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ヒーローTRPG 4

1 : ◆bTpJe3giiIE2 :2010/12/09(木) 23:48:08 0
◆前回のあらすじ

・テロリスト集団に参加しメタルボーガーを強奪する自称ヴィランの真性童貞(無職、22歳)
・ストーリーは新たな展開、学園編へ
・汎用戦士メタルボーガーは苦杯を舐めるも勝利

の三本でお送り致しました


2 : ◆bTpJe3giiIE2 :2010/12/09(木) 23:49:50 0
前スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1284098638/-100

前々スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1269765186/

前前々スレ
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1261758217/-100

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/7909/

千夜万夜まとめ
ttp://verger.sakura.ne.jp/top/genkousure/hiiro/sentaku.htm

【テンプレ】

名前:
職業:
勢力:
性別:
年齢:
身長:
体重:
性格:
外見:
外見2:
特殊能力:
備考:

3 :名無しになりきれ:2010/12/10(金) 00:16:26 0
231 名前:真性道程 ◆8SWM8niap6 [sage] 投稿日:2010/12/03(金) 01:23:45 0

職員室から担当の教室までは、どんなに多く見積もっても30歩とかからない。
俺の教育係に任命された壮年の教諭はところどころで立ち止まり俺の歩幅に調節しながら当面の大雑把な指示をくれた。

「疎開っていうんですかねえ。ほら、この街って今とんでもなく治安が悪いでしょう?
 そのせいで生徒の大半は休学届けを出して街から出ています。君に担当して貰うのは、各クラスから残った生徒を学年別に集合させた
 暫定の寄せ集め学級ということになりますね。まあ授業の進度はどこも一緒ですし、ざっくりと復習程度に教えてあげてください」

それにしても時期が悪い。教諭は言いながら肩を竦め、俺に指導要綱を手渡した。
なるほど校内は閑散としていて、まだ休み時間だというのにざわめきの一つも聞こえてこない。
さっきお邪魔した職員室も心なしか人が減っていたし、もしかしたら教員の中にも疎開した連中がいるのかもしれない。

「そうでなくたって昨今の異能者急増は生徒内にも波及してましてねえ。やれ喧嘩で炎を出しただの陸で溺れただのって。
 一応校内異能禁止の校則を臨時に作って、目立つ異能者は軒並み停学にして、どうにか校内は平和を保ってるんですが」

生徒に敵意を持たれないよう十分に気を付けてくださいねと教諭は言葉を締める。
俺は胸に拳を置いて、安請け合いした。

「任せて下さい。例え短期であってもこの僕の生徒になる以上、きっと、必ず皆を導いてみせます!」

教諭は瞳孔を僅かに開いて、俺の肩に手を乗せた。

「教育実習生に中途半端に導かれても迷うだけだと思うんですが」

「……ですよねえ」

乾いた笑いが静かな廊下に木霊した。
廊下に置いてある『高学歴は身だしなみから』と印字された鏡(なんつースローガンだ)で今一度俺の姿を映し、チェックする。
なんたって高学歴は身だしなみからだ。鏡の中の俺はピシッと糊の利いたスーツ(就活用に買って一度も着なかったもの)にネクタイ、
長々と伸びっさらしになってたみっともない揉み上げをカットしカミソリ負けにローションを施してある。革靴は顔が映り込むぐらいピカピカだ。

「それじゃ、私が案内するのはここまでですので。後から監修の者を寄越しまずが、なにぶん人手が足りないんでなるべく自分で頑張ってね」

くたびれた教諭はそう言い残すと、そそくさと職員室にしけ込んでいった。
「其辺先生もこんな時期に紹介とは間の悪い」とか聞こえたけど、別に俺の悪口じゃないので聞き流した。

咳払いを一つ。この扉の向こうには、今日から二週間の間俺の生徒になる少年少女達が待っているんだ。背筋から汗が引いていく。
嘗められないように嘗められないように嘗められないようにキョドらず焦らずゆっくりとおこぞかに、俺は扉に手をかけた。
ガラリと引き戸を開けると、制服の色もまちまちな生徒諸君が一斉に首をまわし、40対の眼が穴の空きそうなほど俺を見つめた。

「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」

黒板に名前を書いた瞬間、男子の一部から失笑が、女子高生の一部から冷笑がそれぞれ漏れた。
掴みはオーケーなのかエヌジーなのか、親を恨んだらいいのか感謝したらいいのか分からないまま、昼休み前の4限が始まる。


――――【ヒーローTRPGU 第二話『DT真性 思春期大作戦!!』】

4 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:17:09 0
とりあえず回想!
焼肉屋にて次回予告を済ませた俺たち革命結社フラタニティは、再び網の上で肉を育てる作業に入っていた!

「教室を占領する、か。具体的にどうするつもりなんだ道程君」

其辺の問いに、俺は答えを用意してある。

「ともあれ内部構造の把握と手引きに、内部の人間はもっと必要だ。
 学生枠は夜之咲ちゃんで決まりだし、なら俺は――教師として潜入しようと思う」

正確には教育実習生。
短期の教員として学校に入り、油断を突いて一気呵成に制圧するのだ。
信頼する教師がいきなりテロリストに化ける、なんてなんとも燃えるシチュエーションじゃあないか。

「丁度俺の年齢的に、大学生が教育実習として入っても不自然ないしな」

「そういえば真性殿はおいくつなのです?大学を中退されたと聞き申したが」

「ん?今年で22だけど?大学行ってりゃ四回生になってる歳だな」

畳に寝ていた山吹ちゃんが飛び起きた。

「ええーっ、そんな歳行ってるんですかっ!? てっきりまだ十代ぐらいだと!」

「そうだね、私も初めて見たときは真性君も未成年だと思っていたよ」

「自分と同年代だと思っておりましたぞ」

そうなのだ。俺はやたらめったら童顔らしくて、成人しても免許取るまで酒もろくに買えなかった。
大学入りたての頃に大学近くの学生御用達のゲーセンで中学生と間違われて補導された伝説を持つ男なのである。
幸い大学入ってから背は伸びたので、あとは揉み上げを伸ばして若く見られないようにいろいろ工夫していたんだけどな。

「荒木師匠に従事することで波紋呼吸法を修得したのだよフゥーハハァ! 羨ましいだろ、衰え知らずのこの肌!」

「遠まわしに童貞臭いと言われているんじゃないか、道程君。経てきた人生経験が少ないと貫禄が顔に表れなくてやたら若く見られるらしいぞ。
 そのまま歳をとると刻まれた皺と童顔がアンバランスで非常に気持ち悪い」

「やめろ!俺の将来への不安その533項を読み上げるんじゃあないっ!」

「三桁!? なんでそんなに不安が増えるまで放っといたんですかぁーっ!」

はあ。そこらへんの普通人の数倍は濃密な人生をここ数ヶ月で送ってきたつもりなんだけどな。
まだまだ貫禄が出てくるまで遠いか。渋いおっさんさんになるのが俺ちゃんの超目標なのだ。

「とにかく!表向きは俺は単位取得中の大学生で、教育実習先としてこの街を紹介されたことにしよう!
 えーっと、実習って自分から営業かけに行けばいいわけ?どこに電話したらいいんだろ」

「通常は、大学と高校が提携して学生の実習を募集するな。修得単位や学業成績も兼ね合って紹介先を決めるんだ。
 籍のある学生ならともかく、その辺の無職が簡単に入れるわけがなかろう」

マジで。いきなり出端を挫かれた気分だぜ。
籍云々もなにも俺はもう2年も前に中退しちまってるし、そもそも教育学部じゃなくて社会学部だし。

「……とまあ、通常はここで手詰まりだ。だが教員のコネというか、内部で情報を弄って教育実習生一人分の枠を捏造することはできる。
 丁度今は集団疎開で人手が足りないだろうからな。建前はあっても学校としては猫の手も借りたい状態だ」

「おおーっ!つまり知り合いに先生がいれば良いってわけだな!流石其辺ちゃん!……で、いるの?先生」

そう、この提案には重大な前提条件がある。知り合いに教員がいなければそもそも成り立たないという点だ。
問われた其辺は、何も言わず静かに黙って、自分を指さした。

5 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:18:19 0
「……マジで?」

「マジだ。言ってなかったか?当方はこの街の高校で学年主任を任じられている。
 ……まさか当方が職もなしに革命だのなんだの言っていたとでも思っていたわけじゃあるまい」

思ってました。

と、いい感じに議論も温まってきたところへ学生服姿の少年が一人現れた。
少年はまるで合コンで空気を読まずに乱入してきた女の子サイドの男友達のような、
あるいはポケモンで言うところのこれからすわセキエイ高原というところで勝負を仕掛けてきたライバルのような、そんな感じで。

>「やぁこんばんは、楽しそうだねー。僕も混ぜてよ」

的な発言をした。ちゃっかり靴脱いでやんの。部外者に喰わせる肉はねえ、と言い放ってやるつもりだったけど呂律が回らなかった。
みんな黙ってる。きゃんきゃんうるさい子犬のような山吹ちゃんも、結構人見知りするタイプらしく牛タンを口に詰めて沈黙していた。

「えーっと、俺は君を知ってるぜ。確か展覧会場で無双っぽいことしてた奴だろ」

あのときはコック服を着てたはずだけど。まあいろいろあったし着替えててもおかしくない。
常識的に考えて学生服でこんな時間に焼肉屋とか着てたら補導されるってのはまあ、ヴィランだし。

>「そう、奇しくも今夜同じ舞台で悪事を働いたヴィラン仲間って事でさ。ねぇ、いいだろ?」

「えー……」

殆ど初対面だし空気壊れるじゃん。なんでこいつ呼ばれてない同窓会みたいなアウェイでここまで図々しく振る舞えるんだ。
俺が高校生だった頃を思い出すぜ。居たなあ、何にでも首突っ込んではウザがられてる奴。ヤバいことに突っ込んで死んだけど。

>「まぁ……どうしても駄目だって言うなら、別にいいけどさ。大人しく引き下がるよ。
  傷心の僕が交番に駆け込んで犯罪者仲間にぼっちにされたと泣きついたり、帰り道で身投げをしたり、
  通り魔殺人をしちゃうかもしれないけど、君達には関係ないから気にしないでいいよ」

「肉は何が良い?どれもいい感じに育ってるけどオススメはハラミだな。サンチュもあるから好きなだけ巻けよ!」

なんつーこと言い出すんだこいつ。
悪の組織にハブられたからって警察に泣きつくやつがあるか。

>「……なーんて、冗談だよ。君達は心優しいからきっと許してくれるよね。まぁ、それが納得出来ないなら」
>「お近付きのしるしだよ。献上品を受け取って新顔を受け入れる。どうだい?これなら悪役っぽいだろ?」

学生服が持ち込んだのは赤々とした実に新鮮そうな肉の山だった。
そろそろ財布的にヤバいからお勘定しなきゃだけど6人じゃまだまだ食べたりねえってときに、それは凄く有効打だった。

>「と言う訳で、お邪魔しまーす。ささ、遠慮せずに食べてよ。何ならここの勘定全部、僕が受け持ってもいい」

「上座を開けろ! 学生様1名のお通りだっ!!」

ちゃっかり上座を占有していた其辺を蹴り出し、学生様にご着席を促す。
そそくさとテーブルの上を片付けて即席の特等席をでっち上げた。ヒャッハー、今夜は寝られねえぜ!!

………
……


6 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:19:06 0
 ̄ ̄ ̄ ̄
学生服の少年は和明日灯と名乗った。わあすとう?わあすあかし?適当に付けられた漫画のキャラみたいな名前だ。
ともあれ俺達は和明日くんの持ってきた肉を焼き、美味しくいただいたのであった。

>「美味しいかい?」

「んー、ちょっと筋ばってるっていうか繊維質っつーの?だけど美味いぜ。タダほど美味いもんはない」

そういえば和明日くんはさっきから食ってないな。ほんとに奢る為だけに来たみたいでちょっと怖い。
まあ肉自体は普通のものだし、山吹ちゃんのサイコメトリーでも特に毒が入ってるとかじゃないからまったく問題ないんだけどね!

「其辺さん、食べないんですかっ?」

「ああ。当方は遠慮しておくよ」

山吹ちゃんがようやく牛タンを飲み込んで、新しい肉をやっつけにかかる。
その反面で其辺は和明日くんがやってきてからというもの、肉を口にせず焼酎ばかりちびちびやってる。上座を追い出したからって怒ってんのか?

>「あぁ、そうそう。全く関係ないんだけどさ。うん、ホントにまーったく関係ないんだけどね?
  今から暫く、店員さんを呼んでも多分誰も来ないと思うから。え?何でかって?そりゃあ、ねぇ。
  ……聞きたい?聞かなきゃ良かったってのは無しだよ?」

「……え?」

何を言ってるんだこいつは。
何を言ってるんだこいつは。
何を言ってるんだこいつは。

無防備な脳裏に、抑えても効かずよぎっていくのは『最悪』の想像。
そんな、まさか、馬鹿な。そんなわけない。『あの肉』は食用じゃないから不味いって言うし。
……でも、あの肉は『筋張ってて繊維質』だって聞いたことはある。それで実のところ美味いから共食いしないように嫌悪感をををををををををを

>「あ、そう言えば制服を来たまま焼肉ってマズいよね。不味くはないけど。上着だけでも脱いでおかなくちゃ」

なんでもないようにあっけらかんと、和明日くんが学生服を脱いだ。
服の中に隠されていた戦禍の本性。ぐちゃみそになってもう一生機能しなくなってしまったような、五体満足の成れの果て。

「真性殿」

「言うな、何も言うな朽葉くん!マジで、そんなわけがあってたまるか……!」

「真性殿」

「だから!頼むから何も言わn――」

「山吹ちゃんをトイレに連れていきますのでそこを開けられよ」

そこでようやく俺は、周囲に目を向けることを思い出した。
見れば山吹ちゃんが真っ青になって口を抑えている。その両脇を、山吹さんと朽葉くんが、泣きそうな顔で抱えていた。
あ、そうだ。吐けばいいんだ。吐けば『喰った』ことにはならない。ああどうやって吐こう、喉に指突っ込んで、その前に洗面器――

7 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:19:58 0
>「嘘だよ、嘘。冗談に決まってるじゃないか。ちょっと驚かせたかっただけさ。
  僕はね、君達の友達になりたいんだ。だからそんな酷い事をしたりはしないよ」

「………………あ?」

嘘。
嘘だった。なんだ嘘か。嘘ならしょうがないな。まったく驚かせやがって。あっはっは、あっははは、ははははは。

「ふざっけんなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

シャレにならない冗談を引っ提げて最悪を運んできた男は、努めて親しげに続ける。

>「そう、僕は君達の仲間になって、友達になりたい。中でもとりわけ、君とはいい友達になれる気がするんだ」

グロい右手を、俺に差し出してきた。

>「とてもいい、悪友にね」


――はい、回想終わり。

とまあそんなことがあって、俺達は和明日灯をフラタニティに引き入れた。
性格は最悪極まりないクズの極みのゲス野郎だが、腕は確かだ。俺はその手腕を目撃してるし、戦力は喉から手が出るほど欲しい。

山吹ちゃん各位古株メンバーは和明日との提携を猛烈に拒否り、夜之咲ちゃんはなんだか親和性を見出したらしく普通に接している。
俺はというと、心は許さないまでもヴィランとしては実に有能な男であることは認めざるを得なくて、とりあえず握手には応じた。

「あんまシャレにならんことするなよ。パンピーはともかく俺達に次やったら今度こそ追い出すからな」

みたいな口約束を施して。
どの程度効力を持つのかは知らんが和明日本人は至って社交的なので、最低限の約束は守ってくれると信じたい。
なにより友達のいない俺にとって、友好を全面に押し出してくる人間との付き合い方がわからないのが痛かった。
どこまで突き放していいのかわからないのだ。下手に藪をつついて地雷押してもつまらない。

さて、話を本編に戻そう。
今回の作戦に当たって、俺以外にもフラタニティのメンバーは潜伏している。
職員室に学年主任の其辺。屋上に広域探査として山吹ちゃん、その護衛兼報道ヘリを攻撃する砲台として山吹さん。
本人の熱烈な希望により保健室に朽葉君が潜伏し、夜之咲ちゃんと和明日の野郎は先んじて俺の担当学級に潜り込んでいる。

「えーと、それじゃまずは顔と名前を一致させたいんで、出席番号の順に氏名と……何か一言適当に言ってってちゃぶだい」

指導要綱と学籍簿を机に広げながら、まずは生徒達に顔を覚えてもらうために印象づけていこう。
とりあえず俺も覚えられるように頑張らなくちゃな、と教室を見回す。寄せ集めの『2-0』クラス。その中に、知った顔をちらほら見る。
ブレザー着た夜之咲ちゃん。制服着てるとやっぱ男なんだなあと現実を見せつけられて腹を下しそうだ。
それから何故かここの学校の制服を着てる和明日くん。こっち見てニヤニヤなにかニヨニヨなのかオノマトペに迷う薄ら笑いを向けている。
そして。

「――げっ」

女子高生がいた。
ああいや女子高生がいるのは当たり前なんだけど!でも俺は彼女に女子高生以外の呼称を使ったことがない。
第一話参照、展覧会の前日に駅前でビラ配ってた俺に正論をぶちまけ、公衆の面前で女子高生に説教されるという背徳の悦びを俺に教えてくれたJKだ。
この学校の生徒だったのか……。


疑念、疑惑、議論の萌芽。
日常と薄皮一枚隔てた向こうで展開される血肉の鉄火場から目を背け耳を塞いで、どうしようもなく安定を欠いた学級は邂逅する。
サナギの中身のようにどろどろと渦巻く伏線とかその他もろもろを内包して、俺と40人前後の長い一日はこうして始まった。

8 :真性道程 ◇8SWM8niap6 :2010/12/10(金) 00:21:00 0
名前:真性道程 (まさが みちのり)
職業:教育実習生・超Sラン大学四回生
勢力:――
性別:男
年齢:22
身長:175cm
体重:57cm
性格:熱意に溢れ生徒のことを第一に考える素敵な教師
外見:リクルートスーツ。揉み上げをカットし実年齢より若く見える。

備考:『粗製濫造』で治安悪化の一途を辿る高校に訪れた教育実習生。
   異能を持て余し荒みきった生徒たちの心を熱意と努力で少しずつ溶かしながら、異能では見えない本当に大切な仲間達との絆を教えてくれるぞ!
   そんなハートフルでソウルフルな話を裏で展開してるけど本編では触れられない。一切触れられない。


【占領の為に学校に教育実習生として潜り込む】
【とりあえず疎開の為に夜之咲ちゃん、和明日くん、伊達くん、縁間ちゃん全員が寄せ集められたご都合クラスということで】
【次ターンから話を動かしますので顔合わせ程度に】

9 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI:2010/12/10(金) 00:22:34 0
>「あんまシャレにならんことするなよ。パンピーはともかく俺達に次やったら今度こそ追い出すからな」

「わぁ、ありがとう!約束する!やっぱり君とは良い友達になれそうだよ!」

喜色満面で目を輝かせて、和明日灯は身を乗り出した。
そして道程の右手を両手で強く握る。
次いで他の面々にもにこやかな笑顔を圧力にして握手を求め、
和明日灯は晴れて『フラタニティ』の一員となった。

「……あ、そう言えば僕さっき勘定全部受け持つとか言っちゃったんだっけ。
 でも困ったなぁ。実は僕、サイフ持ってきてないんだよねー。……まぁ、いっか」

焼肉屋からの帰り際、唐突に和明日灯は呟いた。
彼の言葉はあくまで独り言の形を取ってはいたが、矛先は明らかに道程達に向けられている。
彼らが自分の行いに対して、注目せざるを得ないように。

「ちょっと待っててねー」

彼は一言残して制服の上着を羽織り、座敷席から出ていった。
ややあってから少し遠くで「おじゃましまーす」と彼の声が道程達の元に届く。

「お待たせー。さっ、帰ろっか」

それからすぐに、和明日灯は帰ってきた。
彼の右手にはサイフが握られている。
サイフは所々、赤い汚れが自己主張をしていた。。

「いやー、あのまま帰っても良い具合に最悪だなーとも思ったんだけどね?
 約束しちゃったからねー。全く関係ない誰かになら何をしても良いって言うから、貰ってきちゃった」

いとも平然と、和明日灯はサイフの出所を解説する。
三日月に化けた双眸と口元を、道程に向けながら。

「もしも、もしも君がさっきあんな約束をさせなければ……
 あのオジサンは死ななくて済んだんだろうなぁ。あ、これは独り言だから気にしないでね」

言外に悪意を潜ませて、和明日灯は楽しげに笑った。



そんな事があったけど割りと関係なく後日、和明日灯は都市内のとある学校にいた。
『フラタニティ』の次なる作戦は学校を占拠しての思想の膾炙らしい。
かくして和明日灯は折角だからと、学生に扮して学校に紛れ込んだのだった。

>「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」

不似合いな髪型とスーツ姿を瞳に映して、和明日灯は笑みを浮かべていた。
彼の笑顔は単に、道程の格好を面白がっているだけに見える。
だが一方で、やはり何か良からぬ事を考えているようにも見えてしまう。
どちらかに断定出来ないからこそ尚更、タチが悪かった。

>「えーと、それじゃまずは顔と名前を一致させたいんで、出席番号の順に氏名と……何か一言適当に言ってってちゃぶだい」

「はいはーい、じゃあ僕からがいいでーす!」

自己紹介と聞いて、和明日灯は真っ先に手を挙げる。
彼のいる教室には今、伊達一樹と縁間沙羅、つまり彼の悪行と本性を知る者がいた。
けれども和明日灯は一切気にせず、はしゃいでいる。
だが彼は何も、バレてしまっても構わないと開き直っている訳ではなかった。

10 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI:2010/12/10(金) 00:23:42 0
彼は今『悪が日常に潜み、その存在を悟られる事なく悪事を企んでいる』と言う悪意を体現しているのだ。
和明日灯を覚えている者も、彼がその悪意を体現している内は今一つ彼の存在を思い出せない。
とは言っても、和明日灯が少しでも怪しい素振りを見せればすぐに、彼の正体は露呈してしまう。
相手の勘が良ければ看破されてしまう事だってあり得る。
彼の異能は万能だが、それでも能力の枠から逸する事はない。
故に出力の限界と言う枷を振り切る事は出来ないのだ。

何より彼はあくまで『悪い事をする為に』潜んでいる。
ならば悪い事をしてしまえば、潜む能力は消滅するのが道理だ。
【悪意の体現】は彼の心根、悪意に従って姿を変える。

故に効果は多岐に渡り――同時に融通が利かない。
つまり『死にたくないから』『殺したいから』『隠したいから』
と言った願望を体現するのは、和明日灯には不可能だと言う事だ。

「えーっと、名前はわあすあかし。『和のある明日に灯を』と書いて和明日灯って読むんだ。いい名前だろ?」

ともあれ彼はノリノリで自己紹介を始める。

「……僕の顔に見覚えがないって思ってる人、いるんじゃないかな。
 無くて当然なんだよ。実は僕、入学してすぐに引きこもりになっちゃったんだ」

普段は太陽もかくやに煌く瞳を曇らせて、視線を窓の外に向け、和明日灯は突然語り出した。

「色々あってさ、もう絶対学校になんか行きたくないって思ってた」

声色は暗く静かに、和明日灯は続ける。

「……だけど疎開があって、学校から皆がいなくなるって聞いて、それで思ったんだ!
 こんなんじゃ駄目だ!友達の一人も、思い出の一つも作れずに二度とない高校生活を終えるなんて、悲しすぎるって!」

彼は突然、視線を窓の外から戻してクラスの面々を見回し、目は見開き、声を荒らげて叫んだ。

「……僕が学校に帰ってきた時には、もう僕のクラスは無くなっちゃってた。
 けど、代わりに君達と同じクラスになる事が出来たんだ。僕は嬉しかったよ。
 まだ高校生活がやり直せるんだって。こんな僕だけど良かったら、もし良かったら……」

ほんの一瞬だけ言い淀み、視線を逸らし、戻して、和明日灯は皆に向かって告げる。

「僕と、友達になって欲しいな。よろしくね」

全てを言い終えてから、彼は皆に笑いかけた。
何処までも無邪気で明るい、童子のような笑顔で。

【とりあえず自己紹介。友達になって欲しいな】

11 :宙野景一 ◇NuW.dKu6ngI9:2010/12/10(金) 00:25:02 0
戦いは終わった

会場に現れたヴィランは全て肉片になっているか、もしくは警察に投降している
その中で、宙野は軽くため息をつき、緊張の糸を切った
頭の中に喪失感と疲れが流れ込んでくる中、石原が近づいてきて、肩を叩く
>「私は、その……実のところ不知火には期待してなかったんだが。
>君には期待していた。これからも、ヨロシク頼むよ。」
それを聞いて、宙野は誇らしい気分になると共に、少し悲しくなる
「市長、あなたは少し誤解している様ですが…
この街にヴィランに対抗するパワードスーツを送り込み、不知火の技術をアピールする『名目』で不知火重工を動かしたのは…」
『宙野、作戦完了だ、すぐ、指揮車に帰還しろ』
宙野の言葉をさえぎるように武中から通信が入ってきた
それに宙野が応じると、次いで、武中は通信回線を市長へと変える
『市長、この度は真に申し訳無い事をしてしまいました
私がもっとこの街について知っていれば、今回の様な事にはならなかった…
民間人に多数の死傷者を出し、多くの犠牲をだし、メタルボーガーを奪われ、更にヴィランのダミーダイヤ強奪は無かったとはいえ阻止できなかった事は全て作戦立案者の私の責任だ
なので…

…次は絶対にこう易々とやられはさせない
これからもご協力をよろしくお願いします』
技術者と責任者、そして熱い正義の魂を持つ者の合わさった挨拶を石原にした武中は、通信を切ると、宙野を指揮車へと戻した
確かに、武中の言うように、作戦は完全に失敗した
だが
彼の開発したハイメタルボーガーはその場にいたヴィランに対し全く遅れは取っていない
作戦立案者として負けてしまったが、技術者として武中は敗北などしていない
現に

(……こんなにも損傷していたのか…)
帰路、ハイメタルボーガーを脱ぎ、セルゲイにやられた腕を見た宙野は、その損傷の酷さに目を見張った
装甲はボロボロに焼け焦げ、見るも無残な有様になっている
しかし、装着者の宙野の腕は無傷であり、しかもスペシウム発射にも何ら影響は無かった
(これだけやられても機能を保ち続ける何て…)
宙野は改めてハイメタルボーガーと、これを開発した武中の凄まじさに感激し、そして確信した
このアーマーならば、確実に如何なるヴィランとも戦い、勝利する事ができる、と
そして

それを使いこなせない自分に、嫌気がさした

【イベント参加ありがとうございました】

12 :名無しになりきれ:2010/12/10(金) 00:26:10 0
203 名前:なんくるさん ◆cvIBp5alOA [age] 投稿日:10/12/01 00:55:10 ID:M4/I5pr2
wiki作っちゃいましたごめんなさい。

http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg

13 :伊達 一樹 ◇QbSMdDk/BY:2010/12/11(土) 02:34:37 0
ヒーローにだって人間で、各々の生活がある。当たり前の事だ。
伊達一樹は重い足取りで通学路を歩いていた。
彼はここ数日、夜も眠れぬ日々が続いている。
より厳密には、展覧会で事件があったあの日から。

いつ何処で、自分の知る人が殺されるか分からない。
殺されたくない人は何処にでもいる。
守れると思っていた自分の世界は、掌の上ではなくそこら中に拡散していた。
だったらそれを守る為には、彼もまたそこら中を駆けずり回るしかない。
昼夜を問わず起きる事件、鳴り響くサイレンを追って、街中を走り回るしかないのだ。

この都市には彼以外にも大勢のヒーローがいる。
バスタードよりも優秀で強力なヒーローだっている。
だが伊達一樹は彼らを信じ、任せると言う選択をしなかった。
出来なかったのだ。もしも万が一、彼らが失敗したら。
弱くて出しゃばりなヒーローがヴィランに負けてしまったら。
もしもその時、そこにいたのが自分の知る誰かだったら。
不安は加速し、止まらない。
胸の内側で膨張して、心を圧迫する。
気にしすぎだと、そんな事滅多にないと自分に言い聞かせても、拭い去れない。
人がいつ、理不尽に誰かの悪意に貫かれるか分からない。
悪が溢れ蔓延るこの都市では、尚更だ。

だから彼はがむしゃらに、誰もかもを助け続けた。
このまま続ければ命さえ削れてしまうだろう程に、がむしゃらに。
もっともそれで彼が得られた物と言えば精々――
全身を蝕む倦怠感と、目の下のくまくらいだった。

「……あー、そう言えば僕の悪名にハイエナが付け加わったりもしたなぁ」

皮肉と自嘲の色彩が滲む苦笑を零して、伊達一樹は校門を潜った。
朝日に疎ましげに目を細めながら正面玄関へと逃げ込み、彼は上履きに履き替える。
そのまま教室に向かい、黒板や教壇のない後ろの方の扉から教室に入った。

「……おはよう」

教室内を一瞥して呟くと、伊達はまっすぐ自分の席に向かう。
鞄を机の横に無造作に放って席に着き、すぐに机に突っ伏した。ホームルームまでの間、眠るのだ。
特に誰かと談笑に興じたりはしない。彼の友人は殆どが疎開でいなくなってしまった。
その事自体は、良い事だと伊達は思っている。
友達が悪意に晒される可能性がぐんと減るのだから。
けれども一方で学校が退屈になったのも事実だった。

それから暫くして、ホームルームの予鈴が鳴った。
伊達一樹は目を覚ます。だがまだ起きない。
目を閉じたまま、意識は保ちつつ微睡みの余韻に浸っていた。
暫くして、教室の扉が開く音がした。続く足音が、教師がやってきたのだと伊達に告げる。
ようやく彼は目を開き、欠伸をしながら体を起こした。

>「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」

(……そういや其辺先生がそんな話してたっけ。減ってるのは生徒だけじゃないって事かねぇ)

真相はどうあれ、伊達は取り留めもない思考を巡らせて寝惚けた頭を覚醒させる。

14 :伊達 一樹 ◇QbSMdDk/BY:2010/12/11(土) 02:35:19 0
>「えーと、それじゃまずは顔と名前を一致させたいんで、出席番号の順に氏名と……何か一言適当に言ってってちゃぶだい」
>「はいはーい、じゃあ僕からがいいでーす!」

威勢のいい声と視界の端でちらつく挙手の動作に、伊達はそちらに視線を遣った。
幼子のように純朴な、しかし見覚えのない顔だった。
もっと言うなら見覚えのない、そのくせ何処かで見た気のする顔だった。
だが伊達が心中に芽生えた疑念を答えへと導く前に、児童のような顔の青年は言葉を続けていた。

>「えーっと、名前はわあすあかし。『和のある明日に灯を』と書いて和明日灯って読むんだ。いい名前だろ?」

語られるのは、悲劇だった。
そこらの身近に転がっていそうな、だけど紛れもない悲劇。
唐突に語られたそれは伊達が抱いていた疑念を、綺麗に消し飛ばしてしまった。
いや、衝撃と同情によって塗り潰されてしまったと言うべきか。
ともあれもしも和明日灯がこの事を狙っていたのだとしたら、それは確実に成果を上げていた。

そうして教室はやや浮き足立ち、しかし次第に落ち着きを取り戻す。
通常通りの五十音順の自己紹介が再開されて、やがて伊達へと手番が回ってきた。

「伊達一樹、学年は二年。だけど、勉強とかは教えられるレベルじゃないからさ」

淡白で単調な口調で、伊達は言う。
他学年の入り交じったこの合同クラスでは、通常通りの授業は出来ない。
必然的に自習、分からない所があれば適時先生か上級生に聞く事になる。
なるのだが、人に物を教えるには教わる側が三倍の理解をしてなくてはならないと言う。
伊達にはそれ程の学力はなく、気概も無ければ、何より余裕も無いのだった。

「そこら辺は、先生の手を煩わせてあげて欲しいな」

出来ないのだから――至極当然の理由だった。
だが伊達は自分でそう言っておきながら、
一方でヒーローとして、出来ない事をそれでも成そうとしている。
彼は自分が内包する矛盾に気がついていなかった。

「あぁ、あと……僕の友達も皆疎開しちゃってね。と言うか、
 今ここにいる皆がそうだと思うけど。とにかく仲良くしようじゃないか」

彼の提案は、友達がいなくなった退屈と寂寥の穴埋めがしたいが故だった。
しかし同時に、和明日への同情も確かに含まれていた。

15 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2010/12/12(日) 06:08:05 0
人は日課を持つべきである。
日課とは不定形である人生の形を整え、矯正してくれる型のような物だ。
社会人であれば朝早くに起きて、決められた時間の電車に乗り、或いは適度な運動を経て、会社へと至る。
私は学生である為、終着点は学校になるが。とにかく朝の通学と学校生活、これは日課である。
人生の一部の期間を貫いて、揺らぐ事はない。
これがあるからこそ人は規則正しい生活を送る事が出来る。
いかに怠惰な人間であっても……無論多少の例外はあるが、学生であれば基本的には毎日学校に通うものだ。

日課を持たず、日々を曖昧模糊に過ごす人間の如何に惨めで愚かな事か。
自由と言えば聞こえはいいが、それは人生を無為に拡散させてしまうだけの物だ。
自由を主張し、その上で人生の方向性を自分で形作り、律する事が出来るのならばそれもいい。
だがそのような事が出来る人間は、稀有だ。
だからこそ、人は日課を持つべきなのだ。
人生を縛り、体裁を整えてくれる日課を。
もっとも、私は日課の束縛がなくとも誠実でいられるよう常日頃から心がけている。
いるのだが……例えそうであっても、やはり学校に通うと言うのは当たり前だが、大切な事だ。

そう言う訳で私は今、学校にいる。
普段なら始業前のこの時間、教室を満たしている筈の談笑は聞こえない。
本や教科書のページを捲る際の、紙が擦れる微かな音でさえ喧騒に圧殺される事はなく、
奇妙に印象的に耳に残る。
この教室内を満たす冷気にも似た静寂には、理由があった。
今この教室にいる四十人は、元々別のクラスにいた。
それどころか学年さえ、本来は違う。
このクラスは、治安の悪化による学童疎開によって学校全体の生徒数が減った為に作られた仮設学級なのだ。

多くの生徒は疎開で学校を離れたが、私は居残る事にした。
下劣な悪人が蔓延っているからと言って、どうして私が日常を崩さねばならないのだ。
私は退かない。悪が私に刃を向けると言うのなら、説き伏せてやる。
それすら通用しないと言うのならば、組み伏せるまでだ。

>「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」

何処かで見た事のある顔と、聞き覚えのある声だった。
一体何処で、と考えてみるが……今一つ思い出せない。
まあ良いだろう。せいぜい街中ですれ違った誰かに似ているとか、その程度だろう。
……ところで真性先生の名前、その字面を見るや否や、数人がくすくすと笑い出した。
私には良く分からない、違和感が胸の内を撫でる。
何かあるのだろうか。後で尋ねてみるとしよう。
ともあれ、しかくして自己紹介は始まった。

16 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2010/12/12(日) 06:08:57 0
>「えーっと、名前はわあすあかし。『和のある明日に灯を』と書いて和明日灯って読むんだ。いい名前だろ?」

和明日灯、彼もまた何となく見覚えのある感覚を受けた。
けれどもそれは、直後に打ち明けられた衝撃に押し流されてしまった。
ともあれ引きこもりだったと告白する彼を、私は好意的に思う。
かつての過ちを自覚し、乗り越え、現在と現実に立ち向かおうとする姿勢に。
休み時間が訪れたら、声を掛けてみよう。
趣味や話が合うかは分からないが何か一言、この感嘆を告げて、握手がしたい。

>「伊達一樹、学年は二年。だけど、勉強とかは教えられるレベルじゃないからさ」

そう言えば彼も、何処となくだが既視感を覚える男だ。
先の二人と違って顔立ちがと言う訳ではなく、語り口や立ち振る舞いが、だ。
けれども正直に言って、私は彼にあまり好感を持っていない。
彼がまさに今言っている、出来ない事はしないと言う姿勢が、好ましくないのだ。
出来ないのなら出来ないなりに挑戦する事が大切だろうに。
そもそも、それは本当に出来ない事なのか。
やる前から出来ないと言うような事は、すべきではない。
彼に限らず、人はもっと熱心であるべきだ。
この街には非力と言うハンデを背負いながらも、正義に従うヒーローだっているのだから。
そう、人は彼らを見習うべきであり、彼らは人の模範としてあるべきなのだ。

そして自己紹介は粛々と進み、とうとう私の番が回ってきた。
立ち上がり、腹の底を吸気で満たして、真性先生をまっすぐ見据える。
人は常に自分の素行を意識すべきだが、一方で第一印象が大切であるのも事実だ。
毅然とした口調を意識して、私は口を開く。

「元一年五組、縁間沙羅です。元のクラスでは学級委員をしていましたが、
 このクラスでは特に誰がやるでもなく、曖昧のままになっています。
 真性先生、そして改めて皆さんも、短い間になるでしょうが、よろしくお願いします」

教育実習生である真性先生は勿論、この仮設学級も、長くは続かない。
何故なら、悪が長く栄えた事など無いのだから。

「……ところで真性先生。先程、先生が自己紹介をした際に皆さんが笑いましたよね。
 その理由を教えて頂けませんか?先生自身、微妙な表情をしていましたから、自覚はおありのようですし」

最後に先程気になった疑問点を述べて、私は自己紹介を終えた。

17 :太田空 ◇maQY4WLalU:2010/12/13(月) 22:11:12 0
太田空は葛藤していた。
彼の憧れる輝かしいヒーロー像と、自分の無様な現状の差異に。
彼の中で『ヒーロー』とは、『完璧』の象徴だった。
数え切れない程多くの創作上のヒーローを見てきた彼は、
それらを見境なくごちゃ混ぜにした、形のない歪な粘土のような『完璧』を理想に掲げていた。
太田が自分の理想を追おうとするのは即ち、暗澹たる奈落の底を掴もうと手を伸ばすようなものだ。
無論彼の手が深淵の理想に届く事はない。
だが奈落の中に広がる濃密な、絶望的と言う名を冠した闇だけは見える。
それでもヒーローになりたいと言うのだから、始末に終えない。

ともあれ彼は少しでも理想に近付こうと思った。
いや、近付かなくてはならないと言う強迫観念に駆られていた。
その原因は先日の展覧会での事件、和明日灯が彼に突き刺した宣告だ。

『君はいつか人を殺す』

和明日灯の言葉は太田の心と共に正鵠をも射抜いていた。
事実、太田は銃弾に貫かれるのを恐れる余り、自分だけが壁の裏に隠れたのだから。

このままでは臆病で無様な自分は、誰かを死なせてしまう。殺してしまう。
けれども彼は『ヒーロー』をやめたくない。
ならば変わるしかないのだ。理想に、完璧に、歩み寄るしかない。
例えそれが茨の道の彼方にあろうと、断崖絶壁の遙か天上にあろうとも。


「復学したいです」


そんな訳でとある高校の職員室を訪れていた。
太田は自分の欠点を考えた。
太っていて、高校も出ていない引き篭もりで、オタク趣味で、臆病者で。
欠点を挙げ連ねれば限が無い。
だが太田はその無数の欠点の中から、まず『高校を卒業していない』事を選んだ。

何故なら――それが一番改善のしやすい欠点だからだ。
肥満を解消するには長期、かつ十分な運動と生活改善が必要だ。
オタク趣味は生来の性癖であり、変え難い。人間は自分を否定する事に激しい抵抗を抱くのだ。
臆病もまた然り。こちらは恐怖と相対しなければならない為、オタク趣味よりも更に苦痛だ。

要するに彼は、一番安易な選択に逃げたのだ。
誰かに頼み込み、一度為してしまえば後は流れに身を任せていける学校生活に。
一見すれば前進しているように見えて、実際太田もそう思い込んでいるからタチが悪い。

ちなみに高等学校には一応、復学の制度がある――所もある。
だがこの場では特に関係の無い事だろう。
重要なのは今日、『フラタニティ』が潜入している学校に太田空がいると言う事だ。

【復学希望を理由に学校の職員室にいます】

18 :西上十三 ◆IS/PfMJV/Q :2010/12/14(火) 02:45:24 O
僕の名前は西上十三
この物語の…いや、誰かの物語のモブの一人なのかも知れない。
正義や悪が日夜激しい戦いを繰り広げるこの街に住んでいるだけのただの一般人だ。
超常な異能も無ければ、巨大な権力も天才的な技能も無い。ただ助けられるか、無残に殺されるか
それとも何事も無いように普通に過ごすか、それしか選択肢の無いつまらない存在だ。

いや、背景なんて関係ないのかも知れない。
そんな危険な日常を切り取ったって、僕の人生に日は射すことが無い。
勉強、運動、魅力どれをとっても今一な上に、根暗で臆病者な僕は、
さも当然のごとくそういう連中にからかわれたり、女子にキモがられたりする
そんな嫌な役目を押し付けられるのが常だ。
その理不尽な道理に耐えられない僕が、次第に学校へ向かわなくなった。
当然、自主退学や留年を避ける為に、細かく日程を決めて…この臆病者め。我ながらそう思う。

そういう訳で、僕は今学校にいる。
本当は今日は休む日なのだが、流石に今日休むわけにはいかなかった。
今日は仮設学級のクラス割が発表される日だ。
もし今日休み、明日愚かしく惑、その様を笑われるような醜態を晒したくは無かったからだ。

自分のクラスを確認した僕は一目散に教室へ逃げ込んだ。どうやら席は決まっていないようだ。
真っ先に僕は廊下側にある席の1つ、『柱の影の席』を選んだ。
普通の奴なら窓側の一番後ろの席をとるだろうが、あんなに目立つ上に
僕みたいなのがあの辺に座ってしまったら、なんだかんだ暴言を吐かれるに決まっている。
だからこそ、僕みたいなのはこういう地味で目立たない場所がベストなんだ。
少しだけ心休まる場所を見つけ、ホッと一息つくと、ホームルームが始まるまで持ってきた漫画を読むことにした。

>>5
ホームルームが始まり、僕は漫画をしまい教卓へ目を向ける。
名前があやふやだが、とりあえず、顔を覚えている教師の隣に、いかにも大学生っぽい男がいる。
教育実習生なのだろうか?
>「皆さんこんにちわ。今日からしばらくのあいだみんなの副担任となる真性道程です。社会科を担当するので、楽しくやりましょう」
一瞬、頭が真っ白になった。
予想が当たったからそうなっている訳ではない。現在、黒板にその名前のインパクトに唖然としてしまった。
僕の名前も字面的にあまりいい方では無いが、あの名前…どう見ても思いつくのは所謂魔法使い予備軍
当然のようにクラス内で冷笑があがる

19 :西上十三 ◆IS/PfMJV/Q :2010/12/14(火) 02:46:52 O
真性さん、もしかしたら、僕らはお互い顔もロクに覚えられずに別れることになるかも知れないが
僕はアナタに同情する。
>>9
気まずい空気の中、自然の流れで生徒側の自己紹介が始まろうとしていた時だった。
>「はいはーい、じゃあ僕からがいいでーす!」
お前、空気嫁よ…僕はこの気まずい空気を引き裂くかのように手をあげた彼を見せ、内心そう思った。
その後、彼の自己紹介が始まったのだが…お前は何を言っているんだ。
彼の自己紹介に対し、クラスメイトのほとんどが同情の眼差しを向ける中、僕は疑いの目を向けそう感じた。
彼こと和明日は…嘘をついている。直感ではあるがそう感じた。
空気が読めないほどの行動力を持ちながら、うっとおしいほどの自己表現力、それに理由が胡散クサすぎるし
きっかけが安すぎる。いいか?プロの引き篭もりはもっと色んな感情が冷めてんだよ!!!それに…etcetc
僕は心の中でそう語りながら、彼から視線を背けた。
きっとしょうも無いかまってちゃんなのだろう。近づくとロクなことがないに決まってるし
目をつけられたら、それはそれで面倒くさいだろうから近づかないようにしよう。
和明日に対する方針を決めた後、僕は自己紹介の順番が来るまで特に何もせず過ごした。

自分の順番が来たのを確認すると僕はすぐさま立ち上がり自己紹介を始めた
「に、二年…六組…に、西上…じゅ…十三です…よろしく」
ボソりと辛うじて聞こえる程度の声量で、淡々と自己紹介をすませ、すぐさま席についた。
印象が悪かろうが、そんなのどうだっていい。どうせ明日からまた幽霊のように出たり休んだりを繰り返す
つもりでいる以上、わざわざ誰かと仲良くなろうなんて徒労以外の何物でもない。
それに僕は喋るというか、人とコミニュケーションをとるのが苦手だ。正直、さっきの自己紹介だって
断じて手を抜いたわけではない…アレが僕に出来る精一杯なんだ。理解してくれる人はいないだろうが…

20 :西上十三 ◆IS/PfMJV/Q :2010/12/14(火) 02:48:12 O
>>16
自己紹介も進み、そろそろ終りそうな雰囲気が出始めた時、事件は起こった。
というのも、何故か僕の隣の席に居るいかにも真面目そうな女子、縁間が地雷を踏みに行ったからだ。

>「……ところで真性先生。先程、先生が自己紹介をした際に皆さんが笑いましたよね。
 その理由を教えて頂けませんか?先生自身、微妙な表情をしていましたから、自覚はおありのようですし」
この女マジで言ってるのか!?僕は目を疑い、縁間に目を向ける。
普通、あの文字を読んで、頭の中で男にとって大変不名誉なワードに再変換してしまうだろ?常考
え…何?昔ながらのそういうガチガチな人なのこの人?
いや、そんなことはどうでもいい。早くなんとかしないとこのままじゃ両者の名誉が傷つくことになる。
メモを渡すか?袖を引っ張って座らせるか?お茶を濁すか?駄目だ。どれもこれもパッっとしない。
僕は一旦考え込んだ後、次の行動に出た
「い、いやぁ〜しかし、真性さんも僕以上に不名誉な名前をつけられたな〜」
声量を先ほどよりもっと絞り、隣にいる縁間が辛うじて聞こえる音声で僕は独り言を呟く
「か、関係ないけど…日本言後ってむずかしいな…と、特に同音異義語とか…」
チラチラと彼女の様子を伺いつつ、僕は独り言を続ける。
出来れば速めに気づいて、何事もなかったかのように座って欲しい。正直、そう思った。

21 :名無しになりきれ:2010/12/15(水) 21:28:44 0
hensin

22 :素人英雄 ◆SUyfUBQmw2s3 :2010/12/17(金) 01:14:32 0
僕は何処でも嫌われる。無視され蔑まれそして今日も公園で1人ぼっちだ。
でも僕は英雄になるんだ。そうすれば皆が僕を好きになってくれる。
あれから色々調べた。伊達君や、あの場所にいたみんなのこと。
僕は今、ある学校の食堂でアルバイトをしている。
凄く愛想良く振舞って頑張ってる。僕には家があるけど家賃が払えなくて
督促状が来てるんだ。
だから、英雄だけど働かなきゃならない。
「まだ仕込み出来てないの?ほんと遅いわねぇあんたぁ」

ネチネチおばさんが僕に嫌味を言う。だが僕は怒らない。
僕は英雄だから、笑顔で「少し待ってください。すみません。」と言うんだ。
食堂でサボってる学生達はみんな何処か不機嫌そうだ、でもなんか楽しそうかも。
「そういえばさぁ、あんた名前なんつったっけ?あ、真性童貞だっけ。

「黒葉さん、それは新任の教員さんでしょ。この子は違うわよ。」

「ええ、僕は素人英雄です。素に人、英雄と書いてひでおと読みます。」
僕の言葉なんてこのおばさんは聞いてなかった。
既に仕込へ戻っていってる。

殺そうかな。

【バイトで学園へ】


23 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2010/12/18(土) 03:23:14 0
>「はいはーい、じゃあ僕からがいいでーす!」

俺の質問に、真っ先に挙手したのは和明日の野郎だった。
お前かよ……なんでこいつこんなに元気一杯なんだよ。お前はもっと陰気なキャラで然るべきだろ。
と思ってたらマジで陰鬱な過去を話しだした。なんで今、そーいうこと言うかなあ!扱いづれーよ!みんなどっ引きじゃねーか。

>「伊達一樹、学年は二年。だけど、勉強とかは教えられるレベルじゃないからさ」

うーん、普通だ。普通の優等生だ。しかも俺のあんまり得意でないタイプの、リア充の資質を持つ優等生だ。
この場合の優等生ってのは頭の出来とかじゃなくて、気概。集団内で上手く人間関係を調整できる奴独特の匂いがする。
大体なー、ガチ優等生ってのは、

>「元一年五組、縁間沙羅です。元のクラスでは学級委員をしていましたが、このクラスでは特に誰がやるでもなく、曖昧のままになっています。
   真性先生、そして改めて皆さんも、短い間になるでしょうが、よろしくお願いします」

……こういう奴のことを言うんだよ。
幸い向こうは俺のことを覚えてないみたいだが(それはそれで寂しいが。数日前だぞ会ったの)、そのセメント系気質はやっぱりあのときのJKだ。
ユカリマサラちゃんっていうのか。なんかカレーに使われる香辛料みてーな名前。あるいは初代の最初の街。
どこで区切るんだろ。ユカリ・マサラちゃん?ますますインド人っぽい。出席簿には漢字が書いてあるからそれはねーと思うけど。

>「……ところで真性先生。先程、先生が自己紹介をした際に皆さんが笑いましたよね。
  その理由を教えて頂けませんか?先生自身、微妙な表情をしていましたから、自覚はおありのようですし」

ゲェー!なんつうフリしてくんだこのマサラ!このアマ天然でやってんのかそれとも嫌がらせなのかどっちだ!?
どうしよう、説明したらしたでセクハラ扱いされそうなんだけど……。
途方にくれる俺に、助け舟は思わぬ方向から差し出された。マサラちゃんの隣の男子――西上くんだったかが、フォローするように呟いたのだ。

>「い、いやぁ〜しかし、真性さんも僕以上に不名誉な名前をつけられたな〜」

それは今にも消え入りそうな、まるで隣の席のマサラちゃんにだけ聞かせるような音量。
俺の聴覚が強化されてなかったら確実に聞き流していただろう、か細い、だけど地獄に降りた蜘蛛の糸のようなお言葉。
ありがとう西上くん!よーし俺もこれに乗っかって、"真性って言葉は得てして良い意味では使われない"みたいな理由をでっちあげよう!

>「か、関係ないけど…日本言後ってむずかしいな…と、特に同音異義語とか…」

に、西上ィィィィィィィィィィ!!
それ言うたらあきまへんがな!最早真性童貞のモジり以外の説明がつきまへんがな!やっべえ、真の敵は味方の中にこそありってことか!?
ち、ちくしょう、もうどうやって誤魔化せばいいんだ……!くそう、なんでこんなことに……

「ううっ……」

涙が出てきた。
自然と頬を伝った液体に、クラス内がやにわにざわつき始める。

「げえっ!泣いてるゥー!?」
「女子高生に言葉攻めされて泣くなよ!我々の業界ではご褒美だろ!?」
「あーあー委員長が泣かしてやんのー大の大人を!」
「クソッ、泣き顔が想像以上に気持ち悪くてネタにもならねえ!」

俺は涙を拭いて、鼻をかみ、廊下のダストシュートまで紙を捨てにいって、一連の流れはどうにかうやむやになった。
マサラちゃんもいい加減空気読んでくれるだろう。

「じゃあ授業を始めます。現社ということですが、みなさん特進学級普通学級入り乱れての混成クラスなので進度や範囲も違ってくるでしょう。
 なので時事問題も絡めてちょっと今社会で起こっていることについて復習してみましょう。異能史は――資料集に載ってる年表を活用しようか」

黒板に『現代の異能とその社会的立場』と板書する。最近のチョークって粉が指に付かないようになってんのな。すげー。

「みんなの家族や友人、あるいは自分自身が異能を持っていたり、異能に関わったことがある子はどれくらい居るでしょうか。
 社会に密着しているわけでもなければ、生活の役にたっているわけでもない、ただ存在するだけの"異能"についてみんなはどれくらい知ってるかな?」

24 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2010/12/18(土) 03:23:57 0
異能の社会的特徴としては、分類分けや系統づけが難しく再現性のない能力であるということが挙げられる。
ESPやPKのように念動力や感応力などといった枠組みはないし、能力発動の形態からして同じものは二つとない。

「いわゆる超能力とかといったものよりかは、少しファンタジーな表現になるけど――魔法に近い。"異能"とは、そういう能力です」

異能は精神の具現とも揶揄される。能力者の願望や信念といった精神構造が異能の基礎を生むと言って過言ではないからだ。
大昔の軍部じゃあ、それを逆手にとって被験者の精神を弄り、意図的に都合の良い異能を生み出す実験をしてたとかなんとか。
あ、展開次第でこれ伏線になるかもだからノートはしっかりとっておくように。閑話休題。

長々と蘊蓄垂れ流して何がしたいかってえと、なんかこー異能を使った犯罪の危険さを饒舌に語った後、
「ことほど左様に異能犯罪者はとても危険なのです。――こんな風にな!バァーン」って感じに満を持して革命屋の本性を顕す展開がやりたいのだ。
悪役としての登場シーンは鮮烈でなくっちゃな。その為の前振りに労力は惜しむまいて。そんな感じで語る。弁舌滑らかに語る。

「――ことほど左様に、」

よしきた。

「異能犯罪者はとても危険なのです」

言うぞ言うぞ言うぞ。ふふふこいつら新任の教師がいきなりテロリストとして教室を占拠したらどんなリアクション返すかな!
泣きながら逃げ惑うだろうか。それとも敵愾心剥き出しで歯向かって来るかな。マサラちゃんとか正論でねじ伏せようとするかもね!
さあ、最後の一節だ。

「――こんなh」

瞬間。横殴りの風が来た。
突風は炸裂音と破砕音を伴って、教卓に荒らしを撒き散らし、不随するガラス片が俺の右半身を隈なく剣山に変える。
傷口から血が吹き出すより先に、教室に悲鳴が上がるより先に、窓から――最早窓の原型を留めていないただの穴から、無数の黒い人影。
昔見た映画の特殊部隊の潜入シーン。あれを彷彿とさせるような無駄のない動きで、武装した数人の男達が乗り込んできた。

「な、あ……」

上手く言葉が出ない。肺にガラス片が突き刺さったようだ。幸い貫通してるけど、回復まで絶望的な十数秒。
その十数秒を数えるまでもなく、男達はあっという間に生徒たちを机に伏せさせ、制圧を完了してしまっていた。
なんだこいつら。なんだこいつら。なんだこいつら。なんなんだこいつら!
そうか!其辺あたりが呼んだ増援だな!流石に6人で学校ひとつは占拠できないもんな。俺の援護に駆けつけてくれたんだろう。
それにしたって、俺まで巻き込んで派手に侵入してこなくたっていいのになあ。あくまでメーンエベンターは俺なのに!

「そ、のべぇー……」

ワイシャツの襟に仕込んである骨伝導無線機で職員室にいる其辺に文句の一つも言ってやりたい。
ようやく搾り出した恨みつらみに対する其辺の返答は、しかしいつもの余裕のある声じゃなかった。

《道程君!聞こえるか?ああいや、おそらく君のところも返事のできる状況ではないのだろうと推測する。
 その前提で話そう。単刀直入に言って、イレギュラーだ。想定外にもほどがある事態が起こった。
 君がこれを聞いているなら、おおよその事情は察しているだろうが――お互い冷静に物事を判断するため、一度言葉に出して確認しよう》

無線の向こうから聞こえてくるのは其辺の声の他に、職員室には不釣合いすぎる喧騒。
いや喧騒なんてもんじゃねえ、さっきからパンパン聞こえてるのって銃声じゃねえか!悲鳴もいくつか混じってる。
其辺は、敢えてゆっくりと。呼吸を繰り返すようにして、最悪の事態を口に出した。

《――テロリストだ。我々以外の、完全に無関係の別組織が、この学校を襲撃している》

同じ日に、同じ時間に、同じ場所を占拠せんとする2つのテロリスト組織のダブルブッキングだった。
俺は理解した。なんてこった、偶然の一致にしたって酷過ぎるタイミングだ。
なんだって今日、この時間に、この学校を占拠しようってテロ集団がこの街に2つもあるんだよ!

《山吹(娘)君に状況を探らせたところ、テロリスト集団は職員室と各寄せ集めクラスの教室に数人ずつ人員を充てている。
 道程君の担当する教室の両隣も、同じようにテロリストによって占拠されているはずだ。
 とにかく我々はこちらの状況をどうにかせねばなるまい。全てが片付いたら追って連絡する。――必ず生きてまた会おう》

25 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2010/12/18(土) 03:24:39 0
一方的に実況して、其辺は通信を切った。
そのころには俺も貫かれた肺腑の治癒が完了していて、それは丁度黒尽くめの連中が生徒達を拘束し終えるのと同時だった。
40余人の高校生達は一人一人縄のようなもので両手を戒められていた。おそらく普通の縄じゃない。余りにも拘束完了が早すぎる。

「――さて、」

襲撃者達のうち、一人だけ金髪の、見るからにボス格っぽい奴がショットガンで肩をたたきながら沈黙を破った。
黒のコンバットスーツに猛禽類のような金色の双眸が肉食っぽい印象を与える、理知的な獣性を持つ男だ。

「よっす、俺達『傾国党』!――まあ見ての通りテロリストだ!お前らよく授業中に妄想したろ?そういうのを叶えに俺達はやってきた!
 ってのは嘘でまあ、お前らを人質に身代金を請求しようと思ってさ!こんだけ入れば一人頭100万でも十分なアガリが出る。名案だろ?」

なるほど名案だ。莫大な身代金を1家庭に要求したところでタカは知れてる。各ご家庭から現実的な額を出させる薄利多売戦法か!
それにしても聞かれてもいないことをべらべらとよく喋る男だった。なんか悪役な自分に酔ってるっぽくて腹立つ。
あれ?なんで腹立ってるんだろ。同属嫌悪か?俺と同じように悪に理想を掲げるこの男を見て、俺は嫌悪感を催したのか?

「そんでさ!この案のもっとも素晴らしーいところは、これだけ人質いるんだから一人ぐらい見せしめに殺してもOKってとこなんだ。
 誰だって我が子は可愛いんだし、他人の子が一人死ねば本気で金集める気になるだろ?そんでこっちの損害はたったの40分の1!」
「たっちゃんスゲー!」
「超あたまいい!」

たっちゃん(便宜上そう呼ぶことにする)の名案に取り巻きが賛美する。俺もたっちゃんの頭弱そうな喋り方とは裏腹な狡猾さにただただ驚くばかりだ。
だけど聞き捨てならなかった。今なんて言った?生徒を一人殺してもオッケー?それってつまり、

「つーわけで今から一人死んでみそ。だーれーにーしよっかな!」

今から一人殺すってことじゃねーか!
たっちゃんはショットガンを支持棒代わりに"神様の言うとおり"を始めた、対象はもちろん、教室の隅で固まる40人の生徒達。
そして。死神の指先は、ゆっくりと一人の生徒に狙いを定めた。片手持ちなのにまったくブレない銃口の先には――西上君。

「見るからに友達いなさそーな顔してるし、問題あんめえ。ほら、クラスメイトの連中もお前が選ばれてホっとしてるぞー?」

たっちゃんは仲間に西上君を前へ引きずり出させ、その額にショットガンの銃口をピタリと押し付けた。
畜生、なんて容易く悪を実行するんだこいつは。俺はその行動力が羨ましくて、妬ましくて、反吐が出た。
俺はヴィランだ。このクラスにだってテロるつもりで潜入したのだし、教育実習生はつかの間の隠れ蓑に過ぎない。

だけど――西上君は、このクラスの生徒達は!ほんの少しの間だけど、確かに俺の教え子たちだ!
教育者として!子供の命は守らなくちゃならねえだろ――命を賭してでも!

「やめろおおおおおおおおお!!!」

俺は全身のバネで獣のように跳躍し、血潮の軌跡を撒きながらたっちゃんの構えるショットガンの銃身に喰らいついた。
一瞬遅れで発車された散弾は西上君の頬を少しだけ削り、木製の床に全弾埋まって果てた。

「うわ、なんだこいつ。あれだけの爆発まともに受けて生きてやんの、マジうける!」

たっちゃんの無慈悲な獰猛さは次の餌食を俺に選ぶ!
あいも変わらず片手持ちのショットガンが俺に向けられていた。対する俺は――腰が抜けて動けねえ!

「センセーカッコ良いね。株が下がらないうちに死んどこうぜ、グッバーイ」

まるで俺の恐怖する様をギリギリまで見ていたいかのように、引き金がゆっくりと引かれる!


【真性がテロを行おうとした瞬間、別のテロ組織が学校内を占拠。目的は生徒全員分の身代金】
【職員室ではフラタニティと銃撃戦に発展】
【テロリストは基本NPCで、学校内外を彷徨いたりしています。仕留めて情報聞き出すも可、無双ももちろん可】
【誰か真性先生を助けてあげて下さい】

26 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2010/12/19(日) 04:32:39 0
不知火重工工場地下、第一小会議室
「小会議室」と書かれているが、そこはほぼ作戦指揮と新兵器開発を同時に行う武中の個室であり
申し訳程度の対面したソファーと机が置かれている他は、彼の仕事道具が入った机や棚が部屋を占拠している

「…やはり、早々たやすくはいかない、か」
そう言って、武中は今さっき送られてきたウィリアムが表舞台から行方をくらまし、完全に所在がわからなくなっている旨が書かれた電報を、机の中に畳んで入れる
「大丈夫、ハイメタルボーガーの強さは十二分に敵もわかったはずだ。早々迂闊には仕掛けてこないよ」
多少苛立たしげな武中に、ソファーに腰掛けたスーツ姿の男が言った
70代前半の顔つきで、しっかりとした大人の雰囲気を出しているその男の口調は柔らかく
まるで『悔やむな、君はよくやっているじゃないか』と友人が友人を励ましているようである
「恐縮です…」
その言葉に、武中は恥ずかしげに軽く男から視線をそらすが、すぐに再び男の目を見ると、真剣な口調で語りだした
「博士が唱えた『サムシンググレートの介入理論』が信憑性を帯びた事により、政府はこれから更にこの都市に目を向けてくるでしょう
いや、政府じゃない、このまま博士の理論が信憑性を増していけば、やがて世界がこの都市に注目していく事になってくる

…『「何者か」、「何か」あるいは「世界自体」が人間に何らかの方法で人間に働きかけて異能を一箇所に集め、更に「異能者がその異能を行使しやすい環境」を作っている。そして、その結果として強力な異能者がこの都市では次々と出現している』
私自身、最初に聞いた際は余りにも突拍子も無い話に、正直この理論が正しいとは思えなかった
しかし、常識で考えればどう考えても危険な場所に、平然と…まるで集団自殺するねずみのように集まってくる市民を見た時、私は確信しましたよ
「この都市には確実に『異能に殺されるための人間』が存在している」と」
「たったそれだけではまだそう確定つけるのは良くないぞ、武中君
提唱した私自身でさえも、この理論を疑っている程だ」
語気が荒いできた武中に、黒スーツの博士はそう言ってたしなめた
それに対し武中は再び恥ずかしげな表情になり、「軽率でした」と黒スーツに謝る
「重要なのは、現在この都市がこれまで以上に危険な状態にある、と言う事だ
…先ほどの理論に当てはめると、異能者の進化は「第二段階にある」と言った所だろう
それで、それに対して応戦するためにこんな一異能研究者と会話している余裕の無いはずの君が
一体何用で私を読んだんだね?」
武中を皮肉るというより、武中に呼ばれた事を光栄に思っているような口ぶりで語る男に、武中は俯いて返答する
「先程の理論にこの都市を当てはめた時、私はわからなくなりました」
「……どういう事だい?」
「もし、先程の理論が正しく、因果律を操れる何者かがいて、異能を進化させるために…『話をおもしろくするために』様々な異能者や、それの犠牲者を集めているとしましょう
犠牲者は即ち、「ヒーローを作るための道具」であり、「ヒーローが彼等を守るという戦う理由を作り、ヴィランと戦わせるため」に犠牲者達は存在している
もし犠牲者がいなければ、ヒーローは戦う理由が無い、ヴィラン同士で殺しあうだけでは、何か「異能が進化」…いや進化が目的ではないかもしれないから「何らかの目的」としましょう、その「何らかの目的」に都合が悪い
だからヒーローがヴィランと戦うために犠牲者はいる
そして、「警察」では歯が立たないから「ヒーロー」が戦う
「警察」が強ければ、ヒーローは出る幕が無いからだ
即ち、力さえ持っていれば異能を管理できる機関である警察の…政府の力ではヴィランに太刀打ちできないから、ヒーローが戦う
全てがヒーローがヴィランと戦うという構図を作るために動いている

……だとしたら、我々不知火重工…いや、「警察」に力を与えて、異能を管理し、平和を築こうとしている私のしている事はどうなるか…」
「当然、何者か…何か…世界自体……この場では「サムシンググレート」と呼ぼうか、それにしてみれば、こんなに邪魔な物は無いだろうな」
「……なら、ならば、そうならばいいんです!例えサムシンググレートが如何なる妨害をしてきても私は応戦する!
しかし…さいしょから私が介入する事すら仕組まれていたとしたら…」

27 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2010/12/19(日) 04:36:40 0
「武中君」
「パワードスーツの登場が、ヴィランを抑えるのではなく、逆効果で促進させてしまったとしたら」
「武中君!」
「我々が単なる「噛ませ犬」としてこの場に連れて来られているのだとしたら!」
「おい!」

「……私はパイロットに…私を信じてくれている者達を…いたずらに死地に追いやっている事になる……」
「パンドラの箱の中に最後に残ったのは前知ではない!人の手で未来を変えられると言う希望だ!」

涙を流しながら一気に語った武中に、黒スーツは力強く言った
その言葉に、武中は呆然となっている
「もし私の理論が正しいのなら、君が何かしなくても、しても、サムシンググレートの目的は達成されるだろう
しかし、『自分の意思で抗おうとする』事はできる

……武中君、君は私にこう言ってもらいたいだけなのだろう
…辛かったろうな、武中文雄
何の能力も持たない者達を守るために、一方的に力を行使する存在が現れないようにするために
犠牲に目を瞑って人殺しの道具を作っていくのは
苦しかったろうな、武中文雄
手段を選ばない事を手段に選んでしまい、後悔と自責の日々を送ったのは
だが、お前が手を汚したおかげで、お前の後ろを大勢の人間が手を血に染めずに歩いて行けるようになるだろうよ
お前が踏んだ汚い物を、踏まずに歩いて行けるだろうよ
お前が信じたものはお前の努力に応じて帰ってくる

武中、進め、今お前は確実に、自分の手で「異能」と戦っている
「異能のある無しに関わらず、正しい者が勝つ世界」を作るためにお前は戦っている
サムシンググレート何かにお前は負けない
アイアンジョーカーもライドシステムもきっとお前と一緒に戦ってくれる!
お前は一人じゃない、お前の苦しみをわかってくれる共に戦う仲間もいる
そしてそれは彼等だけでもないだろう

正義は勝つ、お前達が勝たせる

頑張れ、武中、私の教え子」
号泣する武中の肩を抱いて、黒スーツはそう言った
武中は涙を拭いて、男に敬礼する
「ありがとう、早田さん」
「最後まで諦めず、不可能を可能にするんだ、武中」
恩師と教え子、二人が固い握手を交わしたその時
非常事態を告げるサイレンが工場内に鳴り響いた

『ポイントX−22にて学校ジャック発生!警察からハイメタルボーガーに出動要請有!
関係者は直ちに所定の位置についてください!繰り返します…』

完全に涙を消した武中は、早田に深く頭を下げた
「街」の力の前に、巨大な力の影を見たような気がして恐れを抱いてしまった自分を再び奮い立たせてくれた恩師に、深く深く頭を下げた
恩師は、微笑んで頷くと、彼を外へと送り出す


それと同時に、第二の警報が鳴り響いた

28 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2010/12/19(日) 04:50:50 0
市庁舎、前
市庁舎防衛の任務についているメタトルーパーのバルカンから発せられる凄まじい銃声が複数響き渡り
市庁舎目指して前進する刺々しく禍々しい炎の様な外装を持つ紫と緑色のメタリックなパワードスーツを蜂の巣にせんとする
が、弾丸はことごとく怪アーマーの前で静止し、砂の様にバラバラに砕け散ってしまう
怪アーマーは防衛のメタトルーパー隊へ後30m程のところまで迫ると、おもむろに片手をメタトルーパー達の方へ向けてきた
何かさせまいと必死に発砲するメタトルーパー隊だが、弾丸は相変わらず標的に到達する前に消滅してしまう
やがて怪アーマーが腕を一振りすると、怪アーマーの前方の空間が蜃気楼の様にぐにゃりとねじれ、それに触れた弾丸が消滅する
更に蜃気楼の様なゆがみはかなりの速度で一気にメタトルーパー隊を包み、バズーカーでも壊れないメタトルーパーをあっという間に全機完全にバラバラにし
更に蜃気楼はメタトルーパーだった物の場所にとどまり、そのパーツを更に細かく…砂の様になるまで分解した後、消滅した

メタトルーパーを簡単に一蹴した怪アーマーは、おもむろに視線を別方向に移した
「ひっ…」
腰を抜かし、動けなくなっていた運の悪い女性の市庁舎職員が、怪アーマーと視線が合い、思わず悲鳴を上げる
怪アーマーは彼女の方に無慈悲に片手を上げてみせ…
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」

29 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI :2010/12/22(水) 02:13:13 0
和明日は甚く満悦の様子だった。
彼の語った嘘八百の作り話は生徒達に感心を、同情を、或いはどん引きの感情を与えた。
彼はこのまま「薄暗い過去を乗り越えた明朗な青年」を演じ続ける。
そうすればいざテロを起こした時、彼は大いなる裏切りが出来るのだ。
積み上げられた感情に悪意の槌を叩き込み、完膚無きまでに瓦解させる。
高い所から落ちれば痛い。それは心だって同じだ。

(うーん、今から楽しみだなぁ)

秘めた悪意を暴露した時、仮初の同級生達は果たしてどんな顔をするか。
楽しみであり、待ち遠しくもあり、和明日は児童のように、にこにこと笑っていた。

>「――ことほど左様に、」
>「異能犯罪者はとても危険なのです」

しかし彼の表情は、真性の語りが進むに連れて急変する。
眉を潜めて目を細め、口を半開きにして、呆れと訝しみが和明日の表情を支配している。

(って、えー……。まさかもうやらかしちゃうの?まだ教師として何もしてないじゃんかー。
 もっとこう、生徒達が全信頼を寄せてくれるようにしてさぁ。それから裏切るとかしようよ、ねぇ?)

作戦を完全に度外視した愚痴を、和明日は心中で零した。
ともあれ仕方なく、彼に合わせて名乗りをあげるつもりで、彼は机に両手をつく。

>「――こんなh」

真性の声を掻き消して、爆音が響いた。
ガラス片を孕んだ爆風が真性を喰らい、走り去る。
突然の事について行けず、ひとまず和明日は視線を右に滑らせた。
教室の隅に、針山に成り果てた真性が転がっている。
瀕死の魚よろしく口を開閉させているので、どうやらまだ生きているようだ。

「ぐえっ」

と、そうしている内に和明日は背後から机に叩き伏せられてしまった。
机で頬を強打して呻き声を漏らした彼は、むくれた表情を浮かべながら、しかしそのまま大人しくなった。

>《――テロリストだ。我々以外の、完全に無関係の別組織が、この学校を襲撃している》

ごねて我侭を言って借りた無線機から其辺の声が伝わる。
どうやら先の爆発に乗じて、全く別のテロリストが闖入してきたらしい。
真性を目で追っていた和明日は気付くのが遅れたが、既に教室は彼らに制圧されていた。
それどころか生徒達は次々に、縄のような物で拘束され、教室の片隅に追いやられている。
>「よっす、俺達『傾国党』!――まあ見ての通りテロリストだ!お前らよく授業中に妄想したろ?そういうのを叶えに俺達はやってきた!
 ってのは嘘でまあ、お前らを人質に身代金を請求しようと思ってさ!こんだけ入れば一人頭100万でも十分なアガリが出る。名案だろ?」
>「そんでさ!この案のもっとも素晴らしーいところは、これだけ人質いるんだから一人ぐらい見せしめに殺してもOKってとこなんだ。
 誰だって我が子は可愛いんだし、他人の子が一人死ねば本気で金集める気になるだろ?そんでこっちの損害はたったの40分の1!」
>「つーわけで今から一人死んでみそ。だーれーにーしよっかな!」
>「見るからに友達いなさそーな顔してるし、問題あんめえ。ほら、クラスメイトの連中もお前が選ばれてホっとしてるぞー?」

(えぇー。だからさぁ、なんで皆そうやって安易に殺したがるのかなぁ。人命は大切なんだよ?
 もっと大事に使わなくちゃ。例えば交渉が一時間遅れる毎にあの西上君とやらの
 目とか耳とか指を切り落とすとかさぁ。これなら40/40の利益が得られるだろうに、頭悪いなぁ)

拘束され自由を奪われて尚、和明日灯は脳内で愚痴を零していた。
先ほど真性に向けた呆然の表情を浮かべて、たっちゃんの生温い悪を非難する。

30 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI:2010/12/22(水) 02:13:59 0
(あーあつまんない。って言うか真性せんせーは一体全体何を……)

和明日の目線が再び、教室の隅に転がっているだろう真性へと流れる。

>「やめろおおおおおおおおお!!!」

だが直後、叫び声が響いた。
放った雄叫びに追い縋って、真性道程が散弾銃に跳び掛かる。
銃口の向く先が微かに逸れて、同時に銃口が咆哮を上げた。
撃ち出された散弾は西上の頬を掠め、木製の床を抉るのみに留まる。

(……へぇ、いいねいいね。それだよ!裏切るならそうやって如何にも先生っぽい事してからじゃないとね!
 今のは生徒達のポイント高かったんじゃない?これは僕も負けてらんないよ!)

楽しげな笑顔を浮かべ、和明日は出し抜けに立ち上がった。

(引き篭もりだった生徒が新たな先生とクラスメートの為に悪に立ち向かう。
 感涙物だねーこれは。この上で実は僕もテロリストでしたーなんて言ったら、
 きっと皆すっごい失望するだろうなぁ。楽しみだなぁー)

にやけた笑いを浮かべたまま、和明日は一歩踏み出す。
けれども何を血迷ったのか、彼はそこで一旦立ち止まる。

(んー、でも待てよ?ここで敢えて真性せんせーには死んでもらっても良いかもしれないなぁ。
 そしたらきっと彼は生徒達の心の中で美化される。
 その後で実は彼はテロリストだったんだよと明かしたら……面白そうだなぁ)

へらりと笑みを歪曲させて、和明日は弓なりになった双眸で真性を見遣った。

(……っと、いけないいけない。そういや彼らには危害を加えないって約束したっけ。
 まあ殺すのは僕じゃなくてたっちゃんだから、厳密には約束を破る事にはならないけど……。
 友達だし、見殺しにするのは忍びないよね。そういやどんな体現をするか考えてないや。
 ここはしっかり考えとかないと能力発動すら出来ないからなぁ。不便だよまったく。即応性に欠けるって言うの?
 ともあれショボめの能力に見せかけるのがいいよね。その方が後でえげつない事した方が栄えるしさ。
 って言うか真性せんせーがピンチじゃん。あーでも大分のんびり考え込んじゃったし、間に合うかなぁ)

まぁいいや、と和明日は呟く。
そして一度目を瞑り、嫌らしい笑みを瞬く間に霧散させた。
代わりに瞳に陽光の輝きを宿し、気概の炎を燃やす。

「やめろ!僕の先生に手を出すな!僕のクラスメートも、先生も、僕が守ってみせるんだ!もう二度と手放すもんか!」

和明日は高らかに、善意と決意の叫びを上げる。
彼が体現するのは弱々しい、申し訳程度の力ない異能。
非力な者が断固たる意志を以って誰かを守ろうとする姿は、きっと美しい。
だからこそ皆に感動を与えられる。裏切った時、どうしようもない落胆を味わわせられる。

「これでも、くらええええええええええ!!」

金属化させた上腕を振り被って、和明日はたっちゃんへと字面通りの鉄拳を放った。

【和明日の体現したもの→弱っちい異能【四肢の先端金属化】
 たっちゃんに殴りかかったけど間に合わないから、誰か助けてあげてね】

31 :火野赤也 ◇a3GgzP5j4k:2010/12/23(木) 22:30:17 0
「ぬあああああ!わっかんねー!」

火野赤也は頭を抱えていた
彼は今、職員室のデスクでパソコンのディスプレイと睨み合いをしている

「数学のテストなんざ生まれてこの方作った事ねえよ!てゆーかサインコサインの次って何だっけ!?」

疎開で減ったのは生徒だけではない
治安の悪化により犯罪に巻き込まれる事を恐れた教師達も、この都市を離れていった
全員ではないにしてもやはり人員の減少は手痛い
その皺寄せとして彼、火野赤也は体育教師でありながら数学のテストの作成を強いられていた

「体育館が恋しい……。日がな一日延々とシャトルランしていたい……」

郷愁に駆られた視線で、赤也は窓の外に見える体育館を眺めた

「……って、何だありゃ?」

ふと、赤也は窓に何かが張り付いている事に気付いた
虫や葉っぱではない。小さな長方形をしているが、張り紙でもなさそうだ

「んー?」

机から身を乗り出し目を凝らして、赤也はそれが何かを見極めようとする
――直後に、爆発が起きた
轟々しい爆音を伴って、窓が跡形もなく粉砕する
赤也の細めた目のすぐ横を、ガラスの破片が突き抜けていった
彼は知る由もないが、彼が凝視していたのは指向性の付加されたセムテックス爆弾。コンクリートの壁さえ粉砕出来る爆薬だった

「う、うおぉ!?なんだあ!?」

一拍遅れて、赤也は反射的に机の下に飛び込んだ
僅かに遅れて、先程よりも大分小さな、しかし鋭い破裂音が響く
赤也の背後に佇む資料棚が破壊音の悲鳴を上げて、血の代わりに白いプリントを撒き散らす
一体何がどうなっているのか。ほんの少しだけ、赤也は机から顔を覗かせた
風通しのとても良くなった窓から男が何人も入り込んでいる
赤也が映画でしか見た事のない銃を携えて我鳴る不審者達は
自らをテロリスト、「傾国党」と名乗った
そして再び、痛烈な発砲音が鳴り始める

「おいおいマジかよ!つーか銃怖えなクソ……って、あー!俺の作りかけのテスト消し飛んでじゃねえか!」

怒声と悲鳴の中間の叫び声を上げながらも、彼は周囲の状況を確認する
教師達は皆、机の下で頭を庇うように蹲って震えていた
何やら復学したいとここを訪れていた青年も、無事そうだ
赤也は安堵の溜息を零し――だが不意に、一際大きな発砲音が聞こえた
ただ大きいのではない。近いのだ
まさか机を乗り越えて撃ちに来たのかと、赤也は弾かれたように音の聞こえた方へと振り向く

32 :火野赤也 ◇a3GgzP5j4k:2010/12/23(木) 22:31:21 0
「……うそぉん!其辺先生銃持ってるし!?」

其辺はリボルバー式の拳銃でテロリスト達に応戦していた
拳銃、日本国内で一般人が所持し、あまつさえ使用する事は確実な違法行為だ
なのだが――

「あれはアレか?最近の不審者対応用って奴か?やっべいつ配られた!?まったく覚えてねえ!」

赤也は最近著しい治安の悪化によって配られた物なのだと、勝手に納得していた
何と言っても、彼は馬鹿なのだ
教員試験の為に必死こいて受験勉強をして、それでも落ちる一歩手前だったくらいには馬鹿だ

「どうすっかなぁ、この状況。俺、銃とか持ってねーしなぁ」

ともあれ赤也は馬鹿なりに、馬鹿な頭で現状打破の術を考える
だが考えても考えても、これだと言う名案は浮かんでこない
当たり前だ。何と言っても彼は馬鹿なのだから、浮かぶ訳がない

「……まぁ、やるしかねえ!そもそも銃なんか持ってても撃てねーし!」

そして赤也は馬鹿であるが故に、何かを思い付いたらそこで思考を放棄してしまうのだ
彼は思い切った行動に出た。射撃音の間隙を縫って立ち上がり、机を飛び越える

「うりゃあああああああああ!!」

そして着地の慣性を乗せて、そのまま木材の床に拳を振り下ろした
瞬間、打撃音と共に茶色の粉塵が舞い上がる
粉塵は瞬く間に拡散して、赤也の身体を覆い隠した
テロリスト達は一瞬驚愕する。だが粉塵の幕の範囲は大して広くない
我武者羅にでも撃てば当たると再び銃を構え、

「撃つなよ!粉塵爆発で吹っ飛ぶからな!」

咄嗟に投げかけられた声に、再度躊躇を抱いてしまった
ほぼ同時、粉塵の半球が破ける
纏わり付く粉で跳躍の軌跡を描いて、赤也が飛び出していた
向かいの机に足をかけ、彼は拳を固めてテロリストに跳びかかる
切迫の表情と共に、慌ててテロリストの一人が彼に銃を向けた

33 :火野赤也 ◇a3GgzP5j4k:2010/12/23(木) 22:33:08 0
「んな訳ねーだろバーカ!いや実はちょっと不安だったけど!
 俺化学の成績十段階で二だったし!まあ結果オーライ!」

だが遅い。引き金が引かれるよりも先に、赤也が右拳を振り下ろす
堅固な拳骨は彼に向けられた銃身を捉え――派手な破壊音と共に全壊した

これが彼の異能――【粉砕】(ブレイク)だ
至って単純な、『打撃を加えた物を粉砕する』だけの能力
彼が始めに繰り出した煙幕は、床の木材を粉砕して舞い上げたと言う訳だ

「そしてぇえええええ!喰らいやがれッ!!」

続けざまに赤也は吼える
銃を粉砕し着地すると同時に足首を、膝を、腰を捻じり、左拳を下から上へ振り抜いた
固い拳は過たずテロリストの顎を捉える
そしてそのまま粉々に――はしなかった
テロリストは両足が床から離れ、そのまま後ろへと吹っ飛んで倒れ込む
それだけだった

「どうだ痛ってえだろ!撃たれたらもっと痛えんだぞ!いや俺撃たれた事ねーけど多分!」

赤也の【粉砕】はとても単純な能力だ
故に馬鹿な彼にでも程度の調節は容易い
全力で打ち込めば粉微塵にしてしまう事も出来、
逆に程度を抑えれば『粉砕』ではなく『破壊』
また『破壊』にすら至らない程度のダメージを与える事も出来る

「ともあれよぉー!何でこんな真似したのか、とっちめて生徒指導室で洗い浚い吐かせてやらあ!
 ついでに反省文も400字詰めで十枚は書かせてやるから覚悟しやがれ!」

【床の木材を粉塵にして目眩ましに、その隙にテロリストの懐へ
 赤也はまだ彼らが生徒達を人質に取ったり、身代金目的だって事は知りません】

34 :伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY :2010/12/25(土) 21:37:52 0
真性先生による異能のお勉強の時間、伊達一樹は机に突っ伏して眠っていた。
と言うのもつい数分前、縁間の問い掛けに困窮した真性先生がまさかの涙を零した。
その間抜けさたるや伊達にはとても付いて行けず、気の緩んだ彼は呆れの溜息と共に机に頭を預けたのだった。

瞼を閉ざした暗闇の中、真性先生の声も段々と薄れ、遠ざかっていく。
だが唐突に、けたたましい爆音が伊達の鼓膜を乱暴に殴り付けた。
不意の出来事に、伊達は慌て身を起こす。
暫く光を拒んでいた視界は僅かに白んでいた。
それでも跡形もなく吹き飛んだ窓は日常から逸脱した異彩を放っていて、否が応でも目に映った。
一体何が起きたのか。しかし伊達の思考が十分な回転を得る前に、

「ぐっ……!?」

突然、彼の身体が上から押さえ付けられた。
驚愕に支配されていた彼は突然の圧力に逆らえず、顎を机で強打する。
頭が物理的な意味で上がらない。
何とか横目で見る事の出来る教室の前方では、教壇の位置に真性先生ではなく散弾銃を持った黒尽くめの男が立っていた。
真性先生の姿は、制圧され制限された伊達の視界では、認める事が出来なかった。

>「よっす、俺達『傾国党』!――まあ見ての通りテロリストだ!お前らよく授業中に妄想したろ?そういうのを叶えに俺達はやってきた!
 ってのは嘘でまあ、お前らを人質に身代金を請求しようと思ってさ!こんだけ入れば一人頭100万でも十分なアガリが出る。名案だろ?」

男は自らを『傾国党』――テロリストと名乗った。
彼らは伊達を含む生徒達を鮮やか極まる手際で拘束し、教室の片隅へと追い遣った。
そして身代金の収集を潤滑に行うべく、今から生徒の中から一人見せしめを作ると言い出す。
選ばれたのは、西上十三。定期的に学校を休む、誰とも喋らない、何となく陰気な雰囲気を臭わせる男だ。
為されるがままに、思考の纏まらず伊達が呆然としている内に、事は粛々と進んでいった。
たっちゃんと呼ばれていた男が、西上に片手持ちの散弾銃を突き付ける。
引き金に、指が掛けられた。

>「やめろおおおおおおおおお!!!」

銃声の代わりに響いたのは、決死の叫び声。
視界の外から血塗れになった真性先生が、血飛沫の道を残して散弾銃に跳び付いていた。
それを契機にして、伊達の思考はようやく現実に追い付く。
遅れを取っていた分だけ、加速して。

その急加速した思考で、伊達一樹は考える。

――自分は正義のヒーローがしたい訳じゃない。
単に自分に親しい人、自分が知っている人、自分の世界を守りたいだけだ。
だが、だとしたら――西田十三は果たして『自分の世界』に含まれるのだろうか。
クラスメートとは言え引き篭もりで、学校は休みがち、陰鬱な雰囲気のする男だ。
言葉を交わした回数など、数える程どころか覚えてすらいない。
それでも、クラスメートだ。

真性先生はどうだろうか。
ほんの数十分前にこの教室にやってくるまで、彼は赤の他人だった。
そして数週間か、或いは数ヶ月もすれば居なくなって、偶然でも起こらない限りは二度と会う事もない。
けれども彼は西田十三を、自分の受け持った生徒を確かに守った。
命を懸けて。

彼らは自分が守りたいと思っている親しい人、知人に当たるのだろうか。
違うのだとしたら、そこには一体どんな線引きがあるのか。

考えれば考えるほど、そこにある筈の境界線は磨耗して、曖昧になっていく。
手の平に収まると思っていた彼の世界は際限なく、宛ら宇宙のように膨張していった。

35 :伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY :2010/12/25(土) 21:38:58 0
(……それでも、それでも僕はこの状況下で、ヒーローとして名乗り出るような真似は出来ない。絶対にだ)

正体がバレてしまえば、自分ではなく自分の周りの人達に危険が及ぶ。
脅迫、人質、逆恨み、理不尽な悪意の矛先が、母や友人へと向けられる。
それだけは絶対に避けなければならない事だった。
守りたい人達を、自分の行動の為に危険に晒しては本末転倒だ。

>「やめろ!僕の先生に手を出すな!僕のクラスメートも、先生も、僕が守ってみせるんだ!もう二度と手放すもんか!」

故に伊達一樹は決して、この状況で前に踊り出て、テロリスト達に挑んでいくような真似は出来ない。
和明日のようには、出来ない。

(だけど……だからと言って、西上や真性先生を見捨てていい訳じゃない。いや……見捨てたくない。
 彼らは僕にとって親しい人でも、知人でもないかもしれないけど。それでも、目の前で人が死ぬのは、見たくない)

結局、伊達は自分の世界に線引きする事が出来なかった。
代わりに目の前で人が死のうとしていると言う事実に目を向ける。
現実から逃避するのではなく、彼は現実に逃避した。

(決して正体は明かさない。クラスメートと先生を守る。僕は……どっちも成し遂げてみせる)

決して止まる事無く切迫する現実に追われていれば、考える事を放棄出来るから。
そして彼は真性先生に突き付けられた散弾銃に、金属性の細い細い糸を飛ばす。
それを銃身に絡めて引く事で狙いを逸らすつもりなのだ。
その後で能力を解除すれば、残る物は証拠の代わりに違和感のみとなる。


【正体は明かさない。その上で皆を守ると決意。散弾銃の銃身を細い糸で逸らす。
 時に素人英雄さん。今回のレスの通り、伊達は悪党の逆恨みとかで自分の家族や友人が危険に晒される事を忌避しています
 だから正体は絶対に明かしませんし、ヒーローも伊達名義でやっちゃいません。なので伊達について調べて学校に来た
 ってのは無かった事にしてください。素人にとんでもねー情報収集能力があるってなら話は別ですけど】


36 :素人英雄 ◆SUyfUBQmw2s3 :2010/12/25(土) 21:55:02 0
【伊達くん、分かったよ。任せて】

37 :素人英雄 ◆SUyfUBQmw2s3 :2010/12/25(土) 22:04:27 0
「な、何よあんたっ!?ぎゃわー!痛い、痛いわ!!」

「トメ子さん、だ、誰か助けてぇー!!」

おばさん達が襲われている。
なんかテロリストみたいな人達が学校を占拠しているらしい。
傾国党、って言ってる。見るからにクズのような男がライフルを手に
こっちへ近付いてきた。やだなぁ、僕。ただのバイトで来ただけなのに。

「おいそこのおかっぱ頭、てめぇ何見てんだ?こっち来いこら」

ヘラヘラ笑ってる。こんなクズにも彼女みたいなのがいて
毎日楽しく話してるなんて考えると本当に許せない。
こいつは悪党だから、どうせそんな奴を好きになる女なんてゴミに決まってる。

「僕は、無関係だから。邪魔しないでくれるかな。
まだ仕込み終わってないし。」

男の腹に氷柱が突き刺さる。悲鳴を上げる隙さえ与えずその氷は
男の全身を氷漬けにした。
そのまま天井まで持ち上げられたゴミは、厨房のオブジェになった。

「僕はゴミクズだけど、英雄になろうと思うんだ。
君達ただのゴミと一緒にしないで欲しいな。」

迫ってくるテロリストに僕は、少しだけ興奮していた。

38 :太田空 ◇maQY4WLalU:2010/12/27(月) 21:18:04 0
>「……って、何だありゃ?」

復学についての資料に目を通している最中、不意に聞こえた疑問の声に太田は思わずそちらを向いた。
人の疎らになった職員室では、調子外れな疑問の声はとても大きく聞こえた。
振り向いた先には職員室だと言うのに赤いジャージを来た教師が、窓の方を眺めている。
釣られて太田も、窓へと視線を滑らせた。
見てみれば何か小さな長方形の物が、窓に張り付いている。
一体何なのか、太田は更にそれを凝視する。
ベージュを更に白で薄めた色合いの、粘土のような――

「――っ、まさか……!?」

長方形の正体を思考する途中、太田の意識は最悪の予想に達する。
まずあり得ない。学校の窓に、まさか『そんな物』が貼り付けられているだなんて。
それでも、太田は必死の形相で頭を抱えて床に伏せていた。
直後に、爆音が響き渡る。
爆風でデスクの上の物が散乱する音が、疎らな悲鳴が、太田の視界の外から聞こえてくる。
窓に付着していたのはセムテックス爆薬、またはC4爆弾と呼ばれる物だった。
太田が事前に伏せる事が出来たのは、彼のオタク趣味が故だ。

「な……なんであんな物が学校に……!一体、誰が……!?」

引き攣った声色で零れた疑問は、答えは直後に得られた。
相変わらず床に蹲って震えている太田の視野の外から、乱暴な声が聞こえる。
ガラスと瓦礫を踏み散らかす音と共に『傾国党』が名乗りを上げた。
間隙を置かず、乾いた発砲音が幾つも響く。

「ひぃ、ひぃぃ……!」

来客用のソファの下で頭を抱えて、太田は惨めに臆病に震えていた。
何とかしなければと、立派なヒーローになるんだろうと、考えはするが、足が竦んで身体が震えて動けない。
C4爆薬はコンクリートの壁だって容易く粉砕する。
そんな物を持っている相手に挑んで、もしも失敗してしまったら。
ただでさえここには粘土に出来る物が床の木材程度しか無いと言うのに。
木材では例え装甲を作って身に纏っても、銃弾さえ防げるか怪しい。
或いは材質が木であっても分厚く作れば問題なく銃弾を防げるかもしれない。
だがそこに『死』の可能性がある時点で、最早太田は完全に萎縮してしまっていた。
床に這いつくばって、目を閉ざして、彼は仮初の暗闇に閉じ篭る。
それでも音ばかりは、防ぎようがない。
どれだけ強く耳を塞いでも、悍ましい銃声と悲鳴は手の平をすり抜けて、彼の耳孔に潜り込む。

39 :太田空 ◇maQY4WLalU:2010/12/27(月) 21:19:08 0
>「うりゃあああああああああ!!」

突如として響いた、爆炎のような大声も。
悲鳴でも悪辣な笑い声でもない声に、思わず太田は顔を上げた。
直後に目に映ったのは、身を隠してくれるデスクの陰から飛び出す、赤ジャージの男。
男は固く握った拳を床に叩き付ける。瞬間、茶色の粉塵が舞い上がった。
粉塵に身を隠して、男はテロリスト達の懐深くにまで飛び込む。
銃を恐れる事もなく、テロリストの一人を殴り倒した。
更には全員をとっちめてやるとまで叫び出す。
男の行為はどうしようもなく蛮勇だった。

それでも、ヒーローになるなどと言っておきながら、怯え竦んで身を隠している太田よりは遥かに立派だった。

「僕は……何をやってるんだ……っ!」

こんな事でいいのか。良い筈がない。太田空は自問自答する。
恐怖に震える右手で、何とか彼は床を掴んだ。
異能を発動して、木材を粘土状に変化させる。
震えが止まらないままの手付きで、彼は粘土を造形する。
何とか自分が撃たれないように。それでも皆を守り、テロリストを倒せるように。
本来ならば彼は立ち上がり、表立って、身を挺してテロリストの注意を引くべきだった。
それがヒーローらしい、最良の行動と言う物だ。だが彼には出来なかった。
それでも何とかヒーローになりたくて、誰かを守りたくて、そしてヒーローになろうとしている自分を守りたくて、彼はなけなしの勇気を振り絞る。

「念動細工……『遠隔戦車』《モダンウォーフェア》」

彼は木材を捏ねて造形した戦車を、ガラス製のテーブルを鏡面代わりにして操作した。
そしてテロリストに向けて砲弾を発射する。
砲弾は木製だが粘土化させてある。着弾すればテロリストに付着して、自由を奪う事だろう。

40 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2010/12/31(金) 03:24:21 O
驚いた。まさか真性先生が泣いてしまわれるとは夢にも思わなかった。
どうやら私は先生の悲しみの傷跡に触れてしまったらしい。
無自覚のまま、不躾な言葉で。酷い事をしてしまった。
大の大人が涙を堪え切れない程だ。きっと、とても重苦しい何かがあったに違いない。
だと言うのに私は……。
深く頭を下げて詫びをしようとした所で、隣の席の女子が私を制した。
曰く「もういいから。ほっといてあげた方がいいよ」らしい。周囲の何人かも深く頷いて賛同の意を示す。
確かにそうかもしれない。今はこれ以上何を言っても、傷口を抉るだけになってしまうだろう。
なので私は、いずれ機を改めて謝る事にした。

ともあれ授業が始まった。内容は近代から現代に掛けての異能について。
異能者である私としては、おさらいに近い授業だった。
異能は精神の具現と言われる。
ならば私の異能《ワードワールド》は、私のどんな心根を表現しているのだろうか。
真性先生の声が僅かに遠のいて、私は思索の海に意識を揺蕩わせる。
私が異能に目覚めた時の事は、良く覚えている。忘れもしない、あの日の出来事だ。
だがあの時私は何を思って、この異能に目覚めたのか。それを私は明確に理解していない。
自分の事でありながら、私は私の心を理解出来ていないのだ。
それはつまり、自分を御し切れないと言う事に繋がる。
いい機会だ。これを機に、自分を見つめ直すのも悪くない。
つい漫然と過ごしがちになる日々の中で、自分が一体何を望んでいるのかを。

けれどもそれは叶わなかった。
突然の爆音、壁が砕け散り瓦礫とガラスが床に散らばり、真性先生が視界から消える。
テロリストを名乗る集団が教室に押し入ってきた。
不意を突かれた事と奴らの勢いが相まって、私は何も出来ぬまま拘束され、クラスメートと共に教室の片隅へと追い遣られてしまった。
雑木林の様相で並ぶ机と椅子の足の向こうに、真性先生が転がっている。
微かな鉄の臭いが鼻腔を刺す。血の気が引いた。意識が眩み、心の臓が氷の模造品に挿げ替えられた錯覚さえ覚える。
冷たい血液を全身に送り出す心臓が喧しく、馬群の足音を奏でている。

41 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2010/12/31(金) 03:25:39 O
違うだろう、縁間沙羅。お前が今すべき事は呆然に因われる事じゃない。
お前の異能なら死の淵にいるかもしれない真性先生の手を掴む事が出来る。
見せしめと引き摺り出された西上先輩だって守れる。
教室を占拠している犯罪者共を床に縫い付ける事だって出来る。
なのに何故お前は驚愕に、呆然に溺れている。
考えろ。口を動かせ。頭を動かせ。何よりもまず捩じ伏せるべきは私自身の弱い心だ!

>「やめろおおおおおおおおお!!!」

「っ……!」

教室に反響した決死の叫び声が、私の意識を泥濘から即座に引き上げる。
声の主は、真性先生。彼は生きていた。
それどころか血塗れになりながらも勇猛果敢に犯罪者へ飛び掛かり、西上君を救ってさえみせた。
だが今度は先生が、銃口の先に捉えられてしまう。

>「やめろ!僕の先生に手を出すな!僕のクラスメートも、先生も、僕が守ってみせるんだ!もう二度と手放すもんか!」

再び、気概に満ちた声が響く。
真性先生を追うように立ち上がったのは、和明日君だった。
拘束を断ち切った彼の両腕は、先端部が金属の光沢を放っている。
彼も異能者だったのか。しかし、そんな異能で奴ら犯罪者共に立ち向かうのは自殺行為だ。
もしも金属化出来ていない胸や腹を撃たれてしまったら、死んでしまう。
それに流れ弾や脅しの弾丸が誰かに当たってしまったら、どうすると言うのだ。
しかし今、彼の無謀と非を心中で責めても仕方がない。
私が今すべきなのは、テロリストを屈服させる事ではない。
最も優先すべきは、真性先生を、和明日君を、皆を傷付けさせない事だ。

『差し込む陽光は加護の証。鎧となり、壁となり、門となり、悪しき殺意を塞き止めよ』

小さく小さく、私は呟いた。
だが見ていろ犯罪者共。皆の安全が確保されたのなら、
私がすべきは今度こそお前達を叩き伏せる事になるのだから。

【味方グループに防御力アップの魔法、みたいな感じです。光だし不可視って事にしといて下さい】

42 :西上十三 ◇IS/PfMJV/Q :2011/01/06(木) 21:41:22 0
結局、彼女が公の場でそのことに触れた時点で結果は決まっていたのかも知れない。
壇上で涙を流す真性さんを見ながら僕はそう思った。
しかし、大の大人が泣いたんだ。彼女も何が悪かったのか…気づいていないのですか?
何が悪かったのか理解していなさそうな縁間の表情を見て、僕は戦慄を感じた。
再度、思考する。原因を教えるべきか否か…教える?ありえんwww
そんなセクハラまがいな真似をしてみろ?普通にキモがられるだろうが
しかし、教えなければ彼女はまた暴走するんじゃないか?そんな不安が過ぎる。
大丈夫!多分、その辺のことにちょっと詳しい女友達が親切に教えてくれるさ、きっと

とそんなことを考えていると、なんとか立ち直った真性さんが授業を始める。

授業の内容というより掴みの話題は「現代の異能とその社会的立場」についてだった。
異能者の社会的な扱いとその影響力、危険性について話すが、そんな厨二チックなスキルを持たない僕には
どーでもいい話にしか聞こえなかったりした。

そんな風にボーっとしていた次の瞬間、弾けるように窓ガラスが割れ
間もなく特殊部隊っぽい奴らが乗り込む、教室を制圧する。
気がつけば、僕らは拘束され、教室の隅に集められていた。
まるでアクション映画のオープニングだ。
お客様の中にやたらと口が悪い刑事か元軍人の料理人はいませんか?
関係者でもかまいませんと冗談を言っている場合じゃない。
というか、よくこんなときにそんなくだらない事を考えるものだ。

テロリスト雄弁に自分らの自己紹介と目的を話し…殺す?
え…こういうのって生意気な口達者で出しゃばりな奴が殺されるのがお約束じゃないの?
やめろよ!そんな適当な選び方なんてするなよ!!!それじゃ…それじゃ僕が

>「見るからに友達いなさそーな顔してるし、問題あんめえ。ほら、クラスメイトの連中もお前が選ばれてホっとしてるぞー?」
頭が真っ白になった。
さっきまでの僕ならそんな理由で選んぶんじゃねぇーよDQNが!!!と心の中で絶叫していただろうが
実際にここまで乱雑な死刑宣告でも、乱雑だからこそ、精神的にキているのかもしれない。
力が入らない。まるである漫画の1シーンのように世界が歪む。
どうしようもない脱力感と立ち上がる気力さえもなくなるほどの絶望感が圧し掛かる。
気がつけば、僕の目の前にはショットガンの銃口がある。
「夢だ…これは、悪い夢なんだ…」
涙を流し、うわ言のようにそう呟く、夢なんかじゃない。これは現実
ここまで来て、正気を失わない自分に嫌気がさす。いっそ狂えたならまだ楽に死ねれるのに
引き金に掛かる指に力が入っていくのが分かる。
さぁ死ぬぞ。脳漿を思い切りぶちまけ、こんなクズに人生を否定されるぞ

>「やめろおおおおおおおおお!!!」
真性さんの決死の行動により、頭を貫くはずの銃弾は僕のほほを掠り、床へのめり込んだ。
しかし、僕はそれを認識できるような状況じゃなかった。
極限の精神状態の中で、耳元で大音量の炸裂音を聞かされたせいで、ちょっとした放心状態になってしまった。

43 :日沼 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/01/07(金) 04:59:46 0
「悪いな早速仕事だ
ちょっと教務室を制圧している連中がてこずっている
お前が行ってどうにかしてきてくれないか?」

パソコンが置かれ、数名のテロリストがたむろする廊下
傾国党が「指揮所」としたその廊下で
他のテロリスト達から距離をとって…いや取られてぽつんと一人、離れた所にじっと立っている男に、テロリストの輪の中から声がかかった
声をかけられた男は、不気味なオーラを纏い、死んだ目をした改造人間、日沼
声をかけたのは、にこにこと優しげな笑みを浮かべる「リーダー」
他のテロリスト…生身に近い異能者達は日沼に声がかかっただけでびくりと反応し、表情が若干変わる程にこの男を恐れているのに対し
この「リーダー」は全く日沼に対し恐れている様子は無い

「…了解」

ぼそりと日沼は返答すると、片手を上に挙げた
すると、どこからとも無くぬるぬると粘液質な巨大な生き物が現れ、日沼の後ろに付き従う
「出た…」
テロリストの一人が、思わず恐怖を含んだ声でぼそりと呟いた


教務室のドアを押しつぶし、巨大な粘液質の怪物、「クニクライ」が教務室内に侵入する
クニクライはドアのすぐ近くに立っていた女性教員に素早く触手を口から放ち、まるでカメレオンが蝿を捕食するようにあっという間に彼女を口の中に引き込んだ
テロリストが火野によって倒され、今やっと混乱から立ち直ろうとしていた彼女は、状況を理解する間も無くクニクライの歯に噛み砕かれ、悲鳴も上げられずに捕食されてしまった
更にクニクライは教務室の入口を完全に塞ぎ、逃げ場の無くなった教員達に次々と触手を伸ばし、捕らえていく

日沼は、そのすぐ後ろの廊下でただじっと、もう一つの出口、教務室から続いている校長室の出入り口目掛けて手にしたマシンガンを構えていた
歩兵の持つどんな武器を用いても、クニクライが倒される事は無い
ならば、特にクニクライに命令を下す必要など、日沼には無いからだ
何故なら、クニクライには既に「攻撃してはいけない味方」をインプットしてある、「制圧しろ」といわれたのだから、別名が無ければ勝手に「攻撃してはいけない味方以外の生物」を根こそぎ食い尽くすクニクライに任せておけば、自動的に制圧は終わる

44 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/07(金) 06:36:11 0
>「やめろ!僕の先生に手を出すな!僕のクラスメートも、先生も、僕が守ってみせるんだ!もう二度と手放すもんか!」

ええー、お前かよ……。
たっちゃんによって死の淵に追い立てられた俺を救いに来たのは、よりにもよって和明日だった。
しかも前回あれだけ無双しといて、今出してるのは申し訳程度のしょっぼい異能。
体の一部の金属化という、非常に使いどころのニッチな能力で、たっちゃん以下テロリスト各位に殴りかかる。

>「これでも、くらええええええええええ!!」

すげえ良い顔。お前誰だよ。
わかってやってるのか和明日の奇襲はやっぱり駄目で、他のテロリストに阻まれる。
たっちゃんはガン無視で俺に向けたショットガンの引き金を引いた。
腹の中身をまるごと抉り出されるかと思うほどの銃声。放たれた弾丸は、だけれど俺の顔面を蜂の巣に変えることはなかった。

「あーりゃっりゃ。弾ブレた?さっきしがみつかれたので銃身曲がったんかな。命拾いしたねーセンセ!」

たっちゃんは無表情でそう言いながら、言葉尻に力を入れてショットガンで俺を殴った。
顔面を鉄の銃身でぶっとばされた俺はたまらず床を転がり、痛みで涙が出るのをこらえる。
ちくしょう、なんで俺こんな目に遭ってんだろう。こいつら一体なんなんだ。いやテロリストってのは分かってるけど。

さて俺とたっちゃんが二人の世界を破局した頃、果敢にもテロリストにケンカ売った和明日はボコられていた。

「なんだこいつ、腕がメタルになるだけかよ!」
「しょっぺー!そんなんで俺たちとやり合おうとしてたの?超ウケるんですけど。チョベリバって感じー」
「さよなら三角またきて四角ーってなあ〜!」

もうこっちがドン引きするぐらいフルボッコだった。なのに、殴られてる和明日には傷ひとつついてない。
びっくりするほど無傷だった。目を凝らせば、和明日は殴られてるちゃあ殴られてるんだけど拳が深く入ってなかった。
どういうことかって言うと、なんかこう、透明の全身タイツを着込んでいて、それが決定打を阻害してる感じ。
ポケモンで言うならリフレクターだ。そういえば俺も、おもいっきり殴られたわりにそんなに痛みが後引かない。

さっきの不自然な銃の逸れ方と言い、もしかして生徒の中で和明日みたいに異能を持ってる子がまだいるのか?
そんで秘密裏に、俺たちを護ってくれてる?
……だとしたら、こんなに嬉しいことはない。ようやく教師と生徒という信頼関係の、スタート地点に立てた気分だ。
この教室のどこかに、俺を気にかけてくれる生徒がいる。それだけで、――『センセイ』やるには十分だ。

この教室を占拠しているテロリストの頭目は目下のところたっちゃん一人。
あとはたっちゃんの取り巻きばっかで、頭目の指示に従ってこいつらは動いている。
ってことはすなわちたっちゃんさえどうにかできれば、この教室の制圧権を奪取すること自体は容易い!

45 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/07(金) 06:36:53 0
「センセ、余計なこと考えるなよー?この40人のうち誰か一人を人質として狙い定めてある。
 ババなしババ抜きじゃないけどさあ、こういうの緊迫感あるだろ?だって誰が狙われてるのかわかんないんだもんなぁぁぁ!」

くっそう、たっちゃんテンション上がってる。今にも二三人ぶち殺しそうな雰囲気だ。
どうしよう。身体強化されてる俺は撃たれても死にはしないが、流れ弾が怖い。生徒達は生身だ。
ちょっと会話を試みる。

「……人質交換しようぜたっちゃん。俺が人質になるから生徒達には手を出さないでくれよ」
「んー?いやいや、センセを人質にとってどうすんの。生徒の命が危ういからこそ身代金に価値が出るんだっつの」
「お、俺の親は金持ちなんだぞ!4000万くらいポンと出してくれるもんね!」
「当人の与り知らないところでそんな安請け合いしてさあ、親に申し訳ないと思わないのセンセ?4000万てアンタの金じゃないのよ?」
「…………ううっ」

説教された!テロリストに説教された!どうしよう死のうかな!?
あとごめん嘘言った。別に親金持ちでもなんでもねーや。わたくしごく一般的な中流家庭の生まれでしてよ。
いよいよ情けなくなってきた。ふがいねえ、この教室での被害者サイドでは唯一の大人なのに。泣けてくるね。

「……なんでアンタが泣いてんの?センセー」

ていうか泣いた。男泣きに泣いた。
感動的なシーンだと自負していたけど、たっちゃんの反応はあからさまにドン引きだった。

「しかしあの鋼鉄君みたいに、このクラスにもちらほら異能者がいるみたいだねえ。
 そこで俺っちがいいこと思いついちゃった。ヘイ高島カモン」

高島と呼ばれた背の高い陰気な男がたっちゃんの傍へと招かれた。

「俺たちもさあ、同じ異能者をいじめたくはないんだよね。だってある意味俺たち選民じゃん?異能者だぜ。パンピーとは違うべきだ。
 そ・こ・で!このクラスの中に居る異能者諸君にチャンスをあげたいと思いまっす。
 この高島は念動力の応用で気流を制御できる、言ってみれば風を操る異能者だ。能力バトルでこいつを負かしたらこっから逃したげる」

何人でもいいからかかって来なさい。たっちゃんはそう補足して言葉を締めくくった。
俺は開いた口が塞がらなかった。いきなり意味不明なこと言われて面食らったわけじゃない。
むしろ俺はたっちゃんの意図を把握していた。これは罠だ。絶望的な状況でわざと希望をちらつかせて。
万が一にでも抵抗の可能性のある異能者を釣り上げ叩き潰す為の、餌に過ぎない。
だけれど俺には生徒の中に潜む異能者へ忠告することはできなかった。『下手な動きを見せれば人質を殺す』。これテロの鉄則。
誰かは知らないけど和明日じゃない方の異能者君。頼むから黙っててくれよ……!


【テロリストからのお知らせ:異能者出てこいよ能力バトルしようぜ!】
【職員室パートも近日書きます】

46 :名無しになりきれ:2011/01/08(土) 04:15:07 0
パラダイムボトル!――形状『保守《スレッドキーパー》』

47 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/08(土) 05:31:34 0
尖兵として送り込んだのち、襲撃してきたテロリストの情報を共有した真性道程との通信を終えて。
其辺忠年は伏せていた机から身を起こす。職員室に攻めこんできたテロリストは数人。ほぼ全員が制圧されていた。
其辺自身が倒したのは僅かに一人きり。あとは同僚の教師・火野と復学申請にやってきた太田という生徒によるものだ。
二人は異能者。物体を粉砕する干渉系の能力を持つ火野と、同じく物体の硬度を司る太田。奇しくも対照的な構成である。

塑性爆弾によって横壁に大穴穿たれた職員室は、その内部もまた爆心地のように荒地と化していた。
乱雑に転がる破壊された机、無事ななど壁一面もなく、その全てが抉れるか銃弾を無数に埋められている。
火野のまき散らした粉塵で最悪の視界の中、立っている者は二人の教師と一人の生徒、そして唯一のテロリスト。
足元には逃げ遅れた同僚の、物言わぬ亡骸が転がっていた。ついさっきまで隣で小テストの採点をしていた教師。
歳不相応に広かった額には大きな穴が空き、そこから脳漿を垂れ流している。その光景を、其辺は別段珍しくもないといった様子で断じた。
道程君ならば泣くのだろうな、と心のなかで補足して。

(人の職場で随分と、好き勝手してくれる)

憤りではなく、純粋な感慨として、そう心に吐き捨てた。
もとよりこの職場で好き勝手するつもりだったのは他でもない自分たちなのだが、後手に回った後悔だけがある。

>「ともあれよぉー!何でこんな真似したのか、とっちめて生徒指導室で洗い浚い吐かせてやらあ!
  ついでに反省文も400字詰めで十枚は書かせてやるから覚悟しやがれ!」

「何でって言われても、僕達ここに乗り込んだ時点で説明したはずだけどなあ。聞いてなかったのかい?
 身代金が欲しいだけさ。大人に抵抗されるとアレだから、ここを先に制圧しとこうと思ったんだけどねー」

生き残ったただ一人のテロリストが、倒れる仲間に一瞥もくれず、油を差したようによく回る舌で言った。
なるほど合理的である。昨今の学校やそれに準ずる中高生の集まる場所には、異能者を対象にした制圧訓練を職員に課す場合もある。
其辺とて学年主任として対異能者戦闘訓練を積んでいるし、同じく轡を揃える火野もまた相応の技術を持っている。
彼については自身が異能者なので、来るべく革命のため異能を秘匿している其辺とは違うカリキュラムを修めているが。

「しっかしジリ貧だなあ。どーしよ。まさか教員どころか生徒まで積極的にバトルしにくるとは思わなんだし。
 やっだねーこの展開。かませ丸出しじゃないか。どうだいそこのオタクっぽい君、今からでも僕達に加担しない?」

テロリストは太田に寝返りを求め、拒絶されると大して期待してなかったとでも言いたげに矛を収めた。
肩を竦め、やれやれと首を振る。嫌な余裕だ。壊滅寸前のこの状況を、ゲームの縛りプレイのように楽しんでいる。

「まあいいや。教室のほうはたっちゃんが上手くやってるでしょ。あっ、たっちゃんっていうのは僕の親友でさー」
「余談が過ぎるな。もうちょっとサクサク話を進めて欲しいのだが」
「あっはー、ゴメンゴメン時間稼ぎなのこれ。悪いけどもうちょっと付き合って欲しいな。そろそろ――」

ずもっ。と、深く深くくぐもった冒涜的な音を立てながら、何かが職員室の出入口を埋めた。
斜陽を翳らせ、巨大な影が室内に落ちる。見れば、そこにいたのは形容しがたい肉塊だった。
ぶよぶよとした薄い肌色の肉の塊に、十字に開いた大きな紫色の唇がついていて、そこから歯が覗いている。
歯。獣臭を漂わせる口に並ぶのは、牙ではない。人間と同じ歯だった。生理的嫌悪を突き詰めた究極体。

「――さとっちゃんの援軍がくる時間だからね!というわけで今週のゲスト〜、怪物のクニクライ君だよ!
 僕らは親しみをこめてクニっちゃんって呼んでるから、みんなもそう呼んであげてね」
「なるほど。さとっちゃんというのは?」
「クニっちゃんのご主人だね。彼は人間なんだけど、んー、どっちかっていうとグロメンのクニっちゃんのが友好的かなー」
「……友好的というのは、捕食的な意味でか」
「あはー、上手いこと言うね!大正解!そんじゃせーぜーモンスターと異能バトルしてくれよなっ!」


【クニクライを火野と太田にけしかえる】

48 :名無しになりきれ:2011/01/08(土) 12:20:28 0
もえ

49 :名無しになりきれ:2011/01/08(土) 12:45:33 0
変身!V3ァァァァア!!


50 :名無しになりきれ:2011/01/08(土) 21:53:32 0
保守

51 :名無しになりきれ:2011/01/08(土) 23:29:17 0
「守れ!スレを守るんだーー!!」
パーン
タタタタタタ
バキューンバキューン

52 :名無しになりきれ:2011/01/08(土) 23:50:38 0
「俺、このスレを守りきったらROMやめてコテとしてこのスレに参加するんだ……」


53 :名無しになりきれ:2011/01/09(日) 04:59:42 P
ライダーーーーーキィーーーーック!!

54 :名無しになりきれ:2011/01/09(日) 05:00:03 0
保守

55 :名無しになりきれ:2011/01/09(日) 05:04:20 0


56 :名無しになりきれ:2011/01/09(日) 07:02:22 0
とう!

57 :名無しになりきれ:2011/01/09(日) 23:53:09 0
いきなりで失礼 このままだと危なそうなので…
現在残り40スレ
…なんと言うことだ…なな板を完全に殲滅する気だぞあの野郎…


58 :火野赤也 ◆a3GgzP5j4k :2011/01/10(月) 15:32:16 0
>「何でって言われても、僕達ここに乗り込んだ時点で説明したはずだけどなあ。聞いてなかったのかい?
> 身代金が欲しいだけさ。大人に抵抗されるとアレだから、ここを先に制圧しとこうと思ったんだけどねー」

「聞いてなかったな!!んで、えーと……身代金だとお!?じゃあ教室がヤベーってのか!」

赤也は馬鹿を丸出しにしつつ拳を握った
教室には生徒達がいる。生徒達に危機が迫っている
ならばここでテロリストの相手をしている場合ではない
と、これらはテロリストが全部説明してくれた事だ
なのだが、赤也は回転の遅い脳味噌でわざわざ後追い理解した

>「まあいいや。教室のほうはたっちゃんが上手くやってるでしょ。あっ、たっちゃんっていうのは僕の親友でさー」
>「あっはー、ゴメンゴメン時間稼ぎなのこれ。悪いけどもうちょっと付き合って欲しいな。そろそろ――」

「うるせー!俺はこれ以上テメーの相手をしてる暇はねーんだよ!くらいやが……」

異能を秘めた拳を振り上げて、赤也は体勢を深く落とした
一旦デスクの影に身を隠し、拳を振り上げてデスクを破壊
そして殴り飛ばした破片を牽制に距離を詰め、殴り倒す
と言うのが赤也の作戦だった

だが不意に彼の背後で、不快にくぐもった音が響いた
生理的な嫌悪感を誘われて、彼は咄嗟に拳を止めてしゃがみ込む
振り返ってみると、職員室の出入口が巨大な何かに防がれていた


59 :火野赤也 ◆a3GgzP5j4k :2011/01/10(月) 15:36:05 0
「おいおい、何だありゃあ……」

まじまじとその『何か』を見つめて、赤也は呆然と呟いた
彼の肌と殆ど同じ色合いの巨大な肉の塊に、取って付けたような紫色の十字型をした唇
下品に蠢く唇の隙間からは、人間と同じ歯が覗いている
中途半端に人間の面影を感じさせる故に、
『何か』は悍ましい嫌悪感を振り撒いていた

>「――さとっちゃんの援軍がくる時間だからね!というわけで今週のゲスト〜、怪物のクニクライ君だよ!
> 僕らは親しみをこめてクニっちゃんって呼んでるから、みんなもそう呼んであげてね」

「……ご丁寧にどーも。だけどよお!残念ながらウチの学校は関係者以外正面玄関からの立ち入りは禁止なんだよ!
 と言う訳でさっさと出直してきやがれこの野郎!!あ、あと其辺先生そこのラスト一人お願いしますね!!」

しれっと最後の一人を其辺に押し付けて、赤也はデスクの陰から飛び出す
デスクを破壊して破片をクニクライに向けて吹っ飛ばし、一足飛びに距離を詰めた

「喰らいやがれってんだ!【粉砕】(ブレイク)!!」

クニクライは人間に似た雰囲気を漂わせている
だが赤也は特に深い事を考えるでもなく、単に気持ち悪い化物と判断したらしい
全力全開の異能を篭めて、赤也はクニクライに拳を放つ

肩越しに弧を描く大振りの拳は見事にクニクライに命中した
分厚い肉の壁が抉り飛ばされて、粉微塵になって職員室の壁を汚す

「ざまあみやがれ!なんだよ見かけ倒しじゃねーか……
 って、えぇえええええ!?ちょ、おま、再生するなんて聞いてねーぞ!」

【粉砕】によって削れた肉は、しかし徐々に再生しつつあった
赤也が驚いている間にも、クニクライの抉れた部分は隆起していく
数十秒もしない内に、クニクライは元通りの姿を取り戻していた

「うえぇ……こりゃちょっと俺の手には負えねーぜ!正直俺ぶん殴って駄目だったら手詰まりだし!?」

紫色の唇から伸ばされた触手を素早く殴って断絶させつつ、赤也は逃げ回る

「だぁあちょっとタンマ!作戦タイム……って通じる訳ねえよなぁ!
 ちょっとそこの青少年君よ!何か名案ねーかなあ!?もしくは助けて下さいお願いします!!」

猪めいた勢いはそのままに、けれども赤也はとんでもなく情けないヘルプコールを上げた

【ぶん殴ったけど再生されちまうぜ!?名案と救いの手が必要だぜ!?】


60 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E:2011/01/10(月) 16:08:28 0
>「なんだこいつ、腕がメタルになるだけかよ!」
>「しょっぺー!そんなんで俺たちとやり合おうとしてたの?超ウケるんですけど。チョベリバって感じー」
>「さよなら三角またきて四角ーってなあ〜!」

勇猛果敢にも犯罪者共に挑んだ和明日君が、袋叩きにされている。
私の異能が多少は防御になっていたとしても、悪辣で無遠慮な犯罪者共の手足は彼に痛みを刻み込むだろう。
何度も何度も、執拗に。
だと言うのに私は、何も出来ない。私の異能は発動に、言葉と想像を伴う。
そして言葉と想像と言うのは、相互に関係があるのだ。
腑抜けた声色で頑張れと言われても却って気が抜けてしまうように。
聞き取られまいと押し殺した声では、十分な効力は望めない。一度失敗してしまったら、その時は終わりだ。

>「センセ、余計なこと考えるなよー?この40人のうち誰か一人を人質として狙い定めてある。
> ババなしババ抜きじゃないけどさあ、こういうの緊迫感あるだろ?だって誰が狙われてるのかわかんないんだもんなぁぁぁ!」

私が殺されるならまだしもだ。もしも私のせいで他の誰かが殺されてしまったら、そんな事には耐えられない。
私の背中に一生降ろす事に出来ない罪が縫い付けられるなど、あってはならないのだ。
今は沈黙を守り続けるしかない。思考を絶やさず、好機を待つんだ。
このまま犯罪者の好き放題にさせておくのもまた、あってはならない事なのだから。

>「俺たちもさあ、同じ異能者をいじめたくはないんだよね。だってある意味俺たち選民じゃん?異能者だぜ。パンピーとは違うべきだ。
>そ・こ・で!このクラスの中に居る異能者諸君にチャンスをあげたいと思いまっす。
>この高島は念動力の応用で気流を制御できる、言ってみれば風を操る異能者だ。能力バトルでこいつを負かしたらこっから逃したげる」

突然、犯罪者共のリーダー格めいた男が提案を始めた。甘言のつもりか。
どの口がそのような戯言をほざくのだ。
もしお前の言葉が本心ならば、まずは未だ続いている和明日君への暴行を止めるのが筋だろう。
そもそも私達は人質であり、虐めるも何も、身代金と交換に解放される身だ。
奴らが元から私達を生かして帰すつもりはなかったのだと言うのなら、話は別だが……とにかく。
これは紛れもなく好機だ。動きを封じた私達に、わざわざ動く機会をくれると言うのだから。
浅知恵だ。反旗を翻す者は、こんな機会を与えずともいずれ動く。結局同じ事だ。
ならばわざわざ好条件を与える必要などない。ただ見張りを厳重にすればいいものを。
いや、もうよそう。犯罪の段階や手腕など、考えるだけ無駄だ。
今はただ、この好機に飛び乗る事だけを考えればいいのだ。

「……私が、挑戦します」

立ち上がりざまに私は一言、皆に言葉を残す。逃げて下さい、と。
完全に立ち上がると、大きく一歩前に歩み出た。釣れたと言わんばかりの悪辣な笑みが、犯罪者の顔に滲む。
心臓の鼓動に不愉快な雑音が交じる。馬鹿馬鹿しい、策を弄するなら最後まで徹底しろ。

「ロープはこのままで結構です。丁度いいですから……私の方も、能力を明かしておきますね?
 私だけがその人の能力を知っていては、不公平ですから」

このようにだ。知っておきたいだろう。私がどんな異能を持っているのか。
異能者が誰かなのかだけではなく、どんな能力を持っているのかも分かれば、より確実にこの教室を支配出来る。
お前達がちらつかせた甘い餌をそのまま返してやろうじゃないか。生真面目で融通の利かない、馬鹿な生徒として。

「えっと……私の能力は説明するのが難しいので、一度使ってみせます。見てて下さい」

小さく咳払いする。わざわざ存分に声を張り上げられる状況を用意してくれたのだ。
全力で、異能を披露してやる。

『貴様達は五体は愚か魂さえも拭い難い罪に染まり切っている!自らの罪の重さを知れ!そして傅き、平伏すのだ!!』

【なんかもう毎度お馴染みの重圧攻撃です】

61 :石原 ◆bTpJe3giiIE2 :2011/01/11(火) 14:56:35 0
>>28
市長室で国からの重要提案を読んでいた石原に緊急警報が入る。

≪市長、市庁舎に外部からの侵入者です!!相手は強力な武器を所持し――≫

警報は細切れのようになり、やがて完全に遮断される。
異常な事態に石原は本棚の裏の非常用ボタンを作動させる。
石原の足元には緊急装着用のマーク2アーマーが現われ全身を包んでいく。

「マイケル、現状を把握したい。至急モニターに市庁舎の現状を映してくれ。
そのままモニターを頼む。いいな?」

『了解です。現時点で正体不明のメタルアーマーの存在を確認、一般人に向け
発砲しています。メタトルーパーが応戦中ですが、劣勢です。』

その時、正面の監視モニターからメタトルーパーの1部隊が消失する。
やがて硝煙の中からメタルアーマーと腰を抜かした女性職員の対峙した
姿が現われる。

>「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」

女性職員の目を、銀色の左腕が遮る。
そしてメタルアーマーの攻撃を跳ね返すと右腕の光線、リパルサーで相手を牽制する。
銀と赤のアイアンアーマー。それが女性職員の身を守った。
「自分の部下を守るのは上司の役目だ。さぁ、君の目的と正体を教えて貰おうか?」

それは石原が装着した、アイアンジョーカーマークUだった。

【アイアンジョーカーマークUを装着し応戦、遅れて申し訳ありません】

62 :伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY :2011/01/13(木) 00:27:15 0
銃身に異能の金属糸を引っ掛けた。後は引っ張るだけだ。
だが引き過ぎてはテロリストに悟られてしまう。
力が弱すぎては、今度は狙いを逸らせない。
失敗すれば真性先生が撃たれる。被害が先生だけに留まらない可能性だってある。
糸を握る手応えは重い。
呼吸を止めて、テロリストの人差し指の動きを凝視して、一息に糸を引いた。
直後に、銃声。

>「あーりゃっりゃ。弾ブレた?さっきしがみつかれたので銃身曲がったんかな。命拾いしたねーセンセ!」

吐き出された散弾は真性先生の背後、教室の壁に埋まって沈黙した。
逸らせた。外れた。気付かれてはいない。
理解して、伊達は止めていた息を深く、押し殺しながら吐き出す。
失念していた呼吸を再開して整えながら、異能の糸を分解した。

(何とかなった……けど、このままじゃどうしようもない。
 僕の異能は複数の属性を操れる代わりに、出力が低い。今までは漠然としか分かってなかったけど、
 ここ数日ヒーローの真似事をして都市中を駆け回って、それが具体的に分かってきた)

彼の異能は単一の属性では、人を戦闘不能にする事はまず出来ない。
異能を持たない武装しただけの犯罪者が相手でも、
戦闘不能にするには二つ以上の属性を組み合わせて攻撃しなければならない。
相手が強力な異能者や強化人間である場合は、三つ以上必要になる。

伊達の扱える属性全部を使っても、この場にいる全員を倒せはしない。
加えて全属性を同時に使ってしまったら、再使用が可能になるまでの
十数秒間、彼は何も出来なくなってしまう。
自分を守る事も、他の誰かを守る事も。

(……何を考えてんだ僕は。そもそも誰にもバレずにそんな事、出来っこないじゃないか)

思考が巡るに連れて下を向いていた視線を前に戻す。
勇んで前に出た和明日は袋叩きにされていた。
だが伊達には、彼を助ける事も出来ない。
銃口を逸らすくらいならまだしも、
殴る蹴るをしているテロリストを気付かれずどうにかするなんて、土台無理だ。

(このまま……大人しくしていた方がいい。和明日君だったか、
 彼も殺されるまではしないだろう。玩具にされてるなら、まだ運がいいよ)

静かに、緩やかに、伊達はこの状況の打破を諦めつつあった。
一人見せしめを出すと言う当初の案は、ごたついている内に流れたようだ。
下手を打ってテロリスト達を逆上させなければ、誰かが犠牲になる事はない。
身代金の百万は言うまでもなく大金だが、それでも取り返しのつく損失だ。
人は死んでしまったら、もう取り返しはつかないのだ。二度と戻らない。
テロリスト達に好き放題させるのは気分のいい事ではないし、出来るなら捕らえるべきだ。
けれどもその為に誰かの命を危険に晒すなんて出来る筈がないし、したくもない。
故に伊達は、大人しく押し黙る。


63 :伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY :2011/01/13(木) 00:28:30 0
>「俺たちもさあ、同じ異能者をいじめたくはないんだよね。だってある意味俺たち選民じゃん?異能者だぜ。パンピーとは違うべきだ。
> そ・こ・で!このクラスの中に居る異能者諸君にチャンスをあげたいと思いまっす。
> この高島は念動力の応用で気流を制御できる、言ってみれば風を操る異能者だ。能力バトルでこいつを負かしたらこっから逃したげる」

だと言うのに、テロリスト達の主犯格たっちゃんが唐突に提案を始めた。
この状況においては、千載一遇の好機。
しかし――やはり伊達には名乗り出る事は出来ない。
素顔も本名も明け透けな今の状態で異能を振るって、
それで万一自分がバスタードだとバレてしまったらどうしようもない。
そもそもたっちゃんの提示した条件さえ、本当に守られるかは怪しいのだ。

>「……私が、挑戦します」

そう考えていた為に、テロリストの提案に乗る声が聞こえた時、伊達は思わず顔を上げた。
驚愕を隠せない表情で、立ち上がった生徒の顔を覗き見る。
縁間沙羅、この仮設クラスで初めて知った程度の、付き合いの浅い人間だ。
それでも、彼女は常日頃から持ち前の聡明さと厳格さを余さず見せていた。
その彼女がこんな荒唐無稽な提案に乗るのかと、伊達は狼狽する。
だが違った。彼女は立ち上がる際に一言、逃げて下さいと言い残した。

(……彼女は、何かをしでかすつもりだ……!なんて無茶な……)

止められない。今更止めても、彼女が何かをしようとしたとテロリスト達に悟られるだけだ。
だからと言って、彼女をむざむざ危険に晒していいのか。
ならばどうする。異能を携えて自分も前に踊り出るのか。
自分がヒーローだと露呈すれば、家族や友人に危険が及ぶかも知れないのに。
心臓が高鳴って全身に悪寒を運ぶ。息が詰まる。
葛藤の末に結論は見えない。なのに縁間は一歩、また一歩と歩み出ていく。
思考に費やしていい時間は、足音と共に空中に霧散する。決断を迫られる。

>『貴様達は五体は愚か魂さえも拭い難い罪に染まり切っている!自らの罪の重さを知れ!そして傅き、平伏すのだ!!』

(この異能は……もしかして!)

見覚えのある力と、聞き覚えのある凛とした声色だった。
だが今はそれを意識している場合ではない。
もう決断しなければならない。時間をただ思考のみで浪費してはならない。
拳を握り締め、歯を食い縛り、伊達は勢い良く立ち上がった。

「……っ、助けを呼んでくる!だから……死なないでいてくれよ!」

教室のドアまで駆けながら、振り向いて叫び懇願する。
スライド式のドアを叩き開けて、伊達は逃げ出した。
逃げ去り際、一部の生徒が逃げるのではなく、
体勢を崩したテロリストに組み付いている姿が見えた。
良心が腐った果実に成り果てたように疼いたが、それでも彼は教室から逃げた。
ポケットに仕舞い込んだ折り畳んだ学帽を握り締めて。

【逃げました。観客がいなきゃつまんないかなと、何人かの生徒は残ったって事にしました。
 どれくらいの生徒が逃げて、残ったのかは好きに決めて下さい】

64 :太田空 ◆W58VPkJLyOJ8 :2011/01/14(金) 22:51:00 0
粘土化した木材でテロリスト達を壁や床に拘束して、太田は深く息を吐いた。
胸に手を当てて、暴れ回る心臓を静まるように命じる。
彼の意思に反して、鼓動はなかなか速度を落とそうとしない。
ひとまず彼は立ち上がった。
状況が落ち着いて、いつまでも床に伏せているのが惨めに感じるだけの余裕を取り戻したのだ。

>「何でって言われても、僕達ここに乗り込んだ時点で説明したはずだけどなあ。聞いてなかったのかい?
 身代金が欲しいだけさ。大人に抵抗されるとアレだから、ここを先に制圧しとこうと思ったんだけどねー」

立ち上がった直後に視界の外から声が聞こえて、太田は思わず体をビクつかせた。
鏡で確認し切れなかった死角にもう一人、残っていたらしい。
とは言え、所詮は一人だ。こちらには自分以外にも、赤いジャージの教師らしい男がいる。
ここから大逆転を食わされるなんて事は、あり得ない。

>「しっかしジリ貧だなあ。どーしよ。まさか教員どころか生徒まで積極的にバトルしにくるとは思わなんだし。
 やっだねーこの展開。かませ丸出しじゃないか。どうだいそこのオタクっぽい君、今からでも僕達に加担しない?」

だと言うのに一人残されたテロリストは、悪意を潤滑油に滑らかな語り口を披露する。
不遜に、尊大に、太田を仲間に誘いすらした。
声に含まれた悪意が耳から忍び込んで、脳髄に浸透する。
心の萎縮が禁じ得なかった。状況は間違いなく優勢なのに、負ける筈がないのに。
怖いのだ。悪が、人を傷つけ罪を犯す事を全く厭わない存在そのものが。
落ち着きかけていた心臓が再び動悸を荒げ始める。伴って、呼吸も乱れた。

>「まあいいや。教室のほうはたっちゃんが上手くやってるでしょ。あっ、たっちゃんっていうのは僕の親友でさー」
>「あっはー、ゴメンゴメン時間稼ぎなのこれ。悪いけどもうちょっと付き合って欲しいな。そろそろ――」

畳み掛けるように、鈍く不愉快な音が聞こえた。

>「――さとっちゃんの援軍がくる時間だからね!というわけで今週のゲスト〜、怪物のクニクライ君だよ!
  僕らは親しみをこめてクニっちゃんって呼んでるから、みんなもそう呼んであげてね」

音の発せられた方へ、慌てて振り向く。そして太田は目の当たりにした。
職員室の出入口を完全に塞ぐ、巨大で不気味な肉の塊を。
人間ですらない、人に嫌悪感を与える為だけに作られたような悪意の権現に、
太田は完全に凍り付いた。完全に思考が停止する。

ふと、視界の端にもう一つの職員室の出入口が見えた。
職員室には普通、前後二つの出入口がある。
こちらの出口を使えば、悍ましい化物――テロリスト曰くクニクライに接触せずに済む。
葛藤だ。怯え竦んだ彼の心は今すぐにでも、ここから逃げ出したいと声高に叫ぶ。
だが強く立派にならなくてはいけないと言う強迫観念が、正義への憧憬が彼の足をこの場に縫い付けていた。
何も出来ないまま、思考すら回らずに、ただ時間ばかりが流れていく。
どうしたらいいか、分からない。


65 :太田空 ◆W58VPkJLyOJ8 :2011/01/14(金) 22:51:53 0
>「だぁあちょっとタンマ!作戦タイム……って通じる訳ねえよなぁ!
> ちょっとそこの青少年君よ!何か名案ねーかなあ!?もしくは助けて下さいお願いします!!」

完全に思考停止に陥っていた太田を動かしたのは、火野の叫び声だった。
びくりと、彼は体を跳ねさせる。
拮抗していた葛藤が火野の呼び声によって、正義に傾いた。
反射的に、太田は床の木材を粘土化して、

(あ……でもどうしたら……。あんな化物、倒せっこない!)

しかし見上げたクニクライの巨大さに、一瞬怯んだ。
木材を武器にしたとして、あの化物を倒せるのか。
槌、刃、弾丸、何を作ったとしても、通用するイメージが浮かんでこない。
手が震えて、踏み出した足が一歩下がる。
再び、太田の視線が逃走願望を反映して泳ぎ始める。

「あ……」

だが、それによって彼は見つけた。彼自身が先程制圧――粘土で磔にしたテロリスト達を。

「そうだ、これなら……!」

何かを閃いたように呟く。次の瞬間、太田はクニクライ目掛けて駆け出していた。
粘土化した木材は不要と言わんばかりに放棄して、素手のままで。

「倒せなくたって……これならどうだ!『念動細工』!!」

そして彼はクニクライのやや前で立ち止まり、床に手を付いた。
床そのものを粘土化して、クニクライを沈めてしまうつもりなのだ。
だが彼の異能は目覚めてから、そう間もない
故にクニクライを完全に沈め切るほどの力は無かった。

「でも……動きを止めるくらいなら……これでどうにかなってくれ……!」

【床を軟化させて沈めようとします。でも力不足です】

66 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/01/15(土) 06:01:39 0
現れたジョーカーに、紫の炎の様なパワードスーツは、気取ったようなしぐさでアイアンジョーカーを指差す
「私の目的はただ一つ、我々の邪魔になるアイアンジョーカー、その抹殺です」
そう言って、紫の炎のパワードスーツは石原の方へ手を向ける

その時、別のメタトルーパーの一団が現れ、今度はレーザー砲でパワードスーツを攻撃し始めた
常人ならば感知できないような死角からの奇襲
しかしパワードスーツはそれに気づいていたらしく、突如、パワードスーツの全身を紫色の炎が包み込み、炎に命中したレーザー光線は炎に飲み込まれ、消滅してしまった
更にパワードスーツは全身に炎を纏ったままメタトルーパー目掛けて腕をむけ、例の蜃気楼…いや、陽炎の様と言った方がわかりやすいだろう空間の揺らぎを手の前に発生させ、それをメタトルーパー目掛け発射する
高速でメタトルーパーに命中した空間の揺らぎは、あっという間にメタトルーパーを粉砕してしまう

「銃弾もレーザーも私に届く事はありません」
炎を消したパワードスーツは、得意気に石原に言った
「そして…」
目の前に立っていたはずのパワードスーツが、突然かき消え、石原の右に現れた!
そう思った次の瞬間、石原の左に現れ、「背後から」打撃による攻撃が石原を襲う
「改造人間の私にあなたが格闘戦で勝つ事はできない」
更にパワードスーツは鋭く重い拳と蹴りを石原に次々と放ち、軽快なステップで石原に間合いを離す隙を与えない!

67 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/01/15(土) 06:18:24 0
「パワードスーツ…だと!?」
「はい、市庁舎に現れたヴィランは間違いなく、パワードスーツです」
オペレーターの言葉に、武中は驚愕し、狼狽する
あまりの武中の驚きように、オペレーターは怪訝な表情になった
「それが…何か?」
「……石原氏の「アイアンジョーカーを相手にパワードスーツで挑む」んだ
考えられる最新鋭、最強のパワードスーツの一つにパワードスーツで挑むと言う事は、絶対の自信があるからに違いない
しかもこの事件のタイミング……どう考えても計画的な挑戦だ」
そう言って、武中は腕を組み、考え始める
「警察からは市庁舎はアイアンジョーカーに任せ、学校の方へ急行せよ、との事ですが…」
オペレーターの言葉に、しかし武中は反応せず、思考を続ける
民間人を優先するのは当然であり、警察の指示に間違いは無い
又、対ヴィラン特設部隊は警察の指示に従って戦う事が大前提の組織である
この場合は、学校へ救援へ赴くのが適切な行動なのだ
が…
「………市庁舎だ」
「え!?」
「我々は市長舎へ向かう」
やがて何事かを決意して顔を上げた武中は、警察の指示を無視し、学校を見捨てて、石原の救援に赴く事を指示したのである
「敵の真の目的はアイアンジョーカーの破壊…いや、石原氏の抹殺にある、我々は絶対にこれを阻止せねばならない」
「何を言ってるんですか!大勢の民間人が危機にさらされているんですよ!」
「……市長舎に到着後、我々がアイアンジョーカーに代わって敵パワードスーツの相手をし、市長に学校へ飛んでもらう
それなら問題ないはずだ」
「理解できません!何故そこまで市長に…」
オペレーターの言葉に、しかし武中は黙して語らない
「…市庁舎へ向かいます」
やがて、諦めたらしいオペレーターは、渋い表情で市庁舎への出発をトレーラーの運転手に告げた

68 :日沼 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/01/15(土) 06:32:00 0
突然地面を沈下されたクニクライは、しかし原子的な生物ゆえに動揺した様子も無く
されど脱出の方法など思いつかないのだろう、もぞもぞと動きながら、ただ沈むのに身を任せている

その光景をクニクライの背に隠れて状況を見ていた日沼は、腰の手榴弾を引き抜くと、ピンを引き抜き、教務室内へと投げ込んだ
クニクライの頭の上を通り越して教務室内へと飛来した手榴弾の爆発で飛び散る破片と炎
更に一個、もう一個と、日沼は次々と教務室内に手榴弾を投げ込む
「ギャーーーー!」
太田の粘土で固められていたテロリストの一人が爆発に巻き込まれ、拘束していた粘土が取れて太田の視界の隅で地面にボトリと落下した
テロリストの両足は爆発の衝撃で真っ赤に染まり、激しく出血し、骨の様なものも見える
「いてぇ…い…いてぇええええええよおおおやめてくれぇえええさとっちゃああああああああ」
激痛に苦しみながら日沼に攻撃中止をテロリストは呼びかけるが、日沼は容赦無く新たな手榴弾を投げ込み、それがテロリストの目の前に落ちてきた
「ひ…」
両足が破壊されたテロリストに、爆発から逃れる術は無い
「た…助け…助けてくれぇえ!助けてぇえええええ!」

69 :アイアンジョーカーMkV ◆bTpJe3giiIE2 :2011/01/16(日) 02:55:19 0
>>66
「私の目的はただ一つ、我々の邪魔になるアイアンジョーカー、その抹殺です」

アイアンジョーカーの登場にも動揺せず気取ったような仕草を見せる
パワードスーツ。
向かい合うように掌のリパルサーを構えるアイアンジョーカー。
2体の間からメタトルーパーの一団が現われ攻撃を開始する。
しかしレーザー砲の弾幕すら物ともせず謎の攻撃と共に一瞬で一団を壊滅させてみせる。

≪石原様、敵の攻撃エネルギーの解析に時間がかかります。ここは退避され対策を立てられた方が懸命です。
更にマークUは緊急時の軽装アーマー、攻撃力にも不安が残ります≫

マイケルの分析は的確だった。しかし石原には見過ごす事が出来ない。
もし勝てないとしても、このまま引き下がるわけにはいかない理由があるからだ。

「マイケル、了解した。だが、こちらとしても引けないものがある。
コンピューターの分析じゃ分からないものもある!!」

リパルサーを連射し、攻撃に転じるアイアンジョーカーの宣言も虚しく
リパルサーは揺らぎの中へ消えていく。
そして音も無く接近したパワードスーツからは冷酷な、そして強い
自信を秘めた声が聞こえる。

>「そして…」
>目の前に立っていたはずのパワードスーツが、突然かき消え、石原の右に現れた!
>そう思った次の瞬間、石原の左に現れ、「背後から」打撃による攻撃が石原を襲う
>「改造人間の私にあなたが格闘戦で勝つ事はできない」

「ぐぉおっ!?」

≪攻撃速度反応不可レベル、対応出来ません≫

アイアンジョーカーの両足がグラリと揺れ、打撃に装甲が歪む。
マーク2の軽装では改造人間とパワードスーツのハイブリッドには
勝てないのか。
次々に打ち込まれる攻撃にアイアンジョーカーの装甲は破れ、石原自身への
ダメージも増加していく。

≪このままでは内部まで破壊されます、緊急退避を≫

マイケルの忠告も聞かず、石原は攻撃を受けながら腰の加速装置を
起動させる。
矯正所の一件でレギン相手に放ったあの超高速攻撃である。

≪ジョーカー、オーバードライブ……strat!!≫

「改造人間か……確かに強い。だが、”ただの人間”だとナメない方がいい!!」

【超高速形態になったアイアンジョーカーがパワードスーツへ向け突進、格闘で高速攻撃を加える】




70 :和明日灯 ◆lGcrGBhbDI :2011/01/16(日) 22:26:26 0
和明日はたっちゃんへと殴り掛かる。
だが考え事の水面を遊泳していて大分出遅れた事と貧弱な異能が相まって、彼の拳は間に合わない。
どう足掻いても真性を狙う散弾銃は止められない。それどころか他のテロリスト達に阻まれて、届きすらしなかった。

(あーあ、これは真性せんせー死んじゃうなー。でも僕悪くないよねー
 助けようとしたもんねー。避けられない悲劇だったんだよねー)

今まさに頭を挽肉の出来損ないにされようとしている真性に、和明日は笑みを滲ませた。
死にゆく真性だけが見えるように、邪悪な愉悦に染まりきった笑い顔を。

>「あーりゃっりゃ。弾ブレた?さっきしがみつかれたので銃身曲がったんかな。命拾いしたねーセンセ!」

けれども真性は生きていた。散弾は何故か外れて、代わりに教室の壁を抉る。
テロリスト達に滅多打ちにされながらも、和明日は疑問に目を細めた。

(えー、あの程度でひん曲がる銃ってどんだけー。つまんないなぁ)

つまらなさそうに、彼は唇を尖らせる。
直後にその顔をテロリストが蹴り飛ばしたが、お構いなしに和明日は思考を続行した。

(……いや、これは誰かが真性せんせーや僕を助けてる。いいねえ、悪くない展開だよ?
 守ってるって事は、そこには少なからず達成感や情があるって事だ。
 僕らがテロリストだと教えたら、それらが全部台なしになる。あぁ、俄然楽しみになってきたよ)

テロリストの拳が和明日の腹部に深く減り込んだ。
幾ら縁間の異能によって守られているとは言え、完全ではない。
体がくの字の曲がり、彼は膝を突いて項垂れる。
そして――笑った。
垂れ下がった髪で隠れた和明日の面持ちは苦悶ではなく、歪で悪辣な笑みが占領していた。

(だから……僕ももうちょっとお膳立てしなくちゃね)

思索の歯車を止めて、邪心に満ちた決意を携えて和明日が顔を上げる。
ほんの一瞬前まで浮かべていた笑いは跡形もなく消え去っていた。
代わりに面に滲むのは、鋭利な双眸と硬く結ばれた唇――険しく確固たる決意だ。
抜け目なく自分で噛み切った唇から血を滴らせて、彼はテロリストを睨め付ける。

>「なんだこいつ、腕がメタルになるだけかよ!」
>「しょっぺー!そんなんで俺たちとやり合おうとしてたの?超ウケるんですけど。チョベリバって感じー」
>「さよなら三角またきて四角ーってなあ〜!」

「いいや違うね!メタル化したのは腕だけじゃない!もう一つある!!」

金属化した拳を握り締めて、和明日は叫び立ち上がった。
両眼を大きく見開き、その底に太陽を沈めたように輝かせる。
同時に【悪意の体現】が発動した。
効力は四肢の金属化に加え、ほんの少しだけ身体能力に強化する程度。
あたかも皆を守る為の気概が力になったかのように振る舞う為の、演出だ。

>『貴様達は五体は愚か魂さえも拭い難い罪に染まり切っている!自らの罪の重さを知れ!そして傅き、平伏すのだ!!』

「僕の、この心だぁああああああああああああああああ!!」

縁間の異能に合わせて、和明日は拳を振るう。
痛烈なアッパーカットで自分を囲んでいた三人を一撃で吹っ飛ばし、更に止まらない。
金属化した足の強靭なバネを以って、たっちゃんとの距離を一足飛びに詰めた。

71 :和明日灯 ◆lGcrGBhbDI :2011/01/16(日) 22:27:29 0
「今度こそ!食らえぇええええええええええええ!!」

滾る気力を大きく振りかぶった右腕で表現して、和明日は今度こそ鉄拳を放つ。
縁間の異能によって体勢を崩しているたっちゃんに、満足な回避は出来る筈もない。
直撃だ。重い拳が見事にたっちゃんの顔面を捉え、歪めて、吹っ飛ばす。

「見たか!これが誰かを守る為の力だ!」

ここぞとばかりに決め台詞を叫んで、和明日は拳を前に突き出した。
たっちゃんは意識はあるものの、反撃の余力は無いらしい。
拙い動きで上体だけを起こして、和明日を憎らしげに睥睨していた。
だが彼の視線に威力が伴う事はない。これでおしまいだ。

「……さーて、どうだった皆?楽しんでもらえたかな?
 感動してもらえたかな?だとしたら、嬉しいなぁ」

序曲は、おしまいだ。
和明日が唐突に振り返って、両腕を目一杯広げる。
そうしてにこやかに、クラスメートに問い掛けた。

「あ、そうそう、たっちゃんもお疲れ様ー。君は本当によく頑張ってくれたよね。
 でも、もういいんだ。君の役目は終わったんだよ。じゃあ、ばいばい」

たっちゃんの反応も反論も待たずして、和明日は腕を横薙ぎに振り抜く。
金属化はそのままに、いつの間にか刃物の姿を得ていた右腕を。
鋭利な切先が描くのは、断末魔すら伴わない絶命。
深く切り裂かれた喉から鮮血が噴き出す音だけが、教室に満ちた。
返り血に頬を濡らした和明日が薄暗い笑いと共に、再びクラスメートを振り返る。

「あれ?何がなんだか分からないって顔してるね。仕方ないなぁ。種明かしをしてあげるよ。
 実はね、僕はテロリストなんだ。そこのたっちゃんは、この三文芝居の為に協力してもらったんだー。
 まさか殺されるとは思ってなかったみたいだけどねー。あはは」

たっちゃんの下りは、勿論嘘っぱちだ。
だが本人が死んでしまった今、和明日の言葉を嘘と証明出来る者は、いない。

「ともあれ元引き篭もりの生徒が、新任の教師が、命を懸けて皆を守る。感動的だったよね?
 感涙必至だったろう?賛辞の一つでも欲しいくらいだなぁ。その感動を最悪の形で裏切りたくて、
 わざわざこーんな手の込んだマネをしたんだからさぁ。ねえ、そう思うだろ?真性せんせー」

とどめに、更に一つ。和明日は悪意を浸した言葉を紡ぐ。

「いや、ここは素晴らしい脚本に敬意を表して、真性監督って呼んだ方が良かったかなぁ?」

たった一言で、彼は拭い去れない想像を皆の脳裏に刻み込んだ。
自分の語った虚言は全て、他ならぬ真性が画策したのだと。
命を救った感動も、教師と生徒の信頼も、全て彼の嘲笑の対象でしかなかったのだと。

【たっちゃん殺してテロリスト宣言。ついでに色々嘘を吐いてみたり】

72 :西上十三 ◇IS/PfMJV/Q代理:2011/01/19(水) 18:02:23 0
二度目の銃声が鼓膜を揺さぶり、僕は放心状態から目を覚ます。
生きているという認識によりも先に目に入ったのは、先ほどまで僕に突きつけられていた
銃口を向けられている真性さんの姿と視界の脇でテロリストにボコられている和明日の姿だった。
なんで?どうして?和明日はどうせでしゃばったんだろ?今一状況が飲み込めない中、事態は僕を取り残して進行する。

>「俺たちもさあ、同じ異能者をいじめたくはないんだよね。だってある意味俺たち選民じゃん?異能者だぜ。パンピーとは違うべきだ。
  そ・こ・で!このクラスの中に居る異能者諸君にチャンスをあげたいと思いまっす。
  この高島は念動力の応用で気流を制御できる、言ってみれば風を操る異能者だ。能力バトルでこいつを負かしたらこっから逃したげる」

どうみても不穏分子を釣るための餌です。ありがとうございました。
まるっきり状況は飲み込めてはいなかったが、たっちゃんの魂胆はなんとなく理解できた。
僕はその言葉を聞いた瞬間、心の奥底で言いようが出来ないどす黒い感情の存在に気がつく
異能を持っているから選民だ?広い視野で見れば異能なんて結局才能の一種だろ?
才能の有り無しで虫けらのように命を弄んでいい訳なんて無い。いや、あっちゃいけない、いけないんだ。
気がつけば僕は拳を握り締め、たっちゃんを睨んでいた。

そんな中、また彼女が動く

>「……私が、挑戦します」

 釣 ら れ ん な し 
と大声でツッコミたくなったが、考えてみればこれはこれでチャンスだ。
注意が彼女に向いている間に…間に何をするんだ?
逃げる?戦う?諦観する?
異能があれば、ここで会心の一手を打てるが、僕には無い。
だが、他のクラスメートならばどうにかできるかもしれない。
思考を巡らせながら周りを見回すと、視界に消火器の姿を確認する。
彼女が何かをしかけた瞬間、アレを手に取り、高島を殴りつけ、すぐさま消火器で煙幕を作れば
どうにかなるかも知れない。フハッ策士すぐる。
名案が浮かび浮かれている中、彼女が動く

>「ロープはこのままで結構です。丁度いいですから……私の方も、能力を明かしておきますね?
 私だけがその人の能力を知っていては、不公平ですから」
>「えっと……私の能力は説明するのが難しいので、一度使ってみせます。見てて下さい」

彼女が動こうとしたのを確認し、僕は足に力を入れる。うん、多分いける。

>『貴様達は五体は愚か魂さえも拭い難い罪に染まり切っている!自らの罪の重さを知れ!そして傅き、平伏すのだ!!』

彼女が多分異能を発動した瞬間、明らかにテロリストの動きに異常が現れた。
予想外に凄い能力だ。これなら
と僕は立ち上がり、消火器の方へ向かうはずだった。
「フンギャッ!!!」
何かに足を引っ掛け、僕は盛大に転んだ。

73 :西上十三 ◇IS/PfMJV/Q代理:2011/01/19(水) 18:05:25 0
カコワルイ、というか最悪だ。せっかくの名案が台無しだ。でもまだチャンスはある。
僕はすぐさま立ち上がり、消火器を手に取ったが…時既に遅し
動きが止まったテロリストを和明日が全員殴り飛ばし、僕の一手二手遅れの策は無用になっていた。
しかし、テロリストは他にもいるはずだ。ここで一息いれずに動ける人間でなんとか脱出、もしくは救助の策
いや、その前に真性さんの手当ても必要か?
と自身の安全を確認した僕は、次の行動を思案したが

>「……さーて、どうだった皆?楽しんでもらえたかな?
  感動してもらえたかな?だとしたら、嬉しいなぁ」

僕が和明日という人間はただでしゃばりで構っちゃんなかなりウザい分類に入る奴だと思っていた
だから、縁間のサポートのお陰ではあるが、テロリストを退治した自分を褒めろ的なことをいうと思い
無視するつもりでいたが、今の和明日が発した言葉にはあきらかに違う意図が込められているのを感じた

>「あ、そうそう、たっちゃんもお疲れ様ー。君は本当によく頑張ってくれたよね。
  でも、もういいんだ。君の役目は終わったんだよ。じゃあ、ばいばい」
>「あれ?何がなんだか分からないって顔してるね。仕方ないなぁ。種明かしをしてあげるよ。
  実はね、僕はテロリストなんだ。そこのたっちゃんは、この三文芝居の為に協力してもらったんだー。
  まさか殺されるとは思ってなかったみたいだけどねー。あはは」

こいつ…クズだ。ドクズだ。
クラスメイトを絶望させようと盛大にネタ晴らしをする和明日を目の前にして
僕は先ほど認識していた感情を再度認識、いや、既に認識の域を超え、体中を駆け巡り暴走する。

>「ともあれ元引き篭もりの生徒が、新任の教師が、命を懸けて皆を守る。感動的だったよね?
  感涙必至だったろう?賛辞の一つでも欲しいくらいだなぁ。その感動を最悪の形で裏切りたくて、
  わざわざこーんな手の込んだマネをしたんだからさぁ。ねえ、そう思うだろ?真性せんせー」
>「いや、ここは素晴らしい脚本に敬意を表して、真性監督って呼んだ方が良かったかなぁ?」

「こンのォォォド外道がぁぁぁぁ!!!」
吼えるように叫び、僕は手に持っていた消火器で思いっきり背後から和明日を殴り飛ばした。
「…お・・・オマ・・・オマエェェ!!!」
怒りのあまり言いたいことが言えない。もっと冷静でいられたなら口汚く罵れたがそんな余裕は無い
和明日と真性さんはグルらしいが、死に体(っぽく見える)の真性さんに濡れ衣をかけているのだと勘違いし
黒い感情は余さず和明日に向ける。
「氏ね…氏ねじゃない死ね!!!このクズ!!!」
感情のままに言葉を発し、再度消火器を和明日目掛け振り下ろす。

【凡人激昂す、消火器で和明日に襲い掛かる】

74 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/20(木) 19:40:31 0
>「……私が、挑戦します」

知将・たっちゃんの卑劣な策に、名乗りを挙げたのは一人の女生徒。女子高生。
凛とした声、気丈な瞳、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花を体現するかのような楚々とした少女。
その名は!

「マサラちゃん……!」

「あ?マサラ?……なにそれ、インド系?見るからにヤマトナデシコーなんだけど」

俺が思わず口からこぼした名前にたっちゃんが反応する。
マサラちゃん異能者だったのか!どーりであの日の夕方も、成人男性相手にとって一歩も引かなかったわけか。
そりゃ異能があるなら、パンピーの男の子にゃ勝てまいよ。平然と公然と人前で人間をディスることもできるってもんだ。

>「えっと……私の能力は説明するのが難しいので、一度使ってみせます。見てて下さい」
>『貴様達は五体は愚か魂さえも拭い難い罪に染まり切っている!自らの罪の重さを知れ!そして傅き、平伏すのだ!!』

瞬間、教室全体がピシリと軋んだ。
その影響の渦中にあるのは、コンバットスーツの男達。テロリストが全員、床に叩きつけられていた。
どさくさで俺も。なんで!?……あ、俺ヴィランだったわ。

「うおーすげえ!なんだこれ!身体超おもてー!」

とか言いながら。……ウソだろ、なんで立ち上がれるんだよこの重力下で。
たっちゃんを含めた数名はゆっくりながらも既に床から身体を離していた。純粋に膂力で抗ってるのか?

「ほら次を見せろよマサラちゃん。どこまでもクレバーに受け入れてやんよ」

たっちゃんが真っ先に復帰する。腹筋を躍動させて強く息吹を立てると、もう何事も無かったように立っていた。
……が、マサラちゃんの繋いでくれた僅かな隙を見逃す我らが二年零組じゃねえ!(今考えると相当中二臭いなこのクラス名)

>「……っ、助けを呼んでくる!だから……死なないでいてくれよ!」

伊達君?だったか、リア充系優等生の男子学生が扉を開けて逃走を促す。
追従するように、硬直していた生徒達が縛られたままそこへ殺到し、やがて殆どが捌けて行った。
教室に残ったのは緑間ちゃんと和明日と俺と、それから――何人かの生徒達。

「あいつら隙だらけだっ俺たち全員でかかれば押さえ込めるぞ!」
「「「おう!!」」」

残留組の生徒達が一斉にテロリスト達へ跳びかかり、ある者はテロリストの脳天に踵を落とし、ある者は銃を奪いとって敵へ向ける。
唯一動けるたっちゃんを数人で囲み、鹵獲した撃ち方も分からないような銃を申し訳程度に突きつけている。
ああ、そんな全方位で囲んだら誤射が怖いのに。……ってそんなことよりも!

「お、お前ら!何してんだはやく逃げろよ!」

必至で俺はそう叫んだ。意味がないことは分かっていた。だって、あいつら男の眼をしちゃってるんだもん。
たっちゃんに銃を突きつけたまま、一人の生徒がこっちを振り返って返事をよこした。

「……真性先生、アンタはなんで西上を助けたよ?」
「そんなの、教師なんだから当たり前だろ!俺には生徒を守る義務があるし、先生ってのはそういうもんだろ!」

75 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/20(木) 19:41:27 0
呼応するように、誰か彼かがテロリストから目を離さず同調する。

「俺たちも同じだよ」
「授業中にテロリストが乱入してくれたらって、ずっと考えてた」
「そりゃ願ったり叶ったりで大変結構だけどさ、やっぱ現実知っちゃうと足が竦むね、情けねえ」
「かっこよくテロリスト倒したりして、クラスの連中に一目置かれたかったなあ」
「――だけど、そんなことより」

震えが来る。恐怖か?いいや違う!俺は、俺は――意識が生徒達を同調していくのが分かる。
これは、武者震い。

「この学校が自由な校風がウリだけどさ、クラスごとにスローガンを決めてそれを遵守するんだよ」
「今の今までずっと、小学生かよめんどくせーとか思ってたけど」
「俺たち優等生だからさ、やっぱ学級目標は守らなくちゃだよな」

生徒達は、唱和する。教室の前方に掲げられた、学期の最初に決める学級目標を。

「「「――仲間と共に助け合い高め合うのが、クラスメイトだ!!」」」

俺は立ち上がっていた。マサラちゃんの超重力で首を上げることもままならなかったはずなのに、立ち上がれた。
身体中に力が横溢していくのが分かる。できる。なんだってできる。こいつらと一緒なら――

「声うっせーよバカ、死ね」

たっちゃんが心底不愉快そうな顔で懐から自動拳銃を取り出し、なんの躊躇いもなく生徒達へ乱射した。
俺はそれより速く疾く射線に割って入る。掌に"神様"を展開。大丈夫だ。真性先生は、生徒を守るためならなんだってできる。
――弾をどうにかすることだって!

「パラダイムボトル――形状『超緩衝《アルファゲル》』!!」

強化視覚で弾は視認できる。はっきりと見える。あとは射線軌道を予測して、そこに掌を『置く』。
打ち出された三発の弾全てに同じように掌を置いて粘着状の"神様"で絡め獲る。運動エネルギーを終逸させる。

「っは、はは……できた」

遅動する光景が時間を取り戻す頃には、たっちゃんの発射した銃弾は残らず俺の手の中にあった。
ゆっくりと掌を開くと、三つの弾が乾いた音を立てて床と邂逅を果たした。

「あっれえ、弾掴み取りとかマジありえねーんですけど。気持ち悪い動きだなあ、ドン引き」

「うるせーバーカ!!」

俺はそのままのテンションで殴りかかる。が、躱されいなされ組み伏せられてしまう。こいつ動き鈍ってるはずなのに。
たっちゃん格闘もいけるのかよ。生徒の一人が援護するように銃を構えるが、撃てない。そりゃそうだ、実銃なんて見るのも初めてだろう。
そこへ、テロリストの包囲網を突破したと思しき和明日――最も頼りにしたくない増援の声が飛んできた。

>「今度こそ!食らえぇええええええええええええ!!」

俺の攻撃と、生徒の牽制、それからマサラちゃんの異能によって動きを封殺されたたっちゃんは、和明日の拳を顔面で受けた。
ただの拳じゃない。メタルフィスト。その硬度と重量は遺憾なくたっちゃんの顔骨を砕き、穿ち抜く!
たっちゃんは声すら出すことままならず、教室の壁まで吹っ飛んで叩きつけられた。ゆっくりと床へ伏す。

>「見たか!これが誰かを守る為の力だ!」

「そーだそーだ、ざまあ見やがれ!」

和明日の勝どきに俺も同調した。この野郎、おいしいとこ全部持って行きやがった。
だがこれでテロリスト連中は頭を失った烏合の衆。マサラちゃんの異能によってほとんど動けないような連中ばっかだ。

76 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/20(木) 19:42:09 0
「く……そ……、遊びが過ぎたなぁ……!お前ら、こんなことして生きて帰れると思うなよ、テロリストは俺たちだけじゃねえ」
>「あ、そうそう、たっちゃんもお疲れ様ー。君は本当によく頑張ってくれたよね。
 でも、もういいんだ。君の役目は終わったんだよ。じゃあ、ばいばい」

和明日がたっちゃんの首を飛ばした。メタルになっただけじゃない、刃物と化したその腕で。
あまりにも無慈悲に、無意義に、無感情に。あれだけ俺たちを苦しめたたっちゃんという男の命が終了する。
電源をぶち抜いたように、強制終了される。

「おまっ、何を……」

>「あれ?何がなんだか分からないって顔してるね。仕方ないなぁ。種明かしをしてあげるよ」

いつもの芝居がかった口調で和明日が語り始めたのはかなりの割合で嘘っぱち。
唯一本当の部分は、俺たちがテロリストだって部分だけ。倒れっぱなしの俺には、それを遮ることすらできない。

>「ねえ、そう思うだろ?真性せんせー」

お、俺に振りやがった……!とんでもねえ無茶ぶりだ!歴戦のリアクション芸人でも対応に困るぞ!
感想を求められたって、「お前は何を言っているんだ」ぐらいのコメントしかできねえよ。おすぎかピーコに頼め。
あ、ピーコは映画評論家じゃなかったね。失敬。

>「いや、ここは素晴らしい脚本に敬意を表して、真性監督って呼んだ方が良かったかなぁ?」

……ああ、そういう。
俺は和明日の意図を把握した。こいつはここでタネバラしする気だ。あーもう、なんで勝手なことするかなあ。
打ち合わせ通りには絶対やらねえだろうな、とは思ってたけど。しょうがねえ。バレちまったもんは、乗っかるしかあるまい。

>「こンのォォォド外道がぁぁぁぁ!!!」
>「氏ね…氏ねじゃない死ね!!!このクズ!!!」

と思っていたら、西上君が消火器で和明日をぶん殴った。いいぞもっとやれ!いや違う!やっちゃダメだって!
どうやら西上君のこの熱き行動のおかげでクラスの世論は和明日の狂言、俺への濡れ衣という方向に傾きつつある。
あ、いいかもこの感じ。なんかこう、誰かに信頼されているというのはこんなにも心地良いものだったんだ……。
唐突に、俺の中に何かが芽生えた。この信頼と、立場と、生徒達からの尊敬を、失いたくない。
例え和明日を裏切ってでも。俺は熱血教師としてのポジションに縋りつきたくなった。
誰だよテロしたいとか言った奴。いまどき流行らねーだろうがよ、学校占拠なんか。

「西上くん、それ以上やっちゃいけない。そいつが死んだら、君はそのクズの命まで背負っていかなきゃいかなくなる」

俺は回復したのでやおら立ち上がり、消火器を振りかざす西上君をやんわりと制す。
ああ、わかるよその気持ち。腹の虫が収まらないんだろう。俺だってそうさ。だけど、まだ若い君が負うべき咎なんかじゃないはずだ。
そう、とっくの昔に犯罪者な俺なら。前科持ちだっていう経歴が、こんなとこで役に立つ。こんなにも心優しい生徒達の罪を、代わってやれるのだから。
と、いうわけで。

「くたばれテロリスト!」

俺は教卓に立てかけてあったビジネス鞄から自前の拳銃を取り出し躊躇いもなく和明日を射撃した。
間髪入れずに六連射。回転弾倉が空になるまで撃ち尽くし、硝煙を上げる銃口をふっと吹いた。
決まった。真性先生超かっこいい、だ。

「え……」

しかし教室中から俺に注がれたのは、尊敬の眼ではなく困惑の視線。
そして疑念。あれだけ熱く同調し合った残留組の生徒達も、何故か一歩後ずさりしてる。
あ、あれ?おかしいな。どこで間違った?

「真性先生……なんで、そんな銃持ってんだよ」

生徒の一人が震えた声で疑問を紡いだ。

77 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/01/20(木) 19:43:08 0
あ。しまった。ついノリで自前の銃を使ってしまった。いやね、展覧会編でついぞ使う機会なかったからさ。
よくよく考えなくてもわかるべきことだけど、一般常識社会通念に照らし合わせれば、拳銃を持ち歩く一般人なんてそうそういない。
テロリストから鹵獲した銃を使っとけばこんなことにはならなかった。俺の銃は、その誰とも被らない、ごついリボルバー。

「あ、いや、その……」

やっべー、しくじっちゃった☆ かくなる上は……
俺は排莢して弾を込め直し、天井へ向かって一発撃つ。腹の底に響く銃声が生徒達を威嚇する。

「バレちゃあしょうがねえ!いかにも、俺と和明日君と、あとそこでまんじりともせず座ってる夜之先ちゃんはテロリストだァ!
 そこのクズは嘘を言ったけどね、たっちゃんと俺たちは違うグループなの。マジよ?たまたま予定が被っただけだ!」

俺はたっちゃんグループの残党が怯んでる間に全員を撃った。こいつら呆気にとられて棒立ちでやんの。
今更だけど俺の拳銃の解説をしておこう。大口径のリボルバー、だが弾が実弾じゃない。というか空砲だ。
薬莢の中に"神様"を込めることで、空砲を撃つと同時に弾の速さで"神様"が飛び出すという遠距離戦用異能兵装なのである!
和明日に向けて六発撃ったのは"神様"に着色した血糊。ついでに傷を治癒するプログラムも付与していおいた。
たっちゃん組の残党へ向けて放った"神様"には、一様に『感電』をプログラムしてある。遠隔スタンガンだ。
かくして教室において立っているテロリストは俺だけとなり、やがて和明日も立ち上がってくるだろう。あと夜之先ちゃんも。

「俺たちの要求は!――えっと、なんだっけ要求。まあいいやなんやかんやで俺たちはこの教室を占拠した!
 痛い目怖い目に会いたくなかったら大人しくしてろよ!身代金には興味ないから貧乏人は安心してろ!」


【たっちゃん死亡。正体を明かし教室を占拠】

78 :縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/01/21(金) 21:41:12 0
犯罪者達は全員組み伏せられた。
これで一件落着、誰も傷付く事なく全てが終わった。

>「あれ?何がなんだか分からないって顔してるね。仕方ないなぁ。種明かしをしてあげるよ」

筈だった。だが直後に白刃が閃く。続いて訪れる、血の噴き出す絶命の音。
瞬く間に床を血溜まりが占領していき、空気に悍ましい血の臭いが侵食する。
明朗な声が、真性先生が私達を騙して、嘲り笑っていたと語る。
誰よりも勇敢に罪に、悪に立ち向かった、他ならぬ和明日……の声によって。
いつの間にか固く握り締めていた拳の内側に、汗が滲んだ。口の中が嫌に乾いていく。心臓が胸の内で暴れている。
五感が絶望に支配される。そんな馬鹿なと、思考が延々と同じ回路を巡らせている。
それらを塗り潰すように、或いは上から重ねて塗り固めるように、銃声が響いた。
不吉な煙を吐き出す銃口を、凶悪に閃く銃身を辿った先にあるのは、真性先生の右手だった。

「……何とか、言って下さい」

辛うじて、肺臓を捻り絞り上げる気持ちで、言葉を吐き出した。

>「バレちゃあしょうがねえ!いかにも、俺と和明日君と、あとそこでまんじりともせず座ってる夜之先ちゃんはテロリストだァ!
 そこのクズは嘘を言ったけどね、たっちゃんと俺たちは違うグループなの。マジよ?たまたま予定が被っただけだ!」

返って来たのは――開き直った、犯罪者としての名乗り。
……私は、誰の言葉を信じればいい?
彼は私達生徒の信頼を集めて内心で嘲笑していたのか、それとも本当に偶然だったのか。
いや、違う。何を考えているんだ私は。大切なのは……事実だ。事実を見つめろ。
この場における事実とは……本当に、簡単な事なんだ。
和明日は人を殺し、真性……は銃を所持していて、それを人に向けて使った。

そして二人とも、私達の気持ちをこれ以上無く残酷に裏切ったのだ。

ただそれだけの事を理解して、直視するのに私は一体どれだけの時間を浪費しただろう。
どれほど遠回りな思考をしただろう。
悔しい。惨めだ。胸が苦しくて、目の奥が熱い。手の震えが、止まらない。
やめろ。零すな、溢れさせるな。これ以上、こんな屈辱的な気持ちを上塗りしてどうする。
自制も利かないまま、唇を噛んだ。力加減が働かず、ぶつりと唇が切れる。
目の代わりに噛み切った唇から、感情の溶けた液体が零れた。
悲しみは痛みに塗り潰されて、怒りが血に混じって、床に滴る。
今の私は、とても酷い表情をしているに違いない。
私の眼光に力が宿るのだとしたら、あの犯罪者を殺してしまうだろうくらいに。

「犯罪者め……よくも!よくも……こんな……っ!」

目頭から溢れようとする熱を、顔を顰めて押し殺した。
最早全ての行動から恥辱が滲んで、堰き止められない。
唇を噛み切っても、涙を堪えても、爪が手の平に食い込むほど拳を握っても。
あの犯罪者達を、視界から消し去ってしまいたい衝動が、抑えられない。

『悪に身を沈め外道に踏み入った犯罪者め!お前達など……っ!お前達など自らの悪に!影に縛られて磔になってしまえ!』

頭を振って腕を力任せに横に薙いで、私は無我夢中で叫んだ。

【私はとても悲しいです。攻撃は影から黒い鎖と棘が伸びる感じです。
 別に影を操る訳じゃなくて、ただ影をイメージにした異能なので壊せます】

79 :伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY :2011/01/24(月) 05:04:46 0
教室の外、扉の影に伊達一樹は身を隠していた。
飛び出すタイミングを見計らっているのだ。
早すぎては逃げ出した面々に疑いが掛かる。
だったらいっそ、初めからピンチを待ってから飛び出すつもりだったと言えば。
目立ってカッコ良い登場をする為にずっと待っていたのだと言えば。
自分が嫌悪され、謗られるだけで済む。
そう考えて伊達は、待機していた。

>「俺たちの要求は!――えっと、なんだっけ要求。まあいいやなんやかんやで俺たちはこの教室を占拠した!
 痛い目怖い目に会いたくなかったら大人しくしてろよ!身代金には興味ないから貧乏人は安心してろ!」

けれども教室の中では、伊達の予想だにしない展開が進んでいた。
縁間の取り乱す声が聞こえて、そこに含まれた感情が伊達にまで伝播する。
深く被った帽子の下で双眸が痩せた。
固く結ばれた唇の内側で歯軋りが生じる。
何とか自分を落ち着けようと、伊達は目を瞑った。
深く息を吸い込んで、吐息に感情を預けてゆっくりと吐き出す。
自分はあくまでも、目立ちたがり屋のヒーローでなくてはいけない。
裏切られた失望を、生徒としての感情を覗かせてはいけないのだ。

「……やぁ、呼ばれて飛び出てって雰囲気じゃないけど……助けに来たよ。ヒーロー参上さ」

取り繕った静かな口調で、伊達はバスタードとして教室に一歩踏み込む。
まず何よりも彼の視界の中で存在感を主張したのは、床に広がった血溜まり。
そしてその中央に沈む、テロリストの死体だった。
思わず目を逸らすと、今度は縁間が視界の中央に来た。
いつもの平静で端整な顔立ちからは想像出来ない、怒りと憎悪に顔を歪めている。
唇からは、噛み切ってしまったのか血さえ垂れ流して――見るに堪えない。
再び視線が泳ぐ。
次に視界が真ん中に捉えたのは、真性道程だった。
これまで見てきた中でも際立って、随分と拙い悪党ぶりを見せている。
この分では、彼は嘘を吐いた訳ではないかもしれない。

「……アンタには、きっと皆が失望してるさ。顔も見たくないくらいにね」

それでも、だからと言って信じた事を裏切られた失望が、消し去れる訳ではない。
自分の内心を皆の代弁と言う形で吐き捨てて、しかし伊達は真性から視線を逸らした。
真性は恐らく、生徒を殺すような真似をしないと踏んだのだ。
彼に撃たれただろうテロリスト達でさえ、出血は見られない。
胸部は微かに上下していて、息をしているのも見て取れる。
それらを眺めた後で、伊達は今度こそ眼光の矛先を定めた。

彼が睥睨するのは、和明日灯。
和明日灯は人殺しだ。それも大した理由すらなく、快楽的に殺人を犯す。
今ここで、気が向いたからとクラスメートを殺すかもしれない。
街中でふと目に付いたからと家族が、知人が殺されるかもしれない。
そんな奴は自由にさせておく訳にはいかない。

「……展覧会の時以来だね。あの時も言ったけど、もう一度言っておくよ」

決意を宿した視線で和明日を貫いて、バスタードは右手を突き出すした。

「君を殺す。君以外の誰かが、君に殺されないように」

空中で刃を作り出し、それを風と火によって射出する。
黒い鎖と棘に襲われている和明日に、高速の刃が追撃を仕掛けた。


80 :和明日灯 ◆lGcrGBhbDI :2011/01/27(木) 16:24:33 0
>「こンのォォォド外道がぁぁぁぁ!!!」
>「氏ね…氏ねじゃない死ね!!!このクズ!!!」

西上の不意打ちに和明日は大きくつんのめり、体勢を保てずに倒れ伏した。
彼の頭部からは血が溢れ出て、和明日の顔を深紅が縦断している。
【悪意の体現】を持つ彼は、ただの消火器による殴打で傷を負い、出血していた。
何故か。彼の異能には必ず悪意が伴う必要がある。
先の一撃は完全に不意打ちで、例えば『消火器の一撃で脳漿を撒き散らして
取り返しの付かない罪悪感を刻んでやろう』などと考える暇も無かった。
故に和明日は何も出来ず、結果として流血する羽目になったのだ。

「まったく、痛いじゃないか。……僕はさぁ、君みたいな奴が嫌いなんだ。怒りで頭が真っ白になっちゃったんだろ?
 いや、真っ黒と言うべきかな?僕はね、人の心ってのは画用紙みたいなモンだと思ってるんだ。
 君みたいに、たった一色で塗り潰せちゃうような画用紙はつまらないんだよねぇ」

とは言え――彼の表情はやや不機嫌そうだったが、それでも普段の明朗さと純粋の雰囲気は失っていない。
真性が制止を掛けた西上に向けて、和明日は揺らめきながら起き上がり、語り出した。
右手の刃の先が幾重にも分かれ、捩れ、先細り、凶悪な姿に変形していく。
今から自分の体を何本もの刃が引き裂くのだと、西上に恐怖を摺り込む為に。

「そう、僕の好みはそこの彼女みたいなさぁ……どんなに感情が昂ぶっても、冷静さの欠片を残していられる人が好きなんだ。
 怒り狂っている自分をもう一人の自分が冷静に観察していて、更にそれを真上から第三者として俯瞰する自分がいる。
 心の端っこに真っ白な理性を残していられるような人がね。だってその方が酷い事のし甲斐があるじゃないか。
 どこまでやったらその心をグチャグチャに塗り潰せるのか、最悪の追求し甲斐があるってモンさ。創作意欲が湧くって奴かなぁ?」

彼は右腕の刃を掲げ、左手も虚空にある何かを乱暴に掴むように手の平を天井に向ける。
輝きを宿していた瞳は悪意に濁り、細身の微笑みは悪辣な三日月を思わせる笑みに変貌していた。

「と言う訳で、君はもう要らないや。描く余白の無くなった画用紙は、捨ててしまう物だよね」

ゆっくりと大きく一歩、西上に向かって踏み出して、邪悪の笑みが一層色濃くなる。
そして和明日は幾重にも刃の分岐した右腕を頭上に掲げて、

「だからバイバイ」

振り下ろした。刃が流星の群れとなって、西上目掛けて迫る。

>「くたばれテロリスト!」

銃声が響いた。刃が西上の命を刈り取る直前で。
だが和明日の一撃は、西上には届かなかった。
和明日に向かって過たず突き付けられた大口径の銃口と、六発分の銃声によって。
やはり不意の出来事に対応出来ず、全ての銃弾を喰らい、倒れた。
ついさっき彼が殺したたっちゃんの血の海に落ちて、小さな血飛沫と音が跳ねる。

>「バレちゃあしょうがねえ!いかにも、俺と和明日君と、あとそこでまんじりともせず座ってる夜之先ちゃんはテロリストだァ!
 そこのクズは嘘を言ったけどね、たっちゃんと俺たちは違うグループなの。マジよ?たまたま予定が被っただけだ!」

それから暫く、和明日は黙っていた。撃ち込まれた弾丸は全て非殺傷性の『神様』であったと言うのに。
生徒達は勿論の事、もしかしたら『神様』を撃った真性本人でさえ、疑問を抱いてしまうかも知れない程に。
死んだように、黙り込んでいた。

「……ぁ」

小さく、本当に小さな声で和明日は呟いた。
彼は唐突に、むくりと上体を起こす。

「ムカつくなぁ……!その生っちょろい態度さぁ!!」

81 :和明日灯 ◆lGcrGBhbDI :2011/01/27(木) 16:25:14 0
そうして片膝を立てた状態で、左の拳を床に全力で叩き付け、叫んだ。
右手で乱暴に頭部の傷を掻き毟って流血に拍車を掛けて、和明日は息巻いている。
更には憤懣の炎を宿した双眸を頑として見開き、歯を剥いていた。

「なぁにがそこのクズは嘘を言ったけどね、だよ!馬鹿じゃないの?馬鹿だよねぇ!?
 教師に成り済まして生徒達の信頼を根こそぎ奪った後ぜーんぶ裏切ってやりましたってさあ、
 こーんな最っ高の最悪をお膳立てしたって言うのに、何言っちゃってんのかなぁ!?もしかして頭がイッっちゃてんのかなぁ!?」

左拳で何度も床を殴り、頭部の傷を抉り続けながら和明日は気炎を撒き散らす。

「そんなに先生ごっこが気に入ったかい?だったらいっそ本当に教師になっちゃえばいいじゃないか!?えぇ!?
 小学校のジャリガキと一緒にヒーローごっこをしたらどうだい!とっても楽しそうだねぇ羨ましいよ!
 はっ、僕がクズかい?だったら君はボンクラだね!所詮は自分に出来ない事に憧れて、真似しようとして、そのくせ徹底出来ないゴミ虫さ!!
 断言してあげるよ!君は教師になったとしたら、今度はこう言い出すね。「悪い事したい」ってさあ!お笑い種だよまったく!
 人ひとりも裏切れなくて殺せなくてテロリスト気取りですかぁ!?悪党舐めてんのか穀潰し!!」

激情の余りに肩で息をしながらも、彼の怒号は止まらない。

「そもそも君なんかが教師になれる訳ないだろう!?学歴は?取り柄は?良好な人間関係を築き上げ維持した経験は御座いますかぁ!?
 無いよねぇ!?人より優れた所なんてその異能くらいだろうね!分かるかい?君が成功出来る道なんてのはさぁ!
 その異能で何の努力も伴わない富を築くか、そうじゃなかったら今みたいに犯罪に走るしかないのさ!
 それさえ出来ない君なんて、何処にでもいる……いや、何処にもいないようなゴミクズでしかないんだよぉ!!」

憤怒の全てを吐き終えても尚、和明日は血走った目で真性を睨んでいた。
数秒の沈黙、教室の中に存在する音は荒れに荒れた和明日の呼吸音だけだった。

「……なーんて、赤の他人にならそう言ってる所だけどさ。大丈夫だよ真性君。
 だって僕は君の友達だからね。そうさ、僕は友情に厚い男だから君を見捨てたりはしないんだぁ」

けれども何の前触れもなく、和明日はけろりと明朗な笑顔を取り戻した。

「だけど見捨てないのと甘やかすのは違う。そうだろ?」

太陽のような笑みと白いワイシャツを血で汚れ、床を殴り続けた左手は原型を失っている。
それでも彼は笑いながら、友情を語り始めた。

「と言う訳で、僕は君に試練を与えるよ。今から僕は、君に手を貸さない。
 君は自分よりも下の人間がいるとつい安心しちゃうタイプみたいだからね。
 テストの点数がクラスで三番目に悪かったら、下にまだ二人いるから大丈夫とか
 考えちゃうんだろう君は?ホントに骨の髄までボンクラ野郎だよね」

彼は明朗快活で純粋な容姿と清潔な姿だからこそ悪事が栄えるのだと考えている。
が、今回に限ってはこのままの方が周囲に悪感情を植え付けられると判断したようだ。

「だから僕は何もしない。君がこの場で最低の人間になるんだよ。
 君が、君自身の悪意を以ってこの場を切り抜けるんだ。さもなきゃ捕まって、真人間に矯正されちゃうよ」

事も無げに、笑みには一片の濁りも揺らぎも覗かせずに、和明日は告げる。

「僕を幻滅させないでくれよ?真性君」

最後に一言、笑顔を崩して双眸と口元を鋭利に研ぎ澄まし、釘が刺された。

「ふぅ、と言う訳で……これから僕は暫く何もしないからさ。
 真性先生と仲良く楽しく送別会をしなよ。いやぁ僕って空気の読める奴だよねぇ」

>『悪に身を沈め外道に踏み入った犯罪者め!お前達など……っ!お前達など自らの悪に!影に縛られて磔になってしまえ!』

「へ?」

82 :和明日灯 ◆lGcrGBhbDI :2011/01/27(木) 16:26:49 0
燦燦と煌めいた笑顔で放たれた宣言などお構いなしに、縁間は叫んでいた。
忽ち、和明日の足元から影が鋭く昇る。
不定形の影は一瞬で立体的に質感を得て、鎖と棘に化けて襲い掛かる。

「……あーもー、さっきから僕不意打ちばっか喰らってる気がするんだけど。真性君はいいとしてさぁ、パンピーやヒーローが不意打ちってどうなの実際」

先鋭な黒が貫き、赤が零れた。
四肢を貫かれ、鎖に雁字搦めにされてて、和明日は嘆息と愚痴を漏らす。

「まぁいいや、えーっと……『わーやられたー。もう動けそうにないぞこれはー』。と言う訳で頑張ってね真性君」

棒読みな口調で敗北宣言をして、今度こそ和明日は傍観を決め込む――と言う訳にはいかなかった。

>「やぁ、展覧会の時以来だね。あの時も言ったけど、もう一度言っておくよ」
>「君を殺す。君以外の誰かが、君に殺されないように」

「……わーぉ。うん、いや、そーやってちゃんと宣言してくれるのは感心なんだけどさ。
 どっかの三人に見習って欲しいくらいにね?出来れば丸腰無抵抗の人間をぶっ殺すのも控えて欲しいかなーとか」

縁間の異能に拘束され身動きの取れない状態で、和明日は唯一自由な表情に苦笑いを浮かべていた。
けれども彼の懇願は、当然聞き入れられる筈もなく。
空中に兆した刃が、空気の鳴動と共に放たれた。
高速の一閃を、和明日は避けられない。鈍い音と共に、彼の額に刃が深く突き刺さった。

「うぁ……」

刃の慣性に頭部を仰け反らせ、和明日はそのまま動かない。
足が床から離れ、自重で四肢が棘により深く突き刺さっていく。
そして、

「いったぁ……あぁもう、僕だってそう何度も死ねる訳じゃないんだからさぁ……。勘弁してよね」

和明日の右手が不意に勢い良く上がり、額の刃を掴んだ。
そのまま引き抜いて、次に彼は棘に刺さった両手両足にその刃を突き立てる。
皮膚を裂き、筋肉を断ち切って、棘と鎖の拘束から抜け出した。
とは言え彼の傷は出血多量に脳の損傷、どう考えても致命傷だ。
だが死んでしまっては悪い事が出来ない。
故に彼の異能は発動する。悪い事をする為に、和明日の体は十全の状態へと回復した。

「やれやれ、僕はもう何もしないって言ったのになぁ。無抵抗の人間を殺すなんて最低だよ」

頭部の傷も砕けた左手も血まみれのシャツも元通りになった。
目を瞑って首を傾げ、腕組みをして和明日はぼやく。

「僕としては友達との約束を破りたくはないんだけど……降り掛かる火の粉は払わなきゃね」

独り合点する。続けて、彼は邪悪な笑みを浮かべた。

「ところで……火の粉を振り払う為に振り回した腕がさぁ、
 誰かに当たってしまったとしても……それは仕方のない事だよねー」

笑みに含まれた悪意の濃度が増すと同時、和明日の右腕が変形する。
テロリストや真性の銃とは比較しようのない大口を開いた、グレネードガンに。

「と言う訳で気兼ねなく、正当防衛させてもらっちゃおうかなーっと」

間抜けな柔らかい発砲音と共に、擲弾が放たれる。
緩い放物線を描く擲弾は例えバスタードが避けても壁に衝突し、無差別に破片をばら撒くだろう。

【教室にいる人間を無差別に巻き込むべくグレネード発射だよ】

83 :火野赤也 ◆a3GgzP5j4k :2011/01/27(木) 21:57:48 0
「おぉ、やるな青少年!よっしゃ今の内に皆を逃がして教室に……!」

床に沈んで身動きの取れないクニクライを見て、赤也がぐっと拳を握る
だが直後、彼の背後で硬質な音が響いた
音源は床、振り向いて視線を落とす
拳大の濃緑色をした楕円球が小さく跳ねていた
やはり赤也はそれを映画や漫画でしか見た事のない
それでも、それが何かは十分理解出来た

「う、うおぉおおおおおおお!?これってもしかしなくても……爆弾じゃねえかクソッ!!」

直後、赤也は全脚力を以って跳躍していた
デスクの影に身を投げ出し、一瞬遅れて爆音が職員室中を揺らがせる
ついさっき彼の立っていた所を、爆風と金属片が突き抜けた

「あっ……ぶねええええ!なんて事しやが……」

>「いてぇ…い…いてぇええええええよおおおやめてくれぇえええさとっちゃああああああああ」

「なっ……!?」

職員室の外を睨んでいた赤也だが、悲痛な響きに振り返る
足を血に塗れさせたテロリストが一人、床に倒れていた
手榴弾は基本、火薬の爆発ではなく金属片による殺傷が目的だ
その為粘土が防壁の役割を果たして致命傷にはならなかったらしいが、
自力で立ち上がり逃げる事は出来そうにもない

「おいコラ!テメーの味方まで巻き込んでんじゃねーか!さっさとやめやがれ!!」

廊下にいるだろう仲間のテロリストに、赤也は怒鳴る
しかしお構いなしに、追撃の手榴弾が投げ入れられた
手榴弾は二三度床で弾んで、足を怪我したテロリストの目の前で止まる

「ッ……!っざけやがって!!」

瞬間、赤也はデスクの影から飛び出した
手榴弾は基本、四秒ほどで爆発するようになっている
プロの軍人であればピンを抜いてから敢えて数秒保持してから投げるものだが、テロリストはそうはしていない
しているならば最初の手榴弾は空中で爆発して、より広範囲に死をばら撒いていた

「正少年よ!俺じゃ一個が限界だ!だから……皆を守ってくれ!頼んだ!」

――デスクの影から手榴弾の元に駆け付けるまでに、二秒
走りながら前屈みになり、右手で拾い上げるまでに、三秒
残り一秒、何処かへ投げ飛ばす時間はない
投げた所で、自分の目の前で爆発するのが関の山だ
無論、赤也はそんな事は知らないが、

「だが――問題なく【粉砕】するッ!!」

彼は最善の一手を打ち込んだ
右手で拾い上げた手榴弾に、左の拳を叩き付けたのだ
手榴弾は金属片も信管も纏めて、粉々に粉砕される

「……焦ったああああああ!ついノリで問題なくとか言ったけど
 爆発したらどうしようって感じだったぞチクショウ!」

左手で心臓の辺りを押さえながら、赤也は叫んだ
だが直後に、彼の表情が変貌する
この鉄火場においても何処か残っていた浮ついた感情が消え去り、義憤が彼の面を染め上げていた

84 :火野赤也 ◆a3GgzP5j4k :2011/01/27(木) 21:58:41 0
「ともあれよぉー!許せねえな!助けを乞うている奴を、
 それもテメーの仲間を何とも思わず殺そうとするたぁ……許せねえよなあ!!」

怒号と共に、赤也は床を蹴る
猪突猛進の勢いで彼が向かう先は、職員室と廊下を隔てる壁

「さっきからポンポン投げ込んでくれたからよぉー!
 壁の向こうでもテメーが何処にいるか!大体だけど分かるんだよこのマヌケ野郎が!!」

声を張り上げ、異能を秘めた拳が壁に叩き込まれる
目的は粉砕ではなく破壊、道を開くのでなく――攻撃だ
破壊した壁の瓦礫が大雑把に、乱雑に、乱暴に、
テロリストのいるだろう範囲に襲い掛かる

「まどろっこしい事は嫌いなんでなぁ!そこで暫く下敷きになってやがれ!」

壁を破壊した後に残った粉塵の向こうに、赤也は荒々しい声を放った
そうして生き残った教員達を振り返る。殆どの者は、無事だ
少なくともテロリストに撃たれ、クニクライの食われた二人を除けば――それ以上は減っていない

「……今の内に逃げて下さいよ!出来れば助けを呼んできてもらえると助かるんっすけど!」

一様に顔面蒼白で、中には足腰の立たない者もいる教員達は、
それでも何とかテロリストが開けた大穴から逃げ出していく
それを見届けて、赤也はひとまず安堵の息を吐いた

「だが、まだ安心は出来ねー。教室の方も助けにいかねーとな……!」

右拳を左手の平に打ち付けて、気を引き締める
けれども教室に向かう前に、赤也は教室の隅に目を遣った
テロリストに撃たれて死んでしまった同僚の一人が、転がっている
無言のまま屈み、赤也は大穴の空いてしまった額を隠すようにハンカチを被せた

85 :火野赤也 ◆a3GgzP5j4k :2011/01/27(木) 21:59:31 0
「ちょっとばかし汗くせーかも知れねーけど……暫く、我慢してて下さいよ」

立ち上がり、次に赤也の視線が射抜くのは――未だに藻掻いているクニクライだ

「テメーも……人様の同僚をいつまでも、汚らしい腹の中に収めてんじゃねえ!!」

感情に任せて振り抜いた拳が、クニクライの腹部に巨大な穴を穿つ
穴の中に見えた腕を、赤也は掴んだ。そのまま思い切り、引き抜く
同僚の死体は噛み砕かれて、両膝から下が無くなっていた
クニクライに背を向けて、赤也は抱えた死体をやや離れたデスクの上にそっと置く
体液に塗れた彼女の顔をジャージの袖で優しく拭う
それから恐怖に見開かれた両目を手の平で撫でて閉じた
そして、赤也は再度クニクライへ振り返った
表情に抑え難い、燃え滾る怒りの炎を灯して

「本当なら……破片も残らねーくらい粉微塵に粉砕してやりてーけどよぉ……
 今はそんな場合じゃねーから、せめて邪魔にならねーようにしといてやるよ……!」

静かな呟きが終わると同時、固く握られた右拳が振り上げられる
振り下ろされた拳の着弾点は、床だった
激突と共に轟音が響き、床が鳴動して崩落する
床に沈みかけていたクニクライが、大穴の底へと落ちていく

「そこで大人しくしてやがれ」

吐き捨てて、赤也は息を深く吸い込んだ
ゆっくりと呼気を吐き出し、平手で両の頬を張る

「よっしゃ、行くぜえ!」

気合を入れ直して、駆け出した
進行方向は職員室の扉――ではなく、仮設教室に面している壁だ

「ノックしてもしもぉおおおおし!抜き打ち身体検査に参りましたぁ!
 凶器の類は校則違反なんで持ってる奴は問答無用で生徒指導だぞ覚悟しやがれ!!」

壁をぶん殴り大穴を開けて、舞い上がった粉塵と共に、赤也は大声を張り上げた

【攻撃成功かどうかは明記しないんで好きにしてくだせー。そして乱入だぜ】

86 :海藤 翼 ◆TazPdPu8KY :2011/01/29(土) 14:23:10 Q

突然だが私はビルの屋上にいる。
と、言っても自殺願望はない。『盗み』の結果ここにいるのだ。
ブラックダイヤ……諸君も一度は聞いたことがあるだろう。
私は今まさにそれを超絶華麗にバレることなくこのビルを仕切る男から掠め取ってやったのだ。
と悦に入っていた私の背後から鈍い聞きたくない音が響いた。

「真っ昼間から銃を使うのかね!専業主婦のおばちゃんがビックリする、やめたまえ!」

私の説得虚しく(もちろん私がものを盗んだからこうなった)男は再び銃を向けた。
銃に慣れておらず銃弾は床や空とダンスパーティーをしていたから安心ではあるが。

「大体このダイヤは君のものではないのだよ!元を辿ればだがね!」

私は懐に隠し持っていた銃を右手でもち、構えた。左手はビルの手すりを掴んだままだ。
狼狽する男に私は躊躇うこともなく引き金を引く。
男は叫び後退りしたが、目の前の銃口から飛び出たのは糸に吊るされた様々な国旗と飛び回る白い鳩達だった。

「わはははははははは!!私謹製の手品銃はどうだったかね!
思わず息を飲んだだろう!では、ごきげんよう!」
銃を捨てると同時に、ビルから飛び降りた。再三言うが自殺願望はない。


私が、『怪盗』だからだ。


地面へ自由落下を続ける私は体の形を変えた。
機械的なコウモリのような外見にマントを纏った異形へと。
そして変化を遂げた次の瞬間、マントはコウモリの如き翼となり自由に空を翔けた。


「レディースアンドジェントルメン!ごきげんようこんにちは!
今日もヒーローに負けず自由に頑張ろうじゃないか!」


申し遅れた、これを読んでいる紳士淑女の皆さん。
私の名前は……といきたいところだが、私にはこれといった名前はない。
どうしても呼びたければ私が現在使っている名前で。

海藤 翼(かいとう つばさ)と呼んでくれたまえ。

何なら、ルパンでも、怪人二十面相でも、何でも構わないがね。

87 :海藤 翼 ◆TazPdPu8KY :2011/01/29(土) 14:27:01 Q
名前:海藤翼
職業:怪盗
勢力:ヴィラン
性別:男
年齢:不詳
身長:180cm
体重:73kg
性格:欲望に忠実
外見:燕尾服にシルクハット、杖を持ったおっさん
外見2:マントを着たコウモリのような外見
特殊能力:アリス・イン・チェインズ
自分の姿を自在に変化させる。
顔の整形はもちろん構造さえ理解していれば腕を銃に変化させることや複数の物体にも変化可能
ただし素の身体能力に変化はないので中身はあくまで普通のおっさん
備考:
自称怪盗紳士。本名は不明
ある『夢』を叶えるためブラックダイヤを集めている。



【新規希望です、よろしく】

88 :太田空 ◆W58VPkJLyOJ8 :2011/01/30(日) 18:24:37 0
「っ、はぁ……何とか、なったかな……」

沈め切る事は出来なかったが、クニクライは身動きの殆どを封じられている。
少なくともこれ以上の犠牲者は出せないだろうし、皆が逃げる時間も稼げる筈だ。
太田は深い溜息と共に胸を撫で下ろす。

>「いてぇ…い…いてぇええええええよおおおやめてくれぇえええさとっちゃああああああああ」

しかし突然響いた爆音が、彼の安堵を一瞬の内に瓦解させた。
振り返ってみれば円状に抉れた床に、ひしゃげた机。

「一体何が……」

答えは直後に提示される。
職員室の廊下側、壁の上部にある窓から、楕円球が放り込まれた。
深い緑色に格子状の浅い溝――手榴弾だ。
太田が息を呑む。驚愕が彼の頭の中を漂白して、思考が停止する。
全身の関節が溶けて結合したかのように、体が動かない。
一つ、二つと続けざまに手榴弾が投げ入れられた。
段々と床に近付いて、小さく跳ねる。

>「正少年よ!俺じゃ一個が限界だ!だから……皆を守ってくれ!頼んだ!」

赤也の声が聞こえた。真っ白になっていた太田の頭は、だからこそ彼の言葉が深く浸透する。
反射的に、太田は動いた。手近なデスクを幾つか、纏めて粘土化する。
それを引き伸ばして布状にして、手榴弾へと振り回した。
弾き飛ばすのではなく、絡めて包み――然る後に粘土を硬化させる。
手榴弾の殺傷力の大半を担う破片は、金属に包まれて沈黙した。

「っ……今のは、危なかった……!」

だが太田の表情に浮かぶのは、達成感ではなく苦味だった。
手榴弾を見た瞬間、彼は完全に茫然自失に陥っていた。
さっきの行動は正義心に根差す物などではなく、単に赤也の声に弾かれて動いただけでしかない。

「やっぱり、僕じゃ……」

ヒーローを目指す太田としては、例え良い結果が得られたとしても、喜べる事ではない。
むしろ彼は自分を恥じて、臆病な自分を責めてすらいた。

>「よっしゃ、行くぜえ!」

俯き後悔に震えていた彼は、再び赤也の声によって再び意識が現実に呼び戻された。
そうだ、事件はまだ解決した訳ではない。それどころか、一番肝心な所が残っている。
顔を上げて、壁に穴を開け教室へと踏み込んだ赤也の背中を見た。
臆する気配など微塵も感じられないその姿は、太田には酷く羨ましい物だった。

「……違う。僕だって……きっと、やれば出来る……」

呟いて、彼は床の木材を粘土化する。
正体を隠し、挙動の補助をする為の着ぐるみが形成された。

「僕だって……ヒーローになってみせるんだ……!」

決意を秘めて、太田もまた仮設教室へと踏み込んだ。
そしてまず初めに視界に映ったのは、大型の拳銃だった。
反射的に、彼は動く。着ぐるみの一部を軟化、紐状にして、銃を絡めるように放った。

89 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/01/31(月) 02:29:05 0
「はっはっはっはっは!かかりましたね、もうあなたの負けだ!っと言っても音よりも早く動いているあなたにはもう聞こえないか…」
加速したアイアンジョーカーに、パワードスーツヴィランは勝利を確信し、大声で笑う
アイアンジョーカーの加速攻撃が炸裂するが、守りを固めたパワードースーツヴィランはその一撃一撃を受けて、しかし耐えている
「何故私が近距離であなたにあの超重圧やビームフィールドを使わなかったと思う?
超重圧は私の異能で、ビームフィールドはこのスーツの能力で発動させていますが
どちらも一度に長時間発生させる事ができず、あなたに加速されて避けられたら終わりだったからだ
だが、こうして守りを固めれば、私も少しはあなたの加速攻撃に耐える事ができる
そして…改造人間の私の動体視力は加速したあなたの動きを追う事もできる…対応はできないがね」
パワードスーツヴィランはアイアンジョーカーの動きを目で追いながら、言葉を続ける
そこに放たれた石原の一撃に大きくよろけるが、まだ倒れない
「…そろそろ加速状態も切れる頃かな?
では、さようなら、市長
新たな世界を阻む者よ…」
そう言って、パワードスーツヴィランは自分の全方位に空間のゆがみ=超重圧と、巨大な紫色の炎=ビームフィールドを発生させる
ヴィラン目掛け加速していた石原には、最早そのまま突っ込む以外に無い
如何にアイアンジョーカーでも、銃弾を粉々に砕く深海の如き超重圧と、すさまじいエネルギーのビームの壁にぶつかれば、ひとたまりも無いだろう

最早ここまでか

そう思われたその時
ヴィランの足元に強力な熱線が炸裂し、床を陥没させてパワードスーツヴィランを市庁舎の地下に落下させて、間一髪、市長を救った
熱線、スペシウムを放ったのは、言うまでもなく、宙野景一、ハイメタルボーガーである

「市長!ここは俺に任せて、学校へ向かってください!!」
開口一番、石原に向かって宙野は武中より先に叫んだ
宙野も又、オペレーターと同じ様に、民間人を見捨て、市長救援に向かわせた武中の判断を正しいとは思えていなかったのだ
故に、宙野は自分が民間人を助けにいけないのなら、一刻も早く石原に民間人救出に向かってもらおうとしているのである
悪魔で命令に忠実に、しかしその範囲で人命を、弱い物の命を優先する
この街に来て、ヴィランかヒーローとしか関わっていなかったため見せる事は無かったが
宙野もまた、人命を重んじる若者なのである

90 :アイアンジョーカーMk2 ◆bTpJe3giiIE2 :2011/02/03(木) 14:50:14 0
>>89
『敵、防御体制に入り効果的な攻撃が不能。このままでは反撃されます。
リアクター出力20パーセントまで減少、コアによる副作用が発生する恐れがあります。』

マイケルの言葉に石原はある可能性を考える。
相手はこの攻撃を予測し、ある程度の対策を打っていたと。
(やはり、緊急用スーツの限界か……!!)
石原は後悔の思いに駆られながら、敗北と死を予期した。

>最早ここまでか

>そう思われたその時
>ヴィランの足元に強力な熱線が炸裂し、床を陥没させてパワードスーツヴィランを市庁舎の地下に落下させて、間一髪、市長を救った
>熱線、スペシウムを放ったのは、言うまでもなく、宙野景一、ハイメタルボーガーである

>「市長!ここは俺に任せて、学校へ向かってください!!」

突如現われた宙野の姿を見るや、石原はMK2のスーツを着脱する。
その体には幾つもの傷と、胸部のリアクターの周囲には黒く浮き出た血管が
在った。
「宙野、借りが――出来たな。」

石原は小さく頷くと地価倉庫へ続くエレベーターへ乗り込む。
そこに待っていたのはマーク3のパワードスーツ。
前回の戦いで試作型でありながら出動したアイアンアーマーである。

「行こうか。」

―――学校上空

『テロリスト複数の存在を確認。』

マイケルの声を聞きながらアイアンジョーカーMK3は高速飛行を
ホバリングへ変え、屋上へ向かっていく。
AKを構えたテロリストがこちらへ向け何かを叫びながら発砲しようとしている。

『敵、確認。防御フィールドを発動しますか?』

「いや、相手の行動を奪うのが先だ。トリモチで行動不能にする』

右肩からランチャーギアが出現し、トリモチを放つ。
両手両足を封じられたテロリスト達は声にならない叫びを
上げながらジョーカーを見やる。
無事屋上へ到着したアイアンジョーカーはヘリを屋上へ誘導しながら
階下へ向かう。

「こちら石原、アイアンジョーカーだ。一般人の避難を優先しろ。
テロリストは私が引き付ける。」

91 :白井勇治 ◆keLNOMX2eM :2011/02/04(金) 03:15:52 0
この街に流れる風は嫌いだ。
心が荒む。黒いジャケットとグレーのパンツを着た1人の青年が雑踏の中を歩いていく。
彼の名前は白井勇治。この街でヴィランを狩る事を目的としている。
街に溢れるのは、暴力と欲望。突如出現した悪魔の石、ブラックダイヤモンドが
その欲望を増幅させ、また暴力を強大にもした。
かつて、この街で勇治も憎しみを抱いた。
そしてヴィランに蹂躙される人々の悲しみも見てきた。

勇治は許せなかった。この街に存在する全てのヴィランが。
「許せないなら、倒せばいい。この力で。」
初老の男から渡された「死のベルト」を手にし、勇治は
戦う力を得た。
ベルトを開発した組織の過酷な訓練を乗り越え、勇治は
再びこの街へ戻ってきたのだった。

彼はヒーロー、エクスクロスと名乗り
絶対正義を掲げ動き出した。



92 :白井勇治 ◆keLNOMX2eM :2011/02/04(金) 03:20:26 0
名前:白井勇治=エクスクロス
職業:ヒーロー(組織のエージェント)
勢力:組織
性別:男
年齢:21
身長:182cm
体重:70kg
性格:紳士的な好青年
外見:黒や白の薄いジャケットを好む、下はジーパンなど
外見2:小型多機能端末「アイクロス」。ベルトに装填し
変身。
特殊能力:変身前は普通の人間よりやや上程度。
変身後は対ヴィラン用の特殊兵器を使用する。
備考:
かつてこの街に住んでいた青年。
爽やかな笑顔の好青年で、紳士的。
幼い頃に引越し、ある組織の訓練を受けていた。
ヴィラン殲滅のエージェントとしてこの街へ戻ってきた。

【新規参加です、よろしく】


93 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/02/04(金) 08:08:53 0
>>92
よろしくお願いします!

94 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/02/05(土) 02:31:17 0
>「ムカつくなぁ……!その生っちょろい態度さぁ!!」

前回までのあらすじ
和明日がキレた。唐突に。

>「なぁにがそこのクズは嘘を言ったけどね、だよ!馬鹿じゃないの?馬鹿だよねぇ!?」

うわぁ……なんだコイツめんどくっせえ。
情緒不安定とか沸点低下とかそういうんじゃなくてさ、もうお前の感情の機微がわっぱりわかんねえよ。
さんざん人の計画邪魔しくさった上にキレながら駄目だしとかお前がふざけんな。俺が怒りたいマジで。
んーでもまあ?俺ちゃんももう22才児だし?高校生相手に本気の本気で噛み付き合うってのも情けない。
ここは真摯に紳士的にあしらおうじゃないか。

>「……なーんて、赤の他人にならそう言ってる所だけどさ。大丈夫だよ真性君。
 だって僕は君の友達だからね。そうさ、僕は友情に厚い男だから君を見捨てたりはしないんだぁ」

イラッ。
つーかこいつ、なんで上から目線よ?敬意を払えよ先輩にはよお。

>「僕を幻滅させないでくれよ?真性君」

「あー、難しい話終わった?何の得にもならねえ講釈をありがとうよ。おかげで眠気もすっきりだわ。
 なんていうか、上手くいかねえもんだなあ世の中。言葉や行動だけじゃ伝わらねえ想いってのは確かにあるんだ」

真意がどうであれ、人は他人のことはその言動でしか推し量れない。
育ての親だって、自分の子どものことを100%は理解できやしない。腹の底で何考えてるかわかんねえ奴ってのは居るもんだ。
だから自分の中の『相手像』と本人の実態には多かれ少なかれ誤差が出るし溝もある。想像と真実も然りだ。
だけどあまりに虚像と実像に誤差があり過ぎると処世が立ちいかなくなるから、価値観をある程度均一にする必要がある。
それが、『教育』なのだと。俺は学生時代にそう習った。

「お前さあ、ロクに学校行ってなかったろ。自分の与り知るところだけで世界が動くなんてのは、都市伝説だ。幻想だ。
 信じるのは中学校までにしとけ。じゃないとお前――大人になったとき、恥ずかしいぜ」

95 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/02/05(土) 02:33:11 0
ようやく其辺のおっさんの言ってたことが理解できてきた。
異能の振るい方を知らない者たち。それは人間の成長の過渡期に際して、有り余る体力の発散に困るのと似ている。
年を重ねるごとに身体は大きくなって力も強くなるけど、精神が未成熟だから上手く制御できなくて非行に走ったりする。
上手く自分の中で昇華する場所を見つけないと、取り返しのつかない過ちを犯してしまう。
子供から大人になる過程で一番必要なのは、十分な栄養と適度な体育、それから正しい教育なのだから。

「真性先生の超絶課外授業ー。今日はお前らに、大人になる前にやっとくべきこと……通過儀礼を教えてやんよ」

視界の端で、マサラちゃんが動いた。

>『悪に身を沈め外道に踏み入った犯罪者め!お前達など……っ!お前達など自らの悪に!影に縛られて磔になってしまえ!』

鋭く言葉が飛ぶと同時、俺の影から同じ色をした刺と鎖が吐き出される。
真っ直ぐ、影の主たる俺を拘束せんと迫る鎖。貫かんと迸る刺。それを俺は、

「――断るッ!!」

『断った』。
腹の底から響かせた拒絶の意志は大気に乗って鎖と刺を迎撃し、その尖端を砕く。
影色の拘束具は昏い塵となって影の中に舞い戻っていった。

「生徒が先生に勝てるわけがねえだろうマサラちゃん。俺はさっきもその異能を見てるんだぜ?」

言葉に意志を載せ、現実に変える異能。
俺は大まかにそう推測した。一昔前のラノベの詠唱っぽくて大変結構。
中学生のセンスに高校生の語彙を兼ね備えた強力無比にして豪壮無双の能力。

「端直な命令じゃなくわざと迂遠な物言いしてるのは趣味じゃなけりゃ発動条件だろ。
 おおかた文章朗読でイメージ固めて精神集中とかその類――だったらそれを上回る強いイメージで上書きだ」

教師らしくちゃんと解説も添えてやる。俺はニガテ科目のフォローも出来る男だ。
俺は黒板から数本のチョークを拾い、オーバースローで振りかぶる。
尻に付与した"神様"に『推進』をプログラムし、教師の必殺技・チョーク投げ。

「ちなみに俺ちゃん体罰認可型教師なんでー悪い子は容赦なくぶん殴るぜー説教しながらぶん殴るぜっ!」

"神様"によって鋭利なナイフの形に再成形されたチョークは、ミサイル弾のように自己推進しながらマサラちゃんへ迫る!


【縁間ちゃんの異能を拒絶。チョーク数本をナイフ型に変えて発射】

96 :白井勇治 ◆keLNOMX2eM :2011/02/05(土) 23:34:18 0
(市の庁舎)

1台のバイクが、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した市庁舎へ到着する。
血や傷にまみれた職員や、野次馬を抑える警官を擦り抜け
白井は戦いの最中へ飛び込む。
その手は多機能デバイス、アイクロス。そして腰には「銀色のベルト」を巻き
ながら。

「この街の中枢で暴れるとは大したものだな。ある意味、尊敬するよ。」

デバイスの画面をタッチしながら、宙野の攻撃で沈んだヴィランへ向け
呟く。
そして上空にいる宙野へ顔を向けると、爽やかな笑みを浮かべた。

「貴方の噂は聞いてますよ、ハイメタルボーガー。
いえ、こう呼んだ方がいいかな?宙野景一さん。」

≪HENSIN≫

くぐもった電子音声と共にベルトに装填されたアイクロスが
全身を覆う強化装甲へと変化していく。
両腰に装備されたリボルバーを手にするとそれを地下へ向け連射する。

「僕も人々を守る為に戦っています。
街を汚すヤツは許さない。特に、ヴィランはね。」

>>93宜しくお願いします。 空野さん、もし邪魔だったら適当にあしらってください】



97 :名無しになりきれ:2011/02/07(月) 13:11:01 0
悪人に人権はない

98 :縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/02/10(木) 01:12:46 0
>「生徒が先生に勝てるわけがねえだろうマサラちゃん。俺はさっきもその異能を見てるんだぜ?」

異能が打ち破られた。私は、黙っていた。

>「端直な命令じゃなくわざと迂遠な物言いしてるのは趣味じゃなけりゃ発動条件だろ。
> おおかた文章朗読でイメージ固めて精神集中とかその類――だったらそれを上回る強いイメージで上書きだ」

潤滑に回る舌が私の異能を解き明かす。やはり私は、黙っていた。
ふとあの男が先日、駅前で革命がどうのとビラ配りをしていたのを思い出したが、今更だ。

>「ちなみに俺ちゃん体罰認可型教師なんでー悪い子は容赦なくぶん殴るぜー説教しながらぶん殴るぜっ!」

「貴方、よく馬鹿と言われるでしょう」

たった一言、吐き捨てた。
お前はさっきから、いつまで間違いを得意げに語り続けるつもりなのだ。
と、投擲されたチョークが数本、鋭利に姿を変えて私に迫る。
精一杯教師ぶったつもりか。余りに浅はかだ。

『正義の門は常に私の傍にある。悪意に踏み込む事も、踏み入られる事も無いのだ』

私の眼前に黒白の門が現れた。門は決して大きくないが、悪意を秘めたチョークを確実に拒み、砕く。
黒と白、私の心の奥底から、無意識から滲み出た色彩だ。私の中での、正義の象徴たる色調。
そうだ。正義に色など必要ない。何物にも侵されない黒に、穢れ無き清廉の白こそ、正義に相応しい。

『変身――私は悪を下し、正義にかしずく者!それに相応しい姿を!』

私の身を包む制服が燃え上がる。だが炎の色彩はいつものような紅碧ではない。
着物と冠と言う姿は変わらないが、色は黒白で統一されていた。
これでいい。私はただ、あの犯罪者を拒絶し、打ち倒す事だけを考えればいいのだ。
もしも向こうに、改心の余地が無いのならば。

「……貴方は教師ではない。ただの犯罪者だ」

冷たい刃を突き刺すように、事実を断言する。

「貴方は教師を名乗るに足るだけの努力をしましたか?」

している訳がないと分かっていながら、尋ねた。
していたのならば、今こうして私とあの男が対峙している道理は、ない。

「それに先日、国を変えると言ってましたよね。そこで何故正当な手段を取らないのです。
 努力を重ね政治家となり、国を正す事が何故出来ないのですか。運否天賦に恵まれなかった?
 どうせなれない?どうせなれたとしても無理?どうせ、便利な言葉ですね。あらゆる努力を拒む理由になる」

そうして易きへ流れ続けて漂着したのが、教師を騙る犯罪者か。
どれだけこの男は愚かなのだ。反吐が出る。

「現実を見なさい。貴方が誰かに教えられる事など何もない。貴方がなれるのは、下劣な反面教師だけだ」

99 :縁間 沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/02/10(木) 01:13:35 0
悪に走り、己の罪を自覚出来ず、反省も悔い改める事もない。
救い難い犯罪者だ。矯正所……人格を半ば破壊する所業を私は決して賞賛しない。
しないが……それでしか救えない者がいるのも、また事実だ。この男のように。
ここで捕縛して、引き渡す他ない。

「イメージを上書き、そして先程から行動の随所に散らばる統一性のない現象。
 正体までは分かりませんが……その異様なまでの汎用性が貴方の異能だ。
 大方、局所的かつ単純な想像の適用と言った所ですか」

私の異能に似ている、と言うのが率直な感想だ。
何でも出来る。私やこの男の異能は、何でも出来るのだ。
善良な人々を助け癒す事も、悪を倒し縛る事も。
それだけの力を持ちながら社会に反し道徳を破り、悪に走る。
自分の欲望にただ従うのみとは、重ね重ね救いようがない。

「ならば貴方が決して理解し得ない物で挑むまでです」

そう……下劣で、悪辣で、卑俗で、何一つ志を持たない犯罪者には、到底理解出来ない物だ。

『私の胸に秘めたる正義の炎よ、横溢せよ。邪悪に染まり切った心を白き灰にしてしまえ』

想像の依代は、私の正義に対する忠誠心だ。
私の胸元から零れ落ちた白い炎は邪悪な精神を焼き尽くすべく、犯罪者へと迫る。

【炎に肉体的ダメージはありません。精神力がガシガシ削れるって事で】

100 :日沼 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/02/13(日) 23:01:45 0
「……こちら日沼、異能者と遭遇、クニクライ、自分、共に一時行動不能、教員制圧班、壊滅確認」
崩れた壁に潰され、身動きが取れなくなった日沼は、無線機で現状を知らせ、然る後全身に力を入れて何とか瓦礫の中からはいでた
肩や腕を裂傷し、骨折も多数あるが、それらは歩くたびにすぐさま回復していく
「…クニクライは1階、美術室に落下、後を追う、異能者及び教員は2階仮設教室内へ」
『了解、日沼君、2階のその教室にいるたっちゃんとの連絡がつかなくなったんだ
恐らくそこにも異能者がいる
でもまぁ、他のチームが向かうから君はとりあえずクニクライと合流して、その後そっちに向かってみてくれ
結構な数異能者がいるみたいだから、僕等の出番は多そうだよ』
「了解」
『急がなくていいから』
無線の向こうの、相変わらず緊張感の無い「リーダー」の声に応じると、日沼は火野の空けた穴から飛び降り、下の階にいるクニクライと合流する
負傷した仲間のテロリストに関して、「リーダー」も、日沼も一切何も対応しない
脚を引っ張る者は見捨てる
それが、日沼やリーダーのルールであり、そのルールが、傾国党内で受け入れざる得ないほどに、彼等は強く、そしてその強さで、党内の立場を得ていた

彼等、と言うのは、日沼と、リーダー、そして残り「二人」、党内で「傾国四天王」などと恐れられ、「ボス」以外に好かれていない、血も涙も無い4人の事である

【とりあえずこっちにも張りました】

101 :西上十三 ◆IS/PfMJV/Q :2011/02/15(火) 00:12:47 0
あっけにとられ呆然としていると、足元に何かが転がった。

爆発した。

死んだ。

102 :名無しになりきれ:2011/02/15(火) 03:26:46 O
あーあ。最低君の態度が最低なせいで辞めた人が出ちゃったよ。

103 :伊達 一樹 ◇QbSMdDk/BY:2011/02/16(水) 04:02:36 0
>「ところで……火の粉を振り払う為に振り回した腕がさぁ、
> 誰かに当たってしまったとしても……それは仕方のない事だよねー」

底意地悪い笑み、これ以上なく露骨で明白な、悪意の予備動作。
和明日の右腕が銃器に変貌した。
広い銃口が地の底へと続く奈落のように、伊達を睨む。

>「と言う訳で気兼ねなく、正当防衛させてもらっちゃおうかなーっと」

状況にそぐわない軽い発砲音が響いた。
榴弾が緩やかな放物線を描いてバスタードへ迫る。

(こいつ……なんて事を!)

避けたり弾いたりすれば、爆風が破片と共に四散する。
異能を持つ伊達や縁間はともかく、他の生徒達には防ぎようがない。
どうするか。思考に許される時間は一瞬。迷う余地は無かった。
範囲を両手に限定して、金と土の二属性で硬化。飛来する榴弾を掴み取り、手の平で覆った。
直後に爆裂する。くぐもった爆音が響き、しかし周囲に破片が飛び散る事はなかった。

「……クソッ」

だが伊達の両手には、無数の裂傷が刻まれていた。
鮮血が床に滴り落ちる。二つの属性を両手だけに集中させても、
榴弾の威力を抑え切る事は出来なかった。

(治療に能力を割いてる暇はない……。アイツを仕留めるのが先だ!)

傷はそのままに、伊達が和明日めがけて駆け出す。
毒の炎を宿した右拳を顔面に叩き込み、同時に左手に刃を創り出した。
電気を纏わせた刃を、和明日の胸に突き立てる。
重く確かな手応えと溢れる血に伊達は顔を顰めた。
人殺しなんて、気持ちのいい行為である訳がない。

(痛いし、面倒だし、こんな必死こくのは柄じゃない……だけど)

それでも伊達は手を止めない。殴り、蹴り、ひたすら、死ぬまで殺し続ける。
ここで殺さなければ、和明日は明日にでもまた、誰かを殺すだろうから。
そしてその誰かが、伊達の周りの人間でないと言う保証はどこにも無いのだ。

「それでもコイツだけは、殺さなきゃ駄目なんだ……!」

自分を説得するように、伊達は呟く。
殺人への嫌悪を決意で押し殺し、刃に風を纏わせて和明日の首を薙いだ。

104 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI:2011/02/17(木) 06:25:09 0
>「現実を見なさい。貴方が誰かに教えられる事など何もない。貴方がなれるのは、下劣な反面教師だけだ」

「そーだそーだ、もっと言ってやってよ。なーにが『大人になった時恥ずかしいぜ』だよ。
 あとなんだっけ?『自分の与り知るところだけで世界が動くなんてのは、都市伝説だ。』だっけ。
 言ってて恥ずかしくないの?」

縁間の言葉尻に便乗して、和明日は嘲笑と罵倒を零す。

「世界が、現実が見えてないのは君の方じゃないか。いいや、君には自分すら見えてないね。
 いい加減自分がクズだって認めなきゃ。いくら教師面したって、君はせんせーにはなれっこない」

曇天を映したような瞳に軽蔑を浮かべて真性を見据え、続けた。

「自分を知りなよ。今のままじゃ君、正義と悪、どっちにも付けない半端者だよ?」

侮蔑の感情を込めて粘着質な口調を吐き捨てる。
更に毒舌を巡らせようとして――和明日の顔面に炎を纏った拳が叩き込まれた。
頬骨に亀裂が走って、更に奥深くまで毒の属性が侵食する。
呻き声を漏らすよりも早く、次いで帯電した刃が胸を貫いた。
余裕を撒き散らしていた和明日は、何一つ対応出来ない。
殴られ、蹴られ、死に続ける。

>「それでもコイツだけは、殺さなきゃ駄目なんだ……!」

ふと、伊達が零した呟きに、和明日の口角が釣り上がった。
直後に、風の加速を得た刃が喉を横に走る。
噴水のように勢いよく鮮血を噴き出して、和明日は後ろに倒れた。
後頭部を床で強打した衝撃で、毒で爛れた眼球が眼下から零れた。

「……殺さなきゃ駄目、ねー。君さ、もしかしなくても……人を殺すの、嫌いでしょ」

105 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI:2011/02/17(木) 06:26:12 0
【悪意の体現】で身体を再生しながらも、酷く気だるそうに和明日が言った。
頬やカッターシャツを汚す血も、消せていない。
清潔で純朴な姿でこそ最悪が栄えると言うのが、彼の持論なのに。
異能を行使する力自体が、枯渇しつつあるのだ。

「だから……そうやって、殺さなきゃって義務感で自分の背を押して……。
 罪悪感を和らげようと、するんだ……どうだい、図星だろぉ……?」

だが彼の表情に浮かぶ悪辣の笑みは色褪せない。

「ところで、さぁ……僕の異能、【悪意の体現】って言うんだけど……。
 これは僕の考える最悪を、僕が体現する能力なんだ」

むしろ一層、悪意の濃度を増していた。
何か、最悪の事実を示唆するように。

「じゃあ僕が今思い描く最悪って何だと思う?君を打ち倒す事?
 いやいや、そうじゃない。だって君はヒーローだもん。
 ヒーローに対しての最悪ってのは、自分が死ぬ事じゃないんだよね。分かるよ、うん」

和明日が一人芝居の問答を披露する。
と、何の前触れもなく、爆音が響いた。
周囲に熱風と、赤い血肉と、黄色い脂肪が飛び散る。

「【悪意の体現】――眼窩から零れ落ちる直前、目玉を爆弾にしといたんだ。
 あーあ可哀想に、守れなかったねぇ。えーっと……誰だったっけ彼。
 ごめん自己紹介の時聞いてなかったからもう一回……って、無理だよねぇ。あはは、ごめんごめん」

わざとらしく死体に語りかけて、和明日は笑った。

「……おっと、ぼやっとしてて良いのかなぁ?僕が零したのは目玉だけじゃないよ?」

足元を指差す。
和明日の流した血液が一箇所に集まり、凝固して、立方体の箱となっていた。
側面には『10』と表示されていた。
数字は、一定の間隔で一つずつ、小さくなっていく。

「あー疲れたなぁ。今日はもう帰っちゃおうかなぁ。腹いせに、帰りに何人か殺しちゃおうっと。
 ……で、どうするヒーロー君?僕と爆弾、どっちを止める?」

邪悪な笑みを浮かべて、芝居がかった口調で和明日が尋ねた。

「目の前で死のうとしてる人間と、これから殺される人間、君はどちらを助ける?」

106 :佐山太郎 ◆MQ3R4NF5ik :2011/02/18(金) 21:27:43 0
名前:佐山太郎(シールドマン)
職業:ヒーロー(自称)
勢力:無し
性別:男
年齢:24
身長:175cm
体重:66kg
性格:一途
外見:その辺に居るサラリーマンが着ているスーツ姿の男性。
外見2:ゴーグル付き白ヘルメットに防弾チョッキを羽織り、
    防弾盾(機動隊が使っているような盾)を装備しただけ。
    ちなみに全部通販で買った物。
特殊能力:無し。
備考:
ヒーロー。日夜ボランティア活動に精を出したり、
コンビニ強盗的な小物の悪人と死闘を繰り、強力な悪人に挑み
ズタボロにされたりする戦いを広げたりしている。
特殊能力は無い。才能も無い。ただの凡人である。
今までのヒーロー活動で一番目だったのは、
河原の清掃活動で地方新聞の片隅に載った事

【新規参加、よろしく】

107 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/02/18(金) 21:35:54 0
>>106
よろしくお願いします!

108 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/02/18(金) 23:57:27 0

「は、離してくれ!俺は行かないといけないんだ!!」

「だから!危険だから一般人は立ち入り禁止だって言ってるだろうが!
 国家公務員舐めんじゃねぇぞ!!」

「俺は一般人ではない!ヒーロー『シールドマン』だ!!」

テロリストが学校を占拠してから時間が経過し、既に校舎の周囲は
多数の警官達によって封鎖されていた。
そんな険呑な空気の中で、今、学校の敷地にある普段は使われていない
古い西門において、小さな揉め合いが発生していた。

テロリストが占拠した校舎に突入しようとしている男。
そして、それを止めようとしている警察官の揉め合い。

突入を試みている男は、バイザー付きの白いヘルメットを被り機動隊
御用達の盾をその背に背負っている。そんな彼を後ろから羽交い絞めの様にして
止めているのは、普通の警察官。それは、校舎の内部で起きている騒乱とはまるでかけ離れた空気だった。
……だが、その揉み合いは長くは続かない。

「だーっ!畜生、いい加減諦めろよシールドマン!」
「俺の信念に諦めるなんていう言葉は――――ぐふっ!?」

炸裂するバックドロップ。投げられたシールドマンの頭が最寄の電柱に激突する
そう、警官は強いのだ。善良な市民を守る為に、格闘技を覚えている程度は普通なのである。
シールドマン相手ならば十分にその強さを発揮する事が可能なのだ
上下逆さまになったシールドマンを袖で汗を拭いながら見下ろす警官は、一度息を吐くと
倒れたシールドマンに手を差し出す

「くっ……や、やるな。だが俺の正義の魂は……」

「……なあ、シールドマンよ。お前さんには俺、感謝してるし尊敬もしてるんだ。
 俺のじいちゃんが倒れた時に病院まで背負って運んでくれたのもお前だったし、
 近所の家のポチの子供の里親探してくれたのもお前だった。
 お前は俺にとってヒーローだよ……けどな、この中で起きてるのはあんたじゃ手に負えない
 奴らなんだよ。異能者っていう化物同士の戦いだ。俺、あんたに死んで欲しくないんだよ」

「……」

どうやら、この警官はシールドマンの事を知っているらしい。
シールドマンは警官の手を取りゆっくりとふら付きながら立ち上がると、警官の目を真っ直ぐに見る

「ありがとう。君は俺のファンだったのか……だが、すまない。それでも俺は行かねばならないんだ
 何故なら、この学校の中には多くの子供達が残されている。彼らは今、心細い筈だ。
 彼らには今、ヒーローが必要なんだ――――だから俺が行かねばならないんだ!!」

「シールドマン、あんた……いい台詞言ったってここから先には行かせねぇからな!!」

「ぬおおお!離せ!離すんだ!!ジャステイィィィス!!!」

警官とシールドマンの揉め合いはこの後20分間続いた……

109 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/02/19(土) 17:48:52 0
地下へと姿を消したヴィランに油断無く構える宙野
と、バイクの爆音がし、何者かが視界の隅に現れた
恐らくヒーローだろう
(でしゃばりな民間人め…貴様等じゃ邪魔だ!守ってやる余裕は無い!帰ってくれ!)
苛立つ宙野に、バイクの青年はさわやかな笑みを浮かべ、話しかけてくる
>「貴方の噂は聞いてますよ、ハイメタルボーガー。
>いえ、こう呼んだ方がいいかな?宙野景一さん。」
「!?」
一瞬、宙野は自分の名前を相手が知っていることに戸惑った
ハイメタルボーガーや不知火重工対ヴィラン部隊の名前は、ヴィランからの報復に隊員がさらされないよう極秘事項のはずである

宙野が動揺している間に、青年は更に驚くべき変貌を遂げる
パワードスーツ…いや、鎧に近い装束を瞬時にその身につけたのだ!
「……」
何者か…
瞬時呆然となる宙野に、青年は再びさわやかに語りながら、ヴィラン目掛け攻撃を開始した

はっとなった宙野が退避を呼びかけるより先に、地下、崩落した瓦礫の煙の中からパワードスーツヴィランが飛び出し、白井に向かって殴りかかってきた
正面から高速で迫る!
そう見えたヴィランは一瞬かききえ、白井の右からアイアンジョーカーにダメージを与えた強烈なパンチを打ち込んできた
当れば特殊合金でもへこんでしまうだろう
どうやら特殊能力である超重力もビームフィールドもアイアンジョーカーとの戦いで消耗したらしいパワードヴィランだが、それでも異能者であり改造人間、しかもパワードスーツを身につけたその凄まじい身体能力は恐るべき脅威である

110 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/02/19(土) 18:08:58 0
もみ合いになっているシールドマンと警官
と、そこに数台の真っ黒い軽装甲車両が到着し、中から完全武装の警察特殊部隊が降り立った
市長(マイケル)の要請で応援に駆けつけたステルス迷彩を装備した警察の対異能部隊である
隊員達は警官とシールドマンを無視して素早く整列し、直立不動でその場に停止した
無線設備も素早く展開、周囲に規制線も張られ、シールドマンは愚か一般の警官すら入り込めない空気である
やがて隊長らしい男が全ての設置が終わると無線で屋上にいる対テロリスト部隊のヘリと、アイアンジョーカーに通信を始めた
「こちら地上班、突入準備完了、いつでも作戦行動に入れます、どうぞ」

「おい、君、ここ、特殊部隊展開して邪魔になるから、もう帰りたまえ、危険だ」
特殊部隊による突入作戦が始まろうとする中、シールドマンともめている警官とは別にその場に最初からいた警官の一人がシールドマンに近づき、迷惑そうに言って聞かせる
彼はどうやらシールドマンを知らないらしい
「何の異能もったヒーローか知らないが…あ〜…突入するならもっと上手く、我々に責任がかからないように…じゃない…えーと」
どうもこの警官は、「ヒーローが解決するのは明白だから任せたいが、職務上ヒーローを行かせたことがわかると問題になるので、自分達に責任がかからないように行ってくれ」と言いたい様だ

111 :エクスクロス ◆keLNOMX2eM :2011/02/19(土) 21:51:15.29 0
>>109
>はっとなった宙野が退避を呼びかけるより先に、地下、崩落した瓦礫の煙の中からパワードスーツヴィランが飛び出し、白井に向かって殴りかかってきた
>正面から高速で迫る!

白井の変身した金と紫のヒーロー、エクスクロスは突然の強襲にも
動じない。
「おっと…」
スウェーで敵の攻撃を避けながらバックステップを取る。

>そう見えたヴィランは一瞬かききえ、白井の右からアイアンジョーカーにダメージを与えた強烈なパンチを打ち込んできた

拳が眼前に迫る瞬間、しかしそれはエクスクロスの顔面を捉える事はない。
エクスクロスの拳がヴィランの拳を弾き返すように放ったのだ。
通常ならば、無事では済まないはず。しかしエクスクロスは
防御したその右腕で自らの首を、まるで襟を正すかのように触る。

「確かに、強いな。だが、この界隈じゃ2番目以下だ。
強化され過ぎた分――神経組織に打撃を与えれば暴走する。
こっちはヴィランの事なら何でも学んだもんさ…理由は簡単だ。
貴様らを倒す為、それだけだ。」

チッチッチッと舌を鳴らすと、ゼロ距離でヴィランの腹部目掛け
特殊弾入りのリボルバーをぶち込んだ。



112 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/02/19(土) 23:26:26.12 0
>>110

「なっ……おいおいおいおい、まさか特部まで出てくるなんて、
 ひょっとしてこりゃあ思った以上の大事件なのか……?」

シールドマンに腕拉ぎを決めていた警官は、現れた警察特殊部隊と、
その統率された動きに眼を丸くする。よもや特殊部隊が出てくる規模の事件だとは思っていなかったようだ。
そんな警官とシールドマンに、新たな警官……先程から二人の揉め合いをだるそうに見ていた男が、
迷惑そうな表情で言葉を投げつける

「おい、君、ここ、特殊部隊展開して邪魔になるから、もう帰りたまえ、危険だ」
「……お、おう。そうだぞ。諦めて帰ってくれよシールドマン。
 お前が命掛けなくても何とかなるんだから」

頼もしい援軍を得た事で、最初の警官はシールドマンから技を外し、
邪魔にならない範囲まで後退を勧告。更に自身も特殊部隊から距離を取った
……だが、それは致命的な判断ミスとなった

シールドマンはマイナーな自称ヒーロー。その存在はあまり知られていないのだ。
故に、この光景を見ていたシールドマンを知らない存在が、彼を異能を持つヒーローだと
認識してしまい、進入を許してしまうというという可能性は十分あったのだ。

「何の異能もったヒーローか知らないが…あ〜…突入するならもっと上手く、我々に責任がかからないように…じゃない…えーと」

「――――ああ、大丈夫だ!心配ない!任せてくれ……子供達の未来は俺が守ってくる!!
 シールドジャンプ!とうっ!!」

最初の警官が「あっ」と声を挙げた時にはもはや遅かった。
シールドマンは良い笑顔で親指を立ててから、普通にまるで侵入者の如く
鉄の柵をよじ登り、校舎の敷地へと進入駆け出していたのだ。

遠くから叫ぶ警官の声は届かない。
特殊部隊もシールドマンをヒーローと認識したのか、見てみぬふりをしている。

「うおおおおおおお!!!!!シールドダッアアアッシュ!!!!」

シールドマンが普通に走って向かうのは、校舎裏口。
校舎内のごたごたにより、テロリストの警戒網が薄くなっていた地点。

【シールドマン校舎内侵入】

113 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/02/19(土) 23:38:11.84 0
>「貴方、よく馬鹿と言われるでしょう」

「はいセメント発言いただきましたーキャラ固めに余念がねえなあマサラちゃん?」

ホントはちょっと傷ついていた。このJKに罵られてもちっとも嬉しくない。
ただただ、不愉快でイラっとくるだけ。
人生の酸いも甘いもまだまだ知らない半人前のくせして、人を傷めつける言葉だけは的確に知っている。
優等生。俺の、世界で一番嫌いなタイプの優等生だ。

>『変身――私は悪を下し、正義にかしずく者!それに相応しい姿を!』

チョークを砕いたマサラちゃんは変身する。
和装に冠の、今までにない斬新なビジュアルのヒーローへと転身する。

>「……貴方は教師ではない。ただの犯罪者だ」
>「貴方は教師を名乗るに足るだけの努力をしましたか?」

ハイパーお説教タイム発動。戦闘中にべらべらとよく口が回るなと思ったけど、俺は敢えて黙っておいた。
気持よく喋ってる最中に遮られることほど腹立たしいものはないとわかっていたし、自分がそんな憎まれ役になりたくなかったから。
そう、気持よく演説ぶっちゃってる。マサラちゃんは、自分の言葉に陶酔してる。

>「そーだそーだ、もっと言ってやってよ。なーにが『大人になった時恥ずかしいぜ』だよ」

お前は黙ってろ。いやマジで、せっかくバトル分けたんだから外野がピーヒャラ野次るなや。
和明日はなんか教室に乱入してきた学帽姿のヒーローと対峙していた。あと西上くんは死んだ。

>「現実を見なさい。貴方が誰かに教えられる事など何もない。貴方がなれるのは、下劣な反面教師だけだ」

うわ、ドヤ顔。長ったらしい説教を終えたマサラちゃんはスッキリした顔で俺を見る。
反論する方向性は決まってる。マサラちゃんの論理は結構穴だらけで、彼女は毅然とした態度・強い言葉・断言口調で補強している。
取り繕っている。虚飾している。自分の理論の拙さを、ディベートテクニックで弾丸に変えている。

>「イメージを上書き、そして先程から行動の随所に散らばる統一性のない現象。
  正体までは分かりませんが……その異様なまでの汎用性が貴方の異能だ。
  大方、局所的かつ単純な想像の適用と言った所ですか」

「んーまあ、80点ってとこかな。概ね合ってる。つまり俺はさ、今すぐ君に死ねと命じることだってできるんだぜマサラちゃん。
 同じ系統の異能者ならわかるだろ?君と俺の差が、どれほど絶対的で絶望的かってことを……それでも諦めずに抗い続けるか?」

114 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/02/19(土) 23:38:58.29 0
嘘である。嘘だけど、なんかマサラちゃん一人合点してるっぽいしせっかくなのでノっておく。
この距離からでもマサラちゃんを仕留める術はあるけれど、それは"命令"じゃあない。そんな都合良い能力あってたまるか。

「それでも俺が君をさっさと殺さないのは――俺が教師で、君が生徒だからだ。君がなんと言おうと、その事実は不変だ。
 教師を名乗るだけの努力?したに決まってんだろ。教員免許は持ってないけど俺も学生時代は割かし頑張って勉強したからね」

もちろんマサラちゃんがそういう論点で語っているわけじゃないことぐらいわかってる。
じゃあ、教師たる資格って何よ?免許みたいな杓子定規的なことでないならば、信念とか理念とか?
もしもそうだというならば、身体を張って社会のルールを教えんとするこの姿勢こそが教育者たる信念だ!

びしりと指差し論戦布告する先で、マサラちゃんは新たな動きを作っていた。
それは話し合いのフォームじゃない、絶対の臨戦。攻撃の姿勢。

>『私の胸に秘めたる正義の炎よ、横溢せよ。邪悪に染まり切った心を白き灰にしてしまえ』

「断――れねえェェェェェ!?」

マサラちゃんの胸先から迸る炎が、色の無いまっさらな炎が俺に向かって猫まっしぐら。
俺はさっきと同じ手段で断ろうとしたが、今度は効かない。理論武装してやがる。この短時間で対抗策を練り上げたのか。
凄まじいポテンシャル。汎用性グンバツ過ぎる異能といい、このJKはマジで危険だ。炎が俺の心を焚く。
強烈な精神攻撃ではなく、じわじわと心臓を真綿で締め付けるような圧迫感。そしてあたりどころのない焦燥感が。
心の奥で燃え盛るように俺の精神を削っていく。化石燃料の如く、揮発させていく。
精神に毒を打ち込まれたようなものだ。戦いが長期化すればするほどこっちの旗色は悪くなる。

>「自分を知りなよ。今のままじゃ君、正義と悪、どっちにも付けない半端者だよ?」

うるせえよ。お前はマジでどっちの味方なの。俺の友達じゃなかったのかよ。
よく考えたらこいつは誰の味方でもないのだ。ただ、あらゆる者に弓引く天性の悪役。遍く命すべての敵。
あとで絶対ぶん殴る。

「日本変えたきゃ政治家になれだあ?政治家一匹で国が変わると思ってんのか小学校から勉強しなおせ馬鹿たれ。
 ついでに歴史も勉強しろよ。開びゃく以来どんな国も劇的に変わる契機は『革命』だ。社会弱者による国家転覆だ。
 俺たちみたいな底辺が本気でこの国を憂いたら、もう革命しかねえだろうが!はい論破!」

ゆっくりと、俺は俺の理論武装を構築する。
精神を焼き焦がす炎がマサラちゃんの毒ならば、俺は心の中に解毒薬を生成する。
清流のように純な魂で、敵意の火焔を消火する。

「そろそろ次のステージに移ろうぜマサラちゃん。君の言う『悪』って何だ?
 まさか辞書引いた定義を定礎に生きてるわけじゃねえだろう。君にもあるはずだ!芯の通った善悪のものさしが!
 社会通念に言う『悪』が"奪う・殺す・傷つける"であるならば、――俺はまだ何も悪いことやってねえんだぜ!」

和明日はともかく俺は自分がテロリストだと明かしただけ。ただそれだけ。生徒には一切危害を加えてない。
むしろ問答無用で異能を向けてきたマサラちゃんの方が。その行動は辞書の上の『悪』に抵触する。

俺は教卓から黒板用のでっかい三角定規を一組取り出し、"神様"を纏わせて両手に装備する。
長い奴と、平たい奴。さながら勇者の剣と盾の如く、俺は武装した。

「というわけで真性先生からの第二問!――先生は悪い人か否か、あなたの信念に照会して答えを提しなさい!」

新たに設問しながら跳躍。マサラちゃんの足を払うように長い三角定規で薙ぐ。


【大きい三角定規で縁間ちゃんに足払い】

115 :火野赤也 ◇a3GgzP5j4k代理:2011/02/20(日) 17:11:46.23 0
壁に開けた大穴を抜けると、二種類の血の臭気が赤也の鼻孔を抉った
重苦しいほどに生々しい臭いと、焼け焦げたような臭い
前者は床に転がった、恐らくはテロリストの死体から
そして後者は、周囲に飛び散った肉片から放たれていた
所々に制服の切れ端を伴う、肉片から

瞬間、赤也が目を見開いた
沸騰した血液が全身を駆け巡り、脳の奥から憤怒の感情を引き出す

>「【悪意の体現】――眼窩から零れ落ちる直前、目玉を爆弾にしといたんだ。
 あーあ可哀想に、守れなかったねぇ。えーっと……誰だったっけ彼。
 ごめん自己紹介の時聞いてなかったからもう一回……って、無理だよねぇ。あはは、ごめんごめん」

「テメーが……やりやがったのか、これを……!」

怒りに拳が震え、鋼鉄のように固く握り締められる
今にも和明日に襲いかからんと、赤也に猛獣の魂が宿り、

>「あー疲れたなぁ。今日はもう帰っちゃおうかなぁ。腹いせに、帰りに何人か殺しちゃおうっと。
 ……で、どうするヒーロー君?僕と爆弾、どっちを止める?」
>「目の前で死のうとしてる人間と、これから殺される人間、君はどちらを助ける?」

拳を振り上げると共に、駆け出した
脇目も振らずに猛然と、破壊の異能を秘めた一撃を叩き込む

「……何だかよく分かんねえけどよぉー。とりあえずコイツをぶっ壊せば、当面の人死には防げるってんだろ?」

和明日の作り出した、爆弾目掛けて
このままでは誰かが死ぬと聞いた瞬間、赤也は怒りを忘れていた
滾る感情に任せて和明日を殴るよりも、咄嗟に誰かを助けようとした
結果、拳は狙いを過たず爆弾を粉砕する

「そんでもって……君らがソイツをぶちのめせば、めでたく犠牲者はゼロって訳だ!
 協力プレイはヒーローの特権だしな!頼んだぜ!」

116 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E代理:2011/02/22(火) 22:17:25.71 0
>「んーまあ、80点ってとこかな。概ね合ってる。つまり俺はさ、今すぐ君に死ねと命じることだってできるんだぜマサラちゃん。
  同じ系統の異能者ならわかるだろ?君と俺の差が、どれほど絶対的で絶望的かってことを……それでも諦めずに抗い続けるか?」
 「それでも俺が君をさっさと殺さないのは――俺が教師で、君が生徒だからだ。君がなんと言おうと、その事実は不変だ。

嘘だ、と心中で下劣な言葉の群れを断ち切った。
それが出来るのならば、この男にとって完全にイレギュラーであり、生徒でもないテロリスト共に使っていただろう。
ハッタリを張るにしても、もう少し賢明な術があるだろうと、内心でのみ罵った。
自分を優秀だと思い込んでいる者は、闘争する分にはそのままでいい。

>教師を名乗るだけの努力?したに決まってんだろ。教員免許は持ってないけど俺も学生時代は割かし頑張って勉強したからね」

「……馬鹿馬鹿しい。ならば貴方の努力は、教員免許を手に入れる事すら出来ない程度の物だった。それだけだ。
 私が言ったのは名乗るに『足る』だけの努力です。努力したけど駄目だったとなら、誰にでも言える」

言葉の一部を刃の切先のように強調して、突き付けた。

>「日本変えたきゃ政治家になれだあ?政治家一匹で国が変わると思ってんのか小学校から勉強しなおせ馬鹿たれ。
 ついでに歴史も勉強しろよ。開びゃく以来どんな国も劇的に変わる契機は『革命』だ。社会弱者による国家転覆だ。
 俺たちみたいな底辺が本気でこの国を憂いたら、もう革命しかねえだろうが!はい論破!」

「……はっ」

思わず、侮蔑を含んだ笑いが零れた。
あまりにも、愚か過ぎる主張に。

「テロリスト一匹で国が変わると思ってるんですか?その楽観の麻薬に浸り切った思想には、憐れみすら覚えます。
 貴方は根本的に勘違いしている。国の、組織の変化に必要な物は『革命』である……でしたか?
 それは生きる為には何よりも金が必要だと言っているようなものだ。甚だしい浅慮です」

何故こんな至極当然の、稚児にも分かる道理を説明せねばならないのか。
我知らずの内に溜息が零れた。
いけない。先の蔑笑と言い、心に体を動かされるのは、未熟の証だ。

「与えられただけの限られた金はいつか尽きる。ですが金を自ら稼ぐ術を知る者は、生涯金には困りません。
 金が必要だなんて言うのは、極々浅い考えに過ぎないのです。貴方の言う『革命』とて同じ事。
 革命が必要、そこまではいい。ならば革命には何が必要か。……人ですね。多くの人が必要だ」

童子に言い聞かせるように、段階を踏んで言葉を並べた。
何も挑発的な意図がある訳ではない。
この男では、こうでもしなければ理解が追いつかないだろうからだ。

「では人を集めるには?……思想です。万人を納得させられる主張がなければ、
 人は結束して目的を貫く弾丸にはなり得ない。……で、貴方にそれだけの思想がありますか?」

無いでしょうね、と言外に付け加えて、犯罪者を見据えた。

117 :縁間 沙羅 ◇rXhJD3n06E代理:2011/02/22(火) 22:23:07.24 0
>「そろそろ次のステージに移ろうぜマサラちゃん。君の言う『悪』って何だ?
 まさか辞書引いた定義を定礎に生きてるわけじゃねえだろう。君にもあるはずだ!芯の通った善悪のものさしが!
 社会通念に言う『悪』が"奪う・殺す・傷つける"であるならば、――俺はまだ何も悪いことやってねえんだぜ!」
>「というわけで真性先生からの第二問!――先生は悪い人か否か、あなたの信念に照会して答えを提しなさい!」

異能を施しただろう三角定規が、足元に迫る。
先に展開した正義の門が防いだものの、勢いまでは殺せなかった。
門ごと押し切られた。
私の両足が床を離れ、泰然たる直立の姿勢が奪い去られる。
……が、惨めに転ぶ姿を晒しはしない。
私が床に打ち捨てられるよりも早く、正義の門が私の体を支えた。

「……貴方は、最低ですね」

宙空に横たわる正義の門に据わり、犯罪者を眼下に見下す形で、吐き捨てた。

「貴方は何事も最低のラインにしかいない。さっき教員免許と言いましたよね。
 勿論、教員免許だけが教師の資格ではありません。ですが、最低限の線引きである事は確かです。
 その最底辺にすら立てていない人間が、偉そうに教師を名乗る……思い上がるなと言わざるを得ません」

最早憐れみを超過して、傲慢さに静かな怒りすら覚えさせられる。
一体どうして、この男は自分をそうも過大評価出来るのか。
いや……現実を過小評価出来るのだろうか。私には、理解出来ない。

「奪うな、殺すな、これも人間の最低限度の道徳に過ぎない。法律ですら、道徳の最小限でしかない。
 拳銃の所持と発砲、この時点で貴方は法に触れている。
 ……あまつさえ『悪い人』などと曖昧な定義で自分を誤魔化して」

再び肺腑から気道をせり上がった嘆息を、辛うじて押し殺して吐き出した。

「貴方が一切語ろうとしない犯罪の動機にしても、大方自分が燻り上手くいかない世の中への不満でしょう。
 ですがそれは、決して大衆の賛同を得る事は出来ません。
 何故なら多くの人々は、貴方と違って正当に社会で生きているし、生きられるからだ。私達の親がそうであるように」

瞳を征服しようとしている侮蔑の色までは、抑え切れたか自信がないが。

「断言します。貴方はただの愚劣で、社会の最底辺である、犯罪者だ。それ以外の何者でもない」

大上段から突き付ける自分に、ふと父の仕事を思い出し……しかしすぐに頭から掻き消した。
尊敬すべきで、あの人は間違っていないが、私の理想とはかけ離れている。
脳裏に残る連想の残滓を振り払うべく、私は口を開いた。
今までに語り尽くした言葉の羅列は……私の想像に堅牢さを与えるには十分過ぎる。

「下劣で愚劣な犯罪者め、『今一度、己の汚れ切った魂が何処にあるのか、その身をもって思い知るがいい』」

【散々語った言葉を礎とした重圧攻撃(出力大)です】

118 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/02/23(水) 03:01:08.18 0
特殊弾を受け、よろめくパワードスーツヴィラン
弾丸はパワードスーツを貫通し、下腹部に確かにめり込んでいる

が、パワードスーツヴィランは倒れず、一歩後ろに飛びすがり、再び構えを取った

「ふふふふふ、ただの人間の分際で、私の拳を避けた事は褒めてやろう
だが、地力の差とい……う!?」
調子よく口上を始めようとしたヴィランは突如苦しみだし、ブルブルと震えだしてしまった
神経が暴走し、筋肉が弛緩、呼吸が困難になり、まともに動けなくなったのだ
「ふが…げ…げ…」
一度膝からどどっと崩れ落ちるパワードスーツヴィランだったが、やがてよろよろと再び立ち上がる

が、次の瞬間、体を稲妻が一瞬走り、爆発四散してしまった
恐らく機密保持のための機能だったのだろう
凄まじい爆炎は宙野が助けに入る間も無く、近くにいたエクスクロスにも襲い掛かっていく

119 :エクスクロス ◆keLNOMX2eM :2011/02/23(水) 23:11:02.23 0
>>118
パワードスーツすら貫通する特殊弾がヴィランの腹部を穿つ。
至近距離の攻撃、通常ならば即死レベルのそれをヴィランは平然と受け止めたかに見えた。
エクスクロスは銃を斜めに構えたまま、相手の動きを注視する。

>「ふふふふふ、ただの人間の分際で、私の拳を避けた事は褒めてやろう
>だが、地力の差とい……う!?」

しかし、超越した肉体は行き過ぎた循環を生み出す。
回復能力と、身体能力に特化した改造人間達の最大の弱点。
それは、過度に強化された肉体への反動。
神経を断裂する特殊弾が、人という枠を超えすぎた肉体へ「罰」を与える。

「さぁ〜て、聞かせて貰おうかな――?君が、誰で……そして誰の指図で
こんな事をしたのかを。」

ヴィランの首を掴み尋問するように呟く。
その言葉は嫌に低く、そして陰険なものだった。

>「ふが…げ…げ…」
>一度膝からどどっと崩れ落ちるパワードスーツヴィランだったが、やがてよろよろと再び立ち上がる


「自爆――!?」
思わずエクスクロスは身を構える。素早く腹部のベルトのアイクロスを
タッチし何かを起動する。同時に電子音声がくぐもった男性の声で詠唱される。
『XXX―device 002』
しかし爆発は稲妻を放ちながらすぐ様、辺りを灼熱の地へと変貌させてしまう――

しばし紫煙が辺りを覆う中、地面がようやく見えてくる。
まるでマグマのように抉られた地には、ヴィランの死体すら見つけられない。
宙野もあの青年、エクスクロスの死を予期しただろう。
それ程までに、爆発の衝撃は凄惨を刻んでいた。

『XXX―002 ENTER』

先ほどと同じ電子音声と共に、煙の先から球体に包まれたエクスクロスが
出現する。
全身が火花を放ち、無数の傷が確認できる。
球体―即ちシールドを解除したエクスクロスは変身端末をベルトから
外しながら宙野へ向け歩き出す。
その姿がやがて先ほどの、長身の青年――白井勇治へと戻っていく。

「ふぅ…少し深追いし過ぎましたね。いや、驚いた。
まさか、自爆装置を仕込んでいるとは…僕もまだまだ未熟だ。
これで変身するのは半日くらい無理でしょうね。防御に出力を使い過ぎた。」

傷から流れる血で汚れた手を抗菌ティッシュで拭きながら、白井は宙野へ
手を差し出す。
穏やかな人の良さそうな笑みを浮かべて。

「この街を守る――先輩として、僕は貴方を尊敬しています。
こらからも、宜しく。僕は白井勇治、この街に「国」から派遣されたヒーローです。」



120 :名無しになりきれ:2011/02/25(金) 18:38:46.08 0
アメリカ合衆国でやっているヒーロー登録制度が日本にもやってきたか

121 :伊達 一樹 ◇QbSMdDk/BY代理:2011/02/28(月) 00:55:09.66 0
>「……殺さなきゃ駄目、ねー。君さ、もしかしなくても……人を殺すの、嫌いでしょ」
「だから……そうやって、殺さなきゃって義務感で自分の背を押して……。
 罪悪感を和らげようと、するんだ……どうだい、図星だろぉ……?」

伊達が息を詰まらせた。人を殺したくない。当たり前だ。
例え相手が人殺しの犯罪者だったとしても。理性的に人を殺せる人間なんて、普通はあり得ない。
そんな事が出来るのは人非人の、極悪人だけだ。
それでも殺さなければ他の誰かが殺されてしまう。
だから伊達は、必死に義務感で自分を縛っていた。
だと言うのに和明日は、それをいとも容易く、鎖の輪を一つだけ打ち砕くように的確に突き崩してみせた。
和明日を殺し続ける手が途端に、罪悪感との摩擦で減速した。

>「ところで、さぁ……僕の異能、【悪意の体現】って言うんだけど……。
これは僕の考える最悪を、僕が体現する能力なんだ」

生じた間隙に、言葉がねじ込まれる。
直後に、爆発が起きた。視界の外から轟音と熱風が押し寄せる。
咄嗟に帽子を押さえながら振り向くと、
そこにいた筈の一人が肉片と血痕と、床の焦げ目に成り果てていた。

取り返しのつかない死が、そこに重く重く横たわっていた。
特別親しかった訳ではない。むしろ、知っていたのは名前くらいだ。
趣味嗜好も性格も、およそ彼と言う人間を殆ど知らなかった。
それでも、自分のすぐ近くにいた人間が死んだと言う事実は、酷く重い。
全てが途絶えてしまった。
引き篭もりだった彼にだって残されていた筈の笑う機会も、何もかもが。
二度と復元出来ないほどに、粉微塵にされてしまったのだ。
直視に堪えない事実が、伊達の体を震わせる。

>「……おっと、ぼやっとしてて良いのかなぁ?僕が零したのは目玉だけじゃないよ?」

和明日の声に、伊達がはっとした。
慌てて地面を見る。和明日の流した血が一箇所に凝結して、爆弾に変化していた。

>「あー疲れたなぁ。今日はもう帰っちゃおうかなぁ。腹いせに、帰りに何人か殺しちゃおうっと。
 ……で、どうするヒーロー君?僕と爆弾、どっちを止める?」

余裕ぶった声。反して、伊達は切迫する。
どちらを助けるべきなのか。顔を知っている、目の前にいる数人か。
それとも顔も知らない、どこか遠くの、無数の人間か。
ここで和明日を止めて殺してしまえば、これ以上誰かが死ぬ事はない。少なくとも彼の手によっては。
もし和明日を逃がしたら、今よりもっと多くの人が殺される。
だが――だったらここで数人を見殺しにすればいいのか。出来るのか。
何が正しいのか。どうすれば正解なのか。

迷っている場合ではない。どちらか決めなければ、どちらも間に合わなくなる。
それこそが、本当に最悪の結末だ。それが分かっていて――それでも伊達は選べない。

>「……何だかよく分かんねえけどよぉー。とりあえずコイツをぶっ壊せば、当面の人死には防げるってんだろ?」

思考に埋没されていた意識が、不意の声によって現実に引き上げられた。
直後に打撃音。爆弾が粉々に破壊された。拳の一撃によって。
拳の主を伊達は知っていた。赤いジャージが特徴的な体育教師、火野赤也だ。

>「そんでもって……君らがソイツをぶちのめせば、めでたく犠牲者はゼロって訳だ!
 協力プレイはヒーローの特権だしな!頼んだぜ!」

反射的に、伊達は動いていた。
拳を土と金の属性で固めて、電気を纏わせて和明日へと放つ。
さっきの和明日の言葉が無意識の摩擦となって、殺しにかかるまでは出来なかったが。

122 :宙野景一 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/03(木) 20:53:45.39 0
【ごめんなさい、レスすっかり忘れてました】

「…よろしく」
地上に降り立った宙野は臼井と名乗る得体の知れない成年に、とりあえず挨拶をしておく
アイアンジョーカーを苦しめた怪人を、苦も無く撃破する巧みな腕前
恐ろしく訓練された動きは、間違いなく何らかの組織で訓練を受けた物で、彼は国から派遣されたと言っている
メタルボーガーは悪魔で一般の警官や自衛官が装着するためのパワードスーツを作るためのテストスーツを実戦配備してデータ収集を行っているのであって、メタルボーガーだけが日本国の対ヴィラン戦力と言うわけではない
ゴスパン刑事の様に国家に属する異能者や、対異能装備を持った部隊や、何らかの特務を持った人間がいたとしても、おかしくは無いはずだ

が、それらは希少で、なおかつパワードスーツ装着員やパワードスーツと違い、「代え」が効かない
出し惜しみの大好きな国家が、こんな最前線にそれを送ってきたという事は、今、まさにこの街で「何か」が進行しており、それに対して彼が送り込まれてきたという事だ
そう、宙野は思った

しかし、ハイメタルボーガーのカメラから臼井を見つめる武中の考えは違った
(…時が、来たのか?)
所属不明の「国家のヒーロー」が現れたという事は、早田以外の「危機感のある政治家」達が動いたという事なのでは無いか
そう彼は思ったのである

以前に語ったとおり、メタルボーガーがこの街に配備されたのは武中がこの街を守るためにそうなるように不知火重工内で手を回したためだ
武中がいなければメタルボーガーが実戦テストの名目でこの町に配備される事は無かっただろう
結果としてこの街にメタルボーガーがいる事が良くも悪くも人命を救っているわけであり、それが武中の望むところな分けだが
実はその武中を不知火重工にもぐりこませたのが、市庁舎に来る前武中が話していたあの男「早田」なのである

「早田」は光国党と言う組織に属する政治家であり、光国党は「異能の平和利用による国家の躍進」を目標に掲げた政治団体だ
「異能の平和利用」に必要とされる法や条例を作るべく国家に働きかける一方、異能犯罪者を取り締まり、異能犯罪者から国民の生命財産を守らんとしているのである
その異能犯罪者に対抗する戦力こそ、ハイメタルボーガー、そしてそれを指揮する武中である
しかし、ハイメタルボーガーは、光国党が推進する「組織」が誕生するまで、異能者による犠牲者を見てみぬふりが出来ぬと早田が私財をなげうち、各地を駆け回ってどうにか作り出した「場繋ぎ的な」戦力であり
「組織」が誕生した際、即時チーム解散、組織への合流をはたすのである

そして、今まさに目の前にハイメタルボーガー以外の国家のヒーローが現れたという事は、遂に「組織」が設立され、ヴィランへの猛反撃の火蓋が切って落とされようとしているのだろう
そう考えた武中は、即座に個人所有の衛星携帯を取り出し、早田へと問い合わせを行った
しかし、帰ってきた応えは、NOである
未だ「組織」の設立は他の各政党が難色を示しており、設立には至っていないらしい
「光国党以外の政治団体が独自に何らかの組織を作り、派遣してきた戦力だろう」
との事だった
それを聞いた武中は若干落胆すると共に、また、頼もしい気持ちになる
光国党以外に、異能犯罪に危機感を持ち、こうして実際に行動に出る政治関係の何者かがいたのだ
緑間沙良の言う「努力を重ね、政治家となり、国を良い方向へ導こうとしている者」がいたのだ
こんなに嬉しい事は無い
そして
そんな努力している者をあざ笑い、暴力と人の血を流す事をよしとする邪悪な連中を、これ以上好きにさせるわけにはいかない

「こちらメタルボーガー通信指揮車、臼井君、現在近隣の学校施設でテロ活動が行われている、ハイメタルボーガーはこれより、テロリスト殲滅のため再度出撃する
君のおかげで、めでたくこっちは無傷だ、対ヴィラン部隊を代表して、感謝する」
ハイメタルボーガーのスピーカーから武中の感謝の言葉が聞こえる中、宙野はブースターを点火し、学校へと発進していく
(……わけがわからない)
事情を知らない宙野にしてみれば、全体的に引っかかる事だらけだったが、兵隊である自分は上を信じて進むだけだと自分に言い聞かせ、疑念を振り払うと、臼井をその場に残し、学校へと向かった

123 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/03(木) 21:09:31.02 0
校舎内へと侵入したアイアンジョーカー

その前に、再び完全武装のテロリスト達が立ち塞がる
「動くなてめェらァ!!舐めたまねしやがって!一歩でも動いたらこいつ等のどたま吹っ飛ばすぞォおおおおお」
そう言って、ジョーカーの前に立ち塞がったテロリスト5名は、各々が学生を押さえつけ、その頭に銃口を突きつけていた
「舐めてんじゃねェぞごらァ!マジで撃てんだこっちはよォ!!」
錯乱しているテロリスト達は、今にもトリガーを引きそうである

124 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/03(木) 21:29:50.28 0
>>112
「アイアンジョーカーだ!奴が突入してきやがった!!」
「おい!上だ!上に戦力を送れ!」
「何してんだ!人質を盾にしろ!」
シールドマンが突入した後者裏口に、見張りの姿は無い
皆慌しく屋上のアイアンジョーカー迎撃に向かって行ったのである
しんと静まり返った廊下
と、その教室の扉の一つが開き、中から2名のテロリストに銃口を突きつけられた5名ほどの生徒がぞろぞろと出てきて、同じく一階にある放送室へと入れられていった
幸いな事に、生徒もテロリストも極度に緊張していたためか、シールドマンには気づいていない
テロリストと生徒が全員放送室内に消え、後を追って見ると、放送室の扉の隙間から、中の様子を伺う事が出来た

室内には、テロリストに銃口を向けられ、身動きできない先ほどの生徒たちと、武装したテロリストが3人
そして、緑色の皮膚と、異様に大きな頭を持った、不気味な怪人の姿があった
怪人は生徒の一人の肩を掴むと、おもむろに質問する
「オレが…醜いか?」
ドロドロにただれた顔をした怪人に尋ねられ、応える事ができず、がくがく震える生徒に、怪人は不気味ににやりと微笑む
「モウスグ、オマエもこんな顔にしてやるよ…」
独特のニュアンスの口調でそういうと、怪人は放送機器のスイッチを入れ、テロリストの一人に向き直る
「コウナイでテイコウする連中を大人しくさせよう、コレカラこいつをユックリ溶かす」
溶かす、と言われ、生徒の表情は真っ青から土気色へと変わる
「ジワジワカラダが溶けていくこいつの声を聞けば、ヒーロー気取り共も抵抗をやめるだろう」
そう言って、怪人は早速生徒の方を向き、テロリストは生徒の断末魔を校内に届けるべく放送の準備を始めだす


【NPCは俺の担当になってた事に今更気づきました、遅くなって大変申し訳ありません】

125 :和明日灯 ◇lGcrGBhbDI代理:2011/03/04(金) 14:21:48.74 0
和明日灯は毒々しい笑みを浮かべて、伊達がどう動くのかを観察していた。
すぐには逃げ出さず、伊達がどちらを取るのかを、どちらを見捨てるのかを見届けるつもりだった。
そして彼がどちらを選ぼうと、もう一方を見捨てた事を存分に罵り、罪悪感を煽ってから逃げるという算段だ。

(さーて、彼はどっちを取るのかな?やっぱり目前の方かなぁ。だったら、今度街中で大虐殺でもしちゃおうかなぁ。
 ここで数人を見殺しにしておけばって後悔するくらい、沢山人を殺しちゃおう。
 死体で文字でも残しちゃうかな。『君のせいだよ』とかさ。あぁ、楽しみだなぁ)

妄想に意識を委ねて、へらへらと笑う。
既に和明日の目は次に招く最悪を見つめていた。
故に、彼は気付けない。

>「……何だかよく分かんねえけどよぉー。とりあえずコイツをぶっ壊せば、当面の人死には防げるってんだろ?」

唐突の乱入者の存在に。
破壊音に引っ張られた、爆弾の破片が視界を横切る。

>「そんでもって……君らがソイツをぶちのめせば、めでたく犠牲者はゼロって訳だ!
 協力プレイはヒーローの特権だしな!頼んだぜ!」

「……へ?」

赤いジャージ姿の男が、和明日の作り出した爆弾を粉砕していた。
間断なく、伊達が動いた。しかと握りしめた拳に紫電を纏わせて、和明日に迫る。
完全に予想外の出来事に、和明日は全く動けなかった。
無防備な彼の顔面に、拳が減り込む。同時に全身を電撃が駆け巡り、踏み荒らした.。
悲鳴を上げて和明日が跪く。項垂れて、それからゆっくりと顔を上げた。
電撃を受けて白濁した両目に憎悪を浮かべて、和明日と赤也を睨みつける。

「……君達ヒーローはいつもそれだよ。力を合わせればーだの何だのと嘯いて、
 寄ってたかって僕の邪魔をするんだ。鬱陶しいったらありゃしない」

彼の負傷は治らないままだった。治せないのだ。
もう何度も殺され、復活を繰り返している。
おまけに手痛い電撃を受けて、異能を使う気力はもう一抹ほどしか残っていない。
回復は勿論、逃走だって出来はしない。
それでも、不意に、和明日が笑った。目は白濁して眼窩から血を溢れさせたまま、酷く好意的に。

「……だけど、うん、僕決めたよ。もう無闇やたらと誰かを殺したりしないってさ。
 だって君達に袋叩きにされちゃうからね!……でもさ、だったら君達が負けたり死んだりしたら、
 そしたらもう僕が人殺しを我慢する理由はどこにもなくなっちゃう。そうだろ?」

白い歯と同時に禍々しい悪意をも剥き出しにして、続ける。

「君達の人生にこの上ない重荷を背負わせてあげるよ。ヒーローとして一生、
 負けられない恐怖に睨まれながら戦い続けるんだ。趣味も仕事も友達も恋人も家族も
 何もかもを手放してね。……でも安心してよ。そんな辛い人生、僕がすぐに終わらせてあげるからさぁ」

言い終えて、和明日は一歩、二歩と後ずさった。
同時に、血塗れのシャツの胸元を開く。
和明日の胸には、血の色で『3』と数字が浮かび上がっていた。止める暇はない。
彼が最後に体現するのは、『可能性』だ。
死んだかもしれない。でも、もしも生きていたら、と。
不確定であるが故に人生を縛り続ける、灰色の鎖だ。

「じゃあ、バイバイ。また会う日まで、見知らぬ他人の命の重みに怯えていてね」

そして、和明日は爆発した。

【リアルの事情でさようならします。またいつかお会いしましょう】

126 :名無しになりきれ:2011/03/05(土) 00:14:36.98 0
胸糞悪い巻く引きだな

127 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/03/06(日) 21:30:57.76 0
>>124

怪人が生徒の方へと意識を向けた直後であった。

「――――シールドクラッシュ!!!!」

響き渡ったのは強い声。
そして、怪人の背中に走る衝撃。

それは何という事は無い。ある男が怪人に体当たりをかましただけの事だった。
ゴーグル付きの白いヘルメットを被った普通の男の、シールドを前面に出した体当たり。
それは、怪人のバランスを崩すくらいは出来るかもしれないが、倒すには至らないだろう。
そして攻撃の反動で男は床を転がっており、頼りになる様には見えない。

――――だが、それでもこの時、この瞬間に男は現れたのだ
悪の与える恐怖に怯え、救いを求めていた生徒達の目の前に。

ただ、彼らを救う為だけに

「待たせたな皆!ここは正義のヒーロー『シールドマン』が何とかする!
 君達ははやくここから逃げるんだっ!!」

立ち上がった男は、転んで擦りむいた膝を隠そうともせず、
怪人を前面に、生徒達を背に、そう宣言した。

128 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/03/07(月) 07:47:24.01 0
人間は『偽善』を嫌う。

偽善。偽りの善。虚偽の善意。利他愛の皮を被った、徹底的な自愛。
その本質がいつの時代も厭われるのは、偽りの愛をそれと気付かず尻尾振ってしまう者がいるから。
悪辣の虚飾を額面通りに受け入れ、財産を奪われる――そこに明確な被害者と、加害者がいるから。


――人は嘘が嫌いなんじゃない。騙されるのが嫌いなんだ。


>「……貴方は、最低ですね」

俺の問いに、マサラちゃんの返答は解答ではなかった。
足払いによって宙へと誘われた和装姿のヒーロー。しかし地に伏すことはなく、異能で作った門が体躯を受け止める。

>「断言します。貴方はただの愚劣で、社会の最底辺である、犯罪者だ。それ以外の何者でもない」
「おいおいいいのかよそんな軽々に答え決めちゃって。試験時間はまだたっぷりあるんだぜ?」

俺は拳を打ち出した。門に阻まれ、弾かれる。
腰だめに銃を繰り出す。ロクに照準も覗かない射撃では、やはりマサラちゃんを捉えられない。

>「『今一度、己の汚れ切った魂が何処にあるのか、その身をもって思い知るがいい』」

再び重圧がきた。テロリスト達にかましたのとは比較にもならない、俺専用の一撃。
まるで天井からジェット噴射に吹きっ晒されたみたいな感じで、俺は床と合体した。

「うぐぐぐぐぐぐぐ……!」

気を抜けば骨までイカれて、俺の肉と床材が混ざり合ってしまいそうな重圧下。指一本動かせない。
意識を全て抵抗に費やしてしまう。"神様"を練り上げて、この状況を打破する余裕が生み出せない。

それとは別に、俺は猛烈にむかっ腹が立っていた。主にマサラちゃんについて、年甲斐もなく沸騰しそうだった。
なにもかもを断言系で語りやがって。ほとんど憶測じゃねえか。そりゃ銃撃ったのは犯罪ですけどさ。

なんだろう、俺は泣きたいんだろうか。女子高生にやいやい言われて、悔しくて泣きそうなんだろうか。
否。違うんだ。俺は腹を立ててるんじゃない。感情を誤認するな。
俺が本当になりたかったもの。俺が本当に怒りを向けるべきこと。感情が、信念が、言葉を一つ吐き出した。


――この正義(ニセモノ)には、負けたくない。

俺は目の前のヒーローに対して、どうしようもなく、狂おしいほど、勝利を渇望しているのだった。

129 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/03/07(月) 07:48:11.14 0
「ぬっぐ……おおおおおおおおおおおおおっ!!!」

左手の甲に刻まれた身体強化紋に、ブラックダイヤの灯が入る。
全身の筋肉が不可に耐え切れなくなってブチブチ切れていくが、"神様"で強引に補修。
立ち上がる。

「そうだよなあ……騙されるのは、嫌だもんな……!」

だから理屈で身を守る。理論武装で相対する。
この世の全てを断言し、自分の中で完結させる。あらゆるソースを自分に頼る。

マサラちゃんが俺というヴィランに対して最も怒りを表したのは、悪の存在なんかじゃなく。
先生の皮を被ったテロリストとして、俺が彼女を騙していた。その一点。

「どこに甘んじてんだ偽物(ヒーロー)……っ!お前の中に根差してるのは正義の心なんかじゃねえ。
 なあマサラちゃん。君は誰かを守りたいんじゃなくて、悪をぶちのめしたいだけだろう。徹底的な憎悪、それだけだ」

マサラちゃんは、守ろうとしなかった。教室に残るクラスメイトは、今だヴィランの危難に晒されてるのにだ。
最優先で、ノータイムで、躊躇なく、逡巡なく、俺を制圧しに動いていた。誰も省みず、まっすぐ俺だけを見ていた。
さっきまでの俺がそうだったように、ヒーローの皮を被った――偽善者。俺はこいつに、負けたくない。

「お互いまだまだ未熟だなあ。どうすんだよこのままじゃ、お前の正義って奴は嘘になっちまうぜ。
 できねえよなあ。騙されるのは嫌なくせに、自分は平気で騙す側に回るなんてのは、正義の味方じゃねえもんな」

"神様"をリクルートスーツに宿し、その在り様を変える。
生まれるのは深淵の色。宵闇のような黒。ネクタイから靴まで、全てを黒で統一した――喪服。
俺の変身だ。

「そろそろ始めようぜマサラちゃん。俺と君が唯一共有した『正しさ』を、紛いなき本物に変えるために……!」

視界の端で、和明日が爆発したのを見た。
しょうがねえな、お前も一緒に乗せてやるよ。俺たち友達だもんな。
和明日の爆発を"神様"で集め、爆風渦巻く巨大な竜巻を生成する。これは教鞭。今だ迷う生徒を、正しく導いてやる為の。

「それでは真性先生の課外授業、最後の一問です。――――あなたにとっての『正義』とは何か!」

マサラちゃんへ向けて、破城槌もかくやの爆風を叩き込む。
それを追随するように、爆風自体を突き抜けるようにして、腰を深く落とした正拳突きを繰り出した。

「簡潔に答えなさい!」


【ラスト一撃。和明日の爆発をブラインドに正拳突きをマサラちゃんへ】

130 :ヘンゼルト ◆2VhwbhoTlY :2011/03/08(火) 15:07:06.27 O
参加する

【テンプレ】
名前:ヘンゼルト=グレーテル
職業:テロリスト
勢力:悪
性別:男
年齢:35
身長:185
体重:72
性格:気分屋
外見:オールバックの白髪、白いビジネススーツを着た青年の姿
外見2:黒いオーラを纏う
特殊能力:黒いオーラを纏い身体能力を強化する
オーラによる身体強化は自分に向けられる敵意や害意の総数に比例して強くなり、
このオーラを纏う事で非物理的な攻撃への耐性も増す
オーラの形状は自在に変えられる

備考:国際手配中のテロリスト。気分が良ければ人を殺し、気分が悪ければ人を殺す、
ヒーローは勿論、ヴィランにすら憎まれており
『災厄にして最悪』とまで呼ばれる徹頭徹尾の犯罪者。
今はテロリストをしているが、その犯罪の範囲はあらゆる範囲に及び、
彼を憎む者は非情に多い。

131 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/03/09(水) 01:42:59.15 0
>>130
【よろしくお願いします!】

132 :伊達 一樹 ◆QbSMdDk/BY :2011/03/09(水) 22:15:15.09 0
雷を纏わせた拳は和明日をこれ以上なく的確に捉えた。
確かな手応えと共に電流が和明日へ流れ、悲鳴を上げさせる。
和明日が白く濁った目から血を流して、崩れ落ちた。
そのまま、再生する様子はない。

>「……君達ヒーローはいつもそれだよ。力を合わせればーだの何だのと嘯いて、
> 寄ってたかって僕の邪魔をするんだ。鬱陶しいったらありゃしない」

「皆に害をなす奴は、皆から駆逐される。当然の事だぜ。
 ゴキブリだって、狼だって、君達みたいな悪人だって、同じ事さ」

満身創痍を晒しながらも、和明日の声色は普段と何ら変わらない。

>「……だけど、うん、僕決めたよ。もう無闇やたらと誰かを殺したりしないってさ。
> だって君達に袋叩きにされちゃうからね!……でもさ、だったら君達が負けたり死んだりしたら、
> そしたらもう僕が人殺しを我慢する理由はどこにもなくなっちゃう。そうだろ?」

「いいや、もう誰も君を袋叩きになんかしたりしないよ。あと一発、叩き込んで、
 次に君が目覚めた時には矯正所で訳の分からないヘルメットを被せられているんだ」

色褪せない悪意の笑みも、今となっては強がりにしか見えない。
少なくとも伊達は、虚勢だとしか見ていなかった。
つまり伊達は、理解出来ていなかった。和明日というヴィランが抱く、最悪への執着を。

>「君達の人生にこの上ない重荷を背負わせてあげるよ。ヒーローとして一生、
 負けられない恐怖に睨まれながら戦い続けるんだ。趣味も仕事も友達も恋人も家族も
 何もかもを手放してね。……でも安心してよ。そんな辛い人生、僕がすぐに終わらせてあげるからさぁ」

後ずさる和明日を追って、伊達も一歩前に出る。
逃げられる訳がないと言うように。
だがそんな伊達を嘲笑うように、実際嘲笑を浮かべて、和明日がシャツの胸元を乱暴に開いた。
晒されたのは、血の色で浮かぶ「3」の一文字。

「お前、まさか……!」

咄嗟に、伊達が跳んだ。
クラスメート達を背に、両手を横いっぱいに広げる。
体の前面だけを、土と金の属性で硬化させた。
少しでも防御力を上げる為の苦肉の策だ。

>「じゃあ、バイバイ。また会う日まで、見知らぬ他人の命の重みに怯えていてね」

そして、和明日が爆発した。高熱と爆風が伊達を乱暴に殴りつける。
踏みとどまれたのは一瞬だけだった。
凄まじい勢いで吹き飛ばされて、伊達は教室の壁に激突する。
背中を強かに打ち付けた後で床にずり落ちて、
伊達が出来たのは脱げそうになった帽子を震える手でかぶり直す事だけだった。
立ち上がれない。テロリストはまだ一人、残っていると言うのに。

「クソッ……!」

床に手をついて力を篭めるが、やはり立ち上がれなかった。

「……あーあ、最後の最後にカッコつかないなぁ。手柄は譲ってあげるからさ、精々頑張りなよ」

取り繕うように、気取った言葉を吐き出した。
あくまでも自分が卑怯者のろくでなしだと、目立ちたいから助けただけだと示す為に。
これ以上、伊達に出来る事はない。
帽子を目深くかぶり直して、悔しげに目を細めながら伊達は縁間に手を伸ばす。
振り絞った最後の異能。『活性化』の性質を持つ『火』の属性を、彼女に宿した。

133 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/15(火) 03:16:21.19 0
名前:バイオン・ベーダ
職業:現在傾国党四天王の一人
勢力:悪
性別:男
年齢:37
身長:178
体重:100kg
性格:冷血、自分の能力にプライドを持っている
外見:全身緑色で、巨大な頭部を持ち、顔面はドロドロにただれている
能力:口から溶解ガスを噴射可能、又、頭が収縮する事で周囲にガスをばら撒く事ができる
このガスは金属すら溶かせる威力で、人間が浴びれば大火傷を負い、浴び続ければドロドロに溶けてしまう
皮膚はショットガンにも耐える、筋力は500キロの重りもやすやす持ち上げる
備考:傾国党に所属する改造人間
傾国党の改造人間は「リーダー」がいづこかからつれてきた物である…
その正体は現段階では不明

134 :バイオン ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/15(火) 03:31:10.44 0
>>127
突然の乱入者にテロリストが騒然となり、子供達の表情には希望が宿る
(ヒーローだ!これで勝てる!)
その場にいた生徒達の誰もがそう思っただろう
現に、テロリスト達も明らかに動揺の色を見せ、立ち上がろうとする生徒たちに若干上ずった声で慌てて制止をかえる有様だ
ここで人間のテロリストだけだったなら、シールドマンも生徒と協力して…と勝算もあっただろう

「ヒーロー…か」

タックルに全く動じなかった緑色の怪人は、鋭い視線を彼に向け、ボソリと呟いた
人間のテロリストだけだったのならば、まだ…まだ勝算はあった
だが

目の前は武装兵士の集団すら一蹴できる実力を持っている
一般人の学生とシールドマンが束になった所で、勝てる見込みは…恐らくない

「…死ね!」
怪人、バイオンは有無を言わず、シールドマン目掛けて溶解ガスを口から消火器の様に噴射した
このガスは当れば機動隊が装備しているジュラルミンの盾も水に濡れたダンボールの様にドロドロと溶けていくほどの威力がある
シールドマンが浴びればひとたまりも無い…はずだ

135 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/03/15(火) 23:09:17.82 0
>>134
怪人は、シールドマンの全力の体当たりに対してバランスを崩す事すらなかった。
それは、それだけの実力差が確かに存在しているという証明。
変身も出来ない、強化スーツも着ていない、シールドマンというヒーローには
勝ち目などという物は蚊ほども無いという現実。
それを突きつけられたシールドマンの頬に、冷や汗が流れる。

>「…死ね!」

そして直後に怪人から吐き出された溶解ガス。
シールドマンの盾をも溶かす殺人気体。

「くうっ……シールド……ハリケーン!!うおおおおお!!!!」

だが、怪人の口から放たれたそれをシールドマンは大きなジュラルミンの盾を
団扇代わりにして全力で扇ぐ事で何とか直撃を避ける
ガスであった事が幸いした。仮にこれが溶解液であれば、もはや為す術は無かっただろう。

(くうっ……最初に怪人の『溶かす』という言葉を聴いていなければ死んでいた!)

だが、現実は無常。シールドマンが幾ら頑張って扇ごうと、
ガスに触れる盾はゆっくりと溶けていく。この抵抗は焼け石に水でしかない。
シールドマンの足が恐怖で震える。息が切れ始める。だが

「はぁはぁ……さあ子供達!早く逃げるんだ!!
 今ならテロリスト達はガスに阻まれて無茶な行動は出来無い筈だ!!」

シールドマンは無理やり笑顔を作って子供達へと視線を送り、人質の脱出を促す。
だが、とうとう……シールドが半分ほど溶解し、扇の役割を果たさなくなった

「ジュッ」という肉が焼ける様な音と共に、シールドマンの腕から煙が上がる

「あぐあああああっ!!?」


136 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/03/15(火) 23:09:57.01 0
あまりの激痛に転がる様に倒れ、教壇をひっくり返したシールドマン。
だがそれが幸いし、教壇が盾となり、一瞬溶解ガスの射程から逃れる事が出来た。
ソレを認識したシールドマンは火傷を負った手で、恐怖と痛みで震える自分の体を抱える

(怖い……俺じゃ絶対に勝てない、痛い……うぅ)

材質の関係か、もしくは単に厚さの関係か。
木製の教壇はジュラルミンのシールドよりは少しだけ溶けるのが遅い様だ。
この教壇を盾にすれば、ひょっとしたら3%くらいは自分一人が逃げられる可能性が
生まれるかもしれない。所詮シールドマンは凡人なのだ。才も無ければ能もない、
ただ個人的にトレーニングをしている程度の一般人なのだ。
自分から飛び込んできたとはえ、逃げても罪は無い筈だ

シールドマンは震えたまま教卓の脚を掴むと

(……勝てない、けれど)

駆け出した。怪人バラオンへと向けて。

「うう……ぐ、おおお!!!早く逃げるんだ子供達!!
 シールド、タックルゥゥゥ!!!!」

教壇を盾に体当たりする。転ぶ。
怪人の後ろから立ち上がる。その拳を振るう。蹴りを放つ。

……恐らくは、何一つ怪人に効果は見られないだろう
みっともない。情けない、攻撃。
見ている子供達は失望の表情を浮かべているかもしれない


ただ、それでもシールドマンは「戦う」事を止めようとしない

137 :バイオン ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/18(金) 21:54:12.02 0
(頑張れ…ヒーロー)
(頑張ってくれ…)
圧倒されるシールドマンに、生徒達は目に涙を浮かべて心の中でエールを送る
声は震えて出ない
生徒達の誰もが皆、シールドマンに失望などしていなかった
しかし、人間のテロリストが同士討ちを恐れて発砲できず、怪人をシールドマンが引き付けているが、出口に必死で、無言で仲間が押しかけ脱出がはかどっていない現状で、彼等の中にある希望は勝利ではない
もしかしたら、逃げられるかも、助かるかも
シールドマンはもう仕方ない
彼はヒーローだから仕方ない
自分で飛び込んできたのだから…
それが、その場にいた生徒達の心の中の全てだった

一方
如何なる特殊能力も使わず、自分に襲い掛かってくるシールドマン
その姿にバイオンは首を傾げる
(おかしい…)
目の前の相手はヒーローであるはずだ
だが余りにも…余りにも弱すぎる
まさか普通の…何の能力も武器も持たない人間がこんな所に入ってくるはずは無い
即応予備自衛官か何かか?
それとも能力を隠しているのか?
いや……使う必要が無いのか?
……舐められて、いるのか?
いや…

怪人バイオンは先ほどからまるで壁を蹴るように全く動じない自分を必死に攻撃している男を、こう、分析した
自分が能力を出し惜しみ、全力を出す前に一瞬で倒そうと隙を狙っているのだ


(バカメ)
怪人は心の中で笑った
そっちが実力で勝てないと悟り、隙を狙うのならば兎を追う獅子が如く徹底的に全力で殺しにかかれば良いだけだ

そう思ったバイオンは、眼前のシールドマンの体制を崩すべく、脚目掛けて渾身のローキックを放つ
転ばせて、至近距離で溶解ガスを浴びせようという魂胆だ
無論、このローキックすら、常人の脚を叩き折る破壊力を秘めている

バイオン渾身のローキック

それは、突如現れたカブトムシの様な角を持つパワードスーツがバイオンを吹き飛ばした事で、シールドマンに着弾する事は無かった

お婆ちゃんが言ってた…義を見てせざるは勇無きなり、だから、勇気を出して何かしてる人をお前が助けなさいってな」
「何もんだ!てめぇは!!」
全く目に見えず、突然現れたパワードスーツに、テロリスト達が銃を構えるが、いつの間にか彼等の銃の銃口は折り曲げられており
それを見てぎょっとするテロリスト達と、よろよろ立ち上がるバイオンに、パワードスーツは天を指差し、高らかに名乗る
「ストロングストなヒーローだ、それで十分だろう?」
「ぐるぅがあああああああああああああああああああああああ」
クールなヒーローの言葉に、プライドを傷つけられたバイオンはヒーロー目掛けガスを放とうとするが、ヒーローは素早く跳躍すると、バイオンの顔面にワンツーパンチを見舞いそれを阻止する
「…今の内に生徒を逃せ」
バイオンにガスを出させまいと押さえつけながら、ヒーロー、天堂寺はシールドマンに叫ぶ
「やらせるかあああああああああああ」
「のやろおおおおお」
しかし、それを阻むように、生徒達にナイフをもったテロリストが突進していく
悲鳴を上げる生徒達

138 :名無しになりきれ:2011/03/23(水) 20:51:53.49 0
Kabuto?

139 :縁間沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/03/24(木) 06:25:55.28 O
犯罪者は見えざる正義の手によって床に組み伏せられた。
そのまま無様に這いつくばっていればいい。犯罪者め。
あとは既に通報を受けているだろう警察を待ち、この犯罪者を引き渡すだけだ。
然るべき裁きと罰を与えるのは、私のすべき事ではない。

>「そうだよなあ……騙されるのは、嫌だもんな……!」

……まるで盲信を麻薬にしているかのように、犯罪者は尚も立ち上がった。

>「どこに甘んじてんだ偽物(ヒーロー)……っ!お前の中に根差してるのは正義
の心なんかじゃねえ。
  なあマサラちゃん。君は誰かを守りたいんじゃなくて、悪をぶちのめしたい
だけだろう。徹底的な憎悪、それだけだ」

「……馬鹿らしい」

一瞬にして沸き立った心を押し殺して、努めて冷ややかに吐き捨てた。

「……私は確かに、教師を騙った貴方に抑え難い怒りを抱いた。それは事実です

 ですが……だからと言って、それは私の心に正義がない証左にはなり得ない。
 何の関係もない二つの事柄を、さも因果関係があるかのように語って……随分
と、人を騙すのがお好きなようですね」

深く吸い込んだ息に乗せてゆっくりと、心の熱を吐き出していく。
そうだ、私は何も間違ってなどいない。今からそれを、証明してみせよう。
この愚劣な犯罪者を異能のみならず、口舌の刃でさえも斬り伏せる事で。

「誰かを守る事と、悪を挫く事、それらは両立し得るものであり……また分担出
来るものです」

ちらりと背後を振り返る。バスタードがもう一人の犯罪者、和明日灯と対峙して
いた。
両手を血に染めながらも、クラスメート達に悪意の刃が届かぬよう、屹然と戦っ
ている。

「私は彼のヒーローとしての能力を、そして何よりも他人を守ろうとする意思を
、信じています。
 彼は罪なき人々を守る。ならば私がすべきは、諸悪の根源である犯罪者……つ
まり貴方達を撲滅する事だ」

言うべき事はまだ沢山ある。
胸の内が蠢き不快感を生み続けている憤りを、私は言葉に乗せて余さず吐き出す


「そもそも、悪が憎まれるのは当たり前の事でしょう。それとも、自分が憂国の
志士にでもなったつもりでいましたか?
 だとしたらつくづく愚かな事だ。何度でも言います。貴方はただの犯罪者だ。
侮蔑され、忌避され、憎まれる事に何の文句を言う権利もない」

140 :縁間沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/03/24(木) 06:26:47.55 O
この男は己の罪を自覚出来ていないどころか、あまつさえ正しい行為だとさえ思
っているのだろう。
この愚かを窮めた犯罪者の甚だしい勘違いと思い上がりは、完膚無きまで叩き折
らなくてならない。

「だと言うのに、何ですか貴方は。なれもしない教師の身分に酔いしれて、中途
半端に義賊を気取って、
 そのくせ自分が憎まれる対象となったらそれを非難する。本当に、どこまで浅
ましいのですか」

自分のしたい事ばかりをして、その為に他人に迷惑を掛ける事を厭わない。
他人にはない、人の役に立ち、助けとなれる術を持ちながら、それを悪用する。
己のすべき事を放棄する、度し難い悪だ。決して、許してはならない。

>「お互いまだまだ未熟だなあ。どうすんだよこのままじゃ、お前の正義って奴
は嘘になっちまうぜ。
  できねえよなあ。騙されるのは嫌なくせに、自分は平気で騙す側に回るなん
てのは、正義の味方じゃねえもんな」

「馬鹿馬鹿しい。私には信じる正義がある。それを貴方に語る必要がないだけで

 何一つ信念を持たない貴方と同じにしないで下さい。端的に言って不愉快です

 
自分を高めるのではなく、他人を貶め自分と同列とする事でしか自己の正当性を
、優位性を確立出来ないのか。
この期に及んで、救い難く愚かだ。



141 :縁間沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/03/24(木) 06:28:39.14 O
「自分にだって信念くらいある、とは言わせませんよ。貴方は結局、何一つとし
て自分の正当性を主張出来ていない。
 ぬらくらと話をすり替えて、自分がただの浅慮なテロリストで、犯罪者である
事を否定出来ていない。
 当然ですね、事実なのですから。だと言うのに貴方はそれすらも認められな
い」

罪を犯しながら、自己の肯定をやめられず、自分が『ただの犯罪者』であると認
められない。
悪の道に進んで身を窶しておいて、尚も自分に潔白と特別を求めるなど、何と惨
めな事だろうか。

「貴方がしているのは何もかもが「ごっこ遊び」だ。己のすべき事が出来ず、
 そのような児戯に逃避する事しか出来ないのなら……独房の中ですればいい。
誰にも迷惑の掛からない所で、一人きりで」

それすら出来ないと言うのなら、私が引導を渡してやろう。
二度と這い上げれぬ地獄へと罪人を叩き落とす、閻魔のように。

>「そろそろ始めようぜマサラちゃん。俺と君が唯一共有した『正しさ』を、紛
いなき本物に変えるために……!」

下らない言葉を弄した所で、私の信じる正義は揺るがない。
そのような姦計が通じるなどと思い込むのも、全てこの愚かな犯罪者が自分を基
準に世界を見ているからに違いない。
お前が侮っているよりも遥かに世界は強大さや、優秀さに溢れていると言うのに


「抜かしていなさい。その場限りでしかない、都合のいい戯言に乗るつもりはあ
りません」

何をしようと無駄な事だ。既にお前の底は知れている。
お前のような半端者がどう足掻こうとも、私の正義の門は破れない。

>「それでは真性先生の課外授業、最後の一問です。――――あなたにとっての
『正義』とは何か!」
>「簡潔に答えなさい!」

「……っ!」

犯罪者の拳から、不意に閃きが溢れた。
光源は手の甲に掘り込まれた刻印、更に爆炎が拳を纏う。
迫る爆炎を正義の門が阻むが、絶大な威力を防ぎ切る事は出来なかった。
門に亀裂が走り……砕け散る。四散した門の向こうに光を放つ拳が見えた。
直後に、右頬の内側で痛みの炎が灯った。
叩きつけられた威力に堪えられず、慣性に頭を揺さぶられるままに一歩退いた。

「くっ……」

衝撃が頭の中を駆け巡り、制していく。意識と視界が、たちまち霞がかる。
姿勢が維持出来ないまま、私は力を失った独楽のように揺らいで……

クラスメート達と、所々が焼け焦げて立てずにいるバスタードが視界に映った

142 :縁間沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/03/24(木) 06:30:52.83 O
「そんな事……させるものですか……!」

歯を食い縛って、倒れてしまうのを堪えた。
誰も守れず、誰も止められないと言うのなら、私が全てを担ってみせよう。
そうだ、私の正義は……

「……いいでしょう。答えます。私の、正義を」

別にこの男の口車に乗る訳じゃない。
そう、これはただの時間稼ぎだ。
だから私が答えたからと言って、あの男の言い分を認めた訳じゃないんだ。

「……悪がいなければ正義は存在出来ない。悪人達は、しばしばそのような事を
言いますよね。
 だから悪は憎まれるどころか、正義から感謝されたっていいくらいだ、とも。
当然、それは愚にもつかない間違いだ」

勢いばかりが達者な弁舌になど、決して同調したりはしない。
私はあくまでも筋道を立てて、論理に寄り添い、毅然と正義を語ろう。
それが私の信じる正しさなのだから。

「悪がいなければ存在出来ないのではなく。悪がいないのなら、正義は存在しな
くていいのですから」

ならば、と言葉を繋いだ。

「次に悪とは何か。奪い、傷つけ、殺す事、一つ一つ挙げていけば枚挙に暇がな
い。
 だがそれらすべてを貫く共通点がある。それは『すべき事』に反している事で
す。
 人には誰もが守るべき『義務』がある。それを破る事こそが、悪だ」

だから、

「私はいつだって自分の『すべき事』をして、『義務』に反する悪を挫きます。
 いつか私の、正義の『すべき事』が一つもなくなるように。
 それが、私の正義です」

差し当たって、私が今『すべき事』は単純明快だ。
この場にいる皆を守って、かつこの男を、この男の抱く悪を挫けばいい。
大丈夫だ、出来る。立っているので精一杯だった足の震えも、喋っている内に治
まってきた。
胸の奥に火が灯されたように、余力が生まれたのも感じられる。

『境界線を』

一言呟く。
同時に、教室の床に私とあの男を隔てる線が刻まれた。

「私は今日、何度も貴方が間違っていると説きました。罵倒しました。
 ですが……貴方の教師としての立ち振る舞いには、少し、ほんの少しですが…
…感じる所があったのも事実です」

一方で失望も、一際深かったが。

143 :縁間沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/03/24(木) 06:31:58.93 O
「だからこその、この境界線です。貴方にはまだ更生の余地がある。私はそう判
断しました。
 貴方はさっき『本物』にすると言いましたね。もしも貴方が自らの間違いを捨
て去り、
 あの立ち振る舞いを『本物』にしたいのならば、その線を跨ぐ事なく立ち去り
なさい」

この男が心を改め、この場から去ったのなら、それが最上である事は間違いない


「ですが……その線を超えたのなら、私は貴方を、更生する余地のない『本物』
の悪人だと断じます。
 そして命に代えてでも皆を守り、貴方を止めます」

私の異能は想像を力に変える。
ならば命を懸けて異能を振るったのなら、その力は文字通り、想像を絶するに違
いない。
そうしてでも、私は正義に準じてみせる。

「生半可な気構えしか持てないのなら、貴方は立ち去るべきだ。
 確固たる意志も持たない人間は、教師だろうと、悪だろうと、何かを成せる筈
がないのですから」

そう、この男は立ち去るべきだ。
そして、立ち去って欲しいとも思う。
出来る事なら立ち去って、正しい道を歩んで欲しい。
それがどれだけ叶う見込みのない望みだったとしても。

【遅くなってしまってすいませんでした。幕を引いてしまってください
 真性道程という人間がこれからどう転ぶのか、楽しみにしていますね】


144 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/03/25(金) 23:19:00.85 0
>>137
「うおおおおおおおお!!!!おおおおおおおおおおおっ!!!!」

やはり、当然。シールドマンの拳は何一つバイオンには通用しない。
だがそれでもシールドマンは血を流す腕で、涙と鼻水を流しながら、みっともない攻撃を続ける。

何故なら

(だって、ここで俺が倒れたら)

何故なら

(俺が倒れたら、こいつらの悪意が、子供達を襲ってしまうから!!)

何故なら――――

「だから、俺はああああっ!!!うおおおおおおおおっ!!!!」

格好いい台詞も、強い意志の言葉も、そんな物を吐く余裕はシールドマンにはない。
吼える様に声を絞り出し、無駄な攻撃を続ける。
……力の差という絶対的な壁は、シールドマンがどうあがこうと超えられはしないというのに。
黒く燃える無常な「暴力」の炎ががシールドマンの命の灯を容易く吹き消そうとし、

>「お婆ちゃんが言ってた…義を見てせざるは勇無きなり、だから、勇気を出して何かしてる人をお前が助けなさいってな」



そして、ヒーローが現れた。




145 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/03/25(金) 23:22:07.89 0
カブトムシの様な姿を持つパワードスーツ。
それは、シールドマンがあれ程必死に殴っても尚ダメージすら与えられなかった怪人バイオンを
容易く吹き飛ばす。尚且つ、テロリスト達の銃口を捻じ曲げるという事すらやってのけた。
其の戦闘能力は圧巻の一言であり、シールドマンなどとは異なる、ヒーローの力という物を存分に見せた。

>「…今の内に生徒を逃せ」

怪人を引き付け、子供達を逃がすよう言ったパワードスーツの言葉に、
シールドマンは、無様に追い詰められ、勝つ見込みもなく、
ただただ死に物狂いの醜態を晒していただけのシールドマンは、俯き――――

「……分かった!! 子供達の事は任せてくれ!!」

バイザーの下に隠れた真っ直ぐな瞳で、力強くそう言った
そして、ぼろぼろの身体で、ズタボロの体で、子供達の元へ駆けつける
見れば、テロリストがナイフで子供達に突進している姿

「やめろおっ!シールドブロオオオオオック!!!」

シールドマンはそれを目視した瞬間、そのテロリストに、
腕を十字にして体当たりを行っていた。特殊な能力の在る者なら、
パワードスーツを着込んだ者なら、ナイフの一撃なんて何とも無いのだろう
だが、シールドマンはただの人間だ。ナイフ一本でさえ、文字通り命に関わる。
だが、それを知っていても尚、シールドマンは躊躇わなかった。
震える足を震える心で建て直し、飛び掛る。

怪人になら効かない攻撃も、同じ人間になら効果はある。
倒れたテロリストの顔にグーでパンチを入れながら、生徒達に言う

「――――君達、君達の友達を守って逃げるんだ!!」

それは、我が我がと出口に押しかけ脱出が遅延している生徒達へ向ける言葉。
少しでも沈静化して安全に逃げてほしいという願い。
シールドマンは気絶したテロリストを尻に敷き、親指を立てて笑顔でそう言った。


勿論、子供達に自分の脇腹に刺さっているナイフの事なんて、気付かせない様に。

146 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/26(土) 02:14:06.95 0
シールドマンがテロリストを撃破した横で、天堂寺もまた、バイオンとの戦いを優勢に進めていく
拳の一撃が、ミドルキックの一発が、バイオンを悶絶させ、反撃のチャンスを与えない
やがて天堂寺の蹴りが炸裂し、バイオンは放送室外へと出され、後を追って天堂寺も生徒達とは反対側の廊下へ姿を消した
「のやろうふざけんなあああああああ」
明らかに恐怖に震えるのが見えているにも関わらず、笑みを浮かべるシールドマンに、背後からテロリストが机で殴りかかってきた
「喰らえ!のやろぉ!おおおお!」
アドレナリンを全開にし、シールドマンを襲うテロリスト

(助かる!)
(今なら、助かる!!)
一方生徒達は自分たちを襲う者がいなくなった事、そしてシールドマンが頼もしい呼びかけを行った事でほんの少し、余裕を取り戻した
一人が入口から身を引き、また別の一人が明り取りの窓を開けて逃げ道を増やし…
あっという間に、その場から脱出していく
我先にとでは無く、黙々と必死に逃げる生徒たち
そんな中一人…ただ一人だけ、頭を金髪に染めたショートカットの少女が立ち止まり、シールドマンの方を振り返った
「ありがとう!」
少女は声を限りにそれだけ叫ぶと、自分もまた、仲間たちの後に続いていく
力も勇気も無いただの民間人が、精一杯の勇気を振り絞った瞬間であった
本当の民間人のできる精一杯の勇気など、この程度の物なのである
即ち、今不様な姿をさらしている一人の男は、民間人ではない
でしゃばりな民間人…即ちヒーローなのだ


147 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/26(土) 02:29:56.65 0

「諦めろ、無駄に命を捨てる事は無い」
放送室にいるもう一人のテロリストをシールドマンに任せた天堂寺は、ぶちのめしたバイオンの首を掴んで降伏を促していた
それに対し、バイオンは苛立たしげに叫ぶばかりで、要領を得ない
パンチ力1tを誇る天堂寺工業のパワードスーツと怪人とはいえ生身のバイオンでは、勝負にはならなかった
惨敗し、悔しさに怒り狂うバイオンが、ヤケクソに溶解ガスを周囲にばら撒こうとした、その時だった
「!?」
飛来した羽の様な物が天堂寺を襲い、天堂寺は思わずバイオンを離してそれを回避する
目標を外して廊下の壁に深々と刺さったそれは、特殊合金の羽根型ナイフだった
「……新手か」
そう言って羽の飛んできた方向に構える天堂寺
しかし、そっちには自由になったバイオンがいるばかりである
「何?」
おかしい
そう天堂寺が思った瞬間、彼の背後に気配が現れ、天堂寺は思わず前にとび、今まで何もいなかったはずの後ろに立っていたそいつの攻撃をかわした
攻撃をかわし、無防備になっている天堂寺に、すかさずバイオンが溶解ガスを噴射する
「ぐ!」
ガスを浴びたパワードスーツに火花が散り、両手で顔面を庇う天堂寺に更にガスの中から羽手裏剣が襲い掛かる
それを何とか身を捻って回避し、ガスから離れて体制を整える天堂寺の前に姿を現したのは、バイオンと共に立つ、羽の様なパワードスーツの姿だった

「天堂寺工業の社長……石原の抹殺に失敗したと思ったら、思わぬ拾い物をしたな」
羽の様なパワードスーツ、その声は、日沼に指示を下したあの「リーダー」のそれであるが、それは天堂寺やヒーロー達の知る所ではない
「何を言っている?学校の占拠と金が貴様等の目的ではないのか?」
妙な羽のパワードスーツの言葉に、構えを崩さずに尋ねる天堂寺
羽のパワードスーツは今にも天堂寺に襲いかかろうとしているバイオンを片手で制し、ふっと鼻で笑った
「だったら何だ?」
「市庁舎を襲ったのも貴様等だろう。見た所傾国党とか言う政治系のテロ集団とは違うようだ
言え、何故石原を狙った」
天堂寺の問いに、パワードスーツはふっと鼻を鳴らす
「…あの世で石原抹殺に失敗した…「炎」にでも聞いてくれ」
そう言って、パワードスーツは天堂寺に対して構えを取る
「力づくで聞き出してみせる」
武器を抜き放ち、勇躍、天堂寺はパワードスーツに立ち向かっていく

148 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/03/26(土) 02:49:00.38 0
鈍い音がして

ハイメタルボーガーの頭部装甲が宙野景一の頭ごと砕け散った
その後ろでは、必死の抵抗むなしく破壊された装甲指揮車が爆発し、炎を上げている

「不知火重工対ヴィラン部隊…大きな組織も種の内に摘んでしまえば、存外あっけないもんだな」
スペシウムを喰らい、パワードスーツの「装甲の表面」が焼けてしまった部分をパンパンっと手で払いながら、2mの宙野を片手で鷲づかみしている巨大なパワードスーツは呆れた様に言った
「やはり、現行の政府や人間に、これ以上世界を勧めていく力は無い」
そう言って無造作に宙野の死体を片手で投げ飛ばしたパワードスーツは、おもむろに手を地面に置いた
すると地面のコンクリートがボロボロと砂と化していき、パワードスーツはあっという間にその中に沈み込んでいく
(これで暫くはヒーロー達が団結し組織化する様な事は無い
近いな……新しい世界は)
完全に地中に姿を消したパワードスーツは、心の中で自分達の勝利を確信する
天堂寺、白井の生存を知らない彼的に、これでも最早恐れる物は石原、アイアンジョーカーだけであった
その他のヒーローも、そして彼等以外のヴィランも
彼を恐れさせるに足りる存在ではないようである

秤乃神楽が消えた事で、彼女の手によって「喰われる悪」となるはずだった者たち
今、それらは彼女の手を離れ「喰らう悪」へと代わろうとしていた…

149 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/03/27(日) 13:25:10.56 0
『悪い』とは何ぞや?

という問いに対して、多くの人々は『ただしくないこと』と答えるだろう。
法や倫理や道徳があって、そこから逸脱した者が悪者。ヴィラン。アウトロー。
それはすなわち『正義の敵』。物語の中の悪役は、得てしてヒーローの怒りを買って滅ぼされる。
おどろいたことに『悪』という概念は受動的だ。その存在の大前提に『正義』からの離反があり逸脱がある。

対して正義もまた悪に対して受身だ。存在しないヴィランを殴りにいくヒーローなんか存在しない。
振り上げた正義という名の拳を打ち下ろす悪がなければ、そもそもの存在意義が瓦解してしまう。
結局正義を名乗る者は、『目の前の敵が悪だ』という理論で武装しなければ何も立ちいかなくなってしまうのだ。

つまり、『悪』の発生は。
――『正義』に睨まれた時であると定義できる。

 * * * * * * 

足・腰・肩の全てを捻り、溜めに溜めたバネを全解放した渾身の右ストレート。
和明日の自爆を煙幕に、俺が放ったフィニッシュブローは、マサラちゃんの右頬を抉り打った。
殴り抜ける。踏み込んだ右足が瓦礫を踏み割るほどの慣性を、余すとこなく拳から先へ伝達させた。
顔面を打たれたマサラちゃんは仰け反り、よろめき、足を縺れさせて、沈む――その寸前で持ちこたえた。

>「そんな事……させるものですか……!」

「おいおいマジかよ……!」

変身完了したヒーローとは言え、身体強化を最大まで引き上げた俺の正拳突きを直撃して耐え切りやがった。
手心を加えた一撃じゃあ、なかったはずだ。現に足は笑ってるし、今にもぶっ倒れそう。
マサラちゃんは、殆ど気力だけで、今ここに立っていると言って良かった。ちっとも過言じゃなかったのだ。

>「……いいでしょう。答えます。私の、正義を」

震えながら、マサラちゃんは返答する。
こんな鉄火場でよく舌が回るなと感心するぐらい長々と、自己防御の論理を積み上げていく。
俺は黙って聞いていた。マサラちゃんなりの回答だ。それに、悪役は正義の口上を遮らないのだ。

>「私はいつだって自分の『すべき事』をして、『義務』に反する悪を挫きます。
 いつか私の、正義の『すべき事』が一つもなくなるように。それが、私の正義です」

そして、マサラちゃんは断言した。
迂遠な道を迂回して、巡り巡ってようやく結論を出した。
彼女の正義。正義の定義。やるべき事を完遂し、やらない者を駆逐する。絶対遵守の法治主義。

「そいつが答えか、マサラちゃん」

>『境界線を』

異能が発動し、俺とマサラちゃんを隔てる線が描かれる。
さながら国境。まさしく断絶。ヒーローとヴィランとの彼我に溝を横たえる、意志の線引き。

>「貴方はさっき『本物』にすると言いましたね。もしも貴方が自らの間違いを捨て去り、
 あの立ち振る舞いを『本物』にしたいのならば、その線を跨ぐ事なく立ち去りなさい」
>「ですが……その線を超えたのなら、私は貴方を、更生する余地のない『本物』の悪人だと断じます。
  そして命に代えてでも皆を守り、貴方を止めます」
>「生半可な気構えしか持てないのなら、貴方は立ち去るべきだ。
  確固たる意志も持たない人間は、教師だろうと、悪だろうと、何かを成せる筈がないのですから」

この線を超えれば、マサラちゃんは文字通り命懸けで俺を倒しにくる。殺し合いになる。
この線から遠ざかれば、俺はこの場を辞し、何も傷つけず誰にも傷つけられず、家に帰ることができる。
帰ったら、とりあえずテロは失敗ってことで反省会をするのもいいだろう。
この失敗をバネにして、次に活かすことだってできる。

150 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/03/27(日) 13:28:54.44 0
ここで命のやりとりをしなくたって、マサラちゃんにも俺にも未来が約束されている。
少なくとも今日死なない未来。明日を迎えられる確証。それはマサラちゃんなりの、停戦提案にも聞こえた。

「なあマサラちゃん」

俺は、

「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ……!」

今度こそ、腹が立っていた。
こいつは、どこまで。どこまで正義に甘んじてんだ。
全身の毛穴が窄み、総毛立っていくのがわかる。怒髪天を衝くってのはマジだ。今まさにその状態。

「お前の正義は正しいよ。やらなきゃいけないことをやらなきゃいけないのは当然だ。異論はねえ。
 他人に押し付けるなとも言わない。法律って奴は、国家の正義を強制する為にあるんだもんな」

そっからはみ出したのが俺たちヴィランで、駆逐されるべき存在だってことも。異を唱えたりはしない。
だけど、食うに困って止む無く窃盗した人は?難病で苦しむ家族に請われて止めを刺した奴は?
法律の枠内で最大限の名誉を傷つけられて、法の抜け道から狡猾に財産を奪われて、その防衛に刃を手にした者は?
みんなみんな駆逐されるべき悪か?そいつらは全員ヴィランなのか?

「信じる正義があるって言ったな。――信じ過ぎだ馬鹿野郎ッ!」

正義は万能じゃない。信じてれば勝手にみんな幸せになるような、全能の神の産物なんかじゃない。
マサラちゃんと初めて相対したとき、俺が感じた薄ら寒いものの正体に、今ようやく気づいた。
こいつは正義に宗教染みた信頼を置いている。『正義教の狂信者』――ユカリマサラの特異点。

「何でもかんでも断言し、杓子定規に決め付ける。極めつけはこの『境界線』。
 俺に選択肢を寄越したつもりか?違うね、お前はこんな線に頼らなきゃ戦うべき敵もわからねえ大馬鹿野郎だ」

わからないから、善と悪とを振り分けるふるいの網に『正義』とか『義務』を使う。
正義の網から落っこちた奴をヴィランだと断じて、駆逐してきた。物事の判断を、正義に依存していた。
ただ機械的に。善悪について考えることをせず、ひたすら自己の正義を保証する理屈ばかりを練ってきた。
おそらくこの線は、マサラちゃんの思う『正義』、そのメタファー。

「善悪も真偽も、そんなもんじゃねえのよ。単純に線引きして区別できるわけねえだろう。わかるか?マサラちゃん」

俺は足を上げて。
マサラちゃんの引いた線の、その中心を、思いっきり踏み抜いた。
床が砕け、瓦礫に変わり、境界線はその意味を為さなくなる。俺は正義を破壊する。

「お前はヒーローなんかじゃねえ。正義"だけ"の味方は、ヒーローとは言わない。
 ヴィランの俺が言うのもなんだけどよ……ヒーロー名乗るなら、善悪ぐらい自分の眼で判断しやがれッ!」

マサラちゃんが迎撃態勢に入るより疾く、身体強化の恩恵で、俺は先んじた。
全身の筋肉を連動させた初手の踏み込みで距離は無に。マサラちゃんの両肩に手をかけて、逃がさないようホールド。

今になって、俺がマサラちゃんに憤っていた理由がはっきりとわかる。
結局似たもの同士なのだ。俺の『悪』にも彼女の『正義』にも、確立された主体がなかった。
受動的な生き方が、俺自身とリフレインして、――拙い同属嫌悪だけど。俺はこいつに腹を立ててたんだろう。
だから、今だけはヴィランを捨てる。今から叩き込むのは、教師としての一撃。

「赤点だよマサラちゃん。補習決定だ」

思いっきり反らした背中を強靭なバネに変えて、マサラちゃんの前頭部を狙い、俺は渾身の頭突きを繰り出した。


【境界線を踏み越え接近、頭を頭にぶつける頭突き】
【きちんと決着まで行きたいのでもう1レスだけお付き合い下さい】

151 :縁間沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/03/30(水) 20:52:31.33 O
>「なあマサラちゃん」

「さあ、どうしますか? 『真性道程』」

自分がどのような道を歩むのか、選んだのでしょう。
貴方は、何になる事を選ぶ?

>「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ……!」
>「お前の正義は正しいよ。やらなきゃいけないことをやらなきゃいけないのは当然だ。異論はねえ。
  他人に押し付けるなとも言わない。法律って奴は、国家の正義を強制する為にあるんだもんな」

……また、その教師ごっこか。

>「信じる正義があるって言ったな。――信じ過ぎだ馬鹿野郎ッ!」

最早、言葉が出なかった。
今度こそ、拭いようのない、薄っぺらな希望を被せて覆い隠す事も出来ない失望が心に荒波のように押し寄せた。
真っ当な道へと進む事が出来たと言うのに、そうはしなかった。
本当に、本当に救いのない男だ。

>「何でもかんでも断言し、杓子定規に決め付ける。極めつけはこの『境界線』。
> 俺に選択肢を寄越したつもりか?違うね、お前はこんな線に頼らなきゃ戦うべき敵もわからねえ大馬鹿野郎だ」

挙げ句の果てには私が差し伸べた期待に唾を吐き、踏み躙って。
お前は、自分がどれだけ立派で、偉い人間のつもりでいるのだ。
今となっては、ほんの僅かにでも望みがあると信じた私が愚かだった。

>「善悪も真偽も、そんなもんじゃねえのよ。単純に線引きして区別できるわけねえだろう。わかるか?マサラちゃん」

大仰に足を振り上げて、踏み越えた。

「それが貴方の判断ですか、『犯罪者』」

そう、お前はもう、ただの犯罪者だ。
ならば私がすべき事は、一つしかない。

『私は命を懸けて、正義に殉じよう』

異能を行使した。力の源泉は私の正義心だ。
多彩な語彙も言い回しも、必要ない。
私の正義への忠誠は、本来なら言葉だって必要としないくらいだと、自負している。
たちまち、全身を力が満たして、駆け巡った。
頬の内側で燃え盛っていた痛みも、視界と思考を覆っていた霞も綺麗に消え去った。
これは言わば、命の前借りだ。
この犯罪者を下すまで、私は決して崩れず、退かず、命の炎を燃え盛らせよう。

152 :縁間沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/03/30(水) 20:54:04.99 O
>「お前はヒーローなんかじゃねえ。正義"だけ"の味方は、ヒーローとは言わない。
 ヴィランの俺が言うのもなんだけどよ……ヒーロー名乗るなら、善悪ぐらい自分の眼で判断しやがれッ!」

……何だ。ここまで事が差し迫って、お前はまだその教師ごっこを続けるつもりか。
そもそも、さっき言った筈だ。
悪を挫く、弱きを助ける、それらは分担出来る事だと。
それにお前は反論しなかった。だと言うのに、またその話を持ち出すのか。
自分の都合の悪い事は聞き流す、都合のいい耳を持っているようで、本当にうんざりとさせられる。

「善悪くらい自分で判断しろ?貴方は、自分が何を言っているのか分かっているのですか?
 いいえ、分かっていないのでしょうね。分かっているのなら、そんな恥知らずな真似は出来ない筈だ」

>「赤点だよマサラちゃん。補習決定だ」

肩を掴まれた。顔が近い。
この距離にまで肉薄されて、一つ気が付いた事がある。
私は、この犯罪者の心中に救う悪は勿論……この男自体も、吐き気を禁じ得ないほどに嫌いだ。

「盗人にも三分の理。もし、そちらの言い分にほんの一欠片でも道理があったとして」

犯罪者が、頭を振り被る。来るなら来い。
お前がいかに口だけの人間かを、思い知らせてやる。

「それがお前が正しい理由には、ならないでしょうが!!」

頭上から迫る犯罪者の額を、渾身の力で迎え打った。同じく、額で。
激突の反動を殺さずに、頭を引いた。退いた訳では、断じてない。
水面に走る波紋のように頭に浸透した鈍い痛みは、すぐに消えた。
もう一発、くれてやる。

「この……半端者が!!」

体の奥底から湧き出てくる力を余さず乗せて、額を叩き込んだ。

「善悪くらい自分の眼で判断しろですって?よくもまあ、この状況でそのような事が言えますね!
 お前が言っているのはつまり、「自分は上辺だけを見るのなら悪だが、本質的には善なのだ」と。
 そう言っているだけではありませんか!厚顔無恥とは、まさしくお前のような者の事を言うのですよ!」

153 :縁間沙羅 ◆rXhJD3n06E :2011/03/30(水) 20:56:04.55 O
更に左手で胸倉を引っ掴む。

「私が正義を信じ過ぎですって?笑わせる、ならば私はこう言いましょう。
 お前は自分を信じ過ぎです!口を開けばお前は間違っていると、
 世の中とは何たるかと、さも自分が悟りを開いた賢人の如く語って!」

倒れる事など、許してやるものか。

「そのくせ自分が何一つとして正しさを主張出来ていない事からは、頑なに目を逸らして!
 言ってみなさい!銃を手に、偽りの身分を利用して、好き勝手に振舞うお前の何処に、正しさがあると言うのです!」

不抜けた横面に全力で、右の平手を叩き込んだ。

「そう、お前は半端者だ!自分の意のままに振舞いたい、悪でいたいと思っていながら、
 一方で他者に嫌われたくない、攻撃されたくない、正しい善でありたいと願っている!
 だからそんな恥知らずな言動が出来るのです!」

返す手の甲で、もう一発。

「いいですか!認めなさい!お前はどうしようもなく半端で、浅ましいほどに強欲で、何よりも卑怯者だ!」

痛みと共に、私の言葉をお前に刻み込んでやる。

「その意志の薄弱さは憐憫すら覚えます!自分では己の善悪すら決められぬ愚か者め!
 だからこそあの境界線、選択肢を与えたと言うのに、お前はそれさえ無下にして!
 聖なる物を犬にやるなとはよく言ったものです!彼らはそれらを足で踏みつけ、
 向きなおってあなたがたにかみついてくるであろう。まさしくその通りだった!」

これが最後だ。
あらん限りの力に、未だ収まらない灼熱の怒りを込めて、犯罪者を張り倒した。

「自分が如何に見下げ果てた人間か、自分はどうあるべきか、牢獄の中でじっくりと考える事です!
 それがお前のすべき宿題だ!教師ごっこに執心だったお前には相応しいでしょう!
 ……ちょっと、聞いているのですか!?まだ話は終わっていません!寝ていいとは誰も言っていませんよ!」

【勝たせて頂きました。私なんかが真性道程の最後の相手で良かったのかな
 と思ってしまう所はありますが、楽しかったです。お疲れさまでした】

154 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/03/31(木) 01:26:13.23 0
>>146
「ぐ、がっ……!?」

シールドマンの頭部に鈍い衝撃が走ったのは、
ナイフを持ったテロリストを気絶させた直後の事だった。

>「のやろうふざけんなあああああああ」

テロリストが机を持ち上げ、興奮状態でシールドマンに殴りかかったのだ。
力任せに振り下ろされたその暴力は、シールドマンが被っていた白いヘルメットに皹を入れる。
恐らく、ヘルメットが無ければ即死だった事だろう。
地面に倒れた後、なんとか事態を飲み込んだシールドマンは、
ふら付く意識を建て直そうとするが

(い、痛い――痛い痛い痛い痛い、力が、入らない――――)

立ち上がれない。腹部に刺さったナイフが、その傷が痛みが失血が、シールドマンの体力を奪っていた。
超人ならば何とも無く立ち上がるであろう傷に対し、あまりにも無力。
恐らくはこのままではシールドマンはテロリストに撲殺されてしまうだろう。

(死にたくない……痛い、痛い…………子供達は、逃げられただろうか)

何度も机で殴打するテロリスト。その暴力の嵐を受け立ち上がる事も出来ないシールドマンは、
こんな状況だというのに力の入らない首を僅かに動かし、入り口の方へとゴーグルの下に
隠れた視線を向ける。見ればそこには先ほどまでいた殆ど生徒達は残っていなかった。
僅かに数人がいるが、直ぐに脱出できるだろう。
その様子を見てシールドマンは、痛いはずなのに、怖い筈なのに、安心した様な笑みを浮かべる。

(ああ、良かった……子供達は無事に逃げられたのか)

最後までお人よしのシールドマンは、それに満足したかの様にゆっくり瞳を閉じ――――


155 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/03/31(木) 01:27:10.44 0



>「ありがとう!」



そして、その声が聞こえた。
一般人の、ただの子供が振り絞った精一杯の勇気の声。
その声が、確かにシールドマンの耳に届いた。

(……ありがとう)

目を見開き、その身体が震える。
ヒーローとは誰かを助ける事に見返りを求めないものだ。
助かったその人たちが笑顔でいてくれれば、それでいいのだ。
誰に感謝されなくても、誰に憎まれても、皆の笑顔が守れるならばそれでいい。

(……ありがとう)

……けれど、けれどだからといって「ありがとう」という一言が嬉しくない筈が無い。
だってそれは、ヒーローにとって最高の名誉だから。どんな勲章にも勝る誉だから。
その一言が聞ければ、ヒーローは何度だって立ち上がれる。
どんな悪にだって立ち向かえる。ヒーローは……ヒーローになれる!

「あり、がとう……っ!!」

シールドマンが立ち上がる。
みっともなく、恐怖や痛みが原因ではない涙を流しながら。
震える足で、暴力を撥ね退ける様に、震える心で大地を踏みしめて立ち上がる。

ドーパミンでもアドレナリンでもない。
今のシールドマンの脳を走るのはエンドルフィン。
痛みを消し、快へと変える、人体が限界を超える事を奨励する、現象。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

シールドマンは再び振り下ろされた机を、左腕の骨を犠牲にして受け止めると
その右腕を、焼け、裂け、血にまみれたその右腕を振りかぶった。

「シールドオオォォォ――――ジャスティスパアァァァンチっ!!!!!!!」

それは、ただの渾身の右ストレートだった。
特殊な才能も、能力も、資材もない、ただの男が放ったただのパンチ。


だけどそれは、何よりも思いパンチ。
その拳が、テロリストを捕らえた。

156 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/04/01(金) 00:17:49.64 0
自分の渾身の机の一撃を受け止め、ふらふらと立ち上がるシールドマン
そのボロボロの、今にも崩れそうな男の姿に

全く無傷のテロリストは完全に圧倒されていた

「あ…あぁ…あ…」
思わず机を取り落とし、よたよたと後ずさるテロリスト

シールドマンから湧き上がるオーラの様な物…決して異能でも超能力でもない、「もっと強烈な何か」に、テロリストは完全に戦意を奪われていた


>「シールドオオォォォ――――ジャスティスパアァァァンチっ!!!!!!!」


もう、シールドマンに負ける理由など無い
恐怖にかられ、ガタガタと震えていたテロリストは拳をモロに受け、白目をむいて倒れ付す


それは
この異能溢れる町で、異能を持たず、改造手術も受けず、パワードスーツすら身につけず、更には訓練も受けていない「ただの男」が
警官の様に使命で立ち向かうのではなく、己の意思だけで立ち向かい、勝利した瞬間…

「突入!!」
どこかでガラスが割れる音がして、マシンガンで武装した武装警官が一斉に校舎内になだれ込んできた
上階のアイアンジョーカーを倒すために戦力を割いていたテロリストは既にそれに対処する力も無く、次々とあっという間に制圧されていく
「おい!こっちに負傷者がいるぞ!」
「救護班!」
放送室にも警官隊が駆け込んできて、傷ついたシールドマンとテロリストに集まり、その場で応急手当てを施し、外へ運んでいく

157 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/04/01(金) 00:30:04.53 0
「く…」
昏倒したバイオンを足元に、天堂寺は片膝をついた
パワードスーツには既に所々ヒビが入り、あちこちから羽手裏剣が刺さっていて、火花が散っている
「……っと、悪いがもう時間のようだ、そろそろ失礼させていただく」
対し、無傷の羽のパワードスーツは、ふっと何かに気づくと、天堂寺に背を向け、歩みだした
「待て!」
その背目掛け、銃を構える天堂寺だったが、次の瞬間、近くの教室で爆発が起こり
気がそれた一瞬の間に、既に羽のパワードスーツはいなくなってしまった
「……糞!奴等、最初からこの学校を爆破するつもりだったのか!」
悪態をつき、天堂寺はまだ生徒のいる教室へと駆け込んでいく
「わーーーー」
「キャーーー!」
「な…なんだてめェ!」
爆発と、天堂寺の登場におののく生徒たちと、打ち合わせに無い爆発に動揺するテロリストに、構わず天堂寺は早口で叫ぶ
「早くここから脱出しろ!もうすぐこの学校は爆破される!」
「何!?」
「ふざけるな!俺達は爆弾なんか…」
「改造人間を操っているうさんくさい奴がいたはずだ!死にたくなかったら大人しく逃げろ!」
天堂寺の言葉にテロリストは一瞬うろたえると、しかしすぐに教室から飛び出しいずこかへ逃げていく
「爆発する!?爆発するんだ!」
「ひいいい」
「落ち着け!慌てずに逃げるんだ!」
残るパニックになった生徒達を、何とか非難させようと必死になる天堂寺
その間にも、新たな爆弾が別所で爆発する

158 :名無しになりきれ:2011/04/03(日) 16:32:46.99 0
シールドマン物語はじまったな!

159 :シールドマン ◆MQ3R4NF5ik :2011/04/07(木) 21:25:03.43 0

脆くズタズタの身体が
弱くボロボロの拳が
それでも、とうとう、悪を撃ち抜いた

「ふうっ……!ふうっ……!」

シールドマンは拳を振るった姿勢のまま停止し、
必死に呼吸を整えている。
その視線の先にいるのは、倒れたテロリスト二人。
悪に染まり悪を為したその二人を見つめ、

「……はぐっ」

崩れ落ちた。緊張の糸が切れたと同時に、横腹に刺さったナイフと
火傷の様な状態になった両手が激しい痛みを訴え始めたのだ。

「ぐうっ……い、痛い」

虫の様に丸まって呻くシールドマン。
当然だろう、この日の彼の活躍は、ただの人間にしては過ぎた戦果。
本当の彼は、傷の一つや二つで苦しむ人間なのだから。
……と、駆け込んで来る警官隊の足音。扉を開ければ、彼らは見つけるだろう。
倒れたテロリストと、痛みと失血で気絶したシールドマンの姿を。


やり遂げた一人の自称ヒーローの姿を


【シールドマン、気絶】

160 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/04/10(日) 10:13:51.96 0
不知火重工小会議室
小さな会議室内で、天堂寺と早田、そして包帯だらけの武中が向かい合い、今後の事を話し合っていた
「…事態は深刻だな。ハイメタルボーガーが倒れた今、まともに活動できるヒーローはアイアンジョーカーと俺しかいない」
そういう天堂寺の体もあちこちにしっぷや包帯が見られ、とてもまともに戦える状態には見えない
「公的なヒーローは…ね、例の「国から派遣されたヒーロー」と言うのは?」
「現在調査中ですが、「民間のヒーロー」同様、アテにしない方がいいでしょう」
「となると戦えるのはやはり市長だけ…か」
くそぅと武中が机を叩く
「敵はまだ確認されているだけでこちらのパワードスーツを上回る能力を持つ奴が2体もいるんだ!いかに市長でも…勝てるかどうか」
「……戦力、か……アテが無いわけでもない」
ふと口を開いた天堂寺に、二人がぴくりと反応する
「クロックアップシステムか?アレは危険すぎる!!」
「パワードスーツに搭載できるのはまだまだ先のはずだ!どうやって!?」
同時に反対する二人に、天堂寺はしかし動じない
「誰もパワードスーツを強化するとは言っていない、俺があてがある、と言ったのは、「一人の人間」だ
例のテロリストに爆破された学校で思わぬ拾い物をした」
謎めいたことを言う天堂寺に、早田も武中も、ただ黙って彼を見つめる事しかできなかった

天堂寺工業本社
社長室へ戻ってきた天堂寺は、ある書類を用意しながら、横に立つ秘書に質問する
「例の男は目を覚ましたんだな?」
「はい、最新鋭の医療設備が整っている病院に搬送され、運動可能になるにはまだ期間が必要ですが、既に完全に意識は取り戻せているそうです」
「そうか」
そういうと、天堂寺は席を立ち、佐山太郎、シールドマンが入院している病院へと向かう

【天堂寺、入院中の佐山の元へ向かう】

161 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/04/15(金) 16:10:29.84 0

「風向・気温・湿度一気に確認。うーんいい天気だ。空を翔けるには良すぎる日だ」

私は掌に在る黒いダイヤの破片をころころと動かしながら、笑う。
破片は透明の大仰なケースに入っていた気がするが些細なことだ。すごくどうでもいい。

「些細なことは忘れるに限る…うむ。忘れることはスバらしいことだな
 どうもいいことを思い出すのにいらぬ糖分を使うなどという行為は昨日の晩飯を思い出すくらいどうでもいい」

この通り私は嫌な事はとことんやらない主義だ。
青春時代で覚えているのは若い女性のケツを追っかけていたことと読書をしていたことくらいか。
ところで諸君、疑問に思わないか?私が今どこにいるのかを。

「ハロー、ミスターシールドマン。ここにいると天堂寺のお坊ちゃんに会えると小耳に挟んでねェー。
 君のお見舞いも兼ねて馳せ参じたワケだ。あ、そうそう、君が傾国党のアホを倒したときはスカッとしたよ。私は奴らが嫌いだったんだ」

何故私がハイジャックの件を知っているだって?ははは野暮なことは聞くな。

「奴らにはロマンがない。私は、怪盗はロマンを愛するのだ。
 テロなどというのは裏路地でやるガキのカツアゲと同じだ、ショベルカーでATMを根こそぎもっていくような狡いやり方だよ。
 それならバカでも、猿でもできるという話だ。奴らには脳みそがないのかとさえ疑うね。退化したのかもしれん
 しかし私は違う。モノを颯爽と奪い、そして、逃げる。ただそれだけ。それ以上は何もないよ。する気もないさ。
 誰も困らないだろう?まあお偉いさんは困るかもしれんがな。しかし一般人とは無縁だよ
 一人として傷つかないし死なないし損もない。これはもうショウだよ。更にヒーローとの交戦があるから、正にサーカスだ」

私は一通り言いたいことを言い終えると、足音が近づいてくるのを理解した。

「とどのつまり怪盗というのはエンター・テイナーなのだ。モノを奪うというよりは観客に楽しんでもらうことを重視する。
 もちろん私のプライドに賭けてお宝は100%奪ってみせるがな──お、今回のお宝(ネギ)を背負うカモが現れたようだな」

そこには誰もが知る男───私の今回の標的───天堂寺の姿があった。

162 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/04/17(日) 06:22:12.45 0
俺は正義が嫌いだった。正義の味方が嫌いだった。
常識的に考えて無償の守護なんてあるわけない。正義によって護られるのは、正義に利を為すものだけだ。
具体的な話をしよう。税金、払ってないと怒られるだろ?規模がでかいと逮捕すらされる。
例えその使い道が、必ずしも自分に返ってくるものじゃなくても、俺たちはお金を払い続けなきゃならない。
拒否すれば悪と見なされ、無情の正義が執行される。法律ってのは、正義を強制する為にあるんだ。
最大幸福数の為に自分を削って生きて行くことが『正義』なんだって、社会が、国家が、証明していた。

俺は気づいてしまったんだ。正義の味方は、正義だけの味方なんだってことに。
本当の意味で自分の為だけに動こうとすれば、自分を削るまいと抵抗すれば、それは『悪』になるんだって。
正義は俺の味方じゃない。俺の味方は、俺だけなんだ。

  【ヒーローTRPG 真性道程編 最終話 『Fraternity(靴先を連ねる者達)』】

「――――うぁ、」

目が覚めたとき、既に教室には人っ子一人いなかった。
テロリストの姿すら消えて、首から上のないたっちゃんの死体だけが無残にも乾いているだけだった。
マサラちゃんに頭突きしてからの記憶がない。代わりに顔がすげえ痛い。ひりひりなんてもんじゃない。
触れてみると顔全体が熱を持っていて、ついでに言えば一回り近く腫れて膨らんでいた。

「面白いヤラれ方をしているな道程君」

知った声が上から降ってきて、眼球だけ動かして視線を飛ばす。
職員室でドンパチやらかしていたはずの其辺が、埃だらけの姿でいつの間にか立っていた。
状況が、俺の脳みそに覚醒を促す。情報が、記憶と結びついて理解を生み出した。
あーそっか、俺負けたのか――

「君を倒したヒーローは、その後『傾国党』の殲滅の為ここを後にした。生徒も無事脱出している。
 ところで、和明日くんの姿が見えないようだが……」
「あいつは死んだよ。ヒーローに殺られたのか、わかんねえけど。自爆だった」
「そうか」

それ以上其辺は追求せず、瓦礫の中から椅子を引き摺り出して腰掛けた。
あちこち煤けているけれど、目立った怪我はないようで。だけど明らかな疲労は見て取れた。

「作戦は失敗だ。……なに、君を責める謂れはない。イレギュラーが多すぎたのだ。
 もっとも、道程君がテロリストと正面切って対峙することも当方からしてみれば予想外だったのだがな」
「そりゃあ俺は、まだ教師だからな」

マサラちゃん(結局最後まで本名知らなんだ)からは頑なに否定されたけど。
思えばなんでああまでして教師に固執したのか、自分でもよくわからない。何に目覚めたんだ俺は。
だけど確かに、俺は負けた。こうして無様に地に伏して、苦渋を啜って生きている。

「……俺、なんで負けちまったのかなあ」

ただただ悔しかった。実力は拮抗していたし、武器の分だけ俺に分があったはずだ。
それでも負けた。最後の方は口喧嘩の合間に殴り合ってる感じだったけど、猛烈なビンタで俺は意識を手放した。

「負け犬根性――鬱屈したコンプレックスと、諦めと、前途ある者への妄執たる妬み嫉み。漫然とした怒り。
 ヴィランとしての君を突き動かしてきた原動力は、そういった後ろ向きなものに他ならない」

163 :真性道程 ◆8SWM8niap6 :2011/04/17(日) 06:22:34.66 0
逆説、後ろ向きな感情をうず高く積み上げてきた者がその上に立って、初めてヴィランと呼ばれるのだと。
其辺は訥々と述懐した。酷い言われようだった。だけど、確かに。スティール邸のときも――レギンのときも。
ヒーロー共の鼻を明かしてやりたいって安っぽい動機や、ドロドロの復讐感情だけで動いて、戦ってきた。
俺がヒーローや『ホンモノ』相手にボロボロのギリギリながらも勝利を収めてきたのは、
生まれてからずっと腹の底に溜めこんできたこの滾る溶岩のような悪感情があったからこそだ。

「だが君は知ってしまっただろう。ほんの少しの教師生活を経て、誰かに必要とされることや、向けられる好意。
 具体的には社会的な『立場』だ。君はそこに腰を降ろす快適さと、痛快さと――幸せを知ってしまった」

たっちゃんや傾国党の連中と対峙して。いつしか俺は演技じゃなく本気で生徒たちを守ろうとしていた。
そしてそれが適ったとき、感謝と尊敬を浴びて、これも悪くないって思っちまった。
長年連れ添ってきたウィランっていう属性を、安直に手放してしまおうとしていたんだ。

「だか負けた。君は底辺だからこそ強かったのだよ道程君。異能の力は精神に依存して発現する。
 『教師』という立場を手に入れた君は、君の強さの所以だった悪感情を手放して……そして負けた」

それはレギンも危惧したことだ。
主体性のない俺は、往々にしてその場の雰囲気に流されて感情を左右される。ヒロイックに傾いてしまう。
矯正所ではレギンへの怒りが先行して傾ききらなかったという、ただそれだけ。

「……修行が足りねえなあ。結局ブレまくった挙句無様に転がされてるんじゃ、かっこ悪いままだぜ、俺」

涙が出てきた。
女子高生にビンタされて泣く22才児がそこにいた。
善でも悪でも、貫き通した信念こそが『本物』に至る隘路だ。
捻り撚った信念を綱渡りのように踏んで、俺達はヒーローとヴィランの間を行ったり来たりしている。
正義の敵がヴィランならば、俺はヴィランで在り続けたい。いけ好かねえ正義の野郎をぶん殴ってすっきりする為に。

「……リベンジ、できっかな」

手のひらで瞼を覆いながら、俺は誰ともなしに呟いた。

「できるさ。君がヴィランで在り続ける限りは」

俺の綱は随分と細くなっちまったけれど。足りない道は誰かに肩を担いでもらえば良い。
徒党を組むのも悪の特権だ。俺達は悪の組織、革命結社フラタニティ。

「――目的の為に手段を選ばず、何度でも挑戦するのが、悪役なのだからな」


【これにて真性道程は退場です。みなさんこれまで長い間、本当にありがとうございました!】

164 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/04/18(月) 00:21:46.97 0
>>159
【話が飛んでてよくわからないと思いますが、気絶してる間の事をシールドマンさんに会った後天堂寺に説明させようと思ってやった事です(勿論ご自身で先生or看護婦等から聞いたという事で設定しても構いませんが)
わかりにくくてスイマセン】

>>162
長い間お疲れ様でした
お体に気をつけてコレカラも頑張ってくださいね

165 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/04/30(土) 04:52:55.60 0
「『全員』いるな」
病室に入り、ベッドに横になっているシールドマンと、その横に立つ海藤翼を見た天堂寺は、怪口一番にそう言うと、海藤にほらっと黒い箱を手渡した
唖然とする海藤に、天堂寺は何をうろたえていると言う表情で彼の方を見る
「どうした?それが欲しかったんだろう」
天堂寺が海藤に渡したソレは、海藤が集めているブラックダイヤモンド…その不知火重工や天堂寺工業が回収した物の全てである
「保管は徹底しろ、間違っても奪われるな」
そう言うと、天堂寺は今度はシールドマンの方を向き、一枚の封筒を投げた
「怪我が治ったらそこへ行け、これはお前の義務だ」
その封筒とは…裁判所からの出頭要請の通知書である
「大した実力も無くああいった場所に入っていくのは立派な犯罪行為だ、しかるべき報いを受けろ」
そう言って、天堂寺は病室を出て行こうとする

166 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/04/30(土) 10:40:06.14 0
>「『全員』いるな」

平然とした態度で放った言葉と共に
天堂寺の坊ちゃんは私に黒い箱を投げつけてきた。

ブラックダイヤだ。

私は一瞬目を丸くし、唖然としたがすぐに平静を装う。
ポーカーフェイスというヤツだが私は盗み以外で
これを使うのが苦手で天堂寺にも見抜かれてしまったようだ。

>「保管は徹底しろ、間違っても奪われるな」

「いつからサンタさんになったのかね君は!
 怪盗が集めているものをくれてやるなど侮辱の極みだよ」

そんな私の言葉など華麗にスルーして
坊ちゃんはシールドマン君に封筒を投げつけ病室を出て行こうとする。

「待ちたまえよ!君は勘違いしているなァ〜〜〜〜!
 私がブラックダイヤを集めるのは生涯の目標ではあるが今回は別のものが欲しいのさ」

私は窓を開け、そこに腰かける。良い風だ。

「人には夢がある。大小に価値はない、夢を持つことに意味がある!私にも、夢がある!
 それも“たくさん”だ。生まれた頃から不自由なく暮らしてきた君には理解しかねることかも知れんが───
 私のように生まれた時に平凡以下の暮らしをしてきた者は沢山の夢があるんだよ。
 ブラックダイヤを集めるのはその中の一つを達成する為であり、それ以上でもそれ以下でもない!
 今回ここには別の夢の為に来たのだ」

黒いカードを天堂寺に投げつける。そこには白い文字で挑戦状めいたことが書かれていた。

「私はクロックアップシステムが欲しい。開発中なんだろ?
 明日、盗りに行こうと思ったからな。ついでだから君に直接渡そうと思ったのさ。そのカードをね──!」

私は背中から窓の外へ落ちると身体を変化させコウモリの姿へと成る。
マントは翼となり、遥か上空へ飛び立つ。

「明日の0時だ……忘れるなよ!精々アホみたいに厳重にしてくれたまえ!!」

167 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/04/30(土) 20:20:54.19 0
「…わかった、0時だな」
天堂寺は海藤の言葉に頷くと、後に残されたシールドマンを放置し、病室を後にしようとして、ふと、シールドマンの方を振り返り、何かを投げるような動作をした後、今度こそ病室を後にした
この時、彼がシールドマンに投げた物こそ、海藤があの学校事件の際天堂寺につけていた「極小の盗聴器」であり、彼の言う「思わぬ拾い物」である
そう、彼の言う拾い物とは、海藤の事だったのだ

傾国党による学校テロ事件は、この町においてもなお凄惨な事件として、世間を騒がせている
全校生徒、教職員、テロリストのほとんどがテロリストの爆弾と校舎の倒壊で死傷し
突入した警官隊にも多数の犠牲者が出てしまった
そして、同時に起こった市庁舎襲撃と、不知火重工対ヴィラン部隊襲撃によって、この街を守る公的な防衛力は著しく低下してしまっている

そんな状況下で、天堂寺工業にも、不知火重工にも、ブラックダイヤを守る力は無い
そこで、天堂寺は手っ取り早く「悪人の手にダイヤが渡らない非常手段」として「怪盗」にダイヤを預けてしまう事にしたのである

当然、帰ってきた天堂寺に、武中は猛然と噛み付く…
事も無く、彼も又、天堂寺のした事に素直に従っていた
面子や、誇り
そんな物よりも、人の命を武中も重んじるからである

当然、今の天堂寺工業にクロックアップシステムを守りぬく力も無い
なので


研究中のクロックアップシステムの全ての研究成果がある研究室の分厚い特殊鋼の扉の前
それを守るように…と言うより、その前で人を待つように、その前には天堂寺が持ってきたパイプ椅子に座っている
他に、今この研究施設を守る物は、何も無い
全て、天堂寺が周囲の反対を押し切って、取り払ってしまったのだ
「…後30分か」
腕時計で時間を確認した天堂寺は、来るべき海藤を待っている


そう、やはり天堂寺はあっさりクロックアップシステムを海藤に見せるつもりなのである
これでは話が成り立たないのではないか?
と言う心配はいらない
クロックアップシステム
それは「盗めるような代物ではない」からだ
天堂寺は、「これから色々と力を借りねばならない」海藤に、その事を説明せんと、彼なりに配慮してこうしているのである

が、はたから見りゃ海藤への侮辱にしか見えない

168 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/04/30(土) 22:16:02.62 0
───20分前、研究所内にて。

「例に漏れずチープで単純な作戦でこうして侵入したワケだが……」

口を酸っぱくして言うが私はエンター・テイナーだ。
他人を、観客を、一般人を楽しませるのが私の目的でありその為には盗みの失敗もヒーローとの交戦も良しとしている。
なので私がモノを盗む際のプランは実に単純で、安っぽい。

「ふん。マスコミもいない、野次馬もいない──華やかじゃあないな。つまらん」

クロックアップシステム…全貌知ることは遂に叶わなかったが、その存在と在り処だけは知ることができた。
いきあたりばったりで、気まぐれな私にとって盗むにはそれで十分だったのだ。
名称通り何かのシステムなのだろう。最悪その研究データだけでも盗もうというはらだ。

「誰もいない上に何もない──よくある赤外線センサーもないし──……」

私は、普段とは異なる所謂“美人な女性の外見”で、壁を触ったり、床を叩いたりする。
何故女性の姿かといえば内部の警察や特殊部隊の服と顔をご拝借する時に女性の方が好都合だからである。

「ヒーローもいない。怪しいな。……私を捕える為の罠か──はたまた別の思惑か?」

魚の骨がつっかえた気持ちの悪さに苛立ちを覚えながら、先へ進む。
曲がり角まで来た途端ピタリと動きを止め頭に叩き込んだ研究所の地図を思い描く。
どうやって地図を盗んだかはナイショだ。

「ふむ…この先か。念のため“偵察”を飛ばしてみよう」

私の手がぐにぐにと輪郭を変え黒い小さなコウモリへと変わる。
これが異能アリス・イン・チェインズ。身体を自由に変化させる能力。私の単純だが最強の能力だ。
コウモリは通風孔内部へ侵入し、この先の通路…そして研究室内へと侵入する。
そして扉の前で偉そうに(私の主観である)天堂寺に「ばーか」と呟いてやった。心の中で、だが。

「ずさんな研究室だな。昔、通風孔すらないところで盗みを働いたこともあったが…
 いや、あれは盗んだはよかったが肝心の品が模造品だった上にヒーローに邪魔されて散々だったな。
 って………は?いやいや。…………はあ?」

私は偵察用に飛ばしたコウモリを回収し、天堂寺の元へ走り出し───胸倉を掴み────
おおよそ女性とは思えない低い声で天堂寺に怒鳴りつけた。私が何を見たかは、坊ちゃんに解説してもらえ読者の諸君。

「貴っ様ぁあああ!!舐めてるのか!?なんなんだあれは!後、ここは!やる気ゼロじゃないか!!
 これでは道化だよ!いやエンター・テイナーは往々にして道化にもなるが──それとこれとは話が別だっ!」

すぐさま、私ははっとした。もしや──学校事件の時に回収し損ねた盗聴器の時から──(まあその内バレるとは思ったのだが)──
私の知らないところで何かが動き始めていたのか?と。件の襲撃事件によって疲弊した隙を狙った私のことを見越して待っていたのか?と。
胸倉からすっと手を離し、深呼吸する。私は気持ちを切り替えるのも天才的だ。

「最高の侮辱をありがとうよ天堂寺の坊ちゃん。まあそんなことは今後の内容次第じゃ水に流してやろう。
 そもそも“話したいこと”があるなら、病院のときに話せばいいんだ。
 あーあとCUシステムについてじっくりしっかり説明して貰った後の話はどこかの高級料理店でよろしく頼むよ。
 良い子はねんね、大人は夜の営みを楽しむ時間だがそれぐらいの権力とコネは持ってるだろう?」

私は侮辱の怒りなど忘れて次は何を注文してやろうか思案にふけった。

169 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/02(月) 05:42:15.00 0
天堂寺はぶちきれる海藤に、しかし全く動じる事無く一方的にされるがままになっていた
胸倉を掴まれても、凄まじい剣幕で…人間が本気で怒り狂った時する形相でぶち切れられても
涼しい…いや…どこか物寂しげな表情で、ただただ海藤にその身を任せていた
やがて彼が素直にこちらの話を聞く姿勢ができたのを見て、天堂寺は特殊合金の扉を解除しにかかる

終始無言の彼の手は………震えていた

常に余裕綽々だったあの天堂寺が…ブルブルと震えていたのだ
それは決して、海藤の剣幕に恐れおののいてのものではない
いやあれはあれで、常人や訓練された軍人あたりでも震え上がっただろう
しかし、今回それは関係ない

彼が震えているのは、「悔しさ」からだ
思い出しただけで怒りが体中を駆け巡り、呪いの言葉を吐き散らしたくなるような、そんな悔しさを天堂寺に与えている物
それは、これから見せる物…
即ちクロックアップマシンだった

分厚い特殊合金の扉の向こう
そこにあった物…それはロケット程の大きさのある円筒状の巨大な「何か」だった
「…これが『俺の所にある』クロックアップシステム…その雄一完成している物だ」
そう言って、天堂寺はコンコンとロケットの入口の様な場所をノックする
「ここから入り、システムのスイッチを入れる事で中の物体に流れる時間を加速する…見ての通り、加速される範囲は畳ひとつにも満たない上、動かすのにコストがかかりすぎてほとんど使い物にならない」
大きな物だから盗めない?
ならば研究資料だけでも…
そう思っただろう海藤に、天堂寺は更に言葉を続ける
「…研究資料も設計図も既に無い。…完全な極秘事項だ、俺と今教えたお前と一部の人間しかまだ知らない
…クロックアップシステムの研究データは開発主任ごと消えた
そして今、ヴィランとして存在している」
最後の言葉をつむいだ後、天堂寺は感情のままに、思いっきり特殊合金のクロックアップシステムを殴りつけた
「……恥ずかしくて人前じゃ言えない!こんな事…!ああいらいらする!お前ちょっと二、三発殴らせろ!」
突然ぶちきれた天堂寺は、先ほどまでの静けさが嘘の様にうわーと騒ぎたて、おもむろに海藤に殴りかかっていく
この社長はパワードスーツを着ているとはいえ素手でヴィランと戦っている男だ
相当に強い

その相当に強い男と怪盗の意味の無い取っ組み合いが少々行われた後

多少息を荒げながらも落ち着いた天堂寺が、今度こそ海藤とまともに向かい合う
「お前にはやるべき事がある」
ごめんなさいも言わずに天堂寺は命令口調で海藤に話しだす
「クロックアップシステムを奪え!」

170 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/02(月) 14:35:24.85 0
分厚い特殊合金の扉が開き、研究室と通路が繋がる。
そこにはロケットのような円筒状の物体と幾つかのコンピューターのみが置かれた非常に殺風景な部屋だった。
私が偵察コウモリで見たときは通風孔ごしだった為よく見えなかったが、今ははっきりとわかる。
なんじゃこりゃ?

>「…これが『俺の所にある』クロックアップシステム…その雄一完成している物だ」
「まさかウラシマ効果うんぬんがクロックアップシステムとかぬかすんじゃなかろうな…
 もしそうだったら絶対許さんぞ」

ついついマイナス方向の見方をしてしまったがそんなことはないだろうと信じたい。
私だってクロックアップ…!とか言いながらひゅんひゅん無双したいのだ。
あまり“がっかり”な代物だとやる気が失せるのでやめてもらいたい。

>「ここから入り、システムのスイッチを入れる事で中の物体に流れる時間を加速する…見ての通り、加速される範囲は畳ひとつにも満たない上、動かすのにコストがかかりすぎてほとんど使い物にならない」
「これでは実用化には程遠いな…やれやれ。私も仮面シーフバットマンなどと呼ばれたかったのに」

などと心にも思ってない嘘を平然と呟きながらさりげなく研究資料か設計データを奪うべく眼をきょろきょろしていた。
今回は盗む対象の見当がつかなかったためがっかり感と共にちょいとぷっつんしてしまったが
冷静に考えればデータを奪えばいいだけの話なのである。情報というのは時として年代モノのワインよりも価値があるのだから。

>「…研究資料も設計図も既に無い。…完全な極秘事項だ、俺と今教えたお前と一部の人間しかまだ知らない
>…クロックアップシステムの研究データは開発主任ごと消えた
>そして今、ヴィランとして存在している」
「……まさか君」

私に盗めとか言い出すんじゃなかろうな、と予想を述べようとしたと同時に。

>「……恥ずかしくて人前じゃ言えない!こんな事…!ああいらいらする!お前ちょっと二、三発殴らせろ!」

さきほどのクールさと余裕の態度が一瞬で消え去りまるでおもちゃを失くした子供の如く騒ぎ出した。
しかもこともあろうに私にその怒りをぶつけるべく拳を振るってきたのである!

「やめたまえよ!正義のヒーローがみっともなく八つ当たりなんぞするんじゃあない!!」

というか仮にも今は女性の姿なのだから(中身は純度100%のオッサンである)殴りかかるのはどうなのだろう。
傍から見れば女性に暴行を振るう危ない社長にしか見えないではないか。また逮捕エンドする気か!?
加えて無駄に強い。私は盗み専門なのでどんぱちは苦手なのだ。
必死の形相の女性(の顔をしたおっさん)と普段は冷静な社長との取っ組みあいがしばし続いた後に

>「お前にはやるべき事がある」
「その前に何か言わねばならん言葉がないかね?んん?」
>「クロックアップシステムを奪え!」

……なんという俺様。ものを頼む前に殴りかかってきた上に命令口調とは……
そもそも誰かに命令口調で指図されるのは自由を愛する私の主義ではない…がしかし

「口調は気に入らんが本来ヴィランである私に頼むということは、それなりに切迫しているということか。
 ……まあいいだろう。普段ならば“だが断る”とか“私は私の指図しか受けない”とか言うのだが
 今回は出血多量死大サービスだ。『条件つき』でその盗み、引き受けてやる」

ここから交渉のはじまりという訳だ。といってもどういう条件にするかはまだ考えていない。
まさに行き当たりばったりである。

「──そうだなぁ。君が私に預けたダイヤの三分の二を貰う…いやいやそれはつまらんな……
 欲しいものは大概自分で盗むし───やはりここは当初の目標通りといこう。
 『完成したクロックアップシステム』を1つ、私にくれるなら構わん。それ以外では引き受けんぞ!」

ここはヴィランとして、年上として引くわけにはいかんのだ!!
そもそもヒーローの頼みを引き受けた上に同じ交渉のテーブルに立てるだけ十分ありがたいのだぞ!
私がヒーローも盗みというショウにおいて必要なファクターと捉えていなかったら社長なんぞ当の昔にコウモリの餌だ!

171 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/03(火) 02:34:19.48 0
海藤の出した条件に、天堂寺はふっとクールに笑う
…先ほどみっともない八つ当たりをしたばかりなのにそれでもクールに見えるのは、流石は天堂寺と言うべきか…
「こんなでかい物どこに置くんだ?」
半分笑いを堪えながら言う天堂寺
そして半笑いのまま海藤に背を向け、特殊合金の扉へと歩いていく
「…クロックアップ能力を持つヴィランはパワードスーツにクロックアップシステムを装備している
恐らくバックアップも持っているはずだからそっちはお前にくれてやろう
所持しているのは傾国党に所属している異能者のリーダー格だ、詳しい情報はまた追って…
……待て」
帰ろうとした天堂寺は、何かに気づくと、おもむろに研究室の扉の横に設置されている警報機に手を伸ばし、スイッチを入れた
が、警報は作動しない
研究所内の緊急回線も試してみたが、既に切られているようだ
更に天堂寺が所有する無線機も、ジャミングされているようで繋がらない
「……向こうの方が早かったようだ」
特殊合金の扉を閉め、虫型のメカを呼び出しパワードスーツへの変身を始めながら、天堂寺は海藤に言った
……どうやら、研究施設の守りが今夜取り払われる事がどこかから漏れたのか、はたまた敵の異能か
とにかく何らかの方法で敵が今ここに天堂寺等しかいない事を悟り
襲撃をかけてきたようなのである
「この研究所に今俺とお前以外で足音を立てる存在はいない
…お前がこれから相手にする連中の刺客のお出ましのようだぞ」
そう言って、天堂寺はイヤホンのような最新鋭の集音マイクを見せた
何だかんだ言って、天堂寺は最低限の警戒はしていたのである

次の瞬間、特殊合金の扉がいとも簡単に砂のように崩れていった
そして、扉の向こうからハイメタルボーガーを赤子の手を捻るように撃破して見せた例の大柄なパワードスーツヴィランが現れる
「…俺をコウモリの餌にできるんなら、こいつも楽勝か?」
そう言ってパワードスーツヴィランへ構えを取る…振りをして、海藤に片手で素早くサインを送る天堂寺
ニ・ゲ・ル・ゾ
天堂寺は自分と自分のパワードスーツがハイメタルボーガーに劣っているとは思っていない
しかし手負いのみで何の準備も無く自分のパワードスーツに匹敵する能力を持つハイメタルボーガーを一蹴したパワードスーツヴィランと戦えると思うほど、天堂寺は戦いを甘く見ていない
…海藤の戦いの方の実力はわからないが、今はどちらも無駄に損耗すべきではない
集音マイクで聞いた感じでは、どうやら敵はこいつだけのようである
それならば、十分に逃げ切れるはずだ

172 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/03(火) 13:34:22.20 0
>「こんなでかい物どこに置くんだ?」

さきほどの暴れっぷりなど嘘のようにクールに私に嘲笑と言葉を浴びせてくる。
さっきから私の漂うマヌケっぷりはどーにかならんのか。

「こっちにもプライドがある。何も盗めず帰っては面子がたたんし
 何よりこの盗みの為に幾つか金だって使ってるんだ。散財では勿体ない」

泥棒のくせに私にはもったいないオバケが憑いているようだ。

>「…クロックアップ能力を持つヴィランはパワードスーツにクロックアップシステムを装備している
>恐らくバックアップも持っているはずだからそっちはお前にくれてやろう

本来なら両者敵同士であるはずなのに先から塩を送りまくっている気がする。
まあそもそもヴィランとヒーローが共闘というシチュエーションからしておかしいから問題ないか。
私からすれば実用化されてるシステムの方が嬉しい。ペンシルロケットみたいなのは流石に邪魔だ。

>所持しているのは傾国党に所属している異能者のリーダー格だ、詳しい情報はまた追って…
>……待て」

「いや待て何気なく言ったがリーダーから直接奪うのか?私が怪我をしたらどう責任を……ん?」

>「この研究所に今俺とお前以外で足音を立てる存在はいない
>…お前がこれから相手にする連中の刺客のお出ましのようだぞ」

突然の出来事に泡を食う私をよそに天堂寺は警報のスイッチを押したり、無線機などで助けを要請しようとするが全く作動しない。
臨機応変な私と違って大分ガチガチな作戦でくるもんだ。演出のためにそういうのは残しておくべきだろう。

「なんて野蛮な連中なんだ!もっとスマートにことを運べんのか!?これだからテロリストは…ロマンがない!」

私はぶつくさ文句を言いながら臨戦態勢をとり、コウモリのような怪人形態へと変身する。
マントを翻して格好良くポーズを決めてみたりするが観客がいないのでサマにならない。

>「この研究所に今俺とお前以外で足音を立てる存在はいない
>…お前がこれから相手にする連中の刺客のお出ましのようだぞ」

パワードスーツを展開しながら最新の集音マイクをこれみよがしに見せびらかしてきた。
………今度からは集音機対策もしようと私は心の中で誓う。
瞬間、特殊合金の扉は音もなく砂のように崩れ去り大柄のパワードスーツをヴィランが姿を現す。
こういうカブト虫が味方にいるときは蜂のような外見をした敵が来るのが相場ではないのか?とがっかりした。

>「…俺をコウモリの餌にできるんなら、こいつも楽勝か?」
「……どうだかな。少なくともデザインセンスなら負けてない」

軽口を叩きながらも私は目ざとく天堂寺のサインを確認。
奇しくも怪盗にとって逃げる事は十八番であり逃走癖のあるヘタレにも負けない自身がある。
あの大柄な外見から判断するにスピードでこちらが負けることはないだろう。

「………行くぞ!!」

ばかのように殺風景で広い研究室の天井をぶち破り、空から逃げようとする…が

「遅いな」

大柄のパワードスーツヴィランは逃走を図る私と天堂寺の足を引っ掴んでいた。
こいつ、外見に反して割と速いようである。

「外見詐欺じゃあないか?こいつ」

173 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/05(木) 03:07:39.17 0
(!?)
脚をつかまれ、天堂寺は素早く加速装置に伸びた手を離し、本来なら必殺キックに使う脚部への破壊エネルギー供給スイッチを代わりに動かす
このヴィランは、どのような方法か、ミサイルをも寄せ付けない特殊合金の扉すら砂の用に粒子化する能力を持っている
その上、武中から聞いた話ではマグナムも弾き返すハイメタルボーガーの頭部装甲を握りつぶすほどの怪力を持っているらしい
加速しても怪力から逃げられるわけではない、それならば、相手が能力を使う前にこちらが強力な技を叩き込み、相手の拘束を突破すべきだ
そう思った天堂寺の作戦は見事に功をせいし、強力なキックの一振りは、パワードスーツヴィランの拘束を弾き飛ばし、彼の足を無事に脱出させた
自由の身になった天堂寺は海藤の方を向き、こくりと頷くと

「先に行ってる」

加速装置を使って一人先に逃亡してしまった

「……冷たいな」
海藤を掴んだまま、目だけでちらりと加速して姿を消した天堂寺を見送ったパワードスーツヴィランはボソリとそう言った
確かに、天堂寺の行いは残酷が過ぎる様に見える

しかし海藤はこれからこれと同格の相手と否が応でも戦わねばならないのだ
彼がここで仮に天堂寺の要求を断り、クロックアップシステムを盗みに行かなかったとして
それで敵のヴィランがいつか海藤の前に現れる可能性が消えるかと言えば、答えはNOだ
海藤が怪盗として名を上げれば上げる程、パワードスーツヴィランと接触する可能性は高くなる
なぜならば、海藤の集めるブラックダイヤは、パワードスーツヴィランにとってもまた、価値がある物であるからだ
しかも、時間がたてば立つほど、パワードスーツヴィランはより厄介に、より強大な存在になっていくだろう

無論、次に会う時が来る前に、他のヒーローやヴィランがパワードスーツヴィランを倒してくれるかもしれない
だが

単身でパワードスーツヴィランに勝てるヒーローも、警察組織も、ヴィランすらも
今この街には見当たらない
無論、将来的に現れる可能性は十分にあるが
他人をあてにする様な輩が、なり上がれるとも思えない

やはり、海藤は戦うしかないのだ

そんな海藤が、この程度の…海藤の能力を考えれば誰が見ても乗り越えようがある様な苦境を、単身で乗り越えられないようならば
この後海藤はパワードスーツヴィランと戦う資格は無い

「まぁいい、死ね」
そう言って、「徐々に」腕に力を篭めるパワードスーツヴィラン
即座に殺すつもりが無いのか?はたまた楽しんでいるだけなのか?それとも…
とにかく、パワードスーツヴィランは腕にゆっくりと力を入れて、海藤の変身する蝙蝠男の脚を握りつぶしにかかった

(……)
その光景を、研究室の特殊合金の扉のあった入口の横の壁で天堂寺が高性能集音マイクで聞いていた
一人で逃げたように見せて、しっかりいつでも海藤を助けに入れるように待機しているのである
そう、天堂寺は海藤を試しているのだ

174 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/05(木) 09:16:41.01 0
>「先に行ってる」

「おいおいおいおい!こっちは一人で逃げれるところを二人で逃げてやろうとわざわざ………」

>「……冷たいな」

「………理解してくれるか、心の友よ」

などとさり気なく仲間認定したところでこちらに寝返ってくれる訳もないだろうが……
そもそも私の領分は盗むことであって戦うことじゃあないんだからあまりテロリストのような真似はしたくない。
ヒーローとだってデパートのヒーローショーにような気分で“遊んでやってる”だけであってマジの戦いなどお断りだ。

「…でもま〜この感じだと敵から奪うには戦うしかなさそうなんだよなァ〜〜」

>「まぁいい、死ね」

「……お前も割と冷たい方だな。後殺すときは一気にやれよ。
 私とお前じゃ生きてきた年季が違う。無駄な手加減はやめとけ」

私はありがたい忠告を言ってやると同時に
蜘蛛、否、コウモリの子を散らすようにして身体を何百もの子コウモリに変化させ拘束から脱出した。
そしてずるりとコウモリ一匹一匹が何かを落としていく。
床に音を立てて転がるそれは私が身体を変化させ、体内に隠していた物体。

「………いわゆるC4爆薬というヤツだな。まあお前なら死なんだろ」

研究室の外で悠々と身体を元の燕尾服を着たおっさんに再構築すると、起爆装置のスイッチを押す。
耳障りなやかましい音とともに研究室は爆破されるが、様々な研究に耐えうるよう頑丈にできているから大丈夫だろう。
私が部屋の主ならまず殺してるが私の部屋じゃないので他人事である。

「……あ、中のクロックアップシステム壊しちゃったな。まあ敵から奪えば済む話だ、問題ないだろう」

燃え上がる研究室をバックに格好よくキメてみたもののそれもつかの間、私は通路を全力疾走し始めた。
ぼけーっと助けもせず私を試そうとした天堂寺に爽やかな笑顔で理由を述べる。

「こんなくだらんとこで命の張り合いをやってられるか!!さっさと逃げて態勢を整える!」

そして次に、怒りを露にした表情で恨み言を叫ぶ。

「お前が窮地に陥っても絶対助けてやらんからなぁぁぁぁあああ!!!」

私の脳は既に傾国党にどんな報いを受けてもらうかに全力を注いでいた。
とりあえず指で『天堂寺工業の社長室に逃げてるから後はシクヨロ☆ ^O^)/』という無責任なサインを残し研究所を後にする。
天堂寺の背後からパワードスーツの影が見えたが先ほどの恨みもあったので敢えて何も言わなかった。
私は例え実力を試す意味があったのだとしてもとりあえず許さない精神でいるというイヤな奴なのだ。

175 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/05(木) 16:52:04.12 0
「…流石だな」
クロックアップシステムが破壊された事など気にも留めず
天堂寺は海藤が見事に苦境を乗り切った事に仮面の中で微笑を浮かべる
天堂寺工業の社長室は大して警備が厳重ではない
海藤ならばたやすく侵入できるだろう

背後に気配を感じて天堂寺が振り向くと、例の大柄なパワードスーツヴィランが無傷で姿を現していた
しかし、その動きは散漫としていて、先程のスピードが嘘のようである
(…このヴィランは……いや、今は逃げる事を優先すべきだな)
その姿からヴィランの弱点を天堂寺は素早く見抜いた
だが、その弱点を知ってなお天堂寺は逃げる姿勢を崩さない
相手も自分の能力が簡単に見抜かれる事位視野に入れているはずだ
なら、何らかの対策はとっているはずである
相手のフィールドで戦ってはいけない
天堂寺は素早く加速装置を起動し、研究所から脱出すると、無線が回復するエリアまでひたすら走り、武中に応援を要請した

数分後
天堂寺から連絡を受け、メタトルーパーの一団と、アイアンジョーカー率いるメタルマンの部隊が研究所に到着したが
既に、パワードスーツヴィランの姿は無く
この事件は後にパワードスーツヴィランの襲撃を察知した天堂寺工業が、素早く関係社員を全員退避させ、死傷者は全くでなかった
として、世間には公表される
無論、そこには海藤のかの字も載っていない


(さて…傾国党のアジトの位置位はこっちで調べてやるべきだろうな)
天堂寺工業のビルへと戻ってきた天堂寺は、社長室を目指しながら警察、自警団、ヒーローとの今後の連携を脳内で練る
海藤と言う人間については余り理解していながいが
素直に手ごまとして動いてくれる人間でも無ければ、「味方」でもない事位は彼にもわかる
だが、利害関係が一致して、結果的に人に使われる事になっても、腐って全てを投げ出すような人間でない事は、怪盗と言う神経と忍耐を使う仕事を、死者0と言う己の信念を曲げずに続けている事から感じられていた
それに、彼としてもこの街の状況を一変させかねないパワードスーツヴィランの存在は無視できないはずである
こちらが協力を持ちかけて、潰す機会を作ったのならば、断る理由は無いと思っていた
天堂寺にとって、法の言う正義だの悪だのは些細な事である
法に縛られない強さと、信念があるのならば、それを持つ人物は天堂寺にとって等しく評価できる人物だった
なのえ、天堂寺も当然、彼のこれからの努力に対して正当な報酬と、サポートをするつもりでいる
当然だ
力を合わせなくては、正体不明のパワードスーツヴィランには及ばないのだから

「…待たせたな」
そう言って、天堂寺は海藤が待つはずの社長室へと入室した

176 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/06(金) 17:48:50.74 0

「う〜〜〜んリキテンシュタインか。社長め…中々良い趣味をしているなァ〜〜」

壁に飾られたリキテンシュタインの絵画を眺めながら思わず唸ってしまう。
天堂寺ほどの大企業だけあって社長室は無駄に広く、そして厳かな雰囲気に包まれている。

「さてどうやってクロックアップシステムを奪おうか……」

正直パワードスーツヴィランとの戦闘は極力避けた上で敵の大将と対峙したい。
しかし相手はそれなりに巨大な組織だ、一筋縄ではいかんだろう……

「あ〜面倒臭いことになったなー。しかし投げる事はプライドが許さんし……」

何より傾国党は私の盗みを邪魔をしたこともあるし、その報いを受けさせる必要がある。

>「…待たせたな」
「少し遅かったな。私は今ちょーど自分の半生を振り返って泣きそうになっていたよ。
 何故あの時真面目にスティール社で働こうとしなかったのかね?
 おかげでアイアンメイデンを盗み損ねた上にトリッシュ社長にフラれた。つーかリアクターレイの熱い熱波を貰ったよ
 あのまま真面目に秘書やってりゃプロポーズして、結婚して、大企業の社長のヒモに…ってあれ?聞いてない?」

などと私は半分真実の嘘をつきながらどこからか(何処かは忘れた)拝借してきた高そうな椅子に座り込む。
座り心地は抜群だ。メーカーは知らんが今度この椅子を買おうと心に誓う。

「………とりあえず作戦についてだが、私はクロックアップシステムを奪うどころか
 あわよくば傾国党をぶっ潰すつもりでいる。
 ……少し欲張りすぎたかな?まああくまで第一目標はシステムの奪取だが…」

理由は単純明快、奴らが嫌いな上に私の盗みを妨害したことがあるからだ。
観客を殺すショウなどあってはたまらん。そういう奴らは正義も悪も関係なく潰す主義だ。

「言っておくが基本的に私は単独行動だ。手駒になる気はないからな。
 ついでに敵のアジトの位置と、正確な内部地図を教えてくれ。後はそちら側の行動も把握したい。
 作戦の決行日は適当に決めてくれ。それに従う」

177 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/07(土) 04:56:28.91 0
「…傾国党を潰してくれるならありがたい、こちらとしても手間が省ける」
思わぬ海藤の提案に、天堂寺は微妙に笑顔を見せた
「お前が単独行動をとる事に俺が何かを言う気は無い
お前はお前の好きにしろ、そして好きにする中でお前は傾国党と戦う
だから俺はお前に手を貸す
最初から俺はお前を手駒にすると言っていたんじゃない、手を貸すと言っていたんだぞ?」
…人類の大半が天堂寺の言動からそれを読み取る事はできないだろう

「アジトの位置は現在既に捜索隊が出ている、が、内部地図までは期待するな
迂闊にただの人間を潜入させて、それがわかって罠を仕掛けられるのがオチだ
…こちらの動きはなるべくお前に合わせよう
アジトの位置がわかり次第、お前がお前の手で情報を収集して、それをこちらに提出しろ
より確実な情報と準備が揃ったところで、お前がクロックアップシステムを奪い、俺が傾国党を潰せばいい」
相手はクロックアップパワードスーツヴィラン以外も、強力な怪人や完全武装のテロリストが揃っている
如何に海藤でも迂闊な装備では命を落すだろう
そう判断して、天堂寺は海藤に準備期間を決める権利を譲った

178 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/07(土) 04:58:29.84 0
しかし、兎にも角にもまずは傾国党のアジトを見つけなければならない
今日の所は、海藤が準備期間を決める権利を承諾した所で、話すことが無くなるだろう

【文入れ忘れてすんません】

179 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/07(土) 22:13:52.30 0
【書く事が特になかったんで準備期間の描写の入れたら
 思ったよりクソ長くなってしまったので途中の2レスは読み飛ばし可です】


>「お前が単独行動をとる事に俺が何かを言う気は無い
>お前はお前の好きにしろ、そして好きにする中でお前は傾国党と戦う
>だから俺はお前に手を貸す
>最初から俺はお前を手駒にすると言っていたんじゃない、手を貸すと言っていたんだぞ?」

「そ、そうか……ならば、それでいい」

あんな天の道にでも行ってしまいそうな台詞でそういう意味を汲み取るのは少なくとも私では不可能だ。
しかし許可は得た、後は好き勝手にやらせて貰うだけだ。

>「アジトの位置は現在既に捜索隊が出ている、が、内部地図までは期待するな
>迂闊にただの人間を潜入させて、それがわかって罠を仕掛けられるのがオチだ
>…こちらの動きはなるべくお前に合わせよう
>アジトの位置がわかり次第、お前がお前の手で情報を収集して、それをこちらに提出しろ
>より確実な情報と準備が揃ったところで、お前がクロックアップシステムを奪い、俺が傾国党を潰せばいい」

「相変わらずの命令口調で安心したよ。───ならば期間はきりよく一週間。
 今回は“敵を倒す”ことも視野に入れなければならんようだしな。
 急げば三日で十分だったんだが、双方の余裕も考慮して一週間ということにしよう」

大まかなに話す内容が粗方なくなったところで話すことは無くなった。
後は私の、ショウを盛り上げる下準備をするだけだ。

「では御機嫌よう社長。成功を祈りたいよ」

それだけ告げて私は窓から飛び立った。

180 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/07(土) 22:16:00.47 0
【AM10:15 某所】

餅は餅屋ということわざがあるように人にはそれに見合ったポジションがある。
適材適所とも言うが───まあそんなことはどうでもいい。
もちろん私のポジションは盗むことに他ならない。それ以外は、他の業者の仕事だ。

「地図屋。傾国党のアジトの詳細な内部地図は持ってるか?」
「ないね。大まかなのはあるけど」

肥満体の、赤井と呼ばれる男はあっさり否定した。
彼はこの都市で“地図屋”と呼ばれる仕事をしている。文字通り、地図を売る仕事だ。
地図といっても内容は様々だ。世界地図からどこかの家の間取りまで。

「それじゃあ私が困るんだよ。私と、私の上司がな」
「へえ。海藤さんが他人の指図を受けるなんて珍しいね。槍でも降るんじゃない?」
「協力者といった方が正しいかな。ただヤツの口ぶりからすれば上司のようなものだ。本人がどういうつもりかは知らんが」

赤井は銀行員だった男だ。だがある時、強盗から銀行の間取りを売ってくれと頼まれた。
それも、100万単位で。強盗からすれば成功したらそんなものはした金なのだから当然かも知れんが赤井にとっては衝撃的だった。
そして肥満体のデブは目ざとくそれを商売にしようと考え、現在に至る。
地図は容易く手に入る。しらふや金に困ってる連中から安く買い上げることができるからだ。
彼らは“地図くらい”という考え方でいるし、罪悪感も薄い。後は欲しいやつに高く売りつけるだけのボロい商売だ。
『お前は世界一のラッキー・ガイだよ』といってやったのはいつだっただろうか。

「お前のところに詳細なものがないということは、他にはないということだな」
「だろうね。大まかな間取りがあるだけ大判振る舞いだよ。
 下っ端から買ったんだけど、幹部しか入れない場所もあるらしくてそういう部屋の細かいところまで分からないのがあるんだ」
「そいつのは一体誰だ?」
「知らない。そんなこといちいち気にしてたらこんな仕事やってられないよ」
「だろうな」

私は小さく頷くと、穴だらけの大まかな地図を取る。

「仕方が無いな。これを買ってやるとするか。金はいつもの指定口座で構わないな」
「毎度あり。……ていうか、いつも思うんだけど海藤さん、こういうの自分でできるんじゃないの」
「世の中、適材適所という言葉がある。大体私のような常連がいなけりゃお前はとっくの昔に廃業だ」

赤井はむっとした顔で反論した。

「そんなことないよ。この前だってその傾国党が学校の間取りを買っていったからね」

181 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/07(土) 22:16:48.59 0
【PM 3:10 高級マンション】

「小森、仕事を頼めるか」

今私は高級マンションの一角にいる。部屋の至るところにPCやサーバーがあり
雑然としているように見えるがその実整理整頓されていた。

「…………また海藤さんか。いい加減窓からじゃなくドアから入ってくれないかな」
「お前が誰彼構わず居留守を使うからだろうが」

無愛想な小森の仕事は、簡潔に述べれば鍵職人というヤツだ。
物理的なものから論理的なものまで大抵用意してくれるし、複製も彼曰く容易らしい。
他にも何に使うのかよくわからない道具を作ったりしている。

「ひきこもりの割にはいつも通りさっぱりした部屋だな。しかし綺麗なのは非常に好感がもてる」
「………そういう類型的な考え方よくないよ……僕は親が両方A型でAA型だから純粋なA型なんだよな」

小森はどこか誇らしげだったが、私には何が誇らしいのか理解不能だ。

「……で、何をしてほしいのさ」
「傾国党のセキュリティシステムをダウンさせたい。お前の得意な鍵作りだ」
「………それってハッキングしろってこと?いつぐらいに?」
「○日に私が指示したら、だ」

小森は少し考えた後に頷き、ぼそぼそと喋りはじめた。

「…いいよ。報酬は一千万」
「高いな。十万くらいじゃないのか」
「相手は有名なテロリストだよ。報復のリスクも考えたらそれくらい貰わないと」

とんでもない出費だがまあいいだろう、と思ったところで、私は疑問に思っていたことを口に出す。

「あの四角いものはなんだ?」

私が指差したのは、黒色の、長方形の物体だ。
大きさはバレーボールほどある。何か怪しいものでも入っているのだろうか。

「……ああ、あれね、あれは吸電器だよ」
「なんだそれは。充電器じゃないのか」
「元々は一定範囲内のパワードスーツに電力を供給する為に造ったんだけどさ。
 システムを組み間違えたみたいで一定範囲の電気を吸っちゃうんだよ。だから、吸電器。しかも範囲が5メートルと狭いんだよね」
「ふむ、ならば一応あれも貰っておくか」
「……いいよ…失敗作だし…タダであげる。お買い上げありがとうございました」

小森は客商売をしている意識が少しばかりあるらしく、会釈のようなお辞儀をぺこりとする。

「……急に傾国党に何かをしかけるなんて海藤さんらしくないね。心境の変化?」
「決まってるだろ。私達は、道理の通らぬ世の中にあえて挑戦する。頼りになる神出鬼没の………」
「怪盗野郎Aチーム?」
「そういうことだ」

182 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/07(土) 22:17:58.43 0
下準備は思ったよりかかって武器の調達やその他情報収集に三日費やすこととなる。
そして手に入れた正確な情報は全て天堂寺に開示した。

約束の日だ。一週間が経ち、今、私は傾国党内部にいる。
場所はなんとも灯台下暗し。某大手会社のビルそのものが奴らのアジトだ。
軍需産業である不知火や天堂寺等と同等以上のパワードスーツを独自に開発するだけのことはある。
恐らくメンバーの一員が社長とコネクションを持っていたり、或いは社長そのものが幹部だったりするのだろう。
が、そんなことはどうでもいい。問題なのは私のショウの成功であり報いだ。

(はてさて……ここからが正念場だな)

今は下っ端テロリストの一人に能力で変化している。
今後の狙いは“日沼”という男だ。彼は幹部に近い人間でリーダーに近づきやすい。
盗聴器で存在を知っているし口数も少ないようだから声でバレることも少ない。
ここまで成り代わるのにうってつけの人材もいまい。背後から奇襲をかけ速やかにご退場頂くつもりだ。

183 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/08(日) 02:07:36.62 0
不知火重工工場地下、対ヴィラン特殊部隊、「傾国党殲滅作戦司令部」
『海藤が動き出しました』
アジトのビル周辺、巧妙に周囲に溶け込み、攻撃の合図を待つ対ヴィラン特殊部隊員と、そこにいる天堂寺から
室内には武中を初め、一部の警察関係者や、自警団の代表…「頭が柔らかく理解ある公的組織の代表達」へ連絡が入った
「よし、後は奴がクロックアップシステムを奪い取るのを待つだけだ。
各部隊は我々からの合図があるまで待機しろ。」
『了解』
命令を受け、攻撃隊は作戦開始の合図を待ち、再び気配を消す
今回導入された部隊は、万一海藤が失敗しても力押しで押し切らんとすべく、対ヴィラン部隊と警察の動かせるありったけの戦力を待機さえてある
だがそれでも超加速を用い、怪物達を率いるテロリストと真っ向から戦えば、多数の犠牲者が出る事は間違いない
「…頼むぞ」
相手がいかがわしいヴィランであるにも関わらず…
武中はしかしためらう事無く彼に全てを託していた
…ハイメタルボーガーすら失った今、最早武中に手段を選ぶ余裕など、当に無くなっているのである


正面玄関から入り、ビルの奥へと向かう海藤を、怪しむ者は誰もいない
皆そこそこ真面目に各々の仕事をこなしているか、さも無くば…
「建物の奥」へ何かの入ったダンボールを運んでいるか、だ
「建物の奥」とは言うまでもない
傾国党のアジトに関連する施設のソレである

事務をこなしている人間はどうやらほとんど傾国党員ではない、単なる真面目なサラリーマンのようであり
「テロリスト」らしいのは、作業着…即ち今海藤が着ている服を着て、奥で作業をしている連中だ
当然海藤も奥へと向かう
そして、関係者以外「立ち入り禁止」の分厚い扉を開けようとした、その時だった
「通してくれ」
後ろからの声に海藤が振り向くと、そこには誰であろう、あの作業服姿の日沼の姿があるではないか
日沼は大きな台車にコンテナを載せ、コンテナの乗る台車を前から引っ張るもう一人の作業員とそれを運搬しているところだった
日沼はもう一人の作業員に扉を開けさせると、扉の向こうへとコンテナを運んでいく
扉の向こう
そこは、大型エレベーターを中央に据えた軍需会社の工場に繋がっていた
ここは武器の部品のみを扱う工場であり、公式では、この工場は兵器の組み立ては行っておらず、完成した武器は保管されていない事になっている
日沼と作業員はコンテナを動かし、中央のエレベーターへと持っていく
傾国党のアジト
それはアジト隠しのお約束で、このエレベーターからいける「回数表示に無い」地下3階に存在する
が、当然、エレベーターには監視カメラが設置されており、常時警備の者が監視している事だろう

184 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/08(日) 12:18:28.69 0
デスクで粛々と仕事をするサラリーマン達。世間のよくある光景だ。
働きアリのように真面目に働くなんてことしたら私は発狂死するだろうな、私は自由を愛するから。
脳内マップの従い進み、『関係者以外立ち入り禁止』の文字を発見する。
私はこういう立ち入り禁止と呼ばれるところに入ってみたくなるタチだ。
人というのは何かを禁止されると反発して禁止されたことをやってみたくなるものだ。
何故禁止されているかも考えずに。………もちろん私は厳正なる判断の末にそういうことをやっているので問題ない。

>「通してくれ」

後ろを振り向くとそこにはコンテナを運ぶ日沼の姿があった。
なんとも嘆かわしい事だ。こいつも働きアリのように仕事に従事している。
結局裏も表も組織に入れば歯車になってしまうものだ。そういう意味ではどちらも大差はない。
ただ小奇麗なだけか小汚いかの違いにすぎん。私は綺麗な方が好きだがね。
所詮、法律などというのも廻り廻って上の人間が得するためにあるのだろう。
“人を殺してはいけません”に代表される様々なルールも国が、組織が成り立たなければ上の人間が損をするからだ。
国を成り立たせる為にルールは存在しているのだ。
世界の様々なルールは一部の偉い奴らの為に存在するのだろう。私はそんなルールに従うつもりは毛頭ないが。
ここは『裏も表もそんな変わらないですよ』と教えてくれる場所なのかも知れない、そんなことを考えながら私は日沼に無言で道を譲った。
まあ中には本当に皆のためを思って存在するルールもあるのかも知れんが………

日沼がもう一人コンテナを運ぶ作業員に扉を開けさせ、エレベーターへと進んでいく。
エレベーターは運搬用に大型にできているようだ。事前に入手した情報だと監視カメラが設置されていたはず。
……だがその視界はぴったり330度。つまり30度の死角がある。そこを狙う。
余談だが、先の何気ない動作で日沼が上の立場にいることが一層伺える。
日沼はさっきもう一人の作業員に扉を開けさせた。………即ち上下関係があるのだ。

(狙いは間違っていない。このまま、『こいつ』をカメラに取り付ければ……)

エレベーターの扉が開き、私は何食わぬ顔で監視カメラの死角を陣取った。
続いて日沼達がエレベーターに入りコンソールをいじくる隙をついて素早く監視カメラに仕掛けを施した。
小森謹製の監視カメラに偽の映像を流し続けるフィルターだ。
これで警備員は3人の作業員がエレベーターにいるだけにしか見えない。後は静かに制圧するのみである。

「ショウは静かに幕が開く。曇りない観客の拍手と共に───…と、観客はいなかったな」

まずは名前も知らない平のテロリスト作業員を叩き潰す。
異能で鋼鉄と化した腕を伸ばし鳩尾に一撃を放ち、敵は昏倒した。何の異能持ちかは知らんが案外あっけないものだ。
地下3階到着まで約3分間。ウルトラマン日沼がゼットン怪盗に叩き潰されるまでのタイムという訳だ。
カップヌードルを例えに使わなかったのは3分より少しだけ短い時間に開けた方が美味いからである。
───いや、ゼットンだと最後ペンシルで潰された後ゾなんとか兄貴に手柄を奪われる。つーかカメムシなぞダサイからお断りだ。

「君は運がいいな日沼君。カラータイマーが鳴るまでに私に速やかに倒されるんだから──!!」

ちなみに地下3階まではノンストップだから他の階から敵の仲間が入ってくる心配はない。
何故ならそうしないとサラリーマンなんぞが間違って地下3階に迷い込む可能性があるからだ。

「改造人間か異能者なんだろ?さあ、かかって来たまえよ」

などとフェアプレイの精神を見せ付けたが変身する間も異能を使う暇も与える気はない。
私は伸びた鋼鉄の腕を再び伸ばし日沼の首に絡ませた後に思い切り締め上げた。
が、私はちょっとしたミスを犯したことに気付いた。これだと敵に能力を使わせる暇を与えてしまう。

そうこうしている間に地下1階を過ぎた。残り約2分。

185 :日沼 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/09(月) 04:03:45.74 0
突然の攻撃に日沼は成すすべなく首を絞められ…
…しかし、全く意に介さないとばかりに平然と、つまらなそうな視線を海藤へと向けてくる
その視線は(どうした?この程度か?)だとか(またゴミ蟲か…)だとか
そう言った強者の余裕的な物ではない
本当に世の中をどうでもよく思っている人間
そんな人間が浮かべる、暗くよどんだ絶望の目…

とにかく、日沼は倒れる様子が無い
「生命力と耐久力」をひたすら上げられた改造人間である彼にとって、首絞めなどダメージの内には入らなかったのだ
日沼は首を絞められたまま、即座にエレベーターの非常通話ボタンへと素早く手を伸ばす

186 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/09(月) 16:04:48.69 0
「やれやれだな。どこまでもフレンドリーに接してやってるというのに……
 こいつ、私のことを意にも返していない────!」

日沼はやはりというか改造人間のようだった。
1分以上全力で首を絞められているのにも関わらず顔色一つ変えていない。
そしてこれもやはりというかエレベーターの非常通話ボタンへと手を伸ばす。

──非常に残念だが勝手にショウの幕を下ろされるのは、ごめんだ。

残った腕を紐状にして伸ばし日沼の手を縛って動きを止めた。
そしてそのまま勢いよくおかしな方向へひっぱるとゴキだかボキだかの擬音がつきそうな音が鳴った。

「さてと、悪いがタイマーが点滅しだしたんでここらでさようならとしよう」

改造人間は身体を強化しすぎた結果、神経組織が弱点という欠点も抱えている。
エクスクロスの場合は神経断裂弾を用いたが私はそんな便利な武器はない。
そもそもそんなものを使えばこいつが死んでしまう、私は人は殺さない主義だ。ならば……

「『アリス・イン・チェインズ』で体の一部をナノ単位まで細く・薄く針状に変化させ───運動神経に軽い衝撃を与えて動きを封じる。
 おっと、動かんほうがいい。こっちも神経の消耗する作業だし、ヘタをすれば貴様が死ぬからな。神経だけに」

などと私は世に言う寒い親父ギャグを一発かましながら作業をすすめる。
ナノレベルの針が日沼の内部に侵入し───そして軽くひっかこうと動く。

丁度地下2階を過ぎたところらしい、残り1分。

187 :日沼 ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/10(火) 00:56:07.99 0
針が刺さる瞬間
海藤の全神経が一瞬、指先の針へと集中した
その瞬間を、日沼は見逃さない

針が刺さるのとコンマ数秒の差で、非常通話ボタンに日沼の蹴りが炸裂し、トゥルルルルと警備室への呼び出し音が聞こえてくる

それと同時に、日沼は解剖実験のかえるの様にビクンビクンと悶絶し、その場に倒れ付し、動かなくなった

188 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/10(火) 19:38:04.39 0
(しまった────!!)

心の中で舌打ちした。針が神経に衝撃を与える瞬間に蹴りが非常通話ボタンに命中した。
同時に日沼への作業は終了したが、最後に嫌な置き土産を残してくれた。

「やれやれだな…誤魔化せるかどうか……それが問題だ」

自身の外見を日沼のそれへと変えながら、ボタンへ近づく。

「どうした?」

声がした。低い、“いかにも”な声だ。
私は軽く咳払いを一つし、どよどよじめじめした暗澹たる膜を纏ったような、暗い日沼の声を真似する。

「……コンテナを運ぶ際に藤村が身体をうっかりぶつけただけだ。問題ない」

藤村とは、最初に私が気絶させた男の名だ。懐にあったIDカードのようなものに書いてあった。
そこからも私に探りを入れてきたが、毅然とした態度で否定を続けると問題ない、と判断したのか通話は終了した。
怪しまれこそしたもののまだ完璧にバレた訳ではないだろう。ほんの少しの疑念──その程度だ。
しかし、奴らはその疑念を確証に変えるためにこちらへやってくるだろう。

「一安心だが………急いだほうがよさそうだ」

既に15秒を切った。14、13、12。日沼達をコンテナの中に隠す為に開けた。
コンテナの中身は何かの基盤らしい。が、パーツ一つ一つが小さいお陰で大人二人くらい簡単に入りそうだ。
次にフィルターを回収するために再び死角へと動く。7、6、5、4……くそ、時間が足りない。
ちん、という小気味いい音と共にエレベーターをドアが開く。外には作業着を着た男が二人いた。

(……結局偽映フィルターを外しそこねた訳だ)

警備室の人間との問答のお陰で無駄な時間を割いた。
5分か、10分か───バレる時間は大体そんなものだろう。急がねばなるまい。
私はコンテナをトイレの掃除用具入れに無理矢理突っ込み、隠した。幸いここに監視カメラはない。
兵器工場のようなところを過ぎ、分厚いドアの前に立った。
人は何かを隠すときは厳重なロックを施したりする。逆を言えば厳重なところに大事なものがある。
日沼から奪ったIDカードを差込んだ後に網膜認証と指紋認証を済ませ、中に入る。
網膜も指紋も私のアリス・イン・チェインズの前には開けっ放しのドアに等しい。

ふと壁を見ると孔のようなものいくつもある。どうやらレーザーの発振管が埋め込まれているらしい。
不正にセキュリティを解除したり、ドアをぶち破ったりしたらレーザーに焼かれるわけだ。洒落にならない。
赤外線センサーなぞかわいいものだな…とどこか他人事のように思った。

傾国党と鉢合わせして戦闘になったりしなければいいが……そうなったら全部パーだ。
リーダーとの戦闘までは無駄に力を使いたくない。

189 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/11(水) 01:55:50.73 0
厳重な扉の向こうに海藤を待っていた物
それは1から5までの数字の書かれた分厚い金属の扉と、その前に立つ、緑色の皮膚の怪人と、部屋の四隅に立つ武装兵士の姿だった
「……おい」
それら警備員を無視し、扉へ向かおうとする海藤を、緑色の怪人、バイオンが呼び止める
「何かあったのか?取り付ける新型パーツとやらはどうしたんだ?」
そう、日沼は例の原始生命体クニクライの内部に入れ、操るための電子機器を独自に組み立て改良すべく、コンテナでパーツを運んでいたのだ
そして、ここは傾国党の「特殊な」武器を保管するための施設であり、当然、このどれかの向こうにクロックアップシステムも保管されているだろう
だからこそ、強力な怪人、バイオン・ベーダが守りについているのだ
だが、それ以外は別物…そしてその中の一つが、日沼の所有する怪物、クニクライである事は間違いない
「クニクライに何か問題でも起きたのか?」
どこか急いでいる風の海藤…が化けた日沼に、クニクライに問題が起きたのかと不安の表情を見せるバイオン
海藤がそれに応えようとした、その時

『侵入者アリ!侵入者アリ!総員戦闘態勢!総員戦闘態勢!』

けたたましいサイレンが鳴り響き、武装した兵士が廊下を走る音が聞こえてくる!
見つかった!
思わず海藤がそう思った、その時

『企業一階をヒーローが攻撃中!間も無くこの施設へ侵入を開始する!戦闘可能な者は速やかに迎撃態勢をとれ!』

どうも別の輩がなにやらやらかしているようである
バイオンは日沼に向かって「先に行く!さっさとクニクライを準備しろ!」と叫んで、警備兵のみを残して去って行った

―――――

「正義のヒーロー!天空山 剛太さんじょおおおおおおおおおお!!ここのビルが傾国党のアジトになっている事は知ってるんじゃああああああああ」
「キャーーー!」
「わーーーー!」
一方上の階では、身の丈ほどもある赤い光を放つ巨大な剣を持った男が、ビル内をエレベーター目掛け悠然と前進していた
「よくも俺の弟を奪ってくれたな!!貴様等全員…皆殺しにしてやる・ゼーーーーーーーーット!!」
赤い剣が一閃し、エレベーターの扉が吹き飛ぶ

――――――


「何だ?あの男は…」
突然の天空山の襲撃は、天堂寺等にとっても全く予想外の事だった
迂闊に出る事もできず、様子を見るしかできない天堂寺等の前で、天空山はさらに騒ぎを荒立てていく
(中の一般人を救出する必要があるが…迂闊に出れば逃げられる。…この騒ぎに乗じて海藤が上手くやる事に賭けるしかないか)
総員待機を指示し、天堂寺は仕方なく様子見を続ける姿勢をとる

190 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/11(水) 22:43:17.16 0
しばらく歩を進め、見えたのは先の扉よりも厳重な金属製の扉と緑色の怪人。
更に部屋の隅には武装された兵士がそれぞれ配されており、どれも作業着を着た奴等とは毛色が違う。
私は緑色の怪人が誰かなのか知っていた。バイオン・ベーダ───傾国党四天王の一人。
天堂寺に倒されてっきり死んだものだと思っていたが、あの様子ではどうやら大事に至っていなかったらしい。

>「……おい」
>「何かあったのか?取り付ける新型パーツとやらはどうしたんだ?」

警備員とバイオンに呼び止められ、立ち止まった。
日沼が運んでいたのは何かに取り付ける新型のパーツらしく、それを持っていない私は不審に思われたらしい。
それが何のパーツなのか私には判然としなかったが今はどうにかして誤魔化さねばならない。
自分の判断ミスが恨めしかったが、今そんなことはどうでもいい。

>「クニクライに何か問題でも起きたのか?」

クニクライ、とは生物兵器のことかと記憶の紐を手繰った。
確かにあれは日沼と行動を共にしていた───幸いバイオンは『私が日沼でないこと』には気付いていない。
あのパーツもおそらくクニクライの制御装置の何かなのだろう、上手い言い訳はいくらでも思いつく。
話を極端に大きくしたり、小さくしたりするのは私の得意技だ。

>『侵入者アリ!侵入者アリ!総員戦闘態勢!総員戦闘態勢!』

口を開こうとした途端、けたたましい音が非常事態を告げる。
ばれた──!?早すぎる!やつらの能力を侮っていた───?
否応なしに構え、バイオンと戦うことを覚悟する。が、ことは私の予想の範疇を超えていた。

>『企業一階をヒーローが攻撃中!間も無くこの施設へ侵入を開始する!戦闘可能な者は速やかに迎撃態勢をとれ!』
>「先に行く!さっさとクニクライを準備しろ!」

「……ああ………」

天堂寺の仕業か?いや、こちらがクロックアップシステムを奪うまでは待機のはずだ。
そこは最も重要な作戦内容をあの天堂寺が忘れるはずがない。ならば───関係ないヒーローが暴れている?
不測の事態か?自問自答、しかし答えは出ない。
だが私の失敗を全て有耶無耶にしてくれるこのイベントを逃さない手はない。
私は1と書かれた数字の扉は開けようとするが、武装兵は私を呼び止める。

「日沼さん……クニクライはそっちの部屋にありませんよ。何をするつもりなんです?」
「その前にやることがある………少し遅れるかもしれない。……それまで持たせてくれ」

手短に言い訳を述べると急ぎ足で扉を開け、通路をずんずん進んでいく。
漸くここまで辿り着いたが一つ一つ部屋を探していては埒が開かない。全て一気に調べる必要がある。

「『アリス・イン・チェインズ』──────!!」

自身の身体を何百ものコウモリに変化させ、通気孔を通って全ての部屋へ侵入していく。
ここは違う。ここも違う。ここも、ここも、ここも。扉の先にある部屋数は多く調べ上げるのに数分を要した。
結局めぼしいのは5番の扉にある部屋だった。

「───クロックアップシステムがあるといいが。これ以上無駄な時間は費やしたくない」

もし傾国四天王がいたら目も当てられない。
精々ヒーローが状況を引っ掻き回して邪魔な敵を引きつけてくれることを祈りつつ、扉を開ける。

191 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/14(土) 15:46:59.90 0
「出たな…改造人間!!」
エレベーターを突破し、地下に侵入して兵士を次々切り殺していた天空山の前に、バイオンが立ち塞がった
天空山は素早く剣を構え、対するバイオンも両手の先から鋭い爪を出現させる
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
先手必勝とばかりに天空山の剣から赤い巨大な刃が出現し、バイオン目掛けて振り下ろされた
「見え見えじゃああ」
しかしバイオンはそれを素早くかわす
避けたバイオンの後ろでは赤い光の刃に触れた鋼鉄の壁が融解し、巨大なヒビが出来上がった
反撃に妖怪ガスを噴出すバイオンだが、天空山はそれを大剣を回転させて風を起こして防ぎ、更に赤い光の斬撃を連射する
「ぐ…ぬうぅ!」
狭い廊下では赤い光の連射を回避できず、バイオンは角を曲がって退避した
その横で唸りを上げて飛んでいく赤い刃
しかし再び角から顔を出して反撃する事は適わず、バイオンには攻め手が無い
「…己」
「苦戦しているな」
「!?リーダー」
「俺が行こう」
そう言って現れたのは、何を隠そう、傾国四天王のリーダー、あの羽型のパワードスーツヴィランである
「新しい世界を阻む路傍の石、軽く蹴散らしてやろうじゃないか」
無造作に角から姿を晒すリーダー
「新手…だからどうした!!」
突然現れた、見るからに異質な雰囲気の男に天空山は一瞬怯んだが、構わず再び剣を振るい、赤い刃を発射する
しかし、リーダーは必要最低限の動作でそれをひらりと避け、銀色のカブトムシを思わせるデザインの機械を懐から取り出し、それを左腰に装着した
「プットオン」
リーダーの掛け声に応じて、その体を羽根型の鎧が包み込み、リーダーを羽のパワードスーツヴィランへと変える
敵の変質に、それでも怯まず天空山が大剣を怒声と共に振りかざそうとする
が…

「クロックアップ」

その剣が振り下ろされた時、既にリーダーの姿はン無かった
「!?どこに…が!!??」
突然姿を消したリーダーに、動揺する天空山を神速で動くリーダーから放たれる羽手裏剣が容赦なく襲い、その手に深々と突き刺さる
(どうせ暇何だ、タキオン粒子が切れるまで…ゆっくり遊んでやる)
「糞!どこだ!何故見えな…ギャ…」
焦り、叫ぶ天空山、その背に、脚に、今度は同時に羽手裏剣が突き刺さった
「うおおおおおお出て来い!出てきて勝負しろ!こいつ!この!こ…ぐげ…!!??」
羽手裏剣が刺さった手で必死に大剣を振るう天空山
しかしそれはリーダーに当る事は無く、空しく空を切るばかりであり、更に腰に、肩に、羽手裏剣が突き刺さる
「あぁぁ…ぐぁああああ」
(ほらほら…ここからが本番だぜ…)
最早戦う力を失った天空山に、更に容赦なく羽手裏剣が突き刺さっていく
足首、胸、股間…
「ギャアアアアアアアアギ…ギギャアアアアアアアアアアア」
凄まじい天空山の悲鳴が、傾国党のアジト内に木霊した

192 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/14(土) 16:02:19.38 0
5番の扉の向こう
そこは西洋風の豪華な応接室の様な場所だった
そこでは傍にメイド姿をした女性を連れている初老の男が、立派な机に向かって書類仕事をしている
黙々と男は書類を書いていたが、そこに凄まじい天空山の悲鳴が聞こえてきた
顔を上げる男
「……騒がしいな、アンナ、何事だね」
「たった今侵入者が「風」の手で排除されました、現在、戦闘能力を失った侵入者は「風」の手で私刑を執行されています」
「そうか、ではすぐここを出なければならないな…。アジトが公になれば情報収集能力は無いが腕っ節だけは一人前の連中が集まってくる
面倒くさいが、まぁ日本政府転覆のためなら仕方無いな」
「各員に退去の準備をさせます」
そう言って、メイドは男の傍を離れ、ナイフや銃器が飾られた放送設備の方へ歩いていく
「うん、頼むよ」
「所で」
「ん?」
メイドが突如、飾られているナイフを手にとって、通気口から覗く海藤目掛けて勢いよく投げつけた
「…侵入者です」
「日に二人とは多いもんだ」
メイドは飾られているライフルを、初老の男は机の中から拳銃を取り出し、通気口目掛けて激しい銃撃を開始した
他の部屋にクロックアップシステムもそのデータも無い事から、「この部屋のどこか」に予備のクロックアップシステムとそのデータが隠されている事は間違いない
ゆっくり探したいだろうが、天空山が片付いた以上モタモタしていると次々傾国党の怪人がこの場に集結してくるだろう
更に、初老の男もアンナと言うメイドも、どうやら改造人間のようで、更にアンナの方は感覚強化型らしい
言動の内容から、アンナは傾国四天王の最後の一人、初老は傾国党の党首と見て間違いないだろう
実力は「風」に比べればレギンとシールドマンだが、奇襲は通用しそうに無い
かなりまずい

193 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/16(月) 18:00:56.62 0
【すいません。今ちょっと立て込んでるので返レスは土曜日とさせて頂きたいのですが】

194 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/17(火) 02:40:31.20 0
了解です

195 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/21(土) 10:51:16.60 0
『怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。
 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』

そんな台詞をニーチェは言っていた気がする。怪物と戦っているかという是非はともかくとして、だ。
深淵をのぞいていたら深淵もこちらをのぞいていた。
今、そんな感じ。

打ち出される銃弾が肩に掠め、慌てて後退。
通風孔は狭いので四つん這いでバックするには億劫だが致し方あるまい。
何故バレたのか理解不能だがとにかく適切な行動を起こさねばならない。
こちらの存在が容易に暴かれてしまった以上奇襲は通用しないと考えた方がいいだろう。
敵はおそらく改造人間。かといっておたおたしていると仲間を呼ばれて即THE ENDだ。

「この場において最も危険なのは仲間が駆けつけること。ならば───」

私は動き出した。失敗は取り消せない。
だが失敗についておろおろしていると本当に進退窮まる。
ここは無茶だが『決断』せねばならないだろう。対決する決断を。

「なるほどなるほど。かくれんぼ検定一級の私を見つけるとは。中々の洞察力だ。素晴らしいよ」

────選択したのは、正面突破。

「おっと。私は、世間一般の怪盗達は潔い性格でね。バレたとあっちゃしょうがないのさ。
 さあ、非ロマン派のお前らの罪───ここで数えさせて貰おうか」

放送設備の隣に現れた私は、姿をコウモリ然とした怪人へと変える。
そして腕は巨大な斧へと形を変えて放送設備を粉砕。通信手段を断った。

「おっと。集音機がどうの〜と言われて仲間に来られても困るんでね。
 対策はさせて貰った。───正確に言えば超音波を周囲に発して集音を音波妨害する。
 コウモリの得意技さ、君達もご存知だろう?なあに君達には特に害はないから……安心したまえよ!」

そのまま右腕の斧を初老の男へと振るう。
初老の男がどう対処するかは分からんが二人ともまずそちらに注意が行く。
もしかしたらメイドの方は初老の男を守るかも知れんな。
その隙に────私が放った偵察コウモリがクロックアップシステムを探す。
私本体は二人を引き付け分身が本命を見つける。つまりセルフ囮と言う訳だ。
コウモリは異能によって常に周囲と同じ色に変化するから居場所の特定も難しい。

「いい歳こいたおっさんの割りにかわいいメイドのお嬢さんがいるじゃあないか!
 是非私のパートナーとしてその能力を振るって欲しいもんだ!公私共になァッ!!」

私もおっさんなので人のことはあまり言えないが……


【お待たせしました】

196 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/23(月) 01:06:12.54 0
「っつ!」
超音波を周囲に放つ海藤に、メイドが一瞬苦悶の表情を浮かべる
彼女は感覚…特に聴力を強化しているタイプの改造人間であり、凄まじい超音波に慌てて今まで高くしていた耳の感度を元に戻した様である
これで、見えないこうもりが見つかる心配は無い

「べらべら喋っていると舌を噛むぞ!」
初老の男はそう言うと、背をそらして海藤の斧の一撃をかわし、素早く上体を戻しながら大振りに斧を振って隙だらけの海藤の胸に強力な拳を見舞った
更に男は姿勢を低くして連続して海藤の腹に拳を打ち込み、反撃が来る前に海藤を蹴り飛ばした
そこにメイドが手にしたハンドガンを放ってくる
(どうも肉体変化型のようだが…「考える部分とそれを動かす部分」…脳と心臓まで変化させるとただの物になっちまうはず(脳をある程度まで縮める事はできるかもだが)…全身を鉄にしたりミクロ化したりはできない…倒せる)
素早くそう思考しながら、二人の改造人間は再び構えを取った

197 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/24(火) 16:25:12.34 0
>「べらべら喋っていると舌を噛むぞ!」

私の斧の一撃をスウェーで躱し、間髪入れずに拳を放ってくる。
大振りの攻撃のせいで防御は間に合わない。改造人間なこともあって、速い。

「ちっ!」

鈍い痛みが胸に走る。
強化された拳の痛みに耐え、態勢を崩しながら一歩後退。
そして、そこに追撃。

腹にパンチの連打。腕の斧を元に戻す。
しかし反撃は、間に合わない。

景色が変わる。吹っ飛んだのだ。
初老の割には随分と素早い蹴りを放つもんだと寧ろ関心した。

「やれやれだな。見た目に反して元気そうだ」

正直言って空元気だ。
正直なところ先の攻撃で体中が痛い。いい年齢のおっさんが張り切りすぎたのだ。
マントを翻し、着地────……っとぉ!?

メイドお嬢さんの放った弾丸が私のマントを貫く。
もう少しでどてっ腹に命中していた。危ない危ない。
いくら身体の皮膚部分を特殊合金製に変化させたところで私の身体の中には血と臓物が詰まっているのだ。
ヘタを打って致命傷は十分ありえる。位置によっては槍の一突きで死んでしまうだろう。

「そう警戒しなさんな。あまりぎゃーぎゃーと暴れられて不審に思われても困るんだ」

といっても、ここは防音や衝撃に対する設備は完璧でちょっとやそっとじゃ気付かれない。
『宝物』と『自分』を守る為に頑丈に造ってあるのが、裏目に出たということだ。

「ところで知っているか。デンキウナギと鰻は生物学上まったく違う仲間なんだ。
 しかし鯰とデンキナマズは同じ仲間。世の中ってのは不思議だとは思わないかね」

雑学と共に、私の肩が変化する。
二体一となるとある程度の距離を保ちつつ同時に相手をしなければならない。
銃などはもっともポピュラーだが能力の制約のお陰で色々な種類の銃にはぽんぽん変化できない。
そこでだ。広範囲の攻撃を可能としかつ一定の距離を保つことのできる武器に身体の一部を変化させる。
それは、『鞭』だ。

「デンキウナギが電気を発する原理は、筋肉の細胞が『発電板』という細胞に変化したものから来る。
 ならば後は実に単純なロジックなのだよ。私の異能でそれを『再現』するだけッ!!」

デンキウナギは数千個の発電板が一斉に発電することで最高電圧600-800V・電流1Aにも達する電気を生み出す。
が、私は能力の特性上発電板を数万という単位で発電させてそれを軽く上回れる。

「ふむ。イール・ウィップとでも名付けようか。まんますぎるかな?」

両肩から伸びた鞭を掴み、軽く振り回す。コウモリの漆黒の外観に見合った漆黒の鞭だ。
鞭からはぱりぱりという小気味いい音と共に紫電が走るのが見える。
改造人間の視力ならよりはっきり見えるだろう。

「では────ヴィランらしくいこう。感電死したまえよ!!」

紫電を纏った二本の鞭は変幻自在の軌道となって二人に迫る。

(『コウモリの知らせ』までは時間を稼がねばな───戦闘は苦手分野だが。)

198 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/25(水) 03:27:11.77 0
「ぬぅ!」
初老の男とメイドは、ムチの攻撃を改造人間の動体視力と身体能力で素早く身を翻してかわす
が、海藤の巧みなムチさばきで銃撃によって反撃する事はかなわない
「できるな…アンナ!ここはいい!「風」とバイオン達を呼んで来い!四天王総がかりでこいつを仕留めろ!」
海藤手ごわしと見た初老は、メイド…アンナにそう指示を飛ばし、アンナはそれに軽く頷くと、素早く出口へ跳ねていく
アンナを行かせまいと海藤がしようとしても、逃げる事に集中するアンナを捕らえる事は難しく、又、もう片方、初老の男の拳銃も的確に海藤を妨害し、彼女を援護する
先ほどの拳のダメージも相成って思うように飛ばなかったムチはついにアンナを捕らえられず、アンナは扉の向こうへ消えていった
数分と経たず、クロックアップシステムで武装した「風」とバイオン、そして傾国党の兵隊が駆けつけてくるだろう

万事休すかと思われたその時、ついに蝙蝠が棚の中に隠された「数字を併せるタイプの金庫」を発見した
本の裏に隠された金庫の突然の露出に、初老の男はムチを避けるべく隠れた木製の椅子の向こうで青ざめる
(まずい…奴等の目的はクロックアップシステムか!あのシステムが奪われれば…私は『エレメント』に殺される!!)
初老の額を、冷たい汗が流れた

199 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/27(金) 17:06:43.55 0
蛇のように変幻自在に舞う紫電の鞭は敵には命中しないものの、敵の攻撃を困難にする効果を発揮した。
場はこちらが優勢だ。

>「できるな…アンナ!ここはいい!「風」とバイオン達を呼んで来い!四天王総がかりでこいつを仕留めろ!」

「ふん、それをさせないからこうやって鞭を振るっているんだ!!」

右腕の鞭をアンナ、と呼ばれるメイドのお嬢さんへ向ける。
が流石は感知特化の改造人間。その能力をフルに発揮して鞭を避けて行く。
両方の鞭で攻めれば捕縛も叶った可能性があるがそれは初老の男の的確な援護が不可能とさせている。

「ちぃっ……!みすみすと逃がしてしまうとはな………!」

口で呟いてはい終わりで済む問題ではなかった。
しかし状況が状況である為それ以上のことはできそうにない。

一応偵察コウモリを新たに放ち追跡はしているが……はてさてどうしたものか。
逡巡としながらも攻撃の手は緩めず、二本の鞭を振るう。
男が鞭を避けようと椅子を盾にした時独特の機械音と共にあるものが露出する。

『金庫』だ。

私は走り出した。僥倖だ。なんという僥倖………!

「虫の知らせもとい、『こうもりの知らせ』という訳だ。
 なるほどなるほど。小森の言った通りの金庫だ。あれなら私でも簡単に開けられる」

金庫の前に立ち、いじくる。その間にも牽制に攻撃は緩めない。
男はどこか焦燥を感じているようだった。
大抵ああいうときの顔は自身の保身について考えているときだ。

鞭を今よりも薄く、細く形状変化させ、長さを伸ばす。
そして両肩から切り離し巨大な網状に変化させて初老の男へ発射。

「電撃の網だ。存分に味わいたまえ」

がしゃん。音と共に、金庫が開く。
中にはカブトムシを連想させる形状の物体を発見する。
銀色を基調としていて丸いスイッチのような部分は赤い。
私はそれを掴み、持ち上げる。

「怪盗の勝ちのようだぞ、おじい様?私が盗みにきたのが運の尽きだな。
 何故ならば───私がその気になれば月だって盗めるのだから!」

ふっ、とビルの全ての電気が消える。ややこしい複雑なパスワードも、防衛装置も、全て機能停止。
外は既に日が傾きかけこうもりに相応しい夜の時間を迎えようとしていた。
これが天堂寺に対する『合図』であり、傾国党を潰すための狼煙。
小森は仕事をしっかり果たしてくれたようだ。

「自首の準備でも始めるんだな。じきに社長……いや、天堂寺がやってくる」

200 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/05/28(土) 17:52:56.77 0
「ぐぞぅ!こんなとこでムザムザやられてたまるか!俺は…俺は新世界へ行くんだ!!」
海藤の放った網を、隠れていた机を投げつけてぶつける事で無理矢理防ぐ党主
だが、海藤の策謀でビルの電源がダウンし、彼の言葉から警察による攻撃が始まった事を悟り、傾国党主は真っ赤になって怒鳴りだす
「ふざけるな!天堂寺なんぞに!あんな奴に…いや誰にもエレメントの作る未来は止められない!だから私はこの世界に見切りをつけ、彼等にシステムを渡したのに!お前のような何もわからない愚者に邪魔はさせん!」
怒りから動きが鋭くなった党主は、暗闇の中をかなりの速度で飛び回り、海藤目掛け銃弾を撃ちまくる
「死ねぇ!死ね死ね死ねええええ!」
激しい銃声が室内に響き渡り、銃弾が海藤に襲い掛かっていく

――――

一方、突然の電源ダウンに、アンナから要請を受け、党主の元へ向かっていた「風」も焦りを見せていた
(さっきのヒーローは囮だったのか!?糞!タキオン粒子がまだ回復していない…!だが侵入者が一人だけならば)
「リーダー!大変です!」
歯軋りする風の元に、大いに慌てた傾国党員が飛び込んで来る
「対ヴィラン…警察の対ヴィラン部隊が襲撃をかけてきました!」
「何ぃ!?」
仰天する風の前に、どこからかふらふらと日沼がやってくる
「リーダー…侵入者だ、俺の姿に化けてこの施設に…」
「そんな事はどうでもいい!!」
クールな姿が一変、風は日沼に怒鳴りつける
「バイオン!日沼!お前等は対ヴィラン部隊を蹴散らせ!アンナは逃走用の屋上のヘリを確保!俺は侵入者を殺してすぐ行く!」
「お…俺達だけで対ヴィラン部隊を…」
「新しい世界の捨石になれ!さもなくばここで死ね!」
抗議しようとしたバイオンの首を凄まじい力で締め上げ、風がバイオンに怒鳴り、バイオンは仕方なくわかった!わかったと了承する
(糞!とんだ失敗だ!これじゃ「地」や「炎」を笑ってられない!…新しい世界でトップに立つのは「地」で「雷」でも「水」でも、まして「金」の野郎でも無い!俺だ!)
バイオン等と別れ、海藤を殺しに向かいながら、風は怒りに打ち震える
(侵入者、誰ともわからんほどズタズタに切り刻んでくれよう)
怒りに燃える「風」は、再びパワードスーツを装着した

201 :名無しになりきれ:2011/05/29(日) 19:03:27.09 0














頑張ってください

202 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/05/29(日) 19:10:59.14 0
>「ふざけるな!天堂寺なんぞに!あんな奴に…いや誰にもエレメントの作る未来は止められない!だから私はこの世界に見切りをつけ、彼等にシステムを渡したのに!お前のような何もわからない愚者に邪魔はさせん!」

「言ってくれるなァ!貴様が新世界に行けるというなら、私は天国にいけるだろうよ!」

新世界、などと抽象的かつよく分からないところに行くなど絶対にごめんだが。
そもそもどういう世界にするつもりなのだ?この男は。

>「死ねぇ!死ね死ね死ねええええ!」

怒りからか、先ほどとは比べ物にならないスピードで室内を移動している。
超音波によるエコーロケーションのお陰で暗闇でも敵の位置は掴めるが……正直対応は無理だ。

「『アリス・イン・チェインズ』!!」

飛び交う銃弾を前にマントを球状に展開、硬質化させる。
敵の武器があくまで銃であることが幸いした。ほとんどはマントの盾に弾かれ、防げた。
しかし弾き損ねた一発が太腿に命中し、針金のような鋭い痛みが駆ける。

「………っちィ!やってくれるではないかァッ!!!」

銃弾を素早く指で強引に摘出し、忌々しく放り投げる。
私の能力は負傷箇所を変化させて治療、ということはできないので出血はそのままだ。
アンナを追っていた偵察コウモリが手元に戻ってきた。
どうやら『羽根のパワードスーツヴィラン』がこちらへ向かってきているようだ。
私もちまちました戦い方はしていられないようだ。体力は、無駄に消耗するが。

「鬱陶しい蝿を潰すときは、大抵殺虫スプレーかハエタタキだ」

私のコウモリ然とした身体が変化していく。
部屋を覆うほど大きく、しかし薄く。

「─────いや、この場合オヤジ叩き、かな?」

表面に幾つもの棘を備えたハエタタキ状の形態へと姿を変え
初老の男を叩き潰さんと、部屋を覆いつくさんと出鱈目に動いた。

「採算度外視のアリス・イン・チェインズだ。ぶっ潰されたまえよ改造人間(ヒューマン)!!」

203 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/06/01(水) 02:06:46.32 0
海藤の放った強力な一撃は、如何に改造人間といえど回避する事はかなわない
「ぐぞおおおおおおおおおおおおおおおおお己己おのれえええええええええええ!」
党主は両手を構え、棘のハエタタキを受け止めんとする
勢いよく党主の手に突き刺さる棘!
が、党主はそれを掴み、海藤を逃すまいとする
「いかせんぞ!いかせん!!」
血を流しながら必死に海藤のハエタタキにすがりつく党主
羽のPヴィランはもう間近まで迫ってきている!

204 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/06/02(木) 23:22:22.65 0
>「ぐぞおおおおおおおおおおおおおおおおお己己おのれえええええええええええ!」

党首は私の広範囲攻撃を食らって尚、食らいつく。
長大な面積を持った形態を能力で長時間維持することは叶わずコウモリ怪人の姿へと戻っていく。

>「いかせんぞ!いかせん!!」

「──随分と穏やかではないな……!ここで下手を打つと殺されるのかね?お互い大変だな」

私はさも他人事のように呑気な言葉を放つ。が、正直それは虚勢だ。
改造人間二人を相手にしてナチュラルおっさんの私の身体は疲労困憊、体力の限界だ。
しかしそれは相手とて同じことだ。

逆を言えばあと一撃。叩き込めば、勝ちはある。

しかし。ここで能力と体力を限界以上消耗させるということは。
ここにやってくるであろう『羽のパワードスーツヴィラン』との戦いでの敗北を意味する。

私は無意識にマントの下にしまっていたクロックアップシステムに手を触れていた。

これだ。

「どうやら切り札は───まだ私の手の中にあるようだぞ」

ベルト状の部分に、システムとのハードポイントを能力で精製。そしてそこに装着。

『Put on』

コウモリ怪人の姿が、更に変形。厚い装甲を纏った形態へ『変身』する。
マントを廃した模した黒い機械然とした鎧。もちろんデザインモチーフはコウモリだ。

「キャストオフ───!」

続いて装甲が弾け飛ぶ。散弾の如く放たれたそれは私にしがみついていた党首を弾き飛ばした。
現れたのは漆黒の燕尾服と中世の騎士を足したような姿。
腰にはクロックアップシステムと一振りの剣。

異能と技術の融合。
とどのつまり、アイアンジョーカー(技術)がブラックダイヤ(異能)をエネルギー源にしたことと逆のことをした。
まさに神からの啓示だ。私の『変化の異能』でCUシステムと自身を接続せねばこの姿は存在しないのだから。

「先の弾き飛ばした装甲でダメージを受けた筈だ。しかし私は人殺しはせん主義でね。
 大人しく投降するならこれから先生命だけは保障してやる」

おどけた仕草で最後の忠告だ。
羽のヴィランはやがてこの部屋に突入するだろう。
人殺しを避けたいのはもちろん、この党首相手に無駄な労力を割きたくないのもあった。

205 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/06/04(土) 20:36:16.89 0
黒い蝙蝠へと変身した海藤…
その姿に、党主…天堂寺工業を裏切り、『エレメント』にクロックアップシステムを渡し
『エレメント』の実働部隊「傾国党」の党主と言うポストを手に入れていた男は…

大いに恐怖した

「馬鹿な…そんな…どういう事だ!?クロックアップシステムを取り込み…自己進化した!?何なんだ!?何なんだ貴様は!!」
ブルブルと震える党手に、最早戦意は見えない
逃げるならば今である

206 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/06/05(日) 19:26:59.74 0
>「馬鹿な…そんな…どういう事だ!?クロックアップシステムを取り込み…自己進化した!?何なんだ!?何なんだ貴様は!!」

突然震え出す党首に私は辟易した。なんと情けない。
そういえばこいつを連れて行けば何か情報を得られるかも知れない。
───が、Pスーツヴィランが目前まで迫っている。そんな悠長な状況ではない。

「システムの力、天堂寺に渡す前に試しておこう。──クロックアップ」

瞬間。世界は遅くなった。いや、私が速くなったのだ。

部屋を飛び出し、ビルを飛び出し、私はシステムを携えて脱出に成功した。
悠然とした歩き方で私はビルの外へ。姿形も、元の燕尾服を着たおっさんへと戻っていく。
左手にクロックアップシステムを掴んで。

「一件落着だな。私も久しく暴れようかと思ったが、それは貴様らの仕事ということにしておこう。
 ───クロックアップシステムだ。受け取れ」

私は天堂寺にシステムを投げ渡すとその場に座り込んだ。
体中がガタガタなのだ。

「………まだ何か用があったら今の内に言っておいてくれないか。
 私はもうシンドイのだよ。いい歳のおっさんが調子に乗りすぎた」

207 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/06/08(水) 03:54:57.00 0
黒衣の一団が、無数の銃弾の命中に全く怯む事無く突っ走る
一団は銃器を構えた連中に取り付くと、鉄の拳をふるってあっという間に制圧した
不知火重工が誇る対ヴィラン自律人型兵器、メタトルーパーである
異能者相手には不利な戦いを強いられるメタトルーパーだが、通常装備のテロリストには圧倒的に脅威な存在だ
制圧作戦のため腕のバルカンこそ使わないものの、メタトルーパーは素手でもテロリストを全く寄せ付けない
殴りつけ、羽交い絞め、特殊ワイヤーでぐるぐる巻きにして、次々に制圧する

一般のテロリストが次々やられる横で、バイオンと日沼は必死の抵抗を続けていた
日沼が瓦礫の中に隠れて必死に指揮するクニクライはメタトルーパー達のバルカン砲と、警察の猛銃撃を寄せ付けずに次々とメタトルーパーを破壊し、バイオンは銃撃を物陰に隠れて防ぎつつ、溶解ガスをばら撒く
だが、如何にクニクライ、バイオン、日沼といえど数を頼みに押し寄せる警官隊とメタトルーパー相手にそう長い事戦いぬける物ではない
既に、勝負は見えている
相手が、日沼とバイオンだけであれば、天堂寺は海藤など使わず、速攻で武中と組んで攻撃を開始していただろう
だが、傾国党には天堂寺のパワードスーツを全く寄せ付けなかった強力なパワードスーツヴィランがいる
それを何とかすべく、天堂寺は海藤を行かせたのだ


なのだから、周りの警官が突然現れた海藤に大いに驚き、中には銃を向ける者もいる中で、天堂寺は全く一切驚かずに、いきなり海藤の肩をガッシと掴み、疲れてると言ってるのに遠慮なくゆさゆさ揺さぶりだす
「パワードスーツヴィランはどうした?これは奴から奪い取ったのか?オイ!」
周りの警官がおいおいいくら何でもと一歩引くくらい、必死に海藤に聞く天堂寺
「どうなんだ?おい!シンドイ何て言っている場合じゃ無いぞ!!」
やめてやれよと警官がとうとう天堂寺を遮ろうとした、その時
天堂寺の口から、海藤を奮い立たせるような言葉が飛び出した

「奴のつけているクロックアップシステムを奪うのがお前の目的何だぞ!今倒れたらお前は怪盗として失敗した事になる!それでいいのか!」

…パワードスーツヴィランがもしクロックアップシステムを持っていて、使えたら
あっという間にメタトルーパー部隊は壊滅させられ、対ヴィラン部隊は大きな打撃をおうだろう
なので、心配すべきは、パワードスーツヴィランの活動できるか否か、だけなはずである
しかし、天堂寺はそんな事を全く問題にしていなかった
海藤の「クロックアップシステム二つを盗み、片方を天堂寺に、バックアップを海藤に渡す」と言う約束の達成の有無
…即ち、純粋に「海藤の怪盗としての自己目的の達成の有無」しか心配していないのだ



「…おわ…った」
凄まじいどす黒いオーラを出しながら仁王立ちする「風」の前に、党主が跪くようにへたり込んでいる
半分あっちの世界に飛んでいるように呆けている党主に、「風」はやがて恐ろしく低い声で尋ねた
「…システムは?」
「終わった…私の人生…おわ…」
「システムは?」
「…」
一喝して問う風に、党主はびくりとして一瞬止まり、やがて震えながら答えを返す
「奪われた」
「…何?」
「変な…変身する男に…奪われ…」

瞬間、クロックアップシステムを使っていないにも関わらず、風は目にも止まらぬ速さで党主の背後の壁の前まで移動していた
同時に、ずるりと党主の首が地面に落下する
「……対ヴィラン部隊、いいだろう、いずれ地獄を見せてやる」
どす黒い情熱を燃やしつつ、「風」は党主の頭を抱え、屋上へと駆け出した

208 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/06/14(火) 23:18:28.96 0
報告遅れて申し訳ない
多忙につき土曜日まで待ってくれますでしょうか

209 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/06/15(水) 23:20:49.36 0
良かった…今度こそ終わったと思ってしまいましたよ
全然待ちます、OKです

210 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/06/15(水) 23:21:13.42 0
良かった…今度こそ終わったと思ってしまいましたよ
全然待ちます、OKです

211 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/06/18(土) 15:22:31.07 0
>「パワードスーツヴィランはどうした?これは奴から奪い取ったのか?オイ!」

「知らん。逃げたからな。今頃楽しく逃走経路を確保しているところだろう」

>「どうなんだ?おい!シンドイ何て言っている場合じゃ無いぞ!!」

「いいじゃあないか。システムは一応奪還したし、後は貴様が適当に頑張れば」

盗んだ相手は違えど当初のシステムを盗んだのは事実なのだからこれは立派な成功なのだ。

大体貴様はお山の大将を気取らずに後はシステムもあるんだから
それをつけていって高速戦闘を繰り広げればいいじゃあないか。

そもそも私は戦う事は苦手でなあ。

>「奴のつけているクロックアップシステムを奪うのがお前の目的何だぞ!今倒れたらお前は怪盗として失敗した事になる!それでいいのか!」

「何を言う。システムを盗んだのに変わりはないぞ!実際傾国党自体は潰したようなもんだ
 ────それに世の中、全てを自分のものにするのは難しい。欲張りは身体に毒だぞ。私でさえ控えてる」

まあ、裏に何か他の組織がいるようだが。
そこらへんはどうでもいい。何せ私は本来ヴィランな訳で
傾国党がチマイハイジャックを働く事に腹を立てただけなのだから。

「………何だ、その顔は。あーあー。わかったよ、わかった、わかりましたよ。
 怪盗の威信にかけてもう一度老体を引き摺って強い敵と戦いえばいいのだろう!それで満足か!」

やれやれ、私もなんだかんだでこの天堂寺にこき使われているな。
『私は私の指図しか受けない』が私の主義だというのに………
そこんところを捻じ曲げたくはないが───怪盗としての矜持もある。やってやる。

「まあ、見てろ。奴らが逃げる手段は大方ヘリコプターのような……飛ぶ乗り物だ。
 車だと追跡も容易だから相手からすれば都合が悪い。確かここのビルにはヘリコプターがあったはずだ」

と、私はシステムを引っ掴んでいつものコウモリ怪人の姿へと形を変える。
軽く地面を蹴るとそのまま宙を翔けた。いつもより飛びづらいのは、私の疲労があるからだろう。
屋上のヘリポートにはアンナと呼ばれていたメイドがいた。
どうやらヘリコプターを飛ばす準備をしているらしい。パワードスーツヴィランは、いない。

「やあやあ〜〜〜偶然かなお嬢さん。それとも運命かな?
 どうやら風とか言う奴はおらんようだが、昼寝でもしているのかね?」

軽口を叩きながらおどけた仕草で挑発。
正直大分疲労しているので虚勢以外の何者でもないが。


【お待たせしました】

212 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/06/19(日) 14:17:53.47 0
「…それでいい」
飛び立っていく海藤を見つめながら、天堂寺は呟いた

…実は、クロックアップシステムを、今の天堂寺は使う事ができ無い
クロックアップシステムは物体の周囲にタキオン粒子を流し、それを加速させる事で物体の時間の流れを早くする機械な分けだが
現在の天堂寺のパワードスーツはそれに対応しておらず、タキオン粒子を流す事ができないのだ
海藤の様な特殊能力者ならまだしも、通常は手に入れて即座に使えるような代物ではないのである

そして天堂寺が動かない理由は、もう一つある
「この場に現れていないもう一体のパワードスーツヴィラン」そう、ハイメタルボーガーを惨殺したヴィランが羽のパワードスーツヴィランと平行して現れないとも限らない
それに対しても、メタトルーパーや警察では全くの無力だ
アイアンメイデンやアイアンジョーカーならまだ対応のし様もあるかもしれないが、あいにくとどちらもこの場にはおらず、仮にその辺のヒーローが加勢してきても、天空山の様に殺される
「炎」を軽く撃破して見せたエクスクロスがいてくれたなら…
とも思ったが、あれ以来八方手を尽くして調べたもののその正体も足取りも一切わかっていない

(…己の限界を超えて見せろ。年齢や、所属や、能力を振り払い、己の限界を突破しろ…その時お前は…)

海藤の背を見送る天堂寺の前方で、猛銃撃にバイオンが倒され、榴散弾の波状攻撃と最新鋭の火炎放射器の一斉放射でクニクライが焼き払われた



「っく!!」
海藤の姿を見たアンナは、焦りの表情を浮かべると、すぐさま手にした銃を海藤を向け連射する
既に彼女にも後は無い
なんとしてもここで引き下がるわけにはいかないのだ

213 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/06/22(水) 21:59:33.48 0

屋上はやはり高層ビルだけあってヘリポート完備、それなりに広い。
私はアンナに一瞥くれて柵にもたれかかった。
元より『風』とやらのシステムを後は奪うだけ。無理に体力を消耗させることもない。

───相手が攻撃を加えない限りは。

二度の発砲音。凶弾が空を突っ切って二発、こちらに迫る。
私は見向きもせずにアリス・イン・チェインズを発動。
元々は体の一部だったマントを硬貨させて弾丸を受け流した。

二発の銃弾は金属がぶつかる独特の金属音と共に私の後方へ。

ゆっくり、悠然とアンナへ一歩二歩と歩み寄っていく。

「ふん。焦ってるな。まるで処刑でもされてしまいそうな勢いじゃあないか。
 後は縄を頭に括りつけるだけって様子ではないか?
 判官贔屓だがこのまま降参してくれると助けてやらんこともない。──まあ、聞かんだろうがね」

一応、最後の情けをかけてやる。
これは私のお決まりの一つであるが何故誰も聞き入れてくれないのだろう。
純粋に謎だ。もしかして実力を信用されてない?

また一歩、アンナの方向へ足を動かした。

「実際私に人を殺すなどという穢れた主義はなくてね。丸く収まってくれると、それが最上なのだがな」

214 :◇Z.2X97eg1o:2011/06/26(日) 12:37:25.35 0
「ふっ…」
海藤の申し出に、アンナは自嘲気味に笑って見せる

海藤にアンナが降伏したとして
次に「風」が海藤に出会った時、海藤ごと「風」に惨殺されるだけ…
そう彼女は確信していた
戦って生き残る以外、今、彼女は助かる術を見出す事はできない
それ程までに「風」は、パワードスーツヴィランは強いのだ

…本当に世界を作り変えてしまえるほどに

(私は死ねない…死にたくない!死なない!!)
弾丸が切れるまで銃弾を撃ち、ナイフを取り出して投げつけ、必死に脚をとめんとする
しかし、海藤には…アリス・イン・チェインズにはアンナの必死の抵抗は歯が立たない
(……効かない…だが)
数歩後ずさりつつ、しかしアンナにはまだ勝算がある
彼女は一際大きくナイフを振りかぶり、力いっぱいナイフを投げる構えを取って…

海藤の注意を自分へと向けた!
横合いから凄まじい銃声が響き、弾丸の雨が海藤に襲い掛かる!!

伏兵だ!
一般の傾国党員が…階段を上がってくる敵への足止めとして配置されていたのだろう、入口のドアの付近に潜んでおり、それがアンナに注意を向けていた海藤目掛け自動小銃を撃ってたのだ



215 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/06/28(火) 17:20:21.47 0

「ナイフ………か。曲芸のつもりかね」

アンナがサバイバルナイフより少し大きいくらいの、ごついナイフを取り出した。
しかしそれでも特殊合金に変化させたマントの盾を破ることは叶わないだろう。

とはいってもわざわざ防御する義理はない。
あのナイフをアンナが投げた瞬間、私は彼女に肉薄し意識を一気に刈り取るつもりだ。

「痛みは一瞬だ。覚悟した─────」

瞬間、痛みが身体に走った。まるで電撃のような。

「弾丸……!?プット……オンッ!!」

伏兵。頭に二文字を浮かべた頃には遅かった。
CUシステムを使うのも、もちろん遅かった。

既に幾つかの凶弾が私の身体にめり込んでいる。
致命傷ではないが、所詮時間の問題だ。私の異能では傷を治療できない。

装甲が纏わりつき遅れてやってきた弾丸を全て弾く。
即座にイール・ウィップを展開し、稲妻の曲線が伏兵を払う。

「………やれやれだな。しばらく怪盗は、休みになりそうだ………」

頼みの伏兵が倒され、アンナが未だしつこく抵抗を続けているかも知れないが、よくわからない。
意識が朦朧とするのだ。今にも天地がひっくり返りそうで私は戦々恐々としている。

三発の弾丸を食らって立っていられる自身の精神力には驚いた。
この年齢でまだ自身の隠された、火事場の馬鹿力に驚くとはな────

「静かにしていたまえよ、お嬢さん」

アンナの鳩尾に向かって、分厚い装甲を纏った私の拳が寸分狂わず入った。
いくら改造人間といえど感知型にはひとたまりもないだろう。

「さあ………後は貴様だけだぞ『風』よ。怪盗の、エンター・テイナーの、最高のショウを見せてやる」

階段の方向へ私は翻り、独り言のように呟いた。

216 :海藤翼 ◆TazPdPu8KY :2011/06/28(火) 17:36:55.30 0
【今ここで言うのもアレなんすけどvs「風」戦が終わってもまだ続くっぽいので
これが終わったらヒーローど真ん中のキャラに変えていいっすか?
元々悪役のつもりで設定したので今のままだといまいち扱いにくいというか……
もちろんSTは宙野さんですから偉そうなこと言えないのでNOならこのまま行きます】

217 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/06/29(水) 21:31:50.44 0
拳を受け、意識を遠のかせながら、しかしアンナは不気味に微笑む
感知型の改造人間の彼女にはいち早くわかったのだ

「風」が、この場に到着した事が

アンナの表情からか、はたまた自らの能力か
同じく「風」の存在を感じ取っての、傷ついた海藤の決意と覚悟が篭った「風」への挑戦
その言葉に、今まで微細な気配のみが感じられた階段の方向の気配が濃厚な物になり、それは次第に大きくなっていく
そしていよいよ「風」が、羽のパワードスーツヴィランが姿を現した…

瞬間

弾丸の様に凄まじい速度で「風」は海藤の目の前まで移動し、海藤の鎧の腹部に、弾丸の様な速度と、凄まじい腕力による必殺の拳をたたきつけた

「悪いが、時間が無い、最高のショウとやらはあの世で見せてくれ…最も、恐らくあの世でも見せられんと思うがな」

クロックアップを行った雰囲気ではない
「風」だ!、羽のパワードスーツヴィランは強力な空気の爆発を自らの背後で起こし、それを背中の羽で受けて自らを直線的にのみクロックアップに近い速度で動かす能力を持っているのだ

「炎」が、物体を砕く超重力の異能と、あらゆる熱線を弾く炎の防壁を張るパワードスーツ、そして凄まじい筋肉を改造手術で得ていたように
「風」も三つの異能を使いこなしているのである
クロックアップ、金属の羽手裏剣を使いこなすのに適した肉体改造、そしてこの風による加速だ
この三つの能力を使いこなす事こそが、パワードスーツヴィランが通常のヒーローやヴィランを上回っている理由なのである

だが、幸いにして「風」は今、天空山戦でタキオン粒子を使いきり、パワードスーツの特殊能力であるクロックアップは使えない
叩くならば今…

なのだろうが、海藤は異能を連発して体力を大きく消耗し、更に銃弾を受けた身である
対する「風」はまだ無傷、条件は互角とは言いがたい

天堂寺が動けない今、この場に応援が現れるとすれば
それは恐らく、「まさしく真のヒーロー」だけだろう

218 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/06/29(水) 21:33:59.40 0
>>216
俺は全然OKですよ

使いやすいキャラをお使いください

219 : ◆TazPdPu8KY :2011/07/02(土) 13:45:42.60 0
>「悪いが、時間が無い、最高のショウとやらはあの世で見せてくれ…最も、恐らくあの世でも見せられんと思うがな」

気が付けば私はクロックアップを使う事なく吹き飛ばされていた。
追加装甲を装備した状態だったお陰で痛みは軽減されていたが、正直生殺し状態だ。

しかし。しかしそんな状態にも関わらず私は不敵に微笑む。

「ハ……ハッハッハッハ。そうだな、時間がない。私も貴様も、時間がない。
 時間は大切だ。時間は1秒だって無駄にできん。……だから私は………」

力なく垂れていた腕を動かして「風」に見せ付けた。
パワードスーツ越しだが、あいつの表情が変わるのが見て取れそうだ。

「クロックアップシステムをついくすねてしまったよ。───私を誰だと思ってる?」

虫の息でどや顔をつくってみせた。
尤もクロックアップを使わない辺り、今はタキオン粒子が切れている公算が高い。
ようするにあまり意味のない行動だ。だが、まあ、あいつの自尊心を傷つけるには十分すぎるだろう。

………無意味に怒らせただけかも知れんが。


※   ※   ※


「警察」とは何の為に存在するのか。
人々の安全と秩序を守る公務員、というのが一般的解答かも知れない。
しかし。この都市においてのみその解答は不適切だ。

ヒーローの足を引っ張り、邪魔をするだけの足手まとい。

それが、この都市での警察の姿であり、共通の認識だった。


高層ビルのヘリポートに、プロペラの旋回する耳障りな音が響く。
海藤は反射的に空を仰いだ。
二人のヴィランを俯瞰していたのは一機のヘリコプター。黒と白の配色に旭日章が飾られている。
ヘリから人影が動くと、それは「風」と海藤の間を割るように垂直落下。
腕を組んだまま、両の足元に放射状の皺を作り出し着地する。

現れたのは恐らく、この中の誰一人として見た事のないパワードスーツ。
清潔感ある純白の装甲にメタルボーガーと同じツインアイ。胸にはやはり旭日章。


「公務員(ヒーロー)は遅れてやってくる!────俺、参陣ッッ!!!」


やがて吐き出したのは、三日三晩の末に考えた前向上らしかった。

「なんだ、アイツは……デパートの屋上でやるヒーローショウは、ここじゃあないぞ」

流石の海藤も突拍子のない出来事に目を白黒させている。
もしかしたら「風」も少なからず動揺の色を見せているかも知れない。

220 : ◆TazPdPu8KY :2011/07/02(土) 13:48:41.56 0
「アイツちゃうわい!立派な警察官や!異能犯罪捜査課、肉体労働担当の鈴原ッ!!
 フルネームで鈴原悠馬!コードネーム、いや、ヒーローネームは『ベレッタ』じゃいっ!」

吐き出す前口上は厨中二病患者のそれ。しかし強化装甲服を纏うは警察官。
悔しいが胸の旭日章がその証左です。残念。

「ふん。にわかには信じられんな。冷やかしなら帰れ、クソガキ。
 大体警察がパワードスーツを所持していれば不知火と協力する必要ないだろう」

海藤は「風」のことなど忘れたように鈴原に怪訝そうな視線を送る。
しかしまあ、鈴原の言っていることに嘘偽りはない。彼はバカだが、嘘はつかない。

“ベレッタ”────

つまり、鈴原の装着する強化装甲服は不知火と提携を結んでいた警察が
メタルボーガーのデータを参考に開発したものだ。

日夜数を増やすヴィランに対抗する為に。
人々を守る為に。
無能のレッテルを叩き返して名誉を取り戻す為に。

開発も装着者の選定も独自に行い、不知火にも秘匿してきた。
故に誰かが知るはずがない。知るはずもない。

「ああ、もう、信用されなくってもいいっすよ!どっちにせよ俺は割り込みにきたようなもんすから!」

本来今回の作戦の肝は海藤で、ベレッタの出る幕はなかった。
だが警察側としても有用性を見せ付けるまたとないチャンスを見逃したくはない。
そこで海藤が任務遂行に窮した場合のバックアップとして密かに後方で待機し、出番を待っていたのだ。

鈴原は一拍間を置いて、海藤を気遣うように言う。

「とにかく………ここは俺に、いや、警察(おれたち)に任せてください」

食って掛かった海藤もしばし沈黙。
やがて「ああ」の二文字を搾り出すと、その場に座り込んだ。

「………ならば遠慮なく任せるとしよう。幸いシステムは奪取した。──幸運を祈る、『ヒーロー』」

どちらにせよ負傷した自分では「風」に勝ち目はない。せいぜい相討ちが限界だろう。
ならば自称警察官に後を託して、回復に努める方が得策だと判断した。

鈴原は翻って再び「風」と対峙した。
相手の殺気が渦を巻いてこちらに向かってくるような威圧感を感じる。
しかし鈴原は動じない。この程度で動じるものか。

「学校ジャックにその他諸々!やってくれたな傾国党。国を傾ける前に、俺があんたを逮捕してやる」

勢い良く右足で踏み込む。
着地の時よりも大きく放射状の皺を生み加速、突撃。
右の鉄拳を振りかぶり「風」に食らわせるべく肉薄した。

221 : ◆TazPdPu8KY :2011/07/02(土) 13:54:24.27 0
「こんにちは天堂寺さん。異能犯罪捜査課の大仲です」

ベレッタと同じく秘匿されてきた異能犯罪捜査課、通称異捜課の大仲は天堂寺の横に立った。
もちろん大仲の存在はこの場に居る警察関係者も知り得なかったイレギュラーな存在だ。

証明とばかりに慣れた手つきで警察手帳を見せると小型モニターを取り出し、机の上に置く。
大仲が周波数を合わせるとそこには『風』との戦闘が映し出された。

ベレッタを運んだ後、安全圏まで離脱したヘリコプターのカメラで映しているのだろう。

「驚きましたか?これが我々の隠していた切り札ですよ。
 対特殊犯罪用強化装甲服・壱式。まあ『ベレッタ』なんて呼んでますがね」

どこか冷淡な口調の大仲だったが、切り札、の部分で語勢が少し強くなる。

「カタログスペックは旧メタルボーガーの約1.5倍。
 まあ一号機なんでね。ノウハウもないから現状じゃこの程度が限界です」

天堂寺を含んだ周囲の警官各位や不知火の武中も胸中は同じだろう。
その程度で傾国党のヴィランには敵わない、と。

「カタログなんざ飾りです。我々が、現場の人間がどれ程堪忍んだか理解できますか。
 ヴィランに成す術なく殉職してく同僚達。ヴィランの凶刃で五体不満足になった部下。
 敵わないと知りながらも、末端の警官達をヴィランと戦わせる“上”の奴ら………」

冷淡で蓋をしていた激情を遂に露にする大仲。
最早それを隠そうともせず、口は滑るように動いていく。

「挙句の果てに散ったダイヤで生まれた『ヒーローモドキ』に攻撃される始末。
 遂に俺達は不知火重工なんていう、戦争屋と手を組まざるを得なくなったんだ……!!」

武中に一瞥くれると、失礼、と一言。
熱は冷えたらしく、大仲は冷静さを欠いた自身を戒めるような顔をした。

「ああは言いましたが、私はあなた達を否定するつもりじゃない。
 皆さんや民間人のヒーローが人々を救う為に行動を起こしているのは理解しているつもりです」

モニターにベレッタが映し出された。大仲はそれを食い入るように見つめる。

「上の奴らは名誉と市民の信用回復程度に考えてベレッタを造っただけかも知れません。
 ただ、現場の人間(われわれ)は、ずっとこの時を待っていたんだ。
 ヒーローと肩を並べる事を。警官になったときの夢を叶えられることを。ただ、待ち望んでいたんです」

───人々の安全と平和を守れる瞬間を。

「あいつは、鈴原はそんな末端の純粋な夢を背負ってる。
 いや、末端の警官だけじゃない。戦えない、全ての人々の為にあいつは戦う。
 そんなあいつが、ベレッタが、スペック差如きで負けるとお思いですか。天堂寺さん」

耳に装着した小型通信機を起動させ、大仲は鈴原に指示を飛ばした。

「見せてやれ、鈴原。警察官の意地を。信念を。正義をな」

222 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/02(土) 13:57:42.90 0
名前:鈴原悠馬
職業:警察官
勢力:ヒーロー
性別:男
年齢:24
身長:177
体重:70
性格:猪突猛進、熱血(?)
外見:警官の制服
外見2:対特殊犯罪用強化装甲服・壱式(通称『ベレッタ』)
特殊能力:不明
備考:
不知火重工と提携を結んでいた警察が
メタルボーガーを参考にし、開発した強化装甲服の装着者

幼少期、悪の組織に拉致されたことがあるとかないとか
厨二病のケがある


【「風」戦の後をと思いましたが、折角フリを貰ったので登場させました】
【自分のわがままを聞いてくださってありがとうございます】
【行動としては鈴原→「風」に直進、パンチ 海藤→CUシステムを奪って休憩です】

223 :◇Z.2X97eg1o:2011/07/03(日) 16:15:12.84 0
「な!?馬鹿な!!」
思わぬ海藤の反撃に、「風」は驚愕の色を隠す事は出来ない
しかし、その表情は次の瞬間、燃え盛る炎の様な怒りを含んだ物に変わる
「消え行く存在の分際で!この俺の邪魔をしてくれる!いいだろう立ち塞がるなら徹底的に踏みにじってやる!」
そう言って、風が羽手裏剣を出現させた時

それは現れた

>「公務員(ヒーロー)は遅れてやってくる!────俺、参陣ッッ!!!」

「……パ…パワードスーツ!?」
鈴原の登場に、風は後ずさり、動揺する
「炎」を倒したのはハイメタルボーガーやアイアンジョーカー以外の国営のパワードスーツらしい情報を彼は得ていた
だとすれば、目の前のソレが、その国営のパワードスーツなのでは…
そう思ったのである

(油断は絶対に出来ない相手のようだ…全力で殲滅する)

海藤を怒りに任せてなぶり殺そうとしていた自分から、冷酷な殺戮マシーンへと頭を切り替え、呼吸を整える
エレメントの野望達成にまだまだ役に立つ切り取った傾国党主…元クロックアップシステム開発主任の頭部は冷凍して階段の下においてある
そこまで勝負を急ぐ必要は無い
慎重に戦って確実に目の前の敵を排除し、脱出する事を考えようと考えたのだ

改造人間の全感覚を結集し、相手の動きを見て、突撃してきた相手の拳をジャンプしてかわす
そのまま脚の下で空気の爆発を起こし、べレッタに浴びせると共に、自らは上空高く舞い上がった
(針の山にしてやる!)
風はそのまま空中で直線的なジグザグ移動を行い、べレッタに自分の姿を目で追わせると、素早くべレッタの視界の外まで飛んで、そのまま羽手裏剣を計四本、一編にべレッタ目掛け投げつけた
当れば機動隊のジェラルミンの盾程度なら余裕で貫通する破壊力を、この超合金の羽手裏剣は持っている
生身のヒーローならばこの一撃だけで十分に惨殺できる威力だ

224 :◇Z.2X97eg1o:2011/07/03(日) 16:17:19.27 0
現場にて指揮を執る天堂寺の下に現れた大仲に、不知火重工対ヴィラン部隊本部から戦況を見ていた武中等も動揺する
「彼等が例の…国営のパワードスーツか」
べレッタの登場に、武中からエクスクロスの話を聞いていた本部内の重役が武中に尋ねるが、武中は無言で首を振った
(…やはり我々以外にも独自に動いている公的組織はいたのか)
早田等光国党の活躍が実る日はそう遠くではない
そう実感を得ながら、武中はモニターを見つめる
…自分の作った不知火重工の対ヴィラン特殊部隊の役目、その終わりを感じ取りながら

そして語られる、大仲の無念の言葉
その言葉を、モニターの向こうの大仲と通信モニター越しに向かい合う武中は…その場にいた対ヴィラン特殊部隊関係者達は
嫌な顔一つせず、真剣に聞き入り、受け止めた
「……さぞ苦労しただろう、大仲君」
室内にいた、大仲と階級を同じくする年配の警察関係者が、呟いた
その人物もまた、大仲と同じく自ら前線に達、多くの部下をヴィランによって奪われてきた男で
しかし、警察内にコネがあるわけではなく自己対処の方法が無く、手のつけようが無かった所を武中に声をかけられ
メタトルーパーの警察への実戦配備と、新たなメタルボーガーの製作に関する警察の積極的な協力を上層部に打診続けている人物である
そんな彼には…いや、自由の利かない公的機関にいながら、平和を守る使命にかられている室内にいる者達には
大仲が如何に苦しみ、パワードスーツを独自に作る事が如何に難しかったか
ひしひしと感じ取る事ができていた

それだけに、そんな彼の夢を…べレッタを
宙野の…ハイメタルボーガー様に無残に破壊されるわけにはいかない

「…大仲さん、お気持ちはよくわかりました。しかし、相手は…パワードスーツヴィランはメタルボーガーの倍以上の性能とスペシウムで武装したハイメタルボーガーを一蹴し、それと同性能の天堂寺君のパワードスーツを追い込む程の能力を持っている
気合だけでは…」
「やらせてやれ、こいつ等は勝つ」
制圧作業が終わりそうだったため、海藤の救援に向かおうとしていた脚を止め、完全に制圧すべく再び指揮を執りながら、天堂寺は言い切った
「お婆ちゃんが言ってた、夢を全力で追っている人間は何よりも強い、どんな悪魔もそれを阻む事はできない、ってな」


彼等の足元…地底で様子を伺っていた「地」は、思わぬイレギュラーの登場にうっと息を呑む
このまま行けば、天堂寺が海藤を助けに行き、その隙を狙って自分が地上の警官隊を全滅させ、一部の傾国党員と傾国党の保有するデータだけは何とか確保する段取りだった
しかしこの場に天堂寺がいれば、作業は思うように進まず、下手をすれば破れるやもしれない
だが
(警察のパワードスーツ風情が大した事は無いだろう、撃破されて天堂寺が行った後、出ればいい)
べレッタの敗北を確信し、あえて動かない事にした
警察がヴィランに、ましてパワードスーツヴィランに勝てるはずが無い
それが彼の考えであり、この街の常識であるからだ

だが、彼は甘く見ていた
風が戦っているのは警察では無い、警察が作り出したヒーローなのだ



225 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/05(火) 13:56:07.83 0
(俺の拳を避けた!?)

直線的軌道で放つ拳は、確かに速い。が、その分見切るのも容易い。
それどころか。

「うおああぁぁぁあっ!!」

───向かってくる猪にカウンターを放つことすら容易い。
『空気』の爆発で態勢を崩すがその場で持ち直し、空へ逃げた「風」を機械の双眸が再び捉える。

「なら銃で────」

飛行能力のないベレッタでは飛翔した「風」への攻撃手段は銃しかない。
右腰の大型拳銃“ファブリク”の銃口を空へ向け、しかし「風」もつづら折りの軌道で狙わせない。
鈴原は舌を巻くが、ベレッタの視力補正で十分捉えることは可能。

「気をつけろッ!それはフェイクだ!奴はもっと速く動ける!!」

回復に努めていた海藤の声が走った。
「風」は先のように“空気の爆発”を推進力にクロックアップに迫る速度で動く。
故に一瞬の攻防でそれを把握していた海藤は、撹乱させる為の猿芝居だと判断するに至った。

鈴原が海藤の声を聞いた直後。「風」は文字通り消えた。
そして背後へ不意に現れたのは、弾丸の如き四枚の羽。
常人ではまず反応が追いつかない。しかし、しかし鈴原はそれに食いつく。間に合ってしまう。
翻り、後方へ飛び退く。同時に引き鉄へ力を込める。

「性能で足りない部分は─────」

一射。羽の横腹を掠め、軌道を逸らす。

「知恵と!」

二射。対強化装甲服の強化弾が一枚を撃ち落す。

「勇気と!!」

三、四射。悉く羽手裏剣の軌道を明後日へ逸らす。

「─────『根性』で補うッッ!!!」

膝を折り曲げ、着地。オートバランサーが働き姿勢制御を促す。

羽手裏剣に反応出来たのは鈴原の言葉通り、全くの反射神経頼りという訳ではない。
実は攻撃の際、半拍ほどの間があった。「風」自身が攻撃するなら間など必要ない。
つまり、間のある攻撃は「風」自身より遅い飛び道具ということになる。
そこまで搾れることができれば、なんとか反応できないこともない。

(……でも、わざわざ自分より遅い武器を使う必要があるか?)

単なる様子見という可能性ももちろんある。
が、クロックアップなしの羽手裏剣にそこまでの価値は感じられない。
そう───例えば───加速は直線でのみ最大効果を発揮する、とか。

(───くっ、俺ぁ頭悪いから正しいかどうかわかんねえ。
 でも、そうだとするなら“アレ”でいけるかも知れない…!)

推測に推測を重ねただけの、愚考。
しかしこのままがむしゃらに戦っても敗北は見えている。
ならば、一か八かで試すべきだ。何もしないことこそが真の敗北だ。

226 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/05(火) 13:58:17.08 0
「はっはぁぁ〜〜〜ん。あんなしょっぱい“紙”手裏剣で俺に勝てるわけナイデショ?
 傾国四天王ってのも大したことないなぁ〜〜〜〜。っつーか今時四天王って(笑)ポ○モンww」

突如、敵愾心を煽るような人を苛立たせる仕草と口調で「風」を挑発。
顔はアーマーで隠れていたが、今にも殴りたくなる顔が見えそうだ。

「ほんと、たった一人のオッサン如きにここまでしてやられるなんてだせえよなあ〜〜。
 今一番ダサイヴィランなんじゃない?他の人を見下せないよなぁ〜〜鳥野郎さん?
 あれ?風…なんだっけ?風邪でしたっけ?お?wwうっはww組織の疫病wwwwww」

身振り手振り、とにかく「風」の自尊心を傷つけるべく奮闘する。
「風」が果たして挑発に乗るか、冷徹に無反応か。強化装甲服越しで表情は読み辛い。
しかし、挑発に乗り平静さを失ってくれれば考え通りにことを運びやすくなる。
無論平静さを失わなくてもこちらの誘いに乗ってくれさえすれば、滞りはない。

「怒ったか?怒ったか?………じゃあ俺を捕まえて、殺してみせろよ。追いかけっこだ」

大型拳銃を足元に放ち、砕いた床を粉塵のように巻き上げて即席の煙幕を作り出した。
そのままビル内へ続く階段へ足を動かし、疾駆する。

最優先は制空権を持たせないこと。
空に逃げられると遠距離から一方的に攻撃される。そうなると俄然鈴原は不利だ。
故に戦いの舞台そのものを変えてその有用性を奪う必要があった。

「さあついて来い傾国党……!皆の思いを乗せた、ベレッタで俺はアンタに勝つ……!」

階段を飛び降り、更に社内を奔走する。



【ビルに逃げ込む。なんか作戦があるっぽい】

227 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/05(火) 21:33:31.32 0
すんません、不備をいくつも発見したので書き直して明日投下してもよかとですか

228 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/06(水) 15:31:25.50 0
(俺の拳を避けた!?)

直線的軌道で放つ拳は、確かに速い。が、その分見切るのも容易い。
それどころか。

「うおああぁぁぁあっ!!」

───向かってくる猪にカウンターを放つことすら容易い。
背後で『空気』の爆発。その衝撃が装甲服に駆ける。
爆発で崩された体勢を整えながら、空へ逃げた「風」を機械の双眸が追う。

「なら銃で────」

飛行能力のないベレッタでは飛翔した「風」への攻撃手段は銃しかない。
右腰から大型拳銃“ファブリカ”を抜き、銃口を空へ向けるが「風」もつづら折りの軌道で狙わせない。
鈴原は舌を巻くが、ベレッタの視力補正で十分捉えることは可能。

「気をつけろッ!それはフェイクだ!」

回復に努めていた海藤の声が走った。
「風」は先のように“空気の爆発”を推進力にクロックアップに迫る速度で動く。
故に一瞬の攻防でそれを把握していた海藤は、撹乱させる為の芝居だと判断するに至った。

海藤の声が届いた直後。「風」は文字通り消えた。
そして背後へ不意に現れたのは、弾丸の如き速度の四枚の羽。
完全に虚を突かれ反応することはまず不可能。
しかし鈴原は翻り、後方へ飛び退く。同時に引き鉄へ力を込める。

「性能で足りない部分は─────」

一射。羽の横腹を掠め、軌道を逸らす。

「知恵と!」

二射。対強化装甲服用の強化弾が一枚を撃ち落す。

「勇気と!!」

三射。四射。悉く羽手裏剣を撃ち落し、相殺。

「─────『根性』で補うッッ!!!」

膝を折り曲げ、着地。オートバランサーが働き姿勢制御を促した。

初陣で早速損傷しなかったことに安堵し小さく息を零す。
しかし、あの虚を突かれた攻撃に対応できるということは、鈴原は────………

(………速い!攻撃が当たらないんじゃ、奥の手も迂闊に使えないぞ……!)

初手に対する反応、先の「風」の速さを実際に見て鈴原は攻めあぐねていた。
制空権を得られているだけでなく肝心要の攻撃が当たらないのでは俄然不利。

とにかくまずはあいつを飛べなくさせる。そこが勝利のスタートライン。


229 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/06(水) 15:36:08.23 0
「……たった一つ!たった一つだけ、アンタを倒す策が俺にはある!!」

膠着状態の中、突如人差し指を天に向けて鈴原は豪語。
その言葉は虚偽か真実か。

「そう、たった一つだけ!……知りたいか?なあ、知りたいか?」

顔は装甲服で覆われているため当然窺うことは叶わない。
が、もし見ることがあったならば不敵に微笑んでいる。そうに違いない態度。

「それはなあ…………!!!!」

沈黙。続く言葉を聴くべく海藤やモニターで戦闘を見守る面々は固唾を呑む。


















「逃げるんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおぉぉおぉぉおお!!!!!!」

まさかの。まさかの「風」に背中を向け遁走。
状況を見守っていた海藤も流石に目を白黒させるしかなかった。
馬鹿げた行動に周囲が泡を食う中、鈴原は滑るように足を動かしてビルの中へ。

(────どうだ!このまま室内へ逃げればお前は飛ぶことができないだろ!)

発想は悪くない。だが「風」がそこまで執拗にベレッタを追い、殺す理由がない。
当然邪魔者を消すという意味で追跡する可能性もあるが大局的に不利な者の行動ではない。
ただそれは普通ならば、の話。鈴原は運に恵まれていた。

「………なんだ、これ。───あ、たま?」

階段に無造作に転がるそれは、人間の頭。恐怖に歪んだ顔。
直感で理解する。これは「風」がやったんだ。あいつが、こんな惨いことをしたんだ。

「許せない……!」

声を静かに怒りで揺らし、冷凍保存されたヒトの頭を抱える。

普通ならば、逃げる鈴原を「風」が追うことはない。
しかし脇に抱えられるは傾国党首の頭。
利用価値やエレメント内での面子を考えれば、「風」が奪い返そうと動くのは明白だ。

故に「風」は鈴原の誘いに乗らざるを得ないだろう。たぶん。きっと。


【ビル内へ逃げる。途中で傾国党首の首を発見、奪う】

230 :◇Z.2X97eg1o:2011/07/09(土) 16:31:49.66 0
(…反応した!俺の動きに!)
銃撃で羽手裏剣を撃墜したべレッタに、風は相手の強さを再確認する
如何に海藤がアドバイスしたとはいえ、そこから頭をめぐらせて対応したのでは常人が間に合うはずが無い
ならばべレッタは、少なくとも感覚もただの人間ではない、と言う事になる

(だがまだ、勝算はある。能力の多様はしているが、まだスタミナは持つ。羽手裏剣を一発でも多く当てて弱らせ、切り札を確実に…)

しかしまだ自分のペースは乱れていない
風が再度攻撃に移ろうとした、その時

あろう事かべレッタは退散し始めた!
しかし、風は動じない

「…ドアの手前で待ち構えて反撃…だろ?」

高速で逃げる自分に対し、べレッタが取るだろう手
周囲の地形を利用した戦法は、当然風も想定していた
が…

(……え!?ほ…ほんとに逃げるのか!?)

マジで階段を降りていく音がして、風も海藤と同じく思わず呆け
しかし次の瞬間、階段の下に何を置いてきたかを思い出して、背筋がぞっとする

(しまった脳!冷凍して目立っているあんな物、間違い無く持ち去られる!)

その事実に気づいた風はすぐさまべレッタを追撃せんとして…

……次の瞬間、海藤目掛け羽手裏剣を投げつけた

「…邪魔者は消えた。さて、最高のショウとやらをはじめよう」
(とりあえずこっち先に片付けよう。システムを取り返してヘリの中のチャージャーで粒子をチャージし、クロックアップで脳を取り返す!)

べレッタは幸運だった
だが
…思いやりを忘れていた

231 :海藤 ◆TazPdPu8KY :2011/07/10(日) 11:57:16.71 0
「鈴原………おい、鈴原!」

内蔵されている通信機から大仲の声。
状況はヘリコプターのカメラと、ベレッタに内蔵されたカメラの二つで観察できる。
例え鈴原がビル内に居ても大仲が状況を把握し、指示を飛ばすことができる。

鈴原は何事かと頭に疑問符を浮かべた後、二度まばたき。

「なんすか?」
「なんすか、じゃない!海藤が危険だ!助けろッ!!」

鈴原はぎゅるぎゅると阿呆の脳みそを高速回転させ、あ、と間の抜けた声を上げた。

「しっ、しまったぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」

海藤を置き去りにすれば「風」の矛先があちらに向かうのは自明の理。
急いで踵を返すが、もう間に合わないだろう。


※    ※    ※


傷口を塞いだままの銃弾を摘出し、服で負傷箇所を縛って止血。
筆舌に尽くし難い激痛が幾度なく海藤に去来し、意識が飛びそうになった。

「後は状況を見守るだけか………」

ベレッタが敗北すれば海藤が戦う事になる。
満身創痍のこの体で「風」と互角に渡り合うのは困難だろう。
可能ならば“ヒーロー”に勝利を収めて貰いたい。

───と、ことを静観していた海藤は自身の目を疑った。

まず、ベレッタがジョースター家もびっくりの逃走をし。
次に、羽手裏剣が自分に迫ってくるではないか。

「なんだとぉぉぉおおぉぉおおっっ!?」

咄嗟に異能で腕を特殊合金製の盾に変化させ飛来する羽を弾く。
カン、と響いた金属音は何処かコミカルだ。この状況も、海藤からすればそれと同じ。

>「…邪魔者は消えた。さて、最高のショウとやらをはじめよう」

「ああ……なるほどな」

海藤は腑に落ちた様子で、しかし嫌そうに顔を歪めた。
CUシステムを奪い返し万全の状態でベレッタを追う───そういうことだろう。
手負いの中年がわざわざネギを持っているのだから、焦って追う必要はない。

232 :海藤 ◆TazPdPu8KY :2011/07/10(日) 11:59:26.78 0
「……だがなぁ「風」よ。私は、怪盗はエンター・テイナーなのだよ。
 世の中適材適所でなぁ……自分のセリフを撤回するのもなんだが……」

映画館へ行く子供のような。クリスマスでサンタを待つような。
そんな、遥か大昔に忘れてしまった、屈託のない笑み。

「ショウを見せる相手は常に『観客』。そして、貴様は役者だ。ヒールのな。
 ───そして私は演出家だ。舞台を整え、場を沸かせることに全力を尽くす」

海藤は常にヒーローが勝利するのを信じていた。他でもない、ヴィランである海藤が。
有象無象、星の数ほどのヒーロー達と攻防を繰り広げ、時に煮え湯を飲まされた海藤が、だ。

「……物語はハッピーエンドが好ましい。悪戯なバッドエンドは、後味が悪いだけだ」

おどけた仕草で「風」をいらつかせると、その身を何百ものコウモリに分離させた。
コウモリ達は蜘蛛の子を散らすように地へ空へ掻き消えていく。

「……何でそんな事を話すかって?私はエンター・テイナーだからな。戦うのは好きじゃあない」

海藤の声が、エコーのそれのように空間を反響する。音源で居場所を捕捉するのは不可能だろう。
ヒーローや警察相手に誰も殺さずお宝を盗み、逃げ果せてきた男だ。
逃げ足の速さは超のつく一流だった。

「さてと、観客が天堂寺達だけではつまらんな。このショウはもっと大勢が見るべきだ。
 最近暗いニュースばかりで寒いだろう?ならば、温度を上げようではないか……小森」

ビル内の監視カメラが、駆けるベレッタを映した。
程なくしてその映像がテレビに流れているのを天堂寺達は気付くだろう。
方法は不明だが、海藤に指示された小森の仕業なのは確かだ。

この戦い───勝とうと負けようと世間を騒がせるのは間違いないだろう。
主に海藤のせいで。

おっさんは相変わらず何を考えているのかようわからん。


【海藤のおっさん逃げる(退場)。鈴原はまだビルの中にいます】

233 :◇Z.2X97eg1o:2011/07/12(火) 13:15:11.30 0
「こ…これは…電波ジャックか!?」
「こうもあっさりと…」
海藤の起こした行為に、うろたえる会議室の対ヴィラン特殊部隊の面々
しかし、現場の天堂寺は堂々と微笑む
「ふっ…これでエレメントとやらも後にひけなくなった。…海藤も中々面白い事をする」

天堂寺の言葉通り、屋上で戦う「風」は大いにうろたえていた
(この戦いが放送されて…いるのか!?まずい…まずいぞ!こんな所で俺がヘマをすれば…エレメント全体に響く!
それに何より、ここで万一逃げたりすればパワードヴィラン全体が舐められる!)
「えぇいくそおおお!」
苛立ちながら、風は羽手裏剣を手から出現させ、今度こそべレッタの破壊に向かう
(まぁいいさ!俺が、あの警察のパワードスーツを完膚なきまでに叩き潰せば全てすむ話しなんだ!
見られていようがいまいが関係ない
それに第一俺は今エレメントの風ではなく、悪魔で傾国党の一怪人
組織がまだ公に現れたわけじゃない
さっさと殺し、さっさと帰る!)
廊下へ焦りながら下りつつ、風は今後の手はずを考える
(奴は所詮俺が狭い空間では早く動けんとたかをくくっている
それと狭い通路でならば、広範囲に広がる武器…ショットガン辺りを使って面攻撃でもやるつもりなんだろう
そういう事に適した長い廊下はあるが、俺が横に避けれる位のスペースは十分にある
仮に銃弾が俺より早かったとしても、撃つまでの奴の腕の動きと指の動きを見れば十二分に俺ならかわせる
そして奴の攻撃をかわしたところで…)
風は両手にじゃらじゃらと大量の羽手裏剣を出現させた
うすい羽手裏剣は、ざっと数えただけで100枚はあるだろうか…
(こいつをマシンガンの様に空気の爆発に乗せてアイツに叩き込む
10枚20枚マシンガンか何かで叩き落せても、羽手裏剣の連打は自衛隊の60mm機関銃(50cm厚の超硬度スチール合金に穴を空ける)よりも連射性能も威力も高い
あっという間に押し切って、ズタズタだ)
勝利を確信し、風はべレッタがいると思われる廊下へと向かい、その角を曲がった
風の仮定が正しければ、べレッタはその廊下にいるはずである
(さあ来い!ズタズタにしてやる!)

234 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/16(土) 15:08:47.60 0
「鈴原……海藤は大丈夫だ。それよりも」

内蔵通信機を介して伝わる大仲の声。
鈴原は“それよりも”の部分に一抹の不安を抱きながら足を止めた。

「……良い話、ですか?それとも悪い方?」
「どっちもだな。……電波ジャックでこの戦闘が放映されている」

なんだそんなことか、と屈託ない笑みを鈴原は仮面の内につくった。

「負けるとヤバいですね。それ………」
「それどころかやばいでは済まないぞ。済まないが────」
「元から負ける気も退く気もありませんから、ね」

右手で拳をつくると、鈴原は覚悟を孕んだ眼でそれをじぃと見つめた。

「………テレビに「風」が映っている。そこの曲がり角にいるはずだ。鈴原、もちろん策があるんだろうな?」
「決まってます。こんなとこでいちいち行く道退いてられませんよ」

瞬間大仲の胸に嫌な予感が走る。
それを払うべく。疑念を解消すべく大仲は強い語勢で鈴原に声を飛ばす。

「おい!お前、まさか………!!」

しかし全ては後の祭り。ベレッタは既に曲がり角へ身を躍らせ───
右腕を前へ突き出し、ただ前進。前へ。前へ。前へ。前へ。目の前の「風」へ。ただ、ただ突き進んでいく。
愚直なまでの前進。突進。突貫。突撃。神風。今ここで、ベレッタはただの的に成り下がる。

(確かに……“奥の手”は肉薄しなければ使えん……!
 が、敵はその間お前に攻撃し放題なんだ………!我慢勝負にもならない……!)

ベレッタの装甲ではスペックに差のありすぎる「風」の攻撃を防ぎきるのはまず不可能。
無謀。前進はバカ、否、愚か者の所業でしかない。

しかし、逆に考えれば。この攻撃を全て受けきって尚、耐え切れるとしたら。
『スペック差』にかまけて「風」は回避を怠り、接近することもできるだろう。

「風」はその攻撃で仕留めきれると考えているのだから。
躱す必要がない。故に、回避はない。

(だがそれは耐久力あっての話だ……!ベレッタにそんな、夢のスペックは“ない”……!!)

大仲の額に汗が滲む。
あまりに愚に走った行動に不安が募るのは必然。
しかしそれも一瞬。すぐに鈴原の、アホで、バカな行動の数々を思い出し、動揺は収まった。

「フ……今更だな。あいつはバカだ。超のつくバカだ。
 それにこの程度の障害を小細工で勝ったところで、底が知れるだけだな」

ならば正面からぶつかるべきだ。真ん前から敵を打ち砕くべきだ。

「たかだが『この程度』で行く道退いてられるかぁぁあああああぁぁぁあああぁぁああぁああああぁぁあぁッッ!!!」

ただ前へ突き進むベレッタは「風」と対峙した。


【ベレッタ、正面から突っ込む。体のいい的なんで遠慮なくズタズタにしてあげてください】

235 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/07/17(日) 05:18:49.03 0
(角を曲がり、攻撃を避けて羽で殺す、曲がって…来る!!どこだ!来い!こ…へ?)
角を曲がった「風」は、一瞬呆けた
(は?直進?直進だと!?と…飛び道具じゃ無いのか?)
予想との全くの違い
最悪スペシウム辺りを通路一杯にぶっ放してくるかもしれないと覚悟を決めて飛び出せば、相手のしている事は単なる前進、体当たり
(……いける!距離は十分ある!)
べレッタと風の距離は5m
パワードスーツの速度で踏み込まれても目測で1秒
十分に羽はハイメタルボーガー辺りの装甲も貫通できるだけ命中する

(くら……待て!)

そこで「風」の脳裏にある疑念がよぎり、あわててべレッタとの距離を取る
自分が今まで走っていた廊下の端まで加速して一気に逃げ、べレッタとの距離を1秒かからず移動し、距離を10mまで伸ばした
目測で2秒はこれでべレッタは風の元に来るまで時間がかかる

(奴が近距離兵器を切り札にしているのならば…何故、俺との距離をあんなに作っていた…。廊下の角ですぐ待ち伏せていればよかったはず…)

それをやると、気配で風がべレッタに気づく
だからこそ、あえて待ち伏せに気づかれないように攻撃を喰らう覚悟で距離を取っていた
それが正しいのだろう
しかし、しかしだ
今までの風の…エレメントの攻撃力を前にして、「攻撃を喰らう覚悟」を持てるという事は、何かしろの防御策があるという事を意味する
その可能性が、風の心に一抹の不安をよぎらせた
が、風はその時、その可能性を、心の中で断固として否定する
(ありえん!仮に何らかの防御策があっても、「公僕のパワードスーツ」の防御策如き、俺の能力でぶち破ってみせる!!「地」と同等の硬度の盾でも出ない限りは俺の攻撃は装甲では防ぎきれん!いける!いけるのだ!
えぇいこんな事で恐れをなしてどうする!俺は新世界を「作り出す」者だぞ!!こんな所で…!!)
ここまで、コンマ数秒
風は改めて覚悟を決め、廊下の端から再度突っ込んでくるべレッタに狙いを定める

(喰らえ!!)

風の手から放たれた風手裏剣が、空気の連続爆発に乗って、べレッタに神速で襲い掛かる
黒い鉄の嵐、死の風、触れた物を跡形も無くズタズタに切り刻む羽の嵐
それを投げる風の手さばきは、恐らくクロックアップしていても高速で見えるだろう
改造人間の筋力をフル活用した必殺の技
それでいて狙いも正確
べレッタの持つ冷凍された頭には一枚の羽も当らないように計算されつくされて投げられている

「べレッタの実力」では、恐らく次の瞬間には、何だかわからない肉と金属の塊と、べレッタと鈴原だった物の下半身、そして冷凍された頭だけが残るだろう…
これで恐らく、勝負は決まった…結果はどうあれ

236 :名無しになりきれ:2011/07/19(火) 15:43:29.03 0
タイガー&バニー

237 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/19(火) 22:41:34.42 0
慎重を期した「風」の対応を見て、鈴原は依然前進を辞めず。
距離は離されたが、それは時間の問題でしかない。

「風」のかまいたちのような鋭い殺気がベレッタへ向いた。
肌が粟立つ。額に汗が滲む。

(どんな攻撃だろうと……真ん前から打ち砕く!)

元より躱すという選択肢はない。
正面から全て受け止める、そんな捨て鉢になったような覚悟だ。

「風」の手が“消えた”瞬間。神速の刃が空を裂いて暴風雨のごとく舞った。
死の嵐は紙のような脆弱な装甲を貫き、鈴原の手へ腕へ腹へ胸へ肩へ頬へ頭へ。
筆舌に尽くし難い雷のような痛みが、熱が体中で駆け巡って暴動を始める。

「お゛お゛お゛ お お゛ おお゛お゛  お゛ おおおおおおおお゛お゛お゛!おお゛ おぉぉお!」

されど前進はやめず。咆哮。無心の叫び。その姿は剣山。針山。不沈艦。
徐々に距離を詰めていくベレッタに「風」は攻撃の手を緩めることなく。
続く嵐の夜に鈴原は前進をやめることなく。

「風」は精神を。鈴原は体力を消耗し続ける、文字通りの死闘。
ただ時間はいつも有限だ。勝負はお互いの間に在る距離の長さだけ、刹那的瞬間でしかない。
さりとて両者の思考の時間は、その一瞬の時を薄く引き伸ばしたように長く。

「お お おおおおおお おおおおおおおお お  お   お      お    ぉ    」

ゆえに、「風」も気付くだろう。
刺さった羽の数が、投げた羽の数よりも目に見えて少ないということを。
そして、投げた羽の数十本が虹色の発光を伴って“分解”されていくのを。
そして……ベレッタの足取りが少しずつ、しかし確実に重く遅くなっていくことを。

予想通り一瞬で憎き敵を肉片へすることは叶わないが、攻撃は確かに効くのだ、と。

「う………おお……ああぁ……ぐっ……あっ……!!」

遂には悲痛な叫び、慟哭が狂想曲のように響く。
残り2メートル。目と鼻の長さでありながら、その手は空を切るだけで。
鈴原の胸中に言いようもないもどかしさだけが残った。足を動かそうと朦朧とした意識の戸を叩く。

動け。動けよ。お前、俺の脚だろ。動けよ。動いてくれ。今まであんだけ動いてくれたじゃないか。
これっきりってことがあるかよ。後、少しで届くんだよ。俺はまだ何一つ果たせていないじゃないか。

「負け……ら…………れ」

剣山と化した無惨なヒーローは、遂に力尽きて。
左手から傾国党首の頭を地へ落とし。突き出した右腕がだらりと下へ。

穿たれた装甲の隙間から垂れる血がだらしなく床へ流れるばかりで。
「風」に肉薄し、立ったまま。重心を前へ傾倒したまま。

鈴原悠馬が再び動き出す気配はなかった。
告げるは、警察の敗北。

238 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/19(火) 22:44:29.82 0
ずっと待っていた。
現場の人間は、ただ顔を伏して待ち望んでいた。

『警察が、ヒーローと同等以上に戦える日』を。

増え続ける殉職者、しかしその死人の数に見合わない結果。
誰一人守れないかも知れない、どれだけ非力だろうといつだって警官は強大なヴィランに立ち向かう。
それが無駄死にだと知って。ヒーローが来るまでの噛ませ犬でしかないと知っていても。

そんな皆の、ただ自分以外の誰かを守りたいって意志を持った皆の分を背負ってるんだ。
だからどれだけボロボロになったって、立ち上がれる。戦える。対決できる。
          . . . . .
そんな、最高のヒーロー達と共に戦う鈴原が、この程度で敗れるはずがない。

周囲の動揺の走る中、大仲に焦燥はない。
それは鈴原との会話の中で腹を据えたのもあったが、何より確信していたから。

(ヒーローは最後に必ず逆転勝利を収める……それがお約束だ。なら、お前が起こせない道理はない!)






「能……力………の゛………差……じゃぁ……な゛い…………!」

今にも消え入りそうな声。ほんの少しで崩れてしまいそうな、か細い声を搾り出す。
屍と化していたベレッタの左腕が幽鬼の如く動き「風」の腕を掴んだ。

握力はベレッタの能力で出せる数値を遥に越え、むしろ離すものかと力は一層強く。
やがて垂れた頭が少しずつ起き上がり、双眸が「風」を捉えた。

「鎧の……『中身』だ………ッ!!」

砕けた仮面の左側から鈴原の顔が覗く。
血だらけで、傷だらけで、今にも死にそうで。だがその目に燃える意志は一層爛々と。

「一撃必殺のガントレット…………」

抵抗するだろう「風」を逃がさぬようその腕を掴んだまま、ゆっくりと右腕を構える。
装甲が展開し、肘部分から円筒上のパーツを薬莢のように排出。

「さあ見せてやる………!これがぁぁっ!これこそがっっ!!」

左足を一歩踏み出し、体幹を捻り、右腕をふりかぶる。
浅く息を吐き意志を推進力に変えて。

「俺と皆の、輝きだああぁぁあああぁぁぁああぁぁああぁぁああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

必殺の拳から、翡翠の発光を伴った衝撃波が「風」の鳩尾へ放たれた。



【「風」の攻撃食らって五体満足←これ伏線ね】
【「風」の腕を掴んで拘束しつつ鳩尾へサドンインパクトもどき】

239 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/07/22(金) 22:03:53.74 0
(倒れない…何故?)
勝利を確信して放った死の嵐
だが、だがべレッタは倒れない
いや、倒れるとか以前に、ミキサーに突っ込んだひき肉が如く原型を留めなくなるはずの物が、未だ原型を留め、なおかつ自らに向かってきている
その事態に、風は息を呑む

(迂闊だった…)

羽を連打しながら、コンマ数秒間の間に、風は自らの慢心を呪った
そうだ、確かに、確かにべレッタだけであれば…べレッタの装着者が例えば宙野なら…あるいは天堂寺だったなら
単なる一流の戦士だったのであれば、風は勝利していただろう
しかし、しかしべレッタは倒れない

(…こいつも…こいつも我々と同じ……パワードスーツをつけた異能者なのか!)

汗が額ににじむ

(負ける……いや!だからどうした!!どうせ来るべき時が来れば他の…水あたりとも戦わなければならんのだ!こんな奴に!こんな奴につまづけるか!!)

風の心に一瞬の迷いが生じた
が、風はすぐそれを振り払う
振り払って投げる
投げる!投げる!力の限り

そして…

240 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/07/22(金) 22:15:12.85 0
「はぁ……はぁ……」
床に這い蹲るべレッタを見下ろしながら、風は荒く呼吸する

(勝った…)

最早腕は痺れて動かず羽手裏剣は生成できず、風の爆発も起こせない
力を使い果たした
しかし、勝った
勝ったのだ

(ふ…はははははは、はっはっは!ははははははははは
何だ…何て事は無い…ただのヒーローと大差ないじゃないか…
ははは!そりゃそうだ!そうさ!たかが公僕、ろくな政策も立てられず、まともに国を動かせてない烏合の衆の作った物
俺達が…俺が負けるわけが無い!)

達成感…淡い達成感が心に浮かび、一瞬、風の心が揺らいだ

その時

「能……力………の゛………差……じゃぁ……な゛い…………!」

「ひっ!?」

思わず、声が出た
立ったのだ
改造人間でも倒れそうな数の羽を受けたはずのべレッタが、立ち上がってきたのだ
思わず後ずさりかけたその腕を、べレッタはガシっと鷲づかみにする

そして、べレッタの腕が不気味に展開された…

「…ふざけるな」

拳を構えるべレッタ
とても先ほどまで死に掛けていた人間の動きではない

「おいふざけるな!!」

拳が翡翠色の光を放ち…

「俺は新世界を……!!」

直後、風の胴体に巨大な穴が空けられた
風のパワードスーツは悪魔でクロックアップシステムがメイン
防御力はさほどの物ではなかったのだ

正体不明の組織エレメント
その二人目の中核が砕け散った瞬間だった

241 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/07/22(金) 22:24:14.54 0
対ヴィラン対策本部が、現場が
勝利の報告に歓声に包まれる
勝ったのだ
強大な力を持つパワードスーツヴィランに、今、警察が…公的組織が勝利したのだ
今までヴィランに、異能者達に苦しめられていた者達の、無念と我慢が声になり、それが集まって大歓声となる

しかし、勝利の歓声を上げているのは、単に警察官とその関係者だけだった


「お母さん、テレビ変な番組しかやってないよ」
「まーたヴィランが何かやったのね、全く、詰まんない事してくれるわ」
「はいはい、ヒーローが勝ちましたねっと、わかったからXXX見せろ」
「何?まだあの変な番組やってたの?」
海藤の手で放映されていた戦闘の中継
それを見る市民達の目は皆退屈…もしくは汚い物を見るような目ばかりだった
彼等にとって正義は…いやヒーローなど勝って当然の物であり
また、今戦っている相手が如何に強大な存在か、この勝利がどれだけ大きなものか
理解するには余りにも予備知識が足りず、また、その光景は余りにも見慣れた地味な物だった

ああ、まぁた異能者が何かやってるよ

今回の事件の市民達の見解
それは大体その程度の物である



戦いに勝利したべレッタがふと振り返ると、つい先ほどまでその辺に転がしておいたはずの物が消失していた
そう、例の冷凍された頭部である
更に屋上に止めてあったヘリが騒ぎに紛れて発進し、どこかへと飛び去っていく
「…任務完了」
ヘリを操縦しつつ、日沼はぼそりと呟いた

242 :名無しになりきれ:2011/07/22(金) 22:56:15.26 O



243 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/25(月) 12:35:23.15 0
対強化装甲服エネルギー衝撃腕砲。

リアクター・コアやスペシウムを搭載していないベレッタが唯一、強力なヴィランと対抗しうる必殺兵器。
極限まで圧縮したエネルギーをカートリッジ式にして装填する故に三発という弾数制限があるものの。

───その威力、まさに一撃必殺。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………! 国を傾ける暇があったら、働け無職(ヴィラン)……!!」

「風」の腹部を貫いた拳を残った力で引き抜く。
最早その機能を失った仮面を脱ぎ捨て、鈴原は力尽きたように壁にもたれ込んだ。


※    ※    ※


「………今度こそ私の仕事は終わりだな。やれやれだ、性分は曲げるべきではないな」

アタッシュケースの中に丁寧に保管されたCUシステムの一つを天堂寺に見せると、海藤は翻った。
元よりヴィラン。使命を全うした以上、これ以上敵と付き合う義理もない。
当然、今回の報酬であるCUシステムの内一つはしっかりと懐に収まっている。

「この一歩は小さいが……警察にとっては偉大な一歩だ。いいじゃないか、アポロ11号みたいで」

担架で病院へ搬送される鈴原に一瞥くれて海藤はすぐさま二の句を継ぐ。
私にとっちゃ厄介なヒーローが増えただけだがな、と。

「では、紳士淑女の諸君。ショウの時間にまた会おう」

持っていた樫のステッキを軽く振ると、その身を数百の蝙蝠に変え海藤は去った。


「……残った「風」の残骸回収は警察が致します。
 あれほど高性能なパワードスーツですから、分析すれば何か発見があるかも知れない。
 当然分析班だけでは対応しきれませんから追々不知火や天堂寺工業にも解析を頼むでしょうが」

天堂寺やモニター越しの武中にそれぞれ一礼し、大仲は事後処理の話を始める。

この一件、一枚岩でない公算が高い。
高度な改造技術・高性能パワードスーツの開発。ビル内に敷設されていた謎の工場……
あれだけの設備を独力で用意するのは不可能なはずだ。
そして海藤曰く主任は『エレメント』という謎の単語を口走っていたらしい。

以上から推察するに、傾国党は傀儡に過ぎないか、支援を行っていた組織が絡んでるはずなのだ。

(……つつけばまだまだ出てきそうだが……私達の想像以上に掴んだ尻尾は大きいかも知れん)

大仲はそこで思考を打ち切り、気持ちを切り替えた。

(ま………今は警察の勝利を祝うべきだな。)

兎にも角にも、警察は勝った。
ベレッタは半壊し装着者は重症。だが挙げたのだ確かに。大金星を。

覚束ない足取りだが確かに踏み出した。ヒーローとしての一歩を………!


【推察の類はただの大仲の想像なので無視して下さい】
【次から新章突入という解釈でよろしいのでしょうか?】

244 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/07/26(火) 00:47:36.45 0
【ありがとうございました!!お疲れ様です!!
スレを壊滅に導いてしまった愚か者におつきあいいただいて真にありがとうございました
色々不足な所もフォローしていただけて、凄く書きやすかったです、ありがとうございます

で、質問の答えですが、今回で風編が終わりなので、次回から新章でいいと思います、はい
次章はエレメントが起こす事件パートから始めていいですかね?】

245 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/26(火) 11:02:14.58 0
【宙野さん本当にお疲れ様でした。
こちらは何度も待たせた挙句、キャラ変更も快諾して頂いて頭が上がらないくらいですw
これからも何かしでかすやも知れませんが、何卒よろしくお願いします!

事件パートからでもちオーケーですよー!
ただやんごとなき事情で少し、返レスが遅れるやも知れません】

246 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/07/27(水) 01:35:06.96 0
【ごめんなさい、俺も急用入りました
来週の金曜くらいまでスタート待ってもらっていいっすかね?すいません】

247 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/07/27(水) 11:04:33.35 0
【了解しまうま!】

248 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/08/06(土) 00:29:57.80 0
【大変長らくお待たせ致しました、では第5部、スタートします!】

不知火重工地下対ヴィラン部隊本部

薄暗い会議室内にはプロジェクターの光が灯り、会議室の机には大勢の人間が座っている
やがて、プロジェクターの横に立つ男性が、会議室内の対ヴィラン部隊や警察関係者達に向かって話しだした
「ではこれより、現時点で判明している「エレメント」並びに、「風」の調査結果を発表します」
男の言葉と共にいくつかの悪の組織、テロ組織の名前がプロジェクターに映し出された

「まず「エレメント」とは「風」が本来所属してると思われる組織の事を指しており
ここに書かれている組織は「エレメント」の「風」が戦力として派遣されていたと思われる組織です
「風」は弱小な悪の組織に傭兵として侵入し、組織を肥大させた後、組織を殲滅して技術や資金を強奪する立場にいたようです
これらの組織は「風」か、その配下の怪人によって全て完膚なきまでに消滅しており、探せば他にもいくつかこういった組織はあるようで、これが全てではありません
又、数日中に警察やヒーローの手で壊滅させられた組織にも「風」がいた形跡があり、「エレメント」の名前が残されていた物もありましたが
「風」以外のエレメントのパワードスーツヴィランらしき名前や記述は一切発見できず
これらの事から、現在確認されているもう一体の活動中のパワードスーツヴィランと、市庁舎を襲撃したパワードスーツヴィランは何か別の任務についていたと思われます
尚、「エレメント」と言う組織については、規模も、目的も、目下のところこれ以上の事はわかっておりません
しかし複数の組織を単独で殲滅できる程の戦力を有している事は間違い無く、今後とも調査を続けていく所存です」

次に映し出されるのは、「風」…だった風化した金属と肉の塊だ

「現在の「風」の姿です
輸送車から取り出した際、冷凍していたにもかかわらず、このような状態になっていた事から、死亡後にこうなるよう何らかの処置がなされていた物と思われます
以前のパワードスーツヴィランの様に爆発しなかったのは、おそらく「風」が重要な機密物資などを輸送する立場にあって死んだ際に機密物の消失を防ぐための物と思われ
これらの事から、「風」は組織のトップではなく、悪魔で一員でしかない事が伺えます
尚、肉体もパワードスーツも最早完全にミイラや古代の部品と化しており、復元、解析は現代の科学技術では不可能である事が先日判明しており
現在死体は冷凍保存状態で、更なる研究機器の開発を待っている状況です」

プロジェクタの灯が消え、室内が明るくなった

「徹底した秘密主義と隠蔽……手ごわい組織だな…」
説明を聞き終えた武中は、腕を組みなおしながらボソリと呟いた
それに続いて、横の早田が同席している大仲の方を向いて尋ねる
「それで、大仲君、べレッタ及び装着者の容態と、今後のエレメントへの対応を教えてくれ」
「不知火重工はそちらの方針に従って、技術、並びに兵器を開発、提供していくつもりだ」

249 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/08/13(土) 20:46:09.50 0
傾国党との戦いを終え、幾日が経過した。
普通のヒーローならばまたいつもの日常に戻るのだろうが警察ならその限りではない。
職業である以上公僕ヒーローの休暇など、ない。


「うっ……突如偏頭痛が………!黒崎君後は頼んだ……!」

小奇麗なデスクの上で、青年はわざとっぽく頭を押さえた。
顔は端整だがどことなくあどけなさが残っており、怪我をしたのか包帯が巻かれている。

「そんな三文芝居やってないで早く書類片付けて下さいよ。時間の無駄ですよ」

巨漢は眉を寄せながら青年を、否、病み上がりの鈴原をやんわり叱責する。
黒崎と呼ばれる男は主にヘリコプターや特設車両の運転を行っており、異捜課の「足」とでも言う存在だった。

課長の大仲、鈴原、黒崎。異捜課はまだ生まれたばかりの部署であるが故にその課員もまだ少ない。
余談だが警察の対ヴィラン部隊はいわゆる『機動隊』の一つなので完全に別部署だ。
特性上共同作戦に当たることも多いが、異捜課は名称通り刑事染みた捜査も業務の一貫としている。

「……もうお昼ですね。ああ、鈴原さんは仕事があるんで僕が買ってきますよ」

その巨体とごつい顔に似合わぬ物静かな口調に鈴原はいつもギャップで笑いそうになる。
しかし今回はノルマを達成しないと休めそうにないので笑う余裕などない。

「カレーライスとコーヒー!!」

頭を掻き毟りながら、些か荒い語気で注文をつけた。


※    ※    ※


不知火重工の地下に存在するヴィラン対策本部の会議室。
大仲はその一角に腰を下ろし、眉を寄せながらプロジェクターを睨みつけた。
後の調査などで明確に分かったのはエレメントという組織名、その存在のみだった。
徹底した秘密主義に大仲やその他関係者は一様に苦虫を噛み潰したような顔をする。

>「それで、大仲君、べレッタ及び装着者の容態と、今後のエレメントへの対応を教えてくれ」
>「不知火重工はそちらの方針に従って、技術、並びに兵器を開発、提供していくつもりだ」

「ええ……ベレッタの修理は既に完了し、装着者も思ったより軽症だったらしく良好です。
 今日から業務に復帰しいつでも出動可能な状態となっています」

掛けられた声に大仲は一瞬逡巡した。
鈴原の容態は誰がどう見ても重症で、こんな短期間でほぼ完治するのは“おかしい”のだ。
しかしここでその事について言及しても余計な波紋を呼ぶだけだ。
鈴原が何も言わない以上詮索をするべきではないし、現状その必要もない。

「今後は通常業務に戻りつつ、過去の犯罪や組織を洗い直しエレメント等の調査も続行する予定です。
 『網』にひっかからない限りこちらから攻勢を仕掛けるのは不可能ですから………」

資料を何枚か捲りつつ、大仲は二の句を継いだ。
今のところエレメントに対してこちらは何もできないのだから、
警察は警察で地道に調査を続けながら平常運転で行くしかないだろう。


【遅れて申し訳ございません】

250 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/08/13(土) 23:03:34.17 0
どこかの施設…

光沢を放つ石の様な、金属の様な物質で作られた部屋
スポットライトの様な強い光に灯されたテニスコート程の広さをもつそこは、エレメントの「最終防衛線」である
入口から入ってすぐに向かいに見える頑強そうな扉の向こうにある物を守る最後にして最強の砦であるそこに、「奴等」は集っていた
見上げるような巨漢、不気味なフード姿、異様な雰囲気の黒コート、そしてTシャツ姿の平凡な青年…
そう、彼等こそが、秘密結社エレメント、その最高意思決定者であるパワードスーツヴィラン達である
何故会議室などではなく、最終防衛線に集まるのか、と言うと、一人、最終防衛線を離れない意思決定者が存在するからだ
「皆、集まってくれてありがとう」
ボイスチェンジャーを使っているのだろう、嫌に高い声で、フード姿が一同を見回しながら言った
「今回皆に集ってもらった理由は…わかるよね?」
「誰が今度は「動く側」につくか、だろう?」
「地、一人だけが「動く側」じゃ心許ないからね」
手振りを交えながら明るい調子で言うフードに、黒コートが鼻を鳴らしていらだった調子でいい、Tシャツが続く
「何もせずに「新世界」にはいけないって事だな、はっ」
対し、「地」…巨漢は嬉しげである
「で、誰が動く側になる?水か?それとも雷か?」
「……金が行くべきだろう」
「金にやってもらいたいね、是非」
黒コート、フードの順に視線を向けて言った地に、二人は声を揃えてそういって、Tシャツに視線を向けた
しかし、Tシャツは笑顔で首を振る
「僕は駄目だよ、駄目駄目駄目〜、それは「ルール違反」〜」
「……だろうね」
「…」
大人しく引き下がるフード
しかし黒コートは一瞬苛立ちの表情を見せると、次の瞬間、Tシャツ姿…「金」の顔面目掛け、鋭い拳を放った
黒コートも改造人間か、あるいは拳に異能を使っているかしているのだろう、コンクリートブロック程度ならば軽く粉砕できる勢いで放たれた拳は、しかし、「金」に片手で受け止められてしまう
「はい八つ当たり駄目〜」
変わらぬ調子で拳を握りつけてくる金に、黒コートは歯軋りしながら手を下ろした
いつの間にか、背後に立っていた地が、黒コートの背中に指を突きつけている
「そうそう、八つ当たりは駄目〜」
「金」と同じく楽しげに言う「地」に、黒コートがブチ切れかけた、その時

「じゃ僕がなるよ、動く側に」

フードが相変わらずの高い声で、一同を制した

「いいのか?「雷」」
「何か「水」が外行くと全部台無しにしそうな気がするもん…、「金」が駄目何だからそうなると消去法で僕になるでしょ」
ころっともとの調子になる「水」に、ため息をつきながら「雷」が言った
「じゃあ、決まりだな…」
「動く側」が決まった途端、「水」はさっさと出口へと消えていく
「…バカでさえ無けりゃ最前線に送りたいんだがな…、あいつこそ動く側にふさわしいっつーのに」
「バカじゃなきゃ使えないよ、逆にさ…」
次いで、「地」と「雷」も又、出口へと消えた

一人、部屋に「金」だけがぽつんと残ったままの状態で、部屋の照明が消えた
真っ暗闇の中、壁にもたれかかるでもなく、座るでもなく、「金」はじっと、無言でそこに立ち続ける
…秘密結社エレメントが結成されたその瞬間から、彼がこの部屋から出た事等無い
そして、「金」がこの部屋を出た時
その時…世界は消滅するのだ

251 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/08/13(土) 23:51:57.96 0
「さて…どうしたもんか…」
深夜の街を見下ろす山の上
そこに立つのは「地」と「雷」
既に「地」は例のパワードスーツを身にまとっているが、「雷」は相変わらずのフード姿である
「とりあえず暴れるしか無いんじゃない?君の場合はさ」
「お前は?」
「僕はほら、「道具」集めって大事な仕事があるじゃない」
「ふっ、それじゃやってる事が「作る側」の時と変わんねぇじゃえねか」
言って、「雷」の肩をぽんっと叩く「地」

次の瞬間、超高熱のプラズマが「地」の体を吹き飛ばした

「汚い手で俺に触るんじゃねエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
一転して荒々しい声で叫びながら、「雷」は近くの木を蹴って空に舞い上がり、空中から「地」目掛けてフードの中からプラズマを連射する
激しい熱線に、周囲の木がプラズマの炎が当っているわけではないにもかかわらず次々と発火していき、「地」の周辺は真っ白い発光で何も見えない

やがて荒い息をした「雷」は攻撃の手を止めた
周囲は既に山火事の様な有様になり、「地」の居た場所はクレーターの様になっている
「はぁ…はぁ…に…二度と突然触ってくるんじゃねぇぞ!わかったな!」
そう言ってクレーターの中心を指差す「雷」
その言葉に、ボコりとクレーターの中心が盛り上がり、中からパワードスーツの表層が多少焦げている「地」が姿を現し
そして数万度のプラズマ攻撃を受け、しかし、平然と、多少怒気を含んだ調子で、「わかったよ、はっ」などと応える

やがて少し怒っただけで百メートル四方を焼き払った「雷」はどこかへ姿を消し、残った「地」は、ため息一つ、再び地中へと潜っていく
「…とりあえず、あれか…新しくできた警察の部隊でも潰してみるか」
「とりあえず」で自分達に対抗すべく国家が作り出した組織に狙いを定めた「地」は、早速行動を開始する

「風」や「炎」が撃破されたにも関わらず、そして天堂寺と海藤に一度逃げられたにもかかわらず「地」がこれ程に余裕がある理由は二つある

一つは己の能力に敵う存在は、想像する事が困難である事
そしてもう一つは自分が攻める側である事だ

「風」の様にアジトを攻撃されたのであれば、限られた手段で戦力不明の敵と戦わなければならず、確かに不利である
対し、自分は今戦力のはっきりしている相手をこちら側から攻撃するのだ
それに何より、警察側は「地」の襲撃など予期できていない
仮に何らかの防衛力を配置していたとして、それは精々一般のヴィランに対してだ
自衛隊の機甲師団の一個中隊を単身で壊滅させられるパワードスーツヴィランに対して有効な防護策など準備できているはずが無い
更に警察のパワードスーツも所詮はパワードスーツ
「着る前」に攻撃してしまえば単なる鉄の塊である
アイアンジョーカーの様にそこら中にスーツが配備されていているならば兎も角、あって精々2着、発見さえ迅速にできれば余裕で無力化可能だ

―――――――

「…もしもし、もしもーし!…おかしいな、電話が通じない…」
「何だ?通じなくなったぞ」
警察署内の通信室
山中で起こった不信な発光現象に関する通報や通常の通報に応じていた警察署の電話が一斉に通じなくなり
次いで、何かが倒れる音がして外を見ると、電線が数本、根元が折れて転倒し、所内への送電が断ち切られている
更に地下から破砕音が聞こえ、所内の証明が全て消えた
「て…敵だ!ヴィランの襲撃だ!」
誰かの声がした
非常ベルが鳴り、深夜の警察署内に銃声が響き始める

「さて…一働きさせてもらおうか」
迎え撃つ警官隊の銃撃を物ともせず、悠々と発電設備を破壊した「地」は警察署地下を闊歩する
「べレッタ」の保管されている場所は幸いにしてまだわかっていないが、時間の問題だろう

252 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/08/13(土) 23:53:27.50 0
【地、べレッタを破壊すべく深夜の警察署を襲撃
夜なので当然視界は暗い】

253 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/08/17(水) 23:48:30.14 0
突然の強襲に混乱状態へ陥った警察は最早機能せず、ただ蹂躙されるがままだった。
深夜であるゆえに指示を出す人間が不在していたのもあるだろう。
本来ならばこのまま「地」にベレッタを発見され壊されていたはずだ。

「ヴィランが警察を直接襲うなんて、そんな大胆なことをよくするな……」

地下へと続く階段を急ぎ足で駆け抜けながら鈴原は独り言を零す。
幸いなことに装着者は、残業をしていたところそのまま眠ってしまい警察署に居残っていた。
ゆえに非常警戒のベルを聞きつけこうして息を乱しながら地下へ全力疾走する次第だ。

(無事だった人に避難誘導を頼んでおいたけど、大丈夫かな………)

どうしても腑に落ちない。
何故わざわざヴィランは警察を強襲する必要があったのか、と。
確かにそういう事例もないことはない。
しかし警視庁ほど巨大でもない上に警察などヴィランからすれば取るに足らない存在ではないか。
大仲がいれば的確な判断や推測を下してくれるのだろうが、生憎今は脳筋な自分しかいない。

「まあいいや、早くベレッタを取りに行かないと……!」

本来ならば異捜課内に置いてあるベレッタは修理に出されていた関係で今は地下の開発部にあった。
生身の状態で敵ヴィランとバッティングなどしてしまったらそれこそ大惨事だ。


※    ※    ※


静寂だけが支配する警察署地下。
通路の空間は広めで、発電施設が破壊されたお陰で灯りは一つとなく薄暗い闇だけが支配していた。
悠然と、不敵に歩いていた「地」は視るだろう。奥の扉が開き人影が現れるのを。
確固たる信念を瞳に宿し、国家公務員はヴィランと対峙した。

「穏やかじゃなさそうだな。一体どうしたって、こんな夜に行動しなくたっていいだろうに」

鈴原は眼前のパワードスーツ・ヴィラン──「地」に対し、愚痴のように吐き捨てた。
依然薄暗いが注視してみれば足元には白い鞄が置かれている。
アタッシュケースより一回りほど大きく鉄のような材質で、見るからに頑強さを備えていた。

「夜は夢を見る時間だ。─────装着ッッ!!」

白い鞄を蹴り、鞄が開くのに伴い装甲が展開、一瞬の内に「鞄」は「鎧」へと変化する。
現れるは公僕ヒーロー・ベレッタ。機械の双眸から発する淡い緑の発光が通路を照らす。

それが指し示す結果とは、とどのつまり偶然ながらもタッチの差で間に合ったということだ。

「さあて、所属目的その他諸々を洗いざらい吐いて貰いますかぁっ!」

腰から大型拳銃ファブリカを抜き放ち敵へ3度発砲。
ヴィランの姿をはっきり捕えることは不可能だが、位置を掴む事はそう困難ではない。


【ベレッタ登場。「地」へ問答無用の発砲】
【鈴原はまだ「地」がエレメントであることや目的を知りません】

254 :名無しになりきれ:2011/08/18(木) 17:37:02.95 O
TRPGは心と精神と霊魂の癒しの休息ですよねー。

255 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/08/19(金) 12:48:18.21 0
「ありゃ、しまったな、着られちまった」
至ってノンキな調子で地はそう言うと、ぽりぽり頭をかく

余裕…全くの余裕だ

更にべレッタが発砲したにも関わらず、地は避けるどころか防ごうとすらしない
当然、直撃する弾丸
しかし、弾丸はパワードスーツの装甲に阻まれ、ガンなどと鈍い音を立てて跳ね返され、壁に天井にめり込んだ

「まぁ、割かし面倒な仕事なわけだし…」

言って、「地」は片手を大きく振りかぶった

「一発で、終わりにさせてもらう」

次の瞬間、べレッタの体にジャンボジェット機が突っ込み、側面の壁に体を叩きつけた
正確には地が一気に間合いをつめてべレッタを思いっきりぶん殴っただけなのだが、その破壊力は上記の通りである
べレッタがぶつかった壁はクレーターの様にへこみ、衝撃で天井が崩れ、べレッタと地を埋めて行く

「はい、お仕舞い」

もうもうと立つ煙の中から「地」の声がして、次の瞬間気配が消えた
どうやら一撃でべレッタを撃破したと確信したらしい
特に生死も確かめず帰るつもりのようだ

256 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/08/21(日) 22:09:14.51 0
(なッ………あいつリアクティブアーマーでもつけてんのか!?)

ファブリカから撃ち出した銃弾は対パワードスーツ用の特製弾丸。
それを傷一つつけるどころかまるでスーパーボールかのように弾くのだ。
敵の圧倒的防御力に鈴原は漫才じゃないか、と舌を巻く。

>「まぁ、割かし面倒な仕事なわけだし…」

超然とした様子で独り言を呟く敵パワードスーツに鈴原の顔が歪む。

「ヘヘっ、悪いねヘボパイロットで」

中二心がくすぐられたのか自分も(キリッとした様子で負けじと『っぽいセリフ』を吐き捨てる。
鈴原はご満悦だが通信機の向こう側に大仲がいたならば間違いなく溜息を零していただろう。

>「一発で、終わりにさせてもらう」

「え」

敵方が言葉を発した瞬間、捻じ切れるような痛みが身体を刺す。
気が付けば壁に叩きつけられ、そのパワーのまえに圧されていた。
あまりの衝撃に天井が崩れ一階の様相が視界の端に映る。
決して油断をしていたわけではない。「風」ほどではないにせよ敵はかなりのスピードを有しているのだ。

「あがっ…………っ!…………!!」

例えるならば、まさに歯車的小宇宙。
ブラックバードが成層圏ギリギリから突っ込んできたような壊滅的破壊力。
このようなオーバースペックを発揮するヴィランは今のところ一つしか思い当たらない。

「………『エレメント』、か? 一体何の目的で………!」

瓦礫の山を押し退けてベレッタは覚束ない足取りで立ち上がる。
咄嗟に腕でガードしたのと鈴原自身の頑丈さが相まって、なんとか死ぬ事はなく。
しかし両腕の装甲は無残に凹みその原型を留めていない。

ベレッタは戦車砲の直撃に耐えうるメタルボーガーを基準に開発されている。
超展性複合チタン合金製の装甲を容易く歪ませるほどの威力は推して知るべしだろう。

(実力差が“ありすぎる”………様子見なんてしてられない………くそっ!)

使用するは“右腕”の現在使用できる最大の武器。
弾数には3発の制限があるが、まだ初発。ここで出し惜しみすればこちらがやられる。

「一撃必殺の、ガントレットぉぉおおおぉぉぉおおぉぉおぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!!!」

凹んだ右腕部装甲が展開し、一気に間合いを詰め突き出した拳から光の奔流が放出される。
直進する光線が薄暗い警察署地下を照らした。

不意打ちだの卑怯だの格好良くフェミニストぶる余裕はなかった。
鈴原はそれほどまでに「地」に対して底知れない能力差を感じていたのだから。



【返り討ちフラグ。異捜課だろ、公僕ヒーローだろッ……!】

257 :◇NuW.dKu6ngI9:2011/08/26(金) 19:43:57.11 0
不意打ちで放たれた光の拳
それはまっすぐに地を捉え、凄まじい炸裂音が響き渡り、地の体が後方によろめき…

…それだけ、だった

ノーダメージの風を一撃で葬った必殺の拳
それは、地の纏う鎧に、1ミリのゆがみも、ヒビも、いや傷すらもつけられていない
突然後ろから押されてびっくりしてよろめいた
ただそれだけ…

異常な、極めて異常な防御力を誇るエレメントの怪人は、ゆっくりと鈴原へ振り返る

「まだ、生きていたか」

そう言って、地はおもむろに手を振りかぶり…

次の瞬間、吹き飛ばされたべレッタは廊下の端まで飛び、そこにあった壁をぶち破って中の部屋…留置場の壁にぶち当たり、そこに再びクレーターを作る

力押しでは絶対に勝てる相手ではない
一度引くか、さもなければこの場で何らかの打開策を練るか…

…実は打開策を見出せないわけでもない
地はべレッタに対して素早い一撃を見舞った後、何故か短い時間動きが極端に遅くなっていた
しかし、それは同時に、攻撃を受けたべレッタが回復し、視界が戻るまでにはほぼ回復してしまっている
鈴原に今の所気づける要因は無い


【地ってチートじゃねえか!と思われたら攻略のヒント出します
実は能力的な相性を使えば案外簡単にやっつける事が出来たりできなかったり…】


258 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/08/28(日) 23:42:51.97 0
翡翠の燐光を纏いし拳が、「地」の頑強な鎧へ着弾する。

「───やったか……?」

しかし、敵は未だ健在。

埃一つつけることなくしかし鈴原の誇りはガラスのように容易く砕け散る。
ただ不意打ちであったから「驚いて」よろめいただけ。
不沈艦……最強の城壁。切り札というカードを切って尚、開いている差は埋まらない。

>「まだ、生きていたか」

鉛のような重い一撃が再びベレッタを叩きつける。
衝撃は装甲で吸収し切れず鈴原の脳を揺らす。
木の葉のようにぶっ飛んだ鉄の塊が、廊下の壁をぶち破って留置所にミニサイズのクレーターを生み出した。

(いてぇっ………“必殺技”が効かない……!?そんなのありかよ………!)

常人ならまず挽き肉と化しているであろう一撃。
幸い異常なほど頑丈さが取り得の鈴原だけあって死ぬ事はない。

(どうする……!?一旦撤退するか………?)

口の中に広がる鉄錆のような、独特の血の味に思わず顔を顰める。口の中を切ったのだろう。
いくら頑強といえどダメージが全くないわけではない。
「地」の攻撃は確実に鈴原を傷つけ、体力を削ぎ、確実に追い込んでいた。
このまま順調に戦闘が経過すれば生殺しにされる未来予想図が現実のものになるだろう。
加えて敵は今のところ最も強力な攻撃が通用しない。勇気と無謀は違うのだ。退くこともまた勇気。

「へっ……へへへ……嫌だね。逃げる方向に進むのだけは絶対にごめんだ……!」

しかしそれでも。目の前のヴィランから逃げることは自身の『信念』に反する。
まだ戦う力があるのに諦めるなんてできるはずがない。できるわけがない。
鈴原悠馬、戦略上逃げたことはあるが戦闘そのものを放棄したことは決してない。

「なあ、そう思うだろアンタもッッッ!!!」

背部の推進剤を噴かして加速、接敵。
右拳で一発。足りないなら左で。もう一発。もう一発。もう一発。もう一発。
反撃など考慮に入れぬがむしゃらの攻撃。体裁など関係ない。格好良さなど微塵もない。

「ぬるい……アンタの攻撃は、甘くて温い……!そんなんじゃ俺は倒せない………!
 ……なんかさ、どんだけ雑魚扱いされても、どんだけ弱くても、やっぱ負けられないのさ……!」

ただの鉄拳。「地」に通じる道理はない。
しかし何もしないよりは良い。何もせず思考停止しているよりはずっと善い。

「意地があるんだよ、『ヒーロー』にはッッ!!!」

低い姿勢からの足払い。もし態勢を崩せばそのままマウントポジションでタコ殴りだろう。



【動きが遅くなることに気付かずとりあえずゴリ押し】
【ヒントを……ヒントを脳筋にください……】

259 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/08/29(月) 04:36:09.86 0
「ちっ…えぇいイライラする、どれだけ殴りつければいいんだ…」
叩き潰しても弾き飛ばして向かってくる鈴原に、地は思わず苛立ちの声をあげる
無論、べレッタの攻撃を地は避けようとはしない
腕をだらりと垂らし、顔面に、腹に、胸に、ただ呆然と攻撃を喰らう
すぐにでも反撃してやろうかとも思ったが
「今はまだ」その時ではない
…確実に、かつ、「安全に」べレッタを地が倒すには、攻撃はある程度の間隔を置かねばならないからだ

故に、今は耐える、ただ、耐える
攻撃自体のダメージは無い
だが、他に耐える物がある
それは…苛立ち

地は時間に余裕があるわけではなかった
ここは街の中心部
余り時間をかければ厄介な能力を持っているヒーローが寄ってくるかも知れない
何が来ても負けるつもりは無いが、新世界に行くという大きな野望達成のために、地はできる事ならば万全を期すつもりだった

だからこそ、あの時、勝つ自信があったにも関わらず、天堂寺の持つ才能に万一の事態を考え、地は傾国党を見捨てたのである

その「完璧な安定」が、今、崩れようとしている

(こんな何でもない雑魚に構っている時間が惜しい…。時間が…)

苛立ち、苛立ち、苛立ち、「確実に安全に反撃できる時」までの時間のわずらわしさがどんどん増す
そして、鈴原の次の言葉が、その苛立ちに拍車をかける
>「ぬるい……アンタの攻撃は、甘くて温い……!そんなんじゃ俺は倒せない………!
>……なんかさ、どんだけ雑魚扱いされても、どんだけ弱くても、やっぱ負けられないのさ……!」

(ぬるい?…ぬるい、だと?)

一撃も有効打を与えられない分際で…
自分が本気で、「多少の危険を顧みない攻撃」を放てばどうしようもなくなる存在の分際で…

(…殺す、この程度を相手に危険などありえようハズは無い!)

そして地の中で何かがキレた
彼もまた「風」の様に、切れてしまった
それは曲りなりに新世界を目指す者にあるまじき行為…
そして何より、彼等が新世界を目指すにふさわしくない者である事の証

地の手が鈴原に伸び、その両腕を捕まえんとする
しかし、その速度は大した事は無い

故に、外れた

外れて…、次の瞬間、地の視点が天地逆転する
(…しまった)
「地」はあっさりと転倒した
コンクリートを砂のように砕き、戦車砲に耐えるパワードスーツを簡単に歪ませ、強力な鉄拳攻撃に無傷で耐える怪人が
あっさりと、ごくあっさりと脚を取られて転倒したのだ
いや、もちろん、常人が脚払いを放ったのであれば、地の巨体とパワードスーツの重量のために転倒などさせられなかっただろう
だがパワードスーツを着ている鈴原には、それがあっさりとできたのだ
勿論相手が抵抗し踏ん張れば、ここで見せた地の力ならば鈴原の脚払いなど軽く耐えただろう
だが地は何故かそれに耐えられなかった
勿論、鎧は無傷であり、地にはダメージらしい物は見えない
しかし転倒はしたのだ

地の能力を探るヒントがあらわになったが、しかし、今はそれどころではない
地は不様にすっ転び、攻撃の大きなチャンスである

260 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/08/29(月) 20:37:02.55 0
「悪いね。足元がお留守だったんで、つい!」

面白いほど簡単に転倒した「地」にベレッタは飛び掛る。
ほとんど倒れればラッキー程度に放ったものだったが、これほど容易く成功するとは予想外だった。

「これならどうだぁぁぁあ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁあぁああ゛ぁぁっっ!!」

顔面へ飛び交う鉄拳の嵐。集中砲火。
左腕で首根っこを押さえて右で「地」の顔面を殴る。殴る。殴りぬける。

「どうした!一発で終わらせるんじゃなかったのか!?今の状況把握できてるかよッッ!!!」

恥も外聞も捨て去った生々しくみっともない喧嘩のような戦い。
ヒーロー、それも警察がマウントポジションで敵をひたすら殴ることなどまずないだろう。
それどころか卑怯だのヒーローとは思えないだの罵られるかも知れない。
しかし今の鈴原にはそのような戦い方しかできなかった。

(ああそうさ……死ぬかもしれない戦いで、手段もクソもあるかッッ!!)

そりゃ見てくれは格好良い戦い方のいいに決まってるだろう。鈴原だってそっちの方が好きだ。
だが本当に必死で戦うときは。何かを守るときは。
格好良さなど微塵もない、凄惨な戦いになるのが必然なのだ。

(……こいつに弱点とかないのか……?つってもそんなの敵が教えてくれるわけないし……!)

鈴原は頭が悪いのでこうしてとにかく殴り続けるくらいしか策がなかった。
敵の行動に何かヒントがあるかも知れないが、そこから反撃の糸口が掴めるかは怪しい。

(怪しい点なんて、さっきから反撃もしないでただサンドバック状態なぐらいで……)

そして苦し紛れの足払いがあっさり成功したくらいだろうか。
一番おかしい点と言えばやはり不気味なまでの防御に偏重した戦闘スタイル。
いくら頑丈といえど殴られっぱなしなのはいい気はしないだろう。

(……殴り合い、っつーか接近戦ができない?……いやちょっち違うな、当たらずとも遠からずっつーか……)

ああもう面倒くせえ。
鈴原はそこで思考を打ち切って敵を攻撃することに集中。
まだ少し推理にはピースが足りない気がした。というか頭を使う作業は苦手なだけなのだが。
なのでこのことは後回しにしておこうという結論。

「殴られっぱなしでいるなら遠慮はしない!してる暇も……ない!」

右腕の装甲が展開し肘部分から排莢。
二度目の必殺兵器の使用、相違点は頭部を狙っているということだろう。
他の部位よりも顔面の方が多少のダメージを見込めるという判断からだ。
たらればで脳震盪くらい起こしてくれるかもしれない。
頭というのは言うまでもなくそれほど重要な器官の塊なのだ。

「弐撃減殺のガントレットぉぉおおおおぉぉぉおぉおおお!!!」

光を伴った重い鉄拳が顔面めがけて放たれる。



【タコ殴りにしながら整理】
【おまけにもう一つ光パンチ。技名が違うのは鈴原の趣味】

261 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/09/01(木) 02:33:58.15 0
二発目のガントレットが地の体に炸裂する
地の頭は地面にめり込み、床のコンクリートは砕けちり…

べレッタのガンとレットによる衝撃が収まったにも関わらず、地の体は沈下を続けた

異変に気づいた鈴原が飛びのくよりも先に地の両腕がのび、べレッタの体を横から押さえつけた
握り潰されないまでも凄まじいパワーであり、身じろぎする事すらできない

(……握り潰してあっさり殺すのは惜しいよな…)
腹の上に乗せたべレッタの胴を両手で鷲づかみにしながら地面に背中から沈みつつ、地は考え始める

ガントレットを喰らったにも関わらず、相変わらず受けた装甲に傷も歪みも見られない
又、その思考をいささかも焦らせる程の事は未だに起きていないようだ

そして、地は両手が自由なままのべレッタの胴をきつく掴んだまま、沈む
既に地の体は警察署の地下の土の中に消え、そこから伸びた手がべレッタの胴をつかみ、べレッタを膝からずぶずぶとまるで底無し沼に引き釣り込むかのように地面に沈めていく

「……暗黒の世界で窒息死してくれ。絶対に助けなんか現れないようにマントル層まで連れてってやる」
地面の中から地の声が聞こえた
言葉通り、このままべレッタを地底深くへと連れて行くつもりなのだろう
そうなれば、最早助かる術は無い
本当にマントル層なんぞに連れて行かれれば、掘り出す術など存在しないのだ

自由なのは両手のみ、両足は地の両手の拘束を外さなければ、膝立ちの姿勢で胴を押さえられているため使う事は出来ない
地の体は既に地面に消え、現れているのはべレッタの胴を掴む両手のみ、その力は「べレッタのもがく力」では外せない程度
地の両手は全て例の装甲に覆われ「装甲は」べレッタの攻撃にダメージを負う事は無い
狙えそうな関節部も「ミスリル状の装甲」で覆われているため、「例えば間接の動く範囲以上にも曲げる事」はできそうだが「装甲を打ち抜いてダメージを与える事」はできないだろう
ミスリルの隙間を狙うという手も考えられないでも無いかもしれないが、注射針の様な細い武器が必要である
熱線で攻めるという手もあるが、スペシウムに耐えたという話しから、ミスリルの隙間も耐熱処置は万全の物になっているのだろう

【以上が弱点に関する説明です
俺の文章は下手なのでそのせいでわからなかったら言ってください】

262 : ◆TazPdPu8KY :2011/09/01(木) 19:46:21.30 0
自分の理解力がゴミすぎたので避難所にて質問させて頂きました
これも乾巧って奴のせいなんだ……すいません、解説よろしくオナシャス

263 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/02(金) 22:16:03.10 0
(………なんだ、様子が………?)

コンクリートを砕いて地面に減り込んだ頭部が、ゆっくりと沈下を続ける。
動物的本能で飛び退こうとするが一手遅い。
「地」の両腕がベレッタの胴体を掴み、ゆっくりとベレッタ自身が地面へと沈みはじめたのだ。

>「……暗黒の世界で窒息死してくれ。絶対に助けなんか現れないようにマントル層まで連れてってやる」

「あれだけ殴ってノーダメージかよ……つーか俺、閉所恐怖症なんだよな………」

軽口を叩きながらも鈴原の内心は焦燥感に包まれていた。
「地」の身体は地面の中へ完全に消え、その両腕だけが眼前に在る状態。
がっちりホールドされ拘束も解けそうになく鈴原はそのまま沈むしかない。

(やべえ………このままじゃ本当に窒息死だ………!!)

現在ある武装は対強化装甲服用弾、冷凍弾に切り札の指向性エネルギー波(ガントレット)のみ。
使用していないのは冷凍弾のみだがこれはまず使う機会がないだろう。

(万策尽きたか……どうする……俺は、どうやってこの『壁』を打ち砕く……!?)

少しずつ底なし沼に嵌っていく感覚の中鈴原は抵抗を続けるが、やはり振り解くのは不可能だった。
絶体絶命の窮地。真っ直ぐ進み続けることしか脳のない男の限界。
今日日馬鹿では自分のことすら守れない。そのことが鈴原はただ悔しかった。

「……と考えているだろう。頭がパーだからな、お前は」

通信機から声。声の主は。

「ゲェーーーーーッッッ大仲課長!?」

鈴原は絶句した。今は深夜で、皆寝てる時間だぞ。
いくら警報が鳴ってたとは言え早すぎじゃないか。

「………もしかして大人の夜だったのに、この一件で邪魔しちゃいました?」

「違う。過去の事件や組織とエレメントの関係性を自宅で調べてたんだ。成果はなかったがな」

とにかくと大仲は咳払いを一つして真面目な声で鈴原に語りかける。
鈴原が「地」を引き付けていたお陰で助かった警官が救助要請をしたこと。
不知火の対ヴィラン部隊が向かっていること。
しかし到着にはもう少しの時間を要すること。
ベレッタの内蔵カメラを通じてPCから状況把握を出来ているということ。

「ベレッタ……いや、アイアンメイデンでさえも奴の装甲を打ち破るのは困難だろう。
 だが完璧など存在しない。ならば、勝利することも可能だ………上手くいけば、だがな」

大仲の言う通り耐衝撃性、耐熱性に優れすぎる「地」の装甲にも、『機械の鎧』である限り穴はある。

全てのパワードスーツ共通の弱点として『関節』が挙げられる。
関節部は装甲と装甲が干渉しないように設計されているため必然的に脆く薄い。
と言っても動き回る敵の関節を射撃で狙う、針穴に糸を通すような作業は通常困難だ。
近接戦闘においては更に難易度が跳ね上がりどちらにしろ高度な技術が必要となってくる。
ゆえにほとんどの場合狙われることはないのだが、今はその限りではない。

264 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/02(金) 22:24:57.20 0
「なるほど関節ですか……オッケー刻みました!」

大仲の言葉を聞き早速大型拳銃で関節部を狙うが、ベレッタは腕を止める。

「───駄目です課長……!関節も装甲で覆われてる!これじゃ攻撃が……」

「なら、折れ!」

こともなげにあっさり言う大仲に鈴原は思わず目を丸くする。
ふと下を見れば下半身は完全に地面の中へどっぷり浸かっていた。
折れって。単純な力じゃ勝てねえだろ。

「道はこれしか残されていない。ならやるしかないだろう?鈴原」

監視カメラの記録とベレッタの内蔵カメラ、鈴原の証言を合わせると「地」には2つ特徴を挙げられる。

1.敵は攻撃を繰り出した後、必ず数秒間動きが鈍る
2.苦し紛れの足払いを“強力なパワー”を持つ敵が耐えもせず食らった

そこから導き出される推測。
攻撃や移動能力で長時間高出力を保てないのではないか。
防御以外は短距離走のソレのような、短い間でしか強力な力を発揮できないのではないか。
だとしたら。

(……と、言っても俺は科学者でも天才でもない。これは、素人の憶測だ。)

そう。これは確証もない、ただの憶測。
天堂寺のような天才でもなければ敵のロジックを見破るのは不可能に近い。
もちろん中年のおっさんと脳筋馬鹿で理解するなど愚の骨頂。
とどのつまりこれは、“賭け(ギャンブル)”だ。

ただ仮にこの考えが正しいとすれば。あるいは近しい理由ならば。
「地」はベレッタを地面に沈めなければならないため、長時間一定出力を維持する必要がある。
ゆえに今までの短距離走のような刹那的高出力を発揮できない。

「ここまできたら運命の女神と課長を信じます!反撃決殺の……………」

今までは前方にエネルギーを打ち出し、攻撃していたが今回は逆。
展開した腕の後方からエネルギーを噴出させ推進剤のように使用、加速。
右腕を弾丸の如く発射し、パワー不足を補う倍プッシュ。

「風」が空気の爆発を利用して加速していたのと同じように。

「ガントレットぉぉおおおおおぉぉぉぉッッッ!!!」

ベレッタの胴体を掴む「地」の左腕をベレッタの両腕が掴み。
関節が曲がらないであろう方向へ全力で力を入れ。
右腕が加速し、さらに『折る』力は増大。
「地」の腕を叩き折ってこの場を脱出すべく全身全霊を賭ける!



【能力推測は間違ってると思うので正解よろしくお願いします……orz】
【これ以上は自分では思い浮かびません、限界です。許してください】
【アクション自体に影響はない……と思います】

265 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/09/03(土) 12:23:44.45 0
エレメント怪人、「地」
他のエレメント怪人…パワードスーツヴィランと同じく3つ
パワードスーツによる超硬度の防御力
異能による地底潜行…及びある程度の厚さのある物質の完全粉砕能力
そして改造手術による超筋力…

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

響き渡る「地」の悲鳴
先ほどまでべレッタを掴んでいた右腕はぼっきりと圧し折れ、あらぬ方向を向いている
改造手術による超筋力
それは「強烈な筋力は短時間しか発揮できず、かつ出した筋力が強烈な程にその後筋力が大幅に弛緩してしまう」大きな隙を作り出す物
しかしその隙を、地はパワードスーツの高防御力で補っていた
完璧な防御力があれば、いかに筋が弛緩し全く力がでず、素早い行動も強烈な攻撃も出せずとも、次に筋力が発揮できるまで耐えることが出来る
だが、当然、人の強烈なパワードスーツにも弱点があった
それが関節部だ
強烈な筋力を自在に発揮するには、自在に動く関節面が必要だった
しかし、自在に動く関節面は、他の部位と異なり完璧な防御力を発揮する事は難しい
対し、関節の動きをある程度諦めれば、関節技に関しても無敵の防御力を発揮できる
攻撃の自由度か、防御力か…

…地はここで考える
己の装甲を簡単に突破できる武器を持つエレメント怪人がたった一人存在する事を
そして、いつかそいつとも必ず戦わねばならない日が来る事を

装甲が役に立たない相手がいるのだから、そいつの攻撃はかわさなければならない
ならば、ある程度防御力は落としても、動きの自由度を作らねばならない…
当然、普通の相手に関節を折られる危険性は出てくるが、それはもう気をつけるしかない
どんな敵にも負ける可能性ができたのだから、どんな敵も侮る事は出来ない……

そして、地は今ここでべレッタを侮った
べレッタにならば中途半端な力でも力負けする事は絶対にないと侮った
そして、負けたのだ

「憶えていろ……俺は必ずまた現れる……必ずなぁ!!」
ずずずと地の両手は地面の中に消え、復讐を誓う呪いの言葉と共に地の気配は完全に消滅した
逃げたのである

266 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/03(土) 19:44:15.43 0
防御力においては他の追随を許さないだろう、「地」の敗因。
それは絶対的『強者』故の慢心。

地底深くに沈める暇があったなら「地」は間違いなくベレッタの首を折れたはずだ。
しかしそれを敢えてせず、敵に恐怖を与えて殺す手段を選んだ。

それは他ならぬ慢心があったということ。
雑魚如きならいたぶっても大丈夫だろうと。
見下していたからに他ならないのだ。

「見下してんじゃねぇええええええぇぇえええええぇぇえええーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

指向性エネルギー波を後方に噴射することによる加速。
ベレッタの力を更にプラスして、「地」に見せ付ける。

これが

雑魚の、雑魚達の

───意地だ!

骨折による痛みが「地」を襲う。
針金のような痛みがプライドと身体を蝕むだろう。
堪えかねた「地」の絶叫が響く。
ベレッタはその隙をみて推進機を点火、埋まった地面から脱出を果たした。

>「憶えていろ……俺は必ずまた現れる……必ずなぁ!!」

床から突き出た両腕がゆっくりと地面の中へと消えていく。
これから到着するだろう『邪魔者』達のことを考慮に入れれば撤退するのが自然だろう。
弱点が露呈し、右腕が使えない状態では流石の「地」でも分が悪いからだ。

「はぁ……はぁ……今回も……ギリギリでしたね……逃がしちゃいましたけど………!」

装着を解除し、その場に大の字になって倒れこむ鈴原。
額には大量の汗が流れ息も絶え絶えだ。

(………二回。偶然や幸運でなんとか勝ってきた。……しかし、敵はあまりにも強大だ。)

「風」戦は海藤がCUシステムを奪ってくれたお陰で能力が半減していた。
だから、なんとか勝利をモノにできたのだ。
そして「地」は、読みが当たっていなければ死んでいた。
油断し、読みが正解に近かったからこそ、撃退までこぎつけることができた。

そう、どれも偶然の結果にすぎない。
そして敵はベレッタを危険因子と判断し、再び攻勢を仕掛けてくる可能性もあるだろう。

「ベレッタの強化プランに戦力の増強……
 ……やることは腐るほどありそうだな。……鈴原」

鞄形態となったベレッタの通信機から、大仲の声が響く。

「はい。なんすか」

「……隠し事、話したくなったらいつでも話せよ」

「…………はい」


【後日に飛んで続きって解釈でよかとですか?】

267 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/09/06(火) 11:35:36.57 0
どこかの廃墟…
そこに、「地」と、白衣を着た研究者の様な女がいた
「完治まで…推定1週間…」
「1週間か…そん位なら問題ないな」
鎧を取り、椅子に座って折れた腕の診断を任せていた女の言葉に、地が嬉しげに言う
ちなみに、常人ならば一番治りの早い鎖骨でも3週間以上かかり、上腕骨は整復や固定を含めるとその倍近い時間を必要とする
「では治療します」
「おう、頼む」
女の髪の毛がわさわさと触手の様に動き、地の手の中に皮膚を破って侵入した
あらかじめ麻酔がかけてあるため、地は平然としており、腕の中で触手が骨を整復し、損傷した筋をつなげていく様子を黙って見つめている

「どもっす」
「仕事をいただけるらしいっすね」
ふと、廃墟の天井から声が降ってきた
見上げると、そこには天井からぶら下がる黒装束の男達の姿がある
「応、来たか。街のぼんくらヒーロー共何ざどうでもいい、ヴィランに対抗できる組織っつーのが作られると後々面倒な事になるっつー話しは前したよな?」
「はい」
「またその芽が出始めやがった。ちょいと行って、摘んできてくれや。警察のパワードスーツ、コレを完膚なきまでにぶっ壊して装着者をいたぶり殺すだけでいい」
「はい」
「装着者は恐ろしくタフだ、気をつけろ。まぁ…それ以外に気をつける所は無い、行け」
「はい」
返事と共に、黒装束たちは闇に消える
「…まぁ、これで片づいた…かな?」
黒装束の出撃を見送った地は、ぼそりと一人で呟いた

268 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/09/06(火) 11:39:40.39 0
>>266
とりあえず翌日に話を進めといて下さい

269 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/11(日) 16:01:58.20 0
【警視庁 会議室】

数日前、某市街の警察署が謎のパワードスーツ・ヴィランに襲撃された。
幸い同警察署に居合わせた装着者がベレッタで応戦、敵はダメージを負うと撤退した。
正体不明のパワードスーツはエレメントであるという見解が不知火や天堂寺、警察側で一致している。

「……では、大仲君。こういうことかね。
 最早ベレッタ単機ではどうにもならない状況下にあると……そういうことかね」

警察上層部の一人が重苦しい表情で呟く。
重厚な扉で守られた会議室。
敷き詰められた絨毯の上にある中央の巨大テーブルを挟んで大仲と幹部が顔を会わせ、睨み合う。
大仲は淡々とした様子で言葉を返した。

「そういうことです。“エレメント”のパワードスーツヴィラン一体で
 アイアンメイデンと釣り合いが取れる……いや、おそらくそれ以上です」

おまけに敵は公的権力にも構わず『攻め入って』くる大胆不敵な連中ですと付け加えた。

「だからベレッタを強化しろと…………そういうことか!?
 量産パワードスーツ開発案にメタトルーパーの配備要請!血税を湯水のように使いたがるな!」

重苦しい表情の幹部の横に座る強面の男が、鼻息を荒くし、捲くし立てるように喋る。
そのせいか自然と語気も荒い。

「早急に“警察自身”を強化しなければ潰されますよ、組織そのものがね。
 まさかヒーローに頼るわけにもいかんでしょう。一般人に尻拭いさせるとでも?」

メタトルーパーを揃え、パワードスーツの量産配備。
それが実現してこそ現場の警官達の悲願は完成し、ようやく有象無象のヴィランを取り締まれる。

そしてブラックダイヤによって倍以上に膨れ上がった異能者による犯罪と、
ヴィランを“殲滅”ではなく“取り締まる”という政治的意向もある以上
時間はかかるが警察上層部も今までのように無力なままでは治安の維持が困難であると判断を下したのだ。

ゆえに『ヴィランはヒーローや特殊企業に任せ警察は逮捕だけすればよい』
という今までの方針を変え不知火にも頼らず独自にベレッタを開発したというわけである。
そこには警察のいわゆる象徴、マスコット的意味合いや名誉回復もあるが。

ただ、警察内には未だヒーローに任せてもいいとする者や目先の利権に目が眩みその足を引っ張る者もいる。
政治家とてそれは同じであり、加えて今の警察の方針は金がかかるのだ。
圧力をかけてヴィランに対抗する戦力配備をさせないといったことも起こっている。

しかしこのままでは警察の存在そのものが危うい。
敵の規模が不明な上、攻め入られればひとたまりもない。
求められるのは『エレメント』を迎え撃てるだけの即戦力。

「そのようなつもりはない。………まったくあの街は次から次へと問題を運んできてくれる……!」

涼しい顔の大仲を睨むように強面の男は目を細めた。

(……『国家』に牙を剥く組織が多数いるにも関わらず
 未だ利権だのなんだのとくだらない理由で争うとはな……)

大仲には理解し難かった。いや、したくもない。

270 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/11(日) 16:04:00.33 0
警察署が正体不明のヴィランに襲撃され翌日。
空は見事なまでの曇天で、事件があったにも関わらず異捜課は平常運転だった。

「……最悪だよ。寝てないんだよ俺。医療検査で肋骨にもヒビが入ってるって医者に言われてさ」

「逮捕もできませんでしたね」

「いってえ、ボディブロー食らった気分だ………」

特設車両内。運転席には黒崎、助手席には鈴原がそれぞれ腰を下ろしていた。
異捜課の仕事は何もデスクワークと犯罪者逮捕だけではなく街のパトロールも行う。
恐ろしく激務だがこれも人数が少ない弊害なのだろう。たぶん。

「……はぁ、今のままじゃ勝つのは難しいのかな………」

「ベレッタのスペックじゃエレメント怪人相手にはキツいですからね。
 というか、あんな高性能パワードスーツを所持してるヴィランは見た事ないですし」

強力なヴィランは大抵異能者か改造人間で、
莫大なコストのかかるパワードスーツを所持したヴィランは滅多に居ない。
悪の組織だってもっと安価で強力な改造人間が造れるのだからそちらの方が良いに決まっている。

「まあ、ベレッタの強化プランもあるみたいですし。上からゴーサインが出ればなんとかなりますよ」

瞬間鈴原の目の色が変わる。具体的にいうと爛々とし始めた。

「マジで!?ひょーー!!!ってあれ、俺今ベレッタ持ってる………」

「そりゃ既存のもの改造してたらその間仕事に差し支えますから……って」

赤信号と共に車両を停車させ、鈴原の顔を指差す。

「口から血……出てますけど」

確かに、口から紅い液体が一筋流れていた。
鈴原も流石に慌てたのか目を白黒させた後、急いでそれをごしごしとハンカチで拭う。

「いやーマイパワードスーツが強くなると考えると嬉しくてつい!ふはははははっっ!!はは!」

(何言ってんだろこの人………)

異捜課、課長不在のまま特設車両で市街を走る。
数々の問題と敵を抱えながらともかく一日は始まった。


【お待たせしました】

271 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/09/15(木) 04:56:11.28 0
天堂寺工業、応接室で、天堂寺と武中が向かい合って座っている
その間におかれているのは、先日の「地」とべレッタとの交戦記録だ

「人間力、と言う物なのだろうかな」

不意に、武中が口を開いた

「ハイメタルボーガーよりも数段能力の劣るパワードスーツで、あのヴィランを撤退まで追い込んだ…
これはもう、そうとしか言い切れんだろうに」
「宙野景一にはそれが無かったと?」

そういう天堂寺の目は鋭い
もしここで武中が頷けば、天堂寺は武中を殴るつもりでいた
頷く事は、即ち、文字通り命懸けで彼に従った宙野への冒涜だからだ
しかし、幸いにして武中は首を横に振る

「違う…。宙野は無い、彼があるとかそんな話ではない。ある無いではない、高い低いの物だ」
「……」
「そして、宙野は高かった。文句無いほどに…。しかし…」
「…終わった事を今話すべきじゃない」

唐突に、天堂寺は話を打ち切る
武中の「弱音」に付き合えるほど、今の彼等には余裕は無かった
「敵」が行動を起こしたというのに、今自分達には具体的な対抗策が存在していない
早急に「地」の攻略法を確立し、次の戦いに備えなければ、次は危ういだろう

これについては、おっつけ警察の上層部に行っている大仲を交え、本格的な対策会議を行うつもりだ
警察の新装備、べレッタの現状と、不知火の対ヴィラン部隊、天堂寺の所有する私設部隊の明確な戦力値を割り出し、そこから「地」への対抗策を見出す
シンプルな内容だが、重要な会議だ
できればトリッシュや市長にも出席願いたいところだったが、現在どちらも別件で超多忙…そう、ウィリアムへの対応でエレメント所ではない

「……そうだな、よし、現在わかっている「地」の能力と、我々の戦力をもう一度確認しよう」
「うむ」

そう言って二人が資料を開き始めかけた、その時だった
本部内の非常サイレンが鳴り響き、スピーカーから事件を告げるアナウンスが鳴り響く!

『ポイントXXXにて保育施設ジャック事件発生!!犯人は複数!全て改造人間!警察より協力要請、入りました!』

サイレンの時点で立ち上がっていた二人は、指揮車へ走りながら頷きあう
すぐに片付けるぞ、と
そうだ、確かに今の現状で、どこの馬の骨ともわからぬ雑魚に時間をくっている暇は無い
早急に片付けて「地」への対策を…
と思った彼等は、次の瞬間、耳を疑った

『犯人グループは「エレメント」を名乗っており、現在の所要求は不明!繰り返す…』

2人は息を呑んだ
奴等だ
奴等が先に仕掛けてきたのだ
しかも今度はしっかり「名乗って」いる

これは明らかな自分達への挑戦だ…

272 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/09/15(木) 05:18:24.43 0
響き渡る悲鳴、誰かの悲鳴、野次馬に退避を呼びかける警官の声

その中へ、「ソレ」は投げ込まれた

悲鳴は爆発的な物へと代わり、パニックになった野次馬は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げていく
腰を抜かした規制線を張る警官達は、投げ込まれたそれを直視したまま、恐怖で固まってしまっていた

かつて幾多の改造人間、異能者を葬ってきた街きって異能の槍使いのヒーロー
空間を自在にワープする剣の達人のヒーロー
特殊合金に近い体を持ち、ドリルの拳で悪を倒してきたヒーロー
影に入り込み、移動する能力を持つヒーロー

直ちに駆けつけ、エレメントに挑んだベテランのヒーロー達
そのヒーロー達の生首が、警官達の前に無残にごろりと転がっていた

あっという間に、街のヒーローを事も無げに撃破した怪人は、腰を抜かしている警官から無線をむしりとり、話し始める
「諸君、我々は34名の幼い命の行く末を預かっている。既に保育関係者は皆殺しにした
そして我々は5分ごとに一人、彼彼女等の一人から手の指を一本づつ、削いでいく
5×34名で170分たって指が尽きたら、我々は次は皮を削ぐ、皮が尽きたら目玉を抉る
我々は殺さずに削ぐ方法を熟知している、彼彼女等は我々が削ぐ事によって死ぬ事は出来ない
目が尽きたら今度は別の臓器を適当に決めて削ぎ、児童が全滅するまで我々は子供の体を削ぎ続ける
諸君等が我々を止める術は無い、我々から諸君等に要求する事もない
我々の声明は以上だ」
そう言って、怪人は無線機を警官へ戻すと、スタスタと保育施設へと戻ってしまう

わけがわからない、文字通り常軌を逸した犯行
まるで「悪行」こそが目的であるようなソレは、子供達の悲鳴と共に、平和な何でもない真昼のある日に突然発生した
しかし、これはこの街では「よくある事」
そろそろ強豪レベルのヒーローが駆けつけ、事件を解決する頃である

腰を抜かす警官達の後ろから、トレンチコートを着て、薄笑いを浮かべた男が進んできた
その男の姿に、警官達の目に光が戻る
誰もが知っているレベルの強豪ヒーローが到着したのだ!!
そう、ここは「街」
強力なヒーローは五万といる!
如何にエレメントが強力な組織といえども、こうも表立ってこんな事件を起こせば、それらが力づくで叩き潰しに来るのだ!!



五分後、最初の子供の悲鳴が響き、再び警官達の下にヒーローの生首が投げ放たれてきた

【保育施設襲撃事件発生!!応戦したヒーロー全滅】

273 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/17(土) 11:07:04.52 0
「異捜課ですッッ!現状を簡潔に報告して下さい、確認次第ただちに突入を……」

事件発生につき警邏中だった特設車両が速やかに駆けつけ。
鈴原が鉄の鞄と共に現れた頃には、既に保育関係者と幾人ものヒーロー……
そして、一人の子供の指が切り落とされていた。

鈴原は場数を踏んだベテランヒーロー達の生首を見、身体を硬直させるしかなかった。
運転席から遅れて飛び出した巨漢・黒崎もその凄惨な光景に思わず顔を歪ませる。

「……ヴィランは『エレメント』を名乗り保育施設に立て篭もっています。
 目的は一切明かさず5分につき子供の指を切り落とすと………実力も相当です」

規制線の外でただ呆然と無線機を握り締めていた警官の一人が、声を震わせながら呟く。
悪の為に悪を為す……そういう常軌を逸したのヴィランは職務上何度も見てきた。
鈴原はもちろん、この場にいる警察官一同もそれは同じだ。
ただ一つの相違点は今まで見たどの狂人ヴィランよりも強い、ということに尽きる。

「……これって罠の可能性も………」

敵はわざわざエレメントを名乗り要求も一切せずただ残虐な行動に走っている。
つまりヒーロー……いや公的機関に対する挑戦状なのではないか。
つい先日に襲撃事件があったばかりなだけに黒崎にはそう思わざるをえなかった。

「………ふざけるなよ」

土気色の物言わぬ生首達を見つめ、鈴原は拳を強く握り締める。
怒気を孕んだ目で鞄を見据え握った拳で白い装甲を纏う。

「ヒーローも対ヴィラン部隊も一切施設に突入させないで下さい。
 これ以上犠牲者は必要ありません。俺一人で……なんとかします」

冷たい声で短く用件を伝えるとベレッタは跳躍し、保育施設へ。
いくら状況が切羽詰っているとはいえ大仲の到着と指示を待たず勝手に突入して良いのだろうか。
そこらの判断は黒崎には判りかねたが、とにかく今は自分の職務を全うすべきと頭を切り替えた。

「……とりあえず、この場は異捜課に任せてもらいます。先の指示通りに動いて下さい
 ベレッタは……あーいや鈴原さんは身体が超合金製みたいなもんですから大丈夫です」

それよりと言わんばかりにちらと投げ捨てられた生首達。
間違いなく自分達と同じ信念を秘めていただろうヒーロー達を見つめ、黒崎は何も言わず敬礼した。

「………ヒーローの首、いや遺体は手厚く回収してください。胴は……施設内ですか。
 流石に野次馬が来ることはないと思いますが……精神衛生上よくないでしょうから……」


※     ※     ※


「うおおおおおーーーーーーッッ!!エレメントぉぉぉおおおおぉぉぉおおおおーーーーーッッッ!!!!!」

怒声と共に扉を白き鋼の足で蹴り砕き、ベレッタは施設内へと突入した。
人を殺す事に躊躇のない敵エレメントに鈴原の許容量はとうの昔に超えている。

その怒りを足として拳として鈴原は往く。
子供達を救うために。
散ったヒーローの無念を継ぐために。
仕事以上に、自身の信念に基づいて鈴原はただ往く。


【保育施設へ派手に突入!鈴原怒り心頭】

274 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/09/17(土) 13:02:47.07 0
>「うおおおおおーーーーーーッッ!!エレメントぉぉぉおおおおぉぉぉおおおおーーーーーッッッ!!!!!」

「はぁい」

怒り心頭、保育施設内に突入し、鈴原
それに応えるように間の抜けた声がして、同時に何もいなかったはずの目の前の廊下の奥から鈴原の首目掛け凄まじい速度で薄い円盤の様な物が飛んできた
同時に胴体目掛け、玄関入って左の運動場から数本の太い針が高速で飛んでくる

玄関にはこの十字砲火戦法で殺されたのだろう、胴体に数本の針が突き刺さった槍使いのヒーローの死体が転がっていた


――――――――――


「あの…さっきの方、大丈夫なんですかね?」
おずおずといった調子で、一人の警官が黒崎に話しかける
「いや、実力云々で無くて、その…」
ばさばさと一枚の紙を取りだす警官
「保育施設の間取り、頭に入ってるのかなぁ…って。いや、もう戻れないとは思いますが…」
「それは大丈夫だろ、そこまで入り組んだ施設で無いし、第一一階建てでほぼ一本道だし」
「まぁ、そうですよね…あ、この間取り、使ってください」

警官の広げた間取りを見ると、警官の同僚が言うとおり、さして入り組んだ施設ではない事がわかる
入口、玄関から入って、左に運動場への廊下、前に教室へ続く廊下、右にはトイレ
運動場はそんなに広くなく、入って見回せば死角になる所は無いし、外にしか繋がっていない
正面の廊下を歩いていくと、右に幼児、年少、年中、年長、職員室の順に教室が並び、それぞれが外に面している
又、廊下の突き当りには何も無い
ただ、天井は高く、3m程度の高さがあり、上からの奇襲攻撃時は十分に考えられそうだ

275 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/18(日) 12:46:28.92 0
特設車両内から通信機を持ち出し、ベレッタといつでも交信できるようにしたところで。
警官の男が一人黒崎に何か言いたげな表情をしていたの察し、そちらに顔を向く。
黒崎が二メートルをゆうに超える巨漢なせいか警官はおずおずと言った調子だ。

>「保育施設の間取り、頭に入ってるのかなぁ…って。いや、もう戻れないとは思いますが…」

ああ、なるほど。と黒崎は呟き、保育施設にちらと意識を移した。
見たところ一階建てで広さもそこそこありそうだ。
確かに入り組んでいた場合敵の奇襲も十分考えられるかも知れない。

その後警官と警官の同僚と二・三言葉を交わした後間取りを受け取って黒崎はそれを一度確認する。
本来ならば現場指揮を担当する大仲の仕事だが生憎未だ到着していない。

(鈴原さん、頭に血がのぼってそうだったな……判断力鈍ってなきゃいいんだけど)


※     ※     ※


間の抜けた声と共に飛来したのは円盤状の物体。
同時に運動場側からぶっとい針のようなモノが数本、音もなく高速で飛んできた。

(ッ!!)

首目掛けて正確に迫る薄い円盤を、驚異的な反射神経を以って左手で受け止める。
ベレッタの視力補正もあるのだ。捉え、受け止めること自体はさほど困難ではない。
手の中でギャリギャリと高速回転する薄い円盤の物体は容赦なく装甲を裂き、鮮血が噴出す。
痛みに一瞬顔を歪ませた隙に針は容赦なくベレッタの装甲に突き刺さって。

「俺は鎧を纏っている!チャチな罠や奇襲に頼ってないで姿を現せ………!」

生身のヒーローならば針は致命傷足りえるが、パワードスーツ相手にはやや威力が足りない。
つまり円盤さえ防ぐことができれば針は装甲にこそ刺さるかも知れないが、装着者になんら影響はない。

「あ……鈴原さん?聞こえます?その施設、構造の関係で天井が高いんです。
 上はもちろん、奇襲やトラップも考えられますので十分注意してください」

通信機を介して黒崎の声がベレッタに届く。

「………ありがたいけど入る前に言ってくれよな」

掴んだ円盤を投げ捨てると、鈴原は自分が勝手に突っ込んだことを忘れて文句を零した。

(よし、まずは幼児の教室から。)

人質は一つに集められているだろうから全てを虱潰しに探していけば直見つかる。
何もなければ一分もかからないだろう、と馬鹿っぽく考え幼児の教室を豪快に開ける───!


【円盤で左手負傷。幼児の教室をオープンザドアー】

276 :デロリアン ◇DM9B5iCTyM:2011/09/18(日) 15:19:41.62 0
誰かが言った。
俺が今やろうとしていることは、冥王星へ向かって飛ぶことと同じだと
だが、それは違う。
これは…この旅路は、ひたすら絶望へ向かい続けるための空しい行いじゃない
振り返り、希望へ向かう為のきっかけに過ぎない。
俺はそう信じている。

起動し始めたタイムスリップ装置の中で、俺は再度自身の意思を確認した。
遠くで銃声と悲鳴が聞こえる。ついにここも襲撃されてしまったようだ。
装置を止め、仲間を守るために戦いたかった。
だが、このために死んでいった仲間たちのことを思うとその行為はただの自己満足のように思える。
「こんな未来…絶対に変えてやる」
俺は拳を強く握り、固く誓った。
遂に空間が歪み、タイムスリップが始まろうとした瞬間、制御室の扉が突破されるのを見た。
この装置の開発者にして、俺の恋人でもある人物がそこにはいる。
「う…うわぁぁぁぁ」
思わず叫び、手を伸ばそうとした瞬間、俺の意識は真っ白になった。


事件の真っ只中、保育施設の室内でその現象は起きた。
まるでターミネーターの1シーンのように雷光と共に空間が歪む。
だが、その現象も長くは続かず、歪んだ空間はあるヒーローを残して元に戻った。

意識が戻った瞬間、俺の目に映ったのは血で汚れた床だった。
俺はゆっくりと立ち上がると辺りを確認した。
あぁ間違いない俺は大幅にズレたがタイムスリップには成功したようだ。
「…」
明らかにこの施設とは無関係な奴らに視線を向ける。
「俺の名はデロリアン、未来を変える為にやってきた超弩級の犯罪者で
 …お前らをぶっ潰す為にやってきた…ヒーローだ」

【タイムスリップで施設内に堂々参上】

277 : ◆NuW.dKu6ngI9 :2011/09/21(水) 04:13:20.12 0
室内に入ってきたべレッタに、そこにいたヴィラン…両腕が日本刀の様な剣になっているヴィランは即時応戦の構えを取る
その足元には首の無い超合金の体のヒーローの死骸が転がり、その刃の切れ味を物語っていた
幸いにして室内に園児の姿は無い
戦いの火蓋が切って落とされようとした、その時、突如雷光と共に、第二のヒーローが室内に出現する!

>「俺の名はデロリアン、未来を変える為にやってきた超弩級の犯罪者で
>…お前らをぶっ潰す為にやってきた…ヒーローだ」

颯爽と名乗るヒーローしかし、剣のヴィランは怯まず、デロリアンに襲い掛かり、凄まじい速さで右の剣を振りかざしていく
いや、右だけではない、右の攻撃をデロリアンがかわしてもすぐに切りつけられるように、左の刃も構えられている
並みの改造人間では右の刃をかわすなり受け止めるだけで精一杯であり、その瞬間、左の刃が襲ってきて一撃で両断するだろう

更に、べレッタが投げ捨てた円盤が彼の背後でふわりと浮き上がり、高速で背後から室内に意識が向いているべレッタの無防備な背中目掛けて突っ込んでくる

【デロリアンをテレポーターか何かと思っているらしいエレメント、とりあえず両者に応戦】

278 :!ninja:2011/09/21(水) 04:31:21.83 0
瞬間移動魔導直撃斬!?♪。

279 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/22(木) 21:24:03.31 0
教室を開け。眼前に在ったのは両腕を日本刀のような剣としたヴィラン。
ベレッタも、敵方も、幼児が描いた似顔絵やら、くまの人形やら、かわいらしい部屋のレイアウトとは不釣合いだった。
鈴原は何も言わずただ右拳を前に突き出し。左手を腰に沿えて身体を少しだけ前傾させ、構える。

(───納得できねえ。未だに、理不尽に誰かが死ぬことだけは!)

小学生になって間もない頃……
両親や妹の遥と祖父の家に遊びに行った帰りの電車が、突然丸ごとジャックされた。
ヴィラン達は他の悪の組織に比べても殊更性質が悪く一様に常軌を逸していて。
その電車内の人間は幼い子供を除き、全員がヴィランによって『不幸な粗大ゴミ』として殺処分された。

鈴原は思い出す。怪人の左手の代わりを果たすチェーンソーが父親に振り下ろされる瞬間を。
ゴリゴリと骨が砕ける醜い音を聴かされながら降る血の雨を。
今まで笑顔で話していた両親の顔が、喪失感を漂わせて床に転がるのを。
周囲の人間が銃声と共にただ作業的に死んでいくのを。

ゆえに強く誓った。
人を自分の都合で理不尽に殺すヴィランから、皆を守りたいと。
そんな奴らに一歩も退いてなるものかと!

「こんなとこで、道草食ってらんねーんだよぉぉおおおおおおおぉぉぉおおおぉぉおッッ!!!」

左脚で踏み込み、敵に全力の鉄拳を食らわさんと動こうとした直後。
しかしベレッタとヴィランの間に在る空間が歪曲し、捻じ曲がり、紫電が走る。

「なっ! 何だ─────!?」

現れたのは一体のパワードスーツだった。
青と赤と銀に彩られ、白一色のベレッタとは対照的なほど派手。
鈴原は訳も分からず首を捻る。しかし問題はヒーローか、ヴィランか、ということだ。
パワードスーツはやにわに口を開いて。

>「俺の名はデロリアン、未来を変える為にやってきた超弩級の犯罪者で
> …お前らをぶっ潰す為にやってきた…ヒーローだ」


しばし沈黙。


「……………そうか!これはきっと、ジュラル星人の仕業に違いない!」

ただでさえ馬鹿なのに超理解不能な出来事が発生し結果───鈴原はチャージマン理論に到達した。
専門的な知識はともかく胸中は「何いってんだこいつ」とか「頭のネジ緩んでるのか?」とか。
シリアスムードだっただけに鈴原の置いてけぼり食った感が、分かるだろう?

思考が追いつかないまま剣のヴィランと謎のパワードスーツの攻防が始まって。
とりあえず本人の弁ではヒーローらしいので、ここは任せてもいいのだろうか。

「何だかよくわからんがとにかく任せ………っっ!?」

油断した。鈴原は己の愚鈍さを呪う。
突然の出来事に呆気に取られ、注意力が鈍っていたらしい。
後方からの不意打ち。投げ捨てたはずの円盤が再度迫っていたことにも気付かなかった。
しかし、ベレッタは倒れない。前によろめき、態勢を崩し。装甲を切り裂かれ血が大量に噴き出ようとも。
倒れる事は決してない。平然と。歯牙にもかけない。
深々と刺さった円盤を抜き、身体能力補正で強化された握力でぐぐっと原型を留めぬほど握りつぶして。

「フリスビー遊びは犬とやってろ!」

力任せに、思い切り運動場方面へぶん投げた。

280 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/22(木) 21:28:20.10 0
「こちら警察所属、異能犯罪捜査課の鈴原です。状況は把握できていますか?
 現在敵は人質を取っており目的は一切不明です。俺は……人質救出を最優先に行動します。
 尚、敵は既に幾人ものヒーローを葬っており、非常に強力ですので無理だと感じればすぐに撤退してください」

通信回線を開いて簡潔に自分の所属と目的の説明を済ませる。
向こうもパワードスーツを装着しているので所属と目的を聞いておきたいが、そんな暇はない。
鈴原としてはエレメントの目的が不明な以上、人質を長い間危険の渦中に晒しておきたくなかったからだ。

正直デロリアンにも無理なことはさせたくなかったが目の前に敵がいる以上もう仕方がないだろう。
自分と同じように、ヒーローとは信念に基づいて行動し好んで死地へ赴く馬鹿だ。
こうなってしまっては素直にはいそうですか、と聞くわけがない。

「では、健闘を祈ります!」

一方的に回線を切り、敬礼をすると鈴原はデロリアンにここを任せて教室を出、隣の年少のドアを開ける。
出血の影響か少しだけ足元がフラついたが戦闘に差し支えはない。



「なんだ?あのパワードスーツは……施設には誰一人侵入させないようにした、と言っていたな」

不知火重工と天堂寺工業との共同会議に向かっていた矢先に起こったこの事件。
大仲は急遽目的地を変え、現場へと急行し遅れて到着した次第である。

「ええ。鈴原さんがえらく心中穏やかじゃない様子で言っていたので。
 機動隊を保育施設周辺に配置させて一般人はもちろんヒーローも通させないようにしましたけど」

「少路、聞こえるか。異捜課の大仲だ。そちらの状況はどうなっている?」

特設車両内の通信機から機動隊隊長へ声を飛ばす。
機動隊を突破して強引に突入していればまだ話は簡単だろう。問題は。

「こちら対異能部隊隊長の少路。
 ヒーローモドキが数人無理に突入しようとしたのを取り押さえたところだ」

「……確認するが、ヒーローが制止を無視して突入したか?」

「いいや?突破はされてないし、他でもそんな報告聞いてねえ。
 ニュースでちやほやされたいだけのクソガキ共はぶん殴ったがな」

「そうか。ならいい」

ふう、と息を吐いてマイクを耳から外す。
テレポート系の異能を所持した能力者か?それにしても未来、だのどうのという発言が気になる。
文字通りその意味を汲み取るとあのデロリアンなるヒーローはまるで某藤子F藤夫漫画ではないか。

「……警視庁のデータバンクにもあんな奴は存在しない。
 確認されたヒーローにも。ヴィランにも。エクスクロスのように他の組織が開発したものなのか……?」

彼が信念あるヒーローで、死ななければそれで善いが。
大仲としてはまた厄介な何かを運んできそうな気がしてならなかった。


【鈴原、デロリアンに全てを押し付け年少の教室へ向かうの巻】
【ついでに背中負傷。やせ我慢してるけど足元フラつく程度には辛い】

281 :鈴原 ◆TazPdPu8KY :2011/09/22(木) 23:55:52.94 0
容量がヤバい!よくもあんなキ○ガイあらすじを!

http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1316702983/

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