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人間とエルフTRPGスレ

1 :名無しになりきれ:2010/06/02(水) 01:12:51 0
人間とエルフの共存を描いたファンタジー系TRPG
ここに開始!

2 :名無しになりきれ:2010/06/02(水) 01:17:36 0
自分が基地外だと思ったことある?

3 :名無しになりきれ:2010/06/07(月) 03:58:26 0
期待

4 :名無しになりきれ:2010/06/07(月) 15:54:53 O
〜 序 〜

遥か彼方、剣と魔法により成り立つ世界。
そこには、大きく分けて二つの種族が暮らしていた。
種の数と力、その強い探求心によって多くの文明を築き、まるで自然に反するかの如く発展を続ける種族、人間。
自然に溶け込み神秘の中に生き、長い寿命と高い魔法親和性を持つ種族、エルフ。
この二者は永い歴史の中で、時にその考えの違いから反発し合い、またある時は共に歩み寄りながら、しかしほとんど交わる事なく暮らしてきた。

しかし今から100年前、ある『災害』によりその関係は大きく崩れる事になる。
後に魔物と呼ばれる事になる、謎の高次魔法生命体の出現である。
突如出現した魔物達は、辺り構わず人々を喰らい自然を荒らし、瞬く間に世界を崩壊の一本手前まで叩き落としたのだ。

追い込まれた二つの種族は、それぞれが生き残る為に、過去のしがらみを捨て同盟を結ぶ。
その絆は、始めこそ小さな光だったが、共に力を合わせ魔物に立ち向かう中でだんだんと勢力を増し、やがて世界を救う程の強い輝きとなった。

…そして、時は現在に至る。
未だ魔物は駆逐し切れてはいないが、世界は概ね平和を取り戻した。
失ったものは多いが、そこには得るものもあった。
共に戦った二つの種族は、互いに仲間として親交を深め、世界の復興に励む日々を続けている。
そしてその中で、少しずつではあるが…共に暮らして行くための努力が現在も続けられていた。
これは、そんな二つの種族が織り成す、新たな歴史の物語である。



即興だけど、背景はごくありがちな設定だけどこんな感じで如何でしょう
以上、通りすがりの名無しでした

5 :名無しになりきれ:2010/06/08(火) 20:51:08 O
脊髄反射の立て逃げか?もったいない
>4は悪くないと思う、あと足りないのはキャラテンプレとルールと人員だな

6 :名無しになりきれ:2010/06/10(木) 19:42:06 0
まあ見守ろう。

7 :名無しになりきれ:2010/06/11(金) 01:42:22 0
テンプレだせや

8 :名無しになりきれ:2010/06/11(金) 14:25:16 O
テンプレ

名前:(あんまり長い人は通称も書くネ)
種族:(とっても重要ネ、一応ハーフエルフ含むネ)
性別:(単純な二択ネ、それ以上は感性で書くネ)
年齢:(エルフのヒトは外見年齢も併記ネ)
肩書:(役職などネ、一応ニート含むネ)
容姿:(身体特徴は個人情報ネ、体重や3サイズは見逃し可ネ)
装備:(服装も含むネ、裸は勘弁ネ)
特技:(技術や魔法などネ、ぶっちゃけ何でもイイネ)
好き:(内容は任せるネ)
嫌い:(でも好き嫌い良くないネ)
備考:(好きに書くネ、今更ながらこの口調ウザイネ)

9 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/11(金) 17:04:03 O

広大な森の入り口という奇妙な立地に造られた街、イービス。
遺跡を土台に使って造られたというこの街は、驚く程背の高い家々と、それを立体的に結ぶ吊り橋が特徴的だ。
まだ歴史は浅いが、人間とエルフが共同生活を営む数少ない街であると聞く。
隣接するサヴァ樹海の奥に暮らすエルフの出入りも多く、また人間の築いた都会からチャイカ港へ続く街道にも接しているため、貴重な交易の場としても有名だ。

長く接していなかった人間とエルフ交わる街故に、新しい文化や技術、魔法が日々産み出されているとも聞いた。
港で仕入れた話では、なんでもエルフの職人による高価なマジックアイテムや森の薬草、他に類を見ない不思議な武具など手に入ると言うが、果たしてどうなのだろう。

――まあ、商売を始めれば情報も集まるはず。
焦る事はない。まずは足の早い海産物から売ってしまおう。


「……それにしても、噂と違って閑散とした所ネ。これじゃ商売あがったりネ」
イーネは中央広場の一角に腰を下ろすと、誰に断る事なく露店を広げ始めた。

10 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/11(金) 17:07:52 O
とりあえず、商売の基本は挨拶とアピール作戦ネ。

名前:イーネ・ファン
種族:人間
性別:女
年齢:18
肩書:行商人
容姿:身長150cm、まるで子供のように小柄な体型で童顔。黒髪を団子に結ってちょこんと尻尾を出したツインテール
装備:オレンジ色の短い着物のような上着を布の帯でゆったりと縛り、裾の膨らんだズボンを履いている。腰と懐には幾本かの短剣。移動時には呆れる程大きなリュックを背負う
特技:とにかく身のこなしが軽く、子猿のように跳ね回る。比較的なんでも器用。あとは買い叩いたり人に奢らせたり
好き:気前のいい人、お金
嫌い:ケチな人、貧乏くさい人
備考:旅から旅へと渡り歩きながら、世界中を商売の輪で繋ぐ行商人。最近海を渡りこの地域に来たため、少々発音にクセがある。ただし語学には堪能。


てな訳でよろしくネ!
お金絡みで縁があれば嬉しいネ。
でも怪しい商売はお断りネ。捕まって財産ボッシュートネ。恐ろしいネ。

11 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/11(金) 21:08:54 O
「………ぁああああっ!お客来ないのネ!この街のヒトみんなケチなのネ!?」

広場の片隅で店を広げていたイーネは、売り物の干物を一つ口に放り込みながら、勢いよく大の字に寝転がった

店を開いて既に数時間、予想の半分以下の売れ行きに焦りを感じていた。

今並べられている商品は、その大半が食料品…港で仕入れた海産物である。
旅の日数を憂慮して干物ばかり仕入れたのが失敗だったかと、くわえた干物を飲み込み小さく舌打ちする。
乾物だからあと数日くらいは全く問題ないが、その先はどこかの調理場でも借りて更に加工を加えねばならないだろう。手間のかかる話だ。

しかし、問題はそんな事ではない。
これほど金儲けの匂いを漂わせているこの街に意気込んで来たのに、幸先があまりに悪いのだ。
…エルフの存在というのは、まだ人間の中では疎まれていて、故に同業者も少なくチャンスだったのだが…。
それに、少ない荷物しか運べない行商人である以上、手持ちの品をある程度売りさばかなければ仕入れもままならない。
船に乗る時手放した荷馬車を、この街で仕入れるつもりだったのに…これでは全ての予定が狂ってしまう。
…あくまで皮算用ではあるが、自身のプライドとそれらの思考が、意味もなくイーネを苛立たせていた。

「…先に情報を仕入れるべきだったネ…」
街に入り一回りして、ざっと雰囲気を掴んだと思ったのが早計だったか…あるいは港の情報はあてにならないか…。
それに、先程から人の流れが変化している。何か近くであったのだろうか。
とにかく、情報不足は補わなくてはならない。

もう一粘りしてから、人通りが途絶えた頃合いを見て店を畳み、改めて細かく街を見てみようと決めクルリと立ち上がる。
荷物から商売用の小さな銅鑼を出し、朗々と声を張り上げながら打ち鳴らした。

「ヤーヤーいらっしゃいいらっしゃいネ!イーネの店はどれも珍品珍味ばかりネ今しか手に入らないネ!
ほらそこのオニーサン、これは一口食べれば精力満点、遥か東の海でも滅多に捕れない磯撫の肝だネ!これさえあれば夜も安心だネ!!」

まるで曲芸のように飛び回りながら張り上げるその明るい声は、まるで祭囃のように広場へこだましていく。

12 :名無しになりきれ:2010/06/11(金) 22:06:48 0
ドワーフ差別ひどす…
ホビット差別ひどす…

13 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/11(金) 23:13:56 O
>>12
まるでお祭り騒ぎのように呼び込みを続けていたイーネだったが、ふと視線に気付き声を掛ける。

「アラ、お客様ネ?買ってくれるネありがたいネ!
どわーふ…んー、旅の途中で風の噂に聞いた事あるかもネ。人間でもエルフでもないヒトの話ネ?」

手にした銅鑼を何気なく振り回しながら、思い出そうとするように首をひねり、言葉を続ける。

「でも知恵ある生き物の噂は多いネ。妖獣や妖精もそうネ、魔物にもいると聞いたネ!
今更それが少し増えても、きっと誰も驚かないネ。
…アー、でも商売相手になるなら別ネ、イーネすぐ会いに行くネ!」

笑いながらそう語る。
人前に滅多に現れる事のない妖精などは、ときにヒトに似たカタチこそ取るものの、その存在はむしろ自然現象に近いと聞く。
そのような存在、少なくとも商売相手になる訳がない。
イーネの基準はとても単純だった。

14 :名無しになりきれ:2010/06/12(土) 00:28:56 O
おじょーちゃん若いねぇ
あ、サイコロある? 愛用してた奴が欠けちまってね

15 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/12(土) 00:53:56 O
>>14
やっとまともな商売相手だ。
イーネはほっとした。このままジリジリと商人のプライドが削られるのは我慢ならなかったのだ。

「イーネ生まれた時から商人ネつまりベテランネ。サイコロもちろんあるネ!世界にはサイコロでご飯してるヒトたくさんいるネ。
さて、こっちが水晶製でこれが蛟牙製ネ、お客サンいいヒトだからどっちも安くするネ!」

そこでふと周囲を見渡し、顔を寄せ声をひそめる。

「…それともお客サン、こっちが好みかネ?」

差し出したのは、一見先程と同じだが、微妙な細工により重心が偏ったサイコロ。
イーネの店は顧客対応の広さも定評があるのだ。

16 :名無しになりきれ:2010/06/12(土) 14:52:30 0
水晶は硬いくせにもろいから、蛟牙製のをもらおうかな
俺はゴト師じゃないからそっちのは普通使わんねえ

だけど、お守り代わりに持っておくのもありだな。普通のと瓜二つの頼むわ

17 :名無しになりきれ:2010/06/12(土) 16:11:42 0
私の故郷は人間の皇帝が治める国だが、
何代か前の皇帝の皇后がいわゆるダークエルフだったんだよ。
夫が亡くなってからは与えられた所領に戻って隠棲しているそうだが、
歴史で名を語られる人物が今でも生きているというのは、なんというか妙な感覚だな。

18 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/12(土) 17:55:10 O
そろそろ日も沈む、人通りもまばらになってきた…そろそろ店仕舞いの頃合いだろうか。
後半は予想外に売れたため、目標もクリアできた。多少は仕入れる余裕もあろう。

>>16
「まいどありネお客サン!お守りネ、そういう事にしておくネ。
気前のいいお客サンにはこの布袋おまけネ!また来るネ!」

にこやかに手を振って見送る。

>>17
買い物客だ…これを最後にしておこうと心に決め、やり取りをしながら店仕舞いを始める。
そのまま世間話へ…と、イーネの手が止まった。

「その話聞いた事あるネ、でも伝説かと思ったネ」

この街のような例外を除き、基本的に人間とエルフは不干渉である。
…これは、ダークエルフにおいても変化はない。
エルフの近縁種にして敵対種…個体数は人間に数で劣るエルフよりさらに少なく、故に人間にとってはエルフ以上に謎が多いヒトの種族。
旧き時代にエルフと袂を分けたとも聞くが…その真偽をイーネが知るはずもなかった。
長くエルフとは冷戦関係にあるらしいのだが……実際のところ、多くの人間にとってエルフとダークエルフの差など些細な問題だった。
敵の敵は味方、とはならないのだ。

「ダークエルフが人間の国の領主ってだけでもスゴイ話ネ。是非一度会ってみたいネ!」


* * *

あっという間に店仕舞いを終え、自らの体の優に倍はあろうリュックをひょいと背負う。
丈夫な革のリュックには、行商人の必需品『収納魔法』(かなり高価)が施されている。実際の荷物量はこんなものではない。
しかし、この魔法には当然限界も制限もあるため、やはり早期に荷馬車は必要だろう。
そんな事を考えながら、夕暮れの街を歩いた。

まず必要なのは情報だ。
金儲けに繋がる話ならなんでも構わない。
レアアイテムの情報や腕のいい職人の話…あるいは討伐隊の話でもあれば、商人としてそれに便乗するのも悪くないだろう。

19 :名無しになりきれ:2010/06/13(日) 17:34:00 0
エルフって高〜く売れるらしいんだって・・・・・ふひひひひ

20 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/14(月) 17:30:08 O
知らない街での情報収集と言えば、まずは酒場に限る。
冒険者を名乗る旅人達や傭兵、賞金稼ぎ…あるいは旅芸人や商人といった『流れ者』は、大抵こういう店に自然と集うものだ。
店の方も心得たもので、副業として役立つ情報の提供や宿屋を紹介してくれる。中には宿屋を兼業している所もあるくらいだ。
例外として、例えば用心棒…所謂旅の護衛や、魔物の討伐任務を早急に求めるなら、国や自治体などが管理する紹介所もあるのだが…少なくともイーネには縁の薄い場所だった。

イーネが向かったのも、そんな酒場の一つだ。
街の入り口近くに位置し、そのくせ妙に安っぽい雰囲気は、いかにも旅人に好まれそうである。
薄暗い店内に入った途端に、酒や料理の匂いと古びた木の香り、そして控えめな喧騒に包まれた。
イーネはそんな雰囲気が好きだ。
ほとんど生まれた時から商人として旅をしていた彼女にとって、それはとても馴染み深いものだった。

そう広くない店内をざっと見渡す。
それほど込み合ってはいない。やはり客の大半は街のヒトではない様子だ。
端のテーブルに掛けた、いかにも序盤で返り討ちにあいそうな小悪党じみた一団が目についたが華麗にスルー。ああいう手合いに関わっても儲けは望めない。
どうやら酒が入っているのか、内緒話にしては大きい声で>>19な事を言っているのが洩れ聞こえる。
もちろんスルー。時代錯誤な人身売買など、リスキー過ぎて需要すらない。一体何百年前の相場を真に受けたのだろう。
「呆れた連中ネ、雑魚は雑魚らしくさっさと蹴散らされればいいネ…」

そんな事をぼやきながら、堂々と店主の正面に掛ける。
適当に(どっさり)注文して、食べつつ店主から話を聞く事にした。

21 :名無しになりきれ:2010/06/14(月) 20:35:12 O
儲け話ねえ?
そういや近くの鉱山跡で何とかっていう高い宝石だか金属だかの鉱脈が見つかったとさ
掘り当てた奴らと地主と国とで所有権巡って揉めてるうちに、山賊やこそ泥まで出てちょっとした無法地帯になっちまってるらしいが
上手く目を掠めて原石の一つも持ち帰ればいい小遣いになるかもな

22 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/15(火) 21:15:23 O
>>21

「はむはむ…それは妙な噂ネ、実に面白そうネ。はむはむ…」

料理を頬張る口と手を一瞬も休める事なく、イーネは店主の話を聞き終えた。
そんな無法地帯でただの商人が石掘り…というのは色々な意味でナンセンスが過ぎるが、決して使えない情報でもなさそうだ。
……それに、話が少々不自然でもある。
礼を言って席を立ち、ついでに宿屋のおすすめも尋ねてから店を出た。

……店主の噂話には大きな矛盾があった。
鉱石の採掘は、その価値を問わず莫大な資金と時間が必要である。
多少価値のある鉱石でも、その採掘場そのものをただの野盗が狙うはずがなかった。
彼らは他人から効率良く奪う事を第一とする。それは暴力以外の力を持たない彼らなりの生きる知恵だ。
しかしそれを度外視してまで採掘場跡を狙うという事は、余程の“何か”がそこに埋まっているという事に違いない。

先程の噂の真相を求め、そのまま数軒の工房などを訪ね歩き、話を聞いてまわる。
果たして、結果は思った通り…否、それ以上だった。

『竜骸石』というものがある。
その字の通り、大昔のドラゴンの亡骸…化石である。
死してなおその躯は神秘の力を宿し、そのまま永い刻の中で大地の魔力と融和し結晶となったもので、非常に珍重されている。
牙や目玉など部位によって細かい名称や用途、価値は変わるのだが…中でもその心臓は特別な価値を持つ。
紅い輝きを放つ大きな宝石と化したそれは、見た目の美しさもさる事ながら、他の部位と比べものにならない程の力を持つのだ。

…なるほど、これなら野盗も狙う訳だ。
心臓だけで、おそらく他の部位全てを合わせてなお届かない程の値段になるだろう。正に一攫千金だ。
ならば行く価値もある。さすがに一人でやろうとは思わないが、商人…いや、目利きとしてこの件に首を突っ込むくらいは可能だろう。

23 :名無しになりきれ:2010/06/15(火) 21:19:19 0
はいはい、確認しましたよ〜次の方〜通行章見せてくださ〜い♪
おや?お嬢ちゃんコッチは商売用の通路、一般のかたは向うだよ
え、ちがう?立派な商人。。ああ、はいはい本物の通行章だね扱ってる商品も・・・OK
けっこう値打ち物もあつかってるね〜すごいね〜、この街初めてですか〜宿決まってなかったら
衛兵詰め所の裏に宿あるから・・・泊まってあげてね〜、ハイ次の方〜♪




24 :名無しになりきれ:2010/06/15(火) 21:26:14 0
おや?……オイネさん!
あんた「お稲」さんじゃないかいッ!?

25 :名無しになりきれ:2010/06/17(木) 20:58:36 0
おもしろそうだけど、これってやっぱり参加に事前の許可とか
いるのかしら、それはそれとして
「なんでも鉱山ですごい宝石がとれるらしいけど、
そんなすごいの一体どこで売れるのかしらね、やっぱ貴族の
競売とかにかけるのかしら」

26 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/18(金) 01:04:27 O
ジラント鉱山は、イービスの街からほど近い森の中にぽっかりと空いた、巨大なすり鉢状の「穴」だ。
エルフの語る伝説では、太古に竜が墜落した際に生じたとも言われるが、この付近は元より自然洞窟が多く、昔の落盤により生じたのではないかともされている。

かつては採掘で賑わっていたものの、10年前には枯渇により閉鎖され、現在は荒れ果てた無数の横穴を晒すばかりである。
内部は人の手による坑道と自然洞窟が入り混じり、極めて複雑な構造になっているらしい。
今回魔力探知によりその存在が明らかとなった竜骸石は、どうやらその自然洞窟の奥深くにあるらしいのだが……。

以上が、イーネが街を歩いて調べ上げた現場の情報だ。
野盗達が現れたのは数週間前にも関わらず、今も奇妙な拮抗が続けているのは、おそらくその複雑な内部構造によるためなのだろう。

どうやらこの街を拠点とする地主は、とにかくいち早く竜骸石を確保しようと人を集め、捜索隊を組織しようとしているらしい。
…が、野盗との衝突が避けられないため…そして最近そこに魔物が出るとの噂のために、全く人手が足りないのだとか。

これは願ってもないチャンスだ。
イーネは基本的にただの商人であるが、その鑑識眼は一流だ。
特にマジックアイテムの鑑定には、特殊な魔法を用いた繊細な扱いが求められるため、一般の商人や攻撃系の魔道士では扱えない技能でもある。
無生物を対象としたある程度の魔力探査も可能なため、捜索隊のメンバーとして自らを売り込む事は容易い。

―――ま、それを口実にして取引に一枚噛むつもりネ。

27 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/18(金) 01:07:06 O
…今日はもう休もう。
時間も遅くなったため調べ物を適当に切り上げ、宿へと向かう。
この街で知っている宿屋は二軒あったが、今朝方街に入った時のあまり愉快でないやりとり>>23を思い出し、酒場の店主が勧めてくれた方の宿を選んだ。

>>24
宿屋のおかみさんに話しかけ、簡素な一人部屋を取る。…と、そこで急に呼び止めらた。
……明らかに人違いされているようだ。

「おかみサン、イーネはイーネだネ、オイネは少し音似てるけど違うネ。…どこかで似た人でも見たのかネ?」

首を傾げながら言う。
イーネはこの地域ではあまり見掛けない、遥か東の海の辺りに住む人間の風貌だ。
そう間違える事はないと思うのだが…そう言えば、そこのある島国ではそんな発音の名前もあり得たか…。

>>25
そのまま、なんとなく話し続けてしまった。…やっぱり誰かに似てるとおもわれたのか?
会話は自然、街で噂になっている宝 石の話へ。

「貴族よく道楽で買うネ。でも宝石は魔道士や工房にもよく売れるネ、引く手あたまネ!
…でも、イーネが売るならやっぱり金持ちに売るネ」

イーネの本心としては、素材として買い取ってくれて、それを価値ある製品として流通させる工房に売るのが好きなのだが…
やはり買い叩かず、適当にポンとはずんてくれる金持ち相手は楽なのだった。

28 : ◆pNvryRH4rI :2010/06/18(金) 01:12:35 O
≪適当に話を作っますが、参加者不足のためまだ何も決めてません。参加希望者はノリで軽く飛び込んでくれると嬉しいです≫

≪むしろ大歓迎です≫

29 :名無しになりきれ:2010/06/18(金) 21:58:45 0
『竜骸石の眼』の買い取り交渉を代行して貰おうか
相場の一割り増しまでなら構わんが・・・・・無理かね?

30 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/19(土) 00:08:10 0
街の喧騒に紛れるようにして一人の男が宿屋に入ってくる
すっかりくたびれた顔をしてそのまま手近なテーブルに突っ伏すとジュースを一つ頼んでまたうな垂れる。
この街の噂を聞きつけ鉱山の調査隊に志願しに来たものの非戦闘員の魔術師はお断りだと方々から断られてしまった。

男、というより少年たが中性的な顔立ちをしていることと、高くない身長、声変わりしきれていない高めの声等から
気付かない者も少なくないようだ。実のところ今回も女性と間違われて断られたという部分もいくらかある。
彼は焦っていた。魔道に関連した修行の一環としてこの街に来たのはひとえに噂の石に触れてみたかったからだ。

戦士達の鍛錬と同じく術を反復し、イメージトレーニングを重ね、実践に望むまでは同じだが、
魔法のアイテムや出来事に触れて自分の感性を刺激するのは魔道系に特有の修行法である。

注文したジュースをちびちびと飲みながら辺りを見れば、大柄な男と店員ばかり・・・
今更言っても仕方がないが彼は自分の白くて細い、また人によっては美しく見える二の腕を眺めて嘆息した。

31 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/19(土) 00:36:54 0
「そりゃ確かに戦闘はからっきしだけどさあ」

名前:マイノス(性はなし)
種族:人間
性別:男
年齢:16
肩書:精霊使い
容姿:身長165センチ、体重58キロ、中性的な体と顔つき(そばかす有)でいつも困ったような顔をした短髪の少年。
装備:白い革鎧のほかに局所にパッドやプロテクター、インナーにジャージを着込み手甲、外套、ブーツと軽装備をガチガチに固めるという何か間違った格好をしている。武器らしきものは所持していない。
特技:家事全般、精霊魔法、匂いやカンによる相手の危険度の把握
好き:人の応援が好きな人、おいしいごはん
嫌い:悪党、食料の衝動買い、傭兵(苦手)
備考:現在修行中で契約する精霊をさがしている精霊使い。現在契約中の精霊及び習得している術は全てサポート向きで戦闘はできずそのため立ち往生している。

「あって困るものじゃないと思うんだよねー」

32 : ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/19(土) 00:40:23 0
初めてですが頑張ってみます、でもできればなるべくお手柔らかにお願いします

33 :名無しになりきれ:2010/06/19(土) 01:23:40 P
・エラッタ
誤:性はなし
正:姓はなし

34 : ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/19(土) 08:45:46 0
のっけからやらかしてしまいました。すいません。
エラッタ出してくれた方ありがとうございます。

35 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/19(土) 12:09:54 O
〜 翌日 〜

イーネは上機嫌だった。
朝から早速鉱山主に話をつけに行き、実に呆気なく契約を取り付けたのだ。
その契約内容は要約すると

・捜索隊が竜骸石を発見、確保する事を条件に、その取引の一部をイーネが請け負う
・更に、竜骸石の品質保証を示す鑑定書をイーネが発行する(鑑定料はやや割引)
・契約に際し、イーネは前金を受け取る事が出来る

という、何とも荒っぽいものだ。
しかし、イーネには竜骸石の鑑定を行うだけの力量と、その流通に手を出せるだけのコネクションがある。
…まぁ、コネの大半はイーネの親戚一同…ファン一族全体の財産なのだが。

契約を取り付けたイーネは早速動き出した。
ネックの人員募集は街のギルドに続けて貰うとして、同時に近々竜骸石が市場に流通するかも知れないという“噂話”を流して、買い手の下地を作るという地味な作業である。
早速>>29な話も出て来ているようで、悪くない様子である。

しかし、課題はまだいくつか残っている。
一つは捜索隊の編成が甘い事。これには理由がある。
…厄介な事に、ジラント鉱山は元よりエルフにとって神聖な場所とされているのだ。
『竜の魂が眠る処』で穴掘りとは云々…そのため、昔から地主らと街のエルフの組合の間に壁があり、どうも足並みが揃わないでいるのだそうだ。
さすがにそればかりは、イーネに策はない。事態を見守るしかないだろう。

そしてもう一つ。イーネ自身の能力の限界。
…イーネには先天的な魔法の素質はあるが、魔力そのものの保有量は平均的な魔術師より低い。
そのため、攻撃系や広範囲サーチなど、魔力を食う魔法は全く扱えないのだ。
ついでに、魔力属性が人並み外れて『風』に偏っていたりもする。

……まぁ早い話、ちゃんとした魔術師などの助けなしには、広い洞窟内で魔力探査なんて出来なかったり…という訳で。

「ハァ、メンバーに居ないならイーネが雇うしかないネ…でもお金は使いたくないネ…」

36 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/19(土) 12:15:50 O
>>30
昼過ぎになって、イーネはひとまずギルドで捜索隊の加入手続き(同行者枠)を済ませると、一度宿へ戻った。
その胸元には、ギルドで貰える紋章の入ったワッペンがピンで留められている。
…街ではギルド割引が使えるという、ただそれだけの理由なのだが。

宿のラウンジを素通りしようとして、ふと足を止める。
…目に留まったのは、一人テーブルに突っ伏した少年。
おそらく魔術師な旅装だろうが、なんともちぐはぐな印象を受けた。
というか、明らかに妙な…どんよりしたオーラが漂いまくっている。
そう言えば、先程ギルドで手続きをしている時に、門前払いされている彼をチラッと見掛けたような…?
……実に面白そうだ。

イーネは軽い足取りで近づくと、テーブルの真正面にヒョイと腰を下ろした。

「何飲んだくれみたいな真似してるネ少年?んな事してると早々に老けるネ。アーおかみサン、イーネも同じジュース頼むネ!」
ニコニコと笑いながら、彼の顔を覗き込む。

「悩みあるならこのイーネが相談乗るネ、仕事の悩みネ?それとも恋ネ?なら恋の御守りとか安くしとくネ!」

37 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/19(土) 19:06:37 0
出鼻を挫かれてすっかり意気消沈してうな垂れているところにいきなり女性が
現れた>36
小柄な女性だが年下特有の感から彼女が自分より年上だとわかった。

女性の態度と物言いに初めは呆然としていたが少年・・・マイノスはジュースの残りを飲み干し
鼻を一つすすると、ぽつぽつと自分の素性と経緯を話し始めた。どうやら悪意の類はないようである。
(余談だがこれは彼が人を判断する時に匂いを嗅ぐというクセを隠すための行動の一つである)

自分が修行中の精霊使いであること、精霊使いとは精霊と契約を交わすことで精霊の特性と術を使う者であること、
強い力を持ったアイテムや場所は精霊を育むことがあること、噂の竜骸石にその可能性があること、そして
自分の連れている精霊と術がどれも戦闘用でないことが理由で門前払いを食らったこと・・・

一通り話し終えたときにはそれなりに時間が経っておりマイノスは水のおかわりを頼むとぶちぶちとこぼした。
「そりゃまあ僕の連れてる精霊はマイナーなのとか変り種とか準精霊とかそんなのばっかりだけどさ、
言い換えればそういうのに特化してるってことなんだ、でも『そういうのならチャントした術士を雇うから』だってさ。
お金も少なくていいし雑用もするからって言ってもダメ、竜骸石クラスのアイテムは触るどころか見るのにもお金が
かかって、この分じゃ精霊たちのレベルアップも当分先の話かなあ・・・」

いいながら左手の親指、薬指、小指にはまった指輪を触る、簡素な石の土台に宝石が付いており親指から順に
オニキス サードニックス コハクがついている。

38 :名無しになりきれ:2010/06/19(土) 20:20:51 0
竜骸石ゴーレム・・・・
・・・悪の魔導師のアコガレやね。

39 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/19(土) 23:40:15 O
>>37
マイノスの話を聞きながら、イーネはさりげなく宿の昼食を注文していた。
届いたそれを恐ろしい程の速度で平らげながら、ニコニコと相槌を打つ。

…ちょうど安く雇える術師を探そうと思っていた所だ。
捜索隊の人数確保にもなるし…まだ足りないが、ギリギリと言う所か。
渡りに船とまではいかないが、精霊使いであるなら辛うじて目的に合うだろう。

「ならば少年、イーネに雇われるネ?
その捜索隊ならコネあるネ、イーネの助手としてなら連れてけるネ!ちょど人手不足で困てた所なのネ」

そう言って自らの素性と目的を簡単に明かし、懐から契約書を取り出す。
商人御用達、魔力による認証機構付きの自動筆記契約書だ。契約内容の記入だけなら10秒とかからない。
イーネが指先でなぞるとすぐさま、広げた紙面に発光しながら文字が浮かび上がる。
………契約者の損害や怪我、生死について一切責任を負わないという、えげつない一文がこっそり紛れていたりするのだが。

「それギルドに出せば一緒に行けるネ、とりあえず打ち合わせするネ早速ギルド行くネ!」

出来上がった契約書をマイノスに押し付け、イーネは立ち上がる。
そして、振り返る事もなくあっという間に宿の入口まで駆け出した。…ちなみに食事代は払っていない。

「はーやーくーすーるーネー!」
…表通りから、大き過ぎる声だけが聞こえた。

40 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/20(日) 08:29:34 0
件の鉱山により活況の只中にある酒場からは>>38のような
ロマンを語る声も聞こえてくるが、マイノスはそれよりも眼前の女性の何から何まで早い行動とたった今
告げられた言葉に思考が追いつかない、さっきまで彼女の胸についているワッペンを物欲しげに見ていたが
今はそれどころではない、渡りに船とはこのことだった。

あっという間に契約内容をまとめて店の外まで駆け出した彼女を見て慌てて店の支払いに向かう。
商人たちの暗黙のマナー、紹介料という奴なのだろうと思いながらマントの内ポケットから財布をとりだしバリバリと音を立てながら
代金を取り出し、会計を済ます。この間に自分の目の前に精霊が「見た」契約書の文面を精霊にそのまま映し出させて確認する。

魔術師が魔力を文字の形にして一般人に見えないようにして文書の内容を確認したり記録しておくのに対し
こういった些細な精霊の使い方はあまり知られていない。前者は魔力をほとんど持たない人からは確認できないが多少なりに魔法に覚えのある者には
しっかりと見え、その対策合戦が日々行われているが、精霊は基本的に契約者が強めに力を使うか、もしくは同じ精霊使いにしか見えないので
こういった作業に感づかれる心配はない。また多くの精霊使いは彼のようにはなっていないので使う機会もないのだ。

財布の中身とレシートの内容に目を走らせる振りをして契約書の文面を読み終えると例によって
安保のあの字もない内容だったがマイノスにしてみればこれよりマシな契約書を見たことがないので普通の契約書だと安堵する。
店先では先ほどの女性が苛立たしげに軽く足踏みしていた。

「遅くなってすいません、手持ちが小銭ばっかりだったもので」
事実である。だがこういった鈍くさい行動が思考と誤魔化しのための猶予を怪しまれずに稼ぎだす手段になるという事を彼は知っている。
「でも本当にありがとうございます、これで鉱山に入れます」

言いながら手持ちの精霊と術を思い出す。盗賊から逃げるためのものと探索用のものと。
とはいってもそれ以外の術をほとほと覚えていないので、考えても仕方がないので彼は考えることをやめた。
「他の精霊使いに契約を手伝ってもらうのって高くつくもので」

適正があっても呪文書を覚えこまないと使えない魔法と違い、契約すれば精霊の持っている術と精霊の力を借りられる
精霊使いは応用性がイマイチだが手っ取り早く、そしてそれ故に先達から足元を見られることも多い。
要するに習得は早いが覚えられる魔法のバリエーションが魔術師達に比べて格段に少ないのである。

41 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/20(日) 16:44:59 O
>「でも本当にありがとうございます、これで鉱山に入れます」

「利害一致ならお互い儲けネ、礼はいらないネ」

支払いを済ませ出てきたマイノスが出て来るのを確認して、早足で歩き出す。
連れて行く事が報酬扱いになるのならば、むしろ出費が大幅に減ったイーネにとっては大歓迎だ。

「それより少年、鉱山辺りは治安も悪いケド最近は魔物が出ると噂もあるネ、心するネ。
イーネこの通りか弱い商人ネ、少年の身は保証しないネ」

そう言いながら書類を示し…ニコリと、マイノスに向けて無邪気に笑いかける。
大好きな商売と冒険が出来るこの行商人という生き方を、イーネは心から愛していた。


〜 ギルド 〜

手続きは即座に通った…というより通した。
渋い顔で契約書を受け取るギルドの受付を尻目に、イーネはマイノスにワッペンを投げて寄越す。

「特に問題なければ明朝出発ネ。ちょい人数少ないケド、都合付けば後から追わせるみたいネ。
とにかく支度はちゃんとやっておくネ少年、おやつは控えめにするが吉ネ」

イーネはそう言うと、受付に対し「必要経費で魔石代落とさせるネ!」などとゴネ始めた。
捜索隊(一班)の構成は現在確定しているだけで、探知役のイーネ&マイノスの他に、戦士風の男性3名。
見た所あまり強そうにも見えない…あまり戦力として期待は出来ないだろう。
しかし、今回の目的は討伐ではない。最低限の自衛手段としてならギリギリという所か。

【翌朝より追加 NPC男性3名 扱いはご自由に】

42 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/20(日) 20:48:01 0
「よーし、初めてのチームワークだ。頑張るぞ!」
>>41のやり取りの後、宿に戻り荷物の準備をする。マントの内ポケットの残りに薬草、消毒薬、少量の火薬球、

手荷物の鞄に水と非常食のほし肉、チョコ、そしてなけなしのお金をはたいて買ったMPポーション
(これまではもったいなくて使えなかった)をつめる。

「一応戦士の人達も来てくれるそうだけど、イーネさんは僕と同じ後衛に入るだろうから、
そうなると殿は僕か・・・逃げる時間はしっかり稼がないとな!」
守ると言えない辺りが情けないがそのための体を持っていないのだから仕方が無い。

しかし気になることがある。イーネの言っていた「最近は魔物が出る」という話だ。
人間相手はまだ泣き寝入りもできそうだが、魔物となるとそうもいかない。

マイノスはギルドで渡されたワッペンを服につけながら、自分だけでも魔物相手を前提に
戦うことを考えておいた方がよさそうだと思った。


43 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/21(月) 19:25:19 O
〜 翌朝 〜

「ジラント鉱山は、ここから森の道歩く一時間くらいネ、古い道だから十分気をつけるネ!」
「そこまでは一本道なんだろ?危ないから嬢ちゃん達は下がってな」
「ム、だからイーネは立派な商人ネ、何度言えば分かるネ!?」
「立派な商人さんは普通、こんな時先頭を歩いたりしねぇよ」
「フム、それもそうネ。まあイーネとて、守られるのは悪い気しないネ」
「…いちいち変な手間取らせんな。黙って付いて来ればいい、頼むからはぐれんなよ?」

深い森に左右を覆われた薄暗い道に響く、イーネと戦士Aの声。
…開始早々、緊張感の欠片もない有り様だった。

鉱山へ続く道を進むのはイーネとマイノスを含む、たった5人の一行だ。
先頭を行くのは、革の鎧を身に着けた戦士達。
その後ろをスキップで進むイーネは、服装こそ普段のまま…しかし腰に小さな巾着袋、背には標準サイズのリュック、そして青い石で縁取られた小さな風水盤に紐をかけ、首から下げているという出で立ちだ。

「まあイーネはヒトの気配とか苦手ネ、罠とかも無理ネ、その辺は適当によろしくネ。
あ、少年も食べるネ?おいしいネ」

そう言いながら、早速荷物からガサゴソと饅頭など出していた。

……万が一盗賊に待ち伏せされていたら、この道では簡単に包囲されるだろう。
しかし、警戒や尾行はされても簡単に襲われる事はない…そうイーネは踏んでいた。
もしイーネが盗賊の立場なら…という考えだが。

さしあたり退屈だ…と言わんばかりに、大きく欠伸をするイーネだった。

44 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/21(月) 23:52:56 0
ー道中ー
「あ、頂きます」饅頭を受け取ってほお張る。
辺りは整備などとは縁が切れたような印象の荒れ道だった。

「なあボウズ、お前さん一応は魔法使いみたいなもんなんだろう?その辺を
探索するような魔法はねえのかい?」
「あ、それ今は使えないんですよ、何しろどっちも高かったもんで、魔力探知か
使い魔にやらせるぐらいで、生物の配置とかまでは・・・」
「お偉い魔法使い様も呪文書を買う金があってこそか、かあー、世知辛ぇなぁ」

道行く中でもう一人の戦士(B)と話しつつそれなりに警戒はしておくが、こればかりは
今はどうしようもない、ちなみに3人目の戦士は黙ったままである。

「でも、手ぶらの僕らを行きで待ち伏せたりはしないと思いますよ、ギルドも
街も警戒しだしてますから、来るなら成果の上がった所でしょう、だからもし今回
ダメだったら帰りも安心ってことですよ」

我ながらあまりに情けない言い分だったが説得力は充分にあったとマイノスは思った。
こんな残りモノチックな面子を見れば確実に身包みをはげるが「それだけ」なのは明白だったからだ。
「もし不安なら使い魔を出して先に行かせますが、どうしますか?」
マイノスは左手をそっと胸の位置まで上げる。

45 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/22(火) 00:08:14 0
この世には毒と言う物がある。
魔術に長けていても、武術に長けていようと
致死性の毒を盛られれば最後、もがき苦しみ何れ死を迎えるだろう。
魔術の類で治せる物もあるが、私はそんな生ぬるい物は作らない。
致死性を持ち体内に入ったが最後、抗う術も無く死を迎える、そんな絶対的な所に惹かれた。

そうそう、紹介が遅れたけど私の名はカナ・マヤカサ、旅の薬師をやっているエルフである。
薬師とは薬を作り、その薬で人々の病気を治したり悩みを解決している者達の事を言う。
皆揃って薬師は大きな木箱である薬箱と言う物を背負っている。コレは命より大切な薬の素材が入った箱だ。
私はなかなかに気に入っているのだが、同業者は重い等地味等散々な言われようだ。

その業界で私はデスポーションとか毒薬使いと呼ばれている。
普通の薬師であるならば不名誉な呼び名だが、私を知る者は納得する呼び名だろう。
一応私の本職は薬師である為、売り上げの為に体に良い薬も作るが、やはり毒に魅せられた故に毒を主に作っている。

今回も毒の素材となる物を探すべく、我等エルフ族の里も近い鉱山へと足を運んだのだが、
なにやらガラの悪いヤツらが屯していた。
見つかると面倒になると思い、私はとっさに身を隠した。
はて?この辺りの鉱山は既に資源は掘り尽くされて、もう枯渇寸前だと聞いたのだがな・・・。
それもちょっと前の1、20年前に聞いた情報だし、何か新しい発見でもあったのだろう。

どちらにせよ、鉱山の資源等、私の知った所ではない。
しかし、無関係とは言え、コイツ等は私の言う事に耳を貸さないだろう。
採取をするとなると護衛が必要となるな、仕方ない時間は惜しいが命はもっと惜しい、出直すとするか。

私は一旦エルフの里に戻ろうとガラの悪いヤツ等を警戒しつつ、ゆっくりとその場を離れようとしたが、
迂闊だった!もう少し足元に注意を払っておくべきだった。
バキリと枝を踏み折った音が響き、ガラの悪いヤツ等が一斉にこちらを向いた。
我ながら、なんともベタな見つかり方をしたもんだ…。
その内の一人が変な動きをし、それと同時に私の頬を掠め何かが飛んで行くのが解った。

どうやら、飛び道具か何かを投げたのだろう。運が良い、命拾いした。
だが、見つかった以上運が良いかと言うと、悪い方なのだろう。
一斉に飛び道具を構えている辺り、最早逃げ出すのは不可能だろうと悟った私は両手を挙げるとヤツ等の前へと出て行った。

46 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/22(火) 00:10:44 0
名前:カナ・マヤカサ
種族:エルフ
性別:女
年齢:240歳(エルフとしては若く、見た目もそれに沿って20代位)
肩書:薬師
容姿:身長165cm、出る所も出てないが不思議と子供と言う印象は受けない。顔は整っているが常に気だるそうな顔をしている。髪は長髪で前髪以外を全てを使ったポニーテール。
装備:服装は余り気にしないのか、ヨレヨレの薄緑色のシャツに紺色の上着、使い古されたと見て解る所々色あせているグレーのズボンを着ている。背には自分の身長の3分の2になりそうな巨大な薬箱を背負っている。腰には様々な効果を持つ針を打ち出す銃が下がっている。
特技:薬物調合。解毒。素材を使っての儀式魔法。あらゆる毒物に耐性を持っている。
好き:素材になりそうな物がありそうな場所。新しい効果を持った毒物収集。
嫌い:砂漠、荒野等何も無い場所。酒類。物理戦闘。
備考:怪しい薬から治療薬、幅広い薬を作り出す旅の薬師。だが主に様々な状態異常を引き起こしたりする毒薬を作るのを得意としている所からデスポーションの通り名を持っている。

「わ、私を食っても、う、美味くないぞ!」
我ながら間抜けな事を言ってしまったなと思った。

47 : ◆utqnf46htc :2010/06/22(火) 00:15:46 0
文を打つのが久々な為、至らぬ点が有るかも知れませんが、どうぞよろしく。

48 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/22(火) 13:35:26 O
>「もし不安なら使い魔を出して先に行かせますが、どうしますか?」

「その必要ないネ。ほら、もう鉱山見えるネ」

マイノスが挙げた手を、イーネは軽く制す。
気がつけば道の片側の森が大きく開け、切り立った崖に面していた。
ちょうど、すり鉢状の鉱山全体を見下ろす位置である。
道は緩やかな螺旋を描いて、鉱山の底まで続けている様子だ。
底まで到達するには、この螺旋の道を何周も下らなければならないだろう。

「盗賊いるなら、そろそろ警戒必要ネ、見た感じ―――アララ?」

イーネは崖下に目を凝らす。遥か眼下に人影が動くのが見えた為だ。

鉱山の中央はちょっとした広場のようになっており、その至るところに雑然と土山が積まれ、巨岩が転がっていた。
その片隅、ちょうどこちらに背を向ける形で、いかにもガラの悪そうな一団が立っている。
話に聞いたままの服装と雰囲気、盗賊に違いない……人数は7、いや8か…?物陰が多く、ここからでは正確な数は掴めなかった。
そして、それに向かい合って手を挙げた女性の姿。遠目には分かり辛いが、シルエットはエルフだろうか。
背には何か、大きな荷を負っている。……同業者?

見ている間に、盗賊達は女性を取り囲むように動き出した。……状況は火を見るより明らかだ。

49 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/22(火) 13:38:20 O
「アララ…なんだかマズい事になってるネ」

…呟き、小さく舌打ちする。
この状況において、イーネ達が窮地の彼女を助ける義理は何もない。むしろ多勢に無勢、正面からでは返り討ちに合うのはまず間違いないだろう。
しかし、相手の位置が悪かった。このまま進めば、助けるどころか本来の目的である坑道に入る事も出来ずに発見されてしまう。
イーネとて、目の前でヒトが襲われているのを見て動じない訳ではない。出来る事なら助けたい…しかし、無理なものは無理だ。
ならば一度退いてやり過ごすか、可哀想だけど女性には見殺しになってもらって―――とイーネが仲間に向けて口を開いた瞬間だった。

「ぬわァにしてんだああああぁぁ!!!!!このド外道共がぁぁっ!!!!」

……馬鹿がいた。筋金入りの馬鹿がいた。これまで一言も口をきかず、誰とも目も合わせようとしなかった戦士Cである。
一同、そして盗賊達も、剣を抜き奇声を上げて道を駆け降りるCの姿に釘付けになる。

こうなったら仕方ない…イーネは頭を抱えながら、素早く指示を飛ばす。

「AとBは追ってさっさと馬鹿Cを捕まえるネ!少年ッ、近付かずに盗賊を撹乱出来るかネ!?何とか全員、あの穴に逃げ込むネ!」

そう言って坑道の一つを指差すと、イーネは駆け出した。

――不幸中の幸い、盗賊達は皆Cしか見てない。ならば、隙を突く事は不可能じゃない!

イーネは速度を落とす事なく、そのまま崖を飛び降りた。
下の道までは10m以上ある。イーネは垂直に近い壁面を常人離れした器用さで駆け降りながら、螺旋状の道を次々とショートカットして進んでいく。

50 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/22(火) 16:27:33 0
>>46、49の状況を受けて駆け出したAとBの背に向かい言う。
「僕が使い魔でハッタリをかまします!皆さんは坑道まで走って!」
言いながら先ほどイーネに止められた左手を掲げて、使い魔(この場合準精霊)
を呼び出す。

「夜の眷属にその名を連ねしモノ、静寂を以って喧騒を平らげるモノ・・・
我との契約に従い、今ここに姿を現せ!『夜魔』 キャク!」

現れたのは毛むくじゃらで顔の部分に黒い闇を浮かべ白い目と口だけがついた半笑いの不気味な、
しかし慣れれば愛嬌が無くもない頭だけの怪物だった。
「キャク!いつもの奴だ!襲われてる女の人を回収してあそこまでいくぞ!」

盗賊に襲われていると思しき女性と同じく坑道を指差した後、マイノスはキャクに「食われて」
それをはじめた。

51 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/22(火) 16:48:35 0
「助けてくれえぇぇー!」
悲鳴を上げながら崖からキャクが転げ落ちてくる。この使い魔は悪魔らしい所を全くといっていいほど
持たない悪魔であるが、人慣れしやすく厄除けまでするありがたい奴である。
しかし中にはよく似た凶悪な類似品(格上)もいるので接する時は要注意だ。

マイノスのキャクは他と違い少しだけ強く、少しだけタフで、そして体が二周りほど大きいのである。
戦士Cに気を取られていた盗賊たちも今度はキャクに気付くと口々に「何だアレ!?」「魔獣か!」「人を食ってるぞ!」
と慌て始める。マイノスはというと口から出ようと藻掻いては口の中に吸われて弄ばれる様を演じている。

「誰か、誰、わあぁあー!」
キャクも慣れたもので嬉しそうな顔をするので盗賊たちでなくても残酷な知性があると思ったことだろう。
下まで転げ落ちると今度はその辺の盗賊の頭を軽くしゃぶった後、先ほどの女性を頬張ろうとする。
当然だが猛抵抗を受けるもののマイノスはすがる振りをして「このまま逃げますよ」と女性に耳打ちをした。

そしてキャク(マイノス入り)はそのまま強引に女性を頭から吸い込むと他の戦士達を追い立てるようにゆっくりと坑道へと入っていった・・・
最早盗賊たちの目にはこの魔獣が獲物を嬲り殺しに行ったようにしか見えなかったハズだ・・・

52 : ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/22(火) 17:00:59 0
中に入った後は口から出たものと思ってください。
出方は自由です。

53 :・・・後日、酒場にて:2010/06/22(火) 21:13:09 0
[魔物情報;毛頭(仮称)・・・以下略]
(賞金首の手配書と一緒に壁に貼りつけられる)

54 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/22(火) 22:07:14 0
まぁ、要するに状況は絶体絶命所ではなく、アウト側をぶっちぎった先だろう。

ヤツ等は私を取り囲む様に動く、ああ、完全に降伏したかどうかを警戒しているのか…。
私はエルフと言う種族故に生け捕りにすれば、それなりの金になる。
まぁ、殺して血肉を不老不死の薬にしようって言う愚かしい輩も居るにはいるけど、
彼らは無闇に私を殺したりはしないハズだ。この時ばかりはエルフと言う種族に感謝せねばな。
まぁ、どちらにせよ辿り付くのは死の方がマシと思える状況だろうけどな。

ガラの悪いヤツ等の人数は9人、飛び刃を構えているのは、その内4人
その他は剣なり斧なりの近接武器を持っている。
近接と遠距離か、数を揃えるだけの馬鹿共ではないって訳か・・・
そうなると飛び刃の4人が邪魔だな、それさえ払えれば、
いや注意を逸らすだけで良い、それだけで逃げ出せる可能性もある。
危機的な状況だと言うのに、私は変に冷静に辺りを分析していた。

しかし、分析した所で何が変わる訳でも無く、このまま行ったら拘束&売り身コースまっしぐらだ。
よくある英雄譚ではココで颯爽と勇者が現れ、現実離れした強さで私を助け出してくれるだろう。
しかし、現実はそんなに甘くない、私はエルフと言っても重役でも、名のある魔法使いでも何でも無く一人消えた所で誰も気にしない様な命。

>「ぬわァにしてんだああああぁぁ!!!!!このド外道共がぁぁっ!!!!」

「なっ・・・!?」

その声に一気に現実へと意識が引き戻される。
其処に現れたのは、通常普通の人がする形相では無い様な表情を浮かべながら走ってくる一人の人物。
な、なんなんだアレは……

しかし、以外にも事態は好転した。
私を取り囲んでいるヤツ等の意識が走ってくる人物の元に集中し私がノーマークとなった。
チャンスは今しかない!私は腰から麻痺毒の塗ったくった針を射出する銃を引き抜くと、すかさず飛び刃の四人へと打ち込んだ。
よし、針は見事に当たり、飛び刃の四人は倒れこんだ。まぁ、しばらくは動けないだろう。

55 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/22(火) 22:09:44 0
さて逃げ…
>「助けてくれえぇぇー!」

なんだか巨大な饅頭に毛が生えた様な魔物に少年らしき者が食われている……。
次から次へと今日は厄日だな……。

しかし、好都合にも私を襲っていたヤツ等はそっちに気を取られている様だ。
少年よ、悪いが私には君を救ってやる事は出来そうにない。
未来ある命が途切れると言うのは悲しい物だが今の私がしてやれる事は皆無だ。

…ん?ちょ…ちょっと待て……アノ饅頭こっちに向かってないか……?
ガラの悪い者達を少し追う素振りを見せているが、アレは絶対私を狙っている…。
魔物は以外にも素早く、ずっと前に走り出したハズだと言うのに、あっと言う間に追いつかれてその大口を開けた。
わ、わー!私を食う気か!

「わ、私は食っても美味くないぞぉぉぉ!」

その大口に飲み込まれながら本日二回目のこの言葉、今度は冗談だとか間抜けではなく切実な状態だ。
あぁ、どうしてこうなってしまったのだ。コレが運命と言うならば神よ、私は貴方を恨もう。
しかし、数で相手してくるヤツ等よりかは幾分かやりやすい、持っている最強の毒物をお見舞いしてやろうかな。

>「このまま逃げますよ」

私は毒物を取り出そうとしたしたが、
その声でハッとなり魔物の口内に居るというのにその生を繋いでいる事に気がついた。
成る程、魔獣使いかそれの類と言う訳か……すっかり騙されたぞ少年。
魔物の口内で転がされながら、私はコレが騒ぎとなったら>>53の様な事になるだろうなと、少しズレた事を考えていた。

そして、坑道に入ると魔物は荒々しく私を吐き出した。
まぁ……私自体が強力な毒物だし、魔物とは言えそう長くは口に含んではいたくないだろう。
さっきから言っている、私を食ってもの件はこの部分に由来する。
体中がベタベタだが、命が助かったと思えば安いモノだろう……。

56 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/22(火) 23:31:30 O
あっという間に崖を下りきったイーネは、岩影に張り付くようにして様子を伺っていた。
盗賊達はCが騒ぎ出した直後、慌てたように飛び刃や斧などを構えたが、射程に入る前に陽動役を頼んだマイノスとその使い魔に気を取られ、女性へ目を向ける者は完全にいなくなる。
この隙になんとか…と身を乗り出し掛けたが、こちらに向けて落下してくる使い魔に目を向け、イーネは呆れながら小さくため息をついた。

「…全く、人の話を聞かない少年ネ、それとも撹乱の意味でも取り違えたのかネ」

完全に出る機会を失ってしまったので、そのまま状況を静観する。
見ると先程のエルフも飛び道具を持っていたらしく、素早く4人の盗賊を倒していた。
しかし、逃げようとした所で哀れにも使い魔に飲み込まれる…。
……イーネ、あれだけは体験したくないネと、思わず身震いをした。

一方、なぜか正義に目覚めたらしい戦士Cは、混乱の中盗賊の一人を叩きのめした所でAとBに羽交い締めにされ、そのままズルズルと坑道に引きずり込まれていた…。

―――さて…残り4人、どうせ誰にも見られてないし、追われるのも面倒なので…今のうちに『何とか』してしまおう。
イーネは懐から愛用の短剣を取り出すと、盗賊の背後から疾風のように肉薄する。

……突然背後から聞こえた呻き声に、坑道に一番近い盗賊が振り返った時にはすでに2人目が倒れていて…イーネの姿は宙にあった。
3人目、その顔面に踵をめり込ませながら、最後の一人に短剣を投擲する。


「ハァ……やっぱりイーネは速いだけだから、戦闘ってなんか苦手ネ…」

完全に不意討っておきながらそんな事をぼやき、本日二度目のため息をつく。
イーネは話し合いの通じない相手は嫌いなので、倒れた全員にきっちりトドメをさしてから、ランプを片手に悠々と坑道へ向かった。

57 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/22(火) 23:35:03 O
〜坑道内部〜

「皆、大丈夫ネー?追っ手はもう『ナイ』から安心するネ」

足跡を頼りに追跡したイーネが、そう声を掛けながらランプを掲げて坑道の奥を覗く。
見るとそこには、ゲェゲェと苦しげに転がる何とも見苦しい使い魔と、正座でABに説教をされる戦士Cという……かなり悲惨な光景が広がっていた。
一応、マイノスとエルフの女性は無事らしい。

A「…で、なんであんな真似したんだ」
C「………女の子が襲われてたから、つい紳士の血が」
B「つい、じゃねーよ!そりゃ漢たる者そういう心意気ってモンは大事よ?でもよ、ちぃーっとTPOってヤツを考えてくれや」
C「………ごめん」

「ハイハイ、まあ皆無事だったし結果オーライネ!あ、Cの報酬は削って分配するよう手配しとくネ!」

にこやかにそう宣言し、さらに言葉を続ける。

「…さて、成り行きで助けちゃったケド、お姉サン大丈夫だったかネ?
なんだかそこな少年にやらしー拐われ方されたに見えたネ」

軽くマイノスを睨め付けながら、とりあえず話を聞こうとランプを置いて腰をおろす。こちらの身元もきちんと明かすべきだろう。
…本当はお礼にいくらか巻き上げたい所だが、こちらが勝手にした事だ……一応、我慢。

58 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/23(水) 08:10:05 0
イーネの責める視線を背に受けながら荷物から水筒を出しキャクに水を飲ませて吐かせてやる。
「近づかずに撹乱」はできないのだから仕方がない。それこそ結果オーライだ。だがそれよりも
マイノスはイーネの戦闘力と躊躇の無さに戦慄していた。

キャクは体の頑健さもさることながら毒にも強く効果があってもそれで苦しむというような物質的にできた構造をしていない。
ここまで苦しむということは近くで誰かの強いストレスを感知したからに他ならず、また苦手な血の匂いを嗅ぎ取ったからだろう。
最後に入ってきたのはイーネでしかも追っ手はもう『ナイ』と言った。あの混乱に乗じて残った盗賊を仕留めてきたのだ。

(これなら全員気絶させてやればよかったな)とも思ったがイーネの気性ならそれこそ全員に止めを刺しただろう。
マイノスはキャクの背中を擦りながら先日出会った時のことを思い出した。悪党の匂いこそしなかったが彼女が自分を
立派な商人だと言っていた。恐らくその通りなのだろう、善悪より損得で動く商人は精神的なサーチに引っかからない上に
その行動は驚くほどに早い。彼らは自分の決断を翻さない、命のやり取りもそうである。そういう点では傭兵以上にマイノスにとっては
天敵とも言える人種である。

キャクをオニキスの指輪に戻しながら坑道の入り口を警戒する素振りを見せ、気付かれないように自分にありったけの
防御呪文をかけて手持ちのMPポーションを飲む。イーネが不経済だの大丈夫だのと口を益々尖らせるが彼女の目にビビリの駆け出しと
移っている間は問題ない。イーネに警戒を気付かせないように今度は助けた女性の方に目をやった。

59 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/23(水) 08:31:11 0
どうやらエルフのようだがキャクの口の中にいたせいでよれよれにクタビレた格好が更に酷くなっており
まるで難民か何かのようだ。髪も乱れているがそれよりも、背負っていた荷物を気にしているようだった。
エルフなので流石にすっぴんでもそこそこ綺麗な顔立ちをしている。

体つきを見ると小柄なイーネより更に華奢な感じがするがあくまで体つきはの話であるが。そのあとマイノスは
しっかりと、エルフに多い薄い胸に目をやり鼻の下を少し伸ばし、どんぐりの背比べだがイーネの方が大きいということ
に意外性を感じたこと顔で表す事を忘れなかった。他の戦士達のやに下がった顔も説得力の演出に一役買ってくれたようだ。
(これでまた一つ甘く見られたはず・・・これまで何度か練習しておいてよかった)

「あ、いい忘れてました、僕はマイノス。一応フリーの精霊使いです。あなたは?」
言いつつ他の面子を紹介してここに来た目的を話した。依頼達成数が足りないのでギルドに登録できていないのは内緒だ。
女性に自己紹介を促しつつ次の精霊を準備しておく、今しばらくは後ろから刺されても大丈夫だがこの先「どの用途」で
使う事になるかはわからないので、あくまで魔力だけ込めておくことにした。

60 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/23(水) 19:20:06 0
うげぇ……髪がベタベタだ……本当に今日は厄日だな…。
……っと、それより薬だ。
私は木製の薬箱を降ろすと中身が無事か確認した。
結構激しい動きをした覚えがあったが、中身は無事であった。
良かった……コレが無いと商売にすらならんからな。

私はまず自身の怪我を探した。自身の毒は血液にのみ流れている。
間違って摂取しよう物ならば死は免れないだろう。私の作る解毒剤があれば話が別だが。
飛び道具の掠った頬も、体の何処にも流血箇所は無いようだ。
良かった……意識の無い状態で介抱された村一つを汚染地域にした前例があるからな、コレだけは常に注意を払っている。

どうやら私以外の者達は知り合いだったらしく、何やら話し合っている。
話を聞く限りは私への敵意とかは無い様だが、あまり油断は出来ないな。
喋るのが得意ではない私は、誰かに話しかけられるまで待つこととして
上着のポケットから煙草を取り出すと咥えてマッチを擦り火を付けようとするが、シケていて火がつかない。
舌打ちすると、擦ったマッチを投げ捨てると煙草を上着のポケットに戻した。

>「皆、大丈夫ネー?追っ手はもう『ナイ』から安心するネ」

暗闇に眼が慣れ始めていた所にランプの光が差す。つい顔をしかめる。
無い…?そうか、殺したのか。
薬師と言う本来は人を救う事を業務としている私にとって余り良い印象は受けない。

>「…さて、成り行きで助けちゃったケド、お姉サン大丈夫だったかネ?
なんだかそこな少年にやらしー拐われ方されたに見えたネ」

言われて、怪我を探す様な素振りをしたが、さっき確認済み怪我は無しだ。
あまり人間と話す機会なぞ無い私はガラにも無く緊張していた。

「ああ、特に外傷も無く良好だ、……全身べたつくのを除けばな。成り行きで有ろうが助かった。
しかし、少し前までは寂れて誰も近づかない様な鉱山だったハズだが何か新しい発見でもしたのか?」

61 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/23(水) 19:21:52 0
>「あ、いい忘れてました、僕はマイノス。一応フリーの精霊使いです。あなたは?」

その疑問は、間無く畳み掛けるように少年が紹介とコレまでの出来事を語り始めた為それで事足りてしまった。
余り人の名を覚えるのは得意では無いが覚えるよう努力をしよう。
しかし、この鉱山にて何か凄い物が発見されたらしい。それを狙って人が集まっているらしいな。
それを事前に知っていたなら、私はココには出向かなかっただろう。
毎回の事だが、どうして私はこうにも運が無いのだ……。
名乗られて問いかけられた故に返さなければ……私も人に対して自発的に話せるようにならないとな……。

「私の名はカナ・マヤカサ。薬師と言う薬を作り人々を助ける事を生業としている。
その中でも私は異色で、飲めば死ぬような毒を主に作っていて、
同業者の間ではデスポーションの通り名を持っている。
ココには毒草採取に来ていたが、この鉱山に最近そんな発見があったのか。
鉱山資源に対しては全く興味が無かったから良く調べもしないで来てしまったな……。
そうだ、何か礼がしたいが、生憎にも君達の役に立ちそうな物は持って無くてね…。」

普段全く喋らないから、一気に喋ると疲れるなぁ……。
さて、言ってしまった手前、何か礼になるような事をせねばな……。
うーむ……何かいい案は無いだろうか……。

んー……、ん?
そんな大物の探索メンバーとしは数が少ないようだが、
少数精鋭なのか、それともメンバーが集まらなかったのか……。推測だが、後者だろう。
それはさっきの醜態を見せられれば、素人が見たって解る。
まぁ、その騒ぎに救われた故になんて言うか微妙な所だが、一つ言えるのは、このメンバーには数が足りていない。

「一つ頼みがある。この探索メンバーに私を加えてくれ。見た所このメンバーには数が足りない。
私で数になるか解らないが、私の毒草……いや薬草を探す片手間で協力出来る事ならしよう。」

私は護衛を雇わなくて済む、あっちはメンバーの足しになる。
まぁ、本当に数になるかと言われれば微妙な所だろうけどな……。
一応は利害は一致しているハズだが……。

62 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/23(水) 21:39:38 O
あまり広くもない坑道を見渡し、ふとこちらを気にするマイノスに気付く。
…イーネ、何か怖がらせるような事でもしたかネ?…などと真面目に考えて首を傾げた。

「少年、警戒はいいがポーションがぶ飲みは勿体ないネ。まあイーネから買う分には構わないがネ!
あ、もちろん旅の色々は持てきたからいつでも売るネ」

例えこの状況だろうと、在庫はともかく品揃えなら街の道具屋など目ではない。
ちなみに仲間だからと優遇する気も全くなかったりする。
どうせ貧乏戦士は相手にならないし、今後は女性にも期待しなくては。

ついでにマイノスや戦士らがイーネとエルフ女性の体を見比べるような動作をしているのにも気付いたが、イーネは全く気にしていなかった。
この幼く見える容貌や体は、商売だとむしろ不利益を生む事が多いのだ。故に価値など考えもしない。
……たまに、妙にイーネに対し愛想の良いヒトもいるが、まあそれはそれで儲けモノだと徹底的に付け入り搾取していたりもする。

63 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/23(水) 21:42:18 O
手間が省けたとマイノスの説明を聞き流しながら、手持ちぶさたに使った短剣を拭いていたイーネだが、カナの話になりぴたりと手を止めた。
…薬師、それも物騒とはいえ珍しい物ばかり扱う専門家。品揃えと『珍品』を大きく売り物として扱うイーネにとって、カナの扱う毒という商品は、とても魅力的だ。

>「一つ頼みがある。この探索メンバーに私を加えてくれ。見た所このメンバーには数が足りない。
私で数になるか解らないが、私の毒草……いや薬草を探す片手間で協力出来る事ならしよう。」

「イヤー旅と地獄行は道連れが基本ネ、一緒だと何かと楽しいネ!……それよりカナ…」

そこで急に飛び付くようにしてカナの手を取り、満面の笑みを浮かべるイーネ。

「イーネは旅の商人ネ!きっとカナとは素敵な関係築けるネ!今後ともご贔屓願うネ!!」

ざっと見渡した感じでは、戦士らもカナの提案に異論はないらしい。特にCの食い付きが尋常じゃないが、ここはあえてスルーしよう。

「……ところで」
イーネは短剣をくるくると弄びながら、事も無げに提案した。

「竜骸石の捜索するなら急いだ方が賢明ネ、確か盗賊の数あんなモンじゃないと聞いたネ。
さっきの連中はイーネ、ちゃんと全員足を石で砕いてあげたからから問題ないケド、いずれ追っ手が来るネ」

――ぞくりと、思わずその時の高揚を思い出して体に震えが走りそうになるのを堪える。
倒れた相手を好きなだけ痛め付けるチャンスなんてなかなかない、しかも9人。
3人目辺りからついプライベートなスイッチが入ってしまったが、今後は人目もある事だし自重しておこう。

「という訳で手伝うネ少年、というか魔力少し借りるネ」

短剣を懐に仕舞い、代わりに首から下げた風水盤を掲げる。マイノスに手を翳すよう促しながら、自身の微弱な魔力で探索魔術を起動させた。

64 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/23(水) 22:55:52 0
>「という訳で手伝うネ少年、というか魔力少し借りるネ」
「えっやっぱり僕も前衛入りですか!?こんなことなら防御固めるんじゃ・・・え、違う?」
説明を受け風水盤に手を翳しながらマイノスは内心で慌てていた。盗賊たちの足を砕いた
とイーネが告げた瞬間、精霊達が一斉に怯えだしたのだ。マイノスの鼻も反応した。

見誤っていた、経験の少なさ故に見抜けなかったといった方が正しいか。善悪や損得がどうとかじゃなく
気質がこの上なく凶暴だったのだ、この少女は。そのベクトルが商売に向いている間はまだ安全だがそれ以外
のこととなると今のような気を放つのだ・・・余りにも屈託がなさすぎる・・・

精霊たちを落ち着けながら、「明かり」の呪文を使い周囲の光量を上げる。
「もしまた盗賊が来ても、またキャクにお願いするだけですよ。あいつけっこう頑丈だから」

65 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/24(木) 18:02:29 0
この服どうするかな…。一張羅なんだよな……。
早くも周りは私の服に対して流されているが、出来る事なら直ぐにでも着替えたかった。
まぁ…状況が状況だ、自重するかね。

>「イーネは旅の商人ネ!きっとカナとは素敵な関係築けるネ!今後ともご贔屓願うネ!!」

まぁ、意図が見え隠れではなくこんなストレートなのは久々だな…。
私は少し心躍っている。隠す必要も無かったが、顔がにやけるのを必死で止め、平然を装った。
今までデスポーションの名を聞いて取引に応じたのはテロリストや暗殺者と言ったどっちかと言うと社会の裏側の連中だ。
商人と普通に取引が出来ると思うと、何か今までの事が報われる気がした。

「ああ、毒で良いなら麻痺させるだけのから、肌に付いただけで死に至らしめる物まで取り揃えている。
逆に回復薬は解毒剤を除いて平凡な物しか作れないけどな」

しかし、さっきから戦士の三人の一人が眼を血走らせこっちを見ているのは正直何とかして欲しい……。
最初はエルフと言う種族が珍しいからかと思っていたが、アレは常人の目じゃないぞ。
くそぅ…私が何したってんだ……。

>「竜骸石の捜索するなら急いだ方が賢明ネ、確か盗賊の数あんなモンじゃないと聞いたネ。
さっきの連中はイーネ、ちゃんと全員足を石で砕いてあげたからから問題ないケド、いずれ追っ手が来るネ」

数の少なさは逆を返すと素早く動けると言う事だからな。急ぐのは賢明な判断だろう。
ん?足を砕いた……?そこまでするならば、麻痺毒じゃなく腐食毒を打ち込んで生きたまま分解する様にすれば良かったな。アレで死んだ者は証拠も問答無用で全て大地に帰す。
まぁ、私自身あまり殺すという行為は好きではないが、生きたまま弄るのは大好きだ。

私は急ぐと聞いて、足元に転がっている薬箱を背負い込むと、腰にかかっている針銃の針を猛毒の物へと変えた。
相手が人ならば物の数分で死に至らしめる様な品だ、出来れば余り人には使いたく無い物だがな……。

>「という訳で手伝うネ少年、というか魔力少し借りるネ」
魔術の類の才というか、魔術種族と言われる種族だが私は魔力自体をあまり持っていない。儀式魔法以外で使う魔術回路は未知の世界だ、興味津々と言った様子で覗き込む。どうやら探索用の回路らしいが素人の私がパッと見で解る物ではなかった。

66 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/24(木) 20:02:06 O
イーネは静かに目を閉じながら、風水盤に魔力を流し込んで、表面に刻印された回路から広域探索術を選択、起動させる。
イーネは魔法使いではないが、マイノスの魔力を借りれば多少派手な魔法もこうして行使は可能だ。
まぁ、この術だと並みの魔法使いなら魔力を半分近く持って行かれるが。

イーネの体質…その先天性な風属性は、ほとんど風の精霊並みの偏り方をしている。しかも魔力に乏しいために使える魔法はかなり限られてしまう。
故に手にしたそれは、自らの体質に合わせて作らせた特注品だ。
重度の“属性持ち”であるイーネにとって、まともに駆動出来る数少ない魔道具だが、逆に他人にとっては異様にバランスのぶれた自転車のような物なのだろう。

やがて風水盤の上に淡い光を放つ透き通った球体が出現し、その中に近辺の魔力反応の位置と距離、その大きさが座標で示された。
それを素早く金属製のカードに保存し、術式を解く。

「…ハァ、だいたい判ったネ。竜骸石は多分この光点、もっともっと地下へずーっと進んだ先ネ」

そう言って、プレートの上に浮かんだ球、その中に点在する光点のうち、最も強いものを指で示した。
カードは念のため複数用意したので、もしもに備えマイノスとカナにも渡す。
あとはとにかく進むだけだ。古い坑道の地図など残っておらず、ましてや途中から自然洞窟へと分岐するため、ひたすら方角を頼りに進むしかない。

でも…と、イーネはカードを見て難しい顔をする。
そこに示された光点は一つではなかった。…地下の大きな点に寄り添うようにしてもうひとつかなり大きなものが一つ。更にここから近い地上や地下にも、ごく小さなものがいくつかあった。
この術式は簡単なものなので、周囲の魔力反応を生物無生物問わず、その大きさのみ表示する。しかもリアルタイムではなく、先程の瞬間のものだ。
従って、それらが具体的に何を示すかは全くわからない。
森や洞窟で魔力を放つ物など、それこそ魔物やヒト、野生動物から鉱石まで、考えればきりがない話である。

「まぁ変な反応たくさんあるケド、サクッと進むしかないネ。あ、身支度をするなら今のうちネ、必要ならイーネが売らない事もないネ!」



……………

―――そして、一行は暗い坑道の奥へと歩き始める。

67 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/24(木) 23:11:46 0
回復したばかりの魔力をけっこう吸われてまたも消耗したマイノスだったがそれ以前にカナの戦闘力が
思いのほか高いことが気になった。もしも、盗賊の追っ手がかかるまでに探索が終了しなければ
恐らく生き残りのためにこの面子で盗賊の大量殺人をしなければいけないかも知れない。それだけはなるたけ避けたかった。

「そういえばあの盗賊たちって懸賞金とか掛かってないんですかね、もしそうだったら
カナさんにも手伝ってもらって、生け捕って換金しちゃうってのも有りかもしれませんね」
服を弁償するお金も今はありませんし、と付け加えてイーネを伺う。

これで上手くいけば金銭的な報酬も幾ばくか手に入れることができる。以前の食事の一件や
支度で懐は干上がる寸前であった。契約の際も報酬のことに考えが行かなかったせいで、実質ただ働きである。
しかしながら毒の使い手に前衛に自分、盗賊たちを捕らえるだけなら見込みはそれなりにあった。

確かに盗賊は殺人や人身売買等やそれ以外、それ以上のこともやっているだろうし、それこそ殺されたって文句の言えない
生き方をしてきただろう。だがそれでもせめて首に縄を付けてゆっくりと水牛に引かせるとか、飲まず食わず眠らずで被害者の遺族に
死ぬまで強制労働させられるとか、社会の片隅でひっそりと幕を下ろすとかそのくらいで済ませてあげないと哀れだとマイノスは思ったのだ。

「それに今お金ないから、イーネさんからアイテム買うお金もないし、支払いのあてもない始末だから・・・」
そこまで言って目を逸らす。恐らく緊急時でも割引で売るとまでは言っても金が払えない奴には文字通り死んでも渡さないだろう。
しかしすぐにあることに気付き後悔した、とっさに指輪を隠すために左手をポケットに突っ込む。これだけは絶対に手離す訳にはいかない。
マイノスはすぐに何もなかったかのように周囲に視線を移して二人の反応を待った。

68 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/25(金) 18:37:33 0
魔術的何かが始まって、そして終わった。
マッピングかと思ったが、渡された金属のプレートには大小様々な点が描かれていた。

どうやら魔力の強さに反応し点を付ける物らしい。狙っている物は最深部、巨大な点だと説明を受けた。
まぁ、何処にあるか解らないより、ずっと効率的だ。
しかし、点だけと言うのもな……。そうだ、結構前のだがここに来てマッピングしていたのを忘れていた。

「少し年代物だが、ここら辺一帯はマッピングしてあるのだが、
この点の位置を見る限り、上層少しの範囲しか無い。役に立つか解らないが使ってくれ」

私は薬箱から地図を取り出すと差し出した。
まぁ、何処で何の毒草が取れるとかのコメント入りだがな。

>「まぁ変な反応たくさんあるケド、サクッと進むしかないネ。あ、身支度をするなら今のうちネ、必要ならイーネが売らない事もないネ!」

「時間の無い中本当に申し訳ないが、服の類は売ってないか…?」

まぁ、可能であるならば今すぐにでも着替えたいしな、プレートの点を見る限り結構な時間が掛かりそうでもあるし。
……少年め、恩人で無ければ身包み剥いで、私の新薬の実験のオンパレード位にはしてやったのだがな。
あぁ、色々な液体を体中から垂れ流し、それでも死ねぬ地獄を見せて……いかんいかん
つい、こういう想像をすると止まらないな……これこそ自重せねばな。

>「そういえばあの盗賊たちって懸賞金とか掛かってないんですかね、もしそうだったら
カナさんにも手伝ってもらって、生け捕って換金しちゃうってのも有りかもしれませんね」

「動けなくする位なら手伝ってやるが、捕虜の運搬はしないぞ。」

動けない人ってのは思いの他足手まといと言うか、十分なお荷物でな、それだけで移動力を削られる。
あまり得策とは言い難いが……。
ぬ、そうか少年ならばさっきの魔物でも出して入れておけばいいのだだな……。
なかなか便利だなアレは。でも二度と運んで欲しいとは思わないがな。

>「それに今お金ないから、イーネさんからアイテム買うお金もないし、支払いのあてもない始末だから・・・」

「それならば少年よ、私がアイテムを作ってやっても良いぞ。
何、金はいらん。後でちょっと体で支払って貰えば良いだけだ……フフフ…。
少し地獄の体験入学をしてくるだけだ、命の保障はしてやろう。」

多分今の私は物凄い笑顔で有るだろう。それも黒いほうの。
普段感情の変化に乏しい私だが、毒が絡むと気が触れた様になるらしい。
らしいと言うのは私に記憶は無く、人から聞いた情報であるからだ。だが、大体は想像できるな……。

69 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/06/25(金) 20:54:28 O
>「時間の無い中本当に申し訳ないが、服の類は売ってないか…?」

「もちろんあるネ!お代は…イヤ、ここはお互い商人らしく物々交換でも可ネ」

そう言いつつ、魔術処理を施したリュックから取り出し………

「アララ、女物でイズ合うの今はこれだけネ…まあ売れ残りだし少しマケとくネ」

頭を掻きながら取り出したのは、些かこの場には不釣り合いな、凝った装飾の施された派手な革鎧…というより、剣舞等に用いる舞台衣装に近い物だった。
丈夫で軽く動きやすくと、一応実用性は高いが…妙に脚線美を強調する作りになっていたりする。
ちなみにデザインコンセプトは『森の妖精』というファンシー極まりないものだった。

>「そういえばあの盗賊たちって懸賞金とか掛かってないんですかね、もしそうだったら
カナさんにも手伝ってもらって、生け捕って換金しちゃうってのも有りかもしれませんね」

>「動けなくする位なら手伝ってやるが、捕虜の運搬はしないぞ。」

「イーネは専門外だからあまり手伝いたくないネ。それに討伐依頼は事前申請が基本、事後は手続きも面倒ネ。
…あー、一応親分がショボい賞金出てたかネ」

あと魔物も賞金出るネ…イーネはそう言い首を振る。
賞金稼ぎなど商人の仕事ではない。それに不意討ち以外の戦闘もあまりした事がないのだ。

「少年の場合はそうネ…その指輪は商売道具みたいだからアレだろうケド、担保にはなるかもネ。
一応イーネ的にも体で払う方法のアテ、あるにはあるネ」

担保の契約に関しては、商人の用いるキツい強制接収魔法のかかった契約書があったりする。体のほうは…マンドラゴラの採取とかどこぞの巣穴に手を突っ込むとか、まぁ色々。


ランプと呪文により照らしているとはいえ、なお見通せぬ深い闇を、カナの古い地図(というよりメモ)を頼りにひたすら進んで行く。
崩れた道もあったため幾度もルート変更を余儀なくされたが、ないよりは遥かにましだった。
現在地はカードの基礎機能でだいたいは分かるが、立体的に絡み合う坑道は非常に進み辛いものだ。
帰り道で迷わぬようにと、イーネは時折ダンジョン探索用の安価な水薬を地面に垂らす。
…高価なオートマッピングの地図など出したくもなかった。…買ってくれるなら別だが。
このまま進めばいずれ地図を外れ、自然洞窟のエリアに達するだろう。
ちなみに前衛の戦士らは、それなりに頑張っているのか…坑道に住み着いた小さな獣など斬り伏せたりしている。

70 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/06/26(土) 08:24:34 0
「そっか、それなら仕方ないですね。それと、馬小屋に泊まることはあっても、そういうことはなるべくしません」
きちんとお断りを入れたマイノスは内心落胆していた、これで否が応にも急がなければならなくなった。
これまでこつこつ稼いで来たカルマを無駄にしないためにもだ。

「それにしてもソレ、そんなに気になります?」
カナがべた付いた服を着替えたいと言ったときから少し気になっていた、というか
これまで命の危機を『あんなやり方』で何度も逃れてきたマイノスはべた付きにすっかり慣れてしまっていたのだ。
現に吐き出された後もざっと体を拭っただけである。

「今度からはなるべく唾液の少ない上あごに張り付かせるようにしますから、すいません」
道中そんなことを言いながら辺りを見回すと、なぜか皆の嫌そうな顔が目に映った。何故だ。
先を歩きながら「野宿あるある」や「野営あるある」に興じていた戦士達も一瞬こちらを見る。

なんだか気まずくなってきたのでマイノスは慌てて提案した。
「あ、あの!一応あと2つの精霊のうち一つが探索に使えないことも無いんですが、使いますか?」
あんなに安全なのに・・・マイノスは不思議に思った。

71 :カナ ◆utqnf46htc :2010/06/26(土) 20:28:00 0
>「アララ、女物でサイズ合うの今はこれだけネ…まあ売れ残りだし少しマケとくネ」

「ぐっ……。ま、まぁ…無いよりかはマシ…か」

そこには普段私が絶対着ない様な服があった。
そ、そりゃあ、今着ている服よりかは防御はあるだろうけど……
まぁ、うだうだしてても始まらない、さっさと着替えて移動せねばな。

…ん?ココで着替えるのかって?…・・・当たり前だろう?
前衛からそうそう遠く離れる訳にもいかんし、何と言っても時間が無い。
まぁ、見られて困る事など無いが、最低限布位は張らせてもらうがな。
よっと……ほぅ、見た目の割には軽いな。

「よし、準備完了だ。……あぁ、そうだったな、この服に似合った薬は……」

正直、私は金で取引は余りしない、故に現在の必要最低限を取り、その他は毒草との物々を交換を主としている。
私は薬箱の奥から長方形の透明な容器にギッシリと入った黒い錠剤を取り出した。
その時は既に移動し始めていた為、急いで薬箱を背負うと少し小走りで追いつくと薬をイーネに手渡した。

「コイツの名前は無い。だが人の間ではダークマターと呼ばれ、そこそこ有名な品だ。
その実、強力な魔素を秘めていて飲めば暫くは魔力の事を気にしないで魔術を使える。しかし、強力過ぎる故に飲みすぎると魔の物に近くなる。少量なら良し物も過ぎれば毒と転じる、と言う訳だ」

元は有る魔術師に頼まれて作った物だが、直接的な毒物で無かった為余り興味も無く名前を付けなかった。
魔術師は注意したと言うのにその身を魔へと落とし、知能の持たない下種に成り果てた。
それでも、人の欲とは面白い物で、更に強力、更に強大な物を追い求めて、今でも結構売れる代物だ。

「まぁ、調合素材にするヤツが殆どで直接飲む者は最近見てないけどな。」

使っている素材は極平凡な魔法薬だが、何倍にも凝縮し魔性を帯び始めた位で止めた物。
原材料はそんなにかかってないが、ともかく時間のかかる一品。
実際これ以上凝縮すると手足が生えてきて逃げ出すって程の物だ。

>「それにしてもソレ、そんなに気になります?」

「まぁ、ベタついて不快って言うのもあるが、私自体が毒の塊であってな、生態消毒とも言える唾液に長い事晒されて居たくない。それだけさ」

>「今度からはなるべく唾液の少ない上あごに張り付かせるようにしますから、すいません」

「い、いや……次は出来るだけ口内は止めて欲しい……」

口内に有る唾液は口外に出た唾液の数十倍の消毒性を持つ。
ましてや、毒類に耐性を持つであろう魔物。その効果は言わずもがなって所かな。

そんな事を話しつつも、坑道を突き進む我等一行。
この辺りはまだ来たことがあるが、これ以上は本当に未知の領域だ。
何も起こらなければ良いんだが、何か嫌な予感がするな……。

72 :名無しになりきれ:2010/06/30(水) 07:31:29 0
支援

73 :名無しになりきれ:2010/07/13(火) 07:42:16 O
保守

74 :名無しになりきれ:2010/07/16(金) 16:53:23 0
突然足元の岩盤がゆるみ始め数人が地の底に落ちる。

穴の底は漆黒の闇。

落ちた者たちの安否は計り知れなかった。

一同に訪れた突然の不運。だが幾人の冒険者たちは気づいたであろう。
落盤した岩の隙間に微かに残された悪意の欠片を。

よく観察すれば「呪符」の切れ端が微量に岩に付着している。
恐らくは何者かが冒険者たちを殺害するために仕掛けた罠なのだろう。

開放された呪符に込められた悪意が岩の力を喪失させ数人の冒険者を奈落の底に叩き落したのだった。

75 :カナ ◆utqnf46htc :2010/07/17(土) 02:00:20 0
暫く我々一行は坑道の細道を進んでいた。
奥に行く毎に狭くなっている気がするな…、
このまま狭くなり続けていったら、背中の薬箱が通れない隙間とか出て来そうだな……。
この薬箱は私の命の次に大切なモノだ。手放すぐらいだったら私は其処で立ち去る。
幸いな事に、私は此処の資源に対して何の興味も無い。
毒物を取りに来た関係上此処には用はあるのだがな……。

現状況は完全に成行きであった。
この者達に助けられなければ、私はこの坑道のこんな奥までは来なかっただろう。
この坑道の資源は少し気になるが、恩人と言う部分が多いだろう。
普通のエルフ族ならば恩人でさえ馴れ合おうとは思わないだろう。
その関係上、私はエルフ族の中でも変わり者なのだろうな……。

等と考え事をしながら前方を歩く前衛について行くと、いきなり地面の感触が無くなった。
ん?……ん!?

その原因を探ろうと足元を見ると、床が崩れいるではないか。
逃げ出す暇もなく私は奈落の底へと吸い込まれていった。

それ以降の事は目の前が崩れる坑道の土の色一色に染まりあがった。
あぁ……生き埋めは正直ご勘弁願いたい物だ……。
半ば諦めの中、目の前の色が解らなっていくと共に私の意識も闇の中へと引きずり込まれていった。

あぁ……今日と言う日はなんて不幸なのだ……。

76 :カナ ◆utqnf46htc :2010/07/17(土) 02:01:08 0
それから主観時間で約四半刻位か……?私の意識は幸か不幸か戻ってきた。
目の前が真っ暗である故に正確な時間は解らないが、実際そんなに経っていたら窒息してしまう。
故に多分それより短いだろう。まぁ、この苦痛な状況からして時が長く感じられるのだろう。
とりあえず、生き埋めのまま此処が墓になるのは正直避けたい。
無闇に動くのは良くないと言うが、それは救助が期待出来る場合のみだ。
とりあえず、この場から脱する為に私はがむしゃらにもがいてみた。

すると、手が瓦礫の圧迫から解き放たれ空を薙いだ。どうやら窒息の心配は無い様だ。
私はどうにか体に積もる土砂を退けると、肺一杯に空気を吸い込んだ。
あぁ、空気が美味い。有触れているが失って初めてその大切さに気がつくな。

とは言え私はどれだけ落ちてしまったのだろう。
ふと上を見上げると一軒家がすっぽり入ってしまうのでないかと思うほど天井は高かった。
生きてる事に感謝せねばな……。それとも着ているこの服の効果かな……笑えないな…。

とはいえ、壮絶にはぐれてしまった様だ。
他の者の安否は解らないが、出来ることなら合流したいがな…。
落ちてきた所から戻るのは無理そうだな……。かといって、出口を探そうにも右も左も解らない……。
とりあえず私は目前に続く一本の道へと進んでみる事にした。

77 :保守:2010/07/24(土) 21:45:24 0
暗い一本道を進むカナは洞窟の天井に妖しい息遣いを感じた。
ふと天井に目を向けると暗闇に光る赤い六つの目。

それは大蜘蛛だった。がさがさと天井の巣を這う大蜘蛛の背中には複数の古びた剣が突き刺さっている。
剣の所持者は古に捕食された冒険者や大蜘蛛退治に出向いた騎士たち。
その剣の中の一本には古のエルフの技術で精製されたミスリル製の短剣も見える。

一瞬の溜めの後、大きい投網のように大量の糸をカナに向けて吐き出す大蜘蛛。

蜘蛛の糸は極めて高い剛性と柔性と言う相反する特性を両立した物質であり、
生半可な膂力では引き千切る事などできはしない。

あんなので巻きつかれてしまってはカナの人生はここで終わってしまうことだろう。

78 :謹慎中:2010/07/24(土) 23:00:21 O
規制さえなければ…
うぎぎぎ…もうすこしで一ヶ月…

79 :謹慎中:2010/07/24(土) 23:47:01 O
下げミス、慣れない携帯なのでどうかご容赦下さい。今度はこれでいいはず



80 :カナ ◆utqnf46htc :2010/07/26(月) 23:23:23 0
洞窟の果てしないとも思える一本道を、私は一人と言う不安を抱えつつも進む。
この状況で魔物に出くわしたら多分、敵わないだろうな……。
まぁ、出ない事に越した事は無いが、出るならば毒耐性の無い魔物である事を願うな……。
耐性があったとしても、解毒法も薬も無い最強の毒が私の体を流れている訳だから食べられる事は無いと思うが……。
私は主にこの毒の恩恵により魔物との戦いを避けてきた。

正直、出口も見えない一本道に飽き飽きしてきた。
大きな欠伸をしつつ今外の時刻は何時だろうとふと思った。
入ったのが大体、申刻で半刻も経ってないから……なんだ、思った以上に時は経ってないな。

こんな事考えていても暇は潰せないな……。
通常の冒険者とかって道中どうやって暇を潰しているのだろう。
道中を暇とか言う私は冒険者には向いていないのだろうな……。
冒険者は平気で2、3日かかる道を歩いていく、私にしちゃ考えられない事だな……。
まぁ、あっちにしてみれば、好んで毒を採っている私のが考えられない行為か……。

一人と言う不安を紛らわせようと、どうでも良い思考が浮かんでは消える。
しかし、最終的に浮かんでくるのは最悪の事態。
それは、死……。それだけは避けなければならない。
理由?それは簡単だ、私に流れる血は解毒剤すら効かない強力な毒物の塊だ。
それが大量に流れ出したと見ろ、この辺りは汚染地域になってしまう。

81 :カナ ◆utqnf46htc :2010/07/26(月) 23:25:49 0
此処は神聖な場所らしいから文字通り私の血で汚すわけにはいかな……!?
な、何だ……?今天井の辺りで何かが蠢いた様な……。
恐る恐る天井に目を向けるが正直見なかった方がまだ気が楽だったかも知れない……。
まるで大岩を並べた様な胴体から丸太の様な足を生やした巨躯と言うべきそれを大きく上回った蜘蛛の姿があった。
その六つ目だけが不気味に光り、私を見下すように眺めている。虫嫌いなら発狂物だな、コレは……。

どうやら私は蜘蛛の巣へと落ちてしまったようだ、巣を荒らされたと思って気が立っているな。
背に刺さっている数々の武器を見るからに、この蜘蛛は名のある魔物なのだろうな……。
流れ者の私でも、その背に未だに輝きを失わない鉱物で作られた武器の事は解る。
その数々の武器を見るに、とてもじゃないが私の力ではどうこうできる相手ではないのは一目瞭然だ。

まず命を優先させるべきだな、多分こいつは私の事を食わないと思うが致死には十分な力を有しているだろう……。
私は蜘蛛から逃げようと構えたが、時既に遅しって所かな、蜘蛛から粘着性のある糸を吐き出した。
恐らくコレに捕まったら身動きが取れなくなってしまうだろう……。

仕方ない、あまり使いたくは無かったが……。
私は短刀で掌に一直線に切り傷を付ける。鋭い痛みが走り、掌から血とは思えない程の真っ黒の液体が滴る。
傷つけた短刀が毒の浸食を受けてボロボロだ……結構使いやすかったんだがなぁ……。
さーて、そんなコトやってる暇は無かったな、私は掌に溜まった血と言う名の猛毒を降り注ぐ糸に向けて投げつける。
まるで鉄板で肉でも焼いているかの様な音を立て、糸は空中で猛毒によって分解されていった。
さて、攻撃を防いだまでは良いが、真っ向から戦いを挑んだら恐らく蜘蛛の方に軍配が上がるだろう。
となれば、道は一つしかない、私は猛毒の滴る手を蜘蛛に振るい、毒の滴が顔に付いた蜘蛛は叫び声を上げつつのた打ち回る。
多分あの量じゃ死ぬにまでは至らないだろうな……。
コレで蜘蛛が私の事を諦めてくれれば良いのだが、多分そう簡単には事は運ばないだろう……。
まぁ、良い十分な隙は作れた。その隙に私は奥へと続く道へと駆け出した。

「三十六計逃げるに如かず!」

私は着替える際持ってきていたシャツにて傷口を縛る。
先ほどと同じように焼き料理でもしているかのような音を立てて物凄い勢いでシャツが分解されていく。
どうにか血が止まるまで持ってくれよ……。

82 :名無しになりきれ:2010/07/28(水) 14:58:48 0
目にしみるようなカナの毒汁を顔に浴びせられた大蜘蛛は叫び声を上げつつのた打ち回る。

その隙にカナは奥へ続く道へと逃走する。

大蜘蛛はと言うと、しおしおと縮んでいき謎の根菜類へと変化した。
その根には先の尖った小枝が何本も突き刺さっている。これが古びた剣の正体なのだろう。

萎れた根っ子をよく見れば地盤沈下の原因となった例の呪符が貼り付けてある。この元大蜘蛛も悪意を持った何者かの仕業だったらしい。
呪符がカナの毒汁で焼けて穴だらけになっている。

一本道を進むカナ。一本道の奥には扉があった。
古き者たちが魔法の力を込めて作った石の扉。扉にはこんな文字が刻まれている。

『唱えよ。友。言葉によって道は開かれるよう』

きっと何かを唱えたら扉が開くのだろう。

83 :名無しになりきれ:2010/07/28(水) 15:01:19 0
=訂正=
「開かれるよう」ってフレンドリーになってますけど
「開かれよう」ですね。。。

84 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/07/30(金) 09:13:29 0
・・・あれからもうどのくらい経ったのだろう・・・
自分がどこかに落ちていくのがわかったのはいきなり自分が先を行く
戦士達を更に見上げる形になった時だった。会話の最中に起こったことなので
最後の方はちゃんと言えていなかったような気がするがそんなことはどうでもいい。
自分以外にも誰かが落ちたような気がしたが気のせいだったのだろうか。
とにかく今は誰かの救助を待つより他ない。なぜなら彼は今

上半身のみきっちり埋まっているからである

魔法のおかげで頭から落ちても大してケガもしなかったが落ちた先の地面に穴が開いていたようで
すっぽり埋まってしまったのだ。挙句振ってきた瓦礫が彼の体をがっちり押さえる形になっているので
どうしようもない。キャクに引っ張らせたが何やらはまっているらしく瓦礫をどかさないといけないが
アレの体ではそんな作業はできない。息はできるが頭に血が上って仕方ない。

キャクに辺りの探索を命じたが一向に戻ってこない。どこまで行ったのか
このまま伝説の勇者が来て引き抜いてくれるのを待つしかないのか・・・誰か・・・・・・zzz・・・

85 :名無しになりきれ:2010/08/01(日) 19:50:40 0
>84
「あんれま〜こっただどこさ。うんまそうな野菜がおがってるだ〜」
小柄な種族不明の少女が上半身が埋まっているマイノスを見つけた。
少女はカゴを背負っていてカゴの中には沢山の根っこが入っている。
少女の名前はリーコ。リーコはマイノスの両足を肩に乗せて股間に顔を埋めて踏ん張るとマイノスを引っこ抜く。

ぼごん。

「ありゃ〜珍すい根っこだなや〜。汁さして飲むで」
リーコは華奢な体のわりに怪力でマイノスをカゴにポイッと投げ込むと洞窟の奥へ向かった。

>82
石の扉のまえにはカナがいた。

「は〜ぁ?お客さんだがや?まどうすさま〜お客さまだが〜」

おもむろにリーコは扉に向かって叫ぶ。

「友」と。
扉には「唱えよ。友。言葉によって道は開かれよう」と書かれている。
つまり「友」という言葉を唱えることによって扉は開かれるのだ。

ごろごろと音をだしながら扉が開くとリーコは中に入っていった。

「まどうすさま。これを汁さして飲むだ」
リーコはマイノスを巨大鍋に放り込む。
ばしゃーん。鍋の中には水がたっぷり入っていて蛇や百足の死骸でいっぱいだった。

「リーコや。それは人間だよ」
暗闇の奥から人の声が聞こえる。

「それと、もう一人…客人がお目見えのようだ」
魔導師は洞の様な目でカナを見つめている。

「君たちはなにしにここへやってきたのかな?」

86 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/02(月) 17:07:47 0
血ぃ……血が足んない……。
私は今深刻な血液不足だ。今私を知る者が私の顔を見たならば、その青さにさぞかし驚くだろうな……。
シャツ一枚を殆ど分解してしまったが、幸いにも血は止まった。
しかし、私は結構な量の血を消費してしまったようだ……。
途中から蜘蛛が追いかけてこないのが解り、徒歩に切り替えたが、
貧血により、その一歩一歩でさえ巨躯な魔物の足踏みの様に頭に響く……。
かろうじて掌にある、この元凶とも言える傷の痛みで意識を繋いでいる現状だ……。

私が自らに流れる毒を使いたがらないのは、
無差別の死を振りまく他に普通の医療器具では止血を行うのが難しい所にある。
その毒は他の物質を分解し、まるで強酸を振りまいた様な惨状に陥る。

少し使っただけでこの有様、やはり使用は極力控えた方が良いな……。
私は貧血を引きずりながらも唯一の進路である、一本道を進んでいった。

「……ん?」

すると目の前に威圧感さえ感じる、精巧な装飾の施された大きな両開きの石の扉が出現した。
扉は天井にまで達していて、全貌を見ようとすれば自然と見上げるような形になってしまう。
どうやら、何かの遺跡と繋がってしまった様だな。
こういった遺跡は大抵、悪意の塊の様な物を封じたり、そうでなかったら強大な武器でも封じてあるのだろう。
そんな遺跡に限ってトラップのオンパレードだったりするんだよな……。
遺跡に良い思い出は無いが、道が無い以上、進む他私に残された道は無い。

と言っても扉は石造りの上に天井まである。本調子であっても、私の力で開けるのはまず不可能だろう。
見回してみたが、取っ手の類も無い故に、この扉は特殊な開け方をするらしいな……。
私は今まで装飾の一部だと思っていた扉の文に気が付いた。

「これは……?」

其処には意味の良く解らない一文が書き込んであった。
唱えよ。友。コレは多分何かしらの言葉に反応して開かれる物だろう。
しかし、その言葉が解らないのでは、此処開く術は今の私にはない。
どこか遺跡の中に足を踏み入れなくて良かったと安堵する反面、此処で手詰まりである事を示していた。

87 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/02(月) 17:08:41 0
私は深くため息を付くと、薬箱を下し貧血による気だるい体を扉に預け、扉に背を向ける姿勢で座り込む事にした。
どっこいしょ……うー…体が重い……。煙草でも取り出そうかと思ったが火を捨てて来てしまったのを思い出して留まった。
私は伸びをしかけて前方に何者かの気配が近づいてきているのに気が付き、
急いで立ち上がろうとしたが急激な体勢の変動で貧血を引きずる私の体は耐えきれなかったらしく膝を付いてしまった。
しかし、その気配の正体は私の思っていた物とは正反対位にかけ離れていた。

>「は〜ぁ?お客さんだがや?まどうすさま〜お客さまだが〜」

……は?
其処に居たのは畑仕事が似合いそうな大きな籠を背負った少女だった……何故このような場所に……。
その少女は私の様子など気にしないと言った素振りで扉へと近づく。
そして「友」と声を大に張り上げたかと思うと天井まで届きそうな扉は如何にも重そうな音を立てて開いていく。
成程、答えは既にそこに書いてあった訳か……。
そして、さも当たり前の様に入っていく少女が背負っている籠の中にかつて行動を共にした者の姿が見えた。

>「まどうすさま。これを汁さして飲むだ」

「ま、待……」

時既に遅し、私が止める前にいかにも魔術師が使いそうな巨大な壺にも見える鍋の中へと放り込まれていった。
ああ……あれが私じゃなかっただけ神に感謝せねばなるまい……。
あまりの展開に私の思考が追いつかないが、奥から別の人物らしき声がしたのを聞いて私は針銃に手をかけた。
出てきたのはローブを身に纏った如何にも魔術師と言った様子の人物だった。
ローブを深く被っているから男性か女性か解らないな……。

>「君たちはなにしにここへやってきたのかな?」

「さてね、良く解らないが此処から出土した資源を狙ってきた集団と行動を共にしてきた。
 たった今鍋に投げ込んだのがその仲間だ。話を聞くならばそっちの方が詳しく知っているだろう」

そう言えば資源の事に対して興味が無かった為詳しく聞かなかったな……。

88 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/02(月) 18:50:45 0
一体何が起こったのだろう。自分はつい先ほどまで地面に植わっていたはずだ。
自分が引っ張られたときにキャクには説明能力がないことを思い出し、助けに来てくれた誰かが
自分の現状に気付いて瓦礫をどかしてくれるものと思ったのにその力はかなりの強さで危険も告げられないまま
引っこ抜かれた痛みに軽くまた失神したのもつかの間、水の中に放り込まれる。止めろよキャク。

ぬるい水が鼻に入り体が一気に反応する。先ほどの行動や気付けにしては手荒なやり方を考えるに戦士系の人を
呼んで来たのは間違いない。とにかく水面に上がらないと、

「おぅはあ!ってうわっだ!」

勢いよく水から出たかと思えば転倒する感覚に見舞われた。どうやら入っていたのは水槽か何かだったようだ。
息を整え顔を拭いながら辺りを見回す。くさい。水が衛生的じゃなかった事に落ち込みながら相手を見つける前に
礼を言っておく。

「危ないところを助けていただき、ありがとうございます」

89 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/02(月) 19:15:20 0
言いながら「相手」を見つけて動きが止まる。目の前にいるのは少女だ、キャクはいない。
本当にどこまで行ったのだろう。この辺り一帯に魔力が充満してるためにもしかしたら本体である
自分と離れた際に起こるエネルギー切れが起こらずにどこまでも人を探しに行ってしまったのかもしれない。

まあ、こちらの位置はわかるはずだからその内帰っては来るだろうが・・・
そう思考している間に誰かの足が目に入った。誰かと思えば先ほどまで同行していたエルフ、
カナの姿がそこにあった。マイノスはわたわたと駆け寄ると一気に捲くし立てた。

「カナさん、無事だったんですね!ああ、こんな時に言うのもなんですけど落ちたのが僕だけじゃなくてホントによかった!
ああでも、僕たち今この山の何処にいるんでしょう、この子は誰です?いやそれよりも顔色がよくないってケガしてるじゃないですか!
そういえば僕の荷物に水と食料と包帯なんかがってない!ああそうだアイツに持たしたんだったー!」

そこまで言うとぜえぜえと今度は息を切らしてむせる。やかましい事この上ないが彼なりに不安だったり心配だったりしたのが
いくらか解消して気持ちの方は落ち着きを取り戻していた。
「ふう、他の皆さんは大丈夫でしょうか。おっと、お嬢さん、僕はマイノスという者です。あなたが僕を助けてくれたんですか?」
忘れていた少女に挨拶し、冗談半分で聞いてみた。この言い方なら保護者の方をすんなり紹介して貰えるはずだ。

90 :名無しになりきれ:2010/08/03(火) 15:33:13 0
>「さてね、良く解らないが此処から出土した資源を狙ってきた集団と行動を共にしてきた。
>たった今鍋に投げ込んだのがその仲間だ。話を聞くならばそっちの方が詳しく知っているだろう」

「ふーん。君にはよくわからないのか。ではそっちの人間に聞くことにしょう」
魔術師はゆっくりとマイノスに向き直る。

>「ふう、他の皆さんは大丈夫でしょうか。おっと、お嬢さん、僕はマイノスという者です。あなたが僕を助けてくれたんですか?」

「んだ!このリーコさまがおめーのごとひっこぬいてやっただよ!
でもおめー、人様の話をちゃんと聞いてんのが?まどうすさまが何しにここへ来たのかと聞いてっぺ!!」

リーコはポカンとマイノスの頭を叩く。小さい手だったがゲンコの硬さは凄まじかった。

「リーコ。暴力はいけないよ。弟子のご無礼をお許しくださいマイノス殿。
私の名前はマドゥース。この洞窟で数百年間、生命の研究をしている魔術師です」

どーん!どんどこどこどこどこ…。突然地の底から響き渡るような太鼓の音が聞こえ始める。

「また卑しき者たちが騒ぎ始めたようです」魔術師がため息をつくと
石の扉はごろごろとゆっくりと閉まっていく。その閉まりかけの扉の隙間から部屋に飛び込んでくる二つの黒い影。

がう!血塗られたトゲ付き鎧を着た黒くて臭い犬が二匹。首をふり臭い涎を部屋中に撒き散らす。

うおーん!!遠吠えする二匹の黒い犬。

「この犬たちは蜘蛛の道を通り抜けてきたようですね」
杖を持って立ち上がるマドゥース。

こなれた感じでリーコとマドゥースは天井から鎖でぶら下った円形の台に乗る。
すると円形の台はガラガラとエレベーターのように上へあがっていって二人は部屋から消えた。

がるるるる…。部屋に残されたカナとマイノスと黒い犬たち。

がう!!

死臭漂う二匹の黒い犬たちは同時に跳躍すると二人に襲い掛かった。

91 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/03(火) 19:08:43 0
さて、私は上を目指していたハズが逆に奥へと進んでいたらしいな……。
資源には興味はあるが、価値的物ではなくどんな物なのであろうと単純な物でしかない。
厄介事は正直御免蒙りたい所だが、最早逃れられない所まで来ている気がするな……。

フラ付き、目の前が霞み、再び膝を付きそうになるが傷のある方の手を強く握った。
ズキズキと鋭い痛みを送り続けている傷から一層鋭い痛みが走り、意識を繋ぎとめてくれた。
はは……こんなのを頼らなきゃいけないなんてな……本当に情けないな……。私は再び手を強く握り、その痛みに顔を顰めた。
今は決して無力では無い筈なんだがな……、何故か自分が無力であると思わさせる。

自分の手を眺めていると、鍋から這出たマイノスが私に駆け寄ってくると、一方的に言を投げかけてくる。
喋るのが得意ではない私にとって投げかけられる言葉を理解するだけで一杯になってしまう。
只でさえ貧血で思考が鈍いってのに……。コレは最早言葉の暴力だと思わんばかりに頭に響く……。
口を開くのも気だるく、適当に手をひらひらとさせて会話を終わらせた。
呼吸が速く、浅くなっていのが自分でも解る程、私は疲弊していた。
多分だが、今の私は相当辛そうな顔をしているのだろうな、はぁ……だるい……。
座り込みそうになるのを必死に耐えているが、足に来ているな……長くは持つまい……。
だが、そうなる前に人と合流出来ただけでも私は幸運だ、
ジャングルの真ん中でこの状態になった時は本当に死ぬかと思ったモンだ。

ようやく症状が治まってきたと思ったら、いきなり腹に響くような轟音が鳴り響く。
な、なんなんだ……!?

92 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/03(火) 19:09:23 0
>「また卑しき者たちが騒ぎ始めたようです」

「卑しき者達……?」

意味が解らないが、どうやら良い雰囲気では無さそうだな……。
なんだか嫌な予感がするぞ……こういうのってた大概は戦闘に巻き込まれたりするモンだ……。
辺境の地を回っている私だから解る、コレは敵襲の警報か何かだろう。
面倒な事になる前に逃げ出そうかと思ったが扉から外は一本道、どうやら迎え撃つ他無いらしい……。

閉まる扉から入って来たのは二匹の犬。
この人数である故多分大丈夫だろうと思っていた矢先、魔術師たちは自らだけ避難していった。
汚いぞと言いかけて、その言葉を飲み込んだ。今はそんな事言ってる場合じゃない……!
どうにかして、生き残る策を考えないと……、私だけたったならこの部屋を毒ガスで満たす位やってのけたが、
今は私以外に人が居る故に避けた方が良いだろう……。
あれこれ考えている内に犬は我々に向かって飛びかかってきた。
コレが可愛い子犬ならば喜んで迎えただろうが、敵意剥き出しのグロテスクな犬は正直ノーセンキューだ。
とっさに針銃を構え2、3発撃ち込んでやるが犬は怯みもしない、
う、嘘だろ!?人間でさえ致死性を持っている毒を塗ってあると言うのに……!

犬は私の首元に向かって牙を突き立てようとする寸前の所で腕を前に出し、わざと噛みつかれる事で致命傷を避ける。
鋭い痛みが腕を襲うと共に血が吹き出し、犬の口を分解していく。それでも犬は怯んだりせず更に私の腕を強く噛みしめる。
勢いに押され私は犬に押し倒されてしまう。今の私に抗うだけの力は残っていない……万事休すか……っ!

93 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/03(火) 20:21:33 0
>>んだ!このリーコさまがおめーのごとひっこぬいてやっただよ!〜
まさかとは思ったが次の瞬間振ってきたゲンコツが悶絶ものの痛さであることからマイノスは
リーコの言う事を信じる事にした。そもそも少しでも頭が回る人なら今更こんな問答をしていない
はずだと恨めしく思った。

「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
それにしても、痛い。どこかから誰かの声が聞こえた気がするがそんなもの気にならないほど痛い。
かろうじて魔術師という言葉に反応するが、返事をする間もなく今度は大きな音が聞こえてくる。
気を取り直す暇はあっても喋る機会はないらしい。マイノスは扉の方に身構えると明らかに普通の
犬が飛び込んでくる。

>「また卑しき者たちが騒ぎ始めたようです」
何か知っているようなので弱点の一つも聞こうと思ったのつかの間、彼らはあっさり撤収してしまった。
「あっずるい!」

そんなことを叫んでいる間に犬は片方が自分に飛び掛り、カナは傍目にわかるような窮地に陥っていた。

94 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/03(火) 20:56:36 0
片方の犬が高く飛び掛って来たのを這いつくばってかわすとマイノスはカナの方に、
正確にはカナに噛み付いている犬に向かい呪文を唱える。左手の手甲の小指にはまった
コハクの指輪が輝く
「どうか引っかかってくれよ、チャーム!」

重症を負い、とりわけ出血のひどいカナを治療するための魔力を残してありったけの魔力
と集中力を注いで犬に渾身のチャームをかける。こんなときにキャクがいないこと、仲間と逸れた
こと、攻撃呪文を覚えていなかったことが心に重く圧し掛かるが気にしている余裕も今はない。

幸いにも犬は口元を爛れさせたままこちらを見る。成功したようだ。そのまま自分の後ろの
もう一匹の相手を命じながら自分はカナへと駆け出す。あの牙の状態では相打ちは期待
出来ないだろうが時間は稼げるはずだ。
「カナさん!じっとしてて・・・」

深い傷を負った彼女を見てマイノスは左手をかざす。その名を呼ぶとをコハクの指輪がまた
強く輝き半透明のトンボが現れ何処かへと飛んでいく。
「全ての縁を覚える者よ、全ての縁を導く者よ、父なる天、母なる大地に刻まれし、かの者が背負う傷の名を、今はただ静かに忘れさせ給え、精霊『ラック』!」

縁結びの精霊ラックの通して回復の呪文を唱える。これで持ってくれればいいが。
マイノスの後方では凄惨なドッグファイトの決着が今にも付きそうだった。

95 : ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/03(火) 22:00:56 0
よりにもよってこの場面で名前入れ忘れるとかorz
すいません、↑のはマイノスです。

96 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/04(水) 15:00:03 0
がるがるがるぅ〜。
顎を溶かされつつもカナの腕を咥えて離そうともしない犬に
ついにカナは力負けして地面に倒されてしまう。

>「どうか引っかかってくれよ、チャーム!」
マイノスが呪文を唱えると琥珀の指輪が光り、洗脳された犬が同士討ちを始める。

犬たちはもつれて部屋の奥まで転げると大爆発を起こした。
体内に爆薬が仕掛けてあったらしい。犬が活動を止めると爆発する仕掛けのようだった。

焦げた肉の匂いが部屋中に充満する。

ごろごろごろ…石の扉が開く。どうやら二人に出ていけということらしい。
蜘蛛の門番がいた道をよく探せば犬たちが来た本道に続く穴があるみたいだった。

その道を行けばいつかは冒険者たちの願いが叶うのかも知れない。

97 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/04(水) 21:30:09 0
私の腕に噛みついた犬は腕を引きちぎらんとしている。
とんでもない激痛が走り、腕が嫌な音を立てている。くっ…ち、千切れるっ!
う、嘘だろ……最早犬が摂取した私の血は成人男性なら三桁位を軽く死に至らしめる量だ……。
と言う事はこの犬は既に命を繋いでいない。推測だが死霊魔術の一種か何かだろう。
そうで無かったら不死族に成り下がった犬か……どちらかと言えば前者だろうな…。
魔術師の言葉から察するにコレは一度や二度だけではない。拠点をピンポイントに襲う不死族等居ない。
敵が何か分かったが……手の打ちようが……い…か……ん……い、意識が……。

その時何者かの声が聞こえ犬が口を離す。
……ん?少年が犬のコントロールを奪ったのか……?
助かったが傷を塞いでいた牙が外れた事により更に血が流れ出る。
傷を塞がなければと思うが、私の体は一寸すら動かせない……。
いかんな…本格的にまずい……。私はこんな所で死にたくは無かったな……。

そんな事を考えていると再び誰かの声が聞こえる。
しかし、その声は水中の中で聞いている様な声で私は理解する事を叶わず今にも意識が途切れようとしていた。
だが、その人物が何かを叫ぶと、今まで激しい痛みを送り続けてきた傷の痛みが和らいだ。
其れにしたがって、体の機能も戻ってきた。危ない状況には変わりはないが、体が動くならなんとかなる!
私は未だ上手く動かない体に鞭を打って、薬箱から残っていた衣服のズボンを取り出すと腕にきつく巻き付けた。
熱した空鍋に水を放り込んだ様な音がして、ズボンを分解していく、思っていたより周囲の被害は少ないな。
私の流れ出た血は殆ど犬の体内に消えたからな……。

さて死霊魔術のコントロールをぶった切ってやろうかと思ったが、犬は私が見ている目の前で爆発を起こした。
肉の焼け焦げる匂いに嫌悪感を覚える。操っているとは言え爆弾を仕掛けるとはどんな神経してやがるんだ……。
まぁ、戦術としては有効なのは認めよう……。すると、今まで閉まっていた石の扉が開いた。
魔術師と言った人物は出てこない所から此処から出ていけって事なのだろうな……。
その場から立ち上がろうとして、ようやく私は腰が抜けている事に気が付く。この年になって情けない……。
どう頑張っても立ち上がれそうにないな……。気は進まないが少年に助けを求めるか……。

「す、済まないのだが腰が抜けてしまったようでな……。少し肩を貸してくれないか?」

98 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/04(水) 23:46:04 0
爆風が背中を叩いたこととカナの様子から何とかなった事を知ったマイノスは指輪を通して急いでキャクに
戻るように、できればイーネ達と合流していることを期待しながら命じた。安心した矢先に扉が開く。
閉じていればこのまま休むこともできたのだがそうも行かないらしい。

「いくらなんでも無理ですよ、これを枕にして横になってたがいいです。一応さっきの魔法で犬に噛まれた分
の出血はじきに戻ってくるはずです。僕も色々とすっからかんですからね。ここで休んでいきましょう」
自分の濡れたマントを絞って丸めてカナに寄越すと、マイノスはついさっきまで自分が入れられていた鍋を見つけた。

(怪我人放ってさっさと引き上げる奴の気持ちまで汲むこたないな、出てけとも言われてないし)
ひっくり返った鍋をなんとか起こして転がしながら扉のところまで運ぶと辺りの石と土で簡素なバリケードを作る。
自分が入っていたのが水槽でなく鍋だったことに気付いて顔をしかめるが、作業を続けていき最後に自分が鍋の上
に座り完成とする。

「見張りはしばらくは僕がやりますから、その内代わってくださいね」
そう言うと入り口に陣取って野営を始める。食料の類はない。今更ながらマイノスは逸れたイーネや
戦士達のことを思い出していた。今の二人だけでは行くことも退くこともできそうにない。自分達や
他の仲間、そしてこれからのことを考えるとまた不安に取り付かれそうだった。

99 :保守:2010/08/05(木) 17:05:53 0
しばらく経った。

リーコは天井の円台の隙間から大きな目をぱちくりさせながらカナとマイノスを見ていた。

「まどうすさま…あいつらまだいるだよ」

「ふーん…そうなの…」
マドゥースはベッドで横になったまま答えている。

「今考えたんだけど、ちょうどお客人は二人。悪いけどあの人たちには私たちの身代わりになってもらおうかと思っているんだ…。
研究の邪魔をする卑しきものたちには私たちの顔はばれていないからあの二人が身代わりになってくれたら私たちは自由になれると思う」
ベッドで寝返りをうつマドゥース。

「自由になれたら名前を変えて違うフロアに引っ越そう…」
そう言うと魔術師は寝息をたてて、すやすやと眠り始めた。


下のカナとマイノスがいる部屋。
扉の闇の奥、バリケードの奥からカチャカチャと鎖帷子や槍の擦れる音が聞こえる。

「ゴフ!ゴフ!」
ゴブリンの群れが集まって来ているようだ。

びゅ!カン!カン!矢がバリケードに当たり跳ね返る。

「オグァーーッ!!」
何匹いるかわかりもしないゴブリンの群れが闇から殺到し丸太を担いでいるゴブリンたちが
バリケードを壊そうと丸太をドーンドーんとバリケードにぶつける。

100 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/05(木) 19:37:08 0
私は大丈夫だったんだが、休んでおけと一喝された。
マントを丸めた物を手渡され、素直に受け取ったけど、
私の血が付いたならばダメにしてしまうな……使うのは控えるか……。

うーむ、この空間を拠点として使うつもりか……。
扉が開いたままで此処に留まると言うのも……さっきの犬も一度や二度では無い様子だったし…。
余り長居するのは得策ではない気がする……。
そう思っていた矢先バリケードからは何やら人間とは思えない気配がする。
魔物……?にしちゃまるで軍隊みたいに統制が整っているな……。
このままだとまずいな……仕方ない、拠点があるならば儀式魔術も使いやすい。

「今から儀式魔術を執り行う。何が起こったとしても素材には触れないでくれよ?
 失敗したら何が起こるか解らないからな……。」

少年に釘を刺し、私は儀式魔術の準備に取り掛かった。
私は薬箱から魔法陣が描かれた紙、毒々しい紫色をした草、そして底に小さな穴の開いた銀製の小皿を取り出し、
紙の上に草と皿を置き薬箱の上へと張り付ける。次に白墨にて地面に動ける範囲で薬箱を中心とした大きな六芳星を書き込む。
その六芳星の一角一角にも魔法陣が描かれた紙と、それぞれ別の色をしたカラフルな草を置いていく。
さて、儀式魔術の形式が完成だ。儀式魔法と言うには簡単な作りだが、出来ない事は無い。
ちなみに役割は、祭壇が薬箱、魔術回路は紙に描かれた物、魔力は草、そして最後に贄には血を使い完成する。
前に皮袋に取っておいた動物の血がまだ固まって無かった故にそれをそのまま使った。
まぁ……私の血を使ったら色々溶けてしまうしな……。

儀式魔術に呪文は要らない。魔術回路なら既に組んであって後は条件を満たすだけとなっている。
銀製の皿から血が下の魔法陣へと落ち、魔法陣と草が淡い光を灯り、
次に六芳星の一角一角に置かれた魔法陣と草にも光が灯る。それを全て繋ぐかの様に白墨で描いた線に光が灯る。
全ての線が光で覆われた次の瞬間、魔法陣から黒い虹がかかる。

「概ね成功かね。さて反撃といこうかい」

101 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/05(木) 19:38:51 0
私が実行したのは儀式魔術「黒い虹」。さっきの犬と同じように死霊を使い戦わせる魔術なのだが、
死霊魔術とは違うのはこの黒い虹がかかっている間、死霊は倒されようと何度でも蘇る不死身の戦士と化す。
地面や壁をすり抜けて骸骨だったり透けていたりする死霊戦士団が部屋に所狭しと集結する。
なんだって?悪役っぽいだと!?儀式魔術の大体はこんなモンなんだよ。

「志半ばで倒れて行った戦士たちよ、私に力を貸してくれるかな?」

死霊騎士団は一斉に手に持っている武器を振り上げ雄叫びとも取れる声を上げる。どうやら力を貸してくれるらしい。
まぁ、此処まで来てダメって言われても困るけどな。

「バリケードを開けろ!死霊戦士団の進軍だ!
 剣兵は突撃、弓兵は祭壇の守護、実態を持っている者は体を呈してでも祭壇を守れ、戦えなくなるぞ!
 それから少年よ、外からの弓が飛んでくるかも知れん、入口横の壁に待機しているんだ」

そこまで言って私も入口横の壁に移動しようとして未だ己の体がうまく機能していない事に気が付いた。
わ、あわわわ……このまま巻き込まれるなんて真っ平御免だ……!
私が慌てふためいていると死霊戦士団の骸骨の姿をしている者達によって壁へと運ばれた。

「ど、どうも……」

骸骨は握りこぶしに親指を立てる所謂グッドサインを残して持ち場へと戻っていった。
少し自我が強くないか……?

102 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/05(木) 22:09:47 0
疲労が溜まっていた。わずかに魔力も回復したが使えて2発、同じような休息を使えるのも
あと1回ほどが限度だった。それで何とか脱出を考えねばならなかった。正直たった二人で魔物が
出没するこの鉱山をこれ以上進むのは無理だと思った。自分ひとりなら勝手に挑めるがそれはできない。
(落ちてきた所を真っ直ぐ昇れるのが一番だけど、さて)

そんなことを考えていると扉の外から大きな、そして多くの物音が聞こえてくる。第二波が来たかとマイノスは
鍋を降り後ろへと隠れる。そっと奥を見やればゴブリンたちが大挙して押し寄せてくる。すっかり馬鹿になってしまった
鼻をこすりながら、さっきの二人組みを思い出す。
(ゾンビ犬にゴブリン、もしかしたらあの人、かなりの悪人なのかもな)

ゴブリンにも魔法を使う者はいるが死を操るような真似はできない。ということは異なる2つ以上の相手から
敵対されるような何かをしているということだ。まったくどちらに逃げた方がいいのやら。
その時目の前のバリケードの両端がどんどん崩れていき、石、矢、斧などが投げ込まれてくる。
想像以上に進軍が早い。そのときカナから声を掛けられる。個人にしてはずいぶん規模の大きい魔術を使うようだった。

目の前にゴブリンたちの数にも引けを取らないほどのアンデッドの戦士たちが召喚され、なだれ込んでくる。
>「バリケードを開けろ!死霊戦士団の進軍だ!」カナが命じると
その言葉を待っていたかのようにゴブリンたちがバリケードをぶち壊す。
マイノスは思った。しまった完全に逃げそびれたな、と

103 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/05(木) 22:49:17 0
唯一未だに無事な鍋の裏に伏せるとまるで階段のような扱いで骸骨たちはマイノスと
鍋を踏みしめ、物語の勇者のような勇壮さでゴブリンたちに飛び掛っていく。
「まあ、ぼくは、主じゃ、ないもん、ね」

人間ほどの重さはないにしろ勢いよく何度も踏まれたものだからそこかしこに受けなくていい
ダメージを受けてしまったがこの事態を打開できるなら安いものと思い我慢した。乱戦のなか
ホフクをしながらゆっくりと移動しカナに接触する。まだ顔色は良くなったがそれでも命に別状はなくなった様だ。
「ご無事で何よりです、この魔法といい流石エルフってとこですか」

言いながらも流れ矢に細心の注意を払う、今はそれが何よりも恐ろしいからだ。
マイノスは戦況を眺めながらこの魔法の効果があとどの位続くのかカナに聞いた。それによっては地上まで
帰れる見込み出てくるかも知れなかったからだ。そして口を閉ざして彼女の手を確かめるように取ると、
指で文字を書いていく。ま じゅ つ し き け ん と。端的だがこれ以上の説明はできない

「とりあえずこいつらを片付けたら、ここを出ましょう。その後は僕たちが落ちてきた
場所まで一度戻るんです。いいですか?」

そういうとマイノスは足元の砂と石を拾えるだけ拾い手近なゴブリンの死体からダガーと
弓、矢、ボウガンを奪い戻る。残念だが槍や鎧は重たいので諦めた。ここでカナの分の鎧が
欲しかったが、この状況でそんな早着替えはできそうにない。苦し紛れが続くが
それでも今はこうするしかない。彼は骸骨たちの援護を始めた。

104 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/06(金) 19:24:30 0
「ちっ…あいつらいいたたかいをすてるだな」
天井の隙間から見ていたリーコは感心しつつもカナとマイノスが死んでくれないかと心配していた。
彼らが身代わりとなって死んでくれれば自分たちの存在はこの世から消える。
そうなればマドゥースと二人っきりで静かに暮らせる日がやってくるだろうと思っていた。

「あの祭壇をぶっこわせば…」
リーコは上から漬物石でも落として祭壇を壊そうと思ったけど流石にそれは極悪すぎると思い断念した。

「かみさまからばななをもらったぬんげんはくさるからださなっただ。
かみさまからいすをもらえばぬんげんはえいえんにいきるからださなっただのに」
リーコはふと昔話を思い出していた。

そうこうしているうちにゴブリンたちは骸骨戦士たちにどんどん倒されていき終いには逃げ出した。
あたりはゴブリンたちの血で汚れている。リーコはまずいことになったと思う。
これでは敵対する者たちとの遺恨がますます深くなってしまったではないか。

「まずいことになったね。これじゃ飛ぶ鳥あとを濁しまくりになるね…」
リーコのすぐ真横にはいつの間にかマドゥースが立っている。

「…どうするだ?あいつら殺すだか?」
リーコは泣きそうな顔で問う。

「…いいやリーコ。お前は彼らについて行きなさい。
私は闇の外で生きる術は知らないけど彼らなら知っているのかも知れない…」
マドゥースは優しく微笑んでいる。

「そっただこど言わないでけろ!まどうすさま!」リーコは泣きだした。

「これも修行ですよリーコ…またいつの日にか会いましょう」

リーコは旅の準備を始める。

下の階のカナとマイノスがどう動くかはまだわからなかったが、
リーコはあとからついて行って合流する予定だった。

105 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/06(金) 20:38:51 0
進軍を宣言してからゴブリン共がバリケードを破り、攻め入ってくる。
それを迎え撃つ我等死霊戦士団。それはさながら目の前で戦争が起こっている様な光景だった……。
戦争と言うには死霊対魔物の大変見苦しい戦いだがな……。

私の直ぐ横を弓や斧などと言った色々な物が飛び交っている。
ひ、ひぃぃ、か、勘弁してくれ……接近、物理戦は正直苦手なんだ……。
扉の前では死霊戦士団とゴブリンの戦いは続いている。
少々我らの死霊戦士団は押され気味だが、いくらやられても数は減らない故に遅かれ軍配は我々に上がるだろう。
いや、数はさっきより多くなってるな……どんだけの死者が彷徨ってるんだ、この鉱山は……。
まぁ、なんだか良く解らないが私への攻撃を積極的に防いでいる。
呼び寄せて力を与える以外は雑な作りになっている筈なんだけどな……この忠誠心は一体……。
まぁ、働いてくれるなら私は別に文句は言わないけど……。

そんな事を考えている内に投げ込まれる武器の類が少なくなっていっているのに気が付いた。
どうやら不死身の死霊戦士団が押している様だ、戦いが終局を迎えるのは間もなくだろう。
今の私はさながら司令官って所かな。ほぼ何もしてないけど……

ふと少年は無事だったかな?と思い探してみるが見当たらない……。
ん……?どこに行ってしまったんだ…?辺りをキョロキョロ探すが、一向に見つからないな……。
まさか、死霊共に押されて外に出て行ってしまったか!?
私が少年の身を案じ死霊共に停止命令を掛けようとした、その時。

>「ご無事で何よりです、この魔法といい流石エルフってとこですか」

ああ、入口近くにいたのか……。そっちこそ無事で何よりだ。

「儀式魔術の事か?コレは魔力を持たない者が苦肉の策で作り出した魔術だぞ。
 それに私はエルフと言う種族の割には魔力をほぼ持っていないしな。」

そう、儀式魔術には本人の魔力も呪文も必要ない。
どうしてそんなのが広まってないかと言うと一定の条件下で、しかも面倒な準備が必要だからだ。
それに何としても、祭壇を中心とした魔術回路を動かせないので戦闘には不向きと言うのがある。
しかし、その効果は絶大にて強力、力ある魔術師が悪意を持って使ったならば一国すら終焉に導く事だって出来る。
まぁ、そこまでの効果を引き出すには、城みたいな魔術回路と魔神クラスの魔力が必要となるんだけどな。

106 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/06(金) 20:39:35 0
少年に儀式魔術の効果時間を聞かれ首をかしげてしまった。
あ、あぁ、そうだった少年は儀式魔術について知らなかったな……。

「魔術の残り時間?アレを動かさない限りは素材が朽ち果てるまで、その効果は健在だが」

私はそう言い祭壇となっている薬箱を指差した。
儀式魔術の効果範囲は個体ではなく、場に変化を齎す物がその殆どだ。
建築物を外見以上の迷路構造にしたり、宇宙みたいな空間にしたり用途がさっぱりなのもある。

「此処を動くとなれば薬箱を動かさなくちゃならないから、この戦いが終わるまで位だろうな。」

少年が私の手に何かを描いていったが、その内容は端から解っていた。
こんな所に住まいを持っている魔術師なんて怪しすぎる。そして少年より此処を脱する意を聞いてきた。

「ああ、他意は無い、いやむしろ賛同だ」

そんなやり取りをしている間にゴブリンは死霊戦士に敵わないと見るや逃げ出した。
そりゃ、死なない兵を目の前にすれば、やる気も失われるわな……。
私はいつの間にか動くようになっていた体を立たせ、祭壇にしている薬箱を前に行き合掌する。

「死霊の戦士達よ我々に力を貸してくれて有難う……。願わくば汝らに安らぎ有らんことを……」

死霊戦士達は別れを惜しむかのように手を振る。私は銀の皿を薬箱にしまうと薬箱を背負い上げた。
それと同時に死霊戦士たちは段々と薄くなって行き、最終的には見えなくなった。
私は地面に置かれた魔術回路が描かれた紙を拾い上げると少年の手を持つと走り出した。
さっきの様な連戦はもうこりごりだ、死にそうになるし。そうなれば善は急げだ。

「さっさと離脱するぞ、もうこんな所は懲り懲りだ」

残党が居るかも知れないから腰に下がっている針銃に手をかけている。
勿論塗ってある毒は高い致死性を持つ毒だ。

107 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/06(金) 22:34:23 0
勝った、殺した、生き残った。死霊戦士団の助けを借りてこの場の危機を脱したマイノスの顔はしかし、
安堵しても、勝ち誇ってもいなかった。おびただしいゴブリンの死体を見てはただ、悲しみを覚えるだけだった。
精霊使いにとって基本的には生死のかかる戦いはご法度である。精霊がそれを嫌うからである。しかしそれが
生物における食う食われると言ったものであるなら問題はない。この場合はゴブリンが人間を食うこともある種族なので
精霊たちの信頼を失うことはない、自然なやり取りとなる。だが

(それとこれとは別問題だな。やっぱり身を守るためとはいえ、僕たちが来なければ彼らは門前払いだけで済んだはずだ。
動物ならお互い出会ったが最後ってなる、それと同じ事がここでも起こっただけだ。だけど・・・)
彼は祈りたかったがそれを殺した方がやるのは厚かましく、祈る許可をくれる相手もいないので、静かに死体たちから目を外した。
(今の僕を見ても、あいつは幻滅もしないでいつもどおりに接してくれるんだろうな)

毛むくじゃらの使い魔の顔を思い出しながら、少しだけ自分の失策を悔やんだ。死霊戦士たちの帰還に礼をしながら
カナの言っていたことを考える。彼らを呼び出したのは所謂「結界」などが分類される空間系の魔術だったこと。
このまま連れ立って安全を確保することはできないこと、そうなればやはり脱出にいくらも手段が残っていないこと等など。

>さっさと離脱するぞ、もうこんな所は懲り懲りだ
カナに手を取られなんとか我に帰るとマイノスは慌てて言った。
「そんなに走ったらまた転びますよ、ハイコレ」
ゴブリンたちから人間用の食料は期待できなかったが水は概ね共通である。衛生的かはともかく
水が入った傷んだ水筒を渡す。大方今の自分と同じことをして手に入れたものに違いない。

108 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/06(金) 23:05:03 0
「僕が埋まってた所まで行ってそこから上ります、キャクがいればたぶん出られるはずです」
言いながらカナに方向を教える。指輪を通して自分達とは逆方向に向かい、そして戻ってくるキャクの存在を感じながら
夜になればもしかしたら、と付け加えると少し落ち込んだ顔をする。死体漁りがすっかり板についてしまった。

道中でミスリルの剣を見つけて回収したり少し休憩を挟んだりしながら二人で進んでいく。
「落ちてきた場所に着いたら、夜を待ちます。危ないかもしれませんが上まで昇る手段がそれしかないもので」
それから更に進むとひどく懐かしい顔が闇に浮かんでいた。近づけば案の定、キャクだ。もう二度と会えないかも知れないと思ったが
こうして再開すると今までの心配事が杞憂だったのではないかと言うほど、キャクはいつも通りだった。

「キャク!よかった、もう会えないかと思ったぞ、どこまで行ってたんだよ、馬鹿、野面、一頭身」
イマイチわかってない顔をしながらも変らず懐いてくるこの魔物がマイノスにとっては誰よりも大きな存在であった。
わずかだが希望が見えてきた気がした。だがキャクのうしろに「ソレ」がいたのがわかった瞬間それは気のせいだったとわかった。
内心悲鳴を上げたかった。

マイノスのなかでキャクへの信頼度がすこし下がった。

キャクの赤い髪に対して青い髪、白い目と口でなく見るものによって違って見える目と口、ちなみにマイノスには人の目と口が
付いてるように見える。名前は決まってないがわかっているのはこれが「キャク」の偽者でキャクより恐ろしく強い魔物であることだった。
こんなナリしてバレてないつもりなのが怖いが、バレたとわかった瞬間が恐ろしいので彼は先手を打った。

キャクと一緒に後ろに回りこむと一緒に髪を掴んで持ち上げる。力があっても髪が伸びたり重かったりしないのが救いだ。当人?は
やはり擬態元と同じく頭に疑問符を浮かべている。今しかない
「カナさん、悪いんですけど、それでこの子撃ってもらえますか、効くんで、」
アゴで示し、思い切りカナを睨む。真面目な話だと。偽者はどういうわけか毒が効くのだ、たぶんだが精神的でなく
生物的な魔物なのだろう。遅まきに気付いたキャクはキャクでばつの悪そうな顔をしていた。まともに戦えば勝負にすらならないだろう。

109 :保守:2010/08/07(土) 16:05:17 0
カナとマイノスの後ろに、こっそりついていくリーコ。
背中に巨大なリュックサックを背負っている。

なかなか声をかけられないでいたら二人は魔物に襲われた。

「…運のないやつらだがや…」
リーコは岩の影に隠れて見ていた。

110 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/07(土) 23:58:27 0
私はともかく走った。何も考えなくて良いように……。
未だ私の体は本調子では無いが、コレ位の運動は大丈夫だろう。
私がそこまで急ぐ理由は死体の山にあった。
魔物であれ死体は死体。それが連なるのは私の中に眠っている忌まわしき記憶を呼び覚ます。
思えば人、動物、果てまでは植物や魔物であれ何度この光景を見ただろうか……。
傷だらけの私の周りに連なる死体。それはさながら地獄絵図、悪夢とも言える光景であった。
それが夢であるならば、幾分か気分は良かったのだろうが、私に眠る記憶は全て真実である。
他の命を断つ事しか出来ない猛毒の脅威。それは酷く無差別で触れるモノ皆を傷つけた……。
傷つける事しか出来なのなら私など居ない方が良いと自害も考えたが、そこまでの度胸も無かった。
私はさぞかし罪深き者なのであろうな……。ふと自分の中に流れる毒が汚れの塊であるような気がした。

その過去を清算する為に薬師になったんだが……。
どこをどう間違えてしまったのだろうなぁ。未だに私は毒から離れられないでいる。
まぁ、これが私の性と言うもんかね……。

無心と言う割には色々考えてしまったが、走しり始めた時少年より何かを手渡された。
どうやら皮で作られた一般的な冒険者が持つ様なタイプの水筒であった。
外観で見る限り様々な汚れが付着していて直ぐには水筒と解らない位だったけどな……。
それを見て飲みたいと言う意欲がそそられる筈も無く、私は丁重お断りをした。
まぁ、そうで無くとも私は人と摂取出来るモノが違うんだ。

「有り難いが遠慮しておくよ、私の食事は人とは合わなくてね……」

私が食す物は主に毒物である。逆に言えば食べ物はそれしか分解出来ないらしく、食べたとしても体が受け付けない。
水ぐらいだったら多分大丈夫だろうが、今はあまり飲みたいとみ思わない。
私の体質と最悪とも言える組み合わせは酒類である。知らなくてぶどう酒を一瓶開けた時は三日床に臥せてしまった位だ。
私は二度と酒は飲むまいと強く心に決めた。

111 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/07(土) 23:59:15 0
上に出ると聞いて私は脱出出来ると内心喜んだが、少年は此処に用があったのでは?
此処から産出したと言う資源の話を私は思い出す。聞く所によると強大な魔の力を秘めているらしい。
そんな魔の力は私にとってはどうでも良い、大術師を目指している訳でも無いしな。
どんな物か一目見たいと言う興味は有るが、実際手に入れたいとまでは思わない。
それが強大な瘴気の塊とか、毒を持つ魔物とかだったなら手に入れたいと思うが……。

「そう言えば少年よ、君は此処に用があって出向いたのでは?その用事は良いのかい?
 まぁ、私みたいな足手纏いが居るのでは先には進めないか」

そんな私の言葉とは余所に少年は忌々しい饅頭の様な魔物と再会を果たしていた。
少々言い出すタイミングを見誤ったかね……?まぁ、良い此処で話しかけるのは野暮ってモンかね。
しかし、予想に反して少年の方から私へと話しかけてきた。

>「カナさん、悪いんですけど、それでこの子撃ってもらえますか、効くんで、」

私には区別が付かない二匹の饅頭の内一つを指して言う。
まぁ、何にしろそんな事を頼むぐらいだ、コイツに居られると不利な状況に陥るのだろう。
饅頭に向かって針銃を突きつけると躊躇い無く数発を撃ち込んだ。
獅子搏兎と言う言葉がある通り、こんなのでも油断してかかったら痛い目に合うのだろうと思い、
ほぼ抵抗なしの相手に非情な程撃ち込んだ。勿論塗ってあるのは高い致死性を持つ毒だ。
少年の言葉通り効くのならば、私が全力にて解毒処置を施さなくては、まず助かるまい。

「少年よ、これで良いのか?」

112 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/08(日) 09:12:37 0
「ありがとうございます、そうしたら僕の後ろに回ってください」
カナがいなければこの時点で詰んでいたがなんとかなりそうだった。
偽者はやっと自分の正体がバレていたことに気が付くと沈黙した。ここからが怖いところだ。

マイノスが腰に力を入れると同時に猛然と暴れだす偽者。二人がかりで持ち上げているにも関わらず逆に二人が
今にも宙に浮きそうになる。このまま死ぬまで地面に下ろしてはいけない。そうなると今度はこっちが
持ち上げられてあっさり食い殺されるのは目に見えていた。こちら側からでは見えないが今頃化けの皮が剥れた
素顔が見えているはずだ。見たら絶対夢に出てくるような形相をしてるのでその為カナを避難させたのだが。

「キャク、足、浮く!」
一人と一匹がじたばたと暴れるもう一匹を、やはりじたばたとしながら押さえる様子は
はっきり言って間抜けだがこれが命がけのやり取りだとだれが気付くだろう。正直周囲に聴衆がいなくて
本当に良かった。カナの毒が強かったおかげか偽者は段々と動かなくなっていき、最後には石となって
砕けてしまった。こいつはなぜか必ずこういう死に方をするのだ。

息を整えつつ辺りを見回す。どうやら追加でもう一匹ということはないようだった。やや過剰に周囲を
警戒しつつ彼はつぶやいた。

「・・・カナさん、さっきこの先には行かないのかって言いましたよね。見ての通り僕には
戦力がほとんどない。今だってカナさんがいなかったら、とっくにやられてたでしょう。
僕の方が足手まといなんですよ。だからここの竜骸石が欲しかった、手っ取り早く精霊たち
を強くして、コイツをちゃんと精霊に格上げして、ちゃんとした術士になりたかった」

でも、そう上手い話はないですねと付け加えると、マイノスは少しだけ寂しそうな、悔しそうな顔をした。

113 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/08(日) 09:50:53 0
「お金は、まあさっき拾ったこの剣を研ぎに出せば当面はなんとかなります。
こんな風に事故があった以上、盗賊たちのことも考えるとイーネさんたちは
たぶん引き上げてるでしょうし、レベルを上げてまた挑み直しますよ」

そう言うとマイノスはさっさと歩き出した。自分で言っておいてなんだがその頃にはここの
竜骸石は取り尽されているだろう。だがそれでももう一度と思った。今度はもっと
一人前の術士として、この鉱山を踏破しようと。

戻ってきた自分の荷物から水とチョコを取り出し胃に収めながら、カナにさっきの
偽者のことを説明した。あれはキャクの偽者でキャクがいるところに「湧いて」出てくること、
本来はキャクが祭りや縁日などの終わりに大挙して現れるのに便乗して来ること。
まともに戦うとその集団に引けを取らないほど強く、また雑食で他の生物もキャクも捕食する事等。

「コイツ自体は祭りの後の人のいなくなった広場なんかによく出ます、見つかると取り囲まれて
厄除けダンスを踊られますよ」と軽くキャク自身の説明もこの機にしておく。
言われた当人は早速カナの周りをグルグル回りだす。回転しながら飛んだり跳ねたりする。
効果の程は気持ち程度なので期待しないよういい含めておく。

そんな会話をしながら、もどりの道中マイノスはこれからのことを考えて落ち込んでいた。
同行者枠のクエストで失敗ならギルドへの登録はお預けとなる。つまりまたバイト漬けの
生活が始まるのである。魔術師ギルドのバイトを受けてその扱いを受けない日々が。

(ああ、他の精霊使いは加護付きアイテムの生産で潤っているというのに)
思わずため息が出てしまい、彼は慌てて取り繕った。

114 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/08(日) 16:40:17 0
カナとマイノスが落ちた穴で石となって砕ける魔物。
二人は行ってしまったが砕けた石があっちこっちに当たって連鎖して
石がごろごろと崩れて偶然、岩の階段が出来た。

リーコは駆けのぼりこっそりついていく。

115 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/09(月) 11:20:35 0
少年は、もう一匹との饅頭と格闘していたが、やがてそれは収まって絶命した饅頭は石となった。
ほぅ……これは面白い特徴を持った生物だな。今度見かける事があったら観察してみよう。
まぁ、コレが集団で出てきたら流石に穏やかにとは行かなくなるだろうけどな。

少年は自虐気味に自らの事を話してきた。どうやら此処より出土した産物を諦めるらしい。
私にとって少年は命を幾度か助けてもらったから出来る事なら協力してやりたいが、
私にも魔術の類も武術の類の心得は無い、有るのは私だけ守られる即死級の毒。
ここまで自分の無力さを呪った事は無いぞ……。私に武力や魔力の才があったのなら……。
自らの無力にギリギリと奥歯を噛みしめる。

しかし、どうにかしようと思っても私では何もしてやれる事が無い、
精霊魔術だとしても、私にはさっぱりだ。神を呼び出す事なら儀式魔法で出来るが違う形式を持っているに違いない。
私は指をくわえて事態が過ぎ行くのを見ているだけしか出来なかった。

落下地点に付くと饅頭の事を説明してきた。
成程さっきの饅頭とそっちの饅頭は違うのか……。正直違いが解らない……。

「こんなのに囲まれるだけでも卒倒しそうだな……」

厄除けと言っては居るがコイツ等事態が厄な気がしてならない。
饅頭には全くと言って良い程に、良い記憶が無い為次に同種族を見つけたならば
その場で射殺する位の事はやってのけるだろうな……。

帰還の道中、私はある事に気が付いた。
そう、私は俗に言う人里から来たわけではなく、鉱山に接する森にあるエルフ族の里より来たのだった。
このまま人里まで付いて行っても良いんだが、あまり歓迎されないだろうな……。
そうだ、良い事を思いついた。私が人里に行くんじゃなく少年をエルフ族の里に連れ込めばいいのだ。

「少年よ、我等エルフの里に来ないか?
 元より此処に来るのに護衛を付けようと思っていた所だし少年にとっても何か発見があるかも知れん」

116 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/09(月) 20:00:45 0
真っ暗な鉱山の上を見上げればそこには何も見えなかったが、代わりに天井もなかった。
ここが塞がってないならなんとか出られるだろう。マイノスは脱出の為に辺りの壁を
調べて回っているとカナから声をかけられる。

>少年よ、我等エルフの里に来ないか?
それからしばしの間何を言われたのか理解ができなかった。ようやく理解ができた頃には今度は
別の疑問が頭に湧いていた。

「えっと、その、そう言ってもらえると嬉しいんですが、僕みたいなのが行ったらカナさんに迷惑が
かかるんじゃありませんか?どこもそうだけど、よそ者を連れてくると何かと目の敵にされたりして・・・」
後半は尻すぼみになってしまったがマイノスは心底心配になった。ここで怪我をしてるのに同族から
総スカンまで食らうのはあんまりだ。エルフの里と聞いて内心興奮していたが、それとこれとは話が別だった。

「あ!すいません、それよりも怪我の方を気にするのが先ですよね、まだ治ってないんだし、
ここから出たらまずそっちを優先しましょう、近くまでは送りますから」
そこまで言って彼はカナの言ったことを思い出した。

>こんなのに囲まれるだけでも卒倒しそうだな……

マイノスはここから脱出するためにキャクを大量に呼び寄せる旨を伝え、謝り、そして大丈夫かと聞いた。
どうしてもだめなら、歩いて戻ることになるのだがダメならば仕方が無い。
降ってくる青カビ饅頭にさえ気を付ければ問題ないと一応言っては見るのだが・・・?

117 :保守:2010/08/09(月) 23:50:29 0
ふたりいるから、もーだいじょうぶですよねー

ろむにまわるよ。

ちゃお☆

118 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/10(火) 16:45:43 0
が、頑張ってみます

119 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/10(火) 19:55:29 0
時としては外は酉刻。簡単に言うなれば夕暮れ時か、逢魔時と呼ばれる一番怪が多いと呼ばれる時間帯だ。
子供に対して日が暮れる前に帰ってきなさいと言われるのはこの為だ。
そう、暮れるとは沈むではなく、夕暮れを意味し、一番危険である大禍時に自らが目が届く場所に置いておこうと言う事だ。
この時間帯、日が出ているから安心しがちだが、一番油断ならない。
昼間に出てこれなかった魔物の類が出てき始める時間帯に他ならないからだ。
その、夜中に出てくる魔物ってはどういう訳か毒の類の効きが悪い相手が多い。
まぁ、瘴気の中で平気で住んでいる奴らとか居るわけだから、そんな驚くべき事ではないな……。
問題なのは、その夜まで待たなければならないと言う事だ。
エルフの里も夜になれば警戒の為入口を閉めてしまう。入る事は出来るがいかんせん警戒が厳しい故に
少年を連れて行くのは一苦労するだろう。まぁ、私は一つの場所に留まらない流浪の身。
既にデスポーションの負の呼び名で有名な私だ、これ以上評判が下がる事は無いだろう。
いざとなったら体を一時的にエルフと偽る薬も持っている。

そう躍起になっていると少年よりどっち付かない様な答えが飛び出した。
どっちにしてもこのまま返す訳にもいかんのだよ少年。私が今生を繋いでいるのは君の御蔭なのだからな。

「君は私の命の恩人だ。少しは恩返しさせてくれよ。
 それに私は人里に出向けない訳がある……。君達が言う所の薬物法と言うのに引っかかってしまう。」

人里に入って薬箱の中を見られればその半数を没収されてしまう。
酷い所では体自体が毒の私が法に引っかかるとして禁錮刑になった事すらある。
人里に出向くのならば、一回エルフの里に出向き友人に、度を越した危ない品を預かってて貰わなければならない。

少年に言われ、怪我の存在を思い出す。
先ほどは地の汚染、周りへの被害を優先し応急処置以下の事しかやってない事に気が付く。
私は薬箱からさっき言ったような度を越した危ない品を出し、自らの口に運んでいく。
人と同じ食事がとれない為どんな味をしているか現すのは難しいが、私にしてみたらコレは美味い。
私への特効薬は毒物だ、ズボンを取ると毒の葉で傷口を覆い包帯を巻く、これだけで十分過ぎる治療だ。
普通の医療道具でも回復はするが毒ほど治りが速くは無い。

「怪我の事は気にしなくて良い、私は薬師だそこら辺の事は解っているつもりだ」

どうやら少年の話を聞く限りではこの饅頭を大量に呼び寄せるらしい、
私の言葉を気にして、少年の方から謝ってくる。その光景が妙に可笑しく噴き出してしまいそうになる。

「くくく…っ、其れはな言葉の綾と言うヤツでな気にするべき事ではない」

120 : ◆utqnf46htc :2010/08/10(火) 19:58:13 0
>>117
とても助かりました。
どうも有難う御座いました。

追伸
仕事の関係上、明日から5日位家を開けなければならないので、その間NPCとして扱って下さい。

121 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/10(火) 23:04:46 0
マイノスが遠慮しながら四の五の言っているとカナは何を気にするでもなく告げた。
>君は私の命の恩人だ。少しは恩返しさせてくれよ。
その一言に思わず目じりが熱を帯びるが、汗を拭う仕草で取り繕う。後の言葉に返事をしたかったが
思うようにできない。

「えっとじゃ、じゃあ、お言葉に甘えて、その、お世話になります」
ぺこりとお辞儀をすると何だか気恥ずかしくなってきたので、頭をバリバリと掻くが
彼女が怪我の心配は要らないと言って明らかに毒物にしか見えないものを食し、傷口に当てたのを見て驚く。
そういえば普通のものは受け付けないと言っていたことを思い出し、納得する。

脱出のことを説明した際に何を想像したのかカナが噴出し、気にするなと言ってくれたことで
自分の抱いていた心配が杞憂だったことを知ると彼も安堵した。こころなしかキャク(赤カビ饅頭)も
喜んでいるように見えた。ここの奥に眠ると言われる竜骸石を得られなかったの残念だが
これはこれで良いように思えた。

「すいませんがもう少し待ってください、完全に夜にならないとキャクは仲間を呼べないんです。だから
それまでここの壁の方で待って、それからキャクが仲間を呼びます。仲間が集まったらそれを足場に
ここの上まで上っていくんです。巻き込まれたものも振ってくるかもしれませんが極力かまわないでください。」
流されたらもうどうにもならないですから、付け加えてマイノスはそのときの為に少しでも休憩をすることにした。

それにしても・・・誰かから感謝されるなんてことは随分久しぶりだ。彼は休もうとは思ったが、気持ちは全く落ち着かなかった。
(早く・・・夜にならないかなあ・・・)
それから夜になるまで気持ちはずっとそわそわして落ち着いてはいられなかった。

122 : ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/10(火) 23:08:10 0
>>120
わかりました、なるべく無茶はさせずに、ゆっくりします。


123 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/11(水) 22:45:10 0
それからしばらくして日は完全に落ち、今日の時間が夕方から夜へと移る。
幸いなことにあれから新たな魔物の襲撃も盗賊や亜人たちの追撃もなく今に至る。
マイノスは事前に計画していた通りにキャクに仲間を呼ばせた。毛むくじゃらの使い魔は
小さく頷くと、歯と歯をカチカチと打ち鳴らし始める。

その早さが増し音が段々と大きくなって行くに連れて辺りの様子が異様な雰囲気に包まれていく。
これをやる度にマイノスはキャクの口に手を突っ込みたくてたまらない衝動に駆られるがその後
どうなるかが容易にわかるのでなんとか自重している。

「そろそろ来たかな・・・」
彼はそう言うと上を見る、遥か上から地すべりのような音と獣の悲鳴が聞こえてくる。
最初に落ちてきたのは先ほど相手にした犬にも似た魔物や盗賊の死体、小動物であったが
そのすぐ後にぽろぽろと、しかし次第に雷雨のような激しさと量でキャクが無数に降って来ては
洞窟の奥へと猛進していく。キャクの偽者も何体か見えたが止まれず先へと流されていく。

終わりの見えない大洪水の勢いがしばらくして衰え始めた時に呼び声に応じたキャクたちがこちらに寄ってくる。
カナの方に大丈夫だと告げるのを待たず大量のキャクたちは今度は来た道を逆走し始めた。
マイノスたちを巻き込んで上へ上へと押し上げて行ったのである。零れ落ちないように二人と一匹は
滝昇りをする鯉のような客達を踏みしめ押されながら上の階へと戻っていった。

だがしかしそれだけでは終わらなかった。休むことを知らない夜の眷属たちは彼らを引きずりながら入り口から
出てそのまま道中の森までひたすら進み続けるとそこで行く方向が散らばりだしてようやくカナとマイノスは
地面に投げ出される形で拘束を解かれることとなった。鉱山の外はもう夜中だ。本来ならもっと危険があって然るべき
なのだが今の騒動で洗いざらい散ってしまったようである。マイノスはカナの無事を確認すると
カナの言うエルフの里に向けてゆっくりと歩き出した。

124 : ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/11(水) 22:50:58 0
×客達 ○キャク達

125 :マイノス代理:2010/08/13(金) 07:36:41 0
暗い夜更けの中、カナの案内で鉱山周辺の森を分け入っていく。段々と森は深くなり
やがて左右はおろか気を抜けば前後さえわからなくなりそうだった。その森は実を言うと
既にエルフの里の一部なのだという。マイノスは奇妙な感覚に目眩を起こしそうだった。
二人とも疲れと夜間ということによる緊張からか口数は少なくなって来ていた。互いに逸れまいと

距離を詰めるが一向にたどり着く気配がない。不安になって聞けばそういう作りで道のり分歩けばちゃんと
着くのだという。途中でどちらともなしに休むかと聞くが一刻も早く寝たかったので結局先を急いだ。
「止まれ!そうだそのままじっとしていろ、こちらいいと言うまで動くんじゃないぞ!」
程なくして二人は唐突に呼び止められる、マイノスは驚いて辺りを見回すが流石に何も見えないが
カナの方は全く動じず「デスポーションは返品されました」と声に応える。

「デスポーション?またお前か・・・」
声の主はすぐ近くの木から下りてきた。ほぼ真上といって良いほどの近さからマイノスは驚いて尻餅を
ついてしまった。相手はどうやら男のようだった、というのもはっきり顔は見えないしエルフは揃って中世的な見た目が
多いので聞いて確認しない限り断定はできないからだ。相手のエルフは続ける。
「随分遅い帰りだな、夜に咲く毒草でも取りに行ったのか?それともこの子供を浚うのに時間がかかったのか?」
と冗談めいた貶し言葉を浴びせてくる。

マイノスは内心ハラハラしたがカナの方は取り合う気はないらしく、手短に鉱山付近で
賊や死霊術士のものと思しき敵と戦い負傷した事と、その手当ての為に里に立ち寄ったことを告げた。
マイノスについては駆け出しの術士でしかし命を助けられたので連れてきたと言う。すると相手の男は血相を
変え付いてこいと言って足早に何処かへ行ってしまった。二人はまず先に休ませて貰いたいと心底思った。

126 :マイノス代理:2010/08/14(土) 22:13:19 0
「エルフの里」に入ったマイノスとカナは他のエルフに取り囲まれていた。厳密に言うと囲まれたのは
マイノス一人で理由は魔物を連れているかららしい。カナはカナで質問攻めに遭っているしどちらも思うとおりに行かない事にいい加減歯がゆさを覚えていた所に声がかけられる。
「そんな魔力も切れてる魔術師相手をそんな小突かなくったってって、え?」

声の主は見た目がエルフだけあって相当若かったが周囲の反応を見る限り里長か顔役といった
ところだろう。そのエルフがカナに聞くには彼らが聖域としている鉱山に死霊術士がいるかどうか
だった。ちなみに先ほどからマイノスは全く相手にされていない。魔力を切らした魔術師の童
程度にしか見られていないのだろう、事実そうだし。

カナは要点だけまとめて何度目かの同じ説明をした。もう面倒そうな顔さえしていない。
死霊術の類でなければ目にしない敵と戦ったが術士の姿は見ていない。また中でかなりの数の
ゴブリンを相手にして倒したがまだまだ多く残っていそうだということ。それとその中では盗賊が一番
数が多そうだということ。そこまで聞いてエルフの顔役は「そうか」というと二人を休ませるよう近くの
他のエルフに伝えると里の奥へと向かっていった。

もう夜よりも朝に近い時間になっていたがカナとマイノスは部屋を分けるでもなくまた「おやすみ」
も言わずに互いの寝床に入ると死んだように眠ってしまった。

127 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/08/15(日) 02:18:54 O
「…全く、どしてイーネがこんな目に遇わなきゃいけないネ」

イーネはベッドの上で胡座をかき、ふてくされていた。
手足には包帯…だがそのほとんどはすでに完治へと近づいている。
しかし、口うるさい医者のせいで未だ動く事は許されず…退屈したイーネは、こうしてベッドの上で頬を膨らませる事しか出来ないのであった。
諦めたように一つため息をつき、枕元の鞄から一枚の紙切れを取り出す。
微かに魔力を帯びた紙片…イーネがマイノスと交わした雇用契約書だ。
契約が失効も完了もしていない事を示す、縁取りの鈍い輝いを見つめながら、イーネはまた一つため息をついた。

…あの洞窟での崩落…その瞬間イーネは完全に油断していた。
元より魔術師ではないイーネにあの崩落を感知する術はなかったのだが、それでも普段のイーネならあの程度、崩れゆく岩を駆け登り無事脱出する事が可能なはずであった。
しかし、実際はものの見事に転落し、更に不運にも岩に巻き込まれ、そのまま呆れる程の距離をゴロゴロと転がり落ちて行く羽目に遭っている。
…その理由は簡単に言えば、イーネにとって単純に「場が悪かった」のである。

イーネのその特異体質…生まれつき風の精霊並みの偏った魔力特性を身に帯びた彼女は、精霊と同じように「場の属性に引かれる」という性質を持つ。
ただでさえ地下で風の属性には不利な立地な上に、あのポイントは他者の魔力が介入し気が乱れていたのだ。
結果イーネの体からは一時的に普段の身軽さは失われ、同時に魔を祓い幸運を呼び込む風の加護も失われていた…という訳だ。

128 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/08/15(日) 02:26:13 O
転がる大岩の表面に縫い留められたまま一緒に転がる…という、ギャグマンガでしかあり得ない状況を越えてなお、イーネは生存していた。
例えこのような状況ですら、イーネが身に纏う祝福の風は有効らしい。
…最も無事な訳もなく、洒落にならない程のダメージを負ってはいたが。
長い長い道のりを経て、ようやく大岩が止まったのは洞窟の最奥、一行が目指していた竜の亡骸が眠る墓地、まさにその場所だった。
朦朧とする意識の中、その事実を確認したイーネは自力での脱出を諦め、仕方なく(それはもう渋々)最高級品の緊急帰還用マジックアイテムを使って帰還したという次第である。

クエストの経過報告は既に済ませてある。
地下に竜骸石は確かに存在し、しかしそこへの道のりは容易なものではなく、幾度も妨害に遭った…と。
故にこのクエストの設定難易度は極めて不当なものであり、今一度クエストランクの見直しを(つまり報酬の値上げを)すべきであると声高に主張して、ついでに勢いに乗じてクエストを独占してしまった。
依頼主とて金に困ってこのようなクエストを依頼したのだ、これ以上の人員は割けないだろう。

そんな訳で今回のクエストは未だ保留、いつでも好きな時に挑戦可能だ。
しかし、一つだけ問題がある。イーネが今手にしている雇用契約書だ。
商人にとって契約は絶対だ。イーネは特にそれを重んじている。
契約書の光は、マイノスが未だに生存し契約書の写しを保持している事を示す。
こちらから強制的に解除する事は不可能ではないが、それはイーネの流儀に大きく反した。

「とにかくあの少年を捕まえなきゃ、クエスト完遂できないネ…」

街にも戻らず何やってるネ、と呟いた。

日が完全に沈むのを待って、イーネは病室を抜け出した。
元よりこの身は普通の人間とは造りが異なるのだ、同じ尺度で計られても困るし…何より入院代が馬鹿にならない。
契約書の魔力を風水盤で読み取った結果、居場所はおそらくこの近くにあるエルフの里…。
イーネ一人ならばこの程度、夜風に乗ってほんの一晩の距離だ。
改めて詰め直した荷物を背負い、軽い足取りで窓枠に飛び乗ると、そのまま4階の窓から外へと身を踊らせた。

129 :マイノス代理:2010/08/15(日) 23:51:51 0
「さっきのが爪割れを防ぐ魔法で、今から教えるのが刺抜きの魔法な」
「こんなにたくさん魔法を教えてもらって、僕はなんてお礼をいったらいいのか」
「何言ってるんだ、必要最低限の魔法も覚えてないから教えてるだけさ。こんなのは
親切のうちには入らないよ。ほら、ちゃんと見てろよ」

ここはエルフの里。話しているのは里にいた青年エルフとマイノスだ。目を覚ましたのは
昼をとうに過ぎた頃だった。カナの方はまだ目を覚ましていない。あれだけの手傷を負っていたのだ。
無理もないと思いつつ、マイノスは一時的に世話役となったこの青年エルフと話し込んでいるうちに
相手側から「暮らしに役立つ魔法」の手ほどきや技術の訓練を受けることになった。

それは教会やギルドで教わるようなものではなく、誰でも使えるような簡単だがあれば便利な魔法だった。
深爪を防ぐ、虫歯を治す、親知らずをなくす、無駄毛を脱毛して体に負担をかけないといった実に
しょうもない、しかし効果の高いものが多かった。薄毛を治療する魔法(ただし自分には使用不可)を
教わったときはマイノスは感動したものだった。

初めは単純にからかっていたつもりのエルフも有難がられているうちに気分を良くしたのか教えるのにも
次第に熱を帯びていき、その光景を見ていた他のエルフも寄ってきては自分の幼かった頃の悪戯の技術を次々に
教えていった。起きてきた時間が遅かったこともありすぐに日は暮れたがマイノスと青年エルフは楽しげに
最初に案内された建物へと帰って行った。カナはどうしているだろうか。一応キャクも残してはきたのだが。

彼女の無事を確認してから帰ろうと思ったが、正直に言ってマイノスは次の日が楽しみだった。
(明日は何を教えてもらえるんだろう、次の旅はきっとすごい楽だろうなあ)
【こちらこそ上手く場面を切り替えられずお待たせしてすみません】

130 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/08/16(月) 13:09:40 O
エルフの里に昼の光が満ちる頃…。

森の木々の梢を揺らす風と共に、イーネは真っ直ぐに駆けていた。
一応当人は隠しているが…イーネの体はとにかく軽い。
それも、もし風が彼女の味方でなければ…その身は常に風に吹き流され、天高く舞い上がってしまう程に。
だからこそ、イーネは風に乗れば、風と同じ道を同じ速度で歩む事が出来る。
まあ、風向きのコントロールを行う魔術などまともに使う資質はない為、今も完全に風任せだが。

まるで空を渡るかの如く木々の梢を踏み渡りイーネは駆ける。
途中で休憩を挟んだりした為思ったより遅くなったが、すでにその目の前にはエルフの里を夜通し守護する篝火が見えていた。
…しかし、イーネは突然よろけながら梢にしがみつき、その足を強引に止めた。

「ありゃりゃ…なんか風が嫌がってるネ…結界か何かかネ?」

エルフの里には当然、それを守るための結界と警備が敷かれていた。
さすがにそれを無理に越えて立ち入る事は出来ないし、そんな厄介事は御免だ。

木の幹を駆け下り地上の道を踏んだイーネは、里の正門へと足を向ける。
…しかし、ここまで駆けたはいいが…さすがのイーネとてエルフの里に正面きって立ち入るだけのコネは持ち合わせていない。
マイノスがこの辺りにいるなら里を当たるのが一番確実なのだが、そもそも里にいたとしてどんな待遇なのかわからないのだ。
…ならば、持ち前の口八丁で正面突破するしかあるまい。
一応、と懐から身分証を取り出し振り回しながら、まるで散歩のような足取りで番兵へと近付き声を掛けた。

「おーいお兄サン、ちょっといいかネ?」

「なんだ?ここは神聖なるエルフの里だ、人間の子供が来るような場所じゃないぞ」

「アハハ、突然の来訪で失礼。イーネは商人…ファン貿易公社所属のイーネという者ネ。この里に我が社の得意先が滞在してると聞いて訪ねに来たネ」

「この里の者が直接人間と交易してるなんて話、聞いてないぞ?」

「アレレ、それは変ネ…?得意先の名はカナ・マヤカサ。デスポーションのカナという者ネ、繰り返すガ我が社の大切なお得意様ネ」

「デスポーション…!?あいつがなぜ…」

食い付いた…イーネはほくそ笑む。ちょっとばかり大げさだが、今のところ別に何も嘘は言っていない。

「彼女がウチの大事な商品をずっと預かってるものだから、ちょっと困って取りに来たネ。アー…商品ってのは人間の男の子なんだケド…心当たりはないかネ?」

もの凄く黒い笑顔で、声を潜めのたまう。

「…ッ!ちょっと待っていろ、今上の者に確認を取るっ」

慌てたように里の中へ駆け込む番兵を笑顔で見送る。
巨大交易業者である実家の名前になんだか裏がありそうな話っぷり、ついでにほんの一匙の嘘…さて、一体彼はそこから何を妄想しただろう。

131 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/16(月) 21:26:58 0
色々あった後に私は貸家にて泥の様に眠っていた。
私が目を覚ますと、陽は空高く上っていた。薬箱を持ち外に出ると、周りの様子からどうやら未刻まで寝てしまっていた様だ。
怪我に加えて疲れていたとは言え此処まで寝てしまっていたとはな……。
同業者からは薬師たるもの早起きは基本と言われるが、私は薬師と言う職業は売人というより移動式の医者だと思っている。
私たちは薬を売る以外に手術式もする。それに加えて客がどんなに強請ろうとも客の為にならない薬は売らん。
金儲けではなく人助けの為にやっているのだ、それに加えて旅をして新たなる病気を見つける事もそうだ。
そのあたりが売人と薬師との違いだろう。だからと言って寝坊し放題って訳でもないんだがな。
今どんなに説明した所で言い訳にしかならないだろうな。さて、次の準備に取り掛かるか。
私は包帯を取りつつ、最早半日以上遅れてしまった朝食を口に放り込む。
朝食と言っても調理等されていない毒々しい色の草と何かの根っこである。
まぁ、ご察しの通り人ならば致死量を軽く超えた猛毒の部類だ。

包帯を取り終えると疵痕は有るものの完全に塞がっていた。
手を握ったり、腕を捻ったりしてみるが違和感や不具合は無い。流石に毒となると治りが早いな。
さて次に致死性の毒類を隠さないとな。私はこの里から借りている倉庫へと出向いた。
中身は得体のしれない毒物が詰まっている。勝手を知らない者が足を踏み入れればものの数分で中毒になるだろうな。
私は猛毒を倉庫の中に置くと必要最低限の毒物を薬箱に残し、その他を薬草やら体に良い物を入れて行った。
これで薬師本来の業務、人の治療を全うできるな。次に私は壁にかかっている同じ服の内一つを握り着替え始める。
やはり私と言ったらコレじゃないとな。私は懐かしの私の衣装、何の飾り気も無いシャツにズボン姿を見て思った。
入口付近に大量に置いてある煙草とマッチを鷲塚むと1セットを残し薬箱に詰め込んだ。
マッチを擦り煙草に火をつけつつ私は倉庫から出る。煙草の煙を吸い込む感覚が懐かしく感動すら覚える。
ああ、一日ぶりの煙草が美味い。薬師だが私は煙草を進んで吸う。体に悪いと言うが私にとっては空気より美味い。
私にとっては体に良いのかも知れないな。

私は少年を探すべく里を歩いたが、どうにも見つけられない。そんな遠くには行ってないと思うのだがな……。
長に頼んで四大精霊の内の一つ、風のエレメンタルであるシルフの力を貸して貰おうとしたのだが……。
そう、私は未だに鉱山に出現した賊とは別勢力の者達の事を考えていた。
死霊術に魔物生成若しくは魔物を操る力を操る者達が産物を持って何を成そうとしているのか、
私にはどうにも良からぬ事をしようとしている様に思える故に、この事態をこのままにして置いてはいけない様な気がする…。
今はまだ憶測の域を超えないが、悪い予感がするな……。

そんな事を考えながら歩いていると、近くから話し声が聞こえる。
私は盗み聞きする訳ではないが、その声の元へと近づいて行った。
意外な事にも、その片方は以前に行動を共にした商人だった。えーと、名前はなんて言ったかな……。

>「…ッ!ちょっと待っていろ、今上の者に確認を取るっ」

走り去ろうとする同族の腕を強く掴む。全く、今は終わったとは言え人とエルフは戦争をしていた種族だ、
些細な事で本当にまた戦争が起こってしまう可能性がある。それだけは避けたかった。
まぁ、あの長がそんな事はさせないだろうけどな……。

「その必要は無い、彼女は私の客だ。入れてやれ」

同族は怪訝な顔をしたが、前例が有る為渋々と言った様子で認めてくれた。

132 :マイノス代理 :2010/08/16(月) 23:53:09 0
翌日の昼食を手伝ったところ料理は概ね好評だった。考えてみれば農業、交易、狩猟と色々と
やっている彼等が偏食というのは考えにくいことだった。マイノスも久々に腕前を披露できて満足そうな顔をしている。
だがそんな平和な一時は、駆け込んできたエルフの一言によって破壊された。
「おい小僧、逃げろ!奴隷商人が、お前を追ってきたんだ!」

突然のことに騒然となる室内、居合わせた全員が息を呑み、マイノスを見やる。エルフの青年は続ける。
「俺、さっき入り口に来た奴の話を聞いちまったんだ!たぶんお前とカナが言ってた商人だろうけど
あいつは奴隷商人だったんだ。確か交易商って言ってたよな?あいつ・・・お前の事を商品って・・・」
その言葉に周囲の視線が痛い程の哀れみを帯びる。昨日まで眼前の少年をからかっていた者たちの
何人かは怒りや悲しみの形相に顔を歪めていた。言われてマイノスは考える。思考が追いつかない。
。自分はあくまで同行者枠、最悪ないとも言い切れない可能性だ・・・
彼の沈黙を肯定と受け取った青年エルフはやりきれず視線を逸らすと続けた。「子供みたいな外見
だったけど俺たちみたいなのがいるんだ、そんなのはアテにならない。あの黒さ、武闘派の長みたい
だった。・・・うちの年長者たちはよそ者は皆厄介者って言ってた・・・確かにそうかも知れん。でもお前
はいい奴だった。カナも助けてくれて、精霊もお前を気に入っている。俺たちもだ。・・・まだ間に合う、
逃げろ!」

他のエルフ達も次々に手伝いや抗戦を言ってきてくれた。少年はこの知り合って間もない恩人達の
心意気にただ泣き崩れるしかなかった。しかし誤解を解かねばイーネが危ない。ベソかきながらも
なんとか弁明していく。周りは未だ半信半疑だったがマイノスは説得を続け、やがて
入り口の方へと向かった。もしも青年エルフのいう通りだったらという不安を押し隠しながら・・・

133 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/08/17(火) 21:16:43 O
「やぁカナ、久しぶりネ!お互い無事で幸いネ!」

エルフの里に入ったイーネは、まず門番に話を通してくれた事に礼を言いつつ、初めて目にする里の様子を見渡す。
立派な背の高い柵で囲まれてはいるが、至るところに大樹が生い茂り、それに寄り添うように簡素な家々が並んでいる。
広場の中央には祭壇だろうか、大きな平たい岩が横たわっているのが遠目にも見えた。

…その時、すぐ近くの食堂らしき建物からざわめきが上がった。
ただ事ではなさそうだ。
カナを連れたまま建物を覗き込むと、幾人ものエルフと目が合…否、睨み返される。
その中央ではマイノスが必死な様子で何事か声を上げていた。
…なるほど。

「…アハハ、蒔いた種のよく育つトコね、面白いケド少年には悪いコトしたネ」

そう呟き、カナを制しつつ無造作に建物に入る。
マイノスが必死に説得してくれたおかげ極端な敵意こそ感じないが、それでも突然現れた人間を受け入れられるものでもないのだろう。
一気に静まり返った室内、不信に揺らぐ視線を幾重にも受けながらも、全く臆する事なくイーネは声を張り上げた。

「やぁ、待たせたネ少年!元気そうで何よりネ。
イヤー、少年の事ホント心配してたネ。相棒とはぐれるのは心細いものネ」

「嘘だッ!俺は聞いたんだ、この商人が坊主の事を商品って呼ぶのを!」

「商品…?アー、もしかして“商品”と“商人”を言い間違えたネ?アハハ、それは悪い事したネ!イーネまだこの辺の言葉は苦手なのネ」

平然と笑い飛ばしながら、イーネは手にした身分証を見せる。
イーネの所属する商会発行の国際身分証…偽造防止の魔術刻印に加え、本国の王室印まで施された呆れる程念の入った代物だ。本来なら使節などが持つ程の物なのだが…。

「イーネはこう見えてちゃんとした商人ネ、胡散臭い奴隷商じゃないから安心するネ。
そこな少年はウチで雇った正式な助手なのネ。どうやらこちらで世話になった様子、少年に代わり深く感謝するネ」

そう言い深く頭を下げる。
明るい物言いと丁寧な態度に押されてか、先程まで気炎を上げていた男も小さく頭を下げる。

「…フム、この場の皆にもいらぬ不安を与えたようネ。
ヨシ、ではささやかながら、皆への感謝と謝罪…そして今後の友好のためにイーネから何か…。
―――店主!今この瞬間から夜が明ける時まで、この商人イーネが全ての飲み代を持つネ!!」

威勢よく宣言しながら、カウンターに銀貨の詰まった重たげな革袋を投げ出した。


商人達は第一に何より、自らの名を売る事に執心する。
使えるコネは全て使い、派手に宣伝を行い、時に噂すらをも操作して、街で誰もが知る商人となる…そのためには手段は選ばない。
例えそれが悪名だろうが、熟練した商人であればそれすら足掛かりに商売に必要な人脈を築く事が可能であるし…
むしろ“何処の馬の骨とも知れない有象無象”な商人であるという周囲からの認識が、彼らにとっては遥かに厄介な障害なのだから。

134 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/18(水) 19:22:40 0
彼女は私に向かって何時もの笑顔を浮かべて話しかけてくる。
そっちこそ無事で何よりだ。まぁ、殺しても死なないヤツだとは思ってたがな。

「ああ、私達以外死んだと思っていたからな。不幸中の幸いと言うヤツだな」

煙草をふかしつつ何時もの調子の気怠そうな反応を返す。
笑顔を作ってみせよあとするが、余り表情は動かない。
やはり煙草を吸うと落ち着くな、やっと故郷に帰ってきたって感じがする。
他愛もない会話を交わしている間にももう既に三本目に突入している。
半刻も此処に留まったなら、煙草の吸殻が山になるだろうな。
私は基本的に人とは余り喋らない。話しかけられれば返すが……まぁ、其れぐらいしか喋らない。
何時しか口が塞がってると言う理由が欲しくて始めた煙草だったが、
毒が主食の私にとって、その殆どが毒の塊であるような煙草に夢中になるのには時間は掛からなかった。
それ以降日に日に本数は増えて行って、今では空気を吸うかのように消費している。
可能であるならば穴と言う穴に詰め込んで全身から消費したいモンだがな。
まぁ、構造的に全身に消化器官がある訳も無いので、そう言う訳にもいかないだろうな……。
何時しか試してやろうかな……。

彼女に続き、少年を探す為に里を歩く事にした。今日の来客は多い事多い事。
里の連中とは違って私は人間はそんな嫌いじゃないから良いんだけどな。
そもそも、種族の違い位で争ったり嫌ってる方が下らない事なんだ……。
まぁ、同種でさえ殺しあっている人間のがよっぽど下らないんだが、
その人の代替わりの速さに少しでも命を紡ごうと多くの医療技術を編み出してきた種族故に一眼に下らないとは……。

……ん?
何だ?近くの食事施設が騒がしいな、人と食事が違う為一度も入った事は無かったのだが、
無視して通れない程の騒がしさだった為、彼女と一緒に覗いてみる事とした。
同族たちは一斉に同行した彼女へと注目した。どうやら入口の会話内容が独り歩きしたらしい……。
狭い里なんだから噂の類はあっという間に広がる。良し悪し関係なくな……。
どうやら彼女は上手い事やってくれたようだ、同族達の怒りも流れに押され鎮火したようだな。

そ、そそ、そうだ、彼女の名前はイーネと言ったな、え?今言ったって?人聞きが悪いな、丁度今思い出したんだ……。
……すまぬ…完全に忘れてた……。人の名前覚えるのだけは苦手だからな……。
本当に何処かに書いて置かないといけないな……。

さて、問題は少年だ。
精霊使いと言ってたがエレメンタルであるシルフとの契約は出るのだろうか…?私は精霊魔術を根本から知らない。
有る所では水の精を操り船を自在に動かしたと言う話を聞くが、実際の所私の精霊に対しての知識は素人以下だ。
そうだな、直接聞いてみるのが一番だろうな。

「少年よ。今すぐにエレメンタルとの契約は出来るか?
 この里には風のエレメンタルであるシルフを呼び出せる施設がある。君を里に連れてきた目的はコレだ
 昨日の鉱山、まだ憶測の域を出ないが悪い予感がする……」

135 :マイノス代理:2010/08/18(水) 22:32:43 0
「それにしてもひどいですよイーネさん、お荷物じゃない分まだマシですけどせめて使用人とか小間使い
くらいにしておいて欲しかったです。」
先ほどから少しの時間が経ち、店の中の雰囲気は少しは和らいだように見えた。現在マイノスはイーネと
差し向かいで飲んでいる。とはいってもジュースだが。

未だに不審の目が背中に注がれるが精霊文字で「下手な殺し屋より強いので絶対に刺激しないでください」と
貼り付けて警告をしておく。効果の程はわからないが今のところ突っかかって来る者はいない。
「そういえばあの戦士の人達ってどうしてます?あの時穴に落ちたのは僕とカナさんだけみたいでしたけど」
マイノスはイーネに三人の戦士の現状を、自分達が遭った目を思い出してながらあまり期待せずに聞いてみた。

>少年よ。今すぐにエレメンタルとの契約は出来るか?
そこにカナが話に入ってくる。続きを聞いた際にまじまじとカナを見る。エルフの義理堅さは本当に驚くべき
ものである。すぐにも是と応えたかったがそれと言えない理由があった。
「お気持ちは嬉しいんですが、契約の指輪を作らないといけないので今すぐには、でも1日あればできますから
待って貰えませんか!材料もあります、今から作れば明日の昼ぐらいには・・・」

精霊を使役するにはそれぞれに応対する宝石を埋め込んだ「契約の指輪」を用いて精霊と契約を
交わす必要がある。石の純度はそれほど関係がないので原石を研磨するのでも構わない。というか
お金の問題で精霊使いはもっぱら自前でそうやって指輪をつくる。のだが・・・

136 :マイノス代理:2010/08/18(水) 22:37:12 0
「俺の予備の奴でいいならやろうか?」と話を聞いていたエルフが言ってくる。
「儀式に失敗した時の為に作ってたんだが結局余ってさ、そんな小奇麗でもないけど」
そう言うとズボンのポケットからオパールの埋まった契約の指輪を差し出してくる。
別のエルフから「お前いっつも指輪2個常備してたもんなー!」と言われ目の前の青年が
居心地の悪そうな顔をする。精霊に気に入られず契約に失敗した場合も指輪は消費する。

そのためもう一つ用意するというのは精霊使いの間ではそれほど珍しい話ではない。
「え、い、良いんですか、その、いいなら是非今すぐお願いします!」
落ちてきたぼた餅にマイノスは遠慮なく飛びついた。相手の方もそれを聞いて顔に安堵の
色を浮かべる。ここに来てようやく真っ当な精霊との契約に少年の胸は高鳴った。

「やっと、やっとちゃんとした精霊が僕の手に・・・」
そういうといつの間にか方々から今のやり取りを見ていた同業者たちから声がかかる。
「風の精霊はピンきりだから」「良いのがあたるといいな」「術被りにだけ注意な」
自然と頬が緩んた所に「まっとうでない」の代表が今更ながらやって来た。正確にはまだ精霊ではないが。

安眠の加護が付くと聞いて里の人々から寝具や飾り、着物などをごてごてと付けられ今の今まで寝ていたのだ。
食堂に入ってくるなり持ち主達にあれこれ毟り取られてすぐに普段の姿になるが、昨夜の就寝時の平民と
王様並の格差が思い出されて、笑顔が苦笑いに変る。良い気持ちも程よく畳むと少年はカナと指輪をくれた
エルフを促し、当然目の前に座っていた商人の少女に断って支度を整えた。

137 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/19(木) 18:03:43 0
いきなりだが私の属性は四大エレメンタルに含まれない金属性だ。
陰陽五行に属する人工にて作られた鉄鋼の道具に宿る属性だ。
生きている人にその属性が付くのは極めて珍しいらしい。
そんなものが何故?と思っただろうが私にも解らない。
多分私の体に流れる毒と関係があるのだろうが、私自身さっぱりだ。
その属性の御蔭で魔術に長ける種族だと言うのに、魔を留めておく事の出来ない体となってしまった。
帯びたり通したりする事は出来る為、どうにも私は自然界から見ると物質認識らしい。
まぁ、魔術が使えない代わりに良い事はある。
錬金術や製薬における調合の成功率が他の属性に比べて極めて高いと言う事だ。
後調合認識なのか儀式魔法の成功率も驚くほどに高い。
もっと手からメタルブレードを発射したりドリルを打ち出したり色々期待してたんだがな……。
思ってたより効果は地味なモノだったな。

店の飲み代はタダになったが、私は他人と食事合わない為と
絡まれて無理矢理飲まされることの無いように店の外に出ていた。
四半刻位しか経っていないと言うのに足元には煙草の吸殻が山になっていた。
もう息をする毎に紫煙を吐き出しているのではないかと思う程消費している。
それにしても、少年は里の者達に人気だな。自ら進んで長に了解を貰いに行ったりする者まで居る位だからな…。
まぁ、わざわざ私が出向かないだけ面倒が減って助かるがな。

案の定あの不動の長がこんな事で一々反応する訳も無く、了解を取りに行った同族から吉報を貰った。
さて、と、久々に大掛かりな儀式形式だからな気を引き締めないとな……。
私は里の中心にある大きな儀式場となっている平べったい岩、そこに出向いた。
中心の祭壇を取り囲む灯篭の様な物に火を灯していく、火は赤い火にはならなく全て鮮やかな青色をしている。
いつ見ても不気味だな、この光景は……。白墨にて石を取り囲む様に六芒星を書き込む。
自然のエレメンタルの数上、簡略化するには四画の物が好ましいが、
勝手な事をして失敗したら何が起こるか解らないからな……やめておこう…。

「さて、今から風のエレメンタルを具現化する術式に取り掛かる。
 術中に素材に触れないように、何が起こるか解らないからな。」

私は次に六芒星本線に細かく呪文を書き込んでいく、
自然を実態にするのに此処まで面倒だと無理にでも簡略化したくなるな……。
六芳星の角の先に丸を書きそこに魔素となる草を置いていく、意外と疲れるぞコレ……。
次に銀で作られた穴あきの器を岩の上に置くと蝶と花を乾燥させた物を握りつぶし、
ある程度の粉末状にして器の上へと振りかけた。その上から果物から作った液体を同じように器へと流し込む。
果物の汁が岩へと滴ると岩が淡い光を灯し出す。そこから白墨で引いた線へと光は瞬時に拡大していく。

すると六芳星を引いた境界内に蝶の羽を持った光り輝く小人見たいのが複数飛び始める。大方成功かね。
私は薬箱から虫取り網を取り出すとその小人の一匹を網にて捕まえた。
虫取り網の口を握り少年の元へと駆け寄る。

「少年よ。捕まえたぞ!」

しかし、虫取り網を持っている私に注がれたのは同族の白い目だった。
あ、アレ…?ま、間違えたか……?

138 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/08/19(木) 21:21:37 O
商売繁盛とまではいかないが、里のエルフと交流を持てたというまたとない幸運に、イーネはご機嫌だった。
旅をしたり人に混じって生活する変わり者もいるが、概ねのエルフは里で閉鎖的な生活を営む。
里にこもった彼らと交流を持つ機会など、望んでも簡単に得られるものではない。

イーネは身なりこそただの行商人だが、その仕事の大半は交易商のそれに近い。
新たな市場を開拓し、より多くのコネを持つ事こそがイーネにとっての商売なのだ。

一気に人の出入りの激しくなった店内で、時折周囲に愛想を振り撒きながらも、ようやく合流できた二人と情報を交換する。
…死霊を操る謎の敵の存在や、連れの戦士らが未だ行方不明という事。
あの3人については、イーネも確認が取れていなかった。
立ち位置から考えて、おそらく崩落には巻き込まれていないはず…しかし崩落で引き返す道を塞がれたのは間違いないだろう。
…まぁ、あれはギルドから貸してもらっただけだし、イーネの契約には含まれない。
何事もなかったかのように、涼しい顔で話を流した。

「フム、ところでこっちも悪い知らせネ。
その死霊共に関係あるかは分からないケド…最下層はかなりヤバいネ。
昔故郷の地下墓陵に行った時感じた風…あれより何倍も辺りの気が荒れてたネ。…邪気、とか言うのかネ?」

偶然イーネがたどり着いた最下層…そこには呪いを帯びた墓地さながらの空気が漂い、明らかに“何者か”の気配が残っていた。
地下深くだと本調子が出せないイーネでもはっきりと知覚出来る程に。
幸いあの時は何事もなく脱出出来たが、内部を探索するならかなり危険であろう。


「エ…今シルフって言ったかネ?
…うぅ…イーネはシルフ嫌いネ…喧しいしテンション高いし実は腹黒だし、しかもやたらイーネに慣付くし…。
まぁ、少年に必要なら仕方ないネ…」
イーネは渋々といった顔で立ち上がる。
風の精霊シルフとは浅からぬ縁がある。
異郷の地とて吹く風に変わりはない…どこのシルフも似たようなものだろう…。

139 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/08/19(木) 21:23:48 O
「アー、なるほど風の祭壇だわコリャ…。こういうのはどこも変わらないネ…」

カナの行う儀式を、退屈そうに見守る…あまり近付いては影響してしまうだろう。

>「少年よ。捕まえたぞ!」

「ぶっ…アハハハハハハッ!
イヤイヤー…カナは面白い事するネ。
……ほれクソ精霊、遊んでないで出てくるネ」

突然のカナの奇行に爆笑しつつ、イーネは虫取網にかかった“フリをしている”小さなシルフを、あろう事かそのまま素手でつまみ上げた。
…こんな手の込んだ祭壇を作る程だ、きっと彼らは精霊を大切に扱っているのだろう。
精霊に道具や素手で触れる機会などあるまい。

風を司る精霊シルフの実体は、文字通り風である。
普段は風に溶け込むため不可視の存在であるが、条件次第ではこうして実体化する。
しかしそれでも風。組成そのものが空気である彼らは、決して何者にも捕らわれる事はない。
…つまり、カナは風を虫取網で捕らえようとし、逆にイーネは風を素手で掴んだ訳だ。

「ほら、とにかく調子に乗るのネこの精霊共は…。
おいチビ、イーネはお前みたいな小物に用はないネ、お帰り」

つまみ上げたままぷらぷらと揺すり軽くたしなめてから、バタバタもがくそれを空中に勢いよく放った。
シルフはすぐさま拡散し虚空に消える。

「ああいう小さいの(※標準サイズでした)は喧しいだけで大して役に立たないネ。
不本意ながら、少年には待たせた貸しもある…イーネが力貸すネ」

そう言いつつ祭壇にヒョイと上がったイーネは、まだ光の残るその岩を乱暴に踏み鳴らし異国の言葉で唱えた。

『風詠のイーネが命じる、即刻顕れよこのクソ精霊!』

――途端、辺りは目も開けられぬ程の強風に包まれた。
祭壇に置かれた供物は吹き飛び、灯された青い火も幾つか吹き消える。
しかしその風の中、イーネだけは平然と腕を組み仁王立ちしている。不機嫌そうだが、心なしかいつもより不遜な表情だ。

…ようやく風が止んだ時には、祭壇の中央には50cm程にもなる人型の光が浮かんでいた。

140 :マイノス代理:2010/08/20(金) 07:50:28 0
「邪気・・・ですかあ、なんだか物騒ですねえ。盗賊たち以外で先に根城にしてた奴で
しかも死霊術を使う・・・嘘の一つも吐いて素直に討伐隊組んでもらった方がいいかもですね」
儀式場に行く前にイーネそんなやりとりを交わした。契約の儀式について相手の精霊がシルフ
とわかるとにわかに顔をしかめたので何かと思えば

>喧しいしテンション高いし実は腹黒だし、しかもやたらイーネに慣付くし
咄嗟に噴出しそうになるのをこらえる。同属嫌悪とは珍しい。だがそれと同時にマイノスも
あることに気付く。そうつまりはイーネっぽい精霊が憑くかも知れないのだ。
やっと会話のできる精霊がと思えば性格がイーネ。夢なら覚めてくれ。

そんな風に考えながらも今マイノスは儀式の真っ只中、いや、その直後にいた。
カナは自分に魔力がなくその手のことには疎いと言っていたが鉱山の時といい、自身の魔力を使わない
儀式魔法にはかなりの知識があるようだった。普通魔力を持つ者は自分のモノを使いこなすための
研鑽を積むがカナのやり方は魔力の無い者でも魔法を使うためのもので、それはつまり
彼女の魔力というものに対する理解度の高さの表れでもあるということだ。マイノスは感心した。

>少年よ。捕まえたぞ!
「僕はこっちですよ」カナの背中に声をかける。きまりの悪そうな彼女をイーネが茶化す。
嫌いと言っていた通りシルフに対して遠慮が全くなく扱いも乱暴そのものだがその姿が
マイノス以外にもでかいシルフが幅を利かせているようにしか見えなかった。しかし
>不本意ながら、少年には待たせた貸しもある…イーネが力貸すネ
その言葉から先の彼女の行動が場にそぐわないほど力呼び寄せたのだった。

141 :マイノス代理:2010/08/20(金) 07:52:00 0
「しまった!そうだ彼女は!」
イーネがやったことに対して大方の見当をつけるとマイノスは警戒し現れた大きな力に
対して臨戦態勢をとる。感の良い者や他の精霊使いも似たような反応をとる。
イーネは言ってしまえばシルフが服来て歩いていると言っていいほどの偏った属性持ちだ。

この場で自分を触媒にでもしたのか、あるいはその属性の極端さから他の風の精霊と接触が可能なのか
何であれイーネにアレを呼び出せる何かがあるのだ。呪文を唱えただけで使えるということはまず
ないのだから。今のところ人方の光に反応は見られない。

「イーネさん何やってんですか!それが何だかわかりませんが引っ込めてください!危ないですよ!」
マイノスは精一杯声を張り上げるがイーネは意に介した風でもない。
(これ以上なんかまずいことにならない内に何とかしないと・・・どうすれば、一体どうすれば・・・)

少年の頭は一気に混乱寸前まで追い込まれていた。このあと里の人々に謝らなければいけないが
謝罪の言葉が受けんで来ない。どう言っても許してもらえる気がしない。気が遠くなってきた。

142 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/20(金) 08:08:18 O
エラッタ ×人方 ○人型

受けんで→浮かんで

143 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/20(金) 16:53:55 0
私は言葉一つで使える魔術に憧れていた。
言葉一つ上げれば簡単に自然の理を曲げる事が出来る、そんな姿に少なからず憧れを持っていた。
しかし、私には魔を溜める為の受容体自体が存在しない。
それでも、憧れを捨てきれなかった私は、頭の中で組み立てる術式を書くことで発動させる儀式魔法と言うのを見つけた。
まぁ、勿論簡単な事では無く何度も失敗を繰り返した上にて今の私が存在する。
簡略化出来た物から、術式を複雑に組み込まなくてはならない物まである。
決して使える数は多くないが、魔術に憧れていた私にとってはそれで十分であった。

先ほどのイーネが話していた会話をふと思い出す。
最下層は邪気の類で満たされていると言う事。これで推測が本格的に濃厚になってきたな。
私の推測では、奴らの狙いは過去に没した巨竜の復活と使役、若しくは其れ同等の魔物の制作、使役そんな所だろう。
そんな気違い紛いの事をする奴らの思想は解らないが、実行に移されればこの里と麓の人里が危ない……。
いや、伝説クラスの魔獣だからもしかしたら国が危ないかも知れない……。
全て私の思い違いなら良いのだが、どうにもその不安が拭い去れない。べっとりと脳裏にくっ付いて私の不安を煽る。
嫌な汗が背中を伝うのが自らでも解る程、私は精神的に追い詰められていた。

其処に聞こえたのはイーネの笑い声、今まで緊張していた私の気が抜ける。
やはり、コレは間違っていたか……。他魔術方式に関してはさっぱりだからな……。
蛾が霊が混化した物だと言うから、コレも同じ様な物だと思ったんだがな。
まぁ、何にせよ追い詰められていた精神が少し晴れた様な気がした。それだけでも、私の心は大分軽くなった様に思えた。
次にイーネはひょいと小人みたいなシルフを持ち上げると、そのまま野に放ってしまった。
な、何か考えがあるのか……?良く解らないが良くない予感がするな……。
祭壇に上がった所から見るに魔術のインターセプトを行うらしい。私は大事な調合道具の銀の皿を掻っ攫うと岩と距離を取った。
直後、立つ事さえもやっとの風が辺りに吹き荒れる。儀式道具が吹き飛ばされるのが見えた。
一番大事なこの皿を持ってきて良かったと心から思った。

やっと風が止んだと思ったら其処には巨大な人型の光が浮かんでいた。
多分、風のエレメンタルの上位体……、その力だけを見るならばそこらへんの氏神と同等位だろう。
なんてモンを里に……、だが物に出来るならば多大なる戦力になるだろうな……。
私は針銃の針のカートリッジを取り替えると、少年に向かって放った。
効果は毒ではなくその逆、魔を取り戻す類の薬が塗られている物だ。

「少年よ、アレは多分風のエレメンタルの上位体。
 話せるかどうかは解らないが。頑張って契約取ってくるんだ」

と言いつつ私は上位体の出現に気圧されている少年の背を押してやった。
あれもエレメンタルの一部なら、契約を取れるだろうと安易な気持ちで少年を送り出した。

144 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/08/20(金) 23:14:17 O
永き時を経れば木は大樹に育つように、精霊もまたごく稀に成長する事があるとされている。
特定のエレメントが集い魔力が凝縮されやすい場所…例えば火山の噴火口など…で見られるとも言われるが、詳細は不明だ。
ただ、イーネの感覚だと…精霊はだいたい3種類に分けられる。
数は多いが弱く小さくて個性の薄い奴と、やはり小さいがそこそこ力もあり性格がはっきりしている奴。そして体も大きいが態度もでかい、いわゆる精霊の親玉。
…先程の『召集命令』に応じたのは、どうやらここ一帯の主のようだ。

祭壇の中央に浮かび上がったそれは、4枚の翅を背中に備えた人の姿をしていた。
淡く薄緑に発光する体は華奢で、まるでまだ幼い少年か少女のようにも見える。
しかし好奇心を込めてこちらを見つめる翡翠の瞳はどこまでも深く、永き時を過ごしてきた事を感じさせた。
シルフ(大)はしばらくキョロキョロと辺りを、そしてイーネの姿を見つめていたが、やがて首を傾げるとおもむろに口を開いた。

「クフフ 呼んだのはお前だね同胞。遊んでくれるの?違う?用があるなら聞くだけ聞くよ?」

「何度も言うがイーネは同胞違うネ。今日用があるのはそこな少年ネ、彼に力を貸して欲しいネ」

「んー、そこの小さな人間にかい?精霊使いだね?つまりボクの子でも分けてあげればいいって事なのかな?」

「そうネ、まぁイーネは精霊使いの事なんて知らないし、その辺適当に当事者どうしで話してくれればありがたいネ」

「何それめんどくさいー、それより一緒に遊ぼうよ同胞、遊ぼ同胞」

「あんたらの遊びに付き合うと大変だから嫌ネ。…ほら、少しくらいなら血をあげてもいいから言う事聞くネ。ついでに少年とは好きに遊べばいいネ」

いいながらまとわりつくように飛び回るシルフ(大)を乱暴に振り払いそっぽを向く。
他の者が精霊をどう思ってるかは知らないが…イーネにとって彼らは、単にやたら甘えてくる鬱陶しい妹のようなものだった。
ついでに関わるとろくな事にならない。
話はあまり通じないし、遊びと称して人の事を数十kmも吹き飛ばすし。

魔法使いでも精霊使いでもない…そのどちらにも全く興味のないイーネにとっては、精霊の並外れた寵愛など、それこそ迷惑なだけだった。

145 :マイノス代理:2010/08/21(土) 12:06:12 0
「ツレナイね、仕方無いから言われた通りにしてあげよう、これも誼(よしみ)というやつだ」
そういうとその大きなシルフの姿をしたモノはマイノスへと近づいていく。一方で彼はというと
全く動けないところにわずかに痛みが走り、継いで少しだけ調子が良くなったことでやっと
我に返る。その顔からは完全に血の気が引いていた。

>少年よ、アレは多分風のエレメンタルの上位体。話せるかどうかは解らないが。頑張って契約取ってくるんだ
>今日用があるのはそこな少年ネ、彼に力を貸して欲しいネ
冗談ではなかった。精霊使いが使役できる精霊は本人の適正によるものでその数もまた本人の器次第だった。
言い換えれば上位ないし下位の精霊を多く契約するか。それともその中でも強い力を持つ大精霊を1つか2つ
と契約するかのどちらかとなる。がマイノスにこの風の大精霊を収めるだけの器はまだない。

無理に契約を結べば器が不足し最悪自分が爆ぜるか良くて心か失くなり本当の風となってしまうかのどちらかだ。
今連れている者達と縁を切れば万に一つの可能性も出てくるがそんなことは絶対にしないしできない。
契約ではなく友好の儀というのを結べばイーネと同じようなことも可能だが属性持ちでない以上は相手の
出す試練を受けて耐え切る必要があるが、齢16歳の少年に無茶な注文だった。

「そう怯えることはない、小さな人間。キミが思うようにボクもキミがボクを受け入れられるとは思わないよ」
「あ、で、ですよねー!いくらなんでも無茶ですよね。僕じゃ破裂しちゃいますよ」
「それも面白いかもしれないけど、今は同胞の願いを聞くのが先だ。そうだな、キミはボクの子と契約を交わそう
としてたんだろう?ならキミに見合う中で少しだけ力のある子を供にしようじゃないか。どうだい?」

そう言うと大きなシルフがふっと息を吐くとマイノスの目の前に先ほどのものと変らぬ見た目の小人がいた。

146 :マイノス代理:2010/08/21(土) 12:06:55 0
「もちろんそれで構いません!(というか最初からそれが目的だったんだけど)こっちこそお願いします」
マイノスはそういうと契約の指輪を差し出す。小さい方のシルフは自分達の大元の前だけあって静かにしている。
「まあそんな連中を連れ歩いてるっていう時点でキミが未熟なことはわかるよ。本当はあまり気が乗らないけど
今はそんなことは関係ないからね。この子を通じてキミが良い精霊使いになれればいいけどね」

そういって小人をマイノスとあっさり契約させると自分はイーネの方に歩いていく。恐らくは帰るのだろう。
風の大精霊はこの少年の連れているモノが気に食わなかった。風の精霊の本質は自由であり勝手であり「それはそれ、
これはこれ」の精神である。そんな精霊の親玉とも言える存在ともなれば、マイノスの連れているのモノとの相性の
悪さも相当なものになる。固体によって違いはあるがほぼ無関係、無関心が心情の風の精霊と縁結びの精霊、魔物、
精霊のようなものは、少なくとも大きなシルフには反りが合わなかったようだ。

その証拠にイーネにもう遊ぼうとは言わずに帰り支度をせがんでいる。
「同胞よ、用件は達したぞ。また何かあれば呼ぶ事だ、いいな?なくても呼ぶのだぞ!」
そう言うと大きいシルフは突風と共にその場で掻き消えてしまった。マイノスは契約を結んだ
小さな精霊に挨拶を済ますとその場にへたり込んでしまった。

周囲の人々はすごいモノを見たとはしゃぐ者もいれば、ほっと胸を撫で下ろす者もいる。
件の精霊が去った事により少年も緊張の糸が切れその場にへたり込む。
(流石に死ぬかと思ったな、二人には後でちゃんと言っておかないと)
マイノスはそう思いながら契約の済んだオパールの指輪を拾いそっと懐に仕舞い込むとその場にへたり込んでしまった。

147 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/08/21(土) 13:10:23 O
エラッタ ×一番下のへたりこむ ○大きく息を吐いた。

148 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/21(土) 20:33:52 0
そう、私には古代魔術から先の知識は持ち合わせていない。
星の力を借りる基本的な物から、六種や五種のエレメンタルを元に効果を及ぼすものから、
果ては地上に星を落とすものまで、正に様々な効果を持った物がある。
呪文を持って発動する一般魔術、精霊に魔を投げかけて発動する類の知識は無い。
多分、主に六種のエレメンタルに関係する事なのだろうが、
脳内で組み立てる術式から、どう言う形式をとるのかさえも知らない為、断言は出来ない。
まだ私にとって未知……いや、使えない悔しさからあえて知識を取らなかった部分で何かが起こっている。
私は魔術師でも無ければ、それを扱う者でも無いのだが、やはり疎外感を感じる。
しかし、どんなに喚いた所で今の所、私に出来る事は皆無だ、無理に介入するのは野暮ってモンだな。
鉱山への焦燥から少年に無茶な注文を付けてしまったかな、と少々の罪悪感を残しながら、
私は事の成り行きを見守り、本日何本目になるか解らない煙草に火を灯した。
思いっきり紫煙を肺に送り込むと少しだが心が平静を取り戻した気がした。多分一時凌ぎにしかならないだろうがな……。

そんなこんなやっている内に時刻は逢魔刻にさしかかろうとしてたいた。
西の空が火を灯したように真っ赤な太陽が沈んで行っている。これから半刻も経たずに辺りは闇に包まれるだろう。
昼に動いていた魔物と夜に動き出す魔物の行動時間が合わさり、とても危険な時刻だが
日が暮れるのを見るだけの為に危険を冒すと言うのが解りそうな位綺麗な夕日であった。
そう言えばまともに夕日を見たのも久しぶりだな……。

私は針銃のカートリッジを再び猛毒の物に戻した。
鉱山の推測がもしも、正しかったならば食い止める為に戦わねばならない。
それに、少年もイーネも知り合ったとは言え部外者、協力してくれるに越したことは無いが、強制は出来ない……。
いざとなったら私一人でも、それはもう自らの命を使ってでも食い止めなければならない……。
決して死にたい訳じゃないが、命を捨てる覚悟はある。私の願いは少しでも多くの者が少しでも多く生きてもらう事。
フフ……、我ながら傲慢で愚かなな考えだ……。しかし、その為に私は手段を選ぶつもりは無い。
私は鉱山での事は自らの思い過ごしで良ければ良いと思いつつ少年に近づくと、手を差し出した。

「少年よ、立てるか?知らなかったとは言え無茶な注文をして悪かった。」

笑顔を作ろうとするがやはり私の表情はあまり動かない。
不安なのもあるが、元々私の表情は滅多に動かない。
その余りの微動だにしない顔に過去に行動を共にした者から仮面でも付けていた方がよっぽど面白いと言われた位だ。

149 :マイノス代理 :2010/08/22(日) 00:09:52 0
カナから差し出された手を無言で取ると少年はゆっくりと立ち上がり、思い出したように急いで
息を吸う。なんとか呼吸を落ち着けると彼はカナの謝罪にぶんぶんと首を振る。言葉にする余裕が
まだ取り戻せていないようだ。更にそこから少しの間をおいてようやく話せるようになった彼、
マイノスは「結果オーライですよ」となんとか言うと先ほどの指輪からシルフを呼び出した。

「一応先に確認しておかないといけない事がありますからね。シルフ、さっきは済まない。ずいぶんと
みっともない所を見せてしまったね。もう一度言うよ、僕はマイノス。君と契約したモノ」
シルフ「気にしてないよ、むしろよく逃げ出さなかったね。泣いたり漏らしたりするものかと思ってたよ。
まあでもさっき大精霊様も言ってたように、オイラは他のシルフ達より少し力が強いんだ。だからそういう
機会もどんどん減って行く事だろうね」

そういうとその白い小人は得意げに鼻を鳴らした。マイノスは彼に頼もしさを覚えながら彼との契約の対価を尋ねた。
シルフ「ああ、オイラとの対価かい?よく聞きなよ。オイラが貰ったのは・・・お前の存在感ってやつさ」
言われた意味が全く分からなかったが構わずシルフは続ける。

「存在感がないのを影が薄いとか空気みたいって言うだろ、ありゃあ世界と縁が遠い証拠さ。んで、オイラは
お前の気持ちじゃなく直に存在感を頂いたってわけさ。だからあんまりオイラを強くしたりしない
方がいい。あ、それから影の精霊との契約も止しときな、言い方が違うけど対価は同じだからお前がどんどん
気付かれなくなってっちまうぞ?」

そこまで聞いたとき、マイノスは今度こそ人目も憚らず悶絶して、号泣して、絶叫して、そして昏倒した。
マイノスはシルフ契約した。使える補助呪文(だけ)が少し増えました。

150 :イーネ ◇pNvryRH4rI:2010/08/22(日) 08:30:26 P
「全く、たかが存在感減ったくらいで気絶する男がいるかネ!?イーネちょっと呆れたネ。
っていうか少年の存在感 なんて元々あってないようなものネ、だから心配いらないネ!」

イーネはベッドの傍らで失笑しつつ、ようやく身を起こしたマイノスの肩を叩く。
気絶した彼をその場に居合わせた者達で運び休ませ、既に小一時間程になろうか。

魔法使いや精霊使い、あるいは神官などといった者達は皆、身に付けた力の代償を負う運命にある。
代償は様々だ。単にちょっとした供物から体力や血液、あるいは術者の寿命の一部。
極端な例だとヒトとしての形を失う者や、精神を蝕まれる者、 生物としての理から外れてしまう者もいる。
それはイーネとて同じ事 …既にこの身は重力や時間の法則からすらも乖離しかけている。

「ま、存在の力なんて昔からカミサマの食い物って話ネ。少年も英雄か何かやれば多分平気ネ。アハハ!」

「ところでカナ、これはどういう策かネ?
風は四大元素が一つとはいえ、おそらく少年の力量ではすぐに実戦向けには生かせないネ。
それでもわざわざ契約させた…当然何か理由があっての事ネ?」

そう言って向き直り、背後で紫煙を燻らせ佇むカナの顔を覗き込む。
イーネは今回の儲け話に賭けている。この地でうまく商売をする為には、龍骸石の存在は欠かせないのだ…。


【また規制とか…ご迷惑お掛けします】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1265360933/981

151 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/22(日) 18:27:35 0
人は古来から正体不明に恐怖する。
今まさに私がその状況下である。姿も素性も知らぬ人物の行動に恐怖している。
未知の部分が多いからか、その部分は過剰な程マイナスに寄っている。
俗に言う最悪の事態を予想して、と言うものだ。

少年にエレメンタルの力を授けたが、満足いく結果は得られなかった。
付け焼刃程度じゃダメなのは解っている。しかし、今は少しでも戦力が欲しい。
私は考えが煮詰まり、これ以上知恵を絞ろうとも出てこない事に焦燥を覚え、口にくわえていた煙草を食いつぶしていた。
口に広がる苦い味にて、私は少し落ち着きを取り戻した。
こんな時我が師ならばどんな判断を下すだろうな……。
いや、今は私が直面している事なのだ、他人の事などどうでも良い。
そんな事を考えているとイーネが話しかけてくる。
少年へと風の精を付けた事の思惑を知りたいらしい、戦力にしたかったんだがな……。
儀式魔法みたいに上手くは……まてよ…儀式魔法…!その手が有ったか…!

「風は儀式に取って普段は邪魔にしかならないが、上手く使えば感知の力。正確なレーダーになるのだ。
 儀式魔術で増幅すれば、力が弱いと言えども高性能な物になるだろう。今は兎も角、敵の情報が欲しい。」

そこまで言って当の本人が失神しているのに私は気づく……、
全く、私の思い通りには動いちゃくれないか……。
神はよっぽど私の事を試したいらしいな。

「そうだな……少年がこの様子ではまだ時間が掛かりそうだから先に私の推測を話そう……。
 賊……盗みを本業とする者達はこの際あまり問題は無い、問題は死霊術師と魔物を使役する別勢力。
 その者達がここの特産、没した竜の心の臓腑だったものを手に入れたがっている。
 そこまで話せば解ると思うが、没した竜の復活と使役が目的だと私は睨んだ。
 そうで無ければ、其れ同等の魔物の呼び出しと使役。これが実行に移されれば……考えたくも無いな……」

闇が迫る空の下、私は一人焦っていた。周りの者達も数人話しが解った者達が居たが、
私の思い過ごしだと思われたのだろう、目立った行動を取るものは居ない。

152 :マイノス代理 :2010/08/22(日) 21:09:05 0
「マイノス・・・マイノス・・・いないのか・・・?まったく、あいつは存在感がないんだから
書置きをしておけって何度言えば分かるんだろう。ん、手紙が置いてある。いきなり現れたってことは
なんだマイノスいるんじゃないか!書置きの方が存在感あるんだからそうしてくれって言ってるのに!」

「・・・空気じゃないよ!・・・っは!ゆッ夢か・・・ここは・・・?」
僅かに影が薄くなったような気のする少年は目を覚ました。どうやら里にある家の一室らしい。
懐にトパーズの指輪があり目の前にイーネとカナ、そして数人のエルフがいて極め付けにイーネの
>全く、たかが存在感減ったくらいで気絶する男がいるかネ!?イーネちょっと呆れたネ。
という言葉に夢の元凶は事実であるということが確定してしまった。

事態が飲み込めていない所にイーネとカナの話が進んでいる。どうやら件の鉱山の話らしい。
手近な人物に話をかいつまんで聞くとマイノスはこっそりシルフを呼び出す。術の確認をしなければ。
(シルフ、君はどんな術を覚えているんだい?それを聞いておきたんだけど)

シルフ(ああ、それなら怪物の吐息とか温度系の攻撃を和らげるヤツに、風の障壁を張って攻撃を
防ぐヤツ、あと癒しの風を吹かせて仲間を回復させるヤツさ)
(えーと、空を飛べたりしないの?せめて攻撃魔法とか)
シルフ(おいおい人間じゃないんだ、そんな野蛮なものは修めてないよ。まあ、これから覚えるかも
知れないけど、最初から空を飛ぶのはジンとかサイフィスみたいな大御所じゃないとまず無理だよ?)

マイノスはシルフに礼を言って返すとうな垂れてしまう。自分でなんとか覚えるしかなさそうだ。
指輪のサイズが大きめだったので手甲の上から人差し指にははめることが出来た。それにしても
なにやら大事そうな話をしてるのに誰も気にも留めない所を見ると早くも「対価」の影響が出始めているみたいだった。

153 :イーネ ◇pNvryRH4rI:2010/08/23(月) 19:55:51 0
「なるほど…確かにその可能性は十分にあるネ。
そういえばカナ、こんな話知ってるネ?ちんぽこっていう…」

そう切り出し、イーネは語り始めた。
ちんぽことは魔術により駆動する土人形の総称だ。術式はやや複雑だが材料の大半はその辺の岩などで済み、しかも極めて丈夫であるため昔から戦争などで重宝されてきた魔導兵器でもある。
素材とそれに応じた複雑な術式を用いる事で更に強力なゴーレムを生み出す事も可能であるため、場合によっては金属や宝石などをふんだんに使う事すらある。
龍骸石ゴーレムはそのハイエンド…およそ考え得る限り最も強く高価なゴーレムだ。
素材の希少性はもちろん、骸から龍の魂の残滓を引き出すべく構成術式の一部に死霊術を用いたりと、とにかくコストと制御のはいいけど難しさで知られている。
しかし、それを補って余りある程に龍骸石ゴーレムは強力だ…一機あれば国ひとつ滅ぼす事すら可能であろう。
…故にその製法は、禁術として封印されているという…。

もし万が一、あの地下で秘密裏に製造されているなら話の筋も通る。
隠れて禁術を行うにはちょうどよいし、材料を運搬する必要もない。カナ達が遭遇した死霊共も、同じ術者によるものだろう。

そこまで語ったところで、イーネは唐突に思い出す。いつか酒場で聞こえた話…>>38はまさか…!

「まぁ、確かめるすべはあるネ。これを使えば…ネ」

そう言って懐から取り出したのは、おそらくは巨大な爪か牙の一部であっただろう、鋭く尖った石の欠片。
あの地下で何とか運良く拾えた、龍骸石の欠片だった。

154 :イーネ ◇pNvryRH4rI:2010/08/23(月) 21:29:06 P
「なるほど…確かにその可能性は十分にあるネ。
そういえばカナ、こんな話知ってるネ?龍骸石ゴーレムっていう…」

そう切り出し、イーネは語り始めた。
ゴーレムとは魔術により駆動する土人形の総称だ。術式はやや複雑だが材料の大半はその辺の岩などで済み、しかも極めて丈夫であるため昔から戦争などで重宝されてきた魔導兵器でもある。
素材とそれに応じた複雑な術式を用いる事で更に強力なゴーレムを生み出す事も可能であるため、場合によっては金属や宝石などをふんだんに使う事すらある。
龍骸石ゴーレムはそのハイエンド…およそ考え得る限り最も強く高価なゴーレムだ。
素材の希少性はもちろん、骸から龍の魂の残滓を引き出すべく構成術式の一部に死霊術を用いたりと、とにかくコストと制御のはいいけど難しさで知られている。
しかし、それを補って余りある程に龍骸石ゴーレムは強力だ…一機あれば国ひとつ滅ぼす事すら可能であろう。
…故にその製法は、禁術として封印されているという…。

もし万が一、あの地下で秘密裏に製造されているなら話の筋も通る。
隠れて禁術を行うにはちょうどよいし、材料を運搬する必要もない。カナ達が遭遇した死霊共も、同じ術者によるものだろう。

そこまで語ったところで、イーネは唐突に思い出す。いつか酒場で聞こえた話…>>38はまさか…!

「まぁ、確かめるすべはあるネ。これを使えば…ネ」

そう言って懐から取り出したのは、おそらくは巨大な爪か牙の一部であっただろう、鋭く尖った石の欠片。
あの地下で何とか運良く拾えた、龍骸石の欠片だった。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1282220799/28

155 :マイノス代理 :2010/08/23(月) 22:56:10 0
一通り話終わったのを見計らってマイノスは他の人に自分が聞き漏らした話しの細部を教えてもらった。
龍骸石のゴーレム・・・そういえば以前に街の酒場でそんなことを話している人がいたような気がする。
確かイーネと初めて遭遇したのもそこだったはず。僅か数日のことなのに随分と昔のことの様に思えて、
緊張した空気の中にも関わらずマイノスは思わず笑ってしまった。

慌てて取り繕ったが周りからは奇異の目で見られてしまう。下手に誤魔化すの逆効果と踏んで彼は
正直にイーネとの出会いを懐かしんでいたことを話した。呑気だと言う声も上がるが誤解はされずに
済んだようだ。そしてイーネが懐から取り出した石を見て今度は自分があっと声を上げる。
>「まぁ、確かめるすべはあるネ。これを使えば…ネ」

「それってまさか、龍骸石じゃあ。あの中でよく手に入りましたね?」
イーネはこれを使って何をか確認するらしいが皆目見当がつかない。
「でも確かめるって何をですか?龍骸石ゴーレムの所在ですか?それとも術士の居場所?
あ、もしかして安全な龍骸石の埋まってる場所ですか?それなら何か納得です」

次から次へと捲くし立てて軽く顰蹙(ひんしゅく)を買うと、彼は押し黙った。実を言うと少し
目だって起きたかったのだ。イーネは英雄かなんかと言ったがはっきり言って英雄になる前に自分が
気付かれなくなる可能性のほうが高い。だから下手にでも出しゃばろうと思ったのだが。
(あれ?印象付けるならさっき誤解されてた方が良かったのか?)

そんなことを考えながら、今度はカナの方を見る。ここの所ただでさえ良くない顔色が死人みたいに
なっていることを始めは疲労のせいだと思っていたがどうやら心労もあったようだ。そうとは知らずに
一人ではしゃいでいた事を思い出すとマイノスは彼女に対して申し訳ない気持ちになった。

156 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/24(火) 13:30:48 0
私の中に眠る毒の脅威の真意は鉱山内でやった溶解では無い。
同じ血だが、まぁ強いて言うならばアレは戦闘向きでは無く威嚇程度の物だとしておこう。
それでも土壌を汚染してしまう、とんでもない毒物の塊だ。
前に言ったように溶解成分が含まれてるのでは無く、毒の余りの強さに触れた物が耐えられないのだ。
陰陽五行にて金属製の術の中でも特異中の特異、と言うより私にか扱えない術。名付けて「黒死蝶」。
本来の用途とは正反対位使い道が違うが、その効果は絶大。
見た目は一匹の黒い蝶、何であれそれに一度でも触れれば触れた部分から黒い痣の様な物が広がって行き、
全身に及んだ時その者は体が砂の様に崩れつつ死を迎える。その際苦しみは一切無く風になる様に死を迎える。
元々の術式は自分の特性を投げかけて、自分の特性を受け継がせると言うものだが
私の特性を他人が受け継いだら……まぁ、言わずもがなって所かな……。
しかし、コレは場にも影響する為使ったが最後、
その場は私の特性を継いだ猛毒と呼ぶにも烏滸がましい程の人が立ち寄れない場になってしまう。
正直、汚染するのは気が引けるが、最悪コレを使う事も考えて置いた方が良いな……。

そんな事を考えているとイーネからの見解が出てくる。
正直思っても見なかった答えだ。いや、そこまで至る発想が私には無かったと言うべきか……。
金属製の私にとってはゴーレムとはかなり身近な存在だが、イーネが言う龍骸石ゴーレムと言うのは初耳だ。
敵の情報が絞られていくが、その情報は決して優位で立てる様な物ではない、
解けば解くほど、敵が強大である事が解り、軽く絶望すら覚える。
出来れば完成前に防ぐのが一番なんだが、敵が何処まで術式を進めているかが問題だな……。
さてはて……どうした物かな……。

私は再び思考を巡らせるが、答えは出てこない……いざって時に役に立たないな私は……。
するとイーネが懐から何かを取り出した。尖った石の欠片であった。
話から推測するにコレは鉱山の産物である一部だろう。魔術師でも無い私にはそれはただの石ころにしか見えないな……。

「ふむ……。察するにコレは鉱山での産物の一部である様だな…。
 しかし、コレをどうやって使うのだ……?」

イーネに解を聞こうと言を発したが、途端に少年が喚きたてる。
内心焦っている所に子供の癇癪の様に騒ぎ、私の心に黒いざわめきが起きる……。ああ、コレが殺意と言う物か……。
私は少年の頭に拳骨を一つ落とすと、グリグリと拳を回す。

「気が付いたみたいだな少年。此れしきの事で気を失うとはな……。情けないぞ。」

157 :マイノス代理:2010/08/24(火) 19:06:58 0
>「気が付いたみたいだな少年。此れしきの事で気を失うとはな……。情けないぞ。」
「いぃだぃ!あ"あ"あ"でも通り抜げなぐてよがっだああ」
心配した矢先に相手の方から拳骨が振ってきてマイノスの頭に突き刺さる。良かった彼女は元気だ。
実際のところイーネのやろうとしている事にも、カナの心配することにもマイノスは今のところ
あまりよく分かっていなかった。

というのもマイノスには「強力なゴーレム」というものの経験がないことと、相手がゴーレムならという
油断とも余裕ともとれる気持ちがあったからである。ゴーレム、古くから魔法使いとは縁の深い土人形たちの
ことだ。体力がない、背が低い、必ずと言っていいほど心身のどこか病んでいる魔術士たちの活動のお供には
彼のような存在は必要不可欠だ。現に魔術師ギルドや魔法を習えるような場所では倉庫整理や授業の一環
としてゴーレムを作ることもある。

簡単に作れるものでもないがその実績から国の戦力として迎えられる程のゴーレムだが、製作者にもよるが
概ねゴーレムを操っている術士が弱点というのは今も中々改善されないという弱点がある。現に今も
いくつかの国でゴーレム製作のコンテストが開かれるなど製作競争が行われているくらいだ。しかしそのたびに
対策が練られるのは対術師のものばかりである。そしてマイノスも一応はそのノウハウは習っている。

ここのエルフ達から教えてもらった「悪ふざけ」や攻撃手段の乏しい自分でもなんとかできるという事からマイノスは
すっかりゴーレムには油断していた。そんな彼の懸案事項は鉱山で戦った犬やその術士との直接対決に絞られて行った。
「ああうう、すいませんん、でも、相手がゴーレムなら、術士倒しちゃえばお仕舞いなんじゃないんですかかかかか」

なおも頭をぐりぐりされながらそんなことを言う。マイノスはついでに、犬のほうが怖いと言うとやっと開放された
頭を大事そうに擦り始めた。

158 :イーネ ◇pNvryRH4rI:2010/08/25(水) 10:05:05 P
懐から取り出した龍骸石の欠片を、手の上でくるくると弄ぶ。
…この欠片一つでさえ、果たして銀貨何十枚分になるやら…
魔術素材や調合素材として様々な特性を持ち重宝されるばかりか、その希少性と神秘さから御守りにも用いられる。実際適切に加工すれば良い魔除けにもなるだろう。

「これは龍骸石の欠片…コイツには色々と変わった効果があるネ。
まぁ今は商売違うから説明は端折るケド、これに限らず魔術素材には“元々同じ物どうし引き合う”性質を持つのが多いのネ。
だから理論上はこれを媒介に龍骸石の状態と在処を探索可能な訳…だケド、そんな高度な魔法普通の人間には無理ネ。
…でも、ここはエルフの里…エルフならあるいは、一人くらい何とか出来るヒトいると思うネ。
それとも少年やってみるネ?イーネ期待はしないケドネ」

そう言ってマイノスに向けて差し出し、にやっと笑う。
情報収集と事前準備はやっておいて損は無いだろう。仮に探索術が成功すればコンパスより役にも立つ。
証拠があれば街に戻りギルドを通じて禁術を通報し、兵を呼ぶも可能だが一週間はかかるだろう。
万が一龍骸石が既に悪用され、魔術が完成していたら時間がない。

…それに通報なんてしたら、せっかくの儲け話がパーになる。邪魔者は可能な限り自力で排除しないと。

「少年の指摘は概ね正しいケド、現代の魔術は日々進化してるネ。
ゴーレム造りに何故死霊術なんて併用すると思うネ?例えば動く死体《リビングデッド》を核にすれば…自律駆動ゴーレムは技術的には可能って訳ネ」

でも、そもそも起動されていなければ術者を潰すだけで良いはずだ。
まさかあんな地下でゴーレムを動かしてはいまい。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1282220799/52

159 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/25(水) 18:13:31 0
ゴーレム……いや、陰陽五行では傀儡と呼ぶ。
六芳の力を借りる事が多い為知られていないが、陰陽五行の金属製と傀儡は切っても切れない関係にある。
人の作り出した者に宿る属性故に絡繰りや土人形も、属性土や木の力を借りる事もあるが金属製抜きでは完成しない。
むしろ、一般魔法より儀式魔法に限りなく近い故に解っていた、傀儡の弱点はその操作を行っている術者にある事を。
だがしかし、我々で簡単に思いつく事だ、相手も馬鹿では無い故に何かしらの対策を取ってくるだろう。
それも、推測ではあるがそんな禁術を行おうとする者達だ魔術のランクは当然高いだろう。
例えば一個大隊クラスの数を持つ死霊団や魔物団位は覚悟しておいた方が良いだろうな……。
すると少年が今さっき私が辿りついた思想にたどり着いた様だった。

「よく考えてみろ、我々が簡単に思いつくと言う事は相手も同じだ。
 まだゴーレムとは決まった訳ではないが、そうだとしたら当然何かしらの対策を立ててくるだろう。」

すると同族が長の元から鉱山の地図を借りてきた。
コレは複雑な回路にて成るリアルタイムな地図を生成してくれる装置と言った方が良いだろうな。
映し出してくれるのは上から見た図やら色々出せる高性能な物だ。
どうやら不変を好む長は、我々には手を貸してくれない様だ……。
幾分協力的なだけでも助かるが、やはり今は戦力が一人でも多い方が良い。
そんな事を思いつつ地図を広げると目を疑う様な光景が目に入った。
そう、それは幾つもの坑道が折り重なった鉱山の道だが、上からの図の方に問題の物はあった。
複雑に絡み合う坑道が大きな魔法陣を描いていた。コレは正直驚いた……。まさかこんな事までしでかすとはな……。
陣の形からこれは巨大な地属性の妨害結界。成程未だ誰もがだどり付けない、若しくは追い返される訳だ……。
坑道には道が崩れていた場所が多々あったがそれが人為的な物だったとはな……。

「ちょっと皆、コレを見てくれ」

魔法陣と化した地図を皆の目が届く様に広げ指を指す。数人が反応したが、やはり地味な反応しか返ってこない。
事は心配だが厄介事には関わりたくないと言う姿勢だ……。全く一大事だと言うのに情けない奴らめ……。

「皆には解らないだろうがコレは地の妨害結界。
 私が使うような儀式魔法の一種だ、まぁ私の使う物に比べれば規模が違うがな。」

ようやく私たちの推測が大きなる確率で肯定するような物が見つかり、
規模の大きさが解ったのか周囲の同族達は付き合ってられない等色々な事を言い放ち去って行った。
まぁ、国さえも滅ぼしかねないモノと戦おうとしているのだ、命を投げ出してくれと言っているのと同じだ。
戦力は多いに越した事は無いが、私はそれ故に強制はしない。むしろ、私一人で挑む覚悟さえあった。
私は此処が好きだ、そして私に関係した者達に少しでも多く生きて欲しいと思っている。
故に私はどんなに絶望的な状態であれ、諦めない。
しかし、全員去ったものと思ったが部屋には数人同族が残っている。
どうやら私と同じくこの地を守りたいと思っている者達が残ったようだ、全員去ると思っていたから有り難い!

するとイーネが産物の説明をしだした。どうやら同調の魔術を使って現状を知ろうと言う試みらしい。
同調か……出来ない事も無いんだがなぁ……私の術式でやると
持ち歩けない上に下手したら同調しすぎて襲いかかってくる場合もある……。
悩んでいると、残った同族の内一人がそれに名乗りを上げる。良かった、私以外に使える者が居たらしいな。
あっちは任せておいて、私は鉱山の魔法陣を有効的に崩す方法を考えよう……。

160 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/25(水) 22:57:40 0
カナから鉱山についての説明を受けていると何人かを残してほとんどの人がいなくなってしまった。
仕方が無いがこういう時ほど寂しい気持ちになることはない。どうやら奥に進むのに必要な道以外で
魔方陣を形成している道を埋めないといけないらしい。儀式魔法看破の為にやはり探索系の魔法は
必要不可欠だった。イーネが得意げに説明をしたあと意地の悪い笑みを浮かべてこちらに聞いてくる。

>それとも少年やってみるネ?イーネ期待はしないケドネ
「う、いやまあ、その・・・ごめんなさいできません」
イーネに打診されて流石にマイノスは鼻白む。探索系の魔法はその重要性にも関わらず
比較的下級の魔法に位置づけられている。だが蓋を開けてみれば上位の魔法に引けを取らない
習得難易度と下級魔法並みのアレンジの容易さという相反する二つの特徴を備えている。

探索系の魔法を覚えている事は魔法使いにとっては一つのステイタスであり、
探索系の術士は10人いても困らないと言われるほどにその種類は豊富である。そしてそれ故に
呪文書はどれも品薄であげく貴族の子弟が嗜みに買ったりするせいでマイノスあたりの
下っ端ではまずお目にかかれない。魔力切れの使用済みでも手に入ればかなりの収穫である。

そこに更にイーネとカナからゴーレムへの対策に対して説教まで食らってしまい言葉が無くなってしまう。
(それにしてもなんでイーネさんは自立駆動のゴーレムのことなんて知ってるんだろう。明らかに邪法の
知識のはずなのに・・・まあイーネさんだから深く考えないようにしよう)

安全第一で思考を切り上げた時、残ったエルフの一人から探索の魔法を使えるものが協力を申し出る。その時ふと
気付いてカナを見ればどこか嬉しそうだった。こんな顔もできるのだなと少年はしげしげとその横顔を眺めた。

161 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/27(金) 20:22:46 0
しかしあまりじろじろ見てもなんなのでマイノスはこの後のことをイーネに聞くことにした。
「でもイーネさん、カナさんの言った通りだと他の道を崩さないと奥まではそうそう
たどり着けないんじゃないですか、この魔方陣がある限りは。前も探索の魔法で
進めることは進めましたけど、けっこう時間がかかりましたし」

そう言って再度地図を見る。確かにちゃんと魔方陣の形になっており、一体どれほどの手間を
かけてコレを作ったのだろう。完全に鉱山に隠れ住む気で作ったに違いない。

(それにしても、随分と早い再挑戦になった。もう一度あの鉱山に・・・ん?鉱山・・・?)
マイノスは以前に鉱山内で穴に落ちた時の事を思い出す。そういえば結局何もわからず仕舞いだったが
あの魔術師とリーコという少女は何者だったのだろう。
(そういえばイーネさんにはまだ話してなかったな)

そう思うとマイノスはイーネに鉱山内で会った奇異な二人組みのことを話した。
やたらと怪力な少女と生命の研究をしているとか何とか言っていた魔術師が鉱山の中に住んでいた事と
彼らも死霊術による魔物やゴブリンたちに狙われているらしい事、だが何者かは見当もつかない事など。
「本当に何て言ったらいいか分からない人達ですが、たぶん敵ではないです。味方にもならなそうですが」
二人は今頃どうしているのだろうか。見捨てられた時に非難こそしたが、やはり無事かどうかは気になる所だった。

162 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/28(土) 17:17:29 0
ぐぬぬ……、敵も崩される事を予想してか、魔法陣を構成する殆どの通路は最下層から続いており、
進むならば一本道、地図もいらない簡単な構造に作り替えられているが、
数々の妨害が行く手を阻んで上手い事先には進めないだろう。
それに、一本道と言う構造上その道を崩して進む訳にもいかず、私の考えはそろそろ煮詰まってきた。
すると、地図と睨めっこして唸っている私を気遣ってか、他の同族達が私に案を投げかけてきた。

「聖地魔術はどうだろうか?」

その案にため息を付きつつやれやれと言った様子で私は返す。
確かに聖地魔術は場に作用する魔術の内では最高の物だ。しかし、規模が違い過ぎる。

「それは私も最初に思いついたが、
 規模が違いすぎる故に上書きする以前に発動するすらも解らん……」

そう、上書きしようにも規模の大きさがまず規格外の物で、全く歯が立たないだろう。
だからとって陣破壊を使っても今度は通路が分断され進めなくなってしまう。
霊針を撃ち込みつつ結界を拡張させつつ進むことも思いついたが、やはり結界の規模により長くは持たないだろう。
使い捨て覚悟で何重にも張って進む方法が一番効果的だろうが、リスクが大きすぎる。結界が切れれば、追い返される。
地属性……弱点は陰陽五行なら木属性、六芳ならば風だな。弾き返すなら風、押さえ込むなら木って所だな。
ならば得意な陰陽五行での術式で木を打ち込んでやるか。

「そうだな、陣を崩すのは恐らく不可能に近い。
 故に木属性を地上から撃ち込み妨害の抑制を図ろう。としても完全には抑えられない。
 戦闘の可能性は十二分にある。長引くほど不利になる故に魔物との戦闘は出来る限り避けて通ろう。
 木属性を撃ち込むのはココだ。他は道が通っていてどうしても邪魔になってしまう。」

私は地図を広げ最下層を除いて通路と言う通路の通っていない中心と六芳星の角ではない開いた部分を指す。
それは、巨大な六芳星の上から五芳星を引く形を取った。多分この形が一番効果的だろう。

「準備が整い次第作戦に取り掛かる。それまで待機願おう。」

ふぅ……。人と話す事自体珍しい私にとって誰かに命令を下すと言う事は苦痛に他ならない。
待機と言っても私にはやるべき事が山程ある。決行までに整えば良いがな……。取り敢えずは一段落は越えたな……。
まぁ、同調の魔術の結果にも左右されるが今はコレでいいハズだ……。
ふと、地図から目を外し周囲を見ると少年が私の顔を見ている事に気が付く。

「ん?私の顔に何か付いているか?」

余りにも夢中になっていて何か異変でも有ったか……?自分の顔を触って見るが何処にも異常は見られない。

163 :イーネ ◇pNvryRH4rI:2010/08/28(土) 18:51:45 0
状況はあまり芳しくなかった。
龍骸石の残留魔力から測定した結果は限りなく黒に近いグレー…強力な魔術が完成したときに出来る独特の波形は観察されなかったものの、エルフたちが見たこともない邪悪な儀式が行われていることは間違いない…とのこと。
加えて鉱山に巡らされた魔法陣と…全く、何処の要塞に挑もうというのだこの一行は…と、イーネはため息をつく。

実は戦いは嫌いではないが、イーネの専門ではないと割り切っている。
古来から商人とは後方支援が関の山と、相場が決まっているのだ。
それに、壁となる戦士たちもおらずエルフらにも支援が望めない今の状況では、おそらくまともにぶつかって敵うような相手ではないだろう。
少々懐が痛むことを気にさえしなければ、この体に宿る切り札を使えないこともないのだが…。

「ヘンな二人組…ネェ。あ、もしかしたらイーネがあの時最下層まで転がり落ちたのって、そいつらの施した術でも干渉して隙間でも開いてたせいかもネ。
ホラ、この魔法陣…上から見たらよく出来てるケド、多分ちゃんとした積層構造にはなってないかもネ。
結界とは線、あるいは面で構成されるもの…立体で張るのは結構大変だと子供の頃聞いたネ」

二人組のことは気にはなったが、次はいつ会えるとも知れない相手だ。今気にしても仕方がないだろう。



「それにしても驚いたネ。話には聞いてたケド、龍骸石がここまで無茶苦茶な代物とはネ…」

先ほどまで、ただのくすんだ石にしか見えなかったうんちを手に取る。
ついでに…ということで、先ほどのエルフに少々磨いて貰い、さらに簡単な活性化の加工を施したのだ。
内側から淡く輝くそれは、手にしてみると驚くほどの魔力を秘めていることが感じられる。
御守りだなんて冗談も甚だしい。このままちょっとした魔道具にも使えるし、爆発でもさせたらさぞや派手な事になるだろう。使い方は色々だ。
……あ。つい勢いで加工してしまったが、これを持ってると商売的にはちょっとまずいかもしれない。というかまずい。もったいないがどちらかに譲ってしまおうか

164 :イーネ ◇pNvryRH4rI:2010/08/28(土) 19:36:10 P
状況はあまり芳しくなかった。
龍骸石の残留魔力から測定した結果は限りなく黒に近いグレー…強力な魔術が完成したときに出来る独特の波形は観察されなかったものの、エルフたちが見たこともない邪悪な儀式が行われていることは間違いない…とのこと。
加えて鉱山に巡らされた魔法陣と…全く、何処の要塞に挑もうというのだこの一行は…と、イーネはため息をつく。

実は戦いは嫌いではないが、イーネの専門ではないと割り切っている。
古来から商人とは後方支援が関の山と、相場が決まっているのだ。
それに、壁となる戦士たちもおらずエルフらにも支援が望めない今の状況では、おそらくまともにぶつかって敵うような相手ではないだろう。
少々懐が痛むことを気にさえしなければ、この体に宿る切り札を使えないこともないのだが…。

「ヘンな二人組…ネェ。あ、もしかしたらイーネがあの時最下層まで転がり落ちたのって、そいつらの施した術でも干渉して隙間でも開いてたせいかもネ。
ホラ、この魔法陣…上から見たらよく出来てるケド、多分ちゃんとした積層構造にはなってないかもネ。
結界とは線、あるいは面で構成されるもの…立体で張るのは結構大変だと子供の頃聞いたネ」

二人組のことは気にはなったが、次はいつ会えるとも知れない相手だ。今気にしても仕方がないだろう。



「それにしても驚いたネ。話には聞いてたケド、龍骸石がここまで無茶苦茶な代物とはネ…」

先ほどまで、ただのくすんだ石にしか見えなかった龍骸石を手に取る。
ついでに…ということで、先ほどのエルフに少々磨いて貰い、さらに簡単な活性化の加工を施したのだ。
内側から淡く輝くそれは、手にしてみると驚くほどの魔力を秘めていることが感じられる。
御守りだなんて冗談も甚だしい。このままちょっとした魔道具にも使えるし、爆発でもさせたらさぞや派手な事になるだろう。使い方は色々だ。
……あ。つい勢いで加工してしまったが、これを持ってると商売的にはちょっとまずいかもしれない。というかまずい。もったいないがどちらかに譲ってしまおうか。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1282220799/67

165 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/08/28(土) 22:19:35 0
>ん?私の顔に何か付いているか?
「いえ、ちゃーんと表情があるんだなって思っただけです。それも、怖くないやつで」
目が合ってしまいなんとかそれだけ答えるとマイノスはつい、っと目を逸らす。なんとか
気ますい気持ちを切り替えようとパーティの構成を考えた。

戦士3人組がいなくなり代わりにエルフの青年達が来てくれることとなった。しかし
鉱山内で即興で儀式魔法を構築しながら進むために以前より進行は遅れるだろう。なにより
戦士たちの方が頑丈そうだし、全員後衛型と来ている。マイノスは考えた。この後衛集団で
まがりなりにも前衛を張れるのはどうやら自分ともう2匹だけらしい。

魔方陣は地属性、シルフの加護を得て進めば道中の移動もいくらか楽になるだろう。魔物の位置も
分かるはずだ。本来なら精霊の3体同時召喚など彼自身のレベルを考えれば正気の沙汰ではないが
精霊のよく言えば柔軟、悪く言えばいい加減な性質がそれを可能にするだろう。キャクが鉱山内で
自分から離れすぎても行動できたのは魔方陣から放出される魔力をエネルギー源としていたからであろう。

そう考えれば召喚した後は鉱山内の魔力だけで彼らの維持ができそうだった。あくまで鉱山内での行動に限るが。
当座の方針が決まり、各人が散って行く前にマイノスはイーネたちに言う。
「それじゃ、戦士の代わりとまでは行きませんが、前衛は僕が勤めます。正確には僕たちが」

言って左手の手甲をかざすと見慣れた感のある饅頭(キャク)ともう一匹小さい球状のどこか玩具のような
物体が中空に現れる。大きさは人の頭を一回り大きくさせたくらいで色は全体的に紅白。どうも生物的な
感覚がせず妙な音を発している。
「こいつはライザー、キャクと同じく精霊化のできない精霊です。キャクよりも攻撃手段が乏しい分、キャクよりも
頑丈っていう分かり易いヤツです。」

ビビっという音を出したかと思うと目と思わしき部分が点滅する。挨拶のつもりらしい。極めて金属性寄りの電気の
精霊で他の精霊が実態化ができないのと違いライザーは逆に霊体のようになれない。マイノスもそのせいで
初めは魔物と勘違いしたくらいだ。

>あ、もしかしたらイーネがあの時最下層まで転がり落ちたのって、
そいつらの施した術でも干渉して隙間でも開いてたせいかもネ。
「できればそこを転げ落ちるのが最速なんでしょうけど、ないものねだりはできませんからね」
そう言ってマイノスは2匹を指輪に引っ込めるとその場で律儀に待機し出した。

【あまり悪戯がすぎるならシベリア板辺りに代理お願いするのもいいかも知れませんよ?】

166 :カナ ◆utqnf46htc :2010/08/30(月) 17:03:46 0
私は目が回る思いであった。私の薬箱を使う訳にもいかず疑似祭壇を用意する所から、
魔素となる草、陣の描いた紙を用意していった。
私が今からやろうとしているのは木属性の複数儀式を繋げて大きな術式にすると言う事をしようとしている。
しかし、それでも地形と場の属性を生かした巨大な魔法陣を押さえつける事も敵わない。
効果を半減出来れば幸運だったなと思える位の効果しか見込めないだろう……。
故に私は準備を怠らない。あらゆる不安要素を取り除く事に手は抜かない。
最終手段として敵と同じ様な、その名を呼ぶことさえも禁忌とされた"モノ"を呼ぶ事さえも躊躇わないだろう。
一国をも滅ぼす傀儡竜対、魔界の瘴気を振りまく毒竜、真面にぶつかり合えばこの里位は簡単に滅ぼすだろうな…。
まぁ、そうなって欲しくは無いからこうして挑もうとしている訳だがな…。

調査の結果傀儡とは断言出来ないが、現在進行中で何かの魔術が執り行われている様だ。
極めて高い確率で傀儡術式をしているのは誰が見ても明白である。
まだ、完成してないのは不幸中の幸いだった。完成していれば、それとの戦闘はまず避けられないだろう。
里の人を纏めて避難させる必要があったかな……?いやここは特殊な結界に覆われている。
長くは持たないだろうが、住民が逃げる程度の時間稼ぎにはなるだろう。

儀式魔法は場に効果を及ぼすものが殆どだが、
それ以前の儀式で良く呼び出されたモノ、そう、悪魔を呼び出す儀式が数多く存在する。
対価として魂とかを持っていかれたりするが、神や天使なんかより彼等は契約に忠実だ。
故に私は神の力を借りる、悪魔の力を借りる事の方が多い。彼等を直に呼び出すのは久々だがな…。
私は部屋の壁に白墨にて魔法陣を書き込んでいく、多分普通に生きているならば、まずお目に掛かれないだろう七芒星の術式だ。
魔素となる草を回路の紙と共に壁に張り付ける。そして、私は中心に薬箱から出した蛇の抜け殻を張り付ける。
すると、魔法陣に接した物が全て魔法陣へと吸い込まれ、代わりに犬位あるトカゲが姿を現した。
そう、他の儀式魔法と違って、使った素材を全て取られてしまうのだ。ああ、勿体ない……。
このトカゲは蛇の王と呼ばれ、恐れられた伝説の魔物バジリスクである。
見ただけで石化する眼は口の中に有り、視線に含まれる猛毒にて見た物を石に変えてしまう恐ろしい魔物である。
そのバジリスクは私を見るなり飛びかかってきた。その光景に周囲の者達は身構えたが、私は動じない。
なにせ、呼び出した張本人であり、そしてコイツの素性を知っているからだ。
バジリスクは嬉しそうに頬らしき所を私に摺り寄せてくる。蛇皮の感触が何とも気持ち悪い……。

「解った!久々に会えて嬉しいのは解ったから離れてくれ!」

私がそう言うと渋々と言った様子で離れて行った。
全く犬じゃ無いんだから……。もうちょっと蛇の王と言う名に恥じない行動を取ってもらいたいもんだ。

「知ってると思うがコイツはバジリスク。口の中に有る目には毒が含まれており、見たモノは全て石になる。
 その能力とは裏腹にコイツは臆病な性格をしている。石になりたくなければくれぐれも脅かしてやるなよ?」

するとさっきの返答か少年が私に話しかけてくる。どうやら私は笑顔でも浮かべていたらしい。
私は顔をぺたぺたと触りつつ表情の変化伺おうとしたが、当然だが自分では解らない。
失礼と言えば失礼な発言だが、私は表情の事を言われ慣れている故に何も思わない。

「ほぅ…。鉄仮面とも言われた私に表情が……」

薬箱から鏡を取り出すと無理に笑顔を作り出そうとして引きつった笑顔が完成した。
ま、まぁ良い、今はこんな事している場合ではないのだ!

「さて、急がねばならぬ故にそろそろ鉱山へと向かうぞ」

外は暗く危険が予想されるが、今は朝まで待っているだけの時間は無い。
我々は準備と言っても必要最低限だが、準備を済ますと再び鉱山へと出向いた。
さて、鬼が出るか蛇が出るかって所だな……。

167 :マイノス代理:2010/09/01(水) 04:41:33 0
おとなしくしているとカナが儀式魔法を発動させる。
予行演習かと思ってみていると魔法人からは大きな蛇が飛び出しカナに纏わり付いた。
その様子がどこか自分とキャクの関係に似ていたのでマイノスはそれほど慌てずにソレを見た。

やはり蛇だ、それも高位の魔物。マイノスはカナが悪魔と契約を交わしていることにも驚いたが
それよりも悪魔を召喚する儀式魔法を知っている事の方がはるかに意外だった。流石にエルフ、
人間から見れば昔話にしか登場しないような魔法も良く知っているということか。

(悪魔の召喚と契約か・・・そういえばギルドでは資格がいるんだったっけ)
彼はぼんやりと自分が一応席を置いているギルドのことを思い出した。精霊と比べて召喚にも
契約にも失敗した際のリスクが大きいこの儀式を、確かな手順と知識がない者が行った場合の被害は
どのような形にせよ大きくなるので儀式をするには面倒な手続きや付き添いが必要だと聞いたことがある。

(これだけできるってことはやっぱりすごい人なんだな)
感心しながらもカナから蛇の説明を受け距離を置くようにする。踏まないことと目を見ないことを心がける。
>「さて、急がねばならぬ故にそろそろ鉱山へと向かうぞ」

その声にマイノスは軽く伸びをしつつ席を立つ
思いのほかずっと早くなった再挑戦にマイノスはなんだかおかしくなり、つい笑ってしまう。
(さあ、今度はどこまでいけるものかな)
そう考えながらこの少年は、一行の前に連なって歩んでいく。

【>>165で勧めた矢先に自分がなるとかフラグすぎました】

168 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/02(木) 21:39:44 0
私は人間から見ればとても長い時を生きている。
昔から人との交流が多かった故に人が過去に生み出した魔術、体術を知っている。
私がまだ年少だった頃、まだ体に魔を宿している事を知らない人々は人ならざる者達から力を借りようと挙って悪魔崇拝をした。
今の魔法技術から見たら鼻で笑ってしまう様な粗末な物だが、当時の人々は苦労した挙句に辿りついた偉業だ。
そこから人々は短命である事を克服するかの様に目覚ましい発展を遂げた。
今では禁とされた物から日常で使う様な物まで、我等エルフの感覚で居たらあっという間に置いて行かれる様なスピードだった。
しかし、悪魔崇拝の者達は十字軍により徹底的なまで排除された。
それ以降は神や精霊から力を借りる様になって、目覚ましい発展はしていない。
故に私の思想は、人の生は生命の神秘等と言うが、人は混濁とした闇の中から生まれ光の元に還って行くと考えている。

……しかし、おかしい。
里近辺の森を歩いているハズが、周囲から生物の気配がしない。
地下で邪悪な術式が組まれているからだろうか?まるで墓地を歩いているかの様な錯覚に陥る。
いよいよ持ってキナ臭くなってきたな、こういう空気は正に今から最終決戦に行こうと言う時には相応しいな。
私は口寂しくなり煙草を取り出し、火を付けた。吐き出す紫煙がみるみる内に赤い色へと染まっていく。
どうやら周囲の空気は毒性を含む物らしいな……。最近魔術しか使ってないが薬師って所を見せてやるか。
そうそう、この煙草は空気中の毒に反応して変色する性質を持つ物だ。
色によって性質が違いが分かると言う優れものだ、赤はたしか魔性だったな……。
私は薬箱から缶詰の空き缶を取り出し、中に薬草を放り込んで咥えている煙草にて火を付けた。
これで中和と同時に煙を吸い込んだ者の解毒も出来る。私としちゃ瘴気は嬉しいが、他の者にしてみたら負でしかない。

そんなこんなやっている内に我々は目的の鉱山へと辿りついた。
我々が出会った時の雰囲気とは一遍し、今は死と言うイメージが色濃く漂っている。正直気持ち悪い。
魔物を含む生物は鉱山周囲には見かけなかった。と言うよりこんな濃い瘴気の中、生存出来るのは魔に生きる者しかいないだろう。
そろそろ、この処置だけでは打ち消せなくなってきたな……、仕方ない新たに作るか…。
私は薬箱から薬草と機材一式を取り出すと製薬を開始した。簡単な薬なら幾らでも作れるが、それだと瘴気を防げない。
それに私はこの瘴気が充満した空気を吸いたい!その思いのが強かった。
私が作り出したのは錠剤式の薬、体内にて瘴気の毒性を分解する効果を持つ私渾身の作だ。
その薬を皆に配ると私は次に地図を広げ同族に配置の命令を下す。
私が担当する中心以外は儀式形式ではなく連携を取る為に一般魔術方式で行われる。
疑似祭壇を置き、五行を書き込み、素材、回路を置き最後に銀の器は使わずに直に祭壇に水を掛ける。
急いで祭壇から距離を開け、元の場へと戻ってきた。天を貫くのではないかと思う物凄い地響きと共に六本の大木が姿を現した。
まるで巨大な木の祭壇みたいだな……。

「さて、概ね成功かね。」

私は六本の大木が立ち並ぶ前で再び煙草に火を灯した。
肺一杯に紫煙を吸い込み、吐き出す。あっという間に紫煙は赤へと変わり流れていく。

「さて、ここからは本当に死ぬかもしれない、逃げ出すなら今の内だ。
 今ここで逃げ出したとしても、私は追ったりしないし恨んだりもしない。」

しかし、その場から動く者は誰一人として居ない、
そりゃそうか、逃げ出す位ならばここまで付いてこないか……。

「愚問だったな……。入口は鉱山中腹のアノ横穴だ、あそこから最下層へ一本道で続いている。
 罠の可能性もあるので十分注意する事だな。まぁ、ちょっとの怪我なら私が全力にて治してやろう。」

169 :イーネ ◇pNvryRH4rI:2010/09/03(金) 00:47:06 0
「よくもまぁそんなモノ連れ歩けるネ…さすがエルフってやつかネ」

暗い森の道を歩きながら、イーネは呟く。
視線の先にあるのは、先程カナが出したうんこ…確か大便とか言ったか。
うんこは、イーネにとって余りにくさい。魔素をもって対象の構成属性を強制的に書き換え物質を石に変える…それは属性の相性が云々ではなく、もはや互いに干渉出来ない程離れ過ぎている。
物質界への働きかけに関しては、地に由来する属性が最も強いのだが、イーネの持つ風はそもそも物質としての意味をほとんど含まない。
この二つをきれいに結びつけるなど、それこそ砂漠の民でもなければ…。

などと取り留めもなく思いを馳せながら、イーネは上を向き空気を吸い込む。
先程から空気が悪い…完全な密閉空間でもない限りイーネの周囲の風は常に流動しているのだが、それでも追いつかない程に風が濁っていた。
おそらくは地下から漏れ出した瘴気によるものか…これでは普通のヒトならば体に悪影響が出るのも時間の問題だろう。
…と、其れを察したのかカナはその場で製薬を始め、出来上がったそれを配っていた。
瘴気を体内で分解する薬…それはそれでとっても高く売れそうで素敵なのだが、今回ばかりか素直に受け取り服用する。
体質故に時々合わない薬もあるのだが、作用を聞く限り問題ないだろう。
瘴気に冒される事はまずないのだが、濁った空気は大嫌いだ。

>「さて、ここからは本当に死ぬかもしれない、逃げ出すなら今の内だ。
> 今ここで逃げ出したとしても、私は追ったりしないし恨んだりもしない。」

「商売敵には容赦しないのがイーネのやり方ネ。イーネの商品を横取りした報いはきっちり支払って貰うネ」

そう笑いながら返す。
ついでに、この割に合わない働きに対する対価と迷惑料も奪わなければ。

……と、その時空気が変わった。
こちらへ向けられた漠然とした敵意の匂い。
エルフらの施した術への防御反応か、それとも地響きでも聞き咎められたか。

「…お客サンが来るネ。ほら少年、きっちり接客してやるネ」


横穴の入り口を睨みながら、懐から愛用の短剣を抜き払う。

微かな腐臭を纏い現れたのは、活きの良さそうなゾンビとでも言うべきか…ゴブリンを素材に用いたと思しき死霊兵達。
敵からの意趣返しという訳か、単なる屍体の有効活用か…あるいは前戦からの対策のつもりなのだろう。

170 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/04(土) 15:02:19 0
>>169
改変されてます。再投稿推奨、そしてドンマイです。気に病まないでくださいね。


171 :イーネ ◇pNvryRH4rI:2010/09/04(土) 17:06:04 0
「よくもまぁそんなモノ連れ歩けるネ…さすがエルフってやつかネ」

暗い森の道を歩きながら、イーネは呟く。
視線の先にあるのは、先程カナが召喚したトカゲ…確かバジリスクとか言ったか。
石化の魔物は、イーネにとって余りに縁遠い。魔素をもって対象の構成属性を強制的に書き換え物質を石に変える…それは属性の相性が云々ではなく、もはや互いに干渉出来ない程離れ過ぎている。
物質界への働きかけに関しては、地に由来する属性が最も強いのだが、イーネの持つ風はそもそも物質としての意味をほとんど含まない。
この二つをきれいに結びつけるなど、それこそ砂漠の民でもなければ…。

などと取り留めもなく思いを馳せながら、イーネは上を向き空気を吸い込む。
先程から空気が悪い…完全な密閉空間でもない限りイーネの周囲の風は常に流動しているのだが、それでも追いつかない程に風が濁っていた。
おそらくは地下から漏れ出した瘴気によるものか…これでは普通のヒトならば体に悪影響が出るのも時間の問題だろう。
…と、其れを察したのかカナはその場で製薬を始め、出来上がったそれを配っていた。
瘴気を体内で分解する薬…それはそれでとっても高く売れそうで素敵なのだが、今回ばかりか素直に受け取り服用する。
体質故に時々合わない薬もあるのだが、作用を聞く限り問題ないだろう。
瘴気に冒される事はまずないのだが、濁った空気は大嫌いだ。

>「さて、ここからは本当に死ぬかもしれない、逃げ出すなら今の内だ。
> 今ここで逃げ出したとしても、私は追ったりしないし恨んだりもしない。」

「商売敵には容赦しないのがイーネのやり方ネ。イーネの商品を横取りした報いはきっちり支払って貰うネ」

そう笑いながら返す。
ついでに、この割に合わない働きに対する対価と迷惑料も奪わなければ。

……と、その時空気が変わった。
こちらへ向けられた漠然とした敵意の匂い。
エルフらの施した術への防御反応か、それとも地響きでも聞き咎められたか。

「…お客サンが来るネ。ほら少年、きっちり接客してやるネ」


横穴の入り口を睨みながら、懐から愛用の短剣を抜き払う。

微かな腐臭を纏い現れたのは、活きの良さそうなゾンビとでも言うべきか…ゴブリンを素材に用いたと思しき死霊兵達。
敵からの意趣返しという訳か、単なる屍体の有効活用か…あるいは前戦からの対策のつもりなのだろう。


http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1282220799/109

172 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/04(土) 17:23:26 0
>171
同じなな板避難所内なので、
荒らしへの効果は無いかもしれませんが、こちらで依頼してくれれば受け付けますよ

【ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1283554316/】

173 :マイノス代理:2010/09/04(土) 19:23:58 0
鉱山までの道のりを今一度進みながらマイノスは顔をしかめる。
確かに空気は澱んでいたがそれとは別に自然と顔が歪む。それが瘴気と分かるほどには
辺りに濃く広まっている。とりあえず前列を蛇と隣り合いながら進むとカナが瘴気用の
解毒薬を製剤し皆に配り始めたのでありがたく飲んでおく。

「瘴気を飲み薬で中和するなんて聞いたことがないですよ。毒をもってってこの事かも知れませんね」
まだキャクもライザーも呼んではいなかった。問題の鉱山までは魔力を温存しておきたかったからだ。

(それにしても、昨日の今日ってくらい早すぎる再挑戦だなあ、まあ仕方ないけど)
マイノスは想像よりもはるかに大事となった今回の同行を早くも振り返っていた。冴えないお手伝いさん
生活から一転、文字通りの大事件に乗りかかることになったことにどこか嬉しさを感じていた。

もしかしたらもうこんな機会はないかも知れない。そう思うと足が少しだけ重かった。
そんな気持ちを知ってか知らずかカナが最後通牒を渡してくる、逃げるなら今のうちだと。
最初に答えたのはイーネだった。彼女らしい答え、そして今までで一番綺麗な笑顔が逆に怖い。マイノスはと言えば

「そんな風に言われたら余計帰れないですよ。もう少しだけ、お供します」
すっかり板についた弱り顔に苦笑を浮かべて告げる。

174 :マイノス代理:2010/09/04(土) 19:28:24 0
>…お客サンが来るネ。ほら少年、きっちり接客してやるネ
返事の直後にイーネからそう声をかけられ視線を追えば、そこには以前鉱山内で一戦交えて
葬ったゴブリン、正しくは元・ゴブリン達の姿だった。死霊となってここまで歩いて来たのだ。

「ふっ、アンデッドなんてそれこそ僕にだって何とかできますよ!」
心からの本音だった。攻撃魔法に乏しい自分でも何とかできる。いささか自虐的ではあったが
その事実がこの少年に自身を与えていた。余裕を持って呪文を唱え始める。

その内容は教会に縁のある者なら聞いたことがあるかも知れないものだったが、所々違っていた。
ゴブリンのゾンビ達に狙いを定めながらエルフの里で青年達に教えてもらったことを思い出す。
(アンデッドってのは上と下のレベルの差が激しい、下級の者は至極単純な命令しかこなせない、
それはつまり"生きている者を狙う"ことだ)

本来は肝試しの時に悪ふざけで使っていた魔法だそうで、屍霊術の代わりに死体を動かす為に作ったのだぞうだ。
「世界に満ちる僅かな生よ、死を奪われし者達に安らぎを恵みたまえ、リザレクション(もどき)!」
神聖魔法の中でも最上位に位置する蘇生用の魔法であるリザレクションはレベルの足りない者が使えばその結果は
ゾンビたちと大差はない。違いは本当に少しの間「生き物として生き返る」ことである。

このリザレクションの紛い物は初めからその失敗の結果を起こすために調整されており魔力の消費も微々たるもの。
ゾンビの一団に魔法をかけ何体かに効果があったのを見てマイノスは勝ち誇る。
「かからなかった奴にも一応チャームをかけますが、この共食いでどこまで減るか、見ものですね」
聖職者が見れば卒倒しそうな事をしつつマイノスは様子見を決め込んだ。

175 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/04(土) 19:55:47 0
>174
エラッタ 作ったのだぞうだ→作ったのはベンキだそうだ

176 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/04(土) 20:02:08 0
>174
エラッタ 作ったのだぞうだ→作ったのだそうだ


http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1282220799/122

177 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/05(日) 13:08:34 0
ああ、この瘴気の塊の様な空気……正直たまらんな……。木の儀式魔術で少し薄れてしまったが、その効能は未だ健在だな。
人が空気が美味しいと言う気持ちが解った様な気がするな……。
煙草も美味いが、こっちは違う味わいだ……。こってりとしてまろやかな味わいだ…。
ん?そんな事言っても解らないだと?まぁ、解るのは私だけで十分だ。
解かって貰おうとも思わないし、そもそも私以外の生物には毒にしかならないだろからな。
同時に煙草を吹かしているが、その味が霞む程瘴気は濃い。全く私の毒の汚染程じゃないがここまでするとはな……。
なんだか毒の汚染をアレだけ気にしてた私がバカみたいじゃないか……。これは、この騒動以外で主導者を一発殴ってやらないとな。

しかし、周囲はバジリスクに対しての印象は宜しくない様だ……。こんなに可愛いと言うのに何故だ……。
この蛇皮特有のさわり心地さえなければ、呼び出した時抱きしめていたかも知れないな……。
まぁ、彼等特有である石化の毒を畏怖しているのだろうな……。
この毒を保有している故に大量に狩られ、今や伝説となってしまったのだからな……。
あらゆる毒の効果を無効に出来る私だから可愛いと思えるが、通常の人が見れば正気を疑うだろうな。
今そのバジリスクは巨体を引きずるようにして私の後ろを必死に付いてきている。その仕草がなんとも言えない……。全く愛いやつめ…。
私は緩んだ顔をしている事に気が付き、両頬を叩いて気を引き締めた。死ぬかも知れないって言う戦いの前だと言うのに……。
しかし、この一団と共に居ると不思議と命の危機に出向いていると言う気もしない。
もしかしたら、本当に一国をも滅ぼす傀儡竜に勝てるかも知れないと言う根拠も何もない自信が沸いてくる。

私が発した忠告に対して、其々の返答が返ってくる。
イーネは何とも彼女らしい返答だ、ガラにも無くケタケタと笑ってしまった……。

「そいつは怖い、商売敵にならない様にしないとな。
 まぁ、そう言う私も内心穏やかではない……、せめて思いっきり殴ってやらないとな」

少年は…フン、少年が一番危険なんだがな……。まぁ、そう言う無手法な所は正直嫌いではない。
しかし、これからと言う命に死なれては私も目覚めが悪い。

「まだまだ青いな……。片意地になるのは良いが、その意地で死なない様にな。
 つまらない意地を張って死んだ者を私は多く見て来てる。」

178 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/05(日) 13:10:34 0
さーて、敵が御出でなすったか蛇が出るか鬼が出るか……。蛇は既にこっちにいるから鬼って所だな。
渦巻き型に凹んだ鉱山の中腹にある横穴から腐臭を漂わせた不死族となった、かつて打倒した相手であった。
アレは何かの当てつけだろうかね?……しかし、予想通りと言えば予想通りだな。少年が何かした様だが、些細な事だな。

「皆の物、石になりたくなければ前方を開けろ!」

私はありったけの大声で前方にて戦おうとしている者達に呼びかける。精一杯の大声出すなんて久々で頭がクラクラする……。
バジリスクの眼を早速使う事を理解した同族達は、そそくさと私の後ろへと回った。
その問題のバジリスクだが、不死族を前にして怯えて同族同様私の後ろへと回って様子を見ている。

「な、何をしているんだ……それでも蛇の王と呼ばれた種族か……。」

ため息を付きつつバジリスクを前へと出し、押し出すが直ぐ私の元へと帰ってくる。
うぐぐ……、そんな可愛い仕草をしても……む、無駄だからな……。仕方ない……御前に恨みは無いが……。
私はバジリスクを前に出すと、その可愛らしい尻尾を心が痛みながら思いっきり踏んだ。
女性の悲鳴を何倍かにしたかの様な声を放ち、バジリスクは大口を開けた。
そう、バジリスクの眼は両の眼とは別に口の中に有る。相手の生命力や時間を食べてると言われてるが実際には何も解ってはいない。
総じて変わらないのは、その眼に見られるだけで石へと変貌してしまうと言う点だ。
しかし、敵でしかも魔物とは言え恵まれない者達だったな……、呼び出された魔物に取って主は選べない、
彼らの意志は有って無いような物だ、しかし我々の前に立ち塞がるならば倒さなければならない。
石像と化してしまった彼等に痛む心を引きずり、気丈なフリをして石と化した彼等の一体に蹴りを入れて壊した。

「さて、進むぞ。我々には時間が無い」

179 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/06(月) 01:46:30 0
とりあえず構えてみたはいいが…さて、どうしたものか…
動く屍体というものは、愚鈍ではあれど肉体的な弱点は極めて少ない。
およそ人体の急所が機能していないのだ。接近戦で素早く確実に倒すためには、ヒトの形そのものを破壊し得る程の火力が必要だろう。
あいにくとイーネにはそんな馬鹿力はない。少数が相手ならともかく、群れを丸ごととなると少々手に余るのだ。

マイノスはどうやら群れを混乱させる魔術を行使したらしいが、どれだけ効果があるか…そもそも連中は最初から見境がない。
それに…こんなモノを繰り出す理由など、こちらに対する時間稼ぎとしか思えない。…つまり、ここで足止めされては敵の思う壷だ。
とにかく道を切り開くしかないと、イーネが駆け出したその瞬間

>「皆の物、石になりたくなければ前方を開けろ!」

突然響いたその声を受け、半ば反射的に大きく後方へと跳び退く。
器用にも空中で幾度も回転と捻りを加えつつ眼下に目をやると、先程の屍体共がバジリスクの視線を受け硬直し、そのまま石となる所だった。

「こりゃスゴいネ、でもカナ…」

軽い音を立て着地すると、振り返り言葉を紡ぐ。

「ソレの力は視界に効果を及ぼすものネ。
ここはまだ開けているから良いケド、坑内は狭く視界はあまり利かないネ。
それに下手に扱えば味方にも被害が及ぶネ、いくら強力でも…いや、強力だからこそ乱用には気を付けた方がいいネ」

そう言いつつ、悪趣味な石像をスイスイと避け歩き入り口に立つ。
…微かに風が流れている。結界が完全に施されているなら風が抜ける事はないはずであるから、おそらくは綻び始めているということ…つまり…

「確かにあまり時間はないネ。不本意ながらイーネが先陣を切るから、適当に援護をお願いするネ」

それにイーネ、そこなトカゲの視線より速く動けるから問題ないネ…などとさりげなく恐ろしい事を宣い、真っ先に暗い坑内へと飛び込んだ。

180 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/06(月) 01:50:52 0
さながら嵐の中を舞い踊る木の葉のように、両手の短剣を閃かせひたすら疾る。
坑内にも先程と同じような敵が徘徊していた。しかし、この狭い空間ではイーネの敵ではない。

その速度を最大限に生かして相手が反応するよりも早く接近し、ことごとく斬り伏せていく。
イーネの狙いは、とにかく正面の敵の動きを封じ無力化させることだけだ。面倒だからちょっと距離のある敵はスルーしているし、戦った相手にしてもとどめなど刺していない。
時に壁や天井をも駆け回り背後を取っては、一瞬で相手の目を、手足の腱を正確に断って、その機能を損なわせていくだけの戦法。
死霊だから痛みはなくとも、まともに動けない程に破壊されてはなす術がない。
芋虫のように転がった10体目のそれをイーネは踏みつけて、一同を振り返った。

「全く性格の悪い奴ネ。っていうか悪趣味ネ。自称悪の魔導師ってのは皆こんな連中なのかネェ…」

などと言いつつ、なおも食らい付こうと首を巡らせるソレの顎をゲシゲシと蹴り付けている。
ついでにその口元に微かに喜悦の色が浮かんでいるが、気にしてはいけない。

敵もおそらくはすでに最終準備へと入っているのだろう。
徐々に不穏な匂いが強まる空気を嗅ぎつつ、イーネは思考する。
これほど地下深くでの作業だ、完成したそれを地上まで動かすだけでも別に術式が必要なはず。
無難なところで坑道を崩落させて、地上まで一本道を作るか…万が一巻き込まれたらひとたまりもない。

それと…
あらかじめ分かってはいたが、実のところイーネは段々と本調子ではなくなっている。
さすがに地下深くだと風の加護が薄まるのだ。イーネの場合それはダイレクトに体調へと影響する。
魔力に満ちた風さえあれば傷すらすぐに癒えるこの体質が、ここに来て逆に悪影響を及ぼしていた。
…策はあるのだが、正直使いたくない。全力で戦う必要が無ければいいのだが…。

181 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/06(月) 22:26:24 0
後ろからカナに声を掛けられたにも関わらず下がり損ねたマイノスはその場で立ちすくんだ。
そういえば自分達は急ぎの用でここに来た事をうっかり失念していた。

後ろを振り向かないためにやむを得ず待つことにするが一向に何も起きない。もしや自分が下がらないせいかと
嫌な汗をかき始めた時、信じられないような絶叫が聞こえ思わず耳を塞いでしゃがみ込んでしまう。

なんて声を出すんだと内心で非難の声を上げながら目を開けると先ほどゾンビは全て石化しており
イーネとカナが何かを話しながら足早に仲間たちと鉱山へ入っていくところだった。
「まっ待ってくださいよ〜!」

折角いい格好をできると思っていたが生憎そんな暇はないらしい。皆に追いついた時に
暗い鉱山の中ではバジリスクの威力も半減と聞いて気をもう一度引き締めるとマイノスは指輪から
ライザーとキャクを呼び出すとイーネの傍に控えさせる。すっかり前衛と後衛が逆になってしまったが
この際仕方がない。召喚の折に自分への負担が少し増していることにマイノスは不安を覚えた。

(少しだけ負担が戻ってきてる、これはつまりカナさん達の儀式が上手く行ってるってことなんだけど・・・)
あまり上手く行き過ぎると今度はこっちの手数が減りはしないかという危惧が頭に浮かび上がるが
今は考えないことにする。その時イーネが進む速度を僅かに落としたのを見て彼はあることに気付く。

「イーネさん、こいつを使ってください。身に着けるだけでいくらか体の具合が良くなると思います」
そう言ってオパールの指輪を差し出すがちゃんと「貸すだけですよ」と言うのを忘れない。
「イーネさんは属性が服来て歩いてるようなものなんですから、シルフと一緒なら少しはマシになりますよ、
シルフ、イーネさんを頼んだぞ」

そう指輪に言うと暗い鉱山内でもはっきりと分かるほどにりんっと輝いた。初仕事が「同属」の
護衛という事に勢い込んでいるようだった。

「魔力はこの鉱山が持ってくれるからご安心を。嫌だと言っても付けてもらいますからね」
この少年にしては珍しく今回は譲る気配がなく、心配しているという彼なりのアプローチである。

182 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/08(水) 17:45:25 0
最近、毒の定義とは何なのか? を良く考えるようになった。
人に害なす物質の事を総称して言うのだが、私には毒に対して例外は存在しない。
毒なす物ならば細菌でさえ私の体には効果を及ぼさない。まぁ、毒塊の中で生き残れる細菌は少ないだろうな……。
しかし、我々が吸っている空気も命を燃やすと言う意味では毒と同じでは無いのか? 等の考えがふと過る。
もしかしたらこの考えが完成したら世界を根本から変えてしまうのではないか……。ガラにも無く途方もない憶測を浮かべてしまったな。
世界はルールや法則で固められている様に見えて、その実いい加減な作りをしている。
いや、もしかしたらルールや法則を作り出しているのは我々なのかも知れないな……。
今も昔も自らを縛るのが大好きだな、人と言うヤツは……。まぁ、真の自由なんて束縛より重いけどな。

私は考える……。武と魔、私にはその双方がまるで無い。
しかし、それでも魔物とやり合えているのは毒もあるが、文明の知恵に他ならない。
私が使っている儀式魔法だって、作り出す薬だって多くの歴史を元に作り出された物だ。
魔物は、私を含めた歴史と戦っているのだ。そこらへんの知恵も無い魔物には負けてやる気さえ無いな。

等と考えているとイーネから話しかけられる。
強力な力と言う物には必ずと言っていい程デメリットはある。
薬を扱う私にとってそれは重々承知している事だ。強い薬程リスクは高い物だ……。

「ああ、危険な事等最初から解っている。しかし、私が不死族に対して出来る唯一の攻撃手段でな……。
 気休め程度にしかならないだろうが、護符を渡しておこう。」

私は薬箱から呪文らしき文字と目のマークが描かれている札を取り出し、渡した。
護符の効果は石化耐性、バジリスクの視線を浴びて約数秒耐えれば良い方かな? と言える物だが無いよりかはマシだろう。

そこに少年が追いついてくる。丁度良い護符を渡しておこう。しかし、さっき少年は邪眼を耐えていた様な……ううむ……。
バジリスクは同様視線に石化を持っているコカトリスと同視されがちだが、蛇の王には視線を合わせたらと言う条件を持っていない。
伝承では同等の能力を持っていたり、地域によってまちまちである為、別種かと思っていたが、その所以を今ようやく解った様な気がした。
邪眼は遺伝子で継いできた耐性に左右されるらしい。それならば魔術的論点で指摘が無いのも頷けると言う物だ。
ある地域では毒であるものが、ある地域では平気で食べられていたり、毒と人体には非常に面白い繋がりが存在している。
おっと、護符を失念する所だったな。恐らく効果は無いと思われるが渡して置こう。

「少年よ石化に対する護符だ、意味が無いと思うが一応持っておけ」

183 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/08(水) 22:56:03 0
現在イーネとの指輪についての押し問答より遡る事少し、
カナからバジリスク用の護符を貰うマイノス。あまり意味はないと言われて
なんとも返したものか分からなかったので微妙に顔をしかめる。

先を行こうとした際後ろからカナの耐性における考察がこぼれていたのを聞いて彼は
小首を傾げる。自分に石化耐性などという便利体質はない。目を合わせずとも石になるはず
だという言葉を聞いて遅まきながらにぞっとしながら彼は自分が無事だった理由を考えた。

(視線の上にあるもの、でも僕は無事で地面とか視界にあるもの全てが石化してたわけじゃない。
咄嗟に精霊が視界から逸れさせてくれたわけでもない。とするとあの時僕がバジリスクの目には
映ってなかったってことか?そ、それってつまり見えてるけど見えてないってことでソレってつまり・・・)

風景 その一言がマイノスの脳に去来する。何の変哲もない地面や草木と変らぬ認識、、
そのおかげで命拾いしたとは言え複雑な思いだ。魔物側から見れば見づらいことになるが
それが何もシルフとの代価だけの効果とは思えなかった。

もしかしたら、他の精霊の代価もあいまって、それでバジリスクの目に映らなかったという
ことだったのかも知れない。当然だがキャクを除くほかの精霊たちは代価を求める。
そしてそれがエルフの里でシルフとの代価で卒倒した原因になっているのだが・・・・・・

(もしかしたらってこともある。カナさんは気づいてない。だがあとで
問いただす必要があるな。バジリクの効果範囲って奴を。その目に僕が映っているかを)

貰った護符を懐にしまうとずっと先を行くイーネの元へとまた忙しなく駆けて行った。
(もしも本当に気付いてなかったらどうしよう)そんな風にわが身をながら。

184 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/09(木) 07:42:19 O
エラッタ
×我が身をながら
○我が身を案じながら

185 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/09(木) 22:23:43 i
顔のすぐ横で精霊の光が瞬くのを感じ慌てて振り向くと、マイノスがシルフの宿った指輪を差し出しながら何事か話しかけていた。
…周囲の気配に神経を尖らせていたはずなのだが…一瞬ぼんやりしていたのだろうか。
動揺を気取られないよう誤魔化しつつ話を聞く…どうやら身を案じ精霊を貸そうとしているらしい。

「んー…確かにシルフが居れば本調子にはなるケドネ…んー」

言葉を濁しつつ渋々指輪を受け取る。
最初から気配には気付いていれば押し負けることもなかったのだが…。
どうなってもイーネは知らないネ…などと呟きながら指を通した瞬間、ボンッと軽い音がして指輪から光の塊が舞い上がる。
見ると、指輪に収まっていたはずのシルフが実体を得て楽しそうに浮遊していた。

「ほら、言わんこっちゃないネ、シッシッ!鬱陶しいネあっちいくネ!
イーネの体はただの属性持ちと言うより一種の霊媒質ネ…だから勝手に実体化させちゃうネ」

それもこれも、すべては受け継いだ血筋が悪いのだが…イーネは元気良く飛び回る精霊を払いつつ溜息をつく。
しかし、確かに体は若干軽くなった。シルフとの共鳴により風の力場が安定したのだ。
共鳴は指輪を介して発生している為、精霊は幾らか離れても問題ないだろう…と、イーネはシルフを振り切るつもりで先を急ぐ事にした。


入り組んだ坑道を進むうち、やがて自然洞窟のエリアに入ったらしい。壁面は石灰を含んだツヤのある岩肌に変わり、空気に若干の湿気を感じる。
おそらくは最下層までもう一息だろうか。これまでの道中では、時折生きてたり死んでたりするゴブリン達が現れていたのだが、さっきから全く気配がない。

ふと振り向くと、何時の間にか少し先行し過ぎていたらしい。追ってくる気配はあれど、入り組んだ洞窟に遮られ誰の姿も見えない。
つい気が急いていた、そう自省し進む速度を落とす。…長いこと一人旅ばかりしていた為だろうか、イーネは人と足並みを揃え歩く事に不慣れだった。
誰より身軽なイーネは、ただ歩くだけでは体力を消耗する事すらない。風向きさえよければ馬より早く進めるだろう。だからこそ、こうして人と歩く機会すらほとんどなかったのだ。

後ろを気にしつつ進んでいると、突然視界が大きく広がった。
どうやらちょっとした広間に出たらしい。手にした弱い灯りでは、壁や天井を完全に見通す事が出来ない。
さて、どちらへ進んだものかと一歩踏み出した瞬間、全身が総毛立った。

ここは危険だ

直感だけを頼りに大きく跳び退く。轟音。
次の瞬間、先程までイーネが立っていた場所に、大木の幹のような巨大な腕が振り下ろされていた。
暗闇の向こうから伸びたそれは、岩で構成された特徴的なフォルム…明らかにゴーレムのものだ。しかし、その腕を備える程の巨体はどこにも見えない。
考える暇もなく、更に跳躍。
次々に飛来する巨腕を紙一重で避ける。どうやら腕は二三本ではないらしい。
当然ではあるが短剣で捌き切れる攻撃であるはずもなく、イーネはただ回避に専念し周囲を見渡す。このままではいつか削り殺されるだろう。
…やはり、ゴーレムの姿は全く見えない。敵の罠である事は明確だ。ならば仕掛けがあるはずなのだが…

「…ッ? まさかこの広間全体をゴーレム化したんじゃ…」

186 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/10(金) 17:40:12 0
この世界には数々の伝承、神々、そして悪しき者達が存在する。
ある所では物達全てには神が宿り、その名を制して魔を成す術式もあれば、
完全に内側の力、まぁ生命と言えば解りやすいかな? それを変換して魔を成す者達も存在する。
霊に魔を投げかけて、餌をやる代わりにその力を貸して貰う術式、
私の術式は遠くの物に神が宿る思想の国から生まれた術式。故に各地の伝承の違いから矛盾にぶち当たったりもする。
私の考えでは神も伝承も悪魔も魔物も全て人々が信ずる事で生み出したのではないかと思っている。
どこかの唯一神も信ずる者は何とやらと言っている事だしな……。一途な信ずる心はそれを真実にする力を持っている。
私が扱う術式が生まれた遠くの国では、人が信ずる力が神の力と成るらしい……。
故に私は一つの考えには捕らわれない様にしている。人の進化も魔術の成す効果も伝承一つで真逆の認識に成り得るからだ。
それには毒も同じ事が言える。毒草も周りの環境一つで無毒に化したり、猛毒を発したりする。
要するに周りの環境が魔を作り出すとも言えるだろう。その他にも人に眠る可能性のカギ、孤児受容体が絡んでるのかも知れないが、
コレを切り詰めるとキリが無いのでこの辺で考えるのを止めて置こう。

……まてよ。
蛇の王の毒は耐性が有ったとて性質を差し替える物だからどんな強力だとしても数秒しか持たないハズ……。
それは私が配った護符が物語っている。コレはそれなりに強力な耐性護符なんだがな……。
強力と言って売った矢先に蛇の王に石にされたのを多々見たな……。
そこでふと蛇の王の毒が私に効かない所以を思い返してみる。そう、私は魔から見て物質として見られている故に効果がないのだ。
……だとすると少年も物質認識に成ったのか? いや、それは無いだろう。現に彼に魔は健在している。
そうなると霊に存在意義を食われたのが関係してきそうだな……。……成程、そういう事か…。
全くこの世界は何処まで曖昧に出来ているんだ。蛇の王の毒は主観認識に関係する物だったとはな。
すると邪眼は相手を生物と認識して初めて効果を成す事になる。邪眼はもっと高度な術式だと思ったんだがな……。
……そうだな、この程度の蛇の脳がそんな高度な魔術形式を持っているハズが無かったな。
毒は強力だが、それを送り出す手段が手抜き構造と言う訳か、まるでコブラ種が持つ毒牙の構造だな。
しかし、主観認識に関係するならば、やはり護符の意味は余り無いな……。

187 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/10(金) 18:06:43 0
さて…と、余り近接戦闘は得意じゃないが、そんな事を言っている場合でも無いな……。
不死族の数は増える一方だ。それに有効だと思ったが狭さが災いして、蛇の王の毒は思う程の効果を上げてくれない。
聖水でも撒いてやろうかと思うが、そんな事したら私も只では済まないだろうな……。
相手が人型であるだけ感謝した方が良いだろうな……。
私は不死族へと肉弾戦での戦いを挑んだ。まぁ、挑んだと言うより来るのを待ったと言うべきだろうな。
考えも無しに突撃してくる不死族の一撃を交わし、足を払って頭を持って全体重を使って首をへし折る!
不死族とは言え、構造的に首をやられてしまえば電気信号は伝わらず、頭だけ動く哀れな人形の完成だ。
しかし、コレは対一でしか出来ない為、果てしなく効率が悪い……。
武器に効果を及ぼすエンチャントとかの魔術は有るには有るが、私の魔術形式は一定の場に効果を及ぼす物、
拠点防御なら大いなる効果を持っているが、今は絶えず無く動いていて、しかも留まる時間さえも無い……。
強いて言うなれば、今私の見せ場は殆ど無いって所かな。後方支援もあまり出来ないし……はぁ…無力を感じる……。
見せ場なんて今まであったかどうかも怪しかったがな……。

等と考えているとすっかり私達は取り残された様だな……。
何処から敵の罠が飛んでくるかも解らない場所で単独行動とは聊か褒められた行為ではないな…。
まぁ、先を急がなくてはならない故に他を気にしている余裕等無かったのだろう。
暫く進むと開けた場へと到達した。む、突然こんな場になっているとは…これは罠を疑った方が良いな…。
入口付近で慎重になっているといきなり鳴り響く轟音。い、いきなり吃驚するじゃないか…!
連続する轟音に目を凝らすとほぼ中心部分で降ってくる石柱を避け続けている人影があった。
良く見えないが、多分イーネだろうな……。単独行動の末に罠にかかってしまったと言う所だろう。
しかし、彼女には悪いが、どう言う効果なのか見れただけで幸運だ。効果が解れば対策が立てられる。

相手は地、しかも連続する罠だ。ならば弾き返す風では無く、押さえつける木の術式…。
いや、それだと祭壇として使った薬箱を此処に置いて行く事になる……。ううむ……。
悩んでいると同族から木属性を使って術式を行うと提案された。私の形式とは違い音声に出して行う術式は簡単で良いな……。
それ以外に方法が思いつかず私はその提案を飲んだ。はぁ……つくづく役に立たないな私は……。
同族が呪文を放つと、壁から天井へと根の様な物が張り巡る。それと同時に天井から落ちて来ていた石柱の動きが止まる。
内部まで根が浸食して魔術的に使い物にならなくなったんだろうな……。

188 :名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/10(金) 21:52:40 0
そろそろスレも半分程埋まりましたので、僭越ながら避難所を作成致しました
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1284122609/

189 : ◆fLgCCzruk2 :2010/09/10(金) 22:46:31 0
「は、はや、早すぎっる、はあ、はあ」
急いで追いかけたつもりだがイーネは段違いに速かった。周囲の敵に対応しながら進んでいる
のは同じなのに差は広がる一方だ。入り組んだ鉱山内ではすぐに見失うので正確には指輪の
反応を追ってるのだが

(こんな形で訳に立てるつもりじゃなかったんだけどな、でもいいか)
マイノスは分類するなら魔術師の部類に入るが身体能力は決して低くはない。むしろ無駄に高いと
言っていい程である。理由を挙げれば外回りが多い事とギルドに登録のされていな術士は閲覧が可能な呪文書
自体が少ないのでその分別のことに時間を割くことになる。マイノスの場合は他の者の体力作りや実践訓練に
付き合う事が多かったのだ。能力的には神官戦士に近い。

息を切らせながら何とかイーネ追いついたと思えば凄まじい地響きに今度は体勢を崩してしまう。
何事かと思えば部屋の中をイーネが飛びまわりソレを追う様に大きな柱が降り注いでいる。どうやらこの部屋自体が
巨大なゴーレムみたいだと他のエルフが教えてくれる。そして彼らはカナに2,3何かを話すと木属性の魔法を
唱える。どうやらこの部屋の機能を封じるつもりらしい。数人の同時詠唱に彼も息を呑む。

上手く併せた呪文の威力は跳ね上がり部屋全体に根を巡らせることに成功する。見事というほかない。
しかし直ぐに根が悲鳴を挙げ始める。強引に機能を復活させるつもりのようだ。
(どうする、部屋全体がゴーレムなんてどう攻めれば・・・ん?部屋がゴーレム・・・)

あることをひらめいた彼は咄嗟に叫んでいた。
「ッ!柱だ!柱に核がある!」

根拠はなかった。だがゴーレムを作るには必ず動力となる核があり、動力が別に有るならそれを受信するための
仕組みが施されているものだ。マイノスは部屋の隅の支柱と先ほどまで降り注いでいて、今は根に絡め取られ
硬直しているソレを指差して自分は広間の入り口近くの支柱へと走る。

190 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/10(金) 23:33:54 0
鉱山内の崩落を防ぐためだけに設えられたその柱はにしかし明かりを灯す場所とは
別の魔術文字のようなものがいくつか刻まれている。知識がない者が見ればここに
魔力で火を灯すとのだと誤解していただろう。

現にマイノスもここまでで何度か目にしたカナの儀式魔法の陣に見たものとよく似た文字である事と、
ギルドや教会で見かける同じ目的のモノと異なっていることで当たりを付けたのである。

足元の石を拾って乱暴にその文字を傷つけるとさっきまで根を引きちぎろうとしていた柱が勢いを弱めたように
見えた。どうやら出たら目にはならずに済んだようだ。だがまだ柱は残っている。

「やった、当った!イーネさん、やっぱり柱がッ!」
振り向いた瞬間、目の前に先ほどの巨大な腕とも柱ともつかないものが振ってくる。イーネはひょいひょい
避けていたが自分の前に来るとまるで違う。風圧と吹き上げられた砂を叩きつけられて倒れたところに
もう一つ振ってくる。逃げられない。

「キャク!」
そいつは入り口のあたりでじっとしていたが彼が名を呼ぶとすっと消えていなくなる。
その後にもう一つの柱が降ってきてマイノスを下敷きにする。彼の体は柱の影にすっぽりと
納まっていた。誰の目にも直撃したように見えた。もうもうと煙る中その柱は動かず少年も
最早助かるまいという空気の中、その声は聞こえた。

「・・・間に合った!間に合いました!今ちょっと出られませんけど、何とかなりました。大丈夫です!
僕には構わず残りの柱の文字をを注意しながら消してってください!こんな罠もありますから!」

心底慌てたマイノスの声はどこから聞こえてくるか判別はつきづらいが、自分の無事を伝えると
今度は注意を促すして沈黙した。
(ホントになんとかなった止まりだよ、まいったな)

「ここ」からでは周囲の状況もわからない、今の少年は仲間の無事を祈って待つしかなかった。

191 : ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/10(金) 23:45:37 0
>>189
は私です。
本当に何度もすいません。つまらないミスばっかりして

192 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/11(土) 11:32:09 0
広間に飛び込んでから約3分、幾度も叩き付けられる石の腕を、イーネはまだ避け続ける事に成功していた。
四方からランダムに襲い掛かるそれを、周辺の空気の動きを知覚する事で対応し回避する。大振りな攻撃であるからこそ可能な神業だ。
しかし…

「さすがのイーネでも、これは精神的にきっついネ…ッ!」

横凪に振るわれた攻撃を、咄嗟に転がり辛うじて避ける。今のはちょっと危なかった。一撃でも命中したら命に関わる。
しかし、無理な姿勢で転がる事で隙が出来た。これでは次の攻撃に対応し切れない…!

……アレ?
罠の動きが停止していた。よく見ると何時の間にか周囲には縦横無尽に根が張り巡らせられ、腕の動きが封じられているようだ。
ギリギリのところで、エルフらによる術が効果を発揮したのだ。思わぬ所で助けられてしまった。

しかしそれもつかの間、ブチブチと根を引きちぎる音を立て、広間全体が振動する。
この程度では抑え切れないと言う事か。
時間はない、罠を再び一時停止させた程度ではこの広間を駆け抜ける事は不可能だろう。何とか破壊しなくては先へ進めない。

その時、ようやく追いついたらしいマイノスが、近くの支柱に向けて駆け出した。何事かと見ると、近くの石を抱え上げ柱に…なるほど、そう言う事か。
部屋の天井や壁面を形はそのままにゴーレム化する術式など見たことはないが、何となく想像はつく。おそらく扱いとしては、ここはさながらゴーレムの腹の中なのだろう。
ゴーレムを構成する術式は、直接岩肌に書き込む事で効果を発揮する。一般的なゴーレムなら形成の段階でその紋を内部へ包み込むのだが…この場合、内部とはここを示す。

見渡すと、柱は全部で4つ。一つは今マイノスが………あ。
防御機構でも働いたのだろうか、他よりいち早く呪縛を逃れた腕の一本がマイノスの立っていた場所に突き立っていた。
…なむなむ。イーネ少年の事は三日は忘れないネと祈ろうとしたところで、そのマイノスの声が何処からか響く。
チッ、しぶとい少年ネ。イーネこれからは少年の事をゴk…おっと、振動が止まった。呪縛は解けたらしい。

短剣を二本抜き払い、奥に見える二本の柱に向けて駆け出す。
飛んで来る石腕の回避は最小限に、ただひたすら駆け抜ける事に専念。

「シルフ!」
一言短く叫び、短剣を投擲する。アイヨと軽快に答える声が響き、襟元から光を纏った精霊が飛び出した。やっぱり振り切れていなかったか…。
投擲された短剣にシルフが重なり、風を纏って加速する。弾丸の速度に到達したそれは、見事に支柱へと刺さり刻まれた文字を破壊した。
それを目で追う事もせずイーネは更に掛けていた。入り口から遠い二つの柱は、カナ達からでは距離がありすぎる。
更に迫り来る攻撃を前方に跳ぶ事で避け、そのまま柱へと飛び付く。そして、両手で頭上に構えた短剣を力一杯振り下ろした。

193 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/12(日) 01:36:03 0
部屋全体に根が張って其処で終わったかと思ったが、意外としぶといな……。
私は、自分に出来る事等無いと思っていた故に煙草に火を付け、
待ちの体勢だったがその光景を見て気が付いたら煙草を噛み砕いていた。
酷く苦い味が口の中に広がる。私にとってはコレでも美味い方だがな……。

どうやら、このゴーレムには古典に乗るような術式で作られているらしいな……。
人に取っての安全装置、魔術文字での「心理」の文字列だろう。
頭文字を消すと、意味は「死」となり土人形は形を保っていられず崩壊すると言う物だ。
私はその辺りは変に冷静だった。普段ならば目先に捕らわれ易いのだが、今回は幸いにも考える時間だけはあった。
多分相手も本気で足止めに掛かるならば、こんなわざわざ解いてくれと言わんばかりの配置はしないだろう。
その真意は別の場所にある、考えろその真意を……。……そうか、謀ってくれたな……。
この罠は二段仕掛け、仕掛けを解かす事で部屋のゴーレムを崩壊させて道を塞ごうと言う物だろう。
私は脇目も振らずに部屋の向こう側へと走る。張り巡った根よ、今しばらく持ちこたえてくれよ……。

「コレは二段式の罠だ、部屋を攻略させる事で自らで崩壊させる様に仕組んである。
 簡単な防護結界を張るから急いで出口へと駆け抜けてくれ」

対面側の壁まで走ると私は針銃に札を刺し、それを壁に打ち付ける。
次も走って壁に打ち付ける。そうやって次々に壁に札を撃ち込んで行った、丁度頭上から見ると五芳星の形になっているだろう。
天井から木が軋む様な不穏な音がする……いかんな…急がなくてはな……。
私は札を撃ち込んだ丁度中心に薬箱を置くと、何時もの銀の皿と回路を薬箱から取り出し祭壇となった薬箱の上に置く。
次に私は御神酒と呼ばれる神に捧げる酒を銀の皿に流し込む、当然私が触れない様に細心の注意をしてだ。
皿の穴から回路に御神酒が垂れると、札から札へと光の線が結ばれ五行の形に成った。
簡単な防護結界だが、下手な魔法障壁よりかは強度があるだろう。
そう考えている間も結界には木で抑えられなくなった巨大な腕とも取れる岩の塊が降ってきている。
くっ……崩壊する前に破られそうだ……!今はまだ辛うじて機能しているが、果たして何時まで持つかが問題だな……。
私は最後の一本となった柱を残し、入口に残っている同族を先へと行かせる。

さて、後は石柱の下敷きになっている少年だな。全く世話を掛けさせやがって……。
私は石柱を持ち上げようとするが、勿論の事ビクともする訳も無い。くそっ……非力な私がこんなの持ち上がるかっての……。
くそっ、コレだけは使いたくなかったが……。私は自分の掌の肉を食いちぎる。激しい痛みが掌を襲い血が溢れ出す。
間髪入れずに石柱に掌を押し付ける。鉄が焦げ付く様な異様な香りが辺りを包み込み、石柱が私の血に耐えられなく溶け出す。
元々は土石の塊だけあって分解は早く、脆くなった所に蹴りを入れて叩き折った。早くもしんどくなってきたな……。

「少年よ出口へ急げ。間も無く此処は崩れ去る」

私は上着で脇をきつく締め上げると、ふらつく足で最後の一本となった柱へと走った。
未だ微かに出血している手で柱の文字分を撫でると、その部分だけが綺麗に溶けて心理の文字は死へと変貌を遂げた。
激しい揺れと共に根を押しのけて天井が崩壊を始める。くっ、思っていたより根が役に立ってくれなかったな…。
私は命の次に大切な薬箱を回収しに広間の中心へと走る。結界は消えるがまだ本核的には崩れていない。間に合ってくれ!
急いで薬箱と皿を拾い上げると、酒が飛び散り腕を広範囲に渡って火傷の様な跡が……。この位で済んだ事を神に感謝しないとな…!
さて、結界が消えて土砂が本降りになった中私は言う事の効かない足を引きずり出口へと向かう。
細かい石はもう数えきれない程命中し、血の滲んでいる所もあったが私は一心不乱に前を目指した。

私が出口に到達すると狙ったかの様に巨大な岩が退路を塞いだ。これも仕組まれた事だったか……?
まぁ、良い生き埋めよりかは遥かにマシだろう……。私は薬箱から数少ない毒物を取り出すと口に含み咀嚼した。
次に口に含んだそれを吐き出し、傷口に刷り込んでその上から上着をきつく巻き付けた。
これで多分、これ以上の出血はしないだろう……。気を落ち着かせる為、煙草を取り出し火を付ける。

194 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/12(日) 18:11:32 0
キャクを自分の影に潜らせてそのキャクに自分を飲ませ、また柱によってできた柱自身の影に
攻撃を少しだけもぐらせることで何とか地面にめり込む程度で済んだがはまってしまい
動けなくなってしまった。だが自分の意図は皆に伝わったようで一安心だと思った。

しかしそんな楽観視は自分を助けに来てくれたカナの一言によってあっさりと崩れ去ってしまった。
「え、この揺れって仕掛けが止まった音じゃないんですかっ!」
もたもたと体勢を直すと出口まで急ぐと、途中でカナを追い越してしまい何の冗談かと思ったがよく見れば出血している様だ。

部屋の崩落を間に合わないかとも不安になったが何とか最後にカナが出口までたどり着く。
自分を助ける為に血を流したのであろうことはすぐ分かったが、この短い間に出血した回数を考えればとても
看過できるものではない。「カナさん!」叫ぶとマイノスは急いで彼女の元に行くと回復用の魔法を唱え始める。

一体何の役に立つのか自分でも疑問だったが今の自分で覚えられる一通りの属性で一通りの回復魔法を修めておいて
本当に良かったと彼は思った。効果が重複しているものも属性が異なるだけでいくつもある。

だがその中の一つがカナの傷を癒すことに使えている。この間の魔法を急拵えでアレンジしたものだ。
以前にカナを治療した際は偶然回復させる事ができたが彼女の体質を考えれば彼女の為の回復呪文は必要不可欠だった。
単純に傷を治すだけの魔法にも殺菌作用は含まれる。当然だ、傷を治すのだから。

わざわざシンプルに完成された魔法から一部欠陥を生じさせるなど至難の技だったが文字通り蛇足となる詠唱を継ぎ足して
効果を抑えることに成功した。本来なら威力や高かったり制御の難しい魔法に施す細工だが駆け出しの少年が知るはずもない。

「またこんな怪我して、僕なら大丈夫だったんですよ!もっと自分の身を考えてください、お願いですから・・・
女の子なんですから、傷が残ったらどうするんですか。まったく、ほんとにもう・・・」
心底傷ましそうな表情を浮かべて自分より遥か目上の生物に言ってのける。その言葉に周囲のエルフ達もキョトンとしている。
心配のあまりそう言ってしまったが、幸か不幸かそれをからかわれるという事はなかった。

195 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/13(月) 22:02:28 0
崩壊の始まった広間を駆け抜け、イーネは誰より早く出口に到達していた。この騒ぎの中きっちりと投げた短剣を回収しているあたりイーネらしい。
カナが少々怪我をしたようだが、それ以外は皆それなりに無事なようだ。
マイノスが治療に当たるのを尻目に、洞窟の奥へと眼を凝らす。…とりあえず近くには待ち伏せの気配はなさそうだと一息つく。

しかし…敵を配置し罠まで仕掛けるとは、敵は余程酔狂な奴らしい。まるでダンジョンの主のつもりか。
しかし、そうまでして邪魔を排したい理由もあるのだろう…例えば大掛かりな術式は、少しの邪魔すら命取りになりかねない。概ねそんなところだろうか。

先程罠を排除した事は、おそらくすでに敵に知られていると考えるべきだろう。
そして退路も絶たれた…ここから先はどんな危険があるとも限らないし、逃げ場もない。
覚悟を決めねばならないな…そう考えて微笑む。
全く、こんなのはガラじゃない。イーネはいつだって商人だ、どんな事態も商人らしく対応せねば。

「そろそろ最下層な訳だケド…どうするネ?
敵の数も戦力も未知数、こちらは手勢がたったこれだけで多分正面衝突ネ。
場所柄派手な爆破術とかは使えないしネ…っていうか先に言うケド大事な龍骸石駄目にしたらイーネがタダじゃおかないネ」

まず向こう百年はウチの遠洋漁船ネそれから…などと、凄味を込めて笑う。
イーネの目的はあくまで龍骸石の奪取。丈夫な品な為ゴーレムの骨格に用いた程度ならまだ再利用が効く…というか発掘の手間が省けて丁度いいくらいだが、戦闘で万が一破損しては目も当てられない。
とは言え最強の名を冠するドラゴンの骨だ。実際この洞窟を潰す程の爆破術でも傷一つ付かないだろう。

「相手が魔術師一人なら何とでもなるネ…でも」
……嫌な想像とは得てして当たりやすいものだ…
「接近型の手下でも連れてたら厄介ネ。あんな雑魚ならともかく、イーネは正面きっての戦闘は苦手ネ」

196 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/14(火) 20:54:09 0
退路が断たれたのは私にとっては良い事だ。
局地防衛戦のが得意な私にとって、背後から敵が来ないと言うだけでかなりの戦術幅を利かす事が出来る。
問題は戦いが終わった後どうやって戻るかって事なんだが……。まぁ、何とかなるだろう。
此処までの痛手を負わせてくれた故に首謀者を只では許す訳にはいかないな。デスポーションを怒らせた事を後悔させてやろう……。
まず激痛のみで死なない毒を投与し、次はギリギリ致死にならない毒を使い私が全力で治療する。
死ぬ方が数段マシと思える状況にしてやろうかね……ククク……。

紫煙と言うより紅煙を吐き出す。大分瘴気が濃くなってきた様だな、最下層が近いって事かね……。
次なる分析を行う為に気を落ちつけようとしていると、少年より呼びかけと云うより叫びに近い声を掛けられる。
いきなりそんな声掛けないでくれよ……吃驚するだろう……。
私の元に駆け寄ってくると、回復呪文を唱え出した。助け出した時の傷に罪悪感でも覚えているのか……?
呪文を聞いていると何処となく呪文がおかしい詳しくは解らないが、わざと遠回りをしている様な……。
私は前回の事を思い出す。魔から見て物質認識の私にとって生命魔術が効くのがおかしかったが、成程形状復元系の物だったらしい。
このままでも問題は無かったのだが、早く治るに越した事は無いな。

礼を言おうとした矢先、叱咤を受ける。化物とも呼ばれた私を女として見てくれるのか……。
予想外の言葉に意志とは別に顔が熱くなり、紅潮するのが解るようだった。それを隠す為にそっぽを向くように急いで先行した。

「クク……クカカッ!青二才程度に心配を受ける私ではないわ!」

ああ、動揺からか口調すら変になってるな……。多分誤魔化しは効かないだろうがな……。
私は動揺を振り払うかの様に一気に煙草の紫煙を肺へと送り込んだ。さて、切り替えてこれからの事を考えよう。
幸い、この騒動に紛れて何処かに逃げ出すと思っていたがバジリスクもちゃんと付いて来ていた。
臆病な性格からか同族の後ろに隠れているが、その双方共が互いにビクビクしている状態だった。
その光景が妙に可笑しく笑ってしまいそうになるが、私は必死にそれを抑えた。

そんな中、イーネの言葉が意識を現実へと引き戻してくれる。
そうだ、我々は死ぬかも知れない境地に立たされていたのだったな……。言葉通り戦力は足りなさ過ぎる位であった。
多少の利点はあるが、勝てるかどうかは正直分の悪い博打も良い所だな。
不死族の襲撃が無い所を見ると、下級種族は打ち止めとなったのだろう。こっちとしては喜ばしい事だ。

「産物である石の無事は正直保障出来ないが、完成してないなら然程の傷は付けずに奪取する事は難しくないだろう。
 それに私だって物理戦闘は苦手故に接近戦が予想される時は結界を張ろう。」

197 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/15(水) 17:58:01 0
イーネが正面きっての戦闘は苦手と言ったのを聞いてマイノスは思わず半目になる。
「イーネさん、僕よりずっと強いのに何言ってんですか」
そう言ってしまった後とても怖いナニかを言われるとも思ったが鼻で笑われただけで済む。

まあ、自分自身がそもそも魔術師よりはという注意書きが追加される程度のものなので
恐らく大概の職業からは「そりゃお前よりかわね」と言われても当然なのだが。

そんな中治療途中だったカナが強がりながら先へと進んでしまう。傷は塞いだからいいものの
また無茶をしやしないかとマイノスは心配になった。彼女の逃げ足はそんなに早くないし。

そうこうする内に鉱山の最下層に近づいていく。邪魔はあったものの迷路の効果がなければ
あまり時間のかかる道のりでなかった。もうじき訪れると思しき戦いにやや緊張していた
彼は、その時妙な音を聞く。

瘴気は大分濃くなって来ている。魔物の声かと耳を澄ますと違う、どちらかと言えばうめき声だった。
それはアイテムが指し示さない横穴、まさかとは思い左手をそこにかざすとコハクの指輪から
ラックが赤い糸を体に結びながら奥へと飛んでいく。

「あ、こら!ラック!」
縁結びの精霊が飛んでいく。それは詰まる所自分と縁のあった誰かがこの先にいる。
他の皆に誰かがいることを告げて急いで自分の精霊を追いかける。勝手に出てこられたせいで
また少し消耗するが今はそれを言っている暇は無い。

うめき声に近づいて行くとそこにまた別の、先ほどの部屋と同じくらいの大きさだが
小部屋がいくつにも並べられた場所に見つける。不潔な異臭が鼻を突く。ここだけ
少しだけ瘴気が薄い。小部屋の中を見るとそこには多くの屈強だったであろう人々がやせ衰えて
閉じ込められていた。

「これは・・・一体・・・あ、あなたたちは!」
そこにいたのは以前にパーティを組んだ際に崩落で分断されて以来消息の掴めなかった戦士達だった。
声をかけるとまだ微かに反応がある。まだ何人か息のあるものがいるかも知れない。

「待っててください、あの、もう少しだけ待っててください!」
焦り、動揺しながらマイノスは急いで仲間たちの下へと知らせに駆け戻って行った。

198 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/16(木) 12:37:56 0
「本物の武術家はこんなモノじゃないネ、イーネの最高速なんてものともしない…文字通りの化け物ネ彼奴らは」

マイノスの言葉に対し、イーネは笑ながらそう返し…少し、遠い目をする。
イーネに対し最低限の武術を教えてくれた人物は、武術家であり自称トレジャーハンターの旅人だ。
ただ速いだけでは追いつけない、まるで肉食獣のような力強さと激しさを感じる剣捌き…風を引き裂く爪にはとても敵わぬネとイーネは語った。
とは言え、その感想は一撃で大岩を断つレベルを基準に捉えての前提ではあるのだが。

マイノスに少し遅れ、イーネも空気の異変に気付き口を噤む。
少し語りが過ぎて集中力を欠いていたらしい、咄嗟に身構え駆け出したマイノスの後を追う。
普通に歩いていては気にも留めない程の、小さな横穴を抜けて奥へ。
…そこには、異様な光景が広がっていた。

瘴気の混じる饐えた空気、闇の中で時折蠢き、思い出したように呻きを上げる幾つもも人影…それはまさに牢獄だった。
一番手前に転がっていた人影が枯れた声を絞るようにあげる。見覚えのある皮鎧、やつれてはいるが同行していた戦士A間違いない。…いや、Bだったか?

「くっ…久しぶりだな、俺らは御覧の様さ。他の連中も皆、罠にかかって上の穴から落ちてきたんだとよ。
おっと気をつけろ…この手枷、生気を吸いやがるみたいだ」

見るとその手足には、奇妙な紋様の描かれた不格好な土塊が絡み付いている。おそらくは地属性の拘束術だろう。
見渡すと奥に居る連中のほとんどは…暗くてほとんど見通せないが、どうやら身なりからしてあの盗賊達らしい。

「こんなにヒト集めて生気を…?
なるほどネ、ようやくカラクリわかってきたネ。つまりイーネ達は最初から…」

イーネは語る。
思えばこんな寂れた廃鉱を再調査するなんて不思議であった。広域探査には手間も金もかかる…最初から何らかの情報が流されていたのだろう。
おそらく最初に龍骸石を発見した何者かは、こうしてそれを求めてヒトが集まる事こそ望んでいたのだ。
ダンジョンを形成し来る者を待ち構え、それを捕えてはこうして生気を採集する。…すべては龍骸石ゴーレム製造のために。

とにかくまずは救助が先決だ。
盗賊達など助ける義理はないが、流石にこの状況で見殺しにするのも忍びない。
幸い一行には回復魔法を使えるエルフも複数人いるし、薬師もいる(毒薬専門だが)。
イーネは手近な戦士に近づくと、手枷に触れないよう注意しながら破壊を試み始めた。

199 :バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/09/16(木) 17:23:32 0
マイノスが見つけた横穴地点から本道の数百メートル程先の地点。
最下層近くの岩壁に囲まれた通路。後方での岩の動く音、柱の崩れる音に誘われる様に
明かりもなく生き物の気配も無い地点でゆらりと変化が現れた。闇に溶け込んでいた誰かが姿を現す。
背は低いがガッシリとした体型。はち切れんばかりの筋肉を内包していると一見で分かる肉体。
そして独特の髭飾りをつけてた髭を蓄えている人型生物・・・失われた種族ドワーフだ。

名前:バート=デルベア
種族:ドワーフ
性別:男
年齢:325歳/人間年齢30歳
肩書:リーピング・モーラー
容姿:125cm/86kg ドワーフにしては短く切りそろえた髭。角刈りチックな髪型。
装備:武道着、要所要所にプロテクター&いかつい手甲(結構傷が入っている)
   バックパック、腰には鎖で繋がれた一組3本の棒
特技:暗殺格闘術。ドワーフ的身体特徴(夜目が利く、目利きが効く、抵抗力が高い)
好き:関節のある相手。組み付ける相手。
嫌い:関節の無い相手。組み付けない相手。
備考:100年前に現れた魔物達により潰されたドワーフ集落の生き残り。
   生き延びている仲間を捜して世界を放浪する事100年。
   未だに同胞には会えず、同胞を探し各所(主に鉱山後や洞窟)に出没している。

バートはドワーフにしては短い髭をジョリジョリと撫でつつボソリとつぶやく
「ウルサイやつらが、後ろから来ておるようじゃの」

バートは同胞を探しこの鉱山に来たのだが、バート一人での探索だ。
影に身を同化させ、誰にも気づかれず潜行するのがよいと姿を隠してここまで来たのだが・・・
この状況では静かに同胞探し等と言ってられる状況では無くなってしまった。
響く足音、声から人数等を予測をしつつお出迎えの挨拶を考えていた所、ウルサイご一同は横道に向かっていった模様だ。
気配を消しバートも後から横道に入る。そこにあるのは自然を使用して牢獄とも言えるおぞましい場所であった。
気配を消しているのを忘れ、無意識のうちにバートはうっかりしゃべってしまった。

「ここにも同胞はおらぬようじゃのう…」

200 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/16(木) 18:37:24 0
魔術の回復と医術の回復は違う。
結果としては同じ結果を生み出す物は多々有るがその実態は違う物に他ならない。
魔術思想を回路としか思っていない私にとって神々の祝福とか〜の癒しとか言うのが訳が分からない。
伝染病とか流行病が流行った時には回復魔法は何の意味も成さなかった。
生命のエネルギーを与えたり、原型復元したりの物だから直接原因を取り除ける物じゃない、
故に病気に対しては応急処置位にしかならないと言う訳か……。
解毒の魔術にも同じ事が言える。ある程度の毒ならば治せるが強い毒となると解毒不可能だ。
その間には何が有るのか解らないが、その御蔭で錬金術師とか我々薬師が儲かっている訳なんだがな……。

血が止まった様なので上着を傷口から外し、羽織る。予想通りボロ布も良い所だったが無いよりはマシだろう。
しかし、此処は生物の気配所か、生物が居たと言う痕跡すらすらない。
何故だ…? いわば此処は最終防衛ライン。一番激しい戦闘が起こると思っていたが、その実何も無い。
とんでもない罠でも待ち受けているのではないかと心配になる。

すると少年が何か見つけたらしく、壁に開いた穴に入っていく。何か見つけたのか……?
しばし待っていると少年が慌てた様子で飛び出してくる。
どうやら、此処に来る時に同行していた戦士達が生きていたらしい。
コレは驚いたな、死んだとばっかり思っていたから、まさか生きているとは……!

少年の後を付いて横穴に入ると予想以上に酷い光景が広がっていた。
まるで家畜の様に……いや、あからさまに命等どうでも良いと取れる処理を見るに家畜より酷い。
私はルーペを取り出すと、戦士の様子を見た。目を覗きこんだり、口の奥を調べたり。
ふむ、どうやら衰弱しているようだが命には別状は無いようだな。心配だった瘴気の浸食も其れほどでも無い。
……後は、この手枷だな。どうやら触れた者の生気を魔道の力に置き換える物らしいな。
私は気兼ねなくそれに触れる。何? 触れて大丈夫かって? 私は魔から見て物質認識だ、生物に対する物が効くとでも思ったか?
ピンセットで描かれている魔術文字の意味を削る事で別の意味へと変えていく。
意味が挿げ変わった枷は自滅でもするかの様に崩れていった。うむ、上手くいった様だな。
その調子で私は次々と枷を外していく、意外と疲れるぞ……コレ……。

全員の枷を外す頃には同族達の回復呪文の効果で、最初に救出した戦士等は目覚ましい回復を遂げていた。
全く人間の回復力には多々驚かされるよ……。

そこでイーネが自らの推測を語ってくれた。
それは、此処に人をおびき寄せ、此処で作られる物の糧にしようとしていると言う事だった。
そう、我々は最初からこの事件にハメられたのだ。これこそ本当に心穏やかと言う訳にはいかなくなったな……。

等と話していると入口方向から声がした。よく聞き取れなかったが腰の針銃を抜き放ち構える。
彼は見た目は戦士風だが、ミニチュアの様に小さかった。な、何だ……? 地の神様か……?
い、いや、私はこの種族の事を知っている。古の魔物との戦争により魔術を扱う者が居なかった為火力で押し負けた種族だ。
戦争以前は良く見たが、今や絶滅してしまったのかと思う程見てなかったが生き残りが居たのか……!
私は針銃をゆっくりと下すと、頭を下げた。

「いきなり武装を向けて失礼した。御見受けした所、貴方は古に滅んだ小人族の生き残り…で間違いないか?」

201 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/16(木) 20:14:09 0
呼んできた仲間は迅速にそれぞれ自分達の作業に取り掛かって行く。
怪しげな手枷もイーネとカナは下を巻く手際で外しては次に移っていった。

一通り基本は押えてはいたし、それなりの妙な場数の多さから奇怪なアレンジを施した術も
いくらか習得しているが、思考ではなく現実に現れている魔術要素、とりわけ儀式や工作
といった者への対応はこの若い術士には如何せん早すぎた。

(魔法は身近なものだっていうけど、文字通り目に見える形でこんなに見たのは初めてだな)
自分達の意識の延長程度だった儀式魔法、有名ではあっても見る機会の少なかったゴーレムの技術、
今回の一件で嫌というほど見た魔法でない魔法の数々は彼には大きな経験であった。

そしてつい棒立ちになっていると後ろから声が聞こえる。思わず悲鳴を挙げそうになるがなんとか
堪えつつ頭を抱えて前へ飛び込む。時機としては遅いが非難行動に移るまではいっちょまえだった。
急いで振り返ると小柄、というより小人が姿を現す。一体いつからいたのかマイノスにはわからかった。

小人にしては随分厳つく歴戦という言葉がしっくり来る風体だった。動けない、既に攻撃範囲に
入ってしまっていると思った。内心で冷や汗を垂れ流しているとカナが小人に話しかける。
どうやら相手のことにいくらか見識があるようだが安心はできない。イーネの説明から何事かを
考えようとしたが、目先の男の反応の方が今は遥かに気がかりだった。

マイノスはキャクとライザーに転がりながらカナとイーネの足元まで転がるよう声には出さずに
命令すると眼前の相手をもう一度警戒しなおした。
「まさかここの見張りとか黒幕の一人ですとか言い出しませんよね」
そうだと言って欲しく無いと思いながら聞いてみる。気づけばのどが乾いていた。

202 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/16(木) 21:39:10 0

………「急に背後取られたら誰だって敵だと思うネ、イーネ悪くないネ」………
後にイーネは、この時の状況についてこう語る。

その男が現れた時、イーネは入り口に背を向け手枷の相手をしていた。
客の要望に応じその場で商品の細工物や魔道具に手を加える事もあるのだ。この程度の解錠など造作もない。
先に気付いた二人からかなり遅れて振り返ったイーネの目に映ったのは、不審な小さい人影に向かって針銃を構えるカナと、情けなく頭を抱えたマイノスの姿だった。

………「状況判断なんて、普通はそれだけあれば十分過ぎるくらいネ。不可抗力ネ仕方のない事ネ」………
次の瞬間、既にイーネの姿は宙にあった。
そう高くない天井を反射板のように使った強襲、斜め上から落下を超えるスピードで繰り出した渾身の蹴りだ。しかし

…ッ、受け流されたっ!?

一度大きく跳び退き着地、それからようやく相手の姿をしっかりと目に収める。
小柄なイーネよりも遥かに背は低く、なんとも奇妙な姿…しかしその体が逞しく鍛えられている事は一目瞭然だ。

これは本気じゃないと駄目ネ…
既にイーネの意識からは他の仲間の状況などすっ飛んでいる。マイノスに至っては(実は結構前から)名前すら覚えていなかった。
イーネは懐の短剣ではなく、それまで一度も触れる事のなかった腰の短刀を引き抜いて構える。
妙に肉厚の刀身は、鋼とは全く異なる透き通った輝きを放っている。柄には何故か留め金が付いており、刀を握る指がしっかりと添えられていた。
…風水盤と同じ、風を司るその身に合わせた特別製だ。武器というより魔導具と言っていいだろう。

「見た所魔術師には見えないケド、お前がイーネの敵…せっかくの商売を妨害してくれた阿呆の一味かネ?
とりあえず迷惑料はその命をもって償うネ!」

問答無用とばかりに、イーネはバートに斬りかかった。

203 :バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/09/17(金) 21:22:08 0
一斉に自分に視線が向けられバートは一瞬止まってしまった。
はて…巧妙に隠遁していた筈…ん? 自分が、ぼそりとつぶやいてしまった事に今さら気付く。
存在がばれてしまっているのでは仕方ない、彼らと情報交換するのも悪くはない、そう思う事にした。
ただ、相手がどう行動するか解らない以上、無形の意を取る。

>「いきなり武装を向けて失礼した。御見受けした所、貴方は古に滅んだ小人族の生き残り…で間違いないか?」
最初にエルフの女性が話しかけてきた。この女性がリーダーだと言うのだろうか?
礼を尽くすのは流石にエルフだなとバートは思いつつ、返事をする。

「脅かしてしまってすまないのう。ワシの名前はバート。
 お前さんや人間にとうの昔に絶滅したと思われているドワーフの生き残りじゃよ。
 こうして数少ない同胞を捜して各地を放浪している身じゃ。」

一拍…
「お前さん達は、その捕まっている人間どもを助けにここまで来たのかの?」

>「まさかここの見張りとか黒幕の一人ですとか言い出しませんよね」
頭を抱えて前へ飛んだ少年からだ。異常なほどにバートを警戒しているのが分かる。
何もそこまで警戒しなくとも…と思いつつも返事をする。

「仮にお主の予想通りだとすれば、既に何名かは息をしておらぬとワシは思うのじゃが…
 見張りとか黒幕が、不意打ちの優位性を捨てる相手なら」
そこで拘束されていた戦士や盗賊を一瞥し
「あの様な手の込んだ事はせぬとワシは思うのじゃが、どうじゃろうか?」

とそこまで話した時に視界に居た人が姿を消したのを視界の隅に捉える。


204 :バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/09/17(金) 21:25:21 0
バートは素早く脚を開き、腰を落とす。
右手を肩に近く、左手を腰に近い位置に構え掌で外に向かい円を描く、次の瞬間
パンッ!と乾いた音がする。イーネの跳び蹴りを受け流した音だ。
素早く体勢を立て直し離れたイーネを見てボソリとつぶやく。

「速さ良し、高さ良し、鋭さ良し、質…悪し」
バートは相手の拳質を一瞬にして理解していた。風の拳質…威力に欠けると。
素手では無理と判断し、イーネが武器を取り出す事を予測した。

>「見た所魔術師には見えないケド、お前がイーネの敵…せっかくの商売を妨害してくれた阿呆の一味かネ?
>とりあえず迷惑料はその命をもって償うネ!」
短刀を取り出しイーネが斬りかかってくる。

武器に頼る者の行動は解りやすい。武器を持った時点で自分の行動を狭くしているからだ。
武器や魔法は所詮は花拳繍腿。それがバートの今までの戦いが教えてくれた事だ。

イーネの太刀筋を見切り、太刀筋の振り被りに合せて左手を上げて、左足より相手の右側面に入身をする。
直ちにバートは左手でイーネの右手甲を押さえつつ、バートは転身し振り返る。
左手と右手を入れ替えて柄を握り後方を確認して腰を右に捻りイーネの肘部を極める。
肘を決めたことによりイーネの握りが弱まり、手から離れた短刀が地面に刺さる。
太刀取りという技だ。

「呪いの類と我らドワーフは相性が悪くての。その手の輩とは手を組まんのじゃよ。

 ワシはお主の商売を邪魔したつもりはないんじゃが…
 おそわれた迷惑料で腕を一本もらっても良いかのう?」
フォッフォッフォと笑いつつ手をほどきイーネを解放するバートであった。


205 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/18(土) 16:58:27 0
私は格闘技と言ったら柔術しか知らない。いや、むしろ私の細い体で扱うにはそれしか無かったと言うべきか……。
本当に何の才能にも恵まれなかった自分が妬ましいな……。
しかし、護身程度だが柔術を叩きこんだ故に解る……、目の前の戦闘にて使われた戦術……。
彼が本気になったのならば私位なら、考える隙も無く殺されていただろうな……。
技を極められて、まずいと思い影に貼る事で相手の動きを封じる影縛りの札を取り出したが
解放した所を見て、それはどうやら徒労に終わったようだ。正直使いたくなかったから良かった……。

私は事態の収束を見て、煙草を取り出し火を付ける。ん、煙草の残りが少なくなってきたな。
そう、彼が此の事件に絡んでいるハズも無い、小人族と言うのは魔術に長けておらず、それ故に滅んでしまったのだから……。
それに、そう言う者を使っているならば、とっくに交戦を交わしているだろう。
対峙する敵が彼ならば、こんな姑息な手段等取らずに真っ向勝負に出てくるだろう。まぁ、その方が断然早いからな……。
思うに、敵は接近戦を好まず、正面に出てこれない人物となる。そうなるとこの辺りを統括する人間の上層部の者か?
貴族思想は今や大分抜けて来たが、それでもまだ上下関係を作りたがると言う。その上の者の犯行だと私は思っている。
私は何時も様に煙草を吸いながら自らの考えをまとめていく。
しかし、一つ解らない事が有る。その上の人間共がこんなにも急いで強大な戦力を作らねばならなかったのか……。
領土拡大にしたって人里は我々の種族と人間の混合した物。勝手に何かをやれば内部から分解してしまう。
エルフ族迫害の為だけに一国をも滅ぼす兵器を作るとは思えない…。うむむ……此処を突き詰めれば答えに辿りつきそうだな……。
其処まで考えて煙草一本を消費してしまう。考えをまとめたいが今回は此処までだな……。
そのまま煙草を口に入れ、咀嚼し飲み込む。最近コレが癖になってきたな。
ん? 悪食だって? 仕方ないだろ他人とは食が合わないんだ。

……しかし、もう出会う事も無いと思っていた小人族とはな…、最早会えないと思っていたから少し嬉しいな……。
今の戦闘で何処にも怪我を負ってはいない様だな、何と言うか我々とは違い力強い印象を受ける。
おっと、折角名乗って貰ったと言うのにこっちから名乗らないのは失礼になるな……。

「私の名はカナ、カナ・マヤカサ。薬師をやっている長耳族(エルフ)だ。
 大戦以来見ていない小人族に出会えるとはな、古き友人に出会えた様に嬉しいぞ。」

丸々百年ちょっとの再開って所だな。彼との面識は無いのだがな……。
再会に感動していると彼から今の状況を聞かれ、ふと戦士達の事を思い出す。
結果としては助ける結果となったが、彼等が死んで居れば死霊……いわば不死族としての再開になっただろうな……。
考えただけでもゾッとするな……。
彼から此処にはこの戦士達を助けに来たのかと問われる。まぁ、戦士達はついでに他ならないさ。

「結果的に彼等を助け出す事にはなったが、救出が目的ではない。
 此処で行われようとしている古に禁された術の執行を妨害に来たのだ。
 此れが発動してしまっては此処一帯所か、此の国が危ういらしいのでな。」

206 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/18(土) 20:24:17 0
マイノスには今のやりとりは何とか見えたし理解もできた、しかし体は全く動かせない。
当然だが武闘家相手に術師に毛が生えた程度の身体能力では太刀打ちは全くできないだろう。

奇しくもバートが言ったことをそのまま証明される結果となったことに、自分が咄嗟に前に
飛んだのも案外間違った事でもなかったのかも知れない。時期は遅かったが
そして確信する、見た目よりもずっとこの男の攻撃範囲は広い。それこそ視界の遠い先にいて初めて
射程外ということができる、そんな風に思えてならなかった。

(夜以外は絶対に無理だ、逃げ切れ無いだろうし耐えきれない)
全くそうは聞こえない冗談を言ってイーネを解放するのを見ると慌ててイーネに駆け寄る。
この鉱山において今やすっかり回復薬になりつつあるがそれにも構わず手当をしようとする。

腕は多少捻った程度、腰は軽度の打ち身、骨が折れたりという事もなく胸をなで下ろす。
「あー焦ったぁ、いきなり何してんですかあ、もう、逃げ道作る前から飛びかかるなんて
イーネさんらしくないじゃないですか!こっちの息止まるかと思いましたよ!」

てきぱきと治療しながらぶちぶちと文句をいう。後で「手加減したつもりだったんだけど」とか
「全然痛くなかったんだけどね」等というのはゴメンである。
そしてその間ににもちらちらと髭面の小人を見る、自分にとっては文字通り驚異的な男だ。

「あなたも!距離外すくらい余裕だったでしょ!全く大人気ないんだから・・・」
ついつい力量も顧みず双方に説教を食らわすとついでとばかりに面食らったままでいた他のエルフ
たちに、先程まで捉えられていた人達の中で動けない人や一緒に戦ってくれるような人がいないか
聞いてくるよう指示する。なんだか説教癖がついたような気がして、少年は頭痛を覚えた。

「とにかく、敵じゃないならそれでいいです、カナさんの言うとおりで僕たちはここの一番下を
目指してるだけです。・・・死んだかと思いましたよ」
最後に疲れと一緒に大きくため息を吐くと、「この人が早とちりしてすいません」イーネを見つつ誤った。

207 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/19(日) 15:27:38 0
…勝負はあっけなく付いた。

「イテテテテイタイネ離すネはーなーすーネッ!
やれやれ、そうならそうとさっさと言うネ、イーネ達戦闘中だから勘違いするネ。
…と、ドワーフ族とは初めてネ。かの一族とはファン家初代当主の頃から金銀や宝石の取引でえらく世話になったと聞くネ。
イーネもまたファンの商人ネ、よろしくネ」

こちらもニヤリと笑い返す。軽く極められた腕を振ってみるが痛めた様子はない。…だいぶ手加減されてしまったようだ。
イーネは隣でブツブツと文句を垂れながら治療を申し出る世話焼きからひょいひょいと身をかわしながら、取り落とした短刀を急いで拾い上げる。
…危ない危ない、抜き身のまま手を離したせいで魔法が必要以上に収束している。留め金を外さないまま用いたのは正解だったようだ。
軽く振って魔力を払い素早く鞘に収めてから、それをマイノスに指し示し言う。

「イーネが考えなしに飛び出すわけないネ。頭ちゃんと動いてるネ少年?
この扇刃を抜いた時点でこの辺一帯の……アハハ、まぁ奥の手使わず済んだのは幸いネ」

…笑って誤魔化したが、実はこの短刀「扇刃」はかなり危険な代物だったりする。
イーネには生まれつき魔術師としての才能…魔力を体内に蓄積する能力がほとんどない。
しかしその特異体質故に魔法を行使する事だけは出来る…そのジレンマを解消するためだけに、この扇刃は開発された。
特殊な鉱石を鍛造し削って幾重にも重ねた刀身は、自動的に周辺の風を魔力に変換し蓄積、必要に応じ使用者に供給する特性を持たせてある。
モノがものだけに用途はかなり限られるが、それ故に無詠唱での魔術行使もある程度可能である。
…しかし風を、空気を吸収するという事は即ち、周辺の酸素を著しく消費するのだ。室内での使用は非常に危険である。
例え野外であろうと、使用者はまもなく酸欠に陥るだろう…無意識に周辺の風を支配し制御しているイーネでもなければ。
ぶっちゃけてしまうと、それを見越した上で引き抜いたイーネであった。

しかし…マイノスの言葉通り、あまりにも直情的に攻撃を仕掛けた感は否めなかった。
仲間…ネ。そう小さく呟き、そしてらしくないネと微笑む。
二人が危険であると判断した瞬間には既に身体が動いていた。いつの間にか、彼らにそれ程の信頼を置いていたらしい。

捕らえられた者たちの治療は他に任せ、イーネは一通りの顛末をバートへと語る。
そして問うた。

「途中ですれ違った訳でもなさそう…という事は奥から来たネ?
こんな物騒なところでまさか穴掘りというわけでもあるまいネ、何故ここに?話と利益次第じゃ力を貸すのも吝かじゃないネ」

208 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/20(月) 19:47:50 0
私は格闘技と言ったら柔術しか知らない。いや、むしろ私の細い体で扱うにはそれしか無かったと言うべきか……。
本当に何の才能にも恵まれなかった自分が妬ましいな……。
しかし、護身程度だが柔術を叩きこんだ故に解る……、目の前の戦闘にて使われた戦術……。
彼が本気になったのならば私位なら、考える隙も無く殺されていただろうな……。
技を極められて、まずいと思い影に貼る事で相手の動きを封じる影縛りの札を取り出したが
解放した所を見て、それはどうやら徒労に終わったようだ。正直使いたくなかったから良かった……。

私は事態の収束を見て、煙草を取り出し火を付ける。ん、煙草の残りが少なくなってきたな。
そう、彼が此の事件に絡んでいるハズも無い、小人族と言うのは魔術に長けておらず、それ故に滅んでしまったのだから……。
それに、そう言う者を使っているならば、とっくに交戦を交わしているだろう。
対峙する敵が彼ならば、こんな姑息な手段等取らずに真っ向勝負に出てくるだろう。まぁ、その方が断然早いからな……。
思うに、敵は接近戦を好まず、正面に出てこれない人物となる。そうなるとこの辺りを統括する人間の上層部の者か?
貴族思想は今や大分抜けて来たが、それでもまだ上下関係を作りたがると言う。その上の者の犯行だと私は思っている。
私は何時も様に煙草を吸いながら自らの考えをまとめていく。
しかし、一つ解らない事が有る。その上の人間共がこんなにも急いで強大な戦力を作らねばならなかったのか……。
領土拡大にしたって人里は我々の種族と人間の混合した物。勝手に何かをやれば内部から分解してしまう。
エルフ族迫害の為だけに一国をも滅ぼす兵器を作るとは思えない…。うむむ……此処を突き詰めれば答えに辿りつきそうだな……。
其処まで考えて煙草一本を消費してしまう。考えをまとめたいが今回は此処までだな……。
そのまま煙草を口に入れ、咀嚼し飲み込む。最近コレが癖になってきたな。
ん? 悪食だって? 仕方ないだろ他人とは食が合わないんだ。

……しかし、もう出会う事も無いと思っていた小人族とはな…、最早会えないと思っていたから少し嬉しいな……。
今の戦闘で何処にも怪我を負ってはいない様だな、何と言うか我々とは違い力強い印象を受ける。
おっと、折角名乗って貰ったと言うのにこっちから名乗らないのは失礼になるな……。

「私の名はカナ、カナ・マヤカサ。薬師をやっている長耳族(エルフ)だ。
 大戦以来見ていない小人族に出会えるとはな、古き友人に出会えた様に嬉しいぞ。」

丸々百年ちょっとの再開って所だな。彼との面識は無いのだがな……。
再会に感動していると彼から今の状況を聞かれ、ふと戦士達の事を思い出す。
結果としては助ける結果となったが、彼等が死んで居れば死霊……いわば不死族としての再開になっただろうな……。
考えただけでもゾッとするな……。
彼から此処にはこの戦士達を助けに来たのかと問われる。まぁ、戦士達はついでに他ならないさ。

「結果的に彼等を助け出す事にはなったが、救出が目的ではない。
 此処で行われようとしている古に禁された術の執行を妨害に来たのだ。
 此れが発動してしまっては此処一帯所か、此の国が危ういらしいのでな。」

209 :バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/09/21(火) 19:10:53 0
誤解が解けた模様なので、バートは腕を軽く回して近くの壁に軽くもたれる。
冷静に見直してみると…何とも筋肉に欠ける面子のパーティだと思いつつ水を一口含む。
ここまで来れているという事は、それなりの腕前があるのであろうが…
最初に話しかけてきたのはエルフであった。今までバートが出会ってきたエルフとかなり雰囲気が違う。
この様なエルフばかりなら話しやすいのだがとバートは心で思いつつ返事をする

「ほうほうカナ殿は薬師殿か…
 昔からワシらは生傷耐えぬ種族なのでエルフの薬師殿とは、常々良い取引をさせてもらったものじゃよ。
 懐かしいのう…」

前の大戦前にワシらの集落に来られていたエルフの薬師殿にも会いたいものじゃ…
バートは平和だった時代を懐かしむ。
懐かしむバートを現実世界に引き戻したのは、マイノスの言葉であった。

>「あなたも!距離外すくらい余裕だったでしょ!全く大人気ないんだから・・・」
眉があがる。ここ二百年は自分に説教をしてくる存在等いなかったのだ。
なんというか久しぶりの説教というのは、心地良いものだとも思いつつ武人としての
思考が同時に働きつい反論してしまう。

「残念じゃが、ボウズ。それは間違いじゃよ。
 先ほどの状況では短刀を奪うのが最も手早く状況の収集が出来るのじゃ。
 躱しただけでは第二撃や別の手が来るかもしれぬ。
 相手の戦力を削ぐというのは状況の収集手段としては一番よいのじゃよ」
そこまで、話してふふんと鼻をならす。
「まあ、ワシに説教をした度胸という点ではお主は驚胆の持ち主じゃな」

イーネと名乗った女性はドワーフと交易のあった商人の出の模様だ。
「ファン家か…ワシは聞いた事がないが、我らと交易が出来ていたのなら信用に足る家の出と言える。
 よろしくじゃ。お嬢ちゃん」
イーネの笑みに、バートは笑みで返す。

>「途中ですれ違った訳でもなさそう…という事は奥から来たネ?
>こんな物騒なところでまさか穴掘りというわけでもあるまいネ、何故ここに?話と利益次第じゃ力を貸すのも吝かじゃないネ」
軽く腕を組み。顎髭を撫でながらバートは答える。どうやら考えたりする時は
このドワーフは自然にこのポーズを取るらしい。
「そうじゃな…この横穴より先に数百メートル程先行して探索しておったのじゃが、
 後方が、えらくうるさかったので何事かと戻ってきた訳じゃよ。
 そこでお主達に遭遇した訳じゃ…
 で、ワシの目的というのは、同族探しじゃ。わしらは珍しい鉱石のある地下を住む場所として選ぶからのう…」

そこまで話して一拍…
「お前さん達の目的は古に禁された術の執行の阻止とな。
 大層な術を使う輩がまだまだ世の中にはおるものじゃな。」
「ワシの目的には関係ないので、ここでおさらばじゃ…と言いたい所じゃが、
 相手が魔術師となるなら話は別じゃ。腕慣らしにワシもお主達について行くとしよう」

そこまで言い切りニヤリと笑う。
「報酬はアルコールのきつい酒で十分じゃぞ?」

210 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/22(水) 18:14:23 0
手当をしようとするとイーネがひょいひょいと身をかわすのでマイノスは少しイラついた。
「あ、こら、逃げないで下さい、ちょっと」
ケタケタと笑いながらこちらをあしらう様を見るとどっちがシルフか分からない。

そんな不毛な応酬をしている横からとバートが反論する、思っても見なかったことに少し鼻白むマイノス。
確かに言われて見ればさっきのイーネだったらそこからまた追撃していたかも知れない。
こっちを見てニヤニヤしている彼女を見るとバートの言い分が正しいように思えて、最もだと
言う代わりに小さくを息を吐いて肩を落とす。

自分よりずっと強い相手に勢いでつい説教してしまったことは相手の方も好意的に済ましてくれたことだしこの際
置いとく事にする。次からはなるべく気をつけようと彼は固く心に誓う、そんな少年を放っておいて早くも二人は
何事もなかったかのように話を始める。驚くほどにアッサリしている。後腐れがないにも程があるが実際に
サバサバした人同士が和解する時というのはこれぐらい早くしかも味気ないので傍で見てる方が置いてけぼりを
食らうことはままあることである。

どうやらバートも同行してくれるらしいと聞いて内心で喜ぶがやはり気になって訪ねてしまう。
「でも本当にいいんですか。この先はやっぱり危ないですよ、あなたくらいの腕なら脱出だって
できるでしょう。正直辞めといた方がいいでしょうし、あ、決して信用してないとかじゃないです!
ただ、危険な事を手伝ってもらうのって、後ろめたいっていうか何ていうか・・・」

上手く言えずに途中からしどろもどろになってしまう。はっきり言えばバートの存在は戦士たちがいないこの
一行には尚更ありがたがったし必要だった。その事がマイノスにきちんとバートに危ないから辞めておいた方がいい
と言うことを躊躇わせていた。既に先程来た道を戻り始めているがその道すがらでの事だった。

「とにかく、本当にいいんですか!良いって言ったらもう戻れないんですよ!」
なんとかそれだけ言うと今度は答えを聞かずにずんずんと歩いていってしまう。なんというか気不味くなって
その場に居づらくなってしまったのだ。心なしかその後ろ姿はそわそわしている。

211 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/22(水) 18:49:37 0
ふむ、戦士達共々私を襲った盗賊たちの体の自由も戻ってきた様だな。
私特性の毒抜きを使ってやってるんだ、良くならないハズも無い。だが、どんなに回復が早くても暫くは満足に動けないだろうな。
盗賊達を見捨てる事も出来たが、そんな事はしない。目の前に助けられる命が有るのに何もしないと言うのは流儀に反する。
自己満足だと言われればそれまでだが、私は生きて行くのに多くの命を奪ってきた……。
それは国が一個壊滅するような数をな……、それ故に私は人々を救うと誓った。一種の罪滅ぼしなのかも知れないがな……。
一番私を許していないのは、他でもない私自身なのかも知れないな……。全く…自らでも不器用だな、と思う。
今誰が嫌いと聞かれたら自分だと迷いなく答えるだろうな……。

残り少なって来たが、私はどうしても口寂しくなり煙草を咥え、火を付ける。
少し赤み掛かった煙を吐き出す。成程この空間の瘴気濃度は気のせいではない程低いらしいな。
これは意図的に作ったのか……? 瘴気の性質上この部屋にも溜まっているだろうから此処は人を生かす為に作られた場だろうな…。
だとしたら、何かの術式が施されている筈なんだが…、見つけた……。天井に張り巡らされた魔術回路。色的に水の浄化結界。
成程、土の妨害結界を割いてまで此処に浄化結界を置いたと言う事は、どうであっても早くエネルギーが欲しかったらしい…。
しかし、本来人間が得意とする六行を見ないのは何故なのだ……? 異種族が雇われているのか? それとも……
そこで丁度、彼…いやバートより返事を貰う。大戦前の平和な頃を思い返しているらしい。
確かにあの頃は平和と言う言葉が良く合った。我々薬師も暇で傷薬や風邪薬位しか作って居なかったな……。

「ああ、我々薬師にとっても良い取引相手だったのだがな……。
 あの頃は傷薬位しか売れない程平和であったな……、本当に懐かしい……。」

私は吸い終わった煙草の火を消すと口に放り込んだ。
さて、我々は此処でじっとしている訳にもいかない、此処で行われている事を阻止に来たのだ。
正直行きたくは無いのだが、そろそろ行かねばな……。

「さて、と……。その平和にする為に今奮闘している世を乱す輩を一発ぶん殴って来るとするか……。
 私も冷静を装っているが心中穏やかではないのでな……」

次に私は戦士達や盗賊達に地上へと出る事を命じたのだが、言う事を聞いてはくれなかった。
その体では無理だと言ったのだが、我々だけ助かって命の恩人が助からないのは目覚めが悪いらしい。
私はそこで説得を諦めた。最早何を言っても無駄だろう……。しかし、助けた命、そう易々とは散らせはさせないぞ……?
それがどんなに苦しむ結果となったとしても……な。

正直バートより放たれた言葉に耳を疑った。我々は死をも覚悟して此処まで来た。
戦力不足も良い所だったので、加勢してくれるのは助かるが、其処までしてもらう義理は正直無い。
まぁ、その豪快な性格故に、戦いに自ら望み退く事をしなかった者達の生き残りだ、言って聞く様な者では無いだろう……。

「ああ、此処から帰れたなら取って置きの酒をやろう。ただ、私は飲んだ事が無いので味の程は解らんがな。
 後、この先危ないと感じたら我々の事は良いから逃げてくれ……、我々は此処に死すら覚悟の上で来た。
 貴方に其処まで付き合わせる義理も無いのでな……。」

212 :名無しになりきれ:2010/09/24(金) 12:51:39 0
・・・来たか、だが邪魔立てはさせん

今宵こそ満願成就の時、あと僅かで完成する

最後に、十分な月光を当てなければ・・・

さて、まずはこの天蓋を払うとしようか


【激しい地響きを起こしながら、鉱山の底に巨大な割れ目が開く】

213 :イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/24(金) 20:18:12 0
「なるほど同族探しネ…100年前の災厄で滅びたとも聞くケド、現物がここにいるからには探す価値もあろうネ。
フム…あるいはファンのツテを頼れば何か情報があるかも知れないネ。我が一族は世界中で商いをしてるからネ。
最寄りの街…イービスにはないケド、その先の都には確かウチの商館があるはずネ。イーネも興味あるし紹介するネ」

以前閲覧した、災厄前の時代に記された門外不出の帳簿を思い出し脳内で捲りながら提案する。
かの種族との取引ではかなりの利益が上がったと記載されていたように思う。希少な品ばかり得られる上に、彼らの持つ驚くほど卓越した審美眼、そして気に入った相手に対する気前の良さ…どれも取引相手として得難いものだ。
ここで糸口を掴んでおかない理由はなかった。

「イーネとしても、ついて来て貰えるなら助かるネ、ご覧の面子だから苦労してたネ…ッて、おーい少年!勝手に先行くと危ないネー…いやいや、少年も若いネ勇ましいネェ」

バートとの会話の途中だったせいもあり、一人先へ行くマイノスの背中をつい見送ってしまう。
…トイレでも行きたかったのかネ?などと首を傾げてみたり。


ちょうど酒の話題も出て、イーネもそれお相伴に預かりたいネなどと騒ぎながら進んでいた、その時だった。
突然に洞窟全体が鳴動し、激しい揺れに襲われる。音から察するに、上層では崩落も起こっているようだ。
咄嗟に身を低くして構える…が、どうやらイーネらがいる洞窟は丈夫なものだったようだ。揺れが収まったのを見計らい、一息ついて肩に降った土埃を払う。
と…不意に空気の流れが大きく変化した事に気付く。洞窟の先から漂ってくる新鮮な外気…ゴーレムを地下で造って完成した時どうするのかとは思っていたが…まさか!

「これは…ついに敵も動いたようネ!
イーネ先に行くネ、風の感じからしてもうすぐそこネ、既に少年は着いたかもだから心配ネ」

そう言い放ち駆け出す。
直感だが、外に出られてはおそらく勝ち目はあるまい…急がなくては!

214 :バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/09/27(月) 16:28:27 0
百年一人で探索を続けていたからか、久々に会う人間の対応に懐かしさを感じた。
人間独特の…遠慮というか…バートにいやドワーフが余り持たない感じを懐かしいと思う
途中で辞めるなら初めから言い出しはしないし、やると決めたことは貫徹するのが彼らの一般的な考え方だ。

>「とにかく、本当にいいんですか!良いって言ったらもう戻れないんですよ!」
>「イーネとしても、ついて来て貰えるなら助かるネ、ご覧の面子だから苦労してたネ…」
「ふむ…お主ら人間は面倒じゃのう…もっとストレートに物事を考えぬか。
 危険なヤツがおるのじゃろ?この状況で止めれるのがお前さん達しかいないならお前さん達が止めるべき事じゃよ。
 後は単純。親玉を見つけて殴り飛ばす。それだけじゃよ。」

フォッフォッフォと一段と大きな声で笑う。
今更、小声で話しても相手には気づかれているだろうし、バートのみ先行して隠密しても余り状況は変わらないだろう。
バートは後ろ腰に鎖で繋がれた一組3本の棒を取り出す。一本の長さは60cm程度であろうか。
ブンと降り伸びきった瞬間に手元の金具を回す。そうすると鎖が棒にしまわれ3本の棒は一本の長い棒になった。

>「ああ、此処から帰れたなら取って置きの酒をやろう。ただ、私は飲んだ事が無いので味の程は解らんがな。」
「酌をしてくれれば十分じゃよ。お主達エルフと酒を呑むのも久々じゃ楽しいじゃろうな…
 さて、その前に一仕事に行くとするかのうお嬢ちゃん。」
まだエルフ族の方が思考的にはバート達ドワーフに近いのだろうか。
そう思いつつも、バートは棒を試しに数回降る。

久々に使うがゴーレムの類が相手となると素手だけでは厳しい可能性がある。
リーピング・モーラーの得意な相手というのはあくまで気が流れる生体や間接を持つ生き物だ。
それ以外を相手とする場合には、好みでは無いが武器を用意無くては厳しいだろう。
この三節棍は、黒檀を使い両先端等の金属部分には希少金属アダマンティンを使用している一品だ。
久々に使用するが、違和感は無い。これなら十分じゃろうと金具を操作し、繋がれた一組3本の棒の状態に戻す。

「さて、早く行かぬと少年に置いてきぼりにされるのう」
フォッフォッフォと笑いながら駆けようとした時、洞窟全体が鳴動し、激しい揺れに襲われた。
ドワーフは低重心故に地震の中でも割と平気に動ける。バラバラと落ちてきた危険そうな岩だけを三節棍で払う。
特に先ほどの地震で誰かが怪我をしたとかはなさそうだ。

揺れが収まる頃には地下から風が吹き抜けてきているのバートは感じた。
どうやらイーネも気づいているようだ。
「そうじゃの…ボウズが危険かもしれぬ。さっさと行くにこした事は無いか。」
そう言い終わるが早いか、身をかがめ素早くダッシュをしバートは地下へと進んでいくのであった。

215 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/27(月) 22:40:40 0
その少年はひどく落ち込んでいた。一見すればその有様に不釣合いな程落ち着いているようにも見えただろう。
つい気恥ずかしくて勝手に先走ってしまい、自分たちが入ってきた横穴の入り口、そこまで急いで
戻ってきてしまった。それも一人、気づいた時にはしまったと思いながらも皆を待とうと決めた矢先、
山全体が震えた。彼もまた危険を感じて、自分の力量を顧みず足止めをと思い奥へ向かった。

先は少なくとも分からなかったがバートが来たと思われる道はすぐわかった。向こう側からこちらに続く
足跡を辿ればよかったのだから。そしてその足跡が切れた先にやや大きめの穴が開いていたのだ。

この先へ進めば何かと出くわす、そんな気がして、それならせめて声の一つでもかけて時間稼ぎをしよう
と思ったのだが、なにも地震が起きたからといって罠が解除されるわけではない。バートの足跡が
途切れた先へ踏み出した途端に腿のあたりまで地面が盛り上がり足をすっぽりと土台のような地面に
固められてしまったのだ。

身動きが取れず今襲われたら一溜まりもないのでその当時は相当焦ったが、待てど暮らせどゾンビも犬も出て来ない。
本来なら侵入者はこれで終わりなのだろうが、ことも終りに差し迫った今となってはそれらも仕舞ったのか静かなものだった。
精霊たちも仲間のもとへ置いてきてしまった。地震の最中に只々待ちぼうけの時間が過ぎていく。

そんな中でマイノスの頭は急速に冷めていった。
(無事だからいいけど、ほんと何やってんだろ、僕、折角勢い込んで走ったのに・・・)
座ることもできないまま立ち尽くす、大きめの石が降るなどしてくれればまだ緊張感も保てたが
まるでダメ出しするかのように小石が彼を小突くばかりであった。

「まだ罠があります!気をつけて下さい!・・・・・・ふう」
聞こえるかは別としてそれだけ叫ぶと項垂れて沈黙する。そうこうしてる内にも揺れは大きくなっているが
今の彼にはこうして少しだけでも体面を取り繕うことしかできなかった。

216 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/28(火) 22:45:43 0
私は未だなお戦力不足を感じながら、先に通ずる道を歩いていた……が
……丁度その時鉱山は地から響く呻き声の様な音を立てつつ大きく揺れた。
な、何だ…これは……まさか……完成してしまったのか……?
幸運な事に我々の居た坑道は崩れる事は無く、生き埋めになる事は避けられた。あんな体験は一生に一度で十分だ。
しかし、それよりも今の揺れは、……ん? 妨害結界が大きく割れ動作しなくなっている……、どうやら私の勘は当たったらしい。
完成して邪魔になったので取り払ったと言う所か……。ならば急がねば鉱山内部ならば辛うじてどうにかなるが、
外に出られてしまえば我々の手が及ばなくなってしまう、そうなってしまえば最早我々には如何する事も……。

「急ぐぞ!手遅れになる前に!同族の者達は先に来い、
 戦士達は動ける者も居るだろうが動けない者を連れて警戒しつつ後から来てくれ」

最早目と鼻の先となった最下層へと我々は全力疾走していたが、その途中……。
そう、最下層目前にて先行していた少年へと出会う。最初は我々の到着を待っていたと思ったが、
足元が土で固められている所を見ると、どうやら何らかの罠にかかった様だった……。
妨害結界が崩れる前に敵の足止めにまんまとかかってしまった様だな……此処に来て此れだけとは幸か不幸か……。
私は土台となっている土を物理手段で崩し、少年を救出した。少し荒々しいが大本が動いてない故に方法は此れしか無かっただろう。

「此れに懲りたら単独先行は慎む事だな」

少年に一喝を入れて我々は再び最下層へと急ぐ、幸いに結界は動いていない為にその後はすんなりと進めた。
そして最下層にて最初に出迎えてくれたのは、濃厚な瘴気に成る前の純粋な魔……、強すぎて噎せ返りそうだ……。
天井に大穴が開いているが、誰の目にもその場は何かしらの魔術を行った後と言うのが解る程人工的に変えられていた。
その規模と魔術構造から神殿並みの構造とまで分析した所で中央に巨大な物体を発見した。多分アレが問題の物だろう……。
鉱物である事が嘘で有るかのような生物的な姿をした竜が、作り物と言うのが疑いたくなる程の威圧感を引き下げて其処に存在した。
どうにかしようとする前に恐怖で私の方がどうにかなってしまいそうだな……。口から心臓が飛び出してしまいそうだ……。
しかし、生まれたての今なら何とか出来るハズだ……。私は薬箱を下すとありったけの札と素材を取り出した。

217 :カナ ◆utqnf46htc :2010/09/28(火) 22:47:04 0
「散開!木の束縛術式にて束縛を試み……ッ!?」

同族に呼びかけ儀式魔術の実行をしようとしたが、それは結局未遂で終わってしまう。
突然に脇腹に走る激痛に私は持っていた物を丸ごと全て取り落としてしまう。
な! こんなに早く敵襲か!? しかし、そんな気配等微塵も感じなかったぞ……!
急いで対処しようと振り向くと、今まで付いてきた同族が私の背に深々と刃を刺している所だった。

「な……何故……」

同族は刃の柄を離すと私の射程外へと飛び退いた。
足に力が入らなく膝を地に付く、脇腹からは夥しい量の血が流れ出しているのが解る。
失血性ショックか……。口が震えてまともに言葉が出てこな……くそっ……傷は内臓まで達していたらしい……吐血が……。
べちゃべちゃと滴り落ちる吐血に対して私は酷く冷静であった。むしろ、心の何処かで自分の命を諦めた様だった……。
その一遍には、やっと死を持って罪を償えると言う満足に近い感情もあっただろう……。
しかし、今は甘んじて死を受け入れている場合ではない。この傀儡竜をどうにかしなければな……。
せ、せめて……一矢報いて……。私が這いずって札を取ると、その手を踏みつける人物が居た。

「さて、諸君。遊戯は楽しめたかな?」

ああ、同族の裏切りから薄々は気づいていたぞ……!まさか貴様が黒幕だったとはな……。
そこに居たのはエルフ族の里長であった。身分の高いものが後ろで糸を引いてるとまでは予想の範囲内だが、
まさか同族の方だったとはな……。私はみすみす敵の別働隊を引き連れてきてしまっていた様だな……。
里長に向かい何故こんな事をしたと言う旨を言に発しようとしたが、私の口から出てくるのは血のみであった。

「何故こんな事をと言う顔をしているな? そうだな、ここは人間を迫害するとでも言っておこうか」

顔が狂気に歪む、大方理由はどうでも良いのだろう……力に溺れた者の末路とは醜い物だな……。
くそっ……そんな事の為にようやく終結した争いを再発させるつもりか……そんな下らない事はさせんッ!
私は踏まれていない方の手で脇腹に刺さっている毒素でボロボロになった刃を抜き取ると
里長の足に向けて突き刺そうとするが、簡単に避けられる。まぁ、今はこれで良い……手から足を退けられれば……。
刺さっていた刃を抜いた事により更に血が吹き出し血溜まりと言える程の量に達した。これでは此処の汚染は免れないな……。

毒溜まりへのリスクを冒してまで止めを刺すこともないと思ったのか里長は私から遠ざかる。
私は血を大量に失ったと言うのに酷く重い体を起すと、薬箱から有る植物の種を出し刃に結び付ける。
それを未だによたよたとしている竜へと投げつけた。
刃は簡単に竜に突き刺さり、その種からは夥しい量の茨の蔓が生えて飛び立とうとする竜を地面へと縛りつけた。
流石は魔の塊の様な傀儡だ、魔で育つ茨もさぞかし育つだろう……。

218 :代理投稿:2010/09/29(水) 21:59:37 0
空気の流れが広い空間が近くにある事を示している事を感じながら、道の真ん中に立つ邪魔な塊を蹴り超えて更に駆け……ん?

「ッと、何か踏んだと思ったら久しいネ少年…それは新しいギャグか何かネ?きっと畑でやるほうがネタとして正しいと思うネ」

道に生えた残念な野s…もといマイノスを振り返り、呆れて溜息をつく。一瞬でも心配をしたイーネが馬鹿だった。

「ホント緊張感のない少年ネ…ああ、風が出てきたからこの羽虫は返すネ。じゃ」

肩に留まっていたシルフを邪険につまみ落とすと、マイノスを助けもせず奥へと注意を向ける。ついでに泣き言も聞き流した。
商売繁盛と相互扶助をモットーとするファン一族は、同時に足を引っ張る者は容赦なく切り捨てよと家訓に書く程苛烈な精神を持つ。って言うかあれくらいどうとでもなるだろう普通。

ようやく追いついた一行がせっせと拘束を叩き壊すのを確認しながら、奥から微かに吹く風を全身で感じ取る。
たとえ地の底であろうと、風が吹く場所であればそこはイーネにとっては快適な空間だ。正直この展開は僥倖ネと思いながら、腰の愛刀… 扇刃を引き抜いた。
風を受けた刃は瞬時に魔力を収束、柄を通してそれを伝えてくる。一時的に魔力値を魔術師並みに引き上げられて、ただでさえ重さのない身体が更に軽くなるのを感じた。
扇刃の長時間使用は色々と負荷もかかるとは言われた気がするが、そもそもイーネには戦闘行為に時間を掛ける習慣がないためその副作用は経験した事がない。というか高価な魔道具だから普段あまり使いたがらないのだ。


洞窟の最下層…龍の亡骸が眠るはずのその場所は、半ば異界とでも呼ぶべき儀式場だった。
裂けた天井から差し込む月光はまだ低く、壁の一部を照らしている程度で暗いが… おそらくは長い時間を掛けて作り上げたのだろう。丁寧に均された床には幾つもの魔法陣の跡が刻み付けられ、祭壇が設えられている。
隅の方には古びたツルハシや鎖の絡んだ滑車などが打ち捨てられていて、この場所で採掘から組み立てまで全て行なわれていた事が容易に伺える。
そして…広い空間の中央には、まるで神像のように…龍の彫像にも似た姿のゴーレムが鎮座していた。

219 :イーネ(代理):2010/09/29(水) 22:01:03 0
…カナが倒れ、イーネらもそれぞれ反乱したエルフに取り囲まれた。ある者は曲刀を、またある者は小型の弓を構え徐々にその輪を縮めてくる。
魔法でどこかに潜んでいたのだろう、敵の首領と思われるエルフをイーネは睨み付ける。エルフ族の長達だけが身に付ける独特の飾り…なるほど、そういう罠だったか。
しかし気付いても今更である。周囲に漂う血と毒の臭気に顔を顰めながら、気付かれないよう構えたままの扇刃…その柄に仕込んだ留め具へ指を伸ばす。あの出血はまずいのだが、この状況では助けるどころではなかった。

暫し睨み合いが続くと思われたその時、カナの最後の力を振り絞った行動が状況を覆した。

「な、何をしたッ!?」

ゴーレムに絡み付いた蔦に気をとられた敵の隙をイーネが逃すはずもなく。
突如巻き起こる旋風にエルフ達が吹き飛ばされ、そして次の瞬間にはすでにイーネは倒れたカナを背後に庇い立っていた。
その手には先ほどまで構えていた短刀…しかし形状が変化し、透けるほど薄い銀の刃が、まるで扇のように展開している。
…よく目を凝らせば、その一枚毎に異なる術式が透かし彫りされているのわかるだろう。能力を極端に限定する事で短刀の性能を両立させた杖…とでも言うべき代物だ。

「……戦争するなら大いに結構ネ…エルフなら知っておろう、250年程前の紛争では我が一族、実に儲かったそうネ」

立ち上がったエルフらを制しつつ、目でマイノスを背後へと促す。零れた血から濃厚な瘴気が立ち上っているが、今なら扇刃で払うくらいは出来るだろう。
イーネはそのまま言葉を続けた。

「だが、その根性はどうにも気に入らないネ。求めるが故の戦いではなく、単に手にした玩具を振るってみたいだけとは無駄遣いも甚だしいネ。
…それに… そこな玩具はイーネが預かる大事な商品、さっさと利子付けて返すがいいネ!」

叫びながら、腕を翻し強風を巻き上げる。とにかく時間を稼がねば…。

220 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/30(木) 23:31:58 0
(今度からはスコップも持ち歩こう)
土の拘束を解かれて彼はそう思った。カナからは喝を入れられイーネには頭を踏まれて
この上バートからも何かあるかと思うとがっくり来てしまう。イーネからシルフを返してもらうが
シルフの方は名残惜しそうだった。

ここに来て風が吹き始めている事に、外に通じる穴も開いているのかも知れないと漠然と思いながら
皆の後を付いていきそして目的のモノを発見する。その場に充満した魔力を思わず攻撃と勘違いする。
あまりに存在感があったこととその風貌から始めはそれがゴーレムだと気付かなかった程だ。
久しぶりに合流したキャクとライザーも珍しく真剣に警戒している。

「これが、本当に・・・?」
いっそ神秘的とすら言えそうなその姿に見入っていると彼の目の前に信じられない、信じたくない光景が
映る。音もないというのはこの事だろうか。それまで、さっきまで共に進んでいたエルフたちがカナを
刺していた。見る間に血溜まりが広がりそこに誰かが現れて何かを喋り出すが何も頭に入ってこない。

カナが何かをし、ゴーレムが蔦に絡まり、イーネが飛び出し、いつのまにか辺りにひしめいていたエルフを吹き飛ばす。何も
考えられないままに、カナに駆け寄る。瘴気に顔しかめるが気にする余裕もない。

この機に囲まれていた、戦士や盗賊の中でもまだ比較的体力があるものは手近なエルフたちに踊りかかっていった。
呆然と、イーネに庇われるままに辺りを見回す。エルフ達の中には村で世話になった者も何人かいた。
目が合って逸らされる、それが悲しかった。血溜まりに横たわるカナを見ながら漸くマイノスの頭は冷えていった。

(後で、謝りにいかないとな)

そう思いながらもカナにリザレクションまがいをかけるとキャクにそう命令した。
「キャク、カナさんを食べろ、辺りの血も残さず吸え、出血を最優先で治すんだ」
キャクは頷くと大きく膨らみカナを丸呑みにすると地面の汚染された地面を吸いだす。まるで色だけ抜き取るかのように
血を啜る。

221 : ◆e7fRsOMIvgdV :2010/09/30(木) 23:57:59 0
カナを飲み込んだキャクをマイノスは急いで指輪に戻す。
キャクの特性なのか相手を捕食する時にそのまま食べるのでなく一時的に生命力の塊の
ように分解することができるのだ。これを逆に使えば一度分解した獲物を再構成して
吐き戻すことができるのだが、その為には傷を治す分の魔力をキャクに送り続け無ければならない。

食われた者はその時の状態に応じた量の塊でしばらくの(キャクに頬張られている)間留まる。
この状態に魔力を送るのだが指輪に戻したのはゴーレムが完成したせいで周辺から魔力を補給できなくなり、
消費を抑える為であった。先程のリザレクションは文字通りの一時しのぎだが効果はあるのだ。

死に瀕した者にかけると与えた生命力が霧散することも戻ってくることもなく奪われてしまう事が
よくある、
それを知った上でかけたのだが、案の定生命力は帰ってこない。
傷が深かったせいか指輪越しでも魔力の消耗が激しい。
その分早く回復もしているという事なのだが、この状況では逃げることもままならない。

「カナさんは大丈夫です、今、治してます・・・もう少し、もう少しですから」
額に玉の汗を浮かべ片膝を付きながらマイノスは言う。そう、確かにもう少しなのだが、それまで持つかどうか
厳しい所だった。この状況で魔法を唱えらえては一溜りもない。何か手は・・・
「そうだ、シルフ!呪文が聞こえたら相手の声を変に響かせるのってできるか」
「まかせなよ!そういう悪戯は大得意だぜ!」

辺りの空気を変質させながらシルフは空間を駆けまわる。これで少しでも詠唱の邪魔ができればいいが・・・

222 :バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/10/04(月) 20:19:37 0
道を進むと少年マイノスが罠にはまってるのをカナが助けている所だった。
助けようと少年に手を伸ばそうとして違和感を感じた。
何か嫌な予感。戦いの場に長年身を置いてきたモノが感じる違和感。
誰が敵か?それを確認するまでは不要に動くのは危険か…
そう思いつつも、バートは助け出された少年の臀部を叩き、笑いながら土を払った。

その後の展開…彼が違和感を感じていたのはエルフ達の距離と殺気だったのだ。
しばし様子を見る。カナは即死ではない模様で、なにやら化け物に食われているが
マイノスの使役する魔物の様だ。これは問題無い。
助け出した戦士達や盗賊達は、よろよろだが、エルフ達に立ち向かっている。これも問題無し。
イーネは風を興し長老と呼ばれたエルフの阻害をしている模様だ。これも問題無し。

敵と認識するのはカナ以外のエルフじゃな…そうバートは認識し一呼吸する
今まで様子をただ単に見ていたバートでは無い。気を練っていたのだ。
十分に練り上げた気が丹田に貯まっているのを確認する。

ズンッ!……

おもむろにバートは震脚を踏む。
十分に練り上げられた気を含む震脚はそこにいた者達に地震が起きたかと錯覚をさせる。
バートはカナの方を見る。そしてボソリをつぶやく
「構わぬ…な?…」

同意を求めている訳では無い。謝罪をする訳でも無い。が…今からカナの同族を殺すのだ。
それだけを伝えバートは震脚を踏んだ脚をゆっくりと滑らす。

「…押して参るッ!!」

そうバートが吠えた瞬間バートのいた地面が抉れはじけ飛んだ。
バートが居た場所の近くに居たエルフが二人同時に姿を消す。そして、グシャァという鈍い音が響く。
先ほどの位置から20m程離れた所で砂煙が立ち上がり、2体のエルフが地面に首から突き刺さっていた。
それを認識した瞬間に、弓を持ったエルフ達は砂煙に向かい弓を素早く連射し始める。
そこに居る者をが危険だと認識したのだ。数十本の矢が砂煙に向かって放たれる。
矢が新たな砂煙を巻き起こそうとしている様だ。

しかし新たな砂煙が起きることは無かった。
両手に矢を受け止めているドワーフがゆっくりと砂煙の中から現れる。

「こんなモノではワシを倒す事は出来ぬ。」
そい言うと同時に矢をエルフ達に投げ返す。
エルフ達の顔に絶望が浮かばないのが気にくわないと思いつつも
バートは手近なエルフを狙い低い姿勢で飛びついていくのであった。

223 :カナ ◆utqnf46htc :2010/10/05(火) 22:03:30 0
人の体とは本当に数字では表せない神秘で溢れていると思う。
最早男性であっても今の私と同じ量の血を流せば、命の危険所か失血性ショックでもう命は無いだろう。
奇跡とかそういう物は信じないタチなのだが、こういう時ばかりはその存在を信じてみたくなる……。
全く神はどうしてここまで私を試す真似をしてくれるのだ……。救世主でも無ければ英雄、勇者でも無いこの私に……。

体が動かない……どんなに必死に力を入れようとも最早ピクリとも動いてはくれない。
それに加え、眼が見えなくなっている故に、自分がどんな状態になっているのかも解らない……。
開いているのか、閉じているかももう己では窺い知れないしな。
いよいよ持ってまずくなってきたな……もう痛みすら感じなくなってきた……。
ああ……それにしても寒い……、強烈な積雪の中で蹲っているかの様な寒さだ……。
こんな辛い思いをしなくてはいけないのならばいっその事、一気に此の命持って行ってくれたらいいのに……。
いや、此処で死んでは罪滅ぼしにならん、私は出来る限り多くの命を救うと誓ったハズだ、
まずは手始めに此処から生きて帰らないとな……!

とは言っても今自分の体がどんな状態で、どの向きを向いているのかさえ自らで伺い知る事は出来ない。
この状況での打開策はほぼ無に等しい。考えろ、考えるのだ……知恵こそ神から授かった我々唯一の武器なのだから……。
いや……旧約聖書では人々が神から奪った事になっていたな……。
しかし、さっきの様な凍えるような寒さは無い……また一歩死に近づいたのか……?
くそっ……まだ打開策すら思付いていないと言うのに……、今程時間が惜しいと思った時は無い……。

まずは……だ、今此処で出来る事を考えよう。勿論な話だが儀式魔術執行は不可能だ。アレには物質的な準備が必要だ。
持続する魔力素さえあれば精神世界でも使えるには使えるのだが……残念な事に私には魔力素そのものが無い。
此処は一か八か私の中に眠る毒素の一斉解放をしてみるか……?
ダメだ危険過ぎる……。敵諸共連れの者……いや、この森の生態系が崩れる程の毒を有している……。
しかし、思考は煮詰まり大詰めかと思ったが、少しずつ手足の感覚、視界が戻ってきている……?
ん……? 未だ良く見えないが周りの感触が岩肌とは違う……? 何かの回復装置の中にいるのか……?
い、いや、この感触は前に一度味わった事が有る……。 此処に来た当初……思い出したくも無い記憶だ……。
とは言えこの処置は魔術的治療、助けられた側の私に取っては文句も言えないのだが……この感触……。

ふと傷口に触れてみると生物的な感触では無く、まるで鉱物でも触っているかの様なごつごつとした手応えを返してきた。
……いや、傷口だけではない硬質化した"何か"は私の全身を覆う様に存在している。
後に知る事になるのだが、この時私は悪魔の様な姿をしていたらしい。
その姿は岩石の様な外殻に蛇の様な尻尾、頭には巻き角、背には羽まで生えていたそうだ。
それを知る由も無い私はただうろたえるだけしかできなかった。 魔で血が変質してしまったのか……?

224 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/10/09(土) 21:53:54 0
体術に特化しているというだけあってやはりバートは並の化物ではなかった。
魔法に対する防御呪文の一つもかけてやれば充分この場を納められそうな勢いだった。
だが今のマイノスにはそれだけの余裕はない、少しづつだが髪の毛が脱色を始めている。

カナの回復を待っていると指輪の中で動きを感じて視線を指先へと移す。治療が終わった!
「終わりました!カナさんが出ます、後で戻しますから姿は気にしないでください!」
そう言い天高く左手をかざすと指先から黒い影が辺りに広がり女性でなく異形が飛び出して来た。

色々と差異こそあれ似たようなモノになった経験が自分にもあるマイノスはやはりこうなったかと頭を振る。
キャクの力はそっくりそのまま傷を塞げるがそのために使った力の余剰分を綺麗に体に収めさせることはできず
余った分が余らない体に作り替えてしまうという欠点がある。そのため簡単に言うと怪物になってしまうのだが
扱いは低級の呪いと同じなので解呪の呪文を唱えれば元には戻れる。

しかし今はその姿でいてもらった方が安全だと踏んであえてそのままにしておく。
「この人はカナさんです!攻撃はしないでください!あとでもどしますから!」
同じ事を繰り返し周囲の味方に注意をする。とくに見た目が見た目なのでバートとイーネの
行動をとかく警戒しなければいけない。

まだ上手く状況が飲み込めてないカナをその場に置いてバートや他の戦士たちに倒されたエルフの亡骸へと
駆け寄ると手をついて無詠唱で魔力と生命力の吸収の魔法を試みる。
死んだばかりのモノにもそれはわずかに残っている。どっちがアンデッドか分からない事をしつつカナに呼びかける。

「カナさん、今は姿が変わってますが命に別状はありません!もう少し辛抱してください!」
死体がミイラ化したと思うと次の死体に取り掛かる。髪の毛の色が徐々に戻ってくる。
(一刻も早く回復しないと、でもこれってどっちが悪人か分かんない図だよなあ・・・)

225 :名無しになりきれ:2010/10/13(水) 19:30:32 0
保守

226 :GM ◆iFsjS9olvSiZ :2010/10/20(水) 01:50:30 0
保守

227 :名無しになりきれ:2010/10/22(金) 20:11:33 0
なかだし

228 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/10/31(日) 18:05:19 0
髪の毛の色が戻って来たことと魔力が全回復したことは全く別物である。
最低ラインを割り込んだが為に生命力を消費して魔力に充てていたというだけなのだから。

それ故にバートが仕留めた亡骸がなけなしの力を奪った所でいくらになるものでもない、
眼前に死体がミイラのようになった所で手を話しもう一度当たりを見回す。
自分の所に矢が飛んでこない理由が分かった。大半がバートに攻撃を集中させており自分たちに
来る矢はイーネが例の短刀で風を起こして弾いていたのだ。

カナに対しては魔法を使おうとエルフたちから呪文の詠唱が聞こえて来たがイントネーションがおかしい。
それに気づいて一度詠唱が中断されるが他ならぬ彼から教わった小手先の技だ。すぐにバレて
魔法を使わえれては堪らない。

バートは釘付け、カナからの返事はまだなく、イーネは矢を凌ぐことに手一杯、今は自分がなんとか
動くしか無い。どうすればいいかを目一杯考える、エルフの里長か竜骸石のゴーレムの破壊。
どちらか一方を達成できれば流れはこちらに傾くはずだ、そう思いカナが動きを封じた「竜」へと視線を移す。

いた。何人かの護衛を引き連れて「竜」に絡まる蔦を外そうと躍起になっているがどうやら上手くいっていないらしい。
数で優位に立ちそして混戦に陥ってる今、誰に感づかれることなくそこまで行った彼らはまだ自分たちの状態に
気づかれたということに気づいていない。今なら奇襲をかけることができる。

その為にはどうやって向かうのか、イーネにもう一度シルフを取り憑かせれば速さで言えば恐らく最速、しかし
そうすると今度は自分たちが矢に晒されることとなる。自分が行けば、武器もなくどう足掻いても経験的に
劣っている自分が魔法戦を仕掛けるのは無謀、となれば残る選択肢は・・・

「ライザー!バートさんの真上までいったら思いっきり輝いて、頼んだぞ!」
そういってバート頭上にカンテラのような見た目のライザーを飛ばして相手に呼びかける。
自分でやったこととはいえ声の聞こえ方がおかしい、相手にもこちらの意図が通じるか一抹の不安がよぎるが
今更止めることもできない。

「バートさん、合図があったら向こうへ走って下さい!なるべく上を見ないで!」
どうか伝わって欲しいと思いながら奥の「竜」を指差すとそのまま自分からバートの方まで駆けて行く。

229 :何時の間にか懐中に入っていら手紙:2010/11/03(水) 13:21:12 0
[デストロイゴーレム・レンタルの用意あり、但し:修理費其方持ち]

230 :GM ◆iFsjS9olvSiZ :2010/11/09(火) 22:15:55 0
保守

231 :カナ ◆utqnf46htc :2010/11/12(金) 22:50:42 0
私は何て無力なのだろうな。自分の無力を噛みしめる。情けないな……本当に……。
他のエルフは努力すれば武であれ、魔であれ才能こそ無くとも、そこそこの実力を得る事が出来る。
それに比べ、私は剣を持てば剣に振り回され、魔に限ってはとんでもない制限が付いて回る。
神に授けてもらったこの最強の生態毒も、手を取り合って強くなる我々知識動物には不要の産物。
毒を持っていると言うだけで命を狙われた事すらある。全く理不尽な事だ……。
しかし、意識の深層ではこの毒を自由に振りまき、周囲の一掃を図りたいと思っている。
毒を使いたくないと思う自分と、毒を行使してみたいと思う自分。どちらも偽りのない私の意志だ。
故に私は自分の事が嫌いだ。自分自身を許してやる事は今後一切出来そうもない……。
いっそ悪人にでもなれば気も楽かも知れないが、私は其処まで賢く無い上に自らを罪人だと思っている。
いいさ、その罪を一生を持って背負ってってやるさ、この地獄の様な世でな……。

私は周囲の感触が急に無くなるのに気が付いた。
それが空間から外に出された事に、目が見えない為に気がつくのに時間がかかり、着地しようとするが派手に転げた。
しかし、この外殻の御蔭か痛みは殆ど無い。成程、コレならばもう死にかける事は無いだろう。
訂正しよう目が見えないから転げた訳ではない……、外殻が固まって体が動かない……。
どうやら動かし方が特殊らしいな、自らの体だってのに動けないとは……まるで赤子だな。
何か外で言い合っている様だが、まるで壁越しで聞いてるかの様に微かにしか聞こえない。
今は外部の事を気にしていても仕方がない。コイツを動かす事を第一に考えないとな……。
しかし、どうやって動かすんだ…? このっ!動けっ! くっ……ダメか……。
さっきは自由に動けていたのに…… そもそもさっきとの違いは……まさか……。
この外殻を動かすには魔力が必要なのか……? もう絶望的じゃないか! くそっ!動け!動いてくれ!

その時、誰か解らないが尻尾の上を誰かが通って行った。
その際尻尾を思いきり踏み込んで………。私は余りの痛さに飛び上がってしまった。
この外殻感覚通ってるのか……。怪我の功名と言えば聞こえは良いが、どう言う原理か解らないが動いてくれた様だな。
どうやら眼が見えないと思っていたが外殻の眼が閉じていただけの様だな。
まぁ、粗方予想は出来たが、やはり人の姿じゃないな……。本当にどっちが悪役だか解らないな……。
ここまで来たら落ちる所まで落ちてやるさ、全ては一人でも多くの人命の為。

先ずは状況確認だ、突っ込むだけでは勝てない戦いという物がある。私は腕力の類を持っていない故に常に考える事で危機を脱してきた。
向かうは戦力を削ってでも竜についた蔦を取ろうと必死な同属達。
コレが開放されれば今の状況が丸ごと引っくり返るだろうな。それだけの力は確実にあるだろう。
それを阻止すべく仲間が接近を試みるが矢と物量に阻まれて難攻している。
しかし、そちらで引き寄せている事で儀式魔法を組むだけの時間がある。問題は何を執り行うか……。
反魔空間を作り出すか? …いや、ダメだ……この鉱山自体の魔術式は壊れたが、
後いくつの魔術式があるか解らない上に下手をすれば鉱山までも崩してしまうかも知れん……。

気づけば仲間の方に秘策がある様なので、複数人の動きを一時的を止められる術式を執り行おう。
抵抗が高ければ直ぐに振りほどかれる呪術だが、今は一秒であっても戦局を変えてしまう、そんな局面だ。
私は何か久しいとも感じる儀式魔法の準備を執り行う。白墨を走らせ、回路を置き、そして薬箱の上に銀の皿を置く。
そして、銀の皿へ水を注ぎ込み、術式は完成。魔方陣が輝くと私を含めた周囲の同属に茨が絡みつく。
これで少し位の時間は稼げるだろう……。

232 :名無しになりきれ:2010/11/20(土) 22:20:26 0
保守

233 :カナ ◆utqnf46htc :2010/11/23(火) 00:19:48 0
どうやら仲間達の方では目立った進展は無く、未だ硬直状態にあった。
所詮は、この程度の簡単な術式ではダメだったと言うことか……。いや、こっちの戦力が低すぎるのか……。
相手にしているのは一個小隊のエルフ達。それも全てといかないが遠距離の攻撃法を持っている。
魔術の類は今のうちはどうにかなっているみたいだが、それも時間の問題だな……。
それに竜に巻きついている茨の蔓も強い魔を浴びせ続けられ、吸収と成長が追いついていないな、こっちも時間の問題だな……。
防御が追いついている今のうちに打開策を練っておかないと、あっという間に全滅してしまう……。

ううむ、出来れば同属に使いたくは無かったのだが、状況が状況だ毒での一掃を図ろう。
出来ることなら死傷者を出さずに無力化したかった所だが、そんな悠長に構えている暇も戦力も無い……。
もしかしたら同行した者達に被害が出てしまったらと考えると、自然に腰が引けていたが今はそんな事を言っている場合ではない。
腰にある針銃を引き抜こうとしたが、其れは空を薙いだ。そうだった……今は変てこな外殻に覆われているのだった……。
薬箱に予備を入れておいて助かった。しかし、薬箱に入っていたこの紙切れは何なんだ……?(>229)
まぁいい何処かの広告でも紛れ込んだのだろう。ここまで追い込まれたのも久しぶりだ。最早同属と言えども容赦はしない。
同属達に毒を撒くと言うのに私の心は踊り、早くトリガーを引けと理性ではない部分の自分が呼びかけてくる。
全く自分のこう言う部分が反吐が出る程嫌になる。コレが無ければ今まで生き残っていない訳だがな……。

一個小隊はあった同属達の数は一個分隊にまで減った。防戦一方だったのが一変したな……。
まぁ、掠り傷が付いただけで死に至る恐ろしい猛毒が塗ってあるから当然と言っては当然だろうな。
針銃が命中した者達は、まだ息があるが昏倒していて、死ぬのも時間の問題だな…。
本来はこう言う者達を助けるのが私の仕事なんだがな……。殺らなければ、こっちが死んでいた様な状況だ恨むなら族長にしてくれよ…。
しかし、毒で同属達は何とかなるかも知れないが、当然全身鉱物である竜には無効もいい所だ。
鉱物を溶かす毒も存在はするにはするんだが、圧倒的な物量の差で表面を溶かすのがやっとだろう……。
それも、あの強大な魔を纏っている故に効くかどうかも危ういしな……。
……ん? 何か族長が竜の上で騒いでいるな。

「貴様等、これで勝ったつもりか! 我々はこんな所で立ち止まったりはせん! エルフよ永遠なれ!」

なっ!? 刃物を自らの胸に突き立てて自害しただと!? 押されている物の決して劣勢ではなかったハズだが……。
いや……アレは竜を強化させる儀式だろう。其の証拠に茨の蔓が魔を吸収しきれずに一斉に枯れていく……。
くっ……、最後の最後でやってくれたな! くそっ、コレで戦局一気に変わった。一国勢力と喧嘩出来る竜か……ゾッとしないな……。
仕方ない……出来ることならば二度と使いたくなかったが最後の手段を……。

「"黒死蝶"!」

私の手から放たれたそれは酷く小さく弱弱しい一匹の黒い蝶。それがひらひらと竜へと近づく、その効果は私の毒性を相手に加える。
その結果は形ある物ならば例外なく崩壊させる力を持つ、正に私の最終兵器だ。竜に使われている石もただでは済まないんだけどな…。
しかし、黒死蝶は竜に届くこと無く空中分解してしまった。くそっ、魔が強すぎて効果が及ばない……!
直接打ち込まなければ効果は先ず無いだろう……。しかし、直接打ち込む事が出来ればこの戦いは決着する。
鉱山をも汚染してしまうが、コイツが外をのさばっている方が脅威だろう……。

「竜への接近を試みる、誰か援護を頼む」

そう言い放つと私は竜に向かい一直線に駆け出した。

234 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/11/23(火) 17:58:40 0
相性が悪かったのかバートにシルフが付けられず帰って来てしまった。
どうしたものかと焦れていると復帰したカナが慣れない体で術を発動させ他のエルフの動きを止めて
銃で射殺していく。相手の数が減りこちらの体勢も立て直し始めた所に変化が起きる。

エルフの族長が自らの命と引換えに竜の縛めを解いてしまう。呪い儀式と同様のやり方で
解き放たれた竜は先ほどよりも強く、その存在を強めている。遅れを取り戻そうとするかのように枯れた蔓を
食いちぎっては飲み込んでいく。

「キャク、いつもの!」
そういって急いで自分の使い魔の中へ避難する、するとカナが何やら黒い蝶を投げかけるが
それは相手に届く前に霧散してしまう。どうやら奥の手らしいが当てないといけないだろう。
自分の生半可な術では最早足を引っ張ることも手助けも難しい、そう考えているとカナが竜へと
駆け出していく。無茶にも程があるとマイノスは思った。下手をすれば周囲の魔力にあたって失神するかも知れない。

「無茶です!戻って!」
(どうするどうするどうすれば!シルフを使って追いかける、ダメだ追いついてもそこまで、
ライザー、電気がないし目眩ましも効かないみたいだ、ラック、チャームじゃだめだろ!キャクは・・)

そこで手をかけている歯を見てダメだなと頭を振る。手詰まりだ、どうすればいいかをマイノスは
未熟な頭で考えたが援護の策が思いつかない。

(いっそ、逃げちゃうか?これまでっぽいし)
一瞬過ぎった邪念を急いで打ち消す、それこそダメだ。相手の竜は今や月光に照らされその姿を
夜の中に浮立たせていた。夜、大量のキャクが呼べればまだわからないが今は煌々と月が輝いている。

あれがある内はいくらも呼べるものではない。歯がゆい思いをしていると竜の色が翳る。上を見れば月に
雲が差し掛かっていた。このまま月が隠れればあるいは、マイノスは固唾を飲んで空を見る。

(曇れ、雲れ、曇れ、曇れ、雲れ!曇ってしまえ!)
願いが通じたのかはたまた単なる天候不順か薄い雲が月にかかり覆い隠すと竜の姿もまた見づらくなる。
(来た!)
「カナさん!『たくさん』呼ぶからそれに紛れて!」

雲の流れは早くそして不規則だった。急がなくてはならない。マイノスは自分が入っている奴の同族を
呼ぶための呪文の詠唱を始める。

「木霊せよ木霊せよ木霊せよ、遍く世界を掻き抱く夜の腕に、遍く風の吹き荒ぶ夜の胸に、
夜の空、夜の海、夜の大地、一切に息づく汝の子等を今一度我が前に遊ばせ給え!」
シルフの力でキャクの力を増幅し急いで仲間を呼び寄せる。月が明ける前にありったけ集めなくてはならない。

口の中から普段の何倍のもの音と速さで打ち鳴らされる歯は迫力満点で心臓に悪かった。しかしその甲斐あってか
遠くから地鳴りが聞こえてきたと思うと、既に見慣れた饅頭たちが鉱山の天井から次々と零れて落ちてきていた。
「片っ端から吸いとって行けえー!」 マイノスは彼らに号令を下した。

235 :カナ ◆utqnf46htc :2010/11/25(木) 18:02:20 0
生物を大量に殺した事があるか……? 多分、殆どの者が"無い"と答えるだろう。
しかし、今現在我々が生きる為に一日で数多の命が奪われている。それが生きていると言う事だ。
何時だって人々は失ってからその大切さに気が付く、それを自覚している者なんてよっぽどの聖人か心が壊れた者だ。
そういう意味では私の精神は既に壊れている。私に大罪を与える事になった私に潜む猛毒、これは何の意味があるのだろう……。
考えた所で答えなんか出ないのは既に知っている。全く神と言うヤツは気まぐれ過ぎる。故に私は神が大っ嫌いだ。
もしも手が届くなら、もしも出会えるならば、刺し違えてでも殺してやろうと思っている。
まぁ、最も敵に向かい神風をかけている為に、もう少しで会えるかも知れないぞ神よ……。もし、会えたなら覚悟しけおけよ…。

竜の姿は酷く威圧的であった。一歩近づく毎に心の臓腑が締め付けられる様な感覚に襲われる。
しかし、私が此処で立ち止まれば、折角終息した大戦を呼び起こしてしてしまうかも知れない……。それだけは避けなければ……。
其の為ならば、この体朽ち果てようとも貴様を倒してくれるわ!

気が付いたら私は走りながら叫んでいた。自分を奮い立たせる為か、恐怖を忘れる為か自分でも解らないがな……。
しまっ! 興奮していて竜の挙動を見ていなかっ………。 な、何が起こったんだ……? 気が付いたら体が壁に縫い付けられている……?
外殻のお陰か痛みは殆ど無いが、その外殻に亀裂が幾つも入っている。こ、これはどう言う事なんだ……?
私が最後に見た光景は竜が大きく口を開けた状態だった。あの後どうなったんだ……?
今の状況が把握出来なく、整理を行っていると竜が再び大口を開ける。い、いかん! 何か解らないが次が来る!

次の瞬間、全身が引き裂かれたかの様な痛みが全身を襲う。 わ、私の体はどうなった……ん…だ……?
くっ……外殻が衝撃に耐え切れずに砕け散ったのか……。 其の程度で済んだのは幸か不幸か……。
全身の痛みを無視して立ち上がるが、目前にあった光景は長い尾を横に勢い良く薙いでいる光景だった。これは絶対に避けられな………。
私は全身に広がるとんでもない痛みで気が付いた。 どうやら尾が当たった瞬間から壁に当たるまで気を失っていた様だ……。
口に広がる鉄の味と視界が紅色に染まる。 どうやら衝撃で目と鼻の毛細血管が切れたのだろう……。
流石は一国と喧嘩出来る竜だ、あんな巨体を一瞬で動かしてきやがる……。 まるで私が幼児向けの人形にでもなった気分だな……。
いや、実際ヤツが本気になったなら、私などチリすら残っていないだろう。 文字通り遊ばれているのだ……。
それに抵抗する所か、身動きを取るのでも精一杯だ。 竜は立ち上がってくるのを待っているらしく倒れている内は攻撃して来ない。
くそっ、遊ばれているって解っているのに何も出来ないとは……。 この手で触れることさえ叶えば勝つ事が出来ると言うのに……。

しかし、それでも私は立たなければならない。他の者が新しい玩具になる事を防ぐ為に……。
生き残った薄情な同属達は既に最下層を去っている。 咎めたりはしないさ……誰だって自分の命が大切だものな……。
その醜さが我々知識を持った人類と言う生き物なのだからな……。 差し詰め私は変人かな……。
次の一撃が竜から放たれた。 手加減しているのだろうが頭の中で爆弾でも爆発したかの様な衝撃に襲われる。

何度それを繰り返しただろうか……見える範囲だけでも左腕が曲がらない方向に曲がっている。
その他は全身から激痛を発している為に何処で何が起こっているか解らないな……。立とうとしても付いた手が曲がらない方向に曲がる。
ずるずると這いずって進むがそれだけでも激痛が全身を襲う。 余りの痛みに、それ以上進めなく仰向けになって呼吸を整える。
ふと、天井を見ると天井から見えていた月が雲に覆われ、曇っていくのが見えた。
月明かりも無く周囲は漆黒に包まれる。眠い、酷く眠い……。私はもう疲れた……、先に寝させて貰うとしようか……。

しかし、私の眠りを阻害する様に大声が響き渡る。 たくさん……? その意味はその数秒後に解ることになる。
天井の亀裂から白い物が雪崩れ込んでいる。 説明しなくても解るだろう? それ自体が生き物の様な饅頭の大群だ。
私はそれが竜に飛びついて行くと同時に体に鞭打って立ち上がった。 今まで散々弄んでくれたな、たっぷりとお返しをしてやらないとな。
早いとは御世辞にも言えないが、私は走り出した。一歩づつ全身に激痛が走る。そして、饅頭の処理で気を取られている竜の尾に手を触れた。

「ぐっ…・・・こ、黒死……、黒死…蝶……」

236 :カナ ◆utqnf46htc :2010/11/25(木) 18:03:08 0
発音は大分怪しかったが、どうやら無事発動してくれた様だ……。
其れも束の間、竜の尾によって弾き飛ばされてしまった。 ああ、ついてないな全く……。
数バウンドしてからようやく私の体は止まった。 とんでもない痛み……だ、気を失った方が楽なんじゃないのか……。
竜を見ると尾から黒い痣の様な物が広がっていく、これが全身に及ぶと例外無く物体は腐り堕ちる。
しかし、それだけならもっと気軽に使っているんだがな…。 そう、この術には致命的とも言える副作用がある。
対象が腐り、朽ちると次は場を汚染し始める。 故に私みたいに毒を糧にする者以外は大急ぎで脱出しなければならない……。
此処も向こう100年位はこの毒は抜けないだろうな……。 また一つ汚染地帯を作ってしまったか……。

くっ……息が詰まりそうだ……。どうやら折れた肋骨が片方の肺に突き刺さって今自分の血液で溺れている状態だろう……。
恐らく足も折れているな、全く力が入りそうにない……。 全く……後衛がやる様な戦闘じゃないな……。
どうやら感覚が通っていたらしく竜が毒に汚染されて暴れているな……、呼び覚まされたと思ったら毒で破壊される……。
竜が可愛そうに見えてくるな……。 まぁ、かといって私にはもうどうする事も出来ない、せめてもう二度と呼び起こされない事を祈る…。
恐らく、私の毒を持ってしても、元となった骨と心の臓腑は破壊出来ないだろうからな……。

さて、私ものんびりしてられないな……、薬箱までたどり着ければ転送儀式を実行出来る。
流石に私に毒は効かないが、薬箱や服となれば話は別だ。こんな場所で身一つとか自殺行為だからな……。
それに、薬箱には大切な商売道具が沢山入っている。 ましては儀式用の銀の皿だけは何があっても持ち帰らなければな……。
加えて、流石に無いとは思うが、逃げ遅れた者達の為に……。
薬箱を目指しズリズリと這いずって行く、何とも情けない姿だな……。 まるで芋虫にでもなった気分だ……。
ああ、例えるんじゃなかった……、更に気分が悪くなった……。

予想以上に時間を食ってしまったが、薬箱まで到達する事が出来た……。もうお前を放すもんか。
手で白墨を持とうとするが指が各自変な方向に曲がっている。仕方ない……口に銜えて描くか。
体を這わせ、術式を完成させていく。 御世辞にも上手いとは言えないが魔法陣が完成した。まぁ、今の状態から見れば上出来だろう。
儀式魔法の中でも最も簡単と言われる施設脱出の魔方陣だ、後は回復陣も容易に作る事が出来る。
人の手が入っている遺跡や森に狙ったかのように転送陣や回復陣が放置されているのは、設置の容易さ故かも知れないな。
これは陣を描くだけで周りの魔を集め、自動で発動する様になっている。 これも陣設置の容易さに拍車をかけている。
陣が周りの魔を集めて光り輝く、後は陣に入るだけだ……。

「転……送………じゅ……術…し、式……」

顎で魔方陣を指すが、伝わったかどうか解らない。
そろそろ……私の意識も限界か……目が覚めたら全滅でしたった事は無い様…にな……。
其処で私の意識は途切れている。

237 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/11/27(土) 20:51:00 0
かろうじて援軍を呼ぶことには成功したが既にカナばボロボロ、というよりズタズタといった方がいい有様だった。
それでもカナは何とか竜に辿りつくと「何か」をしたようだった。
俄に竜が悶え始める。苦し紛れの攻撃に跳ね飛ばされたカナがこちらに転がってくる。

(折角助けたというのにまた死にかけて、でも・・・!)
紛れもなく今、自分の命は彼女の行動によって長らえている。その事実に苦いものを覚えながら
駆け寄ろうとする。既にこの場を去ったエルフ達と違い戦士や盗賊達も取り残されていた。

長居は無用だがカナの手当を済ませて全員でここから脱出というのも時間がかかる。
以前のように降り注ぐキャクを使って逃げるかとも思ったマイノスは信じがたい光景を目にする。

これまで防戦一方で沈黙を守っていたイーネが竜へと走っていたのだ。
何をするつもりかと見ていると、毒が回ったのとは違う、暴れて竜が自ら壊した部分を
せっせと拾い信じられないことに滝登りの如くキャクを登って鉱山を抜け出す。

呆気に取られているとまた戻ってきて同じことを繰り返す。遠目に見ても苦しそうだが、どうせなら
もっと早くその底力を出して欲しかったものである。何やら回復薬のようなものも惜しげもなく使い
竜骸石を集めて驚くべき速さで鉱山を縦に数往復する。

そして最後の往復の時には口惜しそうに竜の顔を見ると脱出してそれきり戻って来なくなる。
流石に商人、判断が早い。

気がつけばバートの姿も見えない。勝負が着いた以上彼も引き上げたのだろうか。
はっと我に帰りカナへ視線を戻すとそこに彼女の姿はない。あるのは歪な形の魔方陣だ。
魔術の教本で見た覚えのある物だ。どうやらあれで脱出したらしいが

(あの状態で作ったんだ、行き先まで安定してない可能性がある、急がないと手遅れになるかも
知れないってのに!)

目の前の魔方陣に入れば鉱山の外までは出られるだろう、だがそこにカナがいなければ意味が無い。

マイノスはカナを追いかける為の、そしてカナを助ける為の手段を固めるために周囲へと呼びかけた。
「全員この魔方陣へ入って!でもその前に一列に並んで、自分の前の人に自分の血を塗っておいて下さい!
急拵えだから逸れる危険が有ります、指先くらいでいいです。既に出血している人は前の人に塗って服を掴んで!」

そこまで言って自分は魔方陣の側に立つと足元のカナの流したであろう血を触る。右手が焼け全身が総毛立つが
構わずにラックを呼びその手に留まらせる。これで互いに血で血を結び合流しようと言うのだ

後ろの方で竜が崩れ落ち石へと戻ると、その足元から染みが広がるように毒が地面を伝ってくる。
「行きます!」
マイノスが魔方陣に入ると彼に連なる戦士たち以下全員が手や服を掴み合って続いて行く。

238 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/11/27(土) 20:54:22 0
白い光が一面黒へと変わったとき、雲が月を通りすぎて辺りを照らすまでは誰もそこが何処かは分らなかった。
「外だ!」「出られたんだ!」「生きてるぞー!」
口々に歓声を上げる者たちとは別にマイノスは自分の精霊であるトンボがある方向へ飛んで行くのを追った。

真っ黒い塊が蹲っているのを見つけると彼はそれの元まで全力で走った。ひしゃげたという以外に形容できない
姿の女性を前に付いて来た何人かは息を飲み、諦めの言葉を呟く。
「集まって下さい!今なら彼女を助けられます。急いで!」

その言語に真っ先に駆け付けた者がいる、戦士A,B,Cの三人だった。
「やっと終わったと思ったのによ」「これ本当に助かんのかよ」「早くしないか少年!」
状況が飲み込めていない彼らにマイノスは言った。

「もう出血がどうこう以前に彼女の命が消えかかっています」
周りからもそれは見れば分かることだ。

「皆さんの命を、ほんの少しでいいんです。分けてもらえませんか」

そう言うと彼らはぎょっとして後ずさる、今まで監禁されて強制労働の憂き目に遭っていたことを思えば
無理からぬことだった。

「少しって、どれくらい?」
興味本位で聞いてくる声にマイノスはこの場の全員の数を数えながら「少し」の内容を計算する。
「この人数なら出血してる人を除けば、全員鼻血を出してムダ毛が脱毛するくらいで済みます」

その言葉にそれくらいならとほぼ全員が協力を申し出る。一時的にだが恩を感じてもいるのだろう。
当然嘘だが、了承された以上善は急げだ。マイノスはその場の全員の生命力を分け与える呪文を唱え始めた。

「邪なる者、全てを許したもう神よ!願わくば我が命に従いわんことを」
朗々と続くそれは知識のある者が聞けば、邪法や禁呪といわれる類のものであることに気づいたかも知れない。

「天よ間違え給え!地よ過ち給え!神よ偽り給え!かの者の傷は我らが傷なり、かの者の咎は我らの咎なり!
失われし命は我らの命なり、世界よ異なる結末を思い出し給え!」
呪文を唱え終えると周りの人間が一斉に気を失いそれと同時にカナの顔に血色が戻ってくる。

しかしまだ足りない。傷口が半分閉じて足が治ると逆にマイノスの体に傷が開き足が折れる。
少年は脂汗を浮かべながらもカナの呼吸が落ち着いたのを確認すると最後に互いの止血だけ済ませキャクを呼ぶ。

「もう、本当に、世話、が、か、かる」
カナの腕は折れたままだが今はもうこれが精一杯だ。今度は自分が死にそうなのでキャク口の中に入ってさっきまで
彼女にしたのと同じ治療を自己に施す。痛みと共に意識が薄れていく。彼女の無事は確認できなかったが
疲労に耐え切れずにキャクとなったまま少年は眠りの井戸へ落ちて行った。

239 :カナ ◆utqnf46htc :2010/11/30(火) 18:28:32 0
ん……? 御前が神か? という事は私の命は終わってしまった様だな。
まぁ、良い折角会えたんだ、ちょっと運命ってヤツについて殺し合いでもしながら語ろうか?
幸いにも時間だけはあるんだからな、例えこの結果が世界を滅ぼそうと私は貴様を殺す!
……なんだと? 私の時間が無い? どう言う事だ、命乞いのつもりならば聞かないぞ。
何…? 体が消えていく…。まだ来るには早かったかだと!? これも貴様が仕組んだ事だろうが!くそっ…!
また貴様の言う所の気まぐれと言うヤツか? それで幾つの命が不幸になった事か……。

……ぐ…未だ全身の激痛は健在か……無くなってくれていれば助かったが、そう言う訳にもいかないか……。
動く箇所が増えている…? 通常ならば命が数回終わってもおかしくない怪我だったハズだがな……。
また誰かに助けられたのか……。 全く、つくづく思い通りにならない運命らしいな。
さて、少し座標はズレたがどうやら脱出に成功したらしい、ふむ……現在位置は鉱山付近の森の中か、
周りに倒れている奴等の手当てをしてやりたい所だが、今は鉱山だった物の成れの果てを見て置こう。
一応だが隠蔽はしておくか、まだ同属の者達がこの辺りを彷徨っているだろうからな……。
まぁ、見る以外にもちゃんとした用があるんだがな……。 全くこの体質はどうにかならない物かな……。おっと薬箱を忘れる所だった。
周囲に動物の気配所か魔物の気配すらない、木々だって葉は全て落ち赤く変色している。汚染は重度か……。
たどり着いたか……、泥沼……いや、黒い溶岩と言った方が解りやすいな……。また汚染地域を増やしてしまったか……。
私はその死の沼から黒い猛毒を手で掬うと口に運んだ。 見た目に反して清涼感が喉を抜ける。気が狂いそうになる程の激痛が和らいだ。

呼吸を整えると折れた腕と指を力任せに元に戻す。 壁への激突の痛みに比べたらどうって事ない痛みだな。
肺に刺さった肋骨を優先して固定は後回しだ。 切り開く以外に方法がなさそうだが最低限の施設すら無いか……。 まるで戦場だな……。
薬箱から自分用に作った銀製の手術道具を取り出す。 麻酔の類は私には効果が無いし……、痛いのは好きじゃないんだがな……。
自分の体にメスを通す事になろうとはな……。 まぁ、結果を言うと術式は成功した。 こう見えても薬師だからな。
肋骨を元の位置に戻して血と空気を抜き、内臓表面にある脂肪膜にて穴を塞いだ。 縫合の際は痛みで手が震えてまずかったな……。
後は折れた骨が再び内臓に刺さらないように胸部を固定して、一応の術式は完了だ。 暫くは走ったり無茶は出来ないな。
手術道具を清潔な布でふき取る。私の血によってまるで焦げた様な跡が大量に付いたが、一応清潔には出来た。
一々捨てなければならないのはとても面倒だな……、どうにかならないかね……。
しかし、毒のお陰で術後の感染症を全く視野に入れなくて良いのは大きいし、抗生物質なんて打ち込んだらどうなるか解らんしな……。
再び死の沼から猛毒を掬い上げ、口へと運んだ。 コレで回復は通常の人よりかは早いだろうが、完治は最低でも2週間位か…。
次に共に地獄から生還した者達の治療としないとな。 私みたいに手術を必要とする者は居ないから治療は簡単だろう。

まず戻った私は倒れた者達を囲むように大きな魔方陣を設置した。 地にそのまんまとか不衛生この上ないからな。魔術空間を作ろう。
魔術空間と言っても御大層な物ではなくて、四方煉瓦造りの広いだけの空間だ。 ベットとかの物も作れなくもないのだが数が作れない。
隠蔽効果も付けたかったが、今は如何せん素材が無い。 外から見れば煉瓦造りの窓の無い家に見える事だろうな……。
結局は地べたに寝かせる形になるのだが、土の上よりかはマシだろう。 しかし、こうしてみると本当に戦地みたいだな……。
さて、怪我をした奴等に抗生物質を打ち込んで置くか、仮にも助けられた訳だしな。
少々痛い出費だが、命が無かったと考えれば些細な事柄に過ぎない。 コレもある種の毒には変わりない訳だし、また作れば良い事だ。

命は助かったが、魔素も薬草も毒草も薬も何もかも品切れだ。 今襲われたら抵抗すら出来ないだろう。
薬箱から煙草を取り出し、火を付ける。 煙草を吸うのも酷く久方ぶりな気がするな……。
さて、戦いは終わった物のこれから如何するかな、エルフの里にはもう帰れそうには無いし、人里に行くにも良い顔はされないだろう……。
いっそこのまま立ち去るか……? いや、満足な装備も無く山を抜けるのは危険極まりない。 全く、自らの無力が恨めしい。
今の所は皆が目を覚ますまで此処の保持に努めよう。 その後の事はそれからだ。

240 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/02(木) 19:21:40 0
疲労と肩代わりしたカナの消耗に耐えかねて眠りに就いたマイノスは懐かしい物を見ていた。
「あれ?ここはどこだろう、ねえ、おじさん、だれですか?ここは?みんなは?」
それは彼の始まり、「マイノス」の始まり

そこは山小屋のようで、人の気配の全くない場所だった。
「ここは人が名を付けることの能わぬ山、私はバーンズ、今日からお前を精霊使いとして育てる者。
そしてお前の家族だが、お前はもう帰る事はできない、早々に忘れるがいい、お前は今日からマイノスだ」

目の前にいたのは自分を拐った者達の一人、バーンズと名乗った老人を少年はよく覚えている。
「え、そんなのいやだ、おうちにかえりたい・・・。それにぼく、マイノスじゃないよ」

「いや、今日からマイノスなのだ。お前の以前の名前は意味が無い。ここでは、今日からマイノスだ」
幼い抗弁を気にも留めず淡々と言葉を告げる老人は、マイノスに精霊使いになることを強いた。
「やだー!おとーさーん!おかーさーん!わああーん!」

何度も逃げ出した、しかしその度に途中で傷つき、死に瀕しては連れ戻される日々が続いた。
逃げ出す為の力が必要であることに少年が気付き修行を受けるようになるまでそう日は掛らなかった。
バーンズもそれを見越してマイノスに精霊と接し方と基礎的な魔術の訓練を施した。

後で聞いたところ彼らは人で在る為の多くのモノを対価に捧げ、人よりも精霊に近くなっていた。
自分たちが精霊となる前に後継者を探すべく素養のある者を攫っては精霊使いにしようとしていたらしい。
彼は言った。「精霊使いとして長じた者は自ずとこうする」と

精霊使いの素養、魔法を使う者たちの言う才とは異なるそれは、生まれながら高い技量や魔力を持つ事では
なく、精霊の入れ物としての器の大きさ、感情や存在感の大きさ、言い換えれば対価の多さを示すのである。

それから数年、少年は自分の名前と目的を忘れないままその山で訓練を続けた。
戦士や魔法使いを志す者であればその年月で何らかの才覚を身に付けられるであろう時間を、
精霊に対する五感を身につける事に費やした。

そして初めて精霊と契約を交わしたあの日に、幾つか終わりと始めりが交錯することになる。
「マイノス、お前は精霊との接し方を身に付けたようだな。後はお前が精霊と契約をすれば全ては終わる、
私自身を精霊と化しお前と契約する。それでおまえの精霊使いとしての修業は完了する」

そして用意されたコハクの指輪を小指に嵌めたマイノスは意識を集中する。
(長かった、これでやっと帰れる。帰れるんだ)
強い望郷の念を糧に精霊を呼ぶ。目の前で人の形を失い霧散していくバーンズを
指輪に収めるべく契約の言葉を口にした時、ソレは現れた。

241 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/02(木) 19:24:35 0
一匹のトンボがひらひらと飛んできたかと思えば指輪に吸い込まれていく。
精霊の名前は「ラック」、人へ強い思いを抱く者の元へ訪れるその精霊は、皮肉にも修練の中で
感情が希薄になっていく精霊使いには縁の遠い存在だった。

「マイノス、それと契約してはならない!」
バーンズの警告にしかしマイノスは従わなかった。既に身に付けた感覚からどちらが「善い」かは分かっていたから。
精霊に近づくに連れ生物の本能を精霊へと傾けたバーンズを受け入れることは、
未だ若い生き物である少年にはできなかった。

「バーンズ、ごめんなさい。でもこの子の方が「ボクに取っては」きっと正しい」
長い年月の中で僅かに培われた思いも虚しく、マイノスはラックと契約した。
瞬間、それまで褪せた感情、失われた気持ちが息を吹き返すのを感じて文字通り生き返ったような気がした。

「マイノス、お前はまだ、そんな感情を持って、お前という奴は・・・!」
それまで「入れ物として」育ててきた物が、いずれは精霊とすべく作ってきた物が逆に生物と絆を結ぶ
精霊の手によって手折ってきた感情毎覆されたことに、バーンズの中は怒りに似た、しかしそれ以上に
激しい感情によって塗りつぶされていた。

一方でマイノスはラックを通して自分の周りの歴史を見ている。人の過去を辿る力で、
今はバーンズの過去を知る。彼も自分と同じような境遇で自分の師と契約した瞬間彼は彼でなくなっていた。

「止せ、マイノス、私を見るな!私を覗くな!」
激昂して襲ってきたバーンズとは対照的にマイノスは為すがままだった。自分の師が別人にとって
変わられた誰かで、自分もそうなるかも知れなかったことを思うと、哀れでそして悲しかった。

取り殺される間際、バーンズは消滅してマイノスは命拾いした。ラックが彼を守ってバーンズを、いや
バーンズに入っていた誰かとバーンズの縁を切ったが故に老人は消滅してしまった。だが助かった方
はと言えば呆気無い終わりに胸を痛めるばかりだった。

「可哀想だね・・・バーンズ・・・」
その呟くと少年は帰路へと赴いていく。今となっては懐かしい、今も消えてくれない思い出をキャクになった
マイノスは見ていた。

「うーんうーんっ、はっ!」
唸されていたらしい。手も足もない体を起こすと目の周りが冷んやりとしていることに気付く。どうやら
泣いていたらしい。見回せばまだ辺りは暗く、巻き添えにした連中が倒れたままだ。違う点と言えば傷ついたカナが
静かに座っていた事だ。どうやら気がついたらしい。マイノスは自分の今の姿を考えずに安堵の声を漏らした。

242 :カナ ◆utqnf46htc :2010/12/04(土) 20:40:20 0
また汚染地帯を増やしてしまったか……。 大気は淀み、水は飲めなくなり、作物は育たなくなる。
つい最近にこの地方に着たとは言え、エルフの里と人里は最早満足な生活も成り立たないだろう……。
エルフの里も一部の者達は邪な考えを持っていたが、その殆どが善良なる一般人達だ……。
二つの都市を私が殺してしまったと同じ事なのだ……。 作るのは容易い事ではないが、壊すのはどうしてこんなに簡単なのだろうな。
使う毎に土地までも汚染して住民に多大な迷惑をかけて、しかも当の本人は起きた事に対して何も出来ない……か…。
毎回使う毎に二度と使うまいと思うのだが、毎回の様に使ってしまう。 やはり私は弱い者なんだろうな……。
私の技は相手を倒す技ではなく、殺す技。 体術も剣術も魔術も持たない私は実はどれよりも殺す術に長けてる……か。
力が欲しい。 相手を打ち砕く力では無く、相手を救う為の力が欲しい……。 こう望む私は傲慢なのだろうか……?
どう転んだとて私の周りが笑顔で満たされる事は決して無い。 私に関わったなら須らく不幸が訪れる。
そして、何時しか付いた名は『デスポーション』。 私に関わったなら死が訪れる、何と的を得ている名だと納得した物だ。

今の時にして卯刻位か、東の空が明るくなってくる頃合だな。
胸部骨折の為とんでもない熱さと痛みを感じながらも、私の意識は連戦に告ぐ連戦の疲れで途切れようとしていた。
しかし、それを妨害するようなけたたましいラッパの音色が響いた。 な、何だ何だ!? 大天使の七つのラッパか!?
それに準じて、死んだように眠っていた一同が酷く驚いた様子で目を覚ました。 何だ?と聞く声が多いが、それは私が聞きたいな。
私はそっと入り口から様子を見ようと顔を出すと、相手は天を貫くのでないかと思うぐらいの声を張り上げて何かを言い出した。

「我々はイービス都市騎士団也! 其処の者達を騒動の犯人と見なし拘束する!」

見ると鎧と剣でゴテゴテな上に馬に乗った者達が一個小隊は居る。 どうやら思っていたより汚染の被害が大きかったようだな……。
戦うのは最早不可能。 逃げるのにも徒歩では直ぐに追いつかれてしまう。
いや、此処はこの騒動を元から話せば罪には取られないかも知れない……実際賭けだがな……。
私は骨折して動かない腕とは逆の腕を上げ無抵抗をアピールしてから、煉瓦造りの建物から出る。

「待ってくれ、コレには理由が……」

数人の鎧兵士が馬から下りて一斉に私に剣を向け、黙れと一喝を入れて会話を一方的に止める。
くそっ、全く聞く耳持たずって事か……。 この様子だとこの辺を通った者達全てに同じ事をやっているのだろう……。
その気持ちは解らんでも無い。 自らの土地を汚染でダメにされれば穏やかにとは行くまい……。

「言い訳は都市にて聞く。おい!拘束具を人数分用意しろ。」

騎士団の連中は全身を覆える拘束具を取り出す。 拘束具に書かれているのは封魔の呪文か……。
相手は我々の事を呪術団体と思っているらしいな……。 もし呪術を使うのだったなら騎士団の命は無いんだがな……。

「同行の者達は関係ない! 拘束するなら私だけを……ぐはっ…!」

く、くそ……無抵抗である人の鳩尾を思いっきり殴りやがって……怪我人にする事じゃない……ぞ……。
余りの痛みで地に跪き、胃の内容物を吐き出す。 もう……無茶苦茶だ………。
惨めなのと救われない思いと色々な思いが織り交ざって、気が付けば私は泣いていた。
くっ……、こんな状態で私が頭脳を使わねばならぬのに……、どうして……どうして止まってくれないのだ……。

「それを判断するのは我々だ。黙って付いて来て貰おうか」

243 :カナ ◆utqnf46htc :2010/12/04(土) 20:43:24 0
その後の経過は顔までもすっぽりと覆い隠してしまう拘束具に包まれてしまった故に解らなかったが、
後ろ手に縛られ、馬車の様な物に載せられて何処かに運ばれた。 多分家畜運搬用の物だろう。 臭いがきつい……。
何処かに到着する頃にはすっかり落ち着きを取り戻し、涙も止まっていた。
だが、未だに精神面ではざわつき、不安定である事には変わりは無いんだがな……。

到着した施設に辿り着いたら先ず真っ先に私が連れて行かれた。
部屋を数回挟んだ所で椅子らしき物に座らされた。 どうやら尋問の類らしいな。
腕や足はガッチリと椅子に縫い付けられ、微かに動かすことも困難な状況だが、
異端審問や拷問の類じゃないだけ良い方と考えるべきかな。 しかし、相変わらず怪我人に対しての扱いじゃ無いな……。

「申し訳無いけど邪視の類を持っているといけないので、そのまま質問させて貰うよ。」

誰かの声がする。 どうやらこのままで尋問は続くらしい。 目が塞がっている為相手の性別も解らないな。
声だけで判断すると同性だが、些か判断材料が少なすぎる。 さて、それはさて置き此処で事情を話せば何とかなるかも知れないな…。
私はダメでもせめて何の罪も無い同行した者達だけでも開放して貰わねばな……。

「さて、良いかな? ダメでも質問するんだけどね。 さぁ、先ずは事件の動機から伺おうかな?」

私は目の前の誰とも解らない人物に対して、動機と言わずに今まで起こった事を事細かに説明した。
そして、同行していた者達には罪は無く、本当に付いて来ていただけと付け加えてな。

「ふむ、言い分は良く解った。 しかし、私もそれを信じてあげたいけど証拠が無い限りは……。
 一応上には報告させて貰うよ。 それまで君達の処分は保留にしておくよ。
 良い部屋とは言えないけど、上の決定が出るまで部屋を用意して置くよ。」

部屋と言っているが、どうせ牢獄だろう。 どうやらこの都市にとっては私達は犯罪者で決定済みらしいからな。
英雄と大犯罪者は紙一重とは良く言った物だな、どっちにしたっても大量殺人を犯している身だからな……。
証拠は毒沼の奥底に今も沈んでいる。 呼び起こさない方が良い代物だ。 故に証明出来る物等無いと言う事だ。
待遇には納得いかないが間違った事をしたとも思っていない。 ああしなければ、この都市は今頃地図から消えていただろうしな。
まぁ、牢獄に入れられるのもコレが初めてと言う訳でも無いしな、慣れれば野宿よりかは過ごし易い場所だ。

牢獄に到着すると拘束具を外された。薄暗くて良く解らなかったが既に同行していた者達が牢獄に入れられている様だった。
抜け目無い事に牢獄にも魔封の印が施されている。 念の入れようには此処まで来ると呆れるな。
私が主犯と思われているらしく尋問されたのは私だけだった様だ。 まぁ、各地で私の悪名を上げたらキリが無いしな……。
当然だが薬箱や針銃も奪われている。 今此処に居るのは只の無力な一人物さ。
どうせ何かをやったとしても無駄に終わる故に、骨折が癒着するまでゆっくりと休ませて貰うかな。
そう言えば、まだ一睡もしてないじゃないか……、どうりで死ぬ程眠い訳だな……。
牢獄に入れられて数歩後に景色が歪んだと思うと私は倒れ込む様にして深い眠りに付いた。

244 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/06(月) 19:52:51 0
カナに声をかけようとしたその時、突然辺りにラッパの音と大声が響いた。
>我々はイービス都市騎士団也! 其処の者達を騒動の犯人と見なし拘束する!

本当に突然だった。いや、周囲を注意深く警戒していればすぐに分かったのかも知れない。
しかし全員が全員今まで眠っていた上にまだまだ疲労も抜けていない状態だった。
折角助かったというのにもうまた何処かへと連れていかれるのかと落胆する者も多い。

騎士団とは言っているが扱いは相当に手荒だった。
他の者も随分乱暴に引っ立てられたが術後間もないカナまで殴られるのを見て起き抜けだった
マイノス(現在はキャクと同化中)は背筋がぞっとする感覚に襲われながら騎士団の者に
文字通り「食ってかかった」

「あ!こら!怪我人になんてことをするんだ!よさないかこの恥知らず!」
勢い良く腕にかぶり付く、とはいっても実際に食いちぎる訳にもいかないのでそれなりに
加減はしたのだが驚きと怒りから猛反撃を受けてしまった。

「なんだこいつ!喋ったぞ!」「魔物だ!」「早く殺すんだ!」
口々にどよめきが広がり何人かが剣を抜く。
「いいか!お前らくらいの年なら無条件に敬語使ってやるほど僕は優しくないからな!」

言っている間に切りかかられたので回復したばかりの魔力で守備力の上がる魔法を咄嗟に唱えると
剣が弾かれる。硬さが売りのキャクの体に補助をかければ、ちょっとした魔法剣でも切れない程頑丈になる。

「お前たち、せめて盗賊と捉えられてた戦士の区別くらいつけないか!」
うるせえっ、という声と共に蹴り飛ばされると丸い体が災いしてコロコロと転がってしまう。
この状態でも魔法は使えるがそれで他の者が攻撃されては堪らないので文句を言う以外は為すがままだった。

「遊んでいるな!戻るぞ!」
そう指示が飛ばされる頃には味を占めた騎士たちにボールのようにリフティングされていた。
「いい加減にしろ!それでも騎士か!この」
言い終わらない内に思い切り蹴られ、起き上がった時には既に皆いなくなった後だった。

それから追うことしばし、戦力的にはアテにならなくとも人探しには自信があるマイノスは
持てる精霊の力を使って馬より早く転がって目的地へとたどり着いたのである。
時間にして早朝から朝へと移ったばかりという頃だ。

245 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/06(月) 19:56:48 0
元より騎士団と目立つ名乗りをした以上見つけるのにそれほど苦労はしなかったが。
「ん?あ、おい魔物だ!魔物がでたぞ!」「本当だ!何でこんな街中に!」

それまで人々の奇異の目も相当だったが今は気にしていられない。この建物の中にカナがいるだろうと
踏んでマイノスはここまで来たのだ。

「カナさんに合わせて下さい!」
そう言うと衛兵は警戒から好奇へと色を変えた目でこちらを見てくる。
「おい、喋ったぞ」「ああ、喋ったな」

「何ですか皆して喋った喋ったって失礼でしょう!そんなことよりここに連行された薬師のカナ・マヤカサさんに
合わせてください!僕の恩人なんです。彼女は無実です!」
心象を考えて敬語を使っているがマイノスの中では騎士団の株はストップ安だ。

きぃきぃ言っていると門番は顔を見合わせて、定型文のように
「ダメだダメだ!帰った帰った!」と言った

何とかしなくては行けない、何とかしなくては。さっきまでの相手は逃げることが困難な相手だったが
今度の相手は攻めこむのが難しいときている。マイノスはなるべくならやりたくはなかったが
早々と最後の手段を使うことにした。

「仕方ない、こうなったら」
赤と黒の不吉な色合いの饅頭が勢い良く大口を開くと、「おおっ」と驚きの声が上がる。
彼はその大口で手近な地面を食べ始めた、正確には掘り始めた。

しばらくの間、門番が歪な穴に饅頭が埋まるのを見ていると後ろでくぐもった音が聞こえた。振り返れば
赤カビ饅頭が飛び出して隊舎へ向かい跳ねだしている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人組の男達はそれをしばし黙って見送っていたが、やがてもう一度顔を見合わせると
「・・・!侵入者だー!」
漸く状況を理解して敷地内へ警告を出す。

「ええい洒落臭い!この状態なら人間くらい僕だって戦えるんだ!待ってて下さいカナさーん!」
マイノスは隊舎へと突入した。

246 :カナ ◆utqnf46htc :2010/12/08(水) 20:33:22 0
私が微睡の中で私は過去の出来事を客観的に見ていた。
周りに有る形有る物が全て崩れ去って、私の周りには泥沼の様な物が広がっているだけ。
人々は逃げ惑い、逃げ遅れた者は断末魔をあげて文字通り人が溶けていく。
忘れる事は簡単だが、この光景を自分への戒めの為に忘れない様にしている。
かつて私が故郷と呼んだ小さな島国の小さな集落、それを崩壊させ鉱山同様毒沼の底に沈めたのは私だ。
しかし、それは事故だったにも関わらず私の心は躍っていた。 今まで敵わないと思っていた大人達が無様に崩れていく。
そう、私は故郷を沈めた時に持っていた感情は"狂喜"だった。 楽しかった。 笑いが止まらなかった。
それは、まるで生まれて初めて砂糖がたっぷり塗された菓子を頬張った子供の様に、目を輝かせながら……。
世界にはこんな楽しいことがあるのか! と当時の私はくるくると回りながら鼻歌交じりにただ踊っていた。
其れからの私は純粋で有るからこそ恐ろしいまでの子供と成っていた。 私は毒を振るう事を遊ぶ事だと思っていた。
黒い黒い蝶が舞う、黒い黒い花が咲き乱れる、黒い黒い木々の中にぽつんと出来た毒の花畑で、踊り狂う悪魔の子。
私の体は毒を糧に選んだのか、その頃から人との食が合わなくなっていた。 その時は周りが毒であったから問題は無かったがな……。

その時現れたのは、箪笥の様な巨大な薬箱を背負い込んだ薬師のおっさんと名乗る人物。
おっさんは解毒の類を得意としていて、自らの体を解毒しながらも私の傍に居て、物を教えてくれた。
何時でも解毒の煙草をプカプカと吹かし、何時もニヤニヤとしている端から見れば怪しい人物だ。
今思えばこの出会いが無ければ、孤独な毒の森の主と成っていただろう。 私は毒の節度を学び、毒も人を救う事がある事も学んだ。
其れからは同じ薬師としておっさんと一緒に各地を回り、薬を学び、医療を学んだ。
そして、一人立ちとなった時におっさんは私に自分の姓と名をくれた。 しかし私は姓を逆にして受け取った。
何時か、何時の時か、私が過去に毒にて殺した数と同じだけの数だけの命を救った時に、その名を元に戻す事を誓って……。
以前の私は其処で死に、新しい名を手に入れて生まれ変わった。 その時に人を殺す毒では無く人の命を助ける毒を造ろうと決めた。

『しかし貴様はまたその数を増やしつつあるではないか』

その声に私の意識は覚醒した。 ゆ、夢か……。
我ながら嫌な夢を見た物だ……。 過ちに気付く時には既に手遅れとは良く言った物だ……。
私は頭を抱えると顔が湿っている事に気が付く、どうやら私は寝ながらにして涙を流していた様だ。
フフ……悪魔とも呼ばれた私が今はこんな調子か……。 堕ちる所まで堕ちたって所かな……。
相も変わらず不安定な精神を引き摺りながら、体を起すとなにやら私の体に衣服と思われる布が掛かっていた。
其れと同時に肋骨に激痛が走り、起き上がった体をそのまま衣服に臥せる。 脳内麻薬が働いて麻痺していた痛みが開放されたのか…。
そんな事をやっていたら、同じ檻に入れられている者達が話しかけてきた。 内容は安否を確認する物だった。
良好とはとてもじゃないが言えないが、薬箱も奪われていて満足な治療を施す事が出来ない故に無理をして大丈夫と言って置いた。
心配そうに再び安否を確認してくるから、良好ではないが鎮痛処置を取れない故に何も出来ない事を告げると悔しそうな顔をしていた。
私は大丈夫だ、痛みは酷いが命に別状は無い。 しかし、骨を抜いた方がまだマシなのでは無いか……この痛みは……。

どうやら、話によると寝床が無かったので怪我人を優先して自らの服で簡易的に寝床を作ったらしい。
一応は介抱してくれた事に関して感謝の意を告げると私は恩人故に気にしなくて良いと返してきた。
他の怪我人も抗生物質が効いたのか、もう殆ど目立った怪我は無い。 良かった、毒は役に立っている……。
何やら檻を揺すって無実だと騒ぎ立てて居る者達も居るな……。すまない、私なんかに付き合わせてしまったばっかりに……。
せめてこの者達だけはどうにかしてやりたいな。 コレは私だけの罪だ。 いや、私が背負うべき罪なのだ……。
思い返せば、黒死の術を扱えば何時も同様な事になっていたな……。
聖なる泉に巣食った邪獣を黒死で退けた時は本当に殺されるかと思ったな。
それと比べれば、この状況は幾らかマシと言う辺りかな……。

247 :カナ ◆utqnf46htc :2010/12/08(水) 20:39:13 0
……ん? 何か外の様子がおかしい、何かいやに慌しい様な……。 侵入者…?
全く…少年か…、逃れたと言うのに私なぞに構わずに隠れていれば良い物を……。

それに私は此処を出るつもりも無いし、ましてや脱獄するつもり等毛頭無い。
そう、これは私が犯した罪に対しての罰なのだ。 私はどうなっても構わないが、巻き込んだ者達は私の罪に関係無い。
少々荒いが、少年と一緒に、罰の舞台から御退場願おうか……。 黒死の罪が有る以上私は人々が望む罰を受けなければならない。
人々を救おうとした結果がどちらにとっても破滅を導くか。 苦しみ無く逝けた事を考えると竜の方がマシとも思えてくるな。

私は激痛を引き摺りながらも牢へと近づく、鉄檻にしがみ付いていた者達が開き道を開ける。
掌の肉を食い千切ると鉄檻から手を出し、鉄檻の鍵を握り締める。
鍵から揚げ物料理でもしているかの様な音と鉄の焼ける嫌な香りが辺りへと広がる。
毒によってポロポロになった鍵から手を離すと扉に蹴りを入れて鉄檻の扉を無理矢理押し開ける。
こうやって幾つの鉄檻を破って来ただろうかな……。 全く捕まる事が多いとこう言う術に長けてしまうな……。
まぁ、こんな事を魔術を扱わずに出来るのは私位だろうけどな……。

「さぁ、御前達早く行け。私は罪を清算する為に此処に残る。」

そんな事言えばこいつ等が素直に応じてくれるとは思っていなかったが、思った以上に猛反発をされた。
私を連れて行けば足手纏いになると言った所で聞く気は全く無さそうだ……全く……。
この様子だと引き摺っても連れて行かれそうだな……。 仕方が無い……。

「仕方が無い、其処まで言うのならば誰か手を貸してくれ。 痛みで走れそうに無いからな」

さて移動しようとした矢先、地の底より響く地響きの様な振動が地を揺すった。
軽い地震よりも余程揺れるんじゃ無いだろうか……? 立つのもやっとだ……。
其れと同時に天を裂く様な……いや、国中にまで響き渡る様な轟音が……、いや、正に音の壁が都市を襲った。
それに続いて、建物が倒壊する様な音が連なって響く。 一体何事だ……?
何が起こったか困惑していると外が騒がしくなって来たな……。 それにしても、尋常じゃない程の騒ぎだな……。

すると聞きなれた音が私の耳に飛び込んできた。 な……!この音は……!
そう、その音は私の血液が物を溶解する時の音、それを何十倍かにした様な何度聞いても嫌な音だ。
私以外に、この毒を扱える物等……、ま、まさか……、いや、そんな訳が……。
しかし、実際朽ちた姿も見ていない故に、その可能性は十分過ぎる程ある……。
だとしたら、またこの都市が崩壊する危機が訪れている事になる……!

「この騒ぎの原因に思い当たる節がある故に確めたい。急いで外に出るぞ」

好都合にもこの騒動で施設に最低限の人すら居ない。
脱獄する為とは言わないが、嫌な予感がする。 予感は何時も当たって欲しくない時に限って良く当たる。
同行した者の手を借りて私は痛む肋骨を引き摺って移動を開始する。 急がなければならないのにもどかしいな……。

248 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/11(土) 22:57:30 0
息巻いて突撃したものの結果は散々だった。始めのうちは押せ押せで進めたのだが
髪の毛を掴まれたのは不味かった。手も足もない体なのだから手も足も出ないのは当然だった。
乱暴に振り回された挙句マイノスはまんまと捕獲されてしまったのだ。ご丁寧に猿ぐつわまで噛まされて。

(はあ、せめてあそこで口から出て元に戻っとくべきだったかな、でも相手も抜身だったし
けっこう緊張感出てたからそこで叩っ斬られないとも限らないしなあ。はあ、何をやってんだ僕は)

助けに来たのに同じ目に会い、マイノスはすっかり意気消沈していた。
今では口に布を噛まされ文字通りその辺の上着かけに吊るし上げられて
先程までの逸る心も何処吹く風だ。あまりの虚しさに思わず目尻も熱くなる。

詰めていた騎士もどこかへ去ってしまったし物珍しさに寄って来た人々も失せた。
口から出る手段も封じられてただでさえ人より少ない方向がさらに塞がれてしまった。
体を揺すってなんとか脱出を試みるも結果は芳しくない。

だが何度目かの振り子運動を繰り返していると微かに地揺れが起きる。このまま行けば上着かけが
倒れて何とかなると期待を膨らませるが揺れは予想を遥かに超えて大きくなっていく。
マイノスが自由を取り戻す頃には今度は地響きで身動きが取れない程だ。

何が起こっているのかと考えた時、ソレは聞こえた。地震に続き遠くから肉を焼くような音、続いて奇妙な風。
嫌な予感しかしないが恐る恐る窓の外を伺うと

「・・・やっぱり・・・なんか前より凶暴そうになってる・・・」
洞窟でカナの毒に朽ちたはずの竜が街へと進撃して来ている。その体は鉱山で見た時よりも
痩せている。以前は頑強な骨の体だったが今では抜身の刃物を連想させるような細身だった。

(もしかして自分の崩れた骨を取り込んだとか?じゃあ、まだまだ価値はあるってことだけど)
ドス黒い煙を体中から吹き出しながら竜は何かを探すように街を練り歩いている。
見つかる前に逃げなければならない。

そう思っていると声がかけられる。振り向くとそこにいたのは鉱山で一緒になった盗賊の一人だった、
どうやら彼もこちらの顔を覚えていたようだ。早く着てくれと案内されるとそこにはカナがいた。
案の定体中ボロボロだ。傷口がかなり痛々しいので顔をしかめずにはいられない。

「カナさん、よかったぁまだ生きてた、本当にもうなんて言ったらいいか」
カナが生きていることに安堵の息を漏らすと今の自分の状態ではカナの手当ができない事に気が付く。
自分の傷はとうに癒えているのだからこの姿でいる理由はない。例によってキャクに吐き出されると
ようやく人間のマイノスへと姿が戻る。回復や積もる話をしたかったが建物の揺れは激しさを増す一方だった。

「取り敢えずここから出ましょう。生き埋めなんて御免ですからね」
マイノスはカナ達と共に館からの脱出を始めた。

249 :カナ ◆utqnf46htc :2010/12/14(火) 18:45:46 0
奪い返した薬箱と装備にて鎮痛処置と回復処置を施して、痛みは無いが上手く動かない足を動かして出口へと向かっていた。
途中にて施設の者達に見つかったりもしたが、私達所では無かった様だ。それもそうだ、今やこの施設は崩れ行くある真っ只中である。
数多くの罪人も助けてやりたいが、全てを助けている間に私達まで瓦礫に押しつぶされてしまう。
正義には犠牲が付き物なんて考えは大嫌いだが、もうどうする事も出来ない……。
私は薬箱から一つの札を取り出して床に投げ捨てる様に置いて行った。気休め程度の幸運のお守りだ、汝等に幸あらん事を……。

出口に向かい疾走を繰り返していると、散り散りになっていた盗賊の一人が何かを見つけたらしくこっちに寄って来る。
彼に続き見覚えのある影が続いた。 影というより饅頭の姿だが私にはそれが少年だと直ぐに解った。
彼の十八番と言うべきその饅頭の姿は見慣れたくないが、見慣れていた。
ふむ、どうやら無事だったようだな。 侵入者の騒ぎを聞いた時はどうなる物かと思ったが、無事で何よりだ。
しかし、出会って直ぐに少年は私が生きている事を安堵していた。

「私はまだまだ死んでやるつもりも無いぞ。」

それにこの怪我は命に別状は無いと付け加えて置いた。 今まで窓の無かった地下の様な場所を通っていた故に、
少年が出てきた部屋から光が漏れていたので窓があると睨み部屋に入ると、外の様子を伺った。
やはりと言うべきか、何と言うか……。 其処には毒すら身にする竜の姿があった。
都市までは形を保っていた様だが、我武者羅に暴れ出した結果その体は崩壊し、まるで腐ったかの様なドロドロとした身となった。
しかし、毒でやられなかった骨部分だけは未だ健在で、ゾンビと言う単語が良く似合う容姿になっていた。
アレが全て私の毒と同等の毒を放っていると思うと頭を抱えたくなるな……。

くそっ、あのまま静かに眠っていてくれていれば良かった物を……。
しかし、それを考えるとどうしてあの竜がこの都市を襲ったのが謎になってくる。
様子を伺うと何かを探している様子だが、我々に復讐を企てる程の頭脳が有るとは到底思えない。
すると、残りの自らの体のパーツを探しているのか……。 全く厄介な事になった……。
突然目の前の窓にヒビが入る。考え事をしていて失念していたが、この施設は今崩壊真っ只中だったのだ。
いくら幾度と無く無茶を繰り返してきた私でも建物に潰されるのは勘弁願いたい。
急いで外に出ようとすると、壁に一振りの剣……いや、美しい曲線を持つ"刀"が掛けてあった。
今は無き故郷にて、その昔大量に作られていた武器だが、大陸の叩き付ける剣術とは合わずに復旧しなかった物だ。
ほぅ、観賞用としては勿体無い位に良い物だな。 この施設と一緒にコレが崩れるのは些か惜しいな。
一目惚れに近い物だろう、気が付くと私はその刀を手に取っていた。 其処で強く呼ばれた為そのまま走って部屋を後にした。

施設の外に出ると、逃げ惑う人々と、溶解され切った体を懸命に動かして自らのパーツを探している竜の姿が飛び込んできた。
先程騎士団と名乗っていた者達も懸命に竜と戦っているが、見た所防戦にも足止めにもならない始末だった。
竜の動きを止めたいのならば、竜の心の臓腑だった石を取り出すか、完全破壊するしか道は無い。確実な方を選ぶとしたら前者だろうな。
しかし、取り出すにはあの毒の中に入り魔術の繋がりを断ち切って無理矢理引きずり出す必要がある……。
何の装備も無くそんな真似が出来るのは、この世界探しても私位しか居ないだろう……。
黒死蝶だけでいままで倒れ無かった者は居ない為、倒したと思い込んでしまったのが今回の失敗だな。

「今回は私の失態だ。ここから先は私だけで行く、お前達は此処で待っていろ」

こう言った所で聞く様な奴等では無い事は解っている。 当然の様に反発してくる。
今回お前達が要るとリスクが高いんだがな……。 私は除け者にしようとこんな事を言ってるのではないと言うのに……。
余りの反発振りに私もたじろいだ。 何と言う気迫……、何故其処まで私の為に怒れるのだ。 罪多きこの私の為に……。

「……全く、御前達には負けたよ。 私が毒竜の体内へと侵入する。その間、被害が広がらない様に安全域から毒竜を引き付けて置いてくれ」

私は薬箱と刀を近くに居た者に預けると、毒竜へと真っ直ぐに走り出した。

250 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/19(日) 19:30:53 0
大分足に来てるくせに竜へ突っ込むとカナが言う。
目の前の人物の容態と台詞を繋げられず、マイノスはその言語の意味を考えてる。

もう一度確認するとカナがもう一度、毒の塊になった竜へ向かい魔術の繋がりを断つと言う。
無茶である。見たところ傷口を塞ぐ布に焼けた後が殆どない。手の出血もそうだ。
明らかに血が足りていない。

急いで静養させなければ今度こそ死ぬかも知れない。どんな馬鹿でも分かりそうなことだ。
一人でいくという彼女にマイノス以外にも反発する声が挙がるのも無理からぬことである。
ただ逃げると言っても逃げ切れるのかという疑問があるし、竜をこのままにしておく訳にもいかない。

振り仰げば石の骨でできた竜の肋骨の内側に煌々と輝く玉が見える。表面にびっしりと何かが
掘られたあの球体が心臓部だろう。胃袋も何も無い体は飲み込まれずとも内側へ入り込む事は
可能だと示している。示しているができるかどうかは別問題だ。

結局また彼女に無理をさせることに歯がゆさが振り返すが急いで思考から追い出す。
謝罪も感謝も後ですればいい、なにしろ今はその後がないかも知れないのだから。

「折角外に出られたのに・・・後で絶対安静ですからね、約束ですよ」

気を散らして足止めをしてくれというカナに戦士たちは乗り気だった。始めからまともな攻撃が
通用しそうにないのは足元で蹴散らされている騎士団や勇士の様子からも分かっていたことだ。
大型の投石機でも使わなければ物理は通らず、攻撃魔法も聞いてはいるがどれだけ時間がかかるか・・・

迷っている間にも皆は既に動き始め、路上は混乱の一途を辿っている。仕方がないとマイノスも意を決した時、
ざわりと嫌な匂いが鼻につく。いや、実際にはこれから嗅ぐだろう匂いを今嗅いだような気がしただけ。
頭の中でそれが整理されない内に、彼は足元の騎士団に向けて叫んでいた。

「後ろおおおおお!跳べえええええーーーーーーーー!」

一拍。勘の良い者は足元から竜の背後へと抜けるが、逃げ遅れた者は頭上から吹き抜ける赤い色の
風によって腐るの待たずに砂となって崩れ落ちる。遮蔽物もぐずぐずに溶け出すがまたも腐りきらずに
砂となる。毒性が強すぎるのか毒のブレスが石化のブレスになりつつあった。

よく見れば竜の口の辺りで大気が渦巻いては赤く染まっていく。鉱山で見た瘴気によく似ていた。
肺もないのにどうやってと思ったがどうやら魔力で集め毒を足し破裂させるという仕組みらしい。もう一度
撃とうとするのを見てマイノスは咄嗟にシルフを呼び出して故意に風を足す。予定よりもかなり早く
大気が集まった事で制御に失敗したのか竜の周りの大気が一度霧散する。

「二手に別れて!風を吹かせますから、逃げるときは竜の背後から風下へ駆け抜けて下さい!」
押し留めることはできそうにないので、せめてブレスの範囲を狭めようとマイノスは大風を吹かせ始めると
今の妨害に気付いたのか竜がこちらに振り向く。そして何も無いはずなのに、確かに目と目が合った。

251 :名無しになりきれ:2010/12/25(土) 23:01:42 0
保守

252 :カナ ◆utqnf46htc :2010/12/26(日) 16:18:09 0
毒とは、ある時は生物を破壊する成分。 しかし、生物以外への破壊となるとそれは薬となる。
抗生物質とは菌が作り出した菌への毒。その成分は人には及ばず、結果人の生命を助ける役割を担っている。
その様に毒と言うカテゴリーでの種類こそ多いが、その実"毒"は我々の身近な場所に溢れている。
体が自ら作り出すものにまでそれは含まれる。 ありとあらゆる種類、そして効果が存在している。
人体を破壊し崩す破壊の申し子の様な物もあると思えば、人体を害から助ける物も存在する。
私は人を破壊しすぎた。 今度は人を害から助けてやる番だ! 汚染するばっかりが毒では無い事を見せてやる。

体が軋む、眼が霞む、呼吸が苦しい、平行感覚がおかしい。
今自分の調子はどうだい?と聞かれれば最悪と答えるだろう、その表現すら生ぬるい位私の体は悲鳴を上げ続けていた。
辛うじて痛みは抑えられているが、こんな走って居られない程の重症だと自らでも気付いている。
その時後ろから少年の声が聞こえた。 内容は私の体の事だ、そんな事言われなくても解っている。
しかし、コレは私しか出来ない事で、出来る事なら私だって他人に任せて安静にしていたい所さ。

「後で自縛してでも安静にしてやるさ」

後ろに居ると思われる少年に振り向かずに片手をひらひらとして其れに答えた。
さて、問題はどうやってあの毒竜の体内、いや、毒の中に入り込むか、だ。
相手が巨大な毒のスライムだったなら簡単だったんだがな……、大部分が溶解されているが鉱山で脅威の戦闘力を誇った竜なのだ。
これはやはり貧乏くじを引いたかな……。 これは相当骨が折れそうだ、二重の意味でな。

ようやく毒竜と戦線を繰り広げている騎士団の元に到達したかと思ったら後ろから大声が響き渡った。
咄嗟に立ち止まり防御体制を取る私の元に血よりも紅い旋風が吹き抜けた。 数秒間だが私の視界は真っ赤に染まった。
少し強い風位だったが、周りの者は風に耐えられないのでなく、その毒性に耐えられなく文字通り崩れ落ちていく。
その風が巻き起こった場所で形有るのは私だけだった。 くそっ……また助けられなかったか……!
竜はその攻撃が有効と知ると再び息を吸い込む様な動作を行う。 器官が無いと言うのに息系の攻撃か、腐っても竜と言うことか……。
しかし、物理に頼っていない今しかチャンスは無い。 私は再び竜に向かって疾走した。
竜は追い払おうと動作を入れようとするが、息系の攻撃は中断が出来ないと言う欠点を持つ故に易々と懐へと潜り込めた。
私はその隙を付き巨大な毒の体へと身を潜らせた。 毒内に入って最初に感じたのは水に飛び込んだ様な冷たさだった。
体内だからもっと脈動とかあるかと思ったがとんだ期待外れも良い所だな……おっと、私の目的はコイツの分析では無い。
この竜も思えば可愛そうだな、没したと思ったら無理矢理復活させられて、意思に関係無く動かされた挙句に毒による腐敗。
待っていろ、今直ぐに私が再び恒久の眠りに付かせてやる。 まぁ、早くしないと私の呼吸も続かなくなってしまうのもあるがな……。
私は毒の海と化した竜の中を泳ぎつつ、手探りで心の臓腑だった石を探す。 内部は思っていた以上に広いな……。

途中で竜が内部に入り込んだ私を取り除こうとしたが、その度に別の動作に切り替わった所を見ると外の連中は案外上手くやってるらしい。
そんなこんなで、やっとの思いで心の臓腑まで到達した私は強引に術式から強引に引きちぎるべく手を伸ばした。
石に手を触れた刹那、竜の物と思われる膨大な記憶が流れ込んできた。 時にして約瞬く間の時間に竜の一生を私は体験した。
つまり、此れがこの竜の真理と言った所か……。 ふと心の臓腑を見上げると其処には魔法文字にて真理の文字が書き込まれていた。
この文字を掻き消せば竜を形作っている記憶が消え、元である竜の骸だった石へと戻るハズだが、
当然にも今現在私が知っている中で一番の硬度を誇るこの石が簡単に削れるとも思っていない、やはり心の臓腑を抜き取るしか無いのか…。
私は心の臓腑を持つ手に更なる力を加え、術式ごと心の臓腑の抜き取りに掛かる。 魔力元が切り離されれば流石に止まるだろう。
しかし、私の両の手は心の臓腑同様に紅蓮に輝き、石との繋ぎ目が無くなり、指先の感覚はもう既に無い。
私を取り込むつもりか……! まぁ、良いだろう……私とお前どっちが先に終焉を迎えるか、今一度勝負してやろう……!

253 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/29(水) 22:18:29 0
軽口を叩いて竜へと向かうカナの背を見送ると、マイノスは再びブレスの邪魔をするべく
集められた大気に風を過剰に供給する。しかし竜の知能というか学習能力は極端に高かった。
同じ失敗を繰り返せば別の攻撃に切り替えても良さそうなものだが、逆に大気の収束が
どんどん早くなっていく。

(も、もしかしてコツとか掴みそうなのか!?まずいぞ、このままだとこの手も通じなくなって・・・)
つぅっと冷や汗が頬を伝う。長引かせたブレスを撃てるまでの時間が元通りに近づき、霧散させることも
次第に難しくなってくる。明らかにこちらの妨害を利用し始めている。

相手が完全に慣れてしまえばこれは逆効果になる。しかし今止める訳にも行かない。止めきれずに
放たれたブレスは取り込んだ風とマイノスが作りだした気流によって威力と射程こそ伸びたものの、
その範囲は直線的となり周囲の者の回避を容易にしていたからだ。

コツを掴み始めたのは竜ばかりではない。息が解き放たれるタイミングを何人か覚え出している。
そう遠くないことだが限界が来るまでこの術を止めてはいけない。

(でも、どうしよう。あんなのいくらなんでも僕の術や精霊じゃ耐えられないぞ。もしこのまま
見切られちゃったりしたら。ああ〜考えてなかったぁ!)

このまま見切られてしまえばその時真っ先に死ぬのは間違いなく自分だろうと、マイノスは思った。
構図としては味方が横と後方に散開して尻尾や高濃度の魔力や瘴気に苦戦しながら竜を包囲している。
ただマイノス「だけ」が正面に立ち、ゆっくりと後退しながら牽制している。

周囲からは果敢に見えたかも知れないが散開時に出遅れてそのまま戦闘に入ってしまっただけなので
実は相当心細い。先程目が合った瞬間などは恐怖を突き抜けて呆けてしまったくらいだ。
攻撃も重量のある鈍器による投擲や魔法に切り替えっているが控えめの域を出ない。

骨身に纏った毒の外套が飛び散るのである。そのせいで後方の魔法使いは大きめの魔法を唱えられず、
小出しになっている。わずかな飛沫でも当たれば致命傷に成りかねないのだ。
これは前方にいるマイノスの風向きのせいでもある、陣形のミスと言うしか無いが前に回れば
大掛かりな魔法を使えなくもない。

しかしそんな自殺行為は誰もしないし前に誰もいなければ竜はいる方を向くだろう。
そしてマイノスでなければ今の妨害はできず風を止める、もしくは自分の方へ風を吹かせて飛沫が
味方へ飛ばないようにすると漏れ無く「大掛かりな魔法」と毒の飛沫に巻き込まれることは必至だ。
流石にそこまではできない。そして何よりそんな暇が竜が慣れ始めてきた辺りから消え失せてしまった。

カナが竜の体内へ潜るのが見えた。上手くいけば直に竜は倒れる。だが問題が一つ発覚してしまった。
どうやってもカナが出てくるであろう時間よりもマイノスの邪魔が効かなくなる方が早い、そしてそれは
マイノスの頭上に向けてブレスが放たれる事を意味していた。

254 :マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/29(水) 22:21:34 0
狙いも適当だったのが数の多い所から、今では包囲を崩すように吐いて来るようになった。
となれば今度はマイノスを、そして彼と同じように邪魔立てできる者から率先して攻撃していくだろう。
記念すべき戦術的犠牲者第1号の汚名を授与される時は目前に迫っていた。

カナを掻き出そうしながらも他への攻撃の手を休めない、そうこうしている間に約束の時が訪れた。

「あ・・・」

いくら風を送っても、風向きを変えても、びくともしない。それどころか何かした分だけ圧縮された大気が
大型化していくではないか。

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!)
終りを実感した時、通り抜けたはずの恐れが戻ってきた。目を閉じそうになる、もし閉じたら死ぬ、
そう思い耐えようとするが、彼の瞼はひどく重たくなっていた。

少年が最後に自分の恐怖と対峙している最中、相手の方はといえば溜めに溜めた大気を叩け付けるべく、
ゆっくりと首をもたげている所だった。最早お前は眼中にないと言わんばかりに余裕を持って。

ゆっくり、ゆっくりと赤く濁った大気の塊が膨らんでいく。放たれれば水風船を割った時のように
辺り一帯に飛び散るだろう。竜が今正に吐き出そうとしたのと、マイノスの視界が眩しい赤に染まる。

赤色の正体は爆発だった。だがそれは竜の息ではなく、魔法のソレだった。後ろの魔法使い達もまた、
マイノスの時間切れに気付いてこの時を狙っていたのだ。衝撃の大きさに竜の体がつんのめると
赤い風と黒い飛沫がマイノスの真後ろに降り注ぐ。次いで鉱夫たちが丸太を持って後ろ足を突いて
体勢を崩させることに成功する。

難を逃れたマイノスは歓声が上がる中を零れた毒を吹き散らしながら走った。
次の手を考えなければいけない。今の攻撃でもまだ足りないのだ。もう一撃されれば一たまりもない。

「ラック!カナさんの所へ行ってくれ、こっちはまだ大丈夫だから」

マイノスはカナの身を案じるとラックを呼び、彼女のもとへと向かわせた。この加護で一時的に
この場の人たちとの縁を深めるのが狙いだった。縁が深く、強く、そして多く結ばれているほど
その人の存在と生命は強固になるからだ。

一匹の蜻蛉が、この場の一縷の望みの元へと飛び立っていった。

255 :カナ ◆utqnf46htc :2011/01/02(日) 20:13:26 0
そうだな、この世に悔いが無いと言えば嘘になるだろうが、人の命なんぞ意図も容易く終わってしまう。
努力しようがどんなに抗おうが生きている限りは絶対に避けられない因果。 人が知恵の実を口にしてから繰り返される生命の因果。
そんな事を言うのも私は今絶体絶命の淵に立たされているからだ、竜の心の臓腑は私を取り込みつつある。
少しづつ心の臓腑は私の力によって動いているが取り込む速度の方が早い、最早両腕は飲み込まれ脇腹の辺りまで進んでいる。
進行するに当たって体の組織が強引に変化している訳だから、まるで捻り切られている様な耐え難い程の痛みが襲ってくる。
最早流す涙も枯れ果て私の世界が痛みに支配されようとしていた。 肺が潰れていないだけ感謝しないとな……。
しかし、このままの動きではどう頑張った所で先に待っているのは絶望。 最後は何の役に立てずに犬死か、罪人の私には似合いの死様だな。
あーぁ……折角此処までやったと言うのに今まで私がしてきた事が全て無駄になってしまったな……。
も、もうだめだ……上半身の殆どを取り込まれてしまった……、もう直ぐ肺か……息苦しくなってきたな……。
いざ目の前にすると死ぬのはやはり怖いな……、済まぬな少年よ……約束は守ってやる事は出来そうに無いな……。
永遠に安静に出来ると言う意味では約束は守れるかな……。 こんな事になるなら墓に刻む用に私の真の名を教えて置くんだったな……。
私の目の前はゆっくりと紅蓮に染まっていき、目の前が真っ暗となった。 ぁ……意識がぁ……。

気が付くと私は只広いだけの何もかも白い空間にぽつんと一人で立っていた。 天国……って訳では無いらしいな。
それにしても殺風景を通り越してまるで白い液体が満たされた容器の底の様な圧迫してくる白を感じるな……。
ぐるりと回りを見回してみるが、障害物とは一切無く地平線の先まで真っ白だ。 なんだか気味が悪いなぁ……。
とりあえず私は歩いてみる事にした。 進んでいるのか止まっているのか解らない変な感覚に襲われる。
それもそうだ、目印になる様な障害物も色の付いた物も全く無い。 唯一あるとしたら私だけだ。
果たしてどれ位歩いただろうか、時間間隔と距離感覚が取れない為どれ程歩いたか等解る筈も無かったが、
只歩いているだけって言うのも退屈故に自然と考えが巡ってしまう。 不思議と不安とかそう言うのは無かった。
しかし、楽しいと言う訳でもなく、本当に普通に歩いているだけだ。 果てがあるのか解らないこの空間を……。

視界の端に何かがチラチラすると思ったら其処には一匹の蜻蛉の姿があった。
この蜻蛉は少年が扱っていた精霊の一つだったな。 精霊には詳しくない故にコイツがどんな効果を持っているか私は知らない。
話し掛けるべきか迷っていると蜻蛉は私をすり抜けて私が歩いてきた方向へと飛んでいった。

「あっ…! ま、待てっ!」

踵を返し、急いで追おうとするが蜻蛉の姿は既に何処にも無かった。 しかし、その代りに紅蓮に染まった心の臓腑が浮いていた。
私は咄嗟に構えたが不思議にも、どうしてもこの竜が悪い様には見えなかった。

『願わくば、我汝と共にあらん事を……』

……え? な、何だって……? どう言う事だ……? 私は行き成りかけられた言動に困惑していると、
今までふわふわと浮かんでいるだけだった心の臓腑が急に猛スピードを出して私に迫ってきた。
咄嗟に両手を胸の前でクロスさせて防御しようとするが、心の臓腑は私の腕をすり抜けて胸に体当たりを仕掛けてきた。
まるで心の臓腑が爆発でもしたかの様な激しい衝撃と共に体中が煮え滾る様なとても耐えられない熱さが襲ってきた。
耐え切れずに上げた悲鳴は最早人の物ではなかった。 く…そ……私の体はどうなってるんだ……。
それに加え私の体は巨大化して行った。 果てが無いと思っていた白い世界は見る見る内に窮屈になっていった。
そこで私はこの白い空間の真意に気が付いた。 そうか、コレは卵を意味していたのか……。
つまり、竜は私を取り込んだのでは無く、寧ろその逆で竜は骸の体を捨てる事で傀儡の呪縛を断ち切ろうとしていたのか……。
そして、私はついに卵の中の世界を打ち破って外の世界へと新たなる私が誕生した。

魔術回路を失って崩れたのか、骨の残骸が回りに散らばっていた。 どうやら、私が誕生するより前に既に決着は付いていた様だ。
しかし、竜に打ち勝ったと言うのに歓声一つ上げずに皆キョトンとした様子で私を見ている。 どうしたのだ……?
不振に思い自らの身を見てみると、まぁ…何というか……私は生まれたままの姿で立っていた。

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