魔法少女二次SS

魔法学園天下一武道会 ・◆83283JSjb#########

279 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/07/29(日) 02:37:54 0
【魔法学園天下一武道会・プロローグ】
ある麗らかな春の日。
ほんの些細なきっかけだったと思う。
本当に些細な・・・
それは頬を撫でる風が暖かくなったとか、花に蕾がついたとか、そんなレベルのお話。

そんな些細なきっかけで、学園長は思いついてしまった。
フィジル島全体が学園都市となっており、総人口は1万とも言われ、生徒の数も膨大になる。
そんな生徒達の中で、誰が一番強いのか・・・?
勿論魔術師たるもの、単純な戦闘力で強さを競うなど愚の骨頂。
でもたまにはそんな愚に興じてみたくなったりもするのが人間というものだった。

授業で戦闘訓練などもあるが、学科問わず全生徒で競う武道大会など前代未聞。
にも拘らず、さくっとトーナメント表を作って2週間後に開催決定してしまうあたりが魔法学園のすごいところ。
しかしもっとすごいところは、こんな急遽決まった大会にも拘らず、生徒達はそれを受け入れ、既にお祭り騒ぎになっているところだったりする。

試合形式は一対一。
選手が特殊魔法人の中に立てば、中央箱庭試合会場にそれぞれの思念体が現れる。
まともにやり合えば死傷者続出は必死だが、この方法ならば多少のフィールドバックはあっても生死に関わる事はまずない。
思う存分に戦えるというものだ。
中央箱試合会場は15メートル四方の石板。それを取り囲むように海、火山、森、砂漠など各フィールドが配置。
自分の得意フィールドに誘い込む戦術も必要となってくる。
勝敗は基本的に思念体消滅か審判である教師がストップをかけるまで。
ギブアップは相手選手が認めれば成立するが、基本的にはデスマッチ推奨。

「では、第一回、魔法学園天下一武道会を始める!」
あっという間に二週間が過ぎ、学園長の宣言と共に武道会は開始された。



350 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/07/29(日) 21:53:42 0
【魔法学園天下一武道会・フリージア編】

「本日より第一試合。いきなりフリージア選手の登場です!
対するは肉体強化系のグラチ選手ですが、どうでしょうか?」
「先ほど行われた自由参加のデモンストレーションでは圧倒的な氷結攻撃を見せたフリージア選手。
アレで一躍優勝候補に名を連ねましたからね。
一方グラチ選手は、肉体強化の上接近戦に持ち込み力で押すタイプです。」
「つまり、勝負の鍵はグラチ選手が如何に間合いを詰めるか、でしょうか?」
「そういいたいところですが、フリージア選手の氷結棍の実力はかなりのものです。
接近したからといってそのまま勝てるというのは・・・」
「なるほど!やはりフリージア選手の勝ちは揺るがないでしょうか?
ここでいよいよ試合開始です!」

実況者と解説者の話を区切るかのように特設試合会場にフリージアとグラチが姿を現す。
そして告げられる試合開始の声!

開始と同時に肉体強化呪文を自分にかけ、見る見る間に筋肉の固まりになっていくグラチ。
対するフリージアは、氷結棍を作り出し構えるだけで、グラチを見ている。
まるで全力を出せるまで待っているように。
「余裕だな、フリージア。せいぜい後悔するがいいさ!」
あらゆる肉体強化を終えたグラチが飛ぶ!
その衝撃で石畳は砕け、あっという間に間合いを詰める。
その瞬間フリージアもまた驚異的な反応速度で動いていた。
空を切る豪腕を棍でいなし、一呼吸で十の突きを的確に叩き込む。

まさに目にも止まらぬ応酬だが、接近戦においてもフリージアに軍配が上がった。
「ま、こんなものですわね。」
数度の打ち合いの後、溜息混じりに呟くフリージア。
いいようにあしらわれ続けるグラチは叫びながら打ち込もうとするが、足を滑らせ転倒。
リング隅まで滑っていってしまう。
そう、打ち合いをしながらフリージアは冷気を発し、リング全体を凍らせていたのだ。
スケートリンクのようになったリングではグラチの肉弾戦も役に立たない。

「お〜っほっほっほ!華麗に決めて差し上げますわ!」
高笑いと共に舞うような仕草。
「氷結のフリージア最大の奥義!フリィィィィジング!ディストラクション!!」

観客もアナウンサーも歓声を上げ、グラチは最後の呪文を唱える。

フリージアの拳を突き出した方向にまるで光の国の住人が出す極太の白銀光線のような目に見える冷気が発射される。
いかな防御呪文を唱えようと、グラチの力量では氷の像になるしかないその攻撃。
にもかかわらず、グラチに当たる直前、真っ二つに割れた!
氷結攻撃の余波による煙とダイアモンドダストの立ちこめる中、フリージアが血を吹いて倒れた。


351 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/07/29(日) 21:54:09 0
受身も取れず、顔からリングに崩れるフリージア。
煙の漂う中、小さく、小さく声が漏れる。
「にゃ〜」
グラチのいた地点に、小さな毛玉生物。子猫がフルフルと震えながら丸まっていた。


「おーっと、これはどうした事か?グラチ選手は防御と同時にカウンターの一撃を放っていたというのか?」
誰もが思う疑問を代弁してくれるアナウンサー。
それに応える解説者は、しばしの沈黙の後・・・

「・・・・・・・判った!
グラチ選手は肉体強化の極地、獣化魔法を使ったのです?」
「は?」
「獣化魔法でグラチ選手は豹でも狼でもなく、あの子猫に変身したのです!」
「はぁあああ?」
あまりのことに「は?」しかいえないアナウンサーに解説者はその仕事を始める。
「データによりますとフリージア選手は猫好き。
子猫になったグラチ選手を攻撃などできるはずありません。」
「なんと!では、フリージングディストラクションを真っ二つに割ったのはグラチ選手の防御魔法ではなく、フリージア選手自身だった!と?
しかし、あの血は?」
「そうです。ある意味グラチ選手の戦略勝ちですが、直接的に真っ二つに割ったのはフリージア選手自身。
そしてあの血は、子猫が可愛すぎて鼻血を出して倒れたのでしょう。」
「・・・・・・どんだけぇええ???」

まさに解説者の言うとおり。
フリージングディストラクションの命中直前にフリージアは見てしまったのだ。
筋肉達磨のグラチが消え、うるうるお目目の毛玉生物子猫が現れるのを!

解説が進む間にも、子猫が「にゃー」となけばリングを染める血の池の面積も一回り増すというおちょくった展開が続く。
ついにはリング全体が真っ赤に染まり、フリージアの思念体は形を保てなくなり勝敗が決した。


「なぁあーんと!大番狂わせ!グラチ選手の戦略を褒めるべきか、フリージア選手の猫馬鹿を笑うべきか!
グラチ選手ニ回戦進出っっ!!」
アナウンサーの高らかな宣言と共に、試合会場は歓声に包まれた。





367 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/07/30(月) 22:14:18 0
【魔法学園天下一武道会・アルナワーズ編】

第一回戦が始まり、三日目。
いよいよアルナワーズの試合が始まろうとしていた。
相手は火炎魔法を得意とする女魔法使い。

「さあ、次の試合は注目のアルナワーズ選手の登場です。
口喧嘩なら優勝候補に挙げられるアルナワーズ選手ですが、いかがでしょうか?」

「流石に試合で口喧嘩は無理でしょうw。
幻術は虚をついてこそ効果を発揮するものであり、こういった正面から試合開始、には向きません。
一方、対戦相手の選手は直接攻撃が得意な火炎系術者です。
身体能力なども考えても・・・。」

「なるほど、ワンサイドゲームになりそうですか。」

「はい、通常ならば・・・・。」

「といいますと?」

「アルナワーズ選手は南方辺境部族出身です。
そこでは我々の知るものとは別の、独自の呪術体系をなした召憑術なるものがあるといいます。」

【召憑術】
自分の身体を依り代にして召還・使役する術。『神降ろし』とも『悪魔憑き』とも呼ばれる。
アルナワーズの部族の分類によれば、魔界に住む魔族、精霊界に住む精霊、その他召喚獣などは人間と生態や性質が
違うだけで一括りに『生き物』として分類される。
召憑術で召喚するのはそれら『生き物』ではない。
生き物の意識は理性や本能で作られる自我で構成されており、更に無意識の自我がある。
階層を更に掘り下げていくと種としての共有自我に行き着き、最下層では生き物全体の共有自我というものに行き着く。
最下層の『生き物の共有自我』によって構成された『モノ』を自らを呼び水として引き出し、自分の身体を依り代として名を
与えることによって具現化させる。
召喚されたモノは生き物の意思・意識の集合体はあって、それ自体に知性や感情はない。
何がしかのベクトルを持って突出したエントロピーが具現したものに過ぎないのだ。

「アルナワーズ選手がその召憑術の使い手だと?」
「おそらく・・・未確認情報ですが、アルナワーズ選手は嵐の具現を二つ身に宿しているといいます。
更に多数の『具現』を操れるのであれば・・・実物を見たことがないのでなんともいえませんがかなりの脅威となるのではないでしょうか?」
「驚きの情報です。ともすれば、アルナワーズ選手の真の実力が明らかになるかもしれないという事ですね!?」
「はい、そういった意味でも、注目の試合です。」
実況アナウンサーと解説者のやり取りの後、その試合は始まった。

試合開始7秒。
小さな小さなファイアーボールが30センチも横を通って行ったにも拘らず倒れ、ギブアップを宣言したアルナワーズ。
そしてそれを認める対戦相手。
あっけにとられる観衆。
「・・・これは、どういったことでしょうか?」
「うーん、何か不正の匂いが・・・試合後に何か動きがあるかもしれません・・・」

「やーん。頑張ったけどあなたって強いわ〜。力及ばず・・・
でもやっぱり優しいから好き(ハート)」
試合終了後、対戦相手の女に抱きついて感謝するアルナワーズの姿があった。


368 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/07/30(月) 22:15:53 0
・・・・試合前、控え室にて。
「アル!あんたにゃいつも酷い目に遭わせられているからね。覚悟しておきなよ?」
「ねぇ、元々私って戦闘向きじゃないし、大体幻術を正面からかけても意味ないじゃない?
これって酷いと思わない?」
日頃の恨みを今こそ晴らすといわんばかりに宣言する対戦相手に、アルナワーズは上目遣いで抗議とも同意を求めるとも知れぬ言葉で返す。
そんな表情に気を良くしたのか、対戦相手の女は満面の笑みを浮かべた。
「まあこういうこともあるってもんだ。リングに上がれば純粋な力だけがモノをいうからね。
いつものように口で煙に巻こうったってそうは行かないよ!」
「ええ〜。私、平和主義者だしい。勝ちを譲るからギブアップ、認めてくれない?」
「・・・そうだねえ・・・私の気が晴れるまでいたぶった後でならね。」
一体何をされたんだというほど、対戦相手の女は意地悪く返す。

「・・・仕方がないわね・・・正々堂々、頑張りましょう?」
交渉の無駄を悟ったか、そっと手を差し出すアルナワーズ。
それを見て、力が抜けたのか、意地の悪い表情が緩み小気味よい笑顔に戻る対戦相手の女。

元々恨みがあるような仲ではない。
ただ、いつも酷い目にあわされたり、口八丁で煙に巻かれていた手前、立場が入れ替わって調子に乗っていただけなのだ。
「ま、たまにはあんたも痛い目見たりのされてみなよ。」
勝ちを確信しているが、既に言葉に棘はない。
試合前にぎゅっと握手を交わし・・・た瞬間。
アルナワーズがそっと身体を寄せて耳元で囁く。
「ねえ、あなたって××××を×××で××××××なんですってね?」
とたんに硬直し、愕然とした表情から血の気が引いていく対戦相手の女。
小さくニタリとした表情を残し、試合準備の声に応えアルナワーズは歩いていった。

こうして観客をあっけにとらせる試合が始まったのであった。




393 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/07/31(火) 22:48:00 0
【魔法学園天下一武道会・キサラ対メラル編】

「いよいよ一回戦も最終試合。キサラ選手対メラル選手です!」
膨大な人数のトーナメント第一回戦は膨大な試合数に及ぶ。
しかも、実力が伯仲した者同士だと、試合も長引き、時に数日に及ぶ事もある。
複数の試合会場が設けられているが、それでも一回戦全ての試合が終わるこの日を迎えるに、実に10日を要していた。
にも拘らず実況者の、そして全生徒のテンションは下がる事を知らない。

「最後の最後に好カードが組まれていましたね。」
「はい、メラル選手は最近成績を落としていますが、かつては戦闘訓練ではトップクラスにい続けていた実力者。
魔力そのものもですが、分析力にも長けている知能派です。
一方、キサラ選手は魔法の存在しない辺境からの留学生。
まだ魔法の実力は高くないですが、その身体能力は驚異的なレベルです。」
「なるほど、それにしても小さい&細いですね、両選手。」
「ええ、メラル選手はその小ささから見るとおり、非力です。
しかしキサラ選手はあの細さは速さに特化する為に必然的になった体型といえるでしょう。」
「完全術者タイプのメラル選手とスピード特化タイプのキサラ選手。良い試合が期待できそうです!」

いつもの実況と解説者の掛け合いの後、試合開始が告げられる。
距離を置いて向き合うメラルとキサラ。
試合開始を告げられても動こうとはしない。
「メラルさん・・・あの・・・ギブアップ、してください・・・」
「・・・どうして?」
「その・・・あの・・・」
銃を抜こうともせず、メラルにギブアップを要請するキサラ。
メラルは杖を軽く握ったまま、サングラス越しに冷たい視線を突きつける。
そんな視線に耐えられないように、応える事もできず俯くキサラ。
そう、キサラには女性免疫がなく、こうして正面向いて話すことすらままならず精神力を削られていく。

「いいわ。私が女だから戦えないのならこうしましょう?
私が避けられない間合い、タイミングで銃を突きつけるだけでいいわ。
それをやられたら負けを認めてギブアップする。これでどう?」
「・・・・・・・わかりました・・・・」
メラルの提案にようやくキサラの顔が上がり、その目に決意の炎が宿る。


「試合開始したにも拘らず、二人で相談しています!」
「うーん、これは、ロックパターンですね。」
「え、ロックパターンというと、大会6日目。対戦相手の女性とは戦えないと言い張って力づくでギブアップを認めさせて敗退したロック選手ですか?」
「はい、彼の場合女性と戦えないでしたが、キサラ選手の場合どうやら女性免疫がないからのようですね。
それに配慮してメラル選手からの提案で今話はまとまったようです。」
「これは、自信なのか貫禄なのか、優しさなのか!メラル選手の粋な計らいに観客からも拍手が起こっています!」


394 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/07/31(火) 22:48:30 0
そんな外野のやり取りを他所に、メラルとキサラはいよいよ戦闘を開始しようとしていた。
「行きます!」
ポツリと呟いたキサラの身体がぼやける。
超スピードで移動した為、残像だけが残ったのだ。
「ギびゃぎがああああああああああああああああ!!!!!!!!」
次の瞬間、キサラはメラルの脇を通り過ぎ、盛大に転んでリング外まで転がり落ちる事になる。

あまりの速さのため観客からは勝手に転んだ自爆にしか見えないが、その実、凄まじい攻防が繰り広げられていたのだ。
「自信過剰ね、あなた。
フリージアみたいにリング全体を凍らせなくても運動能力、思考パターン、戦略、精神状態、武器特性を考えればこれで十分なのよ。」
とことことゆっくりとキサラの転がり落ちたリング隅まで歩くメラルの足元の床には、30センチ四方の氷が作られていた。

キサラは超スピードを生かして、メラルの背後に回り込み、頭に銃を突きつけるつもりだったのだ。
しかしそれを見越したメラルは、予めキサラの到達予想地点をピンポイントで凍らせておいた。
結果、グリップを失ったキサラは自分の超スピードの制御を失い転がり落ちてしまったのだ。
「ギブアップしてください」と、かっこよく決めるつもりが「ギびゃぎがああああ!!!」と訳のわからない叫び声になってしまったのが悲惨さを際立たせる。

「それに、何かに特化するという事は何かにその歪みが出るということよ。
あなたはスピードという身体能力を特化させたのに、耐久性や筋力に歪みを出している・・・バランスが悪いのよ。」

漫画などでは一点集中した時のリスクは言及されていても、実際にそれが足を引っ張ることは殆どない。
ただ一点集中した利点のみが強調されているが、現実に一点集中特化ほどバランスが悪く脆いものはない。
それが今のキサラの状態が実証していた。
キサラは悠々と近づいてくるメラルの存在がわかっていても、まだ起き上がることすらできていなかった。

「無駄よ。あなたの耐久度とスピードを考えれば起き上がるまでにあと十数秒。
そして私の攻撃をかわせるようになるまで三十秒ほどかかるもの。
勿論それを待つほど私はゆっくりしていない。
・・・これでもう立ち上がれない。」
メラルが杖を振るうと、起き上がろうとしていたキサラが叩きつけられるように地に伏した。

重力魔法で20キロの負荷がキサラの全身にかかっているのだ。
常人なら起き上がれない重さではない。
だが、超スピードを手に入れた代償ともいえるだろう。
キサラは起き上がることが出来なかった。

「・・・ギブアップすれば認めるわよ?」
試合開始直後とは全く逆の立場。
しかも、実力と結果の伴った言葉。
キサラは震えながらその言葉を口にした。
己の無力さを噛み締めながら・・・


「すごーーーーーーい!メラル選手!圧勝です!」
「すばらしい試合展開でしたね。まさに詰め将棋。キサラ選手何もさせてもらえなかったですが、恥じる事はありません。
もうメラル選手を褒めるしかないのですから!」


大歓声に包まれる試合会場だが、退場するメラルは首をかしげていた。
(・・・ただ勝つだけでよかったのに、私、なぜ教師みたいにアドバイスしてたんだろう・・・)
そう、わざわざ相手の欠点を教えたりする必要などないのに・・・
自分でも判らない自分の行動に戸惑いを隠せないでいた。


395 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/07/31(火) 22:48:38 0
そんな戸惑いを見せるメラルに熱い視線を注ぐ二人がいた。

「メラルさん、キサラにアドバイスしながら戦うなんて。もしかして・・・」
「もしかして、なんだ?」
「鈍いわね。雪山ではキサラが熱い視線をメラルさんに送っていたし、結構いい感じじゃない?」
「・・・そんなもんか?」
「もう!たぶん自覚できていないみたいだし、ここは友人として応援してあげたいな、って思わない?」
あまり感心なさ気な男の気の抜けた合いの手に頬を膨らませて抗議する女。

そんな二人の背後に近づくものは・・・

「あ〜ら、面白そうな話してるじゃなぁい?おそろいの眼鏡で仲よさそうね?」
女が文字通り椅子から飛び上がったのは、背後から急に声をかけられたからではない。
その声の主が誰だかわかったからだ。
「いやぁん、そんなに驚かないでぇ?愛のキューピッドがやりたいのならレクチャーするわよぉん?」
だらだらと大量の脂汗を流しながら、首が千切れんといわんばかりにぶんぶんと横に振る女。
もはや声すら出ない。
そんな様子をくすくすと面白そうに眺める背後の声の主。
男はそんな様子に入っていくことも出来ず、バツが悪そうな顔をし、はっと思いつく。

「じゃ、俺はキサラを見に行ってくるよ。こういう時は男同士のほうがいいからさ!」
『ちょっ!自分だけ逃げる気ぃいいい!!!???』
女は声にならない叫びと共に涙目で手を伸ばすが、男はそそくさとその場を離れて行ってしまった。
「うふ、じゃ、私達は女同士で・・・」
「あ、こんなところにいましたね!アルナワーズさん、あなたの試合について学園長から裁定が下ります。
すぐに来てください。」
怪しい手に絡めとられそうになった女を救ったのは、獣人騎士のようないでたちをした用務員、アルテリオンだった。
「あなたと一切の交渉を持つなといわれていますので、有無を言わさずに連れて行きますよ。」
本当に有無を言わさずアルナワーズの首根っこを掴むと、そのまま引きずって行ってしまった。


一方、キサラは敗戦の悔しさに一人会場を抜け出て、森にいた。
「・・・速さだけじゃ・・・力が必要だ・・・」
腕に顔を沈め、溢れ出る熱いものをそのままに決意を固める。

「・・・男はそうやって成長していくんだ。」
そっと陰からキサラを見守っていたロックは、呟きを残してその場を離れた。
ただ一言も声をかけることなく。
しかし、声はかけずとも、キサラの決意は十分感じ、安心していたのだ。

事実この後、キサラは氷の魔法を開花させていくのだった。



400 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/08/01(水) 22:23:50 0
【魔法学園天下一武道会・ラルヴァ編】

一回戦が全て終わり、リリアーナたちはアフタヌーンティーを楽しんでいた。
「それにしても、私達の中で二回戦に進めたのはメラルさんだけね。」
一堂を見回し、リリアーナがしみじみと呟く。
「フリージアは相手が悪かったわよね・・・」
「おーほっほっほ!一片の悔いもなしですわ。」
子猫を思い出してか、フリージアはどこか遠くを見たままうっとりとしている。
「アルはアルテリオンさんに連れて行かれたし、ユユも惜しかったかな。
クドリャフカさんは図書館にもぐって不参加。ロックは・・・」
「俺は女とは戦えない。これは俺の信念だからな。」
リリアーナが指折り数えてそれぞれの試合を思い起こしていると、ロックがやってきた。

「キサラは?」
「ああ、あいつなら大丈夫さ。きっと強くなるぞ。」
「そう、良かったわ。」
ロックは最終試合でメラルに完敗したキサラの様子を見に行っていたのだった。
キサラの様子を聞き、リリアーナはほっと息をつく。

「フリージア、クドリャフカは二回戦に進むと思ったんだけどな。」
「そうよね。こうなったらメラルさん、頑張って優勝狙ってね!」
「ありがとう、頑張るわ。でも・・・」
短く応えるメラルが、何かを言おうとして口をつぐむ。
それに端を発し、一同が違和感に包まれた。

・・・何かを忘れているような・・・


「・・・マスターは残念ながら一回戦で敗退しております。
私を召喚してもらえればこのようなことには・・・」
誰もがはっと気付き、その方向を見るとラルヴァがティーカップを両手で持ち、後ろでルーナが立っていた。
「あ、ご、ごめん。ラル君、えーっと・・・残念だったよね。」
全員がすっかりその存在を忘れていた。
慌てて取り繕おうとするが、リリアーナの言葉の微妙な間がラルヴァの試合内容すら覚えていない事を物語っていた。
その横で、ロックがルーナの肢体の為に鼻血を噴出して椅子から転がり落ちていた。

「気にしないで。それより、夕方から教師による模範試合がるらしいよ?」
封印の為、その存在や印象を極力なくしてしまうので、忘れられていた事を責めるつもりはない。
といっても気にされてしまうので、ラルヴァは慌てて話題を変えようとするのだった。




418 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/08/02(木) 22:58:03 0
【魔法学園天下一武道会・レイド対ヴァンエレン+アルナワーズ編】

「第一回戦が全て終了しましたので、ここで教師による模範試合を開始します。
武闘派教師の中でもトップクラスの実力を誇るレイド先生!
対するは、闇の眷族の頂点に立つヴァンパイア!ヴァンエレン!」
「レイド先生は現在減法三ヶ月、ボーナス50%カットの処分が課されています。
この試合で模範的な試合をすれば処分取り消しになると教頭から言われていますので、普段以上の実力を発揮するでしょう。
対するはヴァンパイア、それだけでもう説明不要でしょう。
闇の眷属を束ね、不死の貴族であるヴァンエレン。これは凄まじい勝負となるでしょう。
ちなみに、ヴァンエレンが負けた場合、死霊科のリコが実験に使うから引き取ると願い出て受理されている模様です。」

歓声に包まれる試合会場にアナウンサーの紹介と共に現れるレイドとヴァンエレン。
「ま、そんなわけだから、生活の為にも全力でいかせて貰うぞ、ヘボ吸血鬼。」
力みのない口調だが、言っている事は恐ろしい。
目には炎が宿っていた。
それに対するヴァンエレンは更に不敵な笑みを浮かべている。
「ふん、人間の茶番に付き合ってやるのもたまにはいいだろう。」
本音同時翻訳『ひいいぃィ無理無理無理無理!お前ら公開処刑が好きなのか!それでも人間かッ!
         ただ殺すだけでなく、その後実験材料にするのか!こんちきしょぉおおお!』

一見悠々と構えているように見える二人だが、既に水面下では火花が散っていた。
そんな二人の火花散らす試合会場に、もう一人の人物が現れる。
アルナワーズである。

「おおぉっと!一回戦で敗退したアルナワーズ選手が乱入か!?」
「あ、ただ今学園長から通知が届きました。
生徒の中でもトップクラスの知能犯・・・ゲフンゲフン、策士のアルナワーズ選手。
一回戦では敗退しましたが、誰かと協力することでその真価が発揮される。
故に、ヴァンエレンと共にレイド先生と試合をする!との事です!」

建前上はその通りなのだが、実際は一回戦での交錯が発覚し、罰として模範試合に出させられた、のが事実だ。
「こういう工作も含めて魔法使いの強さではなくって?」という抗議は認められなかったようだ。


「ねえ、ヴァンエレンさん?レイド先生は強いわ。でも、協力すれば大丈夫だと思うの。
だから、ちょっと打ち合わせしましょう?」
「協力?人間と?馬鹿馬鹿しい。どうせくだらない浅知恵だろうが、勝手に動かれて足手纏いになると困るから聞いてやる。」
本音同時翻訳『まじっすか女神様!あの悪魔に勝てるんすか??聞かせてください、お願いします!』

不遜に立ったままのヴァンエレンにアルナワーズは一礼し、耳打ちをする。



419 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/08/02(木) 23:00:14 0
「おーい、お二人さん、もういいかー?」
待ちくたびれたレイドが声をかけると、ヴァンエレンが勢い良く振り返り構える。
「ぬはははは!もう試合は始まっているというのに甘いな!」
「お、なんだこいつ!?」
振り返った瞬間、笑いと共にレイドに襲い掛かるヴァンエレン。
突然の変わりように驚き、防戦一方のレイド。
ヴァンエレンの攻撃が凄まじいというわけではない。
突然の態度の変貌に何か策があるのかと様子見をしているのだ。

だが、その様子見をさせることこそが二人の策なのだ。
「いざや聴け 喚起されしモノ うぬが見立て 七とせの 鼓を打つ響きの間を以って 五芒の戒め六芒の枷、呪詛の楔を樽緩めん」
その間にアルナワーズは呪文を詠唱する。
その身に施した封印を説く為に!
「聖地バラナシより轟け 地霊を目覚まし 負界の底より 鳴動せよ 我が啓示となりて 汝が名はタイフーンアイ!」
その身に宿した嵐の具現を呼び起こす為に!
詠唱が終わると同時に、アルナワーズの胸の谷間にソフトボール大の黒い球体が現れ、ギロリと中央に大きな目を見開く。
台風の目の具現化したものである。
その力は即座に効果を現す。

試合会場に暴風雨が吹き荒れ、雷がなり、大粒の雨が降り出した。
「ふふふふ、ヴァンパイアである私は嵐の中での闘いはなんの負荷にはならぬが、人間のお前はどうかな?
もはや目も開けて・・・あつっ!・・・え?酸性雨??ちょ・・・あちちち、いだだだ、溶ける!」
そう、アルナワーズの術で嵐を呼び、圧倒的有利な状況で戦いを進めるのだ。
事実嵐の召喚に成功したのだが・・・雨はヴァンエレンの身体を焼き、溶かし始めている。
なのにレイドは、雨の為視界が確保しにくそうではあるが焼け爛れているような事はない。

「あちちちち!ちょ、待った!これもしかして、聖水の雨!?」
のた打ち回り転がりながらアルナワーズのところまで下がって確認。
「あ、ゴメンなさ〜い。この子がドライアイになったって言うから目薬さしてみたの。
そしたら間違えて聖水垂らしちゃったみたいでぇ、その影響で聖水の豪雨になっちゃったみたい(テヘ)」
「殺すきかああ!」
「そんなに怒らないで。ほら、私を中心とした半径1メートルは台風の目で安全地帯よ。
そんな命の恩人に、そんなに怒るなんて人として道を外れてなぁい?」
「う・・・それもそうだな・・・ごめんなさい」
元凶である事もいつの間にか摩り替えられ、命の恩人と丸め込まれてしまったヴァンエレン。
うっかり素直に謝ってしまうその背に、レイドが立っていた。

「あ〜お前ら、漫才はその辺でいいか?」
滝のような豪雨の中、レイドは有無を言わさず銃を撃つ。
給料がかかっているという事で今日は特製、一発当たりの負荷は200kg!
如何にヴァンパイアといえども、1トン以上の負荷をかけられては崩れ落ちるしかなかった。

崩れ落ちるヴァンアレンを盾として、無傷のアルナワーズがここで攻勢に出る。
「レイドせんせぇい?猫耳大盛りっ!」
ヴァンエレンの影から現れたのは猫耳でGカップのアルナワーズだった。
「・・・・・アルナワーズ、いい事を教えてやる。俺は猫耳と巨乳を見る時は心眼で見るんだ。
そんな虚乳なんぞ通用しないぞ。
お前はやりすぎだ。巨乳を汚した罰だ、しっかり反省しろ。」
一瞬の沈黙の後、火を吹く銃。
あっさりと幻術が見破られ、成す術もなくアルナワーズも地に伏せた。


「おおおおおっと!レイド先生強い!あらゆる策をあっさり破り圧勝かぁ!?」
「流石レイド先生。巨乳に対する執着が心眼を開眼させたのですね!
心眼を開眼されては幻術も役に立ちません。」


420 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/08/02(木) 23:02:39 0
「貴様・・・巨乳好きだったのか・・・」
アナウンサーだけでなく、観客全てがレイドの勝利を確信したとき、ゆらりと立ち上がるヴァンエレン。
重力弾の負荷だけでなく、時間稼ぎにおいてもかなりのダメージを受けているはずなのに。
なのにヴァンエレンは立ち上がった!
「なぜ私が立ち上がれたか、不思議そうだな。
教えたやろう・・・この私がおっぱい星人ごときに負けるわけがないからだ!!!」
凄まじい希薄と共に宣言。
「寝てろよ」というレイドの更なる銃撃も全く効いていないようだ。
びしっとレイドに指を突きつけ、更に言葉を続ける。
「聞け!巨乳、爆乳、魔乳と、おっぱいが大きければそれでいいなどと言う原理主義者め!
おっぱいとは大きさだけに在らず!
大きさ、色、艶、張り、弾力、感触、感度、乳輪、乳首、身体とのバランス、顔とのアンバランス・・・
これらの総合したおっぱい黄金比率を持っておっぱいの価値を測るのが漢であろう!!!」
凄まじい迫力の宣言に水を打ったように静まり返る会場。

そしてレイドは・・・大粒の涙を流しながら銃を落としていた。
「ま、まさか・・・五十年前、おっぱい学会に出された、おっぱい相対性理論とそこから導き出されるおっぱい黄金比率の存在を示唆した論文・・・
確か匿名でB・Bだったが・・・」
「ヴァンエレン・ブランカート・・・。私は今もおっぱい黄金比率の実在を信じ探求しているのだ・・・」


「え、えーと、訳のわからない世界に突入しておりますが・・・」
「そのもの黒き衣を纏いて人々を美乳の野に導くべし・・・おおお・・・古き言い伝えは真であった・・・!」
「お前もかよ!!!!」
実況のしようがなくなってきた試合展開だが、解説者は涙を流しながら感動をしていた。
一般人には理解しがたいが、今ここに、伝説のノーブルおっぱい星人が現れたのだった。


「ヘボ吸血鬼・・・いや、ノーブルおっぱい星人・・・お前にとって、おっぱいは・・・なんだ?」
「おっぱいとは・・・・世界だ!!!」
ヴァンエレンの発する言葉一つ一つが強力な言霊を持ち、レイドを圧倒していく。
「・・・スケール勝ちがう・・・俺の・・・ま、け・・・だ」
「ぶぁああああかむおおおおおん!!!」
両膝をつき、力なく負けを認めようとするレイド。
だが、その台詞を遮るように教頭の怒声が会場に響き渡る。
そして降り注ぐ巨大な雷。
試合会場の三人を一発で黒焦げにし吹き飛ばす。

「全く、模範試合でなにやっとるんじゃい!
アホらしいことで生徒に言いくるめられとるんじゃないわい!!」
試合会場に降り立ったのは教頭。
その台詞の意味することは・・・
「うう、、、私はおっぱい星人なんかじゃないぞお・・・。私は胸より鎖骨派なのだ・・・」
ヴァンエレンの呻き声に答えがあるのだった。


こうして模範試合は無効に終わった。
魔法学園天下一武道会はまだまだ続くが、それを語るのはまた別の機会にしよう。



441 名前: ◆83283JSjbU [sage] 投稿日:2007/08/03(金) 21:16:27 0
魔法少女スレの皆さん、勝手に使わせてもらって感謝。
今回登場しなかったキャラの皆さん、ゴメンね。
私の場合、一話当たり構想3秒書き込み30分という思いつきで書いています。
なので、キャラのことを良くイメージできていないと書けないのよ。
アルテリオンさんは英霊化してからまだ間もないので、キャラのイメージが掴めていなかったという、まあ力不足ゆえです。
楽しみにしてもらっていたのにごめんなさい。

魔法少女スレもその参加者もみんな大好きです。
本編楽しみに読ませてもらい、また暇があれば二次作かかせてもらうのでヨロシク。


レイド伝・ ◆peohZn6bOQ#####################


524 名前: ◆peohZn6bOQ [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/02(日) 00:35:43 O
[闇の住人]

薄汚れた路地裏に二人の男の姿があった。
一人は前髪の長い青年。
もう一人は40代前後の男。
「悪いな・・・。
こっちも仕事なんだ。」
スーツを着た青年の長い前髪の間から真っ赤な眼が光る。
青年は手に握っているサイレンサー付の銃を男の額ににつきつけた。
「たたっ、頼む!!
命だけは勘弁してくれ!!」
「・・・スマン。」
プシュッ。
青年の顔に返り血がかかる。
「・・・・。」
青年は死体の首をナイフで切り取り始めた。

【屋敷】
「コイツで間違いないな?」
雇い主らしき男の目の前に先程の首を差し出す。
「オーケー、オーケー。
ご苦労様。
相変わらず仕事が早いね、レイド君。
これ約束の金ね。」
そう、この青年こそがレイド。
後に魔法学園の教師になる人物である。
「次は・・・誰だ?」
「ハイハイ、ちょっと待ってね〜。」
男はゴツい感じの男が写った写真を差し出す。
「次はコイツを始末して欲しいなあ。
名前はダイラン。
確か炎と氷の魔法を使う・・」
「説明は要らん。
どんな奴だろうが俺は負けないからな。」
「随分強気だね〜。
まあレイド君は悪魔から力を授かってるんだから強いに決まってるよね〜。
良いなあ、僕も欲s・・!!!」
「黙れ・・・!
それ以上俺の気に触れる事を言ったら、貴様の頭を吹き飛ばすぞ・・・!!」
レイドは男に向かって本気の殺意を向けていた。
「ご・・ゴメン、ゴメン。
じ、冗談だよ冗談。」
「・・・フンッ。
金の用意を忘れるなよ。
3日以内に首を持って来てやる。」
レイドは写真と金を受け取り屋敷から出て行った。

552 名前: ◆peohZn6bOQ [sageトリ合ってるかな?] 本日のレス 投稿日:2007/09/10(月) 00:53:07 O
[新しい道]
あれから2日間、レイドはダイランの行動パターンを観察していた。
(今日の夜だな……。
見た所、大した実力者でもなさそうだ…。)

夜になるとレイドはライフルを持参し、ビルの上に立っていた。
標的はもちろんダイラン。
スコープを覗き込み、ダイランの頭に標準を合わせる。
引き金を引こうとした瞬間―――
「これこれ若いの。
何をしておるんじゃ?
お主、血の匂いがスゴいぞ。」
レイドの背後で老人の声が聞こえた。
「!!?……じいさんが何の用だ?
人の仕事の邪魔をしないでいただきたい。」
(こいつ…ただの爺さんじゃねぇな。
声をかけられるまで全く気付かなかった…。)
「死にたくなかったらさっさと失せろ。
仕事の邪魔だ。」
「ホッホッホ。
口は達者なようじゃな。
しかし、お主じゃ儂を殺せんよ。
まだまだ力不足じゃからのぅ。」
「何だと?だったら試してみるか?」
レイドはライフルを一旦置くと老人を睨み付けた。
「グラビティ!」
レイドは召喚した銃を老人に向ける。
「ボコ殴りにしてやるっ…ガハッッ!?」
鈍い音と衝撃が体を貫き、レイドは地面に倒れこんだ。
(攻撃が見えないだと!?馬鹿な!)
「ほれほれ、どうした若いの?
そんなもんかお主の全力は?」
「このクソジジイがぁぁ!?
死にやがれ!!
クレイジーストーム!!!」
「ほほう。大したもんじゃ。
だが……ブラックホール。」
レイドの放った攻撃は老人のブラックホールに完全に飲み込まれてしまった。
「なっ!!チッ……もう良い。
俺の敗けだ。殺せ。」
「随分と諦めが良いのう。
ならばその命、この老いぼれに託してみんか?」
「何だと?」
「儂はこれでも魔法学園の長を務めておるのじゃ。
そこで、お主を教員としてスカウトしようと思ってな。」
「???クックック…。
アーハッハッハ。
マジで言ってんのかよ?」
「マジもマジ。
大マジじゃよ。」
「そうか……。そうだな。
あと4年待ってくれ。
あと4年したら絶対にアンタの学園に教員として行ってやる。」
「4年の間に何をするんじゃ?」
「勉強。」
「ホッホッホ。面白い男じゃの。
ならば待とう。頑張って勉強するのじゃぞ。」
そう言って学園長は姿を消した。
レイドはライフルをケースに入れ、雇い主の元へ行った。


553 名前: ◆peohZn6bOQ [sageトリ合ってるかな?] 本日のレス 投稿日:2007/09/10(月) 00:54:39 O
「お前との付き合いも今日で終わりだ。」
「え?何を言い出すんだいレイド君?
君は僕専属の殺しy…!」
「誰がお前の専属になるなんて言ったよ?
俺はこれから俺より強い人の元に就く。
じゃあな。」
「コイツっっっ!
誰でも良い!この男を始末しろ!!」
「やれやれ…。お前は馬鹿か?
俺の強さは此処の人間が一番よく知ってんだろ?
誰が俺に手を出すと思う?
素っ裸でライオンに立ち向かうようなもんだよ。
そんじゃ、バイバイ。」

それから4年後、レイドは無事に就職し、魔法学園の教師となる。
レイドの過去を知る者は学園内にはほとんど居ない……。

END。



556 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:05:46 0
【Another one 01】

目を醒ますとそこは薄暗い部屋だった。
「目を醒ますと」といっても、別に寝ていたわけではない。
気がつくとここに立っていた。
ここがどこなのかも全く分からない。
それは自分だけでなく、その部屋に居合わせた全員がそうであるとわかるまでそれほど時間は必要なかった。

窓一つない部屋。
部屋の真ん中にはテーブルとその上に何故か湯飲みが一つ。
頼りなさ気なランプが壁に掛かりかろうじてお互いの顔を見ることが出来る。

ラルヴァ・レイド・フリージア・キサラ・メラル・ロック・リリアーナ。
七人が顔を見合わせていると、唯一の出口である扉が勢い良く開いた。
「はぁ〜い!バトルフェアリー・アルナワーズよぉん!」
後光を背負って室内に入る褐色の女、アルナワーズの登場に全員が理解した。
 
     ああ、これは幻術なんだ、と。

げんなりとした顔をする七人の反応を無視して、アルナワーズは話し始める。
「ようこそ!七人のミサキへ!早速勝利条件を説明始めるわね。
ルールは簡単、襲ってくるクレイゴーレムにその湯飲みを破壊されなければいいのよ。」
「アル・・・何のゲームか知らないけど・・・」
「駄目よ〜。私はバトルフェアリー・アルナワーズ。アルじゃないわ〜。
そしてあなた達は幻術に陥っているわけじゃないのよ?」
呆れながら説明を求めようとするリリアーナの言葉を遮り否定するアルナワーズ。
随分と楽しげな表情に訳も判らぬ一同に苛立ちが募り始める。

そんな表情を見て、爽やかな笑みを湛えながらアルナワーズは宣言をする。
「ほらほら、湯飲みを置きっぱなしでいいの?
スタートを宣言するわよ〜。では、クレイゴーレムたん、スタートよぉん。」
その言葉と共にアルナワーズの姿が半透明になっていき、やがて消えてしまった。
直後、扉を潜り部屋に飛び込んでいたのは2m程のクレイゴーレムだった。


557 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:06:42 0
【Another one 02】

「ちっ!訳がわからないが仕方がないな。」
「ですわね。」
幻術と判っていれば心落ち着けていれば実際に傷つく事はない。
が、僅かでも疑念が残れば肉体に影響が現れる。
それにアルナワーズ自身が【幻術ではない】と明言しているのだ。
アルナワーズは歪曲したり複雑な言い回しをすることはあっても、めったに嘘はつかないと言う事は周知の事実。
現実を幻術と錯覚し無抵抗に倒される愚は犯せない。
ならば訳は判らずとも、判っている範囲内で出来うる行動をするしかないのだ。

クレイゴーレム一体、このメンバーであれば然程恐れる相手ではない。
だが狭い部屋で暴れられると思わぬ不覚を取ることがある。
レイドが素早く湯飲みを手に取り、全員が戦闘体制をとる。

七人の反応のよさも意思を持たぬクレイゴーレムには何の警戒を持たせることもできない。
ただ決められた行動をするだけの土くれの人形。
それは素早い動きでラルヴァに襲い掛かる。
「ルーナ!」
ラルヴァ自身は格闘能力が無くとも、ラルヴァの召喚する使い魔は恐るべき格闘能力を持つ。
ルーナは虎の獣人でパワータイプ。
クレイゴーレムとまともに組み合っても当たり負けする事はない。

が、ラルヴァの呼びかけにも拘らず、ルーナは現れなかった。
結果ラルヴァはクレイゴーレムの一撃をまともに喰らい、壁を突き破って吹き飛んだ。
穴の開いた壁から流れ込むのは潮の匂い、そして船音。
ここにいたり、六人はこの部屋が船室である事を知った。

だが、それよりラルヴァが攻撃を喰らった事が六人に衝撃を与える。
その一瞬の隙は感情のないクレイゴーレムにとっては十分な隙だった。
次の標的は湯飲みを持つレイド。
「ちっ!!貴様ああ!!アナザーゲート!!!」
目の前で生徒を攻撃され血走った叫びと共に虚空に手を伸ばす。
レイドの武器は亜空間のパーソナルスペースに収納されているのだ。
そこからは様々な武器を用途に合わせて引き出せる。

蒸発させてもまだ飽き足らぬ勢いで武器をとろうとするが、手は虚しく空を掴むばかり。
「・・・!?」
その無防備なレイドの胸板にクレイゴーレムの拳が叩き込まれる。
ベキバキボキ・・・
肋骨が砕け、内臓がつぶれる音が響くが、それでもレイドは吹き飛ばされずにクレイゴーレムの腕を掴み動きを封じていた。
「くそ・・・マジかよ・・・」
血と共に吐き出る言葉。
「「うわああああああ!!」」
叫び声と共にクレイゴーレムの背後からロックの鉄球とフリージアの氷結棍が叩き込まれる。
ほんの数瞬で二人の仲間が目の前で攻撃を受けた事に、恐慌状態に陥ったのだ。
身動きの取れないクレイゴーレムはロックとフリージアの攻撃を受け、砕け崩れるがそれでもまだ倒すには至らない。
「く・・・リリアーナ・・・!これをもって・・・逃げろ!!」
レイドは既に致命傷だという事を自覚していた。
これが幻などではなく現実のものだと。
そしてこのクレイゴーレムのカラクリを実感したが、もはやそれを伝える猶予はない。
湯飲みをリリアーナに投げとよこし、レイドは咥えていたタバコをぷっと吐き出した。


558 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:07:05 0
単なる吸殻ではない。
レイドの魔力を詰めた一種の爆弾である。
第三過程終了試験でいやと言うほど味わったロックとフリージアにとっては一種のトラウマとなっている。
恐慌状態であったが、それを元の状態に戻すほどの。
「イヤーーーー!レイド先生!!!」
「リリアーナさん!いけませんわ!」
「逃げるぞおお!」
湯飲みを持ったまま絶叫するリリアーナをロックは掴み逃げ出す。
それにメラル、キサラも続き、フリージアが殿を務める。

レイドのタバコの吸殻爆弾の威力は凄まじい。
氷結のフリージアの氷の盾を持ってしても防げぬほどなのだ。
全力で逃げながらも、最後尾のフリージアが氷の盾をいくつも精製しながら逃げる。
巻き込まれないように、隔壁代わりとして。

そして、最初にいた部屋で大爆発が起きる!
爆圧に砕ける壁。燃える床。
その威力に吹き飛ばされ、五人は甲板に投げ出された。


559 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:07:59 0
【Another one 03】

あまりの爆風に炎はかき消されたようで、焦げ臭い匂いはするものの炎に包まれる事は無かった。
半ば放心状態のリリアーナ・ロック・フリージアを他所にキサラとメラルは状況を確認していた。
周りは霧の深い海。
どんよりと曇った空は星によって位置を知ることも出来ず。
船は巨大なガレオン船で、後ろには大きな穴が開いている。
それがレイドの墓標だと否応なしでも実感させる迫力がある。

「・・・どうして・・・どうしてよ・・・!!」
最初は呟くような、だがそれはすぐに絶叫に変わる。
目の前で二人の仲間を失った・・・生死は確認できていないが、本能的に察していた。
ラルヴァとレイドは死んだのだ、と。
その悲しみと不条理さにリリアーナは叫ばずにいられなかったのだ。

「どうして?と尋ねられれば応えてやるのが世の情け。
バトルフェアリー・アルナワーズ、登場よ〜。」
悲痛な叫びと重い空気をぶち破るアルナワーズ。
いつもの笑みでリリアーナの目の前に現れた。
「この船では召喚魔法・空間魔法・フィールド魔法は封じられているのよ〜。
あ、位置確認も一種の空間魔法だから無駄よ。」
密かに位置確認魔法を試みようとしていたメラルがその手を止める。

メラルの方を向いているので、リリアーナがゆらりと立ち上がったのにアルナワーズは気付かなかったろう。
「・・・アル・・・なぜそれを最初に言ってくれなかったの?」
「だって聞かなかったのだもの。」
あらゆるものを抑え、搾り出すように質問を投げかける。
それに対する答えは、余りにも軽く単純なものだった。
リリアーナの頭の中で何かがまとめて切れる音がした。
「あなたって人は!!!!」
言いたい事は色々あったはずだ。
だが、人は本当に怒ると出せる言葉は本当に僅かでしかない。
リリアーナが生きてきた16年で一度もしたことのない程の怒りの表情でアルナワーズを睨み、右手を振り上げた。

強烈な拳がアルナワーズの頬を捉えるはずだった。
いくらリリアーナが格闘向きでないとは言え、アルナワーズはそれ以上に格闘向きではない。
そして何よりアルナワーズは微動だにしなかった。
にも拘らず、リリアーナの拳は当たる事は無かった。
なぜならば、アルナワーズを捉える直前、手首より先が切り取られてしまったのだから。

「・・・・!!!!」
「だめよぉ〜。バトルフェアリーに攻撃したら十倍以上のダメージが与えられるのだからぁん。」
血の吹き出る右手首を押さえ、声にならない叫び声をあげるリリアーナを睥睨しながら言い放つ。
その表情には一片の曇りも見られない。
「アルナワーズ!許さんぞ!」
「駄目よ、ロック。まだ・・・駄目・・・!」
リリアーナとアルナワーズのやり取りに激昂するロック。
それを止めたのはメラルだった。
「あら、メラルは流石にわかっているわねえん。」
「ええ、【まだ】ね。無駄な労力はしない。確実にあなたを罰するまでは我慢してあげる・・・!」
留めに入ったメラルだが、平気なわけではない。
ロックを止めながらも、自身も今にも襲い掛かりたい衝動を抑えているのだ。
今は判らない事が多すぎる。
だが、解析できれば必ずこの報いは受けさせるという決意に漲っていた。


560 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:08:16 0
「やっぱりメラルは私を一番ゾクゾクさせてくれるわあ。
ご褒美にサービス。他には回復魔法も無効よぉん。だから、リリアーナの処置も急いだ方がいいわよぉ。」
くすくすと笑いながら説明するアルナワーズの前にリリアーナが立ち上がっていた。
右腕の切断面が凍らされている。
「ええ、ご親切にどうも!何のつもりかなんてもうどうでもいいわ。絶対に許さない!」
「私も同感ですわ。コキュートスすら暖かく感じる思いをプレゼントして差し上げます。」
左肩をフリージアに支えられながら凍りついた表情で言い放った。
怒れるリリアーナの右手に跪くように手を当てるのはキサラだった。

才能を開花させてきたとはいえ、まだ未熟な魔法技術しか持たないキサラ。
実践でどれだけ使えるかは未知数だ。
ならば実戦経験豊かなフリージアがリリアーナの傷の氷結に魔力を使うより、自分がやった方が効率がいいという結論に達したのだ。

そして傷口の氷結が成功した今、キサラは次の作業に入っていた。
精神同影・・・
対象の精神に同調し、それを心の中に投影するスキル 。
アルナワーズになりきってその心を読み取り意図を探ろうとしているのだ。

「あら怖いわ〜。そんなに嫌わないでぇん。
嫌われたくないからもう一つサービス。あなた達を襲うクレイゴーレムはさっきの一体だけよぉ。
それから、キサラァ?私はそんなにぬるくないわよぉん。」
睨みつけるフリージアとリリアーナを軽くいなし、キサラに笑いかける。
アルナワーズは幻と精神のエキスパート。
幾重にも思考デコイを張り巡らせ同調を遮る。
キサラの試みを嘲笑うかのようにまた風景に解けて消えていった。

精神同影は周囲との干渉を一時的に断つほどの集中を要する。
成功しても失敗しても精神的な疲労は極大となってキサラに襲い掛かる。
玉のような汗を額に浮かべ「駄目だ・・・」と小さく呟くのが精一杯だった。
精神的に疲労困憊に陥ったキサラが超反応を使用できないのは自明の理。
床板を突き破って現れたクレイゴーレムの腕から逃れる事は出来なかった。
声を上げることも出来ず引きずり込まれるキサラ。
そして、代わりに現れたのは完全に復元したクレイゴーレムだった。



561 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:08:42 0
【Another one 04】

「ロックさん、リリアーナさんをお願いします!」
支えていたリリアーナをロックに投げ渡すようにして、フリージアが跳ぶ!
共に氷結魔法を学ぶキサラをやられ、フリージアの最後の理性は吹き飛んだ。
氷結棍最上段から振り下ろす。
だが、先ほどクレイゴーレムを砕いた氷結棍は今度は逆に乾いた音共に砕け散った。
驚きの声を上げることも許されずクレイゴーレムの大きな手で掴まれてしまう。

メキメキといやな音がなるが握りつぶされずにすんだのは鋼鉄製のコルセットのおかげだろう。
即死は免れたが、かといってこの手から逃れる術はない。
ロックがその手に鉄球を打ち込むが、めり込んだだけで砕くには至らなかった。
握る手に更に力を入れられもがくフリージア。
否。
これはフリージア最後の禁断の魔法の動作なのだ。
自分の中の魔力のオーバーロード。
周囲の空間ごと凍り付いていく。

「いけない。すぐにこの場を離れて!」
同じく氷結魔法を修めるメラルにはフリージアが何をしようとしているかが判った。
氷結とはつまるところ分子運動の減速。
その極地は分子運動の停止。
フリージアは自分ごと超極低温による分子分解を行おうとしているのだ。

ただただ首を振り動こうとしないリリアーナを無理やり抱き上げ逃げるロックとメラル。
その背後で光すら凍りつき停止するフリージアの禁断の魔法が発動した。
音も光も全てが凍りつき、停止した静寂の世界。
もはやフリージアもクレイゴーレムの姿もない。
ただ塵だけが漂っていた。


562 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:09:07 0
【Another one 05】

船の先端部分まで来た三人は当たりに何の気配もないことを確認し、思考をめぐらせていた。
リリアーナの頬は赤く腫れている。
落ち着かせる為にメラルが張ったのだ。
親友であるフリージアを失った事はリリアーナに今まで以上の衝撃を与えていたのだった。
今は落ち着いてはいるが、まだ不安定なところが隠し切れていない。
「おかしいのよ。」
「ええ、何もかもがおかしいわ!」
「違うの、アルよ。」
思考のまとまりきっていないまま、メラルが口火を切ると、リリアーナが投げ捨てるように同意する。
だが本当の意味などわかってはいない。
メラルは丁寧に説明を始める。
「アルは面白半分で人を窮地に追い込んだりするわ。
でも、その時は必ず大義名分を翳すの。
喩えどんなときでもアルを責めるに責められないような理由付けを。」
「確かに、今はそういう理由が一切ない・・・。」
リリアーナに比べれば、だがまだ落ち着いているロックがメラルに言われそのことに気付いた。
曲解、歪曲、拡大解釈など、あらゆる事をするが一応の筋を通している。
だからこそアルナワーズと論ずるのが至難であるのだが、今回はそれがない。
「それからあのゴーレム。確実に強くなっているわ。
最初はフリージアやロックの攻撃で崩れていたのに、二回目は一切効かなかった。」
ありのままを並べるメラル。
そのデータから導き出されるのは恐るべき結論だった。

クレイゴーレムは一体しかいない。
そして、受けた攻撃を学習し、耐性をつけていく。

今までレイドの炎系である爆弾。
ロックの鉄球による物理攻撃。
フリージアの氷結棍による物理攻撃。
そして先ほどフリージアの超極低温に依る分子分解。

もし分子分解をもってしても倒せず、耐性をつけて現れたのであれば・・・残ったリリアーナ、ロック、メラルではもう倒す術がないのだ。

「フリージアの攻撃のあと、何の変化もないからクレイゴーレムは復活してくると考えた方がいいと思うの。
何度でも復活し、その度に強くなるクレイゴーレム。
この理不尽な敵に、逃げ切れない船の上。勝利条件がその湯飲みを・・・そうだったのね!つまり・・・!」
話しながら思考をまとめているメラルだが、最後まで言葉を続ける事は出来なかった。

メラルがいた場所にクレイゴーレムが立っていた。
その足元に滲み出る血だけがそこにメラルがいた事を語っていた。
クレイゴーレムは最初より2倍ほどに巨体となっており、リリアーナとロックの前に立ちはだかったのだ。



563 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:09:35 0
【Another one 06】

学園地下。円卓に八人が座っている。
皆意識がないようで、ピクリとも動かない。
まともに座っているのは三人だけで、五人は円卓に突っ伏していた。
円卓の中心には一冊の本。
鎖を模した飾りカバーでしっかり封をしてあるその分厚い本が怪しげな光を放っていた。

「なあ、成功すると思うか?」
「ふん、人間の考える事は分からん。
無限に復活し強くなるゴーレム相手に勝利などできるわけがない。」
「だよなあ。」
円卓の八人を眺め、小さく溜息をつくのはユユだった。
それに対するのはヴァンエレン。
学園に縛られた吸血鬼だ。
「ええい、口惜しい!私が生身の人間であれば!」
苛立ちのあまり剣を石畳に突き刺しながら激昂するのは英霊かを遂げた獣人騎士アルテリオン。
次々と円卓に突っ伏していく姿を見て居ても立ってもいられなくなっているのだ。

「仕方があるまい。参加資格は「成長する」者。既に死屍たる我らにはどうにも出来んのだからな。」
本音同時通訳(ラッキー!こんなおっそろしい事に道連れにならなくて最高!死んでる私を褒めてあげたい!)
アルテリオンをなだめながらも心の中で幸せを噛み締めるヴァンエレンであった。

「やれやれ、一人救う為に負うリスクにしては大きすぎなんだよ。」 
そんな二人のやり取りを脇目に、ユユは溜息をつきながら円卓の儀式を見続けるのであった。


564 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:10:19 0
【Another one 07】

「く、くそお、リリアーナ!逃げろ!」
突然現れたクレイゴーレムを前に、ロックが叫ぶ。
もはや絶望的な戦いでしかないのわかっている。
リリアーナを押して立ち向かおうとするロックにリリアーナが縋りつく。
「駄目よ!行っちゃ駄目!もう、嫌なの!!」
メラルが目の前で踏み潰され、もう勝てないと判っているのだ。
ロックを足止めに自分だけ逃げるなどリリアーナにはできるはずも無かった。

だが、右手は切断され、左手に湯飲みを持つリリアーナはロックを掴む事すらできなかった。
ロックはリリアーナを振り払いクレイゴーレムに向かった行く。
そして殴り飛ばされる。
硬化魔法をかけているため、一撃で死ぬ事は無かったが、ダメージは大きい。
足はガクガクと震え、立っているだけで精一杯。

そんなロックなど眼中にないようにクレイゴーレムはゆっくりとリリアーナへと向かう。
「お前の相手は俺だろおおお!!」
叫び声と共にクレイゴーレムの背中に鉄球を打ち込むが、全て弾かれてしまう。
鉄球で効果がないため、震える足を叩きロックはその背中に掴みかかる。
それでもクレイゴーレムは全く意に介さない。
ロックを背中に乗せたまま、リリアーナに手を伸ばす・・・

リリアーナの全身がクレイゴーレムの影に隠れ、もはや逃げる事すら叶わなくなったとき、その動きが止まる、
ぼこぼこと全身が波打ち蠢きだす。
ロックがクレイゴーレムの土を媒介にゴーレムを作っているのだ。
土を分散させ、ゴーレムの支配権を奪う為に!

しかしこれは魔法力の勝負。
ロックのゴーレム作成能力は元々格闘トレーニング用に作り出す為に身につけたもの。
それほど強いわけではない。
発想は良かったが、あらゆる攻撃を学習し耐性をつけるこのクレイゴーレムには足止め程度にしかならなかった。
分裂しかけたクレイゴーレムは急速にその支配権を取り戻し、身体を元に戻していく。
そして再度リリアーナに手を伸ばし始めた。

しかし、その僅かな時間でリリアーナの表情は一変していた。
怯えた表情は無くなり、焦燥しきってはいるが、覚悟を決めた表情に。
「こんな、こんな湯飲みを守る為に訳も判らず皆が・・・!
こんなもの!なければいいのよ!!」
意図を察したか、急いで手を伸ばすが、一瞬遅かった。
リリアーナは大きく振りかぶり、床に湯飲みを叩きつけた!

乾いた音が響き渡り、湯飲みは砕けた。

そしてそれと同様に、クレイゴーレムも砕け散った。


565 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:11:13 0
【Another one 08】

「おめでとう〜。」
クレイゴーレムの変わりに現れたのはアルナワーズ。
事態の変化に反応できず呆然と立ち尽くすリリアーナの視界が暗転する。

そして視界が開けたとき、リリアーナは円卓に座っていた。
周りにはラルヴァ・レイド・キサラ・フリージア・メラル・ロック・アルナワーズが座っている。
そしてテーブルには一冊の本とクドリャフカが横たわっていた。

「おお、クリアーしたよ!マジかよ!」
「うそおおおおお!!」
「皆さん!信じていました!よかったあああ!」
地下室に響くユユとヴァンエレンとアルテリオンの三者三様の声。

リリアーナは、いや、円卓に座る八人は全てを思い出していた。

氷漬けを避けるためにクドリャフカが魔本の中に逃げ込んだ。
だが、その本は【擬戦盤】という、本来修行目的の本だったのだ。
本の中の仮想世界で設定した条件をクリアーするという。
だが、ただの修行で終わらないのが魔本たる所以。
条件をクリアーできなければそのまま本に閉じ込められてしまうのだ。
クドリャフカは半死半生で中に入った為当然クリアーできず。
魔本に取り込まれていたのだ。

助け出す為の手順もわかっていた。
助け出す為の条件を魔本の中に入ってクリアーするだけだ。
進行役一人、救出チーム7人の【七人のミサキ】。
倒せない敵、破壊させない条件。
結論から言えば湯飲みが湯飲みでなくなれば破壊のしようがない、と言うわけだ。
砕けた湯飲みは既に湯のみではないのだから。
だが、本に入った時点でその記憶は消され、純粋にその場の戦闘と知恵でクリアーする必要がある。
誰か一人でもクリアーできればいいが、失敗すれば二次遭難の如く八人全員が魔本に取り込まれてしまうという危険な救出劇。

それを見事クリアーして、還ってきたのだ。

それぞれ抱き合って喜ぶメンバーを他所に、微笑を浮かべたままそっと立ち上がる一人。
アルナワーズ。
「あ、あの、本の中で酷いこと言って、ゴメンね・・・」
そんなアルナワーズに最初に気付いたのはリリアーナだった。
本の中での記憶はしっかり残っている。
全員の一致した賛成のもと行われたとはいえ、今回の救出劇の立案者である負い目もあったからだ。。

気付かなければいいのに、気配り上手なのも損なものだ・・・
そう思いながらもアルナワーズは口には出さない。
ただ・・・
「いいのよぉ〜。憎まれ役は慣れているもの。」
「そんな、アル・・・そんな事いわないで・・・辛い役をさせて、ゴメン・・・」
消え入りそうな声で俯いたが、すぐに後悔する事になる。
まるでその言葉を誘導したかのようなしてやったりのアルナワーズの表情を見てしまったから。
その笑みはリリアーナにとって最大の恐怖だった。


566 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:11:30 0
その恐怖を和らげるものは・・・
がっしりとリリアーナの肩を抱く大きな手。
「リリィさん、ほんにありがとうの。
アル、元々は私を助ける為の事じゃきい、この借りは全部私につけておいてくれんかのぉ?」
起き上がったクドリャフカが力強く立っていた。
「あら、クドリャフカさんだけのためでなく、私達の友情のためですもの。
借りも貸しも全員で共有しますわよ?」
リリアーナとクドリャフカの後ろには皆が笑顔で並んでいる。
心は一つだ。

「あらあら、熱いわねえ。じゃ、全員で共有してもらうわ。
早くこんな実験室からは出て、食堂へ行って全員で祝勝会をしましょう?」
くすくすと笑いながらアルナワーズはパーティーの開催を促すのであった。


fin


567 名前: ◆83283JSjbU [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/11(火) 23:14:35 0
一日一話のつもりだったけど、諸事情により一喝投下。
ラルヴァの異形態とか、メラルの黒天砲とか、色々入れられなかったネタが多かった・・・
かませ状態で人様のキャラを次々と殺してしまってすいません。
魔法少女スレ完走記念、と言うことで。
こんな扱いしてしまったけど、魔法少女スレのみんな大好きです。
いい時間をありがとう。
恩返しになっていないけど、精一杯の気持ちです。
ありがとう!






消えた招き猫前編・遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY#############

580 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 消えた招き猫前編 1/6] 本日のレス 投稿日:2007/09/20(木) 02:29:13 O
「おかしいですわ・・」
フィジル島にある学園の一角、通称招き猫広場でフリージアは首を傾げていた。
広場の名前の由来となっている、巨大招き猫の像が無くなっていたからだ。
像が消えることはそんなに珍しくもない。
以前にも某野球チーム優勝記念に、川に放り込まれた事があった。
酔っぱらった生徒達が、寮にお持ち帰りしたこともあった。
なのになぜ今回はこんなに気になるのか?

それは、最近頻発している猫誘拐事件と関係があった。
飼い猫から野良猫に至るまで、島内の猫達が次々に行方不明になっているのだ。
最初は気にも止めなかった生徒達の間にも、噂は尾鰭を付けて広まっている。
自他共に認める猫愛好家の一人として、フリージアも事件解決に力を貸すことにした。
そして最初に発見した異常が、招き猫の消失だったのだ。
二つの事件は何か関係があるのだろうか?
考え込むフリージアは、さっきからリリアーナが声をかけている事にも気がつかなかった。

「フリージアーっ!フリージアってばーー!!」
肩を揺すられてようやくリリアーナに気づく。
「あ、あらリリアーナさん。何かご用ですの?」
おーっほっほっほと、照れ隠しのためか高笑いするフリージア。


581 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 2/6] 本日のレス 投稿日:2007/09/20(木) 02:30:24 O
「もう。フリージアったらしっかりしてよ。
あなたまでアルみたいに、おかしくなったのかと思っちゃった」
「アルナワーズさんがどうかしましたの?」
「うん・・・実はね・・・」

リリアーナの説明によると、アルナワーズはヴァンエレンと一緒に何かをしているらしい。
ヴァンエレンが学園に呪縛され、その呪いを解くために努力しているのは周知の事実。
最初はそのために協力しているのかと思っていたが、それにしては行動が奇妙すぎた。

夜中のうちにネコミミを付けて寮を抜け出す。
毎日毎日違う猫を連れて歩いている。
巨大招き猫の像を磨いている。
そこにきて今回の猫誘拐騒ぎだ。
アルナワーズが事件に関与していると考える人間は、決して少なくはなかった。

「ほら、こんな記事にまでされちゃってるし」
リリアーナが見せたのは、学園新聞【でいりぃ・ふぃじる】。
三流ゴシップ記事が売りの新聞だが、時々大きな事件をすっぱ抜くのでも有名だ。
愛読者も多く、学園長も読んでいる、との噂もある。
その一面にデカデカと書かれた文字を見て、フリージアの顔が凍り付いた。


582 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 3/6] 本日のレス 投稿日:2007/09/20(木) 02:31:43 O
『記者は見た!これぞ猫連続誘拐事件の真実!?』
本日未明、数匹の猫を連れたアルナワーズ氏を、本誌記者が発見。
突撃インタビューを行った。
同氏は猫連続誘拐事件への関与を全面否定。
ただ、連れている猫をどうするのか。との質問には明言を避けた。
さらに記者が質問しようとした所、幻術を使用して逃走。
本誌は、アルナワーズ氏がなんらかの形で今回の事件に関与しているものと考え(ry

「あ、ありえませんわ。アルナワーズさんがそんな事を・・・」
否定しようとして、フリージアの目は続く記事に釘付けになった。
そこには学園に伝わる言い伝えが紹介されている。
『満月の夜、巨大招き猫の像に千匹の猫を生け贄に捧げよ。
されば、古代猫神に封印されし邪神は、再度解き放たれん』

「大変ですわ!!!」
「そうなの大変なのよ。邪神の復活なんて信じる人はいなくても・・って、フリージア?」
フリージアはリリアーナの腕を掴んで、ずかずか歩きだした。
「友人として、仲間が間違った道を歩いている時は、正さないといけませんわね!
ご心配なくリリアーナさん。
この氷結のフリージア、必ずやアルナワーズさんも猫ちゃん達も救って見せますわ!」


583 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 4/6] 本日のレス 投稿日:2007/09/20(木) 02:32:59 O
「え?え?フリージア、どうしちゃったの?」
事情がよく分からないリリアーナは、引きずられながら困惑するしかなかった。

「あれが、アルナワーズさん達の隠れ家ですわね・・・」
あれからしばらく。
2人は森の中、花畑の近くにある小屋を監視していた。
かなりの額の金を情報屋に払い、昨晩、ヴァンが小屋に招き猫を持ち込んだ事を知ったのだ。
リリアーナはこっそり小屋に近づき、窓から中をのぞき込む。
薄暗い室内には、装置の残骸らしいガラクタが放置されていたが、招き猫は無かった。

「やっぱり、中には何もないみたい。偽情報だったんだよ」
「大甘ですわ、リリアーナさん。アルナワーズさんの特技は幻術ですもの」
「・・それはそうなんだけど・・・」
この間のパーティーの時の騒動が、リリアーナの頭をよぎる。
それでも、アルが邪神を復活させるとは、とても思えない。

「ねえ。フリージアは、本気でアルが邪神を復活させるって考えてるの?」
「私もそこまで仲間を信じていない訳ではありませんわ。
でもアルナワーズさんなら、疫病神くらいなら復活させてもおかしくないと思いますわ」


584 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 5/6] 本日のレス 投稿日:2007/09/20(木) 02:34:24 O
フリージアの言葉を、リリアーナは否定できなかった。
確かにアルなら、あまり害のない神の封印くらい、喜んで解きそうに思える。
例えそれが邪神と呼ばれるような存在でも。

もし、この事件が猫でなく犬誘拐事件だったなら。
フリージアは邪神復活など馬鹿らしいと、笑って聞き流しただろう。
もし、事件に関係しているのが、アルナワーズ以外の誰かだったなら。
リリアーナは、それを止めようとは思わなかったはずだ。
だが状況は二人に疑問を挟む事を許さなかった。

そうだ。アルがまた誰かを困らせようとしているなら、止めなくちゃ。
もし勘違いなら、その時はきちんと謝ればいい。
アルも普段から言動には気をつけてよね!同室の私も大変なんだから!
と、文句の一つも言いながら。
そう考えたリリアーナは、意を決して小屋に近づき、二・三回ドアをノックした。
「アル・・・?中にいるの?」
当然だが返事は帰ってこなかった。
ドアには鍵が掛かっているのか、押しても引いてもびくともしない。


585 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 6/6] 本日のレス 投稿日:2007/09/20(木) 02:35:32 O
「リリアーナさん。ここは私におまかせくださいな」
フリージアはいつの間にか手にしていた氷結棍で、ドアに突きをお見舞いする。
しかしドアは魔法で閉ざされているのか、傷一つ付けることは出来なかった。

「やっぱり、勝手に入るのは良くないと思うの。
レイド先生を呼んで、ドアを開けてもらった方がいいんじゃないかな。

「そんな暇はありませんわ!」
フリージアは思わず大声で叫んだ。

「こんな事をしている間にも、猫ちゃんたちが生け贄にされているかもしれませんのに!
どこにいるか分からない、レイド先生を捜しに行く時間なんてありませんわ!
こうなったら、この技を使うしかありませんわね!!おーっほっほっほ!」
高笑いと共にフリージアは、フリージングドール・マリオネットを造りだす。
氷の人形の手には、同じく氷で出来た破城鎚。
「ちょ、ちょっと待って!そんな事をしたら・・!」
リリアーナの制止を振り切り、人形は壁を力一杯殴り付けた!


586 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/20(木) 02:39:37 O
魔法少女と冒険スレの妄想SSです
登場各キャラのみなさまに感謝を

夏休み中辺りの話と考えていますが、夏ぜんぜん関係ないです
夏らしい話思いつかなかった・・・




607 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 消えた招き猫後編 1/8] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:47:17 O
話は少し前にさかのぼる。
場所は同じ、花畑の近くの小屋。
数匹の猫を連れ、ネコミミまで付けたアルナワーズがドアをノックしている。
「どうぞ」
中からの返事にドアを開けると。
そこには数十匹に及ぶ猫の群と、猫の世話に奮闘するヴァンエレンの姿があった。
部屋の中央には巨大招き猫が据え付けられ、まるで猫のテーマパークのようだ。

「よしよし。ほ〜ら、ミルクとネコ缶だぞ〜
あっこら!私のマントにおしっこを引っかけるなー!」
「猫ちゃんのお世話、ご苦労様ね〜
ほら、こちらもちゃんと連れてきたわよ。これで丁度百匹目」
「そうか!ついに百匹の猫がそろったのか!」
ヴァンエレンの声には、押さえきれない喜びが混じっていた。

そもそも、地下図書館で見つけた一冊の本が全ての始まりだった。
『巨大招き猫の像の周りに百匹の猫を集め、自身猫となりて「ねこじゃねこじゃ」を踊れ。
古に封印されし偉大なる猫神は、汝の望みを叶えるであろう』
その言葉を信じ、猫を集めようとしたものの、なかなか上手く行かなかった。
そんな時だった。落ち込むヴァンエレンの前に、アルナワーズが現れたのは。


608 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 2/8] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:48:42 O
彼女は、今のヴァンの窮状は自分達にも責任がある、と謝罪し、協力を申し出た。
そしてアルナワーズの協力のもと、ついに儀式の条件がそろったのだ。

「お前には世話になったな。私が解放されたら、褒美の品をくれてやろう」
「身に余る光栄、つつしんでお受け致します」
ふんぞり返るヴァンエレンと、優雅に一礼するアルナワーズ。
だが、伏せられたアルナワーズの笑顔は、優雅どころではなかった。
この儀式は絶対に成功しない事を、アルナワーズだけは知っていのだから。

実は、学園に伝わる伝説を少し改訂したものを、アルは図書館に何冊か仕掛けてあったのだ。
つまりヴァンエレンが信じ込んでいるのは、まるっきりの作り話。
協力を申し出たのも、ヴァンエレンを信用させ、作戦の成功を近くで見るため。
落胆する吸血鬼を楽しみつつ、恩を売る事ができる一石二鳥の作戦だ!

「幻術で小屋の中は見えないし、音も外には聞こえない。
ドアには封印が施してあって、すぐ破ることは不可能。
儀式を始めるなら、今すぐが一番よ〜」
「それもそうだな!では早速始めるか!!」
待ちきれないとばかりに、ヴァンエレンはネコミミを装着。
ついに儀式は始まった。


609 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 3/8] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:51:02 O
まずは巨大招き猫の周囲に描かれた魔法陣に、100匹の猫を配置。
ヴァンエレンとアルナワーズは、それぞれネコ耳をつけて向かい合わせに立った。
「さ〜あ、みなさん!お手を拝借ぅ〜!」
ぱぱんがぱん!
ヴァンエレンの手拍子にあわせて、陽気な音楽が流れ出す。
曲は【クック・ロビン音頭】
昔フィジル島を根城にしていた海賊、キャプテン・クックの死を悲しむ歌だ。
お祭り好きな性格だったクックは、自分の葬式用にこの歌と踊りを作成したと言われている。

事の真偽はともかく、何もかもでたらめな儀式が始まる。
百匹の猫と像は集めた。
だが自分が猫になるためには、ネコ耳をつけただけ。
踊りは【ねこじゃねこじゃ】ではないし、そもそも情報源が創り話だ。
すべてはアルナワーズの手のひらの中。
今のヴァンエレンは、まるで踊らされ続ける哀れな操り人形のよう。
だが、しかし。奇跡は起こった。


610 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 4/8] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:52:12 O
魔法陣の中心に据えられた巨大な招き猫の像が立ち上がり、音楽に合わせて踊り始めたのだ。
それとは逆に集められた猫たちは、所定の位置に座ったままぴくりとも動かない。

驚いたのはアルナワーズだ。
絶対に失敗すると確信していた儀式魔法が、成功しているのだから。
それでも、驚きがほとんど顔に出なかったのは、さすがと言うしかない。
素早く頭を切り替えて、次にすべき事を考える。
奇跡は起こった。儀式は成功しているように見える。
では、嘘から出た真実の結末はどうなるのだろうか?
鬼がでるか蛇がでるか、誰でも知りたくなるんじゃない?

一方のヴァンエレンには、そんなアルナワーズの心の中が分かるはずもない。
やはり言い伝えは正しかった!長い間の苦労が、ついに報われる時が来たのだ!
嬉しさのあまりオーバーアクションになる時もあるが、それもご愛嬌。
もうすぐ光臨する猫神の力で、私は自由を勝ち取るのだ!

それぞれの思惑を胸に踊る2人と1体を、二百個の瞳が静かに見つめていた。


611 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 5/8] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:53:52 O
異変が起きたのは、曲が2番に入ったときだった。
ドアをノックする音がして、リリアーナが中に呼びかけてきたのだ。
「アル・・・?中にいるの?」
ヴァンエレンは驚いて、目でアルナワーズに話しかける。
『気づかれたのか?!このままではまずいぞ!』

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ〜。
言ったでしょ?中の様子は外からは見えないし、音も聞こえない。
ドアには封印を施してるから、教師クラスの魔力がないと突入も無理。
それより急がないと、レイド先生を呼ばれたりしたら大変よ?」
アルナワーズの言うように、誰かがドアを攻撃しているようだが、ドアはびくともしない。

「分かった!急いで儀式を続けるぞ!」
慌てて踊りを再会するヴァンエレン。
だがその時、ドアの横の壁が轟音と共に砕け散った!

「おーっほっほっほっほっほっほ!!
アルナワーズさん!あなた達の悪巧みもここまでですわよ!」
「フリージア!やっぱりアルは中にいたの?!」
壁の穴から入ってきたフリージアとリリアーナが見たのものは。
変なポーズのまま硬直している、ヴァンエレンと百匹の猫。
そして巨大招き猫と踊り続けるアルナワーズの姿だった。


612 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 6/8] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:55:06 O
それからはいろんな事が一度に起こった。
百匹の猫たちを見たフリージアは、自分が何をしに来たかも忘れて猫を抱きしめに向かった。
リリアーナはアルナワーズを止めようとして転び、魔法陣の上をヘッドスライディングした。
ヴァンエレンは硬直したまま、フリージングドール・マリオネットに跳ね飛ばされた。
そしてアルナワーズは儀式の失敗を悟り、逃げ惑う猫たちをすり抜けて外に逃げ出した。

ドアの外に出たアルナワーズは、軽くため息をついく。
「もうちょっとで儀式が成功したのに、残念ね〜
最初の目的は達成できたから問題は無いんだけど」
どのみち失敗する事は分かっていた儀式だ。
好奇心を満たせなかったのは残念だが、十分満足できる結果だろう。
後は、落ち込むヴァンエレンの心の傷に、どうやって塩を塗り込むか考えればいい。
そう自分を納得させて、窓から部屋の中をのぞき込んだ。
部屋の中の混乱はますます深くなり、まるで魔女の煮込んだ大鍋の中身のよう。
アルナワーズという名の魔女に踊らされた人々が平穏を取り戻すのは、まだまだ先のようだった。


613 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 7/8] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:56:20 O
数日後、招き猫広場で【驚異的な人数でクック・ロビン音頭を踊る会】が開かれた。
イベントは大成功だと言っていいだろう。
驚異的とまでは言えないが、夏休み中にしてはかなりの数の生徒が集まったのだから。
やはり学園の生徒は、こんなお祭りごとが大好きなのだ。
そして踊る生徒たちと巨大招き猫を、再び集まった4人は少し離れた場所から眺めていた。

「それにしても、夏休みに楽しい思い出ができて良かったわ〜
みんなも楽しそうに踊ってるじゃない?儀式は大成功ってところね」
「アル!今回は偶然何事もなく済んだけど、毎回うまくいくとは限らないのよ!
あんまり変な事ばかりしてると、どうなっても知らないんだから!」

事件発覚後、学園側はすぐに調査チームを設置して、招き猫の像を徹底的に調べあげた。
結果、招き猫の像はある種の音楽に反応して踊り出す、一種のゴーレムであることが判明。
特に害はないとの判断により、再び広場に像を戻すことにした。
だが、この調査結果を疑問視する声もある。
招き猫に首輪と鎖がつけられて、持ち運べないようにされた事がその理由だ。
リリアーナの言葉どうり、何事も起きなかったのは幸運だったのかもしれない。


614 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage 8/8 完] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:57:57 O
「まあまあ、リリアーナさん。そんなに怒らなくても大丈夫ですわよ。
猫ちゃんたちも無事に戻ってきましたし、終わりよければ全てよしですわ。
おーっほっほっほっほ!!」
百匹の猫達に囲まれるという猫好きの楽園を体験したためか、フリージアは上機嫌だった。
その横の日陰では、ヴァンエレンが虚ろな目で座っている。
期待が大きかっただけに、落胆も大きかったのだ。

「もう。そんなに落ち込んでちゃだめよ。今回の失敗を次回に生かさなきゃ。ね?」
「そうですわ。今度から猫ちゃん達を集める時は、私に言ってくれれば手伝いますわよ」
リリアーナとフリージアの励ましも、ヴァンエレンの耳には届いていないようだった。

「あ。あなたに渡すものがあったのよね〜。はい、これ」
そんなヴァンの目の前にアルナワーズが差し出したのは、一枚の表彰状だった。
学園の秘密を解き明かした功績を称え、これからも秘密解明に尽力して欲しいと書かれている。
表彰状を見るヴァンの瞳に、みるみる生気が戻ってきた。
「負けん!私は負けんぞーっ!必ずこの学園から脱出してみせるからなーーっ!!」
ヴァンエレンの叫びは、高く高く夏の青空に吸い込まれていったのだった。


615 名前:遅筆人 ◆.ZxbYvlgPY [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/30(日) 02:59:57 O
魔法少女と冒険スレの妄想SSです
登場各キャラのみなさまに感謝を
もっとキャラを出したかったのですが、できなかった・・・

クロバスキーさん遅筆ですみませんorz
他の職人さんたちのGJな投下と、読んでくれた人の感想が生きる支えです