1 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/09(火) 16:51:04 0
はじめに

このスレッドはブーン系とTRPSのコラボを目的とした合作企画であります。
詳しくはhttp://jbbs.livedoor.jp/internet/7394/
をご覧下さい。

一応のコンセプトである『登場人物はAAをモチーフに』はどんなAAでも問題ありません。
でないとブーン系に疎い人はキツい物があるでしょうから。

登場人物は数多の平行世界(魔法世界やSF世界等)から現代に呼び寄せられた。
或いは現代人である。と言う設定になっております。

なので舞台は現代。そしてあまり範囲を広げすぎても絡み辛いと言う事から、
ひとまずは架空の大都市としますです。

さてさて、それでは楽しんでいきましょー。




参加用テンプレ

名前:
職業:
元の世界:
性別:
年齢:2
身長:
体重:
性格:
外見:
特殊能力:
備考:

2 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/09(火) 16:54:47 0
本編スタートから二日目。捕われのミーティオ奪還作戦が決行されようとしている


有志による超絶まとめサイト

http://boontrpg.blog41.fc2.com/



文明まとめ

:簡単に言えば、物に宿る特殊能力の素みたいな
:形はある。他の物に宿るけど、侵される事はない。
:だから宿った物を燃やしたりすれば、『文明』だけを取り出せる
:そう言った加工したりする技術職なんてのもいたり。公から闇にまで

:文明が宿る物には適性がある
:例えば過去の『妖刀』『神具』なんてのは、適性が抜群だったと考えればおkかも
:適性が不十分でも宿りはするけど、放置すると文明は離れていく

※つまり女の子みたいなモン。
 ブサメンは頑張っても引っ付かない。フツメンは努力次第で引っ付く。
 超絶イケメンはほっといても引っ付いてくる。みたいな?
 だから一つの物に複数の文明が宿るなんて事もあり得るかも?

:人によっても適性がある
:『情報干渉』系と「現象顕現』系がある。更に細分化出来るけどしんどい。
:適性は上に関係してくる。『治療系』なんて適性もアリ




3 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY[sage] 投稿日:2010/03/09(火) 22:01:37 0
眩しさに目を開ければ、光が差し込んできていた。
…朝だろう。
というか私はいつ間にか寝ていたのか。

「…」

昨日の事は良く覚えていない。
いや、違う世界に来たという事やシエル、久和と出会ったのは覚えてるけれどそれからの事は覚えていない。
シエルが倒れてしまって、とりあえずシエルの作っただろう建物の中に運んだ、気がする。
久和は手伝ってくれたか、くれなかったか。
さてどうだったか…?

「まあ、どうでもいいべな」

とりあえず腹がへった。
気になるのは食事とシエルが大丈夫か、それだけだ。

「シエルさん、」

起き上がりシエルを見る。
目を瞑っているから、まだ眠っているらしい。

「…珈琲牛乳が飲みたい」

あと風呂に入りたい。
ああ、この世界の金があるなら…。
金…?そうだ、金、この世界で使えないかはまだ分からない。

「一応、確認すんべ」

そう呟きポケットを探ると財布を見付けた。
入っていたのは五万とちょっと。
…金さえ同じなら、飯も食べられる。

「私、ちょっと出掛けるからシエルさんを見てて」

既に起きていた久和にそう伝えて外に出る。
ここが私の世界の古い時代と同じ科学技術を使ってるなら自動販売機やコンビニがあるだろう。
そこで確認すればいい。


4 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY[sage] 投稿日:2010/03/09(火) 22:03:56 0
「さてと、何か無いか」

辺りを見回す。
そういえば此処は公園だったか。
ジャングルジムをあんな建物にするなんてやっぱり魔法って凄いなぁ、なんて感想を胸に私は公園の傍にあった自動販売機へと向かっていった。
百二十円を入れる。

「…何飲むべ」

炭酸飲料は好きじゃない。
まあ珈琲でいいか。
Maxコーヒーのボタンを押してみる。
するとガコンという音と供に珈琲の缶が出てきた。
取り出した缶は温かかった。

「これで使えることは確定した、ね」

呟いて缶を開け珈琲を飲む。
甘くて珈琲らしくないが、甘党の私には丁度良かった。
あんまり遅くなると心配するだろうか、そんな事を考えて急いで飲み干す。

「さて、」

…いや待て、ついでに二人にも飲み物を買っていこう。
テキトーにお茶とスポーツ飲料を選び自動販売機から取り出す。

「さ、今度こそ戻ろうか」


【訛祢琳樹:五万円と小銭少しをポケットから発見、及び使用可能な事を確認】
【持ち物:魔法書、5万140円、お茶、スポーツ飲料、その他】


5 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/10(水) 00:05:59 0
朧気ながらも零の中にある確かな記憶。
それは、顔さえ思い出せないある人物と毎晩一緒に眠っていた事だ。
恋仲ではない。というか女性だ。
ただ、その人物が毎晩寒いと潜り込んでくる。その人物とはそんな仲だ。

「一仕事終えて帰宅すると家族はみんな寝てました。か……お父さんの気持ちが分かるわねぇ」

……時刻はまだ午前六時前後、日の出から大体二時間程度は経過している。
オールとしては中々に挑戦的な時刻になってきている。
これは奥さんに見られていたらプチ修羅場になっていたであろう。
鬱病になるくらいに明るい空を見上げた後、ドアを開け目をこすりながら周りを確認する。
お目当てのメンツは各々、思い通りの位置に陣取り眠っていた。
トラップまで仕掛けて神経質そうに眠る忍者。
毛布にくるまりながらソファーで眠る例の男性。
厨房で椅子に腰掛けながら寝ているゼロワン。

(起こしちゃあ悪いわね。音をたてない様に……)

無音で奥にあるシャワー室へと入る。
洋服を脱ぎ捨てて裸体を晒すと服を畳み外に置いておく。
そして、ゆっくりと少量のお湯を出し、禊ぎを行う零。

肉付きの薄い体。女性としてはいささか硬質な印象を受ける顔……
人によって意見が分かれるだろうが恐らく魅力的には映らないであろうレベルまで引き締められた両手両足。
湯気や滴り落ちる雫により視認できないがあちこちに小さな切り傷や蚯蚓腫れの跡もある。
傷ついた体を休めるように水滴は流れ落ちてゆく。一つ二つ三つ……

6 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/10(水) 00:06:52 0
あの後、急な文明犯罪が発生し零は現場に急行した。
戦闘開始から僅か十秒という記録を叩き出し、鎮圧したが問題は後処理だった。
その後の、現場検証や状況説明が長引き気付けば朝を迎えていた。
そして、合流の為にバーボンハウスに到着した零だが、やはりと言うべきだろう。
皆は眠りについていた。

「てか、忍者はナニモンよ……」

合流の経緯を知らない者ならば至極当然の反応だ。
ブツブツと呟くがその声は全てお湯の流れる音にかき消されてゆく。

「ニンジャに乗って帰ってきたら忍者が増えておりました……と」

気がつけばドアの向こう側では物音がしている。どうやら誰か目を覚ましたらしい。
悪いことをしたなと思いながらも零は湯を浴びて汗を流しておきたかった。

【現状:シャワー中】
【持ち物:無し。全て洋服と一緒にシャワー室の外】
【行動経緯:顕現→ku-01と接触→ヒールは武器です→エスクリはつおいです→
 NOVAに捕まってみんなを逃がすか→なる程、これがこの世界での俺のやるべき事か→
 携帯確保→(ブゥゥン)付き合ってやるよ。十秒だけな!!(描写無し)→ただいま〜】

7 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/03/10(水) 03:50:49 0
カフェ『マルアーク』。

昨日の惨劇は彼の店舗にしっかりと爪痕を残し、瓦礫は除けられたもののそれらが構成していた建材は戻らない。
窓ガラスもあらかた吹き飛び、吹き曝しの中青空開店営業を迫られていた。
それでも律儀に従業する店員達の表情に光が潰えないのは、人類が標準装備している精神的自己防衛機構の賜物か。

すなわち――『それはそれ、これはこれ』。

さながら爆心地の内装はさておいて、喫茶マルアークは今朝も元気に営業中である。

さて、そんな店内の一角に視覚的変化が発生する。
朝の陽光を燦燦と浴びて煤けた色を衆目の下としていた端隅の壁が、その姿を巨大な『歪み』によって隠匿された。
まるでガラス透かしたような光の異常屈折は、正常な世界との差異によって『変化』の輪郭を白日の下へと公開する。

5頭身程度の、頭でっかちな人型。それは秒刻みで自身を着色していき、やがて頭頂から爪先までが色を得る。
色によって明らかになるのは、顔面のパーツ一つ一つまでのディティールだ。
ツインテールの頭髪、原色のどんぐりまなこ、不自然に高い鼻、薄い唇、垂直な放物線を描く頬。

巨大な幼女が、そこにいた。体操座りだった。

大人四人が組み体操しなければ張り合えない巨大さを個性と選んだ幼女の巨像は、ついさっきまで夢路を遊歩していたような表情。
おもむろに、口を開く。開け放つ。自転車を一口で平らげられそうなほどに拡張された洞穴からは、呼気の変わりに腕が這い出てきた。
腕は、とっかかりが見つからないのかしばらく幼女の顎のあたりをべしべしやっていたが、無為と知るや穴熊のように引っ込んでいく。

どごっ、と何かを蹴りつけるような音。一瞬置いて、幼女が嘔吐した。
食事中のBGMとしては最悪の選択をしながら、安物の銀玉鉄砲のようにべちゃりと吐き出された吐瀉物は、人間だった。
言うまでもなくタチバナだった。

「やあ、ご機嫌如何かな皆さん。僕は至って健康そのものだよ。
 つい元気余って13行に渡る精緻で遅々とした描写での登場だ」

『いいかげんめんどくさいわー』

「いやはや。五月とは言えまだまだ夜間は底冷えするからね。
 無法で不法で不本意ながらもフルオープン状態なここでビバークしてみたり」

何事も無かったようにすくりと立ち上がると、こちらに視線を集中砲火している火線を遡る。
向かう先は無論、昨日共闘した者達が揃って顔を突き合わせているテーブルである。
ごく自然な動作で速やかに椅子を確保すると、固まっている店員にモーニングコーヒーを注文した。

「昨日、君達と別れてから僕なりに色々と調べてみた。
 幸いなのは『文明』に関する書籍が市販されていたこと、不幸なのは僕が先進的文盲者であるということだね。
 まあ、そこらへんはアクセルアクセスのデータベースに保存されていた言語データの中にこの世界の言葉と非常に近似した
 古代言語を発見できたので、それをインストールすることで一旦の落着は得られたけれども」

誰かのおしぼりを勝手に拝借し、拭い拭い述懐する。

「なかなか興味深い話じゃないか。この文明とやらは『技術』ではないね。純然たる異能の産物だ。
 そしてそれが社会レベルで浸透している。昨日の『猟犬』とやらもそうだが、
 この世界における武力とは『文明』を機軸にして成り立っているようだ。ところでこれを見てくれ、こいつをどう思う?」

おもむろに懐から拳銃を取り出す。弾丸が装填されていることを確認し、安全装置を取り外し、撃鉄を降ろし、自らの側頭部に当て、

――何の迷いもなく引き金を引いた。


8 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/03/10(水) 04:35:50 0
相対する誰もが各々の反応を返す中、果たして十全の状態で発砲されたはずの拳銃は何も害していなかった。
自らに銃口を向けていたタチバナは、表情を変えずに拳銃をテーブルの上へ滑らせる。

「これは『逸撃必殺(ブレイクショット)』。拳銃に宿った『文明』で、銃弾に対象の確実な破壊を付与するものらしい。無論、鹵獲品だ。
 欲しければ先着で譲ろう。僕には使えないようだからね。ことほど左様に、『文明』を扱うには個々の資質・適性が大きく左右されるようだ」

やがて運ばれてきたコーヒーを一口啜り、何も入っていないことに気付き、砂糖とミルクで埋め立てる。
泥水のようなコーヒーが雨の日の泥水のようになるまで不純物を投入すると、ティースプーンで優雅に攪拌する。

「対して僕のアクセルアクセスや珍妙君の『直す』異能、ウェイター君の光の剣なんかは、『文明』とはまた違うものなんだろう?
 良くん(33)が生前そんなことを言っていたのを覚えている。さて、因果律が違うであろう平行世界において能力が十全であったことは、
 ある二つの分岐した過程を生み出すこととなる」

カチャカチャとかき混ぜていくうちに、元・コーヒーの水面が不自然に盛り上がっていき、形を作り始める。
それはコーヒーで構成された幼女のフィギュアであり、当然の如くアクセルアクセスだった。

「すなわち。僕等の能力は世界に依存しない。あるいは、能力そのものが因果律の中に含まれている。
 この二つは現象としては同じでも理屈はまったく違う。ここは重要だからよくメモっておきたまえ。テストを実地する機会があればだが」

ミニアクセルが紙ナプキンをとる。そのまっさらな表面に、小さな指を這わせると、コーヒーを墨とした筆書きとなる。
図解するのは、仮説によって導かれるいくつかの可能性の分岐、樹形図。

「まず前者。僕等の技術や異能の類が、元いた世界限定でないということ。
 例えば能力の行使に特殊な因子や元素を消費したりするのであったとすると、その因子の存在する世界でしか行使し得ないのが道理だ。
 それがないということは、少なくとも現状において僕等はスタンドアロンでも活動できるということになる。これは大きなアドバンテージだ」

行動における選択肢が、常に他者より一つ以上多くなるわけだから。

「そして後者。異能や技術に必要な因子が既にこの世界にも標準搭載されているという可能性。これは更なる仮説へと発展する。
 つまり、僕等の元いた世界の技術が、この世界の『文明』から派生したかもしれないということ。
 あるいはその逆。『文明』の元となるエッセンスが僕等のいた平行世界から持ち込まれたということも考えねばなるまいね」

長弁舌に飽き始めたミニアクセルが紙ナプキンの上で転がり遊び始める。タチバナはそれをつまみ上げ、こともなげに口の中に放り込んだ。
咀嚼する寸前でアクセルアクセスの顕現が解除され、固体は液体に戻って彼の喉を潤した。

「うん、つい舌に熱が乗って長々ぐだぐだと話してしまったけど、いい加減まとめにかかろうか。今の僕等には圧倒的に情報が足りない。
 昨日の脳内放送のパーソナリティ、竹内某が言う『作為者』を探し出して問い詰めるのも、案外答えへの近道なのかもしれないね」

再びカップに口を付け、残ったコーヒーの残骸を飲み干して間を埋める。喋り疲れをまったく感じさせない能面顔で、続けた。

「――さて、そろそろ本題に入ろう」

懐からにゅるりと鉄パイプを引っこ抜く。
どこに隠し持っていたのか、あきらかに懐の収納量と合ってない体積のパイプは、ごとりとテーブルを転がっていく。
タチバナは両手を顔の前で重ね、峻厳かつ深刻な雰囲気を醸しだしながら、紡いだ。


「――ミーティオ君が誘拐された」

9 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/03/10(水) 05:20:54 0
「これは路地裏に残された彼女の遺留品だ。ああ、嗅いでも無駄だよ?この僕が一縷の嗅ぎ残しもなく味わいきったからね!」

ほとんど鉄の臭いしかしなかったけれど。ぼそりと付けたし、続行する。

「おそらくこれは故意に残されたものだろう。ミーティオ君を助けに馳せ参じた連中をも一網打尽にする為にね。
 ――はは、まるで友釣り漁だ」

どこに笑いどころがあったのか、タチバナは渇いた笑いを二秒ほど浮かべ、

「必要なもの以外の痕跡は残さず……相当の手練だ。派手なばかりの昨日の連中とは違う、プロの臭いがするよ。
 ところでプロ臭ってどんな臭いだろうね。僕としてはこう、オトナの魅力たっぷり女教師わくわく個人授業的な」

『ずれてるずれてるだっせんしてる』

「失敬。話を戻そうか。えーと、ミーティオ君の鉄パイプの味の話だったかな?ご飯三杯イケたよ。鉄分補給もできて万能だね?」

『もどりすぎもどりすぎおまえわざとやってるだろ』

「失敬な。ともあれ僕は有志を募りたい。捕われの姫君を悪辣の者共から救い出す系の仕事がしたい人ー、挙手を頼むよ」

自分で言って、はい、と測ったように垂直に腕を天へ向ける。そのまま彼は机上を見回し、やがて深く頷いた。

「……ありがとう。もちろん僕も向かうつもりだよ。彼女とはまだ公園にも遊園地にも水族館にも行っていない」

『ぜんていかよ』

「そういうわけで、誰か探知系の能力や『文明』を持ってる御仁はいないかな?居なくても手分けして捜そう。
 ――アクセルアクセス」

『あーい…………おえっ』

壁の残骸を使って顕現したアクセルアクセスが、タチバナを吐き出したときのように嘔吐する。
口腔内に展開される亜空間ホール『ビックポケット』から、手持ちの通信機をいくつか吐き出す。

「これも昨日の鹵獲物だよ。『文明』ではないから、適性がなくとも十全に使用できる。人数分あるはずだから各自持って行ってくれ」

全員に行き渡ったことを確認すると、おもむろにタチバナは立ち上がり、宣言した。

「さあ、ミーティオ君救出奪還作戦の開始だ。面識がある者も、そうでない者も、存分にその能力で他者を救ってくれ。
 報酬は未定、だけど人を救うことで爽やかな吉善感と心地よい全能感が諸君等を満たしてくれること請け合いだ。保証する」

だから。

「漕ぎ出そう。僕等が世界を違えても、未だ十全に人で在り続けられるという宣誓へ。
 招かれざる招待客たる僕等が、それでも誰かを求めていられる証を立てよう」

それが僕等の抗いであり、戦いなのだから。


【ミーティオ救出作戦】
発足者:タチバナ
報酬:???
場所:喫茶マルアーク⇒BKビル
成功条件:ミーティオの救出

尚、支給品として通信機と、ジャンキーズから鹵獲した『文明』をいくつかがカフェのメンバーには渡されています
『文明』に関しては適当に創作してください


【タチバナ:時間軸朝。マルアークにてミーティオの救出作戦を発足】

10 名前:宗方丈乃助 ◆d2gmSQdEY6 [sage] 投稿日:2010/03/10(水) 19:37:55 0
「…なるほどね。だいたい分かったッスよ。」

タチバナの話を聞き終えた丈乃助は、水を飲み干し椅子から立ち上がった。
タチバナの前にあるパイプを手に取り、丹念に調べ始める。
「どーしたの?丈乃助君…言いにくいけど、皮膚や血痕は残ってないんじゃない?」

タチバナから受け取った通信機を弄りながら広瀬君はパイプを調べる丈乃助に声をかけた。
しかし、丈乃助は返答せずに黙々とパイプの平面を睨んでいる。
「あの……(いや、聞いてないな。この人)」

「よし”見つけた”ぜ。ゴルァ!!」

広瀬君が振り向いた瞬間、なんと丈乃助は鉄パイプをクレイジーPの拳で破壊した。
「丈乃助、破壊完了なり。次の指示を頼むなりよ。」
クレージープラチナムが口を開き、丈乃助に問う。
意味不明な行動に、広瀬君は叫び声を上げてしまう。
「え?何してんの?っていうか、君喋れるの!?
なんで”〜なり”なの?」

粉砕されたパイプから「指紋」が浮かび上がる。
幾つにも折り重なったそれから、ミーティオのビジョンを感じ取ると
パイプが再生される。
同時にパイプが浮かび上がり、カフェにいる者達を導くようにゆっくりと進み始めた。

「用意周到って連中も、徹底的に痕跡を消すなんて事はできねーみたいッスね。
このパイプの案内で、居場所が分かる筈ッスよ。」

「こんな能力があったなんて……凄い。」

広瀬の言葉に丈乃助は首を横に振る。
「凄くなんかねぇよ。大事なのは思い込む事だぜ。
自分なら出来る、引き出せるって精神力が大切なんだ。
広瀬の力だって、きっと思い込み次第で制御できるようになると思うぜー」

【時間軸:朝。パイプにあった指紋から居場所を追跡開始】




11 名前:尾張証明 ◇Ui8SfUmIUc[sage] 投稿日:2010/03/11(木) 01:24:24 0
「開店まで少し時間がありますね」

目標とする建物の前、フランチャイズの喫茶店のカウンター席。周りではビジネスマン達が忙しげに朝食を摂っ
ている。煙草の匂い、安っぽい合成皮の椅子。

「鰊とペリカンは十六時に来てくれるそうです」

電話をしていた兔は、パチリと携帯電話を閉じて言い。腫れぼったい目を擦り、欠伸を噛み殺した。

「開店するまで待ちましょう……なかなか様になってるじゃないですか、それ」

愉快そうに、俺の担いでいる青色のチェロケースを指差す。

「カザルスみたいですよ」

『あんな露出狂より ロストロヴォービッチの方が良い』

「へえ、まあどっちにしろ禿げてますよね」

俺が頭に手を遣ると、兔は「別に貴方は禿げてませんから」と爆笑しながら肩を叩いてきた。ツボに入ったらし
い。

『冗談じゃない』

俺はコーヒーを啜って。横目で腹を折って笑い転げている兔を眺めた。今日は羽織っていた白衣を脱いで、黒い
スーツ姿だ。

『戦闘状況になったら 俺の指示に必ず従え』

ようやく落ち着いた兔にメモを手渡す。目元を拭いながら、兔は軽く頷いた。

「わかってますよ」

(わかって無さそうだな)

やれやれ、とチェロケースを手のひらで撫でた。ともあれ、兔は優秀だ。俺の知っている ESPやPK連中のように、
前触れなく頭が爆発することも無さそうだし。
文明と言うものは、超能力よりずっと安定している物らしい。

(試射もせずに戦闘はしたくないな)

俺は少しだけ、兔の為に祈った。願わくば戦闘になりませんように。


【尾張証明: 自動小銃入りチェロケース を そうびした!!

確定イベント: 16:00にビルのヘリポートに武装ヘリ(AHー6 リトルバード)到着

BK ビルは10:00に開店

現在時刻:二日目08:45】


12 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/03/11(木) 23:12:45 0
武門の朝は早い。
否、早いというか李飛峻はまんじりともせずに朝を迎えた。
外からはチュンチュンと景気の良い鳥の囀りが響き、部屋の内からは二人分の寝息が聴こえてくる。

現在場所は月崎邸の一室。
一応寝ておこうとは思った飛峻だったが情報を整理している内に夜が明けてしまったのだ。
けして一回り近い年齢差があるとはいえ同室で無防備に寝入っている少女達のせいでは無い。
とはいえ当の本人達は昨晩の騒動で疲れ果てそれどころでは無かったのだろうが。

異世界への突然の召喚、真雪との出会い、萌芽との遭遇と怒涛のイベントラッシュだった昨日だが、中でも極めつけだったのが月崎邸での出来事だった。
真雪の人柄からさぞ愛されて育てられたのだろうと思っていたのだが、現実はそんな飛峻の想像から遥かにかけ離れていた。

己が孫に鬼の様相で罵声を浴びせる祖母。
当主の怒りを買うのを恐れ、冷たい態度の両親。
そしてそれらの不幸を招いてしまった元凶である月崎真雪に宿る異能。

(―――他者の嘘を問答無用で見抜いてしまう……か)

コンビニの帰りに萌芽の嘘を見破ってのけたのもこの異能の力に依るものだったのか。
だが人は多かれ少なかれ嘘をつく生き物だ。
本人の意思とは関係なくそれら全てがわかってしまうというのは思いのほか辛いことではないだろうか。
年若い少女が、ことに月崎家に生まれた真雪が背負うには余りにも酷な能力だろう。

誰にぶつければいいのかわからない憤りを感じながら、何とはなしにまだ寝ている真雪へと目を向ける。
昨晩あれだけ感情を爆発させたのだから無理もないが、その頬には涙が伝っていた。
飛峻は音を立てないように立ち上がると、ベッドに近寄りそれを拭う。

何となく恥ずかしいことをした気がして目を逸らすとしっかり起きていたらしい、わくわく顔の檸檬と目が合った。

「……すまなイ、起こしてしまったカ?」

努めて動揺を押し隠しながら訊ねてはみたものの、檸檬のにやけた顔が一部始終を見られていたことを何より雄弁に語っている。
すっかりまだ寝ているものと思っていたのだがこうも立て続けに気配を読みそこねるとは。
萌芽の時といい異世界で歯車がズレたか。

飛峻は嘆息一つ、諦めたように苦笑するとその場で胡坐をかく。

「まったク、少しは従姉妹に身の危険が及ぶかもとか思わないのカ?
 ……すまナイ、聞き流してくレ。」

照れ隠しとはいえ些か振る話題を間違えたかもしれない。

「そういえばレモン。
 昨晩のことだガ……いや祖母のことじゃなイ。
 出来うる限りマユキの味方でいてくれと言っていたナ?」

思い出したように檸檬がああ、と相槌を打つ。

「答えを言う前に寝てしまっただろウ。だから今、ここで誓おう――」

飛峻は居住まいを正すと小声で、しかし力強く宣言した。

「是非も無イ。――たとえ他の全てがマユキの敵になったとしてモ、俺は……いや、俺とレモンはマユキの味方ダ」

13 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/03/11(木) 23:14:48 0
などという赤面物のやり取りが終わった頃、階段を降りる足音が聞こえてきた。
響く音の軽さと時間から考えるに朝食の支度に来た真雪の母のものだろう。

真雪と檸檬の許可こそ得たものの、飛峻は月崎家の他の住人からしたら得体の知れない外国人でしかない。
見つかる前に出なければ最悪のところ警察権力を向こうに回した逃走劇に発展する可能性すらあるかもしれないのだ。
それに自分のせいでこれ以上真雪への風当たりを強くするわけにも行くまい。

「マユキ、マユキ」

飛峻は暇を得ようと真雪を揺さぶるが、起きる気配は無かった。
それどころか後5分といわんばかりに寝返りまでうたれる始末。

「……止む無シ」

ゆらり、と片手を引き上げる飛峻。
人差し指、薬指、小指の三指はピンと引き伸ばされ、親指は弓の如く中指を引き付ける。
その構えの意図するところを悟った檸檬が声を押し殺し笑っていた。

中国武術において四肢の末端を駆使する工夫は他のそれを遥かに凌駕する。
手は拳をつくるのみに終わらず、打撃箇所に応じて掌、拳、手刀、指突ときには手首や手の甲に至るまで余す事無く使用するのだ。
そしてそれらの妙技を修めた飛峻の手は精妙な動作を伴って真雪へと放たれた。

ベチ。

乾いた音を立てて飛峻の指は狙い違わず真雪の形の良いおでこにヒットしていた。
所謂「デコピン」というやつである。

「やア。おはようマユキ、良い朝だナ」

恨みがましい視線が痛い。

「正直悪かっタ。とはいえ他の人達も起き出してきたみたいだったのでナ?
 マ、待っテ、待って下さいませんかマユキさん。俺が知る限りソレはそう使うものじゃナイ。角ハ、角は危険デス。それ以上いけなイ!
 ……まア、本題に入ろウ」

現在の状況、というか他の家族に見つかることで起きるであろう軋轢をざっと説明し終えると、今日の予定を話す。

「一度繁華街の方に戻ってみようと思ウ。
 理由は俺が召喚された場所であることが一つト、昨日のモルガが言っていたコトが気にかかるのが一つといったところダ。
 アイツは俺の他にもコッチに来た者が居ると言っていタ。そしてお互い潰し合う必要がアルとモ。
 まあこれはマユキのおかげで嘘だとわかったわけだガ、重要なのはそこじゃあ無イ」

一旦区切ると飛峻はにやり、と不敵な笑みを浮かべその続きを口にする。

「戦ウ、ということは相手が近くに居るということダ」

先ずはそいつらを探す、と飛峻は真雪に告げる。
ひょっとしたら萌芽の言葉を信じ、襲い掛かってくる連中も居るかもしれないがその時はその時である。
ともあれ圧倒的に情報が少ない今、自分と同じ境遇の者達を探すのは悪くない手だと思う。

「それでマユキはどうすル?
 昨日のモルガの様子から察するに全くコチラ側と無関係というわけでは無さそうだったガ……ッ!?」

そこまで口にしたところで部屋に近づいてくる足音に気づいた。
飛峻は素早く庭へと通じる戸を開けると、間男よろしく目を見張る速さで部屋から抜け出る。
その間際、真雪にコンビニから帰る途中にあった公園で暫く待っていると伝えて。

14 名前:前園 久和 ◇CqyD3bIn5I[sage] 投稿日:2010/03/13(土) 00:19:58 0
清々しい朝。

「おはようナンジツ」

いや、ここは違う世界だけどな。
それに俺は寝てない。
昨日女が倒れておっさんが助けて、後は忘れた。
まあ手伝ってない事は確かだ。誰が人間なんか助けるかっての。

「おっさんと女は寝てる、と」

二人をチラッと見てそう判断する。…まあいつか起きるだろ。

と、思っていたらおっさんが起き上がった。
女の様子を見ている様だが、そんなに気になるもんか?
様子をジッと見ているとズボンのポケットを探り出し、そして財布を取り出す。
この世界の金でも持ってるのかも知れない。

>「私、ちょっと出掛けるからシエルさんを見てて」

そう言われて分かったと少し頷くと、おっさんは外へ出ていく。
…見とけと言われてもな、さてどうするか。
殺すか放置か、看病?いや看病は無い、看病は。

「看病は…ないよな…」

「…」

……。
別に気が向いたから濡らした布を女のでこに乗せてるだけだからな。
これは看病じゃねえからな。


15 名前:ku-01 ◇x1itISCTJc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 00:16:58 0
水音がしている。
 ku-01の集音パーツがそれを捉えたのは、午前六時一二分のことだった。

 オムライスを平らげ、葉隠とサイガの二人が平らげた分を含めた食器や機器の片づけを済ませると、気が付けば随分な時間となっていた。
 片づけの後にあった作業も、それなりに時間をとったためだろう。
 主人が帰ってくるのを甲斐甲斐しく待つのがあるべき待機とも思えたが、ku-01は厨房の椅子に座り自身の状態の把握に努めることにした。

「解析を開始します」

 どうも、エネルギーへの変換効率が可笑しいのだ。
 食材の構成組織については前の次元と変わりなしと認識していたが、もしかしたら変調を来すようなものが無いとも限らない。
 色味や名前、何となくで特に解析もせずに材料を使用したのが祟ったのやもしれない。
 かりかりと単調なデータを反芻するのにつられ、メモリに降り積もったジャンクがku-01の意識で上映されだす。

16 名前:ku-01 ◇x1itISCTJc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 00:17:40 0










now loading...









.



17 名前:ku-01 ◇x1itISCTJc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 00:20:58 0

『あ、どうしよう、すごい今トイレいきたい! 漏れる誰か助けて』


『『漏らせ』』

『ええっ』

『大丈夫だよ、ちゃんと整備士の人も分かってくれるさ』

『セリザワさん、優しいから許してくれるって』

『嫌だあ! この前やっとフラグが立ったばっかりなんだ! おま、漏らしたらそんな、ぶち壊しってレベルじゃねぇぞ!』

『双方のトラウマになるな……』


 膨大な音声メモリの中で再生されるのは、そんな会話。
 戦闘機に乗り、撃墜されたら死体の回収も約束されない戦闘を三十秒後に控えた人間のする、そんな雑談。

 ku-01は、そんな彼らに出撃を伝える役目を担っていた。
 入れ替わり立ち替わる彼らに索敵し、撃墜報告をし、損傷レベルをつたえ、帰還指令を出し、――時には補助の放棄を伝えてきた。


『出撃してください』

『りょうかぁあい! いっちょぶちかましてきまーす!』

『いってきまーす』

『ああああ膀胱が』



 ku-01には、音声保存の為の機能が多く積み込まれている。
 一度聞いた音を保存し場合によっては音源を解析、編集することが出来るのは、ひとえに『遺言を伝える為だ』と、上官はそう言った。

18 名前:ku-01 ◇x1itISCTJc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 00:22:57 0
 撃墜され、宇宙の塵と消える人間が最後までku-01と繋がっていられるようにku-01には様々な通信機能が搭載された。また、効率よくそれを遺族に伝えるためにも、その通信機能は使用された。

『だからお前はほとんどまるきり、遺言保存用のオートマトンなんだ』

 なにも言う間も無く散っていったひとの言葉を保存、切り張りして『さようなら』を作成するのがku-01の第二の役目だった。




「……」


 そうしてヘッドギア越しに保存された様々な最期の言葉を、圧縮の意を込め波形処理する。其れは所謂音楽と呼ばれる形態だったが、生憎ku-01の次元に音楽と呼ばれる文化は存在しなかった。
 さらさらとAIの中で再生される遺言達も反芻していると、不意に集音パーツが水音とそれに紛れた人の声を拾い上げる。
 かり、とAIが音を立て、自動的にその声を解析。数時間前に仮登録した主人だと告げる。
 どうやら解析にメモリを割きすぎ、外部応対が疎かになっていたようだ。
 自戒しつつ、椅子から立ち上がる。

19 名前:ku-01 ◇x1itISCTJc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 00:25:27 0

 水音の音源はシャワー室だった。
 窓から薄く差し込む朝日を拾い上げながら足を運ぶと、簡単に畳まれた例の露出度が奔放な衣類がおいてある。
 其れを手早く畳み直し、硝子戸の向こうに貼り付く水蒸気を確認。ノブに手をかけ、開いた。


「お早う御座います、マスター」


 現在の時刻は六時二〇分。この挨拶で間違いはないはずだ。
 シャワーを浴びていたらしい主人が呆気にとられた表情でこちらを見ている。
 まず葉隠やサイガについて伝えなくては成らない。それから、と発言予約を繰り返す。


「ご報告いたします、」



『バッテリー変換に異常が見られます。非対応の栄養素が関知されました。
問題解決のため、五秒後に強制スリープします
対応ナノマシンの作成まで、後――――――――秒』

 解析を終えたAIの警告メッセージに、予約を棄却する。びり、と強制スリープのプログラムが展開された。
 ゆっくりと末端から動作が鈍くなっていく。
 何を置いても、これだけは言わなくては成らない。


「厨房に朝食が用意してありますので、どうぞ暖めてお召し上がりください……」


 可視領域がぱたんと閉じて、ku-01はその場に崩れ落ちた。 





【オムライスに入っていたピーマンで異常を来す】
【オフの事情で十日くらい眠っていて貰います】
【九七キロの鋼鉄の固まりをどう扱うかはPLさん達にお任せします】

20 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 01:17:22 0

声が、聞こえる。



真雪の上を飛び交う会話で、真雪の意識は浮上した。
(いつのまに…ねいってたんだろ)
夢うつつにたゆたう真雪の耳が、はっきりと捉えたのは
「是非も無イ。――たとえ他の全てがマユキの敵になったとしてモ、俺は……いや、俺とレモンはマユキの味方ダ」
若干、中国語らしき訛りが入った低めの声が真雪にたてた誓いだった。
(―――)
そうして、胸に広がる嬉しさと共に、真雪の意識は再び落ちる。




21 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 01:18:19 0
真雪は寝起きが悪い。
一度意識が浮上しても、30分は動かない。二度寝をする事もしょっちゅうだ。
それでも、痛みを感じれば流石に起きる。
「やア。おはようマユキ、良い朝だナ」
デコピンの犯人が爽やかに笑っていた。
無理やり起こされたせいで、真雪の機嫌は大分悪い。
飛峻を睨むと、彼の笑顔がひきつった。
「正直悪かっタ。とはいえ他の人達も起き出してきたみたいだったのでナ?
 マ、待っテ、待って下さいませんかマユキさん。俺が知る限りソレはそう使うものじゃナイ。角ハ、角は危険デス。それ以上いけなイ!
 ……まア、本題に入ろウ」
ベッドサイドに有った重たいファイルを構えると、飛峻の慌てた声が飛ぶ。
そうして飛峻は真雪からファイルを取り上げ、彼が見付かる事で生じる軋轢を説明した。
「それで、飛峻さんは今日はどうするの?」
「一度繁華街の方に戻ってみようと思ウ。
 理由は俺が召喚された場所であることが一つト、昨日のモルガが言っていたコトが気にかかるのが一つといったところダ。
 アイツは俺の他にもコッチに来た者が居ると言っていタ。そしてお互い潰し合う必要がアルとモ。
 まあこれはマユキのおかげで嘘だとわかったわけだガ、重要なのはそこじゃあ無イ」
そこまで言い終えると、飛峻は不敵に笑う。そして言葉を続けた。
「戦ウ、ということは相手が近くに居るということダ」
まずはその相手を探すらしい。


22 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 01:19:58 0
真雪は考える。
なるべくならついて行きたいが、昨日の萌芽の言葉を信じた者が襲ってきた場合。
戦う術の無い自分は、どう考えても足手まといだ。
それに、自分がついて行く理由は有るのか…
「それでマユキはどうすル?
 昨日のモルガの様子から察するに全くコチラ側と無関係というわけでは無さそうだったガ……ッ!?」
階段を下る足音が、控え目に響く。
気付いた飛峻が、真雪に耳打ちをしてから部屋を飛び出して行った。
曰く、昨日見つけた公園で待っている、と。
飛峻が去った後、恥ずかしさに真雪の顔は真っ赤に染まった。
それから顔を覆い、しゃがみ込む。
「まゆきちゃん? どうしたのぅ?」
檸檬のからかう声も耳に入らない。
こんな、こんな。
(内緒の、恋人みたいに!)



その後朝食を取り、軽くシャワーを浴びる。
祖母は昨日のヒステリーで頭痛を起こし、寝込んでいるらしい。
悪いが、真雪にとっては好都合だ。
着替えて外に出ると、真雪は飛峻が待っている公園へ向かった。


【現状:公園へGO!】
【持ち物:携帯、財布諸々が入ったバッグ、ペンデュラム】


23 名前:fragment ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/14(日) 01:21:19 0

「バカな子…バカな奴」
静寂に包まれた部屋の中。
檸檬は静かに嘲笑っていた。
「あの子は本当に鬱陶しい…いつでも私に引っ付いて来て…
時々ヒステリックに泣き叫ぶの、本当に止めて欲しい。
誰にも助けてもらえないのも自業自得よねぇ…」
カッターナイフを取り出し、刃を出して、引っ込める。
「あの妙な中国人もバカだなぁ…真雪の味方だ、なんて…報われる筈が無いのにね…
私の事まで信じちゃって…私はあれの事、嫌いなのにねぇ…」
そして、アルバムの中の写真を一枚取り出し、そこに写った真雪の顔を傷つけた。
「本当にみんな…バカねえ」
引き裂かれた真雪の顔は、困ったような、泣きそうな顔をしていた。




24 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/14(日) 23:47:40 0
どうやら外にいる人物達も音源がシャワー室だと気づいたらしい。
がさごそと言う音がシャワー室内にまで聞こえてくる。

開け放たれる硝子戸。ここまで来れば当然と言えば当然だ。
余程の馬鹿でない限り侵入者に気づいて確認をするだろう。
しかし、これは予想していた通りの展開。すでに零はタオルを巻き終えている。
そして、それだけではない。
零は開け放った人物を『成敗』するために腕を組んで待ち構えていた。
しかし、そんな零に声をかけてきたのは予想とは違う人物だった。

「お早う御座います、マスター」

「お、おはよう?」

若干の戸惑いと気恥ずかしさを織り交ぜて返答をする。
しばし、時間にしては三秒くらいになるが沈黙が辺りを包み込む。
微妙な空気の中ゼロワンが発している「カリカリ」というloading音が耳に障る。
その沈黙を破ったのはやはりゼロワンの方であった。


25 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/14(日) 23:49:35 0
「ご報告いたします、」

事務的な口調。これだけで彼女がやましい気持ちを持ってはいないと分る。が、
分るがあまり気持ちの良いものではない。
理由は唯一つ。デリカシーの無さ。これに尽きる。

あのねぇ、

と口を開こうとした時だ。ゼロワンが遮りながら言葉を続ける。

「厨房に朝食が用意してありますので、どうぞ暖めてお召し上がりください……」

とりあえず、服を着た後にいろいろと『教育』する必要があるな。
と零は思い返答を返そうとした時にさらなる異変が起こった。
ゼロワンがゆっくりと倒れ始めたのだ。
その様を見て零は反射的に受け止めてしまう。

ちなみに、彼女「ku-01」の重量は97Kgでありその重量を比較すると
創作作品ゼノサーガに登場するKOS-MOS(92Kg)よりも5Kg重く、
映画 ターミネーターに登場するT-800(160Kg)より63Kg軽い。

そんなものを受け止めた場合どうなるか?想像することは難しくないだろう。

26 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/14(日) 23:50:52 0
「う、うごごごごごごご……」

受け止め、必死に耐える零。
うら若き17歳の乙女の発する声とは思えない声を発しゼロワンを壁にもたれさせる。

「って錆びる!?」

錆びる。錆びる。と慌てながら零は服を着込み始める。
なお、この場合。錆びよりも早くショートしてしまう可能性が高い事を追記したい。

ゼロワンが畳んでおいてくれたのだろうきれいに畳まれた衣類を蹴散らして
目当てのもの……薄紅色のレースショーツと革製のチューブトップを拾い上げると
手早くショーツを穿き、チューブトップを締め付けて固定する。
これでとりあえずは『バスタオル一枚』よりかはマシになった。

「ちょっとバストがキツいけど……」

初めて着る衣服の着付け方に調節を誤ってしまった事をぼやく。
確かに最初にきていた時に比べて締め付けがきつくなっている。

「てか、そんな事よりも!」


27 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/14(日) 23:51:53 0
そう、そんな事よりも今はゼロワンの方が心配だ。

防錆加工が施してあると思われるがそれでも電子機器に湿気と言うか水分は非常にまずい。
シャワー室の壁にもたれたゼロワン。
零は覚悟を決めると俗に言うお姫様だっこの形で抱きかかえる。
その姿は何とも絵にならないが仕方がない。

「こンのォ……ダイエット……しなさい…よォ!!!」

ウェイトリフティングには少々重すぎる97Kgの鉄塊をゆっくりとだが確実に食事をする為の、
テーブル……その中でも比較的広いソファーの席へと運びそのまま寝かせる。
尤も、正確には下に落とすだが今の零にそれを気にする余裕などは無かった。
あるのは唯一つ……

「こらァ!!男ども!!お・き・な・さ・い・よ・ォ!!!!!」

まだ眠りについている繁華街に零の雄たけびがこだまする。

窓の外、大通りを走る車の一台がその声に反応して一瞬だけブレーキランプを点灯させた。

【現状:寝ているPCを叩き起こす】
【持ち物:携帯電話、キャッシュカード、大型自動二輪免許、(最初から所持していたのに何故か全て使用可能)
 プリペイド式携帯電話×2、現金八千円】

28 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 00:49:10 0

一定の間隔で打ち鳴らされる金属音。


瞬きしても瞼に残る、紅い明滅。誰かが言った。

「その先は行き止まりですよ」

この光はきっと、自分を呼んでいる。おれは訊ねた。

「―――どうして?」

遠くから押し寄せて来る、不揃いの振動。誰かは答えた。

「その理由を知りたければ、止まりなさい」

凍えて感覚がない素足は、まだ言うコトを聞いてくれた。おれは頷いた。



……

でたらめなテンポで不協和音を立てる鉄黒皮。


ブランケットを被り直しても耳に残る、能天気な声。誰かが言った。

『あっさでっすよー!』【>早朝388】

この音はおそらく、俺が起きるまで鳴り続ける。俺は告げた。

「――――止めろ」

数年前に一度、全く同じ騒音を、全く同じ状況で聞いた覚えがある。
当時の俺が守れなかったモノ達を見るのは、二度と御免だった。
カタチが歪んで火の通りが均一じゃなくなった鍋も。
シャフトがひん曲がったレードルもだ。

「どういうつもりだ」

『あ、これですか?』

「いや、服の話はしてない」

『お言葉に甘えて、入ってたのを借りました』

詰め寄ろうとしたら、絶妙なタイミングで椅子を引かれた。
腹いせに背中から乱暴に腰掛けると、椅子の前足が僅かに浮く。
それが再びフローリングに着いた瞬間に、大げさに足を組んでやった。

「この有様は……俺が甘やかしたせいだってのか?」

『一宿一飯の恩義は果たしますよっ!』

「一宿を終えた直後で寝惚けてるのはわかるが、
 そいつは目覚まし時計のベルじゃない。
 お前の言う一飯を作る為の道具だ」


――――こうして、GW二日目のとんでもない朝が動き出す。

29 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 00:50:12 0

『お店もお手伝いします!』 

「頼んでない」

『食パンと卵と牛乳があったから朝ごはんはフレンチトーストです!』

「"この味がいい"と俺が言ったら今日がフレンチトースト記念日になるのか?」

『私はもう食べましたっ!』

「お前の腹具合なんざ聞いてない」

『食べ終わったら、お仕事ですよね?』

『開店時間八時でしたし』

「……ああ。これなら八時くらいに入店出来そうだ。
 ミーティングと始業準備には間に合わないだろうが」

『色々、お話もありますし――そっちでしましょう』

前のめりな茶目の後で、不意に真剣な眼差しが揺れた。
―――俺としては、その瞳に見とれていたつもりも自覚も無い。
だが、そうして差し出されたビンを思わず受け取ってしまったのは事実だ。

『それとっ、一個だけいいですかっ!』

俺は、半ば条件反射で平衡感覚以外の五感を閉ざした。
なぜなら統計上、俺と話している最中の女が急に息を吸い込んだ場合、
原因は分からないが、その直後の行動は高確率で近似したパターンを辿るからだ。

『私の名前はなんちゃってシスターでも子猫でもありません!
 五月に一日――』『――おはようございます』【>早朝389】

「漸くお目覚めだな、眠りの国の御使い。
 ……どうだ、気分は最悪か? それとも最低か?」

挨拶の主に向けた視線と意識を、細い腰に手を当てて無い胸を反らしている少女に戻す。

「……ああ。悪いな、なんちゃってウェイトレス。
 良く聞き取れなかったが、カレンダーを探してるなら――」

――スケジューラーを起動させようと手にした携帯電話が震え出す。
背面のサブディスプレイでは、忌々しい"那葉"の二文字が点滅している。

『フレンチトーストですか、いやーおいしそうですね。僕、朝ごはんはパン派なんですよ』

「少なくともフィッシュ・アンド・チップスじゃ無いコトだけは確かだが、味は保証しない」

寝言半分で応答しながら、少年に対する認識を改めた。
"普通の高校生"は泣き顔で朝食の嗜好の話をしたりしない。
旅先で出会った好物のパンが泣くほど嬉しかったって訳でもない限りは。

「……俺の分をくれてやる。ゆっくり味わえ。
 煙草が目に沁みるってんなら、外で吸ってくるぜ」

侵食されていく日常への僅かな喪失感。
しつこく続く携帯電話のバイブレイション。
それを手の中で握り潰しながら、部屋を出た。

30 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 00:51:13 0

 "二日間だけの契約だったけど、明日以降も入ってくれない?"

「生憎だが、昨日の夜に新しい依頼があってな」

 "あちゃ〜。追加料金で重複契約! ……どう?"

「五割増しだ」

 "背に腹は代えられないか……。
  オッケー、二割増しで依頼するわ"

「だったら脇腹じゃなく背を出せ。またのご利用を」

 "そう言えば、楽しげなサムシングを手に入れたみたいね"

「那葉……お前、どこまで知ってる?」

 "さあねん?
  アタッシュ〜♪ アタッシュ〜♪ ナ〜ンバー――…"

「…――わかった。三割分はサービスでいい。
 その代わり、完全にこっちの都合で入らせてもらう。
 それと念のために確認しておくが、お前一体いくつだ?」

 "助かるわ。切り詰められる部分は切り詰めたいから。
  休業損失保証の方がね、ほとんど下りないらしいのよ。
  ちなみに私は17歳。誕生日は年に四回あるから忘れないでね"
 
「怪しいもんだな」

 "あら。上司を疑うの?"

「疑う余地が在るに留まってる件ならな。
 損保は、騒擾の枠で特文法の適用がある筈だ。
 ついでに言えば悩む役はオーナーであって、お前じゃない"

 "そのオーナーが掛金を誤魔化してたせいで、基準の満額自体が少ないの。
  来月のリフォームだってギリギリだったのに……雇われ店長も大変だわ"

「店長の役目なんざ、手入れがあった時に捕まるコトくらいじゃないのか?」

 "それなら、売上金を握り込んでドロン、がオーナーの役割ってわけ?
  こっちは日付が変わるまで《適材適時(タイムリー)》回してたのよ。
  おかげで今朝は天使のキューティクルも肌の張りもサイアク"

「売れ残りの見切り品が気にするコトじゃないな」

 "闇市場のアウトレットなんかに言われたくないわよ"

31 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 00:52:11 0

 "絶賛確変中に突然呼び出されたあたしの気持ちが分かる?
  店に来てみればフロアはあの有様だし、あんたは逃げてるし――"

「擦れ違い、と言って欲しい所だな。俺は定時に退店しただけだ」

 "――出張って来た公文は捜査名目でバックヤードまで踏み込んで来るし"

「連中も必死なのさ。
 何せ、狩りの出来ない猟犬はホットドッグにされちまうからな」

 "…あ。そう言えば。
 ないしょの計算ドリルだけど、ヤギに食べさせておいてくれたのってセージ?"

「……さあな。店長室に迷い込んだ仔猫か何かが、爪研ぎにでも使ったんじゃないか?」

 "ふうん? 最近はペットにトーラーを仕込む道楽でも流行ってるのかしら"

「ああ。その分、今時の飼い猫は良いモノ食わせられてるらしい」

 "キュイジーヌに副えてもおかしくなさそうな?"

「いや、精々がフレンチトーストだろうな」

 "服を着せて散歩させてみたり?"

「例えば、英国給仕風か」

 "……"

「…………」

 "………………女の子?"

「どうしてわかった」

 "…だって。
 それって私が着てた制服でしょ?"

「おそらく、当時のお前よりも年下だ。
 さっきの計算で行くとお前が9歳の頃に着ていたコトになるが」

 "……逮捕されるわね"

「サイズの関係上、着こなせちゃいない様だが、
 あの頃の那葉に比べれば可愛気ってもんがある」

 "…有罪だわ"

「ときに訊ねたいんだが、一晩の寝床を貸した身元不明未成年が居たとしよう。
 そいつが朝起きるなり泣き出したら、お前ならどうする?」

 "決まってるじゃない。ベッドの持ち主は死刑よ"

「そうか。だとすればソファーの持ち主は―――」


―――通話が一方的に打ち切られる。
それは誤解が引き起こした惨事であり、日常だった。
言い損ねた軽口を煙草と共に靴裏で揉み消し、給仕は部屋の中に戻った。

32 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 00:53:17 0

『あー、なんというか……』【>早朝392】

部屋に戻ると、夢見の王子は泣き止んでいた。
あるいは、誰かに泣き止まされたのかもしれなかったが。
現在のトピックは、印象的かつ大胆にダイジェストされた身の上話だった。

『僕とゲームをしてるおじさんがいまして、その人の娘さんに蹴られました』

「ああ……そいつは教訓だな。
 つまり、理不尽な不幸ってのは何処にでも転がってるってコトだ。
 俺を雇ってる女店長が居てな、そいつにお前の話をしたら死刑を宣告された」

そこで俺の軽口を見計らった様にして自己主張を始める携帯の狭いウィンドウ。
右から左へと流れ来る"那"の文字まで確認して、俺は即座に電源を切った。
悪戯で首に鈴を付けられた野良猫の気分で、出掛ける支度を終わらせる。

『あ、僕もついていきますよ、お店のほうの手伝いもちょっとくらいならできると思いますし』

「……ついてくる分には構わない。好きにしろ。
 だが、自分が一応病みあがりだって事は忘れるな」

こっちには向こうの体調に配慮してやる義理なんざ、これっぽっちも無い。
ただ、仕事中に倒れられたんじゃ目も当たられないってだけだ。
故に笑顔を向けられてしまうのは、釈然としない。

『あ、でもよかったらおんぶとかしてもらえませんか?』

「全くよくない。よって断る」

『一応病みあがりなんで』

「……チッ。イイ根性してやがる」

この少年の言葉は……いや、背負った重みさえもあやふやだ。
何が嘘で何が真実なのか。今の俺にはコインの裏表を知る術など無い。
ただ一つだけ確かなのは―――ソレがすでに投げられちまってるって事だけだ。

33 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 00:54:46 0


  [こちらオープンカフェレストラン"マルアーク"期間限定特別営業中!]


"オープン"の綴りがパステルカラーのチョークで強調されたメニューボード。
店に着いた俺を出迎えたのは、那葉の丸文字と、和泉の無愛想な挨拶だった。

「……おはようございます」

「―――気が利くじゃないか和泉。
 ちょうどモーニングコーヒーが飲みたいと思ってたトコだ」

「これ、五番テーブルのお客様の注文ですけど」

「テーブルは四つしか出て無い様に見えるんだが」

「仕方ないじゃないですか。
 ウチのテラスの広さじゃこれが精一杯なんですから。
 本来の四番テーブルは、昨夜の騒ぎで三角形になっちゃってますし」

和泉の視線を追いかけた先の五番テーブルでは、
騒ぎの張本人達が穏やかな朝の風景に溶け込んでいた。
その向こうでは、遠近法の狂った幼女が景観から浮いている。

「……俺が行く。伝票はこっちに回せ」

「それはいいのですが……。
 あの、祇越さんにお聞きしたいことがあるんです。三つほど」

「―――何も聞くな」

同僚に背を向ける事で試みたのは、質疑の拒絶。
それは背負った少年の白いシャツに依って達せられた。
無論、なんちゃってウェイトレスの手を引く事は忘れてはいない。
この二人を従業員の前に放置すれば厄介事が増えるのは間違い無かった。



……

『――ところでこれを見てくれ、こいつをどう思う?』【>>7

オールバックが、やおら引き抜いた銃刀法違反物を指し示して問うた。

「……すごく、大きいな。店を出るまでには始末しといてくれ」

俺は、膝を抱えて座り込む巨大な幼女に視線を移しながら答えた。
総じて分析と仮説は妥当なモノだったが、プレゼンの演出が営業妨害だ。
肝心の本題は、幼女とひとしきり戯れた後で思い出したかの様に提示された。

『――ミーティオ君が誘拐された』

「……初めて聞く名前だな。幼女型の隕石か何かか?」

『これは路地裏に残された彼女の遺留品だ――』

サングラスの少女の傍らに在った鉄管が沈黙を以って俺の問いに答える。
あの時感じた野良犬の臭いに微かに混じるのは―――"暴力"の残り香だ。

34 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 00:55:58 0

『漕ぎ出そう。僕等が世界を違えても、未だ十全に人で在り続けられるという宣誓へ。
 招かれざる招待客たる僕等が、それでも誰かを求めていられる証を立てよう』【>>9

「……それで、その宣誓とやらは済んだのか?
 来店客たるお前が、飲食店に求められているコーヒー代を支払う準備は?」

オールバックの方がさっさと立ち上がってしまっているため、
折り畳んだ伝票は仕方なく瓦礫色をした幼女の口に押し込んだ。

「―――証は"精霊"と共にある。わかったらレジカウンターに漕ぎ出しやがれ」



……

『よし”見つけた”ぜ。ゴルァ!!』【>>10

「上等だ―――おい和泉!」

ほどなくしてブロッコリープラチナムが隕石娘を感知したらしい。
火急極まる現状にあっては、黙してこの場をフェイドアウトするべきだが、
業界内でも屈指の模範的給仕である俺は、同僚への業務連絡を欠かさなかった。

「俺は今から街に出る。後を頼んだぜ」

「……勤務時間中にどこへ行くんですか」

「那葉にはフライヤーを撒きに行ったって伝えといてくれ」

「……でしたら、フライヤーを持っていくべきでは?」

「どうせ撒き終わった後は手ぶらで帰って来るんだ。
 だったら最初から手ぶらで向かっても問題無い筈だ」

「……どうせ帰ってくるという結果なんですよね?
 それなら最初から向かわなくても問題無いのでは」

「―――いや。其処に向かうコトに意味があるのさ。
 なにしろ、大食いの上客を捕まえに行くんだからな」

35 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 00:57:11 0

『丈乃助、破壊完了なり。次の指示を頼むなりよ。』

「……こいつも喋るのか」

『用意周到って連中も、徹底的に痕跡を消すなんて事はできねーみたいッスね。
 このパイプの案内で、居場所が分かる筈ッスよ。』

「なるほど、ロッド・ダウジングって訳だ。
 アクセロリクセスとやらもそうだが、
 人型の"能力"は多芸らしいな」

ラウンジ通りを横切って側道を進むと、知らない公園にぶつかった。
広めの敷地の奥には手入れの行き届いていない芝生が伸びている様だが、
並んだベンチとドーム状の遊具らしきモノに遮られいるせいで奥が良く見えない。

『…何飲むべ』【>>4

自動販売機が缶を吐き出す音が直ぐ近くで響いて、初めて他の通行人の存在を意識した。
今の自分が"休日に鉄パイプを追いかける会"の構成員であるコトを再確認して青空を仰ぐ。

「……隕石娘までの距離は分かるのか、クレイジーボーイ?
 このまま徒歩で移動を続けるなら公園を突っ切るのが最短距離だが、
 行先が遠いってんなら目抜き通りに出て車を拾った方が早い―――どうする?」


【丈乃助/タチバナ選択】
ニア
  1.―――公園を通り抜ける。
  2.―――目抜き通りに出る。

36 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/03/16(火) 14:46:50 0
 "休日に鉄パイプを追いかける会"が結成されていることなど露知らず、ミーティオは唸りを上げていた。

「ぬぐううぅぅうぅう……ぐぅ」

 唯一の出入り口である鋼鉄製の無骨なドアの取っ手を掴み、壁に足を当て、思いっきり引っ張る。
 当然の如く扉はビクともしない。いい加減に疲れ、脱力し、ぺたりと床に座り込んだ。

「だから、無理だと言ったじゃない。そのドアに鍵は無いし、そもそも開かないんだから」

 革製のソファに腰掛けてテレビを見ている遥が言う。その姿はまるで深窓の美姫のようであった。
 ありとあらゆる脱出手段を試みたが、その全てが無駄に終わり、そろそろミーティオにも焦燥感が生じ始めていた。
 放浪者であった彼女は、狭いところに長時間閉じ込められるという経験をしたことがない。

「開かねえっつーのはどういう意味だ。開かなきゃあたし達も入れないだろが」

「よく見なよ。そのドア、壁と一体化しているでしょう。半液体金属、デモグラストポリマー製なんだ。
 高い電圧をかけた条件下でのみ液体となる特殊な金属――普段は一枚の壁だよ。開いたりしない。
 荒海の『崩塔撫雷』みたいに、持ち運びできる強力な電源があれば開けられるんだけどね」

「しち面倒くせえ……壁や窓は何故だか壊れねえし」

「文明の力は偉大だね。まあその扉は内装だから、戦車砲でも持ってくれば壊せるよ」

 不機嫌な表情でミーティオはリビングに戻り、遥の隣に座った。出来うる限り身体距離をとって、であるが。
 脱出が困難である以上――目の前にいる人物から情報を聞き出すのが最善の策。次善の策は諦めることだ。
 と、そこで彼女は自分が空腹であることに気付いた。

「…………腹減った」

「あそこの冷蔵庫に何か入ってるよ。僕はいちど目覚めたときに食べたから、好きにするといい」

 テレビから視線を外さないままに、部屋の片隅に鎮座する冷蔵庫を指差す遥。
 言われた通りにそこまで這っていき、大きな扉を開けると、それはさながら食料品店の陳列棚のようだった。
 肉や魚、加工品、菓子類、ドリンク類、ありとあらゆる食料が詰め込まれていた。他の扉には野菜や氷菓子もあった。

「すっげえ。こりゃほんの少し希望が湧いてきたな……!」

 燃費の悪い身体を抱える彼女にとって、喰える喰えないはまさに生命線である。
 そういう意味では、この状況はそれほど悪くないと言えないこともなかった。
 難を言えば、『地下世界』にあったような見慣れた食材がほとんど入っていないことくらいだった。


37 名前:ミーティオ=メフィスト ◆BR8k8yVhqg [sage] 投稿日:2010/03/16(火) 14:47:35 0
 目に付いたものを片っ端から口に放り込み、ようやく腹が収まったので、ミーティオは窓から外を眺めた。
 凄まじく高い。遥か下のほうに、道行く人や車がまるで玩具のように小さく見える。
 彼女が元いた街では、これほどの高さに達する前に天井にぶつかってしまったことだろう。
 しかし、この街では、驚くべく高いこの部屋にいても、まだ上のほうに蒼い模様の天井があるのだ。

「なぁ、ハルカ。この街の天井は、ありゃ何メートル上にあるんだ?」

 振り返り訊くと、遥の怪訝そうな目が見返してきた。

「天井? それは、何のことかな」

「あれだよ。あの青いもやもやした模様の……そういやあれ、どういう仕組みで動いてんだろな」

「…………? それは空でしょう。何メートルって、大気圏のこと? だとしたらちょっとわからないけれど」

「空? 『空』だ? はっは、何をアホなこと言ってんだ。この街が地上にあるとでも言いてーのか」

「えっ? ……君、ストレスでおかしくなったのかい。精神の薬は置いてないよ?」

「はっ?」

 いくら頭の悪い彼女でも、さすがにそろそろ気付き始めた。実はずっと頭の片隅にあった疑念。奇妙な可能性。
 すなわち、この場所が自分の生まれた世界と別であるという、途方も無く愚かな発想である。
 しかしいったんその発想に身をゆだねてしまえば、かなり多くのことに納得ができるのもまた事実なのだ。

「ちょっ……待て。待て待て。間違ってたら一生もんの恥だ。事は慎重を要する……。
 ハルカ、『地下世界』『フリューゲル』という言葉に心当たりはないか。あるよな?」

「ないよ」

「何でもないことのように言いやがって……うわ、マジか、どうしよ。能力がうまく使えねーのもそのせいか?
 そういや放射線の薄い場所では能力も薄まるとか、誰かが言ってたような気がすんな……どうしよ……」

「ねえ、僕にはさっぱり何を言っているのかわからないよ?」

 一瞬考え、ミーティオは素直に自分の状況を話すことにした。世の中は全てギブアンドテイク。
 何かを聞き出すためには、それ相応の何かを教えてやる必要があるだろう。

【状況:進展なし 時刻:朝〜午前】
【音声は荒海達に通じていないため、異世界についてバレず】

38 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/03/18(木) 22:26:55 0
「いやー、やっぱり本場の人は違うわねえ」

「それほどでもなイ、それよりヒサエさんこそ見事な功夫だとおもわず関心顔になル」

あっはっはっと、お互いの肩を叩きながら談笑する二人。
一人は時代がかったパオコートを着た身元不明の異邦人こと李飛峻。
もう一人は薄桃色のジャージを着た中年のオバチャン。
その周りではオバチャンと同年代の男女数名が妙にスッキリとした顔で流れる汗をタオルで拭っていた。

経緯は30分前。
公園にやって来た飛峻が健康のために太極拳の演舞を行っているグループを見つけ思わず飛び入りで参加した事に端を発している。
そこで伝統拳と呼ばれる太極拳の基本套路を表演した結果、おばちゃん達に大ウケしたという結末であった。

「それにしても良いモノ見せてもらったわよう」

そうだそうだ、と何かを思いついたかのようにオバチャンこと久枝さん(68歳)はベンチの上に置いた手提げをごそごそとあさり出し。

「お礼といっちゃなんだけどね、コレ貰ってちょうだい。
いやいや遠慮なんていいのよ、あたしゃもうオバチャンだからこういうのはちょっとねえ。
でもリーさんは若いんだからいけるでしょう?」

飛峻が口を挟む間をまるで与えず早口で言い終えると、何かチケットのようなものを手渡した。

「オバチャンも若い頃はこういうところにもちょくちょく行ったんだけどねえ、最近はめっきりお茶ばっかりでさ。
あ、そうそうお茶といえば四丁目の角のお店に良いのが置いてあって、あそこの店主がまた良い男でねえ―――」

なおも続くオバチャンこと久枝さん(68歳)の言葉を右から左にすっ飛ばし、渡されたものへと目を這わせる。
シックなデザインのチケットの中央に500円という文字、端の方には店名が描かれているものが5枚。
有名フランチャイズ喫茶店の金券である。

この世界にやって来て初めて手にした個人所得――金券だが――に飛峻が感動していると、公園の入り口に見知った顔を見つけた。
所在無さ気にキョロキョロと公園の中を見回している。
月崎邸を脱出する際ここで待っていることを告げておいた真雪であった。

「謝々、ヒサエさん。さっそく使わせて貰おウ。
それでは待ち合わせの相手が来たので、皆さんもいづれまタ」

飛峻はいまだ自分の世界から戻ってきていないオバチャンこと久枝さん(68歳)と、その仲間達に礼を告げると公園の入り口に向け駆け足。
背後から「久江さんの一人語りがまた始まったよ」だとか、「始まると長いからなあ……じゃあ今日はこれで解散で」などと言った声が聴こえてきたが敢えて聞かなかったことにした。

「スマナイ、待たせたナ」

後から来たのに待ちぼうけを喰らうという新手の罰ゲームのような状況に陥っていた真雪にひとまず謝罪。

「そうだマユキ、コーヒーは嫌いカ?」

そしてふふん、と得意気に先ほど貰った金券をちらつかせながら真雪に問いかけた。
後でそれが使える場所がわからず聞く羽目になるとも知らず。

39 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 03:21:12 0
ヴィッペルは出てけ

40 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 07:45:40 0
飲み物を持って公園へと歩を進める。
…そういえば、公園にいきなりあんな建物が出来たら住民の反応はどうなるのだろう。

「ん、まあ驚くのは確かだべな…」

ジャングルジムがいきなりあれだし。

「あと子供が遊ぶところが少なくなるねぇ」

そんなことを言って、建物の中へと入っていく。
久和がシエルに何かしてないといいんだけど。
刀でなんやかんやとか。

「さぁて、ただいま」

そんな考えも巡らせつつとりあえず二人に向けて呟く。
恐らく一人は聞いてないだろうが。
何となくその一人に目を向けると額に濡れたタオルが。

「…久和」

「シエルの看病しといてくれたんだべな、うん」

意外と優しいところもあるんだね。
…意外とってのは余計じゃないよね、多分。

「ご褒美にこれをあげよう」

そう言ってお茶を投げ渡す。
いや元からあげるつもりだったけど何となく、ね?

「この世界のお金、持ってたから」

どこでこれを、なんてつっこまれる前に相手に言う。
色々つっこまれるの嫌いだしね。

「んー…」

そうして軽く伸びをした。
さて、シエルが起きるまで何をしてようか。
…朝飯にパンでも買ってこようかい、なんてね。


41 名前:尾張証明 ◇Ui8SfUmIUc[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 11:11:30 0
「眠い!!ああ眠いっ!!涙が!!涙が出てきたっ!!化粧がっ落ちるっ!!」

眠いですよちくしょー!!

叫ぶ兎の口を塞ぐ。否応なしに集まる視線を無視してコーヒーのお代わりを注文する。
 さっきから兎はずっとこの調子だった。まだ正気だったときの言葉によれば、寝不足だと能力が暴走して混線
するらしい。どこからが自分の意識で、どこまでが他人の意識なのか定まらなくなるとのこと。端から見れば単
なる重度の不審者だ。
どんなに端から見ていたかったことか。

「あ、アイス食べたい」

(糞が、ゼアフォーの絡み酒よりタチが悪い)

大方左隣のテーブルの幼稚園児に脳味噌が繋がったのだろう、唐突にアイスをねだり始めた。
二日前まではバディだった(今でもそのはずだが)相棒の無表情を思い出して、心の中で悪態を吐く。と同時に、
自身に違う兆候も感じ取っていた。

(悪態か、俺も大分落ち着いたもんだな)

いい具合だった。元の世界で仕事をこなしていた時と近い感覚。昨日の今日では考えられない程の落ち着き。
兎に対する警戒心は最初から何も変わっていないが、少し、ほんの少し位ならこの小娘に感謝してもいいのかも
知れない。

「ははは、なんですかその思考。気持ち悪いから蒸発して下さい」

(ゴミクズが、耳にコーヒーを流し込んでやろうか)

他人の思考は読めないんじゃなかったのかと考えて、我を失っている状態ではその限りではないのかもしれない
と思った。確かに、正気に戻った時に今の記憶が残っているとは考えにくい。もし記憶が残るなら、少なくとも
俺ならとっくに自殺しているだろう。

おかわりのコーヒーを羽交い締めにした兎の口に流し込みながら、ビルの開店までに兎が元に戻るか思案した。


42 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/22(月) 15:01:55 0
「ははは、なんですかその思考。気持ち悪いから蒸発して下さい」
「ははは、なんですかその思考。気持ち悪いから蒸発して下さい」
「ははは、なんですかその思考。気持ち悪いから蒸発して下さい」
「ははは、なんですかその思考。気持ち悪いから蒸発して下さい」
「ははは、なんですかその思考。気持ち悪いから蒸発して下さい」

43 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/22(月) 15:16:35 0
あげ

44 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 16:55:02 0

「すぐ見付かると思ったんだけどなぁ」
公園に入った真雪は、大分前に着いた筈の飛峻を探していた。
すると、おばちゃんと話していたらしき飛峻がこちらに寄り、そして笑いながら謝る。
「スマナイ、待たせたナ」
「いや、今来たばっかだし大丈夫」
そう会話してから飛峻が取り出したのは、5枚のチケット。
「そうだマユキ、コーヒーは嫌いカ?」
500円の文字。
シックなデザイン。
端の方に書かれた店名。
それは、有名な喫茶店の500円分の金券だった。
「…嫌い、じゃあ無いけど…ぅゎぁ、あそこかぁ……」
真雪が躊躇っているのは、その店がある地区が理由だ。
その喫茶店の真雪が知る店舗は、一カ所しかない。
七板通りにあるその店舗は、かのBKビルの目の前である。
その付近は高級オフィス街で、一介の高校生が
おいそれと訪れない地区故に、真雪の顔はひきつるのだ。
「あー…うん、ダメって訳じゃなくてね…、飛峻さん落ち込まないで…」
真雪の微妙な顔に飛峻が分かりやすく落ち込む。
慌てて真雪がフォローを入れるが、やり方をいまいち間違えていた。
「だめって訳じゃないの、ただあくめd違う違うそうじゃなくてうんそうだ実際行ってみれば分かるんじゃないかな私達がどれくらいばcそうでもなくて…」


45 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/22(月) 16:56:30 0



真雪は先程のやりとりを思い返し、後悔していた。
(何で行く方向に話を進めちゃったのかしら)
小さな溜め息を吐いて、後ろを振り返る。飛峻は上機嫌で鼻歌を歌っていた。
真雪にたからずに飯にありつけるのが嬉しいのだろうか。
それとも、真雪に案内されるのが嬉しいのか。

その相変わらずの中華服を眺めてから、今度は自分の格好を見直す。
ノースリーブの白いブラウスに、柔らかい素材の褪せた赤のワンピース。
明るい茶色のベルトを締めてベージュのレースのカーティガンを羽織っている。
地味な色味だが、まぁ、一般的な格好だろう。
それでも、真雪は憂鬱だった。そもそも、七板通りの空気が苦手なのだ。



七板通り、某喫茶店。
真雪は二人分の朝食セットを運んでくれた飛峻に感謝しながら席についていた。
砂糖とミルクを入れてから口に含むと、声が聞こえた。
「眠い!!ああ眠いっ!!涙が!!涙が出てきたっ!!化粧がっ落ちるっ!!」
何だろうと真雪が振り向くと、スーツ姿の女性が何やら喚いていた。
そしてその前には。
「ぶっ…あ、痛っコーヒーが変なところにっ!」
少し吹き出したコーヒーを片付けながら、咳をする。真雪の頭が混乱していた。
(嘘…嘘っ! なんで尾張さんが居るの?)
目の前に居る飛峻が心配そうに訊ねる。
真雪には、大丈夫なんて嘘を吐くことができなかった。


【真雪は こんらんしている!】
【現在地:BKビルの前の喫茶店】

46 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/24(水) 01:40:36 0
ファービーきたぞファービー

モルスァ

47 名前:ゼルタ ◆8hdEtYmE/I [sage] 投稿日:2010/03/25(木) 00:35:12 0
「ここはどこだー?」

人通りのない裏路地を一人歩くセーラー服の少女、ゼルタ=ベルウッド。
後生大事そうに背負っていた大きな袋はどこに置いてきたのか持っておらず、代わりに学生鞄を左手で振りまわしている。

「ここ、さっきも通ったような……あれー?」

ゼルタは道に迷っていた。行き当たりばったりに歩み続けていたため、自分がどこを目指しているのかすら分からない。

「誰を斬っていいのかも分からないしなー……あたし騙された?」

竹内萌芽の声を信じ他の異世界人を斬ることにしたゼルタではあったが、よく考えれば彼女は何も知らない。
報酬を手に入れるために刃を向けるべき相手が分からないのだ。

「なんだっけ……戦える人と戦えない人がいて、戦える人は戦って……」

思考を端からだらだらと垂れ流しながら少女は歩く。右手で指折り数えながら、情報を整理する。

「いろんな人を呼んだのは多分本当で……昨日あったお兄さんとかお姉さんもそうなのかな? だとすると戦うのも本当かも。戦えない人がいるのは……どうだろう、嘘かな? 本当だとしてー、戦えない人が狙われなくなるから……あっ」

何かに思い当ったらしく、ゼルタは立ち止まる。目元はサングラスで見えないが、口元は何やら面白そうににやけている。

「戦えない人になって生き延びる気だー。ずるいぞー?」

戦えない人なんて、本当はいない。竹内萌芽も、実際は報酬を狙う一人にすぎない。
それがゼルタの導きだした答えだった。それが事実だとすれば、異世界人全てが敵となる。

「あとは呼ばれた人を見分けられればー……ってあれ?」

角を曲がったところで、裏路地の終わりが見えた。そしてその先にあるのは、見上げるほどの巨大な建造物。
ゼルタは小走りに路地を出て、その建物を見上げる。

「おー、立派なお城だね」

彼女が見上げるのはBKビル。高級な店舗を多数抱える雑居ビルという外装を纏った、指定暴力団『成龍組』の《城》である。
もっとも、彼女はそんなことを知る由もないのだが。

「……お宝の匂いがするよー。今度こそいいものあるよね?」

どうやらゼルタは、このビルに狙いを定めたようだ。

【偶然BKビル前に到着、しばらくビル周辺をうろうろ】

48 名前:尾張証明 ◇Ui8SfUmIUc[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:55:23 0
十時になった。が、兎は相変わらず狂ったままだった。思い切りこちらに寄りながら、不思議そうに尋ねてくる。

「何で尾張さんがこんな所にいるんですか!?」

(お前が連れてきたんだろうが)

最早誰と脳味噌が繋がっているのか訳がわからない。
ため息をつきながら計画を練り直す。と、言ってもヘリが来る時間は遅めに設定してあったし、兎の能力を考え
れば突破はそう難しい事ではない。ヘリが着くまでにヘリポートまで登ればほとんど成功したも同然の簡単な作
戦だ。むしろ着いた後で時間が余ることの方が恐ろしい。

(しばらくは時間を潰すか)

二時間もすればこいつも元に戻るだろう。考え、会計をするために立ち上がる。

ふと視線を感じて振り向くが、そこには特に気になる人物はいなかった。誰かがとっさに隠れた気がしたが気の
せいだろう。昨日のようにいちいち神経を尖らせる必要もない。
子連れの母親、必死にキーボードを叩く大学生、ボンヤリと無気力にDVDプレーヤーの画面を眺める女、中華風
の服を着た男……?

(サーカスでも近くでやってるのか?)

首を捻りながら、喋れない事の不便さを痛感しながら会計を済ませ、兎を引きずるようにしながら店を出た。

「ママ……切り刻むほど……愛ッしてるぞ〜!!」

(ブレインデット?)

兎を黙らせながら、あの女なんて物を昼間から見てやがると思いながら、今度こそ店を出た。


【尾張証明:店を出てふらふら、全く違う世界から着たはずなのに知ってる映画があるのは伏線です】
【兎:一生の不覚、異世界人を見逃す。ちなみにスプラッターは苦手です】


49 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/26(金) 00:44:52 0
ここで

ジェームズ・ブーン登場

50 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [] 投稿日:2010/03/26(金) 03:10:19 0


「………………は?」


テナード・シンプソンは、大抵の事では驚かない自信があった。


仕事のアクシデントで体をズタボロの肉切れにされた時も
怪しげな研究所に送り込まれて実験体にされた時も
「男のロマンだ」とかで機械鎧を装着させられた時も
猫の遺伝子を組み込まれてミュータントにされた時も
こっそり研究所から逃げ出して指名手配を食らった時も
こうして賞金稼ぎに追っかけられてる時も、


「ま、なんとかなるか」


程度にしか考えていなかった。
要はお気楽主義者だったのである。

しかし、だがしかしである。


考えてもみてほしい、もし追っ手から逃れようと道という道を走り、壁を乗り越え、


気付けばそこは知らぬ場所。


それどころではない、知らないだけならまだいいだろう。
明らかに文化水準がケタ違いだろうと予想される建造物の群。
見たこともない服装、見たこともないアクセサリーやオブジェ。


「Oh...ジーザス」


この日、初めて彼は見知らぬ世界に自分を放り込んだ神を呪った。





51 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [] 投稿日:2010/03/26(金) 03:11:07 0

名前:テナード
職業:元ボディーガード、現旅人
元の世界:現代より技術の発達した並行世界、南イタリア辺り
性別:男
年齢:38
身長:195
体重:91kg
性格:いざという時は慎重、ズボラ、ツッコミキャラ
外見:
モロに顔が猫
糸目両手両足がハガレンの機械鎧
強面
フード付きの黒いコートを着込んでいる
特殊能力:視力、跳躍力、回復力
備考:
普段はお面(ジェイソンのアレ)を被っている。
元は猫と人間のミュータント。
研究所から逃げ出し、各地を放浪としている。
共に旅をする仲間がいたが、現実世界に飛ばされた際にはぐれた。
刺し傷や骨折程度なら半日もあれば回復する。
腕に仕込みナイフやら拳銃やらしまいこんでる。


52 名前:前園 久和 ◆03GQRi1M1mLZ [sage] 投稿日:2010/03/26(金) 04:11:56 0
>「シエルの看病しといてくれたんだべな、うん」
>「ご褒美にこれをあげよう」

女の治療をしようかと悩んでいた時にいつの間にか帰ってきたおっさんに茶のペ
ットボトルを投げ渡された。
だからこれは気が向いただけだと小一時間。
…あれ、この茶はどこで手に入れたんだ。

>「この世界のお金、持ってたから」

ああ、やっぱりか。
納得して俺は伸びをするおっさんを横目に外へと向かい歩き出す。

「散歩いってくる」

不思議そうな顔してこっちみんなおっさん、何か知らんが疲れたんだよ。
茶飲みながら歩いたら息抜きにはなるだろ。

「安心しろ、戻ってくるから」

いや、ここ以外行くあてねーし。
うん、行くあてねーし、…泣いてねぇよ。

53 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage 酉間違えた] 投稿日:2010/03/26(金) 04:13:31 0
…。

公園を出たのはいいが、さてどこに行こう。
テキトーに迷わないようにフラフラ歩くか?

「うーん、テキトーに歩いてこそ散歩だろ」

俺はそこら辺に落ちてたゴミを蹴り…誰だよポイ捨てした奴三回氏んで反省した後生き返れ。
もといそこら辺に落ちてたゴミをゴミ箱に捨てながらフラフラとさ迷い始めた。

で、十分後くらい。
思うにこの十分ゴミ拾ったり茶飲んだりしかしてないな俺。
とりあえず人間に会わなかったのが幸いだっ…た…?

>「Oh...ジーザス」

え?猫?猫かあれ?
喋ってるし胴体人間っぽいんだが猫か?

「…おい」

とりあえず、話しかけてみる。
未知の生物との意思の疎通は果たせるのかという問題。
いや喋ってたしいけるだろうが。
もしくは俺のスター性でなんとかなる、きっと。

「茶飲むか?」

いやなんでその問いを選んだよ、俺。
あとこれ飲みかけだろうが。

【前園久和:テナード・シンプソンに接触】

54 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 09:38:41 0
どのへんがブーンなん>?これ

55 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/03/26(金) 16:12:11 0


どういう事だ?
俺はイタリアに居て、賞金稼ぎに追われていて、あれ、あれ、あれ?

頭を抱えたくなるとは正にこの事。
同時に襲いかかってきた頭痛に、思わずしゃがみこむ。

「(あー、そういやお面忘れてきちまってたな)」

自分がスッピン(?)なのをうっかり忘れていた。
記憶を遡り、追っ手から逃げている途中に落とした事を思い出した。
幸いにも人はいなかったので、この顔を見られる事はないだろう。


「…おい」


\(^o^)/


終わった。早速見つかってしまった。
捕まったら見世物小屋逝きかバラ売りか――……ってそうではなく。

「(同業者か?)」

対峙した男を見て、瞬時にそんな考えが浮かぶ。
病的に白い肌、体に生えた五本の手。
間違いなく、テナードが今まで見てきた異形―フリークス―そのもの。

「(だが解せん)」

男は気配も、臭いすらもさせずに近寄ってきた。
相手が“只の人間”ならば、テナードの嗅覚がそれを見逃す筈はない。
見た目が既に人外の域に達している時点で、只の人間でないことは確かだが。


56 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/03/26(金) 16:13:24 0


男が一歩踏み出す。テナードは後ずさる。
一歩踏み出し、一歩後ずさる。
それが何回か繰り返され、テナードの動きが止まる。背後が壁だからだ。
万事休すか。

五本の腕の内の一つが、テナードに向けられ――……。

「茶飲むか?」

緑色の液体が詰まった、透明な細長い容器を渡された。

「…………へ?」

本日二度目の間抜け声。
もしかしたら危険な物かもしれないというのに、テナードはあっさりそれを受け取った。
テナードは訳が分からず、容器と男を交互に見る。

「えっと……言葉、通じてる?ドゥーユーアンダスタン?」

「……あ、ああ」

    イングリッシュ
何故そこで英語?


「良かったー!アンタ、顔がモロ猫だからさ、言葉が通じるか不安で不安で」

「(…………腕が五本も生えたやつに言われても、なぁ)」

見た目や第一印象とは引き換えに、意外とフランクな男の態度に拍子抜けするテナード。
小さく溜息を吐き、改めて液体の入った容器を見る。

「大丈夫、毒は入ってないからさ」

にこりと笑いかける男。
信用してもいいのだろうか。
俺は半信半疑のまま、容器の蓋を開け、それを飲んだ。



余談だが、俺が瞬時に吐き出したあの飲み物、緑茶といったか。
アレにカフェインが入っていたことを知るのは、だいぶ後の話である。


【テナード・シンプソン:前園久和に接触】



57 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/03/26(金) 16:43:30 0
軍人の朝は早い――――
3時間ほど経った頃、目がパッチリと冴え起き始める。
仮眠を終え、まずは自身の使う得物の掃除・確認をする。
コルトガバメント二挺、襲ってきた黒服の連中からイングラムM10、コルトパイソン
そしてイサカM37を取り出し、正常に動作するか動作確認をした上で弾数を確認する。
イングラムのカートリッジは3本にコルトパイソンの弾数は12発、イサカM37は30発程であった。
似たような銃器は帝国軍にもあったので、掃除の方法も分かり各々の掃除を始める。

それから30分後、少し手間取ったがなんとか終え
誰かがかけてくれたと思われる毛布の片付けに入り下に下りる直前、

>「こらァ!!男ども!!お・き・な・さ・い・よ・ォ!!!!!」

聞いた事がある声が下から大きな声で聞こえてくる。
そうだ…この英霊の反応は彼女だどうやら例の公安から逃げる事に成功したらしい。

「大声なぞ出さなくても私はもう起きている…彼女を抱えているようだがどうしたんだ!?」

下に下りていくとku-01殿が例の彼女にとても重そうに背負われていた。
とてもその状況が見てられなかったので、急いでku-01殿を持ち上げて空いている座席に座らせる
常人にはとてつもない重さだったが自分にとってはそこそこ重いという感じだった。
彼女から話を聞くにどうやら突然止まってしまったようだった。
とりあえず今はなんとも出来ないので放置という形の方がいいと自分の意見を述べた。





58 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 22:53:22 0
>>54
避難所に書いてあるが各キャラのモチーフになっている。
追加の質問等は避難所でお願いね

59 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/03/27(土) 01:06:03 0
茶を受け取った猫に二つの言語で問う。

「えっと……言葉、通じてる?ドゥーユーアンダスタン?」

ジーザスやらなんやら言ってたからな。
あとアニトク語は世界の共通語だし。
…こっちじゃ何語って言うんだろうか。

>「……あ、ああ」

「良かったー!アンタ、顔がモロ猫だからさ、言葉が通じるか不安で不安で」

なるべくフランクに怖がらせないように。
…いや、嬉しいのがそのまま口調に出たって方が正しいか。
何にしても俺のキャラじゃない口調だが。
そこまで考えて小さく溜息を吐き、訝しげにペットボトルを見る猫に。

「大丈夫、毒は入ってないからさ」

うん、入ってない。
少なくとも人間に毒になるものは。
猫は知らんが。
信じてくれたのか蓋を開けて飲んだ猫は、…すぐに茶を吐き出した。

「え」

どうしてこうなった。

「猫だろ、猫に何与えちゃいけないんだ」

ペットボトルをふんだくり成分を見る。
えー…。

「カフェイン…」

ああ思い出した。
カフェインは猫には駄目なんだったか。

「てへっとか言ったら許してくれるか?」

というか許せ。
許さないと斬るぞ、ペットボトルを。

60 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/03/27(土) 03:40:57 0
何故か私の横を通り抜け、外へ出ようとする久和を少しじっと見る。

「散歩いってくる」

散歩、ね。
戻ってこなかった場合を考えるが久和に遮られる。

「安心しろ、戻ってくるから」

なら良かった。
一人でシエルの看病は結構辛いからね。

「いってらっしゃい」

歩き出した久和に声をかけるが多分聞いてないね、あれ。
ゴミ拾ってるし、…やっぱりツンデレなんだ。

「さて、私は何をしよう」

まずシエルのタオルをかえて、かえて、どうしよう。
シエルを一人にするのは駄目だよね、うん。

でもまあ、公園に居る事くらいならいいよね。

「という訳でちょっと外行ってくるね、シエル」

61 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/03/27(土) 03:41:39 0
で、外へ出た訳です。
誰に言ってるんだろうね、知らない。

「ん…?」

と、そこで視界の端に小さな人影が見えた。
今日は多分平日だろう?
平日に公園に来るのなんてリストラされた世のお父さんくらいだろうに。

「君…」

その、世のお父さんも真っ青な人影に話しかける。
見ればその子は小学生だったようだ、黒いランドセル背負ってるし。
少し泣きべそをかいていベンチに座っているこの子の隣に座り、

「ボイコットはいけないよ、うん」

と話しかける。
いや勿論ボイコットじゃない事は知ってるけど。
そもそもボイコットは集団でやるものだし。

「…」

「おーい」

「放っといてよ」

いや私は放っといてもいいけど。

「君は話を聞いて欲しいんじゃないのかい?」

そういう顔してるよ、まあ、私には分からないけどね。

62 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/03/27(土) 03:43:51 0
「…聞いて欲しくなんかない」

へえ。
嘘吐きだね、なんとなく私に似てる。

「じゃあ何で泣いてるかおっちゃんが当ててあげようか」

「…」

私はぽじてぃぶだから無言は肯定と受け取るよ。
放っといてって言ったみたいに嫌なら嫌って言うだろうしね。

「いじめられたんだろう、理由は貧相だとかなんとか」

「…なんで」

なんでって、ねえ?

「小さい頃の私と似てるからねえ、分かるよ」

似てる、いじめられてるところも、顔までそっくりだよ。
違う世界で違う人間なのにね。
もしかしたらパラレルワールドの私かもしれないけどさ。

「似てるの?」

「うん、でもこんな大人になっちゃ駄目だよ、人生損するから」

いじめられたままひきこもって、結局エロゲのシナリオ書くはめになるからね。
どうみても負け組です、本当にありがとうございました。

「…」

「逆に言えばこんな大人でも頑張ってるんだから、君も頑張れってことだけど」

生きてればいい事の一つや二つあるしね。
魔法や剣を間近でみれたり、ああこれ多分もう無いだろうけど。

63 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/03/27(土) 03:44:57 0
「でも…」

でもも何も無いの。
あーもうじれったいな。

「…仕方ないからおっちゃんが君に魔法をかけてあげよう」

「魔法なんてないよ」

男の、いや私のロマンを否定するか、ちくしょう魔法はあるんだよ。
私も使えたし、…分かってるよ、魔法書のおかげなのはさ。

「じゃあここに氷の像を作ってあげようじゃないか」

そうベンチの真ん中を指差す。

「…」

すると男の子が疑った目で私を見た。
仕方ないから集中して、魔法書を握る。
多分これでもいけるよね、もう使い方は分かってるし。

64 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/03/27(土) 03:45:50 0
「……」

集中して少し待つと、鳥のように両腕を広げたにこやかな顔のキャラクターを模った氷が出来る。
出来たね、出来なかったらどうしようかとなんて考えながら集中を解いた。

「え、これ、ほんとに…!」

驚いたように氷と私を見比べる男の子に、私は少し笑いながらこう言った。

「ね、魔法はあるだろう?」

と。

「うん」

「だから私が、君にいじめっこに負けない魔法をかけてあげよう」

勿論私はそんな魔法知らない。
だから男の子の頭をポンポンと叩いて

「これでもう君は負けない」

魔法というかおまじないだけど、男の子は信じたようだ。
そのままお礼を言う男の子を立たせ公園の外へと送り出す。

「さ、いってらっしゃい」

そしてさようなら。
間違っても私みたいにならないようにね。

65 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 01:01:59 0







『対応ナノマシンの生成を終了しました。
エラーチェック開始。エラーチェック終了。
再起動を行います,,, ,,, ,,, ,,, ,,, ,,, ,,, ,,, ,,, ,,, ,,,。』






.

66 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 01:02:58 0



「再起動に成功しました」


 モノアイに光が点り、ku-01は可視領域を広げる。


「お早う御座います、お二方」


 複雑そうな表情でこちらを覗き込んでいた二人に簡単な挨拶を告げ、体勢を立て直した。
 腹部で正常にエネルギー変換が行われているのを確認し、自分がスリープしていた時間を計算する。
 そう長くかかった訳では無いらしい。

 処理能力が落ちていない事に安堵を覚えていると、呆れと怒りをない交ぜにしたお怒りの言葉が降りかかった。
 強制だったとは言え、スリープに入った場所やタイミングが悪かったらしい。主人はどうやら迷惑を被ったのだろうと、その言葉を保存しながらku-01は考える。


「すみませんでした。以後、無いよう留意致します」


 腰関節部分を折り曲げ、結い上げた髪が流れ落ちるほどの角度まで頭を下げる。
 よく上司が更に上部の人間に行っていた行動をそのままに繰り返したそれを彼女らがどう取ったのか、ku-01には分からない。





67 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 01:04:25 0



13 :便利な名無しさん:   23:14:48 0
昨日何か街で物凄い武装集団見ちゃったんだけど、あれって何なの
なんか街中でとんでもない銃とか持っちゃってたんだけど
テロってこええな

14 :便利な名無しさん:   23:25:31 0
>>13
お前は俺の近所に住んでるのか?
俺も見たよそれ。何か一人踏まれてる奴居たけど

あれテロなのかよ、MP-5とか持ってたんだけど!
テロやっべぇ、こええええ

15 :ゴールデンボール◆kiNboLl22..:   23:26:03 0
>>13それnova
最近よく見かけるじゃん ニュース見ろよひきこもり
ジョーシキだろ

16 :便利な名無しさん:   23:30:00 0
うっわきんたま来たよ
はいはい裏社会裏社会
中学生は寝ようねー


『NOVA』という単語を検索すると、巨大な掲示板郡のうちの一つのやり取りがAIに引っかかった。
 ku-01はジャンクとしてそれを領域の端へ追いやり、検索を続ける。

 暫くかりかりと処理を進めると、防壁プログラムが何重にも貼られた先に、その字列を発見した。


警視庁公安部文明課『NOVA』第三小隊隊員名簿

独立文明回収班 

 佐伯 零


 確かにそれは、登録された主人の名前だ。
 例の「非常に個性的な」服に着替え、ku-01が暖めなおした朝食をぺろりと平らげた主人が真っ先に口にしたのは、「自分は『NOVA』に所属することになった」という旨だった。
『NOVA』とは何か、問う前にku-01はインターネット通信を起動、検索を開始した。
 どうやら、文明によって発生した事件等に対して銃火器などで対応する、警視庁公安部文明課――公文と略すのだろう――の部隊の一つらしい。


「……深層部へのダイヴを開始します」


 将来的に、その組織が主人に害成すものとなるかも知れないことも、シークエンスとして存在している。
 出来る限りの情報を握っておいて損は無いだろう。
 強制スリープから目覚めたばかりの自動メンテナンスの片手間に情報収集を開始する。



68 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 01:06:03 0
 が、




『通信が強制終了されました』




「……?」


 ぷつり、と回線の途切れる音。
 直ぐに復旧するが、それまでには無かった異様なレベルの防壁に、何度繰り返そうとも弾かれてしまう。
 ボディを動かしている分のメモリまでを動員すれば話は変わってくるかもしれないが、またスリープ状態に入る訳にも行かない。

 黙りこくったku-01を見つめる数人分の視線を認識しながらも、なおダイヴを試みる。




『通信が強制終了されました』



「……」


 三十八回目のその警告メッセージを受けた後、回線を自ら静めて僅かに読み取れたデータを解析する。
 何のことは無い指令書だ。主人の名前が読み取れたため反射的に掠め取ったが、そう重要では無いとされるそれを見、ku-01は少し落胆する。
 どの道二十五秒後には知らされることのようだが、早めに伝えても困るものではないだろう。



「マスター、今から二十四秒後に指令が入ります」

「内容は『七板通り、BKビル内の不法文明所持者の一斉検挙』
前もって地図検索など、行いましょうか」



 そう告げ終えて暫くもしないうちに、主人の持っていた電子端末から軽やかなメロディが流れ出す。



69 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/28(日) 20:02:29 0
 将来的に、その組織が主人に害成すものとなるかも知れないことも、シークエンスとして存在している。
 出来る限りの情報を握っておいて損は無いだろう。
 強制スリープから目覚めたばかりの自動メンテナンスの片手間に情報収集を開始する。




68 :ku-01 ◆x1itISCTJc :2010/03/28(日) 01:06:03 0
 が、




『通信が強制終了されました』





70 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:43:26 0
「で?」

警視庁には様々な部署が存在している。
刑事局、交通局、生活安全局、情報通信局……一つ一つ上げていってはキリが無いくらいだ。
そして、その中には潜入や、諜報、張り込みを担当する部署もある。

「何で!脈絡もなく!チャイナドレス!なのよ!!このッ、こゥのッ!!」

「ギブッ……ギブですっ!!」

その中の一つ。潜入捜査課の控え室でそれはおこっていた。
警察官達の唖然とする視線が注がれるその先には腕ひしぎ十の字固めを繰り出す零の姿。
事の発端は一時間前の事だった。
ゼロワンが再起動し、バーボンハウスに集まっていた全員の相互による情報交換が終わり仮眠をとろうかと思った矢先のこと……
突然鳴り出した携帯電話。零はそれに出てしまったのだった。

『あ、警察の……』

「あぁ、NOVAの方ですか?私眠いんで……」

『待って〜!?待って下さい!新しい仕事なんです!!』

「昨日寝てなくて肌荒れが凄まじいんですけど〜」

『え?二十歳にも達して無い小娘が肌荒れとかほざくな?無理です!?言えるわけ……』

「いや、聞こえてますけど?」

『あばばばばばばbbbbbbbbbb!?!????』

71 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:45:11 0
そんなやり取りの後に、仕方なく欠伸を噛み殺して迎えの車に乗った零達。
そこで彼らを待っていたのは奇抜な服の数々だった。


「我慢してください。これも潜入任務のためです」

そう涼しい顔で告げる都村。ちなみに彼女は普段着のスーツ姿である。
潜入任務。今回の彼女「たち」の服装はそのためだった。

「そもそも、潜入任務って言ってもどうすればいいのかも聞いてないんだけど?」

「そうでしたね。急な話で説明をするのを忘れていました……」

そう言うと自分一人だけまとも、かつ自分の希望した服装の都村はのうのうと説明を始めた。

「実は二週間ほど前から『成龍組』という指定暴力団が何らかの怪しい動きを見せていたのですが
 先日、遂にその実態をつかみまして……そのために貴女の力、いえ、貴女方の力をお借りしたいのです」

そう言うと都村は関節技を決めている零やその同行者にそれぞれ資料を渡していく。
その一ページ目にはこう書かれていた「Z会設立」と。

「今日、その『成龍組』がBKビルディングにてある発表をおこなうためにその関係者を集めるのです」

「で……そこに潜入。ってことね?それなら貴女がコレを着れば良いじゃない……」

「嫌ですよ。それじゃあ貴女を呼ぶ意味がありません」

72 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:48:42 0
「呼ぶ意味?」

そこで踏まれ、殴られ、ついでに今しがた関節技を決められた警察官がようやく解放され声を挟む。
「いてて」とぼやいているあたりかなり極まった状態だったのだろう。

「はい。今回の作戦は二手に分かれて行います。まず、正面から突入する班。
 こちらは通常部隊で構成して「僕」が指揮を執ります」

「だから心配なのですが……
 そしてもう一つは最初から中にいて突入を支援する部隊。つまり私たちです」

そう言うと都村は彼を小突いて横に退けさせる。
そしてそのまま、都村はテーブルから椅子を引き出して彼を座らせる。

「なるほど……そこで戦闘力高いものは出来るだけ目立つ服装で暴れまわることで敵を引きつけろってことね」

そこまで言ってから零は気がついた。

「ってつまり、囮って事?」

「そうそう!!警部補一人だと危険すぎるから佐伯さん達の出番なんですよ!!」

そう言うと彼は再び立ち上がる。そしてそれを座らせる都村。

「警部補はこう見えて暴走しがちだからお願いしますね!!」

そう言うと彼は立ち上がり、そして又、座らせられる。

73 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:52:33 0
「何やってんのよ……」

呆れ顔の零。その最中にも二人は意気の合った夫婦漫才を繰り広げている。
慣れた物で周囲の同僚たちは何も無いかのように振る舞っているのがシュールリズムを醸している。
その様に耐えられなくなった零は無理やり二人の間に割って入ると二人の口に指を当てる。

「まぁ、良いわ。ただし条件を一つ上げていいかしら?」

「「なん(何)ですか?」」

その返事を待っていた。という顔で零は条件を述べる。

「その時にした買い物を経費で落として貰えるかしら?」

その返事を聞いた時、零は内心でほくそ笑んでいた。

【BKビルに潜入。バーボン組の中で潜入任務に参加したい方はどうぞ〜】

74 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/29(月) 03:30:16 0
だお

75 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 03:48:21 0
>>74
だおじゃねーよ蛆虫
氏ねカス

76 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/29(月) 03:52:54 0
だお だお だお だお だお だお だお だお だお だお だお だお だお

77 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 09:43:55 0

俺はひとしきり吐いた後、恨みがましく奇形男を睨みつけてやる。
何がてへっだ。ミンチにするぞこの色白野郎。

あークソ、朝から災難続きだったが、まさかここまでとは。
昼に食べたベーコンやらエッグやら色々吐きだしてしまった。
喉痛い。

「(決めた、あの緑色は絶対飲まん)」

つーかさっきカフェインとか言ってなかったか。
殺す気か、お前。


「(………………!)」


そんなやり取りをしていた刹那、俺達の周囲に殺気が張りつめる。
2、5、9、11…15は居るか。
どこに隠れていたのだろうか。
ワラワラと騒がしく現れたのは、鶏のトサカを尖らせたような、シュミの悪い髪型をした皮ジャンの男の集団だった。


「オイ見ろよ!『文明』ってのァ人間を化物にまで変えちまうみてーだなァ!ええ?」


一歩前に踏み出した一人の男――…一際髪型の尖った男だ――が、俺と色白男を交互に指差し、下品な声で嗤う。
それにつられるように、後ろに控えていた男達もゲラゲラと嗤う。
下品な嗤い声が、まるで蛙の合唱のように、ゲラゲラ、ゲラゲラ。


何だ、コイツ等。いやそれよりも、『ブンメイ』って何だ?


男達の哄笑が響き渡る。
俺は縋るように、色白男を一瞥した。
色白男が、どんな表情(かお)をしているのかは分からない。
だが、刀を持つ手から、微かに殺気が垣間見えた。


俺は、ここがどんな世界か知らない。
この色白男が何者かも知らないし、この集団の目的も知らないし、『ブンメイ』とやらが何かすらも知らない。


だが、俺が今すべき行動は、分かっているつもりだ。



「ま、なんとかなるさ」。そうだろう?俺。






78 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 10:34:56 0
おとうさんもおかあさんもぼくのことをまもってくれた。
なのにおとなはみんなおとうさんたちをいじめるんだ。

ああ、だから人間は嫌いなんだよ。

「おとうさん」

「なんだい、久和」

俺はいつもの様に父に話しかけ、いつもの様に父は返事をしてくれた。

「どうして、きずだらけなの?」

「ちょっと仕事でミスしちゃってね」

俺の問いに父はそう嘘を吐く。
子供に嘘はすぐ見抜かれるのに。

「おじさんにやられたんじゃないの?」

「久和…」

「ぼくのせいでしょう?」

「違う」

「ぼくがいけないんだよね」

「違う、久和、もうやめるんだ」

首を横に振って言う父に反抗して、言うのを俺はやめなかった。
思った事を口にしたがるのは子供の悪い所だ。

「ぼくはうまれなきゃよかったのにね」

「久和のせいじゃないんだ…!」

父はそう言って静かに泣いた。
そうして俺はこの話をする事は無くなったんだ。
父を泣かせたくないから、父を悲しませたくないから。

79 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 10:37:03 0
父を傷付けた大人達を殺せば良かったなんて、そこで気付かなかった俺が悪い。

気付いたのは両親が死んでから。
いいや、両親が(認めたく無いが)親戚の人間共に殺されてから。
あいつらは両親を呼び出して、撲殺したんだ。
奇形を産んだとか一族の恥晒しとか色々罵りながらな。

「殺す」

そう決めて、俺はあいつらを殺してやった。
来たくも無かっただろう両親の葬式に集まった親戚全員を殺した。
両親の遺影の前で、斬ってやった。
母は、父は喜んでくれただろうか。
…喜んでくれた筈だ。

「これでもう悲しくないね、お父さん」


「オイ見ろよ!『文明』ってのァ人間を化物にまで変えちまうみてーだなァ!ええ?」

これだから人間は嫌いなんだ。

80 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 10:38:05 0
味の悪い格好をした頭の悪そうな人間が十五人程姿を現す。
頭の悪そうな笑い方しやがって人を指差すなと習わなかったのか、ああ、ムカつく。
それに『文明』ってなんだよ、死ね。

「…」

猫の表情は分からないが、というか分かってたまるか。
見てろ細切れにして犬の餌にしてやる。

「さァ『文明』を渡せよ化物!」

「煩い、死ね」

「ああ!?舐め」

俺は喋っていた人間の顔を横から真っ二つに斬ってやる。
煩いんだよ、人間が。

「人間は斬る、それだけだ」

白い刀が黒く染まる。
綺麗な白が勿体無い、白い血ってのは無いもんかね。
そんな事を考えながら胴体も真っ二つにしてやった。

「きったねえ」

ああ、スーツが血で汚れた。

81 名前:竹内 萌芽(1/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 15:59:56 0

名前も知らない青年の背中で揺られながら、萌芽はぼーっと考えていた。

(まさか本当におんぶしてくれるとは思いませんでしたねえ……)

この人も律儀だなあと頭の隅で思いながら、萌芽は自分を背負っているこの人に先程言われたことを思い出す。

『……俺の分をくれてやる。ゆっくり味わえ。
 煙草が目に沁みるってんなら、外で吸ってくるぜ』

『……ついてくる分には構わない。好きにしろ。
 だが、自分が一応病みあがりだって事は忘れるな』

体に伝わるのは、背負われていることにより触れている彼の温かさ。
それはきっと、体温的なものだけではなくて……

ふと目線を移動させると隣を歩く、ウエイトレスだったりシスターだったり忙しい女の子の姿。
さきほど触れた、彼女の小さな手の感触がまだ頭に残っている。

人の温かさというのは決してつまらないものではないけれど

(別に、大して面白いものでもないんですよね……)

胸のあたりになんだか温かいものがある気がして、それがくすぐったかった彼はそんなことを考えながらため息を吐いた。


82 名前:竹内 萌芽(2/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 16:01:03 0

面白くもないくせに別に嫌でもないこの”温かさ”はなんなのか。
正体不明のそれの存在は、よくわからないがなんだかとても気持ちが悪い。

そう思った彼は気を紛らわせるために、ポケットの中から先程のカードを取り出してみる。
カードに描かれているのは、赤くてちっこいぬいぐるみの絵。

「……え?」

そう、そこに描かれているのは先ほど見た”五本の手を持った男とも女ともつかない人の絵”ではなく
虹色の道化師のような衣装のしたに、赤くてもこもことした体を包んだまるでぬいぐるみのような……

「アヒャ!! 誰がぬいぐるみだこのヤロー!!」

……喋った。
っていうか動いた。

なんだこれ

突然の事態に萌芽が呆然としていると、ふいにあたりの風景が変わる。


83 名前:竹内 萌芽(3/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 16:02:09 0

そこはなんだか、自分と”あやふや”にした世界のイメージに似ていた。
何もかもがごちゃまぜで、そのくせ表向きは理路整然と秩序を保っている、まるでそこはそんな世界の縮図のような……
簡単に言えば様々な色が混じりあって、もはや黒にしか見えない。それはそんな風景だった。

「アッヒャッヒャッヒャ!! ようこそ”アタシの世界”へ」

その黒でない黒の中をぴょんぴょんと飛び回るのは、真っ赤な道化師のぬいぐるみ。

「だーかぁーらぁー、アタシはぬいぐるみじゃないッ!!」

ぴょんと目の前に降り立った彼女(たぶん女の子…メス?)は、萌芽のほうを見上げながら頬を膨らませる。

「アタシは、存在自体が<<予測不能>>。絶対無敵の<<ストレンジベント>>!」

ストレンジベントと名乗った小さな道化師は、なんだか狂った笑顔が張り付いたような
それでいてどこか愛嬌のある顔をこちらに向け、笑う。

「改めてようこそ『適合者』。はっきり言って待ちくたびれたよ」

「アヒャヒャ」となんだか特徴的な声で笑う彼女は、
そう言っていやに紳士的な動作で、萌芽に向かって礼をして見せた。


84 名前:竹内 萌芽(4/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 16:03:33 0

なんだか状況のわかっていない萌芽に、小さな道化師はひとつため息を吐いて説明を始める。
小さな道化師の言うことには、この世界には『文明』という妙なものが存在し、彼女もそれのうちの一つなのだとか。

「なるほど、『文明』……ですか」

これはとても面白いと萌芽は思った。
人に『適合』し、得意な能力をはっきする”面白アイテム”。
難しいことを理解する気のまったくない彼の認識はそんなところだったが、それにしたってこの世界にまたひとつ面白い要素が増えたことに変わりはない。

「言っとくけどね、アタシは『文明』っつってもただの『文明』じゃないのさ」

なんだか得意げに笑いながら、彼女は胸を張って話し始める。

「この世界の『文明』って呼ばれてるやつらの殆んどは、最近起きた”ちょっとした事件”で
 偶然この世のものに宿った……アタシから言わせりゃそれは『文明』の一反をまぜこぜにしただけの
 ただの”まがい物”さ」

どこから出したのか、湯気の立つ日本茶を啜りながら彼女はそう言って一息つく。

「じゃあきみはなんだって言うんです?」

訊ねる萌芽に、彼女は日本茶の湯飲みをぽいと捨てながらにやりと微笑む。

「アタシは”特別製”。分かるかい? アタシは人の目的を遂行するために人為的に作られたものなのさ」


85 名前:竹内 萌芽(5/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 16:04:55 0

「昔、”如何なモノにも犯されない”そんな存在を創ろうとしたヤツがいた。
 この世界の人間が”文明”と呼ぶ物の、”材料”を使ってね」

「それって……」

なんだか聞き覚えのあるフレーズに萌芽が反応する。

「そう、あの考古学者のおっちゃんは『イデア』とか呼んでたっけ? 近い概念だと思うよ。
 まああのおっさんも、アタシのことは『妙な文明』程度にしか思ってなかったみたいだけど」

「じゃあきみが『イデア』なんですか?」

目を輝かせる萌芽に、彼女は「まあそうあわてなさんなって」と続ける。

「結果的に言えば、アタシは”失敗作”だった。『適合者』がいなかったんだ。
 いろんな『文明』の性質を、無理に詰め込みすぎたからね」

「失敗作」という言葉に肩を落とす萌芽。そんな彼をストレンジベントはびしっと指差す。

「そこでアンタの出番だ『適合者』!」

「……はい?」


86 名前:竹内 萌芽(6/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 16:06:16 0

きょとんとした表情を浮かべる彼に、小さな道化師は愉快そうにアヒャヒャと笑う。

「はっきり言ってアタシも諦めかけてたんだ、いくらなんでもこんな大量の『文明』に
 いっぺんに『適合』できるやつがいるわけないだろうってね」

「でもアンタは現れた」と彼女は続ける。

「アタシも見落としてたよ、この大量の『文明』に『適合』できるやつは確かにいないかもしれない。
 でも”存在そのものが不安定”っていうこの『文明』そのものの性質に『適合』できるやつなら、それはひょっとすると現れるかもしれない」

「で、それが僕だったと」

答える代わりに彼女は心底愉快だと、大笑いした。

「ずっと、ずっと待ってたんだアタシは、モルガでいいんだよね?
 ……ああ、ここはアンタの”精神世界”に特設した場所なのさ。
 アンタのことは『適合』したときに大体把握したよ」

ぴょんと彼女は、萌芽の右肩に飛び乗る。

「アタシの目的は”何モノにも犯されない”存在になること。
 そのためにはアンタの協力が必要だ」

「僕になんのメリットがあるっていうんです?」

「大有りさ、アタシはあんたの力になる。
 アンタの力になることで、アタシはアタシの中の『文明』をごちゃまぜにして、”何モノにも犯されない”存在になる。
 そしてそれは、アンタの求める『イデア』に、限りなく近い力だ」


87 名前:竹内 萌芽(7/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 16:07:48 0

「ちょっと話がうますぎますね、僕に有利な条件しかないじゃないですか」

疑う萌芽が眉をひそめるが、そんなことは気にせずストレンジベントは笑った。

「正確にはアタシが成るものとアンタの求めるものとは、少し性質が異なるかもしれない。
 そうだね……”アタシを使って生き延びたものが得る力”ってことで、『イデア』と判別するためにそっちは『サバイブ』とでも呼ぼうか?
 とにかくアンタはアタシに協力することになるよ」

「……いやに自信満々ですね?」

訝しげに言う萌芽に、ストレンジベントはどこからかひょいと鏡を取り出し、こちらに向ける。

「”面白そう”って、思ってるよね? 笑ってるんだよさっきから、あんたの顔」


―――言われて見た自分の顔には、確かに面白いものを見つけたとき特有の、子どもみたいな笑みが張り付いていた。


ふと気がつくと、さっきカードをとり出したときのままの状態で、萌芽は青年の背中で揺られていた。
白昼夢でもみたんだろうか? そう思った萌芽の頭に声が響く。

”夢じゃないよ”

「!?」

”アヒャヒャ!! 言ったろう? ”あたしの世界”はアンタの精神の中にあるって”

笑う彼女の声を聞きながら、面倒くさいのに取り憑かれたもんだと思うと同時に、
また一つ面白そうなことが増えたという事実に、萌芽はにやりと笑った。


88 名前:竹内 萌芽(8/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 16:08:44 0

喫茶店についてからは、さらに面白いものが見れた。
おっさんが幼女のなかから出てきたのだ。

彼は自分たちと同じテーブルにつくと、なんだか演技がかった口調でいろいろと話し始める。

『文明』について難しいことを言っていたようだったが、半分も理解できなかった。
というより、単におっさんの側にいる面白幼女を見ることに夢中になってしまっておっさんの話はうわの空だったのだが。

とりあえず理解したのは、おっさんが昨日の鉄パイプのお姉さんを助けたいということ。

まあそれに関しては、もちろん参加する。

ものごとを面白いかどうかで判断する萌芽が、こんな面白いイベントを見逃すはずがない。

しかし彼には、どうしても許せないことがあった。

「竹内なにがし、じゃなくて、僕の名前は竹内萌芽です。ちゃんと覚えてくださいね?」

少しのあいだ喫茶店内の空気が凍りついたことに気付いた彼は、なんだかよくわからないという顔で首をかしげた。

ターン終了:
【ストレンジベントと会話】
【タチバナたちに自分が萌芽であることを明かす】


89 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/03/29(月) 20:37:04 0
ブーン系ってクズの集まり?

90 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:24:00 0
>>89
よく分かったな

91 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 23:19:34 0
「お待ちどウ。このセットで良かったカ?」

飛峻は両手に乗せた朝食セットの片方を危なげない手つきで真雪へ渡しながらちらりと店内を見回す。
ゆったりとしたスペースの造り。
シンプルでありながら端々に品の良さがうかがえる内装。
ゆるやかな曲調のBGMが店の高級感に一層の彩を加えているようだ。

「なるホド、何となく理由がわかっタ」

飛峻は笑いながら真雪の対面へと腰をかける。
朝食をとるにはやや遅い時間帯だからだろうか、他の客はまばらに居る程度。
だがその少ない客のほぼ全員が店内の雰囲気相応の格好をしていた。

有体に言ってしまえば中華服姿の外国人と歳相応の格好の女子高生では浮いている。
しかし高度に発展した文明社会において、時代に全力で逆行したライフスタイルを貫く飛峻にとってこの程度ではアウェーにすらならない。
もっとも単純に空気読めてないだけなのかもしれないが。

「まア、余り気にするナ。こっちが思ってるほど相手は気にしてないものダ」

飛峻は含蓄有り気にそう言うと、「イタダキマス」と両手を合わせた。

「眠い!!ああ眠いっ!!涙が!!涙が出てきたっ!!化粧がっ落ちるっ!!」

ローストチキンとスクランブルエッグが挟まれたサンドイッチの処理を終え、コーヒーを一口啜ろうかとしたところで奥の席から奇声が上がる。
振り向く真雪につられ目線を動かす。
先の絶叫の発生源らしいスーツ姿のキャリアウーマン風の女性が、眠いですよちくしょー!!と喚いては同席の男に口を塞がれていた。
男の横に立てかけられているのは弦楽器のケースだろうか。

「ぶっ…あ、痛っコーヒーが変なところにっ!」

「エ、ちょッ?今度はこっちカ!?」

視線を戻すと何故か真雪が盛大に咽ていた。
噴き出されたコーヒーの飛沫は結構な飛距離をマークしている。

「……大丈夫カ?」

飛峻はしきりに混乱している様子の真雪に紙ナプキンとおしぼりを渡すと、被害を免れた朝食セットをそっと遠ざけ、テーブルを拭く作業を手伝うのだった。

92 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 23:20:30 0
臨時の清掃業もつつがなく終了しセットを全て平らげた後、コーヒーのお代わりを注文する。
同席している真雪は先ほどから例の二人組が気に掛かるようで、ちらちらと視線がそちらに泳いでいた。

「アー……マユキ?」

ひょっとして知り合いなのか、と聞こうとした所で件の二人組が席を立つのが見える。
何故か女の方は心ここにあらずといったような感じだが。

楽器ケースを手にした男の方がふいに振り向く。
音楽家か何かかと思っていたが視線の配り方に慣れた感じがするのは気のせいだろうか。
実はケースの中には楽器の代わりに銃や手榴弾が入っていますと言われたほうがしっくりくる気がする。

(いくらなんでもそれはないか)

自重気味に被りを振りながらコーヒーを持ち上げると歩いてきた男と目が合った。
そのまま無視を決め込むのもバツが悪いので軽く会釈を返す。

男は会計を済ませるともう一人を引き摺るように店を出て行った。

「ママ……切り刻むほど……愛ッしてるぞ〜!!」

去り際にもう一度、しかし今度はとてつもなく物騒なことを口にしながら。

「ところでマユキ」

飛峻は出て行った二人組をやはり目で追っていた真雪に今度こそ質問をなげかける。

「日本の音楽家っていうのはかなり危険な職業なのカ?」

先刻聞こうとした事とは別の質問を。

「いヤ、別に去り際に女性の方が口走っていたのもそうだガ、それとは別口ダ」

すれ違った男の姿を思い返す。
手にした楽器ケース、黒いスーツにコート、そして――

「さっきの二人組の男の方の話なんだガ……脇に銃を吊っていル」

李飛峻は武侠である。
文明から離脱した孤高の求道者。といえば聞こえは良いがどちらかと言えば裏社会よりの人種なのだ。
門派の対立はもとより地回りのヤクザとの諍いなど修羅場は一通り経験している。
シルエットから相手の武装を見抜く手段もその過程で自然と培われたものだ。

「それを踏まえて最初の質問に戻るガ……日本の音楽家は危険な職業なのカ?」

飛峻が探しているのは異世界人。
すなわちこの世界とは違ったルールに則って行動する者達。
そしてそれはこの世界の住人たる真雪が奇異だと感じる相手であれば可能性は高いということだ。

「それとも、あの男が特殊なのカ?」

93 名前:竹内 萌芽(1/4) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:00:27 0

沈黙する店内。
先程までアフロの人が褒められたり、おっさんが意気揚々と啖呵を切ったりとなにかと騒がしかったはずなのだがどうしたのだろう?

きょろきょろと店内を見回す萌芽の目の前を、ふよふよと鉄パイプが浮いていく。

「……あの、追いかけないんですか?」

沈黙を作った張本人がのんきにそういったのと同時に、はっと気付いたように気付いた皆が思い思いの言葉を口にしながら店の出口に歩いていく。

萌芽はその風景をしばらくじっと見ていたが、どうやら祇越というらしい青年が店の出口に向かうのを見て、萌芽は彼の前に立ちふさがった。
訝しげな表情の彼に、萌芽はにこりとほほ笑む。

「病み上がりなので」

なんだかんだで萌芽がちゃっかり彼の背中を確保できたことは言うまでもない。


94 名前:竹内 萌芽(2/4) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:01:34 0

彼の背中で揺られながら、萌芽は自分と世界の境界を”あやふや”にする。
周りの人たちには寝ているように見えるだろうし、ここならこの間のように誰かに邪魔されるということもないはずだ。

せっかくの面白いゲームだ。他のみんなもさそってあげよう。
でもその前に”彼女”に危ない場所に近づかないように言っておかなければ……

【接触1:月崎真雪】

そっと目を開けると、そこは見知らぬ誰かの部屋だった。

(……あれ?)

あたりを見回すが、そこに目的の真雪の姿はない。
かわりに居たのは、なんというか豊満な感じの真雪より少し年上な印象を受ける女性。
先程はこの場所に居たし、まだ居るだろうと検討をつけて来てみたものの、もう彼女は出かけてしまったのだろうか?

女性に話しかけようとした萌芽は、しかし女性の様子がなんだかおかしいことに気付き、言葉を飲み込む。

「あの妙な中国人もバカだなぁ…真雪の味方だ、なんて…報われる筈が無いのにね…
私の事まで信じちゃって…私はあれの事、嫌いなのにねぇ…」

どこまでも、静かな部屋。
そこでぶつぶつと呟きながら彼女はアルバムから写真を取り出し、傷つける。

(あぁ……これは……)

幼馴染の彼女がこういったことをされているのを、萌芽は「n」で始まる”彼”だったころに一回だけ見たことがあった。


95 名前:竹内 萌芽(3/4) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:02:47 0

幼馴染にこういうことをしていたのは、たしか表向きは彼女の友達であったはずの女の子だった。
放課後の教室。幼馴染の写真を傷つける彼女を見て、”彼”は背筋に寒気が走るのを感じたものだ。

(女の子って、大変ですよねえ……)

やれやれと、萌芽はその空間と自分とを”はっきり別々”にする。
真雪の位置を確認しなおして、再び目を開くとこじゃれた感じの内装の店内で、真雪と飛峻が食事を取っていた。

「おはようございます」

にこやかに笑ってあいさつすると、ふと自分の存在に気付いた二人があからさまにびくっとする。
色々な質問が飛んできたり責められたりしたが、とりあえず流したり謝ったりして真雪の向かい側、飛峻の隣の席に腰を下ろした。

「今日はちょっと忠告があって来たんです」

さきほど”あやふや”にしたときに、あの鉄パイプのお姉さん――ミーティオというらしい――の位置は把握しておいた。
具体的な彼女の位置を彼らに伝え、「今日は危ないですからその周辺には近づかないように」と念を押しておく。
真雪には自分だけの敵であってもらわなければならない。
自分たちの抗争に巻き込んで命を落としてもらっては困るのだ。

それともう一人、新たに発見した彼女の敵に対する対策もとっておく。


96 名前:竹内 萌芽(4/4) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:03:45 0

「フェイくん、ちょっと耳をかしてください」

そっと彼の耳に口を近づける萌芽。
別にそんなことをしなくても自分の思念をそのまま彼の意識とあやふやにしてしまえばいいのだが、昨日の鎧のチビッ子のこともある。
真雪を守る大切な”城壁”であるところの彼を、萌芽はなるべく傷つけたくはなかった。

「真雪さんの家に……なんというかその、えー……」

真雪の家に居た名前もしらない”彼女の敵”。
萌芽はその女性の特徴を述べようとして、しかしなんとなくそれが口に出しづらいことだったので言葉を詰まらせる。

「……む、胸の大きなお姉さんがいたじゃないですか?」

別に自分にやましい気などまったくないが、しかしやはりこういうことを現実に口をだすのは憚られるものだ。
少し顔のあたりが暑くなるのを感じながら、萌芽は一つ咳払いをして言葉を続ける。

「気をつけてください」

それだけ言って、萌芽はその空間と自分を”はっきり別々”にした。

これでいい。
自分はただ飛峻に、あの女性に対して少し注意を促すだけでいい。
恐らくあの女性が敵であることを伝えても、自分があの女性を傷つけたとしても、真雪は傷ついてしまうから。

自分は、完全な状態の彼女と戦いたいのだ。
だから、これでいい。

接触1:終わり
【とりあえず檸檬が危険だと飛峻につたえておく】


97 名前:尾張証明 ◇Ui8SfUmIUc[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:44:08 0
高層ビルの外観を眺めながら、バスのベンチでボンヤリと時間を潰す。
先程から狂っていた兎は、今は静かに隣でウトウトと微睡んでいた。ゆらゆらと危ういバランスで、時折俺の肩
に頭をぶつける。
 空を見上げればひどくいい天気だった。雲一つ無い空と、暖かな五月の風。天気については割かし重要な事だ
ったから、晴れて良かったと思う。ヘリコプターを飛ばすには文句無くいい天気だ。
だが正直なところ、俺はそんな詰まらないことに考えを巡らしていたわけではなかった。

(こんな日は娘を堤防に、散歩に連れていきたかった)

妻がテロで死んでから、娘は随分塞ぎ込んでしまった。自分のせいで妻が死んだと思っているのだ。残念なこと
に、それは半分は当たっていた。嘘はつけないし無下には否定できない、けれど子供が背負うべき重さでもまた無い。

(街はまだ危ないからな、せめて……)

そこで、気付く。意味の無い思考だ。ここでの今は、向こうでの“今”ではないのだ。 兎の言うようにエヴェ
レットの多世界解釈が正しいのならば、自分は遥か遠くの“元の現在”から見て数瞬先の未来、もしくは過去の
分岐点まで遡って“この現在”へ引き返してきた時間渡航者と言うことになるらしい。

(上手く帰れれば全ては胡蝶の夢か)

本格的にこちらに頭を寄せ始めた兎を邪険に退けつつ、ふと横を向くと

制服を着た愛娘が、やけにはきはきと歩いていた。

【尾張証明:ゼルタ・ベルウッドを発見。娘と勘違いする
兎:寝ている】

98 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/03/30(火) 03:54:40 0
「ふーむ…これはどういう経緯だ?」

つい先ほどku-01が再び起動し、一悶着が終えた後
彼女――佐伯零とそれなりに情報のやり取りをした
その直後迎えの車に乗ったらこの場所に来ていた。
そして私達を出迎えたその女が言うには
とある暴力団…成龍組の動向を探れと言うものだった。

「どうしやすか大将?コイツは面白い戦になりやすぜ?」

帽子を目深かにかぶるが口からわかるように凶相をした英霊が獰猛な笑みを浮かべ、突如現れる
英霊師団の死してなお考え付いた戦術を実践することに固執する軍師、駒城群青(くしろ ぐんじょう)であった。
なお彼が指揮する戦闘においては殆ど敗北することが無いとてつもなく優秀な軍師である
頭脳面では彼を頼りにすることが多い。

「ふむ…この資料を見限りろくな連中ではないな潰しておくのがいいだろう
 いいだろう引き受けよう
 俺は最初からバレないように内部に潜んでおいて合図をしたら中から援護するという方式でな
 それに悪いが私は諜報員ではないのでね、演技が下手なものでね戦闘しか協力ができない
 そこは了承してくれ」

それから、言ってと何も書いていない紙に必要な物を書いて警官の一人に渡す。

「そこに書いてあるもの物を早急に用意しろ」

それを見た警官が信じられないと言う形相をして、

「バレットM82にMG42機関銃…M79グレネードランチャーってあんた戦争でも起こす気か!」

この言葉に否定も肯定もせず、ギロリと見ると相手からは鬼の形相に見えるのかビクビクと震え始める

「飲む気がないなら協力はしない
 いいからとっとと用意しろ!」

激を飛ばされてその警官はすっ飛ぶように部屋から出て行く。
そして呆然としている警官の一人に声を掛ける

「すまないが戦の前に腹ごしらえだ、なにか食い物をくれ」

腹が減っては戦が出来ないのでなにか食い物を頼むことにした



99 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/03/30(火) 11:17:22 0


「どうぞ、こちらの部屋でお着替えください」

「……」



 差し出された主人と色違いの洋服――袖の無い、スリットの深い体に密着する布地のそれ――を近くに居た女性の警察官に、あくまで丁寧な手つきで突き帰す。
 片隅に用意されていた衣装ケースを暫く眺めていたku-01が手に取った服は、スリーピースのダークスーツだった。
「え」と女性警察官の顔が引きつるが、認識しなかったことにして、指定された小部屋に入る。
 袖なしの軍服からごく簡単な装備を取り除き、スラックスやベストに付け替え着込んでいく。前の次元にもあった洋装のため手間取ることなく着ることが出来た。

 最後に、スーツに付属していた真っ赤なネクタイを他の服に引っかかっていた黒いそれと交換。
 単なる色覚認識の趣味だった。



「あのう、そちらの服は、男性用なんですが……」



 その警察官の言葉にku-01は可視領域を自分の体へ下ろす。
 娯楽用なら兎も角、ku-01は軍用オートマトンだ。性別によるタイプの区別は無いし、そのようなプログラムも無い。
 性別の間を取ったようなボディは一見すると女性のようなので、上司の趣味により女性用の軍服を着用させられていたが、それについても何も思わなかった。




「問題はありません」

「い、いえ、で、でもサイズも合っていませんし」

「今合わせます」

「そんな無茶な!」



 流石に冗談だが。
 彼女の言うとおり少しばかり丈や袖が長いものの、それでも運動機能に支障は無いとku-01は認識した。
 元より、こういった洋装はかなり動きを制限する作りをしているので、少しばかりは余裕があって困るものではない。

 女性の言葉を何処吹く風に保存しながら頭頂近くで結ばれていた髪を解き、うなじの辺りで結いなおす。
 振り乱れやすい髪形から、ウィップコードを一本編みこんだ、所謂三つ編みという形態へ。
 腰下で揺れる毛先に、結い紐を結ぶ。

 着替えを終え、控え室へと出て行くと、既に主人たちへの説明は開始されていた。




100 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/03/30(火) 15:13:21 0



>「はい。今回の作戦は二手に分かれて行います。まず、正面から突入する班。
 こちらは通常部隊で構成して「僕」が指揮を執ります」

>「だから心配なのですが……
 そしてもう一つは最初から中にいて突入を支援する部隊。つまり私たちです」
 
>「なるほど……そこで戦闘力高いものは出来るだけ目立つ服装で暴れまわることで敵を引きつけろってことね」



 つまりは、二手に分かれた陽動部隊をせよということらしい。
 それを引き受ける代わりになにやら約束を取り付けた主人は、さっさと今度は持ち込む武装に関しての話を始める。
 向こうでは葉隠がもりもりと口に食べ物を詰め込んでいた。

 さて自分は、とku-01は直立不動のまま考える。かりかりとAIが処理音を立てた。
 さきほどの女性警察官がこちらへ向かって微笑みかけている。
 


「あの、あなたは何かご用意するものなど、ありますか? 要請していただければお受けしますが」



 あんまり無茶は言わないでくださいね、と部屋を飛び出ていった同僚を見送りながらそう言った。
 言われはしたものの、特に必要なものなど無い。



「……それでは何か、携帯端末など、通信可能なものを皆様に」








 その要望に答え、各々に小型の通信機器が手渡された頃、
「それではそろそろ向かいましょうか」 の鶴の一声で一段はBKビルへと向かうこととなった。


101 名前:皐月 ◇AdZFt8/Ick[sage] 投稿日:2010/03/31(水) 04:57:00 0
結局、朝食から店に着くまで、皐月が口を開く事は少なかった。
じっとおんぶされた竹内萌牙の背を見て、ぷすー、と頬を膨らませているのが精精だ。
気合を入れた名乗り上げがスルーされた事もあるが、それ以上に。

「……泣いて、ました、よね」

色々言いたいことと聞きたいことが鬼の様にあったが、その姿を見て力が抜けてしまった。

「まぁ、まだお話しする時間はあるでしょう……うん」

口の中でぼそぼそと言葉を弄び、飲み込んでおく。
やがて喫茶店――今更店名を知ったがどうもアルマークと言うらしい――に到着した。
そう、今の私は一宿一飯の恩を返すべく働くウェイトレスさんであるからして。
働きましょう頑張りましょう、考えるのはそれからにしましょう。

「さ、お仕事頑張りますよ!」

脳内で気合を充電し、まずは何をしましょうか! と指示を仰ぐ目でウェイターを見つめてみた所、逆に凄い目で見返された。

「あれ?」

腕を掴まれた。

「あれれ?」

そしてそのまま引きずられた。

「あれ!?」

そのままウェイトレスさんとなにやら会話をしており。

>>33
>「それはいいのですが……。
 あの、祇越さんにお聞きしたいことがあるんです。三つほど」

>「―――何も聞くな」

……あれ、もしかして凄い邪魔だったりしたでしょうか?
文字通り「体で返す」しか出来ない状況なので黙っていると、さらにそのまま引きずられ……

「…………あ」

気がつけば昨日の――戦闘を繰り広げた、恐らく同じ異世界人たちが会するテーブルに着席させられていた。


102 名前:皐月 ◇AdZFt8/Ick[sage] 投稿日:2010/03/31(水) 04:58:19 0
会話が右耳から入って左耳に抜けていく感覚を皐月は久しぶりに味わった。
オールバックの男性が語る発言の内容の、およそ八割は流れて行っただろう。
だから皐月の耳に、意味ある一文として入ってきたのはそれが最初となった。

>>8
>「――ミーティオ君が誘拐された」

流れ出ていた言語の渦が止まる。
何かのスイッチが入ったように、皐月は耳を凝らした。

>>9
>「これは路地裏に残された彼女の遺留品だ。ああ、嗅いでも無駄だよ?この僕が一縷の嗅ぎ残しもなく味わいきったからね!」

一瞬すさまじい生理的嫌悪感が額からつま先まで駆け巡った。
というかなんで遺留品が鉄パイプなんですか? という疑問が脳内を掠める。

(――あ、でもこれって)

自分はコレを一度見ている、と言う事を思い出すぐらいには、インパクトのある物品だという事だろう。
そういう意味では遺留品として、確かに申し分ないかもしれない。
昨日、少しだけすれ違ったあの女の人の――

>「おそらくこれは故意に残されたものだろう。ミーティオ君を助けに馳せ参じた連中をも一網打尽にする為にね。
 ――はは、まるで友釣り漁だ」

故意に、と言う事はつまり……

「それって私達……他の世界から来た人を狙ってる――」

言葉にしながら、竹内萌牙にちらりと視線をやって、様子を伺う。

「誰かが、いるってことですか?」

だが、期待していたような反応は無い、というか、こちらを見ている見ていないの問題ではなく、何も見ていない風だった。
どこか意識だけが別の世界に行っている様な気配がある。
流石にここで彼に対して口を挟み、会話の流れをきるのが無粋であるという事ぐらいはわかる――ので、皐月は黙って話の続きを聞いた。

>「失敬な。ともあれ僕は有志を募りたい。捕われの姫君を悪辣の者共から救い出す系の仕事がしたい人ー、挙手を頼むよ」

その言葉に、皐月は少し固まった。
恐らくこの世界に来てから今この時までずっと思っていたこと。

『ワタシニナニガデキルノダロウカ?』

竹内萌牙の弁に従うなら、皐月は間違いなく『戦闘能力の無い』部類に属する人間だ。
下手に武器を与えられても、逆に危険なだけだろう。
戦力の無い人間が武器を持つほど不安定な事は無い――とは親友の言葉だったか。

同じ異世界人である彼等は、少なくとも『誰かを助ける為に動ける』人間のようだった。
そして、その為なら誰かを傷つける事も厭わないだろう――それがたとえ、命を奪う様な事でも。
例えば、昨日の様に。

彼等と一緒に行動する事で、自分の存在は決定的に邪魔にしかならない。
これから行われるのは間違いなく『殴りこみ』と呼ばれる部類の、暴力を前提にした戦闘行為だ。
それに対して、『喧嘩をやめてください』等と、なんと滑稽なセリフだろうか。
だが、自分に出来るのはその程度の事なのだ。

そういった鬱々とした感情に少女が苛まれている最中でも、状況は滞りなく進行する。

103 名前:皐月 ◇AdZFt8/Ick[sage] 投稿日:2010/03/31(水) 04:59:48 0
>>10
>「よし”見つけた”ぜ。ゴルァ!!」

皐月にはその場で、何も起きていないのに鉄パイプがひしゃげた、様に見えた。
次の瞬間、曲がった鉄棒は元に戻り、あろう事かふわふわと宙に漂い、そして移動を開始した。

「って、えええええええ!?」

鉄パイプが浮いている。
恐らく、今この世界で最もシュールな光景を目撃している。

>「用意周到って連中も、徹底的に痕跡を消すなんて事はできねーみたいッスね。
このパイプの案内で、居場所が分かる筈ッスよ。」

わかるんだすごぉい、ともはや感嘆の声を出すほか無かった。
周囲の状況は、この鉄パイプを追いかけるという方向で動き始めた。
恐らく誰も『ついて来い』とは言わないだろう。
そしてその気も――無い。

ぎゅ、と拳を握り締めて――口を開こうとしたその時。

>>94
>「病み上がりなので」

と、今正に嫌そうな顔をしているウェイターに背負われそうになっている竹内萌牙の姿があった。

「ってええええ!? ちょっと待ってください! アナタも行くんですか!?」

確かに竹内萌牙自身に戦闘能力のようなものがあるかないかと聞かれると、そんなもの知らない。
ただ、なんとなくだが、自分で病み上がりと言った以上、普通にアルマークに居残るものだと思っていた皐月は流石に面食らっていた。

「な、何考えてるんですか!? 怪我してるんでしょう!? まだ万全じゃないんですよね!?」

という声にも、あやふやな笑顔で返されるばかりだった。
少なくとも今まで行動を共にしていた二人は、鉄パイプを追うつもりのようだ。

「〜〜〜〜っ! わ、私も行きますよ! まだ――」

びしっと、竹内萌牙を指差し、

「聞きたい事は山ほどあるんですからねっ!」

【結晶:0→1】
【黄金の休日に優雅な軌道で宙を漂う鉄パイプときゃっきゃうふふしながら囚われの姫を助けに行く会にようやく参加】


104 名前:皐月 ◇AdZFt8/Ick[sage] 投稿日:2010/03/31(水) 05:00:33 0
………………。

>>前392

>『あの戦闘能力云々ですけど、あれは全部嘘です。死んで欲しくない人がいるので、その人にとっての『敵』を減らそうと思って、あんな嘘を吐きました』


その一言を繰り返し、繰り返し考える。
嘘をつくには理由がある、そして嘘から読み取れる情報は、多い。
即ち、

・異世界人を争わせる事で、守れる存在である。
・戦闘能力のある異世界人は竹内萌牙の守りたい人物の『敵』となり得る。
・目的を与えられなかった、異世界人がそのまま活動していた場合、『敵』に回しうる要素を持っている人物である。
・即ち『元の世界へ戻る』為の何かを持っている可能性がある人物である。
・「竹内萌牙が異世界人同士を争わせてまで守りたいと思っている人物」は自衛手段に乏しい人物である可能性が高い。

――竹内萌牙を突くなら、そこかね

最終目標は、その裏にいるという人物を引きずり出して接触する事、だが。
なんにせよ、はっきりした事は、竹内萌牙は『何かを守る為なら犠牲を払う事を厭わない』人間である、と言うことだ。

――なら当然、その犠牲の中には自分も入ってるんだよなぁ?

思考は結論へとたどり着き、『彼女』の方向指針を定める。

――文明とは何か。
――文明とは何か。
――文明とは何か。
――文明とは何か。

――考える事は、まだまだ多い。

【五月一日皐月、とりあえずがんばる】
【五月一日殺気、盛大な勘違いをしながら竹内萌牙の「守りたい人」をターゲット確認】



名前:五月一日・殺気
備考:皐月の思考の暗い部分を一点に集めた結果、生まれてしまった一面。
二重人格ではなく、感情面においてストレスや不満、疑問等の「ブチ切れた面」を押し込んで処理している部分。
皐月の行動指針は殺気が決定する為、ある意味、皐月の根幹とも言える。
例によって皐月自身は自分のそういった一面に気がついていないが、あくまで同一の人格だが、思考の基準と価値観が異なる。
皐月が感情的な部分を処理しきれなくなってマジギレすると表に出てくる、その際、【結晶】の能力は逆転する。
名付け親は親友、曰く『洒落っぽくて面白い』から。


105 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/31(水) 13:40:50 0
「ママ……切り刻むほど……愛ッしてるぞ〜!!」
とんでもなく物騒な台詞を口にする女性を、尾張が引きずって歩いていく。
先程から見ている様子では、彼らは特別な関係ではなく患者と保護者に近いものだった。
正直……少し、ほっとした。
そうして、それに安堵した理由を、真雪は気付かない。
「ところでマユキ」
小さくめ息を吐いたところで、飛峻の声が掛かる。
「日本の音楽家っていうのはかなり危険な職業なのカ?」
いきなり何を言い出すのだ。
「…えーと、さっきの女性の方?」
「いヤ、別に去り際に女性の方が口走っていたのもそうだガ、それとは別口ダ」
どうやら、真雪が予測していた事は外れたようだ。
(ああ、そう言えば)
尾張さんが楽器ケースを持っていたなぁと思い出す。
昨日遭遇した時には持っていなかった為、女の所有物だろうと推測していた。
だが、先程の女の狂乱を見て違うな、と思い直した所だ。
「さっきの二人組の男の方の話なんだガ……脇に銃を吊っていル」

……
………
「それを踏まえて最初の質問に戻るガ……日本の音楽家は危険な職業なのカ?」
…………
嘘が見当たらない。
いや、飛峻が嘘を吐く理由が見当たらない事は知っている。
昨日の尾張の警戒の様子には、真雪だって不信感を持っていた。
この二つと、自分の能力を考えるならこの言葉は真実だ。
それでも真雪は嘘を探した。
(あれ…何でだろ…)
「それとも、あの男が特殊なのカ?」
カップの中をかき混ぜてから、真雪は飛峻の問いに答える。
「あの人は音楽家じゃないよ。音楽家はそこまで物騒な職業じゃない……
それに、あの人、おかしい、だっ…」
コーヒーを啜ってから顔を上げると、竹内萌芽が居た。
良かった、今度は吹き出しもしなければ変なところにコーヒーが入る事もなかった。
飛峻より先に、右手でテーブルを叩き左手で竹内を指す。そして真雪は声を荒げる。
「何でアンタがここに居んの!?」

106 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/31(水) 13:41:59 0
結局、その後矢継ぎ早に叫んだ疑問なり罵倒なりを竹内はのらりくらりとかわしていた。
「今日はちょっと忠告があって来たんです」
その彼が言うには、今日。この目の前の建物―BKビル―の周辺が危ないらしい。
一刻も早くここから立ち去るように、という事だった。
嘘が感じられない、ということは少なくとも危ないのは嘘では無いらしい。
真雪の中では竹内は嘘吐き狼なので、奇妙な感覚だ。
何故、真雪に情報を与えるのか。それも、何かに巻き込まれないようにする情報を。
目的が分からなくて、気持ち悪い。
竹内が飛峻に何か耳打ちをする。飛峻の表情を見るに、精神に良くない情報なのだろう。
そうしてから、竹内は昨日と同じように、霧となって消えていった。

107 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/03/31(水) 13:42:52 0
会計を済ませ、店を出る。
飛峻が話の続きを聞きたがっていたから、真雪はひとつ頷き、口を開いた。
「尾張さん、ね…昨日、竹内に会う前に会っていたの。本屋への道案内したよ」
そこで言葉を区切り、飛峻の顔を覗く。真雪は表情を確認してから言葉を続けた。
「その時、変なことが起きたの。分からない筈の情報が、手に入ってしまったの」
説明するには、大前提として真雪の能力の特性を知って貰わなければいけない。
遠回りをしながら、しっかり理解してもらおう。
「れも姉ぇから聞いてると思うけど、私には嘘を吐く意思が分かる。
だけど、それには欠点が有ってね。
一つは勘違い。その情報を与える人にとっては真実だもの。
二つ、又聞き。情報を与えた人が嘘を吐いても、伝える人にとって真実なら私は分からない。
三つ、嘘を吐かれた人が他者である場合。嘘を吐く意思が私に向かってないと分からないの」
ここまでは前提であり、重要なのはこれからだ。
「私が奇妙だと感じたのは、最後に言った『他者が嘘を吐かれた』のが、分かったから。
まあ、情報自体があやふやでよく分からなかったけどね」
歩くのを止めて、辺りを見渡す。アイスクリーム店、美容院、何か服のブランドの直営店。
七板通りの端の方だ。バス停もある。
「私の能力に意味が無いことがないように、
きっとその時に手に入れた情報も何らかの意図が有るんじゃないかな?
私はそれを知りたい。それであなたを助けられるなら…」
(そして私が救われるなら)
飛峻の先を行き、真雪は振り返って伝えた。
「私、どんなに危険でもあの人を追いかけるから」
【真雪は尾張さんを追いかけるようです】

108 名前:ミーティオ ◆BR8k8yVhqg [sage] 投稿日:2010/03/31(水) 16:36:08 0
「……にわかには信じ難い話だけど」

 ミーティオの説明を聞いた遥は、眉間に人差し指を当てて考え込んだ。
 とんでもない内容である上にミーティオの拙い口振りでは、理解に時間がかかるのも仕方ない。

「じゃあ、君は異世界人……?」

「うわぁ自分が言われるとスゲー違和感! 言っとくけどあたしから見りゃお前が異世界人だからな!」

「ここと違う世界があるの? 本当に? そんな映画みたいな話が?」

「信じようが信じまいがどーでもいいけどよ……。クソ面倒くせえことになったな」

「ううん、信じるよ。文明なんてものが存在するんだ、今さら不思議な事なんてない……」

 妖艶な微笑みを湛え、遥はミーティオの手を握った。彼の手は白く柔らかく、彼女の手は薄く硬い。
 黒い少女と白い少年の間で、手錠と鎖が涼やかな音を鳴らした。

「君が自分の世界に帰れるよう、手伝うよ。こうして出逢ったのも何かの縁でしょう?」

「あ、ああ……それは嬉しいけど、この手はなんだ……?」

「言わば君はこの世に生まれ落ちたばかりの小鳥みたいなものだ。色々教えてあげるよ」

「いやっ、そこまであたしの世界と乖離してはないけど……」

「とりあえず、そこのテレビを見るといい」

 ミーティオは大きな液晶のテレビに目を向けた。今現在は休日の情報番組を放送しているらしい。
 小難しい顔をした壮年の男や、女のアナウンサー、白髪の目立つ科学者風の男などが円卓を囲んでいる。

「君がまず第一に理解しなくてはならないのは、『文明』だね。君は文明を持っているフリをしなくてはならない。
 君の能力が文明でないと知られたら、きっと荒海に殺されちゃうだろうからね……」

 テレビの画面には『激論!文明と社会!』と字幕が出ており、出演者達は激しく言葉を応酬していた。
 こいつらは何故にここまで熱くなっているんだと思いながら、ミーティオはそれをじっと見つめる。


109 名前:ミーティオ ◆BR8k8yVhqg [sage] 投稿日:2010/03/31(水) 16:37:19 0
 一方その頃、一つ下の階。大きなモニターやキーボードなどが整然と並ぶ、BKビルの総合管理室。
 文明や銃火器で武装したヤクザ達の中央で、荒海銅二は一つのモニターを注視していた。
 その画面はいくつかに分割されており、それぞれが監視カメラの画像――ミーティオと遥のいる部屋の様子を、映し出している。

「…………」

 荒海の表情はサングラスのせいでよく読み取れない。
 時折何かを思い出したように画面が切り替わり、荒海の指がキーボードを叩く。
 そんな静かな空間に電子音が響き、荒海の背後に位置するガラスの扉が開いた。一人の若い男が入ってくる。

「連絡終わりました。このビルに居住している構成員は、いつでも大会議室に集まれます」

「さよけ。ワシはこの部屋から離れられんからのう。後の事は指示通りに進めとけや」

 ――この日、BKビルにおいて、ある一つのイベントが行われる予定になっていた。
 すなわち、前日に開催された上層部の会議によって締結された約定を、一般の構成員に公表するのである。

 その内容は――「『Z会』の結成」に関するものだ。

 近頃『公文』・『進研』といった勢力に対して、成龍組のような暴力団の力は弱まり続けている。
 その原因は、単に法規制の強化だけではなく、『文明』の存在に因るところが大きいと言えるだろう。
 以前の彼らは『文明』の力を軽視していた。それが文明に関する技術力で遅れをとることに繋がり、
 旧態依然としたノウハウしか持たない彼らは、徐々に世界的な潮流から取り残されていった。

 事態を打開するためには、組織同士が手を組み、お互いに歩み寄り、『文明』を研究していく必要がある。
 ――そのために結成されたのが『Z会』。
 成龍組を筆頭とした百を超える日本各地の暴力団が署名した、一連の約定及び覚書の総称である。

 単純な規模だけで言えば『公文』や『進研』を遥かに超える超巨大組織が、誕生したのだ。


110 名前:ミーティオ ◆BR8k8yVhqg [sage] 投稿日:2010/03/31(水) 16:39:15 0
「では、全員の昼食はビル内の『福猫飯店』から調達します」

「おう。ワシは自分で食うからいらん……昨日の泥棒の件はどうなったんや?」

 モニターに向かっていた一人の男が反応し、荒海の問いに答える。

「追跡中です。今朝方、このビルの周辺で『足跡』を発見しています」

「顔がわかっとるんか?」

「いえ。しかし、犯人の物らしき衣服の繊維を『文明』で検査し、追跡に使用しています。
 今日中には尻尾を掴めることかと思われます」

「ふん。このビルの周辺、やてか。あの小娘のお仲間かのう。釣り針にかかったか?
 もう一度言うが、今日のセキュリティレベルは最大や。不審者は追い払わず、拘束して連れて来い」

 控えている男達が一斉に頷き、荒海の指示を頭に刻む。

「…………」

 視線を画面上の遥に戻し、荒海は微かに笑った。
 小さな、掠れるような声で、誰にとも無く独白する。

「……お嬢さん。今回もしも大量に『文明』が手に入れば、ワシは『Z会』でもかなり高い地位につける。
 頭の錆び付いた組長なんかよりももっと高みに。『Z会』に成龍組は逆らえへん。絶対にや」

 数万のドットで表示された遥は、ふにゃりと微笑んでいた。

「……そうなりゃ、ワシの悲願は達成される。お嬢さん。あんたはようやく――自由を手にする」

「縛られた空から――無限の大地に。ワシがあんたを、降ろしてやるわ」



【イベント:昼頃に居住エリアのどこかで構成員のほとんどを集めた発表会が行われます】
【構成員の昼食は、ビル内の高級中華料理店『福猫飯店』より届けられます】
【発表会の間、発表会の行われている階以外の警備は比較的薄くなります】

【荒海の野望:文明を集め、『Z会』の高い地位に就くこと】


111 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/01(木) 00:32:20 0
「以上が作戦の概要です。何か質問は?」

その都村の声に疑問を挟む者はいなかった。ビルの構造上から見ても完璧な鎮圧作戦。
そのプランを見た限りでは最も重要な役回りになるのは潜入部隊だ。

(潜入部隊は計五人。内、都村さんは総合管理室を制圧後に容疑者を一斉検挙……
 この際、一番重要な役回りは囮役の私たちね。殉也は囮を引き受けてくれたみたいだけど……)

問題は都村一人で敵陣を突破出来るか?だ。何らかの方法でうまく忍び込めればよいが……
そんな思惑とは裏腹に警備は厳重そうであり、正面突破しかないように思われる。

(もし戦闘になった場合出来れば一人。いえ、二人は彼女につけてあげたいけど……)

しかし、囮役にさく人数が減れば減るほど囮役は危険に陥るのだ。
……ここで零は思案する。
戦場の配置をうまく使えはしないものかと?

「この三階の広いショーエリアを殉也に任せられないかしら……」

ある程度、広いエリアでならば重火器を要求した殉也の戦闘力も生きてくるはずである。
ここを軸に敵をおびき寄せて本隊の到着を待つ。

「そうなると突入部隊の迅速さがカギになるわね」

言ってから横を見ると「彼」がにんまりと笑っていた。

「任せて下さいです。その布陣で行くなら僕たち突入部隊は三階合流後、そこで派手に行きますから!!」

112 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/01(木) 00:34:03 0
「期待。してるわよ」

そう言うとためらった後にだが、公文から借り受けた通信端末とは別の……零が購入していた携帯電も殉也とサイガに渡しておく。

「念のためよ。一か月は使えるから持っておいて。ね?」

人と人の関係はロジックではない。このやり取りには意味がないがそれでも渡しておきたかった。
意図を把握できないと言った顔を見せる二人に無理やりに握らせ。しばしの間になるが別れを告げる。
ぶっきらぼうに答えるサイガ。きっちりとした軍人らしい態度で敬礼をし返す殉也。

それぞれのやり方での返答を受けると零はゆっくり踵を返す。

「開始時刻は恐らくは2時前後が予想されます。
 各自それまでに配置につき、内部構造の暗記と装備の点検を済ませておくこと」

「装備ってコレ?」

冗談でだがドレスに付属していた扇子を広げてみせる。

「はい」

「yes sir(はいはい。分かりましたよ)」

その答えに満足したのか都村はもうありませんねと区切ると出発の合図をする。

「それではそろそろ向かいましょうか」

113 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/01(木) 00:36:41 0
その鶴の一声で解散する面々。零もまたそれに従い小細工の一つである「ロールス・ロイス・ファントム」に乗り込む。

「じゃあ、お願いね?『ボディガードさん』」

同じく乗り込んだ都村に皮肉をこめて告げると案の定、彼女は忌々しそうな顔を向けてきた。

「それではまいりましょうか。『お嬢様』」

そして、その言葉とは裏腹の吐き捨てるような返答に零はクスリと笑ってしまう。

「冗談よ。貴女には〜〜〜〜〜っとうにムカつく仕打ちしかされていないけどこれとそれは別物だから」

怪訝そうな顔でこちらを覗きこんでくるゼロワンのお下げ髪を弄りながらその言葉を続ける。

「仕事に私情を挟むような事はしないから、安心して」

「それはご丁寧にどうも。ですが『お嬢様』には変わりはありませんので」

「不器用ね。貴女も」

そう告げて零は窓の外に見入る。なんてことはない日常がそこにはあった。
だが、その日常は自分たちのものではない。他人の日常だ。
そう、何としても彼女達は元の世界に帰らなくてはならない。その為には……

「ゼロワン?任務遂行にあたって…だけど。絶対に死なないでね」

その言葉に意味があるのかは分らない。なぜなら機械であるゼロワンには死という概念がないから。
それでも、零は言っておきたかった。言わねばならないと思った。

「お嬢様」

「何かしら?」

114 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/01(木) 00:37:39 0
「いえ……到着しました。今、ドアをお開け致します」

「そう、でもね……」

そう言うと都村はドアを開けるべく自ら先に降りようとする。
しかし、零はそれに先んじて言葉を発すると高貴な振る舞いとは程遠い暴挙に出る。

「不要よ。自らの進む道は自らがが決める」

そう言って零は自ら、車のドアを開ける。
そして、真っ直ぐと今回の「仕事場」をねめつけた。

「私の進む道に足跡は無い。なぜならば、私は誰よりも早く明日を見に行く者だから」

奇妙な宣言。そして効果音が出てきてもおかしくないような仕草で車内のゼロワンに手を差し出した。

その姿は『お嬢様』らしからぬもの。だが、そんな振る舞いも服装がそれをカバーしてくれたようだ。
そこかしこから聞こえる声。それは全て零に対するもの。無理もない。誰であろうとも見返すであろう。
白地に金糸で編まれ、更には赤く染められたシルクの糸で猪と朱雀が刺繍されたものを着た美女。
それが孔雀の羽根で装飾された扇子を片手に奇妙な振る舞いを見せているのだ。
その姿は豪華絢爛と言うべきもの。余程目立つのであろう。正面ゲートの警備員までもが視線を向けている。

「参りましょう?ハジメさん」

さぁ、賽は投げられた。後は目がどう出るかだけ。
そう思い目を閉じると車から降りてくるゼロワンの手をとった。

【現在時刻 10:48 開店したBKビルの正面ゲート前】

115 名前:シエル=シーフィールド ◆z3LBhHM1sM [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 00:30:22 0


瞼の向こうに、鋭い光を感じた。
淀んだ意識が急激に白へと覚醒する。

「……うぅ…」

重くなった瞼を擦りながら上半身を起こす。
と、同時にぱさり、と何かが額から落ちたのを感じた。

「…これは」

少し生温くなった、白い生地。
すぐ傍には水が張った盥があった。

「そうか、私倒れて」

恐らく琳樹と久和が運んでくれたのであろう。
その後の看病もその様子から見て取れる。
随分と苦労をかけてしまったようだ。介抱を受けたならば騎士としては礼を言わなければならない。
しかし、その二人の姿が先程からどこにも見当たらないのだ。

「……どこいったんだろ」

恐らくはちょっとした探索だろうが、やはり一人きりというのは心の不安を冗長させるものだ。
孤独に耐えきれずにシエルはドームの外へと飛び出した。


116 名前:シエル=シーフィールド ◆z3LBhHM1sM [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 00:31:04 0
「…ぅぇ…」

その瞬間に感じた、吐き気のするほどの『それ』。

「なにこれ…?」

空気中に不安定な濃度でふわふわと『それ』は漂っている。
目視はできないが、確かにそこにはあった。

そして『それ』はそこにある濃度こそ違えど、シエルにとってとても馴染みのあるモノだった。

「……魔力…」

シエルの世界では、確かに魔力と呼んでいたものがそこに漂っていたのだ。
それも、尋常ではない濃度で。不安定な様相を呈しながら。

「まさか…どうして」

ここはシエルのいた世界ではない。
琳樹や久和を見る限りでは他世界には魔法という概念、又は理論はないのだろう。
この世界にはそれがあった、ということだろうか。
確かに、昨日殺した男たちは魔法のようなものを使っていた。しかし魔法ではない。
彼らはそれを『文明』と呼んでいた。

『文明』

シエルの憶測では“所持するだけで奇跡を起こせるモノ”である。
つまりこの世界には魔力の篭った物体が無数に存在しており、それを構成するための魔力がそこに漂っている…ということだろうか。
だが、魔力はヒトの生命力の根源だ。少なくともシエルの世界では、だが。
そのヒトの生命力が何故こんなにも溢れているのだろうか。

117 名前:シエル=シーフィールド ◆z3LBhHM1sM [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 00:31:53 0
「……」

どうやら元の世界に戻るための鍵にもなりそうだ。

「…あの建物」

考察を一旦やめると同時に、シエルの感覚が強大な魔力を受容した。
砦の様にそびえる巨大な建造物群。その中心に建つ、一際巨大なそれ。

「行ってみよう」

「……っと」

歩を進めようとして思わず突っかかる。
琳樹と久和の捜索を忘れていた。

「あぁー…どうしよ…」

正直、調査には早く行きたい。
が、まだ二人に礼を言っていない。

「うぅ…仕方ない…」

溜息を吐き、クレイモアの切先をドームの壁にあてる。

「えーと…」

少し間を置いて、切先をつけたままクレイモアを細かに動かす。
その行為はドームにつく傷となって残った。

「よし」

118 名前:シエル=シーフィールド ◆z3LBhHM1sM [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 00:32:35 0
その傷は、とある文章を人に認識させるように見える。

『あそこのおっきいアレに行ってきます シエル』

その文章を書き終えたシエルは一路、歩みを街の中心部へ向ける。
目指すは、巨大な建造物……BKビル。全てが交差する、運命の場所。

【文明と魔法の繋がりを調査するため、BKビルへ】
【シエル は 卑猥な書き置き を 残した !】

119 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 02:24:32 0

  [こちらオープンカフェレストラン"マルアーク"期間限定特別営業中!]


『さ、お仕事頑張りますよ!』【>>101

メニューボードから目線を外すと、謎のアイコンタクトを当然の様に要求されていた。
出会って一晩過ごしただけのインスタント・バディにとっては高難度のマニューバだ。

  "まずは何をしましょうか!"

―――と解読するのが妥当だろうが……こちらとしては、どう応答したモノか。
このまま店に置いて行ったんじゃ、何をしでかされるか分かったもんじゃない。

  "ついて来い"

こういった場合、情報伝達に齟齬が発生する可能性を考慮して複数の手段を講じるべきだ。
今回のケースでは、副次的に物理作用を伴う類のボディランゲージの併用がそれに当たる。
仕方無く腕をとったが、制服の襟元さえ型崩れしなければ首根っこを掴んでやりたい所だ。


『あれ?』

「給仕の真似事がしたいなら、厄介事が片付いた後にでも付き合ってやるさ。約束する」


  誰かが開け放ったドアで、ウィンドチャイムが涼しげな音色を奏でる。


『あれれ?』

「だが今のお前には、お前にしか出来ない、お前になら出来るコトがある……違うか?」


  差し込んだ春の陽光が、教会の様に薄暗い店舗の内装を浮き上がらせた。


『あれ!?』

「俺がお前の手を引くのは此処までだ。これから先は自分で答えを出して、自分で歩け」


  流れ込んだ五月の風が運ぶのは、背を向けたままで立ち止まった給仕の声。


『…………あ』

「なんちゃって修道女……いや、シスター・ツユリ――――」


  この世界に呼び寄せられた彷徨える羊達が集う円卓を指し示し、代行者は言った。



「――――ついて来れるか」



120 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 02:25:21 0

『……あの、追いかけないんですか?』【>>93

「その鉄くさいタクトの指示は、御覧の通りのアンダンテだ。
 初見の譜面には違いないが、そう置き去りにはならないさ」

立ち塞がった少年の笑顔が意味する所を、残念ながら俺は知っていた。
男から向けられた経験は数える程しかないが……"おねだり"の表情だ。

「―――圧し折られたいのか?」

何を、とまでは口にしない。

『病み上がりなので』

「何時までも俺の肩越しの景色じゃ、この世界の本当の面白さは見えないぜ。
 そろそろ自分の足で歩いてみるってのも悪く――」『――ってええええ!?』【>>103

自分らしくもない他人への干渉と感傷を等分に含んだ軽口は、なんちゃって修道女に遮られた。
正気に返った俺は、お送りする内容を挑発半分、面白半分に急遽変更して八つ当たりを始める。

「……おい、クレイジーボーイ! 一度この曖昧王子の体調を完全に"治して"くれないか?
 流石の俺でも、病み上がりにレッドフラクションをキかせてやるなんざ後味が悪いからな」

―――そして"市街妖怪ピギーバッカー"の都市伝説は給仕の呪詛を憑代にして現界する。
御使いの十字架を負ったその背では、一対の昏き聖痕が人知れず弔鐘の如く慟哭していた。

121 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 02:28:00 0

――――公園の路地から目抜き通りに出ると、見知ったビルの前に"彼女"は居た。
"浮世離れしたサングラスの少女"――六番テーブルの時と服装は違うが――ヒットか?

『おー、立派なお城だね』【>>47

駆け寄って直ぐに判った。別人だ。
声が違う。年恰好が違う。身体の厚みが違う。
何より決定的に違っているのは―――仄かな石鹸の香り。

「お城、か……そいつは言い得て妙だな。
 今夜は、主賓に流れ星の姫君を招いての舞踏会ってわけだ。
 黒服の門番を黙らせる為の招待状は持ってるのか? 見習い水兵――」

『……お宝の匂いがするよー』

「――いや、海賊の類か。
 随分と鼻が利くみたいだな。
 近くで野良犬の臭いがしたら教えてくれ」
 
先程から妙な独り言を呟いている少女は、一見掴み所が無さそうだ。
後ろから吐き掛けられている戯言の存在を認識しているかどうかすら怪しい。
俺は、目も話も合わせないまま隣に佇んで高層建築を仰ぎ見た。煙草に火を点ける。

『今度こそいいものあるよね?』

実際の所、彼女が何を思ってビルを見上げて居るのか、俺には全く解らなかった。
だが、こいつがロクでもない連中がロクでもない用途に使ってる箱なのは確かだ。
故に、ソレがロクでもない内容であるコトはおそらく間違いない。さらに言えば―――

「……俺の探してる"お宝"を見つけてくれたら、
 この街で一番美味いパフェを奢ってやってもいい」

―――"ロクデナシ同士は引かれ合う" こいつはアンニュイかつメランコリックな法則だ。
部屋のアタッシュケースの中身と荒海の関西訛りが同時に思い出されて鬱陶しい。
溜息に逆行して立ち昇った紫煙が熱線反射ガラスの眩い光の中に掻き消えた。

122 名前:ゼルタ=ベルウッド ◆8hdEtYmE/I [sage] 投稿日:2010/04/03(土) 02:03:28 0
ボーっと高層建築を見上げていたゼルタに、不意に声をかける人物がいた。

>「……俺の探してる"お宝"を見つけてくれたら、
> この街で一番美味いパフェを奢ってやってもいい」

「本当っ!?」

主に「お宝」という一語に反応し、ゼルタは振り返る。声をかけたのは煙草の似合う渋い青年だった。
年齢以上に多くのことを経験してきたような落ち着いた雰囲気を醸し出している。
……外見以上に精神の幼いゼルタとはまるで正反対、というのは置いておこう。

「ご褒美くれるならなんでも頑張る……よ?」

満面の笑顔で振り向いたゼルタはそのまま硬直する。
理由は青年の肩越しに見えた二人の男だ。
昨晩、着替えを取りに入った家でばったり遭ってしまった二人組だった。

「あははは……きゅ、急な用事を思いついたから!」

そう言うが早いかゼルタはその場で180度方向転換し、車の行き交う道路へと躊飛び出した。
停留所に入ろうとしたバスに轢かれそうになるも間一髪でその目の前を通過、一直線に走り抜けて無理矢理渡り切ってしまった。

「おー、怖い怖い」

怖がっているというよりも、楽しんでいるような口調で呟く。
ゼルタはそのままBKビルの入り口ゲートをくぐり、建物の中へと走り去っていった。


123 名前:ゼルタ=ベルウッド ◆8hdEtYmE/I [sage] 投稿日:2010/04/03(土) 02:06:04 0



「えへへー。よりどりみどりだぁ」

BKビル、4階商業エリアの一角。ビル内部へと逃げ込んだ盗賊少女は装飾品フロアを闊歩していた。
金銀宝石で彩られた高価な装飾品があちこちの部屋に飾られており、彼女にはまさに宝の山と言えた。

「それにしても、あのお兄さんとまた遭うなんてな……」

「お嬢ちゃん、迷子か?」

唐突にゼルタに声をかけてきた人物がいた。
声のしたほうを振り向くと、揃いのスーツを着たサングラスの男が二人立っていた。

「ここはお嬢ちゃんみたいな子供が来るような場所じゃないんだ。お兄さんと外に行こうか」

「待て、怪しい奴は全員拘束しろと言われているだろう。子供好きも大概にしておけ」

やさしく声をかける一人に対し、もう一人は冷たく言い放つ。

「さあ、来るんだ」

ゼルタの腕を掴もうと、男が手を伸ばしかけた瞬間。

「やーだ」

ゼルタは舌を出してそれを拒絶、男たちと反対の方向へ脱兎のごとく走り出した。

「な、待て!」

「くそ、逃がすな!」

ヤクザと盗賊少女との危険な鬼ごっこが始まった。

【ゼルタ:BKビルへ侵入。商品を手当たり次第に盗りながらビル内を縦横無尽に逃げ回る】
【商業エリア内でヤクザとの遭遇率が上昇するかも】

124 名前:ゼルタ=ベルウッド ◆8hdEtYmE/I [sage] 投稿日:2010/04/03(土) 02:13:04 0
【追記:尾張証明とは接近するも、気付かなかった模様】

125 名前:竹内 萌芽(4) ◇6ZgdRxmC/6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 03:22:38 0
意識を祇越の背中にもどすと、先ほど、鎧チビのいる団体を確認した公園の近くに来ていた。
この調子だと、自分がちょっかいを出すまでもなく、彼らとは接触することになるかもしれない。
そう思った萌芽は、次に目をつけたのは、とある団体。

今朝確認したところでは、なんだかとても個性的なメンツが、これでもかとそろっているその団体の位置を、
萌芽は世界と自分の境界を”あやふや”にして確認する。

(あー、なんだかずいぶんバラけちゃってます……かね?)

なぜだか知らないが調度いい具合に、自分たちが今から向かおうとしている場所の近くにいる彼ら。
まあ都合がいいといえばそうなのだが、面白いもの好きの萌芽としては彼ら全員と関わっておきたかったのでそれができないことがわかり、肩を落とす。

(うーん……じゃあ誰にちょっかいかけましょうかねえ……)

あやふやにした世界の中で、彼が全員の姿を見まわすと、二人ほど昨日とずいぶん格好の違っている人たちがいた。

(じゃ、この人たちにしましょうか)

126 名前:萌芽 ◇6ZgdRxmC/6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 03:25:38 0
【接触2:佐伯零】

彼女の前の空間と自分のイメージを”あやふや”にし、目を開くとそこにはチャイナドレス姿の女性がいた。
昨日も思ったことだが、この人のファッションセンスは……なんというかとても独特だ。

「おはようございます、竹内萌芽です。”竹内なにがし”じゃなくて”もるが”なのでちゃんと覚えてくださいね?」

さっきの失礼なおっさんのこともあるので、念を押して萌芽がいうと同時に、女性の顔がこちらに向く。

「……お、え……はい?」

女性の顔を見て、萌芽は初めて自分が彼女のその独特のファッションに気を取られ、まともに顔を見ていなかったことを認識させられた。

頬を伝うのは、汗。
これはおそらく本体のものだが、あまりに突然のできごとに萌芽は彼女の前にあるイメージを一瞬、夢で見た子ども時代の自分と混線させてしまった。

「ツ……な、なんでここに?」

うれしさと驚きと戸惑いが混じりあったような、そんな感情の渦の中で萌芽は訊ねる。
あらためて見た女性の顔、いや、実際顔そのものはあまり”似て”はいない。

しかし、なんというかその少女のまとう、雰囲気のようなものを萌芽は知っている気がした。

―――彼女が纏っている雰囲気は、かつて”彼”と仲の良かった幼馴染のそれにあまりに似すぎていた。

127 名前:萌芽 ◇6ZgdRxmC/6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 03:26:27 0
戸惑うような、訝しげな表情の彼女。

ひょっとして”似ている”だけの別人なのか?
そう思った萌芽は、一言「失礼」と言ってとりあえず彼女に今自分たちが、ここにとらわれている女性を助けようとしていることを伝えることにする。

「とりあえず、僕は皆さんがここにいることがわかっていたので、
 共同戦線を張るならいい仲人役になれるんじゃないかな、と思ったわけです」

あからさまに信用されていない様子だったので、萌芽はそう言い訳する。
どうやら昨日の嘘はあっさりとバレていたらしい。
ブラフとか難しい言葉を使われたが、とりあえず嘘吐きと認識されたということだろう。

そして当然訊ねられるのは、自分の後ろにいる人のこと。

「あー、『あの人』のことですか? 実は僕よく知らないんですよね
 なんか僕のペットの話だと考古学者やってるみたいですけど」

”だーれがペットだこのやろー!!”

ペット呼ばわりされたストレンジベントがなにか叫んでいるが、とりあえず無視。
あと思い出されるのは、昨日自分に蹴りを見舞った少女のこと。

「あとすごく強い娘さんがいます、ひどいんですよー、僕なんて昨日胸の骨を折られちゃいましたから」

128 名前:萌芽 ◇6ZgdRxmC/6[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 03:27:26 0
けらけらと笑いながら、そんなことを言っていたとき、ふと目に付いたのは彼女のポケットから出ている携帯電話の姿。

そういえば自分もさっき、あの失礼なおっさんから携帯らしきものをもらっていた。

「じゃ、とりあえず僕たちの代表の、ロリコンのおっさんの番号を教えておきますね
 僕の番号じゃちょっと安心できないでしょうし」

「気が向いたらかけてやって下さい」と笑って、萌芽はロリコンおやじ(仮)の携帯番号を彼女に教えておく。
ちなみに少し本体の目線に戻して電話帳を開き確認したところ、あのおっさんはタチバナというらしいが
巨大面白幼女にのってるおっさんなんて、ロリコンに違いないのだから心の中の呼び名はロリコンおやじで十分だろう。

「安心してください、ロリコンで変態でダメ人間ですけど実力は確かですから。……たぶん」

なにやら不安そうな彼女にそう伝え、萌芽は空間とあやふやにしていた自分のイメージを”はっきり別々に”した。

「と、思い出した」

ふと彼は再び彼女の前に姿を現す。

「あなたのお名前、教えてもらってもいいですか?」

接触2:終わり
【タチバナの連絡先を佐伯に教えておく】


129 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/04/03(土) 07:11:46 0
「唐突に前回までのあらすじ。カフェマルアークにて決起集会を行った『休日に鉄パイプを追いかける会』略してQ.E.D.(Qjitu Escape Drift)
の面々は、会員No.3珍妙君の異能によって自走するパイプを追いかけるべく集団行動を取っていた。ジャストフォーアゲイン。
会長は言うまでもなくこの僕タチバナ、後に続くはウェイター君、珍妙君とその随伴者、シスター君に竹内某改めモル山モル太郎君でお送りします」

『おつかれ』

「知らぬ間に登録された謎のTEL番。今さらながらTELが死語であることに気付き急流が如き時風に慄きながらも脳裏を過ぎったのは、
 逆説的帰結により自らの携番も広く流布されているのではないかという可能性。次回、『恐るべき情報社会・個人情報流出の罠』の巻」

『だれがとくするんだよここまでの9ぎょうで』

「いやはや、どうしても言っておかなきゃいけない気がしてね。所詮は僕らも立てられた波に翻弄される水槽の魚でしかないのさ」

『……ちゅうしょうてきなこといってけむにまこうとしてる?』

「純然たる俯瞰的事実にして客観的史実だよ。ネットに書いてあったから間違いない」

さて、浮遊するパイプを雛鳥のごとく追随する『休鉄会』。彼らは現状二つの問題に行き当たっていた。
一つは人数不足のうえ顧問が存在しない為同好会の域を出ず、学校からの資金援助を享受できないという点。
もう一つは、『休日に揃い揃って浮遊する鉄パイプの後をぞろぞろと尾行する』という行為自体が社会一般の理解を得られないということ。
とりわけ後者が彼らQ.E.Dにもたらすのは、特異の眼差しと好奇の視線、善良なる市民の義務としての通報である。

「いやはや、視線が痛し痒しだね。だが負けるな部員達。いつの時代も先達者達は奇異の目で見られ、背後から石を投げられてきた。
 だが主は言ったろう、『左の頬を殴られたら右の頬に内蔵した特殊携行型荷電粒子砲で焼き払ってやるわフハハハハ』と」

しかしながら、スーツに幼女にアフロに給仕に修道女に物質量単位(mol)。コミューン内でのバリエーションでならどこにも負けないだろう。
これだけ濃いメンツが揃えば魔王を倒すことも事業を起こすこともメインヒロインが消失した世界を部室から取り戻すことも不可能ではない。

「と、いささか脱線が過ぎたね。そんなわけで中間チェックポイントの公園に到着だ。各員水分の補給は忘れぬように」

街にあって猫の額ほどの大きさの児童公園。ふと園内の端に視線を遣ると、公園の一角を不法に占拠した建造物が。
新機軸のホームレスか、それに順ずる放蕩者であることは容易に伺える。
途中でセーラー服を来た朧げな何者かとランダムエンカウントしたりしたが、特筆すべきイベントは起こらず割愛する。

パイプがその歩みを停止したのは、街の中心を貫くようにそびえる巨大な高層ビルだった。
看板に表示された店名の連なりを見るに、上流階級を相手にした雑居ボルといった風合い。少なくとも休鉄会の宿営地にはなり得ない場所。

「ふむ、この摩天楼にミーティオ君が囚われているということかな。さしものダウジングパイプも標高までは探しあぐねているようだ」

ざっと見で二十数階までありそうな高さである。正確な位置が分かれば飛行して外から参じることも可能なのだが。
となれば、直接ビーティオが辿った道筋でビルを登るほかないのかもしれない。

「つまりは正面突破ということになるね。総員戦闘準備と覚悟は十全かな?これより先は敵の胃袋、いつ咀嚼されるやも知れぬ伏魔殿。
 場合によっては一歩足を踏み入れた途端に強制エンカウントという可能性も大いに考えられる」

びしりとスーツの袖を張って、同行者達へと振り向いた。

「『休鉄会』の会則その一、汝如何なるときもその歩みを止めるなかれ、命在って到達するべし。口語訳するなら、『生きて辿り着け』。
 僕は、僕らは来る者は拒まないけど去る者は全力で追うよ。だからみんな、隣人を死なせたくなかったら極力死なないことだね」

再び踵を返し、『BKビル』の西側通用口に手をかける。迷わず、退かず、躊躇わず、一気に押し開ける。
吹き込んだビル風と共に、弾かれたように走り出す。

「総員、突入――!」

号砲を挙げながら突入の第一歩を踏み出し、

カチリ、と。

踏み込んだ瞬間に側頭部へ銃口が突きつけられた。

130 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/04/03(土) 08:07:34 0
「……あんだァ?お前ら。外でごちゃごちゃ騒がしいと思ったら、いきなり入ってきやがって。
 こっから先は金持ち専用ショッピングモールなんですがねェ、お金持ってたらすんません」

柄シャツに身を包んだチンピラ風の男が、サブマシンガンをタチバナへと向けて立っていた。
丁度、通用口の影に立っていた形になる。

(表の看板には十階までは一般開放の商業テラスだったはずだけど、何故こんなところにまで武装した警備がいる?)

アクセルアクセスは顕現を解いている。所持している文明も、こうも選択肢が限定された状況では使いようがない。
同行者達に頼ればこの場はどうにか突破できるだろうが、できればこんな段階で事を荒立てたくはなかった。

「……失礼。我々は『休鉄会』からの使節派遣です。ええ、新しいビジネスを起こしまして、こちらの組長さんに営業許可と場所代を納めに」

同行者達を掌で制し、適当に口から出任せを垂れ流す。この手の口八丁は『調律官』であった頃にもよく多様した。
その為の予備知識として裏稼業についてもある程度の造詣はある。いつもの能面顔とは売って変わった営業スマイルを貼り付ける。

「旧轍会?聞いたことねェなァ。それにお前らのその格好、仮装行列にしか見えねーが。パレードん中でヤクでも売るんか」

「『多角掌握』の一環ですよ。色んな職に紛れ込んで下地を作って、いくつもルートを用意しておくんです。
 流すブツは『ヒヤモノ』でも『ナマリ』でも良い。我々のビジネスはその裏ルート自体のレンタル料、ですから試供ということで各方面の売人をここに」

「はァん。よく見たらまだ中坊みてえなガキも居るじゃねえか。悪どいねェ、俺らが言えたこっちゃねェけどな。ひっひ」

「ええ、子供は掌握しやすいですよ。『お小遣い』を与えれば善悪のべつまくなしに働いてくれますからね。仮に割れてももこっちまで塁は及びませんし」

「そのうちエンコーか風呂でも回してくれや。女ってのはナマモンだからな。若けりゃ若いほど価値が出る。ほれ、ちょっと遊んでいかんかお嬢ちゃん」

「ははは、勘弁してくださいよ。大事な商品、うちのエースですからね。最近の中学校は荒れてますから、売れる売れる」

「やーな世の中だ、ひひひッ。んじゃちょっと待ってろや、迎え呼ぶから」

お願いします、と声色まで変えた会話は終了した。見張りの印象は好感触、これならあちらから案内されて組長の元まで辿り着けそうである。
武装の質や見張りの錬度、そして不自然な警備から述べるにミーティオを拉致した連中とこの暴力団は極めてイコールに近いだろう。
ならば、上手く状況を運用してそちらの首魁を確保すれば、数の上では不利でも交渉次第で有利に進められそうではある。

(全てはここから――)

見張りのヤクザが携帯電話で迎えを呼び、傍の停止中と書かれたエレベーターに光が灯る。
これで良い。ここを上手く切り抜ければ、敵の懐まで牙を届かせることができる。犠牲を払わずミーティオを救出できる。

「――あァ、オジキんトコ通す前に身体検査だけさせてくれや。なに、この『禁属探知(エネミースキャン)』を透かして見るだけ、
 武装の有る無しと持ってる文明の危険度が分かる優れモンだ。3秒で終わる。――もちろん、面通しすんのに武装なんか持ってきてねえよなァ?」

虫眼鏡型の文明を懐から取り出したヤクザが、タチバナの所持品を改めんと迫る。
背中がじんわりと濡れて行くのが分かった。表情にはおくびにも出さずとも、タチバナにとって死刑宣告と言える提案。

(しまったな。妙な貧乏性を出さずカフェに置いてくればよかった)

『逸撃必殺(ブレイクショット)』。文明の宿った拳銃を、彼は所持していた。
適性不足で使用できないにしても、それを懐に忍ばせていることはまさしく害意の証明に他ならない。
ゆっくりと掲げられる虫眼鏡の煌めきが、命を断ち切る刃とその表情を同じにした。

【BKビル突入直後に見張りのヤクザと遭遇。上手く取り入るも、身体検査で拳銃がバレそうになりピンチ】

131 名前:兔 ◇Ui8SfUmIUc[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 11:02:28 0
初めはぼんやりとした覚醒
やがていつものように、毛虫が這うような速度で少しずつ、少しずつ知覚できる範囲が広がり、脳味噌をミキサ
ーにかけたくなるほどの情報過多になるまで約十一分五十三秒

私は恐怖を感じていた

後ろから着いてくる少年と少女、異世界とわかったからか、尾張は尾行を注意しなくなっていた。何より、それ
をありがたく思う。気付いてほしくない、あの少女に。月崎真雪に。
嘘を見抜く能力。
少年は異世界人だ、なんとしてでも捕まえておかなければ、けれどそれ以上にあの少女に自分の声を聞かれたく
ない。それと同時に、聞いて欲しいとも願う。真実が知りたいとも。矛盾した考え、混在する思考だ。
解らないのだ、自分自身が何を考えているのか。いつも他人の意向に沿い、気に入られるようにしてきた。半ば
自動的に、無意識に。存在する筈だった“己のキャラクター”を失い、代わりに基地外じみた能力を得た。
他に誰にも知ることのできない複雑系の先に触れ、蝶々の起てた羽風の行く末を知ることのできる……けれど私
にあるのは目的だけだ。意志はない、目的だけ。

この文明を埋め込んでから、あるいは埋め込まれてから、私は自分が嘘をついているかどうかすら解らないのだ
から。


132 名前:尾張証明 ◇Ui8SfUmIUc[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 11:03:41 0
見失ってしまった。衝撃を受ける。俺はここまで鈍っていたのか、歳を取ったのかと。
兎を起こすのに手間取ったことが原因の一つとはいえ、全くの素人に出し抜かれるなんて。

(いや)

素人、と決めつけるのは余りにも浅慮かもしれない。自分と同じ、異世界人と言う可能性もある。娘としか思え
ない容姿だったが、最早どんなあり得ないことがあっても驚くまい。

『調子は戻ったか?』

頭を押さえて、辛そうにしている兎にそう書いたメモを見せる。兎は黙ったまま首を横に振った。まだしばらく
は当てにできそうにない。何とかして捕まえて話を聞きたかったが……

(優先すべきことは別にあるか)

『起こして悪かった』

焦ってしまった。結果的に、兎の回復を遅らせたことを謝る。作戦に支障を来すほどではないが、ミスはミスだ。

「……いいですよ、別に」

普段の調子外れな明るさはどこへやら、兎は暗く沈んだ声でぼそぼそと言った。

「貴方の娘と同じ顔の人ですか……残念ですけどその情報からでは検索できませんね。……ところでまだ時間は
ありますし、服でも見ていきましょうか……怪しまれないように」

暗い表情のまま、どこか怯えるように、逃げるように歩き出そうとした兎。と、唐突に何かに気付いたように、
兎は険しい顔で目を閉じた。

「なんでこんなに沢山……いや、なるほど。流石にわざわざ異世界から召喚されるだけのことはありますね」

お姫様を助けに来るなんてまるでおとぎ話の英雄です。苦しそうなまま、兎は笑った。話についていけない俺は、
ただメモ帳を手持ち無沙汰に遊ばせるしかない。

「好機です……突入しましょう、犬狼さん」

目を開いた兎が業務用の非常階段がある方を指差した。エレベーターとは違い、完全に上の階まで直通だからだ
ろう。二人の、サングラスを掛けたスーツ姿の男達が警備の為に立っていた。

(しかしまだ体調が……)

俺がそう書き込もうとした瞬間。

>>123「な、待て!」

「くそ、逃がすな!」

フロアの何処かで起こったらしい騒ぎに気付き、警備の二人が、事実を確認しにほんの数歩持ち場を離れた。そ
の僅かな時間を狙って、兎は俺の手を引いて非常階段に向けて走り出した。

【兎:鉢合わせを避けるためにエレベーターを使わず非常階段でヘリポートを目指す。ゼルタには気付いている
が、一気に他の異世界人を捕らえることができると踏んで屋上のミーティオを優先する】




133 名前:シエル=シーフィールド ◇z3LBhHM1sM[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20:53:53 0
目的地へは、案外時間を掛けずに到着することが出来た。
道中この世界の一般人に好奇の視線を向け続けられたのは無論言うまでもないが。

建造物の入口正面でシエルは一旦それを見上げてみた。

「うひゃ〜……」

改めてその建物の巨大さに圧倒される。
遥か天空まで伸びる硬質の塔。どうやらシエルの世界には存在しない材質と建築法のようだった。
その入口付近にあるプレートには、BKビル、と刻んである。

さてそれだけ見るのならばまだ至って普通の巨大建造物だっただろう。
だが、明らかに普通ではない要素が入口にさえある。
恐らく警備を任されているのであろう二人の男達。彼等である。

漂わせている空気が尋常ではない殺気を帯びているのだ。
シエルの経験から言わせれば、この空気は正しく殺す人間の『それ』そのものだった。

「……これは…」

厄介な事になった、とシエルは苦笑する。
恐らく、ただ無防備にそこに入ろうとすれば必ずたたき出されるだろう。
無理に侵入しようとすれば…まず戦闘は避けられない。
昨日の事もある。
出来るだけ無用な戦闘は避けておきたかった。

「……おい、そこの変なカッコしたガキ」

どうしたものか、と思案しているとその姿を不審に思ったのであろう片方の男がシエルに声を掛けてきた。


134 名前:シエル=シーフィールド ◇z3LBhHM1sM[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20:55:11 0
「え……私…ですか?」
「おまえ以外に誰がいンだよ……んで、ここに何か用でもあンのか?」

厄介事が、更に厄介と相成った。これはマズイ。非常にマズイ。所謂大ピンチ、である。
そのピンチに際して咄嗟に口頭をついて出た言葉は、シエルも驚くほど幼稚なものだった。

「お…お父さん、に会いにきま…した」

ぎこちない口調は明らかにシエルの動揺を対面に表現している。
いくらシエルの容姿が子供にしか見えないとはいえ、鎧を着込んで大剣を背負った娘など。ただの変人にしか映らない。

「親父さん…?何だ?どっかの組員の娘か?」

と、思ったが意外と人というのは騙されやすいようだ。
これは嘘をつき通した方がいいかもしれない。

「そ、そうなんですッ!お父さんに会いたくて…それで…」

演技は得意では無い方だったが…土壇場では案外どうとでもできるものだ。
シエル本人が驚くほどに『父親を慕う少女』の演技は順調だった。

「そうか…随分変わった趣味の親父さんみてェだが…おい、どうするよ?」

男はもう片方に聞く。

「ま…いいんじゃねェか?コスプレしたガキ一人何が出来るわけでもねェだろ」
「それもそうか…よし、通りな」

聞かれた男は至ってメンドクサイといった面持ちで答えた。
さて、事はここまで順調に運ばれた。まさに誰かがそこに手招きしているかのように。
だが、男の取り出した虫眼鏡。それ一つでシエルは再びピンチと相成る。

135 名前:シエル=シーフィールド ◇z3LBhHM1sM[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20:56:31 0
「っと、その前にちょいとこいつで検査させてくれよ。規則なンでな」

魔力。それの宿った虫眼鏡は、恐らく『文明』であろう。
宿る魔力の質と検査の言葉から察するに危険を察知する為のアイテムなのは間違いない。
何に対して反応を示すのかは不明だが…。この世界でも武器となり得る、魔力の塊とも言えるシエルそのものには十割十分反応するだろう。

「いやなに、怯えることはねェよ。『禁属探知―エネミースキャン―』っつう探知機みてェなもンだ。すぐ終わるぜ」

冷や汗がダラリと全身を気味悪く伝い落ちている。この量、後で着替えなければ風を引く。
脳の片隅でそんな事を考えている間にその虫眼鏡はシエルの体を捉えた。

「ン…?こりゃ…うお!?」

男が一瞬疑問符を浮かべたと同時に、持っていた虫眼鏡がボン、と派手に音を立てて破裂する。
二人の男は一瞬唖然とした後、懐の武装に手を掛けつつシエルを睨みつけた。

「…コレが爆発するほどすんげェもン持ってるっつーのは、どういう事だろォなァ?」

今までの演技は何だったのだろうか。
その全てが水泡に帰し、男たちの敵意がまだか弱い少女気分のその実魔法騎士へと向けられる。

「これまで…か…」

即座に背中のクレイモアへと手をかける。
それに男達が反応するより早く、分厚い刀身を振り回した一撃が炸裂した。
鈍い金属音がそこに響き、一人の男が人形のようにその場に崩れ落ちる。

「このガキ…!」

片方の男が懐から得物を取り出す。
タタタタ、と渇いた破裂音と共にシエルの頬を数発の鉛玉が掠める。


136 名前:シエル=シーフィールド ◇z3LBhHM1sM[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20:58:43 0
「……な…」

シエルにとって、それは衝撃的だった。
見たことのない速度で放たれる『銃弾―バレット―』の雨。
それは魔法等で再現されたものではない。
この世界の技術が成せる、魔法の代替である。

「なんですかそれーーー!?」

そして、シエルの目を輝かす宝でもある。

「うわーー!ください!それェ!」

正しく少女がおもちゃを見るように目を輝かせながら、銃弾をかわしつつ鋼のハンマーを男の側頭部にぶん回す。

「おぶ!……」

男がその衝撃で数メートルは吹っ飛ぶ。
斬りはしなかった。が、それでも重さ数十キロの鉄塊がものすごい勢いで激突したのだ。無事で済むわけがないだろう。
だが、シエルにはその殆ど半死の男は全く眼中になかった。
男が取り落としたモノに完全に心を奪われてしまっている。

「スゴイ…ナニコレ…」

取り敢えずカチャカチャと弄繰り回してみる。
それだけで未知のモノも案外その仕組を理解できるものだ。


137 名前:シエル=シーフィールド ◇z3LBhHM1sM[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 20:59:32 0
「なる…ほど…銃の一種…」

シエルの言う銃とは魔法によって発生させる技能の一種である。
そして、これはその技能と仕組み自体は似通っていた。
金属で形成された弾頭を、爆発によって発生するガスのエネルギーで対象へ発射する。
ただ、その仕組が圧倒的に複雑だった。
シエルの場合、魔法で発生させるエネルギーをコレは弾頭に仕込んだ発火性を持つ物質で代替し、
発射装置自体がその弾頭の底を高速で打ち付けることによって発火させる。
それによって魔法では再現不能な超高速の発射を可能としているのだ。
見れば見るほど、それは興味深く、面白い。

「……ここを」

そして、その興味は魔法使いとしての創造意欲を刺激する。

「こうして……」

魔力と、持続性を持つ魔法によって徐々にそれは本来の性能とは掛け離れたものになっていく。
発射装置…銃身自体は物質操作によってより頑強であり精密に。
弾頭は連鎖発火式の火炎魔法を付与し、より高威力に。
もう一人の男からも弾頭と銃身――後に明らかになったがどうやらMP5というモノらしい――を入手し、同様の改造を施す。

かくして二丁の現代武装を入手した魔法騎士は晴れて魔法銃騎士へとジョブチェンジしたのである。


138 名前:シエル=シーフィールド ◇z3LBhHM1sM[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 21:00:46 0
そして新武装を手に入れたシエルは、いよいよBKビル内部へと足を踏み入れる。
同時に視界に飛び込んだのは。

「あんまりはしゃぎ過ぎない事だな…嬢ちゃん」

黒服に身を包んだ男たちの、一人では覆せぬ圧倒的な包囲網だった。
一旦引いていた冷や汗が、ぶり返すように体中を伝う。

「殺さない様に言われてるんでな…来てもらおうか」

【門番フルボッコ後他PLとは別口よりBKビル侵入。即捕獲される】
【シエル は 魔法騎士 から 魔法銃騎士 に なった!】



139 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/04/04(日) 03:26:16 0
「潜入完了……今の所は異常はなし…」

英霊空挺団の幽霊ゼロ戦に乗って上空から降下、
神冥滅甲を纏い霊的隠蔽形態を発動させたまま屋上に着地し
屋上にいたヤクザ達に気づかれる事無くビル内部に侵入していた。

「群青、そっちの方はどうだ?」

神冥滅甲の思念送信能力を利用し、先に内部に入り込んだ英霊達の行動を確認する。

「予想されるお嬢さん方の逃走ルートには援護の用の煙幕の設置、
 あとは援護の狙撃の英霊の配置とかく乱・ヤクザ共用の爆弾の設置、
 三階の広いショーエリアの細工も完了しやしたどうぞ」

英霊の工作部隊はメモに指定しておいた量の爆弾を設置させ、ビル内部の構造を
記録し、佐白達のもしもの時の逃走ルート及び行動を起こした際の援護できる位置を
詳しくより細かく特定させる任務を与えておいたが、無事完了したようだ。

「よくやった、そのままの合図が来るまで維持していろよ以上」

「了解しやした、おもしろおかしくヤクザ共に地獄を見せてやりますよ」

群青は本当に面白そうに笑っている顔が脳裏に浮かびながら
思念通信を切ると神冥滅甲を解きいつもの軍服に戻る。
弾薬を身体に巻きつけ、重火器を地面に置き準備する
少し小腹が空いたので大量に買い込まれている袋の中から
カロリーメイト11本とウィダーインゼリー9個を平らげると
メモで指定した物の一つ 91式携帯地対空誘導弾SAM-Uにロケット弾を込めて
予定時刻まで様子を伺う。

【屋上から進入。三階の広いショーエリアで絶賛待機中】
【恐らく血の海になるでしょう。ビルを爆破しようと思えば普通に可能】





140 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/04(日) 09:20:11 0
「あの人は音楽家じゃないよ。音楽家はそこまで物騒な職業じゃない……
それに、あの人、おかしい、だっ…」

「おはようございます」

問いに対する答え。しかし真雪の声は最後まで告げられる事無く、ひどく穏やかな声に遮られた。
びくりとして声の方を見るとそこには竹内萌芽がにこやかな笑みを湛えて立っていた。

「いつの間に――」

飛峻は口を開きかけるもガタンッ、という耳障りな音に阻まれる。
恐る恐る発生源の方を伺うと柳眉を逆立てた真雪が、テーブルに叩きつけたのとは別の手で萌芽を指差し声を荒げていた。

「何でアンタがここに居んの!?」

完全に機を逸した飛峻はそれ以上の追求をすることなく手にしたコーヒーを一啜り。
真雪の勢いに呑まれた形ではあるが、そのおかげで幾分冷静にもなれた。

「……それデ、今度は何の用ダ?
挨拶に来た、というわけでもあるまイ?」

「今日はちょっと忠告があって来たんです」

真雪の詰問を飄々とかわしつつ、飛峻の隣の席を確保した萌芽は本題へと入っていく。

「……なるほド。つまりあのビル、BKビルといったカ。
ソコが間も無く危険になるから近づくな、ト?」

然り。と満足気に頷く萌芽。
登場した時から見せている笑みは一切崩す事無く、それゆえに裏を読み取ることは難しい。
しかし真雪が異論を挟まないところをみると嘘では無いということか。

それから、と一言置いて真雪に聞かせたくないのか萌芽が耳を貸せと言ってきた。
外見から年下にしか見えない萌芽から「フェイくん」と呼ばれるのに違和感があるのは否めないが仕方なく耳を近づける。
そしてその内容を聞かされた飛峻は渋面を隠すことは出来なかった。
確かに真雪には聞かせられないわけだ。

――檸檬に気をつけろ。

そう告げて萌芽は飛峻の目の前から文字通り姿を消したのだった。


141 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/04(日) 09:21:08 0
全額金券払いという漢らしい支払を済ませ、さりげなく嫌そうな顔をしていた店員を後目に店を出る。
時刻は10時を越えた辺り、来たときは閑散としていた通りも人の姿がぽつぽつと現れていた。

その中に先に出て行った二人組の姿を見つける。

「ところでマユキ。先ほどの話なのだガ」

そういえば話の途中で止まっていたことを思い出した飛峻は真雪に話の続きを促がした。

「尾張さん、ね…昨日、竹内に会う前に会っていたの。本屋への道案内したよ」

男の名前は尾張証明。
本屋を探して迷っていた尾張を真雪が案内したとのこと。

「その時、変なことが起きたの。分からない筈の情報が、手に入ってしまったの」

他人の嘘を見抜く真雪の能力。
それは万能の能力ではなく抜け道もあるのだ。
昨日の夜に檸檬から教えられ、そして今また真雪から説明されているあるべき筈の三つの例外。

一つは話す者が真実だと信じている場合、もう一つは他者を介した情報、そして最後は嘘をつく者が真雪以外を対象とした場合。
虚言が放たれた場に真雪が居合わせたとしても、それが真雪に向けられたものでないならば真贋の区別はつかないらしい。

ここで先の話へ戻る。
尾張との邂逅の際、真雪が知り得た情報というのは本来であれば三つの例外の最後に抵触するものだというのだ。

「――まあ、情報自体があやふやでよく分からなかったけどね」

と話を一旦締めた真雪が立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回す。
目的も無く歩いている風を装い、その実尾張達の行く先を尾行していた飛峻は内心冷や冷やしていた。

(気づいてはいないようだな)

「私の能力に意味が無いことがないように、
きっとその時に手に入れた情報も何らかの意図が有るんじゃないかな?
私はそれを知りたい。それであなたを助けられるなら…」

それでも。と話を再開した真雪は初めて出会った住宅街の時と同じように飛峻を追い抜き、振り返り。

「私、どんなに危険でもあの人を追いかけるから」

決意を込めた顔でそう言った。
ならば飛峻が返す言葉は決まっている。

「わかっタ。ふム……良い表情になったじゃないカ。
あア、それいえばマユキはどんな危険があってもオワリ達を追いかけると言ったガ」

何を、とは言わせない。
飛峻は目を細め、口端を歪めた笑みを浮かべ

「――その危険を排除するのが俺の役割ダ」

142 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/04(日) 09:23:21 0
「……結局ココに行き着くわけカ」

尾張達を追い、繁華街を練り歩き、行き着いた先は一つのビルだった。
下層階は商業フロアとなっているらしく様々な店舗が軒を連ねている。
記憶に齟齬がなければ喫茶店で萌芽に危険だから近づくな。と警告されたいたBKビルのはずだ。

「……なるほどナ。
モルガもたまには本当のことを言うようダ。剣呑々々」

ビルの入り口に二人。
その全員が異様なまでの圧力を主に顔面から発しており、一目でヤクザ稼業だとわかる風体。
その上、国家権力の見回りでもあったらどう言い訳するのか疑問なほどにスーツの懐が盛り上がっている。

尾張達が入り口を通り過ぎるのを見てからゆっくりと、飛峻も入り口をくぐろうと歩を進める。

「待てやコラ」

しかし回り込まれてしまった。

「今日の集まりにチャイニーズマフィアは招待されてねぇわけなんだがなあ?」

「兄貴。最近じゃ家のシマ内でもちらほら見かけるようですから、どっかからか情報が漏れて探りにでも来たんじゃねぇですか?」

しかもどうやら自分を敵対している外国マフィアと勘違いしているようだ。
もっとも社会の枠組みから外れ徒党を組んで勢力をといったあたりは似たようなものなのかもしれないが。

「いヤ……俺はタダの客としテ……」

「だぁっとれボケェ。怪しいやつは端から捕まえろ言われとんじゃ」

リスニングにかなりの難度が要求される日本語ではあったが、つまるところこの二人は自分を拘束しようとしているらしい。
言い終えると同時に兄貴格の男が荒々しく腕を突き出してきた。

飛峻は嘆息しながらその腕を避けると指を閃かせる。
男は瞬時に数箇所の経絡を点かれ、何が起こったかも理解できぬまま即座に昏倒。

「テメェ!兄貴に何しやがった!」

兄貴格が崩れ落ちたのを見て取った弟分が激昂しながら懐へ手を伸ばす。
だが慌てているためか、それとも元々この程度なのか、その動作は余りにも遅過ぎた。
次の瞬間には気を失った男がもう一人追加されるだけだった。

(しかし……中に入ってもこんな調子じゃ面倒で仕方ないな)

暫く目を覚まさないだろう二人を入り口脇のトイレへ引き摺り、蹴りこむ。
そういえば先に倒した男は怪しい者には捕縛命令が出ているようなことを言っていた。
ならば。飛峻は個室に詰め込んだ男達を見下ろしながらニタリと悪どい笑みを浮かべ――

「……マユキ、ちょっと待っててくレ」

心配そうに見ていた真雪に一言声をかけ、失神している二人の服を物色する。

「良シ。さあ行くカ」

数分後、そこにはダークグレーのスーツに身を包んだ中国人が居た。


143 名前:三浦啓介 ◇6bnKv/GfSk[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 13:03:19 0
「おとーさん、朝だよ! 起きて起きて!」

快活な声と共に、サイは寝室のカーテンを体ごと一息に開いた。
窓を透過した朝日は瞼に染み込んで、三浦啓介の網膜を眩く刺す。
呻き声を零しながら、彼は降り注ぐ陽光から逃れるべくもぞもぞと寝返りを打った。

「もう、ダメだってば! 今日は大事な用事があるんでしょ!」
蠢きながら布団に潜り込んでいく三浦の上に、サイが勢い良く飛び乗る。
幾ら彼女が幼く軽いとは言え、助走と跳躍を経たダイブはベッドの支えをぎしりと軋ませた。

「うぐぇ……!」
蛙の鳴き声を幾分かくぐもらせたような悲鳴を漏らし、三浦は思わず上体を起こす。

「おはようおとーさん! もー、おとーさんったらいっつもお寝坊しようとするんだからー!」
朝っぱらから表情を苦悶に支配される三浦に、サイは晴れ晴れと微笑みかけた。
彼は油の切れたブリキ細工宛らの動きでサイに顔を向ける。
辛うじて笑顔は返しているものの、表情の節々がどこかぎこちない。

「お……おはよう、サイ。寝坊に関しては弁解の余地なしだけど、
 この起こし方は大いに改善の余地があると思うんだ。内蔵が口から飛び出るかと思ったよ?」

「飛び出た内蔵を飲み込むより、飛び出た朝ご飯を飲み込む方が気持ち悪いよ。良かったね、朝ご飯前で」
瞼や頬を微かに痙攣させながら笑う三浦に、辛辣な言葉が投げかけられた。
声のした方へと向き直ってみれば、六花が寝室の開かれたドアに仏頂面でもたれかかっている。
白と黒のチェック柄のエプロンと三角巾代わりの青いバンダナに、
左右の手にはそれぞれフライパンとフライ返しが握られていた。

「それは……『聖域破り』≪ベッドイジェクター≫じゃないか……!
 そんな物まで持ち出されては、これはいよいよ僕も起きるしかなくな……」

「朝ご飯冷めちゃうから早く来てね。ほら、サイ行くよ」
「あ、うん。じゃー待ってるからおとーさんも急いでねー!」

娘二人は素っ気なく寝室を後にして、三浦だけがぽつねんと残される。

「……せめて最後まで言わせてくれたっていいじゃないか」
少しだけ唇を尖らせて、しょげた様子で三浦はベッドから降り居間へと向かった。



「さて……じゃあそろそろ行くとしようか」
そうこうして朝食を済ませ身嗜みを整えその他諸々の準備を終え、三浦は言った。
とは言え彼の風体はいつも通り、白衣に伸ばしっ放しの長髪と、奇妙なものではあったが。
彼には彼なりの事情や過去、それらを土壌として根ざすこだわりがあるのだ。

「……そう言えばね、おとーさん」
『瞬間移動』を使用する前に、サイが幾分かトーンを落とした声を零す。
声調から彼女の言わんとしている内容が良くない事だと悟りつつ、三浦は首を傾げて彼女を見つめた。

「昨日盗られた『アレ』……目覚めちゃったみたい」


144 名前:三浦啓介 ◇6bnKv/GfSk[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 13:04:14 0
三浦の眉が微かに顰められる。
『アレ』とは即ち『予測不能』――竹内萌芽が彼から掠め取った文明である。
昨日三浦が萌芽を看過したのは、それが『誰にも適合しない』と言う前提があったからだ。
『予測不能』は強力かつ貴重な文明ではあるが、それも適合者が存在しないのでは無意味。
だからこそ三浦は、『予測不能』が盗まれた事を軽視していた。
それこそ子供に玩具を与える要領で、安っぽい満足感を与えて大人しくさせておこう、程度の考えで。

しかし『予測不能』が竹内萌芽と適合し始めたとなっては、そうもいかない。
三浦が萌芽と言葉を交わした時間は、僅か一時間にも満たない。
それでも、彼が萌芽を『馬鹿』と断ずるに十分過ぎる程、竹内萌芽は浅慮を極めていた。
そんな萌芽が『予測不能』と適合し、更に使いこなせるようにまでなってしまったら。
また新たな、これまで以上の厄介事を引き起こしかねない。

「やれやれ……馬鹿に刃物とはよく言ったものだよ」

「どうする? おとーさん。取り返す?」

額に手を当て嘆息を零す三浦を見上げ、サイが尋ねる。
三浦を見つめる瞳は微かにだが、喜色の輝きを孕んでいた。

また三浦の役に立てる。
しかも前回と違って萌芽は文明を、『予測不能』を持っているのだ。
抵抗されればそれなりに手こずるだろう。手傷も負うだろう。
また三浦に心配してもらえる。良い事尽くめだと。

「……いや、今はまだいいよ。放っておこう」
けれども三浦の返答は、彼女の望むものでは無かった。

「『アレ』が目覚めたとは言え、所詮十全の状態には程遠い……
 せいぜい『乱雑発動』≪ランダムスイッチ≫や『大暴走』≪オーバードライブ≫くらいの効果しかないさ」

滔々と三浦が語るが、サイの表情に納得は生まれない。
むしろ微かに目を細めて頬を膨らませているくらいだ。
だが彼女の様子を視界に捉えながらも、三浦は己の語り口を止めようとはしない。

「そもそも彼は僕に『イデア』を寄越すと言ったんだ。ならば無理矢理取り上げる理由はないよ。そうだろう?」
静かな口調に諭されて、サイが顔を俯かせる。

「……だけど、だからと言って僕から物を盗ったのはちょっと許しがたいかな?」
しかし続く三浦の呟きに、再び彼女は顔を上げて三浦を見つめた。
嬉々とした輝きを取り戻した瞳と、したりと笑みを模る瞳、それぞれの視線が交錯する。

「お願い出来るかい? サイ」

「あ……うん! 任せといて!」

ぐっと握った両手を体の前に持ってきて、サイは意気込んでみせた。
これにより竹内萌芽の不幸が確定されたのだが、別段同情するでもなく三浦は笑っていた。

「さて、今度こそ行こうか。もう相当出遅れてしまっているしね。これ以上は流石にマズそうだ」
「お父さんが早く起きないから……」
「ははは何の事かな? さあ行こうか!」

刺を含んだ六花のぼやきを笑って受け流し、三浦はサイに視線を配る。
目配せに大きな頷きを返すと、サイは『瞬間移動』を発動させた。


145 名前:三浦啓介 ◇6bnKv/GfSk[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 13:05:38 0
   


「……さて、どうしたものかな。ちょっと面倒な奴にも先を越されてるみたいだけど」
都市に立ち聳える無数のビルの一棟。その屋上に降り立って、三浦は向かいに屹立するBKビルを見据えた。
そのまま暫く、彼は唇を真一文字に結んだまま思考の海に意識を漂わせる。

「ふむ、正直な所この時点で出しゃばるのは下策と踏んでいるんだけどね。情が湧いたり、
 余計な情報を吹き込まれたら面倒だ。ここは少し、動いておこうかな」
ビルから視線を外して顔を俯かせ、右手を顎下に運んで三浦は独りごちた。
眼下の往来へ朧気に注がせていた眼光を束ねて二人の娘を見つめ、彼は口を開く。

「サイ、六花、僕はちょっとビルの中に用事が出来てしまった。
 君達はここでお留守番をして、彼らにもしも危険が迫ったのなら、それを助けてやっておくれ。
 心証を良くしておいて損はないからね」

「え? でもあのビルって……」
不安の気配を表情から燻らせて、六花が何かを言い淀む。
けれども三浦は彼女の言葉を、そして何より心配を断ち切るように彼女の頭を軽く撫ぜた。

「だからこそ、だよ。君達を危険の真っ只中へ連れて行くのは、余りに忍びない」
見れば、胎児を包む羊水に満たされているか、或いは天上の父に懐かれているか。
そう錯覚する程の愛情が滲む微笑みに、六花はそれっきり何も言えなくなってしまった。

「じゃあ行ってくるよ。……ああ、そうそう。竹内萌芽には気を付けるんだよ。
 正確には、彼の言動と文明に。余計な事を言うようなら、泥棒の罰を名目に痛めつけてやればいい」

最後に自らの胸中を跳梁跋扈していた憂慮を述べると、三浦は娘二人の前から姿を消した。
普段こそ彼の為役立ちたいと願う娘の意を汲み任せてはいるが、彼自身もまた文明の使用はお手の物だ。
『瞬間移動』の行使によって彼を取り巻く風景は、灰色のビル群と青空の境界から白一色の無機質な廊下へと変わる。

しかし前触れ無く唐突に、静謐を極めていた廊下が壁の内から獰猛な気配を迸らせて捻れた。
獲物を舌先に載せた弩級の食虫植物もかくやと、壁が、廊下が、ビル全体が蠢く。
建物に施された『物体変質』が『瞬間移動』を感知し、侵入者の跋扈と脱出を防ぐべく迷宮と化けたのだ。
こうなっては『瞬間移動による』内外への移動はまず不可能である。

思索の樹を育み方法論の名を持つ枝を剪定すれば、現状を打破する事も出来るかも知れない。
だが、果たしてこの建物に囚われた彼らにその術が分かるだろうか。

「さて……これで非常階段も中に取り込まれただろう。折角のゲームなんだ。
 ショートカットなんか使ったらつまらないだろう?」

【ビルが対侵入者用の機構によって大規模変化です
 商業エリアを除いた階層が迷路化+瞬間移動規制となりました
 時間を明確に指定しないので、迷宮化に巻き込まれるかどうかは御自由に
 でも非常階段とかエレベーターとか、ショートカット系は全部おじゃんです】

【ビル自体からの脱出を防ぐ為に、衝撃に対する変質の精度が不均等になってるかも知れない】


146 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/04/07(水) 20:14:22 0





>「ゼロワン?任務遂行にあたって…だけど。絶対に死なないでね」



 死ぬな、とku-01に主人は指令した。
 ku-01には死の概念は無い。機械は「死」というものを持ち合わせない。
 壊れたならば直せばいいし、直らないなら廃棄されればいい。
 機能の完全停止の先は、ku-01には知りえないものだ。それから先は知ることもないし、想定する意義も無い。

 しかし、概念こそ無くとも「死」という現象に関して、一般的なヒトがどのように接するかは学習しているつもりだった。
 遺言保存用のマンマトンは、その言葉に頷きで返答する。


「アイコピー」


 AIの内部で流れるいくつもの遺言を再生しながら。





 

147 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/04/07(水) 20:15:37 0





 
>「お嬢様」

>「何かしら?」

>「いえ……到着しました。今、ドアをお開け致します」

>「そう、でもね……」


 そうこうしている内に目的地へと到着したらしい。
『ボディガード』ということになっている都村がドアを開くべく腰を持ち上げるのに先んじて、主人は自らドアを開いた。


>「不要よ。自らの進む道は自らがが決める」

>「私の進む道に足跡は無い。なぜならば、私は誰よりも早く明日を見に行く者だから」


 踊るように優雅な立ち振る舞いで車外へと降り立つ。
 年相応には決して思えない威風堂々と背筋の伸びた立ち振る舞いで、彼女はku-01に向かって手を差し伸べた。
「作戦」が反芻される。『お嬢様のご友人』として振舞うようにと、そう言い含められていた。

 どうせ演技など期待はしていない、黙っていればそれで良いとのことだったが、


>「参りましょう?ハジメさん」

「了解致しました、お嬢様」



148 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/04/07(水) 20:16:45 0

 その手を取りながらコンクリートに足を下ろす。
 お互いの服装も相まって酷くちぐはぐな光景になったが、ku-01にはそのような認識は起きなかった。
 後ろから都村が続き、車のドアを丁寧に閉める。暫くもしない内にその高級車は発進、道の向こうへと消えていった。

 手に手を取って、優雅な行進は、けれど高級感溢れる自動扉の前で差し止められた。
 やたらと剣呑な目つきの警備員が主人とku-01との間に体を割り込ませる。
 背後で都村が目つきを鋭くしたのを、モノアイの端で感じ取った。


「すみません、そちらの方ですが、……少し、宜しいですか」

「何で御座いましょうか」

「その機械ですが、少し検査をさせて頂いても?」


 その懐から、小さな虫眼鏡のようなものが現れる。

 どうやらこのモノアイが理由らしい、とかしゅりと音を立てて稼動するそれで可視領域を確認しながら、ku-01は動きを止めた。
 改めて言っておくが、ku-01はオートマトンである。ロボット三原則こそ組み込まれてはいないが、基本は人間に従い仰ぎ守るように造られている。
 次元こそ違えど、どうやら彼らは自分が従い仰ぎ守るべき人間に代わりはないと認識しているku-01は、黙ってその『検査』を受けようとした。

 この次元においては、自分こそが『文明』といっても過言ではないオーバーテクノロジーの塊だということは、今だ認知していない。


「どうぞ、お願い致します」

「ええ、すみません。少々込み合って居ましてね」


 警備員が虫眼鏡――『禁属探知―エネミースキャン―』と呼ばれる文明である――をku-01にかざそうとした時、


「失礼します。それは文明ですね?」


 キュキ、と革靴の擦れる音と共に、警備員の手からそれが消える。



「な……っ」



149 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/04/07(水) 20:18:36 0


 それを奪い取った都村が凸レンズを模したそれを覗き込み、警備員にかざしながら言った。


「彼は『全方検知―オールクリア―』の適応者です。文明の医療活用についてはご存知ですよね?
 ただこの文明、他の文明の影響下あると少々不具合が生じまして……」

「し、しかし、これは規則ですので」

「宜しければ書面でのご説明を致しましょうか? しかし、少し時間が掛かりますね。
 本日は久方ぶりのお出かけで、お嬢様もハジメ様も大変楽しみにしていたのですが、足止めされたとなれば……」


 今にもため息を吐かんばかりにそう言って、都村は首を振る。
 穏やかな態度だったが、殆ど脅しのようなものだった。暴力的ではないのでなお性質が悪い部類の。
 
 優美豪華を人にしたような主人を見て警備員の視線が揺れるのを、ku-01は認識した。


「仕方有りませんね……」

「ご理解、有難う御座います」


 完璧に塗り上げられた笑みを浮かべる都村のすぐ横を、酷く曖昧な存在感の少女が突っ切って行った。
 ku-01はそれを目で追うが、どうやら警備員も都村も彼女に気づかなかったらしい。
 その姿を保存しながら、まだ主人に手を引かれたままでビル内に入る。背中に恨めしい視線が刺さっていたが、認識を放棄した。







>『潜入完了……今の所は異常はなし…』

 一人別行動を取っていた葉隠の通信が流れ込む。どうやらku-01に対して当てたものではないようだ。
 今までに無い形の通信形式。非対応のはずだが、簡単な傍受くらいなら可能のようだった。
 どうやら避難経路の確保や、援護を配置してくれているらしい。

 もう作戦は開始している、とウィンドウショッピングに励む主人とそれを見守る都村を見つつAIの起動領域を広げた。
 セキリュティシステムを初めとした、このビル全体のデータバンクを探し出すことから開始する。




【BKビルに真っ向から侵入成功】
【とりあえずご主人様のウィンドウショッピングにうろうろ引っ付いてます】



150 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/04/08(木) 12:10:43 0
>>119
>「給仕の真似事がしたいなら、厄介事が片付いた後にでも付き合ってやるさ。約束する」
>「だが今のお前には、お前にしか出来ない、お前になら出来るコトがある……違うか?」

私の体が固まった。

>「俺がお前の手を引くのは此処までだ。これから先は自分で答えを出して、自分で歩け」

私の心が固まった。

>「なんちゃって修道女……いや、シスター・ツユリ――――」

初めて呼んでもらった名前に、顔を上げた。

>「――――ついて来れるか」

「……あなたが前を歩いていて、くれるのなら」

ぽつりと呟いて、私は状況の一つになった。

……名前覚えましたよ、祇越さん。
……自己紹介してくれるまではウェイターさんって呼びますけどっ!

そんなわけで現在進行形。

>>129
>「唐突に前回までのあらすじ。カフェマルアークにて決起集会を行った『休日に鉄パイプを追いかける会』略してQ.E.D.(Qjitu Escape Drift)
の面々は、会員No.3珍妙君の異能によって自走するパイプを追いかけるべく集団行動を取っていた。ジャストフォーアゲイン。
会長は言うまでもなくこの僕タチバナ、後に続くはウェイター君、珍妙君とその随伴者、シスター君に竹内某改めモル山モル太郎君でお送りします」

「あのすいませんこれそんなに妙な団体なんですか!?」

折角いい感じに覚悟を決めた所でそれだった。
確かに休日に鉄パイプを追ってはいるけれど。
それは傍から見たらあまりに奇怪な光景に違いない。
鉄パイプの導きのままに公園を通過し、たどり着いたのは聳え立つビルだった。
やたらとでかい、とにかくでかい。

「あ、春合宿の時お泊りに行ったビルみたい……」

記憶にある建物と目の前の建物が一瞬重なり、それからぶるぶると首を振る。

>「ふむ、この摩天楼にミーティオ君が囚われているということかな。さしものダウジングパイプも標高までは探しあぐねているようだ」

くるくると、強い磁力に弄ばれているようにその場で回り始めた鉄パイプを眺める限りは、このビルで間違いない、と言うことなのだろうが。

>「つまりは正面突破ということになるね。総員戦闘準備と覚悟は十全かな?これより先は敵の胃袋、いつ咀嚼されるやも知れぬ伏魔殿。
 場合によっては一歩足を踏み入れた途端に強制エンカウントという可能性も大いに考えられる」

ごくり、と唾を飲み込む。
どう考えても場違いな自分を見ても、この男性、タチバナは特に何もいわなかった。
ただ『ミーティオと言う女性を助ける』と言う目的を抱え、言葉を紡ぐ。

>「『休鉄会』の会則その一、汝如何なるときもその歩みを止めるなかれ、命在って到達するべし。口語訳するなら、『生きて辿り着け』。
 僕は、僕らは来る者は拒まないけど去る者は全力で追うよ。だからみんな、隣人を死なせたくなかったら極力死なないことだね」

「……わかりましたっ」

死ぬつもりも無い、誰かが傷つくのも見たくない。
子供の我侭な、傲慢な意思を胸に、一歩踏み出し――――

151 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/04/08(木) 12:13:34 0
>>130
>「……あんだァ?お前ら。外でごちゃごちゃ騒がしいと思ったら、いきなり入ってきやがって。
 こっから先は金持ち専用ショッピングモールなんですがねェ、お金持ってたらすんません」

(本当に一歩目から強制エンカウントじゃないですかー!?)

どう見ても――少なくとも皐月の視点から、良性と言うものを一切感じ取れない風体の男は、良心などこれっぽっちも感じさせない実直的な武器を構えていた。
ドラマでよく見る拳銃ですらない形状のそれは、そっち方面の知識に詳しくない少女にも殺傷力があると理解できた。
どうするのだろうとタチバナに不安な目線をやると、彼は不安げなく交渉を行い始めた。

>「……失礼。我々は『休鉄会』からの使節派遣です。ええ、新しいビジネスを起こしまして、こちらの組長さんに営業許可と場所代を納めに」

>「はァん。よく見たらまだ中坊みてえなガキも居るじゃねえか。悪どいねェ、俺らが言えたこっちゃねェけどな。ひっひ」
>「ええ、子供は掌握しやすいですよ。『お小遣い』を与えれば善悪のべつまくなしに働いてくれますからね。仮に割れてももこっちまで塁は及びませんし」
>「そのうちエンコーか風呂でも回してくれや。女ってのはナマモンだからな。若けりゃ若いほど価値が出る。ほれ、ちょっと遊んでいかんかお嬢ちゃん」

(あれ、もしかして私のことですか!?)

不安なのは間違いない事実、なので男の嫌な視線に対して皐月は演技ではなく身震いし目を背けた。
生理的な嫌悪感が衝動的に身を包み、どくんと胸を打った。
何にせよ今自分が口を開くわけには行かない、否定も肯定も、交戦を呼びかねない状況である事ぐらいは理解できる。
その緊張と表情は捕らわれの娘と言う立場を演出するには十分だったようで、男はそのままタチバナと会話を進め交渉は滞りなく進行していった。

(というか口からでまかせの割りによく押し通せますよね……)

初対面の印象からストレートに変態さんだと思っていたが、やはり自分とは違う大人なのだろう。
彼がどんな経験を経て、今こうした話術を使えるのか、皐月には想像もつかない。
同じように、この場の彼等全員には、恐らくそういった積み重ねがある。
各々しか出来ない、自分だけが持つ何かが。

(……役に、立たなきゃ)

胸中でそう呟いた瞬間、ことのついでの様に男が言った。

>「――あァ、オジキんトコ通す前に身体検査だけさせてくれや。なに、この『禁属探知(エネミースキャン)』を透かして見るだけ、
 武装の有る無しと持ってる文明の危険度が分かる優れモンだ。3秒で終わる。――もちろん、面通しすんのに武装なんか持ってきてねえよなァ?」

男が取り出した虫眼鏡。
口調から察するに金属探知機の発展版みたいなもの、らしい。


――喫茶店で見たあの拳銃を思い出した。
――確かタチバナさんはあれを『文明』と呼んでいた。
――あれどこにやったんでしたっけ

ふと回想する。
確か鉄パイプを追いかける際に……

(……胸ポケットにいれてませんでしたっけ!?)

はっとタチバナを見ると、全く様相が変わらない。
それが、確固たる自信に基づいているのか虚勢なのか、判断できない。

(……もし、何も対策してなかったら……?)

この場は昨日のアルマークの、二の舞になる。
そんな不安が、鎌首をもたげた。

152 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/04/08(木) 12:14:47 0



ピシリッ




153 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/04/08(木) 12:15:39 0
男の視線が虫眼鏡――『禁属探知』越しに、タチバナの頭から足元までを眺めた。
続いて全員を順番に覗き込んで、男ははっ、と鼻で笑った。

男はそのままニヤニヤと笑い――そして、親指で奥を示した。

「ほれ、さっさと挨拶行ってこいや」

身を縛る緊張が、解けた。

(はぁ、そうですよね、対策してないわけないですよね)

タチバナの態度には全く歪み無い、恐らく計算どおりなのだろう。
強張った筋肉が一瞬弛緩する。
ふとウェイター、祇越を見ると、その目は前を見据えていた。
それは皐月にとって、欠片も油断していない表情に見えた。
そう、ここはスタート地点であってゴールではない。
気を緩めるのは、早すぎる。

(……そうでした、全然、まだ始まってもいないんでした)

何度目かの自覚を繰り返し、皐月もまた周囲に合わせて歩みを進める。
せめて遅れないように、と。



154 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/04/08(木) 12:17:01 0
…………。

予断だが、皐月の能力は突き詰めると、徹底的な危険回避である。
ダメージを負った際、そのダメージを『受けなかった』事にしてしまう、という現象は後付に過ぎない。
飛び散るガラス片を受けて無傷であるように、そもそも傷つかない事を前提とする能力なのだ。
今回の場合、交戦が起こると誰かが、そして以降の進行でより多くの人が傷つくのが明らかだった。
、 、 、  、 、 、、
だから、発動した。

『禁属探知』においてわかるのは『武装の有る無しと持ってる文明の危険度』であるらしい。
故に皐月の『結晶』は拳銃型の文明、『逸撃必殺』の機能を完全に破損させた。
要するに、『もう武装とは呼べない、危険性の無い物体』にまで存在を押し下げた。
ただの鉄の塊は殴るだけしか使えない、その程度なら拳だって危険物だ。

繰り返すが、本人のとっては無自覚な能力ではある。
ロザリオからはげれ落ちた結晶が、砂となって消滅しても、それに気がつくことは無かった。

【結晶1→0】
【『逸撃必殺』破損、ごめんなさい】
【先に進んでいいらしいよ?】


155 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/04/09(金) 12:12:56 O



「良シ。さあ行くカ」
「…は、はい?」
何が起こって居るのか、把握できない。
混乱する真雪は、とりあえず現在の状況の整理を始めた。
(えっと、金券に釣られてカフェに行ったら尾張さんが居て、
追いかけたらBKビルに入ってって、そこで飛峻さんがやっぱりヤの付く自由業の方々に絡まれて―――)
整理をするまでもなく、状況は単純だ。
要するに、飛峻はそのヤの付く自由業の方々からお洋服を奪ったのだ。
(可哀想、きっと風邪ひいちゃうね)
「ユキちゃん! どうしたの?」
「ユキちゃん! どうしたの?」
真雪が現実からの逃避を試みていると、後ろから声が掛かる。
振り返ると、そこには親友が居た。
「あれ? ユッコ?」
―――真雪の親友、経堂柚子(キョウドウユズコ)。
真雪をユキちゃんと呼び慕う少女。
騒がしく、少しヤンデレ気味なのが難点だ。そう、ヤンデレ気味だからこそ
―――「ユキちゃん! 何で男と一緒に居るの!?」
こんな展開になるわけである。
(あっちゃー…厄介なのに見つかっちゃったな…)
飛峻が何やら困惑しながら一生懸命説明(説得かもしれない)しているが、
柚子は「あんたに話は聞いてない! 私はユキちゃんに聞いてるの!」の一点張りである。
「ユッコ、とりあえず落ち着いて! これじゃ話も出来ないわ!」
「何で私じゃいけないの! 私はユキちゃんがこんなに好きなのに「お黙り!」」
声を掛けても落ち着く様子を見せない柚子に、真雪は手刀を繰り出した。
本気で痛かったのか、柚子は涙目で黙る。
「この人は李飛峻さん。
昨日、助けてもらって、その関連で私の用事に付き合ってもらっているの。
飛峻さん、この子は経堂柚子。
この通り困った子だけど、悪い子じゃないよ、怒らないであげてね」
柚子の頭を撫でながら真雪が紹介すると、飛峻は苦笑する。
そうして、飛峻が自己紹介すれば、柚子の目の色が変わった。
何か調べるように、なめ回すように見ている。
不審に思った真雪が声を掛けた。
「…ユッコ?」
「ふぅん…つまりあなたは、ユキちゃんの『お友達』、なのね…」
柚子は飛峻に向かって不敵に笑いかける。


156 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/04/09(金) 12:14:03 O
飛峻が答えると、次の瞬間柚子は声を上げて笑っていた。
「あはははっごめんなさい、早とちりしちゃった!
ユキちゃんの『お友達』なら心配要らないねっ!」
柚子はそう言って飛峻の手を取ると、言葉を続ける。
「ご紹介に預かりまして、私は経堂柚子!
私ねっ! 友達にはとっっっても優しいの!
それであなたはユキちゃんの『お友達』。ユキちゃんの友達は私の友達!
だから友達になった記念に、良いこと教えてあげちゃう!」
「良いこと?」
柚子の言葉に真雪が尋ね、飛峻も首を傾げた。
柚子は悪ガキのような笑みを浮かべ、声を潜める。
「ユキちゃんが追いかけてる男はこのビルの最上階に向かってる。
この非常階段は一階から最上階に繋がってる唯一の階段だから男はそれを利用したの。
屋上には捕らわれのお姫様が居て、それを救う任務が有るみたい。
因みに、他の人間もそのお姫様を救いにやって来るわ!」
あまりのことに驚きに真雪が固まっていると、後ろから入り口から声が追いかけた。
柚子は瞬時に気付き、キャミソールの裾を捲り腹に手を当てる。
すると、当てた部分に裂け目が出来た。柚子はそのまま手を押し込んだ。
飲み込まれた掌が何かを掴み、裂け目の中から引きずり出す。
そうして出てきたのは、血にまみれた、柚子の身の丈以上の大きさの大鎌。
「ユッコ…」
「何してるの? あなた達は早く行かないといけないわ。
こうしている間にもあいつらは上に向かってる。間に合わなくなっちゃうよ。
私は大丈夫! ここで邪魔者をやっつけちゃうから!」
柚子はそういいながら、二人を非常階段に押し込んだ。

【非常階段へGO!】
【柚子がヤクザたちを引き付けてくれるので、
入り口でヤクザに捕まった人たちはこの機会に脱出できます】



157 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/04/09(金) 12:17:03 O
名前:経堂 柚子(きょうどう ゆずこ)通称ユッコ
職業:高校生。真雪のクラスの友人。
元の世界:現代
性別:女
年齢:16
身長:152cm
体重:40k
g性格:表の性格は明るく優しいが、スキンシップ過多なのが玉に瑕。
裏の性格は真雪の為に何を犠牲にしてもかまわないと思っている。
真雪を絶対に守るもの以外には冷たい。裏切り者を何より一番嫌う。
外見:柔らかそうな茶色のウェーブをピンクのリボンでツーテール。
制服は真雪と同じ。
私服はキャミソールの上にデニムジャケットを羽織り、色の濃いミニスカートを履くスタイルが多い。
特殊能力:
体内収納:自分の胴体の中に、色々収納できる。
自分の身長以上の人間を収納しても何ともないあたり、色々物理法則を無視している。
収納した物は血液に漬けたようにびしゃびしゃになる。
死精タナトス【使用適応(パーフェクト・プレイ)】:
柚子の身長以上の大鎌型の文明。使用者がその文明の使い方を教わらなくとも即座に使えるようになる。
例:乗り物型の【使用適応】は教習所に行かなくとも完璧に乗りこなせるようになる。
武器型の【使用適応】は練習しなくとも人の命を奪えるまでに使いこなせる。
【視外戦術(サウザンド・アイ)】:
死精タナトスを空間に振るうことで発生。
区切られていない空間の過去から現在まで、さまざまな視点の映像を見ることが出来る。
その映像の関連項目も調べることが出来る。
備考:ただひたすら真雪を守るために動く少女なので、真雪の味方。
真雪に少しでも悪意を持つPCにはタナトスで襲い掛かる。
使用人に虐待されていた所を真雪に救われた。


158 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 00:11:31 0



紅が、視界いっぱいに飛び散った。



三枚下ろしにされたもの言わぬ肉塊の一つが、俺の足元に転がって来る。
一瞬何が起きたのか分からなくなり、思わずそれを二度見してしまう。
飛んできたほうを見れば、スーツや右手に持った細長い剣らしきものを赤く染める色白男。


「(おいおいおい……いくら何でもやりすぎだろ)」


色白男は、剣を薙いで血を吹き飛ばし、次は誰を斬ろうかと言わんばかりの舌舐めずり。
結構コイツヤバいんじゃないのか、精神的な意味でなどとくだらないツッコミを入れながら。


「死ねぇええッ!!」


背後から感じた一瞬の殺気。
テナードは四つん這いだったその姿勢から、逆立ちの応用で足を振り上げる。


「ぺがふッ!?」


雑魚2の顎に、見事な一蹴が決まった。
そのまま足を一回転させ、テナードは遠心力を使って立ちあがる。


「残念だったな、にゃんこってのは音に敏感なんだよ」



▽ザコ2 は きぜつ している

▽へんじ が ない ただ の しかばね の ようだ




159 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 00:13:13 0



「ヒッ……ヒィィイイ!!」


一人が斬り殺され、一人がなす術もなく倒されたのを皮切りに、男達は一斉に逃げ出した。
あっという間に男達がいなくなり、凄惨としたフィールドに、静かに木枯らしが吹いた。


「な、何だったんだ……あいつ等……?」


思わずボーゼンとなるテナード。
本気で何がしたかったんだと小一時間問い詰めたくなってきた。


「…………あ」


居た。テナードに倒された気絶した雑魚2(仮名)が、泡を吹いて横になっていた。

これは丁度いい。

「オイコラ、起きろー」


全く動かない雑魚2の胸倉をつかみ、バシーンバシーンと往復ビンタ。
だが雑魚2が起きる様子はなく、依然としてグッタリしている。

「……ちぇッ、起きたら色々と吐いてもらわなきゃならんってのに……」

ガシガシと頭を掻く。
これでは小一時間問い詰め、もとい尋問が出来ない。
水でもぶっかけようかと、立ちあがる。
その時だった。


「……………………!」


テナードの首筋に、冷たい何かが押しあてられたのは。





160 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 11:09:20 O
BKビル。
その基本構造は下層部と呼ばれるショッピングモールを土台に通常のビルディングスタイルの上層部が入った形であり、
その上層部、成龍組の事務所内での声明が行われる会場が今回目指すべきポイントとなる。
ここで問題となるのはBKビルが成龍組の拠点だと言うこと、
おそらく通常の踏み込み捜査では逃げられるという判断により二手に分かれた作戦であったが……

「ふぅ。侵入成功っと」

「迂闊な事は言わないで下さい。ここは――」

都村の言葉は当然の物だ。とっさに機転を利かせたが次も上手くいくとは限らない。そして、この空気。
もし、聞かれていたら即座に警備員が飛び出しかねない。そんな空気がモールには溢れていた。

「I see(うっさいわね……)」

一瞬眉をつり上げた都村だが、お小言は頂けなかった。つまり、それだけ大事な作戦と言うことだ。

(ゼロワンはハッキングに入ったみたいだし……なら私は足で。行こうかしら)

零はゼロワンの手を引きながらゆっくり歩き出す。向かう先は階段だ。

161 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 11:10:06 O
普通ならばエレベーターを使うところだが階段を選んだ事には意味がある。
このBKビルはビルの内周に沿うように作られた螺旋階段が見所であること。
全階層ガラス張りのBKビル商業区はこの周辺のみならず世界的に有名であり文明を応用した建築物としても名高い。
他にもオーバーライトを使用したことで初めて可能となった形状が織り成す芸術的な空間は他に類をみない物だ。
それを確認してみたかった。
そして、もう一つは単純に戦場を直に確認したかった為。

(私服、あと、客に付いてるSPを確認しないといけない)

敵の数とその行動をある程度把握したかった。
零には格段優れた戦闘スキルは無い。
確かに一対一で殴り会う分にはまず負けないだろう。
しかし、実戦では相手が一人とは限らないし、武器も使う。
四、五人が並んだ状態で交互に軽自動小銃を撃とうものなら一瞬でぼろ雑巾にされてしまうだろう。

だが、この様に緻密な計画や記憶にはないが体に染み着いたとっさの行動力を活かせば大多数が相手でも引けを取らない戦力になる。
なぜなら、彼女は普通の人間だが同時にその身体能力は常人の域を遙かに越えているのだから。

162 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 11:11:19 O
「都村……そう言えば先ほどの行動は何故かしら?」

声をかけながら階段を上りる。そして後ろを確認するためにガラスの壁面を見る。
居た。やはり警備員……しかも私服が後を付けてきている。これでは迂闊なことは本当に言えそうにないだろう。

「……後ろ。気付いてます?」

「えぇ。そのままにしましょう。下手に警戒されすぎても不味いし」

そう言うと、零は階段を子供のように駆け上がり声を上げる。

「ハジメさーん。早く来ないと置いていってしまいますわよー?」

そして二階の入り口、踊り場で手を振ってみせる。その姿は
何度でも言うが、これでは気品も優雅さも有ったものではない。
だが……これで良いはずだ。こういった小芝居を繰り返すことで警備側に「元気が有り余っているまだ未成熟な精神年齢のお嬢様」と
「体の不自由だが成熟した精神年齢のその恋人」を演出すれば徐々に警戒心も解かれる筈である。

163 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 11:12:13 O
表向きは完璧にその様に振る舞った演技。しかし零の胸の鼓動はまるでジョギングをするかのように早まっている。
その必死の演技に気付いたのか?はたまた、単純にハッキング中のためか?
ゼロワンも又、ゆっくりとだが焦りを滲ませる様な動作で追いつこうとする。

その時だった。ソレと接触したのは。

「おはようございます。竹内萌芽です。」

ソレはまるでお昼を告げる電子音声の様な台詞で名乗りを上げた。
竹内萌芽。
零が待ち望んでいた次のステップに入るためのkey personである。

「”竹内なにがし”じゃなくてもるがなのでちゃんと覚えてくださいね?」

しかし、彼は相変わらずのスタンスのようだった。
しかし、これは大きなチャンスでもある。零は二人きり、閉じられた世界で振り向くと萌芽と対峙する。

「……お、え……はい?」

彼のリアクションは【困惑】それに対して零が弾き出した答えは【予想外】という言葉。

「ごきげんよう。タ・ケ・ウ・チ・モ・ル・ガ・クン?」

「ツ……な、なんでここに?」

164 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 11:13:25 O
さぁ、希薄で頼りない記憶の中から検索を始めよう。key wordは困惑、予想外。

(ダメね。やはり何も分からないか。しかし……)

消去法でいくつかの情報は浮かび上がった。
だが、これはこれでいつか揺さぶりをかける際に使えるだろう。

「失礼……」

そう言って彼は零の目を見つめてきた。しかし、彼のその目には冷静さが欠けている。

「で、ご用件は?」

そう、質問を投げかける零。どの道、用が有るのだから彼は表れたのだ。ならば聞けばいい。
それに対して萌芽は混乱したせいなのだろうかやたらと素直な態度で用件を述べていった。


詰まるところ、彼が現れた訳はとある人物を助ける為にここBKビルに殴り込みをかけるから手伝え。と言うもの。

「アナタ、もう少しお部屋の外から出た方がいいわよ?
 ブラフを使えば穴だらけ。礼儀もなければ交渉の仕方も知らないなんて……」

呆れて物が言えない。そう、全身で表現してみせる。
誰もいない二人だけの白の牢獄を二歩三歩と意味もなく歩き、零は萌芽に対する言葉を続ける。

165 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 11:14:20 O
「良い?人に物を頼むときはね、その対価が必要になるのよ?
 そもそも、なんで私がアナタの勝手な都合に――」

対価。と言う言葉に対して彼は何か心当たりが有ったのか?萌芽は零の言葉を遮り話し始める。

「あー、『あの人』のことですか? 実は僕よく知らないんですよね
 なんか僕のペットの話だと考古学者やってるみたいですけど」

その様子はなぜかとても嬉しそうでもあった。
そう、まるで何年も待ち続けた恋人に話しかけるように、滑らかに滑り踊る彼の舌。

「あとすごく強い娘さんがいます、ひどいんですよー、僕なんて昨日胸の骨を折られちゃいました」

そう締めくくる萌芽。しかし……非常に言い出しにくい話だが零の聞きたいことはソレではない。
そのあまりの一方通行で期待を裏切らない彼の言葉に辟易した時だ。
萌芽は零のポケットから見えていた携帯電話にあざとく目を付けたのだろう、
それを素早く奪い取ると操作を始める。

「じゃ、とりあえず僕たちの代表の、ロリコンのおっさんの番号を教えておきますね
 僕の番号じゃちょっと安心できないでしょうし」

166 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 11:15:31 O
「もう!勝手に……」

萌芽を制止しようとする同時に刺すように酷い頭痛が零の脳を直撃する。
その正体は記憶の整理不足による情報過多。
難しく説明したが要は徹夜でカラオケをしたりすると起こるあの頭痛だ。

「気が向いたらかけてやって下さい」

「だから、勝手に……あぁ。もう!返しなさい!」

激しい頭痛の中、零は携帯電話を取り上げるようにして受け取ると、三つ目の番号が登録されていることを確認した。
「タチバナ」と書かれた電話帳に記された電話番号……

「安心してください、ロリコンで変態でダメ人間ですけど実力は確かですから。……たぶん」

「そんな犯罪者予備軍で社会の害悪のペド野郎を信用できる訳ないでしょう!
 てか、たぶんって何よ。たぶんって」

散々な言われ様のタチバナ氏を更にこき下ろし、憤慨を露わにする零。
もし、この会話をタチバナ氏本人が聞いていたら一体どんな反応を示すか……
しかし、そんな態度を示す零を余所に萌芽は消えてしまう。
本当に、これでは会話として成立していない。と零は思った。

167 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 11:17:23 O
(あ〜《イメージを著しく崩壊させる内容なので閲覧に規制がかかりました!狽(゚、゚トソン》っとうに最悪だわ……)

その時だ。再び声だけで萌芽が接触をしてきた。

「あなたのお名前、教えてもらってもいいですか?」

名前。……確かに教えていない。教える義理はない。が……
どうせ偽名のようなものだ。構わないだろう。

「……最高ねアンタ。通りすがりのおせっかい。佐伯 零よ。覚えておきなさい」

そう告げると、世界は今度こそ元の空間へと帰途してゆく。

「―――――――――」

広がる世界。……そして、広がる可能性。
まだ時間は有る。ならばやれることは山ほどあるだろう。

「ふふ、どこへ参りましょうか?」

【行動に迷ったら以下の中から選択して下さい。】

ニア 欲しい物があるんだ。小物系の道具を整える。
 君に似合う服を探そうか。婦人服エリアを探索。
 紳士服売り場でみたい物があるんだ。紳士服エリアを探索。
 お腹が空いたな。食事を取りながら零から萌芽の話を聞く。

168 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 14:34:49 O
俺が一人殺して、猫がチンピラを気絶させた、のはいい。

>「ヒッ……ヒィィイイ!!」

あいつらまるで俺が化け物みたいに怯えやがって。
…化け物みたいに。

「…はあ」

考える。
人を斬ったのはこれで何回目だろうと。
化け物と言われ、人を斬り。

ああもう抑えらんねぇ。
すまん、猫。

169 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 14:35:40 O


人影が立ち上がる。
刀を向けた。

>「……………………!」

硬直。
隙を見せたら殺す。

「…?」

…あれは人間?

「人間じゃない」

人間じゃないなら何。
イキモノ。

「理解不能」

破壊する。

【前園久和:化け物+大量の血のトラウマコンボにより覚醒モード】

170 名前:ゼルタ・ベルウッド ◆8hdEtYmE/I [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 15:42:00 0
「やっぱり便利だねー、暗くてよく見えないけど」

カンカンと軽快な音を立てて階段を上る少女、ゼルタ・ベルウッド。
彼女が通り過ぎた階段の下の踊り場には、苦しそうなうめき声を上げるスーツの男が数人ほど倒れている。
階段を駆け下りてきたところを『見敵封殺』で動きを止められ、そのまま蹴落とされたのだ。

「このまま正面からいただきかなー……ってあれ」

階段を登り切ったゼルタの視界に飛び込んできたのは、
さっきまでの明るく華やかな階層とは打って変わり殺風景な灰色の廊下。
しかもその通路はまるで迷宮のように複雑に入り組んでいるようだ。

「遺跡か何かみたいな造りだねー。うふふ、これは絶対お宝あるよね?」

ゼルタはスカートの下へと右手を伸ばす。
そこから取りだされたのは、彼女が愛用する凶悪な刃を持つナイフ。

「えへへー、探索開始ぃ」

【ゼルタ:迷宮化した事務所エリアへと侵入。壁にナイフで傷をつけながら進む】

171 名前: ◆E.75V/et898/ [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 17:47:20 0
「この世界以外に、他の世界ってモンがあるって話だろぉ?
ハハッ、オモシれぇじゃねぇか。いい小遣い稼ぎになるぜ。」

成龍組に雇われたこの男。名前をT-パックという。
この世界におけるいわゆる「殺し屋」であり何でもありの
闇社会において文明遣いを消し去る為に重宝されている。
今日は、普段の仕事とは違うもの。
つまり、「異世界」からの侵入者の噂を聞き付け成龍組の
用心棒に自らなったのである。

事務所周辺ではT−パックの部下であるガラの悪そうな
モヒカンのジャンキーどもが群れを成して警備している。
「変なヤロウどもがいたら、真っ先にボスに知らせやがれクソボケ!!」
T−パックはというと。

「おい、姉ちゃん。てめぇのケツは小さ過ぎて揉み応えがねーなぁ!!
おい、成龍組さんよ。もっと上玉の女を用意してくれねぇかぁ?
それにしてもどんな奴らが来るんだろなぁ。
楽しみで仕方ねぇーなぁ!!」



172 名前:T−パック ◆E.75V/et898/ [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 17:53:42 0
名前: T−パック
職業: 何でも屋
元の世界:現代
性別:男
年齢:30代
身長:187cm
体重: 95kg
性格:歪みまくった性格(邪悪)
外見:顔に十字の傷を隠すようにお面を被っている。
頭頂部にT字のモヒカン、全身に弾丸と手榴弾
特殊能力:相手の能力をコピー
備考:闇社会の何でも屋。多くの部下を従えており、「何でもやります
地獄まで」がキャッチフレーズ。
冷酷な性格だが、部下にはきちんと給料だけは払っている。

【宜しくお願いします】

173 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 21:02:39 0


「(ヤベェ、どん位ヤベェかってーとマジヤベェ)」


首筋に、冷や汗が一筋伝う。
冷たい何か……もとい、色白男の剣(らしきもの)を押しあてられ、自然とテナードは
クラウチングスタートのポーズを強要される。


【振り向いたら殺す】


そんな空気がビンビン伝わってくるのが分かる。
脳の隅で、一瞬だけでもカワイイとか思ってしまった自分が憎い。

「(おーおー、おっかないねえ)」

状況を把握しきると、途端に頭が冷静になる。
今までくぐり抜けてきた修羅場に比べれば、まだマシな方だ……と思いたい。

「(さーて、どうしたもんかね)」

色白男の死角である右足。        ・・・・
何かないかとまさぐっている内に、右手があるものに触れた。

「(………………!)」

そうだ。これがあった。
何で今まで忘れていたのか。いや、この際どうでもいい。

あくまで慎重にソレを取り外し、蓋を開け、


黒いパイナップルと呼ばれるそれを、真上に放り投げた。




174 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/11(日) 21:05:11 0


爆竹が爆ぜる音にも似た、爆発音。
何の事はない、テナード自身が作った、威嚇用の手榴弾である。
ともかくも、相手は一瞬怯んだのか殺気が緩むのが分かった。

「(今だ!)」

一瞬の隙を、テナードは見逃さなかった。
その姿勢からとんぼ返りをうち、その跳躍力で色白男から3メートル弱離れる事に成功した。
因みに、左手に気絶した雑魚2(ry)の胸倉を掴んでいた為、結果としてテナードの肩に担がれる形となった。


「(リーチを考えれば、向こうが有利なのは明らか)」

ならばどうやって止めるか。
簡単だ。

「ボウズ、良い事教えてやんよ」

最早お荷物にしかならない雑魚を投げ捨て、テナードはコキコキと首を鳴らす。
色白男を見据え、足に力を込め。

跳躍。


一瞬で男の前まで移動し、得物を握るその手を力強く掴み。


「本物の馬鹿って奴をな」


そう囁いて、己の腹に突き立てた。


175 名前:尾張証明 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/04/12(月) 21:35:12 O
チェロケースを背中から体の前に回す。何事かと兔がこちらを見たが、無視して無造作にケースを開く。俺の立
てた音はすべて消えるようになっているらしい。つまり音については気にする必要はない。ならば注意するのは
歩調のみだ。尾行している二人組に気付かれないよう階段を登る速度を保ちつつ、自動小銃を取り出し、袋に入
ったままの銃剣を付ける。

「  」

兎の言葉は声にならない。それほど突然の行動だったのだろう。思考の端でそんな事を思いつつ、銃剣の袋を引
き抜く。
 気心が変わったのは、足音の具合から二人組の一人が明らかに素人だと解ったせいもあるし、もう一方が余り
にも素人離れしたプロだと解ったせいでもある。
このちぐはぐさ、兎が怯えている事実。合わせて考えれば簡単だった。
つまりは、完全なるイレギュラー。自分と同じの。

(予定外の存在なら、好きにさせてもらおうか)

階段の踊り場に差し掛かったところで踵を返し、制止しようとのばした兎の手を無視して、ほとんど落ちるよう
に階段を三段飛ばしに一気に駈け降りる。

『動くな』

銃剣の先に刺した、手帳から千切った紙を見せ付けるようにしながら、二人組に銃口を向けた。

【尾張証明:真雪、李に接触。『動くな』と書かれたメモを銃剣に刺した銃を突き付ける(暗くて真雪には気付いていない模様)】

176 名前:竹内 萌芽(1/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/12(月) 23:53:20 0

「佐伯さん……ですか」

様々な風景がごちゃ混ぜになって、もはや黒にしか見えない空間の中で萌芽は呟いた。
彼の頭に浮かぶのは、先程話したチャイナドレスの少女の顔と、彼女の纏う雰囲気。

名前が違うということは、やはり別人か……いや、それにしても似すぎている。

あのツッコミを入れるときの独特の語調とか、あのどことなく上から目線の態度とか

「もう、なにしてんのよッ!!」

そうそう、こんな感じ……

……って、あれ?

「アッヒャッヒャッヒャ!! 沈んだ!! やっぱり沈みやがった!! とことん期待を裏切らねえなあこいつらは!!」


177 名前:竹内 萌芽(2/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/12(月) 23:54:01 0

ふと萌芽が目線をやると、少し離れたところで赤い小さな道化師が寝転んでいた。
せんべいをかじりながら彼女が見ているのは、時代がかった箱型テレビ。そしてそれに映っているのは―――

「……」

萌芽は寝転がる彼女のそばにつかつかと歩み寄ると、彼女のそばに落ちているリモコンをひょいと拾い上げ、テレビに映る映像を消す。

「ああああああ!! なにすんだよもる!! 今いいとこだったのに〜……」

「人のプライバシーを勝手に娯楽にしないでください」

頬を膨らませる彼女に、萌芽はそっとため息を吐く。
そのため息は、単に目の前の赤い道化師の行いに呆れたからというわけではない。

先程テレビに映っていたのは、幼馴染の彼女と最後にイタズラをしたときの記憶。
それに重なる、先程あった少女の姿。

そして胸に湧き上がるのは、あの小さなシスターと青年に抱いたのと似た、わけのわからない”温かさ”。


178 名前:竹内 萌芽(3/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/12(月) 23:55:15 0

なぜだ、ここはもうあの『退屈な世界』ではない。
もう自分は「n」で始まる名前の、あの”彼”ではないはずなのに

なのになぜ、彼女とそっくりなあの少女に出会っただけで、こんなに胸が”温かく”なるのか

「……気持ち悪いですね」

ぼそりと萌芽が呟くと、ふいにズボンのポケットからなにか赤い光が発せられているのに気がついた。
不思議に思った彼がポケットからストレンジベントのカードをとりだすと、カードに描かれた五本腕の人の絵が赤く輝いている。

「アッヒャー、”怒ってる”な」

ふいに右肩の上から聞こえるストレンジベントの声。
いつの間にそこに乗ったのか、図々しく萌芽の肩の上に陣取った彼女は、
相変わらず狂気めいた笑顔が張り付いたその顔で萌芽の手の中のカードを覗き込んでいる。

「”怒ってる”……? この人がですか」

「アヒャヒャ、アタシは文明の力でこいつと繋がってるからね、ちょっとだけわかるよ
 なにがあったか知らないけど、こいつは今、とても怒ってる。この光はこいつの怒りの光さ」

言われて萌芽はそのカードから発せられる赤い光をを見つめる。
その色はまるで流れる血のようでいて、どこか燃える炎のようでもある。

―――とにかくその光はとても美しかった。


179 名前:竹内 萌芽(4/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/12(月) 23:56:18 0

「……そうです、”怒り”です!」

ふいに叫ぶ萌芽に驚いたストレンジベントが、彼の肩から転がり落ち、尻餅をつく。

「”怒り””憎しみ””憎悪”、これが面白いかどうか、まだ試してませんでした!」

そう叫んだっきり、うんうんと何か考え始める萌芽。
ストレンジベントは、またロクでもないこと考えてるんだろうなあと、そんな萌芽をぼーっと見つめていた。

やがて顔を上げた彼は、ストレンジベントに向けてにこりとほほえむ。

「ねえ、ストレンジベント。たとえばこういうのはどうでしょう?」

「アッヒャ〜?」

首をかしげる彼女に、萌芽は人差し指をぴっと立てながら言った。

「『囚われのお姫様は、実は悪の大魔王でした』なんてとっても素敵な展開じゃないですか?」

それを聞いた小さな道化師は、アヒャヒャと笑うと「あんたのそういうとこアタシは嫌いじゃないよ」と言ってまた狂ったように笑った。


180 名前:竹内 萌芽(5/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/12(月) 23:57:17 0

【接触3:ミーティオ・メフィスト】

「おはようございます、竹内萌芽です」

豪華なんだか質素なんだがよく分からない感じの部屋に、彼は居た。
こういうのが品のあるっていうのかなあと考える彼の目の前には、それぞれ黒い服と白い服を着た二人の少女。

「……えっと、どっちがミーティオさんでしょう?」

同じ顔をした二人の少女にそう訊ねると、黒い服を着ていたほうがこちらにむけて思いっきり拳を打ち込んできた。
『フリューゲル』がどうとのと言っていたし、この性格からしてあの鉄パイプの持ち主は彼女だろう。
物理的にはそこに居ない彼を殴れなかったことに驚いた表情の彼女に、彼はことのあらましを簡単に説明しておく。

「……ま、そんなわけでロリk……違った、タチバナさんたちと僕でこれからあなたを助けに行きますということを伝えにきたわけです」

と、それは建前で本当の目的はほかにあるのだが、彼は特に表情に出さずに人差し指を立てると彼女の額にぽんと押し当てる。
正確にはその指は彼女の額に少し”めり込んで”いた。

彼女の脳に最も近い場所と、自分のイメージを”あやふや”にした彼は、一瞬にして彼女の脳内にある憎悪や殺意を探し当てる。
そして、今度はそれを彼女の脳内にあるタチバナのイメージと”あやふや”にした。

成功したかどうかはわからない。昨日の鎧チビが、自分と”あやふや”になって苦しんでいるのをみてちょっと思いついただけだから。
どっちにしろこんな短時間の接触では、効果はそれほど強くないに違いない。

しかし、あの傍若無人唯我独尊のロリコンおやじが、いままさに助けようとしたお姫様に出会えた瞬間に、そのお姫様から攻撃を受けたなら。
そのとき彼は一体どんな顔をするだろうか?


181 名前:竹内 萌芽(6/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/12(月) 23:58:22 0

(考えただけでも、面白いですねえ……)

心の中でにやりとほくそ笑みながら、彼は「だからおとなしく待っていてくださいね?」とだけ彼女に伝え、
自分とその空間とを”はっきり別々に”した。

接触3:終了
【ミーティオにタチバナへの殺意を植えつける】

(そういえば……)

と、萌芽がふいに思い出すのは、佐伯と名乗ったあの少女の携帯電話を、自分が奪い取ったときのこと。

(僕、あのとき携帯電話に触れてましたよね……)

本来、自分と”あやふや”にしている空間を使って物に触ることはできない。
あのときは混乱していて深くは考えなかったのだが、一体あれはどういうことだったのか

”言ったろ? あんたは今アタシとつながってるって”

ふいに脳裏に響くストレンジベントの声。

”それによってあんたの能力……あー才能だっけ? そっちのほうも少しずつ変わってきてるんじゃない?”

さらっととんでもないことを言う彼女。
しかし面白い。もしそうなら、自分は存在そのものがあのころの”彼”とは違うものになっているということだ。
そうなれば、もうあのわずらわしい”温かさ”に惑わされることもないに違いない。

そんなことを彼が考えていると、どんという音と友に衝撃が彼の体に襲いかかった。


182 名前:竹内 萌芽(7/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/12(月) 23:59:46 0

突然の衝撃に、青年の背中から転がり落ちる萌芽。
ふとあたりを見回すと、いままで近くにいたはずの仲間たちの何人かの姿が見えない。
なにがあったのかさっぱりわからなかった萌芽が、あたりの空間と自分を”あやふや”にすると、どうやら先程と建物の構造がずいぶん変わってしまっているらしい。

しかしそれよりも彼が驚いたのは、この場に居るはずのない人間たちが建物の中にいるという事実。

(真雪さん……!!? なんでここに!?)

ターン終了:
【真雪、飛峻、さらに三浦の気配に気付く】



183 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 00:24:19 0
「サイ、ちゃんと見張ってなさいよ。昨日捕捉出来なかった奴等が来るかもしれないでしょ」
遮る物なく頭上から降り注ぐ陽光を浴びて欠伸を零したサイを、六花が諌める。
諫言を受けたサイは欠伸を噛み殺し、表情に少々不満の色を浮かべて頬を膨らませた。

「むー、そんな事言って、何で六花ちゃんはゲームしてるのさー! ズールーいー!」
「仕方ないでしょ。私情報系の文明は扱えないんだから。適材適所よ」
「人の隣でゲームするのが適所って何なのさあ! 聞いた事ないよそんなの!」

憤慨するサイを、六花は澄まし顔を崩さないまま、手元の携帯ゲーム機を弄りながら適当にあしらう。
彼女の態度にサイはますます、頬の内側に怒気を蓄え風船の魂を宿していく。
が、やがて何を言っても無駄と悟ったのか、それとも怒りが一巡りして沈静化したのか。
ともかく唇を尖らせて溜め込んだ呼気に不満を含ませて吐き出し、周囲の見張りを再開した。

彼女が外出時必ず付けている白の眼帯は、彼女の疾患や怪我を覆い隠す物ではない。
無論元々はそうだったのだが、今では『要人用心』≪ストーキングストック≫を含有する、れっきとした文明なのだ。
効果の程は、一度『捕捉』≪ストック≫した人物であれば、方位や位置情報、近くであれば状態さえも監視出来る。
と、異世界人達の所在や危機を把握しておきたい三浦としては、もってこいの文明だ。

ちなみに『要人用心』は本来、レンズ類や液晶画面等に適性を示す文明である。
であるのだが、サイのワガママによって三浦が強引に眼帯へと結合させたのだった。
装飾品に『強制結合』させる事は
サイ曰く「これを付けてる時の、おとーさんの困った顔が見たいから」との事だ。

倒錯した彼女の願望をふと思い出し、六花は苦味を孕んだ笑みを零す。
とは言え、父の役に立ち愛されたいと願っているのは、彼女とて同じだ。
けれども情報系の文明、異世界人の監視管理や瞬間移動はサイの独壇場。
自然と活躍の場が増えるのはサイの方となる。その事を、六花は秘かに気に掛けていた。

「あれ? 何、これ……」
不意に、深刻な響きを含んだサイの呟きが六花の耳孔へと滑り込む。
追憶の海を揺蕩っていたから現在へと引き戻され、ゲーム機を腕に掛けたバッグに仕舞い、一体どうしたのかと彼女は問うた。

「分かんない……。ただ一人、急に状態がおかしく……めちゃくちゃに……」
「場所は?」
「……すぐ近く。あっちの方だよ」

サイが指差す方へと走り、六花は手すりから身を乗り出して地上を俯瞰する。
ビル壁を滑り吹き上がってくる風に目を細めながら、彼女は視界を左右へ揺らした。
程なくして宙空で爆発が起こり、これまでになく異常な光景に彼女の視線が引き寄せられる。

「……何あれ」
眼下では五本腕の奇形と、猫の顔に機械の四肢を持つ異形が対峙していた。
これまでの異世界人と違って、人間としての形すら留めていない。
覚えず六花が呆然としていると、猫面の方が五本腕の持つ刀へと自ら飛び込んだ。

猫面の背中から生えた刀身は真っ赤に染まっていて、その色合いが六花の呆然を払い除けた。

184 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 00:25:23 0

「……馬鹿じゃないの? もう、何やってんのよアイツら……」

見た所、異世界人同士の諍いではなさそうだ。
初めこそ仲違いにも思えたが、周りに転がるチンピラ共を見るに、彼らはつい先程まで共闘していたと予想出来る。
何より不和故の相対ならば、猫面が自分から刃へ刺されに向かった事に説明が付かないではないか。
サイの言っていた、滅茶苦茶な状態。
恐らくは五本腕がそれに陥り、猫面は身を挺して彼を狂気の淵から掬い上げんとしたのだろう。
が、取った行動は余りにも短絡的で非論理的、彼より遥かに幼い六花の嘆息を誘う程に。

「サイ、あの猫面の方、昨日はあんなのいなかったでしょ。『捕捉』≪ストック≫しときなさい」

それだけ告げると、六花は身を乗り出した状態から更に、手すりの縦棒に片足を掛けた。
床に残った片足を蹴り、彼女は手すりの上に跳び上がる。
そして自分の背を押す慣性を殺すことなく、寧ろ身を委ね、ビルの屋上から五体を投げ出した。
彼女の四肢は余さず重力の鎖に絡め取られ、加速度的に落下していく。
見る見る内に接近する地面に、しかし六花は臆する素振りも見せない。
この期に及んでも、彼女の澄ました人形然の表情は崩れなかった。

「まったく……異世界人って昨日の馬鹿とかあの馬鹿とか、あんなのばかりなの? 私達だけじゃ手が足りないくらいだわ」

呟いて、彼女は身に付けた文明を発動する。
色も艶もない、ただ白く細いだけの脚を包むブーツに封ぜられた文明を。
微かな燐光を帯びたブーツが地に付き――何事も無かったかのように六花は着地を成し遂げていた。
代わりに彼女を中心として、深い亀裂が縦横無尽に走る。
ブーツに宿る文明『威震伝深』≪トランスショック≫によって、彼女に伝わる筈だった衝撃全てが、地面に伝導されたのだ。
危なげない着地を終えた六花はそのまま、公園の異形と化け物へと駆ける。

「ホントにもう……世話が焼けるんだから……」
少しだけ苛立ちを含ませた呟きを零し、彼女は二人――人と言うべきかは甚だ疑問だが、暫定的に――の間に割り込んだ。
そうして突然の乱入者に呆然とする猫面を突き飛ばし、強引に刀を抜く。

「言っといてあげるけど、お腹だからって馬鹿にしない方がいいわよ。腸が傷ついてたらそこから炎症起こしてショックで死ぬから」
尻餅を突いて倒れる猫面を尻目に忠告して、六花は五本腕と対立する。

「アンタもアンタで、落ち着きなさい。先に言っといてあげる。これで駄目だったらしばき倒すから」

鞄から先程の携帯ゲーム機を取り出し、手早い操作を施した後に、六花は眼前の化け物に突き付ける。
無論、通常の画面をではない。

娯楽品に宿る文明『消火昇華』≪ショウカシヨウカ≫を表示させた、極彩色に輝く液晶だ。
フラストレーションを強制的に解消させるこの文明。
猫面の行動で少なからず揺らいだであろう五本腕に、果たして通用するだろうか。

185 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 04:01:18 0
「ふム……存外動きやすいものだナ」

いくつかの動作を繰り返しスーツの限界稼動域を探っていく。
分捕った、もとい拝借した相手が大柄だったからか、それともスーツ自体が上物なのか。
おそらくその両方ともが理由としては正当なのだろうが、ともかくそれは飛峻の想像してたよりも遥かに機能性のあるシロモノだったようだ。

何よりこれで見た目の目立ちやすさはクリアできる。
もとより顔立ちは一般的な東洋人のそれであるのだから、格好さえどうにかしてしまえば問題なく一般客に紛れ込めるはずだ。

とはいえ、少々手段がバイオレンスすぎた感じは否めないようだった。
一部始終を見ていた真雪が付いて来れずに現実逃避に勤しんでいる様を見れば、いかな飛峻とて流石に気づく。

「ユキちゃん! どうしたの?」

そんなくるくると表情を千変させながら思考に没入している真雪を現実に呼び戻したのは一人の女の子だった。
年のころは同程度、背丈は真雪よりやや低いくらいだろうか。
真摯な瞳は本心から真雪を心配している様子が見て取れる。
真雪の友人なのだろうと当りをつけつつ様子を見ていると、その娘は続けて予想の遥か上を行く質問をしていた。

すなわち―――「ユキちゃん! 何で男と一緒に居るの!?」 と。

しかし考えてみれば至極最もな意見かもしれない。
元の格好より幾分周囲に溶け込んだとはいえ、随伴相手が黒服――しかも襟には銀バッヂ――ともなれば不安にもなるのも仕方ないだろう。

「アー……俺は君が思っているほど怪しいモノじゃなイ。
そうだナ、何と言えばいいのカ……俺は右も左もわからない時にマユキに世話になってナ?
何て言うんだったか……そウ!マユキの援助相手というやつダ」

ユッコと呼ばれた少女の剣呑な視線にしどろもどろになりながら精一杯の説明をするが、結果は散々だった。
唯一僥倖といえば説明されてる当の本人が「お前には聞いてない!」と、にべも無かったことだろうか。

「何で私じゃいけないの! 私はユキちゃんがこんなに好きなのに「お黙り!」」

段々少女の怒りの焦点が自分の想像とは全くの真逆だと気づいた飛峻が一歩引きつつ生暖かい目で静観を決め込んだ頃、埒が明かないと業を煮やした真雪の手刀が少女に炸裂する。
平和は戻った。
つむじを押さえ、涙目で無言の抗議は続けているものの真雪の説明を素直に聞いている。
少女の名前は経堂柚子、やや偏愛過ぎるほど真雪を慕っているようだが悪い娘ではないらしい。

「俺の名は李飛峻。まア、見たとおり異国人ダ。さっきも言ったがマユキは援……恩人だナ」

途中鋭くなった真雪の目線に慌てて軌道修正し、こうしてお互いの自己紹介はつつがなく無事終了した。
かのように見えた。

「ふぅん…つまりあなたは、ユキちゃんの『お友達』、なのね…」

柚子が飛峻をまるで値踏みするかのように根目つけ、不敵な笑みを浮かべながらとんでもない行動を起こすまでは。


186 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 04:02:21 0
鈴のような笑い声を上げながら柚子は宣言する。
自分は真雪の友達、そして飛峻も真雪の友達、ならば柚子と飛峻も友達で然るべきであり。
そして友達には良いことを教えてあげると。

「良いこと?」

突然調子を上げた友人に真雪が困惑気味に尋ね、飛峻もそれに習い首を傾げる。

「ユキちゃんが追いかけてる男はこのビルの最上階に向かってる。
この非常階段は一階から最上階に繋がってる唯一の階段だから男はそれを利用したの。
屋上には捕らわれのお姫様が居て、それを救う任務が有るみたい。
因みに、他の人間もそのお姫様を救いにやって来るわ!」

「何!?」

隣を伺うと真雪が絶句していた。
当然だ。飛峻たちは柚子にここに来た目的やそれに類する話は一切していないのだから。
だと言うのにこの少女は、目的はおろかその先の二人が知りえないことすら言ってのけたのだ。

「ユズコ、ソレは……」

「おいっ!?警備の連中居ねぇと思ったら入り口の便所で気ィ失ってたとよ!」
「ンだと?ってことは"鼠"はもう入り込んでるってことかァ!?」

どういうことだと問おうとしたその機先を制するように、ヤクザの仲間が怒鳴りながら姿を現した。

(不味いな……時間を食いすぎたか)

現れたヤクザたちを刺激しないように、ゆっくりとフェードアウトしようと飛峻が二人を促すより速く、柚子が行動を開始した。
惜しげもなく着衣を捲ると腹に手を当て、そのままズブリと腕もろとも中に押し込む。
そして肘の辺りまで腹中へ押し込んだ腕を引き抜くと、手には柚子の身長より遥かに長大な大鎌。
刃と言わず、全体から血を滴らせた凶悪なフォルムは一振りで人の命など容易く刈り取ってしまえるだろう。

(なっ、何だ……これは……)

余りにも異常なその光景に今度は飛峻が絶句する。
どこに収納していたとか、物理的なキャパシティーはどうなってるとかそんな在り来たりの疑問を吹き飛ばすほどのインパクト。
異能、などという言葉では説明できない程の圧倒的なまでの怪異。
何か言おうにも喉の奥が焼きついて言葉にならず、釣り上げられた魚のようにただパクパクと口を動かすのが精一杯だ。

「何してるの? あなた達は早く行かないといけないわ。
こうしている間にもあいつらは上に向かってる。間に合わなくなっちゃうよ。
私は大丈夫! ここで邪魔者をやっつけちゃうから!」

だが当の柚子はまるで庭の芝刈りでもしてくるといった調子で飛峻たちに語りかけると、二人を非常階段へと突き飛ばし扉を閉めてしまう。

「待テ、ユズコ!!」

突き飛ばされたことでいくらか平静を取り戻した飛峻は、一人残った柚子を助けようと扉を押すが鍵を締められたのか非常口は動かない。
ならば、と上へ続く階段を睨みつけるとそのまま飛峻は走り出した。


187 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 04:03:44 0
結論から言うと遅かった。
飛峻が二階の非常口を蹴り飛ばし、階下を見下ろすと既に決着はついていた。
大鎌を携えた少女の一方的な勝利で。

(死神もびっくりな大鎌を持った女子高生が布装備のヤクザに遅れを取るはずがない……)

意味不明な理由で納得しつつ安堵の溜息を一回。
そんな飛峻と目が合った柚子が手を腰に当て、ジェスチャーで「早く追いかけろ!」とばかりに指を数回上へ突き出す。
了解したと礼を返し、腰を上げると遅れてやってきた真雪が合流する。

「……なかなか凄い友人だナ」

掛け値なしでそう思う。
飛峻の居た世界でも武門の長老たちの中には超常の域まで功夫を磨き上げた者が居るのだ
異世界の住人を召喚などということを遣って退けるこの世界にもそれなりの隠し玉があったとして然るべきかもしれない。

「さてト、ユズコの方は片付いたようしナ。俺達もオワリたちを追うとしよウ」

ぐっ、と膝を伸ばしながら真雪に手を差し出す。
もっとも、いつまでもここに居ては柚子に何を言われるかわからないというのもあったが。



非常階段に戻り、柚子に指示されたとおり上を目指す。
裏付けは彼女の友人である真雪が示している。彼女の嘘を見通す力が反応しないのが何よりの証拠なのだから。

追いかけること数分、微かだが確かに足音が飛峻の耳へ聞こえてきた。
後ろの真雪に手振りで追跡対象が近いことを伝えた後、軽功を用いて自身の発する音を最小限に抑える。

まだ相手の足音は響いたまま。
コツコツ、コツコツと。

不思議な違和感を覚えながらも見えない相手の動きに併せ、呼吸を読み取りこちらも動く。
大分近づいたからか、はっきりと尾張たち二人の気配が知覚できる。


なおも足音は変わらない。コツコツ、コツコツ――

(――違う!)

違和感の正体に気づいたときには遅かった。
二人の気配に対し一人分しかない足音。

文字通り音も無く、階段を疾駆して来た尾張が飛峻の前へと降り立つ。
手にした自動小銃の筒先は眉間を捉え、銃身にマウントされた銃剣の切っ先と付随した紙切れが飛峻の眼前に突きつけられていた。

『動くな』

その紙に書かれた文字と銃口、指の動きと尾張の視線に目を這わせながら、飛峻は構えを解くと無言で両手を挙げた。

188 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 07:19:05 O
>「ボウズ、良い事教えてやんよ」
>「本物の馬鹿って奴をな」

俺の手を掴む。
そして刀を腹に刺した。

理解不能。

理解不能。

「理解不能」

何。
このイキモノは何だ…?

「意味が、分からない」

刀。
引き抜けない。
手、邪魔。

189 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 07:20:26 O
「…邪、魔?」

小さな人影。
第三者、引き抜かれた刀。
理解不能?

>「アンタもアンタで、落ち着きなさい。先に言っといてあげる。これで駄目だったらしばき倒すから」

向けられたナニカ。

「あ…」

抑えられなかったモノが一気に自分の中から無くなる。
だが冷静にはまだ程遠い。
思考はいつも通りに出来るのだが。

「…」

身体が脳の指令を無視している。
刀を捨てろ、それが出来なきゃ倒れ込め。

「…無理か」

呟いて目の前の子供に斬りかかる。
俺別にそんなつもりねーよ、ちくしょう。

190 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 08:21:43 O

『動くな』
暗闇の中で紙を突きつけられた。
飛峻が構えを解き、真雪が息を呑む。
尾張を追いかけて数時間、やっと会えた。のは良いが、状況が悪すぎる。
こんなに警戒されては、会話が出来ない。
「こんにちは」
真雪がそう言うと、目の前の銃口が少しだけ揺れた。
何を考えているか分からないが、真雪は話を続ける。
「尾張さん、昨日振りだね。月崎真雪だよ。
後を付けてきてごめんね。私、今日は話を聞きに来たの。
ホントは喫茶店で聞ければ良かったんだけど、あなた達すぐ行っちゃったし。
だから…ちょっと警戒を解いてくれない?」
しかし、銃口が降ろされる訳がない。尾張の予想通りの反応に、真雪は溜め息を吐いた。
「会話をしてくれないならまだ私が話すね。
この人は李飛峻さん。異世界から来た人だよ。
私がケガをしたときに助けてくれた人。今日は私を心配して付いてきてくれたの」
そこで真雪は銃口から目を離し、目線を探して合わせる。
「彼なら大丈夫。
あなたが何もしていないのに襲いかかるなら、私が抱き付いてでも止めるから。
それに私には戦う力は持ってないよ。あなたなら解るでしょ?
ね…異世界から来た尾張さん…
異世界に来て音を失った尾張証明さん…
私とお話しませんか?」
さて、彼はお話をしてくれるだろうか。
【真雪:爆弾投下】

191 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 10:22:02 O


地面から少女が沸いてきた。


別に比喩とかそういうのではない。
本当に地面から沸いてきたのだ。
少なくとも、テナードにはそう見えた。

「!?」

一瞬、何が起きたのか解らなかった。


遡る事数分前。
色白男の武器を封じた、そこまでは良かった。

「(……ヤベエ、この次考えてなかった)」

色白男はといえば、怪訝そうに眉間に皺を寄せ、得物を引き抜こうと躍起になっている。
しかし、引き抜こうとする手はテナードの両手で固定されていて動かないし、刀身は深々と突き刺さっている。
結果、刺された周辺の筋肉が傷つけられるだけ。




192 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 10:24:40 O

これからどうするか。
前の世界での【慣れ】のせいか、それともこの有り得ないシチュエーションのためか、痛みは余り感じない。
だが、この状況に少々飽きてきたのは事実。


「(気絶でもさせるか)」


そう判断し、色白男の懐に拳をねじ込もうとしたその瞬間だった。


「ホントにもう……世話が焼けるんだから……」


そして、冒頭に戻る。


あまりにも唐突、あまりにも突然すぎる第三者の登場。
目の前の問題に集中していただけに、判断が遅れた。


「…………ッ!?」

突如として、吹っ飛ぶ体。
ズルリと体内から何かが抜ける不快感を伴いながら、もんどり打って地面に叩きつけられ、尻餅をつく。

「……ガハッ!ゲホッ!」

叩きつけられた衝撃で、思わず咳き込む。
つくづく、自分は悪運に恵まれているようだ。泣けてくる。


193 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 10:25:58 O

「----------、--------------------」

自分を吹っ飛ばしたであろう少女が、何か言っている。

だが、脳内処理が追いつかない彼に、その言葉は届かない。


テナードの代わりに、今度は少女が色白男と対峙する。
少女は四角い何かを、色白男に突きつける。


閃光。


咄嗟に、腕で顔を覆う。
光が消失したのを確かめ、恐る恐る少女達を見る。

「……こりゃあたまげたな」

口から漏れる感嘆の声。
色白男から、狂気じみた殺気が消えていた。

先程の光は、あの男を鎮める為の物だったのか。
そう思い、ホッとしたのも束の間。


色白男が少女に斬りかかった。


【テナード:脇腹に重傷、一応戦闘可能】


194 名前:尾張証明 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 12:20:03 O
なぜこんなところに昨日の少女がいるのか。横に立つのは先程喫茶店で見た中国風の服を着た少年。あの時点か
ら付けられていた?気を抜きすぎたか。反省する。
いや、今はそんなことはどうでもいい。どうでも良くはないが、どうでもいい。

>>「こんにちは」

少女の、真雪と言ったか、の言葉に銃口をそちらに滑らせかける。昨日の時点で俺が異世界人だと解っていたの
だろうか? そうでなければ、大した運命だ。

>>「尾張さん、昨日振りだね。月崎真雪だよ。
後を付けてきてごめんね。私、今日は話を聞きに来たの。
ホントは喫茶店で聞ければ良かったんだけど、あなた達すぐ行っちゃったし。
だから…ちょっと警戒を解いてくれない?」

耳を澄ませば、兎が階段を降りてくる、その音がする。俺は銃口を二人に……主に中国風の服を着た少年に向け
たまま、兎の到着を待つ。

>>「会話をしてくれないならまだ私が話すね。
この人は李飛峻さん。異世界から来た人だよ。
私がケガをしたときに助けてくれた人。今日は私を心配して付いてきてくれたの」
>>「彼なら大丈夫。
あなたが何もしていないのに襲いかかるなら、私が抱き付いてでも止めるから。
それに私には戦う力は持ってないよ。あなたなら解るでしょ?
ね…異世界から来た尾張さん…
異世界に来て音を失った尾張証明さん…
私とお話しませんか?」

「……その人は音を失った訳じゃありませんよ、月崎真雪さん」

こちらの目をじっと見つめながら話す月崎真雪を極力無視しながら、銃口を安定させる事に力を入れる。と、兎
がようやく姿の見えるところまで降りてきた。



195 名前:尾張証明 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/04/13(火) 12:24:48 O

「彼はね、この世界から見て0.325699444違う世界から来た。約33%。因みに貴女の隣にいる李飛峻の世界は
0.0421477423。約4%。
わかるでしょう?これはほとんど致命的な数字だって。本来なら大気の成分に違いがあるほどの数字」

だが、兎は何を言っている?聞いたことの無い情報だ。情報はギブアンドテイクではなかったのか。
後ろを見ることはできない。ただ兎が階段を降りる音と、声しか聞こえない。

「にもかかわらず物質的にも、生物的にも、彼は私たちと大した違いはない。それどころか文化や、人物や、建
物の構造や位置まで重なっているらしい」

では、その約33%の違いは何処にあるのか?

「違っていたのは、イデアの有無。誰しもに極々微量はある筈のイデアが彼には全く無い。或いは彼の居た世界に
はね。
フェノメノンなんですよ、彼は……理想の真逆、現象なんです。
だから声が出ない。音をたてられない。現象は私たちに何も伝えることができないから、私たちはその動きから
意志を推測するしかない……今は字を書けるようですが、その内どうなるのか見当もつきません」

私が嘘をついていないことくらい、解りますよね。月崎真雪さん?
そう言って、兎は俺の横に並んだ。その顔は言葉の調子からは考えられないほど疲れて、緊張しているように見
えた。

「さてと……こうなってしまった以上仕方ありません。
李飛峻さん。もうわかっていると思いますが、私は貴方をこの世界に連れてきた原因を知っています。私に雇わ
れてもらえませんか?そうすれば貴方が元居た世界に帰るヒントをあげますよ。
月崎真雪さん。貴女もついでに雇っておきましょうか。嘘を見抜くなんて能力、滅多に無いのでね。貴女を取り
巻く状況を打破するヒントをあげましょう。隠さなくても解りますよ、嫌そうな顔をしないでください。美少女
が台無しです。
因みにどうして名前を知ってるのかは、雇われてくれれば教えます」

兎はポケットから懐中時計を取り出して、時間を見た。

「因みに私は“兎”です。
だからと言っては何ですが、時間を気にする方でして……できるだけ素早い返答をお願いします」


【兎:李飛峻、月崎真雪をスカウトする】

196 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/15(木) 00:54:03 0
「さてと……こうなってしまった以上仕方ありません。
李飛峻さん。もうわかっていると思いますが、私は貴方をこの世界に連れてきた原因を知っています。私に雇わ
れてもらえませんか?そうすれば貴方が元居た世界に帰るヒントをあげますよ――」

気がつけば異世界に連れて来られ、導き手として現れるのは懐中時計をしきりに気にする"兔"。
銃口と剣先を突きつけられた状況だというのに飛峻は苦笑を洩らさずには居られなかった。

「チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン、だったカ。
それともルイス・キャロルと言ったほうが通りが良いカ?」

彼女の言葉を借りれば4%と33%の差異だったろうか。
だが文化や、人物、建物の構造からその位置まで重なっていると言っていたことを考えれば通じないということもないだろう。

"兔"の提案は単純にして明快だった。
飛峻に提示されたカードは元居た世界へ帰還するヒント。真雪には彼女の異能が発端となって形成された状況を打破する方法。
そして対する要求は「手駒になれ」、教科書どおりのギブアンドテイク。

兔が手にした懐中時計を見せつけ決断を迫ってくる。
しかし彼女が取引材料を提示した時点で既に飛峻の腹は決まっていた。
もとより何の手がかりも知りえていない身、少しでも情報を得られるのならば例え虎穴だろうと入っていくのみだ。
そして何より恩人である真雪も助けられるかもしれないとなれば――

「成程、了解しタ。
その話乗っても良イ……ただし」

兔に了承の態度を示すと、飛峻はゆっくり両手を降ろし始める。
途中、銃剣の切先に刺してあった「動くな」と書かれている紙切れを抜き取ると中に放り投げ――

スパン

と、ひらひら舞い落ちてきたそれを手指の動きのみで両断した。
一連の動作の最中、一度も兔から視線をはずす事無くだ。

「わかっていると思うガ、コチラに嘘は通じなイ」

もし約定を違えることがあれば相応に牙を向く。
言外にそう伝えると、これ以上言うことはないとばかりに背後の真雪へ振り返り問いかけた。

「さテ、正直ココから先は危険極まりないだろうガ……マユキはどうすル?」


197 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/15(木) 02:26:02 0
『消火昇華』≪ショウカシヨウカ≫を見せつけて、五本腕の瞳に正気の色が兆す。
正常に戻ったかは険呑にしても、ひとまず据わっていた目に多少なりとも意志の光が灯ったのは確かだ。
しかし、どうやら足りなかったらしい。猫面が身を犠牲にして、その上で文明を施しても。
五本腕の体は彼の意志の管理下から逸脱したように、刀を振るう。
とは言え彼も多少なりの抵抗はしているのか。
刃は今一つの冴えに留まり、迫る鈍色の線を六花は容易く躱した。

「感情の蟠りと言うより、本能の類なのかしらね。まあどうでもいいわ、先に言っておいたわよね」
二、三歩後方に飛び退いて、六花は揺らめきながら迫る五本腕を見据える。
睨むでもなく、蔑視するでもなく、ただ視界に収めただけと言った挙動と目つきで。
『消火昇華』が十全の働きを示さず、至らぬ結果に終わった理由を思案しつつ。
彼女はナロータイとシャツの上から、父からの贈り物――小さな宝石を鏤めた首飾りを握り締める。

文明ではない。
サイはいつも父の役に立っている。サイばかりがいつも父に甘えている。
螺旋を描きながら地の底へと続く奈落を思わせる、悲観の連鎖。
過去に一度そのような思考に拘泥した彼女に、三浦が贈った物だ。
これは自分が君を大事に思っている、一人の娘として尊重してる証だよ、と。
仕事の道具として送られた物では無いが故に、文明は一切含んでいないのだと。
この首飾りがあるからこそ、六花は常に余裕を保っていられる。
サイに対して、取り澄ました態度を取る事が出来る。

サイに比べればたまにしか訪れない仕事に気負う事なく、全力で臨む事が出来る。

「……しばき倒すって」

首飾りを手放し、六花はバッグに右手を潜らせる。
慣れた手つきで取り出されたのは、小振りの指輪。
『身体強化』≪ターミネイト≫を宿したそれを左手の薬指に嵌めて、彼女は地を蹴った。
距離を詰め、ゆらゆらと落ち着きのない刃先を手の甲で横合いにはたく。
同時に軽く跳躍し、振り上げた足で顎下を強かに蹴り上げた。
ぐらりと仰け反り空足を踏みながらも、五本腕は後退する。
直撃したのか、防がれたか、六花は確かめようとはしなかった。

「……アンタ、言わなかったかしら? ヘタに動いたら死ぬって。ああもうホント世話が焼けるわ」
何せ忠告を言って聞かせたにも関わらず、猫面が背後で立とうとしていたのだから。
異世界人を死なせる訳にはいかない。
溜息を零しながら、六花は再びバッグを漁る。

やはり淀みない所作によって姿を現すのは、十字架を模したイヤリングだった。
クリップ式を片耳に挟み、彼女はそれを軽く指で弾く。
途端に、十字架が淡い緑の光を纏った。

「これで動けるけど、次はないわよ。これはあくまで『救急治癒』≪バーストリバース≫。間を置かず使ったら、ショックで死ぬから」
事も無げに言ってのけると、六花は再度五本腕に視線を滑らせる。

先程の一撃で正常に戻ったならば、都合良く取り込めるように説明を始めればいい。
だがもしもまだ掛かってくるようであれば、その時は猫面にも力を借りて相応に痛めつけなければならないだろう。

198 名前:尾張証明 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/04/15(木) 09:42:16 O
>>175の一つ前のレスが抜けておりました】

非常階段は薄暗く、足元を照らす転倒防止用の暗い緑色の灯りとむせ返るようなこもった湿気、剥き出しのコン
クリートはこちらの胃をムカムカさせる。
それだけが原因では無いのかもしれない。
ちらと横を向くと、相変わらず暗い顔をした兎が足を上げるのも億劫だとでも言うように、辛そうに階段を一段
一段、ゆっくりと登っていた。

(そう言えば、兎って生き物は上り坂が苦手だったな)

そう言うことなのか?まさか、そんな訳は無い。兎は怯えていて、逃げているのだ。僅かな付き合いでも、アイ
ツに似ている兔の思考など丸分かりだ。
兎は後ろから着いてくる二人組に怯えている。さっきまでは気付かなかったが、流石に階段なんて分かりやすい
場所で尾行されれば嫌でも分かる。
不思議なのはそれを排除しろとは言わない兔。自分の預かり知らない所で決められた作戦の一部なのだろうか?
否、それなら怯えている事への説明がつかない。
兔の能力なら、相手の素性まではギリギリ分かるのだ。ということは、全くの部外者?

(ならなぜ怯えている?)

分からない。本来あり得ない状況に陥っている。
もう何度も手帳を開いて質問しようかと迷ったが、未だに機会を逃し続けて、尾行に気付いてから既に十数分が
過ぎてしまっていた。

【ご迷惑お掛けしました。本当にスミマセン】


199 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/04/16(金) 23:29:58 0
「さて、前回までのあらすじの時間だね。浮遊するパイプに導かれるがまま僕ら休鉄会がたどり着いたのは、とある商業ビルの一角。
 BKビルと刻まれたそこは、高級複合商業施設の皮を被った指定暴力団管理建造物。なんと通称ヤクザビルだった!
 さて、そんなこんなで入り口を警備するチンピラを巧みな話術で翻弄し、最上階までの案内へと漕ぎ着けた僕らであったが、
 最後の関門としてチンピラが提示した条件は、武装精査の文明『禁属探知』でのボディーチェックだった。どうする僕――!!」

結果から申し上げるとするならば、何事も起こらず天下泰平、休鉄会一行は通過した。
タチバナが何かアクションを起こしたわけではない。『逸撃必殺』は未だ彼の懐にて眠り続けている。
いっそバレた瞬間見張りを昏倒させて強行突破に入ろうかと身構えていたが、『禁属探知』に不備があったのか
彼の胸ポケットには特段なんの反応も示さず、従ってタチバナはその能面顔を維持し続けることを五体の総意として可決した。

「ははは、どうやら僕が神に愛されていることが白日の下になったようだね。日頃の敬虔なる使徒っぷりが功を奏したといったところかな?」

『むしんろんしゃじゃんおまえ』

「神に愛されている人間が、その神を信奉しているとは限るまいよ?然るに恋とは常に一方通行なものなのさ。
 互いの心を送受信し合えてしまった瞬間からそれはもう肉欲への道程でしかない。送信だけで心を勝ちとってこそ恋だよ」

『おー、ふかいこというね』

「人はそれを攻略と言う」

『ふかくなかった!』

「いやはや。僕は現実が好きだけど、唯一選択肢が表示されないのが不便極まりないね。好感度も。ステータスも。イベントCGすら」

「――おう兄ちゃん、さっきから何をぶつぶつ一人で呟いとるんじゃ。気味悪いのう」

顔を上げると、迎えのヤクザが眉を並行にしながらこちらを見ている。
促されて搭乗したエレベーターの内部は、休鉄会五名とヤクザが二人。のべ七人のうち六人が男性と非常にムサ苦しい面子の中、
しかもそう広くはない従業員用のエレベータである。内部の湿度と不快指数は鰻登り、タチバナにとっては砂漠の魚に等しい。

「いえいえ、ご心配には及びません。――脳内で幼女とお喋りしてただけなので」

「そうかいな。兄ちゃんは早死にすべきじゃのうこの国の未来のために」

お気遣い痛み入ります、と会話を打ち切りタチバナは再び直立不動に黙した。
エレベーターの階数表示はやがて二十代に突入し、そして三十代に入り、百階を通りぬけ、やがて表示は4桁にまでなり始めた。

「な、何が起こっとんじゃいこりゃあ……!!」

ヤクザが眼を皿にしながら声を挙げる。BKビルはどう見積もっても二十階前半、当然桁は二つで足りる。
しかし表示枠の中身は既に億を突破しており、エレベーターの駆動に終わりが見えない。

「『物体変質《オーバーライト》』が異常稼働を起こしちょる!!アカン、このままじゃと『暴発迷宮《ラピッドラビリンス》』に巻き込まれるき――」

予言は正しく実行される。エレベーターの箱自体が大きく一回揺れたかと思うと、唐突に踏みしめた地面が消え去った。
最悪の浮遊感に胃の中身がひっくり返っては外の世界へ解き放たれんと暴動を起こすが、消化器官の鎮圧部隊を総動員して制圧する。
己の腹の内に最大限の集中を発揮していたが故に、どのように不時着したか覚えていない。ただ、気づいたときには硬い床の感触を得ていた。
全身で。

「――ここは……どこかのフロアの廊下、かな」

むくりと体を起こすと、まず身体の各部が十全に稼働するかを確認。異常なしと判断したら次は辺りを精査する作業に入る。
エレベーターは見当たらず、真っ直ぐの廊下が端を視認できなくなるまで左右に向かって続いている。
BKビルにこのような広さはなかったはずである。ならば、これは空間の歪曲によってもたらされた現実の亜種。純然たる異空間。

「そうだ、他のみんなは」

見回せば足元で地に伏せ、ようやく気絶の縁から帰還しようとする影が一人分。
シスターだった。他には誰もいなかった。

200 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/04/17(土) 00:47:30 0
「一緒に飛ばされたのはシスター君ただ一人だけ。他の連中はヤクザ達も含めて別々に分断されたようだね」

『うへー。せんりょくげきげんじゃん』

「いや、むしろ一緒に飛ばされたのがこのメガネっ娘で助かったよ。なにせここにはこの僕がいる。
 一番最悪のケースは、戦闘能力に乏しい彼女が一人で飛ばされることだからね。
 それに、戦力分布の意味でもウェイター君やアフロ君ならば単身でも戦えるだろう。モル山君は知らん」

『このこにとってはおまえがいちばんあぶないんじゃないの』

「はっは、やだなあ。僕はロリコンじゃないし、この先なる予定もないよ。幼女枠は君がいるからね、アクセルアクセス」

『きゃー』

さて、とタチバナはかぶりを振り、通路の壁に手を当ててなにやら検分を始めた。
上等な壁紙を敷かれたその壁面を指でなぞり、爪を立て、拳で軽く叩いて反響を確かめる。

「……ふむ。アクセルアクセス、この壁を材料にちょっと顕現してみてくれ」

『あいさー』

いつものように目の前の壁が隆起し、彫刻されて幼女の形を

『んぎぎぎぎ〜〜〜!』

造らない。まるでストッキングを頭に被った少女のように、輪郭だけを壁から盛り上がらせるだけで一向にディティールを得ない。
伸縮性のある大きな布に体を押し付ける様を布の向こう側から見たらこのような絵面になるだろうか。
とにもかくにもアクセルアクセスはその場に顕現することができない。

「どうやら対破壊性質の特殊な建材が使われているようだね。『精霊』の顕現に抗うとは……『文明』の類かな」

懐から豪華な意匠を施された万年筆と市販のメモ帳を取り出す。一枚破りとると、万年筆のキャップを外し何事かを書き始めた。
ワープロで打ち出したかのような精密な明朝体で刻まれるのは、漢字が三つ。――『説明書』。
タチバナが書き上がりに満足したように筆を離した途端、『説明書』と銘打たれた紙片がうっすらと極彩色に輝き出した。

「『一筆New魂《セカンドスペル》』――改名完了」

『説明書』を壁に貼り付ける。すると極彩色の文字が紙上を繁茂し始め、やがて文字列は文章となってタチバナの眼に飛び込んできた。
記述されたのは建材の"説明書"。壁に組み込まれた文明の名称と説明が羅列されていく。流れる文字の奔流を一瞥し、理解する。

「ふむふむ、この壁には『物体変質』に分類される文明による強化が施されているね。『完全被甲《フルメタルジャケット》』――剛性上昇の文明だ」

この世界に来て分かったことだが、生物の他に文明も『精霊』顕現体の材料にすることができない。
となれば文明そのものとも言えるこの迷宮は、アクセルアクセス以外に目立った戦闘能力を持たない彼にとって翼を封じられたに等しく。
存外このコンクリート・ダンジョンはタチバナにとって死地と成り得る条件なのかもしれない。

「とりあえず、先へ進もうかシスター君。おそらく留まることは得策じゃあない。迷路の脱出方法で最も効果的なのは、進むことなのだから」


【最上階へ向かうエレベーターで迷宮化に遭遇。皐月と共に休鉄会メンバーと分断される】


【文明データ】

◆『一筆New魂《セカンドスペル》』  情報干渉系 

万年筆に宿った文明。物体に文字を記すことでモノの名前を改変することができ、名前通りの効果を発揮させられる。
ただの白紙に説明書と書けば触れた物の説明書きが羅列し、地図と書けばオートマッピングと便利な文明。
ただし、改名する場合は『材質』や『形状』に共通点がある(=似ている)必要があり、あまりにかけ離れていると十全に発動しない。
ジャンキーズからの鹵獲品で唯一まともにタチバナに適合した文明。

201 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 10:19:29 O

兔と名乗る女性から、雇われてくれないか、と誘われた。
彼女が何を考えているかは分からない。
兔と真雪は初めて会ったばかりで、しかも与えて居ないはずの情報を知っているのだ。
真雪は掛けているペンダントを握りしめた。
(どうしよう…提示された条件は確かに魅力的だし、このまま別れたら何も分からない。
だけど、この人を信用して良いの?)
真雪の頭の中がぐるぐると混乱している。
真雪が迷って居る内に、飛峻は答えを提示した。
飛峻はその依頼、受けるらしい。
(こんな考え、どんな危険があったって、て
さっき自分で言ったのに矛盾してて嫌なんだけど)
飛峻が受けるなら、自分も雇われてみよう。
「さテ、正直ココから先は危険極まりないだろうガ……マユキはどうすル?」
飛峻が振り返り、微笑んだ。
彼の問いに、真雪は一つ頷く。
「私は付いていくよ。言ったよね? どんなに危険でも、私を取り巻く環境、あなた達が巻き込まれた事件。それが意味するモノを知りたいの」
そう言って、真雪は飛峻を追い越す。
兔の手をとって、彼女の目を覗いた。
「だから私も雇われます、うさぎさん。
私達が出会ったことも、きっと意味が有るよ」
時間が無いなら急いで行かなくてはいけない。
真雪がそう言うと、上の方から何らかの音が聞こえた。
その元へ向かった方が良いだろうか、それとも逃げるか。
真雪の中で選択肢が浮かんだ。
後ろから飛峻の呼び止める声が聞こえる。
真雪は勿論、階段を上がった。
【階段の上に何か有る】
【真雪:階段を先に登る】

202 名前:尾張証明 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 12:18:09 O
兎の提案を、真雪もスーツを着た少年……李も承諾したようだった。

「ご協力有り難うございます真雪さん、李さん。三月のウサギは狂っていますが、今は五月です。質問があれば
答えられる範囲で答えますよ……ただし、相応の対価を戴きますが。
つまりは、“働かざる者食うべからず”という次第で、ええ昔の人は偉大ですね。まあ昔の人はいつだって理不
尽なぐらい偉大ですが。
歴史は好きですか?ちなみに私は大嫌いです」

意味の無い言葉を存分に振りかざして、さてそれではと上へ向かいましょうか、とやっと兎は俺の方へ向いた。
その表情が強張る。耳に手を触れさせる。

「三浦!?あのバカ、飛び込んで来るなんて……!!」

不意に兎が俺のコートと、近くに居た李の服の端をガシリと掴む。既に階段を登りかけていた真雪には、言葉し
か届かない。

「真雪さん、李さんに捕まって!!あの文明が発動しても、重なっているものは個体として認識されてバラバラに
なることはありません!!だから!!」

兎の言葉に、真雪が反応できたか確認する前に、直後に暗転。ふっと体が軽くなり、平衡感覚がおかしくなる。
地面が凄まじい速度で横滑りし、つんのめるように倒れる。立っていられない。これは、どうした事だ?感覚的
には地震に近い。理不尽な知覚への暴力。
ほんの数瞬の後、ちかちかと蛍光灯が瞬いて、暗順応しかけていた視覚が機能を回復する。
起き上がって見渡せば、そこは既に迷宮。
そして、ここが階段であった唯一の証拠である汚れた蛍光灯、その下に、見知らぬ男が立っていた。

【尾張、兎、李は一まとまり確定、真雪さんが着いてきているかは李さんに掛かっております
音は迷宮化が始まる音か、三浦さんが飛び込んできた時の音と言うことで一つ
三浦と遭遇】

203 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 20:29:12 0


振り降ろされた切っ先が、少女を捉える事は無かった。

少女は容易く攻撃を躱し、二、三歩程後方に飛び退く。
惨劇を予想していたが、どうやら杞憂だったようだ。
テナードは再度安堵の溜息をつき、また戦いに加わろうと立ち上がろうとした、が。

「ッ!」

見える物全てが二重、三重に重なって見えた。
同時に襲いかかる、脳が揺さぶられるかのような眩暈と全身の脱力感。
大量出血による、重度の貧血だ。

「(Shit!こんな時に……!)」

まともに立つ事も出来ず、片膝をつく。
腹に手をやると、右手は己の血で赤く染まった。
脳内で理解したと同時に、疲労感と寒気と痛みが一気に襲いかかってきた。
正直、ゼイゼイと肩で息をするのがやっとだ。まともに戦える状態ではない。


他人の為に戦うなんてらしくない、自分でもそう思っている。
なら、何故。俺はアイツを死なせたくないと想うのか。

少女と対峙する色白男。
おぼつかない足取りで、ユラユラと幽鬼のように迫るあの男。
他人に向けていたあの冷たい瞳に、懐かしさのようなものを感じていた。

「(嗚呼、そうか)」

熱い何かが逆流し、口の中が鉄の味に支配される。
ゲエゲエと血を吐き散らしながらも、視線は五本腕の奇形に。
そうだ、思い出した。

「(アレは)」


昔の、俺の瞳だ。



204 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 20:30:05 0



「……アンタ、言わなかったかしら? ヘタに動いたら死ぬって。ああもうホント世話が焼けるわ」

真上から掛けられた、呆れ返ったような声。
擡げる気力もない、その頭の上で力無く垂れた耳が何かに挟まれる感触。

刹那、視界を覆う淡い緑。

「…………お?」

眩暈が失せ、視界がハッキリとしてきた。
脱力感も消え、思わず腹に手をやると、出血が止まっていた。

「おおおおお!?」

腹のどこを触っても、傷は見当たらない。
この少女が、何か細工でもしたのか。
先程感じた違和感を頼りに耳を触ると、十字架ののアクセサリーのような物が付けられていた。

「これで動けるけど、次はないわよ。これはあくまで『救急治癒』≪バーストリバース≫。間を置かず使ったら、ショックで死ぬから」

さらりととんでもない事を、朝食のメニューを述べるかのように言ってのける少女。

まるで魔女だな、と脳内で感想を漏らす。
いや、魔女は十字架を好まないか。どちらにせよ、魔法のような力だと認識した。
そして、当の少女は、五本腕に視線を向けている。
そんな少女を見て、テナードの中で、様々な疑問が飛び交う。

この少女は一体何者なのか。
何故自分を助けたのか。
それにしても何処から現れたのか。
彼女は味方なのか、敵か。
先程の集団が言っていた「文明」と、何か関係があるのか。

彼女に問いたい事は沢山ある。
だけども、何よりも先に終わらせなければならない事がある。
それが、自分勝手なエゴだとしても。
問題は、そのテナードの要望に、彼女が乗ってくれるかどうか。

賭けるしかない。

「なあ」

少女がこちらを見た。

 アイツ
「色白男を止めるの、手伝ってくんねーか?」



205 名前:ゼルタ・ベルウッド ◆8hdEtYmE/I [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 22:27:53 0
「おかしいなー……」

ゼルタはナイフを片手に首をかしげる。
目印として壁に傷をつけながら迷宮を探索する、その予定がいきなり狂っていた。
傷がつかないのだ。壁だけでなく、床も天井も、刃をまったく受け付けない。

「そんなにかたい壁には見えないんだけどなー。……あっ」

ゼルタは何かを閃いたらしい。ナイフを一度足元に置くと拳を握る。
右腕にはめられた腕輪、『物質融解』。これで壁を溶かして目印とするつもりのようだった。
奪ったもののここまで使うことのなかった文明に、ようやく出番が回ってきたのだ。

「せーの……てりゃ!」

ゼルタは元の持ち主がそうしたように、拳を勢いよく壁に向かって叩きつけた。

206 名前:ゼルタ・ベルウッド ◆8hdEtYmE/I [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 22:29:22 0
……数秒後、そこには利き手を押さえて涙目でうずくまる少女の姿があった。
文明に適応しなかったのか、あるいは迷宮の耐性が上回ったのか。
いずれにしろ、壁は溶解することなくゼルタの拳を受け止めたのだった。

「なんだよー! 溶けないじゃん、壁溶けないじゃんかぁ!」

ゼルタは腕輪を外すと、壁に向かって投げつけ、さらに壁にぶつかって落ちた腕輪をそのまま蹴り飛ばした。
何度か壁にぶつかる音が響き、やがてゼルタの視界から見えなくなった。

「役立たず! お前なんか要らない、要らない、要らないんだから!」

ふん、と拗ねたような表情でナイフを拾い、すたすたと歩き出す。
こうして文明『物質融解』≪ソリッドアシッド≫は所持者の手を離れ、迷宮のどこか片隅へと姿を消した。



「……ん」

迷宮内をしばらく歩きまわっていると、すぐ近くで人の声が聞こえた。
曲がり角で壁に背中を付けて聞き耳を立てる。
ナイフは逆手に構え、左胸の前に。

>>200
>「とりあえず、先へ進もうかシスター君。おそらく留まることは得策じゃあない。迷路の脱出方法で最も効果的なのは、進むことなのだから」

……ここの警備兵とかではなさそう。

でも、やっぱり見られたら困るから。

こっちに来るようなら、グサリ。

【タチバナ・皐月に接近】
【文明『物質融解』紛失】

207 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 23:41:58 O
天井から煌々と差し込む光。それは空に昇る太陽の光だ。
時刻は12時の少し前。軽く各階層を覗いて回った後、三人は食事をとるために展望エリアに来ていた。
その食事の中での会話にまぎれて零は先の萌芽との邂逅を語る。

「て、話よ。ご理解いただけたかしら?」

「成程、でしたらそれに応じて私たちは行動を開始しましょう」

その内容を噛みしめると都村はそれに合わせて作戦開始時間を早めようと提案する。
その言葉に満足そうに頷くと零は「はい。これ」と都村に器を差し出した。

「麻婆……豆腐?」

「そう。麻婆豆腐。つまりパーフェクト・ハーモニー。よ?」

「ですが、私はボディガードですから。そう言うのは……」

遠慮がちに後退をする都村。しかし、その歩みはゼロワンによってさえぎられる。

「ハジメさん……えー、お手数をおかけしますわ」

微かにだがほほ笑むゼロワンに連れられて椅子に座らせられる都村。
困ったように眉をハの字に下げる彼女に零は蓮華とご飯を差し出す。

208 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 23:42:51 O
「えぇと……」

「知らないの?麻婆豆腐は……」

「知ってます。私が言いたいのは……」

椅子に座った都村だがやはり抵抗を試みる。無理もない。ここで失敗したらこれまでの行為が無駄になるのだ。
しかし、零もまた引くつもりはない。できる限り作戦前に消耗するのは好ましくないからだ。

「食事ぐらいとっても大丈夫よ。それとも、「あ〜ん」してもらうのがお好み?」

「気色の悪いこと言わないでください!!」

慌てて口をふさぐ都村。しかし残念ながら既に時は遅い。

「もう、周りの人が見てるわよ?
 使用人なら使用人らしく主人の言葉くらい聞いて?」

「すみません」と都村は謝る。
その二人の姿に呆れたのか周囲の人たちも各々の世界に帰って行く。

「これは……適度に絡まった麻婆ソースが絶妙なハーモニーを醸し出しながら、
 ひき肉のうま味を甜麺醤が引き立て、さらにこれは……ただのラー油ではない?」

「もしもーし?」

209 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 23:43:56 O
見ている方まで食欲をそそられる様な勢いで白米と豆腐を口に運ぶ都村。
あの都村がである。よほど美味なのであろうと零は後悔をした。

「あぁ、そう言えば忘れてました。これを……」

「これは、文明って奴?」

そう言うと零は差し出されたソレを摘みあげる。
ソレは銀でできた輪だった。
装飾品。というには少し出来が質素だがシンプルさが品の良さを物語る出来だ。

「はい。情報干渉系文明『重力制御』《グラヴィトン》です。
 本来ならば違法なのですが超法規的処置として貴女達の分も独断で拝借してきました」

「……さすが、と言うべきなのかしら。それとも……」

「どちらかと言うと「やってしまったな」でしょうね」

その言葉を聞き、零は薄くほほ笑む。
その様子を見たゼロワンは理解不能といった様子で傾げた。

「「ハジメ」様の分も用意しておきましたので要り様でしたらお使いください」

そう言うと都村はゼロワンにも持ってきた文明をちらつかす。
その様を見ながら零は渡された文明を確認する。

210 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 23:45:07 0
「ちっ、ロケット弾でも破壊出来ないとは」

指示まで待機していたが突然建物が構造がいきなり変わったという配置した英霊達との
思念通信により現在の状況に気づいた所だ。
先ほどの道を見に行ったところまるでなかったようにすでに消えており
道がなかった場所に道などが出来ていた
その道も複雑であり、迷ったらどこに行くかわからないまさに迷宮と言ってもよかった。
先ほど、その迷宮の壁を破壊しようとスティンガーのロケット弾を撃ち込むもまるでびくともせず
傷すら付いていなかった。

「壊しながら進むというのは無理のようだな…うん?」

確かに放った部分には傷すら付かなかったが、爆風を受けた一部の壁に亀裂が入り砕けていた

「硬い部分もあれば柔らかい部分も存在すると言う事か」

早速分かったことを恐らくは同じ状況になっているかもしれない佐白達に無線でその事を伝え
全銃器を背負い柔らかい部分を探し拳で破壊しつつ、作った道を進んでいく

拳で脆い所を破壊していくとどこかの廊下らしき場所に辿く
詳しく調べてみないとわからないため誰かいないのか探索を始めることとした


211 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 23:47:22 O
「へぇ、これ……ブレスレット型の文明かしら?」

「はい。使用すればLV1の1Gまでの重力制御が可能となります。
 下手に固定的な機能よりこういった種類の方が好みそうだと思いましたので」

きらきらと光るラインストーン。どうやら銀以外は安物のようだった。
それを確認し、今度はそれを指に引っ掛けるとまわして見せる。

「演技。忘れてますよ?」

「そうだったわね……まぁ、いいでしょう」

そう言うと今度は屈みこみ、足首をいじり始める。

「何を?」

「もらったからには付けてみようかなと」

しかし、『重力制御』はブレスレットである。腕につけるものだと都村が声をかけようとした時、零が声を上げる。

「こっちの方が可愛いでしょ?」

そう言うと零は右足首にぶら下げた「アンクレット」を見せてみる。
その様は彼女の顔立ちに程よくマッチしており年相応と言っても差し支えない姿だった。

212 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 23:50:04 O
「でも、ようやく合点がいったわ。
 貴女が入り口で探知機を妨害したのはコレが理由だったのね……」

「そうはおっしゃいますが、私は真人間ですので。
 こういったものに頼らなければ足を引っ張りかねません」

そう言い、都村はポケットから何かの腕章を取り出す。ソレは『血戦領域』だ。
彼女の言い分は最もと言える。都村は今回の潜入部隊で最も弱い立場。
それ故に、自身は文明で武装してきたというところだろう。

(へぇ。見てるだけの人じゃないんだ)

「私は今回、『血戦領域』と『身体強化』を持ってきました。
 『一刀両断』はありませんがこの二つもあれば十分でしょう」

「わかりました。では、手はず道理にお願いします。
 私は折を見て侵入の手助けを行いますので……」

そう言うと零はゼロワンの方に向き直る。

「都村さんのこと。お頼いね?」

そう言い笑いかけた後、零は立ち上がる。
それに続くように二人も立ち上がると三人は展望エリアを後にする。
その後をつける人影があったが気がつけば姿が消えていた。

都村と「ハジメ」この二人と共に……

213 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/18(日) 23:53:22 O
「さて……こっちも始めましょうか」

一人になった零。その姿はやはり目立つ。

(さてと、連絡を入れないと)

そう思った時だ理由は分らないが逆に電話が入ってくる。

「もしもし?」

『あ!?良かったぁ出てくれないんじゃないかと思いましたよぉ』

「で?どうしたの?」

『それなんですが、実は今、ちょっと不味い事になってるんです!
 作戦を中断してビルから民間人を退去させてください!』

「はぁ?」

『今、データを貰っているのですがどうにも『物体変質』が変質している。
 いえ、暴走しているみたいなんです。ですので……』

そこまで聞いた後は聞けなかった。
なぜなら、彼女の周りにどこかで見たような黒服集団が現れたからだ。

「ごめん。忙しいから後でかけ直させて?」

どうやらばれてしまったらしい。そう悟った零は臨戦態勢をとる。

【戦闘開始:零の目標。
      @民間人を退避させながら敵を蹴散らす。
      A葉隠殉也と合流。
      BKu-01、都村みどりとの合流。】

【持ち物:孔雀の扇子、『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】

【時系列だと准尉のちょっと前って事でお願いします】

214 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/19(月) 19:48:59 0
 アイツ
>「色白男を止めるの、手伝ってくんねーか?」
真剣な面持ちから発せられた提案に、しかし三浦六花は項垂れて、首を横に振った。
そうして深く溜息を零す。

「……アンタねえ。話が今一歩、と言うか二三歩遅いのよ。その気が無かったら、人はビルの屋上から飛び降りたりしないの」
その気があっても普通の人間は屋上から飛んだりしないのだが、そこの所は彼女にとって然程重要ではない。
今ここで彼女がすべき事は、彼女が――延いては彼女の父である三浦啓介が、彼らにとって友好的である事を理解させる事だ。
いや、理解だけでは浅い。今後懐疑心を抱く隙すら無くなるくらいに、信用の楔を刺し込んでやらなければならない。

「私は、私のお父さんは、貴方達を助ける為に動いているの。この世界の不便から、さっきみたいな連中から、
 貴方達をこの世界に呼んだ連中や、その陰謀から。……だって貴方達は、被害者なんだもの」

虚実を入り交えながら、六花は語る。
甘言を。切羽詰った窮地にある彼らの心に、乾いた砂に零す水の如く染み込むであろう言葉を。

「だから、貴方は頼まなくてもいい。ただ望めばいいの。それだけで、私はそれを叶えてあげるから」
言い終えると、彼女は次に五本腕を見据えた。
脳を揺らすつもりで打ち込んだ彼女の蹴りは、どうやら刀を片手に持ち変える事で、防がれてしまったらしい。

「貴方にしてもそうよ。貴方が望みを、私達が叶えてあげる。……流石に愛や命を下さいとか言われたら、ドン引きだけどね」
さて、と繋ぎの言葉を伴って、彼女に視線は再び猫面へと動く。

「作戦は? あるなら聞いておくわよ。あまり期待してないけど、とりあえず鉄拳制裁とか?」

215 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/19(月) 22:19:16 0

少女の返事を待つこと数秒。
返されたのは、溜め息混じりの呆れたような台詞だった。

「……アンタねえ。話が今一歩、と言うか二三歩遅いのよ。その気が無かったら、人はビルの屋上から飛び降りたりしないの」

いきなり貶された。というよりこの少女、飛び降りてきたというのか。
前言撤回。やはりこの娘、魔女かもしれない。

テナードのどこかズレたささやかなツッコミを余所に、少女は饒舌に語る。

「私は、私のお父さんは、貴方達を助ける為に動いているの。
この世界の不便から、さっきみたいな連中から、 貴方達をこの世界に呼んだ連中や、
その陰謀から。……だって貴方達は、被害者なんだもの」

「だから、貴方は頼まなくてもいい。ただ望めばいいの。
それだけで、私はそれを叶えてあげるから」

「貴方にしてもそうよ。貴方が望みを、私達が叶えてあげる。
……流石に愛や命を下さいとか言われたら、ドン引きだけどね」

ひと呼吸置き。

「作戦は? あるなら聞いておくわよ。あまり期待してないけど、とりあえず鉄
拳制裁とか?」

最後にとんでもなく物騒な言葉を言い放ち、少女はうっすらと笑む。

「……………………」

テナードはそれを静かに聞いていたが、少女の舌が止まったその数秒後、
少女と同じ目線になり、おもむろに耳の後ろへと手をやった。
少女は一瞬ビクリと体を強張らせる。

1、2、3、4、5秒。


静かに手を離し、また立ち上がる。


「……分かった。とりあえず、共同戦線といこうじゃねえか」



216 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/19(月) 22:19:58 0

実のところ、テナードは少女を完全に信用した訳ではなかった。

人は嘘をつくと、心拍数が上昇し、波がうまれる。
機械の指先から感じた不規則な心臓の鼓動から、テナードは
”少女が少なからず嘘をついている”
そう推測した。

全てが全て、嘘という訳ではないだろう。
現に、彼女は自分に協力する、そう言っていた。
しかし、何かを隠している事もまた確か。
まだ把握しきっていない事もあるが、詮索している暇はない。
まずは前方のあの男を止めるのが先だ。

「アイツの武器はあの妙な剣だ。
だがもっと厄介なのは、お前さんの一撃を止めたあの反射神経の方だろうな。
そこで」

テナードは右足に取り付けていた、手榴弾とはまた形の違ったソレを取り出し、少女に手渡す。

「コイツの出番だ。
合図をしたら、あの野郎に向かって投げ飛ばせ」

少女は物体を手渡されて、瞬時にそれの正体を理解したようだ。
更にテナードは続ける。

「奴っこさんの一瞬の隙をついて、あの武器を吹っ飛ばしてくれ。後は俺がやる」

出来るな?というテナードの言葉に、何も答えない少女。
テナードは不思議に思い、少女の視線を追う。
そして、自分の脇腹に視線を向けていたのに気づき、苦笑した。

「大丈夫だ。もうあんな野暮な真似ァしねーよ」

パンパンと軽く脇腹を叩く。
少女はまだ納得してないような表情をしたが、ようやく首を縦に振ってくれた。
色白男の動きは、相変わらずフラフラと覚束ない。
やがて、その足が一歩こちらに踏み出された時、テナードは叫んだ。


「今だ!!」


瞬間、少女の投げた閃光弾が、辺り一面を白に染めた。


【テナード:前園久和の暴走を食い止めるべく、三浦六花と共闘】


217 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/20(火) 00:19:18 0
「私は付いていくよ。言ったよね? どんなに危険でも、私を取り巻く環境、あなた達が巻き込まれた事件。それが意味するモノを知りたいの」

返ってくるのは是。
その答えに飛瞬は口端を緩める。
少女の意思は変わらない。
ならば自分もこの先降りかかって来るであろう火の粉を払うまでだ。

(――ん?)

兔の手を取り話をしている真雪を目で追いながら彼女の強さに関心していた飛瞬だったが、ふと妙な耳鳴りに眉をひそめる。
音がするのは上の階からかだろうか。
それは他の者も同じだったようで、三者が三様の反応を見せた。

飛瞬同様に顔をしかめ周りを見回す尾張、確認しようと階段を上がる真雪。

「マユキ。待テ、何が居るか――」
「三浦!?あのバカ、飛び込んで来るなんて……!!」

呼び止めようとする飛瞬だったが、酷く焦りを滲ませた兔の声がそれを遮った。
兔の叫びを引き金に耳鳴り程度だった音は次第に大きくなり、周囲の空間は捻れ、激しい揺れとともに歪に再構築されていく。

「真雪さん、李さんに捕まって!!あの文明が発動しても、重なっているものは個体として認識されてバラバラに
なることはありません!!だから!!」

「マユキ!!」

兔の警告と同時に飛瞬は弾かれたように段上の真雪へ手を伸ばす。
しかし半ばまで行ったところでグン、と何かに引き戻される。
上着の裾を兔の手が掴んでいるのだ。
このままでは間に合わずに引き離されてしまうのは必至。

「クッ、服から手を……」

毒づきそうになったところでふと気づく。
握られているのは手では無く服。ということは物体を介しても良いということだ。

地面を蹴りつけ再度跳躍。
足元が覚束ない今、つながっている二人は引き摺る形になるが許容してもらおう。

「マユキ!掴まレッ!!」

距離が足りない分は別で補えばいい。
飛瞬は腰からベルトを引き抜くと、先端の一方を真雪に向けて投げつけた。


意識が回復するのと同時に跳ね起きる。どれ程気を失っていたのだろうか。
放ったベルトは確かに届いていたが、掴めたかどうかまでは確認できていない。
無事を確かめようと視線を彷徨わせる飛瞬だったが、復旧した灯りの下に悠然と佇む学者然とした男から目が離せないで居た。

218 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 02:45:19 0

"―――はい。福猫飯店でございます"

「劉を頼む」

"恐れ入りますが、どちらの劉でしょうか?"

「……支配人代理の方の劉だ。
 シャンスーが来たと言えば判る」

"かしこまりまし――"
          "――やあ。私だよ、シャンシャン!"

"珍しくも嬉しいね、君の方から連絡があるなんて。
 ようやく店に戻って来る気になったくれたのかい?"

「……楓が大陸に帰れば考えるさ。
 単刀直入に用件を言うが、成龍――」

"――あの件かい? 例の"文明"は手に入らなかったんだね。
 何なら、私の同胞たちに声を掛けて代わりを用意させようか"

「いや、実の所は既に確保してある。直ぐに渡してやる心算が無いだけだ。
 安く見られたくないんでな。期日まではセーフハウスのクローゼットさ」

"おや……だとすると私個人にデートのお誘いかな?
 残念だけれど、今日は大きな仕事が入っているんだ。
 荒海大臣が何かの御披露目パーティーを開くそうでね"

「なるほど、な……タイムリーだ。その話、詳しく聞かせろ」

"本当に残念だよ。ああ、私の代わりに楓を支配人室に置いて――"

「――誤魔化すな。こっちは、初めてお前の長話を聞く気になってるんだ」

"さっきも言ったけれど、朝から仕込みで大忙しなんだよ。
 今度、埋め合わせのベッドの上でゆっくり話してあげるさ"

「その機会は永遠に来ない。よって即座に吐け」

"相変わらずつれないね、聖司。
 ―――だが、私にも成龍に対する仁義がある"

"……店に居るんじゃないのか、劉?
 声色が香港時代に戻っちまってる"

"ここだって、私にとって戦場である事には変わりないさ。
 仕事の用件ではないのなら、イレギュラーの君に語る舌は無い"

「―――"従業員"に対してだったら、どうだ」

"ははっ! シャンシャンなら、そう言うと思ったよ"

「俺の使ってたロッカーは?」

"……あの時のままにしてある"

「それと、いい加減"シャンシャン"は止してくれ」

"うんうん。わかっているよ、シャンシャン!"

219 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 02:46:30 0

『あははは……きゅ、急な用事を思いついたから!』【>>122

「事情は知らないが、そういう場合は"思い出したから"にしておけ」

胡桃を追いかける森の仔リスみたいに駆けて行った薄い子供を見送る。
―――"ごほうび"に目が眩んで、お城の悪い大臣に騙されない様にな。



……

この近辺のコンクリート・ジャングルで最も危険な大木の樹洞内へと消えた小動物。
入れ替わる様にして追い着いて来たのは、その周囲で一番不審であろう連中だった。

『唐突に前回までのあらすじ。カフェマルアークにて決起集会を行った『休日に鉄パイプを追いかける会』略してQ.E.D.(Qjitu Escape Drift)
 の面々は、会員No.3珍妙君の異能によって自走するパイプを追いかけるべく集団行動を取っていた。ジャストフォーアゲイン。
 会長は言うまでもなくこの僕タチバナ、後に続くはウェイター君、珍妙君とその随伴者、シスター君に竹内某改めモル山モル太郎君でお送りします』【>>129

『おつかれ』

精霊から主人に丁重に慰労の言葉が掛けられる。

「くたばれ」

温厚従順な俺は、素直に幼女の慰労に倣った。

『――いつの時代も先達者達は奇異の目で見られ、背後から石を投げられてきた。
 だが主は言ったろう、『左の頬を殴られたら右の頬に内蔵した特殊携行型荷電粒子砲で焼き払ってやるわフハハハハ』と』

「……ああ。その節は、こう続くんだ。
 "上着を取られたら下着も拒むな"ってな。
 福音書きの連中はプレイボーイ揃いだったらしい」

なんちゃって修道女の方から何か言いたそうな視線を感じるが、微風みたいなモノだ。
通用口の影で先程から此方を観察……いや、睨み据えている何者かの気配に比べれば。

『……あんだァ?お前ら。外でごちゃごちゃ騒がしいと思ったら、いきなり入ってきやがって』【>>130

『……失礼。我々は『休鉄会』からの使節派遣です。ええ、新しいビジネスを起こしまして――』


俺の姿を認めても無反応というコトは、おそらく末端の構成員なのだろう。
この場は、自分から折衝役を買って出たオールバック改め"会長"に任せ―――

『ええ、子供は掌握しやすいですよ』

『ほれ、ちょっと遊んでいかんかお嬢ちゃん』

―――気取られぬ様に見やった先で、"うちのエース"は長い睫毛を伏せて微かに肩を震わせていた。
腹黒漫才は結構だが、仕込みの済んでいない素人に絡む遣り口は好みじゃない。
俺は一歩踏み出し、柄シャツの視線を遮って少女の前に立った。

「誰か、火種を貸してくれないか?」

人差し指と中指で挟んだ煙草を真横に突き出す。

「―――今から"火遊び"に使うんでな」

220 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 02:48:19 0

『あァ、オジキんトコ通す前に身体検査だけさせてくれや。
 もちろん、面通しすんのに武装なんか持ってきてねえよなァ?』【>>130

会長が携行している荷電粒子砲は、晩餐会のドレスコードに触れかねないシロモノだった。
カリオテ出身のオールバックは先程と何ら変わらぬ営業スマイル―――つまり、ピンチだ。

「……いや、違うな。
 だとしたら逆なんだよ、そいつは。
 ウチの会長が言った筈だぜ―――『場所代を納めに』ってな」

―――仮に何らかの有効な対策が講じられていた場合を想定すれば、答えは明白。
奴は心中でほくそ笑みながら、表向きには慌てた素振りを演じていたに違いない。
それも、わざとらしく大袈裟に。……短い付き合いだが、こいつはそういう男だ。

「面通しするのに手土産の一つも無いと思うのか?
 持って来てるのは、カスリ代わりに用意したドウグさ」

こちらの方からは、ソレが拳銃であるとも文明であるとも明言しない。
組織の末端が上から与えられている情報の多寡を考慮しての判断だ。

「荒海が"例のモノ"を集めて回ってるって聞きつけたんでな。
 情け無いが、ウチの会じゃまともに扱える奴が誰も居なかった」

《禁属探知》の機能は二つ。
即ち――

  1.武装の有無
  2.所持した文明の危険度

「当然、鑑定書なんざ付かないが……そういう訳だ。
 スキャンに反応があれば、それはそれで手間が省ける――」

――故に。
ブラフを張るならば、以下の全ての条件をクリアする必要がある。

  拳銃が感知され、《逸撃必殺》も感知された場合。
  拳銃が感知されず、《逸撃必殺》は感知された場合。
  拳銃が感知され、《逸撃必殺》は感知されなかった場合。
  拳銃が感知されず、《逸撃必殺》も感知されなかった場合。

「――反応が無かったとしたら、"そういう"タイプのブツって訳だ。
 荒海の方で分解(バラ)すなり分析(バラ)すなり好きにするだろうさ」

これなら《禁属探知》の結果が黒でも白でも関係無い。
後は、このチンピラがアホの子であるコトを祈るだけだ。
万が一、非常に利発な子だった場合だと可哀想ではあるが――

「――あの悪趣味な柄シャツの故郷あたりまで蹴り飛ばして押し通るだけだな」

思考の帰結段落が思わず口に出てしまったが、大した問題じゃない。
路地裏で兄弟の血を吸った実績を持つ鉄パイプにノーリアクションなあたり、
《禁属探知》それ自体か、あるいはその操者たるチンピラの適性に問題アリと見た。

221 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 02:49:20 0

『ほれ、さっさと挨拶行ってこいや』【>>153

「……やれやれ、って所か、会長?」

「ははは、どうやら僕が神に愛されていることが白日の下になったようだね。日頃の敬虔なる使徒っぷりが功を奏したといったところかな?」【>>199

『むしんろんしゃじゃんおまえ』

「―――神に対して"借り1"だ、貴様」

先を行く会長の背に向かって人の悪い笑みをくれてやった。
歩く速度を緩めて、エースが俺の隣に並んで来るのを待つ。

「―――よくやった。
 助かったぜ、なんちゃって修道女。
 そうだな……今回の評定は"Good"って所だ」

どうせなら向こうの文明の方をオシャカにしてくれりゃ"Excellent"だったが。


    "徹底的な危険回避"【>>154


それが羊としての"能力"……か。
当の本人は気付いてすらいないらしいが。
だったら、何に対する評定か悩ませてやるのも一興だ。

「……ある意味じゃ、そっちの方が才能だな」

何やら、見下ろした頭をくしゃくしゃにしてやりたくなった。
背中の少年を腕一本で支え直して、片手を伸ばす。
おそらく、この感情は才能に対する嫉妬だ。だが―――


鳴動する世界。


―――その指先が少女の髪に触れる事は無かった。

222 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 02:50:12 0


    "胸の大きなお姉さん"【>>96


刹那、精神的も肉体的にもバランスを失い、背負った少年を取り落とす。
……何故、このタイミングでこの啓示を受けたのか。全く意味が分らない。

「―――ああ、すまない。ケガは無いか? 曖昧王子。
 不運な事に、形而上のフルヘッヘンドに蹴躓いちまってな。
 天からの眼は曇ってやがった。啓示の主は絶賛耄碌中らしい」

無愛想に手を差し伸べて、己の足下に投げ出されている身体を引き上げ起こす。
まるで女みたいな手だ。少年の掌から伝わる体温が離れる瞬間に、そう思った。


    "真雪さん……!!? なんでここに!?"【>>182


真雪さんとやらのカップサイズとの連関性は判らないが、
王子の反応から察するに、おそらくリアルタイム。
その点では先程よりも有益なテキストだ。

「……どうした? 折角知り合いを見かけたんだ、声を掛けてやればいい。
 ついでに、此処からはその"真雪さん"とやらに肩でも貸してもらうんだな」

漸く自由になった手で煙草に火を点け、ポケットから携帯電話を抜き取る。
多少暴走気味な"能力"の反動で痛む目頭を押さえながら、俺は歩き出した。



【→>>218 "龍舌の采配者"】

223 名前: ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 02:51:19 0
【時間軸:ビル迷宮化直後

 >>145 『物体変質』迷路化
 >>182 背中から転がり落ちる萌芽
 >>200 他の連中は別々に分断

 丁度こちらとの絡みを全員から切ってもらった所で、また暫く戦線離脱だ。
 次回も、気が向いた時に不定期かつ非公式かつ無配慮に投下させてもらう】

224 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/21(水) 03:07:15 0
消えろよ、レノ
てめぇの時代は終わったんだよ

225 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/21(水) 11:37:26 O
なに仕切ってんだよ
ここはあんたの射精場じゃないんだぜ

226 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 17:13:34 0
> 「……分かった。とりあえず、共同戦線といこうじゃねえか」
突然耳の裏へ手を運ばれ、珍しく不機嫌の感情を顕にして六花は猫面を睨み付ける。
金属製の義手は仄かに冷たく、彼女は思わず身震いを禁じ得なかった。
だが恨めしげな彼女の視線に気が付いた様子もなく、猫面は語り始める。
全体を通して彼は至って大真面目なのだろうが、だからこそか、随分とズレた印象を六花に与えていた。

> 「アイツの武器はあの妙な剣だ。
> だがもっと厄介なのは、お前さんの一撃を止めたあの反射神経の方だろうな。
> そこでコイツの出番だ。
> 合図をしたら、あの野郎に向かって投げ飛ばせ」
六花に手渡されたのは、彼女の小さな手には少々余る大きさの金属の円筒、閃光手榴弾だ。
異世界の物であるようだが、基本的な仕組みはこの世界の物と大差ないらしい。
即ちピンを抜いて投げれば数秒後に閃光が弾けると、それだけの事だ。

>「奴っこさんの一瞬の隙をついて、あの武器を吹っ飛ばしてくれ。後は俺がやる」
「出来るな? ってアンタねえ。私が来なかったらお陀仏だったくせに何言ってんのよ」
まだ先程の事を引きずっているのか、随分とご機嫌斜めな調子で六花は答える。
言葉に乗せてみた所またも感情が再燃したのか、彼女は再び剣呑な目付きで猫面を睨んだ。

>「大丈夫だ。もうあんな野暮な真似ァしねーよ」
一体どう勘違いしたのか、猫面は苦笑いを浮かべながら脇腹を叩く。
やはり何処かネジが抜けていると、六花は深く溜息を吐いた。
けれども抜き去ったピンと共に呆れや不機嫌を投げ捨て、彼女は手榴弾を軽く虚空へ放った。

「……そう言えば猫が車に轢かれるのは、ライトに驚いてって聞くけど……大丈夫なのかしら?」

> 瞬間、少女の投げた閃光弾が、辺り一面を白に染めた。
両腕を交差させて視界を覆いながら、六花は地を蹴る。
直後に耳を劈く炸裂音が響いた。
腕の隙間から覗く地面が、ほんの一瞬白く照らされる。
閃光が立ち去った事を認め、六花は伏していた顔を上げた。
五本腕はただ、ぶらりと剣を構えて棒立ちしている。

「悪く思わないでよ……!」
詫びを呟きながらも、六花は歯を剥いて笑んだ。
軽く跳び上がり、渾身の力を込めて蹴りを放つ。
茫然自失の五本腕が握る刀は砂浜に立てた一本の棒と同じ、容易く手から離れ、打ち上がる。

227 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 17:17:47 0
「……っ、避けた!?」

筈だった。
しかし六花の言葉通り、五本腕は蹴撃を回避した。
手を引き刀身を逃して、蹴りの空振りを誘う。

「……っ!」
六花の表情がこれまでになく、困窮に歪んだ。
彼女の体は空中にあり、五本腕の刀は自在の太刀筋を描く事が許されている。
一に一を足せば解はニであるように、二つの符号が導く未来はただ一つしか無いのだから。

五本腕が刀を大上段へと構えた。
無常の閃きが六花の視界を縦断する。
描かれる軌跡は彼女の命を絶対の死へと運ぶ為の道程か。

「舐め……ないでよね……!」
だが彼女がその道を歩むかは、また別の話だ。
『一足す一は二』の解を打ち崩したいになら、どうすればいいか。
簡単な事だ。過程に他の数字を、要素を足してやればいい。

六花は揺らぐ体勢で猶腕を伸ばし、掌で降り注ぐ刃を捉える。
彼女の腕時計に封じられた『緊急回避』≪スルースリル≫が煌めき、必死の斬撃は彼女の体をすり抜けた。
直後に地を足に付け間髪入れず、今度こそと彼女は再び脚を動かす。
振り下ろされたばかりの刀を上から踏み付け、反りを足場にして五本腕へ脚を突き出した。
蹴りは彼の腹部へ減り込み、堪らず彼は刀を手放し後方へとよろめいた。
ようやく強張った表情を解いて、深く息を吐きながら六花は叫ぶ。

「ほら、出番よ!」

228 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 17:19:38 0
「……初めまして、こんにちは。ひとまずは、こんな出会い方になってしまった事を詫びさせてもらうよ」
迷宮化の煽りを受けて己の前へと投げ出された四人を見据え、三浦は佇む。
ひらりとはためく兎の白衣に多少視線が絡まるが、それは精々思わぬ共通点程度の認識で、それ以上には至らない。
彼女の白衣が三浦の身に付けるそれと同じく、『学研』時代の物であるとは、露程の理解も及ばなかった。
故に彼らの白衣から解れる糸のような、両者の過去の繋がりに関しても、同じく。

「だけど、僕はどうしても急いで、君達に出会わなくちゃならなかったんだ。……三人か。もうそんなに……」
昨日の時点では、兎が捕捉出来ていたのは一人だけだった筈なのだが。
随分と短時間で確保したものだと、三浦は内心で舌を巻き、毒を吐く。
また真雪に関しては異世界人では無いのだが、彼にとってその事は知り得ぬ事実だった。
ともあれこれ以上、せっかく用意した駒を横取りされる訳にもいかない。

何としてでも奪い取り、少なくとも彼らの繋がりに楔を打ち込む必要があった。
尾張証明、彼は『イデア』を探し出す為の『指標』と呼べる存在なのだから、尚更に。

「君は、一体何をしようとしているんだ? ……彼らの人生を狂わせて、彼らをこの世界に呼び付けて……一体何を!」
内心で目口を三日月と見紛わんばかりの悪辣な笑みを浮かべながら。
しかし悲痛な声色と表情を完璧に模って、三浦は兎へと叫んだ。
兼ねてより画策していた事だ、彼女には既に三浦の策謀が分かっているだろうか。

「人の過去を、心を覗き込む悪魔の文明を身に宿して、君は一体何を望むって言うんだ! まさか、『またあの惨劇を繰り返そう』と言うのか!?」
だが分かっていても、彼女にはどうしようもないのだ。
三浦の言葉を完全に否定する為の要素を、彼女は持っていない。
彼女が言う所の『尾張達が何も持っていない』からこそ、仮に兎が反論した所で水掛け論の応酬にしか成り得ない。

右腕を荒く横に薙ぎ、三浦は声を荒らげる。
肺腑の内で響いている愉悦の哄笑の音色は僅かにも漏らさず、ただ義憤と悲哀の音のみを言葉に宿して。
水掛け論にしかならないからこそ機先を制し、勢いに乗せて彼は猜疑の種を振り撒いていく。

「君達にだって心当たりは無いのかい!? 彼女の不審な言葉や振る舞いが、あった筈だ!」
一度芽生えさえすれば、疑心は更なる疑心を呼ぶ。
ほんの些細な所作や少し考えてみれば当然の事でさえ、不信の糸を紡ぎ得るだろう。

「……君達はそちらに、彼女の傍にいちゃいけないんだよ。」
偽装の熱を交えた吐息を挟んで、途端に彼は語調を転換する。
おもむろに手を差し伸べ、尾張達に甘言を囁く。

「元の世界に戻りたいと言うなら、叶えよう。この世界でしたい事があるなら、手伝おう。……僕なら出来る。君達の、助けになれるんだ」

【先手を打って虚言吐きまくり。なお、彼の嘘は全て『利他的な嘘』 
 兎の神経逆なでするような言葉もちらほらあるかも?
 兎に関しては『鬱陶しい文明持ってる敵』程度の認識。学研時代の事は覚えてない。言われたら思い出すかも】

229 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/04/21(水) 22:47:04 0
「誰もおらんか…」

とりあえず一通り探したものの誰も見つからずめぼしい物は見つからなかった
探索を終え、次の場所に向かおうと壁の脆い部分を探し壊し始める
次の場所そのまた次の場所に向かうがなかなか人と巡り会えない

「ひょっとして迷子になっているのか…?」

配置した英霊達の所に向かおうとするがバラバラなため追ったところでどこに出るか
まったく分からない大変困った状態になった

「ここがどこか分からない以上は地道に探すしかない…だがどうする?」

仕方あるまい、一旦英霊達に再び召集を呼びかけ
道の探索及び破壊して通路を確保する事を頼み、英霊達は各自脆い部分を破壊し
そこを通っている際に時々ヤクザ共と遭遇するものの気づかれる前に奇襲をかけて潰していた
そしてようやく見たことある階まで辿り着く
ホッとし、とりあえず佐伯達と合流しようかと思ったが近くから子供の泣き声が聞こえてきた
声が聞こえる方に向かうと幼稚園児くらいの姉弟らしい少年少女が泣いていた
サッと近づき、怖がらせないように事情を聞くとこのビルで働いてる父親に会いに来たが
母親と逸れ迷子になったらしい

「そうか…よしならば俺が一緒に探そう」

少年少女を引き連れ、早速母親を探しに向かう



230 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/22(木) 22:13:09 0


閃光でまだしぱしぱする目を無理矢理こじ開ける。
自分自身でも幾度かは使った事はあるが、やはり慣れないものだ。

「ほら、出番よ!」

金属が落ちたような音と、同時に響く少女の掛け声。
その声と共に、両脚に力を籠め、テナードは空高く跳躍する。
着地点は、二、三歩ほど後ずさった色白男の背後。

跳躍した高さの割に、テナードは静かに着地する。
こういう時、猫の力があって良かった等と思ってしまう自分が憎い。

ふと、降りたった瞬間。
色白男越しに、僅かに見えた白髪。

「出来るな? ってアンタねえ。私が来なかったらお陀仏だったくせに何言ってんのよ」

脳裏によぎる、先程少女に言われた言葉。

「……」

もし、
少女が居なかったら、
あの集団に会わなければ、
この青年に出会わなければ、
この場所に来なければ、
自分がこんな身体じゃなければ。

もう少し違う未来が待っていたのだろうか。

「……ハッ」

戦いの最中にこんな事を考えるなんて、やはりらしくない。
口の端が僅かに上がる。
それは果たして自嘲か、はたまた別の何か。

その考えを払拭するかのように、勢いよく。
色白男の首筋に、テナードの手刀は振り下ろされた。




231 名前:尾張 ◇Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/04/23(金) 00:22:16 0
「……初めまして、こんにちは。ひとまずは、こんな出会い方になってしまった事を詫びさせてもらうよ」

目の前の男が、愛想良く笑いながら話しかけてきた。胡散臭い。この一言に尽きる。所作の全てが、演技してい
るのでは、と疑ってしまうほどのわざとらしさ。ここまで来ると一つの個性だな。と首を振りながら立ち上がり、
兎に引っ張られて伸びに伸びたコートの端をはたいて正した。幸い自動小銃やチェロケースは肩から掛けていた
ため、多少痛んだだけで、無くしてしまうと言うことはなかった。

(安全装置を外さずにおいて正解だったな)

転んで暴発しては洒落にならない。李や真雪を撃たないようにした配慮がこんな所で活きてくるとは、運が良い。
銃の側面の小さいバーを“ア”から“三”の表示まで半回転させ、目の前の男に銃口を向けた。

「だけど、僕はどうしても急いで、君達に出会わなくちゃならなかったんだ。……三人か。もうそんなに……」

「ひさしぶりですね、三浦さん」

気が付くと、兎が横に並んでいた。いつの間にか白衣を羽織っている。ホテルで、そう言えば何で普段から目立
ちやすい白衣なんて羽織っているのか、と問うたら。これは外部記憶装置の一種なのだと兎は答えた。

忘れたくないものを、忘れないために着ているのだと。

「君は、一体何をしようとしているんだ? ……彼らの人生を狂わせて、彼らをこの世界に呼び付けて……一
体何を!」
「人の過去を、心を覗き込む悪魔の文明を身に宿して、君は一体何を望むって言うんだ! まさか、『またあ
の惨劇を繰り返そう』と言うのか!?」

ちらと兎の顔を見れば、その顔は何処までもまっさらな無表情だった。『あの惨劇』。取り敢えず、聞くべき質
問が増えたようだ。

「君達にだって心当たりは無いのかい!? 彼女の不審な言葉や振る舞いが、あった筈だ!」

(いかにもな扇動家だな。まあ、一度自治警の公安にでも拷問されたら、次の日には立派な市民の鏡にでもなっ
ていそうなタイプでもあるが)

なるほど、扇動家の集会はこんな物なのかと、他人事のように思う。まるで劇を眺めているようだ。普段は隠し
撮りされた映像しか見たことがなかったから、随分新鮮な体験だった。
とは言え主観を抜きにすれば三浦はなかなかの弁舌家のらしかった。わざとらしい所作はあくまで俺が公安で、
左翼担当で、そういうまやかしを専門にしているから見えてくるものなのだろう。


232 名前:尾張 ◇Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/04/23(金) 00:23:12 0
「……君達はそちらに、彼女の傍にいちゃいけないんだよ。」
「元の世界に戻りたいと言うなら、叶えよう。この世界でしたい事があるなら、手伝おう。……僕なら出来る。
君達の、助けになれるんだ」

「……言い争いは無意味ですね。私も大概ですが、いきなり現れてそんなことを言っても、何の信用も生まれま
せんよ。それに、私には一つのアドバンテージがあるしね」

兎は、今は気絶した真雪に目を向けた。

「私は彼らに一つの嘘も吐いていない。私は彼らが協力してくれれば必ず報酬を与えるし、この世界に来させら
れた原因も知っている。彼らにもそれは解っている筈です。
でも貴方は嘘を吐いているかもしれない。貴方は私が何かの原因であるかのように話すけれど、そこに確証はな
い。彼女が気絶している以上その確認をすることもできない。
今のところ嘘を吐いていないと分かる人間と、唐突に現れた、ひょっとしたら嘘を吐いているかもしれない人間。
どちらがより信じられるかなんて、火を見るより明らかですよね?
残念、信用させるならもう少しマトモな情報が必要でしたね」

機械的に兎は言葉を紡ぐ。内に籠った感情を必死に圧し殺している。怒っているのか、悲しんでいるのか、たぶ
ん両方だろう。大概の活動家は敵と向かい合うときに、そう言う目で対象を、こちらを見つめてくる。つまり、
自分に浮かんだ世俗的な感情を否定するためにあえて機械のように振る舞うのだ。
どうも本当に、この三浦とやらに兎は因縁を感じているらしいな。
俺はその自分の経験を信じた。そして兎を信じてみることにした。

胸に燻る小さな違和感から、意識的に目を背けて。

「後、三浦さん。こんな所まで飛び込んできて、まさかそのまま帰れるとは思っていませんよね?」

【兎:はい論破^^←実は顔真っ赤
尾張:そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!】

233 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/23(金) 15:56:31 0
>>221
>「―――よくやった。
  助かったぜ、なんちゃって修道女。
  そうだな……今回の評定は"Good"って所だ」

「へ?」

横から聞こえてきた声に、皐月が振り返ったとき、そこには誰もいなかった。
一瞬だけ、何かが髪の毛を掠めたように感じたが、触れるものがない以上、気のせいと思う他は無い。
ロザリオが微かに揺れた事にも、皐月は自覚できなかった。



234 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/04/23(金) 15:57:23 0
>>199
 >「――おう兄ちゃん、さっきから何をぶつぶつ一人で呟いとるんじゃ。気味悪いのう」

……ごめんなさい私も同感です。

すし詰め状態のエレベーターの中で、頭一つ二つ三つ分ぐらい背の低い皐月は呼吸をするので必死だった。
なのでその会話に……まぁ怖いので最初から口を出す気は無いが、ツッコミを入れたくても出来ないのが現状である。

……でも少なくとも神はこのような変態さんを許容してくださるぐらいには心が広いのですよね、うん。

心中でそう納得し、視線をエレベーターの回数表示に向けた。
乗り込んでから一分近く経過したが、冷静に考えるとエレベーター内の一分と言うのは相当である。

 >「な、何が起こっとんじゃいこりゃあ……!!」

くしくも、皐月が疑問を抱いたのと、ヤクザが声を発したのはほぼ同時だった。
エレベーターの内部が思い出したようにガタガタと揺れ始め、上昇速度が跳ね上がっているのを体感する。

「って、え!? 何がどうなってこうなってそうなって!?」

階数表示はすさまじい勢いで四桁を回り、五桁を回り、すさまじい勢いでドラムロールの様に回転を続けていた。
皐月の問いに答えたわけでもないだろうが、ヤクザが今起きている現象を叫び声と言う形で教えてくれた。

 >「『物体変質《オーバーライト》』が異常稼働を起こしちょる!!アカン、このままじゃと『暴発迷宮《ラピッドラビリンス》』に巻き込まれるき――」

「毎度毎度のことですけど専門用語で喋らないでくださああああいっ!」

皐月の、こちらの世界に来てから思い続けていた割合心からの叫びと同時に。

ガクンッ

という激しい揺れを一瞬だけ感じて、次の瞬間、目を開けた時は床に転がっていた。

「ん、ん……?」

どこか頭がぼうっとしている感触がある……気絶していたのか寝ていたのかはよくわからないが、とりあえず体を起こすことは出来そうだった。

>>200
 >「一緒に飛ばされたのはシスター君ただ一人だけ。他の連中はヤクザ達も含めて別々に分断されたようだね」

真横に変態がいた。

「!?」

思わず脊髄反射で飛びのいてから、周囲を見渡す。
だが、望む、頼れる人物の影は見られない。
それどころか、目を離してはいけない――皐月がここに来る最大の理由であった竹内萌牙の姿もない。


235 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/04/23(金) 15:58:12 0

「えーっと、何がどうなって……」

恐る恐るタチバナに視線を向ける。

 >「いや、むしろ一緒に飛ばされたのがこのメガネっ娘で助かったよ。なにせここにはこの僕がいる。
  一番最悪のケースは、戦闘能力に乏しい彼女が一人で飛ばされることだからね。
  それに、戦力分布の意味でもウェイター君やアフロ君ならば単身でも戦えるだろう。モル山君は知らん」

そのメガネは私のことですか。

 >「はっは、やだなあ。僕はロリコンじゃないし、この先なる予定もないよ。幼女枠は君がいるからね、アクセルアクセス」

そもそも何方と会話してるんですか。
口に出して聞いてみたかったが、聞いたら何か戻ってこれない気がして上手く言葉に出来ない。
そのままじっと見ていると、タチバナは壁を叩いたり、なぞったり……なにやら調査のような行為を始めた。

 >「……ふむ。アクセルアクセス、この壁を材料にちょっと顕現してみてくれ」

 >『んぎぎぎぎ〜〜〜!』

そして壁から顔がせり出してきた。

「ひ、いやあああああああああああああああああ!?」

思わず声をあげて後ずさると、心なしかせり出してきた顔の眼の部位がこちらを向いた気がした。

 >「どうやら対破壊性質の特殊な建材が使われているようだね。『精霊』の顕現に抗うとは……『文明』の類かな」

これがこの人の『文明』なのか、あるいは本人が持つ別の力なのか。
一つわかった事は、さっきからタチバナが口にしている『アクセルアクセス』と言う存在は脳内妄想ではなく一応現実に存在しているようだ。
ごめんなさい、ずっと独り言を駆使するあやしい人だと思ってました。

壁になにやら書き込んで、さらにぶつぶつと呟いた後、彼はこちらに手を向けて告げた。

 >「とりあえず、先へ進もうかシスター君。おそらく留まることは得策じゃあない。迷路の脱出方法で最も効果的なのは、進むことなのだから」

「……わかりました、大丈夫です、私迷路は得意ですよ!」

考えていても仕方ない、という意味では、タチバナの言っている事は間違いない。
進まなければ始まらない、という意味では、タチバナの言っている事は至極正しい。

「あ……、それと、私の名前、五月一日皐月です、ちゃんと呼んでくださいね? タチバナさん」

迷路の基本は壁に手を当てながら沿う事です、と言わんばかりにぺたりと手のひらをあて、それにあわせて進み始める。
とりあえず目の前にある曲がり角を見つけ、タチバナを後ろに、その通路の向こう側を覗き込んだ。
脱・役立たずをしたいと言う意味もあって、緊張感はあっても警戒心は緩んでいたのかもしれない。

>>206

ナイフを構えた少女と、目があった。

【ゼルタとばったり、あら大変】
【結晶0→1】

236 名前:宗方丈乃助 ◆d2gmSQdEY6 [sage] 投稿日:2010/04/23(金) 22:15:01 0
>>229
「あれ?さっきまで皆と一緒にいたはずなんッスけど〜」

周囲を見ても、タチバナや皐月、ウェイターや広瀬君の姿はない。
そういや、さっきやくざがなんか言っていた。
「オーバーなんとか?あ、でも俺頭悪いッスからわかんねーや。」

>「『物体変質《オーバーライト》』が異常稼働を起こしちょる!!アカン、このままじゃと『暴発迷宮《ラピッドラビリンス》』に巻き込まれるき――」

ラビリンスがなんとかとも言っていた。
ラビリンスといえば、迷宮とかって意味だなと前に読んだ漫画での描写を思い出す。
ってことは迷路か?丈乃助は大声で叫んでみた。

「うぃーす!!誰かいませんッスかぁ!?んぉ!?」

人影が1つ、2つ見えた。
見た感じ、成人男性とその連れ子っぽく見える。
丈乃助は男の元へ走り出した。
そして、これまでの経緯を話す。
タチバナやウエイター、皐月のこと。そして囚われたミーティオのことを。

「〜っーワケっすよ。みんな何とかラビリンスとかっていう
変な文明開化っーんすかね?わかんないスけど。
俺は宗方丈乃助っていいます。この頭は決して鳥の巣とかじゃねーんで。
そんな奴でバラバラになったわけで。
あ、俺は普通の高校生ッスよ。別に、やくざとは関係ないっす。」




237 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/04/24(土) 19:10:09 0
>>236

二人の姉弟を引き連れ、歩いている所
どこからか声が聞こえてくる

>「うぃーす!!誰かいませんッスかぁ!?んぉ!?」

その声の方向を向くと特徴的な髪をした学生らしき男がこちらにやってくる
しかしこんな重武装の姿を見ても何も言わないとは…

>「〜っーワケっすよ。みんな何とかラビリンスとかっていう
変な文明開化っーんすかね?わかんないスけど。
俺は宗方丈乃助っていいます。この頭は決して鳥の巣とかじゃねーんで。
そんな奴でバラバラになったわけで。
あ、俺は普通の高校生ッスよ。別に、やくざとは関係ないっす。」

宗方丈乃助と名乗るこの青年の一通り話しを聞き、少し思考する

「そうか…宗方と言ったかお前も大変だったようだな
まだ名乗っていなかったな俺は葉隠殉也だ
この世界では無い場所で新日本帝国軍人をやっている
ちなみにこの二人は俺の子供ではなく保護した子供だ」

軽く自己紹介し、この子供達が自分の子ではないことに釘を刺し
こちらもヤクザ共の殲滅をするためにこの場に来たなど一通りの事情を話す

「そのラビリンスとやらを何とかしたいのは山々だが、この子達を親の元まで届けねならん
その際に俺の仲間たちと合流して相談した上でなんとかするしかない」

そんな猶予が無い事は分かっているが、子供達に危険な目に遭わせる訳にはいかん
軍人たる物守るべき者達を優先するそれが今成すべき事である

「宗方よお前も俺と共に来いそうすれば
 少なくても此処よりは安全だ」

とりあえず彼も保護すべき対象に変わらないので彼も来るように告げる


238 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/25(日) 20:26:09 0
「お客様?お連れの方はどちらへ行かれましたか?」

狭く人気のない通路の中、黒服の男たちに囲まれてしまう零。恐らくは成龍組の私兵だろう。
その質問と言うより詰問に近い程の内容にプレッシャーを感じながら彼女は答えを返す。

「どちらへ行かれたと思いますか?」

「……質問に、答える気は無いようですね」

その返答を皮切りに一瞬で零を取り巻く空気が変わる。
薄笑いを浮かべながら返答を行った彼女だが、流石にこれには表情を変えざるおえない。
その表情は戦士の顔。

「だと、したら?」

その直後に舞踏は始まる。

「「エヤッ!」」

重なる二つの声。その声の主は零の前後に立つ黒服の男だ。
挟み込むように放たれたハイキック。それが重なる。
激しい風きり音を立てる両足。しかし、零はそれを屈みこむようにしてかわす。

「遅い!!」

そこから先は瞬きを行えるような一瞬の出来事だった。
行動自体は簡単といえる。そう簡単な行動だ。
なぜなら単純に近寄ってきた相手から殴り飛ばしただけなのだから。問題はその速度が異常だった事。

239 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/25(日) 20:27:23 0
四面楚歌の状況の中、舞う様な動作で放たれる遠心力を乗せた一撃が男たちを地面にひれ伏させる。
正面の男は屈んだ状態からの足払いで宙を舞い、立ち上がりながら放たれたソバットが後ろの男の肋骨を砕く。

男は落下していく中、芸術を見た。それは暴力言語でもって語られる世間話のようなもの。
隙のない完璧な暴力言語とはこうも人を魅了する物か……?
一人、また一人と屠られてゆく仲間たち。その様を目に焼き付ける。
一人は壁に向けて蹴り飛ばされて脳震盪を起こし、一人は首筋に振り落とすような上段後ろ回し蹴りを直撃させられ、
最後の同僚はガードを潜るように着地状態から放たれたでサマーソルトキックで体ごと吹き飛ばされる。
そして、

「ラスト!!」

ラスト?とはどういう意味だろうと男は考える。
しかし、それはなんて事の無い意味だ。「まだ一人」宙を舞っているではないか?

「ェイ!!」

気合い一閃。零は無慈悲にも落下し終えたばかりの男の体にかかと落としを叩き込み完全に沈黙させる。
もう大丈夫だ。ここには敵はいない。そう安堵した時、放送が流れる。

『こちらは……公安文明課です。
 現在、事故によりこの建築物に使用された……』

「以外に仕事が早いのね。じゃぁ、こっちは避難誘導っと」

呟きを聞く者はいない。そもそも聞く者も必要ない。なぜなら独りごとだから。
クスリと年に似合わぬ乾いた笑いを浮かべると零は七階はずれの通路から飛び出し声を張り上げた。
その内容は避難を誘導するものだ。


240 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/25(日) 20:28:37 0
「公安文明化の者です!先の放送の通り、現在この建築物に使用されている文明が暴走し、
 建物内は非常に危険な状況となっております。つきましてはこちらの誘導に従い速やかに退去してください」

その言葉に先の放送を聞いた人たちが詰め寄ってくる。
零はその人たちをなだめ、階段からゆっくりと他人を押したりしないように説明を加えて避難を呼びかける。

「すみません!!」

そんな時だ、零の所に中年の女性が駆け寄ってくる。何処となく焦りを滲ませる言葉遣いが危機感を感じさせた。

「どうしましたか?」

「うちの子供が居ないんです!絶対に七階のおもちゃ売り場からは動かないように言ったのに……!!
 歳は、幼稚園に上がったばかりの男の子と、年長組の女の子!!」

子供をおもちゃ売り場に放置していたのはどうかとも思ったが、今は状況が状況だ。
詳しい事が分らない以上、今、現在も『物体変質』は暴走をしていると見た方が良い。
その状況下で子供を捜しまわったり捜させるわけにはいかない。
しかし、見つける努力を怠る訳にもいかないだろう。そこで、最も効率よく探せる方法を提案した。

「分りました。各フロアにいる隊員達に捜索をお願いしてみます」


【状況:民間人の退避誘導】

【目的:A葉隠殉也と合流。
    BKu-01、都村みどりとの合流。
    C迷子の捜索。】

【持ち物:孔雀の扇子、『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】

241 名前:ゼルタ・ベルウッド ◆8hdEtYmE/I [sage] 投稿日:2010/04/26(月) 00:14:54 0
>>235
無警戒に近づいてくる足音。
曲がり角から足音の主が姿を現した瞬間、ゼルタはナイフを振るった。
影から顔を出したのは、修道服に似た装いの少女。
さきほどゼルタが青年に声を掛けられた時、その近くにいたはずだ。
一瞬、眼鏡越しに目が合ったが……。

「ごめんね」

ゼルタは迷うことなく、少女の胸に凶刃を突き立てた。
ナイフを引き抜き、通り魔の如くそのまま少女の横を通り抜ける。

もう一人……!

角を曲った先にいた男の姿を確認すると、ゼルタはその男目がけて飛びかかった。

【皐月を出会い頭に攻撃。続けてタチバナへと斬りかかる】

242 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/04/26(月) 23:02:35 0
>>235
>>241

>「……わかりました、大丈夫です、私迷路は得意ですよ!」
>「あ……、それと、私の名前、五月一日皐月です、ちゃんと呼んでくださいね? タチバナさん」

「ふむ。僕が名前を呼ぶのはストライクゾーン内の女性限定と誓いを立てているんだがね。――はっは、何かのフラグかな?」

『タチバナがはんのうにこまってる!げにおそろしやてんねんむすめ――!?』

「いやはやアクセルアクセス。存外ラスボスというのは極めて身近に潜んでいるのかもしれないよ。
 ともあれ僕も改めて自己紹介しよう。君には名乗ってなかったはずだからね。全世界の16〜24歳の女性の味方、タチバナです」

『16歳以下は?』

「"大きなお友達"さ。皮肉でないほうのね」

さて、気絶から復帰したシスターこと五月一日皐月は、迷路の最もオーソドックスな攻略法たる壁沿いを決行し、先行する。
些か警戒のネジの緩んだ軽い足取りはやがて曲がり角に差し掛かり、安全確認もせずにその先へ頭を出した。

>「ごめんね」

皐月の相貌に遭遇の驚愕が宿るのと、角の向こう側から陳謝の辞が述べられるのはほぼ同時。
死角の刺客をタチバナは視認できず、しかし聞こえてきた言葉に襲撃の剣呑さを認識する。
だから、迷わず行動した。

「――アクセルアクセス!」

『――よしきた!』

"精霊"の顕現を、『皐月の修道服』へ向かって発動する。もとより人を型どって織られたそれに外見の変化は乏しく。
しかし丁度胸の真ん中、ロザリオが揺れるあたりに幼女の顔が彫刻された。その口の中へ、襲撃者の白刃が飛来する。

「皐月君!」

器用に幼女の口中へ咥えられたのを刺突の手応えと誤認させる。そのまま襲撃者は皐月を押し退け、角を曲がってこちらへ踏み込んできた。
恐ろしく淀みのない動作。出会い頭であっても人を殺害するのに微塵の躊躇も発生させない冷静さと怜悧の胆力。
何よりも迎え撃つタチバナを驚愕させたのは、襲撃者の容貌がまだ年若い少女のそれであったこと。

「――――!!」

褐色の肌にセーラー服。その姿は、先刻公園にて見かけたのと同じ人間のそれだった。
アクセルアクセスは皐月の服。持っている文明に身を守る為の物はなく。迅速な殺意の遂行にタチバナの行動は追いつけない。
そのまま肉迫され、左胸――心臓めがけて無慈悲の刃は振り下ろされた。

――甲高い、断末魔。

それは金属音であり、破砕音であり、つまりはナイフの挙げた声。
タチバナの胸を貫き穿つと思われたナイフは、それを完遂できずに根元から折れ砕けていた。

243 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/04/26(月) 23:10:48 0
 足下がぐらりと揺れた。


「っマスタ、」


 手を伸ばすが、届かない。
 可視領域はぶれ、白く豪奢なチャイナドレスをかき消した。






「この建物を支えていた文明が暴走したようですね。
人為的なものなのかは、不明です」


 先ほどまでの広く開けたホールとは景色が一変している。
 壁が迫るように狭い、廊下のような空間。かしりとモノアイを軋ませるku-01の背後で、冷静に無線機と連絡を取り合っていた都村がそう告げた。
 流石に場慣れしているその様子に目礼で返答する。
 兎も角、通信機器が正常に作動するならば、ku-01の活動に支障はないだろう。



「佐伯さんには建物内には建物内に取り残された民間人の避難支援に当たって貰うよう、指示を出しました
それで、私個人としては、この文明の処理をしたいと思うのですが、」


 無線機をスーツのポケットに入れ、互い違いに取り出した腕章を手早く付ける

 慣れた手つきでぱちりとピンを止めて、ぴしりと纏う空気が変わった。


「さしあたって、……あなたは何なんですか?」


 かたん、とku-01は首を傾げる。


「何、とは」

「佐伯さんの直属の部下だと聞いて同行は認めましたが、彼女の居ない今、あなたという不確定要素は足手まといに成りかねません
何ならばお外までお連れいたしましょうか? 『ハジメ』様」


 都村はそう言い、能面のような笑顔で手を差し出してみせる。
 メモリを検索するが、確かに彼女らに対して名乗り上げ自己紹介をしたことは無かったとKu-01は思い至った。「健全な友人関係は第一印象で決まるんだよ! だからこうもっと笑顔! はいスマイル!」という上司の言葉が再生される。

 なるほど、とKu-01は両手を打った。
 都村とはきちんと関係を築いておいたほうがよいに違いない。
 主人の友人とは、転じてKu-01の友人でもあるだろう。


「私は軍用オペレーションオートマトン、型番:ku-01と申します
以後、ゼロワンとお呼び下さいませ、都村様」


 腰稼働域を四十七度曲げた機械的な一礼。
 頭部を上げた先の可視領域には、丸く目を見開いた都村がいた。

244 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/04/26(月) 23:24:48 0
予想外の事態に、襲撃者は愚かタチバナすら目を白黒させて自らの左胸を見る。
そこには指先ほどの穴が空いていて、焦げたそこから薄い煙を立ち上らせていた。
漂ってくるのは硝煙の匂い。

「はは、は。どうやら神は本格的に僕のファンになったらしいね!」

左胸に手を突っ込み、取り出したるは回転式の拳銃。BKビルの一階でタチバナの冷や汗の種となった武装。

「これは『逸撃必殺《ブレイクショット》』。いや、最早そうは呼べないかな、もしも文明機能は十全であるならば、
 銃弾の触れた僕のスーツも"壊れて"いるはずだからね。どういった理屈によるものか、これはただの銃器へと退化したようだ」

文明が消えたことで『禁属探知《エネミースキャン》』の文明精査を潜り抜け、また玉詰まりか給弾不良によって武器としての機能も失っていたが故に
武装精査さえもクリアしてここにある。そのように想像するのが最も道理が通っている。
そしておそらくは、ナイフがぶつかったことにより暴発して、玉詰まりが解消されたのだろう。それが運良くナイフに当たり、これを破壊。

「つまりこの拳銃は文明→ただの鉄塊と属性を変遷し、今になってようやく通常の拳銃として僕の手元に蘇ったわけだ。
 ということはだね、褐色のお嬢さん。僕にもこの武装を扱えるようになったということであり――」

手元でくるくる回していた拳銃をしっかりと掌握し、撃鉄を引いて襲撃者の眉間へと突きつける。

「――形勢逆転というわけだね」


【アクセルアクセスで皐月を護る→ゼルダに刺されるかと思いきや逸撃必殺に阻まれる→ただの拳銃になったそれを突きつけて牽制】

245 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 04:06:38 0
手刀一閃、猫面の放った一撃は五本腕の首筋を捉え、彼の意識を昏倒の深淵へ誘った。
前方からの攻撃は幾度となく凌いだ彼も、人外の挙動を経ての不意打ちには対応出来なかったらしい。

「ふぅん……。まぁ、鉄拳制裁よりかは幾分マシよね」
そうは言うものの六花とて彼を気絶させる以外に術があった訳ではない。
寧ろ顎下を渾身の力で蹴り上げようとした辺り、猫面よりも酷いくらいだ。
なのだが、彼女がその事を言及する事は終ぞ無かった。

「ひとまず、お疲れ様。早速で悪いんだけど、さっきの話。彼も交えてもう一度させてもらうわ」
労いの言葉をそこそこに、倒れた五本腕へ彼女は歩み寄る。
そうして襟元を左手で掴み、空いた右手の平で二度、鋭く彼の頬を張った。
小気味いい音が響き、彼女は五本腕を俯瞰する双眸を細める。

「どう? 目は覚めた? お目覚めのコーヒー代わりにホットなお知らせがあるの。ちゃんと聞いて頂戴?」

【テナードさんへ向けた提案と同じ事をお話した。と言う事で次をお書き下さい
 具体的には自分と自分の父は味方である事。望めば何だろうと叶えると言う事。無論命や愛情はともかくとして
 元の世界へ変える事も、この世界に居残る事も。また自分の姿を変えたければ、と言う事も一応述べた
 とこんな具合です】

246 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 04:06:38 0
「……初めまして、こんにちは。ひとまずは、こんな出会い方になってしまった事を詫びさせてもらうよ」

学者然とした男は柔和な笑みを浮かべながら開口一番そう言った。
男のゆったりとした声色は優しげで、通常であればそれだけで周囲の雰囲気を緩和させるに足るものなのだろうが今だけは違うようだ。

「ひさしぶりですね、三浦さん」

いつの間にか学者風の男――三浦という名前らしい――と同様に白衣を着込んだ兔が緊張した面立ちで対峙する。
その傍らでは自動小銃を構えた尾張が銃口を三浦に向けていた。

尾張の指が小銃の側面を滑る。
位置から察するに安全装置を解除したのだろう。
今のところ尾張は三浦を敵として認識しているらしい。

「君は、一体何をしようとしているんだ? ……彼らの人生を狂わせて、彼らをこの世界に呼び付けて……一体何を!」

(なんだと?)

次いで紡がれた三浦の言葉の中には聞き流すことの出来ない情報が混じっていた。
飛瞬たちをこの世界に召喚したのが兔だというのだ。
しかも他者の過去や心を見通す力を秘めており、その力を利用してかは知らないが過去に何やらしでかしたとのことだった。

対して三浦によって秘密を暴露された兔は、一片の狼狽も見せる事無く鉄面皮を貫き通している。
その表情からは何も読み取ることが出来ない。
そしてそれは飛瞬からすれば突き付けられた事実に耐え忍んでいるように見えたのだ。

「君達にだって心当たりは無いのかい!? 彼女の不審な言葉や振る舞いが、あった筈だ!」

思い浮かぶのは喫茶店での一幕。
あの場所で兔が起こした一連の行動は確かに常軌を逸していた。
眠いと絶叫したかと思えば次の瞬間には何事もなかったようにアイスを食べたいとねだってみたり、極めつけは「切り刻む程愛してる」だっただろうか。

「……君達はそちらに、彼女の傍にいちゃいけないんだよ。」

三浦の悲痛な声はさらに熱を帯びていく。
傍から見たらわざとらしいにも程がある身振り手振りも術中に嵌りつつある飛瞬にとっては気にもならなかった。

「元の世界に戻りたいと言うなら、叶えよう。この世界でしたい事があるなら、手伝おう。……僕なら出来る。君達の、助けになれるんだ」

その言葉に思わずごくりと喉を鳴らす。
今や飛瞬は完全に三浦の弁舌の虜となっていた。

247 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 04:08:10 0
三浦の差し伸べた手へ飛瞬が手を伸ばそうとするまさにその時、それまで沈黙を保っていた兔が口を開いた。

「……言い争いは無意味ですね。私も大概ですが、いきなり現れてそんなことを言っても、何の信用も生まれま
せんよ。それに、私には一つのアドバンテージがあるしね」

今更何を言うつもりだ、とばかりに振り返るが兔の視線は飛瞬が最も信頼を寄せる人物に注がれていた。
迷宮化の余波のせいで今は気を失っているが月崎真雪その人である。

「私は彼らに一つの嘘も吐いていない。私は彼らが協力してくれれば必ず報酬を与えるし、この世界に来させら
れた原因も知っている。彼らにもそれは解っている筈です――」

そうだ。
兔の言葉に"嘘"は無い。
そして三浦の言葉は"真実"である裏づけは一切無いのだ。

(この男……油断ならない)

飛瞬はまんまと相手の術中に陥っていた事実に恥じ入ると三浦に対する認識を改める。
容貌こそ穏やかそうだが、その本性は天性のアジテーター。
否、アジテーターでもある。だ。

飛瞬は冷静になった頭で三浦を観察する。
上背こそ飛瞬より高いが体格はお世辞にも良いとは言い難い。
おそらく飛瞬の得手とする近接戦闘であれば打倒しうる相手だろう。

だが果たしてそこまで詰め寄ることが可能だろうか。
今のところ三浦は攻撃的な挙動を一切取ってはおらず全くの自然体。
にもかかわらず、感じるプレッシャーは門派の師達と同等かそれ以上なのだ。

(何か切り札を持っていると判断するのが妥当か)

見た目と漂う威圧感、相反する二つの要素。
とはいえ容易ならざる相手なのは間違いない。

「後、三浦さん。こんな所まで飛び込んできて、まさかそのまま帰れるとは思っていませんよね?」

そんな飛瞬の内心を知ってか知らずか兔が三浦を挑発する。
尾張はもとより敵と認識しているし、飛瞬も現状では三浦側に付くつもりは既に無くなっている。

(であれば、戦端が開かれるのも時間の問題か……)

飛瞬は真雪の傍まで移動すると保留になっていた三浦の勧誘に返答する。

「ミウラと言ったカ。スマナイがウサギが言ったとおり今のところ宗旨替えをする予定はナイ。
ソレに俺たちを説得したかったラ、先ず彼女に話を通してくレ」

そしてそのまま真雪を背に庇うように構えを取った。

248 名前:竹内 萌芽(1/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 21:56:14 0

「……どうした? 折角知り合いを見かけたんだ、声を掛けてやればいい。
 ついでに、此処からはその"真雪さん"とやらに肩でも貸してもらうんだな」

煙草を吸いながら歩く彼の言葉に、萌芽は我に帰った。
そうだ、ここで混乱している場合ではない。

「そうですね……すみません。僕としたことがちょっと混乱しちゃいました」

首を左右に振ると、彼は立ち上がり自分の足で走り出す。
が、ふと思い出した萌芽は急ブレーキをかけ止まると、祇越のほうを振り向き

「行ってきます」

そう言って、笑った。


249 名前:竹内 萌芽(2/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 21:57:33 0

どこをどう走ったのかは、よく覚えていない。
途中自分と世界を”あやふや”にして道を確認しながら、萌芽は迷宮と化したビルの中を走っていた。

「まったく……来ちゃだめだって言ったんですけどね……」

ぜえぜえという息の合間に、萌芽はぼそりと呟いた。

正直言って運動はあまり得意ではない。
昔は走ることが好きで、それこそ幼馴染と一緒に居たときなど毎日が運動の連続だったが、ここ数年は運動とは無縁の生活を送っていたのだ。
自身の体力の低下は、いやでも実感せざるを得なかった。

「……会ったら……文句言って……やらないと」

そういえば彼女と生身で会うのは初めてである。
そう思うと、なぜだか不思議と心が妙な緊張感に満たされ、気がつけば萌芽の足はさらに速度を上げていた。


250 名前:竹内 萌芽(3/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 21:58:57 0

しばらく走り続けて、萌芽はようやく目的の場所にたどりついた。
その場がなんとも言いようの無い緊張感に満たされていることなどどこ吹く風で、萌芽は目の前の飛瞬に駆け寄る。

「はぁ……はぁ……フェイくん、なんでこんなとこにいるんです? 来ちゃだめだっていったじゃないですか」

息を整えながら、彼は真雪はどこかとあたりを見回す。

「まったく、真雪さんになにかあったらどうす……」

ふいに止まる萌芽の言葉。
視線の先には、地面に倒れる真雪の姿があった。

「真雪さん!!!?」

飛瞬の後ろに、まるでかばわれるように横たわる真雪に、萌芽は思わずしゃがみこみ彼女の体を抱き上げる。

「真雪さん!! 真雪さんどうしたんです!? フェイくんどういうことですか!!?」

冷静さを失う萌芽。
なぜあのとき、もっと強くここに来るなと言わなかったのか、なぜあのとき、飛瞬の頭に”あやふや”を使っても彼女を守ろうとしなかったのか。
自分を責める心の声に平静を保てず、萌芽は飛瞬に質問を投げかけ続ける。

「!!」

ふいに彼女の吐息が聞こえる。


251 名前:竹内 萌芽(4/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 21:59:51 0

「なんだ……生きてるんじゃないですか」

ほっ、と彼は胸をなでおろした。

そしてそのとき初めて、萌芽は飛瞬の後ろにいる”その人物”の存在に気がついた。

「あれ、あなた……なんでこんなところにいるんです?」

首を傾げる萌芽に、”その人物”はため息を吐く。

「あ、あー……そう言えば、さっき”あやふや”にしたときにいましたね。忘れてました」

真雪をそっと床に下ろすと、萌芽は立ち上がり、飛瞬の前に立つ。
あたりを見回せば、昨日居たおっさんと、見覚えの無い女性もいる。
それも考慮に入れ、萌芽はこの状況について彼なりに考えた。

この二人組みは、こちら側にいるし真雪の味方だと見ていいだろう。
そして、飛瞬が真雪を守るように立っていてそして”この人”が飛瞬の前に……?
さらには真雪が床に倒れていて……?


252 名前:竹内 萌芽(5/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 22:01:08 0

「あ、ひょっとして……」

ふいに声をあげる萌芽。
右手で名も知らぬ考古学者を指差しながら、「わかった」という顔をして言う。

「あなたも、真雪さんで遊びたくなったんですね? だめですよ、あの娘は僕が遊ぶんですから」

そう言った彼がポケットから取り出すのは、一枚のカード。

「変わりに”僕たち”が遊んであげますよ」

”アッヒャッヒャ!! いよいよアタシの出番か!?”

楽しそうなストレンジベントの声。
萌芽はゆっくりとカードを顔の前まで持ってくると、カードの絵柄が相手に見えるようにぱしりと回転させた。

「ええ、思いっきり暴れましょうストレンジベント。……ベント・イン!」

”ADVENT―前園久和―”


253 名前:竹内 萌芽(6/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 22:03:47 0

萌芽の声と友に、ストレンジベントの声が今度は精神的にではなく物理的にあたりに響く。
それと同時に、彼の指にはさまれたカードが赤い炎に包まれた。

「うおッ!?」

驚いた萌芽があわててカードを離すと、地面に落ちる前に炎に包まれたカードは跡形も無く消え去った。
失敗か? そんな疑問が彼の脳裏をよぎる。

しかし彼の少し前方の地面から、人ほどの大きさもあろう火柱が上がったことでその疑問は吹き飛んでしまった。

ふ、と炎が消える。
中から現れたのは、五本の腕を持つ、男だか女だかわからない人。

「こんにちは、昨日ぶりですね……クワくんでいいんでしょうか?」

くすくすと笑いながら、萌芽は人差し指を親指を立てて、自らの手で銃を形作る。

「そんな顔しないでくださいよ……大丈夫、痛みは一瞬です」

「ばん」という気の抜けたような声を上げながら、萌芽は彼を打つような動作をする。
その間に、一瞬彼の指が久和の額にふれていた。

彼の額に指が触れたその一瞬の間に、萌芽は彼の怒りに満ちた”先程の記憶”と”今の記憶”を”あやふや”にする。
さらに”怒り”や”殺意”と言った感情と、目の前の考古学者の存在の認識を”あやふや”にした。


254 名前:竹内 萌芽(7/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 22:05:09 0

突如叫び始める久和。

「そうそう、あなたはその怒りに満ちた”赤”が一番綺麗です」

にこにこと微笑みながら、萌芽はそっと目を閉じた。

そして、考古学者の前に現れるのは二体の萌芽の分身。

(ま、クワくんの”あやふや”はそんなに持たないでしょうね)

そんなことを思いながら、萌芽は二体の自分の分身を、目の前の三浦に向かって襲い掛からせる。
ちなみに分身の手は萌芽の意識と直通しており、触れれば彼の意思次第で敵の脳内の情報を”めちゃくちゃ”にすることが可能だ。
べつに手でなくても全身を精神的凶器にすることは可能だったが、あえて彼はそれをせず、攻撃範囲を手に限定した。
なぜなら―――

「さあ、遊びましょう?」

―――彼にとって、これはただの”遊び”でしかないから

ターン終了:
【前園 久和強制招集:今のイベントが終わったあとにでもお願いします】
【前園 久和再びバーサーカーモード:もって3ターンくらい】
【三浦さんにケンカを売る】
【ウエイターさんの行動はウエイターさんまかせでお願いします】

255 名前:宗方丈乃助 ◆d2gmSQdEY6 [sage] 投稿日:2010/04/27(火) 22:07:21 0
>「そうか…宗方と言ったかお前も大変だったようだな
まだ名乗っていなかったな俺は葉隠殉也だ

「葉隠さんっスか〜なんか普通じゃない感じっスね。
プロフェッショナルつーか、なんて言えばいいんだが……」

>「 この世界では無い場所で新日本帝国軍人をやっている
ちなみにこの二人は俺の子供ではなく保護した子供だ」

軍人という言葉に丈乃助の背筋がピンと伸びてしまう。
直立不動で敬礼のポーズを取ってみせる。

「マジっスか!?マジに軍人っスか…すげぇっスよ!!
任務お疲れ様です!!お子さんの親御さん探しっスね。
俺もあんま役に立たないかもですけど、手伝いますよー!」

周囲を過剰なまでに警戒しながら葉隠達のポイントマンを勤めるべく
走り出す。
≪なんだてめぇは!!≫

「あんたこそ誰だっつーの!!ゴルァ!!」

≪あべし!!≫
途中でやくざの部下に出会うも、そのまま壁に埋め込み事無きを得た。
迷宮化したこのビルでも、この盆栽頭のキャラはそのままであった。

【葉隠に協力を志願。そのまま先方を務める】

256 名前:intermission ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/28(水) 22:52:45 0

薄暗闇の中、空中に浮かぶ幾つものディスプレイが淡い水色を放ち室内を照らす。
幾多の音声が流れる中、丸い部屋の壁を沿うように密集するの液晶画面の集団。
その中央に設置された椅子に、一人の少年が膝を抱えるように座り込んでいる。

まだ幼さの残る顔の大部分は、巨大な分厚い牛乳瓶の底のような眼鏡で隠れ、表情は窺えない。
色素の薄い茶色の髪は、まるでタワシのように逆立ち、くしゃくしゃの寝癖だらけ。
薄い唇を真一文字に結び、目の前のノートパソコンのキーボードを一心不乱に叩き続ける。


「………………ん?」

ふと、少年の視線が幾つかのディスプレイに向けられる。
そして、その中の一つに目をやった時、その表情は瞬時に驚愕の色に染められた。


「これは……!!」


ディスプレイが映し出すは、異形の姿をした二人の人間らしき何か。
彼らは人間を相手に戦闘を繰り出し、これを撃退していく。
場所は、公園かどこかだろうか。人間を退散させたかと思えば、今度はお互いに戦い始めた。

あまりの目を見張るその光景にしばし茫然とする少年。
だが、突如出現した一人の少女の姿を視認した途端、少年は我に返る。


「電波侵害≪エレクトロンジャック≫!!」


少年の鋭い声と共に、ヘッドフォンが青白い電磁波を発する。
バリバリッという音がしたかと思えば、様々な情報が記載された液晶画面の数々が、少年に急接近する。

「……違う!……これも違う!…………これだ!!」

空中に浮かぶそれらをスライドさせ続けた結果、少年の手の上で、4つの液晶画面が踊る。

【前園久和】
【訛祢 琳樹】
【テナード・シンプソン】


【三浦六花】



257 名前:intermission ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/28(水) 22:53:45 0

無表情のままこちらを睨みつける少女の横に記載されたその名前。
不意に、少年の唇の端が持ち上がった。

「……フッ、ククク……!」

肩を震わせ、少年は意地悪そうな笑みを浮かべる。
分厚い眼鏡の奥の瞳が、妖しく光ったかの様に錯覚させる程の、底知れないドス黒い笑み。

その時、電波侵害≪エレクトロンジャック≫が新しい反応を見せた。
今度はまた違うディスプレイが一つ、少年の前に躍り出、映像を映し出す。
そこには、穏やかな笑顔の少年と、赤いもこもこのなにかがそこに居た。

「竹内萌芽に、予測不能≪ストレンジベント≫か……今のはコイツに対する反応だな」

立体マップで点滅するアイコンのような物と、名前を一つ一つ照らし合わせながら、一人呟く。
そして、とある名前を確認した時、少年の笑みがますます深まった。


「三浦、啓介……!!」


BKビルと記された建物のアイコンの上に表示される、その名前。
少年を行動させるには、充分だった。

「BJ、これから少し出る。留守は任せたぞ」

『坊っちゃん、これはまたいきなり……どちらへ?』

少年以外、誰もいない筈の部屋から響く低い声。
当の本人は、明るい声でこう答える。


「ちょっと、BKビルまでね」


そして、異形達を映すディスプレイへとダイブする。
後に残るのは、淡い水色の光だけであった。





258 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/28(水) 22:55:23 0


渾身の力を込めた手刀が効いたのか、色白男はつんのめって倒れかける。
咄嗟に片腕をまわしたお陰で、男が地面と接吻を交わすという最悪の事態は回避された。
ただ、意外にも体重が重かったせいで、少しよろけてしまったが。

全く、流れた時間はほんの数十分だったろうが。
体はまるでフルマラソンを完走したように疲労困憊だ。

「ひとまず、お疲れ様。早速で悪いんだけど、さっきの話。彼も交えてもう一度させてもらうわ」

仁王立ちして労いの言葉を掛けてくる少女。
が、その直後に飛び出した台詞に、思わず耳を疑った。

「彼ってお嬢ちゃん、コイツ気絶して――……」

だが、少女はテナードの言う事に聞く耳を持たず。
色白男につかつかと近寄り、襟元を左手で掴んで、残った右手を振り上げ。

男の白い頬に、鋭いビンタを喰らわせた。

「(うへぇ)」

思わず耳を塞ぎたくなるような、子気味良い音。
しかも二発。この少女、結構な鬼畜だ。
流石の俺も、そこまでする程鬼じゃあないってのに。

「どう? 目は覚めた? お目覚めのコーヒー代わりにホットなお知らせがあるの。ちゃんと聞いて頂戴?」

項垂れた色白男を見下ろす少女は、襟首を掴んだまま俺に対して放った言葉をそのまま繰り返す。
流れるようなその饒舌な台詞は、果たして男の声に届いたのか。
だが、軽く身じろぎをした事から、どうやら意識を回復させたようだった。
この男もタフだな、とどうでもいい感想が脳裏によぎった。

「大丈夫か?」

とりあえず気遣いの言葉をかけ、グッタリとしたそれを抱きかかえる。
かなり衰弱しきっている。あれだけ暴れたんだから、無理もないだろうが。

「とりあえず、どこか休む所へ……」

そう言いながら、一歩踏み出した時。

「なッ!?」

色白男の体から、突如として炎がほとばしる。
熱くはない、だが轟々と燃え盛る火柱が、みるみる色白男を包み込んで。


そして、瞬く間に色白男は『文字通り』俺達の目の前から姿を消した。



259 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/04/28(水) 22:56:18 0

「い……今のは……」

理解不能の現象に、最早吐き気すらこみあげてきた。
どうもこの世界に来てから、調子が狂いっぱなしだ。
脳のキャパシティーが、エラー音を発しているようにも感じた。

『知りたい?』

突然、脳内に響くような声。
嗚呼、遂に幻聴まで聞こえ始めた。俺オワタ。

『誰が幻聴だよ、失敬な猫だな』

その声と共に、先程まで色白男がいたその場所から、空間が歪み始める。
茫然としている間に、淡い水色を放ちながら、歪んだ空間から一人の少年が出現した。

「ハァーイ、初めまして。そんな怖いカオしないでよ」

奇天烈な登場の仕方をした、かなり小柄な体躯をしたその少年。
お気楽そうに、手を振りながら慣れ慣れしい態度と軽い声色で挨拶をする。
咄嗟に身構えるテナードを、右腕を突き出して制止し、ニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべて、こう言った。

「別に、アンタ達と戦りあおうって訳じゃあない。僕の話を聞いて欲しいんだ。
 勿論、さっきからそこに隠れてるオニーサンにもね」

ヘラリと笑いながら、少年がテナード達の後方を指差す。
その視線の先を辿ると、いつの間にか奇妙な姿をした一人の男が、ゆっくりと物影から姿を見せる。
前髪で殆ど見えないその顔を、悲しみと怒りの両方で染め上げて。

「見てたんだろう?仲間を助けたいんだろ?
 僕と手を組もうよ。取引だ」

男の表情を見て、また、笑みを一つ零す少年。
まるで、何かを企んでいるかのような、そんな笑顔。

「僕は、とある目的の為に動いている。それには、三浦啓介という男の力が必要なんだ」

少年が一瞬だけチラリと少女に視線を走らせるが、何事もなかったかのように視線を戻す。

「でも、その人が今いる場所は、とても危険で、おまけにアンタ達の仲間までいるときた」

今度は、男に視線を送る少年。
そして、テナードと視線を合わせ、こう締めくくった。

「僕は三浦啓介、アンタ達は仲間。そしてお互いに向かうべき場所は一緒。
 これって運命じゃない?」
 
そして、思い出した様に、少年は突き出していた手を握手の形に直し。
また、ヘラリと笑ってこう続けた。


「僕の名前はカズミ。ヨロシクね、異世界人さん達」


【テナード:前園久和の鎮静化に成功するも、強制召喚を止められず】
【カズミ:異世界人達を発見し、出現。
     取引に応ずるよう、説得を開始】
【勝手におっちゃんを動かしちゃいました。取引するかはPLさん達に任せます】


260 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/29(木) 03:44:45 0
三浦啓介は窮迫していた。
彼の生涯を振り返っても、類のない程に。
両の手は悟られまいと震えを堪え、表情も平静を保つべく必死になっている。
彼には無かった。未だかつて、今程までに――

(……馬鹿だコイツ。もう三月は過ぎたけど、まだ頭の中が盛ってんのかな? いや、実はこれは高度な作戦なのかも知れない。僕を抱腹絶倒させて仮面を剥ぎ、
 更に攻撃の隙を……それどころか笑い殺す事さえ……って、んな訳ないよねー! 駄目だ駄目だ表情筋が攣るってコレ。堪えろ! 堪えるんだ僕の表情筋!)

笑いの表情を、我慢した事が。
彼の肺腑で歓喜の成分が爆発を起こしたのは、他でもない『兎』の言動が、原因である。
三浦の鼻を明かしてやりたいが為に、彼女は一つ、三浦の知り得なかった情報を零した。

月崎真雪と、彼女の能力。
もしも『兎』が冷静沈着の精神に鎮座していたならば、彼女の能力について言及する必要は無かった。
三浦を相手に適当な問答を続け、然る後に月崎真雪が覚醒してから、彼の嘘を彼女に認識させればいい。
『嘘を見抜く能力』を知らぬ三浦は月崎真雪を単なる小娘としか認識せず、旧態依然と舌先から甘言を滴らせただろう。
途端に、彼女の雰囲気が変貌した事を悟ったとしても、後の祭り。
『嘘を吐いた』と言う事実はどう足掻いても消せず、尾張一行が三浦に拭えない猜疑心を抱くには、十分過ぎる。

だが『兎』は様々な激情からか、その策を取らなかった。
あまつさえ、奇しくも伏せられていた切り札を自ら開き、三浦に見せ付けたのだ。
今や彼の平静を保った面の内では、喜色に染まりきった破顔が潜んでいる。
無論、それを表に滲ませてしまう三浦では無いが。

加えて既に三浦は、月崎真雪の能力の裏をかくべく思索の枝を無尽に伸ばしている。
『兎』の口振りから察するに、月崎真雪の能力は『真意を見抜く』ではなく『嘘を吐いているかが分かる』能力だ。
ならば、或いは打破する手もあるか、と三浦は一応の結論を導く。

それでも自分の意図が見破られた時には――月崎真雪を殺してしまおう、とも。
生かし続けておけば、他の異世界人の懐柔にも響く存在だ。
となれば『イデアへの指針』とも言える尾張証明も殺す事になるだろうが。
可能ならば生け捕り。それに『彼』が『彼』でなくなった後でも、用途としては問題ないかもしれない。
どうせ敵対は避けられぬのだからと、三浦はこの件にもひとまずは方針を得た。

> 「ミウラと言ったカ。スマナイがウサギが言ったとおり今のところ宗旨替えをする予定はナイ。
> ソレに俺たちを説得したかったラ、先ず彼女に話を通してくレ」

月崎真雪の前に立ち彼女を庇う飛瞬を見つめ、三浦は内心で深い嘆息を零した。
一見彼女を護ろうとする飛瞬だが、彼の言動もまた月崎真雪の能力を裏付けている。
つまり、三浦の標的であると、高らかに宣言しているのだ。

ともあれ、いつまでも沈黙を決め込んだ所で事態は好転しない。
月崎真雪の様子に気を配り、目覚めの予兆を見逃さぬよう気を配りながら、三浦は再び弁舌を振るう。

「信用を得るにはマトモな情報……尤もだね。尤もであるが故に、とても分り易い。
 じゃあその『マトモな情報』を明かそうじゃないか。……何、その彼女が目覚めるまでの余興と思ってくれて、構わないよ」

『嘘が無いから信用に足る』などと言うのは、言葉の綺麗さを前面に押し出した詭弁だ。
事実『兎』とて、三浦と比べればどうかはともかく、『善人』や『清廉潔白』とは程遠い立ち位置にいるだろう。

「……彼女は嘘を吐いていない。僕には分からないが、それは君達の信じられる情報のようだね。
 だけど、考えてもみて欲しい。そもそも君達には、ちゃんと量の情報が与えられたのかい?
 伝えられた情報が少ないから、嘘がない。或いは嘘を交えなくてもいい情報だけを、教えられたと言う事はないのかい?
 何故君達がこの世界へ呼ばれたのか。元の世界に帰る方法。……『イデア』については、聞かせてもらえたかい?
 協力してくれれば報酬は出す……と言うのは、逆説を辿れば主従の取り決め。従わなければ手は貸さない。って事じゃないか」

彼が挙げた三つの情報を、『兎』は尾張一行に教えていない。
と言うよりも、教える事が出来ないのだ。
彼女もまた、それらについては何も知らないか、或いは不確かな情報しか持っていないのだから。

261 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/29(木) 03:45:48 0
しかし三浦の口振りは、如何にも彼女が情報を隠しているように仄めかしている。
一度こう言ってしまえば、最早『兎』が「知らない」と言った所で、それは隠し事をしているようにしか見えないだろう。

「僕は違う。君達を助けたいんだ。だから無償で、全力を貸す事が出来る」
無論、仮に尾張一行が三浦の言葉を信じたならば、当然彼は尾張達を利用する腹積もりでいる。
だがその口実は「どうしても君達の力が必要だ」などと嘯き、あくまで彼らの親切心を拠り所にしてだ。
畢竟、彼らは協力しなければどうしようもない立場である事に変わりはないのだが。
あくまで彼らの善意であると言う形を取る事で、その認識を鈍らせる算段だ。

「どうだろう? 彼女が目覚める前に結論を急かすような事はしないけど……果たしてその『兎』君は、本当に信用に足るのかい?」

言葉を紡ぎ終えて彼は一息吐くと共に、ふと廊下の奥からこちらへ駆け寄る人影を見つけた。
目を凝らしてみれば、何とも情けないふらつき方で近寄る彼は、最早三浦の中では面倒の代名詞となりつつある竹内萌芽ではないか。
彼は尾張一行の傍で立ち止まると、飛瞬を相手に取り乱しながら言葉を捲くし立てる。
どうにも救いようの無い場の読めなさ具合に、三浦は深く溜息を吐いた。

「……すまないが、今は大事な話の最中でね。僕の物を盗んだ事は不問にするから何処かへ……」
> 「あれ、あなた……なんでこんなところにいるんです?」

相変わらず人の話を聞こうともしない態度に、三浦は少々の苛立ちを込めて溜息を重ねる。

> 「あ、あー……そう言えば、さっき”あやふや”にしたときにいましたね。忘れてました」
挙句自分から尋ねておいて、独り合点。
その後も知性の欠片も見出せない所作であちこちを見回す彼に、三浦はとうとう諦念を得る。
ひとまずは萌芽が納得するまで、彼は小休止と今後への思考に浸る事とした。

> 「あ、ひょっとして……」
> 「あなたも、真雪さんで遊びたくなったんですね? だめですよ、あの娘は僕が遊ぶんですから」

「押しかけて早々人を性犯罪者呼ばわりとは、随分だね。
 生憎君と趣味嗜好を同じくするほど僕の感性は崩落していないよ。さあ、分かったら……」

> 「変わりに”僕たち”が遊んであげますよ」

「いい加減、君の言語中枢はイカれてるんじゃないかと疑問を抱かざるを得ないな。
 ……彼らの手前、心証を損ねるような荒事は御免被りたいんだけどね」

言葉の後半は誰の耳にも届かぬよう口腔内だけでの響きに留め、三浦は萌芽の取り出したカードに目を細める。
絵柄が浮かび叫びを上げる『予測不能』は、その本質には至らぬまでも順調に覚醒を進めているようだ。
今回発動したのは『遊人誘致』≪ショウタイム≫だろう。
呼びつけた五本腕の異形に銃を模った指先を突き付け、精神操作を施したとの口振りで、萌芽は三浦に向き直る。

>「さあ、遊びましょう?」

言葉と同時、萌芽は二体の分身を三浦へと迫らせた。
対して三浦は、悠長な動作で白衣のポケットから一組の白い手袋を取り出す。
特異な能力を持ち、分身しているとは言え、竹内萌芽自身の身体能力は並以下、貧弱だ。
精々漫画やアニメの見よう見真似の動きは酷く緩慢で、三浦が手袋を嵌め終えても尚、一呼吸を置く間があった。

「この文明は僕のお気に入りでね。随分と……に近い出来なのさ。先に言っておくけど、あげないよ」
ぽつりと呟き、三浦は白衣の袖を掴む。
するりと白衣を脱ぐと脱衣の勢いを乗せて、接近する萌芽の両手を巻き込んだ。
瞬間、一体どう言った因果か。萌芽の手が粉微塵に裂けて四散する。
驚きの表情を浮かべた彼の顔を、三浦は空いている右手で掴んだ。
そして、ちらりと隣の白い壁を一瞥する。

「……破壊に対して硬さを変える壁。さて、どうなると思う?」
何が、とは言わない。ただ小さく、三浦は囁いた。
直後、彼は膂力の限りを尽くし、萌芽の頭を壁へと叩き付ける。
打撃音と称するには余りに大きな轟音が響き――萌芽の分身は次第に薄れ消滅した。

262 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/04/29(木) 03:47:07 0
しかしもう一体、萌芽の分身は三浦に肉薄している。
所詮はモヤシ小僧の拳だと油断したのか、三浦が彼の手を防ぐ素振りはない。
精神的必殺を誇る毒手が、三浦へ伸ばされ――

「……こらー! 君また変な事したでしょ! もういい加減にしてよね!」

――突如虚空から兆したサイの踵に頭部を強かに打撃されて。
萌芽の手は三浦に届く事なく勢いを失い、そのまま消え去った。

「……サイ、ここは危ないと言ったろう。君達に万一の事があれば、僕は彼女に申し開き出来なくなってしまう」
だが三浦の表情は、些かの険しさを芽生えさせていた。
多少の無茶は言っても聞かないが故に看過してきたが、今回ばかりは。
この場この状況では、命を落としさえし兼ねない。
目の前にいる『兎』は勿論、BKビルに蔓延るヤクザ連中にしても上層の奴等は、
相手が子供の形をしていようと迷わず殺しに掛かってくるだろう。
必要とあれば、尾張証明も恐らくは同じだ。

「でも、それでも私……」
落ち込んだ表情を見せながら、それでもサイは食い下がる。
感情を排した三浦の視線が、彼女を暫し貫き続けた。

「……まあ、僕は今回荒事に至るつもりはないからね。さっきのはあくまで自衛の手段。
 サイも僕の為と思って来てくれたんだろう? だったらその事を咎める事は、僕には出来ないな」

けれども一度深く、諦念を含んだ嘆息を零すと、三浦はサイの頭に手を添える。そうして片膝を突いて、

「……もしも『お仕事』をする事になってしまったら。あそこにいるスーツのお兄さんの相手をするんだ。それ以外はいけないよ?」
彼女だけに聞こえるように、小声で耳打ちした。

三浦は見た所、李飛瞬は発する雰囲気こそ常人の域を遥かに凌いでいるが。
子供を死に至らしめるまでの事は出来ないだろうと、予測していた。
彼らを篭絡出来たならそれが最上だが、無理だった場合には戦闘は避けられないだろう。
その際には、彼の相手はサイに頼もうと三浦は判断した。
無論三浦が自ら相手取った方が手っ取り早くはあるのだが、そこは彼に思う所があって、だ。

「とは言え……そこの彼はどうした物かな。見た所話が通じる風でもなし……まあ、落ち着くのを待つ他ないかな。
 そう言えば、昔のゲームに彼みたいなモンスターがいたね。ガイコツだった上に、剣は五本持ってたけど」

刀を構え異様な形相で自分を睨む五本腕の青年に、三浦は少々辟易の色を示す。
つまり彼の抱く感想はあくまでも『面倒』であり、『焦燥』では無かった。

「あぁ後、萌芽君。君はお友達に何の断りもなく鬼ごっこを始めたりするのかい?
 しないだろう? それとも君には遊び相手になるお友達がいなかったのかな? ……ともかく、一つ言う事があるだろう?
 『あーそーぼ』ってさ。今回は言った事にしといてあげるから、次から気をつけるんだね。……そして、僕は今から答えを返すよ」

彼の本性の片鱗を皮肉として台詞に交えながら、三浦は笑う。

「『いーいーよ』ってね」
弓なりを描く目口の奥に常人ならば、有り体に言うならば裏の世界に住む者にしか、悟れぬ程の。
細微を極める愉楽の気配を潜ませて。

「なに、さっきも言った通り、これはあくまで余興さ。これから貸す力を、先行公開するのも悪くない」
当然、事の次第によっては彼らの敵になる力だが。
彼の口舌がそこまでの言及をする事は、言うまでもなく無かった。


【兎の言葉から真雪の能力を予想。一応対策練っとこう。無理だったら殺す。すげー邪魔になりそうだし
 真雪が目覚めるまでの余興と言う事で色々。でも真雪の能力が及ばない所を突付いてたりも
 頭かち割った。萌芽君にも、イラっとくるかも? な皮肉を。前園は掛かってきたら適当にいなす程度
 飛瞬さんの相手にサイちゃんを予約。何故サイちゃんが来たのかは、テナードさんに対する六花のレスで】

263 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 08:57:31 0
『月崎真雪:嘘

……
………
状況変化:肉体的危機』
『意識無し、逃げられません』
『文明:死泣の唇《アンビリカルラブ》を実行しますか?』





――――頭が痛い。体が自由に動かせない。
飛峻さんのベルトを掴んでからずっとこんな調子だった。
そして、さっきから響いて来る声。
『なに、さっきも言った通り、これはあくまで余興さ。これから貸す力を、先行公開するのも悪くない』
何なの、もぅ…
頭を揺さぶるように響くから、気持ち悪くて仕様がない。
しかもその悉くがニヤケた下品な笑い声付きだから救いようまで無い。
ああ、気持ち悪い…! 誰でも良い、その嘘吐きを排除して――――





『死泣の唇《アンビリカルラブ》、実行』





真雪の体、正しく言えばその胸元から、血が噴き出した。
真雪を中心として広がった血溜まりは、少しずつ蠢きながら広がっていく。
血液が吹き上がり盛り上がり、肉塊を作り上げていった。
それは近くに居た順に――――
飛峻、萌芽、久和、兔、尾張、サイ、三浦の足を飲み込んで、逃がすまいと万力の如く締め付ける。
気付いた者が見渡せば、肉塊はその部屋の全てを呑み込もうと床に隙間無く広がり、
無数の唇を蠢かせていた。

…不意に、真雪が肉塊に持ち上げられる。
肉塊の中から触手が一本伸びて、真雪の腹―――臍を貫いた。
貫かれた臍を中心に、木の根が伸びるように真雪の中へ触手が広がって行く。
服の上からも、見ただけで分かる肉体に走る盛り上がり。
これが真雪の体全体に広がれば、真雪は肉塊の一部となり、
意識を回復させるのは不可能となるのだろう。



【文明:【死泣の唇《アンビリカルラブ》】発動】
【死泣の唇《アンビリカルラブ》:適合者の身体や精神に危険が生じ、意識が無い場合発動。
肉塊を召喚し、適合者と周りの人間を無差別に飲み込む。
適合者の危機が去るまたは適合者の意識を回復させると何事も無かったかのように消える。
肉塊は無数の唇が蠢き、時々血やら黄色だったり透明な液体を吹き出している。むせかえるほど血腥いのも生理的嫌悪感を増幅させる。
真雪のペンデュラムに適合している。】
【起こそうとせずあと2回真雪のターンが回れば、
彼女は肉塊に完全に呑み込まれ意識を回復させることが出来ません】




264 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 19:48:02 0
少し前の記憶を回想する。

子供と話している間に、シエルが消えてしまっていた。
襲われた、という事は無いだろうがこれは失態だ。
久和にどう説明すべきか…。

と、悩んでいた所で書置きを見付けた訳だけども。

「あそこのおっきいアレに行ってきます…」

あそこのおっきいアレじゃ分かりにくくないかな、気のせいかな。
まあ、気のせいじゃあないと思うけど。

「ちょっとアバウトすぎるよね、これ」

私としてはこのおっきいアレに行ってシエルを探したいわけだけど、久和が戻ってきたらどうなるかという事で。
あの刀で斬られるかもしれない。
自分の責任とはいえこれで斬られるのは不本意だ。

「…まず久和を探すのが先、かな」

という訳で書置きを持って公園を出たのはいいけど、さてどうするかな。
正直どっち行ったかなんて分かるわけ無いし。

…。

265 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 19:48:43 0
「多分こっち」

人さえ居れば五本腕の人間がどこに行ったか、とか聞けるんだけどな。
人、居ないし。
テキトーに歩くしかない。

「…」

いや、厳密には人はいるんだけどね。
ちょっと北斗の拳から出てきたような人間だから声掛け辛いだけで。
…ヒャッハーここは遠さねえぜーとか言ってくれないかな。
ま、仕方ない、話し掛けよう。殺したくないから襲ってこないでね。

「…ちょっとそこの世紀末軍団さん達」

「あ?んだよおっさ「五本腕の男見なかった?」

「…」

無言で私が歩いて来た方を指差す男。
あれ?てっきり頭おかしいのかみたいな反応されると思ったんだけどな。
もしかしてなんかやらかした、とか、…ありえる。

「ありがとう」

あと久和が何かやったならごめんね。
そう心の中で呟き歩いてきた道を急いで戻り…、

久和を見付けた時にはおっきい猫に支えられてロリにビンタされていたという訳だ。
あの猫は何だきぐるみか、あの女の子は何でビンタしてるんだ、あと何だこの状況。
もうおっちゃんついてけない。

266 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 19:49:39 0
>「どう? 目は覚めた? お目覚めのコーヒー代わりにホットなお知らせがあるの。ちゃんと聞いて頂戴?」

明らかに自分に向けられてはいない言葉を物陰に隠れて耳から脳に入れる。
猫やらこの話やら色々と情報が多い、後で整理するとしよう。

そう考えていた所に久和がいきなり燃え出し消えてしまった。
と、思うと今度は少年が。おっちゃんもう本当ついてけない。
…でもこういう時こそ冷静にならないと、熱くなるのは馬鹿と炎だけでいい。

「新手の魔法か何かか、ね」

…違うだろうけど。

>「別に、アンタ達と戦りあおうって訳じゃあない。僕の話を聞いて欲しいんだ。
> 勿論、さっきからそこに隠れてるオニーサンにもね」

あ、バレた。
とりあえず、出ていった方がいいんだろうし出ていこうか。

>「見てたんだろう?仲間を助けたいんだろ?
> 僕と手を組もうよ。取引だ」

取引とはつまり仲間を助ける手伝いをする代わりに一緒に三浦を探せ、という事だろうか。

>「僕の名前はカズミ。ヨロシクね、異世界人さん達」

「私は訛祢琳樹、別に私は取引に応じてもいい、とだけ言っておくよ」

ずっと同じ場所に居るRPGもつまらないだろう、ゲームならば進展がなければ。

……ただ一つ、本の魔力足りるかな。

【訛祢 琳樹:テナード、六花に合流? 及びカズミ取引に応じてもいい様子】
【魔法書の魔力はあと五回ほどで切れます】

267 名前:尾張証明 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/04/30(金) 18:40:05 O
(やれやれ)

溜め息を吐く。状況はひどく混乱していた。誰が敵で、誰が味方なのか。
もはや訳がわからない。

「大丈夫ですよ、犬狼さん」

(だと良いんだがな)

兎の言葉にそう返す。といって、勿論音にはならない。ただの気休めだ。メモを書くために銃を離すわけにはい
けない。ただ静かに三浦の頭に銃の照準を合わせる。「動くな」と一言口にできたらどんなに良かっただろう。三
浦はまるでこちらが見えていないかのように平然と動き回り、今は突如現れた(余りに沢山の人物が“突如”現
れたため、正直なところこの表現そのものが無意味で滑稽な物になっていた)少女と話をしていた。

「しかしどうにも分が悪そうですね。
三浦だけならなんとかなったんですが……、ここはさっさと上へ向かった方が良かったかもしれません」

不意に耳元に顔を寄せて、と言うわけで、と兎は囁いた。

「今からでも遅くない。三浦を調子付かせるのしゃくですが、真雪さんを担いで逃げましょう。
李さんは、こちらをまだ少し疑っているようだし、結構な賭けではありますが。どうでしょうか?」

少し迷った後に、俺は頷いた。現状の混乱した状況ではまともな作戦は取りづらい。今の状況が完全に蛇足であ
る以上、当初の目的であるミーティオ・メフィストの奪取を行うことが最優先のように思えた。

(なんだ?)

兎が不思議そうな表情でこちらを見つめている事に気が付き、首を捻って見せる。兎ははっと表情を改めて、目
を逸らして、ポツリと言い訳をするように呟いた。

「……何で私を疑わないのか不思議で。いえ、ひょってしたら疑ってるのかもしれませんけど、何だかそうは見
えないから……それだけです」

確かに言われてみればその通りだ。何故だろうか?考えても答えは出ない。そして今は考えるときでもない。保
留。最も無難な答えを俺は選んだ。

「それじゃあ、三浦が気を取られている内にさっさといきましょうか。李さんに」

掛け合って来ますと兎が言いかけて、突然周りの様相が変わった。
肉、肉、肉。
床が、壁が、天井が、豚の内臓をぶちまけたように変質していく。足を絡めとられ、動きを制限される。そして
その変異の中心にいるのは

「李さん!!」

兎が叫んだ。真雪に最も近いのは李だ。

「起こせば元に戻ります!!」

何を、とは言わない。事態は足早に動いていた。全てを説明する暇など、そこには無い。

268 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/30(金) 21:24:57 0
「邪魔!」

踏み込んでの右手による掌底突き。撃ちぬき、引き倒すとそのまま放置して駆け抜ける。
避難誘導が終わり、割り当てられた七階を捜索していた零だったが、
不幸にもドサクサにまぎれずに律儀にビル内に残っていた自称警備員たちの抵抗を受けていた。
耳を澄ませば無線機から聞こえるノイズ交じりのファンファーレ。
どうやら、各フロアもここと同じような小競り合いが発生しているらしい。

ここ七階はたくさんの小売店が入ったブースで仕切られている。
その為、各ブースを片っ端から探して回っているがやはり、目当ての救助者は居ないようだった。

「ウェアー!」

そして、その探索中の幼児二人の代わりに現れるのはヤの付く自称警備員たち。
その彼らの奇襲に嘆息交じりな対応で零は対処する。
振り下ろされる鉄パイプと言う原始的な鈍器に零は足を振り上げるという反応を瞬時に示す。
それにより「ご、」という鈍い音と共に空中に静止する鉄パイプ。
零がハイヒールの踵とつま先の間にある空間で受け止めたのだ。
そのまま足をおろし鉄パイプを引き倒すと振り向きながらの回転を加えた裏拳で地に沈める。
ノックアウトだ。完全に米神を撃ちぬいている。恐らく脳震盪で二、三時間は気絶しているだろう。

「ずいぶん可愛げの有る武器ね。どうやら、残っているのは雑魚ばっかりか……」

転がり、斜めに傾いた状態で停止した鉄パイプを蹴りあげ拾い上げる。

「逃げなさい。抵抗しないなら逃がしてあげるから……」

そう物陰に告げると最後のブースを後にした。


269 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/30(金) 21:27:03 0
「七階、目標は見つかりませんでした」

『了解。でしたら、一度領域離脱をお願いします。
 都村さんから連絡がありましたのでその為の作戦説明を行います』

「了解」

どうやら、上との無線連絡は効くらしい。そう思い、無線機をしまうと撤退のために階段を降りようとする。
その時……零の目に有る物が飛び込んでくる。

(アメリカンイーグル!!)




時刻は三時ほど、急遽制作された前線基地では引っ切り無しに複数の隊員達がキーボードを叩いていた。
皆、作戦のシミュレーションを行っているのだ。一人の一人その表情からその確率の低さがうかがい知ることもできる。
そんな時、その作戦本部の空気をぶち壊しにする声と共に零は現れる。

「ごめーん!ちょっと手間取った!」

一瞬の空白。と同時に幾人かの隊員がため息を、また幾人かの隊員は小さくだが歓喜ともとれる息を吐く。

「佐伯さん!!……っと、とりあえずはその辺に座ってください。もう少ししたら作戦の概要を説明します。
 ……ン?あれ……そんなジャケット着てましたっけ?」

「あぁ、良いの見つけたから貰ってきたの」

270 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/04/30(金) 21:28:44 0
知れっとした顔でそう告げると「24,980円ね」と値段を教えて席に着く零。
そういう彼女は今、その白のジャケットをチャイナになる以前の服装の上に羽織っていた。
また、足もともさり気無くだがそれに見合ったハード系のライダーブーツをチョイスしてある。

「高っ!てか、経費で落ちるかなぁ……」

「あ、後、ブーツ代は別ね?8,750円だから3,3730円になるわよ。
 ……で、どんな状況なの?教えてくれるかしら?」

足を組み「臨時の指揮官」に声をかける。それに対して彼は複雑そうな面持ちで返答する。

「うぅん。僕の一か月の食費より高いですよぉ……
 じゃなくて、これから順を追って教えていきますので必要ならメモをとってください」

そう告げると「臨時の指揮官」は紙資料を事情を知らない各隊員達に配り始める。


【状況:作戦会議】

【目的:A葉隠殉也と合流。
    BKu-01、都村みどりとの合流。
    C迷子の捜索。】

【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】

271 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/05/01(土) 20:57:23 0
二度目の説明を終え、漸く二人の答えを聞こうと言うその時に。
五本腕は六花の眼前で炎に包まれ、それっきり煙も残さず消え去ってしまった。
予期せぬ出来事に彼女は暫し、呆然とする。

「六花ちゃーん!」
凍結した彼女の意識を再始動させたのは、頭上に降り注いだサイの声だった。
はたと見上げてみれば彼女もまた、先の六花と同じくビルの屋上から投身を果たしていた。
ただ六花と違う所は、その体勢。
着地を念頭に体勢を保っていた六花と違い。
サイは両手を広げて頭から真っ逆さまに、地表目掛けて落下している。
けれども地面に近付くに連れ、彼女の描く笑みは段々と弓が引き絞られるように、大きくなっていった。

だが正に地表の直前で、彼女を死へ運ぶ重力の手は、突如として払い除けられる。
サイの靴に秘められた文明、『星間歩行』≪エニーステップ≫によって。
彼女は宙空を足場として、逆さまのままの体勢で立っていた。
落下の反作用を失った衣服が、ひらりとしな垂れる。
しかしサイはそのまま空に半円を描く軌跡で歩み、恥が晒されるに先んじて地に足を着けた。

「アンタねえ。もっと早く使えたでしょ、それ。別にお父さんがいる訳でもないのに」
「えへへ……何かこう、落ちてる内に楽しくなってきちゃって……」
「……アンタ、早死するわよ、ホント」

終始呆れ顔の六花に、サイは照れ臭そうに笑う。
別に照れる所ではないのだが、ともあれ六花の呆れは更に助長される事となった。

「あ、そうそう、そんな事よりね! 今あの子がまた変な事してるみたいなの!
 あの子の反応がこう、ぶわーって広がって! しかも何かおとーさんの近くにいるみたいだし!」

あの子、とは即ち竹内萌芽の事である。
彼の『あやふや』はサイの『要人用心』に対して一種のチャフ、或いはデコイ――とにかくある程度撹乱の効果を示すらしい。
その為具体的に何をしているのかは分からないが、逆を言えば『何かをしている』事だけは分かる。

「……で、行きたいって? アンタお父さんが何で一人で行ったのか忘れたの? 駄目に決まってるでしょそんなの」
呆然の気配を過分に含んだ溜息と共に、六花は大仰に首を横に振ってみせる。
普通ならば、彼女が父の言いつけに背くような事を許す筈がない。

「……って言いたい所なんだけどね。私も今、アイツにはもの凄く腹が立ってるの」
そう、普通ならば。
しかし余計な苦労を幾つも凌いだ挙句の果てに、更なる面倒を作ってくれたとあれば、話は別だ。
若干引き攣り気味の笑顔を浮かべながら、六花はサイに視線を向ける。

「行ってきなさい」
ただそれだけの言葉に、サイの表情に嬉々の炎が灯った。
淡い青と白のキャミソールワンピースに潜ませたネックレスを取り出し、彼女はそれを握り締める。
『暴発迷宮』が発動している為、『瞬間移動』によるBKビルへの侵入は出来ない。
故に別の手段を用いての侵入を、彼女は図った。


『妨害不可』≪ステップトゥユー≫――この文明の効果は、とても単純だ。
あらゆる壁を、障害を超えて、誰かの元へ行く事が出来る。
ただそれだけの効果しか無いこの文明を、しかし三浦サイはいたく大切に扱っていた。
これがある限り、自分は何処にいても、父の元へ行く事が出来るのだと。
この文明は、自分と父の絆なのだと。

272 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/05/01(土) 20:58:29 0
「うん。それじゃ、行ってくるね!」
意気揚々と笑いながらそう言うと、彼女はそれきり、陽炎の如く姿を消し去った。
相応の酷い目に遭うであろう萌芽に、六花は薄い笑みを浮かべる。

> 「ハァーイ、初めまして。そんな怖いカオしないでよ」
> 「別に、アンタ達と戦りあおうって訳じゃあない。僕の話を聞いて欲しいんだ。
>  勿論、さっきからそこに隠れてるオニーサンにもね」

そうしてふと、視界の外から聞こえた、初めて聞く声に振り向いた。
分厚い眼鏡を通して一層色濃くなっている、下卑た笑みを浮かべる少年がいた。
サイと問答している内にまた何やら面倒が転がり込んだのかと、彼女は溜息を零す。
>
> 「見てたんだろう?仲間を助けたいんだろ?
>  僕と手を組もうよ。取引だ」
> 「僕は、とある目的の為に動いている。それには、三浦啓介という男の力が必要なんだ」

少年の口から父親の名が転がった事に、六花は双眸を剣呑に細めた。
三浦啓介には二つの顔がある。
考古学者にして文明の権威と言う肩書きは表の顔に当たり、それ以外は全て裏の顔だ。
この少年はどちらの三浦啓介を求めているのか。
彼の姿形が年相応のものだったとしても、前者とは言い難いだろう。

> 「でも、その人が今いる場所は、とても危険で、おまけにアンタ達の仲間までいるときた」
> 「僕は三浦啓介、アンタ達は仲間。そしてお互いに向かうべき場所は一緒。
>  これって運命じゃない?」

今、異世界人達に三浦の裏の顔を見せるのは不味いのだ。
裏の顔でなくても、ダーティなイメージを持たれる事すら避けたいと言うのに。
六花は表情を押し殺し、内心のみで歯噛みする。

> 「僕の名前はカズミ。ヨロシクね、異世界人さん達」
いっそ今ここで絞め殺してやろうかと言わんばかりの憤怒を胸に、六花は辛うじて平静を保った表情でカズミを睨む。
ここで断る事が出来れば最上なのだが、理由がない。
少なくとも現時点では、両者の利害は一致しているのだから。

> 「私は訛祢琳樹、別に私は取引に応じてもいい、とだけ言っておくよ」
いつの間にか増えていた――恐らくは異世界人の、見た目はうだつの上がらなそうな中年が、六花の嘆息を誘う。
彼らが乗り気でいる以上、協力すると謳った彼女が文句を言う訳にはいかない。

「……話は纏まった? ならさっさと行きましょ。言っとくけど、私には『瞬間移動』とか便利な物は扱えないからね。
 私一人がお父さんのトコに行くならともかく。アンタ、協力と言ったからには何かしら出来るんでしょうね?
 あと、お父さんがアンタの話に乗るかは、私の知った事じゃないからそのつもりでいなさいよ」

273 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/05/02(日) 01:00:15 0


さて、そろそろ本気で脳のキャパシティが限界を訴えてきた。
原因は様々な要因の積み重ねだが、極めつけは目の前の少年だった。

「さーて、そこのオニーサ…おっと、琳樹さんはOKみたいだけどサ。
 アンタはどうする、おっきいにゃんこさん?」

その痩せ細った小柄な体躯といい、耳障りな声色といい。
ニヤニヤと挑発するようなその笑顔といい、人を苛々とさせるその口調といい。
性別や格好に違いはあれど、少年の一挙一動に、俺は既視感を覚えていた。

「(いや、まさか…………そんな筈は無い)」

認めたくない、認めてはならない考えを振りはらうかの様に、頭(かぶり)を振る。
そんなまさか。これは妄想だ。只の俺の考えすぎだ。

「カズミ、といったか」

考えるな。これは只の俺の幻想なんだ。
目の前のこの少年を、アイツと重ねてるだけなんだ。
しっかりしろ、俺。

死人は蘇ったりしないのだから。


「さっきの言葉に、嘘は無いんだな?」

俺の言葉に、少年は一瞬だけきょとん、としたような顔をする。
だが、また薄い笑みを浮かべて、俺に言い放った。

「勿論さ。僕は嘘をつかないのを信条にしてるからね……本当だよ?」

おどけた笑顔で肩を竦めるカズミ。
突然現れたこの少年を、何故俺は信用するのだろう。
心のどこかで分かってはいても、矢張り心のどこかで願ってしまうものなのか。

……酔狂になったもんだ、俺も。

「テナード=シンプソンだ。テナードでいい」

差し出された手を、握って。
カズミも、笑顔で答えた。

「取引成立、だね。ヨロシク、テナードさん、琳樹さん」



274 名前:カズミ ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/05/02(日) 01:01:44 0

「……話は纏まった? ならさっさと行きましょ。言っとくけど、私には『瞬間移動』とか便利な物は扱えないからね。
 私一人がお父さんのトコに行くならともかく。アンタ、協力と言ったからには何かしら出来るんでしょうね?
 あと、お父さんがアンタの話に乗るかは、私の知った事じゃないからそのつもりでいなさいよ」

話は済んだと判断したのか、三浦六花は至極不機嫌そうな声で僕を睨みつけてくる。
おお怖い怖い。どの世界でも、オンナってのはどうしてこうも威圧的なんだろう。
漫画然りアニメ然りライトノベル然り。…………いや、僕の周りだけなのかな。

「そんな威圧的に言わないでよ。反応に困っちゃうじゃないか」

にへら、と笑いながら彼女の殺気から逃れるように視線を逸らす。
よっぽど、僕の存在が気に食わないときた。まあ当たり前か。

三浦六花が恐れているのは、三浦啓介との対面か、僕がどこまで情報を掴んでいるか。もしかすると、どちらもだろうか。

前者だった場合、彼女が恐れてるのは父親の本性の事だろう。
それもそうか。彼が異世界人を召喚した張本人である以上、それを彼らに悟られる訳にはいかないだろうし。
もし、後者だった場合としても、だ。
彼女達にとって、三浦啓介にとって不利益な情報を持っているとすれば、僕は彼らにとって招かれざる客、邪魔者でしかない。

それに、「お父さん」だなんて。
怒りに任せて言わなくてもいい情報まで口走ってしまう辺り、まだまだ彼女も子供だな。

「ま、そう急かさないでよ」

それでも協力的な姿勢を取ってくれたのは、こちらとしても助かるのは事実だけどね。
心の中でほくそ笑み、僕は三浦六花にとびっきりの厭味な笑顔を向けてやる。

「僕が、何の準備もなしにここまで来ると思ったかい?」

その言葉とほぼ同時に、≪電波障害≫を発動させる。

「僕の文明はとても便利な代物でね、電波を扱った文明なんだ。
 半径100メートル以内なら、例えばこんな風に――――……」

僕の言葉を遮るように、僕の背後から飛び出してくる鉄の塊。
それは華麗に着地を決め、ご丁寧にもドアまでオープンさせるというパフォーマンス付き。

「こーんなモノまで、呼び出せちゃうんだよねえ」

さて、と三人の顔を見回す。

「これに乗れば、目的地まで一直線だ。……ま、嫌なら乗らないで地道に探すっていうなら話は別だけどね。
 ああ、心配しなくても、運転は自動操縦だから任せといてよ」

そう締めくくって、僕は黒塗りの無人タクシーを、足でつっついた。


【カズミ:取引完了、BKビルに凸決定】
【おっちゃんのターンからタクシーに乗車、BKビルに凸しますので、PLさん宜しくお願いします】

275 名前:101型 ◆jHyqRBvPAAuG [sage] 投稿日:2010/05/02(日) 20:59:35 0
BKビルに、突如として落雷が落ちる。
ビルの床を突抜けて1体の巨大な影が現われる。
周囲に稲妻を放ちながら、その巨体はゆっくりと起き上がった。

≪転送完了-任務を開始≫

CPUから発せられる報告を聞きながら、巨体の正体―101型は
周囲の状況を分析していた。
≪周囲に生命反応あり 人間に紛れ込む為に服を用意せよ≫

CPUに命ぜられるまま、101は全裸のまま歩き出した。
目の前には複数の男達。武器も所持しているようだ。

「服と武器を貰おうか。」

有無を言わさず、101は男達の前に立つ。
現代で言うヤクザと呼ばれるであろう男達は口々に101の姿を嘲笑いながら
銃を構える。

―数分後

そこには足を撃ち抜かれ悶絶するヤクザ達の山が築かれていた。
≪サイズ適合なし 更に探索を進める≫

残念ながら彼に合うサイズの服は存在しなかった。
そのまま、探索を続けるべく歩き出したのだった。

【第一目的:服を着る(サイズが大きいもの
第二目的:武器を手に入れる】

(よろしくお願いします)

276 名前:101型 ◆jHyqRBvPAAuG [sage] 投稿日:2010/05/02(日) 21:00:13 0
名前:対文明兵器-101型
職業:戦闘兵器
元の世界:未来
性別:外見上は男に分類される
年齢:可動年数は最大で150年
身長:195cm
体重:150kg
性格:性格というものはないが、常に冷静
外見:全裸。筋骨隆々の体に短髪。
特殊能力:機械の内部骨格を持つ為、異常なまでに頑丈。
あらゆる状況を冷静かつ的確に判断するCPUを持つ。
備考:文明により崩壊した「未来」から来た戦闘兵器。
ある人物の命令により、この世界を来たるべく未来から変化させる為
送り込まれた。


277 名前:葉隠殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/05/02(日) 22:28:39 0
>>275>>255
>「葉隠さんっスか〜なんか普通じゃない感じっスね。
プロフェッショナルつーか、なんて言えばいいんだが……」

さすがにこの物々しい装備を見れば分かったようで、

>「マジっスか!?マジに軍人っスか…すげぇっスよ!!
任務お疲れ様です!!お子さんの親御さん探しっスね。
俺もあんま役に立たないかもですけど、手伝いますよー!」

軍人を名乗るときっちりとぴんと背筋を伸ばし敬礼をして
協力を申し出る。
正直な所民間人には怪我などさせたくはないが、彼の気持ちを尊重するとしよう
了解すると彼は先頭を方を申し出たので、頼むこととする。

時々ヤクザ共と遭遇するも宗方がとても学生とは思えぬ強さで蹴散らしていく

「学生でなければ我が零式特殊戦団に勧誘したいぐらいだな」

その強さに思わずそう言ったことを洩らしてしまう
子供達の安全を確認しながら向かっていったある地点で
突然男が現れる
なぜか全裸だったが、別段薬をやっているというわけでもなく
やけに落ち着いていたのだった
そして手を見ると銃を持っていたため子供達を自分の後ろにしていつでも守れるように警戒する

「そこの男、なぜに全裸になっているかはしらんが
何が目的だ?答えによっては射殺する!」

MG42機関銃をいつでも構えられるようにして、返答を待つ





278 名前:101型 ◆jHyqRBvPAAuG [sage] 投稿日:2010/05/02(日) 22:46:50 0
>>277
≪生命反応アリ 銃器所持≫

曲がり角を抜けると、数名の人間がいた。
1人は銃器を所持し、もう1人は不思議な形の頭をしている。
後ろにいるのは子供と呼ばれる種別の人間のようだ。
101型はいつでも眉間を撃ち抜ける姿勢を維持したまま冷静に質問を始めた。

「私は、ある目的でここに来た。彼女からは無駄な殺戮をしないように
命令されている。無意味な戦闘を避けるのが1つ。
君達にも危害を加えるつもりはない。だが、君達が私の邪魔をするのならば
別だ。それにもう1つ。」

機関銃を見つめ、無表情のまま呟く。

「その武器では私を倒す事は出来ない。まずは服を貰おうか。
君のその服でもいい。後ろの子供は・・・適合外だ。
そこのアフロヘアーと呼ばれる髪型の君でもいい。」

【待たんかいコラァ!!ただじゃすまさへんぞ!!】

邪魔者が来たようだ。101型は音も立てずに振り向くと
5人組のヤクザへ向け拳銃を発砲した。
腕、足へ数発。恐ろしい程の精度で相手の戦闘力を無力化した。
そして、1人の皮のジャンパーを着た男の服を一瞥するなり
それを剥ぎ始めた。

≪サイズやや適合≫

「上着だけ貰おうか。後は下だ。
完全なカムフラージュが必要だ・・・」


【服を要求。介入してきたヤクザ達に向け拳銃を発砲。
とりあえず、上着だけGET。】

279 名前:前園 久和 ◇KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/05/02(日) 23:21:06 0
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ…。
意識が遠のいてビンタされて起こされたと思ったらどこかの建物の中に居た。
な、なにを言ってるのかわからねーと思うが俺も何をされたか分からなかった…。
文明とか異世界とかいうチャチなもんなんたらかんたら。

>「こんにちは、昨日ぶりですね……クワくんでいいんでしょうか?」

…昨日? こんな目の前でくすくす笑う男には見覚えは無い。
声に聞き覚えはあると言えば、ある。 萌芽だかなんだか言ったような気がするが。
…というかこいつがここに呼んだのか?
個人の意思を無視するとはなんというクソヤロウだ、殺してやろうか。

>「そんな顔しないでくださいよ……大丈夫、痛みは一瞬です」
>「ばん」

…あ?

「あ゙あああああ!」

>「そうそう、あなたはその怒りに満ちた”赤”が一番綺麗です」
>「とは言え……そこの彼はどうした物かな。見た所話が通じる風でもなし……まあ、落ち着くのを待つ他ないかな。
> そう言えば、昔のゲームに彼みたいなモンスターがいたね。ガイコツだった上に、剣は五本持ってたけど」

聞こえてくる言葉、足を掴む肉、もう何でもいい。
あの男を殺す。
それだけを考えろ。

「殺す」

足が動かないならどうする。
足がどうなろうと無理やり動かせ。

ぎしりぎしり ぶちりぶちり

そして、殴る、右手二本で殴ってやった。
ああ、足の壊れる音と無理やり肉を引き千切る音が酷く耳障りだ。




280 名前:前園 久和 ◇KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/05/02(日) 23:21:56 0
>「そこの男、なぜに全裸になっているかはしらんが
> 何が目的だ?答えによっては射殺する!」

銃を持った男が二人。
その状況を陰から見ている男も二人。

「どうしようこの状況」

「知らん、が、撃たれてこい」

「何で!?」

一人は青髪、もう一人は緑髪であり、服装から察するにこのビルの警備員であった。
恐らくビル内が騒がしく見に来たのだろうが、銃を持った二人にどうするか悩んでいるらしい。

>【待たんかいコラァ!!ただじゃすまさへんぞ!!】
>「上着だけ貰おうか。後は下だ。
>完全なカムフラージュが必要だ・・・」

二人がそうこう話している内にヤクザと思わしき男達が全裸の男になす術も無く無力化されていた。
全裸の男がヤクザの一人の上着を剥ぎ取っていく。

「どうする?」

「どうするって…行くしかねーだろ」

その様子を見ていた二人は決心を決め、男達の元へ飛び出し。
と、そこでふと気付く。

「あ、やべ、俺ら戦いとかしたことない」

「…ここの警備バイトの時給の高さが分かった気がする」

【不非兄弟:考え無しに葉隠さん達に接触】





281 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/05/03(月) 02:40:48 0
>「私は、ある目的でここに来た。彼女からは無駄な殺戮をしないように
命令されている。無意味な戦闘を避けるのが1つ。
君達にも危害を加えるつもりはない。だが、君達が私の邪魔をするのならば
別だ。それにもう1つ。」

淡々とその目的を警戒しなが聞いていたが…

>「その武器では私を倒す事は出来ない。まずは服を貰おうか。
君のその服でもいい。後ろの子供は・・・適合外だ。
そこのアフロヘアーと呼ばれる髪型の君でもいい。」

「銃では倒せないか…面白いことを言うではないか
だが断る、というよりはいそうですかと寄越す者は…」

その時男の背後から5人組のヤクザが現れ音も立てず
あっという間に手足を撃ち抜き行動不能にしてしまう
その動作はまさに正確と言ってもいい

>「上着だけ貰おうか。後は下だ。
完全なカムフラージュが必要だ・・・」

ヤクザの一人の上着を剥ぎ取り、羽織るが
そこは問題じゃない
問題なのは…

「ちょっと待て…普通は下半身を隠す物だろう?上着なんて物は後で構わん
まずは下を隠せ!馬鹿者が!!」

男に向かって一喝するが視線を感じる。

MG42機関銃をそちらの方向に向け、即座に構える

「10秒以内に出て来い!さもなければ敵と判断し、攻撃に移る!」

反応を伺いつつ、片方にはスティンガーを構えいざとなったら壁ごと吹き飛ばす
つもりで向けるもう片方は警戒を緩めるつもりは無く
機関銃をそのまま継続して構えを維持する。

282 名前:訛祢琳樹 ◇cirno..4vY[sage] 投稿日:2010/05/03(月) 07:06:46 0


>「こーんなモノまで、呼び出せちゃうんだよねえ」
>「これに乗れば、目的地まで一直線だ。……ま、嫌なら乗らないで地道に探すっていうなら話は別だけどね。
> ああ、心配しなくても、運転は自動操縦だから任せといてよ」

黒塗りの無人タクシーがいきなり飛んできた。
なにかなこれ、ホラー映画並の迫力だよね。

「…あれ?」

え?何で皆つっこまないの?何でもう乗ってるの?
おっちゃんもうついていけないよ。
…とりあえず残った運転席に乗り込む。

「自動操縦だし、ま、大丈夫だろう」

私が扉を閉めた途端に車が動き出す。
ハイテクだね、自動操縦は見た事あるけどこんなスムーズにはいかなかったよ。

って、あれ。

「…ねえ、カズミだっけ?」

「これ150ってなってるけどいいの?大丈夫?」

何かスピード早くない?
というか…。

「何かどんどんスピード上がってるけど?あれ?…え?」

あれ、ビルにぶつかr…

【訛祢琳樹:車ごとビルに凸】




283 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/05/03(月) 19:18:02 0


現在の状況。
俺達は今、『タクシー』とかいう車に乗車し、目的地へと向かっている。
黒塗りのこの小型自動車は、どうやらこの車は四人が限界らしい。

因みに座席順は、
運転席にリンキとかいう男、助手席にカズミ、そして後部座席に毒舌少女と俺。

俺は、コートに忍ばせていた予備のマスクを付け、フードを被っている事で姿を誤魔化しておいた。
これで、パッと見で猫だとは分からない……筈。
こうでもしなければ、一般人の目に入った瞬間に通報される。
何が嫌いって、普通の人間の目に俺の姿が入るのが一番嫌なんだ。

「それにしても、この体勢が辛いんだが……」

「文句言わないでよ。恨むなら自分の身長を恨むんだね」

キッ、と睨みつけられ、俺はチェッと舌打ちする。
何分、この車体は、俺の図体のデカイ体を収めるには少々キツイのだ。

猛スピードで走り続ける車。
シンと静まる空気は、緊張で張りつめている。

斜め前に座るカズミに、何気なく視線を向ける。
先程のニヤニヤとした笑顔は相変わらずだが、額に、僅かに汗が滲んでいた。
どうやら、さしもの彼も緊張しているらしい。

俺は、足元に置いてある色白男の剣……もとい「カタナ」に目をやる。
車の動きに合わせてカタカタと揺れるそれは、まるで主人を求めているかのようだ。

先程の戦闘を思い出して身震いし、俺は目を背けた。



284 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/05/03(月) 19:18:54 0

「…ねえ、カズミだっけ?」

突然、リンキが声を上げる。

「何?」

「これ150ってなってるけどいいの?大丈夫?」

その言葉に思わず身を乗りだし、メーターを確認する。
確かに150kmは出ている。それどころか、徐々にメーターは上がりつつある。

……………嫌な予感がする。

「何かどんどんスピード上がってるけど?あれ?…え?」

リンキは焦ったような声を出し、狼狽えている。
俺は咄嗟に、カズミの方を振り向く。

振り向いた先の笑顔は、悪戯を言い訳するような子供のように、引き攣っていた。

「…………ゴメン、電波に耐えられなかったみたい」

グングンとメーターが限界速度へと到達し、そして。

振り切った。


「全員、何かに掴まれぇぇえええ!!」


叫んで咄嗟に隣の少女を庇うと同時に。

タクシーは、ビルの正面玄関から突入した。




285 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/05/03(月) 19:20:44 0
「…………痛つつ……」

何やら外が騒がしい。
当然か。何しろ、真正面から車で突っ込んだのだから。

「……ッあっははははははははははははははは!!」

けたたましい笑い声が前方から聞こえた。
カズミはケタケタと笑いながら、助手席から生えたオレンジ色のクッションを殴りつけている。

「あー……面白かった!まさかメーター振り切って突っ込むとは思わなかったよ!」

笑いのあまり出てきた涙を指で拭きとり、屈託のない笑顔で笑う。
冗談じゃない。こっちはお前のせいで、ヘタしたら死ぬところだったというのに。

「……どうやら、全員無事みたいだな」

糸が切れたように笑い続けるカズミを放置し、全員の無事を確認する。
良かった、そう思い溜息をついた瞬間だった。

ガクン。

「え」

ガタガタと振動する車体。
床から、タイヤが高速回転するのが分かる。
そして、また大きく振動。

「ど、どうなってるんだ!」

運転席のシートにしがみ付き、俺は半ば叫ぶようにカズミに問う。
当の本人は、この揺れの中で呑気に「あー……」と呟き、笑顔で俺にウインクした。

「どうやら、まだ『走る気マンマン』みたいだねッ☆」

「今すぐ止めろおおおおおおおお!!」

ギャリギャリギャリッ!!とアクセル音。
俺の願いも虚しく、暴走車はまた走り出す。

「うわあああああああああ!!」

「キャッホ――――――――イ!!」

パニックに陥る俺と相反し、カズミはテンション高く黄色い叫びを上げ続ける。
クソ、お前後で覚えてろよ…………って。

「前、前ーーーーーーーーー!!」

俺の指差すその先、そこには。

銃器を持った、男たちが待ち受けていた。

「ぶつかるうううううううううううううううう!!」

OH,ジーザス。
俺、そろそろ死ぬかもしれない。

【▼あ! やせい の タクシー が とびだしてきた!】
【▼このまま だと ぶつかる ぞ ! どうなる !?】

286 名前:101型 ◆jHyqRBvPAAuG [sage] 投稿日:2010/05/03(月) 21:04:29 0
>>281
軍人風の男の姿を確認し、スキャンを開始する。
≪服サイズ、適合出来ず アフロヘアーの人間も同様≫

「了解した。服のサイズが適合出来なかったようだ。」

>「ちょっと待て…普通は下半身を隠す物だろう?上着なんて物は後で構わん
>まずは下を隠せ!馬鹿者が!!」

男の言葉の真の意味を101型が理解できるハズがない。
101型は冷静に言葉を返す。
「私の下半身に異常はない。このままミッションを実行する上で
何ら問題は存在しない。」

そのまま下半身を露出したまま皮ジャンパーの男、101型は歩き出そうとするが。

>その様子を見ていた二人は決心を決め、男達の元へ飛び出し。
>と、そこでふと気付く。

「サイズ、172・・・やはり適合しないか。」

冷静に2人の男の戦力を計算する。
現状での脅威には成り得ないと判断するが、そのまま銃を構え睨み付ける。
「出来るだけ戦闘は避けるべきだろう。だが、お前達にその用意があるのならば
すぐにでも戦闘へ移行する。」

睨み合う中、急に爆発のようなけたたましいエンジン音と共に1台の車が
101型、葉隠達へ向け突進してくる。

「下がっていろ。」

無表情のまま突進してくる車の前へ出る。
そのまま凄まじいパワーで前進する車を受け止めると、タイヤから火花を放ちながらも
2メートル程度で停止してみせた。

「車内の生命反応に問題はない。」

【・服のサイズ適合出来ず。未だ半裸
・警備員2人組に対し警戒を解かず
・突然進入してきた暴走車を力ずくで停止させる】


287 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/05/04(火) 02:48:25 0
>「私の下半身に異常はない。このままミッションを実行する上で
何ら問題は存在しない。」

「そういう意味ではない!子供の教育上悪いと…」

言ってる最中なのだがまるで聞いていない
相手は他の方向を向いて物々と呟く

>「出来るだけ戦闘は避けるべきだろう。だが、お前達にその用意があるのならば
すぐにでも戦闘へ移行する。」

「まったくその通りだな。だがそう思うならば貴様は銃を降ろせ
全裸で現れた何を考えているか分からん奴に簡単に銃は降ろせん」

そのまま構えたままで、膠着状態が続くがそれも突然の乱入により終わる。
騒々しいエンジン音を立てた車が
こちらにやってくるではないか
武装を投げ捨てたとしても子供達を突き飛ばす時間がない

「ちっ間に合わん!」

男はこちらに向かい突進してくる
対応が出来ない、拙いと思った瞬間

>「下がっていろ。」

この言葉と共に車の前に出て、突っ込んでくる車を受け止めるではないか
そして人間離れした力を見せ付けられ、車を強制的に止める事に成功する

>「車内の生命反応に問題はない。」

車の中の人間の安全を口に出して確認していた
この状態でも銃器を使わずに止めたと言う事は本当に人を襲う気はないらしい
信じても良いと判断し、機関銃を降ろす

「どうやら本当に人は傷付けるつもりはないようだなその事は信じよう
そして礼を述べるお前に止めてもらわなければ危なかった感謝する」

悪い奴ではないということはわかったが、やはり格好がそれを感じさせないのは
致し方ないことだろう

288 名前:不非兄弟 ◇CqyD3bIn5I [sage] 投稿日:2010/05/04(火) 05:30:30 0
>「10秒以内に出て来い!さもなければ敵と判断し、攻撃に移る!」
>「出来るだけ戦闘は避けるべきだろう。だが、お前達にその用意があるのならば
>すぐにでも戦闘へ移行する。」

二人の男に銃を向けられ、警備員である男達は顔を見合せ。

「せ、戦闘する気は無いよ、うん」

「な、俺らただの民間人だs」

そこまで言った所で、けたたましいエンジン音が男達の耳に聞こえてくる。
そして突っ込んで来た車にただの警備バイトである彼らは死を覚悟し…。

>凄まじいパワーで前進する車を受け止めると、タイヤから火花を放ちながらも
>2メートル程度で停止してみせた。
>「車内の生命反応に問題はない。」

「す、すげぇ…」

半裸の男の力に緑髪の男が感嘆の声を漏らし青髪の男が車内の人間を確認する。

「えーと…」

前の二人の安全を確認し、後ろの人間の姿を見る。

「う、ん?いや、気のせいだ、うん」

後ろの男が少し変だった気がしたらしいがフードを被っているせいだろうと納得したようだ。
青髪は緑髪と二人で車内の人間に声を掛け始めた。

【不非兄弟:戦闘意思無し
タクシー内の人間の意識等確認中】

289 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/05/05(水) 20:23:36 0
(どういう状況だ……今は)

兎と三浦。次第に熱を帯びていく二人の舌戦。
有識者同士のディベートに割り込める程弁が立つわけでも無い飛峻は有益な情報でも漏らさないものかと静観を決め込んでいたのだが
その目論見は予想の外を行く状況の変化によって脆くも崩れ去っていた。

竹内萌芽の登場に始まり、五本腕の異世界人の召喚、萌芽と三浦の戦闘。
そして極めつけは虚空から現れた少女が、萌芽の頭を蹴り砕くという余りにもショッキングな光景。
もっとも、事前に萌芽が展開していた二体の分身がカチ割られただけだが。

状況の把握を済ませ、改めて三浦とその傍らに付き従うように佇む少女に視線を向ける。

(ただの貧弱モヤシというわけでは無いってことか)

飛峻は背筋が冷たくなるのを感じていた。
懐に入れば如何様にも打倒し得ると考えていたが、先ほど三浦が萌芽相手に披露した体捌きは素人のそれでは無い。
加えて、萌芽の両腕を瞬時に崩壊せしめた技。

(いや、技じゃない)

脳裏に浮かぶのは経堂柚子。そして彼女がヤクザ退治に用いた超常の力。
三浦が揮った力もその類のモノと考えたほうが良さそうだ。
飛峻の居た世界には無かった、この世界特有の切り札。

「……うン?」

そこまで考えたところで三浦と目が合った。
こちらを見据えながら隣の少女に何事か囁いている。

(厄介だな……)

この状況下で指示することといえばこちらの拘束、もしくは足止めだろう。
登場から行動まで、少女がこの場に居合わせるのに足る戦力を所持していることは間違いない。
しかしそれでも飛峻は女子供に揮う拳を持ち合わせてはいなかった。

「厄介だナ」

安い矜持と言われればその通りだが、それを捨てては立ち行かないのだ。

「あぁ後、萌芽君。君はお友達に何の断りもなく鬼ごっこを始めたりするのかい?
 しないだろう? それとも君には遊び相手になるお友達がいなかったのかな? ……ともかく、一つ言う事があるだろう?
 『あーそーぼ』ってさ。今回は言った事にしといてあげるから、次から気をつけるんだね。……そして、僕は今から答えを返すよ」

萌芽と五本腕、二人を相手取りながら笑い声さえ含ませて三浦が高らかに宣言する。

「『いーいーよ』ってね」

その奥に微かな愉悦の響きを含ませて。
己の力を見せ付けることに悦楽を見出す者達、そんな連中は何度か見てきた。
そして今、目の前にも。

「ソレがお前の本性というわけカ」

「なに、さっきも言った通り、これはあくまで余興さ。これから貸す力を、先行公開するのも悪くない」

飛峻の呟きは、より響きを色濃くさせた三浦の声にかき消された。

290 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/05/05(水) 20:24:53 0
事ここに至る経緯が唐突ならば、それはゆっくりと周囲を侵食していた。
そして気づいたときには既に手遅れだった。
いつの間にか靴の裏まで浸るほど床一面に血が撒かれている。
予期していなかった泥濘に足をとられ、転びそうになったが間一髪堪えることが出来た。

「何ダ……コレハ」

辺りを見回す。
致死量を優に超える大量の血液。
飛峻の見ている前で隆起し、蠢き、徐々に肉の塊を造り上げていく。

一面を覆い尽くす肉塊だが、確かに流れが存在する。
辿っていくとそれは飛峻の後ろで横たわっている真雪が発生源だった。

「マユキ!おイ、大丈夫カ!!」

意識は無い。
抱き起こすと胸元からおびただしい量の血液が噴き出していた。
だがこれ程の量が流れ出たらとっくに死亡しているのだ。なにより明らかに人体が有する血液量を超えている。

飛峻の頭の中を疑問符が駆け回る。
BKビルに来てからというもの、理解の範疇を超えることが大量に起き過ぎている。

唐突に足を襲った激痛にそちらを見てみると、肉塊の表面に浮き出た唇が飛峻の足に齧りついていた。
他の者も同様に無数の口に拘束され、動きを止めていた。
そして痛みに気を取られている内に腕の中の重みが消失していることに気づく。
視線を戻すと腹部を触手に貫かれた真雪が、頭上へ持ち上げられていた。

「李さん!!」

異変を冷静に分析していた兎が声を放つ。

「起こせば元に戻ります!!」

しかし足は肉塊に縫い止められ動くことすらままならない。

ぎしり――ぶちり――

音の方を見ると肉塊と血流を張り付かせながら五本腕が無理やり足を引き抜いている。

「そうか……ウサギ!借り"一つ"ダ!!」

どのような力が働いているかはわからないが元は液体。
飛峻は足元の肉塊表面に手を添えると全身を捻り、渾身の掌打を叩きつける。
破裂音とともに足元の血塊が円を描いて飛び散った。
そのまま自由になった脚を存分に駆動させ、触手を足場に駆け上がる。

「マユキ!目を――」

狙いは一点。どれだけ声をかけても起きないのならやることは一つだ。

「覚まセ!!」

真雪の額に本日二度目のデコピンが炸裂した。

291 名前:竹内 萌芽(1/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:09:24 0

萌芽は、目を輝かせていた。

自分と”あやふや”にした空間―――面倒くさいので”分身”と呼ぶことにする―――
目の前の名も知らぬ考古学者は、本来物質として存在しないはずのそれの手をいとも簡単に破壊して見せたのだ。

「すごい……やっぱり”あなた”は最高ですね」

この人なら、あるいは自分を殺すことすら可能かもしれない。
そして、自分を殺すその寸前に、自分の中にあるこの『退屈』はあとかたもなく消し去られるに違いない。
考えただけで、胸の中にぞくりとした感覚が走った。

白い手袋をはめた手で、自分の分身の頭部を破壊する”その人”の後ろから、萌芽は別の分身の拳を放つ。
それに対して彼の反応はない、これはかわせまい。
しかし、”この人”ならきっと自分の攻撃をかわしてくれる。
そんな萌芽の矛盾した期待に、彼は見事に応えてくれた。

「……こらー! 君また変な事したでしょ! もういい加減にしてよね!」

空中から、突然に現れた彼の娘が、後ろからまさに拳を放とうとしていた萌芽の頭部を見事に破壊したのだ。


292 名前:竹内 萌芽(2/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:10:24 0

おかしい、と萌芽は思った。
先程自分の分身を破壊したのは、自分をこの世界に呼んだ彼で、さらにはおそらく『文明』の類であろう白い手袋をつけていた。
だから、実体のない分身を破壊したことにもまあ納得がいくのだが、しかし今自分の分身を破壊したのは、その娘の包帯少女である。
見たところ、身に着けているものに文明らしい文明というのは見当たらない。
なら、なぜ自分の分身が破壊されてしまったのか?

(もしかして、「”あの人”だから分身にさわれた」訳じゃなくて「分身そのものがさわれる状況にあった」んでしょうか?)

”なんだよ、わざとやってたんじゃなかったのか?”

ふと頭に響くストレンジベントの声。
そういえば、行動の速度や体の動きなどを自由に変更できるはずの分身の動きが、今日はいやに鈍かったような……
それに先程の佐伯との接触、たしかにあのとき、自分は彼女の携帯電話にさわれていた。
―――そう、まるで”本物の自分”のように

(”実体を持っている”……? そんな、僕の才能の範疇を超えてませんか、それ)

竹内萌芽の才能は、ストレンジベントとの出会いで更なる進化をとげていた。
彼の存在そのものを”拡大”するというその能力の領域は、『認識』という小さなものからより『物理的な』何かへと変貌をとげつつあったのだ。

もっとも、いまの彼にはまだそれを制御するだけのキャパシティは存在しないが


293 名前:竹内 萌芽(3/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:11:22 0

呆然とする萌芽の視界が、目の前の親子をとらえる。
父親はどこか厳しそうな顔で、娘のほうは少ししょげた顔をしている。
しかし、萌芽はそこにたしかな親子の『温かさ』を感じた。

萌芽の胸に、なんとも言いようのない違和感が湧き出す。

そうだ、面倒くさいことはどうでもいい。
今は、自分の心を惑わせるこの妙な『温かさ』を破壊できればそれでいい。

何かを考えるのが嫌いな萌芽は、目の前のそれに攻撃することで自分の中の不安や焦燥というものをたたき潰そうとした。

目の前の空間と自分のイメージをあやふやにし、それをさらに自分の脳内の情報や、周囲の空間そのものと”あやふや”にする。
それは触れたものを萌芽の脳内や、その空間の中にある様々なものと認識的に”あやふや”にし、自分がなんであったのかすらわからなくなるほどの混乱に陥れる。

簡単に言えば、それは竹内萌芽の姿をした精神破壊砲弾だった。

それを避けようのない超高速で彼らの元に放とうとする萌芽。

「あぁ後、萌芽君。君はお友達に何の断りもなく鬼ごっこを始めたりするのかい?
 しないだろう? それとも君には遊び相手になるお友達がいなかったのかな? ……ともかく、一つ言う事があるだろう?
 『あーそーぼ』ってさ。今回は言った事にしといてあげるから、次から気をつけるんだね。」

しかし、その言葉を聞いて萌芽は攻撃を中止する。


294 名前:竹内 萌芽(4/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:12:31 0

はて、これは一体なんについてしかられているのだろう?
どうやら自分と遊んでいる人に、ちゃんと遊ぼうと言ってから遊びなさいと言われているようなのだが、
自分と遊んでいる人と言えば、目の前の彼と真雪くらいしかいないはずだし……

(たしかこの人には、さっき遊びましょうっていいましたよね)

唇に人差し指をあてて萌芽は考える。と、すれば答えは後者か
そういえば、真雪には未だにちゃんと「遊ぼう」と言ってなかった気がする。

(真雪さん「で」遊ぶんじゃなくて、真雪さん「と」遊べってことですね)

そんな風に解釈した彼は、にこりと笑って

「わかりました、じゃあ真雪さんが起きたらちゃんと『遊びましょう』って言っておきますね」

なんかいいかげんこいつと話すの疲れたな、という風にため息を吐く彼に萌芽は、よく分からないと首を傾げた。

「……そして、僕は今から答えを返すよ」

その言葉に、萌芽がぴくりと反応する。

「『いーいーよ』ってね」

なんだか楽しそうに言う彼に、萌芽はやはり自分の『退屈』を消してくれるのはこの人に違いないと確信しながら、新たな分身を出現させようとした。


295 名前:竹内 萌芽(5/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:14:19 0

―――そのときだった。

「なんです……この赤いの……それにうわッなんですかこの匂い!!」

むせ返るような異臭にたまらず萌芽が後ろを振り向こうとするが、足が何かに固定されてしまって動くことができない。
しかたなく、首だけを後ろに向けると、そこには想像を絶する光景が待っていた。

「なん……ですか、これ……」

そこにあったのは、地獄のような、いや、それよりもっと酷い光景だった。

床を埋め尽くす、赤黒い肉塊。
その上に無数に蠢く口からは、まるで膿のような、体液のような腐臭のただよう粘液が止め処なく溢れ出ている。

思わず今朝食べたフレンチトーストを吐き出しそうになって、寸前のところで、それを胃に戻す。

いけない、竹内萌芽はこの程度のことで吐き気を催すような弱い人間であってはならない。
それはいじっぱりな彼の、現実に対するささやかな抵抗だった。

湧き上がる吐き気を抑えながら、萌芽が目線を上げると、そこにはさらに信じられない光景が待っていた。

「真雪さん!!?」


296 名前:竹内 萌芽(6/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:15:08 0

肉塊から、まるで木のように伸びる触手。
そこにあろうことか彼の敵である彼女が”刺さって”いたのだ。

”アッヒャー……もる、あれまずいぞ”

「ストレンジベント!? なにを呑気なことを言っているんです!!」

そんなこと言われなくてもわかる。早く助けないと……

”ちがうよ、視覚的には刺さってるように見えるけど、あれはそうじゃない”

焦る萌芽とは正反対に、冷静な彼女の声。

”あれ、『文明』だよ。適合者はあの女の子”

「『文明』!? あれがきみと同類だっていうんですか!?」

驚いた萌芽は、自分の脳内にあるストレンジベントのイメージと、今目に映っているこのおぞましい地獄絵図を見比べてみる。

「……ストレンジベント」

”アヒャ?”

「僕、適合したのがきみで、本当によかったです」

―――彼も十分に呑気だった。


297 名前:竹内 萌芽(7/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:16:00 0

「で、『文明』ってことはあれはほっといても大丈夫ってことですか?」

訊ねる萌芽に、ストレンジベントはいつになく真剣な口調でいう

”いや、危ないね今すぐ叩き起こさないと、最悪あのこは永遠にあのまんまだよ”

「なんですって!!?」

再び焦る萌芽。後ろのほうで誰かが何かを殴る音が聞こえたが、そんなことも気にならないほど萌芽の脳内は混乱していた。

”『文明』ってのも色々だからねー、手遅れにならないうちに早くあのこ起こしたほうがいいんじゃない?”

いわれなくても、と萌芽は走り出そうとするが、何分足が固定されているため動くことができない。
どうしたものかと考えた末、萌芽は空を飛べる自分の分身を使って彼女を起こすことにした。

目を閉じる萌芽。
現れた分身を彼女の元に向かわせようとして、そして、失敗した。

「……こんなときにッ!!」

その場に具現化させた分身は、歯がゆくも実体を持っていた。
当然それは、床に敷き詰められた赤く、おぞましい肉塊に絡め取られ、一瞬にして姿を消す。

いざというときに役に立たない自分の才能。
萌芽は自分で自分を殴りたい衝動に駆られながらも、何もできないという事実にただうなだれるしかなかった。


298 名前:竹内 萌芽(8/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:16:53 0

肉塊が、自分を取り込んでいく。
視界の隅で、飛峻が足元の赤を破壊し、触手を駆け上がって行くのが見えた。

自分にも、あんな強さがあったなら……

”ところでもる”

悲観している萌芽の脳内に、なんだか呑気な彼女の声が響く。

「なんです、ストレンジベント。僕いまひどくアンニュイな気分なんですが」

不機嫌な声で答える彼に、ストレンジベントが質問する。

”アタシがいま、なんで会話できてると思う?”

一瞬言われたことが理解できなかった萌芽だか、すぐにその質問の意味を理解した。

「そういえば言ってましたね、ADVENTで他の人を呼んでるときは会話できないって」

”うん、それなんだけどな”

言いにくそうにしているストレンジベント、彼女にしてはめずらしく、なんだかもじもじしている。


299 名前:竹内 萌芽(9/9) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 00:18:05 0

”ADVENTってのはさ『友人誘致』と『要人用心』の性質を併せ持つ状態だってのは前に説明したよな?”

そういえばそんなことを言っていたような気がする。
もっとも難しいことを理解する気のまったくない彼の記憶には殆んど残っていなかったが。

”で、な。『要人用心』≪ストーキングストック≫の『捕捉』≪ストック≫破壊されちった”

アヒャヒャ〜と「まいった」という風に笑う彼女。
萌芽は未だに彼女の言わんとすることがよく分かっていない。

”あいつの、なんつーか意志の力? 意外と強くてさ、おまけにもるが暴走なんかさせるもんだからついに今のあたしじゃ手におえなくなって……”

言い訳をする彼女に、顔意外殆んど肉塊に埋もれた萌芽は訊ねる。

”ようするにね、あいつの洗脳? が解けて、あいつが萌芽殺す!! ってなっても、「じゃあもう用なしね、ばいばい」ってのはできないってこと”

ああそういうことか、と萌芽は納得する。
視界が殆んど肉塊に埋もれる中で、彼は笑って見せた。

「それはそれで、面白そうです」

ターン終了:
【モノ男くんに対するADVENTを解除:少なくともこれで公園に戻されることはありません】


300 名前:宗方丈乃助 ◆d2gmSQdEY6 [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 13:52:37 0
「ちょ、なんなんスか!あんた!」

俺の名前は宗方丈乃助。
今、全裸の男に驚愕している俺は
高校に通うごく一般的な男の子。
強いて違うところをあげるとすれば
髪型にこだわりがあるってとこッスかねー。

「お、俺の服はダメっすよ!サイズあわねーから!」

何を言えばいいか分からないなりに、必死で男の視線から逃げようとする俺。
どう考えても、薬かなんかやってるって感じだぜ。
ここは眼を逸らそう。あぶねーぞ、マジで!!
そうこうしてる内に、警備員らしき2人組がやって来た。
見るからにそっくりで双子か?って思うほどだ。

「あーすんません!警備員さんすか?ここの人、何とかしてくださいッス……っておい!!」

今度は何がなんだかわかんねー。いきなり車が飛び込んできてアクセル全開で
こっちに突っ込んで来る。

「ちょ、ちょ!!なんでこんなとこに車が!?え!?えぇー!!」

もっと驚いたのはそれを当たり前にように止めてみせたフル○ンのおっさんだ。
つーか人間じゃねぇーだろ!あんた!!たまげたなぁ・・・

「マジ半端ねぇ……」


(状態:状況に大混乱中)


301 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 21:00:59 0
BKビルに突っ込んだタクシーの後部座席に揺られながら、六花は不機嫌の表情を隠さない。
それどころか更に眉を顰めて、カズミへと視線を向ける。

「勢いよく突っ込んだのは良いけど……お父さんがいるのはずっと上の階よ?
 そこまで行けるだけの手段とか、ちゃんと考えてるんでしょうね。あぁホラ、早速ヤバげなお兄さん方のお出ましだけど」

服装こそ全員異なれど『脇に膨らみのある』連中が、何処からどもなく湧いて出る。
けれどもカズミからの返答は、得られなかった。その隣の、リンキと言う男からも。
それどころか、二人の表情は汗と焦燥に塗れている。

「……あぁもう! アレだけ調子に乗っといて考えなしなの!? ド生意気な態度見せるなら相応に仕事しなさいよ!」

慌ただしくバッグを漁り、六花は新たな指輪を取り出した。
宿る文明は『上位互換』≪レベルアッパー≫――対象の物質を、その物質が持つ用途に対して強化する効果を持つ。
つまり対象が包丁ならば食材に対してのみ鋭い切れ味を誇り、ライターならば単純に火勢の強化。
そして対象がタクシーならば、

「これで、私達は『目的地まで安全に運んでもらえる』わ。少なくともヤクザ連中の銃弾や障害物くらいには、阻まれない程度にね」

六花の言葉通り、タクシーは銃撃を受けガラスに蜘蛛の巣のような亀裂を走らせながらも、内部へは弾丸を決して通さない。
障害物もある程度は避け、避け切れない際も階段も何のそのと、疾走する。
サイドガラスの外を流れていく景観に視線を逃がしながら、げんなりとした表情を六花は浮かべていた。
しかしこの分だと、迷宮を走破する走破する手段も用意されていないのではないか。
ふと彼女の意識がそのような疑問に至ったが――その件に関しては、特に心配する必要も無かった。

> 無表情のまま突進してくる車の前へ出る。
> そのまま凄まじいパワーで前進する車を受け止めると、タイヤから火花を放ちながらも
> 2メートル程度で停止してみせた。
>
> 「車内の生命反応に問題はない。」

見事なドリフト走行で角を曲がった先に人がいた事には、さしもの六花も驚愕を覚えた。
が、その内の一人が車の前へと踊り出て、更に力尽くで進行を阻んだ途端、彼女の表情はすぐさま平時の冷冽な仮面へと戻る。
ヤクザ連中の文明使いか、或いは新たな『異世界人』か。
上半身裸に革ジャンと奇抜極まる風体をしている辺り、後者の公算もあり得るか。
などと、彼女は思考の枝を徐々に伸ばしていた。
だが、ふと車の前に依然立ち聳える男の格好を改めて注視して――忽ち、表情を酷く引き攣らせた。

「……この状況で中の私達の心配までしてくれて、嬉しい限りだわ。
 だけど問題があるのは残念だけど、貴方の格好よ。主に下の方にね……!」

何とか平静を取り戻そうと、いち早く車を降りた六花は無理矢理喉の奥から諧謔を搾り出す。
ドアを開く際に何か――不非兄弟の顔面を強かに強打したが、まだ動転を胸中に残していたのか、彼女は気が付かなかった。
しかして不意に、未だ停車の衝撃に項垂れるテナードと下半身暴露男を見比べ始める。
無論、なるべく下には視線を向けないよう心掛けて。

「……アンタ、猫だし服の内側もどうせ毛とかあるんでしょ? 見た所背格好同じみたいだし、譲ってあげなさいよ。主に下の方を」

真顔の提案を済ませると、次に六花は下半身暴露男の背後に位置する男二人と、恐らくは母子二人を。
とは言え後者の二人は、見た所『巻き込まれた一般人』の域を出ないだろう。
肝心なのは前者の――やはりおかしな風貌や髪型をした男二人だ。
もしも彼らが異世界人であるならば、ここで押さえておきたい。

「……貴方達、見た所何だか大変そうね。だけど、こっちもそれなりに立て込んでいるの。
 よく分からない縁でこうして向き合っているけど、このまますれ違う事になりそうね」

けれども、ここで喰らい付くような真似は控えるべきかと、六花は自制した。
彼らが異世界人であるならば、この後も接触する機会はある筈だ。
今、変に協力を申し出た所で、それは不自然でしかない。

302 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/05/06(木) 21:02:33 0
仮に向こうから同行を提案してくれればそれが最上ではあるが、あまり期待出来る事ではないだろう。
先程六花はテナードを猫と呼んだが、彼らがそれを聞留めていて、同じ境遇の者であると気づいたなら或いは、と言った所か。

そうして再び、六花はカズミ達を振り返る。

「ところで、この車はもう駄目みたいよ。タイヤは破れて、ホイールもひしゃげちゃってるもの。
 ここからは歩くしかないけど……そこのクソガキ二人、疲れたとか言い出したら置いてくからそのつもりでいなさいよ」

自分も存外に『クソガキ』の素養を持っている事は度外視し棚に上げて、
六花は話しかけるのも不愉快だと言わんばかりの口調と面持ちで断言した。

「あぁ後、アンタ……テナードだっけ? その格好ならコンパスの一つくらい持ってるでしょ。
 あるなら貸しなさい。迷路遊びがうんと楽になるわよ」

【テナードさんと剥き出し男のドキッ☆追いかけっこinラビリンス〜罰ゲームはズボン没収!〜 始まるよー
 不非兄弟はとりあえず殴っちゃいました。誰か慰めてやって下さい
 車はホイール大破。歩きだぞド生意気なモヤシ小僧
 すれ違いを提案。一応絡みを継続する案もチラつかせてみたり】

303 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/05/07(金) 01:59:11 0



「作戦に参加していた者には指示を出しました。どうやら全員無事のようですよ」

 その全員の中には主人や葉隠なども含まれているのだろう。
 喜ぶべきことだ、とku-01は頷く。

「しかし……自律意思を持った文明、ですか……。不確かな噂と取っていましたが、認識を改める必要があるようですね」

 都村は無表情の下にうっすらと苦笑いのようなものを込め、モノアイとヘッドセットから薄く発光するku-01を見た。
 その言葉を聞き流しながら、ku-01は繋がっていた通信を遮断。立ち止まった状態から復帰し、都村へと向き直った。
 暫く様子を探りながら二人で辺りを歩き回ったが、どうやら自分たちはかなり最奥に近い場所へと組み込まれてしまったらしい。

 壁の密度の斑などを狙い都村が破壊して進むことも出来そうだが、其れにも限界があるだろう上、他の場所へどんな影響が出るか定かではないため、闇雲に行動できない状態だった。

「この次元にはオートマトンは存在しないのですか?」

「似たようなものはありますが……、あなたほど精巧なものにはまだ技術が追いつきませんね」

「……そうですか」

 此処にきてようやく、この次元が元の次元よりも少し文明が遅れていることに気づいたku-01は、頷くだけにとどめる。
 
「まぁ、意気込んでいてもしょうがない状況ですし、腰を据えていきましょうか」

「従います」

 初めこそ息巻いていた都村だが、どんなに焦ってもどうしようもないと悟ったらしい。
 少し力を抜いたような態度で、しかして足音を殺し極力隙を無くした様子で歩いていく。ku-01はその三歩後ろを着いて行く形。

 暫く歩くうちに、扉が一つ現れた。
 物々しいセキュリティシステムが設置されているが、迷宮化の弊害かどうやら作動はしていない。
 恐らく自動であろう重厚なその鉄の扉は、ku-01が力を込めれば簡単に開きそうだった。
 目配せをして、都村がその扉へ手をかけ、




304 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/05/07(金) 02:00:27 0

「……っんですか、この臭いは」

 ようとしたが、耐え切れずといった様子で鼻を押さえる。
 ku-01には臭気感知センサーは搭載されていない。苦々しい様子の都村を眺め、首をかしげた。
 都村は眉を寄せ、不快な様子を隠すことなく臭気の元を探し、辺りを見回していた。
 その視線は狭い廊下の先の角で固定される。どうやらその方向に元凶があるらしい。

「少し、見てきます。あなたは此処で待機していてください」

「了承しました」

 ku-01が頷くのを認め、都村は軽やかな足取りでそちらのほうへ向かった。
 その背中が角を曲がるのを確認して、ku-01は、

「……『待機っていうのは要するに自由時間だよ、なにやってもオールオッケーなフリーダムなんだよ!』」

 上司の言葉を舌に載せながら、片手で軽々と鉄扉を開いた。





 其の先に広がっていたのは、質素な造りの部屋。
 扉を開けて直ぐ前の壁一面に巨大な機械が張り付き、一部のライトや画面がちかちかと明滅している。

「制御室の一種と判断します」

 後ろ手で鉄扉を閉め、三つ編みのままの頭髪をぱしりと弾く。
 芯として編みこんでいた白いウィップコードが毛先から露出した。
 様々な端子の並ぶ部位をざっと眺め、適合する端子にウィップコードを差し込む。かちりと小気味のいい音がした。

 この建物内に進入した時から何度も通信を試みたが、全てが全て失敗に終わっていた。
 ku-01のAIは似たような経験を、つい最近に経験している。
 主人がNOVAに所属することとなった際、情報収集をしようとしたときも、同じような形で強制的に通信を遮断された。

「不可解です」

 そんなことがあってはならないのだ。
 ku-01は音声保存と通信に特化したオペレーションオートマトンだ。
 先ほども判明したとおり、ku-01のいた次元よりも文明的に遅れているこの世界で、ku-01の通信が遮断されるということは、恐らく異常事態と言って良い。
 人間で言うならば、意地だとか誇りだとか呼ばれるものにかけて。

「サイバースペースにダイブします」

 ボディの作動へ回していた領域ごと、通信に注ぎ込む。
 結果、ku-01のボディは磨かれた床に倒れこんだ。


305 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/05/07(金) 02:03:22 0







『ひとにあったのなんて初めてだ』

 格子状のグリッドが延々と伸びる世界。
 簡易的な概形を作成し、さてとku-01が一息を吐いたところで、そんな声が背後の座標からかかった。
 ひっくり返ったような、変声前の少年の更に裏声のような、甲高い声に加工された情報。

『おれと同じ『電脳潜水―ダイバーライセンス―』の適合者?』

「否定します」

『へえ? この世界じゃあサイバースペースなんてのに入れるのは、電脳潜水に適合してるひとくらいだと思ったけど』

 浮いているのは、真っ白な球体に簡単な棒と点で顔が書かれただけの酷く質素な概形だった。
 それが声として情報を発し、かんらかんらと笑ってみせる。

「電脳空間に対応したAIはないの……でしたね」

『まだ其処まで技術が届かないよ、なにいってんの』

 球体は、その表面に浮かぶ表情を一切変えることなく、動きで感情を表現しようとでもしているかのようにふらりふらりと揺れた。
 その内にくるくるとku-01の周りを探るように回りだす。
 まるで落ち着きの無い様子に、ku-01は首をかしげながらそれを見守った。



306 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/05/07(金) 02:05:02 0

『へーえ、ああ、そうか、親父が言ってたのはあんたみたいなののことか……ふーん。
おれの作ったプログラムにやたら重たい攻撃をしかけてたのはあんた? 最近、NOVAのデータバンクに入ろうとしてなかった?』

「身に覚えがありません」

 少なくとも、ku-01は通信を試みていただけだ。

『ふうん、そんなら、そう』

 にやにやと笑うような動きで球体は動き、ku-01の周りを回る。

『まぁ、おれはそういうのはどうだっていいんだけどね。セキュリティを任されようが何だろうが、技術屋は技術を貸すだけ。
破られたって責任は負わないし、破られなくたって何を守ってるかなんて関係ないね』

「そうですか」

『しっかしあんたのサーフィスきれいだね。どうやって作成してんの、教えてよ。
おれこういうの得意じゃないから、こんなんしか造れない』

「……このサイバースペースは文明制御に関するものですか?」

『あ、スルーすんの? いいけど、そうだけど? BKビル、なんかなってんの?』

「文明が暴走しています。制御したいのですが」

『別に良いよ、どうだって。俺が依頼されてんのは外部からの進入阻止だけだし。ここもう内部だし
それよりサーフィスの作り方教えてよ。なぁってばー』

「……」

『おいー、このスペース作ったのだっておれなんだからなー? これ無かったらあんたは制御だって出来ないんだぜ?
大体ー……あっそうだあんた名前は? ハンドルでいいから教えてよ、スペース作っても誰も来ないから基本的に暇なんだよ
暇なときとかに通信投げるからさー。おれ小鳥ってんだー。登録しといてよー』


 しつこく付きまとう球体に、ku-01は擬似的な、だからこそここぞとばかりに大きなため息を吐いた。



【文明に関する制御室に到着、が、何か変なのに付きまとわれて作業できない】
【都村とは別行動。どこに行ったのかは……】
【『電脳潜水―ダイバーライセンス―:詳細不明】
【小鳥(NPC):詳細不明。『電脳潜水』の適合者。顔の書かれた白い球体】

307 名前:尾張 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/05/07(金) 10:05:27 O
「ペリカン、操縦を頼む」

そう言って、そのヘリコプターのパイロットは操縦席から離れた。五月の陽気の中ではいささか暑苦しい黒いス
ーツに、考えの読めない無表情。ぎょろりとした目。ヘルメットを外して現れたのはそんな不気味な男だった。

「……代わりました」

酷いローター音の中、どこからともなく声が響く。明らかに合成音声と解るひび割れた声。抑揚の無い、平べっ
たい音。
音の出所は操縦席の横、副操縦席に置かれたノートパソコンからだった。

「どうする?ずいぶん早くついてしまったけど」

「ウサギは四時に降りてこいと言ったな。燃料は?」

「圧縮されてる分を合わせればまだ全然問題ない、と思う」

パソコンは勝手にアプリケーションを走らせ、グラフ化されたデータをスライド式にいくつか表示する。男はふ
うとため息をついた。

「ペリカン、余計なことはしなくていい」

「性分だよ、ニシン」

ニシンと呼ばれた男は表情を変えることなく、そう言うだろうとわかっていたと呟いた。

「取り敢えず、ペリカンは降下までにビル内部のカメラの掌握に当たってくれ」

「無線で?面倒だな」

大して面倒くさくも無さそうにぼやいた。と、不意にパソコンの横の空間に光が走った。目を焼くような強い光。
拳大の光の塊は何かをなぞるように細かく分裂し、伸び、結合し、立体的に歪んだ網のような形状を整える。ワ
イヤーフレームを展開する。
 すべてが終わった後、操縦席と副操縦席の間には一抱えほどもある大きなパラボラアンテナが落ちていた。

「衛星経由で侵入する。ニシンはどうする?」

「「「先行する」」」


308 名前:尾張 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/05/07(金) 10:06:18 O

狭い後部座席には、いつの間にか三人の男が座っていた。正確には、ニシンと呼ばれる男と全く同じ姿形をした
三人が。
男達は互いを見回し、懐に手をやった。ホルスターに銃が納められている。三人共、全く同じ銃だ。
唐突に、躊躇無く三人のニシンの内の一人が扉を開けた。風が機内に入り込み、ヘリコプターのバランスが大き
く損なわれる。眼下のBKビルが揺れる。慌てずに、ニシンはペリカンに言った。

「行ってくる」

そうして、三人のニシンは二十メートルを落ちて、BKビルのヘリポートに墜落した。
ぐしゃり、と嫌な音が響いて、最初に到達したニシンの頭が潰れる。ちょうどその真上に落ちたもう一人も胸部
を強打し、絶命する。最後に落ちてきたニシンは、二人の死体をクッションにして、なんとか生きながらえた。

「さてと」

息も絶え絶えのニシンの目の前に、影が差す。ニシンが顔を上げる前に、彼の額は撃ち抜かれた。高い陽の下の
ヘリポートはじりじりと焦がされるように熱く、陽炎が揺らめいている。ニシン達の死体は揺らめきの中、細か
く輪郭を震わせて、やがて掻き消えた。

「行くとするか」

ニシンの頭を撃ち抜いたニシンは、下の階へ降りるため、階段へと向かった。


309 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 00:01:13 0
「まずは立地条件から確認していきましょう。
 現在このBKビルは『完全被甲』による鉄壁の防御体制の元、内部が『暴発迷宮』状態になっております」

白いボードに書かれた簡略のBKビルに落書きを加えながら説明は始まった。
設計者本人による三面図のBKビルは何処となくブーツを思わせる形状を示している。

「その為、正面からの侵入に関しては論外。下手に侵入すればミイラ取りがミイラになっていしまいます。
 また、外壁の破壊も困難を極め、更に文明によってかろうじて形を保っているビルの構造により仮に破壊できたとしても、
 今度はビル自体が崩壊する危険性が懸念されます。」

(それって攻略不能の要塞ってことじゃないの?)

「しかし、僕たち公文は今回の事件に対して臆することなく対処したいと思います」

そう言うとビル外周に小さな円を書いていく。
「ここと、ここと」と丸を小さく四方に書きその一つに砲台と書いておく。この記された地点に固定の対空砲が設置されているというのだ。

「で、ですね。今回の作戦ですが、内部にいる都村さんたちと協力しての文明無害化になります」

「でも、内部にいるメンバーだけじゃあ厳しいと思うんだけど……」

「はい。正直に言って無謀と言えます。ですので、佐伯さんや他の数名にも合流してもらいます」

そう言うと彼はボードの端に名前を書いてゆく。それは突入する人物達の名前だ。

310 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 00:02:17 0
「って、今さっき、侵入方法がないって言ったじゃない!?」

「そうですね。ですが都村さんの居場所が分っているので、全く手がない訳じゃあないんですよ」

そう言い区切ると今度は三面図に、矢印を書き加える。
その矢印の向いている場所は丁度、二十四階に当たる高さでありその場所は零も知っている場所だった。

「総合管理室ね。そこがどうしたの?」

「この部屋は外壁と密着。つまり外壁一枚を隔てているだけなのです。
 しかも、今し方の連絡で、都村さんたちもここに居るという確証も得ました」

その言葉を聞いた零だが、一瞬耳を疑ってしまった。
なぜなら彼の言う事には一つだけ問題があり、そしてその問題は圧倒的なまでに致命的ともいえる内容だった。

それは……

「そこに居る確証があっても合流できなければ意味がないじゃない……」

そう、例え、仲間の位置が分った所で合流できなければ意味がないのだ。
外こそ見かけはビルの外壁だが、その実、中は『暴発迷宮』により富士の樹海並みの迷宮となっているのだ。
侵入する経路がどうあれ、行き着く場所までたどり着けなければ意味はないし、一度入れば出る事も出来ない。
つまりやり直しが効かない以上、この様な成功確率の低い方法は悪手極まりないのだ。

「では、この外壁のみ、文明の効果を遮断して破壊する事が可能になったらどうでしょう?」

「……は?」

311 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 00:04:42 0
「この辺りの文明の効果を遮断して、外壁を破壊できれば合流するのも確実、かつ簡単にできると思いませんか?」

「まさか、出来るの?」

怪訝な顔で聞き返す零。正直に言って零は文明云々に関して当たり前だがど素人だ。
ならば、聞いてみた方が早いだろう。

「はい。と言っても、今回の『完全被甲』はLV3で遮断効果は持って三分くらいなのですがね」

「どういう事なのか詳しく教えてもらえる?」

「そうですね、……まずはこの建築物に使われた文明の事からになりますが、
 このBKビルは文明を使用したという事を主張するように各フロアには柱が使われておりませんね?
 それなのですが建築方法については各フロアごとに毎回小刻みに『完全被甲』を掛ける事で強度を保たせて居ると言う事です」

彼の言っている事。それはつまるところ、BKビルの文明は実際には単一の物ではないという事だ。
そうである以上、もし仮に文明の効果を遮断したり無効化するものが存在した場合、その階層、その区画の文明のみを無効化する事になる。

「……」

「そして、こちらには文明の効果を三分間だけ無効化する装備がある。そう言う事です」

「でも、外壁には対空砲もあるし……?」

そう続けようとした時だ。テントに隊員の一人が駆け込んでくる。
その様子はあまり良い知らせとは思えない内容だ。話し方からもそれが窺える。

312 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 00:06:17 0
「どうしました?え?『偏光隠匿』?」

「何かあったのですか?」

「……これは、すみません……あの、コレって確かな情報なのですよね?」

そう報告してくれた隊員に聞き、念を押すとと今度は零に向き直る。

「やられました…多分、進研かな?とにかくこの上空に敵対すると思われる組織の者が居るみたいなんです」

「……で、危険なので今の作戦はできないと?」

「そうなります。……しかし……」

その言葉に零は落胆、と言うよりは呆れとも取れるような手振りで首をかしげる。
しかし、だからと言って諦めるのは論外である……

「ねぇ、もしんば追っ払えたとしたらやれるのよね?」

「追っ払えれば、ですけど。ね?」

追っ払えれば、である。
「そう」と零は返答をし、借りていたシャープペンをテントの膜の上に「置く」

「じゃあ、追っ払ってみるわ」

他愛のない事だと言いたげに零は吐き捨てテントを出る。

313 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 00:08:34 0
相手が何であるかは分らない。しかし、だからと言って引く訳にはいかないのだ。
中には都村が居る、葉隠が居る、サイガが居る、ゼロワンが居る。
そして、何より……救いを求める小さな子どもたちが居る。

「目の前に助けを求める人が居れば助けるのが当たり前でしょう?」

だから行く。

「佐伯さん……。どうする気ですか?」

「『重力制御』を応用すれば壁面も足場にできるわ。攻撃さえできればいくらでも戦いようはある」

「むむむ!?無茶苦茶です!そもそも戦う相手が空を飛ぶってことはヘリコプターや戦闘機、
 最悪、それ以外の文明を用いた相手である可能性があるんですよ!?」

だとしても、相手が強い事を理由にして自分に嘘をつくのは嫌だと零は思った。
嘘をつくと言う事は騙す言う事。それを自分に対して行うという事は自分を偽るという事。

「止めても、行くから」

偽るための自分を待たない零。だからそれを嫌だと思ったのだろうか?

「待ってください!」

「何?」

「僕も行きます!」

それはまだ、誰にもわからない。

【状況:作戦開始!】

【目的:D作戦開始のための障害排除。
    A葉隠殉也と合流。
    BKu-01、都村みどりとの合流。
    C迷子の捜索。】

【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】


314 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 06:06:32 0
突如、月崎真雪の矮躯から夥しい血液が横溢した。
更に血液は肉塊の様相を示し、辺り一面の人間を捕縛する。

「……あの失敗作に適合する人間がいたとはね」

誰にも聞こえぬよう、三浦は呟く。
とは言えこれは好機だと、彼は内心ほくそ笑む。
このまま放っておけば、月崎真雪は二度と目覚めぬ眠りに至る。
そうなれば、しめたものだ。

同時に、尾張達が自分の元へ来る事はまず無いのだろうとも、彼は思い至る。
尾張証明は既に、朧気で、更に本人に自覚は無いのだろうが、兎にある程度の信頼と情を抱いているようだ。

「ストイックな振りして……根っこはそれか。ある意味ストイックなだけより面倒だよ、まったく」

足首に絡み、更に段々と上へせり上がってくる血塊をぼんやりと眺めつつ、三浦は独白を続ける。
ちらりと目線を上げてみると、李飛峻が彼へ剣呑な視線で睥睨していた。
彼の被った平静と善意の仮面、その奥を見透かすように。


「やれやれ……まあ、仕方ないな。君達に関しては、完全に出遅れていた。
 ……だけどね、これだけは教えておいてあげるよ。その女は君達を元の世界に返す術なんて知らないよ。
 それ以前に、その気があるのかさえ怪しい。報酬は与えると言っていたけど、
 その報酬が何か、いつ与えるのか、君達はちゃんと聞かされたかい? 
 ……同じ利用されるなら、僕の下に来た方が賢明だと思うけどね」


諦観と毒を含ませた最後通告を紡ぎ、三浦は一息。
彼らが芳しい答えを返さぬ事を認めると、改めて尾張一行とその他の乱入者を見据え、口を開く。

「サイ、あのお兄さんと遊んでもらいなさい」

最早冷冽な響きも極悪の気配も隠そうとはせず、彼は娘に『仕事』を与える。
嬉々とした表情で、サイは頷いた。
包帯に宿した『身体強化』を発動させ、更に一体如何なる文明によってか、
五体に纏わり付く血塊を余さず散らし、駆け出す。

『星間歩行』によって、血塊の及ばぬ宙空を走り、彼女は李と真雪の間へと割り込んだ。
そうして李の放った渾身のデコピンを、掌で受け止める。
炸裂音にも似た、乾いた小気味いい音がぴしりと響く。

「いっ……た〜い! もう、少しは手加減してあげなよ! 嫌われちゃうよ!」

これから死に追いやる真雪に対するデコピンに、サイは何処かズレた苦情を零す。
と言うのも、単に自分が痛い思いをした腹いせに過ぎず、深い考えなどはないのだが。

「まあいいや! とりあえずお兄さん、あーそーぼー!」

返事を待つ事なく彼女は李目掛けて、蹴りを繰り出した。
速度は李ならば容易に見切れるだろう。
だが頭上から降り注ぐ規格外の軌道を、彼は果たして凌げるだろうか。

315 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/05/08(土) 06:12:54 0
「さて……君達も、まさかこの状況で逃げるとは言い出さないだろう?
 もっとも、それならそれでありがたいんだけどね。君達は『補足』≪ストック≫してあるし、
 何よりその少女の……嘘を見破る能力だったかな? それは面倒だ。ここで始末させてもらうよ」

暗に『兎』の失言を指摘する。
そうして頓に自分を貫く険悪な敵意を孕む視線に、三浦はただ苦笑。

「そんなに睨まないで欲しいね。さっきまで、君達は僕を殺す気だったろう?
 自分は殺すのに、身内が殺されるのは許せないだなんて、勝手が過ぎると思わないかい?
 そうだな。言うなれば、これは『ゲーム』だよ。お互いの目的の為に、ちょっと殺し合うだけさ。
 クリア条件も至って単純。互いに殺し、殺されなければいいだけじゃないか。何、そもそも大事な目的の前には、難関が付き物だ」

少々無茶のある理屈付けを用いながら、彼はこれから起こる事を『ゲーム』と称する。
何故か。竹内萌芽が、月崎真雪に執心だからだ。
ただ彼女を殺すと言えば、竹内萌芽は間違いなく駄駄を捏ねる。
これ以上異世界人を敵に回したり取り零す事を、彼は良しとしなかった。

だがこれから起こる事を『ゲーム』と、ほんの『イベント』程度だと称したならば。
見せかけだけでもクリア条件を呈示してやったならば、彼はそれで一応の納得を迎えるだろう。
少なくとも、彼にだけは通じる正当性を、三浦は得る事が出来る筈なのだ。

「それじゃあ、始めようか」

言葉と共に、三浦は白衣を足元の血溜まり目掛け振るう。
白衣は臙脂に染まる事もなく、ただ彼を捉えていた血塊を四散させた。
靴の状態を確かめているのか、一度屈み両靴を手袋で撫ぜてから、立ち上がる。

そうして悠々とした歩調で、尾張達との距離を詰め始めた。


【三浦:別に気にしてねーし的雰囲気を醸しつつ、負け惜しみ混じりに最後通告。無言なり反駁なり、断られる事を前提に話を進めちゃいました。
 李さんにちょいとけしかけてみたり。身体強化とは言っても、普通に李さんが見切れるレベルです
 あとはのんびりバトルしつつ話を進めませう】

316 名前:ゼルタ・ベルウッド ◇8hdEtYmE/I[sage] 投稿日:2010/05/08(土) 07:27:43 0
>>242
>>244

ひどく耳障りな金属音が廊下に響いた。
刺した側のゼルタも、刺される側だった青年も何が起きたのか理解できないようだった。

ゼルタの愛用するナイフ。愛用していたナイフ。その刃が根元から失われていた。

「う……そ……」

茫然自失に陥るゼルタ
青年が懐から拳銃を取り出し、何やら得意げに話す声もほとんど聞こえていないようだった。

>「――形勢逆転というわけだね」

青年が自分にその銃を突きつけるまでは。

「……っ!」

反射的に体が動いた。
未練がましく握っていたナイフの残骸を青年に向かって投擲、青年が怯んだ隙にサングラスを掛け直し。

『見敵封殺』越しに、青年を睨みつけた。


317 名前:ゼルタ・ベルウッド ◇8hdEtYmE/I[sage] 投稿日:2010/05/08(土) 07:28:38 0
「よくも……あたしのものを壊したね……?」

声に混じる苛立ちを隠そうともせず、ゼルタは鞄を開き利き腕を突っ込んだ。
引き抜かれた右手に握られていたのは、明らかに鞄の許容量を超えた刃渡りを持つ、宝石で飾られたサーベル。
鞄そのものは広瀬香味が所持していたただの鞄だが、中にはゼルタの所有物全てを飲みこんだ魔法の袋が仕込まれているのだ。

ゼルタはそんな鞄を廊下の片隅に放り投げ、青年の前でサーベルを大上段に構え。

「あんたが悪いんだから……ね!」

勢いよく振り下ろした。

【タチバナと戦闘中。文明使用】
【ナイフを壊されたことを怒ってます】

318 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/05/09(日) 00:52:17 O

いつのまにか、温かい暗闇の中に居た。
何故だろう、私は彼らと会話しなければならない。そうしなければ私は何も分からない。
お願いだから、外に出して欲しい。

―――それで良いのかい? 外は真雪にとって危ないよ―――

どこからともなく聞こえた声に、私は溜め息を吐いた。
「危なくて良いからここから出して。私は暗闇は嫌いなの」
―――それでもダメなのよ。
あなたを守る存在が現れなければ、私はここから出すことは出来ないね。
外は本当に危ないんだよ。
暗闇が苦手なら光をあげる。痛みが有るなら私がそれを取り除く。
だから、あなたは自分から危険に飛び込むと言わないで、私の気持ちを分かっておくれ―――
光をあげる、そう言った瞬間に無数の光が私を取り囲んだ。
もう、この状況の何もかもが分からない。
「何なの…あなた」
唾を飲み込んで、声に問い掛けた。
―――私は【死泣の唇】《アンビリカル・ラブ》。真雪が『プルーフ』と呼ぶ存在。
嬉しいねぇ。好きな人の名前をつけてくれたんだろう? 後付けだがね―――
取り囲む光ははしゃぐように点滅し、回る。
アンビリカル・ラブの言葉は、何故か母親の愛のような安心を得た。
…母親の愛など受け取った覚えは無いのに、何故?
―――真雪の為なら私は頑張るからね!
役割を終えたなら私は死ぬけれど、それまで一緒に居ようね。
真雪の危機の源である三浦親子と五本腕が消えるか、
真雪を守る存在が真雪をここから連れ出すまで、ずっと一緒―――



飛峻が失敗したことで、真雪に走る脈が更に彼女を閉じ込める。
唇から覗く瞳が、飛峻とその邪魔をしたサイをじっと見つめていた。


真雪を死泣の暗闇から連れ出すタイムリミットは、あと少し。
【真雪in精神世界:
1.アンビリカル・ラブと会話出来たよ!ストレンジベントも会話出来るかも!
2.ア「起こさなかったからといって永遠に目覚めないとかそんなことしないから安心しておくれ」
3.アンビリカルさんは意外と寿命短い】
【あと1ターン回ったらアンビリカルさんが解放するまでまゆきちの意識は戻りません】

319 名前:葉隠殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/05/09(日) 02:47:03 0
>「……貴方達、見た所何だか大変そうね。だけど、こっちもそれなりに立て込んでいるの。
 よく分からない縁でこうして向き合っているけど、このまますれ違う事になりそうね」

「車で突っ込んでくる者もよほど大変な事態なのだろうな」

軽く皮肉を言いながら、値踏みするように見ながら今後の算段を考えていた
このまま彼等を保護するのも良い…が、
自分も言えた義理ではないがどこか不審な感じもしなくはない

>「……アンタ、猫だし服の内側もどうせ毛とかあるんでしょ? 見た所背格好同じみたいだし、譲ってあげなさいよ。主に下の方を」

猫?どういうことだろうか?もしかして獣人なのだろうか
この世界には獣人はまず見かけなかったもしかして…
俺と同じ異世界人が居るのか
と思った矢先、通信が入り自身は無事であることと子供二人を保護しているを報告する
相手からは合流するように言われ、通信を切られる
子供達の件もある、すぐに向かいたいが他の異世界人が近くに居るかもしれないのだ
もしかしたら何か知っている可能性もある…深く思考し、下した決断は――――

「…やはり子供達の命を天秤に掛けることはできんな
すれ違うことになりそうだな…しばし待ってくれるなら考えていたが」

警備員二人はなにやら後ろでやっているのを無視して
子供達を引き連れいつでも行ける様に準備をする

「お前達も保護する対象だ、一応言っておくが俺と一緒に来ないか?」

男を含め、目的がある以上は無駄だとは思うが一緒に来るかという誘いをしつつ
反応が返ってこないので、来る気があるなら付いて来いといって
子供達を引き連れ合流先に向かった




320 名前:竹内 萌芽(1/6) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/10(月) 03:42:29 0

赤黒い肉塊に、視界が埋め尽くされていく中で、萌芽は先程の三浦の言葉を思い出していた。

(そういえば、さっきチラっと『ゲーム』って言葉が聞こえましたね)

あれだけ頭が混乱してパニックになっている状況でも、こういう言葉だけは聞き取れているあたり
この少年はつくづく妙なところで抜け目が無い。

(三浦さんを殺さないと、真雪さんが死ぬ、ゲームですか……)

鼻を衝くむせかえるような生臭い匂いに、顔をしかめつつも萌芽は考える。

三浦にせよ真雪にせよ、萌芽にとってはこのうえなく楽しい『ゲーム』を提供してくれる遊び相手である。
正直どっちにも死んでほしくは無いが、しかしこの考古学者は、恐らく本気で真雪を殺す気でいるだろう。

なんとか真雪の命を守りつつ、このゲームを終了させる方法は無いものか……
必死に考える萌芽だが、しかしそもそも能力をうまく発揮できず、肉塊に体を拘束されているこの状況で彼にできることなどあろうはずもなく。

結局視界を完全に肉塊に埋め尽くされ、月崎真雪の『文明』にとりこまれた萌芽はそのまま意識を失ってしまった。


321 名前:竹内 萌芽(2/6) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/10(月) 03:43:24 0

そこは、なんだか温かい闇に満たされていた。

「……あれ?」

なぜ自分はこんなところに居るのだろう? と萌芽は考える。
自分は確か、あの口だらけの気味の悪い肉塊にとりこまれて、そしたらなんだか息が苦しくなって……

そこまで考え、萌芽はわかったというようにぽんと手を叩いた。

「あ、ひょっとしてここ地獄ですか? 僕、死んじゃいました?」

「アヒャヒャ!! ……悪いことしてるって自覚はあったんだ」

闇の中に響く可愛らしい声に、萌芽が目を向けるとそこには虹色の服を着た赤くてもこもこの道化師の姿。

「ストレ……ここにいるってことはきみも結構悪いことしてたんですね……?」

「してねーし、アタシはあのおっさんがアタシを拾ってからあんたの手に渡るまでずっと寝てたんだよ?」

それもそうか、と萌芽は頷き、そして訊ねる

「じゃあ、ここはどこです? きみがいるあたり僕の精神世界っぽいですけど、なんか様子が違いますよね」

そう言って彼はあたりを見回す。
外観は確かに、自分の精神世界に似ている。周りにあるのは、黒。ただそれだけ。
しかし、その黒は萌芽の世界とはむしろ正反対の性質を持っていた。


322 名前:竹内 萌芽(3/6) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/10(月) 03:45:22 0

萌芽の世界の黒が、世界中のあらゆる事象がごちゃ混ぜになって、もはや色として判別できなくなり、”黒く見えているだけ”なのに対しこの世界の黒は、完全な”黒”だ。
純粋に、ただ黒として存在し、そしてただ光を反射しないだけの”黒”

”あやふや”な彼の世界に対し、その場所はおそろしく”はっきり”していた。

「アヒャヒャ。ここはな、なんつーか”あの気持ち悪いの”の中だよ。物理的ってより、精神的な意味で」

なるほど、それでストレンジベントがここにいるのか、と萌芽は納得した。
じつは今萌芽がここにいるのは、彼の才能の”暴走”が偶然引き起こした副産物であるのだが、当然彼はそこまで深く考えない。

目の前をぴょんぴょんと飛び跳ねながら、ストレンジベントが言葉を続ける。

「ちょうどいいね、”これ”はあの子と繋がってるから、起こしに行きたかったんだろ?」

彼女の言葉に、こくりと頷くと萌芽は歩き始めた。

「アッヒャ〜それにしても、”ここ”はなんだかアタシに似てるな」

真っ暗な温かい闇の中を、一人と一匹はてとてと歩く。

「色んな文明が集まって、ごちゃまぜになって……それでも、これはどこか”はっきり”してる」

そこまで言って、ふと彼女は立ち止まった。

「まてよ、まさかあのおっさん……アタシのことに気付いてたのか? さっきの手袋といい、まさか”これ”もあのおっさんが……」

ふとストレンジベントは、先程から自分の主が不機嫌そうなむすっとした顔で黙りこくっていることに気がついた。


323 名前:竹内 萌芽(4/6) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/10(月) 03:47:10 0

「アヒャ? どーしたんだよもる」

「ここ……なんかいやです」

不機嫌な感情を隠すこともせず、彼は言った。
ここは、なんだかとても自分の嫌いなものに似ている気がする。一体何に似ているのか……

―――そうだ、これは先程見たあの親子の間にあったのとそっくりの”温かさ”で満たされている。

どこか優しいその空間は、萌芽にはなんだかくすぐったくて、だから彼はその場所に妙な居心地の悪さを感じていた。

「はやく真雪さんを起こして、とっととここから出ますよストレ」

つかつかと足を速め、先に行く萌芽に「アヒャ!? まてよもるー!!」と赤い小さな道化師が続く。

ふと、目の前に光が見えた。
なんだか円柱状に闇の中に伸びる光は、いかにもここに何かありますよという雰囲気を漂わせている。

特に躊躇せずに、彼はその中に入っていった。


324 名前:竹内 萌芽(5/6) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/10(月) 03:48:09 0

―――キミは、真雪を守る存在?

光の中を進む中でなんだかそんなことを聞かれた気がした萌芽は、迷うことなく声に応える。

「守る? まさか、僕は真雪さんの唯一にして最強の『敵』ですよ?」

急にいままで優しい空気を保っていた回りの空間が敵意に満ちたものになった気がした。
ぴりぴりとした、周り全てが敵意で満たされたその状況に、萌芽はにやりと微笑む。

そうだ、これでいい。
自分にはこの冷たい空気のほうが、あの温かな空間よりずっと居心地がいい。

「だから、真雪さんには起きてもらいます。起きて僕と遊んでもらうんです。
 ”あの人”が彼女を殺そうと言うんなら、僕が邪魔をします。当然ですよね? 真雪さんの『敵』は僕だけなんですから」

滅茶苦茶で自分勝手な理屈を並べ、彼は笑う。
足元を歩いていたストレンジベントが、ぴょんと飛び上がって彼の肩に乗り、一緒になって笑った。

「アヒャヒャヒャ!! そういうわけだよ、”兄弟”。アタシのご主人はこの通りめっちゃくちゃ自分勝手で、しかも一度いいだしたら聞かねーんだ」

肩の上で愉快そうに笑う彼女と友に、萌芽は敵意に満ちた冷たい光のなかを歩く。


325 名前:竹内 萌芽(6/6) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/10(月) 03:48:51 0

ふいに、光が開けた。
目の前にいる彼女―――月崎真雪―――の顔を見て、萌芽はほっと一息をつく。

「無事だったんですね……まったく、だから危ないっていったじゃないですか」

少し怒った口調でそう言って、彼は微笑んだ。

「迎えに来ましたよ、真雪さん。フェイくんも心配してます、一緒に帰りましょう?」

闇の中に座る彼女に手を伸ばそうとして、萌芽は先程、あの名も知らぬ考古学者に叱られたことを思い出した。
もっとも、言った本人の意図と彼の解釈はかなりズレていたが。

「あー、えっとですね、あれです……」

左頬をぽりぽりとかき少しだけ言葉に詰まる萌芽。
他人にこんなことをいうのは本当に何年ぶりだったので、どう言ったものか、とっさに言葉がでてこない。
それでも言えと言われたからには言わねばならぬと、彼は自分にできる精一杯の言葉をひねり出した。

「帰ったら、その……僕と遊んでくれますか?」

ターン終了:
【起こしにいったよ】


326 名前:101型 ◆jHyqRBvPAAuG [sage] 投稿日:2010/05/10(月) 14:13:50 0
>>301
>「……この状況で中の私達の心配までしてくれて、嬉しい限りだわ。
> だけど問題があるのは残念だけど、貴方の格好よ。主に下の方にね……!」

≪三浦六花・確認 #重要人物#≫

「三浦六花だな。確認した・・・」

六花の突込みには応えず、冷静にそれだけを言う。
101型の表情にいずれにしても変化はない。
一緒にいる猫と呼ばれる人物にも確認の為スキャンを行う。
データベースと照合し、確認を完了する。
≪テナード・確認 種別:異世界人≫

「テナード、確認した。」

先程の人物も照合済みである。
アフロの青年、軍人風の青年。共に異世界人だ。

≪葉隠殉也、確認 宗方状乃助、確認 ≫

「異世界人が多数いる。この状況は都合がいい。
いずれ、その力が必要となる」

>「…やはり子供達の命を天秤に掛けることはできんな
>すれ違うことになりそうだな…しばし待ってくれるなら考えていたが」

子供達を重視する葉隠の思考に101型は意義を唱える。
それはあくまでマシーンとしての冷徹な判断から来るものだ。

「子供とお前が呼ぶ者達は戦闘力もない、邪魔な存在の筈だ。
何故、お前はそのような者達を重要視する?
理解が出来ない・・・通常なら抹殺すべき対象だ。」

≪発生文明把握 物体変質《オーバーライト》の異常稼働及び暴発迷宮《ラピッドラビリンス》≫

「検索を完了した。対処法を起動する・・・少し待て。」

【異世界人達の存在をデータベースと称号。迷宮化の原因を把握。
対処方法を発動開始。】





327 名前:テナード ◇IPF5a04tCk[sage] 投稿日:2010/05/10(月) 17:22:00 0


「あ痛たたた……」

タクシーが強制停止させられた際にぶつけた後頭部を擦りながら、カズミはニヤリと笑う。

「ヤクザさんのお出ましには吃驚しちゃったけど……楽しかったー!うん!」

車内の冷ややかな空気を気にする事もなく、無邪気にけらけら笑うカズミ。

だが、

「車内の生命反応に問題はない。」

「んえ?」

窓越しに見えた光景には、さしもの彼もフリーズするしかなかった。


どうみても革ジャン一枚の露出魔です、本当にありがとうございまし

「へ、変態だーー!!」

「……この状況で中の私達の心配までしてくれて、嬉しい限りだわ。
だけど問題があるのは残念だけど、貴方の格好よ。主に下の方にね……!」

静かに憤怒する後方の少女とは正反対に、喚き立てるカズミ。
だが、この異常事態で、一人だけ反応がないことに疑問を抱く。

「……て、テナード?」

項垂れたままの大男に、そっと声をかける。
だが、反応は依然として無し。

「(まさか、気絶しちゃったとか?)」


328 名前:テナード ◇IPF5a04tCk[sage] 投稿日:2010/05/10(月) 17:22:44 0
その時、何かがぶつかる音と同時に、三浦六花がタクシーから下車していた。
意識しているのか、なるべく露出魔の下半身を見ぬように、六花はテナードへ衣服(主に下半身)を貸し与えてやれと呼びかける。
最も、呼びかけられた本人は気絶している訳だが。

「テナード、起きなってば、テナード!」

何はともあれ、まずは起こさなければ。
そう思い、襟首を掴み、渾身の力で前後に揺さぶってやる。

「……ん、んん…痛ッ!」

突然後頭部を押さえこみながら、テナードが飛び起きる。

「良かったー、起きたみたいだね」

「良かねーよこのクソガキ!
………で、此処ァどこだ?」

そう言いながら、テナードも下車する。
それと同時に、カズミの眼鏡から電子音が発せられた。

「(物体変質、暴発迷宮、それに上階には死泣の唇ets……こりゃまた七面倒な文明のオンパレードなこった)」

そう考えるが早いが、背中にしまい込んでいたノートパソコンを取り出し、脇に挟む。

「ところで、この車はもう駄目みたいよ。タイヤは破れて、ホイールもひしゃげちゃってるものくしかないけど……そこのクソガキ二人、疲れたとか言い出したら置いてくからそのつもりでいなさいよ」

「……その言葉、そっくりそのまま返してやるよ、おチビさ」

「あぁ後、アンタ……テナードだっけ? その格好ならコンパスの一つくらい持ってるでしょ。
 あるなら貸しなさい。迷路遊びがうんと楽になるわよ」


クソガキという単語に眉を潜め、皮肉を返すカズミ。
だが、相手にする事なく言葉を遮り、そのままテナードへと声をかける六花の背中を見て、カズミは小さな舌打ちをするだけに終わった。


329 名前:テナード ◇IPF5a04tCk[sage] 投稿日:2010/05/10(月) 17:25:18 0


そして、一方のテナードといえば。

「コンパス?ああ、それならここに……」

コートの内ポケットを漁り、球形のそれを六花へと差し出す。
だが、球の中央に浮く針はグルグルと縦横無尽に飛び回り、これでは方位など分かったものではない。

「……すまん、壊れてるみたいだ」

使えない奴である。

「別に問題ないよ、おチビさん。こんなこともあろうかと、僕のパソコンにビル内の地図をインプットしといたからさ!
僕って天才!」

テナードの訝しそうな視線を無視し、けらけら笑いながらクルクルと踊り回るカズミ。
テナードは着いていけないとばかりに呆れたように溜め息を吐きつつ、何気なく視線をやり。


「……カズミ」

「何ー?」

固い表情のまま、ぴしり、とテナードが指差す。



「あの軍人とアフロと革ジャン一枚の変態、何者だ?」


【テナード:使えない奴でサーセン
ようやく軍人組に気づいたご様子。遅杉】
【カズミ:内部の案内は任せて!僕って便利ー!】
【コンパス:カズミ君がタクシーを呼んだ際の電波に壊れました。おのれクソガキ】

330 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/05/12(水) 00:39:11 0
念のためほ

331 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/05/12(水) 21:28:30 0

光の温度が、急速に冷えていく。
冷気の流れを目線だけで辿ると、霧と共に竹内萌芽が現れた。

「無事だったんですね……まったく、だから危ないっていったじゃないですか」
竹内は開口一番そう言って私に微笑みかける。
その口調は少し怒っていた。…私が彼の忠告を無視してBKビルに訪れたから。

…でもおかしい。何故この場に竹内が居るのか。
私の混乱をよそに、竹内は話を進める。
「迎えに来ましたよ、真雪さん。フェイくんも心配してます、一緒に帰りましょう?」
そうして伸ばしかけた手を、竹内は引っ込めた。
「あー、えっとですね、あれです……」
照れたようで、左頬を掻きながらそっぽを向く。
どんな言葉が出て来るか分からないから、私はただ、待っていた。
そうして竹内が言ったのは、
「帰ったら、その……僕と遊んでくれますか?」
そんな幼い言葉だった。

332 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/05/12(水) 21:29:30 0

「―――は……い?」
たっぷり三十秒、それからやっと捻り出せたのは答えとも言えない疑問の言葉。
嘘も無いようだし、なにより本気なのは雰囲気で分かる。
もしかして、昨日のあの時嘘を吐いたのは、もっと単純な理由だったの?
「もしかして、遊びたかったの…?」
私の言葉に、竹内は声も無く頷く。
途端に、光が私達を囲んで回りだした。
―――真雪、その子に着いていくのかい?―――
「いきなりどうしたの?」
その中から光を一粒捕まえて、言葉の先を促す。
―――彼はさっき、自分は真雪の敵だと笑ったんだよ…
私はね、真雪を守る者以外の人間には真雪を渡したくないんだ。
私は羽ばたく蝶の為の繭であり、産まれ出づる子の為の子宮であり、
束縛で子を守る母の愛だからね―――
アンビリカル・ラブ―――プルーフはそういって、私の手元を離れた。
「…私は、それでも着いていくよ。
例え竹内が私に対して敵意を抱いてたって、今まで竹内は守ろうとしていた訳でしょう?
そんな人が、自分はお前の敵だと言うなら何か理由が有るはずよ。
そして私は理由を信じてる。ここを出る前にその理由を聞く。それで良いでしょう?」
私の言葉に、ゆっくり回転していた光の粒が沈む。
そして、一粒私の目の前に浮かび上がった。
―――真雪は、頑固だね?―――
「そうよ、今更でしょ?」
―――言い出したら、聞かないね?―――
「そうよ、譲れないわ」
何を言っても変わらないと気付いたのか、プルーフが擬似的な溜め息を吐く。
足元の光が、次第に私達から離れて行った。
―――仕方ないね。私は真雪を止められない。
私は力の無い繭であり、意思の無い子宮であり、旅立ちを祝福する母の愛。
ここを出る為の準備をしてあげる。待っているんだよ―――


333 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc[sage] 投稿日:2010/05/12(水) 21:30:26 0

白い光が去っていって、暗闇に包まれた。
これは夢なのか、と考えたら止まらない。もしかしたら竹内の言葉、存在さえ私の夢?
不安でたまらなくなって、私は竹内の右手を掴んだ……ああ、良かった。彼はここに居る。
竹内が反応するその前に、両手で彼を引き倒してみる。
竹内の頭が、仰向けで倒れた私の胸へ収まった。
まゆきさん、と私を呼ぶ竹内の髪を撫でて、私は口を開く。
「私、暗闇は嫌いなの…不安になるから、だからずっとお喋りしましょ?
元の世界はどんな所? 元の世界では友達は居たの? この世界は楽しい?
私や飛峻さん以外の人には会った? あなたがこの世界に来て、何番目に私に会った?
『竹内萌芽』、その名前はあなたにとってどんな意味?」
私はずっと、あなたとお喋りしたかったの。

【精神世界で萌芽とお喋り。現実世界では変化は特に無し】

334 名前:不非兄弟 ◇CqyD3bIn5I[sage] 投稿日:2010/05/12(水) 21:31:56 0
突然車のドアが開き、
>不非兄弟の顔面を強かに強打したが、まだ動転を胸中に残していたのか、彼女は気が付かなかった。

「「ぐふぁ!?」」

見事にハモり、青髪を下にして仰向けに倒れる二人。
そして青髪を下敷きにしたまま、緑髪は異世界人に待ったを掛けた。

「ま、待てお前ら」

「特にショタロリ、あと大男二人!」

「退いて希射…」というか細い声は、怪しすぎるんだよ!と言う声にかき消される。

「ビビったが、どうせ文明の力か何かだろ…」

「バイト代貰う為にも、…いや貰う為だけだが、通さねぇ」

希射と呼ばれた男は背中に背負っていた盾を構え、異世界人に向き直った。

(正直、めんどいけどな)

「…はあ」

下敷きにされたままの兄は、弟に蹴られながらも無理やり身体を起こし自らも背負っていた矛を構えて向き直る。

「メイン盾来た、これで勝つる」

「…母さん、弟が鬼畜です」

【不非兄弟:警備バイトの建前上戦う準備完了】


335 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 00:21:09 0
ソレは空中で静止していた。小型アサルトヘリコプターAH-06 リトルバード……
卵型の狭いコクピットが特徴的な早期警戒型強硬偵察用ヘリコプターである。
その武装は小型と言えど侮れず、最新式の戦車さえも破壊せしめるほどだ。
そして、そのコクピットを預かるのは文字通り人機一体を体現し、更には広大な電子の海とも繋がっているペリカンだ。
今までに数々の「運び」を経験したペリカンだが今、彼の目となるレーダーとカメラには信じがたいものが映っていた。

「冗談。にしては性質が悪いな」

呟きはローター音に消される。
そして、そのローター音をかき消さん勢いで響く超高域の一際甲高いフィンの回転音。
「それ」は迎撃のために発砲してくる対空砲の発砲音に紛れながらも確実に頂上を目指す。
零達は今、ニンジャカスタム ピーコックに跨り、空を目指すようにBKビルの外壁を疾走していた。

「冗談でこんな事は出来ないわよ」

本来なら成し得ないその動き。全ては文明の恩赦によるものだ。
零は文明『重力制御』の力により「引力」の方向を変更し、外壁を足場へと変えたのだった。

「考えましたね…でも!!冗談じゃないですよ!!馬鹿なんじゃないんですか!貴女は!?」

冗談ではない。都会の摩天楼、絶対の要塞、現代に生きる妖共の巣窟BKビル。
今、その壁面を駈けあがってくる一台の鉄馬。

「馬鹿じゃない!しっかり掴まって。振り切るわ!」

そう叫ぶと零はギアをトップに押しこみ、更に弾幕の中を駆け抜ける。

「!?居ました!でも、こいつは大物ですよ……」

336 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 00:21:56 0
そう叫ぶと零の顔の横から後ろに乗った「彼」が指を指し示す。
その先には『偏光隠匿』にて姿をくらましたリトルバードが存在している。

「『禁属探知』に反応がありました!間違いありません!!」

「だったら、……とっととACS(antiaircraft civilization shell)を打ち込む!」

今回の作戦の要の対文明用の装備。それが今、零が述べたACSだ。
その効果は簡単にいえば文明と触媒の結合解除。それに伴い文明によって改竄された全ての情報も初期化される。
最も、多数の文明により強固に守られたBKビルの壁面が相手では例え一つを結合解除を行ってもすぐに再生、
更に学習して無効化してしまう。その為、彼は先に三分しか持たないと言ったのだ。

「は、はい!」

打ち出されるsilverbullet。破魔の力を宿した弾丸が小鳥と呼ばれるソレを貫いて行く。
着弾し、光の破片を撒き散らしながらその姿を現す小さな小鳥。どうやらACSは期待通りの効果を発揮したようだ。

「ACS……公文か」

「ヘリコプター!?」

「言ったじゃないですか!?どうするんです?」

三者三様。互いの姿を目視し合った者達の言葉が重なる。
零は一瞬の内に思考を加速させる。その内容はどうやってこれと対峙するか?
さっきはああ言ったが、零の記憶にはヘリコプターなんて相手にした覚えはない。又、体にも覚えはない。
ならば、この状況下でやれそうな事を思考して、その中で最も効果的な物を選んでぶつけるしかない。

(相手は飛行している物体。…………飛行している?)

337 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 00:23:04 0
決まった。相手は飛行しているのだ。飛行している。いや、浮遊していると言う方が正しいだろう。

(それなら強い衝撃を与えれば……)

「どうするんです!?」

道の端点。つまりBKビルの頂上が見えてくる。それを確認すると同時にこちらに急降下してくるリトルバード。
見れば小刻みに備え付けの機銃が動いている。何のために?

「中には兔達も居るからな……」

迎え撃つために。

「車体をぶつける!!」

何のために?

「落とすために!?」

「違うわよ。狙いは計器!強い衝撃で計器を狂わせるわ。そうすれば危険すぎて空を飛ぶなんて真似は出来ない筈!!」

そう零は質問に答え、クラッチを押しこみフルブレーキで車体に急制動を掛ける。
舌を噛みそうになるタンデムの同乗者など気にも留めず、さらなるスタントアクションで掃射されるトイガンを回避する。

「当たらなければ良いのよ!」

後輪ドリフトによるターンを敢行する零。しかし問題はそこでは無い。
問題は後輪から発せられる余剰動力により発生した熱がタイヤを焼く事による発煙。
それがまるで煙幕のようにペリカンの視界を一気に奪い去る。

「考えたな……」

338 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 00:24:12 0
今度は煙幕の中を一気に駆け下りる零。やることは決まった。あとは覚悟だけ。
しかし、その前にどうしても確認しておかなければならない事があった。

「ねぇ!」

「どうしました?」

「貴方の言っていたメロスピって本当に大丈夫なの?」

その言葉を聞いて一瞬ハッとするような仕草を見せると質問に対する返答が舞い込んでくる。
しかし、それは零の予想とは違うものだ。

「メロスピじゃないです!スラッシュメタル!!」

「どっちも似たようなものよ!!大丈夫なの!?」

そう言うと念を押すように零の「ねぇ!」という声が彼の耳に入る。

「大丈夫です!適応も確認済み。武器としても射程以外なら理想的な破壊力ですから!!」

だから、と続ける。だから、構わずにやってほしいと。

「分った信じるわ。良い風……歌!歌いましょう?」

「どうして?」

その質問に零はハンドリングで返事を返す。心地がいいからと。
こんな空高く、透き通る空気の中だ。この喜びを歌にするべきだと!



339 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 00:25:11 0
- Freude, schöner Götterfunken,
- 歓喜よ、神々の麗しき霊感よ
 Tochter aus Elysium
 天上の楽園の乙女よ
 Wir betreten feuertrunken.
 我々は火のように酔いしれて
 Himmlische, dein Heiligtum -
 崇高な汝(歓喜)の聖所に入る -

「Life can get better if you take time to realize……」

「あー!そらがー!高いー!あーおーいー!!」

口ずさむ歌は歓喜。零は内心で「この音痴」と毒付き蛇行しながら弾丸を振り切って行く。
気がつけば既に位置は十五階近くまで降りてきている。この辺りがちょうどいいだろう。
零はなおも歌を歌い続けながらハミングさえも交えて、ピポットターンで振り返る。

「ひぃ……!?」

「ギャーギャー騒がないで!男でしょう?どっしり構えなさい!!」

タイヤを壁面に叩きつけ、封印していたクラッチ解き放つと今度は今まで逃げていた道を加速し続けながら一気に駆け上がる。
速度計は100、200、300と見る見る内に加速して行き、気がつけば僅か10m足らずの距離で、
ピーコックは最高速度の時速420km/hに到達する。
その速さに機銃もミニガンもかすりもせず、ついに孔雀は小鳥を完璧に視認する事が出来る距離へと差し迫る。

「撃って!!」

叫び。何処に?何を?そんなやり取りはこの二人には必要がなかった。
やる事は決まっている。青年であり、彼であり、隊員であり、副隊長である「彼」は目的地に弾頭を打ち込む。
後は零の仕事だ。危険を察したのであろう。上昇を始めたリトルバードへと一撃を見舞うため跳ね上がるバイク。
それこそ獰猛な獣の様に、益鳥たる孔雀の名を冠した一台の鉄馬は小鳥と呼ばれる巨大な鉄の卵に食らいつく。

340 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 00:26:15 0
「!?こいつ……冗談じゃないぞ」

驚く無人のコクピットを目の当たりにしながら、ついにマシンは道の終点を乗り越え大空へを飛翔する。
零はタイミングを見計らい手早く『重力制御』を切り胴体に付けられたワイヤーを射出、固定を確認する。
小型のウインチだが耐久性は問題ない。これでクレイジースタントの準備は完了した。

「いっけぇぇええええええええ!!」

飛び出したバイクは緩やかにその勢いを殺し始める。地球の引力にひかれているのだ。
そして、ついに慣性の法則を引力が上回る。真っ逆さまにひっくり返り落ちて行くバイク。だが零は動じない。

「『重力制御』《グラヴィトン》!!!」

叫びと共に零の右足の『重力制御』が神々しいまでの光を放つ。
しかし、その光は世界の法則を乱す魔性の光。それが小鳥を穿つ。
瞬間、『重力制御』はその効力を発揮する。
対象はリトルバードとピーコック。そして方向はピーコックをリトルバードの方角へ……
落下、と言うには無茶のある向きに着地するピーコック。零は同時にアクセルを吹かし後輪でフロントウィンドウ付近を強打する。

「いやぁぁああああああああ!!」

死ぬ。死ぬ死ぬ!!と喚き散らすタンデムシートには目もくれずに『重力制御』を解除。
落下を再開するバイクだが零には策があった。先のワイヤーだ。

「死なない。死なせない!」

だから信じて、と心の中で呟き、念じ、言葉を続ける。

「壁を切り裂くのよ!」

341 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 00:27:22 0
その言葉を告げた直後、ついにワイヤーの遊びが終わり一直線に壁面が迫る。もう、猶予などなかった。

「ひぃぃいいいい!!自棄だ!『一刀両断』《/メタル》行きます!」


【状況:無駄にアクロバティックなアクションでBKビル突入!】

【目的:A葉隠殉也と合流。
    BKu-01、都村みどりとの合流。
    C迷子の捜索。】

【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】


342 名前:津村 みどり ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 00:28:15 0
「これは……まさかこんな所で会うとは思いもよりませんでした」

「アイアンメイデン……/メタルの都村みどり。じゃったか?」

ゼロワンと分れた都村だったが、向かった通路の奥で彼女は予想だにしない人物と遭遇していた。
荒海銅二。今回の第一目標であり、盛龍会の2だ。

「私も随分と有名になってしまいましたね。
 荒海銅二……成程、確かにこの匂いはそうですね」

この匂い。つまり、都村が感じた不可解な匂いの事だ。
そして、眉をひそめた都村の視線の先には高電圧の電流を受けた結果、感電死した躯が倒れていた。

「ワシの『崩塔撫雷』にかかればこんな物じゃのう……さて、」

「くっ……」

ゆっくりと、威圧するように圧倒的な力の差を見せつけ歩み来る荒海。
都村はそれに対して決して背を見せないようにして後退する。

「さしものアイアンメイデンも形無し。じゃのう。
 自慢の/メタルはださんのか?えぇ!!ネェちゃん!?」

「例え『一刀両断』がなくとも……」

そう言うと腕章に触れようとする。も、この状況下では何の意味も持たないと悟り、仕方なく都村は制御室へと一目散に逃げ込む。
一人では厳しいが二人ならなんとかなるとの算段だ。しかし、……

「ハジメさん!!……!?」

動揺を隠しきれない都村。
なぜなら、その場には予想と違い床にひれ伏し、微動だにしないゼロワンが居たのだから。

343 名前:葉隠殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/05/15(土) 01:44:27 0
>「異世界人が多数いる。この状況は都合がいい。
いずれ、その力が必要となる」

この男は何を言っている?というより即座に別世界から来た者と判断したようだ
一体何者だこの男は?

>「子供とお前が呼ぶ者達は戦闘力もない、邪魔な存在の筈だ。
何故、お前はそのような者達を重要視する?
理解が出来ない・・・通常なら抹殺すべき対象だ。」

「なぜ…かそれは俺が帝国軍人だからだ。軍人とは誰かを守る者だ
邪魔などではないそんな彼等の未来をそして希望を守るのが防人(さきもり)になった者の使命だ
子供は未来の宝!老人は国の宝だ!決して守るべき者を切り捨てたりはしない」

他者の目から見たら子供達は邪魔なのかもしれない
だが俺は子供達のような誰かを守るため
そして…尊敬するあの人の背中に追いつくためそして胸を張って会う為に

「戦闘力が全てではない…そういった判断しかできんとは
悲しいな…守るべき者が居るからこそ実力以上の力を出せるというに…」

>「あの軍人とアフロと革ジャン一枚の変態、何者だ?」

合流先に向かおうとした矢先、車から猫の頭をした者が現れる
一目見てかぶり物の類ではないとすぐにわかる
この世界には獣人あるいは亜人類を見かけなかった
だとしたら―――

「…もしや異世界人かお前は?」

【すいません一部変更してやっぱり留まる事になりました】


344 名前:宗方丈乃助 ◆d2gmSQdEY6 [sage] 投稿日:2010/05/16(日) 19:10:45 0
「何がどーなってんすか?え?」

アフロこと俺、宗方丈乃助は混乱しているっす。
なんで車が?そいつを平気で止めちゃう下半身露出男とか。
俺が別の世界?ってやつから来たって言うし。
なんだか他にも物々言ってるしさ。

「あ、あの…あんた達はなんなんスか?
見たところ、普通じゃないッスよね。」

≪パタパタパタパタ≫

「お?」

アフロの頭上で何だか音がしている。
よく見ると、メカメカしい蝙蝠みたいな奴がいる。

「な、なんだお前!?」

≪私はバキットバットX世。貴様の髪の毛…なにやら”違和感”を感じる。
ズレているのか?≫

変なおっさんにこのメカ蝙蝠…なんなんだよマジで。
俺は髪の毛をことを言われ、思わず叫んだっす。

「ズ、ズレるってなんなんすか!!こ、これは自然のモンッスよ!」

【丈乃助、頭上の蝙蝠と会話】

345 名前:竹内 萌芽(1/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 03:00:54 0

ふいに、周囲の光が消えて目の前が真っ暗になった。
またこのやけに優しい『闇』か。
まったく、この”黒”は温すぎて寒気がする

そんなことを思いながら、萌芽はやけに優しい闇の中に真雪の姿を見つけようと目を凝らしていた。

「お?」

ふいに右手が引っ張られる感覚。
やけにふにふにした……たぶん女性の手の感触。

と、ほぼ同時に両手をつかまれ、気がつけば萌芽はうつむけになって倒れていた。

「お……あ?」

まぬけな声をあげる萌芽。

どうやら自分が倒れているのは、床とかそういうたぐいのものではないらしい。
その証拠に、顔に当たる感触は冷たくて硬い床のそれではなく
むしろそれは、なんだかやけにあったかくて、いい匂いがして、そして柔らか……

「え、お!? あ? ……お?」


346 名前:竹内 萌芽(2/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 03:02:14 0

心臓の音が聞こえる。
まるで火事かなにかを必死に知らせる警鐘のように連続でなり響く自分のものと、
そして、目の前の柔らかい何かから聞こえるもうひとつと。

混乱する脳内を、必死に整理する。
まずは、今の状況。自分は今、倒れている。何か柔らかいのの上に。
そして倒れる直前に手を引っ張られた。手を引っ張ったのはたぶん女性。
以上の点から想像するに、自分の手を引っ張って倒したのは、この空間に存在する女性である可能性が高い。

……この空間にいる女性?

一瞬、萌芽の脳裏に自分のペットの赤い道化師の姿が浮かぶ。
いやちがう、あれもたしかに柔らかいが、もっとこう、もこもこというか、うん、とにかくなんか違う。
ということは、残る女性は一人―――

「……真雪さん?」

暗闇に搾り出した声は、細くかすれていた。

一体なにが起こっているのかさっぱりわからない。
自分は今、暗闇の中で同じ年頃の異性に引き倒されている。
「性犯罪者」と、なぜだか先程あの名も知らぬ考古学者に言われた一言が頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。

それに対し「何で大人の人の思考っていうのはすぐにそういうほうに廻るんだろう?」と萌芽は真剣に考えている。
それが現実逃避だと、気付くこともできずに


347 名前:竹内 萌芽(3/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 03:03:18 0

ふと、あたまをなでられた。
まるで、目の前に広がるこの暗闇みたいに優しい手つき。

なぜだか、混乱していた脳内が少し落ち着いた。

「私、暗闇は嫌いなの…不安になるから、だからずっとお喋りしましょ?」

ああ、そういうことか。と萌芽は納得する。
真雪は暗闇がとても怖い人で、だからとりあえず身近にいた自分を引き倒して怖さを紛らわせていたのか。

ほっとすると同時に、なんだか残念に思っている自分に気付いて一体自分は何を考えているんだろうと苦笑した。

「元の世界はどんな所? 元の世界では友達は居たの? この世界は楽しい?
私や飛峻さん以外の人には会った? あなたがこの世界に来て、何番目に私に会った?
『竹内萌芽』、その名前はあなたにとってどんな意味?」

ゆったりとした、優しい声。
本当にこの人は暗闇を怖がっているんだろうか? それにしては余裕のある口調だなあ
そんなことをのんきに考えながら、萌芽は質問の答えを頭の中で整理する。

あまり黙っていると、暗闇が怖い真雪をさらに怖がらせてしまいかねない。
そう思った萌芽はとりあえず思いついたことから話していくことにした。

「元の世界……は、そうですね、『最低』でした。もともとはとても楽しかったんですけど
ずっと一緒に遊んでた友達が、急にいなくなっちゃって……『退屈』だったんです。
その子と一緒だったら、いろんなイタズラにつかえたこの『才能』も、あの子がいなくなっちゃってからはなんだかつまらなくて。
友達は、いたことにはいたんですけどね、家が喫茶兼バーのしょぼくれ顔とか、年がら年中『彼女いるヤツみんな死ね』っていってるやつとか」

「でもやっぱり……遊び相手としては、なんだかものたりなくて」と少し萌芽は声のトーンを落とした。

「それに向こうも気付いたんでしょうね、気がついたら、みんな僕のまわりからいなくなっちゃってました」


348 名前:竹内 萌芽(4/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 03:04:44 0

言ってから萌芽は、いけないと思った。
真雪は暗闇が怖いから自分と話しているのだ。ならこれ以上暗い話題を続けるのはまずいのではないか?
気を取りなおして、萌芽は明るい口調で続ける。

「だからこの世界は、とっても楽しいです。真雪さんや、フェイくんや……”あの人”や、
 いろんな面白い人たちがいて、いろんなイタズラができて、まるでツンと一緒にいたときみたいで」

幼い頃の彼女の呼び名を口にして、先ほど会った佐伯という彼女の顔が頭に浮かぶ。
彼女は今、どうしているだろう?
佐伯零が、自分の幼馴染であるにしろないにしろ、あのツンとまったく同じ空気を持った彼女のことだ、
今まさに、自分では思いもつかないようなとんでもないことをやらかしているに違いない……

―――でも、そのとき彼女の隣にいるのは自分ではない。

「真雪さんに会ったのは、二番目です。一番目は僕をこの世界に呼んだ、今外にいる考古学者さんで、
 それでこの世界を見たとき、真雪さんを見つけたんです。僕と同じくらいの年で、普通の格好してるのに
 ”異質”で……だから、ひょっとしたら僕と同じ様な悩みをかかえてるんじゃないかなって」

胸に湧き上がる寂しさを隠すために、明るい口調で話すよう努めながら萌芽はそう続けた。

「この名前は、『竹の内で萌える芽』そのまんまの意味です。
 竹みたいに硬いものの内側で成長して、やがてそれを突き破る。そんなイメージ」


349 名前:竹内 萌芽(5/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 03:06:02 0

「僕は、生まれ変わりたいんです。あの『退屈な世界』にいたころの自分から
 繭を破って姿を変える蛾みたいに。それで、思いっきりどギツい模様の羽を広げて、空を飛ぶんです。
 そしたら、ひょっとしたらあの子も、僕を見つけてまた会いに来てくれるかもしれない、そんな気がするから」

そう言って萌芽は、少しだけ真雪の胸に顔を押し付けた。
この寒気がするような、他人の優しい温かさもそんなに悪いものではないのかもしれない。

ちょっとだけ、本当に、ほんのちょっとだけだけれど

―――あの子のいない寂しさが、少しはまぎれる気がするから。

ターン終了:
【精神世界で真雪とお喋り。現実世界で変化はたぶん無し。】


350 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 18:38:13 0
>>317

突きつけた拳銃の照星の向こうで、襲撃少女が相好を歪ませる。
こちらに向かって投げつけてきた折れたナイフの残骸を防ぐのと、少女の双眸がサングラスによって隠されるのは同時。
刹那が経過する。タチバナは、棒を飲んだようにその場で立ち往生していた。空気がセメントになったかの如し硬直。

「――!これは……参ったね、指先一つ動かない。そのサングラスの文明かな?」

>「よくも……あたしのものを壊したね……?」

少女は答えず、ゆらりと腕を振り上げる。その手に握られているのは、どこから出したのか長い曲刃を持つサーベル。
断ち切りに優れたそれは、そのまま振り下ろすだけでタチバナの頭蓋など容易く開花させるだろう。

>「あんたが悪いんだから……ね!」

神に祈る暇も与えないまま、無慈悲にもその断頭刃は打ち下ろされる。
唐竹割りの軌道は、決めポーズのまま斜めに固まったタチバナの右肩から左脇を切り捨てる袈裟斬りとなって叩き込まれた。

――鈍い、肉を打つ音。
骨も肉も皮も布も全て纏めて叩き切れる重量と切れ味を誇るサーベルは、しかし肩口のスーツによってその刃を阻まれていた。
タチバナはいつもの能面顔に若干の喜色を滲ませて、それをキメ顔に変えて言った。

「命乞いもさせずに動きを封じて即刻処刑か。いやはや、卑怯とは言うまいよ。ここは戦場で、君は真っ向から僕とかち合った」

硬直を強要するサングラスの文明効果は今だ持続中で、タチバナは瞬きと呼吸以外の一切を封じられている。

「そう、そこが大事なとこだよ。君の攻撃は二回目で、今度は不意打ちじゃあない。虚を突かれたか否かには、戦闘における決定的な差異がある。
 わかるかい?攻撃される側の『臨戦の有無』だ。何が言いたいかというとだね、――君の襲撃を知った時点で、僕は既に対策を講じている」

一度目は不意をつかれ、幸運に助けられる以外に活路は無かった。
だが、二度目は違う。臨戦態勢を整えた状態で刃を交えるならば、攻撃に対する防御が十全に可能だ。

タチバナの左腕は、だらりと下がった状態で固められている。
その手には、一本の万年筆が握られていた。ペン先からは極彩色の曳光。スーツの裾端に同色で文字が書かれていた。

――『超硬い』

「『一筆New魂《セカンドスペル》』……君が僕の動きを封じるより先に、スーツを『超硬いスーツ』に改名した。
 とはいえ衝撃はそのまま僕の肩に叩き込まれるわけで、いやはや、すこぶる痛いね」

衝撃によって傾いたタチバナの身体はやはり指先一本動かせないまま、少女の方へと倒れこむ。
抱きつくように、彼女の肩へタチバナの顎が引っかかる形でもたれかかった。

「千日手だ。僕はこのまま動けないが、超硬い僕のスーツは君の攻撃を完膚なきまでに防ぎきる。この距離じゃ首も落とせない。
 そして僕は、一度喰らいついた相手が女の子ならば例え五体が千切れ内蔵弾け飛ぼうとも密着し続ける自身がある」

初対面の少女に正面から首の力だけで張り付き続ける変質者は、しかしそのパーソナリティに似合わぬ不敵さで、宣った。

「休戦しよう。僕らも迷ってここへ来た。幸い両者ともに痛み分けだしね。こちらに攻撃意志はないから、この拘束を解いてくれないかい?


 ――――さもなくば君の臭いを嗅ぐ。一片の欠片も残らず嗅ぎ尽くす」


【サーベルを硬化させたスーツで防御。体臭の貞操を人質に休戦を提案(強要)】

351 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/05/20(木) 23:01:51 0

>>241
「ごめんね」

それだけ聞こえて、強い衝撃が胸に走った。

――あれ?
――何、これ

意識は明確に動いていた。
角を曲がった瞬間、鉢合わせた人物は容赦なく持っていた凶器を突き立ててきた。
そこまで冷静に理解して、なお大丈夫なのは……

(服? が)

先ほど壁からめりだそうとしていた、小さな女の子の顔が見えた気がした。
極めて一般人である皐月は、それでも一度体を床にバウンドさせ、その衝撃にむせこんだ。
ダメージというダメージはたいしたことはない。
無論、アクセルアクセスの防護のおかげだが、皐月は困惑していた。

(刺され、た?)

攻撃の意思を持って、殺すつもりで、躊躇なく。
実際、初めて身に降りかかった殺意に……いや、殺意もなかったかもしれない。
ただ、単純な攻撃を行われたという現実に対して、身動きが取れなかった。

352 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/05/20(木) 23:02:47 0
――戦う?
――戦うの?
――やってみろよ

……やだ、違う

――違わないだろ?
――イラついただろ?
――やり返さないといけないと思っただろ?

……まだ、平気
 
――自分の身を守るためだぜ?
――正当防衛だよ
――やっちまえよ、なぁ?

……五月蝿いッ!


353 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/05/20(木) 23:04:36 0
皐月が体を起こすと、そこには、先ほど自分を刺した少女とタチバナの姿。

>>350
>「千日手だ。僕はこのまま動けないが、超硬い僕のスーツは君の攻撃を完膚なきまでに防ぎきる。この距離じゃ首も落とせない。
  そして僕は、一度喰らいついた相手が女の子ならば例え五体が千切れ内蔵弾け飛ぼうとも密着し続ける自身がある」

意識を集中させると、そんな声が聞こえてきた。
何が起きたかはわからないが、状況は均衡していて、タチバナは停戦の交渉をしようとしているようだ。
これ以上何もなければいい――と、どこか他人事のような心地で、言葉の続きを待った。

誰かを傷つけることを是としない皐月にとって、褐色肌の彼女の行動原理はまったく理解できないものだった。
理解できないものは、怖い。
怖いから、触れたくない。
要するに心中にあるのは紛れもない恐怖で、足が竦んでいるだけだった。
タチバナはきっと上手く纏めてくれるだろう――それで、この恐怖は消えてくれる、そう思った。

 >「休戦しよう。僕らも迷ってここへ来た。幸い両者ともに痛み分けだしね。こちらに攻撃意志はないから、この拘束を解いてくれないかい?


 > ――――さもなくば君の臭いを嗅ぐ。一片の欠片も残らず嗅ぎ尽くす」

一度起こした体を再び床にぶつける羽目になった。

「貴方って言う人は徹底的にどこまで変態なんですかああああああああああああああっ!」

そして脊髄反射で叫んでいた。
がばっと立ち上がって、そしてはっと気がつく。
今の言葉で相手の目はこちらにも向いただろう。
自分が口出ししたことによって均衡が崩れたかもしれない。
状況を悪化させることだけは避けねばならない――。

でも怖い、どうしよう、次、また、近寄ったら、何かされるかもしれない。

皐月の頭の中にはそういった問題がぐるぐると回り、無意識に手がロザリオに伸びていた。
それは神に祈る時の仕草でもあるし、焦った時によく行う癖のようなものだ。
ふと、手が硬い鉱石質の何かに触れる。
当然のことのように、皐月はそれをぺり、と引き剥がした。
手の中で自然に形状を変えていく結晶に、何の疑問も抱かず、目の前の事態に意識を集中させる。

――――ついて来れるか

ああそうだ。
怖がってるだけじゃ、足手まといのままなんだ。
そう思った瞬間、ふと心が軽くなった。
状態はタチバナのおかげで拮抗している、なら、自分にも出来ることはあるはずだ。

「あ、あの、これ……」

どこからやってくるか、皐月本人も知らない《結晶》
それは皐月にとって気にしたこともない、あって当然の物体で。

「これっ、差し上げます、だから……このビルに閉じ込められている人を助けるの、手伝ってくれませんかっ!」

昔から、お守りとして、人に渡してきたものだった。
皐月が差し出した手に乗っているのは、数センチ程度の、結晶体。
ただそれは自らぼんやりと光って、美しい、価値のある宝石に見えるかもしれなかった。

【ゼルタに手伝いを求めてみる】
【結晶1→0:ひっぺがした】

354 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 00:22:17 0
飛峻の放った渾身の、もとい目覚めの一撃は横からさし伸ばされた小さな手によって受け止められた。

「いっ……た〜い! もう、少しは手加減してあげなよ! 嫌われちゃうよ!」

触手の一本に着地し声の方を見ると、先ほどまで三浦の傍らに居た少女が飛峻を見下ろしていた。
足場も何も無い空中に仁王立ちで。

(空に……浮いている?)

軽身功という技がある。
己の重さを限りなくゼロに近くすることにより細い小枝を足場にしたり、垂直の壁を駆け登ることを可能とする術だ。
飛峻が触手の一本を足場として使用できているのもこれを用いているからである。

しかしそれとていかに研鑽を積もうとも何も無い場所に立つことなど出来無い。
それを目の前の少女は事も無げにやってのけているのだ。

「まあいいや! とりあえずお兄さん、あーそーぼー!」

否、立っているだけでは無い。
まるで翼でも生えているかのように空中を楽しそうに走ってくると、飛峻の頭をサッカーボールよろしく蹴りつけてきた。

「遊ぼウ?ちょ、待テ。何をするつも――」

思いのほか鋭い少女の蹴りに慌てて後ろへと頭を引く。
恐ろしい風切り音とともに一瞬前まで頭があった位置をつま先が通り抜ける。
本来空中からの攻撃というのはハイリスクハイリターン。
体重を乗せやすいため当たれば一撃必倒も可能だが、避けられれば致命的な隙を生むこととなるからだ。

だが少女の攻撃にはそれが無い。
蹴り抜いた脚を起点に空中を駆け上がると、猫の如く反転。
勢いを利用した回し蹴りが再度、飛峻に襲いかかった。

355 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 00:22:58 0
「ちぃッ!」

突き出した腕で上へと受け流す。
腕に伝わる衝撃は少女の見た目に反し重く鋭い。
それが全て飛峻の頭部を狙って飛んでくるのだ。
避け、あるいは受け損ねてまともに喰らおうものならば、今なお眼下に広がり続ける死海に向けて一直線だろう。

(それだけはご免被る……)

休み無く襲い来る蹴り脚を捌きながらげんなりと溜息を吐く。
無数の唇が蠢く血だまりに飛び込もうものなら結果は推して知るべしだろう。

そしてそれが飛峻が攻勢に移れない理由。
実際少女の攻撃がいかに鋭く、武術の常識を超えた変則的な軌道であろうとも反撃の手段はある。

例えばカウンター。
飛峻が不安定な足場にも関わらず、被弾していないのは少女の攻撃が読み易いからである。
虚を一切交えず、頭部のただ一点のみを愚直に狙い続けているのだ。
それはそれで正直どうなのかと問いたくなるが、子供は時として残酷なものなのかもしれない。

ともかく空を自在に動き回り、一撃離脱を繰り返そうが攻撃の瞬間は確実に射程範囲内なのだ。
後は交差の瞬間に点穴を突くなり、打撃を入れるなりすれば撃退可能なのだろうが――

(下手するとアレの中に墜落しかねん)

故にこのプランは却下。年端もいかない少女を生贄に捧げるのは流石に寝覚めが悪い。
残るは大人と子供の体力差を利用して消耗戦を仕掛ける位だが、時間が掛かってしまう。
真雪の状態がわからない以上、時間を引き伸ばすのは危険だ。

そんな飛峻の逡巡を知ってか知らずか、それとも単純に相手に反撃する術が無いと思われたのか、少女の攻撃は益々苛烈さを増していく。
捌き、受け流す手も相応の速度に加速していく。

「えぇイッ!いい加減にしないと捕まえてお仕置きヲ……捕まえル?」

防戦一方を余儀なくされ、溜まりに溜まった苛立ちから思わず口を吐いた一言。
だがその中に飛峻は攻略の糸口を見出していた。

下から掬い上げるように振りぬかれる少女の蹴りを脚で受け、勢いを利用し大きく跳躍し別の触手に飛び移った。
一旦仕切り直す形を取ると片手を少女へ差し出し、指の動きで「かかって来い」とジェスチャーを送る。

少女がこちらへ駆け出すのを見届け――

「さテ……。お父さんに教わらなかったカ?」

両腕を後ろに回し――

「知らない大人と遊んじゃいけなイ。ト」

肉薄する少女の蹴りを避わしざま、脱いだ上着を覆い被せる。
三浦が萌芽相手にやった動作をアレンジしての再現。

「捕まってしまうかもしれないからナッ!」

飛峻はそう言い終えると少女に被せた上着の袖を結び、拘束を完全なものとするべく反撃に転じた。

356 名前:尾張証明 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 02:25:19 O
>>315
「さて……君達も、まさかこの状況で逃げるとは言い出さないだろう?
 もっとも、それならそれでありがたいんだけどね。君達は『補足』≪ストック≫してあるし、
 何よりその少女の……嘘を見破る能力だったかな? それは面倒だ。ここで始末させてもらうよ」

横を向く事はできない。だが気配は感じた。兎は今、とても酷い顔をしている。
足元の肉が締め付けを強くするのに気付きながら。銃の照準を三浦の眉間から外さないよう、左の脇を強く締め
る。
肉から漂う、鼻に付く臭い。それは摘発したスナッフフィルムの撮影場の香りか、拷問部屋の椅子にこびりつい
て離れない粘ついた臭気か、三センチ前から吹き飛んできた同僚の一部だったものの赤い、ざらついた匂いか。
どれも嫌な思い出だ。ひょっとしたら、自分を構成しているものはそれだけなのではないかと言う焦燥に駆られ
る。後悔の中で、ありもしない自己の理想を信奉する。

「そんなに睨まないで欲しいね。さっきまで、君達は僕を殺す気だったろう?
 自分は殺すのに、身内が殺されるのは許せないだなんて、勝手が過ぎると思わないかい?
 そうだな。言うなれば、これは『ゲーム』だよ。お互いの目的の為に、ちょっと殺し合うだけさ。
 クリア条件も至って単純。互いに殺し、殺されなければいいだけじゃないか。何、そもそも大事な目的の前
には、難関が付き物だ」
「それじゃあ、始めようか」

そう言って、三浦は足元の肉塊を蹴散らし、こちらに向かって近付いてきた。

(銃を向けても意味がない、か)

銃を向けたら、通常選択権は向けた方に有るものだか、そもそもここでは常識に囚われてはならないのか。
勿論ブラフと言う可能性はあった。だがもしそうで無かったら?或いは、もしそうであったとして。現状、動け
ないこちらが圧倒的に不利だ。

(李は、まだか)

注意を向けるまでもない、真雪を起こすのには失敗した。李は足止めを食らっている。刻一刻と、状況は悪くな
っている。最早意味のない公算が強くなっても、状況を少しでも維持するために、三浦に照準を合わせ続ける。

実は一つだけ手があった。状況を幾分ましな物にする手が。だが誰だって間違ったことはしたくない、間違いを
含んだことは。それにその手は、どう贔屓目に見てもあらゆる意味で博打だった。

(……言ってられんな、そんな事は)

息を吐き、自動小銃から手を離す。三浦は怪訝そうにこちらを見た。

「ッ!!何を…ッ!!」

兎が叫ぶ。いいぞ、と俺は心の中で呟いた。悪くない、もっとこっちを見ろ。
俺は自動小銃から離した両手を
小さく挙げた。油断、その瞬間に僅かに生まれた油断を突き、胸元のホルスターからM10を引き抜き、撃鉄を起
こし、

「!!もう三センチ左ですッ!!」

体を思いきり捻って、後ろに向けて引き金を引いた。
結果を知覚する前に、突如両足を拘束していた力が消え失せ、バランスを失う。倒れそうになりながら踏み出し
た足は、もう何も踏まない。部屋中に撒き散らされていた臓物は綺麗に無くなり、中心だった所に居るのは、太
ももを撃たれた痛みに蹲る真雪のみ。
自動小銃を構える暇などない。
体勢を立て直して、そのままM10の残りの銃弾を、三浦に全て撃ち込んだ。

【尾張→真雪:鬼畜目覚まし発動、これはひどい。訴えたら勝てるレベル
尾張→三浦:意味無さそうだと思いつつ時間稼ぎ攻撃】


357 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 15:08:29 0



竹内の言葉を聞いて、私は少しだけ罪悪感を持った。
生まれ変わる為の名前、それを嘘だと言われたら誰だって不愉快だろうね。
竹を破って成長し、繭を破って羽ばたく一匹の蛾。彼の為に私は何が出来るんだろう…どうせ何も出来はしないだろうけど。
心の中で芽生えた毒の辛さに、溜め息を吐いた。
胸に抱く体温に安心する。心の奥底で生まれる不安の棘が和らいで、自らを否定する言葉を否定した。
「ごめんね…」
小さな声で竹内萌芽に謝罪する。許すとか許されるとかの問題じゃなくて、謝りたいから。

私が闇が嫌いなのは、私が全てを疑いだすから。
「あなたのその悩みは、私は分からないわ…私とあなたは違うもん。
私は人の悩みに『分かるよ』なんて嘘は言えない、だって私はそれを言われたら腹立つもの」
闇の中で、萌芽の頭が動く。多分、頭を上げたのだろう。
「理解する事だけが寄り添う事かしら?
人の心は完全に理解はできないから、自分の基準でみんなと寄り添えられればそれで良いと思う。…関係ないね、この話」
主観だらけで散漫な思考に、私は小さく笑っていた。


358 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 15:09:09 0



ぱりん
真雪と萌芽を覆っていた暗闇が、突如割れる。
胸のペンダントの鎖が切れ、床へ落ちた。





359 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 15:10:24 0



「っ――あ、ぐ」
目覚めた真雪がまず感じたものは、太ももの一点から感じる熱さ。次に、そこから転じた痛みだった。
金切り声より更に高い、超音波のような声で小さく叫ぶ。
「い゛、いだい、いづうぅ…っ!」
目眩がするほどの痛みに、自らの太ももに視線をやる。スパッツが傷口から出た血液を吸っていた。
「な、にが…」
頭を動かし、状況を確認する。

ここは気絶する前までいた階段ではないらしい。勿論、先程までの暗闇でもない。
そんな場所で、尾張と兔が科学者風の男性と対峙している。もう1人青年がその側に居るのだが、真雪は幻覚だと処理した。
後ろを向くため体を捻る、その動作だけで太ももに激痛が走る。
それに耐えて振り向くと、飛峻が少女を取り押さえたところだった。そして、近くに萌芽が居る。
つまり、真雪は戦闘の真っ只中に居るのだった。

「ああ、なる程…」
痛みに霞む目をこすり、少しずつ、少しずつ壁端に這いずる。壁を背もたれ代わりに起き上がり、息を整えた。
「つまり…これは、流れ弾…ね…?」
呟きながら傷口に手を添え、状態を確認する。銃弾が入ったままらしい。
本来なら銃弾を取り出さなければならないのだろうが、今はそんな事をする余裕も道具も無い。
仕方無く羽織っていたカーティガンを脚に巻き付ける。何もしないよりマシだろう。

脚が動くか確かめてから、真雪は尾張達の目的に思い当たる。
(そういや、ユッコが言ってたっけ、任務が有るとか無いとか…)
痛みの為、ぼやけた思考で、真雪はやっと気付いた。
(そうだ! 時間!)
左手首の時計を確認して、時間が無いことを知る。
見知らぬ所に放り出されたことを考えるなら、目的地までのルートも変更しているだろう。
誰か、誰か最上階に行かなくてはいけない。そしてそれが出来る味方は、真雪だけ。
(私が、行かなきゃ)
そうと決まれば行動しよう。
血を吸っているスパッツを指先で撫で、血を付ける。それで先に行くことを床に書いた。
激痛が走る太ももを無理やり動かし、そっと立ち上がる。

(行動は慎重に、かつ迅速に)
足の痛みに歯を食いしばって、真雪は最上階に行くべく走り出した。
【萌芽とお話してたら太もも撃たれた。
→起きたら戦場真っ只中。
→取り敢えず目立たない場所に避難。
→足を何とかしてから血文字で「先に行ってます」。
→今再びの『真雪は にげだした!』】
【太ももに当たったのは流れ弾と判断】
【五本腕の人? 幻覚でしょ?】

360 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/05/21(金) 16:42:03 0
アフロ早くきてぇええええ

361 名前:三浦啓介 ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 17:52:47 0
> 「三浦六花だな。確認した・・・」

露出男が自らの名前を呟いた事に、六花は眉を顰める。
名乗った記憶は無い。
ならば何故、この男は自分の名を知っているのか。
彼女の意識が解に至るのは早かった。
即ち、この男は『未来』から来たのだと。

再び、彼女は思考する。

> 「……すまん、壊れてるみたいだ」

> 「別に問題ないよ、おチビさん。こんなこともあろうかと、僕のパソコンにビル内の地図をインプットしといたからさ!
> 僕って天才!」

「……別に壊れてても問題無いわ。だって北が知りたい訳じゃないでしょ?
 ところでクソガキちゃん。見た所オタク臭い格好してるけど、『不思議なダンジョン』ってご存知?」

一旦カズミに向き直り、六花は問い掛けた。
言葉に皮肉と侮蔑の響きを多分に封じて、軽く顎を上げて言葉を紡ぐ。

「一体何処から地図を手に入れたか知らないけど、その地図を活用したいならついでにタイムマシンが必要よ。
 あぁそうそう、ついでにもう一つ聞いておきたいんだけど」

言葉尻に不穏の気配を放たせて、彼女はカズミの足元を蹴りで掬い上げた。
体勢を崩した彼の胸を、二本の指先で軽く小突く。
平衡を失ったカズミは両足も床から離れ、後ろに倒れていく。

そうして彼は尻餅をつき――何が起こったのかと
驚愕の表情を浮かべる彼の顔面を、六花は追い討ちとして蹴飛ばし、踏み締めた。
とは言え一応、眼鏡が割れて鼻血が出る程度の力加減にはしていたが。

「……おチビさんって、誰の事かしら? 私の足元にいる誰かさんの事って言うなら、納得出来るんだけど」

足元のカズミはそのままに捨て置き、今度は六花は警備員の二人へと振り向いた。

> 「ビビったが、どうせ文明の力か何かだろ…」
> 「バイト代貰う為にも、…いや貰う為だけだが、通さねぇ」

「……そちらにもお尋ねしとくわ。貴方達のバイト代って、病院の治療費より高いの?
 そうじゃないなら黙っていた方が賢明よ。酷い目くらいじゃ済まないから」

邪魔な連中をさっさと牽制し、再度彼女は露出男に視線を運んだ。
『未来の存在』と思しき男に。

「……多分ね、この男はお父さんの邪魔になると思うの。
 だからちょっとお話と、事と場合によっては交渉が必要なのよね。
 テナード、これ。『上位互換』でお父さんの元に行けるようにしてあるわ
 そのチビガキと、周りの面々と相談しながら、先に行ってて頂戴」

言い終えるや否や、六花は露出男――101型へと飛び蹴りを放った。

【TRPGの】ブーン系TRPGその2【ようです】

( 新着 : 0 件 / 総件数 : 361 件 )