1 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 12:43:41 0
ダークファンタジースレ
落ちたので再建しました

前スレ
■ダークファンタジーTRPGスレ■
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1245076225/

2 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 12:56:27 O
コテに相談もなくかよ

3 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:15:34 0
296 :ミア ◆JJ6qDFyzCY :2009/09/01(火) 03:51:33 0
>>281>>286
>「知っている限りのことを話せ。王国の財宝のありかも、”ゲート”についても…全部だ」
シモンが男の両腕を帯状の刃物で切り落とし、そのまま拘束する。
彼に対する認識が改まる。ここまで腕の立つ男だとは知らなかった。それに、
(この人、財宝が目当てだったのね)
落胆は無く、むしろわかりやすくて有り難いとすら思った。
彼女にとってはどうでも良い事柄ではあるが。

>ピラルの口から離されたのは、財宝はこの街に乱立する尖塔に一つずつ隠してある。
>ゲートを迎え入れる為に。
>全ては終焉の月の指示に従ったこと。

「……“ゲート”と財宝に何の関係が?」
疑問、そして発声による傷の痛みに額に皺を寄せる。
気遣うページを視線でとどめ、さらに問いを重ねようとする。
増援が来るようだが、この際構いはしない――もう、どうせ逃げ切れない。
そこに意識を集中させていたミアは、直前までその気配に気づくことができなかった。

>>284>>287
角の向こうで、覚えのない術式が膨れあがる気配。
重たげに向けた視線の先には、機械と術の融合した珍しい武器を携えた青年がいる。

>「な、何やってるんだお前!今すぐその人を放せェェーーッ!!」
>その魔法弾は弱っていたピラルを直撃し、爆風によりシモンはページのいる方へと弾き飛ばされた。
ここで、負傷者であるミアが「やめて」と一言口にしていれば、誤解はもう少し早く解けたのかもしれない。
だが彼女は言葉を発しない。発せられない。
彼女の意識は、正面で変貌を遂げつつある男に釘付けになっている。
「どう……して…………?」

斬り落とされた腕や各所の傷口から、蛞蝓のような触手が這い出ているピラルの姿。
見覚えがある――七年前、嫌と言う程。
「…………魔が墜ちた」

>>293
>「"降魔術"――!!」

正面から迫る異形を前にして一歩も動けないままに、考える。
施術者は誰?
私………何もしてないでしょう……?

4 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:18:31 0
>「新月――"深淵の月"の紋章……!!どういうことだよ!?こいつらみんなグルなのか?」
>「逃げるぞ…急げ」
「きゃ…………」
視界が回転する。かつがれた。

>「おお……こうも早く実験の成果が拝めるとは……」

――施術者は、月――

その言葉を導いた途端、停滞していた思考が動き出す。
大事なのはそこではない。
銃剣を携えたこの青年は味方についた。諦めていた増援が現れたのだ。
少なくとも、この場だけなら逃げられる…?

その小さな望みをさらに色濃いものにしたのは――孤独な声――銀色の――

息を呑む。
視認に行動が追いつく寸前、その慟哭は地を揺るがした。

>>291
>「・・・グガァァァァァァァアアアアアアアアアッッ!!!!」
>「ひ、ひぃぃ!!何だこいつは!?ば、化け物ッ!!」
獣が、手当たり次第に兵士たちを屠っていく。
最初は理性無く暴れ回っているのかと思った。
だが、そうではなかった。出鱈目のような動きの一つ一つには意志が感じられる。
何より先の慟哭に秘められた感情の揺らぎは確かに、



『貴方の中の人間の心がすっかり消えてしまえば、恐らく、その方が、貴方は幸せになれるでしょう。
しかしやはり、貴方は人間ですね。
その事を、この上もなく恐しく感じているのですね』



……彼、だ。
戦いの中、彼の開ききった瞳孔を目で追い続けていたら――目が合った。
「来て欲しくなかった」
気がつけば、そう口走っていた。
「……来てくれてありがとう」
そして、そんな矛盾するような言葉が続けられた。
それがあの赤い月の下の語らいに関係する言葉であることは、今の彼女には朧気に理解できた。
「彼は味方よ」
行動から明らかなことだが、自分を安心させるように改めてそう口にした。

刹那。悪寒が走った。
その圧力と金の輝きは、裏路地の逆方向から発せられていた。

>>292
>「ふふふふ、赤い騎士のみならず魔狼もまた【門】に惹かれ現われたか!」
喉の奥で引きつるような悲鳴を上げる。恐怖以上に、その強大な魔力に圧倒されかけた。
>「話は後だ…早くここから離脱するぞ!」
担がれたまま、その言葉に頷く。そして、ちょうど手の届くところにいた強化鎧の青年の袖を引き、
「……この町の人?」
こんな状況においても、内心はどうあれ彼女の表情は空っぽのまま。
だが出血と心労でその肌は紙のように白くなり、その眉は僅かに寄せられている。余裕のない事は伝わるだろう。
「…………道を頼むわ。旅の途中よ、土地勘なんてない……」
最後に背後を一度だけ振り返る。
夥しい量の人の部品、その遺骸。美味そうに貪り喰らう異形の男、平然と笑む巨漢。
不気味だと思った。――異質だとは思わなかった。

5 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:20:07 0
298 :ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro :2009/09/01(火) 06:21:49 0
レクストによって身は爆発し、降魔オーブを割られた異形は崩れていく。
同じ異形が屠られたというのに蛞蝓は全く動じる事もなく蠢く。
転がる死体、流れる血の河。
異様な雰囲気に包まれた路地に瘴気が立ち込める。
それは先ほど蒸発した降魔オーブ。
否、降魔オーブに潜めしモノ。
霧のような瘴気は歪み、禍々しい顔の形となった。
『愚・・・な。既・・・の場にお・・・は現・・・と・・・岸の・・・ない・・・!』
聞き取り難いがその声のおぞましさだけははっきりしている。
そしてそれから起こった事も。
蛞蝓は身体を更に大きくし、転がっていた骸が蠢き立ち上がり始める。
そして河のように流れる血すらも意思を持つかのように泡立ちうねり始める。

異様な雰囲気の中、ギルバート、レクスト、シモンの前に立ちはだかるディーバダッタ。
ギルバートの存在に邪悪な笑みを向けたが、驚愕し搾り出すように声を上げたレクストに対しては無反応だった。
いや、僅かに冷たい視線を向けただけですぐに視線は他に移る。
向けられる先は魔界と化した路地全体。
それだけで巨大な蛞蝓が、蠢く骸が、泡立つ血の河が・・・そして空気すらもその音を失う。
ギリギリと歯を噛む音だけが裏路地に響き渡る。

>「助かった。話は後だ…早くここから離脱するぞ!」
静寂を破ったのはシモンの声だった。
毒針を投げつけると共に仲間を伴い素早く路地裏へと駆けていく。
駆けていく一行を追おうとする人外たちとは対照的に、ディーバダッタは動かなかった。
しかしその怒気は膨れ上がっていく。
「タワケが!門への負荷も考えず合を待たずに引き出すとは!」
路地に響く一喝。

その後、路地からは異界のような雰囲気が消え、蛞蝓も消え、骸は骸となり転がる事になる。
凄惨な虐殺現場ではあるが、それでもそこには人の世の雰囲気があった。
足に突き刺さった毒針を無造作に抜き取り、死屍累々の路地から巨漢は消えていった。

翌朝・・・ヴァフティア中が大騒ぎになった。
大図書館付近での虐殺後が原因だった。
目撃証言も多数寄せられ、新聞は号外が出るほどだった。
それによれば、終焉の月の男達が人狼と共に自警団の一隊を虐殺。そして少女を誘拐した。とあった。
夜半の事で犯人の特徴の事は書かれていない。
そう、あれだけの異形の怪物たちとの激しい戦闘であったにも拘らず、目撃証言は一切その事に触れられていなかった。

市長はこれに対し、怒りの声明を発表。
終焉の月のテロには屈せず祭りは決行。
市の威信にかけて安全は守る、と。
その生命どおり街には衛兵が溢れ市への出入りは厳しく制限され、厳戒態勢並みの警備が敷かれている。

6 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:22:49 0
299 :ギルバート ◆.0XEPHJZ1s :2009/09/03(木) 01:36:42 0
>>293
何をしている?今がチャンスなのだ、とっとと逃げればいいものを・・・!
通りの奥の一団に向かって駆けつつ、苛立ちを覚える。
と、その時若者が何かを叫んだ。つられて後ろを振り返ると、状況は一変していた。
そこではあろうことか"人であったモノ"が二つに増え、
不気味にうねる触手と節くれだった腕が絡み合うように増殖している。

―――冗談だろ?向こうに化け物一匹、こっちも化け物一匹でお相子だったろうが・・・!

見れば、"ゲーティア"は負傷している。
このままとっとと逃げたい所だが、あの男二人・・・いや、今は二匹となった化け物は、どうする?
四人が逃げる事を期待し、自分が化け物連中とやりあうか―――
そこまで考えた時、黒衣の化け物が飛びかかり―――意外な人間がソレを叩き落した。

>「おい、『手長』……。アンタこのタイミングで変身してどうすんだよ。うしろに触手男がいるだろ。見てみ?――うん」
>「たかだか二体でキャラ被ってんじゃねェェェェェーーーーーッッ!!!」

―――成る程。その発想はなかったわ。
>>292
>>295
>>296
狼が砲撃により漂う黒煙とその臭いに顔をしかめ、前方に注意を戻した時、三人目の来訪者が現れる。

>「ふふふふ、赤い騎士のみならず魔狼もまた【門】に惹かれ現われたか!」

黒いローブに描かれた新月の紋章。
それを確認するまでもなく、この巨漢もまた"月"の一員である事は明らかだった。
"魔狼"と言った―――この男に見覚えはないが、向こうはこちらを知っているらしい。

いずれにせよ、障害には違いないのだ。ちらりと"ゲーティア"に目を向ける。
意外にもこちらを見ていた少女と眼が合ってしまい、少なからず動揺する。
闇の落ちる中でよく光る瞳。その時、その唇が何かを紡いだだろうか?

無理やりに視線を戻し、相手の利き腕を見定める。先程と同じだ。時間を稼げればいい。
覚悟を決め、その巨漢に飛びかかろうと身構えた時、傍らの男が巨漢に針を投げた。

>「助かった。話は後だ…早くここから離脱するぞ!」

ローブの巨漢は無反応だった。どういう事だ?追う気がないのか―――?
もう一人の仲間らしき男が"ゲーティア"を抱え上げ、走り出す。

「ガァァァァァアアアアウ!!!」

飛び道具を持った連中の脅しにもう一度咆哮し、狼もその後を追った。

7 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:26:28 0
300 :ギルバート ◆.0XEPHJZ1s :2009/09/03(木) 01:38:33 0
・・・しまった。
より正確には、やってしまった。

先程からの答えの出ない堂々巡りの思考にイラついたか、
無意識の内に前足で床を引っ掻いていたのだ。
これが猫なら良い感じに爪が研げたかもしれないが、相手は凶器としか言えないような狼の爪。
気が付けば床の木材がごっそりえぐれ、悲惨な事になっていた。
ひとまず、体の位置を移して被害を隠匿する。

あれから、この街に詳しいらしい若者―――レクストと名乗った―――の案内でこの家に駆け込み、
とりあえず怪我人の傷の手当に取り掛かったところだった。
狼はひとしきり辺りを嗅ぎまわり、地形を把握してから腰を落ち着けた。

これからどうするか―――あれだけの失態を演じたのだ、
敵は簡単には自分達を街から出そうとはしないだろう。
自分一人ならば容易く出られるだろうが―――勿論、狼にそんなつもりはなかった。
乗りかかった船。毒を食らわば皿まで。何より"ゲーティア"―――いや、ミアと呼ばれていた。
それに、シモン、ページ。自らの過去にも関わる事。しばらくは連中に付き合うつもりだった。

狼が考えているのはそんな事ではない。いつまで狼でいるか、という事だった。
こうしていても、ちらちらと自分に向けられる視線を感じる。
無理もない、同じ立場だったら自分でも不安に思う。

問題はミアだ。それがデフォなのか、無表情で何を考えているのかはうかがえない。
時折こちらに投げる視線に何か含んでいるような何もないような、
何とももどかしい感覚に狼の心中は穏やかでなかった。
話の流れから、彼女が"門"と呼ばれた者であるのは間違いないようだが・・・
―――もし、彼女が"ゲーティア"と呼ばれた者の記憶を持っているとしたら?

だとしたらこれほど小っ恥ずかしい事はない。
かつてがどうであったにせよ、今のミアはどこからどう見てもまだ年若い少女である。
今"人"に戻ったとして、そんなミアと何をどう話せば良いというのか。
しかしかと言って、満月の前後ならばともかく、このまま狼の姿をいつまで保てるか―――
遠からず魔力の供給の限界が来るはずだった。
そもそもこの程度の月の満ちで、これほど長時間自我を保ったまま"変われる"事が―――
―――ああそうか、"門"の近くにいるからか。しかしそうなると、これはミアに余計な負担を・・・

「・・・ガゥウウ」

半ばうんざりし、溜息とも呻きとも付かない声を漏らす。床を掻き毟りたかったがそれは我慢した。
一先ずはそのままでいる事を決め、首をねじって腹に巻きつけていたバッグを器用に外すと、
その場に寝そべって毛繕いを始めた。いい加減こびり付いて固まった返り血が気になっていた所だった。

8 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:30:03 0
レクスト ◆VhWYERUtMo
朝一番で詰め所へ行った。
帝都からの派遣従士として挨拶と認証施術を受ける必要があったし、何より昨夜の情報を一つでも集めたかったからだ。
ヴァフティア独立守備隊総合駐屯庁舎、その隊長室に通されたレクストは守備隊長プリメラ=イーリスと対面に応接されていた。

「君が帝都の従士隊からこっちに派遣されてきたリフレクティア君か。――その姓、この街の老舗に覚えがあるが」

長いキャリアを要求される職にありながら、今なお百戦錬磨の英傑として名高い正漢が書類とレクストの認識表を見比べながら問う。
言われたレクストは隠すことも無く己の出自を述べた。

「ええまぁ、出身はこっちですよ。『リフレクティア商店』。七年前に帝都の方に上京しまして、去年まで王立教導院にいました」

「なるほど、ならばこのヴァフティアは地元だな?土地勘があるに越したことは無い。遠方からはるばるすまんね、
 我々としても自警という形で収めたかったのだが状況が状況だ。加えて昨夜の事件――」

言ってプリメラが遠くを見るように目を細めるのを、レクストは背骨が凍るような思いで眺めていた。
昨夜のことは既に周知の事実となっている。彼らは顔こそ見られなかったものの、昨日市内に入ったばかりという立場は
それだけで疑いの目を向けられる要件を満たしている。正式な要請を受けていたレクストはまだマシとしても、彼の家で匿っている連中は……。

「その昨夜の事件のことなんですけど、殺されていたのはここの守備隊の人たちなんですよね?」

「それがどうにもはっきりしないのだよ。死体は損傷損壊が甚大で個人の判別などつかなかった」

レクストの問いにプリメラは苦虫を噛み潰したようにして答える。記憶の底に封じておきたいような光景を反芻してしまったような表情。
昨夜の路地裏は凄惨を極めていた。死体をさらに冒涜するような、そう――

「――喰われたような。そんな傷痕だった……パーツの数が合わない死体もザラにある。辛うじて装甲の個人認識証が残っていたのを
 照合してみたんだが、唯一無二であるはずの認識証が全て同じものだった。つまり、」

「何者かによって複製されていた。――とまぁそんなところですな」

横から声が飛んできた。見ればいつの間に入ってきたのか、白衣を着込んだ痩身長髪の女性が書類を小脇に抱えて立っていた。
眩しいほどに照り返す白衣はまだ使い込んでいないことの証であり、それを纏う女性もまた若い。レクストとどっこいどっこいではなかろうか。
      アナライザー
「『魔術系技能捜査鑑識課』のメリア=トロイアです。割り込み失礼――イーリス隊長、件の認識証複製魔術ですが。
 もともと『複製』を防止する術式が織り込まれている代物でして。これを解術してさらに『複製』をかけるのは至難の技ですな」

「やはりそうか……極めて高度な魔術を行使でき、尚且つそれを悪用せんとする者達が居る。解らんのは何故その『悪用する側』が路地裏で
 惨殺されていたのか、だ。仲間割れか?あるいは、いやこれは考えたくないが――」

「もう一つ、高い戦闘能力をもった勢力がいるか。ですな」

台詞を取ったメリアに眉を平らにした視線を送り、プリメラはレクストの方へと向き直る。

「なんにせよこれはこの街での問題だ。人に害為す者があるならば外へ逃がすわけにもいくまい。リフレクティア君にも協力を願おう」
「ええ。俺もこの街には家族も居ますし、可能な限り力になりますよ。――では」

レクストはぴしりと敬礼を送ると、そのまま踵を返して退室した。"家族"という単語にプリメラの眉が一瞬傾くのには、とうとう気付かなかった。
彼の姿が扉の向こうに消えると、プリメラとメリアは同時に嘆息を吐き出した。プリメラはソファーに腰掛けると、そのまま掌を目の上におき、
「トロイア。――どうだ?彼は」
「はー、気付かれないように『分析』かけるの大変でした。素性に嘘偽りはないようですな。出身もこの街の『揺り篭通り』で間違いないです。
 24時間以内に戦闘の痕跡が見受けられましたが、昨日の夕刻にこの辺りを荒らしまわっていた商団専門の賊を入門管理局に
 引き渡しております。能力は従士隊の中では並、魔術耐性も適正も並――典型的な才能のなさを努力で補ってるタイプですな」
「彼はシロか……ならば信用しよう。ご苦労だったなトロイア、なにせ分析術を術式なしに発動できるのは守備隊でも君ぐらいなものだ」
駄賃代わりに有給票をくれてやり、プリメラは対面を見る。そこに居るはずの占星術師は、今日になって一度も姿を見せていなかった。

9 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:51:48 0
昨夜は散々だった。僧侶の介入によって混沌を極めた状況、暗器使いが先導しての離脱。

『……この町の人?』
『…………道を頼むわ。旅の途中よ、土地勘なんてない……』

引かれた袖の弱弱しさ。白磁のような血の気の失せた少女。
旅人風の青年に背負われて、腹部を自らの血で真っ赤に染めながら、それでも前に進もうとする彼女。

『とりあえずこっちへ――!』

幸い故郷は七年前とさして変化がなく、抜け道近道を総動員してなんとか人目に触れずに遁走することができた。
僧侶がその気になれば追う事もできただろうが、しかして彼はそれをせず、路地裏の入り口で屹立しているだけだった。

少女を護るようについてきた銀狼とともに、リフレクティア商店に戻ってきたのが夜半、そこからが大変だった。
酒場のカウンターでうつらうつらしながらもレクストの帰りを待っていたリフィルが飛び上がり、大急ぎで兄達を呼びにいく。

『大丈夫、急所は外れてる。この程度なら――』

リフィルが治癒術式を唱え少女の腹部を癒している間に、ティアルドに状況を説明して全員を匿える手筈を整える。
重傷者の少女はともかくとして、男二人――特に暗器使いは信用に迷ったが、他者の血に塗れた姿でうろつけば即座に拿捕である。
そうなれば治安の悪いヴァフティアにおいてすべての抗弁は無駄となる。取り返しがつかないのだ。

(後悔はどうであれ取り返しのつく形でしないとな……)

果たしてレクストの懸念は見事に当たった。翌日事件が発覚してからすぐに、市内全域に厳戒態勢が敷かれたのだ。

                                    ――――――――――

母屋から持ってきた食料を抱え、レクストは渡り廊下を歩む。旅人達を匿っているのはリフレクティア商店の倉庫兼離れ。
在りし日のレクスト(思春期)が家族と一緒に眠ることを嫌って過ごしていた部屋でもある。

「よう、お三方と犬一匹!食いモンと地図もって来たぜぇ〜〜!」

扉を勢いよく開けると、中の全員がこちらを見た。壁に寄りかかるようにして座りながら暗器の手入れをしているのがシモン。
ブランケットに包まってじっとしている少女がミア。その傍で介抱しつつ何やら書き物をしているの青年がページ。
そして部屋の隅で寝そべっている銀狼と、四者が四様の視線で返す。
レクストは部屋の真ん中に置かれたテーブルに市街地図を広げた。ページが所望したものだ。

「とりあえずヴァフティアは十字のデカい大通りを基点にして街が広がってるって感じだ。枝分かれみたく増設するから路地が多い。
 中央噴水広場を中心にして、北が俺達の居る『揺り篭通り』、南が繁華街とか露天商の多い『カフェイン通り』。
 西が市立図書館とか魔術師の塔とかある観光地帯で、東が入門ゲートのあるヴァフティアの玄関口だ。ここまではオッケーな?」

頷きを返すページの傍で何故か銀狼までが地図を覗き込んでいた。理解できるのだろうか。

「この中央広場から神殿に繋がる道があって、ラウル・ラジーノ――3日後の祭りの本会場になってる。この祭りはこの辺りじゃ最大規模でよ、
 他の街からも沢山の人が来るんだ。そりゃあもう、ごった返すぐらいに。今は厳戒態勢だからわからんが、
 入門管理局をほとんどスルーで街に入れる唯一の機会。つまり、昨夜の連中――『月』が動くとしたら、その時だ」
k放った単語に皆が一様に固唾を呑む。

「明後日の前夜祭。奴らに抗うのならこの時までが準備期間のリミットだ。それまでに必要なもんがあったら街で揃えとくといい。
 幸いなことに俺達の顔はまだ割れてないから、普通に街は歩けるはずだ。あと、ウチで匿ってやれるのも三日後までな」
倉庫は通りに面した場所にあり、見慣れぬ旅人が出入りしていれば必ず守備隊に目を付けられる。三日――それがシラを切れる限界である。

「まぁ硬く構える必要はねぇさ!のんびり観光でもしてればいい。図書館なんかいいぞぉ、なんてったってデカい。
 国境近くだから異国のモンとかいっぱいあるしな――ん?おい犬、なんでそんな無理のある態勢で地図を……あーーッ!!
 あ、穴開いてんじゃねぇか床に!おいおいトイレも躾けられなかったのかよこの駄犬!!」

ラウル・ラジーノまであと三日。深淵なる闇の胎動は、薄い膜の向こうで不明瞭に存在している。

10 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:56:07 0
303 :コクハ ◆SmH1iQ.5b2 :2009/09/05(土) 06:17:26 0
あれからコクハ達は町中を歩き回った。
「この人知りませんか」
買い物帰りのおばさんに似顔絵を見せ、家を一軒一軒回った。
時には悪質セールスマンと勘違いされ、無視されるようなことまでもあった。
それでも、コクハ達は必死に耐え抜き、とうとう最後に一軒にまで達した。
「全滅・・・」
もう限界と言わんばかり、肩を落とした。
空は赤く染まり、隊員やコクハ達の姿が影を落としている。
皆一様に疲れた表情をし、黙々と歩いている。
PiPi
音が鳴り響いた。
隊員たちが一斉に胸ポケットから薄いカード状のものを取り出し、耳に当てているのが見えた。
コクハもそれに倣い胸ポケットからカードを取り出し、耳にあてる。
―只今…援軍…する
カード越しに相手の声が聞こえるが、その声はノイズ交じりで、よくわからない。
「いったい何?」
ため息をつきつつ帝都の魔法技術を結集して作れたカードを元あった場所に戻した。
急に胸がざわめきだした。
嫌な予感がする。
「コクハさん」
隊員の一人が声をかけてきた。
疲れ切った表情はもうそこにはなく、治安をあづかるものの顔をしていた。
言わんとすることはわかる。
「転送装置はある?」
「ええ。治安事務所に行けば、あります」
あるなら初めからそれを使えよとコクハは思った。
だが、今はそんなことを考えている暇ではない。
愛用の黒い剣を確認し、治安事務所シド支部へと走り出した。

==============================

ここまで

11 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 19:57:00 0
ttp://mimizun.com/log/2ch/charaneta2/changi.2ch.net/charaneta2/kako/1245/12450/1245076225.html

12 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/06(日) 22:38:09 0
移植乙です

13 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/09/07(月) 20:27:18 0
レクストと名乗る魔法鎧の男の拠点に手際よく案内されたシモンたちは
彼の実家とやらの”離れ”に潜伏することに成功した。

ほどなくしてミアの治療が行われた。レクストの妹―リフィルというらしい――の
回復魔法によって、ミアは一命を取り留めた。思ったよりも大きな傷ではないらしい。
「へぇ、大した場所だな、ここは」
レクストに聞こえるように、そうぼやいて見せる。
ミアのように愛想がないとはいえ妹という家族がいて、十分な生活感。
このレクストという男がそういう雰囲気を放っているのかもしれないが、
シモンは不思議と安心感に包まれた。組織に入る前のいつかが僅かに思い起こされた…気がした。
(ん…何だったんだ?今のは…)
ミアの看病はリフィルがやってくれるらしい。狼男―ギルバートというらしい――の方は
ミアが「味方だ」と言い切った男である。それなりに信用してもいいだろう。ページもいる。
ぼんやりした記憶の中、シモンはゆっくりと眠りに沈んでいった。

次の日、シモンはレクストに見せてもらった地図を頼りに、街へと繰り出すことにした。
返り血は洗い、服装もレクストから新しい服を渡されている。
やる事は宿の引き上げと武器集め、酒場での情報収集、そして繁華街での”仕事”である。
図書館での情報は他の誰かがやるだろう。シモンは図書館は苦手である。

尖塔に近づきたい気持ちもあるが、昨日の今日だ、連中も張っているだろう。
そんな事を考えながら小屋を出ると、ページが後ろから付いてきた。
「私も、一緒に行っていいだろうか?」
シモンとページは宿に行くと、四人分の宿代を払い、荷物を回収した。

自分の荷物を受け取ると、ページは突然重苦しく口を開いた。
「…すまない、シモン。私はここで抜けさせてもらう」
「…!」
拍子抜けしたシモンは一瞬驚くと、ページを睨んだ。
「ああ、分かっている。秘密は絶対に話さない。約束する。
どうしてもやらねばならない仕事ができてな」
「…ふん、そうか…勝手にすればいい。俺にもそういう仕事はあるからな。
さっきはお前がいなかったら危なかっただろうよ。感謝はしとくわ。じゃあな」
「…ミアと、彼らにもよろしく頼むよ」
そう言うと白髪の青年は去っていった。次に会う時は敵でないことを祈りながら、
シモンは踵を返した。

エルシアの荷物、ミアの持ち物の一部を売り払い少々の稼ぎを得ると、
シモンはこれからの戦いに必要な武器を買いあさった。
そして酒場で夕食を取り、他愛のない会話に耳を傾けた。
残念ながら、大きな成果は得られなかった。
(ミアには後で報酬の一部として貰った、と説明しておくか)

その後は繁華街に向かい、”仕事”を開始する。
ターゲットはいかにも裕福層といった頭の呆けた感じの商人・貴族連中が中心である。
まず、その後を尾けていき、財布の入っている位置を確認する。
あとは商品や女に夢中になっている隙を突いて獲物をかっぱらうといった寸法だ。
予想以上に事はうまく進み、今までの不運が嘘のような収入を得ることができた。


14 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/09/07(月) 21:05:05 0
娼館などで適度に息抜きをしながら”仕事”を続けているうちに、朝になっていた。
シモンは繁華街で買った珍しい菓子などの”手土産”を持って、拠点までの道を
歩いていた。地理を知るためにわざと裏通りの方を通っている。

南の繁華街から西の文観光地帯までの間は最初は路上で寝転がる者、
ごろつきらしき集団などがおり、治安はお世辞にも良いとは言えない状態であったが、
次第にそういったものはまばらになり、古い住宅街といった感じになっていた。

(あれ…?どこに抜ければいいんだ…?)
道を見失ったシモンは、さらに路地裏の細い道へと足を進めた。
そこはかなり規模の大きな廃墟群であった。
「う…な…んだ…これは…!」
頭を抱えながらシモンが思い出したのは故郷の街のようだったが、
情景がぼんやりしてその全てを思い出すには至らなかった。
ニャー。
ふと目を開けると、目の前に猫がいた。首には大きく真っ赤な宝石が嵌められた首輪。
無意識のうちにその猫に近づくと、猫は早歩きで逃げた。まるでどこかに案内するかのように…
止まっては離れて、を繰り返す猫がついに屋根の上に飛び乗った。

慌ててシモンも壁に手をつき、上に行こうとするが、強烈な臭いがそれを許さなかった。
(な…何だあれは…?)
その廃墟を見て、シモンは声を失った。
朝日の差すその小屋に浮かび上がったのは、沢山の人間の影であった。
「う…お…」
それは紛れもなく人間の死体であった。多くは天井から腕を括られ吊り下げられており、
一部は部屋の隅に無造作に捨て置かれていた。まるで選別でもされたかのように。
若い男女の死体。これらがすり替えられた自警団の変わり果てた姿なのだろうか?
あまり腐敗が進んでいないように見えるのは、何らかの処置が施されているからなのだろうか。
一瞬、目を剥き出しにした死体と目が合ったような気がして、シモンは目を背けると慌ててそこを離れた。
すばやくその廃墟群から逃げるシモンを、屋根の上から猫が鋭い眼光で見下ろしていた。

(嫌なものを見ちまった…)
シモンが小屋に戻った頃には、かなり時間が経っており、あちこちで朝餉の煙が上がっていた。
「遅くなったな」
シモンは荷物を小屋に置くと、そのまま床に横になった。
少し間を置いてから、ページが離脱したことを伝えた。

>>11【ありがとうございました!】


15 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 00:03:22 O
.

16 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/09/10(木) 01:23:57 0
レクストと名乗る青年の案内で、無事にあの空間から逃れることができた。
治療魔法も受け、今は休養をとっている最中である。
ミアは借りたブランケットにくるまってじっとしていた。出血のせいか、体が冷えた。

最初は真面目に今後のことを考えていたが、今はすっかり放棄している。
緊張に次ぐ緊張、溜まってしまった疲労。そこに提供された暖かな寝床と襲われる心配の無い閉鎖空間。
気が緩まない方がどうかしている。
そうして、危機感の薄れた思考は段々と明後日の方向に逸れていく。例えば――

……

じー
視線の先には、傍で寝そべる狼がいた。気づかれそうになると、ふっとそむける。忘れたころにまた見る。
ギルバートが感じてた視線というのは、おそらくこれのことだろう。
何度か繰り返した後、ようやく口を開く。

「ギ――……」
そこで言葉が止まる。
彼女が彼に関して覚えていることは三点。
朧気な月下の記憶、安心して良い相手だということ、そして彼の名前――の、断片。
(ギ……何だったかしら)

ミアは毛繕いを始めた狼の脇まで歩み寄り、ちょこんと座り込んだ。
そもそも、町で会った時は人間だったはずだ。汚れた毛に指を絡ませながら、
「……戻らないの?」
彼の葛藤などつゆ知らず、あっさりと言ってのける。
そのまま、何とはなしに毛皮を一撫で。汚れてはいたが意外とさわり心地が良かった。
彼が逃げるでもない――穴を隠すために動けない――ので、調子に乗って継続する。
元は人間だとわかってはいつつも、ついつい動物(犬)を相手にしているような気分になってしまう。

兎の時といい彼女は案外動物好きかもしれない。
もしくは、それなりに気を許している証拠かもしれない。
獣人にも、こののんびりとした空気を共有する後ろの仲間達にも。

「話にくい、ギ――………………………ギルガメ?」
寝そべる狼の耳元を、とんちんかんな呟きが掠めていった。



この後、人語を取り戻したギルバートに全力で訂正される――
もしくは自力で思い出したミアが噴出しかけて必死でこらえるという世にも珍しい光景が見られることとなる――
――が、それはまた別の話。

17 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:50:35 0
定期保守

18 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 00:09:38 0


19 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/09/15(火) 03:22:04 0
>「ギ――……」

ギクッ―――

>「ギ――………………………ギルガメ?」

―――ガクッ

・・・何だ。この嬢ちゃんクールかと思ったら天然キャラか?
いや、しかし笑ってもいられない。半分は当たりなのだ。・・・半分と言えるのかはともかく。
やはり―――記憶はあるのか。薄れ、ぼやけ、霞んでいても、彼女は―――

だが。

・・・今の俺が、"彼女"をミアに重ねるのが、正しい事だろうか―――?


背を撫でられた。不本意ではあるが、動物の習性として心地良いのは事実だった。
そっぽを向いていた顔を戻すと、目が合った。
相変わらず無感情なのは同じだが、どこか和んでいるようにも見えるのは気のせいか。

―――話しにくくない、訳が無いだろ?

座り込んだミアの膝に頭を乗せ、眼を閉じる。懐かしい匂いがした。
そして暖かく、柔らかく――まぁ、まだまだ肉付きが発展途上ではあるが――、赤く、熱く―――


赤く?


眼を半分開く。勿論、綺麗に処置されたミアの衣服のどこにも血痕など見当たらない。
嫌な感覚が背を走る。急に、酷い疲れを感じた。

赤い―――何が・・・誰が、赤い―――何故―――?

その感覚の答えが出ないまま、狼の意識は闇に落ちていった。

20 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/09/15(火) 03:26:47 0
月が丁度頭上を横切った深夜、狼が眼を覚ました。
隣で眠ってしまっているミアの膝から頭を引き抜き、部屋を見回す。
シモンもページも帰っていないようだ。情報を集めてくると言っていたか。
一見した限りでは、二人とも信用して良いと感じた。
少なくとも、利害が一致している当面は。

レクストに関しては―――あの野郎、トイレは関係ないだろ!畜生。穴を開けたのは事実だが。
まぁそれはさて置き、アレは下手に考え込むよりも直感に従うタイプだ。
そちらの方が有難い。理解がしやすく、信用もしやすい。単純とも言うが。

何より、狼は自分の直感を信じていた。

―――それはともかく。
いい加減この毛皮は耐えがたかった。水を貰い、出来うる限りの毛繕いをしたものの、
それでもかつては自慢にも思った銀色の―――彼の髪と同じ色の―――毛並みは見る影も無い。
今は何よりも、たっぷりと熱い湯を使って洗いたかった。
確か、母屋に浴室らしき場所があったはずだ。この時間なら・・・
むくりと起き上がると、狼は木の軋み音一つ立てずに部屋を出て行った。

―――あった。レクストの妹によるものか、可愛い飾りの付いた扉。
正直、ホッとしていた。あの路地裏では何か―――新しい感覚、いや、記憶―――?
・・・のお陰で、不十分な月を使い狼と化し、また今まではミアの天性の能力の一片―――
他者への魔力昇華・供給の門としての能力により、自我を守ったままその姿を保っていられた。

しかし―――今、この月も見えない屋内でこの状況は―――結構―――ヤバイ―――

21 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/09/15(火) 03:28:42 0

「・・・グァ・・・ァ・・・ぅ、ぐ・・・!」

荒い息の中、眼を閉じ、想像する。
暗い闇の中。獣を一匹と、ソレを繋ぐ鎖。それに、檻。
今、鎖は細く細く今にも切れそうになっている。一方の俺は何か大事なものを抱え、獣から守っている。

神経を集中し、獣に檻のイメージを重ねてゆく。大人しくしろ・・・大人しく・・・―――
胸の内に固まっていた黒い塊が徐々に徐々にほぐれていく様な感覚。
弾けてはいけない。丹念に―――丁寧に―――

やがて気が付くと、ギルバートは人の姿でその場にうずくまっていた。

「・・・やれやれ」

大きくため息をつき、伸びをする。周囲に散らばった衣服を回収すると、浴室のドアを開けた。

ガチャッ

――――――――・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・

何か、いる。
何かというか、その・・・つまり・・・人間。・・・の、男。
老齢・・・というほどではないか。体格がよく、引き締まった体の上に皺が目立つ厳格そうな顔。
空間が凍りついたかのような静寂の後、男がパンッと濡れた布を鳴らし、じろりとこちらを見る。

「・・・いつまで見てやがる」
「は?へ・・・あー・・・何だ・・・失礼。どうぞ・・・ごゆっくり」

ガチャン


・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・こ、こんなイベント・・・微塵も嬉しくねぇぇぇえええええ!!!!!」

人狼の慟哭が響き渡った。深夜なので、こっそり静かに。

その後、親切にも新しく沸かして置いてあった湯を使って丹念に体を洗い、
思う存分さっぱりしたはずのギルバートが悪戦苦闘の末再度狼に戻り、
なぜか憮然とした表情を(内側では)浮かべつつ、静かな部屋に戻ってきたのは小一時間後だった。

22 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/09/16(水) 00:10:44 0
昼前ぐらいだろうか。
シモンは何かに追い立てられるように目を覚ました。
まずは武器を確認する。きちんと革兜の中に武器が仕込まれているのを確認。
それからナイフの切れ味を試し、針に毒を仕込む。

すぐに部屋に置きっぱなしになっている地図に目を付けると、
今朝のことを思い出しながらペンで印を付け始めた。
丸裸になった沢山の死体が置いてあった廃屋の位置。そこから
街外れにある最も近い尖塔への道を線でたどってみる。
それから少しの間、腕を組んで考え始めた。

(レクストの奴が戻ってきてから、詳しく聞いてみるか)
情報収集は全然足りているとは言えない。昨日は遊びすぎただろうか…?

部屋の隅を見てみると、ミアと狼が何やらじゃれあっているようだった。
「呑気なもんだなァ、何やってんだぁ〜?」
からかうような感じで、ミアと狼の頭をわしゃわしゃと上から撫でる。
そして立ち上がり、荷物から袋を二つ取り出し、ミアの足元に投げた。
「ほらよ、お土産だ。それからそっちは薬。傷にしっかり塗っておけよ。
俺はちょっと用事がある。前夜祭の前には戻るからよ。それとお前には…」

菓子と薬をミアに渡した後、さらに懐から平べったいものを取り出し、
狼の方に投げつけた。弧を描いて飛んでいくそれを狼が目で追う。
それは、異国のスパイスが効いた、高級干し肉だった。

「じゃあな。レクストにもよろしく頼む」
地図はそこに残したまま、いつもの装備を身につけた。
そしてシモンは小屋を出ていった。このコミュニケーション不足こそがシモンの欠点であった。
後に彼は大きな後悔をすることになる。

シモンは今朝通った場所に向かうべく、まずは繁華街を目指した。
しかし、それは早くも頓挫することとなった。
小屋を出て間もない頃に敵の気配を察知したのである。
明らかに、後を付けられている。
(馬鹿な…何故ここが…!)
慌てて人気のない道に入り込もうとするシモンに、小さな武器が投げられた。
寸でのところでそれをかわす。音からすると――針。
敵は暗器でシモンを狙おうとしているのだ。

「くそっ!」
裏路地に入ると、今度は正面からも針が飛んできた。しかも二本。
相手は複数だ。急ぎ通りに引き返す。額にはいよいよ汗が浮かんだ。
(小屋の位置も知られているに違いねえ…急いで戻らないと…しっかし、何故…)
ようやく人の流れに入ることができ、安心した矢先、シモンの意識が突然
遠のいていった。
「くっ…!」
正面に見知った顔があった。旅人に扮して杖を持っていたのは、図書館前での戦闘で
逃した魔術師の女だった。どうやら群集に隠れて”催眠”の術を詠唱していたらしい。
ガクリと首を落とすシモン。その旅人の姿をした女はごく自然な動作でシモンの体を支え、
裏路地へと引き摺っていった。
(そうだ、あの猫だ…!)
それに気付くと同時に、シモンの意識は完全に闇に落ちた。

23 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/09/16(水) 00:13:41 0
バシィーッ!バシィーッ!
「うぅ…」
その鞭は先が三つに分かれ、その先にそれぞれ多数の鋭い棘が付いていた。
それがシモンの体に当たる度に皮膚を裂き、鮮血を舞わせた。
「一緒に居た奴らの名前と居場所を言え…!命が惜しくないのか?!」
鞭を打っているのは例の女である。シモンはうめき声をあげるだけで、一言も喋らない。
よく見ると、女の顔にいくつもの傷があった。
恐らく、自分達に大敗した罪を上官にでも責められたのだろう。
仲間の仇というよりは、個人的な恨みのようだ。
「まあいい。居場所はほぼ特定している… さぁ、早く!死ぬことになるよ!」
「くっ…」
再び激しい鞭の嵐。あまりの痛みにシモンは再び意識を失いかけた。
「名前さえ聞けばこっちのもの…なにせこちらは後ろ盾が…」

女の姿を見る。快楽によるものか、それとも罪悪感によるものか、目には理性がなく、
口からは涎を垂らし、全身が汗で湿っているようだった。周囲には誰もいない。
その時だった。
「ぐぅ…ッ…!」
女の腹から突如刃物が突き出したと思うと、それは上へと突き上げられていき、
体を浮き上がらせ、心臓のあたりに達したところで引き抜かれた。
刃物から女の死体が抜け落ちる。
「馬鹿者が…それでは殺してしまうではないか…!」
間違いなく聞いた声だ。部下を数人引き連れている。

「おい、これをあの小屋に放りこんでおけ」
「はっ」
部下によって死体が回収される。
シモンが顔をもたげると、そこには巨漢の姿があった。眼が合う。
「…」
そのまま首をガクリと垂らし、後手に縛られたシモンの意識は再び闇に沈んだ。

24 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/09/16(水) 23:20:25 0
グツグツと何かを煮込む音だけが室内に音として存在していた。
それ以外は物音一つしないが、代わりに甘い臭いが立ち込める。
青白く壁を染めるのは音もなく鍋をあぶり続ける炎。
まるで人魂のように幽玄に揺らめいている。

「気付いたか・・・。とはいってもまだはっきりはすまい。
部下の管理が行き届いておらずすまなかったな。」
何の気配もなかったが、その声でシモンは自分が寝かされているベッドのとなりにディーバダッタがいることに気付く。
体中に包帯を巻き、痛々しくも血が滲んでいるがそれを認識できたかは疑問である。
この状況においても体は動かない。
だが自由を奪われているのは身体でなく思考だった。
ぼんやりとしたまま動こうと言う気も・・・それ以前に危機感すらも湧かなかった。

上体だけを起こしたシモンにディーバダッタは向き合い、おもむろに眼帯を剥ぎ取る。
剥き出しになった義眼は強い光りを放ち、シモンの視界を、そして思考を白く染めていった。
「お前は終焉の月のアジトを突き止め、不意をつき皆殺しにした。
これが敵を貫いた刃だ。
殺した敵の中には昨日の首謀者らしき者たちもいた。
【門】をおっていたのは宗教上生贄にする為で、特別な陰謀などなかったのだ。
当面の危険は取り除いたのだ。
だが、だからと言って待ちをでるのは危険だ。未だ大量殺人で市警の緊張度が高い。
後は祭りを楽しみ、後夜祭りに紛れて町をでればいい。
・・・いいな?」
ホワイトアウトした思考にディーバダッタの声だけが響き、それは事実の記憶として刷り込まれていく。
捕まり拷問を受けた記憶を塗りつぶす声と共に、意識は白い闇へと落ちていった。

            *              *           *           *

意識を取り戻したシモンは薄暗い裏路地に立っていた。
握られた血濡れの短刀に気づいた時、記憶は蘇る。

繁華街で昨夜の女魔術師を発見。
尾行しアジトを突き止め、様子を探る。
そこで知った事は、終焉の月が祭りにあわせて生贄を欲していた事。
それが【門】と呼ばれる魔を呼び起こすほどの力のある者であり、ミアはそれに該当していたのだ、と。
不意をつき皆殺しにして、無我夢中で逃げてきたのだ。

それを思い出したとき、安堵と共にこれからの算段も頭に浮かぶ。
終焉の月という直接の脅威は取り除いたが、後始末は何もしていない。
祭りを前に守備隊の警戒が強い中、街をでるのは危険だ、と。
祭りが終わり、警備の緊張が解ける瞬間。
後夜祭りに紛れて街を出るのが上策だろう。

勿論これは改竄された記憶であり、刷り込まれた思考であったが、シモンは気付く事はないだろう。
なぜならば拷問された傷は跡形もなく治っており、あるのは戦闘で出来たような浅い切り傷と着衣の乱れだけだったのだから。

             *              *           *           *

「・・・よろしいのですか?僧正様・・・」
「かまわぬさ。情報なら頭蓋を取り出せば事足りる。が・・・重要なのは【門】をこの街から出さぬ事。
くくくく、あの男には施術も施したのだ。いい駒となってくれよう。
それより、前夜祭は明日だ。準備は整っておるな?」
「は・・・手配済みです。」
裏路地に佇むシモンを少し離れた尖塔から見下ろしながらディーバダッタが不敵な笑みを浮かべていた。

25 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/19(土) 16:53:15 0
ほしゅ

26 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/19(土) 18:50:48 O
いらねえよ保守なんて

27 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/09/20(日) 01:38:19 0
朝からやるべきことは沢山あった。日が昇ると同時にリフレクティア商店は暖簾を上げ、酒場は青果店へと様変わりする。
リフィルの開店準備をひとしきり手伝ったあと、レクストは閉じた酒場側でティアルドと対面していた。

「兄貴たしか機械いじりとか得意だったよな?ちょっとこいつを診て貰いたいんだけどよ」
「おいおい随分とまた物騒なもん持ってきたな」

レクストが差し出したのはバイアネットである。従士が従士たる要であるはずの正式装備は、あちこちがサビ付き刃が曇ってしまっていた。
あの夜魔物を斬った後遺症。耐久加護なしの刀身に魔界の瘴気はあまりにも劇物だった。そうでなくとも、レクストは人一倍使い方が荒い部類である。

「こりゃ酷いなぁ、結合部はガタついてるし内蔵オーブもイカレてる。どんな使い方したらこうなるんだ?」
「向こう一年まったく手入れしてなかったからな。積もり積もってツケが回ってきやがった」

魔導顕視鏡を目に当てながら損傷部位の確認をするティアルドを端目に、レクストは離れに目を遣った。

「一昨日お前が連れてきた連中といい、あんましヤバいことには首突っ込みすぎるなよ?ただでさえここのところ国内情勢も危ういってんだから」
「そこのところ聞きたいんだけどよ、実際どうなんだぜ?最近。帝都じゃどこも『七年前』の再来だって大わらわなんだけども」

銃剣の発条部品を一つ一つ丁寧に解体していく。ジョイント部を全て外せば、刀身・砲身・銃底の三枚おろしである。

「あんまし芳しくはないな。つい先日も国境付近の上空で所属不明の騎竜が目撃されてる。守備隊の騎竜と箒隊が追跡したが結局逃がしたらしい」

ヴァフティアの武力はあくまで自警であり専守防衛である。その力の矛先は街の中であり国防という形で国境を越えることができない。
故に他国の侵略があっても抗うことは難しく、同盟というかたちで近隣諸国の脇を固める他ないのである。

「方角的に考えて西方エルトラス連邦の偵察騎か?帝都にいたころ奴さんのスパイを何人か捕まえたことがあんだけどよ、
 妙に数が多いんだ。半年で二桁は検挙されてる。錬度も低いし、まるで数うちゃ当たる方式で強引に情報集めにかかってるような……」

「近いうちに戦争が起こるかもしれんな。最近やたら噂に聞く『深淵の月』とやらもそういう人々の不安につけこもうとしてるのかもわからん」

ティアルドの言葉にレクストはまたしてもひやりとした。家族には『月』について話していない。どこから情報が漏れるか分からないからである。
墓穴を掘る前に。話題を切り替えることで事態の隠匿をはかることにした。

「で、結局どれくらいかかりそうなんだぜ兄貴?俺の得物をピカピカにすんのに」
「そうさなぁ、刀身加護張り直してオーブの交換に砲身の清掃、ミスリル刃の焼き直し全部やることになりそうだなぁ……納期はいつまでだ?」
「早けりゃ早いほうがいい。できれば一両日中に頼みたいんだけどよ」
「おいおい本気か?」

ティアルドはあからさまに渋い顔をした。酒場を経営する彼にとって、昼間は貴重な睡眠時間である。それを承知で、レクストは頭を下げた。

「そこをなんとか!金ならたんまり用意できるぜぇ、なんせ俺は公務員だからな!」

懐から取り出した革袋をじゃらつかせる。王立従士隊員の一月分の給与がそこにあった。

「ばっか、可愛い弟から金なんかとれるかよ。それに本気出しゃこんなもん――」

合図代わりにぱん、と掌を合わせ音を作る。術式が発動し、バーテーブルの隅に固めてあった工具類が糸で釣られたように一斉に浮上した。

「――半日だ」

ボルトが宙を舞い、ナットが円を描き、ティアルドの両手を中心に工具類が嵐のように飛び回りあっという間に作業を進めていく。
ふと、工具入れの奥に埋まっていた細長いなにかが浮かび上がり、レクストの方へと飛来した。

「とりあえずこいつを腰に差しとけ、丸腰よかマシだろ。親父が昔守備隊にいたころ使ってた物らしいぞ」

それは長剣だった。細身の刀身は埃を被っていたにも関わらず透き通るようにレクストの顔を反射している。

「悪いな、恩に切るぜ」

「言ったろ、お前は可愛い弟さ。修理が終わるまで街でも見てきたらいい、こっちに帰ってくるのは二年ぐらいぶりだっけか?
 ついでにリフィルにもっと構ってやれよ。――あいつは今でもお兄ちゃんっ子だからな」

28 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/09/20(日) 02:37:45 0
少女が鮮やかな亜麻色のポニーテールを揺らして十歩ほど駆けては、歩きの兄が追いつくのを待ち、さらに十歩ほど距離を空ける。
リフィルとレクストはヴァフティアの北区、通称揺り篭通りをゆるりと南下していた。
真昼の太陽は彼女の鮮色の髪によく映え、鉄面皮にときおり忘れた頃に浮かぶ小さな笑みは向日葵を思わせる。

(って、やべーやべーなんだこの描写はまるで俺がロリコンシスコンの二重苦みたいじゃねぇか!)

リフレクティア商店の青果側には父親が座っていた。酒場側を長男が一人で切り盛りできるようになってから、
遊びたい盛りの娘のためにいざとなれば青果側も父親が担当できるよう取り計らってくれていたらしい。

(そういや親父はあの僧侶のこと知ってたのか……?)

あの夜、ミアの治療が終わった後父親に路地裏で遭遇した僧侶の件を問いただしたところ、
『何もされなかったろう。ならそれでいいんじゃないか』
と一言で切り捨てられた。確かに危害は加えられなかったし、むしろ道を拓いてもらったような気がしないでもないが、

(それでもあの坊さんは『月』の仲間なんだよな……悪い奴なのか?畜生わけわからんくなってきた――)
「愚兄、何やってるの?」

思考は声で遮られる。見ればリフィルがいつもの憮然とした表情でこちらを見上げていた。

「ちょっと待て今俺への呼び方がすごい辛辣だった気がするんだけど!できればお兄ちゃんって呼んでください!!」
「愚兄ちゃん?」
「なんだよぐにいちゃんって無理やりすぎるだろ!ちなみに兄貴のことは何て呼んでんだ?」
「駄兄」
「よかった愚兄のがちょっとグレード高い気がするぜ語感的に!」

噴水広場に出ると、東方面への馬車鉄道駅でキャラバン隊の団長に出くわした。図書館への納品書を頼まれて以来である。

「よう、一昨日の夜は大変だったらしいな、お前さんの兄上から聞いたよ。納品書?ああ、あの騒ぎでうやむやのまま再提出したら
 すんなり受け入れられてな。風が吹きゃ桶屋が儲かる――不謹慎だがな」
「そりゃよかったな!んでおっさんはこんなとこで何してるんだぜ?」
「定期便で帝都に帰ろうと思ったんだが、どうにも例の事件で街への出入りが厳しくなっててな、立ち往生してる最中なんだ」

どうせだからと報酬だった白紙のオーブを貰い受け、リフィルは上物のリンゴを貰い、キャラバンは東区へと走り去っていった。
祭りで通門規制が緩くなるのを待って街を出るらしい。すくなくともヴァフティアに留まっているよりかは安全だろう。
さらに中央から西の観光地帯まで歩く。図書館で情報収集をするためである。その道すがらで、意外な人物と出くわすことになった。

「あれは、――えっと」
「ページ。ページ=ファセットさん」
「そう、流石は俺の妹!」

嘆かわしい、とリフィルが小声で呟くのに気付かないまま、レクストは図書館から出てきた白髪の青年に声をかけた。

「ああ、レクスト君か。世話になっているね。君もここへ『月』の情報を求めて?」
「まぁな、アンタもか?だったら一緒に出てくりゃ良かったな。この辺治安が悪いんだよ」

ページは懐から手帳のようなものを取り出した。昨日にも離れで書き込んでいるのを見たあれだ。

「君にこれを渡そう。一連の事件のおおまかな筋と『月』に関する情報が書いて在る。すまないが私はもうそっちには戻らない。ここから先は単独行動だ」

手帳を差し出してくる。突然の離脱宣言に面食らったレクストは二秒ほど固まり、そして理解した。

「ウチを出てくってことか?そりゃ止めはしねぇけど、大丈夫かよ?アンタあんまし喧嘩強いタイプじゃないだろ?」
「もちろん生き延びる術は講じているさ。私は私で、やらねばならないことがある。そしてそれは、一人でないと難しい」

ページの言葉には有無を言わせない芯のようなものがあった。思えば彼は彼でミアやシモンとは違った『異質』を感じる。
そしてそれこそが、ページが旅を続ける目的であり手段なのだろうと、おぼろげながらもレクストは理解した。

「本当に世話になった。君がいなければ、今頃我々は魔獣の胃の中か、路地裏で惨めに生を終えていただろう。
 その上で、君に一つ質問があるのだが、いいかい?」

29 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/09/20(日) 02:58:46 0
「君は何故、我々にここまでしてくれる?見ず知らずの、それも路地裏で穏やかでない連中とともに居た我々をだ。
 助ける義務も、ましてや衣食住のうえ隠れ場所まで提供してくれるいわれなどないはずだ。その大儀は一体なんなんだい?」

最も基本的で、最も捻くれた疑問だった。レクストは他人に手を差し伸べる際にいちいち理屈をつけたことはないし、それが正しいと自負している。
そう、しいて言うならばレクストがレクストたる為に。従士が従士であるために。

「俺は正義の味方じゃない。庶民の味方だ。護れるだけの力があって、護るべき庶民が危機に瀕してるなら、俺は助ける。
 そこに疑問はないし、そうやって世に居る"弱き民"をみんな助けられたらモアベターだと思ってる。俺は従士だからよ」

「――綺麗言、だな」

ページの口端が上がった。目を弓にして、眉を垂れたその笑みは、皮肉でもなく、嘲笑でもなく、苦笑。
まるで自らを嘲るような苦笑で、ページは答えた。だからレクストも苦笑で答える。自嘲の質問者に、さらなる苦笑を与えるために。

「だろ?俺もそう思う。でもな、知ってるかよ?どんな妄言だろうと貫き通した綺麗言は――美談って呼ばれるんだぜ」

「……それもそうか。これは一本とられたな。いや、実に面白い答えを聞かせてもらったよ。なるほど美談、か。素晴らしい」

ふ、とページが息をつき、そして踵を返した。

「これから帝都へ向かうよ。今は統制が厳しいから無理だが、祭りと同時にこの街を出る。――後は頼まれてくれるかい?」

「ああ、任せろよ。ついでにいいこと教えてやるぜ、東区に帝都行きのキャラバンが逗留してるから、
 俺の紹介って言えばそれなりの好待遇で同乗できる……そうだな例えば、涼しい荷台に乗っけてもらえたりな」

「かたじけない」

振り返らず、ページは手を挙げて応え、雑踏の中に消えていった。

30 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage 香水の香りは娼婦から移されたものです、念のため] 投稿日:2009/09/21(月) 17:35:22 P
ラウル・ラジーノ前夜祭を翌日に控えた晩。
渡り廊下のてすりにもたれ、ミアは一人佇んでいた。
その視線は灰色の雲に向けられているようで、何をとらえているわけでもない。

穏やかだった三日間は終わる。
(――何も起こらなければいいのに)
逃げられないと一度は諦めたというのに…
思いがけず訪れた平和な一時に、あと少しと駄々をこねる幼稚な自分がいる。

――この三日間のことを思い返す。

面は割れていないと言ってもさすがにミアが外出するわけにはいかず、ずっとこの家に置かせてもらっていた。
狼にじゃれてみたり、外出の合間にシモンやページと会話をしたり、商店の様子を覗いてみたり。
――そんな日常的な光景に、まだ十にも満たない幼い自分の平和な暮らしを重ね合わせた。

シモンは、やんちゃな兄っぽいところがあって。
行ってしまったけれど、落ち着いたページは父親のような雰囲気があって。
そういえば昔は向かいの家に、レクストたちのような仲良く賑やかな家族が住んでいた。
…確かその家、犬を飼っていたような…

空を仰ぐ彼女の口元は、それが笑みと言えるかはわからなかったが、確かに緩んでいた。
嬉しげで、寂しげ。

昔から淡泊な性格ではあったが、今ほどではなかった。
少数だったが、友人がいた。物静かでも、家族とは仲が良かった。
相応に悩んで相応に笑った日々が戻らないことはわかっている。
――それでも夢想する。
そんな夢を見ていられるのも、今日一日限りであろうから。



静寂を乱す足音。ミアは視線を地上に戻し、闇にぼんやりと浮かぶ人影に向けた。
「…シモン」
彼は破れた服を纏い、浅いものながら傷を負っているようであった。
「…………なに、してきたの?」
駆け寄る彼女の瞳には、少なからず驚きと困惑の色が浮かんでいる。
もらった薬の余分を渡そうとして、室内に置いたままであることに気がつく。
中に入るよう、目で促す。

*  *  *  *  *

そうして室内に入った彼女がシモンに話された内容は――正直なところ、信じがたいものだった。
全く喜ばなかったと言えば嘘になるが、困惑と警戒がそれを上回る。
偽りを言っているようには見えなかったが――

……この程度のものだったのか?
魔力の溢れた赤い月、得体の知れない夢、路地裏の奇妙な邂逅を思い返す。
そんなはずはない。たった一人の男の武威でどうにかなるものか。
都合が良すぎる。
敵の偽装に騙された、シモンが何らかの理由で裏切っている――例えば財宝関連――など、疑うべき点はいくらでもあった。

――だが。
信じてみたかったのだろうか。
穏やかな三日間がもたらしたのは、結局は甘えだったのだろうか。
ミアは、シモンの話に関する疑問を何一つとして口に出すことができなかった。
「……前夜祭。明日ね」
漠然と不安から目を背け、逃げるように立ち上がって寝床へ向かう。

すれ違ったシモンの着衣には、濃い血と薬草の匂いが染みついていた。
むせそうになる――あの甘ったるい香水の香りの方がまだマシだ。

31 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:16:09 0
日が傾きはじめたヴァフティアの街を、シモンは呆然としながら歩いていた。

確かに、シモンは女魔術師の後を付け、”月”のアジトを発見し、
そこにいた全ての教徒たちを皆殺しにした…はずだ。
そっと、腰にささったナイフのを鞘から引き抜いてみる。
どろりとした、赤黒い血液を確認した。シモンは殺戮が自分の手によって
行われ、そこにいたあらゆる人物を絶命させたということを実感した。
そう、触手の怪物となたピラルも…あの巨漢の幹部も含めてである。

自分が関わっていた組織が”月”と深く関わっていたという事実も知ったが、
それも今となってはどうでもいい話だ。教団は壊滅させたのだから。

すぐにでもこの街を出たい欲求にかられたが、予想以上に警備が厳しくなっており、
下手に動けば疑われるのは目に見えていた。
空を仰ぐと、ワイヴァーン兵が上空を飛び回り、警戒しているのが見える。
なるべくならもう関わりたくはなかったが、あそこには荷物もある。
シモンはレクストの小屋を目指した。

小屋に着くと、レクストはおらず、妹が作っているのか、夕餉の匂いが僅かに漂ってきた。
シモンはそのまま部屋に入ると、さっさと荷物を纏めた。
狼がこちらを興味深そうに見ていたが、シモンは呆然とした表情で
その前を通りすぎた。

「…シモン」
渡り廊下のあたりから戻ってきたミアとすれ違い、声をかけられる。
「あぁ」
こいつにも特に用はない。”門”などただの生贄の一人だったのだ。
シモンはいつも以上に興味なさげに適当に声を返し、そのまま通りすぎようとした。
「…………なに、してきたの?」
(はあ…)
ミアに促され部屋に戻るものの、彼女の用事は、薬の余剰分を返すという
どうでもいいものだったことにため息をついた。

このまま何も話さずに出ても良かった。実際にこれ以上得られるものはない。
だが、彼にも多少は「世話になった」という感情が残っていたのだろう。
「なあ、聞いてくれ」

シモンの話を、ミアは真剣に聞いていた。いつの間にか狼も傍におり、
レクストも食事を持って部屋に入り、話に耳を傾けている。
シモンは進まない食事を早めに切り上げると、荷物を全てまとめ、
他からだいぶ離れた部屋の隅に、壁を背にして横になった。
顔には布をかぶせてある。静かにシモンは眠りへと落ちていった。

32 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:17:12 0
――ー「後は祭りを楽しみ、後夜祭りに紛れて町をでればいい。
・・・いいな?」
どこかで聞いたような声が意識の中に響いてくる。
そしてシモンは思った。
何故、街を出る?
俺は、何をしにここに来たのだろう?
俺の当初の目的は…何だ?

―――そうだ!
シモンはついに思い出した。王国の財宝だ。
明らかにおかしい…昨日までの自分の意識が信じられなかった。
ふと目が覚める。

シモンは立ち上がると、部屋の外に出て、遠くに見える尖塔を眺めた。
あそこに何らかの宝があるのは、間違いないのだ…!
ギラギラと、シモンの欲望に火がついた。
(どんな手を使ってでも、宝を手に入れてみせる!)

日が明けた前夜祭の当日――
シモンはいつになく朝早くから武器の手入れを行い、地図を真剣に
眺めていた。
「尖塔にある敵の魔法施設を壊すのを忘れていた。
 街が前夜祭で浮かれている間に急いで破壊しに行くぞ」
それが翌朝シモンの口から出た第一声だった。


33 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/09/22(火) 06:15:11 0
>「じゃあな。レクストにもよろしく頼む」

シモンの言葉に、狼は内心眉をひそめる。あいつ、昨日も出かけてたじゃないか。
今この状況だ、下手に連日出かけるのはマズイんじゃないのか―――
あの夜顔を見たまま生き残った連中が数人いるのだ。ある程度面は割れていると言っていい。

それに、情報収集と言っていたが一体何の情報だ?この家は今の所割れた様子はない。
ならば外出など百害あって一利あるかないか。

・・・可能性としては、もしかするとシモンはこの街に・・・もぐもぐいい肉だな美味いもぐもぐもぐもぐ





そして、一夜明けて帰ってきたシモンに、狼は再度内心眉をひそめる。

―――こいつ、誰だよ?

外見は別に変わりない。いささかくたびれ、小さな傷をいくつか負っている程度。
だが、どこか焦点のズレたような瞳、鋭さが欠け落ち着き過ぎている動作、抑揚の欠けた口調―――
勿論、どれもごく僅かな狼の主観に過ぎない。他の者は何も感じていないのかもしれない。
しかし、狼にはその男が、昨日出がけに毛皮を撫でていった者と同一とはどうしても思えなかった。
何かが違う。昨日と、何かが。それに、僅かに漂う、甘ったるく胡散臭い匂い―――

何より、狼は自分の直感を信じていた。

34 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/09/22(火) 06:17:21 0
その夜、皆が寝静まったのを確認してから、狼は裏のベランダに出た。
眼を閉じ、幾度となく繰り返したプロセスを辿る。野獣がささやかな自由を得るための、ささやかな魔法。
生憎とおとぎ話のような美女は今いないが―――いや、ありゃ人が魔法で野獣になる話だったか?

数分後、人に戻ったギルバートが、例によって火の点いていないパイプをくわえ、手すりにもたれていた。
夜風が気持ち良い。少し冷たい風が、昼間日差しに暖められた地面の温もりの間を縫って訪れる。
なるほど、こんな季節には祭りで浮かれたくなるのも理解できようというものだ。

そして、月が綺麗だった。

その明るい月明かりを頼りに、本棚から拝借したヴァフティアのガイドブックを広げる。
明日は、ラウル・ラジーノ前夜祭。何やら聖人の悲劇的な最期が何とか書いてあるが、その辺はどうでもいい。
要は人々が浮かれ騒いで気もそぞろになる夜。自分のすぐ隣の悪意にも気付かないであろう夜。

考えるべき事は幾つかある。一つは勿論、シモンの異常。
まずは仮定しよう。一つは、シモンがこちらを裏切って情報をリークした可能性。
だがそれは筋が通らない。あれほど狡猾な男が、たまたま敵のアジトを見つけ、
敵は皆殺しにしたなどと・・・ある種突拍子もない事を言うだろうか?

そこまでで、思考は一つの結論に達する。
あの言葉がシモンの意思であれ"月"の意図であれ、そこには目的がある。
それは何か?簡単だ、共通するキーワードは前夜祭。
要は、俺達を今このヴァフティアから出したくない―――あるいは騒ぎにしたくない。それだけだ。
未だ見えない"月"の動き、レクストの妥当な提案、シモンの言葉。全てが一つの方向に向かっている。

ならば、動かなくて良い。元より彼らに動く気などないのだから。
見ろ。結論は実に単純じゃないか。それも当然だ。
詰まるところ、思考するという事はどれだけ物事を単純にしてゆくかという作業なのだ―――

そう言えば、まだ連中――特にミア――がどうしたいのかを聞いていなかった。
尻に帆をかけ逃げ出したいのか、それとも"月"を返り討ちにして丸ごとブチのめしたいのか。
だが実際の所、ギルバートにとってはどちらでもよかった。どちらにせよ、ここまで来たからには付き合うのみ。
道は既に選んだのだ。次に選ぶ必要がある時は本能が教えてくれる―――

「ふぃーーー・・・・・・」

空を仰ぎ、一つ大きく息をつく。ひどく良い気分だった。
夜風が気持ちいいからかもしれない。月が綺麗だからかもしれない。あるいは―――

「―――・・・・・・?」

首をかしげ、耳に意識を集中する。誰かがベランダに出てくるようだ。
しかし、一瞬迷った末、ギルバートはその場を動かなかった。何故かは分からない。
運命の節目まで時間が無くなったと言う意識のせいか―――あるいは、単に気分がよかったからか。
それに、そこまで近づいて分かったがその気配にはちょっとした覚えがあった。
どちらかと言うとあまり有難くない覚えだったが。

35 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/09/22(火) 06:22:47 0
「・・・おっさん、夜更かしは美容にたたるぜ」

月を見上げたまま、背後へ向けて軽口を叩く。ベランダに姿を現したのは、
先日浴室で嬉しくないフラグを立てた相手、レクストの父親だった。
それ以前は、ここへ転がり込んだ時ちらりと顔を見たきりで、マトモに顔を合わせるのはこれが初めてか。
正直、あの厳格な顔にはあまり付き合いたいとは言いがたいんだが―――

「何だよ?嬉しくもない浴室イベントの次は、月の下で語らおうってか?」
「暇なら、付き合え。まさかうちのドラ息子と同じに弱い、とは言わないだろうな」

飛んできた物体を振り返ってキャッチする。ウイスキーの小ボトルだった。
少し意外だったが、にやりと笑って栓を開け、熱い液体をゆっくりと喉へ流し込む。
旨かった。

「なぁアンタ、息子が妙な連中を実家に連れ込んだってのに何も言わないのか?」
「ああ、言わんね。あの馬鹿息子も今や一人前の馬鹿だ。自分の馬鹿の始末は自分でつけるだろう」
「・・・・・・・」
「うちの子供は馬鹿ばかりだからな。だからあの馬鹿の事も誰よりよく分かる」
「・・・ナルホドね」

また一口、ボトルを呷る。なるほど、あのレクストという奴をいささか見くびっていたようだ。
より正確には、その体に流れる血の強さを。なんとも幸せな奴じゃないか。

月明かりに濃い影を作りつつ静かにボトルを空ける男に、ギルバートは別の男の面影を思い起こしていた。
かつて心も体もボロボロになったギルバートを、黙って静かに、しかし暖かく迎えてくれた人狼の男。
最早老齢と言っていい歳だった、人狼の"ファミリー"を取りまとめる首領。
今、あの親父さんはどうしているだろうか。勿論、血の繋がりなどない。
しかし、あの男が教えてくれた絆というものが、どれだけギルバートが立ち直る助けになったか分からない。

そんな"家族"の元を飛び出したのは、その絆が怖かったからだ。
その暖かく居心地のいい環境に、自分が慣れ親しんでしまう事が恐ろしかった。
自分にはそんな資格はない。むしろ罰せられなければならないのが自分だ。何故なら―――
くらり、と視界が傾いた。一瞬世界が赤く染まり、瞬きした瞬間元に戻る。
まさか、この程度で飲みすぎたか?やや無理に気を逸らし、男に話しかけた。

「しっかし女っ気のない家だな、オイ。ああ、あのお嬢ちゃんが可愛いのは認めるぜ?」
「よく出来た娘だよ。手を出すんじゃないぞ」
「出さねーよ!その疑惑は現状でもう手一杯だっての・・・・・・母親は?」
「死んだよ。7年前だ」
「・・・そうか」
「お前さんはどうなんだ?見るからに女っ気がないがな」
「俺か・・・・・・死んだよ。・・・7年前に」
「・・・そうか」

少し迷ったのは、ミアの事があったからだ。

「・・・さて、俺はもう寝るとしよう。お前さんもとっとと寝る事だな」
「はいはい。はいよ、ありがとうお父様〜っと」
「寝惚けて床を引っ掻いて穴空けるんじゃないぞ」
「う、うるせぇ!とっととベッドでも棺桶でも入っちまえ!」

最後、僅かに含み笑いを見せて背を向ける男に、知らず自分も笑みを浮かべていた。
空になったボトルをぼんやりと揺らし、綺麗な月を見上げる。ああ、本当にいい気分だ―――

「・・・なぁ、色々あるがおしなべて、"生きる"ってのは面白いよ。俺は今、ようやくそれが分かったみたいだ。
 お前はさ・・・少しだけでもいい。面白いと感じてくれたか?ほんの一瞬、ふと思っただけでもいい。
 無意味な生などないんだと・・・あん時、俺を見て笑ってくれた事にも意味があるんだと。
 例え、どの道を選んでも死に行き着く運命でも・・・それを変えようとした、馬鹿な男に引っ張りまわされても。

 ・・・どうなんだろうな?なぁ―――アルティミシア」

36 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 10:23:10 O
シモンの尖塔破壊ネタ丸無視かよw

37 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/09/23(水) 07:47:05 0
ページが見えなくなるまで、レクストはひらひらと手を振って見送った。
鳶色の外套が端まで人混みに隠れると、手を下ろして軽く溜息を一つ。

(……行っちまったか。まぁページはモロ善良ヅラだし俺んちで固まってるよか安全かもなぁ)

懸念があるとすれば、出会ったときから彼が連れていた少女、ミア。
無表情がデフォルトの彼女だが、一番近しい位置に居ただけにページが抜けた穴は大きいかもしれない。
ポーカーフェイスに僅かな悲色を滲ませるミアの顔が脳内で何故か妹とダブり、ふと隣でリフィルがこちらを上目遣いに見上げていることに気が付いた。

「愚兄。愚兄はもうどこにもいかない?」
「ん?もとからどこにも行ってないさ。これからもちょくちょく帰るし」
「そうじゃない」

言うリフィルの表情に奇妙な既視感があった。そう、ついさっき想像したミアの面相――悲哀と戸惑いが、妹の顔にあった。

「この街で働くんでしょ?毎日家に帰ってくるんでしょ?そのために帰ってきたんでしょ?」
「……いや、俺は帝都の従士だぜ?ヴァフティアに来たのも派遣任務であって、土地勘のある俺が選出されただけだ。他の誰かが来る可能性だってあった」
「じゃあ、いつかまたここを出るの?またここからいなくなるの?せっかく帰ってきたのに――もう嫌だよ。家族がいなくなるのは」

……ああ。
何故ミアと妹が被ったのかレクストはようやく理解した。彼女達が似ているわけじゃない。似ているのは胸の内にある"負い目"。
そうなのだ。母が死んだ日にレクストは王立教導院への進学を決め、翌朝には帝都行きの定期馬車に乗り込んでいた。
妹は、否――リフレクティア家の面々は一度に二人も家族を失ったのである。無論一人は帰って来るが、そこに居ないのは変わらない。

(そういや墓参りにも行ってないな――)

「行かないでよ、お兄ちゃん」

それでも。

「……少し歩くか。母さんの墓参りもしなきゃだしな」
「――!!」

強引に話題を変えて、同じように踵も返し、レクストは揺り篭通りを北上し始めた。
図書館への用は、懐で揺れるページの手記が纏めてくれる。だから今向かう先は、北区の共同墓地である。
リフィルは声にならない呻きを挙げたが、それでも半歩遅れてついて来る。

「――『井の中の蛙大海を知らず』って言葉があるだろ?どこぞの国のお偉いさんだかが言った言葉だけどよ」

歩きながら語る。語るべきだと思った。墓へ向かうまでの、ほんの少しの閑話。未来へ向かうための覚書。

「まぁこれが、井戸みたいな小さいトコに住んでるカエルは海っていうでっかい場所を知らないから、ショボイままなんだぜ。って話なんだが」
「知ってる。神殿教院で習ったから――『外の世界を知らぬ者は狭い中だけで満足するから進歩しない』」
「そそ。んで俺は思ったんだよ。カエルが大海を知らないのは単に生まれた場所の問題で、別に海でもやってける能力はあるんじゃないかって」
「それで?」

それで。

「まだピッカピカの新人時代にさ、同僚にカエル好きで任務のときにも大量のカエルを水槽抱えてく変わり者がいてよ、海辺の町に出向く任務で
 一緒になったときに、軽く百匹は越えるコレクションの中から適当に一匹見繕って海に投げ込んでみたんだ」
「どうなったの?カエルは大海でも泳げた?」
「皺くちゃになって死んじまった。どうもシントーアツとかいう見えない力が働いて塩かけたナメクジ状態になっちまったらしい。
 いやー思い出すね飼い主のマジギレした顔。そいつ従士隊のなかでも最強レベルに強かったからさ、フルボッコにされたよ」
「……それは、殴られて当然。むしろ愚兄最低」

言葉と裏腹にリフィルは苦笑する。兄の言わんとしてること、言葉の裏に含ませた意味を僅かながらも理解できたからである。
苦笑して、それだけでは足りずに半歩前を行く兄の尻を思い切り蹴り上げ、さらには舌出しのコンボを華麗に決めながら、
妹は陽だまりの道を一足先に駆け抜けるのだった。

38 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/09/23(水) 08:41:52 0
日差しが墓石を焼け付くばかりに熱しようとせん頃合、従士服の青年と淡色のワンピースを着た少女が並んでそこに影を作る。
"リフレクティア家ここに眠る"そう刻まれた石は旧時代に流行したメモリアルライトと呼ばれる永久記憶魔導石で、
手を当てて魔力と意思を注ぎ込むと故人の遺影が虚像という形で空中に再現されるというまさに読んで字の如くな魔法の墓である。

来る途中で購入した花束を添え、母親の虚像を呼び出し、合わせた手の指を組んで瞑想する。

(ただいま母さん。――降魔師が出たよ)

心中で呟いた言葉によって記憶が喚起される。一昨日の惨劇と、七年前の忘れたい、忘れてはならない光景。

降魔術。地獄のように紅いオーブ。強制降魔。異形と化された人々。そして母親。
目の前でオーブを埋め込まれ魔物に変わっていく母親の姿。遁走する自分。家。父親、兄、妹。
自分を追ってきたかつて母親だったモノ。飛び散る鮮血。魔物を貫く刃とそれを握る父親の姿。灰となって崩れ落ちる母親。

(大丈夫だ。大丈夫。奴らを倒すやりかたは帝都で充分学んだ。一昨日実戦でも勝てた。やれるぜ俺は)
「――さて、やること全部やったし帰って飯にすっか!」

努めて明るく、レクストは立ち上がりながら切り出した。



「なあ、聞いてくれ」

夕餉の席で、熱に浮かされたような顔をしたシモンが切り出した。
昨日今日とどこかへふらりと出かけてきたと思ったら、何か悪い熱病でももらってきたかのような風態に、その場の誰もが違和感を感じる。
そしてその口から訥々と語られる内容は、それにも増して常軌を逸していた。

(『月』の連中を皆殺し?一昨日の事件の首謀者も?おいおいマジかよ、こんなわけわからんホラ吹くような奴じゃない、よな?)

ならばこれは意図的な嘘か?どうにも気にかかるのはあの薄靄にでも侵されたかのような濁った眼。
どう考えても尋常のそれではない。敵の幻術にでもやられたか?シモンに限ってそのようなヘマをするだろうか。

(あーもうわっかんねぇ。考えんの苦手だってのに、こういうときページとかいたら相談できるんだろうけどよ)

残っているのは犬と少女だけ。妹の相手すら苦労するのにもっとクールでなおかつ他人なミアは話辛いことこのうえないし、
銀狼は論外。人の言葉は理解できるらしいが思考が人間のそれと同じレベルかは察し難く、何より喋れない。

(人んちにトイレ穴開けるような駄犬だしな!)

シモンがそれ以上の追求を避けるように横になったので、仕方なしにその日はもう灯りを落として寝ることにした。



翌朝のシモンは昨夜のまどろんだ表情とはうって変わって半日寝て眼が覚めたかのようなすっきり顔をしていた。

「尖塔にある敵の魔法施設を壊すのを忘れていた。街が前夜祭で浮かれている間に急いで破壊しに行くぞ」
「尖塔……ってのはあれか、昔っからこの街ににょきにょき生えてた結界展開用の――あれ?なんか昔と位置ズレてね?」

「最近尖塔の位置を大規模に動かす工事が立て続けにあったんだよなぁ。なんでも結界出力を上げる為らしい」
背後から声を投げられ振り向くと、布に包まれた巨大な棒状の物体を抱えたティアルドがそこにいた。

「ほれ。きっちり半日で終わらせたぞ、感謝と敬愛を忘れずにな!!」
投げ渡された包みを解くと新品同様のバイアネットが出てきた。刀身加護も張り直してあり魔物を斬っても耐えられる造りだ。

「サンキュー兄貴!兄貴のそういうとこ大好きだわ!!」
「ははは、気持ち悪ぃな蒸発しろ」  「あれ?なんで辛辣!?」

畳んだ銃剣を背に担い直す。然るべき場所に然るべき武装が戻ったことで、本来の調子へと復調してきた。

「つーわけで、破壊任務なら俺も行くぜ。こいつのリハビリもしたいしな!お嬢ちゃんと駄犬はどうするよ?」

39 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/25(金) 08:00:42 O
ほす

40 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/09/27(日) 05:33:38 0
翌朝。不安感を抱えつつも、表面上は何事も無いように出発の準備をする。
途中、何度か欠伸をかみ殺す。昨夜は一睡もできなかった。

>「尖塔にある敵の魔法施設を壊すのを忘れていた。
> 街が前夜祭で浮かれている間に急いで破壊しに行くぞ」

「……無謀」
彼女の視線には、いつにない冷たい色が覗いている。共に歩むうちに生まれつつあった柔らかな色は、完全に失われていた。
それは異常な行動を始めた彼に対する警戒であり――その言葉が真実であればと望んでしまう、甘い自分への戒めでもあり。

寝床を片づける振りをし、持ち上げた毛布の陰で探知の術式を密かに展開させ、シモンの様子を見る。
…外部から術で言葉を操られているわけではないようだ。自らの意思か、薬か、余程に術が巧妙であるか。
ミアは式を解き、何喰わぬ顔で畳んだ毛布を部屋の隅に寄せた。
…酷く虚しい気分だった。自分は彼に何を重ね、何に心を安らげていたというのか。
――せめて、夢なら朝まで見させて欲しかった。

>「お嬢ちゃんと駄犬はどうするよ?」
「………………行くわ」
矛盾するようだが、彼女はごくあっさりと承諾した。

尖塔の魔法装置といえば、あの死にかけた男が口にした「ゲートを迎え入れるための財宝」を指していいるのだろう。
ならば、彼女に選択肢は無い。
月が壊滅していないとする。シモンが説得で意見を翻すとは思えず、また彼らと行動を共にせずに彼女が月の魔手を逃れられる可能性は低い。
月が壊滅しているとする。別の組織の手に渡る恐れがあるのなら、協力者が充実している今叩いてしまうべきだ。
……だが気は進まない。前者の場合、これは敵の本拠地に乗り込むのも同義だから。
ミアはため息をつき、欲望にギラつくシモンの表情を盗み見て――背筋に嫌な感覚が生じ、すぐに目をそらす。
この目は知っている。欲望であれ、宗教心であれ、何かに固執した者はこういう顔をする。彼女の嫌いな顔の一つだった。

誤魔化すように、ティアルドに対して軽く頭を下げ、
「…………三日間、助かったわ。しばらく弟さんを借りる」

そして、当のレクストの方にも視線を向ける。
「……弾の魔力の増幅ならできる」
銃剣を指し、何の前置きも無くそう言う。
刀身加護のような専門的・恒常的な魔法は未修得だが、発射の瞬間に増幅魔法をかけるくらいなら彼女にもできる。
これは、彼女がレクストを協力者として改めて認識した故の発言でもある。

この微妙な空気にあっても明るさを失わず、裏の無い笑顔を浮かべる彼。
普段ならばやりにくさを感じただろうが、今は有り難く思う気持ちの方が勝っていた。

41 名前:人斬りレベッカ ◆Bvigra29UE [sage] 投稿日:2009/09/27(日) 08:56:59 0
名前:レベッカ・ムラサメ
年齢:28歳
性別:女
種族:人間(と思われる)
体型:長身で割りとグラマラス
服装:胸元が大きく開き、鬼を模したデザインの軽鎧を着用
能力:夜闇でも真昼のように見ることができる暗視能力
    自分の血を魔力の媒体として利用する能力
所持品:妖刀「MURASAME」
     旅道具一式
簡易説明:自分の血を使った妖術を得意とする旅の女剣士
       禍々しい外観の鎧を纏い、全身に呪印のようなタトゥーが彫られている
       万人の血を吸い、強大な力を持った「MURASAME」を代々管理する
       「人斬りレベッカ」の異名でも一部恐れられている

・妖刀「MURASAME」
 代々ムラサメ一族が命を張って管理している伝説の刀
 元はただの名刀だが、様々な人間の手に渡って血を吸い、強大な妖力を持つようになった
 ムラサメ家初代当主アルバートによって、本来の力を封印されてしまっている

42 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage漸く始まります] 投稿日:2009/09/27(日) 11:26:08 0
それは早いところでは正午過ぎには始まっていた。
前夜祭当日。
街は明日の祭りに向け準備の最終段階を迎えていた。
そして準備が済んだところから日も高いうちと言うのに前夜祭は始まったのだ。
魔の活発化や市内で起きた大量殺人など、剣呑とならぬ話題も多い。
しかし、いや、だからこそ人々は祭りに生の歓びを溢れさせていた。
夕暮れ時には各所で炊き出しが振舞われ、街には甘い香りが立ち込める。
祭りの雰囲気は否が応でもたかまっていく中、尖塔へ向かう一行はその臭いに何かを感じる。
シモンはごく身近な、しかしそれが何か思い出せぬ霞がかった記憶として。
ギルバートは過去の狂気の実験での記憶と共に。
ミアはどこか懐かしく心地よい香りとして。
そしてレクストは・・・おぞましき記憶。母だったものの口臭を喚起させられる。

ここ、市庁舎の大会議場でも・・・。
宴会場と化した大会議場には市政を担うそうそうたるメンバーが集まっている。
上座の市長を筆頭に、その左の席には顧問占星術師が。
反対側は空席となっているが、その席の主は最後に現われた。
守備隊長プリメラ。
完全武装のいでだちで現れたプリメラは周囲の戸惑いの声を無視して席に着く。
夕暮れ時、薄暗い室内には香が焚かれ甘く室内を潤している。
「それでは、全員揃いましたな。
今年は物騒な事件も起きており、例年ならば酒を振舞うところだが、今年はスープでご容赦いただきたい。」
市長の宣言でテーブルに配られるスープからは香と同じく甘い香りが漂っている。
これは市内で振舞われている炊き出しと同じスープである。
祭りの前はこうして市民と同じものを振舞い、祭りを楽しむのが通例なのだ。

歓談しながらの会食。
市長も、プリメラも・・・そして顧問占星術師もそのスープを、そして豪華に盛り付けられた食事を楽しんでいた。
少なくとも表面上は・・・。
食事が一段落した後、プリメラが向かいの席に声をかける。
「顧問占星術師殿。ここ数日姿が見えませんでしたがいかがなされた?」
「・・・いや、所要で外しておりましてな。」
突然声をかけられた顧問占星術師が暫し言葉に詰まりながらも応える。
プリメラの言葉には言葉を詰まらせるだけの鬼気迫るものがあったのだ。
「ほう・・・あなたの姿が見えなくなったのは例の惨殺事件のあった翌日、でしたな。」
挑発するようにプリメラは畳み掛ける。
「いつもフードを目深に被っておられるが、こんな時くらいは脱がれてはいかがかな?」
大会議場で歓談の声が続く中、緊迫したやり取りが続く。
いや、逆にこうは考えられなかっただろうか。
これだけ緊縛したやり取りが起こっているのに、歓談が止まる事は無い、と。

「プリメラ殿・・・何が、仰りたいのかな?
それにその完全武装の姿。それこそこの場にはそぐわないのでは?
守備隊長という重責は理解しますが・・・その前にあなたは【子の母】でしょうに。」
くっくっくと押し殺すような笑いと共に発せられた【子の母】という言葉。
それがプリメラの心の堰を断ち切った。
「ああそうだ!私は子の母である!しかしだからと言ってそれだけで私を言いなりにできると思うな!!」
プリメラの子は顧問占星術師に捕らわれて既に一週間が過ぎようとしていた。
それで様々な便宜を図ってきたのだが、ここ数日の事件などで抜き差しならぬまでになっていたのだ。
プリメラに覚悟を決めさせる程に。

43 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage結晶体は破壊不可という事でお願いします。] 投稿日:2009/09/27(日) 11:27:06 0
凄まじき一閃と共にフードは切り裂かれ、その素顔が露になる。
禿頭の額と左目に痛々しく包帯が巻かれている。
しかしその包帯すらも数秒の間を空けて宙を舞うことになる。
「貴様やはり・・・!」
包帯の下から現われた眼帯は終焉の月の幹部である事を表していた。
「ふははは・・・なるほど、母である事より守備隊長であることを選ぶか。
それは見上げた覚悟だ・・・・!」
正体を曝け出されたディーバダッタが笑い声と共にぷっと吐き出したものがテーブルに転がった。
それは銀色に光る小さな指輪だった。
「ふぅむ。コックには注意をしておかねばなりませんな。」
平然口を拭うディーバダッタとは対照的に、プリメラの顔は蒼白に染まっていく。
テーブルの上に転がる小さな指輪・・・。
それはプリメラが子に買ってあげた誕生指輪だったからなのだ。

それを理解した瞬間、突きつけた剣を落とし嘔吐していた。
信じられないと言う気持ちで一杯だったが、身体は理解してしまったのだ。
拒否反応を起こし、今まで食べた全てを体外に排出する為に。
今食べた我が子の肉を・・・!

「ぐふふふ・・・勿体無い。祭りの食物を吐くとは!」
両手両膝を突いて嘔吐するプリメラを睥睨するディーバダッタ。
「き・・・きさま・・・!」
ブルブルと震えながらテーブルに手をつき立ち上がったプリメラはその目を疑った。
今まで何故気付かなかったのだろうか。
テーブルの中央に据え置かれた豚の丸焼きだと思っていたものは、明らかに人だったものなのだ。
そして何より、市長をはじめ居並ぶ面々は子のやり取りの中、何かに取り憑かれたように肉を貪っている。
大会議室にはグシャグシャと貪る咀嚼音だけが延々と続き、それを発する者たちの姿は人のそれから徐々にかけ離れつつあるのだ。
この異様な光景を前にプリメラは再度体制を崩し嘔吐する。

「やれやれ。守備隊長殿は自分では食べられないようだ。食べさして差し上げなさい。」
「はい・・・!」
給仕の男がプリメラの頭を掴み、無理矢理引き起こし、大きく口をあける。
その口から蛞蝓のような触手が這い出てプリメラの口へと進んでいく。
万力の様に頭と顎を掴む給仕の手により、プリメラの口は無理矢理開口させられる。
「や・・やえろ・・・!やれおおおおお!!!」
ズチュ・・・ヌヂュ・・・という押し込まれていく音がプリメラの叫びを掻き消していった。

夜の帳も落ち市内では同じスープが振舞われ前夜祭が盛り上がる中、市庁舎では魔の宴が一足早く幕をあけていた。
この惨状に呼応するように中天に輝く月がスポットライトのように市内の8つの尖塔に冷たい光りを注ぎ込む。
尖塔の最上階には奪われた宝の箱が大きく口を開け月の光りに照らされている。
その箱の中には・・・結晶体に閉じ込められた少女のものと思われる右腕がぼんやりと光りを放っている。
他の尖塔にもそれぞれ同じように結晶体に閉じ込められた左腕、右足、左足、胸部、腹部、頭部、心臓のパーツが納められていた。
もし頭部の納められている尖塔を目的とするならば、到達した時に見るであろう。
その顔は10歳ほどの・・まだ幼きミアの顔である事を・・・!

#############################

【レベッカさんようこそ
ただいま市内は一般人は気づかないレベルではありますが魔都になりつつあります。
出国規制はあっても入国規制はありません。】

44 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/09/27(日) 14:03:52 0
名前:ヴェノサキス
年齢:自称25
性別:不明
種族:自称人間
体型:少し痩せ型。身長は170cm程
服装:左右交互に黒色と白色に分かれた、騎士団長のようなデザインの服
能力:「自然の声を聞くことが出来る能力」「蒼焔を操る能力」
所持品:トンファーのように持つことの出来る二丁のマシンガンのような武器。特殊な作りで、様々な形に組み合わせることが出来る。
ブレードが仕込まれており、接近戦も可能。その他、三本に分解できるロングスピアを所持

簡易説明:性別はおろか、人間かどうかさえ不明な自称「聖道士」。
顔前部を全て覆うタイプの仮面をつけており、右に一つ、左に二つの眼穴が開いている。
仮面のせいで独特な響きを持つ不思議な声をしている。ただ退屈だからという理由で気ままな旅をしている。

よろしくお願いします。

45 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 22:01:46 0
おお、新規が一気に二人も……!すばらすい

46 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/09/27(日) 23:09:39 0
名前:“四瑞”ハスタ・KG・コードレス
年齢:19(自称)
性別:男
種族:人間(?)
体型:身長164cm、体重47kg、やや小柄
服装:旅装束の上に暗い灰色の外套、2m弱の長さの袋
能力:「使用枚数によって効果の変わる呪符術」「多数の武器を同時に扱う戦術思考」
所持品:多目的器具“四瑞”、傷薬、財布、呪符ホルダー(20枚まで即使用可能)等々

簡易説明:町から街へ流浪を続ける賞金稼ぎ。目的もなく、生き続けている
どこで生まれどこで育ってきたのか不詳。
結構情に流されやすいのでハンターとしては二流と蔑まれることも

二つ名の由来である“四瑞”の外見は、手頃な厚みと2m程の長さの純白の木材を二本紐で束ねた物
主な用途はとして、二本に分割させ両端に刃を持つ槍とする。それ以外にも様々な用途に変形し使われる
(例:結界の柱、剣、巨大手裏剣、傘、テント等々)

【新規参加希望です。武器が被り気味でごめんなさい
 最初は街に入ったあたりから巻き込まれようと考えてます】

47 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/27(日) 23:24:13 0
>>41,44,46
よろしくお願いします


48 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 01:21:39 0
”仲間”たちは一様に怪訝そうな顔をしていたが、それを気にとめている余裕もまた、
シモンにはなかった。
敵の残党が撤退する可能性もあるからである。

「尖塔……ってのはあれか、昔っからこの街ににょきにょき生えてた結界展開用の――あれ?なんか昔と位置ズレてね?」
「そう…なのか?」
そういえば尖塔についての知識は殆どなかった。ただあの施設での殺戮の記憶の中に、
確かに、尖塔の中に、財宝がある、ということだけは克明に覚えているのだ。
それも、”月”の連中が大掛かりな強盗をしてまで手に入れたものである。
8本ある、というが、恐らくはずべての塔に似たようなものがあると見て間違いない。

とりあえず目標は、彼自身がが地図に書いた…?
(この地図は俺が書き足した…あれは何だったんだろう?)
シモンは、ふと自分の記憶が曖昧であることに気付いた。
だが、余計なことを言うと周囲の連中が乗らない可能性も考えられる。
黙って、小屋の外に出た。
「……無謀」
ミアには静かに罵られた。だが彼女もついては来るつもりのようである。
その視線には期待を裏切られたとか、その類の失望感が見て取れた。

三人と一匹で小屋を出る。
目標は”廃墟”の近くにある尖塔だ。
街はかなり厳しい警備が敷かれている。連中が正規なのか”月”の手のものかは
想像がつき難い。前夜祭の日だけあって、街には変わった人間が揃っていた。
途中で長身で鎧を着込み、胸元の開いた怪しげな女、格闘武器のようなものを持った
どこかの宗教のような格好をした怪しげな男、やたらでかい袋を持った外套の怪しい男とぶつかったが、
一般の見物客の振りをして愛想よく謝罪をして通り過ぎた。

いよいよ目印の廃屋のあたりだが、どう見ても廃墟などどこにもないし、
普通の建物しかない。その上、「何故か」警備らしき自警団員の男が二人、
目を光らせている。幸いこちらは見つかっていない。
「俺に任せろ」
シモンが素早く自警団員の死角に回り込むと、素早く針を取り出し、
二人の眉間めがけて投げつけた。
「うッ」
ほぼ同時に、二人とも頭を抑えて倒れこんだ。
「睡眠薬だ。さて…こいつらはどうするか…」
ナイフを取り出そうとすると、ミアやレクストが渋い顔をした。
(仕方ねえな。時間との戦いか…)

仮に殺してしまったとして、本当に自警団だったら、ただの殺人だ。
さすがのシモンも事情を知らない人間を殺すのは後味が悪かった。
「さてと…ここからはほぼ尖塔まで一本道だ」
尖塔には開いた窓も見える。ここからは建物と空に警戒しつつ接近し、
ミアの浮遊魔法で一気に侵入する算段だ。
「気を抜くな、何がいるか分からんからな」
そのまま小屋を無視し、通りすぎようとした。


49 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 01:23:32 0
>>41>>44>>46
【よろしくお願いします。入る場合は好きなタイミングで絡んでください。】

50 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 02:57:11 0
>「尖塔にある敵の魔法施設を壊すのを忘れていた。
 街が前夜祭で浮かれている間に急いで破壊しに行くぞ」

「(尖塔・・・ねぇ?)」

扉の向こうから聞こえたその声に一瞬考え込むが、すぐに目の前のドアを足でノックする。
ギルバートの両手はいくつかの大きな紙袋を抱えて塞がっていた。

「おーい、開けてくれ俺だー・・・って、何だ。開いてんのか」

扉を押し開けて闖入してきた男に、驚きの視線が集中する。
その中に警戒が混じらなかったのは、その余りに気楽な声と無防備な姿勢の為だろう。
それに、狼が携えていたものと同じバッグと銀指輪が、それが誰なのかを表している。
その様子に構わず機嫌良くテーブルに歩み寄ると、ドサドサと抱えていた紙袋を置いた。

「いやぁ、もうこの時間からもう店は出てるんだな。色々食い物買い込んで来たぜ。
 折角の祭りだってのに、俺達は参加できねぇんだからな。せいぜい醍醐味の食い物だけでも―――」

そこでぴたりと言葉を止め、背筋を伸ばすと部屋の面々を見回す。

「おいおい、何だよ揃って新規臭い顔して?これから塔だかどっかにカチ込むんだろ?
 どうせ楽しい遠足にはなりゃしねぇんだから、今の内にテンション上げとこうぜ?
 ・・・あ、お前は辛気臭くなさ過ぎ。空気読め」

自分の事は棚に上げ、レクストを指差すとにやりと笑って見せる。
そしてナイフを取り上げると、ローストチキンを切り分け始めた。
面食らっていた面々の表情が段々と呆れ顔に変わるのを見計らい、そうそう、と続ける。

「俺の名前はギルバートだ。ギルガメでもギルデロイでもねぇ!
 そっちのテンション低い組も処理に協力しろよ、勿体無いからな」

びしっとミアにフォークを突きつけ、片目をつぶってみせた。
シモンにも分厚いサンドイッチの入った袋を放り投げると、ぺろりと指先を舐め、自分の分をぱくつき始める。

「出る時は裏から出た方がいいな。どうも店の側は誰かが見てる感じがする。
 そいつはまず間違いないんだが、人通りが多すぎてはっきりしねぇ。裏なら人も少ない。
 ―――ああ、俺はツラが割れてないからな。心配しなさんな」

―――塔?何の施設だ?その必要性は?その情報は何処から?
様々な疑問は胸にあったが、ギルバートはそれをおくびにも出さなかった。
昨夜から色々と思考が吹っ切れていた事もあるし何より―――

向こうの出方を待つより、罠と分かっている中に飛び込む方が遥かに簡単で、分かりやすい。

その後は、誰の問いかけにも「馬鹿でかい狼を連れて、昼日中街を歩く訳いかねぇだろ」とだけ答え、
全てはこの一事が済んでから―――、そう暗に仄めかしつつも、終始ギルバートの機嫌は場違いに良いままだった。


その後、ギルバートは塔へ向かう一行の最後尾についた。
先導は間違いなくシモンとこの街に詳しいレクストだし、自分達を尾ける連中がいれば早めに見つけたかったからだ。

―――さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・何でも良いが、こいつで事が済めばいいんだがな

そんな事はないのだろうと思いつつもそう呟き、右手の銀指輪に触れていた。

51 名前:人斬りレベッカ ◆Bvigra29UE [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 08:37:45 0
魔法兵「ぐはあああっ…」

鮮血を撒き散らしながらもんどりうって倒れる魔法兵士
このヴァフティアで治安を司る魔法兵を殺めることは、死にも値する大罪である
しかし、魔都と化しつつあるここでは、既に当たり前のこととなり始めていた
治安が悪化し、通り魔などが横行しているのだ
時には巡回警備中の魔法兵ですら襲われる始末である

「ウフフフ…、たまんないねえ…」

上ずった女の声が狂気を交えて響き渡る
彼女こそ、妖刀を封じ続けるムラサメ一族の現当主レベッカである
しかし、本人にとってその肩書きは人を斬るための方便にしか過ぎない
MURASAMEは定期的に血を吸わせることによって、力が安定し封印しやすくなる
血を吸わせる夜にこそ、ムラサメ一族は非情なる人斬りとなるのだ
しかし、レベッカ・ムラサメはその行為自体を我が自分の楽しみとしてしまっている

???「さすが人斬りレベッカだ
      親兄弟ですら刀の錆びにしてしまっただけのことはある」
「今のあたしにすりゃ生きた人間なんて斬るためだけの存在さ
 あんたも結界なんぞ張らずに出ておいでよ」

黒衣の男が周囲に結界を張ったまま、その様を見ていた
レベッカは結界を刀の切っ先で突き、誘うような妖艶な目付きで男を見据える

???「遠慮しておこう」
「連れないねえ…」
???「しかし皮肉なものだ
      人の血と怨念を吸い続けて妖刀となったその刀…
      封印を安定させるためには同じ様に血を吸わせねばならんとはな」
「腹八分目に抑えてって奴さ
 ま、人さえ斬れるならあたしにゃどうでもいいことだけどね
 アハハハハハ!」

黒衣の男の感慨を歯牙にもかけない様子で笑い飛ばしてしまう
ムラサメ一族にとって人斬りは宿命の生業だ
だが、レベッカにとっては己の欲望を満たすための行為に過ぎないのである

???「これで口封じは済んだ
      後は我々の手の者がこいつらの死体を回収する」
「さてと、そろそろあたしの雇い主だって言うディバダタって坊主に会わせてもらおうか」
???「ディーバダッタ様だ
      あの方は現在、魔法兵団の駐屯所に居られる
      行って会って来るがいい」
「偉そうだねえ…」
???「う、すまない…」

指先で黒衣の男の胸を弄ると、再び妖艶な笑みを浮かべた
しかし、先ほどのものとは異なり、明らかな男への威圧感があった
そしてそのまま、ディーバダッタの居る駐屯所へと向かって行った
男は、自分がいつの間にか凄まじい量の冷や汗をかいているのに気付く

52 名前:人斬りレベッカ ◆Bvigra29UE [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 08:38:49 0
「駐屯所」ではなく「市庁舎」でした

53 名前:人斬りレベッカ ◆Bvigra29UE [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 08:45:06 0
「いい趣味してるじゃないか
 あたしも混ぜてほしかったねえ」

空を見つめるディーバダッタの背後に気配もなく現れたのは異形の女剣士だった
ヒタヒタと歩み寄って、覗き込むようにその顔を見つめる

「あんたがディバダタかい?
 斬り甲斐のありそうないい体してるじゃないのさ」

舐めるような手付きでディーバダッタの裸体をゆっくりと撫でる
柔らかくキメの細かい、それでもって氷のように冷たいレベッカの肌の感触が伝わる

54 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/09/28(月) 09:40:29 0
貼っておく

ダークファンタジーTRPGスレ避難所(外部
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/10454/1249104655/

55 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 11:27:59 0
「ここがヴァフティア、ね。随分と臭う街だな。」
陰鬱とした空模様を眺めながら、街を歩き続ける。
この街で祭りがあるという話を聞き、流浪の途中ちょっとした骨休めのつもりで立ち寄ったのだ。

とりあえずは宿を探そうとふらふらと歩いていたら、奇妙な一行と軽くぶつかってしまった。
「っとと、済まない」
決して不自然にはならぬよう、しばらくそのままに歩き角を曲がったところで足を止める。
角からバレぬように先ほどの一行の様子を見る為だ。

「街の臭いとは別に、獣の臭いがするな。
 しかもあの連中、妙に組み合わせがちぐはぐみたいだが・・・」
考え込む時間はわずか二秒、一行を歩いて追う事にした。
雑踏にいる内は、気配を隠そうとするより気配を溶け込ませ人がいなくなる頃に気配を殺す。
賞金首をつける際の自分なりのやり方だ。

「ただの休暇のつもりで祭りを見に来たが・・・別の【祭り】がありそうだ。金になる、かな?」
そう一人ごちてから、見失わず気づかれぬように尾行を続ける。


56 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 20:36:12 0
――落ちる月光。少し明る過ぎるくらいの光にぼんやりと浮かび見える道を、
それは歩いていた。

飄々と、長く蒼い髪を闇に流し、その黒は、夜闇に溶け、その白は、照る月光の如く。
素顔を隠す三眼の仮面、左に鋭く開いた二つの眼穴の奥には何もない。吸い込まれそうな黒色だけが、ぼんやり広がる。
しかして右の眼穴からは、小さな小さな、蒼い炎が漏れていた。
その脚は動けども、足音はなく…滑るように月夜の道を行く。「ヴェノサキス」…自由を愛し、自由を求める者。

『しかしその実、ただの……暇人だったり…』
彼でも彼女でもない、不思議な声が響く。ヴェノサキスは自分のことを、あまり他人には教えてあげない…。
…この者は旅をしている。と言っても、何か立派な目的があっての旅ではない。
ただ過ぎていくだけの毎日がつまらず、あまりすることもないものだから。本当に、それだけを理由に歩き始めたのである。
そして今、見つけた街の光を目指し、ゆっくりと歩を進めている最中である。
『あそこは…何て街だろう……でも……うん…久しぶりに、地面以外で眠れそうだ…』
そう考えると、少し嬉しい。次第に歩も速くなる……。が……その歩みがピタっと止まった。

―――ざぁっ―――
瞬間、無風であるのにも関わらず、木々がざわめき、草花が鳴く。
『どうしたね?』ヴェノサキスは俯き、「彼ら」の教えに暫し耳を傾ける。
『…うん…そう………そうなのかー………それは、困ったなぁ……私、今とてもベッドで寝たいんだ…』
そんな気の抜けた答えに、「彼ら」は一層強くざわめき、騒ぐ。「ふざけんな」、と。
冗談冗談、と「彼ら」を宥めるヴェノサキスの腰の辺り…何かが、リィン、と鳴った…。

『やぁ、起きたのかい』
そう言って腰から取り出したのは、二丁の、銃だった。
少し短めの銃身に、美しい十字架の装飾が施され、中央に赤い宝石が埋め込まれている。
その宝石が淡く光り、リィン、リィンと、美しく鳴っている。それを聞いて、
少しだけヴェノサキスはぐったりした。
『君は酷いなぁ…私に厄介を引き受けろと言うのか……そんなことになるなら、宿もベッドも喜んで諦めるけど…』
それでも銃は鳴くことをやめない。静かに、力強く訴える。「全てに救いを――!」と。
鳴き続ける銃を月の夜空に掲げ、じっ、と見つめた後、優しい声で問いかける。
『では……共に来てくれるか……?』

―――キィン―――!
返事の代わりに、銃身の下部から、これもまた美しい模様の刻まれた、白銀の刃が現れた。
ヴェノサキスは仮面の奥で嬉しそうに笑った。
『うん、では往こう。救う為に――』

57 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/09/28(月) 23:00:10 0
むせ返るような異臭の充満した市庁舎大会議場。
それは香と血と死臭と・・・獣ともなんともいえぬ異形の化け物の臭い。
室内では既に人ではなくなった異形の化け物が『肉』を貪り続けている。
そんな中、ディーバダッタは一人窓を開け、月明かりを浴びていた。

ローブはプリメラに斬られ上半身は裸体を晒しているが、それを気にする様子はない。
むしろその身から立ち上る蒸気を発散させるのに丁度良かった。
>「いい趣味してるじゃないか
> あたしも混ぜてほしかったねえ」
気配も無く現れたい行の女剣士の言葉にも振り向きもしない。
ただ一点、満月を見つめている。

>「あんたがディバダタかい?
> 斬り甲斐のありそうないい体してるじゃないのさ」
ゆっくりと舐めるような手つきで撫でられる感触に、漸くディーバダッタは視線をレベッカに向ける。
冷たい月明かりですらなしえなかった火照った身体が急速に冷めていく様な感覚。
長身ではあるが自分より頭一つ低いレベッカを睥睨し、大きく顔を崩す。
「ムラサメ!良くぞそこまで研ぎ澄ました・・・!」
破顔一笑。
笑みを浮かべレベッカの肩に太い腕を回し、抱き寄せる。
「今宵は合の刻。間に合った事を心から喜ぼう!
ここなどほんの始まりに過ぎぬ。
合の刻にはあらゆる運命が交錯する。
運命に惹かれ斬り応えのある者も集うだろう。
魔の宴は・・・これからだ!」
大会議場に響くディーバダッタの笑い声に、人でなくなった者たちの下卑た笑い声が続く。

       *          *        *       *

月明かりに照らされる尖塔の最上部。
各塔では全く同じ事が成されようとしていた。
最上階に安置されたクリスタルに入った少女の各パーツ。
それを取り囲む黒衣の男達。
そして・・・気絶しているのだろうか?
全裸で縛られた少女が転がされている。

少女は髪を掴まれ、クリスタルの上に引きずられる。
その首には黒曜石のナイフがあてがわれている。
黒衣の男達が見つめるのは宙天に浮かぶ青白い満月。
刻を待っているのだ。
生贄の首を切り裂き、迸る血をクリスタルに滴らせるその刻を・・・!

儀式に集中しているせいか、尖塔の見張りを倒したシモンたちの存在には気付いていなかった。

58 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/09/29(火) 23:59:42 0
「…………三日間、助かったわ。しばらく弟さんを借りる」

「ああ、ちゃんと返せよ?うちの大事な大事な愚弟だからな!」

慇懃にもティアルドに向かって頭を下げたミアは、今度はレクストの方へ踵を返し、

「……弾の魔力の増幅ならできる」

そう言った。相変わらず前置詞というものを親の腹にでも忘れてきたかの物言いだが、どことなく角の取れた響きがあった。

「そりゃ心強いな。いや皮肉じゃないぜ?マジにそう思ってる」

補助魔法がからっきしなレクストからしても、援護の後ろ盾があるのは大分ありがたい話なのだった。
なにせ敵は正体も規模も目的すら不明な謎の教団。どこからでも湧くように現われ、煙のように失せる雑じりっ気なしの神出鬼没。

尖塔への突入。予測されるであろう戦闘に、楽天家のレクストですら僅かに身を引き締める緊張感の中、
それを破ったの扉の向こうから響く抜けたような胴間声だった。

「おーい、開けてくれ俺だー・・・って、何だ。開いてんのか」

返事を待たずに、見知らぬ男が闖入してきた。現われた不審者バリバリの優男に、時間すら停まったかのような。
誰だお前、と誰もが思っただろう。何だコイツ、と誰もが唖然としただろう。男は両手に抱えるほどの紙包みをテーブルの上に広げると、

「いやぁ、もうこの時間からもう店は出てるんだな。色々食い物買い込んで来たぜ。
 折角の祭りだってのに、俺達は参加できねぇんだからな。せいぜい醍醐味の食い物だけでも―――」

「不審者――!!」

「待てリフィル!ノータイムで蹴りぶち込みに行こうとすんな!!どこの戦闘民族だお前は」

侵入者の撃退に動こうとしたリフィルを寸でのところでティアルドが食い止め、それおを意に介さぬように男はまるで死線を共にした仲間に
喋りかけるようにレクスト達へと話し出す。無駄にテンションが高い。というか誰だお前。

「・・・あ、お前は辛気臭くなさ過ぎ。空気読め」

そこでやっと気が付いた。男の身に纏うバッグと指輪が、つい最近見覚えのあるものだということに。

「お前……まさか駄犬か?」

「俺の名前はギルバートだ。ギルガメでもギルデロイでもねぇ!」

それは肯定なのだろう。ギルバートと名乗った銀狼の成れの果ては前夜祭で購入してきた品々に手を付け始めた。

「出る時は裏から出た方がいいな。どうも店の側は誰かが見てる感じがする。そいつはまず間違いないんだが、
 人通りが多すぎてはっきりしねぇ。裏なら人も少ない。―――ああ、俺はツラが割れてないからな。心配しなさんな」

誰もが眉を平らにしていくのがわかる。有り体に言えば――ジト目。

「おま――いや、始めてみたときからただの犬じゃあねぇなとは思ってたけどよ、人狼ってのは流石に想定外だぜぇ――ん?
 そういやお前犬のときはずぅっとお嬢ちゃんにべったりだったよな?――おいおいいい年こいてそういう趣味かよこの変態駄犬!!」

びしりと指差しで指摘する。同時に場の空気がさらに一度下がった気がするが問題ない。
意味を理解したリフィルがティアルドに連れられてそそくさと退出していくのを視界の端に見送って、
ひとしきりリアクションに満足した適応力に定評のあるレクストは、早速ギルバートの持ち込んだ品物に手を付けるのだった。

59 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/09/30(水) 00:50:15 0
「犬のが都合いいってのは解るけどよ、なんでこの三日ずっと変身解かなかったんだ?結構ツラいんだろ」
「馬鹿でかい狼を連れて、昼日中街を歩く訳いかねぇだろ」

「つうか何でトイレ穴開けた!?お前あれをどうするつもりだったんだよ!」
「馬鹿でかい狼を連れて、昼日中街を歩く訳いかねぇだろ」

「――正直お嬢ちゃんにくっついてたときは役得だったろ?正直に言ってみ?なぁ!なぁ!」
「――馬鹿でかい狼を連れて、昼日中街を歩く訳いかねぇだろ!!」

「こ、この駄犬――!黙秘権発動してんじゃねェェーーーッ!!」

尖塔までの道すがら、シモンに道を案内しながらレクストはギルバートに質問を投げまくっていた。
ミアを挟んで、だ。無論何度か彼女にも話題を振り、その度に主語と述語が抜け落ちた答えを頂戴していたが、
何よりテンションのベクトルが似通った人間というのは話しやすい。そういった意味では、ギルバートは格好の話し相手だった。

「ラウル・ラジーノってのはもともとこの街の神殿に祭られた聖人の名前でよ、ときの帝府の圧制から民を救わんと
 尽力の末騎士団に捕われて非業の最期を遂げたっていう伝説のもとに祭られる、まぁぶっちゃけていえば慰霊祭なんだ」

レクストは誰ともなしに述懐する。祭りの起源、そのはじまり。

「昔はそりゃあもう慎ましやかなものだったらしい。それが、国境近くのこの街は軍事拠点でもあったらしくて、
 気の滅入るような兵役を少しでも安らかにテンション挙げてもらおうと活気を出したのが今の祭りなんだと」

今と同じく異国の品が最も多く流通する街であったヴァフティアは、当然その行事にも異文化の香りを多分に取り入れ、
南方の国の気質である『ひたすら楽天主義』をそのまんま街規模で移植したかのような様相を呈することになった。

「だからよ、俺達もこの一件が片付いたら、何もかも不安が無くなったら――思いっきり楽しもうぜこの一大イベントを!」

街は前夜祭の祝賀ムードで満ち溢れていた。そこかしこに極彩色の魔導飾灯が漂い、屋台はいっそうの盛況を尽くしてやまない。
前夜祭のメインイベント、巨大なキャンプファイヤーの燃料や薪を抱えた土木作業用ゴーレムが列をなして歩いていたし、
この街では守備隊のみに配備権を与えられた騎乗竜種、通称『騎竜』の乗竜体験なんかもやっていて、祭り好きのレクストとしては
存分に心惹かれるものばかりだった。とはいえこの祭りには毎年帰省して参加しているし、なによりこんなことをしている場合ではない。

「うちから一番近い尖塔っつうとそこだな。おっと、守備隊の連中が張ってやがんな。どうす――」
「俺に任せろ」

シモンの返事と同時、既に行動は完了していた。彼の手先から迸る銀色の何かが守備隊の二人を一閃すると、
その場で両人ともが昏倒した。命を奪ってまではいないようだが、相変わらずの神業である。レクストは密かに舌を捲いた。

「さて…こいつらはどうするか…」
「おいおい殺すのかよ?」

レクスト達が渋い顔をすると、シモンは思いなおしたように眠りこけた彼等を解放した。打算か、はたまた慈悲か。
何れにせよ余計な命が失われるよりずっといい。そう思いながら、ふと空を見上げたときだった。何か不自然な『淀み』が空を横切った気がした。
不可視である。しかし確かに、水の中のガラス玉のような、極めて微細な風景の歪みが、青空に照らされて僅かな澱を作った。

(なんだ?アレ――)

従士隊装備である魔導装甲の防刃帽からバイザーを引き出す。目の前に展開して覗き込むこれはあらゆる隠蔽魔法を透過して視認できる優れモノだ。
帝都謹製の分析魔法がかけられたそれで淀みを見ると、内包されていた真実が目に飛び込んできた。

(ありゃ……『箒』?なんで尖塔のてっぺんなんかに――?)

力場拡散の力を持つ精霊樹の枝を束ねて飛翔オーブを覆い、柄に跨って空を飛ぶ魔導具をこの世界では『箒』と呼ぶ。主に運送や交通に使われるそれが、
守備隊の航空戦力として騎竜とともに配備されているそれが、守備隊のエムブレムをつけたまま尖塔の頂上へ向かっていくのが見えた。

そして、レクストがそれを発見したのと同時、彼等が通り過ぎようとしていた廃屋から、突如地響きともつかない雄叫びが挙がった。
爆発するような勢いで廃屋を突き破り、向かってきたのは巨大な――『蛸』。

粘液まみれの触手を這わせながら、魔物は無防備なレクスト達へと肉迫する。

60 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/09/30(水) 19:01:26 0
『……確かに…空気というか、何かおかしな気もするが……その根源は何だ……?』

昨晩、宿を探すついでに街中色々と探ってみたが、そもそも何が起こっているのかも解らないという時点で、
一体何を探れば良いのかと…。しかし…妙な視線のようなものを感じた気はする。とりあえず一睡して疲れはとれたので、
今日はまぁ、色々頑張ろうとは思っている次第である。良し、本気出す。
『……さて……意外な可能性というものは、意外らしく、正に意外な場所にあるものだ』
そう言って宿から出ると、フラフラと何処かへ歩き出す。目的地は…。
『いや……無いが………。しかして、じっとしているよりも、何かしら行動してみなくては――』

晴れ渡る空の下、何となしにだが街の外に来ていた。しかしやはりと言うべきか、何も無い。
この街に来る時に歩いたのとは違う道を進んでいるが、変わったことも者も見受けられない。
異常なし。実に良い事なのだが、今に限ってそれは困る。自分は何を解決すれば良いと言うのだ。
旅の道に戻ろうにも、相棒と「彼ら」が許してくれないし。試しに「ならば、汝等の忌む、異変とは何ぞ」と訊ねても、
「いや知らぬ。だが近い」としか答えない。………何なんだ。あれか。謎掛けが好みなのかね?
……………頼みごとがあるなら相応の態度を取りたまえ不愉快だ。謎掛け趣味なんぞ知ったことか。

しかし、やはり意外は、ここに在った。
『――?――…地響き?……何故……………!?…何……!?』
崩れるような音が聞こえる。音に向かって地面を滑って行くと、本当に…「意外」な光景が在った。
思い切り潰れた建物、立ち尽くす見知らぬ者達。それに迫るは巨大な………。
『た……蛸……なのかな……あれ……』
別に蛸を知らないわけではない。旅の途中に幾度か見たことがあるし、市場にも並ぼう。食べたこともある。
しかしておかしく思うのはその大きさ故。何だあのサイズは……。き、気色悪い……。
ゾクゾクと背中を嫌な感じが走っていく。い…嫌だ…!触れたくない…!関わりたくない……!色んな意味で怖い…!!

だが、その瞬間……。
『あ゙……………!?』
目が、合ってしまった気がする………。魔蛸と……。
そして明らかに向かってきている。どうやらこちらも標的とされてしまったらしい…。
…何と言うことか…!

61 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/09/30(水) 19:02:55 0
迫り来る異形。しかしまだ距離はある。落ち着くのだ、と自分に言い聞かせ、
ヴェノサキスは目を閉じた。そして今の状況を整理し早々に思考を巡らせる。
(私は今危機に瀕している…だが落ち着け、焦ることはない。冷静に考えろ……。

私は何か異常を探す為、ここまで来た。するとどうだ。思惑通り、おかしなものを見つけたじゃないか。
……うん、大きさとかね。あれはおかしい。でも重要なのはそこじゃない…。
あの魔蛸が、私の感じる「異変」に関係あるのかということ。これが大事だ…!
無関係の魔物退治したところで疲れるだけだし、何よりあれに近付きたくない…許されるなら逃げ帰りたい。
…だけど今は手掛かりが無い…目の前の異変はこれだけ…「彼ら」との問答にもいい加減厭きた…でも…でも…!)

『――よろしい、ならば戦闘だ――!』
ヴェノサキスの中で、何かが切れた。
弾かれるように地を蹴り、三本に分解できるロングスピアーのパーツの内、先端部分を取り出し、鋭く投擲する。
空を切り裂き飛んでいくその一投は、徐々に光り始め、遂に蒼い炎の矢となって魔物の額あたりに深々と突き刺さった。
すかさず腰から銃を取り出し、目の前で唖然としている一団の前に躍り出る。
『やぁ、どうも……。余計な手出しをして申し訳ない…。でも、私も目的の為なんだ。
良ければこの場をご一緒させてもらっても、良いかな……?』
一応問いかけてみたものの、返事を待つ余裕はない。背後から、怒りに狂った魔物の触手が迫る。

『…く…!……そそ、それを私に近づけるな!』
勢い良く魔物に振り返り、ありったけの弾丸を撃ち込む。弾の一発一発がドリルの様に捩れている上に、
蒼炎で包まれている為、その破壊力は半端ではない。次々と魔物の肉を抉り、破裂し、燃え上がり、
形を穴だらけにしていく。しかし、見た目のダメージとは裏腹に、あまり効いていない気がする…。
その証拠に、また触手を繰り出してきた。威力も衰えていないように見える。
『ああ、もう、面倒―――!』
触手の突きをかわし、近付きたくないという拒否反応を必死に抑え、出来るだけ接近し、跳躍する。
そしてちょうど魔物の顔面付近まで飛び上がったところで、二丁の銃にがむしゃらに炎を込める。そして…。
『――な!!!』
瞬間。溜めに溜めた蒼い炎を、小さな銃口で思いっきり爆発させた。流石に蛸は吹き飛び、周囲は爆炎に包まれた。
手応えはあったし、魔蛸の顔面が砕け散る瞬間も見えた。しかし……。



『……まだ………生きてたり…?』
爆煙の中から、巨大な触手が再び振り上げられた…………。

62 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/09/30(水) 22:32:23 0
市庁舎大会議場に続く咀嚼音が唐突に止み、人であった異形は一斉に窓のほうに視線を向ける。
そこにはレベッカを抱き寄せるディーバダッタ。
だが、その二人を見つめているわけではない。
二人の肩越しに更に向こう側を見ているのだ。

「僧正様・・・。」
異形たちを代表するようにピラルがディーバダッタの影に膝ま付き、状況を説明。
その言葉に少し眉をひそめるものの、頬は大きく歪んでいた。
「ふっふっふ。刻が近づくにつれ影響は出ると思っていたが・・・もう転化する者が現れるとはな。
誠に人心は麻の如くか・・・。
認識阻害術の出力を上げよ。」
楽しそうにピラルに告げる。

現在市内は終焉の月の行う儀式により瘴気が漂い始めている。
心の弱い人間はそのタガが外れ、治安は悪くなる・・・とまでは予想していたが・・・。
塔の近くで蛸型の異形出現の報を聞き予想を上回る浸透度に手を打ったのだ。

「レベッカよ。宴を待ちきれず先走ったものが出たようだ。
刻を待たずに始めれば儀式に支障が出るやもしれん。
拙僧はまだ準備があるゆえ、済まぬが行って来てくれ。
処置の方法は任せる。」
勿論これは殺害依頼意外何者でもない。
手渡されたオーブは市内の地図が移っており、目的地には赤い光点が灯っていた。

「儀式が始まるまであまり無用なに骸を作ってくれるな。
大事な苗床だ。宴を盛大にする為の・・・!
出来るだけ、で構わぬがな。
儀式の始まりは市内にいればどこからでもそれがわかるから安心してくれたまえ。
それから・・・もし遭遇しても殺してはいかぬ者がいる。
会えばその理由は感じられるだろうから無用の忠告だろうがな。」
その言葉に呼応するように、オーブにはミアの顔が映っていた。

依頼と注意事項を言い終わると、肩を抱いていた腕を広げる。
行ってこい、と言わんばかりに。

63 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 14:20:24 0
「連中、何をしにこんな人気の無いところまで来てるんだろうな。」
手近な建物の屋上に飛び乗って、一行の様子を後方から伺ってみた。
が・・・・・・足元にわずかな振動を感じる。その途端、建物がブッ飛んだッ?!

「おわああああアぁッ?!」
眼下には見ただけで正気が削られそうな気色悪い『蛸』のような化け物がいる。
「お、落ち着いて・・・蛸は足が8本、烏賊は足が10本。1,2,3,4・・・・・・」
13本。

「どっちだぁぁぁッ?!」
などと言っている間に、一人が闘っているのが見えた。
もうもうと上げる煙の中に、触手が一本振り上げられるがこちらに差し出されたようにも見える。
急いで背負った袋を外して、純白の板のようなものを取り出す。
紐で束ねられた二枚の板をそのまま振りかぶって、触手に向けて振り下ろす。

「っぉぉぉお!!」
振り上げられた触手を上空から真っ二つに切り裂いて着地。
摩擦に焼かれた触手から独特の臭いがあたりに立ち込める。
「街について早々、なんで化け物が出てきてるんだか。」

黒煙の向こうに、さっき尾行していた一行がいることには気づいていない。

64 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 15:52:47 0
名前:スペンサー
年齢:40代
性別:男
種族:人間
体型:身長190cm、87kg
服装:金髪、黒のロングコート、黒ブチの眼鏡
能力:格闘戦、高速移動、再生能力(自己治癒)、相手の能力をコピーし強化、拳銃

簡易説明:冷静沈着な男。人間を見下しており、過去に何かあったらしいが
不明。

【参加希望です。敵側として。部下でもしよければお願いします。】

65 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 16:45:46 O
>>64
なんか新規ってダークというより単なるバトル漫画に標準あわせてねえ?

66 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 17:42:30 O
まだそんなもんだろ。これからここの空気を掴んでいくんだよ

67 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 18:40:37 0
>>64
よろしくお願いします

68 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 20:09:42 0
訂正します。

名前:ルキフェル
年齢:40代
性別:男
種族:人間
体型:身長190cm、87kg
服装:金髪、黒のロングコート、黒ブチの眼鏡、黒の手袋、
能力:棒術を使う。あらゆる物質にエネルギーを与えることが可能。
爆弾や、弾丸のような推進力を持った物に扱うことが出来る。


簡易説明:冷静沈着な男。
特異体質で、12時間に1度、薬を飲まないと体力が持たない。
小さい頃に虐められたトラウマから人類が滅亡することを夢見ている。

【参加希望です。敵側として。部下でもしよければお願いします。】



69 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 21:10:04 0
>>68
訂正乙。いくらかマシになった

70 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:05:55 0
>>68
避難所でディーバが待ってるよ

71 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/03(土) 01:34:30 0
「犬のが都合いいってのは解るけどよ、なんでこの三日ずっと変身解かなかったんだ?結構ツラいんだろ」
「馬鹿でかい狼を連れて、昼日中街を歩く訳いかねぇだろ」

「つうか何でトイレ穴開けた!?お前あれをどうするつもりだったんだよ!」
「若いの、ちゃんと前見て歩きな。すっ転んだら全力で踏んでやるぜ」

「――正直お嬢ちゃんにくっついてたときは役得だったろ?正直に言ってみ?なぁ!なぁ!」
「――いやぁここんとこずっといい天気で良かったな。やっぱ祭りはこうじゃないとといけねぇよ」

「こ、この駄犬――!黙秘権発動してんじゃねェェーーーッ!!」
「あーーん聞こえんなぁ〜〜〜!!」


人間として間違った方向に愉快な会話を肴に街を歩く。
いい気分だった。祭りの熱気に多少浮かされたのもあるだろうが、
年下の男相手にここまで饒舌になるのは自分でも以外だった。
何とはなく、波長が合うというのもあるが、それとは何か別の感覚があった。

が、レクストの眼を見たとき、その理由に思い当たった。似ているのだ。奴に。
ガキの頃からずっとつるんでいた気の置けない親友。
――そして7年前、自分をハメて殺そうとした許されざる裏切り者。

奇妙な事に、その事を考えると、何故か奴を最近目にしたような気がするのだった。
ここの所もう一年以上、奴の事を思い出す事はなくなっていたというのに。
むしろ忘れようとしていた。それが何故か今、蘇ってくる。軽い頭痛と共に。

しかし、今は殊更にそれについて思いを巡らせる事はしない。
元より、一度に複数の事を思い悩む事はしない様にしている。
そうした方が、自分の中にある野生の勘とも言うべきものの働きを妨げないというのもあった。

それに、今は他に考えることがある。

72 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/03(土) 01:39:53 0
「(見られてんなぁ・・・)」

めんどくさそうにため息をつきつつ思う。
つい先程から、明確な気配は感じないものの、明らかに自分達に注がれる視線を感じる。
感じるのだが、先程まで周囲にはそれなりに人通りがあったし、その人数や方向まで掴む事はできない。
そもそも、最初は気のせいかと思った程にその気配は薄い。敵意を感じないのも逆に不気味だった。

「―――用があるならさっさと仕掛けてくれば簡単なのに、な」

思った事が呟きになり、それが聞こえたのかミアがこちらを見る。
未だに自分の中でミアへの態度は定まっていない。
軽く笑って肩をすくめるに留め、見張りを排除するシモンを眺める。
今日のシモンは幾分・・・というか、ほとんど以前の感じに戻ったように見える。
と言うよりは、何か明確な目的を持つ眼に戻っているのだ。
仮にシモンに"月"の息がかかっているとして、今のシモンの目的はそれと相容れない可能性が高い―――

そこまで考えた時、傍らの小屋の壁と屋根が吹き飛んだ。

「は―――!?」

全く予想だにしなかった事態に思考は一瞬フリーズしたが、体の方が勝手に反応した。
何やらレンズのような物で遠くを探っていたレクストを突き飛ばし、ミアの襟元を掴んで体を投げ出す。
直後、小屋の中から津波のように伸びた触手が背後を突き抜けた。
不気味にてらてらと光る触手が蠢き、再度こちらを狙い振り上がる。
ってかおいおいまた触手かよ!"月"は異常性向者の寄り集まりか?

立ち上がりつつ、そんな埒も明かない思考をする間にも事態は急変する。
連続した破裂音に続いて黒煙が辺りにたちこめ、触手の一本が切断されびちびちと跳ねる。
気が付けば、二人の人影がその化け物と相対しているようだった。

>『やぁ、どうも……。余計な手出しをして申し訳ない…。でも、私も目的の為なんだ――』

―――何だコイツ。祭りだからってまだ日がある内から仮装大会か?
今時仮面の男なんて流行んねーぞ多分。まぁ狼男も流行らんか。もう訳わからん。
・・・いや、まぁこの滅茶苦茶な状況でもはっきりしている事はある。

「―――お前ら、先に行きな。ここは任せとけ」

背後の三人にそう言って、ちらっと目の前の尖塔を見上げる。
シモンとレクストは先行きの案内に必要だ。ミアは進入手段として欠かせないだろう。
かと言ってこの突然現れた連中を信じ、ケツまくって塔に駆け込むと言うのも危険だ。
ならば、答えは一つだった。

「心配いらねーよ。何なら後から匂いを追っかける事もできる。俺もまだ死ぬ気はないしな」

街中に徐々に漂う甘ったるく不気味な匂いに気が付かなかったのは、他の事に気をとられていたせいか―――
ギルバートはにやりと笑ってひらひらと手を振り、残った触手を蠢かせる化け物に向き合った。
そして右手にはめられた銀指輪に触れ、四つのそれらを半回転させると、眼を細めて化け物に視線を向けた。

73 名前:リュネ ◆PsZZg4lGbttz [sage 満を持して(?)参加させて頂きます] 投稿日:2009/10/03(土) 22:07:38 O
名前:リュネ・シレア
年齢:500歳
性別:男
種族:不死人
体型:チビ/見た目は15歳前後
服装:白拍子
能力:不老不死/"気"を錬る/"気"を五行の元素に変換する/始祖魔導
所持品:封魔環(魔力や気の精製量を制限して操りやすくするアイテム)
簡易説明:
終焉の月教団のマスコットたる御子。永久の御子、深淵よりの使いなどとも呼ばれる
バラバラにされても首をハネても死なないので自らを不死人と号している
永い時を過ごす中で自らの存在意義を闘いに見出しており、終焉の月教団に終末思想を示唆し、世界に混乱を産もうと画策している
現代では失われた技術である五行術や現代魔法の基礎となる始祖魔導を体得している
また永い時を過ごす内に少し心を病んでいる

74 名前:リュネ ◆PsZZg4lGbttz [sage] 投稿日:2009/10/03(土) 22:10:41 O
ぴと………ぴと………
上から落ちてくる水滴以外に音のない洞窟で小柄な少年は坐禅を組んでいた。
張り詰めた空気に常人には、僅か数分も一時間程に錯覚してしまう事だろう。
「御子様」
ずっと前からそこにいて話すタイミングを見計らっていた男が、ようやく彼にそう声をかける。
が少年はこれに無言を持って答える。まるで男などそこにいないかのように。
「先刻、教祖様が御子様へディーバダッタ殿への支援を要請なされたようです」
その発言に御子と呼ばれた少年は片目でギロリと男を睨みつけて鷹揚に訊ねる。
「誰にそそのかされたのだ?」
「教祖様ご自身の判断かと
御子様が退屈などなされぬよう。と仰っておられたそうです」
「誠、アレは人の性を理解しておる。只人には薄気味悪かろう?」
荘厳な雰囲気を崩さずにクツクツと少年は意地悪く男に少年は笑いかける。
「私は只人であります。
故に教祖様や御子様に評価を与えられる者ではありませぬ」
男の予想通りの返答にまたもやクツクツ笑いながら身支度を整えていく。
純白の直垂、真紅の袴に身を包んだのを見て男が送り出す。
「月のご加護がありますように」
少年はそれにも答えない。そんなものなど信じちゃいないと言外に言わんばかりに。

少年が街に魔術で転移した時には、そこにただならぬ様子がありありと現れていた。ただだからといって少年は不快には思わない。
薄い靄のような瘴気を森林浴のように深くゆっくり吸い込む。
「ふん。余興には丁度よい」
同じように深くゆっくり息を吐き出して、亀裂のように鋭く笑みを零す。
いずれ瘴気が濃く街を覆えばここは魔界となるだろう。そう考えると少年は嬉しくて堪らない。
魔界となるのがではなく、とるに足らぬ羽虫が自分に襲いかかってくるのが楽しいのだ。
この際ディーバダッタに口出しはしないが、奴の仕事ならば顔だけでも出すのが筋だろう。そう思い直しディーバダッタの気配の方へ走る。
このまま行けばディーバダッタの所から移動している気配とぶつかるが、なるようになるだろう。
子供だと侮って素通りすればよし。向かってるのならばあしらえばよし。さすがに身内の者を殺す訳にはいかないが。

75 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/03(土) 22:44:26 0
>>74
「あの方が動き出したか。」

眼鏡をくいをかけ直しながら庁舎内を歩く1人の男。
黒のロングコートに金髪。長身の影が闇と同化するように揺らめいてる。
彼の名はルキフェル。輝ける者と呼ばれた天使「ルシファー」から取った名前であった。
しかし、彼の人生は混沌に満ちていた。
少年時代から、出生の理由で何度も彼は虐げられた。
自分に特別な力があることを隠し生きてきた。
だが、ある日、その特別な力で誘拐された少女を助けたことがあった。
彼は人生で初めて賞賛されると信じていた。
しかし、現実は違っていた。
人々は、彼を化け物と呼び恐れ、そして軽蔑の眼差しを向けた。

その日から彼は「輝ける者」の名を捨てた。
ルシフェル、そのもう1つの名前の意味を得たのだ。
混沌を齎す、邪悪なる存在へと。
>>62
「ディーバダッタ様。それと、そちらはレベッカ様ですか?
お噂は伺っていますよ。」

2人に小さく会釈し夜空を見上げる。
素晴らしい夜だ。この世界でこの夜だけは価値がある。


76 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/03(土) 23:14:28 0
>75
「ルキフェルか・・・。」
小さく会釈し顕れたルキフェルに向き、忌々しそうに口を開く。
だがその口調にはそれに見合った棘はない。
むしろ安堵したかのような柔らかな響きがあった。
「場所を変えようか。」
そういうと、ディーバダッタは大会議場をあとにした。

「ああわかっておる。御子が来られたのはな。
ギリギリまで呼ばなかったのは御子のサガ故だ。
合の刻まで大人しく待っていてくれるとは思えなかったからな。」
市庁舎廊下を大またで歩きながら、ルキフェルが口を開く前にぼやいて見せた。
それは地を整え時を合わせたこの儀式を台無しにする可能性を示しているのだ。
「レベッカよ。万が一オーブの少年に出会ったならば、血は騒ぐだろうが抑えてくれよ。
彼は我らが身内だ。」
蛸型の異形制圧の依頼に付け加える注意点を一つ増やす。
オーブにはリュネの姿顔が写るだろう。

市長室に入ると、応接用のソファーに深く腰を沈める。
その窓から差し込む月の光を浴びながら、ギロリと右目を向ける。
「ようやく・・・だ。
ここまで来たのだ。少し愚痴らせてもらうが付き合ってもらうぞ?」
上質なワインに満たされたグラスをルキフェルに差し出しながら不敵な笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「本来これはお前の役目だったのだ。
それを拙僧に押し付けおって・・・!
正直この金眼を呪ったぞ。」
細やかな配慮が必要だった深謀な計画の実行者は豪放磊落なディーバダッタより、理知的なルキフェルのほうが適役だった。
だが、ルキフェルはその役を辞退し、金眼・・・催眠眼・・・を持つディーバダッタに回ってきたのだ。

愚痴を重ねるが、恨みや悪意と言った感情は言葉に乗っていなかった。
最早後僅かな時を待つのみで計画は完成する。
「くくくく・・・だがそれも今宵限りだ。つきに乾杯しようではないか!」
掲げられるグラスに映る月は僅かに欠け始めていた。

77 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/04(日) 20:31:08 0
>>76
「私の役目…でしたか。それは伺ってませんでした。しかし、まぁ
よくここまでやってくれたものです。」

ワイングラスを手に持ち揺らしながらディーバダッタを見る。
この男には深い闇が在る。自分のそれとは若干違う、何か特別な物が。
それに興味がある。これから彼がどんな見世物を作り上げるのか。
楽しみに待っているとしよう。
ディーバダッタが乾杯の合図を取る。
小さく笑みを浮かべそれに応えるようにグラスを鳴らす。
同時にルキフェルの目が、ワインのそれと同じように
赤く光る。

ムカつく正義や情や、愛や、人間とやらが信じる全ての
ルールを破壊する。
それが彼の目的である。
神とやらがいるのであれば存分に足掻くがいい。
まだ、足掻く手駒が残っていればの話だが。


78 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/10/04(日) 20:59:54 0
>「―――お前ら、先に行きな。ここは任せとけ」

黒煙の向こうからそう声が聞こえてきた。
どうも追っかけていた連中の一人がこっちに来るようだ。
板を束ねる紐を解き、二枚に分けてそれぞれを小脇に抱える。
軽く振られるとそれぞれの両端が僅かにずれて穂先のような先端を形成する。

軽く口笛を吹いて、その向こうから現れた人影を見据える。
「どうにも獣の臭いがすると思ったら、その当人が出てきたか。
 ところで知っているか?そういうセリフって、デッドリーフラッグっていう悪縁起を呼ぶらしいぜ?」

煙が晴れて再び『蛸』の姿が見えるが・・・ぐずぐずに焼け爛れている部分がわずかずつ狭まっているようにも見える
つい先ほど両断した触手もぐねぐねと動きながら、二本の触手を形成しようとしている。
「おいおい、まさか再生してるとでも?・・・・・・面倒なのが出てきたな。この街はどうなってるんだ?」

腰に付けたホルダーから札を一枚取り出して、人差し指と中指に挟む。
手挟んだ札に意識を集中すると、根元から先端にかけて描かれた模様が赤い光を放つ。
「『一穿点螺』!」
手から放たれ飛んだ符は、空中で赤光の塊と化して『蛸』の瞳を貫いた。

「で〜・・・とりあえずこの街で何か起きてるのは確実なんだろうな。
 小説とかならここらで解説役とかでも出てくるところなんだろーけど。」


79 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/05(月) 21:13:43 P
>「―――用があるならさっさと仕掛けてくれば簡単なのに、な」
見張りを排除するシモンの様子を眺めていて、ふとそんな呟きが聞こえた。
笑って肩をすくめるギルバートに首を傾げるも、それ以上の言葉はない。
よくわからない人だ、と思う。
気にかけるような視線は確かに感じる。顔を上げた瞬間にいつも逃げられてしまうけれど。
引かれた線を踏み越えて近寄る術など、彼女は知らない。

不毛な思考を中断して空を眺めるレクストへと注意を移しかけた、その時。
小屋が弾けた。

心臓が一気に収縮し、熱い血流が体を叩く。
硬直も解けぬうち、人狼に襟を掴まれ石畳に転がされる。
「……何?」
鉄錆風味の腐敗臭とでも言えるような不快な臭気。
“蛸のような”と形容できるぎりぎりまで狂ったデッサンのソレは、“化物”と呼ぶのが適切か。
(これだけの存在があんな小屋に隠れられる? なぜ誰も気配を感じなかったの? 
まるで、“出現”したみたいに)

驚きはさらに続いた。
突如、今まで全く注意を払っていなかった方向から数々の攻撃が飛び来たのだ。

爆音。黒煙。
>『……まだ………生きてたり…?』
肉を抉る音。
>「街について早々、なんで化け物が出てきてるんだか。」
事情を全く知らない様子で魔物と対峙する二名。
(派手にやったわね……)
彼らの素性よりまず気にかかったのはそこだった。
今の音と煙で、流石に塔や街の警備は異常を察知したはずだ。
>「―――お前ら、先に行きな。ここは任せとけ」
最早、これは陽動作戦と化しているのではないだろうか?
「…。警備が来る前に逃げて」
一瞬の躊躇いを面に出さずに告げ、火の粉の奥で揺れる二つの影に視線を移す。
>「で〜・・・とりあえずこの街で何か起きてるのは確実なんだろうな。
> 小説とかならここらで解説役とかでも出てくるところなんだろーけど。」
「終焉の月」
唐突で端的な、答と言えるか怪しい答。
「月が街を狂わせた。守護も当てにならない。
引き返していい。私たちを忘れてくれるなら止めない。
………。けどできれば――」
刹那、誰かが警告の声を発する。
音の発信源としてか魔力を狙ってか、触手の一本が彼女を狙っていた。


80 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/05(月) 21:35:25 P
ミアは咄嗟に右手を掲げ、術を発動した。彼女が式を立てずに使える数少ない術の一つ、“風弾”。
空気の塊に弾かれ、触手は彼女に届かない。
…息をつく。間に合った。

会話に意識を戻す。
ミアは『できれば、手伝って』と述べるつもりでいた。
なのに。
「――助けて」
咄嗟の行動を挟んだ後の言葉は、何故か違ってしまっていた。
「私は何度も狙われた。
殺されていたかもしれない。未来、そうなるのかもしれない。
…私はまだ死にたくない」
いきなりの内容に、初対面の人間は面食らうだけかもしれない。
だが、静かながらもそれが本心であることは伝わっただろう。
ミアは言い終えてどことなく気まずい思いを抱えながらも、
「……信じるも信じないも、勝手」
誤魔化すようにそう付け足し、それ以上言葉を重ねることなく踵を返した。
塔のことなど、細かい事情説明は適宜ギルバートがしてくれるだろう。
そのまま、塔へ向かう一本道を駆け出す。





警備隊の目を誤魔化しながらも道を駆け、例の窓の真下にあたる位置に辿り着く。
物陰で呪文を唱え、術式を展開。
「“飛翔”」
30秒程の浮遊を経て、窓枠に手が届く程の位置に一行は到着した。

81 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/05(月) 22:03:58 0
「尖塔付近で爆発音が確認されました。」
「三番塔か?だったらそれは届出がでている。
念の為既に人はやっているから気にしなくて良い。」
市庁舎前広場の天幕。
祭りの期間中守備隊の本部となっているそこでプリメラは報告に対し抑揚のない声で応えていた。
別段変ったところはないのだが、目に光りは宿っていない。
だが決して生気が無いというわけではなく、むしろいつもに増した凄みをかもし出していた。
僅かながらもその様子を不審に思いながらも守備隊員は反論する事もできずに天幕をでる。
今年は不穏な空気の中の祭りとあってプリメラもピリピリしているのだろう、と自分で結論をだして。

前夜祭の市内では一種異様な盛り上がりを見せていた。
各所で様々な出し物があり、炊き出しのスープが振舞われ甘い香りで街を満たしている。
市内の人々も多くがプリメラと同じ様な状態となっているが、それを不信と思うものはいなかった。
それも周到に用意された認識阻害の術の効果なのだ。

水面下で静かに、しかしそれは確実に。
終焉の月の宴は整っていく。

     *        *        *        *

三番塔の最上階。
クリスタルを囲んでいた黒衣の男たちもそれに気付いていた。
異形の出現。
爆発・・・戦闘。
「慌てるな!ここまで上がって来るまでには時間がかかるはず!時を外してはならん!」
不測の事態に驚きつつも、黒曜石のナイフを持つ男が檄を飛ばす。
尖塔内の階段には数々の罠が仕掛けてあるのだ。
時間稼ぎには十分なる・・・筈だった。
しかしその目論見は脆くも崩れ去る事になる。

イレギュラーは階段を使わず、直接飛翔し窓に達しているのだから。
「ぬ・・ううう!儀式の邪魔をさせるな!落とせ!」
青白い月明かりにミアの顔がはっきり見えていたのだが、動揺のあまりミアが何者かを忘れてしまっていたのだろう。
男の頭は儀式を完遂する事のみで占められてしまっている。
指示に従い三人の黒衣の男が白刃を抜いて窓に殺到するのであった。

部屋の中央にはクリスタル。
月明かりに照らされたクリスタルの中のパーツはうっすらと赤く光り始めている。
そしてその前には黒曜石のナイフを右手に。
気絶しているのだろうか?縛られたまま動かぬ少女の髪を左手に掴んだ黒衣の男がわめいている。

洞察力のあるものが見ればわかるだろう。
一見すると人質を取っているようにも見えるが、男は少女を傷つける様子は無い、と。
少なくとも今すぐには。

そう、黒衣の男には少女を傷つけられぬ訳があるのだ。
儀式完遂の為、生贄の首を切り裂く刻は定められているのだから。

【尖塔最上階の小部屋。
窓際:黒衣の男(ナイフ装備)*3/雑魚
部屋中央:黒衣のリーダー(黒曜石のナイフ・縛られた少女)/雑魚
決定リール・ワンターンキル可
クリスタル内部のパーツがどこの部位かは自由に決めてもらっていいです。】

82 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/10/06(火) 00:31:26 0


もういい加減
雑談所で宣伝は止めようぜ




83 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 00:37:56 0
>>82
同意。
避難所がホスト割れして自演ができないから不便なのかもしれんが
それならなな板に避難所を立ててそこでいくらでも感想を言い合ってくれよ。

84 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 00:39:14 0
この板に避難所を建てれば解決

85 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/10/06(火) 00:40:36 0
82 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/10/06(火) 00:31:26 0


もういい加減
雑談所で宣伝は止めようぜ




死ね





こんなもんじゃんwwwwwwwwwwwwwww







86 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 00:41:21 0
688 名前: 名無しになりきれ [sage] 投稿日: 2009/10/06(火) 00:38:48 0
82 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/10/06(火) 00:31:26 0


もういい加減
雑談所で宣伝は止めようぜ




死ね

87 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 00:42:03 0
ひどすぎる

88 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 00:44:42 0
マジで避難所を立てたら?
今まで通り雑談所でしていた感想の言い合いを避難所でできるんだし・・・・

89 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 00:48:05 0
>>88
それだと宣伝ができないじゃん

90 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 00:52:46 0
スレ主どーすんだよ

うはっスレ主は名無しだw

91 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 01:03:00 0
>>90
ガチムチの宣伝活動が招いたことだから
ガチムチが責任を取ればいい

92 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/10/06(火) 01:18:04 0
695 名前: 名無しになりきれ [sage] 投稿日: 2009/10/06(火) 01:14:51 0
こっちや避難所で何を言おうが本スレだけはそれなりに控えてたのが最後の良心だったのに、
キチガイがついに最後の一線を越えたか

93 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 01:19:30 0
なんでダークコテは挑発するんだ?

94 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 01:24:08 0
82 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/10/06(火) 00:31:26 0
死ね

695 名前: 名無しになりきれ [sage] 投稿日: 2009/10/06(火) 01:14:51 0
こっちや避難所で何を言おうが本スレだけはそれなりに控えてたのが最後の良心だったのに、
キチガイがついに最後の一線を越えたか



んなこと書くから火に油・・・・

95 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 01:26:31 0
698 名前: 名無しになりきれ [sage] 投稿日: 2009/10/06(火) 01:24:21 0
だから何でお前らの脳内ではダークの話題=ダークコテと確定してるのかと
ここ見てるなんて口滑らせたグッドラのせいか?

96 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/06(火) 03:35:49 0
目の前に聳え立つ尖塔を目指すシモンであったが、後ろから
自分達以外の何者かが後を付けているのが分かった。それも二人。
(まさか…な。”月”の残党がまだ沢山残っているというのか…?)
そういえば先ほどの見張りも不自然だ。
巨漢の僧侶の他にも幹部がいるというのか…
そのときだった。

「なにッ!」
轟音とともに小屋が崩壊し、中から蛸のような怪物が姿を現した。
ピラルが変化した触手の化物よりもずっと大きい。
「うぅっ…あ、あれは…」
シモンは壊れた小屋の周辺に散らばるものに目をやった。
それは紛れもなく、人だったものであった。
いつだったか、ここに来た時に見た死体の山を思い出す。
「…!」
目の前を何か白いものが横切り、小屋の裏を通って尖塔の方に向かっていった。
まぎれもなくそれは猫であった。首には赤い宝石をぶら下げている。
まだ”月”の組織は健在なのだ…!

蛸の怪物に身構えるシモン。ミア、レクストの方に伸びる太い触手をナイフで素早く切り飛ばす。
逆方向ではシモンたちの後ろを付けていた男たちが、同じく蛸と対面していた。
盗賊風の若者と、怪しげな仮面の男である。予想に反して善戦しているようではあるが…
(なんだありゃあ…敵じゃねえなら別に構わないんだが)

再びナイフを構え、コカトリスにも手をかけるシモンを、ギルバートが遮る。
「―――お前ら、先に行きな。ここは任せとけ」
「…」
「心配いらねーよ。何なら後から匂いを追っかける事もできる。俺もまだ死ぬ気はないしな」
シモンはしばし躊躇した後、方向転換し、ミアとレクストを伴って尖塔に肉薄した。
仲間として心配する感情がない訳ではない。しかしそれ以上に敵戦力に対する不安感があったのだ。
(最悪この三人だけで何とかなるのか…?)
ギルバートらの善戦を祈りつつ、そこを後にした。

「“飛翔”」
ミアの魔法の力を得て、ひとまず三人が尖塔の窓枠に向かった。
しかし、そこには敵と思われる黒いローブの三人の男が待ち構えていた。
「ぬ・・ううう!儀式の邪魔をさせるな!落とせ!」

97 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/06(火) 04:23:38 0
「ぬ・・ううう!儀式の邪魔をさせるな!落とせ!」
幹部らしき男の声が響く。まだ統制が十分に取れているということだ。

「うわ、おっと、おーっとと…」
シモンがバランスを崩したかのように空中でよろめく。
レクストもこれには慣れず、すぐに武器を構えられないらしい。ミアは言うまでもなく魔法を発動中だ。
ローブの男たちはこれに対し冷静に対処し、塔に迫る三人を確実にナイフで突き殺そうと接近してくる。
「ぐぁ…!」
突如、その男のうちの一人が首にナイフを突き刺され、うめきながら倒れ伏した。
「ヒィ…!!」「な、なぁぁ!」
シモンがナイフを投げ、残る二人の息の根をも止める。
そう、彼はその状況を逆に利用し、複雑な体勢から相手を狙ったのだった。

塔の最上部に乗り込む三人。
そこは円形のフロアだった。中央にはクリスタル。赤く淡い光を放つそれは、
中に何か妙なものが封じられていた。
そしてその近くでは幹部と思われる黒ローブの男が、ミアよりも幼い全裸の少女の首に
黒曜石のナイフを突きつけている。
「ぬ、ぬぅぅ…!貴様ら、どうやって…!あ、あれは…もしや”門”ではないか…!?」
状況はよく飲みこめなかったが、シモンの興味はほぼ、目の前のクリスタルに注がれていた。
「とりあえず、クリスタルをこちらに渡してもらおうか」
「ふざけた事を…!動くな!さもないとこの娘を今すぐ生贄に捧げるぞ」
少女の首にナイフがぎりぎりと押し付けられる。さすがのシモンも動きを止めた。
その時だった。
ガタン…
フロアの側面の壁が崩れると、両側からそれぞれ三体ずつ、人型のものが飛び出してきた。
ジャキッ…
金属音が鳴り響き、ローブの男とシモンたちの間に壁のように立ち塞がる。
クリスタルと同じ淡い赤色に輝く鎧を着込み、剣と盾を持ったそれらは、
紛れもなく人間の男女であった。全て死体である。
シモンの記憶では、小屋の中にある死体が選別されていたのを覚えている。
恐らくこれが”選ばれた死体”なのだろう。

(あれは…!)
その中にはあのシモンを捕らえた女の姿もあった。もう人としての感情がないのだろう。
体に不釣合いな剣と盾を構えながら、生気のない表情でこちらに近づいてくる。
素早くナイフを首のあたりを目掛けて投げると、予想外の速さで盾で受けられる。
「はぁっ!」
その動きを見越してか、シモンが横っ飛びになり、頭目掛けてもう一本のナイフを飛ばした。
「なにィ…!」
たしかにそれは頭に命中し、敵の頭を脳ごと半分吹き飛ばした。しかし…
切り口はすぐに再生をはじめ、元の状態に戻りつつあった。
(こいつら…まさに”不死”という訳か…)
「奴らを一歩も動かさずに始末しろ。だが”門”だけは殺すな!」
ローブの男は少女を引き摺るようにしてフロアの後ろに向かっていった。

キュゥゥゥ…!!
下の方で大蛸の断末魔ともいえる声が響いた。そろそろ片付いた頃だろうか。
「ミア、後ろの連中を連れてきてくれ… しばらくは俺とレクストでなんとかする!」
果たして何人生き残っているだろう?
「!!」
その思いながらシモンは横目でクリスタルを見た。何と、クリスタルの中にあるものは
人間の心臓だったのだ。

98 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/06(火) 13:10:37 0
雑談所の実況使用防止の為、避難所を創設。
当スレの論評、実況は下記スレッドで。
ダークファンタジーTRPGスレ避難所・なな板version
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1254801955/

99 名前:リュネ ◆PsZZg4lGbttz [sage] 投稿日:2009/10/06(火) 20:38:32 O
>>75-76
優雅に(?)何ぞ呑んでいるディーバダッタ達の前に不死人たる少年がフラリと現れた
「首尾は如何か?我らが同志たちよ」
おおよそ背丈に似合わない尊大な態度で二人の男に少年は語りかける
「むぅ………しかしまだ宴には少し早かったらしいな」
少しばかり洒落た窓枠にはめられた窓から、少年はもどかしそうに月を見つめる
「解っている
俺から来たのだ。退屈しのぎを用意しろなど無体は言わぬさ」
窓から身をフワッと翻しディーバダッタに向き合う
そこには残念がる、ある意味で子供らしかった彼は無く、荘厳な御子がいた
「お前たちは嫌がるだろうが俺はディーバダッタ、貴様の策の成就のために来たのだ
頼みは何でも言うが良い。帰れ。とはよもや言わぬよな?」

100 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/06(火) 22:21:16 0
>77>99
ルキフェルと酒を酌み交わしている最中にふらりと現れる少年。
巨躯のディーバダッタや長身のルキフェルの半分ほどの背丈。
ボサボサ頭の子供だが、彼こそが終焉の月にあって永久の御子、深淵よりの使いなど呼ばれる黒幕的存在なのだ。
見た目とは裏腹に、その声には二人を跪かせるに足る荘厳な響きが込められていた。

>「お前たちは嫌がるだろうが俺はディーバダッタ、貴様の策の成就のために来たのだ
>頼みは何でも言うが良い。帰れ。とはよもや言わぬよな?」
「拙僧の?いいや、これは我らの・・・終焉の月の計画ですぞ。
良くぞ無事来られた事に感謝します。それこそが我が最大の頼みです。」
片膝をつき頭を垂れながら恭しく応える。
【無事来られた】というのは、何もリュネの身を案じてではない。
リュネがその戦闘衝動のままに暴れれば、彼一人でこの街を壊滅させてしまうだろう。
だが、それでは同時に儀式も破壊されてしまう。
終焉の月の計画はこの大都市の破壊などではないのだから・・・。

「帰れ、などとは言いませんとも。
帰らずとも我らが故郷がこの町へと来てくれますからな!うはっはっは!」
ゆっくりと身を起こし笑うその声は部屋の空気をビリビリと振るわせた。
「合の刻は迫り後僅か。
時来たりて儀式が成ればこの街は一変し、門を開けるのみとなります。
我らは世界を変える・・・!
しかし、世界に変動を与える時、強力な反作用が生まれるのは定め。
七年前のように・・・!
今回如何様な反作用が生ずるかは判りませんが・・・それを叩き潰すのも儀式に添える花と言うもの。
万全の準備は整えては起きましたが・・・御子が満たされるかもしれませんぞ。」
にやりと笑いながら七年前のゲート争奪戦を思い出していた。

七年前、門に手をかけるまでは成功していたのだ。
だが、儀式の範囲が世界規模に広がりその分効果は薄まり、反作用も広範囲にわたり起こった。
そしてついには門を死なせると言う事態に陥ってしまったのだ。。
だからこそ、このヴィフティアを選んだ。
街を覆う結界装置を操作し、儀式効果を市内に限定する為に。
そう、今この街の結界は外部からの流入を防ぐと言うより、内部からの流出を防ぐ為に機能しているのだ。

ルキフェルは人類の滅亡を望む。
リュネは混乱と戦いを。
儀式は両者の望みを叶えるだろう。
そしてディーバダッタの願いも・・・。
三人は世界の終わりの始まりを起こし、一番間近で垣間見る事になるだろう。

刻々と迫る時を月だけがその身で刻んでいた。

101 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/07(水) 03:15:51 0
名前: フィオナ・アレリイ
年齢: 20歳
性別: 女
種族: 人間
体型: 身長160cm弱、出るところは割と出てる。

服装: ガントレット、グリーブ、チェインメイルの上から神殿の意匠の入った白いサーコート着ている。

能力: 騎士剣技と神聖魔法。見た目から予測できない程度の頑強さ、筋力を持つ。

所持品: バスタードソード、ラウンドシールド、聖印

簡易説明:神殿所属の聖騎士。年の割りに落ち着きが無く勢いが先行するタイプの剣術バカ。
    生来の頑強さと男性の同僚に勝るとも劣らない筋力がそれに拍車をかけている。
    神殿での主な仕事は聖女の付き人。
    聖騎士の位置づけは特別というわけではなく神聖魔法も使える騎士の総称。

【新規参加お願い致します】

102 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/07(水) 03:23:51 0
魔術都市ヴァフティア中心街の一角である神殿広場。
その呼び名の基ともいえる主神であるルグスを祀る大神殿、その一室。
柔らかな蝋燭の光に照らされた部屋には少女と、膝を折り頭を垂れる騎士。

『何者かが魔を降ろそうとしています。』
厳かに少女は告げる。
「しかし聖女様、現在街はラウル・ラジーノ祭に向け大勢の警備が出ておりますが?」
問いかける騎士。
神殿の意匠の入った白いコートを纏ったその体躯は精強でなる神殿騎士にしてはかなり小柄だ。
神殿騎士の中では珍しい女性騎士のフィオナ・アレリイである。

『この厳重な警備の中そのようなことはありえない、と?』
「い、いえ、決して疑っているとかそういった事ではないのですが……。」
少女の言葉にわたわたと腕を振るフィオナ。
背中まで届く長い髪も慌しく左右へと揺れている。

『フィオナ、貴女の言うとおりこれだけの警備を掻い潜って儀式を執り行うのは不可能と言っていいでしょう。
警備の者の中に通じる者が居るのでしょう。
ですからこの事も私が信頼できる一部の者にしか伝えていません。』
「そ、そうなのですかっ。」
事の重大さとは裏腹に答えるフィオナの声はどこか嬉しげな響きが含まれている。
信頼できる、という言葉に照れているのだろう。

『……そこで貴女には調査に当たって頂きたいのです。
先程も言いましたがこの事を知っているのは僅かしか居ません。頼りにしていますよ?』
「畏まりました。フィオナ・アレリイ、この一命に代えても聖女様の信頼に応えてみせます。」
どこか心配げな聖女の声とは対照的に勢い良く答えるフィオナ。

『神託では"小さき門を守れ"ともありました。
またその"門"と行動を共にする者達も居ると。
おそらく降魔の執行者の狙いも同じなのだと思います。』
そのお告げに頷くとフィオナは部屋を後にした。

103 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/07(水) 08:57:32 O
>>101
よろしくお願いします

104 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/10/07(水) 19:13:39 0
『…それぞれ何方か存じないが……結構にお強い様で…』
自分の出る幕ではなかったか。新たなる乱入者は中々の強者らしく、蛸を相手に一歩も譲らない。
だがしかし、私とて事に手を掛けたのだ。一応は最後まで付き合わなくては。

先程の一団は、一人を残し、他は皆少し先に見える塔へと向かって行った様だ。
あそこに何かがあるのだろうか。とりあえず、これが終わってから出向いてみることにして……。
弱りきった蛸に再び銃を構えた時、塔へと向かう一団の中の女の子が、触手を防ぎつつ、背中に言葉を投げかけてきた。

>「――助けて」

『―――!―――』
その言葉を聞いた時…奥底に封じ込めたはずの過去が、ほんの少しだけ燃え上がった気がした。
泣き叫ぶ少女の声。何かが焦げたような、不快な臭い。目の前に横たわる、人の形をした炭。
そして、見渡す限りの――――蒼焔の海――――
……もうあんな想いはしたくない…だからこの仮面をつけた…顔なんて、覚えてもらわなくても良い。
私という存在と出会った事実だって、すぐに忘れてくれて構わない。
少女はあの時から泣くことをやめた。他人と感情を共有することもやめた。人と人との繋がりを、断ち切り拒み続けた。
しかし今、その胸の内には何十年か越しの、暖かい感情の火が燻り始めていた。
守りたい。この子を。嘗て自分が守れなかったものを。今度こそ…………。

『……助けるよ。私が…私に出来るなら、絶対に……』
仮面の黒白銃使いは、小さく、しかし力強くそう言った。
『…それに…その…おかしな話……だけど………私、女の子には弱いんだ……』
今度はただ小さいだけの声で、女の子には届いていない。走っていく一行を見届け、
ヴェノサキスは蛸に向き直るやいなや、怒濤の勢いで凄まじい弾幕を蛸に浴びせる。
撃って撃って、撃ちまくる。着弾する度に、グチャグチャっ、と肉が抉れる音がする。
最早蛸の触手はその形を成しておらず、ビクンビクンと痙攣する、ただの醜い肉塊と化していた。
しかし、どうにも本体の方は未だにしつこく再生を続けている様子―埒が明かない―。

そう判断すると、今度は周囲に目を向ける。そこには、自分と同じく蛸の相手をしている二人が…ならば。
『そこなお二人!この触手共は私に任せて、どうか本体を潰してはくれないか!?せめてこの場だけでも、
見ず知らずの私を、信じてやってくれ!』
言葉を終えると同時に、二人が対峙している触手を撃ち散らす。
今出来る、最大限の協力の誘いと、意思表示のつもりで…………。

105 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 00:57:14 0
質量と剛性を兼ね備えた何かが風を斬る音を聞き、反応する前にレクストは宙へと放られた。一瞬先まで居た場所を巨大な触手が駆け抜ける。
背中を強く押したのはギルバートの右腕。彼はレクストを突き飛ばすと同時にミアを抱え別方向へ跳んだ。

「おわっ!?な、何だよ一体!」

バイザーに目を押し当てていたレクストは咄嗟のことに身体が動かない。追撃の触手が伸び、それを傍にいたシモンが斬り飛ばしたところで
ようやく周囲を見渡す余裕ができた。敵は巨大な蛸。無論その体躯には魔瘴が漲り、ぬらぬらとした粘液が不気味な艶を与えている。
既にギルバートがレクスト達を庇うように立ちはだかっており、その向こうには二人の人影。

(また魔物かよ――どうなってんだこの街は!どっから出てきた?どうしてこれだけデカいのが出て騒ぎにならない?)

大通りからそう離れていないにもかかわらず、土煙と建物の向こうに見える往来に異変はない。誰もがこちらに目を遣らず、
『まるでこの尖塔の周辺だけが人々の認識から切り取られているように』、さながら異界の様相を呈していた。

従士であるレクストは知っていた。よく潜伏派のテロリストや敵国の諜報員が自身や本拠地にかける結界魔術『認識阻害』。
指定した箇所を人々が違和感を感じないレベルで意識から外す、そこに在るのに所在が掴めない隠蔽系統に属する術式だ。

(にしてもこんな大規模で強力なのは見たことないぞ……?イーリス隊長の言ってた『勢力』――つまりは『月』の仕業か!)

「―――お前ら、先に行きな。ここは任せとけ」
銀の指輪を武装へと変えたギルバートが言い、

『やぁ、どうも……。余計な手出しをして申し訳ない…。でも、私も目的の為なんだ。良ければこの場をご一緒させてもらっても、良いかな……?』
仮面の人影が呟くように問い、

「で〜・・・とりあえずこの街で何か起きてるのは確実なんだろうな。小説とかならここらで解説役とかでも出てくるところなんだろーけど」
符術らしき術式で魔物の顔面を穿つ少年が語る。

「――任せるぜ駄犬!死ぬなよ向こうの二人!」

伸びてくる数本の触手に迎撃の魔導弾を放ちながらレクストは踵を返した。シモン、ミアと共に尖塔へと向かう。
残って蛸を討伐するという選択肢もあったが、ギルバートは任せろと言った以上は信頼する。直前に見た『箒』の存在も気になる。
何より、この街で今起きている『異変』の最も正答に近い手がかりが尖塔にはあると、直感めいた本能が語りかけている。

尖塔の入り口近くまで接近し、ミアが飛翔術を発動する。不可視の力がレクストを掴み上げ、先行する二人と共に上空へと牽引していった。
『飛翔』の世話になるのは初めてではないが、何度やってもこの奇妙な酩酊感は馴れることが出来ない。内臓が引っ張り上げられる感覚。

さしたる時間をかけずに窓枠へと辿り着いた。まずミアが地を確かめるように脚を着け、続いて男二人が半ば放り出されるように窓の中へ。
突入開始である。

「ぬ・・ううう!儀式の邪魔をさせるな!落とせ!」

蛸の出現で外へ警戒が向いていたのか、尖塔内部へ入ると同時に黒衣を羽織った三人の男が襲撃してきた。
全員がナイフで武装し、既に窓の傍まで接近してきている。"浮遊酔い"から醒めないレクストは咄嗟に反応することができない。

「ぐぁ…!」「ヒィ…!!」「な、なぁぁ!」
気付けば全員が喉笛から一様にナイフを生やしていた。鮮血を撒き散らしながら絶命する。いち早く体勢を整えたシモンの早業だった。

「ぬ、ぬぅぅ…!貴様ら、どうやって…!あ、あれは…もしや”門”ではないか…!?」

後ろへ控えていた黒衣のリーダー格らしき男が叫ぶ。またしても固有名詞。門ってなんだ?それよりも――
更に後ろの壁から6人の兵士が歩み出てきた。全員の顔に血の気が無く、傍から見ても死体である。にも関わらず、

「奴らを一歩も動かさずに始末しろ。だが”門”だけは殺すな!」

見えない糸で操られているかのように剣と盾で武装しこちらへ向かってくる。

「ミア、後ろの連中を連れてきてくれ… しばらくは俺とレクストでなんとかする!」

シモンがミアに指示を飛ばし、言われた通りに彼女が窓枠から姿を消したところで、レクスト達は死体兵に包囲されていることに気が付いた。

106 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 01:30:16 0
コクハ達に通信が届く一刻前。
治安事務所に人の姿はなく、部屋の片隅にオーブが鎮座していた。

イジョウナ シツリョクヲ カクニン
クリカエス イジョウナ シツリョクヲ カクニン
ケイカイレベル A
エングンヲ ヨウキュウスル

部屋が赤い光で染まった。
何事かと生あくびをかみ殺しつつ隊員が出てきた。

「いったい何事だ。警戒レベルA?」

髪は寝癖が立ったまま。重たそうな瞼オーブを操作し、街を映し出した。
だが、異常らしい異常は特になかった。

「機械の誤作動か」

オーブを操作し、リセットボタンを押した。
部屋にともされていた赤い光が消え、元の暗闇に戻った。

「さて、もうひと眠りするか」

隊員は生あくびをかみ殺しつつ部屋を後にした。


107 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 02:38:18 0
だが、例の隊員が寝室に戻ることはなかった。

ー隊員を一名抹殺。

隊員が床に転がっている。眼は見開かれたまま。瞬き一つしない。

ーこれよりオーブを破壊する。

オーブにひびが入った。オーブから音声が発せられることはない。

ーオーブの破壊完了。これより撤退する

男が転送の準備を始めようとしたその時、コクハ達が現れた。

ー失敗。ならばすることは一つ。

男の手からナイフが離れた。
同時にコクハ達が散った。
逃げ遅れた隊員ののどにナイフが刺さり、空気の抜ける音がした。
男の眼が光った。
隊員の一人が動けなくなった。
コクハがすきを突き、剣を振り下ろした。
男の体に剣が触れるよりも早く、男が腹にけりを入れた。
コクハの体が窓ガラスを突き破った。
残された隊員達が一斉に襲いかかる。

ーもはやこれまでか。

部屋が白一色にそまった。
隊員と男の姿はなく、生き残ったのはコクハ一人となってしまった。

108 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 03:00:09 0
尖塔内部に突入した瞬間、否――黒衣のリーダー格が抱えるようにして連れ去った全裸の少女を、
その首に当てられた黒曜石のナイフを、視認した瞬間にレクストの従士としての本能は『人質の確保』を選んだ。

死体兵の包囲網を全速力で駆け抜ける。振るわれる剣の隙間を縫って、背後のフロアへ向かおうとした黒衣へと肉迫する。
と、彼我の距離が5メートルを切ったところで足を止めた。気付いた黒衣がこちらへ少女と刃物を見せるように突きつけたのだ。

「ち、近づくんじゃない!今すぐこいつの喉を裂いてやってもいいんだぞ……!!」

牽制の声は震えていた。一瞬にして仲間が殺された恐怖がそうさせているのか、気絶したままの少女を抱える腕も心もとない。
いや、違った。よく見ると首筋に触れているナイフは刃が立っていない。本当に殺す気はないのだ。緊急事態ゆえに盾にしただけなのだ。

部屋の中を見回す。魔術文様がそこかしこに施され、中央には巨大なクリスタル。中には人の――心臓。
充満する特殊な香。男達が着ていた黒の術衣。魔術的媒介性を持つ黒曜石のナイフ。全裸に首飾りだけの少女。
そうか、とレクストは合点がいった。彼女は人質などではない。儀式に用いる、『供物』――

「ふざけんなよてめぇ……!!」

怒髪が天を指した。頭蓋に血が上り、沸騰しそうになる傍ら、どこか冷徹になる自分が居る。
許せない、と思った。赦さない、と思った。人質ならまだ理解はできる。利己的ではあるものの、そこには防衛的な理由がある。
だが生贄だと?他者の命を、生きる権利を蹂躙し冒涜し陵辱してまで何を求めるというのか。そこに正義などなく、故にレクストは赫怒を得る。

ともあれ状況が悪い。現状で殺意が無いとはいえ追い詰められた黒衣が捨て鉢にならないとも限らないし、魔導弾で狙おうにも
少女が盾になっていては誤射が怖い。一応非殺傷ではあるものの、何の防護も加護もない生身の人間が受けるには強すぎる威力だ。
それでも。ここで退くわけにはいかない。

「おい、来るな!そこから一歩でも踏み出せばこいつを殺すぞ!」
無視して一歩踏み出す。黒衣はますます歯噛みして一歩退がる。

「俺が動かなくても機が来ればてめぇはその子を殺すんだろ?すると俺もお前を殺すだろ?なら俺はその子を『優先』しねぇ。死ぬ順番が変わるだけだ」
「ほ、本気か貴様……!」
「そりゃ意味のねぇ質問だな。試してみるかよ?」

レクストは降魔術によって母を魔物に変えられた。なんの慈悲も覚悟もなく、ただ一方的な命の蹂躙によって奪われた。
当人を無視して捧げられたという点においては、少女と母の立場は酷似していた。ただ一つ違うのは、

(――今度は助けられる!!)

バイアネットを構えた。砲身を開き、魔導弾射出機構に魔力を投じる。びくりと黒衣が弾かれたように身構える。
少女をまさに盾の如く前面に立て、自分はその死角に隠れるように身を縮めた。

「撃つのか?この娘を撃てるのか貴様は!娘は薬によって衰弱している!例え非殺傷の魔導弾でも喰らえば心臓が止ま――」
構わず撃った。射出された魔導弾は極彩色の曳光で軌跡を残しながら少女と黒衣へ矢のように奔る。

「チィッ!本当に撃ってきやがった――!!」
黒衣は少女を引き戻し、代わりに黒曜石のナイフを前に構えた。刹那の時間で魔力を通し、遮蔽術式を展開する。
護るための術式壁に魔導弾が触れた瞬間、それは大きく拡がるように展開した。威力のないそれは内包する光を解き放ち、

「――閃光弾!?」
黒衣が呟いた名前通りの効果が発揮された。術式によって指向性を持たされた閃光は黒衣だけを飲み込み、その視界を白く染める。
極光が晴れて男に視力が戻ったとき、そこに居るはずのレクストが消失していた。

「――信じてたぜ、てめぇは今少女を殺すわけにはいかない。だから必ず自分で弾を消しにかかるってな」

背後から声がした。レクストがそこにいた。黒衣の男が振り向くより速く、バイアネットの銃底が男の横顔にめり込んだ。
そのまま打ち下ろすように目一杯のフルスイング。ごしゃり、と小気味いい音。黒衣の男は頭から地面に叩きつけられ、二三度跳ねたのち動かなくなった。
縛めの解けた少女が倒れる前に受け止め、レクストは地面に伸びた男にダメ押しで失神・麻痺・拘束と魔導弾を接射で連射する。

「てめぇを信じた俺の勝ちだ。――ケツ持ちが誰だか詰め所でゆっくり聞かせてもらうぜ?」

【黒衣のリーダー格を撃破  人質の少女を確保  加勢が来るまでの時間稼ぎを続行】

109 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 04:23:47 0
その日ヴァフティア市街は熱気に包まれていた。
中心街へと続く通りには無数の屋台が立ち並び空には魔導飾灯が漂い彩を添えている。
太陽神でもあるルグスの威光を模した巨大なキャンプファイヤーの準備のために借り出される土木用ゴーレムや作業員、
前夜祭を楽しむ人々で街はごった返していた。

その喧騒から外れ市外に位置する尖塔がそびえ立つ通りにフィオナは居た。
「うーん……まったく手がかりがないなあ……。」
カチャリと鎧を鳴らし嘆息する。
前夜祭が始まれば人で溢れる中心街の調査は不可能と思い、昨日まで街中をしらみ潰しにあたって見たものの全て空振り。
ヴァフティアを覆う結界を司る尖塔には常より厳重な警備が当てられている事は知っていたがダメ元で来たというわけである。

ときおり聞こえてくる祭を楽しむ声へと恨みがましい視線を向けながら人気の無い通りをトボトボと歩き続ける。
(お腹も空いたし戻って屋台で何か買おうかな……)
などと考えていたその時、尖塔のある方向から爆発音とそれに続いて破砕音が聞こえる。

「主よ、お導き感謝します!」
短く感謝の言葉を口にすると緩んでいた気を引き締め音のした方へと駆け出す。

走ること数分。
三番塔と呼ばれている尖塔の入り口が見えてくるが居るはずの警備が見当たらない。
しかし駆けている最中に飛翔術を使い塔へと入る人影も確認している。
そのままの勢いで尖塔を駆け上るフィオナ。

上の階から聞こえてくる争う声。
次いで銃声。
剣を抜き、盾を構え、扉を蹴破り部屋へと踊り込む。
「そこまでだ!賊ど……も?」
部屋へと突入したフィオナの目に飛び込んできたのは異様な光景。

全裸の少女を腕に抱く従士隊の鎧に身を固めた男。
その足元に倒れている黒衣の男。
窓際で交戦中の軽装の男。
そして――死体がいっぱい。

神に仕える聖職者が持つ不浄なる者を見極める能力、それは聖騎士であるフィオナにも当然備わっている。
死体に雑霊を憑依させ使役するのは降魔術の代表的な技である。
そしてその武装した死体に襲われている従士と軽装の男。
誰が悪なのか判断に窮し

「えーと……神の摂理に逆らう不浄なる者達よ!人の世にお前達の居る場所は無いと知りなさい!」
とりあえず己の信ずる教義に明確な敵として存在する不死者へと剣を振り下ろした。

110 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 16:30:28 0
「――助けて」
「…私はまだ死にたくない」

その声を聞いた時、思わず振り返っていた。
無感情で、まるで人形のような―――そう思っていた少女が発した一言。
それがギルバートの胸の内を強烈に揺らす。

―――そうか。ああ、そうだな―――"今度こそ"絶対に生きてもらわないと、な。

懐からマッチを取り出し、点火機で挟み潰す。
衝撃によって発火するコルダイト大火トカゲの肝の粉末が青白い火を発すると、
それを今まで口にくわえるだけだったパイプに移して大きく一口、吸う。

「・・・これにケリが付いたら、全部話してやる。"かつての"嬢ちゃんの事全部、な。
 だから・・・死ぬなよ。おい若いの、お前らがエスコートするんだぞ」
「――任せるぜ駄犬!死ぬなよ向こうの二人!」
「…」

三人が走り出すのを見届けると、今度は左手に黒皮の手袋をはめ、ぼきぼきと指を鳴らす。

"フェンリア"―――希少なシャルトマイト・ミスリル銀を削り造られた四つ一組の銀指輪。
かつて人狼のコミュニティの首領がギルバートに与えた、同族殺しの為の武器だ。
それは、一見するとごく細身で繊細な彫刻の施された芸術品で、格闘に向くとは思えない。
しかしそれぞれのリングには装飾と共にごく小さな突起――狼の"爪"が施されており、
それを外に向ける事によって素材の魔力伝導性を最大限に生かし、
スタンガンの如く相手の急所に攻性魔力を撃ち込む事を可能にする。
さらに、それだけでなく―――

「さて―――久々に綾取りでもしてみるかね」

呟き、頭を振り払おうとする触手をかわす。人と違い、動きが読みにくいので少し大きめに。
右腕を振るとそれに併せて空中に赤い線が走った。半物質化した"魔力の糸"だ。
それらの先端はそれぞれフェンリアの"爪"へと繋がっている。
魔力の放出をごく小さく抑え、糸の形に留めるのは熟練を要する事だが、
一方で大きな出力は要らず、その糸は絡まず、強度は大の大人数人を吊るに足る。

『そこなお二人!この触手共は私に任せて、どうか本体を潰してはくれないか!?せめてこの場だけでも、
見ず知らずの私を、信じてやってくれ!』
「はいよ、不審人物。言われなくてもよ!」

何を撃ち出しているのか知らないが、蛸を引き裂くヴェノサキスの火線をくぐり、突進する。
痙攣するように振りあがる触手に糸を絡めると、その勢いを借りて飛び上がり、本体へ。
迎え撃つように振りかぶる別の一本の軌道を見極め、かわそうとしたその時だった。

「な―――!?」

突如、触手が、裂けた。二つに割れた肉の中から硬質の刃を持った触手が現れ、真っ直ぐにギルバートを狙う。
薙ぎ払う軌道を予測していたギルバートはかわす暇がなかった。
舌打ちしつつ、素早く右手から魔力線を複数引くと盾のように構え、刃を受け止めようとする。


ブチブチと、糸の切れ飛ぶ音が耳に届いた。



111 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 16:32:38 0


「ッ――――・・・・・・」

目の前に張った魔力線は8本。
その内の6本が刃に切り裂かれたが、最後の2本が鼻先で刃を受け止めていた。

「てめぇ、ンなモン当たったら・・・俺が死ぬだろーが!!」

刃を叩き落して踏み付け、さらに素早く右手を振り回すと、触手に深く糸を絡み付ける。

「おおらぁぁぁあああッッ!!!」

間髪入れず、上半身全体を使って大きく体を捻ると、絡みついた糸が触手をズタズタに切り裂いた。
見ればその隙を突いた他の二人の攻撃が本体に集中し、完全に進路が開けていた。
足元の刃を引っつかみ蛸の本体に飛びかかると、その刃を本体である肉塊の中心に突き立てる。
鈍い感覚と共に肉塊に埋まる刃をさらに足で踏みつけ、こじ開けるように刃を捻ると、
生き物とは思えない悲鳴のような声と共に、青黒い体液と強い硫黄臭が噴き出した。
顔を背けて嗅覚を守りつつ刃を蹴飛ばすと、肉塊の中心部から青く光る魔導オーブが姿を現す。

「海洋生物は、大人しく――――」

それを認めると歯を剥き出しつつにやりと笑い、右拳を振りかぶる。
一瞬、指輪とギルバートの眼が同じ色に赤く紅く染まり、光った。

「――――スパゲッティの具にでもなってろッ!!!」

叫び声と同時に拳が撃ち込まれ、魔導オーブが粉々に砕け散った。

112 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 22:16:36 0
>>99
「これはこれは……リュネ様。」
2人のやり取りを肴にでもするようにルキフェルは悠然とワインを飲む。

この少年には見た目だけでは想像も出来ない程の力を
秘めている。
いや、少年というのは正しいかどうかは分からないが。
この教団の象徴ともいうべきその少年は巨躯のディーバダッハに
負けぬ威圧感で向かい合う。

>「お前たちは嫌がるだろうが俺はディーバダッタ、貴様の策の成就のために来たのだ
>頼みは何でも言うが良い。帰れ。とはよもや言わぬよな?」

「ええ。貴方の思うがままに。事を進めて頂ければと私も思います。
愚かな人間とやらの驕り高ぶった”信念”や”愛情”とやらを貴方の
その大いなる力で完膚なきまでに叩き潰して頂ければ。」

机の上で指を滑らかに動かす。
まるでピアノを弾く真似をするかのように。
その口元はまるで裂けているかのように鋭角につり上がり、
牙のような犬歯を覗かせていた。

113 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 22:58:21 0
>78>104>111
ハスタ、ヴェノサキスの攻撃を受けのた打ち回る蛸型の異形は狂気じみた抵抗を繰り広げたが、ギルバートによりその本体を露出させる。
そして肉塊の中心に青白く光る魔導オーブを砕かれ断末魔をあげた。
魔の源である魔導オーブが砕かれた事により異形の体組織は急速に劣化し、異臭を放ちながら霧散していく。
そして後に残ったのは小柄な男の骸だった。
体型や筋肉の付き方からして戦闘訓練を受けたようには見えない普通の男。
よく観察すれば・・・また、ギルバートの嗅覚ならばもしかしたら記憶の隅に残っていたかもしれない。
この骸は酒場で酔っ払っていたただの男だった、と。

しかしそれをよく観察しているような時間は与えられなかった。
前夜祭の為、街のそこら中にともされた松明が一斉に消える。
そして何より視界を保っていた月明かりが急速に陰り、あたりは闇に包まれ始めたのだから。


>96>108>109
あと少し・・・
決して失敗できない儀式だったというのに・・・!
三番等の儀式を任されるに上り詰める為にどれだけの代償を支払ってきただろうか?
にも拘らず・・・!
窓から飛び込んできた敵は全てをぶち壊した!

最初は焦ったが、門を見た時、正直チャンスだと思った。
儀式を成功させた上に『門』を確保したとあれば金眼を賜れる、と。
なのに・・・!

恐らく顔半分が砕けたのだろうが、かけられた麻痺の術のお陰で痛みはない。
しかし、拘束され失神の術までかけられ急速に意識が遠のいていく黒衣の男の悔恨の念。
闇に包まれる視界が最後に捉えたのは、血だまりを作る部下達と、用意した不死者たちが神聖なる光りの剣によって崩れていくところだった。

戦闘最上階を制圧したシモン、レクスト、フィオナの周囲には最早動く者はいなかった。
ただ部屋の中央にクリスタル内部でうっすらと光る心臓が佇んでいた。
その心臓はおぞましき事に、鼓動を刻んでいる・・・。
そう気付いた瞬間、差し込んでいた月明かりが急速に陰り、辺りは闇に包まれてゆく。


突然の闇に上を見上げればその原因がわかっただろう。
皆既月食。
今まで殆ど視界に困らぬほどの光りを提供していた満月に闇の領域が広がっていく。
止める術もなく、数十秒で月は闇に塗りつぶされ、ヴィフティア全域も闇に包まれた!


114 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 22:58:33 0
「さあ!新たなる世界の夜明けですぞ!!!」
暗闇の中、市長室でディーバダッタの歓喜の声が響く。

前夜祭の最中、突然の暗転にも拘らず市内からは混乱した音は上がらなかった。
色も音もなくなった十秒の静寂の後、最初に起こったのは振動だった。
地上のギルバートたちにとっては微振動程度だったが、尖塔最上階ともなると立っているのに少々苦労するほどの揺れとなる。
そして次なるは光り。
しかしその光りは天ではなく、地中から湧き上がる。
市中央の広場を基点に八方に伸びるメインストリート。
各所を結ぶ路地。
石畳を突き破り光りは吹き出るように走っていく。
やがて各尖塔に達した光は塔を駆け登る。
登る光は衝撃波を伴い、戦闘を砕きながら進む。

尖塔最上階に迫る光と破壊の衝撃。
窓の外には数人が乗れる箒が待機している。
儀式達成後、黒衣の男達が脱出する為の箒だったのだ。

砕かれた尖塔は崩れ落ち、代わりに光の尖塔が市内八箇所にそそり立った。
上空から見ればわかるだろう。
暗闇の中浮かび上がるヴィフティア全体を使った魔法陣の存在に。

そして・・・最後の異変は天に現れる。
皆既月食は終わりを告げたが、先ほどまでの月は帰ってこなかった。
月の変りに天に顕れたのは・・・
巨大な赤き眼球。
天球から睥睨するその視線は三番塔付近のミアに向けられていた。
まるでスポットライトのようにミアに降り注ぐ赤い光は天と地を繋ぐ糸のようだった。

>99>112
震動が止み、街の空気がはっきりと変った。
認識阻害魔法がなくなった事を差し引いても更に瘴気は濃くなっている。
最早その濃度は人間界のそれではない。
そして何よりも、街の至る処から歓喜の咆哮と嬌声、阿鼻と叫喚が響く。
「お・・お・・おおおお・・・・!!!!」
「ぐおおおおおお!!!」
「ギャアアア!!!化け物だあ!!」
「ひいいい!助けてくれええ!」
ヴィフティア市民の三割、炊き出しを口にした者の七割が異変を境に突如として異形の化け物と化し、未だ人間である人々を襲い始めたのだ。
切り裂き、嬲り、犯し、殺し、喰らい、貪る。
赤い月明かりの元それは正に地獄絵図と言っていいだろう。
そう、七年前の魔の流出を濃縮させて再現されたのだ。
守備隊も突然の変化以上に、プリシアをはじめとする主要人物の異形化。
各治安事務所のオーブ破壊工作による指揮系統、情報網の寸断により機能することはなかった。

「ぐはははは・・・この甘美なる調べに酔っていたい所でしょうがお二方。
行きましょう!門を開きに・・・!!!」
市長室からでもはっきり判る天から降り立つ赤き光の糸。
門は・・・ミアはそこにいる。
ディーバダッタは二人を誘い人を超えた速度で三番塔付近へと駆け始めた。

115 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/08(木) 23:42:16 0
「つ・・・」
民家の壁を背に黒髪黒目の女が立ち上がった。
とっさに受け身をとったものの、鈍い痛みが腹部に残っている。
口元から垂れたちを手の甲で拭い、自分を吹き飛ばした人間がいる方を見た。

治安事務所の形はすでにない。
男の姿もなければ、隊員達の姿もない。

「悪運か・・・」

コクハは一人ごち。
空を見上げた。
赤い目玉が空に浮び、尖塔の先から点に向かって光が伸びている。
不気味な夜だ。
コクハはそう思った。
町中から咆哮やら悲鳴が聞こえる。
あの赤い目玉のせいか。
視線を下の方におろし、あたりを見回した。

異形の生き物が2つ。
こちらのことを見つめている。

「こちとら、かかわってる暇はないの」

剣を抜き、空を切った。
異形の生き物の体が二つに分かれ、地面に着地した。

「死にたくないなら、そこから一歩も動かないことね」

だが、異形の生き物は言葉を解釈することができない。
本能のままに向かってくる。

「なら、地獄に行くといいわ」

異形の生き物の爪がコクハの体に触れるか触れないかのところで動きが止まり、地面に崩れ落ちた。
剣先から血の滴がぽたりぽたりと落ちている。

「面倒なことになったわね」

コクハ持っている剣は普通の剣だ。
人を斬れば手入れをしなければならない。
油を落とし、砥石で研ぎ。
と、とにかくめんどくさい。
ため息をつきながら、剣をさやに収め、尖塔の方へ向って歩き出した。

116 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/10/09(金) 17:18:51 0
>「――助けて」
自分の軽口に答えたのは、少女の懇願だった。
その顔が誰かにかぶって、つい余計な事を口走ってしまいそうになる。

――死んだ記憶が、あったりはしないか?

首を振って、シニカルな笑みを無理やり作って答えることにした。
「俺は、ただ、生きたいんだ。だから、別に今はこいつが邪魔だから助けるにやぶさかじゃないが・・・・・・
 次を助ける保障はないし、一度助けて二度目は見捨てるのが不実だといわれても聞く気はないからな?」

返事も聞かず走っていく連中の姿を見送って振り返る、と。
――蛸が丁度頭を粉砕されているところだった。

「ってぇ、終わっとるッ?!」

虚しく響く心からの叫びに答えるように暗転、一瞬の後に再び閃光が走る。
上空の月を覆う闇が晴れれば、そこにあるのは深紅の光を放つ目玉。
周囲に漂う空気が完全に変わった。これでは・・・・・・

「これじゃあまるで街全体が魔界に堕ちたみたいだな。
 とりあえず、助けるんなら行こうかお二人さん?
 たぶん、さっきの女の子が狙われてるんじゃないか?」
手元で回転させた二枚の板を十字に組んで背中にかけると、二人を先導するように走り出す
向かうのは、目玉から零れ落ちる赤い光の柱の下へ

117 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/09(金) 20:42:51 0
緩慢な動作で従士の背後へと迫る不死者。
フィオナはその一体に一息で間合いを詰め上段から一閃。
鎧を避けた斬撃は剥き出しの二の腕へと刃を喰い込ませ骨を断つ。
ドス黒い血飛沫を上げ斬られた腕がだらりと垂れ下がるが切断面は泡立ち、斬った先から復元を始めている。

「主よ、不浄を裁く光を我が剣に!」
"聖剣"の奇跡に必要な聖句を唱えつつ上体を起こし、返す刃で斬りつける。
フィオナの剣は純白の光を纏い残滓を放ちながら不死者の顎から頭頂へと抜ける。
不死者は濁った脳漿を散らし仰向けにくず折れ、本来起きるはずの再生のプロセスは無くそのまま二度目の絶命に至る。

(残り五体……)
同じく不死者と戦っている二人へと"聖剣"の奇跡を行使。
たて続けの神聖魔法の使用による疲労感に深呼吸を一回。
その間隙をついてフィオナを襲う不死者の剣撃。
「くっ……。」
なんとか楯で防ぐが鈍い動きの割りに不死者の攻撃は重く、体勢を崩されると二撃、三撃と追撃が襲ってくる。
「このっ!」
さらに凌ぐこと数合。
気合の声を上げるとフィオナは足を踏みしめ大上段からの攻撃を完全に受け止める。
剣を弾かれ上体の泳いだ不死者の顔面に楯を叩きつけるとそのまま一歩踏み込み横殴りの一閃。
それまでの鬱憤を吐き出すかの様な斬撃に首を跳ね飛ばされた不死者が音を立てて崩れ落ちた。

次は、とフィオナが室内を見回すと他の二人も残りの敵を排除し終えた所だった。
最初はこの二人が塔を狙う賊かと思ったがどうも違うらしい。
「あー、あのっ、私は神殿騎士のフィオナ・アレリイと申します。」
おずおずといった感じで二人へと話しかける。
従士がレクスト、軽装の方がシモンという名らしい。
敵の敵は味方。と単純思考で二人を判断したフィオナは自分が帯びた聖女からの使命を打ち明け、再度二人へと問いかける。

「それでこの者達は何者なのでしょうか?」
降魔術による死体の使役、生贄の少女、そして部屋の中央で不気味な光を放つクリスタルとその中で脈打つ心臓。
返ってきた答えは"深淵の月"。
「深淵の……月……。」
フィオナが敵の名を噛み締める様に呟いたその時、ヴァフティアを振動が襲った。
最初は緩やかに、次第に立っているのがやっとな程の激しい揺れ。
外を見ると街の中央から広がる光が此方――尖塔へと迫っている。

『こっちだ』
どちらのかは判らなかったが声の方を見ると窓の外に飛行用の箒。
這う様に窓際へと移動し箒に跨ると塔から速やかに離脱する。
塔のあった八箇所より天へと延びる光の柱。
各地で聞える阿鼻叫喚。
そして遥か天空より大地を睨む巨大な赤眼、その眼より放たれる光の先に一人の少女が居た。

118 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/10(土) 04:41:29 P
肉色の塊を抱えたクリスタル。動かない少女。向けられた黒い刃。
汚濁した目の男たち。
>「ミア、後ろの連中を――」
「門を逃がすな!」
凍りついたようになっていたミアはその言葉にはっと肩を震わし、我を取り戻す。
向けた背に伸ばされた男の指がローブの後襟を掠めた。そして宙を掻いた。
男の舌打ちを背後に窓枠を蹴り再び夜空に踊り出る。
「……っ」
耳元で風が唸り、聴覚が不明瞭になり、内臓を引きずり出されるような不快感が体を這う。
みるみる近づく地面。
自由落下――彼女は呪文を唱えていなかった。
そのまま一秒・二秒・三――
「“落下制御”……っ!」
華奢な肢体が硬い大地に打ち砕かれる直前、淡い黄色光が少女を包み込む。
縁石から飛び降りでもするような軽い動きで下ろされた爪先が、トンと小さな音をたてて石畳に触れた。

術式を消去して窓を見上げる。
ミアは追手が無いことには安堵すると同時にその高さに目眩がして、壁に背をつけて深く嘆息した。
…不快。嫌な目眩も濡れた着衣も――上で目にしたあの儀式も!
そう胸中で吐き捨て、辺りに気を配りつつギルバートたちが戦う場所へと駆け出す。
(……月が未だ在ることははっきりした。
…………あれは何の儀式?
確か、門を受容するためのものだとあの時――。
私の確保より先に行っていたから、“場”を作るか何かかしら…)

――それは不吉な予感がしたからか、それとも習慣か。
ミアは考えながら無意識のうちに夜空に視線を彷徨わせていた。
目当てのものはすぐに見つかる。
常に地上を見下ろしながら、闇の中でのみ激しい自己主張を行う存在――



月。



それが視界に入った刹那。
ミアの足が止まった。

体がピクリとも動かない。
否、動かそうという意思が消失していた。

奇妙な虚脱感。

彼女の表情からは先の不安の影は消失している。
そればかりかいつも月を目にして感じる嫌悪感すら今は無い。

――今、空を見上げるミアはの顔はまさしく“人形”そのものだった。


119 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/10(土) 04:50:55 P
どれくらいの時間が経っただろうか?


月が、消えた。


同時に我に返った彼女は異常に戸惑い、それ以上に月に溺れかけていたことを自覚して動揺した。
ミアは肩を抱いて座り込んだ。そして自問する。
「私……何してた?」
そして闇に包まれた瞬間に一番最初に感じたことは何だ?
「……私はただ月が奪われたことを――きゃっ」

突如として発生した揺れが彼女の混乱に拍車をかける。
地を砕いて塔へと走る奇妙な光。
脅威を予期した彼女はまた反射的に空に目をやってしまった。
……何も無い。
たったそれだけのことで痛い程締め付けられた心臓が早鐘を打ちだす。

「…………や……」
首を振る。
おかしい。今までも無意識に見上げて安心感を得たことはあったが、ここまでの感覚に陥ったことは一度も無い。
そう囁く冷静な自分の声も薄紙一枚向こうのもので、やがて全く聞こえなくなる。
そして。
「………あ………」
程なくして、待ちわびたものは現れた。
視線が固定される。

月だ。

険しかったミアの表情が恍惚と緩んだものに変わった。
安心しきったように、己に注ぐ月光に甘えるように両手を伸ばす。
月の色に染まった自身を見ると言い様もなく懐かしい気分になった。
真っ赤な、月に。
何かがおかしい気もするが、よくわからなかった。

マイナスの思考には麻酔がかかり、彼女の胸を占めるのは快感・酩酊感・多幸感。
不安を感じた先程の自分が馬鹿らしく感じる。

嬉しそうに血の色の光を浴びた彼女は集まりつつある仲間の姿にすら気づかない。
そして、空の大きな目玉と視線を合わせ――
誰にも見せたことの無いような表情で、ニッコリと微笑んだ。




―――だって今夜の月、こんなにも綺麗なんだもの。



120 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/10(土) 23:23:10 0
「ふざけんなよてめぇ……!!」
絶対的に不利な状況の中、レクストがいち早く前に出た。
魔道弾をフェイントに、素早く黒衣のリーダーの後ろに回りこんだ彼は、
男の後頭部を銃で殴って昏倒させ、さらに魔道弾を何発か打ち込んだ。
レクストのことだ、恐らく死なない程度になんとかするだろう。

しかし、困ったことにアンデッド兵たちがシモンらをさらに包囲し、
いよいよ逃げ場をなくさせようとしていた。
(こいつらの弱点は…)
シモンが考えていたその時、尖塔の下から何者かが階段を駆け上がってきた。敵か?

「そこまでだ!賊ど……も?」
そこに現れたのはなんと、煌びやかな騎士の鎧を着た女だった。
一瞬とはいえ、その美しい姿に目を奪われてしまう。
「えーと……神の摂理に逆らう不浄なる者達よ!人の世にお前達の居る場所は無いと知りなさい!」
女はしばし立ち止まった後、すぐさま背を向けるアンデッド兵たちに
次々と剣を振り下ろした。その一撃は輝きを放っていた。
アンデッド兵の鎧に浮かんだ赤い光がとたんに消え、一振りするごとに
敵が鎧ごと割け、内臓を撒き散らしながら倒れ伏してゆく。
シモンとレクストは一瞬の出来事に呆然としていた。
すぐさま武器を構え、女が仕留め損ねた敵に止めを刺していった。

「私は神殿騎士のフィオナ・アレリイと申します」
「…シモンだ。よく分からんが助かった」
「それでこの者達は何者なのでしょうか?」
そんな事も知らないのか?と口に出した時、同時に仲間が”月”についての
説明を始めた。
(相変わらずお人よしな奴らだな)
その思いつつシモンが再びクリスタルの方に目をやった瞬間…

――轟音とともに尖塔が崩れだした。


121 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/10(土) 23:53:48 0
崩壊を始めた地面と天井、その中でシモンの思考はいよいよ
一点に集中しようとしていた。

あの箒を使えば…あるいは助かるかもしれない。
それとも誰かを助けるか… だとしたら誰を?

情報を聞き出せそうな人質の男?
生贄として”月”の重要な役目を担う全裸の少女?
自分を匿ってくれた張本人のレクスト?
重そうな鎧を着込んだ神殿騎士の女?
それとも、ミアの安否が気になるか…?

――否。そんなものはどうでもいいのだ。

シモンはとっさに自分の胴体ほどもある大きなクリスタルに無言で飛びつくと、
それを守るように抱いた格好のまま地面に向かって落下した。
まるでクリスタルと運命を共にするように…
恐怖と欲望が渦を巻くように、回転しながら落ちてゆく。

バキャ、ガラガラガラ…
「っ…ぐっ…!!!!」
地面へと落ちたシモンは、まず先にクリスタルの状態を確認した。
傷一つ無い。
丈夫なものだったからか、はたまたシモンが上手くクッションになったからか…
よく見るとクリスタルには鮮血がべっとりと付いていた。
「くそっ、体が…」
クリスタルや瓦礫の下敷きになり、シモンは深い傷を負っているばかりではなく、
全身のあちこちの骨を折っていた。頭が潰れていないのは奇跡に近い。
もはや周囲の仲間がどうなっているかの確認すら頭に入らなかった。

辛うじて動く左手を腰に伸ばすと、繁華街で手に入れた魔法の強力回復薬を取り、飲み干した。
「ぐあぁぁぁぁ…!」
全身に電撃が走るような感覚。この衝撃でシモンは気を失いかけた。
だが、数秒後には体は普通に動かせるようになっていた。
瓦礫の山から抜け出し、自分とクリスタルについた土屑を払う。

途端、クリスタルが淡く光りだし、シモンは”何故か”異変に気付いた。
(見知った気配だ…”奴”が来る…それも強力な仲間を引き連れて、だ!)

「気を付けろ!とんでもねえ連中がこっちに来てやがるぞ!」
そう叫んだシモンの瞳は、僅かに赤い輝きを放っていた。

122 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/10/12(月) 05:22:26 0
「ああああぁぁぁぁぁもう斬っても撃っても砕いても!いい加減止まれよゾンビ共!!」

怒りに任せてバイアネットを打ち下ろす。裂帛の唐竹割りは切断強化の術式によって死体兵を鎧ごと真っ二つにする威力を得る。
頭から綺麗に真っ二つになった死体は互いの切断面から肉体を隆起させ、離れたパーツを繋ぎ合わせて再起動。
現在レクストと対峙する二体は最早破壊されていない箇所がなく、にも関わらず五体満足だった。

長時間持久の戦闘も訓練されているとはいえ、もともと堪え性のある方ではないレクストにとって終わりなき戦いはまさに
精神の蟻地獄。死体兵の動きは鈍く、それ故に彼にとっては集中力の散漫以外のなにものでもない。

それ故に、
背後から近づく死体の伏兵にはとうとう気付かなかった。

「主よ、不浄を裁く光を我が剣に!」

視界の外から知らない声が響き、暖かな光を背筋に感じる。冷や汗しながら振り返ると、やはり見知らぬ女騎士が死体兵を斬り伏せていた。
注目すべきはその大剣に描かれた白の聖魔術紋。刀身を眩く光らせるそれは、不死の死体兵に次なる生を与えない。

「神聖魔法――あんた神殿騎士か!誰だか知らねえけど助かったぜ……こいつらオーブが見つからねえんだ」

降魔術によって魔物化した生物を滅ぼすには最もポピュラーな二つの方法がある。体内に植えつけられた降魔オーブを砕くか、
魔を浄化する聖魔術系の術式を用いてオーブに込められた魔を直接灼き尽くすか。この女は後者を選択したのだ。

畳み掛けるように女は更なる詠唱を行使する。今度はレクストやシモンの得物にも聖剣の刀身加護が付与される。
白く輝くバイアネットを振るうと、あれだけ何度も起き上がってきた死体兵達が面白いように身を崩していった。

やがて尖塔のフロアに立つのがレクスト達三人だけとなって、お互いの無事を確かめ合うレクストとシモンへと
先程の神殿騎士がわたわたと寄って来た。思ったよりも若さの滲み出る仕草で自己紹介する。

「あー、あのっ、私は神殿騎士のフィオナ・アレリイと申します。」

「…シモンだ。よく分からんが助かった」
「俺はレクスト、帝都の方で従士をやってる。――あんたはこの尖塔の異変を見て駆けつけたのか?ってことは『認識阻害』が解けたのか……」

「それでこの者達は何者なのでしょうか?」

そんなことも知らんのか、とシモンが遠慮なく口に出したのを必死に取り繕い、レクストはここに至るまでの経緯を掻い摘んで説明した。
三日前の路地裏、それより前に手記の中でぺージが遭遇した"隻眼の僧侶"、降魔術、尖塔で行われていた儀式、そして――深淵の月。

「深淵の……月……。」

深く思案するようにフィオナと名乗った騎士が呟く。それと同時、轟音とともに尖塔が崩れそうなぐらい強い揺れがレクスト達を襲った。
否、実際崩れ始めた。

「な、何だ!?やべぇぞこの揺れ、こんな細長い塔じゃ根元からバキ折れる――こっちだ!」

視界の端、窓の外にレクストは渡りに船と言わんばかりの脱出手段を発見した。
ここへ入る前に発見した、隠蔽魔法で包まれていた『箒』がすぐに飛び立てる状態で浮遊していたのだ。
おそらくは、ここの儀式を終えた後に黒衣の連中が脱出するために用意したものだろう。

(でもどうする?『箒』に乗れるのはせいぜい四人……ここで生きてるのは全部で五人――)

安全な場所に横たえておいた全裸の少女を担ぎ上げる。歳はリフィルとそう変わらないであろう彼女はこの揺れの中にあっても
すやすやと寝息をたてたままである。おそらくは薬で眠らされているのだろう、そのままじゃ何なので足元で伸びている男の黒衣を剥ぎ取り着せてやる。

(考えてる暇はねえ!駄目なら駄目でこの子だけでも護るぜぇ――!)
元・黒衣の男も一緒に抱え、レクストは箒に向かって疾走する。フィオナもついてきていることを確かめ、箒に跨っていざ脱出というとき、

『シモン――!?』

最後に乗るはずのシモンが、何を考えたかクリスタルへと飛び掛り、そのまま崩落へと巻き込まれていくのを目撃した。

123 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/10/12(月) 06:12:44 0
『箒』で空中へと浮かびながら、三番塔と名付けられた結界用尖塔が崩れ落ちていくのを眺める。
レクストは風に煽られる箒の手綱をとりながら、拳を握り歯噛みしていた。シモンを助けられなかった。

(糞!糞ッ!!――なんで手を伸ばせなかった?何故俺はあそこに居ない!?すまねぇシモン……!!)

飛翔オーブの魔導力場を精霊樹枝が拡散させ、空中浮遊の揚力を得る。うまく出力を調整しながらレクスト達はゆっくりと地上を目指す。
見下ろせば、蛸と戦っていた連中がその役目を終え、風化していく魔物の亡骸の傍で崩壊した尖塔を眺めていた。

「なんだこれ――」

上空から俯瞰する地上は酷い有様だった。ヴァフティアを繋ぎ合わせるメインストリートから路地が全て、光の道によって軌跡を残している。
崩れた尖塔の代わりとでも言うようにそこから光条が天を貫き、そこを起点に街全体を網羅する光の筋はまるで――

「――馬鹿でかい魔法陣、か?」

夜空を照らす光の羅列に、さらなる変化があった。見上げる月が、月ではなくなったのだ。それは巨大な紅い眼球。
同じ色を持った光の線を瞳孔から放ち、向かう先には――ミア。

箒が地上へと降り立ち、レクスト達は割れた石畳の上へ着地する。じゃり、とブーツの底が瓦礫の破片を噛んだ。
誰に問われるより早く、レクストは尖塔の残骸へ飛びつき、一心不乱に瓦礫を取り除き始める。
しかしそう時間も経たないうちに、瓦礫山の向こうからひょっこりとシモンが顔を出した。クリスタルも無事に抱えている。

「気を付けろ!とんでもねえ連中がこっちに来てやがるぞ!」
「――生きてたぁぁぁぁぁぁぁ!?」

流石に無傷とはいえないようだが、それでもシモンはしっかり生きてそこにいた。レクストは熱いものが込みあげてきて、しかし前を向く。
とんでもねぇ連中?あの僧侶だろうか。あるいはもっと強力な月の――

「お・・お・・おおおお・・・・!!!!」「ぐおおおおおお!!!」「ギャアアア!!!化け物だあ!!」「ひいいい!助けてくれええ!」

市民の悲鳴に気付きレクストは思考を中断する。メインストリートへ目を遣ってみれば、何故か魔物が街に在り、人を襲っている。
弾かれたように駆け出し、市民を牙にかけようとした魔物の頭部を斬り飛ばした。あっさりと、魔物は地に伏せる。

「一体どうなってんだ?街の中に魔物が入ってきてるなんて――尖塔が壊れて"結界"が作用してないのか?」
「た、助かった……!たったたったたたたたたたたあああああばばばっばばば」
「お、おい!どうしたんだアンタ!?大丈夫かよ?」

助けた市民が突然痙攣したように呻きだした。犬歯を剥き出しにし、口からは止め処なく涎が流れ出す。
やがて皮膚が隆起し、まるで殻を破るように――市民の身体が割れ、中から脱皮直後のような粘液に塗れた魔物が顔を出す。

「――!?うわぁぁぁぁぁぁあぁぁあああ!!!!」
市民だった生物は小さく咆哮すると、犬歯を牙に変えてレクストへと飛び掛る。魔導弾で撃墜したレクストは、腰を抜かしたようにへたり込んだ。

「そういうことかよ……結界が壊れたんじゃない。魔物が街に入ってきたんでもない。――市民が降魔されてんだ」

フラッシュバックするのは七年前の記憶。忌々しき情景。魔物に変わりレクストへ牙を剥いた母の姿。
同時に酸っぱいものが食道をせり上がってきた彼は瓦礫の影で盛大に嘔吐した。懐から水のボトルを取り出し一気に煽ると、

「――兄貴や親父やリフィルが心配だ」
小さく呟くと、状況を見るためにメインストリートへ出てきた仲間達へ振り返り、そして言った。

「悪い、俺はここにはいられない。……見ての通り街がこんなんだ。原因はわからねぇけど多分どっかで降魔術を行使してる術師がいる。
 俺は街を巡りながらそいつを見つけ出して叩く。襲われてる人がいたら助けなきゃだしな――こいつは持ってくぜ」

誰かが抱えてきた『箒』を受け取り、生贄の少女を背負う。黒衣の男は箒に括り付ければ定員をとらないだろう。

「……そうだ、誰か街に行きたい奴はいるか?――いるなら乗せてくけどよ?」
箒に跨り飛翔オーブを起動させながら、レクストは誰ともなしに問いかけた。

【レクスト:パーティ離脱  自分と共にヴァフティア奪還に加わる場合は箒に乗って下さい】

124 名前:リュネ ◆PsZZg4lGbttz [sage] 投稿日:2009/10/12(月) 16:44:02 O
>>114 >>119
文字通り人並み外れたスピードで疾走する少年は残念そうによそ見をしている
儀式が無ければ、溢れかえる羽虫共を楽しくいたぶれたというのに
少年の拗ねたような、ムスッとしたような表情は正面を向いた刹那で笑みに変わる

門が、いた
今生の門はうっとりと天を仰いでいてリュネはそれにしたり顔で頷いた
「美しき物は人を惹きつけるものだ」
そう言って空を見上げ、次に門に視線をやってから傍らのディーバダッタを満足そうに見る
「首尾は上々のようだな
ここから離れた者もいるようだが」

125 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/12(月) 21:03:30 0
>>114
>「お・・お・・おおおお・・・・!!!!」
「ぐおおおおおお!!!」
「ギャアアア!!!化け物だあ!!」
「ひいいい!助けてくれええ!」

地獄と化した世界で、ルキフェルは眉を潜ませて苦笑する。
「醜い有様だ。あまりに醜い…好みではありませんねぇ。」
言葉とは裏腹に口は、大きく吊り上る。
まるでこの状況を楽しんでいるかのように。

凄まじいスピードで移動するディーバダッタ、リュネの後ろを
確実に追いながらルキフェルは策謀を巡らすかのように
再び笑みを閉じ込め冷徹な顔へと変貌した。

「所詮この世は悪い冗談だ。全て、」

126 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/13(火) 02:59:36 0
体が痛い。
塔がかすんでみえる。
あそこに向かおうと決意したはずなのに体が動かない。
「ぐっ・・・ぎゃあぁぁ」
背中が裂ける音が痛みの中聞こえてきた。
何かが這い出てくるのがわかる。
このまま本でみたように体を乗っ取られて終わるのだろうか。
そんなこと考えていると意識が急に途切れた。



黒い服の少女が道端でうずくまっている。
背中には二枚の黒い羽根。
手足は黒い毛でおおわれ、徐々にだがその範囲を広げている。
その周りに無数の魔物たち。
食欲と性欲と睡眠欲でのみ構成された魔物たちが何をするでもなく、黒い服の少女を見つめてみた。


「・・・」
体を起こし立ち上がった。
体がものすごく感じる。
魔物たちがこちらのことをじっと見つめている。
「何か用?」
乗っ取られたかと思ったが、意識はまだはっきりしているようだ。
人の言葉が話せることからして間違いない。
「グルルル・・・」
魔物の群れの一匹が近寄ってきた。
見るとこうべを垂れている。
忠誠の証ということか。
しかし、特にしてほしいことはない。
魔物の額に指先をつけた。
すると魔物たちが道を開け始めた。
「え・・・」
どうやら、一匹に意志が伝わると他にも意志が伝わるらしい。
不思議な生き物もいるものだと思ったが、考えていてもらちが明かない。
羽を広げ、塔のほうへと再び向かうことにした。

127 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/10/13(火) 19:59:36 0
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…!!
何だ、この感覚は?わけがわからない。頭痛のような、だが、頭ではない、
もっと別の、体のどこか奥底から、表現しようのない感覚、暑さが、寒さが、痒さが、痛みが、吐き気が!
身体に在り得る“不快感”の全てがヴェノサキスを襲っていた。周りの声も、音も、聞こえない。
仮面の隙間から、涙なのか涎なのか良く解らないものが垂れ落ちる。

『ア…!?ぐ………!?』
―――私は、俺は、僕は、我は―――!
聞き覚えのない声達が流れ込んでくる。その声が聞こえる度、自分が穿たれ、削り取られて行く様な気がした。
自分はどうしてしまったのか。首が、顔が、目が、メキメキと嫌な音を立てて、
意志を無視して、上空に向けられる。


『……眼………?』
夜天を衝いて紅き雫を零す、「それ」を見た瞬間――
『あ…!?ああああああああああああああああああああああああああああああ!!?』
今までとは比べ物にならないほどの激痛が、全身を駆け巡って行く。
何かが軋み、割れる音がする。これは、自分が失われていく音なのか…。
膝をつき、自らの終わりを覚悟して意識が遠退いていくのを止めもせずに、その場に倒れ伏そうとした、
その時……。

―――――聞け、我が声を―――――

―――――捨てるのか、諦めるのか、その命―――――

『…………だ……れ………?』

―――忘れたというのか、一時でも。消え癒えたのか、心に残った、我が記憶が―――

『お…まえ…は……?……………!!………………お前は…!?』

 『っ!?』

気がつくと、体は空を見上げて倒れていた。何が起こったのか―
思い出す前に、天に浮かぶ紅い眼が視界に入った途端、弾かれるように起き上がる。
そうだ、思い出した。いきなりそらにアレが現れ、自分は原因不明の不快感に襲われていたのだった。
そして、奴が……私を呼んだ………。

(そうだ………永久の罪に憑かれた者……………)

忘れもしない、この声、そして………。
『そして……貴様のその蒼い焔を…!』

128 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/10/13(火) 20:01:20 0
――それは、きっと自分にしか見えていない幻。だが、目の前に、確かに降りてきたのだ。

全身を蒼い焔で包み、燃える鬣を靡かせ、巨大な炎翼を翻し、揺れ垂れる尾はどこまでも長く。
二本の腕と、二本の脚。その体は山より大きく、鎧のようなもので固められていて、隙間がない。
何より、その顔には、ヴェノサキスのしている仮面と、全く同じものが嵌められているのだ。
しかし形は大きく歪み、両脇からは羊のように捻じれた形の、太く鋭い角が生えている。
そしてもう一本、仮面の中央、額に当たる部分を突き破りって、またしても角が伸びていた。
それは、そう…………人が「龍」と呼び、信仰、あるいは恐れてきたものだ。ヴェノサキスも、嘗てはそうだった。

『貴様は…何で……どうして……どうして皆を裏切った…!』
怒りと悲しみと、不の感情だけを込めた震えた声。「怒り」などという感情は、長らく忘れたままだった…。
しかしその声を聞いても、蒼い龍は何ともしない。口から火の粉混じりの吐息をゆっくりと吐き出し、
まるで無感情のように、淡々と言葉を紡いだ。

(罪人よ……汝は今、何を望むのか………?)
『何…!?』
(幻に揺れるだけの今の我を追い、その影に感情を誘われ、永久を過ごすか。
それとも………今日の今までしてきたように、過去を断ち切り、自らの自由の意志の為に往くか。)
ふざけるな、と、反論したかったのだが、言葉が出てこなかった。
自分が今苛立っているのは、目の前に過去の心の傷そのものが立ちはだかっているから、というのもあるだろうが、
先程の少女に、「助ける」と。自分はそう言ったのである。だが、過去に繋がれ、走り出そうともしない自分にこそ、
何より苛立っていた。その様子を感じたのか、龍は、少しだけ笑ったような声で、言葉を続けた。

(我は……既に消え去った存在だ…しかし、実体を失っただけで、天災の化身たる我は消えぬ…。
望むならば自然にでも挑め。だが、過去を捨てたのならば…往け……お前の求めるものの方へと、ただ、ひたすらに…。)
『…貴様………』
(往け……あの天より伸びる、憎き光の下へ。その為に、少々力を貸してやろう…。)



一輪の風が、蒼い光を伴って、強く、そして疾風のように駆け抜けた。
天から落ちる、紅い柱に向かって――

129 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/13(火) 21:57:37 0
降魔により自我を食い尽くされた者たちによる開放への歓喜の声と、不幸にも降魔を免れ見知った者達にその身を喰われる人々の怨嗟の声。
ヴァフティアは二つの声により埋め尽くされている。
先程まで祭で賑わっていた街は魔物が蔓延る地獄へと変貌していた。

――止められなかった。
地面へと降り立ち、呆然と立ち尽くすフィオナ。
その身を縛るは深い悔恨。
「い、嫌……。」
全てを放り出し絶望へと駆られるその間際。
『気を付けろ!とんでもねえ連中がこっちに来てやがるぞ!』
どこか硬質な、それでいて確かな生を感じる声。
声の方へと弾かれる様に振りかえると、そこには塔よりその身を投じたシモンの姿。
レクストも無事であることに驚愕し大声で叫んでいる。

その光景になんとか落ち着きを取り戻したフィオナは先程のシモンの言葉を思い出す。
とんでもない連中、と確かに彼はそう言っていた。
眼前に広げられる地獄以上に途方もない事が起きようとしているというのだろうか。
打ち捨てられていた箒を何とはなしに拾い上げると状況の把握をするためメインストリートへと駆け出す。

そこかしこに上がる火の手と鮮血で赤へと塗り替えられた街並。
尖塔で見たクリスタルを手にしたシモンとその傍にいる複数人の者達。
そして変貌した魔物の死体の只中、地面へとしゃがみこみ嘔吐するレクスト。

「あの……大丈夫ですか?」
フィオナはレクストの元へと近寄り背を擦ろうと手を伸ばす。
しかし先んじて立ち上がったレクストは煽った水を手の甲で乱暴に拭うと何事か小さく呟き、フィオナの手から箒を手繰り寄せ――

『悪い、俺はここにはいられない。……見ての通り街がこんなんだ。原因はわからねぇけど多分どっかで降魔術を行使してる術師がいる。
 俺は街を巡りながらそいつを見つけ出して叩く。襲われてる人がいたら助けなきゃだしな――こいつは持ってくぜ』
確固たる決意を込めた眼差しで居合わせた者を見回し――告げた。
そのままてきぱきと揺ぎ無い動作で準備を終えると箒に跨りオーブを起動させる。
この惨状にあっさりと屈服し、自我を明け渡そうとした自分とはまるで違う。

『……そうだ、誰か街に行きたい奴はいるか?――いるなら乗せてくけどよ?』
レクストが問いかける。
フィオナは大きく息を吸うと両の掌を頬へと叩きつける。
ガントレットを付けていた為途方もない痛みが走るが気付には丁度いい。
「私も連れて行って下さい!」
若干涙目になりつつもフィオナははっきりと答えていた。

130 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/13(火) 22:45:51 0
2人を追っていたルキフェルの足が止まる。
そこには魔物へと変貌した愛する者に怯え、呆然と立ち竦む男や
女、子供の姿があった。

「どうしました?そんな顔をして。」

優しげな表情で男達の顔を覗き込むルキフェル。
男達は足を震わせながら叫ぶ。
「た、助けてくれ!!お、俺の妻が…あ、あんな姿になったら…!!」
化け物と化した同僚から逃げるようにルキフェルの足元へ縋り付く男。
ルキフェルは小さく頷き、そして笑った。
「そうですね、貴方はあんな化け物にはなりたくないと。
分かります。誰も、あんな醜い知性の欠片も無さそうなモノにはなりたくはないと
思う。ですが、これは運命です。そう、逃れようの無い。」

それでも尚、男は涙を流し頭を地面に叩きつける。
「頼むぅ・・・頼むよぉ。俺にはまだ2歳にしかならない
小さい娘だっているんだ。妻や、娘を…」
その後ろからも周辺を警備していたであろう兵士や市民たちが集い始める。
「お願いします」「助けてください」「あの化け物にはなりたくない」
ルキフェルは背後に迫ってきた異形を一瞬で文字通り”粉砕”した。
周囲の者達にはナニが起こったかすら理解できない速さで。
「いいでしょう。私があなた方に特別に薬を差し上げます。
化け物にならない為の。しかし・・・条件がある。」

民達はその言葉に大きく頷く。
ナニをしてもいい。ナニをしてでも、自分達は助かりたい。
そんな人間らしい答えだった。

「今から貴方達に武器を与えます。
その力で、この地にいるであろう”戦士”達を殺してください。
彼らは死の呪いを振りまく悪魔だ。
彼らが”この地を救いたい”といっても信じてはなりません。
いいですか…助かりたいのであれば、彼らを排除すること。
それが成就するまでは貴方達の愛する者達の命は私が保証します。」

今、見た彼の強さならば幾らあの怪物どもでも倒してくれるかもしれない。
民達は彼の言葉に縋るしかなかった。
それぞれに武器を持ち、”狩り”へと走り出す罪もない人々。
しかしルキフェルからすれば彼らも罪だらけの連中なのだ。
血走った民達の目。
そこには、最早愛する者を守るというエゴだけに固執した赤い色しか見せていなかった。

「ヴァフティアを救う為に、ヴァフティアを殺せるのか。さぁ、ゲームだ。」

【一般市民を暴徒化、奪還に向った戦士達抹殺へ洗脳】

131 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/13(火) 22:58:10 0
>124>125
「くっくっく・・・笑いが殺しきれておらぬぞ?」
街を駆け抜けながら趣味でない、と嘯くルキフェルに言葉を返す。
通り過ぎる街のあちらこちらで異形と化した男が友に襲い掛かり、親が子を、子が親を貪る様が点在する。
脅威と判っていても、それが愛するもの【だった】事に抵抗も出来ず殺される人々。
半狂乱になって異形と化した家族に刃を向ける人々。
そこには愛や絆の脆さが散らばっているのだから。

>119>121>128
ゴウッ!!という一陣の風の後、三番塔付近にディーバダッタは降り立った。
目の前には上空の月からピンスポットのように赤き光を浴びるミアの姿。
恍惚の表情を浮かべたそれにディーバダッタの顔が歓喜に歪む。
>「首尾は上々のようだな
>ここから離れた者もいるようだが」
「全ては計画通りかと・・・!」
リュネに短く、そして満足気に答えて辺りを見回す。
ミアとその仲間達。
そして既に姿のないが、気の残滓にてわかる。この場を離れた者達の存在を。
「ふふふ。そうか。憎しみよりも家族との・・・街との絆を取ったか。
ふむ・・・それもまた一つの答え、よな。」
既にこの場を去ったレクストとその家族を思い浮かべ小さく呟くと、それらを吹っ切った。
今、正に計画の最終段階。
ここでやるべき事がディーバダッタにもあるのだから。

「ふむ・・・お前達が今回の反作用か・・・!
しかし、奇妙だな。魔狼よ。なぜ正気を保っていられる。
お前はこちら側の住人ではないのか?
そこの男のように、な!」
天には赤き月の眼が出現し、地獄絵図と化したヴィフティアでギルバートが正気を保っているのが不思議だった。
それが狂気の実験の産物だとは知らないのだ。
だがそれもどうでもいい事。
目的の門たるミアは不意に背中を突き飛ばされてディーバダッタの方へとよろよろと駆け寄っているのだから。
その背を押したのは・・・シモンだった。
意思に反してシモンの腕はミアの背中を押していた。

「うむ、ご苦労。もう思い出してもいいぞ。」
近寄ってくるミアを受け止めようと腕を広げながら邪悪な笑みを持ってシモンに声をかける。
それと共にシモンは思い出すだろう。
捕らわれ、拷問を受けた【後】の事を。

なぜ、拷問の傷がなくなっていたのか。
なぜ、尖塔でゾンビの頭を軽く吹き飛ばせたのか。
なぜ、尖塔から飛び降りたにも拘らず死ななかったのか。
なぜ、ディーバダッタの接近が察知できたのか。

それは・・・既にシモンが人間ではなくなっていたからだった。
身体の内側からとめどなく溢れ出す恐るべき力。そして破壊への渇望がそれを証明している。
ディーバダッタによって魔を植え付けられ、それを催眠眼によって忘れさせられていたことを一気に思い出す。

「門よ!古にはヨモツヒラサカ!サンズリバー!カロン!と数多の名で呼ばれしものよ!
しかし今はあえて七年前と同じ名で呼ぼう!地獄門よ!
ヴィフティアは地獄と化し、お前の内側にある地獄との圧力差は限りなく無いに等しい。
既に閂は無い!お前さえ望めば鍵が無くとも地獄の!我らが故郷への扉は開く・・・!!」
丁重にミアの肩を掴み、ディーバダッタは厳かに宣言をした。

132 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/13(火) 23:52:53 0
(妙だ・・・)

コクハははばたきをやめ、その場でホバリングをした。
塔の姿がどこにもない。
360度、どこを見渡しても見えるのは水平線と街の明かりだけだ。
塔はどこに行ってしまったのだろうか。
首をかしげつつも下の方を見下ろした。

がれきの周りに人間が数人と人狼が一体いた。
そこから少しに離れた場所には血まみれになった巨大なクリスタルが一つ転がっている。
再び視線を人がいる方に戻すと、ティータバッハという男が少女の方をつかんでいた。
少女の体から赤い柱のようなものが立ち上っていて、すぐにここが目的地だとわかった。

ならばすべきことは一つ・・・
はて?すべきこととは?
どうも、記憶が欠落していて思い出せない。
何かをするためにここへ向かったはず。
でも、それが思い出せない。

苦悶の表情を浮かべながらホバリングをやめ、着地した。

133 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/14(水) 02:07:26 0

「くそっ、何だよ一体・・・!せっかく俺様がスタイリッシュにザコをブチ殺したってのに」

ぶつくさ言いつつ、勢いをつけて飛び起きる。
化け蛸を倒した直後ごく軽い振動を感じたかと思ったら、
突如として凄まじい揺れが街を襲い、同時に尖塔が崩れ落ちた。
その衝撃は波が引くように地上にいた者を襲い、地面に叩きつけたのだった。

そして辺りを見回した時、他にも異変が起きている事に気づく。

「―――――?」

おかしい。
何かが・・・何がおかしい?暗い―――そう、暗い・・・
空を雲が覆って・・・月が見えなくて・・・そして・・・・・・赤い。


赤?


空を見上げる。巨大な目玉が天から見下ろしている様が、酷く現実離れして見えた。
まるで窓ガラス越しに、別の自分を眺めているような・・・自分を・・・
―――自分?今の―――いつの―――?



―――空から見下ろす赤く巨大な目玉。自分と「誰か」の血に染まった地面。腕に感じる温もり。

おい。止めろ―――何故こんなものを

―――寂しそうに、しかし優しく微笑む女性。「彼女」の笑顔を見たのはたった二度だけだ。

止めろ―――止めてくれ

―――「彼女」が口を開き、何か呟く。赤い。全てが赤い。空も。地も。彼女も―――そして自分の腕も―――

や、め・・・ろ――――!!



びしり。と鋭い音を立て、窓ガラスに大きなヒビが入る。
はっと振り返ったときにはもう遅い。自分の中の檻の獣と視線が合い、獣が歓喜にギラギラと眼を光らせる。

酷く乾いた音が耳に響き、獣を繋ぎ止めていた檻と鎖が、砕けた。

134 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/14(水) 02:09:01 0
「止めろぉぉおおオオオアアアアアッッ!!!!」

突如ギルバートが頭を抱え、人のモノとも思えぬ叫び声を上げつつ体を折り曲げる。

「ぐあああああぁぁぁ・・・・・・ァァァアアア!!」

再度咆哮し、片足を地に叩きつける。凄まじい衝撃が地面を走り、
砂塵を吹き上げつつ路石にヒビが入り、広がった。
ゆっくりとギルバートが顔を上げる。何故か人の形は失わないものの、
その銀髪は獣のたてがみの様になびき逆立ち、全身から焔の如き赤い光を引き、瞳はぎらぎらと燃え盛るようだ。
・・・向こうで誰かが自分へ向け何か言っている。どうでもいい。知らない顔だ。
やがてその視線が、前方でひざまづくミアを捉える。巨漢がその肩を押さえ、何やら声高に喋っている。

―――アレは。アレも見た事のない少女・・・いや違う―――女―――"あの女"―――そうだ―――


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
7年前のあの日、食い損ねた餌の女だ



「ガ・・・ァァァアアアアアアアア!!!!!!!」

迸るような咆哮を上げ、ギルバートが飛び上がる。全く助走無しの跳躍。
人とは思えぬその動きと脚力に再度路石が砕け、体に巻いていたバッグのストラップが千切れ地に落ちる。
途中誰かを突き飛ばした気がする。どうでもいい。進め。殺せ。食らえ。喰らい尽くせ―――!!

宙を走るギルバートの右手に、瞬時に赤く光る無数の糸が巻きつくように走り、
銀指輪に集中して巨大な獣のような鉤爪を構成する。赤く光るそれは燃え盛る炎で出来ているようだ。
十数mの距離を銃弾の如く宙を駆け、獣がミアに飛びかかった。

135 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/14(水) 02:12:29 0

転瞬。

ギルバートはいぶかしげに視線を落とし、振り下ろした自分の腕を眺める。
地面にはまるで斧を四本振り下ろしたかのような亀裂が走っていた。
しかし、振り下ろした腕が捉えたのは地面だけだった。しかも――――

「―――――」

何かを言う声に顔を上げると、少女の横に立っていた巨漢がこちらを睨みつけている。
左手に目をやると、先程狙ったはずの少女が無傷で座り込んでいた。

――――ドういうコトだ?

あの時、確かに自分はあの少女―――あの女―――を殺そうと爪を振り下ろしたはずだ。
それが、なぜ―――この巨漢を?・・・あの男の意識が邪魔したとでも言うのか?
馬鹿な、あの忌々しい男の自我など、檻を破った時点でとうに消え失せた―――!!

怒りを向ける矛先を探し、再度巨漢を睨みつける。
金色に光る隻眼が、まるでそれ自体が生きているかのようにぎろりとギルバートをねめつけた。

気に入らない。こいつは気に入らない。この眼を見た事がある。
そうだ、自分を縛り、繋ぎ、閉じ込めた男と同じ―――苛ただしい、忌々しい―――
殺してやる。進め。殺せ。食らえ。喰らい尽くせ―――!!


「貴様―――ソの金眼、えグリ出してハラワタ食い散らしてくレる―――!!!」


咆哮が響き、再度恐るべき速度を伴って腕が振り下ろされる。
動じる事なくそれを受け止めたディーバダッタの足元の路石が砕け、衝撃の凄まじさを物語った。
さらに振り下ろす。振り回す。叩きつける。

既に人形の獣と化したギルバートが執拗にディーバダッタを狙い、二人は徐々にミアから引き離されていった。

136 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/10/14(水) 15:28:03 0
どことなく胸騒ぎは覚えていた。
真紅の目玉が空に浮かびだしてから二人の様子がおかしかった。
だが、武装蜂起した民衆や、異形化した人々を制圧するには躊躇のない人間が要ると判断して足止めに残ったのだが

「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・・・・・あぁああ!数が多いったらないな?!」
さっきの二人ならば、無辜の市民の殺戮には躊躇ってしまったかもしれないが自分にはない。
暴徒化した中年の男の首を撥ね、必死の形相で追いすがる少年少女の胸を突き通す。


「と言うか・・・・・・これはいい加減元凶をどうにかしないといけない、か?」
跳躍して異形化した人間の頭部を踏み台にし、さらに跳躍。
他に民衆や異形どもが集まっている地点を目指して走り出す。

137 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage中ボス出現] 投稿日:2009/10/15(木) 22:28:23 0
>137>132
>「貴様―――ソの金眼、えグリ出してハラワタ食い散らしてくレる―――!!!」
咆哮と共に振り下ろされる腕を受け、ディーバダッタの全身が軋みを上げ石畳は割れる。
更に続くニ撃、三撃。
反撃の暇を与えぬ攻撃にディーバダッタは徐々に下がり、ミアから引き離されていった。

「くはははは!そうだ!もっとだ!」
ギルバートの狂ったような攻撃を尽くガードしながらディーバダッタの笑い声が響く。
しかしその笑い声は見たものからすれば大きな違和感を覚えるだろう。
巨躯で鋼のような筋肉を持つとはいえ、人狼の恐るべき攻撃を防ぎきれてはいないのだから。
人の知覚を越えたスピードに対応しガードするが、その威力は打ち消せるものではない。
巨大な爪はガードされても腕の筋肉を切り裂き抉っていく。
血煙を上げながら、それでも尚ディーバダッタの気勢は衰える事はなかった。

しかし、刹那の隙が生じる。
苦悶の表情を浮かべた獣の天使、コクハが舞い降りた瞬間。
ディーバダッタの視線が僅かにギルバートからそれ、そこに爪は繰り出される。

交錯・・・。
執拗に攻め続けていたギルバートが弾かれたように後ろに飛びずさった。
ダクダクと血を流すディーバダッタの雰囲気がこの交錯によって明らかに変ったのだ。
狂ったように攻め続けていたにも拘らず距離を置いたのは野生の勘だろうか?
そしてその爪の先には血塗られた金眼が突き刺さっていた。

「ああ・・そうか・・・魔狼よ・・・!お前もまた運命の糸に引かれた要因であったか・・・!」
金眼を抉り取られたにも拘わらず、ディーバダッタの醸す気は嘗てないほど禍々しくなっていた。
そして身体が徐々に金色に輝き、その輪郭を消していく。
そして遂には光の玉となる。

光の玉からディーバダッタの声が周辺に響く。
ゆっくりと・・・そしておぞましき口調で。
「くっくっくっく・・・
我ら終焉の月の幹部は教祖より金眼を賜る・・・。
金眼を賜るという事は・・・地獄の住人となることを意味するのだ・・・!」
そう、金眼とは最上級の降魔石なのだ。
あまりに強き魔を宿すが故に、人のままでも異能を一つ得る事になる。
「だが・・・私は違う・・・!
金眼を抉られて思い出した!
私は金眼の能力で強力な自己催眠をかけて人の形を保っていたに過ぎぬ!
私は・・・元々地獄の住人なのだからなあ!!!」
高らかな言葉と共に光の玉は消え去り、そこには一頭の黄金の異形がいた。

138 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage真ディーバダッタ] 投稿日:2009/10/15(木) 22:31:25 0
犀・・・というのが一番適切だろう。
勿論自然動物とはかけ離れた異形の化け物なのだ。
分厚い鎧のような外皮を重ねた継ぎ目からは赤黒い粒子が吹き出ている。
それはあまりにも濃厚な・・・正に地獄の瘴気そのものだった。

「ふうむ・・・コクハ殿か。
やはりそうなりましたな。一目見た時から判っておりましたぞ。こうなる事を!」
魔を狩る者はいつしか魔に蝕まれ一匹の魔物と化す。
今のヴィフティアの瘴気に当てられて一気に顕在化したのだろう。
巨大な犀の化け物と化したディーバダッタはコクハを一瞥して満足そうに言葉を漏らす。

そして、リュネに視線を移す。
「良くぞ我慢してくれましたな、御子よ。」
そう、戦闘に存在意義を見出しているリュネがギルバートに手を出さなかったわけは。
ディーバダッタが金眼を抉り取られる必要があることを知っていたのだろうから。
それでも尚我慢したのは感謝に値する事だった。

「本来の自分に戻ったからこそ判る。
私が作り出した地獄はまだまだ瘴気が薄い!息苦しさを感じる!
さあ、世界の反作用どもを殲滅し、本物の地獄の門を開くとしましょうか!!」
最早リュネを止める必要はなくなった。
血と闘争と殺戮の宴の始まりを意味していた。

ディーバダッタが前足を踏みつけると石畳は一斉にめくれ上がる。
さながら土津波のようにギルバートに、ヴェノキサスに、そしてシモンにと襲い掛かった。
しかしこれはディーバダッタの動作の一つでしかない。
そのまま地面を蹴り、一気に跳躍。
ヴェノキサスは石畳の土津波越しに見るだろう。
金色の巨大な塊が自分に向かって突っ込んでくる事を!

【モンスターデータ】
真ディーバダッタ
体長3mオーバー
金色の犀のような異形。
硬い外皮と圧倒的なパワーが特徴。
意外にスピードもある。
地獄の住人で、外皮の隙間から瘴気が漏れ出る。

139 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/16(金) 13:41:18 0
「始まりましたか。」

圧倒的な瘴気の発生を感じ取り、ルキフェルは再び口を吊り上げるように
笑った。
地獄の門が開かれ、世界は再び闇が支配する。
これこそルキフェルの求めていた世界。
しかし、ルキフェル自身すら知らなかった”声”が続ける。

「「お前が求めていた物は与えてやった 後は我が魂の求める物を」」

その声はまだルキフェルが幼き頃に聞いた事のある声。
そうだ、この声は。
ルキフェルは思い出した。全てを。
あの日。自分が何故、人を超える力を得たのか。
そして、この心から湧き出てくる無限の闇の根源を。

「そうだ、我が名は……懐かしいぞ。懐かしい。
地獄こそ我が住処…そう、我が名は。」


黒い羽が空を埋め尽くす。
そして、戦士によって貫かれた暴徒の遺体を闇が喰らう。
黒いヒルのような異形の覆われた人々は、強制的に蘇生させられ
再び戦士達へ襲い掛かる。
口々に呪いの言葉を吐き散らしながら。

既にこの街は死に始めていた。



140 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/16(金) 21:39:21 0
離れた中心部で殺戮が起こっているのを、シモンは感じた。
グォォォ…ギャアア…といった慟哭、悲鳴がどういう訳か脳に響きわたる。
感覚が勝手に研ぎ澄まされているのだ。さっきから。

「――兄貴や親父やリフィルが心配だ」
「私も連れて行って下さい!」
声を聞いたのだろう。レクストとフィオナが先ほどの箒ですぐさま
街へと救助に向かったようだ。彼らは”優しい”のだ。
少なくともシモンは自分と違う雰囲気を感じていた。しかし今はそれはどうでもいい。
(俺は俺の仕事をするまで…!)

もう一度クリスタルを見る。シモンの瞬きに合わせてクリスタルの光が瞬く。
確実に”これ”が、共鳴しているのだ。
誰かがシモンのもとに駆け寄った。シモンにはそれが見えていない。

ゴウッ!!という音とともに現れた金色の人影…
それは、紛れもなくあの巨漢だった。
「てめえ!生きて…やがったのか…!」
「ふむ・・・お前達が今回の反作用か・・・!
しかし、奇妙だな。魔狼よ。なぜ正気を保っていられる。
お前はこちら側の住人ではないのか?
そこの男のように、な!」
自信満々に巨漢が指さす。その先にはシモン。
(な…なんだ?この感覚は…!)

クラリ、と世界が歪んだ。奴の眼を見たときに、確かに一瞬、気を失ったのだ。
誰かが一瞬、視界を遮った。
そして…
そこで見たものは、自分に突き飛ばされ、巨漢の前に倒れ伏したミアの姿だった。

「うむ、ご苦労。もう思い出してもいいぞ。」
巨漢がミアの肩を掴み、満足気に宣言した。
そして気付いたのだ。シモンが奴の幻術によって、騙されていたという事に。

141 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/16(金) 22:09:33 0
そしてシモンは巨漢のすぐ後ろにいる人影に気付いた。
見たこともない白い装束を着たその少年は、明らかに異質な雰囲気を放っていた。
どこをどう見ても強敵である。
いつでも出られるよう、シモンは右手で”コカトリス”に手をかけた。

「止めろぉぉおおオオオアアアアアッッ!!!!」
ギルバートが突然咆哮を上げ、巨漢に飛び掛った。
(…!?)
シモンは驚いた。いつもミアを庇う行動をしてきたギルバートが、突然
ミアを巻き込みかねない攻撃をしたためである。
畳み掛ける攻撃に、シモンはつい息を呑んだ。血煙の上がる激しい攻撃だ。
徐々に姿も人型へと変化していく。
「貴様―――ソの金眼、えグリ出してハラワタ食い散らしてくレる―――!!!」

その時突如、ミアと初めて遭ったときに巨漢と共に行動していた女が現れた。巨漢の注意が反れる!
そしてついに巨漢はギルバートによって眼を抉り取られ、金色の光を撒き散らしながら崩れていく…
いや、崩れてはいない!…シモンの神経がさらに研ぎ澄まされていくのが分かる。
膨大な瘴気だ。その中から現れたのは、不気味な姿をした巨獣だった。サイのような姿をしている。
近くにいるのは自分とギルバートと、先ほど”仲間”となった仮面の男。

「さあ、世界の反作用どもを殲滅し、本物の地獄の門を開くとしましょうか!!」
”御子”と呼んだ白衣の少年に声をかけ、巨獣が津波を起こす。
「チッ…!」
素早く跳んでかわそうとするも、石畳の欠片がシモンの足元を掬った。
血がダラダラと流れるが、不思議と痛みは感じない。

巨獣は仮面の男との格闘を繰り広げている。
シモンは手空きになったミアの方に駆け寄ると、素早くナイフを巨獣の背中に放り投げた。
バチリ、と黄金のオーラが濃くなり、ナイフが魔力で叩き落とされたことが分かった。
「くそっ…!ミア、アレを頼む!」
そうミアの方に寄ったのは初めからこれが目的だった。
「”飛翔”」
この時を待っていたのだ。
シモンは一気に高く跳躍すると、空中で二回、三回と脚をつきながら
毒針を投げ、注意を引き付ける。

そして、巨獣の近くで一際高い宙返りをし、”コカトリス”を抜き放つと、
巨獣の分厚い外皮の継ぎ目のような部分に絡ませ、その背中に自ら乗り
引き千切るようにして引き上げた。


142 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/10/17(土) 19:41:07 0
艶消しされた箒のグリップを捻ると、飛翔オーブに魔力が注ぎ込まれ唸るように鳴動する。
燐のような魔力光が箒尻から枝を経て吐き出され、光の溜まりをその場に創った。

ニムルバス交通機動社製『トリックスターVer2.0.3』――グリップの先端に刻まれた銘は、守備隊正式採用の高機動箒である。
長距離飛行にやや難があるが馬力があり、加速と小回りも一級品。都市規模の航空防衛機としてはこれ以上ないくらいの選択だ。

「――私も連れて行って下さい!」

同行者を募る問いかけに、強い声でフィオナが反応した。頬を腫らしているのは喝を入れたからか。
神殿騎士の彼女としても、街の惨状は見過ごせないのだろう。神聖魔法を使える彼女が強力してくれるのは非常にありがたい。

「助かるぜ……!オッケー後ろは頼んだ!!」

半実体の羊皮紙が柄の上に展開し、またしても実体のないインクが紙面を走り『箒』の機体情報と街の全体図を表示する。
内在魔力燃料が充分、限界積載量もクリア。柄に括りつけた元・黒衣の男が若干の空気抵抗を生むようだが無視できる。

「行くぜヴァフティア奪回――!!」

フィオナの搭乗を確認した刹那、オーブに火を入れレクスト達は離陸した。魔力光が太い尾を曳き、超加速によって残像を残す。
その後ろを巨大な袋を背負った外套姿の少年が密かに追っていることには、とうとう気付かなかった。

羊皮紙の高度表示が飛行に充分な高さを示したとき、背後で金色の暁光が迸るのを感じる。
(尖塔の方からか――ミアの追っ手?なんにせよ今は確認してる暇ねぇな……!)

シモンの言っていた『とんでもねぇ奴等』がそれに該当であろうことは理解しているが、相応の戦力もあそこには居るはずだ。
それよりも今は自分の為すべきことをしよう――レクストはあっさり懸念を切捨て、箒に括りつけた男の脇腹に蹴りを一発。

「うおっ!?あ?――あああああああ!!??」

覚醒した元黒衣は自分が置かれた状況に一旦固まり、悲鳴を挙げ、そして諦念したように頭を垂れた。

「よぉ、お目覚めか元黒衣。良い夢見れたかよ?」
「な、なんなんだお前は!私の服はどうした!何故私はこんなことになっているんだ!解け、解いて降ろせ!!」
「ここでか?」

上空である。オーブによって加速と高度を得た箒は今夜風を切り裂きながら街を旋回するように飛んでいる。
元黒衣の男もまたインナースーツが風にはためく感触で自身が空飛ぶ箒に背中を固定されていることを理解する。

「――やっぱり降ろしてから解いてくれ」
「素直なのはいいことだぜぇ、素直次いでにちょっと頼まれてくれ。無論拒否権はないけどな」

怪訝そうに見上げる元黒衣に黒い刃物を投げ渡す。儀式で使用されていた黒曜石にナイフだ。
これは元々近接戦闘に用いるものではなく、その魔力伝導性を利用して術式を行使しやすくする補助アイテム。

「お前、攻撃系の術式は使えるよな?」
「……当然だ。私は教団の小隊長だぞ」
「そりゃ重畳!んじゃ今からあそこの広場に降りるから――見えるだろ?あそこに溜まってる魔物共目がけて撃ちまくれ」
「――は?」

元黒衣の疑問は風に掻き消え、箒は無常にもその先端をヴァフティア東区の小広場へと向ける。
そこでは守備隊と住民が武器をとり、家族や同僚の変わり果てた姿と刃を交わしていた。奮闘しているものの、戸惑いと混乱は劣勢を生んでいる。

「騎士の姉ちゃん、舌噛むなよ?ついでに緩衝術式の展開を頼むぜぇ――」

無論答えは聞かない。神殿騎士ならば防御系の聖術を一通り習得しているだろうし、これは信用であり信頼だ。
舳先が下を指し、羊皮紙が警告文を書きたてるがそれも無視。レクストはオーブに鞭を入れた。

「行くぜ――超絶必殺神風特攻自由落下!!」

重力加速度は小気味よく箒と三人を地上へと運び、元黒衣の悲鳴を軌跡に流れ星となった。

143 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/10/17(土) 20:29:02 0
「うわぁぁぁぁぁぁああああああああおおおおおおおおおお――――!!!!!!」

元黒衣が悲鳴とも雄叫びとも嗚咽ともつかない叫びを挙げながら握った黒曜石のナイフから魔導弾を連射する。
『破壊』や『打撃』や『貫通』の威力を持った極彩色の魔力はさながら流星群のように小広場へ降り注ぎ、
魔物だけを正確に打ち抜き穿ち破砕していく。安定しない箒の下で、取り乱しているにも関わらず狙いが正確なのは流石と言ったところか。

「おお、当たるもんだなぁ!やるじゃねぇか元黒衣、ちょっと見直したぜぇ」
「ととととっと当然だろう!わわ私は武闘派小隊を束ねるリーダーだぞ!!」
「まぁお前の活躍もこれで終いだ。こっからは――」

フィオナの展開した緩衝術式によって難なく着地したレクスト達は、民衆達を庇うように地に立ち刃を抜き放つ。
突然の絨毯爆撃に大半を削られながらも、生き残った魔物達は咆哮し牙を剥いた。

「――俺達の出番だ」

フィオナとは別方向に散開し、鋏討つようにして魔物の群れを穿っていく。斬り裂き、打ち抜き、殴り斃し、
加勢によって士気を取り戻した守備隊と武装住民が蜂起したこともあり、やがてその場の脅威は全滅した。

「助かったよ。俺達数人だけじゃ女子供を護りながら凌ぐので手一杯だったんだ。本部とも連絡つかないし……」

武装を収めたレクスト達のもとに守備隊の一員が駆け寄ってきた。
目尻から頬にかけて塩の線が出来ている。おそらくは、彼もまた仲間を手にかけねばならなかった一人だろう。

(辛いだろうな……)
レクストとて例外ではない。しかし彼にはヴァフティアを護るという使命がある以上、ここで立ち止まるわけにはいかない。
贖罪など、後でもできる。ならば今生きている命を救うことを優先しよう。そうやって、彼は自分の中に区切りをつけていた。

「守備隊の駐屯舎と連絡とれてないのか?この混乱具合じゃどこもここみたいな感じだろうな……火急だぜぇ」

レクストは顎に手をあて思案すると、とりあえず箒の傍に安置していた生贄の少女の保護を頼み、状況を把握するために話を聞く。
どうにも中央噴水広場で振舞われた炊き出しを口にした者が突然魔物へと変化したらしい。炊き出しの主催は市の扶助会だ。

(扶助会……手がかりを見つけるにはやっぱ中央に行かなきゃなんねぇか。その前に揺り篭通りにも寄りたい)

これからの行動方針を固めんと思考し、フィオナにも意見を求めようと振り向いたところで、通りの方から市民の集団が現われた。
全員が剣や槍や魔杖で武装しており、全員が青ざめた顔で唇を噛んでいた。身体もどこか震えている。

「大丈夫だったか!そっちの様子は?」

守備隊の男が集団を広場に招きいれ、状況を聞き出そうと話かける。しかし、彼等の視線はレクスト達へと固定されていた。
集団はひそひそと何かを耳打ちし合い、一人がレクストへと駆け寄ってくる。

「アンタらかい?街の連中を助けようと飛び回ってるのってのは」
「あ?ああ。――俺達は助けるためにここに来た」

答えると集団の一人はああ、と肯定とも否定とも恍惚とも悲哀とも取れない声を出し、

「よかった。ここに居てくれてホントによかった。それじゃあ、――――死んでくれ」

「――お?」

聞き返す前に腹部に衝撃と灼熱感。見下ろせば、装甲を貫いて男の握った小ぶりの短剣が腹に突き刺さっていた。
襲ってきた絶望的なまでの苦痛に意識が飛び駆ける。毒か、または付与魔法――いずれにせよ、ただの短剣ではないようだ。

「すまねぇなぁ……アンタに恨みはねぇけどよ、嫁と娘が街にいるんだ。すまねぇ……」
謝罪句を呟きながら青ざめた顔に力を入れて短剣から手を離す。レクストは腹から剣を生やしたまま、その場に仰向けに倒れた。

「どういう……ことだよ……?」

枯れた声の疑問に答えはなく。取り押さえられた男が喚くように謝る傍で、レクストはゆっくりと意識を手放した。

144 名前:レクスト ◆VhWYERUtMo [sage] 投稿日:2009/10/17(土) 20:40:24 0
状況まとめ忘れてました。

【東区の小広場にてルキフェルの放った刺客と遭遇。腹にナイフを受け昏倒】

145 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/19(月) 04:15:00 0
フィオナは酷く後悔していた。
ヴァフティアに蔓延る魔物の掃討、それは望むところだ。
会ったばかりの自分に後ろを任せるレクスト、これも頼もしく力強い。
たがそのレクストが跨る箒、これはいただけない。
箒自体は最新鋭。フィオナはこれらの機構に明るくは無いが、以前神殿の同僚がこの新型の箒の発表に狂喜乱舞していたのを覚えている。
問題はその柄に括り付けられている物体。
元々着ていた黒衣を剥ぎ取られ下衣一枚の男が――意識を失っているからなのだが――だらんと、弛緩した姿で鎮座。
異様なまでの変態的デザインを箒に加味していた。
だがいつまでも躊躇しているわけにもいかない。
フィオナは意を決すると箒へと跨る。
『行くぜヴァフティア奪回――!!』
そんな乙女の葛藤を知ってか知らずか、レクストの声は覇気に満ちていた。

「ふあっ!?あああぁあぁぁぁぁ!」
千切れ飛ぶ景色と叩きつけられる風。
フィオナは飛行箒の全速力を身をもって体感していた。
ばさばさと長い髪も暴れ狂っている。
「ちょっ、レクストさん、もう少し、速度を……。」
ぱくぱくと声にならない抗議を上げるが当の運転手は何やら据えつけられたオブジェ、もとい教団の元黒服と何事か話をしているようだ。
そのやり取りも一段落するとレクストは箒を大きく旋回させ機首を東区の小広場へと向ける。
眼下には守備隊と住民が魔物と戦っている様が見える。

『騎士の姉ちゃん、舌噛むなよ?ついでに緩衝術式の展開を頼むぜぇ――』
『行くぜ――超絶必殺神風特攻自由落下!!』
「うわあああ!絶対に嘘だああああぁぁぁ!!――主よっ我らが身に羽の軽やかさをぉぉぉぉ。」
ぐらりと地面に向かっての急降下。
舳先を下に向けることで極限まで空気抵抗を減らし大地へと真っ逆さまに駆け落ちる。
フィオナは絶叫しながらも"落下制御"の奇跡を、神殿の神官長に知れたら一日説法されそうな聖句ではあるが発現させた。

146 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/19(月) 04:20:39 0
フィオナとレクストが慣れ親しんだ大地にふわり、と着地する頃魔物達はその数を減らしていた。
高速で落下する箒から舳先に据えつけられた元黒服による魔導弾の狙撃。
あの最中よくここまで狙えるものだと敵ながら感心してしまう。
抜刀しながらレクストとは逆方向へ駆け出し、予想だにしていなかったであろう上からの反撃に算を乱している魔物へと肉薄。
斬り、払い、突き、目に付く相手からなで斬りにし、然程もかからずに広場の敵を殲滅した。

『助かったよ。俺達数人だけじゃ女子供を護りながら凌ぐので手一杯だったんだ。本部とも連絡つかないし……』
丁寧に剣を拭い鞘へと収めると、体のそこかしこに浅いが真新しい傷が見受けられる守備隊員が駆け寄ってくる。
その男の対応をレクストに任せるとフィオナは広場に居る負傷者の方へと向かう。

「大丈夫ですか?すぐ治療しますからね。」
横になって呻いている男の傷口へと手をかざすと"治癒"の聖句を唱える。
柔らかな光が傷口を覆い、ゆっくりと傷跡が消えていく。
『ああ……ありがとよ、あんたは神殿の聖騎士か?』
「はい。あっ、まだ横になっていた方が良いですよ。無くなった血まで戻るわけじゃありませんから。」
意識を取り戻し起き上がろうとする男を嗜め寝かせると、男へと質問を返す。

「警備のために多くの人員が割り振られたのはこの近くだと何処ですか?」
『そうだな、揺り篭通りの辺りか。祭の騒ぎに乗じて盗人が仕事をするかもしれんって理由だったと思うが。』
確かに住人のほとんどが祭へと出かけ人気の無くなった住宅地というのは絶好の標的な気がする。
そこの警備兵達が降魔を免れてたとしたら街奪還のための大きな戦力になるかもしれない。

(まだ無事な市民を保護する為にも戦える人は多いほうが良いよね……)
レクストの考えも聞いておこうと元居た場所へと視線を向けると先程の守備隊員とは別の武装した市民と話している姿が見える。
そちらへと歩いて行こうとしたその瞬間、市民の持つ短剣がレクストの腹部へと突き立てられていた。
「レクストさんっ!」
その場に崩れ落ちるレクストへと駆け寄るフィオナ。
魔力装甲を貫き生える短剣は刃に複雑な呪紋が施されており禍々しい瘴気を放っている。
急いで短剣を引き抜き"治癒"の奇跡を行うが傷は一向に消える様子を見せない。

切り口に呪いを撒き散らし如何なる回復手段をも阻害する、即ち魔剣。
レクストに突き立てられた短剣はまさしくそれだったのだろう。
魔剣の傷を治すには"解呪"を行わなければならないが、聖魔術の中でも高位に位置するその奇跡をフィオナは使えない。

(ルグス様……どうかこの勇敢なる者をお救い下さい!)
延命のため"治癒"の奇跡を続けながらフィオナは心の底から己の信じる神へと祈った。

147 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/21(水) 01:45:46 0
保守

148 名前:レクシス ◆cThJAgyuq2 [sage] 投稿日:2009/10/21(水) 02:42:26 0
名前:レクシス・ミドレイア
年齢:18歳
性別:女
種族:人間
体型:スレンダーだが、素晴らしい脚線美
服装:オレンジ色のシャツに裾の無い破れジーンズ着用
    フードとマントで体のほとんどを隠している
能力:息を止めている間、自身の姿と気配を完全に消すことができる
    魔法や妖術の類いでも探知することはできない
所持品:アサシンダガー、ストローダガー、各種毒薬、旅道具
簡易説明:暗殺を生業とするカルマ族の少女
       褐色の肌に金髪を独特の髪飾りで纏め上げているのが特徴
       冷徹で感情が希薄に見えるが、実際は明るい性格である
       数年前に里が壊滅して以来、仲間を皆殺しにした者を探して旅をしている

149 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/21(水) 03:16:28 P
ドン、と背に衝撃を感じた。甘く霞んだ意識にノイズのような不快感が走る。
よろめく肩を支えた腕は太く、壁のように小揺るぎもしなかった。
首を傾げる。なぜ彼がここに? ……そういえば、狙われていたっけ。
……彼は何をしようとしていたのだったか。

>「門よ!古にはヨモツヒラサカ!サンズリバー!カロン!と数多の名で呼ばれしものよ!。
>しかし今はあえて七年前と同じ名で呼ぼう!地獄門よ!
>ヴィフティアは地獄と化し、お前の内側にある地獄との圧力差は限りなく無いに等しい。
>既に閂は無い!お前さえ望めば鍵が無くとも地獄の!我らが故郷への扉は開く・・・!!」

…………「我らが」故郷? ……本当だ。彼は人ではない。
魔が、人の皮で覆い隠したその本性が、今なら感じ取れる。
赤い月光に幻惑された“人間”ミアが、内側で膨れあがる地獄に染めあげられつつある今なら。

自分の内は地獄に繋がっていると彼は言う。それが“門”の意味で、七年前や今につけ狙われる理由なのだろう。
この魔物は“門”を開かせたいようだが――

……開けてしまおうか?

地獄に呑まれた世界の自分は変質はしているだろうが、別に死にはしないだろう――なら。
月が自分を呼んでいる。美しかった。心惹かれた。この世で生きたどの瞬間よりも。
この気持ちに抗するべき程にこの世は魅力的か?結局そう面白いものも見つけられなかったこの世界が?
――“生きたい”なんて一言も言って無い。

150 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/21(水) 03:19:03 P
>「ガ・・・ァァァアアアアアアアア!!!!!!!」

突然上がった獣の叫び。顔を上げた時には殺意を剥き出した人狼が目前にいた。
どうして。言葉は喉の奥のひきつった声として漏れる。時が凍ったような赤い景色の中、その場から一歩も動けないまま――
牙が突きたてられる寸前、人狼の瞳に迷うような色が生じた。
男の動きが止まる。一拍遅れてミアが尻餅をつく。
忌々しげな一睨みを残したギルバートは何故か転進、金眼の僧侶へ向かった。

――既視感。
七年前。赤い月。獣と化した男と“ゲーティア”。
……あの時も、あの赤い月に魅せられた。
曖昧になる理性。頭をよぎる開門の二文字。
……しかし、倒れたギルバートに語りかけて自ら命を絶ったあの瞬間、確かに自分は地獄の降臨を防ぐ堅い意思を持っていた。
駆り立てたものは何だ?単純な世界愛?
――否、そんなはずはない。
“ゲーティア”は世界を憎みすらしていたのだから。
彼女を繋ぎ留めたのは高尚な大義では決して無く――きっと“彼”の存在。


……なら、“ミア”は?


答えのないうち、気づけば駆け寄ってきたシモンに当然のように補助魔法を掛けていた。
…自分は月より人の世を望むのだろうか?
赤い光に包まれたまま、ミアは視線を月ではない空に向けた。
そこには魔物化した見覚えのある剣士が浮いている。
「……貴女は今、人でも魔物でも無いわね。
月は好き?人は……好き?
どっちの味方をする?」
一息置いて付け足すように、
「私は……どちらも好きでどちらも嫌い」


151 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/21(水) 21:26:42 0
>>146
空は漆黒の闇に覆われ、邪悪なる者達の雄叫びだけが
響いている。
その中で、1つ2つ。勇敢にもそれに抗う者達が居る。
ルキフェルは広場の奥でそれを楽しげに見物していた。

「早速、来ましたか。」
スキップするようにふわりと舞い上がり、レクスト達と共に
現れた守備隊の前に出る。

「…な、なんだお前…」
「え?」

ルキフェルが指を鳴らしたその瞬間、守備隊の内の幾人かの
体を何かが貫通する。
恐る恐る、隊員たちは自らの腹を見る。
空洞だ。真っ黒な血で染まった穴が出来ている。

「…う、うわぁぁあぁ!!」
口から血を流しながら地面に倒れ込む隊員。それを見て腰を抜かす隊員もいる。
ルキフェルは地面に落ちている肉の塊を見て少しばかり溜息を付いた。
「もう少し、破壊力があると思ったのですがね。人間爆弾とやらも。」
そう言って肉の塊を何度も踏みつけた。

ルキフェルが顔を上げた先では素晴らしい光景が広がっていた。
1人の勇敢なる市民が、戦士に剣を突き立てる様。
拍手しながらその姿を讃える。
「素晴らしい。これで貴方の家族の安全は保証します。
あ、ついでですからそこで何かやっている女性も殺しておいてください。」

血走った目で治癒に専念するフィオナを見る暴徒達。


”神はいない。それを証明する為の今日だ”

深い闇の中からルキフェルとは違う声がフィオナの耳を貫く。
それは神とは対極の、何かとてつもない邪悪な存在からの声。




152 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/10/21(水) 21:59:06 0
――疾風は駆け抜けることを止め、纏っていた蒼い光も消え散った…何故か。
それは、疾風でさえ吹き飛ばし退けること叶わぬ、分厚すぎる圧倒的な壁があったからに他ならない。
退いて行く風。舞い上がっていた砂煙が落ち着くと、そこには、蒼い焔がユラユラと燃えている。

『………私の行手を……………「誰」だ、君は…………?』

ヴェノサキスはゆっくりと立ち上がる。その背には、轟々と燃える蒼焔の翼が光っていた。
しかしこれは本当に背中から生えているわけではなく、炎が集まって出来ているようだ。
同様に、青焔が渦巻いた尾と角が生えている。まるで、本物の龍の様に。

「……大きい…な………君……それに………五月蝿い…」
金色の巨躯と化したディーバダッタの体当たりを、翼も使わずギリギリのところでフラフラと何とか避ける。
犀はそのまま突っ走り、背後に見えていた巨大な岩を簡単に木っ端微塵にしてしまった。
それは本来、見る者の戦意を挫き、強い恐怖を植えつけるような光景であったが、
ヴェノサキスにはどうにも何の感情も湧いてこない。頭がまるで回らない。
言葉にも力が入っておらず、いつの間にか独特な響きが消えて、女性と思える声になっている。
んー、と何事か考えた後、何故か自分の背中の方へと言葉をかける。
「…私だけでは、手に余る…相手だ……………貴様も働け」
…一見、というか、どこからどう見ても、今後ろには誰もいない。だが、

(―――良かろう―――)

低く、雄雄しい声であるはずの無い返事が返ってきたかと思うと、
ヴェノサキスの背後……何か巨大な影が、轟音と共にその鎌首を擡げた。そして―――


我亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜――!!!!

咆哮。
それは、嘗て天を払い、野を焼いて神に叛いた堕ちし龍。
最美の…そして最凶たる天災の権化、「蒼龍」。
どうやら肉体はなく、蒼焔の塊が龍の形を成しているだけの様だった。
だがその存在感たるや圧倒的で、腕を組み、地を踏み割ると同時に、
周囲を清き炎で覆い尽くして見せる。しかし、その無意味な破壊活動を、ヴェノサキスは止めようとしない。
今、頭の中は障害を排除することしか考えておらず、その為には他がどうなろうと全く知ったことではないのだ。
はっきりとしない意識の中、ゆるりと口を開く…

「…私は役職上、神の存在とか神聖な教えとか、そういう類のを一通り学んではいるけど…
でもさ……――

言葉をそこで止め、腰から二丁の銃を取り出し、ディーバダッタに向けると
聞こえるかどうかの小さな声で、言葉の続きを微かに漏らす。

―昔から自分のしたいこと最優先の、駄目人間だったんだよね……!」

言い終えるが先か、抜き放った銃を犀の頭部と思しき部位に向け、
腕が吹き飛びそうな程の勢いで、かつ正確に連射する。そしてヴェノサキスの攻撃に連動するかのように
蒼龍が拳を固め、弾幕に一瞬怯んだディーバダッタへと思い切り叩き付けた――――


【蒼龍出現。現在、力節約の為上半身のみ+縮小化。体長は角の先まで含めて7メートル
かなり不安定な状態で存在している】

153 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/21(水) 22:04:14 0
>>148
よろしくお願いします

154 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/21(水) 23:05:54 0
>141>152
ヴェノキサスへの体当たりの瞬間、ディーバダッタは見た。
蒼焔の翼、そして渦巻く角と尾が生えた姿を。
しかしだからといって軌道修正をすることはなく、そのままヴェノキサスをすり抜けた。
ソレはあまりにもギリギリのタイミングで交わした為、すり抜けたように感じてしまったのだ。
勢いあまり後ろの巨岩を粉砕したところで、上から殺気を感じる。

飛来するナイフ。
だが、異形と化したディーバダッタには避けるまでもない攻撃だった。
分厚い外皮はいわずとも、発する金光が分厚い壁となってナイフを叩き落す。
その後の毒針も同様。
僅かに注意を引いただけで、回避の必要すらない。
その慢心、そして虚をつかれる事になる。

「ば、ばかな!貴様なぜまだ人間のままでいるっ!!」
外皮の継ぎ目に絡ませ、背に乗った者がシモンだと知り驚きが隠せない。
返答の変わりに引きちぎるように引き上げる力を込められる。
「ぬううう!この力は確かに我らのもの!!」
いかにコカトリスが鋭かろうとも。
いかに外皮の継ぎ目であろうとも。
本来ならばディーバダッタを傷つける筈もないものだが、引き上げる力は人間のものを遥かに超えていた。

シモンを背にディーバダッタは飛び上がり、足をつき暴れまわる。
ソレは正にロディオの様相。
ただ違いは、一歩ごとにシモンに加わる衝撃が桁違いだという事だ。
継ぎ目にコカトリスを食い込ませながら、傷口から濃厚な瘴気を垂れ流していく。
その場に数十のクレーターを作ったとき、コカトリスが限界を迎える。
引き上げる力とディーバダッタの肉、そして衝撃に耐え切れなくなり千切れとんだのだ。

シモンを振り落とす事に成功したディーバダッタの目の前に、巨大な影が鎌首を上げていた。

>我亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜――!!!!
「武悟雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄ーー!!!」
空気を震わす蒼龍の大咆哮にディーバダッタも咆哮で返す。

周囲は清き炎で多い尽くされるが、ディーバダッタも金光を強め周囲に寄せ付けない。

対峙は一瞬。
ヴェノキサスが銃を頭部に向け連射する。
最初の数初は金光に遮られていたが、正確に一点に打ち込まれ続ける弾丸は徐々に食い込んでいく。
そしてその角に一発。
金光にあいた穴を押し広げるように次々と打ち込まれる弾丸に怯むディーバダッタに蒼龍の拳が叩きつけられる!

155 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/21(水) 23:06:33 0
拳は金光によって僅かに勢いが衰えるも、一箇所穴が開いてしまった防壁は脆くなるものだ。
光の幕をつきぬけディーバダッタの横腹に叩きつけられた。
その衝撃は凄まじく、継ぎ目に食い込んでいたコカトリスの刃がはじけ飛ぶ。
叩きつけられた部分の外皮は歪み、全身から濃厚な瘴気が吹き出た。

だが・・・ソレほどの攻撃を受けながらも、ディーバダッタは吹き飛ばなかった。
四肢を地面にめり込ませながらもその場から動かなかった。
恐るべき攻撃を受けきって見せたのだ。

「世界の反作用もなりふり構っておらぬな!天災もまたこの世界の一部か!
よかろう!!!」
右前足を地面から引き抜きもう一度力強く地面に叩きつけると、横腹にめり込んでいた蒼龍の拳が弾かれる。
ディーバダッタの垂れ流した濃厚な瘴気は、周囲の清き炎を貪るように消していき、蒼龍に絡みつく。
まるでタールのように重く、酸の様に炎を貪りながら。

体制の崩れた蒼龍とヴェノキサスに向かい、大きく頭を突き出した。
勿論角はどちらにも届きはしない。
しかし恐るべき力で行われた【大きく頭を突き出す】という動作は空気を圧縮し、蒼龍に叩きつけられた。



>148
よろしくお願いします!

156 名前:オルフェーノク ◆O6C0C9pKcx1S [sage] 投稿日:2009/10/22(木) 02:55:12 0
名前:オルフェーノク
年齢:?歳
性別:精神のみのため不明
種族:精神のみのため不明
体型:身長2m半ほどの鎧男に見えなくもない
服装:現在は魔道機鎧が己が肉体そのものである
能力:怪力と魔道機鎧の機能及び魔力
所持品:特になし
簡易説明:常に鎧を身に纏い、不自然な重量感を漂わせながら歩く謎の傭兵
       その実態は、魔道機鎧「ジークフリート」に精神のみ乗り移った存在である
       自分が何者であるのか、どのような存在であるのかを知るために旅を続ける
       様々な事象に介入したり、その行動には不可解な点が多い

魔道機鎧とは?
 古代魔法文明の人々が開発した半自律型の人型機動兵器
 魔法と機械で動作し、コアクリスタルと呼ばれる超高純度の魔石を原動力とする
 鎧を纏った巨人と言ったような出で立ちで、パワーとタフネスに優れていた
 中でもジークフリートは戦闘力を重視したワンオフタイプで、様々な内蔵兵装を搭載
 戦闘モード稼働時間には難があるものの、瞬間火力においても優れている
 現在では製造技術は完全に失われており、現存するものを一部残すのみである

157 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/22(木) 03:20:30 0
>「……貴女は今、人でも魔物でも無いわね。
>月は好き?人は……好き?
>どっちの味方をする?」
>一息置いて付け足すように、
>「私は……どちらも好きでどちらも嫌い」
空に浮かんでいる月に味方をしてどうする?
ただの物体にすぎない月に意志があるのか?
まったくもって意味がわからない。
「月とは何のこと―」
小娘に月について尋ねようとした瞬間、ドンと何かを貫くような音がした。
音が下方向を見ると、めくれあがってきた石畳がこちらに向かってくるのが見える。
巻き添えにするつもりか!
苦悶の表情を浮かんでいたことなど忘れ、空に飛び上がった。
クレーター状に盛り上がった石畳が視界の端に見える。
なら、こちらにも考えがある。
>しかし恐るべき力で行われた【大きく頭を突き出す】という動作は空気を圧縮し、蒼龍に叩きつけられた。
怒りをあらわにしたまま、頭を突き出したサイの真上に移動し、眼下を見下ろした。
炎をまとったサイが頭を突き出しているのが見える。
隙がありすぎなんだよ。
そんなことを思いながらはばたくのをやめた。
髪が自由落下によって生じた風圧で舞い上がっているのを感じる。
この高さから落ちれば巻き添えになった人間は確実に死ぬ。
でも、あのサイが相手だ。
この程度では大したダメージにもならないだろう。
鞘から剣を抜き、剣先をサイの背中に向けた。


158 名前:オルフェーノク ◆O6C0C9pKcx1S [sage] 投稿日:2009/10/22(木) 03:20:40 0
「………」
圧倒的な体躯の大男が、魔物を叩き潰しながらヴァフティアを徘徊していた
既に纏った鎧は返り血に染まり返っていた
ズシンズシンという不自然な重量感を醸す足音が響き渡る

「大いなる…邪なる魔力の席巻…」
鎧男は歩を進め、己が感じるままに道行く障害を叩き潰しながら進む

159 名前:オルフェーノク ◆O6C0C9pKcx1S [sage] 投稿日:2009/10/22(木) 03:31:21 0
>>157
「無粋!」
そのような一喝と共に、体を鎖に絡め取られるコクハ
オルフェーノクはその背後から、腕から射出した白銀の鎖でその動きを奪ったのだ
鎖には呪文が浮かび上がり、薄く輝いていた

「大いなる力と邪なる力の衝突…
 我が大いなる旅立ちの軌跡を知るに繋がること
 邪魔立てはさせん」
そう言うと、引き寄せたコクハを自分の体が壁になるような位置に投げ捨てた
鎧を纏った巨体が佇み、異様な雰囲気を漂わせる

160 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/22(木) 11:36:10 O
>>158
まーまて
まずはどっから沸いて出たんだよ

161 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/22(木) 18:14:15 0
仮面の男は筒状の武器の他に龍のようなものを具現化させ、
巨獣相手に善戦していた。
そこに”コカトリス”による包囲攻撃が入る。

「ば、ばかな!貴様なぜまだ人間のままでいるっ!!」
言われてみれば、確かにシモンは”生身で”その圧倒的な戦闘能力を誇る巨獣に
食らいついている。
(痛くない…何故…?)
身体が悲鳴をあげている。巨獣の周りから常に放たれている禍々しいオーラは
シモンに灼熱のような肉体的苦痛と、恐怖による精神的苦痛を与えていた。
あっという間に服が焼け焦げ、筋肉を痙攣させた。
「ぬうぅあぁぁ!!」
食い込む刃。飛び散る血液。巨獣が跳ねるたびに強烈な衝撃がシモンに伝う。
そして…

「あぁ…」
ついにコカトリスの継ぎ目が一斉に切れ、それは粉々に弾け飛んだ。
その反動でシモンが地面へと勢いよく投げ出される。
グシャッ…
背中で何かが壊れるような音がした。いや、違う…これは…
シモンの背骨が割れる音だったのだ。
割れた背骨の破片は心臓に達し、確かにこの瞬間、シモンは絶命した。

ガクリと首を垂れるシモン。既に死体という名の「モノ」となったのである。
だが、なぜかシモンには”意識があった”。シモンの後ろ…
シモンの背骨を砕いたモノ…
それは、あろうことか今もなお、禍々しい赤い光を放ち続け、
赤い月の下で輝く、クリスタルの姿であった。

162 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/22(木) 18:40:46 0
『お前の…名は…?』
「うぅぅ…どこなんだ?ここは…俺は、どこにいる!?」
『お前は死んだのだ。私はお前が欲しているモノ』
「…クリスタル」
『そう、クリスタル。何故、お前はそこまで私に拘る?』
「欲しいからだ。何としてでも欲しい。お前は美しい」
『…ならば、私を解放せよ。それならお前のものになってもよい』
「…開放しよう。俺の名はシモン。シモン・ペンドラゴンだ」
『いいだろう。これで私はお前のもの。そして…』
「なっ!?ぐ…ぐおぉぉぉ…!!」
『お前は私のもの…!』

突如、小さな心臓を埋め込んだクリスタルが強く光り、シモンの肉体を引きずり込んでいく。
それは光の中で巨大化し、変形をはじめたかと思うと、大きな馬のような姿になった。
全身が、禍々しいクリスタルでできたそれは、他の尖塔の方向から放たれる光を浴びて赤く輝いている。
馬の頭にあたる部分はシモンの上半身がついており、ケンタウロスのような格好だ。

シモンは、右手をかざすと巨大な魔法の緋槍を紡ぎ出した。
「”終焉の月”よ、私を侮辱した罪を受けてもらおうか」
その姿からは想像もつかないほど素早く跳躍し、シモンは再び巨獣に上から襲い掛かった。

【モンスターデータ】
クリスタルナイト
体長3m程度
クリスタルでできたケンタウロスのような姿の異形。
魔力の塊で、魔法武器を具現化させて攻撃する。遠距離攻撃も可能。
また、魔力を多く消耗するが飛行も可能である。
魔力は他の7つのクリスタルから次々供給される。
大雑把に言うとゴーレムに近い性質を持っている。
シモンの意思は殆どなく、意思は生贄となった少女の凝縮された怨念にほぼ支配されている。

163 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/23(金) 01:20:29 0
単なるバトスレ化してきたな

164 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/24(土) 09:52:08 0
何をいまさら

165 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/10/24(土) 19:53:21 0
>「素晴らしい。これで貴方の家族の安全は保証します。
>あ、ついでですからそこで何かやっている女性も殺しておいてください。」
―――嘘こけ阿呆――!

ルキフェルのセリフをさえぎるように上空から怒声。
暴徒達とフィオナ達との間に十字架が落下。その上に更に人影が降り立つ。
落下してきた十字架は、元が純白であったにも関わらず返り血に赤くまだらに染まっている
「神がいるかはどうかしらんが、少なくとも悪魔は目の前にいるらしいな。」

十字架の突端にしゃがむようにして見下ろす目が背後のフィオナ達を捉える。
「尖塔に向かってた一行にそこに兄ちゃんがいたと思ってたけど、何やってんだ?
 気絶してるから答えられないか。オレは自己治癒以外苦手だから治療はよろしくな。」

軽く跳躍し降り立つと、ルキフェルの眼前に引き抜いた十字架をつきつける。
「家族には手を出さないとか言ってはいるが、事が済んだらそこの連中自身を変貌させて
 そいつら自身の手で家族を虐殺する地獄絵図でも作る気だろう?約束通り家族に『直接は』手を出してないもんなァ?
 ・・・・・・心底気に食わないな。そこの暴徒共もそこから一歩でも前に来たら自分の胴体と永遠にお別れだ!」



166 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/25(日) 12:43:15 0
>>159
自由落下を続けていたら、何かが巻きついてきた。
でも、それでも、落下を続いている。
これならいける。
そう確信していたら、急に前のめりになり、体がそのまま宙に浮かんだ。

巨大なサイからめまぐるしい速度で遠ざかり、巨大な鎧の横を通り抜けた。
だんだんと自分の体が下がっていく。
このまま、放置していれば、確実にたたきつけられて死ぬ。
死なないにしても大きなダメージを負う。
それだけは避けたい。

剣を握ったまま力いっぱいはばたき、自分の体を起こした。


167 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/25(日) 15:43:59 0
(途中で切れてしまったので追加します)
鎖で巻かれたまま、空中で体を起こすと、相手の声が聞こえてきた。
>「大いなる力と邪なる力の衝突…
 我が大いなる旅立ちの軌跡を知るに繋がること
 邪魔立てはさせん」
邪魔をしたお前がそれを言うか。
「邪魔をするのはどこのどいつかしら?覚悟はできてるよね?」
なら、私も同じようにしよう。
剣の切っ先を巨大な鎧に向けることにした。

168 名前:オルフェーノク ◆O6C0C9pKcx1S [sage] 投稿日:2009/10/25(日) 19:25:45 0
>>166-167
「矮小なる肉よ
 汝如きがどうこうできるものではない
 座し、黙して見よ!」
巨大な鎧は、青白く光る鋭い眼光を向けながら叫んだ
しかし、女は切っ先を鎧に向けている
辺りの地面が巨体に合わせて揺れ始める

「愚か!
 死に急ぐか!」
オルフェーノクはコクハに巻き付いたままの鎖を手繰ると、呪文を唱え出した

「断罪の聖鎖よ
 罪深き者に清き死を与えよ」
すると、鎖の光が一層輝きを増し、ジャラジャラという音を立てて少し宙に浮かんだ
刹那、凄まじい負荷が徐々に掛かり、コクハの体を締め上げていく
このままでは全身の骨を砕かれるだろう

「抗う者よ
 地獄の業火に焼かれる前に、我が安らかなる死を与えよう」

169 名前: ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/10/26(月) 07:01:38 0
「ルキフェル様……!」

暴徒の後ろから現れ、一瞬にして守備兵を倒し、空から降ってきた少年と対峙した男を見て元黒衣は搾り出すように呻いた。
そんな彼を知ってか知らずか、『月』の幹部は一瞥もくれようとせずに少年と対面している。
最早興味もないのか、貫かれた守備兵達を治療する者がいても、まるで反応していない。

元黒衣の男は逡巡していた。従士の青年が暴徒の凶刃に倒れたことで、自分を縛めるものは最早箒と縛縄のみ。
魔力を用いて箒の駆動中枢を逆統御すれば、くくりつけられたままでも発進する箒にくっついてこの場を離脱することは難くない。
どこへなりとも飛び去って、その先でゆっくりと縄を切断すれば晴れて自由の身だ。

(逃げるか……だが、どこへ?)

尖塔での任務が失敗した以上、『深淵の月』に彼の居場所は確保されていないだろう。かつての彼がそうであったように、
武装小隊長以下の人間はごまんといて、その全てが空いた一つのポストを巡って武功と策謀の争いを続けている。

加えて、教団そのものが今一つの目的に向かって動いている状況を鑑みるに、この一件が終わった後『月』自体が残っていることすら怪しい。
なにせ、今宵は逢魔が時。魔界と化した明日のこの地に、はたして金眼を賜らぬ常人が生きる間隙は存在するのだろうか。

打算は一瞬。
(ならばあの餓鬼、ひいては市民共に貸しを作っておくのが最善の未来――!)

「――その娘を使え!!」
縛られ、地に伏せったまま、元黒衣は従士の周囲で治療と加護に勤しむ面々へ声を張り上げていた。
整えられた髭で覆った顎が指すのは黒衣に梱包されて眠ったままの少女。――彼が捧げんとした供物。

「その娘の血液には退魔の聖護がある。魔剣の傷は魔力では癒せない……一滴で良い。傷口に落とせ」

本来は尖塔での儀式によって結界に聖なる加護を加え、神殿の武装僧侶や神殿騎士の聖術に対する耐性を与えるために用意した聖人の末裔だ。
聖術は魔力に克つが、同じ聖に属するものへの威力をもたない。火竜が炎で死なないように。そうすることで結界はより完璧なものになるはずだった。

「……信用していいのか?お前のその刺青――『月』の者だろう」
従士を囲む守備兵の一人がこちらを見た。その目には睥睨と困惑と、一握りの希望。

「信じなければその男が死ぬ。この状況でそれは愚かな疑問だと思うが?」
元黒衣は不敵に言った。いずれにせよ、従士が助からなければ彼の退路も崩れ去る。背水にあって、元黒衣は元来の冷静さを取り戻した。

状況は膠着している。十字架使いの少年が間に立っているおかげで、暴徒に侵略される恐れの無いこちら側は一種の安全地帯だった。
暴徒にも、ルキフェルにも、妨害されることなく従士の治療は完遂するだろう。


【元黒衣の提案:退魔効力のある供物の少女の血を一滴貰い、魔剣の呪力を消去】

【設定解説:供物の少女はラウル=ラジーノの家系、つまりは末裔。神殿の聖女とは別の、言わば傍流の家系です。
 本家(聖女)は警備が厳重なので『月』はこちらを誘拐しました。聖人の設定については特にないので自由に決めちゃって下さい】

170 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/26(月) 23:36:09 0
急に高度が上昇した。
何事?
そうのんきに思っていると呪文が聞こえてきた。
>「断罪の聖鎖よ
> 罪深き者に清き死を与えよ」
鎖を先に切断しておくべきだったか。
自分の愚かさを後悔していると、剣を持っていない方の腕と肋骨から下の部分に鎖が巻きついているのが見えた。
ぎりぎりと鎖同士がこすれあう音が聞こえてくる。
「火の精霊よ。わが剣に集え。万物を焦がす刃となれ」
締め上げるつもりか。
さすがにここで死んでは意味がない。
早口で呪文を唱え、剣で素早く鎖を切断した。
鎖の断面が宝石のように光っているのを確認する間もなく、
巨大な鎧の方に向かって剣を振り下ろした。
剣は炎の精霊により赤とも灰色が混じったような色合いになっている。
その温度、ゆうに1000度は超える。
斬りつけられれば、鎧といえどもひとたまりもないはずだ。


171 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/27(火) 03:43:13 0
治療の為ではなく傷の拡大を防ぐ為だけの奇跡を行使し続ける。
その手を緩めれば魔剣の呪いは猛威を振るい、直ぐにも侵食を始めてしまうからだ。

初歩の奇跡とはいえ間断なく続けなくてはならないためフィオナの身に疲労が重くのしかかる。
手放しそうになる意識を唇を噛むことで必死に押し止めては居るものの、打開策を見つけなければいずれは自分も意識を失うだろう。

「…な、なんだお前…」
暴徒と化し、レクストを襲った市民達を牽制していた守備隊員達が何者かの来訪に誰何の声を上げる。
――パチン。
指を鳴らす乾いた音。阿鼻叫喚が支配する街の一角に場違いな音が響きわたる。
しかしそれは更なる地獄の幕開けだった。

「うわぁぁあぁ!!」「があぁぁあああっ!」「ぎゃああぁあぁぁ」
対応していた守備隊員達が絶叫と血飛沫を上げ絶命する。

『もう少し、破壊力があると思ったのですがね。人間爆弾とやらも。』
金色の髪に黒のロングコートを纏った闇そのもの酔うな男がそこには居た。
その顔に浮かんでいるのは笑みなのだろうか。楽しげに両の掌を打ち合わせながら市民達へと歩み寄り。

『素晴らしい。これで貴方の家族の安全は保証します。
あ、ついでですからそこで何かやっている女性も殺しておいてください。』
まるで掃除をした後にゴミの処分を頼むような気軽さでさらりと物騒なことを口にする。
罪悪感からか意気消沈していた市民達もその声に呼応するように殺気も露にフィオナを睨め付け、一人また一人とそれぞれの得物を構えだした。

”神 は い な い 。 そ れ を 証 明 す る 為 の 今 日 だ ”

意識へと直接叩きつけられる声無き声。発しているのは途方も無いまでの邪悪。
「魔の誘惑に屈してはなりません!その者こそ比類なき邪悪。従っても待っているのは更なる地獄だけです!」
守るべき市民から幾十もの殺気を浴びながら悲痛の叫びをあげるフィオナ。
無駄だ、この程度で止まるはずも無い。と頭の片隅で判ってはいたが叫ばずにはいられなかった。

―――嘘こけ阿呆――!
怒気を含んだその声は唐突に上からやって来た。
フィオナと市民達とを分断するかのように大地に突き立つ十字架。次いでその上へと降り立つやや小柄な男。

『神がいるかはどうかしらんが、少なくとも悪魔は目の前にいるらしいな。』
(神は確かにおられます……)
絶体絶命の危機に現れた灰色の男と己の信ずる神へとフィオナは感謝を捧げた。

172 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/10/27(火) 04:04:41 0
暗灰色の外套に身を包み巨大な袋を担いだ男の加勢により前方の脅威はひとまず排除できた。
今も十字架を付きつけ油断無く暴徒と黒い男を睨み付けその動きを封じている。

だがあの黒い男の纏う瘴気は尋常のものではない。
それに早くレクストを何とかしない事にはこちらの精神力が尽きてしまう。

「――その娘を使え!!」
声の方を見ると箒に縛られたままの塔で捕らえた『月』の男。

「その娘の血液には退魔の聖護がある。魔剣の傷は魔力では癒せない……一滴で良い。傷口に落とせ」
ぐったりと横たわるレクストの隣で黒衣に包まれ眠っているこの少女も、聖女様と同様にその身の内に神の奇跡を宿すということなのか。
敵であった者の言葉なのも手伝って素直に信じることは出来ない。
しかし『月』の目的が今の状況だとすればこの少女の血を使ってヴァフティアの切り札ともいえる魔術と聖術に抗しようとしたのだろうか。

僅かな逡巡の後フィオナは意を決すると未だ意識の無い少女の手を取り、その指先を懐剣で切ると滲み出た血をレクストへと落とす。
するとどうだろう、今まで奇跡を阻んでいた魔剣の呪いは消え去り。
絶え間なく行っていた"治癒"が一気に効果を発揮したのか抉られた傷はすぐさま跡形も無くなってしまった。

「良かった……。」
レクストの呼吸が正常に戻るのを確認してフィオナは安堵の声を洩らすと箒に括り付けられている男の傍へと近寄る。
守備隊員の慌てる声を無視して腫れ上がっている顔を治療し拘束用の荒縄を断ち切った。

「ありがとうございます。お陰でレクストさんの傷を治すことが出来ました。
でも貴方も『月』を裏切ったからには標的にされるのでしょう?ですからこれで借りは無しです。」
その場に居た守備隊員達へ少女を預けると前線で教団幹部のルキフェルと対峙している灰色の男の所へと駆け出す。

「お待たせしました。そしてご助勢感謝いたします。」
短く謝意を告げるとフィオナは剣と盾を構え。

「神殿騎士が一人、フィオナ・アレリイ。偉大なるルグス様の名の下に魔を滅ぼします。
その御名を聞いてもなお向かってくると言うなら容赦は致しません!」
主に暴徒達へと宣言をし、ルキフェルとの間合いを詰めると剣を振り下ろした。

173 名前:オルフェーノク ◆O6C0C9pKcx1S [sage] 投稿日:2009/10/27(火) 08:08:36 0
>>170
>「火の精霊よ。わが剣に集え。万物を焦がす刃となれ」
「我が断罪の聖鎖を容易く…!?」
ただの人間に鎖が意図も簡単に断ち切られたことに動揺を隠せない
聖なる力と神聖金属によって造られたものを、ただの人間が早々傷付けられるものではない
そして間隙を入れず、コクハが猛烈な勢いで斬りかかってきた

「燃焼!」
振り下ろされる剣に対し、オルフェーノクは腕でガードして瞬時にこう叫んだ
すると、一瞬で白銀だったオルフェーノクのボディは紅い炎のような色に変化した
特に、攻撃をガードする腕は深紅に染まり上がっていた
炎の精霊が宿った一撃はオルフェーノクの腕を焼き溶かすことなく、そのまま受け止められてしまう

「我が赤の烈火甲の前に、炎霊の加護など意味を為さず!」
そして、動きの止まったコクハをそのまま両腕で抱え込んで捕まえようとする
捕まれば、鎧の高温で焼き尽くされてしまうだろう

174 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/10/27(火) 12:10:11 0
>>165
甘美な宴を遮るかのように、1つの十字架が地面に突き刺さる。
その様を見、まるで汚らわしい物を見るかのように顔をしかめるルキフェル。
「おや…今度はどなたでしょうか?」
>「神がいるかはどうかしらんが、少なくとも悪魔は目の前にいるらしいな。」
手を横に振り笑みを浮かべる。
「悪魔…などと。そんな大層なものではありませんよ。」
降り立った男は十字架をルキフェルに突きつけ高らかに叫ぶ。

>>「そいつら自身の手で家族を虐殺する地獄絵図でも作る気だろう?約束通り家族に『直接は』手を出してないもんなァ?
その言葉を聞き、暴徒達の手が震え足がすくみ始める。
それぞれが顔を見合わせ、手にした武器を落とす者も出始めた。
「「じゃ…邪魔しないでくれ!俺達は生き残らなきゃならないんだ!!」」
1人の青年が男へ向け槍を振り回しながら突っ込む。
それを周りの者達が止めようとするが…

「殺す?コロス?ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!
クククク…フゥ。ハァ…」
狂ったような笑い声に暴徒達の動きが止まる。
まるで本能から身震いするかのような笑い声。
ルキフェルは笑みを浮かべたまま、首を横に振る。
「殺しはしませんよ。彼らは最高の玩具です。
壊してどうするんですか?さぁ、やりなさい。」

ルキフェルが指を鳴らしたと同時に目が赤色に変化した
暴徒達が狂ったような叫び声を上げて一斉にハスタへ向け襲い掛かる。
フィオナ、レクストには見覚えのある顔もそこにはあった。
平和な街で、お互いが笑顔で挨拶し合った人々。
だが、もうその笑顔はそこにはない。

>>169
黒衣の男に1度視線を向けるが興味ないかのように首を回す。
「あぁ、貴方ですか。懸命な判断ですね。
しかし、この街だけで終わるとは思わないほうがいい。
これは全ての終わりですが、同時に全ての始まりに過ぎない。」

>>172
「直しましたか…流石は神殿騎士です。」
立ち上がったフィオナに拍手を送りながらその様を見つめる。

>「神殿騎士が一人、フィオナ・アレリイ。偉大なるルグス様の名の下に魔を滅ぼします。
>その御名を聞いてもなお向かってくると言うなら容赦は致しません!」

眼鏡を死体の着ていた布切れで拭きながらフィオナの言葉を聞いている。
「ルグス…あぁ、彼ですか。で、それが何か?」
フィオナの放った剣、その先にいたのはルキフェルと小さな影。
「お姉ちゃん!!」鳴きそうな声で叫ぶ小さな子供。
その姿はフィオナの見覚えのあるものだった。
自分が弟のように接していた孤児の男の子。
それが何故かルキフェルの隣に在った。

「どうしましたか?…あぁ、これは私の玩具です。
気になさらず。」

剣を寸前で避け、人差し指を横に振る。
「神殿騎士。だが、所詮は神の奴隷。
貴方達に未来はありませんよ。」




175 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/27(火) 14:49:17 0
>「燃焼!」
熱により切断されるはずの鎧が真紅に染まった。
カチンと金属同士がぶつかり合う音が聞こえた。
次の行動は何か。
未知の相手なのでそれはわからない。
だが、何かしらの攻撃が来ることは確実だ。
詠唱もおそらく間に合わない。
>「我が赤の烈火甲の前に、炎霊の加護など意味を為さず!」
音を聞きながらそんなことを考えていたコクハは即座に属性を変化させるという選択肢を頭から削除し、
魔物と化した足で地面をけった。
赤熱した腕により抱きしめられる間もなく、相手の肩の上を飛び越え、着地したところでくるりとターンした。

【モンスターデーター】
全長は1.8メートル。
全身は黒い毛でおおわれ、背中には二枚の羽が生えてます。
非常に動作が速く、攻撃を当てるのは難しいです。
その反面、防御はもろいので、重い攻撃を2・3発もらえば、行動不能になります。


176 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 00:38:57 0
地獄の瘴気に侵された蒼龍は圧縮された空気弾をまともに喰らい吹き飛ぶ。
ヴェノキサスもそれに引きずられるように吹き飛び、壁に叩きつけられた。
その衝撃は凄まじく、壁は砕け粉塵を巻き上げて崩れていく。

その一方で地響きを立てながら現われた巨大な魔道機鎧オルフェノークがディーバダッタに襲い掛かるコクハを鎖で絡めとる。
二対の超常の怪物たちの戦いが始まった。
人知を超えた戦いに地は震え空気が引き裂かれる。

そんな最中にあって、佇むミアには一切の破片が当たらなかった。
天に輝く赤き月から注がれる光がバリアーのようになって守っていたのだ。
「・・・ここまで準備しておきながら無様なものだ・・・。」
ミアの背後から突然の声。
振り向くとそこには人型のシルエットが立っていた。
人の形を何とか保ってはいるが、目鼻はないただのシルエット。
赤い光が凝縮したようなそれは、ミアの横を通り過ぎゆっくりと戦いの嵐へと進んでゆく。
ミアは本能的にそれが【鍵】なのだと理解していた。

>「”終焉の月”よ、私を侮辱した罪を受けてもらおうか」
クリスタルナイトと化したシモンが蒼龍を吹き飛ばしたばかりのディーバダッタに襲い掛かる。
水晶の前足でディーバダッタの両肩を蹴ると、石畳を砕きながらディーバダッタは後退する。
だがそれでも倒れはしなかった。
首を振り、突進の体制をとった時・・・
「愚か者め・・・」
ディーバダッタとシモンの間に歩み出た赤いシルエット。
それと同時にディーバダッタの内部からも声が出る。
「最早お前は用済みだ。」
「な・・・どうして・・・?教祖・・・さ・・ま・・・!」
赤いシルエットと己の内側からの声に明らかに驚いたディーバダッタの声は最後まで発せられる事はなかった。
ボコボコと内側から何かが蠢くように外皮が顫動した後、巨大な黄金の犀は崩れ落ちる。

177 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 00:39:11 0
歪んだ外皮の隙間から黒い【何か】が這い出てくる様はまるで冬虫夏草のようだった。
這い出てきたものは・・・色こそどす黒いが、ディーバダッタの前に佇む赤いシルエットと全く同じだった。
「「門よ。七年前、文字通りお前に八つ裂きにされた私は死んだ。
魂は天に昇り月に取り憑き、魄は地に降りこやつの内部を瘴気に満たし潜んでおった。
そして今、魂魄は一つに戻る。」」
二つのシルエットは声を揃えながら歩みより重なっていく。
完全に重なり合った時、眩い光を放ち市内9つ目の尖塔となった。

それに呼応するかのように市内七つの光の尖塔が一段と輝き、そこに祀られていたパーツが転送される。
「七年前のゲート争奪戦でお受けは私の復活を恐れ、八つ裂きにした身体をそれぞれ別々に封印した。
しかし・・・合の刻に聖処女の生き血を注ぎ、地獄の光に照らされ封印は今解けた!」
シルエットが発する凄まじい閃光は巨大な塔となり、ヴィフティアの全てから見られただろう。
そして大きな揺れが市内全域を襲った。
だがそんな異変以上に、市内を覆う圧倒的な存在感が、その恐ろしく黒く底の見えぬ瘴気が誕生を知らしめていた。
まだ人間であり、抵抗力の弱いものは全身から血を噴出して死ぬほどに。

閃光の中、転送されたパーツはシルエットに重なり、一人の人間をそこに出現させてる。
光と衝撃が収まった時、年の頃は10歳程度の全裸の少女が立っていた。
その顔は・・・幼くはあるがミアと同じものだった。

「使えない男だ。聖処女の生き血と言ったのに、魔の者の血等を注ぐから儀式は不完全なものとなったのだ。」
不機嫌そうにディーバダッタの骸を蹴り、クリスタルナイトとなったシモンやオルフェノークと戦うコクハに視線をめぐらす。
それほど強そうな蹴りではなかったにも拘らず、その巨大な骸は粉々に砕けながら吹き飛び消え去る。
シモンを見据える少女の瞳はどこまでも暗く、深い。
いや、正確にはシモンを見ているのではなかった。
シモンに取り込まれた己の心臓を見据えていたのだ。
儀式が不完全な為、ヴィフティアの瘴気の濃度も上がらず、魔に堕ちても人間を保つものがいる。
忌々しくも思ったが、それも最早どうでもいいことだった。

「双子なのに随分と差がついてしまったわね、姉さん。
いいえ、やはり【地獄門】といった方がいいわね。」
シモンも、周囲の戦いもまるでないかのようにミアに振り返り言葉を続ける。
「さあ、七年前の続きをしましょう?
使えないものなりにも一応は準備は出来いているようだし。
今度こそ・・・一つになって、世界の門を開きましょう?」
【鍵】の少女はゆっくりと門に・・・ミアに近づいていく。

178 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 03:53:55 0

ごぷ――――

にごった音と共に、口から血が吹きこぼれる。
ギルバートは―――否、ギルバートの姿を留めた純粋なる獣は今、
瓦礫に混じり崩れ落ちた壁に背を預け、満身創痍の状態で地に転がっていた。

辺りは混乱に満ちた変化から混沌へと移行し、世界は理路整然と常軌を逸してゆく。
魔物と化した人々が人々を殺し、無事な人々は助かろうとして人々を殺す―――

そんな中で、獣はただひたすらに孤独だった。

「なゼだ―――――」

思った事がそのまま口に出る。わからない。まったくわからない。

何故 オレは こんなブザマな姿を さらして いる ?


―――あの時。
自らが突きえぐった指先に、あの忌々しい金眼が突き刺さっていた時、獣は歓喜に咆哮した。

「モラッタぞ・・・貴様の目玉、オレのモノだァァアアア!!」

狂ったように笑いとも叫びともつかぬ声を上げつつ赤い月を仰ぎ、えぐった金眼を噛み砕いた。
直後、その背中をかつて感じた事のない感覚が襲い、獣は咄嗟に十数mは飛び下がり身構えていた。
その目の前には、巨大な金色に光る犀。その巨体から吹きだす瘴気が獣の苛立ちを誘う。

「金眼を抉られて思い出した!
私は金眼の能力で強力な自己催眠をかけて人の形を保っていたに過ぎぬ!
私は・・・元々地獄の住人なのだからなあ!!!」

なんだ―――何だ、コイツは?
先程の男?これが?何故?いや、どうでもいい。殺せ。そう、殺せ。すべて、全て殺せ。
目の前のモノへ進め。殺せ。食らえ。喰らい尽くせ―――!!

それこそが、それだけがその獣が存在する意味であり、価値なのだから。

179 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 03:56:02 0
「ガァァァァァアアアアアアウ!!!」

歓喜と憤怒のない交ぜになった咆哮を上げ、地面を生きた大蛇のように迫り来る衝撃波を
逆に地面を踏み抜き相殺し、野生の狼のように異常なまでの低姿勢で身構える。
巨体に見合わぬ速度でディーバダッタが突進し、暴れ回り、それを見知らぬ男が、見知らぬ竜が迎え撃つ。

邪魔だ。邪魔だ、邪魔をするな!キサマらは後で喰い散らしてやる―――!!!

まるで競うかのようにギルバートが宙を駆け、赤く焔立つ爪が犀の背中を襲う。
ガリガリガリと金属が削れるかのような音と共に赤い火花が散り、勢いを殺しきれずギルバートは着地する。

また飛び掛る。突き上げる。踏み抜く。切り裂く。
しかし、どの一撃もディーバダッタの金属の如き甲殻を裂く事はできなかった。
苛立ちに歯をむき出し、再度一撃を加えようと身構えた時、その変化が起こった。
がくっ、と体が揺らぎ、安定を失う。霞がかったように赤く染まっていた視界が、平常に戻りつつあった。
―――何だ?なにか、おかしい。何か―――何かが致命的に―――おかしい―――

見知らぬ男が、人外たる巨体を蒼く光らせ犀に襲い掛かる―――どうでもいい。

見知らぬ女が、巨大な鎧の如き魔物と頭上でぶつかり合う―――どうでもいい。

では、なんだ?
たった今襲い掛かろうとしたことも忘れ、ギルバートが呆然と立つ。
そんな身体の変化にも、獣は気付いていなかった。

『おい―――てめぇ、いつまで人のモン好き勝手に動かしてくれてんだよ?』

声を発した者を探し、左右を振り向く。だが、その言葉を自分の口が紡いだ事に気づくのには一瞬もかからなかった。
目の前の巨大な犀へと視線を向ける。ぎらぎらと光る眼が、恐るべき速度と重量を伴って目前に迫っていた。

『おい、デカブツ―――感謝しな。やられ役はテメーだけじゃねーぜ』

獣ではない誰かがそう呟いた直後、破城槌さながらのディーバダッタの巨体がギルバートに激突し、
比較にならないほど軽いその身体は砲弾の如く弾け飛んで、崩れ落ちた家屋の壁に叩き付けられ、砂塵を振り撒いた。


「―――がはッ・・・・・・!!」

何故だ―――わからない。
がくりと、まるで罪を悔いるかのように、獣の頭が垂れた。

180 名前:オルフェーノク ◆O6C0C9pKcx1S [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 17:28:37 0
>>175
「その姿、汝も人外の力を使役する者であったか」
突如、姿が変わった目の前の女剣士に驚きを隠せない
しかし、だからと言って特に動じる様子は見せていない

「されど、我はこの時を求めて幾星霜もの年月を生きてきたのだ
 何も知らず運命に抗う者よ
 汝の罪過、死によってのみ救われるものと知れ!」
そう言うと、額にあるクリスタルのようなものに手を当てた
赤くなった鎧が見る見る内に元の白銀に戻っていくが、真紅のエネルギーの奔流が舞う
それは、溢れ出す炎として実体化している

「理は罪過を焼く業火…、滅・焼!」
呪文が唱えられると、オルフェーノクの頭部のクリスタルが赤く輝いた
真紅のエネルギーの奔流は全て炎の波へと変わり、呑み込むようにコクハに迫った
それほど規模の大きいものではないが、トロールの巨体ほどはある炎の塊である

181 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/10/28(水) 17:58:07 0
>「されど、我はこの時を求めて幾星霜もの年月を生きてきたのだ
> 何も知らず運命に抗う者よ
> 汝の罪過、死によってのみ救われるものと知れ!」
「あらら」
そいつは知らなかった。
どうやら、この者にとって今起こっていることは貴重らしい。
背後をちらりと見ると、背丈を除けば瓜二つの少女が向き合ってるのがみえた。
「それは知らなかった。仕掛けたこちらからいうのもなんだけど、いったん休戦にしない?」
押し寄せる炎を空を飛ぶことによって回避。
目標を見失った炎が瓜二つの少女のほうに向かっているのが見えたが、気にしないことにした。
多分、あの二人なら何とかなるはず・・・。

状況:炎の奔流を回避し、休戦を持ちかける


182 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 17:59:39 0
すみません。トリップを忘れました。

183 名前:ヴェノサキス ◆L5xLVSj/4tW/ [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 19:23:41 0
「我冴亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜!!!!」
纏わりつく瘴気を忌々しそうに睨み、叩き潰したり焼いたりしていた蒼き龍は、
その作業に集中していたせいで、自らに迫る一撃に気付くのが若干遅れてしまった。
ズドン、と衝撃によって炎の体に大きな風穴を開けられた龍は、さも簡単に吹き飛んでしまう。
「げぁ…!?」
すっ飛んで行く蒼い巨体に続くように、ヴェノサキスも共に後方へと引っ張られて行った。
一頭と一人は背後の壁に叩き付けられ、それによって大量に落下して来た瓦礫の雨を、容赦もなく浴びせられる。


「――――!?!?っう!?げほっげほっ!が、ぁ……!」
瓦礫の一部が頭にぶつかり、一瞬意識を失いそうになったが何とか繋ぎとめ、ブンブンと頭を振る。
盛大に吐血し、右腕の感覚がないと感じていた時、そこでやっと、自分の身に起きた二つの異変を知る。
「……?…………これ、は…………」
倒れたままの体勢で頭だけを持ち上げて体を見ると……無い。
「…そうか……右腕が逝ったわけではなく……」
無い。胸が。右側の胸辺りの肉が、綺麗に抉れ吹き飛んでいた。恐らくは、先程くらった攻撃。
蒼龍の受けたダメージが、そのまま自分に来たのだろうと思う。それ以外に傷を受けた覚えは無い。
傷からはだくだくと紅黒い血が溢れており、良く見ると折れかけた骨のようなものも見える。
その様子を特に慌てるでもなく、体内とはこうなっているのだなぁ、と眺めていると、ふと思う。

――視界が――広い――――?
自分の抉れた傷口を見ても何とも思わなかったのは、消えた部分が“胸”だったからだ。
胸はヴェノサキスが「否定したいこと」を「否定」する、不愉快な存在だった。消えてくれて寧ろ嬉しい。
しかし今、胸以外にも否定してきた箇所が、剥き出しになっている。
まだ動く左手で顔に触れる。頬も、鼻も、口も、額も、触れることが出来る。出来てしまう――!


「いや……いや!いやぁ!!!顔は!?私の『顔』は!?」
ヴェノサキスの顔から、仮面が外れていた。否、外れたのではなく、瓦礫にぶつかり割れてしまったのだろう。
事実、顔には半端に割れた仮面の欠片が未だに残っており、ギリギリで左目を隠している。
だが、これでは最早覆い隠すものとしての役目は果たせておらず、ヴェノサキスは今、ほとんど素顔を晒していた。
頭部からの流血に染まりながらも美しい、それは紛れも無く女性の顔だった。
しかして、“彼女”はこの顔が表に出ていることがとても恐ろしい。
傷のことなど忘れて慌てふためき、服を引っ張って必死に顔を隠す。


「どこ!?どこに行ったの!?私の……『顔』は…!!?」
冷徹で飄々としていた“仮面の人物”の面影は最早なく、
ただそこには、見えない恐怖に怯える一人の女性がいるだけであった…………。

184 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 20:25:12 0
暗い。そこは何処までも暗く、何もない。残っているのは手の中に残った大事なもの一つだけだ。
何とかそれ一つは獣から守り通した。しかし今、それにどんな意味があるだろう―――

―――・・・誰だ?誰かが自分に語りかけている―――

「ギル」

―――アルテミシア?

「そうよ。久しぶりですね」

―――何故、ここに?

「貴方を、助けるため」

―――何故だ?俺は・・・お前を、この手で、殺した

「それは、私が望んだ事。貴方はその望みを叶えただけ」

―――同じ事だ

「いいえ、貴方は私を食らわなかった。貴方がこの上もなく人間だったから。
 貴方の中の人間が、最後の最後で、死ぬしかなかった私を救ってくれたの」

―――自分以外の奴の思い通りになるのは・・・気に食わない

「貴方らしい。だからこそ、私自身が私を殺した事を知っている。私も、あの子も」

―――あの子?

「ミア」

―――彼女は・・・お前なのか?

「今のミアはミアよ。もしミアが望むならば、彼女は何者にでもなれるでしょう」

―――そうか。じゃあ―――望めるように助けてやらないと、な

「助けてくれるんでしょう?」

―――それでお相子、か?

「よく分かってる。私は、もう―――」

―――行っちまうのか?

「・・・一つだけ、貴方に伝え忘れた事がある」

―――奇遇だな。俺もあるんだよ

「じゃあ、先に言って」

―――・・・マジか?

「まじ」

―――・・・今までも、これからも。お前の事をずっと――――――

185 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 20:31:09 0
目の前で、彼女―――"ゲーティア"―――アルテミシアが笑っていた。
ラッキーだ。たった二度だけしか見ることができなかった彼女の笑顔に、三度目があった。

勿論、今目の前に彼女はいない。じっと視線を注ぐ手の中に、いつも携えていたロケットが開かれていた。
自分の中の獣からたった一つ守り通したもの。"門"である彼女がその能力を使い、
死の間際に自分の中に送り込み、残していった意識。その象徴。
腕の中から離れた後の残り香のようなその存在が、獣に乗っ取られた自分を引き戻してくれた。

今まで数え切れない程に見ている彼女の肖像だが、その純粋な笑顔が限りなく新鮮に見える。
気が付けば視界がぼやけていた。しょうがないだろ、あんだけダメージ食らったんだから。
それ以外に理由なんてある訳ねーし。クソ、どうせなら雨でも降ればいい。


さあ、立て。立ち上がれ。救われたお前には今、その力がある。
立て、進め。進み、闘い、ケリをつけろ。


ボロ切れのような身体を引きずるようにして立ち上がった。
周囲を見回し、状況を確認する。目の前には光り輝く塔がそびえ立ち、地上にも上空にも異形の者が跋扈する。
そんな光景が最早当たり前のように思えるほど、街の様相は一変していた。

シモンの姿が見当たらない。レクスト達の元へ行ったのか?連中は大丈夫だろうか?
いずれにせよ、今は信じるしかない。代わりに自分は自分の役割を果たす。
拳を二、三度握り締めると、目の前の光の塔へと向かい歩き出した。

「ちょっと待ちな、お嬢さん」

ミアと少女の間に割り込み、ポケットに手を突っ込んで目の前の少女を冷ややかな眼で見下ろす。

「そっちの嬢ちゃんはな、お袋さん合意の上で俺の預かりものだ。
 どうこうしたいなら保護者の許可を得てから直接嬢ちゃんに交渉しな。
 つまりだ・・・」

ぐっと顎を引いて視線を鋭くする。同時に、ギルバートの身体から焔立つように赤い魔力線が生じた。

「そこから一歩でも進みたけりゃ、俺を倒してバラバラに引き裂いてからにしろってこった。
 気をつけな、手負いの狼は喉首に噛み付いて死んでも離さねぇって言うぜ」

言い切ったギルバートの顔に、迷いも何も無い不敵な笑みが浮かんでいた。

186 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/10/28(水) 23:35:15 0
巨大な緋槍による鋭い攻撃をディーバダッタは前足で素早く受け止め、
更に鋭い角による一撃をクリスタルナイトと化したシモンに食らわせた。
ギャリッ、という硬いもの同士の衝突する音がする。
それぞれのオーラによって周囲にはぶわっと瘴気が舞った。
シモンは体を捻らせ、硬い水晶の部分で攻撃を受けたのだ。

再び本能のままに跳躍し、水晶の蹄でディーバダッタを蹴る。
心なしか、ディーバダッタもその衝撃で後退した。
一進一退のぶつかり合いの中、エネルギー体にきわめて近いそれは
確実に消耗していった。

「愚か者め・・・最早お前は用済みだ。」
「な・・・どうして・・・?教祖・・・さ・・ま・・・!」
『教祖…だと?』
歪んだ外皮から出てきたのは、なんと少女だった。
『お前、いや…あなたは…もしや私の…!?』
クリスタルに支配されたシモンが声を発する。
少女の視線はシモン…クリスタルナイトの心臓部分の一点に集中していた。

「さあ、七年前の続きをしましょう?
使えないものなりにも一応は準備は出来いているようだし。
今度こそ・・・一つになって、世界の門を開きましょう?」
少女は視線をずらすと、ミアの方を向いて言った。

「ちょっと待ちな、お嬢さん」
「そこから一歩でも進みたけりゃ、俺を倒してバラバラに引き裂いてからにしろってこった。
 気をつけな、手負いの狼は喉首に噛み付いて死んでも離さねぇって言うぜ」
既に人間形態となったギルバートがそこに割り入って近づき、少女に食ってかかろうとする。

その時、クリスタルナイトが素早く少女に向かって駆け出した。
ミアに近づいていく。一つになり、世界の門を開くために。
『お待ちしておりました”ミストレス”。』
そう言うと少女の方にわき腹を向け、恭しく”シモン”に首を垂れさせた。
今こそその背に主人を乗せ、心臓をお返しし、一つになる。
そのはずだった…
が―――

「…待ってくれ。その前にこいつを乗せるのが先だ」
シモンは両腕を振り上げると、殆ど体に触れずにミアを持ち上げ、
自らの背中に乗せた。
『貴様…!どうしてまだ意識が…!?』
「…ギルバート。俺はどうやら死んじまったらしい…
 情けねえ。ようやく自分がどういう人間か分かったと思ったらコレだ。
 …だが、俺は最後にお前らと関われただけでも幸せだったと思う。仲間ってのは良いもんだな…
 さあ行け!俺はしばらくミアの盾になってやる。お前は死ぬなよ」
そう言うとシモンは両腕から緋色の槍を繰り出し、その先から閃光を少女に向けて放った。
クリスタルの胴体は次第にその輝きが淡くなりつつあった。

■ダークファンタジーTRPGスレ 2■

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