レギオン二次SSその1

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218 :名無し草:2011/05/29(日) 13:30:20.97 それは、男がまだ記憶ある『どこかの誰かだった』時の話。 空は葡萄色に染まり、もうすぐ陽が沈もうとしていた。 もうすぐ秋が終わるという季節、うすら寒い裏路地には、二人の人間しかいない。 一人は長身で筋肉質の男、一人は年齢も性別も判別し難い子供。 服装も奇抜で、前者はボロ一枚、後者は目立つカラフルな服装。 共通しているのは、黒い髪と黒い瞳のみか。 木枯らしを身に受けながら、男は焚火の向かい側にいる子供に声をかけた。 「なあ、そんなにしょげるなよお。また次があるさ」 子供は男の言葉に顔を上げて、視線を男に向ける。 まるで鯖のような目だ。どこか男を訝しんでいるようにも見えなくもない。 男の足首についている鎖のせいだろう。男はどうみても奴隷上がりか犯罪者のそれだった。 「おじさん、誰?」 「俺かい。アンタのファンだよ」 「ワタシのファン?冗談はヨシコちゃんだよおじさん」 「何なら、アンタの詰まんないギャグ、全部暗唱してやろうか?」 男の言葉に嘘はなかった。男は毎日子供の芸を眺める、唯一の常連客のようなものだった。 勿論、先程まで、子供がつまらない芸を見せて観客に野次を飛ばされる姿も見ていた。 子供は男から直ぐに視線を逸らすと、ボソリと呟くように愚痴り出した。 「みんなつまんないって。才能ないから止めちまえってさ。おじさんだって見てたんでしょう?」 「で、皆に止めろって言われたから止めちまうのか?」 真面目な顔で諭す男に、子供は耳を赤くする。反論しようとはしない。 その様子を見て男はほくそ笑む。浅黒い肌とは正反対の白い歯が見えた。 219 :名無し草:2011/05/29(日) 13:32:23.86 「夢を早々に諦めなさんな。まだ若いってのに」 足元に落ちている石を拾ってお手玉を始める男。 それでもまだ意気消沈する子供に、男はつまらなそうに言った。 「悔しかったら、俺をもっと笑顔にしてくれよ。それとも、そんな実力もないのかい?」 それを聞いた子供は、膨れっ面で男を睨めつける。 それを見た男が可笑しそうに笑うのを横目に、子供はふと男に問いかけた。 「おじさんにも叶えたい夢ってあるの?」 「おお、あるともさ!それとオジサンじゃなくておにいさんだ」 ポォン、と一際高く跳ぶ石。それは重力に従い、男の大きな掌に落ちる。 子供が眼差しを向ける中、力強く握って手を開く。 すると、握った筈の石の代わりに橙色の果物――蜜柑が現れた。 「俺はな、奇術師になりたいんだ」 「奇術師?」 「そうさ!世界を股に掛けるトリックスター!全ての人間に俺を注目させるんだ!」 お手玉代わりの石を全て放り出せば、それらは全てカラフルなガラスへと変貌する。 男と子供には一切当たることなく、焚火の中に落ちては輝き踊る。 種幻想的な光景を前にただ息を飲む子供に、男は微笑んだ。 「今はまだ只のなんちゃって手品師だけどよ。何時の日か、ビッグになってみせるんだ」 自分の夢を語る男の目はあどけない少年のように、ガラスよりも純粋に輝いていた。 その横顔を見た子供は、不意に目を伏せると、パッと顔を上げて男を見上げる。 220 :名無し草:2011/05/29(日) 13:35:33.13 「なりたい!!」 「な、何がだ?」 先程の死んだような空気から打って変わって、流石の男も後ずさる。 子供は、夢を語った男よりももっと輝いた笑顔で、こう宣言した。 「ワタシも、トリックスターになりたい!!」 子供の言葉に、男は面食らったように目をパチクリさせる。 そして数瞬の沈黙の後、男は豪快に、愉快そうに笑い出した。 「ワッハッハッハ!その年でトリックスターか!」 「わ、笑わないでよ!ワタシもうおじさんとコンビ組むって決めたんだから!」 「ククッ…すまん。面白そうじゃないか」 隠しきれない笑いを漏らしながら、子供に目配せした。 「俺はトール(tall)。よろしくな」 「うん!ワタシは――――…………」 221 :名無し草:2011/05/29(日) 13:36:11.00 ――――――― 男が目を覚ますと、すっかり夜になっていた。 誰かの足が見えたので見上げれば、仮面をつけた長身の男が仁王立ちしている。 「何て格好で寝てるんですか貴方は……」 布一枚の服装を、呆れ声の仮面に指摘された。 男はボリボリ頭を掻くと、見られたくない物を見られたような顔をした。 「どんな格好で寝ようと俺の勝手だろ。何の用だ?」 「上からお呼びです、恐らく説教でしょう。身仕度して下さい」 用件を簡潔に伝え、踵を返して去っていまあいいや、と頭の隅に追いやった。どうせ下らない事だ。 男にはもう、記憶はない。彼にとって、過去はとうに消えた夢と幻――――……。 #back(left,hr)

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