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【TRPGの】ブーン系TRPGその7【ようです】

1 :名無しになりきれ:2011/01/24(月) 10:53:38 0
はじめに

このスレッドはブーン系とTRPSのコラボを目的とした合作企画であります。
詳しくはhttp://jbbs.livedoor.jp/internet/7394/
をご覧下さい。

一応のコンセプトである『登場人物はAAをモチーフに』はどんなAAでも問題ありません。
でないとブーン系に疎い人はキツい物があるでしょうから。

登場人物は数多の平行世界(魔法世界やSF世界等)から現代に呼び寄せられた。
或いは現代人である。と言う設定になっております。

なので舞台は現代。そしてあまり範囲を広げすぎても絡み辛いと言う事から、
ひとまずは架空の大都市としますです。

さてさて、それでは楽しんでいきましょー。




参加用テンプレ

名前:
職業:
元の世界:
性別:
年齢:2
身長:
体重:
性格:
外見:
特殊能力:
備考:

2 :訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY:2011/01/24(月) 11:04:49 0
どこか分からないが暗い部屋。
分からない? 否、ここは私の部屋だ。
しかし、しかし私は異世界に居たのでは無かったか?
……夢?

「ほら、食え。琳樹が昔好きだと言っていた肉だぞ?」

「美味しいか?
 いや不味いだろうな、あの玲奈とかいうクソ女の肉だから」

くぅ?
夢、夢を見ている。
そうだ、私は夢を見ているのか。
その肉は美味かった。本当に美味かったのだろうか。本当に私はあの肉を食べたのか。曖昧。食べたのならば鮮明に覚えている筈ではないのか。何故。私は食べてはいないのか。
私では無いとすれば、あの臆病者か。私を創った臆病者。今更出てきて何のつもりだ。くぅをキチガイ扱いするなんて。臆病者。

「そうだねぇ、出来れば私は君の肉を食べたいよぉ?」

「そうか、じゃあ、今から食べさせてやろう」

「ああ、愛してる」

嗚呼、思い出した。そうか私は肉を食べた。人の肉をだ。玲奈だとか言う、臆病者の惚れていた女の肉ではない。私の、私だけの宮流。この後、くぅはその場で腹を裂いたのだ。
ろくに調理も出来ない私は生のまま食らった。というより、生の方がくぅを感じられる気がした。狂っているだろうか。少なくとも好きだった女の肉を吐き出して私を創り出した臆病者よりはマシだ。愛しているなら骨まで食らってしまえばいい。それが出来ないのなら死ね。

「美味しいなぁ、宮流は」

もう口調が違うとか違わないとか、どうだっていい。
それに元々こちらの方が私らしいのだった。
訛りがあれば、天然を装えば。こんなおっさんに何が出来ると油断するだろう。
そう、思い出した今この瞬間からは全てが演技なのだから。
狐の様に、狡猾に。

3 :訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY:2011/01/24(月) 11:06:41 0
死んでいた様に眠っていた彼は、ゾンビの様にのそりと起き上がる。
ゾンビが本当にのそりと起き上がるのかどうかは各自が本物のゾンビ娘に聞けばいいのではないだろうか。

「スレ読んでなかったから状況がさっぱどわがんねーべ」

「やめなさいリンキ」

「あと久々すぎてモノローグの書き方を忘れたすけ」

「なんで止めろって言われた後にメタ発言するのかしら」

開口一番がこれである。
メタ発言にも程があるだろうとどこかから怒られそうだが事実なのだから仕方ない。
嘘を吐くのは駄目だとお婆ちゃんが言ってた。
彼を止める烏にも少し焦りが見え始めたところで話を進める。

「いや、でも良く考えて欲しい。
 止めろと言われるとやりたくなるのが人間ってもんだべ」

前言撤回、話は進まない。

「ね、くぅ」

「まあ、そうだk……今くぅって言わなかった?」

「……だってくぅだべ?」

「狂羽だから?」

「沙緒宮流だから」

沙緒宮流。とある女性を惨殺し想い人に無理矢理食べさせた挙句に自殺をしたキチガイ女。
愛情表現がその名の通り素直過ぎたのかもしれない。
所謂ヤンデレと言う奴なのでは無いだろうか。

4 :訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY:2011/01/24(月) 11:10:07 0
「なあ琳樹。何故、どこで、気付いた?」

「全ての元凶は臆病者、これで分かる?」

「あら、あの私の事が大嫌いなリンキのお陰で私のリンキが気付いてくれたのね」

「それはそれは、私はあいつに感謝しないといかんな。……私はあっちの琳樹も好きだったんだが」

「私だけを愛してくれないと嫌だべ?」

「浮気性のリンキがそんな事言っていいのかしら」

「……否、もういい、フラグ男め」

今更ではあるが、狂羽、または宮流という女性の声は彼にしか聞こえない、……というかそもそも外見は女性でなく烏である。
烏と会話するどころか自分だけを愛せ等とのたまっている訛祢琳樹という男は他人の眼には狂人に映るに違いない。
否、まあ、彼的にはなんら問題の無い事なのだが……。

「そういえば、エレーナさんは?」

あ、と短い声を出した後にそう言葉を吐き出す。
そしてたった今周りを見回し、彼はここが見覚えのない場所であり、周りの人間からの冷たい視線をぶつけられている事に気付く。
しかし彼にはそのどちらも関係の無い事であった。

「私に愛せと言ったのに私以外の女の名を呼ぶのね、リンキ」

「呼ばないと話が進まない、それに私が愛してるのはくぅだけだべ」

「……全く今回だけだぞ?」

そんな小芝居を挟みつつ、彼らは≪狂烏凍結≫を発動した。
一瞬黒い光が周りの者達の視界を阻んだ後である。そこには烏の姿が消え失せ、代わりに背に黒い翼を生やした訛祢琳樹のみが立っていた。

「ああ、さっきはエレーナさんは、なんて聞いたけど別に答えなんて聞いてないべ」

私が勝手に捜すから

そうして彼は外へと、飛び立っていった。

5 :佐伯 ◇b413PDNTVY:2011/01/24(月) 11:17:18 0
タチバナが応急手当てを受け立ち上がって居たころ、彼が居る部屋の廊下に零は佇んでいた。
傍にはだれも居ない。居心地の悪さを感じ、彼女は一人で席を外したのだ。

「アウェイって奴ねー」

あの後、鈴木達と合流した零と萌芽は色々あった。
話し合いの結果、重症人の治療の為奔走する事になったのだが、その為には一度どこかに事を構える必要があった。
様々な理由から月崎家に移動する事にした一向は、鈴木の用意した車で月崎家へ向かう。
その車内、何故か生優しい視線を向ける関係者達と会話を行い得た事が山ほどあった。

「なんていうかさ。訳、分らん事になってるけど……
 今ここに私たちが居るのって何らかの意思が働いてるってことなんでしょうね」

その中で一番出てきた単語は「別の世界」だ。
そうだ。今この場にはかなりの数の異世界人が集まっている。これは一体なんと言う事だろう?

「あら、お客様?お部屋に居られなくても宜しいのですか?」

「あー、ちょっとね……」

声を掛けてきたのは私用人だった。
一瞬の迷いの後、零は照れながらもあの場に居ずらいと言う事を正直に話す。

「なんか私はあの中に知り合いも居ない様な物だし、いずらいのよねぇ」

「左様でしたか。それは私どもの不手際で御座いました」

そこで言葉尻を区切る私用人。
別にそんな訳は無いと思う零であるが、こう言った場合、彼女達の様な人種は勝手に自分が悪いと言い切る物なのだ。
そう思い零は特に言葉を掛けようとはしなかったのだが、その後に彼女は中々に素敵な発言をした。

「それでは、お連れ様もこちら側の練にお連れ致します。
 白い制服の男性と、緑の髪の女性、それから古式めかしい服装の方でしたね?少々お待ち下さい」

「な……!?」

「それでは、お部屋の方にご案内いたしますのでごゆるりとお寛ぎください」

そこまで言い終え、私用人は気配無く廊下を歩いてゆく。
その言葉に意味を噛みしめたまま、身じろぎすら出来ない零に今は興味など無いとその背が語っていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「そう。ここからが本番なんだ。アレはもう直に動き出す。
 それを抑え、滅ぼすための要素は集まった。そう、僕達にとってはここからが本番なんだよね」

女が呟くように言葉を紡いだ。だれに対してでは無い。あくまで独り言であり同時に贖罪の真似事。
そうして、一瞬だが月崎家周辺に翳りが見える。まだ日が出ててもよい時間である。しかし、現に太陽は消えうせる。
再び日が差したその時、のらりと歩いていた私用人の姿は消えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

6 :佐伯 ◇b413PDNTVY:2011/01/24(月) 11:22:32 0
「6時間と37分、46秒ぶりです。マスター」

「……」

「フン」

部屋に戻った零。そこでは今後の行動方針を決めるための異世界人による会議が行われていた。
だが、タチバナの腕の事や決定的な情報不足から、どうどう巡りに陥っている。
参加する気が無いと言う訳でも無いが決定打が無い零はどうする事も出来ずに壁際でその様子を眺めている。
そこに三人の挨拶は三者三様。だが、全員の動きは同じだ。殉也、ゼロワン、サイガは零の所に集まる。
とりあえずと言った様子で零は彼らに「おっす……」と返事をした。

「図書館は見つかった?」

思う所があるのだ。零の口調はかなり重い。

「公定です。と申しましても目標地点への到達は叶わなかったのですが……」

「言うな」

遮る殉也。その瞳には何とも言えない仄暗い火が揺らめいている。
明らかに様子がおかしい。零は何かがあったなと思いつつも、そのまま質問を進めた。

「どういう意味かしら?」

「それは……」

俯き、言葉を選ぶような仕草を見せるゼロワン。やはりこれはおかしい。
機械である彼女が質問に対してこう言った反応を見せると言う事はまずあり得ないのだ。
そうして生まれた沈黙を破ったのはサイガだ。

「そうだな。怪物に良い様に操られていた。とでも言うべきか……
 女。貴様はいくつもの姿を持ち、人を欺き陥れる邪悪な存在を知っているか?」

「……どういう事よ?」

もっとハッキリ言えと零は暗に告げる。
諦めた。という表現が一番分りやすいだろう。ようやく殉也は全てを離す気になったようだった。

「図書館は存在していた。だがそれはたどり着く事の出来ない場所……否、俺達のいる世界その物が「図書館」と言うべきか。
 最も、スケールが大きすぎて俺たちでは「本」を認識すら出来なかったがな……」

「何よそれ……と言うか、そもそもなんで図書館捜しなんてしたの?
 そもそも、それって図書館とは言わないわよね……」

「元の世界に帰る為の手掛かりとして図書館に行けと言われてな。
 だが、結果はこのありさまだ。俺達は奴の奸計に踊らされていたと言う訳だ」

「ふぅん。……でも、図書館は存在していた。
 そもそも何故ソイツは殉也に教えた?……その感じだと状況が分っていたとしか思えない。
 となると……殉也にそこに行ってほしい?道を作ってほしい?なんにしても何故?」

その訳を考える。今まで持っていたピースと新しいピースを重ね組み合わし、一つのカタチにしてゆく……

7 :佐伯 ◇b413PDNTVY:2011/01/24(月) 11:23:22 0
「それに、何故、図書館と言う名を使った?図書館と言えば本、……記録?記録がほしい?それとも記録を見せたい?
 そしてそれは葉隠殉也を頼りにして……そもそも、行けもしない場所の事を殉也は理解して……
 情報がリークされてる。それも誘導するように……葉隠殉也は異世界人。この世界の人にはその事を全て話す様な事はしない。
 話すとしたら、同じ境遇の人間。……つまり、行くのは異世界人でなければならない。
 否、行けない?この世界の人では行けない。けど、異世界人は異世界。つまり世界間の移動をしているから……
 それと、図書館と言う場所にキーワードが有る筈。そして図書館は世界……!!?」

そして、ジグソーパズルが繋がった……
俯いたまま少女は確信し、震えていた。あぁ、そうだ。簡単な事だったのだ!!

「あは、くくく……オッケィ。最高だわ。抱きしめてあげたいくらいに愉快じゃないの
 何から何まで上手く行き過ぎているとは思ってたけどそう言う事だったのね」

「どうした?」

「元の世界に帰る為の手段が見つかったわ」

そう言い、零は萌芽達が話し合いをしている所に近付いて行く。

「みんな、ちょっと長くなるのだけれども聞いてちょうだい。
 本人に聞いた訳ではないかから確信は無いけど、私達の役割が分ったわ」

とてもおかしな物言いだった。
それは言った本人が一番理解しているがそう言う表現が一番合うのだから仕方ない。

「私はこれにAll in(全賭け)で行ってみようとおもう。
 上手く行けばそれぞれの望む結果を取れるかもしれない」

【状況:佐伯零。集まった全員に異世界人全員に共通してに与えられた役割に気づき提案として出してみる】

【異世界人が現実世界に来た理由:図書館と呼ばる世界の記録の保管所への道を作る事。
 その場所へ行くには普通の人間では不可能であり、その為に異世界からヒトが呼ばれた】

【佐伯零の推測:上記の事柄を前提条件として現実世界=図書館と仮定しそこへの道を作る(向かう)とした場合、
 それには異世界人でなければならず、その事柄から図書館に入るには世界間を渡れなければならいと仮定する。
 つまり、図書館へ到達すると言う事は目標を持って世界間跳躍を行う必要があり、その手段を用いれば元の世界に帰ることも可能と言う物】

8 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2011/02/03(木) 01:16:19 O
飛峻が離れた後、真雪は兔に誘導され目立たない位置に移動した。
建物の影。
そこならば戦闘に巻き込まれる可能性も低い。
どうなったのかが観察しにくい欠点は、兔の能力である程度カバー出来るらしい。

(結局、止めらんなかった…)

大きく騒ぐ群集の端で、真雪は溜め息を吐く。
危険であることは明らかなのに、飛峻を止められなかった。
しかも、申し訳ない気持ちにさせて、逆に迷惑まで掛けて。
彼が戦場に躍り出てしまえば真雪が出来る事はもう何も無い。
また、役立たず。

「オイコラ降りろ!重てぇんだよ!」

涙目で俯いて居ると、声が聞こえた。視線を声の方に向ける。
そこには、肩車をしている男二人が居た。
そのうち片方には見覚えが有る。
cafe・Takaokaの前で、物凄い形相をしていた男性だ。
観察していると、その大きな男性は上に居る男性から何かを奪い、危険な少年に投げつけた。

「ッしやァ!」

なんだか大男は喜んでいるみたいだが、当然少年の視線は二人組に行く。
これが二日前ならば真雪は心配していたところだが、現在の真雪にはそこまで心配する余裕は無い。

(出来れば、榎さんと飛峻さんがあの男の子の興味から外れてくれますように…!)

何も出来ない真雪には、祈ることが精一杯だ。



【とりあえず避難したよ】

9 :エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/05(土) 00:27:25 0

「(彼は今、どこに―――――――……!?)」

新市街地上空を、私はひたすら飛び回っていた。
あの少年は、レンはどこに消えたのだろう。

先程の戦闘で覚えた彼の魔力を頼りに探す。
ただ、文明の魔力が邪魔をして中々見つけ出せない。

「……どこ……………どこなの………………!!」

時間がない。
湧き上がる焦りを抑えながら、目を皿のようにして探す。

「……………! いた!」

遂に、一本のか細い糸のような彼の魔力を突きとめた。
私は一気に急降下し、地に降り立つ。

「うっ………!!」

近づいた瞬間、むせかえる血の臭いに顔をしかめた。
生首が、あちこちに転がっている。この容赦のなさは、恐らく彼の仕業だろう。
直ぐに視線を走らせると、レンは新たな犠牲者を出そうとしていた。

>「冥土に送ってやるよ、二人仲良く……ね?」
「止めなさいレン!これ以上殺しは……」

私が駆け寄ろうとしたその時。
後方から、何かが飛び、レンに直撃した。

>「ッしやァ!」
「テナードさん!?」

何故ここにいるのだろう。それ以前に、何故彼は肩に忍者を乗せているのか。
聞きたいことは山ほどあるけども、まずしなければならないことがある。

「さっきぶりね、レン」

先程生首をぶつけられた怒りからか、レンの意識はテナードさんに向いている。
私はテナードさんに直接テレパシーを送った。

「(彼は私に任せて、逃げ遅れてる人がいたら避難させて頂戴)」

仮にも、彼だって仲間だ。みすみす見殺しにしたくない。
それに、私こそ彼に用があるのだ。


「レン、タチバナさんの右腕―――――返してもらうわよ!」


10 :代役達の幕間 ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/05(土) 00:29:04 0
【警視庁内、公文課】

警視庁はまさに惨劇。
その中を私は歩く。
とある世界の終末も丁度この様な血と死にまみれていた。
懐かしい。そう思わせる空気に酔いしれながら、私は死体を跨ぐ。

「しかし三浦。まさか君がこのような愚行を………ね」

逆光で三浦の表情を読み取ることは不可能だ。
しかし目的は既に重々承知。
その手に握られたブーム型加速器の設計図資料を一瞥した。

「『ブーム型加速器』か。君の手に負える代物ではないと思うが」

誰の入れ知恵か、と考えれば、すぐにあの眼鏡のどや顔が浮かんだ。
朝日なら、何かしらの方法をもってして三浦を焚きつけることなど容易だろう。

光源のない室内に、割れた窓ガラスから光が僅かに差し込み、舞い立つ埃が光を反射する。
殺気が満ちている。三浦から発せられた、狂気にも似た気配が肌を撫でる。
私が口を開きかけたとき、三浦の背後で倒れていた一人の女性が立ちあがった。
都村みどりだったか。傷だらけの痣だらけ、立っているのもやっとのようだと窺える。
進研でも腕が立つ評判の彼女も、彼の前には形無しか。まあ無理もない。

「救急車を呼ぼうか。うちの人間を幾つか送るのも手だがね」

肩を支えてやろうとしたが、振り払われてしまった。嫌われてしまっているらしい。
それなのに私は笑みを漏らす。そして私は、狂人に問いかける。

「与える者から求める者、そして奪う者へ、か。”君”らしいね。」

無言。正確には三浦の小さな呟き。
意味を成さない言葉の羅列は壊れた玩具を彷彿とさせる。
彼女へ向けた笑みとはまた違い、哄笑にも似たものを彼へと向けてやる。

11 :代役達の幕間 ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/05(土) 00:30:47 0

「君は君が唯一私に勝っていた。持っていたものを失った。私には持っていなかったものを。」
「そして今は、私が持っている。私が唯一持っていなかったものを。」

三浦の肩が、僅かに動いた。光を失った目が、ぐるりとこちらを向いた。

「………………………『ひろゆき』、お前、六花を」

「彼女は私の部下が大事に預かっているよ。記憶は一切消去させて貰ったがね」

要らない物は斬って捨てるのが道理だろう。
三浦の大きな黒目が見開かれる。様々な感情が渦巻く、黒い瞳。
私は三浦を鼻で笑った。

「『代役』を必死にこなそうという気持ちは分からんでもないがね。
 生憎、同じ『代役』でも私が勝っていたという訳だ。」

そう、私達はあくまで『代役』でしかない。
彼の亡き後のために創られた、『影武者』。

「私は『先に』行くよ。全てが動き出している。」

舞台は『図書館』。
必要な物は『13の騎士』。
道開くは『銀の鍵』。
示すは『魔法騎士の書』。
導くは『猫』。
守るは『血みどろの眠り姫』。
それを得る者は『一組の男女』。
止められるのは『未来からの来訪者』。


人知れず、笑みが漏れた。私は全てを手に入れた。
利用されていることも知らず、彼らは私の掌の上。

「君はそこで見ているがいい。足掻こうが何をしようが、私の知ったことではないよ。」

私は三浦に背を向けた。もう此処に用はない。

「まともに台詞の一つも覚えられない大根役者に、興味はない」

劇はもう、始まっているのだから。

【エレーナ→テナードさんにテレパシーで逃げ遅れた人達の避難を指示。レン君と戦う気満々】
【進研ボス(ひろゆき)&三浦啓介in公文。若干電波気味な伏線張りまくりです】

12 :竹内 萌芽(1/2) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/05(土) 23:58:55 0

目の前で変態を治療している少女を、萌芽は鋭い目で睨みつけていた。

(この人……昨日の朝会った真雪さんの敵……!!)

どうしようと萌芽は思った。
目の前の少女、萌芽は名前を知らないが、愛内檸檬という名前のその人物は、
進研のボスを除けば、真雪の敵となる可能性を持つ一番の要注意人物である。

(この場で”未来を奪っておき”ましょうか? いや、でも……)

自らの僕である蛾を呼び出そうと考え、しかし萌芽はその手を止める。
彼の目線の先には、自分のしていることを一番知られたくない人物、佐伯零がいた。

『内藤ホライゾン』という名前を聞いたときの、彼女の反応が頭をよぎる。
もし、自分の『ザ・エクステンド』を見た彼女が、過去の記憶を取り戻してしまったら?
もう、あんな零の姿を見るのは二度とごめんだ、と萌芽は思った。

「月崎家の秘術『二進数』を使い、彼の体に応急処置を行いました。
傷口には“既に傷口は塞がっている”と言う情報を上書きし、
水に“血液の役割を果たす”と言う情報を上書きして傷口から注がせていただきました」

(くっ……)

少なくとも今、目の前の人物は自分の敵ではない。
萌芽は、自分の”使徒”を使って彼女の未来を奪うことを諦め、
他のメンバーと共にタチバナの復活を待つことにした。

(ただし、真雪さんに何かしようとしたらただじゃおきませんからね……!!)

竹内萌芽の能力は、被害者にとってとても優しい。
”蛾”の存在を通じて被害者の内側に打ち込んだ”自分の存在”を自在に操り、
被害者から零や真雪に対する敵意を完全に奪い去ってしまうというその能力は、
被害者に何の違和感も与えず、憎しみや妬みに悩む被害者には、むしろ優しい能力と言える。
    、、、、、、、、、、、、、
だから、彼は大きな勘違いをしていた。
自分は相手にとっていいことをしているのだから、相手に何をしてもいいと思い込んでいた。

憎しみや妬み、苦しみや辛さ、悲しみや空しさ。
それらは人間にとって未来を切り開くための大切な財産でもあるという事実を彼は完全に無視していた。

今の彼に、世界を変える意志はない。
よって今の彼は『未来の特異点』としての資格を失っている。
しかし、他人の未来を自分勝手に奪い、それをなんとも思わないというその人格は、
『未来の特異点』としての何よりの素質は、未だに彼の存在の中に深く根づいていた。

13 :竹内 萌芽(2/2) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/05(土) 23:59:51 0

―――
――――
―――――

零の話が終わって、萌芽は静かにため息を吐いた。
ほとんど話の内容が理解できなかったからだ。
ただ、一つだけ分かったのは、皆が元の世界に戻れる可能性を得たということ。

ちら、と萌芽は話を終えた零を見やる。
しばらく彼は黙っていたが、やがて口を開くと、言った。

「あの……質問があるんですが」

そこまで言って、萌芽は口をつぐんでしまう。
これを聞いてもいいのかな? という迷いが、そのときの少年の心の中にはあった。

少し俯いて、息を整えてから、萌芽はうわべ使いに彼女を見上げ、言う。

「れ……零は、元の世界に戻れる方法が見つかったら、どうするんですか?
 やっぱり、元の世界に帰っちゃうんですか……?」

正直なところ竹内萌芽には、元の世界に戻るつもりがまったくなかった。
たとえ零と一緒に自分が元の世界に戻ることができたとしても、
その上で内藤ホライゾンとツンの関係が取り戻せたとしても、
その後に待っているのは、自分と彼女が『敵』として対峙する、
前と全く同じ、最悪の結果だけなのではないか? そんな不安が萌芽の胸中を満たしていた。

【ターン終了:萌芽は複雑な心境】


14 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/02/06(日) 10:33:00 0
「なんというカ、よくよく縁のある得物だナ。正直遣いづらくないカ、ソレ?」

口端を吊り上げ皮肉を投げかけ、しかし脳裏に過ぎるのは武器の持つ確かな殺傷力。
目に映るのはこちらへと躍り懸かってくる少年と、その少年が手にする鎌。
今しがた野次馬たちの首を刈り獲ったばかりの刃は返り血で濡れ、鋭さと醜悪さが過剰にコーティングされている。

(とは言っても……後ろを守りつつとなると厄介だな)

この状況下、銃を構えた榎は戦力としてあてに出来ない。
技量を疑っているわけでは無い。間の取り方や力の抜き具合を見ればむしろ熟達者なのはわかる。
だが本人も気づいているだろう。この場所は適度に狭く、人が多すぎるのだ。

「慌てるなッテ、オマエの相手ハ――」

後方へ榎を押し込み、肉迫する少年と再び対峙。
相手の武器は柚子と同様の大鎌、リーチはあるものの構造上薙ぐことしか出来ない武器だ。
少年の踏み込みに先んじて己の足を滑り込ませる。
同時、左手は指を広げ鎌の柄へと延ばし、右手は拳を固め鳩尾へ放つ。

「――この俺うおワァ!?」

崩拳が突き刺さる直前、頓狂な声をあげ飛峻は飛び退いた。それも結構な勢いで。
至近距離での戦闘で長じた動体視力が余すこと無く鮮明に捉えてしまったのだ。
視界の外から中心に向かって、絶叫の形を留めたままの生首が、すいーっと平行移動していく様を。

(なんッ、え、何!?こいつを狙ったのか?)

致命的な隙だったが、少年も生首の直撃を受け仰け反っていた。
謎の飛行物体の発射先へ視線を向けると忍者をパイルダーオンさせた大男。
顔までは認識できないが、一度何処かで会ったことがある気がした。

>「レン、タチバナさんの右腕―――――返してもらうわよ!」

間髪いれずに次の声は横から。まだ若い少女のそれだ。
何時からそこに居たのかわからないが、気丈に少年――レンという名前らしい――へと挑みかかっていた。

15 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/02/06(日) 10:34:04 0
(どういう状況かイマイチわからん……)

大男と少女、ついでに忍者。その闖入によってレンの意識はそちらに向いている。
レンと因縁のある風の彼女に任せ、撤退。という手もあるにはあった。
しかし見たところ真雪と同年代くらいの少女に丸投げというのも些か寝覚めが悪い。
それに何より、少女の放った啖呵が、飛峻を行動へ駆り立てていた。

(……だが、ああ、全く、どうにも、仕方が無いな)

こちらに来て以来、後悔の種はいくつかあるがその内の一つがまさにそうだった。
共闘を申し出てくれた尾張が、この少女の仲間と同様に片腕を失っている。
本人はなんでもない風を装っているが苦悩の程は計り知れない。

「全ク、どうにも仕方が無イナ!」

今度は声に出して。自分を納得させ、体勢を立て直し、レンとの間合いを一気に駆ける。
先刻の焼き直し。ただし今度振るうのは腕では無く脚。
詰め寄る間合いの最後の一歩を軸とし、全身を捻り脚をしならせる。

初撃の狙いは鎌の持ち手。レンの指先を蹴りつける。
蹴った脚を軸にし次撃。勢いそのままに体を回転させ逆の脚で脇腹を垂直に穿つ。

「他人から物……腕を盗んではダメと教わったダロウ?」

自分のことを完全に棚上げ出来なかったため、勝手な言葉を放る飛峻だった。


【よく解らないけど、とりあえず蹴っとこう!】

16 :W&S(1/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/06(日) 23:04:11 0

荒い息を切らしながら、白州くじらは走っていた。

(Mのとっつぁんってば、久々に会ったと思ったら……!!)

『S君の付き添いで来たんじゃないんだな。
 さっき、S君が女の子と一緒に居る所を、新市街地の方で見かけたんだが……』

先ほどしたらばホールの前でMに言われたことが、頭の中にがんがんと響いている。

(冗談じゃねーっての!!)

文明改造人間ホエールとしての一面を持つ白州くじらは、
しかし、それと同時にごく普通の女性でもあった。

現在、玉崎タイヨウと呼ばれている少年、スフォルツァンドが
まだ玉崎サコン・ウコン・タイヨウという三人の人間だったときから、
彼らの良き姉貴分として、ずっと彼らの面倒を見てきたくじらにとって、
今までずっと大事に世話を焼いてきたスフォルを、
どこの馬の骨ともしれぬ小娘に持っていかれるというのは、とてもではないが我慢できることではなかった。
彼女はずっと決めていた。彼にふさわしい相手は―――

(―――スフォルの嫁は、あたしの目にかなった『美少年』に決まってるってのよ!!)

とんでもないことを企んでいた。

ちなみに、スフォルツァンドは正真正銘男性である。
本人にとってはた迷惑以外の何者でもない、最悪の決定事項だった。

そして走り続ける彼女の目が、運の悪いことに道の真ん中を歩いていた
スフォルツァンドとカズミを見つけてしまった。

17 :W&S(2/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/06(日) 23:04:58 0

「いやー、案外簡単に手に入ったな、<<上位互換>>」

黒いジャケットに左腕だけを通した青年、スフォルツァンドは、
そう言って傍らを歩く少女にけらけらと笑いかけた。

右手で空中になんども投げてはキャッチし、投げてはキャッチしを繰り返しているそれは、
<<上位互換>>の宿ったコンパス。

ちなみに”簡単に手に入った”というのは、”偶然持っていた人間から力ずくで奪い取った”という意味である。

「まあ何にせよ、これでよーやくテナードとやらに……」

「……スフォル」

「?」

なにやら聞き覚えのある声に、スフォルが振り返ってみるとそこにはよく知った顔があった。

「よお、ホエール……どうした、血相変えて」

「スフォル……あんたってヤツは……!!」

「あ……?」

なにやら様子がおかしい。
普段は破壊工作員として、その本当の能力の片鱗さえ見せない彼女が、
今、何か完全に”臨戦態勢”に入って―――『Type-Whale』の片鱗まで現れている。

「あんたってヤツは……!!」

今の彼女の様子は、何かとても怒っているように見える。
しかし、自分は何かをしただろうか?
唯一の心当たりは、進研の施設を抜け出すという今回の所業であるが、
しかし、そんなのはいつものことだ。
それで彼女がここまで怒ったということは、今まで一度もない。
では、彼女が怒っている、その原因は一体なんだろう?

「よりによって……よりによって女なんかと!!!」

意味不明な怒鳴り声を斜め上から浴びせられながら、スフォルツァンドは思い出した。

(ああ、そういえば、こいつたまにバカだったっけ……)

18 :W&S(3/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/06(日) 23:05:51 0

事情を知ったホエールは、上機嫌で鼻歌を歌いながら歩いていた。
傍らにはなんだかげっそりした様子のスフォルツァンドとカズミの姿がある。

「いやー、まさかカズミくんが”男の娘”だったなんてねー。
 もーやるじゃないスフォル、おねーさん関心だわー♪」

めちゃくちゃ上機嫌な彼女の姿を見ながら、スフォルツァンドは思っていた。

(こいつたまにキモい……)

と、ふいに電話の着信音があたりに響いた。
前を歩いていたホエールがポケットをあさり、携帯電話を取り出す。

「はーい、もっしー辺田くん? ……あれ? もしもーし
 ……へ? いや、助けてって、え? どーいう……辺田くん?」

「どうした?」

「切れちゃった……いやね、公文からの着信だったんだけど、
 なんかただことじゃないっぽいわ。ちょっとスフォルも一緒にきてよ」

「あ!? やだよ、オレはこれからテナードってヤツと……」

「そんなの明日でもできるでしょ、異世界人はそんなにいきなり帰ったりしないわよ」

言うだけ言って、とっとと歩き出すホエール、スフォルとカズミがそれに続く。

「な、待てよ、おいちょっと、ホエール!!」

         *

公文内部は悲惨な有様だった。
倒された机、散乱する書類。あたりからはかすかに血の匂いもする。

ホエールはその風景の中を、表情を変えずに歩いていく。
床に倒れた人の中に見慣れた顔を見つけた彼女は、そこに歩み寄り、しゃがみこんだ。

「都村、都村!」

ぱしぱし、と二発ほど頬をぶって相手に気合を入れる。
ようやく目覚めた都村みどりに、彼女は静かな声で話しかけた。

「やっほ、都村。……なんだか大変だったみたいじゃない。何があったの?」

【ターン終了:W&S惨状の中へ】


19 :テナード◇IPF5a04tCk:2011/02/07(月) 22:33:45 0
忍者を肩から降ろしたところで、突如として現れたエレーナ。
無論テナードは驚きを隠せないでいた。旧市街地にいる筈の彼女が何故ここに?

>「(彼は私に任せて、逃げ遅れてる人がいたら避難させて頂戴)」

「!?」

脳内にエレーナの声が木霊したかと思えば、次の瞬間彼女はあの少年と対峙していた。

>「他人から物……腕を盗んではダメと教わったダロウ?」

アジア風の青年も攻撃を仕掛け、完全に戦闘体勢だ。
ここは彼らに任せるのが一番か。そう判断し、逃げ遅れた人が居ないか辺りを見回す。
と、彼の目に一人の少女と二人の女性が目に入った。
あのアジア風青年と同行していた女性たちだ。

「安心してくれ、俺は味方だ。立てるか?」

警戒させないよう一言そう言い、しゃがみこんでいる少女と視線を合わせる。
混乱に満ちたこの状況で、ここにい続けるのは賢明ではないだろう。
早く離れなければ。

「(子供の目にこれはキツいだろうしな……ん?)」

ふと視線を上げると、黒い長髪の女――兎と目が合った。
一瞬奇妙な感覚に襲われたが、気のせいだろうと判断する。
すっかり腰を抜かしてしまっている少女を背負い、テナードは女警官へ振り向く。

「どこか、非難するのに最適な場所があったら教えてくれ。俺はこの辺に詳しくないんでな」

チラ、とエレーナたちの方を見やる。
もし、彼女達が負けたら――――……いや、考えても意味はない。

「お前も来るか、そこの黒装束。来ても止めはしないがな」

一度だけニノの方を振り向いて言うと、慈音が導くままに、テナードは走り出した。


20 :カズミ◇IPF5a04tCk:2011/02/07(月) 22:37:39 0
>「いやー、まさかカズミくんが”男の娘”だったなんてねー。
 もーやるじゃないスフォル、おねーさん関心だわー♪」

「は、あはははははは……はぁ……」

その頃カズミは、上機嫌なWと不機嫌なSに挟まれ、少々やつれていた。
先の発言でSの恋人かと思いきや、どうやら只の友人らしく。
しかも女だと勘違いされたことに、複雑な気持ちを抱いていた。

「(ミツキと話合いそうだな……この人)」

今頃任務の真っ最中であろうミツキを思い浮かべ、また溜息を吐く。
とぼとぼと新市街地を歩いている最中、Wの携帯が鳴る。

>「切れちゃった……いやね、公文からの着信だったんだけど、
 なんかただことじゃないっぽいわ。ちょっとスフォルも一緒にきてよ」

>「あ!? やだよ、オレはこれからテナードってヤツと……」

>「そんなの明日でもできるでしょ、異世界人はそんなにいきなり帰ったりしないわよ」

強気なWの発言に、しぶしぶカズミも同行する。

>「な、待てよ、おいちょっと、ホエール!!」


21 :カズミ◇IPF5a04tCk:2011/02/07(月) 22:38:43 0
【→警察署内 公文課】

「これはひどい」

カズミが最初に放った一言は、それに尽きた。
辺りは嵐と猛獣の群れが通り過ぎたような大惨事。
倒れている人達が生きているのかどうかすら、疑わしい。
Wはどうやらここで働いているらしく、同僚に声をかけていた。
何かこの事件の手がかりはないかと辺りを見回していると、呻き声が聞こえた。
血まみれの男だ。まだ生きているらしい。

「ねえ、ちょっと。生きてる?」

「うう……」

「誰にやられたの?文明が暴走したとか?あ、それはないか」

全身血まみれの白髪の男は、カズミを見上げていた。
そして相手が敵ではないとわかると、ぽつりぽつりと話し始める。

「み……ら…………」

「え?何?聞こえないよ!」

「三浦…………さ……やられ…………設計図を……慈……」

「は?三浦!?ちょっと、どういう……!」

時既に遅し、男は気絶してしまった。
カズミは舌打ちし、他に話せる人間はいないか見回す。
しかし、誰も呻き声ひとつあげない。すると、カズミにひとつの案が浮かんだ。

「ねえ、その女の人とこっちの男の人、僕ん家で治療しない?」

男は気絶しているが、他の周りに比べればまだ傷は浅いほうだった。
都村と男を交互に見、理由を口にする。

「病院に通報したんじゃ遅すぎるし、僕の家なら治療用の文明がいくつかある。
 それに、こいつに聞きたいことがあるんだよね。どう?」

【テナード:まゆきち担いで非難開始。榎さん達に着いていきます】
【カズミ:都村さんと辺田さんを家で治療しないかと提案。】


22 :シノ ◇ABS9imI7N.:2011/02/09(水) 01:52:10 0
資料を手に入れ、榎邸を後にする一行。
しかし、空気はとても重苦しいものだった。

「こ、これからどうします?」

皐月がこの空気を何とかしようと、明るい声で言う。
すると、長多良が挙手した。

「すみません、一度離脱させてもらいます」

「へ?何でまた・・・・・・」

「暫く単独行動を取らせてほしいんです。気になることがありましてね」

そういうが早いが、すたこらさっさと行ってしまった。
残された一行はそれを呆然と見送る。

「ど・・・・・・どうしましょうか。追った方がいいのかな」

「電話番号は教えてもらってますから、何とかなるんじゃないですか?」

皐月はそう言うが、声色は不安に染まっている。
やっぱり追うべきか、とシノが追いかけようとすると。

「こ、これは・・・・・・」

シノの顔がこわばった。僅かだが漂ってくる血の臭い。
そして同時に気配を察知した。あの少年の気配を。

「皆さん、ここで待っててください!」

シノは猛スピードで駆け出す。不非兄弟もそれに続く。
近づくほどに、血の臭いと彼の気配が濃くなっていく。
それに加えて、多くの人の気配も。

「―――――――ッ!!」

辺りは死屍累々。生首が足元に転がる。

>「レン、タチバナさんの右腕―――――返してもらうわよ!」

>「他人から物……腕を盗んではダメと教わったダロウ?」

「・・・・・・・糞どもがァア・・・・・・・・・・・!!」

レンは地獄の中心にいた。
脇腹を庇うように蹲り、青年を睨みつける。
得物と思われる鎌はレンから少し離れた位置に転がっていた。


23 :シノ ◇ABS9imI7N.:2011/02/09(水) 01:53:18 0
「殺してやる・・・・・・お前から切り刻んでミンチにしてやる!!!」

足元に転がっている生首を青年に投げつける。
レンはとんぼ返りをうち、鎌の元へ降り立った。

「お前をミンチにしたら次はそっちのメスだ!その後はあの糞オヤジをゆっくり細切れにしてやる!!」

直感で、シノはあの青年が殺されると感じた。

「やめてぇえーーーーーーーーーーーー!!」

目にも止まらぬ速さで、レンとシノはほぼ同時に動いていた。
レンが鎌を振り上げ、シノが青年の前に立ちはだかり、

シノの胸を、鎌が貫いた。


「ちッ・・・・・・邪魔だ!!」

レンは大きく鎌を振り、シノの小さな体が振り飛ばされる。
どさり、と鈍い音を立て、少女の体が地に落ちる。

『しッシノ!シノォオ!!』

『おいロリ!しっかりしろ!』

不非兄弟が駆け寄り声を掛けるが、既にシノの目に光はない。
シノ自身、もう何も見えていなかった。

「・・・・・・・ご、めん・・・・・・・なさ・・・・・・」

『おい死ぬなよ!頑張れ!』

次第に、聞こえる声も遠のいていく。
最期の力を振り絞り、シノは声を絞り出した。

「・・・・・・・・・さ・・・・よ・・・な・・・・・・・・ら・・・・・・・・・・」

その言葉を最期に、シノは動かなくなった。


「ハッ。赤の他人、しかも人間を助けて自分が死ぬなんて世話ないぜ」

レンはただ嘲笑った。シノの愚行を、鼻で一笑した。
彼に理解できるわけがなかった。彼女の行動を。

「さ、邪魔が入ったけど、ちょっと頭も冷えたかな」

鎌を構えなおし、シノのことなど最初からなかったかのように振舞う。

「悪いけど、僕、あんまりあんた達の相手してる暇はないんだよね」
「あのデッカいオッサンが連れてったメス。アイツに用があるんだよねえ」
「・・・・・・・・・ま、相手してやってもいいけどね。殺すだけだし」

レンはにっこりと笑った。
少女の骸は、ただ転がって動かなかった。

【シノ→死亡】
【レン→鎌を再び装備】


24 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2011/02/09(水) 23:24:34 0
「全掛けって……そんな理解しようにも訳も理論も分らない内容を信じろっての?
 それにわたしは元の世界よりこっちの方が居心地が良いし……他にもそういう人っているんじゃないの?」

「ソウダナ。俺モ別段帰リテェッテ訳ジャネェ。
 ガ……アンタノ言ッテタ事ハ多分、正解ダ。シカモゴ丁寧二首輪付キデナ」

「首輪……?どういう事?私の話はあくまで仮定の話を積み上げて形にした物なのだけど……
 もしかして、それを裏付ける……」

零の提案に対し回答を行う異世界人達。しかし、その旗色は思ったより悪い。
考えてみれば当然だった。誰も彼もが裕福な時代に生きている訳ではないのだ。
中にはとても苦しい時代に生きていた人たちもいる。その人たちがわざわざ苦しむ為に帰ると言いだす筈がなかった。

「それって世界追放ッスね。
 実は俺達、とある事情で世界追放ってのを知ってるんスよ」

「えー!!ちょっと待ってよ!!わたし帰りたくないよ!」

「ごめん。ゼルタちゃんはちょっと黙って?
 悪いけど、その世界追放について説明お願いできる?」

顔見知りだから、と言う訳ではないが意外に辛らつな言葉でゼルタに向け静かにする様に零は告げる。

「内容ハ聞イタ通リダゼ。ソノ通リ世界カラ追放サレルンダ。
 最初ハ理由トカ含メテ訳ガ分ラナカッタガ、アンタノ言ウ通リダトスレバ合点ガイクンダヨ」

「あぁ、タチバナさんが言ってたあれね。
 って、事はあたし達……結局この世界に残る事は出来ないんだ」

世界追放と言う現象を零は知らない。
だが、この会話の内容でおぼろげだが全貌がつかめた。

「私達の行うべきロールが世界にそぐわなければそうなるのよね。
 でも、考えてみて頂戴?この話の前提の過程に何があるかって事……」

ゼロワンや殉也達が元の世界に帰る為には彼女達、他の異世界人の力も必要だ。
説き伏せると言う訳ではないが、零は彼らが手を貸してくれるに値する仮説を提示する。

「まず、私達は既に世界間を超える事が出来ると証明された身の上。
 そして、この仮説が正しかったとしたら私たちが次に手に入れるべきキーアイテムは、世界間を跳躍する為のものになる。
 仮に次の段階までこぎつけ、結果として異世界人がある程度、世界間を超える事が出来るようになった場合……世界追放はその意味をなすとおもう?」

その一言が決定打とも言えた。
シンと静まりかえる室内にはカチコチと時計の進む音が響く……
零の問いかけは至極簡単なものだ。
部屋から自動で追い出す事が出来たとしても、部屋のカギを持っていて問題無く部屋に入れるのならばそれは意味がある事なのだろうか?

「ナルホドナ。ソウ言ウ事ナラ利害ハ一致シテイル訳ダ」

答えは「そんな行為に意味は無い」だ。
彼、ハルニレ以外の人物にも目を向けるとどうやら全員が意思を決めたようだった。


25 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2011/02/09(水) 23:31:11 0
「決まりね。タチバナさんって言ったかしら?
 彼の腕の件が……良いにしろ悪いにしろ、かたがついたら調べてみる事にしましょう」

それと、と零は言葉を続け念のために全員に対して不明瞭な点があれば今の内に質問や考察をしておこうと提案する。
しばらくは考えをまとめる為に状況が近しいものたち同士で会話を行う一同。
そして、それは零も変わりがない。彼女は萌芽に声を掛けられていた。

「あの……質問があるんですが」

「れ……零は、元の世界に戻れる方法が見つかったら、どうするんですか?
 やっぱり、元の世界に帰っちゃうんですか……?」

自分の役割を終えたらどうするか?
零はそんな事を考えた事もなかった。確かに彼女は元の世界に帰ると言う目標を持っていた。
が、……今の彼女にはその帰る場所の記憶すらない。消えているのだ。それも、とても悪い方向に……

「んー……分らない。そもそも、私は「記憶」ってものが凄く曖昧みたいで。
 その、ね?元居た世界の頃の記憶が思い出せないのよ」

かわりに、こっち側に来た時からの記憶なら覚えているのだけれども。と零は続け、ため息をつく。

「だから、帰るって言うより捜すに近くなるのだとおもう。きっとね?」

そう言う彼女の表情は何処となく冷めていた。
見てはっきりと分るのではない。ただなんとなく達観してしまった様な、そんな表情を彼女はしていた。

【状況:説得完了】
【佐伯零の記憶喪失:悪化。元居た世界の事を全て忘れてしまった。思いだせるのは情報として持っている事のみ
          例)こちらに来る寸前の世界間を飛んだ際の事などを思い出せないが、運転技術、エスクリマと言ったスキル自体は思い出し使用できる】


26 :都村みどり ◆b413PDNTVY :2011/02/11(金) 01:01:33 0
夢を、……夢を見ていた。
とても心地よい夢。
かつて、友と共に過ごした輝いていた日々。ありきたりな日常……

「ねー。トソンは何が良い?」

「え?……では、うーん……あ、やっぱり……」

「お前優柔不断過ぎ!!もういい!オサム!!コーヒーと抹茶ミルク一つね!!」

「そこはお前が行く所だ「良いから行けよ」はい。」

「ったく、オサムってば相変わらずトロいんだから……あのさ、トソンって文明ってキョーミない?」

「文明?あぁ、この間ニュースで特集してた……」

「そう!その文明だよ!火が出たり物を浮かせたりするアレ!!」

「キンキンうるさいです」

「あ、悪ぃ……でさ、実は私ってばその文明を持ってるんだよね……」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「都…、都村!」

頬を打つ現実と言う痛み。まだ生きている。
都村みどりは生きている……必死に、本会を遂げる為に生きている……!!

「ッ……じ、ら?」

「やっほ、都村。……なんだか大変だったみたいじゃない。何があったの?」

「どうやら、又……死に損なったと、言う事か」

「又」……その言葉の意味は都村の過去にある。
7年前に起きた市立美府中学校火災事件。のべ500人ほどの死傷者を出した文明を引き金としたこの火災事件に都村は関わった。
否、関わったと言うレベルでは無い。彼女は事件を引き起こす原因の一つであり、そして、集束させた人物でもある。

「すみません。少し、呆けてました」

そもそも、アレは断じて火災などでは無い。むしろ火災であればどんなに良かったか……
そう、あの事件は彼女にとって忌まわしき過去……美府中学校でおこった『異常適合―オーバードライヴ―』の暴走なのだ。

27 :都村みどり ◆b413PDNTVY :2011/02/11(金) 01:04:09 0
「端的に言います。三浦啓介にしてやられました……
 彼は地下にある筈のブーム型加速器の原型と……美芹を「暴走適合者」を確保して既にここを去りました」

そう告げると都村はせき込み血糊が固まって出来た痰を吐き捨てる。
実はブーム型加速器は既に完成していた。しかし、とある事情により使用は不可能であった。
それは跳躍実験による被検体の精神崩壊、並びに肉体崩壊、その後の……肉体変質によるキメラ化である。
実験は幾度となく繰り返されたが、その全てが失敗。更には生まれた狼の様な姿のキメラの「処分」にも問題があり、
加速器を用いた実験は終了を余儀なくされたのだった。
何故、そう言ったモノを三浦が欲したのかは都村には分らないが、事実として彼はその加速器を略奪して行った。

そしてもう一つの単語。暴走適合者。
正確には桃井美芹と呼ばれた一人の少女のなれの果てであり、現在は原型さえ分らない様な多数の文明を取り込んだ生きている文明である。
三浦は彼女も欲した。それも、元となった桃井美芹の友人である都村の目の前で。

「彼が何を目的としているかは分りません。
 ですが、加速器による跳躍実験によって生まれるキメラや暴走適合者を……」

「野放しにしておくわけにはいかない。だよね?」

都村の言葉は最後まで続ける事は出来なかった。
その代わりとでも言うように彼女の言葉を続ける人物が現れる。
その人物の外見はよくいえば奇抜。正直にいえばセンスゼロの電波ファッション。

「貴様は……ッ!!」

「やぁ、七年ぶりだね?都村みどり。
 三浦先生が動き出したようだからさ。僕達『ユーキャン』もそれに倣おうとおもって足を運んだんだ」

「…くも……、貴様のせいで!!美芹や!罪のない人たちが死んだって言うに!!」

「あぁ、あんなものどうだって良いだろう?
 結局の所、アレは些細な事件だったんだ。単にたまたま文明を持ってしまった少女が能力に惹かれて暴走しただけのね?
 そこにはなんの意識も罪も、ましてや責任もない。様は子供同士のけんかでけが人が出たってだけ。Do you understands?」

男の名は鸛。個人で文明を非合法に運ぶ運び屋である。

彼は今、とある目的でここに来ていた。
それは壊滅した公文からの多数の文明の略奪と、公文内の闇をかき集めると言う事。

「とりあえずさ、ここにある文明とそれに関する情報を全て頂かせてもらう。
 それと邪魔者、つまり君達の排除を依頼されていてね。悪いがそこに居る「進研の人たち」も含めて死んでもらうよ?」

【状況:ユーキャン行動開始。時間軸だと>>10>>11よりもかなり後】
【美府中学校火災事件:表向きは大規模火災であるが、実際には異常適合者「桃井美芹」の暴走が引き起こした大規模な文明犯罪。
           当時から今に至るまで緘口令を敷き続けており、その本来の内容を知る者は少ない】

28 :竹内 萌芽(1/4) ◇6ZgdRxmC/6:2011/02/11(金) 22:01:23 0
どうにも困ったような表情が浮かんでいる彼女の顔を、
萌芽は不安そうに眺めていた。

「んー……分らない。そもそも、私は「記憶」ってものが凄く曖昧みたいで。
 その、ね?元居た世界の頃の記憶が思い出せないのよ」

しばらく考えたあとに、そう答えた彼女の顔を見て、
なぜか萌芽の胸がちくり、と痛む。

「だから、帰るって言うより捜すに近くなるのだとおもう。きっとね?」

その表情は、どうでもいいと思っているような、まったく実感が湧かないと思っているような……

―――違う、と萌芽は思った。

こんなのは違う。こんな無表情に近い、
他人から見て判断のつかない”あやふや”な表情は彼女が浮かべるべき表情ではない。
              ヒ ト
(こんな……こんな表情をこの女性にさせるくらいなら……!!)

いっそ全てを、あのときの内藤ホライゾンとツンの間に起こった全てを彼女に話してしまおうか、
そう考え、しかし、萌芽は思いとどまった。

「『さがす』って言うのは……やっぱり『捜す』のほうなんですかね。
 『たん』じゃなくて捜査の『そう』のほうの『捜す』なんでしょうか?」

少し彼女の顔を、上目使いに覗き込むように、萌芽は訊ねる。
そっと彼は右手を零の頬に伸ばし、触れる。

そして、じっ、と彼女の目を、まっすぐに見つめる。

「零は、やっぱり帰りたいんですね? 『そう』の方の『捜す』は、
 『なくしたモノを見つける』ときに使うものですから」

萌芽は少し目を閉じた。
俯いた彼は、しばらくそのままの状態で止まって、やがて顔をあげる。

「なら、僕もきみと一緒に行きたいです。……生きて行きたいです」

そう言った彼の目は、彼にしてはめずらしく、まったく”あやふや”さのない、
”まっすぐさ”とでも表現できそうな、そんな光を称えていた。

「ずっと、居場所を捜していたんです。僕は。
 どこも居場所がなくて、『退屈』で……でも、この世界で僕はやっと居場所を見つけたんです。
 ―――きみを、見つけたんです」

目を閉じ、歯を食いしばった彼は、左手を彼女の背中に回すと、そのまま一気に抱き寄せる。
もちろん周りに人がいることは覚えている。

でも、そんなことは今の萌芽にとって関係なかった。

29 :竹内 萌芽(2/4) ◇6ZgdRxmC/6:2011/02/11(金) 22:02:58 0
(思えば、僕の居場所は、いつだってこの人だったんですね)

なにやら微妙な抵抗を感じるが、それでも萌芽は零の身体を離さない。
やがてそのささやかな抵抗もなくなったところで、萌芽はようやく彼女の身体を開放した。

くすくす、と笑う。

いつも通りの、心から喜んでいるようにも、単にからかっているだけのようにも見える、
”あやふや”な笑み。

「ま、だから検討しといてくださいね、零?
 もし、世界を自由に渡れるようになって、きみがぼくと二人で旅をすることを選んでくれたら、
 そのときは二人で『通りすがりの正義の味方』でもやりましょうよ」

冗談とも本気とも付かないことを言うと、萌芽はくるり、と背をむけて歩き出す。

「さて、僕はそろそろ『時間切れ』みたいです。それじゃ、またお会いしましょう、皆さん」

ぼんやりと萌芽の身体の輪郭が薄れ始める。
やがてそれは白い霧のような頼りないものになり、
やがて、完全にその空間から消失した。

―――――
――――
―――
――


「お?」

そこは、萌芽の『内側の世界』だった。
分身の意識を消し、直接本体に戻るつもりだった萌芽は、不思議そうに辺りをきょろきょろと見回す。

”あひゃー、おかえりー、もる”

いろんなものが混ざりすぎて、もはや黒にしか見えない、いつも通りのその空間。
時代錯誤に昭和テイストなブラウン管式テレビとちゃぶ台の前で、
小さな紅い道化師がこちらに手を振っている。

「おー……ひょっとして、きみが僕をここに呼んだんですか?」

”あひゃ、うーん……どーなんだろうな? アタシにもよくわかんない”

珍しく曖昧な表現をとる彼女を怪訝に思いながらも、
萌芽は彼女の向かい側に腰を下ろした。

「わかんないってどういうことですか? ……っていうか、何ですか、これ?」

萌芽が指さしたのは、ちゃぶ台の上に乗っかっている、町のミニチュアだった。

”けーかほーこくだってさ。おまえの蛾たちが持ってきて置いてった”

「あー……なるほど」

言って萌芽は上を見上げる。
そこには、一つ一つに風景が映っている、無数の四角い”画面”があった。

画面に映っている風景は、全てこの街で生活している生き物が見ている光景である。
もっと厳密に言うなら、その生き物たちは、全て萌芽の『ザ・エクステンド』に
”飲み込まれた”対象であると言えた。

30 :竹内 萌芽(3/4) ◇6ZgdRxmC/6:2011/02/11(金) 22:04:01 0
竹内萌芽の、ものごとを”あやふや”にしてしまうという”才能”。
その本質は”誰かが自分だと認識する範囲を広げる”というものである。
そしてそれは、”自分を含めた誰かに、自分がどういう何なのかということを認識させる”
という、誰でもやっているし、誰にでもできることの延長に過ぎない。

そしてそれは同時に、誰かが萌芽だと認識している範囲を、萌芽自身が操っているということに他ならない。
『ザ・エクステンド』という”能力”は、言うならばその応用なのである。
『蛾』を用いるなどしているため、ややこしく見えてしまう彼の能力であるが、
本質的にやっていることは、たった一言で表現できてしまう。
それは”誰かが萌芽だと認識している範囲を操る”という単純明快なものだ。

その”範囲”は、彼の存在を知っている全ての人間の中に存在する。
『蛾』は、萌芽の代わりとなる、ただのわかり安い”目印”に過ぎない。
対象が萌芽の存在を知ってしまえば、ただそれだけで、
萌芽は相手の心や記憶の中にある”範囲”を自由に操ることができるのである。

そう、例えば、その”範囲”に、”それ”がある心の持ち主の視点を送らせる、というように。

「……まあ、町のことは調べとくように言ってありましたね、そういえば」

”あひゃひゃ、忘れてたのかよ”

愉快そうに笑うストレを無視して、萌芽は街のミニチュアを眺める。
我が『分身』ながら、細かいところまでよく作ったものだ、と、感心しながら眺める萌芽。
そこで、ふと彼の相棒が声をあげた。

”あひゃ? なあ、もる。これおかしくね?”

「はい?」

一体何が、と萌芽が言おうとして、そして気付いたときにはもう、ストレは行動に移っていた。

「お? ……おお!?」

紅い道化師は、町のミニチュアの上半分を掴むと、それをひょいと持ち上げた。
すると精巧に作られたそれの上半分が「ぱかっ」と開いて、
そしてその上半分に隠されていた、街の下半分の姿が明らかになる。

”あひゃひゃ、やっぱ開くんだなこれ!!”

「すっごい、なんですかこれ!! あの子たちいい仕事しすぎでしょ!!」

これは地下鉄か、これは下水道かとはしゃぐ萌芽とストレ。
そんな中、彼らは地下を走る妙な”銀のライン”を発見した。

「お? なんですか、これ……これも地下鉄……?」

”あひゃ、それにしちゃ妙だろ、駅の無い地下鉄なんて存在すんのか?”

そのラインは、町の周りを囲むようにきれいな円を描いている。
しかし、そう見えるのは上から見たときの話で、
横から見るとそれはぐにゃぐにゃと歪んで―――ようするに、凹凸のある円形をしていたのである。

不思議に思った二人が、その手で謎の銀のパイプに触れると、
その図形の上に、ぼうっと紅い光で文字が表示された。

「おお、こんな機能まで!」

”あひゃひゃ!! 主人の趣味をとことんわかってるな、アイツら”

31 :竹内 萌芽(4/4) ◇6ZgdRxmC/6:2011/02/11(金) 22:05:00 0
はしゃぐ二人が、あらためて文字を読む。
"Boom Method Acceleraror"そこにはそう書かれていた。

「ぶーむ めそっど あくせられーたー?」

”あひゃ!? もる、お前普通に英語読めたのか”

「どーいう意味ですかそれ、ひょっとして僕のことバカだと思ってます?」

言われて、目をそらす道化師。こいつあとでちょっとひどい目にあわせてやろうと萌芽は思った。

「ともかく、なんですか『あくせられーたー』って」

”あ、意味まではわからないんだ……。『加速器』ってやつだよ。
 何かをこのパイプの中で加速させてるんだと思う”

「何かって、いったい何を?」

”……そうだな、例えば『文明』とか?”

「お?」

”なんとなく文明の匂いがするんだよな、このパイプの中から。
 あひゃひゃ、なるほど。この規模で文明のエッセンスを光の速さ近くまで加速させて衝突させているとすれば、
 確かに時空の壁さえ破壊しかねないくれーのすさまじいエネルギーが発生しそーだな”

「なんですか、それ? どういう意味です?」

”よーするに、これがあの小娘の言ってた図書館への道ってやつかもしれねーってことだ”

「それともう一つ気になることがある」と、彼女はその銀のパイプの内側を通っている、
もう一つの”石のライン”を指差した。

「これって……ひょっとしてこれも?」

”あひゃひゃ、そうだな。形からして見て間違いない
 作られたのは随分昔らしーが、これもたぶん『加速器』だな”

成桐市の地下を走るもう一つの石のライン。先ほどの銀のラインとまったく同じ形をしたそれからは、
円周から中心に向けて、一本の直線が延びており、そしてそれは上半分を貫く形で上に伸びている。

「これ……この場所、僕、知ってます」

かぽ、とミニチュアの上半分を被せた萌芽は、そのラインが地上に出ている場所を見て、ぽつりと呟いた。

「これ……僕がこの世界に始めて来たときに居た場所です」

思い出されるのは、顔を全て前髪で覆った”せんせい”の姿。

その場所は、竹内萌芽が竹内萌芽に成った場所。
この世界に来て、彼が始めて三浦啓介と出会った場所なのだった。

【ターン終了:竹内萌芽、離脱】

32 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2011/02/12(土) 07:26:29 0
「なるほど。『ロールの強制』を逆手にとるというわけか」

佐伯と呼ばれた女の述懐と、仲間たちの補足によって事実の概要を把握したタチバナは、
ゆっくりと大気に染み渡らせるように感嘆を漏らした。
頭の切れる女だ。全員を牽引するリーダーシップもある。何より、感じるのは真実へ向かう強固な意志。
先頭を切る者としてこれ以上の資質を持ったものはないというぐらいに。
――おかげでタチバナは、今まで以上に自分のことに没入できる。

>「さて、僕はそろそろ『時間切れ』みたいです。それじゃ、またお会いしましょう、皆さん」

佐伯と共に居た萌芽が踵を返し、かつて休鉄会と轡を揃えていた頃と同じように、溶けるようにして消えた。
萌芽がこんなふうに消えるのはいつものことである。『またお会いしましょう』という言葉に偽りがないのも。

「では僕もそろそろここを発とうかな。僕の腕の件が片付いたらとは言うが、僕とて座視するつもりはない。
 なにより僕の為に全体の進行に待ったをかけるのは心苦しいからね。ちょっと行って取り返してくる」
「当てはあんの?タチバナさん」
「ないね、ゼルタ君。あいにくと僕はここがどこだかすらわかっちゃいないよ」
「……なんか最近、自信過剰なのか開き直ってるだけなのかわかんないよタチバナさん」

ジト目のゼルタの指摘に、タチバナは無い肩を竦めた。
柄にもなく動揺しているのかもしれない。思考は上滑りを繰り返し、大言壮語が口を突く。
崩れきったペルソナを安い膠で修繕してかぶり直したところで、塞ぎようのない亀裂から本音が漏れ出していく。

「そうだね。僕もいろいろと失うものが多かった。その中に初期の頃の超然としたキャラが含まれていてもおかしくない。
 だから、取り返してくるのさ。失った『かつて』と『これから』。右腕と、――僕のキャラを」

アクセルアクセス、と呟く。返答はなく、代わりに虚空から一揃いのスーツが投げ出された。
それを片腕で器用に身に付けていき、整髪料だけは片手ではどうにも盛りようがなかったので髪は下ろしたままで。
どうにかこうにか30分はあくせくして、ようやくスーツ姿のタチバナが完成した。
片腕がないことと、オールバックじゃないことを除いていつもの彼である。狂気じみた笑みだけは、ついぞ戻らなかったが。

「当面先立つものとして現在地の情報が欲しいね。ここはどこで、一体どんな因果で僕達はここへ搬送されたのか。
 ――僕の腕の件が片付いたら、と言っていたが、それについて何か見当はあるのかい?」


【集まった者達へ質問。 ・ここどこ? ・腕の件って今どうなってるの?】

33 :月崎邸にて ◇IPF5a04tCk:2011/02/12(土) 15:31:03 0
異世界、図書館、世界追放。
当事者達が熱心に議論を交し合う中、明らかに場違いな人間達がいた。

「…………これ、アチシたちが聞いてていいコトなのかなぁ」

「俺からすれば言ってることが全ッ然意味わかんないぞぉお!!」

「右に同じく」

そう、ミツキや柊、秋人という「現実世界」側の人間達だ。
佐伯は異世界人たちが連れてこられた理由や、帰る手段などについて彼らに提示した。
何人か帰ることを渋る者もいるものの、佐伯の説得は成功したようだった。

「これ、放っておいていいのかなあ……」

ミツキはあくまで進研側の人間だ。進研の目的は異世界人の確保、イデアの入手。
彼らを逃がしてしまっては元も子もないのだが、同時に彼は迷ってもいた。
果たして、自分が邪魔をしてもいいものか。彼の脳裏に、あの男の横顔がよぎる。

「それよりミツキ、俺達帰りたいんだけど」

「ハァ!?……ああ、そういうことね」

ぐっすり眠る弓瑠を指さされ、ミツキはようやく納得する。
彼らは家族だ、と言っていた。家族が見つかったし、家に帰りたいのだろう。

「あのー、じゃあアチシ達はここらでお暇させてもらいます」

「えっちょっと!なんで弓瑠ちゃんまで!?」

「弓瑠は俺達の家族だ。ここまで連れてきてくれて感謝するよ」

立ち上がる一同。一礼し、ミツキは文明を発動させる。


「また会いたくなったら、いつでも来るといい。……進研でな」

青い光が発せられ、ミツキ達は姿を消した。
その後ろ姿を、一匹の猫はただ見ているだけだった。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

>「当面先立つものとして現在地の情報が欲しいね。ここはどこで、一体どんな因果で僕達はここへ搬送されたのか。
 ――僕の腕の件が片付いたら、と言っていたが、それについて何か見当はあるのかい?」

タチバナの声に、メンバーがそれぞれ答える。その中で、とある声が割って入った。

「……最後なら答えられるぜ。俺がこの目で見ていたからな」

34 :月崎邸にて ◇IPF5a04tCk:2011/02/12(土) 15:32:56 0
答えたのは、何と片目の猫、ロマ。
真っ先に反応したのは、近くにいたゼルタだった。

「えええええええ!?ロマが喋ったー!?」

「ったく煩ェな、猫の耳を考えて悲鳴あげろよ」

「ごごごめんなさいじゃなくて!何で猫が喋んの!?おかしくない!?」

「おかしいのはお前さんだ。周り見てみろ」

「あるぇー!?なんか皆あんまし驚いてない!?」

動揺するゼルタを余所に、猫はその場にいる一同を見回す。
そして佐伯に目をとめ、深々とお辞儀をした。

「驚かせてしまったなら済まない。お嬢さん達の話を聞いてたら、いてもたってもいられなくなってな」

ゆらゆらと尻尾を動かし、「さて、どこから話したものか……」と呟く。

「お嬢さんにそっくりなお嬢さん……エレーナだっけか。新市街地の方に向かっていったぞ」

その時、縁側に白い猫が現れる。なんと血まみれだ。
猫は驚いたように駆け寄り白猫と何やら会話する。
そして戻ると、深刻そうな表情で彼らに告げた。

「仲間の猫から報告があった。あのレンとかいうやつが新市街地で暴れまわってるらしい。お嬢さんもそこにいる」

それと、と猫が俯き加減に続ける。表情は暗い。

「……シノのお嬢さんが死んだらしい。あの猫が見ていたそうだ」

顎で指された白猫が「なーう」と声を上げて部屋にあがり、ロマに擦り寄る。
血はまだ新しいらしく、畳にポタリポタリと鮮血が垂れる。

「今はまだ戦闘中だそうだ。ここからそう遠くには離れてない。カリーナ、案内出来るか?」

「にゃーう!」

白猫が威勢よく答える。外へと駆け、「早く早く!」と急かす。
ゼルタが困惑したように猫を見た。

「ロマ……アンタ、何者?」

ロマと呼ばれた猫は振り返り、少しだけためらうようなそぶりを見せ、ぼそりと答えた。


「……俺の名前はテナード。お前さん達と同じ、異世界人だ」

35 :進研にて、八重子と邂逅 ◇IPF5a04tCk:2011/02/12(土) 15:48:05 0
【進研内:廊下】

「ただいま帰りマンモスー!」

「それ、古くない?」

乱暴に扉を開け、どすどすと乱入する柊と秋人。それに続くミツキと101型。
しかし、進研は慌しく、それどころではない。
あちこちが何者かによって破壊された形跡があり、ボスは不在。

「留守だとおおおお!?」

「柊うるさい、弓瑠が起きるだろうが」

「それより、何かあったのかな?こんなに人が運ばれるなんて……」

【進研内:集中治療室】

「……………その銃は、何のつもりかしら?八重子。竹内萌芽が目覚めたらどうするの?」

苛ついた声色で、Cは八重子を睨みつけた。八重子の手には小さな銃が握られていた。
八重子は顔を強張らせてCを睨み返す。

「ここで何をしているのかしら、C。……いいえ、誰かさん?」

安全装置を外し、八重子は声を張り上げる。
Cは怖れるでもなく、ただ苛々していた。自分が何をしたのかすら、覚えていないというのに。
彼女は一体、何を知っているというのか。

「誰かさんってどういうつもりよ。私は幹部のC、看護長の……」

「とぼけないで!この嘘つき!」

頭が痛いのに声を張り上げられ、Cの不快感は更に上昇する。
八重子は、床に散乱したあるものを見て、更に言う。

「どうして貴方の嫌いな烏の羽がここに沢山落ちているの?」

「そ、それは烏が勝手に開いた窓から……!」

「琳樹さんの烏のように人に慣れたものならともかく、普通の烏がこんな所まで来るかしら?」

更に、Cの白衣には、無数の烏の羽が付着している。
それに、とドアを指さした。

「どうやってここに入ったの?ミツキちゃんの文明が掛かっていたはずなのに」

「そ、それは私が命令して……」

「ミツキちゃんは居ないし、部屋には≪無限回廊≫が施されていた。許可された監督の私以外入る事は不可能よ!
 ただ一つ、文明の掛かってない、その窓から入らない限りはね!」

Cが項垂れる。八重子は銃を降ろすことなく、何時でも引鉄が引けるように集中する。


「調べてみたわ。Cという人物は≪存在しなかった≫。なのに≪存在している≫」


「貴方は、何者なの?」

36 :進研にて、八重子と邂逅 ◇IPF5a04tCk:2011/02/12(土) 15:50:44 0
やがて、Cがゆっくりと表をあげた。
しかし、それは既に『Cではなかった』。

「……駄目じゃないか、親友に向かって銃を向けるなんて」
「ッ! M幹部長!?」

その顔は、ニタニタと笑うM幹部長のもの。更に溶けるように、顔は豹変する。
見覚えのある顔だった。昨日、BKビルで死んだはずの男の顔だ。
更に顔は目まぐるしく変わる。青年、少女、動物の顔…………。

「あ、貴方、一体…………」

やがて、変身が止まる。
八重子にとってその最後の変身は、彼女に隙をつくるには充分すぎるものだった。

「…………い、市、子…………!!」

ボサボサの茶髪のライオンヘアーと三つ編み、それだけだと人間のテナードを思わせる。
しかし、豹変したカズミと瓜二つの顔は、正真正銘、八重子の親友であり「彼」の母親。

「あああああああああああああああああッ!!」

「ッ!待って、市子!!」

市子と呼ばれた女性は窓を突き破り、飛び降りた。
そして再び烏に変身して大空を舞い、ある方向へと飛び去っていく。

「どうして……何で貴方が生きて……!?」

シエルも竹内萌芽も、この騒動には気づかずまだ眠っている。
ふと窓に目をやると、腕章がぶら下がっていた。
手に取ると、それぞれMとC…………そして、≪A≫の刺繍が刻まれていた。


【テナード(猫):エレーナさん達の所まで案内します】
【ミツキ・弓瑠・柊・秋人・101型:帰還】
【???:進研から逃亡】
【八重子:集中治療室にてA、C、Mの腕章を発見】

37 :ドルクス ◇SQTq9qX7E2:2011/02/13(日) 10:18:59 0
「(ふーむ。佐伯さんとかいうこの人の仮説……これは重要な手がかりになりそうッスね)」

一通り彼女らの話を聞き終え、俺はタチバナさんを見る。
エレーナ様は彼の腕を持つあの少年を追ってどこかへ行ってしまった。
同様に、それを追って訛祢琳樹も。

>「当面先立つものとして現在地の情報が欲しいね。ここはどこで、一体どんな因果で僕達はここへ搬送されたのか。」

スーツを着終えたタチバナさんが尋ねる。
それに答えたのは、とある人物だった。

「それについては私がお答えしよう!」
「喧しいぞ糞兄貴」

TとQだ。二人とも包帯だらけだが、命に別状はなさそうだ。
隣の部屋からスパーンッと豪快に襖を開ける辺り、元気そうで何より。

「ここは我等が月崎邸!私達の実家だ!デカイだろう!」
「デカいしか言うことないのかよ」
「………そして古めかしい!」
「それしかないのか結局!!」
>「 ――僕の腕の件が片付いたら、と言っていたが、それについて何か見当はあるのかい?」

珍しく顔色ひとつ変えずに、タチバナさんは淡々としている。
まるで何か憑き物が落ちたかのような、奇妙な感じだ。

>「……最後なら答えられるぜ。俺がこの目で見ていたからな」

「え?」

誰のものでもない声が答えた。
先ほどの人たちが戻ってきたのか?しかし、いるのは猫、ロマだけだ。
いや、まさか……ロマが?

>「えええええええ!?ロマが喋ったー!?」
>「ったく煩ェな、猫の耳を考えて悲鳴あげろよ」

どうやら予感は的中。ロマが会話できるのは少々驚いた。顔に出ないだけで。
TやQ、ペニサス様も目を丸くしている。

38 :ドルクス ◇SQTq9qX7E2:2011/02/13(日) 10:21:04 0
>「お嬢さんにそっくりなお嬢さん……エレーナだっけか。新市街地の方に向かっていったぞ」

思い返せば、いつの間にかロマだけが姿を消していた。
ならば彼は見ていたのかもしれない。エレーナが去った方向を。
更に、血まみれの白い猫が現れた。ロマが駆け寄っていく。仲間だろうか。それに……

「ペニサス様、あの猫……」
「血まみれね。嫌な予感がするわ」

戻ってきたロマの顔色は、良いとはいえなかった。

>「仲間の猫から報告があった。あのレンとかいうやつが新市街地で暴れまわってるらしい。お嬢さんもそこにいる」
>それと、と猫が俯き加減に続ける。表情は暗い。
>「……シノのお嬢さんが死んだらしい。あの猫が見ていたそうだ」
「な…………………!!」

死んだ?ならばあの猫の血は、彼女のもの?そうでなかったとしても……!

「俺、行ってきます!」
「なら俺も!」

Qが続こうとする。それを止めたのは、Tだった。

「久羽、お前は連れて行けない」
「な、何故!少なくともお前よりは強いつもりだ!!」

TはQの肩を抱く。彼(女)を見つめる目は、真剣そのものだ。

「久羽。お前は確かに強い。そして傷を癒す不思議な力がある」

にこりと柔らかく微笑み、Qから離れる。

「だからこそ、ここに居てほしい。……タチバナ君のためにもね」

今度はタチバナさんの方へと振り向き、ペンを振るう。
青い線が空を描き、やがてそれはひとつの檻を形成し、タチバナを閉じ込める。

「君は着いてこなくて良い。けが人は足手まといだ」

今度は黄色い鎚を顕現させ、軽いストレッチを始めた。
アンタだってケガ人じゃないスか。そうは言いたくても、彼の背中がそうさせなかった。
何故だろうか、彼の背中を、俺は一度見ていた気がした。

「タチバナ君の右腕奪還・ついでにエレーナ君も助けちゃおう作戦、始動だ。メンバーを募るよ、諸君」

その場にいるメンバーを見回し、Tは鎚を担いで宣言した。
檻に閉じ込められたタチバナさんの方は、一度も見ようとせずに。

39 :ペニサス ◇SQTq9qX7E2:2011/02/13(日) 10:29:13 0
【side/ペニサス】

>「今はまだ戦闘中だそうだ。ここからそう遠くには離れてない。カリーナ、案内出来るか?」
>「にゃーう!」

メンバーが決まり、ロマと白猫ちゃん(カリーナというらしい)が呼びかけた。
私ことペニサスとゼルタちゃん、それにQ等はお留守番、もといタチバナさんの見張り。
この檻から抜け出されないようにするためだ。

「作戦は極めて単純。レンからタチバナ君の右腕を奪還、それにエレーナ君とシノ君の死体を回収。
 この際だ、君達の仲間も回収しちゃおう!そうしよう!」
「随分ノリが軽いッスね、アンタ……」

円を作って男共が膝を突き合わせて会話している。むさいなあ。
私はこっそり佐伯、という少女を見やった。
エレーナに恐らく一番『近い』少女。彼女なら、あるいは……

「佐伯さん、だったかしら?ちょっと、いい?」

私達は廊下に出た。人っ子一人いない。これはちょうどいい。

「単刀直入に言うわ。貴女に、エレーナ……貴女にそっくりな女を『封印』してほしいの」

もしかしたら彼女は驚いているのかもしれない。
私は人間がよくわからないから、判断の仕様もないけど。

「彼女に一番『近く』、『図書館』の秘密に気づいた貴女だからこそなの」


40 :ペニサス ◇SQTq9qX7E2:2011/02/13(日) 10:30:28 0
       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ * ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私やエレーナ達を含め、上流魔族の長は『図書館』の、いわば守人のような存在。
図書館に侵入した者に、容赦はしない。
時に『侵入者』を追って異世界に押し寄せ、その世界を滅ぼしてしまうほどに。
エレーナはそのセキュリティの中でもトップクラスを誇る。

「その図書館で、誰かが不正に『銀の鍵』を開いてしまった。15年前のことよ」

『銀の鍵』は、私達が図書館を守るために必要なもの。
大事な『図書館』に、『異物』を持ち込まないようにするためのもの。

「鍵を開いた人物は分からない。けれども、開いた者は知らずに報いを受ける」

人間達からは、フェノメノンとか言われてたわね。
この時は、違う守人がこの世界に派遣されたけど、結果は何も得られなかった。
そして、私達が何故この世界にいるのか。

「また、鍵が開かれたのよ。何者かによってね」

今思い出しても忌々しい。それで私のパパ……ロマネスクが言ったの。
「最終手段だ、エレーナを出せ」ってね。彼女をこの世界に解き放ったの。
けれどもそれは失敗だった。鍵を開いた者の策略だった。
エレーナを開放するには、『イデア』が必要だった。
誰かはその『イデア』を欲しているのだ!

「鍵を開いた『誰か』は、エレーナとイデアを使って『何か』をしようとしている……。
 それも、おぞましくて考えるも恐ろしい『何か』を……!!」

世界征服か、それとも世界破壊か、その意図は計り知れない。
けれどもこれだけは言える。……彼女は知らずに、その鍵を開いた者の術中に落ちている!
とても危険な状態だ!

「彼女は封印するしかないわ。それが出来るのはきっと、貴女しかいない……!」

彼女が首を縦に振るかまでは分からない。
でも賭けるしかない。例え、昔の親友を『また』失うことになったとしても…………。

「彼女を封印するには、またイデアと、封印する『一組の男女』が必要なの。お願い……力を貸して!」

【T:タチバナさんを檻に閉じ込めました。アクセルアクセスちゃんなら破壊できるかも?】
【ペニサス→佐伯:エレーナの封印の協力を要請。YESでもNOでも可です】

【血みどろの眠り姫・エレーナ
     :図書館を守る最終セキュリティのようなもの。イデアを使用する事で彼女を使役することが可能。
     :パワーアップも封印もイデア次第。イデアの種類によっては、最悪の事態も予想される】
【ペニサスの予想:イデアを手に入れ、佐伯ともう一人『誰か』がいればエレーナの封印も可能?】

41 :琳樹 ◇cirno..4vY:2011/02/13(日) 10:33:48 0
バサバサと羽ばたいていた男がふと口を開く。
その声は小さく、か細いものだった。

「分からない」

「何がかしら?」

分からない、といきなり呟いても、だ。
それだけだと聞く側はもっと分からないものである。
たとえそれが独り言だろうと傍に聞く者が居て、尚且つ聞き返された以上、説明は必要なのだ。

「私は何故呼ばれた?
 私には役目なんて無いのに、私を呼ぶメリットなんて何も無いのに」

根本、である。
ある一組の男女の話が主軸だとしよう、ある精霊使いの話が主軸だとしよう。
それらと全く関係の無い彼に、イデア等宿っている筈もない。
そう、そうなのだ。彼はそこが疑問なのである。
主軸と外れた登場人物、そんなものは世界から排除されてもおかしくはないだろう?
何故されない、何故彼はまだ生きている。
ただこんな事、考えたって、ねえ。

「いきなりどうした?」

「全部嫌になったんだ」

全部嫌になった。全部嫌になった。全部嫌になった。
考えるのも生きるのも死ぬのも、だから主人格なんてさっさと殺して。

「……あの女を捜すんじゃなかったのかしら」

「エレーナさんを捜す、そうしようと思ってたけれど。全部嫌になったんだ」

「そうか。じゃあここで終わりにするか?」

彼は主人格を殺して、どうするのか。
烏の言う通りに終わりにするのだろうか?だがそれでは少し、あっけない。
さてと、ここで疑問。質問、質疑応答。応答なんてないけれど。純粋に、聞きたい。

「何でエレーナさんなの?シエルは?そもそも何で捜してるの?くぅがいるのに?くぅしか見ないだとか言ったのに?
 ありきたりなラブコメにはもうこりごりさ」

芯という物が無いのだろうか。彼には。否、私にはだったか?三人称、一人称?
ああもうどうだっていいのだ。……はて、本当にどうだって良かっただろうか?
良くない、ああ、そうだ良くないのだ。と、ここで地上から、この世界から、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


42 :琳樹 ◇cirno..4vY:2011/02/13(日) 10:38:11 0

「ああ、不愉快、不愉快、耳障り」

嗚呼、其の背に生えた翼が赤黒く染まり、口端からは血液が流れ出す。そうして最期に悪魔の様に黒い角、嗚呼、素敵だわと烏が笑った。
これが文明の力、否いや、文明の暴走である。狂烏凍結、敵を凍結させる事が出来る文明なのだが、名の通り、狂うのである。適合しすぎると。そもそも適合するという事は、元から少しでも狂っているということなのだけれども。
果てさて、こんなものが、世界に愛された者の姿だろうか?

「あら……、リンキったらそんなに私と適合していたの?素敵!」

「それならそれなら、同じ世界にようこそだ!」

烏の女がそう叫ぶ。
男はけらけらと笑いながら、先ほどまで捜していた女性の頭上でぴたりと、静止する。

「ああ、こんな所に、捜したんだべ、エレーナさん?」

そうして穏やかに、狂ったように、顔に笑顔を貼り付けた。


【え?狂った? いつもの事です】

43 :笠松ニノ ◆H9T8l.lOZQ :2011/02/13(日) 19:01:06 0
ニノがまず初めに遭遇した人間と言えば股下の男である。
何故股下なのか、肩車なんてものをされているからだ。
「……何だこれ」
男にしては少し高めの、女かと言われれば首を傾げたくなる、小物っぽい声で呟く。
領主の首を刎ね、生首に直撃し、あげくの果てには肩車をされればそりゃあそうなる。
夢にしたってカオスすぎねえかと頭を抱えるが、肩から落ちそうになり慌てて男の頭を掴み直した。
「いやマジで何だこれ」
肩から降ろされた後にもそう呟く。
あの少年の雰囲気的にもうちょっとシリアスな感じじゃないのか?
何を間違えた、何を間違えてこんなギャグチックなんだ。
そうして何が原因かを考えている内に声をかけられはっとする。
「お前も来るか、そこの黒装束。来ても止めはしないがな」
「ん、おう、行くとこもねえしついてかせてもらうぜ」
男にそう答え、ていうかこんな所にほっとかれてもどうしようもねえ、と続ける。
そうして男の後ろへついて歩こうとし、ふと気付く。
……あれ?俺目立ってねえか?、と。
忍が目立つ等一番いけない事である。しかし身を隠す場所も何も無い。
その上何やら巨大な白い建造物のせいで全身黒の彼は余計に目立つのである。
ならせめて顔を隠そう、と彼は懐から黒い目線を取り出し目を隠した。
さながらニュースで放送される○○容疑者だとかプライバシーを保護される一般人だとか、そんな風に。
「よし、行くか」
何が良しなのか。余計に目立っているのは触れてはいけないのだろうか。
いやしかし、彼的には顔さえバレなければ大丈夫なのだろう。
ならばもう何も言うまい、とここまで通行人Aの思考。

「……あれ?」
彼が目立ってねえかと気付き、身を隠す場所を捜し、目線を取り出しているその内に、少女を背負った男は遠くへ行ってしまっていた。
仕方の無い事である。声をかけられた次の瞬間にはもう彼は走り出していたのだし、それに上記の行動を全て待っていてくれる程親密な関係でも無い。
「まああの位の距離ならいいけどよ……」
呟いて三十秒も経たない内に彼らに追いつく。
しかし何処に行くのか分からないニノは速度を落とし先程まで自分を肩車をしていた男の後ろから追う事にした。
「もっと効率良く走れねえの?」
あまり印象の良くない言葉を呟きながら、ではあったが。

【その俊足に流石のナイトもぬんじゃは足だけは速いなというか鬼なった】

44 :名無しになりきれ:2011/02/14(月) 02:03:08 O



ひたすら、嵐が過ぎるのを待っていた。
飛峻さんが無事に戻って来ますようにと、祈りながら座り込んでいた。

周囲がざわめきを残し、逃げていく。
邪魔だと感じた男に蹴られたり必死な女にヒールで踏まれたり、足は傷だらけである。
ただ、もうどうしようも無い。真雪は腰が抜けたせいで、立てないのだ。
不意に視界が拓けて、飛峻の様子が見える。

「他人から物……腕を盗んではダメと教わったダロウ?」

何やら挑発していた。

「…どうしてわざわざそんな事をするの…危ないとは思わないの?」

口の中でモゴモゴと言っていると、不意に真雪の目の前に見知らぬ足元が侵入した。
顔を見上げると、先程の大男だ。

「安心してくれ、俺は味方だ。立てるか?」

喫茶店で見た攻撃性は鳴りを潜め、真雪を穏やかな表情で見ている。
真雪が首を振ると、そうか、と一言呟いて、視線を外した。

そうして真雪は、結局大男に負ぶわれた。
スカートの中身が見えてしまう事はすっかり頭から抜け、気にするのは背後。
真雪は迷っていた。
ここで叫んでしまえば飛峻は気にするだろう。そのせいで飛峻が殺されてしまうかも知れない。
だけど…だけど、ここを離れたくない。一緒に居たいのに、また隔離されてしまう。

真雪が迷って居る間にも、どんどんと離れていく。
衝動的に、真雪は叫んだ。

「飛峻さん! 〜〜〜っ」

言いたい事は沢山有る。有りすぎて、何も言えない。
飛峻が見えなくなった瞬間、真雪は背負うその肩に顔を押し付け、静かに泣いた。

―――――――――――――――――――


45 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2011/02/14(月) 02:05:56 O
上のレスは月崎真雪◆OryKaIyYzcです。
名前欄忘れ失礼しました。

―――――――――――――――――――
一通り泣き終わると、急に今の格好が気になり出した。
白い袖無しシャツに赤いワンピース、レギンス。
スカートで負ぶわれるのは、流石に恥ずかしい。

「あの、もう、下ろしてくれませんか?」

耳元に向かってそう尋ねるが、拒否された。
どうしようと兔の方を見るが、彼女も首を振るばかり。

「あんなに踏まれたり蹴られたりしたのに、そんな状態でまだ走れるとでも思ってるんですか?」

…そんな事まで言われた。
こうなったら実力行使に入るしかあるまいと、肩を掴んでる腕を首に回す。
力を入れようとしたその時、妙な忍者男(?)が現れた。
いや、プライバシー線をリアルで引く人間、初めてみたわ。

「もっと効率良く走れねえの?」

初対面の人間にそこまで言うか。いや、初対面じゃ無いのかも知れない。
真雪は彼と相容れない事を悟った。
親しき仲にも礼儀有り。親しくないなら尚更だ。
そっちがそういう態度を取るならば、真雪だってそれなりの対応を取る。

「そうやって暴言吐くなら少しは空気ぐらい読んだら?
あんたのせいで色々台無しよ、あっちに残って飛峻を助けてくれれば良かったのにこのボケ男」

真雪が据わった目つきでする発言は、忍者男の何倍も毒を混ぜていた。
真雪も人の事は言えない。

【真雪:流されるままにリーさんに叫んだり、ニノさんに暴言吐いたり】
【スカートの中身気になるんで下ろしてくれませんか。まあ走れないけど】

46 :榎 慈音 ◇YcMZFjdYX2:2011/02/14(月) 22:04:31 0
後方の騒がしさに目をやり、慈音は呆れを混ぜた視線を送る。
大男と真雪と兎、(何故か)忍者。どこの仮装パーティーかと。
これはもしや夢ではないかと疑う慈音。後で辺田を殴れば分かるかと脳内解決した。
それにしても喧しい。喧しいのは嫌いだ。故に、青筋を浮かべた笑顔で振り返り、

「そこのお三方、静かに走れないならお縄頂戴してもいいのよ?」

後方の三人が押し黙ったのは言うまでもない。

「さ、着いたわよ。避難所に最適な場所……警視庁よ」

慈音はかすかに笑い、まさか敵を招待したとは思いもせずに、得意満面。

「ここ以上に安全な場所なんてないわよー。私が」
「変ですね、開きませんよ」
「保障するぇーー?どゆこと!?」

わが耳を信じられない慈音は、すぐさまドアを開けようとする。
しかし兎の言うとおり、ドアはビクともしない。

「どういうことだってばよサス○ェ!」
「慈音さん落ち着いてください。とにかく突破口を探しましょう。」

調べた結果、扉という扉の隙間が塞がれ、一枚の壁と化していた。
扉の向こうは暗闇というおまけ付き。これは何かある。

47 :榎 慈音 ◇YcMZFjdYX2:2011/02/14(月) 22:14:15 0
「困りましたね……他を当たりますk」

≪ヒュンッ、ガシャンッ!!≫

兎が周りに問いかけるより早く、風を切る音、続いてガラスが砕ける音が響き渡る。
バラバラと、蹴った場所から落ちていくガラス。
慈音はすまし顔のまま、足に付着したガラスの欠片を振り払う。

「ガラスの壁になってるなら、一点を突いちゃえば脆いもんよ」

何事もなかったかのように、慈音は先立って扉の向こうへと突き進んでいった。

・―――――――――――――――――――――・

散乱した書類、ひっくり返った机、えぐられた壁、動かない仲間達。
先ほどよりも充満する血の臭いに、慈音たちはただ顔をしかめる。

「ハリケーンでも通ったんでしょうかね?」
「何いってんの兎さん、ここは日本よ。台風に決まってんじゃない」

(本人達は至って真面目に)あり得ない推論を立てつつ、奥へと進む。
この惨状を目にして、通りで辺田が来ない訳だ、と納得する。
彼のことだ、更に仲間を呼ぼうとして一度ここに戻ってきたのだろう。
そしてこの惨状のもととなる『何か』に巻き込まれた……と考えるのが妥当だろう。

「あんのグズヘタレ……死んでたりしたらぶっ殺してやるわ…………」

矛盾した恐ろしい事を呟き、真雪へと視線を移す。正しくは、真雪の足。

「二階の突き当たりに救護室があるわ。私はもう少し見て回るから、貴方達はそこで待ってて頂戴」
「なら、私も行きます。一人より二人ですよ」

兎がそれに続き、二人は静かな廊下を上がっていった――……。

・――――――――――――――――――――・
その頃、一人の男が四人の男女を追い詰めていた。

「ん……?侵入者?」

鸛と呼ばれる男は天を仰ぐ。
侵入者は5人。詳しいことは分からない。が、殺す対象が少し増えただけのこと。

「どっちにしようかなー……」

鸛はニヤリと笑った。

【状況:警視庁に突入。兎・慈音の二人が内部を捜索】
【入口:鸛が敷いていた文明を破壊。鸛さんに侵入したことがバレました】

48 :テナード ◇IPF5a04tCk:2011/02/15(火) 22:25:28 0
先頭を走る警官、それに続くテナード。動けない少女を背負い、女と忍者が続く。
>「飛峻さん! 〜〜〜っ」
みるみる離れる青年の名前を呼ぶ少女の声に、心が揺らいだ。
きっと側にいたいのだろう。本当なら残って戦うべきだったのだろう。
しかし、自分がとった手段は『逃走』。

「…………やりきれねえなあ」

>「もっと効率良く走れねえの?」
「ぬぉわっ!?」

気づくと、忍者が隣にいた。ご丁寧に人を苛つかせるような一言を付け加えて。
「悪かったな、非効率的で!」と返そうとした言葉は、少女によって遮られた。

>「そうやって暴言吐くなら少しは空気ぐらい読んだら?
  あんたのせいで色々台無しよ、あっちに残って飛峻を助けてくれれば良かったのにこのボケ男」

刺々しく、毒を含んだ怒りを爆発させる少女の言葉。それが、彼の逆鱗に触れた。

「…………そうか」

いきなりテナードは立ち止まり、少女を支える手を離した。無論、少女は重力に従って落ちる。

「そんなに仲間が心配なら行けばいいさ。その足で何が出来る?」

少女を見下ろす。
その表情は、喫茶店の前で見せたあの鬼気迫るものと同じだった。

「ビビって腰抜かして、他人の世話にならなきゃ移動もまともに出来ねえ。
 そんな奴があそこに戻って何になる?あの化け物をどうやって倒す?
 せいぜいあの生首共のお仲間になるだけだ!足手まといでしかねえんだよ!」

せきを切ったように捲し立て、少女を見据える。

「人間が、『化け物』に勝てると思ってんのか?」

それは問いではなく、皮肉。自分自身に対する皮肉。
やがて彼の怒りも引いていく。早くしろと周りが二人を急かす。

「はぁ……ほらよっと」

子供をあやすように抱え上げる。急がなければ。タイムロスは許されない。

「ごめんな」

走り出す直前、少女の耳元で彼は無意識に呟いた。

49 :テナード ◇IPF5a04tCk:2011/02/15(火) 22:27:53 0
「何だ、ここ……やけに静かだな」

テナードは不安げに警視庁を見上げた。警官曰く、避難所に最適の場所。
人通りがないのが気になるが、警官の彼女が言うなら間違いないのだろうか。

>「ここ以上に安全な場所なんてないわよー。私が」
>「変ですね、開きませんよ」
>「保障するぇーー?どゆこと!?」

「…………避難所に最適なんじゃなかったのか?」

ドアの前で悪戦苦闘する彼女に、非難の視線を浴びせる。
兎は早くもここからの突入を諦めていた。

>「困りましたね……他を当たりますk」
>≪ヒュンッ、ガシャンッ!!≫

それよりも早く、慈音がガラスを破壊。近くにいたテナードからすれば、心臓に悪い。

>「ガラスの壁になってるなら、一点を突いちゃえば脆いもんよ」

「せめて一言断ってからやってくれ!!」

先が思いやられる。ずんずん突き進む慈音の行動に、早くも胃が痛くなるテナードだった。

* * * * * * * * * * * * * * *
>「ハリケーンでも通ったんでしょうかね?」
「室内でハリケーンが通るかッ!!」
>「何いってんの兎さん、ここは日本よ。台風に決まってんじゃない」
「同じじゃねーか!誰かに襲撃されたんだよ!常識的に考えてッ!!」

中は、何者かによって荒らされていた。
転がる人の山を跨ぎ、はぐれないよう歩き続ける間中、彼はずっとツッコミ続きだった。

「あー、疲れる二人だったぜ……」

彼女らと別れる頃には、一人も二人も一緒じゃねーかというツッコミすら出てこないほど疲弊していた。
心なしかげっそりしたような顔で、救護室を探す。
沢山のドアとプレートが並んでいるが、テナードは文字が読めない。

「お嬢さん、救護室ってどの部屋だ?その……文字が読めなくて」

少女に教えられた部屋に入る。給湯室と共同になっている造りだ。
ベッドに少女を座らせ、テナードは絆創膏や消毒液を出し始めた。

「ほら、足出せ。そのままにしてたら黴菌が入るぞ」

言うが早いが少女の足を掴み、手際よく治療していく。
あちこちが擦り傷や切り傷だらけだ。あそこにどれ位蹲っていたんだろうか。

「……よし、終わったぞ」

治療を終え、椅子の背もたれに身を預け、ぼやく。

「しっかし、待ってろとは言われたものの……なぁ」

テナードには『娘』を探す任務があった。
しかし仲間とははぐれ、見知らぬ所で見知らぬ人間と待ちぼうけ。
手持ち無沙汰とはこの事だ。

50 :テナード ◇IPF5a04tCk:2011/02/15(火) 22:29:54 0
「……なあ。仲直り、しないか?」

自然と、そんな言葉が出てきた。
自分は少なくとも、先のこともあって少女から信用されていないだろう。
しかし、この少女を安心させるにはどうすればいいだろうか。
見知らぬ、しかも殺人があった場所で、どうやったら自分を信用してくれるだろうかと思考する。

「あの男……フェイシュンだったか?アイツなら心配いらない。俺の仲間がきっと、その、助ける筈だ。……多分」

咄嗟に、エレーナの存在を思い出す。
姿を変えさせる位訳なかったし、彼女があの化け物に立ち向かう位の力はあると思いたい。

「『人にはそれぞれ役割がある。そして時に使えない役割が活路を見出す』……俺の上司が言っていた」

ピシッと忍者を指差し、テナードは続ける。

「俺もそこの黒いのも、きっとあの場では戦えなかった人間、『役割』だ。
 だが、『お嬢さんを助けて安全な場所に避難させる役割としては使えた』」

肩を竦め、力なく笑ってみせる。
少女と忍者の頭に手を乗せ、くしゃりと撫でる。

「お前さん達があの場に残らなくても、戦えなくても、必ず役割があるはずだ。
 ここで、『活路』を見出そう。それまで、俺がお前さん達を守ってやる。約束だ」

ニカッと笑ってみせた瞬間、盛大に腹のなる音が響いた。

「き、気が抜けたら腹減っちまったな。何か食い物ねーかなー」

そう言って冷蔵庫を漁るテナードは、耳まで真っ赤だったとか。


【テナード:説教したり治療したり仲直り提案したり。腹減ったんで何か食べるわ!】

51 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/02/15(火) 22:30:58 0
「なんだ……これは……」

かざした掌にべっとりと付着する血を見ながら呆然と呟く。
飛峻の全身を染める鮮血。しかしそれは飛峻自身が負傷したからでは無い。
怒りに駆られたレンの振るう鎌が飛峻に到達するのに先んじ、飛び出した少女の胸を貫いたのだ。

>「・・・・・・・ご、めん・・・・・・・なさ・・・・・・」

腕の中、死に逝く少女が呟く贖罪。誰に対してのものなのだろう。
とめどない焦燥感に目の奥が熱を持つ。
そして別れの言葉だけを残し、少女は息を引き取った。

(――――)

思考が停止し、四肢は錆付いたように動きを為さない。
明滅する過去の記憶。身を挺して自分を庇い、死んだ友の最期。

>「ハッ。赤の他人、しかも人間を助けて自分が死ぬなんて世話ないぜ」

そんな中聞えてくるレンの嘲笑が酷く耳障りだった。

「――黙れ」

常の飛峻を知る者なら別人と間違うだろう皺枯れた声。
幽鬼でさえもう少しまともな声をしているのではないか。

>「さ、邪魔が入ったけど、ちょっと頭も冷えたかな」

聞えなかったのか、レンは気にする風もなく鎌を一振りし肩に担ぐ。

「――黙れと言った」

亡骸を地に寝かせ、今度は立ち上がりながら。
声に呼応してか、それとも単に陽の光を反射したのか、少女を唯一飾る碧玉が鮮やかに輝く。

>「悪いけど、僕、あんまりあんた達の相手してる暇はないんだよね」

それはそちらの都合だ。生憎こちらは五体を裂いても収まりそうも無い。
血が付いたままの拳を爪が食い込むほどに握り締める。

>「飛峻さん! 〜〜〜っ」
>「あのデッカいオッサンが連れてったメス。アイツに用があるんだよねえ」

遠ざかる真雪の声と、それに反応するレン。
この上真雪さえも、どうにかするつもりだというのか。
残っていた最後の欠片が消失する。

>「・・・・・・・・・ま、相手してやってもいいけどね。殺すだけだし」
「……もう黙らなくて良い。お前は無様に笑ったまま、死ね」

あん?と、ドスの利いた声を出しレンが嘲笑を止める。
そこには何時の間にか間際まで詰めた飛峻と、弓引くように振りかぶられた手刀があった。

52 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/02/15(火) 22:32:44 0
「ガッ!?」

苦悶の声と、血を吐きながらレンが退く。
放たれた手刀が腹に突き立ったのだ。
指先は皮膚と肉を破り、その下の臓腑にまで到達している。

「半端に避けると苦しむだけだ。動くな」

飛峻はよろめくレンを蹴りつけ、その反動で手を引き抜く。
振るわれる鎌の柄を掴み、引き込み、今度は右膝を蹴りつける。
バギン、と枯れ枝を踏み抜いたような音を立て、レンの脚が本来曲がる方向とは逆に折れた。

「まあ、そうは言っても無理だろうからな」

殺してやる。と憎悪を向けるレンを一瞥し更なる追撃を浴びせる。
拳が、掌が、肘が。脚で、膝で、つま先で。失神による打倒を旨としていた今までとは違う。
閃く四肢の一打一打が、全て破壊を目的として振るわれていた。

最後に放った靠撃を受け、レンが吹き飛ぶ。
しかし、地面にしたたかに打ち付けられたレンはそれを待っていたとばかりに驚くべき行動に出た。

「畜生がああああああああぁっ!」

どれ程ダメージを負おうとも決して手放さなかった鎌で、自身の両脚を切り離したのだ。
次いで側に転がる死体も同じ箇所を刻む。

「何を……。――まさか!?」

飛峻がレンの意図に気づいたときには既に終わっていた。
折れた脚と、死体から切り取ったそれとの瞬間移植。
傷一つ無くなった両脚で、レンは大きく後ろへ跳ぶ。

「お前は絶対に僕が、『モンスターワールド』のレンが殺す!
 だけど……その前にあのメスだ。お前が大切にしてるメスを捕まえて月崎のババアに渡す!
 後はどうなるかなあ?ククク……アーハッハッハ。お前の悔しがる顔が目に浮かぶよ!」

鎌で首をかき落とすジェスチャーを残し、レンは再び跳躍する。
ビルの壁を次々と蹴り、あっという間に姿を消した。

「――待て!……月崎だト。そんな事させるカ!」

レンの後を追って飛峻も駆け出す。
壁を駆け上がり、屋根から屋根へ飛び移り、目指す先には半壊した警察署があった。


【レン君フルボッコ。まゆきち追いかけて警察署まで逃走。追っかけます。
 シノちゃんの胸飾り<イデア>が光ってる気がするよ! 】

53 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2011/02/15(火) 22:35:21 0
(バカバカバカバカバカバカバカ!あのばかぁ!!)

萌芽は消えた。なんと言うか、その場に居る全ての人が赤面する様な行動を残して……
だとしても今後の方針は決定した。

一つ。空間転移の為の手段を手に入れる事。
一つ。タチバナの手をとり返す事。

この内、タチバナの腕をとり返すと言う行為は異世界人達にとってなんの意味も持たない。
しかし、零にこれを否定する事は出来なかった。
それは今後の戦力に支障が出るとか、味方内での不穏要素を取り除くと言った安直な計算では無い。
彼女が否定できない訳……それは、単なる共感心からのものだ。
単純にやられたらやり返す。それは当たり前のことだった。

「さて、貴方達以外に誰かこっちに来るかしらね?」

「……私達の目的はあくまで偵察と仮定します。
 そして、現在のメンバーは戦闘力を兵士の数に換算すると約三個師団にも匹敵する戦術価値を持っています。
 その全ての情報を開示した上での質問を行います。我々では不足ですか?」

「そうじゃないけど、ゼロワンまで前線に出る可能性があるって言うのがね」

「お前の言いたい事は分るが……」

「マスター。私は人間ではありません。軍用オペレーションオートマトンku-01。兵器です。
 ですので、私が戦う事にはなんの問題もありません」

「そう言う事だ。女……貴様が思っているよりも俺達はずっと血生臭い奴らの集まりなのさ」

「分った……」

そう言い、零は口を紡ぐ。今、彼女達は人を待っている。
正直な話、零の話は過程の情報をもとに組み立てたものだ。信憑性は限りなく高いが同時に限りなく低い。
その事まで話した上で、彼女は「協力したい人だけ協力してほしい」と頼み込んで解散となった。
誰が来るかは分らないし、最後の言葉のせいでもあるが最悪、誰もこない可能性もあった。

(しかし、イデアと鍵と世界規模の情報改竄か……
 あの時、時間がほしいって返事をしたけれども、やる事は一つ。よね?)

そうして待つ間、零は先程頼まれた事柄の内容について思いをはせる。
なんて事は無い。答えなんて決まっているのだ。
それは佐伯零と呼ばれる存在の、佐伯零と呼ばれる前の、佐伯零という名前を失った後の、永久不変の記号となっても変わる事のない答え。

(誰一人犠牲にはしない。当たり前じゃない。
 犠牲なんて必要ない。えぇ、そうよ。犠牲の上に成り立つ理想なんて偽物でしかないのだからね)

綺麗事だ。だが、それ故にこの決意はこの世界において何物にも代えがたいキレイゴトになる。
思いは力、君が願う事ならば全てが現実になる。現実にするという強固な意志がありさえすれば!
そして、彼女にはそう言う生き方しかできない。意思がある。キレイゴトを続けるだけの強さがある!

(その為には誰よりも早く、イデアを手に入れる……!!)

「きて、くれた……か」

見れば、月崎家の玄関から数名の人影が見えた。

【返答:とりあえず保留と返したが、実際にはエレーナを封印する気は無く、逆にイデアを確保しようとしている】

【合流:月崎家に居るT、ドルクス、ペニサス以外のメンバー(非戦闘員である鈴木や檸檬や拘束中のタチバナも含む)で合流したい方はどうぞ。
    なお、誰も居なかった場合はゼルタを連れていきます。】

54 :エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/16(水) 19:37:06 0
何故?どうして?

>「・・・・・・・ご、めん・・・・・・・なさ・・・・・・」
「シノちゃ、ん」
>「なんだ……これは……」

何故、貴女がここにいるの?
どうして、貴女の胸を鎌が貫いているの?

「シノちゃん!シノちゃん!!」

青年の腕の中で、シノちゃんの命の鼓動が消えていく。薄れていく。
兄弟達の声も聞こえていない。どうして、どうして貴女が。

>「ハッ。赤の他人、しかも人間を助けて自分が死ぬなんて世話ないぜ」

悲しみと怒りとが、こんがらがったどす黒い想い、憎しみがこみあげた。
腹の奥から突き抜けて、何かが外れる音がする。

>「「――黙れ」」

青年の殺気が放たれ、私の奥で憎悪が背中を押した。

>「……もう黙らなくて良い。お前は無様に笑ったまま、死ね」

青年が、手刀をレンの腹に突き刺した。
私はシノちゃんの傷を癒し、見開いたままの目を閉じさせた。

「貴方に力を貸すわ。その腕で、足で、ソイツを地獄に突き落として!!!」

魔力が発動した。彼の力は今、人間の骨を容易く折ってしまうほど強い。
そして、私の怒りを、闘争心を彼の中に費やした。
でなければ、私が壊れてしまいそうだったから。
私はシノちゃんの隣で、彼女の無念を晴らすその背中を見つめる。

>「畜生がああああああああぁっ!」

レンもあがく。自らの両足をその鎌で切り落とし、再生させる。
青年と私から距離を取り、高らかに宣言する。

>「お前は絶対に僕が、『モンスターワールド』のレンが殺す!
> だけど……その前にあのメスだ。お前が大切にしてるメスを捕まえて月崎のババアに渡す!
> 後はどうなるかなあ?ククク……アーハッハッハ。お前の悔しがる顔が目に浮かぶよ!」
>「――待て!……月崎だト。そんな事させるカ!」

狂った笑顔でビルの間を駆け抜ける。青年もその後を追いかけていく。

55 : ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/16(水) 19:39:03 0
私は……私はどうするべきだろう。シノちゃんをここに放っておくのは忍びなかった。
放心する私の頭上から、不意に影が差した。

>「ああ、こんな所に、捜したんだべ、エレーナさん?」
「琳樹……さん……?」

穏やかな笑顔を貼り付ける琳樹さんの姿は、半ば異形と化していた。
背中に生えたその翼は血を浸したような赤黒さ。
最後に離れた時にはなかった角が生え、唇の端から血を流している。

「い、いや…………いや…………!!」

カアカアと哄笑する烏の笑い声、それが私を追い詰める。
魂の奥深くに閉じ込めた記憶が、木霊して、反響して、苦しめる…
もうやめて!これ以上私を……私を……!!

「素晴らしい…実に素晴らしい!」

……誰?俯いて顔を覆い隠す私からは足しか見えない。
見上げても、逆光で見えない。……なんだか、懐かしい…。

「素晴らしいの一言に尽きるよ!流石は落とし子…彼の最高傑作!!」

分からない。彼は何を言っているの?
困惑する私は、ふわりと抱き上げられる感覚に陥った。
………………なんだか、とても、ねむい……。

【side/進研ボス】

「訛祢琳樹君。合格だ。君は選ばれたのだよ」

横たわる少女の遺体からイデアを引き千切る。
物言わぬ人とはこうも儚いものか。嘲笑しかくれてやることが出来ない。
あのやんちゃっ子達の去った方角を見やる。
……やれやれ、ここまで派手にしろと言った覚えはないのだが。
だが、結果的に私はこの目で見ることが出来た。奇跡の瞬間に。

「君を選んだ甲斐があった…実験は成功した!今!ここに!」

恍惚に酔いしれ、異形…否、本来の姿となった彼を見る。
美しい、昔から変わらぬ、あの出来損ないの執事とは違うその姿!

「さあ行こう。ドルディ=T=フォックスの落とし子よ」
『てめ!放せ、この!この!』

人形達も使えるかもしれない。即席の檻を作り、閉じ込めた。
少女の死体にまで興味はいかない。後で部下達に処理させよう。
目にもう光は宿らない血塗られた姫君が、訛祢琳樹へと視線を向ける。

「手を握って差し上げなさい。君達はお互いを欲しているのだから」



56 : ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/16(水) 19:41:28 0
【side/不非希射】

「……兄貴。ロリ……」

俺は今、シノだ。碧の瞳をした、少女の身体。
あのイデアが光った時、俺の魂がロリの身体に入っていくのを感じた。
身体の記憶が、情報が、あいつの想いが、ぐるぐると残留している。

「訛祢、琳樹…」

昨日、BKビルで出会った男。あのチャイナ野郎といい、つくづく変な縁を感じた。
エレーナも変な野郎も去り、血塗れた戦場で俺一人がとり残された。
兄貴はどうなるんだろうか。俺は何も出来ないまま終わるのか?

「シノちゃーん!」
「全く、いきなり走り出してさ、はぐれたらどうする気だったんだ!」
「ぜぇ……はあ……もう!どっか行っちゃわないでくださいよ!」

振り返ると、ジョリーたちが追いついてきた。
そして血の戦場を目の当たりにし、何があったのかと目を丸くする。

「シノちゃんは大丈夫だったの!?」

本当のことを言おうか。自分はシノではなく、不非希射だと。
けれども、こいつらがそれを知って悲しんだらどうする?

「役割……」

タチバナの野郎の言葉を思い出す。
異世界人には、それぞれ果たす役割があるのだと。
俺は今、シノだ。ならば俺は、シノを演じるべきなのだ。

「……大丈夫、です」

俺は今、笑えていますか?

【エレーナ→覚醒の予感】
【進研ボス→琳樹さんとエレーナを連れて進研へ戻る際にイデアと不非兄を手に入れる】
【不非希射→シノさんの身体に宿りシノの代わりを務める、ジョリーたちと合流】

【訛祢琳樹の覚醒:ドルディ=T=フォックスが遺した最期の切り札。
         エレーナの魂と狂羽の文明、その両方と共鳴しあった。】

【ドルディ=T=フォックス:禁忌を犯し魂を三つに分断した存在。彼の魂は、誰かの中に……】

57 :訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY:2011/02/19(土) 23:32:40.14 0
>「い、いや…………いや…………!!」

何故そんなに怯えるのだろうか、私はいつも通りだろう?
ああ、そうさ、元通りの私なんだから。
彼は怯えている彼女の上でケラケラと笑う、そこに誰が来ようと見られようと話し掛けられようと。

>「訛祢琳樹君。合格だ。君は選ばれたのだよ」
>「君を選んだ甲斐があった…実験は成功した!今!ここに!」

「選ばれた、そうか、選ばれたならこの世界の人間を殺す事とか出来ないの?」

「笑い声が耳障り」

さてと前言撤回。話し掛けられれば別に笑いを止めて答える位はする。ただ噛み合っていない様な気もするのだけれど。
しかし、はて、あれは誰だったか、確か進研のボス?
ああ、そうだそうだった、訛祢琳樹は進研に保護されていた様な気がする。
では従った方が方がいいのだろう、彼に。

>「さあ行こう。ドルディ=T=フォックスの落とし子よ」
>「手を握って差し上げなさい。君達はお互いを欲しているのだから」

「さあさ、エレーナさん、お手をどうぞ」

微笑を貼り付ける顔で、血が流れ出る口でそんな事を言う。
身体中の何処から流れてる血液かなんて気にしたら負け。
そりゃ皆だって気になるでしょうけどだってもう説明なんて出来ないもの。
別に血だからって死ぬ訳でも無いし、この男に選ばれたのなら勝手にしてもらう。

「どうせ進研だろう、行くのは、ああでも道を忘れたどうしようか」

そういいながらも、ふと気がつけば進研の入り口前でした。ああ、そういえば進研のボスが一緒に居たっけ。
それなら仕方無いよな。ああそうさそうさ、仕方ない。


【進研到着なう】

58 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2011/02/21(月) 02:35:30.01 0
>「それについては私がお答えしよう!」

ふすまを勢い良く開いて参上したるはタチバナと鏡写しの容姿をもつ男・T。
その傍にはタチバナの妹とクリソツのQ。例の姉妹がタチバナ達のいる部屋へと闖入してきた。

>「ここは我等が月崎邸!私達の実家だ!デカイだろう!」

(ツキザキ……聞き覚えがないな。彼(T)と僕とが異世界同位体ならば、
 とりまく環境にも近似したものがあると踏んでいたが……ふむ、この件については要検証だね)

>「……最後なら答えられるぜ。俺がこの目で見ていたからな」

ロマが喋った。弓瑠が後生大事に抱えていた不遜の猫が、タチバナの問いに答える。
ゼルタが頓狂な叫びを挙げて驚いたが、こと文明世界においてありえないことなどひとつもありえないのだ。

「落ち着きたまえゼルタ君。猫が喋った程度のこと、僕達のくぐってきたイベントに比べれば些事じゃないか」
「ええー……順応性高すぎるよみんな。感覚マヒってない?結構大事な話だと思うんだけど!」
「ははは、死人の君がいうかね」
「っは、そーでした!完ッ全に忘れてましたそんな設定!そんなキャラだったねあたし!」

>「仲間の猫から報告があった。あのレンとかいうやつが新市街地で暴れまわってるらしい。お嬢さんもそこにいる」
>「……シノのお嬢さんが死んだらしい。あの猫が見ていたそうだ」

「――なんと」

シノが死んだ。あの朴訥とした、健気な少女が。
レンを止めると誓い、囚われた死者を味方につけ、戦う決意を伸ばした彼女が。

「新市街地だね。すぐに向かおう」

バランスの取れない身体で器用に立ち上がる。
刹那、頭上から覆いかぶさるように青い三角錐が降ってきた。鳥に籠を被せるように、タチバナは拘束される。

>「君は着いてこなくて良い。けが人は足手まといだ」

Tはこちらを一瞥ともせず話を移した。
それは完膚なきまでに戦力外通告であるどころか、『居るほうが迷惑』――人員としては最悪の評価である。

(正論だ。今の僕にあのゾンビ少年と渡り合うだけの余力はない。
 いや、万全であった文明市での戦闘すら彼には大きく水を開けられていた。現状を正しく認識するならば)

ここで無理を通すのは愚策で下策。
戦えぬ者の防衛に回す熱量はないし、タチバナ自身戦場で無理なく立ち回れる自信はない。

そう、自信がない。
タチバナというキャラクターにとって何にも代えがたいパラメータである『絶対の自信』。自身への信頼。
片腕を落とされ、フルボッコにされた今、萎れ垂れ下がったこの前髪のように彼には信頼性が欠如している。

>「タチバナ君の右腕奪還・ついでにエレーナ君も助けちゃおう作戦、始動だ。メンバーを募るよ、諸君」

結界の向こう側でTが話を進めている。
このまま座視していれば勝手に事態は進行し、寝て待っているだけで結果は得られるだろう。
それが片腕の返却であっても、――――奪還チームの全滅の報であっても。

(アクセルアクセス――君が出てこなくなったのも、僕のこの都落ちが原因なんだろう)

凋落した今。
存在にインストールし精神で実行するデバイス・精霊を扱うには精神スペックの不足が深刻だ。

59 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2011/02/21(月) 02:37:01.61 0
この超然としたキャラというペルソナは便利だが、しかし一度割れてしまえば修復は効かない。
意志と意思とを絶妙なバランスで練り上げた仮面は二度として同じ物を用意できないし、中身が露呈すれば失望を生む。
なんでもやってみせるという実行力・実現力。その期待を完璧に応えることでタチバナは今の自分を形作っていた。
無表情で、無感情で、何考えてるのかイマイチわからなくて、――だけどやるべきことは完遂できる。それがタチバナというキャラ。
その上っ面が剥がれた今、気の萎えた本質が明らかになった今、アクセルアクセスにさえ見放され、彼は一人だった。

空の玉座。
誰の注目も集めることができなくなった、機能不全の人間。

(僕は――)

能面のような顔で、平然と鉄火場に立っていたあの頃は、あるひとつの感情を無視していた。
身体の動きを鈍らせるからという理由で、脳内物質を『弄り』、物理的に目を背けていた。
それは。

(――怖い)

恐怖という感情。
足を竦ませる脳内物質の分泌を遮断し、目と鼻の先を銃弾と血煙の掠める戦場を歩いてきた。

(これ以上、何かを失うのが怖い)

タチバナは何も持たなかった。彼は持たざる者だった。
身ひとつと、スーツと、アクセルアクセスだけ。それだけで生きていけたし、十全な生き方ができた。

(珍妙君は死んだ。シノ君も死んだ。僕の手のひらから、両腕から、ひとつづつ零れ落ちていった)

だが、得てしまった。この世界で、この街で、休鉄会という集団を形成し、異世界人を仲間にして。
――そこに付随するありとあらゆる人間や、繋がりや、感情を。タチバナは拾得してしまったのだ。

(もうこれ以上、僕が背負ったものの中から、ただのひとつだって失いたくない)

平行世界の自分。
鏡写しにそっくりで、同じ名前で呼ばれる存在。
だけれど二人は境遇も、言葉も思想も別のもの。住んでる場所は地続きじゃない隣。
それは、世界に3人いるという自分のそっくりさんとどう違うのだろうと考えたことがある。
だって、同じ顔をしているのに、やっぱり三人は言葉も思想も住居も違うのだ。

――だったら、持つものの違う自分と自分も、まるきり別人ってことじゃないか。

60 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2011/02/21(月) 02:38:33.93 0
タチバナは双眸を閉じる。胸の深奥に座す自分自身を喚起する。

「もうこれ以上の『かつて』はいらない。過去を引きずるのはもうやめだ。
 同じペルソナを被り直せないのならば――僕は、違う僕になってみせる。
 バラバラの欠片を集めて、新たな僕を再構成しよう」

                《恐怖を恐れるな。恐怖を怖れるな。畏怖し、尊敬し、受け入れて、全て背負え》

「足が竦んで停まろうとも。重圧に機先をへし折られようとも」

                 《喪失を受け入れ苦痛を許容し逆風を感受せよ》

「失ったらその分得るなんて損得勘定はしない。何もかもを僕は両手に保ち続ける」

                  《今ある残滓を叩き潰してフラットな地平に新たな自分を形成したのなら。
                    ――――きっとおまえはいまよりずっとつよくなれる》

「――僕はもう、一人じゃないのだから!」

                    《さようなら"これまで"のおまえ。はじめまして"これから"のおまえ。うけいれたのならいまこそよべ!》


「喚ぼう、君を」


タチバナは目を開いた。肺いっぱいに大気を吸込み、腹の底から声を出す。

「――――――アクセルアクセス!!」

足元の布団を組成して、巨大な幼女が顕現した。
膨張したその体躯はタチバナを包みこみ、そして青色の檻を内側から圧迫する。
やがて雛鳥が孵化するように、アクセルアクセスは生まれた。布製のボディーはやがて膨張を終了させると
その役目を終えて四散。髪もスーツもぐしゃぐしゃのシワだらけにしたタチバナがそこに立っていた。

「やあ待たせたね君たち。諸君の愛すべきタチバナ一世はもういない。ここにもどこにも存在しない。
 今ここに立つのは足手まといの一世ではない。超然としたタチバナさんでもない。等身大のただの僕だ」

ない方の肩を振る。中身のないスーツの袖が揺れ、袖口から一本の棒が落ちた。
畳にぶつかり倒れたそれは鋼の円筒の先に菱錐型の弾頭がセットされた――炸裂弾発射器。
正式名称RPG−7。対戦車ロケット弾である。それが束の単位で袖口から滑り出てくる。

「聖書の中で神の子は言った。右の頬を張られたら左も差し出せと。僕もその方式にのっとろう。
 右の腕をとられたらば――左腕で対戦車ロケット弾を投擲しよう。どうだいこのご奉仕ぶり!マジ敬虔じゃないか!」

手櫛で前髪を掻き上げる。オールバックにできないので変則的な七三分け。
とにかく額を出さないと気になってしょうがないらしかった。そのまま無事な手でTを指す。

「一発殴られたら広範囲面制圧でやり返すのが僕の信条でね。
 いけ好かない男子をボコるなんて青春イベントに僕を呼ばないとはナンセンスじゃないか。――僕も行く。異論は認めない」

有無を言わせぬ感情を、『顔に出して』。タチバナは宣言した。


【アクセルアクセス復活。Tに同行を強要】

61 :ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2011/02/21(月) 19:21:32.62 0
>「タチバナ君の右腕奪還・ついでにエレーナ君も助けちゃおう作戦、始動だ。メンバーを募るよ、諸君」

T達と作戦会議を広げる中、ハルニレの心境は気が気ではなかった。
シノが、死んだ。仲間が死んだ。この目で見ていないだけに、実感が沸かない。

「(ジョリー、ミーティオ、皐月、メガネ野郎……アイツ等ハ…………生キテルノカ……?)」

それに、ジョリー達の事も心配だった。
ミーティオはともかくとして、ジョリーや皐月はどう見ても戦闘出来る類の人間ではない。
と、タイミング良く電話が鳴る。

「ジョ、ジョリー?」

『どうしようハルニレ!シノちゃんとはぐれちゃった!!』

はぐれた。つまりシノは単独行動を取り、殺されたという事か。
ならば彼女等は知らないのだ。シノが死んでいる事を。

「……ソウカ」

『そうかじゃないわよ!仲間でしょ!?』

「今カラソッチニ行ク。シノハ俺達ガ探ス。ダカラオ前等ハ帰ッテロ」

『はぁあ!?ちょっと、どういう……!』

ブツリ。ジョリーの抗議を聞く間もなく、電話を切る。
これで帰らなければ、一発殴るなりなんなりしてホテルに捨て置けばいいだろう。
それはさておいて、一番の問題はタチバナだ。
陰鬱な感情がひしひしとハルニレの背中に伝わってくる。
感情を感じ取るハルニレからすれば、こちらまで陰鬱な気持ちになりそうだ。

「(マ、役立タズ宣言ハキツイダローナ)」

取り返すものが取り返すものだ。一緒に来れないのは辛いだろう。
弁護してやりたい気持ちもあるが、Tの言葉は正論だった。
だがしかし、ハルニレは次の瞬間驚くと共に、思わず唇の端を吊り上げた。

62 :ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2011/02/21(月) 19:22:15.27 0
>「――――――アクセルアクセス!!」

砕け散るTの檻。それはまるで、新たな彼を祝福するようなド派手な音を立てての崩れっぷり。

>「やあ待たせたね君たち。諸君の愛すべきタチバナ一世はもういない。ここにもどこにも存在しない。
> 今ここに立つのは足手まといの一世ではない。超然としたタチバナさんでもない。等身大のただの僕だ」
>「聖書の中で神の子は言った。右の頬を張られたら左も差し出せと。僕もその方式にのっとろう。
> 右の腕をとられたらば――左腕で対戦車ロケット弾を投擲しよう。どうだいこのご奉仕ぶり!マジ敬虔じゃないか!」

「イヨッ、憎イネエ色男!惚レチマイソウダ!」

ハルニレがゲラゲラ笑い、周りも顔を綻ばせる。
ビシリッと擬音が付く勢いで指差し、タチバナは高らかに宣言する。

>「一発殴られたら広範囲面制圧でやり返すのが僕の信条でね。
> いけ好かない男子をボコるなんて青春イベントに僕を呼ばないとはナンセンスじゃないか。――僕も行く。異論は認めない」

部屋の空気は、タチバナの優勢。彼の決心を止められる者はきっと――……いない。


>「きて、くれた……か」

玄関へ向かうと、少女、佐伯が待っていた。

「待タセテ悪カッタナ。チーット頭ノ固テーオニーサン説得スンノニ時間カカッチマッテヨ」

Tを見やって再びゲラゲラ。どこに笑う要素があるのかどうかは定かではない。

「トコロデヨ、ロマ……アー、テナードダッタカ?」

最後にひとつ気になるのは、足元の猫、ロマ改め、テナード。
ジョリーの電話で聞いた名前と、無関係とは思えなかった。

「オマエ、メガネデチビノガキヲシラネーカ?」

猫の返答を聞き、ハルニレはただフゥン、とだけ答えた。
嘘をついているかどうかはさておき、この猫も貴重な情報だ。
聞きたい事は山ほどあるのだ。

『また会いたくなったら、いつでも来るといい。……進研でな』

「(進研……)」

どうにも彼は、この単語に何か引っかかるものを覚えていた。
そう、まるで、記憶の隅を引っかくような、不思議な感覚――――――――――……。

63 :ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2011/02/21(月) 19:23:34.96 0
・―――――――――――――――――――――――・

≪名前は?住んでいた場所は?≫

≪………………≫

≪……答えたくありませんか≫

≪…………何モ、分カラン…………俺ハ……死ンダノカ……?≫

≪死とは少し違いますね。……貴方の魂は生かされている。不思議な力によって≫

≪不思議ナ……チカラ……?≫

≪貴方の体は死んでいる。しかし、力が人の想いと貴方の魂を繋げることで、貴方を生かしている……不思議な力だ……≫

≪………………………ヨク分カランガ、要ハ死ンデルンダナ≫

≪……これも何かの縁。暫くは私が貴方の面倒を見て差し上げましょう≫

≪オイ無視カ≫

≪差しあたって、名前を決めなければいけませんね≫

≪俺ハ猫カ何カカ?≫

≪……そうですね、貴方の新しい名前は――――――――――――――――≫


・―――――――――――――――――――――――・

「でさ、どうする?ここにいたら間違いなく怒られるよね」

周りを見回し、ジョリーは頬を掻く。
ハルニレに指示されたものの、結局シノを探してここまで来てしまった。
見つけたから結果オーライではあるが、間違いなく怒られる。

「うーん、シノちゃんのこと探すとか言っちゃってたしなあ……」

「電話もまた繋がらなくなっちゃいましたしね……」

三人が相談する中、ただ一人、シノだけはあらぬ方向を向いて黙っているだけだった。

【ハルニレ:レッツゴー新市街地。レン?ボッコボコにしてやんよ】
【ジョリーs:ホテルに戻るべきか相談中】

64 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/02/21(月) 23:05:41.41 0
昼下がりのオフィス街。その上空を疾走する二人の影。
一人は少年。壁に突き刺した大鎌を支点に、野生動物さながらの身軽さで空を渡る。

もう一人は青年。こちらは更に異様だった。
少年が野生動物なら、青年はまさに猛禽。
重力を無視するように垂直の壁を駆け上がり、僅かな凹凸すら足場にして滑空する鳥の如く少年へ追い縋る。

「ああーーもうッ!いい加減ウザってえったらないんだけど!?」

先行するレンが痺れを切らしたのか逃走を中断。鎌を担ぎ上げ、振り向き様にフルスイング。
陽の光を反射した刃が、過剰な程に鋭さを強調して着地間際の飛峻へ迫る。

「命を差し出すのなら許してやらんこともないが?」

避け様の無い落下時を狙った一撃。にも関わらず飛峻の表情に焦りは無かった。
迫る刃の表面に添えた両手を基点に、前転の要領でレンもろとも飛び越える。

「アァ!?ふざけたこと抜かすん――がふッ!」

飛峻の挑発に対する返答を、最後まで言葉に出来ずにレンが仰け反る。
着地の瞬間に飛峻がレンの背中を強かに蹴り付けたからだ。

「ふざけてるつもりは無いがな」
「調子にのるなよ……人間風情が……」

接地した片足を軸に振り返る飛峻と、蛇が地を這うが如く倒れることなく転身するレン。
互いに互いへ殺意を顕わにし、再び距離を取って対峙。
轟と、一際強い風が二人を煽る。

(内功が充実している……のとはどうにも違うな)

飛峻は自身の体に違和感を感じていた。
正体不明の力が自分の体を支配している。それは筋力でもあり、視力でもあり、瞬発力でもある。
五体が悉く研ぎ澄まされているのだ。ベストコンディションを遥かに凌駕する程に。

>『貴方に力を貸すわ。その腕で、足で、ソイツを地獄に突き落として!!!』

(成程、あの娘の仕業か――)

答えは直ぐに行きつく。路地裏に居た少女。

(――まあ良い。コイツを嬲り殺しに出来るのならな)

満足気に口端を歪め、それきり思考を戦闘へと切り替える。
しかし飛峻は気づいていない。
レンを追って路地裏を飛び出す直前、真雪を取り巻く陰謀を耳にして取り戻した正気。
それがまた姿を潜め、陰惨だった過去の自分に塗り替えられていることに。
仲間を殺されたことで彼女に芽生えた狂おしいまでの殺意も、力同様に飛峻を支配していた。

「死ね」
「殺すっ!!」

流れる雲が太陽を遮り、影を落とす。
それを合図に二人は同時に動き出した。命を刈り取る鎌が閃けば、骨を砕く拳が振るわれる。
飛峻が紙一重で攻撃を避け続ければ、レンは被弾した端から肉体を復元していく。
地を蹴り、空を奔り、やがて二人は同時に真雪たちの居る警察署の屋上へ辿り着いていた。

65 :S/スフォルツァンド/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/22(火) 03:57:42.52 0

スフォルツァンドという文明改造人間については、実は研究者ですら多くのことを知らない。

彼の扱う『妄想現実』<<イマジネーター>>は、すべての物体の祖たる『粒子』の文明であるが、
それがなぜ”動いている”のかという、そんな基本中の基本の部分すら、
彼の”誕生”から三年の月日がたった今でも明らかにされていないのである。

研究者たちは言う。

「文明は、ひとえに彼の超能力に依存している部分が大きい。
 彼の『存在』そのものが空間にある種の力場を発生させ、
 それによって数千億の『粒子』が彼の意のままに動くのだ」

「いや、これは『妄想現実』自体の性質によるものに違いない。
 『粒子』とはもともと”流転する”という性質を持ったものであり、
 それが彼の意思を読み取り、動いているのだ」

「否、それにしたって彼の文明は敵の攻撃に対する反応が早すぎる。
 きっとこれは彼が文明を扱っているのではなく、
 文明そのものが意志を持ち、なんらかの超自然的な力を行使しているという証拠に他ならない」

いろいろ言われてはいるが、しかし実のところ、その中のどれが本当なのかはわからない。
それは単純にスフォルツァンドが大の実験嫌いということもあるし、
彼の保護者的存在であるホエールが、彼を使った実験を行うとき、あまり良い反応を示さないということもある。

―――しかし一番の原因は、文明を扱う当の本人が、
   無意識に、それについてあまり考えないようにしているからに他ならなかった。


66 :S/スフォルツァンド/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/22(火) 03:59:16.62 0

「……あー、あんた。ブラックリストで見たことあるわ。
 たしか文明の不法取引の容疑かけられてた……」

血なまぐさい部屋で、スフォルツァンドの前に立つホエールが言った。
彼女を挟んで向こう側、男というよりは少年に近い年齢の、笑顔を浮かべた人間が一人。

「コウノトリ、とか呼ばれてるらしーわね。
 で、今ここに現れたってことは、あたしの根城を荒らしたのはお前?」

ずん、とその場にいた全員になんとも言えない強力な”重圧”が掛かる。
驚いたスフォルが目をやると、都村を抱えた状態のホエールの顔が笑っていた。
口元と目元を吊り上げる、諜報員として活動していたときには見られなかった、
文明改造人間たる彼女本来の、凶暴な『戦士の顔』。

ぴしぴし、と周囲の空間が音を立てる。
それに呼ばれるように天井から砂埃が落ちてきて、
しかしそれは奇妙なことに、都村を抱えたままのホエールを避けるように落ちていく。

まずいな、とスフォルツァンドは思った。
これでは”せっかくの獲物を奪われてしまう”。

「くじら、その女を連れて、カズミと一緒に逃げろ」

ぽん、と彼女の肩に手を乗せるとスフォルツァンドは言った。

「……」

それに対し、ホエールは無言。スフォルはそんな彼女の耳元に口をあて都村に聞こえないよう静かに言った。

(今お前が進研側の人間だってコイツにばらす必要はねえだろ?
 都村警部補のほうには俺はお前に世話焼かれてるただの不良少年ってことになってんだし、
 さっきアイツが言った『進研の人たち』ってのは『カズミとその他大勢』って意味だった
 って説明すりゃ、お前はまだ諜報員として公文にいられる)

(……わかった)

納得はいかない、という顔で、ホエールは都村を抱えたまま出口へ走り出す。

「カズミくん、さっき言ってた場所につれてって、早くしないと都村マジで死んじゃう!」

後ろのほうでそんな声が聞こえ、スフォルはしてやったりとにやにや笑う。
と、不意にスフォルツァンドの視界に在ったコウノトリの姿が消えた。

「やれやれ、誰が帰っていいって言ったのかな?」

身体強化系の文明により生み出される超加速により、逃げるホエールを追いかけようとした彼は、
しかしスフォルツァンドの横を通りぬけようとしたところで、止まる。

「残念だな、俺もてめぇにここを通っていいとは言ってない。
 ―――くっくっ、いやあ、久しぶりの『狩り』にはぴったりの上玉だなあ、おい」

ぽよん、と空中で静止していたコウノトリはトランポリンにでも弾かれたようにその場で尻餅をついた。


67 :S/スフォルツァンド/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/22(火) 04:00:49.85 0

うれしそうに笑ったスフォルツァンドがぱちん、と指を鳴らす。
転瞬、ばぞん、とでも表現できそうな、何かどうなったらそういう音がでるのか、という音が空間に響き、
瞬きをするその一瞬の間に、服と皮膚と内蔵と骨をずたずたに引き裂かれたコウノトリは
冷たいタイル張りの床にごろごろと転がっていた。

「お前はコウノトリって言うんだったな?
 俺はスフォルツァンド。あー、俺が進研の人間だって知ってるならそれも知ってるか?
 人間名は玉崎タイヨウっていうらしーんだが、そっちのほうはどうも実感がわかねえ」

つかつか、と全てが左右非対称のファッションに身を包んだ青年は、
特に聞かれてもいないのに自己紹介をしながら、床に転がる電波ファッション少年に歩み寄る。

数億の粒子によって成る、超振動する極薄の巨大な刃で斬り裂かれたコウノトリの傷口からは、
その切り口の滑らかさからか、血が一滴もこぼれておらず、
大怪我をした人間というよりは、なんだかマネキンを巨大なカッターで切り裂いたように見える。

「俺の名前、スフォルツァンドってのは本来、楽譜とかで使うアクセント記号でさ、
 まあ結構ややこしい記号なんだけど、まあ意味は大体こんなとこだ―――」

ぱちん、と再び彼の指が鳴る。
床に転がるコウノトリの身体に無数の穴が開く。

彼は無感動に、両手の指で”指揮棒”を作ると、
オーケストラを指揮する指揮者のような、ゆったりとした動きでそれを振る。

そこからあとに起こったことといえば、筆舌に尽くしがたい。
無抵抗のコウノトリの身体が、ふいに浮き上がったかと思えば左右にもの凄い速さで飛び回り、
斬り裂かれ、突き刺され、
そして―――

「―――”そこだけを特に強く、そこからはずっと強く”」

一際おおきく彼の両指が振るわれ、宙に浮いていたコウノトリの体はボロ雑巾のように壁に叩きつけられた。

そこでスフォルツァンドが、一際うれしそうににやりと微笑む。

「へえ、今のは受け止めたか……やるじゃねえか、そうこなくっちゃな」

壁に叩きつけられたコウノトリの姿は、あれだけ痛めつけられたにもかかわらず傷口が塞がり始めていた。

【ターン終了:スフォルツァンド、別名『最強』】


68 :ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/22(火) 19:02:15.25 0
「さて、メンバーはこれで決まりだね」

Tが立ち上がった。他何人か不服そうな顔をしている。
おもむろに、QがTの腕を掴んだ。何だね、と言いたげにTの眉毛が釣り上った。

「…連れて行かないのかよ。あの人は当事者なんだぜ?」
「言っただろう。怪我人は足手まといだ」

彼の言っている事は正論だろう。
しかし、あまりに冷たすぎる気もした。

「あの、……」
「それに、着いてきたところで何が出来る?彼は……」

刹那。

>「――――――アクセルアクセス!!」
「うわぁあああッ!?」

砕けた。何がってそりゃ、タチバナさんを閉じ込めていた檻が、だ。
内側から盛大に破壊されたのだ。檻はサラサラと砂のように消えていく。

69 :ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/22(火) 19:03:18.35 0
>「やあ待たせたね君たち。諸君の愛すべきタチバナ一世はもういない。ここにもどこにも存在しない。
> 今ここに立つのは足手まといの一世ではない。超然としたタチバナさんでもない。等身大のただの僕だ」

髪の毛はボサボサ、スーツはよれよれ。
格好はどんなに情けなくても、彼の目は今、一番輝いて見える。
タチバナさんが無い方の腕を振ると、なんだかおっかない武器がボトボト落ちてきた。

>「聖書の中で神の子は言った。右の頬を張られたら左も差し出せと。僕もその方式にのっとろう。
> 右の腕をとられたらば――左腕で対戦車ロケット弾を投擲しよう。どうだいこのご奉仕ぶり!マジ敬虔じゃないか!」
>「イヨッ、憎イネエ色男!惚レチマイソウダ!」

タチバナさんの後ろで、ぺニサス様がニヤッと笑った。
見れば、Qも唇の端を上げてTを見ている。
ただ一人口を開けてポカンとしているTの鼻先に、タチバナさんは人差し指を向ける。

>「一発殴られたら広範囲面制圧でやり返すのが僕の信条でね。
> いけ好かない男子をボコるなんて青春イベントに僕を呼ばないとはナンセンスじゃないか。――僕も行く。異論は認めない」
「…だってさ、兄貴。ここまで誠意見せられて、駄目なんて言えるか?」

皆の視線が、Tに向けられた。彼の、決断は…………。

「……ふっ。あっははははははははははははは!!」

何の前触れもなく、Tが爆笑し始めた。まるでどこかのネジが外れてしまったかのように。
突然のことに皆目を丸くする中、Tは只でさえグシャグシャなタチバナさんの頭を更にグシャグシャ撫でる。

「ははははははは……ハァ。まいったね。私の負けだよ」
「そ、それじゃあ……」
「ただし!」

Qが顔を綻ばせるがしかし、今度はTがタチバナさんの鼻先に人差し指をつきつける。

「一応は手負いなのだからね。…君が足手纏いだと判断したら、容赦なく君を強制送還させる。いいね?」

その言葉を最後に、TはQと檸檬さんの方を振り向いた。

「久羽、檸檬。大人しく待っているんだよ」
「結局俺は留守番かよ……」

Qは不満らしく、拗ねた顔をする。するとTは微笑んで、Qと檸檬を両腕で抱きしめた。

「絶対、戻ってくる。何もかも終わったら、一緒に暮らそう……三人で」
「………………当たり前だろ、馬鹿兄貴」

Qはそっぽを向いているけど、少しだけ顔が赤かった。
微笑ましいな、と少しだけ羨ましく思う。
そうだ、何もかも終わったら――帰るんだ。あの場所へ。

70 :ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/22(火) 19:04:33.79 0
【side/T】

「さて、作戦の説明に移ろうか」

槌をトントン叩き、ハルニレ君の笑い声を一蹴するように咳払いする。

「まず点呼を取ろうか。全員いますねはいよーしッ!」
「点呼の意味無いッスね」

ドルクス君のツッコミはスルーの方向で。

「えーと、作戦の説明だったね。君達も周知の通り、相手はおっかないショタ系化け物君ときた。
 唯一の道標はそこのお喋り猫君だが、それだけでは心もとない。故に、二手に分かれようと思う」

私の台詞を合図に、ぺニサス君の体が巨大な蝙蝠へと変身した。
作戦は次の通りだ。

「ぺニサス君は5人までなら人を乗せての飛行が可能だそうだ。
 体力に自信のない者は空からの捜索に当たってくれ。私?遠慮しておくよ」
「俺も下から探すッスよ」

高いところはちょっとしたトラウマがあるので丁寧にお断りします(゚ω゚)。
メンバーを編成し、万が一の為にお互いの携帯電話の番号を交換しておいた。

「さて、行こうか。タチバナ君の右腕奪還・ついでにエレーナ君も助けちゃおう作戦、開始だ!」

閑話休題。

「ちょっと待てタチバナ君、すでに佐伯のお嬢さんと交換済みとはどういう事だけしからん!」
「そんなこと言ってる場合ッスかァ!?」

【side/ドルクス】

さて、少し時間は経過し、場所も変わって新市街地の某裏路地。
シノさんはこの辺りで死んだと、猫が説明した。

「……血溜まりスケッチだね」
「それ、シャレになんないッスよ…」

目の前に広がる血の海。ゴロゴロと転がる生首が吐き気を誘う。
Tの顔は笑顔を貼り付けているものの、真っ青だ。
死体はどこだろうか。悪い想像が脳内を駆け巡る。

「ドルクスさーん!……に、タチバナ、か?」
「、ミーティオさん、それにジョリーさんに皐月さん!」

新市街地の捜索を任せられていたジョリーさん達が駆け寄ってきた。
改めて確認すると、シノさんの姿がない。ついでに、あの長多良とかいう男も。

71 :ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/22(火) 19:05:46.46 0
「皐月さん、シノさんと長多良さんは!?」
「長多良さんは先ほどからどこかへ行ってしまいました。……シノさんは、その……」

皐月さんは、何か言い淀んでいるようだった。
すると、痺れを切らしたミーティオさんが、「ああもう!」と割り込む。

「シノの奴、いきなりブツブツ何か言ってどっか行っちゃったんだよ!何も言わずに!」
「どこかへ?場所は!?」
「さあな、壁伝いに跳んであっという間にあっちに行っちまったよ。それよりどうなってんだ?何であんた達が…」

指差した先は、…………進研!?どういう事だ。
彼女はここで死んだのでは?まさか生きていた?
それにエレーナ様が見当たらない。一体、どこへ?

「詳しい話は後ッス。君達は避難を……」
「ドルクス君、月崎邸に!あそこなら安全だ。また後で会おう!」
「了解ッス!さあ、こっちッス!」

【side/ぺニサス】

「全く、あのTって人も人(?)使いが荒いわね!」

私は一人ごち、風を切って空を舞う。
今のところ、微弱ながらあのレンとかいう男の子の気配は感じ取れる。
けれども……

「おかしいわ…どうしてエレーナの気配がないの……?」

そう、彼女の、エレーナの気配がどこにも見受けられない。
魔力を探知しようとしても、まるでその痕跡を消されてしまったような違和感。
彼女は新市街地にいる。それは確かな筈なのに。罠?

「! レンだわ。気配が一際濃い!」

気配のもとへ一気に急降下する。一際大きな建物の屋上に、レンの姿が見えた。
それにもう一人、見知らぬ男の子の姿も。あれは……!

「誰か戦ってる!」

気配からして、普通の男の子だ。けれども、彼からわずかにエレーナの魔力を感じ取った。
……嫌な予感が巡る。まさか、彼女の魔力があの男の子に…………!?
だとしたら危険だ。『暴走』の可能性がある!

「だああ!クソ、キリがないじゃないか!何度も何度もしつこいな!」

レンが男の子に怒鳴る。
血の痕が辺りに散っている。ずっとここで戦っていたのだろうか。
怒りに燃えるレンの目が、ぐるりとこっちを向いた。
マズイ、気づかれた!

「あれ?あれあれあれれれー?アンタ達、さっき会ったよねー?」
「ッ……レン!タチバナさんの腕を返しなさい!」

蝙蝠姿のまま叫ぶけど、「こっわーい」と棒読みで返されてしまった。
それどころか、私たちの登場で、余計な知恵を与えてしまったようだ。


72 :ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/22(火) 19:06:39.58 0
「アッハハ!忘れてたよ。僕にはつよーい味方がいたじゃないか!」

「アラウミ!」

間髪いれず、どこからともなくあの巨大な肉塊が姿を顕す。
その巨体を今までどこに隠していたのか。口らしきところから人間の足が少しだけ見えた。

「間食の時間は中断だ、アラウミ。コイツ等を始末しろ!」

すぐさま、アラウミは飛び掛ってくる。
コイツは厄介だ。何度痛めつけても再生してしまう。

「じゃ、僕はあのメスを探すとしようかな。アラウミ、そいつら全員食っていいぞ。
 しかし、生かしてつれて来いとは言われたけど、腕や足の一本くらいなら……
 つまみ食いしたっていいかなあ?あーっははははははははははははははははは!」

高笑いし、レンは屋上のドアを開けて姿を消す。
彼を止めることは出来ないの?こいつを止める手立ては……そうだ!
私は瞬時に、男の子の方を向いた。一か八かの賭けだ。

「ねえ、貴方!悔しいでしょう!?アイツを止めたいでしょう!?」

「だったら、喚ぶのよ!その内側に滾る力を使って!『黒狐』を呼び出して!!」

【ドルクス:NPC三人を月崎邸に届けた後合流予定
 ぺニサス→李:体内にあるエレーナの魔力で黒狐を呼び出すよう指示。
        呼び出しが成功すれば真っ黒い狐さんがアラウミを倒すサポートをします】

73 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2011/02/24(木) 00:53:53.40 O

「き、気が抜けたら腹減っちまったな。何か食い物ねーかなー」

この中で一番の大人は、そう言って冷蔵庫を漁りだした。
真雪は彼の言葉を反芻する。

『人間が、『化け物』に勝てると思ってんのか?』
『お前さん達があの場に残らなくても、戦えなくても、必ず役割があるはずだ。
 ここで、『活路』を見出そう。それまで、俺がお前さん達を守ってやる。約束だ』

自分には、戦いに役立つ力は何も無い。
幼い考え方で、交渉で彼らの役に立てるとも思えない。
それでも、有るだろうか。真雪の視界を開く、何か。
自分の居場所を壊さない、自分が欲しい。

壁に寄りかかりながら立ち上がり、窓の向こうを眺める。
違和感を感じて、そのまま視線を持ち上げた。
違和感の正体は、この建物にやって来る何かの影だった。

「おじさん! 忍者さん!」

なんとかよろけながらも、奥に居る二人のもとに辿り着く。
大男にしがみついて、真雪は混乱した顔で言った。

「どうしようおじさん、屋上に何か…」

しかしその言葉は、爆発したような音に遮られる。発生したのは、この上。
兔と榎が到着してその現場に居合わせているとも限らない。

「…今の、何?」

訳の分からない危機感に押され、真雪は自らの体を抱きしめた。



74 :青い猫とバファリンの木の話(その1) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/24(木) 02:31:43.08 0
青い猫は、警察署の廊下をとことこと進む。
ぼろぼろになった床も、そこにちらばっている破片も、特に気にしない。
足の裏の肉球は丈夫だし、ちょっとくらい怪我をしても舐めてしまえばへっちゃらだ。

猫は救護室と書かれた部屋に入る。

【接触:月崎真雪】

部屋の中にいたのは、なんだか同族の匂いがする男と、忍者、
そしてベッドの上で膝を抱えている少女。

男と忍者は動かない。
ベッドの上の少女だって動かないことには変わりがないが、
膝を抱えている彼女の身体はかすかに震えており、
まるで石になったかのように完全に動かない二人に比べれば、まだ”動いている”といえるだろう。

猫は、じっ、とベッドの下から少女を見ていた。
満月みたいにまん丸な目と、その中にある真っ黒な瞳。

ふと、何かを思いついたように猫はぴょん、とベッドに飛び乗る。

少女の隣に着地した彼は、ぐぐぐ、全身で伸びをした。
ぶるぶる、と顔を震わせ、猫はその両前足で顔を洗う。

自慢のヒゲが綺麗になったことを確認すると、
身だしなみを整え終えた猫は口を開いた。

「こんにちは、ごきげんいかがですか?」

猫の口から出てきたのは、少年みたいな声。
しかし、喋っているのはまぎれもなく猫だった。

「いやなに、前々からあなたとはお話をしてみたいと思っていたのです。
 このような突然の訪問になってしまってもうしわけありません、
 何分ネコというのは気まぐれな生き物でして」

四本の足で座った猫は、座る真雪を見上げながらとぼけた声でそんなことを言った。
猫は無表情である。もっとも、猫に表情などと言う物があるのかどうか定かではないが。

「あなたは、竹内萌芽という少年を覚えていますか?
 ―――いや、失礼。あなたの記憶力を疑っているわけではないのです、
 ただ、ネコは三歩あるけばモノを忘れるというほどでして、
 仲間内で、親子の関係すら忘れてしまっているものもよくいるものですので、つい」

しっぽを左右にゆらゆら揺らす猫。
猫は嘘を吐かない。ただやることなすことが全てきまぐれなだけである。
だから猫の言ったことが間違っていたとしても、それは相手を騙そうとしてのことではない。
それは、ただ真実を話すのが面倒だったか、
あるいは、真実なんてはなっから覚えてなかっただけの話だろう。

「わたしは、あなた方が『世界』と呼ぶこの場所に来る前に、彼に会っておりまして、
 そのとき、たしかに彼には、こんな『未来』は存在しなかったはずなのです。
 何かがおかしい、とわたしは思っているのです、何かが変わってしまった、と。
 それも、彼があなたと出会ってしまってから」

猫は人のことなど気遣わない。
いや、たしかに彼なりに気を遣ってはいるのであるが、
それは飽くまで彼らが同族たちにそうするように気遣うのである。
調度人が猫に接するときに、似たようなやり方で彼らを理解しようとするように。

75 :青い猫とバファリンの木の話(その1) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/24(木) 02:32:47.77 0

「彼の、竹内萌芽のような存在は、たびたび色々な場所に誕生します。
 彼らは生まれつきその場所の『現状』を破壊する、という宿命を背負っていて、
 彼らは、自分がそれと知らないうちに『現状』を破壊するか、
 『現状』を維持しようとする者に破壊されてしまいます。
 とあるひねくれ魔女は、彼らと『現状』を守る者、
 その両方を『特異点』とか呼んでいましたか……ふむ、考えてみれば皮肉なものです」

猫はしみじみと目を閉じる。
実際しみじみと何かを思ったのかは定かではない。

「あなたも聞いているでしょう? 彼には幼馴染がいました。
 彼は彼女のために『現状』を破壊しようとして、
 そして彼はその結果、自らが守ろうとした幼馴染に破壊されてしまったのです。
 しかし、彼女の方も変わった人でして、彼の『特異点』としての記憶だけを思い出せなくすることで、
 彼から『特異点』としての性質のみを取り除いたのです。
 わたしとしては、そのようなケースを見たのは初めてでしたので、
 とても印象深かったのですが……」

改めて目を開くと、猫は少女を見上げた。

「わたしの印象では、あなたも相当変わっています」

開いたその目にある真っ黒な瞳。
全てを見透かしているような、あるいは何も見ていなくて、ぼーっとしているだけのような。

「彼女に『特異点』としての性質を剥奪されたことで、
 『現状』に干渉できるだけの力は、もう二度と彼に戻ることはないはずでした。
 彼にあった未来は、他の全てのモノと同じ、
 ただただ意味も無く進んでいく『現状』に流され、それに対して何ができるわけでもないと悟り、
 絶望するでも希望を抱くでもなく、淡々と、当たり前のように『現状』の一部になっていく、
 それだけのはずだったのです。
 ―――しかし、その未来は変わってしまった。彼があなたと出会ったことによって」

猫の口調は、相変わらず淡々としている。
怒っていると言われればそんな気もするし、喜んでいると言われればそういう風にも見える。

「あなたが彼と出会わなければ、彼は他のモノを大切に思うことなど永遠になかったはずでした。
 あなたが彼と出会わなければ、彼はもう一度幼馴染と再会することなどなかったはずでした。
 あなたが彼と出会わなければ、彼は『現状』を破壊する力を取り戻すことなどなかったはずでした。
 そして、彼は今躍起になってあなたを守ろうとしている。
 ―――一体あなたの何が、彼を変えたのです?」

猫は、まるで人間がそうするように、小首をかしげて彼女を見上げた。

【ターン終了:ごめん、もう一ターンだけつきあってね】


76 :名無しになりきれ:2011/02/25(金) 18:35:54.44 0
し、死んでる

77 : ◆SQTq9qX7E2 :2011/02/25(金) 19:39:36.86 0
進研に到着すると、あの二人…柊と秋人が戻っていた。娘――弓瑠を連れて。

「おかえりなさいボス!」
「弓瑠お嬢様もここに。今は冬の稲穂のようにすやすやと……」
「………………随分と、騒がしいようだが。何かあったのかい?」

ところどころ崩壊した壁や床を指差して尋ねる。
すると、概ね予想した答えが返ってきた。

「知りませんッ!今帰ってきたばかりですからッ!」
「……そうかね」

人に聞くのは諦め、壁の傷の一部に手をやると、すぐに現状は把握できた。
今まであった出来事の情報が、なだれこむように手から脳へ。

「Sが、ね。右腕まで持ち出すとは……いやはや彼らしい」

Sと少女らしき人影がともに出て行く姿が瞼の裏で再生される。
どうしたものか。あの右腕は『彼』を使役する口実だったのだが。
しかしイデアを手に入れた今、逆にあの右腕は脅威となりかねない。
ああ全く、ただでさえ学研やらユーキャンやら目障りな連中がいるというのに。
私の悩みの種は増えるばかりだ。…いや待てよ。これは丁度いい機会だ。

「琳樹君、さっそくで悪いが任務を受けてもらっていいかな?」

あくまで爽やかな笑顔で琳樹君へと振り返った。

「何、簡単なものだ。これから私が教える人を全員潰してくるだけでいい」

彼の頭に指一本突き立てるだけで、彼の脳に殺すべき人間の情報が流れる。

「再起不能にするだけでもよし、殺すもよし……好きにするといい。
 それと、あの猫君の右腕、出来れば持って帰ってきてくれると嬉しいな。壊しても構わないがね」

ああそうだ、と任務を受け出て行こうとする彼を引き止める。
大事なことを伝え忘れていた。

「君のその文明だが…くれぐれも注意したまえ。
 私の見立てでは……文明の持続時間は一時間くらいかな」

それだけだ、と答え、今度こそ見送った。さて、結果がくるまで待っていようか。

【ボス→琳樹:ユーキャンメンバー抹殺の依頼。連れて行きたければエレーナを連れっててもおkです】
【抹殺対象:兔、鸛、朝日、李飛峻、月崎真雪】
【一時間以内に戻らないと文明が勝手に解除されちゃうんでお気をつけて】


78 :テナード ◇IPF5a04tCk:2011/02/26(土) 22:27:59.48 0
>「トコロデヨ、ロマ……アー、テナードダッタカ?」

「ん?何だ?」

タチバナ復活に伴ってメンバーが決まった矢先に呼び止められた猫は、現ご主人の方へと振り返る。

>「オマエ、メガネデチビノガキヲシラネーカ?」

「………………さあな。心当たりがありすぎてさっぱりだ」

猫はしらっと答え、尻尾を向けて玄関へと向かう。
主人はただ相槌を打つだけで、それ以上は何も聞いてこなかった。


>「えーと、作戦の説明だったね。君達も周知の通り、相手はおっかないショタ系化け物君ときた。
 唯一の道標はそこのお喋り猫君だが、それだけでは心もとない。故に、二手に分かれようと思う」

Tがそう告げると、ペニサスの姿が巨大な蝙蝠に豹変した。
見るのは二度目なせいか、白猫のカリーナは驚くが、猫は特に反応しない。

>「ぺニサス君は5人までなら人を乗せての飛行が可能だそうだ。
> 体力に自信のない者は空からの捜索に当たってくれ。私?遠慮しておくよ」

「なーう?(高所恐怖症?)」

「……かもな」

猫二匹はくすりと笑いあった。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

新市街地に辿りつくと、ジョリー達が居た。
上でやり取りを交わす中、辺りを見回すとシノの死体が見当たらない。

「(おいカリーナ、確かに死体を見たんだろーな?)」

「にゃ、なーう……(見たよ、でも……どこにもない……なんで?)」

>「シノの奴、いきなりブツブツ何か言ってどっか行っちゃったんだよ!何も言わずに!」

ミーティオ曰く、シノは生きてたらしく、どこかへと去っていった。
白猫は見間違えたのか?いいや、確かに死んでいるのをこの目で見たのだ。

「……………………」

思考する間にも、ドルクスはジョリー達を連れて月崎邸へと行ってしまった。
ふと、テナードはくんくんと辺りを嗅ぎ、血の海へと足を踏み入れた。
足が汚れるのも構わず、ずんずんとつき進み、血の臭いを嗅ぐ。

「エレーナのお嬢ちゃんの匂いだな。ここにいたのは間違いないだろう。
 それにシノ嬢の血の臭いだ。量からして……普通なら死んでいると考えるのが妥当だろうな」

更に猫の目に、複数の足跡が入った。一際大きなものに、猫は見入る。

「(この匂い…………まさか……………)」

猫は足跡を辿るように走り出す。懐かしい、ある筈の無い臭いに釣られるように。


79 :八重子とミツキ ◇IPF5a04tCk:2011/02/26(土) 22:28:38.53 0
「あーーーーーー!!」

「どうした、合田ミツキ。声量が柊並だが」

柊達と別れた直後、ミツキは盛大な大声を上げ、101型は相変わらずの無表情で尋ねた。

「てなしゃんとくわりんのこと、すッッッッッかり忘れてたぁ!!」

無表情で黙りこくる101型。少しばかり呆れも入っているように見える。
彼等と別れてから色々ありすぎて、肝心の二人のことをうっかり忘れていたのだ。

「すぐに迎えにいかなきゃ!ボスに知れたら……いやああ考えるだけでもおそろしい!」

「居場所は分かるのか?」

「当たり前田のクラッカー!空間文明のスペシャリストを舐めないでよn「ミツキちゃん!」」

ミツキを呼ぶ女性の声は、八重子のものだった。
息を切らしながら二人の前で足を止め、ゼイゼイと肩で息をした。

「や、八重子おばさん?どしたの!?」

「……し、Cが……!烏になったり幹部長になったり……市子になったり……もう何がなんだか……!!」

その言葉に、ミツキの表情が一変した。遂に彼女に知られてしまった。
「彼女」の秘密を。自分の心の中にだけしまっておく筈だった、忌まわしい事実を。
八重子の手の中の三つの腕章に目が向いた。いずれも、「彼女」のもの。

「……八重子おばさん。この事、他言無用でお願いします。特に、カズミには」

「え?どういうこt「事情は後で説明します!お願いします……」

ミツキはがばりと頭を下げる。彼女にだけは知られたくなかった。
彼に知られたらどうなるか。今は、誰にも悟られてはいけない。
「彼女」の正体を知るのは、ボスと自分だけなのだから。

「……………分かったわ。ところで、スフォルツァントさんを見なかった?」

「ほへ?Sですか?何故です?」

「……………カズミが、スフォルツァントさんと一緒にいたって聞いて……」

80 :ミツキとカズミ ◇IPF5a04tCk:2011/02/26(土) 22:30:38.05 0
「あーくそー重いな畜生め!」

悪態をつきつつも、カズミは血まみれの男を半ば引きずるように抱えながら逃げる。
まさか重症人を抱えて逃げることになるとはついてない。
ハイヒールを履いてきたことを後悔しはじめていた。

「えっと、くじらさん。スフォルさん、置いてって大丈夫なワケ?」

男を抱え直しながら、ホエールへと振り返りカズミはそう質問した。
彼一人であの電波男を倒せるか、少々不安になってきたのだ。

「あのコウノトリとかいう人、結構アブなそうだったし……」
「アブなそうなのはアンタよ、カズミ!」

背後から声。聞き覚えのある女、否男の声に、カズミは驚くと同時に冷や汗が伝った。

「み、ミツ、キ…………!?」

「ハァーイ。ホエ……くじらっちも一緒なのネ」

ホエールにまで親しげに話しかけるミツキに、カズミはただ目を丸くする。
知り合いかと尋ねると「趣味仲間よ」とやや顔を赤らめて答えた。
何の趣味かは聞くまいと誓い、カズミはミツキの後ろの男に目を向け、バツが悪そうな顔をする。

「な、なんであの全裸男までいるのさ……!」

「勝手に着いてきたのよ!さっさと帰りましょ。って言いたいトコだけど……」

ぐるっと周りを一瞥し、ミツキは眉を顰めてよく分からない悪態をついた。

「何コレ。台風でも通った?」
「三浦啓介の仕業だってさ。詳しい話を聞くために、この人たちを家に連れて帰りたくて……」

「なーるほどねぇ。それでカズミの家に……いっちゃん!」

言うが早いが、101型が都村と辺田を抱えあげた。
ぼーっとその様子を見ているだけのカズミに、ミツキは手を伸ばす。

「一緒に、帰ろう?八重子さんも家で待ってる」

差し出された手を見、ホエールを見、そしてまたミツキに向き直り、その手を払った。

「ごめん、まだ、戻るワケにはいかないんだ。……その、ここで調べることが、あるから」

「…………………分かった。無茶はしないでね」

ミツキは払われた手を少しばかり眺め、寂しそうに笑う。
電話すればすぐに駆けつけるから、と言い残し、ミツキ達は消えた。

「…………さーて、と」

くるり、と回れ右。調べることとは即ち、過去の出来事。
7年前の己等の過ちの記録が残されていることを願って、カズミは施設内を探索し始めた。

【猫s→テナード(人)の足跡を辿って警視庁へ】
【ミツキ(G)&101型→都村さんと辺田さんをカズミ宅へ。八重子たちが治療します】
【カズミ→警視庁に残り美府中学校火災事件についての資料を手に入れるべく探索】

81 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2011/02/27(日) 20:13:23.44 0
「さて、作戦の説明に移ろうか」

「T」は槌をトントン叩き、ハルニレの笑い声を一蹴するように咳払いする。

「まず点呼を取ろうか。全員いますねはいよーしッ!」

「点呼の意味無いッスね」

そして、点呼と言う名の状況確認を行うがそこにドルクスのツッコミが入る。
対してTはスルーの方向らしい。彼はそのまま会話を続ける。

「えーと、作戦の説明だったね。君達も周知の通り、相手はおっかないショタ系化け物君ときた。
 唯一の道標はそこのお喋り猫君だが、それだけでは心もとない。故に、二手に分かれようと思う」

Tの台詞を合図に、ぺニサスの体が人の物から化生。巨大な蝙蝠へと変身した。
作戦は次の通りだった。

「ぺニサス君は5人までなら人を乗せての飛行が可能だそうだ。
 体力に自信のない者は空からの捜索に当たってくれ。私?遠慮しておくよ」

「俺も下から探すッスよ」

「空と陸か……なら私とゼロワンは陸になるわね」

Tの提案。それに対して零は即答していた。
その答えは陸。しかも何故か体力面で劣っている(実際にはむしろ体育会系だが)女性二人だ。

「私もでしょうか?マスター…………?
 あぁ、なるほど。了解です。では、葉隠さんとサイガさんは空よりお願いします」

「?俺は構わんが……女と人形が空の方が良いのではないか?」

「うっさい。黙れ!!」
「空気の読めない男性は嫌われると上官は言っておりました」

各々の言葉で罵倒し、二人は陸を移動する班の集まりに向かって行く。
取り残された男二人はただただキョトンとしていることしかできなかった。

「それじゃあ、私達は徒歩(かち)で捜査をするわよ。
 でも、その前に連絡先を交換しておきましょう?いざという時に連絡がつかないなんてケチがつくのは御免よ」

メンバーを編成し、万が一の為にお互いの携帯電話の番号を交換しておいた。

「あ、タチバナさんは交換しなくても大丈夫よ。もう知ってるから。
 で、私のTEL番は……」

「ちょっと待てタチバナ君、すでに佐伯のお嬢さんと交換済みとはどういう事だけしからん!」

「そんなこと言ってる場合ッスかァ!?」

そんな、やり取りを終え、一行は決意を固める。

「さて、行こうか。タチバナ君の右腕奪還・ついでにエレーナ君も助けちゃおう作戦、開始だ!」

こうして、来訪者(エントランゼ)「達」はその足を行くべき道へと向けるのだった。


82 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2011/02/27(日) 20:14:20.37 0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……血溜まりスケッチだね」

「それ、シャレになんないッスよ…」

「酷いありさまね。でも、気になるのはこれだけやったのに……」

「警察組織の動きが無い。検索して確認します」

「お願い」と零はゼロワンに指示をだす。
今、彼女達がいるこの場所はシノと言う少女が死亡したと言う場所であり、同時に先程、文明市で暴れまわった現場だ。
その現状は阿鼻叫喚の地獄絵図の様に死屍が転がり、その親類が泣き崩れている。
カリカリと言うリーディング音を聞きながら零はこの現状の保存を始めた。
と言っても、鑑識でも無い彼女がやれる事などたかが知れているのだが、それでも手掛かりぐらいは有るかもしれない。

「千切れた……チェーン?」

ふと、足元をみるとそこにはペンダントチェーンなのだろうか?非常に小さい鎖が墜ちていた。
汚れの具合からも、それがこの惨劇の際に落ちたものだと言う事は明白だった。それを零は慎重にハンカチで包んで拾い上げる。

「ドルクスさーん!……に、タチバナ、か?」

「、ミーティオさん、それにジョリーさんに皐月さん!」

「皐月さん、シノさんと長多良さんは!?」

「長多良さんは先ほどからどこかへ行ってしまいました。……シノさんは、その……」

皐月と呼ばれた少女は、何か言い淀んでいるようだった。
すると、痺れを切らしたミーティオと呼ばれたもう一人の少女が、「ああもう!」と割り込む。

「シノの奴、いきなりブツブツ何か言ってどっか行っちゃったんだよ!何も言わずに!」

――――――
―――――
――――
―――
――

合流したメンバーとの会話により一向は二手に分かれ行動をする事になる。
一方は合流した非戦闘員の保護。もう一方は行方の分らない死んだはずのシノの捜索だ。
しかし、この現場をそのままにする事は非常にまずい。

「出来れば、警察が来るまで動きたくないのだけれども……」

「マスター。その件ですが、恐らく警察組織は動かないと思います」

「どういう事?」

「警視庁はもう存在しません。
 詳しくは移動しながら説明しますが、どうやら緊急事態の様です」

「都村さんとの連絡がつかないのもそれか……分った。
 なら、彼女の捜索をしながら聴かせてもらうわ。とりあえず、彼女の向かったって方角に行きましょう」

【シノを捜しに進研へ……】

83 :◆b413PDNTVY :2011/02/27(日) 20:15:01.51 0
「へえ、今のは受け止めたか……やるじゃねえか、そうこなくっちゃな」

「うん。そうだね。痛かった。痛かった。痛かったよ?
 でも、痛いだけだった。それに僕のターゲットも逃げてしまった」

とても残念そうに身ぶり手ぶりを加えて語る鸛。そのだらだらとした動きは明らかに時間稼ぎだ。
そうして、これ見よがしに服を叩き、埃をはらった所で立ち上がった。

「ま、こんなものさ。ちょっと時間がかかったが、なるほどなるほど……
 君の文明は朝日のイデアを基にか。お陰で適合に手間取ったよ。だが、」

そう言い、鸛は倒れ込むように前傾姿勢をとり「S」に向かって突っ込んでゆく。
それを見て「馬鹿だ」とSは迎撃を行う。

「hdd585……」

鸛に向かい伸びる不可視の文明の刃……それが直撃する瞬間、異変は起きた。
弾けた、と表現するのが適切か?丁度、鸛を避けるように機動を逸らしたのだ。
そして、それだけじゃない。
機動を逸らした攻撃はまっすぐにSへと向かう。

「まだまだ…gt44飛んでkl996」

そのカウンターだが直撃。とはいかなかった。攻撃の瞬間にSがとっさに自身を粒子化させ回避したためだ。
だが、それさえ読んで鸛は追撃する。
強制的に肉体を固定化されたSに対して鸛は容赦なく彼の文明『妄想現実』<<イマジネーター>>で追撃する。

「ねぇ、気づいているとは思うけどさ。インターセプトって知ってるかな?」

そう語る鸛の眼前で繰り広げられる虐殺行為。
それは先程、鸛自身が受けた個所に向けて行われた彼の妄想具現化だ。

「簡単にいえばさ。お前が文明に頼った戦い方をしてくる以上、それに割り込んで無力化すれば良いの。
 文明が使えなければこんな物だなんて、とんだ最強もいたものさ!!」

バラバラに解体されたSを見やる鸛。

「いやいや、僕ってばちょっと前までこんな状態になってたんだ。
 って言うかさ。君、意識あるんだからさっさと第三ラウンド始めようよ?それともショックで再構成が出来ない?」

最悪である。最低の最悪。そして、迷う事無き文明使いへの最凶だ。
これが本来の……十五年前からの鸛の戦い方。他人の攻撃を無力化し反撃でとどめをさす。
それが今回は何度でも復活する化け物に対して行われるだけだ。それも反撃を行えない化け物に……

「ふん。まだそんな強気で居られるなんて意外だな。
 君、意外にガッツがあるんだ?あぁ、世間知らずって聞いてたからさ……」

「良いよ。何か考えがあるんだろ?付き合ってあげるから好きなだけ試してみると良い。
 さ、第三ラウンドの開始さ!!」

【インターセプト:鸛は他人の文明にも適合できる。
         他人の使用に割り込みをかけ阻害したりそのまま使用するのが鸛の戦術】

84 :スフォルツァンド/S/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/28(月) 00:44:32.24 0
ぼろぼろになり、床に倒れていたコウノトリがゆっくりと立ち上がる。

「うん。そうだね。痛かった。痛かった。痛かったよ?
 でも、痛いだけだった。それに僕のターゲットも逃げてしまった」

どうということもない、と言った様子のコウノトリ。
ぞわり、と、スフォルは全身の全ての血潮が、沸騰するほど熱くなるのを感じる。

「ま、こんなものさ。ちょっと時間がかかったが、なるほどなるほど……
 君の文明は朝日のイデアを基にか。お陰で適合に手間取ったよ。だが、」

みるみるうちに直っていく、彼の傷跡。
どくん、どくん、と高鳴る心音に、スフォルは自らの胸を突き破って心臓が出てしまうのではないかと思った。

「ま、こんなものさ。ちょっと時間がかかったが、なるほどなるほど……
 君の文明は朝日のイデアを基にか。お陰で適合に手間取ったよ。だが、」

前傾姿勢でこちらに飛び込んでくる彼。
それを見ているスフォルツァンドの双眸は大きく見開かれ、
白目には彼の全身の気が昂ぶっていることを表す無数の血管があらわになっている。

(こいつ、さっきまで徹底的に攻撃してやったのに、まったく戦意が削がれている様子がない。
 何か秘策があるのか……あるいはただのバカなのか?)

考えながらスフォルツァンドは、目の前の敵が後者であってくれることを願った。
もしコウノトリが”そちらの人間”であるなら、
それはスフォルツァンドがずっと待ち望んでいた者だということだということを意味するからだ。

(俺を失望させるなよ……!!)

ぱちん、と指をならし周囲の空間に散布していた『妄想現実』<<イマジネーター>>を収束すると、
スフォルツァンドはこちらに向かってくるコウノトリに極薄の刃を放つ。

「hdd585……」

謎の言葉と共に一時的にイマジネーターの制御がやりにくくなった。
『見敵封殺』系の文明だろうか? 
あの系統の文明には、確か敵の文明の制御を妨害するものがあったはずだ。
スフォルツァンドはほんの一瞬の間にそんなことを考え、
しかし次の瞬間、そんなことはどうでもいいと気付いた。

「……」

ため息を吐く。
スフォルツァンドは期待していたのだ。
コウノトリが、今自分に向かってきたこの男が、ただなんの策もなくつっこんでくる、
『自分と同じただのバカ』なのではないかと。

「まだまだ…gt44飛んでkl996」

だというのに、目の前で起きているこの現実といえば何だ。
自分の『妄想現実』の一部を操り、自分とまったく同じ方法で攻撃をしてくる、この男の姿はなんだ。

(別に、寂しいわけじゃねえ……同類と馴れ合いたいなんて、俺は願ってない)

そんなことを思いながらも、やはり彼は自分が失望し、絶望しているのを感じざるを得なかった。

85 :スフォルツァンド/S/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/28(月) 00:45:37.26 0
次の瞬間にはコウノトリの刃が、スフォルツァンドの身体をずたずたに引き裂いていた。
さらさらと砂になっていく、彼の身体。

「ねぇ、気づいているとは思うけどさ。インターセプトって知ってるかな?」

にこにこと笑いながら、コウノトリは両手と両足を体から切断されたスフォルツァンドを見下ろす。
スフォルツァンドは、そちらを見ることもせず、床に落ちた体制のままじっと空を見つめている。

「簡単にいえばさ。お前が文明に頼った戦い方をしてくる以上、それに割り込んで無力化すれば良いの。
 文明が使えなければこんな物だなんて、とんだ最強もいたものさ!!」

楽しそうに言った彼の言葉に、スフォルツァンドはさらに気付いてしまう。
コウノトリは戦闘そのものを純粋に楽しむ自分とは違うのだと。
最初のうちはわざと攻撃を受けておいて、後になって自分の手の内を明かし、
最後に自らの武器で圧倒される相手を見て楽しむ。そいうタイプの男なのだと。

なるほど、確かに戦闘を楽しむという『邪悪な』点においては自分と同じだ。
”世界を変える可能性は同時に邪悪ともよばれる。”というスフォルツァンドの愛読書を引用するなら、
コウノトリもまた、世界を変える『邪悪』のうちの一つなのかもしれない。
そんな風にもスフォルツァンドは思った。

―――だが、やはり違う。

これは、こんなものは自分の望んでいる『戦い』ではない。

「いやいや、僕ってばちょっと前までこんな状態になってたんだ。
 って言うかさ。君、意識あるんだからさっさと第三ラウンド始めようよ?それともショックで再構成が出来ない?」

床に鎮座したままぴくりとも動かないスフォル。
見下ろしていうコウノトリのその顔は邪悪さに満ち溢れている。

「いや、大丈夫だよ。少しお前に絶望してただけだ。
 ―――てめえは結局、俺にとってただの『獲物』にすぎなかったんだ、ってな」

とくに挑発のつもりでもなく、スフォルは事実を淡々と述べた。

「ふん。まだそんな強気で居られるなんて意外だな。
 君、意外にガッツがあるんだ?あぁ、世間知らずって聞いてたからさ……」

「まーな、生まれてこの方三年間、ずっと進研の地下に閉じ込められてたからな。
 保護者同伴じゃねーと外出も許されない身ってのは、結構キツいんだぜ?
 ……ま、俺のことはいいや、とりあえずてめえがただの『獲物』だって分かっちまったからには、
 俺もいつも通り、ただの『狩人』としてそれを狩るだけの話だ」

両手両足をもがれた青年は、見ているものにはただの強がりにしか聞こえないであろう、
そんなことをこちらを見下ろす青年にむかって言った。
青年は愉快そうに笑う。

「良いよ。何か考えがあるんだろ?付き合ってあげるから好きなだけ試してみると良い。
 さ、第三ラウンドの開始さ!!」

スフォルツァンドは、ひとつ大きなため息を吐くとぼそりと呟く。

「まあ、狩りなら狩りなりに楽しむさ……ところでさ、コウノトリ。
 お前さっきから”誰に向かって”話してるんだ?」


86 :スフォルツァンド/S/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/28(月) 00:47:12.82 0
どす、という軽い音がして、コウノトリの体に風穴が開いた。
その目の前でさらさらと崩れ落ちていく、スフォルツァンドの肉体。

「なあ、コウノトリ」

一瞬前までスフォルツァンドが居た場所とは、全然違う方向から声がする。

「『177kg』……これって何の重さだと思う?」

また、それとはまったく逆の方向から声がする。

文明改造人間、スフォルツァンド。
彼は文明改造人間という生物兵器たちの短い歴史の中で、『最高の失敗作』と呼ばれている。
なぜなら、改造されたはずの被検体三人は実験中に”完全に消滅しており”、
生まれてきた改造人間も”改造人間とよべるものではなかった”からである。

「次男『玉崎サコン』三男『玉崎ウコン』……そして、長男『玉崎タイヨウ』
 俺が生まれる一瞬前までにはそんな三人の人間がいたらしい。
 なんの事はねえ、『177kg』ってのはそいつらの体重の合計さ」

声が、さまざまな方向から聞こえる。
それはまるで大勢のまったく同じ声質をもった人間が、
あらかじめ台本などで決められたセリフを、多方向から順番に朗読しているかのようだった。

「―――そして、それは俺と『妄想現実』、その両方の質量の和でもある」

ふ、と、ある空間からスフォルツァンドが、”抜け出てくる”。
まるでそこに背景とまったく同じ色の壁紙が張ってあって、そこから出てきた、という風に。

実際、彼がやっていたことはまさにその通りだったのである。
コウノトリの攻撃を食らう寸前に、イマジネーターで自分の変わり身の人形を造り、
本体であるほうのスフォルツァンドは粒子の光の反射を調節した光学迷彩によって姿を消したのだ。
だからそれによってコウノトリが、”スフォルツァンドは肉体を粒子化させることができる”と勘違いしたのも無理は無い。

声がさまざまな方向から聞こえたのは、粒子によって音波の微妙な波を、
そのエネルギーを保存したまま移送し、コウノトリに向けて発射したから。ただそれだけ。

簡単なことなのだが、スフォルツァンドでもないと『妄想現実』を使ってそこまでのことはできない。

―――そう、この文明を使いこなすことなど、”人間には不可能”なのである。

「まあどういうことなのかってえと……どういうことなんだろうな?」

ぱちん、と再び指が鳴った。
今度はコウノトリの身体はどこも傷つかなかった。
ただ、一瞬にして現れた縄に彼の体がいつのまにか拘束されていたというだけの話だ。

「なんでかねえ、このことについては俺はどうにも考えたくねーんだな。これが。
 ただ、学者せんせーの話によると、俺の文明には三つの性質があるんだそうだ、
 粒子を動かす『流動』と、粒子を集めて結合させる『収束』。そして粒子の性質を操る『変化』。
 この三つのうち、俺たちが『妄想現実』と呼んでるものがもっている性質は、
 『収束』と『変化』だけ、らしいんだな。
 だから俺は超能力者あつかいされることもしばしばなんだけど、
 あいにく俺は現実主義者でね、事実はもっとシンプルなんじゃねーかと思うんだ、そう―――」

つかつか、とスフォルはコウノトリに歩み寄り、彼の顎に人差し指と親指で軽く触れる。
くい、とそのあごを軽く上げ、見下ろす自分との目線を合わせた。

「―――たとえば、俺そのものが、『流動』を司る『妄想現実』の一部なんじゃねーかなってさ」


87 :スフォルツァンド/S/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/02/28(月) 00:49:36.75 0

「『インターセプト』とかって言ったよな?
 ラグビー? それともアメフトだったか……? 
 たしか、攻撃にくる敵を返り討ちにする戦法の名前だったな?
 それに、あの『変な言葉』、そして『妄想現実』の一部である俺が、
 ”俺のままでいられている”というこの事実。
 他の文明はどうなのか知らねえが、少なくともこの俺に対しては、
 適合できるっつっても100%じゃねーってことだよな?」

自分自身を拘束しているイマジネーターの縄を、適合することによって消そうとするコウノトリ。
縄が適合によって消されるのを確認すると、
スフォルツァンドはまだ適合していない『妄想現実』で新たな縄を作り出す。

「俺の体重は60kg。ってことは他の『妄想現実』の量は117kgってとこか、
 そのうちの17kgはお前が使える量。そして、さっきから続いてるこのイタチごっこを考えるに、
 お前は俺に適合できて17kgがその限界だろ?」

ぴ、とスフォルツァンドは人差し指を立てた。

「こっちには俺の体重をあわせて約160kgのイマジネーターがある。
 お前が『流動』を使ってるところから見るに、俺の体重の何割かもお前に奪われてるみたいだけど、
 それにしたって143kgの質量の差はなかなか埋まらねーと思うぜ?」

ゆっくりと、立てた右の人差し指を振る。
それは、まるで先ほどと同じ指揮者のような―――

「変な主義に走らず、自分の手持ちで戦った方が無難だと思うけどな」

転瞬、指の動きに合わせるように、全方向からコウノトリに向けて無数の針が放たれた。

【ターン終了:スフォルは熱いバトルを所望】


88 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/02/28(月) 02:05:34.29 0
>「アッハハ!忘れてたよ。僕にはつよーい味方がいたじゃないか!」
>「アラウミ!」

死闘の最中、飛峻から目を逸らしあらぬ方角を睨みながらレンが叫ぶ。
手にした鎌を振るい、風景の一部に赤い亀裂を走らせた。
その切り口から、まるで紙束で指先を切ったときのようにぷくりと血が滲む。
するとその血袋の中から二本の豪腕が突き出され、内側から亀裂を抉じ開けていく。

「ッ!?お前は――」

誰何の暇も無く、現れた人型の肉塊が拳を振るう。
紙一重で避けたものの、直撃を受けた落下防止柵が一区画丸ごと引き千切られた。
背筋が凍る。一体どれ程の力で殴りつければこうなるというのだろう。

「――アラウミ!?荒海銅二かっ!」

攻防を経ること数度、改めて相手の出鱈目さに辟易する。
例の雷を放射する文明『崩塔撫雷』を所持していないのが唯一救いか。

だがそれを差し引いても厄介に尽きた。
速度こそ緩慢なものの、レン同様の肉体復元能力と、容易くフェンスを引きちぎる膂力。
加えて、感情を全く表に出さずに繰り出される絶死の一撃も面倒極まりない。

レンの身体能力にしても充分過ぎるほど脅威だったが、直情なため攻撃が読み易いという点があった。
しかしこの相手、荒海銅二にはそれが無い。

>「じゃ、僕はあのメスを探すとしようかな。アラウミ、そいつら全員食っていいぞ――」

こちらの苦戦に気を良くしてか、レンが高笑いを残し屋内へ消える。

「行かせるかあっ!」

させまいと追い縋るも虚しく、踏み込む脚を止めざるをえない。
主人の邪魔はさせないとばかりに荒海が行く手を遮ったのだ。
焦燥が募る。レンを行かせるということは、即ち真雪の身が危ないということなのだから。

>「ねえ、貴方!悔しいでしょう!?アイツを止めたいでしょう!?」

悔しいか?――もちろんだ。
止めたいか?――例えこの身に代えても。

>「だったら、喚ぶのよ!その内側に滾る力を使って!『黒狐』を呼び出して!!」

空に浮かんだ少女が叫ぶ。
自身の歩んで来た過去において、死こそは絶対不変の安らぎと信じていた。
しかしレンはそれすらも無にしてしまう。魂を穢し、犯して、死者を意のままに操る最悪の敵。

「……そうだナ。このままヤツを真雪の下に行かせるわけにはいかナイ」

黒狐とやらの力を借りればそれが適うというならば、迷うことなど何も無い。
目の前に迫る荒海の豪腕、下から掬い上げる拳の軌道。
力の限り、叫んだ。

89 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/02/28(月) 02:08:42.41 0
吹き付ける風が耳に痛い。
警察署ビルの上空、空に立つ少女をさらに見下ろす位置に飛峻は居た。
荒海の放ったアッパーを踏む形で受け止め、衝撃を逃がすため跳躍したのだ。
ここまで放り上げられるのは流石に予想外ではあったが。

「随分と景気良くすっ飛ばしてくれたものだな……」

いくら自分から跳んだとはいえ、本来なら脚ごと破壊されてもおかしくない衝撃。
しかしそれを受けてなお、飛峻はさしたるダメージも負ってはいない。

「だが、大したものだ」

荒海を眼下に収め、飛峻は独りごちる。
賞賛したのは敵である荒海ではない。五体に充ちる『黒狐』の力だ。

――黒狐。
東洋では年経た狐は神仙に類する力を持つと信じられてきた。
狐狸精や妖狐、狐憑き、その不思議な力を現す言葉は枚挙に暇がない。
その中でも全身黒一色の体毛を持つ『黒狐』は天下に泰平をもたらす王の出現する兆しとされ、
北斗七星の化身とも言われてきた。

果たして、今この身に宿るのが伝説に名を残す黒狐なのか、それとも同じ名の違う存在なのかは知らない。
だが一つだけ判ることがあった。
それはこの力ならば、確実に倒しきれるということ。

「アラウミィッ!」

叫び、飛峻は空中で体勢を立て直す。
顔には狐を表す黒い隈取、四肢を包む黒い焔。腰から伸びた魔力の残滓が尻尾のように弧を描く。

「今、お前を――」

指にかかる重み。それを握り締める。
星を呑み燦然と輝く直剣、銘にして曰く『七星剣』。

「――苦しみから解放してやる!」

落下。その加速すら斬撃に換え、荒海へ叩き込む。
剣に宿りし祈りは破邪と破軍。いかに不死身でも、いかに強大でも、この刃の前に意味はなさない。
ただ一振りのみ。いかなる存在すらも断ってのける破山の剣。

断。
と、頭頂から股間まで二分、しただけでは足らず警察署ビルの半ばまでを裁断。
そして一閃と同時に砕け散った刀身が光の粒となって荒海の体を包み込み、四肢の末端から消滅させていく。
それが飛峻がこちらの世界に来て出会った、古強者の最期だった。

「もしまた会うことが出来るなら、お互い何の柵も無く存分に拳を交わしたいものだな」

消えゆく荒海銅二を眺めながら、別れの言葉を告げる。
最後の一瞬。荒海は不器用に口端を歪め、笑った。
そんな気がした。

90 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2011/03/01(火) 01:03:57.32 O
「…………?」

膝から顔を上げ、真雪の座る隣を見ると、猫が呑気に背伸びをしている。

(猫…? こんな所に、猫? しかも青?)

ぐしぐしと顔を洗う動作は勿論可愛い。体毛が青くなければ、状況を鑑みず構っていたかも知れない。
そして猫は口を開き、

「こんにちは、ごきげんいかがですか?」

喋った。その声は少年のような、高くも低くも無い耳に心地良い声だった。
目を白黒させている間にも、猫は喋る、喋り続ける。猫は饒舌であった。
猫は尻尾を揺らしながら、真雪に萌芽の事実を告げる。

「わたしは、あなた方が『世界』と呼ぶこの場所に来る前に、彼に会っておりまして、
 そのとき、たしかに彼には、こんな『未来』は存在しなかったはずなのです。
 何かがおかしい、とわたしは思っているのです、何かが変わってしまった、と。
 それも、彼があなたと出会ってしまってから」

萌芽の現在。そして未来。
真雪に出会ってから、萌芽は変わったと言う。
未だ黙っている真雪を置いて、猫は話を続ける。

現状を破壊する『特異点』と、現状を守る『特異点』。
萌芽は現状を破壊する性質を持ち、しかし幼なじみの少女に自身を破壊されてしまった事。
幼なじみは萌芽の『特異点』としての記憶を薄れさせる事で見えなくし、
彼の『特異点』としての性質を取り除いた事。

そこまで言って、猫は真雪を見上げた。

「わたしの印象では、あなたも相当変わっています」
「変わって、る?」

猫の言葉にオウムのように返すと、猫は頷く。
『特異点』としての性質を奪われた萌芽は、『現状』へ干渉する力を失った事。
しかし、真雪と出会った事で、その力を取り戻し、幼なじみと再び出会い、
彼女と真雪を躍起になって守ろうとしている事。
それを説明し、青い猫は真雪に尋ねた。

「―――一体あなたの何が、彼を変えたのです?」

―――――――――――――――――――


91 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2011/03/01(火) 01:04:56.44 O
―――――――――――――――――――

真雪は猫から目を逸らす。
萌芽を変えたモノは何だと言われても、真雪には分からないのだ。
自分が何をしたのか、分からないから。
萌芽に出会ってからの事を、ポツリと話し出す。

「…萌芽が最初に現れて、名前を名乗った時、私、怖いって感じたの。
『竹内萌芽』は、彼がこの世界に来たときに作った偽名でしょ? だけど、その時にはそんな事情は分からなくて。
私の持ってる解釈で、萌芽は私をその『イデア』を手に入れる為に利用しようとしてるんだって、思ったの。
飛峻さんと一緒に萌芽に会った時にも、考えは変えなかったな」

一旦言葉を区切り、足を崩す。
猫には目を合わせず、再び真雪は口を開いた。

「だけどね、私はそれで終わっちゃいけないって思った。
…今の私なら、ほっといたんだけどな。
それで、BKビルで会った時は、変な感じがした。雰囲気が、黒から白に変わった感じ。
それが嬉しくて、私は萌芽と話がしたいって思った」

そこでやっと猫に視線を向け、彼の背を優しく撫でた。すべすべした感触が心地良い。

「萌芽の話を聞いて、なんて私は短慮だったんだろって考えたな。
萌芽は萌芽の事情が有って、ただ私が受け入れられるタイミングじゃなかっただけ…。
萌芽は優しい子だよね。なんで私なんかを、あなたが言うように躍起になって守ろうとしてくれるのは分からないけど…。
そのお陰で、私はこうやって生きてられるから」

真雪は猫の撫でながらそこまで話し、ああ、と声を上げた。
結局、彼の質問に答えていない。

「ごめんなさい、あなたが訊きたいのは『私が何をしたか』、だよね。
…端的に言うなら、『分からない』、かな。私はそんな、誰かを変えるような力を持ってないよ。
だって、たった2日前に出会っただけの人間だもの…」

そう言って、真雪は自嘲的に唇の端を上げた。

92 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2011/03/04(金) 04:58:05.56 0
>「イヨッ、憎イネエ色男!惚レチマイソウダ!」
「おっと、君の過去の言動からしてシャレにならないよマジで」

ハルニレが快を飛ばし、タチバナはサムズアップで応答。その背後で、Tが絶妙な表情を浮かべた。

>「ははははははは……ハァ。まいったね。私の負けだよ」
>「一応は手負いなのだからね。…君が足手纏いだと判断したら、容赦なく君を強制送還させる。いいね?」
「ふふふ。一人で強制送還などさせはしないさ……一人も欠けず、みんなで帰ろう」

>「ぺニサス君は5人までなら人を乗せての飛行が可能だそうだ。
  体力に自信のない者は空からの捜索に当たってくれ。私?遠慮しておくよ」
>「さて、行こうか。タチバナ君の右腕奪還・ついでにエレーナ君も助けちゃおう作戦、開始だ!」

一行は一路新市街地へ。
シノの死亡現場含め、レンの足取りを追跡するために精査を開始する。
現場は凄惨の一言に尽きた。戦場の一風景を切り取ったってここまで悲惨なことにはならない。
夥しい血痕、その主たる四散した死体の欠片。殺人ではなく虐殺の、敵意ではなく悪意の抽出物。

>「ドルクスさーん!……に、タチバナ、か?」

到着しちゃ一行を出迎えたのはミーティオを筆頭とする新市街チームのメンバー。
シノと、長多良を欠いた者達。長多良はどこぞへ一人旅立ったと言うから、これで残存メンバーは全部だろう。

「ってタチバナが二人!?――げ。その腕一体どうしたんだよ腕のない方のタチバナ!」
「ああ、これかい?ミーティオ君。――ふふ、これはそう、『奇跡を望んだ対価』とでも言うところかな……」
「やっぱこっちがタチバナか。あーはんなるほどかくかくじかじか。事情はわかったぜドルクスさん」
「聞いておいてスルーとはやるようになったねミーティオ君!新たなツッコミを開拓したというわけだね!?」
「別行動の間に私達も色々あったんです……」
「苦労しているね皐月君。男児三日会わずんばとは言うが、君達においては一日で刮目して見よだね」
「一番変わったアンタに言われたくねーよ!」
「ははは、なに、イメチェンの範疇だよ」
「二人に増えて腕一本無くすレベルでなきゃ払拭できないイメージって何ですかーっ!?」

>「皐月さん、シノさんと長多良さんは!?」
>「シノの奴、いきなりブツブツ何か言ってどっか行っちゃったんだよ!何も言わずに!」
>「さあな、壁伝いに跳んであっという間にあっちに行っちまったよ。それよりどうなってんだ?何であんた達が…」

ドルクスに問われたミーティオが示した先にあるのはそびえ立つ摩天楼。――『進研』の支社ビル。
皐月やジョリー達非戦闘員は一先ずドルクスに任せ、Tの後をついてビルへと向かう。

「どうやら意外なところから核心に迫れそうだね。そして謎も多い――シノ君はいずこへ?」

希望もある。彼女が自分の意志で立って、向かったのなら――生きているのか。
まだ救える命がある。タチバナの両手から、彼女の命が零れきってない。
間に合うかもしれないという光と、間に合わないかもしれないという焦燥が、タチバナ達の背を強く押す。
だが、それでも――彼には優先すべき事項がある。

93 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2011/03/04(金) 04:59:12.78 0
「シノ君の所在確認を頼むよ。陸路でシノ君のイベントが発生したのなら、次(レン)は空だ。
 僕はこれからペニサス君と合流する。なに、彼女の匂いは既に覚えた。南半球からだって追跡できるさ」

路地裏のひらけた空間へと踊り出て、タチバナは喚ぶ。
腕、腰、足、背、全ての動作に紙を張るような快音を伴わせ、宵闇へと声を投げる。

「――アクセルアクセス!」
《ひあうぃーごー!》

路地裏の壁面を構成するビルの建材が、幼女型に繰り抜かれた。
コンクリートの彫刻は、タチバナを抱擁するようにして搭乗させる。

《すくらんぶる発進であります!》

足裏と背中からアフターバーナーを顕現させ、ノータイムで垂直離着陸。
アクセルアクセスは打ち上げ花火の如く夜空を駆け上がった。

黒風に薫るペニサスの匂いをトレースして行けば、そこはこの街の警察署――だった場所。
路地裏を発つ前に佐伯とその従者らしき女性が話していた内容を思い出す。

『警察はもう機能していない。』

「――物理的な意味だったのかね!流石の僕もその発想はなかったよ!」

遠視スコープの向こうでは、文明市を襲ったのと同じ化物がその怪異を振るう最中だった。
相対するは一人の男性。大陸風の――武侠染みた雰囲気を放つ男。その手に握る光の束が、化物を貫く決定的瞬間を見た。
化物はほどけるようにして四散していき、一つの戦いが幕を下ろした証左となった。
そんなことにはまったくなんのおかまいなしに、タチバナはアクセルアクセスの背を蹴った。

「アクセルアクセス!――――局地爆撃モード!!」

機装の戒めを解いたタチバナは生身の体を夜風に放つ。
分離したアクセルアクセスの、その体の随所から大人の腕ほどもあろうかという大口径の機関砲が顔を出す。
警察署跡の真ん前でキメ顔しているレンへ向けて――全砲門解放の超絶火力の瀑布を降らす。
火線の流れに追随するように、自由落下でタチバナも弾を追う。

レンがアクセルアクセスの対地砲撃を避けても避けなくても、その鼻先にタチバナが降ってくる。
位置エネルギーを全て運動エネルギーに変えた落下は、減速の気配なくタチバナを瓦礫の上へ導く。
次の刹那。ぎょむん、と形容しがたい音を立てて、着陸したタチバナの足元の瓦礫全てが木っ端微塵に変貌した。

「やあ、また会ったね『死霊使い』君。君との衝撃的な出会いで、僕は一瞬にして心ならぬ右腕を奪われてしまったよ。
 かくなる上はこの想いの丈を届け伝え果たさんがため、今こうして君のところへ持参した次第。
 それでは受け取っていただきませう――着払いで届け、この想い!今なら対戦車ロケット弾のおまけ付きだ!」

袖から滑り出たRPG−7をレンの顔面へ向け、
――弾頭と鼻柱が触れ合うんじゃないかという至近距離でぶっ放した。


【警察署跡の戦いに参戦。時間軸アラウミ消滅後。
 レンに対地空爆を仕掛けたのち戦場に降り立ちRPGを至近距離でぶち込む】

94 :青い猫とバファリンの木の話(その2) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/03/04(金) 23:57:19.03 0

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

    【バファリン(Bufferin)】

   1)バラ科バファリン属の落葉高木。南米で古くから果樹として栽培され、
   日本には1963年にライオン(株)によって輸入された。夏、枝頂に青色の五弁花をつける。
   果実は丸みをおびており、果皮は雪のように白い独特の色合いをしている。
   果肉は花托が発達したもので、解熱・沈静の効用を発揮する。
   そのため、原産地では古くから腹が立ったときに食べる沈静剤として重宝されており、
   「ケンカをするなら、まずバファリンを食べてからだ」ということわざはあまりに有名である。
   ちなみに我々が普段目にしているのは、実を長時間日にさらし乾燥させたもの。

       【↓バファリンの実の図】
         v
         /\
        ○ ○

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


95 :青い猫とバファリンの木の話(その2) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/03/04(金) 23:58:15.26 0

「…萌芽が最初に現れて、名前を名乗った時、私、怖いって感じたの。
『竹内萌芽』は、彼がこの世界に来たときに作った偽名でしょ? だけど、その時にはそんな事情は分からなくて。
私の持ってる解釈で、萌芽は私をその『イデア』を手に入れる為に利用しようとしてるんだって、思ったの。
飛峻さんと一緒に萌芽に会った時にも、考えは変えなかったな」

真雪が目を逸らしても、猫の方はずっとその大きな目で真雪を見ていた。
やはりその目には表情らしい表情は無い。
しかし、猫は確実に何かを思っていた。

「だけどね、私はそれで終わっちゃいけないって思った。
…今の私なら、ほっといたんだけどな。
それで、BKビルで会った時は、変な感じがした。雰囲気が、黒から白に変わった感じ。
それが嬉しくて、私は萌芽と話がしたいって思った」

背中を撫でられ、猫は少しだけ、その顔に表情らしいものを浮かべた。
猫というものは、人になれてさえいれば総じて背中を撫でられれば喜ぶものである。
しかし、あいにく彼は野良猫で、そしてそのことについて誇りを持っていた。
よって彼の顔に浮かぶ表情は、
喜んでいるようにも、嫌がっているようにも見える”あやふや”な表情。
もっとも、彼はそれを彼女に見せることが恥ずかしいのだろうか?
今度は猫のほうが真雪から目を逸らした。

「萌芽の話を聞いて、なんて私は短慮だったんだろって考えたな。
萌芽は萌芽の事情が有って、ただ私が受け入れられるタイミングじゃなかっただけ…。
萌芽は優しい子だよね。なんで私なんかを、あなたが言うように躍起になって守ろうとしてくれるのは分からないけど…。
そのお陰で、私はこうやって生きてられるから」

ぴくり、と猫の耳が動いた。
同時にぴん、としっぽが立つ。

「ごめんなさい、あなたが訊きたいのは『私が何をしたか』、だよね。
…端的に言うなら、『分からない』、かな。私はそんな、誰かを変えるような力を持ってないよ。
だって、たった2日前に出会っただけの人間だもの…」

「……なるほど、わかりました」

再び猫は真雪のほうを見上げる。その顔にある表情は奇妙なものだった。
左側の目じりを上げ、右側の目じりを下げる、なんとも表現しようのない奇妙な表情。
なんとも表現しようがないわりには、初めて会った人間にもそれの正体はすぐ分かってしまう。
それは偏屈者の彼なりの”笑顔”なのだった。

「あなたはやはり変わっていますね。……変わっているというより、不思議です。
 もっともそれはわたしがネコだからなのかもしれませんが。
 あなたは自分があの少年にしたことを全てわたしに話してくれたのに、
 それを『分からない』などと言う。本当に分からないというよりは、
 私にはどこかあなたが”わざと核心から目を逸らしているように”見えます」


96 :青い猫とバファリンの木の話(その2) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/03/04(金) 23:59:07.90 0

「先ほどあなたはあの少年が”優しい”とおっしゃいましたね、
 そう、彼は確かに”優しく”なりました。……しかし、それが問題なのです。
 彼は以前ミーティオという女性に接触したことがあったのですが、
 そのときの彼は確かに『未来の特異点』に戻りかかっていました。
 自分の興味の赴くままに、彼はミーティオという女性にタチバナという青年への悪意を植え付け、
 本来どの時間にも存在しなかったはずの、『彼らの戦う未来』を産みだしたのです」

猫はふいにぴょこん、とその二本の後ろ足で立ち上がると、
とことこと歩き、ベッドのふちに腰掛けた。

「非道だと思われますか? しかし、それが彼の本来の性質なのですからしかたがありません。
 しかし、そのあとで彼はあなたと出会い、
 そしてミーティオに植えつけた『未来への可能性』を消しに行ってしまった。
 そんなことをして何になるというのでしょう?
 自分が産みだした『未来』を自分で消すなど、わたしにはひどく非生産的なことのように思えます。
 しかし、あのときの彼は理屈では動いていなかった。
 そして同時に、そのとき彼に『未来』が産まれた。
 わたしには見えない、特異点としてでもなく、しかし確実に『この場所』に影響を与えうる正体不明の『未来』が」

猫は再びしっぽを揺らしながら、真雪の方に顔を向けた。
その顔には変わらない笑顔が浮かんだままである。

「わたしには見えないはずです、あなたが彼に与えた『未来』は、
 わたしが今までずっと出会ったことのないものだったのですから」

猫はじっと真雪の瞳を見つめ、そしてふいに突拍子もないことを言った。

「ところで、あなたは『バファリン』という植物をご存知ですか?」

目を真雪から逸らし、猫は何も無い宙に視線を泳がせる。
それは何かを思い出しているようにも、人間には見えないなにかをその空間に見ているようにも見えた。

「まあご存知なくてもしかたありません。
 大抵の『場所』では、バファリンとはただの鎮痛剤の名前に過ぎませんから。
 わたしの見てきた『場所』の中でも、バファリンが植物であったところなど一つしかありませんでしたし」

猫はいつも適当で、いい加減である。

「あれは良いものです、夏の暑さの中、爽やかな青色の花を咲かせる。
 あの花の香りは誰の心も和ませる、とても不思議な効果がありました。
 しかし一番の魅力は、サクランボによく似た、真っ白な実ですね。
 とても甘くて、ほのかな酸味がある。
 なによりあの実を食べれば、どんなに腹をたてたものであっても、
 たちどころに優しい気持ちになることができましたから」

そして気まぐれで、だがしかし彼らは、彼らにとって真実と信じていることしか口にしない。
―――まあだからこそ、タチが悪いのであるが。

「あるところにバファリンの実が大好きな王様が居ました。
 王様はバファリンを国の特産物にしようとして、国中にバファリンの木を植えたのです。
 実際、その国は栄えました。
 誰でも怒りや憎しみを感じたときには、もっと優しくなりたいと願いますから、
 バファリンには相当な需要があったので当然ですね」

言いながら、猫はときおりしっぽをぴょこぴょこさせた。

「しかし、その国は何年もしないうちによその国に占領されてしまいました」


97 :青い猫とバファリンの木の話(その2) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/03/05(土) 00:01:57.24 0

「当然ですね、全ての人々が優しくなってしまった国に『未来』などあるはずがない。
 わたしの見てきた限り『未来』というものは、
 怒りや嫉妬、そして憎悪によってのみ切り開かれ、そして保たれるもののはずなのです」

猫はぴょん、とベッドから飛び降りた。

「”優しさ”によって『未来』が切り開かれたことなど、わたしの知る限り一度もないのです。
 わかりますか? あなたはとんでもないことをしたのですよ。
 本来『未来』の可能性であるはずの『特異点』に、
 『現状』を保つ最強の要素である”優しさ”をもたらしたのですから」

とことこ、と猫は少し歩いて、足元のタイルになぜかついていた、小さな取っ手に前足をかけた。

「まったくヒトというのは興味深いものですね。
 皆が皆、奇妙な『才能』を持っているのに、『能力』にばかり目をやって皆それを見失っている。
 あるいは、本当に『未来』を変えているのはそういったヒトなのでしょうか?
 もしそうなら、妙な超能力を持ったヒトなど、いわば彼らに影響を与えられて、
 彼らの思うように未来を変えさせられているだけの、ただの人形なのかもしれませんね」

ひょい、と猫は取っ手をひっぱる。
ぱかり、とタイルの一つが上に開き、現れた穴に猫はひょいと半身を沈めた。

「あなたは想像以上に面白いヒトでした。
 おそらくは『未来』はあなたの望む方に切り開かれるでしょう。
 それはあなたの”わかっている通りに”。
 さて、お礼と言ってはなんですが、『それ』はあなたに差し上げましょう。
 ネコのお礼など、ヒトのあなたが喜ぶかどうかはわかりませんがね」

床の穴から顔だけ出して猫はそう言うと、顔を引っ込め完全にタイルの中に入ってしまった。
ぱたり、と蓋をするようにタイルが閉じる。
もうそこには、先ほどまであったはずの取っ手など存在しなかった。

止まっていた時間が動き始める。
猫が座っていたベッドには、二粒の実をつけた、白いサクランボのような果実だけが残っていた。

【真雪はバファリンの実を手に入れた】


98 : ◆SQTq9qX7E2 :2011/03/05(土) 15:58:47.37 0
さて、彼らは今何をしているのだろうか。
その疑問が脳裏を過った時、私は誰かの視界を《ジャック》していた。

その場所には見覚えがあった。馨しい血の臭い、うす暗い階段。
階段の踊り場に、犯罪防止のポスターが貼られている。警視庁か。

「どこだーい?僕のかわいいかわいいメスちゃーん?」

視界の主は少年のようだった。
踊り場に設置された鏡に、金髪の凶悪そうな笑顔が映し出される。
右手に鎌、腰に斧をぶら下げて、どうやら「何か」を探しているようだ。
しかしお目当ての人間は見つからず、代わりに別の人間を見つけた。

「ん?あれれ、コウノトリ?」
「あ?レンか。こんな所で何してんだ」
「依頼のまっさいちゅーだよ。お前こそ何してんのさ」

視界には二人の男がいた。どちらにも見覚えがある。
一人は進研でも有名な文明の運び屋・コウノトリ。
もう一人は私の部下であるスフォルツァンド。
様子からして、二人は戦闘の最中だったようだ。

「文明と情報の略奪。要は俺も仕事だよ」
「ふーん。知らない人にボコボコにされるのがお仕事ねー」
「予想以上に手こずってるだけさ。それよか依頼はちゃんとこなしてんだろうな?」
「もーバッチグー。ま、アクシデントはあったけどね」

刹那、銃弾の雨霰がレン達に降りそそぐ。
しかしコウノトリが展開した防御膜により彼らに当たることはなく、その周辺に穴を開けた。
銃撃が収まった後、降ってきた者を見て、コウノトリの冷たい視線がレンに突き刺さる。

「アクシデントねー。例えばこういうの?」
「んーまあ、否定はしない」

彼らの前に現れたのは、片腕のない、Tに瓜二つな男。
レンの目と鼻の先にRPG-7を向け、今にも発砲しそうな勢いだ。

>「やあ、また会ったね『死霊使い』君。君との衝撃的な出会いで、僕は一瞬にして心ならぬ右腕を奪われてしまったよ。
> かくなる上はこの想いの丈を届け伝え果たさんがため、今こうして君のところへ持参した次第。
> それでは受け取っていただきませう――着払いで届け、この想い!今なら対戦車ロケット弾のおまけ付きだ!」

カチリと引き金が引かれる音が響いた直後。
レンとTに瓜二つな男がいた床が、ボゴンと大きな音を立てて崩れ落ちる。

「うっわぁああああああああお!?」

床と共に、レンと男も、コウノトリやスフォルツァンドも落ちていく。
その直後、私の視界ジャックが終了した。

99 : ◆SQTq9qX7E2 :2011/03/05(土) 16:01:15.97 0
「……ふう。揃いも揃って愉快な連中だよ。そうは思わないかね?――シノ、いや不非希射クン?」

私の眼前に佇む少女が、ゆっくりと面を上げた。碧の瞳が私を射抜く。

「兄貴を返せ」
「無理な相談だね。彼にはやってもらうべき事がある」
「返せ」

少女の風貌には似合わない、ドスの利いた声を効かせて再度要求される。
お互いに一歩も動かない。ただ静寂と時間が過ぎる。

「私が無償で返すと思うかい?」
「兄貴は返してもらう。力ずくでも」

部屋に置いてある前園久和の日本刀を手にとり、切っ先が私へと向けられた。

「無償では返さない、と言っているのさ」
「何?」
「君が、お兄さんを返してもらうための相応の働きをすればいいだけの話さ」
「アンタの言いなりになれってか?」

ギラギラと碧の目が怒りに燃えているのが分かる。
こういう単純な奴は扱いやすい。ただ、自分の立場を分からせてやればいいのだ。

「いいかい。君のお兄さんの命は私の掌だ。そして――久羽君の命も、ね」
「ッ久羽!?」

いい食いつきっぷりだ。本当に扱いやすい。すっかり動揺しきっている。
久しぶりに聞く幼馴染の名前一つに、こうも揺らぐものなのか。

「テメエ……兄貴や久羽に手を出したら…………!」
「落ち着きなさい。君が私に逆らわない限り、何もしないよ」

その言葉で不非希射は黙りこむが、それでも殺気は収まっていない。
だが落ち着きは取り戻した。私の話を静かに聴こうとしている。

「分かった。アンタの言うとおりにする。……まず何をすればいい?」
「そうだね。まずは、『不非希射』の名は捨てなさい」
「、名前を、捨てる……?」
「君は死人だ。もう不非希射は存在しない。君が不非希射だという証明もない」
「でも……ッ」
「言うことを聞くのだろう?…今度からは、【F】と名乗りなさい」

決心が揺らいでいるように見える。まあ当然だろう。
私は机からあるものを取り出し、彼に投げ渡した。
それは、緑の刺繍でFと書かれた腕章。すなわち、幹部の証。

「いきなり幹部まで昇進だ。文句はなかろう?」

彼は虚ろな目で腕章に見入っている。しかしやがて、それを左腕の袖に付けた。
また幹部が、一人増えた。実に喜ばしいことだ。

「ようこそ、進研へ。歓迎するよ―――――――【F】」

【F】
※1 fratello(フラテッロ):兄弟、弟
※2 finis  (フィーネ):終わり、死

【床が崩れました。それぞれがバラバラになる予感】
【シノ(不非希射):兄を引き換えに進研幹部Fになる。中ボスフラグ】

100 :カズミ ◆IPF5a04tCk :2011/03/06(日) 17:15:24.49 O
「ふわー。あるわあるわ資料の山、だね」

散らばった資料の山を漁りながらカズミは呟く。
そう遠くない場所で戦闘が繰り広げられているにも関わらず、カズミは妙に冷静だった。

「これじゃない……これでもない……ってこれ全部昨日の事件の内容じゃないか」

カズミが拾い上げたものは全て、昨日のBKビル襲撃事件の内容だった。
お目当ての7年前の火災事件は見つからず、落胆による溜め息を吐いた。

「骨折り損だよ全く…………ん?」

その時、カズミの目が書類の上の1人の名前を捕らえた。

「成川遥……行方不明……」

その一枚を拾い上げ、カズミは眉を顰めた。その時。

「うわわっ!?」

地鳴り。しかも普通ではない。まるで銃撃を受けたような衝撃だ。
鸛と戦っていたSの事を思い出す。嫌な予感がカズミの中で沸き上がった。

「だぁあもーッ!ヤケだ!!」

気づけば走り出していた。下の階へ、Sのいるであろう場所へと。


* * * * * * * * * * * * *

「スフォルさん!」

カズミが駆けつけた時、見知らぬ男が2人増えていた。
何だかアブなそうな少年と、その少年に銃を突きつける男。

「T幹部!?何で!?」

カズミは驚きの余り目を白黒させる。
混乱の中、カズミは必死に頭をフル回転させ、状況を理解しようとする。

「(いやいや無理だろJK!)」

さっそく諦めた。
しかし更に状況は予想の斜め上を突き進む。

ボゴンと、何かが崩れる嫌な音がカズミの耳にも入った。
そして床に亀裂が走るその瞬間、カズミはSに向かって駆け出した。
少年達が重力に従い、真っ逆様に落ちていく。

「ううう……お、重いぃ……」

だが間一髪、カズミは上半身が乗り出しそうな姿勢で、Sの腕を両手で掴んでいた。
勿論、カズミにSを助ける理由も因縁もない。
ただ助けなければいけない気がした。彼の中で、「助けろ」と誰かが囁いたような気がしたのだ。


【カズミ:資料は見つかんないわ間一髪Sさんの腕を掴んだはいいけど落ちそうな訳でヘルプミー】

101 :◆b413PDNTVY :2011/03/06(日) 20:28:07.31 0
音速を超えた速度で放たれる無数の針。
それに対して鸛は一切の抵抗をしない。その結果、鸛は死んだ。
それも一回では無い。十回、百回、八百万。
幾度となく死んだ鸛だが、それは有る矛盾を抱えていた。

生き物は一回しか死ねない″

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「随分面白い人間もいたもんだな。そもそも、あれっていったいどうやって無くなった質量を取り戻してるんだ?
 あぁ、余計な心配か、元からそう言うもんなんだって事か。減った分は空間でも転化して形にしてるんだな?
 でもさ、とりあえずはシュレディンガーが戻ってくるまでの間の暇つぶしにでもなればいいや。
 そう言う訳だ。―――"Good Luck."(楽しませてくれよ?哀れな小鳥君……)」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

しかし、現に鸛は何度となくこの場で惨殺された。
全身に風穴を穿かれ、枯れ枝の様にくず折れ、そして、水風船のように破裂し、惨劇は幕を閉じる。
結果はバラバラですらない。Sの攻撃によって鸛は塵も残さず解体された。

「うん。どうやらもうバレちゃったみたいだね?
 その通り。僕はとある理由によって現存するほぼ全ての文明に適合できる」

だが、虚空から声がした。その声音はまさしく鸛の物だ。

「だが、そのとある理由によって適合係数は最低クラスなんだ。
 最も……その理由の意味を理解していれば、敵合計数なんてのはなんの意味もないのだけれども」

瞬間、つむじ風が走り、Sの視界が一瞬だけ遮られる。
そして視界が晴れた瞬間、彼の目にはあの鸛が一寸違わず存在していた。

「この文明ってさ予想以上に面白いし、便利なんだね。
 文字通り塵も残さず分解されたのに原子サイズの文明の集まりって事が災いしてか死ねないんだもん」

そうおどけて見せる鸛。
彼が復活した理由は簡単だ。『妄想現実』<<イマジネーター>>の効果を最大限に利用した……
否、効果を適切かつ完璧に使いこなした結果がこれだ。
『妄想現実』<<イマジネーター>>とは粒子の文明。Sの体はそれで出来ている。
簡単にいえば物体を構成する上での最小単位である原子が文明の触媒になっていると言う事に他ならない。

「いや、死ねないって言うのは語弊があるかな?
 厳密には触媒になった原子がすべて分解されて消滅しない限りは何度でもと言うのが適切か……」

そこまで分析し鸛は一息つくと「武器」を取り出した。
それは俗に言う懐中電灯と言うものだ。

「さてと……それじゃあ、今度はこっちの番だね。
 電磁制御≪エレクトロンジャック≫。さ、行きなよ!!」

そう言い放ち、鸛はまるで空き缶を放る様に近場のデスクを片っ端から撃ちだしていく。
虚空を舞う巨大な金属机。その速度は弾丸よりも遅く、だがしっかりとした軌道で一直線にSへと向かっていく。
しかし、そんなローレンツ力を利用して撃ちだされた「コイルガン」は「最強」にとってなんの効果もない。
撃ちだされた先から消滅する弾丸だが、それに紛れて姿を消す存在が一つ。無論、鸛だ。

102 :◆b413PDNTVY :2011/03/06(日) 20:28:43.59 0
「次は『妄想現実』<<イマジネーター>>。続けて『発火担手』《パイロパイロット》」

飛び交う金属物質に紛れるようにSへと接近した鸛は、正気かと思う様な行動を立て続けに行い始める。
手始めに人体を触媒にした爆燃現象。俗に言う「粉塵爆発」だ。最もこの場合は粉塵と付けるべきでは無い。
自身の体を構成する『妄想現実』<<イマジネーター>>を適切な混合比でSの周辺に漂わせ、着火した。
左腕を17kg分使った幻想を持ちいたこの攻撃により、一瞬でSと鸛を取り巻く空間は火にのまれ、収縮し、膨張する。

「それ、『完全被甲』《フルメタルジャケット》。『瞬間移動』《テレポート》」

しかし、それでもSへのダメージソースには程遠い。爆発の中Sは不敵に笑った。
今度はSのターンだ。
切断を具現化する粒子の刃が放たれ、鸛を襲う。
それに対して鸛は文明の効果により破壊されない盾を転移させ身を防ぐ。
剃刀の刃で出来た砂嵐の中、鸛は無敵の盾で身を守りながらSへと肉薄する。
そして、回収しておいた『妄想現実』<<イマジネーター>>にとある属性を持たせ、刃物状に成型し斬りつける。
キィと言う金属か何かがきしむ音が響く……

「この短時間でアポトーシスを防ぐための磁界を形成する。
 だけどね……!!強制解除コード《gt4……」

万全の状況下で放たれた必殺の攻撃。
しかし、Sはある程度予測していたのだろう。彼は鸛の仕掛けた原子崩しに対して適切な原子障壁を展開しそれを防いでいた。
鸛の仕掛けとは『妄想現実』<<イマジネーター>>に物体を構築する為の原子。それを崩す為に適切な電荷を持たせたと言う事だ。
それを読んだSはその電荷に対して拮抗する、若しくは跳ね返す為の磁界を成型所持した障壁を展開した。
それだけの話なのだがこんな攻撃を思いついた鸛。それを読んだS。この二人はまさしく非常識(規格外)と言えた。
今、この場所では非常識が非常識な争いをしている。

「く……どうやら、邪魔が入るみたいだね。
 興醒めするのは勝手だが、ここは一旦仕切り直そうか」

鸛が告げた瞬間、今度は大地が、建物が爆音と共に揺れた。
これは地震では無い。外からの攻撃だ。そして、それを知っているが故に鸛はSに対してその事を告げたりもする。
揺れと爆発音が奏でるコンツェルト。廃墟が廃虚に変わって行く。警視庁はもう建物としても機能しなくなっていた。

「全くお客様達が全員集合かい?朝日の奴は簡単なお仕事と言ってたが予想外ばかりじゃあないか……
 しかも、邪魔にならないなら見逃そうかと思ってた人までいる始末……」

「まぁ、良い。どもみち、相手をするって部分においては最終的に変わらないんだ。
 この際、少しでも敵の戦力を減らせるって事には感謝するって事にして相手にはなるさ!」

(それに、三浦啓介やひろゆき達より■■山の遺跡、公文が作ったブーム型加速器を抑えられればこちらの勝ちなんだ。
 だったら、ここで目一杯妨害をすればそれだけで朝日の成功率は上がる。付き合ってもらうよ……)


【鸛:レン、李、ペニサス一行、タチバナを相手にする気でいる】

【色々書いたけど基本スルーで大丈夫。熱いバトルってこんな感じかな?おそくなってごめんよ!!】

103 :ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2011/03/07(月) 20:08:57.04 0
>「ぺニサス君は5人までなら人を乗せての飛行が可能だそうだ。
  体力に自信のない者は空からの捜索に当たってくれ。私?遠慮しておくよ」

Tの説明に、ハルニレは真っ先にペニサスに跨った。
彼は男で体力もある筈なのだが。ゼルタは何気ない気持ちでハルニレに問う。

「意外だね、ハルニレさんは陸(下)から行くと思ったんだけど」

「バッカダナゼルタ!コンナデカイ生キ物二乗ル機会、ソーソーネーゾ!」

「ええー!?そんな下らない理由!?」

なんやかんやで葉隠やサイガも跨る。
準備OKの合図をハルニレが送ると、Tの号令が掛かった。

>「さて、行こうか。タチバナ君の右腕奪還・ついでにエレーナ君も助けちゃおう作戦、開始だ!」

「オー!」

ペニサスが翼を広げ、大空に向かって飛び立つ。
風の抵抗を一瞬感じた直後、ハルニレ達は上空へ舞っていた。

「ヒョー!スゲーナァオイ!!タチバナー!ゼルター!」

前に座るハルニレは、すっかりはしゃいで、下にいるタチバナ達に手を振る。
一方、後ろに座る葉隠とサイガはといえば、

「サイガ、顔色が悪いぞ?」

「大丈夫だ。お前こそ……おえっ」

サイガの方は可哀想なことに、酔いそうになっていた。
それから暫く空の巡回を続けたが、それらしき人影が見当たらない。

>「全く、あのTって人も人(?)使いが荒いわね!」

「人ッテカ蝙蝠ダナ」

ハルニレが軽くツッコミを入れ、後ろで介抱し介抱されな二人を見る。
会話を聞いている限り、二人も異世界人のようだった。

「オ前等ヨォ、違ウ世界カラ来タンダヨナ?」
「ああ、俺もコイツも……サイガもそうだが。それがどうかしたか?」

酔って返答どころではないサイガに代わり、葉隠が答える。

104 :ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2011/03/07(月) 20:09:36.11 0
「……異世界ニ跳ブ時、記憶ッテ消エルモンナノカ?」
「どういう事だ。まさか……」

>「! レンだわ。気配が一際濃い!」

「何ッ!?」

二人の会話は、ペニサスの鋭い一声によって中断された。
ハルニレは身を乗り出し、その姿を確認しようとする。
しかし、雲が邪魔をしてハルニレからは中々見えない。
更にペニサスは何か見つけたのか、悲鳴にも似た声をあげる。

>「誰か戦ってる!」

その言葉を聞いた直後、ハルニレの脳に直接訴えてくるものがあった。

【憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い】
【殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる】

「ッガァアア!?」「危ないッ!」

余りにも強すぎるその思念に、危うくぺニサスから転げ落ちる所だった。
咄嗟に葉隠がハルニレを支えたので事なきをえたが。

「どうした!何故そんなに苦しがる!?」

「……ヒッデエ思念ダ……憎シミニ満チテヤガル……!!」

額に浮かぶ脂汗を拭い、そこにいるであろう強い思念の持ち主を睨みつけた。
屋上で対峙する、一人の少年と青年を。

>「あれ?あれあれあれれれー?アンタ達、さっき会ったよねー?」

少年、レンの方が先にこちらに気づいた。相変わらず挑発的な態度を崩さない。
痛む頭を押さえるハルニレの後ろで、葉隠が耳打ちする。

「アレが”例”の泥棒か?それに……」

葉隠が青年のほうへと視線を向けた。見知った顔がいるな、と葉隠がぼやく。
ハルニレは何も言わず、アッソウとだけ返した。彼の交友関係に興味はない。

「気ヲツケロヨ、アイツニハ――……」

>「アッハハ!忘れてたよ。僕にはつよーい味方がいたじゃないか!」
>「アラウミ!」

「―――――――――――――――強スギル味方ガイル」

105 :ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2011/03/07(月) 20:10:05.62 0
アラウミがペニサス達に右腕を振り上げると同時に、ハルニレ達が飛び降りた。
レンはアラウミが全て始末すると信じたのか、悠々と去っていく。
葉隠は少年が放った名前を聴いた瞬間、驚愕の表情を見せた。

「アラウミ!?まさか、荒海銅二だというのか?
 こんな化け物が、あの男だというのかッ!!?」

「オイオイ、知リ合イノヨシミデ何トカナラネエカ!?」

「冗談を言ってる場合か!」

アラウミは容赦なく殺人の拳を振るう。各々の能力を使っても、適いそうにない。
これでは本物の化け物でないか。葉隠が絶望的な声でそう呟く。

「イヤ……ソーデモナサソーダナ」

ハルニレは見た。力の限り咆哮し、自らの内に秘める力を放出させた男の姿を。
彼等はただ見守った。彼が決着を着ける、その瞬間を。

・――――――――――――――――――――――――――・

「ッタク、ヨケーナ手間カケサセヤガッテアノガキメ!」

先頭を、階段を幾つもすっ飛ばすように駆けるハルニレ。葉隠達もそれに続く。
中は見た目以上に凄惨だった。何があったのか想像すらつかない。

「コリャー、昨日ノ黒イ建物以上ダナ」

「お前、まさか昨日BKビルにいたのか!?」

「ア?マアナ」

葉隠の問いに軽く返す。すると、彼等もあの建物にいたのかと合点がいく。
奇妙な縁だ、と少しおかしな気持ちになり、ふと笑みが浮かんだ。
面白いものだ、全く。

106 :ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2011/03/07(月) 20:14:41.03 0
「何を笑っているんだ?」
「決マッテンダロ?アノガキトッ捕マエテ、ドンナ拷問シヨーカ考エテンダヨ」
「…………聞かなきゃよかっ……」

葉隠が呆れた顔で返事をしようとした時、轟音。ハルニレはつんのめって転びかけ、辛うじて踏ん張った。

「ナ、何ノ音ダ!?」

ハルニレが驚きに叫ぶ。サイガが「外、だな」と一言。それだけで、葉隠は理解した。この轟音の正体を。

「この音、対戦車用ロケット弾でもない限り出んな」

察したハルニレは再び、もっとスピードを上げて震源地へと赴く。思ったとおり、そこにはレンと知らない男達、それに

「タチバナ!」

タチバナがいた。既にレンを追い詰めているようで、左の袖から銃を取り出した。
そして撃とうというその瞬間、葉隠が吼えた。

「危ない!そこの人逃げろ!!」

同時に、二度目の轟音と共に、タチバナ達の立っている場所が崩れた。
どこかで見た少女が駆ける姿を見た気がしたが、それどころではない。

「タチバナァア!!」

今にも落ちていくタチバナに、ハルニレは手を伸ばした。葉隠が何か叫んだ気がしたが、彼には聞こえない。

「掴マレ!!」

手を伸ばした先にガラガラと崩れていく床が目一杯に広がり、頭部に衝撃が襲い――。
・――――――――――――――――――――・
「ア?」

気絶していたようだ。見知らぬ女が顔を覗き込んでいる。
誰だこいつ。その考えが頭を過ったとき、葉隠の顔がにゅっと飛び出た。

「気がついたか!瓦礫で頭を打ったから心配したぞ!」

ほら帽子と手渡され、それを受け取る。おかっぱ髪の女が、夢でも見るかのようか顔でハルニレを見つめる。

「この警視庁の生き残りの人だ!手当てをしてくれたんだぞ!」
「ア、アリガトヨ」

女はそっぽを向いて何も言わない。ハルニレは一瞬ムッとしたが、何も言わなかった。
向こう側では、一緒に落ちそうになっていた男女が長髪の女とサイガに助けられていた。

「アッタチバナ!」
「大丈夫、彼も生きている」

見れば、けろりとした顔のタチバナが鎮座している。
全く、自分も落ちかねないのに飛び出したりなんかしてと説教する葉隠の言葉も耳に入らない。

「……ヨカッタ……………」

初めて命を救った喜びが、ハルニレの中に溢れ返っていた。

【ハルニレ:タチバナ救出。榎慈音と合流】【兔:Sさんとカズミさんを救出】

107 :名無しになりきれ:2011/03/10(木) 15:04:23.04 0
ちんぽ!ちんぽちんぽ!!!!!!
ちんぽっぽ!!!!

108 :名無しになりきれ:2011/03/10(木) 16:00:44.71 O
流し

109 :ペニサス ◆SQTq9qX7E2 :2011/03/10(木) 23:14:38.57 O
【side/ペニサス】

巨躯が燃えていく。青年が゛力゛をもってして、アラウミを消失させた証だ。
エレーナの魔力を気配を纏わせるその姿から、かの男の背中を一瞬のみ垣間見、そんな莫迦なと自嘲した。
しかし青年から魔力が消えた気配はない。僅かながら、未だに残留しているように思える。
エレーナの魔力は、全ての人を負の感情に大きく作用する傾向がある。
彼女の魔力を欲し、操ろうとした者達はことごとく惨たらしい死を迎えた。
彼がかの者達の二の舞にならぬ事を祈りながら、私はハルニレさんに続いて階段を降りた。


人間のものと思われる血の臭いが鼻をつく。背筋がぞくりとするのを堪え、私は彼等の背中を追いかける。
>「ッタク、ヨケーナ手間カケサセヤガッテアノガキメ!」
先頭を駆けるハルニレさんがそう毒づく。全くもってとんだ手間をかけさせられた。
そんな事を考えていた矢先、凄まじい轟音と振動が建物を襲う。

>「ナ、何ノ音ダ!?」

ハルニレさんが狼狽えた声を出す。私は即座に戦闘体勢をとり、どこから攻撃されても良いように備える。
攻撃は来ない。代わりに、サイガさんが「外、だな」と呟くのを耳にした。

>「この音、対戦車用ロケット弾でもない限り出んな」
「対戦車用って!そんな危ないもの持ってる人なんて……………………あ」

いたわね。たった一人だけ、そんな物騒な装備している人が。
ハルニレさん達も察したようで、走るスピードが上がった。


>「「タチバナ(さん)!」」

震源地と思われる戦場に、果たして彼等はいた。
タチバナさんとレン、それと知らない2人の男。張り詰めた空気の中、タチバナさんがレンに銃口を向けていた。

>「やあ、また会ったね『死霊使い』君。君との衝撃的な出会いで、僕は一瞬にして心ならぬ右腕を奪われてしまったよ。
> かくなる上はこの想いの丈を届け伝え果たさんがため、今こうして君のところへ持参した次第。
> それでは受け取っていただきませう――着払いで届け、この想い!今なら対戦車ロケット弾のおまけ付きだ!」

タチバナさんが引き金に指をかけたその時、僅かに何かがひび割れる音が聞こえた。
真っ先に異常に気づき、声を張り上げのは葉隠さんだった。

110 :ペニサス ◆SQTq9qX7E2 :2011/03/10(木) 23:18:25.91 O
それは永い時のようで、僅かコンマ数秒、一瞬の出来事だった。
床が音を立てて崩れ、ハルニレさんが駆け出す。葉隠さんが止めろと叫び、私の姿は蝙蝠へと豹変する。
ハルニレさんの手がタチバナさんの左手を掴んでも、二人揃って落ちていく。
次いで蝙蝠になった私が飛び出し、二人を背中で受け止め、空中でのUターン。
飛び交う瓦礫を避けながら、葉隠さんに誘導された安全地帯に、半ば体を投げ出すように着地。
そこで私の変身は解けた。

「痛たた…タチバナさん達、怪我は?」

振り返ると、おでこにたんこぶをこしらえたハルニレさんがぐったりしている。

「ちょっハルニレさん!しっかりしてぇ!;;」

がっくんがっくん揺さぶってみても、起きる気配ナシ。すると、異変を感じとったのか、二人組の女性が現れた。
女性らは状況を理解すると、ハルニレさんの手当てをしてくれた。
やっと一安心かと思われた、その時。

「さがしたよ」「スフォルツァンド」「てかとなりのオンナだれ?」「カノジョ?ねえカノジョ?」

背後から、得も言われぬ気配が【突然現れた】。
防御呪文を張り、素早く背後を振り向くと、宙に子供が二人、浮いていた。
気配は二人から発せられていた。双子の男女、というのが一番しっくりくる表現かもしれない。

「あーっ!レン!!」

私は思わず大声をあげた。双子の片割れが担いでいるのは、間違いなく気絶したレンだった。
双子は私を完全に無視し、視線は、向かい側にいる金髪の男性に向けられていた。

「ボスからのおたっし」「あの『みぎうで』かえせって」

レンを担いでいない方(女)が、すっと右腕を上げた。

「≪ジャミング・ジャック≫」「対象、≪妄想現実≫」

「「≪シャットダウン≫」」

二人が声を揃えて呟いた瞬間、金髪の男性の顔が強張り、膝ががくりと崩れ落ちた。
女の子が更に腕を振ると、男性の頭上に光が生まれ、──見たこともない、鋼鉄製の義手が顕れる。
女の子の手が見えない糸を手繰り寄せるように動くと、義手が釣られるように宙で動き、その手に収まった。

111 :ペニサス ◆SQTq9qX7E2 :2011/03/10(木) 23:20:35.28 O
手にとって、女の子はそれが本物かどうか確かめているらしい。
私達の呼びかけにもどこ吹く風、といった調子だ。
すると、まるで今思い出したと言わんばかりに双子が口を開いた。

「そうだ」「この腕の持ち主」「ここにいるよ」「この下の救護室」

それはスフォルツァンドと呼ばれた男性に言っているようだった。双子の視線は義手に向けられたままだけども。

「ま、見つけた所で」「どうしようもないけどね」「ガレキで閉じ込められちゃったしね」

双子がクスクス笑う。どちらが喋っているのか分からなくなる。
気味が悪い双子だ。

「さいごに忠告」「ここからはやく逃げた方がいいよ」

「どっかの誰かさんがあばれたせいで」「今すごくたてものがもろくなってるから」

「「バイバイ」」

そう言い残し、双子は文字通り、一瞬の光を残して消えた。
その直後、建物が更に揺れ、崩壊の序曲を奏で始めた。

【謎の双子→S:義手を奪ってテナードさんの居場所を教え、逃走】
【救護室の皆さんが降ってきたガレキによって閉じ込められました】
【建物が崩れます。逃げる際はペニサスをこき使っておkです】

【ジャミング・ジャック:文明の一部に『強制侵入』し、操ったり使用不可(シャットダウン)にする。】


112 :名無しになりきれ:2011/03/23(水) 22:54:01.81 O
保守る?

113 :名無しになりきれ:2011/04/03(日) 00:28:04.01 0
再開待ってるぞ

114 :名無しになりきれ:2011/04/22(金) 10:45:22.22 O


115 :◆SQTq9qX7E2 :2011/04/25(月) 19:31:44.64 O
進研前に到着し早10分。
以下のようなやり取りがエンドレスで続いている。

「ですから!駄目ですって!無茶ですよ!」
「田中君、他ならぬ私からの願いなんだが…それでも駄目かねッ!?」
「小首傾げても駄目なもんは駄 目 ですッ!!」

私の部下の田中君が、胡散臭げに佐伯君達を一瞥する。
佐伯君が「何よ」と言いたげに睨むと、「ヒィ」と情けない悲鳴をあげ私を盾にその小柄な体躯を隠す。

「とっとにかく!関係者以外の、しかも公文の人間を入れるなんて駄目です! !」
「責任は私が持つんだから問題なかろう?」
「だだだって!Sはサポーターを連れて逃げ出すわ公文は潰れるわでてんやわんやな状況なのに!
 更に事を引っ掻き回すつもりですか!?頭沸いてるんですか!?」

今かなり聞き逃せない言葉が聞こえたんだが。
S君の下りとか公文の下りとか私の頭の下りとか私の頭の下りとか。

「(ゼロワン君の言っていた事は本当だったのか……)」


『公文は既に機能していません。警視庁諸共、何者かによって壊滅させられました』


更にS君の脱走。
噂でしか聞かないが、脱走の度、大体彼を止めようとしたサポーターが犠牲になるという。
田中君が無事だった事に感謝すべきか、S君を止められなかった無能ぶりを懸念すべきか、判断に困る所だ。
すると、私達の会話を聞いていた佐伯君が口を開いた。

「Tさん。そのSって、結構ヤバい奴な訳?」
「そうだね…噂にしか聞かないが、かなりの『変人』と聞くよ」

それはアンタの事じゃなくて?というツッコミは無視の方向で。
彼は放っておいても問題ないだろう。確か彼にはしっかり者の相方がいるというし。

<ユーガッタメール

「(メール……進研からか)」

スパムメールに偽装された暗号を読み解く。

「…………成程。佐伯君、くのいち君。一旦お別れだ」
「どういうこと?」
「諸事情が出来てしまってね。あいや、勿論シノ君の動向は探っておく。
 そうだ佐伯君、タチバナ君に会ったら、これを渡しておいて貰えないかな?」

私は彼女にそう言い、七変化≪ジ・アライク≫を佐伯君に手渡す。

「『君の色に、答えがある。』そう伝えておいてくれ」




116 :◆SQTq9qX7E2 :2011/04/25(月) 19:33:53.45 O
場所は変わり、進研の大会議室。

「さて諸君、集まってくれたかな?」

ぐるりと辺りを見回すボス。幹部達は皆、それぞれの表情で彼を見る。
何人か欠席はしているものの、殆どが集まっているようだ。
ボスは重々しくも芝居がかった声を上げる。

「君等はもう知っているね?我らが公文、ひいては警視庁の悲しき報せを」

幾らかの嘲笑。幾らかのざわめき。
それが収まると、ボスは更に演説を続ける。

「しかし、明日のスケジュールは変わらないよ。きちんとこなしてくれ給え」

明日、警視庁には多くの進研のサポーター達が助っ人として訪れる。
公文はもう、手中に収めたも同然だ。
『チャレンジ』の一員として、私はどう動くべきだろう。
不在のリーダーは、何を思うのだろう。

「そうだ。君たちに新たな仲間【ニューメンバー】を紹介しよう」

スッ、と彼が手を差し出したその先。
そこには、死人のような表情をした少女が立っていた。

「【F】君だ。仲良くして差し上げなさい」

少女はぺこりと頭を下げる。すると、二人の人間が一歩前に出た。
X【エックス】。二人で一人の幹部だ。

「そういえばコイツ」「殺す?」「嬲る?」「「どうします?」」

ずるり、と引き摺りだされたのは、体中傷だらけの少年。
それを見た少女の表情がこわばる。

「そうだね……明日の≪オークション≫に使えるかもしれない。どうするかは好きにしなさい」
「「はーい」」

X達は少年を引き摺り、出て行く。
その背中を、少女が恨めしげに見つめ続けていた。

「さて、明日が楽しみだね」

あらぬ方向を見やり、ボスは目を細めて微笑んだ。
公文を壊滅させた犯人の正体に私が驚愕するのは、それからまた後の事である。

【シノ捜索隊解散、佐伯さんとゼロワンは月崎邸へ】
【T→佐伯零:七変化≪ジ・アライク≫を渡しました。タチバナさんにお届けします】
【イベント・オークション:闇オークションです。基本的に様々な人が参加します。
             コロシアムや実験体のような見世物なんかも有。
             昼までに参加登録すれば参加可能です。ボスが何かを企んでいる模様】



117 :テナード ◆IPF5a04tCk :2011/04/28(木) 22:21:32.83 O

「うーん、何も無いな……」
「ちくわは?なあちくわはないわけ?」

テナードとニノが冷蔵庫の中を覗くも、何も入っていない。
ちっと舌打ちし、テナードはニノに振り返る。

「そういえば、お前も異世界人なのか?」
「なにそれちくわの一種?」
「…………要は、お前はここに住んでる人間なのかって聞いてんだよ」

ニノはそれを聞くと、腕を組んでうーんと考え込み始める。
服装や質問への反応、態度から察するに、異世界人である可能性は高いとテナードは見た。
何故頭上から降ってきたのかとか、その他諸々は後で根ほり葉ほり聞きだすとして。

>「おじさん! 忍者さん!」
「何だよ、デカイ声出して煩いな」

苛ついた声で反応するニノを華麗に無視し、少女はテナードにしがみつく。
「時に落ち着け」と少女を宥め、テナードは何があったのか尋ねる。

>「どうしようおじさん、屋上に何か…」
「屋上?」

テナードが眉を顰めた刹那、何かを破壊するような爆音が。

「な、何だ?何が起きて……?」

ニノの声を妨げるように、続けざまに大きな音が連続で轟き。
何かが戦っているのか。音に連続して揺れが続く。

「糞!お嬢ちゃん、黒いの、お前さん達はここにいろ!」
「誰が黒いのだ、誰が!」

嫌な予感がした。あの女二人組がもし闘っているのだとしたら。
怒号を無視し、テナードは入り口に向かって駆け出す――……。


「(――――――――――?)」


一瞬。ほんの一瞬だが、何か違和感を感じた。
視界の隅に、少女の足元に、青色の何かが映ったような……。

「おい、何ボーッとしてんだよ!」

呆けるテナードの耳に、ニノの怒鳴り声が届く。
我に返ると、少女とニノの不審げな視線を食らった。
oiミスったおい、やめろ馬鹿そんな目で俺を( ゚д゚ )。違った見んな。

「ったく、そんな調子で大丈夫かよ」

ニノがやれやれといったポーズを取り、それに反論しようとした時。
先程とは桁違いの、轟音と揺れが襲いかかってきた。

「うわぁあああ!」

テナードの脳裏に、昨日の情景が浮かんできた。
揺れ、轟音、ヘソの裏を引っ張られるような感覚、知らない場所……

118 :テナード ◆IPF5a04tCk :2011/04/28(木) 22:24:28.17 O
「ぐえっ!?」

両腕でニノの首根っこと少女の胴体をそれぞれ捕まえ、腕の中に抱え込む。
ニノ達の「苦じぃ」「圧死は勘弁……」等のくぐもった声も、今の彼には聞こえない。
咄嗟にテーブルの下に隠れたのは、殆ど反射的だったといえよう。

「酔いそう……」

必死にやり過ごそうと瞼を閉じた闇の中、耳の側でニノのぼやきが聞こえる。
一瞬か、数十秒か、一分か。どれくらいの時間が経っただろう。
ようやく揺れが収まり、部屋の中はシン、とした静けさに支配される。

「ふいーっ……何だったんだ、今の」

テナードの下で、ズレたプライバシー線を直しながら、ニノが誰に問うでもなく呟く。
部屋の外で何かが起きている。テナード達に理解できるのはそれだけだ。
最早、待っているなんて状況ではない。動かなければ。

「2人を探そう。俺が先に行く。黒いの、お嬢ちゃんを負ぶって着いてきてくれ」
「黒いのって言うな!てーか何で俺が!」

あからさまに(二重の意味で)嫌そうな顔をするニノ。
またも口論を予想したテナードは、溜め息が出そうなのをこらえた。

「いいか二人とも、よく聞け」

「今は喧嘩している場合じゃない。この惨状を見れば分かるだろう?」

うぐ、とニノが言葉に詰まる。

「今は、あの二人を見つけて、安全に逃げる事だけを考えようぜ。な?」
「…………ちっ。判ったよ」

ニノは嫌々ながらも納得したようだ。
真雪を背負い、テナードに向かって言い放つ。

「その代わり、無事逃げ出せたらちくわ奢れよ。聞きたいことも山ほどあるし」

どうやら、口は悪いが悪人という訳ではなさそうである。
ほんの少しの安堵を覚え、救護室のドアに手をかける。が。

「どうした?固まったりして」

ドアノブを押したり引いたりを繰り返し、テナードは振り返る。顔が青い。

「……ドアが、開かない」
「な、何だってー」

いきなり計画頓挫である。唯一の出入り口が開かないとは計算外を通り越して予想外だった。
外にある何かが邪魔をしているようだ。
このままでは、二人を探すどころか逃げ出す事も出来ない。
万事休す。



119 :テナード ◆IPF5a04tCk :2011/04/28(木) 22:25:07.51 O
「…………で、お前さんは何してんだ?」

何を思ったのか、ニノは少女をテナードに押しつけ、窓から上半身を乗り出していた。
次に、先端にフックのついた縄を手に取り、上の窓に向けて放り投げた。先端がどこかに引っかかったのを引っ張って確かめ、上を指差した。

「入り口が駄目なら、壁伝いにいけば良いじゃない」

聞き覚えのある台詞を言い、ニノは縄を伝って上を目指し始めた。

「サルみたいな奴だな、アイツ」

テナードはそう漏らすと、少女を左腕に抱え、右手で縄を掴む。

「下を見るなよ」

少女にそう忠告すると、縄を右腕に絡め、壁をよじ登り始めた。

【メンバー一同→縄を伝ってロッククライミングなう。ニノさん動かしちゃってごめんなさい】

120 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2011/05/03(火) 00:55:09.04 O

不思議な猫が去った後、再び時は動き出した。
調子が狂ったのか呆然とするオジサンと、騒ぐ忍者。
そして、再び轟音。

とっさにオジサンに庇われたお陰で怪我は無いものの、部屋は酷く荒れていた。
当然、部屋を出るという選択肢が確定される。だが、方法が若干問題だった。

「2人を探そう。俺が先に行く。黒いの、お嬢ちゃんを負ぶって着いてきてくれ」
「黒いのって言うな!てーか何で俺が!」
「何でコイツに!」

オジサンが先に行き、忍者が真雪を背負うという計画だった。
当然、文句を言った忍者と真雪の争いが始まる…かと思いきや、オジサンが二人を宥め、今に至る。

「どうした?固まったりして」

当然開く筈の扉を前にして、オジサンが固まっている。
危険な状況、お互い知らない他人、開かない扉―――サスペンス小説でも有るまいし…

「……ドアが、開かない」
「な、何だってー」
「……えぇー」

有った。
但し、そこは忍者。何も知らない真雪と違って、解決方法を思いついたようだ。

「入り口が駄目なら、壁伝いにいけば良いじゃない」

そう言って、縄を伝って登り始めた。
オジサンも真雪を抱え、それに習う。



「…なかなか、スリリング、ね…」

今もまだ響く崩壊音。揺れる風景と、不安定感抜群の腕の中で、真雪の顔は真っ青だった。
無意識にポーチに手を当てる。その中には、真っ白な木の実が入っていた。
不思議な猫の、優しさの贈り物。バファリンと言ったか。
何故だか真雪は、これを絶対に手放してはいけないと確信していた。
潰れていないか確認したいが、この状況では確認もクソも無い。
せめて潰さないように、ポシェットを移動させる。途端に景色が大きく揺れた。
壁が、派手な音を立てて崩れた。

「ああああアぁ! 落ちるぅぅぅう!」

浮遊感が真雪を包む。景色が、妙にゆっくりと流れる。
何か掴まなきゃ、と手を伸ばした先も共に落ちていて、意味が無い。

(ここで死ぬのかな。謝らなきゃな…誰に?)

とりとめも無い思考を以て、意識は途切れた。
額に石が降ってきたのだ。それは傷を付け、真雪の意識を奪って行った。


【壁崩壊したよー間に合わなかったよー】
【真雪:気絶。頭の傷の深さは発見した人のお好みでどうぞ】

121 :テナード ◆IPF5a04tCk :2011/05/03(火) 19:19:03.15 O
>「…なかなか、スリリング、ね…」
「ロッククライミングならぬ、ワールクライミングだな。結構きついぜ、コレ」

片手のみで壁をよじ上るテナードは、そう呟いて苦笑いする。
辺りを見回せども、どこもかしこも穴だらけで、ロクに着地できる場所がない。
かれこれ6階までは上がったかもしれない。

「頑張れよー!もうちょいだからー!」
「呑気だな……こっちは人担いでるってのに」

ニノは既に登りきっており、窓から頭を出して声をかけてくる。
それに対しブツクサ呟きながらも、少女を抱え直し、また一歩、足を踏み出した。
その瞬間。

「あ?」

ボゴン、と嫌な音が聞こえた。次いで、足元から喪失感。浮遊感。
壁が、派手な音を立てて崩れた。

>「ああああアぁ! 落ちるぅぅぅう!」

テナードの代わりに、少女がけたたましく悲鳴を上げる。
更に、ブチリ、と、最も聞きたくなかった嫌な音が聞こえた。

「あ……」

少女を抱えたまま、その巨体は重力に従って、落ちる。
驚愕したニノの顔が、スローモーションで離れていく。


死ぬのか? このまま? 地面に激突して、少女もろとも?


何もかもがスローモーションだった。
少女の呻き声が一瞬聞こえ、更に腕の中の体が重くなったような気がした。

ほぼ同時に、テナードの頭部にも、石の礫が直撃し、意識が飛ぶ。


目の前が、真っ白 に 染  ま   る      。





122 :×××× ◆IPF5a04tCk :2011/05/03(火) 19:21:08.09 O


『××××は初めてかい?』『貴×のそ×いう所が嫌×よ』『お×い×サ××!』『こ×より××××の改××術を×始する』
『××××?変な×前ー』『君と仲××な×て良×った』嫌だ『×は×う××んだよ』『あり×××、今×は××しかっ×!』
『へぇ、×人さんか。僕は××だ』『×の、嘘×き!』このまま『×ょ×ね。××××するの』『ほーら、××××ですよー』
『俺×は××な×がいる××』『×いし××るよ』俺には、××××が『手を離すんだ、××××!』『ねえ、××××』


『××××、命令だ。手を離せ』          バチッ

剥き出しになった鉄筋を、コンクリートの右手が力強く掴んだ。
ブラリ、と宙吊りになる体。赤黒い血が、気絶した少女の頭部の血と混ざる。

「…………どいつもコイツもよ、諦めてんじゃねーよ」

視界は紅く染まっても、片目が見えなくなろうとも。
例え手足がもげようとも、守るべきものが重荷になろうとも。

『手だけは離すな』。


「『二度と、繰り返させやしない』」


朧げな意識の中、感覚がなくなっていく左手の力を強める。
ああ、こりゃやべえ。この状況下において、何故か笑みが零れた。

「おいこらデカブツ、落ちたら承知しねーぞ!」

ニノの声だ。宙吊りになった彼の視線と、ニノの目線が合う。
相変わらず身軽に窓から身を乗り出す彼に、左腕の少女を差し出した。
それを受け取ったニノは、声を掛ける。

「おい、そのままキープだかんな、そのまま手が滑って落ちるなんてベタな真似は…………」

それが、彼の聞いた最後の言葉。ズルリ、と右手が摩擦に負けて……。


(さいごに、あいつにあいたかったなんて)

死に吸い込まれそうな彼は、それでも尚笑っていた。

【真雪さんを忍者に任せて気絶。落ちる3秒前】



123 :未来より ◆IPF5a04tCk :2011/05/04(水) 01:13:21.38 O
場所は変わり、進研施設内某所。

「T君、T君やーい」

Tが一人になった所を見計らい、一人の少女が駆け寄ってくる。
黒の短髪に赤縁眼鏡の、どこにでもいそうな少女だ。
少女に心当たりのなさそうなTの様子にくすくす笑い、少女はにへらと笑う。

「ちょっと時間、いいかな?すぐ終わるから」

Tに歩幅を合わせて歩く少女は、どこか遠くを見据えている。
たどり着いた先は、萌芽達が眠る集中治療室。
中に入ってパイプ椅子に座るや否や、脈絡もなく、とんでもない言葉を口にした。

「そうそう、【チャレンジ】のリーダー権、君に譲るよ」

ニヤッと悪戯っ子のように微笑む少女。
チャレンジのリーダー権を譲る。
つまりこの少女は、自らをチャレンジのリーダーだと仄めかしているのだ。

「吃驚した? まっチャレンジのメンバーって殆どいないしぃ、あんま必要ないかい?」

陽気にけらけらと笑う少女、もといチャレンジのリーダー。
チャレンジは元々異端の集団だ。ゼミ等に比べ、圧倒的に人数は少ない。

「アタシってばさ、ちょっとばかしやりたい事が見つかったっつーか、やっとチャンスが巡ってきたっつーか?」

くるり、と無邪気を演じる少女は、通路の途中の柱に隠れる。
そして柱の陰から出てきた時、そこにはほっそりとした中性的な顔立ちの青年が立っていた。

「そして僕『達』にとって、これがラストチャンスなんです。千載一遇の、」

「進研のボスを倒す、チャンスが」

その目には、純然とした決意が宿っていた。
両の掌で顔を覆うと、またあどけない少女の顔が飛びだす。
少女と青年の顔が交互に、語り出す。

「ボスちゃんとゼミ達の目的はサ、アタシ等の目的を遂行するにはちっとばかし邪魔っつーかネ?」
「歴史を繰り返させる訳にはいかないのです。折角の『未来からの切り札』を、無下にする訳にはいかない」
「幸い『猫』はまだ覚醒しきっていない。ボスを倒すにはまだ可能性が残ってンのサ」
「止めないで下さいね、橘一生さん。この作戦には未来の『平和』がかかっているのですから」

語りながら、その手は竹内萌芽の頬を撫でる。


「だからこれも」「計画のうちなノサ」


124 :A(anyone) ◆IPF5a04tCk :2011/05/04(水) 01:14:08.85 O
刹那、窓ガラスが割れ、カーテンがフワリと視界を遮る。
Tが気づく頃には、シエル=シーフィールドのみが残された。


「あーモーさ、そんナに怒んナいでヨ」

お姫様抱っこ……そう呼ぶに相応しい格好で少女はストレンジベントと言い争っていた。

「同じ《サバイブ》同士さァ、仲良くしよ?ネ、ね?」

ストレンジベントから繰り出される攻撃を軽くいなしながらも、笑みは絶やさない。
さてと少女はチラリと萌芽を見やった。

「ねえ、どノ辺りから起きてたりすル?」

すっかり覚醒した萌芽に対し、少女は態度を変えることはしない。
電波塔で奇妙な体勢を維持したまま、少女は萌芽に微笑みかけた。

「ねえ萌芽君、君に守りたいものはある?誰かだけのヒーローになりたいって考えたこと、ある?」

微笑みを絶やさない彼女は、萌芽の才能をもってしてでもその姿をはっきりと捉える事は出来ない。
フフッと優しく笑いかけ、萌芽の顔をじいっと覗きこむ。

「君が守りたいなら、力を貸してほしいんだ。ボスを倒す、力が」

へにゃへにゃ笑う少女。
意図は、掴めない。

「オレは、エース。A。よろしくね、萌芽」

【A→Tさん:チャレンジの支配権を譲渡】
【A→萌芽:進研から誘拐、ボスを倒す手助けを依頼。情報は言える範囲まで喋りますし、今ならおまけして好きな場所へ送り届けます】


125 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/05/04(水) 16:36:55.90 0
「……レンは下に行ったカッ――」

言葉の途中で全身を激痛が襲う。
続いて喉を駆け上る嘔吐感。思わず口を手で覆う。
たぱたぱと、指の間から零れ落ちる黒血。

(――力の代償……ということか)

体内をドス黒い何かが這い回り、出口を求めて暴れ狂う。
限界を遥かに超えた力、その代償。
筋繊維や血管は断裂し、内臓器官も深刻なダメージを負っている。
とりわけ後者は、内功を巡らせ身体能力を高める術を得手とする飛峻にとっては致命的といえた。
それはそのまま戦闘能力の著しい減衰につながる。

「だガ――」

気を抜けば即座に前のめりに倒れ、立ち上がることは出来ないだろう。
ふらつく両脚、地に落ちる寸前の両腕。明滅する意識。

「――立ち止まるわけにはいかナイ」

それら全てを、気力で跳ね除け、飛峻は進む。
レンの行くその先には、すなわち真雪が居る。何としても阻止しなければならない。
例えこの身が果てようとも、だ。

「悠長に階段を使ってたら間に合わないカ……。
 ソレに階下にレン並、もしくはソレ以上のヤツが居るようだしナ。
 正直今の状態じゃあ荷が勝ち過ぎているカ」

轟く爆音。鳴動する空気。微かに感じるのは熱か。
おそらく『文明』を用いた大火力の戦闘が行われているのだ。

「マア……内側がダメなら外から行くしか無いよナ」

おあつらえ向きに、目の前には赤の原色が眩しい鉄の箱。
開き戸の上部に警報機が付いた、主に火災の時の為に設置されているそれだ。
口端を吊り上げ、扉を開くと期待通りの物が中に納まっていた。

「ダガ、もう少し数がいるカ……」

連結式の消防用ホースを引き抜きながら強度を確かめる。
とはいえ元来かなりの水圧での使用を想定されている代物、人一人程度ならば問題は無いだろう。
加えて物は新品同様、というか使われた形跡は無い。

「さてト、こんなもんだナ」

かき集め繋げたホースを腰に結び、窓に脚をかける。
吹き付け煽る強風と、絶賛咆哮中の爆発音が、高所に立ったとき特有の恐怖感に拍車をかける。
だが迷っている時間は無い。意を決し体を乗り出し――

「アレは……マユキか!?」

――飛峻とは逆に、下からよじ登ろうとしている複数の人影を確認した。
一緒に居るのは忍者と大男。路地裏で見た者達と符合する。
合流すべく再び身を乗り出したその時、今までで一番大きな轟音が響き、度重なる衝撃に遂に耐えかねたビルが崩落を始めた。
壁が剥げ、落下していく。折悪しくもその第一波は丁度、登攀しようとしている真雪達の真上だった。

126 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/05/04(水) 16:37:22.47 0
気付けば窓を蹴っていた。
一瞬の無重力感と、即座に大地へと手繰り寄せようとする重力加速度。

「オオオオオオオオオォォオッ!」

激痛も鈍痛も、消耗も磨耗も関係無い。
屈しそうになる脚を無理やり引き剥がし、力の籠もらない腕は命綱で雁字に絡める。
這う様に壁を疾走。軽功術を使用するために内気を練り上げる。吐血。
内臓器官が悲鳴を上げる。

(間に……合えッ――)

さらに壁を蹴りつける。丹田からは浸み込むような重さと痛み。併せて無視。
だがそれでも、彼我の距離は絶望的で、傷つき磨り減った四肢は本来の半分も思うままに動かない。
結果、その間が縮むよりも遥か先に破片が真雪たちを襲う。

「――マユキイイイイイイイッ!」

最悪の結末。引き伸ばされる知覚。
その中で、真雪と、真雪を背負っていた大男がゆっくりと落下していく。

>「…………どいつもコイツもよ、諦めてんじゃねーよ」

絶望に閉じた両の目を、縋るように開けば、剥き出しの鉄筋に掴まる大男。

>「おい、そのままキープだかんな、そのまま手が滑って落ちるなんてベタな真似は…………」

真雪を引き上げた忍者が不安げに声をかける。
だが、当の大男はそれで満足したのか、かくんと首が落ち、力の抜けた腕が鉄筋から離れる。

「全く……オマエが諦めてどうすル。ダガ、礼を言うぞネコミミ、また助けられたナ」

その離れ落ちていく腕を、間一髪で掴み取る。
今掴んでいる彼は、巨躯という特徴こそあれど普通の人となんら変わらない。
しかし飛峻は確信していた。
体格や纏う雰囲気から、昨日あのビルで共に戦った男、その人だと。

「チィッ、流石に二人分は無理カッ!ならバ――」

連結部が挙げる悲鳴を耳聡く聞きつけ、壁を蹴り飛ばす。
ふわり、と二人の体が宙に浮き、戻る反動を利用して飛峻は硝子を蹴破りビルの中へと踊りこんだ。


【落下寸前のテナードさんをインターセプト。警察署内へダイビング】

127 :名無しになりきれ:2011/05/04(水) 16:39:43.61 0
あんたらこんな寒いもん書いてて恥ずかしくないのか?
いい歳こいてさ

128 :名無しになりきれ:2011/05/04(水) 22:29:11.89 O
1000

129 :テナード ◆IPF5a04tCk :2011/05/08(日) 19:55:52.80 O
ニノが少女を抱いて窓からひっこみ、青年がテナードを救助した頃。
その一部始終を見ている男が居た。

「ちっ……あの馬鹿!」

舌打ちし、テナード達が飛び込んだ窓を睨めつける。
男は廃虚の警視庁へ突入した。

【警視庁内】

「おーいデカブツ!と知らん奴!大丈夫かー!?」

真雪を抱えた二ノが二人のもとへ駆けつける。
テナードは気絶し、あちこちに軽い擦り傷をこしらえていた。

「このガキなら問題ねえよ、高いとこから落ちるショックで気絶してるだけだから。
 それよりアンタの方が大丈夫?」

二ノは体中血まみれの青年に恐る恐る尋ねる。

「動くな」

空気が張り詰める。咄嗟にニノはテナードと青年を背に構える。

黒いフードを着た中性的な顔立ちの青年だ。
骸となった警官の銃を突きつけ、青年は殺気を露わにする。

「もう一度言うぜ、動くなよ」

そう言い、リーの方を見る。
ツカツカと歩み寄り、しゃがみこんだ。

「お前、コイツが誰か分かってんだろ?」

言うが早いが、リーの腕を掴む。すると、淡い光がリーを包み込み、傷が癒えていく。

「ふぃーっ…………。昨日の包帯の借り、これで返したかんな」

ぺたりと座り込み、表情は変えることなく額の汗を拭う。
ニノはまるで何がなんだかと言いたげにこわごわと聞く。

「えーっと……アンタら知り合い同士?俺ボッチ的な?」
「まぁ、そんなところかな」

あくまで無表情。ニノや真雪、リーを見て、溜め息を吐く。

「ったく、101といい俺といいお前等といい、コイツは本当に変なもの拾う天才だよなぁー」
「ちょっ……テメーそれはどういう意味だ!」

テナードをつんつんとつつく青年に、ニノが怒る。
不意にフッと笑い、青年は立ち上がる。

「ま、それはさておき、早く逃げるぞ。何かヤバそうだしな」

そういうと、青年はテナードを引きずるように肩に腕を引っ掛け、立ち上がってリーに声をかける。

「おい、コイツ運ぶのを手伝ってくれ」

【テナード:気絶】
【前園久和:合流。リーさんを治療】

130 :名無しになりきれ:2011/05/08(日) 20:22:50.66 0
頭悪そうな文章だな

131 :名無しになりきれ:2011/05/08(日) 23:05:45.99 O
.

132 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/05/17(火) 02:51:19.38 0
「痛ッ……ギリギリ間に合ったナ」

破砕した窓越しに、地表へ落下する命綱を見ながら飛峻は嘆息していた。
傾き割れた床と、散らばる硝子。
飛び込んだ時に大柄の男を庇ったせいか、顔や両腕などそこかしこに真新しい裂傷が開いている。

(拙いな……さっきので使い果たしたか……)

大の字になりぼんやりと天井を眺めながら、損傷具合を分析する。
"黒狐"の力を使用したツケか、気力も勁力も、力という力はとうに枯れ、首から下はは鉛にでもなったように重い。
今、レンに襲われでもしたら隣で気を失っている大男はもとより、自身を守ることすら侭ならないだろう。

>「おーいデカブツ!と知らん奴!大丈夫かー!?」

崩れた足場はそれだけでも音を立てる、人が踏めばなおさらだ。
にもかかわらず、現われた何者かは殆ど無音で、それどころか気配すらも感じさせなかった。

「オーイ、こっちダ。あァ、あの時上に居た……そうダッ、マユキは無事――ッ!」

落下するビルの破片と、その下に居た真雪。
フラッシュバックする先刻の光景に、黒尽くめの男へと掴みかかろうとして苦痛に喘ぐ。

>「このガキなら問題ねえよ、高いとこから落ちるショックで気絶してるだけだから。
 それよりアンタの方が大丈夫?」

「ソウ、カ……良かっタ――」

男の肩で、ぐったりと気を失う真雪を仰ぎ見ながら、飛峻は深くため息を一つ。

「――コッチはそうだナ、大丈夫ダ問題ナイ……と言いたい所ダガ、正直もう動くのすらしんどイ」

破顔しながら黒尽くめの男、ニノに返答。再び大の字に寝転がる。
最大の気がかりだった真雪の無事が確認出来たせいか、忘れていた疲労が息を吹き返す。

「ダガ……戯言を言っている場合じゃ無いナ。さっさとココから――」

>「動くな」

ニノの手を借りて体を起こし、立ち上がろうとしたその時、鋭い声が場を制した。
殺気を隠すことなく、こちらに突きつけられる拳銃。

「オマエは……」

相手には見覚えがあった。出会ったのは昨日。
荒海と死闘を繰り広げたBKビルで出会った青年だった。

133 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2011/05/17(火) 02:52:33.50 0
「……凄いナ。クワ、と言ったカ。スマナイ、助かっタ」

飛峻は持ち上げた自身の腕をまじまじと見つめていた。
拳を握ってはまた開く、その繰り返し。
つい先ほどまで、立ち上がることにすら相当の労力を必要としていた体が動く。

>「ふぃーっ…………。昨日の包帯の借り、これで返したかんな」

そう。何の気もなしに施した包帯の礼だと、久和が傷を治してくれたのだ。
あれ程全身を苛んでいた激痛もすっかりと消えている。
重り付きの枷を嵌められたかのようだった手足も自在に動く。

「随分と割りの良イ貸付をしたものダ。自分の先見を褒めたいくらいだナ」

>「えーっと……アンタら知り合い同士?俺ボッチ的な?」

久和と軽口を叩きあっていると、ニノが恐る恐るといった感じで声をかけてきた。
銃を向けられ、敵意も露に睨まれた相手とあってはそれも無理からぬことだろう。
そんなものだ、と笑いながら返す。

>「ま、それはさておき、早く逃げるぞ。何かヤバそうだしな」

立ち上がった久和が大男の肩に腕を回す。
飛峻も促され、それに倣った。

「アァ、上も下も派手にやらかしてる様だしナ」

それに――半分は飛峻のせいでもあるのだが――建物自体も所々崩落を始めている。
何時までもここに留まっているのは愚の骨頂だろう。

「ところでクワ、オマエどっちから来タ?
 成程……ニンジャ、先導は任せル。今のところ下は問題なく通れるらしイ」

ニノならば先行するのにうってつけだろう。
なにせそのずば抜けた穏行能力は、先刻確認済みだ。

「良シ。じゃア、こっそり逃げ出すとしよウ」

脱兎の如く。少女と大男を担いだ怪しい三人組は警察署を後にした。

134 :ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2011/05/17(火) 18:29:25.49 0
前回のあらすじ。
タチバナを救出したハルニレ達の前に、奇妙な双子と気絶したレンが現れた。
向かい側にいる青年から腕のようなものを強奪した。

>「そうだ」「この腕の持ち主」「ここにいるよ」「この下の救護室」

救護室という単語を聞いた瞬間、慈音の顔色が変わる。
ハルニレはといえば、訳の分からない展開にボケッとしているしかない。

>「さいごに忠告」「ここからはやく逃げた方がいいよ」
>「どっかの誰かさんがあばれたせいで」「今すごくたてものがもろくなってるから」

ハルニレがタチバナに目を向ける。

「何だね?」
「イヤ、何モ」

バイバイと言い残し、双子は文字通り、一瞬の光を残して消えた。
その直後、建物が更に揺れ、崩壊の序曲を奏で始める。

「僕の右腕が!」
「言ッテル場合カ!逃ゲルゾ!」

タチバナを無理やりぺニサスに乗せ、葉隠達も跨った後、ハルニレは慈音と兔を振り返って尋ねた。

「オ前ラハドウスル?」
「…………待たせてる人がいるの。遠慮しておくわ」

「ソウカ」と相槌を打ち、ハルニレたちを乗せてぺニサスは空へと飛び立った。

・―――――――――――――――――――・

「乗せてもらえばよかったですね」
「それ、今更言います?」

建物内を走る二人。救護室は瓦礫の山で塞がれていた。
声をかけてみたが反応はなく、兔は「中から気配を感じない」と気づいた。
仕方なくこうして建物内を見て回っている。

「! あの人影……」

先行する男に見覚えがある。真雪を背負った忍者だ。
後ろには面識のない青年と李、担がれる大男。

「無事だったのね!良かった、早く逃げましょう」
「逃げるって、どこにです?ここ以外に安全な場所って……」

ちっちっち、と人差し指を振る慈音。その顔は自信満々だ。
青年、久和の代わりに交代して大男を担ぎながら、二コリと笑った。

「あるじゃないの。私の家って場所が!」

【一行→月崎邸に帰る】
【慈音→榎家に行こうぜ!】

135 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2011/05/28(土) 01:52:03.84 O

真雪は夢を見た。
夢の中で、柚子が鉄格子の中で、赤い目で真雪を睨んでいた…。

―――――――――――――――――――

目が覚めると、そこは見知らぬ家だった。
あまり働かない頭で周囲を見渡す。そばに兔が居た。

「……ここ、どこ?」

口に出すと、余計不安が増してくる。
真雪は寝ていたベッドからそっと降りた。

「来客用の部屋?」

部屋の入り口付近に、ポシェットが置いてある。
中身を確認して、変わりない事に安堵した。
白い携帯を取り出し、柚子の携帯に掛けた。

「…出ない、か」

一瞬朝日に掛けるかどうか迷ったが、兔が居るなら彼女が報告したのだろう。携帯を畳む。
ポシェットの中身を整理した真雪は、部屋を出る事にした。

―――――――――――――――――――



136 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2011/05/28(土) 01:54:06.43 O
―――――――――――――――――――

部屋を出ると、そこは一階のようだった。
並んでる扉を横目に流し、リビングに向かう。
リビングのドアを開けると、男性が複数雑魚寝していた。
昨日の大男と忍者に、知らない男。そして、飛峻。
驚きのあまり、真雪は固まる。

「ふぇいしゅんさん…? え…あれえ?」

そして、安堵の余り涙を流した。暫くそのまま泣いていたが、我に返って顔を拭う。
睡眠の邪魔をしてはいけないとリビングから逃げると、パジャマを来た榎が見咎めた。

「おはよう、どうしたの泣いちゃって。男共に苛められた?」
「いや、そうじゃなくて…あ、おはようございます。えっと、ここ…」

突如として現れた榎に、真雪は戸惑いを隠せない。
ただ、起きて話を聞ける知人がいたことは有り難かった。

「ああ、ここは私の家よ。昨日警察署…つーか警察署跡ね、であなたたちを拾って。
どうせだから怪我人も治療出来て、何よりきちんと寝る所を確保出来るここに連れてきたの」
榎の説明に、安心する。
昨日のように、変な所に連れて行かれるのはごめんだ。

「そうだったんですか…じゃあ、リーさんはその途中で合流したんですね?」

スルリと出た真雪の質問を聞き、榎の眉間にシワが走った。

「…私たちが拾った時にはもう一緒だったじゃない」
「えっ」
「えっ」

そして数秒の間が開き、二人同時に「「えー…?」」と呟くのだった。

「話を切り替えましょ。とりあえず、シャワー浴びてらっしゃい。
服はこっちで適当に見繕っておくから、服も洗濯機に入れておいて。
女の子なのに、酷いことになってるじゃない。」

榎にそう言われ、服に注意を向ける。
これは酷い。



【朝】
【榎さんから居場所についての情報→シャワーへゴー】
【持ち物:携帯二種(私用と連絡用)、ティッシュ、ハンカチ(木の実くるんでる)、バファリンの実(くるまれてる)財布(現金が千五百くらい)】

137 :名無しになりきれ:2011/05/29(日) 19:11:19.53 0















応援してます

138 :青い猫と黒い魔女の呑気なお茶会 ◆6ZgdRxmC/6 :2011/05/29(日) 23:16:11.87 0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

えらく白い世界が広がっていた。
ただでさえ白いカンバスに、白いペンキをぶちまけたあとのような、
白としか呼べない白。それがどこまでも広がっている。
そこでぽつりと、まるでそこだけ黒いインクがこぼれたように真っ黒な姿をした魔女がお茶を飲んでいた。

「さて、あなたが待っているのはどのネコでしょうか?」

ふ、と魔女の向かい側に、まるで”もとからそこにいました”という態度の青い猫が姿を現す。
二本の足をぷらぷらとさせて椅子に座り、お茶を啜る猫。
ちなみに猫が飲んでいるのはニラ茶である。

ニラ茶とは、ある種の世界に生息する”ニライム”という生命体の体の一部を乾燥させたものだ。
とはいえ、ニライムの原生する世界はもはや珍しく、
本来の趣向品としてのニラ茶はほぼ失われてしまった。
悲しいことである。

「『シュレディンガー』とは……またあなたは随分と皮肉なことを言いますね?
 わたしを放射性物質と毒薬の入った箱に閉じ込めるつもりでしょうか。
 まあ、あなたがわたしのことをそうだと思うのならば、そうでしかないのですがね」

恐らくその思考実験の本質そのものは、猫にとってはどうでもいいものであったに違いない。
自分のそっくりさんの悪口を言われて本気で怒る人間がいないように、
自分のそっくりさんへの悪口であるその思考実験も猫にとってどうでもいいものだった。
―――そう、おそらくは。

「わたしは”いつでもどこにだって”いますよ。あなたがそう思ったときには、ね。
 もっとも、あなたが出会ったのがここにいるネコと完全に同一であるかどうか、保障はありませんが。
 なにせ、ネコなど皆似たようなもので、見分けがつかないでしょう?」

いつもと変わらない、いいかげんで投げやりな決まり文句を言いながら、猫は一口茶を啜った。

彼らの間にあるテーブルの上には、いつの間にか花瓶が置かれていた。
花瓶にはサクラによく似た形の、真っ青な花を付けた枝が生けられている。

いうまでもなく、これはこの猫の、ただのきまぐれである。

「さてさて、コウノトリに狩人気取りのケダモノが襲い掛かって、
 死神と死人に出会いましたか……まるで童話、というよりは童謡ですね、これは。
 スタッカートが意味もなく連続で使用された、聴いているほうまで息切れしそうな奇妙な童謡。
 あなたは、この曲に割り込むつもりですか? まあネコのわたしに止める術はありませんが」

猫は、「よくやるよ」とでもいうような呆れた態度でそう言って、目の前の花の香りを少しだけ嗅いだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

139 :S/スフォルツァンド/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/05/29(日) 23:17:12.63 0

「それ、『完全被甲』《フルメタルジャケット》。『瞬間移動』《テレポート》」

その部屋は、赤い光に照らされていた。
光源は、爆発に包まれ燃え上がった青年―――スフォルツァンドの体。
生きたまま丸焼きにされている青年。しかし燃えているのは焼かれている身体そのものよりもむしろ、
そのさらに奥にあるものの方だった。

「はははッ!! いいねえコウノトリ! ノってきたじゃねーか!!」

声を上げて笑いながら、炎の中からスフォルツァンドが現れる。
先ほどまで炎をまとっていたはずのその身体には、火傷のあと一つ無い。

「ほうら!! もっと楽しく! 激しく!! 遊ぼうぜッ!!」

ぱちん、という指を鳴らす音が、連続して空間に響く。
生成されるのは、無数の刃。
イマジネーターを収束して作られたそれは、生成と同時にコウノトリに向かって襲い掛かる。

そして、コウノトリの次の行動がスフォルの心をさらに熱く燃え上がらせる。
なんと彼は、自分の攻撃を避けることもせず、攻撃の嵐の中を突破してきたのである。

「この短時間でアポトーシスを防ぐための磁界を形成する。
 だけどね……!!強制解除コード《gt4……」


あまりに詰められた間合いと、なにより戦闘を心から求めるスフォルの感情が、
彼に防御ではなく、相手とまったく同じ攻撃で迎え撃つという判断をさせる。

かきん、という乾いた音があたりに響いた。

「ひゃっはっはっは!! いいぜ、コウノトリ。
 その突っ込んでこようとする意志は大いに結構」

だが、まだだ。
特殊な電荷の込められたコウノトリの刃がさらさらと消え去るのを見ながら、スフォルはそう思った。

こいつの技にはまだどこか"理性"が垣間見えている。
自分がもとめているのは、"理性"ではなく"野生"だ。

「コウノトリ、てめえは鳥の名を名乗ってる割には、まだ人間臭すぎる。
 俺が邪魔な臭いを全て消し去ってやるよ。
 『人間』なんて、『理性』なんて!!
 この俺が影も形も残らねえくらいに粉々に砕いてやるぜ!!」

スフォルツァンドの、一見異常にも見えるこの欲望。
人間としての理性も自制心も捨て去って、野獣のように闘いたいというこの願望は、
実は誰もが持っている、ごくごく普通の感情である。

他人とわかり合いたいと、自分ではない誰かと心の根元のほうでつながっていたいと思う心。
彼がそれを『戦闘』という特殊な状況下に求めてしまうのは、
ただただスフォルツァンドが、生まれてまもない子どもであるからということに他ならなかった。

「く……どうやら、邪魔が入るみたいだね。
 興醒めするのは勝手だが、ここは一旦仕切り直そうか」

「あ?」

口元にかすかに笑みを浮かべるコウノトリの言葉に、スフォルツァンドが眉をひそめる。
と、同時にあたりに轟音が鳴り渡った。

140 :S/スフォルツァンド/タイヨウ ◆6ZgdRxmC/6 :2011/05/29(日) 23:19:36.16 0

―――
――――
―――――

瓦礫に埋もれるはずだったその場の全員は、なぜか無事だった。
それはスフォルの文明が、無意識に動いて降り注ぐ瓦礫のダメージを軽減したからであるが、
そのことについてはその場の全員が、ましてや今現在機嫌最悪のスフォルツァンド本人が知るはずもなく……

「あー、ちっくしょ……"X"め、ちったぁ空気読みやがれってんだ」

瓦礫の上で地団太を踏むスフォルツァンドの機嫌は最悪だった。
せっかく楽しい闘いができると思っていたのに、それを邪魔されてしまったのだから当然である。

「どーしろってんだよ、あークソ! そうだ!
 T! あんたがいるってことは幹部長殿もいんだろ!? どこだよ!」

ちなみにスフォルツァンドがTと呼んでいるのはタチバナのことである。

「んだよ、Qのやつ居ねーのかよ。けッ! 胸糞悪りぃ……!!」

不機嫌そうに足元の瓦礫を蹴飛ばしながら、青年は歩き始める。
しばらく歩いて、彼はワックスで立てている方の
―――右側の頭をぐしゃぐしゃとかきむしると、振り向いて怒鳴った。

「なにやってんだよ、行くぞカズミ」

その場に座り込んでもたもたしている女装少年に向けて一言放ち、
彼はとっとと歩き出す。

「テナードって奴は後回しだ。どーせ義手がなきゃあそんなに面白い相手でもねーだろーし。
 とりあえずもっぺんあの義手取り返して、仕切りなおすぞ」

【ターン終了:スフォルツァンド、進研本部へ】


141 :竹内 萌芽(1/5) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/06/07(火) 01:18:05.30 0

ここはとある山の、頂上。
ぼろぼろになった遺跡の、その中心に、
まるで空気から湧き出てきたように、一人の少年が姿を現した。

白と黒のフェイクレイヤードに、緑のクリップで髪をとめた少年。
名前は竹内萌芽。

「っと。おー……来てみたはいいですけど、見事にぶっ壊れてますねー」

辺りを見回す萌芽。
ほんの二日前まで彼の"本体"はこの場所にずっとあったのであるが、
意識のほうはいろんなところに分散していたので、
この場所の風景そのものを彼が眺めるのはこれが初めてと言ってほぼさしつかえない。

"あっひゃー……でも、来たかいはあったみたいだな。
 『文明』の匂いがぷんぷんするぞー、ここ"

萌芽の脳内に、幼い少女のような声が響く。
ストレンジベントという名の彼の相棒に、萌芽はそういえばと訊ねた。

「おー、でも、よく考えたらきみと出会ったのもここでしたよね。
 そのときは気付かなかったんですか?」

"モルがあたしの名前を呼ぶまで、あたしはほぼ寝てたもどーぜんだったからな。
 一応『文明』の本能として、所有権があのおっさんに移ったってことは認識してたけど"

「そのわりには『せんせい』について色々知ってたじゃないですか」

"あひゃー……そこんとこは人間には説明しずらいなー。
 そーだなー……わかりやすくゆうとー、
 あたしらの『適合者』って『適合している状況を持続し続けられる人間』のことなんだよな"

「……あんまり分かりやすくないですよ?」

"あっひゃっひゃ、人間ってのは自分たちが思ってるほど一貫性を持った存在じゃないってことだなー"

「また難しいことを」と、萌芽は深くため息を吐くとあたりの様子に再び目をやる。
崩落した石垣と、森。
あるのはそれだけで、その風景には特にこれといった特徴があるわけでもなさそうだ。

「しょーがないですね。
 とりあえずストレには収穫があったみたいですし、当初の予定通り、
 いったん進研に戻りますか」

そうぼやいた少年は、両手を大きく広げ、目を閉じた。

142 :竹内 萌芽(2/5) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/06/07(火) 01:19:33.27 0

目を開いた萌芽の目に、白い天井が映る。
顔を横に向ければ、となりのベットには眠る少女の姿がある。
―――どうやら今度はうまくいったらしい。

「ふわぁ〜……育ち盛りの身には点滴だけの生活は応え……ます……お?」

寝起きだし八重子に頼んでご飯を作ってもらおう、
そう思った彼が、しかしそのとき感じたのは空腹感ではなく、違和感だった。

(おかしい……あれだけ長時間『分身』のほうに意識を送っていたのに、
 全然お腹がすいてない……)

寝ている間に八重子が無理やり口をこじあけて食べさせてくれた……?
いや、それにしたってほぼ24時間以上の排泄行動を行っていないのに、
便意が全くないのはどういうわけだ……?

怪訝に思った少年は腹をさすり、そして、気付いた。

(服が……変わってる……!?)

萌芽はあらためて、自分の服装を見た。
昨晩、自己の意識を"あやふや"にした世界に投射したとき、
自分はたしかに、この世界にくるときに来ていた、まっ白いカッターシャツを着ていたはずだ。
なのに、今の自分が着ているのは、分身が着ていたのと同じ、白と黒のフェイクレイヤード。
念のため髪に触れてみると、クリップで前髪がとめられているのが感触でわかった。

おかしい。と萌芽は思った。
佐伯零とデートに行き、服装を変えたのは、
飽くまで本体とは別の空間に投影した、自分のイメージである。
分身がどんな風に変わろうと、本体である自分にはほとんど影響はないはず。
なのに、なぜ服装が変わっている? ここにいる自分は、本当に"自分"なのか?

"あっひゃー……さっきゆおうと思ってたんだけどさ"

混乱する脳内に、恐る恐るといった口調のストレの声が響いた。

"さっき本体に戻ろうとしたときさ、モルの意思とは関係なくあたしのいる所に
―――モルの『内側の世界』に来ちゃっただろ? あれさ、たぶんあたしのせいだ"

「きみのせい……って、どう言うことですか?」

"あたしと、モルとのつながりが、すっごく強くなってるんだ。
 たぶん、もうすぐ『サバイブ』になるんじゃないかと思う"

すごく言いにくそうにしているストレの言わんとすることが、
なんとなく萌芽には分かってしまった。

「お……つまり僕自身が『サバイブ』に近づくというか
 ……『サバイブ』の影響を受けやすくなってる、と?」

"そーいうことだな……ごめん、モル"

143 :竹内 萌芽(3/5) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/06/07(火) 01:21:32.35 0

それを聞いて、萌芽はなんとなくではあるが、この状況を理解した。
あのしたらばホールでの一件で感じた『サバイブ』の片鱗。
あの力に自分が強く影響されているのだとすれば、
……自分の"あやふや"という才能の影響力が高まっているのだとすれば。

「お……僕は……」

竹内萌芽の才能"あやふや"は、他のものが萌芽であると認識する範囲を、
萌芽の自由にできる。というものである。
だからこそ、萌芽は本当は何もない空間を他者に自分であると認識させたり、
『世界』の認識をいじくって、実体のある『分身』を創り出すことができるのだ。

そして、この事態。
分身の着ていた服が、実体のはずの萌芽にまで適用されているという事実。
これは実際の萌芽とイメージの萌芽の区別がほとんどなくなってしまったということに等しい。

「僕は……"人間じゃなくなって"る……?」

"どこにでもいて、どこにもいないということができる。"例えば、それは神様のようなもの。
みんな心に実在を信じていて、その存在を思い描けばどこででも会えるけれど、でも実体はどこにもない。
そんな存在に自分は成りかけている……?
どくん、というもうこの胸に実在するかどうかも分からない心臓が、強く脈打つのを少年は感じた。

"モル……"

どくん、どくん、どくん。
連続する鼓動。速度を加速させ続けるそのリズムは、
やがて最高頂に達すると、ゆっくりと原則し、そして、完全に静止した。

―――少年の心臓は、このときを持ってその『実体』を完全に失ったのだった。

「……おっお」

"モル……?"

「おっお、おっおっお!!」

特徴的な笑い声で、天井を見上げ大笑いする萌芽。

"モル!? モル!!"

相棒が自分のせいでおかしくなってしまったのではないか、
そう心配するストレに、しかし明るく萌芽は答えた。

「おっおっお……いや、大丈夫ですよストレ。それにしても……おっお、
 そうですか、僕もついに人間じゃなくなっちゃいましたか」

144 :竹内 萌芽(4/5) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/06/07(火) 01:23:30.20 0

あっけらかんと言った萌芽は、その眼に少し感慨深い何かを湛えて
もう一度だけ「そうですか……」と呟いた。

「心配ないですよストレ。そもそも今までがおかしかったんです。
 こんな妙な才能を持った『人間』なんて、僕の知る限りツンしかいなかったし。
 人間でも、生き物であるかどうかさえ怪しい、こんな状態になった今の方が
 なぜだか僕には不思議と『自然な状態』だと思えるんですよ」

口に手をあて、くすくすと笑う萌芽。
彼の相棒は、やはりおそるおそる、と言った口調で彼に訊ねる。

"ほんとに大丈夫なのか? モル……だって、だって……"

泣きそうな声の相棒を安心させるように、温かい声で萌芽は言う。

「大丈夫ですってば、心配症ですねストレは。
 それにこの身体というか、『存在』は結構便利ですよ。
 零や真雪さんに危害を加えようとしている"あいつ"に対抗するにはこのくらいの
 異常性があって然るべきです」

「だから安心してください」と萌芽は目を閉じ、やさしく微笑んだ。
瞼の裏側で、真っ赤な顔をした虹色の道化師が涙でいっぱいな目でこちらを見ている。
イメージの内側で、萌芽は小さな道化師の頭をゆっくりとなでた。

「さて、でも多少の不安はありますね。
 この状態だと、僕の存在は"不安定すぎる"。
 存在にしっかりとした『芯』の無い状態は便利といえば便利ですけど、
 いっぽ間違えれば簡単に存在をかき消されたり、書きかえられたりされかねない」

腕を組んで少年は三秒ほど考え、そして決断する。

「『芯』のない僕には、代わりになる『枠』が必要ですね。
 僕という存在を、世界にこぼさないための『枠』が」

「しょうがない。あんまり気は進みませんけど」と言いながら、萌芽は目を閉じ両手を広げる。

145 :竹内 萌芽(4/5) ◆6ZgdRxmC/6 :2011/06/07(火) 01:24:55.93 0

同時刻、市内各所で奇妙な現象が観測された。
それは、人間たちの胸から、まるでそれそのものが自分の『繭』だというように、
蛾が這い出てくる、という気味の悪い現象。

実際それらの蛾たちは、この世のどこにも実在しないであろう気味の悪い模様をその羽にたたえていた。
それらの蛾たちは市内の上空に集うと、目標を定め、皆一様にある建物を目指して飛んで行った。

いうまでもなく、その建物というのは萌芽のいる進研の本拠地だった。

もう一つ、これは余談となるが
胸から蛾が飛び立った人間たちは、皆一様に「なんだかすっきりした」気分になったという。

それは人間が当たり前に抱えている『憤り』や『違和感』などを、
一人の少年が『蛾』という形に変えてごっそり奪い去ってしまったからなのであるが、
おそらく、それに気付けたものは世界のどこにもいなかったことだろう。

ターン終了:【次のターンでAに接触】

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