恋する乙女・ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk#################

669 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2007/12/05(水) 22:45:01 0
  【恋する乙女1】

「ねえねえ、知ってる?いよいよ決行するらしいわよ。」
「え、あの子の事?」
「もちろん。レオ先生の事になると止まらなかったけど、この頃更に磨きが掛かってるから。」
「え〜そうなんだー。でも上手くいくかしら?」
「恋に障害は付きものって言うけど、あれはねー。」
「やーねー、障害が大きいほど燃え上がるのよ。」
「そうそう、近くで見てると鬼気迫るものがあるもの。」
「方向性は間違いすぎているけどね。」
「ぷっ・・・あははは・・・」
それは麗らかな午後のお茶会での事。
たわいもない恋の話で盛り上がる女子生徒たち。
そんなやり取りをにこやかに聞いていた一人がカップを更に置きながら口を開く。
「あらあらまあまあ。それは面白そうねぇ。」
その目に輝く愉悦の光を隠そうともせずに。

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それから暫く後。
アルナワーズは地下図書館へとやってきていた。
(ある意味)愛すべき吸血鬼の元へと。
「はぁ〜い。偉大なる吸血鬼!夜の眷属!不死の王!ヴァン・エレンさまぁ〜ん!」
甘ったるい声で呼ばれたヴァンエレンはビクッと肩をいからし、読んでいた本をお手玉してしまう。
吸血鬼の威厳も糞もなく椅子から転がり落ち、本に埋もれながらアルナワーズの姿を確認していた。
「き、貴様!何しにきた!どうせまた私を苛めにきたんだろ!もう騙されんぞ!あっち行け!」
床に這い蹲ったまま立ち上がらず、そのまま机の下に引っ込みながら罵るのだった。
なんとも情けない反応ではあるが、これには相応の訳がある。

アルナワーズに甘ったるい声で呼びかけられた時は必ずといっていいほどいいように利用され、酷い目にあわせられるのだ。
以前、死刑宣告同然のレイドとの試合契約書にサインをさせられた事があった。
また、呪いを解けるといわれ、猫にまみれた事もあった。
その他騙され酷い目にあったことは数知れず。
ヴァンエレンはもうアルナワーズには関わらないと固く心に誓っていたのだ。

「いやぁん。そんなに邪険にしないでぇん。
今までのお詫びに、学園一濃厚な血を持つ女の子を紹介しようと思ってきたのにぃ。」
「嘘だ!絶対嘘だぁ!」
机の下にもぐりこんだヴァンエレンに目線を合わせようとしゃがみこむアルナワーズ。
しかしヴァンエレンの態度は頑なで、ぷいっと横を見てしまう。
そんな駄々っ子のような対応に小さく息をつき真剣な口調で続ける。
「今まで不幸が重なったり、ちょっと言葉が足りなかったけど。今度は本当よぉ。
たぶん血の濃厚さで言えば学園長より上。
もしその子の血を飲めれば貴方の力は何倍も上がって呪いを力づくで破れるかもしれない、と思って。」
「ほ・・・本当か?」
いつにない真剣じみた口調に、学園長以上の濃厚な血といわれれば興味を引かれずにはいられない。
しかしそれでも今までの事を思い出すと踏ん切りが付かないでいた。
そこにアルナワーズがずずいと机の下にもぐりこんでくる。
「本当よぉ?ほら、この目を見て。この目が嘘をついているように見える・・・?」
間近なのでどうしても目と目が合ってしまう。
まるで吸い込まれるようなアルナワーズの瞳は真剣そのもののように・・・ヴァン・エレンには見えた。

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670 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2007/12/05(水) 22:45:11 0
  【恋する乙女2】

「お疲れ様ですわ。」
挨拶をして道場から出てくるフリージア。
格闘技の師匠であるレオとの訓練を終えたところ。
いい汗をかいてすがすがしい顔をしているフリージアを、怨念交じりに見つめる目が一つ。
「おうこら、腐れドリル頭!」
ドスの効いた声と共に現れたのはマントとフード、そしてフェイスベールで全身を覆った一人の女であった。
目しか見えない姿だが、その眼光は雄弁に憎悪の色を湛えている。
現れた女を見てあからさまに嫌な顔をするフリージア。
こうして声をかけられたのは初めてではなかった。
もう何度目だろうか。
「また貴女ですの?」
うんざりした様子でその女、ベアトリーチェに応える。
「テメー前に言ったよな?レオ先生に近づいたら殺すって。」
「格闘技を教わっているだけです。あなたにとやかく言われる筋合いはありませんわ。」
軽くあしらってさっさと立ち去ろうとするのだが、ベアトリーチェはそれで済ます気はない。
フリージアの進行方向に立ちふさがり、鬼気迫る勢いで睨めつける。
ベアトリーチェはレオに恋をしており、格闘技の訓練とはいえフリージアがレオに近づくのは許せないのだ。

「・・・どいてくださらない?」
ベアトリーチェの怒りの波動に当てられてか、フリージアの声にも少し怒気がはらんでくる。
が、相手も元々喧嘩腰。それでひるむような事はない。
睨み合う二人だが、突然フリージアが身を仰け反らした。
直後、背後で「カツッ」と起きる音。
ベアトリーチェがフェイスベールの奥から含み張りを飛ばし、それをとっさに躱したのだった。
「よけてんじゃねえよ!せっかく苦しまずに死ねる毒を塗っておいてやったのによ!」
「やるというのでしたら受けてたちますわよ!」
流石にこの行動と言葉に怒ったフリージア。
急速にあたりの温度が下がり、フリージアを中心に氷が形成されていく。

その変化にベアトリーチェは間合いを取り、フェイスベールを剥ぎ取った。
が、その表情は読み取れない。
フードを被っている事を差し引いてもあまりにも暗く、何かが渦巻いて顔を隠してしまっているからだ。
「元々そのつもりできてんだ。一番苦しむ毒をくれてやんよ!」
ベアトリーチェの顔で渦巻いていたのは高濃度の瘴気。
毒体質であるベアトリーチェはそれを意図せずとも生み出すのだ。

溢れ渦巻く瘴気がフリージアの低温域と触れ合い、バチバチと音を立てる。
片や空気をも凍らす凍気。
片や大地をも腐らす瘴気。
その力は拮抗し、触れあうところでは氷の生成と氷が腐り落ちる、そしてまた凍るをめまぐるしく繰り返していた。
その中でもじりじりとにじり寄る両者。
まさに一触即発、刀光剣影。


671 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2007/12/05(水) 22:45:21 0
  【恋する乙女3】

だが、その均衡状態を崩す者が現れた。
「何の騒ぎだ?」
レオが騒ぎに気付いて現れたのだった。
その声が届いた瞬間、恐るべき速さでベアトリーチェはフェイスベールをつけ、渦巻く瘴気も跡形もなく吸い込んでしまう。
そうなると困るのはフリージアである。
今の今まで拮抗した状態で押し合っていたのに、突然その相手がなくなるのだ。
まるでつんのめったかのように魔力が暴走し、あたり一面の空気を凍らせた。

「きゃぁ〜。助けて〜。」
押し寄せる氷の波動から逃げるベアトリーチェ。
その悲鳴は先ほどまでのドスも怒気も微塵にも見せず、か弱げなものになっている。
しかもレオを見上げる目は怯えすら浮かべたものだ。

その様子にレオは飛び出て、拳を以って冷気と氷をなぎ払い、ベアトリーチェを守るのだった。
「ああ〜ん、私のために。ス・テ・キ。」
満面の笑みを浮かべてレオの背中にしな垂れかかるベアトリーチェは本当に幸せそうだった。
「一体何事だ!?」
「そ、それはベアトリーチェさんが・・・」
とりあえず訳も判らず助けたレオが事情説明を求めるが、フリージアに説明の機会は与えられなかった。
もちろん真実を告げられて困るベアトリーチェが動いたからだ。
「私がフリージアちゃんに氷の術を見せてって頼んだからちょっと暴走しちゃったみたいなんですぅ。」
「え、ちょ・・・」
「なんだお前達知り合いだったのか?」
「もちろんですぅ。私達親友、よ・ね!」
素早くフリージアの横に回り、腕をかけながら発言する間を与えない。
レオからは見えないが、肩を組んでいるように見えるその手はフリージアの首に突きつけられており、爪先が今にも刺さりそうなのだ。
(テメーわかってんな。おら、調子合わせろよ。)
にこやかな目と口調とは裏腹に、耳元で囁く口調はしっかりとドスが効いていた。
「え、ええ・・・」
頬を引きつらせながら調子を合わせるのだが、それはベアトリーチェに脅されたばかりではない。
頭の中に『今は調子を合わせて』という声が響いたからだ。
「・・・そうか、それならいいが。」
「それよりぃ、薬学の事でちょっと質問があるのですけれどぉ〜。」
甘い声でレオにまとわり付くベアトリーチェ。
その様子をただ呆然と見送るフリージア。

呆然としてしまうのは、フリージアとベアトリーチェでは見えているものが違うからなのだ。
フリージアには真実の姿が見えている。
吸血鬼ヴァンエレンとそれに甘えてまとわり付くベアトリーチェが。
ベアトリーチェにはヴァンエレンがレオに見えているが、それは単に幻術に陥っているからなのだ。
そしてその幻術はすぐに効力を失う事になる。


672 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2007/12/05(水) 22:45:32 0
  【恋する乙女4】

今の今まで甘え腕に絡み付いていたベアトリーチェが、その腕がレオのものでなく身も知らぬ吸血鬼と変わるのだから。
「はぁあああああ!!!???テメエ誰だゴラァァ!!!!」
「え、いや。ヴァンエレンと・・・ぐ・・・げはぁ・・・!」
ヴァンエレンは自分がベアトリーチェにレオと認識されていたとはまったく知らなかった。
紹介してもらった女子生徒は確かに極上の血の匂いがした。
そしてピンチだったので助けた。
その恩もあってか、甘えて擦り寄ってきた。
アルナワーズの段取りのよさに感謝していたところだったのに、いきなりのこの変わりよう。
訳も判らず名乗ろうとしたが、こみ上げてくる血の為、それ以上続ける事ができなかった。
もちろん怒れるベアトリーチェの仕業である。
ヴァンエレンの腕に絡み付けていた手でそのまま爪を立てたのだ。
その強力な毒は吸血鬼であるヴァンエレンすら見る見るうちに肌が緑色に変色し、血を吐かせるのだった。

ここに至ってヴァンエレンは身を以って気付いた。
この女の血の匂いは確かに極上で濃厚だが、毒が濃厚なのだ、と。
何故今までそれに気付かなかったのか・・・!
もちろん図書館でアルナワーズと目をあわした時点で催眠状態になっていたのだ。
が、それに気付くより先に毒により意識が遠いところに旅立ちそうである。


「さ、今よぉ〜。」
「・・・ですわね。」
半ば呆れながらも促される声のままフリージアは氷の結晶を飛ばし、ベアトリーチェとヴァンエレンの周囲に配置する。
氷の結晶はぐるぐると回りだし、やがて超低温結界となるのだった。
数秒後。
痴話喧嘩をしているような姿のまま二人は巨大な氷柱に氷漬けとなっていたのだった。

「ごめんなさいねぇ〜。ベアトリーチェが喧嘩するって聞いたから、止めにきたの。」
フリージアとベアトリーチェがまともにぶつかればお互い唯ではすまない。
当事者だけでなく、周囲にも大きな被害が及ぶだろう。
かといって、幻術に陥ったままの状態だと更に状況が悪くなる。
レオとの一時を守ろうと実力以上の力を発するだろうから。
そこで、幻術を解き怒りがヴァンエレンに向かっているところを仕留めることにしたのだ。
「でも、何故ヴァンエレンさんですの?」
「ほら、あの子って毒がすごいじゃない?生身ではちょっと辛いから、アンデットなら平気かなぁって。」
「・・・緑色ニナッテタケド・・・」
ころころと笑いながら説明するアルナワーズに、隠れていたギズモが突っ込みを入れる。
「大丈夫よぉ〜。ベアトリーチェの毒で氷は解けるだろうけど、その前にレオ先生に助けてもらうようにするから。
逆に感謝されちゃうかもねぇん。
うふ、なんにしても争い事を事前に止められてよかったわぁ〜。
フリージアもベアトリーチェも私の大切なお友達だものぉん。」

上機嫌に足取りも軽く去っていくアルナワーズと、氷漬けになっているベアトリーチェを見てフリージアは思った。
「・・・つ・・・疲れましたわ・・・。」
恋する女の暴走とそれを玩具にする女に巻き込まれてしまったフリージア。
そんな彼女が猫以外に恋をする日は来るのだろうか?
今回の事で恋をしようという気持ちが一歩後退したかもしれない。



673 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2007/12/05(水) 22:46:00 0
  【恋する乙女5】

名前・ ベアトリーチェ
性別・ 女
年齢・ 17
髪型・ 白・ショートカット
瞳色・ 限りなく白に近い灰色
容姿・ 常にフェイスベールで隠しているので目つき以外不明。
   ボディーラインは豊満で艶がある。
備考・毒舌・毒体質の恋する乙女。レオに片思い中。フリージアを敵視。

とある暗殺組織で『贈り物』として育てられた少女。
生まれた時から少しずつ毒物を与えられ、12歳の時点で体内に蓄えられた様々な毒物により毒体質になる。
様々な毒物を体液として抽出可能であり、流れる血や吐く息までも強力な毒気を帯びる。
本来は暗殺者として敵対人物に送られ、抱かれることにより相手を毒殺を目的とする。
しかし送られる前にベアトリーチェを育てた組織が壊滅。
その際に学園に引き取られる事になる。
周囲に毒の効果を及ぼさないようにフェイスベールは欠かさない。
全身が透き通るように白いのは体内の砒素による沈色効果のため。
体質的に毒物を常用しなくてはならない。また、怪我などをすると血も毒である為治療行為は困難を極める。


得意技・ 薬学
好きな食べ物・ 砒素
好きな偉人・ レオ先生(はーと)
好きな生物・ バジリスク
嫌いな食べ物・ なし
嫌いな金属・ 金
今一番欲しい生物の毛・特にない
保険に入りますか?・ 無理

【ベアトリーチェ】
STR(力)    10
VIT (体力)   10
AGI (素早さ) 10
DEX (器用さ) 10
INT(賢さ)   30
MAG (魔力)  20
MEN (精神力) 20
LUK (運)   40

毒体質 Lv9
毒舌 Lv6
薬学 Lv5
植物栽培 Lv4
動物飼育 Lv4
鉱物採集 Lv4
恋する乙女 Lv8



胡蝶の夢・>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc###########################

689 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:52:48 0
【胡蝶の夢1】

「朋、遠方より来る・・・か・・・」
「極めし者の悲哀ですな。」
「ああ、止まる事はできまいいて。」
「あなた方の決着、私がいても?」
「ふふふ・・・それもまた、魔術の真理の一つだよ。」
朝焼けの空を見ながら二人が物悲しげに言葉を交わしていた。

###################################

その日は、何か特別な日だったという訳じゃない。
ただ、秋風に暑さも和らぐ何の変哲もない一日。
日常の一コマ。だったはずだったのだ。
登校するその瞬間までは。

リリアーナがいつも通り学園へと入ると、なにやらグラウンドが騒がしい。
毎日何かかにかイベント(トラブル)の起こっている学園において騒がしいのは珍しいことではないが、それでもその規模は目を引くのに十分だった。
何しろ100人単位の生徒が集まっているのだから。
そして聞こえてくるスプレッシュコールは・・・
「おっぱいみな兄弟よぉん!」
「「「おっぱいみな兄弟!!!!」」」
「大きいおっぱいも小さいおっぱいもみんなおっぱいよぉ〜」
「「「大きいおっぱいも小さいおっぱいもみんなおっぱい!!!」」」
グラウンド中央、お立ち台の上で声を上げるアルナワーズ。
それに続く数百人の生徒の声。
しかも言っていることがあまりにも馬鹿馬鹿し過ぎて、リリアーナはしばらく呆気に取られてしまった。
数瞬後、正気に戻り、首をぶんぶんと振る。
またアルナワーズが何かを始めたのだ。巻き込まれる前に一刻も早くこの場を離れるべき。
全力で理性がそう告げ、それに従おうと思うのだが、行動に移すことはできなかった。
群がる生徒の中にロックの姿を見つけてしまったのだから。

「ちょっとロック!何をしているのよ!」
呆れながらも人ごみに割って入り、ロックの腕をつかむ。
こんな馬鹿馬鹿しい集会にロックまでいるとは呆れるやら情けないやらでとりあえず連れて帰ろうと思ったのだ。
だが、ロックのところまで辿り付き、さらに呆気にとられることになる。
遠目ではわからなかったが、壇上のアルナワーズの左右にはレイドとヴァンエレンが立って叫んでいるではないか。
「リリアーナ!いいところに来た!一緒に叫ぼう!おっぱいの夜明けに!」
腕をつかまれたロックの訳のわからないことを言ってリリアーナを逆に捕まえる。
「な、何を言っているのよ。ロック、あなたそんなことに興味あったの?」
思いがけないロックの言葉に思わずうろたえるリリアーナ。
リリアーナの知るロックはおっぱいはもとより、男女の区別があまりついていないのではと思うほどの朴念仁・・・ではなく、熱血漢だ。
そんな戸惑いをよそに、周囲の熱気は異常なまでに盛り上がり、おっぱいコールが続いている。
そしてロックも叫び続ける。
あまりの出来事に思考が停止しし始めたとき、リリアーナの肩をつかむものがいた。

突然肩をつかまれ急激に思考が現実の戻されると、後ろにはミシュラが立っていた。
「リリアーナさん、とりあえずこっちへ。ここにいては危険だ。」
そういうとミシュラは強引にリリアーナの手を引いていく。
「え、ちょ・・・ロック!」
そのままぐいぐいと引っ張られ中庭へと連れて行かれた。


690 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:53:06 0
【胡蝶の夢2】

「ねえミシュラ、危険ってどういうことだったの?」
中庭に着き、ようやく落ち着きを取り戻して尋ねる。
「あの集会は一種の催眠状態で成り立っているんだ。」
その言葉を聞きリリアーナははっと思い起こす。
確かにロックの様子が変だった。
それに、呆気にとられたとはいえ簡単に思考停止になり、その空白におっぱいの言葉が流れ込んできたことに気づいたからだ。
ミシュラは幻術や催眠術に耐性があるのでそのことにいち早く気づいたのだろう。
「アルの仕業ね。でも、いくらアルでもあんなに大勢に催眠術をかけられるのかしら?」
音頭をとっていたアルナワーズの存在を思い出したが、その規模の大きさに疑念が持ち上がる。
「人数は関係ないでおじゃる。むしろ多いほうが好都合のときもあろうて。」
「群集心理、というやつだな。」
その問いに答えたのはミシュラではなくキキとグレイブだった。
この二人もリリアーナ同様ミシュラによって中庭に救出(?)されてきたのだ。

大方の理屈はわかったが、アルナワーズが何の目的でこの様な大規模な集会を開いたかはわからない。
だが相手はアルナワーズ。その理由を考えるだけ無駄であることは誰しもがわかっている。
今のところ実害もないので下手に手出しして巻き添えを食うよりは火の子の届かないところで静観したほうがよい。
という結論にしか辿り着かなかったのだが・・・

その後、目立ったトラブルもなく時は昼へと移る。
学園の雰囲気は微妙に変わってきているようには思えるが、特に何かが起こるわけではない。
しかしリリアーナの脳裏にロックとレイドの顔がちらつき続けていた。。
レイドは自他共に認める巨乳好き。
だがロックは・・・
どちらにしても催眠状態で集会に参加させることはあまり感心できないでいた。

そんな気持ちで食堂へ行くと、食堂は大混雑していた。
原因は朝の集会である。
その規模は千人単位まで膨れ上がっていた。
食堂中央、いつの間にか作られた壇上ではアルナワーズほか数人が仰々しく何かにサインをしていた。
「今ここにヒンヌー教とキョニュリスト教の歴史的和解が成立したわぁ〜。」
厳かに宣言するアルナワーズ。
壇上にいるのは学園内の貧乳マニアと巨乳マニアの代表者たちなのだ。
彼らは長年お互いの嗜好を巡って対立していたのだが、どうやら和解したらしい。
「「「「おっぱいみな兄弟!!!」」」」
アルナワーズの宣言と共に食堂を振るわせる数千人の大号令。

「アル・・・もしかして学園の二大勢力の和解のために・・・?」
その様子を見ながら思わずつぶやいたリリアーナだが、さらに驚きの光景を発見してしまうことになる。
アルナワーズの横にはキサラが真っ赤な顔をして硬直しているのだ。
首に腕を絡み付けられ、遠目でもその狼狽振りがよくわかる。
朝いたレイド、ヴァンエレン、ロックの姿もある。
さらにフリージアまで楽しげにおっぱいコールをしながら巨大な氷の胸像を作り出していた。

静かに、そして確実に【おっぱい】は学園を侵食していたのだった。


691 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:53:17 0
【胡蝶の夢3】

「もう!ロック!もう気が済んだでしょう!馬鹿なことしていないで、ちょっとこっち来て。」
アルナワーズの目的は果たされた以上、これ以上騒ぎが大きくなることはないだろう。
ならばいち早くロックだけでもこの場からつれて帰りたかった。
「嫌だ、俺は世界おっぱいのためにここにいるんだ!」
訳のわからない理屈で一向に帰ろうとはしない。
なぜならば、アルナワーズの目的はまだ終わっていなかったのだから。

「おっぱいを分断する悪しき力を滅するのよ!諸悪の根源は学園長の持つ巻物にありよぉ〜ん!」
こんな訳のわからない宣言を高々と掲げてしまったのである。
しかしこんな訳のわからない宣言であっても、催眠状態にある群集にとっては絶対の言葉。
たちまち『おっぱい!』の掛け声が食堂を震わせ、さらには『学園長を倒せ!』などという物騒な声まで上がっている。
異様な雰囲気に包まれる食堂で、リリアーナは叫ぶが所詮は一人の叫び。
数千人からなる群集の波に逆らえるはずもない。
人並みに飲み込まれ、意識が遠のいたそのとき、人ごみが割れた。
まるでモーゼの奇跡の一つよろしく真っ二つに。
そこを悠々と進んでくるのはアルナワーズ。
「ちょっと、アル!いくらなんでも悪ふざけが過ぎるわよ!」
数千の群衆の中、ポツンと投げ出され視線が突き刺さる中でこれだけの啖呵を切れたのは見事としか言いようがない。
さすがに学園長を襲撃するとなっては悪戯では済ませられないのだ。
そんな事の重大性がわかっているのかいないのか、アルナワーズは膝を折り、リリアーナに目線を合わせる。
「リリィ?おっぱいみな兄弟なのよ?」
妙に神妙な表情とは裏腹に、出る言葉は相変わらずのおっぱい三昧。
しかしその言葉より強烈なのは合わせられた目である。
あわせられたが最後、離そうとしても離せられない。
それどころかどこまでも吸い込まれてしまうような感覚に襲われる。

転落感覚とともに入り込むおっぱいの言葉に意識が白くなりそうになったリリアーナを救ったのはグレイブとミシュラだった。
両肩をそれぞれがつかみ、強引に引き寄せる。
半催眠状態から強制的に引き戻され、リリアーナの焦点が合わさるまで数瞬。
群集は人垣のように三人を包囲し、アルナワーズはゆっくりと立ち上がる。
「グレイブ、そんなに酔っ払っていて大丈夫なの!?」
強い口調で向けられるその言葉。
勿論グレイブは昼間から酒を飲むことはない。当然酔ってもいない。
が・・・言葉を向けられたと単にグレイブは酩酊状態に陥り、その表情が見る見るうちに崩れていく。
特に準備がしてあるわけでもなく、特殊な装置があるわけでもない。
ただ一言発しただけでグレイブは催眠術により酔っ払った状態にされてしまったのだった。
「うへへへ、おっぱいなら何でも好きだぜぇ?」
そしてグレイブは普段は沈着冷静なのだが、酔うと途端に女好きになってしまうのだ。
「え?え?」
「くっ・・・まさか、これほど強力な!」
急激な変化にリリアーナはついていけず、ミシュラは慌ててリリアーナを引き寄せグレイブから引き離す。
周囲は数千人に囲まれ、共に助けに来たグレイブはアルナワーズの手中に落ちた。
そして今、二人は向かっている数千の手を前にどうすることもできずに捕らわれるしかなかった。



692 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:53:28 0
【胡蝶の夢4】

二人が数十の手によって担がれた時、あたり一面が眩い閃光によってホワイトアウトした。
閃光が収まった後、リリアーナとミシュラは忽然と姿を消していた。
辺りを探し回る生徒達だが、見つけることができずにいる。
「まあいいわぁ。みんな、学園長を倒しに行きましょう〜。」
リリアーナたちの探索に時間をかけるより学園長を倒すことを急ぎたかったのか、アルナワーズが声をかける。
その声に従い、生徒たちはいっせいに食堂から学園長室へと向かう。

最後の一人が出て行ってしばらくした後、食堂の角の壁が溶けてなくなった。
その中にいたのはリリアーナ、ミシュラ、キキ、メラル、フリージア。
種明かしとしては簡単、群集に紛れ込ました人形を使いリリアーナとミシュラを捕らえる。
そして火術を応用したフラッシュで目を眩ます。
メラルが催眠解除したフリージアが食堂隅に迷彩を施した氷に壁を作りその中に隠れていたわけだ。
「大変だわ!学園長室を襲うなんてすぐに止めなきゃ!」
慌てて後を追おうとするリリアーナをミシュラが止める。
今行っても無駄だ、と。
それよりも分析をし、対応策を練らなければならないのだから。
「・・・本気で学園長を襲う気なのかしら?」
「ふむ・・・思ったとおり催眠状態で個々の能力は殆どないも同じでおじゃる。」
「ええ、探知魔法を使われたらすぐに見つけられていたはずですわ。」
「とすると、集団戦ではなく大規模儀式魔法による魔力要員が目的か?」
焦るリリアーナをよそに、メラル、フリージア、キキ、ミシュラの話は続く。
そして分析は徐々に核心に近づいていく。
アルナワーズは大規模儀式魔法によって学園長を倒すつもりだ、と。
生徒と教師あわせ、数千人に上る大規模魔法。
それが成就すれば如何に学園長といえどもひとたまりもないだろう。

「ねえ、ちょっとまって。何か変よ。」
そんな結論に近づいたとき、リリアーナには抗い難い違和感を感じていた。
恐らく一番アルナワーズに玩具にされてきたであろう被害者としての勘。
それが言葉にできず、ずっと黙っていたが、ついに言葉として吐き出されたのだ。
一度口に出されると、それは堰を切ったようにあふれ出す。
「アルの目的がなんにしても、それは手段でしかないはずよ。
アルは結局のところ、みんなで楽しみたいのだもの。
その、雪山のこととか・・・森のロックの事とが・・・ごにょごにょ・・・」
以前、自分のことがネタにされ、殆ど全校生徒の前に晒されたことを思い出し言葉がにごるが、まだとまらない。
「暴露しちゃったりしても、それが必要だったって言う状況を作り出すから文句も言いにくいのだけど・・・ああ、違う!
そうじゃなくて!
アルが大きな騒動を自分から起こすことはないのよ。
小さな騒動をかき回して未曾有宇の大騒動にしちゃうことはあるけど、違う・・・違うわ!
そうじゃなくて・・・その・・・」
結局のところうまく言葉にできずに迷走し、言葉に詰まるリリアーナであった。


693 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:53:44 0
【胡蝶の夢5】

だがメラルとミシュラがそれを継いだ。
「いいの、何が言いたいかはわかったわ。
アルナワーズが先頭に立って学園長打倒を指示した、これだけでも不自然。
でも、一番不自然なのは数千人、ほとんど学園教師・生徒全員を催眠状態にして操っているのが一番不自然なのよ。」
「そうか!アルナワーズが好むのは劇場型のトラブル。
だが、全員が催眠状態でトラブルに参加させていては【観客】がいない!」
「そう!そうなのよ!」
自分がうまく言葉にできなかったことを綺麗にまとめてもらえ、リリアーナが跳ね回って喜ぶ。
「あやつ自身も操られておるか、偽者である可能性が高いということでおじゃるな?」
キキが結論を出すが、今の会話についていけていない人物が約一名。
「・・・ほっほっほっほ、そうですわね。」
「ワカッテナイクセニ・・・」
笑いながらごまかすフリージアに突っ込みを入れるギズモであった。
そんな突っ込みと共にギズモ自身を押さえつけ、フリージアが言葉を続ける。
「それで、どうしたらよいのかしら?」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
苦し紛れに放たれたフリージアの一言は核心をついており、わかったところで対策が立てようもないのだ。
数千の群集を前に、個人の力など無に等しい。
ただ突っ込んでいっても数に圧倒されるだろう。

沈黙の支配する五人に救いの手が差し伸べられるのはそのすぐ後だった。
「蛇は頭さえ潰せば死ぬものなんだぜ?今の学園の状況ダ」
テーブルの上にミニチュアの学園映像が映し出される。
メラルがエミュに学園の様子を探らせていたのだ。
映像には数千人が魔方陣を描くように配置されている。
そして校舎屋上には数人の生徒を連れたアルナワーズ。
「数千人が数人になったな。」
すでに儀式魔法の配置は済んでいる。
もはや悩む時間はなかった。
四人はすぐさま立ち上がり、駆け出した。
儀式の最中は群集は群集として機能しない。あくまで魔法装置の一部なのだから。

「しかし、アルナワーズの催眠は強力だ。グレイブが声をかけられただけでああなった。」
走りながらこれから起こるであろう戦いの対策を立てていた。
声をかけられるだけで催眠状態に陥ってしまうのだ。
下手をすれば先頭にすらならないかもしれない。
「多分・・・声じゃないわ。目よ。食堂で感じたのだけど、まるで光線に射抜かれたようだったの。」
リリアーナの言葉に、メラルが思考を巡らせる。
「そう、それなら何とかなるかもしれない・・・」
メラルはフリージアに目配せをしながら走る。
そしてフリージアは力強く応える。
「ほーっほっほっほっほ、お任せになって!」
「・・・ワカッテナイクセニ」
ギズモが小さく突っ込みを入れたのは秘密だ。


694 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:53:53 0
【胡蝶の夢6】

屋上に着くと、そこにはアルナワーズが立っていた。
その周囲をレイド、ロック、ヴァンエレン、キサラ、グレイブ、キサラが囲む。
「あらぁん、もうお祭りも佳境なのにいまさら飛び入りは無作法だわぁ。」
リリアーナたちが屋上に到着するのを知っていたかのようにアルナワーズが出迎える。
そう、儀式魔法の最中であるにもかかわらず、だ。
ならば儀式魔法を取り仕切っているのは?
それはアルナワーズの背後にいた。
ローブを深く被りその顔はわからないが、複雑な動作で呪文をつむいでいる。
「アル!あなたが操られているなんて!目を覚まして!後ろの人は誰?」
「それは崖崩れのように・・・目に見えて確認できる時には全てが完了した時なのよん。」
崖崩れは突然起きるわけではない。
山に大量の雨が降り、水を含み地盤を歪ませる。
だが、それは見た目ではわからないのだ。
わかるのは崖が崩れるその瞬間なのだから。
「彼の名はカシンコジ。あなたたちの主人となる者の名よぉん!」
「カシンコジじゃと!?」
その名に反応したのはキキだった。
東方ではその名を知らぬ者のいない幻術の名手。
生きながらにして伝説として語り継がれているのだから。
「さあ、おとなしく虜になりなさぁい!」
レイドたちが襲い来る中、アルナワーズの目が見開かれる。

その瞬間、フリージアとメラルの合体魔法が炸裂する。
フリージアが大容量の魔力で巨大な氷壁を作り出す。
そしてメラルの精密作業によって、氷壁は巨大な鏡と化したのだ。

その結果はメラルの思惑通り。
強力な催眠の視線は鏡によって跳ね返され、アルナワーズはもとより、殺到していたレイドたちをも射すくめたのだ。
倒れるアルナワーズたちに駆け寄るリリアーナ。
「う・・・う・・・あれ、リリアーナ?ここは?」
最初に気づいたのはロックだった。
それに続くように次々と気づく一同。
どうやら催眠状態から抜け出しているようだ。
「もう!大変だったんだから!」
うっすらと涙を浮かべながら安堵するリリアーナだが、事態は終わっていない。
学園全体が鳴動し、光を帯びる。
そう、儀式魔法は完成してしまったのだ。


695 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:54:03 0
【胡蝶の夢7】

屋上に学園長室が出現し、その中央では光の柱によって動きを封じられた学園長がいた。
「うはははは!久しぶりだな!さあ、われらが師より授かりし物を奪いにきたぞ!」
高らかに宣言するカシンコジにリリアーナたちの顔色がさっと変わる。
事情はわからなくとも、今の切迫した事態はわかるからだ。
「あのカシンコジという人が学園中を利用して学園長を倒しにきたのよ!」
早口でリリアーナが説明するが、誰しもがわかっていた。
ビジュアル的にものすごくわかりやすい学園長の危機なのだから。
「なんか知らんがこの俺を操っていた代償は高いぞ!」
レイドが銃を取り出し、フリージアが舞う様に魔法動作に入る。
これも思惑通り。
アルナワーズが操られているにしても、偽者だとしても背後に倒すべき敵がいる。
催眠反射で皆を正気に戻した後、全員で敵を倒す、という計画なのだから。
一斉にに攻撃を仕掛けようとしたとき、キキだけが悲痛な叫びを上げる。
「いかん!そやつに手を出してはいかん!」
キキは知っていた。
この計画の誤算は、背後に隠れていた敵があまりにも強すぎる、だったのだから。
そう、このような回りくどいことをしなくとも、正面きっての闘いで自分たちを全滅させられる程に。

東方の伝説の一節にある。
カシンコジに相対したものは全て己の術によって倒される、と。
だがその叫びもむなしく、レイド、フリージア、グレイブ、ロック、キサラという武闘派は攻撃を仕掛けてしまった。
そしてそれぞれの最大の術はカシンコジの手前で方向を変えそれぞれへと飛来する。

「引用!逆転の法則により地は天に、天は地に。そして進行方向も歪む!それが世界の芯なる姿!」

声が響いたとたん、重力が反転したようにリリアーナたちは空に向かって落ち始める。
しかし、カシンコジの力が加わり反転してきた攻撃魔法はその効果を受け付けず直進することになる。
その結果、大魔法をジャンプしてかわした状態となったのだ。

この危機を救ったのはキサカだった。
引用によって言葉を顕在化させる能力。
「キサカさん!催眠術にかかってなかったの?」
どこからか現れたキサカにリリアーナが驚きの声を上げる。
それに対するキサカはあまりはっきりしない。
実はすっかり寝坊をしていたのが幸いし、騒動に巻き込まれずにいたのだ。
しかも騒動に気づき、食堂を出たあたりからリリアーナたちの後をつけていたのだが、なかなか出る「間」をつかめなかったなど、言えるわけはない。

「そこで見ておれ!」
着地した一同に降りかかる厳かな声。
カシンコジの声だった。
だが、ただの声ではない。
耐性のあるミシュラでさえ抗えぬ絶対の声なのだ。
「ええ、俺、出てきた瞬間にやられちゃうの?」
キサカの言葉も通り、全員がその場に棒立ちすることになる。
ぴくりとも動けなくなった一同を省みることもなく、カシンコジは学園長へと向き変える。
「さて、もはや動くことも叶うまい。さあ、渡してもらおうか。」
「はて、何のことかな?」
学園の生徒全てを虜とされ、自身も光の柱により動きを封じられているにもかかわらず学園長は動じることはない。
それどころかにやりと笑いとぼけて見せる。
「ふざけるな!師は我らに奥義書を渡した。
俺には幽玄庵天の巻を。そしてお前には地の巻きを!」
とぼけた態度の学園長に逆上したカシンコジが叫ぶと、その言葉と共に学園長室には炎が渦巻き、氷に埋め尽くされる。



696 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:54:13 0
【胡蝶の夢8】

「最高の幻術って現実にも影響を与えるって言うけど、ここにいても辛いわぁ〜。」
「あ、あれが幻術ですの?」
ただ見ているだけしかない一同は、学園長とカシンコジのやり取りの余波だけでかなりの消耗を強いられている。
にもかかわらず、動くことすらできない学園長にはまったく影響がないかのようだ。

「カシンコジよ。お主は師の天の巻きにより1000の幻術の奥義を極めた。
それで良いではないか。」
「やかましい!地の巻きには何がかかれてあった!それを我が物にせねば極めたことなどにはならぬは!」
鳴り響く轟音と共にあふれる雷の渦。
激昂するその姿に、学園長は深い、深いため息をつく。
「・・・仕方がない。レイド君、そして我が生徒たちよ。私は今動けぬ故に代わりに頼む。」
その言葉と共に一同を固まらせていた呪詛が霧散した。
突然の開放に体制を崩す驚くレイドたちだが、それ以上に驚いたのはカシンコジである。
己の絶対の幻術が破られたのだから。

思考を取り戻したのは同時。
駆け寄るレイドたちにカシンコジは厳かに声をかける。
「奈落に落ちよ!」
途端に屋上は千尋の谷と化し、レイドたちはなすすべもなく転落・・・することはなかった。
浮遊術すらかけられぬ強力な幻術であるというのに、レイドたちは一直線にかける。
最初に到達したのはキサラだった。
そしてレイド、ロック、グレイブ、フリージアと続く。
カシンコジの幻術は完全に封じられていたのだ。
そうなってはもはや勝敗は火を見るよりも明らかである。

カシンコジが倒れたことにより、操られていた生徒たちは放心状態となり儀式も中断。
自由の身となった学園長は肩を叩きながら歩み寄る。
「・・・なぜだ・・・我が奥義が尽く封じられるとは・・・ま、まさか・・・!」
「すまん・・・幽玄庵天の巻には1000の幻術の奥義が記されておった。
だが、地の巻には1000の幻術破りの奥義が記されておったのだ。」
「く・・・くくくく!ふははははは・・・!なんと愚かな!・・・なんと・・・!」
起き上がることもできぬカシンコジは学園長の言葉を聞き、全てを悟った。
カシンコジは幻術の才能が類まれにあり、本人もそれを自覚じ、幻術を極めた。
そんなカシンコジに全ての幻術を破る術の書かれた地の巻を渡すことはあまりにも残酷だったのだ。
結局はその存在を身をもって知らしめることになってしまったのだが・・・
「くははは!所詮は幻。ありもしないまやかし!
なんと滑稽な!まさに俺そのものではないか!くははははは!」
響き渡る自嘲と共にカシンコジの姿が薄れていく。
最後には涙声となった笑い声だけを残し、完全に消えてしまった。


697 名前:>゜)++++<< ◆LEVIA36jlc [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/05(土) 21:54:25 0
【胡蝶の夢9】

「今回は私の私事で巻き込んでしまってすまなかったね。」
深々と頭を下げる学園長に、一同は声をかけることはできなかった。
あまりに無残、そして哀れな魔法の一面を目の当たりにしてしまったのだから。
「・・・えっと、いや、このくらいいつもの事ですし、できればボーナス上乗せしてもらったりしたら・・・」
レイドがこの気まずい雰囲気を打破しようと何とかおどけた声をかけるがそうは問屋が卸さない。
「ぶぅわかもんが!日頃からおっぱいおっぱい言っておるから能天気に幻術にかかるのじゃ!」
雷を落とすのはご存知教頭先生。
学園長室の置くから巻物を持って現れた。

考えてみれば単純な話である。
学園長は儀式魔法によって学園長室ごと屋上に引きずり出され、身動きできなかったのである。
そんな状態で幻術破りができるはずがない。
学園長は自らを囮としてカシンコジの注意をひきつけ、影で教頭が幻術破りをしていたのだ。
「ま、これが幻術の本質、というものじゃて。」
夕日に伸びる影と共に、学園長の笑いが響いた。


その後、夕食に食堂に集まる面々。
催眠状態から脱した生徒たちは、今日の出来事の記憶がはっきりしていないようだ。
しかし、その最中にいた一同はしっかりと覚えている。
その中にアルナワーズの姿はいなかった。
「アルが操られていたなんて、ショックだったでしょうね。」
「超強力な視線による催眠も一時的にカシンコジに与えられていた能力だったようでおじゃるな。」
「幻術の限界を見せ付けられちゃったのだからな。」
「いや、少しくらい落ち込んでくれたほうが平和かも・・・。」
「なに?落ち込んでいるのか?よし!仲間として励ましに行かなくちゃいけないな!」
「待て待て、下手な慰めは逆効果だぞ?」
「それより・・・女子寮に行くつもり・・・ですか?」
鍋をつつきながら心配するのだが、リリアーナはくすりと笑う。
「そんなに心配しなくても大丈夫のようよ?」
そう視線を向かわした先には、いつもの食堂隅ののぼりへと注がれる。

いつもはヴァンエレンの献血コーナー(?)になっているのだが、のぼりに書かれた文字が変わっていた。
【来たれ美乳派!】【おっぱいは世界を救う!】
明らかに催眠状態のヴァンエレンがそこにいた。
何かの署名をしているようだ。
そしてそこには、のうのうと署名をし、ヴァンエレンに声援を送るアルナワーズがいた。
リリアーナたちに気づくと、笑顔で近づいてくる。
「はぁい、皆さんおそろいで。
キョニュリスト教とヒンヌー教の二分では面白くないわぁ〜。
第三勢力立ち上げて盛り上げようと思っているのだけど、みんなもどぉ?」
いつもと変わらぬアルナワーズの微笑と既に巻かれたトラブルの種に全員が苦笑するしかなかった。

学園全体を巻き込む騒動も日常のひとコマでしかない。
学園生活は今日も続いていく。


プロジェクトπ 変態という紳士たち・鬼畜雌豚 ◆KvZi4OLhjI################

704 名前:鬼畜雌豚 ◆KvZi4OLhjI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/08(火) 18:59:54 O
[プロジェクトπ 変態という紳士たち]

「………諸君、今夜もお集まり頂きまことにありがとう…」
とある一室にて、その会合は静かに始まった。
彼らの名前は巨乳聖教…女性豊かな胸を愛し、そこに世界心理を見い出す研究者である。
「…さて、今日集まって貰ったのは他でもない」
皆,一様に一つ目のマスクを被り、特に幹部らしい装飾を施された一つ目が話を進め始める。
他の皆は幹部が何をいうか理解していた…いや、理解せざるを得なかった。
「我々の唯一神………アルテリオン様が…この学園を去られて早2ヶ月…」
皆は騒がず、その言葉を受け止めた。
そして、少し間を置いて、幹部は続ける。
「…これにより…我が聖教の力は弱まっているのは、諸君らも理解しているな…」
「畜生!レイドの野郎…俺達の味方だと思っていたのに…裏切ったな、俺達を裏切ったな!」
「落ち着け『C』…彼は裏切ってはいない……彼は我々の教えを守ったからこそ、祝福されたのだ」
「しかし…『G』」
「我々には悲しむ時間などない…すぐに新たな女神を探さねばならない…」
「………『G』」


705 名前:鬼畜雌豚 ◆KvZi4OLhjI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/08(火) 19:51:32 O
「お言葉ですが『G』…先日の騒動にて『レジェンド』はもう…」
「……彼の存在は惜しいが、今は足手まといだ…なんとか彼抜きで女神を探す方法は無いだろうか」
Gが首を傾げ考え込むと皆も考え始める。
三人よれば文殊の知恵というが、煩悩にまみれたこの一室内では至極意味がないだろう。
それから一時間の沈黙が続いた。
「………所で『A』…その足元の荷物はなんだ?さっきから気になってしょうがないんだ」
Gのその一言が、沈黙を破っただけではなく、起死回生の奇策を発案するきっかけを作ったのは、誰も知るよしもなかった。
Aが徐に取り出したのは、少々地味な水着をきた人形(フィギュア)だった。
「……男子寮の前で転校生が露店を開いていたので…つい」
「なるほど……しかし、その衣装、シンプルというか地味じゃないか?」
「これは学校指定水着通称『スク水』という水着だそうで、向こうではかなり人気の衣装みたいです」





706 名前:鬼畜雌豚 ◆KvZi4OLhjI [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/08(火) 20:29:32 O
「……う〜ん、確かに良く見てみると…なるほどな」
「…そう言えば…最近プールが出来たそうですね…水泳部用の競泳プールから他学生用の流水プールまであるそうで、そうだ!我々も足を運びに」
「バカ!我々の目的がバレたら………」
このとき、Gに電流が走る。
水着…………プール…………ジャジャ丸……ピッコロ…ぽ〜ろり……
「そうだ!ティンと来た!……私にいい考えがある!」
ΩΩΩ「なんだって」

「…………以上だ」
「そうか!その手があった!」
「これから忙しくなるぜ!」
そうして、熱い夜は幕を閉じた。

「…………こちらロリータ…敵会合の盗聴に成功した。」
「よくやったぞロリータ…でどうなんだ…」
「…奴ら、水上大運動会をやるつもりだ…」
「ッ!!!それは本当かロリータ……大変なことになってしまった……ロリータ、一刻も早くジョルジュギアを破壊するんだ!」
「?…大佐……運動会は」
「………安心しろ、我々のエージェント(アイドル)を侵入させる」
「……………」





続かない



レイド先生の日常・◆peohZn6bOQ##########################

709 名前: ◆peohZn6bOQ [sage 携帯からスマソ] 本日のレス 投稿日:2008/01/10(木) 01:05:21 O
【レイド先生の日常】
この物語は魔法学園の教師であるレイドの日常を描いた物である。


「・・・ぐ〜・・・ぐ〜・・・」
自室のベッドで気持ち良さそうに眠っている男こそがこの物語の主人公、レイドである。
「くおぉぉらぁぁぁー!!レイドぉぉぉー!!貴様いつまで寝とる気だぁー!」
レイドの脳内に教頭のテレパシーが響く。
「ん・・なんすか・・・うるさいなぁ・・。・・ぐ〜・・・。」
「寝るなぁぁぁぁ!今日は職員会議があると昨日言っただろうがぁ!」
「・・・そういや〜そんな事を言ってたような言ってないような・・」
「いいから早く着替えて会議室に来い馬鹿者!!」
「へいへい・・解りましたよ。なにも朝っぱらからそんなに怒鳴らなくても・・・。また血圧上が・・すんません、何でも無いっす。」
危険を察知したレイドは全てを言う前に謝罪をした後、スーツに着替え会議室に向かった。

「失礼しま〜す。寝坊しました、すんません。」
まったく反省の色が見られない様子で会議室に入り、エースの隣に座る。


710 名前: ◆peohZn6bOQ [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/10(木) 01:06:12 O
「さて、今日集まってもらったのは他でもない。今日から3日間の間のテストについてじゃ。」
ホワイトボードにはテスト中の注意事項や採点についてなどが書かれている。
眠そうな顔で学園長の説明を聞いているレイドにエースが小声で話掛ける。
「今朝も大変だったみたいですね。カンカンでしたよ、教頭。」
「本当に毎朝毎朝ご苦労な事だよ・・あんな大声朝っぱらから聞かされる俺の身にもなってほしいもんだ。」
「あなたが早く起きれば良いだけの気もしますけどね。」
「それを言っちゃあお仕舞いだろ〜。」
「以上で今日の会議は終了じゃ。なお、最もテストの点数が低いクラスの担任は3ヶ月間給料80%カットじゃからの。心しておくように。ほっほっほ。」
「・・・おい、今の話聞いたか、エース先生?」
「ええ、確か昨日も言っていたと思いますが?」
「何でそんなに余裕なんだよ!!3ヶ月間給料80%カットだ!?アホか!」
「僕のクラスは皆優秀ですから。」
焦るレイドに対し笑顔で対処するエース。
「・・・終わった。」
うつ向きながらトボトボと職員室へ向かうレイドに一人の男子生徒が近寄ってくる。


711 名前: ◆peohZn6bOQ [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/10(木) 01:06:59 O
「先生!おはようございます!今日も良い天気ですね!まるで俺の心を映し出しているようです!」
朝からこんなに元気が良い生徒は一人しか居ない。
ロックだ。
「んあ、おはようさん。今日も朝から熱いね、お前は。」
「朝だからこそ熱くならないと駄目なんですよ!あっ、そうだレイド先生!折り入って相談があるんです!」
「何?言っとくけど恋愛の相談はお断りだからね。」
「違いますよ!俺は先生と1対1で勝負がしたいんです!」
ロックの目には炎が宿っている。
どうやら本気のようだ。
レイドはロックの様子を見て額に手をあて「やれやれ」と呟いた。
「なあ、ロック勝負っつったって今日からテストなんだぞ?それに俺だってこう見えて暇じゃない。
丸つけをしたり点数をまとめたり忙しいんだ。」
レイドの言葉を聞き、ロックは残念そうに項垂れる。
「そうですか・・残念です・・・。」
諦めて教室に帰ろうとするロックをレイドはすかさず引き留める。
「だが、1つだけ俺と勝負出来る方法があるぞ。」
「・・本当ですか!?なんですかそれは!?」
「今回のテストで平均80点以上だったら相手してやるよ。」


712 名前: ◆peohZn6bOQ [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/10(木) 01:07:49 O
意地悪そうにニヤけるレイドに対しロックは一瞬躊躇するが・・・
「解りました!!絶対ですよ!平均80点以上とったら相手して下さいね!!
そうと決まったら早速勉強だー!!それじゃあ失礼します!!」
ロックは全速力で教室に戻って行った。
1限目までまだ数十分はある。頑張れば10〜20点位は上がるだろう。
「よ〜しこれでちょっとは点数アップに繋がったかな?」

職員室で暫しの休憩タイムを満喫し、テストを手に取り教室に向かった。
「おはよう諸君。皆知ってると思うが、今日から3日間はテストだ。気を引き締めて頑張るように。
特にうちのクラスは最近下から1、2番目という非常によろしくない成績だ。
学年でトップのクラスになれとは言わん。最下位だけは免れようじゃないか。」
「せんせー、いきなりどうしたんですか?いつもは『赤点じゃなけりゃ良いよ。』って言うのに・・」
「いや〜それが・・・ちょっと面倒な事になっちまって、今回のテストでうちのクラスが最下位だったら俺が担任から外されちまう事に今日の会議で決まってな・・・」
「えー!?それホントですか!」
「ああ、ホントだ。120%真実だよ。だから、頑張ってくれよ、な?」

716 名前: ◆peohZn6bOQ [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/10(木) 21:28:29 O
>712と>713の間が抜けてた・・・すまん。
という事で>712の続き追加。


「よ〜し、そういう事なら皆、頑張るよー!」
「おー!」
「うぅ・・・ありがとう皆。俺はお前達のような生徒を持てて幸せだよ・・。
よ〜しそれじゃあテストを渡すぞ〜。」
テストの時間は50分。生徒達は50分間集中してテストに取り組む。
そしてレイドは・・・教卓で熟睡していた。
キーンコーンカーンコーン
1時限目を終了するチャイムが鳴り響く。
「・・・ん・・あ、終わったか・・。よ〜し後ろからテストを回収しろ〜。」
テストを回収し次のテストを持って来ようとするレイドにメラルが寄ってくる。
「ん?どうしたメラル?」
「・・先生、さっきの最下位だったら担任から外されるって話、本当ですか?」「ああ、本当だとも。何?心配してくれてるのかな〜メラルちゃ〜ん?」
「いえ、別に・・。」
「あらそう・・・」
「ただ何かおかしいと思って・・確かに私達のクラスは最下位か下から2番目が多いけどいきなり担任から外すなんて・・」
この時レイドの「ギクッ」という表情にメラルは気付いただろうか?
「そうね・・・例えば一定期間の間給料を減らす、とかなら納得出来るんだけど・・・。」

713 名前: ◆peohZn6bOQ [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/10(木) 01:08:38 O
「だ、だよな〜。本当に酷い話だぜ〜。俺はこのクラス以外の担任なんてやりたくねぇってのに・・」
と、そこへリリアーナもやってくる。
「何の話してるの〜?二人共深刻そうな顔しちゃって。」
「レイド先生の担任を・・」
「いや〜リリアーナとロックはいつ見てもお似合いだよな〜、って話をしてたんだよ。」
「な、なな何でそんな話を深刻な顔して話してるんですか!」
「生徒の将来ってのは教師にとっちゃ深刻な問題なんだよ。メラルはクラスメートとしてお前に協力してやりたいんだってさ。」
「えっ・・先生何を・・」
「メ、メラルさんまで・・い、いいわよ!そんなに気を使わなくて!」
「良いじゃないか、せっかく協力してくれるってんだから協力してもらえばよ。
おっと、もうこんな時間だ。んじゃ、次のテストを持って来るわ。」
「あ、逃げないで下さいよレイド先生ー!」







多分続く


無題:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk######################

730 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2008/02/14(木) 22:35:34 0
朝日が昇り、日の光がフィジル島を照らす。
日の光を浴びて、森では花々が蕾から彩り鮮やかに花びらを広げていく。
そんな光景が森の奥にひっそりと作られた庭園でも繰り広げられていた。
その庭園に咲く花々は全て毒を含み、その毒気に当てられて周囲は沼と化していた。
そんな毒々しい庭園の中心で、咲き乱れる毒の花をうっとりと見つめる女生徒が一人。
おもむろに葉っぱを毟り取り、慣れた手つきで器具に入れていく。
「ふぅ〜・・・コカの葉と鉛のブレンドもいいわー。」
独自のレシピで作った水タバコを満喫し、はねてきた赤と黒の水玉模様の蛙をなでる。
暫く時間をすごした後に、女生徒は立ち上がる。
「さて、いきますか!」
フェイスベールをつけて、颯爽と庭園を後にした。

######################################

『ロック、帰って来て。あなたじゃないと駄目なの!』
『ロック、帰って来て。あなたじゃないと駄目なの!』
『ロック、帰って来て。あなたじゃないと駄目なの!』
朝の日差しの中、響き渡るリリアーナの声にリリアーナが飛び起きた。
「ちょ・・・なななな!?・・・!」
大慌てで枕元に会った目覚ましを叩き、繰り返される自分の声を止める。
寝起きにもかかわらず、すっかり目が覚めてしまった時刻はまだ7時前だった。
折角の休日、惰眠を貪ろうと思っていたのに、思ってもいない方法で叩き起こされたので。
「ちょっとアル!って・・・・」
辺りを見回すが、室内はしんと静まり返っている。
どうやら既に部屋はいないようだ。

これは別段珍しいことではない。
同居人は22時に眠り5時におきるという生活習慣の持ち主だ。
そしてとてつもなく気まぐれな性格なので、リリアーナが目覚めて姿が見えないということなどごく当然のことなのだから。

不本意にもまるで取り残されたような感覚に襲われながら、のろのろとベッドから這い出す。
そう、判っていたのだ。
あの時確かに幻灯機とかで幻灯機とかで録画してたら絶交、といった。
だから録音にしたのよぉん。といけしゃあしゃあと言う姿が目に浮かんでしまったのだから。

朝から不機嫌な顔で洗面所で身づくろいをし、キッチンで朝食を用意。
食卓に座ったとき、テーブルに置かれた紙袋に気がついた。
袋には『リリアーナへ』と、同居人の字で書かれている。
嫌な予感がしつつも中身を空けると、中にはカードと黒光りする何かの布が。
広げてみると、それはラバーと皮でできた全身スーツだった。
顔の部分はガスマスクになっており、足のつま先から頭のてっぺんまでぴっちりと包み込む服だ。
『リリアーナへ。誕生日おめでとう。あなたにぴったりのように作ってもらいました。
今日はこれを着ているとラッキーかもよん?』
カードにはこんなメッセージが書かれているが、リリアーナの顔は露骨に嫌そうな表情になる。
「・・・私誕生日今日じゃないし・・・どこに売っているのよ、この悪趣味な服は!」
両手で広げ、つい毒づいてしまうのだが、それは仕方がない。
だが、すぐにプレゼントの趣味の悪さ以上に気にすべきことに気づいてしまう。
『あなたにぴったり』
そう、この悪趣味な全身タイツはリリアーナのためだけに作られたのだ。
つまり、自分が寝ている間に採寸されたということだろうか?
最悪『型取り』すらされている可能性すらあるのだ。
そこら辺をはっきりさせないと、と服を袋に戻そうとした瞬間、リリアーナは自分の体の異常に気がついた。


731 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2008/02/14(木) 22:35:48 0
体が動かないのだ。
まるで全身石になったかのように動かない。
半面意識ははっきりしており、見る、聞く、考えることはできる。
服に呪いでもかけられていたのだろうか?
いや、着てもいないのに発動する呪いなんて反則過ぎる。

そんなリリアーナの思考をさらに掻き乱す事が起こる。
ブスブスと何かが溶ける音がするのだ。
動かない体で必死に目だけ動かし辺りを見回すと、その音源を発見できた。
ドアのノブが薄い煙を開けながら溶け始めているのだ。
ここに至り、リリアーナの脳裏に『襲撃』の二文字が浮かび上がる。
しかし、この部屋は特殊結界が施されており、その副次作用として敵性魔法は無効化されるはず。
動けないまでも可能性を一つ一つ消していき、一つの結論に辿り着いた。

これは魔法ではなく、麻痺毒だ!と。

ヒーラーを志すリリアーナは薬学にも精通している。
指先の微かな痺れ、動かない身体。反面はっきりしている意識。
これは獲物を生きたまま貪り食うコルヒチン大ミミズの毒症状にそっくりだということに気づいたのだ。
そう悟った時、背中に寒いものが走る。
今、ドアノブを溶かしている者が当然この危険な毒物を散布したのは間違いない。
声すら出せないこの状況で、一体どうなってしまうのか?

ただただ嫌な汗を流すしかできない状況で、とうとうドアが開かれた。
「だっはっはっは!ザマアミロ!流石に朝から来るとは思ってなかっただろう!」
勢いよく開かれた扉から現れたのはローブにフードを目部下に被りフェイスベールで顔を隠した女生徒だった。
顔は見えないが、リリアーナはそれが誰だか知っていた。
話した事はないが、薬学講座で一緒になる。
そして時々フリージアの愚痴に出てくる生徒。
毒・薬物のスペシャリスト、ベアトリーチェだと。

ベアトリーチェは無遠慮に室内に入り込み、きょろきょろと何かを探すように見回していた。
「おろ?あの腹黒女どこ行った?」
その言葉に、【また巻き込まれた!】と思いつつ、唯一動く目だけでベアトリーチェを睨み付ける。
朝も早くから突然危険な毒物を撒き散らしての登場。
しかも無遠慮に部屋の中に上がりこむ非礼に怒っていたのだ。
が、指一本動かせぬ身では文句の一つも付けられない。

やがてベアトリーチェはリリアーナの元にしゃがみ込む。
「あんた、確か・・・って、なにこれ・・・?」
覗き込むベアトリーチェの視線がリリアーナからはずれ、すぐ横に移っていく。
そこにあるものは・・・アルナワーズからの誕生日プレゼントだった。

「おいおい、なんてえか、エロイって言うかグロイな。どんな趣味だよ?
まあこのくらい変態じゃないとあの腹黒女のルームメイトはできんって事か。」
うんうんと納得するベアトリーチェにリリアーナは脳内で転がり断固とした抗議の声をあげていた。
(ちがーーーう!私の趣味じゃないいいい!
それに変態だからルームメイトになったんじゃなくて、ルームメイトになったから変態みたいに仕立て上げられてるのよおお!!)
きいいい!と叫びたいが、声一つ上げられないので、それが伝わることはなかった。
その証拠に、広げた服と転がるリリアーナを見比べ、苦笑を浮かべている。
苦笑の意味は、最大限の衝撃を持って言葉にされる。


732 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2008/02/14(木) 22:36:00 0
「まあ、人の趣味にどうこう言わないけどさあー。
こういうボディーラインを強調しまくるようなのは身体の凹凸がはっきりしてないと似合わないんじゃないの?」
クスクスと嘲笑混じりに見下ろすベアトリーチェの言葉に・・・
そして、ローブの隙間からでもはっきりわかってしまう豊満なボディーラインを見て・・・
リリアーナは脳天を打ち抜かれたような衝撃を受けていた。

動かないまでも、力を込めていたのだが、それも断ち切られガックリとなる。
肉体以上に精神的に打ちひしがれて、力を込める気力すらも刈り取られてしまったのだ。
そんなリリアーナの鼻先に、豪華な香炉が置かれる。
「巻き込んじゃって悪かったわね。これですぐに動けるようになるから。」
倒れたリリアーナを覗き込むベアトリーチェの瞳には悪意を感じられなかった。
多分、自分の言葉がリリアーナの心を滅多打ちにしたなどと自覚すらないのだろう。

リリアーナを椅子に座らせ、ベアトリーチェも向かいの椅子に座る。
まだ麻痺毒の効果が切れていないのだが、そんなことお構いなしだ。
「巻き込んじゃってごめんね。リリアーナ、だよね。
私ベアトリーチェ。本当は腹黒女の方に用があったんだけれどさ。」
悪びれる様子もなく、自己紹介と挨拶を始める。
フェイスベールで顔は隠れているが、にこやかな表情なのはうっすらと透けて見えた。
その頃にはようやく麻痺毒の効果も切れ、一言文句を言おうと息を吸い込んだとき、ベアトリーチェが言葉を続けた。
「前に腹黒女に朝6時に叩き起こされてね。朝六時よ?
魔法実験が失敗して友達が猫になっちゃったから解除薬を作ってくれって懇願されたわけよ。
まったく迷惑な奴とは思っていたけれど、あの時程むかついた事はなかったね。」
出鼻をくじかれた格好の上、出た言葉が以前猫になってしまった時の話だったのだ。
喉まで出ていた文句の言葉が一気に引っ込んでしまった。
あの時、解除薬と走らなかったとはいえ、一目散に逃げ出してしまったのだ。
結果、ベアトリーチェは無駄に叩き起こされたことになる。
リリアーナにその責任があるわけではないが、性格的に責任を感じてしまい、文句を言うにいえなくなってしまったのだ。

そんなリリアーナを余所に、ベアトリーチェは更に続ける。
「それで取引をしたのね。必ず借りは返す、って。
その約束の日が今日の昼な訳だけど、あの女の腹黒さは尋常なないでしょ?
下手な小細工させないように朝市で襲撃に来たんだけれど・・・ちょっと待たせてもらうよ。」
理由が理由だし、返答するにも困る。
アウアウ応えるのが精一杯なリリアーナはうろたえながらもとりあえず席を立つことにした。
状況はつかめたが、あまりに突然で対処が追いつかないのだ。
「あ、あの・・・お茶入れてくるね。」
一端席をはずし、奥のキッチンへと入っていく。

大食堂はあるが、寮の部屋にも簡易キッチンはある。
多少の料理くらいは作れるのだ。
キッチンに引っ込んで深呼吸をしながら戸棚を漁る。
すると、これ見よがしに昨日までなかった箱が置いてあった。
蓋には同居人の字でメッセージが刻まれていた。
【リリアーナへ。困ったお客様が来たときに使ってください。きっと助けになるはずです。】
「ア・・・アルゥ・・・・!でも助かったわ!」
メッセージを見て全てを悟った。同居人はベアトリーチェが朝襲撃に訪れることを知っていたのだ。
怒りがこみ上げてきたが、それどころではない。
同居人の性格からして、言葉通りのお助けアイテムが入っているはずなのだから。


733 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2008/02/14(木) 22:36:11 0
喜んで蓋を開けると、中には小さな小瓶が二、三はいっていた。
取り出してみると、どれもラベルには髑髏マーク。
慌てて箱に戻し、蓋を閉める。
「トリカブトに毒ニンジンに有機水銀?・・・私をヒットマンにするきい???」
下手に薬学を専攻しているが故にその小瓶の意味を理解し、恐ろしさに震えが来てしまう。

結局、いつものコーヒーを入れて戻ることになるのだった。
戻るとベアトリーチェはローブとフェイスベールを取っていた。
透き通るような白い肌・・・でも、あまりにも白く、むしろ病的な白さに驚いた。
「あ、あの、クリープと砂糖は・・・?」
おずおずと声をかけるとベアトリーチェは微笑みながら首を振る。
「ここの部屋いいわね。結界のおかげで楽だわ。
私はクリープも砂糖も要らない。自前で用意してあるから。」
そういいながらすそから出すのは、先ほど箱に入っていた小瓶と同じものだった。
驚くリリアーナに構いもせずに、トリカブトとドクニンジンと有機水銀をカップに注いでいく。
澄んだこげ茶色だったコーヒーは途端に赤黒くなり、怪しげな煙を上げる。
「え、ちょ・・・」
そして止めるまもなく、ベアトリーチェはそれを飲み干してしまった。
致死量に達しているかとかいうレベルではない飲み物を飲んでしまったのだ。
ドキドキしているリリアーナにベアトリーチェがぐいっと顔を寄せた。

「ねえ、ちょっと・・・」
「は、はい!」
カドゥケウスの杖を召喚しようか迷っていたところに突然声をかけられ飛び上がるように返事をするリリアーナ。
そこにかけられた言葉は・・・
「・・・チョコレート作ってるの?」

昼にさしかかろうとしていた時、部屋の中は戦場と化していた。
「じゃあここでシナモンパウダーを・・・ちょ、駄目ーそれ青酸カリ!それ駄目ー!」
「大丈夫、冷やすのは冷却呪文使うから!その薬しまって!」
バレンタインデーを翌日に控え、リリアーナはチョコレートを作っていたのだ。
レオに思いを寄せるベアトリーチェだが、料理が苦手なので一緒に作ってくれるように頼まれたまでは良かったのだが・・・
無意識に毒物を入れてしまうベアトリーチェにリリアーナは振り回されっぱなしになっていた。

「あらあら、なんだか凄いことになっているわねぇ〜。」
そこに現れたのは、大きな紙袋を抱えた同居人、アルナワーズだった。
この状態を全て予想していたかのような笑みを浮かべながらはいってくる。
「まったく、ひどい散らかりようでおじゃるな。」
その後ろにはなぜかキキも立っていた。

「てめえ、どこに逃げてたんだ。」
ようやくチョコ作りを終えたベアトリーチェがキッチンから出迎える。
が、その姿は全身チョコ塗れで、アルナワーズとキキの苦笑を誘うだけだった。
「どこにって、約束はお昼でしょう?
この間のお礼の品を用意していたのよぉん。」
そういいながら紙袋から出したのは古ぼけた白衣だった。
「レオ先生がね、古い白衣を捨てるっていうからもらってきたの。
ベアトリーチェが喜ぶだろうとおもってぇ〜。」
にこやかに差し出された白衣を前に、ベアトリーチェの表情がみるみる間に険しくなる。




734 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage] 本日のレス 投稿日:2008/02/14(木) 22:36:23 0
「おめーはボケか?プレゼントされたものならともかく、捨てるもん渡されて喜ぶわきゃねえだろ!」
火を吐きそうな勢いだが、アルナワーズの微笑を湛えた表情は変わらなかった。
「あら〜。そうよねぇ。私が馬鹿だったわぁん。気持ちも篭ってないものなんて価値がないもの。
ごめんなさぁい。じゃあこれは私が捨てておくわ。」
大げさに白衣をひらひらさせて引っ込めようとする。
が、それを反射的に掴む手があった。
「ま、待て!お前みたいな奴に任せたらどんなことに悪用されるかわかんねえじゃねえか!
わ・・・私が捨てるから!寄越せ!引っ張んな、すぐ手を離せ!」
ベアトリーチェの過剰反応を十分楽しんだ後、白衣から手を離した。
まるで毟り取ったかのような勢いで白衣を抱えると、ギクシャクとしながらベアトリーチェはドアへと向かう。

「ベアトリーチェ?ごめんねぇ。代わりのお礼をするからちょっとまってぇん。」
「う、うるせえよ。お前の礼なんてもういらねえよ!」
「あ、あの、チョコ・・・」
捨て台詞を残して出て行こうとするのを見て、リリアーナが慌ててチョコを手渡した。
「お、おう、ありがとう。じゃ!」
チョコを受け取ると、凄まじい勢いで駆けて行き、リリアーナが廊下に顔を出したときにはその姿は既になかった。
そして残されたのは大量の毒物と化したチョコの群れ。
明日はバレンタインデーというのに、全ての用意が無に帰したのだ。
「アルゥ・・・!」
ベアトリーチェが消えた後、リリアーナが振り返る。
全ての原因はそこにあるのだから。
「あらあら、折角防毒服用意してあげたのにぃ〜。生身であの子の相手よくできたわよねえ。」
黒い怪しげな服を片手に呆れた顔には、全て思惑通りと書いてあった。
散々ひどい目にあって、更に明日のチョコの用意まで台無しにされたのだ。
その挙句にこの言葉。
怒りにぶるぶる震えるリリアーナの肩にそっとアルナワーズが手を当てる。
「リリィ、安心して。ちゃんとチョコは買ってきたし、キキにもお手伝い頼んできたから。」
その言葉と共に、キキが大きな紙袋から大量のチョコレートを取り出していた。
「三人でかかれば明日には間に合うでおじゃろう。」
「・・・え?」
ひどい仕打ちと絶妙なフォローの連続でなんとなく助けてもらえたような錯覚に陥ってしまうリリアーナ。

「それにしても、あの子くらいならあれに気づいてそうなのに・・・よくやるわよねえ。」
「あれって?」
「薬学や精神魔法をやっていると気づいちゃうことがあるでおじゃるよ。」
「???私も薬学やっているけど・・・わかんない。なになに?」
「おぬしのは治療のための薬学でおじゃるからのぉ。」
「ふふふ・・・リリアーナは知らなくていいことよぉん。」
遠い目をするアルナワーズに今日のことをすっかりうやむやにされてしまったリリアーナであった。

この後、三人は協力してバレンタインチョコを作ることになる。
もちろん、アルナワーズとキキが組んで事を成し、まともな結果が怒るわけはない。

翌日、このチョコが原因で学園全体を巻き込んだリリアーナ争奪戦が起こるとも知らず・・・
後に【赤のバレンタイン戦争】と呼ばれる前日の出来事だった。


ベアトリーチェキャロル・毒Hz─wヘ√( ゚∀゚ )レvv─wヘ√レvv ◆DEMP5HzpBo########

750 名前:毒Hz─wヘ√( ゚∀゚ )レvv─wヘ√レvv ◆DEMP5HzpBo [sage 中] 本日のレス 投稿日:2008/04/14(月) 22:40:52 0
【ベアトリーチェ・キャロル @】

暗殺用の毒物の条件。
即効性遅効性、効果などなどは用途によって様々だが・・・
無色透明無味無臭。
これだけは外せない絶対条件である。
あらゆる暗殺毒に当てはまる事。
そう、あらゆる暗殺毒。
【毒姫】であっても例外ではない。


中央大陸西部、カンタレラ地方に聳えるビーシュ山脈の谷間の集落【ラパチーニ】。
堅牢なる山々に囲まれ交通の便は悪く、古代の魔法実験の影響が今も色濃く残り土地は痩せ毒を含み作物は育たない。
そんな不毛な地に住む人々は一つの産業を確立していた。

   最初は揺り篭の下に毒草を・・・
次は布団の下・・・ そして衣服の中に・・・
     更に乳に混ぜ赤子に与える
 こうして徐々に毒に慣らされた子供は

   全身が猛毒の【毒姫】となる

特別な血筋も 特別な才能も要らぬ。
毒性を残す土地に自生する様々な毒物で作成材料は賄える。
魔の力による施術も必要のないので魔法探知による判別にもかからない。

育成に10余年と期間はかかるものの、作成方法さえ確立してしまえば安定供給のできる製品なのだ。
決して安くは売りはしないが、権謀術数渦巻く王侯貴族の権力争いにおいては高いといえる額でもない。
実際に戦を起こす事に比べれば・・・
その機密性故に王家の格別の加護を受け、険しい山々より更に厳しく集落は孤立していく。
毎年の様に多くの女児の赤子が送られ、美しき毒姫となって出て行った。
毒見係として、護衛の盾として、好事家のコレクションとして、そして、【贈り物】として・・・


ある年、ラパチーニでは一つの変事が起こっていた。
王家より一度に100人の毒姫の発注があったのだ。
納期は5年後。
新しく宮廷魔術師となった者の注文であったが、一度にこれだけの大量発注は異例中の異例。
毒姫の生産は12年で終わるものの、その用途上、寵姫としての教育期間や発育期間が必要となる。
当時の村長はそう説明したが、宮廷魔術師は教育・発育は条件とせず、【毒姫】である事のみを条件とした。
故に、12歳以上の製品は全て出荷されたのだった。
その中に、後にベアトリーチェと呼ばれる少女の姿もあった。

出荷される・・・
少女達はその意味を皆知っていた。
が・・・その意味以上に過酷な運命が待っているなどと、誰も予想できはしなかった。
狂気の魔術師、ベアトリスの儀式が待っているなどと・・・


751 名前:毒Hz─wヘ√( ゚∀゚ )レvv─wヘ√レvv ◆DEMP5HzpBo [sage 2] 本日のレス 投稿日:2008/04/14(月) 22:41:06 0
【ベアトリーチェ・キャロル A】

王都から離れた小高い丘に建つ離宮。
少女は老魔術師ベアトリスの前に立っていた。
美しかった金色の髪は全て白く染まり、健康的な褐色の肌も病的な白と成り果てた。
青かった瞳も限りなく白くなり、仄暗い視線は何も映してはいない。
「良くぞ生き延びた。D−9−359。」
首輪に付けられた認証札を見ながら満足気に老魔術師ベアトリスが声をかける。

毒姫には名前を与えられない。
人間ではなく、人の形をした毒なのだから。
『贈られる』時に形式的に名前を与えられるのみ。
それまでは製品番号で呼ばれる。

「いや、今日からお前は私の娘。ベアトリーチェだ!」
厳かな宣言と共に、D−9−359の瞳に光が宿る。
ベアトリスが名前をつけたのは何も気まぐれではない。
名前、真名は人格形成上呪的に重要な役割を果たすのだから。
ここにベアトリスの禁術が完成した事を顕していた。

禁忌の術の達成と成功に喜び、笑い声は離宮全体に響き渡る。
その笑い声が終わると、一つ息を付き扉に向かい声をかける。
「遅かったではないか、我が弟子よ。そして我が命を断つ刺客よ。
見よ!私の理論は正しかった!素晴らしかろう!」
その言葉に応えるように扉から姿を現したのはレオだった。

ベアトリスは元々魔法学園の薬物学教師。
優秀な魔術理論を持つ男。
そしてレオの師匠。
禁忌の術に手を染め、魔法学園はおろか魔法界自体から追放されていた。
中央大陸西部に流れ、禁忌の術を始めている情報を受け、レオが刺客として放たれていたのだ。

レオはベアトリーチェを一目見て師匠であるベアトリスの術を見抜いた。
その成果を。その危険性を。
「・・・素晴らしい?そう言えたかも知れません・・・
地下で99人の少女の死体を見なければ!」


752 名前:毒Hz─wヘ√( ゚∀゚ )レvv─wヘ√レvv ◆DEMP5HzpBo [sage 病] 本日のレス 投稿日:2008/04/14(月) 22:41:18 0
【ベアトリーチェ・キャロル B】

一ヶ月前・・・
ベアトリスに買われた100人の毒姫たちは、離宮の地下に閉じ込められた。
そこが呪的に設計された特殊な館であり、地下である事は知る由もない。
毒姫達を前にベアトリスは残酷に言い放つ。
「殺しあえ!一人になるまで!」と。
そして地下は閉ざされた。
一欠片のパンも、一滴に水もなく・・・

本来毒姫たちは毒体質ということを除けば非力な少女となんら変りもない。
戦う術も、生き残る力もない。
地下に閉じ込められ、生き延びる方法はただ一つ。
殺す為に自分を相手に喰らわせねばならない。
生き延びる為に誰かを喰らわなければならない。
誰も彼もが人の形をした毒である中、より強い毒を持つ者が相手を殺し、喰らい生き延びた。
喰らった毒姫の毒を体内に取り入れ、より強力な毒姫となる。

それはまさに【蠱毒】なのだ。
一ヶ月の間にどのような戦いが行われ、少女達を蝕んでいったかは想像に難くない。
剥き出しになった人間性、裏切り、阻害・・・凄惨の一言を極めたであろう。
極限状態の中、100人の毒姫たちは最後の一人になるまで喰らいあった。
そこに必然などなかった。
ただたまたま強い毒をもち、より多くの毒姫を喰らったD−9−359が最後の一人になっただけ。
しかし、ベアトリスにとってはその過程などどうでもいいのだ。
蠱毒の儀式を終え、100人の毒姫の毒性を取り込んだ娘を手に入れられるのであれば。

「悲しいかな我が弟子よ。所詮は袂を別つた者か。」
悲しげにふるふると首を振るとベアトリス。
元々学者肌のベアトリスはベアトリーチェを作り上げて何をするという目的はない。
己の理論を実践し、それを証明する事自体が目的なのだから。
既に目的は果たされたのだ。
「・・・御免!」
迫りくるレオをただただ狂気の笑みを浮かべ迎え入れる・・・

#########################################

「任務は果たしました。が・・・残念ながら儀式は完了しておりました。」
「そうか・・・しかし、なぜ殺さなかった?」
魔法協議会の大会議室でレオは報告をしていた。
居並ぶ評議会員はざわめきと共に返事をする。
狂気の魔術師ベアトリスの討伐は果たされた。
しかし、その遺産の処理に戸惑っていたのだ。

狂気の蠱毒によりベアトリーチェはただの毒姫ではなくなっていた。
世界有数の毒姫。
処理を間違えれば強大な災厄となろう。
不用意に殺せばその血、その躯は大地を穢し恐るべき毒地を広げる。
それよりも何よりも、有名になりすぎた。
【暗殺】を主目的とする毒姫としての用途も果たせはしない。
砒素の沈色効果により色は抜け落ち、毒物以外を受け付けない・・・否、毒物を摂取し続けないと生きていけない身体。
それでは一般社会生活もままならない。

「僅か12歳の少女を・・・儀式の犠牲者である少女を殺す事に正義があろうか?
皆さん、彼女の処遇は私にお任せいただけまいか?」
一段高い席に鎮座する魔法評議会理事、そして魔法学園の学園長が立ち上がる。
その後議論は紛糾したが、結局のところ学園長の意見が通り、ベアトリーチェは魔法学園へと引き取られる事になった。
薬物・催眠術・封印術などあらゆる手段を持ってベアトリス教授の記憶を消す事を条件に。


753 名前:ベアトリーチェ ◆DOKU7MAWbk [sage 末期w] 本日のレス 投稿日:2008/04/14(月) 22:41:49 0
【ベアトリーチェ・キャロル C】

数日後、魔法学園学園長室に舞台は移る。
室内に三人の男。
「一足早いが紹介しておこう、レオ君。
この春から君の同僚になるレイド先生だ。」
部屋の隅に立つ男にレオの眉がピクリと上がった。
その男はまるで闇の具現というに相応しいオーラを発しながら立っていた。
「彼が・・・本気ですか?」
二十歳そこそこに見える若者に驚いていた。
闇の世界では知らぬ者のいない名前だ。
学園長自らが討伐に向かったと聞いていたが、何がどうなってか春から同僚になるという。
「勿論じゃとも。我が学園はあらゆる者を受け入れる!」
にんまりと笑みを浮かべ応える学園長。
それとは対照的にレオは溜息をつき、仕方がないといわんばかりに笑みを浮かべた。

「やれやれ、ベアトリス教授の遺産【蠱毒の毒姫】に【赫き闇の皇子】と言われた彼を共に受け入れるとは・・・
教頭先生の額がまた面積を広げそうですな。」
今から五年前。
レイド20歳、ベアトリーチェ12歳の春の出来事であった。

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ベアトリーチェが学園に入り2年目。
ようやく毒物以外を口にできるようになった頃・・・

彼女は魔の森の奥に庭園を見つけていた。
そこは咲く花から棲まう生物、庭園を形作る石柱に至るまで全て毒を含んだ庭園。
あまりの毒素のために周囲を沼と化してしまっている。
程なくして庭園の地下に庭園と同じだけの大きさの空間があることに気付く。
考えうるあらゆる器具が、材料が備わった実験室。
なぜここに、どうしてこんなものがあるか。
そしてなぜかこの場所に安心し、親しみを感じるのかは知る事はない。

それがベアトリス教授のラボであった事など・・・

「願わくば彼女が道を誤らぬ事を・・・」
庭園に通うようになったベアトリーチェの背に学園長はそっと祈りを捧げるのであった。

毒物の研究に生涯と理性を捧げたベアトリス。
それを討った弟子レオ。
ベアトリスの遺産、ベアトリーチェ。
輪になり踊る毒の賛歌に・・・・