは知らなかったんじゃあ――……って、ちょっと待って。」 

"鍵"、"隣接した土地"、そして"ギルゴールド家前党首の人と為り"。
強欲を絵に描いたようなギルゴールド家前党首が、財産を入れた特殊な金庫と共に、大強襲で果てたことは噂に聞いている。
ならばギルゴールド家の宝物庫に収められているものは何だろう。ばらばらだった欠片が一つに嵌っていく感覚。

「そうよ、そうだわ。それ以外考えられない。隣接してるんじゃあない。
 二つで一つの、両方合わせてメニアーチャ家の宝物庫ってことでしょう!?」

元からそうなのか、結果そうなったのかは判らない。ギルゴールド家が造った墓地の一角を間借りしているだけかもしれない。
だがそれは些細なことだ。目的の財宝はギルゴールド家にこそ有る。
ノイファは興奮冷めやらぬ風で言い放つ。

78 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/09/16(金) 20:48:19.77 0
(とは言ったものの……そうなると)

今度は入り口を塞ぐ岩が行く手を阻む。
破壊するなり、動かすなり、退かさないことには宝物庫から出ることも間々ならない。

>「・・・・・・・・・」

ダニーから再度の提案。
今度は外への連絡手段が無いかということだ。

「ええ、有るわ。有りますとも。全くもう、ダニーさん貴女最高だわ。
 遊撃課にスカウトしたいくらいよ。」

掛け値なしの賞賛を告げ、ノイファは早速バックパックから念信器を取り出す。
早速サフロールと連絡を取りたいところだが、まずは状況の報告が先。
オーブの表面に指を滑らせ、ボルトのそれと同調させる。

『こちら探索班。フィ――じゃない、ノイファ・アイレル。聴こえますか?』

しかしいくら待てども、何度繰り返そうとも、返信は皆無。

「うーん……おかしいわね。地盤の崩壊で上手くつながらないのかしら……。」

よもや話に聞いた"湖の主"と遭遇したのだろうか、などと荒唐無稽な発想が頭を過ぎる。
所詮噂は噂だ。ウルタール湖だけに限った話ではない。それなりの規模を誇る場所には付いて回る類のそれなのだ。

>「なあなあ、ダニー!お前さっきのすげー技ってもう一回撃てるか? ――」

視線を巡らせると、フィンが塞がった入り口の前に立ちながら、ダニーへ岩の破壊を催促していた。
それだけではない。奥の手である技の伝授まで乞う有様だ。

(いくらなんでも無理だと思いますけどねえ……)

他ならぬダニーがそれを望んでいるなどとは露程にも考えてはいない。
今でこそ寄り合い、同じ悩みに頭を抱えてはいるが、元は敵同士なのだ。

「……えーと、取り合えず"扉"の方は任せるわ。色々調べておいてちょうだい。」

乾いた笑いを交え、二人へ告げる。
どうにもならないようなら、相応の犠牲を払う必要はあるが"轟剣"で削りきるという手段も無くはない。

(さて、今度こそつながって下さいよ……)

気を取り直し、今度はサフロールの念信器へと同調。
再び指をオーブの表面へ、割り当てられた簡易紋様をなぞり、機能を呼び出す。

『サフロール君、聴こえる?こっちの状況を説明するわ――』


【ノイファ、サフロールへ念信。伝えるのは
 @「鍵と思しきレイピアを発見した」
 A「ギルゴールド家の墓地が本来の宝物庫ではないか」
 B「メニアーチャ家に連なるクローディアがそっちに向かっている」の三本です。】 

79 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/09/19(月) 20:19:11.65 0
「・・・・・・」
ノイファがフィンの手当を始めるのを見て、ダニーはもっかい折り直そうか、と
冗談を言う。見た感じでは割と素直な折れ方をしてるので、
手段の一つとして有りといえば有りだろう。

自分がクローディアの名前を言ったことに対してノイファが示した反応により、
ダニーは彼女たちがクローディアと何らかの脈が有ったのだと知る。
相手方は家紋付き(多分本物)の剣を下賜もしくは貸与された者である以上、
クローディアのことを知っていても不思議はない。図らずも雇い主の身元の確認がとれた。

思い起こせば彼女は確かにここの罠のことを知っている様子で自分に忠告をしてきたし、
ナーゼムとそれっぽい会話もしていた。二人は今頃どうしてるだろうか。
ダニーが案ずる一方でフィンの疑問を受けてたイファが推理を更に詰めていた。

>>「そうよ、そうだわ。それ以外考えられない。隣接してるんじゃあない。
 二つで一つの、両方合わせてメニアーチャ家の宝物庫ってことでしょう!?」

説明を受けるとたぶんこんな感じだった。隣の墓はギルゴールド家だが実は
メニアーチャ家のお宝がそこに隠されていて、この剣がその宝を見つける鍵になっている。


偶然なのか故意なのか結果は手の込んだことになったものだ。正直かなり面倒くさい、
これでもう片方まで徒歩で調べ直しならうんざりしていたところだ。
こちらの外への連絡するという提案にお褒めの言葉を頂戴したところで
フィンが手品をねだる子供のような事を聞いてきた。

>>「なあなあ、ダニー!お前さっきのすげー技ってもう一回撃てるか?
 俺にはあんな岩を壊すなんて出来ねーから、もし出来るならお前が岩破壊してくれ!」

そうしたいのは山々だが、こちらも見かけよりかなり疲労している。もう一度打つのは
骨が折れるし、戦う余力も残らないだろう。何よりアレはゴーレムなどの対人外用の
技だ。先程の通路の件からも分かるように安全圏を要するのだ。

ここで放てばよしんば岩を壊すか動かすだけの威力を発揮できたとしても、
その間に此方側が内に篭った余波でどうなるか知れたものではない。
短い間に渋るダニーに対してフィンは更に続けた。

80 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/09/19(月) 20:22:06.46 0
>>「んでもって、もし出来ねーならさっきのあの技、俺に教えてくれ!
 そしたら、俺があの岩ぶっ壊して見せるぜ!!」

どうも今年に入ってから色々上手く行きすぎな気がしてダニーは耳を疑った。
それは願ってもないことだが、ここで彼女は悩む。どうする、と

この好機を逃す手はないとがっつくべきか、それとも引かせぬようあくまで
冷静に務めるべきか、逡巡を挟みダニーは前者を取ることにした。
もとより望みの薄い戦いだったのだ、ここで臆してはならない。

フィンは扉へと歩いて行きノイファは誰かと通信をし、こちらに任せると言ってきた。
お膳立ては整った。ダニーもフィンの元へと歩いて行き、まずは質問に答える。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
恐らく壊せないし、さっきの技も覚えられないだろうと言う
あれは魔法じゃなくて「気」だからと付け加えて。

「・・・」
懐から実家の寂れた道場の地図が書かれたチラシを取り出すと、
それをフィンの止血布へと挟む。自分は基本週一でそこにいるので、
気を覚えるつもりなら来るといいと告げる。

流石に模範囚も三年目に突入するとそれなりの自由が手に入る。
何気に初めて男を家に連れ込むことになるかも知れず、内心緊張しているのは内緒だ。

「・・・・・・・・・」
気には人それぞれの属性がある、お前も氷とは限らないだろうと否定の程度を
軽くする。なるべく簡単に、分かりやすく、棘のないよう言葉を選んで説明していく。
見たほうが早いか、とフィンに言うとダニーは彼のまだ動く方の腕を掴む。

一時的にフィンの腕周りに自分の気を注いで、百以上の力を出せるようにする。
これだけで傷が治ったりはしないが調子が良くなるのは感じるかも知れない。
あくまで「気」が多すぎて体調を崩すのは「自分の物」にしたときだけで、
外から注がれても基本は駄々漏れになる。
そしてその漏れた気が注がれた当人の体というフィルターを通るとき、属性は顕になるのだ。

81 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/09/19(月) 20:24:10.13 0
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
手に神経を集中するよう注意しつつ、練り上げた気を腕に流していく。
これから強制的に撃たせるから、その時に属性を判断するのが狙いだと告げる。

「・・・・・・」
何も出なければ貯蓄型で使えない訳じゃないから、落ち込むなと
フォローも忘れない。表情こそ変わらないがダニーは必死だった。

フィンを逃すまいという気持ちもさることながら、この作業もまた難しかったからだ。
気を自分以外の体に送る事は「暗勁」と呼ばれる技術の応用だが、
破壊せずに送り効用を齎す「活勁」とするには一層の技量と集中が必要となる。


受ける方に行うのは纏わせるのではなく注ぎこむこと、
言い換えれば外からかけ流すのではなく、内から溢れさせることが大事であり
それ故に、傷ついたフィンに気を一部だけとは言え溢れるようにするのは一苦労だった。

(・・・・・・)
そろそろのはずだがやはりこの男、尋常ではない。
体力の総量が常人の比ではなかった。自分と比べてもほぼ遜色が無く
彼の強さへの可能性を見ていると、不意に昔の事が思い出された。

『いいか、初めは大したものは出ないだろうが、それは間違いなくお前の力だ。
その力を伸ばしていけばいい、望む力にしていけばいい、良く見てろ』

我知らず呟いた言葉は果たして誰のものだったか、
フィンの腕に気を注ぎ終えたダニーは静かにその結果を待った。
この切っ掛けが彼と自分にどう転ぶのか、それはまだ判らなかった。

【ダニー、フィンに気の「手」解き】

82 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/20(火) 03:02:09.01 0
>「舐めてんじゃ……ねえぞクソアマがぁ!」

クローディアの術式を受けたサフロール、その怒号に満ちるは攻性の魔力。
感付いたナーゼムがクローディアをかばうようにして一歩前へ出る。彼もまた遺才の魔力を四肢に充溢させようとしていた。

>「……ふん、テメェを見捨てて状況を打破するなんざ、凡人のする事だ」

が、攻撃は来ない。
ぎりぎりでクローディアの遺才が支配権を獲ったのか、――はたまた純粋なサフロールの心境の変化か。
ことを構えずに済んだ安堵でクローディアは息をつき、既に体毛を増やしつつあったナーゼムの背を撫ぜて鎮めた。

>「……俺達は遊撃課、要は国の使い走りの犬ころって事だ。間抜けで業突く張りの商人共が隠した金を、
 真っ当でろくでもねえ使い道に乗せる為にここまで来てんだ。もう少しいたわってもらいてえな」

「……遊撃課?来いたことないわね、お国のパシリがこんな墓荒しみたいなことするってフツーありえる?
 疑ってるわけじゃあないのよ。だってあたしの遺才は嘘を言わせないもん。でも、いっくらギルゴールドがポシャったからって」
「次期当主は帝都で東奔西走しているようですが」
「て言ってもウルタールに沈んだ分については『所有権を放棄してる』のよ?大して残ってないもんだと思ってたわ」

クローディアは顎を指先で叩きながら唸った。
メニアーチャもそうだが、基本的にウルタールの事件で失った財については回収不可能として放棄している。
下手に自分で回収しようとすればまたとんでもない資金が必要になるし、ならば形だけでも『復興予算』に充てたほうが、
他人に対する耳触りは良いものだ。――それが庶民相手であれ、元老院の貴族たちであれ。
それはあくまで形だけの話であり、形骸化した理屈だ。国家事業の手を入れるには、ニ年の歳月はあまりに長い。

「――今まで放置してた事業に今更ながら着手する理由ってなによ。キナ臭くなってきたわね……」

サフロールの言うことが事実だとして、国家機関が動くにはそれなりの『大義』が必要だ。
逆説的に言えば、『復興予算をサルベージする』という大義さえあれば、公的に一部隊をこのウルタール湖に投入できるわけで。

「湖で戦争でもやらかそうと言うのでしょうか。あるいは討伐。湖賊が蔓延っていると聞きますし」
「それこそ観光協会が傭兵でも雇えば済む話でしょ。重要なのは、『国の意志』そこに関わってるってことよ」

>「で、帰り道は……テメェのその、銅貨一枚ほどの価値もねえ見すぼらしい胸とは反対方向だ。
  分かるか?つまり不愉快過ぎて賠償金もののテメェの惨めなケツが向いてる方だぜ。
  つーかテメェ、つまるところ迷子なんだろ?だったら素直にそう言えよな。みっともねえ」

「なんですってーーーっ!?賠償請求すんのはこっちのセリフよ!アンタじぶんがどういう状況かわかってんの!?」

>「そうそう、こっちからも一つ質問だ。テメェがそうも貧乏臭え身なりしてやがんのはどうしてなんだ?
 いっそグロテスクとすら言えるその体が目に毒だと訴えられでもしたか?
 可哀想になぁ。そんな風に作っちまった神様相手に訴訟でも起こしたらどうだよ」

「きいいいいいいいっ!ほ、本家の連中にもそこまで言われたことなかったわ!国に飼われた労働者の分際でーーーっ!
 土地耕すしか能がないプロレタリア如きが面白い脳みそしてるじゃない!気に入ったわ!あの世でも小作してなさい!」

直情に従うままクローディアは手製の投石機で適当な瓦礫を発射した。
当たらない。どころか明後日の方向へと跳んでいく石。ついでに投石機のほうも一発で壊れてしまった。

「あーもう!金かけてない道具ってどうしていつもこうなのかしら!こうなったら赤字覚悟で――ん、」

気づいたときには、首周りに茨が巻き付いていた。
どころか四肢と胴体にも同様の拘束が発生している。見ればナーゼムも同様に戒められていた。

「これは……"血"ですね。あのプロレタリアの術式でしょう、見るからに魔術師タイプです」

ナーゼムは鼻をスンと鳴らしてから、努めて冷静にそう分析した。
遺才の関係で感覚器官が人よりも数段優れている彼は、相手の力量や好む戦術まで大まかに推測できる。

83 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/20(火) 03:03:01.86 0
>「……さぁて、と。それじゃあもう少しばかり質問させてもらおうか。
 本家の人間しか開けられねえのはよーく分かった。だがテメェらが本家の人間とも思えねえ」

「分家どころか、家が違うわよ!先代とはちょっと知り合ってたけど、あの人死んじゃったし!」

律儀に答えるのは打算によるものではない。単純に怒りによる興奮が思考力を削いでいるのだ。
隣でナーゼムが目頭を揉んでいたが、視野の狭窄した彼女は気付かない。

>「何かアテがあるんだろう?そいつを教えてもらおうじゃねえか。
  ……まさか何のアテもなくここまで潜ってきた訳じゃねえよな?」

「………………。」

そこでクローディアは黙った。血の茨に炸裂術の魔力が通っても、恐怖は彼女の顔色を変えない。
己の危機に思考停止したわけではない。確定した敗北に観念したわけではない。
純粋に「コイツは何を言っているのだ」という感情はすんなりと顔に出る。

「アテもなにも、あたしたちは別にこんなとこに用があってきたわけじゃないわよ。貴族が墓荒らしなんてするわけないじゃない。
 いい?あたしたちはもっと崇高でノブレスでお金になること――この湖に巣食うとされる伝説の水龍を探しに来たのよ!!
 その神出鬼没さからぜったいにどこか穴蔵にねぐらがあると踏んだあたしたちは、こうして洞窟探検してるってわけ。
 でも途中で原因不明の鉄砲水があったでしょう。あれのせいでルートを外れて、今この体たらくよ」
「ああ、クローディアさん、そんな聞かれてないことまでペラペラ喋っては……」
「だってしょうがないじゃないナーゼム!あたしは金を払ってそこの公務員から話を聞いたのよ!
 お金の取引は誠実じゃなきゃいけないわ!ちゃんとこっちの事情は通しておかないと、今後のビジネスに響くのよ!」

言うや、クローディアは己を拘束する血の縛術を剥がしにかかった。
普通に手で掴んで、引き伸ばすようにして隙間を作って四肢を抜いていくという極めてアナログな方法で。
爆殺を恐れていないわけではない。ただついさっきの攻防から、サフロールが無為な殺人を好んではいないことを彼女は知った。
こちらは十全な情報を与え、かつ真相には至っていない。サフロールにとって彼女たちは未だ『詳細不明』のままなのだ。
それはクローディア側としても似た状況だが、ならば立場は対等でなければならない。信用の取引はフェアでなければ成立しない。

「……ふん、結局お互いに求める情報はナシってわけ」

空になった血の縛鎖を床に放り捨てて、クローディアはつかつかとサフロールへと歩み寄った。
無理やりに脱出したので、質素ながらも清潔だった衣服はところどころが破れて真っ白な素肌が露出している。

「いいわ、一緒に考えてあげる。ギルゴールドの金庫好きは帝都でも屈指の変態ぶりだったわ。
 きっとこの宝物庫もドヤ顔確定のオモシロ可笑しな仕掛けに満ちてるに決まってる。想像力を使いなさい、ド肝を抜きまくるのよ」

テンションの赴くまま、傍にあった壁をぴしゃりと叩いた。
相応の出ごたえが返ってくるところに、何故だか深く深く音が響いていく。
まるで壁一枚向こうに空間が広がっているように。そしてその壁は、見た目から想像するほどに厚くはないようだ。

「……これ、普通に壁ごとぶち抜けば金庫の中身を拝めるんじゃないの?」

クローディアは与り知らぬ知らぬことだが、ギルゴールドとメニアーチャ、両家の宝物庫は隣接していた。
彼女が叩いたのは丁度両家を隔てる壁であり、その向こうにはノイファ、フィン、ダニーの三人が存在していることには、
いくら聡明な彼女とて気付きようもない。ただサフロールの念信機が受信すれば、その発信源が存外に近くであることが分かるだろう。

具体的に言えば、両チームを隔てるこの壁さえ崩すことができるならば、彼らが再び合流することに不足はないのだ。
ただし薄いと言っても何百年と地下に形を保っているほどの壁だ。そう一筋縄に突貫することは難しいだろう。

【クローディア、サフロールの拘束を手動で離脱。洞窟からの脱出経路を確保させる目論見で共同戦線を提案】
【メニアーチャの宝物庫とギルゴールドの墓はクローディアの叩いた壁を隔てて隣接しています。
 頑張って殴ってればそのうち貫通するかも。もちろん両側から掘り進めても時間短縮できます】

84 :宇宙最強絶対無敵井戸魔神 忍法帖【Lv=8,xxxP】 :2011/09/20(火) 06:29:22.55 0
TRPGは大好きですよねー!?♪。

85 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/21(水) 04:45:33.37 0
「課長、今お助けに――」

思わず踏み出しかけたスティレットを制したのは、ウィレムに抱えられたままのファミアだった。
素の防御力に長ける彼女は遠慮なくボルトの身体に近づき、その状況を見聞する。

>「多分……罠です。遺棄された装備や友軍の負傷者を動かしたら、押さえられていた仕掛けが動いたりするたぐいの」
「ど、ど、ど、どうすればいいのでありますかぁーっ!?」

スティレットの脳裏にいくつかの解決策が浮上する。
崩剣で上手いこと術式のみ破壊――触れられない"術式"を斬る技術は彼女にはまだない。
吸着符が余ってるのでボルトの身体を固定――この後盛大に破壊活動する中で誤爆しそう。
ウィレムの脚力で起爆する前にダッシュで奪取――あまり上手くない。

>「じゃあ、畳みましょうか」
「えっ」

ファミアが提示した解法は、スティレットの全ての想像の斜め上をいく仕上がりだった。
おもむろに船殻に指を突き入れると、ボルトの身体と術式を周りの鋼ごとベリベリと剥がし始めたのだ。
しかも素手、工具も無しに。瞬く間にクルクルとボルトの身体を鋼で巻いてしまうと、それを担ぎ上げて踵を返した。
あまりにシンプル、それでいて大胆すぎる対策にスティレットは感嘆も束の間、

「撤退でありますか、了解であります。でしたらわたしはバリントンどのと、しんがりとして中でひと暴れしてくるであります!」

ピシっと敬礼して剣を振り上げた。
今、ファミアが剥がした鋼板は再生を始めているがその速度は極めて鈍重になっている。他にもっと大きな穴が開いているからだ。
今なら仮借なく壊せる。その事実だけで仕事のモチベーションには事欠かない。

「行くでありますよ、はいやーーっ!!」

ウィレムに再び肩車として騎乗し、スティレットは崩剣の一撃を船殻に叩き込んだ。
まるで水柱が立つかのように鋼の破片が噴火し、いくつもの内部の階層を貫通して剣撃が船内を蹂躙していく。
再び空けた大穴に、ウィレムごとスティレットは飛び込んだ。

 * * * * * * * 

「……………………」
「……………………」
「……………………」
「何か言わんかい」
「いやだって、あんなやり方でトラップ解除とか聞いたことないですよ!心臓に毛でも生えてるんじゃないですか!?」
「ていうか解除すらしてないしな。完璧に後回しだ、ホントに上司なのかあの男」
「どうします艦長、湖賊連中とは別働隊で二名ほど侵入を許しましたよ」

『残業組』の大騒ぎに、クランク6は鼻を鳴らした。
とてつもないクソ度胸だ。ファッキン死にたがりと言い換えてもいい。いや、この場合は"死なせたがり"か。
あの手の情に訴えかけるトラップというのは、『正義』を掲げる軍隊相手には実のところかなり有用なのだ。

誰も、目の前で死にかけている仲間を見捨てて戦うことなんてできない。彼のいた正規軍にはそういったある種のヌルさがあった。
しかしその一方で唸らざるを得ないのは、結果的に対処の方法は正確だったということ。
術式を身体から離さぬように、身体をその場に釘付けにするはずのトラップを、身体の方に固定して退却するというやり方。
『可能なら』、ああするのが一番なのだ。あんな力技など聞いたこともないが。

「非戦闘員の撤退状況は?」

「アイ、時間稼ぎが功を奏しまして、なんとか全員分の脱出艇が"流通経路"内に入りました。これで敵の追撃も躱せます」
「あとは湖賊の迎撃に回ってる戦闘員と、我々残業組だけですね」

「結構。せっかくの人質をみすみす返すわけにもいかんのお、追撃せえ」

「「「アイ・アイ・サー!」」」

86 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/21(水) 04:46:40.10 0
 * * * * * * *

後退するファミアの頭上から槍が降ってくる。一本や二本ではない、無数の槍が彼女を追い立てるように船殻に突き立っていく・
その全ては鋼削り出しの、柄から穂先までが一つに繋がったとにかく強度重視の逸品だ。
剣山のようになった槍の上に、一人の兵士風の男が降り立った。

「悪いな、人の家にドカドカ上がりこんだ連中を、土産まで持たせて返すほど俺たちはお前らを歓迎していない」

彼の右手には長さ1メートルほどの細長い筒。飛翔機雷の射出筒を加工したものだ。
無数に突き立った槍の一本をその中に入れると、そのまま穂先をファミアに向ける。
内部に仕掛けられた炸裂術式によって装填した槍を高速で発射する、"ピニオン"の開発した新兵器だ。

「そのお荷物抱えたまま、俺の追撃を躱しきれるか?」

トリガーを引き込む。内部で術式が起動し、音の壁を超える勢いで槍がファミアとボルトを消し飛ばさんと迫る!
仮に彼女がこれを防ぐなり躱すなりしたところで、次弾の発射に間隙はないだろう。敵兵が持ち込んできているのはそういう武装だ。
アルテリア-サジタリウスの遺才を劣化複製したようなこれは、量産さえ可能なら兵器史だって塗り替えられる一騎当千の兵装である。

 * * * * * * * 

スイを狙った狙撃手の砲弾は見事の命中し、湖へと撃墜されていく。
狙撃手は唇を舐めた。ちょろい仕事だ、クランク6の技術を砲撃に流用するようになってからは、特に仕事が楽になった。
目標を照準して撃鉄を落とすだけで、それで基本給に危険手当がつくのだからこの稼業はやめられない。

「へへへ、やってやったぜ。どれ、あいつの死に様を確認してそいつを今晩の酒の肴にするか」

狙撃手が砲台から顔を出した瞬間、砲身の上に立つスイと目が合った。

>「へぇ……イイ真似してくれるじゃん…そういう不意打ち、大好きだぜぇ」

「んなっ……んで……!テメエ砲撃食らって原型留めてんだよッ!!」

>「あの初速…普通じゃできねぇよなぁ?なぁ、教えてくれよ。さっきのこの船の変形といい…
  お前らのとこに、鉄関係を操れる異才の奴がいないかい?」

「ああ!?そんなもん教えるわけ――」

そこまで言って狙撃手は、ゆっくりと自分の鼻先につきつけられた"それ"を視界に収めた。
いかにも人の血を吸ってそうなごついボウガンの鏃がそこにあった。

「――お、教えるに決まってるじゃないか!僕はいつでも君たちに協力的さ!ええ?鉄関係の遺才?……そうだなあ、
 いるよ、いるとも。でも君じゃちょっとお会いできないんじゃないかな、なにせその人がいるのはここん中だからね!」

狙撃手は鋼の船殻をピシャリと叩いた。クランク6の居場所が割れた所で、この堅牢を誇る船殻を割れるはずがない。
それよりも今は自分の保身が大事だ。

「さ、さあ、教えること教えたしそろそろ帰っていいかな!本当は残業なんてしたくなかったんだ!民間はツラいね!
 ほら、アンタもタバコを吸うかい?あんたの周りは風がないな、羨ましい。風があると煙草も火が元気になって吸いづらいんだ」

【スティレット:ウィレムを連れて船内での破壊活動へ】
【ファミアの元に残業組の刺客が。知恵と勇気で退けるも良し、とにかく後退しながら味方の支援領域まで誘う撤退戦も良しです】
【スイの質問に答える狙撃手。"鉄を操る遺才"の持ち主はこの強靭な鋼の装甲に守られてて手が出せないよ!手元には火種があるよ】

87 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/09/22(木) 23:00:22.79 0
>「アテもなにも、あたしたちは別にこんなとこに用があってきたわけじゃないわよ。貴族が墓荒らしなんてするわけないじゃない。
  いい?あたしたちはもっと崇高でノブレスでお金になること――この湖に巣食うとされる伝説の水龍を探しに来たのよ!!
  その神出鬼没さからぜったいにどこか穴蔵にねぐらがあると踏んだあたしたちは、こうして洞窟探検してるってわけ。
  でも途中で原因不明の鉄砲水があったでしょう。あれのせいでルートを外れて、今この体たらくよ」
>「ああ、クローディアさん、そんな聞かれてないことまでペラペラ喋っては……」
>「だってしょうがないじゃないナーゼム!あたしは金を払ってそこの公務員から話を聞いたのよ!
 お金の取引は誠実じゃなきゃいけないわ!ちゃんとこっちの事情は通しておかないと、今後のビジネスに響くのよ!」

「……なるほど、よく分かった。つまりテメェらは、いるかどうかも分からねえ水龍とやらを目当てに
 命懸けでここまで来た挙句、結局お望みのモノは見つけられず仕舞いって訳だ。崇高過ぎて泣けてくる話じゃねえか」

サフロールが半目でクローディアを睨み、呆れ果てながら皮肉を吐く。
お互いの利益が衝突しない以上、戦闘は無意味だ。
血の束縛を力ずくで抜け出すクローディアから、見ていたら馬鹿が移るとでも言いたげに目を逸らした。

>「……ふん、結局お互いに求める情報はナシってわけ」

「そうなるな。で、どうすんだ? 帰り道ならもう教えたぜ」

問いかけ――墓荒しには興味がないと言う先ほどの宣言を貫くのか、それとも翻すのか。

>「いいわ、一緒に考えてあげる。ギルゴールドの金庫好きは帝都でも屈指の変態ぶりだったわ。
 きっとこの宝物庫もドヤ顔確定のオモシロ可笑しな仕掛けに満ちてるに決まってる。想像力を使いなさい、ド肝を抜きまくるのよ」

「……流石、金で貴族の位を買った連中は言う事が違えな。ノブレスとやらは何処に行っちまったんだ?」

皮肉――直後にクローディアが高ぶった気概を持て余すように壁を叩く。
ほんの僅かにだが、鈍い音が響いた。
壁の向こうに空間がある事の証左――サフロールが目を細める。

>「……これ、普通に壁ごとぶち抜けば金庫の中身を拝めるんじゃないの?」

「鍵穴自体がただのフェイクだったってか?……あり得ねえ話じゃねえが、金庫偏愛の変態にしちゃお粗末過ぎるぜ」

疑わしい話だが、試してみた所で大した損がある訳でもない。
洞窟自体が崩壊する可能性も考えた。が、余程派手な術式を使わない限り問題ないと判断。
右手に魔力を集中させて、振りかざす。

>『サフロール君、聴こえる?こっちの状況を説明するわ――』

不意に、念信器が震えた。今まさに振り下ろされようとしていた右手が止まった。
出鼻を挫かれた事に小さく溜息を零しながら右手を下ろし、応答する。

「……なんだ、生きてやがったか。棺桶を引きずって帰らずに済むって事だけは喜ばしいぜ。
 で、状況がなんだって?まさかヘマやらかしたんじゃねえだろうな」

皮肉で塗り潰された、身を案じる意図――杞憂だった。
ノイファ達はメニアーチャ家が連ねた数々の罠を凌ぎ、宝物庫まで到達したようだ。
しかしそこにあったのは一本のレイピア――何処か別の宝物庫の鍵なのではないかと、ノイファが推察を添える。
転じて、レイピアの置かれた向こう側と、ギルゴールド家の墓地に思えるこちら側は、
本来二つで一つの宝物庫なのではないか、と。
背後の壁、そこにある鍵穴を振り返った。薄い板が差し込めるよう作られた鍵穴――信憑性が増していく。
そしてもう一つ追加された情報――メニアーチャ家ゆかりの人間、クローディアがこちらへ向かっている。

88 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/09/22(木) 23:02:13.24 0
「その没落……じゃねえな。陥没貴族なら、もうそこにいるぜ。とりあえず今は事を構えちゃいねえ」

視界の端にクローディアを捉えつつ返答。
また騒ぐようなら嘲笑の一つでも浴びせてやろうと画策――が、ふと違和感。
声の届く範囲で念信器越しに会話をしているような感覚――感知しているのは声ではなく魔力だった。
唐突にクローディアへと歩み寄る。正確には、先ほどクローディアが叩いた壁の傍へ。
オーブで受信するまでもなく、自分の感覚で魔力の発信源が感知出来た。

「……この向こう側に、テメェらがいやがるのか。ちょっと黙ってろよ」

右手を壁に翳し、魔力を集中――烈風の砲弾を壁に打ち込んだ。

「今の音が聞こえたな?この壁をぶち抜きゃ手っ取り早く合流出来るって訳だ。
 勿論元来た道を辿って、改めてこっちに向かってもいいけどよ」

サフロールの提案――まさか入り口を大岩に塞がれて立ち往生しているとは思っていない。
一度口を閉ざし、壁を観察する。烈風の砲弾を打ち込んでも亀裂一つ走らなかった。
今度は『切断』の術式を穿つ――傷を付ける事は出来たが、極々浅い。舌打ちを一つ。

「この壁は……硬い上に強靭だ。強靭って事は、つまり破壊力が浸透しねえって事だ」

岩の硬度を上回る破壊力を打ち込んでも、浅い部分で激しい変形が起こる事で破壊が奥へ進まない。
金属に似た性質を秘めた、特殊な岩盤だった。
加工には凄まじい手間と金が掛かっただろうが、当然払うべき代価だったのだろう。
なにせこの壁を破壊出来るのなら、本来の罠を無視してノイファ達のいる場所に到達出来る。
もしもこの宝物庫の仕組みを知られてしまった際に、易々と破壊されては大問題なのだ。

「もし破壊するつもりなら、馬鹿正直に打ち砕こうとするのはオススメしねえな。例えば……」

『爆炎』の術式――規模を調整して壁面を高熱で炙る。
続いて『烈風』の術式――同じく規模を調整、急速に壁面を冷却する。
急激な温度変化に耐えかねた壁の表面が剥がれ落ちた。

「温度変化だ。熱して冷やす以外にも、ただ冷却するだけでも物の靭性は鈍くなる。
 ……まあ、片やオバサン、片や大馬鹿野郎だ。そんな器用な真似が出来るとは思えねえがよ」

ダニーの存在を知らないサフロールの皮肉。
もっとも既に大規模な破壊は難しいダニーが、ただの冷却とは言えどれだけの事が出来るかは分からない。

「或いは……削るこったな。破壊が表面で止まるなら、いっそ表面だけを破壊し続けりゃいい。
 とは言え、これもテメェらじゃどれだけ掛かるか分からねえのが現状か」

サフロールが述べたこれらの手段は、勿論ノイファ達がいる部屋の入口を塞ぐ大岩にもある程度適用出来る。

「一応こっちからも掘り進めてはやるがよ、元来た道を帰るつもりならさっさと言えよ。
 無駄骨を折らせやがったらタダじゃおかねえからな」

【壁について勝手に色々考察しちゃいましたが、マズかったらなかった事に】

89 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/09/23(金) 02:05:52.14 0
>>85-86
剥がした鋼板の端には極力触らないように、しかし手早く、丸めて畳んで捻って転がして、あっという間に課長の鮫皮包みの完成です。
手近にオーブンがあったら思わず勢いで叩きこんで、油を塗りながら十分ほど焼いてしまいそうな出来栄えでした。
それを両手で頭上に差し上げて、これでいつでも撤退に移れます。

>「撤退でありますか、了解であります。でしたらわたしはバリントンどのと、しんがりとして中でひと暴れしてくるであります!」
「存分なお働きを!」
遊撃課への配属が決まって以来一番というくらいの良い笑顔で三十度敬礼を返したファミアは、転進して湖賊船へと向かいます。
念信機を落としているので細かい顛末は分かりませんが、遊撃課が拿捕したことは容易に想像できました。
課長を無事収容したら後詰として残るとでも言って船に留まれば、もはや危険はないでしょう。
残念ながら、まず「目の前に降ってきた危険」をなんとかしてからの話になりますが。

踏み出したつま先から、爪一枚程度の距離を隔てた場所に何かが突き立って、
顔からそれに突っ込んだファミアは鼻っ面を強打して尻もちをついたものの、両手で掲げた課長はなんとか落とさずに済みました。
涙でにじんだ視界に、鈍く光るくろがねの、巨大な縫い針のような槍が映っています。
見上げるとなにか黒い点が見えました。それは急速に視界の中で大きくなっていきます。
船殻を蹴りつけて、尻もちを付いた体勢のまま滑って後退。直後、その場所に二本目が屹立。
さらに立て続けに槍が降ってきて、そこはちょっとした林のようになりました。

>「悪いな、人の家にドカドカ上がりこんだ連中を、土産まで持たせて返すほど俺たちはお前らを歓迎していない」
最後に槍の上に降り立った人物が、別の槍を引き抜きながらファミアへ言いました。
引きぬいた槍は右腕の筒の中へ。筒はファミアの顔の高さでピタリと止まり、敵兵がさらに一言。
>「そのお荷物抱えたまま、俺の追撃を躱しきれるか?」
言い放った瞬間、槍も放たれました。

もちろんファミアだってそれをただ待っていたというわけではありません。斜め後方に全力で跳躍し、間合いを切りつつ初弾を回避。
発射筒はその長さから先端の動きが大きく、よく見ていれば狙いどころは分かります。
しかし、着地時にひどく滑って思惑よりも遠くへ離れてしまいました。
これはあまり良くないことです。倒すのであれば当然近づく必要がありますし、
逃げるにしても、湖賊船との間に敵兵がいるので、やはりそちらへ行かなければなりません。
背中や側面を晒しながら、逆側から回りこんで逃げるなんてもってのほかでしょう。

考えている内に発射された二発目をかわし、前進。距離が縮まるにつれて、回避に使える時間も減ります。
四発目が水着の袖を掠めたあたりで、ファミアはこれ以上の前進は不可能と判断。
今こそ、勇を鼓して事態に直面せねばならぬ時でした。

(このままじゃ……負けちゃう!)
覚悟を決めたファミアへ、二本目の槍が襲いかかります。
「これが!私の勇気!!」
金属音が風を追い越して走り抜けました。
そう、ファミアは立場の悪化を顧みない鋼の心で持って、課長を盾にして敵の一撃を逸らしたのです。

90 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/09/23(金) 02:10:07.94 0
課長には今、クラーケンの船殻が幾重にも巻き付いています(ちょっと呼吸が心配なくらいに)。
重ね合わされた鋼板とその丸みを帯びた形状は、並のゴーレムの装甲を凌駕する防弾性を有していました。
さらに課長自身を傾けて構えることにより、運動エネルギーをより偏向させやすくなります。
真正面からの直撃さえなんとか避ければ、お互いの形状のおかげで、弾体は勝手に空のかなたへ消えて行くわけです。
でも事態は好転してませんでした。距離を詰められないことには全く変わりがないので。

続く射撃をまず回避して、回避した先に打ち込まれた槍を課長で弾く。
それを二回繰り返したところで早くも課長がヘタってきました。もうちょっとで鮫皮包みから串焼きにメニューが変更されそうです。
「もうちょっと頑張ってください!」
意識のない課長を鼓舞しますが、あらゆる意味でどうしようもありません。
また距離を開けても、結局どこかで接近しないと状況は変わらず、
支援があるまで回避し続けるにしても、新手が増えないという保証があるわけでもなし。
(もう、すぐそこなのに……!)
焦るファミアの視界の中で、湖賊船の帆は日を浴びて真っ白に輝いていました。

湖賊船。戦闘型帆船。補助帆がいっぱいついています。
ファミアの脳裏を電流が走り抜けました。
「確かに、おみやげを持って帰るのは難しそうです……」
そう言いながら、射撃に備えて頭上にあげていた両手を、同時に勢い良く振り下ろしました。
「だから、郵送します」
つまり、課長を投げたのです。

もちろん、闇雲に投げたわけではありません。この角度からだと何枚もの帆が重なっているのです。
さらに帆船にはシュラウドという、網のような縄梯子がマストの周囲にあります。
数枚の帆を突き破って勢いがなくなった課長(葉巻型)は、そこで落下してシュラウドに引っかかって停止する、というわけです。

敵兵が振り返って課長を見送っていました。見えはしませんが恐らく唖然とした表情をしているしょう。
その背後、振り返った方向とは逆をついて、ファミアは駆け出しました。そして全力で踏み切って、再びのベースジャンプ。
撃ち出された弾体は、それが高い威力であればあるほど、水面にぶつかった衝撃で簡単に損壊します。
威力が弱いなら当たってもかすり傷程度。水に潜ってしまえば、実体弾での射撃は怖いものではありません。
問題は、背中から撃たれる前に潜れるか、ということでした。

【手ぶらで帰宅しようとする】

91 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/09/24(土) 20:37:28.99 0

「ふたつで、ひとつ……?」

ノイファのその言葉にフィンは再度首をかしげ、
はてなという態度を見せる。どうやらノイファの閃きに理解が追いついていないらしい。
負傷による失血が激しく意識にもやが掛かっている事もあるが、どうにも
このフィンという青年は興味のある事以外に対する思考が浅い傾向にある様だ。

その思考の最中にもノイファの思考は発展をしていった様で、
バッグから念信器を取り出すと波長を操作している様である。
そして、その操作の途中でフィンが未だ首を傾げているのを見たのか、苦笑しつつ声をかけてきた。

>「……えーと、取り合えず"扉"の方は任せるわ。色々調べておいてちょうだい。」

「ふたつ、ふたつで……ん? おう、任せろノイファっち!頑張る!」

折れていない腕の親指を立て快活に応えるフィンだが、
その姿勢が安定せずふらついているのも、やはり怪我の影響なのだろう。
そんなフィンに対し小さな声でダニーが語りかけてきた。
それは、先ほどのフィンの問いかけに対する返答。

「そっか、できねーのか。良い考えだと思ったんだけどなー。
 ……それにしても「気」か。魔法以外にそんなものが存在してるなんてな。びっくりだぜ」

ダニーから手渡された地図を何の気も無く受け取りながらフィンは呟く。
それもそうだろう。この世界において魔法は一般的だが、気という存在はあまりにマイナーなのだから。

――――と。

「ははっ!?なんだこれ、すげー!!」

説明の後、ダニーがフィンの腕を掴んだかと思うと、フィンの顔色が幾分良くなったのだ。
話によると、これも「気」とやらの効能らしい。折れた腕が治る様な事は無いが
少なくとも失われた体力が補填される程の効能は感じ取れる。
そしてダニーの話によれば、このままダニーの補助があれば気を放つ、或いは纏う事も可能であるという。
それを聞いて、フィンは破顔する。まるで新しい装備を買った戦士の如く。
かくして、フィンはその天性の興味の対象への集中力を持って己の中に眠るとされる気を繰ろうとし

「いよーし!!じゃあ、俺がさっきのダニーみたいに――――は」

瞬間、フィンの全身が粟立った。
それは、深い闇の底に声を掛け、帰ってこない筈の返事が返って来たかの様な
或いは、暗い森の奥に迷い込み、そこで得体の知れない何かに遭遇したかの様な
そんな感覚であった。



そして、ここでほんの一瞬。フィンという青年の意識は途切れる。




92 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/09/24(土) 20:37:59.83 0


「っ……なん、だ? これ……」

一瞬の意識の断絶の後、フィンが目を開くとそこには異様な光景が出来上がっていた。
この宝物倉に存在していた壁。フィンは知るよしもないが、その壁はふたつの金庫を隔てる壁であり
サフロールの術式でさえ用意な破壊は叶わなかった頑強な壁である。
そこに、放射状のひびが発生していたのだ。まるで、浸透しない筈の力を『無理矢理』浸透させたかの様に。
そしてその放射状の皹の起点には、フィン自身の片腕。
その手首から先は、黒。まるで闇で出来ているかの様な漆黒の物質によって鎧の如く覆われていたのである。

「気」の物質化や壁の損壊。意識の無い間に発生した通常では起こりえないこの事象にフィンは呆然としていたが、
彼が気を失った一瞬を見ていた部屋の住人達は視認していた事だろう。

ダニーがフィンに気を注ぎ込み終わった後、突然フィンが押し黙ると、
直後にその手首から先に、まるで流し込まれた気が収束したかの様に黒い物質が形成され、
更にフィンがその掌を壁に押し当て、まるで脆い氷面に衝撃を加えたかの様に壁に皹を入らせた。その光景を。


その表情は、まるで悪魔の様な邪悪な笑みだった事を。


フィンの手に形成された黒い物質がボロボロと崩れ落ち、砂と化す。


【フィン:気を放とうとしたが、一瞬意識が飛ぶ。その間に何故か手首から先に黒い鎧の様な物質が形成。
     さらにそれで触れた壁に放射状の皹が入り、壁自体の強度を低下させた】

93 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/09/24(土) 23:35:39.14 0
>「ああ!?そんなもん教えるわけ――」

男の言葉がプツリと途切れる。
視線の先にはボウガンがあった。

(おぉ、うまいこと怯えてるなぁ)

目の前の男の顔を眺めながら、呑気にそんなことを考えた。
手にはボウガン、矢の先は自分を射撃した男。
しかし、この目の前の男は1つ勘違いしている。
裏のスイは、表のようにボウガンを使うことは出来ない。
風を操ることをメインとするために、ボウガンの扱い方など、表の見よう見まねだ。

>「――お、教えるに決まってるじゃないか!僕はいつでも君たちに協力的さ!ええ?鉄関係の遺才?……そうだなあ、
 いるよ、いるとも。でも君じゃちょっとお会いできないんじゃないかな、なにせその人がいるのはここん中だからね!」
「へー。中にいるってことはよっぽどのお偉いさんなんだね。まぁ、会えるかどうか何て、お前が決めることじゃないかと思うけど?…まあ今はその情報に免じて見逃してやるよ」

狙撃手が床を叩くのを見ながら、嗤う。
こうして、保身に走る様を見ていると笑いがこみ上げてくる。

>「さ、さあ、教えること教えたしそろそろ帰っていいかな!本当は残業なんてしたくなかったんだ!民間はツラいね!
 ほら、アンタもタバコを吸うかい?あんたの周りは風がないな、羨ましい。風があると煙草も火が元気になって吸いづらいんだ」
「…『俺たちの船にバカスカかましかがって……これでもくらいやがれ!』。誰の台詞か覚えてるか?残業なんてよく言うよ。」

手を伸ばし、素手で彼の持っていたマッチの火を揉み消した。
同時に風が発生する。

「煙草は吸わないよ。不味いからな。…火を持つってことは、反撃の意志在りってことでいいんだな?」

風は明確な形を持って、狙撃手へ向かう。
鮮血が舞った。

「生憎、テメーみたいなヤツに時間かけてる暇無くてさ。スティレット先輩達も突入したみたいだし?…ってあぁ、もう聞こえてるわけないか」

ハハッ、と恍惚とした笑いを零しながら、肉塊と化した人間に背を向けた。

「敵兵を生かしてやるほど、俺様は優しくないもんでな。せめてアッチでは良い夢見な」

ヒョイとボウガンを再び背負い、入り口を探す。
この男が入ってきた扉がどこかにあるはずだ。
風を少し流し、空気が流れたところを見つける。

「ビーンゴ!!」

蹴破るようにして開けて、船内のよどむ空気に顔を顰めた。
再び風を軽く起こし、人の形に添って流れたところを見つけようとした。

【狙撃手から情報を聞きだし殺害→クランク6を風で探す】

94 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/28(水) 20:51:32.25 0
「――っ」

ボルトが目を覚ましたとき、開いた瞼の向こうには同じような闇が広がっていた。
目を潰されたか、と思うより速く感知術を起動。しかし放った魔力波は一寸前にて反射しそれ以上の反応を示さない。
身動きも取れない。指先はどうにか動くようだが、肘から上ががっちりと固定されて紙も挟めないほどである。

(何かに、包まれてんのかおれは――)

シーツではない、もっと硬質な手触り。毛皮でもない、いかにも冷質な感温。
ゴーレムにて爆沈する船から脱出した後の記憶がないボルトにとって、『見えない未知』はダイレクトに"死"を想い起こさせた。
そう、まるで自分が既に死んでいて、棺桶の中に納められているような――

>「これが!私の勇気!!」

「あがっ!?」

ガンッ!と包み越しにもの凄い勢いで頭を殴られた。
梱包材には一切の緩衝性がなかったらしく、衝撃が直接ボルトの脳幹を揺らす。
続けて二撃、三撃と殴られ、包の中で攪拌され、ボルトは今度こそ自分がバターか何かになってしまうかと思った。
彼が子供の頃、両親の手伝いで、牛からとった乳を鉄瓶の中に入れて振り回したものだ。振れば振るほど濃厚なものが出来るのである。
……端的に言えば、そんな走馬灯が見えていた。

(今の声は――)

混乱していて思い出せないが、確かに課員の誰かの声だ。
どうして自分の部下が、上司を包みに入れて殴りまくっているのか皆目見当もつかなかった。
どこで間違えた。確かにおれは和気藹々とした組織にするつもりはなかったが、それでも誠実に彼らと付き合っていたつもりだ。
それがどうしてこんな拷問染みた所業を――

>「もうちょっと頑張ってください!」

「何をだ!?」

もうちょっとって何だ。何を頑張ればいいんだ。
まさか本気でおれをバターにするつもりなんだろうか。

>「だから、郵送します」

ぐん、と胃袋が引っ張り上げられる感触。
殴られる衝撃はなくなったが、代わりに妙な浮遊感で酩酊しそうになった。
最後にとびきりタフな衝撃が彼を襲い、水音がして、ボルトは意識を再び手放した。

 * * * * * * *

「それお前らの上司じゃないのか!?」

流石の兵士も空いた口が塞がらなかった。
大荷物を抱えた敵部隊の少女が、あまつさえその大荷物(人間入り)でこちらの攻撃を弾いたのだ。
正規軍なら軍法会議もの、良くて左遷か不名誉除隊である。
いや、それを厭わないのが彼女曰くところの『勇気』なのかもしれないけれど。

現在、断続的に新兵装による砲撃を続けてはいるものの、尽くが例の『上司』によって弾かれている。
無論、その装甲とて無敵ではない。もう二三発当てれば貫通できるんじゃないかという見立てはある。
それは彼女にもわかっているようで、抱える上司を見て何か勘案しているようだった。

95 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/28(水) 20:52:40.32 0
「お前さんの上司には気の毒だが、遠慮はしない。獲られるぐらいなら壊しちまうのが戦略物資の常識だ」

発射筒を構える。魔力によって表示されるレティクルの中央に、ファミアではなく上司を合わせた。
装甲の摩耗は満遍ない。どこかにこっちの攻撃を当てさえしてやれば次で貫ける状態だ。
こちらの思惑を見越したらしきファミアは、構えを崩さず言い放った。

>「もうちょっと頑張ってください!」

「鬼かお前は!!」

つい力が入って引き金を引いてしまった。
炸裂の術式が槍の石突を叩き、砲身に編み込まれた加速の術式が軌道と初速を補正する。
肩に食らいつくような反動で応じ、極太の槍が上司目掛けて発射された。――そして。

>「だから、郵送します」

ファミアは上司を投げた。
まるで明後日の方向――湖賊船が帆を張るあたりへと、ライナー軌道を描いて吹っ飛んでいく敵の上司。

「――――なんでもアリだなおい!」

兵士は、砲身からすわ発射されんやというところの槍を、自身が一歩踏み出すことによって強引に砲内へと留める。
軸足を廻転させ、無理やりに発射軌道を捻じ曲げる。砲塔の舳先を、飛んでいく上司へと向けてやる。

「させるかああああッ!」

結果、湖賊船へと一直線だった敵上司を、発射された槍が空中で撃墜した。
妙な当たり方をしたせいで装甲の表面を掠めるだけだったが運動エネルギーの方向を変えてやることに成功。
敵上司を包んだ鉄塊は速度そのままに眼下の海へとまっしぐらに落ちていった。

「……ははっ、どうだ、これでお前さんの上司は海の藻屑に――って、」

いない。確かに目の前にいたはずのファミアが、そこから忽然と姿を消していた。
飛翔機雷筒は破壊され、眼下では乗り込んできた湖賊との剣戟が展開される中、船殻の上は微風が薙ぐばかり。
阿呆になるほど静かだった。

 * * * * * * *

水に潜ったファミアに、追撃の槍が迫ることはなかった。
敵も水中の敵へ無駄に無駄弾を使うことの時間の無駄についてよくわかっているのだろう。
あっぱれ、彼女は上司を助けると同時、上司自体を陽動に使うことで自身も逃げ果せたのだ。

……その上司は、今彼女が落ちた水にほど近い場所で、湖底へ向かって一直線に沈んで行く最中だったが。

さて、通常船というものをひっくり返して船底を見れば、大動脈のように一本の巨大な骨組みが張り出ている。
『竜骨』と呼ばれる、帆船における最大の土台である。
『鋼の鮫』クラーケンはその見た目こそ流動する鋼に覆われた鉄瓶のようになっているが、船底部はその限りではない。
何故なら鋼は錆びるからだ。鋼の声が聞こえるクランク6にとって、錆びゆく鋼たちの声は聞くに絶えなかったのである。

つまり、この船の船底は木造であり、通常の帆船と同じ弱点を備えているのであった。
もちろん防護策はある。通常の水進機雷では水圧の関係もあってビクともしないし、況や剣や槍をやだ。
現用兵器ではこの規模の船の竜骨を砕くことは不可能だろう。……あくまで常識に則れば、であるが。

 * * * * * * *

96 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/09/28(水) 20:54:07.90 0
「風使いの迎撃に回っていた狙撃手から通信が途絶えました」
「同刻、D区画の水密ハッチが何者かにこじ開けられた模様、侵入を許しています!」
「船殻にて敵部隊の追撃に入っていた残業組から入電、目標をロスト!」

「迎撃部隊はどうしとる」

「全員湖賊の迎撃に出払っております!現在掃討率は3割、こちらの損耗率も同程度です」

クランク6はいよいよ己の艦の最期を予期していた。
自分のように"特別な才能"を持った兵が敵部隊にいたとして、それ単体でここまで食らいつけるわけがない。
複数――ひょっとしたら、一部隊まるごとが天才で構成されているならば。
……その統率如何によっては、戦艦一つを相手にして撃沈することも可能かもしれない。

その『可能かもしれない』が現実となったとき、現用兵器を基準とした"最強戦艦"に何の価値があるものか。
どう考えたって反則だ。統率をとれないが故に組織を追われた天才が。

(力を合わせて強大な敵を打ち倒す……そんな英雄譚、誰が認めるか)

クランク6の胸に燃え上がったのは、恐怖や怒りではなく、明確な『嫉妬』だった。
相容れない価値観ゆえに組織から船を持ち逃げした彼にとって、『力を合わせて云々』ほど羨ましいものはなかった。
端的に言えば、分かち合いたかった。自分の好きなことや、これまで成し遂げたことを、認め合い、語り合いたかった。

「艦長、ご指示を」

残業組の一人が、クランク6に指示を仰いだ。
そこの目に灯るのは絶対の信頼と、社会人としての服務意識。共に船を動かしてきた責任感。

「……自分の好きなことには、妥協したくないもんじゃのぉ」

ふと口をついて出た言葉に、部下は少しだけ目を丸くしてから鼻で息をした。

「サー・イエス・サー。 ――だから我々は命を賭けられるんです、艦長殿」

そのとき、密閉されているはずの艦内に風が吹き、クランク6の頬を叩いた。

 * * * * * * * 

「この風は――スイどののものでありますねっ」

船内でひとしきり破壊活動に従事していたスティレットは、頬叩く風に浮いた汗を持って行かれてそれに気付いた。
同じ課員の魔力の気配はなんとなく区別できる。それは匂いや、声色のように個人差はあれど誰もが認識できる差異だ。
バックパックから念信器を引っ張り出して、スイへと周波数を繋ぐ。

「スイどの!今のは風による探知魔術とお見受けしました!艦長室がわかれば合流したいであります!」

現在位置をスティレットに教えれば、彼女は壁と床をぶち抜き最短距離で合流してくるだろう。
船の中枢――艦長室の位置情報を送信すれば、現地で合流することになる。

【投げられたボルトが空中で撃墜され、湖へと着水。クラーケンの竜骨は剥き出し、船底を破壊して内部に侵入もできます】
【スイの風探知によってクランク6の居場所が割れる】

97 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/09/29(木) 18:35:15.14 0
>「……なんだ、生きてやがったか。棺桶を引きずって帰らずに済むって事だけは喜ばしいぜ。
 で、状況がなんだって?まさかヘマやらかしたんじゃねえだろうな」

念信器を通じて聞こえてくるのは、最早聞き慣れた感のあるサフロールの皮肉。
初めの内こそ思わず鼻白んだものだが、おそらく彼なりに此方の様子を心配してのことなのだろう。
僅かな付き合いとはいえ、そう思える程度には、サフロールの言葉と行動は真逆を示していた。
もっとも本人に言おうものなら即刻否定されることは想像に難くない。

>「その没落……じゃねえな。陥没貴族なら、もうそこにいるぜ。とりあえず今は事を構えちゃいねえ」

「そう、なら良かった。だけど分家とは言っても相手は『メニアーチャ』の一族であることに違いないわ。
 低頭しろ、とまでは言わないけども、何かあったら"首が飛ぶ"じゃあ済まないかもね。」

効果の程は大して期待できたものではないし、何よりクローディア本人が望まないだろう。
第一そのクローディアに対して、刃を持って応じたノイファが言えた台詞では無いのだ。
それでも釘を刺したのは、彼女の身に何事か有った場合、現在の長である青年が心を砕く様が容易に想像できることが半分と――

(まあ、少しくらいは良いですよね)

――サフロールの皮肉に対する仕返しが半分。
否、半分かどうかすら疑わしい。口元に浮かぶいやらしい笑いがその証拠だ。

>「……この向こう側に、テメェらがいやがるのか。ちょっと黙ってろよ」

だがノイファの思惑など知ったことでは無いとばかりに、サフロールが言い放ち――直後に轟音。
予期していなかった振動に体が強張る。音の発生源は部屋の一角。
しかし視線を巡らせても特に何かあるわけでも無く、ただ他と同じく細緻な意匠の施された壁が切り立っているのみ。

「え?え?ちょっと急に何なのよ!それより今の音って……そっちは直ぐ隣に居るってこと?」

返ってくるのは肯定と、壁を破壊するための要諦。
そしていつも通りの皮肉。前者は頭に叩き込み、後者は聞いた先から流し捨てる。

>「一応こっちからも掘り進めてはやるがよ、元来た道を帰るつもりならさっさと言えよ。
 無駄骨を折らせやがったらタダじゃおかねえからな」

「了解。ちゃちゃっと片付けるからゆっくり休んでて良いわよ。」

大口を叩いたものの、相手はその態度以上に強大なサフロールの魔力行使にも耐え得る代物だ。
純粋な衝撃で正面から打ち貫くのは、ほぼ不可能といっても良い。

サフロールから提示された手段は二つ。
一つは熱してから冷やす、あるいは単純に冷却し続けることで壁の靭性を無くす方法。
もう一つは衝撃を徹さない壁の表面を削ぎ落とし続けるという方法である。
そして、そのどちらを選ぶにしても必要な駒は揃っている。

「よしっと、二人とも聞いてちょうだい。出口が無いなら造れば――」

良いじゃないの。と続けようとして、二度目の轟音が部屋を揺るがせる。

98 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/09/29(木) 18:35:38.22 0
もうもうと巻き上がる粉塵。

「っ!?またサフロール君がやらかした――何よ……これ……。」

顔を覆った腕をどかし、視界に飛び込んできた光景にノイファは二の句を呑み込む。
完膚なきまでに破壊された、今まで壁だった物の残骸。
ひしゃげた部分から放射状に走る罅が、真正面からの強力な力によって砕かれたことを証明していた。
それも内側から。

>「っ……なん、だ? これ……」

崩壊した壁の前、座り込んだままのフィンが呆然と呟く。

「これは、フィン君が……やったのよね?」

問い正したこと自体に意味は無い。ただ、辛うじて搾り出せた言葉がそれだっただけ。
突き出されたフィンの腕は崩落した壁の中心へと添えられ、誰が見ても、この状況を作り出したのが彼なのだと一目瞭然だからだ。

(えーと、確か……ダニーさんに"気"の扱い方を教わるとかって……)

記憶を遡る。ノイファがサフロールとの念信に取り掛かる、その前。
考えられる要素はそれしかない。

防御に特化した遺才ゆえなのか、フィンが持つ攻撃能力は決して高い部類ではない。
ましてや、サフロールの魔術ですら破壊出来なかった壁を打ち抜く、などといった芸当は本来なら不可能な筈だ。
だからこそ、その差を埋めるだけの"何か"がなければ、現状の説明が付かないのだが。

「あー……まあ、取り合えず……、習得おめでとう、って言うべきなのかしら。」

いくらか腑に落ちない点はあるものの、壁を打ち抜き、道を通すという目的は果たせる目処が立ったのも事実。
これだけ破損していれば、後はさしたる苦労もせず、壁を貫通出来るだろう。
何より、サフロールたちと合流出来れば、本来の任務である財宝の発見に一歩近づける。

「それより、その腕。大丈夫?なんとも無いの?」

突き出された腕の手首から先、その部分だけが黒く覆われている。
最初は炭化したのかとぎょっとしたが、凝視する内に違うとわかった。

まるで拳を保護するように、漆黒の塊が鎧のように纏わり付いているのだ。
しかしそれが何で出来ているのかは判らない。手を添えてみても、魔力の類ではないのが判る程度。
もっとも、"気"自体が初めて目にした技術体系である以上、考察を重ねたところで徒労に終わるだろう。

「ごめんなさい、私じゃちょっと判断がつかないわ……。」

視線をダニーへ。幸いというか、当然というべきか、エキスパートは他に居る。
ダニーにフィンを託し、ノイファ自身は壁の前に立つ。

すでに半ば以上破壊されているそれへ、白刀を奔らせた。

99 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/09/29(木) 18:35:57.90 0
「よいしょ……っと。」

都合四度、閃かせた銀条。その中心、斬り離した壁の一部を蹴り付ける。
押しやられた塊は鈍い音を立て地に落ち、二つの宝物庫は一つへ。
かくして、道はつながった。

「……ちょっと派手にやりすぎたかしら。」

埃を払いながら破壊した壁をくぐる。
そこには見知った仲間の顔と、同僚ではないがやはり知った二つの顔。
知らぬ顔も一人居るようだが、大人しそうにしているし問題はなさそうだ。

「またお目にかかれて光栄ですわ。クローディア=バルケ=メニアーチャさん。
 今回は目的が同じようで何よりです。」

二人組の片方へ、裾を払い一礼。
作法に則った、貴人へ対するそれ。

「ナーゼムさんもお元気そうで、背中の傷は治ったかしら?」

牽制の意味も込めて、もう一人へ。
ただし今回は戦闘が目的ではない。害意がないことを手振りで示す。

「お待たせ。」

最後に仲間へ笑みを返す。
若干一命意識を失っているようだが、外傷も見当たらないし、自発呼吸も見て取れるので問題あるまい。

「はい、これ。サフロール君なら"解析"できると思って。
 今のところ貴方だけが頼りだから――よろしくね。」

そう告げて差し出すのは、メニアーチャの宝物庫に唯一納められていた宝剣。
まだ見ぬ財宝へ、辿り着くための"鍵"となるかもしれない逸品だった。



【サフロールへ装飾レイピアの鑑定依頼。】

100 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/10/01(土) 02:40:54.90 0
>>95
背に炸裂音を受けると同時に着水。即座に手で水を掻いて深度を稼ぎます。
水面に近い所で撃たれたのでは水の防弾効果も期待できません。
しかし、心配していた追撃はありませんでした。
見あげれば、傾き始めた日はそれでもまだまだ十分な光を波間へ突き刺していて、水の中は上の喧騒とは無縁の世界のままでした。

視線を少しずらすと、クラーケンのお腹が見えます。
その真ん中を縦断する竜骨は木で構造された巨大なもので、ばらせばそれだけで船が一隻組みあがりそうです。
それはそれとして、課長が世界の境界を突き破って静寂をかき乱しました。
ファミアは先ほどの破裂音を思い出します。
投擲の角度、速度からすれば確実に船に届いているはずの課長がここにいるということは、恐らく撃墜されたのでしょう。

ファミアは沈む課長を尻目に、上からの攻撃を警戒しながら水面へ顔を出しました。
大きく一度息を吸い込んでから、船殻を蹴りつけて再び潜水。
クラーケンなんて後回しです。烏賊や鮫なら食べられもしますが、木と鉄ではファミアの興をそそりません。
それよりもこのまま課長を放って置くと、救出劇を五割増しくらい盛って報告することで評価を得ようというファミアの目論見が文字通りに水の泡。
そのほうがよほど問題でした。

水中で頭を下に向けると、腕を真っすぐ伸ばし、手のひらを重ねて、
グランブルーを通り越してブラックな湖底へとまっすぐに沈んでいく課長を視界に捉えます。
足を大きく速く動かして、一気に加速しました。

行きは人力、帰りは重り付き。誰もやらない逆ヴァリアブルウェイトのフリーダイビングです。
ファミアの到達した深度はそのまま世界記録になるでしょう。
とはいえ誰も測定していませんし、記録が出ても遺才参考記録ということになるのでしょうが。
全力のファミアの泳ぎは自由落下でもしているのかというような速度でしたが、
それでも先行していた課長を捕まえるのにはいくらかの時間が要りました。
上下を確かめてから抱きまくらのようにしっかりと両手で抱え込み、今度は光の差す方、湖賊船へと向けて水を蹴りました。

速度はだいぶ落ちましたが、それでも圧力をまともに顔で感じます。
腕は荷物を抱えているので、顔の前に『舳先』を作ることも出来ません。
それでも、ファミアは体をくねらせて、蹴り出す水の量を少しでも増やして速度をあげようとします。
力には代償がつきまとうものですが、ファミアの非常識なそれの代償は、いたって常識的な酸素。
その蓄えが、そろそろ底を突きそうになっていたのです。

食いしばった歯の隙間から漏れた小さな泡の連なりを置き去りにして、ファミアは上昇を続けます。
耳の奥に聞こえていた拍動の音がだんだんと大きく、急なリズムを刻み始めて、それと反比例するように足が重くなってきました。
胸の奥が痛み、視野が狭窄してきて、全身の筋肉が勝手な動きをしようとし始めます。
ここで息を吐けば少しだけ楽になるのですが、そうしてしてしまうと当然肺が空になります。
僅かなものですが、少なくとも自分一人は十分に浮かせてくれるだけの力が消えてしまうわけです。
それが分かっているファミアは、より強く歯を食いしばって、固く目を閉じ、課長をきつく抱きしめました。
闇のなかで耳の奥の音はさらに大きさと早さを増していきます。
ついに耐えかねて、口を大きく開けてしまった、その直後――

空気のある空間に出ました。息を吐ききっていたので、勝手に空気が肺に流れ込みます。
呼吸を整えて、それから出来る限り凛然とした様相に見えるように表情を作って、声を発しました。
「――遊撃課のものです。不躾な乗船の仕方に関しては、ご容赦ください」
そう、全速で『まっすぐ湖賊船を目指して』浮上したファミアは、あまりにまっすぐすぎてそのまま船底を突き破ったのでした。

「さしあたって……木材をいただけませんか?」
船倉で何らかの作業に当たっていた船員へ向けて、さらに言葉を重ねます。上半身が床から生えたままの状態で。
もちろん課長も一緒ですので、船員からすると、なんか鉄の筒の両脇で生身の腕がぴこぴこ動いている、という眺めになっているでしょう

【栓】

101 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/10/02(日) 22:36:43.07 0
ー反応がない、放出できないタイプかー
フィンの腕に気を通し終えたダニーは、音沙汰のないフィンの腕を見てそう思った。
フィンの体は妙に気を注ぎにくかったので、自分の失敗も考えたが、
変化は一拍の後に現れた。

「!」
彼の手の先が黒く光ると、そう、確かに「黒く」光ったのだ。
見た瞬間目に眩しさを覚えてしかめると、正面の壁が歪にひしゃげたのだ。
まるで何かに踏み潰されたかのように

万全とは程遠い状態から放たれたにも関わらず、放たれた力は十分驚嘆に値するものだった。
だが見るべき所はそこではない。彼の身に起こった変化、そして直前に見たあの顔、
自分も見るのは初めてだが、恐らくは闇の気質、それは間違いない。
だが「吸う」のではなく何かを「押し込んだ」ように見えた先の衝撃と腕に集束した闇、
全てが異端と言える程の異色、ダニーはもう一度彼の顔を見つめる。

元に戻った顔を前に、彼女は思う。
或いは、見てはいけないものだったのかも知れない、自分が見たいと思っていたものは

>「っ!?またサフロール君がやらかした――何よ……これ……。」
ノイファの声にはっとなり慌てて意識を引き戻す。声をかけられていたことに
気づかないほど注意を持っていかれていたことに改めて驚く。
習得できたのかと早とちりするノイファに、何と言って良いのか分らず報告ができない。

>「それより、その腕。大丈夫?なんとも無いの?」
>「ごめんなさい、私じゃちょっと判断がつかないわ……。」
フィンの腕を見た彼女は彼をこちらに任せて傷みきった壁へと向き直った。

「・・・・・・・・・・・・」
大丈夫か、とフィンに声をかける。多分答えは決まっているだろうが一応聞いておく。

「・・・・・・・・・」
お前の力はレア過ぎる、仮に使えるようになったとしても暴発の危険性が高いと言う。
出任せだったが出鱈目でもない。出来るならノイファと共に極力鍛錬に来いと彼に念を押す。
もし彼の力が守っている者が他者でないとしたら・・・
想像の先にある答えにゆっくりと口元を手で覆い彼女は沈黙する。

102 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/10/02(日) 22:39:17.37 0
自分の蒔いた種だ、けじめは付けねばならない。
開けてはいけない小箱の話を思い出しながら、ノイファへと視線を移す。
目の前で剣を抜き壁を切りつけそして蹴り飛ばす。
すると、予め向こう側からも壊していたのか彼女の前に通路が出現した。

隣にもあったようで今では部屋と部屋が繋がった状態になっている。
辺りの埃が落ち着くと、分岐点で別れたクローディア達の姿を認めることができた。

他にも見ない顔がある辺り、恐らくノイファ達の連れなのだろう。
意外だったのは彼女がクローディア達と面識だあったということだ。
そうならそうと言ってくれればいいのに。

「よう」
はにかみながら軽く手を振ると、ダニーは彼らの無事を喜ぶ。
こちらと違い重傷を負った者はいないように見える。見た目の上ならこちらの方が重傷だろう。
なにせ自分の服はボロボロだしフィンに至っては骨折している。

カクカクシカジカと経緯を説明し自分たちの部屋にあった剣を指さす。
丁度クローディアたちの方にいた不機嫌そうな男に手渡される所で、
聞こえてきた解析という言葉から、鑑定士の類なのかと主人も少女に質うた。

自分たちは逸れてしまった訳だが、やはりこういう場所に来るときはどこも
会計ないしは見積もり担当とでも言うべき人物を連れてくるものなのだな、と
彼女はまた勝手に得心する。

それにしても、とダニーは考える。もう片側の壁を破壊したのは一体誰なのだろう。
振り返った壁はフィンがやったものとはまた別の壊れ方をしていた。
クローディアか、ナーゼムか、それとも鑑定士(推定)の男か、
味方ならば問題ないが、敵だったのなら揉めた時骨が折れそうだと
彼女はぼんやりと思った。

【フィンに警告、クローディアたちと合流後、結果待ち】

103 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/10/04(火) 19:46:45.20 0
「何だここ、意外と広いな」

一通り風で調査した後、渋い顔をする。
移動が面倒臭そうだ。
主謀者と思われる人物は船の中心部分ほどにあると思われた。
憶測なのは、そこに一番人が集まっていたからだ。
さて行くか、と足を踏みだした途端、念信器から声が流れてきた。

>「スイどの!今のは風による探知魔術とお見受けしました!艦長室がわかれば合流したいであります!」
「…たん…?あーよくわかんねぇけど、了解」

先程風が教えてきた船内構図を頭の中で簡単に描き上げ、口を開いた。

「スティレット先輩。そのまま真っ直ぐ進んで、突き当たりの所があると思う。そこぶった斬ったら多分船長室だ。
 俺が後から行くんで、先に敵の気を逸らしといて。」

まあ、どうせ自分の魔力のせいでこちらの存在など割れているが。
スティレットのような強大な力が突然現れたら敵の気はある程度はそちらに集中すると踏む。

「そんじゃ、またあとでー」

念信器を切り、あたりを見渡す。

「…血祭りってOKだったっけ?」

そんなことを呟きながら船長室を目指した。

104 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/10/05(水) 21:13:49.09 0
突如響いた破壊音、目前の壁が悲鳴を上げる。亀裂が生じた。
亀裂は小さなものだったが、サフロールは何もしていない。
つまりこの亀裂は壁の反対側から刻み込まれ、こちら側にまで届いてきた事になる。
図らずも目を見張り、呼吸を一瞬失念した。
ノイファにもフィンにも、この壁に甚大な破壊をもたらすほどの力は無かった筈だ。
何らかの奥の手があった可能性――あり得ない話ではない。
が、少し待てば自分が破壊すると告げた状況でそれを使うとは思えない。
自分に借りを作りたくなかった可能性――馬鹿馬鹿しい。
命懸けの職務の中で合理よりも感情を押し通すほど二人は愚かでも、悪辣な人間でもない。
二人の事を好ましいとは思わないが、単純な事実から目を逸らすのは愚かな事だ。

「……どうなってやがる」

だからこそ理解出来ない。まだ考え得る可能性――向こう側に誰か人員が増えた。
こちら側にクローディアがやって来たように。これ以上は考えても無駄だ。どの道、答えはすぐ明らかになる。
直後に壁面を走る四度の閃き、壁の破壊が致命的になり、打撃音が続く。
断末魔の悲鳴にも聞こえる軋みを叫びながら、壁が倒れ始めた。
サフロールは静かに一歩退く。壁の倒れる際に生まれた風が長髪を僅かに揺らす。
舞い上がった埃に疎ましげに目を細めた。

>「……ちょっと派手にやりすぎたかしら。」

切り開いた穴を潜ってノイファとフィンがこちら側へとやって来た。
埃を浴びせられた事に皮肉の一つでも言ってやろうと口を開く。
そして二人の後に続いた筋骨たくましい巨躯の女を目の当たりにして、そのまま硬直した。
ローブの袖口から覗く、小枝さながらの自分の手首を見る。
再び視線を女へ。女の腕は丸太と称するに相応しく、かつ流木のように艶やかだった。
頭は、この女を羨み、妬むべき対象だと分析している。
けれどもそれを断固として拒否する何かが胸の奥で叫んでいる。葛藤が思考力を著しく低下させる。

>「はい、これ。サフロール君なら"解析"できると思って。
 今のところ貴方だけが頼りだから――よろしくね。」

不意に掛けられたノイファの声が、サフロールの意識を混濁の海から現実へと呼び戻す。

「あぁ、それがテメェの言ってた『鍵』か。……つっても、今更解析も何もねえだろう。
 鍵はある。鍵穴もある。後は差し込んで終わりだろうがよ。
 それより、随分と便利なデカブツを拾ったみてえじゃねえか。あの壁を力ずくたぁ、恐れ入るぜ。
 そこの死に損ないと、喚くばかりが能の陥没貴族様にも見習ってもらいてえもんだ」

105 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/10/05(水) 21:14:16.63 0
誤謬――壁を破壊したのはダニーだとばかり思い込んでいる。それ以外の可能性を考えてもいない。
あまりの衝撃的な姿に目を奪われ、サフロールはフィンの変調を見過ごしていた。

ともあれ装飾を帯びた剣を受け取り、弄ぶついで程度に眺めつつ、鍵穴へと歩み寄る。
切先を穴に宛てがい、腕に力を込めて――ふと、思い留まった。
鍵穴の所在を問い詰めた時の、墓守の言葉を思い出した。

「……なんでか手の上で滑らせてから、だったか?」

この鍵には、もう一つ仕掛けがある。考えてみれば当然の事だ。
確かに、この鍵を入手するには無数の罠を踏破しなくてはならない。
この鍵穴に辿り着くには、生者には決して勝ち得ぬ死霊共を討ち祓う必要がある。
どちらも常人には到底為し得ない。天賦の才、魔に齎された遺才を持つ自分達だからこそ出来た事だ。
逆説――遺才を持つ人間ならば、ここまで到達する権利を持っている。
帝国だけでも十の指に収まらないほどの人間が、この金庫を破り、命よりも重い財宝を奪う権利を持っている。
その事実を、帝国一の金庫狂いであるギルゴールドは良しとするだろうか――断じて否だ。
全ての関門を破り、鍵を手にして、鍵穴の前に立った賊共が最後に一つ、決して越えられない壁を前に跪く。
金庫狂いはきっと、それを望むに違いない。

剣を退いてもう一度、刀身を視線で撫でた。
分析の遺才を宿す双眸を凝らす。刃に刻み込まれた微かな紋様が見えた。
後何か一つ加えてやれば、それは陣と成り意味を成す。そんな気がした。

「おい、陥没貴族。折角の大役だ、曲がりなりにも血縁のテメェに譲ってやるよ」

振り返り、クローディアに崩剣を差し出す。
そして彼女が手を伸ばした所で、刃を滑らせた。柄ではなく、刀身を握らせるように。
恐らくは金庫を開く為の『最後の一つ』――メニアーチャ家の血を、刃に吸わせる為に。

「おっと、悪いな。まあ……そう怒るなよ。ほら、さっさと開けちまいな」

106 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/08(土) 19:45:38.08 0
「水進機雷を二番から五番まで回せぇ!敵は今空と内部からの同時攻撃で手一杯のはずだ、俺たちは下からぶちかますぞぉ!」

キャプテン・カシーニは、船底にて乗組員たちへ直接指示を飛ばしていた。
ウィレムたちが敵船へ乗り込み、湖賊達も接舷し白兵戦へと移っている。
敵船の土手っ腹にぶち開けた穴は、そこに湖賊船が突き刺さっていることもあり、極端に修復が遅れている。
風使いに張らせた舳先の衝角結界が『鋼の鮫』の修復術式と干渉しているのだ。

「アイ、二番から五番までの水進機雷発射筒に注水!安全装置解除!――発射!」

ボボシュッ、とくぐもった発射音を伴い、湖賊船の船底に備えられた潜水系の水進機雷が鋼の鮫へ向けて一斉に尾を引いた。
撃ち込んだ機雷は四発。その一つ一つが当たり所次第では一発で大型船を撃沈せしめる威力の体現者。
『ピニオン』の技術提供によって得た賜物である。

「全弾着弾確認!」
「やったか!?」

観測手が声を張り上げる。音響測位による状況把握は、混戦となった今まるで役に立たない。
幸いにも湖の水は澄んでいて、観測手は船底鏡から目視で敵の被害を確認できた。
「――敵船、損害皆無! そんな、確かに水進機雷は全部着弾したはず……!」

水泡が晴れても、鋼の鮫に目立った損傷は見られない。
船の弱点である竜骨を、4発もの爆発物で打撃されたにもかかわらずだ。
「スケールが違いすぎるんだなぁ!あれだけの図体だと、建材もそうとう硬いのを使ってるんだろぉ」

げに恐るべきはそれを船の形にまで加工できるピニオンの造船技術。
そして不可解なのは――これほどの硬さと、水に浮く軽さを兼ね備えた木材というものが、国内には存在しないのだ。
つまり鋼の鮫は、帝国ではない別の国――大陸を二分する西方エルトラスあたりが有力か――から持ち込まれたものだということ。
ウルタール湖は内陸湖である。国外からこの湖へこんな巨大船を搬入しようとすれば、国土管理局の眼は逃れ得ない。
建材ごとにバラして持ち込もうとしても、なにせスケールがスケールである。どうやっても確実に目立ってしまう。

「一体どうやってこんな代物を、この湖へ持ち込んだんだろうなぁ」
「感心してる場合じゃないっすよ船長――海底から高速で飛来する物体を確認!迎撃、間に合いません!」
「伏兵か!? 総員耐衝撃体勢をとれぇっ――」

ズドン!と、ちょうどカシーニたちの鼻先に何かが生えた。
それは鮮やかな銀色をした――なんと形容して良いかカシーニにはわからない――引き伸ばされた楕円形。
まるで大砲の弾か、巨大な矢弾だ。巨乳の弓使いが喜んで矢にしそうな物体は、我が物顔で湖中から船底を食い破っていた。

「そ、総員退避! 新型の機雷か!?爆発するのかぁ!?」
「や、やばいっすよ船長!こんなところでこの大きさのブツが爆発したら、この船なんかひとたまりもないっす!」
「いや待て、何か様子が変だぞ――不発弾か?塩水くぐってサビついたか?」

突き出して、それきり。しばらくの間鉄塊はうんともすんとも言わなかった。
カシーニたちは不安気に近くをうろうろするが、いつ爆発するとも分からぬ不審物を覗き込む勇気は誰にもない。

「仕方ない、刺激しないようにゆっくり水ん中に押し返すぞぉ……誰か棒持って来――」
「せ、船長!」

船員に言われるまま振り向くと、鉄塊の両端から腕が生えていた。しかも生きているらしくぴょこぴょこ跳ねている。

「な、なんだこいつはぁ!?」
筒状の鉄塊に腕が生えているという意味不明な物体がそこに存在していた。
新手の魔物兵器だろうか。気の逸った船員がクロスボウを打ち込む。滑らかな円柱状の表面を滑って弾かれた。

「こ、攻撃が効かねえっ!?」
名伏しがたき難敵の出現に船底が沸き始めたそのとき、

>「――遊撃課のものです。不躾な乗船の仕方に関しては、ご容赦ください」

鉄塊が喋った。

107 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/08(土) 19:47:13.08 0
まだ幼さの残る少女の声で、まず無作法な乗り込み方を謝罪してきた。
説明すべきはそこじゃあないだろ、とカシーニを含めた全ての船員が付和雷同に心の中で突っ込んだ。

>「さしあたって……木材をいただけませんか?」

「……食うのか?」
「何言ってんですか船長!?」

カシーニは落ち着いて鉄塊の後ろへ回りこんでみる。
するとその裏には、先程まで鋼の鮫の船殻でウィレムと一緒にいた仲間の少女が、鉄塊を抱きかかえるように嵌り込んでいた。

「遊撃課……それがウィレム=バリントンやお前さんの所属か。服装もまちまちだし、一体何者なんだぁ?」

カシーニは生身の方の右手を差し出し、ファミアの腕を掴んで鉄塊ごと引っこ抜いた。
一体どういう経緯でこんなことになっているのか皆目見当もつかないが、ウィレムも含め色々と常識のない集団だ。
戦場ではこういうことに疑問を持った奴から死んでいく。考えるのは陸の上でもできるのだ。

「それで、そのデカい塊はなんだ……おい、誰か解体刀持って来い!」

船員が倉庫から引っ張り出してきた解体刀に魔力を通し、『剥離』と『切開』の術式で銀色の梱包を裂く。
中から出てきたのは、成人男性が一人だった。息はあるが、呼吸は浅い――気絶しているらしかった。
船底の穴を塞いでいるうちに、男は咳き込みながらも目を覚ました。

「おい……状況を報告しろ、アルフート」

ずっと梱包されていて酸欠気味になった頭では、うまくものが考えられないようである。
男――遊撃課長ボルト=ブライヤーは、ここ最近の記憶がさっぱり抜け落ちている違和感を抱えながら、
とりあえず傍に居た課員の少女に報告を命じた。

 * * * * * * * 

>「スティレット先輩。そのまま真っ直ぐ進んで、突き当たりの所があると思う。そこぶった斬ったら多分船長室だ。
  俺が後から行くんで、先に敵の気を逸らしといて。」

「おおっ、わかりやすいでありますっ!」

跨っているウィレムの肋を蹴って船内を駆ける。
突き当りにはすぐに到達し、横薙ぎに奔った崩剣が分厚い壁を粉砕した。

抜けた先は、開けた空間。何人もの人間が右往左往していたである痕跡の残る、人の気配冷めやらぬ場所。
円形に配置された椅子と計器は空座、全面に広く展開された巨大な情報表示羊皮紙も今は白紙に戻っている。
スティレットはなんとなく、複座式ゴーレムの操縦基を多人数で使ったらこのような間取りになるんじゃないかと思った。

「おうおう、最近の若いモンは部屋の入り方も学府で習わんのか」

中心に据えられた、とりわけ華美な椅子がぐるりと廻転し、こちらを向いた。
座っていたのは一人の男。軍服にキャプテン・ハットを被っているが、帝国旗の刺繍を一本線で打ち消している。
三十路も半ばといったところの、経験・実力共にピークを迎えた戦闘屋の気配を濃厚に放っていた。

「あなたがこのおっきな船の船長さんでありますね」

スティレットは油断なく剣先を向け、弓に矢を番えるように効き腕の肘を軽く引く。
卓越した戦闘者としての彼女の嗅覚が、目の前の男性から『血の濃さ』を如実に嗅ぎ取っていた。
対峙するだけで理解できる。この男は間違いなく遺才に目覚め、使いこなしている。

108 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/08(土) 19:48:11.77 0
「大誤算じゃのう。お前らさえおらんければ、こんな湖なんぞ半刻で制圧できたはずだったんじゃが」

「制圧――? 制圧して、なにするつもりだったのでありますか」

「上に制圧しろと言われたから頑張るだけじゃ。雇われの辛い所よな――っと」

男がおもむろに立ち上がった瞬間、スティレットは裂帛の踏み込み。一瞬で彼我の距離を無に変える。
首を落とさんとする勢いで館崩しの横腹を当てに行く。ギィン!と金属音がして、剣によるビンタは阻まれた。
障害物となったのは長柄のスレッジハンマー。男は杖のようにそれを振り、刃を錘で受け止めた。

「っ!」

スティレットは息を呑んだ。
万物を粉砕する崩剣の刃を受けて尚、彼のハンマーには傷一つ付いていなかったからである。
男は眉一つ動かさず、ただ口笛を吹いてその剣撃を評価した。

「……なるほどのう。便利な剣術じゃの、深く考えんでも才能が勝手に結果を出してくれる」

男の膝がスティレットの腹にめり込んだ。
体重を完全に大剣へと載せていた為に彼女は容易く吹っ飛び、館崩しを手放してしまう。
マテリアルを失えば常人、ただのちょっと頭の足りない娘に成り果てたスティレットは床に全身をぶつけながら転がっていった。

「でも駄目じゃな。きちんと考えて行動せんとこの厳しい社会では生き残れんぞ。単純作業しかできないんじゃあ、奴隷と同じじゃ」

咳き込むスティレットを睥睨しながら、男――『鋼の鮫』クラーケンが艦長、クランク6はゆっくりと歩み寄る。
彼の遺才――鋼の自在成形『ブラックスミス』は、イメージ次第で無限の造形を可能にする。
スティレットの崩剣が発動した瞬間、一度粉砕されたハンマーの破片が四散する前に『元のハンマーの形』に成形し直したのである。
この上なくシビアな魔力コントロールを平然とやってのけるのは、30余年に渡って命を才能に預けてきた経験の賜物だ。

そしてクランク6は、戦い方を才能に完全に依存することの危うさも、また同様に経験から知っていた。
スティレットが容易く反撃を許したのは、彼女の中に半ば本能の如く染み付いた『崩剣への依存』につけこまれたからだ。
ひとたび彼女が剣を振るえば、あらゆる防御を貫きあらゆる障害を突破する強力無比の攻撃能力。
逆説的にいえば、スティレットは『破壊できない物』に対する経験値が圧倒的に足りないのだ。
だから簡単に体勢を崩すし、間髪を入れない打撃にも対応できない。圧倒的な打たれ弱さは、他ならぬ才能が生んだ弊害だ。

「敵を知り己を知れば百戦危うからずってな。ワシらのような天才ほど、自分の脆さもきちんと知ってやらねばいかんのじゃ。
 ワシももうちょっと早くそのことに気付いとれば、"凄い天才"のまま真っ当に生きていけたんじゃろうが」

「……いま、投降すれば、……ひどい目に合わずにすむでありますよ……っ」

ひゅうひゅうと息を漏らしながらスティレットは呟いた。
内臓のどこかを傷めたのか口の端から血が一筋。震える歯の根を無理やり食いしばって、唸るようなつぶやきだった。

「そいつはできん相談じゃな。引き受けた仕事は最後まで責任持ってやりとげるのが社会人の正しい在り方じゃ」

「じゃあ、……ひどい目に遭っていただくで、あります……」

「興味深いのう。"脆い天才"が"凄い天才"にどう酷い目を合わせるちゅうんじゃ?お?」

クランク6は床に倒れ伏すスティレットの身体につま先を入れ、蹴り上げた。
ごろりとひっくり返された彼女の身体は、軽鎧すらも着けていない水中活動仕様。
日干しにされた蛙のような姿になっても、剣なき剣士の少女は目を伏せずに真っ直ぐとクランク6を視線で貫いた。

「あなたは一人ぼっちですから。頼れる仲間の居るわたしに、勝てるわけがないのでありますよっ――スイどの!」

虚空へ向けて、頼れる仲間の名を叫んだ。


【ボルト:気絶から復帰。ファミアに状況の報告を命じる 
 スティレット:クランク6と会敵。遺才につけ込まれピンチに】

109 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/10(月) 00:18:18.50 0
>「……ちょっと派手にやりすぎたかしら。」

衝撃に次ぐ衝撃を経て切り裂かれた壁。土埃漂う向こうから姿を表したのは――

「っ!!」

気付けばクローディアは半ば無意識的に身体を後ろへ飛ばしていた。
バックステップにてナーゼムの背後まで跳躍。その分厚い背中に身を隠すように縮こまる。
顔面は蒼白で、瞳孔は動揺に震えている。しかし視線だけは外せなかった。その先に居るのは、妙齢の女性。

「あ、あんたはダンブルウィードの……! こ、こないで、それ以上近寄るんじゃないわよーーーっ!!」

まるで檻から猛獣が出てきたような怯えっぷりである。
それもそのはず、あの一戦で知らしめられた力量差は絶対的な上下関係を刻みつけるに十分過ぎた。
労働者など歯牙にもかけない貴族のクローディアであるが、この女剣士にだけは歯も牙も萎えてしまう。
命の危険を感じたのではなく、逆にあの場で見逃されたことで――『この女には到底敵わない』という事実だけが刷り込まれたのだ。
で、精一杯の反抗が今。ナーゼムの後ろに隠れて野次を飛ばすことで貴族としての自尊心を無理やり納得させたのだった。

>「またお目にかかれて光栄ですわ。クローディア=バルケ=メニアーチャさん。今回は目的が同じようで何よりです。」

「う……!」

そんな裏事情もどこ吹く風、女剣士――ノイファ・アイレルは慇懃に礼をする。
その余裕しゃくしゃくといった態度たるや、いかにも『先でのことは気にしてませんよ』と言った具合で。
クローディアは歯ぎしりを強くした。ハンカチがあったら噛み付いていることだろう。

>「ナーゼムさんもお元気そうで、背中の傷は治ったかしら?」

「お陰様で。生きていれば人間、大概の傷は治るものです。私は特に頑丈でしてね……かくいう貴女も浅い傷ではなかったでしょう」
「ちょっとナーゼム! なに朗らかに世間話してんのよ!その傷つけたのあの女でしょ!」
「ですがクローディアさん、昨日の敵は今日の友という言葉もありますし」
「それっぽい言葉で取り繕ってるけど蓋開けたらただの引き抜き買収じゃないそれ!」

>「よう」

ノイファの後を続いて二人の影が歩み出てくる。
一人はノイファと同じくダンブルウィードで決闘したフィンという男。
もう一人は――

「ダニー! 無事だったのね……ていうかあんたも仲良くなってるし!なに、いくら握らされたのよ!」

最初に会ったときに比べどこか毒気の抜けた印象を感じる。口調も少なからず朗らかだ。
拳を交えてこそ分かり合える何かがあるなんていう、筋肉で出来た脳味噌から吐き出されたような理屈をクローディアは理解できない。
だから、ダニーのこの変容はただただ不可解で、しかし情報を集めるという任務自体には金一封をやりたいぐらいに完璧だった。
なにせノイファたちの後ろに仲間のような顔をしてつっ立っているのだ。相応の信頼をダニーは獲得できたのだろう。

(ん。ってことは、こいつらが出てきた穴の向こうは"うちの宝物庫"ってこと……? 一体何が、)

>「はい、これ。サフロール君なら"解析"できると思って。 今のところ貴方だけが頼りだから――よろしくね。」

ノイファがサフロールに差し出した代物をチラ見して、クローディアは窒息しそうになった。

110 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/10(月) 00:20:31.71 0
メニアーチャ『本家』の家宝中の家宝、"凰火紋"のレイピア。分家のクローディアなど、人生で数えるほどしか見ていない。
当然触れることなど本家でも当主を除いて誰にも許されざる家外秘中の家外秘であった。

>「あぁ、それがテメェの言ってた『鍵』か。……つっても、今更解析も何もねえだろう。
  鍵はある。鍵穴もある。後は差し込んで終わりだろうがよ。

その価値を知るべくもないサフロールは、まるで棒切れでも持つかの如き気軽さでそれを振った。
北方の凍土国から特別に輸入した高密度の隕鍛ミスリル鋼の刀身が風を切り、その輝きは粒子の舞うよう。

息を呑んで一足投を見守るクローディアは、それを奪い返すという発想すら浮かばなかった。
自分のものにするよりも、ただただ今この瞬間をずうっと眺めていたい欲求。脳髄が痺れるような甘い美しさ。

>「おい、陥没貴族。折角の大役だ、曲がりなりにも血縁のテメェに譲ってやるよ」

その危うい陶酔は、突如として断ち切られることとなる。
――他ならぬ、その流麗な刃によって。

 * * * * * * 

帝都三代豪商たるギルゴールドとメニアーチャの両家は、長い間主義理念の相反から対立関係にあった。

常に利潤を追求し、遍く全てを金を生み出す手段へ変える"守銭奴"ギルゴールド家。
資本の成長を社会の発展に見出し、市民の福祉と厚生を支える基盤づくりを目指した"慈善家"メニアーチャ家。
互いは信条こそ違えども、相手のいうことも一理あると内々に思いあってきた。

ギルゴールドは人心に膾炙し常に笑顔に囲まれていたメニアーチャを尊び、
メニアーチャもまた今の地位が祖先から受け継いだ莫大な財産を前提としていることを自覚し、成り上がりのギルゴールドを敬った。

だから帝国政府からの重税逃れを資産家の間で画策したとき、両家は互いを財産の隠し場所に選んだ。
いつか、互いが仮借なく手を組み大衆を未来へ導いていけるようにと願いを込めて。

メニアーチャは隠し財産の全てをギルゴールドの墓へ。
隠すほどの財産を持たなかったギルゴールドは――『金を稼ぐという才能』を、メニアーチャの血筋へと隠した。
クローディア=バルケ=メニアーチャ。『バルケ(湛える者)』の銘をもつ分家は、ギルゴールドとの政略婚姻の結実だ。

 * * * * * * *

「痛っ――」

剣を受け取らんと差し出した手のひらに、サフロールが置いたのは柄ではなく刃先。
その切れ味たるや市販の刃物とは比べ物にならぬレベルで、手のひらに乗った刃は引いてもいないのに皮膚を浅く裂いた。
真っ赤な血が一筋の刃創から小さく噴き出して細身の刃を赤く濡らした。

>「おっと、悪いな。まあ……そう怒るなよ。ほら、さっさと開けちまいな」

サフロールを睨みながら、クローディアは黙って柄を握り直す。
初めて触ったはずなのに、不思議と吸い付くように手に馴染んだ。まるでこの剣の為に身体が作られたような不気味さに汗が引く。
問題の『鍵穴』は目の前にあった。指先ほどの、小さなスリット。ちょうどレイピアがピタリと嵌りそうな幅である。
きっとこれを差し込むための穴であることに間違い無いだろう。しからば、彼女は一刻も早くそれを完遂すべきだ。

(本家の財産が奪われたってあたしには関係ないわ。もう破門同然の扱いだもの、立ててあげる義理もない)

逆にここでクローディアが拒否したところで、別の誰かが解錠するだけだ。
彼女にこのレイピアを奪い返す力はない。敵は戦闘屋が4人、こちらは雇い主のクローディアを除いて二人。
ダニーの腕に不満はないが、ノイファとサフロール、フィンの力量を知っている以上対立するのは下策も下策。
まして帰りの道程をクリアするには彼らの協力が必要不可欠なのだ。等身大に政治的な問題がそこにはあった。

111 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/10(月) 00:22:28.02 0
でもきっと、ここで賊に手を貸したらば――彼女のメニアーチャとしての貴族性は完全に消滅するだろう。
彼女と家とを繋ぐ命綱、最後の拠り所とも言えるものを、いま、この剣で断ち切ろうとしているのだ。

「クローディアさん」
「わかってるわナーゼム。迷ってる場合じゃないもの、あたしは――命のために誇りを捨てられる」

かかっているのが自分の命だけだったならまた結論は別だったかもしれない。
雇用主の双肩にのしかかる重みは、ナーゼム、ダニー、ジョナサン、シヴァの四人分。
誇りと一緒にかけた天秤は、とうに傾ききっていた。

剣を握る右の肘を曲げ、柄は顔の前まで持ち上げる。
生卵を握るような柔らかさで柄をグリップ。全身のバネから生まれる力のベクトルを剣先へと集約させる構え。
――――彼女がこれから決別する、貴族の剣術。

「ばいばい、メニアーチャ!」

踏み込みは裂帛、これ以上ないほど教科書通りの突き込みは鮮血の尾を引いてスリットへと叩きこまれた。
スウェプトヒルトの飾りも瀟洒な剣身の根元まで刺さり、鍔に到達した瞬間、光が起こった。

「――――――っ!!」

クローディア=バルケ=メニアーチャの『あらゆるものをあらゆる場所から買い付ける』という遺才。
その才能が由来するのは受け継がれてきた『血縁』であり、『血液』である。
レイピアの刀身に塗布されたメニアーチャの血をパワーソースにした術式が内部で組み上がり、そして爆ぜた。

最初に降ってきたのは、金銀と宝石によって彩られた拳大のブローチ。
百年に一度しか実を結ばない世界樹の実をいくつもあしらった木冠や、一つで最新のゴーレムが買えるオパールのペンダント、
帝都の中でもとりわけ偏屈で知られる職人にしか作れないと言われる管笛、東方の失われた技術が使われた漆器の数々。
およそ庶民が一生の中で一度も触れることのない財宝が、雨あられのようにどこからともなく降ってきた。

クローディアの購入召喚術によって、レイピアを対価に『壁の向こう』から召喚されてきたのはメニアーチャ秘蔵の財産たち。
エストアリアが遷都する前からウルタールで商人をやっていた当家の稼業の成果物である。

次々降ってくる財宝のせいで、下のほうの財宝は既に押しつぶされて破損してしまったものも多々あるようだ。
墓場を埋め尽くす勢いで積み上がっていく財宝の数々は、然るべき手段ならば個別に召喚できたはずである。
分家のクローディアはその正しい手順を教えられていないし、墓荒しの彼らにとっては知るべくもないことだった。

最後に、『レイピアを対価として購入されたレイピア』が財宝の山の頂に突き刺さり、召喚は完了した。
彼らの目の前には、ゴーレムが組体操したかのような巨大さを誇る金銀の威容が聳えていた。


【財宝をゲット!】

112 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/10/11(火) 16:38:06.89 0
>>107
>「遊撃課……それがウィレム=バリントンやお前さんの所属か。服装もまちまちだし、一体何者なんだぁ?」
カシーニはそう言いながら無造作にファミアを引き抜きました。
年格好の割にひどくしゃがれた声に、革のような顔の質感。
風と砲煙と太陽に痛めつけられたそれは、いかにも船乗り然とした印象でした。

「来歴に関しては、後ほど指揮官から直接」
別に秘匿するほどのことでもありませんが、うまく説明できる人が他にいるならそっちから聞いてもらうほうが良いものです。
>「それで、そのデカい塊はなんだ」
「指揮官です」
>「……おい、誰か解体刀持って来い!」
飲み込みが早くて助かるなあと、ファミアは思いました。
ただ、視線は少し痛かったです。

切開に当たる船員に術式のことを説明して、慎重に、しかし出し得る限りの速度で作業を進めてもらいました。
その間、ファミアは自分でこしらえた穴の処置のお手伝い。
船には必ず付いている水抜きポンプを、一人でぶん回しまくって排水し続けるのです。

そうしている間に、湖賊船の水夫が防水処理された予備の帆を船の外に吊るして穴に近づけると、
吸い込まれた帆が穴に張り付いて浸水量を激減させました。
これでとりあえず今すぐ沈んでしまうようなことはありません。

まだ木材で補強する作業が残っているものの、そこらへんはファミアが手出しをできる領分ではないので解体現場へ戻ります。
もう終盤に差し掛かっていて、周囲をぐるりと切り裂いて『上蓋』を外すと、意識のない課長が現れました。
呼吸は速く浅いものでしたが、すぐにいくらか安定し始め、それが咳という形でもう一度乱れた後、目を覚ましました。

>「おい……状況を報告しろ、アルフート」
課長からの下命に、敬礼をしてから声を出します。
「は。ファミア・アルフート課員、報告します。
 まずは課長ご自身についてですが、罠が仕掛けられているものの解除は困難と判断しましたので、そのままこちらへ搬送しました」
だから動かないように、と念を押してから、全体の状況の説明へ。

「湖底にて巨大魚と遭遇、これを撃退せしめたのち、湖上において敵大型船艇との戦闘に突入」
このあたりはまだ課長も認知しているところでしたが、ファミアはもちろんそれも知りません。

「自分及びバリントン、スティレット両課員が敵艦に接触し、機雷発射管を破壊。その後、湖賊船が接舷するに及び、敵指揮官は艦の放棄を決定した模様。
その折に時間稼ぎとして課長に魔力感知式の爆発術式を仕掛け、我々の前に放置。
 先述の通りその場での解除は困難でありましたが、罠ごと固定してまずは難を逃れました。その後、両課員は船艇内部へ侵入、
自分は後送を担当し、途上において追撃を受けたものの機知を以ってこれを退け、課長をお連れした次第であります」
嘘はついていません。人間は誠実さが大事です。

「ただ……支給された装備を紛失してしまったため、その他課員の動向に関しましては、自分には不明であります。申し訳ありません……」
アルテリアが船に残って指揮を執っていることや、スイもクラーケンに乗り込んでいったこともファミアはまだ知りませんでした。

【粉飾】

113 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/10/11(火) 21:55:14.29 0
コツコツと船内を歩き続ける。

「(ここ右に曲がったらつくな…)」

頭の中に描いた地図と現在位置を参照させる。
だが、目の前が一瞬歪んだ。

「…っ!マジかよ…」

裏がこの状態になるのは大体限られている。
体力が底を尽きたときか、魔力が底を尽きたときか。

「あー、畜生、使いすぎたのかよ」

目前に船長室は迫っているというのに、失態だ。

「はぁ…、おい、後任せた」

自分に呼び掛けるようにそう言って目を閉じる。
次に目を開いたときは、感情をあまり映さない瞳が周りをぐるりと見渡した。
表に入れ替わったのだ。

「丸投げ…。まぁいい、回復はさしとけよ」
「(わぁってらぁ!!でもたかがしれてんぞ)」
「そのあたりは自分でどうにかしろ」

そう吐き捨て、短剣を引き抜いた。
確かめるように軽く振り回し、ボウガンをもう一方の手に取る。
表の方は裏のように風が使えない。
だが、その代わりに戦場で染み着いた体術がある。
ある意味、狭い船内で闘うのは有利かもしれない。
そう思いながら、出来るだけ音を立てないように船長室に侵入した。

>「興味深いのう。"脆い天才"が"凄い天才"にどう酷い目を合わせるちゅうんじゃ?お?」
「(自画自賛…)」

聞こえてきた男の声に、内心突っ込みを入れながら距離を測る。

>「あなたは一人ぼっちですから。頼れる仲間の居るわたしに、勝てるわけがないのでありますよっ――スイどの!」

スティレットの声を皮切りに、短剣を構え、一気に男に迫る。
しかしそれはフェイクであり、その勢いのままに床を転がり、館崩しに手を伸ばす。
柄の部分に、痛み止めの薬草を
入れた袋を巻きつけ、渾身の力でそれをスティレットのもとに投げ飛ばした。

「お前が…これを操ってる、間違いないな?」

これ、という言葉に下を指差し、船の意味をふくませる。
その間に体制を立てなおし、矢を装備してないボウガンと短剣を構えた。
矢を装備してないボウガンは、言わばトンファーのような役割だ。
さして使い慣れていないため、うまく攻撃できるかどうかは別だが。

「俺達に攻撃をしてきた時点で敵と見なす。
 悪いが俺の中では−−敵と死は同義だ」

足をバネのように使い、スイはクランク6に襲いかかった。

【スイ裏→表に。風の異才が使えなくなる
 館崩しをスティレットのもとにぶん投げ】

114 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/10/12(水) 23:35:10.00 0

>「これは、フィン君が……やったのよね?」

「これを、俺が……やったのか?」

問いかけるノイファの言葉。
しかし当のフィンも何が起きたのか把握しきれていないようで、
ただ困惑の様子を見せるに留まるしかなかった。

>「それより、その腕。大丈夫?なんとも無いの?」

それは、ダニーとノイファに身体の心配をされるまで、
自身の身に異常が無いか確認するのが遅れる程であった。

「あ……おう!……大丈夫、だぜ!」

フィンは二人から心配されてようやく、その手を握って開く動作を繰り返し、
動作に影響が無い事を確認すると、引きつったように無理やり作った笑みを浮かべる。
この状況で笑みを浮かべたのは、他者に自身の心配をさせる事を良しとしないフィンという
青年の性質故にだろう。
最も……動作に影響が無いとはいえ、影響が皆無という訳ではなさそうだった。

(傷が治ってねーのに、痛みが弱くなってる……ひょっとして、感覚が麻痺してんのか?)

そう。フィンの考えた通り、エネルギーを放ったフィンの片腕は、感覚が鈍重になっていた。
これが一時的なものか継続的な物かは不明だが、あの一瞬でこの様な後遺症が発生したのだ。
乱用すればどのような結末を迎えるかは想像も付かない。
ダニーが述べる、フィンの「気」に対する推測のリスク。
それを黙って聞きながらフィンは普段あまり使わないその思考を働かせるのであった。


様々な疑問を置き去りにし、そして壁は砕かれた。
ノイファの振るった剣が、脆くなった壁をとうとう崩したのだ。
閉鎖されていた空間に風が流れ込む気配がし、その先に複数の人影が見える。それは――――

「よっ!サフロール!怪我はねーか?無事に再開できて嬉しいぜっ!!
 んでもって、クロー……えーと、クローディー?と、ナーゼムも久しぶりだなっ!!」

白い歯をキラリと輝かせ、フィンはサフロールと、以前敵対した関係である
クローディアとナーゼムに目立った怪我が無い事を喜び、笑顔を浮かべる。
彼らとの再会によってそれまでの思考を打ち切ったようだが、さしものフィンもこれまでに蓄積された疲労により、
近づいて無理やり肩を組むといった、普段の彼なら行いそうなコミュニケーションの類は取れない様だ。
崩れた壁の破片を踏みしめ、乗り越え、サフロール達がいた部屋の壁に背を預ける。

115 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/10/12(水) 23:35:33.50 0
――――それからの展開は早かった。

魔術の類に詳しくないフィンには知るべくも無いが、
ギルゴールド家の用意した最後の「錠」。
そしてそれを開くための無二の「鍵」の存在。
複雑に絡まった金庫破りの方式と、貴族の誇りの取捨選択。

短時間の間に、されどこれまでの道程に匹敵する程の出来事が起きたのだ。

>「ばいばい、メニアーチャ!」

しかし、フィンにはその複雑さも、誇りを捨てた覚悟の程も判らない。
それは、彼がそのような論理的思考を苦手とするからで、
そして、自身がかつて己のの理念を守る為に、貴族の誇りをいとも容易く放り捨てたからでもあるのだろう。

艱難辛苦、絶命へと誘う洞窟の探索。
その道のりは、一人の少女が放る洗練された剣によって、
数多の感情を乗せたであろう剣術によって、いよいよ終点へと辿り着く。


閃光が収束した後に降り注いだのは、黄金の雨であった。
恐らく、この世界で最も壮大で豪奢な雨。

宝剣、宝珠、宝石 宝

降り注ぐ物品はその全てが宝と呼ぶに相応しい美しく希少な品々であり、
この金庫の持ち主が商人としていかに強大な存在であるかを、想起させるものであった。

「おお――っ!!すっげーなこれ!!見ろよサフロール!ノイファっち!!
 なんかすげー金ぴかだぜっ!?」

財宝よりも冒険を求めるフィンでさえ、子供の様な興奮を見せる。
もはやこれは、情景自体が財宝の様な光景と言っていいだろう。

フィンは、レイピアが最後に突き刺さった後宝の山に歩み寄ると、
其処に落ちていた白の外地に青の裏地のマントを肩から掛け、
管笛を折れていない手に持ち、キリリとポーズを決める。

「なあなあ!こうすると勇者みたいに見えねーか!?」

どうやらフィンは、どうやら財宝というよりもこの状況に興奮しているらしい。
しかしながら、彼が適当に纏ったマントと管笛はフィンの容貌に無駄にマッチしており、
まるで本当の勇者であると宣言しても差し障りが無い程であった。

「……ん? そういやこれ、どうやって持って帰ればいいんだ?
 一個一個泳いで持ってくのは流石の俺でも、ちっとばかし難しいと思うぜ?」

そして、興奮と混乱の最中であったが、今現在の最大の不安要素を呟くのも忘れない。
いくらフィンでも、眼前の財宝が「多すぎる」事は把握出来る様だ。

【フィン、財宝の山を見てはしゃぎ、着たり脱いだり、水を差したり。
 「気」を放った腕に、感覚の麻痺絶賛発生中】

116 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/10/15(土) 22:40:09.71 0
「な――」

双眸を見開き、口を呆けた様に開けたまま、ノイファは息を呑み込んだ。
胸元に引き寄せた両の腕が震え、皮手袋に包まれた掌がじっとりと熱を帯びる。

目の前に広がるのは雨――
黄金、白銀、漆黒はもとより、真紅紺碧濃緑と、およそこの世全ての色彩が滲み出てるので無いかと思うほどの
――財貨の雨。

そしてそれこそが今回の任務の果て。
メニアーチャが蓄えギルゴールドが秘匿した、財宝の全てなのだ。

「痛っ。」

ごちん、と呆然と眺めていたノイファの頭に走る衝撃。
頭上で跳ねたそれを慌てて掴み取った。
瘤になってないだろうかと頭を擦り、涙で滲んだ視線を握ったままのそれに移す。

ノイファが掴んでいたのは、目も眩むほどに華美な装飾が施された"聖印"。
"財産の守り手"、あるいは"契約と発展の象徴"とされ、多くの商人に信仰されているスケールスのそれ。

貨幣を模した円形の土台は精緻な金細工、縁を彩る大振りの生誕石。
そして中央には、王侯貴族の冠に頂かれるような精巧なカットが施された紅涙玉、と凡そ実用性から遥かに懸け離れた代物だった。
だが、施された意匠も玉石も、どれも素人目でも判る程の極上の逸品。それがこれでもかと使われている。

これ一つだけで豪邸の一軒は余裕で建つだろう。
そしてノイファの目の前には、未だ数え切れない程の財宝が降り注いでいるのだ。
豪邸百軒分。比較的上層のハードルを丸々賄える。というのも頷ける。

>「おお――っ!!すっげーなこれ!!見ろよサフロール!ノイファっち!!
  なんかすげー金ぴかだぜっ!?」

興奮を抑えきれない、といった感じのフィンが声を昂ぶらせる。

「確かにもの凄いわね……。でもそれ以上に――」

怖い、とノイファは呟く。これだけの財を成し得た"経緯"、そして"力"。
それの集大成が"帝国"を形作っているのだ。

(よく生きていられたものですね……)

かつてそれに真っ向から喧嘩を売った身としては、"今"がどれ程の"奇跡"の連続の上にあるのかを、思い知らされる気分だった。

117 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/10/15(土) 22:40:43.84 0
どんな事にも終わりは訪れる。幸福も苦労も、繁栄も衰退も、そして命にも。
ましてやそれが個人所有の財産ともなれば当然の帰結だろう。
実際のところは何時になったら降り止むのかと、戦々恐々としてたのだが。

「おや?」

ノイファの腰が妙に軽くなったのがその合図だった。
堆く積み上げられた財宝の、その頂点に見慣れたレイピアが突き刺さる。
メニアーチャの財産、ということなら至極もっともな光景ではある。
ノイファも正式に譲り受けたわけではない。

『その剣に相応しい"貴族"になるまで――』

と、ジース=フォン=メニアーチャその人から預かっているに過ぎないのだ。
とはいえ、この状況はあまりよろしくはない。何せ所有権がノイファへと移っていないことの証明なのだからだ。
今は皆、目の前の財宝に意識を奪われているだろうが、クローディアが騒ぎ始めない保証も無い。

>「なあなあ!こうすると勇者みたいに見えねーか!?」

いそいそと回収に向かうノイファより早く、フィンがマントを纏い、管笛を手に、見栄を切る。
確かにその姿は、精悍なフィンの容貌に良く似合い、さながら人類を率いて戦う勇者と見えないことも無い。
問題は身につけた物の値段と、管笛を掲げる手が折れたばかりの腕だということだ。

「フィン君、確かに似合っているし、格好良いのだけど――」

見定めるふりをしつつ、引き抜いたレイピアを鞘へ。

「――怪我した方の腕で持ったりしたら、治りが悪くなるでしょ!」

やんちゃな子供を叱るように人差し指を突き出して、笛を取り上げ山に戻す。
しかしマントはそのまま。なんといってもノイファが此処まで辿り付けたのは、フィンに拠る所だ大なのだ。
そのくらいは問題あるまい。

「クローディアさん。」

フィンの横をすり抜け、クローディアへ手にしたままの聖印を差し出す。
ダニーとは交わした約束があるし、なによりクローディアが居なければ目的を果たせなかったのは間違いない。

「ご協力に最大限の感謝を。貴女が居なければ、私達は任務を遂行できませんでした。」

貴族と決別した彼女へ、貴人に対する礼で応じる。
彼女は勘違いをしているのだ。

「私達は帝都従士隊所属『遊撃課』の隊員です。
 今回の任務は元老院から直々に、その中には当然貴女の"お兄様"も含まれておりますから。」
 
つまり、この財宝を前にして、一つとして懐には入れられないのだ。
宮仕えの厳しい現実である。

「それに、勤労には対価があってしかるべきです。
 私達は俸給が。貴女達には現物支給ということでいかがでしょうか?」

そこに、多少目減りしたところで判りませんから。と付け加え、ノイファは笑みを見せる。

118 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/10/15(土) 22:41:22.86 0
財宝を見つける、という任務は終わった。
道中の疲労感は心地よい達成感へと変わり、口元も自然と綻ぶ。だが不思議と手放しで喜べない。

>「……ん? そういやこれ、どうやって持って帰ればいいんだ?
  一個一個泳いで持ってくのは流石の俺でも、ちっとばかし難しいと思うぜ?」

何気ないフィンの言葉。
その言葉に昂ぶりが波のように引いていき、現実へと即座に引き戻される。
そう、持ち帰るまでが任務なのだ。

「うわー……考えてなかった……。ううん、考えないようにしてた、ってのが正しいかしら……。」

感じていた一抹の不安の正体。
それを突き付けられ、ノイファは頭を抱えた。

十や二十程度なら分散して持ち出すのも可能だろう。
三十、四十でも上の課員と連絡を取れば事足りる。
だが実際は百を優に超えそうな数と、加えていまや地盤も怪しい洞窟の中という状況。
ゴーレムを運搬用に使うのは無理そうだし、手持ちの装備も役に立ちそうなものは見当たらない。

「ボルト課長とは念信器がつながらないし、来た道は水流で潰れてる……。
 となると、他の課員に片っ端から連絡とるのと、別の経路も探さなきゃよね。」

ぶつぶつと呟きながら問題点を挙げていく。
考えれば考えるほど、頭が痛くなるばかりだ。
しまいには魔獣化したナーゼムの胃に全て納めるか、などといった人格をまるで無視した考えまで浮かぶ始末である。

「えーい、独りで悩んでたって仕方ないわ。
 三人寄ればなんとやら、って言うのだしね。何か良い方法が浮かんだ人は挙手っ!」

幸いと言うべきか、此処に集うのは凡人に非ず。
一騎当千の偉才持ち、"天才"と呼ばれ爪弾きにされた者達の集団なのだ。
自分では考えつかないような発想を得られるかもしれない。
サフロールとクローディアを抜かし、肉体労働系に偏るきらいは若干あるが。

「クローディアさん。
 "鍵"のレイピアを持ち出せば、別の場所にコレを再現することは可能なのかしら?
 例えば……そうね、本家の人たちとかならどう?」

仲間へ丸投げにするのを良しとせず、ノイファは可能性の一つに問いかけた。


【どうやって持ち出しましょう?
 ノイファ→クローディアに外で再召喚が可能か否や?】

119 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/15(土) 23:27:14.88 0
床に這いつくばるスティレットの頭に、スレッジハンマーが打ち落とされようとした刹那。
船長室の扉から影が飛び込んできた。

「っ!」

クランク6は上体を引き、振り上げていたハンマーの落下位置を調整してカウンターをかまそうとする。
が、影はクランク6へとは向かわない。直前で進路を直角にとり、船の揺れに合わせて滑る館崩しへと向かった。
握り、スティレットへと放る。無駄のない洗練された身体挙動は、傭兵団から出向してきた遊撃課員・スイのものである。

「スイどの!お待ちしていたであります!!」

館崩しを受け取った途端に体中へ気力が満ちるのを体感しながら彼女は立ち上がった。
柄頭に小袋が結わえ付けられている。中に入っていたのは患部に貼り付けることで局部麻酔の作用を発揮する薬草だ。
スティレットは使い方が分からなかったので、迷わず口に入れて飲み下した。

>「お前が…これを操ってる、間違いないな?」

「見てわからんか。そりゃそうじゃな、船っちゅうもんは本来一人で動かすもんじゃないけえ――」

長口舌は余裕の仕草。クランク6もまた、船員の脱出への時間が欲しかった。
彼は撤退戦を余儀なくされた操船部隊のしんがりを務めるつもりでここに居るのだ。
スイが短剣とボウガンを構え、間合いを蝕み始めていた。ボウガンには何も番えられていない。
非実体性の術式矢か、あるいはそう見せかけるハッタリか。

>「俺達に攻撃をしてきた時点で敵と見なす。悪いが俺の中では−−敵と死は同義だ」

思索を断ち切って攻撃が来る。肉食獣のように伸びのある動作で迫った剣を躱し、ハンマーを振るう。
ボウガンをかち当てて防御された。追撃の短剣は柄で絡めるようにして軌道を逸した。

「大した自信じゃの! 言うだけのことはあってなかなか"使う"ようじゃが――」

視覚外から鋼の滝が迫ってきていた。圧力の正体は大剣、スティレットの振り下ろした大上段からの館崩し。
崩剣封じのハンマーは間に合わない。ブラックスミスを発動し、床に敷かれていた薄い鋼をかき集めて壁にする。
止まらない。同じように再成形の術式を通していたはずの壁は、いとも容易く斬断された。
床に達してもも剣の勢いは止まらず、そのまま床を半円型に抉って突き抜けた。

「スイどの、薬草よく効いたであります!!」

スティレットが復帰した。戦闘感覚に優れる彼女はスイの攻撃を先読みしてクランク6に逃げ場を塞ぐ。
いくら指揮官クラス熟練した戦闘者と言えども、手練二人を相手取って無傷でいられる通りはない。
致命傷を巧みに避けながらも、クランク6は次第にその肢体に刃創を増やしていく。

「ワシは――死ぬためにこんな湖の果てまで来たわけじゃあ、ないッ!!」

打ち下ろしたハンマーはスイとスティレットのどちらも穿たず、鋼張りの床を叩いた。
まるで紙を折り曲げるみたいに、打突点から床板が折れ両側から鋼の壁が、スイ達に迫る!

クランク6は、巨大な船体を覆う鋼を操るという規格外の異能で組織の指揮官の座を得た。
その能力を仮借なく用いれば、船内に侵入したスイ達などまさに籠の鳥、容易く撃滅し得るはずである。
それが、彼はここまで追い詰められている。傷つかないはずの身体に裂傷を刻まれている。

戦闘経験が豊富な者ならば察知するはずだ。
『クランク6の遺才が、弱体化し始めている』。

真実は否。クランク6の遺才『ブラックスミス』は出力を落としたわけではない。
正確には戦闘に回す出力が減った――もっと巨大な目的のためにリソースを割かれていたわけである。
己の船を愛しすぎたが故に道を外したクランク6が、みすみすクラーケンを沈めるわけがない。

120 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/15(土) 23:27:57.92 0
【クラーケン・甲板】

『クラーケン』の本質は"船"ではない。その変形自在な『船殻』にある。
鋼の船殻なくしてクラーケンは語れず――それ故に、船殻さえ移植すればどんな船でもクラーケンになり得るのだ。
クラーケンはいま、瀕死となった船体を捨て、新しい"身体"へと乗り換えを行なっている最中だった。
巨大すぎたために隙を突かれた前の船体。そこに突き刺さった、小ぶりだが戦闘的に洗練された湖賊船へ。

* * * * * *

【湖賊船・船底】

>「自分は後送を担当し、途上において追撃を受けたものの機知を以ってこれを退け、課長をお連れした次第であります」

ファミアの報告は簡潔にして要点を外さなかった。
甲板から戦況を見ていた船員の一部が彼女を指さして口をパクパクさせていたが、現状と関係はあるまい。
未だ酸素不足と衝撃で痛む頭を振りながら――背中はぴっちりと敷かれた鉄板に張り付いたままだったが、ボルトは了解した。

>「その他課員の動向に関しましては、自分には不明であります。申し訳ありません……」

「良い。それは指揮官のおれの不用意だ、お前の責任じゃない。向こうの戦況が詳しく知りたいところだが――」

念信機はうんともすんとも反応しない。
念信に応じる余裕のない臨戦を強いられているか、向こうの念信機も壊れているか。
あるいは――既に戦死しているか。敵も船を放棄した時点で捨て鉢の特攻を仕掛けてきてもおかしくはない。
戦場の定石を無視したその戦術が、予想以上の被害と攻撃力を生むことについては、この場の誰もが知っていた。

「船長!敵船の船殻が――!!」

甲板で後援に回っていた船員が船底へと飛び込んできた。
背中に鉄板を張り付けながら船員に介助されて甲板へ出ると、そこには腰骨が吹っ飛んでいきそうな光景が広がっていた。
『鋼の鮫』を覆っていた攻守最強の鋼殻が、まるで溶けた蝋のように波立ちながら鋼の鮫から湖賊戦へと押し寄せている。
さながら水銀の津波。既に甲板の二割ほどが流れ落ちてくる鋼色に染まりつつあった。

「乗っ取ろうとしてやがるのか……この船を!」

そこに介在する意志は『攻撃』ではなく『侵略』。不利になったボードゲームの盤をひっくり返すが如き暴挙。
なにがなんでも己の愛した愛娘だけは生かそうとする親の心象が幻視された。

(撤退――いや、まだうちの課員が中に!)

ボルトの脳裏に天秤が出現した。
課員たちを切り捨て船を退かせれば、とにかく指揮官たる自分と兵力の大部分が飲み込まれる最悪のケースは回避できる。
戦場での判断を徹底するならば迷う必要すらないはずだ。
ボルトの双肩には課員三人じゃ効かない多数の命がかかっている。戦場においては等しく平等な、儚い命の束。
指先が空気を掻いて、硬い唾はいつまでも喉に張り付いたままだった。

「――――――アルフート!食い止められるか!」

ボルトは天秤に錘を載せられなかった。
傍に控える部下の少女を矢面に立たせ、己の不断にかかる責任を先延ばしにしたのだ。
それがどんな大損害を招くか想像しただけで心臓が止まりそうな状況で、ボルトはただ部下の健闘を信じるほかなかった。


【クランク6:スイとスティレットの足場を叩き割り、せり上がった床板でサンドイッチ作戦
 ボルト:湖賊船を乗っ取り始めたクラーケンの船殻を、食い止めるようファミアに指示】

121 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/10/18(火) 21:35:39.46 0
>「ダニー! 無事だったのね……ていうかあんたも仲良くなってるし!なに、いくら握らされたのよ!」
再会の第一声がこれかと思うと苦笑せざるを得ない。
無事でなによりではあるのだが、

「・・・・・・」
別に、良い負け方をしただけさ、とバチンとウインクする。
収穫があったとも言える。

そしてそれぞれの面子が集まった所でクローディアは自分の名に別れを告げた。
自分のようにパッチワークみたいに継ぎ接ぎの姓とは違い、
持って生まれた物なのだから持っておけばいいのにとダニーは思う。

禍根の一つも残しそうなやりとりの後、無事と言っていいのか分らないが
「お宝」にたどり着くことはできた。と言っても上から降り注ぐそれらは見た目よりも
重量のある物が多いせいか、いくつかは目の前で損壊していく。

小さい物ならまだいいがたまに楽器や家具も混じっており冷やりとすることも幾度かあった。
今も鼻先で降り注いできた美しい婦人の像の胸部が着地の衝撃で崩れた所だ、気の毒に。

降り続ける財貨は何とも言えない雨音を響かせ続ける、
こんな音はこの後一生聞くことはないだろう

多くの者は豪奢な物の価値を信じている、いや、信じるからこそ価値が生まれるのではあるが、
目の前の淑女にとって、このゴミの山には小麦一粒分の価値もなかった。
過ぎたるはなお及ばざるが如しとはけだし名言である。

これだけの財宝があったとして、果たして何に使えるというのか。
正真正銘貴族以外にはできないことだろうが、こんなガラクタ帳簿の上の数字に直された上で、
せいぜい軍事費辺りに回される実際には有りもしない金になるのが落ちだ。

下の方に使うよう考えさせられる金額を超えており、増えたと錯覚した金額を弄れば
その帳尻合わせに現実の金が使われる。よくある悪循環だ。

122 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/10/18(火) 21:38:06.48 0
とは言え一応は報酬(仮)だ、先駆者たちに倣いひと通り物色してみる。が、めぼしい物はない。
体を鍛えるための特殊な道具やドーピングの類はやはり設備の方で賄っているのだろう。
それっぽい魔導書や指南書等の書物があるのは希少価値があるからだろうか。

ざっと流し読みしたところ外法染みた、というより外法そのものといった内容の物も、
混じってたりする。どちら側の部外秘かは分からないが確かに値は付けられそうもない。

「・・・」
筋トレの捗りそうな宝は無さそうだな、とぼやきつつそれらを拾う。
主な戦利品はレアな武術指南や軍事教本と魔導書、それに奇妙なサプリメントだ。
魔法のバーベルや純金の鉄アレイとかは残念ながらなかった。
ついでに自分が着られる服も。

持って帰っていいかどうか分からないが、いいのであれば今のうちから
唾を付けておいたほうがいいだろう。

ある程度収集すると何やらそれぞれ頭を悩ませている皆の様子に気がつく。
どうやってこの宝の山を搬出するか悩んでいるようで、
早速ノイファがクローディアに一つ案を提出したようだ。対してダニーはといえば、

「・・・・・・・・・」
ちょろまかせるだけちょろまかして残りは置き去りにすればいい、
後は何もなかったと報告してお終いだと言う。あぶく銭は真っ当なことには使えないものだ。
ただ働きにもならず、全員の懐も潤い、手間もかからない上策である。

恐らく通らないだろうが彼女的にはこれで八方丸く収まりそうだと考えてのことである。
コレがなくても金持ちは金持ちのままなのだし。

「・・・・・・・・・・・・」
みんなでしあわせになろうよ、とダニーは告げた。冗談半分で、
しかし全くの真顔で彼女は提案した。

【皆でバックれちゃおうぜ!】

123 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/10/19(水) 01:19:05.24 0
>>120
しおれながら報告を終えたファミアに、課長は決然と声をかけました。
>「良い。それは指揮官のおれの不用意だ、お前の責任じゃない。向こうの戦況が詳しく知りたいところだが――」
よし、言質はとった。ファミアは心のなかで小さくガッツポーズしながらそう考えました。
しかし、戦局がどう動いているかわからないのは一課員にとっても不安なところです。課長の念信機からはなんにも聞こえて来ません。
ちょっと見てこいとか言われたらどうしようかと戦々恐々としていると、船員がひどく慌てた様子で駆け込んできました。

>「船長!敵船の船殻が――!!」
相当動揺しているらしく、船殻がどうしたのか聞いてもよくわかりません。
見たほうが早いので船倉を出て甲板へ出ました。
クラーケンが溶けて湖賊船に流れてきていました。




>「――――――アルフート!食い止められるか!」
あまりの光景にしばし自失していたファミアに、課長が訪ねました。
(課長……酸素欠乏症にかかって)
無茶なことを言い始めた課長を前に、ファミアは梱包が厳重すぎたかと反省。
「無理です」
そして取り繕うことも忘れて即答。
「いえ、刻苦勉励力戦奮闘する所存であります!」
でも課長の顔が怖かったので慌てて言い直しました。

とはいえ、じゃあどうするかと問われればどうしようもないのが実情です。
とりあえずだんだんと甲板を蝕んでいる鋼の波に手を突っ込んでみます。
一応すくいとったものは湖に投げ込みましたが、ファミアの小さな手でちぎっては投げちぎっては投げしたところで間に合うものではないでしょう。
何かの拍子に手袋が破れてしまうかもしれませんし、そうなれば本当にできることなど無くなってしまいます。

(どうにかして退かせないと……向こうの船を直すとか?)
放っておいたら沈んでしまうのでこちらに乗り移ってきたのでしょうから、沈まなくなれば理由がなくなります。
ただし色々と本末転倒気味ですし、そもそも直せるのかどうかもわかりません。
(移りきる前に向こうを沈めちゃう……のも駄目)
そんな速度でクラーケンを沈めたら侵入した課員が脱出できなくて溺れてしまいます。

しかしその考えはファミアの脳裏に電流を走らせました。
(そうか、沈めればいいんだ!)
「船長、救命艇の準備をしておいてください!」
叫ぶなり船内へ戻って行きます。狭っ苦しい階段を一気にかけ降りて『乗船口』へ。
ファミアが開けた穴はまだ補修の途中で、半ばほどが木材で覆われていました。
作業をしていた船員を脇にどかせて、それからおもむろにそこをぶん殴ります。
穴の内側から帆布を引っ張り込むと、当然ものすごい勢いで浸水が再開されました。

つまり、湖賊船を沈めにかかったのです。とはいえ、あくまでそういう構えを見せるだけのこと。
これは排水が追いつかなくなる前に向こうが退くかという我慢比べです。
もし退くことなく侵食されたらば、結局沈めなくてはならないのですが。

しかし、よしんば沈んだところで複数の救命艇が残るので、課員の回収だけは可能なはず。
救命艇が乗っ取られても、あの大きさならそれほどの脅威ではないでしょう。
乗り切れない船員も結構な人数になるでしょうが、それは救命艇から綱でも伸ばして引っ張っていくことになります。
ファミア自身は泳ぎは達者な方なのでそういった面では心配がありません。
課長は――回転をつけて投げたら水面で跳ねて岸まで届くかもしれませんね。


【自沈させるふりをする】

124 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/10/20(木) 02:50:35.62 0
>「ばいばい、メニアーチャ!」

貴族の誇りを刺し殺す代償に、クローディアは宝を得た。
その様をサフロールは口を固く結び、冷やかな眼で見つめていた。
眼光を染め上げる感情の色は、嫉妬だった。

クローディアは己の意志で、自分の血と姓を捨て去る事が出来た。
サフロールには決して叶わない事だ。
幼い頃に何度も望んだ、神に刃向かった血族からの解脱。
例え自分がどれだけ望んだとしても、決して世界が許してくれなかった願望。
自分が過去に渇望して諦めた願いは、クローディアにとっては困窮の末の選択に過ぎなかった。
たかが悲観主義の墓守ですら、易々と成し遂げられる事だった。

そして何よりも、サフロールはそれを妬ましいと感じてしまった。
それはつまり認めてしまったと言う事だ。

孤高の天才を気取っていた自分は、本当は血筋に囚われずに生きられる凡人が羨ましくて、
自分を高める為だと撒き散らしていた悪意はただの身を守る為の棘に過ぎず、
凡人には出来ない事をするのが天才だと言っておきながら、その実誰もが出来る事が自分には出来ないのだと。

どれだけ怒気を振りまき、斜に構えた皮肉を吐き散らそうとも否定出来ない。
ただ途方もない無力感と絶望の混じり合った空虚が、胸を支配していた。

>「おお――っ!!すっげーなこれ!!見ろよサフロール!ノイファっち!!
 なんかすげー金ぴかだぜっ!?」
>「なあなあ!こうすると勇者みたいに見えねーか!?」

宝の山を前に興奮したフィンの声が、サフロールの意識を空虚の海から引き揚げた。
けれどもそれで気が晴れる事はない。
せめていつも通りの皮肉を吐く事で心の整理を付けようとしたが、何一つ言葉は出てこなかった。

125 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/10/20(木) 02:51:52.33 0
>「……ん? そういやこれ、どうやって持って帰ればいいんだ?」
>「うわー……考えてなかった……。ううん、考えないようにしてた、ってのが正しいかしら……。」
> 三人寄ればなんとやら、って言うのだしね。何か良い方法が浮かんだ人は挙手っ!」
>「クローディアさん。
> "鍵"のレイピアを持ち出せば、別の場所にコレを再現することは可能なのかしら?

話は進んでいく。不意にダニーが、みんなでしあわせになろうよと言った。
サフロールが思わず小さな笑いを零した。
その皆の中に、決して入れないと知ったばかりの自分への嘲笑だ。

「……転移術式なら帝都にお誂え向きのモンがあるだろうがよ」

図らずもようやく吐き出せた声に続けて、呟いた。
平時の荒々しい語気はまるで再現出来ていなかったが、気にする余裕はなかった。

「SPINの仕組みを流用すりゃあいい。中継地点を作って術式の演算補助をさせれば、
 他所でもここでするのと変わらねえように転移させられんだろ」

幽鬼のように覚束ない歩調で、宝の山に歩み寄った。

「まぁ、その中継地点を作るのも一苦労だろうがな。
 ただでさえ複雑な転移術式の上に、そいつは遺才の産物と来たもんだ。
 ついでに、この洞窟が崩れちまえば中継地点もクソもねえ」

バックパックから短刀を取り出し、左の手首に添える。
魔力で一度塞いだ傷口を、再び切り開いた。
鮮血が地面に滴り、這いずり、宝の山を囲む魔方陣を独りでに描き始める。

「だからこれは、俺がやる」

『分析』の遺才を秘めた血――術式の補助、最適化にはこの上なく適した媒体。
サフロールは魔方陣が完成するまで、静かに滴り落ちる血液を見つめていた。
自分の体から血が失われていく様と感覚に安らぎを感じていた。
『初めからこうすればよかったのだ』と、納得さえ覚えていた。

中継地点は当然、洞窟を脱出するまで幾つも作る必要がある。
何度も何度も、血を流す事になる。
その末に横たわっている未来が、狂おしいほどに待ち遠しかった。



126 ::スイ ◇nulVwXAKKU :2011/10/22(土) 00:34:28.48 0
>「大した自信じゃの! 言うだけのことはあってなかなか"使う"ようじゃが――」
「黙れ」

流石は指揮官クラスと言うべきか、やはり手ごわい。
構え直したところで、スティレットが飛び込んできた。

>「スイどの、薬草よく効いたであります!!」
「幸いです」

スティレットの復帰に安堵しながらも、再びクランク6に襲いかかる。
攻撃を先読みしてくれるスティレットは、非常にありがたかった。
さりとて、相手もやられ続けるわけではない。
クランク6は彼の武器であるハンマーを振り上げ、

>「ワシは――死ぬためにこんな湖の果てまで来たわけじゃあ、ないッ!!」

激しい音と共に、ハンマーに叩かれた部分を起点に床が迫りあがる。

「っ!!」

このままでは、スティレットもろとも、文字通り板挟みになってしまう。

「すいません、借ります!」

咄嗟の判断で、スティレットから館崩しを取り上げ、迫る板に噛ませる。
壁の動きが止まり、人一人分の幅が出来る。
矢筒から矢を抜き取り、館崩しの代わりに噛ませ、ゆっくりと剣を引き抜く。

「ありがとうございました。」

彼女に剣を返したところで、ふと思った。
確かクランク6の異才は鉄関係、実際は鋼だが、を操ること。
今この状況下は串刺しにされてもおかしくはないのだ。

「(弱くなってる?いや、それとも別の何かに使われている?)」

どちらにせよこれはチャンスだ。
今この脇にそびえ立つ壁は、スイにとっては武器となり得るものだった。
狭いところで風を起こせば、弱い風でも突風になる。
要するにビル風と同様の現象だ。
クランク6を正面におびき寄せれば完成だ。

「スティレット先輩。俺が作戦を立てるのもおかしいかもしれないけれど、今から、こういう風に動いてください。
 まず、壁の外に風で送るんで、その正面に敵をおびき寄せて。
 後は俺が引き付けますから、俺のことは気にせず外に出て、この船を遠慮なくぶった斬って下さい。」

作戦を聞けばある意味、敵を道連れの自殺行為に等しいが、スイには確信があった。
崩れたとしても、恐らくこの壁が、スイの身を守る。

「来い。この状況なら楽だろう」

裏に呼び掛け、目を閉じる。

「ok,ok、じゃ、作戦開始だ先輩!」

空中に風で勢いよくスティレットを放り投げ、スイは矢を空中に浮かせ戦闘態勢に入った。

【壁をビルに見立て、矢の速度を上げる作戦、と見せ掛けて、船をくずして埋めさせようとする】

127 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/23(日) 06:43:13.08 0
「すご……」

黄金の威容を前にして、召喚主たるクローディアはほうと息をつく。
元・貴族の彼女をして見たこともないような量の財宝たちは、磨きたてのような光沢で松明の橙を反射している。
優れた業物には人を魅入らせる力が宿る。幾人もの屍の上を流通してきた財宝は、その身に余る魔性を秘めていた。

>「クローディアさん。」

ひゃいぃ!と情けない声で返事をしてしまった。
隣にいつの間にかノイファが立っていたのだ。抜かした腰を戻すために拳で叩きながら、振り返る。
逃げ出さなかったのは、この妙齢の女騎士が浮かべていた魅力的な微笑に、女ながらに釘付けになってしまったからだ。

>「ご協力に最大限の感謝を。貴女が居なければ、私達は任務を遂行できませんでした。」

「……な、なによっ!いまさら手を取り合って何かを成し遂げたつもり?じょーだんじゃないわっ!
 あんたたちが何者なのか知らないけれど、ダンブルウィードでのことと言い、何が目的なのよ一体っ!」

>「私達は帝都従士隊所属『遊撃課』の隊員です。
 今回の任務は元老院から直々に、その中には当然貴女の"お兄様"も含まれておりますから。」

遊撃課。同じ名称をサフロールが自称したのを思い出す。この湖の『ドブさらい』が任務だということも。
それも、元老院から直々ときたものだ。ついさっきまで貴族の端くれだったクローディアにも、その所属の重みは分かる。
"お兄様"――ジース=フォン=メニアーチャが末席につくその領域が、この国の最高意思決定機関であること。
それゆえに、解せない。国家事業の資金繰りなどと言う任務の内容と、そのバックに付く存在の巨大さがミスマッチなのだ。

>「それに、勤労には対価があってしかるべきです。私達は俸給が。貴女達には現物支給ということでいかがでしょうか?」

「んな――っ、ふざっけんじゃないわよ!あたしに労働者の真似事をしろっていうの!?」

労働をして、その対価を受け取るという行為に慣れるには、まだちょっと時間が足らないようだった。
貴族にはもともと労働という概念がない。先祖代々受け継がれてきた土地を小作人に任せておくだけである。
有産階級(ブルジョア)と無産階級(プロレタリア)との間に隔たる価値観の差は、覆しがたいほどに深い。
それでも。クローディアは噛み付きつつも、ノイファが差し出したものを引ったくった。
手放してしまった身分にいつまでも縋り付いていたくないプライドが、ギリギリで勝ったのだ。

(これが――)

手の中にあるのは聖印。商取引を司る、経済の神を奉じたものだ。
ずしりと重みをもった存在感は、クローディアの労働の対価という実体をもって心に深く斬り込んでくる。

(これが、はたらくっていうこと……!)

頑張れば頑張っただけ評価されるという労働者の理想型がそこにあった。
家柄に阻まれて、努力がついぞ実らなかった分家の末裔は、心にじいんと響くものを得た。

さて、宝の山を目の前に、一行は途方にくれていた。
なにせ頂上が決して狭くない洞窟の天井へと届かんといった具合だ、抱えて運び出すにも一日じゃ済まないだろう。
ましてや、ここは深い深い水の底。盗人たちの最後の関門は、罠でも謎解きでもなく、その圧倒的な収穫量だった。

>「 一個一個泳いで持ってくのは流石の俺でも、ちっとばかし難しいと思うぜ?」
>「うわー……考えてなかった……。ううん、考えないようにしてた、ってのが正しいかしら……。」

頭を悩ます男女が二人、見たくなかった現実に直面して唸っている。
クローディアの能力ならば、トロッコの一つも召喚してやれるが、如何せん帰りの道がない。

128 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/23(日) 06:44:58.00 0
>「クローディアさん。"鍵"のレイピアを持ち出せば、別の場所にコレを再現することは可能なのかしら?
 例えば……そうね、本家の人たちとかならどう?」

「ん、それなら別に本家に頼らなくたってできるわ、あたし。ただ――この量を再召喚するとなるとキツいわね」

顎に手を添えて概算する。
どんぶり勘定だが、彼女の持てる限りの魔力を費やしたところで財宝の半分も召喚できないだろう。
彼女の遺才はあくまで『購入』する魔術。そもそも搬出が困難な場所から召喚するとなれば、コストは水を増すことになる。

>「・・・・・・・・・」

ダニーは目ぼしいものだけ持ってあとは知らんぷりすれば良いと言う。
ナーゼムもこれに賛成した。この宝の山を丸ごと運んで帝都にくれてやるよりかは、いくらか労力に見合った利益が出るだろう。
いくら命がけで財宝のすべてを運んだところで、結局のところは国庫に返還されてしまうわけだから。

「確かに、理に適ってるわ。この場で見たものを全員が黙ってればいいだけだものね」

どうせ頑張ってもピンはねされるぐらいなら、いっそ死蔵してしまえと。
宝探しのロマンを真っ向から否定するセリフだったが、なるほど最も現実に即して物事を見ているのは存外ダニーかもしれない。
……そもそも、クローディアたちは別に財宝を探してここに来たわけでもないのだから。
水龍を探しに来た理由が賞金目当てだったので、ここで財宝を手に入れられればもう水龍とかどうでもういいし。

クローディアがそんなあくどい考えに毒されかけたその時、沈黙を保っていたサフロールが口を開いた。

>「……転移術式なら帝都にお誂え向きのモンがあるだろうがよ」

帝都の主要交通手段、転移術式相互補助網の原理を利用して召喚魔術を補助する案が出た。
巨大な川を一飛びに渡ることはできなくても、短間隔で飛び石を置けば踏破できる。
同じ理屈で、召喚魔術にも中継地点をつくってやれば、魔力的な消耗を極力抑えながら地上まで召喚できるという寸法だ。

>「だからこれは、俺がやる」

その中継地点の設営を、サフロールは名乗りでた。
己の血液を媒介にした魔法陣は、肉体の一部(=血)を使用する為に極めて高い魔力伝導性を誇る。

「……あんた、顔真っ青だけど、大丈夫なの?」

瀉血の恍惚に染まるサフロールの表情は、風が吹いただけで命まで飛んでいきそうな儚さを感じさせた。
彼はここへ来るまでに何度も血液を使った魔術を使っている。唇や指先なんかは既に血の気を失っていた。

「決まりね、問題はどう脱出するかだわ――来た道が潰れてるってことは、端的に言って閉じ込められてるんじゃないのあたしたち」

おそらく、通ってきたルートは既に水没していることだろう。
墓のエリアは通路よりも少し高い位置にあるためまだ水は迫ってきていないが、この部屋にも鉄砲水が流れこんでくるのは遠くない。

「クローディアさん、ここに墓守が住んでいたということは、空気は循環しているのではないですか?」
「グッドよナーゼム、それだわ。ちょっと墓守、あんたどっから息吸ってたの」

余所行きの服を見繕いながら一部始終を眺めていた墓守は、目を閉じて頭の片隅を探り当てた。

「二年前まで俺達の生活物資を搬入してた穴があるよ。地上に通じてたはずだから、多分空気もそこからだね」

早速案内させる。墓守に誘われて一行がたどり着いたのは、墓地の奥で轟々と流れ落ちる滝だった。
滝行などしたら一瞬で全身の骨が砕けてしまいそうな勢いで落ちてくる水は、床を水浸しにして墓場の排水機構に飲まれて捌けていく。
これのどこが搬入口なのよ、とクローディアは当然の噛み付き。

129 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/23(日) 06:48:53.89 0
「っかしいなあ、昨日までは普通に縦穴だったんだぜ、ここ。ほら、物資を受け渡す釣瓶があるだろ」

墓守が滝に手を突っ込むと、中からロープで繋がれた木製の大きな鶴瓶を引っ張り出した。
二本のロープは縦穴を上方向にずっと伸びており、片方のロープを引っ張れば鶴瓶のついた方が上に登っていく仕組みのようだ。
ちょうど、井戸の底から空を見上げる構図になる。縦穴は、それこそ標準的な井戸と同じ直径に開いていた。

「これ、さっきの鉄砲水の影響じゃないの?」

クローディアは思い出す。最初に遊撃課の連中とニアミスしたとき、彼女たちは鉄砲水に追われて道を踏み外した。
おそらく、あのまま平穏無事に進んでいたらこの搬入口の地上側へ辿り着いていたのだろう。
つまりクローディアたちがはじめに潜ったあのルートは、ギルゴールドの搬入用の通路だったというわけだ。

「この縦穴を登りきれば、地上近くに出られるんでしょうが……」

ナーゼムが言葉を濁したように、それはあまりにも望み薄だ。
まず滝の流れが半端ではない。鶴瓶に乗れば上昇すること自体はできそうだが、水圧をモロに浴びて全身粉砕骨折だ。
それをクリアしたとしても、鶴瓶を上げるには、下でロープを引っ張る人間が必要になる。つまり、誰か一人は確実に脱出できない。

「――あたしが、」

クローディアは振り返った。これまで死闘を重ねてきた遊撃課の強者たちと、己の愛すべき部下を見て。

「あたしが上へ行くわ。あたしが地上に出さえすれば、あんたたち全員を財宝ごと"買える"。全員で脱出できる」

その提案は、彼女が口にすれば別の疑惑を生むことになる。
『一人だけ、あるいは自分の身内だけ助けるんじゃないか』――彼女にはそれが可能で、彼らに抗う術はない。
その疑念を覆すほどの信頼を、彼女は遊撃課との間に築いてなどいない。

「あたしを上へ連れて行って。必ず全員で帰るって約束するわ、だから――」

それを承知で、クローディアは頭を下げた。
貴族生まれの彼女が本家でもない他人に頭を下げるなど、それこそ生まれて初めての経験で。
ナーゼムが息を呑む気配が伝わってきた。ビジネスの世界じゃ恥知らずもいいところの――無根拠・無対価の嘆願。
何の保証もできないけれど、とにかく自分を信じて欲しいと、そんな"ありえない"頼みを彼女がしているのだ。

「おねがい」

あどけなさの残るその相貌で、真っ直ぐに力を借りねばならぬ怨敵を貫いた。
そこに敵意はなく、打算すらなく、ただ生きて、助からんとする意志だけが燃えていた。


【クローディアの依頼:敵である自分を信じ、滝の上に繋がる地上へと連れていって欲しい
     現在の状況:行きのルートが水没。墓守用の地上への連絡口を見つけるも、どこかの馬鹿が地盤ぶち抜いたせいで滝と化す
           鶴瓶を使って上へ登れるが、滝の水圧をまともに受ければ圧死確実
 目標1ターン】

130 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/10/24(月) 21:22:45.44 0
>「……あんた、顔真っ青だけど、大丈夫なの?」

「……問題なんざ、ある訳ねえだろ。俺は天才だぜ。テメェら程度じゃ理解出来ねえ考えってモンがあんだよ」

己を案じる言葉に、サフロールは根拠のない答えを返した。
あえて辛辣に毒を吐いて、それ以上追求する気概を奪うつもりだった。

>「決まりね、問題はどう脱出するかだわ――来た道が潰れてるってことは、端的に言って閉じ込められてるんじゃないのあたしたち」
「クローディアさん、ここに墓守が住んでいたということは、空気は循環しているのではないですか?」
「二年前まで俺達の生活物資を搬入してた穴があるよ。地上に通じてたはずだから、多分空気もそこからだね」

搬入口へ向かう。左手首の刃傷は止血もしないまま放置した。
血は止め処なく流れ続け、這いずり回って等間隔に中継地点の魔方陣を描いていく。
視界に霞がかかる。意識が朦朧として、足取りが徐々に覚束なくなっていった。
本来血液が果たしている機能を、魔力の粒子を体内に巡らせる事で代替する。
その為表面上はまったく問題ないように振る舞えていた。
手遅れになる前に下手に制止されてしまっても、つまらない。

先導する墓守の足が止まった。目の前には激しく轟き、絶え間なく降り注ぐ滝があった。
顔に掛かる水飛沫に目を細めながら頭上を仰ぎ見る。
松明の火が辛うじて届く天井に、大きめの穴が見えた。どうやらそれが搬入口のようだ。
先ほどの鉄砲水の影響で、このような事になってしまったらしい。

>「っかしいなあ、昨日までは普通に縦穴だったんだぜ、ここ。ほら、物資を受け渡す釣瓶があるだろ」

上に向かう術は、あるにはあった。だが何の策もなしに挑むのは自殺行為だ。
地上に着く頃には全員の見分けが付かなくなっているだろう。

サフロールは先の宝物庫で、己の内側で眠っていた衝動を自覚した。
だからと言って、今までに積み上げた自尊心が失われた訳ではない。
ただ漫然と命を捨てるだけの愚行に沈むつもりはなかった。

>「この縦穴を登りきれば、地上近くに出られるんでしょうが……」

故にサフロールの思考の矛先は間違いなく、現状をどう切り抜けるかに向けられていた。

>「――あたしが、」

不意背後から声、クローディアのものだ。

>「あたしが上へ行くわ。あたしが地上に出さえすれば、あんたたち全員を財宝ごと"買える"。全員で脱出できる」
「あたしを上へ連れて行って。必ず全員で帰るって約束するわ、だから――」
「おねがい」

決意を秘めた眼光と声色で語り、クローディアは頭を下げる。
つい今さっきまで、到底こんな事を出来る人間ではなかったと言うのに。

背負っていた物を捨てるだけで、人はこうも変わる事が出来るのか。
そう思うと、サフロールは胸の奥で鋭い刃が暴れ回るような錯覚を覚えた。

「……いいんじゃねえの。どの道、一本しかねえ出口なんだ。
 この勢いじゃ、ロープを引けんのはテメェんとこの部下くらいだろうしな。協力しねえ手は無えだろ」

彼女の変貌ぶりがあまりにも妬ましくて、思わず打算的な答えを吐き出した。
クローディアが望む『信頼』とは違う、『信用』を意味する言葉だ。


131 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/10/24(月) 21:27:45.47 0
「ひとまず、だ。……俺が傘代わりになるから皆で、なんてふざけた提案は無しだぜ」

まだボロ布の方が幾分見栄えがいいと言えるほどに負傷したフィンに先んじて釘を刺す。
そもそもいなし、受け流す事に特化したフィンの遺才で
真っ向から瀑布を受け続けるのは無理があるだろう。
仮に上まで辿り着けたとしても、致命傷は免れないとサフロールは考えた。
ならば、どうするか。

「まず、この水の勢いをどうにかしねえとな。
 上から降ってくるんじゃ堰き止めるって訳にもいかねえ。だから……支流を作るぞ」

例えば洪水の多発する河川に支流を作る事で水流を減らすのは、治水の一つの方法だ。

「とは言え、川に支流を作るのとは訳が違え。
 天井をぶち抜く以外に支流を作る手はねえが、下手を打ちゃ全員ここで生き埋めだ。
 俺の『分析』も、見えない地盤の奥深くまではどうなってるのか分からねえ」

だが、とサフロールは言葉を繋ぎながらノイファへと視線を向ける。

「テメェには『神託』と、その『眼』がある。
 そいつで何処をぶち抜きゃ天井を崩さずに済むか、見抜きやがれ。
 見誤るんじゃねえぞ。テメェの見立てが間違えば、おしまいだ」

脅迫まがいの言葉で念を押す。
それからフィンへと振り向いた。

「テメェも、あの防御はそれなりの洞察力がねえと成り立たねえ。
 守りの遺才を持つテメェなら、何処が天井の急所なのか視えるんじゃねえのか?
 そのババアの老眼鏡代わりになってやるんだな」

二人にそう告げると、今度は視線を足元に下ろした。
墓場に備え置かれていた棺桶がある。
中には結局目を覚まさないままだったルインが押し込まれている。

「おい、起きろ。仕事だぜ。テメェにしか出来ねえ事だ。
 ……ビビるんじゃねえ。別に死神を相手にしろって訳じゃねえんだ。
 ちょっと天井をぶち抜くだけだ。最後くらい、根性見せやがれ」

貫通力に特化したルインの遺才『ブリューナク』ならば、破壊力の拡散を、地盤への影響を最小限に抑えられる。
上手く支流を作る事が出来れば、搬入口から降り注ぐ水量は大分減るだろう。

「とは言え、それでも十分勢いは強いだろうがな。
 ついでに言えば水に混じって流れてくる岩石も、支流にゃ流れねえ。
 傘になれとは言わねえが、露払いくらいはしてもらわねえと困るぜ」

段取りは全て述べ終えた。

「……っと、そうだ。中継地点を作るついでだ。もう一度、こいつをくれてやるよ」

言いながら、サフロールはノイファの刀剣に手を伸ばす。
洞窟の入り口付近で使った剣筋の補助魔術を再び施すつもりだ。
全ては忌まわしい自分の血を、一滴残らず体の中から捨て去る為に。

【水の量が半端ないので支流作ってもうちょいマシにしようと提案
 ノイファの神託&予見とフィンの直感で、貫いても問題ない場所を探してくれと依頼
 天井をぶち抜く役は一番適任だと思ったのでルインに頼んだって事にしました
 支流を作っても、それでも水勢は強いし岩とか混じってるだろうし、それに対する防御も依頼】

132 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/10/25(火) 01:12:49.60 0

「おっと……たははっ、やっぱ本調子じゃねーな」

ノイファのレイピアに笛を絡めとられたフィンは、
たったそれだけの衝撃で体制を崩し、しかしてその崩れた体制を
財宝の山の斜面で上半身を捻り、曲芸の如く着地する事で正常へと回帰させると、
山の中腹辺りに腰を落ち着け、呼吸を整える。

その後は、出現した財貨の山に対する各々の反応が暫く続いたが、
やがてそれも収まった後に、ようやく先にフィンが提起した問題が鎌首をもたげた。
即ちそれは、財宝の運送に関する事項である。

>「クローディアさん。
>"鍵"のレイピアを持ち出せば、別の場所にコレを再現することは可能なのかしら?
>例えば……そうね、本家の人たちとかならどう?」

>「・・・・・・・・・・・・」
>みんなでしあわせになろうよ

ノイファやダニーがそれぞれ意見を出すが、前者はクローディアの魔力に関する問題から
後者は、現実的ではあるが遊撃課としては容易く許容できる物ではない為、承認されかねた。

「俺は……悪い、特に思いつかねぇな。
 財宝の中から何か使えそうなもの探して、それ使うとかはどうだ?」

そんなフィンの意見も、財宝を一つ一つ調べる様な時間も無いといった理由から当然却下される。
……そうして最後に、サフロールが口を開く

>「SPINの仕組みを流用すりゃあいい。中継地点を作って術式の演算補助をさせれば、
>他所でもここでするのと変わらねえように転移させられんだろ」

サフロールの口から説明されるその提案は、召還、転移術式の応用といった
極めて高度で、かつ現実的なものだった。
魔法というものに対して理解の薄いフィンでさえも、その話が説得力のあるものだと
いう事は感じられる。

――――勿論。その現実的というのは、たった一人の人物にかかる負担を計算しなければ、の話なのだが

語り終えるサフロール、その意見に対し異論を挟むものはその時点では皆無だった。
>「……あんた、顔真っ青だけど、大丈夫なの?」
自身以外の他者を犠牲にする事を忌避する傾向のあるフィンでさえも
術式に付随する失血に対しクローディアが声をかけてようやく、サフロールの体調に気が向いた程である。
それ程までに、サフロールの体調は万全に見えたのだ。
相応の失血をしているというのに、至って健康であるかのように見えたのだ。
それがどんな代償を払っているのかも知らず。

>「……問題なんざ、ある訳ねえだろ。俺は天才だぜ。テメェら程度じゃ理解出来ねえ考えってモンがあんだよ」

「そっか……お前がそう言うなら、俺はお前を信じるぜ。
 ただ、もし体調が悪くなりそうだったら、迷わず言ってくれよ?
 いざとなったら、宝なんて全部捨ててけばいいんだしなっ!友達(ダチ)に隠し事は無しだぜ!?」

フィンは霞むその視界をどうにかしようと自身の瞼を揉んだ後、サフロールに相変わらずの子供の様な笑みを向け、
出入り口の件で先導するクローディア達の後を追随する。

133 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/10/25(火) 01:14:49.98 0
眼前に広がるのは、小規模だが凄まじい勢いの瀑布であった。
それは、金庫の作り手さえ想定していなかったであろう最後の難関。
遊撃課の面々とクローディア達の脱出を阻む最後の壁。
常は物資搬入と空気口を兼ねていたその脱出口は、今や水圧という名の力によって閉じられている。
立ち会った面々の多くが途方にくれる中、口を開いたのはクローディアだった。

>「あたしが上へ行くわ。あたしが地上に出さえすれば、あんたたち全員を財宝ごと"買える"。全員で脱出できる」
>「あたしを上へ連れて行って。必ず全員で帰るって約束するわ、だから――」
>「おねがい」

クローディアの持つ才能。それが脱出の鍵に足りる事は確かだろう。
以前の経験から、魔法が極めて効き辛いフィンの体質にも彼女の「才能」が有効なのは証明済みだ。
だが……この作戦には大きな穴がある。その穴とは、クローディアは「遊撃課」ではないという事だ。
本質的に味方であると言い難い彼女の請願は、通常の部隊であれば決して承認される事はなかっただろう。
しかし、敵意はなく、打算なく、ただ真っ直ぐ自分達を見つめるその視線。
正面から生きる事を見据え、重荷を捨てたその視線。
「信頼」のみを対価としたクローディアの言動を受け、フィンは

「――――了解。頼むぜクローディア」

白い歯を見せ笑い、握った拳の親指を天に向け立てて見せた。
それは『信頼する』という真っ直ぐな返答。
こうなったからには、誰が疑おうとこの場面においてフィン=ハンプティはクローディアを疑わないだろう。

「そんじゃあ、俺が盾代わりに……」
>「ひとまず、だ。……俺が傘代わりになるから皆で、なんてふざけた提案は無しだぜ」
「って、なんで判った!? すっげーなサフロール!お前、預言者だったのか!?」

言いかけた言葉を遮られて、フィンは驚愕の表情を浮かべたが、
そんなフィンを放置してサフロールは話を続ける。

>「まず、この水の勢いをどうにかしねえとな。
>上から降ってくるんじゃ堰き止めるって訳にもいかねえ。だから……支流を作るぞ」

サフロールの提案は、支流を製作し瀑布の勢いを弱めるという物だった。
確かに、現状ではそれが最適解の一つと言えるのかもしれない。
水の勢いが多少なり弱まれば、脱出はその分容易になる。
全員は無理でも、人一人程度なら外に出す事は出来るかもしれない。
少なくとも、フィン自身が傘となるよりは余程成功率は高い。

>「テメェも、あの防御はそれなりの洞察力がねえと成り立たねえ。
>守りの遺才を持つテメェなら、何処が天井の急所なのか視えるんじゃねえのか?
>そのババアの老眼鏡代わりになってやるんだな」

「あー……まあ、何となくは解るかもしれねぇ。とにかく、頑張るぜっ!!」

フィンは出されるサフロールの言葉を遮らず、その指示に逆らうことも無く
天井を睨み付けるようにして見据える。
フィンの遺才は力の流れを認知し、その流れを繰り流す事を可能とする。
つまり、ノイファの予見程正確ではないが、この状況においては、
『なんとなく触れてはいけなそうな地点』が判別できるのである。

「……とりあえず、天井の右半分、それからあの出っ張りの周辺は、なんとなくダメな気がするぜ
 後は……下半分の部分も不味いかもしれねぇ……悪いノイファっち。
 俺だとこの程度しかわかんねぇ」

134 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/10/25(火) 01:17:31.83 0
ノイファがサフロールの行動に対し賛同したのかどうかを、フィンは聞いていなかった。
極限に集中し天井をじっと見据えていたフィンは、額に固まった血が汗で融解した赤い汗を
浮かべた後、しばらくして大きく息を吐き折れていない手で頭を抑える。
そして、一方的にノイファに先の言葉を投げかけたのである。

……フィンのこの意見はあくまで参考程度。
戦士の直感の様なもので、確実性は薄い。だが、信用性が0という訳でもないものだ。
地面に腰を付いたフィンは、近くにいたダニー、そしてナーゼムに顔を向ける

「……すまねぇ。俺が岩とか払えればいいんだけど、どうにも無理っぽいみてぇだ。
 あんたと、ナーゼムなら、クローディアに向けて振る石を払えるか?」

フィンは、今回は自身が盾となるという様な事は言わなかった。
何故ならば、今の自分にはそれが無理だと理解していたし、自身が犠牲になるよりは
かつて戦ってその実力を知っている二人に頼んだ方が、
余程全体の生存率が上がると判断したからだ。

ただ、真っ直ぐにフィンは二人の瞳の奥を見る

【フィン サフロールの意見に乗る。サフロールの異常には気づかず】

135 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/25(火) 07:03:30.18 0
せり上がった鋼の手のひらが、スティレットとスイを両側から挟み潰しにかかる。
何かが手の中でつっかえる感覚がして、遺才のトラバサミは停止した。
それ以上の攻撃を加えられない。能力の大部分をクラーケンに割いているために、大雑把な操作しかできないのだ。

(万全なら……両側から串刺しにしてやれたんじゃがのう……!)

それでも動きを捉えたことには変わりない。
わざわざ遺才を用いずとも、拘束した二人を手持ちのスレッジハンマーで撲殺してやれば済む話だ。
拘束しただけで動きそのものを封じたわけではないから、待ち伏せには気を付けなければならない。

(なんか相談しとるのう、こそこそと……)

鋼の手のひらの向こうで、動きの気配があった。
大方、この状況から一発逆転の算段でもしているのだろう。そうは問屋が卸さない――

「――戦場はいつも年中無休じゃ!」

攻性魔術を放とうと魔力を練った瞬間、"手のひら"からスティレットが飛び出してきた。
それは自分の足で踏み出すと言うよりかは『射出』に近い。風の魔力が彼女の背中を押している。

「ならその看板、今からたたっ斬るであります!」

「おうやってみぃ、才能に振り回されてるだけのガキが!」

斬撃が来る。ハンマーの先端を絡めてかち上げ、練り上げていた魔力を開放。
火炎術式を通して指向性を付与された炎熱魔力がスティレットの胴へ向けて放射される。
剣を捕えられた状態では避けることも叶わず、そして今の彼女は軽鎧すら装備していない水泳仕様。
対してこちらの術式は、腹に当てれば内臓を焼き尽くす威力!

「振り回して駄目なら――放り出すまでです!」

スティレットは館崩しを手放した。フリーになった両腕でスレッジハンマーの先端を掴み、渾身の力で引き寄せる。

「おおっ!?」

片手で柄を保持していたクランク6は上体のバランスを崩し、片手から放射していた術式の狙いが逸れて遠くの床を焦がした。
放り出された館崩しはハンマーにかち上げられるまま宙を舞い、自由落下の途中で再びスティレットの手中へ帰る。
そのまま、体重を剣に預けて振り抜く。

「スイどのおおおおおおおっ!」

クランク6は咄嗟の防御が間に合った。
巨大な鋼の塊である館崩しの全慣性を受け止めたハンマーと共に大きく吹っ飛ばされる。
辛うじて足が床を掴み、体勢を強引に立て直したその場所は――鋼の手のひらの『正面』。
宙に矢を構えるスイと、目が合った。

(伏兵――!? 初めから小娘は誘導役! 本命はこっちか!)

放たれる。狭まった"手のひら"の内側は、皮肉にも長距離砲の砲身(バレル)を再現。
加速した風圧が、一本の矢を雷光へと変える。鏃が穿つ軌道の先は、クランク6の眉間だった。

「お、おおおおおおおおおッ!!!」

タァン!と小気味良い音と共に。
スイの放った矢は、クランク6の眉間を浅く割って停止していた。
スレッジハンマーの錘が扁平に伸び、さながら傘のように開いている。矢は傘を貫通し、矢羽の部分で引っかかっていた。

「この短時間でここまで連携できたのは褒めてやる……じゃが、詰めが甘かったのう……!」

今度こそ、槍に変形させたスレッジハンマーをスイへと投擲すべく構え――

136 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/25(火) 07:05:18.00 0
「――ッ、小娘はどこじゃい!?」

スティレットの影がこの艦長室から消失していることに気がついた。
そして、彼女がどこで何をしているかは、推理をするより早く実証された。
ミシミシミシ……と部屋が軋み、船全体の歪みとなって伝播してゆく。それは、外からの圧力。
船そのものを噛み砕かんとする不可視の"あぎと"。

「馬鹿な……!」

船外の様子を映しだす結像窓に、船殻を殆ど失った船体に大剣を突き立てる少女の姿があった。
スティレットがいつの間にか船長室に開いた大穴から外に出て、館崩しを柄まで甲板に埋めている。

「船そのものを!斬ろうっちゅうんか――!?」

あまりにもデタラメな剣力。それを押し通す"剣鬼"スティレットの『崩剣』という才覚。
そんな滅茶苦茶な――そう叫ぼうとして、クランク6は自分の思考の及ばなさを呪った。
如何なる無法も可能にする。無理を通して道理を破る。理屈の通じない破滅的な戦闘芸術こそが、本物の『天才』なのだから。

「『崩剣』を使いこなそうとか意のままにしようとか、そんな小難しいことを考える必要なんてなかったのです。
 スイどのの言葉で目が覚めました――振り回されて結構!わたしは、斬りたいものを、ぶった斬るだけでありますからっ!!」

やがて艦長室の天井から壁に至るまでに一直線の亀裂が走り、外の光が一筋の線となって差し込んでくる。
まるで卵を割るみたいに、『クラーケン』は中ほどから綺麗に真っ二つになった。
中腹が沈んでいくのに対し、楕円形をしている船の、両端が湖面から持ち上がる。
まるで一対の巨塔が湖から突き出しているかのような光景だ。

クランク6は、水面に対し垂直となった艦長室で、重力によって壁に磔にされながら、現状を把握した。
この船はもう駄目だ。竜骨どころか船体そのものが真っ二つになってしまった時点で、あとはゆっくりと沈むのみである。
だが、『クラーケン』は生きている。この崩壊を凌ぎ切り、湖族船を乗っ取った新生クラーケンに辿りつけば――

(フルで遺才を使える……あんな連中、二秒で殲滅じゃあ!)

乗っ取りの進捗状況を確かめるべく、粉砕された窓の外に見える湖族船の様子を肉眼で確かめた。
湖賊船も沈みかけていた。

「なんじゃとおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」

確かに乗っ取り始めたときには元気に浮いていた湖賊船が、そのもはや甲板まで水に浸かっていた。
戦闘の余波をうけたか、湖賊たちが船を捨てて逃亡したのか、いうずれにせよもうクラーケンは逃げ場をなくした。
クランク6が命をかけて愛した船は、艦長と共にその生命を水底へと沈めていく……。
船と運命を共にする艦長は美談だが、この状況はあまりにも皮肉に過ぎた。

「ワシは……! ワシはただ、好きなことに妥協したくなかっただけじゃ……! 自分に正直でいたかっただけじゃ!
 おまんらもそうじゃろう? なにもかもが上手くいかない世界で! 『これが自分だ!』って言える何かが欲しかった!」

崩壊する船の中、降ってくる瓦礫に傷を増やしながらクランク6はスイ目掛けて疾走する。
重心を低く。彼が現役の整備士だった頃に、揺れる船内をすばやく移動するために学んだ走り方。
艦長になってからは、クランク6は"走らせる"側だったから――染み付いた感覚は、酷く懐かしいものだった。

「ワシの人生を、止めるなああああああああッ!!」

クラーケンの切れ端がクランク6の体に飛びつき、巻きつき、鎧として形成された。
まるで、外圧から逃げた自分を守る殻のように――大事なものをしまっておく、ブリキの箱のように、クランク6の体を閉ざす。
完全武装の艦長は、スレッジハンマーの先端を鋭利な斧に鍛え直して、スイの脳天目掛けて一撃を振り落とした。

137 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/10/25(火) 07:07:08.16 0
 * * * * * * 

【ウルタール湖・沖】


「本当に……こんな手で撃退しやがった……」

救命艇の縁にしがみつきながら、ボルトはただただ感嘆の息を漏らすばかりだ。
上司の無茶振りに、ファミアが示した回答は『乗り移られる前にこちらの船を沈めてしまうこと』。
乗り捨てたゴーレムなどを鹵獲されないように爆破するのは戦場での常識だが、船一隻となるとその発想はなかった。
あらゆる意味で豪快すぎる秘策を思いついた功労者は、ボルトの隣でロープを牽引している。

「お、俺の船がぁ……」

キャプテン・カシーニは空いた口が塞がっていない。顎と一緒に、がっくりと肩を落としている。
今から戻って全力で排水ポンプを回せば沈むのは免れるかもしれないが、それを敢行する命知らずはさすがにおらず。
『鋼の鮫』の流動鋼は、意気揚々と湖賊船を侵略したはいいものの、沈みゆく船ににっちもさっちも行かずに立ち往生。
本船のほうへ引き返すかとおもいきや、いきなり本船が真っ二つに割れ、帰る場所をなくした船殻は湖の底へ沈んでいった。

現在、湖賊船のクルーたちは最低限の人員を船に残し総員救命艇へと分乗していた。
寄せては返す波の上で、どうにか湖賊船の沈没を止めようと四苦八苦しているが、非情にも水線はどんどん上がっていく。
どうやら敵船に乗り込んでいった連中も、敵船の救命艇に乗って脱出していたようだ。

「かちょーーっ!アルフートちゃんーーっ!!」

湖面に突き立つ2つの塔となった本船の残骸に、しがみつく少女の影があった。
スティレットが、剣を船体に突き立ててぶら下がっている。ボルトは遠く離れた水の上でそれを発見した。

「スティレット、バリントンとスイはどうした?」

念信器に向かって話しかける。すると、向こうに通じたのかスティレットは更に声を張り上げた。
あちらの送話器は壊れているようだ。

「まだ中にーーっ!」
「お前、沈んでる最中じゃねえか!?」
「ですから、早急に救助の手配をーーっ!」

ぐらり、と背景が軋んで、いやな揺れがあった。
天を貫く一対の巨塔も、土台が水面である以上いつまでもつき立っているわけではない。
ゆっくりと、だが確実な破壊力をもって船体がファミアたちの浮かぶ水辺へと倒れこんできた。

「わーーーっ!? 総員撤退!撤退ぃぃぃぃぃ!!」

カシーニが雄叫びをあげて周りの救命艇へと退却指示を出す。
だが、無慈悲にも敵船の影は彼らの逃げ出す方向を倒壊する未来で完全に閉ざしていた。
当然、ファミアたちも巻き込まれるかたちとなって。その威容は、まるで空が降ってくるかのようであった。
すべてが叩き潰されるまで、十秒もない。


【クラーケンの本船を中ほどから切断。クランク6とスイが取り残されたまま崩壊へ
 クランク6:クラーケンの生き残りで自分を完全防護、スイと決着をつけに走る
 ファミアサイド:倒れ来る本船から生き残れ!                 目標:両方共に1ターン】

138 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/10/28(金) 00:24:37.41 0
>>137
水位が上がって来ました。
ファミアの血の気は下がっていきます。
なにせクラーケンから押し寄せる鉄の奔流が、不退転の決意で以って侵食を続けているのです。
しかしながらまだ全体を覆うには至らず、すなわち船底の穴も開いたまま。
このままでは構造体がむき出しになったクラーケンもろとも、堆積物の仲間入りです。
そこでようやく、術者が直接動かしているのではなく、予め一定の行動を取るように操作されている可能性に思い当たりました。
であれば、水に沈もうが山へ登ろうが時を駆けようが、船がそこにある以上侵食は続くことになります。



と、いうわけで船を放棄しました。
救命艇に乗り移って、すぐに本船から距離を取ります。
>「お、俺の船がぁ……」
「男子たるもの、別れた女性に未練を残すものではありませんよ」
ファミアは乗船が間に合わなかった船員が捕まっている綱を引く手を止め、
悄然としているカシーニ船長の肩を、ぽん、と叩いてそう言いました。
『破局』の原因が吐く台詞としては不誠実極まりませんね。

そんなやり取りのさなか、突如クラーケンが真っ二つに。
接舷していた湖賊船は余波を受けて沈降を速め、鋼の河はそこでようやく逆流を始めようとしたものの、
もはや離れてしまった本船に戻ることはかなわず、右往左往している内に波に飲まれて行きました。

>「かちょーーっ!アルフートちゃんーーっ!!」
二つに折れた船体の片割れから声がして、見上げると館崩しを突き立ててぶらぶらしているフランベルジェが。
どうも装備に不調があるらしく、課長の念信機での問いかけに肉声で応えています。
会話が続く間にも、フランベルジェの角度がだんだん水平に近くなって来ました。
それに伴ってなんだか嫌な音と、不吉な波が湖面を走り抜けて行きました。

>「わーーーっ!? 総員撤退!撤退ぃぃぃぃぃ!!」
明らかにこっちへ倒れこんでくる船体を見て、船長が声を張り上げて他船へ指示を出しますが、どう考えても間に合いそうにありません。
今が乗っている一艘だけなら押して泳げば離脱は可能でしょうし、もうそれでいいんじゃないかなという気もします。
二つの塔を見上げて(どちらが『日の入り』でどちらが『月の出』なのかな)
などとファミアが現実逃避気味な思考をしている内に、はや不可能になりつつあるのですが。
正直なところ直撃さえ受けなければさして影響はないはずです。
沈むときに出来る渦も、人を引きずり込んでしまうほどのものではありません。
問題は、この巨大な構造物に直撃されない可能性より、富くじに当たるほうがよほど有り得そうなことでした。

(えーとえーとえーと……)
右往も左往もできない救命艇の上で、ファミアはパニックを起こしかけていました。
それから、何やっていいかわからなくなっちゃったので
「っやぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
全力で跳躍して、倒れてくる船体に蹴りを入れました。
そこを起点にもう片方へ向けて同じように飛び蹴りを放ちます。
ごぉん、と巨大な鐘を撞いたような音が立て続けに響きました。

ところで、作用反作用の法則というものがあります。
かいつまむと、お互いに力を及ぼしあう二つ物体がある場合、その間に働く力は等しい、というものです。
さて、この一撃で全長百数十mの鉄塔を動かすだけの力を加えることが出来たと仮定しましょう。
ファミアが与えた作用と同じだけの反作用を、救命艇が受けたことになるわけですが……どうなるんでしょうね。

【三角跳び】

139 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/10/28(金) 20:39:01.84 0
目の前に標的が現れる。
増幅された風は圧倒的風圧を持って矢を押し出した。
ちらりと敵と目が合う。
ニタリとスイは口端を上げ嗤った。
そして、勢いよくもう一発。

>「お、おおおおおおおおおッ!!!」

小気味良い音と共に、矢が、敵の眉間を浅く穿ったことを確認する。

「チッ」

どうやら、うまくいかなかったらしい。

>「この短時間でここまで連携できたのは褒めてやる……じゃが、詰めが甘かったのう……!」
「考えが足りねえよ」
>「――ッ、小娘はどこじゃい!?」

ようやく気付いたか。
スイは敵が驚いたことに満足する。
ミシミシと軋む音がして、次の瞬間には、船は、『クラーケン』は真っ二つになった。
衝撃を利用して、スイは狭いあの場所から飛びだす。

「(うまくいったぽいな)」

着地しながら、崩壊し続ける船内を落ち着いて眺める。
クランク6を視界に入れた瞬間、彼は叫き始めた。

>「ワシは……! ワシはただ、好きなことに妥協したくなかっただけじゃ……! 自分に正直でいたかっただけじゃ!
 おまんらもそうじゃろう? なにもかもが上手くいかない世界で! 『これが自分だ!』って言える何かが欲しかった!」

彼が、体を低くし、異才によって鋼を纏ってこちらに疾走する。
鋭利な斧がスイの脳天を狙い、叫びと共に振り下ろされる。

>「ワシの人生を、止めるなああああああああッ!!」

スイはため息を吐いて、重心移動と共に、斧の柄の部分を思い切りよく叩く。
狙いは叩き落とすことではない。先端を逸らし、己に当たらないようにすれば、それでいい。

「勝手に決め付けんな。その考えはテメェだけだ。人生を止めるな?
 散々人の人生止めておいて、いざ自分になったときにはそう言う…。
 ほざいてんじゃねぇぞ!!」

叫びと共に、2つの矢がクランクの周りを舞った。
矢尻にくくりつけられているのは、縄だ。
たまたま、近くに落ちていたのを拾っただけなのだが、充分な長さがあった。
クランク6の懐に入り込み、渾身の蹴りをぶつける。
そのまま風を操り、縄で柱にくくりつけた。
ゆっくりと外に繋がっている場所まで移動する。

140 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/10/28(金) 20:39:22.97 0
「あぁ、そういや、何か昔話にこんなのあったな。
 嵐に遭って、沈没しそうになったとき、船長はマストの柱に自分の体をくくりつけ、船と共に沈みました。
 …だっけ?お前にはそれがお似合いだよ」

一頻り嗤い、縄を切ろうと鋼が移動したところを狙って、服を矢で柱に固定する。

「土産だ、持って行きな」

最後の最後、残りの魔力を振り絞り、全力で矢を飛ばした。
その矢には多少の細工が施してあり、僅かな空気の摩擦だけで発火する。

「バイバーイ」

矢を飛ばすのと同時にスイは空中に身を投げだした。



ボチャンという水音と共にスイは湖に沈む。
少し藻掻いて、水面に顔を出し、鐘のような巨大な音を聞いた。

「…すごいな」

魔力が切れた事によって表に戻ったスイは、ぼそりとそう零した。

【クランク6を柱に縛って、船と無理心中させようとする】

141 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/10/29(土) 01:20:22.66 0

(さて、どうしたものでしょうか……)

両手を腰にあて、眉を寄せ、ノイファは財宝が積み上がる場所を睨む。
先刻までのように持ち出すための方法を悩んでいる訳ではない。既にそのための算段は付いていた。

先刻のノイファの問いにクローディアは可能だと答え、そしてより確実な物とする為の手段はサフロールが受け持つ。
今まさに行われてるのがそれであり、ノイファが渋い表情で気を揉むのもそこに起因していた。

(確かに遠隔発動には最適な触媒ですが――)

宝を運び出す方法は洞窟外からの再召喚。
ただそれだけでは術者が負担する魔力が途方も無いほど必要になってしまう。
その足りない部分を補うための手段は帝都交通網『SPIN』の模倣。
つまりは中継となるポイントを配置し、召喚距離を細かく刻むことで魔力消費量を抑えるのだ。

(――いくらなんでも使い過ぎですよね。止めるべき……なのでしょうか)

中継となるゲートを形造る物質は魔力伝導性の高いものが望ましい。
個人で補助を行うのならば自身の一部、例えば血液などは正しく打ってつけの素材となる。
まして、身の内に『分析』の遺才を宿すサフロールの血とくれば最高の媒体と言えよう。

ただし有効な分、支払うべき対価ももちろんある。つまりは"血"そのもの。
傷は神聖魔術で塞げても、失った血までは取り戻せない。それは日々摂取する糧のみが可能とする領分だ。
今回のように盛大に流したのでは、当然失血による障害、最悪命の危険につながる可能性すらある。

>「……あんた、顔真っ青だけど、大丈夫なの?」
>「……問題なんざ、ある訳ねえだろ。俺は天才だぜ。テメェら程度じゃ理解出来ねえ考えってモンがあんだよ」

クローディアの言葉にサフロールが返す。
その様子は皮肉気で、いつもの調子と大差無いように思えた。
失血による影響は心配する程でもないのかもしれない。

>「そっか……お前がそう言うなら、俺はお前を信じるぜ――」

「そうよ。誰かに犠牲を強いてまで、持ち帰る義務なんて無いわ。
 私達――遊撃課にとって、サフロール君の代わりは居ないのだからね。」

フィンが告げ、ノイファもそれに続く。
だが、手を貸すようなことはしない。サフロールの自尊心がそれを許さないと思ってだった。
故に彼の変調には気づかない。
ふらつき覚束ない足取りや、低下した体温。もし手を差し伸べていれば気づけたのかもしれない。

「それじゃあ、案内お願いね。」

視線を返し、唯一出口になりそうな場所を知る墓守の青年へ、ノイファは声をかける。

142 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/10/29(土) 01:20:53.19 0
「……はぁ。此処に来てまたこれ、ね。」

目の前には瀑布。それを揃って見上げる一行。
元々はギルゴールド家の墓守へと生活物資を届ける搬入口だったようだが、今は殺人的な水量を吐き出すただの滝である。

>「っかしいなあ、昨日までは普通に縦穴だったんだぜ、ここ。ほら、物資を受け渡す釣瓶があるだろ」

訝しがる元墓守の青年。ひょいと手繰り寄せた釣瓶が事実であることを告げている。

「昨日までってことは――あー……。」

思い当たる節は盛大にあった。遊撃課の一員にして当代"剣鬼"の少女、フランベルジェ=スティレット。
たった一日の出来事だが、彼女がウルタール湖に与えた損害は計り知れないものがあるようだ。

だが他に出口になりそうな場所に心当たりが無い以上、どうにかよじ登って出る以外方法はない。
とはいえ正攻法で登攀したのでは、滝の水量の前に揃って屍を晒すはめになりそうなのだが。

>「あたしが上へ行くわ。あたしが地上に出さえすれば、あんたたち全員を財宝ごと"買える"。全員で脱出できる」
>「あたしを上へ連れて行って。必ず全員で帰るって約束するわ、だから――」

決断を迫られる中、おねがい、と頭を下げるクローディア。
その眦には揺ぎ無い決意と確かな生存への意思。
保証は出来ない。だが信頼して欲しいと、敵であるノイファたちに請願してきたのだ。

「今更何を言ってるのですか――」

その言葉を受け、ノイファは口を開く。

「――貴女の仲間が言ったのでしょう?
 "みんなで幸せになろうよ"ってね。ならば、商人である貴女はその言葉に責任を取ってもらわないと。
 もちろん私も"みんな"の中に入ってるのでしょうから、必要な協力はさせていただきますけど、ね。」

クローディアの願いに応じる。
他の遊撃課の仲間達も形は違えど異論はないようだ。

「それじゃあ、"状況開始"といきましょうか。」

ボルトが任務の始めに発する合図。それをノイファはあえて口にする。
一時的とはいえ、互いに仲間と認め、力を合わせて困難を打破する今に最も相応しいと思ったからだ。

>「そんじゃあ、俺が盾代わりに……」
>「ひとまず、だ。……俺が傘代わりになるから皆で、なんてふざけた提案は無しだぜ」
>「って、なんで判った!? すっげーなサフロール!お前、預言者だったのか!?」

フィンが張り切って声を挙げ、サフロールに釘を刺される。
その様子を眺めながら、ノイファは判らいでかと心の中で零すに留めた。

143 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/10/29(土) 01:21:45.29 0
>「まず、この水の勢いをどうにかしねえとな。
  上から降ってくるんじゃ堰き止めるって訳にもいかねえ。だから……支流を作るぞ」
>「テメェには『神託』と、その『眼』がある――」

崩れた一点。そこから溢れるからこその圧力。
ならば排出口を増やし、水の逃げ口を作れば、自然と勢いは分割される。

「そろそろこっちも打ち止めっぽいのだけど……。まあでも、弱音吐いていられる状況じゃないものね。
 大分楽になったし大丈夫、任されたわ。」

既に三度。未来視を発動させた右の視界は幾分ぼやけている。
次の発動でおそらく打ち止めなのは間違いあるまい。それも極短い時間視られるかどうかと言ったところだろう。

(……それにしても――)

どこまで見透かされているものか。
ノイファは表向きの身分は娼館の警備員であり、そこからの出向ということになっている。

だがサフロールが口にした『神託』とは、読んで字の如く神からの啓示を得る神聖魔術を指す。
簡単に習得の出来る『治癒』などとは違い、深く修行を積んだ女性の神官のみがこの奇跡に触れられる。
漠然とした程度の危険の判別から、果ては遠い未来に起こる出来事の予測まで、資質に依って異なりはすれど、使い手はかなり稀な存在といえよう。

故にこの階位まで進んだ神官は、各神殿で管理されることになる。
それこそが術式全盛のこの時代において、神殿が持つ優位性の一つとなっているからだ。

(血に宿った"分析"の遺才が為せる業か、それとも神に反逆した血統の宿業でしょうか)

どちらにせよ大したものだと言える。
高位神聖魔術の行使は極力秘匿してきたのだから猶更だろう。

>「……とりあえず、天井の右半分、それからあの出っ張りの周辺は、なんとなくダメな気がするぜ――」

思案していた所に、不意に声がかけられた。
サポートについたフィンからのものだった。状況は既に動き始めている。考えるのは生還した後で良い。

「それだけ分かれば十分よ。後は総当りで行くわ。」

右目をなぞり視界の切り替え。少し時の進んだ世界。
その中で数十を超えて槍が放たれ、同じ数だけ失敗を繰り返す。
灼熱を帯びる片側の視界。限界が近い。

「視つけた!ルイン君――」

右眼から零れる鮮血を指で拭い飛ばし、ノイファは傍らのルインへ声を張り上げた。
最後に視た光景。真白い光を纏った槍が砕いたポイント、その場所を指し示す。

「――左端の隅、少し窪んだ場所が判る?その一点を撃ち抜いて!」

ノイファの声に呼応し"ブリューナク"が放たれ、着弾。
眩い軌跡を中空へ残し、示した場所を違えることなく穿ち貫く。

(どう……ですか!?)

開いた穴から罅が奔り、天井の隅の連鎖的な崩壊を経て、最初は染み出す程度だった水が音を立てて溢れ始める。
それに合わせ、今まで行く手を阻んでいた激流は目に見えてその勢いを減じていた。


【支流完成】

144 :名無しになりきれ:2011/10/30(日) 17:56:47.50 0
ka?

145 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/10/31(月) 22:03:55.34 0
ダニー達は現在ここの墓守とかいう男に連れられ、搬入口の真下まで来ていた。
最初にここに来たときに食らった鉄砲水の影響なのか、今では滝と化していた。
何とか耐えられらないこともなさそうだが、他の者には厳しいであろう瀑布は、
ごうごうと衰えることなく流れ続けている。

これでは鶴瓶を上げることができない、どうしようという所で出た案は
まとめると次のようなことだった。

一つ目、クローディアをまず先に登らせ自分たちを取り寄せる。
二つ目、その補助の為に即興でSPINをこさえる。
三つ目、水の勢いが強すぎるので穴を増やして支流を作り威力を弱める。
四つ目、その為に壊しても天井が崩落しない部分を見極める。

実行に移して現在は三つ目までは完了している。
後はクローディアを送り出し、SPINの完成を待つだけだ。
ノイファとフィンの支持の本、連れの気の小さそうな男が放った光槍は
きちんと言われた所を抉り支流を作り出しだ。

言うなればホースの摘まれた部分より手前に穴を開けるこの作戦は成った。
これならばいけるかも知れない。ざっと全員を見てみればだいたいが酷い具合だ。
ノイファは片目を閉じてるし、フィンは片腕が折れてるし、サフロールは今にも死にそうだ。
クローディアもあちこち傷を負っている。

ナーゼムも怪力というわけではない。鶴瓶を上げるのは誰の役目かは自ずと明らかだった。
ダニーはクローディアに向き直る。この数時間での体験は、彼女のプラスになったのだろう。
目まぐるしい出来事の連続から、彼女もまた一回り大きくなったようだ。

ぐっと魅力的になったその横顔は、今ではクローディア自身の輝きを秘めている。
これが、少女から一歩を踏み出そうとする彼女の夜明けなのかも知れない。

>「あたしを上へ連れて行って。必ず全員で帰るって約束するわ、だから――」
>「おねがい」

146 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/10/31(月) 22:07:19.48 0
クローディアの言葉に皆が思い思いの言葉をかけて、それぞれに行動する。
それを見ながら、残ったダニーもまた主人に声をかける。

「・・・・・・」
ちゃんと言えたな、と
エライエライと頭を撫でると、さっきがめたばかりの薬をどこからか取り出す。
余程の大怪我でも回復させるらしい妙薬、というお触れが小瓶に書かれている。

しんどかったら使えよ、と言って持たせる。本当は自分が欲しかったのだが、
なんとなく、本当になんとなくそれをクローディアに手渡すと、出発の準備を促して
自分も鶴瓶のロープを握る。

あれだけ色々なものがどうでもよかったのに、今日に限って嘘のように
気持ちは揺れ動き、退屈を塗りつぶしていった。本当に楽しい一日だった。

「・・・・・・」
上手く言ったらチューしてやるよ、と言ってバチンとウインクを飛ばす。
クローディアが鶴瓶に乗ったのを確認すると。彼女の合図と共にロープを引いていく。
この大女が腕に満身の力を込めれば、きっと気味の悪い速さで上へと登っていけるだろう。

「・・・行ってこいよ、クローディア」
最後にそう言って、ダニーは駈け出しの女性を見送った。

【送り出し準備完了】

147 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/11/01(火) 03:56:20.10 0
搬入口からの水流は弱まり、クローディアが乗った鶴瓶は順調に地上に向けて上がっていった。
これで出来る事は全てやった。後はクローディアが約束を果たすのを待つだけだ。
サフロールも皆と同様に、待っていた。皆とは真逆のものを。
死から逃げ切る事ではなく、死が完全に自分を呑み込む瞬間を、待っていた。

待っている間に、懐から羊皮紙を取り出す。
指先に新たな切り傷を作り、血文字を紙面に走らせる。
必要な事を全て書き終えると、最後に紙の裏に魔方陣――購入術式の中継地点を描いた。
同時に、手首の裂傷からも指先からも、血が止まっている事に気付いた。
思わず薄笑いが零れる。自分はようやく、完全に沈めたのだ。

「おい、アイレル……」

今まで一度も呼んだ事のなかった名前が、自然に出てきた。
自分自身でさえ違和感を覚える響きに一瞬言葉が途切れたが、すぐに続きを紡ぐ。

「これ、持ってけ」

先ほどまで血文字を記していた羊皮紙を投げ渡す。

「俺の辞表だ。ついでに遺書も兼ねてある。研究院にでも送り付けてやってくれ」

クローディアは『労働力』を購入する事で、他の皆を地上に召喚しようとしている。
ならば労働力である事を放棄してしまえば、召喚の手はサフロールには届かない。

「おっと、突っ返すなんて真似はよせよ。そいつは最後の中継地点も兼ねてんだ。
 それに……そいつがあろうと無かろうと、どの道結果は変わらねえよ」

散々手首を切り刻んできた短刀を首に宛がう。
頸動脈を力強く抉った。それでも出血はまるで無かった。
代わりに魔力の粒子が、穴の開いてしまった革袋から漏れる酒のように漏れ出した。

「こう言うこった。幾らあいつの遺才でも、死人に鞭打つような真似は出来ねえだろ。
 俺の死体も、魂も、誰かに金を出して買えるようなモンじゃねえからな」

サフロールの体内にはもう一滴の血液も残っていない。
完全に損なわれた生体機能を事前に作り出した魔力で補って、生命活動を維持しているだけだ。
魔力が尽きれば、彼の命は完全に終わる。

「……まぁ、なんだ。気に病んだりとか、そう言うのは無用だぜ。これは俺が望んでやった事だ」

不意に、そんな言葉が口から飛び出た。またも違和感を覚える。

「つっても、俺みてえな奴が相手じゃ無駄な忠告だったな」

思わず、そう付け加えた。それでも違和感は拭い去れない。
相手を気遣うような事を、今まで一度たりとも言った事はないのに。
『分析』を宿す血を失ってしまったせいか、自分が何を思っているのか分からなかった。
無意識の内に精算を求めているのだろうか。柄にもなく感傷に囚われてしまったのか。
分からない。が、別段分かろうとも思わなかった。
どうせ死ねば全てが失われるのだ。そう考えると途端に気が楽になった。
衝動に任せて、心の奥底から出てくる言葉をそのまま連ねていく。

148 :サフロール・オブテイン ◆jKUaosk4aY :2011/11/01(火) 03:58:12.37 0
「アイレル。お前、よく見りゃそう悪くねえ女だったよ。
 分析の遺才のお墨付きだ。誇っていいぜ。……ババアだの何だの言って、悪かったな」

視線をフィンへ。

「ハンプティ。お前は……もうちょっと落ち着きやがれってんだ。
 急いだ所で、待ってんのは精々この有様だぜ。こうはなりたくねえだろ、なぁ?」

警告――押し寄せる濁流と瓦礫群に挑むフィンを見て感じた『死に急ぐ』姿勢に対して。

「ラウファーダ。お前も、馬鹿にして悪かったな。やりゃあ出来る奴だったよ、お前は」

最後にダニーとナーゼムにも、視線を向けた。

「お前らも、悪いな。こんな下らねえ懺悔に付き合わせちまって」

全てを言い終えた所で、どうやらクローディアが地上に到達したらしい。
購入術式の魔力が、サフロール以外の全員を包んだ。

「じゃあ、あばよ。羨ましかったぜ」

そしてサフロール・オブテインは、一人きりになった。
体内の魔力も残り僅かだ。魔力が尽きて事切れるか、天井が崩落して圧死するか。
どちらにせよ、いよいよもって彼の命は長くない。

「あー……なんだよ、クソ。そんな難しい事じゃ、なかったじゃねえか」

今にも崩れてきそうな天井を見上げて、呟いた。
今まで一度もしてこなかった、出来ないと諦めてきた『他人と接する事』は、
死を目前にしていとも容易く出来てしまった。

最期に彼が感じていたのは満足感ではなかった。
濁流のように押し寄せるのは、後悔の念だった。
忌まわしい血を全て捨てて、思っていた事も全て告げて、
空っぽにした筈の胸の内側から取り返しのつかない後悔だけが止め処なく溢れてきた。

「次はもっと、上手く出来る気がすんだけどなぁ。あぁ、チクショウ」

天井が崩れた。意識が薄れて白んでいく視界が、外の光に見えた。
無意識の内に、手を伸ばしていた。
その手のひらで何も掴めないまま、サフロール・オブテインは暗闇の底に沈んだ。

149 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/03(木) 02:32:29.81 0
【クラーケン内部】

>「勝手に決め付けんな。その考えはテメェだけだ。人生を止めるな?
 散々人の人生止めておいて、いざ自分になったときにはそう言う…。ほざいてんじゃねぇぞ!!」

クランク6の振り下ろした斧は、スイの頭蓋へと届かない。
ほんの切っ先を逸らされただけで、軌道を失い床板へと埋まってしまう。

「っこの……!」

攻性魔術を射ち込もうとした瞬間、何かが己の体に絡みつき身動きがとれないことに気付く。
それはマストを張るのに使うロープの余りだった。拘束されるまま、スイにみぞおちを蹴られ、ふっ飛ばされた。

>「あぁ、そういや、何か昔話にこんなのあったな。
 嵐に遭って、沈没しそうになったとき、船長はマストの柱に自分の体をくくりつけ、船と共に沈みました。
 …だっけ?お前にはそれがお似合いだよ」

柱へとくくりつけられ、いよいよどこにもいけなくなったクランク6は、自分へ向かって飛んでくる矢を見つけた。
炎を纏いながら飛来する火矢が、クランク6のちょうど頭上へぶち当たって木製の建材を炎上させる。

>「バイバーイ」

燃え上がりながら沈んでいく船に一人残されたクランク6は、己に待つ運命を悟った。
溺死が先か、焼死が先か。いずれにせよ楽には死ねないだろう。既に頭まで水に浸かって、最早呼吸もままならない。
クラーケンの本体も沈んでしまった。もはやクランク6は艦長ではなく、どこにでもいるただの中年でしかなかった。

(お似合いか……)

実際、そうかもしれない。
艦を愛しすぎたあまり軍を飛び出し、十数年を"ピニオン"の尖兵として戦ってきた。
"ピニオン"では艦長待遇で、自分の船を守るためならばどんな無茶な作戦でも必ず生き残ってきた。
そういうストイックな自分は好きだったし、不可能を可能にする己の遺才に集まる崇敬が心地よかった。

だが、自分の人生は輝かしいだけじゃなかったはずだ。
自分が出奔した最初のあの作戦は、囮にする艦を失った軍の本隊は、敵の総攻撃を受けて壊滅した。
気の良い同僚も、尊敬できる上司も、可愛がっていた後輩も、みんな海の藻屑になって死んだ。

クランク6は、ティンバー=ピオニアは、これまで人を直接手にかけたことはなかった。
だが華々しい人生の裏で、自分の犠牲になってゴミのように死んでいった人間を何人も知っている。
言い訳のしようもなく、彼が原因で死んだ人間たちだ。その彼らの人生は、一体どんな意味があったのか。

この世界には勝者と敗者しかいない。
誰かが成功すればするほど、その影で割を食わされている誰かが必ず存在する。
ティンバーはそれが嫌だった。犠牲になる誰かのことを思って、自分の好きなことに妥協するのが嫌だった。
殺して、死なせて、逃げ出して。遠い遠い異国の地で、ようやく己の全力を出せる場所を見つけたはずだった。

そうやって。
多くの犠牲になった者たちの怨念に引きずられるようにして、最期は冷たい水の中だ。

(確かに、ワシにはこんな結末が"お似合い"かものう――)

ああ、光が遠い。
沈んでいく船の中から見上げた太陽は、遠い昔に忘れた確かな幸せを想い起こさせた。
クランク6は水中で腕を伸ばして、水面から降り注ぐ光の源を掴みとろうとして――

何かが光を割って視界へと侵入してきた。

 * * * * * * *

150 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/03(木) 02:34:42.02 0
>「っやぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

倒れこんでくる一対の塔へ、ファミアが咆哮と共に跳躍する。そして渾身のソバット二発。
遺才がどういう作用を及ぼしたのか巨大質量の塊は反対側へと傾き、蹴りがトドメだったと言わんばかりにあっけなく沈んでいった。
それで、蹴りを放ったファミアはと言うと。

「おおおおおおおおお!?」

数十トンは下らない重量の反作用をまともに受けたファミアの体が救命艇へと帰ってくる。
――数十トンぶんの慣性を引き連れて。
ファミアの体を支点にして救命艇がほぼ垂直にまで持ち上がり、しがみついていたボルトは湖面へ放り出される。
ようやく水面に顔を出したと思ったら、今度はひっくり返った救命艇が頭上から降ってきた。

(アルフート――!)

救命艇を転覆させただけでは飽きたらず、ファミアは超高速で湖中を下へと貫いていった。
ボルトがどれだけ急いで泳ぎ追いかけても、遺才の出力に叶うわけがなく。
ファミアは悠久の水底へと沈んでいって、帰ってくることはなかった。

 * * * * * *

クランク6の鼻っ柱に何かが勢い良く激突した。
それは少女。いつぞやの船殻の上で、上司を簀巻きにして槍を弾いたり投げ飛ばしたりしたあの少女だ。

(なんじゃ……こいつもか……)

黄泉路への道連れ。
静かで、暗くて、冷たい水底の墓場での、小さな同居人。
軍人として、敵部隊の主力メンバーと心中できるのなら、死に様としてこれ以上のものはない。
この少女は死ぬつもりなどなかっただろう。助かろうとあがいた結果、今ここにいるのだろう。

馬鹿だな、と思った。
敵軍の司令官たるクランク6は、既に彼女の仲間の手によって死のうとしているのに。
この少女はなんの意味もなくただ犬死にと同義の戦死を遂げようとしている。

心の奥にめらりと燃えたのは、怒りだった。

(許せるか……ワシを殺した奴らのこんな死に様を……!)

それじゃまるきり、自分の犠牲が無意味だったみたいじゃないか。
そして気付く。クランク6がこれまで犠牲にしてきた者たちが、その犠牲に意味を見い出せるとしたら。

(――踏み台にしてきたワシがそれを掴んでやらずにどうする!!)

生きて。生きて生きて生きて生きて生きて初めて掴めるものの中に、それはきっとあるはずだ。
生きなくちゃならない。戦わなくちゃならない。自分が犠牲にしてきた者たちの死に、意味をくれてやる為に。
だからクランク6は、肺に残った最期の空気を使い果たして、喚んだ。

「『ブラックスミス』――!!」

暗い暗い水の底から、銀の束が踊り出る。
僅かに届く陽光を反射して夕雲のように輝くそれは、鋼色の『龍』だった。
ウツボのように細長い体躯をくねらせ、水の流れを割りながらクランク6とファミアを鉤爪で掠め取る。
列車顔負けの速度で湖中を切り裂き、五秒とかからず水面へと到達。光を割って、空へと跳ね上がる。

水面で救命艇に乗る者たちからは、まさしくこの姿こそがウルタール湖に膾炙する水龍と見えるだろう。
既に沈みかけの陽光を全身で反射しながら、銀の龍は水面へと自由落下した。
クランク6と彼が背負うファミアが手近な救命艇へと辿り着いた途端、役目を終えたとばかりに再び湖底へ沈んでいった。

151 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/03(木) 02:36:51.79 0
「か、課長、このひと敵のふねの船長さんでありますよ!」

救命艇に乗っていた、艦長室で死闘を演じた大剣の少女がクランク6を指さして慌てる。
聞きつけて救命艇に乗り移ってきたのは、先刻炸裂術式を貼りつけて囮に使った彼女たちの上司だ。
まだ鉄板を背中に背負っているあたり、この船には優秀な魔術師が乗りあわせていないらしい。

「……どういうつもりだ。まさかアルフートを人質に命乞いでもしに来たのか?」

課長と呼ばれた男は剣呑そのものといった視線でこちらを射抜く。
いや、目線はクランク6ではなく背負った少女を見ていた。どうやら部下の安否の方が大事のようだ。

「……じゃと言うたら、どうする?」

クランク6の挑発に、敵部隊の課長は鼻で息をして、

「――礼を言うからさっさと消えろ。おれたちの任務はお前をどうこうすることじゃない」

「ちゅうことなら……貸し借りゼロになったところで、ひとつ取引をせんか」

取引?と課長が訝しげに眉を立てる。
クランク6はくつくつと喉で笑って、それからこう切り出した。

「ワシのコールサインは"クランク6"。『ピニオン』の特務エージェントじゃ」

知りうる限りの情報と、事後調査への全幅の協力。
それらを対価に、自分と己の部下たちの生存と自由を得るための孤独な戦いへ、クランク6は身を投じた。

 * * * * * * * 

【ギルゴールド家墓地】

>「……いいんじゃねえの。どの道、一本しかねえ出口なんだ。

血の気を失いすぎて、幽鬼のように青白い頬を歪ませて、サフロールがまず賛成した。
どこまでも打算的で――それ故に、最高の説得力を持つ言葉でクローディアの背中を押してくれる。

>「――――了解。頼むぜクローディア」

フィンは、一も二もなく打てば響く様な快諾をくれる。
自分の持てるものを尽くして誰かを生かすことに全てを置く、彼の真っ直ぐな精神性は、極限状況を以って健在だ。

>「――貴女の仲間が言ったのでしょう?
 "みんなで幸せになろうよ"ってね。ならば、商人である貴女はその言葉に責任を取ってもらわないと。
 もちろん私も"みんな"の中に入ってるのでしょうから、必要な協力はさせていただきますけど、ね。」

まるで娘にものを教える親のように、ノイファが応じる。
清濁併せ呑んだうえで自らを見失わない方法を知っている、穏やかな風に張る帆のような意志で。

>「・・・・・・」

ダニーは、ただポンとクローディアの頭を撫で付けて、その決断を一言褒めてくれた。
その重みに、温もりに、ずっと気を張っていた心の湧き水が決壊しそうになる。クローディアは上を向いてそれを堪えた。
自分も傷だらけのくせして、傷薬をクローディアのために渡してくれた彼女が、上手く言ったらチューしてやるよとのたまった。

「いらないわよそんなの!代わりに約束しなさい――あんたの雇い主を、絶対に送り届けるって」

>「それじゃあ、"状況開始"といきましょうか。」

ノイファの合図で、鶴瓶にしがみついたクローディアはほとんど砲弾の速さで発射された。

152 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/03(木) 02:39:50.27 0
湿ったロープが岩肌を削りながら進み、やがて古井戸の縁に鶴瓶が引っかかってクローディアは放り出された。
すでに搬入口の洞窟は浸水しており、僅かな岩棚を残して水浸しだ。彼女は手近な陸地に辿り着いて、そこでレイピアを掲げた。

「『買う』わ、全て!!」

レイピアが掻き消え、代わりに遺才が対価を寄越す。
ぎゅん、と空間が歪んで、再び金銀財宝が吐き出されてきた。
雪崩のように岩棚に広がり、いくつかは水の中へと沈んでいく中、金色の雪崩の中に人間の手足が混じっている。
近くに埋もれていた腕を掴んで引っ張り上げると、それはナーゼムだった。

「何度経験しても慣れませんね。召喚術と言うのは……」
「文句言わない。これでみんな助かったんだから――」

彼女の召喚魔法は絶対の遺才。不備不調などあるわけがない。
ただでさえ肩の重みがとれて調子は最高なのだ。あの場に居る全ての人間を召喚できた手応えがあった。
やがて召喚されてきた連中が各々起き上がり、転移に際して体のどこかに異常が起きていないかを確認する中、

「――プロレタリアは?」

クローディアの目に、サフロール一人だけの姿が映らない。
そう広くない洞窟内で、あれだけ目立つ男が、存在して見つからずということは有り得ない。
まさか。召喚が上手く行かなかったのか。クローディアは素早く財宝の中から最高級の金貨を選び出し、遺才を発動する。

「サフロール・オブテインの身柄を『買う』――!」

金貨が光りに包まれ消え、一瞬後に同じ姿で戻ってきた。こんなことはクローディアが生きてきて一度もなかった。
対価が足りないのであれば、不足分を要求される。金貨を突っ返されるのは、契約履行が不可能な場合だけだ。

「どうして、どうして来ないのよ――!」

履行不能。それが意味するところは――

「アンタが俺に生きろって言ったんじゃないか!居場所なんていくらでも作れるって、そのアンタが死んでどうすんだよ!」

墓守が床岩に拳を叩きつけ、慟哭する。
どれだけ悪態をついたところで、応じる声はなにもない。矛先を失った怒りは水の底へと沈んでいく。
サフロールという男が何を考え、何を残そうとしたか。意味するところは最早生き残った者の裡にしかない。

人生は死に場所を見つける戦いだと人は言う。
死にたいときに死にたいように死ぬことができれば、経緯はどうあれそれこそが人生に対する唯一の勝利条件なのだと。

ひときわ大きい地震がきて、一階層下の地盤が崩落する気配を感じた。
人生に対する"答え"を持ったまま逝った男の亡骸が、深い深い土の奥へと飲み込まれていく。
彼が最後に勝利をつかんだのか、敗北の辛酸を舐めたのか、投げたまま返ってこないコインの裏表のように、永遠の謎と化していく。

地下へと繋がる古井戸からあふれた水が津波となって、悲しむ全ての人の感情をのべつまくなく洗い流した。
野心に滅んだ貴族の墓で、墓碑に名の無い男の死が、二度と光の届かない悠久の闇へと溶けていった。

 * * * * * * * 

153 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/03(木) 02:42:26.17 0
【ウルタール観光事務所・跡地】

どう贔屓目に見ても今回の作戦は成功だ。
湖の巣食う湖賊を討伐し、ダンブルウィードで戦った"クランク"なる軍事組織への手がかりも得た。
湖底から手に入った隠し財産はそれこそ豪邸百件分の前評判に偽りなしの大財宝ばかりだ。
にもかかわらず課員たちの表情は沈痛そのもので、任務成功を祝う声はどこにもない。

サフロール=オブテインの死。
それが遊撃課へともたらした影響は、どんなに過大な給金よりも計り知れないものだった。
無愛想で、不躾で、陰険で、陰湿で、――誰よりもひたむきに自分の境遇へ抗っていた男。
若年層の集まる遊撃課の中では老成した部類だったが、彼もまた世に迷う若者だったのだ。

「……オブテインの実家と出向元には、俺から話をつけておく。辞表と遺書もあるしな」

ボルトは、努めて気丈にそう告げた。
羊皮紙に血でしたためられた"遺書"を、湖風に持っていかれないように強く強く抱きしめながら。
お前らはこうなるな、とは言わない。サフロールの死に様を否定することはしたくなかった。

同僚の死を経験したことがないわけではない。だが、『天才』はこの世界で最も死から遠い存在だ。
とくにスティレットなど、泣いているのか震えているのか両方がまぜこぜになった表情で俯いている。

「……こういう時、なんて言うのが正解なんだろうな」

ボルトもまた、戸惑っていた。
部下を失うのは初めてだ。それ以上に、残された部下たちにどんな言葉をかけていいかわからない。
従士隊に入隊して以来、ずっと一緒にやってきた教導院からの友人が二年前に死んだ時、上司はなんて言ってくれただろうか。

「………………。」

ノイファあたりに助け舟を求めようと視線を彷徨わせるが、途中でそれがあまりにもみっともないことに気付いて目を伏せた。
きっと、正解なんてない。思ったことを正しく口に出せるには、いささか修行が足りないようだ。
ボルトは、目頭を揉んでから一言だけ喋った。

「――――状況終了だ」

誰が死んでも、状況は終了する。世界は変わりなく回っていく。
今はその当たり前のことが、どうしても煩わしかった。部下が死んだんだぞ、なに平然と進んでやがるんだ、時間。
握りすぎた拳から、血が滴っていた。爪が手のひらの皮膚を食い破っていた。

誰かが死に、誰かが生きる。
人は死んだ時、あるいは死に直面したときに、自らの人生を走馬灯というかたちで振り返る。
それは一つの答え合わせなのだろう。自分の死という結末に、イコールで結べる人生であったかという検算。
与えられた命という問いへの、人生を賭した回答。

万物を破壊する天才も、遍く未来を見通す異才も、あらゆる全てを分析する鬼才も。
こればっかりは、教えてくれやしないのだ。

【二章 『人は変わってゆくものだから』  ――状況終了】


【次回予告】

帝都最強の称号『護国十戦鬼』の一人、"遁鬼"ユーディ=アヴェンジャーが元老院の一席を殺害し、とある呪具を奪い逃亡した。
当局がつかんだ亡命先は、『第三都市』タニングラード。帝国領内にありながらどこの統治にも属さない治外法権の街。
各国から亡命してきたならず者の集まるこの街で、唯一課された法は『武器を捨てること』だった――
武器を取り上げられ、マテリアルを失った遊撃課の面々は、果たしてユーディを見つけ出すことができるだろうか。

同時期、元老院は報復措置として討伐隊を組織することを決定。
従士隊の部長クラスや騎士団の上位騎士など歴戦の強者たちがタニングラードへと侵攻を開始する。
下手すれば戦争勃発の極限状況で、非暴力の街は巨大な陰謀の渦中へと巻き込まれていく――!

154 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/11/05(土) 21:37:33.08 0


>「じゃあ、あばよ。羨ましかったぜ」


―――――

「離せええっ!!まだ間に合うかもしれねぇだろっ!!
 サフロールがまだいるんだっ!!あの中に――まだいるんだよっッ!!!!」

必死の形相で搬入口へと向かおうとするフィン。
だが、そんなフィンの動作はルインによって羽交い締めされる事で中断させられ、それは叶わない。
常ならば振り切る事も可能だったのかもしれないが、今のフィンは余りにも消耗していた。

咆哮するフィンの脳裏に浮かぶのは最後の光景。 大切な仲間の、最後の言葉。

>「ハンプティ。お前は……もうちょっと落ち着きやがれってんだ。
> 急いだ所で、待ってんのは精々この有様だぜ。こうはなりたくねえだろ、なぁ?」

皮肉屋で、高慢で……その実、誰よりも仲間の事を考えていた、仲間。
掛け替えの無いその命は、失われた。
クローディアの召還術の失敗が、それを証明している。
しかし、フィンにはその現実を、仲間を失った事実を許容する事は出来ない。

「なんで、なんでこんな事になるんだよっ!!……クローディア!頼むから、
 サフロールを呼び出してくれよ……俺の体でも、命でも、何でも差し出すから……っ!」

縋るようにしてクローディアにそう言うが、何を対価にしようと、
もはや失った命が戻るべくも無い。それは如何な天才であろうと覆せぬ絶対の摂理。
奇しくも攻めるような形になった事で、クローディアの表情が歪み、
それを見たフィンは、クローディアから視線を逸らす。
悪いのは、クローディアではない。彼女は、全員を助ける為に死力を尽くしたのだ。

「くそっ、なんだよそれ……そんなのって、ねぇだろっ!!!!」

砕ける寸前まで歯を食いしばり、崩れる様にして地に膝を着けたフィンは、折れた腕で地面を殴りつける。
目からは透明な雫が滴り、次々と大地に吸い込まれていく。
胸中に押し寄せるのは、数多の後悔。

あの時、自分がサフロールの異常に気づけていれば良かったのだ
最後の瞬間、サフロールの手を掴んでいれば結果は変動していたかもしれない
宝など早々に放棄して、自身が盾となり脱出するべきだったのだ
あの時ああすれば
自分が悪い
自分が変わりに死ぬべきだったのだ そうすれば

自分で自分を押しつぶそうとしているかの自虐の奔流。
そして、その最後に浮かぶのは過去に経験した一つの情景。

――――眼前に折り重なる、自分一人を生かすために死んだ家族の死体
――――屋敷の外に広がる、一族が守るべきだった領民の死体の山

     ..
「俺は、また守れなかった……っ!!また、失敗したんだ……!!」


天を向き、フィン=ハンプティはあらゆる感情を込めて慟哭する。
この世の不条理に、自身の無力に、世界への怒りに


155 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/11/05(土) 21:38:51.12 0

物語の英雄の如く在り続ければ、誰をも助けられると思っていた

……だが、結局はそれは夢想だった。
それを裏付けるかの様に、サフロールは死んだ。
そして、慟哭の果てにフィンは思い至る。
この「遊撃課」は、この世界から不要とされ、拒絶された者の集まり。

このままでは何れ、他の仲間も無茶な任務の果てに使い捨てられる。

その可能性が常にある事に。
此処はそういう部隊であるという事に。

青年の瞳の奥に、暗い炎が灯る

【フィン=ハンプティ 状況終了】

156 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/11/06(日) 02:28:30.62 0
>>150-151>>153
鐘声を置き去りに、ファミアは戻って来ました。二度の蹴撃を経てむしろ加速した状態で、顔面から。
「るぶふっ!」
救命艇を転覆させ、水面に突っ込んでも勢いはいささかも衰えず、
先ほど課長を追いかけた時とほぼ同じ、沈降と言うよりは落下に近い速度で湖底へ一直線。
突入時の水の抵抗のせいで首がいい角度に曲がってしまったものだから、意識も吹っ飛びました。

潜るに従って速度は落ちるものの、全く浮力が働いていない状態では、それは決してゼロになりません。
湖底に着くまで緩やかに沈み続け、恐らくはその途中でこと切れてしまうでしょう。
忍び寄る死の影を垣間見ることもかなわぬまま、ファミアの物語はこうして幕を閉じました。

――のはずだったのですが、次に目を開けたときにはなぜか別の船上にいて、
傍らでは課長と、敵船の艦長、クランク6が何やら難しい顔で話し込んでいました。
酸素の足りない頭では内容を捉えられず、耳から入った言葉は逆へ抜けていくだけです。
とりあえずは無事だったのかな、と考えながら、ファミアは目を閉じました。

その後、何時間かぶりに帰りついた湖畔で聞いた報告は、酸素の行き渡った脳味噌でもちょっと理解しかねました。
サフロール・オブテイン死亡。
別に殊更に会いたい人でもなかったけれど、なんだか胸に穴が開いたような気持ちになって、でもそれだけ。
眼の前でそれを見たわけではなく、亡骸もない、ただの『死』そのものを飲み込むのは、ファミアにはまだ荷が重いようです。
クラーケンもバハムートもいなくなった湖面では、駆け抜ける風が小さな波紋を立てています。
その下にサフロールの亡骸があるのだと思うと、とたんにそれが気味の悪い光景に見えてきました。
静穏に悪感情を抱いたのは、生まれて初めての経験でした

>「――――状況終了だ」
課長の一声で、撤収開始です。
帰路についたファミアは
(そう言えばこんなところまで来たのに結局おいしい物の一つも食べてないなあ)
と、不謹慎極まりないことを考えました。
特にバハムートを食べ逃したことについてはご立腹です。
あとで文句の一つも言っておくべきかと考えて、そこではたと気づいて、思わず声に出しました。
「誰に……だっけ?」

なんだか、胸の穴が大きくなったような気がしました。
あと、頭にも穴が開いたままでした。
埋められない隙間を抱えて、重たい気持ちを引きずって、それでも止まることは許されません。
それでも、次の任務までの間くらいは、それに向き合う時間を得られるでしょう。

【RTB】

157 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/11/06(日) 16:46:52.67 0
「あーあ、左遷かぁ。私、悪い事してないのになぁ」

マテリア・ヴィッセンは帝国軍宿舎の自室で小さくぼやいた。
周りには私物を詰めた木箱があり、彼女はその一つに背を預けていた。
随分と広くなった部屋を見回す。木箱の数は多くない。生活に必要なものは殆どが宿舎に備えられていた。
私物らしい私物と言えば本や、それに代わる記録オーブくらいだった。
元々は箱と本棚が部屋の半分、つまり二人部屋の自分の領分全てを埋め尽くしていたが、なんとか厳選してお気に入りのもの以外は談話室に寄贈してしまった。

マテリアは知識を得るのが好きだった。
元から好奇心旺盛な性質ではあったが、軍に入ってから輪にかけて異様な知りたがりになった。
軍の内外を問わず、どれだけ些細な噂も聞きつけて裏を取った。
知識の収集を癖として自分に叩き込んだのだ。
戦場では情報こそが命で、だからこそどんな小さな事でも気になるように、自分を戦場に適応させた。

そうしている内に、気付けば『上官の横領と横流し』の秘密に触れてしまっていた。
手を引くのが賢い選択だと一瞬で理解した。
糾弾したところで、もみ消されてしまう可能性の方が高い。
たとえ上官を処分に持ち込んだところで、そんな部下は誰にとっても扱いにくい。
体よく追い出されるか、束縛されるかのどちらかだった。

だが、その不正を見逃せばどうなるのか、考えた。
軍事資金が足りなくなれば戦線に物資が行き届かなくなる。横流しは物資の枯渇に拍車をかけるだろう。
そんな状態で戦えば当然士気は下がる。怪我や魔力の回復だって遅くなる。
死ななくてもいい筈の人間が死に、数え切れないほどの悲しみが生まれるかもしれない。

その事に思い至ると、マテリアはもう叫ばずにはいられなかった。
己の『才能』と情報通信の技能をもって、上司の不正を盛大に、もみ消す事など不可能なくらいに爆発的に、軍の内外に暴露した。
そうして横領上司を不名誉除隊の処分にまで追い込んだのだ。

その結果マテリアは先刻、左遷を申し付けられた。
罪状は『独断で行動し、軍内の規律を著しく乱した事』だった。
思い出すと、思わず乾いた笑いが零れる。

「・・・まぁ、いっか!悪い事してないんだったら、引きずったら負けだよね!次の部署でも頑張ろうっと!」

胸の内で渦巻く釈然としない気持ちを、この部屋に置き去りにするつもりで立ち上がった。
自分一人が左遷するだけで、多くの友軍が命を拾った。多くの人が悲しみの矛先から逃れた。
そう考えれば儲けものだった。
それに左遷先の『遊撃課』は、今までのどんな組織とも違う体系をしている。
使い走りと揶揄する連中もいるが、画期的で、とても自由度の高い組織だ。
上手く立ち回れば今まで以上に、色々な情報を仕入れる事が出来る。悲しい思いをする人を減らせるに違いない。
前向きに考えてみれば、最良の結果が得られたと言ってもいいくらいだ。

「遊撃課かぁー。私みたいな人が大勢いるって事は、んー・・・うんっ!退屈しなさそう!」

意気揚々と宿舎を出て、軍の敷地内を悠々と歩く。既に身分証や支給品は返却してある。
あとは門をくぐり、この敷地から出るだけで、帝国軍からおさらばだ。

門を前にして、マテリアは一度立ち止まった。そして振り返る。
名残り惜しくなった訳ではない。ただ、忘れ物をしただけだ。
息を深く吸い込み、口元に右手を添えて、『叫んだ』。

『皆さん、お世話になりましたっ!』『食事当番のレシピ、談話室の本棚に寄贈しましたから読んで下さいねっ!』
『トーマスさん、カードで役が悪いと唇を噛む癖、直さないと勝てませんよっ!』『あとスミスさん。隠し場所、変えた方がいいですよ』
『私がいなくても、情報収集を怠っちゃ駄目ですよっ!『知っている』と『知らない』が生死を分かつのが、世の中なんですからねっ!』

マテリア・ヴィッセンの遺才が、軍の敷地中に響き渡る。
自在に制御可能な声があらゆる物体に反響して、別れの挨拶を仲間達に届けた。
次にマテリアは、手を耳の横に運ぶ。全員分の返事が聞こえた。
満足気に頷いて、今度こそ躊躇いなく軍門を出た。そしていざ――遊撃課へ。

158 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/06(日) 21:53:24.18 0
夢を見ていた
色とりどりの花が咲き乱れ、小川のせせらぎが聞こえてくるのどかな庭園
燦々と照る太陽がさらに色彩を鮮やかにしている
ここは夢の世界

そこに立つ少女、観測者の過去
彼女の姉や兄達、両親と共に過ごしていた楽しかった過去の一つ
幸せだ

夢を見ている間、彼女のことを少し語ろう
彼女の人生は概ね夢のような穏やかで幸福に満ちたものだった
彼女の兄は2人いるが軍務でいそがしく、家にいないが疎遠になったわけではない
姉はセフィリアのことのほか可愛がっている
両親は遺才持ちの彼女をよく愛し、誇りに思っている

生まれたときに、両親は3人目の娘に少なからず落胆の色を見せたが、それで彼女が冷遇されるといったことにはならなかった
5歳の時に初めて両手に剣を握る。そのとき彼女の遺才が発揮された
彼女の一族は見な双剣の使い手だ
血がそうさせる。遺才を持たない者に負けるようなことはない
しかし、血は薄く『鬼』の名を持つものには到底敵わない
両親にしてみれば、双剣の二つ名を持つ家としてたしなみ程度に武術が出来ればいいと思っていたのだが、彼女は両親の想像を遥かに超える才を発揮したのだ
『セフィリアなら鬼に勝てる!』
父は歓喜の声でそう叫んだ……しかし、それは束の間の野望でしかなかった
彼女の才は『両手に持ったものを自由に扱える』

しかし、同形のものでなければならず、体への負担も大きかった
そして、『鬼』迫れるほどの才ではなかった
崩剣のような破壊力も轟剣のような早さもない、中途半端な才
幅は広いが底が浅い
父はそこで彼女への期待をやめた
彼女自身は元から勝とうなんてことは頭の片隅にも考えていなかった
自分と同じ軍人になって欲しいと、ささやかな願いを込めて王立の教導院へと進ませた
そこでの生活はあまり人生において楽しかった時期ではなかった
行き過ぎた才が彼女を孤立させた
名門貴族の娘だけあって、近づいてくる者は後を建たなかったが、友達と言える存在は皆無だった
しかし、何もしなかったわけではない
風紀委員をつとめたりもしたが
その後、彼女は近衛騎士団に進むことになる
彼女の進路希望が騎士団だったことは、父にとってはおもしろいことではなかった
しかし、帝都近衛騎士団に所属することが決まったときは彼女は飛んで喜んだ
父のレールに乗ることへのささやかな反抗と言えたかも知れない

彼女はこれまでの人生は順風満帆とはいかないまでも、自分の才能に誇りを持ち、満足のいく人生を過ごしていた
彼女の不幸は前職『近衛騎士団』の上司が少々心が狭かったことぐらいだろう
遊撃課に左遷された、なぜ左遷されたのだろうか

近衛騎士団の仕事は帝都の重要人物や施設を警護すること
しかし、彼女が主に行なった業績は食い逃げ犯を捕まえたり、酔っぱらいの喧嘩の仲裁
盗難事件の解決、果ては銀行強盗を制圧したりと近衛騎士団の業務とはかけ離れたものばかり
事実、上司はあまりよい印象をもってはいなかった
ということは彼女の登場時に語った限りだ

159 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/06(日) 21:56:19.97 0
彼女が目を覚ますと広がるのは見知らぬ天井
古今、使い古された文句、セフィリアの状況を説明するのにちょうどいい言葉
実際、彼女は見慣れぬ白壁をじっと眺めていた
記憶はファミアを助けた後で途切れている
その後、何がどうなったかはよく覚えていない

ゴーレム、サムエルソンごと湖岸に打ち上げられたところを地元の住人に救助された
意識が朦朧としている中で無意識に岸までにたどり着いたのか、それとも波に任せてか

「あの……ここは、どこですか?」
近くにいた看護士とおぼしき人に声をかけた
湖岸近くの診療所と答えが返って来た

逃げないのですか、という質問に看護士はあなたのような人が来ますからね、と
会話自体はそれだけで終る
セフィリアは手短に感謝の言葉を言うと足早に診療所を後にする
なんと短い関係か

それでもセフィリアは看護士の彼女に仕事に対する取り組み方を学んだ気がした
真面目な貴族、しかし、しょせんは貴族と言えばいいのか
彼女は当初、あきらかにやる気、意欲というものが低いと言わざるを得なかった
ゴーレムが錆びる、探索という任務に対して、いろいろな原因がある

だから、なんだというのだ
どんな任務だろうとどんな状況だろうと全力で取り組むべきだ
飛躍過ぎかもしれない、でもそれが彼女が看護士から感じ取ったこと
人生の薫陶を受けるというのに時間ではない、ただ一言あればいい
誰の言葉だったかな、セフィリアは少し記憶を巡ったが思い出せなかった

彼女が現場に戻ったとき、ちょうどサフロール・オブテインの死が課長、ボルトから告げられた
寝耳に水というがこのときは熱湯でもぶちまけられたかのような衝撃
同僚の死、前職近衛騎士団では経験はない
いや、人生で初めて『死』を体験したといってもいいのかも知れない

彼女のサフロールの関係は薄い、挨拶も交わしたかどうか、彼女は必死に思い出そうとしたが顔と名前がかろうじて一致している程度
その程度のまさにぎりぎりと呼べるほどの同僚の『死』
彼女は自分の無力感撃ちひしがれた
自分が気絶さえしていなければ……

しかし、100人が99人は彼女がサフロールの死に影響したとは言えないだろう
1人、彼女だけが自分の不甲斐なさ、実力不足、そして不熱心さ
それが彼の死に直結している
馬鹿な考えだとサフロールなら一笑に伏すかも知れない
彼女はそんなことも気付かない
なぜなら、彼女はサフロールのことをあまりにも知らなさ過ぎたのだから

帰路、セフィリアは一言も口を開かなかったと言う

160 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/07(月) 05:12:07.11 0
世の中に対する不満とか憤懣とかは、そりゃあ数えに尽きないぐらいはある。
宿舎の朝メシの貧相さとか、残業ばっか増やしてくれる部下どもとか、行きつけの娼館の値上がりとか。
一つ一つに愚痴ったり文句を言ったりしてたら日が暮れちまうだろうし、そもそも誰も聞いてくれやしねえ。

結局は、無理に変革せず現状をどう上手く生きるかってことに話題は集約されてくんだと思う。
あと、まあ、おれもいちいち喚いてられるような歳じゃなくなった、ってのもあるんだろう。

二年前、帝都が壊滅しかけたあの夜、教導院から一緒にやってきた相方が死んだ。
おれはそのとき、どうしようもない理不尽に抗う気概を失って、遣る方無い悲しみを乾いた笑いでやり過ごす術を覚えた。

人はなるべくして大人になるんじゃない。大人になるために歳を重ねるわけでもない。
子供じゃいられなくなったとき、現実っていう地べたに墜落したそのザマを指して『大人』と名付けているだけだ。

この前、部下が一人死んだ。そう仲が良かった記憶もねえが、奴の機転には何度か助けられたし、信頼もしていた。
実家や出向元に頭を下げて回って、オブテインの死に少なからずショック受けてる部下連中に休みをやったりして。
事後処理があらかた片付いてから、ふと胸のうちに悔しさや悲しさとは別の熱が渦巻いてることに気がついた。

今さらになって、おれは相方の死に釈然としなさを抱え始めている。
いらいらすることも、腹の立つことも、飲み込んで黙ってる処世術を、くそくらえだと思い始めてる。


【遊撃左遷小隊レギオン!  第転章  ――『相対するために』――  】


この地べたを蹴らなきゃならねえ。まずは相対するために。
むかつく世界に対する文句を、雲の上に届けたいから。

そのための、ここは否定の最果てだ。

161 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/07(月) 05:15:33.49 0
<帝都・二番ハードル 『ヴィエル邸』>

ヨハン=ディートリッヒ=ヴィエルが帝都の最高意思決定機関・元老院の一席へと就任したのはほんの数年前のことだ。
生まれついての貴族はみな為政者としての資格をもっている。その中でもヴィエル家の長男はとりわけに出来が良かった。
王学院を主席で卒業したあとは、天帝城付きの高級文官として国政に大きく携わり、国内総生産額の向上に貢献。
どれだけ功績を挙げても生まれによって人生を縛られるこの国において、貴族という身分だけが率直に努力を評価される。
彼の功績は、一切の障害とは無縁に彼を元老院の地位まで押し上げた。

ヴィエル邸の警護に配属された近衛騎士団の騎士達は、その夜も微塵の怠りなく職務についていた。
彼らは若くして元老となった主君を尊敬していたし、そんな主君を護る自分たちの仕事に誇りを持っていた。
この国の未来を担う、若き力の護り手。この上なくヒロイックで、士気を高めるには申し分ない環境だ。

だから、誓って言うがこの夜、彼らには一切の過失がなかった。
帝都の平穏を横紙破りにぶち壊す国家規模の事件の、発端となった暗殺は、襲撃者の純粋な実力によって完遂されたのだ。


月光が宵闇を割る夜更けの静謐。
明るい夜を歩哨に出る騎士たちが最初に気付いたのは、異変の予兆にも満たない小さな小さな"違和感"。
『いつもより風の流れが重い』という、論理的に説明のしようもない感覚が、全ての始まりだった。

驚愕の声さえ透き通るように静粛な、ほんの少しの敵意の気配が、騎士達の傍を駆け抜けた。
ヴィエル邸のロビーへと続く玄関の大扉が、来客を知らせるベルの澄んだ音を奏でながら――それ以外に一切の音もなく開いた。
扉の前に立哨する騎士が面食らいつつも即座に反応。腰の剣に手を遣り、そしてようやく自分の体の違和感に気付いた。

まず腰に差してあるはずの剣がなかった。
そして四肢を硬く守っているはずのプレートアーマーもまたなかった。
インナーを着ただけの、まったくの無防備状態で。立哨は自分がそんな状態にあることに『まるで気付かなかった』。

立哨だけではない。敷地内を警備する歩哨も、屋敷内を巡回する内備担当も、みな一様に武装をなくして慄然としていた。
普通、気付かないわけがない。近衛に配備されているのは剣も鎧も人間一人分はゆうにある重装備だ。
そんなものが知らぬ間に脱がされるなどありえないし、脱げていることに気付かないのもあまりに馬鹿げた話である。
そして騎士達は気付くのだ。無防備であるはずの自分の体が、重装備と同じぐらい鈍重であるということに。
まるで自分の腹の中に鎧をそのまま飲み込んだみたいな感覚だった。

「これは――『この能力は』! まさか!」

騎士の一人が口にした疑念は、仲間全員の脳内で寸分違わず同じイメージを結像する。
この現象に覚えがあった。騎士団では生ける伝説として語られている、とある凄腕の上位騎士の存在。
その勲功から天才の中でもトップエリートしか呼ばれ得ない『鬼銘』を賜った、掛け値なしに帝国屈指の英雄。

「『遁鬼』……!」

その名が意味する実力と、その裏切りが意味する最悪の未来が、騎士達に絶望として打ち降ろされる。
元老院による抜き打ちの警備テストか何かだろうと、何の保証もない希望にすがりつく者がいた。
騎士団の中に存在する不穏分子を粛清しにきたに違いないと、ありえない仮定で無理やり納得しようとする者がいた。

折れそうになった心を必死に支え立ち、半ば祈るような気持ちで主君の執務室へと駆けつけた騎士達が目にしたのは――
短剣に胸を貫かれて絶命したヨハン=ヴィエルの亡骸と、散乱する書類、派手に荒らされた室内。
そして彼のデスクから奪い去られた鍵は、ヴィエル家の管理する特災害級指定の呪物保管庫へと通じていた。

『元老』の殺害と、災害指定呪物の強奪。
最悪の二文字がついてまわるこのふたつのニュースは、瞬く間に帝都の隅々まで広がった。
なによりも大衆の関心を引いたのは、これだけの大反逆をやらかした下手人が、市民のよく知る者であることだ。


下手人の名はユーディ=アヴェンジャー。
『匣』の眷属・"絶影"の遺才を体現する天才にして、帝都最強の称号『護国十戦鬼』を冠する十人の一角。
他ならぬ元老院によって与えられた二つ名に――『遁鬼』と呼ばれた男である。

 * * * * * *

162 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/07(月) 05:19:08.49 0
『第三都市タニングラード』は、帝国領土の北端に所在する比較的大規模な都市である。
土地の広さだけが取り柄の、主だった産業もない街だ。他の都市からも離れているためにろくな交易すらない。
大陸の半分を占める帝国領の中でも北限にあるために冷え込みが強く、真夏以外は常にどこかしらに雪が積もっている始末だ。
一見して大した経済価値の認められない土地。そこに何故大きな街が築かれているかと言えば、ある政治的な理由がある。

タニングラードは帝国領にありながら、帝国法の適用を受けない。
どころか、大陸のどの国家からも法治をうけない"独立自治領"と呼ばれる特殊な街なのである。

どこの国の者であってもタニングラードならば通行証なしで入れるし、国家に属していないので余計な税をとられない。
だからタニングラードは、大陸の北に点在する小国家の商人が帝国の商人となんの規制も受けることなく交易できる唯一の場所なのだ。
帝国では法律で禁じられているような商品も、この街でなら売れる。帝国側も諸外国からの輸入を監視できる。
国家間の法の違いから起きる余計な衝突や軋轢を回避するための『緩衝地帯』としてタニングラードは存在するのだ。

「――というのが今回の任務地に関する大雑把な説明だ。小難しく考えず『帝国法が通じない』ってことだけ覚えとけ」

雪原を進むために特別に調整された大型のゴーレム馬車に揺られながら、ボルトはいつものブリーフィングを開始する。
馬車の中とは言え幌一枚隔てた外は吐く息白い銀世界。既に馬車の屋根には小さな氷柱が芽生え始めている。
分厚い革の手袋で白墨をとって、蹄が氷を叩くたびに揺れる黒板へと叩きつけるように文字を刻んでいく。

「で、おれたちの任務だが……簡単に言えば"人捜し"だ。先月の事件は知ってるな?」

護国十戦鬼の一人が起こした、元老殺害・呪具強奪事件。
帝都を混乱の渦中に陥れたこの事件のあと、捜査当局はそれこそ帝国全土を総舐めにする勢いでユーディの足取りを追った。
それでようやく、巧妙に隠された痕跡から導きだされた逃亡先がこのタニングラードだったというわけだ。

「ちょうどタニングラード配属の従士隊から入電があってな。亡命希望者の中に似たような面した男がいたらしい。
 帝国内のあらゆる交通手段、馬から箒まで全部洗って利用歴が見つからなかったってことは、ひと月歩いて辿り着きやがったな」

その道程を特定した当局の優秀さには舌を巻くばかりだが、事態そのものは一向に好転していなかった。
どんな犠牲を払っても、ユーディがタニングラードに入る前に見つけ出すべきだった。

「この『亡命』ってのが何よりヤバい。タニングラードが治外法権なのは話したな?
 つまりユーディが亡命して正式にタニングラードの住人になっちまうと、帝国側からは逮捕することすらできなくなっちまう。
 あの街は他国と政治的に拮抗してる『緩衝地帯』だ。帝国だけが先駆けて越権行為をすれば――下手すりゃ戦争にまで発展しかねない」

だからこの任務には何より迅速さが優先された。
ユーディ確保のために精強な軍団を編成して行軍させるのに先がけて、スクランブル出撃が可能な遊撃課を送り込む。
少人数で大軍と同じ戦力を発揮できる遊撃課がユーディを逮捕できれば僥倖。駄目でも時間を稼がせて本命の部隊を投入。
遠いタニングラードまで二段構えの部隊編成を向かわせるのには莫大な資金がかかっているはずだ。
それでも元老院、ひいては帝都の武を司る全ての者は、なりふり構ってなどいられなかった。

たった一晩の、それも一刻に満たない時間で、帝都でも最高峰の練度を誇る騎士団一個分隊が尽く無力化されたのだ。
奪われた呪物の危険性もさることながら、それほどの実力者が国家に反旗を翻したことが何よりの凶報だった。
絶対の保護という安心の元に行われてきた為政が、その前提から覆されたことは、政治機能の停止に繋がりかねない。

「いいか。おれたちに任されたのは本隊が到着するまでの時間稼ぎ、逃げまわるユーディに対する牽制だ。
 奴の所在は追うが、もし対象に遭遇しても、『絶対に戦うな』。おれ含め、お前らじゃあのクラスには太刀打ちできない」

ボルトはことさらに強調して命令した。なにせ相手は護国十戦鬼、帝都で最も強い者たちの一人である。
ここで言う『最強』とは、『最も多くの敵を殺害した実績がある』ということだ。ユーディは、秘匿殺傷術の専門家だった。
如何な多勢も彼の前には意味が無い。見えず、聞こえず、感じないままに一人一人確実に殺されていくのである。

163 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/07(月) 05:22:23.78 0
それでも味方に確実な勝利をもたらすから、絶影の死神は英雄だった。
どんなに高性能なゴーレムも、敵に奪われたらそのまま強さが脅威になるから、自爆装置なんてものが普及したのだ。
最強の戦力を持つ英雄は、寝返れば当然、最悪の殺傷力をもった化物でしかない。
この甚大な戦力を他国に持って行かれるぐらいなら、いっそ殺してしまえというのが、元老院の決定だった。


やがて長い長い行軍の果て、雪馬車の前方に石の壁が見えてくる。
鉄道も通っていない、馬車ぐらいしか他の街と繋ぐ交通機関のない、陸の孤島。
温度のない石と氷の威容、『第三都市タニングラード』。ここより先は、帝国の領土ですらない地図の端。
巨大な街をぐるりと囲む無音の城塞が、旅人たちを静かに拒んでいた。唯一口を開く入城ゲートに馬車が横付けする。

「ここから先はおれたちは偶然乗り合わせた他人同士って設定だ。タニングラードの自治会は元老院の息がかかってない。
 つまり遊撃課は、なんのバックアップも受けられない状況で飛び込まなきゃならなくなる。覚悟はいいな?」

タニングラードはその性質上、武力の気配に必要以上に敏感だ。
隊商でもない大人数が、ぞろぞろと入ってくるのを嫌う。なんらかの部隊である可能性を否定できないからだ。

「来るときに話したように、今回は『潜入任務』だ。身分が露呈することだけはなんとしても避けろよ。
 従士隊の隊章も外せ。全員、平服の旅装に着替えろ。必要以上に言葉を交わすなよ、訛りでバレかねないからな。
 まずは自治会の入城管理局を騙さなきゃならねえ。各自、自分が一番演じやすいと思う設定で乗り切れ」

当然、武器の持ち込みなど御法度だ。
どの国の法も適用されないが故に、この街には母国を追われたならず者が隠れ住むことが多い。
当然治安が劣悪なため、自治会は一つだけ全市民に例外なく適用される法を設けた。

それが、『武器の所持禁止』――この場合の武器は広義。戦闘用だけでなく、『他者を殺傷することができる物』全てだ。
剣や槍は言わずもがな、ナイフは自治会の定める刃渡りのもののみ、攻撃魔法に対応した魔導杖も没収される。
そして、戦闘系の遺才持ちはマテリアルすら持ち込みを禁止されるのである。

だからこの街には他者を殺傷できる道具が存在しない。
武器がないので、当然それから身を守る防具も出回らない。従士隊の装甲服や騎士団の軽鎧などもっての他だった。

「隠せる大きさでも武器は持つな、見つかったとき逆に言い訳のしようがなくなるからな。まとめて馬車に残しておく。
 繰り返すがお前らの任務は『戦闘』じゃない。それだけは絶対に肝に命じておけよ。
 分かったら――状況開始だ」

ボルトが再三繰り返す『戦うな』の命令。
ナーバスすぎるほどに意識しているのは、サフロールの死が少なからず起因している。
もう部下を失いたくない彼にとって、ユーディとの圧倒的な実力差はむしろ救いですらあった。

おそらく、武器を持っていた所で遊撃課の面々では護国十戦鬼相手に生き残ることすら不可能だろう。
剣では比肩する者のない『剣鬼』ですら、先代ならばともかく当代のスティレットをして逃げ回るのが関の山だ。
それほどに、戦闘に特化した『最強』を相手にとることは無謀なのだ。

厳重な留意点の説明を終えると、ボルトは先んじて馬車から飛び降りた。
彼が外套の下に着込んでいるのは一般的な旅装。ふだん彼が着ている服より若干グレードの落ちるものだ。
寒風吹きすさぶ雪の道を行った先に聳える入城管理局へ、一人で歩いていった。
管理局では、職業、入城目的、滞在日数、持ち込む荷物の内容が問われ、戦意がないと判断された者が街へ入ることを許される。

164 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/07(月) 05:24:18.62 0
――『はい、次の人。あんた何やってる人だね』

「おれは帝都の端で春野菜の作付けをやってる農家だ。おふくろが今年はギザウェルの甘根をつくろうと言うから種を買いに来た。
 隊商を待ってもよかったが、直接買い付けたほうが良い種の目利きもできるんじゃねえかってな。もうすぐセリ市だろ」

『おお、そりゃわざわざ遠くからご苦労さん。それなら暫くこっちに居ることになるね?』

「だいたい二週間ぐらいだな。なに、春までまだ長いし、せっかくここまで足を運んだんだから商売もしたい」

『ふむ、なら積荷は商品でも入ってるのかね』

「ああ、うちは根菜が主力だからそれがいっぱいと、それから菜物が少し。こう寒いんじゃ痛みも遅くて助かる」

『そりゃ結構。いちおう積荷は別で預かって、検査が済んだら管理局まで取りにきてくれよ』

「よろしく頼む。……つまみ食いするなよ?」

『おいおい、生野菜齧るほど飢えちゃいないよ。あんたみたいな客のおかげでこの街は潤ってるからね』

審査官と問答を終えたあと、武器の所持がないかのチェックをうけて、ボルトは街の中へ踏み入れることを許可された。
許可証は常に携帯しておかないと、この街での所々の手続きが受けられなくなる重要なアイテムだ。

タニングラードは長方形の城壁に囲まれた土地を、横切るように主要な大通りが貫き、そこから路地に派生する構造だ。
主要な大通りは全部で3つあり、それぞれ『朝通り』『昼通り』『夜通り』と名付けられている。
該当する時間帯にその通りで盛大な露天市が開かれるのが理由である。

今は昼を過ぎたところなのでどの通りも人が往来するだけだが、数刻も経てば夜通りが賑やかになることだろう。
ボルトは今、三本通りの真ん中、昼通りの自然公園のベンチで腰掛けていた。予め決めておいた集合場所である。

さあ、遊撃課員たちにとっての最初の関門。
無事に入城管理局の審査を潜りぬけ、タニングラードへと潜入できるだろうか。

 * * * * * *

「だーぁーから、どう見ても非武装じゃないあたしたち!なんで入城審査通らないのよ!?」

タニングラードの入城管理局で一人の少女が地団駄を踏み踏み、人のよさそうな窓口の中年男性へ噛み付いた。
質素だが品のある服装に、上等な外套を羽織り、ウエーブのかかった美しい亜麻髪の上に防寒帽を被っている。
クローディアだ。その傍では目頭を抑えるナーゼムと、更に隣にはダニーが居る。審査官はダニーを見上げて、

「いや、どう考えても武器だよその筋肉は……」

人を殺せそうな目ならまだしも、人を殺せそうな筋肉ときたものだ。
実際、殺せるのだろうが。筋肉のような取り外し不可能な器官を取り沙汰された方はたまったものではない。

165 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/07(月) 05:25:44.94 0

「じゃあどうしろっつうのよ、『人殺せないぐらい衰弱してからまたどうぞ』とでも言うつもり!」

「そうは言っても、見た目からして威圧的なのはどうもねえ。この街ではそういうの、マズいんだよ」

「きぃぃぃぃぃぃ! 思わぬトラブルだわ!人と待ち合わせる予定があるってのに!」

クローディアたちがタニングラードへと赴いた理由。
それはユーディ=アヴェンジャーにまつわる事件と関連しているが、彼女たちにその自覚はなかった。

クローディアの"独自の情報網"によれば、近々タニングラードへ帝都から大規模な出兵があるらしい。
意味するところは『戦争の気配』である。戦争になれば生まれるのは破壊だけじゃない。軍需という名のビジネスチャンスだ。
そういうものを逃さずつかんだものにこそ成功は訪れる。クローディアは迷わずタニングラード行きの馬車を手配した。

結局ウルタール湖でのあの事件のあと、クローディアに分配された宝は十分とは言えなかった。
全体の膨大な量に比べれば、雀の涙ほどの財宝だけだ。それでも、帝都の中心街に店が開ける程度ではあった。
が、ダニー、ナーゼム、ジョナサン、シヴァに支払う棒給と、彼女自身を抵当に入れた借金を返したところ、
田舎にボロ屋を建てるぐらいの金額しか残っちゃいなかったのである。

メニアーチャの至宝、"鳳火紋"のレイピアは確保できたのでいつでも残りの財宝を喚び寄せることはできた。
ただ、サフロールが命を落としてまで送り届けた財宝を、奪うということが彼女にはどうしてもできなかった。
こういう甘さが、きっとこれからも損をするきっかけになるとわかっていつつも、クローディアは非情に徹しきれなかった。

「ダニー、あんたその筋肉ぜんぶ胸に集められたら良かったのにねえ。顔のつくりは悪くないんだし、一気にグラマー美女よ」

背が高すぎるけど。と、そんな益体もないことまでため息と一緒に口から出てしまう。
クローディアは今回、現地集合で新たに人を雇っていた。
待ち合わせは街の中なので、既に現地入りしているかそうでなければここで鉢合わせすることだろう。

「『ロン・レエイ』……まだあたしぐらい若いけど、実力は折り紙つきよ。て言ってもこの街じゃ武力がかえって邪魔なのよね……」

毛糸がちくちくして痒くなった髪を撫で付けながら、クローディアは真っ白な息を吐いた。
今日は出直すにしても、ずっと屋外にいたのでは凍死してしまう。なにせ夜には息を吐く傍から凍っていくらしいのだ。
タニングラードは街の外に、武装解除できない商隊の護衛が泊まるための宿泊施設がいくつかある。
ロンを待って、このまま通せんぼのままなら一旦宿に引き返して不法入国する算段をするつもりだ。


【 転章『相対するために』 状況開始!

 任務内容:『遁鬼』ユーディ=アヴェンジャーの捜索
 ・本任務はスニーキングミッションです。偽りの身分を設定して状況を開始してください
 ・タニングラードは非武装の街。武器は隠せるものでも持ち込みを厳禁されています
 ・武装チェックをすりぬけるような手段があればこっそり持ち込めるかも?ただし、持ち歩けません
 
 クローディア:入城審査で弾かれる。ダニーと一緒に不法入城の相談。ロンを待つ         】

166 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/11/08(火) 20:02:58.11 0
>>163

「あのー、すみませーん!その前に私の自己紹介をさせてもらってもいいでしょーかっ!」

ブリーフィングが終わり出発の段になって、馬車の奥から声が上がった。
マテリアだ。右手をぴんと挙げて、明朗を遥かに通り越していっそやかましい声音で自己主張をする。
皆の視線が集まったところで敬礼をして、口を開く。

「今任務より正式に遊撃課に配属される事になりました!マテリア・ヴィッセンです!
 好きな食べ物はお酒と干し肉、座右の銘は『情報こそ命』です!
 軍では情報通信兵をしていました!きっと皆さんのお役に立てると思いますっ!」

情報伝達の仲介者を務めるに相応しい、歯切れのいい喋り方だった。
敬礼を解き、右手の人差し指を顔の前で立てて続ける。

「皆さんの噂はかねがね聞いていますよ!その素晴らしい仕事ぶりは勿論の事、
 遊撃課という組織そのものも素晴らしい可能性を秘めていると思います!
 ですから、配属されて大変光栄です!よろしくお願いしますっ!」

友好の意を込めたスマイルと共に黒髪のポニーテールが小さく跳ねる。
マテリアは遊撃課に対して非常に肯定的な態度を示していた。
今まで拒みこそしないまでも、ここまで遊撃課に好感を示す課員はいなかった筈だ。

この姿勢に他の課員がどういった反応を示すのか。
それを伺う為にあえてマテリアは自分の考えを前面に押し出した。
左遷という名目で出向させられている以上、遊撃課を好ましく思っていない者もいる筈だ。
それらはマテリアの目的――遊撃課による即応的な戦場への援護の実現――にとって、障害となり得る。
ならば始めに誰がそうなのかを知っておくのは、決して損な事ではない。

「さておき私思うんですけど、これって向こうに着いたら知り合いが来る事とか、
 馬車の中で他の旅客と仲良くなった事を審査官に仄めかしてもいいんじゃないでしょーかね」

ボルトが出て行ってすぐにマテリアは提案する。
本当なら課長であるボルトにこそ言っておいた方が良かったのだが、
その前に彼が早々と出て行ってしまったのだ。

「理由はですね。中に入ったら何度も顔を合わせる事になると思うんですけど、
 その時にまったくの赤の他人って事じゃ逆に不自然じゃないですか?
 一緒に行けるなら行った方がいいですけど、タイミングをズラすにしても、
『アイツは荷物を纏めるのが遅すぎる』『吹雪ではぐれちまったけど大丈夫だろうか』『あの人カッコよかったなぁ、美人だったなぁ』とか
 一緒に行動する為の大義名分と言いますか、布石を打っておいても損はないんじゃないしょうか。
 いくらタニングラードが団体客を嫌うからと言って、二、三人の旅客なんて、そう珍しいものでもないでしょう。
 旅行先、開放的な街並みに当てられて仲良くなっちゃう旅客同士も同じく、ですね。
 まぁそこまで厳しく監視されるかは分かりませんけど、準備ってのはいくらしてもし過ぎるって事はありませんし。
 もっとも必ずしもしなくちゃいけないって事でもないですから、
 新顔のお喋りって事で頭の片隅にでも留めておいて下さいっ!」

武装を解除して傍に纏めながら、滑らかな調子でそう語った。
それから持ってきた荷物から、派手なドレスと虹色狐の毛皮のファーが付いたコートを取り出す。
別にマテリアの趣味という訳ではない。
ただ潜入任務で一般人として振る舞うのなら、彼女にはやはりこれが一番だった。
母が生前着ていた衣装を纏って、自分がずっと見てきた母を――『娼婦』を演じるのが。
それから馬鹿みたいに大きなトランクを持ち上げる。
これを引いて雪道を歩くのは随分と骨が折れるだろうが、問題ない。
考えなしに大荷物を持ち込んだ頭の軽い娼婦を演じられるというものだ。
準備を終えて、マテリアは立ち上がる。

「さて――それじゃぁ〜、私は一足お先に失礼しますねぇ〜。皆さんも頑張って下さぁい」

そして頭の緩そうな娼婦の仮面を被り、ウィンクと投げキッスを残して馬車を出た。

167 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/11/08(火) 20:03:38.82 0
 


「――あ〜もう、なんなの〜!?こんなに寒いだなんて聞いてないよ〜!
 吹雪なんてすぐやむと思ったのにぃ、なんで誰も止めてくれなかったのよ〜!」

不機嫌さを露骨に込めた大声と共に、マテリアは入場管理局に辿り着いた。
思った以上にトランクの取り回しが悪く、若干地の怒りまで混じっている。演技は完璧だ。

『――はい、次の人。あんた何やってる人だね』

「あ、はぁ〜い。えっとですね、私は愛を配るお仕事をしてま〜す!」

即座に完璧な笑顔を形作り、女のあざとさを見せつけつつ審査官に返事をする。

『あぁ、はい。つまり娼婦さんね。で、一体どういった理由でここへ?』

「やだなぁ〜。無法の楽園タニングラードと言えばお酒に決まってるじゃないですか〜。
 たまにはお仕事を忘れて楽しく飲みたいんですよぉ。あとはカッコいい男の人がいれば完璧ですね〜」

『へぇ……じゃあ俺なんてどうだい?』

「いいですね〜。――名刺、いりますかぁ?」

『いらねえよ畜生!断るならもっとストレートに断れ!』

「あはは、ごめんなさ〜い。……あ、ところで〜、ここの地図が欲しいんですけど、貰えませんか〜?」

『地図?そりゃまたどうして』

「だってぇ〜、こんな服着てずっと過ごしてたら風邪ひいちゃいますよぉ。
 まさかこんなに寒いとは思わなかったんですぅ……」

コートの前を小さく開いて、ドレスと開けた胸元を垣間見せた。
頭のついでに貞操観念も緩い娼婦、マテリア・ヴィッセンの渾身の演技だ。

『ん……そりゃ確かに良くないな。よし、持って行きな。印を打ってあるのが服飾店だ』

「わ〜!ありがとうございます〜!……割引券とか、いりますかぁ?」

『だからいらねーよ!そういうの逆に傷つくからやめてくれよ!』

「え〜、それじゃつまんないじゃないですかぁ〜。
 あ、それとお泊り出来る場所も印を打ってもらえませんか〜?」

『……まぁ、構わないぜ。ほらよ』

「わぁ〜、ありがとうございますぅ。実はさっき馬車でカッコいい人見つけちゃってぇ、
 この辺うろついてたら会えるかもしれないって事ですよね〜。お礼に、えーっと……」

『だぁあ、クソ!もういいよ!荷物のチェックも終わったからさっさと行ってくれぇ!』

そんなやり取りを経て、マテリア・ヴィッセンはタニングラードに入る事を許可された。

168 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/11/08(火) 21:01:45.26 0
どうにかこうにか、地上に上がり、聞こえてきたのは、サフロール・オブテインの訃報。
ボルトが、何とも言えない表情をしているのを見て、スイはごそごそとポケットの中を探った。
確か、昔に見たのだ。
己の師父がしていた、鎮魂の儀式を。

「あぁ、あった」

スイの手にあるのは、手の平にも満たないような小さな琥珀。
特に、中に虫が入っているのが良いのだとも教わった気がするが、生憎そこまで持ち合わせが無かった。
そもそも、この琥珀も偶々どこかで拾った物だ。

「こんな物で悪いな」

祈るように額に近付け、そして思い切り湖に向かって放り投げる。
ポチャン、と音を立てて琥珀は水の中に消えた。

「良い夢を」

傭兵をしてきたスイにとって、死など見馴れた物だが、何となく、今回は違うような気がした。
その感覚が何であるかを掴めないまま、帰路についた。
【スイ、第承章状況終了】
=================

>「――というのが今回の任務地に関する大雑把な説明だ。小難しく考えず『帝国法が通じない』ってことだけ覚えとけ」
「(意味がわからん)」

ボルトの説明に、裏が突っ込むが(もちろん表もよくわかっていない)、何となく、無法地帯っぽいということは把握した。

>「で、おれたちの任務だが……簡単に言えば"人捜し"だ。先月の事件は知ってるな?」

ここから先は、色々関わりそうだ。
難しいことは考えず命令に従おう、そう判断して、スイは右から左へと聞き流した。


「来るときに話したように、今回は『潜入任務』だ。身分が露呈することだけはなんとしても避けろよ。
 従士隊の隊章も外せ。全員、平服の旅装に着替えろ。必要以上に言葉を交わすなよ、訛りでバレかねないからな。
 まずは自治会の入城管理局を騙さなきゃならねえ。各自、自分が一番演じやすいと思う設定で乗り切れ」
「了解」

隊章を外し、手早く着替える。

>「隠せる大きさでも武器は持つな、見つかったとき逆に言い訳のしようがなくなるからな。まとめて馬車に残しておく。
 繰り返すがお前らの任務は『戦闘』じゃない。それだけは絶対に肝に命じておけよ。
 分かったら――状況開始だ」

マテリアルをどうしようか――形見の宝石ということにしておこう。
流石にこればかりは外すわけにはいかない。
裏と意志の共有が出来なくなる上に、万が一裏になれば、異才を暴走させかねないからだ。
だいたいの持ってはいるものは決め、入定管理局に向かった。




169 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/11/08(火) 21:02:01.92 0
――『はい、次の人。あんた何やってる人だね』

「宝石商だ。といっても鉄細工が専門だがな。売りに来た。」

『成る程。暫くはここに?』

「あぁ。二、三週間はいるつもりだ。」

『積荷には商品が?』

「そうだ。そんなに量はないがな。うちは細工の好さを売りにしてるんでね」

嘘は言っていない。
買ってきたものだから。

『そうか。じゃあ積み荷は預かるよ。検査が済んだら管理局まで取りに来てくれ。』

「わかった。…撮ったら普段の倍払って貰うからな」

『はいはい。――っと、先に聞いておくけど、その翠水晶のブレスレットは?』

「あぁ、これは師匠の形見でね。大事なものなんだ」

『じゃあ、そう話を通しておくよ。』

「ありがたい。」

何とも滞りなく、入国審査が済んだ。
武器所持の検査も受けた。
そして、許可が下り、自然公園へと向かう。
ベンチに腰かけているボルトを見つけ、さり気なく、自然に近寄った。

「お待たせしました。……ここの入国審査は甘いですね。傷跡までは見ないようです」

大けがをしたように見せた傷跡の下に、スイは短剣を持って入国していた。

「…あぁ、ご安心下さい。あくまで保険用ですので…埋めてきました」

スイは無表情に、淡々とそう言った。

170 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/11/09(水) 16:35:06.03 0
船底の穴は帆布で塞げるけれど、胸の穴はさて何で塞いだものか。
解きなれない問題の答えを得るのに、与えられた時間はいささか短く――――



>>163>>166>>168
帝国北辺、タニングラード。嗅ぎ慣れた氷風の匂い。
この街での任務は人探しです。
目標はユーディ=アヴェンジャー。才の極みの証である、鬼の号の持ち主でした。

馬車で移動しながらのブリーフィングで、課長から注意事項が伝達されました。
とにかく戦闘を避けろ。
まったくもって望むところです。というか、帝国最高の戦闘力の持ち主と戦えなんて命令されようが懇願されようがお断りです。
ましてその性向が『手練の殺し屋』であるなら尚の事。
逃走が公認されたことでファミアの心はいくらか軽くなりました。
――向こうが逃がしてくれるか、というところに考えが及ばないのは片手落ちと言わざるを得ませんが。

次いで、武器の持ち込み厳禁。転経器はまたも置いていかなければならないでしょう。
転経器とは、聖句が刻まれた円筒を一つ回せば一回唱えたことになるというズボラな人には欠かせないアイテムです。
円筒には遠心力で回しやすいように分銅が付けられています。
ファミアの持っているものは普通のものよりもはるかに大きく、彫り込まれた聖句の数は六篇。
通常の3倍を通り越してさらに倍の速度で天国への階段を駆け上がることができるすぐれものでした。
でもメイスにフレイルが付いた物騒な武器にしか見えないので没収確定です。
ファミアははため息混じりに転経器を端へ寄せました。

ブリーフィングが終わると課長は早々に管理局へ。
潜入用のカバーストーリーや身分は本来しかるべき部署が用意するものですが、
それがないあたり今回の任務の緊急性がうかがい知れます。
新入課員マテリア・ヴィッセンが一席ぶった後、課長に続いて門内へ。スイもほぼ同じタイミングで馬車を後にしていました。

何をどうすれば違和感を与えることなく審査を抜けられるか――
ファミアが考えたのは、近くの田舎貴族の令嬢が物見遊山にやってきた、という筋書きでした。
今着けているものは、いつものローブに防寒用の外套、ミトン、帽子。素材は革と毛皮で、仕立ては悪いものではありません。
華美とは言いがたいですが貴族のお召し物としてはやや質素、という程度で収まるでしょう。
立ち居振る舞いでばれる心遣いもほぼないはずです。だって一から十までただの事実ですから。

法の及ぶ場所を『国』と定義するのであれば、タニングラードの周辺諸領こそが真に帝国の北辺と言えます。
ファミアの父はそこに封ぜられた領主の一人でした。
河川、湿地の多い土地柄で、質の良い沼鉄鋼や黒玉を産します。おかげで北部諸侯の中では比較的潤っている方です。
もはや笑いがこみあげてくるレベルでタニングラードとは開きがありますが。
同じなものといえば、バラが綺麗に咲かない気候くらいのものでした。

さて大筋はそれでいけるとして、問題になるのは(見た目)10才ちょっとの女の子がフツー一人でこんなとこに来やしないということです。
別に凄まじく治安が悪いというわけでもないのですが、悪徳と頽廃をぶちまけた街呼ばわりされることもしばしば。
どこぞの流民ならあり得るでしょうが、ファミアではガラスの仮面をかぶってもそんなものを演じることはできません。
なので、馬車に残る課員へ向けておずおずと切り出しました。自分の腹案を説明した上で、最後をこう結びます。
「だから、どなたか、護衛という名目でついてきてもらえませんか?」


【有志を募ってみる】

171 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/09(水) 21:06:47.07 0
>「で、おれたちの任務だが……簡単に言えば"人捜し"だ。先月の事件は知ってるな?」

1月前の元老襲撃事件、前職が起こした失態、もっとも鬼の仕業であったことが帝都近衛騎士の評価を落とすと言うことはなく
逆に遁鬼の評判を高めただけだった
エリートを上回るトップエリートの凶行に市民は恐怖した
自宅でその報を聞いたセフィリアは特になにも感じなかった
前職の失態、当然の帰結、その程度の認識
セフィリアがそうであるように貴族出身者が多い近衛騎士団
ハングリー精神、職務に対する根本的な姿勢が足りない
そもそも帝都だ、実戦経験も足りない
エリートなのは生まれだけ、今のセフィリアは前職をそう冷めた目で見ていた

課長の言葉を脳に刻み付ける作業中、片隅でそんなことを考えている間に馬車はタニングラードに到着した
経済緩衝地、自由都市、金持ち達が私腹を肥やすための特別区、自治を金で買った土地
存在を端的に表した言葉、蔑称、様々な呼び名がある
この街を希望に満ちた街や成功が眠る街と呼ぶ
古今、金が集まる場所は二面性が極端である場所が多い

『金は天下の回り物』

逆に言うと回らなくなった金に価値はない
だから狂気に駆られたかのように金が回る、くるりくるりと終らないワルツを踊るおもちゃのように
富んだ者、富まざる者も男も女もくるりくるりと踊り狂う
そんな街

バハムートなど目ではない怪物
実態が見えない怪物
見えないのは遁鬼だけではない
金の機嫌など誰にも見えない、わからない
誰に微笑み、誰を見捨てるか
神のみぞ知る愚者達の狂想曲

ブリーフィングも終わり、あとは状況を開始するだけというときに元気よい声が幌の中に響く
今回の任務から参加するマテリア・ヴィッセンだ
彼女の遊撃課への想いから単独ではなく複数で行動するという提案

「確かにそう言った考えもあるかもしれませんね。ヴィッセンさん、しかし、私はもうプランを考えて来ているので遠慮させてもらいます」
一礼して幌から外へ
そとは吹雪で視界は悪いが入り口はすぐだ
???????状況開始だ
脳裏にそんな言葉が浮かんだ

172 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/09(水) 21:07:34.59 0
怪物の顎とも言うべき入場管理局の前に立っている見るからにみすぼらしい格好の少女
黒い髪は短くボサボサでいたみ放題
服はパッチワーク製品かのようにつぎはぎだらけ
それでも穴を隠しきれてはいない
頬は痩せこけ、双眸はおよそ生気というものが感じられない
肌は薄汚れ、いたるところに裂傷が見られる
背にはアンバランスなほど大きい背負い袋
彼女は名門軍人貴族、ガルブレイズ家の末姫セフィリア
社交界に出ればその日の主役になることもそう難しくない
そんな家柄のお嬢様がなぜ?
全ては任務のため、今の彼女は帝国内を回る旅の大道芸人

セフィリアの遺才は芸に向いている
両手になにか持てばジャグリングを始め大抵の芸はこなすことが出来る

『で、これが商売道具というわけか?』

そこに並べられたのはボール、クラブ、あとは棒と皿、それと鉄線
『武器になりそうなものはないな?』

「もちろんです……あ、護身用のナイフです」
審査官の前に懐からナイフを取り出す
これはただリアリティを出すための小道具
セフィリアにとってはそこいらの枝ですら武器になる

「女の一人旅ですからこれくらいのものは必要です……預けたほうがいいですか?」
潤んだ目で審査官に訴える
女の武器を使うというのもセフィリアにしてみれば初めてのこと
しかし、この程度は審査官も日常茶飯事だ

『規則は規則だ……預からせてもらうぞ』
顔すら見ないで淡々と手続きを済ませる
『せいぜい気をつけるこったな』

「……ありだとうございます」
手荷物検査も問題なくすませることが出来た
審査官の警戒を解くことで、持ち込んだ道具を念入りに調べられることはなかった

「みんな〜大道芸がはっじまっるよ〜」
公園にいる子供達を始めとした回りの人間に呼びかける
ボールを6つ取り出し、両手で円を描くように投げる
ジャグリングに遺才を使うというのには多少の引け目を感じているが任務のためには仕方がないと割り切っている

今回の任務、武器は持ち込んでいない
武器に出来るものを持ち込んではいけないとは言われていない

173 :ウィレム ◆uBe66UnnCY :2011/11/10(木) 04:03:40.49 0
沈みゆく船からどうやって脱出したのかは、ウィレム自身よく覚えていない。
誰かに助けられたのか、はたまた自分でさえ知らない何か特別な力に目覚めたりしたのかもしれない。
だが、覚えていないことをいくら考えても思い出すことなどないし。
結果として、ウィレムはここにいる。生きてここにいる。
とりあえずは、それでいいんだろう。

サフロール・オプテインが死去したらしい、と聞いた。
だが生憎ウィレムにはサフロールと関わった記憶は殆どなくて。
そもそもが、その死を目の当たりにしていない以上。どうにも実感など湧かなかったのだ。
また悪態をつきつつひょっこり現れる、そんな姿がわりと簡単に想像出来てしまって。

ただ、消沈している遊撃課の面々の姿や。
何よりも、なぜか心に息吹くこの寂寥感が。
その想像を、夢想へと掻き消して行く。

***
【第三都市タニングラード】

「――むむむ」

ウィレムは馬車内で腕を組んで考えている。この魔靴、果たして武器と見なされるか否か。
今回の任務、戦わなくて済むというだけでかなり気は楽なものだ。もともとウィレムは戦いに向いていない。
人捜し、単純に行動範囲がモノを言う。パシリで鍛えたこの足で、瞬く間に捜してみせよう、と意気込める。

問題はこの街の法――武器の所持禁止。手に持つ武器など最初から持って来てなどいないからいいが、
この靴だ。見た目は単なる悪趣味な装丁の靴だが、歴としたマジックアイテム。魔法反応がすぐ出てしまう。
そこまで検査されるのかはわからないが、もし気づかれた場合。魔力が付与された靴、武器と思われる可能性は。

「……ま、石橋は叩いて渡るに限るっスよね」

そう呟いてウィレムは魔靴を馬車の隅に揃えて並べ、準備しておいた予備の靴に履き替える。
高く飛べないことで空間的な動きに制限は
かかるが、平面的になんとか逃げ切るだけだ。

174 :ウィレム ◆uBe66UnnCY :2011/11/10(木) 04:03:47.61 0
さて、あとはなんとか理由をでっちあげて街の中へと潜入するだけである。
課長はさっさと中に入ってしまった。だが、課長や先ほど自己紹介してきたマテリアの様には易々と入れない。
ウィレムはまだ15――見た目だけならもっと年若く見える訳で。
『仕事』をでっちあげても、そこに信憑性が薄すぎるのである。

ファミアが護衛役を所望していて思わず身を乗り出しそうになったが、やはり無理があって。
こんな小さくて若い護衛など物の笑いにしかならない。護衛会社でも、護衛なんてしてこなかったのだし。
何より、護衛役なら自分なんかよりもっとずっと適任が居るのだから。

結局何も思いつかなかったので、最初に考えた方法で行くことにし、ウィレムは馬車を降りた。
フードを目深に被り、背中を極端に丸めて。ウィレムは1人、足取り重く入城管理局へ。

――『はい、次の人。あんた何やってる人だね――って、なんだ?子供じゃねぇか。ガキ1人で何の用だ?』

「……と、父さんが……この街に居るって人づてに聞いて……」

『あぁ、人捜しね。ご苦労なこった。こちらで手伝ってやったりとかは出来ないから、地道に頑張んな。
 んで、どれぐらい捜し回る算段なんだ?見つかるまでずっとうろついてる訳じゃないだろ?』

「……二週間……ぐらい。……家のお金持ち出して来てるから……それ以上経つと、帰りの馬車に乗れない……」

「わかったわかった。これといった荷物もないみたいだな?よし、と」

父親を探す暗い少年を演じ、所持品の検査を終えたウィレムはなんとかタニングラードへと足を踏み入れる。
そのような名目で中に入った以上、実際に人を捜しても不審に思われることなどない筈だ。
失くさないように許可証を首からぶら下げ、ウィレムは集合場所まで向かう。

さて、ここでウィレムは一つ、大きな失敗を犯した。
三本通りの真ん中――という説明をうっかり聞き逃してしまったのだろうか。
今自分が居るのが『夜通り』であることに、全く気づいていない。

「自然公園――って、ドコっスかねぇ……?」

【絶賛迷子中】

175 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/11/10(木) 22:33:49.27 0
いいかいよく聴けよ糞野郎、その首から上の帽子掛けをアバンギャルドなすり鉢に
リメイクされたくなかったら金輪際囚人をお前の小遣い稼ぎに巻き込むな。
否だと言うならお前の家族も漏れ無くS席にお届けしてやるからそう思え。

それが彼女の出所時の台詞であり、
今まで自分をさんざん可愛がって下さった看守さんへと捧げた答辞であった。
貰ってもいない祝辞を返す辺りダニーの義理堅さが伺える。

ダニー・G・ドーキッドJr 釈放

時は今より数日前のことだった。波乱と冒険と悲劇と、そして実りのあった
「宝探し」から娑婆を経由して刑務所へと戻った辺りまで遡る。

連休終日に旅行から帰って翌日の仕事を考えるときのような吐き気を覚えながら、
彼女は現在の住処に帰ってきた。そして再び職業訓練と労役と筋トレの日々を送っていると、
自分に面会に来た人がいる、と看守大勢の一人から呼び止められた。

出所した誰かでも会いに来てくれたんだろうか、とそんな風に考えながら
待たせている来客の元へと向かう。サイズは小さく立て付けも悪い扉を開けて横を向く。
無いに等しい薄い壁の向こうにいたのは他でもない、
ついこの間まで自分の雇い主だった少女、クローディアだった。

合う場所が違えば雰囲気も違って見えるものだが、
彼女はこの場所でダニーと合っても表情が変わるようなことはなく、
むしろ微妙そうな表情をしていた。後で聞いたところ、イメージに合いすぎて反応に困ったのだそうだ。
ダニーも、誰だってそれなりに刑務所が似合うものだと笑って返す。

冗談もそこそこにして、クローディアは本題を切り出した。用件を聞けば、
もう一度護衛を頼みたいということだった。場所はタニングラード、
武器の一切の持込みが禁止される場所だという。その為、自分に声をかけたのだと。

割かし正攻法だと思ったが問題があった。そうそう何度も出られるものでもない。
しかし、その点については手は打ってあるとクローディアは言う。

ダニーは何のことかと思ったが、彼女は保釈金が前金代わりでいいだろうと言ってきたのだ。
一瞬訳が分からなかったがつまりは「ここから出すから手伝え」ということだろう。

176 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/11/10(木) 22:36:13.22 0
肝心の当人には知らされないことで有名な模範囚特典の一つ、保釈金の割引のおかげも
あって存外安値で自由を買ってもらえた。相部屋の知り合い達から惜しまれながら、
ダニーは薄曇りの空の下へと歩き出した。

そして現在、タニングラードの入場管理局の前で足止めを食らう場面に至る。

>「いや、どう考えても武器だよその筋肉は……」
その扱いをされるのはまあ納得できなくもなかったし、些か気分も良かったが
クローディアの方はそうもいかないらしく、さっきから窓口に食い下がっている。

>「じゃあどうしろっつうのよ、『人殺せないぐらい衰弱してからまたどうぞ』とでも言うつもり!」
>「そうは言っても、見た目からして威圧的なのはどうもねえ。この街ではそういうの、マズいんだよ」

「・・・・・・・・・?」
なんなら脱いだっていいんだぜ?とダニーは髪を掻き上げるようなポーズを取る。

「いらねえよ!そういう問題じゃねーから!」
おカタイ男だ、嫌いじゃないとダニーは思った。それはともかく見た目の問題というのは想定外だ。
武術の達人でも一見優男風なら入れて、武術の達人でも体格がいいと入れない、難解な頓智である。

ダニーは考える。要するにこの体が危険物に見えないようにすればいい、
もしくは周りの支持を得られるものと見なされれば良いということか。
意外に厳しい。何の為に鍛えてきたのかと思わず煩悶してしまう。

>「ダニー、あんたその筋肉ぜんぶ胸に集められたら良かったのにねえ。
顔のつくりは悪くないんだし、一気にグラマー美女よ」

背が高すぎる、と余分な一言もあったが確かにダニーのはそこそこ整っている。
お肌のキメだって良い方だ、ヤスリがけの甲斐あってタオルくらいまでなら切れる。
本当に不思議なことだが、激しいスポーツを行う女性よりもビルダー系の女性の方が
『顔は』可愛いことが多い。これも女体の神秘というものか。

待てよ、とダニーは思う。筋肉 胸 グラマー美女 頭の中で単語が点灯し、
閃きはブザー音と同時に全速でコーナーに突っ込んだ。
大女はずいっと窓口の男に身を乗り出すと勝ち誇ったようにささやいた。

ージムを開いてやる、今決めたー
早い話がこいつが武器じゃなければいいんだろ、と二の腕を見せる。

177 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/11/10(木) 22:38:14.83 0
「はあ!?あ、おう、そっそりゃそうだが、どうするってんだい」
何を言ってるのか全く分からないといった様子で受付は呻く。

自分の筋肉が浮いているのは、周囲がそうでないからだ。
ならば筋肉を広めればいい。考えてみれば実に簡単な答えだったのだ。
体が資本なのは何もバウンサーばかりではない。トレーナー然りインスタラクター然りだ。
用心棒以外の形で体を売り込めばいいだけなのだ。

「だ、駄目に決まってるだろう!そんなモン!」

狼狽える男とダニーの押し問答が始まる。この体は武器ではなく見本であり商品だ。
街の人間が勝手に運動すること自体は問題じゃないし、
そういう嗜好の相手に向けたサービスも商売になるはずだ。
筋トレ以外にも部分ヤセやバストアップ等のエクササイズも当然扱うと説明する。

やがて観念したのか受付は待ってろと言い席を外して、そしてすぐに帰ってきた。
どうなってるんだ、と男は呟く。今までこの街に商売をしに来る奴はいたが、
筋肉売り込みに来た奴は一人もいない。彼はダニーの入場の許可が降りたことを告げる。

案外上に運動不足を気にしている人がいたのかも知れない。
凱風のような寒風を背に受けながら旅の道連れ二名に報告する。
成り行きとはいえスポーツジムをやることになったと。
本当にやるのかと問われれば、もちろんと首肯するだろう。ただ

「・・・・・・・・・・・・・・・」
商売にご破算とか計画倒産は付き物だけど、前置きを付け加えてだが。

ここで彼女はようやく、肝心のクローディアが何をしにここに来たのか、
まだ聞いていなかった事に気付く。

「・・・」
そういえば、今回は何しに来たんだっけか、と彼女は主人に改めて質問した。

【拡散希望:筋肉→何しにきたんだっけと質問する】

178 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2011/11/11(金) 22:52:00.99 0
帝国領土、北端に位置する第三都市タニングラード。
夜になれば吐いた息が凍りつくほどの極寒の土地にある街の一角に、一人の少年の姿があった。
黄を基調とした派手かつ奇妙な上衣を羽織っており、背丈は12,3歳の子どもと殆ど変わらない。
刈り上げた金髪と黒いどんぐり目、鼻の頭から両の頬にかけて点在するそばかす。
少年は小走りに駆けながら、栗鼠のように辺りをしきりに見回している。人を探しているようだった。

少年の名はロン・レエイ。
10年前、東の地から武術を広める為に帝国に移住した、武闘家レエイ一族の一人息子だ。
といっても、レエイ家はロン以外存在しない。一族は皆、2年前の魔物大強襲で命を落とした。
一人、修行のため他国に赴いていたロンを除いて……。
最初は憎しみや悲しみに暮れる日々を送っていた。だがある日、ロンは思い至った。
一族の大黒柱であった父の悲願。レエイ流武術を世に広めるという大きな野望。
善は急げ。ロンは父の教えと鉄棒一つで、各地を旅してまわった。
父より伝わりし武術を、免許皆伝できる程の腕前を持つ人間を探しながら。

今回、ロンはある人間に雇われ、旅人と偽りこの街に赴いていた。
『武器の所持禁止』という法律を知らなかったので、鉄棒を没収された時は悔しかったのなんの。
その悔しさをバネに、雇い主を探している最中なのだが、これが中々見つからない。

「ヨワったな。ヒがクれるマエにハヤくゴウリュウしないと……。」

ロンには、決して譲れない彼なりの信条がある。その一つが、「寒空の下で女性を待たせない」こと。
他にも「約束の時間に遅れない」ことなどや「日没は一人で出歩かない」などなど。書き連ねれば50ほどある。
今回、待ち合わせの相手は女性が二人、男性が一人と聞いていた。
タニングラードはとにかく寒い。尚のこと、待たせる訳にはいかない。
凍ってつるつる滑る道を、足早に駆け抜ける。

>「自然公園――って、ドコっスかねぇ……?」

向こう側から夜通りを歩く黒髪の少年とすれ違った瞬間。ピタリ、とロンの足は止まる。
道は薄い氷が張っているため、踵でブレーキをかける。さぞや耳障りな音が辺りに響いただろう。
ロンは体全体を180度回転させ、黒髪の少年の前まで駆け寄ると、再び急ブレーキをかけた。

「シゼンコウエンなら、イッタンもとキたミチをモドって、マンナカのミチをイけばツけるぞ!」

早口と身振り手振りで、大まかにそのような事を少年に伝え、ロンは白い歯を見せてニッコリ笑う。
ロンの信条第38番、「迷い人には正しい道を示すべし」。ロンは忠実にそれを実行した。
目の前の少年が何者であるのかも知らず、じゃあな、と再び駆けだす。
瞬間、逆立った薄い氷の溝につまづく。ロン本人が急ブレ―キした際に作ったものだ。
あっけなく転んでしまうかと思いきや――両手を地につけ、華麗なロンダートを決める。

そして着地の瞬間、右足を盛大に捻った。

「イッ―――――!!」

自負心から、悲鳴を押さえこみ、盛大に地面を転げ回る。
嗚呼、何と情けないことか。我ながら涙がちょちょ切れそうな思いだ。ったとロンは後に語る。

「吃吃、こういうトキにカギってウマくキまらないんだよなあ……。」

捻った足を擦りながら、涙目混じりに立ちあがる。黒髪の少年に見られただろうか。
少年に振りかえると、てへへ、と舌を出して誤魔化し笑いを浮かべると、そそくさとその場を立ち去った。

179 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2011/11/11(金) 22:53:01.00 0
【タニングラード内 某所】



「…………………………………………………………。」

話しかけるべきか、否か。ロンは究極の選択肢を迫られていた。
視界には三人の男女の背中。彼らの様子を、ロンは食い入るように観察していた。
待ち合わせの相手は女性二人と男性一人と聞いている。それらしい三人を見つけたのだ。
上等そうな外套を着た気の強そうな少女、根暗そうな男、ここまでは良い。
問題はやたらとデカい筋肉達磨だ。あれは女性としてカウントすべきなのだろうか。

時に、ロンは絶対女性とは闘わないと誓っている。女性に手を出すという事はつまり、自分の信条を自分で壊すことと同義だ。
理由は、彼の信じる女性像にある。
ロンの中での女性の定義とは、か弱くて可憐で非暴力的、この3つが揃って成り立っているのだ。
だが、目の前の女(と呼ぶべきかロンは迷っている)、即ちダニーは、そのどれにもカテゴライズされず、ロンの混乱を招いていた。

「うう……ハナしかけヅラい……。」

人違いだったら恥晒しも良いところだ。何より、自分の信じる女性像を打ち砕かれるのが恐ろしくもあった。
クローディア達の動向を観察して判断しようと誓いつつも、どこか人違いでありますようにと願うロンであった。

【タニングラードには旅人として通過→ウィレムさんに親切心で道案内→盛大に転げる
 →ダニーさんを女性かどうか疑う→クローディアさん達を物影から観察中】

180 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/11/12(土) 00:03:06.76 0


「……『鬼』銘を相手に、何が人探しだ。何が逃げろだ。
 結局は、椅子に座って偉そうにしてる奴らの為に、また命を賭けろって事じゃねーか」

雪と氷を踏みしだきながらタニングラードへと向けて進む馬車。
その後部で幌に背を預け座り込み、俯いていたフィンは、
ボルトから次の任務の概要を聞くと小さくそう呟く。

護国十戦鬼……それは、帝都における最強の代名詞の様なものだ。
練達した才能の極地。天才の中の天才。
その卓越した能力の前には、一般人は勿論、並みの遺才持ちすら凡夫と化す。
仮に彼らに標的として認識されたならば、防御に特化した遺才を持つフィンが、
全てをかなぐり捨て、逃げ延びる事のみに徹したとしても、
生き残れる可能性は文字通り万に一つ程しかない。

それでも、常のフィンならば快活な笑みの一つでも見せ、
「全員俺が守ってやるから安心しろ」という様な事を言ったのであろうが、
サフロールを守れず、彼の死を未だ乗り越えられずに居る今のフィンには、笑顔の欠片すらない。
マント……守るべき土地も領民も無いが、それでも未だ貴族籍にあるフィンに、任務の褒章として
与えられた遺跡の財宝の一つであるそれに身を包み、ただ俯いている。

今のフィンの心理を考えれば、この任務から逃走してもおかしくなかった筈だ。
辞退する事は出来ずとも、暴れ回り罰則を受ける事で任務に参加できなくなる事は可能なのだから。
だが、それでも尚フィンがこの任務に黙って同行しているのは

>「――下手すりゃ戦争にまで発展しかねない」

先にボルトが述べたこの言葉が原因なのだろう。
ここで自分が任務に参加せず、あまつさえその任務が失敗すれば、
その事で生まれる戦争と言う名前の災害によって、多くの涙と血が流れる事となる。
あるいは、遊撃課の仲間達がまた死んでしまうかもしれないのだ。
フィンの真っ直ぐに歪んだ心は、それだけはさせまいと自分自身を急き立てる。
……それは、あたかも死体が魔術によって動かされるが如く。


181 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/11/12(土) 00:03:35.78 0
そうしている間に、馬車はタニングラードの近隣へと到着した。
遊撃課の面々は、各々準備を済ますとその偽装を以って次々と町へと入り込んで行く。
フィンは、彼らを淡々と送り出す……そこに本来の快活さはない。
新しい隊員であるマテリア・ヴィッセンの提案も耳に入っていなかった。

やがて馬車内の人員が数人になった辺りで、フィンもその腰を上げる。
と、そこで視線が合ったのは、遊撃課の同僚であるファミアであった

>「だから、どなたか、護衛という名目でついてきてもらえませんか?」

どうやら彼女は貴族という身分での潜入を試みるつもりらしい。
そして、流石に貴族の少女一人というのは安全面でも常識の面でも無理があると思ったのだろう。
護衛役を募っているのだが……フィンが周囲を見渡す限り、
「一般的な」護衛役に見合う体格を持った人間は現在この馬車の中に存在していない。
その事実を確認すると、フィンは一度大きく息を吸い込むとファミアの頭にポンとその掌を置く。

「了解したぜお嬢様。俺がお前を守ってやる」

浮かぶ表情は、安心をさせる為に無理に作った笑み。
と、そこでフィンは思いついた様に呟く。

「そういや、貴族の護衛なら服装変えた方がいいのか?」

今のフィンの格好は、赤いバンダナに白の外地に青の裏地のマント。
戯曲の主人公には見えるが、贔屓目に見ても護衛には見えなかった。


――――そして十数分後

「……こういう服は久しぶりに着たけど、やっぱ動き辛ぇよなー」

上下、更には靴の先まで、光沢が出る様な黒。
少し長めの蒼髪は紐で束ねられ、馬の尾の様に纏められており、
おまけと言わんばかりに、その手には白の手袋。

そう。フィン=ハンプティの現在の様相は、
まごう事無く使用人の最上級。バトラーのそれであり、その上から
その服を隠すようにマントを羽織ると言う珍妙なものであった。
何故この格好になったのか説明をすると
あまり三下の格好では逆に悪人の親玉に目を付けられるかもしれないといった理由や、
逆に騎士然とした格好では、町へ入る事を拒まれるかもしれないという理由など、
実に様々な理由があったからなのだが――ここではそれは省略させて頂く。

それにしてもこの格好。普段の快活なフィンならばあまり似合わなかっただろうが、
今の影の混じった雰囲気のフィンには恐ろしいほどに似合っている。
だが、本人は自身の容姿になどまるで興味は無い様子で、「役」の流れを脳内で再確認する

(えーと……俺は使用人名目の護衛で、ファミアが少しでも傷付いたら首を切られる、
 って感じだったよな。ちっとばかし変わった設定の方が現実味があるって話だったけど
 ……よくわかんねぇなぁ)

タニングラードは無法地帯とはいえ、その品揃えの良さから時にはお忍びで帝都の貴族も訪れる。
その際に貴族達は従者や奴隷を「盾」役として連れて歩く事は決して珍しくは無いので、
今回のフィンの格好も「よく見られる光景」の一つではあるのだが……

(まあいっか。護衛がでしゃばって喋るのも変だし、衛兵との会話はファミアに任せるとするぜ)

いよいよ入城管理局の前に立つと、フィンはファミアをエスコートするかの様に紳士然とした動きを見せる
不真面目ではあったが、フィンも貴族としての教育は少なからず受けている。
「形式通り」のエスコートならば問題なく行えるのであった。

182 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/11/12(土) 14:40:08.64 0
びょうびょうと吹き付ける雪風。
馬車の幌は風に煽りに煽られ、今にも吹き飛ぶのじゃないかと心配になる程波打っている。
ノイファはその様子を煩わしそうに見上げ、ため息と同時に目を伏せる。

――サフロール・オブテインの死。
気づいて然るべきことを、しかし気つけず、結果救えなかった堕天使の末裔。
別れの際にサフロールが見せた笑顔は、今でも鮮明に思い出せる。

それでも涙は出なかった。
二年前に枯れ果てたのか、未来を視透す人外の力を宿したときに失くしたのか、あるいは単純に薄情なだけなのかもしれない。

(貴方は満足するに足る"答え"を見つけられたのですか……?)

だが、その問いに答えられる者はもう居ない。
いくら自問したところで返ってくるのは、脳裏に焼きついた悲しそうな笑みだけ。

>「で、おれたちの任務だが……簡単に言えば"人捜し"だ。先月の事件は知ってるな?」

馬車の車輪が雪の塊踏み抜いて小さく揺れる。
帝国領の北の果て。向かうのは『第三都市タニングラード』。
元老院議員の一人をその護衛共々殺害し、災害指定の呪具を持ち去った犯人。ユーディ=アヴェンジャーの足取りを追うのが今回の任務だ。

>「ここから先はおれたちは偶然乗り合わせた他人同士って設定だ――」

タニングラードは帝国領にありながら独立自治を貫く都市である。
ゆえに国属の部隊は入領すら不可能だ。無理を徹せば自治権の侵犯と見なされ、容易に戦争の引き鉄となり得る。
当然のことながら遊撃課にしても扱いは同様。
タニングラードに入り任務を遂行するためには、架空の姓名・性格・人生・背景を創り上げ、別人になりきる必要があるのだ。

>「――まずは自治会の入城管理局を騙さなきゃならねえ。各自、自分が一番演じやすいと思う設定で乗り切れ」

ボルトから諸々の装備の持ち込み禁止と、帝国最強の十人の一人『遁鬼』との戦闘の回避が命じられ、状況開始の掛け声が下る。

(うーん……一番演じやすいとくればっと、おや、お誂え向きのがあるじゃないですか)

用意されていた幾つかの衣装の中から目に付いた"それ"を引っ張り出し、ノイファは自嘲的な笑みを浮かべる。

183 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/11/12(土) 14:40:25.75 0
>「あのー、すみませーん!その前に私の自己紹介をさせてもらってもいいでしょーかっ!」

そのまま飛び跳ねるのじゃないかしら、と思う程、勢いと活力に満ちた声が馬車の中に響き渡った。
首を巡らせ声の主を注視。最近配属されたばかりのマテリア・ヴィッセンだ。

>「皆さんの噂はかねがね聞いていますよ!――」

配属されて大変光栄です、と満面の笑み。
その言葉に面食らった。なぜなら世間の遊撃課に対する評価は総じて低いからだ。
『左遷部隊』や『否定の最果て』など、こと蔑称に関しては枚挙に暇が無いほどである。
課員の中にも面と向かって指摘こそしないが、転属された経緯などに納得がいかない者も居ることだろう。

(言葉自体に嘘はなさそうですけどねえ……)

それでも裏に何がしか、含む部分はある気がした。
此方の出方を伺っているとも取れるが、何を意図してなのかは判断がつかない。
我ながら厭な性格になったものだと思う。疑り、探る、そんな癖が染み付いてしまっている。
訓練の賜物だったり世慣れたと言えば聞こえは良いが、単純に擦れただけかもしれない。

「ええ、此方こそよろしく。一緒に頑張りましょうね、マテリアさん。」

そんな心の裡はおくびにも出さず、すぐさま笑みを作り上げ応じれるのが証拠だろう。

しかしノイファにしても丸っきり嘘ではなかった。
とても大切な人が心血を注ぎ、立ち上げた部隊。それが"遊撃課"だ。
だからこそ、己の全てを持って、可能な限り力となりたい。ノイファが従士隊への出向課員として留まる理由である。

(もっとも他はどう思ってるのか……、怪しいものですけど)

強力な"遺才"を持つということは、血統の元となった"魔"にそれだけ近いということに他ならない。
突出した才を持て余して居る内は何の問題もない。だが"部隊"として成り立てばどうなるか。
二年前に帝都を血で染め上げる元凶となった"魔の領分への侵攻"。そういった要らぬ欲に溺れる者がまたぞろ現れないとも限らない――

(――まあ、おそらくそんなところでしょうね)

"銀貨"は何処にでも有る。それを知らしめるために遣わされたのが自分なのだろう、と。
杞憂であれば、本来の善良な目的のみに終始するのならば、ノイファ自身の思いを遂行すればいい。

「さてと、それじゃそろそろ……私も行くとしましょっか。」

農家の青年、行きずりの娼婦、旅の宝石商と大道芸人、父を探す少年。先に出て行った"見ず知らずの他人"に倣い、馬車の縁へと脚をかけ――

「――それではお先に失礼いたします。貴女方の行く先が遍く主の御光で満たされますように。」

振り返り、偶々乗り合わせた令嬢とその執事へ聖句を捧げた。
擦り切れたカソックの裾をはためかせ、ノイファは雪原を踏みしめる。

184 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/11/12(土) 14:40:43.29 0
――『はい、次の人。あんた何やってる人だね』

「主の教えを広める一助となるために参りました。」

一字一句、声の抑揚までも、寸分違わぬような管理局の問いかけにノイファは静かに応じる。
目を伏せ、頭を垂れ、何処から見ても全く問題の無い敬虔な修道士のそれ。

『あー、はいはい。尼さんね。』

管理員の男が口許に嘲笑を浮かべながら、無沙汰気味に首を掻く。

『知ってのとおりこの街もでかいからね、当然人口も結構なもんだし金の動きだって派手なもんさ。
 それを見越してか、純粋に信者の獲得かは知ったことじゃないが、良く来るんだよね、アンタみたいなのがさ。』

神殿を運営するのに必要な諸経費のおよそ半分程度は信者からの寄進によって賄われている。
残りの半分は商売で得た金。神殿製の酒や作物、またそれらの製造法の指導料などだ。
つまり信者の数が多ければ多い程、また信者が裕福であればある程、神殿は潤っていくのである。
自然、人が多く経済的に豊かな街は、多くの司祭や修道士が派遣されるのだ。

『最初は皆、信仰のためにとかってお題目で来るけどな。他所の連中に言わせりゃあ「悪徳と頽廃をぶちまけた街」だっけか?
 そこに神の教えをーってな具合にな。もっとも半年もしない内に染まっちまうのがほとんどだがね。』

それが嘲笑の正体。
確かにこの街は神の教えを妨げるものが溢れ過ぎているようではある。

『まあ、アンタに言ったところで仕方ないか……。そういえば宗派は?』

「ルグス様です。」

『ああ、太陽神だっけか。』

男の嘲笑の度合いが一層増す。

『一年のほとんどを雪に包まれたタニングラードで、ね。
 奇跡とやらが本当にあるんなら、もうちいっとばかり暖かくして欲しいもんだ。』

「私達は粛々と、主から賜った試練を力を合わせ、知恵を絞って、乗り越えていくことしか出来ませんから。」

『はっ、流石に問答だけはたいしたもんだ。ルグス神殿だったら"昼通り"の隅っこに掘っ立て小屋が建ってるよ。』

やり込められ気分を害したのか、舌打ち交じりの皮肉。  

『ふん、取り立てて問題になるような物も無さそうだな。ほらよ、中ではせいぜい頑張んな。』

「ありがとうございます。」

笑顔で許可証を受け取り、深々と頭を下げる。
若干怒りで口許が引き攣っているが、最後まで貞淑な修道士を演じ通す。
心の中では男に対する罵倒が列を成しているが、声に出しさえしなければ伝わりはしないのだ。

「ふう、もう少しで拳骨をお見舞いするところでした。」

タニングラードの門をくぐり、ノイファは昼通りの集合場所へと歩き出した。


【タニングラード入領→公園へ。武器の持ち込み無し。】

185 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/11/12(土) 16:28:11.65 0
>>174>>181>>183
ファミアの提案を、ウィレムはスルーして馬車を降りてしまいました。
このまま誰も名乗りを上げなければ、課員の協力が得られなかったとして
任務をお留守番に変更できるのではないかという淡い期待を、ファミアは抱きかけました。
>「了解したぜお嬢様。俺がお前を守ってやる」
「あっ、はい……」
フィンが振り下ろした手はたやすくその幻想を打ち砕いてくれましたが。

>「そういや、貴族の護衛なら服装変えた方がいいのか?」
「うーん、確かに今のままだと少し……」
少々派手派手しい格好で、護衛に付いて来た私兵なり使用人なりという体裁には見えづらいものがあります。
明らかに『主人』より目立っているからです。
ファミアが趣味でこういう格好をさせていると言ってしまうのも手かもしれませんが、
ある程度の衣類は持ち込まれているので、着替えてしまうほうが面倒はないでしょう。

と、言う訳で――
>「……こういう服は久しぶりに着たけど、やっぱ動き辛ぇよなー」
馬車の中を仕切って、その向こうでフィンに『それっぽい』格好を自分で見繕ってもらいました。
出てきたのは黒の略礼装。大仰すぎず、地味すぎずの良いチョイスです。
「でも、よくお似合いだと思いますよ」
先ほどまでのいささか子供っぽく見えてしまう服装よりも、落ち着いて見えるこちらの方がファミアの好みには合っています。
今のフィンのようにいくらか陰の差した雰囲気であれば、なおさらと言えました。

ノイファは修道士で行くようです。
投げかけられた聖句にファミアは思わず指で聖印を切って、それからフィンを振り返りました。
「それでは参りましょう、えー、と……フィン」
思わず敬称をつけてしまいそうになって、少し言葉が淀んでしまいました。
先が思いやられますが、どうせ長いことそうしなければならないわけではありません。
フィンに先導されて門をくぐって管理局へ入るまでも、順番待ちの間も、
ファミアはいかにもお上りさんらしくきょろきょろと辺りを見回していました。素で。
出入りする人が多い分、窓口の数も十分に用意されていて、さほど待つでもなく順番が回ってきます。

186 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/11/12(土) 16:28:23.18 0
――『はい、次の人。あんた何やってる人だね』
「あ、アルフート家の末娘、ファミアと申します。後ろにいるのは護衛のフィン」
若干どもりながらも、どストレートに事実を言いました。
偽れという指示を受けているはずなのですが。

『アル、えー……ああ、お隣の。どういったご用事でこちらへ?』
貴族だと言われてちょっとだけ審査官の態度が変わりました。頭から信じている様子でもありませんが、珍しいことでもないのでしょう。
正確には隣合ってはいませんが、訂正するほどのことでもありません。
「一度、遊びに来てみたいってずっとお願いしていたら、父さまがようやく許してくださったの」
これはちょっと嘘が混じっています。少なくとも実家にいる間は父からの許しがでたことはありません。

『滞在のご予定は何日ほど?』
「とりあえず二週間くらい……かしら?短くなるかもしれないし、もっと居るかも知れないけれど」
『はい、結構です。では護衛の方にも一応個別に質問をしますので、お嬢様は先に所持品検査の方へお願いします』
ここでの問答自体は割とお座なりなもののようです。本命は次ということでしょう。

とはいえ、ファミアの持ち物なんて着ているものの他にはお財布と、焼き菓子の入った小さな袋だけです。
着替えなどはフィンに持ってもらっていました。荷物は従者に持たせるのが当然だからです。
入城許可証に署名を求められた際に、ミトンをしたままだったので加減がわからず
ペンをへし折ってしまったことを除けば、何の波乱もなく審査を抜けました。
むしろこんな古いペンを使わせるなんて舐めているのかと理不尽な怒りを炸裂させることで、
いかにもな『お貴族様』という印象を強めることに成功したとすら言えるでしょう。
人を怒鳴りつけるなんてしたことがないので内心はめっちゃドキドキものでしたが。

「わあ」
管理局の内門をくぐれば、すぐに市街地。大きさこそ帝都には及ばないものの、あるいは、だからこそなのか。
石に囲まれた中に吹きこんでくる北風なんて、文字通りどこ吹く風と言わんばかりの熱気がタニングラードには満ちています。
今これなら、市が立つ時間になるとどうなるかな、と考えながら朝通りを抜けていきます。
「真ん中の大通りの公園……あれでしょうか」
フィンと二人、大道芸の人だかりができている公園へと足を踏み入れました。


【ミッションコンプリート】

187 :名無しになりきれ:2011/11/14(月) 01:06:58.51 0
ここで砲兵隊登場
小規模な抵抗を続ける

188 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/15(火) 02:59:44.52 0
「はい次の人、あんた何やってるひ――なんなんだあんた!?」

審査官という職業柄、見てきた人の多様さには事欠かない。
半ばルーチンワークと化していた問答をしかける審査官の目は、次の入領希望者に釘付けとなった。

「あ……あうあう」

年の頃十六、七といった具合の、あどけなさをたっぷりと残した顔立ちの少女である。
それが、傍目にも尋常ならざるほどに目を泳がせて狼狽しながら、吃りも激しく慄然とつっ立っていた。
特筆すべきはその衣装。質の良い旅装に、南方部族の羽外套や、東方の国の民族衣装や、都市労働者の作業着を重ねている。
まるで歩く異文化見本市のような彼女は、極めつけに首から大人サイズの水筒をぶら下げて、ぎくしゃくした動きで歩いてきた。

「か、かか、観光希望であります……ぅ」
「お、おお、そうなんだ……それで、あんた何やってる人なんだね……?」

珍妙という言葉を体現するようなあまりの異質さに若干気圧されながら、審査官は相手の身元を問う。
見るべきところの少ないタニングラードではあるが、連日祭りのように盛り上がる通り市を見に来る客は少なくない。
ただそれだけでこんな北の果てまで来るのは、観光以外にも目的があるか――よほどの数寄者だけだ。

(絶対後者だ……)

審査官は胡乱げな目付きで少女を見定める。どこぞの金持ちの娘かなにかだろう、頭のめでたい話だ。
お付きがいないのは気になるが、タニングラードの"表"だけを満喫するならば物々しい護衛はむしろ邪魔である。

「え、えと……その、商売とゆうか……物見遊山、じゃなくて、あの、農家、でもなくて、えっと……」
「?」

たちまち審査官は眉を寄せた。どうにも歯切れが悪い、というかアドリブで考えているのが丸出しだ。
タニングラードの入城審査がどういったものかはここに来る者ならば誰もが知っていることである。
受け答えはきちんと用意をしてくるのが常識だし、そもそもそんなに難しい面接でもない。
大抵の観光客や商売人は、人と接する生業のため、堂々と自分の目的と身元を明かせるものだ。――やましいことがないならば。

「ちょっとあんた、身元を言えないのかい……?」
「あっ、ちがっ、違うでありますよ!? わ、わたしはちゃんとしたところからのお仕事で、」
「お仕事って、あんた観光客じゃなかったのかね」
「あうっ!?」

少女は自分の失言に気付いて電撃が奔ったみたいに背筋を伸ばした。
蝿でも追ってるのかってほどに黒目をぐるぐるさせながら、やがて観念したように俯いた。
小さく「課長、やっぱり嘘はつけないであります……」などと零しながら顔を上げると、ブレない瞳でこう言った。

「まっこと全て正直にお話しするであります。わたしは帝国の政務機関・元老院より遣わされた特務官であり、
 この街には"さる重罪人"を追って参りました。ゆえあって身分を偽ってありますので、ここだけの話でありますからね?」

声を落として審査官にだけ聞こえるように言う少女。
その瞳は真剣そのもので、それまでの狼狽が嘘のように滑らかな語り口だった。
審査官は真面目に彼女の話を聞くと、「なるほどなるほど、それは大変だなあ」としきりに頷いて街の方を指し、

「あいわかった。通って良いから帰るときは俺の受付は通るなよ、いいかこれはおじさんとの約束だ」
「おお!わかっていただけたのでありますね! ご協力感謝するであります!」
「ああ、一応聞いとくが、その水筒の中身は?」
「ただの水でありますよ、確認するでありますか?」
「武装チェックのときに係官に見せてくれ。最近火吹きトカゲの体液を詰めて持ち込んだ奴がいてね」

笑顔満面となって少女は駆け足で門を抜け、武装チェックも難なくパスして市街へと入領を果たした。
少女――フランベルジェ=スティレットは、遊撃課の中で唯一、真実のみを口にして審査をクリアしたのである。
ボルトの入れ知恵だ。ありえない格好をした奴にありえないようなことを言わせれば、そこに一種の信憑性が宿る。
『こいつは馬鹿だ』という一点につき、もはや疑いようもないぐらいに忖度されてしまうのだ。
タニングラードは武力を拒むが、暴力を持たぬ者であれば賢者だろうと物乞いだろうと広く等しく受け入れる。
強いて言うならば彼女は、『妄想癖にとりつかれた馬鹿』を完璧に演じきったのだった。

189 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/15(火) 03:03:31.36 0
*

『全員集まったな――』

大道芸人が子供たちに芸を売り歩く昼通りの自然公園。
大通りから一本ずれているために、付近も民家が多く主婦と子供ばかりが目に入るこの場所で、農民に扮したボルトが呟いた。
彼が身に付けているのは技術局がこの任務の為に貸与した新開発の偽装念信器。
装身具として不自然のない小型化の代償として、有効念信範囲が極めて狭い試作品である。

念信が使えるのは肉声の届く範囲というどうしようもない駄作だが、この潜入任務では別の発想でこれを有効に使っている。
同じ場所に居るだけで顔を合わせずとも話せる、ということは無関係を装いながら会話できるということだ。
いま、公園には潜入した遊撃課員たちが全員集まっているが――ファミアとフィンを除いてそれぞれ別々の位置に散っていた。
お互いの顔を見ようとせず、本を読んだり地図を眺めたり虚空を見つめたりしながら、念信器の声に耳を傾けている。

『人捜しと言ったって、相手は隠れるプロだ。おれたち程度の人数で虱潰しに捜したって見つかるヘマ踏むわけもねえ。
 大事なのは時間稼ぎだ。"お前のことを嗅ぎまわってるぞ"ってことをアピールしてやれば、向こうを牽制できる』

ユーディは暗殺の専門家であると同時に、副次的な技能として諜報術も極めている。
捜査員でもない、一見して脈絡の無い人間たちが、この街で重罪人を探していることなどすぐに伝わるだろう。
逃げ続ける彼にとって、それは看過できない事態だ。帝国の者でないならば、一体なんの目的で自分を探すのか。
真相を確かめようとすれば向こうから接触してくるだろうし――隠れ続けるにしても、うかつに亡命手続きを進められない。
どう転んでも、ユーディの動きはいくらか限定されるはずである。

『チームを2つに分ける。アルフート、パンプティ、ヴィッセン、スイは裕福層を中心に。
 アレリイ、ヴィッセン、ガルブレイズ、スティレットは、朝通りのスラムを中心とした貧民層をあたれ』

治外法権というタニングラードの性質上、ここに移り住む者は目的によって市民層が極端だ。
税金がかからない商売で儲けようと店を構える富民たちと、祖国を追われて法律の隙間に逃げ込んだ犯罪者たち。
両者は決して相容れないために、富民街と貧民街は完全に断絶していて、境界を境に街並みが驚くほどガラリと変わる。
武器を排したこの街では、肉体的な暴力を遥かに凌駕する勢いで待遇差別という静かな暴力が横行しているのだ。

そんな中でもとりわけ陰惨な雰囲気を漂わせるのが貧民街のスラム。
噂では、武器のないタニングラードにあってなお暴力による支配社会を形成しているなどとも言われている。
ボルトの裁量でそちらに送り込むことを決めた四人は、いずれもマテリアルを持ち込めた者たちである。
特に危険予知のできるノイファと誰よりも素早いウィレムがいれば、大抵の危機を陥る前に回避できる。
最悪、セフィリアによる強行突破が期待できるのも大きい。

対してチーム富民層は、貴族ファミアとそのバトラーたるフィン、娼婦のマテリアと宝石商のスイ。
富民街にあっても違和感のないメンツである。マテリアをダシに酒場にも入り込める。
まずは昼通りのハンターズギルドへ行くのが良いだろう。
帝都に本部を備える『ハンター』という職種は、金次第でよろす事を請け負う"なんでも屋"だ。
職業柄、街でいちばん情報の集まる場所でもあり、金持ちが人を捜すにはまさしくうってつけの場所である。

『さておき、なにはともあれまずは宿をとらねえとな。当然だがどこも手配されてないから、拠点を作ることから始めるぞ。
 帝都を出る時に渡した金があったろ、そいつがこの任務での活動資金だ。貧民街へ行くときはスリに気をつけろ』

そこまで言うとボルトはおもむろに顔を上げ、公園内に散らばる遊撃課員たちの顔をゆっくりと見回した。
勘の良い者は気付くだろう。この任務の本質が、課員の命をエサにユーディを釣るものだということを。
正しく使い捨ての、いつ護国十戦鬼の手にかけられてもおかしくない、人道を無視された者たち。
『綺麗に整えられて』元老院から下った命令を、ボルトはそのように捉えた。死んだ部下の顔がやけに色濃く宙に張り付いた。

『おれは役場で書類を洗ってくる。チーム貧民はアレリイの指示で行動しろ。チーム富民は、アルフート、お前が指揮をとれ。
 定期報告は二〇〇〇。総員、作戦内容は頭に入れたな?それじゃひとつ――状況開始だ』

ボルトは拍手を合図に立ち上がる。
最強を相手取った孤立無援にして決死の作戦は、嵐の前の静けさのように不気味なほど穏やかに始まった。

190 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/15(火) 03:06:38.33 0
 * * * * * *

クローディアが今回の仕事もダニーに頼んだのは、腕が立つこともさることながら、
彼女が見た目に似合わず相当に聡明であることを信頼してのことである。
価値観は些か独特だが、ウルタール湖で彼女の見せた機転の数々にクローディア達は何度も命を救われた。
護衛として、ブレーンとして、良きアドバイザーとしてダニーは大いに役立ってくれるだろうと彼女は確信している。

「なるほど、身体を鍛えるための講座を開き、その講師となることで自分の筋肉に商品価値を……」
「シンプルだけど妙案だわ! ていうか、商才あふれるこのあたしをして、その発想はなかった!」

威圧的な筋肉を見咎められたダニーが提案した打開策は、まさに横紙を濡らして裂くような逆転的発想。
つまりは、筋肉を暴力ではなく健康の象徴として摺り込むことで武のイメージを排除するいうことだ。
魔を食い魔に食われる"外"の世界じゃ牧歌的すぎるテーマも、暴力を排したこの街でならば受け入れられる。
市場の気持ちになって考えるという、まさにマーケティングの基本にして極地を体現したかのような名案だった。
クローディアは思わずダニーを尊敬してしまった。

「……本気、なのね?」

クローディアの大真面目な問いに、ダニーは力強く肯定した。
商売にご破算とか計画倒産は付き物だけど、と付け加えるのをクローディアは手のひらで制する。

「決まりね。あたしがこの街に来た目的とも合致してるわ!ビッグビジネスの予感に胸の高鳴りが収まんない……!」

ゲートをくぐり、いざ商売を始めようという段になって、ダニーが今回の目的を問うた。
大商戦を前に舞い上がっている雇い主は、そこでようやくダニーになにも説明していないことに気付いた。

「簡単に言えば、"金の匂い"を嗅ぎつけたのよ。なんか帝都のほうできな臭い動きがあってね」

彼女は声を低くして、あたりに配慮しながら続けた。

「ここ数日、従士隊で資金の流れが活発になってるの。雪国用の兵站やタニングラードに向けて公用馬車が特別に徴用されてるし、
 国内に散ってる武官が帝都に集まってきてるみたい。国土の守りを手薄にしてまで為さなきゃいけないことって限られてるわ」

クローディアはそれを『戦争の気配』として受け取った。
それも日常的に小競り合いの勃発している西方エルトラス相手ではない、まったく新規の戦争だ。
そうなれば生まれるのは物資と人員の需要増加。いわゆる戦争特需というやつである。

「あたしの見立てじゃあ、これから景気がよくなるはずよ。老舗揃いの帝都の市場には今更参入できないだろうけれど、
 まだ誰も目をつけてないタニングラードならいくらでも商売できる……特需につけ込んで殿様商売してやるわ!!」

戦争が起きるということは、当然クローディア自身の身にも危険が及ぶ。
そうなったときのために、なるべく早いうちから防衛戦力は揃えておこうというつもりでダニーを呼んだのだ。

「あんたの発想は活きるわダニー。既存の市場がないってことは、この先来たる好景気でイニシアチブが取れるってことよ!
 戦争になれば、今度は自衛力として身体を鍛えたい客が出てくるはずだから、二段構えで儲かるわ!」

さて、クローディアたちはいま、ロン・レエイとの待ち合わせ場所へ向けて街中を歩いている。
ロンは武術家だと言う。契約書には簡単なプロフィールしかなかったが、なんとなくむくつけき武人をなんとなく想像していた。
そんな彼女たちが待ち合わせの地点へと着いたとき、そこに居たのは目に悪い配色をした外套を羽織った少年が一人。
クローディアよりも背が低いときたものだ。一瞬契約書を読みなおしたが、背丈以外は書いてある通りの特徴だった。

少年はこちらの姿に気付くと物陰へと隠れてしまう。
こっちをガン見してくるが、契約相手に確信が持てないのは向こうも同じのようだった。
ともあれ、こちらにはより簡単な確認方法がある。

「ロン・レエイの労働を『買う』わ、来なさい!」

キン、と宙へと弾き上げた銅貨がたちまち消滅し、物陰の少年が代わりに現れた。
これくらいの距離ならば、"歩いて移動する"労働を買うだけなので非常にコストが安く済む。

191 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/15(火) 03:09:06.96 0
「あんたがロン・レエイね!あたしはクローディア。ただのクローディアよ、苗字はないわ。社長と呼びなさい!
 こっちのヒョロいのはナーゼム。ゴツいのがダニー。今日からあんたの同僚よ、仲良くなさいな」

あらゆる異論を置き去りにして、クローディア社長はてきぱきと雑事を整えていく。
ロンにはナーゼムのほうから、彼女たちがどういった目的でこの街に来たかを簡潔に説明された。
クローディアは三者を引き連れ、ずんずん街を進んでいく。

「棒がないようだけど、審査ゲートで取り上げられたのかしら。あんた、素手ゴロは得意?」

道すがら、そんなことを聞いた。契約書には確かに戦闘技能として棒術とあった。
これはクローディアの失敗だ。タニングラードの武器規制がここまで厳しいとは思わなかったのだ。
棒術のように非殺傷の武器であれば問題なく持ち込めると考えていたのだが、実情を見るにそうは甘くないらしい。

「うん、ここがいいわ。ダニー、ロン、ちょっと来なさい」

昼通りの比較的富裕層の多い地区の自然公園の前でクローディアは足を止めた。
主婦や子供が園内を駆けまわり、大道芸人が芸を披露している。遊具がちらほらあるほかは、平坦な芝生の広場だ。

「あんたたち、今からここで戦いなさい」

広場の一角に武術家二人を向かい合わせた雇い主は、おもむろにそう指令した。
ナーゼムが齧り付いていたホットドッグで咽る。その咳音を背景にして、クローディアは揺らぎなき眼で二人を見た。

「現段階で、ロンがどれくらい素手で"やれる"のか見ておきたいわ。
 どうせだから、これから始める商売のデモンストレーションも兼ねましょう。残虐ファイト厳禁でちょっと組手やってみて。
 もちろん『パフォーマンス』ってことを忘れないように。そこそこ本気で、とにかく派手にやんなさい」

同じものを露店で買ってくるようナーゼムに言いつけてから、クローディアは高みの見物といった具合にベンチへ腰掛けた。
主婦層が食いつけば御の字。駄目でも戦うオトナのかっこ良さを子供たちに魅せられればイメージ戦略としては十分だ。


【チーム分け
 富裕街チーム――ファミア・フィン・マテリア・スイ
 貧民街チーム――ノイファ・ウィレム・セフィリア・スティレット
 まずはベースキャンプとなる宿と食料を調達・仮身分に基づいた潜入捜査の基盤を築いた上で任務にあたってください
 夜通りでは祭りの気配】

【クローディア:潜入成功。ロンと合流。自然公園にてデモンストレーションとしてダニーと組手をさせる】

192 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/11/16(水) 22:07:36.05 0
『はーい、了解しましたー!それじゃアルフートさん、ハンプティさん、スイさん、よろしくお願いしますねっ!』

マテリアは道すがらに買った温かい蜜湯を片手に、早速念信器ごしに皆へ声を飛ばす。
馬車の中で発したものとまるで変わらない明朗快活を極めた声色だ。

『ところで動き出す前に、一つ皆さんに「知って」おいて欲しい事が一つあります』

そのトーンが唐突に沈み込んで、真剣さを秘めた声音へと変貌した。
『情報こそ命』の哲学に基づいて、知を運び味方を助ける情報通信兵の勤めを果たす。
釘の先端のようになった視線で全員を見回してから続けた。

『今回の任務の厄介な点です。課長殿は「嗅ぎ回っているとアピールする事で牽制出来る」と申されました。
 ですが忘れてはいけないのは、私達はあくまで「バレない」ように「バレる」必要があるという事です。
 つまり私達は大っぴらにアヴェンジャーを探し回るほど、牽制としては効果的ですが、同時に相手に「始末される」可能性が増すんですから

ボルトがあえて言わなかったのか。それとも単に失念していたのかは言及しない。
考えても論じても結論など出る訳がなく、無駄な事でしかないからだ。

『相手は帝国が誇った、最強の暗殺者です。私達を一人ずつ、何の痕跡も残さずに始末していくくらいは容易いでしょう。
 鬼が全員いなくなれば、隠れんぼで見つかる事は決してありません。最後に残るのは本物の「鬼」だけです。
 皆さん、くれぐれも気をつけて下さいよ。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているんです』

その点で言えば貧民街を調査する面々はその高い危機回避能力から、ある程度大胆な行動に踏み込める筈だ。

「とは言え……引っかかる事が一つあるんですよね」

不意にボルトとファミアとノイファ、課長と両チームのリーダーにマテリアの肉声が届いた。
だが他の課員はもちろん、周囲の人間も誰一人として、彼女の声に気付いた様子はない。
マテリアの『遺才』だ。自在に制御可能な音声を無数に分割、数十通りの箇所を反響させ、二人の耳元で集極したのだ。
買っておいた蜜湯を口に運ぶ。その動作に隠して右手、マテリアルを口元へ。

「アヴェンジャーはどうして、ヴィエル邸を警護していた騎士達を殺さなかったのでしょうか。
 亡命を確実に成功させたいのなら、元老殺害の犯人は遁鬼だと証言するだろう騎士団を生かしておく必要はなかった筈です。
 という事は、そこには何か目的があるんじゃないでしょうか。犯人は自分だ、自分は帝国を裏切るぞと公言する理由が」

知識とは時に毒にもなり得る。
兵士とは任務に必要な事だけを考える賢い愚者であるべきなのだ。余計な事を知ったところで損しかしない。
上官の横領を知ったマテリアが自制を忘れて、結果、軍を辞める羽目になったように。

だからこそ課長と、二人のリーダーにだけ自分の考えを明かしたのだ。
課員のプロファイリングには粗方目を通してある。
聡明で常に現実的な目線で物事を捉えられるノイファと、何よりもまず撤退を第一に考えるファミアならば、
踏み越えてはいけない死線を見極め、必要な情報を必要な時に皆に伝えてくれるだろうと。

『さて……そこでチーム富民の皆さんに提案なんですけど』

再び念信器で会話を始める。

『とりあえず、お買い物に行きましょうよ!私、お洋服が買いたいんですよね!』

ふざけているとしか思えない提案だったがマテリアは至って大真面目だった。

『だってほら、ハンターズギルドに行くにも酒場に行くにも、
 人目につく場所に何もこのままの格好で行く必要はないと思いませんか?
 目立つ行動、痕跡を追われるような行動を取る時は、更に使い捨ての変装を重ねた方が安全ではないでしょうか。
 バレて始末される可能性は極力減らしたいですし。それにまだ宿の確保も終わってません』

探しているつもりが、探り当てられてしまっては話にならないのだ。

『要するに、どんな作戦行動もまずは根回しありきだと思います!色々必要な物資もあるでしょうし!別に観光目当てとかそういう訳じゃないんですからねっ!』

193 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/11/17(木) 20:42:59.18 0
>「アヴェンジャーはどうして、ヴィエル邸を警護していた騎士達を殺さなかったのでしょうか――」

『昼通り』自然公園入り口付近。
修道女へと扮したノイファは、ベンチに腰掛け、マテリアの肉声に耳を傾けていた。
傍目には、足元にじゃれつく野良犬に遅めの昼食を分け与える物好き、程度にしか映ってないだろう。

(逃げ込んだのではなく、狩場へおびき寄せた……と考えるのは少々うがち過ぎですかねえ)

来る途中に露店で購入した、お世辞にも上等とは言えないパンを千切って差し出す。
尻尾を振りながら今にも飛びかからんばかりの野良犬に、手をかざし「待て」と告げる。

(いえ、相手は帝国随一の秘匿殺傷術の達人。最悪を想定して動くのに越したことはありません、ね)

しかし他の課員へ伝るといったことはしない。あくまでノイファの想像に過ぎないからだ。
これは捜査の際の判断基準を常に"最悪の状況"に線引きする、そのための思考。

『では、こちらのチームの皆様、よろしくお願いいたします。
 スティレットさん以外は"また"ということになりますけども――』

班分けされた他の三人へ、念信器を使って声を飛ばす。
カバーした人格の面通しも兼ねて、あえてそちらの口調でだ。

『――まずはボルト隊長と、先ほどマテリアさんがおっしゃったことを各自肝に命じて下さい。
 なんといっても相手は当代随一の名を冠した一人。押しも押されぬ国士無双の殺し屋ですから。』

かざしたままの手を退けて、「良し」と告げる。
嬉しそうにパンを頬張る犬の首筋を撫で付け、表情を笑みで塗りつぶす。視線は一度空へ。

『"バレない"ように"バレる"。つまり"探している者が居る"という事実だけを悟らせ、こちらの尻尾は絶対に掴ませない、
 そういった用心深さが必要になります。ですので、当面優先するのは街へ溶け込むこと。
 その後、皆さんの裁量でアヴェンジャーの絞込みと、噂の流布をお願いします。』

諜報術にも長けるアヴェンジャーは当然一目で分かる出で立ちなどしては居まい。
ならば、割り振られた区画である貧民街で『遁鬼』の痕跡を探す必要がある。
そして同時に噂を浸透させ、揺さぶりをかけるのだ。何者かが、殺人犯にして強奪犯であるユーディ=アヴェンジャーを探し回っていると。

『それと、私達の担当は貧民街ですが、捜査先での実力行使はあくまで最終手段です。
 スラム街に赴く際は必ず二人一組以上で、お互い確認出切る範囲での行動を。捜査に要する時間の報告も忘れずにお願いします。』

ここでいう実力行使とは、つまり"偉才"を発動しての大立ち回りのことだ。
"同族"の気配を、アヴェンジャーが見逃すとは到底思えない。
さし当たっての脅威である貧民街に巣食うならず者程度ならば、専門の訓練を受けたセフィリアやスティレットの敵ではあるまい。

『と、こんな所でしょうか。取り合えず今日のところは街の把握を兼ねて、表通りを見て回りましょうか。
 宿の手配もそのついでに、何処か寄っておいた方が良い場所とかありますか?』

そう告げて、手に持ったパンの最後の一欠けをノイファは口に運ぶ。

194 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/11/17(木) 20:44:23.59 0
「ぷはっ!?けほっ――」

そして盛大に噴出した。
その様子に驚いたのだろう、パンを咥えたまま脱兎の様相で逃げ出す野良犬。
原因は公園に現れた四人組のせいだった。

(よくよくご縁のある方みたいですね……)

寒風を切りながら先頭で踏み入ったのはクローディア=バルケ=メニアーチャ。
もっとも今は、湖底窟での一件を経て、家名との決別を果たしている。
その後に続く偉丈婦のダニーと偉丈夫のナーゼム。もう一人は初めて見る顔だが無関係というわけでは無さそうだ。

『えーと……、聞こえていますか?』

口元を拭いながら再び念信器へ。対象は遊撃課全員。

『フィンさん視線をこちらへ。ええ、入り口付近です。
 ここまで来るとちょっとした運命を感じてしまうのですけど、報告書で上げた方達が確認できました。
 ダンブルウィード、ウルタールの両方で接触したクローディア=バルケ=メニアーチャさんの一行です。』

果たしてクローディア達の目的は何なのだろうか。
商人である彼女だけなら、確かにタニングラードに居るのもそれほど不思議とは思えない。
だが引き連れている人物が人物だ。
ダニー、ナーゼムは言うに及ばず、もう一人も足運びや挙動から並々ならぬ技量なのが伺える。

『おそらく関わりがあるとすれば、こちらではなく、そちらの方になるでしょうけども……。
 彼女の能力は、代価にした金銭で購える物であれば、何であっても召喚が可能です。
 つまり、彼女の協力さえ得られれば、この街の中での武装が容易になります――』

非武装を旨とするタニングラードには武器の類が一切持ち込めない、それを覆すことが可能になるのだ。
しかしいきなり接触し、装備を整える、というわけには流石に行かない。
人の目があるからだ。あくまでどうにも立ち行かなくなった時の、切り札としての意味合いである。

『――他にも労働力の購入。人の移動すら可能ですから、いざというときの退路の確保も可能です。
 ……監視対象に含めますか?』

だがそれは必然、クローディアを巻き込むことにもなる。
ため息を付きながら、ノイファは問う。


【とりあえず市街散策→宿決めましょう! 
 クローディアたちを発見。       】

195 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2011/11/17(木) 22:26:45.58 0

>>190
「ロン・レエイの労働を『買う』わ、来なさい!」

――ロンが観察の対象に入れていた少女が、突然声を上げる。
ピンッ、と細い指で弾かれるは鈍く輝く銅貨。それが消えた瞬間、目の前に、壁。

「わプッ!?」

つんのめり、勢い余って激突。意外と柔らかい。そして視界は暗緑色。
ロンがおそるおそる顔を上げると――先程の筋肉達磨の顔がそこにあった。

「うひゃあっ!? ス、スまない!ぶつかるつもりは――――……」
「あんたがロン・レエイね!」

無かった、と言いかけたが、少女の声に遮られそちらを向く。
温かそうな帽子をちょこんと乗せた、蜂蜜色の髪を揺らし、気の強そうな瞳がこちらを見ている。
そして発せられた言葉からも、少女の性格が如実に伺える。

「あたしはクローディア。ただのクローディアよ、苗字はないわ。社長と呼びなさい!
 こっちのヒョロいのはナーゼム。ゴツいのがダニー。今日からあんたの同僚よ、仲良くなさいな」
「は、はいっ!!? ……って、え?は?シャチョウ?ドウリョウ?」

目をきょどきょどさせるロン。驚くのも当然だ。
同い年くらいのあどけない少女が社長で、初対面の人間は同僚。
てっきり護衛任務か何かだと勘違いしていたロンは、使い慣れない言葉にただただ唖然とするばかり。
すると、傍にいたナーゼムという男が事情を説明する。
だが、ビジネスにとんと縁のないロンは戦争需要など分かる訳もなく、ちんぷんかんといった様子。
ようやく、商売をする、ということだけは何とか理解した。
そうこうする内に、クローディアは歩きだす。ロンも慌てて後ろをてくてくと付いて歩く。

「棒がないようだけど、審査ゲートで取り上げられたのかしら。」
「ああ。ク…シャチョウのイうトオりだ。ホントウはタダのボウでトオそうとオモっていたのだが…。」

そこまで言うと、決まり悪そうに口をもごもごさせる。
只の棒で"通そうとした"、つまりはロンが所持していた棒は只の棒ではなかったことを示している。
ジェスチャーを交え、ロンは理由を語る。

「……オレのボウは、あるシカけがあってな。ボウのデッパリをオすと、タントウがトびダすシカけだ。
 ニュウコクシンサのトキに、うっかりそれがゴサドウをオこして…。シンサカンのボウシをクシザしにしちまったんだ」

集まる視線。ロンはばつが悪そうに首を縮める。そこでクローディアがすかさずこんな事を尋ねる。

「あんた、素手ゴロは得意?」
「ム。それならマカせろ。"レエイ流武術"はどんなセンジュツにおいてもテキナしだからな!」

途端に得意げな顔を見せ、自信満々に親指を突きあげる。
そこには先程の照れ隠しも少しばかり入り混じっているがそれはさておき。


196 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2011/11/17(木) 22:33:22.95 0
「うん、ここがいいわ。ダニー、ロン、ちょっと来なさい」

クローディアが足を留めた先は、自然公園であった。
婦人や子供たちが駆け回り、遊び道具がちらほら。大道芸人が芸まで披露しているようだ。

「あんたたち、今からここで戦いなさい」

おもむろに発せられた命令。ロンはダニーに視線を送り、クローディアの後ろでナーゼムがホットドッグを噴き出す。

「ええええっ! で、でもオレはゼッタイジョセイとはタタカわないとキめていてだな……」

だがロンの主張などどこ吹く風、と言わんばかりにベンチに腰掛ける社長。ナーゼムはホットドッグを買いにさっさと居なくなってしまった。
ロンは向き合ったダニーを不安げに見るも、頬を両手でパチンッと挟む。

「(よく考えろ!これはパフォーマンスだ、戦闘ではない!傷を負わない程度に手を出さなければ良い話…!)」

自分にそう言い聞かせることで、ロンはようやく決意し、ダニーと対峙する。
社長命令だ。出来る出来ないではなく、やるしかないのだ。
姿勢を正し、合掌して一礼する。戦う前に相手に敬意を払うという、彼なりの儀式だ。
そして、合わせていた手を開くと、左足を軸に右足を一歩前へと踏み出す。
左腕は脇を締め拳を作り、右腕は掌を開いたままダニーのほうへと突きだし、見据える。

「レエイ家家長、ロン・レエイ――オしてマイる」

その言葉とともに、空中に身を投げる。通常ならば隙だらけの行為だが、パフォーマンスの一環だ。
弾丸が如くダニーに急降下。そのまま幾つか拳と蹴りを放つ。
一撃繰り出し、反撃がくれば今度は掌を使って流すようにいなす。それの繰り返し。
派手に音が鳴り響いているが、威力もダメージもあまりないと言っていい。

「ほっ、はっ、ていッ――ヤァッ!」

一際大きく足を大きく振り、ダニーの肩めがけて回し蹴りを放つ。 固い筋肉と一見して細い少年の足がぶつかり合い、弾かれる。
足が上に、頭が下になるような形で宙に放られるが、至って平静のままの表情のロン。
ダニーと目が合った瞬間にかっと笑いかけ、空中一回転。そのままダニーの背を台に飛び越え、着地。

「ありっ?」

隣に大道芸人。子供たちの視線が一気に集まる。少しばかり高く跳びすぎたせいで、芸の邪魔をしてしまったようだ。

「わわっ!スまない、ジャマをするつもりは……。 !」

一転して華麗な土下座を披露するロン。申し訳なさそうに頭を擦りつける。
だが頭を上げたその時、目に入ったものを見て迷わずそれを掴み取った。

「ワルい、これカりるぞ!」

持ち主の許可も取らず、鉄線を掴んで走り出す。
一番近い街灯を見上げると、手に鉄線を何回か巻きつけ、ロープの要領で振り回す。
輪が出来たところで、街灯に向けて放つ。しっかりと巻きついたのを確認し、街路樹や街灯を踏み台に、三角跳びで跳び上がる!

「ハッ!」

展開される空中ブランコもどき。こども達の歓声が聞こえる。
一回転すると、短時間で酷使された鉄線が手首から少しのところで切れ、ロンはダニーの目の前に降り立った。

「ちょっとヨりミチしてしまった。さあ、ツヅきだ!」

人の視線を集めることに味を占めたのか、うきうきする心を隠すことなく、ダニーを見上げて無邪気にそんな事を言うのだった。

197 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/18(金) 02:44:10.17 0
昼下がりの公園にて大道芸に興じる私、セフィリア・ガルブレイズ
興じるというのは語弊があるかもしれませんが、本職ではないのでお金を貰っていても興じるでいいのかもしれません
私の芸を楽しそうに眺める子供達の視線は慣れないもので、居心地があまりよくはありませんでした
ジャグリングから棒と皿を使った皿回しに移行したときにプライヤー課長からの念信が入ります

急な念信に集中力を乱されて、多少バランスが狂いましたが、笑顔でカバーです
課長曰く、『探していると気取られろ、しかし、特定されるな』
私が得意な分野でないので不安です
荒事は得意ですが、諜報戦は得意ではないのですから……
でも、そんなことは関係ありません
得手不得手は二の次です
命令なら実行する、それがプロというものです

そして、チーム分け
アイレル女史、ウィレム、スティレット先輩と同チームです
懐かしいメンバーです、スティレット先輩もマテリアルを持ち込めたようです
(かの館崩しはみえませんが、どうにかしているのでしょうか?)
治安の悪い場所に女子ばかりを配置する課長の良識を多少疑いもしましたが、危険なところに実力派を配置されたと考えれば悪い気はしません

さて、解散というときに今回から参加したヴィッセンさんが馬車の中と同じく元気よく念信に入ってきた
元気よくという前置きとは裏腹のなんとも嫌になるような話です
いや、嫌になるようだったと言うべきでしょうか?
前までの私なら「貴族の子弟を囮に使うとは何事ですかですか!」と子供っぽく怒りもしたかもしれません
それどころか、『遁鬼』に無謀にも戦いを挑んだことでしょう、父は諦めもしましたが私は少なからず『鬼』の名を欲していたのですから
今はその様な無謀なことはいたしません、命あっての物種といいましょうか、死んで任務がこなせますでしょうか?

「課長、ガルブレイズの末姫を囮に使ったとなれば社交界で一目置かれるかもしれませんね。私が生き残ればの話ですが」
それとも社交界とは縁がございませんか、と続けた
軽口で返す、この程度のいいのです
私は課長、ボルト・プライヤー氏の部下なのですから

私の皿回しの芸が一段落して、ジャグリングへ
ボールではなくクラブを使ったと補足しておきます
無論、1回転してキャッチどころか、バク転をしながらの大技も絡めています

今回の分隊長とでもいうべきアイレル女史のお話です
前々回の???初任務のときに彼女の指揮下に入っているのだから、異論どころか諸手を上げて歓迎します
提案にも異論を唱えるべきところもなく、提案通りに表通りに向かうために大道芸を切り上げようとしたとき
(鉄線を使ったアンバランス皿回しと、木々にくくりつけて足場にしての空中演技を披露出来なかったことは残念です)

横に少年が降ってきました

198 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/18(金) 02:44:50.92 0
遠くが騒がしいと思ってはいましたが、芸と念信に集中していて気付きませんでした
彼は私の邪魔したことを謝っている
地面に頭を擦り付けている独自の謝罪、彼の格好から推測するにどこかの異民族なのでしょう
寡聞にして存じ上げないのは、私の勉強不足所以でしょう
などと刹那の時間に考えを巡らしていると私の鉄線の束を掴んで走り去る

「ど、泥棒!!」

思わず声をあげる振り、彼が掴んだのはダミー
木を隠すには森の中、その林部分とでもいいましょうか
実際には隠されているのはさらに葉の部分なのですが、それをお披露目することがないようなことを祈るばかりです
使うときは確実に遁鬼を相手取るときなのですから
『そのとき』が来るかどうかは私にはやはり寡聞にして知りえないのですが……

視線は彼を追っていたのですが、すぐに対象が切り替わる
クローディア
クローディア=バルケ=メニアーチャ、彼女のゴーレムとの死闘、それがまず出てきました
いまでも夜な夜な思い出す、その度に体が熱くなる
私のライバルと……勝手に思ってはいるのだけれど、相手の方はどう思っているのだろうか
任務外でまた彼女と戦いたいものだと……そう向こうも思っていればいいのだけれども

彼女の登場と少年と筋骨隆々の女性との戦いの関連性がイマイチ掴めませんが、アイレル女史の一行という言葉から彼女自身
相関図がある程度出来ているのでしょう

「アイレル女史、クローディアと彼らの関係をご存知なのですか?
それと私見ですが、まず1つ、彼らは3人それぞれ個性的です、監視することは容易だと考えます
2つ、武器の調達ですが、戦闘要員ですが私の能力なら武器調達の必要性がありません。武器を携帯するリスクをわざわざ犯すこともないかと思います
3つ、監視という性質上、ヴィッセンさんを要するアルフートさんのチームに任せるべきだと存じ上げます
以上の3点から課長の言う通り、私たちは拠点の確保を優先すべきだと具申いたします」
彼女だけに念信

その間に、さらに周囲の視線が金髪の少年に集中している間に私は木の回収を優先しました
これで大丈夫です
あれはあれでなかなか高価なものですから

「今日はここまで〜また、よろしくね〜」
私はすでに私に興味を失っている子供達に向けて、明るいトーンで告げてみたものの笑顔までは作れなかった
演技をするのはなかなか難しい

199 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/11/18(金) 20:54:48.79 0
>「決まりね。あたしがこの街に来た目的とも合致してるわ!ビッグビジネスの予感に胸の高鳴りが収まん
ない……!」

街中に浸透しているソレにはびくともしないにも関わらず、ダニーは冷や汗を一筋かいた。
あくまで中に入るための方便程度に考えていたのに、クローディアの方は俄然ヤル気を出している。
彼女のことだからある程度までは成功させるのだろう。
これはつまり成功するまでこき使われることが確定した瞬間でもあった。

意気揚々と街へと入って行く主人とは対照的に、ダニーは軽く目頭を抑え小さくため息をつく。
従者の内心には気づかないまま、彼女は今回ここに来た理由を説明し始めた。
考えてみれば商売以外に目的はないのだから、どうしてこの街にというのが正しい質問だったが、
クローディアはちゃんと答えてくれた。

やたらと金と物を注ぎ込んだ部隊がこの街に向けて集まりつつあるらしい。
そこから戦争の、いや商売の気配を嗅ぎつけたのだと言う。いやらしい。

>「あんたの発想は活きるわダニー。既存の市場がないってことは、この先来たる好景気でイニシアチブが取れるってことよ!
 戦争になれば、今度は自衛力として身体を鍛えたい客が出てくるはずだから、二段構えで儲かるわ!」

嘘から出た真と言おうか、瓢箪から駒とでも言おうか、或いは事実は小説より奇なり、か
もしも本当にこの街で筋トレが根付いたら、飛躍話の実例が一つ誕生しそうだ。
もっとも結びは『体を鍛える』なのだが。

ダニーは渋々ながら腹をくくると、主人が新しく雇ったという人物と合流するために
待ち合わせ場所まで付いていく。道行く人の視線が集中するが
当人的には愛嬌たっぷりに、現実的には無表情に近い笑顔で手を振って挨拶する。

タニングラードは3本の通りに分けられているそうで、なるほど確かに
建物同士の間から覗く光景には日向と日陰がくっきりと分けられている。
それとなく目線で路地を確認し、クサイ場所を覚えていく。

丁度その時前が止まったので、ダニーもそれにならうと、
少し先に変わった格好の少年が立っていた。身長はクローディアより低い。
言わんや大美人との差は暴力的なまでである。

彼、ロン・レエイはこちらを見て弱ったような表情を見せていたが、
クローディアに強引に招集されてしまった。例によって瞬間移動したと思いきや
顔から腹にぶつかったのでダニーは内心で焦った。腹筋を緩めるのが間に合って良かった。

200 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/11/18(金) 20:56:38.54 0
「・・・・・・」
俺はダニー、護衛その一で、一応トレーナーをやってる。よろしくと挨拶をする。
一通りの話が終わった後にお互いの自己紹介を済ませる。
審査の一件で獲物を取り上げられたそうだが、なるほど元気はいいようだ。

>「うん、ここがいいわ。ダニー、ロン、ちょっと来なさい」
>「あんたたち、今からここで戦いなさい」

不意にクローディアのお呼びにそちらへ振り向くとそこは公園だった。
てっきり店の下見か宿にでも行くものと思っていたのだが違ったようだ。
掻い摘んで言うと、今ここで一つロンと興行を打てということらしい。

用件は分かったが、肝心の彼はというと、案外乗り気だ。切り替えが早い。
ロンの一礼に倣いダニーもまた会釈を返す。

>「レエイ家家長、ロン・レエイ――オしてマイる」

彼の構えに対してダニーは両拳を胸の前で構える基本的なもの。
先に動いたのはロンだった、大きく飛び上がろ攻勢とともに降り注ぐ、思い切りが良い。
十字防御で全弾受けきると、今度はダニーの方から返していく。

直線的な攻撃で、溜めも持たせているのだが、それにしても当たらない。
くるくると避ける上に一つ一つの動きは丁寧だ。実戦なら綺麗に切って落とすだろう。
今度は逆に肩に回し蹴りを決められるとその足を掴んで放り投げる、しかしロンは全く余裕で
笑みを浮かべながらダニーを踏み台に飛び越えていく。

(・・・・・・)
雑な投げは通用しないか、と胸中で呟く。背後からの反撃に備えて背中を固めるが
攻撃が飛んでこない。訝しみつつロンの姿を探すと公演の別の場所から急いで戻ってくる最中だった。
どうも行き過ぎたらしい。大道芸人の方へ両手を合わせて謝るジェスチャーを送ると試合を再会する。

>「ちょっとヨりミチしてしまった。さあ、ツヅきだ!」

楽しげな彼の声に答えるべく、左の肘打ちから右のショートアッパー、回って裏拳と絡める。
乾いた捌きの音は心地よく響き、避けるロンと受けるダニーの構図に、次第に歓声は膨らんでいく。
観客からのイメージを変化させるという点ではアピールに成功したと言っていいだろう。

我知らず、彼女もまたロンに釣られて口の端をわずかに持ち上げていた。
【立会は強く当たったので後は流れでお願いします】

201 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/11/20(日) 00:31:06.42 0

『よし、通れ』

予想よりも容易く、フィンの検査は終わった。
今回のフィンの役割(ロール)は奴隷。
バトラーという役職こそあるが、基本的に奴隷という物は主人の所有物扱いであるので
乱雑に取り調べられはするものの、比較的早く容易に審査からの開放が認められたのである。
同情の視線を受けながらフィンは審査官の横を無言で通り過ぎ、ファミアと共に公園へと足を向ける。

……

「念信」によりボルトから伝えられる此度の作戦内容。
その中で最も重要な事柄は、チーム分けだった。

>『チームを2つに分ける。アルフート、パンプティ、ヴィッセン、スイは裕福層を中心に。
>アレリイ、ヴィッセン、ガルブレイズ、スティレットは、朝通りのスラムを中心とした貧民層をあたれ』

それは、傍から見れば実に不可解な組分けではあるが、
当事者達からしてみれば合理的といえる組み合わせであった。
即ち、遺才という武器を持つ者と持たざる者。
現状、劣悪な環境でも死に辛い者と、凡人と変わらぬ者の振り分けだ。
恐らくはボルトとしても隊員の命を無駄に散らさない様にと考え抜いた末の判断なのだろう。

(やっぱ、俺達は餌かよ……ふざけやがって……っ)

だがその決断は、遊撃課という部隊そのものに猜疑を抱いている今のフィンに対しては、
隊長であるボルトに対する嫌悪感が増すという効果しか与えられなかった。
ボルトが悪いのではないという事はフィンとて把握している。
だが、それでも死へ向かう任務へゴーサインを出すのはボルトなのだ。
胸の奥に湧き上がる黒く理不尽な怒りを解き放たない為に、
フィンは拳を握り締め痛いほどに歯を食いしばり、横目でボルトを睨み付ける事しかできなかった。


202 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/11/20(日) 00:32:48.18 0
説明終了。
各々のチームが各々の目的に向かい作戦の調整にかかろうとした時、
再びフィンの思考に一つの声が割り込んだ。

>『はーい、了解しましたー!それじゃアルフートさん、ハンプティさん、スイさん、よろしくお願いしますねっ!』
>『相手は帝国が誇った、最強の暗殺者です。私達を一人ずつ、何の痕跡も残さずに始末していくくらいは容易いでしょう


>鬼が全員いなくなれば、隠れんぼで見つかる事は決してありません。最後に残るのは本物の「鬼」だけです。
>皆さん、くれぐれも気をつけて下さいよ。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているんです』

『……ああ、よろしくなマテリア。まあ、敵に関しては心配いらねぇぜ
 何かあれば俺が、命に変えてでも皆が逃げる時間くらいは稼いでみせる
 だから、マテリアも困った事があれば頼ってくれ
 さっきの話、まるで自分は例外だって言ってるみたいに聞こえたぜ?」

声の主はマテリア・ヴィッセン。
快活な挨拶と真剣な会話が綯交ぜになったその声に、
フィンは罅割れ壊れかけた英雄の「仮面」を無理矢理に被りなおす。
それは、仲間達の心を少しでも安心させる為の行為だ。
先ほどのマテリアの言葉は、生存確率を上げる為に確かに重要な情報ではある。
だが、鬼と呼ばれる程の使い手ならば、死を前にした緊張を容易く見抜くかも知れない。
フィンは、軽口を叩くことでその確率を少しでも下げようとした――――のではなく、
これは深く考えず何時も通りの発言をしただけである。
ナイーブになっても、長年繰り返してきた思考ルーチンは、そうそう簡単に変わるものではないのだ。

『えー……俺、女の買い物って長いから嫌いなんだよなぁ。
 というか、こういう場合って何度も変装する方が不自然じゃねぇか?
 それよりはまず、酒場で飯を食って腹ごしらえしようぜ
 んでもって、世間話ついでに情報を集めればいいと、俺は思う
 何より……ここの名物の飯が食いたいんだっ!!スイとファミアもそう思うだろ!?』

そう、変わらない。だからこそフィンは、マテリアの買い物を望む意見に反対意見を出す。
無理矢理に好意的に考えれば、「不自然な行動を避ける」という事なのだろうが、
これも直感的な理由で、欲求に素直な発言であった。
まあ、普通に考えればこの主張が受諾される可能性というのはそう高くは無いだろう。

と、そんなやり取りの最中別チームであるノイファからの念話が送られてくる

>『フィンさん視線をこちらへ。ええ、入り口付近です。
>ここまで来るとちょっとした運命を感じてしまうのですけど、報告書で上げた方達が確認できました。
>ダンブルウィード、ウルタールの両方で接触したクローディア=バルケ=メニアーチャさんの一行です。』

(……おおっ!? なんか、すげぇ偶然だな!)

伝えられた内容と視界から飛び込んできた情報にに、思わずフィンも驚愕の声を出しかけた。
公園の入口をなにやら楽しげな様子で歩く一団は、紛れも無くクローディア達である。
世間は狭いというが、ここまで出会えばもはやこれは運命と呼ぶべき何かなのかもしれない。
だが、現状においてはいくら知り合いでも……知り合いだからこそ、声を掛けるのは憚られる。

『危険な事に、友達を巻き込みたくねぇ……けど、安全性を増すには
 クローディア達に色々手伝って貰った方がいいんだよなぁ。
 よしっ!俺は監視に賛成派に回るぜっ!!』

格闘戦を始めたダニーと見知らぬ少年を眺め、フィンはそう結論付けた。
数奇な運命と共に、歯車が動き始める。

【フィン→そんな事より酒場で飯食おうぜっ!クローディア監視派に回る】

203 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/11/20(日) 10:56:14.51 0
報告を終えてすぐにボルトから離れる。
そして直後に念信が入った。

>『チームを2つに分ける。アルフート、パンプティ、ヴィッセン、スイは裕福層を中心に。
 アレリイ、ヴィッセン、ガルブレイズ、スティレットは、朝通りのスラムを中心とした貧民層をあたれ』
(餌…か。まぁ妥当な考え方だな)

ぼう、と空を眺めながらそう思う。
何にしても、上はいつもこうだ。自分の命さえ護れれば、それでいい。
ちらりと視線を流せば、厳しい表情のフィンが遠目に見えた。

(…?)

僅かに疑問に思うが、マテリアの勢いの良い通信に思考を持って行かれた。

>『はーい、了解しましたー!それじゃアルフートさん、ハンプティさん、スイさん、よろしくお願いしますねっ!』
『此方こそよろしく頼む』

そして、マテリアが真剣な声で、話しはじめた。

>『今回の任務の厄介な点です。課長殿は「嗅ぎ回っているとアピールする事で牽制出来る」と申されました。
 ですが忘れてはいけないのは、私達はあくまで「バレない」ように「バレる」必要があるという事です。
 つまり私達は大っぴらにアヴェンジャーを探し回るほど、牽制としては効果的ですが、同時に相手に「始末される」可能性が増すんですから
「(頭こんがらがるな…)」

難しい話は総じて苦手である。
一応は頭に入れておきながら、多分途中で忘れるだろうな…と頭を僅かに抱えた。
僅かな間があった後、再びマテリアから念信が入る。

>『とりあえず、お買い物に行きましょうよ!私、お洋服が買いたいんですよね!』
>『えー……俺、女の買い物って長いから嫌いなんだよなぁ。
 というか、こういう場合って何度も変装する方が不自然じゃねぇか?
 それよりはまず、酒場で飯を食って腹ごしらえしようぜ
 んでもって、世間話ついでに情報を集めればいいと、俺は思う
 何より……ここの名物の飯が食いたいんだっ!!スイとファミアもそう思うだろ!?』
『…どっちでも良い。作戦に有利なら、何だって大丈夫だろう。あー…金は大事にしろよ…。
 取り敢えず、明るいうちに宿探しできれば良いだろう。俺の意見はそんなところだ』

本当にこのチーム、大丈夫なのだろうかと不安に思いながら、ファミアに念信を飛ばした。

『俺は命令に従う。どうする?』

簡潔な内容だが、ファミアはボルトにチームを任された者だ。
命令とあれば、自分の意志を殺し行動するという意味を含ませファミアに指示を仰いだ。

204 :クローディア ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/22(火) 01:28:41.02 0
>「レエイ家家長、ロン・レエイ――オしてマイる」

ロンは女性(曲がりなりにも)との立ち会いを渋っていたが、やがて自分の中で納得をつけたのか構えを上げた。
本業は棒術だが、徒手空拳も修めているというロンの実力。クローディアは刮目して戦端を見守った。

>「ほっ、はっ、ていッ――ヤァッ!」

大砲のように高く飛び上がり、拳と蹴りの豪雨を放つ!
対するダニーは豪腕をクロスさせ、まるで大木のように鋭い打撃を受け止め、反動として返却する。
跳ね返ってきた慣性にロンは一際高く勝ち上げられるが、彼もさる者、空中で猫のように身を反転して着地する。

「見栄え重視とは言えなんて軽快で俊敏な挙動!重力の概念がないの!?」

もはや"空中戦"とも形容すべき瞬間の攻防に、クローディアは舌鼓を打って固唾を呑む。
ロンは大道芸人の傍に着地し、芸の邪魔をしたことを謝りつつも――そこから鉄線を掠めとってアクロバティックに戻ってきた。
スタイリッシュ帰還である。公園に在する裕福な親子たちから快哉の声が挙がる。

「社長」

声をかけられて、ナーゼムがいつの間にか屋台から戻ってきているのに振り向いた。
差し出されたホットドッグをご苦労様と言って受け取り、ロンとダニーから目を離さずに齧り付く。

「派手にやっていますね」
「結構。ふたりともまだ本気の一厘も出してないだろうけど、見目麗しけりゃ重畳だわ!もうオーディエンスは釘付けよ!」

実際、もはやこの広い公園の中で彼らに注目しない眼はなく。
老若男女、富める者も貧しき者もみな一様に耳目を二人の武人へと固定している。
そこに暴力への恐怖や忌避は一切なく、ただ『超カッコイイ』という純粋な羨望と、視覚的な面白さを楽しんでいた。

クローディアは齧ったホットドッグに物足りなさを感じて、ポケットから出した銅貨を弾いた。
たちまちその場に小袋入りのマスタードが出現し、ホットドッグを黄色に彩色していく。
ナーゼムはそれを見て鼻をスンと鳴らした。

「……それで、"そっち"の目はどうなの?」

クローディアはあくまで、視線を社員二名から外さずに、隣の腹心へ問う。
買うことと召喚することがイコールである彼女にとって、使いっ走りという命令はまるきり無駄のものだ。
だからいま、ナーゼムを屋台までパシらせたのには別の目的と意味がある。

「――最初に感じた通りです。我々を除いて七人……八人ほど、武術を修めた者の気配がします。
 特にあのシスター、大道芸人、バトラーと……あのよくわからない格好した少女。このあたりがとりわけクサいですね」

クローディアは、ふぅん、と顎に指先を這わせた。彼女がものを考えるときによくやる仕草だ。
最初にこの公園に入った瞬間、ナーゼムから小さく警告を受けた。このタニングラードにあって、武の気配を漂わす者の存在。
もちろん旅人であれば何らかの自衛術は習得しているだろうが、ナーゼムの鼻に引っかかるのは"必要以上"に極めし者たち。。
警戒しておいて損はないだろう。命を狙われる覚えはなかったが、戦争を予報する彼女にとって武人の存在は把握しておきたいものだ。

その中に複数人、特にシスターの顔を彼女は忘れたくても忘れられないはずだが――
商人の宿命として、あまり視力の良いほうではないクローディアは遠距離でカソックを纏う姿を判別できなかった。
それは幸いか、不幸か……。

>「ちょっとヨりミチしてしまった。さあ、ツヅきだ!」

両者の打撃戦にも火が入り、観客の熱狂もますますと盛り上がっていく。
そろそろ仕上げだと、クローディアは判断した。

「ダニー、ロン! 勝った方に特別ボーナスをあげるわ! あたしのおごりでご当地グルメ制覇するわよーーっ!!」


【観客の熱狂にご満悦。遊撃課たちの気配に気付くも会敵ならず。社員たちに仕上げのムチを入れる →決着目標1ターン】

205 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/11/23(水) 03:44:16.17 0
>>189>>192>>202>>203>>204
フィンと二人、「大道芸」を眺めていると、耳飾りから課長の声がしました。
そのまま視線は動かさず潜入後の行動についてのブリーフィングを受けます。
と言っても大方針が示されただけで、個々の局面に対しては課員の裁量に依るようです。

続いて組分けの通達。
先のウルタール湖での任務の時に分隊を組んだ課員は一人もおらず、
うまくやれるかなと少し不安に感じましたが、そんなものとは比べようもなく不安になる事実が告げられました。

>『チーム富民は、アルフート、お前が指揮をとれ』
>『アルフート、お前が指揮をとれ』
>『お前が指揮をとれ』
(正解じゃない、課長はどうしたのかな?)
ファミアはまず病院を探すことに決めました。課長を一刻も早く入院させなければなりません。
心と脳のどちらを病んだのかはわかりませんが、このままでは間違いなく任務に支障をきたします。
そもそもこんな小娘に顎でこき使われることを他の課員が了承するかどうか(べつにことさら理不尽な扱いをするつもりはないのですが)。

>『はーい、了解しましたー!それじゃアルフートさん、ハンプティさん、スイさん、よろしくお願いしますねっ!』
少なくともマテリアはあっさり了承しました。
(……私の知らないところで何かが動いている!?)
なにか大きな陰謀の匂いをファミアは嗅ぎとりました。言うまでもなく気のせいです。

>『ところで動き出す前に、一つ皆さんに「知って」おいて欲しい事が一つあります』
明るかった声の調子が急変して、そして伝えられた言葉は、ファミアの心に不安を一つ上積みしてくれました。
――踏み込みすぎれば消される。
至極当たり前の話です。です、が。当たり前だからって怖くないわけではありません。
>『皆さん、くれぐれも気をつけて下さいよ。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているんです』
いっそ見なければ見られることもないのではないかな、などと考えてしまいました。

>「とは言え……引っかかる事が一つあるんですよね」
同じくマテリアの声ですが、少し響きが違いました。
茶でもすするような音のあとに続いた、アヴェンジャーの行動に疑問を抱くその声に答える術を、ファミアは持ち合わせていませんでした

206 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/11/23(水) 04:03:42.51 0
>『さて……そこでチーム富民の皆さんに提案なんですけど とりあえず、お買い物に行きましょうよ!私、お洋服が買いたいんですよね!』
>『えー……俺、女の買い物って長いから嫌いなんだよなぁ』
>『俺は命令に従う。どうする?』
その後の念信でのやり取りに、ファミアは頭を抱えました。
拠点確保、情報収集、クローディアたちの監視、アヴェンジャーの真意。
ひたすら考えることばかりが増えていきます。後回しでもいいことまで抱え込んでいますが。

とはいえ、唸ってばかりもいられません。まずはマテリアとスイへ向けて念信を送ります。
『うー、えーと……まず我々はチームですが、常に全員で行動する必要はないと思います。
 「役回り」上、私とハンプティさんが離れてしまうのは不自然ですので、お二人で先に拠点を確保してください』
それから条件に細々とした注文をつけました。
それぞれ別の宿の、前室付きの部屋を取ること。通りに面した窓があること。ただし、角部屋は避けること。

何かあったときに逃げやすく一方で進入路は限定できる場所、ということです。
余計なお金がかかりますが、自分たちの懐は痛みゃしません。
「鬼」相手にどれだけ効果があるかは知れたものではありませんが、他のトラブルに巻き込まれる可能性だってあります。
臆病でいるに越したことはないでしょう。

『その後、一度合流。スイさんは終わり次第、ヴィッセンさんは少しお買い物をしてからで結構です。場所は……あそこの酒場でどうでしょう』
公園内から見える、結構な賑わいを見せている酒場を眺めながらファミアは念信を続けました。
合流のタイミングをずらすのも出入りが多い場所を選ぶのも、「臆病さ」の一環です。

『それと病院を、できれば何軒か確認しておいてください』
隙があれば課長に診察を受けてもらうことも視野に入れつつ、ファミアは最後の指示を送りました。
もちろん事あらば自分たちがお世話になる可能性もあります。

『私達は、あの人達と接触します』
次いで、クローディア一行へ向けて目線を送りながらフィンへ念信を送ります。
『あの立会いが終わった後に、感服したとか適当な口実で話しかけて酒場へ誘って、
 向こうがどこを拠点に活動するつもりかだけでも聞いておきましょう。
出来れば「面識がない」と向こうにも装ってもらいたいところですが……』

協力してもらうにせよ、巻き込むのを避けるにせよ、「どこにいるのか」が分かるほうが楽です。
そしてそれをするタイミングは、街に入った直後である今が最適といえました。
少人数での行動も関係ない人間との接触も、アヴェンジャーがこちらの存在を意識し始めたあとではリスクが跳ね上がってしまうからです。
臆病でいる一方、踏み込むところは踏み込んでおかないと、かえって危険が増すものです。

『それでは、行動を開始しましょう』
課長に倣って、拍手を一つ。ミトンをはめたままの手はぽすっと気の抜けた音を発しました。
そもそも行動開始といっても、実際「動く」のは今のところ二人だけなのですが。


【とりあえず見物】

207 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/11/24(木) 03:15:14.28 0
>『では、こちらのチームの皆様、よろしくお願いいたします。スティレットさん以外は"また"ということになりますけども――』

チーム貧民のリーダーであるノイファが、凛として涼やかな声を念信越しに通す。
実のところスティレットはここに至るまで一度も彼女と任務を共にすることがなかったので、

(課長に一目おかれ、職場の実質的な権力を握る年長の女性……)

『つまり、お局さんでありますねっ!』

(こちらこそよろしくおねがいしますであります!)

頭の中で合点がいったのと挨拶のタイミングが被り、念信と内心のつぶやきを間違えた。
幸いにもセフィリアやウィレムとも同じタイミングでも発言だったために両者の声にかき消されて届いていなければいいが、
もしも聞こえていたとしたら――それはスティレットにとってあまりにも不幸な出来事であった!

>『――まずはボルト隊長と、先ほどマテリアさんがおっしゃったことを各自肝に命じて下さい。

話は進んでいく。ノイファから通達されるのは、この任務における最も根本的な注意事実。
ユーディ=アヴェンジャーに対する牽制を、『牽制だと臭わせずに』行う、という諜報活動の基礎の基礎。

(あうあう)

スティレットは十のうち一も理解できていなかった。
サイリョウとかルフとかコクシムソウとか難しい言葉は分からない。どういう話になってるのかもわからない。
とにかく捜す相手がものすごく強くてものすごくヤバい奴ということだけは、課長やノイファの真に迫る口調から伝わった。
意味不明の(少なくとも彼女にとって)緊張感が課員たちに蔓延しているのは、脳天気娘にとって結構ストレスだった。

>『と、こんな所でしょうか。取り合えず今日のところは街の把握を兼ねて、表通りを見て回りましょうか。
 宿の手配もそのついでに、何処か寄っておいた方が良い場所とかありますか?』

『あのえと、お祭――』

>「ぷはっ!?けほっ――」

「あうっ!?」

ノイファの打診に挙手して意見を出そうとした出鼻をノイファ自身の咳に挫かれ、小動物のように硬直する。
館崩しが背中にないのが、今ほど落ち着かない瞬間はなかった。
聞くところによれば、ウルタールやダンブルウィードで競り合った企業(?)とまたここで再会したらしい。
スティレットはそのどちらとも刃を交えることがなかったので、ただただ自分以外みんな知り合いなアウェイ感を感じていた。

>『――他にも労働力の購入。人の移動すら可能ですから、いざというときの退路の確保も可能です。……監視対象に含めますか?』
>『 よしっ!俺は監視に賛成派に回るぜっ!!』

チーム富民のほうでクローディア一行の監視を引き受けてくれるようだった。
話についていけなくて助けを求めるように課長を見るが、課長は首を縦に振るだけで何について肯定しているのかさっぱりわからない。

『お、お祭りが夕方から始まるのでありますよね?アヴェンジャーどのも、きっと賑やかな音と美味しい匂いにつられて、
 出てくるんじゃないかと思うのであります。ですから、泊まるところ探しのついでにお祭りいってみたいであります!!
 思いっきり楽しそうに遊んで、この世のあらゆる贅の限りを尽くして、仲間に入りたくなるようなふいんきを!』

職業意識ゼロの発想が、念信越しにチームメイト達へ木霊した。


【翻訳→天岩戸作戦。夜通りの祭りで目立って、ユーディに意識させたらどうだろう?】

208 :名無しになりきれ:2011/11/25(金) 00:55:05.99 0
こりゃ銃殺刑がくるな

アホの岩戸作戦

209 :名無しになりきれ:2011/11/25(金) 07:22:49.80 0
ユーディと天の岩戸が銃撃戦を開始










志望者10名

210 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/11/25(金) 22:06:06.34 0
>『えー……俺、女の買い物って長いから嫌いなんだよなぁ。
 というか、こういう場合って何度も変装する方が不自然じゃねぇか?

『んー……確かに、何度も変装しているなんてバレてしまったら、不自然どころか完全にアウトですからねー。
 あい分かりました!じゃあ変装を重ねた方が無難な行動は、私が引き受ける事にします!
 ただでさえ、アルフートさんとハンプティさんは一蓮托生の運命共同体、危ない事は控えた方がいいですしね!』

ファミアとフィンは役回りの性質上、どちらかが尻尾を掴まれれば、もう一方の正体も芋蔓式に露呈する。
どんな行動を取るにも常に、自分やスイよりも大きなリスクを背負う羽目になる。
ならば出来る限り、危険度の高い行動は自分とスイが引き受けるべきだとマテリアは判断した。

『まぁ私の心配ならご無用ですよ!私だけは例外と言うのも、あながち間違いじゃありません!
 なにせ私は超有能な情報通信兵です!救った味方は数知れず!潜った死線も両手の指じゃ追いつきません!
 例え相手が『鬼』だろうとも、そう簡単に見つかるつもりはありませんよっ!』

自信満々の口調で宣言したが、それは決して冗談や妄言のたぐいではない。
遺才を始めとした情報通信兵としての技術、母親譲りの変装術、マテリアは諜報活動に適した技能を多々保有している。
『遁鬼』に対して強い警戒心を抱いている一方で、自分なら鬼を相手取っても生き延びられるという強い自信があった。
なにやら物凄い勢いで色々なフラグを立てているが、果たしてマテリアは自覚しているのか、いないのか。

>『フィンさん視線をこちらへ。ええ、入り口付近です。
>ここまで来るとちょっとした運命を感じてしまうのですけど、報告書で上げた方達が確認できました。
>ダンブルウィード、ウルタールの両方で接触したクローディア=バルケ=メニアーチャさんの一行です。』

聞き覚え、と言うより見覚えのある名前だ。
遊撃課に配属されるに当たって、読み漁った資料の中に出てきていた。

>3つ、監視という性質上、ヴィッセンさんを要するアルフートさんのチームに任せるべきだと存じ上げます

『私ですか?んー、色々やる事があるでしょうし、常時「監視」するのは難しいですねー。
 少数精鋭ゆえの難点と言いますか。でもまあ……』

蜜湯に暫く左手を添えてから、冷えた耳を温める。
その動作に紛れさせて、遺才を発動。

『彼らの足音と心音を覚えました。「聞き耳を立てる」くらいなら、いつでも出来ますよ』

マテリアの『超聴力』ならば、タニングラードのどこにいても任意の音を捉える事が出来るだろう。
同様にマテリアは他の課員の足音と心音も記憶している。
常にバックアップ可能な体勢を保っておくのは、部隊の生存率を高める為に必要不可欠だ。

>『うー、えーと……まず我々はチームですが、常に全員で行動する必要はないと思います。
 「役回り」上、私とハンプティさんが離れてしまうのは不自然ですので、お二人で先に拠点を確保してください』

その後、リーダーに就任したファミアから指令が出される。
差し当たってすべき事は宿の確保だけ。
その後は買い物を終えてからでいいので酒場に集合、との事だった。

>『はいはーい!了解しましたっ!貴族のお嬢様ですし、ちょっとお高いところにしておきますね!』

>『それと病院を、できれば何軒か確認しておいてください』

『……病院、ですか?ふーむ、アヴェンジャーに持病があるなんて噂は……聞いた事がありませんね。
 潜伏先としても、健康な人間が潜り込むにはいまいちなような……
 っと、いけませんね。考えすぎるのは私の悪い癖でして、すみません!病院の件も了解しました!』

ファミアの内心など知る由もないマテリアは、至極真面目な答えを返す。

211 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/11/25(金) 22:09:15.24 0
>『私達は、あの人達と接触します』
>出来れば「面識がない」と向こうにも装ってもらいたいところですが……』

『おや、そういう事なら……』

再び蜜湯を口へ。音声自在の遺才『魔笛』を発動する――前に、一度思考に意識を沈めた。
一つ、最悪の可能性を予想したのだ。「クローディアがアヴェンジャーの協力者である」可能性を。
『購入』の遺才は遊撃課にとって大きな武器になり得るが、それによって得られるメリットはアヴェンジャーとて同等だ。
クローディアが金銭や脅迫を受けてアヴェンジャーに手を貸している可能性は、ないとは言い切れない。
そもそも彼女が遊撃課と鉢合わせたのはこれで三度目。偶然で切り捨てるには少し出来過ぎてはいないだろうか。
もしもこの想像が真実だとしたら、ここで彼女に接触するのは致命的だ。
遊撃課が動いていると知られれば、それだけで課員全員の危険度は増す。
特にクローディアと面識のあるノイファは殊更に。
クローディアと直接接触するファミアとフィンに至っては、アヴェンジャーにとって確実に殺害可能な存在となってしまう。

――とは言え、仮にアヴェンジャーがクローディアを協力者にしていた場合、それは自分に繋がり得る線を一本増やす事と同義だ。
そもそも『絶影』の遺才ならば、『購入』の遺才がなくとも武器の調達や侵入路、逃走経路の確保には事欠かない。
またアヴェンジャーの目的がタニングラードへの亡命ならば尚更、荒事へ発展しかねない線を作りはしないだろう。

クローディアにしても、明らかな違法行為に加担して金を稼ぐのならば、先日得たメニアーチャの財宝を横取りした方が遥かにてっとり早い。
そう考えると、彼女が自発的にアヴェンジャーに協力する理由はない。
残るは脅迫を受けて無理矢理従わされている可能性だが、遊撃課の実力を知る彼女なら、その場合は秘かに助けを求めてくるだろう。
そうなれば逆に儲けものだ。

『そういう事なら私の出番ですね!どんな予備知識だって、運んでみせますよーっ!』

結局、マテリアはクローディアに接触を図っても問題はないだろうと判断した。
今度こそ遺才を発動して声を飛ばす。

「そのままの状態で聞いて下さい。クローディア・バルケ・メニアーチャさん」

無数に拡散、反響させた声をクローディアの耳元で束ねる。

「わたくし、遊撃課に所属するマテリア・ヴィッセンと申します。
 ここには、とある極秘任務を授かって来ているのですが……どうやら貴方と遊撃課には、深い縁があるようですね。
 それはさておき……実は貴方に少し協力を願いたいのです。詳しい説明は、今からうちの課員が二人、貴方に接触を図りますので、そちらがします。
 一人は貴方と面識のある方ですが、どうか初対面を装って頂けますでしょうか」

声を飛ばすのはクローディアのみに限った。
新顔のマテリアにはクローディアのお供が誰なのか、確信が持てない。
誤って一般人に声を届けてしまっては大事だ。
超聴力で会話を盗み聞きして関係性を明らかにしてもいいが、時間がかかる上に不確かだ。

「お供の方にも情報伝達の程、どうかよろしくお願いします」

そう伝えると、今度はファミアとフィンに念信を飛ばす。

『はい、初対面を装って欲しい旨、伝えておきましたよー!それでは、私はそろそろ宿の確保とお買い物に行ってきますねっ!』

蜜湯を一息に飲み干すと、腰掛けていた木製の長椅子から勢いよく立ち上がる。
車輪に詰まっていた雪が溶けて幾分引きやすくなったトランクを掴んで、歩き出した。
まずは宿の確保だ。

『あ、そうそう、スイさん。アルフートさん達の宿は私が取っておきますね。
 それなりに高級な宿を取るつもりですから、万が一後で探られても問題ないようにしたいですし』

変装術と遺才を併用すれば、部屋を取った人間と実際泊まっている人間が違うなどと露呈する事もなくなる。
こと今回の任務では、用心に用心を重ねて損はない。
もっとも用心し過ぎてかえってボロを出しては本末転倒だが、それはマテリアも重々承知している。
そんなお粗末な失敗をする事はないだろう。

212 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/11/25(金) 22:12:40.71 0
ファミアとフィン、自分の宿の確保が終わると、次は買い物だ。

「ん〜……あ!この服可愛い〜!これもクールな感じで素敵だしぃ……うーん、悩んじゃうなぁ〜。
 どっちにしようかなぁ〜……。よし決めた!どっちも買っちゃえばいいんだ!私ってあったまい〜!」

頭の緩い娼婦の役回りをいい事に、様々な服を買い込んだ。
軍属だった為に私服をあまり持っていないので、これも任務に必要な物資と言えなくもない筈だ、と内心で言い訳をする。
さておき私服以外の、変装用の衣服も忘れずに購入した。
男物、女物、地味なもの、派手なもの、ゴロツキ風、貴族風、公務員風、などなど。
アヴェンジャーに『自分を探っている者がいる』と知られた後も、
『それが一体どんな人物像なのか』を決して知られないようにする為の下準備だ。

「うーん、とりあえずこれくらいでいいかなぁ〜。それじゃ、いい具合に暗くなってきたし……お楽しみの時間だ〜!お酒お酒〜!」

半分素の混じったはしゃぎ方を披露しながら、マテリアは酒場へと向かった。

【クローディアに予備知識伝達】【アルフートとフィン、自分の宿を確保】
【お買い物を済ませて酒場へ】


213 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/11/26(土) 21:06:35.89 0
片やノーヒット、片やノーダメージ、状況は一件して膠着状態に陥ったように見えた。
双方共に一旦距離をとり息を整える。観客用に間を設ける為である。
加減がされているため、ダニーはダメージから早々に復帰し、
ロンはと言えば準備運動を済ませたような顔をしている。

今や別の意味で温まった自然公園は、普段にはない賑わいを見せていた。
問題はここからだとダニーは考える。
この盛り上がりに対して相応しい締めをどう用意するか。

興行は既に大詰めを迎えている、ここでダニーが力づくで押し勝ったとしても、
リアリティこそ有れど意外性はなく、逆にロンが勝ったとしても、
相当上手く決められなければヤラセっぽくなり白けてしまうだろう。

選択肢は三つ、一つはロンに少し本気を出してもらいラッシュを決めさせる。
息が上がり切る前に彼がこちらを押し込めば良し。そこまで行かずとも、
耐え切ったという形でこちらが決めればイメージを損なうこともない。

二つ、ダニーが速度を上げた所にロンからカウンターを頂く。
意外性を持たせつつこちらが優勢となったところでモロに反撃を食らうのだ。
ちょっと危険だが、カウンターの威力に説得力が出るので劇的といえば劇的である。

三つ、衝撃の結末を用意する。
先の二つに依らない結末を作る。

即興で思いついたこれらはしかし、それぞれに欠点を抱えていた。
一つ目はロンが了承するか否かということだ。実戦ではないとは言え、
ここで本気を出せと言っても流石に譲るまい、たぶん。

二つ目はそれ以前に見栄えが良ろしくない。仮に観客が信じても、
残虐ファイト相当の光景、所謂「騒然と」なってはいけないのである。

三つ目、つまるところ、この光景からあっと言うような、ノックアウト以外の
終わり方をするということで、つまりどういうことかが分からない。

解決策を見いだせぬまま時間は流れ、ダニーは已むを得ず半歩踏み出す。
睨み合いから一転、今度は攻守を逆転させて試合を再開する。

214 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/11/26(土) 21:07:53.26 0
ダニーは体を小さく畳むと小刻みに拳を放つ。段々外野も慣れてきたのか
口々に感想を言い始める。やれ手打ちになっただの、やれ頭を使い出しただの。
対するロンは足を使って攻撃の機会そのものを調整し始める。

お手本のような切り替えに思わずダニーも感心してしまう。
傍目にとても見やすく、姿を追う度に今度は背景の公園がくるくると回る。

「・・・・・・・・・」
そろそろ決めようぜ、と小声で打ち合わせる。仕掛けるならここしかない。
後はロンの攻撃に合わせるだけだったが、その為の切っ掛けが見つからない。
何かないかと模索している最中、天啓とも言える声は突如響いた。

>「ダニー、ロン! 勝った方に特別ボーナスをあげるわ! あたしのおごりでご当地グルメ制覇するわよーーっ!!」
来た、とダニーは思った。

傍から見た自分のイメージを想像し、より高速で、しかしいい加減に手足を振り回す。
釣られましたよと言わんばかりの動きによって露骨に被弾数が増えていく。

そしてついに待ちに待った一撃は訪れた。ロンが下から真っ直ぐに伸ばしてくる靴底に、
敢えて自分から、しかし周りにはなるべくそうは見えないように飛び込む。
綺麗に入ってしまったので、一瞬目先が暗転して平衡感覚が揺れるが構わず続行する。
狙うのは選択肢の三つ目!

籠の下に餌とつっかえ棒を置いた簡素な罠のように、
ダニーはそのままゆっくりと前のめりに倒れる。先ごろ蹴りを決めて動きを止めた少年の、
その丁度真上の辺りに崩れ落ち、直後にずぅん、という音と共に周囲からどよめきの声が上がる。

ダニーは文字通り自分の下敷きになったロンを押さえ込みながら、
天を指さすと、大きな声でカウントを数え出す。一つ、二つ、三つと・・・!
最後には何人かの数える声が混じっていて地味に嬉しい。

ぎこちない動きで立ち上がると、周りに手を振り、次いでロンへと手を差し伸べてる。
まばらな拍手がそのうち纏まって大きくなっていく聞き、
どうやら失敗はしなかったようだと彼女は内心で胸を撫で下ろしながら、社長へ向き直った。

【倒れたことで下敷き→ノックダウン】

215 :名無しになりきれ:2011/11/26(土) 22:59:36.41 0
死んだワンワンが





いきかえるぅううううううううう!!!

216 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/11/27(日) 22:53:22.93 0
>『うー、えーと……まず我々はチームですが、常に全員で行動する必要はないと思います。
>「役回り」上、私とハンプティさんが離れてしまうのは不自然ですので、お二人で先に拠点を確保してください』

>『あの立会いが終わった後に、感服したとか適当な口実で話しかけて酒場へ誘って、
>向こうがどこを拠点に活動するつもりかだけでも聞いておきましょう。
>出来れば「面識がない」と向こうにも装ってもらいたいところですが……』

『了解したぜ……つっても、俺そういう演技とか苦手なんだよなぁ』

唸る様にして思い悩んだかと思えば、その直後にファミアはチームの面々に指示を飛ばしていく。
その指示内容は安全を確保する事を前提としたものであり、勇猛であるとはいえないが、
人材という財を損ねない事を求められる指揮官として、優秀なものである事は確かであった。
フィンはそんなファミアの言葉に特に反論する様子も無く、
逆に関心したかの様に目を少しだけ見開くと、頷き同意の意を見せた。

また、先に奇しくもフィンと意見を違えたマテリアも、ファミアの意見やフィン自身に
別段不満は出さなかった。普通は対立する意見を出されればその相手に悪印象を覚えるものだが、
マテリアは逆にそれを許容する懐の大きさを見せ、抑えきれぬ自信を孕んだ言葉を念信により伝えてきた。
それはとても頼もしく力強い言葉であったが……その言葉を聴いたフィンは、
魚の小骨が喉に引っかかったかのような嫌な感覚を覚え、首をかしげる。

『んー……。なんか、今マテリアが言った言葉、どっかで聞いた事ある様な気がするんだよなぁ。
 ……確か、何年か前に読んだ英雄譚で、正体不明の敵に攻撃を仕掛けたエリート騎士が……』

首をかしげるが、何年も前に読んだ本の事など完全に覚えているわけも無い。
やがて思い出す事を諦めたのか、人差し指で頬を掻き……

>『はい、初対面を装って欲しい旨、伝えておきましたよー!それでは、私はそろそろ宿の確保とお買い物に行ってきますねっ!』

『って、すげーなマテリア! ははっ、了解したぜ!
 お前のお膳立て、無駄にはしねぇ!俺も全力で演技しながらクローディア達に接触してみせるぜっ!!』

直後に、マテリアが行った橋渡しを聞いたフィンは、驚きを全身で表現しかけ、
ハッとしたかの様に冷静を装い、言葉だけ快活にそう言うと一度ファミアの方に視線を向ける。
思い浮かべるのは、自身が幼い頃に家に仕えていたバトラーの言動。

「あー、ごほん……では、僭越ながらお嬢様の意を彼の者達に伝えさせて頂きます」

そう言うと背筋を「しゃん」と伸ばし、普通のバトラー以上に
バトラー然とした態度でクローディア達に近づいていく。
……こうして見ると、所何時ものフィンに戻ったかの様に見えるが、所詮は空元気。
それでもフィンは、いつもを装い状況を開始する。

『おうっ、祭りが始まったら色々食いまくろうぜ!』

ちなみに、スティレットの職業意識の無い台詞への返事を
忘れなかったのは、フィンが素で祭り等を好むからである。

―――――

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