1 名前:名無しになりきれ [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 17:33:06 0


前スレ
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1261758217/-100

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/7909/

千夜万夜まとめ
ttp://verger.sakura.ne.jp/top/genkousure/hiiro/sentaku.htm

2 名前:旋風院 雷羽 ◇EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 17:40:46 0
「な、何だあっ!!?」

破砕音を伴って砕け落ちるコンクリート。
突如――――突如、天井を突き破り雷羽の前に現れたのは、鉄の塊だった。
否。人の形をした鉄の塊だった。
金と赤で彩られたその金属のボディの全体像は、女性らしく柔らかで、
それでいてある種の美術品の如く力強さも併せ持っている。
その正体は『アイアンメイデン』。

この街に存在する、正義の味方である。

「なっ!? 貴様は、トリッシュとかいう糞ヒーロー……!」

悠然と現れたそのヒーローを視認した瞬間、雷羽の眉間に険が浮かぶ。
ヒーロー『アイアンメイデン』。そして、その正体たるトリッシュ・スティールの事を
旋風院雷羽という悪(ヴィラン)は知っている。
それは、先日のブラックダイヤ事件の際に、彼に与えられた命令というのが、
ブラックダイヤの奪取と、アイアンメイデンを再起不能にする事だったからである。
そして、その命令が果たせなかった雷羽は、彼のボス「おしおき」を受けた訳で……
その事から、雷羽はアイアンメイデンに対し逆恨み気味な敵意を有していた。
故に、そんなヒーローが悪事を完遂する直前の自身の前に突如として現れれば、
単純な雷羽としては自身の作戦を妨害しに来たとしか思えないだろう。

「ちっ、折角もう少しでマインドジャッカーが完成して、街の奴らを奴隷にできたってのに……!
 貴様、この俺様の完璧な作戦をどこで嗅ぎ付けやがった!!
 つーか、今この雷羽様をどうでもいいとか言いやがったな!?」

……まあ、かといって自身の作戦をベラベラと語り出す馬鹿さ加減までは擁護できないのだが。
そうして、一頻りギャーギャーと騒いだ後に、雷羽は告げる。始める。
ヒーローとヴィランが遭遇した際の、公式を。

「まあいい……この俺様をどうでもいい扱いした上に、秘密の作戦を知ったんだ。
 無事に帰れると思うなよ!!」

「――――――――変身っ!!」

黒い霧が一瞬、雷羽を包み込む。

『説明しよう!旋風院雷羽は、感情の触れ幅が一定値にまで高まる事で、
 0.02秒で悪の改造人間『ブラックアダム』へと変身する事が出来るのである!!』

そうして、そうして黒い金属で出来た鎧の様なボディーに銀の線を走らせた
悪の改造人間『ブラックアダム』は『アイアンメイデン』の前に現れた。
『ブラックアダム』のその姿は回答する。試作装甲『アダム』を奪ったのは誰かという事を。

「行くぞオラァ!! 喰らいやがれええぇぇぇ!!!!」

変身の直後、装填音を三度鳴らした後、コンクリートの地面へ放射状の皹を入れる程の
踏み込みを以って、凄まじい速度で移動した雷羽は黒い拳を振り降ろす。
目標は、アイアンメイデンの頭部。即ち顔面である。

3 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 19:35:42 0
「白紙に戻したいとはどういうことかな市長」

市長室で声を震わせるデフォルトを前に、石原はジンジャーエールを
片手に頭を掻いていた。
「あ〜その言いにくいだがね。今回の話は”再度検討”という事になってしまって。
あ、メリル君。デフォルト社長にもチーズバーガーを。え?いらない?
あ…じゃ、下げてくれ。こちらとしても、非常に申し訳ないんだが…」

会話の途中で飛び出していくデフォルトに石原とメリルは顔を見合わせた。
丁度、市長室へ警察から事件発生の連絡が入りそれが石原の持つ携帯端末へ送信される。
【事件発生 警察が試作型のメタルマンを使用し応戦中】

「メリル君、デフォルト氏へ何か気の利いた贈り物を頼むよ。」

「塩をお送りしましょうか?」

メリルの言葉に小さく微笑むと石原は市長室の本棚の近くに隠してある
装置を起動させる。
本棚が反転し、そのまま石原はその奥へ消えていった。

石原は巨大な格納庫にいた。
巨大なドッグと整備装置があるそこはまるで秘密基地のような様相を見せている。
「マイケル、調子はどうだ?」

【ご主人様、快調でございます。問題ありません。ご命令を】

「まずは現状の報告を頼む。」

椅子に腰掛けPCを起動させる。目の前には巨大な液晶スクリーンが存在する。
都市に設営されている無数の監視カメラが100以上に分割された画面で再生され
それを石原は鋭い眼つきで観察し始めた。

【所属不明の戦闘兵器を確認 アイアンメイデンも確認致しました】

「ところで…だ。浄水場で騒いでる連中は何だ?」

カメラの内の1つをピックアップし確認させる。
マイケルと呼ばれる高性能AIは、石原がかつて所属していた会社で
開発した監視用システムの強化型だ。
商品化するにはコストが掛かりすぎた為、自腹で買い取ったのは
内緒の話である。
【ご主人様、所属不明のヴィランが数名。”リアクターコア”の反応もあります】



4 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 19:36:53 0
「何?コアだって?おいおい、そいつは冗談だろ?
コアを所持しているアイアンメイデンは1体だけの筈だ。」

【私は冗談を申し上げません。事実のみを報告しております】

「分かったよ。お前も相変わらず連れないね…。で、準備は出来てるか?」

石原の後ろではダークブルーの巨大な”鎧”が準備されていた。
独自のコアを開発した石原だが、それをメタルマンに使用するつもりはなかった。
理由は1つ。デフォルトへ技術を流さない為。

「それにしても、警察に協力を申し出たあのヒーローが気になるな。
マイケル、コンタクトを取れるか?周波数を掴んでくれ。」

【了解しました コンタクトを取ってみます】

(石原、事態を把握する為、高性能AIにメタルボーガ―へのコンタクトを
依頼。受信するかどうかはメタルボーガーにお任せします)



5 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 21:54:28 0
浄水場へ向かうメタルボーガーのトレーラー内で、宙野は高濃度酸素を吸いつつ座禅を組み、体力回復と精神統一を図っていた
先程のアイアンメイデンの急ぎようから考えると、これから遭遇する相手が先程相手にした警察を圧倒した強化服の一団などお呼びもつかない強敵である事が用意に想像できる
アイアンメイデンとメタルボーガーのパワードスーツの実力差を考えた時、そこに恐怖を感じずにはいられない
(……だが…俺はやらねばならんのだ)

メタルボーガーがこの街に来た理由は、確かに会社の宣伝が主な目的である
しかし、それとは別に、この街の治安を、国家権力の手に取り戻すという事もあるのだ
日本国は怪人無法地帯と化したこの街に過去幾度か警察特殊部隊を動因し、鎮圧を図ってきたが、そのこと如くが壊滅している
最早この街の治安を国家が掌握するには、自衛隊を動員するか、それに匹敵する特殊部隊を編成する他無い
しかし、法改正や、強力な戦力を有する部隊の維持等には、コストがかかりすぎている
そこで、日本政府は密接なつながりを持つ不知火重工と取引をかわし、市街地で新兵器のテストをさせる代わりに、街の治安を守り、部隊維持を不知火の自費で行わせる特殊企業協力法を作り、契約を交わしたのだ
故に、あながち自己顕示欲だけでこの街に派遣されているというわけでもない。自衛隊に代わってヴィランと戦うべく国家の名誉のためにも戦っているのである

最も、自衛隊の代わりと言えば聞こえはいいが、軍隊なんぞを街の治安維持に動員して毎日戦争すれば紙の上で治安が維持されていても怪人戦滅に強力な兵器を使用する度街が大きな被害を被り、平和云々依然に廃墟になりかねない

が、そんな事は宙野青年には関係無い
彼的には色々不安定な今のヒーローに任せている状況よりも、確実に現れ、被害は出せど必ず怪人を倒せるシステムの確立の方がよっぽど価値ある物なのだから

(周囲の被害や何やらは後から何とかしていけばいい、それよりも今は確実に怪人を潰していく方法を確立する事が大事なんだ。そして、俺は…メタルボーガーはその切っ先にならなければならない!)
背負っている物がある
そう自分に言い聞かせ、闘志を燃やす宙野のトレーラーと指揮車に、別所から突然連絡が入ってきた
「はい、こちら不知火重工特設部隊現場指揮車両」
指揮車両通信士がすぐさまそれに応じ、返答する
他の指揮車クルーと、通信内容が聞こえるトレーラー内のメンバーは、突然の通信に、先行している装甲警備隊に不祥事が起きたのか、はたまた特殊企業協力法に問題が起きて警察から作戦中止が指示されたのではないかと不安げに通信機に耳を傾けた

6 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/03/29(月) 02:40:54 0
鋼鉄の鎧を来たメタルヒーローの叙事詩
メタルヒーローサーガ・・・・か

7 名前:星 真一 ◆fSS4JmCGEk [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 03:03:55 0
「おー久しぶりだな我が友よ!!スクーターの修理は終わったぜマイブラザー!?
 ずいぶんが久しいので親交のハグをするので〜へぶしっ!」
あまりの騒がしさに思わず拳を入れてしまったがこの程度で死ぬ奴ではない
というより毎度の事である
この床に転がっているボンクラメガネは西一臣(にしかずおみ)
アーカム大学の同期でまぁ友人と言える関係の知人である。
毎回ハイテンションで学習能力がないのか抱きついてくる奴だが
こんなふざけた奴だが、実はアーカム大学稀に見る魔導工学の天才であり
その他の分野にも長けている優秀な男である。
だからこそ以前のいざこざで壊れたスクーターを格安で直してくれる彼に尋ねるため
町から離れたこの研究所に来たわけだが
「相変わらず乱暴だなマイブラザー!例の代物は出来てるぜ!」
「マイブラザーはやめろよお前の兄弟とは思われたくない…
 うんなんだこのボタンは?」
よく聞いてくれましたといわんばかりに解説を始める。
「このスクーターのエンジンを改造してな、そのボタンを押すと
 特製ターボエンジンが動いて通常の三倍の速度が出るのだ!
 ただし!1分以上作動させたままだとエンジンが爆発するからな!」
なんつーものを搭載してくれたと思いつつ、俺のためを思って付けてくれたのか
その点だけは感謝した。
「修理してくれてありがとよ、そんじゃまたな」
とスクーターを引きずり、外に出ようとした時に
「待ってくれマイブラザー!君に見てもらいたいものがある」
そう言って階段のほうに向かい下に下りていく
それに付いて行くと段々と薄暗くなっていくそして真っ暗な一室に辿り着く
「実は最近暇でね…ある日ふと思ったんだ
 魔術と科学が合わさりあった最強の兵器を作ってみたらどうなるかってね
 その過程でとある機動兵器が出来たんだ君にも見せたくてね
 よかったら君の闘いにも役立てると良いと思っている」
西は俺の正体を知っており、その上で協力してくれている。
まぁ知的好奇心の塊でついでに謎の多い旧神の存在を解き明かしたいとも思っているようだが
西が灯りのスイッチを押すとそこにはあの独特の形状の青いバイクが鎮座していた。
間違いない、あの時俺を助けた謎のバイクだった。

8 名前:真性 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 04:46:06 0
「あー、チョーお腹減ったしッ☆」

───オレの名前はシンセードーテー。心に傷を負った童貞。ホネカワスリムで小物体質の殺されボーイ♪
オレがつるんでる友達は穀潰しをやってるレイゲン、ナイショで力を貸してくれるカミサマ、訳あって巨悪の一員になってる黒ゴス。
友達がいてもやっぱり人生はタイクツ。今日もカミサマとちょっとしたことで口喧嘩になった。
オトコノコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時オレは一人で繁華街を歩くことにしている。
がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな!最近治安が悪くてやたらチンピラに絡まれるけど!
「あー悪いことしてえ」・・・。そんなことをつぶやきながらしつこいチンピラを軽くあしらう。
「カレシー、ちょっとお小遣いくんない?」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。
チンピラ供はコワモテだけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと血沸き肉踊り手足もげ内臓乱れ飛ぶバトルを見せて欲しい。
「金出せ」・・・またか、とセレブなオレは思った。シカトするつもりだったけど、チラっとチンピラの方を見た。
「・・・!!」
・・・チガウ・・・今までの連中とはなにかが決定的に違う。スピリチュアルな感覚がオレのカラダを駆け巡った・・。
「・・(異能者・・・!!・・これってブラックダイヤモンド・・・?)」
男はヴィランだった。連れていかれてリンチされた。「キャーやめて!」能力を発動した。
「ガシッ!ボカッ!」オレは死んだ。スイーツ(笑)

……話は、つい一時間ほど前まで遡る。

ここで唐突に前回までのあらすじッ!!
スティール邸から無事ブラックダイヤモンドを盗み出し逃げおおせた俺こと真性道程は引き篭っていたッ!
あれから数日が経過したが依然黒ゴスからの連絡はなくッ!ダイヤが降ったあの日から街の治安が異常に悪化したので
おうちで大人しくしていた方が得策という結論に至ったのだったッ!!どうなる俺!どうすんの俺!?

さて、引き篭もりと言えども腹は減る。出前も機能しないこの街では食料の確保は命の次に優先命題である。
かつての先祖が野山に交じりて獣を採りつつよろずのことにつかひけりだったように、我々も街に出て食事を摂らねばならない。
とはいえ、そこら辺の空中を米と味噌汁が回遊しているわけもなく、となれば貨幣経済の恩恵を殊更に享受せしむる必要があり、
つまりは現金携えてそこら辺の飯屋にでも食いにいこうと思い立った次第なのだった。

「シャッターが増えたなあ、この街も」

実に商店街の六割が平日繁忙時を無視した来客謝絶っぷりを遺憾なく発揮している。
欠けた櫛の歯のように、ところどころシャッターの降りた街並みは、人通りがあるにも関わらずどこか寂寥の念を頭脳に郵送してくれるのだった。

どれもこれも治安のせいだ。『あの晩』から、この街に異常な犯罪が増え始めた。おおよそ人間が徒手空拳で可能とし得ない破壊の痕跡。
しかし現存する如何な兵器にも該当しないような爪痕が、しかも多種多様にわたってこの街を装飾している。
そう、それはまるで、『ヒーローとヴィランが暴れた後のように』……つまりは、『異能の残り香』。

「まさか黒ゴス……じゃあ、ねえよな……?」

人間は善と悪の二元論では割り切れない。良い人間と悪い人間に明確な線引きはないし、また人格は善悪に依存しない。
昨日の敵は今日の友とは言い得て妙だ。程度の差こそあれ、善と悪の両天秤の間をふらふらしながら命を紡ぐのが人間という生き物だ。
そして、万物に例外があるように、人間の中にも善と悪のどちらかに針が振りきれてしまった者たちがいる。

それが、『ヒーロー』と『ヴィラン』なのである。

得てして強力無比の異能や技術を持つ彼らは、必然的にその数を増やせない。
普通人より一つ上の生命連鎖に立つが故に、三角形の法則には逆らい得ないのだ。

異能者は、少数だからこそ保てる。

街のそこかしこに異能が散見されるこの街の現状は、そういった自然の摂理からかなーり逸脱してるのだった。

9 名前:トリッシュ ◇.H4UqpaW3Y [sage] 投稿日:2010/03/31(水) 22:42:39 0
ブラックアダムの攻撃を喰らい、アイアンメイデンは壁に叩きつけられる。
「なるほど、出来の悪いコピーじゃないようね」
しかし、とてつもない拳撃を受けたはずなのに、ダメージを受けた様子はない
「何者かは分からないけどそれなりに使えているわね
 それに、なんらかの改良を加えたのかしら?
 受け止めるつもりだったけど…後ろに飛んでなかったら危ないところだったわ」
瓦礫を払いのけながら、彼女は淡々とブラックアダムに話す
「ただ1つ言わせてもらうなら、それはその為に作ったものじゃないの」
すぐさま掌を向け、閃光と共にエネルギー波を放った


10 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 20:46:23 0
>>5
>「はい、こちら不知火重工特設部隊現場指揮車両」

「…ん?繋がってるのか、マイケル?あぁ、じゃ。
いやぁ、突然の連絡すまない。私は石原・M・マダオ。
この都市の市長だ。」

陽気そうな声が通信室に聞こえる。同時に凄まじい騒音のようなものが
通信に混じって流れてくるのが分かる。
「あ…この音は、現在”走行中”でね。少しばかり五月蝿いとは思うが、
許して欲しい。実は、君達の活躍を聞きつけてね。
是非、協力を申し出たいと…そういうわけだ。」

その声と同時に、浄水場へ向かうメタルボーガーのトレーラーに併走するように
濃紺のアーマーのヒーローが出現した。
「”彼”は私のボディガードだ。今回の活躍次第では市からの助成金と
契約の話もあるかもしれない。健闘を祈るよ。」

トレーラーへ向けピースサインを見せると、濃紺のメタルアーマーは
そのまま浄水場へ向かうべく飛び上がった。

【市長、不知火重工に協力を申し出る。自身のボディーカード?を協力に向かわせる】



11 名前:秤乃暗楽 ◇k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/04(日) 23:41:34 0
この都市には今、異能が溢れている。
蒼天から見下ろす景色から炎が、煙が、閃光が、悲鳴が上がる度、私はどうしようもなく苛立たせられる。
その全てが、私の失敗に根ざすものだから。

私が殺し損ね散り散りになった魔石によって、この都市には今、異能が溢れている。
矮小な悪が、自己顕示のみが目的の善が、浅慮と出来心による善悪が横行しているのだ。
育てる価値も、育つ伸び代もない連中の小競り合いによって、都市はゆっくりと消耗していく。

私が、私の失敗が原因で。
そんな事、堪えられない。堪えられる訳がないわ。
こうしている間にもまた一つ、遠くから響いた爆発音が微かに耳朶を打った。
平静の表情を保てずに思わず目が細り、奥歯を噛み締める。

それから暫く、断続した戦闘の響きはやがて消え果てて、代わりに金色の何かが空へと飛び上がった。
眼下を飛び去っていくのは、つい先日顔を合わせたばかりのヒーロー、『アイアンメイデン』。
少し高めに飛んでおいて正解だったみたいね。見つかったらちょっと面倒な事になりそうだし。

だけど、彼女はこの魔石による異変以前からの、それも有名な『ヒーロー』だった訳で。
地上を俯瞰してみると、『ヒーロー』ごっこを興じたい連中がわらわらと虫のように、彼女の行方を探していた。
その内ストーカーとか出てくるんじゃないかしら。もしそうだったら悪い事をしたわね。

とは言え、そこらの連中があの『アイアンメイデン』に追いつける訳がないわ。
案の定地上では浮き足立った奴らが新たな騒動を起こして、小競り合いを始めている。
深い思慮も、固い意志も、確かな信念もない、何も生み出さない、磨耗だけが残る争いが。
けれど、私には何も出来ない。

私は役割上『ヒーロー』まがいの事は出来ないし、光だってあまり目立つ事はしちゃいけない。
それに騒ぎを収めても、根本は解決しない。
この都市に巣食う魔石をどうにかしない限り、また幾らでも騒動は起こる。

「……また、彼らに働いてもらわなくちゃね」

光にはもう指示を出してある。
『ヒーロー』達が動くように立ち回れと。

私も、するべき事は決まっている。
この都市に蔓延る悪党達を、焚き付けるのだ。
野望を抱き、欲望のままに生きる『ヴィラン』達に魔石の価値を仄めかして。
彼らを小間使いとして魔石を集めさせる。

既に幾つかの方向へ、手は打ってあるわ。
その中には旋風院雷羽が身を置く組織も含まれている。
果たしてあのボスが私の言葉を信じるかは、分からないけれど。


12 名前:秤乃暗楽 ◇k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/04(日) 23:42:29 0
でも一つだけ、分かっている事が、決まっている事がある。

それは最後の最後に、私が全てを掠め取るって事だ。
怪しまれるのは当然だろう、探られるのも当たり前だろう、密かに裏を狙われるだろう。
それら全てを承知して、受け入れて、その上で私は彼らに勝利してみせる。
利用するだけ利用して、切り捨ててやるの。

適度に満足させてやって、代償として『ヒーロー』の餌食になってもらう。
その繰り返しで、世界の調和を守る。

それが、『秤の一族』の使命なのだから。

「……そろそろ、行こうかしらね」

胸元の黒い宝石にワンドを当てて、ほんの少しだけ色を借りる。
清清しい青を湛える空に一滴の黒を垂らして穢し、門を描く。

行く先は、真性道程が住まう部屋。
『出来損ないのヴィラン』がいる所。

きっと今度も、アイツは私の無理難題を引き受けてくれる。
馬鹿みたいにへタれて、ヘマして、無茶して、それでも最後には私の頼みを叶えてくれるの。
根拠はないけれど、きっとそうに決まっているわ。

「……私はあの馬鹿を、切り捨てられるのかしら」

馬鹿げた思いが、固く閉じたつもりの唇を押し開けて零れ落ちた。
アイツだって、所詮は沢山いる『ヴィラン』の一人に過ぎない。
ちょっとばかり能力が稀有で見込みがあったから、目をつけただけなのに。
あの夜の事だって、ほんの気まぐれよ。
ホント、我ながら馬鹿みたいだわ。

「迷う理由なんて、ありはしないわよ」

自分に言い聞かせるように呟くと、私は門を潜った。


【旋風院さんとこのボスに魔石の事を仄めかしたり。信じたり乗ったりはお任せです
 そして道程さんとこにお邪魔します。同じく魔石集めについて説明した事として、話を進めてしまってください】

【魔石については、異能が宿ったり強化されたりする。今起きてる異変はそのせい。
 何か凄い力を有してて、集めれば世界征服も虐殺も何だって出来ちゃうかも?
 程度の事を説明しました。

 旋風院さんのボスには、秤乃が「見返りを求めず、ただ協力してやる」って事を。
 道程さんには「細かい事は言っても分からないだろうから、手伝いなさい。見返りなら何でも聞いてあげるから」ってな感じです】


13 名前:秤乃光 ◇k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/04(日) 23:47:30 0
退廃の気配を漂わせる街並みを歩きながら、秤乃光は当惑していた。
魔石が都市中に飛散し、それらを収集すべく『ヒーロー』達に働きかけろ。
そう暗楽に言いつけられた彼女は、一つ、大きな問題を抱えていた。

都市に生きる『ヒーロー』が、あまりに多過ぎるのだ。
元々数多く存在した彼らは、魔石による異能者が増えた事で一層の増加を迎えている。
そしてその内実は、一言で言い表すならばまさに『玉石混合』『粗製乱造』。
氾濫した自称『ヒーロー』達の中から、頼り育てるに値する『本物』を探し出すのは、困難な事だ。

「うー……そもそも『本物』って何なのさあ……」

姉に申し付けられた言葉の意味を理解しかねて、光は唇を尖らせる。
『本物』でない連中に協力を求めた所で、育てようとした所で、意味はない。
そこまでは彼女にも理解出来る。
だが肝心の『本物』とは一体どのような者の事を言うのか。
それが彼女には分からず、また姉も教えようとはしなかった。

「何となく分かる気がするって言っただけなのにー……。あんな事言わなきゃ良かったよぉ……」

その何となくが大事なのだと、それだけしか姉は語らなかった。
やむなく、光は道の端に寄って足を止める。
そうして決して得意ではない、と言うより寧ろ苦手ですらある思考活動を始めた。
『本物』とそうでない者について。

『本物』である為の素質とは、一体何なのか。
何を基準として、『本物』とその他は隔てられるのか。
それすら、彼女は確固たる考えを持てずにいた。

例えば『強さ』だけに視点を限定したとしても。
世界を滅ぼさんとする魔王を討ち果たした勇者は。
故郷の村から一歩踏み出た時点でも、魔王に最後の一撃を加えた最後の時でも、変わらず勇者である。

だが摩天楼を縦横無尽に飛び交う、とある『ヒーロー』は。
果たして特殊な力を手にする以前から、苛めを受けている冴えない大学生だった頃から『本物』だっただろうか。
もしも違うと言うなら、彼女が見込んだ本館は『本物』ではないと言う事になる。

確固たる意思を持って常に悪を滅ぼせば『本物』なのか。
犠牲を生み、恐怖から逃げ、思い悩み、僅かにでも軸がブレてしまったら、それは『本物』ではないのか。
だとすれば、あれ程『ヒーロー』であろうと懊悩した麗源は、それ故に『本物』ではなかったのだと帰結する。

一切の私利私欲、悪感情を持たずに正義を遂行しなければ『本物』ではないのか。
この都市に一体そのような者が、何人いるだろうか。いない可能性だってある。
そもそも正義とは何なのかと言う基準さえ、曖昧極まりない。

十全の結末を迎えなければ『本物』とは言えないのか。
多くを助ける為に小さな犠牲を出す事は、許されないのか。
ならば自分達『秤の一族』は『本物』ではない事になる。
もっとも彼女の父や姉は、そのつもりもなさそうだが。


14 名前:秤乃光 ◇k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/04(日) 23:48:20 0
「……あーもう! わっかんないよ暗楽ちゃん!」
結局、光は手足をばたつかせながら一声叫んで、全ての思考を放棄した。

「もういいや! 何となくが大事って暗楽ちゃんも言ってたし、とりあえず行ってみよっと!」
小難しい考え事を投げ捨てて吹っ切れたのか、軽やかな跳躍で彼女は空へと舞い上がる。
そうして自分の知る何人かの『ヒーロー』を尋ねた。

麗源新貴は、少し考えさせてくれと答えた。
本舘梁には、部屋に手紙を残した。
他にも沢山の、魔石による異変以前からの『ヒーロー』に声を掛けた。

「えっと、次は……」

宙空に浮遊しながら、光は眉の高さに手を運び、眼下を見渡す。
視界を何周かさせてみると、まだ当たっていない建物が二つ見つかった。

不知火重工と、トリッシュ邸。
メタルボーガーと、アイアンメイデン。
前者はともかく後者は言うまでもなく異変前からの、それも名実兼備の『ヒーロー』だ。

ひとまずはトリッシュ邸に向かってみようと、光は上空から塀を超え、侵入を果たす。
難なく屋内へと潜り込んだ彼女だが、暫し歩き回ってみるも人影は見当たらない。

余り家探しめいた真似は良くないかと尻込み、彼女は一旦足を止めた。
途方に暮れた様子で辺りを見回す彼女に何処からとも無く、主人不在の旨を告げる機械音声が響いた。

【トリッシュ邸にお邪魔しました。のんびり待ちぼうけしてますので浄水場のイベントが終わったら相手してやって下さい
 魔石について、最近の異変は魔石によるもの。放っておいたらもっと酷い事になる。
 程度の説明をした上で力を貸してくれるよう頼んだと言う事で話を進めちゃって下さい】

15 名前:旋風院 雷羽 ◇EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:13:08 0
「なーっはっはっは! 見たかこの俺様の必殺パンt……な、何ぃ!!?」

強襲を受けながらも平然と立ち上がってきたアイアンメイデンに、ブラックアダムは
驚愕の声を挙げる。Bダイヤ事件以来パワーアップしたブラックアダムがの放った拳は、
鉄板程度なら悠々とぶち抜く威力を持っている。
しかし、アイアンメイデンはその拳を受けて尚立ち上がってきたのだ。
狼狽しているブラックアダムに対し、アイアンメイデンはそのトリックの秘密を
惜しげもなく明かす。即ち、受け流し。力に正面からぶつかるのではなく、
力を流す柔の高等技巧を実践でやってのけたというのである。

「ぐっ……この俺様の拳を受け流すとは卑怯者め! 正々堂々受けやがれっ!!」

歯噛みしながらお前が言うな的な内容を吼えるブラックアダム。
そんなブラックアダムに対し、アイアンメイデンは掌を向け

――――容赦無い閃光が、ブラックアダムを飲み込んだ。

それは、リアクターコアにアーマーという最新科学の結晶により生み出された
断罪の一撃。並の強化服ならばその中の人間毎焼き殺す事が可能であろう、
物質を焼き尽くすその光がブラックアダムを通過していく。

が。

「ぬ、があああああああっ!!!! 貴様、何しやがる!痛ぇだろうがっ!!!」

その一撃は、今回の場合必殺足りなかった。
熱で融解したコンクリートが放つ黒い煙の中から現れたブラックアダムは、
所々にダメージこそ見えるものの、未だ戦闘続行可能。
アーマーを改良する事で人間の限界を超えたアイアンメイデンに対し、
ブラックアダムは中身の人間を改造する事で人間を超え、更に装着者の
肉体を破壊してしまう不完全品の「アダム」と融合、従属させている。

アイアンメイデンを日本刀の傑作と例えるなら、ブラックアダムは高出力のチェーンソー。
柔の面では劣っても、剛の面では上回る。
……だが、この時点でブラックアダムは一つの事に気付いていなかった。
そう。いくらブラックアダムの強度が高かろうと、ブラックアダムの持っている
『マインドジャッカー』の試験管は――――ただの強化ガラス製なのである。

「……この俺様の格好良いボディに傷を付けやがって。言っとくが、俺は女子供だろうが
 グーでぶん殴れるんだよ!! 貴様も、この場でメタメタにしてやるぜ!!」

ブラックアダムが左手に持った試験管は半ばから溶け、マインドジャッカーの
出来損ない、どんな効果があるのかも解らない化合物が全て漏れ出て、
水槽に流れ込んでしまっている。
しかしながら、頭に血が上ったブラックアダムはその事にまだ気付かない。

ブラックアダムはそのまま上空――――天井まで脚力のみで跳び、『不屈不倒』戦で
行った、天井を蹴る事で重力を利用して加速し、地面へと叩きつける蹴りを放とうとする。
上から下への攻撃ならば、先程の様な受け流しは不可能だと判断しての攻撃だ。




16 名前:宙野景一 ◇Z.2X97eg1o [sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:15:03 0
市長からの協力の申し出に、メタルボーガー輸送トレーラー内に歓声が沸く
「特設部隊現場指揮車了解しました!ご期待に添えられるよう、鋭意努力します!」
トレーラーにピースサインを送る謎のメタルアーマーに、運転席の社員が頭を下げる

一方、指揮車内では特設部隊隊長、矢車 瞬が新たなに出現したメタルアーマーについて、本社に報告を行っていた
「以上の通信を受け、現在市長の私兵と思われる新型メタルアーマーと共に、現地へ向かっています。警察に問い合わせた結果、そちらにも市長から私設部隊出動の報告があったそうです」
『了解した。…やはり生産は製造はスティールインダストリアル製か?』
「現時点では、私にはわかりかねます。が、デザイン的にそれと考えた方がよさそうです」
『どちらにしろ我が社の製品ではない以上、遅れはとりたくないが…。現時点で諸君等にそれを注文するのは、無理と言う物だろう』
「お気遣い、恐れ入ります」
以前にも述べたが、メタルボーガーの実際の能力が、アイアンメイデンに劣っている事は、不知火重工内は把握している
故に、数を揃えて補おうとしているのだが、現時点ではその数すらも揃っていない
今回の出動は悪魔でも「警察との連携、メタルボーガーの実戦運用テスト」が目的なのだ
本当ならば連戦も避けたい所だが、それでは事件が同時多発する事も多々あるこの町でメタルボーガーは実用に耐えられないという事になってしまう
漫画などでは平気で上層部は無茶を言ってきたりするものなのだが、不知火重工上層部はそこまで愚かでも現場を理解していないわけでもない
最も、だから善人、と言うわけでも無いのだが…

とにかく、遂に浄水場へとたどりついたメタルボーガー、宙野、矢車はそれぞれトレーラーと指揮車から降車し、先行して浄水場入口を警察と共に固めていた重装備の警備員達へと駆け寄った
メタルボーガー等の姿を認めた警察、機動隊の指揮官と、機動隊の指揮を執る刑事、重装警備員の隊長が敬礼する
「状況の説明をお願いします」
「メタルマン配備が遅れている現状では君達が頼りだ…後ろのが」
「市長の私設部隊の方です」
「わかった。…先行した強行偵察隊の報告では犯人は現在浄水場内の…」
言いながら、刑事は浄水場内の地図を広げ、一点を指差す
「この場所で、アイアンメイデンと交戦中だ。アイアンメイデンが熱線砲を発射しているという報告もあり、我々は迂闊に近づけない。しかし」
「メタルボーガーでも熱線砲を受けると厳しい。メタルボーガーの特殊超合金は衝撃には強いが、熱線には耐性が低い。ヴィランが熱線砲を連射してきたら撃破される事も十分ありえる」
「しかしヴィランに飛行能力がある可能性を考慮すると、包囲網が意味を成さない可能性は十分にある。アイアンメイデンが健在な今、突入し、彼女と協力して犯人を確保するのが最も確実と考えられる。援護するので、突入していただきたい。」
「……了解しました。おい、トレーラーに行って、Lv5ライフルを出すように言って、持ってきてくれ」
「了解」
矢車は競争相手であるアイアンメイデンに華を持たせるに近いその作戦に顔を歪ませるが、現在の自分達の装備を考えるとやむ終えんと仕方なく首を縦にふり、近くにいた重装警備員にトレーラーから装備を持ってくるように命じると
同じく面白く無さそうな顔をしている宙野の耳元に顔を寄せ
「メタルボーガーが量産されるまでの辛抱だ、堪えろ」
と励ました
それでも悔しげな宙野の元に、重装警備員がトレーラーからバズーカ程の口径がある電磁ライフルを運んできて手渡す
「アイアンメイデンも熱線砲を持っている以上、敵にヒートシルバーが通用するか怪しい。しかし炸裂弾を装填したそれなら確実に通用するはずだ」
「…確認しますが一発撃ったら銃身が爆発するんですよね?これ」
「だから一発で仕留めろ。お前ならやれる」
「そのつもりです」
そう言って矢車に肩を叩かれた宙野は力強く答えると、待機していた市長が派遣したメタルアーマーと、マシンガンで武装した機動隊に続き、浄水場内に突入する


17 名前:宙野景一 ◇Z.2X97eg1o [sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:17:00 0
「こっちです!こっちこっち!」
アイアンメイデンとヴィランの交戦している部屋に近い通路で待機していた強行偵察隊の隊員が、手招きして突入隊を呼ぶ
その横をすり抜け、機動隊員達を引き連れ、メタルボーガーと市長のアーマーが部屋の前に立った
一斉突入のタイミングを取るため、ドアの前に立った宙野は市長側のアーマーとタイミングを取り合い、同時にドアに蹴りを叩き込む
「突入!!」
機動隊隊長の叫びと共にアイアンメイデンと旋風院が戦う室内に流れ込んだ一団は、戦風院目掛け機動隊が一斉射撃を開始し
その横で宙野はライフルを構え、ライフル発射のタイミングを図る




18 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:49:40 0
【マイケル、戦況はどうだ?】

「ご主人様、アイアンメイデンともう1つのコアの反応。
その正体は不明ですが――該当項目が1つ」

宙野達と同時に現場へ踏み込んだ青の戦闘兵器は通信を
行いながら冷静に周囲を見回した。
青いアーマーの奥で戦況を見守るのは――髭面の紳士。

【以前、トリッシュ様の所有されていたアダムに酷似しています。
内部をスキャンできませんので確証は取れませんが…】

高性能AIを以ってしても、ブラックアダムの正体を探る事は出来ない。
しかし、リアクターコアが外部に流出している。
しかもその相手がヴィランとなれば状況が悪い事だけは確かだ。

「なるほどな。市長の仕事も楽じゃない…あ、メタルボーガーの皆さん。
相手はアイアンメイデンと同等かそれ以上の力を持っている可能性がある。
慎重に行こうか。私が…じゃなかった。そこの青いアーマーが手を貸す。
名前は――そう、アイアンジョーカー【鋼鉄の切り札】だ。」

アイアンジョーカーの両肩からパルスキャノンが出現し、
メタルボーガーを援護するように次々に弾丸を発射していく。
標的は旋風院の部下達だ。

「さぁ、パーティの始まりだ!新聞記者の皆さん、ヒーローの活躍が見たければ
浄水場まで来るといい。WOOOOO!!」

【ご主人様、少し気分が高揚し過ぎではないでしょうか】

(アイアンジョーカー、援護を開始)

19 名前:星真一 ◆fSS4JmCGEk [sage] 投稿日:2010/04/07(水) 03:51:09 0
「……参ったぜ…」

道中、スクーターを走らせながら呟く。
あの後、謎のバイク――――開発コード名ペイルライダーを見て驚く俺の顔に
やはりなという顔をしていた。
彼の話によると突然動き、どこかに向かったがいつの間にか戻ってきたらしい
しかし、まだ独立戦闘支援AIは完成していないため動くはずがないらしく
西本人も戸惑っていたらしいが探究心と好奇心が旺盛なのですぐに研究に取り掛かったが
なにも分からなかったらしい。
とりあえず90%完成し、後はシステム面などの調整で
自分の家ができると大喜びで協力しているために何日かは帰ってこないだろう。
俺はとりあえず旧神の要求された行動を行うために一旦別れることとする

外に出た後、正直気が重くてしょうがなかった
その理由として旧神から与えられた指示だった。
どうやら彼等はこの事態を非常に大変な事態だと捉えているため
黒い石の散った破片の破壊はもちろんその破片で力を得た者の抹殺・力の使用不能にし記憶を消す事
間接的に関わった者の記憶を消す事必要あれば抹殺も良し
そしてもっとも重要な事はこの騒動を起こした原因の主は必ず旧神の名において必ず処刑する事
一族郎党も含めてと言う事だった。
もしかしたら町の半分以上の人間を最悪の場合は抹殺せねばならなかった
そのために例の旧神から与えられし武器の使用許可が下りてしまったという事は
場合によっては町ごと吹き飛ばせという証である

「……これだけ溢れちまった以上はそれしか方法はねぇのか」

はい、そうですかで実行できることじゃないが…
ここまでの事をやった奴の事は知ったことじゃないむしろ裁かれるべきだろう
後始末は我々にしかできないそれを過信してやってしまった当人も悪いが
それを阻止できなかった自分に責任もある。
今はとりあえず出来る事をするしかないと思い、まずはトリッシュ邸に向かう




20 名前:トリッシュ ◆.H4UqpaW3Y [sage] 投稿日:2010/04/08(木) 03:59:05 O
「我ながら良いものを作ってしまったわ」
リアクターレイが直撃したにも関わらず、平然と悪態をついてくるブラックアダムを見て彼女は後悔した。
「格好いいって、作った本人の前をそう偉そうに…ってあぁ!」
冷静にブラックアダムに突っ込みを入れようとした矢先、彼が握っていた試験管に入っていた薬品が水槽に混入してしまった。
それに驚愕し、ブラックアダムの動きを見るのを怠ってしまった。
「トリッシュ!」
アイヴィスが注意を促し、ブラックアダムを見たが、ブラックアダムの必殺の跳び蹴りはすぐ其処まで来ていた。
仮に、彼女が遅れを取らなければ、リアクターレイよりも強力なリアクターブラストにより返り討ちにすることが出来たのだが、そうもいかない
限られた瞬間の中、彼女が選んだ行動は…
水槽にリアクターレイを打ち込み、水を捨てることだった
確かに水質に異変があった場合、水道局が水を止めるのだが、それでも流出する量は相当だ
被害は甚大ではあるが、これ以上街に混乱を与える訳にはいかない

 僅かな抵抗が許された数秒を彼女は街の為に使った。これによりブラックアダムの必殺が回避不可能になったのは言うまでもない

ーーーー否
アイアンメイデンにブラックアダムの必殺が炸裂する寸前
不知火の兵による一斉射撃により攻撃が逸れた
助かったそう安堵した時、奴が現れた
「死ねぇ!アイアンメイデン」
緑色の何かがアイアンメイデンに襲いかかろうとした瞬間
何者か判断する間もなくアイアンジョーカーの砲撃によりぶっ飛んでしまった
しかし、唖然としている暇は無い
「まさかの形勢逆転って奴かしら
 大事な薬品もおじゃんになった訳だし、降伏するなら弁護士ぐらいつけるけど」

21 名前:赤穂朗氏 ◆y6ZFeIPasDPg [sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:58:09 0
異能が溢れる街となった世界で、1人の紳士が雑踏の中で黒いUSBメモリを手にしている。
「どいつもこいつも、どんな音で破裂するんだ?ん?」


−DEVIL−


赤穂の能力、アリス・ワンダーランドは進化していた。
同時に赤穂も岡田博士の記憶を手に入れ同化し進化した。
彼は自分の能力を小型のメモリに収納させ、自在に操る術を得ていたのだ。
既にこの街では失踪者の数が以前の10倍にも膨れ上がっていた。
今日もまた、白昼堂々30名ほどの若者や親子連れが消失した……

汚い破裂音と共に。
赤穂は1人のヴィラン崩れの死体が握っていた黒い石を拾い上げると
それを自らの股間へと収納していった。
膨張し、破裂しそうになりながらも赤穂の股間へとその石はまるで
意志を持っているかのように埋め込まれていった。

「…お…ふぉ…ふぉおおお」

食事を終えたかのような満足げな顔をし、赤穂は悠然と去って行く。
次の目的地はトリッシュの家。
前回、食べ損ねた厚顔不遜の女社長の肉を喰らう為だ。

「あの女はどんな顔で切り刻まれるんだろうな。楽しみで、
今にも胃がふわっと浮いてきそうだ」

22 名前:旋風院 雷羽 ◇EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/04/10(土) 00:10:30 0


「なーっはっはっは! どこを狙ってやがるバカめ!!」

アイアンメイデンが、自身の安全よりもヒーローとしての
選択肢を取った事に一切気付かず、ブラックアダムは必殺の蹴りを、
振り下ろす。いかにアイアンメイデンといえど、隙を見せたこの体勢では
ブラックアダムの攻撃を回避する事は不可能。
勝負の天秤は一気にヴィランに傾くかと思われたが……

「ぬがっ!?な、何だっ!!」

突如訪れた銃弾の雨が、その結末を変えさせた。
数多の銃弾はブラックアダムに対しダメージを与える事が出来ないとはいえ、
面として叩き付けられるその圧力は、ブラックアダムの攻撃を逸らさせるのには十分だった。
いかな改造人間といえども、何も無い空中で方向を転換するという事は困難である。
それでも『ブラックアダム』になる前の『アダム』ならば短時間の空中飛行機能を応用し、
軌道修正を計れたのかもしれないが、生憎ブラックアダムは機能の殆ど全てを身体能力の強化
へと転用している為、それは叶わなかった。

体勢を崩しながら着地したブラックアダムが周囲を見渡せば、そこに
いたのは複数の機動隊員に――――二人のヒーロー。

「……ぬぐぐ! 折角あと少しでそこの金属女をボコボコにできたってのに、
 よくも邪魔しやがったな!! こうなったら貴様等にマインドジャッカーを使って……ん?
 マインドジャッカ……ああああああああっ!!!?」

右の拳を怒りに振るわせるブラックアダムだったが、そこで初めて己がボスに渡された薬、
『マインドジャッカー』が既に喪失している事に気付いたらしく、驚愕の声を上げた。
呆然としているブラックアダムに、アイアンメイデンは形成逆転を告げる。

作戦の根幹である薬は喪失し、目の前には三人のヒーローと機動隊。
まさしく決着。勝負としてはともかく、試合としての結果は決定した。
……だが、その程度で諦めるのなら、ヴィランという存在は
既にこの世界中から駆逐されている筈で――――

「おのれ……おのれぇ!! よくも俺様の完璧な作戦をぶち壊しやがったなああぁぁっ!!?
 どあぁ――――れが、降伏なんかするかっ!! こうなったら、貴様等全員ぶちのめして、
 ボスの所へ実験材料として連れて行って、俺様への罰を帳消しにしてもらってやるぜ!!」

そうして、ブラックアダムはその右腕から四度目の装填音を鳴らすと……
凄まじい速度で移動し、跳んだ。生身の人間である、機動隊員の一人へとむかって。
生身の機動隊員を人質にする事でヒーローの行動を封じ、一方的な攻撃を可能にする。
ヴィランの一般的かつ最も恐ろしい手口の一つである。
そもそも、ヴィランとの戦いに生身の人間を連れてくるという事自体が悪手なのだ。
若いヒーローや、ヒーロー志望者が行いがちなミス。
この展開を起こしてしまった原因は、不知火重工のヒーローとしての歴史の浅さ
にある言っていいだろう。数が武器なのは相手に武器が通用する場合に限る。
もしもブラックアダムが人質を確保すれば、アイアンメイデンはその矜持から、
不知火重工の人間とアイアンジョーカーは、アイアンジョーカーの連れてきた
新聞記者達が持つカメラの存在によって、まともな戦いは出来なくなるだろう。

23 名前:◇EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/04/10(土) 00:11:21 0

巨大な空間とはそれだけで相手に畏怖を与える。

青色の炎で照らされた薄暗く巨大な、空間。
漫画やアニメに出てくる悪の組織。それをそのまま抜き出した様な、情景。
その空間の最深部に備え付けられた醜悪な化物が掘り込まれた巨大な椅子。
そこに、その存在は座していた。
漆黒のローブに、白い仮面を付けた「其れ」。

「ボス」「大首領」「主」「盟主」
その呼び名は様々有るが、その正体を知る人間は一人もいない。
判っている事は、彼がとある悪の組織の全てを牛耳る存在だという事。
その組織は、旋風院雷羽の所属する者であるという事。

そして、生の気配の全く無い不気味な室内で「其れ」は
身じろぎ一つしないまま告げる。絶対的な命令を。


『――――先の娘は、我々の同志ではない』

『だが――――魔石は実在する。我らが望みの道具として、使えるだろう』

『集めよ――――魔石を。我が元へ』


瞬間、室内に地鳴りの様に数多の声が響いた。
見れば「其れ」の君臨する椅子から見下ろす階下には様々な異形が蠢いていた。


そして、個人のヴィランが齎すものとは別の恐怖。
邪悪の集合体である「悪の組織」が動き出す。


【旋風院雷羽の所属組織:方針を魔石の収集に決定。
『ボス』は、暗楽が味方では無い事を核心しているにも関わらず、協力を受諾する】

24 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/04/10(土) 17:44:17 0
突入した機動隊員の銃撃で間一髪アイアンメイデンの危機を救い、遂に旋風院を追い詰める
(ここからだ…ここからが正念場だ、こいつはどう逃げようとする…俺が奴の立場なら…)
旋風院が捨て台詞を吐いている間、宙野は頭を回転させ、旋風院の次の行動を予想する
最早敵は勝ち目が無い事を悟っているはずであり、残る手段は逃亡か、自爆であるはずだ
しかし自爆の前兆が見られず相手にまだ闘志がある以上逃亡を図るだろう
それならどこから逃げる?
アイアンジョーカーやメイデンの方向からは絶対ありえない
自分か、機動隊員が固めているところから逃亡するだろう
機動隊は旋風院を包囲しているわけではなく、2列横帯で自分の横にいるのだが
生身の機動隊など奴には簡単に突破できるだろう
だが混戦になれば味方の機動隊員を撃つ可能性があるライフルは使えない
そしてメタルボーガーだけではアイアンメイデンと同等のパワーを持つ旋風院には力負けしてしまう
…だが、今回は自分の他にそのアイアンジョーカーがいるのだ(アイアンメイデンは宙野の中では協力してくれる戦力に数えられていない)
混戦になった所で抑えにかかり、2対1の格闘と機動隊の援護射撃で最悪でも何とか互角に渡り合えるはずである

旋風院の捨て台詞の中でそこまで考えていた宙野の前で旋風院が跳躍し、宙野がライフルを投げ捨て、腰のナイフを引き抜く
そして旋風院が機動隊員の一人につかみかかり、人質宣言をする前に宙野がそこに突っ込み、腹に構えた超硬度ナイフの突きを旋風院に放つ
そこで周囲の機動隊員たちも反応し、至近距離から旋風院の顔面目掛けセミオートにしたサブマシンガンを発砲する

「ヒーロー」としてではなく「軍人」としての勘と経験が、「相手が人質をとる」では無く「どこから突破を図ろうとするか」を考えさせ
その結果宙野に割りと的確な行動をさせたのである

25 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/04/12(月) 23:23:08 0
ショッカー

26 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [] 投稿日:2010/04/13(火) 23:13:51 0
機械音声とのお喋りに興じていた光は、しかしふと、邸の前で止まったスクーターの駆動音を受け口を噤んだ。
バルコニーへ出て目を凝らしてみると、いつぞやの『ヒーロー』星真一の姿が見える。
彼は訪れて早々、先日の騒動以来気の立っている警備員と、諍いを起こしていた。
しかしやがて面倒臭くなったのか、警備員を小突いてのしてしまうと、星は泰然とした態度で敷地へと踏み入った。

「あれ……? おじさんも、何か用事があるのかな?」
小さくぼやくが、機械音声からの返事はない。
その事に少々不満を覚え唇を尖らせながらも、彼女は段々と邸へと近付く星を目で追って――

「……っ! あれは……!」

――暫し遅れて邸を訪れた男、赤穂朗氏の姿に思わず息を呑んだ。
星によって開放された門を、彼は僥倖だと言わんばかりの笑みを浮かべて潜る。

「何で……あの変態さんまでここに? ううん、それよりもあの気配は……!」
赤穂から立ち昇る邪悪と魔石の気配に、覚えぬ内に彼女は戦慄し、靴裏で床を躙った。
あの晩よりも猶、彼の放つ狂気は濃厚な物へと変貌している。
本来ならば、星真一が気付かぬ筈のない気配。
しかし何やら思い悩んでいる様子が見られる、今の彼では果たしてどうだろうか。

「……私じゃ魔石は殺せないけど、奪う位なら……!」

『黒』を操る事の出来ない彼女では、魔石を殺す事は能わない。
だが赤穂が能力を発動して魔石が『赤』に染まれば或いは――そうでなくとも奪う事なら出来る。
そして何より、万一にでも星に危険が及ぶと言うならば、彼女が動かない理由はない。
彼女は『ヒーローを護るヒーロー』なのだから。

「お日様……力を貸して!」
今は太陽の光に満ちた白昼、彼女の『具材』は無尽蔵にある。
有らん限りの光をワンドに宿し、光は稲妻の如き光柱を赤穂目掛け降り注がせた。

27 名前:トリッシュ ◇.H4UqpaW3Y [] 投稿日:2010/04/14(水) 01:35:59 0
「リアクターの出力が上がった!?」
驚く間も無く、ブラックアダムは次の行動に移る。
ヴィランの王道的手法『人質』である。
基本的にその手法を取った場合、あまり目立った効果を得られず失敗することが多いが
だが、今のブラックアダムのスペックならば…
悪寒と共に止めに入ろうとするが、間に合わない。

しかし、メタルボーガーの適切な行動により、ブラックアダムはあっさりと捕縛され
機動隊員からの一斉射撃を食らう。
これで終わりかと誰もがそう思った瞬間、叫ぶ
「今すぐ離れなさい!!!」
アダムのスペックをよく知るトリッシュだからこそ判るのだろう。
メタルボーガーのナイフの威力はどうだかわからないが、少なからず
アイアンメイデンの雛形であるアダムに銃撃など通用するわけがないのだ
「ジョォォカァァァ!!!冷凍弾!!!早く!!!」

28 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/04/14(水) 01:51:36 0
「人質とは考えたな…いや、そうでもないらしい。」 

【ご主人様 油断は禁物です 相手は未だ健在】

メタルボーガーの異常なまでの”勘”が窮地を好機へと変転させた。
機動隊の一斉攻撃により、アダムの体に隙が生まれる。
それを逃すまいと、トリッシュが叫ぶ。

>「ジョォォカァァァ!!!冷凍弾!!!早く!!!」

濃紺のメタルスーツの両腕、両足から弾頭が出現しアダムを狙う。
【標的 照準OK いつでも発射できます】

「やぁ、ハニー。久しぶりだな!どうだい、この後僕とデートでも。」

凄まじいスピードで冷凍弾が射出される。
リアクターを一時的に停止させる事が出来る。相手の動きを封じれば後は
警察に突き出すなり、何なりとすればいい。

「あぁ、分かってるよ。ハニー!僕は決める時は決める男さ。
まぁ、万が一僕が外した…いや、僕のボディーガードが外した場合は
尻拭いを頼むよ!!」

【アイアンジョーカー オールレディ 冷凍弾全弾射出します】

29 名前:旋風院 雷羽 ◇EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/04/15(木) 02:02:44 0
ブラックアダムの伸ばした腕が機動隊員に届くかと思われたその寸前、
ヒーロー『メタルボーガー』その進路に割り込んだ。

「ぬなっ!!?」

行動を予測されたブラックアダムが驚愕の声を挙げる。
ブラックアダムの機動力を、メタルボーガーの持つ「経験値」「勘」という
要素が上回り、状況を覆したという事実が一瞬、認識出来なかったのである。
敵が何処に向かうか理解できれば、それに対する対策はいくらでも出来る。
まるで流れる様に、メタルボーガーはブラックアダムに硬質のナイフを突き出す。

だが、今ヒーロー達の目の前に立っているヴィランは、腐っても悪の組織の幹部であった。
ブラックアダムは自分に迫るナイフを視認すると無理矢理、力任せに身体を捻り、
数十センチ、身体の軸を移動させる事に成功した。結果、メタルボーガーのナイフは
火花を散らし、分厚い金属の装甲の一部を削るに留まった。

しかしながら、対するヒーローも伊達でヒーローな訳でもない。
体勢を立て直そうとするブラックアダムに、今度は機動隊員達が銃弾の雨を撃ち込んだ。
幾つかの外れた弾丸がコンクリートを粉塵に戻し、その場を包み込む。

一瞬、誰もが決着が付いたと思った。だが……!

この場で最も多くブラックアダムの情報を保有しているヒーロー『アイアンメイデン』が
叫んだ瞬間、メタルボーガーの首に向けて黒い腕が伸びた。

ブラックアダムは無傷だった。最初に受けたアイアンメイデンのビームによる損傷。
そして、メタルボーガーのナイフの一撃が負わせた傷を除いて、「人間」が
彼に与えたダメージはゼロだった。至近距離からの銃弾の一斉射撃を受けたにも関わらず、である。

「なーっはっはっはぁ!! くだばれええええええっっっ!!!!!」

そうして、その黒い拳がメタルボーガーに届くかと思われたその時、
ブラックアダムの背中に、無数の冷凍弾が着弾した。

「……ぬ、がっ!? な、なんだこりゃあ!!」

冷凍弾は次々とブラックアダムに着弾する。ブラックアダムは回避をしようとするが、
どういう訳か身体が思うように動かない。それもその筈――――『アダム』の
リアクターが、一時的に冷凍弾によって停止させられたからだ。
それでも、元々が改造人間であるブラックアダムならば並の改造人間以上には動けた
筈なのだが……いかんせん今の出力に身体が慣れ過ぎてしまっていた。
そして、ただの改造人間としての動きに為れるまでのその時間に打ち込まれた
冷凍弾の量は、ブラックアダムを完全凍結させるまでには十分だった。

「ば、ばか……な……あっ……!」

メタルボーガーまであと十数センチの距離に拳を伸ばしたその姿勢で、
氷に包まれたブラックアダムの氷像が出来上がった訳である。

30 名前:宇宙汽車男 ◆j.Ypl7DW.o [sage] 投稿日:2010/04/15(木) 02:21:05 0
俺様は戦闘力が超究極∞以上を遥かに越えて凌駕している全知全能自由自在の最強最大最高無敵で絶対確実完全特別不死身のサイヤ人だぜー。
【気力】超究極∞以上を遥かに越えて凌駕している全知全能自由自在の最強最大最高無敵の絶対確実完全特別で不死身のスレッドスターター。
【生命力】超究極∞以上を遥かに越えて凌駕している全知全能自由自在の最強最大最高無敵の絶対確実完全特別で不死身のサイトリンクパス。
全次元全多数宇宙全複数空間全並行世界破壊消滅消去削除抹消規模可能かめはめ波&回避不可能防御無効化魔法吸収物理反射元気玉&ラストファイナルエンドエボリューションエターナルフォースブリザード。
収束一点集中貫通濃縮圧縮凝縮展開衝撃驚愕戦慄恐怖絶望滅亡破局波動砲&終焉最終最後結末荷電粒子砲&初期設定神聖最初条件無力化相転移砲。

31 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/16(金) 21:45:24 0
真性のお馬鹿な頭は私の予想を遥かに上回っていて、私はこの都市の現状について早三回目の説明を行っていた。
と言うかアンタ、実は分かろうとしてないってオチじゃないでしょうね。
あの夜、あれだけの事をやらかしておいて、今更怖気付いたなんて通用しないわよ。
そもそも女社長が事件ごと揉み消したから良いものの、アンタ無茶し過ぎなのよ。
夜闇に紛れてならともかく、あれだけ豪邸なら屋内にだってカメラがあるんじゃないかって考えられなかったのかしら。
なんて事を考えていると、不意に部屋に据え置かれた電話が単調な電子音を口ずさんだ。

「あら、アンタにも電話を掛けてくれるような人間がいたのね。誰かしら、お友達はいなさそうだし、お母様かしらね。
 何やってるの? 辛かったら帰ってきてもいいのよ? とか、一度生で聞いてみたいんだけど、どう思う?」
いつもより過分に諧謔味を含んだ皮肉を紡ぎながら、受話器を取るように促した。

『……突然の電話失礼するよ。とは言え、用事があるのは君ではなくてね。そこにいるのだろう、彼女が』
受話器の向こう側から零れた声は、旋風院雷羽が従う『ボス』のものだった。
電話越しの粗い音質だけど、間違えようがない。
悪の深淵に住む者にしか、邪悪を従える器量の持ち主にしか発し得ない『何か』は、一切の劣化無しに届けられている。
真性の握る受話器、その周囲だけが別の世界であるような錯覚すら、覚えるくらいだわ。
それにしても、わざわざコイツの部屋に電話を寄越すなんて、随分な事をしてくれるじゃない。
でもこのくらいで私の事を知った気になられちゃ、心外だけど。
ともあれまずは彼から受話器を受け取り、顔の横へと運ぶ。

「何の用かしら? 二人きりの時間を邪魔するだなんて、随分と憎い事してくれるじゃない?」
「無粋なのは承知の上だよ。だがどうしても、君の力が必要となってしまってね」
あら、一体何かしら。でも協力を仰いできたって事は、この前の話は受けられたと考えていいみたいね。
ホント、ああ言う連中って迂遠な物言いが大好きよね。底知れないオーラでも出したがってるのかしら。

「実は私の可愛い部下が一人、『ヒーロー』達に捕まってしまってね。
 全く囲んで袋叩きとは、私は時々『ヒーロー』と言うものが分からなくなるよ」
私の無言を催促と判断したのか、『ボス』は再び言葉を紡ぎ始める。

「冗談ならお腹いっぱいよ。ユーモアの応酬で日暮れを迎えたいなら、一人でやって頂戴な。
 日がな一日椅子に座ってればいい貴方と違って、私は忙しいの」
「人を社会の害悪みたいに言わないでくれたまえ……と言いたい所だが、実際そうであるのが言葉の妙と言う奴かな」

ちらりと、隣で座っている真性に視線を滑らせる。
同じ社会の害悪の筈なのに、こうも違うのは何故かしらね。
まあそんな事は今はどうでも良いとしておきましょう。この分じゃ何時まで経っても本題に進めないわ。
結局用事は何なのか。大体の予想は付くけれど、滑稽味に満ちた流れを打ち切って私は強引に話題を運ぶ。

「おや? その事なら既に察しが付いているものだと思っていたよ、すまないね。
 用事と言うのは他でもないその部下の事だ。このままでは彼が何処かの寝室に彫像として飾られかねない」

嫌味の方も満腹だって言うのに、別腹なんて存在しないわ。
それにしても、どうしても君の力が必要だなんて、笑っちゃうわね。
何かと思ったら、それぐらい貴方の部下でも出来るでしょうに。
小間使いとして扱われてるのは、私の方だとでも言いたいのかしら。
でもいいわ、引き受けてあげる。貴方はせいぜいその椅子の上で、威張り散らしてればいいじゃない。
最後に笑うのは、私だって決まってるんですもの。今の内にいい思いをするくらい、許してあげるわよ。

「いいわよ、助けといてあげる。丁度いい研修になりそうだしね……こっちの話よ。それより、その間抜けな部下の行方くらいは分かるんでしょうね」
「勿論だとも。大事な部下だ、行方くらいは常に把握しているさ」
「なら結構よ。じゃあ早速……」
「まあ待ちたまえ。まだ何処に運ばれるかはまだ分からないのでね。追って連絡を入れようじゃないか」
「はぁ? またここに電話するつもり?」
「まさか、安心したまえ。連絡する術なら幾らでもある。そうだろう?」
「……それもそうね」
最後に執拗な嫌味を私に届けてから、それっきり受話器は単調な電子音を吐き出すだけとなった。

「……で、聞いての通りだけど。アンタはどうするの? Bダイヤの話はともかく、大悪党へのステップそのニ。挑戦してみる?」

32 名前:星真一 ◆fSS4JmCGEk [sage] 投稿日:2010/04/17(土) 02:30:12 0
悩みながらもトリッシュ邸の前でスクーターを停止し、止める
真っ先に不審者を発見したとばかりに警備員がやってくる。
少しイライラしている様子で
やはり先日の件があったのだ無理もない

「ちょっとアンタここがどこだか分かって来てるんだろうな!?」

「分かってるよ、トリッシュ社長に会いたいんだが…今いるか?」

するとなに寝ぼけた事言ってるんだという顔をして
「お前みたいな得体の知れない奴に教えるわけねぇだろ!」
と言って無線に手を伸ばす
他の警備員を呼ばれては面倒なのでアーカム大学時代に習得し得意な物の一つ
武術の型を取り、確実に気絶する一撃をみぞおちに打ち込み気絶させる
「ホントはこういう事はしたくないんだが…面倒は嫌だから記憶消しておくか」
俺と会った記憶を簡単にだが消す魔術をかけてとっとと中に入る

ここまで来たのはいいが此処から先どうするべきかを考えていた
会ってどうする?記憶を消したところでこの騒動が消えるわけじゃない
じゃあ殺すのか?ありえないそんな簡単に命は奪えることじゃない
俺は旧神の戦士といえど人間だ彼等のように丸ごとなかったように消す事なんてできやしない
この町にはシスターやガキ共だっている俺にとっては大事な人達が住んでいる場所を
消す事なんてできやしないのだ
「クソッタレが…どうすりゃいいんだよ…」
だからと言ってこの状況は黙認できない放っておけばいずれはこの町どころの騒ぎでは
なくなるかもしれないのだから。
その答えを求めるために延々と自己問答を繰り返そうかと言う時に
突如爆破音が鳴り響くそして同時にどこかで見たことがある女の子が近くにやってくる
「な、なんだ?」
その爆発音の方向を向くと土ぼこりが起きており、それが収まると同時に
全身に激情が迸る。だがそこで冷静な思考と判断力は維持できていた
間違いないその背後にはびっしりと霊達が指を血の涙を流しながら届かぬ声を発生していた
それに比例するが如く以前より力が増していることに気づく
「テメェ…力を付ける為に幾つの命を喰らいやがった!?」

間違いなくコイツは旧支配者に近い存在に近づいている…
ここで始末しなければ大変な事になる
だが人前では魔導衣は纏えないどうする!?

33 名前:トリッシュ ◇.H4UqpaW3Y [sage] 投稿日:2010/04/17(土) 14:18:16 0
ブラックアダムがアイアンジョーカーの冷凍弾で凍らされていく様を彼女は祈るような眼差しで見ていた。
ブラックアダムのボディがアダムと同じ鋼鉄製ならば、このまま凍結し機能しなくなるはずであるが、仮に何らかの防止策を施していた場合
ブラックアダムは先ほどアイアンメイデンがしてみせたように氷を砕き、再度暴れだすに違いない
そんな最悪の事態に備え、全エネルギーをリアクターコアに集中させ
現状で出せる最高威力の武装『リアクターブラスト』を出せる状態にしていた。
「……………」
「…………リアクターコア反応ゼロ、アダム全システム凍結しました。」
アイヴィスの解析結果を聞いた瞬間、トリッシュは大きくため息をついてその場にへたり込んだ。
しかし、休む隙は無い。すぐさま立ち上がりメタルボーガーに近づいていく
「あなたが押さえくれたお陰で助かったわ
 危うく人質を取られて何も出来なくなるところだった」
軽く肩を叩き、感謝をした後
「お礼になるかどうか分からないけど、この一件はあなた達の手柄ってことしてくれない?
 その変わりなんだけど、出来ればコイツはこのままの状態にして置いてもらえないかしら
 さっき捕まえた冷気使いと一緒にして檻にブチこんどいてほしいの
 もちろん、裏切り防止の為に冷気使いには『一時間につき一分の仮釈放の期間延長』とか言ってね」
メタルボーガーの返事を聞かず、次はアイアンジョーカーに近づく
「お久しぶりね。ちょうどあなたの所に行くつもりだったの
 でも、話が変わったわ、今小さなお客さんが来ちゃったとこなの
 時間があるなら空の上で話さない?」


34 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/04/17(土) 14:26:41 0
>「今すぐ離れなさい!!!」
攻撃を放つ宙野に、トリッシュが警告を放つが、もう遅い
宙野の放ったナイフの一撃に、旋風院に直撃せず、その横をわずかに掠めるにとどまった
大振りな攻撃を外し、隙ができている宙野を救うべく機動隊員が発砲するが、旋風院は物ともしない
(よし!敵の注意はこちらに向いた!)
しかし、宙野は自らの攻撃が空を切ったにも関わらず、心の中で不敵な笑みを浮かべる
鼻から、性能の劣るメタルボーガー単身と、機動隊の攻撃だけで旋風院を止められるなどと思っていない
だが、敵の注意が今こちらに集中している今ならば、アイアンジョーカーが隙だらけになった旋風院に必殺の一撃を入れる事ができるはずである
問題はそれで旋風院が倒れなかった時、メタルボーガーが健在…いや、動く状態であればまだこちらが優勢(アイアンメイデンがいるので明らかに優勢なのだが、宙野は確実に味方である存在しか自らの中で戦力に数えないため)なのだが…

はたしてこの一撃にメタルボーガーは耐える事ができるか?

自分の大振りの攻撃でできた隙に、拳を叩き込まんと構えた旋風院の前でそこまで考え、受ける一撃に備えようとした、その時
>「ジョォォカァァァ!!!冷凍弾!!!早く!!!」
トリッシュの叫びと共に、アイアンジョーカーから冷凍弾が放たれ、旋風院の動きが止まった
(…凄い!)
冷凍弾のすさまじい威力に、宙野は一瞬、感心し
次の瞬間、真後ろに素早く下がり、先程放棄した電磁ライフルを拾い上げ、躊躇う事無く旋風院に向けた!
「とどめだ!」
殺るか殺られるかの戦場をかけてきた感覚が仇となり、確保できる相手にとどめを刺さんとしてしまっているのである
犯罪現場ではなく、戦場をかけてきた宙野にとって、決着はまだついていなかったのだ!

35 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/04/17(土) 14:27:28 0
ギャーーー被った;

36 名前:アイアンジョーカー ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/04/17(土) 14:32:28 0
【システムダウン確認 凍結完了です】

マイケルの報告を聞き、ジョーカーも攻撃を止める。
トリッシュの提案を聞き付け、それに同調する。
アイアンジョーカーのリアクターから液晶ビジョンで石原市長が姿を現し返答する。
「あぁ、今回の殊勲賞はメタルボーガー及び不知火重工だ。
君達の事は、市議会でもメディアでも大々的に取り上げて補助予算も
検討出来るだろうな。まずは、今回の協力を感謝する。」

手を差し出し、メタルボーガーに握手をする。
そして警官達を招きいれ厳重なケージを用意させていく。

「このアダムと呼ばれるアーマーは非常に危険な物だ。
出来れば君達にも警護をお願いしたい…彼が単独とは思えない。
恐らくは仲間がいる…襲われる危険性もあるからね。」

警官隊だけでは対応できない可能性もある。
メタルボーガーを操った彼の実力ならば、信頼できるだろうと石原は考えたのであった。

>「お久しぶりね。ちょうどあなたの所に行くつもりだったの
>でも、話が変わったわ、今小さなお客さんが来ちゃったとこなの
>時間があるなら空の上で話さない?」

自分の正体をさらしてしまった相手だが、今更取り繕う意味もないだろう。

「あぁ、ハニー。久しぶりにいい報告も出来そうだ。
《MK4》…興味あるかい?」

空に飛び上がりトリッシュに追従する。
思えば、彼女とは長い付き合いだ。
先代の元で石原は若い頃から、共に会社を大きくしてきた。
娘であるトリッシュも我が子のように接してきたのだ。
小さい頃から彼女の才能は抜きに出ていた。石原はそれに気付き、
対抗派閥から彼女を守りながら影で支えてきたのだ。
彼女がテロ組織につかまった際、対抗派閥のステインの目論見に気付きながら
何も出来なかったのは今でも悔しく思っている。
しかし、彼女はその状況を好機に転換しアイアンメイデンという強力なヒーローを作り上げた。

今でも石原は思う。彼女は天才であると。
そして、この街を守るのは彼女であるとも。

【上空でアイアンメイデンと対話中】

37 名前:アイアンジョーカー ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/04/17(土) 14:34:27 0
(宙野さん、申し訳ないです。こちらこそすいません。。)

38 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 13:27:36 0
>「今すぐ離れなさい!!!」
攻撃を放つ宙野に、トリッシュが警告を放つが、もう遅い
宙野の放ったナイフの一撃に、旋風院に直撃せず、その横をわずかに掠めるにとどまった
大振りな攻撃を外し、隙ができている宙野を救うべく機動隊員が発砲するが、旋風院は物ともしない
(よし!敵の注意はこちらに向いた!)
しかし、宙野は自らの攻撃が空を切ったにも関わらず、心の中で不敵な笑みを浮かべる
鼻から、性能の劣るメタルボーガー単身と、機動隊の攻撃だけで旋風院を止められるなどと思っていない
だが、敵の注意が今こちらに集中している今ならば、アイアンジョーカーが隙だらけになった旋風院に必殺の一撃を入れる事ができるはずである
問題はそれで旋風院が倒れなかった時、メタルボーガーが健在…いや、動く状態であればまだこちらが優勢(アイアンメイデンがいるので明らかに優勢なのだが、宙野は確実に味方である存在しか自らの中で戦力に数えないため)なのだが…

はたしてこの一撃にメタルボーガーは耐える事ができるか?

自分の大振りの攻撃でできた隙に、拳を叩き込まんと構えた旋風院の前でそこまで考え、受ける一撃に備えようとした、その時
>「ジョォォカァァァ!!!冷凍弾!!!早く!!!」
トリッシュの叫びと共に、アイアンジョーカーから冷凍弾が放たれ、旋風院の動きが止まった
「……はぁ………」
死すらも覚悟した宙野は、何とか無事助かり、旋風院が活動停止した事を察し、浅いため息をついて、旋風院から離れる
>「あなたが押さえくれたお陰で助かったわ
戦闘が終わり、ある種の放心状態になっている宙野に、トリッシュがねぎらいの言葉をかけてきた
しかし、宙野の表情は緩まない
>「お礼になるかどうか分からないけど、この一件はあなた達の手柄ってことしてくれない?
(何を偉そうに…)
完全に上から目線で物を言うトリッシュに、宙野が苛立つ間も無く、今度はアイアンジョーカーが話しかけてきた
>今回の殊勲賞はメタルボーガー及び不知火重工だ。
「いえ、皆さんの協力があったからです」
模範解答で答え、アイアンジョーカーと握手を交わす宙野
と、自然に手が出て答えてしまったが、そこでなんかおかしい事に気がつく
>恐らくは仲間がいる…襲われる危険性もあるからね。」
「り…了解しました。」
(ん?何でこいつが俺達に要請して来るんだ?)
自分が今アイアンジョーカーに変身しているため事を忘れて宙野に指示を下すアイアンジョーカーを無礼な奴だなと思った宙野だったが、言っている事はもっともなので、そこはとりあえず頷いておく
その後、二人はさっさと空に消えてしまった
「……」
飛び去った二人を見送った宙野は、矢車の指示で特製ケージにメタルボーガーの武器冷却用の予備の冷却液を装着していく装甲警備隊員達の脇をすり抜け、トレーラーへ戻り、メタルボーガーを脱ぐと、そのまま椅子に倒れこむように座った
「宙野」
そこで横から呼びかけられ、振り返ると、そこには矢車がたっていた
「矢車チーフ」
「今回の戦い、パーフェクトミッションと言っても過言では無い。よくやった」
「ありがとうございます」
「だが……」
宙野を褒めた矢車は、更に何か言おうとして、言葉を止めた
それは、宙野に言った所で仕方の無い事だからだ
「……いや、いい、気にするな。後の事は俺に任せて、今はゆっくり休め、連戦で消耗しているだろうからな」
そう言って、トレーラーから出て行く矢車に頷くと、宙野は今日の様な戦いがこれからも続くのかと思い、深い深いため息をついた

39 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/04/19(月) 02:47:32 0
前回までのあらすじ。街に異能者が溢れかえり、治安は最悪である。おわり。
それはそうと、我が家に黒ゴスがやってきた。やっと、ようやく、しばらくぶりの再会に俺は大いに尻尾を振ったが、本題は別にある。
俺達がこの街の現状を肴に歓談を興じていたところ、(酔っ払った俺は黒ゴスの話を理解するのにものっそい聞き直す羽目になった)
突如として部屋の隅で据え置き電話と化している俺の携帯ちゃんが産声を挙げた。ちなみに最新は二ヶ月前のバイトのお断りメールである。

『どこぞのヴィランの一員がヒーローに捕まったので、助けて欲しい』

それが、俺の携帯を通じて黒ゴスに届けられた依頼の内容。俺なりに噛み砕いて要訳してみた。グッジョブ俺。
なんでいちいち俺の電話を介するんだよとか、そもそも番号知ってんのかよとか、そんな疑問は些細で些末。
つまるところコトの本質は、多忙極まる黒ゴスに新たな厄介ごとが腐乱したネギを背負って速達されたってことだ。

>「……で、聞いての通りだけど。アンタはどうするの? Bダイヤの話はともかく、大悪党へのステップそのニ。挑戦してみる?」

来た。その言葉を待ってたと言わんばかりに俺の心の尻尾が邪悪への勧誘に猫まっしぐら。
そういえば、ペットフードのCMとかで使われる商品にはワンちゃんネコちゃんの食いつきを良くするために塩分多めで与えるそうな。
たとえそれが愛玩畜生共の健康によろしくなくとも。ことほど左様に、黒ゴスの問いかけは破滅への道程と甘美な一歩とが矛盾せず内在していた。

でも実際、どうなのだろう。助けに行くって、見ず知らずの人間を前にしてそう宣言するのは、まるきりヒーローの役目じゃねえの?
正義の味方はヒーローだが、じゃあ悪の味方って何だよ。誰かを守るのが善なら、その守護対象に悪が含まれていてもおかしくない。
それとも、やっぱり悪いヤツは見殺しにすんのかね、ヒーロー各位のお歴々は。
人間の善と悪を天秤にかけて、後者に振り切れば私刑に死刑だなんて、大昔の宗教裁判じゃあるめえし。悪即斬かよ。揺らぎねえな。

おっと、えらく脱線したな話が。つまるところ俺ちゃんが言いたいのはこんな回りくどい自己方針の定め方なんかせずに、

「やるやる超やるー。っつうかよ、水臭えぜ黒ゴス。アンタは俺の恩人で、その足元に傅くのが俺の役目だ。なんなりと、命令してくれりゃいい」

感情に従って、即決すりゃいい。あれこれごちゃごちゃ悩むのは若年ヒーローのトレンドで、俺は若年でもヒーローでもないのだから。
俺はもう、巨悪になりたくなんかなかった。ただ、己の在りたいように在り、そう在れるように世界を変える。
とりあえずは、この目の前の『本物』の、腹心とか懐刀とでも呼ばれるぐらいには頑張ろーか。カッコいいだろ?そういうの。

「それで、どこへ行って何をすりゃいいんだ俺は。アンタたっての頼みだ、そりゃあもう率先して優先して足先して――悪いことするぜぇ?」

黒ゴスにも薦めた高級玉露を嗅ぐわいながら、俺は純然たるキメ顔を維持してそう問うた。


【暗楽の提案を快諾】

40 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/04/19(月) 19:43:56 0
初めまして。悪役側での新規参加となります。

名前:レギン・サマイド
職業:不明
勢力:悪
性別:男性
年齢:不明
身長:250センチメートル
体重:120キログラム
性格:完全に落ち着いている。意外とお茶目なところがある。
外見1:いかにもな悪人面の老人。
    ものすごい長身で、白人の顔立ちに黒い肌が特徴的。
外見2:(変身後)定まった外見は無い。
    相手に相応しい姿で戦う(魔法を駆使する相手なら悪魔、科学を駆使するヒーローなら宇宙人など)。
    必ず外見1よりも巨大で、能力そのものは外見が変化しても変わらない。
特殊能力:異次元の格闘技を操るほか、様々な魔術を駆使することもできる。千の必殺技を持つとは本人の弁だが、多分そんなに無い。
備考:
悪魔じみた容貌の、見た目どおりに邪悪な怪人。
大規模な悪事を目論んでは、ヒーローによって滅ぼされるが、人々が忘れた頃になると復活するヴィランとして知られる。
あまりに復活するので、無限の生命力があると言われるが、活動資金は有限なので……
活動時期によっては、魔神や魔王を自称していたこともあり、結構ノリのいいお調子者な面もある。
「最高のヴィランには茶目っ気と余裕が必要不可欠」という考えを持っており、対抗する術を持たない一般人には寛容であろうと努める。
その正体と復活の原因は、今のところ誰も知らないが、少なくとも人間ではないことは間違いない。

41 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/04/19(月) 19:47:16 0
レギン・サマイドなるヴィランが居た。
たとえヒーローの活躍の末に倒されても、人々が忘れた頃になると復活する、不死鳥の如きヴィランだと言われている。
古今東西様々な場所で、幾度となく悪の権化として現れては、何人ものヒーローたちとの戦いを繰り広げた彼だが、その正体は未だにわかっていない。
多くの謎を残したまま最後に滅びてから、かれこれ50年以上が経過した。

だが、ブラックダイヤモンドが砕け散ったのと時を同じくして、この謎めいたヴィランが復活を遂げていた。
周囲の奇異の視線をものともせず町を闊歩する、人間離れした長身の老人こそが、あのレギン・サマイドである。
「わし自身は何ら変わらぬというのに、この町はわずか百年足らずの間に、ひどく様変わりしてしまった。
 寂しいことだ」
数十年前にも、彼はこの町で邪悪な計画を進め、そしてヒーロー達に野望を叩き潰された。
そのときと比べて、町並みはずいぶんと変わっていたのだ。

だが、変わらないものが一つだけあった。ヒーローとヴィランの存在である。
「銀行強盗だ!」
彼がたまたま近くを通りかかった銀行では、ヴィランによる銀行強盗が行われていた。
まとまった大金を強奪して逃亡した彼らであったが、運の悪いことに、近くにはあまり機嫌の良くないレギン・サマイドが居た。
銀行強盗を行ったヴィランの一団は、たまたま逃走経路に居た彼も、ヴィランとしての特殊な力でもって殺そうとしたが、逆に焼き殺され、一握の灰になった。
だが、灰の中からは、無傷のままの黒いダイヤモンドが、犠牲となったヴィランと同じ数だけ見つかった。
彼はその黒い宝石を拾い上げ、物珍しそうな目でまじまじと見つめた。
「これは珍しい、ブラックダイヤモンドとは。
 しかも欠片ということは、何かがあって砕け散ったというわけか。
 となると、今はヒーローとヴィランのバーゲンセールをやっているらしい。ワクワクしてきたぞ」
彼は、この黒い宝石が何か知っているのか、拾い上げて懐に入れた。
復活したレギン・サマイドの最初の悪事は殺人(相手はヴィランだが)で、その次がネコババだった。
「おっと、忘れるところだった」
レギン・サマイドの黒い身体が真っ赤に染まると、ヴィランたちの遺灰がオレンジ色の光に包まれて凝縮されると、一粒のダイヤモンドになった。
ダイヤモンドが軽い音を立てて地面に落ちると、レギン・サマイドの赤く変色した身体は元の黒色に戻った。
こうして、彼の新たな悪事に、死体損壊が加わったのである。
「この時代のヒーローとヴィランも知っておかんとな。
 今の彼ら程度でなければ良いが……」
死骸から作ったダイヤを拾い上げ、悠々と引き上げていった。
否、もしかしたら、ヒーローやヴィランを探すために行動を開始したのかも知れない。

42 名前:赤穂朗氏 ◆y6ZFeIPasDPg [sage] 投稿日:2010/04/19(月) 20:53:14 0
>>26
『お日様……力を貸して!』

「誰かと思えば、君じゃないか。あの太ももの感触、今でも覚えてるよ。
あぁ……また頬擦りしてもいいかい?」

稲妻を全身で受けながらも赤穂の体は変化を止めない。
やがて背広が破れ落ち、胸が露になった。
そこから覗くのは、無数の黒いダイヤモンド。
そして、胸の中央に在るのはアリスの顔。

「どうしたんだ?そんな攻め方じゃ私を絶頂へは至らせる事は出来ない。
ん?」

赤穂の体から無数のダイヤモンドが離れていく。
その様子に彼女の目的を察した赤穂は無表情ながら口元を何度も歪ませて見せる。

「悪い子だ。人の物を盗むなんて、誰に教わったんだい?
それとも、君は……今度こそバラバラになりたいんだね。
うん、そうだ。そうなんだねぇえええええええ!!!」

赤穂の体が赤い光に包まれる。
その姿は黒と赤の魔人。赤穂とブラックダイヤモンドが完全に融合した証だ。

>>32
『テメェ…力を付ける為に幾つの命を喰らいやがった!?』

少女の体を切り刻もうと迫る直前、反対側から声が聞こえる。
興を削がれた魔人は、憮然とした声でそれに答える。

「誰かと思えば、君は以前私を付け狙っていたストーカー君じゃないか。
なんだ?まだ前の女の事を女々しく思っているのか。
それともなんだ。君のその極小の正義感とやらが私に対する怒りとなってでもいるのか?
やめておけ。君は、そんなに立派な人間じゃない。君が思っている以上に、ね。

そして前にこう言った筈だ。私以外の人間などゴミ以下。
誰がどうなろうと、知った事ではない。


君も、死ぬがいい。」


凄まじい衝撃と共に、光と星の周りに竜巻が発生する。
それは濁流のように2人を飲み込まんと迫る――!!





43 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 17:23:41 0
> 「誰かと思えば、君じゃないか。あの太ももの感触、今でも覚えてるよ。
> あぁ……また頬擦りしてもいいかい?」
肉薄する赤穂の不気味さに身震いしながらも、ワンドを振るった。
白昼の光が稲光を描き、赤穂の身を打つ。

> 「どうしたんだ?そんな攻め方じゃ私を絶頂へは至らせる事は出来ない。
> ん?」
しかし彼は平然とした様子で、歩みを続けていた。
更に燃え落ちた彼の衣服から覗く体に、光は図らずも息を呑む。
数え切れない程のブラックダイヤモンドが、赤穂の体に埋まっていたのだ。
けれども彼の感情の昂り故にか、ダイヤは煌々と紅の輝きを放っている。

「これなら……私でも!」

> 赤穂の体から無数のダイヤモンドが離れていく。
> その様子に彼女の目的を察した赤穂は無表情ながら口元を何度も歪ませて見せる。
>
> 「悪い子だ。人の物を盗むなんて、誰に教わったんだい?
> それとも、君は……今度こそバラバラになりたいんだね。
> うん、そうだ。そうなんだねぇえええええええ!!!」
狂気を孕んだ独り合点の咆哮と共に、赤穂の体が赤と黒の閃光に包まれた。
最早人の姿を留めてはいない。長い年月を掛けて、彼は魔石と心身の同調を果たしていたのだろう。
悪鬼、羅刹、魔人、そのような呼称が相応しい容姿へと変貌した彼は、光を寸断すべく地を蹴った。
唖然と赤穂の放つ凄まじい邪気が、光の対応を一瞬遅らせる。だが、

> 『テメェ…力を付ける為に幾つの命を喰らいやがった!?』
> 少女の体を切り刻もうと迫る直前、反対側から声が聞こえる。
> 興を削がれた魔人は、憮然とした声でそれに答える。

> 「誰かと思えば、君は以前私を付け狙っていたストーカー君じゃないか。
> なんだ?まだ前の女の事を女々しく思っているのか。
> それともなんだ。君のその極小の正義感とやらが私に対する怒りとなってでもいるのか?
> やめておけ。君は、そんなに立派な人間じゃない。君が思っている以上に、ね。
>
> そして前にこう言った筈だ。私以外の人間などゴミ以下。
> 誰がどうなろうと、知った事ではない。


> 君も、死ぬがいい。」


> 凄まじい衝撃と共に、光と星の周りに竜巻が発生する。
> それは濁流のように2人を飲み込まんと迫る――!!

「きゃ……っ!」
彼女は身を縮こませて、それ以上の行動を取らなかった。
いや、取れなかったのだ。ワンドは今、魔石の『紅』を宿している。
宿してはいるが、未だ暴れるその力を彼女は完全に御しきれていないのだ。

「……おじさん、お願い! 何とかして!」
『秤の一族』であり『ヒーローを護る』者としてあるまじき事だが、それでも星を頼る以外に彼女に術はない。
迫る暴風に跪く事を強いられ目を固く瞑りながら、彼女は懇願を叫んだ。
そして辛うじて顔を上げ薄目を開けて、彼女は赤穂を視界に捉える。

「貴方も! その衝動はホントに貴方のものなの? 魔石に与えられただけの、操り糸じゃないの!?」
暴風の轟音に負けないよう声を張り上げて、光は尋ねた。
トリッシュ邸で赤穂が言っていた、始めての殺人は五歳の時だったと言う言葉。
余りにも、常軌を逸している。まだ自我もろくに確立されていないような幼少が、己の欲望で人を殺すなど。
赤穂はただ、魔石による願望に衝き動かされているに過ぎないのではないか。
あの夜からずっと抱いていた疑問を、光は吐露した。

44 名前:星真一 ◆9xF707VU4. [sage] 投稿日:2010/04/22(木) 01:16:37 0
>「誰かと思えば、君は以前私を付け狙っていたストーカー君じゃないか。
なんだ?まだ前の女の事を女々しく思っているのか。
それともなんだ。君のその極小の正義感とやらが私に対する怒りとなってでもいるのか?
やめておけ。君は、そんなに立派な人間じゃない。君が思っている以上に、ね。

そして前にこう言った筈だ。私以外の人間などゴミ以下。
誰がどうなろうと、知った事ではない。

君も、死ぬがいい。」

>「……おじさん、お願い! 何とかして!」

少女の声に忘れ掛けていた物思い出した。
そうだ俺は助けるべき人達がいたんだ
何者にも変えがたくそして大切な人達が
助けを求める人の声に答えなくてどうする
たった一人でも救うそれがヒーローだろうがよ
それにコイツは――コイツだけは――絶対に許さねぇ
「ゴミ以下だと……ふ…ざけるな…!」
奴の言葉に身体が熱くなる
まるで血が灼熱で沸騰しているようだった
だが頭の中は妙に冷たい以前とは違い冴え渡っている
そして不思議な感覚になっていた
理性ではなく感情で理解していた
これが──

衝撃波と竜巻が直撃する―――だが二人は無事だった
竜巻は弾き飛ばされる消えると二人を覆う魔法陣がそこに存在していた
その場に銀髪の長髪に青い外套に包まれている無垢な刃に選ばれし者が顕現した。
「そうだな、俺は立派な人間じゃない
 せめて周りの人間しか守れない情けねぇ奴だ…
けどな、それでも俺は――テメェだけは許しておくには訳にはいかねぇんだよ
これ以上テメェを1分1秒生かしておくわけにはいかねぇ―――
ここでテメェを倒し、魔石全てを破壊する!」

これでグチグチ悩むのは一旦止めだ
俺らしくねぇ
とりあえず今出来る事を全力で取り組めば良い
全力でこの少女を守る―――それだけだ

<武器選択(ウェポンセレクト)銀鍵の閃魔槍 送信(インストール)>

手には投影魔術+魔刃鍛造の術式で武装としての機能を特化した銀の鍵を握っていた
バルザイの堰月刀と同じく魔術行使、特に召喚魔術を補助する魔杖としての機能を兼ね備えた長槍。
魔力を纏わせて打ち込むことで多次元への門を閉じ/開き、強制解放、強制封印、空間に穴を穿つといったことが可能
これは旧神から与えられた武器ではなく自身の能力で精製した武装の一つだ。

「テメェに選択権をやろうかと思ったが、止めだ!」

銀鍵の閃魔槍を構え、相手の出方を伺う。 

45 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/22(木) 01:28:12 0
>「やるやる超やるー。っつうかよ、水臭えぜ黒ゴス。アンタは俺の恩人で、その足元に傅くのが俺の役目だ。なんなりと、命令してくれりゃいい」
随分と即決したわねアンタ、それにしても随分と慕ってくれているみたいで嬉しいわ。
と言いたい所なんだけど、正直な所あまり依存されても困るってのが本音かしら。
私にとってのアンタは、あくまでも『極悪人の卵』なのだもの。
個人的な思い入れが無いと言えば嘘になる事は認めるけど、この大前提は絶対に揺るがないわ。
私とアンタの、唯一の繋がりよ。

>「それで、どこへ行って何をすりゃいいんだ俺は。アンタたっての頼みだ、そりゃあもう率先して優先して足先して――悪いことするぜぇ?」
「さっきの電話、聞こえてたでしょ? その辺ブラついていれば分かるわよ」
よく分からないけど最高に似合ってない真面目顔から一転、真性の表情が呆けて崩れる。
いつかコイツにも悪党としての貫禄が備わる日が来るのかしら。
想像出来ないのが悲しい所ね。思わず視線に憐憫が篭っちゃいそうだわ。
ともかく、連中はアンタと違って組織立った悪党共なの。一口にヴィランと言ったって、色々あるって事を思い知るといいかもね。

そんな訳で何処へ向かうでもなく街を放浪する事暫く、不意に一人の男が真性に肩をぶつけて、そのまま何を言うでもなく去っていった。
立ち止まり、すれ違った男の後ろ姿を振り返る……のは良いんだけど、アンタね、少しは何か言ってやりなさいよ。
ともあれ真性に向き直ると、私はよれた衣服のポケットに手を突っ込んだ。
何だか砂っぽかったり埃っぽかったりで手触りは最悪だけど、どうやら目当ての物はあったようで何より。
指先に触れる紙切れを、そのまま摘んで引っ張り出した。

「ホント……いちいちやる事が嫌らしいわね。普通に手渡せばいいでしょうに」
手の込んだ遣り口に呆れの溜息を吐きながら、折り畳まれていた紙を広げる。

「あらあら……予想はしてたけど、とんでもない所にお使い頼まれたわね」

広げた紙切れを真性の方へ見せびらかしながら、呟く。
コイツが知ってるかは果たして疑問だけど、可愛い部下とやらが送られた先は『矯正所』。
軽事件であれ重犯罪であれ、異能を用いて犯罪を起こした『ヴィラン』が送られる施設だわ。
どんな場所かは読んで字の通り、お察しとしか言いようがないわね。
異能を持つ『ヴィラン』達を収容する施設なのだから、当然対異能者用の設備や人員も配備されているし。

「今更怖気付いた……ってのは無しよ? さあ、行きましょうか」

【収容所の設定は上述の数行以外特に決めてません。色々ご随意に】

46 名前:トリッシュ ◇.H4UqpaW3Y 代理 [sage] 投稿日:2010/04/22(木) 07:52:23 0
空へ飛び上がってから、始めに口を開いたのはトリッシュからであった。
まず、先ほどの戦闘で壊れた施設に関しては責任を持って処理する旨を伝えた。
これは社会的なアピールとかではなく、彼女のポリシーから来きている行動かも知れない
ブラックアダムに関しては、恐らくあのパーティーの夜に盗まれたアダムが何らかの改造を受けたものかもしれないと憶測を話した。
彼方が聞きたいであろうことを先に話、ちょっとした皮肉を受け流して、今度はトリッシュがあの条例とメタルマンについて尋ねた

彼の話を聞く間、トリッシュは時には感心し、時には罵声を浴びせるほど呆れたりしたが、石原の真意を聞き、内心ホッとしていた

「ところで…Mk-4なんだけど、アーマーのバージョンアップ案って考えていいのかしら」
今回の一件でアーマーのバージョンアップが必要と感じていたトリッシュにとっては嬉しい話になるかもしれない

47 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/04/22(木) 23:44:42 0
レギン・サマイドがまず向かったのは、『矯正所』と呼ばれる、異能を持つヴィラン用の収容所だった。
「懐かしいものだ。まだあったのか」
彼が組織を率いる大物ヴィランだった頃は、ここに収容されて帰ってこなかった部下が何人も居たものである。
もっとも、本質的には完全に無慈悲である彼は、昔収容された手下を憐れんでなどいないし、大事な部下が捕まったことに憤ったりもしない。
温かい血など一滴も流れていないレギン・サマイドが、敢えて此処に来た理由はたった一つしかない。
ここへ封印されたヴィランを再び解放し、世の中に更なる混乱をもたらすことだ。
あわよくば、自身の手駒にできるものを見繕うことができれば良い。

「しかし、ヴィランの数は増えているらしい。玉石混淆だが、これは喜ぶべきか」
レギン・サマイドは独特の仕組みを持った知覚を用いて、収容された異能者を探知し、その数を数えた。
彼は様々な姿をとるが、目も耳も鼻も無い姿をとることもあり、視覚も嗅覚も聴覚も使えない状態に陥ることもある。
だが、それでも問題なく活動できるよう、別の感覚を持ち合わせているのだ。
それは、生命の本質――言い換えれば魂や精神――に反応するレーダーのようなものである。
ヒーローやヴィランの生命は強い(パワードスーツ頼みだとそうでもないかもしれない)ため、一般人との区別をつけることもできる。
その特異な感覚は、彼が以前に世間を脅かしたときと比べ、『矯正所』に収容されているヴィランの数が、明らかに増えていることを知らせた。
「これだけのヴィランが世に放たれたら、浮き世はさぞ面白いことになろう。楽しみだ」
ヒーロー同士で争う確率よりも、ヴィラン同士が利害を異にして衝突する可能性はずっと高い。
しかもヴィランは、遅かれ早かれ、ヒーローと戦う運命にある。
レギン・サマイドが求める争乱が訪れるのだ。
「さて、どうやって此処から悪党どもを解き放とうか……」

48 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/04/23(金) 09:54:02 0
「メタルボーガーだけでは矯正所を守りぬく事はできません」
メタルボーガーのトレーラー内
旋風院のケージを載せた大型トレーラーを数十台の護衛のパトカーと、装甲警備隊を満載した数台のトレーラーと並走しながら
警察が守りを固めた道路上を矯正所目指して走りながら、矢車は不知火重工本社へと連絡を取っていた
「今回の戦いではっきりしました、メタルボーガー単身で強力なヴィランとやりあう事は不可能です。2号機以降の完成が難しい現在の状況で、警察側があてにならない以上、何らかの処置をとるべきです」
『ほう』
浄水場での戦いで、装備面でも動きでもメタルボーガーが旋風院に劣っている事を察っした矢車の泣き言とも言える要請に、矢車や宙野の上司、不知火重工海外派遣警備部…簡単に言うと軍事会社、もしくは傭兵部隊の上司の返事は冷たい
『具体的にどの様な処置をとれというのかね?メタルボーガー2号機以降が完成するのがまだ先であり、武装がつかえない装甲警備隊でも役に立たないのではこちらからも戦力の送りようが無い』
「それについては、考えがあります…開発部の倉庫か展示室にある例の物を…」
『まさか…メタルエースか?矢車…あんな物を市街地で…』
「今回の任務だけで結構です。今回捕獲したヴィランは、リアクターコアを積んでいる。敵としてはどうあっても取り返したい存在のはずだ!必ず大規模な襲撃があります。どんな危険な敵が来るかわからない」
『……』

無線の向こうの上司は矢車の言葉に黙って考え始め、しばらく両者の間に沈黙が流れたが
やがて、上司の方が口を開いた
『…いいだろう、3機全て出してやる。その代わり失敗は許さん』
「…恐れ入ります」
『その代わりかのヴィランの…リアクターコアに関するデータは必ず持ち帰れ。メタルエース3機はそのために動員する』
「……了解しました」
結局の所、不知火上層部には、街の平和も、宙野や矢車の命も、己の利益のためにどうでもいいのか
そう考えながら、矢車は通信機を切った


数分後、巨大な不知火重工の輸送機が街へと飛来し、9mの鉄の巨人、メタルエースを3機、矯正所周辺へと吐き出した
更に、不知火重工の装甲警備隊員達にも、無許可ながら強力な銃器が配備され
裏では不知火重工重役達が、警察と密約を進め、旋風院の中にあるアイアンアダムのリアクターコアに関する情報を警察から入手できるようにしていく

リアクターコアの秘密を得るために、不知火重工は正義の味方の仮面を捨て、手段を選ばない軍事会社の本性を表すのだった

49 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/04/23(金) 10:06:17 0
名前:メタルエース
職業:不知火重工特設部隊所有兵器
勢力:一応ヒーロー
性格:普通に軍隊的
外見:全長9mのチタン合金セラミックでできた人型兵器。ローラーダッシュとウイングを搭載し、カラーリングは赤、随所に不知火重工のマークがあり、大口径の砲やミサイルランチャーで武装している
備考:不知火重工が開発した人型兵器、90mmライフル砲、ミサイルランチャー、12、7mm機銃を搭載し、搭乗員は2名
1名が火器管制、もう一名が機体を操縦する
装甲は的が大きいだけに頑丈で、戦車砲弾程度なら耐える事ができる
平地ならローラーダッシュで時速90kmで走行でき
ウイングを用いて短時間の飛行も可能
瓦礫の上でも高度なオートバランサーを用いて平然と歩行できる
自衛隊や米軍にも数機配備されている次世代兵器であり
企業協力法の性質上本来使用してはいけないのだが
警察上層部を不知火が金で黙らせ、旋風院の行き先が決まり、矯正所を出てそこに行くまでの間護衛すべく、今回のみ出撃してきた

50 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/04/25(日) 15:47:35 0
前回までのあらすじ。再び再会した黒ゴスから申し付けられたのはヴィランとしての新人研修。
社会見学の行き先は、悪い子達を強制収容する異能犯罪専門の拘置施設――『矯正所』。
護り得たのは人智の超越。抗い受けるは悪意の坩堝。失ったのは未来の代替。
右往左往する因果の交差に、倒錯する意志は輝けるのか。異能道程りりかるまさが、リリカルマジカル頑張ります。


「おー着いた着いた。ここが『矯正所』――えらく辺鄙なとこにあるなあ。……当然か」

黒ゴスに導かれ、電車に一時間とバスで30分揺られ、さらにそっから徒歩で一時間行ったところに『矯正所』はあった。
如何なる交通機関からも隔離され、山奥にぽつねんと開かれた平地に繁茂するコンクリートの群れ。
正しく陸の孤島といった趣のこの場所は、在りもしないかつての栄華なんかを幻視してしまう程度には壮観だった。

「疲れた〜、近所に民家はおろか自販機一つねーんだもんよ。過疎ってレベルじゃねーぞ」

近隣にはうち捨てられた無人集落が一つあるっきり、あとは森と川と廃坑ぐらいしかない荒れっぷりだった。
異能者専門の拘置所なんて原発より危ういもんがあるわけだから、人がいないのは当然っちゃあ当然なのかもしれんね。

おかげで休憩ナシの一時間歩き詰め、身体強化されてるとはいえ同じ景色ばっかのとこ歩き続けてたら先に精神の方がまいっちまう。
木陰や岩場に差し掛かる度に隣を行く黒ゴスに小休止を申し出たが、涼しい顔の彼女に却下されまくった。スパルタである。
ていうかこいつ、飛べるんだよな。載せてってくれりゃいいのに。ただまあ一人でちゃっちゃと行かずに一緒に歩いてくれてるあたり、スポ根の発作なのかもしれん。

しかしまあなんつーか、こんなとこに来るんだったら相応の装備をしてくりゃ良かったぜ。
今の俺の格好ったらよそ行きのジーパンにYシャツとジャケット、あとは携帯とサイフに護身用の特殊警棒ぐらいなもんである。
つーかDVD返しにいってねえし。日帰りじゃないと延滞ついちまうじゃねーか。

「んー、流石に正面突破ってわけにもいくめえ。ちょっと様子見てみるかね」

平地の入り口を前にして立ち止まる。ここから先は矯正所の敷地だから、踏み入れた瞬間相応の処置が回ってくるだろう。
右も左も分からない現状で迂闊にこっちの存在を気づかせるのは下策。火中の栗を拾うなら、厚手の手袋が必要だ。
というわけで偵察開始。傍にある背の高い木に足を掛け、そのまま幹の側面を歩き始める。重力に逆らいながら、木の先端へと足を進めた。

「<パラダイムボトル>――形状『前人未踏《フルスパイク》』」

靴の裏に"神様"をひり出し、幹と靴とを『引着』させる。応用次第で、壁面でも水面で自在に歩ける万能靴だ。
そうして木の天辺まで辿り着くと、矯正所の全容が一望できた。

中央の一際でかい施設と取り囲むように様々な建物が点在してるって感じだ。奥側にあるのは運動場か?
あのデカい中心の建物がおそらくは収容所だろう。その手前には唯一屋外への通用口が見える小ぶりな建造物が。

「――『単眼鏡』」

指で作った輪っかに"神様"で薄い膜を張り、そこから入ってくる光を『拡大』する。うんとズームして、通用口のあたりを見てみる。
どうやらここが玄関らしい。武装警備員が入り口の左右に二人づつ哨戒していた。流石にこの距離じゃこっちには気づいてないか。

「なんとか忍び込めねえかな。あれだけの施設、護ってるのが普通人だけってこともねえだろうし、異能探知さえ誤魔化せりゃやりようはある」

俺だってこの数日間なにもしてこなかったわけじゃあねえ。降ってきたダイヤには悪意の衝動と共に持つものへ異能を付与・強化する力があったらしく、
ダイヤを屈服させた俺にも例外はなく。俺の<パラダイムボトル>も相当に強化されていた。
そう!強化された俺の能力ならば!この局面を補って有り余るパフォーマンスを打ち出すことも可能ッ!!

「見せてやるぜ、俺の強くなった能力を!刮目して見とけよ!?<パラダイムボトル>――全力全開!!」

掌から溢れる流動力場をどんどん広げて行く。"神様"の限界体積は500mlペットボトル一本分だが、それを突破して異能は溢れて行く。
これが強化。ブラックダイヤモンドは俺の能力の一番の弱点、『領域の狭さ』のタガをハズし、純粋にその量を増やしてくれた。

その量!

「なんと1リットルッ!!実に当社比二倍もの異能を獲得したんだぜェェェェェ!!!凄い?ねえ凄い!?」

【木の上で様子見。矯正所の堅牢っぷりに立ち往生】

51 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/04/28(水) 19:55:11 0
>>50
「きみ、そこの君だよ!」
真性道程は警備員やその他のセキュリティに見つかるよりも先に、邪悪で巨大な爺に見つかってしまった。
常人の感性を持つ人物にとっては、関わりたくない奴に見えるかも知れない。
「世界征服とかに興味は無いかな?
 そこの可愛らしいお嬢ちゃんも、見れば相当陰謀が好きで陰険そうな顔をしている」
いきなりスカウトを始めた。しかも失礼だ。
「ああいや、これは失敬。わしはレギン・サマイドという。
 退屈な世の中を愉快なものするため、あの中に居る悪党どもを全部解放しようと思っている、見てのとおりの普通の老いぼれだ」
矯正所の方角を促した。
「堅牢な守りだろう。それに加え、今回はゲストも来ているらしい。見ろ、あれだ」
>>49のメタルエース、身長9メートルほどの巨大なロボットが、矯正所の近くまでやってきているのが見える。
「あの中にどんな重要なものがあるのかは知らんが、なかなか大層なものを持ち出してくるじゃないか。
 まあ、わしにしてみればデカいだけの玩具だし、始末するのは容易いが、どうだね?
 矯正所の中の連中は、あの中から解き放ちさえすれば、君等の好きにしていい。
 ここは共同戦線を張るのはどうだろう?」
レギン・サマイドは、右手を差し出した。同盟関係と、それを示す握手を求めているのだ。
「友好の証に、こいつも君にあげよう。わしの手には余るものだし」
握手を求める手には、先ほど悪党から奪ったブラックダイヤモンドの欠片が、彼の掌にある。
「申し訳ない。わしは他人に下げるための頭は持っていない。
 だが、このとおり、握手をするための手ならある」

【真性道程を同盟に引きずり込もうと画策】

52 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/30(金) 03:52:05 0
「駄目よ。休憩は無し。空は飛ばないわ。ほら、さっさと歩きなさい」
一体何度目かになる真性の提案に、私は何度目かになる定型句を返して却下した。
それにしても堪え性が無いわねコイツ。ホントに何度目よ、その提案。
三回を超えたくらいから数えるのやめちゃったけど……って、存外私も堪え性は無かったみたいね。

ともかく、別に私だって何の考えも無しに移動手段をこんな徒歩に留めている訳じゃないの。
今から行く所は、異能者限定の拘置所よ? 当然、セキュリティは厳戒を極めているの。
空なんか飛んで近付いたら、あっと言う間に蜂の巣にされちゃうわよ。冗談抜きで。
そうでなくても、この辺に向かうバスに乗った奴は、こっそりマークされるんだから。
日常に潜み組織的に動けるのは、何も『ヴィラン』の専売特許って訳でもないのよ。
今回は私が尾行を秘かに黙らせておいたけど、その内ちょっと痛い目にあってもらわなきゃね。
ちょっと名の通った悪党になれば、平和な日常なんて無くなっちゃうんだから。
『ヒーロー』達の目は勿論、意志の異なる商売敵に、自分よりも大きな悪に目を付けられる事だってあるかもしれない。
そしてそれらは、全部日常の中に潜んでいるの。今まで空気と同じく享受していた日常が、途端に致死の毒に変わるのよ。
その中で命を落すか、或いは自分を殺してしまう連中もいる。私が手掛けた奴等にも、沢山いたわね。
だけど、避けては通れない道なの。真性が悪党を目指すなら、私がどうこうしなくたって、迎える事だわ。

なんて、長々とした物思いに耽っていると、

>「なんと1リットルッ!!実に当社比二倍もの異能を獲得したんだぜェェェェェ!!!凄い?ねえ凄い!?」

真性は一応自立的に動き、けれど一体どんな過程を経たのか、背の高い木の天辺で馬鹿騒ぎを演じていた。
真面目にコイツの行く末を思案していた私が馬鹿みたいだと、思わず溜息が零れた。

「はいはい凄いわね。で、その一リットルの異能でどうやってあそこに忍び込むのかしら?
 あとどうでもいいけど、アンタ塀の上にも見張りがいるの見えてる? 見つかったら異能に高射砲にでジュースになっちゃうわよ」

流石の私も、発砲音に続いて霧雨が降ってくるような事があったら気分が悪いから、忠告しておく。
素直に従って降りてきてくれて何よりだわ。ついでに、何も考えとかは無かったみたいね。
とりあえず登ってみただけのようだけど、やっぱり馬鹿と何とやらは高い所が好きらしいわ。
伏せる方を間違えた気がするけど、どうでもいいわ。
そんな事よりも。

> 「世界征服とかに興味は無いかな?
>  そこの可愛らしいお嬢ちゃんも、見れば相当陰謀が好きで陰険そうな顔をしている」

何処のどなたかしら? さっき忽然と湧いて出た、この枯れ木みたいで最高に失礼なご老人は。
少なくとも『矯正所』の職員じゃないみたいだけど。
いえ、寧ろ放つ気配は真逆の物だわ。まさか『矯正所』を抜け出してきたなんて事は無いでしょうけど、
だとしたら彼もまた『ここを訪れた者』。つまり目的は、

> 「ああいや、これは失敬。わしはレギン・サマイドという。
>  退屈な世の中を愉快なものするため、あの中に居る悪党どもを全部解放しようと思っている、見てのとおりの普通の老いぼれだ」

って事になるわよね。それにしてもレギン・サマイド……何処かで聞いた事あるわね。
何だったかしら。思い出せないけど、ちょっと嫌な感じに意識に引っかかる名前だわ。

私は暫し押し黙り、またご老人や真性の声も排して、思索の海へと意識を沈めた。
記憶の奥底で横たわっている『レギン・サマイド』の名前を、どうにかして釣り上げてみせる。

「……思い出した」

殆ど唇の動きだけで、呟いた。
『レギン・サマイド』――不死鳥の異名を冠する、不滅の『ヴィラン』だ。
『秤の一族』の歴史の中にも幾度となく名を残していて、私の父も彼を相手取ったらしい。
何でも当時若かった父は、余りに巨大な邪悪を前に御す事を断念した。
そうして彼をただ仕留める事のみに尽瘁して、裏切りの末に討ち果たしたんだとか。
……なんて話を自慢半分に何度も聞かされていたせいで、どうやら無意識の中に封がされていたみたいね。

53 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/30(金) 04:01:59 0
ともあれ、これはどうしたものかしらね。
父が出来なかった事を、私が出来るとは思えないし。
だからと言ってレギン・サマイドをのさばらせておく訳にもいかないわ。

> 「あの中にどんな重要なものがあるのかは知らんが、なかなか大層なものを持ち出してくるじゃないか。
>  まあ、わしにしてみればデカいだけの玩具だし、始末するのは容易いが、どうだね?
>  矯正所の中の連中は、あの中から解き放ちさえすれば、君等の好きにしていい。
>  ここは共同戦線を張るのはどうだろう?」

「……悪いけど、私は下らない連中まで野に解き放つつもりはないの。
 そんなの愉快でも何でも無いわ。うるさいだけよ。……と言う訳で、残念だけど協力は出来ないわね」

ひとまず彼の申し入れは断って、然る後に判断を下すべきね。
必要とあらば、父に相談するのも已む無しだわ。
一人前に仕事をこなせるか、なんてのはどうでもいいの。チャチなプライドだわ。
最も不味いのは、そんな物にこだわって、自分一人で抱えた挙句に転んでしまう事。
少なくとも『レギン・サマイド』が目覚めていると分かっただけでも、収穫には違いないのだから。

> 「友好の証に、こいつも君にあげよう。わしの手には余るものだし」
けれど、そんな私の思考は一瞬の内に吹き飛んでしまった。
彼が差し出した握手を求める掌には、黒いダイヤが二つ煌いていた。
直視すると瞳の奥に飛び込んでくる邪悪な誘惑は、魔石のそれに相違ない。

『レギン・サマイド』は、既に魔石を手にしている。
これがどれだけ、恐ろしい事か。
欠片が小さい為か、それとも別の理由があるのか。
今はまだ彼に何ら変化は無いようだけど、もっと多くの魔石が彼の元に集まったら。
彼がほんのちょっと、心変わりをしたら。
『レギン・サマイド』と『ブラックダイヤモンド』は、最悪の化学変化を起こすに違いない。

> 「申し訳ない。わしは他人に下げるための頭は持っていない。
>  だが、このとおり、握手をするための手ならある」

動悸が乱れる。表情も、心なしか強ばっているような気がする。
父の判断を仰ぐだとか、そんな悠長な事は言っていられない。
私が決めて、私がやらなきゃいけないんだ。

54 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/04/30(金) 04:03:18 0
「……素敵な宝石ね。気が変わったわ、手を組みましょう。……だけど、
 協力って言うくらいなんだから、こっちの意向も少しは聞いてくれるでしょう?」

私は大悪党に相応しいだけの笑みの仮面を模って、レギン・サマイドの瞳を覗き込む。
真夜中の海面を見下ろしているような悪寒と畏れに、しかし私は彼に同調していく。
底知れない闇の中に、深く深く飛び込んでいく。


「さっきも言ったけど、私は無差別に解放するだなんて事は御免なの。
 小悪党共をどれだけ散らかした所で、うるさいだけでしょ。蝿みたいにね。
 そんな耳障りな連中はここで黙らせておけばいいのよ。解き放つのは一握り、ほんの一摘みの『本物』達」

悪党と悪党は、自分達が同じ穴の狢だからって手を組んだりはしない。
彼らが協力するのは、お互いの利害が一致した時だけだ。
だから私はこうして波長を合わせ、けれどその上で、自分の波へと引き込むんだ。
御し切れない馬鹿共が氾濫するよりかは、収拾が付くように。

「そうして彼らは奏でる悪意の音色と、蝿の羽音。どちらが素敵かなんて、言うまでもないじゃない?」
下からレギン・サマイドの双眸を仰ぎ見つめていると、ふとさっき言われた彼の言葉が脳裏でリフレインした。

――『そこの可愛らしいお嬢ちゃんも、見れば相当陰謀が好きで陰険そうな顔をしている』……ね。

「さて……それでも構わないって言うなら、さっさと行きましょ? こんなに素敵な面子が揃ってるんだもの。
 天下の『矯正所』が真正面からヴィランに襲われたって言うのも、存外に愉快な話じゃない?」


私の仮面も、板に付いてきたって所かしら? それとも……まあ、どうでも良い事ね。

【レギンに提案。真正面から侵入して品定めしに行きましょう? って事で。
 勝手にそれっぽい過去話作っちゃいました。不味かったら父のホラだったとかも出来ますので】

55 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/05/03(月) 08:52:52 0
>>51-53
秤乃暗楽の提案と言い分を、レギン・サマイドは賞賛した。内心はともかくとして。
「なるほど、良いことを言うね。
 この宝石も、取るに足らぬ小物から奪ってきたものだが、確かに蝿の羽音とは的を得ている。
 パーティーは賑やかな方が良いが、ネクタイ無しは丁重にお断りしておかないといけない。
 君はいい悪党になるぞ」
穏やかな口調とは相反した、邪悪な笑みでもって返した。
幸いにして、秤乃暗楽が『秤の一族』の一員であり、かつて自分を裏切った者の娘であることを、彼はまだ知らない。
協力を申し出たのも、温和な態度を崩さないのも、それが一因かも知れない。

「ああ、その宝石は君にあげよう。わしの手には余るものなのでね」
『その宝石』には、黒いダイヤではない普通の白いダイヤ――元は人間の遺灰なのだが――も含まれる。
ヴィランの邪悪な思念が渦巻くそのダイヤは、異能を与える力こそ無いが、心の弱い人間に悪意を注ぎ込んで変貌させるくらいの作用はあるかもしれない。
しかし何より、彼のこの言葉は4文字ほど欠いており、それを付け足すことで、全く意味の違う言葉になる。
彼は黒ダイヤの欠片をあっさり譲り渡した。まるで黒ダイヤの影響を全く受けていないかのように。

「しかし、矯正所がまだあったとは。役人も相変わらず暇なようだね。
 おお、雑多な悪党もそうだが、『矯正』された者まで解放する必要は無いから、なるほど選別は必要だ。
 いやはや、この歳になると物忘れが激しくなっていかん」
老人は、わざとらしく年寄りぶって見せた。

「そうそう、今回はわしの100回目の復活になる。
 記念に何か、いつもとは趣向を変えてみようと思うが、まずは以前と同じように、わしの手足となる組織を作ろうと思っている。
 新たな組織名も考えてあるぞ。ブラック・ダイヤ団というのはどうだろう?」
組織名のセンスが昭和時代のそれを髣髴とさせたが、ジョークにしては悪趣味極まるものだった。
また、彼が「手足」と言って見遣ったのは、遠くに見えるメタルエースである。
が、視線はすぐに施設本体に向けられた。
「まあ、取らぬ狸の皮算用をしてもしょうがない。
 あれに施設を攻めさせるのも良いかと思ったが、それでは君が欲しいものが失われてしまうかも知れんね。
 楽をして甘い蜜を吸うのは悪党の特権だが、必要な手間を省いて、手に届く位置の果実を食べ損ねるのは愚かなことだ。
 面倒だが、正面から行こうか」

【さあ真正面から行くぞ、俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ!ってところで一旦切ります。
 暗楽さんの父と何かの関係があるという件は了解しました。】

56 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/04(火) 17:19:52 0

光の悲痛な叫びは赤穂に届かず、庭園は徐々に激戦の場景に塗り潰されていく。

>「テメェに選択権をやろうかと思ったが、止めだ!」

憤激の情を余さず横溢させて、星が哮った。
陽光を受け銀に煌く鍵型の槍を構え、彼は赤穂へと迫る。
最早激突は、死闘は――その先にある結末さえ、避けられないだろう。

にも関わらず、それでも秤乃光は困迷を振り払えずにいた。
赤穂はまだ、彼女の問いに答えていないのだから。

もしかしたら、彼は魔石に触れたばかりに幼き魂を侵された、被害者なのかもしれない。
もしかしたら、彼はまだ魔石に完全に支配された訳ではなく、故に返事が無いのかもしれない。
殺し合いの場においては酷く馬鹿げた逡巡だが、その「もしかしたら」が心に引っ掛かって。
光は漸く制御を得て形成し終えた、魔石の紅から創り上げた武器を振るえずにいた。

魔石の紅によってワンドの先に描かれた、細身の刀身。
一度これで赤穂を斬り付ければ、魔石同士の相殺が起こり、彼の身を包む魔石は残らず砕けるだろう。
だがそうなれば間違いなく、尋常ならざるエネルギーが発生する。
その中枢にいて、赤穂の心身が無事である可能性は、限りなく低かった。

なればこそ彼女の「もしかしたら」は、取り返しの付かない結末を前に鎌首をもたげる。

「ねえ、お願い! 答えて! 貴方の衝動は、本当に貴方の物なの?
 今まで色んな人を殺したのも、私達を殺そうとするのも、全部貴方の望みなの!?」

57 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 02:21:29 0
前回までのあらすじ!
矯正所の堅牢っぷりに立ち往生していた俺と黒ゴスの前に現れたのはこれまた堅牢な骨格がご自慢のご老人。
そのマジなデカさにビビっていると、ヴィランを名乗る巨老人はいくつかのブラックダイヤモンドを手土産に共同戦線を申し出てきた。
そんなこんなで老人レギン・マサイドと俺ちゃん、そして黒ゴスの三人は難攻不落の矯正所を真正面から攻略することと相成ったのだった!!

「――とまあ、そんなわけで。あそこの見張りからしてどうにかせにゃならんわけですな」

レギン氏の目的は囚われたヴィランの解放。俺達の目的も人物が限定されるとはいえ本質は一緒。然らば、行動を共にして損はない。
この馬鹿みたいにデッカい爺さんがどれほどの戦力を持ってるかは定かじゃないが、ダイヤの欠片を複数持ってて、
尚且つそれを惜しげもなく交渉材料に投じれるといった状況事実から考えるに、相応の戦闘能力、あるいは権力や財力を有していそうではある。
つーかブラックダイヤ団て。ジェネレーションギャップ丸出しじゃねーか。

「俺的に初っ端からことを構えるのはあんまり良しとしたくねえなあ。メタルエースとか出てきてるんだろ、今回」

メタルエースの戦闘力は、この国に生きているなら誰もがよく知るところ。自衛隊や警察機関に配備されてるこいつらは、
超越的な機動力と圧倒的な火力、冒涜的な無常さで主にヴィランを殲滅する。らしい。実際相対したことなんかないしな。

さて、どうしたもんか。俺ちゃん的にこっそり忍び込んでそれなりにひっかき回せれば御大だったんだが、なんか空気的に正面突破みたいだし。
なんでこいつらこんな体育会系思考なんだよ。見た目老人と少女じゃん。爺さんデカいけど。もっと文化的に行こうぜ、文化的に。
考え方が筋肉質過ぎるんだよなあ。脳味噌からしてインドア派な俺ちゃんは、ぶっちゃけあんまし働きたくないのです。

「……オーケー、それでも本気出しちゃうのが俺だぜぇ?とりあえず入り口の警備員を片付けよう。俺が連中を倒した瞬間、中に向かって走ってくれ」

まずは左の二人をどうにかする。意を決して踏み出すと同時、両の掌から溢れ出す異能の流動体"神様"を、薄く布状に広げて行く。
極限まで薄く。パン生地のように延性を発揮した"神様"は、やがて一畳ほどの広さをもった一枚の布となり、それで俺自身を覆うと。

「<パラダイムボトル>――形状『透明毛布《カメレオンマント》』!」

"神様"表面に周囲の景色を透過させ、屈折率ゼロの正真正銘透明領域を作り上げる。
これで目視での見敵は免れる。靴裏には『消音』の効果を持たせた"神様"を展開し、聴覚による認識も不可能となる。
相手が普通人ならば、銃を乱射でもされない限りこれだけで無敵だ。

「であるからして」

普通に近づき、普通に後ろに回り込み、普通に強化された手刀と首筋へ叩き込むと、武装警備員は普通に倒れた。×2。
左側の警備員が音もなく倒れたのに気づいた右側の二人が、小銃を諸手に構えてこちらを哨戒する。

「ッな!?――どうした、おい!狙撃か!?」

「いやよく見ろ、表の土を踏んだ足跡が見える。姿を消す類の異能者か――!」

やっべ、泥の付着した足がそのままだった。なんか少年漫画における透明能力者の攻略法みたいな展開じゃねえか。それも割と小物の。
迂闊に動けなくなった。一触即発。地面に伏す警備員を盾にするわけにもいかない。助け起こす手間は、蜂の巣にされるに十分すぎる隙だ。


58 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 02:39:18 0
落ち着け、視えなくて聴こえないアドバンテージを活かすにはどうすべきかを考えろ。超考えろ。超考えた。答えが出た。――陽動だ。
掌に生み出した少量の"神様"を、風に乗せるようにそっと吐息で飛ばす。空気に浸透した"神様"は3メートルほど向こうの地面に落ち、

「(爆ぜろ――!)」

爆ぜた。乾いた炸裂音は銃声にも似て、神経を尖らせていた警備員達は弾かれるように銃口をそちらへ向ける。
向けた瞬間、俺は足元に転がる警備員(その1、その2)を飛び越え、コンクリート打ちっぱなしの石床に泥を擦り込みながら裂帛の踏み込み。
音のない一歩は足跡以外の痕跡を残さず、そしてそれに気づかせる隙もなく十全に俺の身体を警備員その3のすぐ傍まで運び、

「――どっせえい!」

掌底で顎を打ち抜いた。眼球をぐるりと回転させながら崩れ落ちる相棒を認めた警備員その4は迷わず虚空へ自動小銃を連射する。
弾幕は遠くのコンクリートを穿って果て、しかし微塵の手応えも射手の腕へと返さない。何故ならば、俺はとうの昔にその場を離脱していたから。

打ち終えて過熱した自動小銃のマズルに掌を当て、そのままぐいと押し込む。ストックを肩に当てて反動を吸収していた警備員その4は、
予想していなかった正面からの圧力に若干のふらつきを得る。慧眼に定評のある俺は、それを決して見逃さない。
体勢を崩したところへ渾身の足払いをかけ、ゆらぐ足首を大きく刈る。身体強化された脚力での足払いは、警備員を容易く宙へと誘った。

そのまま空を仰ぎながら滞空する警備員へ、弧を描くような軌道の渾身の裏拳を鳩尾へと打ち込んだ。
テニスボールをスマッシュするように、警備員の身体は地面へと叩きつけられ、面白いようにバウンドする。ヘルメットの内部で頭を揺らされて、脳震盪を起こしていた。
そうして、玄関口の哨戒に当たっていた四人の警備員はものの数十秒ほどで無力化されたのだった。

「――今だ!」

警備員が倒されたことで矯正所のセキュリティが発動する。具体的には、入り口を閉ざすための分厚い鋼鉄製シャッターが降りてきていた。
施設全体を檻とし、外敵を防ぎ内的を封じる為の処置。このテの重要収容所にはよくある設備だ。

玄関に近かった俺は一足先にロビー内部へと飛び込み、ついでに倒した警備員から鎮圧用ショットガンを拝借。
このままシャッターが降り切ったら、如何に強力無比の異能を以てしても侵入は極めて遅延するだろう。
俺の"神様"でぶち開けられないこともないが、そんな事情とはおかまいなしに武装警備員が大挙して押し寄せてくる声と音が聞こえてくるのだった。


【入り口の警備員を無力化、武器を鹵獲・対異能シャッターが入り口を封鎖しようとしている・内部からは大量の武装警備員が】

59 名前::トリッシュ ◇.H4UqpaW3Y [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 18:43:54 0
マーク4について、石原と話している最中、アイヴィスから襲撃の知らせを聞き、トリッシュは目の色を変え、猛スピードで自宅へと向かった。
向かっている最中、現在の状況を確認したかったが、監視カメラが破壊された為、現状を知ることはできない
しかし、戦闘が始まる前の数分間の記録は確認することは出来た。
その映像を確認している最中、トリッシュの心の底で、氷のように冷たい感情が湧くのを覚えた。

星が武器を構え身構えた瞬間、屋敷に到着したトリッシュが星を思いっきり蹴り飛ばした。
音速の速さで蹴り飛ばす様は、さながら人型砲弾のようだ。
「言っとくけど、ワザとよ」
瓦礫に埋もれた星に向かいそう冷たく言うと次に視線を向けたのは赤穂だった。
「せめて襲うなら、電話の一本や二本ぐらいかけてよこしたら…」
と有無をいわさず、赤穂の赤い空間があっという間にトリッシュを飲み込む。
必殺の空間に目標を取り込み悦に浸る赤穂、だが、次の瞬間その表情は凍った
「えっ…きゃぁぁぁぁぁ」
赤い空間に飲み込まれたはずのトリッシュがまだそこにいたのだ。しかも全裸で
この異常に対し困惑し混乱する赤穂
たたみかけるには絶好のチャンスだ

60 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 23:48:06 0
旋風院の輸送を終え、矯正所に程近い平原にメタルエース隊とは別にトレーラー群による陣地を形成し、外部から矯正所にいつでも駆けつけられる体制をとっていたメタルボーガー等不知火特設部隊は、矯正所から鳴り響くサイレンに直ちに現地へとトレーラーを出発させる
部外者である彼らに、矯正所内への侵入は認められないため、彼らは外部で待機していたのだ
メタルエースの周囲には足元を守る装甲警備隊員がちらほらいるが、大部分の装甲警備隊員は、このトレーラー群の中で待機し、来るべき時を待っていたため
数台の強化服装備の武装警備隊員を満載したトレーラーとメタルボーガーが、一列になって矯正所へと次々かけつけてくる様は、数による制圧という基本的な戦術を体言している
同時に、待機していたメタルエース達も起動し、矯正所の周辺を赤外線やX線を用い、監視し始めた
すぐに駆けつけないのは、敵の別働隊を警戒しての事であり、例えメタルボーガー隊の相手が囮であったとしても、3機のメタルエースがいれば、十分に伏兵の相手が可能なはずである
更に矯正所からの緊急連絡を受け、はるか遠くから無数のサイレンの音が聞こえ始めた
小1時間もすれば無数の機動隊員が現れる事は、間違いないだろう
矯正所内も正面ゲートの巨大なシャッターの他に、一般通路で次々と防弾ガラス製の隔壁が降りていき、内部からの脱走と、外部からの侵入を妨害せんとする
これでも最早、真性等は袋のネズミ…であるはずだ

「メタルボーガー降車!装甲警備隊は入口前に包囲陣形を取れ!シールド用意!敵は透明化している!奇襲と近距離戦を想定しろ!」
指揮車の矢車の指示に、真性等の後ろに拳銃と盾を持った真っ赤な装甲警備隊員達が矯正所玄関方向を囲むように展開を初め
矯正所の玄関内、ロビー隔壁の向こうでは、先行配備されていたメタルマンも3体程姿を現し、数名の警察警備員等がはやくも隔壁方向目掛け発砲し、弾幕を形成しようとしている

61 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/09(日) 12:12:32 0
>55
受け取った宝石の内、ブラックダイヤモンドはすぐに色を奪い取り、ワンドに宿しておいた。
矯正所の中には、何となく私の操れる色は少なそうだし、丁度いいわね。
残りの宝石は見た所普通みたいだし、ありがたく頂戴しておきましょう。
機会があれば、光にあげてもよさそうね。
それにしても意外だわ、あのレギン・サマイドがこんな洒落た物を持っているだなんて。
ブラックダイヤ団のセンスは正直失笑物だったけど、少しだけ見直したわ。

閑話休題。
露払いを自ら買って出た真性の、お手並み拝見と行きましょうか。
ひとまず彼が展開したのは、異能を自分に被せての迷彩処理だった。
いつぞやの魔術師が使っていた魔術迷彩と違い、とても単純な物だけど、だからこそ看破は難しい。
存在や認識を誤魔化すでもなく、唯々純粋に見えなくなるだけと言うのは、ある意味迷彩の極致と言えるんじゃないかしら。
御丁寧に消音処理も施しているみたいだけど……一つ、お粗末な穴があるわよ。
少年漫画の世界から飛び出してきたのかと尋ねてやりたいくらいだけど、甘やかすのも何だしやめておきましょうか。

こっちはこっちで、やっておきたい事があるしね。
と言うのも、あちらの遠くで屹立しているデカブツ達の事よ。
あんな連中の相手をしている暇は無いんだけれど、彼らの高みから見下ろせば、
地上で何か騒動が起こっているのは丸分かりでしょうから。

と言う訳で、ちょっと足止めさせてもらうわよ。
丁度お誂え向きに、アンタ達は大きな影を作ってくれているからね。
飛びっ切り大きな鎖を描いてあげられそうだわ。
日が暮れてアンタ達の影が宵闇に塗り潰されるまで、大人しくしていて頂戴な。

……と言いたい所だけど、対異能機構があると踏んだ方が妥当よね。
異能者に対して、ただ大きなだけの相手は的でしかないもの。
それでも、足止めと牽制としては十分でしょう。

真性の方も何とか凌いだみたいだし、さっさと飛び込むとしましょうか。
何だか熱烈なお出迎えが見えるけど、折角の勢いをこんな所で殺したくはないわね。
結構な重装備だけど、流石に照明だらけの屋内で『暗闇』が訪れる事なんて想定していないでしょ?

「一応、防弾なりの処置はしておきなさいよ。ご老公の方は……別段何を言う必要もないわよね」

私はワンドを振るい、黒色を通路中に拡散させて擬似的な冥夜を描き上げる。
濃度は非常に薄いから弾丸を防ぐ事なんかは出来ないけど、別にそれは目的じゃないわ。
彼らに戸惑いを植えつけて、ただほんの数秒だけ、足を止めて絵筆を振るう時間が稼げれば、それで良いの。

62 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/09(日) 12:13:55 0
足元に影の門を描いて、潜り抜ける。
一応真性や、きっと使わないだろうけどレギン・サマイドの為に門は残しておいた。
そして門の出口は、幾つもの照明によって迎撃部隊の足元で花開いている影。
機先を制して、漆黒の槌をワンドの先端に描き振り回して、彼らの統率を乱す。

彼らの内の数人には死なない程度に、だけど適切な処置が必要な位の傷を負わせておく。
悪党に限らず、定番の手法よね。精々負傷者に優しくしてあげて頂戴な。
これで既存の戦力は救護に削らざるを得ない。外部から呼びつけるにしても、こんな僻地だもの。
最初から備えてでもいない限り、来るのは相当後になる筈よね。

さて、通路は幾重にも並ぶ透明な隔壁によって阻まれている。
けれど私の門は、影があれば何ら問題なく移動が出来るの。
それにしても有り難い事だわ、御丁寧に。一つの通路だけ、見るからに厳重な障壁を用意して。

この先に行けば飛び切りヤバイ警備と、最高に素敵な悪党共が待っているって、わざわざ教えてくれるだなんて。

思わず、笑みが零れた。
ふと透明な障壁に、視線が向かう。
いつだって保ってきた能面が気味悪く崩れている事に、私は気付いた。
思わず目を瞑り、首を軽く横に振って表情を掻き消す。

「……真性、アンタこう言うの得意じゃない? レギン、貴方でもいいわ。破っちゃって頂戴。
 後ろの連中が追いついてこない内にしてくれると、凄く助かるわ」

乱れた動悸を落ち着かせようと吐き出した言葉は、我が事ながら酷く精彩を欠いていた気がした。

63 名前:名無しになりきれ [sage] 投稿日:2010/05/12(水) 00:51:16 0
乱立荒らし対策保守

64 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/05/12(水) 08:20:39 0
>>58
「なかなか面白い異能だ。磨けば良い宝石になる。
 だが磨かないといけないな。君はまだダイヤの原石だ。
 ブリリアント・カットをする必要がある」
彼は道程の異能を、そのような表現で褒め称えた。
彼はしばしば、物事を宝石に例る癖がある。
そして、この非常識なヴィランにとっても、ダイヤモンドは宝石の王様という認識があるらしい。

>>61-62
手渡した黒ダイヤから色が抜き取られる様子を、レギン・サマイドは目を細めて見た。
否、ほんの一瞬、双眸をかっと見開いていた。
憤怒の形相によく似ていたが、それは単なる怒りだけでは作れない、凄まじい表情であった。
本当に一瞬の出来事であり、すぐに目を細めて邪悪な笑みを浮かべる、平時の表情に戻った。
「ふむ」
彼は何か思案したようであった。

しかし、こちらの行く手と退路を阻まんとする隔壁に加え、大量の警備兵という脅威が迫っているため、まずはこれらに注意を割かねばならなかった。
「対異能隔壁か。連中の考えることは相変わらずだ。
 物理的な耐久力だけでは防げない『異能』もあるというのに、まるで進歩が無い」
彼は隔壁に手を触れた。
壁は熱せられた鉄のように赤く光り、そして爆発し、破片を撒き散らした。
デジャ・ヴュを覚えた者が居るかも知れない。

「後ろの連中はわしが相手をしよう。その間に用を済ませてきてくれるかな?」
警備兵達は爆発に一瞬怯んだものの、まだ向かってくるらしい。

【対異能隔壁を、どこかで見た能力で爆破】

65 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/05/12(水) 21:56:25 0

「うがあああああああっっ!!!! 誰かこれを止めやがれぇ!!!!」

純白の立方体。窓も汚れも何一つ無い白い部屋の中央で、旋風院雷羽が叫んでいた。
その姿は無残なもので、目隠しをされ、首から下は全て氷付け。更に、その上から
チタン合金の鎖によって幾重にも拘束されている状態である。
……だが、雷羽が叫んでいるのは氷付けによる苦痛が原因ではない

『一日の始まりは挨拶から――――』
『社会のルールは厳守しましょう。社会のルールは厳守――――』
『悪は恥ずべき事です。反省して――――』
『正義こそが大切なのです。心を真っ白に――――』
『政府の言う事には死んでも逆らってはいけません。政府の――――』
『貴方は社会では不要な存在です。しかし我々は貴方を見捨てませ――――』

そこは、矯正場に存在する設備の一つ。職員からは『教室』と呼ばれている場所だった。
更正の可能性があるヴィラン……例えば、洗脳されている者や、悪であれという育ち方をした者。
或いは、社会の不条理によって心が歪んでしまったヴィランに 正しい社会 を 再教育 する場所である。
『教室』には暴力は無い。ヴィランの動きや能力を制御する事や、反抗しようとした場合に
高圧電流を流したりする様な事こそあれ、それ以外に肉体を痛めつける様な行為は一切行われない。
だが、他の部署と比べ圧倒的に暴力が無いにも関わらず、この『教室』は矯正所の中でも
ヴィランに最も疎まれている設備の一つであった。

何故なら『教室』はヴィランの 心 を 作り直す 設備だからである。

『弱いものの味方である事こそが大切―――――』
『悪い事はしてはいけません悪い事はしてはいけません悪い事は――――』
『貴方は正義をあいする人です。貴方は正義を愛する人です。貴方は――――』
『我々は貴方の味方です。だから我々に従う事は貴方の幸福なのです――――』

先程から流れているこの音声は、スピーカーとなっている白い部屋の全面から
絶え間なく流れている。一度に何百もの音声が、二十四時間絶え間なく、一瞬の休みすらなく、
延々と流れているのである。ここに入れられたヴィランは何をする事も許されず、
ただこの音を聞く事のみが許される。睡眠は極限まで削られ、食事と水も生死の際まで絞られ、
更に薬なども投与され、延々と淡々と汲々と「教育」を聞く事を強制される。

肉体的な痛みなら耐えられるヴィランは幾らでもいる。
更正プログラムにも、強靭な悪の心を持つヴィランは耐えるだろう。
だが、どんな悪も 退屈 には打ち勝てない。
教育を聞く事意外の全ての行動を奪われ、じわじわと心を漂白していく。
拷問である。洗脳である。一般人に対しては、決して許されない所業である。

だが、そんな行為もヴィランに対しては許される。
何故なら、ヴィランとは悪だからだ。

―――――――――――

「……苦しそうだなぁ。ひひっ、俺はこっち側で助かったぜ。
 おい、本当にあいつを氷付けにしとけば俺の刑期は減るんだよな」

「ああ、そうだ」

そんな雷羽を、壁に仕込まれた監視カメラで別室から見てい二人の影。
それはトリッシュにぶちのめされた氷使いのヴィランと、矯正所の職員であった。
この氷使いは、司法取引によって雷羽を拘束する氷を維持する事で刑期を減らされる
事になっているのであるのだが……

「……あん? なんかまた凍り方が悪くなってきたな。
 暖房でも入ってんのか? ちっ……出力あげねーと……」

66 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/05/16(日) 13:35:37 0
「矯正所から突入許可が下りた、総員突入!ヴィランを殲滅せよ!射殺を許可する!」
矢車の言葉に従い、特殊合金製のゲートが開き、矯正所内に突入した宙野等は、目の前で起こっていた光景に驚愕する
(!?)
まず、矯正所内は照明がつき、更に昼間にも関わらず薄暗くなっており
更に矯正所内でヴィランを迎え撃っていた警官隊の足元の影が生物の様に動き、警官等を攻撃したのだ
その信じられない光景に、宙野すら思わず息を呑む
(これが…ヴィラン…物理法則を完全に無視している…こんな連中がこの街にはわらわらいるのか?)
ほんの一瞬、秤乃の能力に息を呑んでいた宙野だったが、前方に続く防弾ガラスの隔壁が次々爆発し、そしてその通路上に長身の翁が立ち塞がった事で、すぐに我に返った
「集中砲火!火力を集中させろ!」
宙野はそう叫ぶと、旋風院に対し使おうとした炸裂弾装填の電磁大砲をレギン目掛け構え
装甲警備隊も警官隊が持っている銃器よりはるかに強力な最新式のアサルトライフルで一斉にレギンを狙い
警察側のメタルマン先行量産型も大口径のバルカン砲をレギンに向け
大小の多数の火器が一斉にレギン目掛け発射される

防弾ガラスの隔壁が吹き飛び、侵攻を再開した秤乃等の前には、前門の警備員よりも重武装の機動隊員が複数、盾を構えて立ち塞がった
前方の警備兵が盾の防壁を展開しつつ、後ろの警備兵が何かを秤乃等目掛け投げつけてきた
スプレー缶に似たそれはすさまじい閃光によって人間をショック状態にする、スタングレネードである
秤乃の能力が影を操る事だと知った機転の利く警官が、影を消滅させ、なおかつ秤乃等を無力化すべく持ち出してきたのだ

67 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 01:55:32 0
あらすじ・オブ・前回!前も後ろも警備員がわらわら!レギン爺さんが突如死亡フラグっぽい発言をしたよ!以上。

>「後ろの連中はわしが相手をしよう。その間に用を済ませてきてくれるかな?」

「オーケーわかった。ここはアンタに任せて先へ行くぜ!行くぜ!行くぜ黒ゴス!……黒ゴス?」

レギン氏の男気に答えるように腕を振って、傍の黒ゴスへ進軍を促す。
が、いつもは率先して不敵に無敵に俺の前を行く彼女が、その能面フェイスに若干の滲みを浮かばせているのに気が付いた。
パっと見じゃわからない、そかしそれでもずっと後を追ってきた俺には充分な違和感を感じさせる、感情の瑕。

「……行くともさ」

気付けて、そこまで。
空気の読める俺ちゃんはそれ以上の追求も詮索もしない。それが、俺と彼女とを分かつ分水嶺であり、超えることはままならないのだから。
ただ、彼女の盾となり、露を払うことで少しでも聳える壁に踏み出せたらと思う俺であった。

「<パラダイムボトル>――『粘性炸薬《C4》』!」

二倍の体積費やせるおかげで壁の爆破作業は滞りなく進み、数枚をそうしてぶち破ったところで、いよいよ警備員達の影が見えてきた。
相まみえるは数名の重武装小隊。人ひとり隠せる巨大な盾で戦線を張り、擬似的な塹壕戦を展開せんと立ちふさがる。

「げえ、狭い通路を効果的に塞いできやがったなあ。盾相手じゃ押し通れねえし、退路は論外……どうするよ?黒ゴス」

とはいえ、正直この規模なら黒ゴスの敵じゃあないだろう。こいつはトリッシュ邸での乱戦やヒーロー二人との大立ち回りを勝ち抜いてきてる。
異能者相手でもなけりゃ囲まれてもいないこの状況で、善戦こそすれ止められることもないだろう。正面突破すらできそうだ。

ん?じゃあ俺は?
やべえ。本格的にいらない子の予感じゃん、俺。しんがりは強力な異能をもつレギン氏がいるし、前線はいわずもがな。
露払いと言えば聞こえはいいが、腰巾着には変りなく、かといって俺一人じゃこの状況だけで詰みなんだよな。相手プロだし。

――『本物』、か。
レギン=マサイドも秤乃暗楽も、一介の異能者なんてレベルで収まる存在じゃあない。一つ上のステージの連中だ。
偽善でも偽悪でもなく、ひたすらに善悪の針を振り切った奴ら。その明暗を分けるのは実力とかよりも、存外気概とかの問題なのかも知れない。

――俺と同じく『本物』になりきれなかった麗源新貴が、そうだったように。

とまあ、目の前の現状を黒ゴス任せにする気まんまんで物思いに耽っていた俺の視界を端から端まで何かが飛んでいく。
それはスプレー缶のようであり、自転車のグリップにも見える。強盗しようと思ってた時代にネットで調べて知ってた俺に隙はなかった。

スタングレネードだ!
爆音と閃光で対象を殺傷せずに行動能力を奪う道具。身体強化された身にとってはちょっとまぶしくてうるさい程度で済むだろうけど、
問題はそこじゃなく、おそらく狙いもそこじゃない。この狭い通路内で閃光なんか発生させたら、黒ゴスの力を担う『影』が消えてしまう。

「――うおおおおおおお!!」

弾かれるように走り出し、炸裂寸前のスタングレネードに超ファインプレー。両手に"神様"で包み込んで、不発に処理する。
やっぱりか。監視カメラかなんかで報告をうけて、黒ゴス専用の対策を講じてきやがった。流石はプロ、頭の切れる連中だ。

だが、そんなことはどうでもいい。
これってつまり、やっぱりつまり、どこまでもつまり。

「俺を完ッ全に無視してやがるな!?ふざッけんな、俺だってヴィランだ!てめえらの敵だ!こいつの仲間だ!」

黒ゴスを封じてしまえばどうにでもなると思われてるってこと。あいつら、初めっから俺のことなんか眼中にねえんだ。
いいぜ、上等だ。なんだかんだで公式にお上に反逆するのはこの任務が初めてだしな。舐めてかかった報いをくれてやる。

俺は鹵獲したショットガンに一粒鉛のスラグシェルを装填し、ついでに弾に"神様"でありったけの質量を加えてぶっ放した。
弾はへろへろと山なりの軌道を描いて機動部隊の戦線へと到達し、盾へと接触し、ビー玉ほどの大きさにして1dもの重量で叩き潰した。

【無名にも関わらず対策してもらえなかったことに激怒、超重くした鉛の弾で盾列の一部をぶち抜く】

68 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 22:36:51 0
>>66
今、大小の弾丸の雨によって、老人の姿をとっていたレギン・サマイドは、細切れの肉片と化してバラバラになったようだった。
だが妙だ。床に血糊が付着していない。
人体が粉微塵になれば、脳漿やら血液やらも撒き散らすことになるはずだが、それらが見当たらないのだ。

実は、彼の中核――老人の姿を「化粧」とするなら、その素顔、レギン・サマイドの本質にして本体である、正体不明の黒い球体は無傷であった。
床や天井に散乱した肉片が、再びレギン・サマイドの中核に寄り集まって覆い、粘土をこねる様にしてその形を変える。
そうしたおぞましい変形が、煙の向こうで行われているのが見て取れる。
彼は今まで、様々なものの姿をとった。
たとえば、中世にヨーロッパおいては、彼はお姫様を攫うドラゴンであった。
更に言えば、宇宙から来たロボットや、邪教の偶像といった、生物ですらない姿をしていたこともあった。
つまり、レギン・サマイドというヴィランは、そもそも生物かどうかすら不明なのである。

彼の変形が終わった。
煙の中から姿を現したものは、先ほどの老人ではなかったが、誰もが直感的に同一人物であると断定できるものだった。
それは両手には枷を、脚には鉄球のつながれた鎖を身に付け、縞々の囚人服を着た、中年の男だった。
だが、デカい。人間離れした巨体で、顔つきはまるで猛獣のようだ。
「ここは囚人を入れておく施設だったな。相応しい姿にならせてもらった。
 雰囲気を出すために、手械も足枷も着けてみたのだ。
 どうだ、撃ちやすくなっただろう?」
一見するとそれは、手も足も不自由に見える。
鎖や手械は、何ら効力を発揮しないのではないか――そのような不安を抱かせるに十分な要素が凝縮されている。
そして、誰かが不安を抱いたそのときには、それが的中した。

「撃たないのかね?こちらは撃つぞ。何せヴィランだからな。
 暴力は悪党の重要な趣味にして仕事ゆえ、やめられん」
彼の全身の肌が、黒色から真っ赤に変色した。
すると彼は、口を大きく開き、ソフトボール大の火の玉を幾つか吐き出した。
ブラックダイヤモンドに魅せられたヴィランを焼き殺した、あの炎だ。
火の玉が命中した武装警官は、猛火に包まれた。
単なる武装警官であれば、あのヴィランと同様に灰となった。
重装備の者でも、パワードスーツ越しに中身に熱が伝わり、急激に体力を奪ってゆく。
そして、炎は命中した場所を中心に、徐々に徐々に広がり、勢いと熱量を増しつつあった。
「美しいだろう?喧嘩と並ぶ江戸の華だ。
 しかし、これしきで根を上げるような弱者は、ブラック・ダイヤ団の敵にも一員にも成りえぬ。
 君等はどうかな?この炎の温度は今のところ1500度、放っておけばもっと上がるぞ」

【『矯正所』で火災が発生。とても暑い】

69 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/20(木) 18:55:13 0
事態は困窮し、飽和していた。
星は蹴飛ばされ、トリッシュは回避の為にアーマーを脱ぎ捨てた。
そして赤穂には依然言葉が通用せず、ただ殺意のみが振り撒かれている。

今ここが、この瞬間が分水嶺だ。
これ以上の懊悩は許されない。
器一杯に満たされた水が辛うじて、張力によって均衡するように。
あと僅かばかりでも現状に何かが加われば、事態は氾濫してしまう。
しかしてその『何か』には、時間さえもが含まれる。
寸毫ばかりの時間さえ、この緊迫を極めた場を崩すには十分過ぎる。

零れ落ちる。
誰かが理不尽に、この場から。
流れる時を止められない以上、それは不可避の事だ。

だがそれでも、器から何かが、世界から誰かが溢れる事を防ぎたかったら。
一体どうすればいいのか。
理屈や筆舌、思考の上でならば、解は容易く出る。

器の中にある物を、取り除けばいい。
沈んだ岩を取り除けばその分水嵩が減るように。
ただ、それだけだ。

秤乃光はこの結論が現実に追い付く事を、決して望んではいなかった。
けれども、これ以上の懊悩も、説得も許されない。
それをすれば、理不尽な死を誰かが迎えてしまうから。

きっと――否、間違いなく。
赤穂はこの場だけには留まらず、世界からあらゆる者を溢れさせ続けるだろう。

「……『天秤からの排除』を……行使します」

彼女の呟きは、『秤乃一族』が持つ最後の選択。
世界を激動させかねない存在を。
世界から余りにも、何かを溢れさせ続けてしまう存在を。
何と比べるでもなくただ排除するだけの、事物の均衡を司る『秤乃一族』の、究極の判断。

「……さようなら」

悲痛な面持ちに涙を浮かべ、彼女は地を蹴った。
トリッシュに気を奪われていた赤穂の懐へ、一跳びに踏み込む。
そして魔石から奪い取った『紅』で描いた刃を、魔石の並ぶ彼の胸へ深く突き立てた。

瞬間、魔石同士の力が相殺を起こす。
際して発生する膨大なエネルギーが、赤穂の全身を、精神さえもを駆け巡った。
苦痛でも狂気でもなく、灯火が消える直前俄かに大きく燃え上がるように、赤穂は絶叫する。
だがその叫び声も次第に潰え、赤穂は緩やかに崩れ落ち膝を突いた。

70 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/20(木) 18:56:34 0
「……あ……うぅ……」

しかし――失われたのは彼の命では無かった。
微かな呻き声を漏らす赤穂は、空虚な表情で口元から涎を零している。
生きている。異能に浸り魔石に晒され続けた彼の身体は、
辛うじて魔石相殺の余波にも耐えられたのだ。
耐えられなかったのは、彼の精神。
ただでさえ魔石によって蝕まれていた彼の心は、完全に死んでしまっていた。

「……この人を、『矯正所』に送る手続きをお願いします」

それでも、赤穂は生きている。
肉体が生きている以上、捨て置く事は出来ない。
言葉を選ばずに言うのならば、始末に困るのだ。
折角生き残った彼を殺す事など光には出来ず、
とは言えかつて大罪人であった彼を放免する訳にも行かず。

いずれも善悪の曖昧な判断や感情に基づいた理屈ではあるが。
ともあれ自己の判断ではどうしようもなくなった彼女は、
『贖罪』と『更正』の象徴である『矯正所』以外に意識の矛先を失ってしまったのだ。

零れる涙を拭い、光は考える。
姉ならば、秤乃暗楽ならばどうしただろうかと。
もっと良い、誰も世界から零れ落ちない結末を描けたのだろうか。
それとも一切の感情を拝した上で、この結末を甘受出来たのだろうか、と。

これまで全ての暗部を姉に委ねてきたが故の不甲斐なさが、更に光の涙を誘った。
彼女のすすり泣く声と、赤穂の呻き声だけが、暫し周囲を支配する。

けれども矯正所へと連絡を取ったトリッシュが零した
『矯正所に襲撃があった』旨を含んだ呟きに、彼女は落涙を止め目を幾度か瞬きさせた。

【赤穂さんは精神崩壊と言う事で場を納めさせて頂きました
 トリッシュの連絡と呟き云々は、トリッシュさんの意向次第で無しになっても問題ありません。
 場が動かしやすくなるかなと思っての事です
 星さんの処遇についてはお任せします】

71 名前:トリッシュ ◇.H4UqpaW3Y代理 [sage] 投稿日:2010/05/23(日) 10:52:19 0
それは一瞬の出来事だった。
いささか気が動転し、詳しく把握することが出来なかったが…
悲痛な断末魔が事の終わりを告げる鐘の音になったことだけは明らかだ。

足元にはバラバラにされたアーマーと辛うじて衣服として機能している服が落ちている。
おそらく赤穂の能力が消えたことにより、空間に飲み込まれたものが戻ったのかも知れない。
いささか疑問は残るが、トリッシュはすぐにズタズタの服を着た。
不幸中の幸いだったのは、胸ポケットにしまっている携帯が無傷だったのが救いだ。

>「……この人を、『矯正所』に送る手続きをお願いします」
涙交じりの声で少女が言う。
それを聞いたトリッシュは、矯正所に連絡を入れる前に、廃人と化した赤穂に近づき
おもいっきり頬をひっぱたいた。
「…命の恩人の頼みとはいえ、これは無理よ
 コイツに自分の罪を認識できる能力は無い…おそらくだけど、普通の裁判にかけても無理ね
 異能が消えているなら警察に任せたいところだけど…駄目かしら」
今の赤穂に「贖罪」する能力は無く、「更生」出来る人間性は破壊されている
そう認識したトリッシュは、矯正所送りを断り、警察に連絡を入れた。

「…ありがとう、助かったわ」
少女の肩に手を置き、母のようにやさしい声で心から感謝した後
後ろから泣く少女を抱きしめた。
「泣くのはもうやめなさい。結果は残念なことになったけど
 あなたは正しいことをしたわ、たとえ、貴女がそれを否定しても私が認める
 だから…泣くのはやめなさい。かわいい顔が台無しよ
 ……落ち着いたかしら?
 アイヴィスから聞いたわ、私に話があるんでしょ?
 今すぐ話を聞きたいけど、少し部屋でまってもらえない?
 早急にやらなきゃいけないことがあるの」
泣く少女を落ち着かせ、先に屋敷に戻した後、先ほどとはうって変わり
冷酷な表情で今いる警備員を呼び、先ほど蹴り飛ばした星を囲んだ。

瓦礫の中で気絶している星の身包みを引っぺがし、可能な限りの拘束し
聞くこと以外の自由を奪った。
途中、気がついた本人に有無を言わさず、おそろしいほど冷たい口調で言う
「探偵もどきだと思ってたけど、驚きね。ヒーローもどきのクズだったなんて
 だってそうでしょ?なんの罪もない人間を傷つけて、法を破り人の家にあがりこむなんて
 犯罪者のやることでしょ?
 今のあなたは、ヒーローでも探偵でも無い
 イカれたオカルトサイコの犯罪者なの!わかった
 暫くムショにでも入って自分を見つめなおしなさい」
言いたいことを言いたいだけ吐き捨て、警備員に警察に受け渡すよう指示を出した後
トリッシュは屋敷に戻った。

「待たせたわね。お粗末なお茶とお菓子だけど食べる?」
少女を待たせている部屋に入る。
そして、両手にもっているコーヒーとドーナッツをテーブルに置き
高そうなソファーに腰を下ろした。

72 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/23(日) 19:14:16 0
レギンの異能は何処と無く、私の記憶の底に沈殿する忘却の残滓をくすぐった。
けれども今はそんな些細な事に気を取られている暇はないの。
今まで見てきた数多の異能に対する、単なる既視感と切り捨てて、私は通路の先を見据えた。

真性はただ黙々と壁の爆破作業を続けている。
ここに来るまでの無駄口は煩わしかったけど、何故だか今の沈黙も同じくらい、
或いはそれ以上に胸中をざわめかせてくれる。
もしかしたら彼が、私の何処に根付いているのかも分からない異変を察していて、この沈黙はそれ故の物だとしたら。
彼の下手な気遣いよりも何よりも、自分の失態ばかりが無性に腹が立って、私はそれ以上の思考を打ち切った。

鬱陶しく後を引く思考の残滓何とか捩じ伏せようと目を固く閉ざしながら、私は真性の後に続いて大穴の開いたシャッターを潜る。
同時に、小気味いい快音が微かに耳朶を撫ぜた。
一体何の音かと、目を開く。音の正体はすぐに分かった。
警備兵の一人が手に持っている円筒――閃光手榴弾を右手に振りかぶっている。

何? 影を散らすには光って事かしら?
随分と安易な考えをしたものね。
でもお生憎さま、私が操るのはあくまでも『色』なの。
描いた影は消せても、このワンドに宿した魔石の『黒』までは消せないわ。

それに……こうは考えられなかったのかしら?
あんなに強烈な光源を前方に放ったら、自分達の背後にどれ程濃厚な影が出来るのか、とは。

いいわよ、ホラ早く炸裂しなさいな。
貴方達が勝利を確信した瞬間に、背中から一息に突き刺してあげる。
楽しみだわ、貴方達がどんな表情で絶望を表現して、どんな声で自分達の愚かさを悔いるのか。

口角が私の意識下から離れて、微かに釣り上がる。
緩やかな所作で左腕で視界を軽く覆う。
僅かに見える床や壁が白く染まった時が、貴方達の最後だわ。

> 「――うおおおおおおお!!」

予想に反した大音響に、意図せず身体が震えた。
閃光を認める為に視界に収めていた床が、白ではなく黒に染まった。
影だ、人の影。誰の影かだなんて考えなくても、候補は一人しかいない。
それでも私は、顔を上げずにはいられなかった。

真性は背の低い放物線を描く閃光弾へ一目散に駆けていた。
そうして保身の一切を投げ出し、両手の異能――『神様』だったかで包み込む。
野蛮ではあったけど見事な手際で閃光を封殺した彼に、思わず私は目を見張った。

> 「俺を完ッ全に無視してやがるな!?ふざッけんな、俺だってヴィランだ!てめえらの敵だ!こいつの仲間だ!」

勢い任せの、だけどそれ故に手の付け難い獰猛さで、彼は警備兵達の隊列に大穴を穿つ。
感嘆や、嬉々や、それから抱く必要なんてないのに禁じ得ない申し訳なさを孕んだ溜息が零れる。
そう、真性は私を『仲間』と言ったけど、それは違うの。
私は貴方を育てる役割で、いつか刈り取られるよう仕向けるのよ。
貴方と私の間には、決定的なまでの溝がある。

その事を改めて自覚した私の心は急速に、さっきまで心奥で蟠っていた何かを消滅させていった。
レギンが何かやらかしたのか、天井からはスプリンクラーが絶え間なく水吐き出し始める。
頭も心も、心地良く冷えていく。

73 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/23(日) 19:15:10 0
口端が軽やかに吊り上がった。
ワンドも心なしか軽い。力強く、思いっきり振るえるくらいに。
魔石から奪った黒を全部費やして描いた鉄拳で、残る警備兵の連中を四散させた。
勢い余った感じだけど、まあ死んではいないでしょう。

「中々だったけど、もっと派手にやらなきゃ。良い悪党ってのは緻密にド派手な事をやってのけるものよ。
 ……ま、今のが緻密だったかは置いといて頂戴。それより、行きましょうか。
 気を付けなさいよ。この先は、とんでもない連中しかいないわよ。面白い話が聞けるかもしれないけど、呑まれたりしないようにね」

さて、私は私であのいけ好かない男に頼まれた部下を探さなきゃね。
街中で受け渡されたメモに、見た目の特徴なんかは書いてあるけど。
この見渡す限り、見下ろす限り悪党だらけの場所じゃあ、探すのも一苦労……。

> 「うがあああああああっっ!!!! 誰かこれを止めやがれぇ!!!!」

「って……。まさか、ねぇ……」


【警備隊蹴散らしてみたり
 スプリンクラー発動。異能の火が消えるかは不明
 秤乃らの行く先は円筒形の空間が地下へ続いていて、そこにいっぱいヴィランがいる。ってな感じで
 何か聞き覚えのある声が聞こえたかも。妙に嫌な予感に囚われつつ向かってみたり】

74 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/05/25(火) 09:45:14 0
(さ…再生しただと!?)
再生し、姿を変えたレギンに、流石の宙野も動揺し、一瞬、思考が状況についていかなくなった
如何に今まで幾多の戦場をかけてきた彼でも、破壊された肉体を再生し、更に強化して襲ってくるような怪物に遭遇した事など無論皆無だったからであり
そして、まさかそんな物まであらわれるとまでは想像だにできなかったのである
そのため、目の前の光景が信じられず、息を呑み、ただただ呆然とするばかりで立ち尽くしてしまうばかりであり
それは周囲の装甲警備隊やメタルマン、矢車すらも同じだった
>「撃たないのかね?こちらは撃つぞ。何せヴィランだからな
しかし、レギンが口から火炎弾を吐き出してきた事で、ようやく思考能力を取り戻し、慌てて周囲に指示を飛ばす
「防御体制!シールドを使用し火炎を防ぎつつ、反撃!」
業火に巻かれ、狂乱してレギンに発砲し、呆然とするパニック状態の警備隊員達にそう叫び、自らは火炎の間隙を縫ってレギンに接近し、腰の特殊合金製ナイフで切りつけ相手の体制を崩そうとする

いよいよヴィランを収容する施設へと到着した秤乃等の前に、後ろに、突如どこからか数個の手榴弾が現れた
しかし、周囲に敵の姿は無く、どうやら姿を隠した特殊装備の看守がいるらしい

75 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/05/25(火) 22:41:09 0
>>72-73
異能の火は消えた。
多量の水蒸気を撒き散らし、相応の時間を要しながらも、何とか消火には成功したのだった。

>>74
銃弾は頭に吸い込まれるようにして当たった。
また、腹部にナイフで切りつけた傷は殊更に深く、内臓にまで達してもいた。
通常のヴィランなら、ここまでの重症を負わせて行動不能にできれば、一応の応急処置を施して『矯正所』に送るという選択肢がある。
だが!
「なかなか殺る気があって結構。だが、こっちには――内臓が、無いぞう」
彼は腹部に受けた傷を、自分で更に大きく広げて見せた。
大きく裂けた腹部からは、臓物が零れ落ちるようなことが無かったのである。
苦痛もまるで感じていないらしい。
確かに彼の言うとおり、レギン・サマイドというヴィランには、確かに内蔵が無かった。
「良いものを見せてやる」
レギン・サマイドは、自らの首を引き千切った。
そして、その生首は真っ赤に光っている。
いかにも「爆発するぞ」と自己主張せんばかりに、それは赤く赤く明滅している。
そして予想通り、彼が投げた首は大爆発を起こした。

黒煙の中から声が聞こえる……
「あー……生きているかな?生きてるなら、わかっただろう。
 わたしは人間ではないんだ」
そして、爆発した頭部の残骸も、よく観察すれば奇妙極まる。
人間の頭が爆発したのなら、頭蓋骨の破片に混じっていてもいい筈の脳漿が、まるで無いのである。
レギン・サマイドは、頭部を失ってもなお喋り続ける。
どうやらテレパシーのような会話能力を持っているらしく、頭に直接響くような声だ。

「わたしは『壊れ』はするが、『死に』はしない。
 何なら、わたしを、もっと、『壊して』みるかああああああッ!?」
頭部を失い、腹部からおびただしい量の血のような液体をどばどばと流しながら、よたよたと不恰好に走ってくる。
爆発を生き残っていて、なおかつ混乱していないものは、彼には手で触れたものを爆発させる能力があることが理解できる。
【頭が無くなったけど、わたしは元気です。そのまま警備隊に迫る!どうなる警備隊!】

76 名前:矯正所行き車両にて ◆y6ZFeIPasDPg [sage] 投稿日:2010/05/27(木) 01:12:56 0
「……」

―「もう、こいつはダメだな。廃人だぜ。」

―「快楽殺人犯もこうなりゃ只のみすぼらしいおっさんだな」

「……誰が、みすぼらしいおっさんだって?」

隣にいる男の首元に牙を突き立て頚動脈と肉を引き千切る。
真っ赤な鮮血がまい掛けのように赤穂の首元を染める。
呆然と突っ立つもう1人の警備員にも同様に顔を近付け、赤穂は詩を読むように高らかに語り始めた。

>「貴方も! その衝動はホントに貴方のものなの? 魔石に与えられただけの、操り糸じゃないの!?」

「あの時の答えを教えてあげよう。私は5歳の時、初めて人を殺したんだ。
でもね……その時に、石の力はまだ持ってなかったんだよ。
私はね、魔石なんてものに利用されちゃいないんだ。……呆けた真似をするのは、少しばかり
疲れたけどねぇ。」

そして、再び首筋に牙を突き立てた。
やがて車内は血で真っ赤に染まり、蛇行運転を繰り返しながら矯正所へと突っ込んでいった。


#################################


炎上する車内から這い出てくるのは、1人の男。
赤穂朗氏は死んでなどいなかった。
この化物を殺すのは秤の一族でも不可能。
そう、彼は生まれ持っての基地外だったのである。

「さぁ、廃人扱いされて身分を消すには丁度いい。
ここで少しばかり遊んでいこうか。」

(久々の参加で失礼します。赤穂は最初からキチの外ってことで。)

77 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 18:59:25 0
>>71
星を拘束したトリッシュが帰ってきても、光は変わらず泣いていた。
差し出された茶や菓子には目もくれず、ぽつりぽつりと呟きを綴る。

「……あの人は、もしかしたら……もしかしたらだけど……操られていたかもしれないんです。
 貴女が持っていた、ブラックダイヤモンドに……。魔石の操り人形にされていただけなのかも、しれなかったんです。
 だけど、私はあの人を殺しました。他の皆を護る為に……。
 それはあの……ヒーローのおじさんがした事と、何か違うんですか? あの人だって、自分が正しいと思った事をしただけです。
 その為に、手段を選ばなかった……。それは私と、何か違うんですか?」

感情に任せ、彼女は言葉を紡ぐ。
解などなく、またトリッシュの口から答えを得た所で何の意味もないのに。
そしてトリッシュが何かを言う前に、彼女の背後に位置する木製のドアがノック音を二つ奏でる。

「失礼、我々は矯正所の者です。貴女のお宅でヴィランが暴れていたと通報があったものでね。
 ……何? 精神崩壊? ……いえ、彼は警察ではなく我々が引き取りましょう」

訪問者である矯正所の男は問答無用で、赤穂を引き連れた矯正所所属の私兵に連れ出させた。
彼らは精神崩壊を起こした赤穂を洗脳して、純粋な正義の使者に仕立てようと目論んだのだ。
真っ白なカンバスに、思うがままの絵を描くように。


そしてそれから数十分後、トリッシュ邸に連絡が寄せられる。
矯正所がヴィランに襲撃された。また彼女の邸を襲ったヴィランが復活し、脱走したと。
救援を要請されるが、赤穂の手によってアーマーは破壊されきっている。
どうすべきか困窮するトリッシュの元にもう一つ、ノック音が再来する。

「やあハニー、どうやらお急ぎみたいだね。口説き文句は事を終えた後に取っておこう。
 これは君へのプレゼントだ。前祝いとも言えるね。君がこの都市を真に守るヒーローとなる時の、ね。
 サイズに関しては完璧だよ。何と言っても、この私が調整したんだからね」

よくよく聞いてみればドン引き必至の口上と共に、石原が訪れていた。
彼の背後には、【MKW】と銘打たれた新型のアーマーが屹立している。


【時間軸的には光がトリッシュ邸に訪れ騒動が起きたのは、道程一行が矯正所を襲う大分前と言う事にして下さい
 そして今、同一の時間軸に皆さんが集まると言う事で一つ
 MKWの性能はご随意にしてしまって下さい。】

78 名前: ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 19:03:27 0
>>76
赤穂郎氏はふと身体を包む妙な違和、欠如感を覚えた。
見てみれば、彼の持っていた魔石は一つ残らず、砕けてしまっている。
これでは異能の殆どは失われているだろう。

亜空間や未来予知と言った大逸れた物は勿論の事。
爆破能力も大幅に劣化しているに違いない。
アリスインワンダーランドのヴィジョンも、頼りない小兎に成り果てていた。

そのような体たらくで矯正所に真っ向から挑むのは、単なる自殺行為と言えるだろう。

【魔石は砕け散ったって事になっているので、ペナルティ的な処置ですね。ご了承くださいな】

79 名前:赤穂朗氏 ◆y6ZFeIPasDPg [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 19:26:17 0
>>78
(すいませんが、後手キャンセルを使わせていただきます。
能力は保持したままで)

80 名前:赤穂朗氏 ◆y6ZFeIPasDPg [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 19:32:52 0
「……さてと。」

赤穂は右腕に隠し持ったUSBメモリ型の装備を手にし
腹部に装備した銀色のベルトへと差し込む。
電子音声が鳴り響き、再び赤穂は常軌を逸した異形へと変化した。

【DEVIL――】

真紅の鎧と黒い翼を持つ悪魔。
彼は、魔石を更なる変身アイテムへと変化させていたのだった。
魔石がなくとも、自身の能力を強化できる手段を開発していたのだ。
USBメモリ型のアイテムの中に、魔石と同様の効果を装備させ
同時に”博士”の記憶から取り寄せた技術を組み合わせた。
禁忌の兵器を開発させたのであった。
もはや彼に魔石は必要ない。新たなる玩具を手に入れたのだ。
ピョンピョンと飛び跳ねる子兎を連れ、赤穂は遊びを愉しむかのような
足取りで歩き始めた。

(正確には別のアイテムがあったーっていう後付で。不在して申し訳なかったですが
これくらいでお願いします)

81 名前:クリムゾン・キング ◆y6ZFeIPasDPg [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 19:47:28 0
矯正所の兵士達の銃撃をまともに受けながらもクリムゾン・キングは
平然と突き進んでいった。

【ウェザー!!】

突風と雷が放たれゴミを吹き飛ばすかのように兵士達を飲み込んでいく。
濁流と叫び声が合わさり矯正所の入り口は地獄絵図へと変貌していった。
赤穂は既に多くの魔石メモリを街にばら撒いている。
あの時、砕け散った破片をかき集め犯罪組織やヴィラン達に売り捌いているのだ。
魔石は数に限りがある。しかし、彼が開発したメモリの製造ラインを使えば
無限に魔石と同様のものを供給する事が出来るのだ。

兵士の首を掴み、クリムゾン・キングは空を飛び交うヘリのカメラへ向け叫んだ。

「お前らは管理できると思うのか?何でも自分の思い通りにシナリオを考え、
企む奴らの事さ。お前等が企んでいるその嘘を、暴いてやる。
犯罪者を矯正するなんて出来やしない……それを証明する日が近いからなぁ!
トリッシュ社長!君もここに来ないか?僕にリベンジしたいだろぉ!?」

【中継カメラを利用し、アイアンメイデンに宣戦布告】



82 名前:真性道程 ◇8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/05/31(月) 06:37:30 0
前回までのあらすじ!
レギン爺さんを置いて先へ進んだ俺達!待ち受けていたのは『矯正所』の警備員達!苦戦が予見されたが口火を切った戦闘の中で、
本来の調子を取り戻した黒ゴスに最早敵はなく、俺ちゃんも例によって金魚の糞と成り下がっているのだった!

>「うがあああああああっっ!!!! 誰かこれを止めやがれぇ!!!!」

>「って……。まさか、ねぇ……」

「まさかなあ……」

どうやら、助けを待ってるらしいヴィランはこのフロアのどこかにいるらしい。いや、俺ちゃんは面識ないんだけどね!
どっかで聞き覚えのある声だと思ったら、先のトリッシュ邸でのブラックダイヤ争奪戦で暴れてたヴィランじゃねえか。

「捕まってたのかあの後……まあいいや、作戦の大筋には関わってこない情報だわな。さて、行こうぜ黒ゴス。
 都合よく大声挙げてくれてるわけだし、位置特定すんのもそんなに時間はかからんだ――ろ?」

首筋をピリっとしたものが駆け巡った。周辺警戒の為に密度を下げて霧状に散布しておいた『神様』が、背後での異変を伝えてくる。
反射的に振り返れば、――虚空を舞う数個の手榴弾!俺は速攻で沈静化に走ろうとして、走って、間に合わない。

「――――――ッ!!」

炸裂する。スタングレネードとは凶悪さのレベルが違う、完全に人を殺傷するための威力が、眼前でその牙を剥く。
破裂音が鼓膜を揺がし、ほぼ同時に手榴弾の外殻が刻まれた溝に沿って割れ、砕け、無数の鉄片となって飛散する。
俺の身体は強化されていて、だから動体視力も思考速度も上がってて、飛んでくる破片が見えて、その威力が推測できて、

――凄く、怖かった。

「おおおおおおおおおおおおおお<パラダイムボトル>ッ!!形状『一時停止(ビデオキャプチャ)』――!!」

低密度の霧状『神様』に指令を下す。散布空間は俺を基点とした後方約五メートル。手榴弾の炸裂範囲も含めたその領域を、
まるごと『固定』し『停止』させる。飛散する破片は悉く停止した空間に絡め取られて停滞し、取りこぼした数個の破片だけが俺の頬を掠めるに終わった。
予め『神様』を散布してあったからこそできる芸当である。俺の用意周到なチキンっぷりに救われた。

「気をつけろ黒ゴスッ!いつのまにか後ろに回られた!!――姿が見えねえ。迷彩系の異能者か、特殊なステルス装備持ってやがるな」

背後を向いたまま一歩下がり、先行していた黒ゴスと背中を合わせる。正確には背中と腰だけど。身長全然違うしな。
どうやら敵はさっき作動したスプリンクラーに乗じて俺達の背後をとったらしい。今まで潜伏してたのは、油断を確実に突く為か。プロだぜ。

「くっそ、救出まで目と鼻の先だってのに……」

このタイミングで打って出られたのはマズかった。収容施設で戦闘が起これば、パニック防止の為に独房を閉じられる公算が高い。
そもそも、仲間意識の強いヴィランが今の今まで誰も仲間を助けにここまで乗り込まなかったわけがないんだ。
それが今日まで達成されてないってことは、どっかで下手打つかこうやって凌がれるかのどっちかしかねえじゃねえか。

……ん?
これって、もしかして。凄まじいチャンスなんじゃなかろうか。主に、俺の活躍の。
ここで敵の防衛ラインを食い止めておけば、黒ゴスはヴィランの救出に専念できる。あいつならすぐだ。そしたらトンズラこけばいい。
倒す必要なんかないのだ。俺がここで、ちょっとだけ時間を稼いでいればいい。

『一時停止』を解除する。運動エネルギーを失った破片が床に落ちる乾いた音をBGMに、俺は全力全開の『神様』を身に纏う。
背中合わせから、一歩踏み出した。仁王立ちで踏ん張り、黒ゴスへと声を投げる。
ここが俺の今日の見せ場だ。大丈夫、時間稼ぎだ。無理せず戦線を維持できれば俺の勝ち、どうにかできんこともない。
それに、

「――ここは俺に任せて先に行け、黒ゴス!なあに、すぐに追いつくからよ!!」

いっぺん言ってみたかったんだよな、このセリフ。


【収容施設前にて敵の伏兵と遭遇。旋風院の捜索を黒ゴスに任せ、伏兵との対峙を引き受ける】

83 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/06/01(火) 11:18:15 0


84 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/06/01(火) 12:33:09 0
よみやすいね^^

85 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/05(土) 20:46:22 0
「……いい知らせよ。少なくともあなたにとってはね、お嬢ちゃん。
 あのイカレ犯罪者、狂ってなんかいなかったみたい。矯正所に突っ込んで大暴れしてるらしいわ」

トリッシュの吐き捨てた皮肉に、光はびくりと体を震わせた。
ただ俯き、彼女が慰めの言葉を置いて部屋を出ていくのを、俯いたまま耳のみで認める。
そして暫し、膝の上に手を置いて彼女は怯えていた。
赤穂郎氏にではない。自分が有りっ丈の決意を秘めて振るった刃でも殺し得なかった、生まれながらにしての悪に。
装飾に塗れた物言いをするなら、「生まれた時点で世界から排さねばならぬ存在がいる事」に。
光は秤の一族として、数多の『ヒーロー』と深く触れ合ってきた。『ヒーロー』としか触れ合ってこなかった。
故に彼女は人間と言うものに対して、安っぽいにも程があるが、「誰しもが善人の心を持っている」と認識していたのだ。

馬鹿げた考えだと、光は自嘲する。
姉が自分にこの世の悪を見せまいとしてくれて、不可避の悪事の全てを担ってくれて。
姉の自分に対する愛情と、それに依存し切った自分の怠惰の上に、
この愚考は成り立っていたのだと、光は心奥から湧き上がる苦渋を禁じ得ない。
また禁じるつもりも、更々無かった。
この期に及んで自らが目の当たりにした悪意を、甘さを、黙殺出来る筈がない。

そして光は、トリッシュ邸から飛び立った。
今度こそ、姉から妹へ与えられた仕事ではなく、秤の一族としての使命を果たす為に。



「――アンタ、随分と大立ち回りしてくれたわね。半分くらいは何の事だかは分からなかったけど、
 これだけはハッキリしてるわ。……アンタが、ここで死ななきゃ駄目な存在だって事はね!」

「……何故貴方が私達の事を知っているのか、それは知りません。知るつもりもありません。
 ただ、貴方を取り除きます。この世界から、この世界の為に!」

アイアンメイデンの淡い蒼の閃光と、光の描いた無数の陽光の矢が、赤穂郎氏へと迫った。


【5日ルールと言う事で】

86 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/05(土) 20:47:43 0
よく考えてみたら、私あの旋風院……だったかしら?
彼の変身後の姿とかろくに知らないのよねえ。とりあえずは、このやかましい声の所から当たっていこうかしら。
もし目当ての彼だったら良し。そうでなかったのなら、黙らせればいいだけだものね。

「……それが悪党のやり口でしょう?」

わざわざ口に出して呟いたのは、言い訳のつもりかしら?
弁明をする相手も、弁明する必要もないと言うのに。
微かな苛立ちが心に芽吹き、その苛立ちが抱く必要のない物だとわかっているからこそ、更に鬱憤は募っていく。
どうあっても解決を得ない疑問を、私は奥歯を噛み締める事で無理矢理捩じ伏せた。
どれだけ続けようとも苛みしか生まない思考は、断ち切るに限るわ。
繋げていても腐っていく他ない壊死した腕を切り捨てるのと同じね。
世の中だってそう、絶対に矯正し得ない悪って言うのは存在する。
そう言う連中を排除するのも、秤の一族の使命なのよ。

そう、私は使命の為に、悪党を演じているだけなの。

意味のない思考を打ち切って、私はずらりと連なる牢獄を見回す。
どうやらこの耳障りな声は下の方から聞こえてくるみたいだし、まずはそちらから当たろうかしら。
そう判断した私はすぐ傍の、転落防止用の柵へと歩み寄り、

> 「捕まってたのかあの後……まあいいや、作戦の大筋には関わってこない情報だわな。さて、行こうぜ黒ゴス。
>  都合よく大声挙げてくれてるわけだし、位置特定すんのもそんなに時間はかからんだ――ろ?」

語尾を見出した真性に、ふと振り返った。
そうして虚空から兆す、手榴弾が彼の背中越しに視界に映る。
咄嗟にワンドを構え、しかし一足速く真性が前へと飛び出た。

「……っ、馬鹿!」

彼と手榴弾の距離は、絶妙にかけ離れている。
先程の芸当は見破られているのよ。
貴方の手は、届かないの。貴方の足は、死の淵により深く踏み込んでいるだけなのよ。
追って床を蹴るが、間に合わない。

「真性――!」

87 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/05(土) 20:49:17 0
彼の背に追い付くのは、張り上げた声ばかりで。
手榴弾は彼の目前で哄笑を上げるように炸裂する。
思わず顔を顰め――けれど狭まった視界に映ったのは、何事も無い真性の背。
一転、目を見開いて視界を鮮明にしてみれば、爆風も生成破片も、彼の異能が十把一絡げに絡め取り、封殺していた。
胸を圧迫していた呼気は吐き出し安堵して、けれど彼の頬に伝う一筋の赤色が、今度は私の臓腑を煮え滾らせる。
彼をここに連れてきたのは私でさえあると言うのに、根拠のない心のざわめきに衝き動かされて、私は真性に背を預ける。
示し合わせたように、私と真性は背中合わせとなった。正確には腰と頭だとか、私の心に潜む皮肉屋が呟いたけど、構わず黙殺する。
単なる迷彩系の異能なら、『色』を操る私なら看破出来る。理屈としては真性がさっきやってのけたのと同じ、光学迷彩ね。
少し骨は折れるけど、打破出来ない相手じゃないわ。

「――ここは俺に任せて先に行け、黒ゴス!なあに、すぐに追いつくからよ!!」

「……は?」

呆けた声が口から漏れた。反射的に振り返りそうになって、思い止まる。
彼と言わんとした事は、すぐに分かった。
けれどもこの場を任せられるのか。それを考えて、私はすぐにそれを愚考と切り捨てた。
さっきはカッとなったけど、そもそも彼をここに連れてきた理由だって、悪党の鉄火場を体験させる為じゃない。
それに、彼はここで潰えるなんて事はしない。
潰えたならそこまで。じゃなくて、やっぱり無根拠な確信を私の心は抱いていた。

「……言ったわね? 言っとくけど、勝てそうに無かったら無理に抵抗しちゃ駄目よ?
 捕まっても、私が助けてあげるから。安心しなさいな」

言い残して、私は一息に手すりを飛び越えた。
頭上から穏当でない音が私に追ってくるけど、聞き流す。



「あらあら、随分といいザマでいるじゃない? ……って、その様子じゃ聞こえてなさそうね。
 ……どう聞こえる? 助けに来てあげたわよ。貴方のボスに頼まれてね。……何その顔、私とボスが仲が良いのがそんなに意外で癪かしら?」

牢を破り、ひとまずヘッドホンだけは外して、話しかける。
ヘッドホン一つでさえ無理に外そうとすれば、仕込まれた爆薬が耳の穴へと炸裂するって言うんだから、恐ろしいわよね。
まあ影の門を予め描いておいたから、事なきを得はしたけど。

「どう? その氷の拘束、自分で解けそうかしら? 抜けられるなら、さっさとして頂戴。
 抜けれらないなら……まあ、助けてあげるわよ。貴方が私に借りの上塗りしても問題ないなら、だけど」

彼もまた、強力な『ヴィラン』なのよね。
鬱憤晴らしの皮肉ついで、扇動しとこうかしら。
ブチ切れて箍がでも外れてくれれば、拾い物って所ね。

【真性に任せ下へ。旋風院と接触。地力で解けたらそのように。解けないなら暗楽が解いたって事で進めて下さい】

88 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/06/05(土) 22:42:40 0
「ひ…ひ…ひィィ…」
情けない悲鳴が上がる
その声は装甲警備隊員からの物でも、警官の物でも、ましてメタルマンの物でもない
メタルボーガー、宙野景一の物である

首を失い腹を割られてなお動き、不死身と名乗る人外の者
そんな物と相対し、正気を保っていられるほどに、宙野景一は強くは無かった
所詮、彼は兵士、ヒーローの器ではない

「うわぁ…ぁ…」
思わず腰を抜かし、後ずさるメタルボーガーの姿に、しかし周囲の装甲警備隊も警官隊もどうする事もできない
いやむしろ恐れに動けず、逃げる事も戦う事もできず恐怖に固まっている有様だ

『退避だ』
不意に、無線機から断固とした矢車の声が響く
『総員退避!!メタルエース各機の火力を結集し、奴を殲滅する!!』
その言葉に、隊員達は一気に覚醒し

そして我先にと悲鳴を上げて戦場からの脱出を試み


現れていた「第二の絶望」によって蹴散らされた


「は…はは………ははは…あ…あははははは……」
瓦礫と死体の群れの中で、メタルボーガーの強度のおかげでかろうじて命を取り留めたものの、余りに常識を超越した敵の力に、最早戦う気力も逃げる気力も無くなった宙野が、力無くその場に寝転がり、ただただヤケクソに笑う
無線の向こうからもノイズが聞こえるばかりで、あり、指揮車の損傷も容易に想像できる
離れたところに潜んでいるメタルエースは無事だったかも知れないが、指揮車がやられたため、恐らくどうすればよいのかわからず動けずにいるのだろう

最早矯正所及び不知火重工に戦力は残されていない
圧倒的な力を持つヴィランを倒せるのは、ヒーローだけである

89 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/06/05(土) 23:54:22 0

「……あえ?」

突如止んだ音の洪水に、旋風院雷羽は間抜けな声を挙げ、垂れていた頭を上げた。
見ればそこには、雷羽がいつか見た衣装……黒いゴスロリを着た少女。
その姿を視認した瞬間、雷羽の額に疑問と不快の色が浮かぶ。
今の今まで拷問じみた矯正をうけていたというのに、自身が嫌いな相手を見た瞬間
負の感情を即座に発露できるというのは、ボスが雷羽に行った洗脳がそれほど強力な
ものであるという証拠なのかもしれないが……それは今ここで語る事ではない。

「……おい、なんで貴様が」

「あらあら、随分といいザマでいるじゃない? ……って、その様子じゃ聞こえてなさそうね。
 ……どう聞こえる? 助けに来てあげたわよ。貴方のボスに頼まれてね。……何その顔、私とボスが仲が良いのがそんなに意外で癪かしら?」

突如現われ、挑発する様にそう言った黒いゴスロリ少女に対し、
雷羽は反射的に怒鳴り返そうとし――――しかし歯を食い縛ってそれを堪えた。
どうやら、矯正によって衰弱していた事と「ボス」という単語が雷羽の少ない自制心に働いたらしい

「どう? その氷の拘束、自分で解けそうかしら? 抜けられるなら、さっさとして頂戴。
 抜けれらないなら……まあ、助けてあげるわよ。貴方が私に借りの上塗りしても問題ないなら、だけど」

「こ な く そ がああああああっ!!!!!
 この俺様をばかにするんじゃねぇ――――っ!!!!」

だが、二度目の自制は働かなかった様だ。あからさまな挑発を受け、憔悴していた雷羽の顔に生気が戻る。
そして次の瞬間、雷羽を覆っていた異能の氷が雷羽の身体に 吸い込まれた 
砕けたのでもなく溶けたのでも無く、ただ吸い込まれた。
かつて『アダム』を吸収した時の様に。
そうしてそのまま力づくで残った鎖を砕くと、雷羽はすっくと立ち上がる。
不気味な事に。
薬や科学的な処置で衰弱させられていた筈であるにも関わらず、
不気味な事に、何の影響も無いかの様に雷羽は立ち上がる。
立ち上がり、目の前の黒いゴスロリ少女に殴りかかり――――寸止めをした。
拳が巻き起こした風が、ゴスロリ少女の頬を撫でる

「ふんっ……勘違いするんじゃねぇぞ! 俺様は、助けられた事に感謝なんてしてねぇからな!!
 ただ、ボスの命令だっていうから貴様を殴らんだけだ!!」

目を吊り上げながらツンデレの様で実はツンデレではない台詞を言うと、
反対の腕で右横の壁を殴り砕く。そこにいたのは、雷羽を拘束していた氷使いの子悪党。
恐怖に震えているその子悪党を一瞥すると、雷羽は子悪党に背を向け、ゴスロリ少女の方を向く。

「……で、ここから先はどうするつもりだ。貴様の言う事を聞くなぞ不愉快極まりねぇが、
 ボスの命令っていうから今回だけは聞いてやるぜ」

それにしても、この旋風院。黒いゴスロリ少女が彼のボスの命令(頼み)で動いているという
事を全く疑っていない。恐らくは、『ボス』が目の前の少女をも従える器であると信じているのだろう

90 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 00:24:48 0
足止めを買って出た真性と、走り去る秤乃
ここで真性を無視し、秤乃を潰しに向かおうとする者がでるのが普通(?)だが
姿の見えない何者か達はそうはしない
矯正所内のヴィランが脱獄しようとすれば入念に施された拘束衣の自爆装置なり各通路なりに仕掛けられたTNT火薬でいくらでも始末できる
また、出入り口はこの通路しかない以上、最悪でも戻ってきたところを叩けばいい
ならば折角相手が戦力を分散させてくれたのだ
ここを叩かない手は無い

突如秤乃が去った瞬間、バサリと言う勢いの良い音と共に風呂敷の様な迷彩に隠れていた黒装束の男が真性の目の前に現れ

天井から迷彩を被ったままの別の一人が真性にナイフで斬りつけて来た!!
更に体制の崩れた真性目掛け、迷彩を取ったもう一人も腰の拳銃を引き抜き、発砲する

91 名前:トリッシュ ◆.H4UqpaW3Y [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:55:34 O
話は少し遡る。

少女の涙交じりの問いを聞きながらトリッシュは眉1つ動かさずドーナツを頬張る。
その表情に否定の色は無く、真剣な眼差しを少女に向けながらゆっくりと咀嚼し、コーヒーで流し込んだ。
そして、少女の問いに対し、答えようと口を開いた瞬間、ノックがそれを阻んだ。
「…どうぞ」
その声と共に入室してきたのはトリッシュの判断に異を唱えた矯正所の職員だった。
すぐさま詳しい事情と自分の見解を話すたが、あの男は矯正所に引き取られることになってしまった。
「…連中は無駄な労力を裂くのが好きみたいね。あんな廃人をいくら洗脳したってたかが知れているのに」
ポツリとそう呟いた後、再度コーヒーを一啜りし、遂に先ほどの出掛かった答えを話し始めた。
「確かにアナタとあの探偵もどきのやった事はさほど変わりないわ
 でもね。決定的に違う点が1つ…2つあるわ
 あなたはヒーローとしてあの男を殺した。操られていようがいまいが、あの男はそれだけの罪を犯している訳だし
 それに、貴女が動かなかったら全員死んでいたわ、法律的には正当防衛は成立していたし
 法律を抜きにしても、やむを得な…いえ、やらねばいけなかったわ
 じゃあ、探偵もどきはっていえば、いつもどおり仕事をこなしていた警備員を殴り倒していたわね
 一般人としての行為なら、普通に傷害罪ね。ヒーローとしての行為なら…ハッ
 話にならないわね。自分の都合の為に何の罪も無い人間に暴力を振るって居る時点で失格
 それに私に用事があるなら、電話一本かければ済む話でしょ?
 それ以外にもウチの警備員を殴り倒さずに屋敷に入り込む方法はあったはずでしょ?
 不要な暴力を一般人に向けた彼に正義を名乗る資格なんて…無いわよ」
自分の見解を少女に話した後、トリッシュはブラックダイヤモンドの説明を求めた。

一通り説明を聞いた後、彼女の胸中に1つの疑問が浮かんだ。
「でも、不思議ね。なんどか手にとって見たけど、悪への誘惑なんてものは無かったし
 スーパーパワーが身についたわけじゃないし・・・ねぇ、そういう特殊な一例とかって」
話をしている最中、トリッシュの携帯が鳴り会話を途切れさせる。
「……いい知らせよ。少なくともあなたにとってはね、お嬢ちゃん。
 あのイカレ犯罪者、狂ってなんかいなかったみたい。矯正所に突っ込んで大暴れしてるらしいわ」
矯正所襲撃の知らせであった。

そして、話は少し飛ぶ

石原からも

92 名前:トリッシュ ◆.H4UqpaW3Y [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:56:59 O
そして、話は少し飛ぶ

石原からもらったMk-4を装着し、出撃しようとした瞬間、石原が止める。
「ちょっと待ったハニー、親父さんからのプレゼントを忘れていた。」
そう言って石原はトリッシュが見慣れたものを手渡す。
「リアクターじゃない。リアクターは私の発明だけど」
「その通りさハニー、これは僕からのだよ。
 親父さんのプレゼントはアーマーの中に入っているよ
 さっき説明できなくてね。細かいことはマイケル伝いでアイヴィスに説明しているから安心してくれ
 リアクターは腰のところにつける場所があるから、そこに頼むよ」
「あっそ…じゃあいって来るわね」
覚悟を決めた光の後を追う様に、飛び上がった。

現場に到着するや否や、相手が何かを仕掛けてくるよりも早く掌を構え
「――アンタ、随分と大立ち回りしてくれたわね。半分くらいは何の事だかは分からなかったけど、
 これだけはハッキリしてるわ。……アンタが、ここで死ななきゃ駄目な存在だって事はね!」

93 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/07(月) 01:03:28 0
>>88
相対する敵が戦意を喪失するどころか、逃げる気力すら失われているのを見たレギン・サマイドは、歩みを止めた。
「きみは『恐怖』と『絶望』を覚えたな。
 なるほど、では、今の諸君らに相応しいのは、この姿だな」
再び、彼の肉体が粘土のようにぐにゃぐにゃと歪んで姿を変えた。
それは、多くの人間が死を連想する、骸骨の姿(体格は相変わらず大柄なままだ)だった。
その姿が、明確な恐怖や絶望を感じている(少なくとも、この怪人にはそう見えたのだ)、今の宙野景一に相対するに相応しい姿であると、彼は思ったのだろう。
カタカタと軽い音を立てて、ゆっくりと宙野景一へと歩み寄ってきた。

こうした遊び心や茶目っ気は、よきヴィランであるために欠くべからざるものであるというのが、彼のポリシーである。
だが、それはレギン・サマイドの最大の欠点であり、彼を打倒しようと目指すヒーローにとっては付け入る隙となる。
たった今変化した骸骨のような姿には、胸を覆う皮膚や大胸筋の類が無いので、よく観察すれば、肋骨の隙間から心臓が見える。
彼の『本質』であり、『本体』でもあるその物体――真っ黒な宝石の球体――は、そこにあった。

さて、茫然自失になった宙野景一に、レギン・サマイドが呼びかけた。

「きみはヒーローかな?
 どうだ、ヒーローとは気楽なものだっただろう?
 彼等は力無き者たちの希望であり、順当に行けば周りから愛される存在だ。
 巨悪に立ち向かい、力及ばず道半ばに倒れたとしても、その勇気と正義は皆に讃えられうる、恵まれた立ち位置にある。
 ところが悪党はどうだ?
 他者を傷つけ、周りから嫌われるようなことをすること自体を生業としている。
 彼等は愛情や賞賛をといった素晴らしきものを受け取ることを敢えて拒否する、苦難の道を歩んでいるのだ。
 それに、ヒーローと違って、悪党には創意工夫も必要だ。
 どんな悪事を働くか、どのように目的を実現するかを常に考えねばならない。
 だが、ヒーローは何も考えなくてもできる楽な仕事だ。
 何も考えずに悪党を追いかけ、追い詰め、打倒するだけで、ヒーローとして栄光と喝采を浴び続けることができるからな」

骸骨の怪人と化したレギン・サマイドは、ゆっくりと宙野景一の胸へと手を伸ばした。
「きみはヒーローでありたいのかな?
 いや、君はこれから死ぬことになるが、生まれ変わったときには、望んだものになれるかも知れんぞ」
死神の手に見えるかも知れないが、実のところ、レギン・サマイドは神の類とは違う。
故に、レギン・サマイドは油断もするし、不意打ちを受けることもある。

【宙野さんに手を伸ばします。何の対処もしないままだと、死ぬかも知れません。】

94 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/06/08(火) 18:04:50 0
>>92
「さぁ、僕のやるべき事をやるかな。マイケル、不知火重工の皆さんの様子はどうだい?」

≪ご主人様、残念ながら戦況は最悪です。もはや収集が付きそうにありません≫

ふぅ、と溜息を吐きマダオは胸元にあるスーツケースを見つめる。
まだ試作品であるが、この状況で可愛いレディと一般社員に平和を任せておくのは
一流の男として許せない。
マダオの矜持が、その身を自然に動かした。

≪アイアンジョーカーU アクティブ≫

「さぁ、行こうか。快適なドライブの始まりだ。」

スーツケースが変形し、マダオの身を包む。
強固な鎧を纏ったマダオ、いやアイアンジョーカーが背中に背負ったジェットで
で飛び去っていく。

>>93
>「きみはヒーローでありたいのかな?
>いや、君はこれから死ぬことになるが、生まれ変わったときには、望んだものになれるかも知れんぞ」

≪不知火重工の兵器確認、敵判別不能です≫

「やぁ、不知火重工の君。随分とやられているようだが、まだ立てるかい?」

宙野の耳元でノイズ交じりに男の声が聞こえる。
その声は場に似つかわしくない、陽気で何処か澄んだ声だ。

「いや、立てるだろ?君にも、自分が今何をすべきかは分かってるはずだ。
君自身の矜持ってやつを……ぶつけてやればいいのさ。」

レギンの顔面に向け、切り離したジェットブースターが向かう。
同時に宙野の背後に、アイアンジョーカーが地面に亀裂を入れるほどの拳を叩き込みながら着地した。

「やぁ、ヴィラン。それじゃ、反撃開始といこうか。」

【(久しぶりの参加で申し訳ありません。)宙野に加勢】

95 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/06/10(木) 07:13:39 0
前回までのあらすじ。ここは俺に任せて先へ行ってもらった。

>「……言ったわね? 言っとくけど、勝てそうに無かったら無理に抵抗しちゃ駄目よ?捕まっても、私が助けてあげるから。安心しなさいな」

おもむろに死亡フラグを立ててみた俺に、相変わらずの保護者面を残して、黒ゴスは下に降りていった。
俺はひらひらとハンカチを振って切り火する。火打ち石でも打とうかと思ったが、ここが戦場だということを思い出して自重。

「……行ったか」

ハンカチを綺麗に折りたたんでジーンズのポケットに仕舞うと、対峙する警備員の連中と対峙する。
こいつらはいわゆる一般の警備員とは違う。対異能戦の訓練と装備を受けた特殊部隊的な戦闘員だ。
つまり、『異能者にとって一番嫌なこと』を把握し実行できる奴ら。

「さてと。そんじゃ早速始めるか――未来への露払いを!」

俺が臨戦の構えをとると同時。その出鼻を挫くように、眼前に何かが出現した。
それが迷彩を解いた警備員の一人だと理解すると同時に、脳裏に湧き上がる疑問。なんでこいつ、わざわざ姿を表した?
こっちからは見えてなかったんだから、消えたまま攻撃すりゃいいものを。

――答えは、上から降ってきた。

「おおっ!?」

風切り音に悪寒が走り、咄嗟に膝を曲げて頭を下げる。そこを、煌めく白刃が下弦の弧を描いて迸っていく。
陽動!伏兵!目の前のこいつはただの目眩まし!!――注意を引いて、本命の一撃を視界から外す為の!
まんまと体勢を崩される。だが、おかげでこいつらの狙いは大体読めた。直感と予測が正しければ、『このナイフも布石』。

「――そっちか!」

ナイフに気をとられてるうちに陽動の方も腰から拳銃を抜き放ちこちらに向けて発砲する。
至近距離でぶっぱなされた銃弾は恐らく殺傷力よりも制圧力に特化した代物。痛いけど強化した身体なら死にはしない。

「だから怖くねえ!!」

"神様"を纏わせた拳で『銃弾ごと』殴り抜く。衝撃を『吸収』し、その手で陽動のボディープレートに触れて『放出』する。
銃弾の威力をそのまま、俺の腕力も味付けして装甲服の胴へ叩き込み、思いっきり振り抜くと、重装備の警備員が僅かに浮いた。

「<パラダイムボトル>。形状『摩擦減滅《ゼロフリクション》』――!」

警備員の足元に"神様"を薄く展開し、足裏と地面との摩擦係数を0にする。対応される前に体幹へミドルキックをぶち込む。
踏ん張りの効かない状態で押された警備員は、そのまま為す術もなく通路の端まで滑っていった。

「よっしゃああああああじゃんじゃん来いやおらああああああああああああ!!」

心に沈殿していく恐怖とかその他諸々を無理やり押さえつけ、俺は吼えた。威嚇行為の基本は、如何に相手より上から目線になるかだ。
雄叫びとか咆哮と呼ばれる威嚇行為は、その効果を相手よりもむしろ自分に期待する。テンションを上げるため、自身を鼓舞するのだ。

人はそれを、虚勢という。

天井からの襲撃者のナイフだけが姿を見せて、こちらの首を狩りに来る。俺はそれを見切って躱し、振り抜かれる刃を潜って懐へ肉迫する。
充分な屈脚で得たバネを存分に解放。全体重を乗せてロケット砲になった頭突きは、狙い過たずナイフを握る手首へ激突した。


【迷彩を解いた方を通路の端まで滑らせる。ナイフ使いの攻撃を躱し、姿が見えないのでとりあえずナイフの根元に頭突き】

96 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/12(土) 14:58:28 0
> 「こ な く そ がああああああっ!!!!!
>  この俺様をばかにするんじゃねぇ――――っ!!!!」

裂帛の気合が部屋の中の硬質な空気に亀裂を走らせると同時に、旋風院雷羽を封じていた氷が一瞬の内に消滅した。
いえ、違うわね。ほんの一瞬の出来事だったけど、今のは確かに。
――異能の産物である氷塊を、自分の中に吸収した。
忽ち私の意識の水面に、記憶の奥底に沈めていたあの日の情景が浮かび上がる。
トリッシュ邸で私が巡り合わせたアダムと合体ではなく、明らかに科学の域を逸脱した融合を果たした彼の姿が。
或いは、アレが悪の組織の技術の粋なのかも知れないけど。
いずれにしても、稀有な能力だわ。
このまま見据えれば一体どんな花が開くのか、楽しみになっちゃうくらいにね。
とは言え、彼がそれを自覚しているのかって言ったら、甚だ疑問なんだけど――

> 「ふんっ……勘違いするんじゃねぇぞ! 俺様は、助けられた事に感謝なんてしてねぇからな!!
>  ただ、ボスの命令だっていうから貴様を殴らんだけだ!!」

頬を撫ぜる旋風が私の思考を断ち切った。
そして目の前には、旋風院雷羽の剛拳が寸での所で制止されている。
……考え事をしていたから? いいえ、そうじゃなかったわ。
見えたのは彼が私に歩み寄り、拳を振り被る所まで。拳の軌跡は、影すら見えなかった
それはつまり、もし彼がもう少しお馬鹿さんだったら、私はここで潰えていたと言う事で。

思わず、私は口元が嬉々の曲線を描く事を禁じ得なかった。
本当に素敵なタキシードじゃない、貴方。
貴方と相見える時は、とても素敵なダンスが踊れそうだわ。
やだわ、口元が緩んでいくのを、抑えられないじゃない。

これよ、これこそが私の生業なの。
紙一重で、私はヴィランに『生かされた』。
まだ利用価値があるからって。この男がそこまで考えているかはともかく、大意は変わらないわ。
そして私はその期待に応えて彼を、彼らをより巨大で強大な悪に、素敵な花へと咲き誇らせてあげるのよ。
いつか摘み取って、『ヒーロー』達に贈る為にね。

この危うく朧気な臨界点の見極めを、綱渡りをしている内は、私はきっと大丈夫。
私が悪意に侵されている事を、私は否定しないわ。
だけど私は彼らとは、『ヴィラン』達とは決して相容れない。
それどころかいつ殺されたって、おかしくないの。
私と彼らは何処まで行っても平行線の水と油で、私は彼らにはなれない。なったりしない。

> 「……で、ここから先はどうするつもりだ。貴様の言う事を聞くなぞ不愉快極まりねぇが、
>  ボスの命令っていうから今回だけは聞いてやるぜ」

ただ、唯一の気がかりが一人だけ。
旋風院の言葉を無視して頭上を見上げる。
彼我の距離があり過ぎて、何が起こっているのかは殆ど分からなかった。

「……お友達とのお別れは済んだかしら。あら? 違うって? 
 ごめんなさいね、さっきまでの情けない貴方とそっくりだったから、つい」

振り返り、旋風院を見据える。私は、真性を信じた。
それが愚かな事だったとは分かっているけど、彼を信じた私を、私は疑わない。
だから今向き合うべきは旋風院雷羽、この男よ。

「ともあれ、私が頼まれたのはここから貴方を助け出す事なのよね。だからおウチに帰るまでがお使いです、って所かしら?
 だって貴方がヘマを踏まなきゃ一人でも出られるでしょうけど、不安が残るじゃない? 迷子とか、また捕まっちゃうとか、ねえ?
 だから貴方の好きにすればいいわよ。小間使いとして道案内と露払いをさせるもよし、古いお友達がここにいるなら、探すのを手伝ってあげたっていいわ」


【遅れてすいませんでした】

97 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/06/12(土) 19:35:30 0
呆けている宙野に、レギンが近づいてくる…
心が空っぽになっていた宙野には、迫り来るレギンをただ呆然ただ呆然と見つめるしかない
そんな宙野に、レギンが語りかけてくる

>「きみはヒーローかな?

思考能力を失った宙野には、脊髄反射的に答えが浮かんだ
違う、自分はヒーローではない

>どうだ、ヒーローとは気楽なものだっただろう?
>彼等は力無き者たちの希望であり、順当に行けば周りから愛される存在だ。
>巨悪に立ち向かい、力及ばず道半ばに倒れたとしても、その勇気と正義は皆に讃えられうる、恵まれた立ち位置にある。

宙野の脳裏に即座に言葉が浮かぶ
違う
少なくとも自分は違う
『守られるのが当然』の国民のために命をはり、失敗すれば味方や守る対象に散々に叩かれ、金を返せと怒られ、勝ち続ける事を義務付けられた存在だ
勇気とやらで振るいたったらしい好き勝手やっている連中とは違う
適材適所で戦う位置につけられただけの、頭のいい連中にこき使われる、ルールにがんじがらめにされて何もできない……兵隊

話を聞くにつれ、レギンが何を語っているのかを、宙野は理解した
ただの持論だ
要するに先手を打って何かをなす人間の方が素晴らしいという、自分の行動を美化するだけのただの持論だ

>「きみはヒーローでありたいのかな?
>いや、君はこれから死ぬことになるが、生まれ変わったときには、望んだものになれるかも知れんぞ」

死神が手を伸ばして来た時、宙野景一は心から思った
「こんな好き勝手やっているだけの奴に、殺されて、自分の人生全否定されてなるものか!」と

生存本能が湧き出、レギンを蹴り飛ばそうとした時、どこからか飛んできたブースターが命中し、レギンを吹き飛ばし、宙野との距離を引き離していく
同時に、宙野の後ろに、アイアンジョーカーが着地した
呆けていたために聞き逃していたアイアンジョーカーの声が、そこでようやく宙野の耳に入ってくる

>「いや、立てるだろ?君にも、自分が今何をすべきかは分かってるはずだ。
>君自身の矜持ってやつを……ぶつけてやればいいのさ。」

のそりと立ち上がった宙野は、周囲を見る
不知火重工の装甲警備隊と、指揮車を破壊した赤い敵の前には、いつの間にか現れたアイアンメイデンと、見た事が無いゴスロリ姿の…恐らくヒーローだろう少女が対峙していた

「ヒーロー……か……」

完全武装の大部隊が適わない怪物に、幾ら最先端の武器を身につけているとはいえ、単身立ち向かっていく彼らの姿に、宙野はぼそりとつぶやくと、通信機の波長を混乱するメタルエース隊に合わせる
「こちらメタルボーガー…矢車隊長は戦死した。臨時で俺が指揮を執る。火力を集中し赤いヴィランを総攻撃、アイアンメイデンを援護せよ」
『…了解!』
アイアンメイデンを援護の言葉に多少戸惑ったらしいメタルエースのパイロットだったが、すぐに威勢のいい返事をし、次いでクリムゾンキング目掛け大口径砲弾とミサイルを長距離から撃ち出して行く
宙野はそれを確認すると、横のジョーカーへと通信回線を戻し、早口で叫んだ
「あのヴィランは触れた者を爆破する能力と高い再生能力、変形能力を持っている。通常兵器は役に立たない。効果的と思われる特殊兵器を内蔵していますか?」
言いながら、自身もレギンに対し身構える

98 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/06/12(土) 19:45:34 0
真性の頭突きを受けたナイフを持った警備員は姿勢を崩し、ナイフを取りこぼしてしまう
同時に迷彩がとれ、黒い戦闘服があらわになる
追撃をかけようとする真性に、突如背後から真性の頭部に強力なキックが叩き込まれた
「もう一人」天井にいたのだ
体勢を崩す真性に、眼前の迷彩が解けた一人が今さっきまで自分がつけていた風呂敷状の迷彩をばさりとマントの様に動かし、真性の両手に巻きつけた
そこで後ろから「もう一人」が真性を羽交い絞めにし、そこに姿の解けた方が鋭い拳を顔面に次々叩き込む

99 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/06/12(土) 19:49:13 0
旋風院と神楽がいる部屋のドアが勢いよく開いて、グレネードガンとアサルトライフルで武装した兵隊が突入し、神楽と旋風院目掛け一斉射撃を行う
真性を迎撃している部隊とは異なり、通常の防弾チョッキと防弾メット姿の一団だ

【失礼、まとめて送る前に送ってしまいました】

100 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:17:21 0
>>94
ロケットブースターが頭部に直撃し、彼の頭蓋骨が粉々に砕け散った。
しかし、少しよろめいただけであった。
彼の「本質」は、頭蓋骨には無い。肋骨の隙間から、黒い球体が見える。
「新手か。しばらく、悪党だけで楽しもうと思ったが」
「さて、凡百のヴィランにとって、悪事は手段であるが――多くのヒーローは、活動そのものが目的だ」
これもまた、彼の持論だ。
しかし、実のところ、悪そのものを目的としているヴィランは、実はそれほど多くはない。
自らの欲望を満たすための手段として、悪事を選んでいるだけという例が大多数だ。
「しかし、ヒーローの活動が『目的』ではなく『手段』であることは少ない。
 前に活動していたときは、そういうヒーローは少数派だったものだが」
そして、ヒーローもまた、その活動の見返りとして、金銭のような俗な利益を求めてはいない……はずだった。
少なくとも、彼はそう考えていたのだ。
時代の流れの変化なのかも知れない。
現代は、単純に「ヒーローと悪党が戦っている」だけの構図ではなくなってきているのだ。

>>97
あらためて宙野景一へと向き直った。
「きみは、損な人生をあえて歩む求道者だな。
 ヒーローは仕事や義務と思ってやると、気が重いぞ。
 警察官は人気の無い職業だということが、それをよく表している」
現実における今年の某県警の採用予定者数に対する申込者数の倍率は、区分によっては一次の時点ですら5倍に満たない。
とても不況における公務員とは思えない倍率である。
合法的にヒーローになれるということは、案外魅力的でも何でもないのかも知れない。

「ああ、また姿を変えた方が良いかな?
 どうやら恐怖は克服したようだし……」
骸骨は粘土をこねるように、またしても姿を変える。
今度は全身をメタリックな銀色のスーツに身を包んでいる、人型の機械のようだった。
現代科学の粋を集めた兵器でもって戦う二人にとって相応しい姿として、「宇宙から来た侵略ロボット」を選んだのだろう。
そのデザインからは微妙なセンスのズレが伺えたが、素面でブラックダイヤ団とか言い出す奴なので、しょうがない。
骸骨のときと比べると体積が増えているが、足元の床や機械の残骸を分子分解して変換しているのだろう。
また、ご丁寧に光と音を出す玩具みたいな光線銃を持っているが、困ったことに、これが本物の武器であった。
彼は光線銃の引き金を引き、熱光線を放って攻撃をしてきたのだった。

101 名前:アイアンジョーカーMk2 ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/06/15(火) 15:14:40 0
>>97
通信機越しに、体勢を立て直し始めた不知火重工の兵士達の声が聞こえる。

>「こちらメタルボーガー…矢車隊長は戦死した。臨時で俺が指揮を執る。火力を集中し赤いヴィランを総攻撃、アイアンメイデンを援護せよ」
>『…了解!』

≪市軍にも救援を要請しました。メタルマンの配備を命令、周辺10km以内の市民の退去を勧告。≫

既に、市軍を周辺10km地点にまで展開させている。
不知火重工の私軍とは別に、都市防衛の為に警察予備隊から試験的に
組織させた軍隊である。

「OKだ、マイケル。市軍にはあくまで市民の退避を最優先させてくれ。
それに、この収容所にいる看守や医師もだ。」

≪了解しました。―ですが、ご主人様。まずはメタルボーガーと共同で
前方の脅威を排除しなければなりません≫

目の前にいるのは、未確認の敵。
その姿をスキャニングし、都市のデータベースに収納されている
ヴィランファイルと称号する。だが――

≪該当人物、及び生物存在しません。条件を変更して検索を再度行いますか?≫

「新手か……それにしても、奇妙なヴィランだな。」

>「あのヴィランは触れた者を爆破する能力と高い再生能力、変形能力を持っている。通常兵器は役に立たない。
>効果的と思われる特殊兵器を内蔵していますか?」

「おいおい、ジョークだろ?そんな奴、漫画やアニメの中のキャラじゃないか。
いや、この街じゃそれも有り得るかもしれないな。」

目の前の怪物が、本当に”モンスター”であるとメタルボーガーが伝える。
マダオは現状を考え、冷静に答える。

「そうだな……相手が何者で、どういう弱点があるかは分からない。
その点に関しちゃ君も私も、同じ立場だな。」

>>100
>骸骨は粘土をこねるように、またしても姿を変える。
>今度は全身をメタリックな銀色のスーツに身を包んでいる、人型の機械のようだった。

≪スキャニング更に細部へ……敵は姿を自在に変えれる模様。
……≫



102 名前:アイアンジョーカーMk2 ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/06/15(火) 15:18:33 0
マイケルに敵の正体を探らせながら、マダオはメタルボーガーの前へ飛び出す。
アイアンジョーカーMK2は携帯型のパワードスーツであり、
戦闘時のスピードはアイアンジョーカーに勝る。

「私が敵を引き付けよう!!君は、マイケルの言葉に耳を傾けてくれ!!」

>彼は光線銃の引き金を引き、熱光線を放って攻撃をしてきたのだった。

「ッ……!!随分と派手な手品だ。こいつはヤバいかもなっ…!!」

身軽さにものをいわせ、光線を寸前で回避していく。
そして、敵の腕がこちらへ伸びる前に右腕の小型バルカンを連射していく。

「ヒーローなんて誰もやりたがらない仕事さ。名声を得たい奴や
金目当ての奴らが大半だ。今となっちゃね。
だが、今の時代も捨てたもんじゃない。どんな時代にも、いるだろ?奇特な奴ってのは。
地位も名誉もいらない。何かを守る為に戦う”信念”を持った奴が。
いや、人間自体捨てたもんじゃないさ。」


≪メタルボーガー、検索報告を行います。
敵、以前に数件の該当箇所アリ。年別に計測しますと、100年前の文献にも存在します。≫

メタルボーガーに男性の声で無線通信が届く。
極めて事務的で冷静なその声がメタルボーガーを導く。

≪肋骨の隙間にエネルギーゲインあり。そこを狙ってください≫

狙えますか?ではない。狙えというCPUらしい冷徹な言葉だ。

「イチかバチかっていうだろ?君ならやれるさ…いや、やるんだ!!」




103 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/06/17(木) 01:01:08 0
前回までのあらすじ:ロケット頭突き

頭蓋骨から伝わってくるクリーンヒットの手応えと、呼応するように足元で響くナイフが床に落ちた音。
目の前の敵の迷彩が剥がれ、黒の戦闘服に身を包んだ警備員の姿をはっきりと見た。

隙だらけ、超チャンスだ!

「超!絶!必!殺! パラダーイムb――あがっ!?」

追撃をかけようとした俺の後頭部に鋭い衝撃が炸裂し、視界が明滅する。
ああ畜生、まだ伏兵がいやがったか!動かない体の中で空回りする思考。上滑りする視界。超ヤバい。

「――っの野郎!!」

駄目押しで拳を突き出してみるが、逆に迷彩シートで腕ごと絡め取られてしまう。
対応し切れない。後ろから羽交い絞めにされ、スタンドもかくやなラッシュが顔面に叩き込まれる。殴られまくる。
ヤッダッバァァーーッ!やってる場合じゃねえ!痛い痛いマジやめて顔はやめろ!これ以上男前になる見込みないってのに!
訓練された警備員だけあって、拘束に隙がない。人体構造を正しく把握しているが故の、絶対制圧。肘から上が動かない。

「っが……く、そ……!!」

殴られ続ける。下手に身体強化しているものだから意識だけはしっかりと繋ぎ止められて、断続的に痛みが走る。
頬骨を抉る音。顎を打たれて脳が弾む音。アッパーカットで突き上げられて、前歯が唇を裂く感触。溢れ出る血液。広がる鉄の味。

『捕まっても、私が助けてあげるから。安心しなさいな』

はいせんせー、今捕まってまーす。
先生いねえじゃん!あいつが下に降りてからまだ一分そこらしか経ってない。戻ってくるのは絶望的、声だって届かない。
正真正銘の絶体絶命。俺はまた、情けない結果に苦虫を噛み潰すのか?

「断じて――」

否。
口の中を満たし始めた血と唾液の混合物を、

――――思いっきり吐きつけた。俺を殴る警備員の顔面へ。

血唾は狙い過たず警備員の眉間へと着弾し、一時的にだが視界を塞ぐ。俺は即座に重心を落とし、羽交い絞めにしてる奴の腰を持ち上げる。
そのまま身体強化に任せて持ち上げ、お辞儀をするように一気に背負投げた。後ろの敵が放られた先は血唾に怯んだ警備員の顔面。

「パラダイムボトル!形状『瞬間接着《ハイパートリモチ》』――!!」

哀れ額をぶつけ合った警備員達は"神様"入りの血唾でお互いの眉間を接着された。
俺は肩に背負っていたショットガンの銃身を握り、木製のストックでフルスイング。くっついた二つの頭にクリーンヒットし、くっついたまま床に沈んだ。
ストックぶつけた瞬間にショットシェルが暴発して部屋内をしこたま跳弾したので、次からは弾を抜いてやろうと思います。反省。


【警備員の頭同士をくっつけて銃のストックを叩き込む】

104 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/06/17(木) 23:09:03 0
「ともあれ、私が頼まれたのはここから貴方を助け出す事なのよね。だからおウチに帰るまでがお使いです、って所かしら?
 だって貴方がヘマを踏まなきゃ一人でも出られるでしょうけど、不安が残るじゃない? 迷子とか、また捕まっちゃうとか、ねえ?
 だから貴方の好きにすればいいわよ。小間使いとして道案内と露払いをさせるもよし、古いお友達がここにいるなら、探すのを手伝ってあげたっていいわ」

黒い少女の挑発的な言葉に対し、雷羽は額にビキビキと青筋を浮かべ少女を睨み付ける。
だが、それだけ。ボスの命令という縛りがある為、あくまで睨みつけるに留まった。

「このガキンチョ……!貴様がボスの命令で動いてるんじゃなかったら、躊躇わずにメタメタにしてやる所だぜっ……! 
 そもそも、この場所に捕まってるボスの部下を助けようにも俺様はそいつらの顔を知らねぇんだよ。
 だから、俺様はボスの言う通りここを脱出するだけだ。貴様は俺様の後ろでも寂しく道案内でもしてやがれ!
 ……あん? そういや、俺は幹部なのにどうしてボスの部下の顔を知らんのだ……?」

苛立ちながら言葉を吐き捨てていた雷羽が、ふと頭にクエスチョンマークを浮かべたその瞬間である
破砕するかのように勢い良く開いたドア。直後に響く銃撃音。
――――法の番犬のお出ましであった。

「のああああああっ!!?」

咄嗟にブラックアダムへと変身をする雷羽。銃撃が行われるよりも尚早く黒い霧に包まれ変身した、
まるで堕ちたヒーローの様なその黒い姿。その装甲が、甲高い金属音を響かせながら、命中した
弾丸を全て弾き飛ばしている。
強襲部隊の顔に驚きが浮かぶ。恐らくは『矯正』を受けていた雷羽が既に変身が可能な程に回復して
いるとは思いもよらなかったのだろう。だが、その驚愕は一瞬だけ。
彼らは腐っても法の体現者。直ぐに冷静さを取り戻すと、横に隊列を組みグレネードガンを構えた。
それが意味する物は即ち、大火力による一斉攻撃。
小規模な攻撃の連打が効かないのならば、大規模な一撃でダメージを与えようという考えだった。
そして、その考えは間違っていない。
ブラックアダムの装甲は堅牢だが、攻撃が効かないという訳ではないのだ。
現に、アイアンメイデンのリアクターレイは彼の装甲にダメージを与えている。
これだけの量のグレネードを打ち込まれれば、ブラックアダムにもダメージは通る。

そう、通るのだ。ただし、先程までのブラックアダムが相手だったなら、だが。


105 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/06/17(木) 23:10:21 0
一瞬、ブラックアダムのボディを走る白銀の線が、薄い水色に発光した。
直後に、ゴン、ゴン、と鈍い音が響く。グレネードは雷羽に命中した。確かに命中した。
だが――――爆発しなかった。全てのグレネードは、ただの鉛の塊として雷羽に当たっただけだった。

「……び、ビックリしたじゃねーか!! 貴様ら、この雷羽様をこんな訳のわからねぇ施設にぶち込んだり
 挙句にこんなもん撃ってきたりしやがって……許さねぇ! 一人残らず、ギッタギタのメタメタに
 してやるからな!! 行くぞオラァ!!!!」

呆然としている強襲部隊。グレネードが爆発しなかった事に呆けている様だ。
だが、そんな彼らを容赦なくブラックアダムは襲撃する。
強襲部隊は慌てて攻撃に出るが、銃弾は全て弾かれ、グレネードは何故か爆発しない。
攻撃が通用しないという恐怖に晒され、顔を歪ませる隊員達に雷羽は容赦なく拳を叩き込んだ。
黒い少女への鬱憤の混ざったその攻撃は、一撃で隊員の腕の骨を砕き、足の骨をへし折る。
阿鼻叫喚の地獄絵図。なまじ雷羽が致命傷となる攻撃を行わない為、幾つもの苦悶と苦痛の声が
白い部屋に響き渡る事となっていった。

「なーっはっはっは!! この俺様をコケにした罰だ!存分に泣きやがれ、ばーかばーか!!!!」

そんな隊員たちを見てバカ笑いする雷羽。
やがて、一通り憂さを晴らしてすっきりしたのか、雷羽は黒い少女の方を振り返り言った。

「おい、ガキンチョ。俺様はもうすっきりしたからもう行くぞ。
 それから、そこの壁際に隠れやがるヘタレ野郎は殴る気にもならんから、貴様がなんとかしやがれ」

雷羽が視線を向けた先には、一人の強襲部隊の隊員の姿。
その隊員は、雷羽が反撃を開始した直後に悲鳴を挙げて物陰に隠れた男だった。
彼は今、氷使いの男に銃を突きつけ、怯えた目で雷羽と黒い少女を見ている。
氷使いの男が人質として使えるとでも思っているのだろうか。

部屋には、うめき声を上げる隊員達と、怯える一人の隊員。
凍ったグレネードの弾丸、そして雷羽と黒いゴスロリの少女――――

106 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/18(金) 20:33:21 0
赤穂郎氏の姿が、塗り潰されていく。
蒼き閃光に、雨霰と注ぐ弾丸と爆撃に。
何よりも、秤乃光の操る陽光によって。
決して比喩や修飾ではなく正真正銘、塗り潰されているのだ。

『秤の一族』はその誰もが、『世界』に関わる異能――と言うよりは『特権』を得る。
暗楽、光の姉妹であれば、『色』に関する絶対的な特権を。
そして秤の一族が行う『天秤からの排除』は本来、この特権を最大限活用して行われる物だった。

即ち、『対象に世界を上書きする事で、その存在を完全に滅殺する』。
文字通り、字面通りの意味で、塗り潰す。
余りにも無情なこの手段を、秤乃光は今初めて執り行う。

自分が真に、秤の一族として歩み出す出発点として。

「……さようなら」

これまでに無い冷冽な眼光で、光は消えゆく赤穂をただ、見据える。
赤穂郎氏は苦痛も何もなく、ただ戦闘の高揚の中に、沈んでいった。



【お疲れ様でした。そして虚飾無しの物言いを致します。
 こうも期間が開くという事は、きっと現実がとてつもなく忙しいか。さもなくばもう貴方の心はこのスレから離れているのでしょう
 いずれにせよ、赤穂郎氏は極悪の、絶対に『ヒーロー』が断罪せねばならない悪役でした。
 その赤穂郎氏がいつまでも動かないとなると、言わばそれは物語進行の、他の人が歩む道を阻む岩となってしまう訳です。
 なのでこのようにして、処理させて頂きました。赤穂氏が避難所を確認しない可能性を考慮し、この場で中の人間の意図を述べさせて頂きました。
 それでは最後にもう一度、お疲れ様でした。】

107 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/18(金) 23:18:02 0
>>102
「なるほど、理想的なヒーローだな。
 他者を守るために困難に立ち向かい、不可能を可能にする。
 そうしたヒーローの存在が、わたしという名の宝石をよく研磨し、更なる輝きを与えてくれる。
 今までがそうだったし、これからもそうだ」
彼は、自分以外の全ては踏み台としか考えていないのだろう。
完全に邪悪なヴィランならば、そうした考えを持っているのが当たり前であるが。
だが、レギン・サマイドは凡百のヴィランとは性質を異にするものだと自負している。
即ち、彼は目的のために悪事を行うのではなく、悪そのものを目的としているのだ。
今、彼は邪悪な行いをすることを強く欲している。

「だが、気高きヒーローよ!わたしに触れても、同じことが言えるかな?
 今のきみは、ヒーローとしての力の大半を、そのスーツに頼っている――つまり、異能を持たない生身の人間だ。違うかな?
 だが、わたしは生物や物体に、特別な力を与えることができる――実を言うと、わたしの異能はこれだけだ。
 奥に居る連中には内緒だがね」
彼の言葉が真実かどうかはさておき。
彼の周囲をとりまくオーラが変質した――オーラなどというものが、視認できるかどうかはともかくとして。
そして、骸骨のような姿から、またしても粘土をこねるようにして姿を変えてゆく。
その間、声だけが周囲に響き渡った。

「どうだね?
 わたしの力で、新たな力に目覚めれば、今よりも快適に『仕事』ができるぞ。
 その結果、ちょっと転職することになるかも知れないが――なに、ヴィランもなかなか気持ちの良い生き方だ。
 何せ窮屈な法や秩序、良識、いや良心の呵責にさえ縛られることがない、格別の開放感があるからな。
 さあ、力を求めるなら我が手をとるがいい!
 正直者には、新しい世界を見せてやろう!」
彼は、生き残った警備兵達に向かって、高らかに呼びかけている。
恐ろしい破壊の異能でもって勇気を挫いた後に、邪悪の道へと誘おうとしているのだ。
変形が終わった。
それは、拝んだらご利益のありそうな、しかし邪悪な気配のする――言うなれば、邪教の偶像のような姿だった。

108 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/06/19(土) 18:41:43 0
>>103>>104
真性の攻撃を受けた警備員二人は昏倒し、気絶する
流石にもう伏兵はいないようだ

旋風院等の方にも戦力が尽きたのか、それ以上武装警備員は現れない

最早邪魔者はいないらしい…、今の所は

109 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/06/19(土) 19:28:42 0
レギンの言葉が終わった瞬間、邪神像の顔面にヒートシルバーの熱線が突き刺さった
無論こんな物は何ら意味は無いのだろうが、しかし、撃たずにはいられなかったのだろう
熱線を発射したメタルボーガーは、先程までの姿が嘘の様にすさまじい怒気を放っている

次々放たれる熱線は、しかしマイケルに指定されたポイントを攻撃せず、レギンの人間で言う急所にのみ命中し、肝心の弱点らしい場所にはかすりはしても一発も命中していない
怒りに身を任せているのだろうか、レーザーを連射しながら、宙野は大声で叫んだ

「笑わせるな!!ヴィラン!!お前達は真面目で良識ある人々が汗水流して支えているこの世界に生かしてもらっておきながら、世界に何も貢献しない
それどころか自分の欲望に任せて社会を食い物にする、ニート以下の社会の癌細胞だ!!
そんなお前達がこの社会で…この世界で幸せに生き続けられるとでも思っているのか!!!
社会はお前たちを決して許さない!必ず追い詰め…地獄に叩き込む!!」

余りのメタルボーガーの覇気に、警備員達は怯み、当然に邪神に近づこうなどしない
近づいたりすれば、メタルボーガーは容赦なく背中を撃つ事を、彼等は察していた

『こちらメタルリーダー、目標殲滅完了、続いてそちらの援護にあたります』
「攻撃開始は30秒待ってくれ」
そこに、クリムゾンキングが殲滅された事で手空きになったメタルエース隊から支援する胸が伝えられ、宙野はそれに応じると
声を落とし、通信機の向こうのマイケルへと呼びかける
「……通信機の向こう、メイデンとジョーカーに例のデータを渡してくれ、作戦はこうだ、100年前の物質の中でメタルエースの搭載火器で破壊できない物はない、と言う事は奴は次の一斉射撃で丸裸になるはずだ
弱点はその時露出する、そこを一気に叩く。チャンスは恐らく一度だ、頼む」
わずかな情報から立てた即席の作戦を早口で伝えながら、宙野はヒートシルバーを撃ち続ける

その姿は、先程の激昂した姿が嘘の様なほどに、冷静で優秀な兵士の雰囲気を醸し出していた

110 名前:アイアンジョーカーMk2 ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/06/19(土) 20:23:05 0
>>107
「くっ…!!」

≪アイアンジョーカー、エネルギー70パーセントに減少≫

レギンの放つ光線が次第にジョーカーを追い詰めていく。
回避している隙に、追撃更に追撃。
電光石火とでもいうべきレギンの猛攻に、遂にジョーカーの体を閃光が叩いた。

「……分かってる!!マイケル、今は分析に集中するんだ……いいな!?」

ジョーカーMK2は先述の通り、機動性においては優秀である。
しかし、その犠牲として装甲が軽量化され防御面は高くは無い。
光線の直撃した右肩から煙を噴出しながら、ジョーカーは攻撃を止めて
語り始めたレギンを見つめる。

>「わたしの力で、新たな力に目覚めれば、今よりも快適に『仕事』ができるぞ。
>その結果、ちょっと転職することになるかも知れないが――なに、ヴィランもなかなか気持ちの良い生き方だ。
>何せ窮屈な法や秩序、良識、いや良心の呵責にさえ縛られることがない、格別の開放感があるからな。
>さあ、力を求めるなら我が手をとるがいい!
>正直者には、新しい世界を見せてやろう!」

「そいつはどうも、ありがとう。この大不況に転職のススメってのは
素晴らしい事だが――辞退させて貰うよ。
確かに、良心なんて下らない。どうしようもない、人間の雑味ってとこだろうな。」



111 名前:アイアンジョーカーMk2 ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/06/19(土) 20:24:58 0
その時、横にいたメタルボーガーが躍り出てレギンに一撃を加えながら
高らかに叫んだ。

>「笑わせるな!!ヴィラン!!お前達は真面目で良識ある人々が汗水流して支えているこの世界に生かしてもらっておきながら、世界に何も貢献しない

ジョーカーも同時に、左肩から小型ミサイルを発射し援護する。
「人間ってのはちっぽけなもんさ。何の力も無い、お前から見れば道端の雑草ってことか。愚かで、醜い。偽善者や、我侭……数えればキリがない。
その手で、人が人を殺める事もあるさ。」

メタルボーガーに追従しながら、変身していくレギンの腹部目掛け
バルカンを連射する。

「……だが、その手で相手の手を握ることもできる。
その時、僕達は1人じゃない。
たとえ、愚かでも弱くても……心がある。その心が、人を強くするのさ。」

≪了解、メタルボーガーの要請によりアイアンメイデンへデータを送信します。
ご主人様、エネルギー減少中です。現在50%…≫

マイケルからのデータを受け取りながらジョーカーは全身に装備された火器を着脱する。
そして、腰部に付けられた装置のスイッチを押す。

「メタルボーガー、了解した。メタルエースの攻撃次第、こちらも追撃に入る。
OKかい?あと、ハニー……僕に何かあれば、後のことは頼む。」

≪ライドを起動させますか?現在のエネルギー残量では、途中で爆発の可能性もあります≫

ジョーカーが起動させようとしているのは、友人の天道寺から譲り受けた
加速装置の試作品。
性能は充分だが、安定性が問題。しかも、ダメージにより起動しても
暴発するかもしれない。
それでも、ジョーカーは止める気などなかった。

≪ジョーカー、オーバードライブ……strat!!≫

メイデン、ボーガーの目の前からジョーカーが消失する。

【加速装置を強引に作動、3機での共同作戦開始】







112 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/20(日) 23:10:45 0
無粋な連中が、物々しい装備を携えて飛び込んでくる。
男女が二人きりでいる部屋に押し掛けるなんて、なってないんじゃなくて?
……なんて言ってる場合でも無さそうね。
襲撃部隊が構えているのは自動小銃と、背の低い円筒型の弾倉を持つ擲弾発射器。
有り体に言うなら、グレネードランチャーよね。
こんな閉所でそんな物をぶっ放されたら、私もちょっと危ないかしら。
自分達の安全を端から度外視した戦術を取られたら、ね。

だけど、私は敢えて何もしないわ。
彼、旋風院雷羽の秘めたる――でもあからさまな、
そのくせ本人は特に意識した素振りも見せない訳の分からない異常。
それを見極める為に。
彼がどうにかしなければ私だってただでは済まないけど、これもまた綱渡りの一歩の内よ。

> 「……び、ビックリしたじゃねーか!! 貴様ら、この雷羽様をこんな訳のわからねぇ施設にぶち込んだり
>  挙句にこんなもん撃ってきたりしやがって……許さねぇ! 一人残らず、ギッタギタのメタメタに
>  してやるからな!! 行くぞオラァ!!!!」

そして、異常はまたも『発現』した。いえ――『再現』したと言うべきかしら。
大暴れする雷羽の足元に転がる氷塊は、彼に向けて射出された擲弾の無様な成れの果て。
彼があんな異能を持っているだなんて聞いた事無いし、これまでに一度だって見た事ない。
奥の手とか隠し持ちそうなタイプでもないしね。
大富豪で言うなら初っ端にジョーカーと2を切っちゃいそうなくらいパーだし。

心の水面に想起されるのは、つい今さっきの出来事。
彼を拘禁する氷を吸収してのけた、異能じゃなくて異常な光景。

> 「なーっはっはっは!! この俺様をコケにした罰だ!存分に泣きやがれ、ばーかばーか!!!!」

やっぱり、雷羽がその事を気にしている様子はない。
それどころか存外、異常の再現すら自覚していないんじゃないの? とすら尋ねたくなる。
箱の中に潜んでいるのが希望か災厄か分からない以上、今は開ける気にはならないけど。

> 「おい、ガキンチョ。俺様はもうすっきりしたからもう行くぞ。
>  それから、そこの壁際に隠れやがるヘタレ野郎は殴る気にもならんから、貴様がなんとかしやがれ」

剣呑な視線を追ってみると、襲撃部隊の一人が涙やら鼻水やらで顔をぐちゃぐちゃにしていた。
物理的にぐちゃぐちゃにされなかっただけ、他の面々よりはマシなのかしら。
ともあれ『ヴィラン』を相手に人質って、ナンセンスにも程があるんじゃないの?
まあ私は私で、所詮悪役の方はごっこ遊びみたいな物なんだしね。避けられるなら、人死には避けるに越した事はないわ。
と言う訳で、

「貴方はそのままでいなさいな。貴方が何もしなければ、私達も何もしないでこの部屋から出て行ってあげる」

113 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/20(日) 23:11:30 0
何だか期せずしてヒーローめいた台詞になっちゃったけど……ま、問題ないでしょ。
最後に何とはなしに目に付いた監視カメラに、ワンドを向ける。
誰だか知らないけど覗き見だなんて、あまり良い趣味とは言えないんじゃなくて?

私の歩みに鈍い動作で追い縋るその目を黒く塗り潰して、私は部屋を出る。
見上げてみると、『矯正所』に囚われていた連中の一部は、地力で脱出を果たし、騒動を一層の物としているようだった。
機に上手く乗じた者、愉悦の気配を悟り秘めていた力で余裕綽々と動き出した者、幸運に救われただけの者。
様々な色が入り交じって、混沌とした情景を描き上げている。

「それじゃ、帰りましょうか。……と言っても、私は上まで飛ばせてもらうけどね。
 エレベーターは止まってるし、そこの螺旋階段を頑張って上るしかないわよ。
 それじゃ、上で待っててあげるから。また捕まったりしないでよね? また下りて往復するなんて二度手間だもの」

少なくとも、お喋りとじゃれ合いの相手には困らないでしょ。
ともあれ、真性がどうなってるかも心配だしね。
……無論、手掛けている花が枯れていないかと言う意味で。

「……真性、無事だったかしら?」

彼の頭上を超えて、そこから緩やかな落下によって手すりへと降り立つ。
ただでさえ整ってない顔面が、一層残念な事になっているのが一目で分かって、少し苦笑いが滲む。

「随分、手酷くやられたみたいね。でも……」

その後ろには幾人もの警備員が昏倒して転がっている。
口元に浮かぶ笑みから苦味が抜け落ちるのを、私は感じた。

「素敵な悪党への第一歩としては、中々順調な滑り出しじゃない?
 それじゃ、帰りましょうか。まさかここにアンタのお友達がいるとは思えないし
 ご老体を余り待たせても、悪いものね」

【レギンさんの元へと引き返します。その時一体どうなっているかは分かりませんが、宙野さん方と衝突するかもです】


114 名前:Villain ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/20(日) 23:12:37 0
ウィリアム・デフォルトは自室に備えた巨大なモニターで、『矯正所』の惨劇を監視していた。
先日、彼の『リアクター・マモン』はアイアンメイデンのただの一撃で、目もくれず撃退されてしまった。
魔石によって一応の実用を得たとは言え、彼我の実力差、力不足は明白だった。

『リアクター・マモン』にはまだまだ強化が必要である。
そもそもRMの持つ特性は『強奪』。
だがRMは完成したばかりで、ろくに異能を有してもいない。
言わば筐体のみで、中身の伴わぬ空箱にも等しかった。

故に、ウィリアムは『矯正所』に目を付けた。
凶悪にして強力な異能の宝庫である『矯正所』に。
そうして唯一であり最大の難関でもある『どのように異能者を調達するか』
の方策を見出すべく彼は監視を行っていたのだが、正に僥倖と言うべきか。
今現在『矯正所』は数名の『ヴィラン』に襲撃を受け混乱に陥り、
あまつさえ拘置していた『ヴィラン』さえ取り逃がしつつある。

かくして野に放たれた悪党達を、ウィリアムは一人一人、着実に喰らっていけばいい。
RMの強化と共に『ヒーロー』としての名声さえもを取り戻す事の出来る、至上の指針だった。

「……ん?」

幾つもの画面に細分化された巨大モニターの一角に、ふとウィリアムは視線を注ぐ。
手元のキーボードに指を走らせると、モニター全体に旋風院雷羽の姿が拡大された。
更に幾つかのキーが叩かれ、今度は彼の行動が逆再生される。

「……コイツは驚いたな。あの『義賊』≪ゲットアビリティ≫と同型の能力じゃないか?」

『義賊』。
かつてこの都市で活躍していた、一人の『ヒーロー』。
『相手の異能を模倣する』と言う特異な異能を持ち、それにより『ヴィラン』達の異能を刃として戦った。
そのスタイルから『恥知らず』等と謗られたもしたが、一方で『形振り構わぬ純然の正義』とも謳われた、異常な異例。
人知れずの内に彼は姿を消し、ヴィランに敗れたのだとも、この都市に留まらずもっと大きな正義を為しに言ったのだとも、噂された。

「……これは掘り出し物だ。奴の能力を強奪すれば僕のRMはより完成へと近付き……第二の『義賊』を名乗る事だって夢じゃない」


不意に、画面が切り替わる。
そこにはウィリアムが標的と定める面々がリストアップされていた。
中でも最上位に刻まれた二つの名は――




『トリッシュ・スティール=アイアンメイデン』
『旋風院雷羽=ブラックアダム』


【ちまちま因縁広げて行くかもです。
 あと『義賊』に関しては特に設定固めて無いので、期があればご随意に使っちゃって下さい】

115 名前:秤乃光 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/20(日) 23:14:17 0
赤穂郎氏を塗り潰した光は、同時に『矯正所』内へと雪崩る奔流となったメタルエース以下数多の部隊を鋭い視線で追う。
施設内では謎の『アイアンボーガー』と『アイアンジョーカー』が、謎の『ヴィラン』と戦闘を繰り広げているらしい。

つい先程彼女が得た『秤の一族としての思考』に従うならば。

彼らへの援助は、不要の物であった。
『アイアンジョーカー』の搭乗者である石原は『ヒーロー』を排し、
系統化された機構で『ヴィラン』に対抗せんとする政策を推し進めている。
それは『秤の一族』の理念に、反する物だ。

無論『秤の一族』は何も彼女達やその父ばかりでは無い。
世界各地に散った一族の力を用いれば強制的に政策を立ち消えとする事も可能だ。
だがそれではどうしても不自然が、不審さが残る。
ならば石原市長には、ここで死んでもらった方が都合がいい。
その方が自然に、彼の政策は消滅する。

だがこれはあくまでも思索であり、思惑ではない。
これまで考えもしなかった事を考えられるようになったとは言え、必ずしもそれに従う由は無いのだ。
彼女は本来の気質、即ち太陽の如き明るさと実直さに従い、援助に向かう。

彼女は警備員や宙野、石原達には何ら害なく透過し、レギンにのみ破壊を齎す陽光の波動を放つ。
その姿にもしかしたら、レギンは既視感を覚えるかもしれない。
彼女の双眸を覆う特殊バイザーによって暗楽との類似性は隠蔽されているが、彼ならばそれさえも看破し得る。
或いは、かつて自分を陥れた男の面影を共通項として、暗楽と彼女を結び付ける可能性もあるだろう。

【波動の威力はご随意に。でもそんな強くはないです】

116 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 02:15:42 0
>>110-111
「そうかね?残念だ。ヒーローよりはマシな就職口だと思ったのだが……
 おお、きみは、まさにヒーローだな。
 困難に敢えて立ち向かうその姿は、たとえその本質が邪悪であったとしても、悪のヒーローと呼ばれうるものだ!
 だが、敢えて正義のヒーローを続けようと言うのなら、こちらもヴィランであるから、相応の相手をしなければならないね」
神像の腕が動いた。
今度は、一体どんな攻撃をしてくるのか?

>>109
「言ってくれるじゃないか」
攻撃に対して再生を繰り返しながら、彼はそう応じた。
彼は優美なギリシャ彫刻の如き神像の形態をとっていたが、それが眉を引きつらせたように見えた。
不機嫌の原因は、メタルボーガーの覇気が、レギン・サマイドに手を伸ばそうとする警備兵を萎縮させたことにある。
善意によるものでないことは間違いないが、彼は他者に力を与えたかったのだろう。

「なるほど、きみの言うことはもっともだ。
 一定の秩序と、それに保護される人々から構成されるシステム――
 つまり社会と呼ばれるそれは、わたしのような異物に対しては敏感だ」
この辺りは、レギン・サマイドも織り込み済みである。
だが、見下すような調子でこの言葉を喋っている以上、彼は社会そのものを軽蔑していることは間違いない。

「だが、個人の単位で言えば、わたしを求めるものは多く居るぞ。
 わたしは、力を求める者には惜しみなくそれを与え続けてきた。
 そこの彼らだって、財力、権力、あるいは純粋な肉体能力――そうした力が欲しいのではないか?
 わたしは彼らにれを差し伸べたが、そんな恐い顔をして、脅すような真似をしてまで彼らを制さなくても良いだろう。
 素直にわたしに手を伸ばせば、望むものを手に入れられたものを……」
新たなヴィランを生み出すことが叶わないと悟った彼は、
速やかな破滅を相手にもたらすべく、その目的に相応しい姿へ変身しようとしていたが……

>>111
「ぐおっ!?」
加速装置の補助を得たジョーカーの体当たりや、その他諸々の攻撃は効果的だったように見える。
少なくとも、彼の本質と思しき黒い球体には、今の衝撃でヒビが入ったようだった。
彼の本体である黒い球体が、硬く軽快な音を立てて、地面に転がり落ちた。
「フフフフフ、無駄だ!
 わたしは『壊れ』はするが、『死に』はしない!
 先ほども言ったはずだぞ!」
彼は致命傷を負ったかのように見えたが、声色そのものには余裕がまだ依然として残っていた。
それどころか、彼の声が歓喜すら感じられる調子を帯びてゆく。

レギン・サマイドは、再び周囲の床を取り込んで、新たな身体を構成しようとしている。

117 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 02:23:31 0
>>115
だが突如、神像を包んだ光によって、レギン・サマイドが急に苦しみだした。
「クワアアアアア……」
痛覚が無い可能性すらあったこのヴィランが、明確に苦しんでいる。

彼はのた打ち回りながら、素早く手だけを形作り、壁に触れた。
もう何度か見ている、手で触れたものを爆発させる能力。
彼は壁に手を触れ、それを爆破したのだ。
爆発によって発生した土煙の中から、彼の声がする。
「……ヒーロー諸君!わたしは急用を思い出したぞ!
 何、すぐ戻る!本当の悪夢はそれからだッ!」
レギン・サマイドから余裕が消え失せ、代わりに明確な怒気が含まれていた。

土煙が晴れた後、レギン・サマイドの姿はなかった。
どうやら、壁を爆破して逃亡を図ったようだった――だが、彼はすぐ戻ると言っていた。
その言葉を信じるなら、彼はそう遠くには行っていないだろうが、
それはつまり、あの異常なヴィランがまだ近くに居るということでもある。
幸い、レギン・サマイドの邪悪な力に中てられて正気を失っていた警備兵達は、正気を取り戻したようであった。

レギン・サマイドが去った今、静寂が辺りに訪れる。
いや、レギン・サマイドがその場から去ったというだけで、『矯正所』は依然として騒動の真っ只中だ。
そして、彼の気配は依然として周囲を包み込んでいる――
彼の本体はソフトボール大の球体であったから、その気になれば隠れる場所には事欠かないだろう。
すぐ近くに居る可能性も十分にある。

ところで、今なお冷静な判断力を保持している者は、先ほどのデータを見て、あのヴィランの正体を推理する機会を得た。
レギン・サマイドなるヴィランの正体は何なのか。
regin samaid。データベースにはこの名前で登録されていたようだった。
そして、レギン・サマイドに関する分析を行っていた者が、その名前に隠された意味に気付いたようだった。
「『niger diamas』?そう読めるが……」

【レギン、『矯正所』から逃亡、あるいは姿を隠す。もういいかげん、正体わかっちゃったかも。】

118 名前:トリッシュ ◇.H4UqpaW3Y代理 [sage] 投稿日:2010/06/22(火) 06:28:19 0
「…負けたわ」
あまりにも呆気ない終わりにトリッシュは爆風の中、そう吐き捨てた
赤穂は己が望んだ絶頂の果て己が最も望む形で死んだ
これだけ屈辱的な勝ち逃げなど他にあるのだろうか?
罰することにより、自身の罪を理解させるつもりで挑んだというのに
相手にとってはハードすぎるSM程度のお遊びでしかなかった
しかし、些か不完全燃焼気味ではあるが彼は二度と罪を犯すことが出来なくなったのは確かだ。
それでいい、それで
そう自分に言い聞かせる

一息つく間も無く、次の対象に視線を向けた。
その時、メタルボーガーと石原からの通信が入る。
共同前線というらしい。
「ジョーカー!忘れたのかしら?私が政治家の仕事が死ぬほど嫌いだって」
石原の弱音に対し、遠回り気味にそう答え、彼女も行動する。
邪神?との距離が遠いアイアンメイデンが取るべき最善の行動は何か
簡単なことである。
先ほど言われた通り遠距離から奴の弱点をぶち抜けばいいのだ。
「アイヴィス、リアクターにエネルギーを集中!リアクターブラストの用意を」
「了解ですトリッシュ」
胸部にエネルギーを集中し、今ある兵装の中で威力のあるリアクターブラストの用意をし狙いを定める。

しかし、期を待つだけのはずが、少女が放った光によって邪神は姿を消しその場を離脱した
「…」
「目標をロスト、キャンセルします」

辺りを見渡し、警備兵とメタルボーガー、アイアンジョーカーの無事を確認する
しかし、安心してはいけない
まだ騒動は収まっていないのに加え、アレが離脱した後だというのにこの辺りにはまだ不穏な雰囲気が漂っている。
「矯正所内にてリアクターの反応!トリッシュ」
「えぇ!わかってるわ!アイツなんでしょ!!
 ジョーカー!ボーガー!悪いけど先に行かせてもらうことにするわ」
そう行ってトリッシュはリアクターの反応を追って、ブラックアダムの元に向かうのだった。

119 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:57:10 0
>>115
秤乃光の攻撃からそれほど間をおかずに、レギン・サマイドは彼女の背後に現れた。
振り向かなければ、そのヴィランが現在、どのような姿をしているのかはわからない。
だが、足元に見える影は、巨体を誇るとされるレギン・サマイドとは思えないほど小さかった。
およそ、普通の人間程度の大きさでしかないことがわかる。

「裏切りの刃を以て邪神に立ち向かい、ヒーロー達に勝利の女神が微笑むよう腐心した、影の主役!
 それまで邪悪と罵られながらも、最後に正義に目覚めたのだ!
 時を経て表舞台から退いた今もなお、彼はすばらしい男だ!」
あからさまに芝居がかった、不必要に大きな声。
出来の悪いミュージカルのような、大げさな語り口調。
だが、そう、声だ。秤乃光にとっては忘れようのない声。馴染み深い声。

「しかし悲しいかな、彼が主役となった物語は幕を下ろして久しく、
 現代に再び蘇った邪神に立ち向かう力は、老いが残酷に奪っていった。
 おお、時のなんと残酷なことか!
 彼は衰退と破滅をもたらす相手を選ぶことは無く、栄光も、名誉も、誉れ高き徳でさえ、身を守る盾になりはしない。
 そして時と忘却は無二の友だち、偉大な英雄の活躍さえも歴史に埋もれて忘れ去られるのを、時間は喜んで手助けをする!
 だが人々は――特に、彼の姿を最も近くで見ていたこのわたしは!
 彼の偉大な姿をいつまでも忘れないだろう――このように!」

パン、という小気味良い炸裂音と共に、紙吹雪が舞った。
そして、光の目の前に姿を現した。

ポーズをとっている男がいる。それがレギン・サマイドだ。
このヴィランがとる姿としては珍しく巨体ではなく、普通の人間と同様のサイズだった。
それもそのはず、それは秤乃姉妹の父の姿であった。
だが若い。恐らく、秤乃姉妹が生まれるよりも前、裏切りの果てにレギン・サマイドを討った当時の父の姿だろう。

そして、その手には――ソフトボール大の、宝石としては巨大に過ぎるブラックダイヤモンドが握られていた。

「父さんも、若い頃は伊達男ともてはやされたものさ――どうだい、なかなかイイ男だろ?」
レギン・サマイドは、かつて自らを裏切って追い詰めた男の、その当時の姿を模していた。
そして声も。親が娘に語りかけるときの、慈しみと親しみの篭った声色さえも!
このヴィランは真似をしている。
かつて自らを脅かした能力と酷似していたことから、その能力が血によって後代に受け継がれたことを、瞬時に察したのだろう。

120 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/22(火) 23:05:53 0
>>115続き
「だが――」
レギン・サマイドは再び、大げさで芝居がかった口調に戻った。
派手な身振り手振りを交えて、彼は声も高らかに語り始めたのだ。
「物語は、いつもハッピーエンドとは限らない。
 前の物語は、多くの人々の心に残った大団円、喝采と歓喜の声を呼ぶハッピーエンドだった。
 おお、愛しい我が娘!だけど現実はそう甘くはなく、むしろ残酷なんだ。
 これより開幕する悲劇は、多くの人々の枕を濡らすだろう!」
光の胸に鋭い痛みが走り、服を赤黒く染め上げた。
男が放ったのは、黒ダイヤの散弾だった。
悪い事に、弾は光の体内で止まった。
銃弾は体内で止まると、その全エネルギーを身体に向けて放つために、貫通するよりも体内で止まった方が致命傷に至りやすい。
そうして失われた生命力の代替を供給しているのが、このブラックダイヤモンドだ。
秤乃姉妹の能力であれば、ブラックダイヤモンドを『殺す』ことはできうるが、それをすれば、秤乃光の生命は脅かされることになる。
だが何より彼女にとっておぞましいのは、ブラックダイヤモンドと触れ合っているということだ。
新たな異能と異常な願望を与えるそれが、徐々に正気を蝕んでゆくのだ。

「ところで、きみのお姉さんだが――あれは、苛めると楽しそうだ。
 きみはあれの妹なんだから、それはわかるだろう?
 あれは見たところ、きみよりもずっと情に弱い。本人は認めたくないだろうがね。
 だからこそ、あいつはせいぜい『ヴィランごっこ』しかできない、わたしに言わせれば『出来損ない』なのだが――
 しかし、あんな不出来な娘でも、わたしにとっての一時の娯楽くらいにはなる。
 おお、愛しい娘よ!わたしを喜ばせておくれ!
 わたしは、お前の最も愛する姉が、悲しみのあまり心が壊れるところが見たいのだ!」
レギン・サマイドは、手を振るって、高らかに宣言した。
まるでミュージカルのように芝居がかった仕草ではあったが、愉快さは微塵も無い。

そして、光の頭を優しく撫で、優しい声で語りかけた。
「落ち着いて、わたしの話をよく聞くんだよ、光。
 お前は『ヒーローを護るヒーロー』だ。
 だから、『ヴィランを導くヴィラン』である暗楽は、退治しなければいけないヴィランも同然なんだ。
 良いね?わかったね?暗楽お姉ちゃんは――ほら、あそこに居るよ」
その声の優しさときたら、邪悪極まるヴィランのものとは思えない、まさしく子に愛情を注ぐ父親の声そのものだった。
黒ダイヤの波動が、正常な判断力を奪ってさえいなければ、こんな言葉は容易く否定できよう。
憎むべきは黒ダイヤ!こいつさえ存在しなければ
だが、なんというおぞましさか!
彼が望むのは、愛し合う姉妹同士の望まぬ殺し合い、悲しみ以外の何物をも生み出さぬ、無為なる戦いなのだ!

【怪人黒ダイヤ男、いたいけな光ちゃんにイタズラするの巻】

121 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/06/22(火) 23:47:15 0
>>113
>>118
「ぜぇ、ぜぇ……畜生、だ、誰だこんなに無駄に長い階段作りやがった野郎は……!
 そんでもって、あのガキンチョめ、飛べるならこの俺様を運んで行きやがれ……っ!!」

矯正所非常階段。地下から地上へと掛かったその長い螺旋状の階段を、ブラックアダムの変身を
解き、強襲部隊の服を着て変装した旋風院雷羽が、ぜぇぜぇと息を切らせながら駆け上がっていた。
何故改造人間である筈の雷羽が息を切らせているかといえば、それは改造されているとはいえ未だ生物であるが故。
確かに雷羽は通常の人間よりも遥かに長い時間行動が出来るが、それは疲れない事とイコールではないのだ。
……それにしても、変装などといった無駄な事をせずに、ブラックアダムの変身を解かず
そのスペックを利用し早々に階段を「跳んで」いけば、ヒーローに出会う可能性も低く、
わざわざ疲れながら階段を登るといった行為の必要はない筈なのだが……それに気付かないのは、
やはり雷羽の かしこさ が関係しているのだろう。

そうして雷羽が要らぬ苦労をしながら階段の中程まで登った時である。

「……あン?」

音がした。
金属の塊が、コンクリートの階段を踏みしめる音。
その音に雷羽が螺旋の対極を見上げれば――――

アイアンメイデン
先日、旋風院雷羽を退け、矯正所に叩き込んだ『ヒーロー』が、そこにいた。

螺旋の上と下。差し込む光と生まれる影。
両者の立ち居地が関係の対極性を現すような、少々出来過ぎな場面。

一瞬の沈黙の後

「くく……なーっはっはっはぁ!!!!貴様、よーくもこの俺様の前に顔を出せたなぁ!!
 ここで会ったが百年目、こんな施設にぶち込まれて訳のわからねぇ拷問を受けさせられた、
 俺様の恨み、ついでにあのガキンチョに対してのストレス、纏めてぶつけて晴らしてやるぜぇ!!」

……といった具合に、雷羽がぶち切れるという事は無かった。
いや、実際にはぶち切れかけたのだが、彼の『ボス』への忠誠心がそれを上回ったらしい。
今回の雷羽の指令は、無事に逃げ出す事。危険を犯しヒーローと戦うという事は、その指令に反する事となる。
雷羽は、強襲部隊の制服である帽子を目深に被り治すと、まるで怪我でもしているかのように
右腕の袖(ボコボコにした強襲部隊隊員の返り血付き)を押さえつつ「キリッ」と姿勢を正し、

「ヒーローのアイアンメイデンだn……ですね!俺さm……僕は、非常階段の防衛ラインを任されている
 えーと……は、ハイラといいます!早速で申し訳ないのですが、協力してください!
 実は今、この下で黒くて格好良いヴィランが暴れているんです!僕達如きでは歯が立たない
 超強いヴィランです!どうか、アイアンメイデンさんの力を貸せ……じゃなくて、貸してください!」

そう言った。恐らくは、アイアンメイデンが下に向かった隙を見て逃げようという魂胆なのだろう。
それにしても、演技力が無い男である。

122 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/06/25(金) 23:03:22 0
チェンジビートル・・・・・コンプリート

123 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/06/26(土) 00:15:52 0
「――っは、」

両手で握った銃身を、汗で滑り落としそうになった。
デコ同士をくっつけたまま床に倒れ伏す二人を最後に、独房棟への入り口を兼ねた踊り場――俺が戦ってた空間は、
もとの静謐を取り戻す。果てしなく滑っていった警備員Aは遥か遠くで壁に激突したらしく頭を抱えて踞ている。

えーと、こういうのって、なんていうんだっけか。

そうだ、

「おおおおおおお完・全・勝・利ィィィ〜〜〜〜ッ!!」

――勝った、って言うんだ。

胸の中でいきなり弾けた勝利の余韻と、殴られまくって揺らされた脳も相まって、俺の意識は前後と足元が不覚になる。
思わず手の中にあるショットガンを杖代わりにして、どうにか倒れこむのだけは免れた。

勝った。パンピー手前の通常警備員とは違う、正規の訓練を受けた対異能警備兵を、退けた。
そりゃもちろん『本物』のヒーローには程遠いかもしれないけれど、恐らく俺の生涯の中で初めて。明確な"敵"を破った。
よく考えたら負け続きだったもんな。銀行ではほぼ殺され、レイゲンには助けられて。『善』の尖兵を俺の力だけで倒したのはこれが初だ。

「……つっても、思った以上にどうということはねえな。こっちもボロボロだし。まだまだ『本物』には敵わねえ」

だけど――

>「……真性、無事だったかしら?」

「うおっ!?な、なんだよビビらせんなよなあ!見えない敵と戦った直後で俺ちゃんチキンモード入ってるからね!?」

空から少女が降ってきた。緩やかな落下速度で、彼女は俺の前に立つ。
黒ゴス。どうやら下での用事を済ませたらしく、その足で俺のところに急行してくれたみたいだ。
肝心の捕まったヴィランとやらの姿が見えないのは、解放しさえすれば勝手に逃げてくれるだろうって目論見だろうか。
実際、独房棟から何人かの囚人が既に抜け出しているらしいことを、館内放送がまくし立てていた。

>「随分、手酷くやられたみたいね」

「ああ。特に顔を酷く殴られたぜ。――本来はもっと男前なんだからねっ!!」

大言壮語を吐いた挙句の果てがこの体たらくで、俺は超絶恥ずかしかった。
男の傷は勲章だけど、うさぎちゃんのワッペンじゃあまりに格好がつかないわけで。黒ゴスにそれを指摘されるのは、しくじたる思いだった。
見ないで!!俺を見ないで!!薄ら笑い浮かべてんじゃねえよ!何を思ったか彼女の微笑みは、それはそれはかなり魅力的で、嗜虐的だった。

だからこそ、

>「でも……素敵な悪党への第一歩としては、中々順調な滑り出しじゃない?」

「ああ。――俺もそう思う」

誰かに認められるのは、こんなにも救われることなのだと、理解した。

>「それじゃ、帰りましょうか。まさかここにアンタのお友達がいるとは思えないし」

「まるでここ以外なら俺に友達がいると言わんばかりの口ぶりだな!甘いぜ甘いぜ、俺の人望のなさ舐めんな!」

言ってて悲しくなったので、俺は入り口へと踵を返した。
帰りに美味しいもの食べに行こう。黒ゴスもついてくるかな。来たら奢ってやるぜ。なんてったって今日は――

――勝者の凱旋なのだから。

【黒ゴスと合流。旋風院とは未面会。白ゴスちゃんがヤバイことになってることは知らず、このまま入り口へ】

124 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/06/26(土) 03:20:15 0
「………追撃はいい!それより脱走してくるヴィランを叩く!!」
消え去ったレギンを、一瞬頭を振って探した後
すぐ追いかける事も追いついてどうにかできる事もできない事を悟り、すぐに思考を切り替え、突入したアイアンメイデンの後を追う
警備員数名もついてこようとしたが、応援に来る機動隊と合流し、出口を固め、最終防衛線をメタルエース隊と形成するよう指示を飛ばした
前回の一件で、武装警官、警備兵が如何にヴィランに対して無力か、宙野はよく理解していた
自分だけで手一杯の現状で、足手まといはゴメンである

少し送れ、トリッシュが視界に入った宙野は、彼女と話す変装しているつもりだろう旋風院を発見し、即座にヒートシルバーを引き抜かんとして
ふと、自分が一瞬で見破った旋風院の変装…帽子と襟首の階級の違いを、トリッシュが見逃していないはずが無い事に気がつき、腕を止めた

何か彼女に作戦があるのではないか、ここはヴィランとの戦いになれている彼女に託すべくなのでは…

しかしその考えは、本社からのリアクターコアの絶対回収命令が脳内に甦った事で消え去り、宙野は即座にヒートシルバーで旋風院の頭部を狙い撃った
組織に属する者としての命令の厳守が、協調を乱したのだ…

そして、リアクターコアが不知火重工の手に渡れば、不知火は即座にリアクターコアに似たり寄ったりな新技術を作り出し、戦術兵器として世界各地へ売り出し、無数の屍と多額の利益を築き上げるだろう
不知火重工は何ら法を破らず、社会的に間違った事はしていない
しかし…善良な組織では絶対にない


「止まれ!警告は一度だけだ!!」
脱出せんとした入口に到着した真性と秤乃の前に、ようやっと到着した完全武装の応援の機動隊と、生き残った警備隊、そしてメタルエースが立ち塞がった
特殊鋼製の盾の壁と、大小無数の銃口が巨岩の如く彼等を出迎え
そして…

秤乃の背後から先程の透明化した迷彩兵が襲いかかり、両腕を押さえつけてワンドを振るうのを防ぎ、同時に真性にも背後からサイレンサー銃の一連射が見舞われる
「コイツは…ヤバイ!!構うな!!俺達ごと撃て!!なんとしても倒してくれ!!!」
秤乃に最初に襲い掛かった一人に続き、更にもう数名が秤乃に飛びつきかじりつき、何としてもワンドを使わせんとする
使命が、誇りが、意地が、平和への尊い願いが、彼等を奮い立たせたのだ

「撃て!!撃て!!」

メタルエースが、警備兵が、警官が、大小の火器を一斉に発射する

125 名前:トリッシュ ◇.H4UqpaW3Y代理 [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:19:18 0
リアクターの反応を追って施設内を進むアイアンメイデン
ほとんどの囚人達は騒ぎに乗じて脱走したのか、矯正所内は独特な静けさがする。
その中を一人進む中、彼女の表情が曇る。
一歩づつ歩を進める度に不安と焦りが大きくなっていくのを感じる。
冷凍漬けで指を動かすことさえままならない状態になっているはずなのに、動き出すということは
考えられる可能性は少なくとも3つ、一つは所員の中に内通者が居てなんらかの手助けをしたか
それともあのバカが裏切ったか…少なくともこの二つの内の1つならば、むしろ助かる。
何故ならば、アダムの弱点である「凍結による機能停止」が残っているからだ。
Mk-Wアーマーには冷凍弾の装備は無いが、凍らせる方法など考えればいくらでも出てくる。
だが、その弱点がなんらかの方法で解消されたならば…


……勝てるのだろうか?

そんな心境の中、階段を下りていると、旋風院が扮した隊員と鉢合わせする。
隊員はかなりぎこちない口調で現状を説明し、助けを求めた。
「……」
しかし、アイアンメイデンは沈黙し、暫し考え込む素振りをする。
旋風院のお粗末な演技は、いささか疑問を残す形ではあるがトリッシュを騙すことが出来た。
もし、アイアンメイデンとしてではなく、トリッシュ・スティールとしてこの場に居たなら
「あらそう」なんていいながら、やすやすと通していたに違いない。
しかし
「声帯認証完了照合率98.8% リアクター反応検出 間違いありません。ヤツです」
アイヴィスを誤魔化すことは出来なかった。
耳元で囁くようにアイヴィスが報告し、暫し間を置き、背後にメタルボーガーがいるのを確認すると
「あらそう?貴重な情報をありがとう」
やすやすと通した。

いい気分で彼は一歩踏み出しているだろう。

そして、そのままいい気分のまま2歩目を踏み出そうとした瞬間

ヒートシルバーが頭部を狙い撃つ、それに合わせるかのようにアイアンメイデンも背後からリアクターレイを発射した。
形としてはコンビネーションを決めてはいるが、彼女は初めから不意をつく形で背後から攻撃を仕掛けるつもりでいた。
そこにメタルボーガーの攻撃が入った。たまたま出来たコンビ技だが威力はかなりのものになるだろう


126 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 23:43:49 0

(なーっはっはっは!! 流石俺様!天才的な変装に、こいつら気付いてねぇぜ!!)

雷羽はアイアンメイデンと宙野景一が自身の正体に気付いていないと
本気で思い、心の中で勝ち誇ったバカ笑いをしていた。まさしくバカである。

ヒーローとは、悪を見逃さないからこそヒーローなのだ

当然にして必然
二人の『ヒーロー』は、アホ面をして歩き出そうとしている雷羽を目掛け攻撃を放った。
前後からの同時攻撃。上下左右に逃げ場無し。
偶然の合体攻撃は、一つの悪を屠るべく突き進み――――

直後、何かが爆発する様な音と共に、白い煙……否。“水蒸気”が
一瞬にしてその場を覆った。視覚による情報把握が困難になる。

「…………おい貴様ら、そう何度もこの俺様が同じ手を喰らうと思ったのか?」

やがて、その真っ白な空間の中に見える黒い影が見える。次いで響く、怒気を孕んだ声。
ガシャン、ガシャン、と、銃弾を装填する様な音と共に起こる風
――――リアクターコアが出力を急速に上昇させた際、温度差で生まれる風。

吹き散らかされる水蒸気の中、最初に見えたのは地面に輝く透明な欠片だった。
何かに砕かれ、溶かされた様な、大量の氷の破片。

そして急速に吹き散らかされる白の中に――――暗い黒。無傷の『ブラックアダム』が立っていた

「そこの野郎が攻撃しようとするのを見れなかったら、流石の俺様でも反応出来なかったぜ。
 前回といい今回といい、後ろからこの俺様を狙う鬱陶しい真似しやがって……」

ブラックアダムは横向きになり二人の姿を確認すると、一度空を仰ぎ

「……もういい。流石に優しい俺様も我慢の限界だ。
 こんな施設にぶち込まれた恨みも込めて、貴様ら、二度とヒーローが出来なくしてやる。
 覚悟、しやがれえええええええええええええっっ!!!!!!!!!!!」

ぶち切れた。矯正所での拷問や、黒い少女の挑発など、我慢して溜め込んでいた怒り。
溜まりに溜まり、限界を超えて更に溜めた怒りが、土石流の様に噴出した。

初めにその怒りの矛先が向かったのは、宙野景一だった。
リアクターコアという膨大なエネルギー回路を、全て身体能力に注ぎ込んだブラックアダムが、
踏み込みによって階段に放射状の皹を入れる程の勢いで、跳んだ。
宙野景一の首に向けてその右腕が延びる。

――――もしも、宙野景一やトリッシュが注意深くブラックアダムを観察していたならば、
それに気付くかもしれない。

ブラックアダムの装甲の表面の空気が揺らいでいる事。そして、前回はただの銀色だった
ブラックアダムの装甲を走る線が、薄青色に淡く発光している事。

即ち、彼のボディが超低温の状態にある事に。

127 名前:秤乃ひかる ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/29(火) 02:59:18 0
白いゴスロリ服の随所に、赤黒い血が滲んでいく。
その奥では、光の差し込まぬ深淵の如き黒が蠢いていた。

「……うん、任せてお父さん! 私ね、やっとちゃんとお仕事が出来るようになったんだよ!」

レギン・サマイドの芝居掛かった語り口に、ひかるはスカートを僅かに浮かせて一回転。
そして再び正面に父の姿を迎えると、スカートの裾を摘み小鹿のような足を僅かに屈めて、恭しく礼をする。
その表情は一片の陰りもなく、楽しげな色に染まっていた。

「だから!」

高らかな声と共に、ひかるはワンドを振り上げる。
見据える先には、幾多もの警備兵達に捕縛された彼女の姉の姿があった。

「もうお姉ちゃんなんていらないの!」

嬉々を含んだ宣言と共に、彼女の掲げたワンドから閃光が迸る。
彼女の画材たる光は、白昼である今無尽蔵の供給が得られる。
極大の、破壊を孕んだ光柱が暗楽も道程も、暗楽にしがみ付く警備兵さえも纏めて呑み込んだ。

「……わあ、さっすがお姉ちゃん! 今ので立ってるんだもん! 参っちゃうなあもう! ……でもさあ、隣のゴミ虫さんはどうなのかなあ!?」

レギン・サマイドのそれが伝染したか、大仰に勿体ぶった口調と共にひかるはワンドを下ろし、横薙ぎに振るった。
その軌跡に従って、陽光で描かれた杭が虚空に生え出づる。
それらは濛々と立ち上る砂埃の奥にいるであろう道程へと襲い掛かった。
暗楽が動く暇もなく、光の杭は彼女の隣で轟音を上げる。

「ニートでヴィランだなんて二重の意味でどうしようもないゴミ虫さん……ううん、そんな事言ったらゴミ虫さんに失礼だよね!
 ゴミ虫さんだって生きてるんだもん! 生きてる価値なんてこれっぽっちもなくて、
 その上もう死んじゃったゴミクズさんと一緒にしたら駄目だよねー! そう思うでしょ! ねえ、お姉ちゃぁあああああああん!?」

両腕を左右いっぱいに広げて、ひかるはくるくると回りながら哄笑する。
胸元に開いた傷口の奥には、依然底知れぬ漆黒が潜んでいた。

【道程さんにビームぶっ放しました。ひかる的には完全にブッ殺したと思ってます
 ついでに『光→ひかる』と改名しました。だっていちいち陽光とか言葉を変えるのしんどいんですもの】


128 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/29(火) 03:00:11 0
まず初めに見えたのは父――の面影を醸す、若い男の姿だった。
次に私の視線が焦点を定めたのは、その男に服する妹の姿。
最後に私の意識が釘つけとなったのは、
その妹の白い洋服を汚す邪悪に黒ずんだ赤色と、あの子が浮かべるあの子らしからぬ破顔。
そして何より、胸を汚すどす黒い赤の奥に潜む、真の暗黒だった。
脊椎を氷の模造品に挿げ替えられたような悪寒が全身を駆け巡る。

妹が、陽光を宿したワンド振り上げる。
私は咄嗟にワンドを前へと突き出して――

> 「コイツは…ヤバイ!!構うな!!俺達ごと撃て!!なんとしても倒してくれ!!!」

「なっ……!? この……馬鹿! 離し……離れなさい!」

拘束された体を振り回す。
けれども迷彩を被った彼らは離れるどころか、自己犠牲の精神に衝き動かされて一層に拘束の力を強めてくる。

「死して平和の礎にでもなろうと言うの? 馬鹿馬鹿しい!
 貴方達が命を賭さなくても、貴方達以上の事を成せる者は幾らでもいるのよ!
 ここで死んだ所でその死に価値なんて無いの! 分かるかしら!? 無駄死になのよ!」

一聴すれば悪党の負け惜しみにも聞こえるでしょうね。
でもこれが私の出来得る限りの警告。
正義を信じ平和を願うその心は素晴らしくても、その為に安い死を選ぶなんて馬鹿げているじゃない。
何より、今のあの子を前にこんな事をしている暇は――

「……手遅れだったみたいね」

思考が結論を紡ぐ前に、視界が閃光に包まれた。
誰にも聞こえないように、小さく呟く。
周囲には、破壊の光に呑まれ凄惨な姿となった、警備兵達。
私が何とか立っていられるのは、彼らが奇しくも盾の役割となったが為。

けれど隣にいた真性は、きっと無事ではいられない。
その事を、妹は心底嬉しそうに捲くし立てる。

レギン・サマイドは、とても楽しげに私達の様子を見ていた。


129 名前:秤乃暗楽 ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/06/29(火) 03:01:31 0
途端に、私の胸中に憎悪の炎が燃え上がる。
貴方を利用しようとしたのは、間違いだった。
叶うものなら、今すぐにでも殺してやりたい。

殺意を余さず込めて、私は地を這う影の刃を描き上げる。

けれどその矛先が向かうのは、妹の方だ。
『秤の一族』の存在を露呈させる訳にはいかない。
私は悪党であの男も悪党で、そして妹は正義の味方なのだから。
私はこうせざるを得ない。

「……あぁ! なんて愚かな妹なのかしら! 正義なんて下らない物に心を奪われ、
 果てにはその魂さえ己の手の中から零してしまうだなんて!
 その純白の美しさに今まで見逃してきたけれど、見るに耐えない貴女ならいっそここで殺してしまいましょうか!」

戯曲然の物言いを真似て、私は悪党を演じる。
肉親すら手掛ける、道を外れた悪辣非道を。

「こんな素敵な舞台を整えてくれるだなんて。レギン、貴方には大きな借りが出来ちゃったわね。
 いつかそう……お礼をしなくちゃいけないわ。そうでしょう?」

表情に殺意が滲む事を、私はもう抑えない。
いずれ必ず、父がそうしたように貴方をこの世界から排してみせる。

でも、今は妹が先決だわ。
戦いの最中にでもあの子を何とかしないと。
大丈夫、きっと何とかなる。

誰に向けての言葉かも分からない慰めに胸の内を痛めながら、私は妹とワンドを交えた。

130 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/29(火) 22:38:12 0
>>127>>129
現れたレギン・サマイドは、やはり秤乃姉妹の父親の若き日の姿をとっていた。
彼は、自らが仕組んだ姉妹の殺し合いを、満足そうに眺めた。

後を追って現われた彼は、さも楽しそうに笑いを噛み殺しているが、すぐに表情を引き締めた。
実のところ、心を強く持つことで、黒ダイヤの呪縛から逃れることそれ自体は不可能ではない。
埋め込まれたのはレギン・サマイドの欠片なのだから、その支配を跳ね除ける強い意志を備えれば、逆に力だけをものにできる。
黒ダイヤとはそういうもので、その力をきちんと制御して、立派なヒーローとなる例も、少数ながらあった。
そして、元から備えている異能の増幅を行う性質は、秤乃姉妹の特殊な異能にとってすら例外ではない。
故に、実は彼は、かなり危ない綱渡りをしているのだ。
しかし、リターンも大きい。
暗楽は暗楽だが、ひかるはひかる+黒ダイヤであり、黒ダイヤによって増幅された異能でもって暗楽を滅ぼそうとするだろう。

「なに、礼には及ばないよ。
 こうしたお膳立ては、わたしの生き甲斐なんだ。
 ゆっくり楽しんでいただきたい」
彼は殺意の篭った視線に対して、笑顔で以って応えた。
彼は暗楽の心境をよく察し、より効果的な応答でもって神経を逆撫でする。
だが、冷静さを欠いたまま彼に挑めば、体良く利用されるのがオチなのは言うまでも無い。
何より、一瞬の判断のミスが、目の前の強敵、秤乃ひかるの手による死を招く。

「ふむ……」
レギン・サマイドは、不意に懐中時計を取り出し、それを眺めた。
単純に時刻を確認したのだろうか?
懐中時計に刻まれた『何か』を確認し終えると、再び懐に仕舞い込んだ。
「ではお嬢さん、『タイムリミット』までは、わたしも楽しませてもらうよ。
 それが過ぎたら、わたしはブラックダイヤ団の結成に粉骨砕身しないといけないからね。
 わたしは――そうだな、ヒーローたちに別れの挨拶と、再会の約束をしてくるとしよう。
 喜劇は時を忘れさせてくれるが、いつかは夜が来るから、そのときはお休み。
 それでは、良い夢を」
彼は、姿を消した。
暗楽と光のどちらが倒れても、彼にとっては利益になる。
それに、加えて言うなら――

131 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/06/29(火) 23:23:44 0
『矯正所』に、アナウンスが響き渡った。
レギン・サマイドは、管制室を乗っ取ったのだ。
『初めまして。わたしは諸君らの親愛なる隣人で、名前をレギン・サマイドという』
彼がマイクに向かって話すその声が、『矯正所』の全域に響き渡った。
ヒーロー達にとっては聞き覚えのある声だ。

『ヒーロー諸君、聞こえているかな?
 親愛なるヴィランの諸君もだ。
 今日は、諸君らにプレゼントがある』
そして、彼は右手に持ったスイッチを押した。
『矯正所』の何処かで爆発が起こったが、そう大した被害が出た様子は無い。
とはいえ、『矯正所』の混乱をより深めるには十分なものだったが。
『おっとすまない、こんな、ちゃちなものではなかった。
 そいつは24時間後に爆発して、この町を綺麗に吹き飛ばす、特大の花火だ。
 その花火は、確か、この『矯正所』に置いてある。
 生命エネルギーを長時間かけて凝縮して、爆発させる仕組みになっている。
 24時間経過しなければ、十分なエネルギーが溜まらないのが難点だがね。
 なあに、24時間もある。
 逃げるにも、立ち向かうにも、状況を楽しむにも、十分な長さだろう?』
マイクに向かって話しかける彼は、意地の悪い笑みを浮かべている。
邪悪を凝縮した存在でもなければ不可能な、会心の笑み。

『さて、長く生きると暇でね、少しゲームをしたくなったんだ。
 ルールは簡単。
 24時間以内に、その爆弾を『解体』するだけで良い。
 二色のコードがあって、そのうち片方を切らないといけないような、面倒な仕掛けも無いから安心して良い。
 ただし、きちんと『解体』しないといけない。
 これを忘れず、爆弾を『解体』すれば、この町は助かる。
 このまま尻尾を巻いて逃げれば、まあ君等だけは助かるだろうがね』

『良いかい、今から24時間後だ。
 まあ、勘の良い者なら、すぐ見つけるだろう。
 立て込んだ用事を済ませるだけの時間だって十分にあるはずだから、ゆっくりして良い。
 それでは、良い終末を。再び会えることを楽しみにしている』
レギン・サマイドは、放送を週末と週末をかけた駄洒落でもって締めくくった。

さて、彼は確かに、『爆弾』の破壊力の源が『生命エネルギー』であると明言した。
つまり、その『爆弾』は、生物ということになる。

132 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/06/29(火) 23:41:09 0
「……マイケル、奴の正体をデータベースに送信してくれ。」

急激な起動により、ジョーカーMK2の装甲は限界を超え停止する。
アーマーを脱ぎ捨て、物陰に隠れると少しばかり状況を整理した。
撤退していくレギンにマダオは疑問を覚える。
まだ戦えるはずなのに退いた。これが何を意味するのか。
ただの余裕か?それとも――

≪アイアンメイデン、メタルボーガー・エース。内部に潜入しました。
このまま捕捉を続けます≫

「あぁ、頼むよ。私は少しばかり疲れた……市庁舎に帰って
休むとするよ。」

眩暈がする。気のせいだろうか。
口に鉄の味が滲む感じがした。
やがて市軍の兵士達が矯正所に到着し、マダオの元へ駆けつけた。

「市長、こんなところで何を?」

「いや、気にしないでくれ。施設を視察中に巻き込まれてね。
それよりも、事後処理を頼むよ。囚人も逃げ出したようだ。
これ以上の混乱は避けたいのでね。」

>>131
>『初めまして。わたしは諸君らの親愛なる隣人で、名前をレギン・サマイドという』

「レギン……」

思わず声のしたスピーカーを見つめ呟く。
その声は、先程去っていったあの怪物と同じ。

>『さて、長く生きると暇でね、少しゲームをしたくなったんだ。
 ルールは簡単。
>24時間以内に、その爆弾を『解体』するだけで良い。
 二色のコードがあって、そのうち片方を切らないといけないような、面倒な仕掛けも 無いから安心して良い。
 ただし、きちんと『解体』しないといけない。
 これを忘れず、爆弾を『解体』すれば、この町は助かる。
 このまま尻尾を巻いて逃げれば、まあ君等だけは助かるだろうがね』


「おい、聞いただろう。この街の市長は寝る暇も休む暇もないらしい。
まぁ、にぎやかといえばいいもんだが。君、すぐに対策本部を。
各地に爆弾処理班を配置。あ、あと私の部屋に寝袋とピザとコークを頼むよ。」

【戦闘終了→市庁舎へ】

133 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/07/03(土) 23:52:34 0
(効かない!?やはり火力が足りない…糞っ!!)
宙野は素早くヒートシルバーを腰に戻すと、伸びてきた旋風院の右手を左手で受け止め、そのまま背負い投げをかけようとして…

……宙野の背中と旋風院の胴体がくっついた
「な!?」
冷蔵庫の氷に手をくっつけてしばらくすると、手の表面が凍りついて取れなくなるように
メタルボーガーの背部が一瞬の内に凍りつき、旋風院の胴体とくっついてしまったのである
「くっ!」
唐突な事に、宙野は何とか旋風院を離そうと勢いよく体を振るが、旋風院はぴったりとくっつき、離れる様子が無い

134 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:25:21 0
「こんなところか」
放送を終え、『矯正所』に終末を告知したレギン・サマイドは、自らのもとへ来るべき者を待った。
彼は人に絶望を与えることができるならば、ヒーローよりもずっと正直者であることができる。
現に、彼が『爆弾』を仕掛けた場面があり、それは起爆までのタイムリミットが刻一刻と迫っている。
そして、『爆弾』を『解体』するには、ちょっとばかりの勇気と残酷さ、そして思い切りの良さを要する。

どう転んだところで、必ず犠牲者が出る。
『爆弾』にされた人物は『解体』され、尊い犠牲となり、町は救われる。
さもなくば、この町は爆発によって消滅するしかない。
彼はそのように、ハッピーエンドには絶対に辿り着かないように、今回の『シナリオ』を組み立てた。

しかし、今回の『シナリオ』が、彼にとって最良の形(つまり、多くの人々または秤乃姉妹にとって最悪の形)の結末を迎えるかどうかは、定かではない。
レギン・サマイドもまた、ブラックダイヤモンドに害されうる。
彼が『爆弾』に埋め込んだブラックダイヤモンドによって、『シナリオ』は頓挫する可能性があるのだ。
そうでなくとも、不確定の要素は数多い。
だが、彼は『最高の悪』であるために、あくまで余裕と茶目っ気を捨てることはない。

「さて、わたしは『脚本』を書いたが、演者はそのように動いてくれるかな?
 いや、とびきりのサプライズを提供できるだけの、アドリブの利く役者が居るかも知れない
 しかし、どちらにせよ、わたしは『勝利者』になるぞ。絶対にだ」
独り言だ。しかし、彼は勝利者たらんとするための策謀を、今も練っている。
彼はその場に居ないヒーローに、改めて挑戦状を叩きつけた。
ヒーローが悪を討つ形は基本的に一つしかないが、邪悪の形は無数にあり、それゆえにヴィランにとっての勝利は一つではない。


【ちょっと待つ。必殺うごかない】

135 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/07/08(木) 05:44:55 0
前回までのあらすじ。よくよく考えて見れば、前回の締め、アレも一種の死亡フラグだったのかもしれない。
――目の前を埋め尽くす光の束を見ながら、俺の頭脳は驚くほど冷静に、そう考えた。


矯正所の入り口まで凱旋してきた俺たちを待ち構えていたのは、見知らぬおっさんと少女が一人。
おっさんの方はともかく、少女には特筆すべき特徴があった。その姿が、隣で驚愕する黒ゴスのそれとほぼ同一だったのだ。
唯一にして最大の違いは、その体躯を彩る基調がまったくの正逆、白と黒であること。すなわち、彼女を呼称するならば『白ゴス』が適当だろう。

「もしかしなくても、知り合い……だよな?黒ゴス。双子キャラだったのか」

そのわりには友好の気配とかは全然なくて、白ゴスちゃんはこれまた黒ゴスのそれと見事に色違いな杖をこっちに向けてきた。
隣の黒ゴスに剣呑さが生じる。ってことは、これそろそろヤバめの一撃が来るんじゃなかろうか。とりあえず防御はこいつに任せて――

>「コイツは…ヤバイ!!構うな!!俺達ごと撃て!!なんとしても倒してくれ!!!」

「――いっでえ!!」

撃たれた。突如、背後から撃たれた。消音器で発砲音を消していたらしく、身体強化でも回避が間に合わない。
幸い静音用の弱装弾は無防備な俺の背中を突き破ることはなかったらしく、鈍い痛みが背筋を舐めるだけだったが、

>「なっ……!? この……馬鹿! 離し……離れなさい!」

黒ゴスが拘束されていた。え?これヤバくね?なんかもう普通に白ゴスちゃん撃ってきてんだけど!
そして、光が視界を染め上げた。

「っの……野郎……!!」

調子づいた矢先にこれだよ。なんとなしに、俺は走馬灯めいた回想を光の中に見た。銀行での一件を思い出す。
異能を得て、調子こいた俺は銀行強盗なんてやらかして、そしてヒーローに殺された。『本物』に、完膚なきまでに殺害された。
実際、あのまま黒ゴスが来てくれなかったら普通にご臨終だったのだ。臨死まではいったしな。

その時の状況と、目の前の"これ"は、なんだか凄く、酷似しているのだった。
やっぱりというかなんというか、『本物』と俺との間には甚大な隔たりが未だに横たわっていた。
警備員ニ三人ぶっ飛ばしたところで埋めようのない溝、越えようのない壁。純然たる『強さ』の世界が違う。格が違う。

だけど――
ずっと考えてたんだ。思い出すのも嫌だったが、またこんな状況に直面したとき、『生き残るために』俺はどうしたらいいのか。
圧倒的力量差において、相手の攻撃をどう凌ぎ、どう受け流すかを。

――だから、今この瞬間も、体と心は付和雷同に、淀みなく動いた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

全力全開の"神様"を掌に。両手を合わせて、広げればガムを伸ばしたように粘着質の流動体が膜を作る。
大気を焦がしながら迫る光の束へ向けて、まるで闘牛士が猛進してくる牛にするように――膜で光を受け止めた。

「<パラダイムボトル>――形状『災厄捕獲風呂敷《パンドラクロス》』!!」

"神様"に与えた命令は『触れたエネルギーの凍結』と『圧縮』。それらは十全に発動し、光を包んで捻り込む。
丁度、トランポリンにデブがダイブしたような格好で、"神様"製の風呂敷の中で光の束はすこぶる暴れまくる。
俺はそれに引き摺られる。地面で体を摩り下ろされるような気分だった。

「――このっ」

どうにか風呂敷の口を結び、外に漏れでないよう封をする。圧縮されて縮んでいく光は、やがて掌サイズに収まった。
俺はそれをジャケットのポケットに放り込んで、ようやく危難を静逸させたことを確認した。
た、助かったぜ……。シミュレーションの成果だな、こりゃ。

136 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/07/08(木) 05:46:13 0

「それにしても随分と飛ばされちまったな」

黒ゴス達のところから、矯正所から出る方向で、俺はかなり吹っ飛ばされていた。
白ゴスちゃんの能力は黒ゴスとはやっぱり正反対の、明るい色から力を得るタイプのようで、光に溢れる日中なら
凄まじい威力にも徳心がいった。黒ゴスはなんとか凌いだようだけど、周りにいた対異能装備の連中が跡形もなく蒸発してやがる。

異能を減衰するアーマー着ててもアレだ、生身の俺が直撃食らってたらと思うとぞっとするぜ。
ともあれ無事は無事なのだ。一刻も早く黒ゴスに加勢して、ついでに俺の無事を知らせたかったが、

「いや待てよ、こりゃチャンスかもだぜ……」

白も黒もあのゴスロリ姉妹は、俺が死んだと思い込んでいるに違いない。
攻撃を凌いでる間、俺は確かに聞いた。

>『ニートでヴィランだなんて二重の意味でどうしようもないゴミ虫さん……ううん、そんな事言ったらゴミ虫さんに失礼だよね!
  ゴミ虫さんだって生きてるんだもん! 生きてる価値なんてこれっぽっちもなくて、
  その上もう死んじゃったゴミクズさんと一緒にしたら駄目だよねー! そう思うでしょ! ねえ、お姉ちゃぁあああああああん!?』

的なことを。俺は酷く傷ついたような気がしたけど、正論すぎてぐうの音も出なかった。
何よりも、自分と一回り近く年齢の違う年端もいかない少女にこうやって罵られるってのも、まあなんだ、悪くない。
いやいやいや何言ってんだ俺は!!話逸れてるぜ!大いに逸れてるぜ!閑話休題!

ともあれ、今はチャンスなのだ。気配と姿を消して近づき、あの残虐娘に一撃――いや二三撃ぐらい食らわしてやりたい。
ニート舐めんなよと言ってやりたい。正確には無職だけどな!収入はあるし。いや犯罪なんだけどね。

そんなわけで、俺はどうにかバレないようルートを選定しながら、白ゴスの後ろに回りこむべく行動を開始する。

と、そこへ館内放送が聞こえてきた。確かにレギン爺さんの声の主は、この矯正所内にとてつもなくヤバい爆弾の所在を明らかにする。
マジで?超やべえじゃん。シビれることするなあの爺さん。フランク過ぎんだろ。ってな感じに、俺は肯定的にそれを聞いた。

――ん?でもこれ下手したら俺も死なないか?


【白ゴスちゃんの攻撃をどうにか凌ぐ。完全に死んだと思われてるっぽいことを利用し不意打ち狙いに動きます】

137 名前:アイアンメイデン [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 01:33:08 P
メタルボーガーとの同時攻撃、偶然の賜物ではあるが完璧なタイミングで放たれ、
目標を駆逐するはずであった。

爆発音と共に白く覆われる視界、そして、そこから聞こえる声が失敗を知らせる
晴れる視界の中、そこに居るのは自身の失態によって生み出された怪物の姿であった。
「その前に、あんなお粗末な演技で私を騙せると思ってたの?」
余裕があるような口調でそう返すが、その鉄仮面の下の表情は曇っている。
そんな不安を振り切るかのように、次の攻撃をくりだそうとした瞬間、アイヴィスがそれを抑止する。
「アダムの異常を感知しました。むやみに攻撃をするのは危険です」
ブラックアダムの変化を察知したアイヴィスがすぐさま解析する。
その間、ブラックアダムはメタルボーガーに襲い掛かる。
「解析結果を表示します。」
「…何よこれ」
トリッシュは驚愕した。ブラックアダムの温度が以前戦ったときよりも低かったのだ。
ただ低いのではない。アダムが凍結し機動不能に陥る温度をゆうに超えているのである。
それでいて、あの起動力と破壊力を維持している。つまりは・・・
「弱点を克服したってことなの・・・ねって」
そうこうしている間にメタルボーガーとブラックアダムは酷く間抜な形でくっついてしまった。
「アイヴィス!とりあえず、メタルボーガーに今のデータを送りなさい」
ブラックアダムの変化をメタルボーガーに送ると、アイアンメイデンは掌を構えなおす。

しばし、膠着状態が続くかに思えたその瞬間、館内放送が響いた直後
近くで爆音が轟いた。
「どいつもこいつもわけわからないバカばっかりね。ウンザリするわ
 私達はあんたらの遊び相手をするためにいる訳じゃないってのに…
 あっ私の愚痴は気にしないで、ところで聞きたいんだけどアンタあのレギンって奴知ってたりするの?」
身動きの出来ないブラックアダムにそんな的はずれな質問をしたのには訳がある。
元々、リアクターコアは軍事目的で使用されていたものなのだが、その使用方法は
現在トリッシュが使用しているような形ではなく、ミサイルなどに取り付けて
その正確さと威力を倍増させる為に使っていた。
ブラックアダムのパワーアップと生命エネルギー、爆弾というキーワードから
爆弾の在り処をブラックアダムだと推測したのだ。
しかし、ただ質問しているわけではない。
「アロー、メタルボーガー応答をお願いします」
データを送り終えたアイヴィスがメタルボーガーに通信する。
「数秒後に行動可能だと判断して通信しました。
 用件はアイアンメイデンの次の行動を知らせにきました。
 合わせるかどうかはあなたの判断にお任せします」

通信が終えたのと同時にアイアンメイデンは掌を下ろし、タンブリン後、ブラックアダムの頭部を狙い蹴りおろす。

138 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 23:23:29 0

「ぶぁ―――かめ!! さっきも言っただろーが!
 この俺様に同じ攻撃が何度も通用すると思うな!!」

ブラックアダムの攻撃に対し技術を持って反撃を試みたメタルボーガーは、
超低温と化したブラックアダムの背に張り付いた。
一見、馬鹿馬鹿しい光景だが、その実この状態はメタルボーガーにとっては不利である可能性が高い。
何故ならば、単純な身体能力で上回るブラックアダムと密着するという事は――――

「さーて、貴様もこの距離なら逃げられねぇだろ。
 ちょこまかと鬱陶しい真似しやがって……覚悟は出来てんだろうなぁ!!」

ブラックアダムの腕が背後に回り、そこに在る接着したメタルボーガーの頭を掴むべく伸びる。
もしも超低温の腕に頭部を掴まれ続ければ、幾ら装甲を纏えどもいずれ致死の冷気が
生身の中身を襲うだろう。更に、その腕に込められている腕力自体も並ではない。
性能で劣るメタルボーガーが単なる力技で抜け出せる可能性は低い。

と、そこに状況を分析していたアイアンメイデンが話しかける。

>「どいつもこいつもわけわからないバカばっかりね。ウンザリするわ
 私達はあんたらの遊び相手をするためにいる訳じゃないってのに…
 あっ私の愚痴は気にしないで、ところで聞きたいんだけどアンタあのレギンって奴知ってたりするの?」

「ああん?レギン?何だそりゃ、俺様はそんな奴は知らねぇぞ
 ……というか、今この天才の俺様に向かって馬鹿って言いやがったな、このババァが!!」

ブラックアダムは蹴り降ろされたアイアンメイデンの蹴りに狙いを合わせて
右足を振り上げ、激突させる。衝突により発生する衝撃波が空気を揺らす。
その拮抗は一瞬だった。次の瞬間、ブラックアダムの蹴りがアイアンメイデンの蹴りを弾き飛ばす

「なーっはっはっはぁ!!どうしたどうしたヒーロー!!
 どうやら、不意打ちじゃねぇとこの俺様を倒す事なんてできねぇみたいだな!!
 そんな無力じゃあ、いずれ他のヴィランに殺されるぜ!?」

リアクターコアのエネルギーを多機能に振り分けたアイアンメイデンと、身体能力のみに特化させたブラックアダム。
ジェネラリストがスペシャリストの土俵で戦っても、勝てる訳が無い。
空を舞えず、熱戦も放てないが、事単純な『力』においてはブラックアダムの方が、上だ。

139 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理 [sage] 投稿日:2010/07/11(日) 06:42:57 0
名前:緋ノ宮 茂子(ひのみや もこ)《ゴスパン刑事メノツェーヌ》
職業:高校生・特命刑事
勢力:ヒーロー
性別:女
年齢:16
身長:157cm≪変身後 172cm≫
体重:46kg
性格:サバサバしたがるお年頃
外見:適度に着崩したブレザー制服、セミショート以上セミロング以下の地色の髪
外見2:露出控え目のゴスパン調の服、ミニシルクハット、プラチナシルバーの超ロングヘア
特殊能力:ラルゥデュデスタン(しゃべるヨーヨー)のほか、奇術のような魔法を使う
備考:法では裁ききれない凶悪犯罪に対応するため
極秘裏に機密費で設置された組織――それが極秘捜査課である
養父母に追い出され、弟と二人路頭に迷いかけたモコは
幸か不幸か極秘捜査課の鬼畜課長・九条に拾われたのだ
そして、自らマスターを選ぶという魔導器ラルゥデュデスタンに、モコは主と指名された

超法規的措置で極秘捜査課の特命刑事に任命されたモコは
この国の平和を守るため――いや何よりも弟と自分の生活を守るため
ラルゥデュデスタンの力を使ってゴスパン刑事メノツェーヌに変身し、悪と戦うのだ

【新規です。お手柔らかにお願いします】

140 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理 [sage] 投稿日:2010/07/11(日) 06:44:55 0
風船の束に揺られて、山側から『矯正所』に忍び込む。
夜のドライブは悪くなかった――けど相手が九条のおっちゃんじゃね。
壁を乗り越えたところで風船の束を一つ飛ばし、
屋根に5メートルくらいまで降りたら全て離して着地。
黒煙の上がる空には場違いな風船の束が、風に流されながらふわふわと舞い上がって。

ええと、刑事施設の長は、地震、火災その他の災害に際し、刑事施設内において
避難の方法がないときは、被収容者を適当な場所に護送しなければならない、だっけ?
さっきおっちゃんから説明を受けたんだけど…とにかく、災害時には囚人を
閉じこめっぱなしにしちゃいけないってことだな。フツーは。

ともあれ、今日のヤマはお国の施設の事件だし、
いつもと違って潜入工作に手をかけることもない――と、このとき私は思っていた。

案の定、1分もせずに刑務官と出くわした。え?一人?
挨拶代わりにラルゥデュデスタンを掲げて。
「おっと敵じゃない。メノツェーヌ。またの名はゴスパン刑事(デカ)」

が、様子がおかしい。ていうか、いきなり銃を撃ってきやがった!
ラルゥデュデスタンを振り回して大円を描き、なんとか弾を防ぐ。
そりゃ私は表向き桜の御紋とは何の関係もないことになってるから
不審人物扱いされるのは分かるけど、警告もなしに射殺はねーよ。
おかしいのはそれだけじゃない。どうやらアタマもイカれてるようだ。

「殺すコロす頃す転すコロス殺すコロす頃す転すコロスコロス殺コロス殺コロス殺」

「中で何かあって発狂しちゃったのか?」凄惨な光景が浮かぶ
ラルゥデュデスタンを投げて、手元の火器だけは剥がしす。
「どういう訳か、この方強い暗示にかかっていらっしゃいましてよ」
ヨーヨーつまりラルゥデュデスタンが、落ち着き払った声で語りかけた。

141 名前:ゴロー ◆u7xvaZrzLM [sage] 投稿日:2010/07/11(日) 06:47:06 0
「なるほど…。なら逆催眠をかけてやればいいな」
イカれた刑務官に向かって、思いっきりラルゥデュデスタンを投げつける。
相手の右脇を突き抜けるが――ばっちり狙い通り。
敵さんの背後でUターンしたラルゥデュデスタンは、
今度は左脇から帰り…そしてしゅるしゅると絡みついて標的を拘束。

「貴方はだんだん落ち着いてくーる、貴方はだんだん落ち着いてくーる…」
余った紐を振り子にして、ラルゥデュデスタンが奴さんに催眠術をかける。
「殺すコロす頃す転す殺すコロす…頃す…転…す…ころ…す…こ…す…すー……すー…」
刑務官さんは気持ちよく夜のお昼寝タイムに入ったようだ。いい夢見ろよ。

何かもやもやとしたものを抱えながら、『現場』を探して敷地内を走る。
再び刑務官、いや兵士?できるなら現状を聞いた方がいいと思って会話を試みる…が。
やっぱり様子がおかしい。似たような恰好の連中同士で撃ち合ってる。
そして片方はさっきの刑務官みたいにイカれてそうだ。――やば、こっち見んな。

「サリュー」チャフ効果付きのけむり玉を投げてドロン。
「やれやれ、今日も闇から闇、影から影へと世を忍ぶことになりそ…」
「メノツェーヌ、貴女逃げ続ける戦いは得意なのでしょう?」
「まぁね…」好きでやってるわけじゃない。好きでやってるわけじゃ。

しばらく走って辺りに気配がないことを確認したら、
ラルゥデュデスタンを――今度はムショの屋根に向かって放り投げる。
見事屋根まで届いたら、今度はそれに掴まり、一気に上までのぼった。
なんか向こうに9mはありそうなでっかいのがいる…見つからないことを祈ろう。
さてと…見つけた!排気ダクトですよ奥さん。ルゥっちで蓋開けてすぐ侵入。

【宙野以外にもヴィランに誑かされた人間がいる模様。
 排気ダクトから施設内へ侵入を試みます】

142 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/07/14(水) 00:58:06 0
絶対絶命の危機に陥った宙野は、半ばパニックに陥っていた
強化服の中で汗をだらだらと垂らし、必死に脱出の術を考える

>『さて、長く生きると暇でね、少しゲームをしたくなったんだ。
>助かるだろうがね』

遠くで…実際は近くなのだが彼にははるか遠い場所で、憎たらしい化け物の声がしたが、内容までは頭に入らない
(死ぬ…ダメだ…死ぬ…落ち着け!考えろ!何を?どうする?どうする?どうする?どうする?)

>「数秒後に行動可能だと判断して通信しました。
>用件はアイアンメイデンの次の行動を知らせにきました。
>合わせるかどうかはあなたの判断にお任せします

耳の近くで今度は機械的な女性の声が聞こえる
だが、それも宙野には断片的にしか伝わらない

数秒後

行動



何を?



安全な場所で冷静に状況を把握する事ができる指揮官、矢車の戦死と、彼を援護するはずの装甲警備隊の壊滅が、本来ならこの様な状況など乗り越えられるはずの男の思考を鈍らせた
アイアンメイデンの蹴りが弾き返されたその時、彼が取った行動、それは…

『緊急解除スイッチ、作動』
蒸気の吹き出る音と共に、メタルボーガーの装甲服が宙野の体から離れ、旋風院を宙野から引き離す
同時に、宙野は前転して旋風院から距離をとり、更に全力で走り去る

簡単に言うと……逃亡だ

143 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/07/14(水) 01:07:27 0
そうか

144 名前:秤乃 ◇k1uX1dWH0U代理投稿 [sage] 投稿日:2010/07/14(水) 22:30:20 0
秤乃ひかると秤乃暗楽の戦いは、一方的だった。
優勢であるのは無論、ひかるの方である。
画材である陽光が無尽蔵である白昼の今、彼女の火力に際限は無い。

反して暗楽の画材である暗色は、この場には殆ど見られない。
辛うじて瓦礫や倒木、自身の影を用いて防御を繰り返すが、攻めに転じる術は皆無である。

やがて痺れを切らしたのか。ひかるは宙空へと舞い上がり、頭上に翳したワンドを振り回した。
そうして束ねられる限りの光を集め光球を描き、持ち上げる。
勢い余ってフラついてはいるが、守勢を強いられてきた暗楽では、ひかるを止められない。

「これでおしまい! もうお姉ちゃんなんていらないんだもん! だって、私は……!」


【リアル事情と、自キャラ二人でバトるってのもアレなので短めに
 何か持ち上げてフラついてます】

145 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/07/14(水) 23:25:44 0
>>144
そのとき。耳を澄まし、小さな音を注意深く聞き取るほどの余裕があればの話ではあるが。
チッチッチ、という時計の針のような音が聞こえる。
『爆弾』のタイムリミットは24時間ではあるが、確実に近付いているのだ。

さて、レギン・サマイドは、その独自の感覚――生命そのものをキャッチするレーダーでもって、秤乃姉妹の戦いを観測していた。
今、大きな生命力が激しく衝突している。
だが。その衝突し合う二つの生命力の塊のうち、片方が、異常な膨張を見せており、それが止まらない。
放っておけば、溢れる生命力の全てを破壊力に変え、『爆弾』と化す。
「まだ時間はある。さて、24時間と設定はしたが、1時間でも良かったかな」
人間離れした長寿のものにとっては、退屈は最大の敵である。
彼は今、『爆弾』の爆発に24時間後という時間設定を行ったことによって、退屈に蝕まれた。
「いや、24時間は『爆弾』の破壊力を存分に出すための準備期間、アレで良い。
 酒はよく熟成させなければ美味くないと聞くし、待つことも大事だ」
食事を必要としない彼は、酒の味をよく知らない。
宝石は酒を飲まない。

「しかし暇だ。死は隣人にして武器ゆえに、別段恐ろしいとは思わないが、退屈だけは永遠の宿敵だ。
 いかに強靭な精神を持とうとも、こればかりは耐え難いものがある」

>>137
彼は管制室のモニターを用いて、『矯正所』の混乱を眺めた。
自らの退屈を紛らわせるほどの大事件が起こっているかどうかを、彼は確認しようとしている。
「ミスリードか。そういうこともある」
旋風院とレギン・サマイドは、実はまだ接触していない。
そう、『接触して』いない。
彼が攻撃に用いた異能は、触れたものを爆発させるもので、接触してもいなければ、会ったこともない者を爆発させることはできない。

>>138
「ふむう」
トリッシュと相対しているヴィランについても、彼は様子を見てみた。
彼の場合、悪事は目的ではなく手段のように思える。
「わたしを知らないとは、これも時代の流れか」
レギン・サマイドは、大規模な目的のために陰謀を張り巡らせるが、それは必ずヒーロー達に発覚し、その野望を叩き潰される。
しかも活動期間が何世紀にも渡るという性質上、広くその名が知られる機会が十分にあったヴィランである。
だが、彼の邪悪な計画は、わざとヒーロー達に発覚するようにしている節がある、という人物も居る。
ひょっとすると、彼には目立ちたがり屋な面もあるのかも知れない。

146 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理投稿 [sage] 投稿日:2010/07/17(土) 07:18:23 0
「さてどうしたものか」
ラルゥデュデスタンだけに聞こえるようにささやく。
とりあえず排気ダクトに隠れたけど、その次の手が思い浮かばなくて。

いつもならここで適当な奴の身ぐるみ剥がして変装するところだけど、今日はむだっぽい。
囚人に化けたら警備員に撃たれるし、警備員になりすましも洗脳された警備員に撃たれる。
やっぱスニーキングしかないか、と固まってきたころ。

>『初めまして。わたしは諸君らの親愛なる隣人で、名前をレギン・サマイドという』
>彼がマイクに向かって話すその声が、『矯正所』の全域に響き渡った。
足の下、廊下のスピーカーを通じてそれは聞こえてきた。

「レギンスねぇ…爆弾魔のクセに、オサレな名前だこと」
「レギンですって…!」
「ルゥっちは何か知ってるの?」
「メノツェーヌ、レギンが相手ということは、下手なイリュージョンは意味がなくってよ」
…よりによって正面突破かよ。当たりたくない相手だ。

ホシが大体どこにいるのか分かったのはいいが、まずはおっちゃんに爆弾のことを連絡。
お偉いさん連中で住民避難とか考えるんだろうけど、私が考えても仕方ないかな。
…でも、やっぱり友だちは放っておけない。ユメとルチアにだけは伝えといた。
爆弾がどうこうなんて言えないから、普通に遊ぶ約束だけど。

それから私は、放送設備のあるらしい管制室に向かって進んだ。
爆弾がどこにあるかなんて分からないから、可能性のある所を回るだけだ。
建物と建物の間はラルゥデュデスタンを引っかけて飛んで、3つ目くらいの棟だったっけ。
途中で下、棟内がほとんどすっからかんってことに気づいた。
ていうか、むしろ外の方がうるさい。
牢があるからここは収容棟なんだろう。籠の鳥に逃げられたみたい。

147 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理投稿 [sage] 投稿日:2010/07/17(土) 07:19:38 0
例によってルゥっちで通気口を壊し、廊下に降りてみた。
予想通りっていうか、やっぱり牢が荒らされてる。それにほんの少しだけ焦げ臭いにおい。
フランス革命じゃあるまいし、逃げられるんなら自分だけ逃げりゃいい。
他の牢まで荒らされてるってことは、どっかの組織が身内を脱獄させに来たんだろうか。
一応、特定の組織に特有な荒らされ方をされてないか見ながら進む。
それも気になるけれども、でもまずは爆弾処理が先だ。

!?ちぃっ、まだうろちょろしてるヤツがいたか!
が、向こうにケンカを売られなかったのでスルー。そりゃそうだよな。
一見して警察に見える格好でもないし、あっちだって無駄な体力は使いたかないだろ。
脱獄は防いだほうがいいんだろうけど、今私一人でやってても焼け石に水。

裏から回ってせいでずいぶん遅くなったが、そろそろ終点。
…妙な感じだ。管制室を占拠されてるなら、そっちに向かうほど仏さんの数が増える筈。
けど実際にはそうなってない。入り口に向かって多くなってるような気はする。

相手はそうそう見逃してくれるような相手じゃないことは分かってる。
分かってるけど、分かってるからって、対策が思い浮かぶ訳じゃない。
こっちは技の一号力の二号どころか、赤いアシンメトリースカートのV3なんだ。
お守りがわりにしかならないような気がしてくるけど、
使えそうなイリュージョンのタネを仕込んでおく。

「叶うことならやり合わずに済ませたいんだけどな…」
「どうでしょうかしら」

【山の手から進んで管制室のある棟に入る。まだ覚悟の時間】


148 名前:◇k1uX1dWH0U代理投稿 [sage] 投稿日:2010/07/21(水) 06:28:31 0
蹴りと蹴りの衝突を制したのは、ブラックアダムだった。
揺らぐ体勢を後方に大きく飛び、アイアンメイデンは体勢の立て直しと同時に距離を取る。

>「ああん?レギン?何だそりゃ、俺様はそんな奴は知らねぇぞ
> ……というか、今この天才の俺様に向かって馬鹿って言いやがったな、このババァが!!」

「……っ! 何処をどう好意的に見たら天才なのか、是非ご教示願いたいものね」

内蔵のヘッドセットから囁かれるアイヴィスの報告から、今の衝撃でアイアンメイデンの駆動に支障がない事を確認しつつ、トリッシュは悪態を零す。

>「なーっはっはっはぁ!!どうしたどうしたヒーロー!!
> どうやら、不意打ちじゃねぇとこの俺様を倒す事なんてできねぇみたいだな!!
> そんな無力じゃあ、いずれ他のヴィランに殺されるぜ!?」

「……これでもMkW最新バージョンよ? アンタがおかし過ぎるのよ」

続く雷羽の言葉に、スーツの中で彼女の表情が苦味を帯びた。
だが彼女の面が湛える感情はすぐに困惑から、敵愾へと変化する。
そして――彼女は唐突に宙へと舞い上がった。
螺旋階段の中央である宙空で、旋風院雷羽の高みに浮遊し彼を見下ろす。

スペシャリストの土俵では、ジェネラリストは勝てない。
当然の道理である。
ならばどうすればいいかは、至極単純。
スペシャリストに自分の土俵の外で戦う事を、強いてやればいい。

逃走を図る宙野を見て、アイアンメイデンは右腕部のミサイルポッドを展開する。
万一ブラックアダムが宙野へ追撃を図った場合、すぐさま射出し、ブラックアダムの撃破――そうでなくとも階段の破壊を行うつもりなのだ。
そして空いた左手は、ブラックアダムへと翳される。
蒼い幾本もの光条が、降り注ぐ。

【空中からリアクターレイ攻撃
 宙野の逃走を援護。追撃を始めたらすぐさまミサイル発射】

149 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/07/23(金) 21:45:31 0

「……んなっ!?卑怯だぞ貴様っ!降りてきやがれ!!」

蹴りを迎撃された後、飛翔をしたアイアンメイデンにブラックアダムが吼える。
だが――――吼えるだけでブラックアダムがアイアンメイデンに攻撃を加える事は出来なかった。

アイアンメイデンの取った攻撃戦略は、ブラックアダムに対して極めて有効であったのだ。
近距離戦に特化しているが故の代償――――『ブラックアダム』には飛び道具が無い。
空にいる相手を、ブラックアダムというヴィランが倒す事は困難なのである。
勿論、投石や銃といった武装を使えば攻撃は可能だろうが、それらが本物のヒーローやヴィランに
あまり有効では無い事は自明の理。
その凄まじい脚力で跳べばある程度上空に行けるだろうが……自在に飛翔する相手に対しては
焼け石に水。かえって翻弄されるだけだろう。

仮面の下で悔しそうに歯噛みするブラックアダム。
だが、直後にその下の表情がニヤリと笑った。

「ぐぎぎ……ん? なーっはっは!そうだ、こういう時こそ人質を――――」

形成が不利になったブラックアダムが思いついた作戦。それは人質だった。
現在自身の背中と接着しているメタルボーガーを人質にしようというお決まりの作戦。しかし

>『緊急解除スイッチ、作動』

「ぎゃふんっ!?」
脱出装置の慣性に押されその場に倒れこむブラックアダム。
人質にしようとしたメタルボーガーは、その前に脱出を果たした。
その後にブラックアダムは即座に跳ね上がる様にして立ち上がり

「……けっ、俺様の拘束から逃げ出すとはやるじゃねぇか!
 だがな、装備を脱いだ貴様の攻撃なんて――――――――――は?」

立ち上がったブラックアダムの視線に入ったのは、後姿。メタルボーガー……否。
ヒーローが、ヴィランを前にして、逃げる姿だった。


150 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/07/23(金) 21:46:51 0
「は……おい、待て……」

その背中を呆然として見つめ、呟くブラックアダム。ヒーローの逃走。
そんな見慣れない場面を見て混乱しているのか、或いは――それ以外の何かか。

「……何で逃げてんだよ……お前、ヒーローなんだろ?
 ヒーローがヴィランから逃げたら、その背中で守ってた奴らはどうなるんだよ……
 皆、死んじまうんだろうが……皆、死んで……」

逃げるヒーローの背中を見てブツブツと呟く。
……どうも様子がおかしい。心此処に在らずといった感じである。
そんなブラックアダムに、アイアンメイデンの放ったリアクターレイが直撃する。
ブラックアダムの装甲の超低温と熱線が衝突し、煙を上げた。
だが、やがて熱線の出力に低温は負け、余波で発生した爆発でブラックアダムは地面に倒れた。

そこで、ハッと我に返ったかの様にブラックアダムは再び立ち上がる。
爆発の衝撃でブラックアダムの顔部分の装甲が少し砕け、血が流れ顔が露出しているが、
どうやら動けない程のダメージは負っていないらしい。

「ちいっ!!……戦闘中に何をしてんだ俺様は。ヒーローが逃げたら好都合じゃねーか……っ!!」

言葉とは裏腹に不機嫌そうな目を目をして、ブラックアダムは、ミサイルをこちらへと
向けているアイアンメイデンを睨みつける。
その目の中に在るのは、先ほどまでの様な怒りや憎しみではなく、ブラックアダム自身も解っていない
であろう感情の色。そうしてほんの少しの間沈黙の後、

「……うがああああああっっ!!!!やめだやめ!!……そうだ!
 そもそも俺様の任務はここから抜け出す事だ!こんな女ヒーローと……偽者に付き合ってる
 暇はねぇんだっ!!!!」

突如として叫んだ。ブラックアダムが目の前に右手を翳すと、
ブラックアダムの体を奔る薄青色の銀線が淡く発光し、大きな氷の壁が形成される。
この氷こそ、先ほどメタルボーガーとアイアンメイデンの攻撃を防いだものの正体。
おそらくは、一度だけならミサイルの威力を緩和させる程度の真似は出来るだろう。

そうしてその氷の壁を背に、『ブラックアダム』は収容所の壁に拳を叩きつける。
二度。三度。四度。拳を受けた堅牢な筈の壁は、あまりの腕力を相手にひび割れ、やがて崩れ落ちる。
その先にあるのは――――空洞。即ち、偶然そこに在った職員用のエレベーターの通り道。
ブラックアダムは一度、アイアンメイデンともうメタルボーガーだったものの姿を
睨むようにして見ると、その空洞に向かって跳ぼうとした。

つまり、先ほどまでアレほど激昂していたヴィランが、何故かその場からの逃走を選んだのである。


151 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 02:32:03 0
>>146-147
「なるほど、こちらへ来る者も居たのか」
生命そのものを感知するセンサーを用いて、新たにこちらへ近付いてくるヒーローの気配を察知した。
今のところ、彼女以外にはレギン・サマイドに挑もうというヒーローは居ないようだ。
「今のわたしの手元には、先ほど言った特大の『爆弾』は無いのだがね。
 だが、一応は客人として迎えないと、失礼に当るかな。
 こんなものは、家族で楽しむ花火に過ぎないが、いろいろ準備をしておこうじゃないか」
先ほども述べたとおり、死は隣人であり、武器である。
彼は、それ――つまり、自分に会いに来た者を破滅させるための武器を持ち、然るべき用途で用いて出かけた。
彼の握る『死』は、やはり爆弾の形をしていた――それが爆弾だと認識できるかどうかはともかくとして。
要するに、彼は触れたものを爆破させることができるが、そのタイミングを好きなだけ遅らせることもできる。
それが意識を持つ生物であった場合、触られても自分が爆弾になったことに気付かずに、そのまま活動を続けさせることもできる。
今の彼は、その異能でもって爆弾に変えた物体を、大量に懐に隠している。侵入者をもてなすために。

【おもてなしの準備ができました】

152 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 23:34:05 0
旋風院からかなり離れた角まで逃げた宙野は、アイアンメイデンがそこにいるにも関わらず、非常用の隔壁を手動で閉じようとする
が、それを閉じる前に、旋風院は自分から外へと逃げていった
彼の呟きは、無論宙野には届いていない
そんな物を耳にする余裕が無いほどに、彼は必死だったからだ
故に、旋風院が逃げた際、彼の胸に去来した思いは唯一つ

良かった

悔しさ、任務失敗、無力感、そんな物は無かった
ただ、助かった、と言う喜びだけ
同時に、どっと体の奥から疲れが沸いてくる
最早、心身ともに戦えるような状態ではない
腰を折り、膝に手をつき、息を荒げつつ、先程脱ぎ捨てたメタルボーガーへと戻る
そこで始めて、トリッシュ・スティールの姿が目に入った
彼女は、今回の戦い、最後まで戦闘服を脱がず、戦い抜いている

そこで始めて、女に負けた悔しさと、自信の弱さを痛感した

自然に、膝から崩れ落ちる
悔しかった
最も後方にいる華奢な女に、最前線で戦い抜いてきた自分が、完敗したのだから
メタルボーガーとアイアンメイデンとの性能さや、ヴィランとの戦闘経験の違い何か、理由にならない
最後まで『戦う』事ができなかった
華奢な女が戦っていたと言うのに…

「……………畜生」
前方に、旋風院が逃げた穴が見える
だが、無論追いかける力も、気力も無い
完敗……恥と無力感と自分自身の弱さ、全てが合わさった…凄まじく嫌な完敗だった…

153 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/07/27(火) 00:59:20 0


154 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 02:06:56 0
ラルゥデュデスタンの語るところによると、レギンさんとやらは、
ヤツが生まれた日、天上天下に生きとし生けるものはヤツを除き全て、自動的に一つだけ
『悪さ』のランクが下がった、と言わんばかりの大ワルらしいッッッ!…バキかよ。
「ロベスピエールを惑わしたのも、ナポレオンにヨーロッパを灼かせたのも、
 皆レギンの仕業でしてよ。レギンさえいなければ、ガウス様からの便りが絶えることも
 ありませんでしたわ。絶対に許しませんわ、絶対にでしてよ…!」
…ルゥっちにはルゥっちなりの事情があるんだな。いいけど。

「けどさ、そんな相手に一人で真正面から向かってもね…」
相手が甲賀弦之介なら瞳術で自滅せらるるのがオチだろう。
「あら、わざわざその足で立ち向かわなくてもよろしくてよ。それなら…」
ルゥっちがその案を話してくれた。なるほど…!
なにぶん相手が相手だし、どれだけ通用するか不明だけどしかし、他に手もなし。

再び走り始めた私は、天井に張り付いた黒い半球にルゥっちをぶつける。
無意味かも知れないが、管制室を占拠された以上、監視カメラは潰すに越したことはない。
アン、ドゥ、トロワ、カトル、サンク、シス、っと数えている間にだいぶ多くなってきた。
念のためにもう一回りしてから戻って。増えたのは、仏さんの数。
今は変身してるから正気でいられるけど、後で思い出したらうなされそうだ…。

とても安らかとはいえない仏さんの中から協力願えそうな人を探す。
五体満足の方に決めた。真っ黒焦げ介だが…。健康体の人に頼むのは気が引ける。
「メノツェーヌ、貴女の髪を一本取って、その方の肌にお付けなさって」
「あい…」
変身後の髪だから、私本来の髪じゃないし、私の髪じゃないし、私の髪じゃないし!
そうでも思わないとやってられない。おどおどと仏さんに髪を落とす。
あとはずっとルゥっちのターンだ。ストリングで魔方陣を描いてるらしい。
本来なら死体損壊等罪もののイリュージョンだが、有事だし仕方がない。
一段落着くと、事切れたはずの仏さんがすくっと立ち上がった…!

155 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 02:09:54 0
山田風太郎風に解説してみよう。
奇怪は奇怪だが、世にありえないことではない。
臓器移植を受けた者の中には、時たまドナーの記憶までもを移植される者がいる。
また、双子の間には同調性が作用し、時に何百キロと離れていても知覚を共有するという。
メノツェーヌの双生児ともいえる毛髪細胞を移植し、その意で仏を操るのであらう!
…よし、なんか納得できた気がしてきた。
ルゥっちに聞けば正しい原理が聞けるんだろうけど、私の鳥頭じゃどうせ理解できないし。

ともあれ、仏さんは私の意思で動いてくれるし、
仏さんのから見えるものや聞こえるものは私にも感じ取れるってわけだ。
仏さんに手を振ってみる。仏さんに手を振り返させてみる。…うん、なんともシュール。
かくして私は、レギンとのファースト・コンタクトをこのエインヘリヤルに任せた。
BGMは「傀儡忍法帖」と言ったところか。今は「鬼斬忍法帖」にはなりそうもないしな。
私としちゃ、できれば穏便に済ませたいところだけど、そううまく行くかどうか。

のそ…のそ…と管制室の扉を開けるのは、焼け焦げた焼死体。
「本日は素敵なプレゼントをありがとうございます」
よしよし、ダンディなおっさんの声だ。
うまく行けばレギンも死んだおっさんその人を異能者そのものと間違えてくれるかも。

「お礼として、わたくしからも一つ、ゲームを贈りたいと思います。
 競技はエクストリーム・キャッチボールとでもいいましょうか…そうココナッツゲーム。
 この手榴弾、100分経つか、または地面に落とす等の衝撃を加えると爆発します。
 そのとき持っていた者は即死。それでは、ごゆるりとお楽しみください。」
そう言うと私は、じゃなかった、死んだおっさんは、レギンに向かって手榴弾を放った。
ワイルド7じゃ1分だったけど、そうじゃないのは時間を稼ぎたかったからだ。
それに爆発するというのは大嘘で、つまるところブラフなのだった…ハズなのだが。

【焼死体を遠隔操作して管制室に侵入させ、レギン氏にココナッツゲームを持ちかけます。
 生命反応には特に気を払ってないので、簡単に区別できるかと】

156 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/07/31(土) 11:44:28 0
>>154-155
さて、死体を用いたこのイリュージョンは、視覚的には自分に敵対する異能者に見える。
だが、レギン・サマイドの生命を感知するレーダーは、些細ながらも異常を感知している。
生命を感知する性質上、最初からロボットとして作られたような輩や操り人形など、生命を持たないものには反応しない。
仮初めの肉体が破壊されて本体のダイヤしか残っていない場合、五感は異能によって形成された身体に由来するものであるから、機械や幻覚を完全に認識できなくなる。
今回の場合は、形作った肉体の嗅覚、聴覚を最大限に活用することで、それが焼け焦げており、呼吸をしておらず、心臓も動いていないということが判る。
彼はニヤリと会心の笑みを浮かべた。
「こういったゲームは、嫌いではない。
 それに、『爆弾』が爆発するか、『解体』されるかするまでは、こちらも暇なのでね。
 しばらく、付き合おうじゃないか」
この余裕が命取りになる可能性は、十分にある。
レギン・サマイドなるヴィランが慢心故に撃退されたことは、過去何度もある。
それでもレギン・サマイドは「余裕と茶目っ気を欠くべからず」というスタンスを絶対に崩そうとしない。
いつかは必ず、取り返しのつかない破滅に陥るのだろうが、それでも彼はスタイルを貫く気でいるのだ。

そして彼は、爆発しないはずの手榴弾をキャッチした。
それはレギン・サマイドに触れられたものであるから、当然、本来だったら爆発し得ないものでも爆発する。
そう、100分後かどうかはともかく、確実に爆発するのである。
しかも、彼が触れる度に爆発の威力が増強されるため、何度も投げ合えば、勝敗に関わらず両方とも粉砕されるだろう。
「そうら、投げるぞ」
彼は本当に爆弾と化した手榴弾を投げ返した。

157 名前:◇k1uX1dWH0U代理 [sage] 投稿日:2010/07/31(土) 16:41:33 0
「……逃げた? どう言う事?」

スーツの中で、トリッシュの顔が怪訝に歪む。
戦闘の最中、アダムを盗み出したヴィラン――ブラックアダムは突然身動きをやめた。
かと思いきや突然、彼は壁を突き破り逃走さえ始めたではないか。
だがブラックアダムを、アイアンメイデンは追わなかった。
それは何も狼狽や逡巡が原因ではない。

寧ろヒーローとしての的確な判断が、彼女の意識から追撃の選択肢を除外した。
まずこの矯正所はその性質上、電力は独立した発電機によって、水は雨水と循環のみで賄っている。
食料にしても異能者による転送か、高所からコンテナを落として配達するのだ。
つまりここで逃走された事が、そのまま逃走に繋がる事は無いと言う訳だ。
ならば別所の援護や入り口の警備強化、脱走したヴィラン達の鎮圧に走る方が適切である。

そして何より、ここには宙野がいる。
レギン・サマイドはヒーローを『ヴィランを倒す者』と称した。
だがヒーローは――無論、悪を討ち果たす場合も多々あるが――『護る者』なのだ。
ヴィランにとって悪事が手段であるように。
ヒーローもまた『護る』為に悪を倒すのだ。

とは言え。

「悪い事してえ」と叫ぶヴィランがいたように。
あくまで「ヴィランと戦う事」を目的としたヒーローがいたように。
例外と言う物は、必ず存在するものである。

「……ねえアンタ。どうする? まだやれる? それとも、もう無理かしら?」

ともあれアイアンメイデンは、宙野へと視線を向け声を掛けた。
それから無人となったアイアンボーガーに、一瞥をくれる。

「もう無理だって言うなら……外まで連れてってあげる。ここから逃げなさいな。
 アンタは別に、ヒーロー気取ってるって訳でも無いんでしょ? だったら、私は何も言わない」


【旋風院さんはどうせ出口は塞がれているからと見逃しコースです
 宙野さんに戦うか逃げるか選択肢を
 五日ルールで操作を続行します。ご本人様が帰ってくればすぐにお返し致します】

158 名前:宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/08/01(日) 11:48:39 0
>「もう無理だって言うなら……外まで連れてってあげる。ここから逃げなさいな。
トリッシュの言葉に、宙野はすっと手のひらを前に出した
「…親切は痛みいるが……いい」
そう言うと、素早くメタルボーガーをもう一度装着する
「………少し落ち着いてからもう一度行動する。俺に構わなくていい」
深呼吸をして、宙野…メタルボーガーはその場にうずくまった

確かに宙野は死の恐怖に怯え、逃げた
確かに宙野は屈辱に塗れた

だが
そんな事、宙野は今まで何度と無く経験してきている

敵軍の異能者の登場に仲間を見捨てて逃げた事も
馬鹿にしていた敵兵器に痛い目に会わされた事も
宙野は乗り越え、今ここにたっている

宙野にとってあの程度の…ヒーローが自己嫌悪で立ち直れなくなりそうな事など、さしたるダメージではないのだ

が、それでも心的にダメージを受けていないわけではない
せっかく気を使ってくれたトリッシュに、まさか乱暴で無礼な返答をするのも失礼なので丁寧に断りを入れて、微々たる休息をとる事をとって心を切り替えんとする

【戦う、ただし少し休んでから、と言う選択肢を選びます。その場にほっぽといて別のとこ行ってOKっすよ】

159 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/02(月) 10:08:43 0
前回までのあらすじ。
矯正所入り口付近でエンカウントした白ゴス(仮)ちゃんは遠慮も躊躇も慈悲も皆無な超絶ビームを撃ってきた。
俺はなんとかそれを凌ぎ、仕留めたと思われてるアドバンテージを活用して背後から一撃加えやろうと画策してるんだからねっ。

俺の行動は迅速だった。
物陰で背に担うショットガンを折り、弾倉と薬室に装填されていたカートリッジを一旦全て排出する。
そのうちの一つを拾い上げ、丁寧に基部のキャップを捻り外すと、散弾用の鉛玉が床へざらりと散らばった。

「Wikipediaで一応構造を調べておいてよかったぜ……」

この手の中折れ式ショットガンに使われてる実包(カートリッジ)は筒部分がプラスチックで、点火部が金属になっている。
弾丸そのものは先端部に詰めてあるので、先っぽを上手く開けば火薬はそのままに弾の中身だけ挿げ替えることが可能なのだ。
この際散弾は使わない。下手に撃って黒ゴスに当たってもコトだし、何よりグロ画像製造機は寝覚めが悪い。

だからといって、手心を加えるつもりも毛頭ないのだが。

「へへへ……こいつで目にものを言わせてやるぜ。ペラペラ喋らせてやる」

ポケットから取り出したるは『災厄捕獲風呂敷』で捕獲した白ゴス謹製凶悪ビームを圧縮したもの。
封を解けば俺の手元から半径10メートルが確実に蒸発するだろうマジヤバな代物を、カートリッジの中身にする。
これを実包内の空いたスペースへ詰め込み、再びキャップを締めてショットガンに一発だけ装填した。

俺はビームを包む"神様"に一つ命令を上書きした。的に命中した瞬間ビームを解凍し、着弾点へ指向性を持たせて解き放つ。
哀れ不意を打たれた白ゴスちゃんは、ご自分でどっぴゅり発射した白濁光線によって昇天あそばせるってな寸法だ。
われながら極悪なマーヴェラスプラン。反吐が出るほど素敵な目論見だった。

そうと決まれば早速接近だ。奴らは俺の生存に気づいていない。となれば、白ゴスちゃんへのルートは必然スネークだった。
"神様"の透明マントで体を覆い、なるべく空気の揺らぎとか足音とかを察知されないよう匍匐前進で目的地へ向かう。

さて、白黒姉妹対決の戦況はどうなってるかなっと……あっらー、黒ちゃん押されてんじゃん。やべえじゃん。
日中であるというアドバンテージは思いのほか大きく天秤に傾いているのか、黒ゴスは防戦一方だった。
っていうか白ゴスの顔ヤバい。目からハイライト消えてるし。口とか半開きで歪んでるし。マジでキチガイ染みてるからやめろよお。

>「これでおしまい! もうお姉ちゃんなんていらないんだもん! だって、私は……!」

白ゴスちゃん空高く舞上がり、決め技っぽいモーションに入りだした。
それはマジでヤバい。さっきの白ビームの桁が一つ違いそうな、集約する光の束。太陽と見紛うほどの極大威力。
黒ゴスは防御態勢に入れていない。いや、よしんば万全で十全だったとして、アレはそういうレベルのもんじゃない。
なにせ術者たる白ゴスですら、あまりのエネルギーに安定を欠いていた。仲間のピンチ。敵の隙。

――つまり、俺の出番である。

「お姉ちゃんがいらないならお義兄ちゃんはどうだ!?」

フナムシ式前進にて白ゴスちゃんの真下へ移動完了した俺は、迫撃砲のように地面へストックを立てたショットガンを上に向ける。
カートリッジに納まっているとはいえ反動を殺しきる自信はない。コッキングすると同時に、俺は黒ゴスへ声を挙げた。

「今だっ――一緒にぶちかますぞ!!」

初めての共同作業を合図しながら、俺は最早躊躇いを捨てて白ゴス狙撃の引き金を引いた。


【こっそり近づいて真下から砲撃。白ゴスちゃんの初撃をそっくりそのまま圧縮してお返し】



160 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理 [sage] 投稿日:2010/08/02(月) 19:17:05 0
>151
>「こういったゲームは、嫌いではない。
>それに、『爆弾』が爆発するか、『解体』されるかするまでは、こちらも暇なのでね。
>しばらく、付き合おうじゃないか」
>「そうら、投げるぞ」

おっさんの死体に投げさせた手榴弾を、レギンは再び投げ返してくる。
つーことは、町一つぶっ壊す爆弾は管制室の近くにはないってことなんだろうな。常考。
しかし目の前に爆弾をちらつかせてるのに、レギンは悠然と構えてやがる。
流石は大親分、とでも言えばいいのか?真正面から突っこまないでよかった。
ここにないならどこにあるんだと、さっそく爆弾のありかを聞きたいところだ。
しかしそう焦ってもいけないか。そのために100分稼いだんだし。

「お気に召したようで何よりです、レギン・サマイド様。
 レギン様のお噂はかねがね伺っておりました。
 おお、貴方のような大物ヴィランに死を賜れるとは身に余る光栄だ!」

本当は死ぬ気なんて一カケラもないけどな。
死体さんが手榴弾を投げ返す。そしてレギンが手榴弾を投げ返す。

「わたくしの人生はここで幕を閉じるのでしょう。八百長ではありませんが、分かります。
 レギン様のその雄々しい双眸を見ていれば、手に取るように。
 このゲームに負けるようなレギン様であれば崇拝するに値しませんからね。
 レギン様、冥土のみやげとして一つ、わたくしの話を聞いてやくれませんか。」

…死体さんが手榴弾を投げ返す。またレギンが手榴弾を投げ返す。
ときどき死体さんの返すのがちょっと遅れるのは仕方がない。
その間、『私』のまわりにおかしなことがないか確かめてるから。

「実は、つい最近までわたくしは、派遣工として天道寺工業で働いていました。
 一度ヴィランとマークされた者がカタギに戻ろうとしたらこんな道しかありませんから。
 ところがある日何の前触れもなく解雇を言い渡されましてね。
 人生細く生きても長く続くわけではないのだということを悟りました。
 いや、例の天道寺工業施設同時爆破事件の報道を見た時はすっきりしたなあ」

死体さんが手榴弾を投げ返す。ついでレギンが手榴弾を投げ返す。

161 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理 [sage] 投稿日:2010/08/02(月) 19:18:25 0
「わたくしは常々、わたくしをこのようにした社会に復讐がしたいと考えておりました。
 ところがご存じの通り、天道寺工業は名も実ももう存在しない。
 考えに考えたあげく、天道寺元社長を殺そうとその家に入ったところを
 ガードマンにつかまってこのザマですよ。ところがどうしたことか!
 そこにレギン様が現れて、この町を綺麗に吹き飛ばしてくれると言うじゃないか。
 わたくしは嬉しくて、いてもたってもいられなくなりましたよ。
 たった一つの命も、もう惜しくはない」

情状酌量の余地もないんじゃないかな、この作り話。
まあ、聞かせる相手が相手だし、いいか。
死体さんが手榴弾を投げ返す。レギンがまた、手榴弾を投げ返す。

「わたくしの一番の仇敵、ジェームズコープだけじゃない。
 この町には、スティールインダストリアルだって、不知火重工の支社だってあるんだ。
 わたくしがぶち壊したくてぶち壊したくてぶち壊したくて仕方がなかったものを、
 レギン様が全て塵に帰してくださるのです。
 ああ、先ほど冥土のみやげに話を聞いていただきたい、と申しましたが、
 もう一つおみやげをいただいてもよろしいですかな?」

死体さんが手榴弾を投げ返す。それを受けて、レギンも手榴弾を投げ返す。
そろそろ本題に入ってもいい頃合いか。
やれやれ、頭のおかしい奴の振りして話すのも疲れる。自殺願望って無理があったかな。

「わたくしはこの町が灰になるその瞬間を待たずして死ぬでしょう。
 しかし、わたくしはその瞬間をこの目に焼き付けてから死にたいのです。
 レギン様、どうか末期の水を飲ませてくれやしませんか?
 …その瞬間をまぶたに焼け付ける手伝いをして頂きたい。
 一体その炎は何処に仕掛けられ、そしてどの地域から火の手が上がるのですか?
 そしてレギン様はまたおっしゃいました。面倒な仕掛けはないと。
 ダミーのコードがないのなら、では『解体』しようとしただけで吹き飛ぶのでしょうか」

さっきの話だと、どうもレギンは『解体』させたがっているように聞こえる。
対冷却トラップを仕掛けといて、液体窒素使ったらボーンってオチか?
まあいい、ともかく本人に語らせてみよう。
死体さんが手榴弾を投げ返す。そしてレギンが手榴弾を投げ返す。

【死体を狂ったレギン崇拝者であるかのように語らせ、爆弾の情報を聞き出そうとします】

162 名前:秤乃 ◇k1uX1dWH0U代理 [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 07:37:13 0
>「お姉ちゃんがいらないならお義兄ちゃんはどうだ!?」

視界の外、真下から響いた声に、秤乃ひかるはフラつきながら眼下を見下ろす。
目に映るのは、地面に突き立てられた散弾銃。
それがどうしたのだと、ひかるは嘲笑を零した。
生きていた事には多少驚いたが、肝心の得物がその程度では無様を上塗りするだけだ。
頭上に掲げる光球を真下に放ってやれば、今度こそ,逃れる事は出来ないだろう。
ゴミ虫が死に、次に姉が死ぬ。何も変わらない。ただほんの少しだけ、二人の寿命が伸びただけだ。
童女らしからぬ不遜の色が口元に、胸に埋まった魔石から滲む。

>「今だっ――一緒にぶちかますぞ!!」

けれども引き金が引かれた瞬間、銃口から横溢した閃光にひかるの表情が切迫に染まる。
真性道程の姿を認めた時、彼女は何よりも先にこう考えるべきだったのだ。

『何故、一体どうやって、彼は光の濁流から生還したのか』

だが魔石の齎す狂気が、ひかるの思考を靄で遮ってしまった。
故に、彼女は一手遅れた。
迫る光条に、ひかるは焦燥に衝き動かされ光球を激突させる。
収縮された光条と、不安定なまま振るった極大の光球。
押しているのは、前者。
その現実に、真性道程の心は踊るだろうか。

「甘いよお!? 甘い甘い! あんまりにも眩しいから見える物も見えなくなっちゃったかな!?」

しかし秤乃ひかるはそれでも、口角を吊り上げ勝機を見出していた。
鍵は、双方の出力限界にある。
道程の光条は、相手の一撃を圧縮して撃ち返しただけの物。
つまり打ち止めが来てしまえば、それまでなのだ。
対してひかるは、不安定とは言え元々の出力も上回っており、何より自身の力で補填が可能である。

時と共に道程の光条の威力は減衰し、対してひかるは補填に加え安定までも得る事が出来る。
どちらが有利であるかは、自明の理だ。
見てみれば道程が放った光の奔流は徐々に、勢いを損ないつつある。

「バカだよねえゴミ虫さん! なあに? 眩しい物があると、ついつい近寄りたくなっちゃうの!?
 それで殺虫灯に触れて死んじゃうんでしょ? 最初から地べたを這いつくばってれば、そんな事もないってのにさ!」

魔石から流れ込む悪意に目を剥き、口元に三日月を描いてひかるは叫ぶ。

「……見える物も見えなくなっているのは、あなたの方よ」

高揚を醒ます言葉と共に、彼女の視界に『黒』が閃いた。

「きゃっ!?」

秤乃暗楽の放った影の槍が、光球の一点を貫いた。
尖鋭なる形を与えられた影は黒い閃光となり、ひかるに迫る。

「……っ、はは! 残念だったねえお姉ちゃん! でもやっぱり凄いよ、今のはちょっと危なかったもん!」

けれども寸での所で顔を逸らし、彼女は漆黒の槍を躱した。
躱されてしまった。
にも関わらず暗楽は動じず、物静かな態を貫いている。


163 名前:秤乃 ◇k1uX1dWH0U代理 [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 07:38:27 0
「……前言撤回ね。どっちかと言ったら、聞こえる物も聞こえなく、ね」

暗楽の呟きに、ひかるは首を傾げる。
けれどもすぐに、彼女は姉の言葉を負け惜しみの類だと断じた。

「聞こえなくたっていいんだよ、お姉ちゃん。今のがお姉ちゃんの限界、これ以上は惨めなだけだから。
 最期はせめて、私の素敵なお姉ちゃんらしく居て。……だから、もう死んで?」

「……人の話はちゃんと聞くものよ? 真性はさっき何て言ったかしら。
 そう、『一緒に』。合体攻撃はヒーローの特権だけど、モノを盗むのは悪党の特権だし、問題ないわよね」

言うや否や、光球を貫通した影が歪み蠢いた。
巨大な堤も、針の穴から決壊を迎える。
影の槍が穿ち広げた僅かな穴を、収縮された光線は突き破った。
光球を引き裂き、勢いを取り戻し、ひかるへと猛進する。

そして彼女は、光の濁流へと呑み込まれた。
たっぷり数秒を経て、ぼろぼろに成り果てたひかるが墜落する。


164 名前:秤乃暗楽 ◇k1uX1dWH0U代理投稿 [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 07:39:58 0
妹が降ってきた。
これだけ言ってみると愉快な出来事にも聞こえるから、困っちゃうわ。
本当に、本当に。

妹に歩み寄る。
ボロ雑巾みたいな様を晒して横たわる妹に。
微かにだけど胸が上下しているから、死んではいないみたい。

歩み寄った妹からは「カチ、カチ」と音が漏れていた。
何の音かは、すぐに察しがつく。
これがレギン・サマイドの言っていた、この都市全域を焦土とする『爆弾』。

私は考える。
今から私の妹を救うだけの手立てがあるか、無いか。
魔石の力で辛うじて生きている妹をここから連れ帰って助け、
施された『爆弾』を解除出来る異能者を後一日足らずの内に探し出す。

到底、無理だわ。
……いえ、唯一出来るとしたら。
それは真性道程、彼だけ。

だけど、それは出来ない。
だって私は、悪党だもの。
私が妹にそれだけの事をしてやる、真性にさせる、理由がない。

だから、今こそ運命に従う時。
例え私が、それをどれだけ嫌がっていたとしても。

「……お姉ちゃん」

不意に、妹が声を漏らした。
私は、返事を返せなかった。

「……お姉ちゃんなんて……いらないんだよ」

弱々しく呟いて、妹はワンドを握る手を掲げようと手を震わせる。
思わず私まで手が震えてしまって、それを押し込めるべく私は拳を強く握る。
やっぱり、無理だ。
例え妹を救う素晴らしい術が見つかったとしても。
魔石から散々滲んだ悪意はもう、妹の骨の髄にまで染み込んでしまっている。

「……もういいのよ。何も言わなくて。あなたはもう、救いようがない。
 だけど最期はせめて、私の可愛らしい妹でいて頂戴な」

冷冽な凍土の仮面を被り、私は断じる。
いつかこんな日が来るかも知れないとは、教えられてきた。
こんな日が来るかも知れないって、怯えてきた。
だからこそ、私は出来る。
ずっとずっと覚悟を積み重ねて、恐怖に浸り続け、感情を幾度となく殺してきたから。

だから、妹を殺せる。
下らない、叙情的な独白はもうおしまい。

165 名前:秤乃暗楽 ◇k1uX1dWH0U代理 [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 07:42:19 0
「……いらないんだもん。だって……」

「大丈夫よ、痛くないから。ちょっと夜が訪れて、あなたは眠るだけ」

妹の影にワンドを伸ばす。
後は色を操り影に水溜りの魂を宿し、妹を沈めるだけ。
ただそれだけの、し損じる筈のない単純の作業。

「……私やっと、一人でお仕事出来たんだよ?」

だった筈なのに。
妹の零した一言で、私の体は一際大きな震えを帯びて、
それっきり動かなくなってしまった。

ずっとずっと積み重ねてきた筈の『秤の一族』としての私は、ただの一言でいとも容易く崩れてしまった。
私には、出来ない。出来なかった。
滅すべき爆弾を、殺すべき魔石を、妹を殺せなかった。
妹が抱えている物はどれも、絶対にこの世界から排除しなくてはならないのに。

「……あぁ、何て愚かな妹なのかしら。けれど妹が愚かならば、姉である私も愚かであるのが道理だわ」

だから。

「殺すべき妹が、憎むべき妹が、どうしようもなく愛おしくて堪らないの」

だから。

「あなたが生きてくれるのならば、代わりに私が死んでもいいくらいに」

この世界から居なくなるのは、私でいいの。

これが、最善策。
爆弾も魔石も無くなって、出来損ないの私が居なくなる。
愚かな悪党が一人、最後の最後で情に流されて馬鹿をやらかす。
それだけの話。

妹の胸から魔石を抜き出す。
そして強く、握り締めた。
さあ、異能を……私の望む力を寄越しなさい。
だけど代わりにあげる物は何も無いわ。
私の心が悪意に侵される頃には、私はもう死んでいるもの。

私が最後に望むのは、『姉として出来る事をする』くらいの能力。
妹に必要な物なら何であろうと与え、妹の辛苦を代わりに貰い受ける力。
私の命を妹に与えて、代わりに傷も悪意も爆弾も、全てを引き受ける。
途端に立っているのも辛くなったけど、これで後は私が死ぬだけ。

166 名前:秤乃暗楽 ◇k1uX1dWH0U代理 [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 07:44:27 0
「……悪いわね。最後に見せるのがこんなザマで。幻滅しちゃったかしら?」

ふと、随分と置いてけぼりにしてしまった気がする真性を、振り返った。
喋ったら殊更に意識が遠のき、私は思わずその場にへたり込む。

「大悪党へのステップその3は、自分で見つけて頂戴。
 あぁ、あと……これはほんの下らないワガママなんだけどね?」

景色が、視界が白んでいく。
彼が一体どんな表情をしているのか、もう見えなかった。

「もし良かったら、あのジジイの顔をぶん殴ってやって。死なない程度にね……貴方が」

もう真性どころか、自分の体さえよく見えない。
後始末をしなくちゃいけないわ。
見えないワンドをしかと握って、地面を小突く。
私自身の影に、沈んでいく。

もしも世界がとても平和で、秤の一族なんて無かったら。
私は妹と一緒に過ごせたのかしら。
仲良く手をつないで。
それで、真性とも……なんて、下らない。



そして、何も見えなくなった。



【暗楽:爆弾やBDを抱えてさようならしました
 ひかる:暫し呆然自失】

167 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 09:48:18 0
>>166
神楽が影に沈んだ後、そこにたたずむ真性道程の背後に、9mの巨大な影が立つ
言うまでもない、メタルエースだ

メタルエースや装甲警備隊、機動隊は今まで集団脱獄阻止のために周囲で激しく交戦しており
歩兵だけで異能者の群れを抑える事はできないため、メタルエース等はずば抜けて力の強い秤乃一族の戦いには手を出さず、今まで警察に捕まるレベルの他の異能者の相手を担当していたのだ
その秤乃一族の戦いが終わり、真性のみになったため、この機体はこちらに来たのだろう

メタルエースはわずかに上肢を傾け真性へ視線を向け

次の瞬間、前かがみになって『乗れ』とばかりに真性に片腕を差し出した
『あの爺は管制室に立て篭もっている。我々にそこを攻撃している余裕は無い』
スピーカーからパイロットらしい声がする、宙野の指示に従い、最初にアイアンメイデンの援護に加わったパイロットの声だ
…メタルエースの集音性能は高い、恐らく会話を聞いていたのだろう
彼等もまた、レギンに密かに怒りを燃やしていたようだ
管制室まで送ると言っている

168 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/08/04(水) 09:51:12 0
>>160-161
「爆弾、爆弾……」
ポンと手を打った。
「アナウンスでそれなりのヒントは出したつもりだったが、アレだけでは足りないかな?
 生命エネルギーを爆発させるということは、生物を爆弾に変えたということだよ。
 今にも爆発しそうな、不安定で膨大なエネルギー――
 それを抱えた生物がわかれば、それが爆弾だと判るだろう」

「ところで、今日は良いことと悪いことがあった。
 良いことは――愛らしく、しかも犬のように従順なお嬢さんを見つけたので、その頭を撫でてあげたことだ。
 心安らぐ瞬間だった。ヴィランにとっては貴重な時間だったよ。
 悪い事は――おお、ところがだ、わたしには触れたものを爆弾に変える能力があるじゃないか。
 うっかり、そのお嬢さんを爆弾にしてしまったわけだね」
もちろん、「うっかり」ではなく、彼は悪意によって他人を不幸にするための行動を選択した。
彼の意図は単純明快で、要するに秤乃暗楽に対する嫌がらせを行うことだ。
言わなくても良いことを、わざわざ言った辺りに、このヴィランの底意地の悪さが伺えよう。
「さて“爆弾”の解体だが、これは簡単だよ。
 つまり、言葉通り、その生き物を生きたまま『解体』すればいい。
 簡単だろう?ちょっと異能なり小道具なりがあれば、できるはずだ。
 いや、死体を解体しても別に構わないが……」
つまり、仕掛けられた人物――秤乃光をバラバラにして殺せば解除できると、彼は語っている。
この事実は、聞かない方が幸せだったかもしれない。

>>166
「……だが、きみにとっては良い報せがある」
レギン・サマイドは、その声色から察するに、少し不機嫌になったように感じられる。
「わたしの“爆弾”を、どういった手を使ったのか、あの世まで持っていってくれた者が居る」
生命を感知するセンサーを持つ以上、巨大な生命エネルギーの塊と化していた“爆弾”を感知することはできる。
そのため、一個の巨大な生命反応が常態に戻ったことも、そのために犠牲となった人物が居ることも察知した。
「その人物の名前を知る機会があれば、感謝の言葉でも投げかけてやることだね。
 まあ、この街が実際に吹き飛んでもらっても、幾多の悪党もまた滅びることになるから、特に残念には思わないが」
彼は余裕と茶目っ気を保つことを己に課しているが、それでも感情そのものを完全に制御できるわけではない。
思ったとおりの結末にならなかったことに、彼は少し機嫌を損ねているようだった。
こうしたところは、少々子供っぽいところがあるのかも知れない。

「さて、爆弾で遊びたいと言い出したのは、きみだったな。
 ここはもうすぐ賑やかになるぞ。
 招待した客人が来るまで、しばらく遊びを続けようじゃないか。
 こいつは、あれに仕掛けたものほどではないが、一人がバラバラになる程度の威力はある。
 そうら、投げるぞ。落とすと爆発するね」
レギン・サマイドは、再び手榴弾を投げ返してきた。八つ当たり気味に。

【とりあえず、ココナッツゲームを続行しながら待ちます】

169 名前:ゴスパン刑事メノツェーヌ ◇SEDW2Ci5YI代理 [sage] 投稿日:2010/08/08(日) 22:56:34 0
>168
> 悪い事は――おお、ところがだ、わたしには触れたものを爆弾に変える能力があるじゃないか。
> うっかり、そのお嬢さんを爆弾にしてしまったわけだね」

このロリコン野郎……!女の子相手になんてことしやがる!
迷わず納豆そばと行きたいところだが、少しも近寄れないんじゃ計画が狂う。

>「……だが、きみにとっては良い報せがある」
>「わたしの“爆弾”を、どういった手を使ったのか、あの世まで持っていってくれた者が居る」

……ん?爆弾は既に処理済みだと?
もしかして最初から、んなモンなかったのかもしれないな。
それはこのゲームが『終われば』分かるが。

「残念。貴方様はわたくしの眼鏡に叶う存在ではなかったよう。
 しかし、レギン様に我が命をかけたのはわたくし自身。
 故にこの勝負、わたくしの負けとなりましょう」

しゃべったのは私じゃなくて、私の操ってる死体さんだ。

> 招待した客人が来るまで、しばらく遊びを続けようじゃないか。
> こいつは、あれに仕掛けたものほどではないが、一人がバラバラになる程度の威力はある。> そうら、投げるぞ。落とすと爆発するね」

「残念ながら。復讐の成就が果たせないと知った時、わたくしの命は果ててしまったのです。
 さようならレギン様。親愛なる貴殿に災いあれ…」

私は、わざと死体さんに爆弾を追わせなかった。
重力に従って床に接触する手榴弾は、しかしその後に一部を激しく浮遊させた。
まともに爆風を受けた焼死体は八つ裂きとさるる。

つまり、レギンさんはモノホンの人体爆弾化能力者だったって訳だ。
死体さんという『目』を失った私には、今レギンがどんな目をしてるか分からん。

「もう少し引き延ばせば良かったかな。でも、これ以上やるとボロが出るんだよな」
「そうですわね」

ラルゥデュデスタンは、ちょっと遠くを見ているような気がする。
ヨーヨーに目なんてついてないけど。

敵さんの能力も分かったことだし、もう一度ゼロベースで対策を練り直そう。

【わざと爆弾を落としてココナッツゲーム破棄。死体爆破。本体は様子見中】

170 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 03:57:45 0
前回までのあらすじ!黒ゴスと初めての共同作業!俺は白ちゃんビームをショットガンに装填して撃った!


"神様"の保護膜で覆っていないと確実に鼓膜が吹っ飛ぶ轟音だった。
空へと向けたショットガンの銃身は爆ぜ割れ、ただのねじ切れた鉄パイプと化している。
白ゴスビームを発射した反動は思いのほか強力に過ぎたようで、銃が自壊するどころか設置した床まで凹ます大惨事。

……あっぶねえ。ストックを肩に当ててたら今頃右腕が不在になったぜ。

衝撃で潰れたカエルみたいに這い蹲る俺の頭上では、上昇する光の槍が落ちてくる光の滝と拮抗していた。
両者は均衡。だけれどそのうち向こうが力を追加したのか、はたまた光のくせして重力に負けでもしたのか、
俺の放ったビームは飲み込まれつつあった。

>「甘いよお!? 甘い甘い! あんまりにも眩しいから見える物も見えなくなっちゃったかな!?」

くっ……正論じゃねえか。実際のところ俺は、上空で何がどうなってるのかさっぱりなのだった。
白ゴスの言うとおり、眩しいからだ。
光の奔流同士の激突は見ているだけで網膜に悪そうだし、なにより規模がでか過ぎて実感がわかない。

だから、思った以上に死が近づいている時も、不思議と怖くはなかった。

>「バカだよねえゴミ虫さん! なあに? 眩しい物があると、ついつい近寄りたくなっちゃうの!?
  それで殺虫灯に触れて死んじゃうんでしょ? 最初から地べたを這いつくばってれば、そんな事もないってのにさ!」

軽口だって叩ける。叩いてみせる。

「恋は盲目ってよく言うよな。綺麗なもんとか、輝いてるもんとか、自分よりすげえってものを見上げるのはそんなに悪いことかよ?
 それに人が盲目になる瞬間は一つだけじゃないぜえ〜!ほらほらいいのか?そうやって『下ばかり見てたら』――」

>「――見える物も見えなくなっているのは、あなたの方よ」

黒ゴスの一撃が大気を貫いた。
白ゴスが抱える光の瀑布を切り裂き、漆黒の光条は闇を穿つ。
それは白ゴスの意識を狩るのには過剰なほどの威力を傍目にも見せていたが、

>「……っ、はは! 残念だったねえお姉ちゃん! でもやっぱり凄いよ、今のはちょっと危なかったもん!」

白ゴスは首を反らして致死の一撃を回避してしまう。躱されてしまった。
完全なる不意打ちだったはずだ。思考の裏側から叩き込む、マジな意味で決死の一撃。

だが、これで終わりじゃない。

>「――そう、『一緒に』。合体攻撃はヒーローの特権だけど、モノを盗むのは悪党の特権だし、問題ないわよね」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

黒ゴスの槍が穿った穴へ、ビームを制御している"神様"を侵入させる。
こじ開けて、さらにその先。白ゴスの生身へ届かせる。

「『災厄捕獲風呂敷《パンドラクロス》』――解放!!」

限界まで練りこんで密度を高めた白ゴスビームを、そこにぶち込んだ。

音はなかった。音ごと消し飛んだ。
視界をまるごと染め尽くすような閃光が部屋を満たし、たっぷり丸々数十秒間俺は光を失った。

171 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 03:59:43 0
視力が回復した頃には、床に佇む黒ゴスと、その足元でボロ屑のように横たわる白ゴスの姿があった。

「……助からないのか?その、白ゴスちゃん。本当の名前が何なのか知らないけどよ」

よく考えたら黒ゴスの本名も知らねえな俺。黒ゴスとしか呼んでないし、こいつも特に訂正はしなかった。
なんて名前なんだろう。この国の人間であるだろうことは顔立ちからわかるから、そこまで突拍子な名前じゃないだろう。
そんな思考をたらたらと流しながら、俺は匍匐前進で――今度は体力的な意味でそうせざる得ない。這いつくばってその場へ向かう。

>「……あぁ、何て愚かな妹なのかしら。けれど妹が愚かならば、姉である私も愚かであるのが道理だわ」

黒ゴスは、言う。ここからだと顔が見えなくて、俺には彼女がどんな表情をしているかわからなかった。
それで正解だったと思う。なんていうか、こいつのそういう顔は見たくなかった。俺の、勝手で無責任な希望。

>「殺すべき妹が、憎むべき妹が、どうしようもなく愛おしくて堪らないの。
  ――あなたが生きてくれるのならば、代わりに私が死んでもいいくらいに」


………………え?

「おいっ――!!」

言葉自体はまあわからんでもない独白。だけれど、それには行動が伴っていた。
俺が思わず立ち上がり、止めに入る――その努力も虚しく、手は宙を掻く。その先で、黒ゴスは指先を妹の胸へ突き入れた。
取り出したるは闇を凝固させたような宝石。それはそれを知っている。この右手の甲に芽生えた、ブラックダイヤモンド。

白ゴスの胸から出てきたものと、酷くそっくりだった。

どういうことだ?人の悪意を増大させるブラックダイヤが、白ゴスの胸に。
一番心に近い場所。こんなところにあの大きさのダイヤを埋め込まれれば、最早一人の意思じゃ抗えない、完全なる洗脳も可能じゃないのか?
なんで。なんでそんなものがこの少女の胸に?勝手に入るような場所じゃあないし、自分で入れるわけもない。

いや、それよりも。『そんなことよりも』。

>「……悪いわね。最後に見せるのがこんなザマで。幻滅しちゃったかしら?」

何言ってんだよ、黒ゴス。

「――何言ってんだよ!!」

黒ゴスは妹から摘出したダイヤに願いをかけた。力を求める人間がそうするように、『願いを叶える』能力をダイヤに要求した。
ブラックダイヤはそれを十全に叶えるだろう。所有者の善精神と引換えで。――白ゴスがそうだったように。


172 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 04:03:56 0
黒ゴスが願ったのは、おそらく『妹のダメージの引き受け』。

ダイヤの力によって願いは執行され、白ゴスをぼろクズたらしめていた傷の全てが黒ゴスに移っていた。
彼女はふらりと足を脱力し、重力に逆らわなくなる。俺は咄嗟に肩を抱き寄せ、細い体を受け止めた。


>「大悪党へのステップその3は、自分で見つけて頂戴。あぁ、あと……これはほんの下らないワガママなんだけどね?」


どこかを見ながら、『俺じゃないどこかを見ながら』、黒ゴスは俺に語りかける。

小さな声ってわけでもないのに、それは今にも掻き消えそうな、儚い言葉だった。そう、まるで――末期の辞句のように。


>「もし良かったら、あのジジイの顔をぶん殴ってやって。死なない程度にね……貴方が」


「待てよ、待ってくれよ!!――そうだ、俺の"神様"なら!神様なら助けられる!助けられるんだ!!」

『フラスコの中の神様《パラダイムボトル》』は限定領域内を支配する能力。

1リットルの領域の中なら、正しく『なんでも』できるのだ。それこそ、瀕死の大怪我だって、この中なら治せる。
容量が足りないなら、ブラックダイヤを足せばいい。悪意が流れこんできても、黒ゴスのためなら耐えられる。命だって張れる。

「待ってろよ!俺もそのブラックダイヤで――黒ゴス?」


俺の言葉を。この世への遺留を遮るように。


彼女は小さく微笑んで、そして消えた。


――自分の影の中へ、最期の能力を行使して、沈んでいった。


173 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 04:05:36 0
俺は、この両手から彼女が掻き消えていくのを、その体温が冷たいコンクリートに溶けていくのを。

見ていた。止めることが出来なかった。そのたらい一杯の水に溶かし込んだ墨のような、霧散していく存在を腕から取り零した。

「なん……だよ……それ……!!」

跡には、少しだけ色を濃くした影が、主人のを失い行き場を探して所体なさげに揺れるだけだった。

「……<パラダイムボトル>――形状『背負い墓《メモリアルライト》』」

俺はその最期に残った黒ゴスの残滓を"神様"で掬い取り、背中へと刻み込んだ。
これが墓標だ。何も残らなかった少女を、俺の存在そのものに保存する。黒の刺青となって、背中を彩った。

「……結局、名前聞けなかったな。墓標に書こうと思ってたのに」

名前どころじゃない。もうなにも聞けない。導いてくれない。罵ってくれない。教えてくれない。窘めてくれない。


どこにも、もういない。

いないんだ。


「なんて……死に方だよ……!」

こんなのってない、と思った。なんでコイツが死ななきゃならないんだ、と思った。

なによりも、何故助けられなかった。と、強く思った。俺は、最期の最期まで彼女に背負われっ放しだった。

手が赤い。握りしめすぎた拳の中で、爪が皮膚を突き破っていた。その握り拳を見て、思い出した。

『あのジジイの顔をぶん殴ってやって』

彼女はそう言った。ジジイ。レギン=サマイドのことだろうか。
頭のどこかでなにかの線が繋がりつつあった。白ゴスは何故胸の中にダイヤを入れていた?そもそもあのダイヤの出所はなんだ?
レギンマサイドの言っていた『爆弾』ってなんだ?どうしてあんな回りくどい言い方をした?


――最初に差し出してきたあのダイヤは、何だ?


174 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 04:07:03 0
「あの野郎……!!」

おそらくあれは、レギン=サマイドの常套手段。

ああやって異能者にブラックダイヤを渡して、悪意に染め上げ殺戮の人形に変える。
あのとき黒ゴスが遮ってくれなかったら、俺もああなってたってことだ。

一つ分かった事実は連鎖的に全ての真実を暴きだす。
冷え切った頭脳は、最適の結論を生み出した。

『全ての黒幕はヤツだ』

白ゴスが悪意に染まったのも、黒ゴスとの姉妹喧嘩がここまで酷い規模になったのも、俺がこうやっては地に伏しているのも。

――黒ゴスが死んだのも。

「て、め、え、の、せ、い、かァァァァァァァァァァァアァァァァ――――ッ!!!」

殺す。必ず殺す。どれだけ犠牲を払っても、どれだけ時間がかかっても、レギン=サマイドを殺す。

決めた瞬間、視界が妙にクリアになった。頭も回る。体も動く。目の前の現実を誰かのせいにすることが、これだけ楽だとは思わなかった。
その点に関してだけは、レギンを評価せねばなるまい。

とにかく。今すぐできることは。

「ぶん殴ってやる」

あいつの胸糞悪い顔面にワンパンくれてやる。

――背後で、耳障りな駆動音が響いた。

振り向くと、人形の巨大機械――確か、不知火重工の『メタルエース』なる戦闘重機だったかが、俺の後ろでアイドリングしていた。
ヴィランを嗅ぎつけてきたのか?だとしたら、邪魔だ。俺はこれから管制室に向かわなきゃならないのだ。

メタルエースの片腕が動く。攻撃の予兆を感じ、俺は身構える。
いつでも"神様"を発動できるよう、手のひらをフリーに。

しかしメタルエースがとった行動は、攻撃でもなければ、敵対行為ですらなかった。
差し出された片腕は、俺のいる高さまで降りてきて、足をかければ簡単に掌へ登れそうだ。

「『乗せてやる』――って言ってんのか?」

どうにもこのメタルエースのパイロットは、一部始終を後ろで見ていたらしい。
さっきの放送からしてレギンの居場所は管制室。そこまで送ると言ってきているのだった。
当然のことながら、お言葉に甘えない道理はない。よしんば罠だったとして、そのときはこいつにもワンパン食らわせてばいいだけの話だ。

「頼む、連れてってくれ」

俺達は、管制室へと向かった。


175 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 04:10:28 0
【管制室】

果たしてそこにレギンはいた。
たった今爆発したばかりとおぼしき死体の傍で、なにやら思案している。

「……悪い奴に憧れてたんだ」

メタルエースの手の上で、俺はレギンを見下ろしていた。

「どんな悪役にもなにかしらの主義主張があって、それを声高に叫ぶ手段として武力や暴力があって。
 例え正義の味方に蹴散らされようとも、必死に世界を変えようともがくのは、美徳だと思ってた。今でもそう思ってる」

だから、俺は悪いことがしたかった。俺の我儘を世界に通すため、安寧の上に胡座をかいた世界を変えてしまいたくて。
俺はヴィランだ。やりたいことをやるためなら、誰かを犠牲にしたっていいと思ってる。それは力あるものの特権だ。

「だがテメーは駄目だ」

腰に差していた特殊警棒を引き抜き、レバーを押して伸長させる。
そこに棒状に伸ばした"神様"を巻きつけ、細長く覆っていく。

「人の大事なもんぶっ壊しといてッ――のうのうと生きてんじゃねえェェェーーー!!」

メタルエースの掌から、跳んだ。身体強化のバネを最大限につかって、一気にレギンの上空へと宙を駆ける。

「<パラダイムボトル>!――形状『轟焔剣《フレイムタン》』!!」

特殊警棒に巻きつけた"神様"を発動。真鍮製の警棒の分子構成を分解し再構築して警棒の形を変えていく。
刃が生まれ、刃渡りが伸び、鍔が型どられ、柄が手に馴染む。完成したのは、一振りの長剣だった。
鋭い切れ味を備えたそれに、さらに巻き付いていた神様が大気を燃やす。焔を纏った剣が、そこに存在していた。

「メタルエース! 援護してくれ!! みんなで生きてぶん殴るぞ!!」

重力加速度を剣先に載せ、山吹色の軌跡は唐竹割りを描きながらレギン=サマイドの脳天直下へ斬撃を放った。


【メタルエースが真性君をレギンさん家にデリバリー。そのまま勢いで上空からジャンプ斬り】

176 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 21:36:13 0
>>169
「ふむ、どうやら最高の悪にとっては、孤独が死の次に近しい友人らしい」
爆弾を抱えて散った死体の残骸を見遣り、彼は自嘲した。
「おお、どうしてこうも不愉快な『ごっこ遊び』ばかりなのか!
 そうとも、あの小娘、そしてこの無様に焼け焦げた骸も、悲しみを生み出す誉れ高き仕事を、己の天職としてはいなかったのだ!
 真に偉大な悪役とは、わたしの幻想に過ぎないのか?
 いいや、そんなはずはない!」
観客が居ないにも関わらず、彼の独り言は、どこかミュージカルのような調子を出している。
必要以上に感情が篭った、芝居がかっている台詞。
「やはり『悪役』たるもの、観客には、よく自分の姿を見てもらいたいものだ」

>>175
そして、決戦のときは訪れる。
それも、このレギン・サマイドにとっては意外な相手との決戦だった。
「これは意外、最初の客人はきみか。
 いや、わたしは君を待っていた――ん?」
果たして真性道程の炎の剣は、レギン・サマイドの身体を容易く切り裂き、その身体は脳天から真っ二つになった。
暫く、と言ってもほんの数秒のことではあるが、静寂が辺りを支配した。
だが、今の彼は、秤乃光に魔の手を伸ばしたときのまま、秤乃姉妹の父親の姿をとっていた。
つまり、その本質であるブラックダイヤモンドを、その手に持った状態にあったのだ。
真性道程なら、ブラックダイヤモンドの存在は知っていよう。
切り裂かれた彼の身体はもんどりうって倒れ、急速に塵と化した。
レギン・サマイドの本体であるブラックダイヤモンドは、小気味良い音を立てて床に転がった。

177 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 21:45:59 0
やがて、静寂が破られたときには、このダイヤから赤みを帯びた光が放たれた。
それと同時に、意識に直接訴えかけるような声が、真性道程の頭に響いてくる。
ある種のテレパシー能力のようだ。
強い怒気の篭った、まさしく怒鳴り声のような音が響く。
「……そうか、そういうことか。
 きみには見込みがあると思ったが、どうやら、わたしの目も相当曇っていたらしい!
 ほう、悪に憧れていたとな。結構なことだ!
 だが、義憤によって、わたしに刃を向ける――今、きみがしているその行為は、とてもヒロイックだぞ!
 本当は、きみは主人公(ヒーロー)になりたかったんじゃないかな?」
それが図星を突いているかはともかく、真性道程はこの悪に刃を向けたという事実がある。

だが、レギン・サマイドの声は、すぐに穏やかな調子を取り戻した。
それに伴い、黒ダイヤが放つ光が、燃えるような赤色から、落ち着いた青色に変わる。
そして飛び出した言葉は、レギン・サマイドに対する憤りがなければ、一定の効力を持ったかもしれない誘惑であった。
「だが少年よ、わたしはこの通り、本来は人が手にとって使うべき道具なんだ。
 どうだい、わたしを手に取れば、思うままに我儘を貫き通せる力を得られるぞ。
 それだけ、きみの才能は特別なんだ。
 千年に一度見られるか否かの、珍しい、貴重な能力だ。誇ってもいい。
 できることなら、きみとは手を取り合い、互いの良いところを伸ばしていきたいと思っている。
 そうとも、きみがわたしを手にとるなら、その剣でこの身体を引き裂いたことも、快く許そうじゃないか」
彼はこの期に及んで、真性道程の懐柔を図ろうとしている。
そのため、弱点にして本体である黒ダイヤをさらけ出したままだが、これは、大きな油断とさえ言える。

否、油断とは少し違う。
彼にとって、真性道程の能力はとても危険かつ魅力的に映っており、それに目が眩んでいると言った方が正しい。
そう、真性道程の貴重な異能が、この巨大なブラックダイヤモンドによって増幅されようものなら、どれほど巨大な悪党が誕生するか。
彼は、それをとても楽しみにしているのだ。
そして、その目的に捕われるあまり、道程の怒りの激しさを量りきれていないという、致命的な失敗をしている。

【この期に及んで、道程くんを懐柔しようと試みます。本体の黒ダイヤが露出しているので、すごく隙だらけです。】

178 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/08/12(木) 22:27:26 0

「クソっ……クソっ……なんだこの感じ、イライラするぜ……っ!!」

アイアンメイデ達から逃げら雷羽は、その腕力のみでエレベーターの通路を登っていた。
彼の脳裏に先ほどから浮かんでいるのは、悪から逃げるヒーローの姿と、立ち向かうヒーローの姿。
それが何か、喉に引っかかった魚の骨の様に雷羽に謎の不快感を与えていた。
魚の骨と異なるのは、それが不快である原因が解らない事。
なので、解決の手段を発見する事も出来ず、イライラを抱えたまま雷羽は外へと向けて
エレベーターを這い登る。


「――――あン?」

そうしてエレベーターを登り切った雷羽。
久方ぶりに見る日の光に細めた雷羽の目に、次に入ってきたのは。

巨大な機械と、幾人かの人影
それはブラックアダムの装甲を纏ったままである雷羽を見つけると共に、
銃口を向けてきた。

「……どいつもこいつも」

その光景に、雷羽は抑えた様な声で呟き

「どいつもこいつも、この俺様の邪魔ばっかりしやがって……鬱陶しいんだよっっ!!!!」

装填音を更に一度鳴らし、放たれた銃弾を回避して巨大な機会に飛び掛った。
目指す先は、コクピットと思しき箇所。
雷羽は鬱憤をぶつけるかの様に、そこに人外の威力を誇るその拳を何度もたたきつける。

179 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/08/14(土) 15:45:05 0
旋風院の連続攻撃に、戦車砲弾にも耐えるメタルエースの装甲も流石に耐えられず、へこみ、ゆがみ、あっという間に拳大の穴が開く
その時、メタルエースに注意を向けていた旋風院の背に、凄まじい衝撃が走った
不知火の装甲警備隊員がロケットランチャーを使用したのだ
不知火重工はもう完全に手段を選んでいない

さらにもう一機のメタルエースが怯む旋風院に鉄拳を見舞って地面に叩きつけ、2機がかりで装甲車を蜂の巣にできる12.7mm機銃を掃射した
機動隊、装甲警備隊のマシンガンも一斉に火を吹き、猛銃撃が旋風院に降り注ぐ

180 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/16(月) 06:07:50 0
レギンを斬った手応えは確かにあった。
かつて見た老人の姿ではない、壮年の男の姿ではあったが、それがレギン=サマイドだと俺は把握している。
その年相応に強張った体躯の頭蓋から股下まで正中線に狂いなく刃を通す。真っ二つに叩き斬る。

あっけないほどにレギンの半身同士は割れた。紙人形を破くより、それは容易い作業だった。
切断された体は、しかしその左右間に血の橋をかけるでもなく、ただ床に沈み、塵となって掻き消える。

……偽物!

なるほどそれは考慮すべき可能性だった。レギンは自身の在り様を自在に変えることができる。
ならばわざわざダメージの通る本体を外気に晒すべくもない。適当に拵えた人形にでも代役を担わせればいいのだから。

>『……そうか、そういうことか』

脳裏に突然声が響いた。まさしくそれはレギン=サマイドその人の声で、テレパシーのように聴覚を介さず伝えてくる。
足元に転がるのはブラックダイヤモンドの大玉。レギンが手に持っていたものだが、それがうっすらと発光していた。

>『ほう、悪に憧れていたとな。結構なことだ!
  だが、義憤によって、わたしに刃を向ける――今、きみがしているその行為は、とてもヒロイックだぞ!』

本当はヒーローになりたかったんじゃないかとレギンは問う。
俺の異能を使えば確かに、それを叶えるのは容易い。人命救助だって失せ物探しだって悪者退治だってできる。

ヒーロー。正義の名の下に、降って沸いた能力を振りかざすのは悪に染まるより簡単だ。
ヴィランと違い、この街におけるヒーローは主義じゃなく職種だ。ヴィランに対するカウンター勢力をヒーローと呼ぶ。

それだけ。
心に忠実である必要はない。信念が必要ない。

飯の種に仕方なくヒーローやってる奴だっているし、自分の会社の宣伝広告として知名度の為のヒーローもいる。
そりゃもちろん己の正義に従って悪を挫く、なんてスタイルの奴もいるけれど、圧倒的にマイノリティで数奇者扱いだ。
かつて麗源新貴がそのギャップに苦しみ進むべき道を決めかねたように、それほどヒーローってのは難儀な人種なのだ。

高尚な理念もない。語るだけの過去もない。戦うための理由もない。
ないないづくしの俺は、だからヴィランに憧れた。理屈を無視してただ自分の為だけに立ち回れる、そんな人生。

レギンは語る。

>『できることなら、きみとは手を取り合い、互いの良いところを伸ばしていきたいと思っている。
  そうとも、きみがわたしを手にとるなら、その剣でこの身体を引き裂いたことも、快く許そうじゃないか』

それは和解の提案だった。
こいつの話を統括するに――レギン=サマイドはブラックダイヤそのもの。
悪意と異能の化身。正真正銘の魔人。足元に転がるこの巨大な宝石自体がレギンの本体であるらしい。

なるほどこいつを手にすれば、それはそれは莫大な力が手に入るだろう。
ダイヤの一欠けだけで異能量が二倍になったのだ。これだけのダイヤなら街どころか国家規模の"神様"を生み出せる。

――死者の蘇生だって、できるかも知れない。
その可能性は俺にとって余りにも魅力的な誘惑だった。


181 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/16(月) 06:08:31 0
長剣を握っていた手がいつの間にか緩んでいた。支えを失った轟焔剣は指先から自由落下し、乾いた音で床に刺さった。
空いた手で、代わりにダイヤを拾い上げる。掌に触れた瞬間、黒い感情の澱が血流に乗って体を巡り始める。
黒ゴスの死で沈み果てた心には、丁度良い温度だった。胸の底から火柱のように噴出する憎悪。怨嗟。赫怒。

心臓に絡みつく蔦のようなそれらを俺は感情の手で触れ、撫で摩り、手にとって、

――握り潰した。

「義憤に駆られる俺がヒーローみたいだって言ったな」

手の上にあるブラックダイヤを放り上げる。
右手を引き、腰だめに構え、五指を曲げて拳を作り、白くなるまで握り締め。

ふわりと宙に滞るダイヤに、――渾身の拳を叩き込んだ。
腰を深く落として真っ直ぐに拳を撃ち出す、完全無欠の正拳突きだった。

打ち込まれた運動エネルギーを全て推進力に変えたダイヤは、テニスのスマッシュみたく吹っ飛んでいく。
矯正所の壁に衝突すると、轟音と粉塵を撒き散らし、強化コンクリにクレーターを作った。

「耄碌してんじゃねえぞジジイ……!義憤?正義?アホか。俺は気に入らねえ老人殴りにきたただのチンピラだ。
 『その胸糞悪いツラをぶん殴る』――俺がしたいのはそれだけだぜッ!世界征服とか知ったことか!!」

まだまだこんなもんじゃ終わらせない。硬い石殴ったって全然まったくスカっとしねえ。
なんとしてもレギンには出てきてもらわなきゃならねえ。黒ゴスとの約束を果たすには、きちんと顔面にワンパンかまさないとな。

「そして主体性のない俺ももう終わりだ。これからは俺の俺による俺のための悪を!俺が思うままに悪であろうと思う。
 これからは能動的にいくぜぇぇ〜〜ッ!まずはテメエだレギンッ!俺は一切の正義を語らない。テメエはムカつくからボコる」

黒ゴスから聞いたことがある。ブラックダイヤは破壊することはできても『殺す』ことはできない。
砕けても欠片の一つ一つが効力を発揮し、いたずらに被害者を増やすだけだって。そう、奴は普通の方法じゃ殺せない。
物理的な破壊で死なないなら、俺は徹底的に抜かりなく完膚なきまでに――奴の精神を叩き潰す。

「出て来いよレギン。そんな石コロん中に引き篭ってねえでこっち来て遊ぼうぜ……!」

これが終わったら、喪服を買いに行こう。
瓦礫の欠片を踏みしめながら、俺は下がらない溜飲を砂埃の中に吐き捨てた。


【レギン爺さんのお誘いにワンパンでお返事。ダイヤを壊すのでなく『殺す』為レギンさんのご出勤を強要】

182 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/08/18(水) 22:39:41 0

「――――ぐばあっ!!?」

ロケットランチャーの爆発が雷羽を襲う。
巨大な鉄の拳がブラックアダムを穿つ。
数多の巨大な鉛弾が■■■を削る。

それは正に暴力の嵐だった。
正義も悪も介在しない純粋な暴力の塊。
信念無きただの人が行う、私刑。

堅牢を誇るブラックアダムの装甲であったが、
先のアイアンメイデン達との戦いで損壊した部分から、徐々にひび割れ、砕けていく。


「……ぐぎ、ぎぐがぁ……っ!!」

もはや誰が見ても勝負は決まった。
負傷したヴィランは、群集によって叩き潰される。
それは、弱った肉食獣の傷口に沸く蛆の様に。

――――しかし、やがてブラックアダムが立ち上がった。

銃弾の豪雨は止んでいない。それどころか、今も尚ブラックアダムの身体を削っている。

しかし、止まらない。

一歩、また一歩と、砕かれながらもブラックアダムが前へと進み始める。
それは、まるで忘れてしまった何処かへ辿り着こうとでもする様に。

(……なんで、俺様は歩いてるんだ? こんなに痛ぇんだから、さっさと気絶でもした方が
 楽だってのによ……ボスの為か……? いや、何か違う……そうじゃないんだ……)

鉄の拳に叩き潰され、朦朧とする意識の中で旋風院雷羽は考える。
果たして自分はなんでこんな事をしているのか、何故こんなにもイライラしているのか。
一体――――何を忘れているのか

(……うるせぇ)

足を勧める雷羽に、再びメタルエースの拳が叩き込まれる。
しかし、今度は倒れなかった。ボロボロの姿で、立ったまま、右手でその拳を受け止めた。
その事実に、襲撃をかけていた兵士がたじろぐのが感じられる。
いつの間にかブラックアダムのひび割れた装甲から、リアクターコアの放つ光が漏れ始めていた。

(……うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ)

『――――アダム【MODE:■■】起動……』

兵士達は何やら呟き合うと、再び掃射を開始した。嵐は激しさを増し、
ブラックアダムを飲み込もうと化物の鳴き声の様な大音響を出している。
しかし、もはやその嵐はブラックアダムの足を止める事は叶わなかった。
それは、かつて戦ったヒーロー【不屈不倒】に意思無き力が届かなかった様に。

「―――――どいつもこいつも、うるせぇんだよッ!!!!
 この俺様を、誰だと思ってやがるッッ!!!!!!」



183 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/08/18(水) 22:41:26 0
そして、ブラックアダムは数多の装填音と共に吼える。
もはや閃光の様にリアクターコアの光を放つ、その拳を地面に叩き付ける。

閃光が地面を奔り――――大地が沈んだ。

沈む大地は、兵士達とメタルエースをそのまま飲み込んでいく。
……地面が陥没したのだ。この強制所は何層もの地下構造を持つ施設。
雷羽は、その地面へと攻撃する事で、地を割いたのである。
地面の層を突き抜ける威力の攻撃が行えれば、地下室の天井に大穴を空ける事は容易い。

沈んでいくメタルエースを横目に、全身の光が消えた雷羽は、
ヨロヨロと歩いていく。向かう先は、己が所属する悪の組織の本部。
そのココロに違和感を残しながら、雷羽はただただ歩いていく。

184 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/08/18(水) 23:00:08 0
>>181
果たして彼の本質である黒ダイヤは、壁に強く叩きつけられ、重力に従って床に落ちた。
拒絶されたことに対するショックは、それほど強くはないだろう。
「そうかね、実に残念だ」
己の目論見がもはや達成し得ないものと知るや、途端に攻撃的なオーラを放出し始めた。
亀裂が入っている。『砕く』だけなら、それほど難しいことではないのだ。
そして、『砕く』ことで、『レギン・サマイド』という意識そのものに、何らかの悪影響を与えることはできるかも知れない。

「つまりきみは、己の赴くままに生きると。
 悪党としては理想的な、素晴しい答えだけに、共に歩めないのが実に残念だ!」
床に落ちたブラックダイヤモンドが浮き上がった。
それと同時に、石が落下した辺りから、黒い霧のようなものが立ち上り、それが人型を形成した。
人型の心臓に当る部分には、赤熱したかのように真っ赤になった、黒いダイヤモンドが見える。
口調こそ冷静さを失っては居ないが、彼の内なる憤りを如実に表しているかのような赤さだ。
同時に、言いようの無い悪のエネルギーがあふれ出し、視覚で認識できるオーラを放出しているのも判る。

「だが少年、わたしは遊びと言っても手は抜かないぞ。
 これは、わたしが最初に地球に現われたときの、最も理想的なわたしの姿だよ。
 つまり、『この世界』を相手にするのに、最も相応しい姿というわけだ。それで相手をしよう。
 この姿で相手をするべきヒーローとは会ったことは無いが、まさかヴィランに最初に見せることになろうとはな」
レギン・サマイドは手を伸ばした。文字通り、彼の手が『伸びた』のである。
黒い霧が人間の形をとっているだけだから、手くらい伸びる。
だが、彼は背後の壁に手を伸ばしていた。
否、彼は自分の霧の身体でもって、背後の壁全体を覆った。
すると、覆われた壁全体が『爆弾』と化し、これが爆発して、衝撃と熱と建材の破片が、真性道程に襲いかかった。
そして辺りは黒煙に包まれ、視界が悪くなる。
「生きているかな?これくらいでは死なないだろう。
 ここでは狭い、壁を爆破して広くさせてもらった。
 どうだ、広々とした方がやりやすいだろう?」

【壁を爆破して、爆風で攻撃。実はレギンを『殺す』ことができる伏線張ってたり。】

185 名前:秤乃ひかる ◇k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/08/21(土) 05:42:37 0
秤乃ひかるは、未だ呆然の渦中にいた。
それでも彼女は立ち上がる。未だこの場には無数の悪がいる。
それらをどうにかしなければと言う義務感のみが彼女の動力源だった。
だが不意に彼女の視界に、彼女を制するように何者かの右手が割り込む。

「……おとうさん?」

手の主は彼女の父だった。
娘を見下ろす彼の瞳には、いつものような父の温かみはない。
ただ、一瞬ひかるがまたレギン・サマイドの変装かと疑ってしまう程に、冷徹な色を湛えていた。

「……帰るよ、ひかる。残念だけどね、とても大事なお仕事が出来てしまった」

ひかるの答えを待たずして、父は彼女の手を引く。
ひかるはただ何も言えず、しかし父の言った「残念だけど」に
不穏な胸騒ぎを覚えるのみだった。

【矯正所から離脱】

186 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 03:03:10 0
>>183
旋風院の攻撃に、もろくも壊滅する不知火重工装甲警備隊
所詮人間である彼等は、その一撃で最早戦闘続行は不可能と化してしまった

もう、旋風院を阻む事ができる物は何も無い…



一方その頃
東京、某所、不知火重工本社、会議室
かつて無い大事件に、緊急招集を受けた重役達の顔は皆重苦しく、また、絶望に近い表情を浮かべている者もいた
所詮犯罪者と侮った集団による大損害
それは不知火重工の今後の信頼と、自分達の利益に大きな影響を及ぼす敗北だったからだ
恐らくこれから装甲警備隊の協力法に違反する兵器の使用と、それまでして勝てなかった不様な有様に、情報操作でどうとでもなるマスコミはともかく、政府からの信頼はがた落ちとなるだろう

全ては「街」を、そして「ヴィラン」を…「異能」を侮ったため……

(当然の報いだな…)
その場にいた彼以外の重役達が醜い欲望に満ち満ちた思考を浮かべる中で、彼はそう思った
その男は黒いサングラスをかけ、黒いスーツに身を包み、流星を模したマークのついたネクタイピンをつけていて
ただ一人、涼しい顔で事態を静観している
彼の名は「武中文雄」
「超常的な能力」に対抗する兵器を専門に開発する第三開発部…即ち「最も需要の少ない部門」の部長を勤める男だ
当初「街」で活動するメタルボーガーにはこの第三開発部が兵器開発を担当するはずだったのだが
広告性の高さから一般に高い需要を持つ「生産を前提とした」パワードスーツ等人型兵器を担当する第二開発部にその座を奪われてしまったのである
その結果が、この有様だった
(すぐに俺の元にこの街における不知火重工の装備開発権限が移行する
奴等がでかい顔をできるのもこの事件限りだ

……今に見ていろ、ヴィラン共め)

利益を求めるのではなく、情熱に燃える瞳で、武中はモニターを見つめる
その姿はまるで「ヒーロー」のようでもあった…

187 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 07:24:56 0
レギン=サマイドがその姿を再び具現化した刹那、俺は既に行動を開始していた。
踏み込む脚に全ての膂力を集約させ、弩弓のように体躯を弾き出す。コンクリの床が陥没する反作用は、俺を弾丸に変えた。

一歩目。地面に突き立つ長剣の、冷えた柄を握り跳躍の勢いに任せて引き抜く。
二歩目。剣に再び"神様"を纏わせる。今度は『炎上』のプログラムじゃなく、刀身の加速と破壊の補助。
三歩目。精神的に帰りの燃料を積んでいない渾身の踏み込みでレギンの鼻先まで肉迫し、引き絞った右腕から横薙ぎの斬撃。

瞬間、レギンの背後から爆風。
同時に怒涛の瓦礫が波濤となって押し寄せる。随伴するのは衝撃の瀑布。
矯正所の頑丈にして難攻不落の建材をいとも容易くスクラップに変えた爆発の威力がそのまま、俺に襲いかかる。

一口に爆弾と言ってもその種類は多岐にある。
当然その殺傷原理も一口に説明できるものじゃあないが、『もっとも効率的かつ凶悪』の言葉で括るなら答えは出る。

『破片』。
俗に言う榴弾――炸裂を利用した兵器における一番の殺傷能力は、爆発で撒き散らされる破片にある。

「――っづぁあああ!!」

長剣を薙ぎ、『壁の破片』の豪雨を斬り裂くが焼け石に水。多勢に無勢で追いつかない。
無慮に突っ込んでいったのも間が悪い。不退転を決め込む俺に逃げ場はない。

否、逃げ場はあるのだ。
今すぐこの足を止めて、横なり後ろなりに体を倒せば、破片の殺傷圏から高確率で逃れられる。
少なくとも致命傷は避けられる。

だが、それは否だ。断じて否だ!
何故ならば俺は、この足を止めたくない。魂にくべた薪は一度湿気ってしまえばもう再燃は無理だろう。
受身の人生はもうやめなんだ。こんな『爆風ごとき』で俺の能動が御されてたまるか。俺は何が何でも我を通す。

――例え、

「腕の一本や二本くれてやってもだッ!!」

強化視覚で見極めた先、俺は構わず破片の波濤に突っ込んだ。
長剣に殆どを費やしたせいで"神様"で自身を護れる範囲は体の前面のみ――それでも護りきれない場所は出てくる。
俺は内臓心臓動脈頭部の主要機関だけを厚めの"神様"で覆い、四肢には構わず突進した。

「おおおおおおおおおおおおおおおぁああああああああああああああ!!!!!」

破片が正面から俺の体に叩き込まれる。
機関銃の斉射を食らったように体中で衝撃が暴れまわり、特に無防備に腕と脚には容赦なく食い込んでいく。
なるべく"神様"で防御した範囲に破片が集中するようなルートを選んだつもりだったが、それにも限界はある。

肩の付け根のあたりに瓦礫が貫通して、左腕が吹っ飛んだ。
神経を直接鋸刃でゴリゴリやられたような激痛で吐き気がする。灼熱感はやがて精神を抉るような喪失感にとって代わる。

>「生きているかな?これくらいでは死なないだろう。ここでは狭い、壁を爆破して広くさせてもらった。
  どうだ、広々とした方がやりやすいだろう?」

砂埃と黒煤の向こうでレギンの声がする。俺は聴覚が正確に機能していることに感動した。
腕がなくなった。俺の左腕が。生まれて初めて訪れる体の欠損に、胃の奥からせり上がってくるものがあって、

「――構うかァァァァァ!!!」

構うもんか。
体の影に隠して守った右腕。現状、右腕さえ生きていれば問題ない。
腰だめに引き絞っていた剣は、居合のような逆袈裟の軌道で黒煙ごとその向こうのレギンの体を斬断する。

188 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 07:26:15 0
奴の体はさっきと同じ霧でできている。
だから体そのものを斬り裂いたって大したダメージはない。ないが。

『ブラックダイヤの実状を把握できる』。

熱した鉄のように赤く染まるダイヤは、傍目にも分かる憎悪の焔で燃え上がっている。
強化視覚だからこそわかる。特筆事項はその全体に回った亀裂。黒ゴスがやったように、ダイヤはわりと容易く砕ける。
でもそれじゃあダメなんだ。例えダイヤを砕いて『レギン』の活動を停止させることができても。それじゃあ、

――俺の腹が収まらねえ。

例え砕けてまた街中に散ったとしても、必ず全て拾い集めて再びレギンを召喚し、もう一度殺す。
何度でもだ。執念をこじらせて無間地獄の堕ちようとも、俺はこいつを諦めない。『レギン=サマイドを諦めない』。

「良いザマだなレギン。最近の若者にご立腹か?いいか、俺はテメエが望むことを、何一つしてやらねえ。
 これは純然たる『嫌がらせ』だッ!年寄りをいびっていびっていびり殺してやるぜッ!せいぜい血圧でも心配してろ!」

剣を振り抜いた勢いをそのまま、体の回転に使う。
遠心力と慣性の全てを費やすのは右の軸足。同時に左足をしならせ、無防備のブラックダイヤを蹴り抜いた。
片腕がないのでバランスがうまく取れずに転んでしまう。そこへ、上空に吹っ飛んでいた俺の左腕が落ちてきた。

……うわ、自分の腕っていう感覚がないからバラバラ死体の一部にしか見えねえ。
幸いボロボロながらも早めに吹っ飛んだおかげで致命的な損壊には至っていない。
俺は切断面に"神様"を覆いつけて肩口に接続した。高速治癒は切断された腕同士も繋ぎあわせていく。

数秒かからずくっついた。おいおいマジかよ、プラモデルじゃねえんだから。

分かったことが一つある。奴を『殺す』ためのメソッド。
さっき見たブラックダイヤは燃えるように赤熱していた。あれは実際に熱いわけじゃなく、『精神的な温度』。
あれがもっと赤く、限界点まで沸騰したときに、冷水をぶち込んでやれば――もちろんこれは比喩だが、
『奴の根源を殺しきる』ことができるんじゃないか。俺はそう推測する。

「この程度か?ブラックダイヤってのも大したことねえなあ、ええ?無駄に加齢ぶっこいてんじゃねえぞジジイ。
 年月を経たなら経たなりのもんがあるんじゃねえのかよ?壁ぶっ壊してしたり顔か、んなもん俺でもできるわ」

――奴の精神を過熱させること。
レギンの怒りを買えば買うほど(実際さっきも死にそうだったし)俺の命は危うくなるが、限界までひきつける。
奴の魂が沸騰して、ここぞの大技でも撃とうとするってときに、最低零度の一撃を叩き込んでやる。精神的な意味で。


【レギンを殺す為の解答を自分なりに推測。それに従って挑発。結構死にそう】

189 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:43:04 0
>>187-188
蹴飛ばされた黒ダイヤには、更なる亀裂が走り、小さな欠片が周囲に散った。
欠片も本体も床に落ちたが、すぐに浮かび上がり、活動を再開する。
「嫌がらせか。良いねえ、実に良い。
 わたしの全ての目的がそこに集約されている、良い言葉じゃあないか。
 きみを見れば見るほど、殺すには惜しい」

そして、挑発に対して、彼もまた挑発でもって応じた。
「少年、わたしを挑発しているのか?
 だが、きみの方も、大分冷静さを欠いているんじゃあないか?
 たかが小娘一人のためにそこまで冷静さを失うのは、ヒーローにでもやらせておけば良いことだ。
 だからきみは、どれだけ努めても、悪党として大成しないのだ。
 女が欲しいのか?あの程度の女くらい、幾らでも作ってやるぞ」
醜い悪態を吐いたが、それだけ彼が怒り、冷静さを失っているともとれる。
だがその怒りは、彼の挑発だけが原因ではない。
望むものを手に入れられないことへの憤りが、彼の憤怒のそもそもの原因なのだ。

「見れば見るほど、きみの才能は実に魅力的だ。
 だからこそ、この手で『可能性』を摘んでおかないとな!
 わたしには、再びきみのような才能の持ち主に出会える『可能性』がある!
 だが、きみのあらゆる『可能性』は、ここで打ち止めにする!邪魔だからな!」
確かな怒気と共に、彼の身体を構成する『霧』が広がりを見せた。
先ほどは壁を壊すだけに留まったが、今度は霧が急速に広がって、退路を塞がんとする。
その霧に触れれば『爆弾』になってしまう。

レギン・サマイドはそうして真性道程の行動を制限しようと試みつつ、もう一つの攻撃を行った。
飛来する弾丸。それは小さく、黒く、尖っていて、真性道程の心臓を目掛けて一直線に飛んできた。
そう、秤乃光の命を奪いかけた、あのブラックダイヤモンドの弾丸だ。
彼の本体である黒いダイヤは酷く損傷しており、あちこちヒビが入り、小さな欠片が周囲に浮かんでいる。
それを弾丸として飛ばしているのだ。文字通り身を削った攻撃である。
だが、霧が広がったことにより、彼の身体の密度もまた薄くなった。
確かに見える。爛々と赤い光を放つ、その黒い宝石が!
それは先程よりもずっと赤く熱している。怒りは心頭に達しているようだ。
「さらば、神をも支配する男よ!
 わたしは偉大なきみの先を行き、きみを一人あの世へ置き去りにする!
 わたしが居なくて寂しくても泣くんじゃあないぞ!」

【霧を広げて行動を阻害しつつ、文字通り身体を削って弾丸を放ちます。こっちも死にそう】

190 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/08/25(水) 02:11:28 0
真性に対し迫り来る黒いダイヤの弾丸
レギンが命を文字通り削って放った弾丸
レギンの怨念が、怒りが、溢れんばかりの感情が詰まった弾丸


「アクセル!!」


それを、弾丸よりも早く飛来した男が無情にも中空にて撃墜した


無粋な、限りなく無粋な一手を放った彼
それはレギンが見向きもしなかった、真性以外でこの場にいた存在
彼が小娘一人のために冷静さを失うのを任せろと言ったそれ

真性をここまで連れてきたメタルエースの搭乗者……は仮の姿

「お婆ちゃんが言ってた……子供は宝物……この世で最も罪深いのは、その宝物を傷つける者だ。」

レギンへの怒りから思わず冷静さを欠いて飛び出してきた天堂寺は加速したままそう呟くと、再び弾丸よりも早いスピードでメタルエースの中へと戻っていく

リアクターマモンの襲撃を受けた天堂寺工業だったが、天堂寺宗司郎は生きていた
しかし、現在のライドシステムでリアクターマモンに対抗できぬ事を襲撃の際応戦した事で知っている天堂寺に、自らの生存をジェームスに悟られるわけにはいかない
故に彼は身分を隠し、しかし今回の矯正所の事件を見過ごすわけにはいかず
あるルートを通じて身分を偽り、メタルエースの搭乗者としてこの場に駆けつけていたのである

「……勝て!」

余り目立つわけには行かない故に…いや、今この場で自分が手を出す事はこれ以上無い事を悟っているが故に
天堂寺は加速したまま真性にそう呟き、再びメタルエースへと戻っていく

それはまさしく、目に止まらぬ一瞬の出来事であった

【すんません、また無粋な手出しを致しました、これが最後です】

191 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/08/25(水) 02:12:39 0
メタルエースの中へ戻っていくが二回ありました
最初のは間違いです、すいません

192 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/28(土) 12:59:51 0
レギンは俺への誘致をやめた。見限られた、そう言ったほうが正しいのだろう。
ブラックダイヤの思念集合体たる奴は、文字通りその身を削った必殺の一撃をくれにきた。

>「さらば、神をも支配する男よ!わたしは偉大なきみの先を行き、きみを一人あの世へ置き去りにする!
  わたしが居なくて寂しくても泣くんじゃあないぞ!」

ならば俺も、命を賭ける。

「上等だぜレギン!てめえが余生に執着するっていうのなら!――この一撃にすべての悪意を叩き込む!
 個人的目的の為に!俺はこの世に遍くすべてを犠牲にする!てめえは栄えある第一号だぜレギンッ!!」

退路はない。だから踏み込む。脚を地面に叩きつける。生まれた反発力を膝のバネで増幅し、前へ、ただ前へ進むための推進力へ。
ブラックダイヤの弾丸は致死の攻撃だ。異能力の塊であるそれは、無能力者が受ければ能力の開花を手伝うが、
既にダイヤを所有する異能者が受ければ互いのダイヤが反発し合って異能者自身の体が自壊する。そういう代物だ。

つまりはレギンの本気。今までの奴は圧倒的な力量差でこちらの心を折り、傘下に入れんと図ってきた。
言わば峰打ちに等しいのだ。ポケモンで言うなら捕獲の為にHPをギリギリまで減らすような、そんな手心の隠れた作業。
今回のこれは違う。俺の命を確実に取ろうとしてきている。全力全開のオーバーキル。レギンの俺に対する評価。

「――おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

身体強化の流れを視覚と思考に集中する。眼前から真っ直ぐに飛来するブラックダイヤの弾丸を捕捉し、その軌道を予測する。
弾丸のスピードは速いが、その動きは一直線だ。どこに飛んでくるかさえ分かれば、躱すの容易い。
俺は最低限の動きで軌道を避け、そのままレギンの本体に一撃食らわせれれるよう位置取りし、進む。超圧縮された意識の中で、回避行動を完了する。

そして時は動き出す。

右腕に"神様"を纏わせ、レギンとの距離を消費する。
大丈夫だ。この軌道ならダイヤは俺の頭の少し上を通過する。俺は体勢を崩さずに、減速無しでレギンに迫れる。
構わず踏み出す。足が地面を離れた。これで着地までの間、俺は空中に囚われる。それも一瞬だ。地面に足が付いたら、それを踏み込みに変えて――

――あれ?
ダイヤの弾丸は、レギンの"霧"を纏っていた。俺の退路を絶ったのと同じ、触れたものを爆弾に変える霧。
それが、ブラックダイヤの高速弾丸に付着していて、そして――爆発した。大気を爆破して、ブラックダイヤの軌道を強引に変える。

「ん、な、……!?」

圧縮された意識じゃ口が上手くついてこなくて発音できない。
確かに躱せたはずのダイヤは、爆破によって軌道を変えられ、その穂先は俺の方を向いていた。
避けられない。空中にある足じゃ、地面を蹴れない。否、例え地に足つけていても、この速度と僅かな時間じゃ致命傷は避けられない。

死ぬ。
こんなとこで、こんな形で、黒ゴスの仇も討てず、『本物』になれもせず、
死ぬ?
そんな、
死にたくn――

>「――アクセル!!」


因縁のダイヤモンドに、知らない拳が炸裂した。



>「お婆ちゃんが言ってた……子供は宝物……この世で最も罪深いのは、その宝物を傷つける者だ。」

いや、マジで知らない。
突如として現れた影は加速した拳でダイヤの弾丸を撃ち抜き、あっさりと破壊した。
そして何事かを呟くと、傍に停めてあった――俺を送ってくれたメタルエースの中に滑りこんでいった。

193 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/08/28(土) 13:01:08 0
この間、実に一瞬。刹那の出来事だった。
あいつは――メタルエースのパイロット。それ以上の素性は知らないが、黒ゴスの死に怒りを覚えてくれた。
『子供を傷つけるのは最も悪』――そうなんだよな。黒ゴスはまだ、子供だった。年端もいかない少女だったんだ。

許せねえよなあ。
心が。頭脳が。手が足が。付和雷同に頷いた!

>「……勝て!」

「――おおっ!!」

託された想いを背負い、開かれた道を征く。目の前には真っ直ぐ、レギンへの道程があった。
十全にして純然たる、純正にして真性の、勝利への道程(みちのり)。一切の躊躇いを捨て、俺は矢になった。
足が地面を叩く度、風が身体を撫でる度、俺の体躯の随所に変化が兆していく。

上着が、ズボンが、靴が、中着が、その色を黒に染めていく。"神様"によって、色と形状を変えていく。
やがてレギンの鼻先まで近づいたとき、俺が身に纏っていた普段着は、上下揃って黒のスーツに完成していた。

喪服だ。
黒ゴスを背負い、黒ゴスと共に戦う為の、戦闘装束。

――俺なりの、『変身』だ。
少しはヴィランっぽくなれただろうか。

レギンの本体たる露出したダイヤの表面にそっと触れ、
ありったけの"神様"を――密度を下げ部屋中に散布していたそれを発動する。

行くぜ、黒ゴス。

「『写身の中の神様《パラダイムシフト》』!――形態【彩色世界《ワンダフルパレット》】――!!」

矯正所内に遍く、ありとあらゆる『寒色』が"神様"によって集約される。
磁石に砂鉄が引き寄せられるように、レギン=サマイドの本体へ向かって、莫大な色の瀑布が押し寄せる。

――『アンタの能力が普通の異能とちょっと違うのはわかるわよね。限定空間内なら、どんな奇跡だって起こせる能力。
   小規模なら他の異能を再現することだってできる。つまり――【あらゆる異能の原型】』

「俺の力で足りないなら、俺たちの力でテメエを越える!喰らいやがれレギンサマイド!!」

――『だからアンタの"神様"は、あらゆる可能性を秘めた原石をそのまま使ってるようなものなの。
   神は自分を原型にしてヒトを創ったっていうけど、案外的を得ていたわね。揺蕩うエントロピーの塊のようなものだから』

「おおおおおおおおおおああああああああああああああああ!!!!」

――『それはアンタ自身も一緒。ヘタレはともかく強くなりたいのなら、強さの方向性を決めなさいな。
   "神様"を、不定形で莫大な力の塊を、意志の力で縛るの。覚悟と制約、なんて大げさだけどね』

『フラスコの中の神様《パラダイムボトル》』は、その汎用性と引換えに――これは俺の優柔不断さの顕れか、器用貧乏の一言に尽きた。

だから俺はこいつをルールで縛る。パラダイムボトルの『可能性』を限定して、『一定のプログラム』においてのみ力を発揮するように。
水鉄砲が勢い良く飛ぶのは、発射口が狭いからだ。ことほど左様に、間口を狭めれば狭めるほど瞬間に得られる力は大きくなる。
俺はその理屈を、『異能の代替』に応用した。他者の異能を"神様"で再現――有り体に行ってしまえば見よう見まねでパクったのだ。

そう、――『唯一ブラックダイヤを殺すことのできる黒ゴスの異能』を。

矯正所内のありとあらゆる黒いもの――影に至るまでを余すことなく白に変えて、
寒色の嵐はレギン=サマイド、赤熱するブラックダイヤの中心へ叩き込まれた。


【メタルエースのパイロットの力も借りてようやくレギンの下へ。黒ゴスの技で赤熱する本体に『寒色』を叩き込む】

194 名前:レギン・サマイド ◆7XO5NtgJq2 [sage] 投稿日:2010/08/30(月) 01:53:50 0
>>193
「馬鹿な!」
ありえない。そう、レギン・サマイドは初めて、自ら常識では図れない出来事に直面していた。
殺したはずの相手の、それもこの世にまたとない異能が、自分の命を断たんと襲いかかっている。
それを再現しているのは、紛れもない真性道程だった。
「その異能は、あの小娘にしか使えんはずだ!
 きみが、あの忌まわしき異能をもって、わたしを滅ぼそうとするのか!」
だが、それを『どのように』行ったか。
考えてもみれば判ることで、つまり、彼は神を支配する以上、特定の空間においては不可能が無いのだ。
あらゆる異能の原型。未だレギン・サマイドが見たことの無いもの。
それを手に入れられないもどかしさから生じた、恐らく彼が始めて覚えたであろう“悔恨”の感情。
それは極限に達し、自然に憤怒へと変わり、より赤いオーラを放出する。

“寒色”が命中すると、宝石から立ち上るオーラの“色”が薄くなっていった。
赤と青を混ぜたからといって、紫にはならなかったらしい。
ほどなくして、色の無いただのダイヤモンドの破片が、地面に転がった。
同時に、彼の身体を構成していた、致命的な黒い霧も晴れた。
「……まさか、こんな手を使ってわたしを殺すとはな」
レギン・サマイドだった宝石の残骸から、声が聞こえる。
平時の余裕はもはや無い。
「やはり、きみを手早く彼女から奪わなかったのは、最大の失敗だったようだな。
 目にかけた時点で唾をつけておくべきだった」

「だが、ブラックダイヤモンドは、わたしだけではない。
 大小様々なブラックダイヤモンドが、広くこの世界に散らばっている。
 その中でも最大の大物は――おお、夜空からお前たちを見下ろしているぞ。
 そして、その魔性の光でもって、地上の生命を遍く“こちら側”に引き寄せようとしている。
 覚えておけ、たとえわたしが消えようとも、この世に安息は決して無いことを!」
そこで、彼の放つ音声は途絶え、静寂が辺りを包み込んだ――

【レギン・サマイド、完全敗北…死亡】

195 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 04:14:51 0
俺が、俺と黒ゴスが撃ち込んだ『寒色』の束はレギンの本体に宿る『暖色』と相殺し合い、お互いを滅ぼしていく。
最早人間の形を保てなくなったブラックダイヤは重力に絡め取られて床を転がり、そして色を失った。

ダイヤが朽ちていく。
レギン=サマイドが、死んでいく。

>「……まさか、こんな手を使ってわたしを殺すとはな」

蚊の鳴くような微細さで、ブラックダイヤが僅かに震える。その振動で、声を作る。
レギンその人の声だった。紡がれるのは、レギン=サマイド最期の言葉。

>「だが、ブラックダイヤモンドは、わたしだけではない。大小様々なブラックダイヤモンドが、広くこの世界に散らばっている。
  その中でも最大の大物は――おお、夜空からお前たちを見下ろしているぞ。
  そして、その魔性の光でもって、地上の生命を遍く“こちら側”に引き寄せようとしている。
  覚えておけ、たとえわたしが消えようとも、この世に安息は決して無いことを!」

最期の最期で忠告を遺したのは、長い年月を経て奴に芽生えた老婆心からだろうか。
自らを滅ぼした者へ塩を送りながら、そうしてレギンの宿るブラックダイヤモンドが光を灯すことはもうなかった。
ただの色のない石ころと化して、ゆっくりと風化していくだけとなったその存在を、俺は一度だけ睥睨する。

「じゃあな、レギン。黒ゴスを殺したテメエのことは赦せねえ。俺の名を以て涅槃に縛り続けてやる。だけど――」

踵を返し、歩き出す。もう俺は、振り返らなかった。
喪服の裾を翻し、表面に白く浮いた瓦礫の破片を落とす。季節外れの雪のように、俺の後ろへ白が舞う。

「――『アンタ』のその"悪さ"、嫌いじゃなかったぜ」

気付けば凱旋の道程に、一切の人間が存在しなかった。
いつのまにかメタルエースも消え、レギンの齎した破壊は警備員の全員を撤退させ、後に残ったのは俺一人。
誰もいない。何も無い。今日という日にここから持ち帰るはずだった全てが、ほんの一瞬で悉くこぼれ落ちていった。

「……勝ったんだぜ、黒ゴス。初めてだ、『本物』相手に真っ向から戦って、俺は勝ったんだ」

なのにどうして、誰も褒めてくれないんだ?
労い、評価し、感心して欲しかったのに。一緒にどっか高い店でも行って、美味しいもの食べようと思ったのに。
これじゃあ、頑張ったかいがないじゃないか。俺はこれから、誰のために戦えばいいんだ。

「うっぐっ……うう……っふ、うぐ……」

噛み締めすぎて、奥歯が砕けそうだった。下の唇はとうに破け、血が床に点を作っている。
目の前が水の中みたいに歪んで揺れた。一度認識してしまったら、もう止まらない。
あっという間に瞼の許容量を超えて、涙が溢れ出す。傷だらけの頬を滑って染みる。もみあげに沿って川ができる。

ちくしょう。ちくしょうちくしょうちくしょう。
誰か俺を助けてくれ。こんなに苦しいのに、こんなに悲しいのに、俺は一人でそれを抱えるのか?
手伝ってくれよ。支えてくれよ。俺は可哀想だろ?悲劇的だろ?同情してくれよ。一人じゃないって、言ってくれよ。

初めてだったんだ。そう、俺は今まで、『殺し』を経験したことがなかった。
レギン=サマイド。その本質は人間とは異なる存在だ。だけど、喋ってた。俺と奴とは、ちゃんと言葉を交わせた。

『人の形をして、人の意志のあるものを、殺意をもって殺した』

その事実は、俺にとってあまりに荷が勝ちすぎる。
正しく『ついカっとなって』やったんだ。後先考えてなかった。黒ゴスの仇だからって、それが全面的に許されるわけじゃない。

何が『赦せねえ』だ。
俺は何様なんだ。どういう資格があって、レギンの命をどうこうできるっていうんだ。
絶対に殺す?アホか。命を背負う覚悟もないのに、命を奪おうなんて嘘だ。愚か過ぎる。



196 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 04:16:59 0
ああ、俺はもう分からない。
一体どうやってこの先生きてけってんだよ。誰か俺を、導いてくれ。

「動くな――!!」

気付けば俺は、銃口に包囲されていた。
戦略的撤退をしたはずの矯正所警備員達が、再び戦場に戻ってきていた。
その数おおよそ二十余り。全員が小銃で武装し、同士撃ちにならないよう十字形に並んでこちらを狙っていた。

なんだよ。この上俺をどうしようってんだよ。

「見てたぞヴィラン。お前らが暴れまくったせいで矯正所は壊滅状態だ。投獄されてた連中も殆ど逃げちまった」

だからどうした。俺となんか関係あんのかそれは。

「世界は終わるぞ。ヒーロー達が死にもの狂いでなんとか捕まえた連中だっている。そんな奴らが一斉に解き放たれたんだ。
 街の平和は一瞬で崩壊するぞ。全国のヒーローに今招集をかけてるが、既存の戦力だけで戦線を維持できるかも怪しい」

「そりゃ大変だな。お前らもこんなとこで無駄に口上垂れてないで応援に行けよ。仲間が戦ってるんだろ?」

本意をそのまま述べた。すると警備員のリーダー格らしき男は、それでも尚衝動的に銃撃することはなく、
だけれど凄まじい形相で叫んだ。理性を無理やり引き伸ばして自重自縛している、そんな表情だった。

「てめえが抜かすなヴィランッ! その仲間がここで何人死んだと思ってやがる!?生き残った俺たちで2割だ!
 それだけの人間が今日ここで死んだ! お前ら――俺たちをヒーローの脇役かなんかだと勘違いしてんだろ?
 ――生きてんだよ、俺たちも! てめえら犯罪者如きにないがしろにされて良い生命じゃねえんだッ!!」

……ああ、そうか。
俺の喉元で呼吸を阻害していた、粘着質で棘のある何かを、ようやく嚥下できた気がした。

「お前らさえ、ここに来なければ……誰も死ななかったんだ。俺たちはお前を必ず捕まえる。
 だけどお前の命に爪を立てるのは法廷だ。正当な裁きで、全うな死に方で死ね。そうでなきゃ俺たちの正義が嘘だ」

――『後戻りなんて、とっくの昔にできなくなってたんだ』。
退路はない。あとは迫り来る現実から逃げ続けるか、立ち向かうかの二者択一。
俺は前方にある答えを選んだ。

何かが俺の背中を押す。弾かれるように走り出す。一歩進むごとに足元で銃弾が跳ね、皮膚を熱い鉄が擦過していく。
『パラダイムシフト』の布石として散布していた低密度の"神様"に『触れた物体への運動性低減』をプログラム。
部屋全体に広がった"神様"が警備員たちとその銃弾を一様に遅くする。例外設定は俺。相対的に加速する。

「『悪いことしてえ』……ずっとそう思ってた。理想にしてたのは悪いこと『だけ』だったんだ!
 その結果生まれるものを俺は見てなかった。目を逸らしてた!だから背負うぜ――『罪』を!それが俺なりの『向き合い方』だ!」

俺がした事で死んだ人間がいる。少なからず存在する。
それはもう変えようのない事実だ。目を背けていいことじゃない。『罪』の否定は、『悪事』の否定だ。
俺がいつまでたっても『本物』たりえない理由。足りなかった『覚悟』。向き合うべき現実。

口だけだった。ヴィランに憧れ、『悪いことしたい』と口癖のように言っていても、その『結果』までは気にして無かった。
『手段』と『目的』を倒錯していたんだ。『悪いこと』をする以上、結果として『被害者』が生まれることぐらい、

分かってたのに。

分かろうとしなかった。

197 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 04:18:41 0
黒ゴスも、レギン=サマイドも、己の為したことで誰にどんな事態が及ぶか把握した上で行動していた。

罪を背負って生きていた。背負うだけの『覚悟』があった。世界を無理やり変える為に、自分すらも犠牲にしていた。
だから、あんなに強かったんだ。異能の強さは精神の強靭さ。『保身なき前進』こそが、『本物』たりうる資格!

突如として鈍重となった自分の身体に戸惑い始める警備員たち。

その合間を縫うように、俺は疾駆する。肉迫するのはリーダー格の男。拳を握り、水蒸気爆発の雲を引くほど加速して突き出す。
上手く身体を動かせないリーダー格は、その表情が恐怖に彩られるのすらも鈍重だった。

「――ッ!!」

パァン!と空気の弾ける快音。

リーダー格のヘルメットが吹っ飛ぶ。収められていた髪の毛が暴風雨に曝されたように乱れていた。
俺の拳は、彼の鼻先三寸で停止している。風圧だけで吹っ飛んだヘルメットが床に滑音を響かせたっきり、静寂が満ちる。

自分で創りだしたとはいえ耳の痛くなるような静謐の中、俺はよく口中で吟味して、言葉を紡いだ。

「……すいませんでした」

突き出した拳に並べて、もう片方も前に出す。
頭を垂れて拳を揃えたその姿は、誰が見ても十人が十人同じ行為を連想するだろう。

――『自首』。

ほどなくして、俺の両手首に手錠がかけられた。
対異能処理を施され、普通人と変わらぬ状態を矯正するそれは、外界とを遮絶し断ち切る契約の環。

冷たい鉄の烙印。
俺――真性道程(無職・22)は異能者責任制限法違反及び不法侵入傷害致死公務執行妨害の罪で現行犯逮捕された。

この大事件はヴィランの大脱走で大わらわの世間においてなお注目を集め、起訴された途端に公判、実刑判決が言い渡された。
俺には控訴が許可され、異能者専門の弁護士にも法廷で戦うことを勧められたが、やめた。

これでいい。これが俺なりの『背負い方』だ。

逃げおおせれば、きっと罪は保留されるだろう。そしてやがて捕まった脱獄ヴィランの誰かがそれを償うことになる。
誰がやるもんかよ。『この罪は俺のものだ』。誰にもやらない。俺の思うヴィランの在り方を貫くために。
そして保ち続けてやる。この身に宿る『悪』を、追い続けてきたヴィランらしさを。


――悪党はいつだって、反省なんかしないのだ。


                             【ヒーローTRPG第二期:矯正所編――完】


198 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 04:19:42 0
次回予告!!

罪を認めて裁きを受け、刑務所へ投獄された俺、真性道程!
黒ゴスの死に色んな意味で意気消沈し、ひたすら絶望と単純作業に身を没す!!
ああこのテンションもなんか久しぶりだな!? 閑話休題、そんな俺ちゃんのところに一人の男が面会希望!

「――世界とか、変えてみたいと思わないか?」

一方その頃街では脱獄ヴィランが跳梁跋扈!ブラックダイヤの欠片で異能者が大量発生!前代未聞のカオスな事態に!
『粗製濫造《ゴールドラッシュ》』と名付けられた大量発生の異能者達は、降って沸いた能力に戸惑い道に迷っていく!
俺に手を差し伸べた男は、なんと出来立て異能者を集め国家転覆と革命を狙うテロリストだったのだ!

正義と悪とが交差するとき、新たな物語が幕を明ける――


【ヒーローTRPG第三期:『粗製乱造編』――継続参加新規参入大歓迎、乞うご期待!】


199 名前:日比野 ◆LemWr/eLXk [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 17:17:28 0

「今日のニュースです。『矯正所』から大部分のヴィランが脱走した事件に
未だ政府は対応に追われ、脱獄した凶悪なヴィラン達にヒーローは───」

喫茶店の据え付けられたテレビには延々と事件が流されていた。
これほど事件が多発しているというのにも関わらず店の客達は平然と聞き流している。

たった一人を除いて。

「前のスティール邸のブラックダイヤ騒動といい最近は特に物騒だなぁ〜〜〜
他の人の迷惑になるようなことはしちゃダメって習わなかったのかなあ」

青年、日比野翔一はまさに自分に降りかかった不幸の如く心配そうな表情をした。
着ていた水色のパーカーが子供っぽい印象を受ける。

そんな調子でハラハラしながらアイスティーを飲んでいるとあるニュースが飛び込んだ。
日比野にとっては全てにおいて優先されるべき仕事に等しかった。

「臨時ニュースです。高速道路に入り口付近で異能者が奇声を発しながら暴れています。
警官隊が一足早く駆けつけていますが歯が立ちません」

テレビには俯瞰する構図で、何かを叫びながら警官隊を攻撃する異能者が中継されている。
この街での臨時ニュースとは言ってしまえばヒーローへの110番のようなものだ。
“偶然ヴィラン見つけたから倒す”というスタンスで戦っているのが大半であろう
気まぐれなヒーロー達に伝える、出動命令のようなものだった。
と言ってもそれよりも早く駆けつけるヒーローも多く居るため徒労に終わるヒーローもいるとかなんとか。

そしてこの臨時ニュースは日比野翔一に対しても同じ効果を発揮した。

「物騒だなあ…誰かが怪我したらどうなるんだ?」

それだけ呟くとレジで会計をして急ぐように店を出た。
休日の昼間だったが人は少ない。というか一人もいない。まるでヒーローの変身を待つように。

「また石を投げられるのかな…いや、それでも、守れるものがあるはずだよな」

右腕に灰色の細長い剣のような形状をしたブレスがどこからともなく出現する。
ブレスの中心にある水色の輝きを放つアクワマリンのようなクリスタルに左手を翳す。
日比野は、翳した手を横へ戻すと同時にブレスをつけた右腕を一旦腰に置き、
直後に天に伸ばしてヒーローのお決まりであろう台詞を叫ぶ。

「────変身!」

濁った灰色の光が日比野を包む。
0.04秒で完了した変身から姿を現したのは錆びた鉄の塊のようなモノだった。
右眼に六つ、左目に一つ、後頭部に一つと乱雑に並べられた紅い目に不気味な口。
身体にはフィン状のものが所々に生え
肩や腰や踵に飛行用の推進装置がコンパクトに纏められている。

正義の改造人間、日比野翔一は飛ぶ。
その外見の醜さからヴィランと勘違いされ後ろから撃たれようとも。

……正味な話リアルに撃たれたことあるけど

200 名前:日比野 ◆BEAT4xeB.Y [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 17:18:17 0

名前:日比野 翔一 <スカイレイダー>
職業:運送会社
勢力:ヒーロー側
性別:男
年齢:22
身長:171cm
体重:51kg
性格:見ていて時々イタイ。アイタタター
外見:黒髪。よく水色のパーカーを着ている
外見2:錆びた鉄の塊
特殊能力:改造人間。特筆すべきは圧倒的な飛行能力と、体内の電気操作
備考:
過去にヴィランに対『義賊』用の改造人間開発の実験体にされた
その過程で一定量の電気を充電していなければ死んでしまう素敵仕様な“充電器人間”となる
ちなみに当のヴィランからはエネルギー効率の悪さから失敗作の太鼓判を押されている

現在は組織や企業には所属していない無所属ヒーロー。無所属なので慈善事業。無給
元が改造人間な為あまり信用されていない。おまけに貧乏。お金持ちにはなれない
挙句ヴィランに間違えられたりする。市民からの信用?なにそれ?おいしいの?
スカイレイダーという名前は初陣の時にヴィランに間違えられた折に名づけられたレジストコードで
現在はその名で一応はヒーローとして通っている。

201 名前:大神タクミ ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 22:02:28 0
名前:大神タクミ<Σ(シグマ)>
職業:アルバイト
勢力:ヒーロー側
性別:男
年齢:18
身長:174cm
体重:55kg
性格:口が悪い。とにかく人と関る事を嫌うが、根は優しい。
外見:茶髪のロン毛、擬似キムタク風。黒の上下(ジャケット)
外見2:銀色のエネルギーゲインを全身に張り巡らせる強化スーツ、赤色の複眼
特殊能力:Σギアに適応できる能力。身体能力はいたって普通。
備考:人と深く関る事を嫌っている青年。あてもなく旅をしていたが
都市に辿り着き、駅前の喫茶店でバイトを始めた。
ぶっきらぼうですぐに喧嘩腰になるのがタマに傷。



202 名前:秤乃ひかる ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/09/03(金) 02:10:38 0
真性道程の個室に、足音が近づく。
軽い音で、けれども重い足取りだった。
足音の主は俯き加減で、途中ですれ違った男の醸す邪悪な気配に気付かない。

ともあれ、彼女は辿り着いた。

「真性道程さん……で間違いありませんよね」

秤乃ひかるが、独房の鉄檻の前で俯けていた顔を上げる。
憂いを帯びて幼気さの抑圧された表情は、何処と無く姉の面影を滲ませていた。
陰りに侵された瞳で、彼女は真性を捉える。

「……その節は、どうも」

首の動きだけで、彼女は小さく頭を下げた。
それ以上は何も無い。
『その節』について深く手を潜らせた所で、掴めるのは痛みだけだ。
ひかるは勿論、恐らくは――真性も同じく。

「……手短に説明しますね」

そう告げて、彼女は一息。
目を閉じ、肺腑を満たす吸気を全て新鮮な物へと交換して。
瞳を満たしていた陰りを意気の輝きで払い除け、真性を見据えた。

「まず最初に……あなたが逃がしてしまったヴィラン達は、まだこの都市を抜け出せてはいません。
 既に脱走されていて、それを補足出来てない可能性もありますがまずあり得ません。理由は、二つあります」

抑揚を排した声で、ひかるは語る。

「まず一つは、この都市にばら撒かれたブラックダイヤモンド。それに赤穂浪士と言う科学者が創り出した『異能』の発露を促す装置。
 それらによって、確かにこの都市にはヴィランが急増しました。……ですが同時に、『ヒーロー』も急増したんです。
 お陰で最悪の事態は免れましたが……今、この都市は異能の坩堝と化しています」

そして、と彼女は言葉を繋ぐ。

「その事が、未だこの都市からヴィランの抜け出していない二つ目の理由に、繋がります。
 あまり詳しくは説明出来ませんが、とあるヒーロー達の組織が……この件に関与する事を決めました」

秤の一族について吐露する事は、決して許されない。
故にその一点はぼかしつつ、彼女は更に続ける。

「ブラックダイヤモンドと異能者の溢れたこの都市は、今や弾薬庫と言う言葉では控えめ過ぎるほどに危険な状態にあります。
 収拾を付ける事は不可能だと、ヒーローの組織は判断しました。だから……今は彼らの脱走を封じるだけ。ですが……」

言い淀み、けれども彼女は言葉を紡ぐ。

「彼らは、この都市を世界から消滅させるつもりでいます。それが世界の為だと。今はその準備期間」

道程にそう告げたひかるは――しかし彼に助けを求めに来たのではない。

「……逃げて下さい。この都市から抜け出すのはとても難しいと思いますけど……あなたなら出来る筈です。
 お姉ちゃんが見込んだ人だから。お姉ちゃんが助けた人だから……私は、あなたにこんな所で死んで欲しくないんです」

彼が望めば、彼は容易く牢獄から抜け出す事が出来るだろう。
秤乃ひかるの可能な限りの取り計らいによって正面からでも、言うまでもなく力任せにでも。

203 名前: ◆k1uX1dWH0U [sage] 投稿日:2010/09/03(金) 02:11:44 0
――街中――

ヴィランに比例してヒーローが増えたとは言え、都市内の治安が最悪である事には変わりなかった。

「オイ、さっさと金詰め込め! 見張り怠んなよ! 警報は俺が電気系統掌握してっけど、油断すんじゃねえぞ!」

微かな焦燥の漂う叫びが響くのは、この都市に数ある銀行の内の一件。
いつぞやに真性道程が強盗を試み、失敗した銀行である。
あの事件以来、対異能防犯に力を入れていたらしいが『粗製濫造』を凌ぐには今一歩、力不足だったらしい。

店内は制圧され、出入口は表も裏も見張りが配されている。
恐らくは人質とされた客の中にも、犯行グループの連中は紛れているだろう。

そしてこの銀行を中心に、同心円状に――異能の範囲を俯瞰した際に、二重丸を描くように――
精神感応、即ちテレパシーが発信されていた。
最初の円の内側、つまり銀行内では誰も受信出来ないように、そこから送信可能な限界距離まで「救助要請」を送信する。

《強盗に押し入られてしまった。助けて欲しい。犯人グループは異能者が多数。だが正確な数は不明。繰り返す……》

とは言え彼の能力では断片的な情報を一方的に発する事しか出来ないようだ。
加えて、ヒーローのみを送信対象に選ぶなどと言う器用な真似も不可能だ。
故に善人悪人事なかれ主義を問わず、このテレパシーは聞こえる事だろう。

【銀行強盗発生。犯人の数は不明
 もしよければ参入や、どんなキャラなのかの紹介代わりの活躍にでも】

204 名前:旋風院 雷羽 ◆EOAlM2MfzU [sage] 投稿日:2010/09/03(金) 21:42:37 0

『次回予告』

旋風院雷羽は無事に矯正所からの脱獄を果たした。
だが、彼を待っていたのは日常ではなく、不確かな自己への懊悩の日々であった。
正体不明の不快感に荒んでいく雷羽。
そんな時、雷羽の元に『ボス』からの新たな命令が届く。
それは、ヴィランの対極である「ヒーロー」を行えという奇妙な命令であった……

失った筈の過去、死んだはずの過去が、旋風院雷羽へと手を伸ばす。
その手に触れられた時、男は何を思うのか。


――――正義と悪が交差するとき、新たな物語が幕を明ける


【ヒーローTRPG第三期:『粗製乱造編』――SIDE:旋風院雷羽 スタート】


205 名前:大神タクミ ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 00:53:36 0
俺には希望がない。
未来も無い。何もない。
大神タクミは、この大都市に来ても自分の目的を見出せずにいた。
今は、適当に探し当てた喫茶店でバイトをしている。
ここら辺は事件が多いので、時給は高めの900円。

「おい、坊主!!おい、おめーだよ!!」

面倒くさそうなハゲ親父が声を荒げる。
タクミは薄汚れたエプロンの端で手を拭いながら気だるげに首を回した。

「あ?」

「あ?じゃねぇーだろ!!コーヒー、まだきてねぇぞ!!」

「あぁ、分かったよ。そんなにいらいらすんな。
なんならミルクでもサービスすっか?」

案の定、タクミと客が喧嘩を始める。
しかし、タクミは熱くならず冷めた目で、ハゲ親父を見つめるだけだった。

>「今日のニュースです。『矯正所』から大部分のヴィランが脱走した事件に
>未だ政府は対応に追われ、脱獄した凶悪なヴィラン達にヒーローは───」

何もない、何の感傷も持たないはずのニュースが流れる。
そうだ、俺には関係はない。

>「臨時ニュースです。高速道路に入り口付近で異能者が奇声を発しながら暴れています。
>警官隊が一足早く駆けつけていますが歯が立ちません」

この街は、犯罪者で溢れている。
何度も見てきた。人が、襲われる姿を。
その度に、何かが疼く。だが、関りたくないのだ。
人と、力と。

「あ〜今日は気分が悪いな。マスター、ちょっと帰らせて貰うぜ。」

タクミはエプロンを脱ぎ捨て、店の外へ出る。
そこには1人の男が、いやヒーローがいた。

>「────変身!」

「あぁ、あんた・・・ヒーローってやつか。
しかし好き者っていうか、お人よしっつーか。
なんなんだ、お前ら。どうして、そこまでして関ろうとすんだ?
・・・まぁ、んなこと聞いても意味ないよな。」


206 名前:大神タクミ ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 01:02:00 0
「どけってんだよぉ!!」

拳銃を構えながら強盗の2人組が走り去っていく。
それを、止めるでもなく見つめるタクミ。
しかし、目の前の男は違った。
颯爽とした動きで、1人を薙ぎ倒す。

しかし、もう1人が拳銃を丁度街を歩いていた親子連れに向けて
人質にしてしまった。

「へっ、へへ・・・簡単にやられてたまるかよ!!いいか、そこを動くんじゃねぇーぞ!!」

母親と、娘らしき少女が怯えている。
しかし、タクミは動じない。
さっきと同じ冷めた目で、犯人を見つめるだけだ。

「悪いな、ヒーローさん。俺は係わり合いはごめんだ。」

歩いていこうとする。だが、少女の叫びが聞こえた。
その瞬間、タクミの中で何かが加速した。

「助けて、お兄ちゃん!!」

「・・・ちっ。」

タクミは驚異的なジャンプ力で犯人の背後に回り、拳銃を掴み膝蹴りで叩き落す。
同時にヒーローが親子を救い出し危機を脱した。
タクミは親子の無事を確認すると、ヒーローを一瞥する。

「ありがとう、お兄ちゃん・・・」

「お兄ちゃんなんかじゃねぇよ、別にお前の。」

無表情でタクミは呟く。
そして、ヒーローを見つめ言った。

「お前、いい顔してるな。きっと、やりたいことがあるんだろうな。」



207 名前:大神タクミ ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 01:07:02 0
手に残る感触。
ベルトを貰ったあの日から、俺は逃げ続けている。
戦うことを。守る事を。

何故かは分からないが、怖いのかもしれない。
人と関るのが。

タクミがΣのギアを手に入れたのは今から半年前だった。
送り主は、天堂寺総司朗。この都市で大会社の社長をしている男だ。
何故、自分に送ってきたのかはわからない。
もしかしたら、それを知りたいと思ったのも知れない。

「とりあえず・・・明日のパンツと今夜の飯だな。
そいつがあれば、たぶん何とかなるさ。」

タクミはようやく、少しだけ笑みを浮かべた。
自嘲気味な、悲しい笑みを。

【親子連れを助ける→明日のパンツを探しに・・・】

208 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 01:40:02 0
銀行から少し離れた所で、一人の学生がベンチに腰掛けぼんやりと無為な時間を過ごしていた。
顔立ちは平々凡々で少し優男然、嫌悪を抱かれる事は少ないだろう容姿だった。
とは言えぼんやりと空に視線を泳がせている様子は弁護の余地なく、間抜けに見える。

「……あの馬鹿。ゲーム買いに行くってのに何で金忘れられるんだよ……」

彼の名前は伊達 一樹(だて いつき)。
彼は今ぼやいた通り、銀行に金を下ろしにいった友人を待っていた。

「それにしても遅すぎだろ……。アイツ一体何やって……」

>《強盗に押し入られてしまった。助けて欲しい。犯人グループは異能者が多数。だが正確な数は不明。繰り返す……》

「……なっ!?」

様子を伺いに行こうと、彼が腰を上げた瞬間だった。
突然彼の頭の中に声が流れ込んだ。

「……冗談だろ?」

辺りの様子を伺ってみれば、そこいらの通行人にもこの声は聞こえているようだった。
だが、誰も動き出そうとはしない。
そそくさと、その場から立ち去っていく。

正しい判断だ。
放っておいても、その内ヒーローがやってくる。
強いて言えば警察に通報するだけで、それで一般人の使命は終了だ。

「……クソッ」

歯噛みして立ち尽くしていた一樹は、やがて彼もまた人混みに紛れその場を離れていった。
薄っぺらい学生鞄から取り出した学生帽を、両手で深く被りながら。



銀行の裏口を、一人の男が見張っていた。
扉から少し離れた位置で、いつでも異能を撃てる状態で待機している。
とは言えもう随分長い時間ここにいるのか、見張りは若干待ち惚け気味だった。

だがそれも、不意にドアの蝶番が軋みを立てた事で一変する。
異能の炎を右手に灯して見張りは裏口の扉を凝視した。

「残念、そっちはハズレだよ」

直後の事だった。
男の背後に、音を伴わず影が降り立つ。
黒い、学ランを身に纏った男だった。
目深に被った学生帽によって、容姿は分からない。

彼は着地と同時に両手に握った金属の糸を見張りの首に巻き付けた。
そして力一杯両手を左右に伸ばし、首を締める。
更に全力で見張りを吊り上げ、男に爪先立ちを強いた。
床や壁を蹴られ、抵抗されるのを封じる為だ。

209 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 01:41:14 0
「がっ……どこから……っ!」

見張りは面食らいながらも、すぐに糸を緩めんと首に指を伸ばす。

「無理無理、肉に食い込んでるから本気で首を抉るつもりでいかなきゃ絶対に解けないよ。
 それにしても貴重な酸素を無駄遣いしてくれるとは余裕だねぇ?まっ、こっちとしてもありがたいから付き合ってあげるけどね。
 えっと、何処から来たのかだっけ?天井の通気口からだね。いやあ、あんま綺麗とは言えなかったけどさ」

指は糸には引っかからず、中途半端に首を掻き毟るだけだった。

「はな……せぇ……!」

見張りは糸を解く事を諦め、代わりに男を殺しに掛かる。
右手を背後の男へ向けて、異能の炎を手に集め、

「おっと危ない。物騒だな。爆発音でもしたらどうしてくれるのさ」

「な……っ、に……しやがった……!?」

「おやおや、引き続き酸素の大放出サービスかい? まあ何をしたかと言えば水のエレメントで君の炎の出端を挫いただけだよ。
 もう一回試してみるかい? 何度やっても無駄だし、おネンネの時間が早まるだけだろうけど?」

見張りは苦悶の表情を更に悔しげに染め上げる。
しかしすぐにまた怒気と凶暴さを取り戻すと、歯を食い縛り壁を蹴り始めた。
爪先立ちの状態ではろくに威力も発揮出来ないが、音を立てれば誰かが気付いてくれるだろうと。
だが学ランの男は、くつくつと喉を鳴らして笑った。

「それも無駄だよ。それくらいの音は風のエレメントで閉じ込める事が出来る。つまり今の君は蜘蛛の巣に捕まった蛾みたいなもんさ。
 あぁ、ついでに癖の悪いその手足も土のエレメントで固めておこうか。さあて、これで正真正銘君は手足のもがれた虫ケラだね?」

「おまっ……幾ついの……う……持ってん……」

「別に幾つって程じゃないさ。単に月火水木金土日から風に光に雷に闇にエトセトラ、属性なら何でもござれってだけさ」

「……はん……そく……だ」

「だったら良かったんだけどね。残念ながら出力が最悪でね。だからこんなメンド臭い方法でやってんだよ?
 ちなみにこのワイヤーも金の……あれ? もしもーし? もしかしてもう気絶してる?
 ……うわぁヤバいヤバい、勢い余って殺しちゃう所だったよ」

音を立てないように、男は気絶した見張り番を床に寝かせる。
それから時間をかけて念入りに、万一目が覚めても何も出来ないように、見張りの手足と口を土のエレメントで固めた。
先程も一応動きは封じたが、彼の言うように出力不足の為、関節だけを固めていたのだ。

ぱさりと音を立てて、学ランの胸ポケットから何かが落ちた。

「あれ? ……あちゃー、これ持って来ちゃってたのか。危ない危ない。落とさないように、ちゃんとしまっておかなくちゃ」

落とした物は、手帳だった。
彼の、伊達一樹の……ご丁寧に彼の顔写真と所属している学校まで記された、生徒手帳だ。

「万一にも、バレる訳には行かないからね。伊達一樹が……『バスタード』だとは」

そう、彼は伊達一樹であり同時にこの都市に数いるヒーロー達の一人だったのだ!
その正義の対極を行くような戦術から付けられた仇名は『バスタード』《ろくでなし野郎》

210 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 01:42:27 0
「ま、別に何て呼ばれようが構わないけどさ。……皆を護る為に始めた事で、皆を傷付けてちゃ馬鹿丸出しだ」

彼が初めて「ヒロイック」な行為に及んだのは、ほんの数日前。
家族が買い物に出かけたデパートで強盗事件が起こったとテレビで報じられた時だった。
彼は身近な人間を護りたいだけなのだ。
だからこそ彼は外道だと謗られようとも、揺らぐ事なく卑劣な行為を実行出来るのだ。

「さて……こっからどうしたものか」

ひとまずは光のエレメントで姿を晒す事なく角を覗き込み、『バスタード』は今後の展望を見すえる。














名前:伊達 一樹(バスタード)
職業:高校生
勢力:ヒーロー側
性別:男
年齢:17
身長:178
体重:71kg
性格:友達思い、家族思い
外見:学ラン、容姿は優男
外見2:学ランに目深に学帽を被った。でもバレない。理由はその内
特殊能力:「一握りの宇宙」(グリップ・オン・ユニバース)属性だったら何でもござれ。でも出力が超低い
備考:犯罪に巻き込まれた家族を助ける為にヒーロー的行為に及んだだけで本人はヒーローを名乗るつもりはない
   登場時は二度目のヒーロー的活動

211 名前:縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 01:57:35 0
>《強盗に押し入られてしまった。助けて欲しい。犯人グループは異能者が多数。だが正確な数は不明。繰り返す……》

不意に声が響いた。
鼓膜を震わせるような声じゃなくて、頭の中に響いてくるような感覚だった。
恐らくは異能のテレパシー、その奇妙な感覚に戸惑って、私は肝心な事を理解するのが遅れてしまう。

強盗、異能者……そして何より、『助けて欲しい』。

気が付けば、私は走り出していた。
助けを求めるテレパシーから遠ざかるように早歩きの人混みを縫って走る。
けれども人を避けた先に丁度、中年の男性が飛び出してきて、私はその人と勢いよく衝突してしまった。

「気を付けろ!」

何を、偉そうに。

「……素敵な剣幕ですね。貴方も随分と急いでいたようですけど、何か用事でも?」

ちょっと皮肉を吐きかけてやっただけなのに、彼は途端にばつが悪そうに私を避けていった。
臆病者め。それだけならまだしも、相手が自分よりもひ弱な立場にあると判断したらたちまちつけ上がるなど見下げた根性だ。
大方この深緑のブレザーと、ワインレッドのネクタイを見てそう決め付けたんだろう。
進学校に通ってる学生なら、真面目で怒鳴られても言い返したりしないって?
人としてあるべき正しき心に従わず、汚泥のような精神に振り回される矮小な魂の持ち主。
私は彼をも、悪と断じよう。

いけない。今はこんな事を考えている場合じゃない。
私が今すべき事は――そう、助けを求める人々を助ける事だ。

銀行の入り口前で、私は立ち止まる。
閉ざされたシャッターの前で深く息を吐き、新鮮な空気で肺臓を満たす。

「……っと、危ない危ない。こんな制服着てたら、正体探って下さいと言ってるようなものじゃないですか」

どうしようか、今更着替えてくる時間なんてある筈がない。
……仕方ない。
よく考えてみればぶっつけ本番で使うのは心許ないし、動作確認めいた事をしておいても罰は当たらないだろう。

『誰も私を気に留めない』

これで、誰も私の事は見えない。正確には見えているけど意識の外側、識閾下でしか認識出来ない。
せいぜい、今日は何となく変な物を見た気がする程度にしか思えないと言う訳だ。
けれどこれは犯人から姿を隠す為の手立てではない。
さっきの『一言』だけでは、きっと動いてしまえば効果は失われる。
それどころか異能持ちの人間は私個人を認識出来なくとも、そこに誰かがいる事は認識出来てしまうかもしれない。
だから、これは単に私が着替えをする為の布石。

212 名前:縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 01:59:04 0
『変身――』

だけどそこまで言葉を紡いで……私はまた大切な事を失念していた事実に気付いてしまった。
着替えるのはいいけど、どんな姿になるかまでは考えていなかった。
自分で言うのもどうかと思うが、私らしからぬ失敗だ。緊張しているのだろうか。
今からこんな事でどうする。しっかりしろ、縁間 沙羅(ゆかりま さら)!

考えろ!自覚しろ!
私は今から悪を下し、正しい行いに身を投じるんだ!
ならばそれに相応しい姿……そう、それだけ望めば、後は私の「異能」が応えてくれる筈。

『変身――私は悪を下し、正義にかしずく者!それに相応しい姿を!』

深緑の制服が、ワインレッドのネクタイが、黒と灰が幾重にも交差するスカートが、私の決意の如く燃え上がる。
そして私の身を包んだのは……炎で染め上げられたような着物風の上下に、緑の冠。
私の深層心理が何をイメージしてこの衣服が出来たのかは、ちょっと分からない。
でも、これなら行ける。

『開け』

ただ『一言』、それだけで閉ざされたシャッターは私の言いなりとなって道を開く。
徐々に垣間見える銀行の内装に紛れて、二人分の足が見えた。
目に見えて、狼狽えている。
この場にいる時点で察しはつくけど、その素振りをもって彼らが犯人の一味だと私は確信した。

『跪け。貴方達の下劣な心の如く、地に這い蹲りなさい』

情けない悲鳴が二つ上がり、二人の男は倒れた。
犯罪者め、その醜悪な顔で私を見上げるな。

『眠りなさい。水底の石塊のように』

これでいい。
さて、実はこの銀行に来るのは初めてなのだが、それなりに広いらしい。
入り口付近にはもう犯人勢も人質も見当たらない。
と言うか、最初にそれを懸念すべきだった。迂闊過ぎる。
しっかりしろ私。私の失敗で傷付くのは、私だけじゃないんだ。
とりあえず……進もう。シャッターは空けてしまったから、書置き……だけじゃ信じない人もいそうだ。
何故か入る気が起こらないようにしておこうか。
やっぱり強い異能を持ってる人なら通れてしまうだろうけど、そういう人達なら書置きを信じてくれるだろうから。


(正面から銀行に挑んだが少々反省。以降、入る気が起きなくなる膜と書置きを残して隠密行動)

213 名前:縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 02:00:03 0
名前:縁間 沙羅(ゆかりま さら)
職業:女子高生
勢力:ヒーロー側
性別:女
年齢:16
身長:174cm
体重:55kg
性格:厳格で厳正・理想家の気がある
外見:深緑のブレザー、ワインレッドのネクタイ、灰と黒のチェックのスカート
外見2:上下共に真っ赤な着物。深緑の冠、顔には赤い筋の化粧が
特殊能力:『私の言葉は世界を変える』(ワードワールド)
     言葉にした事を現実に反映させる。だが一言では効果が薄い。語彙と想像によって効果が上がる
備考:性格通りの人生を歩んできた高校一年生。ヒーローとしての活動は初めて。異能を手にした経緯は不明だが後天的

214 名前:三日月ヶ原 ◆xFWjjHw82M [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 11:56:39 0
高層ビルの屋上。
『彼女』はそこに居た。

縁に腰掛け、ぱたぱたと足を揺らしながら、双眼鏡を構えている。
その足元まである、黒く長い髪の毛は、風にはらはらと舞っていた。

「やってる、やってる、楽しいなあ」

彼女が眺めているのは、一件の銀行だ。
今、あの場では様々な要因が集まり、絡まって、動いている。

「これから少しずつ、重なっていくんですから……ああ、楽しいなあ、楽しいなぁ」

くすくすと笑いながら、更に状況を確認する為か、少しだけ身を乗り出す。

「君、何をしている!」

すると、男の声が耳に入ってきた。
振り返ると、柵の向こう側、屋上へ通じる扉から、警備員だろう……中年の男がこちらを驚いた目で見ていた。

「そこは危ない! 早くこっちに来なさい!」

彼にとっては当然の言葉だったのだろうが、『彼女』にとっては、楽しい観察の時間を邪魔されただけに過ぎない。
   、 、 、 、 、、 、 、 、、 、 、、 、 、 、 、 、 、 、、
否、ただ普通に生きているだけで十分に死に値する――――

彼女は、知るものが聞けば嫌悪をあらわにするその性を持つ少女、三日月ヶ原は、じっと男の顔を見つめ、目を合わせる。
三日月ヶ原の左目は、瞼が閉じており、見ることが出来ない。
だがもう片方――右目は見開かれており、その色は血のような真紅をしていた。
そして、その瞬間、警備員の男は叫んだ。

「う、うわああああああああああああああ!」

三日月ヶ原はそれが当然であるかのように、じっとその様子を眺めている。

「違う、違うんだ、俺は悪くない、俺の所為じゃない――お前が、お前が悪いんだ……違う、違う……!」

「なあにも違わないわ、ねぇ貴方、貴方はそれを覚えている、それを後悔しているわ……だから思い出したんだもの」

「あ、あ、ああ、ああああああああああああああ!」

発狂したように叫ぶ男、その耳元に、いつの間にか立っている三日月ヶ原は、耳元でそっと囁いた。

「貴方の犯した後悔は、どうやったら償えるのかしら、さぁ、彼の元へお行きなさい?」

指差す先は、先ほど自分が腰掛けていた縁の、更に向こう。
男は、まるで導かれるように、走り出した。

「来るな、来るな……来るなああああああああああああああああ!」

一直線に柵を乗り越え、そのまま空中へと。
数瞬後に、何かがつぶれる音が、少しだけ聞こえた。

「……ああ、とっても悲しい、私の時間が消えてしまったことが」

それでも満足そうに呟きながら、三日月ヶ原は笑顔を浮かべた。

「さぁ、踊りましょうヒーロー達、悪意は伝染し、人はずっと正義ではいられないのだから」

数秒後、三日月ヶ原の姿はそこには無かった。

215 名前:三日月ヶ原 ◆xFWjjHw82M [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 11:57:21 0
名前:三日月ヶ原
職業:不明
勢力:悪側
性別:女
年齢:年齢不詳
身長:132cm
体重:不明
性格:他人の嫌がる事だけしかしないタイプ。「あらあらうふふ」。
外見:足元までの黒髪長髪、幼い、右の赤い瞳と左の紫色の瞳を持つ、常にどちらかの瞳を閉じている。
外見2:金属光沢を持つ黒いドレス調のスーツ、マスカレードの仮面。
特殊能力:
ナンデマダイキテルノ?
『 性  善  説 』
他人の過去の「最も後悔している事柄」を増幅させて引きずり出し、それを再現した幻覚を見せて強制的な恐慌状態に陥れる。
光情報を媒体とし、右の赤い瞳を目視した対象に効果を及ぼす。対象の罪は自分も見ることが出来る。
弱点は「後悔をしたことが無い」人間。

 
オカシタツミヲオモイダセ
『 性  悪  説 』
他人の抱いた事のある「最も醜い感情」を増幅させて引きずり出し、その感情に肉体を支配させる。
光情報を媒体とし、左の紫色の瞳を目視した対象に効果を及ぼす。対象の感情を、自分も察知する事ができる。
弱点は「他人に対して悪意を抱いた事の無い」人間。

幻覚を見せた相手の心の隙間をつき、甘言を駆使して自由に操る。
主に一般人を暴れさせたり、場合によってはヒーローにも及ぶ。

備考:年齢性別不詳、主に普通に生きる一般人やヒーローに並々ならぬ憎悪と嫌悪を抱いている。

216 名前:日比野 ◆BEAT4xeB.Y [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 12:42:07 0
◆前回のあらすじ

喫茶店に居座る場違いな青年、日比野翔一は正義の改造人間だった!
生理的にキモイ複眼ヤロー“侵略者”スカイレイダーは
ヴィラン直伝の非人道兵器でバッタバッタとヴィランをぶっ殺していく(偏見)!
さあ!正義サイド唯一の見た目アンチヒーロー日比野翔一はどんな奇行を見せてくれるのか!
そして彼が初対面でヒーローだと認識される日は来るのか!


「感動的な悪の美学ですね。でも邪悪だ」


──第一印象で重要なのは態度より見た目──

※    ※    ※

>「あぁ、あんた・・・ヒーローってやつか。
>しかし好き者っていうか、お人よしっつーか。
>なんなんだ、お前ら。どうして、そこまでして関ろうとすんだ?
>・・・まぁ、んなこと聞いても意味ないよな。」

空を飛ぼうとした瞬間、背後から声をかけられてドキッとした。
普段ならば驚くことはない。スカイレイダーが驚いた理由とはたった一つ、

  ヒ  ー  ロ  ー  だ  と  思  わ   れ  て  る  じ  ゃ  あ  な  い  か  !

だった。単純すぎる。
しかしここで「え?本当?僕ってヒーローに見えますかね!?」
と外見とは裏腹な底抜けに明るい声で喋ってはいけない。
何より『ヒーローは見返りを求めてはいけない』というのが日比野翔一の信条だった。
元々市民からは信用されず警察からは後ろから撃たれ
ヴィランからは仲間だと勘違いされるような男にこんな信条は無用の長物のような気もするが。
そしてあまり今回の事例とは関係ないが変にクソ真面目な日比野には関係があるように思えたのである。

ここは無難に(失礼ではあるが)後ろ向いたまま飛び去ろう。うん。そう思った矢先だった。

>「どけってんだよぉ!!」

拳銃を持った明らかにプッツン来てる男が確かにそう叫んだ。見た目からして強盗らしい。
何故逃走用の車も用意しなかったのか。その時点で明らかに致命的な失敗をしている気がする。
二人の内一人が市民に拳銃をつきつけている。どうやら親子連れを人質にしているらしい。

(クッ…今すぐ格好良く助けてやりたいが犯人だけを倒せるようなナイスな技を僕は持ってない!)

当たり前だった。
そもそもヴィランに改造された男の武器にそんな生易しいものが搭載されている筈がない。
スカイレイダーは言わずともがな周囲の被害など気にせず放てる非人道兵器の塊だった。
尤も人道的な兵器があるなら是非お目にかかりたい。

>「悪いな、ヒーローさん。俺は係わり合いはごめんだ。」

「え?いや……優しいですね」

係わり合いたくないならばさっさと逃げればいいだけの話だ。
それなのにわざわざ断るということは根は良い人なのだろう、と日比野は思った。
単純な男である。

217 名前:日比野 ◆BEAT4xeB.Y [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 12:47:13 0
>「助けて、お兄ちゃん!!」

……どうやら隣の異形は味方ではないと思われているらしい。
そう思われていたとしてもこの外見の男とはあまり関わりたくないのだろう。

そして次の瞬間、何かが目覚めたように隣の青年が驚異的な跳躍で犯人の背後に跳んだ。
拳銃を叩き落し強盗を無力化同然にする。結局一人でほとんどやってのけてしまった。

>「お前、いい顔してるな。きっと、やりたいことがあるんだろうな。」

唐突にそんなことを言われて日比野は少したじろいだ。
心の中を見透かされたような気がしたから。
あの時の光景が一瞬だけフラッシュバックする。
自分を救ってくれたあのヒーロー。あの『義賊』の後姿を。

「……ヒーロー、目指してますから」

それだけ呟くとスカイレイダーは空を飛んだ。
当初の目的通り、暴れる異能者を止めるために向かうのだ。

※     ※     ※

暴れる異能者の鎮圧に、大した問題はなかった。
人とは異なる能力を持っている…と言っても所詮身体能力は並。しかも戦い慣れていない。
改造人間として非人道的な改造手術を受けた外道・スカイレイダーの敵ではない。
能力を自分に対して使用される前に中空から少しキツイ蹴りを見舞っただけで終わった。
問題は毎回同じように警官隊に背後から撃たれ市民からの「帰れ」コールがヤバかったことだ。
ついにはレンガを投げられた。これが現代ヒーローの恐ろしさか。
空を飛んでの帰宅途中、不意に声が聞こえてくる。テレパシーのようなものなのだろう。

>《強盗に押し入られてしまった。助けて欲しい。犯人グループは異能者が多数。だが正確な数は不明。繰り返す……》

言わずともがな、スカイレイダーはそのまま銀行へ直行した。
空においては水を得た魚状態のスカイレイダーにとって銀行に到着するのに一分とかからなかった。
空中から天井ぶっ壊して入るのも手かも知れないが、それだと銀行に迷惑がかかるので正面から入ることにする。

入り口の開いたシャッターに丁寧な字で書かれた書置きが貼り付けられている。
ついでになんだか正面から入る気が起きない。いや、そんなことを言ってどうする。
ヒーローだと気取る訳ではないが、誰かの涙を見るのは嫌だ。苦しませるのは嫌だ。
それはヴィランの被害者でもある自分が一番良く知っていることだから。

「ええい……ままよ!」

日比野は異能者ではなかったが常人とは違う改造人間からなのか───
それとも彼の意思が強かったからなのか───
とにかく死ぬほど苦労しながらも正面突入に成功した。この間約10分。戦闘中なら死んでいるレベル。
ヒーロー全員が異能者だって?ハハハ、こやつめ!

誰もいない閑散とした部屋。意外と広い。ついでに入り口でおっさんが二人倒れている。
もしかしたら人質は金庫室にでも閉じ込められているのかも知れない。
それにしてもおかしい、と日比野は頭に疑問符が浮かぶ。警報装置一つ鳴っていない。
警察も到着せず、外は平和そのもの。まるでここだけ隔絶された異空間のようだ。
しかしここで警報装置など鳴らしたら逆にコトを荒立てさせて死人が出るかも知れない。
強盗犯らしきおっさんが倒れている辺り他にもヒーローが来ている可能性は十二分にある。

「とりあえず……犯人の無力化より人質の救出が優先ですよね」


【正面突破。人質の救出を優先事項として動く。ただし外見の関係でヴィランと間違えるかも】

218 名前:猪狩礼司 ◆sVx5JpMHMo [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 16:31:35 O
昼間でも薄暗い街の路地裏、そこに一人の男が佇んでいた
全身を包帯で覆い隠し、その上に薄汚れたコートと帽子を身に着けた、一見して怪しい男
誰がどう見てもヴィランにしか見えない風貌、しかし彼はヴィランではない
かと言ってヒーローかと問われれば、それもまた違う
彼の名前は猪狩礼司、ヴィランと敵対してはいるが、決してヒーローとは呼べない男だ
「ふん、このクズ野郎が……当然の報いだ」
猪狩は吐き捨てるように呟くと、その場を立ち去る
後に残ったのは夥しい量の血痕と、原形を留めないほどバラバラにされたヴィランの死体のみ

「さて、どうしたもんかね……帰り着くまで、警官とかヒーローに見つからなけりゃいいが」
格好良く初登場をキメた猪狩だったが、彼はかなり困っていた
返り血を大量に浴びたおかげで、コートが真っ赤に染まってしまったのだ
こんな姿で出歩けば警察に捕まるか、下手をすればヒーローに襲われるだろう
どうしたものかと思案を巡らせている猪狩の頭に、助けを求める声が響いてきた
>《強盗に押し入られてしまった。助けて欲しい。犯人グループは異能者が多数。だが正確な数は不明。繰り返す……》
『強盗』
その言葉を聞いた瞬間、猪狩は躊躇うことなく通りに歩み出る
先程まで、どうやって見つからずに帰ろうか考えていたのが嘘のようだ
「クズどもが……次から次に、チョコボールみたいにポンポン出てきやがって」
全身から殺気を迸らせながら、猪狩は銀行に向かって走り出す
その容姿に驚いた人々が悲鳴を上げても、気にも止めずに走り続ける
既に彼の頭の中は、銀行強盗に対する殺意で一杯だった



「さて、入口と裏口どっちから入ろうか?」
警察にもヒーローにも阻まれず、無事に銀行に到着した猪狩は、進入経路を思案していた
入口には間違いなく見張りがいる、しかしそれは裏口も同じだろう
ならば、どうするか?
「……よし、いっちょ派手にいくか」
首をコキリと2〜3回鳴らすと、入口でも裏口でもなく、銀行と隣の建物との隙間に入っていく
「ちゃんと保険とか入ってるよなぁ? まぁ、どうでもいいか……っだらぁ!!!」
猪狩は銀行の壁に向き合うと、その拳を銀行の壁に叩き込む
たったの一撃で派手な轟音と共に壁が崩れ落ち、人一人が楽に通れるような大穴が開いた
「さーて、お仕置きの時間だぜクズ野郎ども」
この轟音では、強盗犯に存在を気付かれたのは間違いないだろう
というか、これなら入口か裏口から入った方がマシだったのではないだろうか?
しかし猪狩は、そんな細かいことは意に介さない
強盗犯を全員抹殺する、今の猪狩の頭の中にあるのはそれだけだった


【銀行の壁をぶち破って派手に侵入、強盗犯一味抹殺を目的に行動開始】

219 名前:猪狩礼司 ◆sVx5JpMHMo [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 16:34:46 O
名前:猪狩 礼司(いかり れいじ)
職業:無職
勢力:中立
性別:男性
年齢:32
身長:185p
体重:100s(義肢の重さ込み)
性格:悪党に対しては徹底的に無慈悲。情緒不安定気味
外見1:特殊合金の手足を持つ怪人。全身を包帯で覆い隠し、その上に薄汚れたトレンチコートとソフト帽を着用
外見2:――――
特殊能力:『悪鬼の見えざる手』(ファントム・ペイン)
肩と太腿の接合部に物体を繋ぎ止め、自分の手足として自在に動かす。出力は感情に比例して増減
普段は特殊合金製の義肢を装着、爆弾やフックショットなど様々なギミックを仕込んでいる
備考:心の底から悪を憎悪し、一切の情け容赦なくヴィランを抹殺する怪人
基本的にヒーローや一般人には危害を加えないが、必要ならば骨の2〜3本は平気で折る

220 名前:大神タクミ ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 20:51:08 0
>「……ヒーロー、目指してますから」

「あぁ、そうかい。まぁ、俺はヒーローなんて興味ないけどな。」

この男、いやヘンチクリンな怪人っていうのか。
見た目は怪物だが、タクミには敵意を感じ得なかった。
彼の言葉、瞳。そして、何よりも行動そのものが
彼が「心」を失っていない事が分かったからだ。

「その見た目、変だが悪い奴じゃ無さそうだな。
それに、実際にあんたはあの親子を助けた。
見た目なんて気にすんなよ。」

異形のヒーローを見送り、タクミは財布を開き現金を確認する。
中身は小銭のみ、おそらく残高は――310円。

「やべ、銀行いかねぇと・・・この時間で開いてるのはあそこだけだかよ。」

タクミは店に横付けしていたバイクに乗ると明日のパンツと
朝飯の為に駆け出した。

【よつば 銀行】

「あ?なんで、閉まってんだ。営業時間内だろ?
ちゃんと仕事しろよ。」

ふてくされた顔で銀行のシャッターを叩く。
すると、ライフルを構えた2人組が警戒したような雰囲気でこちらへ走ってくる。
「なんだてめぇは!!ぶっ殺されたいんか?あぁ!?」

「・・・なんで、こうなるんだよ。」

タクミはバイクから降ろしたバックを持ったまま、銀行の中へ連れて行かれた。

「ったく、今日は散々だ。店で親父に怒られるわ・・・得にもならねぇのに親子を助けるわ・・・なんなんだよ。」

>「さーて、お仕置きの時間だぜクズ野郎ども」

「あ・・・?」

突然の轟音と共に、壁が破壊される。
タクミは開いた口をふさげないまま、人質の1人として
その様子を見つめていた・・・

【銀行へ貯金を下ろしに→何故か人質に】
銀行に行けば


221 名前: ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 21:02:10 0
都内・都心部【天堂寺工業 仮社屋】

僅かずつだが、復興し始めた天堂寺工業の仮社屋で
社長・天堂寺宗司朗は煎茶を飲んでいた。

「社長、Σギアを持った男が都内で異能者に接触したようです。
監視カメラに映っていたのが確認されました。」

部下の報告を聞き、天堂寺は前方の液晶ビジョンを見つめる。
Σギア、ライドシステムの元となったベルトだ。元々は、天堂寺工業の地下研究所で発見されたものだ。
デフォルトがこの会社を襲った際に、奪われてしまったのだが。
ベルトには謎が多い。何より、最近この街で氾濫している”異能”の根源。
あの黒い石に関係があることが確認されているのだ。

「おばあちゃんに聞いたことがある。
かつて、黒い石は大きな力を持っていた。その石を掻き消す天秤の一族が
持つ”石を消す力”があのベルトにもあると。
しかし、誰もあのベルトで変身できなかった。
何かの資格がいるのかもしれない・・・この俺も知らない何かが。」

天堂寺は今も闇で溢れる街を見つめ、一度だけ溜息を吐いた。


222 名前:縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 23:26:57 0
『心よ飛び立て。鳥の如く自由なる視界を私に届けておくれ』

目を閉ざして私は呟いた。
私の異能である『私の言葉は世界を変える』(ワードワールド)は、実は厳密には私の言葉だけによって発動するものではない。
極論を挙げるのであれば敵対した相手に「死ね」と吐き捨てた所で、相手が死に至る事はない。
例えば「何もするな。熱も鼓動も呼吸も全てを捨て覚める事なき眠りに堕ちよ」と言えばそれなりの効果は発揮されるかもしれない。
だけどやっぱり、相手が死ぬ事は無いだろう。何故なら恐らくは私が「相手の死」と言うものを厳正なまでに想像する事が出来ないからだ。

逆に、この着物と冠を私は具体的に想像した訳ではない。
ただ自分が思い描く「悪を下し正義にかしずく者」の姿を深層心理から引き上げただけだ。
心の底から「相手の死」を想像する事も望む事も出来ない私では、相手を「死なせる」事は不可能という訳だ。

そして同じように今私は壁の向こうを見ようと異能を振るっているが、これもまた困難だった。
「見えない物が見えるようになる」と言う状況を想像するのは、当然ながら難しいからだ。
壁はある程度透過して見えるようになったみたいだが、強盗犯達の位置を全て把握する事は叶わない。

だけどこれで不注意な行動によって、人質達を危険に晒してしまう可能性は著しく低下した筈だ。
……よく見てみたら、既に一階入り口のATMはお金が全部抜き取られているようだった。
壊されてもいないしこじ開けられたようにも見えないのだけれど、となると犯人勢の異能と見て間違いない。
瞬間移動か、機械操作か。特定は出来ないけれど警戒くらいなら出来るか。

壁を透かしながら私は慎重かつ迅速を心がけて歩みを進める。
経験の不足は思考で補うべきだ。
歩み出してすぐ、私は自動ドアに差しかかった。と言ってもドアは開放されている。
問題は奥に誰がいるのかだ。幸いこのくらいの壁なら透かして見る事が出来る。

……人質と、銃を持った男が三人いた。
強盗犯である事は間違いないが、異能者であるかどうかは分からない。
ひとまずこっちの存在はバレていないようだ。
だったらここから遠隔で、あの三人全員を問答無用で無力化してしまうのが得策だ。
元々私の異能は時間がかかる代わりに、得られる効果の程は大きいと言うものだ。

>「さーて、お仕置きの時間だぜクズ野郎ども」

轟音が響いた。遅れて壁が崩れ落ちる音と、凶悪な男の声が続く。

「なっ……!?」

思わず声を上げてしまったけど、犯罪者共は気付いていない。
それが僥倖である訳では、まったくないのだけれど。
何をやっているあの馬鹿な男は。
あれでは人質が……そら見た事か!犯罪者の一人は既に人質達に銃を突きつけているではありませんか!
だと言うのに、何故お前はそうも悠々としていられる!?

違う!今考えるべき事はこんな事じゃない!
一触即発のこの状況で人質達の命を護るにはどうすればいいのか。それが私の考えるべき事!
私に何が出来る?この心の臓が跳ね馬と化けてしまった精神状態で、私の異能は十分に機能しない。
その上で、私に何が出来る?

考えろ!実行しろ!縁間沙羅!

そして、私は飛び出した。
人質達が確りと視認出来る位置に。銃弾にこの身さえもが晒される位置に。
その位置で、叫ぶ。

『刮目せよ!私こそは正義の従者!貴様達が憎しみと共に射抜くべき仇敵である!』


(犯罪者達の憎悪と殺意の対象を自分に。自分が来た道に関しては経験不足のためまったく無警戒)

223 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 12:03:21 0
都内某所 不知火重工本社 会議室
矯正所の事件以来、不知火重工装甲警備隊は一度も出動していない
まず一般の装甲警備隊員が旋風院とレギンの攻撃で壊滅した事と、現在のメタルボーガーの性能がヴィランに対抗できない事が判明したため
『特殊企業協力法を逸脱する兵器を使用したための活動停止処分』を理由に戦力の建て直しを図っているのだ
協力法の違反など、国がバックについている不知火重工だ、如何様にもできる
いや…実際はそっちも大いに問題があり、様々な部署が現在対応に追われているのだが
それよりも、ヴィランに負けて装甲警備隊が活動できない事の方が広報的には問題がある

「装甲警備隊再結成の費用を新型メタルボーガーに使う…そんなに君は新兵器とやらに自信があるのかね?」
自らの議題を一瞥した重役の言葉に、武中は力強く頷いた
「ヴィランに対し、通常火器が全く無力である事は、これまでの戦いで完全に明らかになっています
最早連中を相手に近代戦術は何の意味もありません」
重役達はうーんと低い思考の声を漏らす
武中の言うとおり、超常能力を持つヴィランに、一般兵力による力押しは何の効果も得られないどころか、生身の人間が足手まといになる事も多々あるだろう
それならば、その分強力な対異能兵器に予算をつぎ込むのが得策であるというのも頷ける
しかし
「だがね…我々は慈善事業でヴィランと戦っているわけではないのだ、商品にならない兵器を作ってそれが活躍しても…だね…」
「第一君の言う新兵器とやらが本当にヴィランに対抗しうる物かと言うと…」
「我々には最早敗北は許されないんだ、こんな大昔の一騎打ちの様な戦術にはかけられん」
頭が硬く、自己の利益しか頭に無い重役達にはやはり簡単には受け入れられない

だが、武中は動じない
「確実に対抗できる兵器をベースに廉価版を製作するのが、今回の様なケースの得策だと私は思っています。
国立科学研究所が調べたヴィランの平均的な超常能力の出力を、スペシウムエネルギー炉は凌駕する出力を出す事ができます、戦闘能力なら、アイアンメイデンを上回ると私は断言できます
我々が戦う相手は人間の皮を被った新生命体です、通常の戦法では歯が立たないのはコレまで散々やって明らかになっている」
彼には絶対の自信と、準備があった
その後も彼は重役達の様々な質問や苦情に彼等を黙らせる適切な応答を行い、この後、遂に新兵器導入を重役達に決定させる

今、ヒーローの存在意義を脅かす存在が生まれんとしていた

224 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 12:13:21 0
名前:宙野景一(ハイメタルボーガー)
職業:不知火重工対ヴィラン特設部隊隊員
勢力:中立(ヒーローより)
性別:男
年齢:23
身長:210
体重:80
性格:意地っ張り
外見: 眉毛の太い強面の巨漢、筋肉隆々
外見2:銀と赤、青のメタリックな装甲に身を包み、背中にジャンプ用大型スラスター、各所に空中戦を前提とした制御スラスターを持つ、頭部は金色の三目
特殊能力: 戦車を持ち上げる怪力、戦車砲を片手で跳ね返す腕力、高速飛行能力、そして腕部から光線を発射可能
備考:火星で採掘される物質「スペシウム」を用いて強化されたコスト度外視のメタルボーガー
その戦闘能力は初期型をはるかに凌駕する
ヴィランを撃破する一方、ヒーローをも管理せんとする

225 名前:日比野 ◆BEAT4xeB.Y [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 12:25:14 0
「………おっ?」

奥の部屋で声が聞こえる。どうやら誰かがいるようだ。

>「さーて、お仕置きの時間だぜクズ野郎ども」

>『刮目せよ!私こそは正義の従者!貴様達が憎しみと共に射抜くべき仇敵である!』

今一状況が把握しにくいが、恐らく先に駆けつけたヒーロー達が交戦しているのだろう。
しかし派手にやらかせば他の階や部屋にいる仲間に気付かれる恐れがある。
人質のこめかみに拳銃突きつけながら歩かれても厄介だ。加勢して“静かに”片付けるべきか。

……それに黙って見過ごせ、というのも変な話である。

(人質の救出が優先なんだけど……あまり騒がしくされちゃやりにくいからね、うん)

颯爽と駆けつける異形の怪人。
しかしその場に居た者全員、結構斬新な人達だった。
真っ赤なコート(絶対に返り血である)に全身グルグル包帯の男に
『殴られただけで死ぬんじゃあねーか?』というぐらい軽装の女性。着物姿である。
いや、着物はまだいい。恐らく攻撃を受けない自信があるのだろう。

後は────黒い覆面被ってライフル構えた三人の怪しい人達と、人質さん☆
ただし一番斬新なのは当の本人、スカイレイダーだ。
恐らく「あの人は味方なの?」と全員が困惑していることだろう。多分。
そんな妙に重い空気のファースト・コンタクトを他所に
黒い覆面の怪しい人達は問答無用で異形の怪人……の前にいる女性に向けて引き金を引いた。

(ちょっ、ちょっ、ちょっ、待ってくださいよ!相手は女性でしょ!?)

銃弾と女性の隙間に滑り込むように割り込み、背中で銃弾を全て受け止めた。
異能でもない限りこの“錆びた鎧”は傷一つ付くことはない。
尤もグレネードのような高火力の武器を一斉に発射されればそれなりの効果はあるだろうが。

「え…と…とりあえず僕は敵じゃないんで…後ろから撃たないで下さいね」

いかんせん声は着物姿の女性にしか聞こえないような小声だったので、包帯男には届いていなかった。
もしかしたら勘違いされて攻撃される可能性があるのだが、そこまで日比野の頭は回らない。

そもそもブラックダイヤが飛び散る前からどマイナーながら細々と戦いを続けているのにも関わらず
何故彼の知名度は一向に上がらないのか……七不思議の一つである。
……マスゴミが『生理的にキモい改造人間よりアイアインメイデンその他の方がウケがいいだろ』で
スカイレイダー関連の報道が絞られているがアンサーなのだが、それはまた別のお話。

「………っ、この野郎……!」

男の一人の右腕に異能の光が宿る。……が、狙いはスカイレイダーではなくあくまで女性ヒーローらしい。
何故人質を盾に使うという手段を取らなかったのか理解の外だったが、それはこちらにとっても好都合だった。

一瞬で懐に潜り込んで腹を殴る。加減した威力だが生身の人間を昏倒させるには十分な威力だ。
問題は銃弾の音で他の仲間に気付かれた可能性があるのと、銀行員らしき人が一人もいないこと。
もしかしたら別の場所に閉じ込められているかも知れない。


【怪人スカイレイダー登場。後ろから撃つなら撃つがいい】

226 名前:八代雄作 ◇dnUGDlR0jo [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 15:21:30 0
囚われている人質の中に一人だけ様子が違う男がいる。
彼の名は八代雄作、この街に生きるヒーローの一人だ。
八代は能天気そうな表情を浮かべつつ、見張りをしている強盗の様子を伺いながら思案していた。

初めからそこにいたのならば、早々と変身し強盗達を始末するべきなのだろうが
強盗の数が多いのに加え、いつでも人質を取られる状況下で下手に動けば甚大な被害を与える可能性もある
そう考え、八代はこうして無力な一般人の振りをし、人質に紛れ込むことにした。

>《強盗に押し入られてしまった。助けて欲しい。犯人グループは異能者が多数。だが正確な数は不明。繰り返す……》
テレパシーを近くで受信しながら、八代は大体ではあるが人質救出のプランを組み立てる。
「(多分、他のヒーローが駆けつけて来たなら、犯人グループの注意はそっちに向くはず
  もしかしたら、その時にこっちの見張りも手薄になるから、そこを」
幸い人質には手足の拘束はなく、その気になれば脱出することは可能なのだが
相手は全員銃と異能を用いている以上、無抵抗でいなければならない。

今か今かと待っているなか、遂にその機は来た。最悪の形で
>たったの一撃で派手な轟音と共に壁が崩れ落ち、人一人が楽に通れるような大穴が開いた
>「さーて、お仕置きの時間だぜクズ野郎ども」

>犯罪者の一人は既に人質達に銃を突きつけている

人質に対する考慮のない荒々しい登場に驚愕した強盗の銃口が人質に向けられる。
とはいえ、この手の場合はただ銃口をつきつけ「動くな!人質が」などとテンプレートな脅しをかけるつもりだろうが
あんな登場をするヒーローがそんな脅しに屈する訳が無い。下手をすれば煽ってしまい、そして

>『刮目せよ!私こそは正義の従者!貴様達が憎しみと共に射抜くべき仇敵である!』

飛び出した少女、少女に向けられる銃口、セーフティーの外れた音
「やめろぉ!!!」
断片的な意識の中、八代は近くに居た強盗に掴みかかる。
発砲音と共に壁や天井に銃弾が放たれた後、銃を奪い捨てた。
「逃げてください!!!早く!!!急いで!!!」
人質に逃げるように促した後、自分が組み付いた強盗に視線を戻す。
すぐさま、下腹部辺りに両手をかざす。すると、体の中からベルト状の装飾品が現れる。
そして、右手を眼前に持っていき、拳を固め、戦う覚悟を決める。

【悪しき力に穢れし者あらば】

「変・・・」

【希望の霊石を身につけ】

「・・・身ッ!!!」

【裁きの火をもって穢れを祓う戦士あり】

拳を振り下ろした瞬間、八代の姿が異形の者へと変わる。

「てめぇ…何者だぁ!!!」
変身を終えた八代に対し、狼狽した犯人が叫ぶ

カブトムシをイメージさせるような古代戦士風の怪人に変身した八代が答えた。
「サイカ…らしいよ。サイカチ虫っぽいからかな?」


227 名前:日比野 ◆BEAT4xeB.Y [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 16:53:55 0
さっきからドンドン馬鹿でかい振動が鳴りまくっているが一体どういう状況なのだ。
と、日比野翔一もといスカイレイダーは頭を抱えていた。
十中八九他のヒーローが暴れまくっているのだろうとの予想も頭の中にはあったが。

「………あっ」

ばったり。
金庫から金を盗むことに成功し、仲間と合流しようとしていた強盗犯と偶然出会ってしまった。
隣には拘束された銀行員が二名いる。他は別の場所に閉じ込められているのだろうか。
テンプレ並みのラブコメか。オメーはよ。

幸運なことに銀行強盗犯は狼狽しているようだ。
その生理的に受け付けないエイリアンレベルの外見に
「えっ…この人、ヴィランなのかな?」という状況に陥っているらしい。
今回ばかりは外見に救われたと言える。
スカイレイダーは狼狽した一瞬の隙をついて四人の内の一人を瞬時に蹴り倒す。
手加減はしているもののナイフのような鋭い蹴りは強盗犯の意識を刈り取るに足りえた。

「おっと…!危ねえ危ねえ。ヒーローだったのか?
ややこしい外見しやがって……もっと格好つけた外見にしとけよ。バットマンってレベルじゃねーぞ!」

平静を取り戻したらしいリーダー格のような男。落ち着きの早さは流石と言える。
リーダー格が指をパチンと鳴らすと銀行員二名の肩にいかにも『爆弾』らしきものが姿を現す。

「お前らは強いが…今も昔もマヌケなウィークポイントは変わってはいまい……?
俺らは戦闘慣れはしてないが、強いぜ?頭の良さって意味でね…………
俺達に何かしてみろ。俺の異能でこいつらの頭は吹っ飛ぶからな。
いや…こいつらだけじゃない…この銀行も……他の人質も全部だ。わかったな?」

他ヒーローが暴れる中二階の階段付近で今まさに大ピンチの怪人が。
悟空、早く来てくれ。

※     ※     ※

>「サイカ…らしいよ。サイカチ虫っぽいからかな?」

三人のヒーロー(ヒーローとは言い難い男が若干名いるが)相手に
戦闘慣れしていない三人の雑魚…ではなく強盗犯に勝ち目などあるはずもない。
通常ならば、の話だが。

何故なら現場にいないバカ一人のお陰で強盗犯リーダーの異能が発動したからだ。
何らかの能力か通信でそれを知った強盗犯達。
八代の変身に今まで狼狽していた男は突如として平静を取り戻し、大声で叫んだ。

「サイカ……とか言ったか?後、他のヒーロー。人質の肩をよく見るといいぜ。
肩に何がある?見えるか?わかるか?カチッカチッて音でわかるだろ?
なんなら言ってやろうか?………答えは『爆弾』だッ!」

あからさまな時限爆弾の形状をしたそれは突如として人質の肩に出現した。
もちろん今まで人質として潜んでいたサイカも同様に。

「そいつの起爆方法は二つあってな…リーダーの意思による起爆か、
俺の持ってるこのスイッチで起爆するかだ。人質を丸焼きにして欲しくないなら動くなよ!
俺らは金が欲しいだけなんだからな……俺達が逃げるまで大人しくしてりゃ起爆はしねーさ…!」

しかしこの銀行強盗、自分でべらべらと情報を垂れ流す辺りあまり賢くないようである。


【ちょっとしたピンチを演出ってことで人質全員爆弾化。
リーダーを倒すのはもちろん能力で打ち消すなりで爆弾は無力化可能ってことで】

228 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 18:03:56 0
光のエレメントで曲がり角の先がどんな状況かを確認しつつ、バスタードは進む。
光を屈曲させれば、相手には姿を一切晒さずに角を覗けるのだ。
それを何度か繰り返した頃だった。

(……ロビーかな?あの隅っこに固められてるのが人質か。アイツは……居ないぞ?)

アイツとは元々彼が助けるつもりで来た友人の事だ。
逆に言えば彼は好んで人質を危険に晒すつもりもないが、同時に友人以外は特に助ける義理も感じていなかった。

(どうなってる?人質を分けてあるのか?……狡猾だな)

犯人勢は抵抗する間もない強行突破で人質を奪取される事を警戒しているようだ。
どうあれ、動かない事には事態は好転しない。
バスタードは自分自身に風のエレメントをエンチャントして、姿勢を低くして進み始めた。

彼の操る属性とは、言わば性質だ。
火の属性であれば火を出すだけでなく物事の活性化をしたり、土であれば硬化する事が出来る。
そして今彼は風のエレメントが持つ「隠微」を自分に付加する事で「見つかりにくく」なっているのだ。
ちなみに学帽一つで彼の正体がバレないのも、彼が日々地道に風のエレメントを学帽に蓄積させているからである。

ロビーから見て窓口カウンターの奥、平和な時なら職員達がいるエリアを、バスタードは机などに身を隠しつつ進む。
犯人達は皆ロビー側にいる。
一度完全に制圧している上に警報まで掌握しているからこそ、安堵しているのだろう。
彼らはカウンターの内側にまでは警戒を払っていなかった。
何ら問題なくバスタードはカウンターの真下に辿り着き、再び身を隠した。

(さてここからだ……。人質が分けられているならここで大騒ぎはするべきじゃない。
 ……それよりスゲー重大な事に気付いたんだけどさ)

困惑を紛らわすように、バスタードは学帽に手を添える。

(実は僕この銀行来るの初めてなんだよね。つーか来た事あっても金庫室の場所とか分かんないだろうけど。
 ……事を起こしてから探索なんてアホをやってる暇はない。金のエレメントで「見取り図」でも探しておくか)

金の持つ「お宝」の性質を用いて、現状では金の価値を持つ見取り図を探すのだ。
なお出力不足であるため、探知には結構な時間がかかってしまうのだが。

だが探知が終わりバスタードが回収に移ろうとしたその時、唐突な轟音が銀行に響いた。
壁が崩れ、逆光の差し込む壁に人影が投影される。
慌てて、バスタードは光のエレメントでカウンターの外側を覗く。

(バレた!?いや、違う。馬鹿が一人入って来やがったんだ!クソッ、ヒーローか?ヴィランか?いや……)

>「さーて、お仕置きの時間だぜクズ野郎ども」

(アイツは……ただの馬鹿だ!)

だからこそタチが悪い。
暴虐の闖入者は人質に銃が向けられていると言うのに立ち止まろうとはしない。

(あぁクソッ!僕なんかよりアイツの方がずっとろくでなし野郎じゃないか!)

どうにかするしかないと、バスタードはカウンターから飛び出した。
そして金のエレメントでナイフを構成し、人質に銃を向ける男へと投げ放たんとする!
ナイフには雷のエレメントが付加されている。刺さらずとも触れるだけで電撃が相手を襲うが、

(遅いか!?)

強盗犯は既に銃の引き金に指をかけている。
一手遅い。間に合わない――!

229 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 18:08:13 0
>『刮目せよ!私こそは正義の従者!貴様達が憎しみと共に射抜くべき仇敵である!』

だが寸前に割り込んだ声に引かれて、強盗犯の銃口は人質から逸れた。
代わりに飛び出してきた紅碧の少女を殺意が睨む。
更には人質の一人が強盗犯に掴みかかったではないか。

(誰だか知らないけどナイスだ!これなら……間に合うッ!)

銃口が新たなる標的に狙いを定める一瞬の隙が、バスタードの遅れていた一手を埋めた。
投擲されたナイフは強盗犯が銃を構える左腕に突き刺さり、男の体内に雷の猛獣を解き放つ。

(まずは一人!)

残るは強盗犯はこの場に限れば二人。
金と雷、精密な投擲を得る為に使用した水のエレメントは一呼吸のインターバルを置かなくては使えない。

(壁ブチ破りやがったあの馬鹿野郎は信頼どころか信用も出来ない!二人とも僕が仕留めるしかない!
 一人は火で身体強化して土で殴り倒す!もう一人は風で距離を詰めて銃を押さえ込んでやる!)

拳を握り土のエレメントによる硬化を加え火のエレメントを足に宿し、バスタードは床を強く踏み締める。

> 「サイカ……とか言ったか?後、他のヒーロー。人質の肩をよく見るといいぜ。
> 肩に何がある?見えるか?わかるか?カチッカチッて音でわかるだろ?
> なんなら言ってやろうか?………答えは『爆弾』だッ!」

> 「そいつの起爆方法は二つあってな…リーダーの意思による起爆か、
> 俺の持ってるこのスイッチで起爆するかだ。人質を丸焼きにして欲しくないなら動くなよ!

まさに強盗犯共を打ち据えんとしていたバスタードは、彼らの叫びによって硬直を余儀なくされた。
そして次に彼が取った行動は――ナイフを構成し、投擲。
人質が逃げ出そうとしている出口間近の床めがけてだ。

「……動くべきじゃない。君らはじっとしていれば道具だが、逃げ出すようなら殺されるだろう。一人でも下手を打てば、全員が」

脅迫めいた口調だった。
実際、脅迫している。
この場にいないとは言え、彼の友人にも爆弾は恐らく設置されている。
人質全員が同時に炭に成り果てる光景は彼も当然見たくない。
が、同時に「友人の為」にバスタードが人質を脅迫しているのも事実だった。

(だけど……コイツらが本当に逃げた後、人質を解放するのかは怪しい。皆殺しにすれば捜査は厳しくなるが、足は付かない……!
 それにこの都市にヒーローは沢山いるけど、数を減らせばそれだけ奴らは「やりやすく」なるッ!)

喋っている間に再使用が可能となった金のエレメントで再びナイフを構成し、腕を横に伸ばす。
自分の背後に位置する二人。着物の少女と先程変身した男を首だけで振り向き、バスタードは言う。

「君達もだ。人質を犠牲にしてまで他人の金を護る義理もない。我が身が一番、ここはじっとしていよう」

あえて悪人達が同調するだろう口調だった。
だが彼の本心は違う。
二人のみが見える、メッセージがあった。
二人が勇み出る事を遮るように差し出されたナイフの腹に、文字が刻まれていたのだ。

230 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 18:09:56 0
『あの馬鹿男はまた何かやらか
 すぞ。スイッチを押させるな』

ナイフに刻まれている文字が書き換えられていく。

『アイツらの動きを止めてやる
 ナイフ落としたら目を閉じろ』

「……と言う訳だ。どうぞ、ごゆっくりとやってくれ」

最後にもう一文。

『奴らにはリーダーがいるコ
 イツらで終わりじゃないぞ』

そしてバスタードの手からナイフが滑り落ちた。
重力によって刃は床に対して垂直に落下し突き刺さる。
同時に、顔の左右に挙げられた彼の手から、目をくらませる閃光が花開いた。


【ひとまずこの場を何とかしようと密かに作戦伝達。犯人(と猪狩にも)閃光で目くらまし】

231 名前:大神タクミ ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 18:49:10 0
>『刮目せよ!私こそは正義の従者!貴様達が憎しみと共に射抜くべき仇敵である!』

>「え…と…とりあえず僕は敵じゃないんで…後ろから撃たないで下さいね」

>「サイカ…らしいよ。サイカチ虫っぽいからかな?」

>「君達もだ。人質を犠牲にしてまで他人の金を護る義理もない。我が身が一番、ここはじっとしていよう」


「おいおい、ヒーローのバーゲンセールじゃねぇか。」

タクミは新たな人質として連れて来られ、その有様に呆然とした。
奇抜な格好をした男女が、銀行強盗と丁々発止のやり取りをしていたのだから。
バッグを手にしていると、それを強盗の1人の見つけられてしまう。

「おい、てめぇ何持ってやがんだぁ?おい、調べろ!!」

「ちょ、やめろよ!!何すんだっ・・・あっ!!」

バックから転げ落ちたのは小さなトランクケース。
その中から現われたのは、銀色のベルトだった。

「なんだぁ、こりゃぁ・・・」

強盗が拾い上げ、まじまじと見つめる。
もう1人が強引にそれを奪い取り、己の腰に巻いてしまう。
真ん中に携帯デバイスを装着する箇所がある。

「さっきの、あのナンダカって変身ヒーローみてぇに
こいつも変身するアイテムに違いねぇよ。
よし、俺様が・・・」
デバイスを手に取り、男はいやらしい笑みを浮かべる。

――スタンディ・・・!!

「変身!!」
トランクのマニュアルの通り、コード「009」を入力し
デバイスを装着して見せた。
しかし・・・

――エラー

女性の声でエラー音が鳴ると、男はカウンターを超えてベルトごと金庫の付近まで吹き飛ばされる。
「あ、兄貴ィ!!てめぇ、なんなんだこれ!!不良品かよ!!」
そのまま気絶してしまうと、タクミは面倒臭そうにベルトを指差した。

「あのな・・・俺だってよく知らないんだよ。
変身出来ないってことは、てめぇらにその資格がないってだけだろ。
それにな、俺はただ金を下ろしにきただけだ。
てめぇらの都合で、勝手に俺の邪魔すんな!!」


232 名前:大神タクミ ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 18:57:18 0
「君、よ・・・よくそんなこと言えるね。
こ、怖くないのか?」

銀行員らしい40代近いおっさんがタクミへ恐る恐る声をかける。
タクミは無表情でそれを見つめ、ようやく言葉を返した。

「ビビってるさ。俺は顔には出ないんだよ。」

ブスっとした表情で、再び強盗たちとヒーローのやり取りを伺う。

>重力によって刃は床に対して垂直に落下し突き刺さる。
>同時に、顔の左右に挙げられた彼の手から、目をくらませる閃光が花開いた。

「・・・うぉつ!!」

タクミは一瞬驚いた風に見えたが閃光に乗じ、転げ落ちたベルトを奪いかえす。

「悪いが、返して貰うぜ。」

ベルトを手にし、そのまま椅子に座る。
そして、銀行のpcを勝手に操作し始めた。

「こうか?あ、こうじゃねぇのか。
id?パス?おい、おっさんどうやったら金降ろせるんだよ。」

タクミの様子に、銀行員達はしばし呆然とした。
この青年は、果たして正気なのだろうか?
まさか、彼の奴らの一味なのか、と。

「き、君・・・ヒーローだろ?べ、ベルトで変身して助けてくれないのか?」

タクミは少し考えたような顔をして、ようやく言葉を返す。

「微妙だな、俺はただのアルバイトだし。」

【混乱に乗じ、現金を降ろそうと画策】

233 名前:猪狩礼司 ◆sVx5JpMHMo [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 00:02:11 O
壁をぶち破って銀行に踏み込んだ猪狩礼司、そんな彼の前に続々とヒーローが現れる

>『刮目せよ!私こそは正義の従者!貴様達が憎しみと共に射抜くべき仇敵である!』

格好良い口上と共に現れた着物姿の女、その声を聞いた瞬間に強盗犯達は一斉に彼女を狙う
どうやら人質を救うために、わざと目立つ所に現れたようだ

>「サイカ…らしいよ。サイカチ虫っぽいからかな?」

そして、着物女を助けるために強盗犯に掴みかかった人質の男
他の人質が逃げるように誘導すると、腹からベルトが現れてカブトムシ風の怪人に変身した
どうやら彼はサイカというヒーローだったようだ
そしてもう1人、カウンターから現れた学帽の男
彼は強盗犯の1人にナイフを投げ、一撃で昏倒させてしまった
これでヒーローは3人、猪狩はまぁ色々とアレなので除外する
強盗犯にとっては正に絶対絶命の状況、よっぽどのことがなければ逆転は有り得ない
……はずだったのだが、そのよっぽどのことが起きてしまった

>「サイカ……とか言ったか?後、他のヒーロー。人質の肩をよく見るといいぜ。
>肩に何がある?見えるか?わかるか?カチッカチッて音でわかるだろ?
>なんなら言ってやろうか?………答えは『爆弾』だッ!」

言葉と共に人質の肩を見てみると、いつの間にか物凄く分かりやすい形の爆弾が出現していた
「なんだ爆弾だったのか、てっきり目覚まし時計とかだと思ったぜ」
しかし猪狩は動じない、それどころか下らないジョークを飛ばす余裕すら持ち合わせていた
そもそも彼は、人質を無事救出するつもりなど毛頭無いのだ
というか人質を助けるつもりなら、初めから銀行の壁をぶち破ったりはしないだろう

>「そいつの起爆方法は二つあってな…リーダーの意思による起爆か、
>俺の持ってるこのスイッチで起爆するかだ。人質を丸焼きにして欲しくないなら動くなよ!
>俺らは金が欲しいだけなんだからな……俺達が逃げるまで大人しくしてりゃ起爆はしねーさ…!」

(どうせ銀行を出た後で起爆するつもりだろ、悪党の言うことなんざ信用できるかよ)
猪狩は強盗犯の言葉を欠片も信用しない、頭から全否定の姿勢だ
まぁ、仮にこれが事実だったとしても、みすみす強盗犯を逃がしはしないだろうが
「人質を丸焼き? いいねぇ、やってみろ……その頃には、お前は八つ裂きになってるだろうがな!」
首をコキリと鳴らすと地面を蹴り、猛然と強盗犯に襲いかかる
しかし、あと少しで拳が届くというところで、突然の光が猪狩の視界を奪った
「うぉっ、眩し!?」
学帽男の両手から放たれた閃光により、一時的に視力を失ってしまう猪狩と強盗犯
突然のことに対応できず、一瞬だけ動きが止まってしまう
(くそっ、たしか強盗野郎の居場所は……この辺りだったか?)
しかし視力を失った猪狩は、勘を頼りに闇雲に両腕を振り回す
右腕をぶんぶん、左腕をぶんぶん振り回し
右にふらふら、左にふらふら歩き回る
かなり大振りだが、当たれば一撃必殺の威力を誇る両腕
そんな凶器が周囲の人々に無差別に襲い掛かる


【一時的に視力を失い暴走、無差別破壊開始】

234 名前:縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 14:44:59 0
真っ先に私を銃口を向けたのは唯一、壁を破壊した愚か者ではなく人質に銃を突き付けていた男だった。
きっと私が強くそうなる事を想像したからだろう。人質ではなく私を犯人の殺意が狙い定める事を。
ここまでは狙い通り。差し当たっての問題は……私の身が護れるかどうかだ。

弾丸を止める事は……恐らく完全には不可能だ。
当然予想していた事ではあるが長い口上を考える暇も述懐する時間もない。
精々一言か二言、それが限界だ。だけど死にさえしなければ私の異能で何とかなる筈だ。
筈と言うのは、当たり前だけど私は銃に撃たれた経験が無い為具体的にどれほど痛むのかが分からない。
もしかしたら何も考えられなくなる程に、何も喋れなくなる程に痛いのかもしれない。

だとしても、これしか手は無かった。
あの状況で唯一私が想像出来たのは不可視の壁が弾丸を弾く様でも、銃弾が空中で制止する様でもない。
ただ私が飛び出て、犯罪者共が私を見る。そんな至極当然の因果だけだったのだから。
銃口の奥に、地獄へと続く螺旋を描いた奈落が見えた。
あそこに、引きずり込まれる訳にはいかない。
叫べ、縁間沙羅。

『堪えてみせる!私は……死なない!』

押し迫る恐怖に思わず眼を閉じてしまったが、それでも私は叫んだ。
……だけど、銃声は響かない。
死に直面して、一瞬が永劫のように感じられる……なんて私は信じない。
私の意識は確かに減速する事なく続いていた。
そうだ、こんな事を考えている場合じゃない。
減速しないのは私の意識だけじゃない。時間もまた広大にて深遠なる河川の如く留まらず流れ続けているのだ。
目を開かなければ。犯罪者共は何をしている?人質はどうなった?

再び光に晒された私の視覚が強く存在を認めたのは、まず人質達の安寧無事……とは言い難くも変わりない姿。
そして二人の、察するにヒーローの姿だった。
一人は人質に偶然紛れ込んでいて、もう一人は……見覚えのある姿だった。
とにかく、今なら残る二人の犯人も叩き伏せられる!

> 「サイカ……とか言ったか?後、他のヒーロー。人質の肩をよく見るといいぜ。
> 肩に何がある?見えるか?わかるか?カチッカチッて音でわかるだろ?
> なんなら言ってやろうか?………答えは『爆弾』だッ!」

> 「そいつの起爆方法は二つあってな…リーダーの意思による起爆か、
> 俺の持ってるこのスイッチで起爆するかだ。人質を丸焼きにして欲しくないなら動くなよ!

けれど私が深く息を吸い込み犯罪者共を捩じ伏せる言葉を考えている隙に、奴らは次なる手を打ってきた。
『硬直せよ。貴様達の五体に染み込んだ拭えぬ悪事を逃れ得ぬ縛鎖が囚えるのだ!』……既に唱える言葉は築き上げている。
でもこれを叫ぶのが先か、犯罪者共の手が人質達に遍く死を齎すスイッチを握り締めるのが先か。
……試すまでもなく、結果は見えている。
だが、それが現状に甘んじる理由にはならない。
犯罪者共ごときを捕える為に人質の命をなげうっては話にならないが、だからと言って奴らを逃す事もあってはならない。

>「……動くべきじゃない。君らはじっとしていれば道具だが、逃げ出すようなら殺されるだろう。一人でも下手を打てば、全員が」

学生服のあの男……呼び名は確か、『バスタード』でしたか。
先日のニュースで見ましたが、正直嫌いな人間です。
正義の為に手段を選ばない卑劣さが、ではありません。
出来る事は何でもするべきだ。言うまでもない。
ですが、私は彼が嫌いです。理由は、今述べる事ではないにしても。

235 名前:縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 14:45:40 0
>「君達もだ。人質を犠牲にしてまで他人の金を護る義理もない。我が身が一番、ここはじっとしていよう」

そして、そんな事は分かっているのです。
ですが無理を通せば道理が引っ込む、それもまた道理でしょう!
そう……考えろ!考えろ縁間沙羅!

(って……眩しい……?)

視界で何かが断続的に煌めいていた。
一体何かと目を細めてみれば、

>『あの馬鹿男はまた何かやらか
> すぞ。スイッチを押させるな』

それは文字だった。
酷く細やかだが辛うじて読み取れる、刃に刻まれた『バスタード』からの伝言。
あの馬鹿とはきっと……ではなく間違いなくあの壁を破ってきた男だろう。

> 『アイツらの動きを止めてやる
>  ナイフ落としたら目を閉じろ』
>
> 「……と言う訳だ。どうぞ、ごゆっくりとやってくれ」

> 『奴らにはリーダーがいるコ
>  イツらで終わりじゃないぞ』

『バスタード』の手から、ナイフが零れ落ちた。
徐々に加速していく白刃を視線に追わせながら、私は思索する。
先程考えた言葉で犯罪者共をただ寝かしつけるのは下策。
倒れた拍子にスイッチが押されでもしたら、愚にもつかない。
ならばスイッチのみに干渉すべきだ。

刃の切先が床に触れる。
私は右腕で視界を覆い……床が眩い閃光に塗り潰されたのが見えた。
さあ、叫べよ私。

236 名前:縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 14:46:24 0
『石化せよ!私が秘める確固たる意思が宿るかの如く!』

これで、あのスイッチはもう押し込めない。
化物染みた膂力を以てしたとしても、きっと砕いてしまうのが関の山だ。
そもそも、異能に関わる物なので仕組みは分からないが一般的な通電式の物なら押せたとしても無意味かも知れない。
知れないだけで、油断は禁物だが。

「後はお願いします!」

人質の中にいた……確かサイカだったと記憶しているヒーローに向けて叫ぶ。
今から犯罪者共を撃破する情景を想像するより、彼が奴らを打ちのめした方がずっと速い。
……だが、

「……っ、お前は何をしていると言うのですかッ!この愚か者めッ!!」

無造作に、乱暴に、暴風の魂でも憑依したかの暴虐さで暴れ回る男に、私は我知らず声を張り上げていた。
お前は何処まで、自分勝手になれば飽き足りると言うのだ。

「お前は……悪だ!管理されるべき獣なんだ!」

己の行いが一体どのような結果を招くのか、何故考えられない。
思慮を抱けないと言うのならば、いっそ人の世から解脱してしまえばいいのに。

『這い蹲れ!理知なき獣のように!己を律する事の能わぬ獣に人の四肢は似付かわしくないと知れ!』


(スイッチを石化。犯人の対処はサイカに。猪狩に対して見えない重圧による拘束っぽい攻撃。抵抗は可能)

237 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 02:44:26 0
東京 警視庁
「ハイメタルボーガーは警察の協力があって始めてその真の実力を発揮できます
具体的には的確な支援、並びに相対するヴィランのデータ採取、そして近隣住民の避難等です」
居並ぶ警視庁高官達の前で、武中が不敵な微笑を浮かべながら自身の提示する新たなメタルボーガー計画の説明を行っている
無論、その不知火重工が主役、警察が脇役の計画内容に、警視庁重役の顔色は良くない
「武中君、君が如何に自身の創作物に自身を持っているかはわかった
だが、悪魔でこの国を守るのは我々警察でなければならない
一民間企業が国に変わって平和を守るなど、如何に企業協力法にのっとっているとはいえ、まかりならなん
警察への配備が前提でない兵…機動戦力を用いて行くというのなら、我々は不知火重工を見限るぞ」
やがて一人の官僚が武中へ抗議の声をあげ、それに続いて次々と批難の声が上がっていく

「悪魔で我々に配備されるシステムの開発が君達の使命なのだ
その事を忘れてもらっては困る」
「君は我々を前座とでも思っているのかね?」
「強力なだけのシステムなら、天堂寺なりスティールインダストリアルなり、開発元はいくらでもある
これでは不知火重工にわざわざ開発依頼を出した意味が無い!」

次々上がる「脇役は嫌だ、我々を主役にしろ、目立たせろ」と言う官僚達の身勝手な言葉を、武中は黙って聞き流していく

(前線で戦う警官達は一刻も早い自分達の確実な味方を欲しがっていると言うのに…
ヒーローの登場「すら」ありがたがらねばならない前線の連中の気持ちをこいつらは何もわかっていない
しかも、下手に刺激して街の連中に因縁をつけられるのが嫌で今日までろくな対策を出そうともせずに放置してきた
こいつ等はヒーローを否定するくせに、ヒーローがヴィランを倒して何事も起きていない今の現状に甘んじている
所詮日和見主義者共……
日本は…いや、非異能者はこんなに強いというのに、自分達の強さを引き出そうとしない
何もしない、そして、手遅れだけが待っている…)

無能な官僚達に心底呆れながら、武中はご静粛に、まだ続きがございますと場を静まらせ、話を進める
「こちらをご覧ください」
会議室の大型モニターに廃工場に立つ人間サイズの人型ロボットが映し出された
両腕には小型のバルカン砲を搭載し、一見するとヘルメットを被った重装備の人間に見まがうほど、その姿は人間に近い
ロボットはやはり人間的な動きで俊敏に動き、工場各所に配置された自動機銃の攻撃を避ける様に走り出し
何発かその身に受けても物ともせずに走り回ると
やがて足を止め、大口径の機銃の銃撃を物ともせずに手の機銃で反撃し、逆に自動機銃群を沈黙させていった

238 名前: ◆NuW.dKu6ngI9 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 02:46:09 0
「…これは何かね?」
ロボットの動きを黙ってみていた官僚が、やがて口を開いた
武中はその官僚の方を向くと、口元にわずかに笑みを浮かべながら、語りだす
「旧メタルボーガーの稼動データ等を元に不知火重工が製作した、対ヴィラン人型ロボットです
不知火重工は前回までの戦闘のデータを下に、既に無人の対ヴィラン戦力を生産できるようになっています」
官僚たちが感嘆の声を上げた
当然だ
メタルボーガーが…不知火重工が街で戦闘行為を行ったのはわずかに数度
武中はそのたった数度の戦闘から、これ程の動きができる新兵器を実戦配備可能な段階まで作り上げた事になる
その技術力は計り知れない
「ハイメタルボーガー計画は一見すると確かにハイメタルボーガーの独壇場に見えますが
しかしヴィランに対し確実に有効な戦力を作り、どの程度の物を作ればヴィランに対抗できるのか、ある意味それを図るものさしの様なものだと私は考えています
いずれ、いえ…そうかからずにハイメタルボーガーに匹敵する実戦向けの戦力が警察に配備される事でしょう」
武中の言葉に、官僚達は生唾を飲み込んだ
今まで法の力で抑える事ができなかったヴィランに、そしてヒーロー共に、遂に法の鉄槌を下せる時がこようとしている
官僚達にとって、異能者も、街も、手のつけようのない目の上のできものの様な物だった
いつ街からヴィラン達があふれ出すかと怯える反面、迂闊に手を出せば逆に痛い目にあうかも知れぬと何ら手を出せずにあった「街」
その「街」に、憎き「街」に
遂に「正義」の一撃を見舞う時がこようというのだ…

「待ちたまえ武中君」
と、一人の官僚が手を上げて、刹那の甘い夢に浸る官僚たちを現実の世界に引き戻す
「確かに、不知火重工の開発、生産力が高い事はわかった
だが、如何に不知火重工の開発力や生産力が高くても、肝心のハイメタルボーガーがヴィランに歯が立たなければ、全ての面で水の泡だ
その点は大丈夫なのかね?」
そうだ
まだ、ハイメタルボーガーは何の戦果も上げていない
今、官僚達が武中の言う事を信じるには、圧倒的にその点が足りないのだ

そして、その点が足りないという事は、それは武中にとってもっとも望むところだった

「ご心配なく、ハイメタルボーガーの力、近々ご覧に入れる事に致します
その時、あなた方は知る事になる
我々を本気にさせた異能者共の愚かさと、科学技術こそが最強の武器であるという事を」

武中の目には、絶対的な自信と、太陽の炎の様な強い闘志が浮かんでいた

【次の事件から参戦します】

239 名前:八代雄作 ◆dnUGDlR0jo [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 10:16:52 O
冷静さを取り戻した強盗に促され、自身の肩を見てみるとそこには異能の爆弾が絶望へのカウントダウンを刻んでいた
「!!!」
爆弾の威力はどれほどの威力があるかどうかは察することは出来ないが、肉体を傷つけることが出来る程度の威力ならば
容易く死に至らしめることが出来るだろう
「…ぐぅ」
八代は歯噛みした。
人質の身を案じた結果が、結局、人質を危険に晒すことにしかならなかったことに対して激しく後悔した
しかし、後悔しても始まらない。
すぐに思考を入れ替え、何をすべきか把握する必要がある

と思考を巡らせようとした瞬間、学帽の少年が割ってはいる
「(えっと…どこかで見たような)」
少年の主張に対して特に何も感じず、少年が何者であったかと自身の記憶を探る
主張に関して言うならば、全面的肯定というよりも、八代の最優先事項が一般人に被害を出さないことである以上
彼に反発する必要は皆無に等しい

しかし、彼の主張も本心からのものではなく、ナイフに移した出したメッセージに対して八代は頷いて答え、瞼を閉じた。

そして、ナイフが落ちた瞬間、動き出す。
着物の彼女が言葉を紡ぎ、強盗の動きを止める
きっと催眠術のような異能なのだろうと八代は内心そう思いながら
金縛りにあった強盗に接近し、先ずリモコンを払い落とし
スイッチを押してしまわないよう注意しつつリモコンを踏み潰した。
「うぉぉぉ!」
気合いとともに拳に焔が宿る。
「どりゃァ!」
焔が宿った拳が強盗の腹部に鋭く抉り込む
強盗はその場に崩れ落ちるも、まだ意識は残る
「ク……ソがぁ」
最後の抵抗と言わんばかりに自身の異能を振るわんとした瞬間
動きが止まる。
「熱い…あ…熱いぃぃ!」
強盗の腹部には、「断罪」という意味の古代文字による焔の刻印が刻まれていた
これがサイカの異能、「異能殺し(スキルブレイカー)」である
断罪の刻印を刻み込まれた異能者は炎で焼かれ、異能を失うのだ。

240 名前:八代雄作 ◆dnUGDlR0jo [すいません。書き足りない所があったので書き足しますsage] 投稿日:2010/09/08(水) 15:42:01 O
悶え苦しむ強盗を後目に八代は次の行動へと移っていた
目標は先ほど壁をぶち破って侵入し、学帽の少年に馬鹿と言われた男だ。

味方だと思われていなかったコートの男も強盗と同様、激しい光によって視力を奪われた訳だが、
目が見えなくなったからといって無抵抗になった訳ではなく
暴の嵐と言わんばかりに凶器と化した両腕を振り回しているではないか
そして、彼の進む先には視力を奪われ無抵抗になっている人質たちがいる。

罵声と共にまた少女が言葉を紡ぐ
しかし、彼は止まらない。
先ほどの強盗は動きが止まった状態で硬直させられたのに対し、コートの男は動いている最中だ
仮に肉体の動きは止められても、慣性の法則はどうにもならない。

「やめろ!」
そう叫び、八代は人質とコートの男の間に割って入った
焔を両足にまとい、蹴り飛ばすことは可能だったが、八代はその選択をしなかった。
確かに彼の行動は粗暴極まりなく、ヒーローと呼ぶにはあまりにも配慮が無さ過ぎた。
だが、ここに来て、悪を敵視しているのならば、曲がりなりにも彼もヒーローなのではないか
そんな八代の甘さがその選択を拒んだ。
次の瞬間

コートの男の拳が八代の顔面に直撃する。
少女の言葉の力なのか、幸い殴り飛ばされず、その場に止まることが出来た。
八代は今にも倒れそうな意識の中、コートの男の拳と襟元を掴み
少女の言葉通りになるように下に引き倒した。
「………君って…結構ヒステリック…なんだね」
地に伏せたコートの男をそのままにし、八代は着物の少女に対し、先ほど抱いた印象をストレートに伝えた瞬間
「あ…」
何かに気がついたのか八代は声をあげた。
八代の視線の先にいたのは、スカイレイダーと恐らく強盗団のリーダーらしき人物の姿だった
「あの…アイツです!アイツがコイツらのリーダーです
 アイツをやっければ多分爆弾が解除されるはずです」
と強盗団のリーダーを指差すが、見方によってはスカイレイダーが強盗に見間違えられるかも知れない。

241 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 15:56:47 0
ぶん殴ったら強制で異能失うとかチート過ぎんだろ
善悪問わず絡みにくすぎるわJK
圧倒的力量差があったらとかならとにかく

242 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 16:12:44 0
都市:市庁舎

会見場で、無数のフラッシュに集れながら石原はホットドッグを手に
会見用紙を見ていた。
矢継ぎ早に質問が飛び交う。矯正所に関することだ。

「市長!!脱走した囚人に関しての対策はどうなっているのでしょうか?」

「犯罪者を逃した責任はどうお取りに?」

「謎の爆発が起きたそうですが、原因は?」

石原は頭を掻きながらそれらの質問に頭を悩ませた。
謎の爆弾事件を起こした、レギンというヴィランに関しては
矯正所内で、何者かが爆発を未然に防いだという報告が上がっている。
その内の1人は、石原は資料に目を通す。
どうやら、刑務所送りになっているらしい。

「え・・・と。しんせいどうていって読むのか?これ?」

秘書がその横でしかめっ面を顔に刻み答える。

「まさが、みちのりです。」

「あぁ、すまない。失礼した。
えー謎の爆発に関してだが、それは未然に解決した。
何故かは現在調査中だ。追って報道官から通達がある。
それを待ってくれ。で、次の質問は?
時間がないからこれでラストにするよ。」

石原は質問に答えながら、真性の内容を伏せる事に決めた。
彼がどういった人物なのか、多少なりとも興味が湧いたからだ。
あの怪物を止めたという事ならば相当の強さだろうと感じた為だ。



243 名前:石原・M・マダオ ◆bTpJe3giiIE2 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 16:15:19 0
―会見終了後 市長室

「トリッシュ社長は現在ヒーローを一時休業中とのことです。
アイアンメイデンはしばし出撃不可かと。」

秘書の報告を聞きながら石原は孫の手で背中を掻く。
中央の液晶ディスプレイにはアイアンメイデンに
渡すはずだったマークWの改良verのデータがある。

「しばらく、メイデンの代理を誰かに頼む必要があるな。
あのハニーの代理だ、どうするべきか。」

次に、真性のデータと不知火重工のデータ、そして
現在発生中の銀行強盗事件がディスプレイに表示される。

「まずは、しんせい・・・じゃなかった。
まさが君に関してだ。彼と一度面会したいな。
コンタクトを取ってくれ。
次に不知火重工だ。彼らとも話がしたい。
こちらも頼む。」

秘書は一礼すると市長室から出て行く。
不知火重工と、真性童貞。
どちらも矯正所事件で活躍した者達だ。
石原は面倒事が山積した街を、55階の窓から
眺めた。



244 名前:日比野 ◆BEAT4xeB.Y [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 16:35:04 0
>「……動くべきじゃない。君らはじっとしていれば道具だが、逃げ出すようなら殺されるだろう。一人でも下手を打てば、全員が」

「……へっ、へへっ、今までコソコソ隠れておいてよく言うぜ…ろくでなし野郎の卑怯者め」

>「微妙だな、俺はただのアルバイトだし。」

>「人質を丸焼き? いいねぇ、やってみろ……その頃には、お前は八つ裂きになってるだろうがな!」

「お、お前ら〜〜〜〜立場わかってンのか…!?その減らず口、どうにかしろ…!押すぞ!!」

スイッチを力強く握りながらだんだん語勢が荒くなる強盗犯A。
どうやら弱い立場にありながら相変わらずの強気な態度のヒーロー達に腹を立てているらしい。

ちなみに彼らの当初の算段で自分達が逃走後足が残らないように
リーダーの異能で銀行を爆破し、人質もろとも抹消する予定だったので猪狩や伊達の判断は正しい。
それにしても強盗犯の作戦が大胆すぎるぜ。

唐突にバスタードの手からナイフが滑り落ちる。垂直に落下、突き刺さると同時に部屋に閃光が走った。

「うぐっ!?く…ぐ…こ、このボケがァァァアーーーッ見せしめに一人爆死させてやるぜェェェェーーッ!!」

>『石化せよ!私が秘める確固たる意思が宿るかの如く!』

予想外の抵抗を見せたバスタードに狼狽し、激昂し、起爆スイッチを押そうとした瞬間言葉が周囲に轟く。
それは振動となり、空気を伝わり、強盗犯の鼓膜に響いた。

「なっ……!?」

スイッチを押せない。正確に言えば『押し込めない』。起爆しないのだ。
突然の異常事態に戸惑いを隠せず、ヨロヨロと海草のようにふらふらしている。
そして女性ヒーローの放った言葉が原因なのだと
強盗犯Aは漸く気付いたのだが、もう後の祭りに等しかった。
彼がヒーローに対抗できるであろう唯一の切り札(カード)がなくなってしまったのだから。
そしてそんな状況を打破する力量も対応力も、彼は持ち合わせていない。

思考が停止した一瞬の隙をサイカに突かれ起爆スイッチをサイカに弾き飛ばされる。

>「どりゃァ!」

サイカの気合の篭った声と共に拳が腹に減り込む。
朦朧とする意識の中異能を発動し、イタチの最後っ屁で反撃しようとした矢先だった。

熱い。熱い熱い熱い熱い。体が燃える。死ぬ。

そんな感情が溢れ出し、声となって表れる。
そしてふとある事実に気が付く。異能が出ない。発動しない。
不測の事態の連続と燃えるような痛みが相まってその内強盗犯は───考えることをやめた。

一方、兄貴と呼ばれる男は金庫室まで吹っ飛んでいたお陰か目眩ましの手から難を逃れていたらしい。

「うつつ……何て野郎だ…!不良品掴ませやがって…チクショーぶっ殺してやる!」

現金を下ろそうと画策している大神を異能でぶち殺そうと背後から腕を振るう。
銀行強盗が金を下ろすのを邪魔するとは、何とも皮肉めいた話である。

※     ※     ※


245 名前:日比野 ◆BEAT4xeB.Y [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 16:36:28 0
「動けないヒーローはただの人間だな」

スカイレイダーこと日比野翔一は嬲り殺し状態となっていた。
人質にせいで手が出せないんだからしゃーない。
しかも多対一。せめてトリックスターポジションの味方がいれば…と
夢想する日比野だが嫌われ者の改造人間の彼に仲間などという女々しいものは存在しない。

「俺の能力を知った奴らは少なからず『くだらねー能力』と罵る………
まあ…当然だろうな…触れたモノに爆弾を設置するだけの能力なんてな。
だが『くだる』『くだらねー』なんぞ結局は頭の良さ次第だ……違うか?」

スカイレイダーはリーダーの台詞には反応せずただ黙って立ち尽くす。

「あ、リーダー。あっちはどうやらヒーローにボコられてるようです。逃げた方がいいんじゃないですかね?」

「そうか。目的の金は手に入れたしな。後は銀行爆破で全部抹消、無事に終了って訳だ」

>「あの…アイツです!アイツがコイツらのリーダーです
>アイツをやっければ多分爆弾が解除されるはずです」

「ブーーッ!何であのバカヒーロー達がこんな近くまで移動してんだ!?
矯正所で綺麗なジャイアンになんかなりたくね……いや、いいことを思いついたぞ」

大挙として押し寄せてくるであろうヒーロー達を目の前に動揺しまくるリーダー。
しかし何か閃いたらしい。部下二名に耳打ちするといきなり大声で叫び出した。

「うっ、うわぁぁあ〜〜〜〜助けてくれ〜〜〜こいつが強盗犯の犯人だァァァ〜〜〜ッ!!
殺されるーーーーーーーーー!!」

目の前にヒーローがいることも相まってか迫真の演技である。
もちろんスカイレイダーには喋ると銀行員を殺すと脅してあるし、銀行員にも同じようなことを言った。
しかしこの作戦、予想以上の効果を上げる気がしないでもない。


【大神さん後ろ後ろーー!リーダー、大量のヒーローにビビッて
スカイレイダーを犯人扱いにしその隙に逃げることを画策】

246 名前:大神タクミ ◆wDBHJbA9t8XI [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 16:56:13 0
>>244>>245
何度もTDやパスを打ち込もうとするが、ロックがかかっているようだ。
どうやら強盗が来たせいでセキュリティが作動してしまっているみたいである。
タクミはため息を吐きながら、今晩は肉屋でコロッケでも買って食べようとでも
思っていたのを思い出す。
あの熱々じゃない、冷めたコロッケがタクミの大好物なのだ。

>「うつつ……何て野郎だ…!不良品掴ませやがって…チクショーぶっ殺してやる!」

声が聞こえた瞬間、タクミは何かを感じ取り体を右へ逸らす。
間一髪、その拳はPCを叩き壊しタクミへの暴威を逃した。

「てめぇ……!!」

目の前でPCが破壊され、既に万策は尽きた。
今晩のおかずが、楽しみが。タクミの目の前が真っ暗になりそうだ。
タクミは面倒臭そうに首を回すと、ベルトを腰に装着する。

―STANDY……

「俺のコロッケの恨みだ、受け取れ……変身!!」

―complete!!

銀色のエネルギーラインが四股に走り、タクミは「Σ」へと変身した。
右腕をスナップさせながら、攻撃してきた強盗にまるで喧嘩屋のような
無作法なパンチの連打、そしてフィニッシュにでこピンを放つ。

「……ったく、今日は散々だぜ。」

>「うっ、うわぁぁあ〜〜〜〜助けてくれ〜〜〜こいつが強盗犯の犯人だァァァ〜〜〜ッ!!
>殺されるーーーーーーーーー!!」

狽ェ見た先では、スカイレイダーと呼ばれるヒーローが
何故か犯人扱いされていた。
どうやら、強盗団が逃げる為に一計を案じたらしい。

「よせ!!」

【誤解を解く為、スカイレイダーの元へ走るが・・・?】


247 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 04:37:03 0
バスタードの手の平から閃光が迸る。
そして光を追って、音が彼の隣を駆け抜けた。

>『石化せよ!私が秘める確固たる意思が宿るかの如く!』

(へぇ、いいぞ。随分と便利な能力じゃないか、羨ましいねまったく。この分なら僕の出る幕は無いかな?)

強盗犯は押し込めないスイッチに狼狽えている。
その隙に、今度は影がバスタードを追い越した。

>「どりゃァ!」

灼熱を思わせる拳が強盗犯に減り込む。
刻まれるのは、「断罪」の烙印。
異能の炎に灼かれ、男は踊るようにのた打ち回る。

(ありゃ……ただの炎じゃないな。火には違いないが、「本質」に近い効果を持ってそうだ。「悪の心を焼き尽くす」とかか?)

本質とはつまり、「火」であるなら「活性化」や「焼き尽くす事」だ。
もっとも八代の炎は「異能を焼き尽くす」ものだったが。

どうあれ、強盗犯達は皆床に突っ伏している。
この場はひとまず一段落――とは言えなかった。
強盗犯が無力化されても、響き続ける轟音があった。

(おいおい勘弁しろよ。目の前でミンチとか冗談じゃないぞ。ないんだけど……)

とは言え猪狩の拳は遠くから眺めても背筋に悪寒が走る程だ。
大振りの拳が弧を描く度に床が、壁が、鉄の機械が、何かが免れぬ破壊に襲われる。

(土と金で硬化しても、受け止められるか怪しいなありゃ。……悪いけどアイツもこの場にゃいない。命賭けてまで止める義理は無いな)

>「やめろ!」

静観を決め込んだバスタードとは対極にサイカはいち早く、猪狩へと駆ける。
拳の描く暴風雨に、進んで身を投げた。

(おーおー、よくやるよ。……って、喰らってんじゃないか。馬鹿丸出しだな。せいぜいあのお嬢ちゃんに感謝するこったね)

荒れ狂う拳はサイカの顔面に叩き込まれ、制止された。
喰らえば変身ヒーローの頭部であっても西瓜の如く砕けるのではと思えた一撃は、だが直前の縁間の異能によって威力を殺されたらしい。
それでも世界から悪を殺せぬように、凶悪なまでの威力の息の根は止められなかったようだ。
サイカはよろめき、最後の抵抗として猪狩を道ずれにしたものの、崩れ落ちる。

(バッカだなぁ。そもそも踏みとどまった方が痛いに決まってるじゃないか。ヒーローは決して退かないって?アホらし)

呆れ顔で溜息を零し、バスタードは倒れた二人から顔を背けた。
この場はようやっと収まったが、この事件は決して解決していない。
バスタードにとって大切なのは事件の解決でなく友人の救出ではあったが。

(ま、事件解決が何だかんだ言って近道っぽいな。何と言っても、コイツらが馬鹿やって全員爆破になったら最悪だ)

バスタードは先程この場の面々に協力を仰いだが、決して信頼はしていない。
強盗犯達に閃光を浴びせてから距離を詰めスイッチを奪い、然る後に仕留める。
それは彼一人でも可能であり、しかし一人でやるよりは他のヒーローに協力させた方が成功率は高い。

成功率が高いならばしない理由は無く、仮に彼らが期待外れであった場合は囮として使い自分で何とかする。
つまり最悪の場合は自分でも何とか出来ると言う状況を最後の防衛線として、彼はそれを破ろうとはしなかった。
そして、今もしていない。

248 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 04:37:55 0
>「あの…アイツです!アイツがコイツらのリーダーです
>アイツをやっければ多分爆弾が解除されるはずです」

「ん?」

振り向けばそこには銀行員を含めた数人と、

「……アイツは」

悪い意味で人間離れした異形が一体。
突然銀行員では無い数人が騒ぎ出す。

(……ふーん、そう言う事か)

バスタードの唇が薄く弓を描いた。
脚に活性の火を宿し、疾き風の魂を身に沈める。

「あぁ……そうそう、忘れてたよ。実は僕、存外目立ちたがりでね」

犯人目掛け熱風と化す前に、彼は傍で転がるサイカの顔面を爪先で蹴り飛ばす。
狙い澄ました爪先は彼の鼻を過たず捉えた。
赤い液体が、床を汚す。

「君もだよ。まったく赤い着物に化粧までしちゃってさぁ」

続けて小さな玉のような物を縁間の足元に放り投げる。
楕円型で艶の無い黒で身を包んだそれは、種だった。
異能で作られた種はすぐに芽を出し縁間の足を絡め取り、体へと上っていく。

「お前もだよ、イイとこ取りは感心しないねぇ?……あぁ、僕もそうか。ま、どうでもいいけど」

まさに駆け出さんとする大神の足元にも、足を滑らせるよう乾いた砂を発生させる。

「さて……それじゃ、悪党退治のお時間だね?」

今度こそ、バスタードは熱波となった。
金属性のナイフを構成して、右手に逆手で構える。

煌めく刃をまるで槌を振り下ろすかの軌跡で、力強く突き付けた。
スカイレイダーの胸元に。
炎の如き膂力で、疾風の速度を以って、雷鳴と見紛わんと閃く、不朽の黄金の刃。

如何に改造人間スカイレイダーの「錆びた鎧」だろうと、貫けない道理はない。

そしてバスタードは、彼だけに聞こえるように囁いた。

「……やぁ、アンタたまに街で見かけるよな。テレビじゃ全然見ないけどさ。……ま、アレだ。お勤めご苦労さん」

労いの言葉を。

「……普段あんだけヒドイ目に合ってもヒーローやってたアンタがいきなり銀行強盗ってのも信じ難いんでね。
 それにアンタ普段異能使ってないし。見た目も異能者っぽくないし。
 ……いいかい。僕らはアンタの後ろにいる奴と殴り合う暇は無いんだ。起爆の手段も分からないし、最悪念じるだけなら一瞬だ。と……しぶとい奴だなぁオイ!?」

間を持たせるべく、バスタードは追い打ちの膝蹴りをスカイレイダーの脇腹に叩き込んだ。
万一にでも疑いを持たれてはお終いの為、全力で。
ちなみにナイフは先端を押すと刃の引っ込む子供の玩具のようになっていた。
貫けない道理がない事と、実際に貫くかどうかは別の話である。

249 名前:伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 04:39:09 0
「ったく。見た目と言い、やる事と言い、ゴキブリみたいな奴だな君は!さっさとくたばれってんだよ!
 ……よし、と言う訳でだね。僕らはアイツらを一瞬で仕留めなきゃいけない。
 僕が奴らと握手をしたら、合図だ。全員で叩き潰す。……もう他の奴らには伝えてある」

サイカの顔面から滴る赤い液体は、鼻血ではない。
バスタードが水の属性で作り出した物で――同時に、残した伝言だった。
縁間を捉える植物は徐々に成長し、葉脈の模様で。
大神には転んでまき散らした後の砂が文字となり、スカイレイダーに伝えた事が同じく伝達される。

「……ふう、やっとくたばったか。社会の害悪め。……あぁ失礼、もう大丈夫だよ。何と言ってもヒーローであるこの僕、バスタードが君達を助けてあげたからねぇ?」

スカイレイダーを突き飛ばし――ついでに如何にも装甲が破けているかのように火花を発生させて、バスタードは強盗犯に手を差し伸べる。
恐らくは知謀に長ける者、最初に叫び出した奴がリーダーだと判断して。
かくして彼の予想は当たっていた。
つまり彼は、爆弾魔の異能を持つ男に右手を預けるのだ。

当然、無策で挑む訳はなく。
彼は握手をした瞬間に異能の出端を水の属性で挫き、ついでに電撃を食わせてやるつもりでもいた。
しかして――強盗犯リーダーとバスタードが、握手を交わした。

【騙された振りして騙し討ちだぜ!サイカを蹴ったり縁間を縛ったり大神をコケさせたり色々。
 日比野を殴る蹴るしてみたり。メッセージ伝達再び。猪狩さんにどうにも絡めなかった!ごめんなさい!】

250 名前:猪狩礼司 ◆sVx5JpMHMo [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 19:17:43 O
>『這い蹲れ!理知なき獣のように!己を律する事の能わぬ獣に人の四肢は似付かわしくないと知れ!』

「おおうッ!? 今度は何だぁ!?」
着物女の声が聞こえると同時に、猪狩の体から自由が奪われる
しかし猪狩の体は止まらない、その鉄拳は慣性の法則に従って動き続ける
そして……

>「やめろ!」

……そして、猪狩の拳は何かを殴った
ようやく視力が回復してきた目で、自分が何を殴ったのかを確認する
それは強盗犯ではなく、先ほどサイカと名乗っていたヒーローだった
そして彼の後ろには、視力を失った大勢の人質達の姿が見える
そこでようやく猪狩も気付く、自分が危うく人質を殺すところだったということに
「……」
猪狩はそのまま黙って、サイカにされるがまま地面に引き倒される
全力を出せば拘束を振り切って、無理矢理に動くことも不可能ではない
不可能ではないが、今はできなかった
猪狩の力の源は怒りや憎しみ、要するに負の感情だ
怒れば怒るほど、憎めば憎むほど力は強くなる
しかし今は、そのどちらの感情も萎えていた
それほどまでにショックだった、罪の無い人間を自分の手で殺しかけたことが
(あー……やっちまった……)
彼は簡単に人質を見捨てはするが、自分の手で殺すことはない
己の手足で殺すのは悪人のみ、それ以外には手を出さない
それが完全に正気を失ってしまった男の、自分に課した最後のルールだった
「後で止めてくれた礼を言わねぇとな……あのサイカってヒーローと、あと着物の姉ちゃんにも」
誰にも聞こえないような小さな声で呟く、流石の彼も少しは反省したのだろうか
何にせよ、自分ルールを破りかけたことで、猪狩の頭は完全に冷えていた
今日はこのまま大人しくしていようか、そんなことすら考えるほどに
……この言葉を聞くまでは

>「あの…アイツです!アイツがコイツらのリーダーです
 アイツをやっければ多分爆弾が解除されるはずです」

>「うっ、うわぁぁあ〜〜〜〜助けてくれ〜〜〜こいつが強盗犯の犯人だァァァ〜〜〜ッ!!
殺されるーーーーーーーーー!!」

「よし、殺るか」
殊勝な考えは10秒も保たなかった、どうやら一瞬の気の迷いだったようだ
心の中に一気に激情が湧き上がり、両手足に力が漲る
殺意に満ちた目で強盗犯(スカイレイダー)と、逃げ惑う人質(の演技をする強盗犯)を視界に捉え……違和感を覚える
(あいつら……何で人質なのに爆弾付けてないんだ?)
全ての人質には例外なく、強盗犯リーダーの異能爆弾が仕掛けられているはずだ
しかし、あの三人の体にはそれが見当たらない
つまり……
「……ああ、そういうことかよ下らねぇ」
猪狩が一人で納得していると、学帽男が周囲のヒーローに攻撃を加え始めた
サイカの顔面を蹴り飛ばし、着物女を植物で絡め取り、あと何かよく分からない奴を砂で転ばせる
(おいおい、何やってんだアイツ。ついにイカレちまったのか?)
自分のことを棚に上げて他人の正気を疑う猪狩
しかし、サイカの顔面から滴る血液を見て学帽男の狙いに気付く
(まぁ、ここまで来たら俺も作戦通り動いてやるか。また邪魔されても嫌だしな)
地面に這いつくばった姿勢のまま、猪狩は機会を窺う
着物女の拘束をぶち破る力を出すため、ひたすら心中で怒りと憎しみを煮詰めながら

251 名前:猪狩礼司 ◆sVx5JpMHMo [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 19:19:03 O
>「……ふう、やっとくたばったか。社会の害悪め。……あぁ失礼、もう大丈夫だよ。何と言ってもヒーローであるこの僕、バスタードが君達を助けてあげたからねぇ?」
そして、その時はやってきた
学帽男が強盗犯と握手を交わすのを確認した瞬間、猪狩は凄まじい力で無理矢理に拘束をぶち破って立ち上がる
「死にさらせ強盗野郎がぁああああああああああああああ!!!」
凄まじい絶叫と共に、猪狩は弾かれたように走り出す
強盗犯の一人を射程に捉えると、今度こそ間違いなく悪党目掛けてその鉄拳を振るう
今回は着物女の拘束もサイカの助けもなく、猪狩の合金の拳が強盗犯の胸を貫いた


【サイカ宛てのメッセージを盗み見て作戦を理解。強盗犯の一人の胸を貫く】

252 名前:伊能冬彦 ◆X9V/H3o0e/ya [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 21:11:21 0
名前:伊能冬彦(いのう ふゆひこ)
職業:悪の組織の幹部
勢力:正義(ヒーロー)、悪(ヴィラン)、中立など
性別:男
年齢:24歳
身長:180cm
体重:70kg
性格:冷静だがプライドが高い
外見:黒色の高級スーツ、七三分けの髪型、シュッとした男前
外見2:全身濃紺色の改造人間、鷹の意匠を各部に持つ
特殊能力:改造人間、天候を操る、戦闘員達を操り悪事
備考:悪の組織の幹部の1人。力任せに戦う同士達とは異なり、
ビジネスに力を入れている。
ブラックダイヤモンドの欠片から抽出した模造品”ビターダイヤモンド”を販売して
荒稼ぎをしている。


253 名前:伊能冬彦 ◆X9V/H3o0e/ya [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 21:23:02 0
「貴方達は幸運だ。人間を上回る異能を手に入れる事が出来るのですから。
太古の時代より、人は力を追い求めて来ました。そして、遂に手に入れたのです。
人を超えた、神に近付く力を!!」

銀行強盗が起こっている頃、その近くの路地裏では金持ちを集めた
1人の高級スーツを着たセールスマンらしき男が演説を始めていた。
トランクケースを開くと、そこにはケースに入れられた無数の灰色のダイヤが
鎮座している。

「これは、私のだ!!」「こ、これだ!これをくれ!!」「び、美容にいいのはどれ?」

誰もがこぞって大金を取り出しダイヤと交換する。
セールスマンの部下らしき黒ずくめの男達はその金をせっせと回収していく。
セールスが終わった後に残ったのは、何度目かの資金集めを完了しほくそ笑む
悪の組織の幹部こと、伊能冬彦の姿だけだった。

「伊能様!!これで今月の資金は回収しましたね。」

「馬鹿を言いなさい。私は、資金を集めるだけで終わらせるつもりはありませんよ。
ダイヤモンドによる人類の進化。それが私の目的です。
おや?何だか近くが騒がしいですね・・・
皆さん、出番ですよ。」

黒ずくめの男達は一瞬で戦闘員へと姿を変えて偵察へ向かう。
伊能はその様子を見つめながら、垂れてきた青洟をハンカチでふき取った。

【勢力:悪(ヴィラン)、みなさまよろしくでっす】

254 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:28:46 0
赤のナイトは、これからエレベーターで屋上に向かうと言った。
屋上に向かうということは、つまり真雪を置いていく可能性が高い。
「まっ…て…」
「喋っちゃだめだよぅ、噛んじゃって顔の水疱を破ったりしたら大変!
大人しくしてて、大丈夫だから、後で聞くからね」
せめて自らを簡易担架に乗せ運ぼうとする誰かに伝えなければ、と声を発した。
しかし、ほんわりとした空気を纏う看護士に止められる。
後でじゃダメなのに、間に合わないのに、と柚子は内心で悶えた。
伝えるタイミングは、すぐ訪れた。エレベーターに乗ってしまえば、僅かな隙が出来る。
「それで、どうしたの? 何か言いたいみたいだったけど」
看護士が微笑むと、柚子は一言途切れ途切れに呟いた。
「ゆ…ユキちゃん、は? ……置い、て…ゃうの…?」
「…会いたいの?」
看護士の言葉に、柚子は小さく頷く。その様子に、看護士は悲しげに溜め息を吐いた。
「…ごめんなさい…」
その一言だけで、柚子は理解する。もう、会えないかもしれない。
突きつけられた事実に柚子が泣きそうになったとき、エレベーターの扉は開いた。
そして、聞こえた。これこそが、待ち望んでいた声。彼女こそ、月崎真雪。
兔からは良い返事をもらった。ほう、と息を吐き、画面に残る兔の番号を登録する。
(これで…あとは飛峻さんに連絡して…)
そこまで考えてから、目の前のエレベーターを見る。
正確にはエレベーターでは無くその上、エレベーターの位置を示すパネル。明らかに、動いている。
10階で一旦留まり、再びエレベーターは動き出す。やがてぽん、と音が鳴り、目の前の扉が開いた。
「うわわっ!」
真雪は邪魔に鳴らないように身を引く。
派手な格好をした女性が先導していて、その後ろに男性二人…片方は飛峻が担架を担いでいた。
その隣には看護士が付き添っている。
そして、見つけた。これこそが絶望的事実。
顔を半分焼かれ、痛々しく担架に横たわる柚子を。
「…ユッコ!」
男は、困窮していた。調理の才を持ち、それを自覚し、更には使いこなす事の出来る。
いずれは世界で右に出る者などいない料理人となる筈だったのだ。その自分が一生を牢獄の中で暮らすなど到底耐えられない。認められない。
彼にとって進研に身を置き悪事を働くと言うのは、目的では無い。あくまでも、最上の料理人となると言う目的の為の、手段なのだ。
「……おいおい、悪いが俺はこの一線を譲るつもりは無いぜ。
 自白剤や拷問で吐いた証言で、進研が落とせるか? 中途半端に手を出せば、大火傷するのはアンタらだぜ」
進研は至る所に文明を貸し出している。規模を問わず国内の企業や、一部の公的機関にもだ。
一撃でトドメを刺せるだけの材料が無ければ。
例えば文明回収のストライキでもされてしまった日には、世論は公文への批判に傾くだろう。だが、だからこそ。
「進研の事なら洗い浚い吐いてやる。あんな二人が何だ。何の取り柄もない、クズが二匹死んだだけじゃないか」

彼は自身の証言が金の価値を持つであろう事を知っている。
下手に出ながらも何処と無く滲む不遜さや、双子に対する暴言は、そうであるが故だ。

「あんな奴らを殺したからと言って世界が、社会が変わる訳じゃない。だが俺は違う。
 いずれ俺は各国の財界人、高級官僚、王族、ありとあらゆる人間が俺の飯を食う為に駆け回るんだ。
 愉快痛快だろ? そうなったら、アンタにゃ特別席を用意してやったっていい。さっきの女もだ。だから……」

しかし不意に、男が口を噤んだ。不穏な沈黙が、訪れる。そして男は急に胸を押さえ、目を見開いた。
流暢に回っていた口は苦悶の形に歪んで呼吸は止まり、ただ水面に腹を浮かせた魚のように開閉のみが繰り返される。
ついには彼は直立の体勢すら保てなくなり、倒れ込んだ。
胸と喉を押さえながらのたうち回り、だがそれも長くは続かず、彼は小刻みに痙攣するのみとなる。
しかくして最後に上へと伸ばした手が掴もうとしたのは、都村か。それとも、『錬金大鍋』――彼の未来か。
いずれにせよその手は届かず虚空を掻き、彼は生き絶えた。進研は悪い組織ではあるが、悪の組織ではない。
ボスに対して表立って逆らう者はいないが、決して皆が恭順である訳でもない。進研をただの手段、踏み台としか考えていない者もいるだろう。
寧ろ、その方が多いくらいかも知れない。裏切りを防ぐ為の仕掛けは、当然施されているのだ。
「……ふむ、愚か者が一人。何処かで息絶えたか。まあ、私にとってはどうでもいい事ではあるが。それよりも」
暗がりの中で、一人の男が呟いた。  
それから声の音量を僅かに上げ、呼び付けた部下に命を飛ばす。

255 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:29:18 0
「例の異世界人を、ここに連れて来たまえ。五本腕と、猫人間、だったかな? それと先程確保したと言う、淑女もだ。
 目が覚めぬようなら、覚醒剤でも打ってやればいい。下らぬ道徳心とやらは無用であるから、心するように。
 もしも反抗するのであれば、君も晴れて愚か者の仲間入りだと、世話人に告げたまえ」
命を受けた部下はただ一言。
「了解しました。ボス」
ただ一言そう返して、彼の部屋を後にする。そうして、一人の男だけが残された。
暗闇に溶け込む黒のスーツに、無造作に掻き上げた長髪。
薄暗い中で煌めく小振りな眼鏡が、冷冽な眼光により一層の研磨を掛けている。
さて、君達はボスの呼び付けに従ってもいいし反抗してもいい。
ただしそれらの行為が己の身に何を招くかは、推して知るべしである。
何せボスには、『才能』があるのだ。例えば秋人や柊が文明に非ざる力を持っているように。
料理人の男が、裏切りを切欠として突如事切れたように。人に『何か』を植え付ける才能が。
そしてその『何か』は、彼に近しい人物なら誰しもが植え込まれている。
命令に背けば、またしくじれば、愚か者の仲間入りとされてしまう。
それでも尚逆らおうと言うのならば、相応の対応がされる事を覚悟すべきだろう。

【ボスお借りしました
 ついでに秋人やらが文明じゃない異能を持ってるようだったので理由付けでも
 もし彼らがただの文明だとか実は異世界人だって言うなら、訂正しますので指摘をお願いします】

起き上がった彼の耳に入ってきたのは獣の唸り声のような、魘されるような声だった。
少しだけビクリ、として、しかし誰の声なのかと自分のベッドの隣を見る。
開けてしまえば楽なのだが、全く知らない人間だった場合の反応に困るだろうと少しだけ悩む。
そして数秒か、もしかしたら数分経ったその時に聞こえてきた声に彼はハッとする。
それは間違いなくテナードの声であり、そして彼がこの世界で無意識ながらに信用した二人目の人物である。
彼はベッドを仕切っているカーテンを開けて、テナードのベッドを見る。
「猫、」
久和はそうポツリと呟いて彼の所在無さげな左手を握る。
何故そうするかは分からない、だがそうした方がいいと、彼は思ったのである。
「……猫」
また名前を呼ぶ。そして魘される彼を不安げに見ながら、久和はテナードが起きてくるのを待つことにしたのであった。
弓瑠は不満げであった。お兄ちゃんの裸を見るのをジョリーに邪魔され、お兄ちゃんと風呂に入りたかったのに邪魔され、結局彼はあの黒猫と入る始末である。
むぅ、と頬を膨らませながら黒猫とハルニレを見やる。黒猫はあろうことかハルニレに傷を付けたのだ、許すまじ、と黒猫の耳を引っ張る。
「お前は可愛くないわ、ロマ」
いつの間にか彼女が黒猫に名付けていた名前を呼ぶ。そして彼女はハルニレを見て、
「今日私と一緒に寝よ、お兄ちゃん」
とニッコリ笑うのであった。弓瑠はその小さな身体で彼に抱き着く。そしてそのまま――といったところでジョリーのお帰りである。
「…む」
不満げに声を漏らし、ジョリーに声をかけた後彼女は言った。
「お腹がすいた」『あれ?』
「うまくいった?」       
いや、と歯切れ悪くペリカンが答える。兎は眉を潜め、もたれ掛かっていたヘリから身を離して振り返った。
『上手くいかない。座標も特定できてるし、特に拡散するような要因は無いし。……おかしいな』
「どっちが?まさか、どちらも?」
『いや、成川遥の方は圧縮できそうだけど、異世界人の方が……』
ペリカンの複合文明、“Hello World!!”は物体を圧縮する機能を持っている。物質を0と1に置き換えて、生ま
れた数列を圧縮、保存する機能。座標さえ合えば生きている物でさえそのまま捕らえる事のできるこの文明。
だが“Hello World!!”は文明そのものを圧縮する事はできない。
『まさか、この異世界人、文明持ってる?』
ペリカンの疑問に、そんな馬鹿なと兎は呟いた。ミーティオ・メフィストはつい先ほどまで監禁されていたのだ。
監禁?
「……首輪を付けられてるのかもしれない、もしかしたら。成川遥と共に監禁されていたなら」
『ん?』
「成川遥は成龍会首領の娘よ。どう言う経緯で一緒に監禁されていたのかは知らない、けれどそんな要人を異世
界人なんて化け物の近くに拘束しただけで置くかしら?」
『殺してほしかったのかも』
「かもしれない。でも、そうだとしても、何らかのイレギュラーに対しての策が必要だわ」
それが首輪か、とペリカンが呟き、どうする?と兎に尋ねた。このまま何もしないわけにはいかない。
「しょうがないわ、成川遥だけでも捕まえて頂戴」

256 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:29:45 0
鰊は必死に足止めしていた。やつらの突撃は凄まじい。もう何人殺されたかわからない。
実際のところ、彼らは帰ろうとしているだけなのだが、鰊にそんなことがわかろうはずも無い。
職務に誠実であれ。鰊の考えだった。職務以外の事には特に注意を払わない彼だったが、職務についてだけは、
変質的なまでに拘りを貫いてきた。
やらないこととやることが解っていただけだとも言える。慇懃で無礼な男だった。
(おや)                          
突撃の指向性が変わる。見れば、ついさっきまでいた美少女の片割れが消えていた。疑問を抱き、解決に向かう。
すなわち鰊は電話をした。
「兎、どう言うことだ」
「片方しかうまくいかなかった」
「どうすればいい、捕まえるか?」
「イ`、捕まえなくていいわ。妹でもないのに爆発されたら困るし」
そこでその鰊は死んだ。頭上から鉄パイプが降ってきたのだ。ふむ、と鰊は思う。よくわからないが、このまま
足止めすればいいらしい。肉の壁で押し止めている現状、そう長くは持たないが。
脳が劣化してきている。鰊は薄々感づいていた。コピーし過ぎたのだ。歩みは遅いが、根本的な死が近付いてき
ている。潮時だ。
「良ーい?今度弓瑠ちゃんに手を出したら、絶対に通報してやるからね!このロリコン!」
「サッキカラ一々ウルセーゾ、ジョリー!分カッテルッツッテンダロ、何度モ言ウナ!!」
雨の降る繁華街の中、弓瑠を挟んで口論するハルニレとジョリーの姿があった。
服も新しい物に着換え、弓瑠の要望で、傘を差して三人はとあるレストランへと向かっている最中だ。
二人の口論の内容は、察して解るように弓瑠の事である。
時間は少々遡る。猫と共に風呂に入り、ひっかき傷の山をこさえて猫を洗い終えたハルニレ。
弓瑠はハルニレに傷を付けた猫の耳を引っ張り、「お前は可愛くないわ、ロマ」 と叱りつける。
「オイオイ、女ノ子ガソンナ乱暴ナ事シチャ駄目ダロ」
ハルニレは弓瑠の手から猫を取り上げてたしなめる。しかし弓瑠は反省してないのか、ハルニレを見上げ、満面の笑みを浮かべる。
明るい声でそう言うと、ハルニレの体に抱きついた。彼女の心境を知る由もないハルニレはその細い首に手を回し、笑顔で返す。
「良イゼ、何ナラ寝ル前ニ面白イ話デm「あ、アンタ何してるのよォオ―――――――ッ!!」
常識人のお帰りだった。ジョリーが帰って来た瞬間目にしたものは、ほぼ全裸のロリコンと幼女が抱き合うという衝撃的なシーン。
二人にどんなやり取りがあったか知らない彼女は、真っ先にハルニレを悪だと判断。
結果として、現在ハルニレの右頬に真っ赤な痛々しい掌の跡が残る事となった。
「クソー、思イッキリビンタシヤガッテ……コレダカラ年増ハ」
「何 か 言 っ た?」
「べッツニー………………ン?」
何かに気付いたハルニレの足が急停止する。
雨の中、傘を差さない一組の珍妙な男女がいる事に気付いたからだ。 
一人は、巨大な棺桶を担いだ奇妙な少女。もう一人は、先程出会ったばかりの人間。
「オイ、テメー!」
確か、ドルクスと呼ばれていた男。しかし、様子がおかしい。
ハルニレと戦闘していた時の覇気が、全くといっていいほど感じられない。 まるで別人だった。
それに、一緒にいたあの少女……エレーナは何処へ消えたのか。 代わりに一緒にいる少女は何者なのか。
この空気を読めない、場違いで呑気な音が鳴り響く。少女の呟きを聞いたジョリーが、反射的にハルニレを見上げる。
どうしろってんだ、と怒鳴り散らしてやりたい気分だったが、この男にも色々と聞きたい事がある。
「オ嬢チャン、俺ガ飯食ワセテヤルヨ。ドルクストヤラ、テメーニモ色々ト聞キテエ事モアルシナ」
『す、すばらしくカオス』
ひくりひくりと顔をひきつらせながら蛍光色の猫は呟く。
このビル内において神の如き視点を所持する彼は、その様相を端的にそう言い表した。
『どうしよう、なんかもうおれ全然ついてけない。つっこみとか入れる余地もない。色んなものに対応する気力もわかない』
「ご愁傷様です、小鳥」
『うん……』
素っ気ない合成音声。その主は一心で一つの窓をのぞき込んでいた。
遊のようになってしまう。短い前足で空を掻きながらその肩にたどり着いた。
『……子供?』
窓の中では、小さな子供がふらふらとビル内の廊下をさまよっていた。
迷宮化が解除された際、あらぬ場所に移動させられてしまったらしい。
荒い画質ではわかりづらいが、その不安そうな様子は見て取れた。
「葉隠准尉が保護していた者と見られます。迷宮化解除の際にはぐれたのでしょう」
『あ、ああ、あの何かものすっごいおにーさんね』

257 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:30:12 0
言ったKu-01の瞳が淡い緑に発光する。高度AIの情報処理に発生するそのエフェクトに、小鳥は目を輝かせた。
『やっだなにそれ格好良い、おれもやりたい!』
「サイバーダイブを解除します。小鳥、回線使用の許可を」
『えー? 帰んの? もうちょっと遊んでってよ』
「お断りします」
『に、にべもない! わ、わかったよ……どうせ許可しなくてもあんた出れるじゃんよう』
 器用に猫の口を尖らせながら、管理者権限を発動する。
 接続されたデバイスを確認。認識終了。
 そのデータをこっそりと記録して、『じゃあばいばい』と"退室"の準備をするKu-01
に呼びかけた。
『また遊びに来てよ。場所用意するから』
「……物理空間を用意していただけるならば、考えなくもないです」
 そうして、Ku-01は傾いた視覚領域を立て直す。かしゃりとモノアイが音を立てた。
 接続良好。異常はない。
 エネルギー残量にもまだ余裕がある。
「運行に問題なし」
 機械に繋がっていたウィップコードを抜き去り、少し考えてから三つ編みを解く。
 癖もなく広がった人工頭髪を、頭頂より少し下で結い直した。
「それでは行動を開始します」
廊下を駆ける八重子。一向に訛祢が見つからない事に、彼女は焦燥していた。
まさか、手遅れだったのか。しかし、運は彼女に味方したらしい。
「はぁ、はぁ、琳樹さん!」
琳樹の肩越しに八重子の姿を視認したKは、踵を返す。そして、八重子が向かって来る方向とは逆の方へ去っていった。
八重子はKの存在には気づかず、琳樹の目の前で一旦ストップし、肩で息をする。
現在地を確認し、八重子はゾッとした。なんと、彼は危うく「ゼミ」の敷地内に入ってしまう所だったのだ。
「(か、間一髪ってまさにこの事ね……)」
ハァーッ、と長く深い溜息を吐く。安堵と疲れからくるものだった。額の汗を拭い、琳樹に微笑みかけ、彼の腕を掴んだ。
「戻りましょう、琳樹さん。色々と説明したい事もありますし」
ゼミの敷地内から離れるように、もと来た道を歩き始める。こんな所に長居は無用だ。
そろそろ、あの猫人間や五本腕も目を覚ましている頃だろう。
腹も空かせているだろうし、スープを持っていってやる事にしようと思い立った。
「八重子!」
後方から声がかかる。二人分のスープ皿とコップを載せた盆を持ったまま振り向いた。
Cだ。より露出度の高いボンテージとピンヒールに着替え、訛祢を挟むように並んで足並みを揃える。
手に、カルテではない書類を手にしていた。
「その書類、何なの?結構ぶ厚いみたいだけど」
「ああ、これ?あの猫頭、右腕に妙なモノ仕込んでたみたいだから、研究班に解析を頼んだのよ」
Cの話を要約すると、こういう事である。
猫頭の彼、テナードの傷を治療する際、次々と文明が使用不可能になるというアクシデントが発生。
まさかと思い解析すると、彼の右腕が文明の効力を無効化させてしまう事が判明。
やむを得ず、右腕のみを分離して治療したという。
「で、これがその報告書って訳──……っと、着いたわね」
ピタリとCの足が止まる。2、3度のノックの後、Cはドアノブに手をかけた。
「(………………?)」何かが左手に触れるのを、テナードは直感的に理解した。
霞が掛かったような脳で、無意識にそれが人の手である事を理解した。特筆するものでも無いが、左手も義手だ。
感触や物を掴んだりする事は出来るが、温度や気温といったものを感じる感覚は既に存在しない。
故に、彼は少し驚いていた。失われた筈の「人の温度を感じる」感覚が、左手に戻っていたから。
この手は誰のものだろう。それを確かめたくて、ゆっくりとぎこちない動きで手を握り返す。そしてそのまま、テナードは静かに覚醒した
「……ここ、は……?」               
喉が渇いているせいで、掠れたような酷い声が漏れた。起きぬけの寝ぼけ眼で、起き上がろうとする。
「いっ!…………っ痛う……」
起き上がった瞬間、腹部に数瞬痛みが走り、反射的に身体をくの字に折り曲げて強張らせた。
痛みに耐えられず、右腕で体を支えようとして違和感を覚える。
右腕が、無い。肩から先が、まるで最初から何も存在しなかったかのように、消失していた。
朧気な記憶の中、誰かが自分の右腕を取り外した事を思い出す。
参ったな。そんな事を呑気に考え、フと自分の左手と繋がれた相手を見る。
「い、色白……?」
驚きが入り混じった声が出る。手の主は、所々に包帯を巻いて患者服を着た、色白の五本腕だった。
「…………えっ、と。……お…おはよう?」
何と言えば良かったのか分からず、何故かおはようの挨拶をしてしまった。

258 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:30:39 0
「食べながらでいいから、私達の話を聞いてくれる?」
暫くして、八重子がそう切り出した。食べる手が止まり、八重子を凝視する。
「私達は「進捗技術提供及び研究支援団体」、通称進研。まあ、簡単に言えば色んな所に「文明」を貸し与えたりする組織ね。
 ここは、進研が所有する建物の一つ。貴方達、相当酷い傷だったから此処に運んだのよ」
唯一医療施設があったから、と締めくくった八重子の言葉を、今度はCが引き継ぐ。
ピンヒールの踵を鳴らし、ガーターベルトに仕舞っていた鞭を片手に教鞭を取る。
「進研には、数多のサポーターと彼等に指令を出す20人余りの幹部、そしてボスという構成で成り立っているわ。
 他にも幹部達をまとめる幹部長、ボス直属の部下や極秘任務実行隊なんてのも存在するらしいけどね。
 サポーターは進研の敷地内では規定の団員服を着用する事を義務付けられ、幹部ごとにチーム編成される。
 それなりの功績を残して幹部に昇進すれば、ボスに認められた証として"アルファベット"を名乗る事を許され、様々な特権を与えられるわ。
 ……ま、わざわざアルファベットを名乗らずに幹部をやってる奇人もいるけど」
そう言うと、肩を竦める。成程、アルファベットが書かれた腕章を付けた人間は幹部という事か。
「ああそうだわ。肝心な事を忘れるとこだった」
ヒュン、と鞭が鳴る。指示棒のように振り回すのは彼女の癖なのか。 耳障りな音だが、敢えて何も言わず静聴する事にする。
「この組織にはね、内部に幾つか派閥が存在するわ。正確な数までは知らないけどね。
 それぞれが、それぞれの野望や志を持って活動している。反りが合わない幹部やその部下達は、無論お互いに非常に仲が悪いの。
 それこそ、小競り合いなんて日常茶飯事レベルね」
それは組織として如何なものか。危うく喉まで出かけたツッコミを飲み込み、Cの説明に耳を傾ける。
「その中で、私達は「チャレンジ」という派閥に属しているわ。進研の中では、かなり異端な存在ね」
「進研の殆どが、荒くれ者で悪事を働いたり暴れる事が好きな連中が多い。
 けど、「チャレンジ」ではそういうのは一切御法度なの。ま、リーダーの意向ね。
 お陰で他の派閥に見下されたり、ボスからの信用も低いわ。だからこそ、出来る事もあるんだけどね」
静かな病室に、ピンヒールが床を踏み鳴らす音がよく響く。
喉が渇いたのか、鞭で器用にマグカップを取り、中身を一気に飲み干した。
「で、ここからが本題よ。私達は、通称「ゼミ」と呼ばれる過激派組織と争ってるわ」
「…………それが、何だ?」
「貴方達の力を、貸してほしいの。勿論、タダでとは言わない。
ここに住む間の生活面は、私達が全面的にサポートするわ。 食事も衣服も寝床も、貴方達の身の安全も、私達が保証する」
テナードは他の面子に目配せする。 ああは言っているものの、彼女らが何を考えているのか、皆目見当がつかない。
「…………もし、断ったら?」
「どうもしないわ。どちらにせよ、私達は貴方達を保護する義務がある。
 ただ、貴方達の身の安全の保証は無くなるかもしれないけどね」
まるで脅しだ。可愛い顔して、結構えげつない女である。ここは、今は黙って彼女らに従うのが得策だろう。
彼女らの領域に居る限り、自分達の命は彼女らの掌の上とも考えるべきか。
「…………分かった。協力すると約束しよう。但し、元の世界に帰るまでだ」
「ア、アァ。了解ダ」
有り合わせの道具で瞬く間に簡易担架を組み立てた少女「佐伯零」に促され、飛峻は慌てて持ち手を掴む。
有無を言わさぬその口調に半ば反射的に従ってしまったが、飛峻と対面のオサム君以外の三人は医療の心得があるのだから適材適所と言えよう。
「……アンタも色々と大変そうだナ」
「ハハハ……」
思わずオサム君と苦笑いをしつつ、続けて響く合図の声で同時に担架を持ち上げる。
向かう先はエレベーター。屋上で待機している手筈の兎たちの下へ柚子を搬送するためだ。
既に展望ホール内のヤクザは掃討されており、飛峻たちの行く手を阻む者は居ない。
地面に伏したヤクザたちの内、まだ息のある者が時折苦しげな呻き声を挙げるが誰も気に留める様子はなかった。
先頭を行く佐伯を眺めながら飛峻はため息をつく。     
気がかりなのは彼女の言った言葉。柚子を助けることに夢中でその可能性をすっかり失念していたのだ。
つまり、彼女達と兎達が敵対しているかもしれないという可能性をである。
武術を修める者ならば種類はなんであれ、相手の立ち居振る舞いから実力を推測することは出来る。
ましてや裏社会で活動していた経験もある飛峻にとって、その能力は研ぎ澄ませざるを得なかったものだ。

259 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:31:03 0
目の前の不思議な力の気配を醸し出す少女は、名をシノと名乗った。
奇抜な格好から(というよりも背負った棺桶を)見るに、彼女も異世界人だと私は判断した。
しかし、これだけ近距離にいて禁書の気配を感じない。
つまりは、彼女は無理矢理召喚されたわけではないのだろう。…恐らく。
私はシノから視線を逸らした。なんとなく、彼女に見透かされている気がした。
……何を?これは幸に入るのか、それとも不幸に入るのか。
私達にかけられた声は、聞き覚えのある特徴的なダミ声。
「ハ、ハルニレ!何でココに!?」
問題発生。こういう時に限って遭いたくない奴と遭遇するなんて!
最悪だ。彼ことハルニレは、少なからず(今は私だけど)ドルクスに敵対心を持っているに違いない。
ここでもう一度戦闘を仕掛けられたらどうなるだろう。
魔法を使いこなしきれない私にとって、圧倒的不利な戦いとなるだろう。それだけは避けなければ!!
「ハルニレ!今私は貴方と戦う気はないわ、落ち着いて話しあいまsy……」
「…………………ほぇ?」
ハルニレ達は歩きだす。私は一人取り残されそうになったのに気付き、慌てて追いかける。
色々ツッコミ所がある筈なのに無視なんだろうか。これは私が突っ込まなきゃいけないんだろうか。
「…………………………………………どうしてこうなった?」
ここに来るまでの道中、Tから様々な事を教えてもらった。
この世界に存在する「文明」、「進研」についてetc。長いので割愛させてもらう。
「さて、着いたぞ」
白い扉の向こうから、声が聞こえる。複数人の声。エレーナ様の魔力を使い神経を集中させる。
……何人か、禁術の気配を纏っている。まさか、この中に異世界人が?更に集中し深く探ろうとした時、Tの手がドアノブに掛けられた。
「ちょま」
「はーッハハハHAHAHAHAHAHAHAHA!失礼するよチャレンジと愉快な仲間達諸君!!」
今にも破壊しそうな勢いでTは無礼講にもドアを乱暴に開ける。
「病室では静かに」のポスターは完全無視かこの黒子野郎。
Tが出入り口を塞ぐように立っているから、入るどころか中の様子を見ることすら難しい。
「そんなに警戒しないでくれ賜えよ!嗚呼それともこの私の美貌に酔いしれているのk「ねーよ!」
分かりきっていてもツッコまずには居られなかった。クッ、恐るべしエレーナ様のツッコミ体質。
「そんなにハッキリ言わなくても…まあ良いか。
 皆が溜息を吐く程に見とれる私の美貌と、今回こんな狭っ苦しい病室を訪れた理由にさしたる因果は無いからね」
どうしてそうなる。幸せな脳味噌の持ち主なんだろうな、ある意味羨ましい。
「ほほう、君達が噂の異世界人達かね。ん?そこの少年、私の顔に何か付いてるかな?
 私?ああそうだ、自己紹介しなくてはね。私の事は「T」、とでも呼んでくれ。
 派閥は改革派「赤ペン」。夢に出るまで脳に刻みつけておくといい」
「夢に出るとか悪夢のレベルだろjk…」
「ところで、だ。こんな場所に敵対関係である筈の私が何の用かと言いたげな顔だね!
 入っておいで、エレーナ君!彼らは、君と同じく異なる世界からの訪問者達さ!」
俺のツッコミは無視され、手を引かれて病室へとエスコートされた。男だけど。いや今は女だけど。
特徴のない平凡そうな少年。優しそうな顔立ちをした女性。猫の頭を持つ片腕の男。
露出度の高いボンテージを着た女。余計に腕の生えた(恐らく)女性(いや、男か?)。
………濃い。濃すぎる。一部を除いて誰が異世界人だか分からないぞ、このレベルは。
そして最後の1人。眼鏡を掛け、キリン柄の妙な服を着た、俺。俺?
「え、エレーナ様!?」
仰天し、脱兎の如く駆け寄る。
「そんな、折角精神交換してまで貴女を逃がしたっていうのに……!」
まさか、エレーナ様まで捕まっていたとは、何とトロ臭いお方か。しかし、自分はこんな珍妙な格好をしていたっけか。
自分はこんな髪の色だったか。まず、眼鏡なんて掛けていただろうか。彼は、エレーナ様では無かったのだ。
失念していた。"並行世界の異なる自分"の存在が居ることをすっかり忘れてしまっていた。
「"エレーナ様"?一体どういう事かな、エレーナ君?」
案の定、疑念の視線を含んだTの言葉が俺にふりかかり、額に冷や汗がぶわりと湧き出る。
「……エレーナ君、人は嘘を吐くと汗の味が変わるらしいのだが、一体どんな味なんだろうn」
「スイマセン嘘吐いてましたサーセンだから舌舐めずりしながらコッチ来ないで欲しいッスーーーー!!」
変態から一番離れた、地味な少年のベッドの側へと逃げ込む。
しばらくの間変態との睨み合いが続いたが、諦めたかのように視線を逸らしたのだった。

260 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:31:28 0
進研にて各々の時を過ごす君達の元に、人影が訪れる。
それらはどれもが同じ体格、同じ格好、そして同じ性能をしていた。
それらは、人間では無かった。文明『人型傀儡』≪マリオネット≫。
主に危険な工事や救助の現場にて使用される、人型の物に宿る文明である。
然程珍しい物では無いが用途が用途である為に、個人や企業で大量に保有している事はまず無い。
例えば文明を取り扱う企業の、頂点に立つ男でもなければ。
『諸君、今すぐ異世界人を私の元に連れて来たまえ。
抵抗や下らぬ温情などは誰の為にもならぬので、見せぬように』
自律意思を持たないマリオネットは託された音声を再生しながら、君達の手を引く。
そうして君達は進研のビルの最上階へ、進研の『ボス』の元へと招かれた。
都市を一望出来る――分り易い『支配者』の、『勝者』の空間がそこにはあった。
「いい部屋だろう?……歓迎の挨拶は省かせてもらうよ。既に各々受けているだろうからね」
君達の正面、部屋の中央よりも少し奥に設けられたデスクに腰を掛けた男が言葉を紡ぐ。
「君達をここへ呼び付けた事には、当然幾つかの意味がある。まず初めに……これらを見るといい」
言いながら、彼はデスクから腰を上げて一歩横に動く。
そうしてデスクに並べた幾つかの物品を君達に見せる。純白の刀、魔法の本、機構の右腕。
「どれも、君達がこの世界へ持ち込んだ物だ。今や所有者は我々……と言うより私だがね。
もしも返せと言うのならば……その通りにしてあげよう。
そして、改めて奪わせてもらうよ。君達をこの場、このビルから追い出してね」
一息の沈黙を置いて、彼は続ける。
「と、これが君達を呼び付けた理由の内の二つだ。
 つまり君達の財産は今や私の財産である事を明確にして。
 並びに、この世界での君達の立場を教えておこうと思ってね」
微かな嘲笑を、彼は零す。
「さあ、良いのだよ? 別に「自分の財産を返せ」と叫んでも。
ただその行為の果てに君達が辿る末路について、私は一切の保証をし兼ねるだけだ。
 この現代にて、君達がどれだけ生き永らえられるのか見物ではないか」
君達には、ただ一人でこの世界を生き抜く術があるだろうか。
化物としか言いようの無い姿形で、人の世を生きていけるだろうか。
何の才覚も無しに、社会を渡り切れるだろうか。
特別な『才能』があったとしても、それは君が遍く無限の『敵』から身を守るに足る物だろうか。
「――不可能だろう?」
彼の声には、現実の音律が含まれていた。
「もっとも君達が我々よりも遥かに下劣な連中に下り、
 豚の餌よりも劣悪な庇護を貪ると言うのならば、或いは……だがね」
それもまた、一つの選択肢ではある。だがその道を選ぼうものなら君達は。
この物語から遥か彼方の闇に沈み、歩んだ道も名も残らぬだろう。
「そのような結末は嫌だろう? だが、そうなる。
 私の機嫌を損ね、この進研から追い出されようものならば。
 この世界において必要な物とは、無二の至宝でも一騎当千の力でも無ければ特異な才覚でも無い。
 揺るがぬ立場なのだよ。他の物は、あくまでそれを得る為の物に過ぎないのだ」
そして、と彼は言葉を繋ぐ。
「君達三人はそれを、宝を持っていた。持って来た。ならば私は、君達に立場を与えようではないか。
 この進研の中で、少しばかりの実験を我慢すれば人並み以上の待遇が得られると言う、立場を」
三人と言うのはつまり久和、テナード、訛祢の事である。
「分かったね? それでは君達は帰ってよろしい。君達の身辺の世話は当面、
 チャレンジの連中に任せている。……まったく、現状に甘んじるとはつまり、停滞ですら無い。
 周りを取り巻く環境が不変でない以上、退化でしか無いと言うのに。連中ときたら。
 まあ、仲良しこよしの下らん連中だが、却って適任と言った所か」
僅かな嫌悪を表情に滲ませて、彼は言う。
しかして多少話が逸れたが今度こそ、君達三人に部屋を出ろと手振りを交えて命じた。
「あぁ、重ね重ね言っておくが。妙な気は起こさぬ事だ。
 この世界には連帯責任と言う言葉があってだね。君達が罪を犯せば、
 その罰が及ぶのは君達のみに留まらない。例えば猫面君、君は随分とここの面々と仲良くなったようだね?
 そして五本腕君、君はどこぞのビルで愉快な双子と関わりを持ったようじゃないか。
 最後に……訛祢君だったかな? 君は確か……そのビルの近くで一人の少年と心安らぐ一時を過ごしていたね。
 それに、今も眠り続けているあの少女……と言っていいのかは少々剣呑であるが。
 とにかく実はだね、彼女にはこの場に並んでもらいたくて覚せい剤を使用したのだよ。

261 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:31:52 0
次に言葉を繋ぐ声は、「さて」だった。
「ところで君達は『イデア』と言う物を知っているかな?
 少年の方は、『アイツ』から名称くらいは聞いているかね。
 『君』は……故郷の伝承に或いは、と言った所か。まず、伝承を伝える物自体が失われてしまってはいるだろうが。
 あぁそうだ。故郷と言えば、三代目の王女はお元気かな? 逃げ延びた事までは知っているのだが、それ以降は流石にね。
 幾ら『君』達の種とは言え、もうお亡くなりになってしまっただろうか。エメラルドブルーの瞳が麗しいお方だったが」
ふと過去を思い返すように、彼は視線の焦点を消失させる。
しかしそれも、長くは続かない。
「……話が逸れたな。イデアとは、君達に探してもらう物の事だ。
 とは言えこの世界の人間も、深くは知らない。
 精々名称だけ、それもお伽話の類だと断じられている」
言いながら、彼は先程見せた『宝』の内の一つ。純白の刀を君達に見せ付ける。
「……この刀が何故『宝』であるか分かるかね?
よく切れるから、折れず欠けず曲がらぬから、脂に汚れぬから……ではない。
そのような物が、この世界で何の役に立つ。文明を用いれば再現すら可能ではないか」
見たまえと、彼は一言。そして部屋の中央に彼の言う三つの『宝』を置いた。
取り分け純白の刀は床に深く、突き立てられている。
「時に、一般的な……哲学におけるイデアがどのような物かは、分かるかね。
……一般教養の域からは少々逸脱しているが故に、一応は説明をしようか。
甚く単純に述べるのならば、イデアとはこの世の万物を影とした時に、物体――原型に当たる物だ。
例えば花。花にはそれこそ様々な種類があるが、それらは全て影に過ぎないのだ。
そして無限の花々、影を辿った先にはイデア――つまり花の原型がある」
言いながら、彼はデスクの横に立て掛けてあった、この世界の刀を手に取る。
それを抜き、刀剣の方を床に放り捨てた。刀は小気味いい音を奏で――それからひとりでに、床を這い始めた。
純白の刀を中心に、円を描くように動いたそれは、ある一点に達すると途端にぴたりと静止する。
余談ではあるが、この現象は『イデア』を知る者にしか呼び起こせぬ物だ。
イデアには『心の目で見る』物である側面があり、つまりそれは『認識』に繋がる。
自分やその持ち物が『イデアから伸びた影の上にある物である』と強く認識しない限り。
この現象は起こらない。つまり異世界人同士が対峙したからと言って、どちらか一方が転んだりはしないと言う事だ。
また異世界人の多くは特異な『才能』を持っており、場合よっては人間であるか怪しい風体も。
挙句の果てには人の形をしてはいるが人間でない者さえいる。
彼らは『人型のイデア』から生まれてはいるが、それぞれ別の影の上に立つ者達だ。
故にそれぞれが干渉し合う事はない。
三浦啓介が尾張をイデアへの指標と見定めたのは、
彼が『特殊な才能はなく、しかしこの世界からかけ離れた世界の存在』であるからなのだ。
「分かるかね。この直線の、いずれかの彼方には……『イデア』がある筈なのだ。
武器の、機械の、本の『イデア』がね。君達にはそれを探してもらう。
無論用意な事ではない。様々な妨害が入るだろう。『イデア』の事は知らずとも、
『私の命を受け動く君達』を捕捉するくらいは、他の組織とて可能である筈なのでね」
しかし、君達にはそれに逆らう術はない。
「だが、見事その命を果たしてくれた時は、私は相応の対価を惜しまないよ。
この世界で極上の立場を求めるも良し。……元の世界へ帰りたくば、叶えよう。
『アイツ』に出来て私に出来ぬ事など、一つしか無いのでね」
――今は、まだ。
「それでは、そろそろ君達も去りたまえ。良い働きを期待しているよ」
(……結局、アレで良かったのかしら…?)
ううん、ううんと言う特有の駆動音と共にエレベーターは上層に向かっていく。
その不協和音に耳を傾けながら零は思案していた。内容は荒海について、……
(荒海銅二が死んだ。か。やったのは殉也……じゃあないわね。
……もし、私がその場に居たらきっと足手まといになっていたかもしれないけど、けど)
後味の良い物ではない。
深い知り合いと言う訳ではないが人が一人。零にとって名前のある、顔のある、形のある人が一人死んだのだから。
しかし、それを責める事が出来る者などは居はしない。だが、だからこそ零にとっては、自ら己を責めるに足る事だった。
(出来なかったんだ)
そして、無力を噛みしめる。それに死んだのは恐らく荒海だけでは無い。
少なくとも荒海やあのコックの攻撃を受けた怪我人は一人残らず死亡したとみて構わないだろう。

262 名前:秤乃暗楽 ◆Y3f.LoVWdQ [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/10(金) 01:32:43 0
赤のナイトは、これからエレベーターで屋上に向かうと言った。
屋上に向かうということは、つまり真雪を置いていく可能性が高い。
「まっ…て…」
「喋っちゃだめだよぅ、噛んじゃって顔の水疱を破ったりしたら大変!
大人しくしてて、大丈夫だから、後で聞くからね」
せめて自らを簡易担架に乗せ運ぼうとする誰かに伝えなければ、と声を発した。
しかし、ほんわりとした空気を纏う看護士に止められる。
後でじゃダメなのに、間に合わないのに、と柚子は内心で悶えた。
伝えるタイミングは、すぐ訪れた。エレベーターに乗ってしまえば、僅かな隙が出来る。
「それで、どうしたの? 何か言いたいみたいだったけど」
看護士が微笑むと、柚子は一言途切れ途切れに呟いた。
「ゆ…ユキちゃん、は? ……置い、て…ゃうの…?」
「…会いたいの?」
看護士の言葉に、柚子は小さく頷く。その様子に、看護士は悲しげに溜め息を吐いた。
「…ごめんなさい…」
その一言だけで、柚子は理解する。もう、会えないかもしれない。
突きつけられた事実に柚子が泣きそうになったとき、エレベーターの扉は開いた。
そして、聞こえた。これこそが、待ち望んでいた声。彼女こそ、月崎真雪。
兔からは良い返事をもらった。ほう、と息を吐き、画面に残る兔の番号を登録する。
(これで…あとは飛峻さんに連絡して…)
そこまで考えてから、目の前のエレベーターを見る。
正確にはエレベーターでは無くその上、エレベーターの位置を示すパネル。明らかに、動いている。
10階で一旦留まり、再びエレベーターは動き出す。やがてぽん、と音が鳴り、目の前の扉が開いた。
「うわわっ!」
真雪は邪魔に鳴らないように身を引く。
派手な格好をした女性が先導していて、その後ろに男性二人…片方は飛峻が担架を担いでいた。
その隣には看護士が付き添っている。
そして、見つけた。これこそが絶望的事実。
顔を半分焼かれ、痛々しく担架に横たわる柚子を。
「…ユッコ!」
男は、困窮していた。調理の才を持ち、それを自覚し、更には使いこなす事の出来る。
いずれは世界で右に出る者などいない料理人となる筈だったのだ。その自分が一生を牢獄の中で暮らすなど到底耐えられない。認められない。
彼にとって進研に身を置き悪事を働くと言うのは、目的では無い。あくまでも、最上の料理人となると言う目的の為の、手段なのだ。
「……おいおい、悪いが俺はこの一線を譲るつもりは無いぜ。
 自白剤や拷問で吐いた証言で、進研が落とせるか? 中途半端に手を出せば、大火傷するのはアンタらだぜ」
進研は至る所に文明を貸し出している。規模を問わず国内の企業や、一部の公的機関にもだ。
一撃でトドメを刺せるだけの材料が無ければ。
例えば文明回収のストライキでもされてしまった日には、世論は公文への批判に傾くだろう。だが、だからこそ。
「進研の事なら洗い浚い吐いてやる。あんな二人が何だ。何の取り柄もない、クズが二匹死んだだけじゃないか」

彼は自身の証言が金の価値を持つであろう事を知っている。
下手に出ながらも何処と無く滲む不遜さや、双子に対する暴言は、そうであるが故だ。

「あんな奴らを殺したからと言って世界が、社会が変わる訳じゃない。だが俺は違う。
 いずれ俺は各国の財界人、高級官僚、王族、ありとあらゆる人間が俺の飯を食う為に駆け回るんだ。
 愉快痛快だろ? そうなったら、アンタにゃ特別席を用意してやったっていい。さっきの女もだ。だから……」

しかし不意に、男が口を噤んだ。不穏な沈黙が、訪れる。そして男は急に胸を押さえ、目を見開いた。
流暢に回っていた口は苦悶の形に歪んで呼吸は止まり、ただ水面に腹を浮かせた魚のように開閉のみが繰り返される。
ついには彼は直立の体勢すら保てなくなり、倒れ込んだ。
胸と喉を押さえながらのたうち回り、だがそれも長くは続かず、彼は小刻みに痙攣するのみとなる。
しかくして最後に上へと伸ばした手が掴もうとしたのは、都村か。それとも、『錬金大鍋』――彼の未来か。
いずれにせよその手は届かず虚空を掻き、彼は生き絶えた。進研は悪い組織ではあるが、悪の組織ではない。
ボスに対して表立って逆らう者はいないが、決して皆が恭順である訳でもない。進研をただの手段、踏み台としか考えていない者もいるだろう。
寧ろ、その方が多いくらいかも知れない。裏切りを防ぐ為の仕掛けは、当然施されているのだ。
「……ふむ、愚か者が一人。何処かで息絶えたか。まあ、私にとってはどうでもいい事ではあるが。それよりも」
暗がりの中で、一人の男が呟いた。  
それから声の音量を僅かに上げ、呼び付けた部下に命を飛ばす。

ヒーローTRPGスレ 2nd season

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