【旅行記】人間とエルフTRP【回顧録】

1 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/21(土) 22:46:10.91 0
装いを改めまして

~序~

遥か彼方、剣と魔法により成り立つ世界。
そこには、大きく分けて二つの種族が暮らしていた。
種の数と力、その強い探求心によって多くの文明を築き、まるで自然に反するかの如く発展を続ける種族、人間。
自然に溶け込み神秘の中に生き、長い寿命と高い魔法親和性を持つ種族、エルフ。
この二者は永い歴史の中で、時にその考えの違いから反発し合い、
またある時は共に歩み寄りながら、しかしほとんど交わる事なく暮らしてきた。

しかし今から100年前、ある『災害』によりその関係は大きく崩れる事になる。
後に魔物と呼ばれる事になる、謎の高次魔法生命体の出現である。
突如出現した魔物達は、辺り構わず人々を喰らい自然を荒らし、瞬く間に世界を崩壊の一本手前まで叩き落としたのだ。

追い込まれた二つの種族は、それぞれが生き残る為に、過去のしがらみを捨て同盟を結ぶ。
その絆は、始めこそ小さな光だったが、共に力を合わせ魔物に立ち向かう中でだんだんと勢力を増し、
やがて世界を救う程の強い輝きとなった。

…そして、時は現在に至る。
未だ魔物は駆逐し切れてはいないが、世界は概ね平和を取り戻した。
失ったものは多いが、そこには得るものもあった。
共に戦った二つの種族は、互いに仲間として親交を深め、世界の復興に励む日々を続けている。
そしてその中で、少しずつではあるが…共に暮らして行くための努力が現在も続けられていた。
これは、そんな二つの種族が織り成す、新たな歴史の物語である。

~破~

 一冊の本があった 
それは在りし日にあった誰か達の冒険譚かも知れないし、
さっき冒険に区切りを付けたばかりの君の日記かも知れない。
頁を捲ればそこには、昨日か今日、ひょっとしたら明日かもしれない出来事が、
所狭しと綴られていることだろう。

戦いの物語、とある悲恋の詩、なにかのメモ、様々な記憶
そして今、あなたの開いた頁に書かれていたのは・・・・・・
2 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/21(土) 22:51:48.22 0
さあさあ今度のアナウンスは僕ですよ
ここはエルフと人間の共存、そして戦いの物語。

前スレ
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1294656758/201-300

避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1284122609/

落ちてしまった前スレはこちらからどうぞ
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/223.html

テンプレ等

名前:(長くなるなら愛称や略名も書いて下さい)
種族:(大体人間かエルフの二種です。でも他の種族が存在しない訳ではありません)
性別:(男性か女性かという事ですが、それ以外の場合は説明が必要になります)
年齢:(エルフ等長命の種族は年齢と外見が合わないので、外見年齢もお願いします)
肩書:(戦士系か魔法使い系か、他にも役職や自称等、基本フリースペースです)
容姿:(身体的特徴、服装、髪型、身長等、要はキャラの格好です!)
装備:(容姿と被るとこもあるけど装備です。武器や防具や装飾品辺りはこちら)
特技:(特技です、魔術、技術、無茶なことでなければペン回しや利き酒だってOK)
好き:(好きと思えるものが前提条件です)
嫌い:(嫌いなものです)
備考:(上で言い切れなかったことや注意事項です。いわゆる一つの追伸ですね)

~ルール追記~
これから「人間とエルフ」では以下のテンプレに則ってシナリオを募集します
シナリオ名:

開始予定人数:

GM制/非GM制

名無し参加:有り/無し

版権キャラ参加:有り/無し

被越境:有り/無し(基本的に「人間とエルフ側」からの越境は無しです)

決定リールと後手キャンセル:ON/OFF
3 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/21(土) 22:54:59.80 0
特定の設定の共有:有り/無し(基本的に続き物などの場合はここで明言すること)
この設定は参加者間での相談や、GMがいた場合GMの判断で都度可変のものとします

シナリオは「人間とエルフ」の世界の中にそれぞれ独立して存在する物語です
テンプレや世界観はそのまま、誰でもシナリオや設定を持ち寄って、シナリオを募集し遊ぶことができます、
ただし複数のシナリオの同時進行はできません。主な注意点は、
基本的にそのシナリオ中で出された独自の設定は共有されず、他のシナリオに影響を及ぼしません

もしもシナリオに設定の共有をする場合(主に世界観設定を用いたり、続き物をやる場合)は、
上のシナリオ募集のテンプレで、設定の共有を「有り」にしましょう

~世界観における設定のちょっと追加~
・宗教 
「アルシル酒教会」:酒神ダイダロスを主神に据えた「お酒」の「お酒」による「お酒」のための宗教で
盃一つで発明から戦争まで扱う多神教。この世界で名前を知らない者はほとんどおらず信者も少なくない。
世界創造とは全く関係がなく、お酒を人々に振舞ったことがこの宗教のすべての始まり。

・酒
・この世界で「酒」といったら必ずマジックアイテム(主に回復系)
・酒の製造販売は酒神を祀る教会が仕切っている(公共事業的性格)
・以上はこの世界の住人なら子供でも知っている常識

「人間とエルフ」では以下のテンプレに則ってシナリオを募集します

シナリオ名:『豊穣祭で捕まえて』

開始予定人数:3~4人

GM制/非GM制:GM制

名無し参加:有り/無し:無し

版権キャラ参加:有り/無し:無し

被越境:有り/無し(基本的に「人間とエルフ側」からの越境は無しです):無し

決定リールと後手キャンセル:ON/OFF:OFF
4 : ◆L2ncxGVyg2 : 2012/01/21(土) 22:57:07.26 0
 導入

空は青く風も涼やか、辺りは所狭しと並ぶ縁日の屋台と引きも切らない人々の姿、
この日ばかりは山から香る新緑の香りも、街の方々から上がる料理とお酒の匂いに
押されて鳴りを潜めている。ここは食彩都市ダイダロス、その「豊穣祭」の「初日」だった。

秋の収穫祭を前に前年の貯蓄しておいた食料をいっせいに放出するこの豊穣祭は
この土地での二大イベントの一つである。この祭りには各地から観光客や出店するために
遠征してきた料理人達、または店の売り子等出稼ぎに来る人達で街は埋め尽くされる。
中には別の目的でこの街に来る人たちもいる。

お祭りの中にも更に様々な催しがあるが、中でも一番大きな物は「レース」である。
七日ある祭りの期間の内、四日目にあるそのレースは丸一日駆けて、
山間の街ダイダロスを挟む山の上、そこにあるアルシル酒教会までの一番乗りを競うのだ。

ただ例年とちょっと違う所があり、そのちょっとのせいで、今年は大変な盛り上がりを見せていた。
レースの出場者は倍に膨れ上がり、賭博の窓口も追いつかない程だ。

その原因はある日こんな一枚のお触れが貼り出されたからだった。

「レース優勝者には娘マイムの夫となる権利も与える:アルシル酒教会ダイダロス本部司教バッカス」

こんな知らせがあったものだから、いつもより下心の多い輩が大分増えてしまった。
いつにない熱狂が速くも街中を駆け巡り、話の種は数日に内に与太話の花を咲かせる。
「権利も」というのは従来の優勝賞品に加えてという意味だ。
ちなみに賞品は「教会の酒蔵から酒樽と街の賞品を何でも1つ」である。

「なぜこんなことになったのか」と言うのには当然理由があった。
ダイダロスの街にはイベント開催地の他にもう一つの顔がある。それは大陸中に広まる宗教、
「アルシル酒教会」の総本山というもので、長い時を経た老エルフのバッカスが顔役を務めていた。

このバッカスの一人娘がマイム、齢300に届こうというのにまだ夫の一人も持ったことがない。
老いた父親もそろそろ気を揉み始めていたのだ。それで今日より遡ることひと月前、
勝手にお触れを出したのだが・・・・・・

これはそんなお家騒動の折に、ふらりとこの地を訪れ、レースに関わった人たちの物語である。
5 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/21(土) 22:59:30.68 0
ー「酒神」ダイダロスの神殿ー

(わ、わしは悪くないぞ!長い人生一度くらい伴侶を持てと常々言ってきた!
いつまでも所帯を持たぬあ奴が悪いのだ!これも娘の将来を案じる親心であって、
意中の者がいるならそ奴とさっさとひっついたら良かったのだ!でも、うむむむ・・・)

騒動の張本人、バッカスは教会の懺悔室で悶々としていた。ここにいる時点で
悪かったと内心で認めているのだが踏ん切りがつかない。お触れを出したものの今度は
良からぬ誰かと娘がくっついたらと思うと寝るに寝られず、お酒も喉を通らない。

「よし!誰か!誰かおらぬか!」
また良からぬことを閃くと、彼は長い白髪と豊富な髭に埋まった目を光らせると、
教会内の人を呼び、何やら命令を下した。

ー「月喰」の温泉宿ブラックバレーー

ダイダロスの街を挟む山のうち、教会とは反対側の山にあるのがこの宿、
泉質も上々で世にも不思議な、月明かりを全く反射しないという温泉で、
街の諸々のインパクトに押され幸か不幸か知る人ぞ知る景勝地として長らくご愛顧されている。

そんな宿を切り盛りする従業員を纏め上げているのは、この宿の若旦那、名はヤスケ
東洋の大島の民を祖先に持つ彼は皆が認める働き者、教会の酒造の下請けもしている彼は、
今回のレースに出場することを決めていた。マイムの"イイヒト"とは彼のことだった。

(マイムさん、アタシはやります・・・必ず優勝して、マイムさんを・・・)
しかし周りは強敵揃い、今度ばかりは店の仲間が一生の仇にもなりかねない。
一生に一度の大勝負だ、万に一つの敗北も許されない。悩んだ末にヤスケは・・・

「ちょっくら街まで行ってきます!」
彼はある手段を取るため、街へ繰り出した。
6 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/21(土) 23:01:40.89 0
ーレース出場者用宿舎ー

「オヤジ殿めがあああーーーー!」
宿舎の壁が勢い良く殴られると、凄い音を立てて穴が空く。後で解体するとはいっても
設営スタッフはいい顔をしないだろう。肩で荒い息を吐きながら、今大会の景品であり、
レース参加者でもある女性、マイムは怒りに震えていた。

「当て付けかあ!また当て付けなのか!マイムが行かず後家だからかあ!」
地団駄を踏みながら怨みのようなうめき声を上げて、宿舎内をうろうろし始める。
エルフ特有の長い耳は角度を変えてつり上がっていた。

エルフにしては色黒でそこそこ肉付きの良い彼女はバッカスの四人目の奥さんの子供である。
頭髪は薄緑だが体色は黒、所謂「ダークエルフ」だ。
双子の姉がいたがとっくに結婚し今では他所の街の領主をやっている。

マイムもかねてより結婚しろとうっさかった父の言葉に思う所がない訳でもなかった。
ブラックバレーの若旦那と酒の注文と引き取りの逢瀬を重ねている内に、いい雰囲気になり、
そろそろ自分もと思ってはいたのだ。それなのに、その矢先に。

かくなる上は自分が優勝するしかないと思い、即日エントリーを決めると、彼女は愛馬ならぬ愛鹿と共に
町外れの宿舎に移ったのである。レースの乗り物は生き物であること以外に限定されてはいない。

(だが、絶対に失敗はできない・・・他の連中も護衛を雇ってくるだろう、ヤスケ・・・)
今回ばかりは数にものを言わせることも辞さないと、マイムは助けを求めに、
宿舎のドアを乱暴に蹴り開けた。

~所変わってここは街の入口のギルド掲示板前~
祭りに合わせて普段はあまり人の寄り付かないここも、今は別の場所のよう。

ダイダロスでは料理ギルドが盛んである。その為貼り出される依頼は、
厨房の手伝いや売り子の募集が多い。ただこの時期ばかりはそれに加えて
レースの出場者の護衛、代走者の募集も入り、日雇い仕事は大いに賑わう。
既に新しい依頼がいくつか追加されたようだ。

①レース出場者ノ護衛求ム!詳しい詳細は教会の本人まで:バッカス
②レース出場者ノ護衛求ム!詳しい詳細は本宿の本人まで:ヤスケ
③レース出場者ノ護衛求ム!詳しい詳細は宿舎の本人まで:マイム

早速誰かが依頼を見に来たようだ。
【PLの方は①~③の内誰かを選びレースに参加して下さい】
7 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/21(土) 23:03:59.34 0
×シナリオを募集します ○以下のシナリオの参加者を募集します
のっけからどうもすいません
8 : ティートリット ◆CSZ6G0yP9Q : 2012/01/23(月) 16:41:55.53 0
名前:ティートリット
種族:ハイエルフ
性別:女性
年齢:2000歳(外見年齢20代前半)
肩書:精霊使い(シャーマン)
容姿:美人薄命
装備:グリフォンの毛皮のレザーアーマー。ミスリル製のショートソード
特技:風系の精霊魔法
好き:エール酒
嫌い:ゴブリン
9 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/23(月) 21:17:01.15 0
>>8
ようこそ人間とエルフTRPへ、大変申し訳有りませんが今回のシナリオは
版権キャラは無しとなっております。元々のスレもTRPGと銘打ってはいますが
実際のTRPGという訳でもありません

またこのスレはソード・ワールドやロードス島戦記等とは何の関係もなく、
互換性もありません。もし参加して頂けるのであれば、非版権のキャラクターの作成して下さい
それと言い忘れていましたが、ここはsage進行ですので投下する際は、
メール欄に半角でsageと入力をお願いします
10 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/01/25(水) 01:41:38.37 0
>>8
点4つ分の違いはちょっと笑いましたがGM裁定出たんで
・・・保守ありがとうございますw
11 : サブロウ ◆tr.t4dJfuU [sage] : 2012/01/25(水) 16:17:48.23 0
名前:夜風のサブロウ
種族:ヒューマン
性別:男性
年齢:39歳
肩書:ドカチン
容姿:作業服、麦わら帽
装備:つるはし
特技:利き酒
好き:焼酎
嫌い:人参
備考:こんなキャラでいいですか?

12 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/25(水) 20:43:07.55 0
ようこそサブロウさん むむ、いきなり和名とはこれは予想外です。
このシナリオならなんとかなりそうですので参加はできますよ、
ただ、和名の場合は日本的な所の出身ということでいいのでしょうか、
それとも導入のヤスケのように祖先がそうという場合でしょうか

ちゃんと設定がなかったので東の国の設定は今決めました。
という訳で設定が追加されます

東洋の大島 カムシマ
海面を漂うとてつもなく大きな水草で、この巨大な浮き草をカムシマという
その上に更に草と木が生い茂る植物の塊である。このため、
「カムシマの人は草の上で寝起きする」と言われている
薬草による医療が発達しており、精霊使いとゴーレム技師が共存する風変わりな
「移動する」地域、ただ年中通して湿度が高いので蒸し蒸しする

交通手段は主に船で、訪ねる場合は各港街の漁業ギルドに相談して、
カムシマ進路予報を聞いて最寄り(予定)の街から船を出してもらう

自分で言い出しておきながら不手際すいませんでした。
以降日本的な場所出身の方はこちら参照して下さい

他にも質問は有りますでしょうか
13 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/01/26(木) 02:40:53.53 0
名前:リエッキ
種族:ハーフエルフ
性別:女
年齢:推定20代半ば(外見10代半ば)
肩書:冒険者(生きる事は冒険だ)
容姿:人間でも通りそうな体格、明るい茶色の眼と髪
装備:泥染の簡素なワンピースの上にポンチョ、モカシン
   ナイフ、背負い袋
特技:炎魔法(本人が制御できるのはわずか、使った力に応じて昏睡)
好き:食べられる物、燃やせる物
嫌い:食べられない物、燃えてしまった物
備考:出自は不明、幼い頃からあちこちで捨てられ拾われを繰り返している
   生きるための知識や技術は自然に身に付いているが教養はない
   炎魔法は髪が燃焼の触媒になるというものだが本人は把握していない
   更に危機の時には髪で物質-エネルギー相互変換が発動(本人は意識を失う)

* * * * *

リエッキは祭で賑わうダイダロスの街を仕事を探して歩いていた。

言うまでもなく食いつなぐためだが、
今はそれ以外にも少しだけまとまったお金が欲しかった。
少し前に“ちょっとした”出来事に遭って倒れたリエッキは、
回復するまでの宿代等をその時たまたま同行していた少年の世話になっていた。

(相手が大人だったら、ありがたく世話になってもよかった、けど。
年下にお金を払わせてしまったのは、返さないと・・・)

いろいろ便利なので相手が誤解するのに任せているが、
ハーフエルフのリエッキは見た目よりは年齢が行っている。
とはいえ正確な年齢は自分でも分からない。

掲示板に貼り出された賃仕事の募集を、リエッキはゆっくりと読んだ。
ろくに教育を受けていない上、
捨てられ拾われで言葉の違う土地で過ごす事もあったので読み書きは苦手だ。

>①レース出場者ノ護衛求ム!詳しい詳細は教会の本人まで:バッカス
>②レース出場者ノ護衛求ム!詳しい詳細は本宿の本人まで:ヤスケ
>③レース出場者ノ護衛求ム!詳しい詳細は宿舎の本人まで:マイム

(護衛、というから、強い人を探しているんだろうな・・・)

考えるリエッキに興味を示したのか、
どこからともなく噂話が生き甲斐という感じのおばちゃんが寄ってきて、
街ではそれなりに知られている依頼者3人の事を話してくれた。

「ありがとう。ここから一番近いのは、宿舎のマイムさん?」

おばちゃんに礼を言い、リエッキは宿舎を目指した。

(護衛でなくても、鹿の世話にでも雇ってもらえればいいな・・・)

* * * * *

皆様よろしくお願いします。
リエッキは前スレから継続のキャラですが、
読んでいなくても支障無いようにするつもりです。
14 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/26(木) 23:19:23.72 0
リエッキさん、こちらこそよろしくお願いします

それとサブロウさんは参加しますか?このまま連絡がなければ話を始めますけども
15 : サブロウ ◆tr.t4dJfuU [sage] : 2012/01/26(木) 23:43:43.63 0
僕の居ない状態で進めちゃってください。
16 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/27(金) 23:56:10.12 0
ではお言葉に甘えて

「くっくっく、オヤジ殿もヤスケもしくじったな・・・、わざわざあんな山の上まで訪ねる奴なんていない。
二人共普段から依頼なんてしなれてないからな、ふふふふふ」

誰もいない厩舎で勝ち誇ったように独り言を呟くマイムは愛鹿「フランベ」の手入れの最中だった。
飼葉を出し、水を替え、毛づくろいをし、軽くトレーニングをし、蹄の様子を見る。
体は大型犬より大きく牛よりは小さい、鹿としては大型過ぎるフランベは、
その炎のように突き立つ角を微かに震わせた。

ーマイムさんマイムさん、いらっしゃいましたら至急受付窓口までお越しください、繰り返しますー

ふと厩舎の屋根の伝声管をから自分を呼ぶ声が聞こえたので、
マイムは慌ててその場を後にする。来たかと内心で胸が躍る。
事前に事務所に話は通しておいた、故に客人がまず自分の依頼を受けた者だろうと思った。

そして扉を開けて廊下の奥から大股で歩いて突き当りを曲がれば、そこにはー
とても可愛らしい少女が一人いただけである。誰かの使いだろうかと一瞬我が目を疑った。
果たして何人来るかと不安だったのだがまさか子供一人とは想像以上に事は深刻のようだ。

眉間を軽く揉むと気を取りなおしてマイムは少女、リエッキに声をかける。

「こほん。もしかして、依頼を受けにいらして下さった方だろうか」
こんな格好で申し訳ないと、小さく断わりを入れると彼女はリエッキに丁寧な態度をとる。
先ほどまでの言動は背中の足元辺りに片付けると、自分の出した依頼内容を確認する。

プライベートでこそずぼらそのものだが、普段は酒臭い法衣を身にまとい人々に接しているので、
とうが立っていることも相まって、誰と話す時でもそれなりの礼儀を持つことができる。

「失礼ながら見たところ、戦士の様には見えませんが、術士の方なのでしょうか」

リエッキに何か動物に乗れるか、自分としてはできれば護衛の方を頼みたい、
報酬云々とその後色々と話すと、最終的にマイムはリエッキを雇うことにする。
弾除けでも鉄砲玉でもこの際ないよりはマシだからだ。
17 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/01/27(金) 23:58:07.12 0
「それではこちらへどうぞ」

どこか据わった目でリエッキを雇う旨を伝えると、事務所でちょっとした手続きをして、
レースの間用の個室へ案内する。中は良くも悪くも簡素、安手、殺風景というものだ。

「レースの開催は三日後です。なのでこちらをどうぞ」
マイムが懐から封筒を取り出すと、リエッキへと差し出す。

「この宿舎内でも大抵の物は手に入りますが、街を見てまわるのもいいでしょう、
レース用の動物のレンタルと、必要とあらば他の道具のご用意をお願いします。
言わばそれは支度金ですね」

質のいい緑色の紙の封筒にはそこそこの金須が入っており、この街の羽振りの良さと、
祭りの盛況さが伺い知れるだろう。

「私も騎乗の訓練には付き合いますので、やはり必要とあらば声をかけて下さい」

厩舎にはダチョウ、鹿、馬、ヤバトン等など様々な動物がいる。
街を探せば他の動物を扱っている厩舎が見つかるかも知れない。
レース開催まで残り三日、マイムはリエッキに、まずは自分が乗る動物の手配と身支度を言い渡した。
18 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/01/30(月) 22:00:50.54 O
保守
19 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/02/05(日) 12:37:45.46 0
マイムと会って説明を聞いたリエッキは、
ありがたく“護衛”を引き受ける事にした。

(報酬とは別に支度金まで貰える・・・
祭だからとか、マイムさんの事情があるとか、にしても、とてもいい条件。
わたしの力では多分足りない仕事だけれど、何とか役に立つようにしないと・・・)

レンタル用の動物が用意された厩舎に行って、
リエッキは少し考えてから係員に頼んだ。

「フランベと同じ道を走れるやつを借りたい」

「はい承り・・・
ああ、もしかして、あんたが護衛の依頼を受けたって訳か。
そうかそうか。ま、男だったら自分で出ちまうし、
この街の女じゃ後の事をいろいろ考えちまうもんなあ、ははは」

係員は軽口を叩きながらリエッキを厩舎の一角へ案内した。

「こいつはどうです?
人には素直だし光や音を恐れない良い子なんだがね、
ちょっと体が小さくて普通のお客には勧められない。
が、あんたの体格ならぴったりだと思いますぜ?」
20 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/02/05(日) 13:51:15.56 0

「・・・わたしを乗せられるか?」

リエッキは示された鹿に近寄って声をかけた。
さっき見たフランベよりはだいぶ小柄なその鹿は、
警戒するそぶりもなく穏やかにリエッキを見返した。

係員が鞍を用意してくれたので、少し乗らせてもらう。
リエッキはもっと小さい頃に山奥の村でロバに乗ってヤギを追っていた事があり、
乗られる相手が同意してくれていれば、ただ乗る事歩く事に問題はなかった。

「・・・では、お願いする」

パラサと呼ばれた鹿と、鞍など必要な物一式を借り受け、
街で自分用に中古の丈夫なズボンとポケットの多いベストと、
店の人の強い勧めで“レース必需品セット”なるものを買い、
そして最後に薪を一抱え買って、リエッキは宿舎に戻った。

(後でパラサに、わたしが火を出すのに慣れてもらわないと・・・)

ズボンの裾を適当に上げて、ベストも着込み、
リエッキはマイムを呼んでパラサを見せた。

「勧められてこの鹿を借りた。
わたしは乗る事歩く事はできるが、長く速く走った事はない。
レースに必要なことがあれば、教えて欲しい」
21 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/02/09(木) 23:21:17.73 0
マイムがリエッキに支給した分は他所に比べて明らかに過剰だった。
とは言っても彼女にしてみれば今度のレースは一世一大、一生に一度の大勝負だ。
ケチる理由もケチっていい理由もない。数もいない以上ありったけ投資するしかない。

勝ち目のあるコース取りやレース展開はある程度この街の住民として、
また参加者の経験からも組み立ては済んでいる。後はどこまでそれに沿う走りができるかだが、
先ほど準備に出ていった少女が戻ってきたので、彼女はそこで思考を中段する。

リエッキがパラサを伴って来たのを見て、マイムは取り繕うのも忘れてしげしげと両者を眺めた。
全体的に小柄で一見すると子供用の祭りのおめかしか、練習風景のようだが、
その枠を出て「いっぱし」の雰囲気が滲んでいる。

(これは、案外イケるかも・・・)

>>「勧められてこの鹿を借りた。
わたしは乗る事歩く事はできるが、長く速く走った事はない。
レースに必要なことがあれば、教えて欲しい」

「あ、え、ええ分かりました!それでは早速始めましょう、といっても今日のところは少しだけですが」
走ることはまだだと言うが、パラサが、元々の気性を除いても、
リエッキによく馴染んでいるのは大きなプラスである。
これなら今日中に「走る」と「止まる」までいけるのではとマイムは考える。

「まずは私とフランベが実演するので、リエッキさんは、パラサに呼びかけて下さい」
そう言って小さな笛をリエッキに渡すと、マイムは同じような笛を取り出してフランベを呼ぶ。

「アレと同じ事をして欲しい、そういう気持ちでパラサに促して下さい、
教える時は、教えたいことを一緒に見ることが大切ですからね」

細やかな合図や機微と言ったものはある程度長く乗っていないと備わらないものだが、
この様子なら最低限の動作は教えることができる。昼過ぎの厩舎、正確にはそこのロンギ場で
二人と二頭は日が遅くまで騎乗訓練をすることとなった。

「火や道具を使う時は予め焚き火などを用意してゆっくり近づくことです。
前以て使用中、使用後の状態を見せて、慣れるまでいきなりは厳禁ですよ!」
22 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/02/09(木) 23:24:10.72 0
段々と勢いがついて地がちらほらと顔を出し始めるが本人は気づかない。
ついつい熱が入ってしまい、動物がパニックに陥った時のなだめ方やら、
他の乗り手が訓練に来る時の話しまでしてしまう。色々が終わった頃にはとっぷりと日は暮れていた。

「いや~申し訳ない、ついつい熱くなってしまったよ、あんまり教え易かったもので、
リエッキさんは案外動物に好かれやすいみたいだし、これならイケるかも知れない!」

場所は移ってここは宿舎
汗だくになった顔を手ぬぐいでゴシゴシ拭きながら、マイムは悪びれずに言う。
フランベ達を厩舎の房に戻した後、二人は今食堂いる。

「朝は早いから、慣れない内は早めに寝た方がいいでしょうが、
この街の祭りを楽しんで来られるのもいいでしょう。きっと楽しめますよ!」

反目しているとは言え、故郷を大事に思っている親元で同じような気持ちで育った彼女は、
レースとは関係なしに旅行者と話す度に街の宣伝をする癖がついている。

「そういえば、リエッキさんはどちらかいらしたのか、よければ教えて頂けますか?いえ、
本職の方の教えにあるのです。『旅人に合えば生まれを問へ、そして彼の故郷の酒を出せ』って」

アルシル酒教会の「食卓の教え」の一つだ。饗(もてな)す時は相手の流儀に合わせよというものだ。
根っこが体育会系のマイムはリエッキにすっかり気を許していた、
彼女にはリエッキが朴訥だが素直な少女に見えているようだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

宿舎は厩舎に隣接する建物で、入ってすぐが食堂となっており奥に進めば二階への階段と風呂場がある。
男湯と違って湯垢で真っ白なんてことはありませんからご安心を、と説明すると、
マイムは明日もよろしくと言って先に風呂場へと向かった。

食堂は街程ではないがまた違った賑わいを見せている。マイムが去った後、
リエッキを取り囲むように数人の男たちが寄って来た。

『ヤーヤーヤーお嬢ちゃんがマイムさんの雇った護衛って奴かい!
なるほど!美人だけあって護衛もまた劣らず可愛らしい!』
人垣を割ってダミ声と共に現れたのは、無頼の輩の見本のような縦にも横にも大柄な男だった。
23 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/02/09(木) 23:26:24.27 0
皮の上着に白いズボンに赤いスカーフといった格好。
顔はよく日に焼けており、年は三十半ばといった人間の男だった。なんというか、
ならず者気取りのような風体で、どこか垢抜けない印象だ。
彼はずかずかとリエッキの前まで来ると、また大きな声で言った。

『ここいらじゃ見かけない顔だな!大方行きずりさんてとこか・・・
おっと自己紹介が遅れたな、俺はヴァランドロウ・ヴァーミリオン・ヴァレンタイン、
この街でしがないチョコレートハウスを開かせて貰ってるモンだ!』

よろしくと大仰な仕草で懐から何かを取り出すと強引にリエッキの手に握らせる。
それはよく見れば10枚一綴りのタダ券だった。一定額以下ならそれで購入できるという、
イベント限定の代物だった。

『他にもちらほら店があったかも知れないが、この街じゃあ2番目だ。
まま、そう構えるない、なあに敵に塩を送りに来たのさ、それもこの街一番の、な。
挨拶代わりと思やァいい、遠慮なく納めてくれい。んで、と、そうそうあんたレースに出るんだって?』

実は自分たちも参加するのだとヴァレンタインは告げると、威勢よく笑うと、
腰に下げて有った水筒の酒をぐいと煽り、横から部下らしき人の差し出したチョコを口に放り込んだ。

『護衛が間に合ったと聞いたがなんだ、気にすることは無かったな!
お嬢ちゃん、今回のレースの勝負は決まってるから、これでウチのチョコでも買って、
大人しくしてるんだな!いたいけな女の子が怪我なんかしちゃ、どんな甘味もビターになっちまう。
もしも本当に出るんなら、せいぜい怪我だけはしないようにな!』

完全に小馬鹿にしたような口調で宣戦布告を済ますと、彼は席を立ち出口へ向かう。
優勝するのは自分たちだという確信に満ちた声だった。

『それじゃ、用も澄んだしお暇するが、マイムさんによろしくな、お嬢ちゃん!
ついでにうちの、ヴァーミリオンチョコもよろしくゥ!』

ヴァレンタインは来た時に負けないくらいの煩さで食堂を出ていった。
もしも彼について、またマイムについて聞きたいことがあれば、
まだ食堂に残っている人に聞けば、何か教えてくれることだろう

街の喧騒は届いて来ていたが、宿舎の中は早くも一日の終わりを迎えようとしていた。
24 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/02/14(火) 02:42:22.95 0
騎乗姿勢の確認だとポンチョを脱がされ、そこで
ワンピースの下にズボン上からベストという服装に呆れられたりもしながら、
マイムに半日みっちり指導されたリエッキはそれなりに苦労して
止まる、走るなどパラサへの指示の出し方をいくつか覚えた。

(調教された鹿というのはいろいろ聞き分けるんだな・・・
昔の村のロバはみんな叩くだけだった・・・ずいぶん違う・・・)

そんなあれこれの後、宿舎の食堂で。

>「そういえば、リエッキさんはどちらかいらしたのか、よければ教えて頂けますか?いえ、
>本職の方の教えにあるのです。『旅人に合えば生まれを問へ、そして彼の故郷の酒を出せ』って」

「わたしは親も生まれも知らない。
小さいときは、いくつか、山の中の村に住んだ。どこなのか、わからない。
最近なら・・・」

リエッキはついこの間までいた街の名を挙げた。
25 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/02/19(日) 11:33:53.49 0
マイムが去った後でリエッキに近付いて来たのは
見た目も動作もうるさい大男だった。
ヴァレンタインがあれこれ言ってくるのを、
リエッキは適度に当惑した風を装って聞き流す。
実のところ、浮浪児暮らしもしてきたリエッキにとって、
ヴァレンタインの威嚇は特に恐いとは思えなかった。

(まあ、食べ物・・・これは引換券だけど・・・をくれる人は、
くれない人よりは、親切、かもしれない・・・
けど、今は、護衛の仕事の方が大事・・・)

ヴァレンタインと取り巻き達が去って行った後、
リエッキは一番安い定食を頼みがてら、やはり適度に当惑した風で聞いてみた。

「あの、今の人は・・・?」

あの様子では、レースでは彼らと競う、というよりは直接的に戦う事となるのだろう。
ヴァレンタインがマイム自身を狙っているのか地位や財産が目当てなのか、
などという事はリエッキには割合どうでもよかったが、
戦うならば相手の力ややり口を少しでも知っておきたい、と思ったのだ。
26 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/02/23(木) 22:09:23.85 0
>>「わたしは親も生まれも知らない。
小さいときは、いくつか、山の中の村に住んだ。どこなのか、わからない。
最近なら・・・」

リエッキから告げられた街の名前にマイムは懐かしさを覚えたが、
それはとうの昔に滅んだはずの場所だったので、何かの間違いだろうと結論を付けると、
顎にそっと指先を添え、静かに少女の言葉を反芻した。

「なるほど、それはつまり、リエッキさんは旅の生まれ、或いは旅の育ちと言えるかも知れませんね。
勿論、旅人のためのお酒というものもあります。この依頼が終わった時、報酬につけておきましょう」
一つ一つ言うことを選びながら、マイムは答える。

朴訥に見えた少女が、過酷な生い立ちと、人識れぬ孤独を秘めていたことに、
この年かさの神官は驚いたが、反面、頼もしさの正体に見当がついて納得する所もあった。

そしてその少し後、彼女が今日の汗を流している間、食堂では騒がしい男、
ヴァレンタインが現れて、そして去っていった。

>「あの、今の人は・・・?」
近くに座って川魚のパイを頬張っていた男は、リエッキの言葉にああ、と軽く答えた。

「あの人、ヴァレンタインさんはこの辺り一帯のチョコを取り仕切る大手『ヴァーミリオンチョコ』
の会長さんさ。2代目だけど、あれでけっこう気のいい人だよ」

そう言ってもう一切れパイをかじると、ひたすら真っ直ぐな人だと前置きを入れる。
レースには毎年参加して上位に食い込んで来る実力者だが、その内容は大勢で
コースを占めてとにかく安全迅速にコースを走破するというストイックなものだ。
うるさいが妙な愛嬌があり基本に忠実なこともあって人望は以外に厚い。

「この街の人間は、小さい頃から教会のエルフに多かれ少なかれ世話になってるからな、
皆だいたい思春期に一度くらいは憧れたりマドンナみたいに思うんだが、
中にはあの人みたいに諦めきれない人もいるんだな、これが」

ヴァレンタインに限らず、マイムに好意を持っていることで今回のレースに出ることを決めた
参加者も多いのだと、来客が帰った方をアゴで示しながら、男はリエッキに教えた。
27 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/02/23(木) 22:12:08.59 0
「エルフってのも結構罪作りだなと思ったよ。あんたも狙ってる相手がいるなら、
とっとと唾つけといた方がいいぜ」

最後のパイを食べ終えカップの水を飲み干すと、男はお先にと食堂を後にすると、
それと入れ違いに、湯上りの、頭にタオルを巻いたマイムがやってくる。

「ああリエッキさん、言い忘れてましたがあなたの部屋は宿舎の私の部屋の隣です。
ちなみに私の部屋は一番奥なのでまあ、奥から2番目ですね。それでは私はこれで」

つい今しがたまで騒ぎがあったことなど露も知らない彼女はリエッキにおやすみなさいと言うと、
二階の自分の部屋へとさっさと引き上げていった。ちなみに宿舎の部屋は窓ひとつに
固いベッドとクロゼットが一つずつあるだけで、必要な物は各自持ち込みである。

そうこうしている内に目まぐるしい祭りの一日目は終了した。
そして二日目の朝が来た。食堂の朝が早いので、ここに宿をとる者は、
食堂の開店と共に目を覚ます者が多い。

食器のぶつかるような音や水道、食材を炒める音と匂いが二階まで聞こえてくるだろう。
ただそれでも全員が同じように起きるわけでもない。
食堂よりも早く起きる者もいれば、昼過ぎまで寝ているような者もいるのだ。

マイムは予めリエッキに今日の予定は説明していた。
今日も騎乗の練習と、細々した打ち合わせがあるが、その前の自由時間も設けてあり、
その間は好きなことしていて良いとも言い渡してある。

今日の練習の時間までは、まだまだ余裕があった、
28 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/02/27(月) 02:53:33.49 0
堅焼きパンとシチューという、リエッキにとっては比較的贅沢な食事をとりながら
リエッキは先程の魚パイを食べていた男の話を思い返した。

(・・・ヴァレンタイン本人の言った事とずいぶん違う。
あの人の言うのが本当なら、本当に危険な妨害はしてこない、かもしれない。
けれど・・・罪作り・・・?よくわからない)

エルフの寿命が人間より長い事はリエッキも知っている。
ただ、リエッキがこれまで転々とした中には
人間とエルフが共に住んでいる所はなかったので
人間の男性から見たエルフの女性像などという問題自体知る由もなかった。

マイムが戻って来て、明日の予定などをてきぱきと説明する。
リエッキが泊まる部屋も取ってくれていたようだった。

「“旅の生まれ、旅の育ち”
いい言葉を教わった。これから、人に聞かれたら、そう言う」

リエッキは部屋に引き上げるマイムに挨拶と共にそれだけ言った。

(明日、練習前にパラサに火を見せよう・・・ヴァレンタインの話は、練習の後かな)
29 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/02/28(火) 20:57:41.79 0
ー余談ー
一方その頃、街の青果店ではある少年が昼夜を問わず賃仕事に追われていた。
昼前に始めた仕事が片付いたのは、とっぷりと日が暮れてからのことだった。

「本当に、朝から晩までジャム作ってましたね・・・・・・」

行きずりの精霊使いの少年は、くたくたになってため息をついた。
この街で旅費を稼ごうと募集に応募して即採用が決まって喜んだのも束の間。
祭りの期間限定のジャムを作る作業に駆り出され、丸一日鍋をかき混ぜていたのだ。

頭に巻いたタオルの塩加減とは裏腹に、厨房には甘い香りが漂っていた。
鼻と喉の境を塗り潰すような匂いはいちごの、嗅いだ瞬間目と頬を緩ませるような、
つんとした匂いはオレンジの、酸味を醸しながらも甘ったるい匂いは梅のもので、
どれも今日作られたジャムの名残だった。

ここは大陸でも指折りの老舗、マジックアイテム専門店「魔法王国」のダイダロス支店。
現在は、保存も効いて栄養価も抜群が売り文句の「魔法ジャム:MP回復:100G」のフェアを実施中で、
ここはジャムを作るために用意された台所だった。

腕が上がらなくなる度に自分に回復呪文をかけてやっと終わらせた仕事だが、
これがまだ後三日は続くのだから堪らない。

「お疲れさん、明日も早いから、ご飯食べたらちゃきちゃき上がって頂戴!」

威勢のいい声を上げたのはこの店の店長の女性だ。
この辺りの店は雇う際に住み込みの形が多い、それというのも他の店に取られたり
雇った人間を逃がさない為なのだが、当然そういう出費をすると、
元をとろうと従業員を雇った先から無理使いするので、逃げ出す者も後を絶たなかったりする。

「それだとお風呂の時間がないんですが」
どっちか選んでと素っ気ない答えが帰ってきたので彼は夕飯のまかないをかっ込むと、
そのまま風呂場へとかけていった。

(頑張れ僕。お金が貯またら、手元の素材で念願の武器を作って貰うんだ・・・)

どこかで誰かの一日が終わる時、彼の一日目もまた終わろうとしていた。
30 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/03/05(月) 12:57:31.27 0
翌朝リエッキは、パラサを宿舎の屋外自炊スペースに連れ出した。
主にレース関係者の歓迎や壮行の食事会を行うためのスペースなので
普段の食事は食堂を利用する人が多くここに来る人は少ない。
石を組んで金網を載せた簡単なかまどの一つにリエッキは小さな焚き火を用意していた。
その火が見える位置にパラサを繋ぎ、朝食のパンをひとかけら軽く炙ってかじってみせた。

「・・・これが普通の火」

細く割った薪にかまどの火を移し、リエッキはパラサに少しだけ近付く。
薪を持ったまま少し待つと上がっていた炎がおさまり
薪は赤く光りながらゆっくり燃え進むだけとなった。

「わたしは火を燃やす。見て」

パラサに見せるようリエッキはゆっくりと片手で髪をひと筋すくって薪に添えた。

「トゥリ!」

リエッキの声が上がると薪から再び炎が吹き上がる。
それを見たパラサはその場に立ったままふんと息を吐いて嫌そうに首を振った。

「・・・そう」

その後もリエッキは同じ事を何度か繰り返した。

(燃えていない木をいきなり燃やすのは今日の夕方見せよう)

リエッキは焚き火を片付けてパラサを厩舎に戻した。

「後でまた来る。練習がある」
31 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/03/06(火) 00:40:35.98 0
(そうだ、フランベにもわたしが炎を出すのを見せないと。
でも、それも夕方にしよう。あまり火を燃やすと眠くなる)

採用面接(?)の際に、多少の火を燃やせる事はマイムに話してある。
しかしそれがフランベに伝わっているとは考え難かった。

(ヴァレンタインの話もあるし、夕方は、する事、たくさん・・・)

その後少し休んで、火を燃やした後の眠気を払ってから
騎乗練習に臨んだリエッキだったが、
2回目の今日は筋肉痛に悩まされる事となった。

(・・・・・・。そのうち、慣れる、かな)

山の上まで一日駆けるというレースのコースや
参加者同士の妨害や護衛の駆け引きなど
騎乗技術以外の部分についても少しずつ教わり
何とか練習を終えると、リエッキはマイムに申し出た。

「わたしは火を燃やす。
わたしが火を燃やすのを、フランベにも見てもらいたい。
適当な場所で、彼らを驚かせないようにやりたい。
・・・いいか?」
32 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/03/10(土) 23:14:54.33 0
世に「ねぼすけ」と呼ばるる輩のおわしますること久しく、
さりとても失せるでなしに今日も彼の者は人一倍に惰眠を貪りて候。

低血圧の人間がいれば当然低血圧のエルフもいる。
マイムも流石に年齢と習慣から他の者と起床の時間を同じくするまでには、
生活態度を改善している。もっとも、それはあくまで体の話だ。

不機嫌の絶頂にいる彼女の頭の中では脳内と現実の小鳥のさえずりの区別さえ付かない。
しばし無言のまま罪人顔負けの人相で虚空を見つめていたかと思うと、
やおら拳による突きや蹴りの素振りを始めた。

無理に血圧を上げて頭を起こすマイムなりの努力の形である。
そうして思考を取り戻すと彼女もまた着替えと朝食を済ますと、
簡単な化粧をしてリエッキとの練習へと向かった。

リエッキはその日の練習も熱心に、少なくとも嫌々ではない様子で取り組んだ。
マイムの顔は筋肉痛に顔をしかめる少女に初々しさを感じていた。
復習から入って右回りと左回り強めに走る所まで、簡単な乗り方はこれで終わり、
後は反復と細かなことをパラサ自身に教えることだろう。

「ではここで一度レースの概要を説明して起きます」
実技もそこそこに区切りをつけるとマイムは講義を始めた。

・レースは四日目の朝、規定の時間祭りの運営委員会会長による開会の挨拶と共に始まる。
向かい側の山のブラックバレー温泉ではなく、その麓から出走、街を抜けて
神殿までの一番乗りを競うものであること。

また本当に二十四時間通しで走るわけではなく、実際は勾配のきつい獣道の短距離コースと、
安全ながら山肌をぐるっと回り込む遠距離コースのどちらかを選んで走ること。

・参加者の妨害はもっぱら遠距離コースに多く、短距離コースでは護衛が団結する場合もあること。
護衛は選んだコースの遠近の違いで役割が代わり、
それ故に雇い主が彼らと行動を別にするという奇策もしばしば行われること等、
話は長くなり休憩時間までやや食い込んでしまった。最後にそれと、彼女は付け加えた。
33 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/03/10(土) 23:17:33.28 0
「遅くとも当日の日没までには終わる距離で、早ければ昼過ぎには一位が出ます。
ですから真っ暗になるまでかかるということは有りません」

昼食をとり、残りの練習を済ますとリエッキがマイムに声をかけた。
何か、と返事をすると少女は口を開いた。

「わたしは火を燃やす。
わたしが火を燃やすのを、フランベにも見てもらいたい。
適当な場所で、彼らを驚かせないようにやりたい。
・・・いいか?」

「なるほど、そういう事でしたら確かに。それではこちらへどうぞ!」
雷雨にも物怖じしないフランベだが、急な光や大きな音にはまだまだ驚いてしまう。
競馬用の牧場を思わせるこの施設では他の練習用のコースもあったが、
そちらは現在他の参加者たちが使っている。

彼女たちはその辺も考えて馬場を移動し続きを行った。
フランベと一緒に大げさに驚いては宥めるということを繰り返した。

気の弱い個体なら別だがそうでないなら程度の差はあれど、慣れたり飽きたりして動じなくなっていく。
荒野等で雷による火事で食べられるようになる木の実を覚えた動物が、
落雷をあまり気にしなくなるのに近い。

鹿たちよりもむしろ自分たちにもう一追いしたところで早くも二日目の日が暮れようとしていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その頃のブラックバレー温泉では・・・・・・
「すんません番頭さん、わざわざ護衛を引き受けてくだすって」
街で人を雇えなかったヤスケは方を落として帰ってきたが、代わりに旅館の従業員数名が
ヤスケの護衛を買って出たのだ。

「いえいえ良いのですよ、これもこの旅館の為なんですから、
若旦那には早々に三代目を設けてもらわないと・・・」
34 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/03/10(土) 23:19:46.43 0
番頭さんと呼ばれたエルフの男は柔和な笑みを浮かべる。細面ながらも
旅館の制服である「キモノ」に身を包み佇む姿は、むしろ彼こそが若旦那と言わんばかり。
彼は先代と共にこの旅館を築きあげた人物であり、台所事情を一手に引き受ける金庫番でもあった。

彼の言葉にヤスケは思わず顔を赤らめるが、否定も肯定もしない。
ただ雑に頭を掻くと、仕事に戻ると告げそそくさと酒造場へ去っていった。

そんな主人を見送りながら、皆口々に冷やかした。でも、
うまく行けばいいなと結ぶことも忘れなかった。たった一人を除いては。
番頭は他の従業員を仕事に戻し、自分も事務室へと踵を返す。

ふと何かを思い出したように立ち止まると、彼はヤスケが出ていった方を静かに見据え、
酷薄な笑みを浮かべ一人ごちる。

「いやあ、実に初々しいですなあ」
この時そう口にした番頭の目には月明かりさえ遮るような暗い光が灯っていたが、
それは直ぐに鳴りを潜め、気付くものは誰もいなかった。

周囲に人影がいなくなったのを確かめてから、番頭もまたどこかへと出かけて行った。
35 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/03/17(土) 14:14:27.44 0
たくさん燃やすと眠くなる、と前置きして、リエッキは、
朝と同じように焼けている薪を燃え上がらせるところから、
手に持った新しい薪に髪をひとすくい添えて火をつけること、
地面に置いた薪に切った髪を投げて火をつけることを
鹿達に何度かずつ見せた。

「乗っている時は、やらない。燃やす時には、降りる」

暴れたり逃げたりはしないが終始嫌そうなパラサに、
言葉が通じるかどうかはともかく、リエッキはそう約束した。

その後、それならば、とマイムが追加した素早い乗り降りの練習を
半分眠った頭で繰り返していたリエッキは、
陽が暮れかけてきてようやく昨晩の出来事を思い出した。

(・・・そうだ、ヴァレンタインの事を話しておかないと)

マイムの前でパラサを止めて、できるだけ教わった通りに背から降り、
リエッキは昨晩の出来事を伝えた。

「昨日、夜、食堂にヴァレンタインという人が来た。
レースに勝とうとしないようにと言った。
怪我をするかもしれないと」
36 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/03/21(水) 22:10:52.52 0
魔法の火に動物たちを慣れさせる練習も加えて、そこからまた反復する。
今日も二人は日が暮れるまで騎乗訓練をした。
地味だがみっちり詰め込まんだものだから教わる方も教える方も大分くたびれている。

リエッキの上達はそこそこ早い方であり、まだ動物に「乗せてもらっている」状態だが、
拒絶されるような無理をさせたり、驚かしたりしなければ放り出されることはないだろう。

二日目の教習も終えたので、宿舎に戻ろうとするマイムの背に声がかけられる。
パラサから降りたリエッキは昨夜訪れた妙な客のことを伝えてきた。

>「昨日、夜、食堂にヴァレンタインという人が来た。
レースに勝とうとしないようにと言った。
怪我をするかもしれないと」

「ああーバー坊(ぼん)か!それは多分一々大げさな感じで、それでいて
謙遜してるんだか自慢してるんだか分らない奴のことだろう!」

ついつい地が出てしまい、そのことに気づくとマイムはこほん、と咳払いをひとつした。
耳の先が赤くなりそわそわと動いているが、態度は一応戻している。

「昔っから目立ちたがり屋で見栄っ張りな子だったが、そうか来たのか。
安心して欲しい、あの子もアレでもう妻子持ちだし、恒例の忠告なんです」

マイムはそう言うと、彼は確かに強引なやり方をすることもあるが、
主に観光客やレース初心者の安全を守ろうとしてそのような言動をとっているのだと説明した。

本来なら主催者側がそういう事柄に配慮して人を雇うべきなのだが、
それはいつも「ヴァーミリオンチョコ」を中心とした有志によって賄われている。
街で費用を支払おうとしても彼らは上位入賞と宣伝効果で十分だと言って受け取らないのだ。

「それでいて見栄を貼る裏側で随分慎ましい暮らしをしているそうで、私は涙を禁じえません」
そこまで言うとマイムは取り出したハンカチで目元を拭い、心配はいらないでしょうと締めくくった。
37 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/03/21(水) 22:13:00.23 0
「そんなことよりも明日はレースの前日ですから、スタート地点に現地入りしないといけません、
戻って早めに休んでしまいましょう、コースの説明もあることですし、」

リエッキへ促すと彼女はフランベを連れてきびきびと厩舎へと戻っていった。
訓練中にもまた少しレースに関して説明をしておいた。
少なくとも彼女が話せることは全て話したはずだった。

「今年は戦闘系の邪魔が入るそうで、不安ではありますが今回だけは負けられません」
力を貸してくださいと言ってマイムはリエッキに頭を下げた。

その夜、二人は昨日と同じように食堂で別れた。
そしてその後また誰かがマイムを訪ねて来た。


相手は長い白髪と豊富な髭に顔が埋まっているような老人で、背丈はリエッキと同じくらい。
地味ながら質のいい茶色のコートに身を包み小さな帽子をかぶった姿からは、
絵本の中の人物を思わせるような不思議な雰囲気がまとっていた。

彼はキョロキョロと辺りを見回すとリエッキの所まで来た。

「ああ娘さん、もしかして、お前さんがむす、えっほん!マイム殿の護衛という方かの?」
自分はこの街の牧師達の年寄り株を務めているバッカスという者だと告げた。
老人はソワソワと周囲を伺いながら少女に問いかけた。見れば顔色があまり良くない。

「いや、特に用事があるわけじゃないんじゃが、ただちょっと様子を見に、いや
ちょっと言伝を頼もうかとああいや、や、やっぱりな、何でもないのじゃ!」

来たばかりなのに彼は席を立ち急いでその場から出ていこうとすると、
去り際にリエッキを振り返り、マイムに体に気をつけるようにとぎこちなく頼むと、
今度こそ帰って行ってしまった。

いきなりやって来て、直ぐ様帰っていった変なお年寄り。
もしも彼について、また他のことについて聞きたいことがあれば、
まだ食堂に残っている人に聞けば、何か教えてくれることだろう
38 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/03/21(水) 22:15:08.74 0
・訓練中に行われた(追加された)レースの説明

不正防止の意味合いもあるが、開催を円滑に行うため、
予めスタート地点に集合しておくのが現地での風習となっていること。

そして騎獣は仮設厩舎に、選手はブラックバレー温泉の近くの掘っ立て小屋に
泊まって当日を迎えること。

長距離レースなのでそれほど早くは走らず、また途中に給水所等の
休む場所が設置されていること。

コースの分岐は神殿側の山に差し掛かったところからであり、
今回は短距離コースを選ぶこと。

そして短距離コースには毎年何らかの大きな障害物があり、
これまで飲み比べから「騎馬戦」まで、遊びから戦闘まで様々なものがあること。

戦闘がある(それなりに危険と見なされた)場合は事前にその胸が告知されること等
39 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/03/25(日) 02:26:52.92 0
「ばーぼん」
リエッキはちょっと笑った。
(手を引かれて歩く年の子供みたいだ・・・
マイムさんはエルフだから、人間のばーぼんは、
当然、生まれた頃から知っている、んだろう、けど・・・)

「そう、大げさだった。でも、あまり恐くなかった。
レースが終わったら、店に行ってみる」
リエッキはヴァレンタインに持たされたタダ券を見せた。

>「今年は戦闘系の邪魔が入るそうで、不安ではありますが今回だけは負けられません」

「わたしはナイフを持っている、が、ナイフで戦闘はしない。
わたしは火を燃やす。それで、役に立つといいのだけど」

リエッキは前半部分にだけ答えた。

(マイムさんには教会での地位と仕事がある。
食べていけるし、働き手も十分あるだろう。
確かに、夫は必要ない)
40 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/03/27(火) 09:06:54.61 0
食堂で、今日も堅焼きパンとシチューの定食を頼んだリエッキが
マイムから受けたレースの説明を思い返しながらシチューをすくっていると、
白髪に髭のやや小柄な老人がやって来た。

>「いや、特に用事があるわけじゃないんじゃが、ただちょっと様子を見に、いや
>ちょっと言伝を頼もうかとああいや、や、やっぱりな、何でもないのじゃ!」

何だか落ち着かない様子の老人の姿が消えると、近くのテーブルからは
「おっ、親父殿だぜ・・・」
「実際どうなんだろうねえ・・・」
「それがさ、昨日は・・・」
などという声が聞こえてきた。

(バッカス・・・教会・・・護衛の依頼を出していた・・・?)

思い出しながらリエッキは、話をしているテーブルに近付いた。

「あの人は・・・?」

教会の長老と言っていたし、テーブルの様子からもマイムさんの父親のようだ。
マイムさんを気にしているようだが、とはいえレースの優勝は阻止する側にも思える。
現在微妙にすれ違っているらしい父娘の関係よりも、
直接的にレースに何か仕掛けてきそうか、リエッキはそれを気にしていた。
41 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/03/31(土) 20:15:59.14 0
>>「あの人は・・・?」

「なんでも護衛が見つからないからって他の職員全員に声をかけてたらしいぜ」
「うっへ、よくやるぜ、あの人今年でいくつだったっけ?」
「ん?なんだいお嬢ちゃん、なんか用かい?」

バッカスについての世間話をしていた彼らは、近寄ってきたリエッキに気づくと声をかけた。
手近な男が席を詰めて彼女に座るように促す。

「ああ、あの爺さんはバッカスって言って、今回のレースの優勝賞品の親父さんさ。
もっと言うと優勝者のお父様になっちゃうお・か・た」

わざと色っぽく演技する彼に周りから苦笑混じりに制止の声が上がるが、
それが火付け役となったのか同じように老人の「武勇伝」がぽんぽん語られていく。

これまでに迎えたお嫁さんの数は十に上るとか上らないとか、
未だに固い肉が好物で大食い競争の記録保持者であるとか、
髭が一時期身長よりもあったとか。

そんなくだらない話の末、話題はやがてレースへと移っていく。

「今年のレースはどうすんだろうな、親父殿」
と、誰かが言えば、参加はするだろな、と誰かが次いだ。適当に相槌を打ちながら
クラッカーを齧っていた男がリエッキに説明を入れる。

「バッカスさんはレースの運営委員長も務めてるんだけど、いつもその立場を利用して
フライングするんだ。で、ゴールの直前で他の選手を待っていて優勝を譲る。
本当は自分が一番だけどってチクリとやるのが楽しみらしいけど」

でも今年はどうだろうかという声が出ると皆真剣な顔をして考えこんでしまった。

「優勝してマイムさんを結婚させるに一票」
「いや、敢えてマイムさんを優勝させてレースの無効に一票」
42 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/03/31(土) 20:18:27.51 0
そして真剣な顔をして、レースの結果を賭け始める。
いつの間にか賭けの対象は相手の予想にまで及んで随分ワイドなことになってしまった。

『君はどう思うね!?』
そっちのけだった筈のリエッキを巻き込もうとするくらいに白熱していた彼らの後方、
例によって湯上りのマイムがやって来たが妙な勢いに気圧されたのか、
小さく会釈すると、そのまま部屋へと引き上げていく。

それでも、賑やかな宿舎の晩は、僅かづつ、しかし確実に静かになっていった。
辺りはなんの寝息も聞こえぬほどにしんっと静まり返り、人の気配も大分少なくなった。
翌日の混雑するであろう現地入りに備え何人かが既に移動したからである。

夜もとっぷりと更けて、空には無数の星が浮かび上がり、夜中を控えめに囃し立てる。
それが終わればまた朝が来るだろう。

レースが終われば厩舎に動物たちを預けこそすれ、宿舎に寝泊まりする者は
ほぼいなくなる。この仮宿舎にとっては三日目が実質的な最終日である。
地面から微かに朝の香りがし始めるのに合わせて、厨房でも湯気が湧きつつあった。

あくまで今日中に反対側の山の麓へ行けばよく、
しかし言い換えればその作業を必ずしなければいけないせいで、今日の練習は少ない。

移動の時間まで、今日は大分自由時間が設けられていた。
もしも特にすることがなければ、厩舎にいるマイムに話しかければいいだろう。
43 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/04/09(月) 00:22:59.96 0
「・・・つまり、彼が一番速いのか」

楽しそうに騒ぐ人々の横に座って、リエッキは考える。

(そして彼は、最初にゴールに来た人を優勝させるかどうか、決めることができる?)

どうやらこの祭のレースは、今回のマイムの結婚話が無かったとしても
元々速さだけを競うのではないようだ、と知ったところで
リエッキはマイムの説明にあった「戦闘系の邪魔」の話を思い出す。

(ゴールに着けば、優勝できるかもしれないし、優勝できないかもしれない。
けれど、ゴールに着かなければ、優勝はできない。
だったら、彼が誰の優勝を望むかは、最初は関係ない。
必要なのは、マイムさんがゴールに着くこと。
マイムさんが邪魔を超えられるようにするのが、わたしの仕事)
44 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/04/09(月) 02:31:02.53 0
翌日の空き時間に、リエッキはまず、
買った薪の残りを火がつきやすいように細く割って背負い袋にしまい込んだ。
短いかけらもポケットにしまい込んだ。
それから、フランベの手入れをしているマイムのところに顔を出した。

「・・・食堂に、昨晩はバッカスという人が来ていた。
体に気をつけるように伝えて欲しいと言った。
他の客が、彼はマイムさんの父親だと教えてくれた。
いつも一番早くゴール近くに着く、と」

ところで、とマイムの反応を待たずにリエッキは続ける。

「わたしの仕事は、邪魔を防ぐことだと思う。
護衛が必要なくなったと思ったら先にゴールに行ってほしい」

パラサとリエッキが最後まで走れるか、は、やってみないとわからない。
用意される邪魔を越え、他の参加者による妨害も耐え切れると判断したら
マイムだけでゴールを目指すべきだ、と、リエッキは考えていた。
45 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/04/13(金) 23:36:46.23 0
ー三日目の朝ー

現地入りの前にフランベに朝の餌やりと毛づくろいをするため、マイムは厩舎にいた。
フランべは木の実や山菜を好むので飼葉にいくらか混ぜたものを与えている。
食事が終わったのを見届けると、彼女はフランベの体をおしぼりでさっさと拭いていく。

「お前はいくつになっても角だけはいやがるなあ」

最後に角を拭こうとするのに首を振って避ける愛鹿にマイムは言った。
大抵の角のある生物は自分の物を誇示したがるものだし、マイムももっと大きくなって欲しいと
願って熱心にするのだが、フランベは角を触られることだけは一向に慣れてくれない。

手を焼きながらも一仕事終えるとリエッキがやって来た。
既にある程度身支度を済ませたらしい少女はマイムに昨日の出来事を伝えた。

>>「・・・食堂に、昨晩はバッカスという人が来ていた。
体に気をつけるように伝えて欲しいと言った。
他の客が、彼はマイムさんの父親だと教えてくれた。
いつも一番早くゴール近くに着く、と」

黒い肌からは分かりにくいが、彼女の顔にさっと朱が差す。
条件反射で苛立ってしまい悪態が口をつきそうになるが、
リエッキが『ところで』と続けてくれたおかげでそれは免れた。

>>「わたしの仕事は、邪魔を防ぐことだと思う。
護衛が必要なくなったと思ったら先にゴールに行ってほしい」

「・・・・・・!あ、はい。分かりました、よろしくお願いします」
まるで傭兵を生業にしているかのように冷静な少女の言葉に、
マイムは自分が少し恥ずかしくなった。これではどちらが目上か分らない。

「リエッキさん、私からも一ついいですか?もしも逆にリエッキさんがゴールに近ければ、
その時はあなたがゴールを目指してください。そして、商品を辞退して欲しいんです」

「私からはそれだけです・・・・・・そろそろ行きましょうか?」
そう言うと、マイムはリエッキに背を向けて宿舎を後にした
46 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/04/13(金) 23:39:43.88 0
ーブラックバレー温泉の麓(集合場所)ー

レースが終わった後を考えるとゴールを神殿以外にしたほうが
何かと都合が利くのではという声は昔からあるが、「昔からそうしてるから」
今年もそうしようという声もまた、昔からある。

厩舎を出て、街を出て、ぽくぽくと歩いていくと、「会場」が見え始めた
いよいよレース前日となるこの日、受付の最終日ということもあって続々と参加者が
集まって来ていた。思惑も気分も人それぞれだが、皆マイムを見ると、
一様になんともいえない顔をした。

「改めていいますが、レース自体は一般賭博のような短時間のものではなく、
それだけにペース自体は穏やかです。しかし動物の進行に反して余力のある内に
馬上で行動を起こす人が殆どですので、気をつけてくださいね」

係員に番号札を貰い、動物たちを預ける小屋への誘導を受ける途中で彼女はそう告げた。
護衛に対して気遣いを入れるというのは些かちぐはぐだったが、マイムは気づかない。
ぐるりと見回せば、簡素な風景に反比例して、視界一杯の人と動物がひしめいている。


×ばーぼんち  ○ヴァーミリオンチョコ

「えー願いましてはー」
ダイダロスの町中に構えたチョコレートハウスの店内では、算盤の玉がヴァレンタインの太短い指に
弾かれる音が静かに反響した。店の売上を足して維持費を引いて収入を足して支出を引いて、
そんな細かいやりくりから少ない浮きを宣伝費に回してという自転車操業に今日も彼は追われている。

「ヨぉーし!これで明日のお客さんたちを引っ張ってこれればトントンだなァ」
まだ誰もいない朝一番に帳簿の確認をするのがこの男の習慣で、
そのことを知っているのは店の中でもごく僅かだ。

大仰な仕草は全て宣伝の為。多めに浮きが出た場合は家族サービスに回すものの、
それ以外はいつも店のことが最優先。言い換えれば上手く行った分だけ家庭に入れられる
ということで、ヴァレンタインは毎年この季節は真剣そのものだ。

「プレゼント代くらいは稼がねえとな!」
腕まくりをして気合を入れるとヴァレンタインもその後少しして、
従業員たちと共に明日の仕事場へと向かった。
47 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/04/13(金) 23:41:29.19 0
ーブラックバレー温泉ー

場所が職場のすぐ下にも関わらず気の早いもので、
ヤスケは二日目の終わりには現地入りを済ませていた。
ここ数日彼は仕事こそしているものの、どうにもソワソワして落ち着かないでいる様子を
番頭に何度か注意されている。そんなことでは2代目失格ですよと。

「すいません番頭さん、ついオロオロしちまって、はあ・・・・・・」
「その言葉を聞くのもこれで11回目ですよ、ヤスケ」

そう嗜めるとヤスケはまた同じ言葉をそっくりそのまま口にしようとしたので、
彼は釘を刺してから、説教をし始めた。

「いいですかヤスケ、あなたが生まれてまだ三十年も経っていませんが、
この宿はもう百年は生きています。あなたはその宿の主人なのですよ。
力及ばぬのならせめて気概を見せなさい。それが若者の在り様です」

若き二代目に苦いものを覚えながらも番頭はコンコンと叱咤の言葉を溢れさせた。
彼は思い出す。この地で自分が小さな宿を営んでいたことを。
百年前の災厄から少しして、先代と今の宿に模様替えして盛り立ててきたことや、
先代が流行病にかかって亡くなった後、今いる勤め人たちを育てて今日まで切り盛りしてきたこと。
彼は一人でこの宿を始め、そして今また一人で宿を支えているような状況だった。

瞳の奥に揺らめく陽炎のような憎悪を隠しながら、
それにまるで気づかぬヤスケを番頭は前から疎ましく思っていた。

「フゥ、お説教はこの辺でいいでしょう。私もそろそろ現地入りしないといけませんからね。

でないとまとまってレースに挑むこともできなくなってしまいます」
去っていく番頭が部屋から去り廊下の角を曲がったのを見届けると、ヤスケほっと胸を撫で下ろした。

「確かに番頭さんの言う通り、しっかりしねえとマイムさんが他の野郎に盗られちまう。
しゃんとしやがれってんだい」

強めに自分の頬を叩いて気合を入れると、ヤスケも番頭と遭遇しないようこっそりと宿を出た。
空はそんな彼らを知らず、白雲を連れてただ穏やかに流れていった。
48 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/04/23(月) 01:34:48.25 0
>「リエッキさん、私からも一ついいですか?もしも逆にリエッキさんがゴールに近ければ、
>その時はあなたがゴールを目指してください。そして、商品を辞退して欲しいんです」

「わかった。そうする」

リエッキは即答した。
仕事だから依頼主の言う通りにする、リエッキはただそれだけの事を考えていた。

最後の練習のような気分でパラサに乗って厩舎を出、
途中で適度に降りて歩いたりもしながらスタート地点に近付くと、
参加者や露店を冷やかす見物客などの人混みは自然とマイムを避けるように割れ、
逆にリエッキの方には露骨に好奇の目を向けてくる。

「・・・あれが噂の護衛か。一体あの子は何かの役に立つのかね?」
「護衛なんかよりマイム本人の方がよーっぽど恐いよねー」
「これじゃあたとえレースに優勝しても、その後の方が命がけだな」
「ところでさ、万一、ほんとに万一だけど、あの子が優勝しちゃったらどうなるの?」
「ええっ!?何それおもしろい」
「マイムの婿に女の子!バッカス爺の顔が見てみたいわぁ」
「だがまてよ、たとえ形だけの婿だとしても、神殿で暮らせるなら悪い話じゃないぜ?」
「確かにな。堅実安定な暮らしができるってのは元々俺等が優勝を狙ってる理由の半分くらいだ」
「二人が実際どんな“生活”するのかは見当もつかねぇけどな!ハハッ!」

リエッキはその中を無表情に通り抜け、マイムに続いて所定の手続きをした。

>「しかし動物の進行に反して余力のある内に
>馬上で行動を起こす人が殆どですので、気をつけてくださいね」

(“戦闘系の障害”ではない、人からの邪魔は、レースの早い時期から、か・・・)
マイムに言われた事を考えつつ、
「・・・わたしは、何かするときは、パラサから降りる」
いささか噛み合ない返事をしたリエッキをよそに、
パラサの方は、段取りはよくわかっているとばかりに厩舎におさまった。

それからリエッキも宿泊小屋に向かった。
レースのために多少の物は増えたが、殆どは普段から身につけているものばかり。
準備と言うほどする事もなく、リエッキは与えられた場所にすぐに落ち着いた。
49 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/04/28(土) 23:01:51.59 0
現地入りした先から参加者たちは自分の好奇の目とは裏腹にマイムから距離を置いていった。
マイムもそれを分かっているからか、とくに何も言わずに黙々と準備を進める。
そんな折、リエッキが何を気にするふうでもなく、ようはいつも通りに話しかけてくる。

>>「・・・わたしは、何かするときは、パラサから降りる」
それに対してマイムはそれだと却って危ないような気がしたが、
たぶんそれくらいは分かった上で言ったのだろうと、敢えて問い返したりはしなかった。

早期集合は概ね混雑から来るトラブル回避する以外の意味を持たない。
はっきり言ってしまえばあとは手持ち無沙汰なのだ。挨拶回りでもしようと思っても、
今のマイムはでは相手にあらぬ疑いがかけられるだけなのでそれもできない。

待つだけしかない時間はマイムにいらぬ疲労を齎したがそれもこれも彼女の父親の短慮故、
そう思うといよいよ彼女の苛立ちは強くなったが、昼過ぎと夕方に彼女らを訪ねる者達がいた。
片方はヴァレンタイン、もう片方はヤスケ達であった。

関係者用の宿泊施設と言えば聞こえはいいが、
一晩留まるだけで精一杯という掘っ立て小屋に彼らもやって来た。

彼らは周囲の目など意にも介さずに乗り込んできた。
昼過ぎのヴァレンタインはやって来るなりまた長い売り文句を口にして、
優勝は辞退するが代わりの賞金は賞品は弾むようバッカスとかけあって欲しいと言ってきたのだ。

「いやねマイムさん、ウチもやる以上は全力で勝ちに行きますよ。でもね、肝心の賞品だが、
俺には可愛い妻と可愛くない息子がいるんでね、受け取るわけにはいかないのサ。
だからその分奮発して欲しいってだけの話でしてね」

昔から変らない強気な言い分にマイムは苦笑した。

「その台詞は勝った後でもう一度言ってください。優勝の前借りは受け付けておりませんので」
やや芝居がかった態でやり返すと、ヴァレンタインは安堵の笑みを浮かべ今度はリエッキへ向き直る。

「お嬢サン、今回ばかりは街の奴ラは役には立たねエ、部外者のあンたが最後の頼りだ。
優勝はともかく、くれぐれもマイムさんのことは頼んだぜ」

リエッキの手を両手で包み念入りにお願いする。
彼はいつの間にか何らかの紙切れを渡していた。チョコの引換券に比べて手書きの簡素なものだった。
50 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/04/28(土) 23:04:07.08 0
「ウチのカミさんのやってるバザーの割引券だ、後で寄ってってくれよゥ!」
ただし冷やかしはお断りときっぱり言い放ちヴァレンタインは去っていった。

そして夕方、井戸端会議に大きなどよめきが広まったことで、
ヤスケたちの存在はマイム達の所まで着く前知れることとなった。

「出たぞ、一番人気!いよいよ告白か・・・」
「チューしろ!そして破局だ!それがロマンスだ!」
「頼むぞ~、お前が勝たないと俺、ご祝儀出せないんだからよ~」

端々からささやき声が聞こえて来るのに合わせ、ヤスケの顔が赤くなる。
それに比べてお付きの番頭は飄々もしくは泰然或いは両方といった感じで隣に佇んでいる。
二人の服装は「キモノ」を動き易いように手足の袖を取っ払ったものになっている。

「こんばんわ、手前供、ブラックバレー温泉郷の者でございます。
今日は明日のレースの挨拶をと思いまして、お邪魔させて頂いた次第にございます。
こちらは宿の主人のヤスケさん、私は番頭をやらせてもらっているカミュと申します」

お定まりの口上を述べると二人は恭しく頭を下げる。それがやっとのことだったのか、
赤ら顔に短く頭を刈り込んだ主人、ヤスケはマイムと見つめ合ったまま動かなくなってしまった。

次の日の朝までこんな大部屋でざこ寝する色気も何もない間柄だが、
二人に限ってはそんなことはなかった。
気にせず番頭はてきぱきと土産の菓子折りと社交辞令と主人を置いて帰ってしまった。

ヤスケを見るカミュの目は終始侮蔑の色を浮かべていたが、
それは分厚い営業用笑顔の中に塗り込められて気付くものはあまりいなかった。

ちなみに土産の菓子は「パンチングビスケット」という厚めででこぼこした焼き菓子だ。
どうやって測ったのか不明だが成人男性の拳骨と同程度の硬さを持つらしく、
水に濡らして火で炙るとふっくら食べられるようになるという妙な食べ物である。

二度の来客の後、日も落ちて大多数が寝始める。
勿論何割かは寝ずにカードをしたり熱心に仕事の話をしたり恋の話に興じたりしている。
51 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/04/28(土) 23:06:20.14 0
マイムは寝ていなかった。寝付けなかったのだ。朝には皆とこの会場からぞろぞろと起きだし、
外で朝食の一つも済ませ開会の挨拶を迎えるのだが、今にも全てが終わってしまうのではないか、
漠然とした不安にくるまれて緊張してしまっていたのだ。

場所は離れているが、当然この大規模なタコ部屋には現在バッカスもヤスケもいる。
彼らは揃って寝てしまっていたが、彼女だけはそうできなかった。

「リエッキさん、まだ起きていますか?」
遠慮がちに、消え入りそうな声で、マイムはリエッキに呼びかけた。
もしかしたらもう寝ているかも知れない。いや、いっそそのほうが気が楽だ。
そんなふうに思い、月明りが薄く差し込む室内で彼女は続けた。

「こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい。明日で終わります。
きっと、終わりますから、それまではよろしくお願いします」

声は微かに震えて、戸惑いに言い聞かせるような気持ちが滲んでいた。
誰にもこぼせぬ不安を少女に遠慮がちに切り出していく。

「でも私、リエッキさんが来てくれた時、とっても嬉しかったんです。
たかが親子喧嘩がここまで大事になってしまって、皆呆れてしまって、
その分距離を取っていって・・・・・・」

天井に据え付けられた時計の音が続く

「募集に応じる人もきっと町の外の人、でもどんな人が来るだろうって不安だった。
がらの悪い人や私に取り居ろうとする人だったら、この際誰も来ないでいいとさえ思った・・・
でも来てくれたのはあなたでした。たったそれだけで、心が支えられたような気がして」

気づけば辺りの物音もしん、と静まり返り

「本当にありがとうございます」

起きているものは誰もいなくなっていた

最後に、彼女は『おやすみなさい』とリエッキに結ぶと、安らかに瞼を閉じる。
月も、それに見届けたかのように雲間に隠れ、彼女たちの上に、夜を塗り広げていった。
52 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/05/06(日) 02:26:06.50 0
――昼過ぎ。

>優勝はともかく、くれぐれもマイムさんのことは頼んだぜ」

流石のリエッキもこの念押しには少し首を傾げた。
(・・・只の心配、ではなくて。
本当の危険があるのを知ってる、のかも)

>「ウチのカミさんのやってるバザーの割引券だ、後で寄ってってくれよゥ!」

「仕事のお金を貰って、借金を返して、何日か食べる、それ以上に余分があったら行く」
握らされた紙に書かれた文字よりも、添えられた山と神殿の簡単な絵を見ながら
リエッキは馬鹿正直に答え、ヴァレンタインは急いで表情を取り繕った。

――夕方。

>「こんばんわ、手前供、ブラックバレー温泉郷の者でございます。
>今日は明日のレースの挨拶をと思いまして、お邪魔させて頂いた次第にございます。
>こちらは宿の主人のヤスケさん、私は番頭をやらせてもらっているカミュと申します」

(・・・騙す、顔だ)
カミュを見てリエッキは思った。
路上の子供達に一見旨い話を持ち込んで働かせるけれど、
最初から何やかや言い逃れを用意してあってまともに払わない、
そういう、悪党未満のセコい大人と同じような気配がする。

一方、マイムとヤスケが固まっている事には
リエッキはまるで関心を持たなかった。

「この菓子はレースに持って行くもの?置いて行くもの?」
ヤスケが去った後、そんな確認をしただけで、
リエッキは荷物をまとめた背負い袋をかかえた上からポンチョをかぶり横になった。

――夜中。

>「リエッキさん、まだ起きていますか?」

マイムの囁きに、こそ泥でも来たかと体は一切動かさずわずかに薄目をあけたリエッキだったが
続く呟きから別にそういう訳でもなさそうだというのを感じ取ると、
そのまま聞かなかった事にして目を閉じた。
(わたしは親子のケンカについて知らない・・・だから、言う事がない・・・)
53 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/05/13(日) 23:34:48.78 0
翌日 四日目の朝

皆がまばらに起き始めて朝食をとったりとらなかったりして
自分の騎獣へ跨り待機する。皆慣れたものでつつがなく集合すると、
いつもはゴール手前から魔法で開会の挨拶をするバッカスが今日に限っては、
スタート地点のコースの外から声を張り上げた。毎年恒例の長い挨拶だ。

「ええ~ごっふん!本日は晴天となりまして豊穣祭レース大会を開けまして真に喜ばしい限りです。
この度は皆さんお集まりくださいまして私バッカスは運営委員を代表し、またこのダイダロスの
住民の皆様お呼びこのレースに関わってくれた全ての方に代わりこの場をお借りして
お礼を言わせて頂きたく思います。皆様、今日という日を迎えることができたことは皆様のおかげです。
この街の者一同嬉しく思っています、ありがとうございます!ええ~思い返せばこの豊穣祭は・・・・・・」

だいたい二十分そこらのコレをまともに聞いていると貧血を起こす者も出るが、
生憎と初心者でさえちゃんと聞くものは皆無だった。

「・・・・・・つきましては、今大会の賞品のことですが、本日ルールに若干の変更がございます。
お手元の地図をごらんください、地図がない方は正面をばどうぞ」

一同会した空間、その前面に浮かび上がる半透明の地図
エルフたちの用いる古代魔法の一つだ。遠くの物を透かし見る魔法は有名所だが、
物を大きく投影するとなるとそれなりに難しくなるのだが、それはさて置きバッカスは説明を続ける。

「ずばり!今回優勝と賞品の条件は別に分けさせてもらいました!
こことここ!途中にいる『障害物』、この二匹が持っている指輪を持ってゴールしなければ
娘は手に入らない!仮に一着でゴールしても賞金が手に入るだけです!
娘を射止めんとし我こそはと思う者は、この『障害物』を避けることなく倒さなくてはいけないのです!』

杖で指された地図の画面が代わり障害物の下りで二匹の魔物が映し出される。
どちらも一軒家程はあろうかという大きさのゴーレムとスライムで、どちらも色は真っ黒だ。
どうやら炭で出来ているらしいゴーレムの頭と、スライムの内部にきらめく小物がちらちらと見えている。

辺りではどよめく声が聞こえてくる。当然と言えば当然だ。
賞金はもとよりマイムとの結婚は即ち逆玉の輿にも等しいものだ。
54 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/05/13(日) 23:37:03.14 0
一挙両得 一攫千金 言うなればそんなものが参加者の熱意に拍車をかけていたのだが、
素通りしても賞金は取れて結婚の為にはわざわざ危険を冒さなくてはいけないとあれば
否応なしに彼らの意欲はクールダウンしてしまう。

しょげかえった空気に手応えを感じるとバッカスは最後に、
今年の参加は辞退し成り行きを見守ることを告げた。

「ええ、では、只今を持ちまして豊穣祭レース大会を開催します。
それでは位置について、用意・・・・・・始め!」

「親父殿めまた勝手なこと、だがこれでいくらか楽に・・・うっ!」
フランベと共にゆっくりと走りだしたマイムはしかし驚愕の事態に呻く。
毎年参加している面子を中心に早めのペースで先行していく集団があった。

両方諦めていない、というかレースそのものに物足りなさを感じていた連中が、
正に『我こそは』とばかりに駆けていくのだった。

「こんな時に限ってヤル気を出して・・・む!?」

側面からすれ違いざまに投げられた水袋を躱すと、
マイムはすかさずフランベを相手の馬に横付けして騎手を蹴り落とす。

「リエッキさん、気をつけてください今年はいつもと違って『早い』です!」
早くも妨害をする者が出始め、マイムはもとよりリエッキにも襲いかかる者たちが出始めた。
一人は棒を持ち突いて来る者、一人は投げ縄でリエッキ自身を狙ってくる者だ。

ともすれば流れ弾が飛んでくるようないきなりの乱戦となったが、
まずはここを越えて街へとたどり着かねばならない。レースでは街の入口と出口の二箇所に、
チェックポイントが設けられているのだ。

(リエッキさんとの打ち合わせが裏目に出てしまった!
こうなってしまっては私が自分で魔物と戦う以外道はないではないか!)

内心で毒づきながらしかし、それを打ち合わせる時間もないまま、
レースは山の上の雲のようにマイムやリエッキたち参加者を飲み込んで動き出しのだった。
55 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/05/25(金) 23:12:32.46 0
保守
56 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/05/27(日) 14:02:28.31 0
>それでは位置について、用意・・・・・・始め!

教わった通りにパラサをトコトコと走らせ始めたリエッキだったが、
前を行くマイムの周囲にいきなり水袋や蹴りが飛び交うのに目を疑った。

>「リエッキさん、気をつけてください今年はいつもと違って『早い』です!」

マイムの声が飛ぶと同時に、
横から近付いてきた一騎がパラサの眼前で脅すように棒を振り下ろし、
返す勢いでリエッキに向けて突きを放つ。
慣れない騎乗中のとっさの事でリエッキは全く反応できなかったが
パラサが棒を嫌って方向を変えたお陰でわずかに距離ができ、
棒はリエッキの肩先をかすめただけで済んだ。
と、その間にも、別の一騎からは投げ縄が飛んでくる。
ポンチョの上を滑って首にかかりかけた縄の輪を
締められる直前でリエッキは何とか払いのけた。

(まるで、野犬狩り、だ・・・)

ロープに擦れて顔にかかった髪を払いながら、リエッキは
“野犬狩り”と称して路上暮らしの子供を攫い
どこかに売り飛ばす連中の事を思い出した。

(なら、手向かったら余計いつまでも狙われる。
何もせず、ただ逃げて見えなくするのが一番)

投げ縄を外された事に対する舌打ちを聞きながら、
リエッキは実質的にコースとなっている踏み固められた道を外れ、
レースを放棄したかと思うほどまっすぐに脇の草地の中へとパラサを走らせた。
追うのがためらわれるほど距離を取ってから速度を緩めて、
そのまま草地の中で街の入口の方向を目指す。

(村で馬が脚を折ったら、もう食べるしかなかった・・・
ここでは遊びで怪我をさせても、いい、のか?
魔法の癒し手がたくさんいるから?)

とはいえ参加者同士では今のところ進路を詰めての小競り合い程度で、
露骨に仕掛けられたのはマイムとリエッキだけのようだ。

(自分が勝ちたい、ではなく、わたしたちを脱落させたい・・・どうして)

自分が勝ってマイムと結婚する気があって、
そのマイム達に怪我をさせるほどひどい妨害をするか。
他人にマイムを取られたくないとして、
他の参加者ではなくマイム達を妨害することに意味はあるか。

リエッキが漠然と感じた違和感を敢えて言葉にすれば、
こういうことになるだろう。

「遅れて、マイムさんと離れてしまった・・・
目を付けられないように、でも、少し急ごう」

道よりは凹凸のある草地をパラサは幸い全く気にしていない様子だった。
・・・乗るリエッキの方は、それなりの注意を要求されていたが。
57 : マイノス代理[sage] : 2012/05/31(木) 23:15:36.42 0
リエッキが逃げると男たちは舌打ちと共に標的を変え馬群の中へ消えていき、今度は別の集団が彼らを引きずり降ろす。
レースが始まって早一時間、日も高く上った時には既に観光客の一群と優勝を狙う参加者たちの群とに分かれていた。

開幕早々衝突し数を互いに減らし合ったにも関わらず参加者の群れはかなり残っている。
言うなれば「ふるい」がかけられた所であった。毎年必ず『どれだけ他人の邪魔ができるか』
というみっともないことに痩せ枯れた心血を注ぐ者たちがそこそこいるのだが、
今年は頑張った方であり、リエッキ達に襲いかかったのもそんな集団であった。

『さあさー今年も始まりました豊穣祭レース!今年の優勝は誰か!そして娘の婚約者は誰か!
両方手にする者は現れるのか!実況はワシことバッカスがお伝えしますじゃ!』
上空から年の割りにまだちゃんと発音できて聞き取れるバッカスの声が響いてくる。
参加を辞退した代わりに今年の実況役にねじ込んだのだ。
そろそろ街の入り口、最初のチェックポイントが見える頃だろう。

アーケードの正面、アーチの真下にずんぐりむっくりとした軟らかな球体が、
ふるふると巨体を震わせて参加者たちを待ち受けている。
その背後では土産物屋や露天、屋台も参加者たちを待ち受けている。

障害物突破のために参加者たちは勘からある程度まで数が減ったら、
一時的にではあるが妨害を中止する。その理由は体力温存や祭りの盛り上げなど実に様々。
それぞれに武器を構えて自然と整列し障害物前に整列していく。
レース内での見せ場の一つがこの団結である。

何人かは第一関門である「スライム」の向こうを覗き見ようとしている。各「障害物」の後ろには給水所ならぬ休憩所が設営されている。
ここで一旦休憩しその後のレースに備えるのだが、これはぶっ通しで走り続けると、
最後の障害を突破できなかったり息切れしたりと完走できなかった等の、「絵的に不味い」状況を避ける為にお運営側が設置した物だ。

一人先走っても関門は突破できず、がむしゃらに駆け抜けても続くことはない。
要領よくこなしていっても最後の競り合いでは負けるかも知れない。健康大会みたいにしてもつまらない、
そんな試行錯誤が詰め込まれた今年のレースの最初の山場が訪れようとしていた。
58 : マイノス代理[sage] : 2012/05/31(木) 23:19:35.42 0
『マッドスライム』
体が液体で出来ている単細胞系の魔物「スライム」の一種で、体は泥や生物の老廃物で出来ている。
生物であったり無生物であったり、個体によってまちまちだが姿形は概ね共通している。

このスライムは神殿製であり、泥の他に人の垢や油で作らており大変汚い。
しかしこのスライムの泥はある処理を施すととても美容と健康に良い泥に変化する。
余談だが、ここで倒されたマッドスライムは後で街の人々が回収する手筈となっている。

泥スライムは直径十メートル程の鈍重な体をのそのそと動かし、
居並ぶ参加者へと近づいてゆく。当然獲物を捕食する為だ。
粘着質でスライムの割にやや硬めの体からの叩きつけや体当たりは、
大きさ故に避けづらく、そして重さ故に侮れない攻撃力を持っている。

『やって来たぞい第一の関門!マッドスライム!
物理攻撃の効きにくいコヤツを倒せるものは誰か!あ、誰かおらんのじゃろうか~!』
実況役の老人のしゃがれ声が降ってくるが気にする者は少ない。
敵の頭頂部らしき天辺には件の指輪が光っている。倒さなければ指輪は手に入らない。

「よゥしお前ら、客を先に行かすぞ!陽動かけろィ!」
ヴァレンタインは部下たちと共にアーケードからスライムを引き剥がすつもりのようだ。
「二代目、あすこに指輪が」「おっしゃ待っててくれマイムさ~ん!」
ヤスケは構わず突っ込んで行ってしまった。

「エコーエコーワルドゥル エコーエコーシャーリ オーン アルシル スバフ アザカン!」
(響け響け世界に 響け響け御国へ アルシルの名の元 我に力を!)
マイムは呪文を唱えて力を溜めている。そんな彼らの周りでは観光客が間近で呑気にスリルを味わっている。

(リエッキさんの姿が見えない、無事でいて欲しいが、でもあの指輪だけは絶対手に入れなければ!)
マイムは焦りと葛藤を抱えながらも、マッドスライムと戦うことを選んだ。
障害物と戦うか、他の者が戦っている間に通り過ぎるかは参加者次第だ。
59 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/06/12(火) 00:25:49.37 O
保守
60 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/06/12(火) 12:27:02.57 0
リエッキ達が街の入り口に着いた時には、
既に上位狙いの参加者達がスライムを半ば囲むように並び、
各々得意の間合いで仕掛けようと動き出していた。

道を外れて草の中を走ってきたため一番横からスライムに近付いたリエッキは、
正面近くにマイムの姿を見つけるとパラサを止めて降りた。
「これから、火を使う。
先に行って水と餌をもらうといい」
ヴァレンタインの陽動で少しだけ開いた街への通り道をパラサに示すと、
自分は背負い袋から細く割った薪を出してナイフで裂け目を作り、
それから髪をひとすくい切って、薪の裂け目に挟み込む。

ヴァレンタイン隊の陽動に加え、他の参加者は皆騎乗している中で、
徒歩のリエッキはスライムの注意を引く事なく
斜め後からスライムに駆け寄る事ができた。

(・・・嫌な、泥)

間近で見るスライムにやや怯みながらも、
リエッキは手にした薪をスライムに突き立てた。
しかし、細いとはいえ割っただけの薪は、スライムの表面に
ちょっとしたへこみと、水とも油ともつかない滲み出しを作っただけだった。

(だめだ・・・硬い)

リエッキは急いでナイフに持ち替え、今度は
ナイフでスライムの表面を切り裂いて薪を差し込むことにした。
陽動に誘われてのろのろと、だがふるふると動くスライムに苦労しながら、
それでも何とか薪を少しだけ差し込んだ時、
ようやく後ろからの攻撃に気付いたスライムが向きを変え始めた。

(・・・っ!)

炎を発動させる余裕もなく、リエッキは慌てて逃げた。
スライムの来る方向を避けようと走った先は、
半ば偶然、マイムのいる方だった。
61 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/06/16(土) 12:12:13.50 0
マイムの姿を見つけたリエッキは、
他の参加者と騎獣の間を縫ってようやくフランベの横に辿り着いた。

「離れて、遅れて、申し訳ない。
・・・あれの後ろに火をつけようと思った、けれど、
薪を刺したら、気付かれて、こっちに動いた。
それで、逃げてしまった」

火を嫌うパラサは置いてきた事と、
薪が残っていれば火をつけられるかもしれないが
それには10歩くらいの距離に近付く必要がある事を
リエッキはマイムに説明した。

「わたしにさせたい事があれば、言ってほしい。
なければ、火をつけられるか、もう一度、やってみようと思う」
62 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/06/21(木) 23:13:45.70 0
『会長!いくらなんでもこれは危険過ぎます!死人が出るかもしれないんですよ!』

上空のバッカスの耳元に先程から様々な人からの避難の声が相次いでいた。
バッカスが魔法で街中に中継しているレースの光景から、大会の他の役員や
知人から中止を求める声が上がったのである。

「遠声」の魔法により遠く離れていても会話ができるのだが、
今では誰がどれだけ喋っているのか見当もつかないほどであるが、
最近血圧が上がって耳が遠くなった彼は涼しい顔をしている。

『仕方なかろう、垢擦り用の泥が切れちゃったってシスターに急にねじ込まれちゃったんじゃから』
『ちゃった、じゃないですよ!レースの障害物にしては危険すぎます!」

眼下では参加者たちの中でも物怖じしない連中が士気も高らかにスライムに挑んでいる。
杞憂ないしは過保護だろうとバッカスが言うと耳元の怒鳴り声が音量を増す。

『何を呑気な!今までこちら側から人命を危ぶませるようなものは用意して来なかったはずです!』
『今までだってやりすぎて落馬なり何なりで死ぬ奴はおったじゃろうが!さして変わらん!それにの・・・・・・』

それに?と耳元の声達は聞き返した。いつの間にか声が揃っている。

『人様の娘をもらおうってんじゃ、命の一つや二つ懸けてもらわにゃ困る』
『会長!』

『黙らっしゃい、と』

相手側からかけられる魔法を強引に打ち消すと彼は再びレースの様子に目を移した。
そこでは丁度マッドスライムが大きく飛び上がった所だった。

地響きで動物たちに脅かそうという狙いである。知能はないくせに知性はあるらしい。
騎獣から振り落とされてそのまま逃げられて失格となるものが何人か見える。

人でない体を持つ者は意識も人とは異なる。攻撃を加えられた様々な箇所から体を伸ばしで、
払い、叩き、伸し掛かろうとする。しかし、あくまで己の体を変形させている以上、
伸ばした分だけ体は縮むし四方八方に手を出せばそれだけ薄く、小さくなってしまう。
63 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/06/21(木) 23:17:43.37 0
「ホ、チョコ屋のせがれが味な真似しよる」
ヴァレンタインの陽動で見物客は皆先へと避難していく。

泥スライムと悪戦苦闘する参加者たちは、獲物が滑りまた妙に弾性のある
その体に有効打を見い出せないでいた。その時、背筋を真っ直ぐ引き上げられるような
雄叫びが辺りを突ん裂いた。

「っっっ!ツァァァァァァァーーーーー!」
次いで夥しい量の打撃音が轟く。

くぐもった音が終わる頃には泥スライムの体が仰け反り、焼けて固められた部分は
ボロボロと崩れ落ちていく。もうもうと湧き上がる土煙は空へと霧散していく。

「手応え有り」
先程魔法を唱えていたはずのマイムは、真っ白に輝いている自分の拳を握り直しながら呟いた。

魔法で創りだした酒を体に降りかけ、更にそれを触媒にして、
信仰する神の力を借りるアルシル教会特有の魔法「降霊術」の一つ、酒聖拳の魔法によるもので、
悪しき者を清める酒を拳に巻いて打ちひしぐ、武僧マイムの十八番だった。
もう一撃入れようとした所、マイムは自分に話かけてくる声を聞いて首をそちらに向ける。リエッキだ。

>>「離れて、遅れて、申し訳ない。
・・・あれの後ろに火をつけようと思った、けれど、
薪を刺したら、気付かれて、こっちに動いた。
それで、逃げてしまった」

「良かった、姿を見失ってしまって、どうしようかと」

目上であるせいか、護衛に対して取るような態度はどうしても引っ込んでしまう。
少女は言葉を続ける。

>>「わたしにさせたい事があれば、言ってほしい。
なければ、火をつけられるか、もう一度、やってみようと思う」

「火を付ける、なるほど、それはいい!では少し待っていてください、時間が来たらお願いします」
そう言うと、マイムはヴァレンタインの元へと駆け去っていく。
64 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/06/21(木) 23:21:13.07 0
「ったあ!テメエらしっかりしねえか!盛り下がるじゃねえか!」

ただいまのホットチョコを飲み損ねた時のような不味い気持ちで西部劇の保安官、
というより賞金首のような格好をしたヴァレンタインが部下に喝を入れる。
未だ重傷を負った店員は出ていないが、このままでは駄目だ、どうするべきか彼は考えあぐねていた。

「ご主人!無事だったか。いきなりで済まないが話がある」
見覚えのある雄々しい角が人波をかき分けてやって来る。

「マイムさん、こりゃエライもんが出ちまいましたな」
帽子を抑えて言う彼に、それなんだが、マイムはあることを頼んだ。

「・・・へへそいつはいいですな!こうしちゃいらンね!野郎供、耳の穴かっぽじってよく聞けよ!」

彼が手下改め店員たちに今聞いた話と手順を説明し終えると、
一同は迅速に行動へ移る、といえば聞こえはいいが、やったのは懐の自社製品(チョコ)を
スライム目掛けて投げつけたのだ、スライムはそれをもそもそと取り込み始める。

その間にマイムは急いでリエッキの元へと帰ってくると、街の方を見るように言う。
中では観客達が酒を方々で買い漁り、目前ではいつの間に抜け出したのかヴァレンタインが何やら音頭をとっていた。

「サアさ皆様お立ち合い!あの屈強で悍ましいスライム!あれを倒すにはどうすればいいか!
分かりましたでしょうか!皆様のお手元にお酒、行き渡りましたでしょうか!ああ、飲んじゃいけません」

気づけば見ているだけの「観客」達は手に手に酒瓶や酒缶を持ちどこか神妙な顔でスライムを見ている。

「このお酒をあの化け物に投げつけまして!そこに火を付けますれば、まさに一撃!
サア!準備はよろしいでしょうか!それでは、よーい・・・・・・かーかれーい!」

背後から怒声とも嬌声ともつかぬ声と共に雨の如く酒という酒が泥スライム目掛けて投げられる。
瓶が割れることで攻撃と思ったスライムだが、次いで浴びる酒をこれ見よがしに飲んでいく。
体はぐんぐんと大きくなり、どよめきもまた大きくなる。

「リエッキさん、今です!」
泥スライムがいまや泥というよりも蝋に近い状態になったのを見計らい、
マイムは少女へと合図を送った。
65 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/06/23(土) 22:29:39.46 0
ほしゅ
66 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/06/26(火) 21:59:55.46 0
火と聞いてすぐに駆け去ったマイムを目で追っていたリエッキは、
ヴァレンタインの号令で部下達と、次いで観客までもが
揃って動き出すのを驚いて眺めていた。

(ばーぼんは、人に信用されている。最初、嫌な奴だと思ったけれど)

瓶が割れる音が続くと、すぐに、強い酒特有の香りがリエッキのところにも届いた。

(あれを無駄にしたら、みんな、怒る)

マイムとヴァレンタインの意図は理解したものの、
祭にマッドスライムを出す事の危険性を知らないリエッキは、
むしろ(リエッキにしてみれば)高価な酒が大量に注ぎ込まれた事で
今度は逃げてはいけないと覚悟を決めたのだった。
67 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/07/02(月) 03:03:47.94 0
>「リエッキさん、今です!」

戻ってきたマイムに告げられて、リエッキは走り出した。
泥スライムが街側に注意を向けているので
ちょうど背後から近付くことができる。
リエッキは走りながら先程刺した薪が残っていないか探したが、
形を変えながらのそのそ動き回る泥スライムのどこかに取り込まれたか
その辺に落ちてしまったのか、見つける事はできなかった。

(うまい方法は、ない。なら、いつものように、やる、だけ)

さっきまでより表面が白く濁ったように見える泥スライムの数歩手前で
リエッキはナイフを取り出して、髪を多めに握ってざくざくと切り離す。
それから泥スライムのすぐ側まで寄り、握った髪をばらばらと泥スライムの上に落とした。

「ポルッター!」

リエッキの声と共に髪を落としたところから炎が上がり、
スライムの身体の酒と油分を燃やし始める。
更に背負い袋から細い薪を1、2本出して炎に投げ込むと、
炎はすぐに燃え移って小さな火の粉を舞わせ始めた。

(これなら、ずっと見ていなくても、きっと燃える)

“ずっと見ている”と、燃えにくいものでも半ば強制的に燃やせるのだが、
その分眠くなるのも早い。
レースにはまだまだ先があるので、あまりやりたくはなかった。

リエッキは泥スライムに沿って再び走り出す。
六分の一周くらい走って、泥スライムの反応を躱せそうだと思ったところで、
リエッキはもう一度同じように火を付け、そのまま走って街の方角に逃げた。

泥スライムは、燃えて泥が固まった部位は動かなくなるらしく、
それを押し包んで消そうという感じで少しずつ身体を変形させてくる。
しかしリエッキが2ヶ所に火を付けたせいで動きは鈍く、
全身の酒と油に火が回る方がどちらかといえば早そうな雰囲気だった。
68 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/07/07(土) 22:35:27.98 0
>>「ポルッター!」

リエッキによって次々に点火された種火は瞬く間に対象の黒地に新しい彩りを加えた。
元から黒ずんでいたスライムの体を、赤い炎の薄皮が包み込むように広がっていく。

もっと大々的に爆発した火柱が上るものと思っていた者は肩透かしを食らったような顔をしたが、
焼けた部位を取り込もうとしたスライムの体に次々と火が回り
動きが鈍くなっていく様は臨場感に溢れ、見る者の多くに「巨人殺し」を想起させた。

「見ろ!スライムの体が崩れていくぞ!」

どこかから上がった声に酒を投げた観客も、戦い続けていた参加者も思わず息を呑む。
体表のほぼ全てが燃えて火だるまになったスライムの体躯が完全に固まり、
まだ動ける内部の動きでぼろぼろと崩れ行ったのだ。

そして現れた無事な部分にまた火の手が回っては崩れ去り、それが繰り返される。
大型の建物が焼け落ちるかのような光景の中、立ち上る黒い煙が炭を燃やす際の白い煙へと
代わり、スライムの最後の一塊が燃え落ちるとわっと歓声が沸き起こる。

「大成功おー!皆様のお手を拝借!あ、そーれ!」

ヴァレンタインが喜びに浸る観客を煽って手拍子など決めている横で、
マイムはしたり顔で焼け跡を眺めていた。

(これで指輪は無くなった、これでいい、これで・・・!)

その横で悲鳴を上げたヤスケがスライムの残骸へ向かい必死に指輪を探す。
マイムの良心は少し痛んだが、彼女は構わずリエッキの元へとフランベを寄せた。

「お見事、よくぞこれ程燃えたものです」

この時点で彼女はようやくリエッキがパラサに乗っていないことに気がつく。
パラサがいなければレースは失格になってしまう。
どこかに繋ぎ止めているのかと、マイムはリエッキに尋ねた。
69 : ◆L2ncxGVyg2 [sage] : 2012/07/07(土) 22:38:40.87 0
「ああ、それはそうと一つ目の関門を突破したことですし、
町中の露天等で買い物もできるようになりました。
この先を考えて休むもよし、走り続けてもいいでしょう、」

リエッキに必要なことを伝えると、マイムは他の幾らかの参加者たちと同様休まず走り続けることを選ぶ。
街の中を走り抜ける風景と浴びせられる声援はこのレースに参加する醍醐味だ。
振りかかる地元の声に腕を上げて応えながら彼女は悠然と駆けてゆく。

他の参加者たちは言えば・・・

ヴァーミリオンは出張店と書かれた出店の前で、ここぞとばかりに商品を売り叩いている。
しばらくはレースに復帰しそうにない。

ヤスケは崩れたスライムの残骸から燃え残った辛くも指輪を見つけ出し、先に番頭、カミュが休ませていた
騎獣に乗ってマイムを追いかける。ちなみに番頭はとっくに既に先行している。

街を発てば地面は徐々に草原へ変わりやがて緑に覆われた山へと続いていくだろう。
回れば舗装された安全だが遠回りな道、真っ直ぐ進めば短くも藪だらけの危険な獣道、
マイムは遠距離コースを選んだ。リエッキには事前の打ち合わせで自分が回りこむことを伝えている。

鬱蒼と茂る森は山中に広がり上へ上へと続く。
此処こそは聖山ダイダロス、アルシール教の総本山であり街の由来となった土地である。
昼なお暗い山中は不気味なほどの静寂に包まれていた。

日は真昼の頃まで昇り、これからは高度を落とすようになる。
レースはゆるやかに第一段階を終え、次へ進もうとしていた。
70 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/07/17(火) 23:07:01.08 O
保守
71 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/07/19(木) 00:51:48.71 0
「先に休むように言った。パラサは火を燃やすのが嫌いだから」
それまでスライムの残骸を掘り返すヤスケの様子をぼんやり見ていたリエッキは
マイムにパラサの事を聞かれてそう答えた。
「街の中の、休憩所に行っていると思う」
もちろんパラサと話ができる訳ではないのだが、
何故かリエッキにはそう思えた。

街の大通りに沿って細長く設けられた休憩所を端から見て行くと、
じきに通行人を眺めているパラサの姿が目に入った。
一緒にいるのはパラサを借りた時の係員で、
レース当日は休憩所の係員をしている、という事らしい。
「おーい」
係員もリエッキに気付いたようで声をかけてくる。
「化け物相手に大活躍だったらしいね。
こいつが空でやって来た時にはてっきり途中で何かあったのかと・・・
ま、騎乗してない時間があまり長いと失格になるから気をつけてな」

これまでの練習では、パラサは火を使うのを嫌がりはしたが
暴れたり逃げたりはしていない。
きっと騎乗したまま戦う事もできるだろう。
けれど、とリエッキは考えた。
(次の敵が強過ぎて、わたしが途中で眠ってしまったら、
きっと、パラサも燃やしてしまう・・・)

「ああ、もう、このまま山まで走れるだけの準備はできてるよ」
係員の声でリエッキは考えるのを止め、
礼を言ってパラサに乗り、マイムの後を追って遠距離コースに進んだ。
(また離れてしまった・・・護衛に、なってない、な・・・)
72 : リエッキ ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage] : 2012/07/27(金) 20:40:45.73 0
パラサはリエッキを乗せて、トコトコと安定した足取りで道を進んで行く。
街を出てからも妨害しようと寄ってくる者は多少あったが、
その度にリエッキとパラサは逃げて舗装を外れ、
そうすると草や起伏はむしろ鹿であるパラサの方に有利なため
襲撃者は諦めて引き上げる、その繰り返しだった。

あたりはやがて鬱蒼と茂る森となり、足下の舗装も
それまでの幅広の石畳から、樹々に遠慮しながら石を並べたものに変わる。
73 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/07/29(日) 18:09:30.37 0
【業務連絡】
GMさん引退のため、以降のこのお話は、当面自分の独断で
ぽちぽち書いたり書かなかったりとなります。

但し、このスレの使い方については
>>1-2>>3の“シナリオ募集”の前までに概要がありますので
利用したい方がいらっしゃいましたら遠慮なく声かけて下さい。


74 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/08/08(水) 11:48:52.26 0
続きを書こうとして判断に困ったので時刻末桁ダイスロールw
Q.ヤスケとカミュはどっちのコースを行ったでしょう
1-3 二人とも短距離コース
4-6 二人とも遠距離コース
7-8 ヤスケ短距離カミュ遠距離
9-0 カミュ短距離ヤスケ遠距離
75 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/08/11(土) 10:49:20.53 0
リエッキが休憩所に向かう少し前のこと。

カミュはスライムの残骸を掘り返すヤスケの騎獣を預かり、
自分の騎獣共々、休憩所の顔馴染みの係員に託した。
係員が2頭の騎獣に水と少しの穀物をやり、
水袋を積み馬具をチェックし、と忙しく動き回るのを見ながら
カミュは持参した体力回復の酒で喉を潤す。
長年この地で生きてきた彼にとって、ここまでの道のりは
特に体力を使うようなものではない。
ただ彼は、万一に備えて可能な手は全て打っておかないと気が済まない質だった。
だからこそ先代亡き後の温泉宿が、利益率は同業他社よりいささか薄いにしても、
これまで事故らしい事故もなく順調に堅実に続いてきた、とも言える。

(いい加減に自分の立場に自覚を持って貰いたいものですよ・・・)
カミュは燃え崩れたばかりのまだ熱いスライムの残骸に突っ込んで行ったヤスケの姿を思い出す。
(マイムさんと仲良しなのは結構な事ですがね、結婚となると話は別です。
相手は教会の跡取りですからね、その婿になったら温泉郷には居られない。
その覚悟と準備があるようには到底見えないんですがねえ?)
76 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/08/16(木) 23:08:46.55 0
先頭集団に余裕を持って追従できる、と
カミュが踏んでいるギリギリの時刻になっても
ヤスケは休憩所に姿を見せなかった。
(さて、時間切れです・・・)

「私は先頭集団の様子を見ておきます。若旦那のことは皆さんに頼みましたよ」
カミュは共にヤスケの護衛をしている若い衆に言いおいて、
自分だけはヤスケを待たずに遠距離コースを進むことにした。

カミュにとって遠距離コースの道は寝ながらでも走れるに等しい。
(どうしてくれましょうかねえ・・・)
騎上のカミュの脳裏に暗い妄想がよぎった。

1-3 隙があったら私が優勝して若旦那にちょっとお灸を据えてやりましょうか
4-6 せめて次の障害ではたっぷり苦労してもらいます・・・若旦那にもマイムさんにも
7-9 この際ちゃんと若旦那を優勝させて、しかる後に教会に追い出し温泉郷は私が
0  妄想だけで満足ですよ、実際には何もしません・・・護衛もね
77 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/08/22(水) 19:13:17.84 0
>>73
気長に待ってるよ
78 : 名無しになりきれ[sage] : 2012/08/27(月) 15:50:22.82 0

79 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/08/27(月) 22:03:59.74 0
エルフは皆、生まれながらにして精霊使いである・・・
というのは多分どこか別の国の話だが、
全体的には人間よりもエルフの方が魔法の素質が高い、
というのはこの世界でも大体当てはまる。
カミュも温泉郷の番頭に落ち着いてからは人前で魔法を使う事は無いが、
影では温泉郷の客寄せのために花を咲かせるとか蛍を呼ぶとか
目立たない小さな魔法を使う事は今も時々あった。

(本当はこんなレースなど台無しにして差し上げたいところですが・・・)

先頭集団から遅れる事少しの、ちょうど誰もいない山道で、
カミュは、ふう、と息を吐いて樹々の向こうにある筈の教会の方向を睨みつけた。

(とはいえ温泉郷に害が及ぶような事は間違ってもできませんから
・・・そうですね、ご両人に少々苦労して頂くだけに致しましょう)

カミュは騎獣を操り道をそれ、山の樹々の間へと姿を消した。



【保守ありがとうございます】
80 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/09/17(月) 13:52:28.85 0
何度目かの妨害を避けて山道から山の中に逃げ込んだ時、
リエッキは、そこが細い獣道になっていることに気が付いた。
「・・・このまま、行けるか?」
リエッキが声をかけると、パラサは一度振り向いてから
ふん、と鼻で獣道の先を示し、迷いの無い足取りで進み始めた。
(きっと、とても遅れてしまっている・・・
邪魔を気にしなくていい今のうちに、なるべく進まないと・・・)
81 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/10/03(水) 01:16:34.48 0
その頃、本来の山道の半ば、マイムを含む先頭集団とヤスケを含む第二集団が過ぎ
第三集団が細く長く伸びているあたりでは、
上り坂をハイペースで駆け上っていたヤバトンが折り返しで足を滑らせ、
その巨体で斜面を抉り灌木をなぎ倒して下の道の敷石をひとつふたつ跳ね飛ばして
ようやく止まる、という事件が起きていた。

ヤバトンの騎手が、興味をひかれてレースに参加した旅の冒険者、
つまり観光客、という事もあって、
近くにいた地元の参加者達は急いで救助に駆けつける。

「大丈夫か!?」
斜面に投げ出されていた騎手の若者は、
抱え起こされると同時に口元に押しつけられた酒の小瓶に目を白黒させた。
「まずは飲んでくれ。肉の怪我ならその場で治る“ダイダロスの拳”だ」
若者は木の枝で切り傷を負った手足や顔の痛みがたちまち消えたのに驚いて立ち上がり、
今度はくじいた足首の痛みによろめいた。
「おやおや・・・ちょっとだけ待っててくれ。
馬に戻って“ダイダロスの膝”を取ってくる。筋の怪我には本当によく効くんだ」

レースにおいて主催者にも参加者にも“多少の”乱暴が容認されているのは、
アルシル酒教会の総本山を頂き、回復効果の高い酒が豊富に出回るこの街ならではのことだった。
82 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/10/15(月) 22:36:51.13 0
「おーいおいおいおい、こりゃ一体、何があったんでい?」
ひとしきり臨時売店で商売に励んだ後、
ようやくレースに復帰したヴァレンタインが
事故現場にさしかかって大声を上げた。
そこに溜まっていた数人から事情を聞くと、
「あー・・・こりゃイカンなあ。おいっ!」
部下達に指示を飛ばし、
ヤバトンに蹴散らされ崩れた土砂に埋もれた道を、
人馬が何とか通れる程度を目指して片付け始めた。
後からやってくる参加者も、何人かは先を急いで道を逸れ山に入ったが、
大半はヴァレンタイン達を手伝い作業に加わった。
83 : ◆tm4Lt6EBSEz6 [sage ] : 2012/10/24(水) 22:39:58.19 0
「ヨーシ!皆様ご協力まことにありがとうござぁいっ!」

崩れた山道の仮修復を終え、ヴァレンタインが例によって大げさな声を上げていた頃、
先頭集団は早くも第二の障害、ゴーレムの待つ教会の外門に着いていた。

外門は門といっても、ちょっとした農地や林も含む教会の広大な敷地の入口であり、
レースのゴールである中門とは、まだ二駆け程度の距離がある。

「・・・・・・」

長距離コースの先頭集団の中程で外門の前に到着したマイムは
そこに集まっている参加者の少なさに驚いた。
例年なら短距離コースのそれなりの人数が長距離コースより先に外門に着いているのだが、
今回は人数が半分くらいのようだ。
自分がムキになってペースを上げたからなのかとも思うが、
少し待っても後から追い付いてくる人数も多くない。
レース終盤の障害にしては大き過ぎるゴーレムを用意されてしまったため、
攻略はスライム同様に人数が揃わないと厳しい。

「うむむ・・・」

他の参加者同様、マイムもまずはその場で人が増えるのを待つしかなかった。

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