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【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!W【オリジナル】

1 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2011/11/28(月) 22:53:07.53 0
前スレ
【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!【オリジナル】  レス置き場
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1306687336/

過去スレ
『【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!【オリジナル】 』
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1304255444/


避難所
遊撃左遷小隊レギオン!避難所
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1304254638/

まとめWiki
なな板TRPG広辞苑 - 遊撃左遷小隊レギオン!
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/483.html

2 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/28(月) 22:54:03.58 0
>『うー、えーと……まず我々はチームですが、常に全員で行動する必要はないと思います。
>「役回り」上、私とハンプティさんが離れてしまうのは不自然ですので、お二人で先に拠点を確保してください』

>『あの立会いが終わった後に、感服したとか適当な口実で話しかけて酒場へ誘って、
>向こうがどこを拠点に活動するつもりかだけでも聞いておきましょう。
>出来れば「面識がない」と向こうにも装ってもらいたいところですが……』

『了解したぜ……つっても、俺そういう演技とか苦手なんだよなぁ』

唸る様にして思い悩んだかと思えば、その直後にファミアはチームの面々に指示を飛ばしていく。
その指示内容は安全を確保する事を前提としたものであり、勇猛であるとはいえないが、
人材という財を損ねない事を求められる指揮官として、優秀なものである事は確かであった。
フィンはそんなファミアの言葉に特に反論する様子も無く、
逆に関心したかの様に目を少しだけ見開くと、頷き同意の意を見せた。

また、先に奇しくもフィンと意見を違えたマテリアも、ファミアの意見やフィン自身に
別段不満は出さなかった。普通は対立する意見を出されればその相手に悪印象を覚えるものだが、
マテリアは逆にそれを許容する懐の大きさを見せ、抑えきれぬ自信を孕んだ言葉を念信により伝えてきた。
それはとても頼もしく力強い言葉であったが……その言葉を聴いたフィンは、
魚の小骨が喉に引っかかったかのような嫌な感覚を覚え、首をかしげる。

『んー……。なんか、今マテリアが言った言葉、どっかで聞いた事ある様な気がするんだよなぁ。
 ……確か、何年か前に読んだ英雄譚で、正体不明の敵に攻撃を仕掛けたエリート騎士が……』

首をかしげるが、何年も前に読んだ本の事など完全に覚えているわけも無い。
やがて思い出す事を諦めたのか、人差し指で頬を掻き……

>『はい、初対面を装って欲しい旨、伝えておきましたよー!それでは、私はそろそろ宿の確保とお買い物に行ってきますねっ!』

『って、すげーなマテリア! ははっ、了解したぜ!
 お前のお膳立て、無駄にはしねぇ!俺も全力で演技しながらクローディア達に接触してみせるぜっ!!』

直後に、マテリアが行った橋渡しを聞いたフィンは、驚きを全身で表現しかけ、
ハッとしたかの様に冷静を装い、言葉だけ快活にそう言うと一度ファミアの方に視線を向ける。
思い浮かべるのは、自身が幼い頃に家に仕えていたバトラーの言動。

「あー、ごほん……では、僭越ながらお嬢様の意を彼の者達に伝えさせて頂きます」

そう言うと背筋を「しゃん」と伸ばし、普通のバトラー以上に
バトラー然とした態度でクローディア達に近づいていく。
……こうして見ると、所何時ものフィンに戻ったかの様に見えるが、所詮は空元気。
それでもフィンは、いつもを装い状況を開始する。

『おうっ、祭りが始まったら色々食いまくろうぜ!』

ちなみに、スティレットの職業意識の無い台詞への返事を
忘れなかったのは、フィンが素で祭り等を好むからである。

―――――


3 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw :2011/11/28(月) 22:56:08.90 0
パチ、パチ、パチ

丁寧過ぎる程に丁寧な拍手をしながら、クローディア達の元へと近づいて来たのは、
先ほどナーゼムが武の心得があるとした内の一人。バトラーであった。

「いや、実にお見事です。私、感激致しました。
 さっきの筋肉の動きと軌道。其処の女も、子供も、並みの手腕ではありませんね」

オールバックに固められた蒼の髪。黒い使用人の衣装で身を固めたその青年は、
どこか憂いを秘めたかの様な笑みを浮かべ、やがて彼らまであと数歩という所まで
距離を詰めると、そこで一礼をしてみせる。
もしもバトラーの素性を知っている人間がいれば、この時点で別人だと判断しかねない程の別人っぷりである。

「失礼、自己紹介が遅れました。俺……ではなく、私は、えー……フィーンと申します。
 職業はバトラーです。この度は我が主であるお嬢様が皆様の演舞に感動なさり、
 是非にご挨拶をなさりたいと仰いましたので、お取次ぎをさせて頂きました。
 ではお嬢様。どうぞこの者たちにお言葉を」

しかし、所詮はフィンの演技である。無理矢理に使う敬語は怪しく、
妙な胡散臭ささえ感じさせる物に仕上がってしまっていた。
それでも……貴族の系譜という経験があったおかげか、執事の「よう」なものとしては振舞えていた。

【フィン、クローディア達と接触の後、ファミアをクローディア達の元へ誘導】

4 :ロン・レエイ ◇1AmqjBfapI:2011/11/28(月) 22:57:17.72 0
「(中々に、良い腕じゃないか。ダニーとやら)」

ふ、と小さく息を吐き出し、頬の汗を拭う。冬の寒さはとうに消し飛んだ。
小鳥が囀るような、外野の騒がしさも気にならない。
ただ――先程から感じている幾らかの『奇妙な視線』を除けば、だが。
7つか、8つか。明らかに一般人とは違うそれが自分達に向けられていると感じていた。
いやしかし、敵意は感じない。気にするまいか。
折角「盛り上がっている」ところなのだ。集中力を損なわれては困る。

「さあ、サイセンだ」

白い息を残し、三度その巨体に接近する。
小刻みに撃ち出されるダニーの拳を、ロンは足の裏で蹴って返す。
踊るように回る視界、現れては消える人々、そしてダニー。
そんな折、そろそろ決めようぜとダニーが観客に聞こえぬよう小声でそう言う。
ロンは黙って頷くが、はてと思考を一瞬止めた。どうやって「締め」ようかと。

再三言うが、ロンは(どんな見た目であれ)女性に手を出さない主義だ。倒すなどもっての他。
ならば、ここでは彼女に無理なく倒されるのが一番だろう。

「(カちはユズるぞ、ダニー)」

小声で返したその時、ナイスタイミングでクローディアからお達しが掛かる。
途端、ダニーの振りが大きくなった。ロンもそれに合わせて蹴りの数を増やす。
そして、決定的瞬間が訪れる。
小柄な体躯と柔軟性に徹底したロンのしなやかな蹴りが、見事ダニーに決まった。
てっきり避けると思っていたもので、ぎくりと一瞬動きを止めてしまった。

「あ……」

直後、圧迫感とともに視界が暗転。カウントダウンと歓声が聞こえる。
ダニーに下敷きにされ、自分の負けが確定したと理解したのは、ダニーに手を差しのべられてからだった。
その大きな手を掴むと、ダニーにならって観客に手を振る。
どうやら成功とみていいだろう。ほっと胸を撫でおろし、ダニーの腰辺りを肘で小突く。

「な、な、ダニーはツヨいんだな。ビックリしちまったよ。どこであんなタイジュツ、ナラったんだ?」

初対面の時とは一転、途端に人なつこい態度で接するロン。
パフォーマンスとはいえ、武術で打ち負かされた事、更にそれが女性であったことで、俄然興味がわいた様子。
無邪気に戯れる最中、拍手とともに一人の男が近づいてきた。

「いや、実にお見事です。私、感激致しました。
 さっきの筋肉の動きと軌道。其処の女も、子供も、並みの手腕ではありませんね」

蒼い髪をオールバックに固め、憂いを帯びた笑みをたたえる執事姿の男。
ロンはその笑みの裏を、本能、或いは第六感に近いもので感じ取っていた。
この男、何かある、と。敵意でもなく悪意でもなく、うすら寒い何か。
男はフィーンという名らしいが、どうにも胡散臭い。敬語といい、動作といい、笑顔といい。
パフォーマンスの最中に感じた視線は彼らだろうか。

「………………………………」

ロンはダニーの後ろに隠れると、どんぐり目をきつくさせてフィンと後方のお嬢様を睨みつけた。
傍から見れば、知らない大人を見て人見知りする幼子にも見えることだろう。

【フィンさん達に疑心暗鬼】

5 :ノイファ ◇QxbUHuH.OE :2011/11/28(月) 22:59:00.14 0
北国特有の寒気をはらんだ風は、一触即発の張り詰めたそれへと変わる。
立役者は二人。一人はノイファも知る人物であるダニー。

>「レエイ家家長、ロン・レエイ――オしてマイる」

そしてもう一人はロンと名乗る、クローディア達と公園に現れた見慣れぬ装束の少年だった。
その凛とした名乗りを切欠に、思い思いの思案や喧騒に興じていた園内の視線が、一点へと集まる。

(一緒に来たといっても、仲間という雰囲気ではないの……かな?)

目を向けた人々の息を呑みこむ様子を余所に、唐突に始まった打撃戦を眺めながらノイファは思考。
例えばクローディアの機嫌を損なったとか、クローディアの虫の居所が悪かったとか、そういった類の犠牲者なのかも知れない。
可哀想に、とロンを眺める視線に生暖かい憐憫の色が混じる。

(それにしても、ダニーさんの強さは相変わらずですが、相手もかなりの技量のようですけど――)

圧倒的な筋量を背景に相手を圧し込もうとするダニーに対し、ロンの動きはまさに"流水"とでも表現すれば良いだろうか。
フィンですら手を焼いたダニーの重撃の悉くを、掴もうとした指の間から水が零れ落ちるが如く、するりとするりと回避している。

(――ああ、なるほど)

と、ここで、ノイファは先刻までの考えを振り払った。そう、二人は本気で対立しているわけではない。
ダニーの動きはウルタールでの時に比べれば幾分か大雑把だし、ロンの方も明らかに致命打を放つことを避けている。
何より、二人の表情には険しさが見て取れない。

つまり目の前で繰り広げられているのは一種の演舞ということなのだろう。
裏でクローディアも一枚噛んでいるとすれば、"宣伝"と言い換えても良さそうだ。
湖底窟で確かダニーが道場がどうとか言っていた気がするが、そのマネージメントでも始める算段なのだろうか。

>「アイレル女史、クローディアと彼らの関係をご存知なのですか? ――」

セフィリアからの念信を受け、知らない内に口許へ当てていた指を離した。
思いの他、思考に没頭していたようだ。

『ええ。用心棒とその雇用主、と言ったところです。ロンと名乗った少年も同様と考えて問題ないかと。
 確かに良くも悪くも目立つ方々ですから、見つけるのは容易でしょうけど。』

説明に苦笑が混じる。
個性的ということならば、まさにその代名詞とも言える遊撃課に比べても、なんら遜色はないに違いない。

『ですが、全員実力は本物ですよ。
 見ての通りあの二人は武術の達人ですし、ナーゼムさんは鼻が利きそうです。獣だけに。』

気配に人一倍敏感そうなのが三人。
生半可な尾行や監視では、瞬く間に見つかりそうなものなのだが――

>『彼らの足音と心音を覚えました。「聞き耳を立てる」くらいなら、いつでも出来ますよ』

――それはあっさりと解決した。
さらりと言ってのけたのは新入隊員のマテリア。
無論、誰でも出来ることではない。否、例え諜報術のエキスパートでも到底出来はしまい。
彼女にしか出来ない芸当だ。

『了解しました。それではクローディアさん達は、ファミアさんのチームにお任せするとして、
 こちらはこちらで行動に移るとしましょうか。』

そう告げて念信を締めくくると、ノイファは胸の前でぽんと、小さく拍手を叩き立ち上がる。

6 :ノイファ ◇QxbUHuH.OE:2011/11/28(月) 22:59:44.05 0
>『お、お祭りが夕方から始まるのでありますよね?――』

ベンチから腰を上げた瞬間を見計らったのように念信が届いた。
声の主はフランベルジェ。ノイファの口許がひくりと歪む。
先程、他の会話に混じってえらく不穏な言葉を口走ってくれたようだが、ノイファの耳はしっかりと捉えていた。

(…………お祭りで、騒ぐ?)

一体それは任務とどう関係するのだろう。
そもそも"バレない"ようにと伝えたのに、思いっきり目立ったら意味がないではないか。
楽しそうに遊んで、贅の限りを尽くして、若い娘の関心はいつだってそれだ。
大強襲からこっち、人が影に隅に帝都の端々に目を配り、悲劇の芽を摘むことに躍起になっていることなどお構い無しなのだ。
朝も夜も、どんな些細なことでさえも、出向いては空振りに終わり、デマと判っては胸を撫で下ろす。
東奔西走。小さなことからこつこつと。雨にも負けず嫁にも行けず――

(――はっ!?いやいや、そんなことはどうでも良いのですよ)

ぶんぶんと頭を振って、脱線しかけた思考を隅へ。
職業意識ゼロどころか、ややもすればマイナス方向一直線な叫びに、胸の裡に昏いものが芽生えかけはしたが、発想自体は悪くはない。
古来より木の葉を隠すなら森の中という通り、人がその身を隠すなら群衆に紛れてしまうのが一番良い。

それに、諜報術を修めたユーディなら拠点に籠もりっきりなどという愚を冒しはしまい。
不自然な行動は、それだけ人の噂に上ることになりかねないからだ。

『……目立つのは極力避けたほうが良いと思いますけれど。
 ですが相手もこの街に溶け込もうとする以上、夜祭りを避けるのは返って不自然でしょうし、出てくる可能性はゼロではありません。
 ですので、まあ、捜査ということでしたら十分意味はありますね。』

そして祭りといえば楽しむものだ。
顰め面で歩いていたのではそれこそ不自然極まりないだろう。

『本来の目的を見失わない程度に楽しむとしましょう。
 それでは、各自宿を手配した後、時間になり次第夜通りに集合ということで良いでしょうか?
 定期報告もその時ということで。』

ノイファは念信を終えると、ロンを押さえ込んだまま天に向けて指を突き刺すダニーに背を向け、公園を後にする。

7 :ノイファ ◇QxbUHuH.OE:2011/11/28(月) 23:00:47.28 0
「うっ……これは、大分ひどいものですねえ。」

鼻を突き刺す黴の匂いにノイファは眉をひそめる。
自分の宿の手配したその足で、管理員から聞いていた神殿を訪れたのだが、彼の言葉が嫌味でもなんでもなかったことを痛感していた。
どう贔屓目に見ても掘立小屋の、音だけはやたらと重厚な扉を開いて最初に出迎えてくれたのは、もうもうと沸き立つ埃。
人の手が入らなくなって随分と経っているようだ。

「はあ、なんと嘆かわしい。せめて出て行くならシンボルくらいは持ち出せば良いものを……。」

太陽神としては見る影もなく汚れ果てた聖像を見上げ嘆息。
果たして拭いた程度でどうにかなるものだろうか。

(まあでも、誰も居ないのは逆に都合が良いですけど)

実に不敬ではあるが、いざという時の第二の拠点として、だ。
その為に必要な物資は街に出た際にでも、少しずつ準備すれば問題ないだろう。

「まあ、その時が来なければ来ないで御の字ですからね、っと。」

ぷつりと髪の毛を数本引き抜き、扉に挟むと、ノイファは"夜通り"へ向け歩き出した。


【宿の手配を済ませ夜通りへ 】

8 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/28(月) 23:01:34.08 0
寒風が吹きすさぶ公園で、視線を独り占めにする巨女と少年
私としても興味がない、といえば嘘になりますが今は撤収作業を優先しましょう
しかし、それでも強い人間を目端に捉えてしまうのは私も騎士の端くれだからでしょうか?

正直に言うと作業にあまり集中出来ない
それくらい、彼らの動きが美しかったのです
そう、申し合わせたように……
演武と言えばいいのでしょうか?
とはいえ、演武は精通したもの同士でないと美しくはありません
そう言う点から彼らの実力は推し量れるものです
さすが、私

コホン、失礼しました
>『ですが、全員実力は本物ですよ。
 見ての通りあの二人は武術の達人ですし、ナーゼムさんは鼻が利きそうです。獣だけに。』

「そうですね。今回は手合わせしたくありませんね。オフのときにでもゆっくりと戦ってみたいものです
でも、ナーゼムさんとは遠慮したいですね
怖いですから」

ぶるると身震いをしてしまいます
寒いからでしょうか? いいえ、ナーゼムさんの変身後の姿を思い出したからです
あの姿を思いだすと、今でも強烈な獣臭が鼻をつくような気がします

さて、アイレル女史がクローディアを、アルフートさんチームに任せるという念信に、了解と短く返信したところでこちらの準備も完了です
さっそく、調査開始です

>『お、お祭りが夕方から始まるのでありますよね?――』
と、私の出ばなをくじくようにスティレット先輩が祭りにユーディがやってくるはずだと

……ちょっと何を言っているのかわかりません
いえ、私は先輩と違って、優秀な成績で教導院を卒業しましたから
先輩がいったことを言語的に理解が出来なかったわけでも
文法がわからなかったわけでもありません
なぜ、この状況で祭りを楽しむ必要があるのか?
これにはなにか、そう、私のような常識に囚われた人間ではわからない、なにか別の秘策が……
アイレル女史はなんとなく肯定という雰囲気ですので、私がここで反対をするというのもおかしな話ですし……
………………
ッ!そうか!!そう言うことなんですね。先輩!!
私は数瞬、考えを巡らせるとある考えに思い至りました

『スティレット先輩が祭りで目立つ行動をすることで、ユーディを誘い出すということですね!
そのための囮に自らなると!さすが上位騎士です!私には思いつきもしませんでした!」

ふう、危なく先輩をただ祭りを楽しみたい馬鹿と思うところでした
まったく、早計という言葉は今の私のためにあるのでしょうね

『そうと決まれば善は急げです!!私も早速、宿の確保に向かいます!
先輩とご一緒したいと!思いますが
今の先輩の格好は正直、独創的すぎるのでいるだけで目立ってしまいます
隠密を重視する今回の任務的に私まで目立つわけにはいきません
大丈夫です、先輩!そこまで目立てばユーディも罠だと思うはずですよ!!」

私はそう言い残して、貧民街の雑踏に姿を隠しました

9 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/11/28(月) 23:02:54.05 0
「私がこんな部屋で寝泊まりするって知ったら、お母様は卒倒してしまうでしょうね」
自虐的に笑みを浮かべながら、しばらくごやっかいになる部屋を見渡します
ヴィッセンさんの忠告を忠実に守った部屋です
外の貧民街特有のげひた喧噪は少々耳障りに感じます

窓の外に目をやると、少し離れた向いの通りにアイレル女史の掘建て小屋があります
なんともこの街の教会だとか、この寒空の街ではさしもの太陽神様のご威光もあまりないのでしょうか?
それともお金がこの街の神様なのか
貨幣経済は便利ですが、虚を操る危険も孕んでいますからね
なんて、難しいことを考えてしまいます

ここに来るまでに買っておいた武器をさりげなく、ベット脇の小机に置きます
まあ、武器と言ってもただのフォークなんですが
その他の持ち込んだ物はバックの中に入れっぱなしです
いつでも脱出出来るようにです
備えあれば嬉しいなです

さて、準備も整い、祭りに繰り出すことにしましょう
お祭りというものは話には聞いたことはありますが、実際に体験するのは初めてです
勝手もわからず、飛び込んだ私は、とりあえず屋台で売っていたカウカウ牛の串焼きと根菜シチューを買い
ぶらぶらしようと考えました
先輩がやってくるまでは周囲の言葉に耳を傾けるそれぐらいでいいでしょう
それにしてもこの肉は堅くて食べづらいです

10 :名無しになりきれ:2011/11/29(火) 09:31:56.79 0
毟り取られたセフィリアの












 

11 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/11/29(火) 13:55:50.47 0
>『うー、えーと……まず我々はチームですが、常に全員で行動する必要はないと思います。
 「役回り」上、私とハンプティさんが離れてしまうのは不自然ですので、お二人で先に拠点を確保してください』
>『それと病院を、できれば何軒か確認しておいてください』
『病院…?あぁ、取り敢えず了解した』

ファミアからの指令に頷く。
さてどうするかと、周りを眺めながらしばらく思案する。
道路の形状、街の立ち方。
それを記憶していきながら、最良の場所を搾っていく。

>『あ、そうそう、スイさん。アルフートさん達の宿は私が取っておきますね。
 それなりに高級な宿を取るつもりですから、万が一後で探られても問題ないようにしたいですし』
『!それは助かる。感謝する』

マテリアの頼もしい言葉を聞いて、その件は彼女に任せることにした。

――――――

宿の確保も終わり、人混みに紛れながら道を進んでいく。
ちなみに宿の部屋もきちんと指示通りだ。

(ずいぶんとまた…賑やかだな)

そういえばスティレットが祭が何とかと、言っていなかっただろうか。

(人混みに紛れる可能性があるって事か…)

その事を頭の中に留めておいて、ポケットの中に詰め込んだ僅かな銀細工に手を触れた。

「その辺に情報屋が居ると思ったんだけどなぁ…あ、病院発見」

ぼそりと呟いて、病院の名前と位置を記憶してから酒場へ向う。
あぁ、酒呑むの久しぶりだとかそんなことをぼんやりと思いながら。

【宿確保、酒場へ】

12 :名無しになりきれ:2011/11/29(火) 14:05:35.11 0
子供ばっかだな

13 :名無しになりきれ:2011/11/29(火) 19:17:32.60 0
リットン調査舞台

14 :名無しになりきれ:2011/12/02(金) 19:58:12.50 0



ゲプッ





15 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/03(土) 09:14:44.86 0
【スティレット】

スティレットが祭りへの参加を提案した途端、ノイファの身体が体感で二倍ぐらいに膨れ上がった気がした。
もちろん気のせいだったが、正体不明の圧力が彼女の頬を叩いて(イメージ)、意味不明な身震いが起こった。
剣の名門スティレットほどの武人家系ともなれば、もう本能レベルで相手の力量を感じ取れる。
それとこれとはまったく全然関係ないのだけれど、空の背中がとっても寂しかった。

>『……目立つのは極力避けたほうが良いと思いますけれど。
 ですが相手もこの街に溶け込もうとする以上、夜祭りを避けるのは返って不自然でしょうし、出てくる可能性はゼロではありません。
 ですので、まあ、捜査ということでしたら十分意味はありますね。』

それでもきちんと指揮下の意見を加味してくれるあたり、手放しに恐るべき人物ではないのだろう。
というか曲者ぞろいの遊撃課の中ではかなりの常識人である。課長よりかは優しくしてくれそうな。

>『スティレット先輩が祭りで目立つ行動をすることで、ユーディを誘い出すということですね!
  そのための囮に自らなると!さすが上位騎士です!私には思いつきもしませんでした!』

この後輩は後輩でスティレットの妄言をかなり、とても、もの凄く好意的に拡大解釈してくれたようだった。
さりげなく危険極まる囮役に祭り上げているあたりがなんとも腹黒さを醸しているが、スティレットにそこまで高度な感受性はない。

『え?え?……あ、そ、そうでありますよ! こう、こっかあんねいのために自ら矢面に立つという姿勢をでありますね!?』

なんとなくほめられたのが嬉しかったので調子よく話を合わせておいた。
自分の立場がかなり致命的な方向へ横滑りして行っていることに、やはり気付かぬスティレットである。

>『本来の目的を見失わない程度に楽しむとしましょう。
 それでは、各自宿を手配した後、時間になり次第夜通りに集合ということで良いでしょうか?定期報告もその時ということで。』

『了解であります!では!』

形だけは立派な了解の意を示して、スティレットは公園から姿を消した。
仲間のところを辞したあとで、困ったことになった。名門貴族たる彼女にとって、『宿をとる』という行為そのものが未経験だ。

実家にいた頃は諸々の雑務は全てお付きの者がこなしていたし、公務中は詰所が用意されている。
彼女の生活の全てが、他ならぬ他者の全力の支援の上に成り立っているが故に。
この孤立無援という状況は、どんな毒よりもスティレットの首を締めるものになり得る――!!

(……って、宿のとりかたがわからないぐらいでそれは流石に大げさすぎるであります!)

最悪、セフィリアあたりに同衾させてもらえばいいやと楽観的に考えながら、
すると早々にやることがなくなってしまったスティレットは、とにかく仲間と合流すべく夜通りの祭りへ向かう。

16 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/03(土) 09:15:50.02 0
並み居る都市の中でもことさらに特殊な性質を備えるタニングラード。
当然そこで催される祭事というのも他と比べて些かに異なる様相を呈している。

例えば串焼きひとつとっても、自治会に定められた長さの、しかも先端は刺突できないよう鈎状に丸められた串だ。
外見だけ見れば、魚釣り用の釣り針にそっくりだ。ちょうどエサを取り付ける場所に肉やら野菜が刺さっているので特に。
屋台を組み立てたり物品を運ぶのに必須な作業用ゴーレムなど、腕を除いた上半身がまるまる取り外され、操縦基がむき出しだ。
ゴーレムの持つ『鎧』の性質を極力排除するための処置である。
刃物を規制されているが故に、屋台で供される食材は全て、その場での調理を禁止されている。せいぜいが炙って加熱する程度だ。

「アイレルどのやガルブレイズちゃんはどこでありますかね……」

焼いた鶏の腹を割いてその中に炒り玉子を詰めた『胎内回帰焼き』にかぶりつきながら往来を散策する。
道行く人は総じて牧歌的な表情をしており、平和そのものといった風情を満喫している。

タニングラードは多少窮屈ではあるが、それでも帝国一平和な街だ。
魔法や素手による暴力事件はちらほらあっても、多くの人を傷付けるような力をそもそも人々は持っていない。
どれだけ派手に暴れまわっても、自治会付けの従士隊がすぐさま駆けつけ鎮圧してくれる。

(あれっ? 武器の携行を許されないこの街で、じゃあここの治安維持組織は何を持って抑止力としているのでありますか……?)

従士隊や騎士団が法の番人足りえるのは、彼らが犯罪者よりも精強な戦闘集団であるからだ。
強制力なくして法律は働かない。『お上にしょっぴかれる』というリスクがあって初めてならず者は犯罪を思いとどまるのだ。
だがタニングラードにはその強制力の土台となる刃が存在しない。武器を持たぬ番人が、圧倒的多数の民衆を抑えられるはずもない。
では、どうやってここの従士隊は悪党を成敗しているのか――

「おっと、ごめんよっ」

慣れない思索にふけっているうち、後ろから誰かに追突された。
スティレットより若いであろう、まだ十代中旬といった具合の少女が、彼女の背中にぶつかって謝罪しながら駆けていく。
咄嗟に首から下げた水筒に手を伸ばしていた彼女は――こういう雑踏で最優先に守るべきものを守り損ねていた。
腰のポーチに入れてあったはずの財布がない。

「ど、どろぼーーーーー! 財布をギられたでありますぅぅぅぅぅ!!」

大剣を振るう膂力を支える肺活量――常人より遥かに鍛えられた呼吸器から爆発させた叫びは、夜通りの一角を震撼させた。
ノイファやセフィリアが既に祭りへ着ていれば、今の叫びで状況を理解できるはずである。

いま、スリの少女は夜通りの人ごみを泳ぐようにすり抜けて富民街を縦断し、スラムの方へと走っていく最中である。
抜け道を知り尽くした少女をに追いつくには、外から来た彼女たちにとって困難を極めることだろう。
――常識的な手段で追いつこうとするならば。


【宿のとり方がわからず放浪。祭りの中で財布をスられる】

17 :名無しになりきれ:2011/12/03(土) 17:21:04.13 0
あれこれ言ってる間にタンホイザ陥落

10000人以上死亡

18 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/03(土) 17:57:18.98 0
【クローディア】

クローディアの激励は、激励以上にパフォーマンスを佳境へ滑らせる合図となった。
公園内に集うオーディエンスたちもクライマックスの予兆を感じ、声援の雰囲気を昂らせていく――
後押しされるように、ロンの連撃速度が上がった。否それだけじゃない、傍目からして"有効打"の数が右肩上がりに増えていく!

「ダニーに大振りが目立ってきたわ! 疲れが出始めたのかしら!?」
「私にはなにか、彼女にも狙いがあるように見えますが……その前に判定勝ちしてしまいそうですね」
「あれだけの猛勢で、どの打撃ひとつとっても手打ちじゃないっていうのは、受ける側からしたら雪崩だわ――!」

体格差をものともしない――むしろ小回りのきく矮躯を有利に働かせつつあるロンのラッシュ。
ダニーの豪腕は素人目にこそ脅威に見えるが、その実武人の眼でようやくそれとわかる微小な"隙"を演出している。
どちらも大したエンターテイナーだ。一見さんにもわかりやすく派手で、見る人が見れば奥の深い、楽しい戦いだった。

「っ! ――やったっ!?」

一秒が十秒、十秒が十分に感じられる極限の打撃戦の中、やがて結末の一撃が放たれる。
鋭い弧を描いてさながら投石機の如く撃ち出されたロンのソバットが、その切っ先にダニーの顎を引っ掛けた。
全力疾走する猛牛の突進を受けたみたいにダニーの首から先がぐおんと揺れる。
黒目がピンボールのように眼窩の中で激しくバウンドした。

「き、決まったぁぁ――――ッ!!」

クローディアの熱のこもった叫びに観客たちがわっと呼応し、積雪も溶ける熱狂の渦中へ二人の格闘者を誘う。
勝負は決した――かに思われた。
だがその全てが、十重二十重の衆人環視を欺ききった二人の道化の妙演であることに誰一人気づかなかった。

そのときの心境をのちにクローディアはこう述懐している。
『常識的に考えて、顎を打ち抜かれて立てる奴なんていない……でもそれが、"常識的"な人間じゃなかったとしたら?
 あたしたちはすぐにそれを気付くべきだった。あの蹴りの一撃を、一発逆転の布石にするなんて芸当ができるとしたらそれは――』

一瞬にして沸騰した場内の空気を背に巻かせながら、蹴り足のフォロースルーへと移行するロン。
巨人を討伐せしめた少年の如き双眸に、終末の影が訪れる――ダニーがロンを巻き込む形で倒れこんできたのだ。
軸足の安定しない状況で逃げ場を防がれたロンに脱出する手段はなく、津波に呑まれるように芝生へと押し倒される。
観客の誰もが、気絶したダニーの最後の足掻きと認識した。意識を飛ばしてなお敵を離さぬ根性に快哉を叫ぶ者もいた。

「――違う!ダニーはまだ負けちゃいないのよっ!」

全ての視線が、ある一点へ集中していた。倒れ込んだダニーが、気絶したはずの彼女が掲げた腕。
その頂点で、ただ天を指し示し続ける指先を――。
ダニーの数えに合わせて、観客たちも一緒に声を張り上げる。指折り3つを数えたところでクローディアは硬貨を投げた。
カーン!と購入した手持ち鐘が雌雄の決着を響かせる。

「勝負ありっ! ダニーの勝ちよ!!」

今度こそ広場は歓声で充溢した。
両者の健闘を称える者、強い酒のグラスを空にする者、立ち上がり快哉を叫ぶ者、おひねりとばかりに紙幣で包んだ硬貨を投げる者。
芝生に散らばった金はナーゼムにきっちり回収させながら、クローディアはロンとダニーに手拭いと水を供して労った。

「ふたりともお疲れ様。見てみなさいこの大盛況!あんたたちのおかげで、明日から忙しくなりそうだわ……!」

戻ってきたナーゼムに一枚の羊皮紙を手渡した。
さっきのうちに彼女がしたためた原稿である。ナーゼムは広場の観衆へ向き直ると、獣の咆哮じみた大音声で朗上した。

「お集まりのみなさま、私共の興行お楽しみいただけましたでしょうか。語りの肴にでもしていただければ幸いです。
 さて、我々"クローディア総合商会"では物品に限らずあらゆる需要に融通いたします。
 ご要望があればご覧の通りの演武から、荷物持ち・家屋解体・鍛錬指導まで鍛えに鍛えたスタッフが全力を尽くさせて頂きます。
 また弊社では現在並行して、寄る時代の荒波を乗り切るべく体力づくり及び精神修養の指南を受け付けております。
 体力に自信のない方、強壮な肉体を手に入れたい方、とにかく身体を動かしたい方、いつでもお問い合わせお待ちしております」

19 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/03(土) 18:01:42.06 0
パフォーマンスの余韻冷めやらぬうちに熱い鉄を打つ。
朗々と謳われる喧伝が風に乗って、オーディエンスの隅々まで行き渡った。

「まだ役所に申請出してないから、事業所構えるのもビラ撒くのもそれからだけどね」

タニングラードは行商人の街だ。
露店市については特に制限もないが、ここに根を張って事業を興すとなると別途に手続きが要る。
役所に出店許可を申請し、不動産事務所から土地と建物を借りて、商品を搬入するルートを確保する必要がある。
商材や店舗位置によっては商会ギルドや地元のマフィアにみかじめ料も支払わねばならないことだろう。
こなすべき雑務は山ほどあり、商売が軌道に乗るまでのこの時期がまさしく商人クローディアにとっての本領発揮となる。

ともあれ、宣伝としてはこの上ない結果を得られたのは率直に言って僥倖だ。
やはり遺才の選んだ人材に間違いはない――その確信以上に、上げまくったハードルをきっちり超えてくれる部下への感謝があった。
経営者であるクローディアにとり、自分のもとに集った頼もしい部下たちは原初の財産だ。
いつも資産運用に失敗する彼女であったが、こうなれば働きに相応しい棒給だけは借金してでも確保したくなるものである。

「さて、いい汗流したところであたしたちも引き上げましょうか。旅疲れもあることだし、ゆっくり食事でも――」

>「そのままの状態で聞いて下さい。クローディア・バルケ・メニアーチャさん」

不意に、どこからともなく知らない声が流れ込んできた。素早く視線を迷わすも、付近にそれらしい音源は見当たらない。
念信術式――あるいは遠隔地から音だけを転移させる類の魔術か。いずれにせよ正体不明の相手の"射程内"。
クローディアは表情を硬くした。それを見たナーゼムが眉根を寄せて訝しむ。おそらく彼には聞こえていないのだろう。

(まさか向こうから接触してきた――?)

先ほどナーゼムの話した、不自然な武人の一派。
『声』の主がその仲間という確証はないが、いくらなんでもここで第三勢力登場は話が出来過ぎている。
あたらしく商売を始める匂いを嗅ぎつけて、どの街にも大抵はいるごろつき共がみかじめでも要求しに来たか――

>「わたくし、遊撃課に所属するマテリア・ヴィッセンと申します。
 ここには、とある極秘任務を授かって来ているのですが……どうやら貴方と遊撃課には、深い縁があるようですね。

しかしクローディアのそんな予想も、マテリアと名乗った声の主の出した『遊撃課』というワードにまるきり覆された。
彼女は今度こそ息を呑む。遊撃課。その団体名がイメージとして結ぶ、とある男の死に様。
何故、彼らがここに? 言葉にできない問いは、きっとこれから知るために在るのだろう。

>「それはさておき……実は貴方に少し協力を願いたいのです。
  詳しい説明は、今からうちの課員が二人、貴方に接触を図りますので、そちらがします。
  一人は貴方と面識のある方ですが、どうか初対面を装って頂けますでしょうか」
>「いや、実にお見事です。私、感激致しました。
 さっきの筋肉の動きと軌道。其処の女も、子供も、並みの手腕ではありませんね」

紹介通りに一人の男が、拍手しながら近づいてきた。
質の良い執事服に身を包み、髪を後ろに撫で付けているが――誰かと思えばフィン=パンプティである。
クローディアは思わず指摘しそうになり、マテリアから言われた言葉を思い出して、面識のあるであろうダニーとナーゼムに目配せ。

(一瞬誰だか分からなかったわ……雰囲気ぜんぜんちがうじゃない。なんていうか、ちょっとくたびれた?)

双子の兄ですと言われたら速攻で信じる。それぐらい、顔立ちは同じでも纏う気配がまるで違った。
ところどころ敬語が怪しいし変装にしては色々と詰めが甘いが、人はここまで変われるものかと場違いな感心をした。

20 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/03(土) 18:07:10.77 0
>「失礼、自己紹介が遅れました。俺……ではなく、私は、えー……フィーンと申します。
  職業はバトラーです。この度は我が主であるお嬢様が皆様の演舞に感動なさり、
  是非にご挨拶をなさりたいと仰いましたので、お取次ぎをさせて頂きました。ではお嬢様。どうぞこの者たちにお言葉を」

恭しく迎え入れられたのは少女。
なんでもさる地方領主の娘である彼女は、物見遊山で辺境のタニングラードへ来たは良いものの早々に退屈していたらしい。
そこへこのようなエキサイティングな光景を眼にしたとくれば、これはもう遊ぶしかあるまいと。

「あっそ。出来過ぎってぐらいに幸先良いわ。いきなりパトロン候補さまの登場なんて」

当然、"出来過ぎ"なのだろう。マテリアの言を信じるならば彼ら遊撃課はクローディアへ『装って』接触してきた。
どうせ援助の話もその場限りの出任せだ。クローディアは不自然でない範囲に限って嫌味ったらしく皮肉を返した。

(遊撃課ね……帝都の公務機関がなんだってタニングラードくんだりまで……)

そこまで思考して、ああなるほどと思った。
クローディアがこの街にやって来たそもそもの理由。不自然な金の動きを見せた従士隊。
国内の様々な問題に対処する治安維持機関である従士隊がタニングラードに注目しているということは、すなわち――
『この街で近く、何かがある』というなによりの証左ではないか。

「けっこう。その話、乗ったわ!どうせお次は『立ち話もなんだし、どこか店にでも』ってところでしょ。
 ダニー、ロン、ナーゼム、撤収よ!今からこのお貴族様があたしたちに北国名物奢ってくれるらしいわ!
 他人の金だからガンガン食べなさいっ!でも腹八分目で済ませなさいよ、満腹がクセになると太るから」

展開していた機材やら荷物やらを部下三名に回収させながら、はたとクローディアはあることに気付く。

「まだ名乗ってなかったわね。あたしはクローディア。姓は捨てたわ、ただのクローディアって呼びなさいな。
 そしてあたしたちは――需要と供給の狭間を往く新時代の開拓者!クローディア総合商会! 呼ぶ時は『商会』で通じるわ。
 よろしくフィーン、お嬢様」

言外の色々を含めて、フィーンの手のひらをこれでもかと握った。

 * * * * * * 

誘われた酒場へ行くと、既に先客が二人いた。
見るからに頭の出来の残念そうな笑顔をふりまく娼婦と、商人のくせにどこぞの戦場でもくぐり抜けてきたような貫禄をもつ男。
まるで生活圏の被らない二人は、同じ酒場の別々のテーブルで個々にグラスを傾けているが――

(さっきの公園にいた二人ね)

ナーゼムが警鐘を鳴らした十人弱の男女、その中の二人だ。
おそらく『遊撃課』とやらのメンバーなのだろう。万が一の場合に逃げ場を塞がれないよう、入り口を背にして席に着く。
現在クローディアと同じテーブルに座るのは『商会』の4人とフィーン、それからその主。
数の上では優っているから、余程のことが無い限り逃げ損ねるということはないだろうが――。

「とりあえず生エール6つ。それからグローフ蟹の赤茹で、拡散棗の煎ったやつ、北海鮫の姿煮、ゼブル茸のソテー、
 アンダー・ライターの溶きココアももらおうかしら。あと濃い果汁に、仔牛の星降肉を炭火で炙って頂戴」

お品書きの高そうなメニューを片っ端からオーダーしながら、ダニーとロンにも注文を促す。

「尻込みすんじゃないわよ、あんたたちが百年かかってもお腹いっぱい食べられないような高級料理を狙いなさい!」

21 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/03(土) 18:11:06.17 0
運ばれてきた蟹の甲羅を、先の丸いフォークでこじ開け中の味噌をすくう。
手先の器用な者なら素手で難なく開けるらしいが、そろばんしか弾いてこなかった彼女にはちと難題だ。
そも、本当に高級な店ならこんな茹でたてをドカンと皿に載せて持ってくるなどありえないのだが、文句は言うまい。

「……それで、あたしたちがどこに店を構えるつもりかって話だっけ?」

ココアのマグを空にしたクローディアはあくまで『装い』のまま質問に答えようとする。
ここに来るまでにダニーとロンには『遊撃課』の件を話していない。衆人の目のある場所で真相を口にするわけにはいかなかった。
フィンと面識があるダニーとナーゼムについてはアイコンタクトと、唇に人差し指を添えて余計なことを口走らないよう指示。
あとで本格的な説明が必要だろう。

「そうね、いまから地図を書くから、あたしたちに援助してくれるつもりがあるなら後日訪ねて頂戴」

言って、クローディアはナーゼムから差し出された羊皮紙に再び筆を走らせた。
目だけを動かして周りの様子を確認し、『商会』の面子に書いた内容を見せてから、それを丸めてテーブルの上を滑らせた。
フィーンかファミアが受け取れば、羊皮紙に記されているのが地図などではないことがわかる。そこにはこう書いてあった――

『尾行がついてる。あれもあんたたちのお友達?』

クローディアの目配せで、尾行者の位置は伝わることだろう。
彼女の位置からちょうど3時の方向。宝石商に近い位置で、一人の男が新聞を読み耽っている。
年の頃40そこらといった、労働者風情の壮年男性である。くすんだ色のズボンに赤茶けたジャケット。

揉み革で造られた安物の鳥打帽の下で、ただならぬ気配の眼光が新聞越しにこちらを射抜いていた。
なんらかの魔術によって視線を隠蔽しつつ視野を確保――しかし肝心の尾行者独特の"匂い"を隠しきれていない。
超人的な感度を持つナーゼムの鼻をごまかせるものではなかった。

(街ですれ違った途端に踵を返して着いて来たのよね……)

昼間の公園にはいなかった男――ゆえに、新たなパトロン候補者ということはありえない。
遊撃課の一人かとも思ったが、やたら若年の多いかの集団にあってはあまりにも年齢が過ぎている。
ナーゼムにこっそり意見を聞いてみたが、やはり遊撃課のものとは匂いが違いすぎると言う。
少なくとも尾行用の魔術を修めている時点で単なる一般人ではないことは確かだった。

自分に尾行がついているとわかったとき、最も簡単な対処法は紛い物の情報を掴ませてやることだ。
素行調査なり、拠点調査なり、偽れるものはたくさんある。ガセネタで真実を覆い隠してしまうのだ。
だがこのやり方は、尾行が長期に渡った場合に偽装工作にも限界が来るというリスクを負う。
監視の目を意識しながら、普段の自分をまったく出せないというのは被尾行者にとって多大なストレスだ。

だから一定期間過ぎても尾行が離れなかったり、相手のそもそもの目的がわからない場合などは――
次の段階に進む必要がある。消極的な尾行対策から積極的な尾行対策へ。
すなわち、迎撃である。

(どこか人気の少ないところへ誘き寄せて締め上げて、目的を吐かせるか……)

ただし、この段階の一番のリスクは――『戦闘を行わなければならないということ』。
このタニングラードにあってそれは、滞在する間ずっと後ろ指さされることを覚悟しなければならない。
ましてや今から商売を始めようという『商会』にとって、最も危険な爆弾となりうる要因だ。

(あの尾行があっちのお仲間なら問題なし。もしも別の誰かなら――頼むわよ、遊撃課!)


【ホイホイ誘われ酒場へ。第三者からの尾行に気付く】

22 :名無しになりきれ:2011/12/04(日) 19:45:50.71 0
ホイホイついていっていいのかい?
GMのスレかよここ

23 :名無しになりきれ:2011/12/04(日) 22:11:51.80 0
レギオン兵3人ほど派遣

24 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/12/05(月) 21:47:11.59 0
「わぁ〜……お酒!あれもこれも全部お酒だぁ〜!
 火竜燃酒に、エリクシル・ヴェジェタル……うわっ、マリファリキュルまで!
 すごいすごい!う〜ん、やっぱり来てよかったぁ〜!」

酒場の扉をくぐってすぐに、マテリアは思わず奥のカウンターに駆けた。
両眼を輝かせてカウンター奥のバックバー、酒棚を見渡す。
火竜の喉すら焼くと言われる火竜燃酒、『霊薬』の二つ名を冠する古来伝承の薬草酒、
果てはあまりの度数と含有成分によって幻覚症状を齎し、その中毒性から法規制された毒酒まである。
酒好きのマテリアはこれまた、半分ほど地が出つつも、頭の悪い娼婦を演じていた。

「流石は無法の楽園!堕落の最果て!あらゆるボトルが流れ着く町の異名は伊達じゃないですね〜!」

小躍りしながらはしゃぐ。
周りの客や店主が苦笑を零していた。

「お嬢ちゃん、アンタも結構な好き者だねえ」

「えへへ〜、じゃなきゃこんなむさ苦しい酒場に一人飛び込んだりしませんよぉ〜」

絶妙に頭の足りない失礼な発言を飛ばす。
声をかけた男の笑みがひきつって、苦味が増した。
そんな事はまるで気にした様子もなく、マテリアは最初の一杯と、適当な料理を注文する。
蒸留酒を、香草や柑橘類の皮、砂糖で調味した水で割ったものだ。
単純な作り方だが、だからこそ店特有の味が出る。

「それじゃ、いただきま〜す」

差し出されたグラスを早速傾けて一口。

「……あ、おいしい」

思わず呟いた。想像していたものとは違う、力強くも華やかな味わいだった。
嚥下してしまうのが惜しいと思えるくらい、舌が歓喜しているのを感じる。
つまみに頼んだ燻製肉も、複数の香辛料が適度な自己主張と共に、肉の旨みを引き立てている。
あまりの美味しさに、思わず皿の上に残った肉の本数を確認。財布の中身を思い出そうとしてしまう。

「これは……どうやらこの町を侮っていたみたいですね……!」

意図しない内に間抜けな娼婦の仮面が剥がれ落ちて、真剣味に満ちた表情で呟いた。
無法の楽園タニングラードと言うと、どうしても乱暴で大雑把な濃い味付けを連想する。
だがそれは大きな間違いだったとマテリアは今、思い知った。
タニングラードはその性質上、調理器具が不足していて、代わりに上質な食材が揃う。
故に美味しい料理を作るのなら、素材の味そのものを活かすのが一番なのだ。
また器具に制限があるからこそ、それを使わずに出来る事に力を注がざるを得ないのかもしれない。

「こうしてはいられませ……じゃなくて、こうしちゃいられないよぉ!すみませーん!
 この燻製もう一皿下さ〜い!それと『霊薬』も〜!」

そんなこんなで、

「あははは〜!まだまだいけますよぉ〜!次は黒猫樽の葡萄酒持って来て下さぁい!」

ファミアやフィン、クローディアが酒場に到着する頃には、立派な酔っぱらいが一人出来上がっていた。


25 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/12/05(月) 21:47:53.59 0
とは言え――これでも一応マテリアはプロである。
同僚とクローディア達の足音を聞き付けると、混濁した瞳にすぐに理性の光が舞い戻った。
水を飲んで、カウンターに突っ伏す。寝たふりをしながら聞き耳を立てた。

彼女は両手を用いずとも、ある程度の音声操作と敏感な聴覚を発揮出来る。
狭い範囲ならば、足音や筆を走らせる音くらいならば聞き取れる。
遺才故の体質、だけが理由ではない。
彼女の喉の奥と耳の奥には、自分の骨を材料にしたリングが埋め込まれている。
筒状のものがマテリアルである彼女は、それで遺才を不完全にではあるが発揮出来るのだ。

リングは従軍時に埋め込まれたものだ。いわゆる、人体実験の成果だった。
マテリアが入軍したのは四年前――皇帝が今の代に変わる前の事だ。
前皇帝は侵略を好む人間だった。
その為ならば手段を選ばず、目的すら選ばず、地獄にさえ侵略の矛先を定めた男だった。
人体実験はその為の一環だ。マテリアルを人体と一体化させれば、常に遺才を発揮出来る兵士が出来上がるのではないか、と。
人を魔族に近づける実験――それはやがてより洗練されて形を変え、『降魔』や『赤眼』へと繋がる。
繋がるのだが、今となっては何の益体もない事だ。
マテリア自身、便利な実験を受けたものだ、くらいにしか思っていない。

もっとも彼女は戦闘向きの遺才ではなかった為に軽度の実験で済んだが、
実験を受けた者の中にはより凄惨な変貌を強いられた者もいるだろう。
その事については、考えても仕方が無いと、目を逸らしていた。

>「そうね、いまから地図を書くから、あたしたちに援助してくれるつもりがあるなら後日訪ねて頂戴」

ともあれクローディアが、羊皮紙に筆を走らせる。
マテリアは聞き耳を立てた。

>『尾行がついてる。あれもあんたたちのお友達?』

『尾行、ですか』

念信器で声を発する。
筆談の内容をスイに知る術が無かった場合の為だ。

「……う、うぅ〜、頭痛いよぅ。お水……お水ぅ……」

続けて目を覚ましたふり。そして死に体を演じて冷水を注いだグラスに手を伸ばす。

「……吐きそう」

唐突に、小さく呟いた。周囲が俄かに騒然となる。
頭を抱える仕草に紛れさせて、右手を耳元へ。
皆が動揺を心音に反映させる中で、たった一人落ち着き払った心音の男がいた。
つまり、その男がプロだ。
口元を右手で抑える。嘔吐を堪える動作で遺才を発動。

「……尾行さんの心音、覚えましたよ。泳がせて、逆にあちらを尾行して、根城を突き止める事も可能だと思います。
 もちろん、それ以上の事も。どう対処するかはアルフートさんと、クローディアさんで決めて下さい」

26 :名無しになりきれ:2011/12/06(火) 18:52:22.56 0
マテリア穴って知ってる*?

27 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/12/07(水) 03:58:24.97 0
>>3>>4>>11>>20-21>>25
ウルタールでの顛末に関してはファミアものちに上がってきた報告書に眼を通しています。
そこで語られる内容は結局のところ当事者以外には紙上の一幕でしかなく、誰かの流した血やこぼれた涙に現実感はありません。
故に、人相風体も近くで実物を見るまではどこかピンと来ないものがありました。

(確か……女性だったはず)
顔立ちは紛れも無くそうでしたが、そこから下は「皮膚の下に何がいるんですか?」と尋ねてしまいそうなほど
見事に隆起した筋肉の連なりでした。無論、ダニーのことです。

少し脇に視線をずらすとその後ろから顔だけ出しているロンと目が合いましたが、
そうして見ているファミアも、クローディア一行に声をかけるフィンの背後に隠れています。
奇矯な人間との初邂逅は慎重にするべきでしょう。
遊撃課もそういった人物の集まりという側面はありますが、ファミアの心の棚は大きめです。

>「けっこう。その話、乗ったわ!どうせお次は『立ち話もなんだし、どこか店にでも』ってところでしょ。
> ダニー、ロン、ナーゼム、撤収よ!今からこのお貴族様があたしたちに北国名物奢ってくれるらしいわ!
> 他人の金だからガンガン食べなさいっ!でも腹八分目で済ませなさいよ、満腹がクセになると太るから」
先にマテリアが話を通していたこともあって、こちらが「飲らないか」と言うより先に凄い勢いで状況がすっ飛んで行きます。
扉を吹き飛ばさんばかりに酒場へなだれ込んで、気がついたらオーダーを通しているところでした。

注文された料理は周辺からの人や物が集まるタニングラードならではと言える、文字通り『山海』の幸を集めたものです。
単純に値の張るものを頼みつつ、しかし味のかぶるものは外し、なおかつ高速。
ためらいも遠慮もないその姿勢はファミアの心胆を寒からしめるのに十分なものでした。
(この人、できる!――まさか……負けるッ!?)
そもそも何が勝ちかもわかりませんが、とりあえずそんな感じがしたのは事実です。

とはいえ張り合っても仕方がないので流されるままになっておくことにしましょう。
お金の出所を最後までたどれば行き着く先はどうせ国庫。
自分の懐は痛みません。体制側に与するというのは素敵なことですね。
それにしたって限度はありますが、借金抱えて「希望の船」に乗るようなことにはならないでしょう。

持ち盾を丸めたような、樽をそのまま縮小したような、
とにかくやたらと頑丈なジョッキがテーブルを叩き割らんばかりの勢いで供され、その後も次々皿が運ばれてきました。
「そういえば私、こういうお店って来た事ないです」
学生時代ぼっち気味だったファミアは、物珍しげに周囲を眺めながら完全に素が出た状態でぽつりと呟きました。
そうしながらも先刻別れた課員の姿を探していたのですが、はたから見れば立派にお上りさん継続中です。
二人とも既に店内にいることを確認してからエールのジョッキに手を伸ばして、ぐっと一呷り。

この白エールは北方産で、透明度のない淡い色あいと濃密で肌目細かな泡が見た目の特徴です。
冷涼な気候と魔力装置のおかげで保存のための熱処理をする必要がないので、
ほのかな甘味と鼻に抜けるリンゴのような香りも壊れることなくそのまま残っています。
「……苦い」
まあ、どれだけ能書きたれても飲み慣れていなければビールなんてそんなもんです。

「銘柄は任せるから、白を一杯持ってきて頂戴」
近くを通りかかった店員にそう声をかけてから卓に向き直り、
「そういえば名乗りもまだでしたわね。ファミアと申します」
カニとたはむる手を止めてココアのマグを空にするクローディアに、ファミアは自己紹介をしました。

>「……それで、あたしたちがどこに店を構えるつもりかって話だっけ?
> そうね、いまから地図を書くから、あたしたちに援助してくれるつもりがあるなら後日訪ねて頂戴」
クローディアは人差し指で唇を拭ったあと、それに答えながら一筆。
差し出された紙には以下のような文面が記されていました。

『尾行がついてる。あれもあんたたちのお友達?』

28 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/12/07(水) 03:59:37.61 0
顔を上げてクローディアを見ると、さも意味ありげな目配せ。
しかしファミアはそれを追って視線を向けることはしません。動きが露骨すぎて即座にバレそうだからです。
「尾行……ですか。課員ではないと思いますが」
ジョッキを両手で抱えて口元に当てて紙を覗き込みながら、卓についた一同にだけ聞こえる程度の声で呟きました。
音も口の動きも漏れてはいないでしょう。

尾行ということは、一行が入店した後に入ってきた人物であるということです。
視線の方向にはスイがいたはずですが、先に店にいたので勘違いされるとは考えづらく、他の課員は別所での任務中。
では一体何者か……

>『尾行、ですか』
考えるファミアの耳元で突如マテリアの声がしました。おもわず跳ね上がりかけた体を必死になって抑えます。
今回、念信器の場所が本当に耳のすぐ側なので心臓に悪いことこの上ありません。

>「……尾行さんの心音、覚えましたよ。泳がせて、逆にあちらを尾行して、根城を突き止める事も可能だと思います。
> もちろん、それ以上の事も。どう対処するかはアルフートさんと、クローディアさんで決めて下さい」
『わ、わかりました。まずはこの場で様子を見ます。
 店を出た後、尾行者が私たちについてくるようなら視界に入らない程度の距離で追ってください』

まずはマテリアへ念信。音で後を追えるのなら姿が見える必要はありません。
むしろ向こうからも見られない分、危険は減ると言えます。
もし追ってこないようならこっちではなくクローディア達のゴタゴタだということで綺麗さっぱり無視。
他人の面倒は他人に片付けてもらうのが筋というものですね。

『スイさん、私はまだ尾行者の姿を確認していないので特徴をお願いします。
 それから、ヴィッセンさんと組んで尾行に当たってください。
 ――万一何かあるようなら、ばれてもいいですから二人で飛んで逃げてください』
ついでスイへ指示を送ります。

「戦闘は避ける」。事前にさんざん釘を刺されたことです。
あれほど口を酸くして言われたからにはもちろんそれが第一義であるはずで、
ならば全力で避けるのが指揮官の務めというもの。自分が怖いからとかそういうのはありません。一切。一切。

さて後発二人の足はそれで確保できたとして、先発である自分たちは……
(私がハンプティさんを担いで逃げることになるのかな……)
単純な移動速度で言えばもちろんそうなるのでしょうが、
執事を抱えて跳ねまわる少女というのはなかなかシュールな絵面かも知れません。

そんなことを考えているところへ置かれる白エール。注文したのはワインのつもりだったのですが。
「ぁぅ」
動くにしても、これが開いてからということになりそうです。
自分で注文したものに手も付けずに辞するというのはいかにも不自然。
尾行者が見ている前で不振な行動は慎むべきでしょう。
――文句をつけて換えさせれば早く済む話なのですけれど。

まだ残っている一杯目と格闘しながら、ファミアはフィンへ声をかけます。
「ねえフィン、わたくしハンターズギルドとかいうところへ行ってみたいわ。報酬次第で何でもする輩の集まりなのでしょう?
 何か珍しい話や品を抱えている者も多いのではなくて?」
このあとの予定をいささか聞えよがしに口にして、それからだいぶ舌に合わないエールを口にしました。


【とりあえず飲む】

29 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/12/07(水) 04:30:33.51 0
「うーん……予想してたよりずっと大きなお祭りみたいですねえ。」

湯気の立つ蜂蜜酒を手の中で玩びながら、ノイファは白く息を吐いた。
次いで一啜り。嚥下した液体から沁み出す熱が、四肢に行き渡るのが心地良い。

通りのそこかしこに、発光と発熱を兼ねた蓄魔オーブが据えられてはいるものの、そこは流石に北の最果てタニングラード。
"夜通り"に人々が集いだし、日が落ち始めたこの時間帯ともなれば、肌を刺す冷気は昼の比ではない。

「さて、そろそろ集まる頃合だとは思いますが……っと。」

修道服の襟元を引き上げ、通りを見渡す。視界の端に捉えた未だ見慣れぬ格好をした同僚たちの姿。
赤くなった耳に手を当てる風を装い、耳飾りに偽装された念信器に指を伸ばす。

『そのままで大丈夫です。こちらで確認出来ました。』

同様に通りを眺めながら、串焼きに苦闘しているセフィリアと、蓄魔灯に背を預けるウィレムに声を飛ばす。

『もう暫くすればもっと大勢の人で賑わうのでしょうね。この通りも。
 まだフランベルジェさんの姿は見えませんが、その前に報告を済ませてしまいましょう。』

かじかむ口唇を暖めようと蜂蜜酒を一口。
ついでに再び通りを見回すが、やはり最後の一人であるフランベルジェの姿はない。
他の誰よりも、ともすればこの街で一番、目立つ格好をしている彼女なのだが、見える範囲の何処にも確認出来なかった。
 
『とは言っても、現状だと宿を何処にしたか、程度のものでしょうけどね。私は――』

"昼通り"にあるハンターズギルドの真向かい、『黄金の杯』亭。その一室がノイファの当面の拠点だ。
名前こそ何とも煌びやかだが、一階に酒場兼食堂、二階から宿泊施設といった、いたって在り来たりな旅の宿である。

そこにしたのは価格が手頃であったことがまず一つ。
もう一つは立地場所。
富裕層が居てもおかしくない場所ゆえに、ファミアたちのチームとコンタクトが取り易かろうという点。
そして何より決め手となったのは、帝都エストアリアに居を構える『銀の杯』亭の兄弟店であるという理由からだった。

『――あとは、同じく"昼通り"の端にあるルグス神殿……まあほとんど小屋なのですが、そこも拠点として使えそうです。
 調査の合間にでも手を入れて、いざという時のために籠もれるようにでもしておこうかと。』


一通りの情報交換を終え、手の中の蜂蜜酒も空になり、そろそろ祭りを見て回ろうかといった頃――唐突にそれは起きる。

>「ど、どろぼーーーーー! 財布をギられたでありますぅぅぅぅぅ!!」

祭りの喧騒をつんざき、通り一面に響き渡る叫び。
声質で判断するなどという能力は持ち合わせてはいないが、この特徴的な口調はフランベルジェのものに間違いない。

「早速目立ってるようですねえ……。」

最早諦めたとばかりに呻くノイファの前を、人ごみから抜け出た少女が、走り抜けていった。

30 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/12/07(水) 04:48:36.62 0
『ウィレム君――』

逡巡の後、ノイファはウィレムへと念信を通す。
手指は即座に腰のポーチへ。取り出すのは紅粉の詰まった瓶。
それを放り投げる。

『――加減して追ってください。』

瓶を掴んだウィレムが少女を追って走る。
この街を仕事場とするスリ相手では、普通に追いかけたのでは見失うのは必至。
ならば人並みを遥かに逸脱した脚で追跡するしかない。
化粧粉を渡したのは、後から追いかけるための目印としてだ。

少女が向かう先はにあるのはスラム街。
帝国領内で最も平和なタニングラードにおいて、唯一その限りではない無法地帯。
追っていった先で、更なる危険が待ち受けていることも十分にあり得る。

(果たしてこの行動が正しいかどうか……)

タニングラードでなければ諦めるという選択肢もあったろう。
だがここでは一切のバックアップが断たれている。
手持ちの軍資金をたった一日で全て無くしたとあっては、今後の任務に支障が出るどころの騒ぎではない。

『仕方ありませんが予定変更です。先行するウィレム君には紅粉を渡してありますから――』

少女が駆けていった方向とは真逆へ、ノイファは視線を配る。
スリ騒動を目の当たりにし、自分の懐は無事かとざわめく群集。その中にユーディも紛れているかもしれないのだ。
見えない敵の、凍えるような視線を意識して、ぞくりと背筋が震えた。

『――セフィリアさんとフランベルジェさんは目印を手がかりに二人の追跡を。
 私は……一応後方を確認しながら付いて行きます。』

畏怖を押し込め、汗で冷たくなった拳を強く握り、ノイファは指示を告げる。


【ミッション1:スリを追跡せよ】

31 :名無しになりきれ:2011/12/07(水) 20:54:08.61 0
いや、勝手に




ミッション始められても困る

32 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/12/07(水) 22:37:45.47 0
興行後に物見高い子供達から筋肉を触っていいか問われたダニーは快諾して触らせる。
数年後に思春期を迎えて初めて触った異性の胸が自分の大胸筋だと思い出した時の
彼らの顔を想像すると彼女の胸は厚く、いや熱くなった。

>>「な、な、ダニーはツヨいんだな。ビックリしちまったよ。どこであんなタイジュツ、ナラったんだ?」
「・・・・・・・・・」

ダニーはそっちこそ随分タフじゃないか、と返し、昔あった近所の道場で習ったと答える。
折角歩み寄ってくれたのだ、余計なことを言って変に気を遣わせることもないだろう。
後はただ鍛錬するだけ、と無難に締めくくる。

そして社長に貰った水を頭からひっかぶり手ぬぐいでざっと拭く。
その時、人気もだいたい掃けた公園に、この街の者とは趣の異なる二人組がやって来た。
ロンはささっと彼女の後ろに隠れてしまったが、ダニーは逆に吹き出しそうになる。

誰を隠そう以前洞窟で合った男、フィンその人だった。今は雰囲気を落としているものの、
初対面のイメージが強すぎるせいか、執事姿に違和感を禁じ得ない。
クローディアから目で釘を刺されて黙るが、これは堪らなかった。
一応挨拶を返してダニーは再び笑いを噛み殺す。

笑いを沈める為になんとか考えをまとめようと意識を逸らす。
ノイファはクローディアの本家筋の人間に雇われた的なことを言っていたような気がする。
ということは後ろの少女がそうなんだろうか、とフィンが付き従っている人物に視線を移す。

そこで、思考が切り替わる。いや強制的に引き戻されたというべきか。
小柄で手に手袋ではなくミトンを付けた少女、それだけ。それだけの筈なのに、
一目で脅威だと直観する。下手をするとノイファよりも危険な何かがある。

>>「けっこう。その話、乗ったわ!どうせお次は『立ち話もなんだし、どこか店にでも』ってところでしょ。
 ダニー、ロン、ナーゼム、撤収よ!今からこのお貴族様があたしたちに北国名物奢ってくれるらしいわ!
 他人の金だからガンガン食べなさいっ!でも腹八分目で済ませなさいよ、満腹がクセになると太るから」

こちらの緊張を他所に話がつくと、場所替えということで酒場に移動することになった。
そこではおごりを勝手に取り付けたクローディアはじゃんじゃん頼んでいく。
腹八分目とはなんだったのか。
ダニーはと言えば顎を摩りながらまずミルクを取った。彼女は酒とシガーと賭博はやらないのである。

そしてイカ墨のシュークリーム、キャラメルパフェ、灰麦のパンケーキ、白骨煎餅、
赤銅栗の甘露煮、青雷山コーヒーと注文する。

33 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/12/07(水) 22:40:04.38 0
人のおごりということで、彼女は自分の懐やトレーニングのことを一時的に忘れて
ここぞとばかりに甘いものを頼んだ。この値段で下手すると常人の二日分の食費に
あたるのだから中々侮れない。

嗜好品を口に入れるのは実に久々なのでなんだかそわそわしてしまう。
店内に堅気でない人間がいることや、相手の所属が分らないなどの
問題もあったが大したことではない。要はその時に動けばいいのだから。

気持ちを切り替えると、早速所望したスイーツを頬張る。
注文がデザートのみという点では始めからクライマックスである。

返す返すもサイズ差が酷いので折角のシューも一口サイズに早変わりなのだが、
それでもダニーは幸せそうに食べている。
クセのある甘い芳香を楽しむ一方でチョコレートのような色のクリームを味わう。
酒呑みが甘いものを欲しがるせいか意外にも店の甘味は充実していた。

>「尾行……ですか。課員ではないと思いますが」

例の少女、ファミアの声がしたのでちらりと目を向けるが食事を続ける。
ダニーは尾行があったことには気づかなかった。帝都じゃないので
別段追われるような心当たりが無かったからである。
お鉢が回って来るまでは通常業務でいいはずだ、そう思った矢先、それは聞こえた。

>「……吐きそう」

その呟きに即座に振り返ると娼婦のような女、マテリアが呻いているのが見える。
演技かどうかが問題ではない。実際に吐くかどうかが問題である。
しばし様子を眺めていたが、吐かないようだと分かると皆食事を再開する。

危ないところだったと思いながら、ダニーも二つ目のシューを食べようとして、手を見る。
ーないー どこにいったかと思えば、ロンの顔にべっちゃりと張り付いている。
手からすっぽ抜けてしまったようだ。そこでダニーは・・・

「すいませんシュークリーム追加で」
謝罪の意を込めておかわりを二人分注文した。

【ごめんなさい】

34 :名無しになりきれ:2011/12/08(木) 20:35:06.04 0
レオナルド・オリリレーはどこだ?

35 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2011/12/09(金) 10:00:39.16 0
串焼きの固さに、少なからずの苛立ちを覚えていますが、祭りの喧騒というものはなかなかに面白いものです
人々の表情が、この街に生きる人たちの逞しさを象徴しているようでした

街の人達のこのざわめき、笑い声、怒鳴り声、泣き声まで聞こえます
なかなかにバラエティーに富んでいて面白いです
ですから、この喧騒に耳を傾けてみようとおもいます
これも立派な情報収集です
なにげに重要な情報が掴めるかもしれません
ちょうどいいところに恰幅の良い壮年おじ様と、威勢の良い働き盛りの男性が、白い息をさながら機関車のように吐き出しながら話し込んだいます
ふむふむ、どうやら小麦のでき具合と価格差に話しているようです
南のとある村が大豊作で、安く買い叩ける、東のとある街では、周囲の村が凶作で麦が不足しているといった話です
働き盛りの人は直ぐに売りに行こうと主張しています
恰幅の良いおじ様は他の商人と結託して、価格を釣り上げてから売る方がいいと仰っています
不当な価格操作の疑いでしょっぴいてやろうかと思いましたが、任務とは関係ないので自重します
任務とは……関係ないですからね
これ以上、この話を聞く意味もないのでこの場を離れます

スープがすっかり冷めてしまいました
一気にお腹に流し込んで、新しくホットミルクでもいただきましょう
寒い日にはあれが一番です



『そのままで大丈夫です。こちらで確認出来ました。』

ちょうど、お髭が立派なおじいさんから、蜂蜜入りホットミルクを受け取ったとっていました

『宿は昼通りの安い宿ところを取りました。名前は錫の星亭です。カルチャーショックを受けました。人ってあんなところで寝れるのですね
ちなみに神殿が部屋から見える位置にあります』

と、事務的に返答したときに事件は起こりました


>「ど、どろぼーーーーー! 財布をギられたでありますぅぅぅぅぅ!!」

まったくとんだトラブルメーカーです
完全なおのぼりさんじゃ、ないですか……
帝都住まいの私たちがおのぼりさんというのも、考えたらおかしな話ですが
鬼名持ちというのですからね……
私だって……
いえ、これも先輩が自ら囮になる作戦の第一弾ということでしょうか

ええ、そうに決まっています
ただ、遠目に見えるアイレル女史の眉間に凄まじいシワができているのは年齢によるものだからでしょうか?
管理職というのは気苦労が多いと聞きます

せめて、私は言うことを聞くようにしたいと思います

ウィレムがスリを追跡することになりました
彼以上の適任者はいないのだから、当然です

>『――セフィリアさんとフランベルジェさんは目印を手がかりに二人の追跡を。
 私は……一応後方を確認しながら付いて行きます。』

『了解です
すぐに捕まえます』

36 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2011/12/09(金) 10:00:54.76 0
ウィレムにも念信を送っておきます

『ウィレム、聞こえますか?
あまり本気で追いかけてはいけません
どこでユーディに観られているかわかりません
わざわざ、手のうちを見せるようなことは、必要ないでしょう
あと、私のことは気にしないで下さい
たまたま遺才持ちがお節介を焼いた
そういうスタンスでいきましょう
よろしくお願いしますね』

さっそく追っていきましょうか……

おっと先輩にも念信を送っておきしょう

『先輩の財布を盗むなんて許せませんね
先輩もなりふり構わず、追って下さい。
囮になるには絶好のシチュエーションです
頑張りましょう』

では、今度こそ追跡することにしましょう

手にはちょうど串焼きの串が一本あります
折れば二本です

黙って追いかけます
目立ちたくありませんから

私は人の隙間を縫うように走ります
手加減を頼んだもののウィレムについていくのは至難の技です
化粧紅がなければ見失っているところです

スリもウィレムの追跡によく持ちます
まあ、こんな往来で捕まえるんだ訳にもいきませんが

『ウィレム、路地裏に追い込んで下さい
そこで捕まえましょう』

さすがウィレムです
すぐに路地裏に追い込んでくれました

37 :名無しになりきれ:2011/12/10(土) 01:10:39.65 0
オナニエ公 ウィレム

38 :名無しになりきれ:2011/12/11(日) 21:43:35.52 0
堕天使2人による襲撃が!!

39 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2011/12/13(火) 22:30:15.35 0
――――ロンだけが事態が飲み込めきれないまま。
クローディア一同は謎のお嬢様と執事のフィーンと共に酒場へ。
道すがらに話を整理し、どうやら彼女等はパトロンとして名乗り出た、ということ。
一応納得はしたが、ロンはそれでもファミアとフィーンに疑心の目を向ける。
それは酒場に着いても同じだった。ダニーの隣で縮こまり、一切口を聞こうとしない。

>「尻込みすんじゃないわよ、あんたたちが百年かかってもお腹いっぱい食べられないような高級料理を狙いなさい!」
クローディアが料理を次々オーダーし、あっという間にテーブルが賑やかになる。
酒場の薄暗い雰囲気もあってか、料理の数々が輝いているように見え、ロンの目が瞬く。
より逞しくバランスの取れた肉体を作るために、食事制限を掛けられていた彼にとって、
目の前の光景は夢のようにも思えたのだ。

「な、な!これゼンブタべていいのか!?ウソじゃないよな!?」
クローディア達が注文した先から、ロンの手が伸びる。
とにかく目をつけたものから食べる食べる、とにかく幸せそうに食べる。
しかし、酒類には一切手をつけていない。飲んだ事がないからだ。
隣ではダニーが美味しそうにスイーツを頬張っている。よそ見した隙を狙って少し戴いた。

>「銘柄は任せるから、白を一杯持ってきて頂戴」
「(おおっ、な、ナンかカッコイイ!)」

事も無げにワインを頼むファミアを見てどこかズレた感動を覚えるロン。
すかさずロンも手を上げ「オレにも!」と注文する。
まさか酒類を頼んだとも気付いておらず、クローディアとファミアの会話を流し聞き。
その時、一瞬奇妙な視線を感じ、反射的に店内へと視点を一周させる。
「キのせいか……?ナンかイマ、ダレかにミられてたような…………」

同じテーブルのメンバーにも聞こえるか分からない位の小さな声で一人呟く。
此処に来てから神経を尖らせ過ぎて、神経が過敏になっているのかもしれない。
首を捻るもそう思うことにし、頼んだ白エールを見もせずにグイッとひと飲み。

「かっ!けほっけほっ!」
酒に免疫のないロンには効果抜群だった。喉を駆け抜ける熱に、堪らず咽込む。
けほけほと喉を鳴らし、その時、べちゃりと頬っぺに冷たいクリームの感触。

「ヒイッ!?」
女より甲高い悲鳴があがる。
正体はダニーが取り落としたシュークリームだったようで、ロンの顔の半分が酷い有様となる。
酒とシュークリームのダブルパンチで茫然としている間に、ダニーがシュークリームの追加を頼む。
状況が飲み込めると同時に、ふつふつとみみっちい怒りが沸き上がって来た。

「……よくもやったな〜、ダニー!おカエしだっ!」
そう言うや否や、ロンは自分の飲みかけの白エールを引っ掴む。
シュークリームをぶつけられたお返しをぶっかけようとし、勢い余ってエールがすっぽんと手から抜け落ちる。
そしてエールが行き着く先には。

「あ。」

ばしゃあ。エールの中身が、見事にフィンへ頭からとかかる。
途端、サッとロンから表情が消え、たかと思えば赤かった顔色がみるみる青ざめる。
間違いなく、怒られる。そう判断したロンが取った行動は。

「ごっごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

床が抜け落ちそうな勢いのダイナミック土下座が繰り出されたのだった。

【ごめんなさいパート2】

40 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/14(水) 04:14:33.41 0
スリの少女は冷たい石畳を底の薄い安物の靴で打ち、カツ、カツと独特の靴音を響かせながら人ごみを貫いていく。
彼女が縫っていく人の林、それを形成する祭りの客たちは、また馬鹿な観光客が犠牲になったと鼻を鳴らした。
夜通りはスラムから近いわけではないが、時間帯的に酔いどれも多くスリにとっては絶好の狩場なのだ。
自然体を装いながら、目だけを動かして通行人を品定めする者があったら、そいつは十中八九スリだ。
そしてこの少女も、そんなゴマンといる窃盗犯たちのうちの一人なのであった。

「へっへーーっ、今夜はチョロかったな!」

財布をあんなに無防備な状態にしておくなど、ギってくれと言っているようなものだ。
あんまりにもあからさまだから、同業者たちはむしろ警戒して手を出していなかったようだが、少女は違う。
スリの中でもカースト最下層に位置する"子供"である彼女にとり、獲物を選り好む余裕などないのだ。

「この重さ、金貨十枚は硬いな……久しぶりに、屋台でメシが食えるぞ」

疾走のペースを落とさずに、器用に口の閉じた財布を耳へ当てる。
ずっしりとした重みと硬貨同士の擦れ合う済んだ音で、ギったのが結構な高額であることを判断した。
これだけあれば、三月は"仕事"をしなくてすむ。『兄弟』たちにもまともな飯を食わせてやれる。

そうした皮算用の妄想は、不意に近づいてきた足音によって断ち切られた。

「…………はぁぁ!?」

少女を追う影があった。あらゆる抜け道と人波の掻き分け方を知り尽くしたプロのスリが全力で逃げているのにだ。
その追跡者――少女より3つほど年上程度の少年は、通行人に突き当たる度に迂回して、それでもこちらを見失わない。
どんなに遠回りでも距離を開けずに追い続けてくる。その不条理を実現するのは、冗談のような足の速さ。それだけだ。

「上等だ、んの野郎っ!ついてこれるもんなら――」

少女もペースを上げる。知りうる限りの近道を駆使し、スラムまでの道筋を短縮。
行商のテントを伝い、往来を進む牛車を飛び越え、婦人の股下をくぐり抜けて逃走。
ここまでやれば流石についてこれまいと振り返った。依然、少年は後ろを走っていた。

「まっず……スラムに入ってきちまう」

何か撒く手立てはないかと加速する視界に視線を彷徨わせて、スラムの入り口ちかくの路地にそれを見つけた。
路地から身体を半分だけ出して手招きしているのは、スリの少女よりもさらに年下の少年だった。
運の良いことに追跡者はそこの路地へと追い込もうという魂胆らしい。スラムに入る前に決着をつけたいのはお互い様というわけだ。
路地の手前まで差し掛かったところで少女は急制動。石畳を靴底が噛み付き、無理やりに身体の向きを転換する。

そのまま路地へと転がるように逃げ込んだ。
対する追っ手の少年は、またしても出鱈目な機動でほとんど速度を落とさずに路地裏へ。
人ごみのない路地での両者の速度は肉体の性能差がモロに出る。少女に逃げ切る機はない――

「今だ、やれっ!!」

追っ手が路地裏に入って最初の一歩を踏んだ瞬間、泥によって覆われていた術式陣が発動。
『吸着』の魔術によって足裏を地面と接着された追っ手の少年は、超高速のまま盛大にずっこけた。
げにおそろしきはその走破力。大人一人を掴んで離さぬ吸着力を持った陣にも関わらず、転んだ少年の足はそこから外れていた。
追っ手は態勢をすぐにでも立て直せる――だから、その前にダメ押しの一撃。路地裏で待機していた数人の子供たちが立ち上がった。
みんなで路地に積んであった酒瓶の木箱を地に伏す追っ手へこれでもかと投げつけ、完全に箱の山の下敷きにして制圧した。

「……なんだったんだ、おまえ。あのカモ女の仲間か?」

辛うじて息はできるように顔は出してやる。しかし返答はない。白目を剥いて気絶していた。

「フラウ、フラウ、こいつどうする?みぐるみはがす?はがしてぽい?」

路地裏にいた子供たちの一人がスリの少女に意見を仰ぐ。
フラウと呼ばれた少女は、うむんと唸った。

41 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/14(水) 04:14:53.71 0
「できれば"おじさん"に聞いてからのほうがいいんだけどな。
 ギった相手の仲間が追ってきたときの対処法なんて教えてもらってないし」

「ゆびをじゅんばんにおってなかまのいどころはかせるの?」

「どこで覚えたんだそんな知識……」

フラウを筆頭にした『路地裏の子供たち』は、みな眼も開く前からここに放り出された捨て子の成れの果てだ。
学がなく、故に街には戻れない。かといえばまだ幼い彼女たちに労働ができるわけもなく、スラムですら虐げられる始末だ。
大抵のものは受け入れるこのタニングラードにあってすら、どこにも行き場所をなくした子供たち。
路地裏で泥水を啜って生きるだけだった彼女たちに、生き残る術を教え言葉と字を学ばせた男がいる。
子供たちからは"おじさん"と呼ばれている、身元不明の中年男性だ。

「――って、仲間がいるってことは、追っ手がこいつだけとも限らねーじゃねえか!全員、散れ!迎え撃つぞ!!」

はたと気付いたフラウの号令によって子供たちが再び配置に戻る。
フラウ自身も自分の定位置へと潜り込んだ途端、路地裏の入り口からカモ女の声がした。

 * * * * * *

「なんか赤いの、ここで終わってるでありますねー?」

先行してスリを追ったウィレムを更に追っていたスティレット。
基本的に鈍足な彼女が辿り着いたときには、既に夜通りから見える範囲の路地裏に人影はなかった。
既にセフィリアやノイファも近くまで来ているはずだが、まさかみんなで仲良く路地裏に入るわけにもいかず散ったままだ。
路地裏の奥では何故か崩れた酒の空き箱がうず高く積もっており、その辺りだけ埃がもうもうと舞っているのが見えた。

「うーん。バリントンどのはどこへ消えたのでありましょうか。謎が謎呼ぶ大事件でありますね、正直興奮します」

注視すれば路地裏の入り口で発動を終えた術式陣の痕跡と、残留する魔力を発見できるはずだ。
もっともスティレットの場合、そもそもそういった思慮深さを期待するほうが見当違いなのであるが。

『とにかく進んでみるであります。あの箱の山も気になることでありますし』

目線を合さず念信器へと言葉を入れると、スティレットは躊躇いなく踏み込んだ。
二歩、三歩、四歩、五歩目。踏み出した足へなにかが絡みついた。路地脇に放置されていた小汚いロープだ。

「はれっ――?」

あとは一瞬。足首をきっちり拘束したロープがひとりでに持ち上がり、捕まえられたスティレットも引っ張り上げられる。
ロープを操る初歩的な魔術トラップによって、当代最強の剣術使い――剣なき今はただの人――は逆さ吊りにされたのであった。

「いたたたたたたたたた汚い!汚い!臭い!」

ぎりぎりと足首を締め付けるロープ。滴ってくるのはずっと路地裏に放置されていたことで染み込んだ汚汁。
スティレット課員の献身的な自己犠牲によってこの路地裏がただの路地裏でないことはこれで明らかになった。
その上で彼女を助け、あるいは消えた財布とウィレムの所在を辿るのは、きっと簡単なことではないだろう。


【ウィレム失踪(箱の下敷き)。スティレット宙吊り。
 『路地裏の子供たち』……現在路地裏は厳戒迎撃態勢にあります。無策に踏み込めば子供たちの工夫をこらしたトラップ、
             あるいは子供たち自身の伏兵による挟撃があることでしょう。
 目標1、2ターン フラウ以外の全ての子供・トラップについてはNPC扱いとします。自由にでっちあげてください】

42 :名無しになりきれ:2011/12/14(水) 07:38:31.05 0
地面から次々子供型トラップが現れる

43 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/12/16(金) 00:24:29.55 0
酒場に足を踏み入れた瞬間、一気に酒の匂いとむさ苦しい臭いがスイの周りを包む。

「安いの一杯頼む」

入り口に近いカウンターの席に座り、注文をした。
暫くするとマテリアの姿。
こちらがチビチビと呑んでいる間に、彼女はハイペースで呑み続け、一気に酔っ払いが出来上がった。

「ここまで一気に出来上がるのもすげぇな」

ぼそりと感想を呟き、再び入り口に意識を向ける。
そして、入ってきたのはクローディアの一行と、フィンとファミアだった。
彼らが席に着いたのを確認すると、再び周りに意識を飛ばした。
先程から、何かに見られているような気がしてならない。

>『尾行、ですか』

マテリアの声を聞いて、自然な動作であたりを見渡した。
それらしい姿も一応確認する。
マテリアの演義のおかげでさらに特定できた。

>『スイさん、私はまだ尾行者の姿を確認していないので特徴をお願いします。
 それから、ヴィッセンさんと組んで尾行に当たってください。
 ――万一何かあるようなら、ばれてもいいですから二人で飛んで逃げてください』
『了解した。これから特徴を挙げていく。服装はズボンと赤茶色っぽいジャケット、鳥打帽。新聞を所持。見た目は…ただのおっさん、ってとこだな』

ファミアの念信に応え、特徴を述べるとグラスを再び手に持ち、表の自分でも僅かながらに操れる異才を発動した。
風の目印をつくりだし、その男につける。
そして、マテリアに向かって念信を飛ばした。

『マテリア、動けるか?俺はいつでも良い。』

先程の演義が嫌にリアルだったため、心配になったスイは最後につけ足した。

『あ、あのな、無茶はするなよ。本当に気持ち悪かったら言ってくれ』

44 :名無しになりきれ:2011/12/17(土) 01:29:50.20 0
レギオン2世が
機会兵として復活

45 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/12/18(日) 22:23:58.48 0
滞りなくレストランへのエスコートを済ました後。
現在、出された華美な料理に手も付けず、フィンはただただファミアの横に
無言で、或いは本当の執事の様に佇んでいた。
眼前の二人の少女達が繰り広げる会話こそ耳から脳へと届いているが、
自身の意識はその大半を別の「思い出」を繰り返し再生する事へと割かれている。
見えない敵との情報戦……そんな危険極まりない状況であるが、そんな中でさえ
こうやって少しでも「日常」を感じさせる場面になると、それは治り切らない傷の如く疼くのだ。
疼き、次いで思い出させるのだ。己の目の鼻の先で命を落とした一人の仲間の事を。
その思い出は更に古い傷跡と混ざり合い、無意識にさえフィンを責め苛んでいるのである。
そうして思うのだ。眼前のヒト達は、どうして仲間が死んだという事を、
まるで忘れてしまったかとでも言う様に容易く日常に回帰出来ているのかと。
木馬の玩具の様に繰り返されるその思考は、無限に繰り返され……

>『尾行がついてる。あれもあんたたちのお友達?』

「……!」

だが、クローディアが差し出してきたその情報を確認すると、
途端に思考の沼に沈んでいたフィンの意識は正常に戻った。
スイッチの様な瞬時の感情の切り替えは、ファミアとは別の意味で危険に敏感な
フィンならばこその不健全な芸当とい言えるだろう。

>『わ、わかりました。まずはこの場で様子を見ます。
>店を出た後、尾行者が私たちについてくるようなら視界に入らない程度の距離で追ってください』

優秀な事に、フィンが思索から現実に回帰するその僅かの間で、
ファミアとマテリアは互いに情報を交換し合い、次の行動への指示と指針の決定を行っていた。
この才能とは別の意味の能力は、何故ファミアがリーダーじみた立場に立たされたかを物語っていた。

46 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/12/18(日) 22:24:16.63 0
>「ねえフィン、わたくしハンターズギルドとかいうところへ行ってみたいわ。報酬次第で何でもする輩の集まりなのでしょう?
>何か珍しい話や品を抱えている者も多いのではなくて?」

そうしてその素晴らしい能力のまま、ダニーやロンと共に極めて自然な言動(最も、ダニーとロンに関しては
演技ではなく「素」であるのだろうが)を取り、今後の行動をフィンへと伝える。
別席のスイとマテリアもファミアの意見に反対は無いらしく、状況を開始しようとするが
この段階で、フィンは現状に疑問を覚えていた。思考、というよりは直感的な部分で感じる違和感。

(……ん?そういや尾行って……なんで「今」の俺達に尾行が付けられてるんだ?
 いや、確かに目立つ行動はしてきたから注目されるのは判るけど、
 まだ『嗅ぎ回ってる』事を臭わせる行動は、起こしてないんじゃなかったか?)

現状は、何かがおかしい。だが、そのおかしさは致命的なものではない為、
フィンは思ったことを事を口に出そうとし……止めた。
ひょっとしたら、単なる物盗り狙いの現地民か何かかもしれないからだ。
その程度の相手に対して余計な動きをすれば、かえって怪しまれる。
それに、仮に相手が「遁鬼」であるのなら、尾行の臭いを嗅ぎ取らせるなどある訳が無い。
そう思い、口を閉じたのである。
替わりに口から出すのは、先ほどのファミアの問いに関する答え。

「おう……じゃなくて、はい。畏まりましたお嬢様。
 確かに、ギルドならばお嬢様をご満足させられる品もある事でしょう。
 ですが、ああいった場所は得てしてごろつきが多いものです。
 ですので、道中は絶対に私の側を離れないでくださいませ。
 近くにいらっしゃれば、どんな状況でもこのフィン……フィーンがお守り致しましょう」

慣れない敬語と共に、念話ではなく口頭でそう告げると、
フィンはファミアに向けてエスコートするかの様に手を差し出す。
そうしながら、クローディア達に視線を向ける。

「そうだ、クローディア……様、ダニー様、ロン様、ナーゼム様……えーと……」

そこで、一端の別れの挨拶を言おうとして言葉に詰まる。
このような会話には、慣れていないからだ。フィンは頭の中で必死に
かつて自分に仕えていた執事の言葉を思い返し……

「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」

快活だが少し陰のある笑顔で、フィンはそう軟派男の様な発言をぶちかました。
当の本人に自覚は無いが……家族の様な付き合いの老紳士と、顔見知りであるというだけの快活な青年。
使う年齢と関係が変わるだけで、言葉の意味は変わるという見本例である。

【フィン:言われた通りに、ギルドにファミアの手を引いて向かおうとする。
     去り際に婉曲なセクハラ発言投下。尾行と聞いて奇妙な違和感を感じる】

47 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/12/19(月) 22:20:51.02 0
物影を縫うように路地を抜け、また次の路地へ。

「追手の気配は……大丈夫ですかね。」

壁に付着した化粧粉を指で拭いつつ、ノイファは深く息を吐く。
併せた両手を口元へ。気が緩んだせいか、思い出したように襲ってくる寒さに体を震わせる。

もっとも理由はそれだけでもないだろう。既に"夜通り"の本筋から外れること数本。
露店の類も、人の流れも、めっきりと数を減じ、大通りでは整然と列を成していた蓄魔灯も片手に余る程度。
つまるところ少し前までと比べ、まるっきり熱源が不足しているのだ。

>「なんか赤いの、ここで終わってるでありますねー?」

先行して二人を追っていたフランベルジェの声に疑問符が混じる。
ウィレムに渡した瓶の分量から考えれば、紅粉が尽きたという可能性は少ない。
追跡中に落としたのでないならば、標的を捕まえたか、あるいは逆に捕まったか――

(――おそらく後者でしょうね)

そう中りをつけた理由は二つ。
件の路地裏があまりに静謐に過ぎることと、微かに漂う魔力の残滓。
任意発動の術式陣ならば、追走する相手だけを切り離すことも可能だろう。

(……向こうにも仲間が居ると考えた方が良さそうですね)

"術式"の確立以来、魔術行使の術理がいくら簡略化されたとは言え、やはりそれなりの集中は必須となる。
まして全力で走っている最中ともなれば、熟練の魔導師と言えども容易とはいかない。
スリの少女が熟達した術者である可能性を考えるよりは、協力者が居ると判断する方が合理的だ。

>『とにかく進んでみるであります。あの箱の山も気になることでありますし』

念信器越しに響くフランベルジェの声。
普段の言動こそ多少ぬけてはいるものの、上位騎士であり当代"剣鬼"の称号すら継いでいる彼女だ。
こういった荒事に関しての洞察力は期待できるものがある、とノイファは踏んでいた。

『ええ、気をつけて。判っているとは思いますが――』

――罠に注意を。と最後まで言い終わるより先に、逆さ吊りになった"最強の剣士"がそこには居た。
歩数にして実に五歩。
途惑うことなく危地へ踏み込む様は、流石鬼銘の継承者と感銘すら覚えたのだが、どうやら誤っていたらしい。

(まさか無策だったなんて……)

ロープで吊るされじたばたと暴れる"剣鬼"を尻目に、ノイファはあからさまに肩を落とす。
とはいえ、相手もこちらの想像以上にしたたかなのは否めない。随分と統制された動きも見せている。
子供と思って侮ったのではフランベルジェの、もといウィレムの二の舞になりかねない。
二人が捕まった以上、最早引くわけにもいかなくなった。

『セフィリアさん聞こえますか?』

ノイファは念信器に指をかけ、セフィリアに声を通した。

48 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2011/12/19(月) 22:23:34.18 0
「大丈夫ですか!?」

片足ごと空中に吊り上げられたフランベルジェの元へ、息を切らせて走り寄る。

「貴女の声が聞こえて、慌てて追いかけてきましたけど……一体どういう状況です、これ?」

予想していなかった出来事にどうしていいのか判らない風を装い、路地裏の所々へと視線を向ける。
フランベルジェを戒めているロープを皮切りに数箇所に罠。その他に数人の伏兵。
隠蔽は完璧とは言い難いものの、夜闇であることを加味すれば見つけることは実に困難だろう。

ここまで全てセフィリアに告げた作戦通りだ。
先ずノイファが突入して相手の目を惹き、その隙にフランベルジェを救出する。
手ぐすね引いて待っている相手を、逆にペテンにかけてやろうという、実に大人の汚さが滲み出た方法だった。

「ロープは解けそうもないですねえ……、切らないと駄目でしょうか。」

酒の空き瓶の破片を調達しようと奥へ視線を向ける。
ごくりと、喉が鳴る。ここから先はトラップと伏撃のオンパレードだ。どれだけ"気付いてない振りが出来るか"が勝負だ。

(あれは確か"吸着"だから駄目ですね。当然"吊り縄"も駄目。となれば……あの辺が無難かな)

目星をつけたトラップに向けて駆け寄る。

「きゃんっ!?」

踏み込んだ右足が、接地と同時に沈んだ。"陥没"の術式トラップだ。
不自然にならないようにつんのめり倒れ込む。事前に緩めておいたポーチから財布が零れた。

(……うわ!?随分とエグい道具を知っていますねえ)

腰を擦りながら立ち上がり、ちらと視線を脇へ向ける。
物影から二人。片方は角材、もう片方は中身の入った小ぶりのズタ袋を手に殴りかかってくるのが見えた。

「え、何、ちょっと待っ――」

両腕で顔を覆いながら、隙間から二人を覗き見た。連携は取れているが動きは素人に毛が生えた程度だ。
腰を沈め、重心をずらし、攻撃の勢いが乗り切る前に自分から当たりに行く。
相手には手応えを残しつつも、こちらは大してダメージを受けていない。

(五人、六人、七人……随分居ますねえ)

次々現れる伏兵の攻撃を冷静に――見た目には必死に――対処しながら、ノイファはじりじりと目指す位置に近づいていた。
空き箱が積み重なる路地裏の奥。フランベルジェが怪しいと指摘した場所だ。
子供達は獲物を追い詰めた、と思っているだろう。

だが実際は違う。一番困るのはウィレムを人質にされることだ。
だから最も怪しいこの場所を、何を置いても確保したかったのである。
後はセフィリアがフランベルジェを救出してくれていれば、反撃の準備が整う。

『――目的地に到着しましたよ。』

ノイファはゆっくりと、口端をつり上げた。


【空き箱前に(わざと)追い詰められました。】

49 :名無しになりきれ:2011/12/20(火) 20:01:17.11 0
パンパンパンパンパン!!!!!

銃を持った兵士みたいなのが
ジャンプしながら砲を連射してくる

50 :名無しになりきれ:2011/12/21(水) 10:42:50.04 0
そして勢い良く地雷原に突っ込み全員散った

51 :名無しになりきれ:2011/12/21(水) 20:41:51.07 0
何人死んだ?

52 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/23(金) 15:34:47.49 0
尾行について『遊撃課』の面々に水を向けてみたところ、何がどう影響したのか酒場は騒然となった。
飲み過ぎた娼婦が吐き気を訴え、筋肉女が菓子をぶちまけ、貴族の従者が頭から酒を引っ被った次第で。
どうやらその騒ぎじみたやり取りの中で何らかの手を打ったらしく、『お嬢様』は席を立った。

>「ねえフィン、わたくしハンターズギルドとかいうところへ行ってみたいわ。報酬次第で何でもする輩の集まりなのでしょう?
 何か珍しい話や品を抱えている者も多いのではなくて?」

(場所を変えるの――?)

とりあえずこの場はお開きということだろう。
『お嬢様』も、クローディア率いる『商会』も別に暇を持て余しているというわけではない。
今日はもう日も暮れ始めているから仕事をするつもりもないが、片付けておきたい雑事もまだ残っている。

「オッケ。あたしたちも宿にしけこみましょ」

クローディアも席を立つ。この街にはしばらく滞在して商売をするつもりだから、いつまでも旅宿には泊まれまい。
どの道不動産を借りることになるのだから、いっそ住居兼事務所にしてしまうか。
いやまて、そうするとダニーはともかくロンやナーゼムと同衾することになってしまう。
社長と社員が同じ部屋で寝泊まりするというのも変な話だが、それ以前に男女比2:2で雑魚寝というのは……。

>「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」

そんなことを考えている傍からこの発言とくれば、クローディアは傾けたマグの中にココアを逆流せざるを得なかった。
言葉の意味を想像して一瞬で耳が熱くなる。クローディアとて年頃の少女なのだ、耳年増なきらいはあるが、恥らいもある。

「ばっっっっかじゃないのっ!?出会って一時間(という設定)でそういうこと言う?フツー!」

悲鳴じみた罵倒をひとしきり終えて、汗をかいた彼女は肩で息をしながらひとつ閃いた。
クリームまみれのロンと、半目でフィンを睨むナーゼムに振り返り、

「丁度良かったわ!あんたたち、この色ボケ執事が布団に入れてくれるそうだから今夜押しかけたげなさい。
 宿泊費も浮くし、スポンサー様と仲良くなれるし一石二鳥よ!」

テーブルに置いてあった箱から楊枝を取り出して一本口に咥えながら、クローディア達『商会』は酒の席を辞した。

 * * * * * * 

「なるほど、二重尾行ってわけ」

ハンターズギルドのほうに用事があるというフィンとその主人に同行して『商会』は昼通りを往く。
クローディアが向かおうとしている役所も同じ昼通りにあるため、途中までは一緒の道のりであった。

「相手も結構なやり手ですね。距離を保ちつつ、常に人混みの中から監視する――教科書通りの尾行術です」

ナーゼムが鼻を鳴らしながら分析した。
『尾行の男』は彼女たちが会計を済ませたタイミングで席を立った。
その後は尾行に気付かないふりをしていたので詳しい動きはわからないが、通りを進むうちに人混みに紛れて尾行の影があった。
間違いなくついてきている。総勢6人の男女を尾行する男の姿の更に背後に、娼婦と宝石商が見え隠れしていた。
尾行者をさらに尾行する二重尾行。大所帯ならではの離れ業である。

「それじゃ、ここでお別れね。近いうちに会いましょお嬢様」

通りを行くうち、左右に派生した辻路にさしかかった。
ここを真っすぐ行けば昼通りの商業区。左に行けばハンターズギルドだ。後者に用のあるお嬢様一行とはここで別れる。
尾行は一人だけだから、別れれば必ずどちらか一方を追うことになる。
遊撃課のほうを追えばクローディア達は無関係、あちらの問題ということで解決を一任できるが――

53 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/23(金) 15:35:10.49 0
「こっちに来たら……撒けると思う?ナーゼム」
「無理ではないでしょう。教科書通りとはいえ、我々の退店をすぐに追ってきたあたりに焦りが見えます。
 気配の隠し方も三流以下、状況変化への対応もお粗末……おそらく実戦経験が足りていないのではないかと」
「あら?あんたにしてはずいぶん辛口ね。なにか嫌なことあった?」
「……私は男と同衾する趣味はありません」
「そこ根に持ってるの!?」

クローディアは懐から銀貨を取り出した。磨かれた銀色の表面は、鏡のように景色を反射させる。
コインの形に切り取られた背後の景色――その中で、お嬢様とフィンの後ろ姿がハンターズギルドへ向かうのが見える。
少しコインを傾けて更に後方を見れば、尾行者が左右を見回して慌てる素振りを見せていた。

「迷ってる……?初めからどっちかを尾けてたわけじゃ、ないってこと?」

尾行者の焦りのみえる挙動は、別れた両者のどちらを追おうか決めあぐねている様そのもの。
つまり、『どちらも追おうとしていた』ということの証左に他ならない。
辻で別れた商会とお嬢様一行、両者には表面上『一緒に食事をした』程度の関係しかないのにだ。
どちらか一方ならともかく、ほぼ無関係の二組両方を追いかける理由にはとんと心当たりがなかった。

「あたしたち、ここへ来てなにか悪いことしたかしら――」

刹那、往来から悲鳴が上がった。
振り返れば、お嬢様一行の歩いていった先で、歩道に馬車が突っ込んでいた。
通行人の行き来するまっただ中である。当然、乗り上げた馬車に跳ね飛ばされた人もいた――

「あれ、フィンじゃないの!?」

見える範囲では、轢かれた通行人は執事風の男一人のようだった。
この距離でも間違いなく判別できる。フィンだ。すぐ傍に"お嬢様"が立ち竦んでいたからだ。
クローディアは血が凍るかと思った。フィンがいくら頑丈とはいえ、走行する馬車に跳ねられて無事な人類などいない。
ましてやマテリアルの持ち込みを禁じられたここタニングラードである。

「だ、誰か医術院を呼――」

言い切る前に、撥ねた馬車から人が出てきた。それも一人や二人ではない、十人以上がわらわらと。
路上に伏すフィンと、お嬢様を瞬く間に取り囲み、腕を掴んで二人共を馬車の中へと引き摺り込んでしまった。
医院を呼ぶよりも足があるなら直接向かったほうが早い。クローディアは馬車の乗り手の行動をそう解釈したが、

「あれ?医院はそっちじゃないわよ!?」

鞭を入れられた馬車引きのゴーレムは、案内で見た医術院のあるほうとはまったく別方向へ蹄を叩いた。
その場にいた通行人のすべてを置き去りにして、何事もなかったように馬車は駆けていく――

「可哀想に、あれはもう助からんだろうなあ」

商会一行の傍で一部始終を眺めていた老紳士がぼそりと零した。
どういうことかとクローディアが問うと、彼は首を横に振りながら答えた。

「最近、朝通りのあたりで観光客や、無用心な金持ちを狙った人攫いがあってな。
 往来を歩いているところに突然、馬車で傍に乗り付けて、有無を言わさず馬車の中に引き摺りこむんだ。
 護衛がついてる場合は、ああいうふうに馬車で撥ね殺して……死体も片付けていくから、跡も残らない」

その連中が昼通りにもやってきたんだろう、と老紳士は言った。
下手すれば自分がその標的になっていたかもしれないというのに、酷く他人事のような言い様だった。

「司直は何をしてるの!?ここも帝国領なら、従士隊がいるはずでしょう!」
「おいおい君、観光の人か?従士隊が動くわけないだろう。――『武器を使っていないんだから』」
「は――――!?」

まるで林檎が木から落ちるのがおかしいと喚く狂人を見るような目で見られた。
そして思い至る。タニングラードにおける絶対法はただ一つ。『武器を持たないこと』――

54 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/23(金) 15:35:39.71 0
「武器さえ使わなければ、何をしても――何を奪っても、誰を傷つけても良いってわけ……?」

狂ってるわ、とクローディアは口の中で呟いた。
外の人はみんなそう言うな、と老紳士は肩を竦めた。
自由な商取引、法に縛られぬ生存権の代償――社会が秩序を保つために不可欠なルールが、ここではいくつも欠如している。
人類が裸で洞穴に暮らしていた時代に、法律が逆行しているのだ……!

「ロン、ダニー!馬車を追って!見つけたらこれで合図!」

二人へ一つずつ狼煙玉を押し付ける。
魔力を込めれば濃い煙が真っ直ぐ昇る、連絡用のアイテムだ。
念信器でもあれば都合が良かったが、民間には有線念信しか許可されていない。軍用のものと混線するおそれがあるからだ。

「あたしは医院に連絡つけるから」

馬車はいま、昼通りと朝通りとを連絡する辻へと爆走している。

 * * * * * *

なんてことだ。大失態だ。
ギルドへ垂れ込まれた情報から、いま街を騒がせている極悪誘拐集団『黒組』の次の標的が昼通りにあると知り、
これまた独自の情報網から黒組の好みそうなターゲットを見つけ出し、念のために尾けていたはずだった。
結果的には自分の見立ては大正解で、監視対象の片割れは見事に黒組によって拉致されたわけだが――

「捕まえられなきゃ意味ないだろお……!?」

あまりの情けなさに頭を抱えた。
辻のほうで別れた二組の、どちらを追おうか決めあぐねているところを襲撃されたのだ。
たとえ二択でも、片方についていけば良かった。確率は五分五分でも、動かないよりかはマシだ。
いつもいつも土壇場の判断を間違うのが怖くて、結論を先送りにして機会を逃してきた。

30年余りの人生、ずっとそうだった。
実家のコネで良い学校にだって行けたのに、職人にもなりたくて、結局どっちつかずの戦闘職になってしまった。
このままじゃいけないと一念発起して資格をとり、ハンターズギルドに再就職するも生来の優柔不断が再び災いしている始末。
あれほど真剣に学んで身につけた尾行術も、使い所を誤って気付かれているわけだし。

「だが……まだチャンスはあるっ!位置特定の術式はあまり得意じゃないけれど、フットワークには自信があるんだ。
 朝通りのほうに走っていったのはわかってるから、あとはじりじりと捜査網を狭めていって……」

地図を何度も確認しながらぼやく。
黒組は護衛は殺すがターゲットは絶対に殺さず傷付けず、身代金を絞りとるタイプの悪党だ。
時間的な猶予はある。だから今は、当面の問題を解決するところからやっていこう。

「――そこにいるんだろう?出てこい!僕の目を欺けると思ったらそれはもう赤点必至の大不正解だ!
 尾行する僕を尾行するというアイデアまでは良かったが、誤算があったな……。
 それは!お前ら以上の尾行術者、つまりこのウィット=メリケインの存在だァ――!」

手に持っていた新聞紙を丸めて棒筒状にし、その上から『硬化』と『加重』の魔術をかける、
長さ一メートルほどの、鉄パイプより強力な棍棒となった新聞紙を構え、死角にいるであろう二人へ忠告する。

「僕は強いぞ!お前らみたいな悪虐非道な誘拐犯よりもずっとな!
 おとなしく出てきてお縄を頂戴しろ、『そこの娼婦と宝石商』――!そしたら痛くしないから!」

ウィットにはすべてわかっていた。
娼婦と宝石商の姿をした彼らが――おそらく黒組の一員だろう――が如何に巧妙に偽装しようとも看破していた。
卓越した観察眼と洞察眼、それから術式看破の才を持っているにもかかわらず、行動力のなさで割を食う男であった。

【ファミア・フィン→歩いているところをフィンが馬車に跳ねられる。ファミアごと馬車に連れ込まれて誘拐→『黒組』】
【ロン・ダニー→馬車を追うよう指示。全力疾走する馬車にどうやって追いつけというのかは不明】
【マテリア・スイ→尾行者のほうから勝負をしかけてきた!二重尾行はバレている模様。『黒組』と勘違いされている】

55 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/12/23(金) 21:21:50.75 0
路地に追い込んだところで私はウィレムを見失いました
幸いなことに化粧粉が続いていたのでそれを目標にしていくことにしましょう
路地裏は薄暗く、先へ進めば進むほど人影が少なくなっていきました
いつなにが飛び出してくるかわかったものではありません
私の貧相な体を狙ったところでどんな得があるというのでしょうか?

暴漢以外にも野犬やその他危険があるか注意深く、ゆっくりと進むことにしましょう
スティレット先輩がずんずんと果敢にも先へ先へと進んでいく
先輩が先へ進む以上、私は無理をして進む必要はないでしょう
自己犠牲の心を私も騎士として見習わなければなりません

>「なんか赤いの、ここで終わってるでありますねー?」

とある路地の前で止まる先輩
マーカーが終っているというのは話
ここが目的地? いえ、そういうわけでは無さそうです
もし捕まえたのであればウィレムがひょっこりと現れてもいいはずです
そうでないということは、ウィレムの身になにか危機が!
私はいてもたってもいられず飛び出しそうになりました

「ウィ……」

飛び出しそうになった言葉を喉の奥にむりやり押し戻します
しかし、ノイファ女史は動かない
いまは先輩に任せるべきだということなのですか……?
冷静になれ、冷静になるのセフィリア

>『とにかく進んでみるであります。あの箱の山も気になることでありますし』

先輩に任せる
そう剣鬼である先輩のほうが私よりも適任にきまっている
適任に決まっていると信じている……
その信頼はものの5歩で砕かれました

>「いたたたたたたたたた汚い!汚い!臭い!」

路地の入り口で逆さ吊りになる当代最強の剣士
正直、失望しました
これで鬼というのは私は認められません!!

>『セフィリアさん聞こえますか?』

怒りが爆発しそうになったのところにアイレル女史のことばがちょうどいい冷却剤になりました
私怨は無用です。今は自分のなすべきことをするのみです

『はい、聞こえます
……了解です』

アイレル女史から語られる小生意気な子供達を騙し討ちにする作戦
まずは囮となったアイレル女史が子供達の気を引くというのです
そのあと私が先輩を救出するという手筈です

踏み込んでいく彼女を遠くから見送ります
襲いかかる子供達の攻撃を一般人的な対処かつダメージを最小限に抑えています
舌を巻くというのはこのことでしょう
どこかの先輩とは大違いです

56 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2011/12/23(金) 21:22:21.51 0
アイレル女史が路地奥へと追いやれたとき(わざとではありますが)
いまは敵の子供達はアイレル女史しかみえてない
私の存在など想像もしていないでしょう

>『――目的地に到着しましたよ。』

では、私の出番です
私は静かに近づいて、スティレット先輩の横に立ちました
「ひどい格好ですね。すぐに解放しますね」
耳元に小声で、罵倒しそうになる気持ちをぐっと抑えて

手に持つ串で先輩を吊り上げてる縄を切ります
能力で強化された串とはいえ『切る』というのは簡単なことではないですが、ここは『グラスリッパー』の渾名を見せるところでしょう
串で横なぎに一閃、先輩はボチャリと汚水のたまった水たまりに着水しました
私を失望させた罰です

「さて、ガキ共、お痛はそのへんにしておこうか?
そこのシスターと……よくわかんない人からたっぷりお礼をふんだくれなくなるからね」

私が口の端をあげて、笑顔をみせます
手の早い子供が一人、ずさ袋も振りかぶって襲ってきます
なんと動作の粗雑なことでしょうか……申し訳ないですけど、見せしめになってもらいましょう
私はその男の子の頭の高さまで足をあげ横に振り抜きました
案の定、男の子は横に飛び、壁に叩き付けられました

「他に痛い目を見たい奴はかかってくるといい」

まずは恐怖を見せつけて相手の心を掌握します
恐怖で塗り固められた人間がすることは2通りです
その場から逃げ出すか、無駄に抵抗するかです

退路はありません
出口には私がいます
逆には箱とアイレル女史、前門の虎、後門の狼とはよく言ったものです
だから彼らが向かう先は私がいる路地の入り口
そこまでには罠がいっぱい、もう設置したことも覚えてないでしょうね
さぞ面白い光景が見れることでしょうね
さあ、子供達、運良く罠を抜けたら私の牙をご褒美にあげましょう

(私は先輩より有能なんです)

……子供相手に怨念返しとは、恥ずかしい限りです

57 :名無しになりきれ:2011/12/23(金) 21:47:18.08 0
面白くないどころか見てて不快感すら覚える

58 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/24(土) 03:48:44.19 0
【黒組】

『黒組』は営利誘拐を目的に、タニングラードのならず者を集めた組織である。
ならず者と言ってもスラムを始めとした貧民層の人間が貧しさに耐え切れず突発的に走った犯罪者ではない。
タニングラードの『特異性』を利用するために他の街から移り住んできた筋金入りの悪人たちだ。
武器さえ使わなければいかなる犯罪も司直の眼を逃れられる。
工夫次第、がんばり次第でどれだけでも上を目指せるこの街の法律は、彼ら犯罪者にとって黄金郷のものだった。

「突然のご招待、その非礼をお許しいただきたい……。我々は貴女に危害を加えるものでは御座いません。
 貴女のお父様かお母様が我々の提示する条件を飲んで下さりさえすれば、貴女は即日自由の身です」

初めての昼通りでの『狩り』。無事に成功をおさめた仕事の獲物であるファミアに、『黒組』のリーダーは問う。
黒の礼服に黒い外套、黒のハットという黒尽くめの格好が、見事な紳士然とした調和を醸している壮年の男だ。
統一された黒の衣服に、白い肌と色の抜けた髪がコントラストとなって、薄暗い車内でも抜群の存在感をもっている。
ここは馬車の客車。貴族然とした瀟洒な内装と広々とした空間にはいま、リーダーとファミアしかいない。

「我々はこれより朝通りの事務所へと貴女をお連れいたします。
 そこにはソファがあり、ベッドがあり、温かい紅茶と美味しいお菓子、それから退屈のないよう読本なんかもお持ちします。
 貴女にはそちらでごゆるりとお寛ぎ頂きまして、取引が終わるまでの間、お待ちになっていただくことになります。
 ですので、今後についてなにもご心配召される必要は御座いません。そうお構えなさらずとも大丈夫ですぞ」

ワインはお飲みに?とリーダーはファミアへグラスを差し出した。
もう片方の手には西方の国からこの街へ運び込まれた有名な蒸留酒のボトルがある。
帝国内で流通させようと思えば金貨にして20は下らない逸品だ。関税を免除されたこの街では、半額以下で手に入る。
リーダーはボトルの中で揺れるワインの色に何を思い出したのか、ぽつりと呟いた。

「ああ、護衛の方がご心配ですかな?――残念ですが、我々は貴女以外のどんな犠牲も厭いません。
 全力で轢殺すべく突進し、事実それは成し遂げられました……ご覧になられないほうが良いでしょう。
 我々がやったこととはいえ、あまりに酷い姿です」

五体がきちんと繋がっているのが奇跡なほどに、馬車はしっかり護衛の身体の真芯を捉えていた。
部下が嫌がってろくに生死の確認もしていないが、よしんば生きていたとしてもあの怪我ではどのみち長くはないだろう。
現場には何も残さないのが彼らの流儀、護衛の死体も残さず回収して馬車の荷台に積んである。

「それでは貴女様のお名前、それから身柄を引き受けてくれる方への連絡先を教えていただけますかな――?」

 * * * * * *

「ったくよお、リーダーばっか女の子とお話してズリィーぜ。オレたちはあんな寒い場所にすし詰めだってのによゥ」

『黒組』構成メンバーの一人である盗賊風の男は、追跡の手がないか念の為の監視を申し付けられて詰車から出ていた。
この馬車は馬から始まって御者台、リーダーのいる客車、十数人の部下を待機させた詰車、荷台の順番で連結されている。
盗賊風の男は人後の護りを固めるために、詰車と荷台の間から顔を寒風に晒して後ろを確認していた。

「しかし、轢いちまった護衛もなかなか良い服着てたよな。ありゃ絹織か?もしかしたら装身具も良いのを持ってるかもな。
 リーダーは女のほうにご執心のようだし、護衛のほうからならちょっとばかしちょろまかしてもバレないだろう。
 この街じゃなんでも売れる。盗品でもな。絹織の執事服に装身具なら、売れば二束三文どころじゃないかもしらん」

連結部を伝って荷台に飛び移る。途端、凄まじい揺れに立っていられなくなった。
なんの緩衝措置もしていない鉄の車輪で石畳を走行すればこうなる。居住性を考慮に入れない荷台ならばなおさらだ。

「はいおじゃましますよっよ。お、いるいる、まだ生きてるかな?まあ生きてても喋れねーし、動けねーわな。
 この揺れじゃあ、止血もままならないだろうし、このまま楽に逝かせてやるのが人情ってもんか。
 お?なんだ、まだ若いガキじゃねえか……恨むなよ、少年っ!」

男は腰に差していた、呑地竜の骨を削って自作した杭を抜き放つ。
馬車の車輪止めに使うという名目で持ち歩いているものだ。その鋭利な先端を、フィンの喉元へ向けて打ち降ろした!

59 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/24(土) 03:50:52.35 0
【黒組:ファミアに身元引受人を問う。部下の一人がフィンに止めを刺そうと杭を打ち下ろす】
【馬車には黒組の十数人の部下が同乗していますが、すべてNPC扱いでOKです】

60 :名無しになりきれ:2011/12/24(土) 12:09:16.36 O
そこに数発の凶弾が…!

61 :名無しになりきれ:2011/12/24(土) 12:11:13.54 O
>>57
多分戻れないところまで来てるんだろうな

62 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2011/12/26(月) 11:52:02.65 0
ロンはフィンに酒を被せてしまってからというもの、
すっかり委縮しきり、ナーゼムとダニーの間で縮こまってしまっていた。
ダニーの頼んだシュークリームを咀嚼し終わった頃。お嬢様、もといファミアがフィンへ語りかける。

>「ねえフィン、わたくしハンターズギルドとかいうところへ行ってみたいわ。報酬次第で何でもする輩の集まりなのでしょう?
 何か珍しい話や品を抱えている者も多いのではなくて?」
>「オッケ。あたしたちも宿にしけこみましょ」

どうやら御開きのようだ。急いで残りのシュークリームを頬につめ、一気に飲み下す。
べったりと頬についたままのクリームを指で掬い舐め取る。汚いと窘められても止める様子はない。

>「そうだ、クローディア……様、ダニー様、ロン様、ナーゼム様……えーと……」
>「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」
>「ばっっっっかじゃないのっ!?出会って一時間(という設定)でそういうこと言う?フツー!」

快活な笑顔でしれっと爆弾発言を投下するフィン、それに対し林檎のように頬を紅潮させ罵るクローディア。
その場で(おそらく)言葉の意味を唯一理解できていないロンは、ダニーへと振り返る。

「なあダニー、ナンでクローディアはオコってるんだ?ヘヤのカギをアけてたらナニかあるのか?」

武道に明け暮れていたロンは、「そういった事」とはとんと縁が無い。
故に、クローディアが怒る理由も、ナーゼムの冷たい視線の意味もよく分かっていなかった。
また自分も、ダニーに対しとんでもない質問をしたということにも気づいていない。
よしんば説明されたとしても、難しい顔をして首を捻るだけに終わるだろうが。
唸り声を上げながらフィンの言葉の意味について考えていると、クローディアが振り返って言った。

>「丁度良かったわ!あんたたち、この色ボケ執事が布団に入れてくれるそうだから今夜押しかけたげなさい。
 宿泊費も浮くし、スポンサー様と仲良くなれるし一石二鳥よ!」
「え゛っ」

思わず変な声が出る。ロンはフィンに対し、すっかり苦手意識を持ってしまっていた。
いや、これを機に先の酒を被せた件について弁償を含めた謝罪をするチャンスかもしれないが……。
因みに、クローディアの言った意味も例に漏れず理解しておらず。

「それにしたって、ヒトリヨウのベッドにサンニンもハイるのはムズカしいとオモうんだけどな……」

全くズレたところにツッコミを入れるロンなのであった。

【昼通り】

ファミアとフィンはハンターズギルド、商会は役所を目指し、昼通りを練り歩く。
昼通りといえば、夜通りで会ったあの少年は迷わず自然公園に辿りつけたのだろうか。
酒場で飲んだエールのアルコールが体を巡るお陰か、頬が火照る。

>「それじゃ、ここでお別れね。近いうちに会いましょお嬢様」

辻路に差しかかり、二人とはお別れだという。
そうだ、今の内に言っておかねばと、ロンはフィンになるべく笑顔で、明るい声で言った。

「そ、それじゃあ、またヨルにな!ハナしたいコトもあるし!」

結局、行く事にしたようである。邪な気持ちはなく、きちんと酒場での件の謝罪をし直すつもりでだ。
勿論、本人は誤解を招きかねない発言をしたとは露ほどにも思っていない。

63 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2011/12/26(月) 11:58:21.23 0
役所へ向かう最中、ロンの意識は自然と後方へ向いていた。

「やっぱりツけられてるな……」
下手な尾行はロンの警戒心を更に強め、無意識に拳を作っていた。
何が目的なのか定かではないが、自分達に害を為すつもりならそれなりの迎撃するつもりでいた。
タニングラードが武力禁止の街とは知っているが、わが身の安全が一番だ。
クローディアの命令さえあれば、気付かれぬよう接近し、不慮の事故を装って鳩尾に一発でも入れるつもりでいた。
無邪気な子供を装って、辺りを見回す振りをし、尾行の目を探す。
そして、ハンターズギルドのある方、反対側の辻路へと目が向いた時。
突如、悲鳴。馬車が歩道に突っ込んだのだ。 馬車は歩道に居た一人の男を轢き、同時に甲高い悲鳴が上がる。
男が吹き飛ばされる瞬間、ロンは超越した動体視力をもってして、轢かれた男の正体を見ていた。

>「あれ、フィンじゃないの!?」
クローディアが声を上げる。信じたくはなかったが、言われると尚、その男はフィンだと信じざるを得なかった。
医者を呼べ、と言いかけたその時、馬車から人が出てくる。一人二人ではなく、十人以上はいる。
この時点で、ロンの本能が告げていた。今すぐ馬車を追え、でないと――。
お嬢様と執事を乗せた馬車は、見る見る去っていく。明らかに、病院がある方とは全く違う方向へ!
後方で老人とクローディアが口論していたが、耳に入らず、ロンの目は去り行く馬車を睨む。

>「ロン、ダニー!馬車を追って!見つけたらこれで合図!」

狼煙玉を受け取った瞬間、ロンは駆け出していた。

「そこのバシャ、マったぁーーーーーー!」

待てと言われて待つ馬鹿がいるわけがない。更に馬車は遠ざかる。
人間と馬車、差は歴然としている。だが追わなければ。
スポンサーを失くすのは惜しいし、何より――……目の前でまた誰かを失うのは嫌だった。
血の海に倒れ伏す家族と自分、轢かれたフィンとファミアが、重なってしまったのだ。

「チッ、このままじゃあのクソッタレバシャをトめられん!これモっててくれ!」

おもむろに、ロンは上着を投げ捨て、両手の人差し指で己の足――関節部分を突く。
その瞬間、一瞬だけだが――ロンの足全体を小さな紫電が走り抜けた。

「イくぞ!ゼッタイにトめてみせる!!」
ロンが再び駆けだす。明らかに人が出せる限界速度を超えた、弾丸のようなスピードで!
走るというよりは地を蹴って跳ぶ動作に近く、着地した場所に僅かな電流が走り、数瞬の後に消える。
これが、ロンの遺才――超高圧電撃『電龍』。
自身の体に存在する秘孔と呼ばれる場所に電流を流しこみ、脚部を強化したのだ。
走りの遺才ほどではないが、馬車に追いつくには充分だろう。

「我不放?、坏人!(逃がすか、悪漢め!)」

馬車は昼通りと朝通りを繋ぐ辻を爆走する。それに続くロン。道行く人からすればシュールな光景。
ロンは勝負に出た。強化した脚力で、地面がめり込むほどに地を蹴る。
パフォーマンスで見せた時よりも遥かに高く飛び上がり、馬車の上へと猫のように着地。
連絡用の狼煙玉を上げようとし、ふと思い立つ。
濃い煙を噴出するこの狼煙玉、狭い室内に放り込めばどうなるだろうか。

「(百聞は一見に如かず、だな)」

顔に似合わない黒い笑みを浮かべ、狼煙玉をぶちこむべく、それを持つ右手を振り上げた!

【お子様にセクハラ発言は意味をなしていない様子】
【遺才発動、脚部を強化し馬車に飛び乗る、狼煙玉を馬車に投げ入れての混乱を企む】

64 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/12/26(月) 23:39:00.59 0
>『わ、わかりました。まずはこの場で様子を見ます。
 店を出た後、尾行者が私たちについてくるようなら視界に入らない程度の距離で追ってください』
>『マテリア、動けるか?俺はいつでも良い。』

『了解です。じゃあ、私は一足先に店を出ていますね』

都合八名が同時に店を出たりしたら、不自然なんてものではない。
マテリアは口元を抑えていた右手を離して、立ち上がった。
半死半生の体を装いつつ店主に代金を払って出口へ向かう。

>『あ、あのな、無茶はするなよ。本当に気持ち悪かったら言ってくれ』

『あはは、だ〜いじょうぶですよぉ。お仕事ですから、使い物にならなくなるまで飲んだりはしてませ……』

言い終える直前、足がふらついて柱にしたたかに頭をぶつけた。
鈍い音が店中に響いて同情の、或いは残念な奴を見るような視線がマテリアに集中する。

『……今のはアレですよ。敵を騙すならまず味方からって奴です。別につい飲み過ぎたって訳じゃないんですからね!』

酒で火照っているのか、羞恥心故か、はたまたそれすら演技なのか、
仄かに赤く染まった頬を両手で抑えて、捨て台詞を残しつつマテリアは店を出た。
途端に鋭い寒気が全身を包む。火照った体にはそれがかえって心地よく感じられた。
白い息を吐きながら、通りを歩く。
酒場からそう遠くない商店を冷やかして回りながら、ファミア達が出てくるのを待った。

――何故、ファミア達に尾行が付いているのか。
聞き覚えのない心音だったが、昼間のパフォーマンスの噂を後から聞きつけてきたのかもしれない。
はたまた危機意識の低そうな観光客、余所者を狙った誘拐目的か。
この状況で最悪なのは作戦内容が漏洩している場合だが、それなら尾行などと回りくどい真似はしないだろう。
どうあれ、判断材料が少な過ぎる。何を考えても憶測の域を出ない。
ならば諦めて、賢い愚者となるべきだ。尾行の正体を看破すれば、全て明らかになる。
その事だけを考えて、命令に忠実な兵士になるのだ。

そう結論づけて、巡らせていた思考を断ち切る。
露店の髪飾りが似合うかどうかを手鏡で確認する仕草を装い、酒場の入り口を確認した。
丁度ファミアとフィン、クローディア一行が店を出るのが見えた。すぐ後を追って、尾行者も店を出ていった。
銀貨三枚で髪飾りと堅木製の小物入れを買うと、マテリアは更に何かを買おうか悩んでみせる。
いかにも足りない頭で考え込んでいるように、右手を口元へ――遺才を発動。

「スイさん、私は音で奴を追います。直接追うのはお任せ出来ますか?」

別の髪飾りを手に取り、鏡で確かめる仕草で右手を耳元へ――超聴覚が発動する。
足音、心音、呼吸音、尾行者が発する全ての音を漏らさず聞き取り、視覚に頼らない尾行が可能となった。
尾行者はファミア達から常に一定の距離を保っている。
かと思いきや、不意に尾行者の足が止まった。同時に心音と呼吸が乱れる。
ファミア達とクローディア一行がそれぞれ別の道へ別れたのだ。

――どちらが尾行対象か、厳密には決めていなかったとでも言うのか。
となると判断基準は単純に『金持ちそうか否か』『余所者か否か』と言った辺りか。
これは誘拐犯の線が濃厚そうだ。

マテリアがそう判断して――はたと、フィンへと迫る凶暴な音に気が付いた。
ゴーレムの脚部が、車輪が、石畳を荒々しく叩く音。
猛烈な勢いで走る馬車がフィン目掛けて爆進している。
尾行者の音と思考に集中し過ぎて、気付くのが遅れた。
表情が凍り付くのを辛うじて堪えて、だが可及的速やかに右手を口元へ――

65 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/12/26(月) 23:39:55.64 0
「ハンプティさん、後ろ!」

届けられたのはたった一言――直後に荒々しい衝突音が、遺才を介するまでもなく聞こえてきた。
マテリアの声は精々、フィンに一瞬間ほどの猶予しかもたらせなかっただろう。
失態だ、とマテリアは内心で歯噛みする。
フィンの心音はまだ聞こえている。
酷く乱れているが、静まってしまうよりかは遥かにマシだった。
負傷の程度は音だけでは分からない。
出血の有無や呼吸音を聞き続ければ推察は出来るが、フィンにばかり気を割いていては二重尾行が疎かになる。
なにより怪我がどれほどか分かったところで、彼女には処置のしようがない。
フィンの遺才がマテリアル無しでも彼の命を救ってくれるよう、祈るしかなかった。

>「ロン、ダニー!馬車を追って!見つけたらこれで合図!」

クローディアが指示を飛ばすのが聞こえた。
マテリアの遺才なら猛進する馬車の走行音を聞き取り、進路を追跡出来る。
案内役を買って出るべきだ。馬車を追う二人に声を飛ばそうとして、

>「――そこにいるんだろう?出てこい!僕の目を欺けると思ったらそれはもう赤点必至の大不正解だ!
  尾行する僕を尾行するというアイデアまでは良かったが、誤算があったな……。
  それは!お前ら以上の尾行術者、つまりこのウィット=メリケインの存在だァ――!」

不意に通りに響き渡った叫び声に出鼻を挫かれた。
思わず息を呑む。

>「僕は強いぞ!お前らみたいな悪虐非道な誘拐犯よりもずっとな!
  おとなしく出てきてお縄を頂戴しろ、『そこの娼婦と宝石商』――!そしたら痛くしないから!」

二重尾行がバレていた。それどころか職業の偽装すら見抜かれている。
一体何故か、振る舞いや僅かな視線のやり取りから気付かれたのか。
或いは秘匿念信すら察知出来るほどの術才を男が持っていたのか――違う、今考えるべき事はそうではない。

この事態に対してどうすればいいか、だ。
マテリアは頭を軽く左右に振り、即座に思考の歯車を切り替えて、加速させる。
通りにはまだ大勢の人がいる。既に観衆の視線はマテリアに集まってしまっていた。
戦闘など論外だ。逃げたとしても噂が残る。あの娼婦と宝石商は身分を偽っているらしいと。
大多数の人間は下らないと一笑に付すだろう、しかし後々に致命傷へと繋がりかねない噂が。

だが、このウィットという男は、一つ勘違いをしている。
マテリア達は確かにウィットを尾行していたし、職業も偽っている。
けれども断じて誘拐犯ではない。
恐らくはその『誘拐犯』を追っている内に、怪しい人物――自分達を見つけて誤認したのだろうとマテリアは察する。
ならば、それを利用すればいい。

「……しょ、娼婦ってもしかして私の事ですかぁ?尾行だなんて、私、そんな事してませんよぉ〜」

周囲の視線を感じて始めて気付いたといった調子で、怯えた演技を始める。
それに交えて両手で口を抑えた。

「そう、ハズレだよ。ハズレもハズレ、大ハズレだ。尾行者はこの僕さ。
 まんまと正体を明かしてくれたね。おかげで、後は君を始末するだけだ」

声を飛ばす。ウィットの背後から、彼だけが聞こえる囁きを。

66 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2011/12/26(月) 23:40:43.89 0
「いえいえ何を仰る。私こそが尾行者ですよ。そこのところ、誤解なきようお願いしますぞ」
「違うわ!私が尾行者よ!ふふん、まんまと騙されたようね!」

ウィットからすれば周囲の人間が発しているようにしか聞こえない声を、何度も放つ。
容疑者を増やす事が目的だ。ウィットが大勢に疑いの目を向ければ、その分マテリア達への客観的な疑念は薄まり、彼の言葉からは信憑性が失われる。
ようするにマテリアは情報撹乱をもって、ウィットを妄想癖で幻聴まで聞こえる異常者に仕立て上げるつもりなのだ。

「それに、誘拐犯だとか……意味が分かんないですよぉ……。
 なんで私がそんな恐ろしい事……そ、そもそも……私は今日ここに来たばかりなのに。
 そんなのあり得ないじゃないですかぁ……。せっかくお休み貰って旅行に来たのに、なんでこんな……う、うえぇん……」

跪き、いかにも訳が分からない恐怖に呑まれて、といった風体で泣き出した。
入国審査でも取り上げられる事のない、女の最大の武器を見せる。
同時に両手で顔を覆って、再び声を飛ばした。

「あーあー泣かせた。まったく罪な男だねお前さん、誘拐犯はこの俺だってのになぁ」
「いい加減嘘を吐くのはやめましょう。私が誘拐犯です。まあ、それも嘘ですけどね」
「もう皆誘拐犯って事でいいんじゃないかな?ほら、仲良くこいつを始末しようじゃないか」

変幻自在の音声で、刃が鞘の内側を滑る音を奏でる。
弓が限界まで引き絞られる音を。
背後から何者かが歩み寄ってくる音を。
ウィットが警戒する素振りを見せれば、それは異常者が一人相撲をしているようにしか見えない。

「だ、誰か……誰か助けて下さいよぉ……。この人、怖いですぅ……」

秘かに、視線をスイへと向けた。
ウィットがマテリアの目論見通りに異常者の振る舞いを見せたのなら、
スイは泣いている娼婦を守る為という大義名分の下に彼を打ちのめせる筈だ。
旅の宝石商ならば護身術の一つや二つ身に付けていても、不自然ではない。
遠慮なく戦う事が出来る。

「なんだか誤解があるみたいですけど……まずは大人しくなってもらいましょう。
 これ以上騒がれても面倒ですし、やっちゃって下さい」

泣き声から打って変わって平静極まる声色で、遺才を用いてスイへ秘かにそう告げた。
これで思惑通りにいけばそれでよし。
もしも余計に厄介な事を口走り出したら――その時は『口封じ』をするしかない。


67 :名無しになりきれ:2011/12/26(月) 23:49:21.89 0
レギオン兵100名と
敵軍兵士たちが
撃ち合いをはじめた・・・・・・・・・・・・

68 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/12/27(火) 13:34:38.58 0
もう少し大きければ赤子の湯浴みにすら使えそうなジョッキが、ようやく空になりました。
卓に付いている他の面々のジョッキや皿もそれぞれ中身が無くなっています。
消えた先が胃の中ではなく顔面だったり頭上だったりするのはこの際あまり気にしないほうが良いでしょう。

エールを浴びせかけられたフィンはというと意に介した風もなく、
髪をかき上げて水気を飛ばしつつ、いかにも執事然としてファミアに手を差し出します。
滴ってるのがお酒でもイケメンはイケメンなようです。

「うー」
ファミアは呻きながら手を重ねて、それを支えに椅子から滑り降りました。
お酒に弱い方ではないのですが、それにしても短時間で一気に飲み過ぎたようです。
忙しい時期柄、救急隊の方々に迷惑をかけないように気を付けたいものですね。

>「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
> 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」
>「それにしたって、ヒトリヨウのベッドにサンニンもハイるのはムズカしいとオモうんだけどな……」
「あー、それなら私もご一緒させてもらおうかなー……」
変な風に血の巡っている頭で飛び交っている言葉を捉えたファミアは、特に何を意識するでもなく口を滑らせました。

北国の、特に古い城館住まいなら、暖を取るために一つの寝台で寝ることは魔導機器の発達した今でもそう珍しくありません。
もちろん『そういう』のではない意味がこもっていることには全く思い当たっていない上での発言ですが。
クローディアが何やらわめきたてているものの、ファミアにはなんのことやらさっぱり。
店を出ると、湿った冷風が頬を撫でて、幾らかは酔いを覚ましてくれました。

払いを終えて出てきたフィンの手を握って昼通りを抜けてゆきます。
いくつめかの辻でクローディアが足を止めて、別れを告げました。
>「それじゃ、ここでお別れね。近いうちに会いましょお嬢様」
「はーい、今夜お待ちしてます」
酒が抜けていないのかネジが抜けているのか、あるいは両方か。
まあ、どこに泊まるか実際には教えていないので実現する可能性もありませんけれど。

クローディア商会一行に手を振って別れを告げ、逆の手をフィンに引かれてハンターズギルドの方へと歩を進めていきます。
歩いている内に、完全に忘れ去っていた尾行者のことを思いだして、後続の二人へ確認しようと足を止めました。
次の瞬間、フィンが馬になっていました。
さっきまで自分の隣にいたのがフィンで、今隣りにいるのが馬なのだからそういうことでしょう。
少なくとも酔っぱらいにとっては実に自然な解釈です。

さて、ではまず課長に事の次第を報告した上でこの馬の処遇を考えなくてはなりません。
馬とチームを組んで任務を遂行するのは少々難しそうだからです。
ここからでは念信は届かないでしょうが、試すだけは試しておこうとした矢先、
脇に手が差し入れられてひょいと持ちあげられて、豪奢なキャリッジの中に放り込まれました。

69 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2011/12/27(火) 13:36:39.42 0
>「突然のご招待、その非礼をお許しいただきたい……。我々は貴女に危害を加えるものでは御座いません。
> 貴女のお父様かお母様が我々の提示する条件を飲んで下さりさえすれば、貴女は即日自由の身です」
「あ、はい、ご丁寧にどうも」
客車の中には男が一人。状況が飲み込めないので、指し出されたワインを代わりに飲みながら話を聞きます。

>「ああ、護衛の方がご心配ですかな?――残念ですが、我々は貴女以外のどんな犠牲も厭いません。
> 全力で轢殺すべく突進し、事実それは成し遂げられました……ご覧になられないほうが良いでしょう。
> 我々がやったこととはいえ、あまりに酷い姿です」
そこまで話が及んで、ようやくフィンは馬になったわけではなかったのだと理解できました。
それから、やっと全体の状況が腑に落ちました。
どうも営利目的で誘拐されたようです。

(馬車は一台だった?この人以外には何人いた? ――だめだ、全っ然覚えてない……)
脳味噌を精神的にこねくり回してみてもなんにも出て来ませんでした。
覚えていないのはもうしょうがないので、目の前の事柄だけを整理します。

さしあたって車内にはファミアと人さらいの頭領だけ。ミトンはつけっぱなし。
(あ、いける)
それを認識したあとの半秒で、壁をぶち破って外へ飛び出してそのまま転がって衝撃を吸収しつつ
最終的には勢いを利用してすっと立ち上がり、何事もなかったように埃を払って歩み去るところまで明確にイメージ。
さっそく思い描いた軌道を身体にトレースさせるべく力を入れかけたところで、一つ忘れていることに気が付きます。

(ハンプティさんどうしよう!確かミンチよりもひどいって……)
若干記憶に混乱が生じていますが、おおむね間違ってはいないのでよしとしておいてください。
さて、フィンがマテリアルの持ち込みに成功していたかはファミアは確認していません。
仮にも隊を預かる身としてはやってはいけない初歩的なミスです。
こういう場合はとりあえず悪い方を想定して動くものですが、
そうなると一刻も早くフィンを医者に見せる必要があるという結論が導き出されます。

先に一人で脱出してから後でフィンを奪還するべきか、
連れて離脱すべきかと思い悩むファミアの目前で、馬車の窓から転がり込んでくるものが一つ。
それはファミアと男のちょうど真ん中辺りまで来て、ものすごい勢いで煙を吐き出し始めました。
言うまでもなくロンが投げ込んだ狼煙玉ですが、もちろんファミアはそんなことは知りません。
豪奢で広々とした車内、とは言うもののそれはあくまでも馬車としてはの話。ワルツが踊れるほどというわけではありません。
当然、即座に煙が充満します。

目と喉を焼く白煙の刺激に酔いも思考も吹っ飛んだファミアは、咳き込みながらもとにかく外気を吸おうと壁を一撃。
遺才で強化された腕力はたやすく壁を破り、勢いで車外に転がり出てしまいました。
そこで服が壁の穴に引っかかって、おかげで地面とのキスは避けられたものの、地上一インチの所で宙吊りに。

服の前後の裾を抑えなくてはいけないので両手は使えません。なので、よじ登るのはほぼ不可能。
こんな状況なんだし下着くらい見えても、という意見もあるでしょうが、尊厳も大事です。
しかしながら、後続の馬車に轢き潰される可能性があるので飛び降りるのも出来れば避けたいところ。
そこで少し横を向くと、連結部が見えます。
連結部を破壊する→後続の速度が落ちる→飛び降りても安全
「……えいっ!」
勝利の方程式を導き出したファミアは、ためらうことなくそこへ頭突きを繰り返しました。

【領域死守】

70 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/12/27(火) 15:25:32.72 0
酒場からでると、店の中から鈍い音が聞こえた気がして振り返る。

>『……今のはアレですよ。敵を騙すならまず味方からって奴です。別につい飲み過ぎたって訳じゃないんですからね!』

いや、あきらかに飲み過ぎだろう、というツッコミは心の中で呟いておく。
別の店に入り、ファミア達が出てくるのを待った。
一応買い物でもしておくか、と思い店の奥にいた老婆に話しかけた。

「すまない。強度の強い糸などは無いだろうか?」

老婆が薦めてきた糸を購入し、尾行者が酒場から出てきたのを確認する。

>「スイさん、私は音で奴を追います。直接追うのはお任せ出来ますか?」
『了解した。』

足音と気配を消して走りだす。
裏路地に入り、勢いをつけて跳躍。
屋根の上に無事着地すると、人に見つからない道を通って尾行者を追った。
屋根の上にわざわざ登ったのは、いつでも異才が発動できる様にだ。
あのような人混みで発動しては大惨事になりかねない。

>「――そこにいるんだろう?出てこい!僕の目を欺けると思ったらそれはもう赤点必至の大不正解だ!
  尾行する僕を尾行するというアイデアまでは良かったが、誤算があったな……。
  それは!お前ら以上の尾行術者、つまりこのウィット=メリケインの存在だァ――!」
「気付かれている時点でお前も…赤点?、とかいうやつだろ」

スイはそうぼそりと呟き、眺めた。

>「僕は強いぞ!お前らみたいな悪虐非道な誘拐犯よりもずっとな!
  おとなしく出てきてお縄を頂戴しろ、『そこの娼婦と宝石商』――!そしたら痛くしないから!」

そこまでは読み取れたのか、と感心する。
さて、どうしようか。
このままノコノコと出て行くにしても、頭の悪い自分は上手く受け答えが出来る気がしない。

>「……しょ、娼婦ってもしかして私の事ですかぁ?尾行だなんて、私、そんな事してませんよぉ〜」

ウィット、とか言っていた男の視線がマテリアに逸れた隙に地上に飛び下りる。
群集の後ろに着地し、様子を伺った。
何に惑わされているのか、キョロキョロと相手の視線が彷徨っていた。

71 :スイ ◆nulVwXAKKU :2011/12/27(火) 15:25:54.41 0
>「それに、誘拐犯だとか……意味が分かんないですよぉ……。
 なんで私がそんな恐ろしい事……そ、そもそも……私は今日ここに来たばかりなのに。
 そんなのあり得ないじゃないですかぁ……。せっかくお休み貰って旅行に来たのに、なんでこんな……う、うえぇん……」
>「だ、誰か……誰か助けて下さいよぉ……。この人、怖いですぅ……」

マテリアの零した台詞にスイは反応した。
即座にマテリアの考えたことを理解し、ゆっくりと人混みを掻き分けながら、前へと進んだ。

>「なんだか誤解があるみたいですけど……まずは大人しくなってもらいましょう。
 これ以上騒がれても面倒ですし、やっちゃって下さい」
『これで動きやすくなった、感謝する。取り敢えず目立たないところに連れて行く、という方針で行こうと思う。』

そう念信を飛ばした後、一番前にと出る。

「おや、お嬢さんを泣かせるとは。」

そう言って、マテリアの手を取り、自分の後ろに隠すように出来るだけ優しく引っぱった。
安心させるように笑顔を向け、ウィットに向きなおる。

「女性は大切に扱う方ですよ?それをそんな武器を持って…。」

瞬時にウィットに近付き、手首を捻り上げる。

「その武器を放しなさい。従士隊を呼ばれたくは無いでしょう?」

出来るだけ声音を大人しいトーンで言うが、よくよく見れば、棍棒のような武器には先程購入した糸が絡み付いている。
それは例え反撃に遭おうと、武器を奪うことを暗に告げていた。

72 :名無しになりきれ:2011/12/27(火) 20:58:49.81 0
>>71
カチャ…

ドボンドボン!!
(ゲリラがスイにジャンプしながら重力弾を撃ち続ける)

73 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/12/27(火) 23:48:40.73 0
シュークリームを顔にぶちまけられたロンが怒ってエールを掴む。
やはり袖の下より直に言った方が早い、正直が一番だ。
そう思って見ていると、振り上げられたエールはすっぽ抜けるとフィンにかかり、ロンは只管謝り倒した。
しょんぼりした彼の様子を見ると流石に悪かったと謝ったが後の祭りだった。

まあそれはそれ、これはこれだ。一通り食べ終わった所で口を拭いていると、
話も終わったのか、ファミアの言葉にフィンが締めの言葉を注いだ。

>「えー……此度は楽しい時間でした。今後とも宜しくお願いいたします。
 今晩の私の部屋の鍵は空いておりますので、何かありましたらどうぞご自由に」

ダニーの中で晩飯のオーダーが決まった。僥倖である。
やはり寒いと人肌が恋しくなるものなのか。常夏の海岸は開放感に駆られ、
春と秋とは言わずもがなだ、これでは類人猿を笑えない。

まあそれはそれ、これはこれだ。折角のご好意、据え膳からのご相伴に預からない理由はない。
ダニーが疼く己の獣欲を窘める隣で、社長がぷりぷりと怒っている。
やはり刺激が強かったかと苦笑する。

>「なあダニー、ナンでクローディアはオコってるんだ?ヘヤのカギをアけてたらナニかあるのか?」
不意にロンが不思議そうな顔で聞いてくる。

「・・・・・・・・・」
"ナニ"があるんだろうなあ、とイントネーションを変えてダニー。
顔は向けずに視線は遠くを見つめたままだ。
幸い、顔を真っ赤にしたクローディアから文字通りのGOサインが出たことで最後の障害は消えた。
ナーゼムもロンも来る気配はない。残すはファミアだけだったが、

>「あー、それなら私もご一緒させてもらおうかなー……」
元気があって大変結構。今日は良き日だ。

上々の気分で酒場を後にすると、目的地へ向かい歩き出す。
これだけ良い事続きだとそろそろ邪魔が来るだろうと彼女は気を引き締める。
人生で禍福は概ね2対1と1対2の割合で繰り返す。となればもう来る頃だろう。

そして、途中でフィン達と離れてからすぐに往来から悲鳴が響き渡る。
来たかと身構えるが、予想外にも、巻き込まれたのはたった今別れたばかりの二人。
しかもフィンは轢かれ、ファミアは誘拐されてしまったらしい。

74 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2011/12/27(火) 23:51:21.54 0
そっち方面かと内心毒づきながらダニーは周囲を見渡す。この騒動で動揺していない人間を
探そうかと考えたのだが、アテは外れた。有体に言えば多すぎたのだ。
はっきりと動揺するよそ者と、我関せずの現地人。舌打ちしながら向き直ると、
馬車はもうそこにはいなかった。

>「おいおい君、観光の人か?従士隊が動くわけないだろう。――『武器を使っていないんだから』」
>「武器さえ使わなければ、何をしても――何を奪っても、誰を傷つけても良いってわけ……?」

(・・・・・・)
俺向きの街だな、とダニーは思った。ありのままの暴力で蹂躙していいことは
今の会話でなんとなく分かった。あとは実戦するだけだ。

クローディアが馬車を追うよう、二人に狼煙玉を手渡す。
ダニーもこのまま食いっ逸れるのは御免だった。

「・・・」
そっちも気を付けろよ、とクローディアに警戒を促すとロンを追って彼女も駆ける。
相方は既に遠く離れており、急いで後に続く。むくつけき淑女は若き武芸者の
走る姿を思い出す。

不謹慎ではあるが、彼女は感心した。アレが彼の本気というものなのか。
少なくとも火傷の一つは期待できそうだ。無意識に、顔に獰猛な薄笑が浮かぶ。
今は目的を優先しなければいけないが、新たな欲求が僅かに首をもたげる。

ロンに遅れることしばし、周囲から人の気配が減り始める。
ダニーは走るというより跳ねると呼んだほうがしっくりくるような足の運びで追従した。
想像するなら肉食獣よりも草食獣に近い。

ようやく馬車を視界に捉え始めた時には、馬車の屋根から黒い煙が上がっているのが少しだけ見えた。
追いつくにはもう少しかかってしまうだろう。ダニーはどうするのがいいか思案する。

ふと目に映った、路上に落ちていた酒瓶を拾うと、おもむろに馬車の車輪に投げつけた。
勢い良く放たれたそれは荷台に当たりけたたましい音を立てて砕け散る。
追いつくより投げたほうが早い。そのことに気づいたダニーは距離を保ちながら、
その辺の石やら何やらを片っ端から馬車の車輪に投げつけ始めた。

【追っかけながら馬車に投擲】

75 :名無しになりきれ:2011/12/28(水) 01:01:23.23 0
後ろからチンピラが馬車とダニーにでっかい石を投石

76 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/28(水) 08:54:54.91 0
>「貴女の声が聞こえて、慌てて追いかけてきましたけど……一体どういう状況です、これ?」

路地裏、先んじて罠にかかった『カモ女』を発見して、偶然そこを通りがかった修道女が入ってくる。
息を潜めて隠れ、一部始終を見守っていたフラウは密かに唇を舐めた。
今日はついてる。まるで友釣り漁か芋蔓の収穫だ。カモがカモを呼び寄せた!

「お、お財布盗られて……一緒に追いかけてくれたひとがこの向こうで行方ふめいに!」
>「ロープは解けそうもないですねえ……、切らないと駄目でしょうか。」

カモ女と修道女はロープ相手に四苦八苦、こちらの動向には目もくれない。
"おじさん"に教えてもらったハンドサインで、子供たちに支持を出す。
囲んでボコれ。

>「きゃんっ!?」

しかしフラウが号令をかけるまでもなく、修道女は路地裏の奥へと入って罠にかかった。
敷いておいた陣に一定の圧力がかかると、敷設した地面を陥没させるおじさん仕込みの術式だ。
子供たちの中でも最年長のフラウでさえ詳しい原理はわからない。ただ、言われたとおりに魔力を注いだ結果が目の前の"これ"だ。

(フラウ!あのシスターさいふおとした!)
(待て、まだ出るなっ!)

修道女のポーチから落ちた財布を見て、興奮を抑え切れなくなった子供たちの一部が物陰から飛び出した。
前もって打ち合わせたとおりに多方向から畳み掛けるような連撃。お手製の武器はスラムのゴミ箱から拾って作ったものだ。
子供の膂力とはいえ、角材や袋棍などで打撃されればたまったものじゃないシスターは、悲鳴を上げながら路地裏の奥へと逃げていく。
想定外だが結果オーライだ。修道女はどんどん、フラウ達のいる場所へと追い詰められていく。
後退を続ける靴の踵が、こつりと空箱を蹴った。行き止まりだ。

(あの箱の下、そういえばカモの仲間が埋まったままだったよな……)
(フラウ、おいつめたよ。しかける?)
(よしっ、全員かかれ――)

「あいたぁー!」

修道女のものとはまったく別の悲鳴が路地裏に木霊した。
みれば、逆さ吊りになっていたはずのカモ女のロープが切れ、頭から水たまりに突っ込んでいる。
ではなぜそんなことになっているかと言えば、ロープを斬った奴がすぐ傍にいたのだ――

>「さて、ガキ共、お痛はそのへんにしておこうか?
 そこのシスターと……よくわかんない人からたっぷりお礼をふんだくれなくなるからね」

にぃ……、と強い笑みを見せるのは大道芸人風の女。
ただ笑っているだけなのに、発せられるプレッシャーが風のようにフラウ達の頬を打った。
否、具体的には女からの威圧ではない。その両手に握った串から発せられる『化物』染みた魔力の波濤である。

(な、なんだぁ、あいつ……いつの間に入ってきやがった……!?)

その威嚇に負けんと、修道女を追い詰める役だった子供の一人がズサ袋を振りかぶる。
瞬間、大道芸人から蹴り足が伸びてきた。一瞬でズサ袋の子供の顔面を痛打。鼻血をぶちまけながら路地裏を転がっていく。

77 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/28(水) 08:55:23.44 0
「ライル!」

仲間が一撃で沈められた衝撃に、平然とそれを為した下手人への怒りが混じって、フラウは思わず物陰から飛び出していた。
幸いに見た目よりも怪我は浅いようだが、戦いの経験などそうはない子供たちにパニックを引き起こすには十分すぎた。

「「「うわああああああ!!!!」」」

駄目押しのこの一言で、辛うじて統率を保っていた子供たちの心が一気に決壊した。
死ぬのは嫌だ殴られるのは嫌だと、所詮"おじさん"のにわか仕込みでしかない子供たちに高潔な戦士の在り様を求めるのは酷だ。
実働部隊でない者も含め十数人にも及ぶ子供たちが我先にと路地裏から逃げ出そうとし――

「っ!馬鹿!そっちには罠が――」

フラウの忠告虚しく、落とし穴、吊り縄、トラバサミ、落とし籠、草結び……などなど。
――全員、自らの仕掛けた罠によって地面あるいは壁へと磔になってしまったのだった。

(くそ、なんでこんなことに……なんでみんな路地裏の奥に逃げないんだ?)

フラウは自分の逃げようとした方向へ目を遣って、気付く。
先ほど追い詰めたはずの修道女は、さっきまでの怯えた表情はどこへやら、したり顔でフラウの前に立ちはだかっていたのだ。
まさか、追い詰めたというのはこちらの勘違いて。初めからこうするのが狙いだったのか。

(ハメられた――!!)

なんという狡猾さ。チョロいと思ったことから全てが間違いだった。
劣勢の振りをして、着々と逃げ場を塞ぎ、状況の外堀を気付かれないよう埋めていく――
大人のやり方だ。

「お、大人って汚ねぇー……」

思わず呟いてしまったフラウの背後から、大道芸人の声が聞こえた。

>「他に痛い目を見たい奴はかかってくるといい」

「これが大人のやることかよーっ!?」

修道女はともかく。こっちの大道芸人がやったことと言えば、ガキ相手にマジ蹴り食らわせただけである。
先に手を出したのはこっちとはいえ、歯向かう子供に鼻血出すほどの本気キックで制圧するドヤ顔の大道芸人がそこにいた。
大人って汚い。

「そこのカモ女はともかく……あんたらグルなんだろ?なんの為にこんなところに来たんだ……?
 別に子供蹴たぐるためってわけじゃないよな。子供蹴るためだけに路地裏に来る大人なんていないもんな。
 いや、いるにはいるけど……あんたらはそういう人種じゃないだろ?」

一人になったフラウは、いま、生き残るために何をすべきか必死で頭を回転させていた。
このままでは全員殺されるか。良くても顔面マジ蹴りは人生において本当に避けたいことの一つだ。
どうにかこの二人の制圧者を出し抜き、全員で逃げ出す算段をしなくちゃならない。

(あの大道芸人……両手の串だけ"色"が違うんだよな……)

フラウは、魔力の波長を"色"として捉える眼力を持っていた。
魔法を専門的に修めた魔法使いが、熟練の果てに区別のつく魔力の"空気感"とも言うべきものを、はっきり区別することができた。
これはフラウがこれまで会った人の中でも自分だけが持つ特別な才能であり、彼女はこれを駆使してこれまで生き残ってきた。
魔力の色を見れば、相手がどんな状態にあるかがだいたい分かる――油断しているタイミングを、正確に突ける。
ことこの大道芸人においては油断も隙もありゃしないが、代わりに魔力的な特異点が両手の中に見えた。

78 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2011/12/28(水) 08:55:36.61 0
(あの串が何か、特別な武器なんだとしたら……奪えば勝てる!)

魔力を集中させている武器を取り落とさせられれば、相手は何が何でも拾いにいくだろう。
それは対峙する者にとって絶好の隙。不意を打てば必ず、有効打を入れられるだろう。
だとすれば問題は後ろ――鉄壁の"色"を誇る修道女。

乱れまくってるカモ女や、ムラのある芸人とは異なり、この女は恐ろしいまでに『揺らがない』。
まるでいつでもどうぞと言わんばかりの自信と余裕……それを裏付ける仲間への信頼と己への自負。
武人としてこれ以上ないほどに高く完成した色を持っていた。

「な、なあ、後生だから見逃してくれねーかな?あたしたち、どうしても金が必要なんだ。
 ――買い戻さなきゃいけないものがある。大事な人からもらった、大事なものを、取り戻すのに莫大な金が要る」

状況を動かすためにフラウがとった戦術は、正直に全てを話すことだった。
現在彼女たちを縛っている逼迫した現状を、偽りなく話すことで、同情と動揺を誘ったのだ。
フラウは知っていた。大人はこういう話に弱いと。
"おじさん"がそうだったから。

「いまはこうやって観光客相手のショボいスリしかできねーけど、まとまった金ができたら賭博で増やすんだ。
 正直、全部でいくら必要になるかはあたしにもわかんねーけど、とにかくたくさんの金がなきゃ話にならねえ」

言って、しまったと思った。こんなことまで話す必要なんかなかった。
こんな現実味のないプランを自慢気に話したところで、見立てが甘すぎると説教をくらうだけだ。
それでも、ちまちまスリをやった稼ぎで買える代物ではないことは確かなのだ。

「なにせ、商人の街タニングラードの裏名物……『白組』の盗品競り市に参加しなくちゃならないんだから!」

最後に語調を強めたのは、力む必要があったから。ここだ、と判断したフラウは思いっきり足を振り上げた。
靴に繋ぎ、足元から這わせていた"難視"の施術済みワイヤーが勢い良く引っ張られ、もう片方に繋いだ楔を抜き飛ばす。
すると空の木箱でつくられた山が、修道女のほうへ向かって一気に崩れ落ちてきた。

同時、フラウは路地裏の片隅に捨てられたロープを投げる。
ひゅるひゅると放物線を描いて伸びたロープは、芸人の傍の壁にべちゃりと当たり――壁に仕込んであった『吸着』が発動。
もともとトラップ用につくられた仕掛けをロープを介して遠隔起動したのだ。ロープが壁に吸着された。

「やれ、ビリー!」

大道芸人の傍で陥没術式に嵌っていた少年が、懐から瓶を取り出して地面に叩きつける。
途端、ミルクのように濃厚な煙がもうもうと上がって、大道芸人の視界を一寸先まで白く染め上げる。
この濃霧はおじさん謹製の特別調合煙幕で、人体に害はないかわりに視界保護の術式でも数秒は目眩ませる性能を持つ。
こちらの視界もゼロになるのがまったく致命的な難点だが、フラウは芸人の傍に吸着させたロープを目印に走る。

通常、煙幕に巻かれた人間がどのような行動をとるか――まず煙が毒であることを懸念して呼吸を止める。
その上で、煙から眼を保護しつつ視界を確保するために、『必ずどちらかの手で顔を覆う』。
大道芸人の立ち位置はすでに記憶済み、一寸先も見えない煙の向こうで、顔があるであろう位置へ向かって蹴りを打ち込んだ。
この年代の少女にしては肉付きの芳しくない細脚から、繰り出されるのは鞭のようなソバット。
当たったところで人体に与えるダメージはたかが知れているが、手に持つものを弾き飛ばすのに十分な威力を持っている。
うまくいけば、そのまま連撃をもって制圧するつもりだ。


【『路地裏の子供たち』全滅。 新情報→『白組』と呼ばれる盗品オークションが催されるらしい
 フラウ:ノイファに空き箱の雪崩を、セフィリアに煙幕からの武器をはたき落とす一撃を。スティレットは無視
 空き箱の山が崩れたのでウィレムは露出しています】

79 :名無しになりきれ:2011/12/28(水) 17:52:44.71 0
タニングラード陥落により


普通に100000人ぐらいのヒトがなだれ込んでる

80 :名無しになりきれ:2011/12/29(木) 12:57:42.30 0
このGMっての何なの?

81 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/12/29(木) 19:26:55.27 0

(がっ、ぎっ……熱……痛……っ……)

赤銅色に暗く輝く火鉢の針を全身に押し付けられでもすれば、これ程の痛みになるのだろうか。
眼前に広がる色は黒。瞼を開く力すら残っておらず、
情報として脳が認識するのは、触覚が伝える、災禍の様に全身を蝕む痛みと呼ぶも生温い激痛。
そして味覚が伝達する口腔一杯に広がった生暖かい吐き気を催す鉄の味のみ。
痛みによって途切れがちになる意識の中フィンは、それでも自分の身に何が起きたのかを把握しようとする。

あの酒場での会談の後、フィンは宿泊関係で何故か赤面し激昂するクローディアやロン、ダニー達と別れ、
酔ったファミアをギルドへと案内する為にその手を引いて歩いていた。
そこまではいい。日常の一環である。
問題はその後……

(ぐあ……あ、ああ。そう、だ。何かが……馬車が、ぶつか、てきて……ぐうっ……)

>「ハンプティさん、後ろ!」

その通りだ。あの瞬間、マテリアの言葉が聞こえた直後。
瞳を後ろへと向けたフィンの間近に、確かに馬車が迫っていた。
事故というレベルではない。致死の速度で、もはや回避不能な地点に馬車が迫っていた。

……ナーゼムやダニーを相手取った経験も有るフィンだ。
マテリアルを持ち込めていたのなら、あの程度の馬車は容易く回避や防御をして見せた事だろう。
だが、その時のフィンは生憎ながらマテリアルを持っていなかった。
執事服へと着替える際に不自然すぎるので、身に付ける事が叶わなかったのだ。
自業自得……といえばそうなのだろう。
徒手空拳でもチンピラ程度なら撃退できると、
この街を舐めてかかっていたという事も少なからず原因の一つとしてあるに違いない。

かくしてフィンは、為す術も無く暴凶の馬車に轢かれた。
マテリアの言葉により生まれた僅かの時間に出来た行動といえば、
轢かれる寸前に横に居たファミア。彼女が巻き込まれない様に握っていた手を離し、
その身体を軽く押す事くらいだった。

(……そう、か。ファミアは無事、だった、よな……良かっ、たぜ……)

そこまで思い返すと、フィンは状況が全く好転していないにも関わらず、
血まみれの口の端を少し上げて僅かな安堵を見せる。
そうして、咳き込み、肺から僅かしかない空気と共に血の塊を吐き出す。
……
今現在、フィンがこうして生きているのは奇跡としか言い様が無かった。
恐らく骨の数本は砕け、臓器の一部も傷ついている。左手には感覚が無い。
――――だが、それでも生きている。
馬車に轢かれて生きているという、本来は在りえない事が起きたのだ。

だから

82 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2011/12/29(木) 19:27:54.61 0
>「はいおじゃましますよっよ。お、いるいる、まだ生きてるかな?まあ生きてても喋れねーし、動けねーわな。
>この揺れじゃあ、止血もままならないだろうし、このまま楽に逝かせてやるのが人情ってもんか。
>お?なんだ、まだ若いガキじゃねえか……恨むなよ、少年っ!」

(……なん、だよそれ……そんなの、認められ、っか)

奇跡を持ってしても自身が死ぬという現実が変わらないという事。
自分を殺すであろう相手が悪人であり、恐らくはファミアも危険な目に合っているという事。

(ふ、ざけ……な。俺は、守る、んだ……っ)

そんな運命を知って尚、自身ではなく仲間を助けたいと思い、
継ぎ接ぎの意識の中動かぬ手を伸ばそうとしたのは、いっそ薄気味悪く、欲深すぎる選択だというべきだろう。

故にその先を求めるというのなら
奇跡より先の運命を捻じ曲げる力を望むなら
それを齎す物は神や人ではなく――――

そして、折れたフィンの左腕が黒く染まっていく。
皮膚の表面を艶の無い黒い鎧の様な何かが覆っていき、それは肩までを侵食をする。
それは、以前大切な仲間を奪われた洞窟でフィンの身に起きた現象と同じであった。
ダニーに「気」を注がれた時に発言した謎の力。
今度は肩口までを、まるで何かの呪いの様に覆ったその「黒」は、
動かない筈の左手を「無意識」に無理矢理動かす。

黒い外甲ともいうべき表皮と呑地竜の骨で出来た杭が衝突し、くぐもった衝突音が聞こえる。
直後に外甲が杭に与えた衝撃。そして直後に衝撃の浸透箇所から何かを「奪われた」かの様に
杭はボロボロと自壊を初め――――

そこで、とうとうフィン=ハンプティは意識を失った。

その僅か数秒後に、何者かの手によって馬車内を煙が覆った。
更に、まるで魔法による狙撃でも受けたかの様な、車輪から伝道する馬車の揺れが発生する。
しかしその事を気を失ったフィンが今知る事は無い。
血を流し、浅い呼吸のまま次の場面を迎える事となるであろう。

【フィン:自意識とは関係なく、気(?)の力発動。杭を砕き留めは免れる。
     しかし、失血と痛みのあわせ技によって気絶しました。
     基本的に次のターンの時系列によっては気絶したままという事で
     飛ばして貰っても大丈夫です】

83 :名無しになりきれ:2011/12/31(土) 00:43:19.00 0
休んでもいいんじゃよー

84 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/01/02(月) 23:17:31.66 0
>「さて、ガキ共、お痛はそのへんにしておこうか?
  そこのシスターと……よくわかんない人からたっぷりお礼をふんだくれなくなるからね」

路地裏に凛とした声が響き渡る。
さながら獲物を前にした狂戦士の如く、一心不乱に得物を振り下ろしていた子供達も、ぴたりと動作を止め声の方を振り返る。
声の主は確認するまでもない。
フランベルジェを救出したセフィリアが、次の標的として路地裏の子供達に狙いを定めたのだ。

(ああ、そっか。私は彼女の実力を知ってますけども――)

更なる追っ手の登場に一時は動揺を見せた子供達だが、同年代の女性と比較しても小柄な部類のセフィリアを見て組し易しと判断したのだろう。
あるいは余裕の笑みを見せつけるセフィリアへの単純な反発心からか、とにもかくにも子供の内一人が凶器を振りかぶり突進し――

(――うわっ、痛そう……。まあ自業自得ですけど)

流麗な弧を描いたハイキックを、顔面で受け止め壁に磔に。
水を打ったように静まり返った路地裏に、誰かが息を呑み込む音が妙に生々しく響く。

>「「「うわああああああ!!!!」」」

そこから先はまさに総崩れだった。
思い思いの悲鳴を口に、我先にと子供達が逃げ惑う。

死にたくない、殴られたくない、捕まりたくない。
それぞれが上げる絶叫は、彼ら自身が過去に体験したり目の当たりにしてきた中で、最も悲惨な出来事なのだろう。
そんな目にだけは絶対遭いたくないと死に物狂いで逃走を計っているのだ。
まだ幼い子も見受けられるのにと、純粋に胸が痛んだ。

(……ふむ、あの娘だけ混乱してない)

それはそれとして。
積み上がった空き箱の前、逃げ道を塞ぐように睨みを利かせたノイファは、一人だけ様子の違う少女を見つけていた。
フランベルジェの財布を掏った実行犯。おそらく子供達のリーダー格でもあるのだろう。
自分達で仕掛けた罠に、仲間が次々嵌っていくことに業を煮やしたのか、自ら逃げ道を指し示し――そして視線が交差した。
ひらひらと手を振ってみる。笑顔で。

>「お、大人って汚ねぇー……」

あからさまに肩を落として呟く少女。良い薬になったことだろう。

>「そこのカモ女はともかく……あんたらグルなんだろ?なんの為にこんなところに来たんだ……?――」

「ええ、もちろん子供を蹴るために来たわけじゃあありませんとも。
 ただ――スリを蹴っ飛ばしに馳せ参じたら、偶然それが子供だったというとだけです。」

頬に手を添え、にこりと笑いながら、ノイファは試すように少女を見下ろす。

85 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/01/02(月) 23:17:59.49 0
>「な、なあ、後生だから見逃してくれねーかな?あたしたち、どうしても金が必要なんだ。
  ――買い戻さなきゃいけないものがある。大事な人からもらった、大事なものを、取り戻すのに莫大な金が要る」

(まるで諦めてない、って感じですねえ)

こちらの背後を二回。セフィリアの方へ四回。周囲をくまなく数度。
目の前で今まさに命乞いの真っ最中である少女が、その双眸を鋭くした回数だ。

中でも気になったのは、少女の眼がセフィリアへと向けられた瞬間。
首の傾きと下がった目線。機嫌を伺うなら顔を仰ぐだろうし、隙を突くのなら四肢に注意を向けるはず。
にも関わらず、少女が注視しているのはセフィリアが両手に携える"串"。
傍からすれば半ばでへし折れただけの残骸に過ぎないそれを、驚くでもなく、訝しむでもなく、ひたすらじっと見据えていた。

(まさか"視えている"……なあんてことも無いのでしょうけど)

極々稀ではあるが、魔力を視覚で捉えることが出来る者が居るらしい。
そして遺才も個々が受け継いだ"魔"の因子を源としている以上、大別してしまえば魔力には違いない。

だからもし仮に、魔力を視る事が出来る者ならば遺才の発動を視認することは可能だろう。
しかしそれは、気の遠くなるような魔術の研鑽の果てに、ようやく辿り着けるかどうかという境地だ。
当然、ノイファもそんな芸当は不可能である。

>「いまはこうやって観光客相手のショボいスリしかできねーけど、まとまった金ができたら賭博で増やすんだ。
  正直、全部でいくら必要になるかはあたしにもわかんねーけど、とにかくたくさんの金がなきゃ話にならねえ」

おそらく、少女もこちらが値踏みしていることに、薄々勘付いているのだろう。
重大事を包み隠さず話したのは、下手な言い訳を重ねるよりその方が効果が高いと判っているから。

「……信じましょう――」

はあ、とノイファは腕を組んで嘆息。
少女の瞳は微塵も揺るがない。つまり彼女の言葉に嘘はない。
内心で聞くんじゃなかったと思ったが、もう遅い。聞いた上で無視出来る性分でもなかった。

「――信じてあげますけどね、幾らなんでも計画が杜撰に過ぎやしませんか……。」

今も昔も賭博で大儲けというのは、持たざる者が夢見てやまない、一発逆転の代名詞のようなものだ。
だが誰もが成功するわけではない。失敗する者の方が圧倒的に多いだろう。
とはいえ何の後ろ盾も持たない子供達が、大金を手に入れる方法など、そうそう有るものではない。

「と言うか必要額が分からなくて、なるべくたくさんのお金が必要って……一体どういうことです?」

大人として最大限の譲歩を見せ、少女に問いかける。
それこそが、油断だった――

>「なにせ、商人の街タニングラードの裏名物……『白組』の盗品競り市に参加しなくちゃならないんだから!」

――返って来たのは先程の問いに対する返答と、水面下で仕掛けられていた反撃の仕掛けだった。

86 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/01/02(月) 23:18:22.78 0
少女の脚が振り上がる。

(あれは……杭?)

靴の先から伸びるワイヤーと、その端につながった楔。
ガコン、と何かが抜け落ちるような、くぐもった音が背後で響く。

「……子供ってズルい――」

二つの状況から予測をたて、呟きと同時に覚悟を決め、恐る恐る後方を振り返る。
先程までそこにあったのは、重なり、積み上がった空の木箱。

「――と言うか、明らかに手打ちの雰囲気ではなかったでしたか!?」

それらが、ノイファの恨みがましい悲鳴に呼応するように、一斉に崩落。
雪崩のように次々と落下してきたのだ。

(あとで絶対におしおきします!)

実に大人気ない決意を胸に秘め、ノイファは即座に思考を切り替える。
落ちてくる箱の全てが、直撃する軌道ではない。
そして自分目掛けて落ちてくる物も、全てが同時に襲い掛かって来るわけでもないのだ。

(先ず最初は――あれですね)

腰を落とし、箱の縁に沿って腕を滑り込ませる。
同時に腕とは逆の脚を軸に、全身を捻って、差し込んだ腕を外へと開いて弾き出す。

見た目のインパクトこそあるが、所詮は空の箱だ。軽く、脆い。
タイミングと勢いさえそれなりに合わせてやれば容易に対処できる。

(まあ、それに一度見てますからね)

場所はウルタール湖。降って来たのは水流と岩石。
その時に眼に焼き付けたフィン=ハンプティの動作。
寸分違わず再現することは到底適わないが、この程度の障害が相手ならば、彼の真似事で十分だった。
頭の中で思いだし、描いた、フィンの動きに追従し、続く空き箱も迎撃していく。

「これで最後っ!」

後ろに引いた軸足を途中で切り替え、半身になった上体をさらに捻る。それを追う様に下半身も。
最後の箱目掛けて、回し蹴りを叩き込む。
飛んでいった空き箱が、崩れず残っていた空き箱の山の底部に突き刺さり――

「――あ。」

下敷きになっていたウィレムもろとも吹き飛ばした。

『あー……、ウィレム君も発見。確保しました。』

フィニッシュの体勢のまま、ノイファは取り合えずセフィリアへ念信を飛ばすのだった。


【ウィレム発見→確保。】

87 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/04(水) 07:32:03.80 0
ウィットは慎重に、打倒すべき悪徳の誘拐犯たちを検分した。
魔術というものが戦いに使われるようになってからこっち、近接戦闘者は常に留意せねばならない2つの事項がある。
狙撃と幻術だ。こちらの意識の届かない場所から攻性魔術を撃たれれば為す術ないし、幻術は言わずもがな。
優れた魔術師が仲間にいればそれら脅威に対する防御魔術の加護を受けられるが、ウィットはただの駆け出しハンターだ。
前の勤め先では常に後衛へ警戒と防護を任せられたが、単身の今ではそうも行かない。ハンターの本分は戦闘ではないのだ。
故に、啖呵を切ったばかりのウィットが攻めあぐねているのは無理からぬことであった。

(だから後の先を獲るために、向こうから攻めてもらおうと挑発したんだが……空振ったかな)

宝石商は棒立ちのまま不動の構え。まるで他人事のように覚めた眼でこちらを注視している。
娼婦に至ってはあらぬ疑いをかけられたと狼狽え始めたときたものだ。

(いや!僕の慧眼に間違いはない!この一ヶ月、ハンターになるため死に物狂いで頑張ったんだ……。
 あの娼婦と宝石商は間違いなくあの金持ちたちを尾行する僕を尾行していた。おそらく、仲間の"仕事"を助けるために!)

最近タニングラードを騒がせている『黒組』について、ウィットは並々ならぬ正義感と狭義心でことにあたっていた。
彼らの手口は悪虐非道、人を人とも思わぬ残虐さと、確固たる目的意識によって統率された精強さを兼ね備えている。
スラム付近で突発的に起きる犯罪ではない。綿密に計画されて及んでいる悪智だ。
ギルドに集った情報によれば、『黒組』は人質をオークションにかけ、その競りに身元引受人を参加させることで、
身代金を吊り上げているらしい。まったく悪党の考える事は破滅的に天才的だ。

(……それに、この街で平和を護れるのは僕たちみたいなハンターだけなんだ)

この街には司法機関として、帝国から派遣された従士隊が駐在している。
しかし彼らはあくまで『法を司る者たち』。担うべき法律の存在しないこの街にあっては飾り物にしかならない。
だがハンターは違う。金銭報酬で何でも請け負うハンターズギルドは、市民からの篤志で治安維持のための予算を捻出している。
ギルド所属のウィットがギルドからの援護を受けて活動できるのも、市民の中に僅かでも平和を望む声があるからだ。

(助けを求める声が聞こえる限り!僕はこの身を正義に捧げる!!それが僕の第二の人生!!!)

――>「まんまと正体を明かしてくれたね。おかげで、後は君を始末するだけだ」

しかし聞こえてきたのは助けを求める声ではなかった。
重なるように、鈴の音が反射するように、事故を見物しに集まり始めた民衆の中から声の礫を投げられる。

>「いえいえ何を仰る。私こそが >「違うわ!私が尾行者よ! >「あーあー泣かせた。まったく罪な男だね
>「いい加減嘘を吐くのはやめましょう。私が誘拐犯です。 >ほら、仲良くこいつを始末しようじゃないか」

「な、な、なんだ? みんな一体、何を言ってるんだ……!?」

全方位から飛んでくる音は、我こそが誘拐犯だと自称する声。
ウィットは風見鶏のように首を何度も回し、しかし声の発生源を見つけることができない。

>「だ、誰か……誰か助けて下さいよぉ……。この人、怖いですぅ……」

「ぼ、僕がか……!?」

確かに棍棒を持って通りで意味不明なことをわめきたてる中年男性がいたら、怖いかも知れない。
しかしウィットはハンターなのだ。護るべきものを護っている者に対して、一体何ゆえこのような衆声が飛ぶ?
幻術を疑い、首から下げた禍断ちの加護術具を見ても、何の反応も示さない。
帝都の『エクステリア』から直接仕入れた最高級品だ、この期に及んで誤作動とは考えづらい。

88 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/04(水) 07:32:16.43 0
>「おや、お嬢さんを泣かせるとは。」

宝石商だ。呻く娼婦を背に隠して、狭義心を込めた眼でこちらを見る。
やめろ、どうして僕にそんな眼ができる。僕は正義で。お前らは悪じゃないか。

>「女性は大切に扱う方ですよ?それをそんな武器を持って…。」

魔力を伴う風がウィットの頬を叩いた。
一瞬だ。瞬きすら追いつかない速度で、宝石商が目の前に現れた。右腕を捕まれ、捩じ上げられる。

>「その武器を放しなさい。従士隊を呼ばれたくは無いでしょう?」

「呼んで、来ると思うか……? 従士隊はこの街の人を守らない! お前らが起こしたあの馬車の事故を見たろ!
 あんなに堂々と誘拐が起きているのに、誰も司直を呼ぼうとしない。諦めきった顔で後片付けをするだけだ。
 武器さえ持っていなければ何をしても咎められない、ここはそういう街なんだ! そして僕の持つこれは『ただの新聞紙』……」

ウィットは腕を捩じ上げられたまま、握った新聞紙を手の中で弾く。
丸められていた新聞が広がり、『硬化』の術式を保ったまま一枚の紙となった。
その過程でなにか糸のようなものが紙上にきらりと光ったが、紙に張り付いていたところで今からやることには影響しない。

「――武器じゃないから、何したっていいんだ!!」

広げることで現れた新聞の紙面には、ニュースが書いていなかった。
代わりに紙面を彩るインクの羅列は、術式として呪文をしたためた、『術式陣』――
描いてあるのは、粘着術式だった。

「そしてッ!『女性を大切に扱う』という点については僕も同意見だッ!
 だがお前は女性じゃない――――遠慮無く死ねーーーーっ!!」

粘着紙ごと五指で鷲掴みにするようにして、宝石商の顔面へと紙を押し付けた。
魔力によって生み出された粘着性は皮膚に強く食らいつき、ちょっとやそっとの力じゃ簡単に剥がれないだろう。
破るなどして破壊しようにも『硬化』の術式が生きているのでこれも容易には為し得ない。
さりとて、気にせず放っておくこともできないだろう。宝石商の鼻と口は、隙間なく粘着紙によって封じられている。
ニ三分も放置すれば、窒息――どんなに鍛えていても抗えぬ死がやってくる。

「そして僕は一瞬で距離を詰められるような強者とまともにやりあうつもりはないので、逃げる!」

捨て台詞を残して、ウィットはハンターズギルド方面の人混みへと飛び込んだ。
粘着紙には、『位置送信』の術式もバレないように巧妙に施術してある。
一旦ハンターズギルドまで逃げ帰って、そこから増援を呼んで囲んでボコる方針だ。
逃げる途中で娼婦だけでも確保すべきかと思ったが、今のウィットと同様既に人混みに紛れていたので、諦めた。
この歳で前職を辞め突発的にハンターになったウィットは、とても諦めの良い人物だった。


【マテリアの奇策にビビる。スイの顔面に粘着術付きの新聞紙を貼りつけてハンターズギルド方面へ逃亡】
【粘着紙は『硬化』しており、破って破壊することは困難。剥がすのにも尋常じゃない力が要り、髪の毛も無事じゃすまない。
 また発信機の役割を持つ術式も施されており、放置していればギルドからの増援が来る】

89 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/01/04(水) 19:40:20.88 0
>「これが大人のやることかよーっ!?」

路地裏に少女の声が悲鳴にも似た絶叫が響きます
さぞかし私のことを悪者と思っていることでしょう
それでも構いません。弱い者からお金を奪うような子達に慈悲は不要です
……ええ、ただのいいわけです。こういった子供達を作らないようにするのが貴族だというのに私は無力です
弱き者で自分の憂さを晴らす、私は最低です
でも、最低の人間でも任務ぐらいはやり遂げてみせます

次々と罠にかかっていく子供達を見ている私はどんな顔をしているのでしょうか?
悲しい顔でしょうか?怒りに満ちた顔でしょうか?それとも……
笑っているのでしょうか?

先ほどまではこの子供達をどう料理しようかと思っていましたが、いまは……なんでしょう?
早くウィレムと先輩を救出して脱出したいです

>「そこのカモ女はともかく……あんたらグルなんだろ?なんの為にこんなところに来たんだ……?

「当たり前だろ?さすがの私も見ず知らずの人たちを助けたりはしないよ。ここに来るときの馬車が一緒だったんだ
それに私は助けられる自身があった。まあ、あんた達には不幸な偶然が重なっちまったって訳だ」

アイレル女史もそこまで深いことを言ってないので嘘の情報を言ってみましたが
白々しい、なんと見え透いた嘘をついているのでしょうか
信じてくれるかは賭けですね。分は良くないと思いますから期待はしませんが

>「な、なあ、後生だから見逃してくれねーかな?あたしたち、どうしても金が必要なんだ。
 ――買い戻さなきゃいけないものがある。大事な人からもらった、大事なものを、取り戻すのに莫大な金が要る」

「有り金全部置いていきな。そうすればお考えてやってもいい」

どうして、この子はキョロキョロしているのでしょうか?
逃げ道でも探しているのでしょうか?
気になりますが、優位なのはこちらです。所詮は子供、これ以上なにが出来るというのでしょうか?

「てめぇ!なに、じろじろ見てやがる!」

それにやたらと私を見て来ます。
気になります、非常に気になります
もしやなにか秘策があるのでしょうか?
たしかにこれほど罠を張り巡らせる子供達です、他になにかあってもおかしくはありません
警戒するにこしたことはありません

90 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/01/04(水) 19:41:15.18 0
>「いまはこうやって観光客相手のショボいスリしかできねーけど、まとまった金ができたら賭博で増やすんだ。
 正直、全部でいくら必要になるかはあたしにもわかんねーけど、とにかくたくさんの金がなきゃ話にならねえ」

>「……信じましょう――」

アイレル女史はまるで聖職者のように語りかけます
いや、聖職者なんでしたか……

「よかったな、ガキ共信じてくれるってよ」

私はこれ以上口は出さずにアイレル女史と彼女達とのやりとりを口出しをしないでおきましょう
なんでも盗品市と言うものが開かれるようです。あとで課長に報告するべきでしょう
などと話を聞いている私は馬鹿です
ええ、ここで私は警戒しておくベキでした。彼女の一挙手一投足にもっと注意を払うべきでした

少女が足を振り上げる
なぜ?そう思ったときには箱がアイレル女史を空き箱が雪崩となって襲います
しかし、私は動きません。いえ、動けないといったほうが正しいでしょう
私の横をロープが通り、そばの壁に張り付いたからです。とっさにそちらに身構えますがなにも起こりません
しまった!ブラフです。再び少女の方に向き直すと白い煙が巻き起こります
ここで私は後ろの広い路地にでも逃げればいいのかもしれませんがそんな機転の聞いたことは出来ずに
息を止め、目を保護するという本能丸出しの行動をとってしまいました

そして、手を襲う鈍痛、こぼれ落ちる串
体がぐんっと重くなります
いまの私は体の大きさも相まって、非常に貧弱です
騎士としてはですが、それでも一般女性よりもちょっとだけ強い程度でしょう
こんな大勢のストレートチルドレンには敵うことはないでしょうね
ああ、能力が使えない私はなんと無力なんでしょうか

なんて、走馬灯のように考えが右往左往しています
あとは野となれ山となれ

>『あー……、ウィレム君も発見。確保しました。』

『それはよかったです。こちらは煙幕で視界が……』

私の言葉はそこで途切れました

91 :名無しになりきれ:2012/01/04(水) 23:46:36.72 0
(私はそこで果てました)

92 :名無しになりきれ:2012/01/05(木) 16:33:40.63 0
働け!クズ


ウィレムは叫んだ

93 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/01/05(木) 21:16:34.43 0
>「その武器を放しなさい。従士隊を呼ばれたくは無いでしょう?」

スイは僅か一瞬でウィットとの距離を詰め、手にした糸を鈍器と化した新聞紙に絡めた。
後はほんの少し力を込めるだけで武装を解除出来る。
ただ純粋に、動作が恐ろしく速い。単純だからこそ実力が明白になる、流石の手並みだった。

>「呼んで、来ると思うか……? 従士隊はこの街の人を守らない! お前らが起こしたあの馬車の事故を見たろ!

ウィットの言葉を聞いている内に、マテリアはこの都市の仕組みが見えてきた。
『武器』でなければ、なんであろうと『凶器』にしてもいい。
術式も攻性のものでなければ、人の殺傷に用いても咎められない。
それはつまり――弱くて、善良で、無知な人々ほど、この町で悪に虐げられる運命にあるという事だ。

マテリアは腹の底で静かに、しかし激しい炎が燃え上がるのを感じた。
怒りだ。その中でも特に、義憤と呼ばれる感情だ。
上司の横流しを知った時に覚えたものと全く変わらない。

自分よりも弱い者達を食い物にするだなんて、許せない。
助けてあげたい。思い上がった悪党共を灰も残さず燃やし尽くしてやりたい。
そういった思いを秘めた、獰猛な炎だ。

>「そしてッ!『女性を大切に扱う』という点については僕も同意見だッ!
  だがお前は女性じゃない――――遠慮無く死ねーーーーっ!!」

ウィットの叫びが、マテリアの意識を思考の海原から現実へと呼び戻す。
凶器を糸で絡め取られたウィットは、あえて己からそれを手放した。
或いは元々そのつもりだったのか――広げた新聞紙をスイの顔面に押し付ける。
『硬化』と『粘着』の術式が秘められていた紙は、スイの顔に貼り付いて剥がれない。
そして、

>「そして僕は一瞬で距離を詰められるような強者とまともにやりあうつもりはないので、逃げる!」

ウィットは身を翻すと、一目散に逃げ出した。

(……いや、あの、この状況ならかなり有利に立ち回れるんじゃ?)

マテリアが思わず内心で突っ込みを入れた。
少なくともスイが『一介の宝石商』を演じている間は、視界を封じられたまま戦う事は困難を極める。
視覚を封じられたままで戦うのは、いくらなんでも商人の護身術の域を逸している。
そう考えれば――ウィットは慎重なのか、臆病なのか、それとも単に意志薄弱なのか――とにかく逃げ出してくれた事は好都合だった。

が、手放しに喜んでいる暇はない。
わざわざ「まともじゃない手段を仕掛けてくる」と宣言してくれたのだ。
可及的速やかに体勢を整え、ウィットを追撃しなくてはならない。

「あの……だ、大丈夫ですかぁ?もしかして、これが剥がれないんですかぁ?」

おずおずとスイに歩み寄り、粘着紙に手を伸ばした。

「ぬぐぐ、てりゃ〜!……あ、駄目ですこれ!なんかこれ以上引っ張ったら取り返しがつかない事になる気がしますよぉ……」

力任せに引っ張るふりをして、紙に記された術式を読み取る。
とぼけた娼婦を演じてはいるが、というか若干それが素のように思われつつある気がするが、
なんだかんだでマテリアは優秀な元軍人、情報通信兵である。
教導院を優れた成績で卒業しているし、術式を読み取り、干渉する技術にも長けている。


94 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/01/05(木) 21:17:47.83 0
(『硬化』と『粘着』、それともう一つ何か……恐らくは『位置特定』系の術式。
 スイさんが窒息するまでに『硬化』か『粘着』を無効化する事は、可能です。
 どちらかを無効化すれば『位置特定』も意味を成さなくなります……けど)

今のマテリアはあくまで間抜けな娼婦だ。
日常生活に使う『発火』の術式すら時折暴発させそうなイメージを振り撒いている彼女が、
この術式を解除してしまう訳にはいかない。
まだ姿も見えていない敵に、ほんの少しでも疑念を抱かれるような事は出来る限り避けたい。
なんとかして、それ以外の手段で粘着紙をどうにかする必要があった。

考えろ、考えろ、考えろ――ひたすら自分に言い聞かせる。
術式自体を分解する事は、それ以外にスイを救えない時に使う。最後の手段だ。
ならばどうする――もっと単純に、粘着紙そのものを破壊してしまえばどうだ。

紙が秘めた術式『硬化』と『粘着』、どちらも生半可な力では剥がせないほど強力だ。
それらに加えて『位置特定』の術式まで込められている。
三つの術式は結構な量の魔力を必要としている筈だ。
たった一枚の紙に込められる魔力量を考えれば、これ以上の術式が機能しているとは考え難い。

「その紙切れ、相当術式を詰め込んである!『防火』や『防水』までは、魔力のリソースが回ってないんじゃないのか!」

右手を口元へ――遺才を用いて観衆の中から声を響かせる。
いかにも見かねた誰かが助け船を出してくれた風を装い、自作自演のヒントを得た。

「え?え?『防火』と『防水』……じゃあ、えっと、つまりぃ……燃やせばいいんですよね!?
 分かりました……ちょっと熱いかもしれませんけど、我慢して下さいねぇ!」

それでもまだ動転した演技を続け、指先に暴発気味の『発火』を灯す。
そしてスイの顔へと暴れ回る灯火を近付けて――

「だぁあ待て待て!おい誰か水持って来い!あの兄ちゃんが色々と焼け野原になっちまう!」

見かねた観衆がマテリアを制止した。
誰からも制止が掛からなければ再度遺才を用いるつもりだったが、手間が省けた。
そうして慌てふためくばかりの体を晒す彼女に、なみなみと水を満たした桶が届けられる。

「あ、ありがとうございます〜!それじゃ、ちょっと寒いかもしれませんけどぉ……てりゃ〜!」

城壁の中とは言え極北の夜にずぶ濡れにされるスイに詫びを入れつつ、
マテリアは気合の一声と共に桶の水をぶち撒けた。

これで粘着紙がふやけるなり、インクが滲むなりすれば術式は無効化される。
スイは無事解放されて、ウィットを追う事が出来るだろう。

『大丈夫ですか?早速で申し訳ないんですけど、奴を追って下さい。
 私は音で奴を追跡して、先回り出来るようにナビゲートします』

念信器でそう告げると、マテリアは動転して怯えた状態の演技を続ける。
周囲の一般人に保護されて毛布と温かい蜜湯を与えてもらうと、落ち着きなく髪を弄る仕草で超聴力を。
蜜湯を口に運ぶ動作で自在音声を発動した。

【水を浴びせて粘着紙をふやけさせ、インクを滲ませて術式を無効化。
 スイにウィットを追うように依頼。遺才を使って追跡を援護】


95 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/07(土) 06:02:49.97 0
「な、なんだぁ?突然、少年の左肩から先が黒い鱗みたいなのに覆われて、俺の杭を阻んだだとぉ?
 一体どうなってやがるんだ?呑地竜の種族特性によって、石畳をもぶち抜くようなシロモノだぞ、この杭は!
 それをこうも容易く砕くとは、この鱗、少なくとも竜種よりも凶悪な"何か"を宿しているってことだ!」

『黒組』の下っ端は、砕かれた己の獲物と気絶したフィンを交互に見て驚愕した。
同時、客車の方から詰車を通って荷台にまで濃い煙が伝わってきた。
本来狼煙に使うべきものを密閉空間で使用したのだから当然といえば当然だが、燻された盗賊たちの阿鼻叫喚が聞こえてくる。

「て、敵襲か!?」

咄嗟に盾にするべくフィンの襟を掴む。
煙の出所、詰車の方を注意深く睨みながら、荷台から適当な棒を見繕って装備。
五秒待っても、十秒待っても、詰車の方から誰かが出てくる様子はない。
どうせ同僚たちの誰かがおふざけで煙玉でも暴発させたのだろうと判断して、一安心。
直後、荷台の屋根を突き破って振ってきた酒瓶(中身入り)が頭に直撃して、下っ端は昏倒した。
意識を失ったフィンの上に倒れこむようにして動かなくなった。

 * * * * * * 

「ごほっ!げほっ!――ご、ご安心を、如何なる暴力からでも、ごほ、必ず貴女を護り果せてみせますごほっ」

リーダーは噎せながらもファミアを落ち着かせようと最大限の平静を装っていた。
こういうとき、大人が真っ先に冷静にならねば子供はますます不安になるばかりだというのが彼の信条である。
『黒組』は誘拐・窃盗のプロたちであり、暴力集団ではないのだ。
副次的に人を殺すことはあっても、無関係の者を傷付けたりましてや商品を手荒に扱うなどというのは美学に反する。

「誰か、誰か外の様子を――」

依然としてトップスピードで走り続ける馬車。
突如として投げ入れられた煙玉はまったく衰えることなく煙を吐き出し続け、客車の中を真っ白に染め続ける。
煙は換気窓を伝って詰車の方にも流れていき、数十名の部下たちが猛烈に咽まくっているのを扉越しに聞いた。

「リーダー、げほ、何がありやした」

詰車の扉が勢い良く開かれ、部下が顔を出す。
よく訓練された賊たちだ。自分たちの安全よりもまず、頭領と商品の無事を確認しに来た。
リーダーは思い出す。狼煙が入る前、客車がいきなり少し沈んだことを――まるで人一人分の重さが乗ったみたいに。

「上、上に誰か居る。そいつが狼煙を投げ入れた!」

部下は上を見上げて、

「了解しやした。おい、おい、誰か屋根の上に登って見てこい!」
「冗談だろ、今走ってる最中だぞ馬車!どうやって飛び乗ったんだよ!」
「つか、見てくるにしても馬車停めねーとロクに登れねえぞ」
「いっそ部屋の中から屋根ごとぶち抜いて殺せばいいんじゃねえか?」
「ぶち抜く武器がねえだろ。槍かなんかありゃ話は別なんだけどな」

しかしここは刀狩りの街タニングラード。
木製の屋根を貫通するほどの長さを持った刃物など、もとから規制対象だ。
車輪止めの杭なら屋根を貫けるかもしれないが、しかしそれでも上の者を殺すには長さが足りない。

まったく考えられた奇襲方法だった。
高速走行中の馬車に飛び乗るという難題さえクリアすれば、相手の攻撃を完封して一方的に行動できる。

「いや、それより!まず換気――――」

そのとき、砂場で機雷を炸裂させたようなくぐもった破壊音が響いた。
するとたちまち部屋に充満していた煙がどこへともなく流れ出ていき、新鮮で透明な空気に満たされていく。
やっとまともに空気が吸えるようになって黒組たちは一安心、一体誰がこんな気の利く換気をしてくれたのか――

96 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/07(土) 06:04:19.49 0
「穴空いてんじゃねーか!!」

部下が頓狂な声を上げた。
客車の土手っ腹に、人一人ぐらいらくらく通れるほどの風穴がぶち抜かれていた。
そして今更ながら『商品』がいないことに気付く。まさかあんな華奢な少女ひとりに大穴穿つ力などあるわけもない。
屋根上の奇襲者の存在も含め、盗賊たちに合点が行った。

「仲間が助けに来たのか――!」

護衛はきっちり殺ったはずだったが、離れたところに仲間や別の護衛がいたのかも知れない。
それにしたって全力疾走する馬車に追いついて攻撃を加えるなど前代未聞だが――

「クソッ、馬車停めろ、降りて捜すぞ!」

ここまでやっておいてくたびれ儲けなんてことになったら、『上』にどう報告していいか分からない。
ただでさえ最近はハンターズギルドが嗅ぎまわっているらしいのだ。
司直ではないハンター達には捜査権も逮捕権もないし、咎人探しの本職である従士隊に比べれば捜査網も薄い。
しかしもとよりここは帝国法から切り離された街。被害者や大衆がどんな報復をしてくるかわかったものじゃない。
ハンターによってアジトや馬車の特徴が割り出され、報道されたら、こんな絶好の狩場を手放すことになってしまう。

だから一回一回の仕事に全力投球することが大事。
節度をもって、節操を守り、適度なタイミングで誘拐し、その儲けを大切に使う――
犯罪者がこの業界で長くやっていくためには、色々と気を使わねばならないことが盛りだくさんなのだ。

(それに、『納期』に遅れるのはもっと問題だ――)

部下の一人が御者に馬車を止めるよう指示するため、大穴とは反対側の窓を開けたそのとき。
大穴の方から鉄槌を振り下ろしたような轟音が鳴り響いた。

「ぬわああああ!なんかいきなり御者席との接合部が吹っ飛んでーー!?」

部下の悲鳴。
何事かと大穴から顔を出せば、服が引っかかって馬車の側面に宙吊りになった人質の少女の姿。
その頭突きが、車両の連結部を粉砕した直後であった。

「な、な、な……」

連結部は鉄製である。
人間の頭蓋骨が鉄より硬いなどと聞いたことはないし、仮にそうであっても一体どんな背筋してんだコイツ、といった次第。
それよりもなによりも、こんなトップスピードが出た状態で御者から切り離されたりなんてしたら、

「ナニしてくれてんだてめえええええええええ!?」

……もはや、リーダーは紳士然など保っていられなかった。
列車というものは、先端の車両が牽引するからこそ、慣性の重心が前を向くことで真っ直ぐに進める仕組みなのだ。
動力部が切り離された今、列車の重心は一番人の載っている詰車――真ん中である。
すると重心のない部分はどうなるか。路上の小石なんかで簡単に車輪の向きが変わり、方向を制御できなくなる。
ましてやこの速度だ。舵を失った船が海原でどういう進路を辿るかは、ご想像に難くない。

「制動器!ありったけ回せ、まだこの向きならどこにもぶつからずに減速でき――」

そこへ、駄目押しのように鈍い衝撃が連続した。
車両の側面を乱打するように、重いものがぶつかる無数の衝撃。対艦砲の斉射を浴びた気分だった。

「砲撃だと――!?」

そんな馬鹿な、こんな街中でどうやって。
刀剣の持ち込みを禁ずるタニングラードが砲を見逃すはずもない。
高速で走行する馬車に当てられる技量も技量だが、そんな砲と撃ち手を複数人、予め用意しておけるのか。
逃走ルートや街の構造を知り尽くしていないとできない芸当だ。

97 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/07(土) 06:10:08.40 0
――実際のところ、無数の砲による斉射と思われた攻撃は、たった一人の無手の『天才』によるものだったのだが。
あくまで『常識』の範疇にいるリーダーにそれを知るすべなどあるはずもなかった。

「やべえぞリーダー!今の砲撃で向きが変わった――!しかも車輪の一部がイカれて、横転しかかってる!!」

言われてみれば客車は大穴とは逆方向に既に傾き始めていた。
リーダーは穴に飛びつき、ぶら下がる少女へと手を伸ばす。傾いたのが逆向きで良かった――

「つ、掴まれ!早く客車の中に!!」

大事な商品である。
今更傷付けないとか美学とかそんなものはどうでもよかったが、納品時に価値が下がるのだけは困る。
なにせ値をつけるのは入札者、難癖を付ける隙を与えるのだけは絶対にしたくない。
ただでさえ『白組』の盗品市は、鎬を削りあう同業者たちが山ほどいるのだ。

もはや馬車ですらないただの高速移動する車輪付き箱となり果てた列車の中。
穴から見える寒空の下には、横滑りする馬車がこれから激突するであろう真っ白の壁が小さく見えた。

「まずい、このままじゃ役場にぶつかるぞ!!」

朝通りのつき当たりに聳える白磁の巨影、白煉瓦を重ねて建てられた街役場である。
普通の都市と違い独立自治領であるタニングラードの役場はちょっとした国立庁舎なみに大きい。
なにせここで"国家"を運営するのに必要な書類仕事を全て請け負うのだから、夜になっても人足は絶える気配もない。
馬車改め列車がぶつかれば、乗客はもちろんのこと、レンガ造りなど容易く突き破って大量の殉職者を出すことになるだろう。

「だ、誰かっ!こいつを止めてくれ――!!」

 * * * * * * 

「撃ち方止めっ!ダニー!」

医術院を手配した後、即座に適当な貸し馬車を『買って』、クローディアとナーゼムがダニーのもとへ駆けつけた。
ダニーの放った投石の乱打が馬車を横転させかかっているとこまで見て、慌てて止めに入った次第である。
まさかクローディアも、石がぶつかっただけで馬車が舵を狂わすとは思わなかったので面食らった。

「なんか危ういわ、あの馬車――って、馬どこよ! 御者台なしで走ってない!?」

賭けるダニーと並走しながら(この場合馬車と並走できるダニーを疑うほうが正しい)、単眼鏡で様子を確認する。
何故か客車に空いた大穴からまろび出ている『お嬢様』を、中の人が回収するところだった。
客車の上にはロンもいる。もっとも屋根は既に傾き始めているから、放り出されるのも時間の問題だろう。

「まずいわ、役場に向かって一直線……あのまま行ったら大惨事ね」

ロンの身体能力ならぶつかる前にファミアを連れて脱出できるだろうが、ロンは真面目な男だ、本人がそれを許すまい。
フィンの安否も気がかりだ。もしも生きているなら、やはり見殺しにはできないというのがクローディアの本音。
しかし立場的に言うと、既に大赤字だ。ダニーもロンもクローディアが金で雇った部下である。
彼らに司令を出せば出すほど彼女の遺才魔術によって自動的に金銭が引き落とされる仕組みになっている。

経営の基本概念は投資と回収だ。収益を見越して金を使わねばすぐに資金は底をつく。
これ以上一銭にもならない仕事を続ければ、クローディアの多くないポケットマネーじゃ賄い切れない。
そこから先は、店の金に手を付けなければならなくなる。
これからタニングラードで名を馳せるための、ひいては全てを買い戻す、大事な夢の軍資金に。

「――会社の書類提出が遅れるわ。ダニー、社長命令よ!あれ、どうにかしなさい!」

どうしても彼女は非情に徹することができなかった。
もっともらしい社用をでっち上げて、クローディアは身銭を切った。


【馬車→自走式棺桶に。このまま行けば横転からの役場激突で大惨事に】

98 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/08(日) 06:56:58.90 0
――『帝国騎士団』について、ここで僅筆ながら説明しよう。
騎士とは称号であり名誉職である。
戦場の主役が馬と槍だった頃の名残で、それらがゴーレムと兵士にとり変わった後も、『武』の象徴として重用されたる職分だ。

帝国では古くから『遺才』という概念の関係上、血の尊い貴族が戦場でも実権を握っていた。
良き眷属の血を持つものは、より良き血の持ち主と交わり、『家系』としての強さを伸ばしていく。
ゆえに雑種から突然変異的に発現でもしない限り、多くの遺才は貴族によって独占されていた。

必然的に、名家の世継ぎから下の就職先として多くの貴族を擁する帝国騎士団は、帝都最強の戦闘集団に違いなかった。
旧態然とした剣や盾の戦術は、正規軍のゴーレムや飛翔機雷に瞬間火力でこそ劣るものの、白兵戦では掛け値なく一騎当千。
騎士団から将校として軍に出向する者も多くいるため、実質的に帝国の戦力の要は彼ら帝国騎士団が握っているのである。

騎士団には明確な縦社会の関係がない。騎士とは本来雑兵を束ねる戦場の将であり、言ってみれば全員がリーダーだからだ。
代わりに上位騎士・下位騎士というランク付けがあり、上位は下位に優先するという形で上意下達を暫定的に形成している。
上位騎士にもなれば貴族としては出世の最高到達点。軍の将官級や従士隊の部長クラスと同等の実力があると見なされるほどなのだ。

つまり、何が言いたいかというと――
フランベルジェ=スティレット上位騎士は、腐っても上位騎士だということである。


(ガルブレイズちゃん――!)

頭を泥水の中に突っ込みもがいていたスティレットがようやく顔の汚水を拭いとって見上げた先。
路地内に立ち込めた乳白色の濃霧と、駆ける少女、その蹴りによって得物をとり落としたセフィリアの姿。
そして追撃をかけるように、セフィリアの顎を打ちぬくような軌道で上段の蹴り足が少女から発射されていた。

止めようにも間に合わない。スティレットは膝をついたままで、彼女とセフィリアは3メートル近く離れている。
どんなに素早く踏み込んだとしても、蹴りの着弾は免れまい――ならば。
スティレットのとった行動は至極単純。首から下げていた水筒の蓋を握って捻り、それから、

「――ぅわんっ!!」

人としての尊厳とかプライドとかそういうのを丸ごとうっちゃった感じの一吠えを少女の横面へ浴びせた。
するとたちまち、卵の殻がひとりでに向けていくように真っ白の濃霧がスティレットの顔あたりから晴れていく。
――否、『煙幕』を"破壊"したのだ。スティレットの砲声に震わされた大気が粉砕されていく。

スティレットが『館崩し』のような長大剣を使う理由は、見た目の派手さを気に入ったという個人的事情を除けば2つある。
刃に触れたものを破壊するという崩剣の特質上、刃の届く範囲は広い方が有利だ。
そして得物は重くて硬質な方が良い。斬撃時に破壊対象の内部へと伝わっていく『反響』を媒介にして遺才を発動させるからだ。
剣の眷属ゆえに館崩しは剣でなきゃ意味が無いが、その本質はどちらかと言えば『剣の形をした音叉』なのである。

――となれば逆説、『崩剣』とは斬撃でなくとも発動する。
剣さえ手元にあり、己の姿を剣祖の魔族に似せることができれば、あとは拳なり声なりで反響を生み出せば良い。
身の丈ほどもある大剣を振り回す膂力を裏付ける、スティレットの驚異的な肺活量はそれを可能にした。
石や鉄なんかの個体を震わせるまではいかないが、『煙』や『空気』程度ならば余裕である。

「っつあ――!?」

完全な不意打ちで砲声を浴びせられた少女の身体がぐらつき、蹴りはセフィリアの前髪を刈って逸れていく。
震わせた大気が『破壊』され、生まれた真空によって鼓膜が異調をきたし平衡感覚を狂わされたのだ。
生まれた隙の逃す上位騎士様ではない。

「たあああああ!」

跳ね起きたスティレットは少女に肩からぶち当たり、身を挺するようにしてセフィリアの安全を確保。
相手が格闘術に熟達していればいるほど、蹴りでも拳でも威力の最も高くなる間合いを死守したがるものだ。
だから格闘を主体にする敵と対峙する際は、彼我の間に何か挟みこんで間合いを狂わせてやれば防御は容易い。
この場合、挟みこむのは自分の身体。5年と持たずに退学した教導院で、耳に黴が生えるまで習った護身術だ。

99 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/08(日) 06:59:50.08 0
(たしか彼女は、両手に何か持ってないと元気がなくなる感じの人でありましたね……!)

「ガルブレイズちゃん、これを!」

スティレットはずっと羽織っていた民族衣装の外套から極彩色の尾羽根を二枚もぎり、セフィリアの両手に握らせた。
そして振り返り、敵を見る。先ほど体当たりにて跳ね飛ばした少女は、こちらと別方向を交互に見て冷や汗を掻いている。

「あーくそ、カモ女も仲間だったのかよ……さっき助けた後も素っ気ない感じだったのは演技か?まんまと騙されたぜ……」
「か、カモってなんでありますか……!?いつの間にそんなあだ名が!」
「アンタみてーな財布ギってくださいと言わんばかりの隙だらけの奴は、カモみてーに捕まえやすいなって意味だよ」
「だからカモってなんでありますかーー!?」
「え? 鳥の種類から説明しなきゃなんねーの!?」

少女が見る視線の先。
崩れきった箱山の中で、ノイファが蹴り足をぷらぷらさせながら所在なさげにしていた。
位置関係的に蹴り飛ばしたものであろう散らばる箱の下では、目を回して気絶しているウィレムの姿がある。
目立った外傷はないようだったが、真新しい打撃の跡がくっきりと残っていた。

「あーっ!バリントンどの、一体誰がこんな酷いことを……」
「いや、トドメ刺したのははあたしたちじゃねえよ!?」

ともあれ、セフィリア・ノイファ両課員の八面六臂の活躍により、路地裏に巣食う子供たちの謀略(あさぢえ)は露と化した。
主力である子供たちは悉く自らの罠で自爆し壁と床の模様となり、人質であるウィレムと共に彼女たちの拠点は制圧された。
少女は諸手を上げて、降伏のポーズをとった。

「降参だ。盗ったものは返す、仲間を放してやってくれ……そんでこっからは」

頭の上に手を置いたまま、少女は傍に転がる木箱へ腰を落とした。

「――アンタたちの腕を見込んで、ビジネスの話をしたい」

 * * * * * * 

部隊が全滅し、拠点が制圧された。
相手の隙に付け入って強引に突破しようとしたが、それも完全に眼中になかった伏兵の存在によって阻まれた。
――"おじさん"の教えによるならば、壊滅的な敗北だ。ならば降伏して首を差し出す他に仲間の助命を乞う手はない。
だがフラウは死にたくなかった。路地裏の泥を啜って飢えを凌ぐような生活から、ようやく人並みに生きれるようになったのだ。

フラウはこの歳の浮浪児にしては珍しく、『花売り』の仕事をしていなかった。他の仲間たちも同様だ。
"おじさん"が読み書きを教えてくれたおかげで代筆や新聞配達などできる仕事の幅が増え、
少なくとも路上で生きる分には十分な糧を得られるようにになったからだ。

だから彼女たちが生きていくためにスリ稼業に身を落とす必要はこれといってなかった。
生きていく以外の用事に、彼女たちは金が必要だったのである。

「あたしたちの十重二十重の罠を初見で見切って、かつそれを逆手に取る……ハンパな経験じゃできないことだ。
 少なくとも、シスターや大道芸人やよくわからん女が持ってるような経験じゃねーのは確かだ」

無抵抗をジェスチャーで示しながら、フラウはゆっくりと三名を見回す。
修道女は先程『信じる』と言ってくれた。まだ子供の悪戯としてげんこつ程度で許してくれる可能性はあるだろう。
問題は大道芸人の方だ。さっきのやりとりでも明らかにガラ悪い感じだったし、思いっきり蹴っちゃったし……。
大道芸人は修道女に対して一目置いてるみたいだが、後でこっそりサクっと殺られる気がしてとても怖い。
だから、敢えてここは下手に出ない。あくまで対等な立場であることをアピールすべきである。

「しかもアンタらは見た目全然統率感ねえのに、グルで、息はピッタリあってた。つまり、一朝一夕の馬車友じゃねえ。
 すげー戦闘技術を持った集団が、なんでか身分を偽って、この街に居る……それってめちゃくちゃきな臭いよな?」

100 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/08(日) 07:01:50.20 0
一人一人、顔色を伺うように眼差しで検分する。人は表情は装えても、魔力にまではなかなか気が回らない。
そしてフラウの眼力は、偽りなき魔力の質を色で見抜く――三人の魔力に緊張の色が見えれば『クロ』だ。

(ぜってえクロだ……)

魔力の色を見るまでもなかった。カモ女は顔色こそ平静を保っているが、ものすごい勢いで冷や汗を掻いていた。
というかしきりに他の二人の顔を見て『何故バレた』とでも言いたげに目を皿にしている。
フラウはそこでようやく余裕ができた。

「バレたら困るんじゃないの――――っと、待った!あたしの口を封じても無駄だぞ、外に仲間がいる!
 あたしからの連絡がなくなったら即刻ブンヤに垂れ込ませる!そしたらそっちも困るはずだ!」

ブラフである。そもそも新聞屋がそんな眉唾モノの情報を鵜呑みにするとも思えない。
しかしブラフとしての効果はあるはずだ。わざわざ他人を装ってこの街に来た彼女たちにとって、これは多大なリスク。

「ユスらせてもらうぜ……なに、大したことは頼みゃしねーよ、あたしたちの代わりに一仕事こなしてくれたら、
 今日ここで見聞きしたことは綺麗サッパリ忘れる。ほんとだぜ?子供はウソつかねーんだ。
 先に自己紹介しとくぜ、あたしはフラウ。そしてその愉快な仲間たち、以下十四名!アンタらに頼みたいことってのは、これだ」

フラウが仲間の子供に持ってこさせたのは、古典的な悪魔を象ったレリーフ付きの小さな銅鏡。
妙なバランスの悪さは、それが左右一対の片側でしかないということを見るものに例外なく思わせるだろう。

「そ、それは――!」

カモ女が双眸を驚愕に染めた。顔面が蒼白になって、まるで極寒の世界に裸で放り出されたみたいに『恐怖』している。
フラウは与り知らぬことだったが、まともな教育を受けた者ならばこの像が2つ揃ったところを必ず一度は見ているはずだ。
……教本の写絵で。どんな教育機関でも、帝国史を学ぶにおいて絶対に外せない教養の一つだ。
もしも資料が手元にあれば、こう注釈が記されているはずである。

――『特別災害級指定呪物・零時回廊』――

二対一体の呪物であり、二つが共にある場所に天災を呼ぶという機能を持った魔導具である。
低級な呪物の多くが『災いを呼ぶと言われる』程度のものであるのに大して、零時回廊は確固とした"機能"として災いを呼ぶ。
つまり、二つを共に持っていれば、確実にその地に天災が訪れるという出鱈目な力を持った呪物なのだ。

そしてこの零時回廊は、特災級呪物という他にもう一つプロフィールを持っていた。
――先月の事件でユーディ=アヴェンジャーが奪ったとされる宝物庫の呪物。それがこの零時回廊であった。
フラウは自分が触れている道具がどういうものか分かっていない。ただ趣味の悪い鏡だと思っているだけだ。
そしてそれはあながち間違いではなかった。この呪物は二対が一つになって初めて効果をもたらすものだから。

「こいつのもう片割れが、『白組』っていう裏の盗品オークションに出品されてんだ。
 できれば正攻法で競り落としたかったんだけど、時間的にももうそいつは望めねえ。だからアンタたちに頼みたい。
 もちろん、アンタらが金持ちだっつうなら競り落としてもらえりゃそれが一番だけど、無理なら――ひとつ、手を汚してくれ」


【フラウ:チーム貧民が何らかの潜入任務であることを見抜く。黙っていることを条件に『零時回廊』の奪還を依頼】

101 :名無しになりきれ:2012/01/08(日) 16:08:04.60 0
飛行ユニット3体ほど出現

102 :スイ ◇nulVwXAKKU:2012/01/09(月) 00:03:13.53 0
>「呼んで、来ると思うか……? 従士隊はこの街の人を守らない! お前らが起こしたあの馬車の事故を見たろ!
 あんなに堂々と誘拐が起きているのに、誰も司直を呼ぼうとしない。諦めきった顔で後片付けをするだけだ。
 武器さえ持っていなければ何をしても咎められない、ここはそういう街なんだ! そして僕の持つこれは『ただの新聞紙』……」
「(根本的なところで食い違ってんな…)」

僅かに糸を持つ手に力をこめるが、その瞬間、武器は新聞紙と化した。
そして相手は躊躇わずに新聞紙をこちらの顔面に向かって伸ばしてきた。

>「そしてッ!『女性を大切に扱う』という点については僕も同意見だッ!
  だがお前は女性じゃない――――遠慮無く死ねーーーーっ!!」
「っ!」

避けようと顔を引くが、虚しくも顔面に貼りつき、一瞬で新聞紙は『硬化』する。
剥ぎ取ろうと試みるが、容易には取れないらしい。
このまま立ち回れば、明らかに『宝石商』の域を超える。

>「そして僕は一瞬で距離を詰められるような強者とまともにやりあうつもりはないので、逃げる!」
「(………は?)」

ウィットの情けない科白に一瞬呆然とした。
そして、その間に気配は遠ざかっていく。

>「あの……だ、大丈夫ですかぁ?もしかして、これが剥がれないんですかぁ?」
>「ぬぐぐ、てりゃ〜!……あ、駄目ですこれ!なんかこれ以上引っ張ったら取り返しがつかない事になる気がしますよぉ……」

マテリアの近付く気配がして、軽く引っぱられる。
スイは、小さくジェスチャーで、痛いと主張してみた。
取り敢えず、まだ体内に酸素は残っているらしく、意識が朦朧とすることも無い。
しかしこの状態も長くは持たないだろう。
周りが何かを騒いでいる中、さてどうしようかとのんびり考え始める。

>「だぁあ待て待て!おい誰か水持って来い!あの兄ちゃんが色々と焼け野原になっちまう!」
「(おい、どういうことだ)」
>「あ、ありがとうございます〜!それじゃ、ちょっと寒いかもしれませんけどぉ……てりゃ〜!」
「!」

突然水を掛けられ、反射的に体が縮こまる。
顔面を覆っていたものが、次第にふやけ、引っぱってみると、いとも簡単に取れた。髪にかかった水を払うように頭を振り、顔を上げる。
そして何とかなったらしいことを悟った。

「ありがとうございます」

礼を言い、足早に集団から離れた。

103 :スイ ◇nulVwXAKKU:2012/01/09(月) 00:04:14.78 0
路地裏に入り、ずぶ濡れになった上半身の服を脱ぎ捨てていく。
水に体温を奪われるよりマシだと判断したためだ。
そして、上半身、サラシだけの姿になる。
よくよく見ればわかる程度だが、そこは僅かに膨らんでいた。
先程ウィットに女では無いと言われたが、スイは一応女性に分類されるのである。
しかし、本人はその自覚を持っていない。
胸のことだって、育ちすぎた胸筋だと思っているし、男性特有のモノも生えるモノだと本気で思っている。
ちなみに後者は弟子仲間のからかい半分の入れ知恵だ。
さて、そんなことはさておくとして、マテリアからの念信に耳を傾ける。

>『大丈夫ですか?早速で申し訳ないんですけど、奴を追って下さい。
 私は音で奴を追跡して、先回り出来るようにナビゲートします』
『了解した。…頼む』

手近にあった石を拾い上げ、糸にくくりつけた。これで即席捕縛用糸の完成だ。
そして靴が鳴るほど足を踏み込み、一気に路地裏を駆け抜ける。
マテリアの指示に従い、ひたすら駆ける、駆ける、駆ける。
右に、左にと急転換しながら、ようやく先程の男の姿が見えた。

『発見。ギルドに知らされると危険だよな?一度話しあうために捕縛するぞ』

マテリアに念信を飛ばし、さらにウィットに近付いた。
石のついている方を、遠心力をかけるために、軽く頭上で回し、飛ばした。
うまくいけば、それはウィットを捕縛し、スイによって彼は人のいない裏路地に引き込まれるだろう。

104 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2012/01/10(火) 23:08:14.65 0

ロンの狙い通り、馬車への潜入を果たした狼煙玉は期待通りの働きを見せてくれた。
車内から聞こえる混乱の声は、僅かながらロンの耳にも聞こえてくる。
中の連中に自分の存在に気づかれようが、屋根の上にいる彼を攻撃する手段は無い。

「( 計 画 通 り )」

人知れず顔に影を作り、悪人も真っ青の笑みを浮かべる。
この混乱に乗じて車内に入り、さっさと悪人を倒してスマートにファミアとフィンを救出。
我ながら上出来の計画。とあれば実行あるのみと、指の関節を鳴らした、その時。

「」

馬車に穴が開いた。とびっきりの破壊音と振動と共に。
これにはロンも唖然とする。言葉を出そうにも中々出てこない。
中に熊か虎でも居たのかと勘違いしそうになったが、首を振って我に返り、

「 ! ! ? 」

馬車の壁に宙釣りになったファミアを目撃し、今度こそ目玉が飛び出さんばかりに驚いた。
しかも彼女は何を思ったか、スカートを手で押さえたまま馬車の連結部に頭突きしている。どんな背筋力だ。
見た目からは想像もつかない少女の行為を目の当たりにし、どんどんロンの中の女性像が頭突きと共に破壊されていく。
遂にファミアの頭蓋骨は鉄製の連結部を木端微塵に粉砕した。どんな頭蓋骨だ。
嗚呼、タニングラードの空は灰色なんだなと現実逃避。
此処に来てからというもの、女性というものが分からなくなってきている気がする。

>「制動器!ありったけ回せ、まだこの向きならどこにもぶつからずに減速でき――」
「うおおっおっおっおおお!?」

そんなロンが自分を取り戻せたのは、ダニーの一斉掃射(※物をぶつけているだけである)があったからだった。
というより正気に戻る他なかった。簡単だ、こちらにまで物が飛んでくるからである。
無論、それらを弾くことなどロンにとっては容易な事。
流石に酒瓶が頬を掠めた時は肝が冷えたが。
後方に目をやれば、クローディア達が追尾する姿も捉えることができた。

>「撃ち方止めっ!ダニー!」
「ナイス、シャチョー……うわあっ!?」

全身がよろけ、咄嗟に屋根に掴まる。
突然屋根が傾いたように感じたのだ。否、屋根ではなく、馬車全体が横転する形で傾いてきているのだ。

105 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2012/01/10(火) 23:11:52.29 0
体勢を立て直し、ロンは大穴の開いた方へ。ぶら下がったファミアと、突きだした手が見えた。
まずい、ファミアに危害を加えるつもりだとロンは焦る。男が彼女を助けようとしているという発想には至らないようだ。

「このヤロウ!」
ロンは屋根の装飾部分に足を絡ませ、男の手を弾く。
手を弾かれた男は驚いただろうか。眼前に見知らぬ少年が、屋根から逆さ吊り状態で現れたのだから。
間も無く男に容赦なく打ち出される目潰し。間髪入れず顎に一撃を食らわせ、身を捩って着地。
壁にぶら下がるファミアの元へ向かうや、逆さになった彼女の腰を担ぎ、馬車内に乱暴に投げ入れた。

「ダイジョウブか、ケガは?コワくなかったか?フィーンは?イきてるのか?」
ファミアに矢継ぎ早に質問攻めするや、今度は男、リーダーを猛禽のような眼差しで睨めつける。
リーダーの胸倉を掴むと、子供らしい高い声を精いっぱい唸らせる。

「オイ、シツジのホウはどうした?イバショをオシえろ。さもないと――」
>「まずい、このままじゃ役場にぶつかるぞ!!」

驚いたロンはリーダーの胸倉から手を離し、大穴へと駆け寄り顔を出す。
猛スピードで通りを駆け抜ける馬車が向かう先には、白い煉瓦の建物。
こりゃまずい、と舌を巻いた。一刻も早くこの馬車を止めなくては。でもどうやって?
その時、ロンは車輪を見やった。そして、一つの案が浮かんだ。
しかしリスクが伴う。ヘタをすれば全員死ぬかもしれない。やるか、やらないか?二つに一つだ。

「(やるっきゃない――――!)」

リーダー達へと振り返る。これには彼らの協力も必要になる。
「タントウチョクニュウにキく。イきるタメにオレにキョウリョクするか、シぬか。
 イきたいならばミミをカせ。オレのイうコトをキけば、イノチはホショウする!」
車内を見回した。これでNOと言われれば実力行使に移るつもりである。

「ジカンがない、シツモンはキかないぞ。とにかくジャンプしろ。これでもかってクライにな。
 オレがアイズしたら、ゼンインナニかにツカまれ、ワカッたか?」

ロンの考えはこうである。馬車を止める方法は2通り。
1つ、馬車のスピードを緩める。これを実行するには馬車に摩擦をかけなければならない。
誘拐犯は少なくとも10人は居た筈。これだけの数で全員がジャンプすればそれなりの摩擦がかかる筈だ。
そしてもう1つ、こちらはかなり高いリスクが伴う。これを行えるのは恐らく自分だけだとロンは判断した。
「ファミア、イマのウチにフィーンをサガせ。『ホウりだされる』かもしれないからな」

言うや否や、ロンは再び大穴へ。今なお狂ったように回り続ける車輪を見据えた。
取り出したるは真っ二つに千切れたワイヤー。あの大道芸人に返そうと思い、回収しておいたものだ。
もう返せなくなるだろう。後でまた土下座せねば。 ロンは二本になったワイヤーの端を掴み、一本を前輪へ、一本を後輪へと放る。
途端に、ワイヤーは凄い力で巻き取られる。両腕が引き千切れてしまいそうだ。

「イマだーーッ!ツカまれーーーーー!!」

この力に対抗出来るのは、もって3秒。充分だ。

「『龍家秘術・雷神之震怒』!!」

ロン・レエイの家系に伝わる、遺才を受け継いだ者だけが使える技。
必殺技とも呼べるその力は、迸る高圧電流。正に雷そのもの。
破壊力の塊とも言い換えれるそれが、ワイヤーを伝って流れ、車輪にどの様な効果を与えるかは、火を見るよりも明らかだろう。

彼が考えたもう一つの発想。二対ある前輪と後輪。
大穴の開いた方の車輪が両方無くなれば、馬車はどうなるか。 まず間違いなく――穴の近くに居るロンは振り落とされるだろう。

【リーダーに目潰し、ファミアさん救出】
【敵メンバーにジャンプするよう指示→大穴開いた側の車輪に高圧電流を流す、落ちる3秒前】

106 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2012/01/12(木) 00:23:59.98 0
背筋と腹筋を使って揺れを増幅し、額を叩きつけること数度。
推進力の全てを受け止める強度を持った鉄の連結部が、見事砕けて散りました。
服も、それが引っかかっている壁の破損部もよく持ったものです。
解き放たれた馬は御者が手綱を引く隙もなく、蹄鉄で火花を散らしながら御者台を引いて駆け去って行きます。

>「ナニしてくれてんだてめえええええええええ!?」
まだ速度はほとんど落ちておらず、したがって口に出す余裕は持てないので、
故なき蹂躙から逃れるための正当な権利の行使です、とファミアは内心で思うだけに留めます。

>「制動器!ありったけ回せ、まだこの向きならどこにもぶつからずに減速でき――」
狼狽した声は衝突音に断ち切られて、それからファミアの体が地面から少し遠ざかりました。
車内からの別の声を聞くまでもなく、車体が傾き始めていると理解できます。
逆方向だったら石畳ですりおろされてハンバーグのタネになってしまうところでした。
遺才が発動していても防ぎ難い事態はあるものです。

とはいえ、逆側に傾いたから安全なというわけでもありません。このまま横転することも考えられますし、
逆に車体が勢いよく元の体勢に戻って、本人の意志の介在しない五体投地をする羽目になる可能性も。
>「つ、掴まれ!早く客車の中に!!」
頭領もそこを懸念したのか、ファミアに向かって手を差し伸べます。

その親切に対し、ファミアは蹴りを返そうとしました。
足を上にしてぶら下がっているところに身を乗り出されたら見られてしまうかも知れませんので、
そうした反応になってしまうのも無理からぬ事でしょう。
何が、などとは今さら語ることに非ず。減るものじゃなしとは言うなかれ。
むしろ心に傷が増えるのが問題なのです。

しかしながら、実際に蹴ってしまうと『かもしれない』ではなく確実に見えてしまうわけで、これは悩ましい事態でした。
どういうわけか素直に手を取るという選択肢が出てきません。
そんな状況を打破する救いは天から来ました。少なくとも方向的には。
>「このヤロウ!」
滑らかな動作でえぐい一撃を立て続けに頭領に叩き込みつつロンがするりと降りて来て、
ファミアを引っ掴むなり車内へと投げ込みました。

107 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2012/01/12(木) 00:25:25.51 0
>「ダイジョウブか、ケガは?コワくなかったか?フィーンは?イきてるのか?」
自分で聞いておきながら、ロンは投げかけた問いのどれ一つにも答える間を与えず頭領を締め上げにかかります。
そのロンの手を、人さらいの手下の声が止めました。
>「まずい、このままじゃ役場にぶつかるぞ!!」
言われてみれば確かに、なんだか大きな建物へ向けて淀みない軌跡を描きながら馬車が突っ込んで行こうとしています。

手入れが行き届いているのでしょう、馬車の速度はほとんど落ちず、このままでは建物の中の人が酷い目にあってしまいます。
飛び降りて引くか押すかしようとも考えましたが、掴んだ部分だけ壊れてそのまま走って行ってしまいそうです。
もうしょうがないのでフィンだけ回収して潔く飛び降りようそうしようと
心を決めて動き出そうとした矢先、ロンが一同へ指示を出し始めました。
>「ファミア、イマのウチにフィーンをサガせ。『ホウりだされる』かもしれないからな」

探した後どうするかはともかく、そこに異存はないので即座に行動に移ります。
客車を飛び出して後ろの車両へ駆け込みました。
「ハンプティさん、ご無っ……!」
フィンの上には男性が一人覆いかぶさっていました。
花が散るイメージが、ファミアの脳内を駆けて行きました。

(まさか――まさか最初からハンプティさんが目的で?私ではなく?)
「えい」
それはそれで愉快な話ではないなあと言う漠然とした怒りとも失望ともつかない感情もろとも上の男性を蹴り飛ばします。

現れたフィンの状態は、出血はあるもののそれほど酷くなく見えました。
見えるだけで、意識はないし呼吸は浅くて不規則だしと一刻を争う状況にあるのは明白で、
開きかけたファミアの眉がまた落ちます。

(こういう場合、揺さぶったりするのは危ないけれど……)
客車と違ってサスがついていないようで、何もしなくても揺さぶられっぱなしです。
床板に頭がぶつかる音がごすごすごすごすと響いています。
動かすのも危険ですが、ここに放置するよりは移動させたほうがよろしかろうとそろりとフィンの体を起こしました。
それから後ろに回って脇の下から手を差し入れ、胸を圧迫しないようにしながら引っ張りはじめます。
意識のない状態なので頭ががっくんがっくん揺れました。

ファミアはそれを見て、フィンの首の後で手をクラッチして頭を押さえます。
絵面だけ見たらフィニッシュホールドへ移行していると勘違いされかねませんが、あくまでも安全を考えた処置です。
改めて移動を開始しようとしたところで、大きな衝撃が車体を震わせました。
ファミアはとっさに身体を後ろへ投げ出して、フィンと床の間に自分を置きました。

【浴びせ倒され】

108 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/01/12(木) 03:41:01.14 0
>「――アンタたちの腕を見込んで、ビジネスの話をしたい」

ややもすれば滑稽に見えるほどに尊大な調子で、木箱に腰掛けた少女が口を開く。
地に屈した膝に気絶した仲間を抱え、ノイファは声の主を仰ぎ見た。
勝者の如く見下ろす少女と、敗者のように見上げる女――

「――とりあえず、気が散るから後にして下さいね?」

見た目に反し、両者の立場は真逆。
したり顔で待ち構えていた"路地裏の子供達"を出し抜き、降し、今に至るというわけだ。
ノイファの膝の上で治療を受けているのは、その過程で出来た尊い犠牲、ウィレム・バリントンである。

実際のところ、気絶しているだけでウィレムに目立った傷跡は見受けられなかった。
擦り傷程度がせいぜいで、その中に混じって、額にくっきり残った打撲痕が一つ。
それを申し訳無さそうに摩りながら、ノイファは早口に聖句を唱え、跡形も無く証拠を消し去る。

>「あたしたちの十重二十重の罠を初見で見切って、かつそれを逆手に取る……ハンパな経験じゃできないことだ。
 少なくとも、シスターや大道芸人やよくわからん女が持ってるような経験じゃねーのは確かだ」

(……その罠が気になるんですよねえ)

少女たちが仕掛けていた罠。
非殺傷ながら効率も良く、精度も十分。そして何より気になったのは野外用のそれが多かったこと。
見よう見真似で出来る再現率ではない。おそらく誰かに教わったのだろう。

(彼女たちを動かしてる誰彼が居るのか、あるいは"大事な人"とやらから仕込まれたのか……)

頭を捻ってみたものの、手持ちの情報で推察できることなど高が知れている。
タニングラードという街の裏側を知るために、少女の話に乗ってみるのも一つの手だろう。

>「しかもアンタらは見た目全然統率感ねえのに、グルで、息はピッタリあってた。つまり、一朝一夕の馬車友じゃねえ。
 すげー戦闘技術を持った集団が、なんでか身分を偽って、この街に居る……それってめちゃくちゃきな臭いよな?」

続く少女の言葉に、ノイファは眉を顰める。
あれほどの混乱の最中だったというのに、中々どうして良く見ているものだ。

(さて……どう答えましょうかねえ)

視線だけを動かして仲間の顔を伺い――色々と諦めた。
後ろから肩を叩くだけでショック死しそうな程、あからさまに動揺している者がそこに居た。
フランベルジェである。

(まあ、良いですけど)

ため息を零しつつ、ノイファは少女に分かりやすいように目を伏せた。
極論を言ってしまえば、仲間であることや身分を偽っていることは、バレた所でそれ程問題ない。

隠し通す必要があるのは『目的』と『所属』の二つだ。
そこまで追求される前に、言い換えればフランベルジェがこれ以上ボロを出さない内に、見せておく必要があった。
最後の最後でしくじった、弱みを握られた、そう思わせるためにだ。

「……仕方ありませんね。」

フラウと名乗った少女へ、ノイファは首を縦に振ってみせる。

109 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/01/12(木) 03:42:50.50 0
>「そ、それは――!」

フランベルジェが息を呑み込む。
先程までの挙動不審さはすっかり形を潜め、代わりに歯の根も噛み合わぬ程の恐怖を顔に滲ませていた。

「――『零時回廊』っ!?まさか……本物ですか?」

ノイファも同様。
演技するのも忘れ、フラウの仲間が運んできた銅鏡を食い入るように睨み付ける。

『特別災害級指定呪物・零時回廊』。その片割れ。
二枚揃って初めて本来の機能を発揮する魔導具であり、その効果は特別災害指定の名に恥じぬ代物だ。
帝国史を学んだ者であれば、知らぬ者はほぼ居ないといっても良い。

(まさか、初日でお目に掛かれるとは思いもよりませんでしたね……)

ノイファにしても実物を見たことは無い。
帝国史の教本で写したものを見た程度、それも随分と前の話だ。
この街以外で、『零時回廊』を見せられたとしても、直ぐにそれだと思い至りはしなかっただろう。

にも関わらず一目で判別できたのは、つい最近『零時回廊』の写絵を見ていたからだ。
任務の前段階。ユーディ=アヴェンジャーが奪ったとされる術具の説明として。

>「こいつのもう片割れが、『白組』っていう裏の盗品オークションに出品されてんだ――」

競り落とせないのならば手を汚してくれ、とフラウの声に熱が籠もる。

(一つが此処に、そしてもう一つもタニングラードに有るということですか)

二つが揃うというのが、どの距離までのことを指すのかは知らない。
だがそれ本当であり、もし揃ったとすれば、タニングラードを災害が襲うということになる。

(ひょっとしなくても拙いですよねえ)

帝国が管理しているはずの呪具によって――
緩衝地帯たるこのタニングラードが――
崩壊したとなったら、これは一大事だろう。一特殊部隊を派遣したという事実がばれる程度の騒ぎではない。

「そうですね……手を貸すのもやぶさかではないのですけど、こちらからも条件があります。」

努めて平静を装って、ノイファは返答を切り出す。

「先ずはオークションが行われる場所と、日程を教えてください――」

これを聞いたのはボルトに伝えるためだ。
必要ならば課員の補充も打診しなければならない。

「――後は、その鏡。
『零時回廊』は、帝国史の教本に載るくらい有名な呪具ですけれど、それを揃えてどうするつもりですか?」

フラウの目を見据え、ノイファは問いかけた。


【オークションの日程と、フラウたちの目的を詰問 】

110 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/01/12(木) 22:48:35.44 0
人のモラルと路上のゴミは互いに影響し合う。とは言っても散らかしたまま片付けないと、
次第に汚れを嫌った人が遠退き、後にはただゴミの山が一つ残されるというだけのことである。
そして現在、そのゴミの山はダニーによって弾丸として再利用されていた

酒瓶、石、ごみ袋、修繕されていない路上の瓦礫等、人の気配の絶えた道にはそこそこ物が落ちており、
暮らしていた住人の名残=ダニーの残弾といっても差し支えなかった。

もっとも対象に狙い通り物をぶつけるというのは思っていた程簡単ではなく、
外れたり別の場所に当たったりと中々上手く行かない。
空き瓶が入ったままのケースを引っ掴んで振りかぶった次の瞬間、目の前の馬車に異変が起きる。

「・・・!」

何だと訝しんでいると、馬車が新しく隣に現れた。どうやら連結部が破壊されたことで
御者台と離れていっている様で、馬車が増えたように見えたのもそのせいだった。
何故そんな事態になったのかここからでは伺い知ることはできなかったが、ロンがやったのだろうか

なんにせよ動力を失った以上そう長くは走れないだろう。
惰性が尽きる前に止めを打っておこうと彼女は持ち上げていた物をぞんざいに放ると、
ぶつけられた車輪は今にももげそうなくらい横にぶれ始め、次に車体が傾いてゆく。

>「撃ち方止めっ!ダニー!」

内心で小さくガッツポーズをとった矢先に背後から制止を命じる声が聞こえる。
ちらりと見ると馬車に乗った子供社長の姿が見えた、クローディアだ。
仕方がないのでダメ押しをしようと小脇に抱えていた子供の頭くらいの大きさの石を捨て
追走に専念する。クローディアの馬車が横に並んだと同時に焦りと驚きを含んだ声が響く。

>「まずいわ、役場に向かって一直線……あのまま行ったら大惨事ね」

言われてみれば確かにそうだ。このまま行けば役所の壁に突っ込むだろう。止めずとも止まる状況である。
もっとも、未だロンを含めた知り合いの脱出は未確認なのだから、終わりまで見届ける訳にもいかない。

そして案の定社長から「どうにかしろ!」の指示が飛ぶ。予想通りの反応に思わずため息が出る。
如何にかする為には先ず衆人の目を逃れる必要があった。

111 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/01/12(木) 22:51:24.44 0
馬車は暴走の末人通りのある所まで戻ってきてしまっており、ダニーは小さく舌打ちした。。
既に馬車内の黒煙は薄れつつあり、今「変身」すれば立ちどころに事件が変わってしまう。
彼女は逡巡すると両脚で一際強く前方に跳びながら、右手で煙玉を取り出し、左手で髪留めに触る。

「・・・・・・・・・」
離れてろ、とクローディアに警告すると、ダニーはそのまま四つん這いになり、大地を握り締める。
着地寸前に最後尾の荷台に投げ込まれた煙玉は、新たな黒雲を生み出し、追跡者に纏わり付く。

腹筋に全力で力を込めて地面の硬さに集中する。
本来なら彼女のサイズで行えば自殺行為に等しい行為だが、道はこれしかなかった。
煤けた霧で足元が隠されたことで、彼女は異才を発動させる。バッシュは千切れ、
獣の爪と体毛が変容した手足に生え覆われる。コースを定め、静かに息を吐いて、

ーそして、全身の筋肉を爆発させるー

姿勢を低くし、草食獣から肉食獣の走りへと転じると、過程を省略したかのように間が詰っていく。
一番速い動物は、と聞けば最高速か、それとも加速力か、はたまた地形を気にせぬ跳躍力、
捕食されずに走り続ける持久力、環境に左右されない走破性、様々な議題の元に部門が設けられていく。

ここでダニーが選んだのは『加速力』、用いたのは『犬」の構え
人間が最も愛したスポーツマン、競争犬(レーシングドッグ)の走り方、
一完歩毎に爆発が起きたかのように空間は縮み、
大地と脚の間にある全ての物を掻き集めては掃き捨てる。

あっさり荷台に取り付くと、手足を人に戻し、残る力の限りで馬車を引っ張った。だがその時、
乾いた音が腕の内側から聞こえた。馬車の縁を掴む右腕に力が入らない。

「・・・・・・」
まずい、とダニーは零す。不相応に強引な加減速を科した為に腕が脱臼を起こしたのだ。
痛覚が追いつかないので油断していた。今からはめ直している暇はない、
大型動物ができてはいけない技の反動は予想を越えて重大だった。

「・・・・・・・・・・・・!」
止まれ!と吠えながら、彼女は残る左腕で尚も馬車を引く。速度は落ちてきていたし、
幾らか進路もズレ込んだとは言え、役所の壁はすぐそこまで迫っていた。

【荷台に取り付くも勢いをつけすぎて片腕脱臼】

112 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/13(金) 08:35:57.70 0
「はぁっ……はぁっ……ざまあみろ!極悪誘拐犯どもに、一矢報いてやったぞ!」

ウィットは自分が強くないことを知っている。
それは単純な戦闘能力の話だ。脱サラする前の、戦闘員だった前職での実戦経験はそれなりに豊富。
大なり小なり、数々の戦いを生き残ってきた者として、自分には"戦う"才能が欠如していることを悟った。
それでいて、生き残る才には恵まれていたものだから、ますます自分の進退に迷って今ここにいる。

(初めてかも知れないな……悪漢と目の前で"対峙"して、自分のできる精一杯を叩きつけたのは……)

人を殺めたことはあるし、殺されかけたこともある。
しかしそれらは『殺し』であって『戦い』ではない――戦闘職に就いていた頃がそんな感じだったというのに、
戦闘を本分としないハンターになってから初めて戦いを経験するというのは、随分と皮肉な話だった。

ウィットは自分の在るべき姿がわからない。
それを見つけるべく、言わば自分自身を依頼人とした失せ物探しのためにハンターになったようなものだ。
もう三十代も半ばの、まともに人生やっていれば父親になっているであろう歳の男が始めるには、
あまりにも手遅れな自分探し。しかしタニングラードは無法の街だ、非常識なんてものはここにはない。

「見つけてみせるさ……そいつを証明するために、ここまで来たんだ」

遥か、帝都の現場へ思いを馳せる。
あそこに置いてきたものは、ウィットという人間の半分以上を構成する殆どだ。
ならば、今ここにいるウィット=メリケインはかつてとはもう別人と言っても良いだろう。
切り捨てた半分以上の空白に、タニングラードで得たものを詰め込んで――完成したそれがきっと探し求める『自分』なのだ。
時間はある。ゆっくり、砕けてしまった自分という破片と、この街のパーツとを組み合わせていこう。
ジグソーパズルの数は無数。破片一つ一つをどこに嵌めるかじっくり黙考する作業は、きっと男の趣味に相応しい。

「――――!」

胸に抱いた高揚感に薄い氷の刃を突き立てられた。
背後、何かが飛んでくる。ハンターの基本技能である周辺探知の魔術が攻撃の気配を鐘で鳴らす。
振り返らず、懐に仕込んだスキットルを取り出す。北国タニングラードでは必需品の強い酒を携帯する容器だ。
この街に来たばっかりの頃に通りの市で購入したもので、磨き抜かれた銀製の表面は鏡として使えるほどに曇りがない。
反射させて、背後を伺う。

「――石?」

空中で星図のように円を描きながら飛来する二つの石と、その向こうにそれを投擲した者の姿が見えた。
宝石商だ。粘着紙を外し、追いかけてきたようだが、いくらなんでも早すぎる。
ウィットが学んだ技術を尽くして製作した粘着紙をいとも容易く破られ、あまつさえこうも早い段階で追いつかれるとは。
先程も一瞬で距離を詰められたし、単純な俊足というわけではないだろう。

(何らかの機動系術式の使い手……それもかなりの手練か!)

後方、二つの石が迫る。両石を繋ぐ糸が鏡越しに見えるほど近づいた所で、ウィットは判断した。
職業柄、この手の道具は知っている。錘を結んだ糸によって、相手の足を絡ませて転ばせる猟具だ。
もとは狩猟民族によって造られたものだが、その性質上相手を傷つけずに捕獲できるため司直やハンターにも広く普及している。
つまり、

(僕を捕獲するつもりか――!?このまま走り続ければ、もう一秒もしないうちに僕の足へと『捕獲具』は絡みつくだろう!
 さりとて、右に逃げても左に逃げても必ずワンステップ、方向転換のための"溜め"が必要だッ!
 溜めの段階で捕獲具に追いつかれる!ジャンプで躱そうにも、どのタイミングで跳べばいいのか見当もつかないッ!!
 ボードゲームで『詰み手』になった気分だァ〜〜ッ!)

しかしウィットとて素人ではない。
ひと月急造のにわかハンターとて、身にかかる火の粉の振り払い方など真っ先に習うことだ。
あの捕獲具は走る足に接触することで絡まり拘束する仕様――

「ならば、自分の足に当たる前に、別の何かに当たってしまえば僕のところに届かない!」

113 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/13(金) 08:36:17.26 0
鏡に使っていたスキットル。市場でもそれなりに値の張った良品で、気に入っていたが背に腹は代えられない。
ウィットは背後から飛来する捕獲具との位置関係と距離を注意深く調整しながら、後ろへ向かってスキットルを投擲!
金管楽器をぶちまけたような音が響いて、回転する石と銀製のスキットルが空中で激突した。

これでもう捕獲具の脅威はない。右なり左なり、好きな方へと方向転換できる。
適当に道を変えながらハンターズギルドまで逃げ切れば、ウィットの勝利だ――!
安物の革靴が石畳に噛み付き、踏み込みの力の軸をずらす。
倒れるように身体の向きを変えれば、スピードを維持したまま舵を切ることが可能だ。

「まんまと引っかかったな誘拐犯め!ここまで来れば位置発信の術式がなくとも匂いで追える!神妙にお縄に――」

近くの小辻へと飛び込む刹那、ちらと後ろを振り向いて確認。
相手との距離、疲労具合、人着や目線などを覚えるためのその作業はハンターたるウィットにとってごく自然な行為であった。
だから、『先程撃墜したばかりの捕獲具がまだ自分を追ってきている』ことなどまったくの予想外で、

「何ィィィィィィ〜〜〜〜〜ッ!?」

ついに避け切ることができなかった。
大して重さもないはずの石と糸の捕獲具はその速度を変えぬままウィットの膝同士をくくり合わせ、それ以上の駆動を封じる。
たちまちバランスを崩したウィットが石畳に身を放り出した途端、追いついた宝石商に襟首を掴まれて裏路地へと放り込まれた。

(これは……『風』!風による捕獲具の速度向上と飛翔補助――機動術だけの使い手じゃなかったか!)

それも恐ろしく高精度な魔術操作だった。
風術系というものは炎などと違い明確な『形』を認識しづらいため挙動が大雑把になりやすい。
『飛翔』や『噴射』などのように一方向への放射術ならば使い勝手も良いが、こんな小さな捕獲具にまで精密に術式を込めてある。
なるほど、優秀な魔術師だ。粘着紙がああも簡単に打破されたのも頷ける。

「くそう、殺せえ!誘拐され、拷問され、人質にされて仲間の捜査を妨たげるくらいなら、いっそ死んだほうがマシだあ!
 それほどの技術を持ちながら、どうしてこんな人型のクソにも等しい犯罪者なんかやってるんだ!
 軍でも、帝都の研究職でも引く手数多だろうに!どうして真っ当な生き方を選ばなかったんだ!!」

誰もいない路地裏で、引き摺られながらウィットは喚き立てる。
ウィットは帝都にいた頃、自分より若くて自分よりも多くの栄誉を持つ者を多く見てきた。
そういった上への劣等感や、下から突き上げをくらう焦燥感から逃げ出すように彼はサラリーマンをドロップアウトしたのだ。
だから、先月から華々しくスタートした第二の人生で、こうも早く現実にぶち当たるなんて思いたくもなかった。
不条理への不満と怒りは、その体現者たる犯罪者へと牙を剥く。

「お前や、あの娼婦は凄い奴だよ。本当に、僕なんかじゃ及びもつかないぐらい、感服するほどに、凄い奴だ。
 僕がすごくない奴だからかも知れないけどな、やっぱりそういう自分を活かし切れない生き方って勿体無いと思うんだよ。
 お前らが人を殺したくて奪いたくて仕方がないっていう変態ならともかく、金のためなら、もうこんなことはやめよう。
 僕は帝都にいくつかコネが残っているから、仕事探すというなら協力するからさ……?」

人気のない路地裏で、極悪誘拐組織の戦闘員(多分)に縛られて転がされながら、説教を始めた。
言葉で以てご改心奉れるなどと本気で思っている――ウィット=メリケイン三十路過ぎ。まだまだ酸いも甘いもよくは知らず。


【捕獲されて開き直り説教】

114 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/01/14(土) 03:48:18.68 0
私は帝国騎士です
いきなりどうした、と思われるかもしれませんが私はそのことを大切に、誇りに思ってるということをいいたいのです
残念ながら若輩かつ未熟な私は上位騎士などという大層な身分ではありませんが
身分はいまでも『帝国騎士セフィリア・ガルブレイズ』なのです

いまは従士隊に身を置いていますが、騎士というのは身分です。所属ではありません
近衛騎士団だろうと遊撃課だろうと私は帝国騎士なのです
私もひとたび戦場に出ればそれなりの兵を率いて自らの身を先頭に戦場を駆けなければなりません
それが高貴なる者の義務なのだから
そして、最後にもう一度いいます。私は騎士であって上位騎士ではありません

話はノイファさんに念信を送っている最中からでしたね
言葉の途中で私は獣の咆哮が聞こえました。同時に、地上がまるで沈んでしまったかのような感覚に陥いりました
後になって思い出したですが、先輩は反響を媒介に物体を切るということでした
つまり、この場合は煙を切って破壊したのでしょう
それで生まれた真空状態が私の平衡感覚まで狂わしてしまったのです

一瞬の感覚喪失状態から復活した私が見たのは先輩が身を呈して私を守ってくれている
ドジで、間抜けで、騎士として貴族としての教養のない先輩が私を守ってくれている
騎士は身を呈して他者を守る
それが自分がたとえ満足に身動きがとれないときでも
そうフランベルジュ・スティレットはまぎれもない騎士だといいたいのです

>「ガルブレイズちゃん、これを!」

私の完敗です
先輩は私の能力をおもんばかって悪趣味な色合いの尾羽根を私に渡します
私の能力は両手に持ったものを自在に操れるということです
使いこなすために媒介や身体能力の強化、技術の向上が見られます
例えば先ほども、串で先輩を吊り上げた縄を切ったときなどは、握った手から少し顔を出す程度の長さで縄を切れるほどの技術と串自体の強化とそれを可能にするだけの速度を生み出せる身体能力を手に入れられたのです

今回の尾羽根だとどうなるのでしょうか?
身体能力の向上はいつものことですが、羽根に特に変化は見られません
まさか、これでくすぐるか、昔の貴族よろしく嘔吐の補助に使うのでしょうか?
微妙に使えないものを渡すあたりが先輩らしいですね

私は羽根を見つめて、少しだけ表情をほころばせました

115 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/01/14(土) 03:52:56.20 0
>「――アンタたちの腕を見込んで、ビジネスの話をしたい」
さて、私のいい気分に水をさす少女のことばに……

>「――とりあえず、気が散るから後にして下さいね?」

さすが、アイレル女史、なかなかに辛辣なお言葉です
しかし、なぜかウィレムを膝枕にしているのは見るのはなぜか嫌な気持ちになります
いえ、決して私が膝枕されたいという意味ではなくて……なにをいってるのでしょうか、私は!
とにかくです!

「ビジネスぅ……負け犬がなにを言い出すかと思えば……」
>「しかもアンタらは見た目全然統率感ねえのに、グルで、息はピッタリあってた。つまり、一朝一夕の馬車友じゃねえ。
 すげー戦闘技術を持った集団が、なんでか身分を偽って、この街に居る……それってめちゃくちゃきな臭いよな?」

ここは沈黙が金といったところでしょうか、と先輩が余計なことを言いださないかとチラリと視線を移すと……
先輩はいつの間にか水浴びでもしていたかのような顔をしています……
「……はぁ」

思わず、ため息が漏れてしまいました
しかし、まだどこの誰ということまではバレていないのは幸いです
実際のところ、隠し通せるとはまったく思ってはいませんでしたが

>「……仕方ありませんね。」
と、アイレル女史が折れてしまったので、これで私たちも晴れてこの少女達に協力することになりました

「フィオナさん、協力するのですか?」
『アイレル女史、しばし私のお芝居にご協力ください』

私はここで一芝居うとうと考えます
偽の情報を彼らに掴ませようと考えます
フィオナというのはアイレル女史のファーストネームを簡単なアナグラムで作った偽名です

「一応、勝者は我々ですし、彼らのブラフに付き合ういわれは……」

116 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/01/14(土) 03:53:17.24 0
ここで私は再び言葉が途切れてしまいました
今日はよく途切れる日です……
それもそのはずです。裏切り者の探索中にまさか捜査中の代物と遭遇するということを誰が予測出来たでしょうか
アイレル女史、スティレット先輩の表情が変わる……いいえ、私の表情も大きく変わっていることでしょう
あの先輩ですら知っている魔導具、特別災害指定呪物『零時回廊』の一枚
それをこの子供達が持っている

このトラップと零時回廊……引っかかります
いえ、むしろ答えは出かけています

『アイレル女史、憶測で申し訳ないのですがもしかしたらこの子たちの背後には……」

これ以上、言葉を出すことはなぜだか、言ってはいけないような気がします
もし言えば、その瞬間、私の命が絶たれています。そんな予感がしました
いえ、いまさらです。もう散々口に出しておいて本当に今さらなのですが……口から名前が出て来ません
私たちは予想以上に手を出してはいけないところに、手をだしてしまったのではないのでしょうか?

この緩衝地帯を帝国の失態で大きな被害を被り、他国の人間にも被害が出た場合はそれだけで開戦の理由になります
それとも抑止力として帝国や他国を牽制するのでしょうか?
彼の能力があれば『零時回廊』を好きな場所で発動出来る
いいえ、いまは考えても仕方ありません
とりあえず彼らから聞き出せることを聞くのみです

「一つ聞いてもよろしいでしょうか?あなたがお持ちになっている鏡を揃えるように指示した者は誰でしょうか?
その鏡がなにか知っていたら興味本位でも揃えようとはしませんよ。普通」

これは危険な賭けですけど、もし彼らが馬鹿正直に教えてくれれば、大きな情報となることでしょう

「まあ、おそらくですがあなた達にその罠を教えた人物とは同じ人でしょうね」


117 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/01/16(月) 20:58:35.21 0
マテリアはスイを自在音声で誘導しながら、自らもウィットを追い始めた。
自分を保護した衆人にもう大丈夫だと告げて人混みに紛れ、一度適当な酒場に入る。
喧騒の中をくぐって化粧室へ。

「ん〜、随分と目立っちゃいましたねぇ……。
 スイさんと一緒にいるところは、万が一にも見られたくないですね」

大事に繋がる可能性が低かろうと、対処出来るならしておいて損はない。
雑踏に紛れて、人の入り乱れる酒場に入った女が一人出て来なかったとしても、普通の人間は気づかない。
よしんば気づいても、ただの見落としや勘違いだと思うだろう。

鏡に向き合うと右手のひらで顔を一撫で――瞬く間に彼女の顔形が変わった。
金髪につり目で全体的に鋭角的な印象を醸す、間抜けな娼婦とは正反対の顔に。

続けて右足を軸に一回転――顔に合わせて衣装も変わる。黒が基調の威圧的な服装へ。
認識を操るのではなく、薄い幻影の膜を纏うタイプの変装術だ。

マテリアの祖先たる魔族は突き詰めて言えば『知覚情報を操る』種族だった。
彼女は特に『聴覚』に関する力を強く引き継いだが、その身に流れる魔族の血は『遺才』を発現させるほどに濃い。
故に情報通信兵としても高い技能を発揮出来たし、変装術もお手の物だ。

けれどもこの技能は――母直伝、という訳ではない。
むしろそうであれば彼女にとってどれだけ幸せだった事だろう。

「……おや、どうやら捕らえたみたいですね。これは急がないと」

変装を終えて右手を耳元に当てると、ウィットの足音が聞こえなくなっていた。
代わりに引きずられるような事が聞こえる。恐らくは捕縛に成功したのだろう。
酒場を出て、再びスイを追った。

路地裏を早足に歩みながら、過去を振り返る。

マテリアはその遺才故に、自分の母がただの娼婦ではない事を知っていた。
母は『銀貨』なる組織に属していて、何らかの使命を与えられていた。
全ての真実を教えて欲しい、自分も力になりたい。そう母に告げた。
けれども受け入れてはもらえなかった。
目覚めてしまった遺才は仕方ないものとしても、母は自分にどんな技能も教えようとはしなかった。
だからマテリアは独学で母の真似事をしようとして――それは簡単に叶ってしまった。

自分には才能があったし力がある。何も教わらなくてもこれだけの事が出来た。
今度こそ真実を教えて欲しい。マテリアは何度も頼んだが、やはり母は何も教えてはくれなかった。

やがて暫く帰れないと、行き先も告げぬまま母は家を出て行って、そして死んだ。
母の同僚だったという女性が、家まで告げに来た。母は死体すら帰って来なかった。
残されたのは母の形見だと手渡された一枚の銀貨と、それにまつわる謎だけだった。

もしも『魔笛』が自分ではなく母に発現していたら、母は死なずに済んだのだろうか。
自分は余計な事を知らずに済んだのだろうか。
母には終ぞ教えてもらえなかった、なのに容易く習得出来てしまった変装術。
それを使う度に心の奥底から、過去が痛みと苦悩を引き連れて滲み出てくる。
今更どうしようもない事だと分かっていても、それは禁じ得ない。
少しだけ歳を重ねて、痛みを我慢出来るようになっただけだ。

「……わおっ」

懊悩の靄に心を満たされつつあったマテリアが驚愕の声を零す。
心音を追ってスイの元へ辿り着いたと思えば、彼女が半裸の状態で立っていたのだ。
いや、半裸である事自体は予想の範疇とも言える。
なにせ極北のこの都市で彼女に水を浴びせたのは他ならぬマテリアだ。
彼女が驚いたのは半裸である事そのものではなく、その曝け出された胸が帯びた僅かな膨らみだった。

118 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/01/16(月) 20:59:50.64 0
(あっれぇ〜!?確かスイさんって遊撃課の書類には男性って……いやでもあの胸はどう見ても……)

どう見ても胸筋には見えない。
丁寧に泡立てたミルクのように繊細で白い肌は、明らかに女性のものだ。
スイの双丘をまじまじと見つめながら黙考を続ける。

(いやでも、うーん……そうだ!触ってみればアレが単なる胸筋なのか、
 それとも女性特有の神秘的双丘なのか一目瞭然ならぬ一触瞭然ですね!そうと決まれば早速失礼します!)

動揺のあまりか、それとも単に個人的な嗜好なのか。マテリアは静かに暴走へと踏み出し、

>「お前や、あの娼婦は凄い奴だよ。本当に、僕なんかじゃ及びもつかないぐらい、感服するほどに、凄い奴だ。
 僕がすごくない奴だからかも知れないけどな、やっぱりそういう自分を活かし切れない生き方って勿体無いと思うんだよ。
 お前らが人を殺したくて奪いたくて仕方がないっていう変態ならともかく、金のためなら、もうこんなことはやめよう。
 僕は帝都にいくつかコネが残っているから、仕事探すというなら協力するからさ……?」

完全に忘却し切っていた彼方から聞こえたウィットの声に、ぴたりと踏み留まった。
そうして一瞬間の内に態度を取り繕い、穏やかな微笑みを浮かべて彼へと振り向く。
顔を右手で撫でた。変装が解けて、マテリアの本来の顔が現れる。

「……おや、奇遇ですね。私も貴方と同じ事を思っていました」

ウィットに歩み寄りながら一言。
一度言葉を切り、意識を引きつける為の一拍の間を置いて、続けた。

「私も…………実は自分が凄い奴なんじゃないかなーって薄々感づいてたんですよねっ!
 やっぱり貴方も凄いと思います?思いますよね?
 いや〜、でも事実とは言えやっぱり照れちゃいますね〜!あははは〜!」

脳天気全開のセリフだった。
だがこのセリフにはあえて馬鹿を演じる事で張り詰めた空気を吹き飛ばす意図がある――のかもしれない。

「ま、冗談はさておきですね。誤解がありますよ。私達は誘拐犯なんかじゃありません。証拠は……」

口を噤み、右手を顎の下に運んで暫し考え込む。

「んー、証拠は……私達が本当に悪人ならさっさとその禍断ちをぶん取って、
 尋問拷問洗脳のフルコースをご馳走すればいいだけの事です。ひとまずは、そういう事で」

身元を明かすにしろ相互協力を申し出るにしろ、マテリアの独断で決めていい事ではない。
リーダーの意見を仰ごうと、髪を弄る動作で右手を耳元に。
ファミアとフィンがどうなったのか聞き耳を立てて――とても良くない音が聞こえた。
密着していると言って過言でない距離にある二人の心音、呼吸音。
そのどちらも乱れていて、その上位置関係はフィンが上でファミアが下。
激しく軋みを立てる木材の音まで聞こえる。

「ちょ、え?……えぇええええええええええ!?」

驚愕のあまり思わず声が出た。傍から見れば突然大声を上げるおかしな女にしか見えないだろう。
そんな事にも気が回らなくなるほどの驚きだった。
何を言えばいいのか分からない。
言葉を失った唇だけがあるべき姿を探して、落ち着きなく動いている。

「あ……あの!ご無事でなによりです!二人でピンチを切り抜けてこう高ぶるものもあったかもしれません!
 でも、でも!それは流石にマズいと思います!そ、それではっ!」

やがて意を決したように、マテリアは二人へ向けて一息に声を飛ばした。
そのままこれ以上は野暮だろうといらぬ気を働かせて、返事は聞こうともせず、今度は課長へ声を飛ばす。
直属のリーダーはファミアだが、彼女は今、会話の出来る状況ではない。
致命的な誤解はあるものの、まあ事実と言っても差し支えないだろう。

119 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/01/16(月) 21:00:15.36 0
「もしもし課長、ちょっと色々ありまして。現職のハンターと接触しました。
 どうやらこの都市では今、誘拐事件が横行しているようでして。手を焼いているそうです。
 ですので、その件に力を貸す代わりにこちらも手を借りる。
 と言った具合に相互協力を申し出たいんですけど……許可を頂けますか?
 返事は私の遺才で聞き取れますから、イエスなら一回、ノーなら二回、靴で音を鳴らして下さい」

相互協力――妥当な案のように聞こえるかもしれない。
しかし実際には、この提案にはマテリアの個人的な願望が潜んでいた。
なにせハンターを味方につけるだけならば単に金を使うだけでいい。
単なる金のやり取りよりも、互助関係を築いた方がより大きな協力を得られる――といった事はあるかもしれない。
だが、それは単に後付けの言い訳に過ぎない。マテリアの意図はそうではない。

マテリアはこの都市に蔓延る不当な悪意を一掃してやりたい、そう考えていた。
故に相互協力という形で、事件に手を出せる状況を作ろうとしているのだ。

「さて……と」

髪を弄る動作で右手を耳元に添えたまま、再びウィットへ視線を向ける。

「今から話す事は、あくまで私個人の意見ですが……私は貴方の追っている事件の解決に力を貸したいと思っています。
 そしてその代わりに、私達が抱えている問題の解決に手を借りたい、とも。
 私も貴方も同じ事を考えている筈です。弱き人々に平和と安全を、と。
 込み入った話はまだ出来ませんけど……先んじて、貴方の追う事件について詳細を聞かせては頂けませんか?」


【凝視→スイ
 勘違い→ファミア&フィン
 相互協力の許可が欲しい→課長
 誘拐事件について詳しく聞きたい→ウィット】


120 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/19(木) 13:13:12.07 0
>「――『零時回廊』っ!?まさか……本物ですか?」

修道女が唖然と呟くその名称に、フラウは覚えこそなかったものの、尋常ならざる空気を察して訝しんだ。
同時に納得もする。なるほど、『白組』の競り品にしてはやけにみずぼらしいものだと思っていたが。

(……知る人ぞ知るプレミアがついてるってことか……?)

価値のあるものとは、一目見ただけでそう判断できるものばかりだとは限らない。
見た目が質素でも、もう生産されていない限定品や、大富豪の思い出の品だったりした場合は別である。

それでもフラウは自分の目利きには自信があった。彼女の特別な眼力は、人に限らず宿った魔力を視認する。
人に求められる逸品ならば、その"執念"が魔力として残留し、フラウの眼には濃い色として映るはずなのだ。
それが、この『零時回廊』と呼ばれた鏡の片割れにはない。

――それもそのはず、零時回廊は合わせ鏡にして初めて効力を発揮する呪物だ。
分かたれてさえいれば、他のどんな低級な呪物よりも何も喚べないがらくたなのである。

>「そうですね……手を貸すのもやぶさかではないのですけど、こちらからも条件があります。」

大道芸人にフィオナと呼ばれていた修道女――おそらく彼女がこの集団の頭なのだろう――が提示する条件。
魔力の色にブレはないが、やはり銅鏡を見て何か思うところがあったようだ。

>「先ずはオークションが行われる場所と、日程を教えてください――」
>「――後は、その鏡。『零時回廊』は、帝国史の教本に載るくらい有名な呪具ですけれど、それを揃えてどうするつもりですか?」
>「一つ聞いてもよろしいでしょうか?あなたがお持ちになっている鏡を揃えるように指示した者は誰でしょうか?
  その鏡がなにか知っていたら興味本位でも揃えようとはしませんよ。普通」

(まあ、これは言っとかなきゃいけないことだよな)

なるほど訓練された人間らしく、単刀かつ的確な要請だ。
あわよくば子供のお情けで聞いてもらえるかとも期待していたが――今更隠すことでもあるまい。

「日程な。えー……っと、ちょっと待ってくれ。暦の読み方を教えてもらったのは最近なんだ。今日は何曜日だっけ?」

子供に持ってこさせた木の板には、帝国暦の今月を一日ごとに印で刻んである。
都市下層の底辺労働者にも関わらず、ご丁寧に休日の概念まで導入されたカレンダーだ。

「――5日後。来週の第三日だな。夜通りの『モーゼル』っていう商人貴族のお屋敷でやるはずだ。
 あたしらが掴めてるのはこの日にオークションが行われるってことと、そこにこいつの片割れが出品することぐらいだ」

だから"手を汚す"ならば警備状況や搬入口、逃走ルートなどはこれから調べていかなければならない。
フラウたち『路地裏の子供たち』の協力を得れば、状況の把握はそう難しいことではないだろう。

121 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/19(木) 13:15:07.41 0
「揃えてどうするか――そこなんだけどな。実を言うとあたしら、なにか目的があってこいつを揃えたいわけじゃねーんだ。
 あたしたちの"大事な人"が、この片割れを持ってきたんだけどな。ほら、この鏡って片方だけじゃすげえ不細工だろ?
 なのになんで片方しか持ってなくて、もう片方は盗品オークションなんかに掛けられてるかって言ったら、
 この街じゃ珍しくもない、置き引きか、強盗かなんかで片割れを『盗まれた』んだと思う」

フラウ達が"おじさん"と初めて会ったとき、既に鏡は分かたれていた。
それについて問うと、おじさんはいつもその片割れを撫ぜながら、悲しそうな眼をして首を振ったものだった。
大事なものなんだと思う。帝都から来たというその人の、きっと思い出や思い入れのある一品なのだろう。

「あたしらはその人に返し切れない恩があるから――せめて、盗まれた品を取り返してやりたいんだ。
 ここにいる子供たち、あたしも含めてみんなその『白組』のオークションにかけられてた子供なんだ。
 目も開かないうちに人買いに売られて、奴隷として競られてたあたしたちを買い取ってくれたのが、『おじさん』」

大道芸人の問うた、『人物』。
フラウは美しい思い出の詰まった箱を紐解くように、記憶の部屋の隅を掃く。
奴隷として、その後の地獄のような人生を決定づけられていた彼女たちにとって、差し伸べられた手の輝きは忘れがたい。

「ひと月前にこの街にやってきて、あたしたちに読み書きと、大人とも戦えるように罠を教えてくれた人。
 名前……なんつったかな、ずっとおじさんとしか呼んでないからだいぶ記憶があやふやなんだけどな……あー、思い出した」

彼は自分のことをおじさんと呼ばせていたが、出会った始めの頃にはこう名乗っていた。
第二の人生を正義に賭す、法ならぬ人の味方。

「――『ウィット』。ウィット=メリケインって名前だったはずだ」


【路地裏の子供たちの目的:おじさんの大事なものであろう『零時回廊』を揃えて恩返しがしたい(おじさん本人は関知せず)】
【オークション開催は5日後『モーゼル邸』:他チームとの足並みが揃うまで探索パートに入ります】
【フラウは零時回廊がどういう代物か知りません】


名前:フラウ
性別:女
外見:灰色でボサボサの髪。スラム相応に痩せているが眼は死んでない
性格:少年タイプ
装備:砂入りの革袋
基本戦術:隙を突いて痛打し逃亡
うわさ1:元奴隷で、馬小屋で育てられたらしい
うわさ2:地頭はかなり良く、たった一月の突貫教育で大人と遜色ない教養を得たらしい
うわさ3:貧民の生まれだが魔術師としての適性が高く、魔力を色で感じられるらしい

122 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/19(木) 13:18:37.77 0
国内の治安を司る従士隊の本庁は、帝都の交通インフラである転移術式網を利用して都内の各所に分散している。
距離を無視出来る転移術がある以上、機能を局所に集中させるメリットがないからだ。
したがって従士隊のあらゆる部門は本庁ではなく街中に、テロ対策として一軒家に偽造されていたりするものなのだが、
急造部隊である『遊撃課』だけは暫定的に本庁の一部屋を使わざるを得なかった。

課員の殆どが現場に出るため事務方が少なく、課の書類仕事を請け負う事務局も相応に小さい。
その小さい部屋の、半分ほどを占める応接間に、二人の男が腰掛けていた。
専用の工具がなければヒビすら入らない蛹胡桃を親指と人差し指だけで割り、反面とろりとした中身をちゅるっと吸う老紳士。
そしてその向かいで苛立ちを隠そうともせず靴先で床を叩きまくる精悍な青年。

「……そう苛立つな、リフレクティア。別に元老院も死なせるために北へ送ったわけではないだろう」

紅茶のカップを傾け、中の熱を嚥下した老紳士が青年を諌める。
背の高い痩身が一見品の良い好々爺を思わせるが、その実武闘派で鳴らした従士隊の隊長だ。
遊撃課の上司の上司のさらに上司――従士隊の最高権力者である。

「んなこと言ったって、相手十戦鬼っすよ!? 何人送り込んだって勝てるもんじゃないでしょ!
 つうか、満足な後方支援も手配せずにあんな僻地へ一部隊放り込むって捨て駒丸出しじゃないすか。
 後出しジャンケンなのに十戦鬼以下の戦力しか用意しないって時点でかなり頭イカれてると思うんですけど、
 同じ護国十戦鬼として隊長はどう思われますかね!」

「お前、ウザくなったなあ……」

「しみじみ辛辣なこと言われた!?」

ここぞとばかりにまくしたてるリフレクティアは、今回の件について何度も元老院へ陳情を訴えていた。
公僕である彼にとって、行政の最高機関である元老院に刃向かうのは出世を捨てるも同義だったが、
その覚悟を以て送った陳情書さえ、まともな審議もされずに不受理とされた。

「大人の交渉って『ウザさ比べ』なとこありますからね……どんだけ厚顔な要求を臆面なく言えるかって感じで。
 そういう意味じゃ今回、俺はウザさ全開で元老院に陳情したつもりだったんすけど」

しかし却下。元老院は今回の件に関して指令を下したっきりで口を閉ざしている。
そしてそういう状況が続く限りは、本作戦に増員もなければ撤退もない。
ユーディ=アヴェンジャーが見つかるまで遊撃課はタニングラードに釘付けだ。――あるいは、全員の死亡が確認されるまで。

「元老院としても頭の痛い話であろうな。国内各所から名うての武人を集めたはいいが、
 アヴェンジャーがタニングラードに潜伏し続ける以上は手が出せぬ――それに、問題はアヴェンジャーだけではない」

「『零時回廊』……なんでよりにもよってあんな厄介なモンを……」

こと政治的観点においては、ユーディの逃亡よりもそちらの方がはるかに厄介だった。
ユーディがいかに殺人に長けているとはいえ、所詮一人にできることの域は出ない。
戦力が他国に流出しても正味問題なくする方法はある――単純に、戦争をしなければいいだけだ。
しかし『零時回廊』はそうもいかない。あれはどんな政治的意図も超越してただ現象として災害を引き起こす。

「でもおかしいのは、なんで元老院は『アヴェンジャーの確保』しか命令しなかったかってことですよ。
 被害的なヤバさを考えれば、零時回廊を優先――そうでなくとも、裏切り者と呪物の両方の確保を命令するはず。
 なのに元老院は零時回廊についてはノータッチ……どころか、世間には『特災指定呪物』としか公表してねえ」

なにか。遊撃課や従士隊の頭の上を飛び交う思惑がある。
触れてはいけない、考えるだけでも両手に鉄環の嵌りそうな、国家規模の思惑――。

「その辺にしておけ、詮無いことだ。我々公僕はあくまで法の代行者、法に感情はいらん。
 それよりも……そろそろだな。迎えに出るぞ、今の我々に必要なことは遠くの身内を懸案することではない。
 ――近くの国賓を接待することだ」

隊長は油時計を見て立ち上がる。
従士隊の最高責任者と、遊撃課の相談役……帝都でも指折りの要人である二人は、これから同等の要人と面会する。
今回の事件について責任の所在と事後の対応を明らかにすべく、周辺諸国からの国使が来ていた。            【舞台裏・続く】

123 :名無しになりきれ:2012/01/19(木) 18:26:35.55 0
銃殺自決

124 :スイ ◇nulVwXAKKU :2012/01/21(土) 22:37:44.93 0
拒否られたっぽいので、どなたかお願いします…。

ウイットの投げたスキットルが石に当たり、耳障りな金属音が鳴り響く。
ちっ、と舌打ちをして、糸を引き寄せた。
そして、人格を入れ替えるために一度、目を閉じる。
次に目を開けたときには、そこに狂気の色が滲んでいた。

「大人しく捕まりやがれッ!!」

ぶわりと風が舞い起こり、石が確実にウィットのもとへ向かっていく。
確かな感触を糸伝いに感じ取り、力一杯引っぱりながら、路地裏へと駆け込む。
ウィットが何かを喚いているが、気にする気は一切ない。
というか、余裕が無い。
細かい芸当が苦手だから、先程の捕縛はかなり堪えたらしい。
若干放心状態になっていたら、いつの間にかマテリアが来ていたようで、そして、彼女がこちらを凝視しているのに気付く。
視線を辿れば、己の胸に行き着いて、スイは首をかしげた。

「…どうかしたのか?」

マテリアの手が怪しげに動いている気がする。

>「お前や、あの娼婦は凄い奴だよ。本当に、僕なんかじゃ及びもつかないぐらい、感服するほどに、凄い奴だ。
 僕がすごくない奴だからかも知れないけどな、やっぱりそういう自分を活かし切れない生き方って勿体無いと思うんだよ。
 お前らが人を殺したくて奪いたくて仕方がないっていう変態ならともかく、金のためなら、もうこんなことはやめよう。
 僕は帝都にいくつかコネが残っているから、仕事探すというなら協力するからさ……?」
>「……おや、奇遇ですね。私も貴方と同じ事を思っていました」

ウィットが再び長々と口にし、それに対し、マテリアが落ち着いた声で言葉を返す。
彼女が軽い調子で言葉を紡ぐのを見て、彼との話はマテリアに任せようと判断した。
馬鹿のようにも見えないことも無いが、しかし、それが会話をする上で非常に大事な点を踏まえているのがわかる。
つまりは、交渉などの技術がかなり上に入るということだ。
スイには残念ながら、両方の人格に、それは備わっていない。
もとが傭兵なだけに、戦いにしか能が無い。
上の言うことに従っておけば、何等問題も無かったのだから。
取り敢えず暇なのと、ウィットのせいで若干苦労させられたのとで八つ当たり気味に糸をゆっくりと巻き上げ始めた。
要するに、ウィットへの締めつけが徐々に強くなっていく。

>「ちょ、え?……えぇええええええええええ!?」
「なななな、何だ!?どうした!?」

突然のマテリアの叫び声に、ビクリと肩を震わし振り返る。
彼女の顔には驚愕、と書いてあるが、原因を知らないスイにとってはちょっとした恐怖でしか無く、少しだけ涙目になった。

「今から話す事は、あくまで私個人の意見ですが……私は貴方の追っている事件の解決に力を貸したいと思っています。
 そしてその代わりに、私達が抱えている問題の解決に手を借りたい、とも。
 私も貴方も同じ事を考えている筈です。弱き人々に平和と安全を、と。
 込み入った話はまだ出来ませんけど……先んじて、貴方の追う事件について詳細を聞かせては頂けませんか?」
「おう、そうだそうだ。お前の言う、誘拐犯とやらのこと、ちょーっと俺達に教えろよな」

にひ、とある意味で邪気の無い笑みをスイは浮かべた。

【いーとーまきまき】



125 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/01/22(日) 02:47:54.24 0
はあ――

果たして自分は、今日だけで何度溜息を吐いただろうか。
気を抜くと険しくなりそうな眉間を、指の腹でぐにぐにと揉み解しながら、ノイファはそんな益体も無い思考に浸っていた。

零時回廊、一月前に現れた男、子供達に教え込んだ智識と戦術。
なんというか真っ黒だった。あからさま過ぎて別人ではあるまいか、とむしろ疑ってかかった程だ。

>『アイレル女史、憶測で申し訳ないのですがもしかしたらこの子たちの背後には……』

先刻の、セフィリアの言葉が脳裏をよぎる。
フラウが口にしたウィット=メリケインという人物の正体。諸々の情報から導き出される名前は一つしかない。
すなわち――ユーディ=アヴェンジャー。

(いや、待ってくださいよ――)

しかし、だとすると一つの疑問が鎌首をもたげるのだ。
元老院の一人を殺害し、ユーディが奪ったという『特別災害級指定呪物・零時回廊』。
彼はこの魔導具を、一体なんのために奪ったのだろう。

いままでは帝都を裏切ったユーディが、他国へ亡命するにあたっての手土産なのだと思っていた。
だが実際は、片割れとはいえこうして子供たちの手元にある。
多大なリスクを払って奪ったというのに、かと思えばあっさりと手放しているのだ。

(――やっぱり、どう考えたっておかしいことだらけですよねえ)

そも、事前に叩き込まれた情報と、タニングラードに来てから聞いた情報とであまりに齟齬がある。
かたや、"絶影"の遺才を操る、強力無比にして非情な暗殺者ユーディ=アヴェンジャー。
かたや、子供たちを奴隷から解放し、生き抜く術まで教えた"おじさん"ウィット=メリケイン。
同一人物と考えるには無理が通り過ぎていた。

「結局のところ『零時回廊』こそが、全てをつなげる手がかりということなのでしょうね。」

ぽつりと、思わず口をついて出た。
今回の騒動には表沙汰になっていることの他に、どうにも薄暗い思惑が蠢いている。
そう思えて仕方がなかった。"神託"でも"予見"でもない、ノイファ自身のいわゆる勘働きだ。

『さて、大分ときな臭くなってきましたねえ……。全員覚悟は良いですか?』

声が弾む。
未だのびてるウィレムはさて置き、セフィリアとフランベルジェの両名に、囁くと同時に視線を走らせた。
確認の形をとってはいるものの、実際のところ否も応もない。宮仕えの辛いところだ。
それも、ことと次第によっては帝国の明日が瓦解しかねない程のとびっきりの代物ときている。

「それでは……モーゼル邸へ乗り込む算段といきましょうか。」

ノイファは立ち上がり、箱に座るフラウの視線を真っ向から見据え、手を差し出す。

「先ずは……現地の下見などどうでしょう?」


【モーゼル邸に行ってみようよ。】

126 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/22(日) 22:46:18.91 0
帝国では生活エネルギーに電気を使用していない。
魔力という、多岐に渡る使途と簡便な補充のしやすさを誇る汎用エネルギーが既に覇権を握っているからだ。
火力や電力などの下位互換のエネルギーは、魔力資源に乏しい周辺諸国の為に存在するようなものなのである。

さて、そんな帝国の人々にとっても電気という力がどういった性質を持つかは想像に難くない。
大自然の脅威・天災。その一つとして、空より来たる莫大な電気の瀑布――『雷』という現象があるからだ。
黒組の盗賊たちは、突如として乗り込んできた白雷を思わせる金髪の少年、彼が放った代物に驚愕した。
手元と馬車の車輪とを繋ぐ鉄線に沿って、『落雷』が発生したのだ。

>「『龍家秘術・雷神之震怒』!!」

そのとき響いた音は、まるで巨大な鉄で出来た斧を、堅木の木目に逆らって打ち込んだかのようだった。
閃光が瞬き、乗組員たちの視界が一瞬で白に染まる。指示の通り馬車に捕まっていなければ、足元が分からず転倒していただろう。
そして馬車が一気に傾く――例えば巨木に雷が落ちると、まるで内部から爆ぜたかのように焦げ割れる。
それは巨木の中の水分が一瞬にして蒸発し、膨れ上がり、中身を食い破って暴れまわるからだ。
疾走する馬車の車輪で同じことが起こった。左側の前輪と後輪が、一瞬にして粉砕したのだ。

「す、すげえ……雷を操りやがった……!?」

黒組構成員は思わず見蕩れたように呟く。
帝国式魔術にも雷撃術と呼ばれるものは存在するが、せいぜいが紫電を奔らせる程度のもの――抵抗の大きい空気中ではそれが限界だ。
今金髪の少年がそうしたように、眼が潰れんばかりの閃光と共に落雷という現象を再現するには相当な適性と熟練が必要だ。
この歳でそれをやってのけた少年の、その異質さが、それこそ紫電の如く見る者の認識を叩いていた。

「あっ……?」

そして車輪による支えを失った馬車が、反対方向――穴の開いている方へと一気に傾く。
紫電の少年は、勢い余ってその穴から放り出されそうになっていた。どこかを掴んで体勢を整えようにも、綺麗に繰り抜かれた穴だ。
3秒後には石畳によって身体の凹凸が無くなるまで磨き上げられるであろう少年へ、盗賊は思わず助けんと手を伸ばした。

「……っ!」

届かない。伸ばした腕は空を掻き、慣性に惹かれて少年は穴の外へと吸い込まれていく。
高速で流れる背景、びゅうびゅうと吹きこむ寒風、路傍の積みあげられた雪に反射する夕日の美しい朱。
そこに鮮血の彩りが加えられる――ほんの一瞬前。

少年は突如として虚空に消えた。
代わるように出現した二枚の金貨が、石畳でちゃりんと跳ね返って雪に埋まった。

 * * * * * *

127 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/22(日) 22:48:13.70 0
金貨の代わりに降ってきたロンの腰を両手で受け止め、揺れる馬車の上で落とさないように強く抱き止める。
顔に礫のごとくぶつかりまくる重い雪粒に涙目になりながらも、クローディアはどうにかロンを御者台の中へと引き戻した。
ロン・レエイの身柄を『買い』、滑落死の危機から救った若き社長は、御者台に押し込んだ部下を振り返って言った。

「上出来よ。今のはボーナスってことにしとくわ」

ダニーに倣ってウインクなぞしてみるが、本家のように上手くはいかない。
涙目でぎごちなく片目を瞑るという狙いどころのよくわからないポーズになってしまったが自己追求はやめておいた。

「大目に見て差し上げてください。ご覧のとおり、部下を褒めるということに慣れていないのです」

ナーゼムがロンにそっと耳打ちする。
クローディアは聞こえないふりをして、雪の彼方に見える暴走馬車を注視した。

「ダニーの様子が変だわ。さっきから、片腕しか使ってない」

先ほど、馬車の車輪をロンが破壊したあたりでダニーが馬車に接触した。
黒煙によって隠された姿は、紛れも無く彼女の遺才能力。驚異的な身体能力を誇る『獣』への変身だ。
人外の走力によってたちまち馬車へと追いついたダニーだったが、しかしそこからの挙動がどうにも芳しくない。
人間に戻った片腕がだらりと脱力し、残る片腕だけで暴走馬車に制動をかけている。
それでもあれだけの質量と速度を相手にして腕がちぎれ飛んでいないだけ恐ろしいものだが、役場の壁は近い。

(怪我――骨でも折れた?このままじゃ、ダニーまで……!)

ダニーまで衝突事故の巻き添えになってしまう。今からナーゼムやロンを加勢に行かせるのも間に合わない。
クローディアが命じたことで、部下を死なせてしまう。
湖の事件で縛られた家名を捨てる切欠をくれた一人であり、彼女の良き相談相手であるダニー。
クローディアは迷わなかった。懐から出した金貨の袋を放り投げ、遺才魔術を発動する。

「『デュアルワーカー』――!」

クローディアは雇い主として、ダニーに時間外労働を命令した。残業である。
そしてここからが遺才の真骨頂、命令した残業を現在のダニーの労働に『被せる』ことで、一度に二倍の労働量を実現した。
ダニーの労働とは『暴走馬車を停めること』――その仕事に限り、ダニーの身体能力は二倍にまで跳ね上がる。
無論、コストは大きい。法定労働時間を超過する勤務には、通常時給の150%の給料を追加で支払わなければならない。
一秒ごとにみるみる財布が薄くなっていくのを感じながら、クローディアは最後の激を投げた。

「生きて帰らないとっ!労災下ろしてあげないんだからーーーっ!!」

 * * * * * *

128 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/22(日) 22:50:51.95 0
>「もしもし課長、ちょっと色々ありまして。現職のハンターと接触しました」

従士隊の権限で、亡命希望者のリストを洗っていたボルトは、耳の中を細指で撫ぜるような囁きを聞いた。
思わず、うおっ、と声を上げて上体を逸らすが、振り向いた方には誰の人影もなく、役場の職員に白目を向けられるだけだ。
ボルトは周囲に対して眼を伏せて謝罪の意を示し、ゆっくりと着席した。

「……お前の能力は心臓に悪いな、ヴィッセン」

ぼそりと呟く。どうせ一度白眼視された身だ、ひとりごとぐらいは追加で許容されても良いだろう。
椅子を引き、尻の位置を正しながら、先の報告を聞く。

>「どうやらこの都市では今、誘拐事件が横行しているようでして。手を焼いているそうです。
 ですので、その件に力を貸す代わりにこちらも手を借りる。
 と言った具合に相互協力を申し出たいんですけど……許可を頂けますか?」

ボルトは顎を指先で撫ぜた。なるほど、悪くはない話だ。
一切の支援なく乗り込んだこの街で、現地協力者を確保できるというのなら、願ってもない話である。
"あちら"にも協力するという対価が必要であるなら――なおさらだ。

とかくハンターという業種は、自身を『何でも屋』と定義付けたがるために、他者、それも他業の手を借りることは珍しい。
それは誇りの問題だ。行政の手が隅々まで行き届いたこの国は、それだけ生活を国に頼ることが多くなる。
そんな中で、民間の自分たちだけでもこれだけのことができる、だから国に依存することはないぞという無言の宣言。
それがハンターのプライドなのだ。

だからハンターが恥を偲んで他者に力を借りるというなら、それは間違いなく『民間だけではどうにもならない問題』だ。
それだけの規模の事件がこの街で静かに横行しているならば、どこかでユーディに触れる芋蔓があると――
ボルトはそう判断した。ワックスの塗り込まれた床を雪道ブーツで蹴り飛ばす。
その瞬間、街役場全体が揺れた。

地震と見紛う衝撃は、ズドン、という音と共に来た。天井の魔導灯が揺れ、埃や煉瓦の微片が降ってきて書類の上を転がった。
周りで作業していた住民や職員たちが、一斉にボルトの方を見る。床を蹴ったばかりのボルトを。

「あ、ああ?……いや、おれじゃな――」

冷静に考えれば今の音は床を踏み鳴らして出るような音じゃなかったのは当然なのだが、
ボルトは空気を撹拌できるんじゃないかという程に猛烈に手を振って否定した。突如すぎる事態にちょっとした恐慌状態だったのだ。
しばらくして、外が騒がしくなった。飛び込んできた住民の話では、馬車が市庁舎に激突したらしい。

街役場は衝撃に弱いレンガ造りだ。地震の起きない大陸中央部ならではの建築物だが、馬車が激突したなら話は別だ。
とくに倒壊の危険はないようだったが、念のための避難と、僅かに野次馬根性が顔を出して、ボルトは役場の外に出た。

「おいおい……何があったんだ」

言葉通り、馬車が役場に突っ込んでいた。

129 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/22(日) 22:52:22.98 0
何故か御者台のない連結馬車の、いちばん高そうな客車がまるごとひしゃげて潰れている。
そしてその後ろにある頑丈な詰車と、そのさらに後ろの荷台は――無事のようであった。

役場の煉瓦に突っ込んだはいいが、どうやら客車が潰れて慣性を吸収し、雪道に残る轍の制動痕を見るにそもそも減速しきっていて。
客車が大破しただけで煉瓦の方にも大した傷が入っていない。
これがもう少しスピードが出ていれば、頑丈な詰車によって煉瓦の壁は突き破られ、役場は崩壊していたことだろう。

その仮定での末路を想像すると冷や汗が出てくる。
まったく、向こう見ずな運転もあったものだ。

ふつふつと怒りがこみ上げてきたので、乗っている奴を引きずりだして文句の一つも言ってやろうと思った。
詰車の扉を蹴り開ける。しかし中は蛻の空で、人間の乗っていた痕跡はあるものの全員逃げ出した後のようだった。
せめて積み荷からどういう連中か判断してやろうと、詰車の後ろの荷台の幌をめくる。

フィンとファミアが重なりあって藁の中に埋まっていた。
ボルトはなにかまずいものを見たような気持ちに苛まれて、静かに幌を閉じた。

「――んん!?」

いやいやいや。と一人で突っ込みを入れて、もう一度幌をめくる。
執事服を半脱ぎのフィンが、貴族服をボロボロにしたファミアを押し倒していた。

「あー、その、なんだ……。確かにおれは仮身分を演じろと言ったが、な。
 そこまで激烈な名演技を求めてるわけじゃねえからな……? ……演技だよな?」

わかっている。よくある話だ。ボルトの行きつけの娼館でもそんな感じのオプションがあったから間違いない。
別の身分を演じてその役の中でゴニョゴニョすることで、普段と違った感慨ひとしおに楽しめるのだと言う。
生憎と別料金だったのでボルトは利用したことはなかったが、なるほど余計に金を出すだけの価値はあるのかもしれない。
指名料を削ってでもそっちのオプションをつけるべきか――

藁の中で組んずほぐれつの男女を前にして黙考する農家の長男がそこにいた。
役場に激突した、通りを賑わす誘拐集団の馬車と、その中から生還した男女。
掛け値なしに、現在この街で最も注目されるであろう現場だった。

 * * * * * *

130 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/22(日) 22:53:53.37 0
役場のある朝通りには、他にもいくつか大きな建造物が存在する。
従士隊タニングラード支局、"楡の木"新聞社、ツヴェルフ縫製本舗、エール・ガーデン……
その中でもひときわに目を引く存在が、大理石造りの威容を構える『ジルニトラ総合百貨』。
帝国内でも帝都を含めた有数の大都市圏にしかない、デパートメントストアである。

露天市が庶民の消費の地だとするならば、これら百貨店は完全に富裕層向けの商売をしている。
なんでも揃う供給の厚さと、百貨店独特の華やかさは、全ての小売事業者のあこがれの的。
クローディア社長率いる『商会』の、最終的な目的地位でもある。

そのジルニトラ総合百貨の、一階ロビーに入ってすぐ右側に軒を構える商店。
『チェルノボーグ青果店』と看板を出すこの店こそが、『黒組』のアジトであった。
恐れ多くも従士隊支局のすぐ近所に犯罪組織の拠点があるあたりが、この街の歪さを如実に浮き彫っていた。

「なんなんですか一体、こんなところまで。私らもね、貴女がたのせいで被った損失の補填で忙しいんですよ。
 それを、不問にしたこちらに感謝しつつお別れするならまだしも、あまつさえ拠点に乗り込んできて何を……」

「だぁーから、あんたらがあたし達に対する損失責任を不問にした、これはオーケー。
 でもあたし達のあんたらに対するムカっ腹はまったく不問になっちゃいないのよ!損失補填を要求するって言ってんの!!」

煙草の灰で真っ黒になった床、誰かの零した酒が染みになった円卓、雑魚寝のせいで黄ばみ始めた革張りのソファー。
クローディアはその中で一番汚れていないと見たソファにどかりと座り込んで、対面の男を睨めつけた。
後ろにはダニー、ロン、ナーゼムが控えている。一触即発の空気がビリリと苦みばしった。

――馬車を止めた後、役場から人が出てくる前に『黒組』の盗賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
司直の手を気にしなくて良い彼等といえど、大勢の注目を浴びるわけにはいかないようだ。
ダニーに追いついたクローディア達は、怪我の治療もそこそこに、逃げていく黒組を追った。
徒歩での帰宅を強いられる彼等に比べ、馬車を使えるこちらが追跡することは造作もなかった。

男――黒組の頭領は、未だ充血した眼でロンを睨む。目潰しのことを根に持っているのだろう。
そうでなくとも遊撃課と商会の華麗なる連携プレーで一旦死の淵へと立たされた者が大多数だ。
間違っても好感触な視線が集まるとは言えなかった。

131 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/22(日) 23:00:26.43 0
「損失補填と言ったって、私らには払えるような金はありませんよ。
 あくまで我々『黒組』は下請けなので。財布のひもは上に抑えられているわけです」

「じゃあ上に掛けあいなさいよ。あんたんところの下っ端が他所様の会社に迷惑掛けたから、金で解決しましょうねって」

「私らが首を切られてお終いでしょうなあ」

クローディアは、黙ってずこずこと引き下がるわけにはいかなかった。
タニングラードで出店するために用意した金を、馬車を停めるために使ってしまったからだ。
このままでは商売はおろか、もう何晩泊まれるやもわからない。この雪国で野宿は緩慢な自殺である。
なんとしても、使った金の分ぐらいは回収せねばならなかった。

「あーもう、ペーペーじゃ話にならないわ!明日もっかい来るから、それまでに上と話つけときなさいよねっ!
 あんた達がいくら下請けだからって、上の――なんだっけ、『白組』?とやらの社名まで汚すことにはできないでしょ。
 ダニー、ロン、ナーゼム。帰るわよっ」

クローディアは憤慨して立ち上がった。
踵を返し、部下を伴ってアジトから出ようとして、入り口が黒組の構成員によって塞がれていることに気付く。

「いえいえ、大人の間のいざこざを解決する方法はなにも、金だけじゃないでしょう、『商会』さん。
 知っていますかな?このタニングラードでは武器を持ち込むことはできませんが――中で作ることぐらいはできるのです」

黒組の盗賊たちのうち、戦闘員十数名ほどが、各々の手に剣や槍を持って商会の面々を取り囲んだ。
それらは、例えば壁材に使う金属の板を研ぎ続けて刃を付けたものだったり、合法な刃渡のナイフに長柄をつけたものだったり。
街に持ち歩けば確実に司直の枷をかけられるものたちだが、閉店後の商店内にそれを咎める者はいない。

「私どもが追跡してくる貴女を撒けないとでも?わざと誘いこんだのですよ、我々の巣でじっくり料理するためにね……。
 見たところなかなか良い御身分のようですし、お付きの方々も希少価値がありそうだ。ネギを背負ったカモですなあ」

クローディアはじっくりと取り囲む屈強な男たちを見回して、溜息をついた。
どいつもこいつも、自分のことばっか。もっとお金のことを考えたら世界は平和になると思うのだけど。

「……話ができる程度に痛めつけたげなさい。交渉に響くと困るんだからね」

ダニーとロンにそう言付けて、クローディアは再びソファに腰を下ろした。
ぽすん、という着席音が合図となって、武器を手にした盗賊たちが一斉に商会へ跳びかかった。


【暴走馬車の停止に成功!
 
 ファミア・フィン→荷馬車の中で重なり合っているのを課長に目撃される。
            現在衆人環視にあるため、どうにかして逃げ延び状況報告なり治療なりを。
 
 『商会』組→商売用の資金を使い込んでしまったので補填を要求しに『黒組』のアジトに乗り込む。
         交渉は決裂の兆し、自作の刃物を持った十数人の盗賊に襲い掛かられる※NPCバトル。目標1ターン】

132 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/01/24(火) 17:47:50.62 0
零時回廊と聞いて驚く私たちを余所に飄々とした態度を崩さない
この子供、よほどの大物かほんとうにただのなにも知らぬ子供なのでしょうか……
おそらくは後者でしょう。多少教育を受けた人間なら知っている常識でしょう……
はあ……教育の大切さというものを身にしみて感じました
このことは教訓として胸に刻んでおきたいと思います

彼女達は自分たちの無知さ故に棺桶に片足を踏み入れている
私が気に病むことではないかもしれませんが、この子達がすこし不憫に思ってしまうのはどうしてでしょう?
さきほどまで敵意を持っていた子供達のはずなのに

(いえ、それよりもいまはこの子達の背後にいるウィット=メリケインの存在です)

黒も黒、真っ黒なユーディ・アベンジャーかもしれない人物
これは意外なところから核心に近づこうとしています
しかし、同時に腑に落ちにことが多過ぎます
ユーディ=ウィットと確信を持つには、まだまだ不可解なことが多過ぎます
このことはおそらくアイレル女史も同じように思っていることでしょう

しかし、手持ちのカードではまだまだ役は完成しませんね
いまは手札を増やすことが急務と言ったところでしょうか、それに私はいま考えたところでどうこうなるものでもないでしょう
実に面白くなってきました
任務ですので私情を挟んではいけませんが、この胸の高鳴りを止めることはできないでしょう

>『さて、大分ときな臭くなってきましたねえ……。全員覚悟は良いですか?』

『覚悟など馬車の中で完了しています……と、あ、生意気言ってすみません』
すぐに調子に乗ってしまうのが私の悪いくせですね
たぶん、私の顔はいまはものすごく赤くなっているでしょうね

>「それでは……モーゼル邸へ乗り込む算段といきましょうか。」

「そうですね。フィオナさん、ドラゴンの寝床で一攫千金ということですね」
確か東方では虎穴に入らずんば虎児を得ずというと聞いたことがあります
自ら危険に飛び込むということは実に血湧き肉踊ることです

>「先ずは……現地の下見などどうでしょう?」

「子供達も連れて行くのですか?……いえ、問題はないですが」

確かに彼女達がいた方がなにかと都合がいいかと思いますが、しかし、なんだかいやな嫌な気がします
私の杞憂であればいいのですが

133 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2012/01/25(水) 12:10:21.90 0
高速走行している馬車の床に両の手がふさがった状態で横たわっているというのは愉快な状況とは言えません。
車体の傾きから、恐らくはロンが車輪を吹き飛ばしたのだと推察できますが、
それによってどの程度速度が落ちているかはしっかり閉じられた幌のおかげでよくわかりませんでした。

何らかの偽装か乗ってる人間のクッションがわりかに積まれた藁が、衝撃で車内を舞っています。
口を開けばそれが飛び込んできそうな中、マテリアからの声が届きました。
>「あ……あの!ご無事でなによりです!二人でピンチを切り抜けてこう高ぶるものもあったかもしれません!
> でも、でも!それは流石にマズいと思います!そ、それではっ!」

「無事じゃないです!全く!何一つ!」
だいいちまだ切り抜けてもいません。
念信の範囲外なので口に出してもしょうがないですし、
たとえ聞こえたところでマテリアやスイが間に合うかというとそれも怪しいところなので、
まずい事だけは動かしようもなく確かなのですが。

(でも……さっき見た距離だったらもう衝突しているはず)
傾いたぶん進路が若干逸れたことと、ファミアは気づいていませんが
幌のすぐ外でダニーがすごく頑張っていることが重なって、馬車の速度はだいぶ落ちていました。
それでも――
「痛ぁっ!?」
それでも、馬車が壁に突っ込んだ後の慣性は、目から星を散らせるには十分なものでした。

「止まっ……た?」
衝突音がして振動が治まっているのだからそれ以外の結果は考えられません。
さて衝突時に働いた慣性力は藁束も一つ所にまとめて行きました。
ファミア達は完全に埋もれてしまった格好で、
怪我人を極力動かさないようにしながら抜け出るのはなかなかに骨の折れる話です。

それでもなんとか藁をどかしていると、幌がめくり上げられて車内の明るさが増しました。
>「あー、その、なんだ……。確かにおれは仮身分を演じろと言ったが、な。
> そこまで激烈な名演技を求めてるわけじゃねえからな……? ……演技だよな?」
「演技な訳ないでしょう!早くお医者様を呼んでください!」
血みどろのフィン×課長の誤解×この発言、という式は、
とてもエクストリームな行為に及んでいたというさらなる誤解を招きかねませんが、
今のファミアにはその発想に至るだけの余裕がありませんでした。
そもそも話している相手が課長だとも気づかないくらいです。


言いながらもさらに藁を投げ捨てて視界が開けたところで、ようやく課長だと気づきました。
その向こうには往来を行き交う住民の姿も。
ファミアはフィンの身体をそっとずらして藁の上に寝かせ、それから
「とっ、当家の使用人が人さらいの馬車にはねられて大怪我を!お願いします、どうかお医者様を!」
と、さらわれかけた貴族の子女の体を取り繕いながら、同時に課長にフィンの負傷の理由を伝えました。
確実に病院送りな容態なのはよく見ればすぐに分かるはずです。
あとは『涙ながらに懇願する令嬢を見かねた親切な農夫』が付き添いとしてついて来てくれれば、
とりあえずこの場だけは収まるのではないでしょうか。

【お客様の中にお医者様は】

134 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2012/01/25(水) 20:27:23.83 0
車輪が木端微塵になり、馬車は穴の空いた方へと傾き始めた。
ここまでは計画通り。だがロンは一つ、大事なことを忘れていた。
電撃を放出することは体力を大幅に削り、一時的だが壮絶な虚脱感が全身を襲う。
まともに足を踏ん張る事も、慣性に逆らうようなアクロバティックな芸当も出来ない。

体が浮遊感に包まれた。大穴に吸い込まれるように、体が外に投げ出される。
何かに掴まることもできない。見えない大きな力に引き摺られるような感覚。
一瞬だけ、盗賊の一人が手を伸ばしているのが見えた。
だが咄嗟に伸ばした手も、互いに届くことは無く。

「あ…………………」

「 死 」 。本能的にそれを察した脳内が、刹那的に真っ白になった瞬間――
覚えのある感覚が全身を包む。目前から馬車と盗賊が消えたかと思えば、灰色の空が広がっていた。
え、と声を発するよりも早く、浮遊感は消失し、万有引力の法則に従って体が急降下する。
突然の事で混乱し、対処を考える前に誰かがロンの腰を受け止め、抱きとめた。
誰が、と考える余裕もなく、無理矢理押し込まれた。

「ふぎゅうっ!?」
>「上出来よ。今のはボーナスってことにしとくわ」

うっすら涙を浮かべつつ、我らが若社長が振り返る。ロンも頭を擦りつつ、周囲を一瞥しようやく状況を理解した。
クローディアの何らかの能力で、彼女等の馬車に「召喚」されたのだ。
押し込まれた衝撃でたんこぶが出来たが、命を助けられたのだから文句は言えない。
クローディアが涙目でぎこちないウインクをするが、ロンにはその意図が掴めず首を傾げる。

>「大目に見て差し上げてください。ご覧のとおり、部下を褒めるということに慣れていないのです」

隣に居たナーゼムがそっと耳打ちしてきた。
それを聞き、ロンは驚きに目を見開いてナーゼムとクローディアを交互に視線を送る。
大人びて自分よりも完璧な彼女が見せた、意外な一面。
ロンは少女の背中に、在りし日の母の面影を見た気がして、ふと小さな笑みがこみあげてきた。

>「ダニーの様子が変だわ。さっきから、片腕しか使ってない」

――その笑顔も、クローディアの一言で掻き消える。
クローディアに並ぶように身を乗りだし、黒煙に包まれたダニーを凝視する。
暴走馬車を相手に片手だけで制御しようとするその腕力に舌を巻くが、問題はだらりと下がった片方の腕。

「(関節部分が変形している……骨折?否、脱臼か!)」

骨折と脱臼、どちらも患部が変形するのが特徴だが、判別すると症状が多少異なる。
骨折の場合は患部が腫れあがり、酷い場合は反対方向に捩じれたり、短くなっている事が多い。
脱臼は関節の組み合わせが変形したのものなので、もう片方の正常な腕を見れば一目瞭然だ。
もっと近寄らなければ断定出来ないが、どちらにせよ、かなり激痛が襲う筈。
だがダニーは痛みを感じていないようだ。矢張り只者では無いのだろうと驚きの連続である。
もっとも、かなり離れた距離から黒煙に包まれたダニーを、一見しただけで症状を見抜くロンの視力もかなり化物じみているが。

「シャチョー!このままじゃ……」

かなり減速しているが、ダニーごと馬車は役場に激突してしまう。
体力を消耗した今、秘孔を突いたとしてもロンの全力疾走も間に合わない。
だとしても、馬車内の取り残されたファミアとフィンも、ダニーも、盗賊達も見捨てることは出来なかった。
縋るような思いで、ナーゼムの制止を振り切り馬車から飛び降りようとした刹那。
クローディアが、懐から出した金貨の袋を放り投げた。

>「『デュアルワーカー』――!」
>「生きて帰らないとっ!労災下ろしてあげないんだからーーーっ!!」


135 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2012/01/25(水) 20:33:45.30 0

「ダニー!」
血相を変えたロンが、クローディア達よりも速く馬車から飛び降りた。
役場に衝突した暴走馬車の周りを取り囲む野次馬達を押しのけ、ダニーの元へ。
有無を言わさず患部を診る。思った通り、脱臼だ。骨折を伴っていないだけましだったか。

「ムリにウゴかすな。オレがナオしてやる」
痛いのはちょっとだけだ、と言い切るや、あっという間に関節を嵌め直す。
耳を覆いたくなるような音が鳴ったが、痛みはそこまで無いと思われる。

「オレもオヤジも、しょっちゅう"シンワザ"をカイハツしよーとしてヨくダッキュウしてたからな!」
だから脱臼を一発で治すくらい慣れっこなのさ!と得意げに笑う。
自慢するような事ではないのだが、能天気な脳筋肉なロンが気づく訳が無いのだった。

【黒組アジト】

「……………コワいな、あのクローディア……」
クローディア率いる商会は、誘拐犯改め『黒組』のアジトに乗り込んだ。
アジト内に緊張が走る中、ロンは誰に言うでもなくダニーの隣でぼそりと零した。
退屈さと体力を消耗したこともあってか、目は眠たげ、時折立ったまま船を漕ぐ。

黒組のリーダーの、充血しきった鋭い視線がロンに向けられる。
生憎、大人の一睨み如きで怯むような性分ではないので、へっと鼻で笑い返しておく。
お陰で、積み重なった悪印象に更に拍車を掛けているのだが、そんなことは全くもって考えていない。
その後も二人の口論は続いたが、やがてクローディアはキリが無いと判断したのか、憤慨し立ち上がる。

>「ダニー、ロン、ナーゼム。帰るわよっ」
「オーケー。アトでフィーンのおミマイにイってもいいか?……オット」
撤退ということで踵を返す……が、寸での所で踏み留まる。
一歩踏み出そうとした先に、入口が黒組の構成員によって固められていたからだ。

「………………ドけよ」
四方を、得物を携えた戦闘員達に囲まれた。 武器は見る限り、全て手製のようだ。全く持ってご苦労な事である。
ロンはどうしようかと言いたげな視線で他の三人に目配せする。クローディアは溜息を吐いた。

>「……話ができる程度に痛めつけたげなさい。交渉に響くと困るんだからね」

ロンはそれを聞いて嬉々として指を鳴らし、装束を脱ぐやダニーと背中合わせになる。
体はまだ疲れを残しているが、クローディアの着席音で一気に眠気が覚めた。
襲いかかる集団を、手から零れ落ちる流水のようにくぐり抜ける。
まず一人、顎に強烈な膝蹴りが入った。そして一人、跳び上がったロンの回し蹴りをモロに食らう。

「そもそも、『キンゾク』にタヨって、オレにショウブをイドんだジテンで『マけ』なんだよ」
一斉に襲い来る刃物――それらの間を紙一重で「全て避けた」。
しかし交差する刃をスレスレで見切るも、身動きひとつ取れない刃の檻に閉じ込められたロン。
刃先は全て、ロンの東国独特の肌を今にも破かんと押しつけられる。

「『サワった』な?」

それでも、少年が浮かべたのは――勝機を掴む者の笑みだった。
パリッ、と僅かに空気が爆ぜる。その音に気付いた時には、もう遅い。
肌に触れた刃物を通じ、僅かに体内に残っていた『遺才』の電流が、閃光を伴い男達の体を駆け巡る――!

【脱臼治したよ→刃物突き付けられたよ→電気ショック】

136 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/01/26(木) 21:12:34.69 0
馬車は確実に減速していた。
それは腕にかかる痛みと、足の踵がすり減る速度の減少からも判断できた。
仮にもし、反対側からも馬車に引っ張られるようなことがあれば堪ったものではなかっただろう。

馬車は確実に減速していた。
しかしそれでも、このまま行けば役場の壁にぶつかるのは避けられそうも無い。
せめて向きだけでもずらし、なるべく衝撃が正しく伝わらないようにしようと
ダニーが腰を更に落とし、踏ん張りを入れた時、馬車内の奥のほうが急に明るくなる。

光がささやかに目を灼き、何か乾いた音が響いた直後に、車両全体は大きく揺れた。
隣に割れた車輪のようなものが流れていくのを捉えると、今度は前方から大きく制動がかかる。
傾く、というより最早車体の片方が落ちている状態に、加えられる摩擦が増えたためだ。

ダニーはロンかフィン辺りがやったのだろうと当たりを付け、視線を戻そうとする。
その一瞬で実に多くの事があった。子供らしき物体が視界の端に降っていくのを見つけ、
慌てて振り向けばそこに、子供の姿はなく、首を仰げば後ろのクローディアの馬車にロンがいた。

頭の整理が追いつかないが「ロンは無事だ」ということだけ分かると、気持ちを引き戻す。
壁の衝突は事実として秒読みに迫っており、このままでは馬車と玉突き事故を起こすことは
想像に難くない。離脱するのが遅れたと彼女が顔のしかめたその時、

>「『デュアルワーカー』――!」
クローディアの叫びと

>「生きて帰らないとっ!労災下ろしてあげないんだからーーーっ!!」
厳しいお叱りの言葉が反響し、何故か不思議と体に力が湧き上がるのを、ダニーは感じた。

壊れない限界一杯の力で掴んでいた手に余裕が生まれ回復しているのかと錯覚するが、違う。
もっと力を込められるという事実に、一もニもなく飛びついた。
不謹慎ながらダニーは興奮した、今どこまで出せるようになったのか、知りたくてしょうがなかった。
更なる全力で抑えつけると、路面からは湯気が立ち、馬車はほぼ制止している状態まで遅くなった。

ぴったり止められると確信した瞬間、盛大な音が鳴り、掴んでいた部分がとうとう剥げた。
綺麗に握っていた部分が砕けて割れたのだ。もう少し柔らかければ千切れたという表現を
使っていた所である。あちらを立てればこちらが立たないという良い見本だ。

結局、馬車は役場の壁にぶつかったものの被害はずっと小さく、
またそのおかげで止まることができて一応は結果オーライの形となった。

137 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/01/26(木) 21:15:00.61 0
そして現在は小綺麗な店の中、遡ること少し前、クローディアと合流した時、
色々のことが済むと汗が吹き出し、今さらながら患部が痛みを知らせ始める。
痛みに鈍いというのも考えものだと軽く首を振ると、ロンが駆け寄ってくる。
相変わらず可愛い奴だ

>「ムリにウゴかすな。オレがナオしてやる」
力ずくで接ぎ直そうとしたのを諌められたので、彼に合わせて屈むと、
慣れた手つきで肩を入れてくれた。電気が走ったように腕が僅かに痺れ、
目の前が一瞬点滅するが、それと同時に感覚が戻ってきたの実感する。

(・・・・・・・・・)
今度ウインクの仕方でも教えてやるか、とダニーは思った。
ロンに礼を言うと、人が集まってきたの尻目に皆でトンズラすることにした。

個人的にはフィンの容態やシチュエーションが気になったのだが仕方ない。
寸止めとかお預けが多いこの頃ふと女性用の娼館というものが有ってもいいのにと考える。

それはさて置き、逃げたと思いきや主人の誘導に従って来た場所は、先ほどの誘拐犯のアジトで、
どうやら逃げるのではなく、追うのが目的だったらしい。損害賠償を請求するつもりのようだが、
残念ながら誘拐犯の頭目らしき男とクローディアの口論はあっさり御破算を迎えた。

>「あーもう、ペーペーじゃ話にならないわ!明日もっかい来るから、それまでに上と話つけときなさいよねっ!
 あんた達がいくら下請けだからって、上の――なんだっけ、『白組』?とやらの社名まで汚すことにはできないでしょ。
 ダニー、ロン、ナーゼム。帰るわよっ」

上司の面子と秤にかけろ的なことを言って、撤収しようとすると、
今度は逆に相手の方が帰してくれそうにない。

>「私どもが追跡してくる貴女を撒けないとでも?わざと誘いこんだのですよ、我々の巣でじっくり料理するためにね……。
 見たところなかなか良い御身分のようですし、お付きの方々も希少価値がありそうだ。ネギを背負ったカモですなあ」

138 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/01/26(木) 21:19:10.25 0
カモとネギの相性の良さは食べ合わせよりも肉の臭みがとれるからという方が大きい。
その関係に則るとこの場合誰がカモでネギなのか、全員臭みはとれそうにないし、
そもそも三人は筋張ってるし、大体クローディアがカモと言うほど育ってない。

食事の例えを使う時は実物を食べてからにするべきか、誰にともなく彼女は頷く。
然もなければ図らずも羊頭狗肉となってしまうかも知れないからだ。

等とどうでもいいことを考えているとうら若きご隠居から「懲らしめてやりなさい」とのお達しが出る。
隣でおねむだったロンも剣呑な目覚めを迎えたようで、早くも一人二人と倒していた。一方でダニーはと言えば、

「・・・・・・・・・・・・」
そんなに睨むなよ、と言って体を寒そうに摩する。ゆっくりとしゃがみ、やがて脛の辺りまで頭を伏せる。
下段に向けて突き込まれた武器の柄を掴んでは折ったり、逆に敵の腹に押しこむ。
普段の身長から一転、あまり深く這いつくばった姿から今度は足の間に両手をつき、
地面に尻を付けたまま背筋を伸ばす。

犬の「おすわり」の姿勢そのもので、下から相手を睥睨するその様は石か氷の像を連想させる。
不意に伸び上がっては相手を襲い、立ち上がることでまた別の構えを取る。
これがダニーの「ドーキッド式護身術」である。

間合いとは距離であり、そこには当然ながら天と地、上下の間隔も含まれる。
人間の体の構造上、下に対する攻撃手段は乏しく、武器を使った切下しも、突き込みも、なぎ払いも、
上半身が地面から遠ければ遠い程力を込め難くなる。

そこに敢えて死角である頭上を晒すことで、致命打を避ける。彼女の養父が遺した技術で、
魔導全盛の時勢に対人用で、犬を模した不格好な構えと受け入れられる要素のない力だったが、
娘の力によって初めて陽の目を見ることに成る。
もっとも、本来は小柄な人間のための流派なのだが

「・・・・・・」
冷えるな、と呟くと再度体を撫で、手を揉み合わせる。するとどんどん彼女の手が大きくなっていく。
冷気を操り手を何重にも氷で包むことで巨大な手を作りだしたのだ。
ダニーはより鈍器として拍車がかかった両手で文字通り男たちを張り倒して行った。

【脱臼治ったぞ!お家帰して→わんわんお、からの氷ビンタ】

139 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2012/01/30(月) 00:39:55.20 0

そこは暗い暗い闇の中。
苦痛と後悔を骨子に出来上がった自己否定の渦の中だった。

眼前で愛する家族が自身を守る為に果て、
その家族が自分を守る事で、守られなかった領民が虐殺されていく。
かつてこの世界に確かに在った光景。
怨嗟の断末魔をあげ、死に行く者は責め立てる。
何故お前は生きているのかと。どうして守ってくれなかったのかと。
焼け落ち穴と化した眼孔から赤い涙を流し、憎悪と共に責める。
その死者の群れの中には、つい先日まで確かに生きており、共に戦い、
そして、己の無力によって守る事の出来なかった黒い羽を持つ仲間の姿もあった。

絶叫――――しようにも、声帯が動かない。

なぜならこれは夢。夢だからだ。
起きれば忘れてしまう泡沫の幻。
永遠に心を捕らえて離さぬ、悪夢だからだ。

だからこうして『いつも通り』に死者の群れに
引きずり込まれるのだ――

――――


(……暖、かい)

フィン=ハンプティは、夢現の中で呟いた。
一度は手放した意識。それが不意の衝撃によって目覚め、
そこに自分以外の熱と鼓動が染み込んでいるのを感じる。
酷く眠く、気を抜けば直ぐにまた意識は闇の其処に落ちてしまいそうである。
だが、何故かそうしてはいけない気がしたフィンは、未だ灼熱の痛みを持った身体に力を込め、
比較的無事だった右目に力を込め、その瞼を薄く開く。

――そうして初めに視界に現れたのは、金麦の穂……いや、そうではない。
よく見れば、それは肩口で切り揃えられた美しい金の髪束であった。
ファミア・アルフート。
遊撃課の同僚である少女、その姿が近くにあったのだ。
霞む意識の中でその姿を捉えたフィンは、反射的に口元に力なく笑みを浮かべる。
ファミアが、守るべき仲間が無事だった。
それは今のフィンにとっても喜ばしい事なのである。
自身が気を失っている間に何があったのかをフィンは判らないが、
それでも、例の襲撃犯は既に戦力を喪失している事、そしてファミア達の安全は確保された事くらいは理解できる。


140 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2012/01/30(月) 00:42:26.16 0

(……けど、だとすれば……何、やってんだろう、な)

一種の興奮状態で痛みが緩和されているフィンは、それにより少し冷静になり周囲を見渡した。
注意して見てみれば、何故かダニーやロン、クローディアという面々もこの場におり、
そんな中でもしかし、フィンを置いたファミアは見知らぬ誰かと会話をしているようだ。
眼球だけを動かし、その視線を追ってみるとそこには

>「あー、その、なんだ……。確かにおれは仮身分を演じろと言ったが、な。
>そこまで激烈な名演技を求めてるわけじゃねえからな……? ……演技だよな?」
>「とっ、当家の使用人が人さらいの馬車にはねられて大怪我を!お願いします、どうかお医者様を!」

そこには農夫が居た。それもただの農夫ではない遊撃課の課長が変装した農夫であった。
課長であるボルトは何やらフィンには理解できない邪推を極めた台詞を放っていたが、
それを遮り、ファミアはボルトへと事情の説明と救護を求めている様だ。

(助かった……これで、ファミア……狙われねぇな……)

ようやく意識がこの現状に追いつき始めたフィンが、最初に思ったのはそれであった。
こんな状況でも自身の損壊よりも他人の安全を気遣うなどはっきり言えば異常だが、そんな事は些事である。
ともすれば暗転しそうな意識を精神力で繋ぎ、一度咳き込み口内に溜まった血を吐くと、掠れた声で

「……俺、たち、のホテルの地図が……俺の上着に……ある」

そう呟いた。
恐らくは、こんな状況でこの場に残っていては危ないという懸念からの発言なのだろう。
確かに、馬車で人をひき殺しても罪に問われないこの街であれば、
追いはぎや、病人、弱者を狙った「たかり」も数多くあるに違いない。
ならばホテルに行き、そこで医者を呼ぶのは建設的な意見といえなくはないのではなかろうか。
フィンが思考として何処まで考えているかはわからないが、直感としてそれを判断しているのは間違いない。

……予断だが、フィンの台詞の中の「俺たちのホテル」発言は
誤解は誤解に拍車をかけるものではない事を記しておく

【フィン:やや目が覚める→ホテルに運んでもらって
 周囲の人の安全を確保してた上で治療して貰う事を希望】

141 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/30(月) 18:28:54.51 0
>「……おや、奇遇ですね。私も貴方と同じ事を思っていました」

宝石商によって路地裏に転がされたウィット。
説教かまし始めた彼のもとへ、更に新手の敵が追いついてきた。
見た目は別人だ。しかしウィットには分かる。『分かってしまう』。
変装術も、潜入術も、ウィットは極めたと言って良い程に習熟している――幻術の魔力波長から元の姿を逆算することができるのだ。
そしてすぐに見立ては正解になった。新手の女は自ら変装を解き、あの間の抜けた娼婦の顔を表したのだ。

>「ま、冗談はさておきですね。誤解がありますよ。私達は誘拐犯なんかじゃありません。証拠は……」
>「んー、証拠は……私達が本当に悪人ならさっさとその禍断ちをぶん取って、
 尋問拷問洗脳のフルコースをご馳走すればいいだけの事です。ひとまずは、そういう事で」

「誘拐犯じゃ、ない……?」

ウィットはこんどこそ混乱した。誘拐犯による現行犯の現場に、居合わせた『怪しい』連中。
これが誘拐犯の仲間でなかった一体なんなのだ。あの場で身分を偽る意味。そしてはっきりと嗅ぎ取れた――『只者ではない感じ』。
きゅう、と胸が締め付けられるように感じだ。あの頃と同じだ。

只者じゃない集団の中で、そこにしがみつくために、生き残るために、命を張るような経験を何度もした。
その度に白髪の増えるような心労と、いっそ心臓が止まってしまったほうが楽になれるだろう緊張感の中で生きてきた。
苦味の多い記憶。頭の小部屋の隅を掃くようになぞると、巨大な大蛇に少しずつ絞め殺されていく錯覚に陥る。

「――って痛い痛い痛い痛い!!」

よく見たら物理的に締め付けられていた。
宝石商がウィットを縛る糸をきりきりと巻き上げ、ジャケット越しに肌へと食いこませていく。
なるほど、もしも彼らが誘拐犯であったなら、こうやっていつでも絞め殺せるという実演なのだろう。
ひょっとしたらそれすらも演技で、信用させるために拷問をしていないだけという可能性もあるが――詮無いことだ。
いずれにせよここで矛を収めねば、もう数十秒後にでもウィットは輪切りにされてしまうだろう。

>「今から話す事は、あくまで私個人の意見ですが……私は貴方の追っている事件の解決に力を貸したいと思っています。
 込み入った話はまだ出来ませんけど……先んじて、貴方の追う事件について詳細を聞かせては頂けませんか?」
>「おう、そうだそうだ。お前の言う、誘拐犯とやらのこと、ちょーっと俺達に教えろよな」

「わ、わかった!!話す!なんでも話すから殺さないでくれぇ!!」

――それに、とウィットは考える。
『騙されていたとしても、それはそれでこいつらの動向が直接知れて好都合だ』。
帝都で死線を潜り続けていたあの頃に比べれば、こんな田舎の犯罪組織如き、ストレスのスの字もなく相対できる。
彼は彼の目的に従って、ここを応じる判断をした。

 * * * * * * 

142 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/30(月) 18:29:12.00 0
ウィットはこの街でのハンターとしての捜査起点としていくつか確保されている、セーフハウスへと二人を案内した。
朝通りの通りに面した、背の高いいわゆる五階長屋と呼ばれるアパートメントの一室がそこだった。
従士隊に対する牽制の目的で作られた場所のようなもので、実際にここを使うハンターは殆ど居ない。
だからウィットが怪しい二人組を連れ込むのに、ここほど適した場所はなかった。

「しばらく使った形跡がないほうが、お前たちとしては安心できるだろ?」

もちろんウィットは公式に身分のはっきりしたハンターであるから、闇討ちなどしないしそもそもする理由がない。
完全に二人への配慮だった。罠や念信機器の所在を好きに検めさせてから、部屋の奥へと案内する。
応接間のように対面になったソファは埃を被り、壁には黄ばんだ街の地図。窓からは、市庁舎と従士隊の派出所が見える。

「さて、何から話そうか――ああ、何かつまみながらの方がいいかな?
 一応、物置に保存食があるし、僕が街で勝ってきた材料があるから、簡単なものなら作れるぞ」

言いながら、ウィットは一人席を立って台所へ向かった。再び戻ってきた手には、小ぶりの鍋と水のボトルがあった。
テーブルに羊皮紙を敷き、その上に簡単な加熱魔術を描くと、水を入れた鍋を上に置いて蓋を閉じた。
しばらく待てば、お湯が湧いてくる。ウィットは豚の腸詰めの封を切ると、お湯の中に放り込んだ。
タニングラードのホットドッグは絶品だぞ、と独り言のように呟く。

「まずは名前を名乗ろう。僕はウィット=メリケイン。まだまだ駆け出しの新米ハンターだ。
 ハンターってのがどういう職種かは知っているよな?この街じゃ特に、従士隊が扱ってくれない犯罪捜査を担当してる」

煮立ってきた鍋から腸詰めを一本取りだし、切れ込みを入れたパンに挟んでマスタードを1往復。
湯気の立つそれを大口開けて齧れば、パリっという快音と共に肉汁が溢れ出す。
癖のない雪国麦で練られたパンがそれを吸い取って、一噛みごとに果汁のように染み出させるのだ。

「誘拐組織――この街じゃそれを『黒組』と呼んでるんだが、まずはそいつらがこの街で行なっている悪行について話そう」

ウィットは掻い摘んで話した。
黒組という誘拐組織の存在、そいつらがこの街のシステムを悪用してやりたい放題していること。
どうやら黒組に誘拐された人たちは、とある盗品オークションに出されているらしいところまでは突き止めたこと。

「黒組は、人質をオークションにかけることで、身代金を競り形式に吊り上げているんだ。
 身元引受人に競りへ参加させて、引受人の払えるギリギリのところまで絞りとるためにね。
 その盗品オークションを『白組』って言うらしいんだが――まあ言ってみれば、黒組は白組の実働部隊ってところだな」

ウィットはホットドッグを嚥下すると、二人にも進めた東国の酒で流し込む。
癖の強い酒だが、温かい食べ物と一緒に呑むのに適している。タニングラードの貿易によって得た品だ。

「僕は、『黒組』と『白組』の両方をしょっぴきたい。でもそれにはまだまだ裏付けが足りないし、戦力も確保できない。
 来週行われる『白組』のオークションの現場にガサを入れられれば……って感じなんだけど、警備が手厚すぎてね」

ウィット一人ならば潜入することぐらいは容易いだろう。
しかしハンターとして公的にガサ入れをするには、少なくとも十人規模の人員を送り込まなければならない。
白組は犯罪組織の巣だ。そんな渦中に武器も持たずに同行してくれる者など、いるわけもない。

「さあ、とりあえず僕の所属と目的はここまでだ。質問があればおいおい応えていくつもりだよ。
 次はお前たちの番だ。お前たちが誘拐犯でないなら一体何者で、何をしにこの街に来ている?」

名前も教えろよ、とウィットは付け足して、次のホットドッグに手を伸ばした。


【交渉:ウィット=メリケイン
 ウィットも目的:『白組』を摘発したい。しかし現状では決め手が足りず、捜査の手を入れることができない
 ウィットの要請:二人は一体何者で、何のためにこの街へ来た?】

143 :名無しになりきれ:2012/01/30(月) 18:38:50.33 0
痛い痛いって自分のことじゃねえの?

144 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/31(火) 18:09:17.78 0
>「結局のところ『零時回廊』こそが、全てをつなげる手がかりということなのでしょうね。」

(? ? ど、どうゆうことでありますか!?)

スティレットは結局のところ、『零時回廊』がどこでどうアヴェンジャーと繋がるかの考察がまるでできていなかった。
アヴェンジャーがひと月前に起こした事件で貴族を殺し、零時回廊を奪って逃亡し、何故かこの街で手放したこと。
代わりに零時回廊の片割れを持っているウィット=メリケインという人物が子供たちに信頼される好人物だということ。
ウィット=メリケインは零時回廊をとても大事にしているということ。
フラウたちがウィットに対する恩返しのために、零時回廊のもう片割れを求めていること。

出てくる情報の意味は理解できるが、それらがどのように関連付いているのかスティレットにはわからなかった。
あとで二人に聞いてみようと思い、とりあえずは心の中で保留する。

>『さて、大分ときな臭くなってきましたねえ……。全員覚悟は良いですか?』

『万全であります!この子供たちはいい子たちです、助けになってあげたいとわたしも思いました!』

不自由なく育った貴族のスティレットにとって、欲しいもののために頑張るというフラウたちの生き方は珍しく、興味が湧いた。
それは決して同情や共感による協力ではない、貴族特有の上から目線な感情であることに、本人も気付いていない。
そしてそうした興味本位な首の突っ込み方を、同僚の誰もがしているのだと素面で思っているのだ。
彼女は打算で動かない。ただ己の興味の赴くままに戦い、勝ち、登り詰め、そして――左遷された。

>「それでは……モーゼル邸へ乗り込む算段といきましょうか。」
>「先ずは……現地の下見などどうでしょう?」

「! 受けてくれるか!」

対面のフラウがパっと顔を明るくする。
彼女はいそいそと路地裏から紙筒を引っ張り出してきて、壁に広げる。タニングラードの概略地図だ。

>「子供達も連れて行くのですか?……いえ、問題はないですが」

セフィリアの懸念に、地図を固定していたフラウは唇を尖らせる。

「あんだよー、あたしらが案内しなきゃ詳しい場所なんてわかんねーぞ?足手まといにだってなりゃしねーさ。
 なんてったってすくなくともあたしは、芸人さん……名前なによ?まあとにかくあんたより強いし?」

ふふんと胸を張るフラウは、おそらく先刻の攻防のことを指しているのだ。
スティレットの見立てでも、あれは完全に自分の土俵だったからこその結果に思える。
路地裏の子供たちの住処であるこの路地裏で、しかもそこかしこに張り巡らされた罠を利用できなければセフィリアには敵うまい。

145 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/31(火) 18:09:34.06 0
「ガルブ――あっ、ガルウイングちゃんが本気出したらこんなもんじゃないでありますよ!?
 ほら今もなんか両手に羽根持ってるし!フラウちゃんなんてワンパン……いやワンバサ?ワンバサであります!!」
「はっ!カモ女のお友達はやっぱりトリ女か!撃ち落として貴重な蛋白源として重宝してやんよ!!」
「くぅー!難しい言葉使われると言い返せなくなるであります……!!」
「そこまで高度なこと言ってねえけど!?」

とにかくだ、とフラウはスティレットとの言い合いを直切りにして話を変える。
壁に貼り付けた地図の夜通りの部分を指先でなぞり、五番辻から六軒目の豪邸で指を止めた。

「あたしらの記憶の限りじゃ、ここがモーゼル邸……白組のオークション会場だ。最寄りの馬車鉄道駅はモーゼル邸前。
 まあつまり、鉄道の敷設に口出しできるぐらい街で有力な貴族の家ってことだ。実際に行ってみたほうが早いな。
 ちょっと待っててくれ、支度をしてくる」

フラウは寝ているウィレムを跨いで路地裏の奥へと姿を消した。
待つこと五分ほどで、身なりを小奇麗にした彼女が待たせたなと手を上げながら出てきた。
ボサボサの髪はそのままだが、襤褸切れ同然だった服がちょっと稼ぎの良い労働者が着るようなものになっている。

「これ、いいだろ?おじさんがあたしのためだけに仕立ててくれたんだ。子供らの面倒をよく見てくれてるからって」

髪を指で捻りながら、照れたようにフラウは言った。
元奴隷である彼女にとって、努力をちゃんと評価してもらえたという記憶はきっと眩いものなのだろう。
かくしてフラウを先頭にして、修道女・大道芸人・無職の三人はモーゼル邸を目指すのであった。

 * * * * * * 

『あのっ、アイレルどの、ガルブレイズちゃん、わたしちょっとわからないことがあるのでありますけど』

夜通りの祭りもたけなわ、その雑踏。上機嫌になったフラウがあれこれ解説する後ろを、適当な距離にばらけた三人が追従する。
そのさなかで念信ごしにスティレットは疑問を同僚たちへぶつけてみた。

『アヴェンジャーどのの盗んだ零時回廊がウィットおじさんの手に渡り、それを盗まれたことが全ての発端なわけですよね?
 ウィットさんは、どうして零時回廊なんて欲しがったのでありましょうか。あれは売れるようなものじゃないですし、
 持ってたら自分も天災に巻き込まれるから迂闊に使えない――正直、コレクターズアイテムにもならないものであります』

帝都の上級魔導師が何人も知恵を持ち寄って創り上げた結界の中で呪性を抑制せねば、まともに保管することもできない。
しかもその強すぎる呪力は、幾重にも張った結界を日に日に侵食し続けるため、短いスパンで張り直さなければならなくなるのだ。
あれほどの危険呪物を、それでも帝都に置くのは結界をメンテナンスし続ける必要があるからだ。

『あと、ウィットさんは良い人なのに、国家級犯罪者のアヴェンジャーどのを通報しなかったというのも不可解であります。
 変装していたのでしょうか。あっそれとも、二人はお友達で庇い立てをしているとか?』

スティレットの中では暗殺者のアヴェンジャーと『好人物』のウィットが完全に乖離していた。
事情を知らない、それも洞察力にかけては人後に落ちぬ低さを誇るスティレットの頭の中で、二人はどうしても繋がらない。
彼女にとって、悪い人は悪く、良い人は良い――人間が善悪両面を持ち合わせているなんて当然のことを、わかっていなかった。

146 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/01/31(火) 18:10:14.73 0
「おーい、あそこの店に入ろうぜー」

フラウがこちらに向かって誰ともなく呼んだ。
指で示すのはモーゼル邸にほど近い喫酒店。二階席はテラスになっていて、夜通りがよく見渡せる。
店内は祭りの客や、商人、大道芸人などでごった返していた。市場で得た戦利品を肴に晩酌をしているのだ。
フラウに続いて登ったテラスの、隅のテーブルに座ると、頼んでもいない味の薄いエールが出てきた。

「あたしはここの常連でさ、このテラスからモーゼル邸を観察するためだけに通いつめて――競りの日程とかを調べつくしたんだ。
 とりあえず乾杯しながら、順を追って説明していくぜ」

二階テラスから俯瞰できるモーゼル邸は、もうすぐ祭りも終わろうとしている宵の口だというのに敷地全体が昼のように明るい。
林立する魔導灯が庭園から屋敷の隅々までを照らしつくし、闇を完全に追い払っている。さながら不夜城だ。

「あの魔導灯が曲者でさ、光自体が動体検知の術式になってる。夜中に入ればたちまち照明が十重二十重の御用提灯にってわけだ。
 それに、見えるだろ?屋敷の隅で工事中のゴーレム。あれな、年中ずっと工事中なんだよ……敷地のどこかに必ずあれがいる」

それはもちろん、工事する箇所がたくさんあるから――というわけではない。
不武装のタニングラードではゴーレムの所持にも色々とうるさいが、ああやって工事中という名目なら屋敷に常駐させられる。
まともな武器も持たぬここの住民にとって、ゴーレムはたとえ武装がなくともその巨体だけで凶悪な兵器となる。
だから、忍びこむにしてもゴーレムの位置や乗り手の勤務シフトを把握しておかねばならないだろう。
できれば無力化するのが望ましいが、それにしたって生身でゴーレムに近づくのは自殺行為である。

「屋敷子飼いのガードマン連中も相当な凄腕だ。大陸中から体術のスペシャリストを集めた夜警団がいる。
 もちろん連中は大っぴらに武器を使うことはないだろうけど、人の目に触れない屋敷の奥じゃそれも怪しいってもんだ。
 あとは……訓練された警備犬がたくさん。こいつらは非武装とかお構いなしに牙とか向いてくるからな。
 場合によっちゃ人間よりもこっちのほうが厄介かもしれねー」

そこでフラウは声を潜め、三人に顔を近づけて言った。

「……前に一度、オークションにかけられた『人間』の関係者が奪還を試みて入っていったのをこのテラスから見た。
 当然見つかって、捕まって。そいつはどうなったと思う?
 ――突入するのに武器を使ったって理由で従士隊にしょっぴかれていったんだよ。わかるだろ?ズブズブなんだ」

モーゼル邸に潜入するにあたっては、この街の全てが敵になるということ。
フラウがモーゼル邸から少し離れたこの店に入ったのも、屋敷の前をうろついていればいつ『善意の第三者』に通報されるやも知れぬ。
そういう懸念があってこそなのだろう。

「以上を踏まえて、なにか他に知っておくべきことはあるか?できる限りで協力するぜ」


【モーゼル邸下見。少し離れたところにある店で作戦会議】

147 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/01(水) 04:47:31.86 0
『黒組』の頭領は、瞬く間に起き、そして終わった攻防の一部始終を見て開いた口が塞がらなかった。
なにせこの特殊な街だ。武器を持つものは、持たざる者に対して絶対的な優位を持つことは、述べるまでもない。
そう、優位。それはもちろん、武器を持った素人と無手の武闘家であるならば比べるべくもない結果だが、
しかし黒組の構成員たちは誰もが国内の様々な都市で鳴らしたゴロツキ――従軍経験もある一級線の犯罪者たちだ。
そんな彼らが武器を持てば、たとえ相手が武術を収めていても無手の者など取るに足らない。そのはずだった。

「うちの部下って優秀でしょ?とーぜんよね!あたしが見立てたんだからっ!」

クローディアと名乗った商会の女社長が、ソファの上で足を組み替える。
その背後では紫電やら冷気やらが飛び交い、やがて十数人いた男たちは一人残らず焦げたり霜焼けを作りながら床に沈んだ。

「……ッ……!」

恐ろしい手際だった。声もでない。

>「『サワった』な?」

紫電の少年は刃物に触れた途端、雷撃術よりもずっと高度な雷の華を咲かせ、その腕の一振りで周囲の全てを感電させた。
まるで自分自身を避雷針にして落雷を呼んだようだった――ここが屋内にも関わらず、そう錯覚させられた。

>「・・・・・・」

やたらにガタイの良い女は突如しゃがんだかと思うと高低差を逆手に取った強烈なカウンターを浴びせる特異な武術で圧倒し、
それに留まらず今度は手のひらに氷を纏った打撃で負けず屈強な男たちを一揉みに叩き潰していく。

「な、なんなんだアンタらは……!それほどの力があれば!それほどの武力を持てば!
 こんな田舎街でそんな安い商売をしなくったって、いくらでも食い扶持はあるはずだ!何のためにこんな――」

スカンッ!と何かが高速で飛来し頭領の額に浅く突き刺さった。
皮膚を裂く鋭い痛みに手をやれば、刺さっているのは小さな紙片。放ったのは女社長の指先。

「おあいにくさま。あたしたちはその安い商売がしたくってこの街に来たのよ。
 大体ね、このご時世に暴力でご飯食べようって考え方がまずスマートじゃないわ。商人が商売やらずにどうすんのよ。
 いい?当たり前のこと言うけどね――暴力でなんでも解決できると勘違いした社会人の寿命は短いわよ?」

紙片は上質な漂白紙を使った名刺だった。
『よろずごと融通・クローディア総合商会』という手書き文字が、蛍光魔術を施されて淡く光っている。

「お金は命より重いんだから。命のやり取りなんかより、金のやり取りのほうがずっと高尚に決まってんでしょ。
 ――というわけで、金で買えるものなら命だって融通する、出前・迅速のクローディア総合商会を、よろしくっ☆」

同時、最後の賊が床に沈んだ。
驚くなかれ、商店内に集っていた黒組構成員のうち、頭領を残した全てがこの場で失神し床に転がっているのである。

「……わかりました。私らも命が惜しい、貴女がたの要求に答える努力をしましょう。
 そうは言っても払う金がないのは本当です。稼げるはずだった"仕事"を、貴女がたが反故にしてしまった」

「仕事。つまりあんたたち黒組は、その白組とかいう親会社の下請けで誘拐をやってたってわけよね?」

「如何にも。正確には、白組のオークションに出品する品を集める役割を担うのが、私共黒組なのです。
 各国のならず者の集う地域最大規模の盗品オークション・白組。そこでは盗んだ品は当然のこと、『人間』も出品されています」

「それが、あんたたちの誘拐してきた人質ってわけ。ねーロン、ダニー。こいつらの言ってること本当だと思う?」

女社長は後ろに控える部下二人に問う。
この世界では偽装看破の術式なども発達しており、嘘を見破る方法というのは結構数多い。
彼らがそういう技術を習得しているかどうかは定かではないが、ここで虚言を申し立てるメリットはそもそも黒組にはない。
もはやそんなハッタリが意味を成さないぐらいには、完膚なきまでに制圧され尽くしているのだから。
ここまでの発言に、嘘はない。すべて真実だ。

148 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/01(水) 04:48:06.99 0
「あたしも昔は結構悪い子だったからさあ、あんたたちの誘拐とかそういうのを咎めるつもりはないわけ。そんな権利もないしね。
 商会としては、使った金の回収さえ出来ればあんたたちみたいな幸薄そうなムサい集団とは即日さよならしたいのよ。
 下請けって言ったって、事実上の指揮命令の権限は親会社にあるんだから、下請けの後始末をつける責任があるはずよ。
 これは帝国法の市民労働規則に基づいて――ああ、ここじゃ帝国法が通用しないんだっけ。ややこしいわね……」

女社長は顎を指先で叩く。
その姿が白組の元締めと被って、経営者という奴はみんなこのような癖を持っているのかと頭領は内心で苦笑した。
そして――ならば、と思い提案する。

「……では、こういうのは如何でしょう。我々黒組がオークションの当日に請け負うはずだった仕事を、貴女がたに回します。
 もちろん中抜きなんて真似はしません、ノンマージンで丸ごと報酬をお渡ししましょう」

む、と女社長の眼の色が変わった。

「それってつまり、黒組の持ってる親会社とのパイプを、丸々商会が貰えるってこと?」

「そうなりますな。どの道我々は納期に遅れた身、当日も身を粉にして誘拐業務の方に励まねば顧客に顔が立ちません。
 ですから貴女がたが当日の仕事を請け負って下されば、黒組も本業に専念できるというものです。
 それに商会さん、貴女たちがこの街で商売をなさるおつもりならば、白組とのパイプは必ずや便宜をもたらすでしょう」

白組はこの街の犯罪組織を統括している側面もある。
地元の有力マフィアから路地裏のチンピラまで、広く顔の効く後ろ盾を商会が得られるチャンスなのである。
それは彼女たちにとって、あまりに垂涎の提案。都合が良すぎると言ってもいいぐらいだろう。

「そ、それでその仕事の内容は……?」

食いついてきた。頭領は万感の思いで、決めの一言を言う。

「来週夜通りのモーゼル邸にて行われるオークション――その会場の、警護です」

 * * * * * *

クローディアは内心小躍りしそうだった。
殆ど意地になって債権回収に踏み込んできたところへ、こんなあまりにも美味しすぎる話が飛び込んできた。
まさか神様がクローディアの改心ぶりに感心して、運の向きを良い感じに融通してくれたのだろいうか。

(上手く行きすぎてなんだか怖いわ。なにかどこかで――とんでもないオチがつきそうで)

そう。嫌な予感がする。猛烈に嫌な予感がする。
例えば、治外法権の街で、法の外側で好き勝手する犯罪組織の親玉が開く、人間すら取り扱うオークション。
『そういうシチュエーションに確実に首を突っ込んでくるであろう集団』を、クローディアは知っている。
それはもう、五臓六腑が煮え滾るぐらいに知っている。
そしてその集団と、この街で偶然――本当に神の采配を恨むほどに偶然、出会っている。

(嫌な汗が出てきたわ……ううっ情けない、あたしとしたことがこの期に及んで尻込みしてるわ……!)

思い出す塩味の記憶。
西端の街で叩きつけられた圧倒的実力差、ばら撒かれた資産、ゴーレム同士のぶつかり合いの末ついた決着――
湖底の洞窟で再開した威風靡く女剣士、己の姓と別れを告げた地下金庫、そして陰険でそれ故に己の全てに足掻いた男の死――
心は上滑りし、背中は総毛立ち、苦笑いなのかなんなのかよく分からない吐息が溢れる。

「……ダニー、ロン。あんたたちの意見を聞きたいわ。この仕事、受けるべきかな……?」

肝心なところで肝っ玉の足りないクローディア女社長。酸いも甘いも噛み分けるには、まだまだ若い。


【黒組の提案:自分たちの代わりにオークション会場を警護して欲しい】

149 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/01(水) 17:31:32.21 0
>「演技な訳ないでしょう!早くお医者様を呼んでください!」

「なにィ?もうそんな段階なのか!?」

いや待て、そんな、ありえない。
ボルトとてまだ独り身で、国内を飛び回る職だからと女性関係は全て娼館で済ませてきた真面目な男であるかから、
『そんな段階』――医者や助産院が必要な段階まで"成長"するのにどれくらいの時間がかかるのかは詳しく知らない。
一体いつから仕込んでやがった?いや、そのわりにアルフートの体型はそんなに変わっていないし――と。
ファミアの言葉の誤解に、更に一段とばしで誤解を重ねる遊撃課課長。末っ子である。

(祝いにはいくら包めばいいんだ!?)

>「とっ、当家の使用人が人さらいの馬車にはねられて大怪我を!お願いします、どうかお医者様を!」

「おお!? ……お、おう、わかった、ちょっと待ってろ!」

極まった混乱と、ようやく生まれた納得で、陸に上げられたオットセイみたいな鳴き声を上げるボルト。
なるほど、見ればフィンの身体はズタボロだった。遊撃課随一の頑丈さを誇る彼が、ここまで傷付くのを見るのは初めてだった。
というか死にかけである。

(人さらい……この馬車の持ち主か。アルフートとパンプティは誘拐に巻き込まれたってことだな)

なるほど馬車に撥ねられたなら、この怪我にも納得が行く。
むしろ五体が満足に繋がっているのが奇蹟みたいで、やはりこいつも『天才』なのだと納得がいってしまうほどだ。
幸いにもボルトは旅嚢に偽装したバックパックを持ち込んでいるので、この場で応急処置ができる。
あとは医者が来るまで、フィンの体力が持つかの問題だ――

(――ん?ちょっと待て、なんでパンプティの奴は血塗れの死にかけで、アルフートを押し倒してやがったんだ?)

……あれか。人間死にかけると、生存本能が強く働いて、子孫を残したい欲求が高まるらしい。
死ぬ前にどうにか子種を残そうと、近くにいる異性を誰かれ構わずなんやかんやしたがるのだと聞いたことがある。
いやまさか、いくらパンプティが健康な男児とは言え、国家存亡のかかった任務中にそんな獣丸出しな行動をとるわけが……

>「……俺、たち、のホテルの地図が……俺の上着に……ある」

「用意周到だなお前!?」

ホテル!こいつは本気だ。
死にかけの身体でいつの間に手配したのかは皆目見当もつかんが、こりゃマジにやる気だ。
上司がいるのに。課長がそばで見てるのに。確かに見られたほうがより捗るという趣味の人間も世間にはいるみたいだし、
行きつけの娼館にもそういうオプションがあったから間違いないが……いやしかし。
上司として、部下の生存戦略を果たさせてやるべきか、それともファミアの貞操を保護すべきか……。

と、そろそろ本格的にに野次馬が集まってきたので、人の目を避けるという意味でも場所を変えるという意見には賛成だった。
ボルトはファミアに手を貸し、フィンを抱き上げる。上着越しにじっとりと濡れているのがわかるが、これは血なのか雪なのか。
呼吸が浅い。あまりゆっくりはしていられまい。手早く治癒符を編み込んだ包帯で怪我を固定し、応急処置とした。

「アルフート、出るぞ。それっぽく焦りながら俺たちを案内しろ」

フィンの上着から地図を取り出して流し読みし、それをファミアに渡す。
ボルトは外套を使ってフィンの身体を自分の背中に縛り付け、なるべく揺らさないように荷台から降りた。

「お貴族様、お供の方ぁどこに運べばいいんだぁ?」

ホテルにつき次第、ボルトはファミアとフィンに街に入ってから現在に至るまでの状況を報告させるつもりである。
それまでは、あくまで偶然居合わせて手を貸した農民の風体を守る所存だ。


【場所移動→フィンのホテルへ。到着次第、状況報告を求ム】

150 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/01(水) 22:05:56.05 0
>「わ、わかった!!話す!なんでも話すから殺さないでくれぇ!!」

「あはは、よして下さいよ。それじゃまるで私達が悪者みたいじゃないですか」

過剰に怯えるウィットに、マテリアは薄っぺらな笑顔と冗談めかした口調で答える。
両者は未だに親密ではない。誤解が完全に解消された訳でもないし、お互いに疑念を抱いたままだ。
敵意はない、協力したい、そんな言葉だけで信用が得られるほど世の中甘くない。
ただ今のやり取りで、二人の間にはお互い一歩歩み寄ったという事実が生まれた。
腹の探り合い、線の引き合いを始めるお膳立て、儀式が完了したのだ。

そうして案内されたのはハンターが使用する五階建ての集合住宅だった。
それを見上げながら、つま先で軽く石畳を蹴る。
魔力を地面に流し込んで周囲を精査した。
感知系術式の応用であり――情報通信兵の必修科目だ。
伏兵や罠の類いがない事を確認してから歩みを再開する。

>「しばらく使った形跡がないほうが、お前たちとしては安心できるだろ?」

「それはそうですけど、女の子を連れ込む場所としては最悪ですねーこれ。
 スイさん、風で埃を飛ばしたり出来ません?とりあえず部屋の隅にでも」

左手で口を抑え、右手で舞い上がる埃を払いながら尋ねた。

>「さて、何から話そうか――ああ、何かつまみながらの方がいいかな?
  一応、物置に保存食があるし、僕が街で勝ってきた材料があるから、簡単なものなら作れるぞ」

「んー……そうですね、私にも同じ物を一つお願いします」

ウィットの並べた食材から作るものを推察して、そう言った。

美味しい物を食べながらの交渉は、そうでない交渉よりも上手くいく可能性が高い。
食事によって得られる快楽が交渉の内容や相手にまで関連付けられるのだ。
ウィットがその事を意識して食事を提案したのかは分からないが、乗らない手はない。
同じ快楽を共有して、彼が少しでも自分達に好意的になれば儲けものだ。

>「まずは名前を名乗ろう。僕はウィット=メリケイン。まだまだ駆け出しの新米ハンターだ。
  ハンターってのがどういう職種かは知っているよな?この街じゃ特に、従士隊が扱ってくれない犯罪捜査を担当してる」
>「誘拐組織――この街じゃそれを『黒組』と呼んでるんだが、まずはそいつらがこの街で行なっている悪行について話そう」
>「黒組は、人質をオークションにかけることで、身代金を競り形式に吊り上げているんだ。
 身元引受人に競りへ参加させて、引受人の払えるギリギリのところまで絞りとるためにね。
 その盗品オークションを『白組』って言うらしいんだが――まあ言ってみれば、黒組は白組の実働部隊ってところだな」

話を一区切り終えたウィットがホットドッグを齧り、陶器に注いだ酒を一口。
それからマテリア達にもそれを勧めてきた。

「ふむふむなるほど……あ、これはどうも」

一応、精査の術式を通してから口に含む。
風味を楽しむと同時に毒の有無を確かめるべく舌の上で転がして、嚥下した。

>「僕は、『黒組』と『白組』の両方をしょっぴきたい。でもそれにはまだまだ裏付けが足りないし、戦力も確保できない。
  来週行われる『白組』のオークションの現場にガサを入れられれば……って感じなんだけど、警備が手厚すぎてね」
>「さあ、とりあえず僕の所属と目的はここまでだ。質問があればおいおい応えていくつもりだよ。
  次はお前たちの番だ。お前たちが誘拐犯でないなら一体何者で、何をしにこの街に来ている?」

マテリアは口元に右手を添えて少し考え込む。


151 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/01(水) 22:07:29.88 0
「従士隊は……動かないんですね」

質問と言うより、信じられないと言った口調だった。
黒組が誘拐行為に『武器を使っていない』とは言え、『武器を秘密所持している』とリークする事は出来る筈だ。
自作自演でもいい。どうせこの都市に武器所持以外の『違法行為』はないのだ。
黒組が故意犯的な誘拐を繰り返すように、従士隊だって同じ事が出来る。
その気になれば故意犯的な捜査と救助が可能なのだ。
なのにしない。何故か――考えるまでもなく察しはつく。

「分かりました。まず私の名前は……マロン・シードル。そして……」

素性と目的を明かす訳にはいかない。
ウィットが善良な人間であろうと、悪党であろうとだ。
後者は言うまでもなく、前者だとしてもリスクが大き過ぎる。

少しの間沈黙していたマテリアが、ふと懐に右手を潜らせた。
取り出したのは母の遺品、銀貨だ。
駄目で元々の思いつきだった。
自身を新米ハンターと名乗ったウィットは、しかしマテリアの変装術にまるで惑わされる素振りを見せなかった。
それはつまり、マテリア以上の才気か、それに匹敵する努力が、そしてその技術を要する過去があった筈なのだ。
彼ならば、この銀貨についても何か知っているのではないか。そう思ったのだ。

「こういう者です……と言えば、伝わりますか?」

銀貨をテーブルの上に置いて尋ねた。
ウィットの反応を待ってから、言葉を続ける。

「私達は……この都市を支配したいんですよ。あぁ、そうは言っても侵略するつもりじゃありませんよ。
 あくまでも秘密裏に、表向きは現状のまま、この都市を帝国のものにしたい。
 その為には……その白組だの黒組だのという輩は、邪魔なんです。利用価値はありますけどね」

殊更に仮面めいた笑みと、冗談めかした口調を心がける。

「……なーんて。こんな話、信じてもらえないかもしれませんねぇ」

『口外した所で誰も信じやしない』と暗に告げるように、不審感を意図的に醸し出す。
ブラフそのものの不審感を塗り潰す為の演技だ。

「勿論その為の手段はもう考えてあります。ですが私達は表立って動く事が出来ませんからね。
 貴方の協力が得られればとても助かるんですよ。見返りは……そうですね。
 黒組白組だけでなく、この都市に蔓延る無意味な悲しみ、弱者の嘆き……それらを全て退けてみせましょう」

穏やかで余裕に満ちた笑み――先ほどとは一変して、自分は真実を言っているのだと強く主張する。
事実、プランは既に頭の中で出来上がっていた。
少なくともマテリアに嘘を言っているつもりはない。今の言葉は彼女の紛れもない本心だった。

「話だけでも、聞いて見ませんか?そう悪くない話だと思うんですけど。
 ……貴方の下す判断が、この都市を救うんですから」

微笑みと共に問いかけて、長口上を連ねた口を酒で潤す。
その動作に隠して遺才を発動した。
自在音声がスイのみにマテリアの意思を伝える。

「……と、そんな感じで、嘘つかせてもらいました。流石に素性も身元もバラす訳にはいきませんから。
 スイさんは……あ、そうだ。元軍人とかどうですか?
 上官に粗相をしでかして免職を避ける為に都市の支配計画に協力させられている……みたいな感じで。
 あながち間違いでもないですし、取り繕うのも楽だと思うんですよね」


152 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/02/03(金) 03:49:31.08 0
>「子供達も連れて行くのですか?……いえ、問題はないですが」
>「あんだよー、あたしらが案内しなきゃ詳しい場所なんてわかんねーぞ?足手まといにだってなりゃしねーさ。
  なんてったってすくなくともあたしは、芸人さん……名前なによ?まあとにかくあんたより強いし?」

懸念を見せるセフィリアと、即座に異を挟むフラウ。
どちらの気持ちも分からなくはない。

こちらからすればフラウはあくまで"ユーディ"の子飼い。いざ彼と対峙したときに敵に回る可能性がある。
セフィリアが躊躇するのもそこだろう。
しかしフラウの立場から見れば、"ウィット"は苦界から救ってくれた英雄にも等しい恩人。
その恩人が大切にしていた品を取り戻すのに、得体のしれない四人組に任せっきりという訳にはいかないだろう。

「心配しなくて大丈夫ですよ、フラウちゃんにも同行してもらうつもりですから。」

ノイファは苦笑しながらフラウに告げる。
助力を得られたことの興奮からだろうか、少女の頭からは取引の内容が抜け落ちてるのかもしれない。
先ほど見せた不相応な強かさも、仲間を救うための精一杯の虚勢と思えば、なんとも微笑ましいものだ。

胸が痛む。
自分はその少女を、いざユーディと対峙した際の保険に使おうとしているのだから。

「そういう訳ですので、リアさんもお願いします。
 私たちに圧倒的に足りないのは土地勘ですから、そこを補ってもらえるならば断る理由はありません――」

リアとは即興で仕立て上げたセフィリアの偽名だ。
彼女の線の細さも相まって、実に可愛いらしい響きだと密かに自負していた。
先だってどうにも反応に困る偽名を頂戴したことへの、ちょっとした意趣返しも含まれている。

>「ガルブ――あっ、ガルウイングちゃんが本気出したらこんなもんじゃないでありますよ!?
 ほら今もなんか両手に羽根持ってるし!フラウちゃんなんてワンパン……いやワンバサ?ワンバサであります!!」

と思ったら、あっという間にフルネームが完成していた。
リア・ガルウィング。なんと形容して良いか、とてつもなく速そうな名前だった。

「――……あー、なんというか、その、ホントごめんなさい。
 まあ、リアさんの力は私も頼りにしてますから。」

あはは、と力なく笑いながらノイファはそう締めくくった。

153 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/02/03(金) 03:49:50.24 0
>『あのっ、アイレルどの、ガルブレイズちゃん、わたしちょっとわからないことがあるのでありますけど』

モーゼル亭への案内の道すがら、保護者よろしくフラウの隣を歩くノイファの頭の中へ声が響く。
フランベルジェからの念信である。

>『アヴェンジャーどのの盗んだ零時回廊がウィットおじさんの手に渡り、それを盗まれたことが全ての発端なわけですよね? ――』

(……あれ?)

フランベルジェの念信に耳を傾けることわずか。
最初は聞き間違えかと思った違和感は、次第にその理由を明らかにしていく。
早い話が認識の齟齬。
自分たちが穿ち過ぎているのか、はたまたフランベルジェが底抜けに人が良いのか、あるいはその両方か。

『ちょっと性急に過ぎましたかね――』

確かにここまでとんとん拍子にことが進みすぎていた。
タニングラード入りしてからまだ一日も経っていないというのに、既に無限回廊の姿が見えつつあるのだ。
運が良かった、で済ませてしまったのでは、いざ事が起こった際に一歩先んじることなど不可能だろう。

『――とりあえず考えを整理しておきましょうか。
 まず、"ユーディ"と"ウィット"ですが、私は二人が同一人物だと考えています。』

不自然にならないよう歩速を落とす。
フラウに表情を覗かれないようにだ。

『理由は、無限回廊を所持していたことが一つ。
 それと子供たちが使った技術が専門的過ぎるような気がしたのがもう一つです。
 この辺は、同じく騎士団に居たセフィリアさん達の方が詳しいのでは?』

路地裏で見せたトラップワークの数々。
一つや二つならば他の可能性も出てくるが、その全てが魔術を用いたものとなれば話が違ってくる。
純粋に魔術のみで構成されていたのなら、魔術師という可能性も出てくるのだが、それともまた違う。
魔術を起爆剤とし、地形や道具と組み合わせて用いるのは、戦場が多岐に渡る軍隊や騎士団が得手とするところだ。

『でも、結局のところ出揃っている状況から推察した限りに過ぎませんからね。
 ですから全ての大本"無限回廊"を追っていけば、おいおい分かってくるんじゃないかな、と。』

>「おーい、あそこの店に入ろうぜー」

随分と先行していたフラウが振り返り、一軒の喫茶店を指し示す。

『おっとと、それでは私たちも向かいましょうか。』

ひらひらと手を振りながら、ノイファは雑踏をすり抜ける。

154 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/02/03(金) 03:50:23.63 0
雑多な客層でごった返す店内の、その二階。
この街特有の寒気をはらんだ風を、直に浴びる形となっているテラスは、その構造とは裏腹に一切の寒さから遮断されていた。
四方に備え付けられた、やや大ぶりの蓄魔オーブが、その役割を果たしているのだろう。

>「あたしはここの常連でさ、このテラスからモーゼル邸を観察するためだけに通いつめて――競りの日程とかを調べつくしたんだ。
  とりあえず乾杯しながら、順を追って説明していくぜ」

眼下に広がるのは、文字通り目も眩むほどの光量の海に浮かぶモーゼル邸。
その威容を眺めながら、運ばれてきたエール酒に口をつける。
注文せずとも人数分運ばれてきたそれは、フラウの好みを反映してか大分薄い。常連だというのも本当なのだろう。

「これはまたなんともお盛んな様子で……、随分と手強そうですねえ。」

フラウの説明通りなら、動体感知術式にゴーレム、夜警団に警備犬、挙句の果てには仲間であるはずの従士隊までが向こうの手勢。
しかもそれらは外から見える範囲の話、他にも隠し玉があると考えてしかるべきだろう。
街全てを敵に回す、というのもあながち大きな話ではない。無手で乗り込むには、大分荷が勝ちすぎていた。
通常の者たち、ならば。

(と言っても、無策で殴り込んだのでは、いささか分が悪いですねえ)

>「以上を踏まえて、なにか他に知っておくべきことはあるか?できる限りで協力するぜ」

挑むようなフラウの視線を、真っ向から受け止め、ノイファは考える。
相手の備えは、あくまで外からの敵を想定してのものだ。
中に人員を送り込めれば、その堅固さは本来の威力を発揮しない。

「…………つい先ほど、こう言いましたよね。」

干したエールをテーブルに置き、椅子の背もたれに体を預ける。

「大事な人からもらった、大事なものを、取り戻すのに莫大な金が要る。確か、そう言いましたよね。
 つまりは、オークションに参加する方法の心当たりがあるのでは?」

誰でも良いというわけではあるまい。モーゼルは商人あがりとは言え貴族なのだ。
否、商人だからこそ、明確な、参加するにあたう、"証明"が必要なのではないだろうか。
例えば財、あるいは信。

フラウから視線を外し、息を吐く。
あいにくどちらも持ち合わせがない。
 
「……んー、ダメですかねえ。
 なにか、どかんと稼げる方法でもあれば話は別なのでしょうけど。」


【真正面から乗り込めないものかしら。】

155 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2012/02/03(金) 21:32:22.94 0
「ふうっ。イッチョウアがりッ!」

最後に電撃を纏わせた手刀を相手の項に食らわせ、ロンは一息ついた。
ダニーへと振り返る。彼女もおおかた済ませたようだ。
犬を彷彿とさせる構え、何時来るか分からない攻撃、掌に纏わせ打撃を与える手法――
戦いの最中、ロンの視線の半分はダニーに対し注がれていたといっても過言では無い。

「(パフォーマンス抜きにして、一度は本気で闘り合いたいな……)」

何処の流派だろうかと海馬を探るが、心当たりはない。我流なのだろうか。
だとすれば、それはロンにとって未知の領域。彼女に対する興味が更に沸いてくる。
これほどまでに相手の技に対し興奮と興味を覚えたのは、今は亡き父に教えを伝授されて以来だった。
持ちうる全ての技術を駆使し、どこまで彼女と渡り合えるだろう。
ロン自身が気付かぬ内に、ダニーを一人の戦士として見、尊敬し、――戦いたいという欲求を抱いた。

>「仕事。つまりあんたたち黒組は、その白組とかいう親会社の下請けで誘拐をやってたってわけよね?」

ダニーから目を逸らし、黒組の頭領とクローディアの会話に耳を傾けた。
ロンの場合、修行で各地を旅した際に幾度か悪党とも対峙してきたが、人攫いを見たのは初めてだった。
だからか、敵意半分、好奇心半分の視線を黒組の頭領にむけ続ける。

>「如何にも。正確には、白組のオークションに出品する品を集める役割を担うのが、私共黒組なのです。
 各国のならず者の集う地域最大規模の盗品オークション・白組。そこでは盗んだ品は当然のこと、『人間』も出品されています」
>「それが、あんたたちの誘拐してきた人質ってわけ。ねーロン、ダニー。こいつらの言ってること本当だと思う?」

「どーだろーな。こうイってはナンだが、アクトウのコトバはあまりシンヨウしたくないものでな……」

頭領の言葉に眉間を顰める。出品という言い方を快く思わなかったせいだ。
だが、彼らの言っている言葉は真実であると認めざるを得ない。
人は嘘を吐くとき、腕や手の動きといった肉体的表現が制限されて固くなり、手、腕、足の動きが自身の体に向かうようになる。
また、アイコンタクトを避けたり、言葉と表情のタイミングにズレが生じたりなどの特徴が挙げられる。
が、この男にはそれらが見られなかった。つまり、嘘は吐いていない。
何かまだ隠しごとをしているのなら話は別だろうが――今は関係ないことだ。

頭領の言葉にクローディアが食いついている。よほど美味しい話に違いない。
もっとも商売のこととなると興味が持てないロンは、熱心に話を聞く社長の後頭部を眺め、相変わらず欠伸を零す。

「ところでダニー、さっきのタイジュツはどこのリュウハなんだ?テイコクのギジュツなのか?
 シショウがいるならショウカイしてくれよ。いちどテアわせネガいたいんだ。モチロン、ダニーともな」

暇を持て余し、ダニーにちょっかいなどかけている。話を聞く気はさらさらないようだ。
体一つで金を稼いできたロンに商売のシステムなど分かる筈もないし、本人は理解する気もない。
相手の一存で、報酬に見合った『働き』をすればよかったからだ。

>「……ダニー、ロン。あんたたちの意見を聞きたいわ。この仕事、受けるべきかな……?」

だからか、予想だにしなかったクローディアの発言に目を見開く。
この女社長ならば有無を言わさず了承するものだと思っていたし、ロンもそれに従うつもりだった。
だが前述の通り、ロンは商売に関して素人だ。美味しい話には何かしらの落とし穴があるなどと考えもしない。
だって、落とし穴があるならば飛び越えれば良いだけなのだから。 愚直な武闘派少年は満面の笑顔で、率直に答えた。

「ウけちまえよ!ヨウはあやしーヤツぼこっちまえばいいだけだろ?タンジュンなハナシじゃないか!」
な、ダニー?とむくつけき大女に振り返る。 親指をビッと突き上げ、白い歯を二カッと見せた。

「オレタチをシンヨウしてくれよ、シャチョー。オレタチがいればムテキだぜ!」

【やったろーや!】

156 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2012/02/04(土) 01:06:45.45 0
ファミアの言葉に、課長はようやく腑に落ちた、といった表情をして、それからフィンの手当を始めました。
まずは傷の具合を検めています。そんなことするまでもなく血塗れじゃないか、と思う人もいるかも知れませんが、
比較的大丈夫そうなところとすごくダメそうなところはちゃんと見分けておかないと効果的な処置はできません。

ところが、フィンの身体をまさぐっているその手が止まってしまいました。
もちろんこれは課長の脳内でスピンし始めた思考がコースアウトした結果でしたが、
当然ファミアにはそんなことはわからないことです。
窺ってみると課長はひどく怪訝そうな顔をしていて、
これはひょっとしてダメなところだらけなのではないかと気が気ではありません。

その沈黙を打ち破ったのはひどく湿った咳の音でした。
>「……俺、たち、のホテルの地図が……俺の上着に……ある」
血へどを吐き捨てたフィンが浅い呼吸の合間に搾り出したその言葉に、
>「用意周到だなお前!?」
課長は『なぜか』大きなリアクションを返しました。
言うまでもなく脳内でバーティゴを起こした思考がハードランディングした結果です。

落ち着いて観察すれば、そもそも『他所事』に回す血があるかどうかも疑わしい容態なのは分かるはずなので、
課長も相応に動揺しているということでしょう。
余談ですが課長が想定しているような状況に陥った場合、『事が成った』あとに非常に高い確率で
『これでもう死んでも大丈夫』という気分になってしまうそうです。
本能はろくな仕事をしませんね。理性を大切にしましょう。

そんなことをしている間に野次馬の数が増えるわ逆に出血は減ってくるわと、予断を許している状況ではなくなって来ました。
手早く包帯を巻きつけて傷口をひとまず塞いで、それから課長がフィンを背負いました。
>「アルフート、出るぞ。それっぽく焦りながら俺達を案内しろ」
囁きながら立ち上がって、それから声を張って一言。
>「お貴族様、お供の方ぁどこに運べばいいんだぁ?」
「あ、えっと……こちらです!」
ファミアは渡された地図を覗き込みながら歩き出しました。

好奇心からか邪な意図からかついてくる野次馬も数人はいたようですが、
貴族の宿があるようなところでは事に及び辛いとでも考えたのか、いくらか歩いたところで引き返したようです。
「……このまま、指揮を執っていていいんでしょうか」
地図に視線を落としているおかげでそんな周囲の様子にも気づかぬまま、ファミアは課長へ念信を送りました。

「みんなが何を持ってるかも確認してなかったし、簡単に部隊を分けちゃうし。
 この街に入る時だってなにも思いつかなかったから、じゃあ下手に装うよりこっちのほうがって。
そのせいで必要のない怪我をさせて、必要のない回り道をしてます」
なお、ここまで可読性を確保するために便宜上簡素な表現をしていますが、
単語の間々にしゃくりあげたり鼻をすすったりする音が差し挟まっていると思ってください。
もちろんそれは課長や、意識があればフィンの耳にも届いているはずです。

「暫定的なものとは言え、私は人の上に立てる器じゃないです。今からでも誰かに代わりを……」
本人は赤心からの言葉のつもりで口にしていました。そのほうがうまく行く、と。
しかし、世上の人が聞けばそれが無意識に出た逃げ口上だとすぐに気づくでしょう。
フィンの命に関わる怪我と、それが自分の責任の上に起きた事態であることはファミアにとってとても怖いものでした。
まして、このままフィンが儚くなるようなことでもあればそれを受け止められるかどうか……。

じゃあウルタール湖での一件は良かったのかといえば、最終的に課長は無傷だったので全く呵責はありません。
人生は結果が大事です。
それはともかくとして、じっさい他者を導くのに向かない人間というものは存在するものです。
例えば――――地図を逆さに持って道案内をしてしまったり、ね。

【動転しすぎてベタな行動を取る】

157 :スイ ◆nulVwXAKKU :2012/02/04(土) 23:40:32.61 0
>「わ、わかった!!話す!なんでも話すから殺さないでくれぇ!!」

そう懇願を始めたウィットをスイは冷めた目で眺めた。

「なっさけねぇの。」

ぼそりと呟きながら、そのままやり取りを見つめた。

>「あはは、よして下さいよ。それじゃまるで私達が悪者みたいじゃないですか」
いや、似たようなものだろ、とも思うが、何かが拗れそうで、言わないで置く。
任せるのが一番。他力本願上等、と嘯きながら二人についていった。
案内されたのは集合住宅だ。ウィットに案内されるまま部屋に入る。
>「しばらく使った形跡がないほうが、お前たちとしては安心できるだろ?」
>「それはそうですけど、女の子を連れ込む場所としては最悪ですねーこれ。
 スイさん、風で埃を飛ばしたり出来ません?とりあえず部屋の隅にでも」
「だから、俺に細かい技術を要求するなっての!!」

マテリアの頼みにスイは吠えた。
しかし、マテリアの言うことも頷けたので、大雑把に纏めておく。
ついでに、人格を表に戻す。これでしばらく裏にはならない。

>「さて、何から話そうか――ああ、何かつまみながらの方がいいかな?
  一応、物置に保存食があるし、僕が街で勝ってきた材料があるから、簡単なものなら作れるぞ」
「んー……そうですね、私にも同じ物を一つお願いします」
「俺はいらない。」

これで毒が入っていたら、笑い話にすらならない。自分で作ったものが一番安全とするスイは、実を言うと料理の腕は潰滅的だ。
そして、ウイットの話を聞きながら、外に気配がないかと気を配る。

「分かりました。まず私の名前は……マロン・シードル。そして……」
一通りの話を聞いた後、マテリアが口を開き、銀貨を取りだし、話しはじめた。
>「私達は……この都市を支配したいんですよ。あぁ、そうは言っても侵略するつもりじゃありませんよ。
 あくまでも秘密裏に、表向きは現状のまま、この都市を帝国のものにしたい。
 その為には……その白組だの黒組だのという輩は、邪魔なんです。利用価値はありますけどね」
「(おーおー、よくそんな嘘が思い付くもんだ)

マテリアのさらさらと紡がれる経歴に、感嘆しか覚えない。

>「……と、そんな感じで、嘘つかせてもらいました。流石に素性も身元もバラす訳にはいきませんから。
 スイさんは……あ、そうだ。元軍人とかどうですか?
 上官に粗相をしでかして免職を避ける為に都市の支配計画に協力させられている……みたいな感じで。
 あながち間違いでもないですし、取り繕うのも楽だと思うんですよね」

マテリアのアドバイスに、了解、と合図し、口を開いた。

「俺の名はハルトムート。傭兵だ。ちなみに買い手は帝国。このお偉いさんの警護なんかをするように言われてる。……あぁ、俺は年単位で買われてるから、変な気起こすなよ?」
そこまで間違ったことは言っていない、はずだ。
元傭兵だから、傭兵だと名乗った方がしっくりくる。

「まあ、一応全体像は把握しているつもりなんだが、俺は口が下手でな。詳しい話はこっちに頼む」
そう言って、手でマテリアを示した。


158 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/02/06(月) 03:40:59.98 0
>「先ずは……現地の下見などどうでしょう?」

「子供達も連れて行くのですか?……いえ、問題はないですが」

確かに彼女達がいた方がなにかと都合がいいかと思いますが、しかし、なんだかいやな嫌な気がします
私の杞憂であればいいのですが

>「あんだよー、あたしらが案内しなきゃ詳しい場所なんてわかんねーぞ?足手まといにだってなりゃしねーさ。
 なんてったってすくなくともあたしは、芸人さん……名前なによ?まあとにかくあんたより強いし?」

胸をはっているようですが、ペタリと平面が続いています
これは年長者の意地を……悲しくなるのでやめましょう
コホン、名前……馬鹿正直にセフィリア・ガルブレイズですと答えるわけにはいきませんね
ここは芸名であるセフィーリャでいこうと……

>「そういう訳ですので、リアさんもお願いします。
 私たちに圧倒的に足りないのは土地勘ですから、そこを補ってもらえるならば断る理由はありません――」
>「ガルブ――あっ、ガルウイングちゃんが本気出したらこんなもんじゃないでありますよ!?
 ほら今もなんか両手に羽根持ってるし!フラウちゃんなんてワンパン……いやワンバサ?ワンバサであります!!」

というわけで、私の名前はリア・ガルウイングということになりました
なんと響きの良い名前でしょうか、勇壮かつ優しさをはらんだようなで軽やかに大空を駆け巡れるようなそんな名前
いっぺんに私は気に入りました。
気分がよくなったところで一つ訂正しておきましょう

「ええ、確かに私はあなたに不覚をとりました。それは事実です、弁解の使用もありません
ただ、ただ一つだけ覚えておいてください……この3人の中で私が一番『弱い』ということをです」

私はに意地の悪い笑みを顔に浮かべながら、自重気味に鼻をならす
しかし、アイレル女史とスティレット先輩のどちらがより強いかは私はしりません
興味はあることですが……

159 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/02/06(月) 03:42:40.68 0

それよりも子供の方です
「それともう一つ、ついて来ても命の保証はしませんからね」

これはただの脅しです
たとえウィット=ユーディーであっても私は彼女を人質に取ったり交渉の道具にするつもりは断じてないということをここで宣言しておきましょう
貴族として……いいえ、セフィリア・ガルブレイズとして私は卑劣な手段を決してとりません
それがたとえ任務であっても誰の命令であってもです
私は少しの矜持とともに次なるステージへの覚悟を固めたのです

>「――……あー、なんというか、その、ホントごめんなさい。
 まあ、リアさんの力は私も頼りにしてますから。」

「そのフォローは逆に傷つきますよ。フィオナさん……」
がっくりと肩を落とします
どうせ私は子供に不覚をとるような騎士ですよ……
なんだか、さっそく出足を挫かれたようですが、ま、まあいいでしょう

>『あのっ、アイレルどの、ガルブレイズちゃん、わたしちょっとわからないことがあるのでありますけど』

モーゼル邸への道すがらスティレット先輩が念信を飛ばして来ました
私の頭の中では完全にウィット=ユーディでしたが、先輩の中では別個の認識となっていました
いえ、確かにあやしすぎて逆に……という風に考えられることもできますね
しかし、先輩の場合はそういうことではないでしょう

>『――とりあえず考えを整理しておきましょうか。
 まず、"ユーディ"と"ウィット"ですが、私は二人が同一人物だと考えています。』

『私も同意見です……罠に関しては私あまりそういった類いのものは使いませんでしたので……
しかし、騎士のなかには罠の専門家というのはいました……お力になれずに申し訳ありません』

近衛騎士団は帝都の重要施設や要人の警護が専門です
トラップの検査には検査用魔探知装置が使われていた
今さらながら教導院で魔導罠を学んでおくべきだったと後悔しています
そうすれば先ほどももう少し違った結果になっていたかもしれません

160 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/02/06(月) 03:43:12.86 0
>「おーい、あそこの店に入ろうぜー」

少女が指差した場所は目的の場所モーゼル邸のそばになる喫茶店
店内は明るく蓄魔球により外とは打って変わって暖かいです
それは2階テラス席にも行き届いて、それがなんだかとっても嬉しく思いました
ちょっと目を外に向ければ明るく照らし出されたモーゼル邸が取りようによってはロマンチックにとれるかもしれませんが
私の目には魔界にある悪魔の住処といったところです

席に着くと運ばれて来たエールに口を付けます
北の麦の芳醇な味わいに期待したのですが妙に薄い、水で薄めた安物かと思いました

「……薄いですね」

ついつい、不平が口に出てしまいました
薄いエールなど泥水以下というのがガルブレイズ家の家訓です
……が、折角の好意を無下にするわけにもいかないので一息に喉の奥へと流し込みました
ちょうどいい喉濡らしにはなりましたけど

そして語られるモーゼル邸の警備状況、真っ正面から殴り込みをかけるわけにはいかないということは察しがつきます
さすがに戦闘能力に秀でる遺才を持つ私達でも勝算は芳しくないと言わざるをえません
どうにか中に乗り込めれば、光明がみえてくるというものです

>「以上を踏まえて、なにか他に知っておくべきことはあるか?できる限りで協力するぜ」

少女……いえ、フラウの小生意気な態度。あんたたちなら出来るんだろ、と目で言ってるくるのがほんのちょっぴり気に食わないですが

「潜入の手段があるなら具体的に聞きたいですね
まさか一発逆転の大博打なんてことはないですよね?」

まさかとは思いますが、そんな気がして来ます

『アイレル女史、どうしても無理なら私達で貴族衣装に着飾ってしれっと正面から入いれるかもしれませんね』
これはほんの冗談です
さすがに招待状かなにかが必要でしょう

161 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/06(月) 05:59:45.56 0
>「分かりました。まず私の名前は……マロン・シードル。そして……」
>「こういう者です……と言えば、伝わりますか?」

マロンと名乗った娼婦がテーブルの上に出した、『銀貨』。
それを視界に入れた瞬間、ウィットは総毛立った。『感情を殺せるのに、それをできなかった』。

「…………!」

硬い唾を飲み込む音は聞こえてしまっただろうか。
顔色が僅かに青くなり、背中に汗をかいているのはバレただろうか。
この『銀貨』が本物ならば、マロンというこの女が"それ"ならば、ウィットの変化などとうに把握していることだろう。

(どうして……顔も変えた、この街では一度も『使ってない』――どこでバレた?何を間違えた?)

皇下三剣に属さぬ『第四の剣』。皇帝直属の懐刀、隠し剣。
"彼女たち"は、たった三十人にして帝国の暗部の全てを掌握する、純粋培養の"闇"そのものだ。
帝国軍一個中隊に匹敵し、上位魔族とも渡り合える戦闘力を持つが、彼女たちの脅威の本質はそこじゃない。
――ただ単純に、『容赦がない』。任務のためならば他人はおろか自分の命すら使い捨てにする、完全に別世界の住人。

素早く部屋の中に視線を走らせる。
彼がなりふり構わず己の力を最大発揮すれば、逃げることは可能。口封じすら難しくないだろう。
だが、それじゃ何も変わらない。帝都からこの街に来てもこうやって捕捉されたように――いつかは追い詰められる。

「……何が目的だ」

ウィットは最早取り繕わなかった。
『銀貨』が自分に対する追手であれ、また別の任務であれ、こうして自分に接触してきたという事実は覆せない。
彼女たちが本気であれば、ウィットに気取らせることなく背後から一刺し――ぐらいは造作も無いことだ。
だからこそ、彼は自分の痕跡が露見しないよう細心の注意を払ってきたつもりだったのだが。
裏側にある思惑がどうであれ、彼女たちがウィットを生かしておき、あまつさえ正体を明かしたからにはのっぴきならぬ理由がある。

>「私達は……この都市を支配したいんですよ。あぁ、そうは言っても侵略するつもりじゃありませんよ。

ウィットは酒を吹き出した。
気道に入ったアルコールに焼け付きを覚えながら、噎せること数回、ようやく落ち着いてくる。

(おいおい……本気なのか陛下)

"彼女たち"は皇帝直属の組織だ。
帝国最高意思決定機関の元老院すらその業務に一切の口出しの出来ぬ、皇帝専用という特務中の特務である。
そう、元老院は何も言えない。だから、任務内容が『元老院の考えとまるきり同じ』であっても、これはあくまで皇帝の独断だ。

162 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/06(月) 06:00:00.66 0
>「……なーんて。こんな話、信じてもらえないかもしれませんねぇ」
>「話だけでも、聞いて見ませんか?そう悪くない話だと思うんですけど。……貴方の下す判断が、この都市を救うんですから」

(随分とお喋りなんだな。……まあ、どこまで本当なのかってところだが)

彼がこれまで接触したことのある『銀貨』は、皆が寡黙だったわけではない。
お喋りな奴もいれば、必要以上のことは何も言わない奴もいたが――共通しているのは決して本質を見せないことだった。
昨日まで井戸端のように喋り散らしていた者が、今日はピクリとも笑わぬ黙人だったり、その逆だったり。
元々が空っぽの人間が、任務上必要とされる人格を詰め込んで、それを演じているような、得も言われぬ薄ら寒さがあった。
そんな人を構成する大切な部品をいくつも欠落しているような人間が、何人も作られていることに恐怖を感じた。

だが、目の前のマロンにはそういった居心地の悪さがない。
彼女には『中身がある』……観察眼に長けるウィットは、早々とそれを看破していた。
この銀貨はおそらく本物だ。容易く偽造できるものではないし、そもそも"彼女たち"の存在を知る者は帝都でも一握り。
なにより、この銀貨を交渉のカードとして切ってこざるを得ない理由が、ウィットにとって納得のいくものだった。

(タニングラードの支配。そんな大それた計画の為に『銀貨』を送り込んできた意味と、協力を求めたのが僕だってこと)

>「俺の名はハルトムート。傭兵だ。ちなみに買い手は帝国。このお偉いさんの警護なんかをするように言われてる」
>「まあ、一応全体像は把握しているつもりなんだが、俺は口が下手でな。詳しい話はこっちに頼む」

(なるほど、"それで"か――)

ウィットは力を抜いた。どの道ここでことをかまえるつもりはないし、そのつもりなら街中で対処している。
とにかくこの二人が黒組とは関わりのない連中だということがわかっただけでも、ここへ呼んだ甲斐はあったというものだ。

「……本当に、元老院はこの件に関してなにも噛んでないのか?そりゃそうだよな、でなきゃ僕に協力なんて求めるはずもない。
 あきれたなあ、二年前から何も学んでないのかよ。だからせめて政治の話ぐらい足並み揃えとけっていうのに」

二年前の『帝都大強襲』は、一般には魔族による侵攻作戦だと報じられているが、真実は違う。
上層部の政治的判断に食い違いがあったからこそ起きた事件だ。当時の皇帝の独断先行のせいで、多くの仲間が死んだ。
ウィットが限界に達した原因でもある。だから、せめて現場だけでも意思の疎通を図っておくことは決して無駄じゃない。

「聞くよ、話を。おそらくそのプランは、僕の目的とも合致している。
 ――僕も救いたいんだ、このタニングラードという"病巣"と、それを患う全ての弱者を」

ウィットは酒をしまい、物置からチェス盤と駒を引っ張り出してハルトムートに勧める。
食事は交渉を円滑に進めるが――卓上のボードゲームは議論を建設的に進めるのに役立つものである。


【交渉成立。ウィット=メリケインの協力を獲得。プラン謹聴】

163 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/02/06(月) 22:50:01.88 0
男たちを片付けて代わりの靴を物色していたダニーは、今の戦いをざっと振り返っていた。
まずはロン。加速力が彼の最たる力かと勘違いしていたが、そうではなく、もう一つの方、
電気の力が本領だったようだ。知らずに冷気を使っていたが、下手をすれば感電の可能性もあった。
尤も、その辺りはロンの技量に助けられたのでまだいい。

次に自分。久々に技巧を凝らしてみたものの、その分加減に苦戦した。
武器を受けやすくする為に手を凍らしたまでは良かったのだが、殴る際にカドを避けるという
それだけのことが存外難しかった。

力の底値を上げた分だけ手加減の難易度が上がるというのは地味だが怖ろしい落とし穴である。
そもそも話だって黒組の頭領だけ残しておけばいいのだから、他は「済ませても」良かったはずだ。

(・・・・・・)
相手も日陰者の中で地位を得るくらいには行為に及んでいる以上、バチは当たらないだろうに、
と戦闘のおさらいから愚痴へと思考をシフトしたダニーは首を鳴らしながら、
上役同士の会話を耳に傾ける。

>「おあいにくさま。あたしたちはその安い商売がしたくってこの街に来たのよ。
 大体ね、このご時世に暴力でご飯食べようって考え方がまずスマートじゃないわ。商人が商売やらずにどうすんのよ。
 いい?当たり前のこと言うけどね――暴力でなんでも解決できると勘違いした社会人の寿命は短いわよ?」

耳が痛い。言うとは思ってなかったが、クローディアの言うとおり、暴力で人を駆除することはできても、
その人に傷つけられた者の心のケアまではできない。
少しだけ年下の女性のしっかりとした言葉に苦いものを覚えながらも、ダニーは感心した…

>「お金は命より重いんだから。命のやり取りなんかより、金のやり取りのほうがずっと高尚に決まってんでしょ。
 ――というわけで、金で買えるものなら命だって融通する、出前・迅速のクローディア総合商会を、よろしくっ☆」

矢先にコレである。一つの事実に対して過剰に巨視的な状態に陥ることを視野狭窄と呼ぶのであれば、
クローディアは正にソレだ。どうしてこう、良い事を言ったかと思えば落ちを持って来るんだと、額を押える。

164 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/02/06(月) 22:52:03.04 0
>「如何にも。正確には、白組のオークションに出品する品を集める役割を担うのが、私共黒組なのです。
 各国のならず者の集う地域最大規模の盗品オークション・白組。そこでは盗んだ品は当然のこと、『人間』も出品されています」
>「それが、あんたたちの誘拐してきた人質ってわけ。ねーロン、ダニー。こいつらの言ってること本当だと思う?」

「・・・」
知らん、と少し疲れたように言う。ロンは懐疑的ながらまだちゃんと応対したのに、
ダニーは心底どうでもいいという態で、小指を片耳に突っ込んだ。
嘘だったらその時は雪だるまの具にすればいいだけの話である。

聞いていたのかどうか定かでかないが、更に黒組の頭領とクローディアは商談のようなものを続けた。
依頼を受けて成功すれば、ずらっと真っ当な後ろ盾から嫌がらせの手駒までの融通を受けられるようになる、
要約すればだいたいそんな感じの取引を持ちだされてダニーの雇い主は鼻息を荒くしていた。
既視感はとめどなかったが、大人しく待つことにする。

>「ところでダニー、さっきのタイジュツはどこのリュウハなんだ?テイコクのギジュツなのか?
 シショウがいるならショウカイしてくれよ。いちどテアわせネガいたいんだ。モチロン、ダニーともな」

手すきの間に失敬したブーツに足を通しているとロンが声をかけてきた。
爛々とさせている瞳を見ると不意にくすぐったい物を覚える。
おもしろいことを思い出した少年そのものだ。

「・・・、・・・・・・・・・」
そうか、と前置きを入れてから、流派はドーキッド式護身術、構えから構えへと移ることを主眼にしてる。
師匠は親父で大分前に病気で死んだと告げると、手を前で組み爪先で床を小突き彼女は続ける。

「・・・・・・・・・」
自分から手合わせしたいなんて言ってくれた奴は始めてだ、と目を伏せ口元に笑みを湛える。

ーお前が挑んでくれるなら、俺も腹一杯もてなしてやる、お前に誓ってー
そう結ぶと、ダニーは小柄な挑戦者に向き直り、開いた目の片方を素早くまばたいて見せた。

 * * * * * *

>「……ダニー、ロン。あんたたちの意見を聞きたいわ。この仕事、受けるべきかな……?」
話しに一区切り付いたようで、再びクローディアが従業員二名の名を呼ぶ。

165 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/02/06(月) 22:55:01.85 0
無頼の淑女は何か迷っている様子の社長をじっと見る。
どうやら悪党の手先となって働くのが嫌だとかそういうのではなく、あくまで
損得のみを心配してのことらしいが、自分で言った通り本当に咎めるつもりはないようだ。

この歪な価値観の違いこそが、クローディアがダニーを制御できる距離感を保っているのだが、
それを自覚してしまえば、人として些か寂しいものではあった。

>「ウけちまえよ!ヨウはあやしーヤツぼこっちまえばいいだけだろ?タンジュンなハナシじゃないか!」
>「オレタチをシンヨウしてくれよ、シャチョー。オレタチがいればムテキだぜ!」

隣で自信満々なロンが屈託なく笑う。そこには不安の欠片もなく、
障害など何もないかのような強い威勢があった。

個人的には、そのあやしーヤツに会ってみたいと思った。
襲撃者と来れば相応の手練が来ると考えていいし、身内なら商品を横領してあげても構うまい。

それに商売を含めた多くの人の文化というものは、往々にして相手、
当事者が別に人間でなくてもいいという手落ちがある。
これを踏まえた上でダニーは続ける。

「・・・。・・・、・・・、」
受けて見たらいい。もしも気に入らなきゃ途中で突っ跳ねたらいい、依頼主が依頼主だしそれに、

「・・・・・・・・・・・・・・・」
商売にご破算とか計画倒産は付き物だと、ダニー少し得意げに言い放つ。例に習い、
可愛らしい少年に振り返ると、食指と中指の間に親指を入れて向ける。勿論今回は本気ではない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まあ悪いようにはならないだろう、と腕を組みつつ締めくくる。
暗に失敗してもあまり心配するなという意味合いを込めたのだが、
果たしてクローディアにはどの程度通じただろうか。

【受けてもいいし、受けた後で放り出してもいい】

166 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/07(火) 20:55:21.14 0
マテリアは腹の底から沸々と沸き立つ興奮を、辛うじて表出させず堪えていた。
銀貨を見せた時のウィットの反応――ほんの一瞬だけ呼吸が止まる。表情筋が強張る。微かに漂う汗の臭い。
そして何よりも、彼女の遺才が確かに捉えた、乱れた心音。

――ウィット・メリケインは、この『銀貨』を知っている。
かつて自分が人越の才を限りなく濫用して、それでも届かなかった『銀貨の正体』を知っている。
今すぐにでも彼に跳びかかり、縛り上げて、あらゆる手段を用いてそれを聞き出したい。
胸の中で渦巻く嵐のような衝動を深く飲み込んで抑えつけた。

もしそうすれば、もう彼の協力は得られない。
きっと大勢の不幸と悲しみを招く。助けられた筈の人達が死んでいく。
自分のせいで、例え自分のせいでなくともだが、そんな事は絶対に避けたかった。

(……落ち着け私!そんな事しなくたって、会話から探りを入れる事は出来るんだから!)

依然変わらず微笑みの仮面は崩さないまま、自分に強く言い聞かせた。

>「……本当に、元老院はこの件に関してなにも噛んでないのか?そりゃそうだよな、でなきゃ僕に協力なんて求めるはずもない。

元老院――ウィットの呟きに含まれた単語を耳聡く捉えた。
やはり『銀貨』は帝国の上層部に深く関わっている。
今までは『まるで手がかりが掴めない』から逆説的にそうだと踏んでいただけの予想が事実に変わる。

>あきれたなあ、二年前から何も学んでないのかよ。だからせめて政治の話ぐらい足並み揃えとけっていうのに」

けれども続く言葉にマテリアは僅かに双眸を細めた。表情の変化を禁じ得なかった。

(二年前、政治の話、足並みを揃えて……?)

まるで『銀貨』と『元老院』には直接的な関係がないと言わんばかりの口ぶり。

(だとしたら『銀貨』は……元老院に並び立つ政治機関?)

一つの予測が打ち立った。

(……あり得ない。もしそうだとしたら、母さんは死んだりしなかった。
 少なくとも変装術が使える必要も、死体すら帰ってこない死に方をする必要も……なかった)

ならば『銀貨』とは――元老院に並び立つ政治機関、その直属の実働組織と考えるべきだ。
そしてそんな機関は、この国に『一人』しかいない。

(銀貨は、お母さんは……皇帝の部下だった?)

確証はない。
だが暗中模索を繰り返して、何も分からない事を根拠に重ねていた憶測よりはよほど現実味がある。

>「聞くよ、話を。おそらくそのプランは、僕の目的とも合致している。
  ――僕も救いたいんだ、このタニングラードという"病巣"と、それを患う全ての弱者を」

引き出せる情報は、ここまでだ。少なくとも今は。
これ以上の事を知りたいのなら、成功させなくてはならない。
この都市を救い、遊撃課の任務を成功させる事が、母の更なる足跡を辿る事に繋がるのだ。
自分自身の目的も、任務も、これからが正念場だ。こんなところで躓く訳にはいかない。


167 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/07(火) 20:56:00.54 0
「流石、話が早くて大変結構です。それでは早速、この都市を救う方法についてですが……」

満面の笑みを被って、

「――新聞社と学校を作りましょう。この都市に」

マテリアは端的に、きっぱりとそう語った。
ふざけている訳ではない。彼女は極めて真面目にこのプランを提案していた。

「ここタニングラードで悪事が横行する理由は、もちろん大本を辿れば武器の所持禁止以外に法律がないからです。
 が、厳密にはもっと浅く、多岐に渡る原因がある筈ですよね。まずはそこから考えてみましょう」

そう言って、人差し指を立てる。

「第一に、この都市の人々はあまりに諦め過ぎています。
 悪党共だって人相や手口を知られればおちおちと悪事を続ける事は出来ません。
 だと言うのにここの住人は誰もが犯罪を見過ごし、予防を諦めてしまっている。
 結果として何度も同一の手口、同一の悪党が好き放題出来る環境が発生する訳です」

ならば、と言葉を繋ぐ。

「何故彼らは諦めてしまっているのでしょうか。私はそれをリスクの問題だと考えています。
 一般人が悪党を告発するという行為は、往々にしてリスクが大き過ぎるのですよ。
 悪人の捕縛に協力したところでここでは大した懸賞金がある訳でもなし。
 そのくせ自分が告発した、ハンターの犯罪捜査に協力したと知られれば途方もない報復が待っている。その時に助けてくれる人はいない。
 この都市にも新聞社はあるようですけど……誰がそんな状況で情報提供なんてするものですか、ねぇ?」

笑みに微かな厭わしさを混ぜて、首を傾げた。

「だからこそ、新たに新聞社を建てるんです。丁度ここには二人、とっても優れた人材が二人いますよね。
 私は言うまでもなく超が付くほど優秀で、貴方はその私の変装と尾行を容易く看破してのける。
 私達が人々に『情報』を膾炙するんです。悪党共の手口、素顔、全てを白日の下に晒してやりましょう」

加えて、と更に説明は続く。

「その新聞社は貴方に社長を務めて頂きたいですね。より正確には『ハンター』である貴方に。
 それがいいんですよ。そうすれば新聞社は実質的にハンターの下部組織に出来ます。
 そうしたら貴方達はこのような制度を作ればいい。
 『悪党共に関する情報を提供した者はハンターが保護し、その情報によって見事捕縛に至った際には謝礼金を給付する』と。
 安全と見返りを用意すれば、きっと協力者は今までよりも増える事でしょう」

新聞社に関してはこれで肝要な点の説明は終わった。
人差し指に続いて中指を立てて、マテリアは次の説明へと移行する。

「第二に、この都市の住人は無知で、また無力です。
 無知と言うのは悪党共に関してもそうですが……それと同じくらいに、彼らは自分の身を守る術を知らない。
 襲い来る無慈悲な悪意に抗う力を持っていないのです」

相手を騙し傷つける事に特化した魔術や、話術や、技術を前に、ただの庶民達はあまりに弱い。

168 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/07(火) 20:57:56.89 0
「故に学校です。教えるのは算術や語学だけではなく、それらをひっくるめた『生きる為の術』を。
 つまり悪党共が独占して濫用している『知識』を都市中にばら撒いてやるって寸法ですね。
 ちょっとした『位置指標』《マーカー》や、オーブを用いた『記録』の魔術を覚えるだけでも、
 悪党共に対しては大きな抑止力となる筈ですから。そういうのは貴方が得意そうですよね。
 それに、こちらには現役傭兵のハルトムートさんがいます。
 彼女さえその気になってくれれば、そこらの悪党なんて目じゃないくらいの格闘術が学べますよ。
 もちろんこの私も、非力な女の戦い方ってものを修めていますしね」

住人の魔術水準、自己防衛の能力が上がれば、その分だけ悪党共が好き放題する事は出来なくなる。
もっともその分、今まではなかった事件が増える可能性はあるだろう。
突発的で衝動的な殺人や、力を過信して逆らったばかりに命を奪われてしまう事が。
だが少なくとも、一部の悪党だけが際限なく悪事に及ぶ現状は変えられる筈だ。

しかし、マテリアが学校を建てようと提案した理由はそれだけではない。

「同時にこの都市の最底辺を底上げ出来るのも大きいです。
 教育の最低水準が上がれば、治安は基本的には好転するものですから。
 なんならスラム街の住人には無償で教育を受けさせてもいいでしょう。
 その代わりに倫理のお勉強と……人間、正しい道を歩く事が結局一番だって事を、みっちり教え込むとして、ですね」

悪事に走る者の全てが邪悪な心を持っているとは限らない。
食うに困り、さりとて無知故に働く事も出来ず、残された道は悪事と死の二者択一。
そんな弱者も、ここタニングラードには数多くいる筈だ。
知識と技能さえ与えてやれば、彼らの一部はまっとうな道を選んでくれるだろう。

「底上げされた住人達の働き口も、この都市なら足りない事はないでしょう。
 ここにはあちこちからやってきた商人がいて、ついでに役立たずの従士隊がいますからね」

『情報』と『知識』を広める事で都市を救う。
知識を信仰して、『情報こそ命』の哲学を持つ女――情報通信兵ゆえの発想だった。

長い長い語りに区切りがついて、マテリアは一度口を閉ざす。
それから一拍置いて、まとめに入った。

「もっとも、そう短期間で成果が出る事は正直、期待出来ません。
 知識も技も、それを学び、身につけるには相応の時間を要します。
 ですが……このプランの肝要はそれだけじゃない。大切なのは意識を変える事です」

それはつまり、

「悪党を駆逐して、自分の身を守り、自分の隣人を守る。
 自分達にはそういった事が「出来る」のだと、皆が思えるようにする事が大切なんです。
 だってですよ、考えてもみて下さい。「大切な家族や友人を守るのは自分達自身なんだ」と、この都市の皆がそう思えるようになったのなら」

マテリアが口角を吊り上げて、不敵な笑みを浮かべた。

「――人類、最強だと思いません?」

けれどもその言葉と共に、彼女の表情からは演技の不敵さが消え去った。
残ったのは満面の笑顔。
そうなったらいいな、きっと本当に快いだろうなと、心の底から思っている者の笑顔だった。

と、しかしマテリアは言い終えてから、自分の仮面が見事に剥げている事に気がついた。
出来るだけ取り乱した素振りを見せないよう、あえてわざとらしく咳払いを一つ。
今の笑顔さえもを演技という事にして取り繕うと、それからウィットに視線を向け直した。


169 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/07(火) 20:59:19.14 0
「この目論見が成功した暁には、私達が作った新聞社と学校は都市に対して多大な影響力を得る事でしょう。
 情報の流通と教育。その二つを牛耳る事は、国の未来と行く先を支配する事に等しいですから。
 帝国によるタニングラード占領はかくて相成る、という訳ですよ」

そしてもう一つ。ユーディ・アヴェンジャーの捜索にもこのプランは転用出来る。
現時点で、彼女は無闇な捜査活動は出来ない。あくまでも『旅行者の娼婦』を装いながら動かなければならない。
しかしハンターの下部組織、新聞社の社員となってしまえば――やはり変装や身分の偽装は当然必要だが、今までよりも大胆に捜査が行える。
ありとあらゆる捜査活動に『新聞記者の取材』という名目が得られるのだから。

また新聞社を隠れ蓑にユーディを炙り出すという手段が取れるようになる。
例えば『ユーディがこの都市に潜んでいる』という匿名の情報提供を自演するなどしてだ。
もちろん、単純に得られる情報量が跳ね上がる事も利点だった。

とは言え、彼女が語ったこのプランには二つ、大きな問題があった。
その内一つはクローディアも直面した、起業に伴う諸事情だ。
これは大きなと言うより面倒なと言った方が正確かもしれない。

「いやーそれにしても、これから忙しくなりそうですねぇ。
 とりあえず帰ったら役所に行って申請出して……最悪やらなくても『違法』ではないんでしょうけど。
 みかじめ料は……今から晒し上げる相手に払ってどーするって感じですね。
 社員や教員の当てはありますか?一応、こちらでも知り合いを当たるつもりではいますが。一般人からの募集もしてみましょう。
 あとは宣伝。これも、ハンターにも協力してもらえれば楽になるんですけど。
 場所は……新聞社はハンターが所有する建物を一棟借りられますかね?その方が安全性も確かですから。
 学校はいい場所が見つかるまでは教会を間借りしたいと思ってます。
 この都市ではすっかり寂れてしまっているようですけど、宗教も人心を救うには便利な道具ですし」

一方で宗教は人を殺す理由としても、反吐が出るくらいに優秀だ。
だからこそ何をどう教えるのか、しっかりと考えなくてはならない。

「まあ、この都市の住人は嫌というほど、神様なんていないか、
 いたとしても彼はお金が大好きな差別主義者だって事を知っているでしょうからね。
 出来る事なら宗教はあくまでもきっかけとして、そこから道徳や論理について考える事を学べるようにしたいものです。
 ……と、これは少し気の早い話でしたね。ひとまず説明は終わりですけど、なにか気になる点はありますか?」

話を終えたマテリアが、ウィットとスイに視線を配る。


170 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/07(火) 20:59:59.97 0



ちなみにもう一つの問題はと言うと――それは『お金』だ。
新聞社と学校、どちらも形にするにはそれなりじゃ済まない金がかかる。
情報提供に伴う謝礼金は捕らえた悪党共の蓄えから捻出する事も出来るだろうが、起業の為の資金はそうもいかない。
無論、彼女もそんな事は織り込み済みだ。
ウィットに指摘を受けたとしても余裕の笑みを崩したりはせず、

「心配ご無用ですよ」

とだけ言い、テーブルの上の銀貨を指先で二度、叩くだろう。
造幣局の印が刻み込まれた銀貨を。

(……言っちゃったぁー!もう後戻り出来ないよねこれ!
 だ、大丈夫かな……大丈夫だよね?うん、きっと大丈夫!……だといいなあ!)

けれども内心、マテリアはとんでもなく動揺していた。
少しでも気を抜けば心臓は暴れ出し、冷や汗は溢れ、笑みは引き攣ってしまうだろう。
当然の事ながら彼女に造幣局との繋がりなどない。
一度に二つの起業が出来るほどの資金など、ある筈がないのだ。

(えーっと……軍属時代の給金は殆ど貯金してあるからそれは全部下ろして。
 一応公務員だし借金もそこそこ出来る……筈だよね。
 あとは遺才使って元上官とか、帝都の貴族様を揺すればなんとか……)

眉間に皺が寄りそうになるのを堪えながら資金調達の算段を立てる。
『帝国軍の情報通』と呼ばれた彼女なら、かなりの人数から資金を引っ張れるだろう。
それでも相手が逆上しない程度に抑えなくてはならない。
となるとやはり、貯金を費やして更に借金をする事は避けられない。
正直にぶっちゃけた話をすると、この作戦には彼女の人生が懸かっていた。

(……アイレルさんの出向元って、確か娼館だったよね。お給金ってやっぱりいいのかな……!)

事の次第によっては泡風呂に沈むのもやむなし。
マテリア・ヴィッセン二十二歳。思わぬところで母の足跡を辿る羽目になるかもしれない。


171 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2012/02/08(水) 23:39:03.88 0
>「用意周到だなお前!?」
きっと、一部隊を預かるものとしての崇高な判断と思索からそう言ったのであろう。
フィンが地図の所在を知らせた事に対し、ボルトは驚愕の様相を見せた。
常であればボルトの発言に対しフィンは疑問符を浮かべ問い返そうとするのであろうが、
しかし、当然の事ながら現在の彼にはそんな彼に突っ込む体力も精神力も存在しない。
途切れ途切れの意識を保つだけでも精一杯なのだ。

>「アルフート、出るぞ。それっぽく焦りながら俺達を案内しろ」
>「お貴族様、お供の方ぁどこに運べばいいんだぁ?」
しばしのやり取りの後、そんな様子を深刻に捕らえてくれたのか
農民の振りをしたボルトは、応急処置を行った後に外套を用いてフィンを搬送すべく担ぎ上げた。
ボルトの怪我に対する処置は見事。流石は軍属というべき手際だった。
今まで垂れ流されていた血の勢いは弱まり、又、フィンが瀕死である事から
魔術に対する抵抗力も弱まり、包帯に編みこまれた治癒符は効果を発していた。
それに、荷馬車か何かに乗せるのではなく担ぎ上げたのもまた有効な処置であったといえるだろう。
失血時というのはとかく体温の低下が激しいものである。
そして、体温が低下すれば生命維持機能も追随して低下するのは必然。
先ほどのファミアの行為もそうであるが、こうして体温ある他人と密着しているのは
それだけである程度の応急処置足りえるのである。
このやりとりは、予断は許さぬもののフィンの延命に関して極めて重要であったと言わざるを得ない

追随してくる野次馬を振り切り、現在彼らは人目の比較的少ない道を歩いていた。
フィンは内臓が熱を持っているかの様な苦痛と恒常的な激痛に襲われてはいるが、
それでも先ほどよりは少しはマシにはなったようだ。朦朧としているが、何とか意識も保っている。
そうして、そんな状況の中で――――脳内に声が響いた。

>「……このまま、指揮を執っていていいんでしょうか」
念信による会話。恐らくは課長に向けて放たれたのであろう言葉は、
しかし確かにフィンの耳にも届いていた。
それは、つまり告解であった。
ファミアという一人の人間が吐く、不安。怯え。恐怖。逃避。
幾つもの感情が入り混じった言葉であった。

>「みんなが何を持ってるかも確認してなかったし、簡単に部隊を分けちゃうし。
>この街に入る時だってなにも思いつかなかったから、じゃあ下手に装うよりこっちのほうがって。
>そのせいで必要のない怪我をさせて、必要のない回り道をしてます」

フィンは、個人的にファミアの事をどことなく飄々としている人格だと感じていたが
どうやらそれは根本的な所で間違っていたらしい。
幾ら才能を持っているとはいえ、ファミアとて結局は一人の人間であるのだ。
リーダーという責務を負い、味方の負傷というアクシデントに見舞われれば、
肩に圧し掛かる其れに忌避感覚えるのは当然だ。

……本来であれば、ここでフィンは男らしく慰めの言葉を言うべきなのだろう。
諭す為の言葉でも吐ければ上等であったのだろう。
しかし、残念な事にフィンはファミアの苦悩に対する回答を持ち合わせていなかった。
何故ならば、フィン=ハンプティという青年は自身に英雄たれと呪いの様な自戒をかけ、全てを自分で背負おうとし、
仲間を守る為に、不安も恐怖も怯えも逃げも。それらを感じる心のすべてを圧し殺して生きてきた人間だからだ。
そんな歪な人間が、正常に苦悩する人間にかけられる言葉などあるべくもない。
だから……フィンがファミアにかけられる言葉はたったこれだけ。

「……心配すんな、大丈夫だ」

その言葉にどういう意味がこめられているのかは、当のフィンにすら判らないだろう。
朦朧とする意識の中でポツリと浮かび上がった言葉を言っただけなのだから。
ボルトにすら聞こえるか判らない程の小さな声でそういったフィンは、
再び力なくその身体をボルトの背に預けた。

そうして彼らは向かう……ホテルとは反対方向へ
【フィン−運ばれ中。思考能力低】

172 :名無しになりきれ:2012/02/09(木) 22:45:27.97 0
さて、蛆虫を片付けに行くか…


彼は言った

173 :スイ ◇nulVwXAKKU:2012/02/11(土) 22:04:37.64 0
目の前に出されたチェス盤を眺めて、隣に座るマテリアを見る。

>「――新聞社と学校を作りましょう。この都市に」

マテリアが本題に入ったのを聞いて、チェスの駒を並べ始めた。

「お手柔らかに頼む」

ウィットに聞こえるか聞こえないか程度に言い、相手に先制を勧める。
隣でマテリアが話す内容に感嘆を覚える。
といっても、よくそんな難しいことが考えれるものだ、という事ぐらいだが。
黙々と駒を動かし続け、布陣を変えていく。
スイのチェスの最大の特徴は王である駒が、前線に出てくること。
それは諸刃の剣でもあるが、スイは常にそうやって実戦でもたとえ盤状であろうとも、戦い続けてきた。

>「まあ、この都市の住人は嫌というほど、神様なんていないか、
 いたとしても彼はお金が大好きな差別主義者だって事を知っているでしょうからね。
 出来る事なら宗教はあくまでもきっかけとして、そこから道徳や論理について考える事を学べるようにしたいものです。
 ……と、これは少し気の早い話でしたね。ひとまず説明は終わりですけど、なにか気になる点はありますか?」
「チェック。…俺は特にない。」

女王の駒を置いて逃げ場を無くす。
しかし、かなり壮大な話だったが、金はどうするのだろうと疑問に思う。
かといって、全体像を把握していると言った手前、質問するわけにもいかない。

>「心配ご無用ですよ」

スイの心中を察したかのようにマテリアはそう言った。
だが、スイはギリギリだと確信する。
見たのは彼女の足のほんの僅かな震えだ。
スイは少し考え込んで、マテリアのウィットの見えない手の方を引っぱり、手の平に己の指先を置く。
指を少しだけ動かし、マテリアに伝えた。
金なら俺も無いことは無い、と。
実際、傭兵時代に貰った報酬の半分ほどは残っている。
もう半分は武器の整備と生活費だ。
雀の涙ほどしか無いが、足しにはなるだろうとそんなことをスイは思った。

174 :名無しになりきれ:2012/02/12(日) 19:42:37.60 0
>>173
カチャ・・・・


ガチン・・・
(パァーン・・・)

175 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/12(日) 23:57:35.53 0
>「潜入の手段があるなら具体的に聞きたいですね まさか一発逆転の大博打なんてことはないですよね?」

「んー、そうなあ。あたし一人なら、競売品の搬入口から、品物に紛れて潜り込むってこともできるんだけどよ。
 ……流石にあんたたちのサイズじゃ無理があるよな。いっそマネキンの振りでもするか?はっは」

リア・ガルウイング(どんなセンスだ)と呼ばれた大道芸人の問いに、フラウはおじさん譲りの乾いた笑いで答える。
もちろん、紛れ込めたとしてそんな突貫潜入がうまくいく筈もない。検査の目を免れることはできないだろう。

「オークションは"人間"すら取り扱ってるから……当然、脱走に対する監視は厳しいぜ。
 抜け出られないってことは、潜り込めないってことと一緒だもんな。ましてや搬入口は裏口――いちばん警備の厚い場所だ」

そう、潜り込めない。屋敷の警備は、潜りこませないことに特化している。
だから、考え方を逆転すればこうなる。

>「…………つい先ほど、こう言いましたよね。」
>「大事な人からもらった、大事なものを、取り戻すのに莫大な金が要る。確か、そう言いましたよね。
 つまりは、オークションに参加する方法の心当たりがあるのでは?」

――『潜り込めさえすれば、あとはやりたい放題』。
フラウは耳の裏を掻いた。痛い所を突かれたというより、恥ずかしい過去を見られたような、そんな同様を隠す仕草だった。

「あー……『白組』のシステムについての説明をしてなかったな。
 あたしもおじさんからの又聞きだから、詳しいことはわかねーけど、まあさわりの部分だけでも知っといてくれ」

オークションの基本構造とは、通常の商取引のような売り手と買い手のやり取りではなく、買い手同士の交渉だ。
主催者が提示する品物の購入権を巡って、どちらがより多くの金額を出せるかを『競う市場』だから、競り市(オークション)。
つまり買い手は"お客様"ではなく、市場においては誰もが対等な参加者なのである。
当然、千客万来というわけにはいかない。競りに参加するには相応の資格――買い手として戦えるだけの資力を求められる。
財なき者がいても何も出来ないし、場合によっては買えもしない品に高額入札をふっかけて競りを妨害する者も存在するからだ。

では、どのようにして入札者としての適格を判断するか――簡単だ。高額な入場料を取れば良い。
オークションへの入場料すら払えないような経済弱者ならばその時点で門前払い。
払える者でも、高い金を払ってセリ市に参加するのだから、投資が無駄にならぬよう、市ではもっと金を使うようになる。
『白組』の出品目録も兼ねた入場券、『カタログ』を購入すること。それが、オークションに参加する方法だ。
フラウは以上のことを掻い摘んで三人に語った。

「とまあ、そういうわけでさ。買い手としてあのオークションに参加すること自体に、まず莫大な金が要るわけよ。
 ……あたしだって、ちまちまスリやってて揃うような金額じゃないってことはわかってるさ。でも!」

『できないからやらない』じゃ、何も変わりはしないのだ。
現に、そのスリがきっかけで、四人の旅人から協力を得られることになった。
不可能でも、あがくことには意味がある――『逃げない』という選択肢が、僥倖の花を咲かせたのだ。

「カタログは一冊あれば1グループで入場できる。あたしは仲間たちとオークションに参加者として潜り込むつもりだった。
 競り落とすのにもまた金が要るけれど、盗むにしたって鼻先まで近づけるなら色々と捗るだろうと思ってさ」

176 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/12(日) 23:57:50.72 0
どうやって盗むかまでは――考えていなかった。
フラウはどちらかと言えば理論よりも行動を重んじるタイプである。何事もやってみなければわからないというのが彼女の持論。
やらなくて後悔するよりやって後悔するほうが良い――などと言えるのは、"やらかしてしまった後悔"の気まずさを知らないからだ。
年不相応に知識をつめ込まれた彼女はやはり、年相応に無慮であった。

「白組への参加方法はもう一つ。買い手でなく、売り手として参加すること――つまり、出品者になることだ。
 と言っても白組は盗品オークション……要するに、盗人だ。『どこから』・『何を』盗んできたかがはっきりしているなら、
 有体に言うと"盗人としての身分"だな。こいつを証明できれば、入札はできなくともオークション会場に入ることはできる」

というより出品者の同席は義務だ。
万が一、司直でなくともハンターや賞金稼ぎに踏み込まれた際、盗んだ本人を突き出して主催者は知らぬ存ぜぬを通せるように。
トカゲのしっぽ切り要員として商品のすぐ傍に控えていることを要求される。
もちろん出品者もそれには同意の上で出品している。モーゼル邸の厳戒警備ならば、踏み込まれるリスクは限りなく低いからだ。

「出品する盗品は基本何でもありだけど、もちろん価値のつくものじゃねえと駄目だからな。
 んー、例えば、ここじゃ信仰があんまり流行ってねえってのは知ってるよな?この街の基本構造は、金、金、金だ。
 それでさ、バチ当たりっつーかなんつーか……『聖像』とか、結構いい値がついたりするんだよ……」

像そのものは青銅の鋳造品だったりして大した価値のあるものではないが、タニングラードでは特殊なプレミアがつく。
敢えて神罰を恐れず聖物を穢す悦楽。おじさん曰く、『大人は背徳を悦ぶ』だとか……複雑な愉悦もあったものである。

「つーわけで、ここまでの情報をまとめるぜ。モーゼル邸へ正面から足を踏み入れる方法は2つ。
 買い手になるか、売り手になるかだ。買い手になるなら入場券を兼ねたカタログの入手が必要。
 売り手になるなら、価値のある品をどこかから盗んでくる必要がある。プレミア付きならなお良し」

フラウはエールを飲み干して、自分の分の小銭だけテーブルの上に放った。
薄汚れた陶器の皿の中で錆びついた銅貨が音を立てて弾け、店員がお勘定に気付いて歩いてくる。

「……そろそろ祭りも終わりだな。怪しまれる前に路地裏に戻ろうぜ」

壁に据え付けられた油時計は、子供の寝る時間をとっくに超過していることを告げていた。
ここから先は、眠らない街の、眠らぬ大人たちの時間である。


【作戦会議その2】

177 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/15(水) 03:21:34.22 0
>「ウけちまえよ!ヨウはあやしーヤツぼこっちまえばいいだけだろ?タンジュンなハナシじゃないか!」

ロンはあくまで明朗な応えを返す。如何なる懸念であっても、ようは問題にならなければ良い。
万が一、クローディアの懸念通りの輩と遭遇したとしても。今度こそ引導を渡してやればいいだけだ。
今の『商会』は強い。ダニーがいて、ロンがいて、ナーゼムがいれば――

>「オレタチをシンヨウしてくれよ、シャチョー。オレタチがいればムテキだぜ!」

――無敵だ。負ける気がしない。

>「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ダニーはまた別の見地から意見をくれる。
もともと棚から落ちてきたシフォン・ケーキのようなものだ。食いっぱぐれても懐は痛まない。
やってみて、合わなければ辞めれば良い。リスクのないトライアル・アンド・エラーほど気安いものはない。
そう、気安い――どんと構えていれば良い。行動選択の引き金を引けば、あとは優秀な部下たちが結果を運んできてくれる。

(本当、良い部下に恵まれたもんだわ――)

彼女は常に経営者として、孤独な決断を強いられてきた。
この投資に利益は出るのか、何年かけて回収すれば良いか……考えても考え足りない。答えは時間に任せるしかない。
やらなきゃ分からぬことばかり――そして、わかったときにはもう手遅れなんてことは星の数よりざらにある。
結局、最後にモノを言うのは度胸なのだ。向かい風に目を瞑らない強固な意志。
ヘタレでも、ビビリでも、今は信頼のおける部下たちが背中を支えてくれる。敵前逃亡の逃げ道を、塞いで後押ししてくれる。

>「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

悪いようにはならないだろう、と胸を叩くダニーの自信の出所はわからないけれど。
そう言ってくれる部下たちに、応えたいという気持ちが芽生えた。

「……オッケ、乗ったわその話。業務委託契約の約款を作りなさい。業務内容、各種支給品目録、日当は特に内訳も明記して」

クローディアの遺才魔術は雇用した者の懐に日当を時間割した棒給を自動で払い込む。
商会と『白組』の間で交わされる契約は『業務委託』――
俗に言う下請けと呼ばれる形式であるから、棒給の決定権は白組にある。この場合は、黒組の給与と等価になることだろう。
ダニーとロンに対する指揮命令権も白組に移るため、約款(委託契約の決まりごとのリスト)は明確に決定しなければならない。
当日は、クローディアの指示ではなく、白組に要求された約款の範囲内でダニーとロン本人に行動決定を委ねることになるからだ。

「承りました。契約仲介人はこの私、『黒組』代表取締役のランゲンフェルトが申し受けます」

向かいの席から立ち上がった黒組の頭領が、幸せそうに床に伸びている部下の頭を蹴って起こし、雑事の指示をする。
程なくして用意された羊皮紙に、両組織の頭目同士が頭をつき合わせてあれやこれやと墨を走らせていく。
やがて、羊皮紙三枚にも及ぶ契約書がクローディアの御前に揃えられた。

「では契約内容を掻い摘んで申し上げます。

 ◆クローディア総合商会(以下『商会』)の当日の指揮決定権は『白組』に属する。
 ◇ただし、現場での判断は約款の範囲内で個々人の裁量に求めるものとする。
 ◆当日は外貌での判断を容易にするため、指定された衣服を着用して業務にあたること。
 ◇待遇・指揮系統については黒組のものを準拠とする。
 ◆業務内容とは、ホスト・ゲストの警護及び無資格入場者の排除である。
 ◇なお排除にあたって肉体的な暴力を用いることを許すが、タニングラード唯一法に則り武器・戦闘系魔導具の使用を禁ずる。

 ――概要はこんなところでしょうか。質問があれば聞いて下されば私共の裁量でお答えします」

「契約はあたしの責任で行うけど、あんたたちも一応目を通しておきなさいよ。
 実際に現場で戦うのはあんたたちなんだから、自分の働きが制限されるようならガンガンケチつけてやんなさい」

178 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/15(水) 03:22:24.31 0
クローディアは小ぶりのナイフで小指を小さく切り、親指にその血をつけて契約書に拇印した。
遺才の宿った血によって締結された契約は、契約当事者の翻意があっても必ず履行される強制力を持つ。
これまで使わなかった彼女に知る由もないが、クローディアの能力は購入に限らずあらゆる契約を保証するものらしかった。
立場が変わったことによって新しい発見がある。家を捨て、背負うものの重さを知った彼女の能力もまた、成長を遂げていた。

「では当日着用となる衣服の丈合わせも兼ねて、モーゼル邸の概略をご説明いたします」

黒組の部下たちがダニーとロンのために用意した服は、濡れた烏のように黒い背広だった。
ちょうど黒組頭領の来ているものと同じで、どうやらこれが黒組の正装のようだ。
上等な黒絹で魔術的に織られおり、見た目に反して非常に堅牢な作りをしている。ちょっとした刃なら繊維に傷すらつかないだろう。
頭領の説明によれば、鎧すら持ち込めないこの街においては最上級の防御力を誇る品だそうだ。

「モーゼル邸は庭園・本館・ゲストハウスの3つに大別されています。
 庭園には動体検知の術式が張り巡らされており、お渡しした黒背広を着用した者以外に動く者があれば即座に通報されます」

「ゲストやホストはこんな不景気な召し物着てないんでしょ?どうやって判別してるのよ」

「この背広は動体検知術式と関連付けがされていましてね。背広を着た者が認識した者も検知から除外されます。
 当日は庭園に出られるお客様には必ず一人以上の警護員が同行する仕組みになっているわけです」

「お屋敷一つ守るのに随分と高度な技術を使ってるのね。これ、帝国のものじゃないでしょ?」

「いかにも、共和国から『盗んだ』技術です。白組は万物を取り扱う盗品市ですから、このようなものも時々出品されるんですよ」

黒組頭領は誇らしげに解説した。盗っ人猛々しいとはこのことだとクローディアは肩をすくめた。
そら恐ろしい話だ。法律のないこの街のほうが、時代の進みが帝都より早い。
それじゃまるで、この街の腐りきった現状が正しい未来の形みたいではないか。

「正門から入ってすぐの庭園を抜けた先に本館がございます。二階吹き抜けのホールがありまして、オークションはそこで。

 館の右端に警護員詰所がありますので、勤怠シフトを確認して休憩や着替えはここで行なってください。
 シフト表もここに貼ってあります。戸棚には携行食料が買い溜めしてありますので、必要であれば持って行ってください。

 館を左に行くとゲストハウスへ繋がる渡り廊下があります。そちらの警護は管轄外ですので無用な立ち入りは控えてください。
 渡り廊下の手前にある給仕室では警護員の皆さんの分のお夜食も作っています。休憩時間にどうぞ」

179 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/15(水) 03:22:55.70 0
机の上にガラス玉ほどの球体に耳掛けのついた器具が並べられる。

「念信器です。共和国からの輸入品で、帝国ではまだ実用化に至っていない装身具型の最新機です。
 無線念信は国内では軍用のものしか認められていないので、暗号化はしてありませんが使用には影響しないかと」

これにはクローディアも目を瞠った。共和国ではこんなものまで商品化されているのだ。
念信器と言えば民間では有線しか認められていない、軍用の無線念信器でも非常にかさばるものだというイメージが定着している。
ところがこれは、まるで大振りのイヤリングのようで、しかも無線念信なのだと言う。
南方共和国が技術的に先進国であるとは聞いていたが、ここまで高度な代物を完成させているとは……。
暗号化していないということは、軍の無線念信器で容易に傍受できるということだが、この街には軍はいない。とりこし苦労だろう。

「当日、貴女がた商会さんは第七警護班として警護課の指揮に入って頂きます。
 警護『課』……そう、従士隊の警護課です。当日はモーゼル氏より従士隊に警護を依頼されます。
 つまり、競り市開催日のあなたがたの公的な身分は、『従士』ということになりますね」

「ずぶずぶじゃないの!」

クローディアは我慢できずに飛び上がった。汚職どころの話ではない。
皇帝より剣を授かり、国民の守護のために戦うはずの従士隊が、この街では犯罪組織を守るために使われている。

実際に市民を害するわけではないかもしれない。あくまで『名義貸し』だ、警護員に従士の身分をくれてやるだけなのだろうが。
それでも、クローディアは、同じ従士の『あの部隊』を知っているからこそ、目を剥かずにはいられなかった。
しけれども黒組の頭領は平然と、算術を嫌う子供を諭すような口調で言うのだった。

「何を驚かれることがあります?この街には――『悪党の手先になり下がってはいけない』なんて法律はないんですから」


【交渉成立。当日の業務説明と衣装合わせ。丈合わせが済んだら宿に帰り、次ターンで5日後に移行します】

180 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/15(水) 08:55:50.15 0
ファミアの案内でホテルまで進む一行。
男一人を背負うボルトは必然的に息も上がってくるが、その重みがありがたくもあった。
重みがある。ちゃんと生きてる。部隊を預かる身として、部下の命を背負う者として。
背中越しに伝わるフィンの重さは重圧であると同時に、おれはこいつを取りこぼしていないぞと確かめることができた。

>「……このまま、指揮を執っていていいんでしょうか」

道中、先行するファミアがぽつりと念信越しに呟いた。
前を進んでいる為に表情が見えない。彼女がいま、どんな顔をしているのか、わからない。

>「みんなが何を持ってるかも確認してなかったし、簡単に部隊を分けちゃうし。
 この街に入る時だってなにも思いつかなかったから、じゃあ下手に装うよりこっちのほうがって。
 そのせいで必要のない怪我をさせて、必要のない回り道をしてます」

言葉の節々に水音を混じえながら、訥々と述懐するのは、フィンの怪我のことを言っているのだろう。
誘拐犯――貴族を狙った凶行の的となったのは、ファミアが貴族の仮身分を設定したためだと。
ボルトは事実を否定しない。もしもファミアが貴族でなければフィンが轢かれなかったというのは、確かにその通りなのだ。
例えそこに介在する責任がファミアになくとも。彼女が自分を責めることを止める謂れはボルトにはない。

>「暫定的なものとは言え、私は人の上に立てる器じゃないです。今からでも誰かに代わりを……」

そしてついに言ってしまった。
課長として命令した陣頭指揮の辞退。ボルトは上司として、部下の陳情に向き合わなければならない。
適格か非格か、答えを出さなければならない。

>「……心配すんな、大丈夫だ」

背中から声が聞こえた。息も絶え絶えのフィンが、声を出すだけでも相当苦しいだろうに、はっきりとそう述べた。
そこに込められた意味が、果たしてファミアの訴えのどこにかかっているのやら、わからないけど。

「なあアルフート。お前『フェアデフェルテの冒険』って知ってるか?十年ぐらい昔に流行ったすごろく帳なんだがな。
 景気の良い時に親父が買ってきてくれたこいつがおれは大好きで、農閑期の暇なときは兄弟とよく遊んだもんだ。
 このすごろくの面白いところはな、初めの一歩でゴールにまで進める分岐が、スタート地点から示されてるってことなんだ。
 でもゴールの前には門番がいて、こいつを倒すためのサイコロの判定が激シビアでな。
 まともに戦えるようになるには、遠回りのルートでいくつか手に入るアイテムを使ってコマを強化してやらなくちゃならねえ。
 どのタイミングでアイテム収拾をやめて門番を倒しに行くか……その見極めが白熱する面白いゲームだった」

教導院に入ってからも、寮でメンツを揃えて消灯時間ぶっちぎりで盛り上がったものだ。
そこにはあのリフレクティアや、二年前に死んだ相方もいた。強化アイテムの売買や同盟など、遊び方も工夫したものだった。

「言っとくがな、アルフート。おれがお前に高く買ってるのは遺才とか、まして指揮力じゃないぞ。
 どんな窮地からでも必ず生還する『生存力』だ。ダンブルウィードで魔獣に囲まれたときもそうだったがな、
 ウルタール湖での一件、お前がいなけりゃ俺たちは今こうして生きちゃいない。わかるか――お前が救ったんだ。
 パンプティのことだってそうだ。この大怪我で馬車もあの有様だってのに、こいつがこうして生きてるのは、どうしてだ?
 お前は遊撃課の中で一番、自分と他人を"生き残らせる"ことに秀でてんだ。無事とは言えなくても、確かに生きてる」

ウルタールの水の底に、今も眠っているだろう部下のことを思う。
はじめ、遊撃課という元老院からの預かり物部隊を傷物にして返したくはないという、社会人としての責任感だけが先行していた。
今は、言うこともロクに聞きやしないこの癖者揃いの部下たちを、失いたくないというボルト自身の願いがある。
死んだ相方の立場を代行させようとしているのか、と自嘲染みた呵責があった。
だが、今なら違うと言い切れる。当然なのだ――『仲間を死なせたくない』なんて、誰もが持っていて当たり前の気持ちは。

181 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/15(水) 08:56:05.44 0
「『回り道』でいいじゃねえか。直進した先にある罠を、迂回して回避したのならそれは妥当な判断だ。
 結果論だって思うか?でもな、現場は結果が全てだろ。お前はお前の回り道を、『必要だ』って思って良い。
 お前自身がそいつを肯定するんだ。いいか、命令だぞ?――全員生きて帰らせろ。お前の状況は、まだ終了しちゃいない」

おれの状況もな――とボルトは付け加える。
何も終わっちゃいない。ユーディの足取りはおろか、牽制のための布石も打っていない。
ボルトはファミアの進言を、『否定』する。否定の最果てで更に否定すれば……それは紛れない肯定だ。

「おれたちの戦いはこれからだ。十年後も、二十年後も、生きてる限り戦いはこれからだ。
 死なないってことは、負けてないってことだぜ。生きて帰って、三十年後も戦いはこれからだって言えたなら――」

ファミア・アルフートはそのための力を持っている。
昨日死んだ奴が死ぬほど欲した、『生還』という力をその人柄に宿している。
魔族の血でも受け継いだ才能でも如何なる眷属でもない、生き方そのもので体現している。

「――そうなったら人類、最強だろ」

それは、従士の間でよく口にされるスラング。ボルトが遊撃課の前でこれを言ったのは初めてだった。
彼が課員達に意識していたお客様感が、胸の中から綺麗になくなっていた。

「……ところでもう随分歩いたが、ホテルはまだか?どこの部屋をとったんだお前」

不審に思い、ファミアの肩越しに地図を覗き込む。
四つ折りを広げた羊皮紙には、ホテル側が書いたであろう略図が走っていたが……何かがおかしい。
具体的には略図に点々と書かれた説明書きが、天地を逆転している。

「おい……これ、もしかして逆――」

言いかけて、はっとボルトは口をつぐんだ。
ついさっき『回り道でいいじゃねえか』とかイイ顔して演説ぶった手前、指摘するのも憚れる。
もしかしたら、ファミアなりに考えてこういうルートをとったのかもしれないし。

(間違いねえ。アルフートのことだ、まっすぐホテルへ向かうと尾行される恐れがあるとかで……)

しかし、そろそろ本気でフィンがヤバいことも確かだ。
浅い呼吸は今にも途絶えそうだし、身体を密着させて保温を図っているが、タニングラードの夜は確実に体温を奪っていく。
早急に専門の措置――『造血』や『保全』の魔術を扱える医術者に診せねばなるまいが。
医者を呼ぶにも、きちんと環境を整えた場所、できれば密室が欲しい。
もういっそそこらへんに新しく宿を取ろうかと考え始めたその時。

「いや待て、こっち方面って確か――」

――特段自分に人を見る目があるとは自負しないボルトだが、ことファミア・アルフートに限っては見立ては正解だったと言う他ない。
ホテルとは逆方向に街を進んだ一行がたどり着いたのは、タニングラードにあって閑古鳥の鳴く煉瓦小舎。
医術院である。


【逆さま案内で医術院に辿り着くという神プレー。 治療の成否・描写は各々に委ねます 次ターンで前半終了ロールに移行します】

182 :GM ◆E5P0sXMMBE :2012/02/15(水) 17:50:23.97 0
「『回り道』でいいじゃねえか。直進した先にある罠を、迂回して回避したのならそれは妥当な判断だ。
 結果論だって思うか?でもな、現場は結果が全てだろ。お前はお前の回り道を、『必要だ』って思って良い。
 お前自身がそいつを肯定するんだ。いいか、命令だぞ?――全員生きて帰らせろ。お前の状況は、まだ終了しちゃいない」

おれの状況もな――とボルトは付け加える。
何も終わっちゃいない。ユーディの足取りはおろか、牽制のための布石も打っていない。
ボルトはファミアの進言を、『否定』する。否定の最果てで更に否定すれば……それは紛れない肯定だ。

「おれたちの戦いはこれからだ。十年後も、二十年後も、生きてる限り戦いはこれからだ。
 死なないってことは、負けてないってことだぜ。生きて帰って、三十年後も戦いはこれからだって言えたなら――」

ファミア・アルフートはそのための力を持っている。
昨日死んだ奴が死ぬほど欲した、『生還』という力をその人柄に宿している。
魔族の血でも受け継いだ才能でも如何なる眷属でもない、生き方そのもので体現している。

「――そうなったら人類、最強だろ」

それは、従士の間でよく口にされるスラング。ボルトが遊撃課の前でこれを言ったのは初めてだった。
彼が課員達に意識していたお客様感が、胸の中から綺麗になくなっていた。

「……ところでもう随分歩いたが、ホテルはまだか?どこの部屋をとったんだお前」

不審に思い、ファミアの肩越しに地図を覗き込む。
四つ折りを広げた羊皮紙には、ホテル側が書いたであろう略図が走っていたが……何かがおかしい。
具体的には略図に点々と書かれた説明書きが、天地を逆転している。

「おい……これ、もしかして逆――」

言いかけて、はっとボルトは口をつぐんだ。
ついさっき『回り道でいいじゃねえか』とかイイ顔して演説ぶった手前、指摘するのも憚れる。
もしかしたら、ファミアなりに考えてこういうルートをとったのかもしれないし。

(間違いねえ。アルフートのことだ、まっすぐホテルへ向かうと尾行される恐れがあるとかで……)

しかし、そろそろ本気でフィンがヤバいことも確かだ。
浅い呼吸は今にも途絶えそうだし、身体を密着させて保温を図っているが、タニングラードの夜は確実に体温を奪っていく。
早急に専門の措置――『造血』や『保全』の魔術を扱える医術者に診せねばなるまいが。
医者を呼ぶにも、きちんと環境を整えた場所、できれば密室が欲しい。
もういっそそこらへんに新しく宿を取ろうかと考え始めたその時。

「いや待て、こっち方面って確か――」

――特段自分に人を見る目があるとは自負しないボルトだが、ことファミア・アルフートに限っては見立ては正解だったと言う他ない。
ホテルとは逆方向に街を進んだ一行がたどり着いたのは、タニングラードにあって閑古鳥の鳴く煉瓦小舎。
医術院である。


【逆さま案内で医術院に辿り着くという神プレー。 治療の成否・描写は各々に委ねます 次ターンで前半終了ロールに移行します】

183 :GM ◆E5P0sXMMBE :2012/02/15(水) 17:50:45.72 0
しまった手違いで2重カキコしちまった

184 :名無しになりきれ:2012/02/15(水) 18:39:28.41 0
一つ良い事考えた
レギオンじゃなくてレギヲンにしない?

185 :名無しになりきれ:2012/02/15(水) 22:19:38.87 0
キモヲンで良い

186 :名無しになりきれ:2012/02/16(木) 18:06:04.99 0
どうでもいい

187 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/16(木) 23:57:30.31 0
>「お手柔らかに頼む」

ハルトムートと盤上に駒を並べ、譲られた先攻権でウィットはポーンを爪弾いた。
ウィットはこのゲームが好きだ。どんな駒にも役割が与えられていて、戦略上無駄になるものが一つもない。
王から雑兵まで全ての駒に共通の意志が通っていて、訳もわからず前線で右往左往するなんてことはありえない。
ウィットは人に顎の先で使われることについてはどうとも思わないが、しかし真意の見えない命令には承服しかねる男だ。
自分の行動には、必ず意味があって欲しい。ただ振るわれるだけの『剣』じゃなく、最良を選択できる『兵』で在りたかった。
苦い過去を思いながら、『銀貨の女』の話を聞く。

>「――新聞社と学校を作りましょう。この都市に」

マロン・シードルの提示した"プラン"は二つ。
犯罪者の情報に懸賞金をかけ、また証言者を保護する制度を整えたハンターズギルド庇護下の『新聞社』。
そしてこの街の貧民層の学力的・魔術的な水準を引き上げ住民全体に自衛力を持たせるための『学校』。
二つの提案の本質は、『住民が犯罪者に対して攻撃力を持つこと』――つまり、住民の存在そのものを犯罪抑止力にすることだ。

>「――人類、最強だと思いません?」

(なるほど――シンプルながらも大局的な妙案だ。確かにその制度が整えば、この街の治安はたちまち向上するだろう)

ウィットは内心で舌を巻く。『銀貨』の情報網がそうさせるのか、マロンの提案は現場よりも客観視をうまく取り入れた印象がある。
なるほど『外』の人間らしい提案だ。それでいて、そこに暮らす人々へのケアも忘れず盛りこんである。

>「チェック。…俺は特にない。」

しかし、

「……金はどうする?そんな、行政クラスの事業を起こそうとすれば、莫大な金が要るだろう」

問題は、そこ。『世の中をこうすれば良く変わる』なんてことは、大人になれば誰もが考えうることだ。
改善する具体的なプランを提示できる大人は大勢いるのに、どうして世の中が一向に良くならないかと言えば、それは金がないからだ。
そして金のある人間は――そもそも世の中を良くしようなどとは考えない。現状で満足しているからだ。
金のある今の身分を手放してまで、見ず知らずの他人のために私財を擲てる者がいるとすればそれは、愚者か賢者か――

(お前はどっちだ?マロン・シードル――!)

>「心配ご無用ですよ」

マロンは他ならぬ銀貨を指さして言った。
それが意味するところを、ウィットが知っている。

「帝権を濫用できるのか――?皇帝陛下がそこまでこの街のことを……」

皇帝直下の隠密特務である以上、通常行政のように国庫から金を引っ張ることはできないだろう。
皇帝のポケットマネー……という線も考えにくい。いくらなんでも国策事業クラスの予算をプールする余裕なんかこの国にはない。
魔力資源と人的資源に恵まれた帝国だが、二年前の帝都大強襲や『ヴァ不ティア事変』の復興に相当な予算を費やしている。
ましてや西方エルトラスとの緊張状態にあえい、軍拡の機運高まる現在、タニングラードに投入できる国家予算などあるはずもない。

188 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/16(木) 23:57:48.25 0
となれば、造幣局を動かして新しく貨幣を増産するしかないが、これも多大なリスクを伴う。
それだけの金を一度に市場に流せば、確実に貨幣価値は暴落しインフレーションが起きるだろう。
マロンが示した『金策』とはそういうことだ。この特務を強行するには、市場を犠牲にするほかに方法はない――はずだった。

(いや……ある。確か数ヶ月前に、国庫へ莫大な金が返還されたとか――)

帝国中央の内陸湖、ウルタール湖の湖底にて発掘された、貴族の隠し財産。
軽く豪邸が100は建つほどと噂されるそれを、従士隊の一部隊がサルベージしたと聞いたことがある。
それだ。貨幣新造ではなく、『価値のある宝』として市場に流せば、インフレを起こすことなく資金を調達することができる。
金のない帝国にとって、まさに天恵とも言えるシロモノだった。

(そうか……それで、この頃になって急に御下命があったわけか)

行政の実権を握る元老院がそのことに気付かないはずがない。
だからこそ『ウィットを使い』、皇帝に対する牽制としてタニングラードの制圧作戦を立案した――

「……わかった。『プランを実行する』ための準備はあるってことだな」

ウィットは王手をかけられたキングを、相手のキングに間断なく攻撃を続けることによって退路を拓く。
役に立ったのは辺境に放置していたビショップだった。無意味に見えて、全ての駒には意味がある。

「なら次の段階だ。『プランを維持する』ための準備――
 それだけ大掛かりな『犯罪者殺し』の仕掛けを、犯罪者が見過ごすとは思えない。
 犯罪の芽は潰せなくとも、いま大きく育った木を切り倒すことはできるはずだ」

ここからだ。この街を変え、元老院の陰謀を阻止するには、ここを乗り越えなければならない。
彼がまだウィット=メリケインでなかった頃、己を忌み呪った過去を乗り越えるために。

「この街にかりそめの平和をもたらし、それを真実に変えていくために。
 力を貸してくれ。僕一人じゃどうしようもない、その『背景』と『力』が必要なんだ――!」

ウィットはハルトムートの王に最後のクイーンを打ってチェック。
二者択一だ。クイーンを退ければウィットのキングは丸裸――しかし読み違えればハルトムートのキングは潰える。
喉元に剣先を突きつけ合うような、高揚感と心地良い緊張感を舌先に転がして、彼は言う。

「『白組』を潰そう」


【プラン承認。ウルタール湖の収穫から予算を引っ張れると勘違い。白組への介入を要請。 次ターンで前半終了】

189 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/02/17(金) 22:13:16.80 0
「はっはっは――寝言は寝てから言いやがってください。」

表情は笑いながら、しかし青筋を立てて、ノイファは言い放った。
ノイファ・アイレル23歳。名前偽り、身分を変えて、慣れぬ仕事に従事していても信仰の光は未だ消えず。
否、本来の形とは違えども、今の仕事こそが自身で成さねばならぬと神に誓った道なのだ。

そも、子供の手本となるべき大人が、言うに事欠いて"『聖像』を穢す喜び"とは如何なることか。
挙句の果てには、それを隠そうともしないこの街の構造に、ふつふつと怒りが沸くのを禁じえない。
ブリーフィングとは異なる、"おじさん"の善行を聞かされ続けたのだから猶更だ。
全く持って碌な事を教えないおっさんである。

「……失礼。取り乱しました。」

こほん、と一つ咳払い。
今はタニングラードの退廃性に義憤の矛先を向けるときではない。
優先すべきは目の前の任務である。

フラウから話を加味した上で、潜入経路は大きく分けて三つ。
買い手として参加するか、売り手として参加するか。そして罠と警備をかい潜り乗り込むか、だ。

「なんにせよ、安全に潜り込むには"資金"か"商品"、そのどちらかが必要ってことですか。」

しかし"遊撃課"としての身分を隠し、バックアップを期待できない現状では、どちらも用意するのは容易ではない。
唯一賄えそうなものといえば、先だって否定したばかりの"聖像"ただ一つ。
とはいえ駆け込み先に有る物は、長らく人の手が入っていないため損耗著しい状態だ。
果たして、意気揚々と担いで行ったとして、商品としての価値が認められるかというと、幾分怪しい。

(まあ……資金の方は容易出来なくもない、かもしれないですけどねえ)

己に宿った偉才と神官としての才。それらを十全に発揮しさえすれば無理な話ではない。
何せここは金が全てと言い切るタニングラードだ。
天井知らずのレートが飛び交う賭場の一つや二つ、事欠くことはないだろう。
神の徒としてどうなのかと悩む部分だが、自身の偉才を顧みて最も効果を発揮する分野といったら、荒事と博打なのである。

だが問題点が全く無いわけではない。
賭場荒らしをすれば当然目を付けられるだろうし、下手を打てばそこから身分が割れないとも限らない。
やるにしても課長であるボルトの承諾を得なければ色々と拙いだろう。

(むう、背に腹は換えられませんかねえ……)

実に悩ましい。任務を取るか、信仰を取るか。
先ほどセフィリアが言った様に『貴族衣装に着飾ってしれっと正面から』入れたらどれ程楽か――

190 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/02/17(金) 22:13:36.27 0
(――いや、有りじゃないですか)

天恵の如く閃くものがあった。

「盗品……、人身売買……、高貴なものを穢す……、そうですよっ!」

がば、と顔を跳ね上げた。
高貴なものは何も神の姿だけとは限るまい。人の身でありながら高貴とされるものもある。
即ち――貴族。強き力は尊き血筋に宿る。それゆえ、遊撃課員には貴族階級の出自も少なくない。

現にここだけでも二人。
帝国内外にその名を轟かす大貴族の姫君が居るのだ。
例えばフランベルジェかセフィリアのどちらかを"商品"とし、売り手として潜り込めれば、それだけで二人の戦力を中に送り込める。

(でもそれだけじゃ不十分ですよね)

入った後、館の中で騒動があったときの保険が必要だ。

(セオリーから行けば外で一騒ぎ、ってところですか)

となればセフィリアは除外すべきか。
何せ屋敷の外にはお誂え向きの代物。作業用ゴーレムがわざわざ用意されているのだから。
彼女の操手としての腕前は、ダンブルウィードの一件で十分以上に信用に足ると証明済みだ。

「良いですねえ、段々目処が立ってきましたよ。」

くつくつと笑いながら、ノイファは椅子の背に体重を預ける。
杯に残った薄いエールを一息で飲み干し、テーブルの上へと戻す。

>「……そろそろ祭りも終わりだな。怪しまれる前に路地裏に戻ろうぜ」

フラウに倣って皿の中へと勘定を入れ、席を立った。
小気味良いベルの音を立てる喫茶店の扉を押し開け、店内を一眺め。
こちらを気にする様子を見せる客は、一先ずなさそうか。

『大丈夫だとは思いますけれど、一応尾行の確認をお願いします。』

耳に手を添え、呟くと路地裏へ向け歩き出す。

191 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/02/17(金) 22:14:08.33 0
少し前に大立ち回りがあったばかりの路地裏は、しかし何事も無かったように整然と整えられていた。
先ほどまで暖気の利いた店内に居たせいか、肌に刺さる風が寒さを増している気がする。

「お疲れ様です。」

両の手に息を吐きかけながら、後から来る仲間に声をかける。
全員揃ったのを見計らって、ノイファはフラウへと視線を向けた。

「さてと、もう大分遅いですし、手早く済ませてしまいましょうか。」

もちろん五日後のオークションの話をだ。
決めておくことは多い。

「先ずは結論から言うと、売り手として参加する方向で話を進めましょう。」

その場の全員を見回し、告げる。

「商品はこちらで用意します、何を出品するかは決まり次第ということで。
 連絡の手段は……そうですね、何か良い方法があるならばそちらにお任せしますが?」

大っぴらに何度も路地裏を訪れるのも不自然だし、なによりフラウたちが拠点とする場所を問い質すのも警戒を招くだけだ。
子供たちの誰かを"つなぎ"とする程度が距離感としては丁度いいだろう。

「例の品は競り落とすのも難しいでしょうし、オークションに紛れていただいてしまいましょう。
 ですが、そうなると今度はお屋敷から出るのが難しくなりますので、そこで――」

一度区切り、視線をセフィリアへ。

「――同時に外でも騒ぎを起こします。
 こちらの主戦力はもちろんリアさんに。丁度良い"道具"も有ったようですし。」

ね、と首を傾ぐ。些か仕草が若すぎただろうか。
皮肉を投げかけた同僚はもう居ない。

「フラウさんたちは当日まで出来る限りモーゼル邸の監視を。
 警備の……穴は望みすぎでしょうけど、"癖"くらいはあるかもしれませんしねえ。」

相手は従士隊も抱き込んでの万全の警備体制だ。
しかし、だからこその油断もあるだろう。僅かでも綻びが見つけられれば御の字である。

「こんなところですかねえ。」

他に何かあれば、と付け加え、言葉を切り――

「あ、そうそう。当日ですけれど、こちらの人員増えるかもしれませんので――合言葉でも決めておきます?」

――もう一度、視線を巡らせた。

192 :名無しになりきれ:2012/02/18(土) 00:17:31.90 0
ノイファ ◆QxbUHuH.OE パクリ乙

193 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2012/02/18(土) 16:14:43.08 0
地図の上にできはじめた染みは、結ぶと三角形を描いていました。
>「……心配すんな、大丈夫だ」
涙滴が紙を叩く音に混じってフィンの絶え絶えな声が聞こえてきました。

その『大丈夫』は自身の怪我にかかっているのか、ファミアの資質なのか。
発した当人にも判然としないその言葉に、大丈夫そうじゃない人にそんなことを言われても、と
ファミアはいささか拗ねた思念を浮かべました。
十四歳、素直でいることには不慣れなお年頃です。

>「なあアルフート。お前『フェアデフェルテの冒険』って知ってるか?十年ぐらい昔に流行ったすごろく帳なんだがな」
泣きすぎて早くもえずくレベルに達しているファミアに、課長が声をかけました。
そんな歳じゃないから知りません、と返そうとしましたが声が出ません。
その間に課長は言葉を接いで、すごろくの仕組みについて説明してくれました。

自分なら間違いなく強化しきってから門番へ向かうだろうなあと、
誰に聞いても予想通りであろう答えをファミアは出しました。
>「言っとくがな、アルフート。おれがお前に高く買ってるのは遺才とか、まして指揮力じゃないぞ。
> どんな窮地からでも必ず生還する『生存力』だ」
そんな想念を引きずって歩く背に、さらに声が投げかけられます。

>「お前は遊撃課の中で一番、自分と他人を"生き残らせる"ことに秀でてんだ。無事とは言えなくても、確かに生きてる」
ウルタールの、静かな湖面の下に未だ眠ったままのサフロールのことが思い返されました。
もしも同じ隊だったら、彼も生きて帰れたのでしょうか?
さすがにその問いに頷けるほどファミアは自惚れてはいません。
それでも、何かできたのかも知れないという抱くだけ無駄な気持ちはどこか心の隅にへばりついています。

>「『回り道』でいいじゃねえか。直進した先にある罠を、迂回して回避したのならそれは妥当な判断だ。
> 結果論だって思うか?でもな、現場は結果が全てだろ。お前はお前の回り道を、『必要だ』って思って良い。
> お前自身がそいつを肯定するんだ。いいか、命令だぞ?――全員生きて帰らせろ。お前の状況は、まだ終了しちゃいない」
「……はい」
正直なところファミアの性格では自己肯定が一番の難題だったりするのですが、
上官にそうまで言われては従うよりほかありません。
それでもやっぱり、指揮を預かるというのは重たいものです。だから――

194 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2012/02/18(土) 16:15:53.47 0
(――だから、生きて帰ろう、みんなで)
もしファミア自身が命を落すようなことがあれば責任がどうこう言ってられません。
一方で他の課員が亡くなったら責任を預けられる人間が減ります。
後で悩んでへこんで愚痴愚痴言うために、いま目前の忌々しい現実に向かって立つ。
それが、ようやく涙を飲み込んだファミアが下した、ごくごく当たり前の結論でした。

>「おれたちの戦いはこれからだ。十年後も、二十年後も、生きてる限り戦いはこれからだ。
> 死なないってことは、負けてないってことだぜ。生きて帰って、三十年後も戦いはこれからだって言えたなら――
> ――そうなったら人類、最強だろ」
最強の称号より平穏がほしいなあと、地図から空へ視線を向けたファミアは切に思うのでした。
そもそも、そんなに長いこと戦いの場にいるつもりもありません。
もっともただ生きているだけでも十分に戦う相手はいるものですが。
例えば世間の目とか舅姑とか、色々と。

>「……ところでもう随分歩いたが、ホテルはまだか?どこの部屋をとったんだお前」
「地図ではもうすぐそこなんですが……」
左右へ首を巡らせてみてもどうも宿らしきものはなく、代わりに目に映ったのは蛇と杖。
おおむねどこでも通用する医療施設の紋章でした。
少し地図の印からずれていますが、ほぼ同じあたりです。

(あれ、これホテルの地図じゃなかったのかな……)
ファミアはそのずれを、読み方ではなく地図そのものが間違っているためと結論づけました。
とはいえ色宿にでもたどり着いて、課長の誤解に拍車をかけた上に鞭を入れて手綱をしごくことになりかねなかったところを、
曲がりなりにも目的は果たしたことになるわけで、やはり結果が全てですね。
小なりとは言え集団の上に立とうというなら、必要なのは才能とか努力とか臆病さより運なのかも知れません。

さて課長はフィンを背負って両手がふさがっています。ここはファミアが先に立たねばならないでしょう。
「たっ、頼もーぅ!」
間違ってないけど少々語弊のある掛け声と共に門を開きました。
それから、すぐに駆け出てきた白衣の人物に怪我人がいる旨を伝えて脇に退きます。

あとは患者当人に残ってる体力や運や意志の問題で、
余人が手を出せる領域の話ではありません。
決意とは裏腹に、残された者にできることは手を合わせることぐらいです。
――良い結果が出るようにか、悪い結果が出てしまった後かの違いはあるにせよ。

【誰か助けてください】

195 :名無しになりきれ:2012/02/18(土) 23:33:58.61 0
>>194
よーし!俺が助けてやる!

【ファミアが白い光に包まれて20mほど浮く】

196 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/02/19(日) 22:23:14.94 0
『自信とカラ元気は同じもの』というのが母の教えだった。
どちらも根拠は無く、人に向けるか、自分に向けるか、違いはそれだけだと言う。
実の所、ダニーの自信もその教えに則ったものである。

病弱で、それでいて現実的で、自分の死期を悟ってきっちり死んだ育ての親は、
ダニーに多くの物を遺した。それは、彼女がとって置いたと表現した方が、
或いは合っているのかも知れない。

彼女は犯罪者で、敗北者で、外道で、人殺しだが、悪党になり切れない悲しみがある。
そもそも情薄くただ力に屈するだけならば、身の丈に良心と行動力が伴わなければ、
誰も道を踏み外すことはできない。

言うまでもなくダニーは前科者であるが、好き好んでそうなった訳ではない。ただ厭わなかっただけだ。
そんな彼女の、獣が懐くように気に入った誰かが道を踏み外そうとしているのを、
他でもない彼女自身が面白い訳は無く。

「道具は使う人間次第で善くも悪くもなる」だとか「その人の人生はその人のもの」だとかいう
通り一辺倒の無責任な正論は、時に使用済みのナプキンにも劣る。
ダニーには、そんなちっぽけな正しさで今のクローディアを見過ごす気も無かった。

>「……オッケ、乗ったわその話。業務委託契約の約款を作りなさい。業務内容、各種支給品目録、日当は特に内訳も明記して」
>「承りました。契約仲介人はこの私、『黒組』代表取締役のランゲンフェルトが申し受けます」

先程は言わなかったことだが、ダニーの本心としてはこの仕事を失敗させるつもりだった。
敢えて受けろと言ったのは、ここで受けなければ、黒組から上役へと連絡が行き、
暗闘の日々を呼ぶ危険があったからだ。だが受けてさえしまえば後日、喉笛近くまで迫れる日が待っている。

「では契約内容を掻い摘んで申し上げます。」
ランゲンフェルトと名乗った男がつらつらと内容を読み上げていく。
 
(・・・・・・)
やはり、とダニーは思った。契約内容はこの街と主催の性格がよく出たもので、
悪党の割に簡潔である。それ故に強い力が伺えるがもっとも、それは商売上の信用だとか、
社会通念だとかの類とは縁遠い何かに裏打ちされたものだ。

197 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/02/19(日) 22:25:29.74 0
そして何より裏切りを想定していない。また客とそうでない者の区別も書いていない。
床以外はまだまだ小綺麗な室内で、ダニーは黒組の頭領の言葉を聞きながら、
渡された服にその場でさっさと着替えた。色気の全くない下着を選んだのが功を奏したようだ。

当然といえば当然だが、用意された燕尾服は大きめの男性用のものだった。
始めから女性用というのはないのかも知れない。
袖を通して体の動かせる範囲を確認すると意外にも普通の背広と違い、
着ていて病気になっていくような窮屈さは感じなかった。

>「ゲストやホストはこんな不景気な召し物着てないんでしょ?どうやって判別してるのよ」
>「背広を着た者が認識した者も検知から除外されます」
クローディアの質問で、先ほどの「客とそうでない者の区別」に答えが出た。
燕尾服を着た人間にエスコートされた者が客として認められる。

言い換えれば、相手が「誰」か、「何」かの線引きは黒服が、引いてはその上司が決めているのだ。
加えて黒組の本来の業務は誘拐だ。ここからはダニーの推測だが、黒組の本来の標的とは
オークションに来た人物なのではないか。

これなら行きずりを拐うよりもよほど安定している。買う側を今度は買われる側にするという、
あたかもカニの呼吸を彷彿とさせる手口だが、「買い物をして金がなくなったゲスト」を
「無資格入場者にして」また品物にする。なんとなく、そんな図式が見えた気がした。

次に館の内部の説明を受けて、念信器を受け取る。死人の目よりまし程度の
輝きを放つそれ耳につけると、ロンの方を向いて早速通信の確認をする。

(・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・)
もしもし聞こえるかー、もしもし、と初心者同然の使い方をした。
そして「それを付けたまま」契約内容の確認をして、最後にランゲンフェルトを罵って締める。
これはいい。相手がつけてなければ悪口も言い邦題だ。彼女は満足気に念信器を外す。

説明がほぼ終わった頃、ダニーは再び考える。未だ肝心の「どうやって仕事を流すか」が思いつかない。
会場を襲うにもなるべくクローディアの不利にならぬようにしたい。そのためには、
まず自分が商会の人間だとバレてはいけない。

手っ取り早いのは自分の代役を立てることだが、流石にそれはできまい。
となれば中で入れ替わるしかないが、そんな機会が果たしてあるかどうか。

198 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/02/19(日) 22:27:21.27 0
「・・・・・・」
俺はコレでも女だ、ちゃんと女性用の服を用意してくれとランゲンフェルトにとりあえずケチを入れる。
できればことなら予備の燕尾服をここで手に入れておきたかったからだ。

>>「ずぶずぶじゃないの!」
考え込んでいると社長の怒声と悲鳴がないまぜになったものが響いてはっとする。
クローディアの反応にではなく、直前の黒組の頭領の言葉にだった。
今、彼は「競り市開催日のダニー達の公的な身分は、『従士』ということになる」と言った。

ーここ数日、従士隊で資金の流れが活発なってるのー
不意に、この街の入口で聞いた言葉が急に蘇り、脳裏に単語が次々に浮かんでいく。
従士隊、警護課、オークション、名義貸し、断片的な情報から、ダニーはそれがこの日の
ための動きだったのではと見当を付ける。結論から言えば別件なのだが知る由もない。

『穏便』に目的を成し遂げるには、武力以外の物が必要だった。金もそうだがなにより、
「従士隊に成り済ましたダニーに成り済ました誰か」が欲しかった。しかし彼女には調達できない物だ。
フィンとファミアの誘拐から面倒なことになったと目を瞑った瞬間、その時何故かノイファの顔が浮かんだ。

待てよ、とよくよく思い出してみる。フィンは以前ノイファと共に居た。ノイファはメニアーチャ縁の人物だ。
そして嘘臭くはあったが、今日彼と共にいたファミアはお嬢様と言われていた。親類縁者の可能性は有る。
咄嗟に彼からファミアかノイファへ辿り本家に協力を頼めないかと思いつく。

「・・・・・・」
そういえば、轢かれたアイツどうなったかな、とダニーは呟いた。言外に接触を要求しているのだが、
クローディアのけじめにも泥を塗る行為なので正直に打診ができないのが辛い。

ダニーは多くのことを知らない。ゲストと無資格入場者の区別を付けるアイテムが他にあることを。
なまじここで燕尾服の仕組みを聞いたことで他の可能性を失念していたから。

フィンもノイファもファミアも従士隊の一員で、遊撃課であることを。
誘拐の一件で有耶無耶になってしまったから。帝都の従士隊の動きがある事件のせいだということも。

そして、この数カ月で彼女が取り戻しつつある感情は、誰でもないクローディアに都合の悪いものであることを。
クローディアの契約は、彼女の想いと行動を束縛する物であることを。

「・・・、・・・」
ロンよ、商売って難しいな、とダニーは隣の憂いのなさそうに見える少年にこぼした。
【止めたい→妄想と勘違い→上司の実家にヘルプが入れられれば・・・】

199 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/20(月) 06:22:58.86 0
ウィットの神妙な面持ちを、マテリアは笑顔のままで眺め続ける。
『プラン』を成功させる自信はある。だから自分はただ微笑んでいればいい。
そう言い聞かせ続けても、胸の内を満たす緊張を掻き消す事は出来なかった。
ほんの少しでも気を抜けば、手足の震えとして、呼吸の乱れとして、表情の引き攣りとして溢れ出してしまう。
そういった緊張の発露を、ウィットはきっと見抜いてくるだろう。
緊張を悟られてはいけないと気負う事が、更に緊張を呼ぶ。

(……スイさん?一体何を――)

悪循環の渦に沈みつつあったマテリアの手を、スイが掴んだ。
そして指先で言葉を綴る。『金なら俺も無いことは無い』と。

マテリアの双眸が僅かに見開かれる。
スイの言葉は彼女に一つの、当たり前の事を思い出させた。
マテリア・ヴィッセンは遊撃課の一員で、助けてくれる仲間がいるという事を。

――彼女には哲学があった。
『知っている』と『知らない』の違いが生死を分かつのが世の中だ、という哲学が。
その哲学が彼女の心に刻み込まれたのは、ちょうど二年前――『帝都大強襲』が起きて間もない頃の事だった。

当時『帝都大強襲』の混乱は国内全土に波及して、他国との散発的な戦闘や、内紛の起こる地域が多々あった。
マテリアはその制圧部隊に情報通信兵として参加していた。
そしてある日、ある町で――失血死した少女を見つけた。
傍らにはその子の兄が泣いていた。
少女は攻性術式の流れ弾で上腕部に傷を負い、それが原因で失血死したのだ。

もしも、もしも少女の兄に止血法の『知識』があれば。
無知な二人を助けてくれる『誰か』が傍にいれば。
砲火の中を無事に逃げ延びられるだけの『運』があれば。
誰も悲しい思いをせずに済んだ筈だった。

けれども自分は、自分を助けてくれる『誰か』を求めてはいけない。自分がその『誰か』になる為に軍人になったのだから。
『運』を自分の力で呼び寄せる事など、不可能だ。
故にマテリアは『知っている事』こそがこの世界を生き延びる術だと、信仰するようになったのだ。

彼女はいつだって誰かを助ける側にいた。
自分のように、大切な人を失って悲しい思いをする人を減らしたいと軍人になって。
その軍の中でも自分の集めた『情報』にたった一つでも誤りがあれば、何十何百の味方を死なせるかもしれない立場になって。

――だけど今、ここにはそんな自分を助けてくれる味方がいる。
それに自分の一声で友軍の命を左右してしまう戦場に比べれば、チェスに興じながら挑める話し合いなんてまるで大した事なんてないじゃないか。
そう思うと、途端に気が軽くなった。

200 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/20(月) 06:28:09.50 0
>「……わかった。『プランを実行する』ための準備はあるってことだな」
>「なら次の段階だ。『プランを維持する』ための準備――
  それだけ大掛かりな『犯罪者殺し』の仕掛けを、犯罪者が見過ごすとは思えない。

ウィットの言う通りだ。
下手をすればこの都市の悪人達が徒党を組んで自分達を潰しに来るかもしれない。

>「犯罪の芽は潰せなくとも、いま大きく育った木を切り倒すことはできるはずだ」

そうならない為には、地ならしが必要だ。
乙種ゴーレムを市街戦で運用するには、まず罠や伏兵を掃討しなくてはならないように。
そしてそれは、戦場にいた時は自分の役目だった。

>「この街にかりそめの平和をもたらし、それを真実に変えていくために。
 力を貸してくれ。僕一人じゃどうしようもない、その『背景』と『力』が必要なんだ――!」

――自分は軍を辞めた。だけどまだ戦場にいる。この都市が自分の新たな戦場だ。
マテリアは心の奥底で、実感した。そして決意する。

>「『白組』を潰そう」

「取引成立、ですね。では改めてよろしくお願いします、ウィットさん。
 腐り果てた巨木を共に切り倒して、代わりに林檎の木を植えましょう。
 いつか大きく育って、この街に知恵を授ける林檎の木を」

二年前に救えなかった、無知で、無援で、不運な弱者を、今度こそ助けるんだ。
この街に知識をもたらそう。誰もかもを救う誰かになろう。自分がこの街に訪れた事を彼らにとっての幸運にしてみせようと。


「私はこれからプランの下準備を始めます。
 『白組』を叩く算段がついた時はこちらの部屋にどうぞ。
 ……もちろん、それ以外の用事で来た時も歓迎しますよ」

テーブルに敷かれた羊皮紙の端を破いてホテルの部屋番号を記し、ウィンクを添えてウィットに渡す。
娼婦の部屋に冴えない中年男が訪れたところで、その関係に裏があると疑る者はいないだろう。



――取引を終えると、マテリアはハンターの隠れ家を後にした。
そうして暫く歩いてからスイを振り返る。

「あの……さっきは、ありがとうございました。嬉しかったです」

お金の融通をしてくれるから、ではない。
彼女は自分を助けようとしてくれた。ただ、その事自体が嬉しかった。

「じゃあ、私はやる事が色々出来ちゃいましたし……ここらでお別れとしましょう」

軽く手を振ってから、スイに背を向けて歩き出す。
役所への申請に貯金残高の確認、元上司と貴族様を脅してと、しなくてはならない事が沢山ある。
大変ではあるが、困難だとは思わなかった。この街を救う事でさえも、だ。
ウィット・メリケイン、彼の助けがあればきっと目的は達成出来る。
タニングラードを作り直して――ユーディ・アヴェンジャーもきっと見つけ出せる。

「ウィットさん、良い人だったなぁ。最初はちょっと変で、おまけに情けなかったけど」

マテリアは小さく呟き、それからつい先刻の、ウィットの情けない姿を思い出して笑った。
何も知らない少女のように、無邪気な表情で笑った。

201 :名無しになりきれ:2012/02/20(月) 20:19:40.52 0
そこでウィットに富んだジャンプ

202 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2012/02/20(月) 23:40:51.24 0
フラウさんの口から語られるというと衝撃の事実というわけではありませんが
オークションのシステムについての説明がありました
それは別段帝都でも珍しいものでもありません
私もとある貴族主催オークションのプレパーティー程度でしたら出席したことがありますし……
あまり社交界というものには好きではありませんので、それほど出たことはありません
ですが、説明を聞いてだいたいの内容はつかめました

とまあ、ここまではオークションの説明
肝心の潜入方法は意外にも正攻法?
正規の手順を踏んで参加するというものでした
てっきり忍んで潜入するものだと思っていました

>「はっはっは――寝言は寝てから言いやがってください。」

フラウさんが聖像を穢すという言葉に過剰反応してます
正直、凄まじい威圧感です。いままでこれほどのものを出す人間にどれほどであったでしょうか
これも年の功というわけですか……
しかし、娼館の用心棒さんという経歴のどこにこれほどのものを身につけることができたのでしょうか?
そもそもアイレル女史の実力なら、それなりの騎士や軍人として名を馳せていてもおかしくはありません
女性の過去においそれとは触れてはいけませんが、実に気になるところです
神に身を捧げたということですが、それも娼館とはひどく遠い位置にあるような気がします
いえ、別に説明が要するほどのことがないから説明をしないだけなのでしょう
案外、聞いてみたらあっさり教えてくれるかもしれませんね……

>「……失礼。取り乱しました。」

「フィオナさんが取り乱すなんて珍しいこともあるのですね
でも、あまり褒められた所業ではありませんね」

敬虔というほどでもないのですが、これでも戦に身を投じています
神様に祈る身としてはまったくその気持ちというものはわかりません

「なにはともあれ、私達の参加方法は……」

買い手になるにしては資金調達の方法がありません
まさか家から資金を……というわけにもいきません
短期間で合法的にお金を稼ぐ方法ということはなかなかに難しいことなのですね
となると……

>「……そろそろ祭りも終わりだな。怪しまれる前に路地裏に戻ろうぜ」

私も皆の真似をして皿の中に小銭を放り込みます
席を立ち足早に店を出ようとしますが……

>『大丈夫だとは思いますけれど、一応尾行の確認をお願いします。』

アイレル女史からの忠告
こういう細かい気配りはとても参考になります

路地裏への道すがら尾行の気配を探ってみましたが特にそういったようすもなく無事に路地裏に到着することができました
アイレル女史が寒そうに手に息を吹きかけて、遅れてきた私と先輩に労いの言葉もそこそこに話を始めました


203 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2012/02/20(月) 23:41:31.09 0
>「先ずは結論から言うと、売り手として参加する方向で話を進めましょう。」

ぐるりと回す視線と目が合ったので黙って頷きました
アイレル女史が話を進めるのに私が無駄に口を挟むということはこのときもありませんでした
このリーダーシップといい、やはり一廉の人物に違いないとますます疑念が強まるばかりです
と、一人考えにふけっていますと

>―――リアさんに。丁度良い"道具"も有ったようですし。」

「は、はい!そうですね」

話を聞いていなかったわけではありません。断じて
しかし、くだらない邪推に意識を奪われてしまうとは私もまだまだですね

「私におあつらえ向きの良い物が確かに有りましたね
暴れまわるにはちょうどいいですね」

そのあと私はくすりと笑ってしまう
アイレル女史の仕草があまりに可愛らしかったからです

「ノイファさんもまだまだ若いですね
---いえ、決してノイファさんが年増だとか行き遅れだとか言ってるわけではないんです」

あたふたと失言の言い訳に必死になるなんて、カッコ悪いです
でもアイレル女史なら笑ってゆるしてくれるはずです
神の使徒は心が広いものです

>「あ、そうそう。当日ですけれど、こちらの人員増えるかもしれませんので――合言葉でも決めておきます?」

「合言葉でしたら、やはりじんる……」
私はここでいったん言葉を止めてしまいました

「いえ、やっぱり「のばら」ではどうでしょう?なんとなく合言葉といえばこれという気がします」

あの言葉をつぶやくとなんだか心まで従士になってしまうような気がします
私はまだ騎士でありたいのです
帰陣の思いを捨て去るわけにはいきません

「フラウさんは私達に要求することはありませんか?
協力関係なんです。できることなら聞きますよ」

これが安請け合い損になるかもと言ってから公開してしまいました

204 :スイ ◇nulVwXAKKU :2012/02/21(火) 22:48:12.05 0
>「この街にかりそめの平和をもたらし、それを真実に変えていくために。
 力を貸してくれ。僕一人じゃどうしようもない、その『背景』と『力』が必要なんだ――!」

王手をかけられ、スイは僅かに苦い笑いを零す。

「(これだから、一対一の駒遊びは苦手なんだ。)」

心の中で僅かに愚痴りながらも、ルークを手に取る。
こいつの存在、忘れてないか?と目で問い掛けながら、移動を始めた。
クイーンを落とし、何手か打った後で気付くだろう。
ウィットのキングにスイは手を出そうとしないのだ。

>「『白組』を潰そう」

>「取引成立、ですね。では改めてよろしくお願いします、ウィットさん。
 腐り果てた巨木を共に切り倒して、代わりに林檎の木を植えましょう。
 いつか大きく育って、この街に知恵を授ける林檎の木を」
>「私はこれからプランの下準備を始めます。
 『白組』を叩く算段がついた時はこちらの部屋にどうぞ。
 ……もちろん、それ以外の用事で来た時も歓迎しますよ」

どうやら、円満に成立したようだ。
スイは、沈黙が部屋を包み込んだ頃を見計らって口を開いた。

「チェス、異国の…何ていったかな…取り敢えず、それらは、全て必ず二人のみが闘う形式だ。
 だが、実戦ではそうはいかない。第三者が介入すれば――」

まだ対戦途中だったチェス盤の上で腕をゆっくりと滑らす。
チェスの駒は全て机の上に落とされ、盤には何もなくなった。
からん、と勢い余って、スイのキングが床に落ちる。

「全ては白紙に戻る。」

スイはキングを拾ってチェス盤の上に置いてから、椅子から立ち上がり、マテリアの後を追うようにゆっくりと足を踏みだす。
少しだけ振り返ってウィットを見遣り、言葉を投げた。

「精々、そうならないように気をつけることだ。」

幾度となく戦場を経験し、死と隣り合わせの日々を送ったからこそ、スイはそう忠告した。



ウィットの隠れ家を後にし、スイは黙々とマテリアの後を歩く。

>「あの……さっきは、ありがとうございました。嬉しかったです」
「?」

何のことに礼を言われたのか分からず、スイは首をかしげた。

>「じゃあ、私はやる事が色々出来ちゃいましたし……ここらでお別れとしましょう」

了解の意をこめてマテリアの言葉に頷き、マテリアの遠ざかる背中を少し見た後、別の道へ歩き出す。
ふと頬を叩いた風に、スイはほんの少し目を細めた。

205 :名無しになりきれ:2012/02/21(火) 23:10:05.95 0
ここ何がオリジナルなの?

206 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2012/02/22(水) 00:53:29.13 0

それは運命が齎した必然か、或いは人為が呼び寄せた偶然か。
ファミアの誘いに従い進んだ道のその先に現れたのは、一軒の煉瓦小舎だった。
人気こそ無いが、それでも機能している事は判断出来るその建築物。

名を医術院。人命を取り扱う機関が、その窓から光を漏らしていた。

――――

数刻の後。二次感染を起こさない程度には清潔なベッド。
その上に、フィン=ハンプティは横たえられていた。
フィンの瞳の上には濡れた布が置かれ、余人が意識があるかどうかを確認する事は出来ないが
――結論から言えば、人名を繋ぐという意味でのフィン=ハンプティの治療は成功していた。
建物のみてくれは豪奢では無いものの、どうやらそこに所属する医術者の腕は確かであったらしい。
骨折の様な大規模な傷こそ完治はしていないものの、瀕死である故に魔術への抵抗力が下がった肉体に対し、
『造血』及び『保全』の魔術が有効に機能した様で、蒼白だった肌に血の気も戻り、
浅かった呼吸も深く安定したものへと成っている。

実際、馬車に轢かれた人間の予後としては幸運極まる予後だと言えるだろう。
本人が激痛を伴う治療にも耐えうる精神力を保有していた事と、
遺才による高い回復力の影響もあり、医者の見立てでは、
もう少し安静にしていれば歩く事すら可能かもしれないとの事だ。しかし――――

「……はは、暗ぇなぁ」

横たわっていたフィンは、その右腕で目に掛けてあった濡れた布を取り去り、
その瞳だけを動かして周囲を見渡すと、掠れた声で小さくそう呟いた。
見れば、鮮やかだった彼の瞳の色は今や灰色と化していた。
そして、その左腕は錆びた鉄の様な褐色と化している。

『全色弱及び、左腕感覚全喪失』

それが、今回の生還においてフィンが負った対価だった。
直接の原因が馬車の衝突によるものなのか、それとも他の何かなのかは判らない。
だが、結果としてフィンの視界からは白と灰、黒以外の全ての色は消え、
その左腕は外界への接触を理解出来ない、まるで幽霊の様なものとなってしまった。
フィンは握った感触すら無い左の掌を一度開閉すると、白黒の天井を黙って見上げる。

207 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2012/02/22(水) 00:53:52.28 0
(……結局。こんなになっても、俺は何にも出来なかった)

曖昧ではあるものの、フィンは馬車に轢かれてからの記憶を残している。
自分の為にファミアやクローディア達、ボルトに余計なリスクを課してしまった。
自分が助けなくてはならなかった筈の仲間のファミアを、助ける為に動く事すら出来なかった。

>「お前は遊撃課の中で一番、自分と他人を"生き残らせる"ことに秀でてんだ。無事とは言えなくても、確かに生きてる」

脳裏に、フィンを背負っていたボルトがファミアに対し語りかけていた言葉が思い浮かぶ。

(……ああ、そうだ。俺が弱いから、俺の力が足りねぇから、ファミアが生き残る為に
 動かなきゃならねぇような状況になった。俺の力だけで皆を守れなかったんだ。
 ……ははっ、何が『大丈夫』だよ。仲間を、大切な奴らを守れない俺に、生きてる意味なんてねぇのに)

握り締めた左の掌が、食い込んだ自身の爪によって一筋の血を流す。
だが、感覚が無い為にフィンは左腕が傷ついた事に気がつかない。

(そうだ、守るんだ。俺は守らないといけねぇんだ。仲間を、敵から、任務から、
 俺達を捨て駒にした奴らから、全部から守らなねぇと……)

(こんな、仲間を守れない俺は……要らない)

(俺は仲間を守って――――死ぬべきなんだ)

サフロールという仲間の死。彼を救えなかったという事実。
そして、今回のファミアを助ける為に何も出来なかったという無力感。
それらの事象は、過去を乗り越える為にフィンが身に着けた『英雄』という義足を、半ばまで損壊させていた。
自己による自己の否定。
フィン=ハンプティという青年は、静かにその最果てへと進んで行く。

【フィン:なんとか致命傷は免れた。色覚ほぼ喪失、左腕感覚全喪失、自己犠牲精神UP】

208 :ロン ◆1AmqjBfapI :2012/02/22(水) 20:44:33.22 0
>「……オッケ、乗ったわその話。業務委託契約の約款を作りなさい。業務内容、各種支給品目録、日当は特に内訳も明記して」
ダニーとロンの言葉に背を押され、クローディアから出てきたその言葉。
二人の頭があれやこれやと打ち合わせする様を眺めながら、ロンは人知れず頬を緩めた。

悪党の元で働くというのはロン自身、抵抗はある。
しかし、折角都合の良く舞い込んできた仕事を蹴飛ばす権利はロンには存在しない。
あくまでも仕事を決めるのは我らが社長だ。仕事と私情を混合して我儘を言ってはいられないのだ。
家も家族も失い、二年の間体一つで稼いできた彼が学んだことだ。

>「――概要はこんなところでしょうか。質問があれば聞いて下されば私共の裁量でお答えします」
ロンは身に付けた自分の上衣に目を落とした。
指定された衣服を着用するということは、自分の遺才に制限を掛けるこの上衣を脱がなければならないらしい。
どうしよう、とロンは異論を唱えるべきか迷ったが、指定された背広についての説明を受け、異論は喉の奥へと引っ込んだ。
渋々、一番小さいサイズの背広を受け取る。だぼつく袖を通そうとしかけ、隣を見てぎょっと目を見開いた。

「って――!」
ダニーがその場で着替え始めたからだ。咄嗟に背中を向け、耳まで真っ赤にさせながらロンもいそいそと着換えた。
その後もモーゼル邸について説明を受ける最中も耳が熱く、それどころではなかった。

>(・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・)
「オーケイ、カンドリョウコウだ。それにしても、タコクにはこんなベンリなモノまでソロってるんだな」
ようやく平静を取り戻したのは、イヤリングを模したような念信器を受け取る頃だった。
耳に取りつけると早速ダニーの声が耳に届いた。心なしか生で会話するより声が大きく聞こえる。
お互いに契約内容の確認を行い(どちらかといえばダニーの言葉を復唱すると言った方が正しいが)
最後にランゲンフェルトを見やりながらボソリと「泣き虫お目々のランゲンフェルト!」と締めた。

>「当日、貴女がた商会さんは第七警護班として警護課の指揮に入って頂きます。
 警護『課』……そう、従士隊の警護課です。当日はモーゼル氏より従士隊に警護を依頼されます。
 つまり、競り市開催日のあなたがたの公的な身分は、『従士』ということになりますね」
「(え?)」

説明もほぼ終わりかけた頃、ランゲンフェルトの放った一言にロンは耳を疑った。
帝国の軍事情に詳しい訳ではないが、従士隊が治安自治機関だという事くらいは知っている。
にも関わらず、国の治安を護る筈の機関が、一般人を轢いて誘拐するような連中と肩を並べている。
――改めて、この街の異常性を痛感した。

クローディアが憤る。ロンもまた、彼女とは違う方向で怒りを感じていた。
涼やかな顔で彼女を見下ろすランゲンフェルトの一言によって。

>「何を驚かれることがあります?この街には――『悪党の手先になり下がってはいけない』なんて法律はないんですから」
横でダニーが暢気にフィンの事でぼやいても、それに返しもせず。
肩をいからせ、ロンは荒々しくクローディアとランゲンフェルトの間に割って入る。
憤怒の炎を目に宿し、自分より随分背の高い黒組の頭領にガンつけて。
今ここで彼に歯向かった所で、クローディアに迷惑が掛かる事くらい分かっていた。
それでも腹の中で熱湯の如く煮え滾る怒りを爆発せざるをえなかった。

「ほざいてくれるじゃないかカラスヤロウ。このサイだからイわせてもらおう。
 タシかにこのマチじゃ、ユウカイしようがアクトウとテをクもうが、ミンナメをツムるんだろうな。

 ――けどよ。俺達はあくまで『クローディア商会』の社員だ。
 『悪党の手先』なんて『小狡い人間』と一緒になったつもりはない。
 お前等がもし、さっきみたいに俺の気に障るようなセコい真似をするっていうなら――――」
バチッ。微量の静電気が弾ける音が空気中に響き、ランゲンフェルトの帽子のツバが少し裂けた。
真っすぐ差した指先から紫電を散らし、ロンは威圧をかけるよう静かに締めた。

「――――容赦なく、その舌の根を焼き尽くしてやる。」

【おめーら何か変な真似したら容赦しないぜ発言。怒りのせいで饒舌気味】

209 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/26(日) 02:59:03.15 0
>「はっはっは――寝言は寝てから言いやがってください。」

ビシィッ!!とその場の空気が凍った。
ノイファの背後から放たれる凄まじい闘気的な何かが、あたかも物理的な現象を喚起したかのように、卓を囲む者らに伝播する。
さながら埋没機雷原に裸足の裸で踏み入ったような、言い得ぬ不安と情緒の刃が粘性を持って彼女たちを網羅した。

(な、何が起こったのでありますかーーっ!?)

具体的には何が起こったかではなく、誰が怒ったかなのだが、状況判断力に乏しいスティレットには区別がつかない。
ただただ、職場の後見人的ポジションで如何なる時も余裕の笑みを崩さぬノイファが、いや笑みは笑みのままなのだけど、
細められた双眸の向こうの眼がまったくちっとも全然これっぽっちも笑っていなかったことにひたすら恐怖した。

「お、おう、そうだよな!聖像を盗むのはナシで行こう!な!あんたたちもそう思うよな!?」

対面でその怒気を直に浴びせられたと思しきフラウが、冷や汗の滝を作りながら提案を翻す。
スティレットは、顎が外れそうな勢いで何度も頷いた。

>「……失礼。取り乱しました。」

ノイファの眼光に鋭さが失せる。途端にふっとその場の空気が軽くなった。
陸にあげられていた魚がようやく水に戻れた気分だった。

>「フィオナさんが取り乱すなんて珍しいこともあるのですね でも、あまり褒められた所業ではありませんね」

(な、なんでへーぜんとできますかガルウイングちゃん……)

セフィリアは涼しい顔で殺気を受け流していた。
なるほど歳のわりに大人びているこの後輩は、渡世術の一環としてこういう状況にも耐性があるのかもしれない。
次女という立場にかまけて、ろくに社交界に顔も出さず遊び呆けていたスティレットとは基礎からして違うのだろう。
フラウも同様にビビっていることから、単純に、精神が成熟しているかどうかの問題なのかもしれないが。

>「良いですねえ、段々目処が立ってきましたよ。」

(わ、悪い顔でありますっ……!)

くつくつと声を殺して笑うノイファの姿は、企みを抱えた者のそれだった。
なんというか、堂に入っている。酸いも甘いも噛み分けた果てにある人間的な成熟が、かような表情を創りだすのだろうか。
若干17歳のスティレットには、なかなか至れぬ境地である。

「……そろそろ祭りも終わりだな。怪しまれる前に路地裏に戻ろうぜ」

フラウが勘定を皿に投げ込むのに倣い、脇の二人も小銭を放る。
スティレットは金貨しか持っていなかったので(祭りの夜に、それは愚かな選択だ)、店員を呼んで両替してもらった。
呼ばれてやってきたウェイトレスは紙幣を受け取ると、飲食代を差っ引いたにしてもえらく少ない金額をこちらに寄越してきた。
勝手にチップを持って行かれたのだということにスティレットが気付いたのは、お釣りの金額を何度も確かめた挙句のことだった。

 * * * * * *

210 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/26(日) 02:59:41.23 0
>「さてと、もう大分遅いですし、手早く済ませてしまいましょうか。」

夜も更け始めた空の下、路地裏には再び4人の女達が戻ってきていた。
尾行を懸念しながら、いくつかの辻を遠回りにして帰ってきたので、フラウは少しばかりくたびれた様子だ。
子供の足に、この街は広すぎる。そしてこの一月、フラウは休むことなく歩き続けて必要な情報を得た。

>「先ずは結論から言うと、売り手として参加する方向で話を進めましょう。」

「売り手……盗人になるってことか。なんかブツのアテはあんのか?」

盗品オークションに出品するには、相応の価値ある品物を『盗んで』こなければならない。
街の外から来たフィオナやリアに、そんなリスキーな盗みをするあてがあるのかフラウは疑問に思った。

>「商品はこちらで用意します、何を出品するかは決まり次第ということで。
 連絡の手段は……そうですね、何か良い方法があるならばそちらにお任せしますが?」

「へ、なんか腹案アリって顔だな。おっけ、あんたを全面的に信用するぜ。
 連絡方法は――そうだな、あたしの仲間にメッセンジャー(手紙配達人)をやってる奴が居る。
 見た目の特徴を教えるから、昼通りを五分もぶらついてりゃすれ違う、そいつにあたし宛ての手紙を渡してくれ」

決行は5日後だが、定期的な連絡はとっておいたほうがいいだろう。
上位下達とは言うまいが、フラウ達は作戦においてサポートしかできない。出来る限りフィオナ達に合わせるつもりだ。

>「例の品は競り落とすのも難しいでしょうし、オークションに紛れていただいてしまいましょう。
 ですが、そうなると今度はお屋敷から出るのが難しくなりますので、そこで――」
>「――同時に外でも騒ぎを起こします。」

(道具……?)

フィオナの言うところが何を指しているのかフラウにはわからず首をかしげた。
なるほど確かに、リアが不敵な笑みを浮かべている。はしゃいでいると言ってもいいぐらいだ。

「大丈夫かよー、あのお屋敷にはゴーレムだって居るんだぜ?ひと暴れするにしたって制圧されちゃあ意味がねえ」

そのゴーレムこそがリアの"道具"だったりするのだが、それをフラウが知るよしもなかった。

>「ノイファさんもまだまだ若いですね ---いえ、決してノイファさんが年増だとか行き遅れだとか言ってるわけではないんです」

「ばっ――――!?」

馬鹿野郎、と言いそうになった。なんで言いそうになったのか自分でもよくわからなかった。
ただこのフィオナという妙齢の女性について、薹が立っちゃった的な失言はマジで洒落にならないぐらいヤバい気がしたのだ。
フラウの特殊な眼力という忘れかけの設定が、己の存在を想起させるために警鐘を鳴らしたのかもしれない。

211 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/26(日) 02:59:59.74 0
>「フラウさんたちは当日まで出来る限りモーゼル邸の監視を。
 警備の……穴は望みすぎでしょうけど、"癖"くらいはあるかもしれませんしねえ。」

「わかった。向こう5日間は全部オフスケジュールだ、全力で見張ってやんよ」

流れで当日の合言葉を決め、路地裏の女子会はお開きとなった。

>「フラウさんは私達に要求することはありませんか? 協力関係なんです。できることなら聞きますよ」

「あ、あたしか?」

これには少し面食らった。
今までフラウは独力で調査を進めて、段取りを整え、手段を模索していたから、誰かにこうやって顧みられることに慣れていないのだ。
なんとなく気恥ずかしくなりながらも、嬉しそうにはにかんで答えた。

「そのな、モーゼル邸に売り手として乗り込むといったって、やっぱりある程度のドレスコードは必要なんだ。
 だから……あたしにも着られるような、正装を用意してくれるとありがたい。見立てができねーからな、あたしは」

路地裏を去っていく協力者たちを、フラウは眩しそうに目を細めて見送った。
天恵の如く降ってきた、人越の力を持った者たち……彼女たちは強い。そして、それ以上に確固たる信念が実力を裏付けている。
帝国中から悪徳と非道を掃き溜めたようなこの街で、一際強く輝く存在だった。


【作戦会議完了。一行は遊撃課のランデブー地点へ】

212 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/26(日) 03:00:16.00 0
>「取引成立、ですね。では改めてよろしくお願いします、ウィットさん。
>「私はこれからプランの下準備を始めます。『白組』を叩く算段がついた時はこちらの部屋にどうぞ。
 ……もちろん、それ以外の用事で来た時も歓迎しますよ」

「そりゃあ良いね、近々うまいワインとチーズでも持って行ってやるよ」

肩をすくめながら、マロンからメモを受け取る。
小粋にウインクなぞしてみる彼女の姿は、どうしてもウィットの知る『銀貨』のそれとは被らない。
個性がないのが個性とまで言われるかの機関にあって、こうも自己主張の激しい女に出会ったのは初めての経験だった。
それは吉兆か凶兆か。帝国は、変わろうとしているのだろうか。

(僕に後悔させてくれよ……お手並み拝見と行こうじゃないか)

>「チェス、異国の…何ていったかな…取り敢えず、それらは、全て必ず二人のみが闘う形式だ。

盤上では激しい乱打戦になっていた。
ウィットのクイーンが落とされ、キングへの道が拓かれた。しかし、ハルトムートの兵たちは王手を決めに来ない。
結果、双方が他の駒を取り合う消耗戦の形を呈していたが――狙いが読めない。

(何を考えている……?このままじゃお互いのキングを残して全滅するのを待つだけだ)

> だが、実戦ではそうはいかない。第三者が介入すれば――」

答えは、上から降ってきた。
ハルトムートの腕が、まるで地ならしをするように盤上の全ての駒を薙ぎ払ったのだ。
双方のキングはおろか、ポーンの一つも残らない、ただの平野と化した盤の上で、ハルトムートは告げる。

>「全ては白紙に戻る。」

「そ、そんなのアリかぁ!?」

なにか、それっぽい感じで言いくるめられた気がしないでもない。
所詮会議の手慰みに始めたゲームだから、ウィットとてこの暴挙に抗議をするつもりもないが――しかし。

>「精々、そうならないように気をつけることだ。」

去り際にハルトムートの残した台詞は、警戒に値する言葉だった。
つまりはこう言っているのだ。目の前の問題にのめり込みすぎれば、思わぬ所から足を掬われるぞ、と。
それはもしかしたら――味方だと思っていた相手からの一撃なのかもしれないのだ。

「重々承知だよ、そんなことは……」

苦い味を口中に再現したウィットは、流しこむように酒を煽った。
驚いたことに、うまい酒だった。


【交渉終了。一行は遊撃課のランデブー地点へ】

213 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/26(日) 03:00:34.33 0
>「たっ、頼もーぅ!」

怪我人を背負ったボルトに代わり、ファミアが医術院の門を叩く。
一拍あって、出てきた白衣の医術者はフィンの容態を見るに血相を変えて治療の手配をした。

――ここタニングラードにあって、医術院を始めとした医療施設や、治癒聖術を奉じる神殿の役割は薄い。
後者はそもそも神殿そのものがこの街では閑古鳥が鳴いているので余儀もないが、前者の閑散には医療関係者にとり苦い理由がある。
非武装の街であるこの地においては、高度医術の必要になるような大怪我を負うような機会はそうそうなく。
しからば実際に大怪我を負ったときにどうしていいか対処法がわからず、医術院を呼ぶ前に怪我人が死人になってしまうことが多々あるのだ。
また、この街で最近流行りの人さらいのように、悪意を持って武器以外で人を傷つけるようなことがあると、
そういうときは確実に被害者は殺されてしまった後だったりするので、やっぱり医術院は出る幕がないのである。

そういった経緯から、タニングラード医術院所属の医術師は人命救助についてただならぬモチベーションを放っていた。
その敏腕を遺憾なく発揮する旨をファミアとボルトに告げ、処置室へとフィンを引きずり込んでいくのを余人らは見守った。
処置室への扉は固く閉ざされ、ボルトは入り口傍の長椅子に腰掛けて指を組み、手をあわせて経過を待った。

「大丈夫だ、パンプティは助かる。アルフート、お前が『逃がす』ことで自分や仲間を助けることができるなら、
 あいつは『守る』ことで助ける本職だ。他人を助けられるような奴が――自分一人助けられないってことがあるものかよ」

そして赤々と燃える『処置中・開けるな絶対』の魔導灯が薄緑色の『少しだけなら……見てもいいよ?』に切り替わる。
閉ざされていた処置室の扉が開け放たれ、担当医術師が血塗れの術衣を纏ったまま良い顔で出てきた。
首や肩をぐりぐり回しながら、「あー救った救った」と食後みたいなテンションで歩いてきた医術師にボルトは詰め寄った。

「うちの部k――お貴族様のお連れの方の容態は?」

「筋肉やら神経やらはズタズタ、臓器もいくつか重篤な損傷を負っていました。何より血を多く流しすぎたのがいけない。
 ですが――命に別状なしです。恐ろしい精神力ですよ、これだけの怪我に、それを補う治療を施せば、発狂してもおかしくない。
 それほどに激痛と、苦痛があったはずです。大人しく貴方に背負われていましたがね、普通なら痛みで叫び散らしてますよ」

とにかく断裂した神経と筋肉を繋げ、傷ついていた内臓を修復し、血液を補充するところまでは成功したとのこと。
その後の詳しい説明によれば、あと少しでも処置が遅れていれば本格的に命に関わっていたそうだ。
あのままファミアが正しくホテルまで案内していたら、そこから医術師を呼ぶタイムラグで今度こそ危なかったかもしれない。

とにかく助かりましたと医術師に頭を下げ、領収書を『ブライヤー農園』で切ってもらって、処置の対価を支払った。
随分と懐が薄くなってしまったが、最悪スティレットあたりから借りればいいだけのことだ。
あの脳天牧場娘は、なにせ生まれてこのかた小銭というものを触ったことがないなどとのたまいやがった。
今度、銅貨と金貨をトレードしてくれないか持ちかけてみよう。そんな予定を立てながら、医術院を後にする支度を始めた。

「すいません、農家の方。ちょっと良いですかな」

医術師に手招きされ、ファミアに荷造りを命じてその場を離れる。
部屋を変えた先で、医術師は神妙な顔をして告げた。ボルトはそれを聞いて、すぐには言葉が出せなかった。
自分でも驚くほど急速に、口の中から水分が失せていた。

「色弱に、左腕部感覚失調――!?」

「あのお嬢さんには黙っておいたほうがいいのではないかと……なので、貴方だけに伝えておきますが」

フィンの両眼からは色彩が失せ、そして左腕は最早感覚すらないのだと言う。
『天鎧』の体現者たるフィン=パンプティが――防御の天才が、ここまでの後遺症を負った。
あの、愚直で、明朗で、直情で、篤実で……如何なる逆境にも折れなかった人越の護り手が。
ボルトは拳を握り込むと、待合室に戻り、部下二人へ向けて言った。

「……ランデブー地点へ行くぞ。状況は、まだ終了していない」

ボルトにはかけてやれる言葉も、計らってやる処置もない。
――彼にできることは、あまりに少ない。

【ランデブー地点へ】

214 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/26(日) 03:00:52.58 0
【大衆食堂『陸の孤島』】

ボルトが予め指定しておいたランデブー地点は、見渡す限り二百席はあるかとおもしい大型の大衆食堂。
夜間労働者のために深夜まで営業しているため人の入れ替わりが激しく、大所帯の隠れ蓑としては申し分ない場所だ。

『これより各チームの定期報告を始める。各員、自分の見聞きした情報を話して行け』

それぞれが広い食堂のあちらこちらに一人づつ、あるいは複数名で座り、念信器越しに顔を合わせずに会話する。
ある者は食事に夢中を装い、ある者は親しい物とのお喋りを装い、ある者は机に何か書き物をしている風を装って。
ボルトは課員たちが何を見聞きし、どんな人物と接触し、そしてそこから如何なる情報を得たかを静かに聞いた。

<この定期報告で共有された基礎的なデータ>

◆この街には『黒組』と呼ばれる犯罪組織による誘拐殺人が横行していること
◇この街には『白組』と呼ばれる盗品オークションが開催されていること。『黒組』との関連が確定していること
◆アヴェンジャーの奪った『零時回廊』は二分され、片方は5日後に開催される『白組』で出品されていること
◇もう片方の『零時回廊』は、フラウという少女を頭目にした路地裏の子供たちが所有していること
◆フラウの証言により、『零時回廊』をこの街に持ち込んだのは『ウィット=メリケイン』という人物であること
◇同名の現職のハンターが、『黒組』と『白組』を摘発しようと捜査していること
◆『クローディア商会』と名乗る、どこかで見たような組織がタニングラードに滞在していること

ボルトは聞き終えると、手拍子を一つ打った。
注文と間違えたらしいウェイトレスが寄ってきたので、ライム汁をジョッキで頼んだ。

『課の方針として、まず『零時回廊』の奪還を試みる。
 アヴェンジャーとの直接戦闘を避けつつ、ことの真相を明らかにする必要があるからだ。
 元老院からは零時回廊の回収を依頼されていないが、アヴェンジャーに対する有効なカードとして、これを取っておきたい』

問題になるのは白組が所有する零時回廊だけだ。
路地裏の子供たちが持っている分については、チーム貧民が子供たちとのパイプを持っている以上いつでも回収できるだろう。
ウィレムとセフィリアは不覚をとったようだが、彼らとて人越者、真っ向から挑んで負ける道理はない。

『したがって、決めるべきは5日後に開催される白組に対して遊撃課からどのようにアプローチをかけていくかだ。
 普通ならおれがお前らの適性を考えて、最適な班分けを決めるところなんだがな……今回の件は少し特殊だ。
 任務の性質上、現場ではおれからお前らに指揮を出すのは不可能になるだろう。
 つまり、お前らは自己の裁量に従って、自分が何をすべきかその場その場で判断していかなきゃならない』

潜入任務のために、支給された無線念信器は極めて近距離でしか繋がらないものである。
広大なモーゼル邸の敷地内で連絡を取り合うにはあまりにカバーできる範囲が狭い。

『だから今回は、チームを分けない。お前らの指揮を執るのは自分自身だ。
 この任務を通して、アヴェンジャーや白組黒組に対する少なからぬ思いがお前らにはあるはずだ。
 従うのは良心でも合理的判断でも良い。5日後、モーゼル邸で、自分がどのように動くか、――今ここで提示しろ』


【本章前半終了】
【定期報告:自分がこの街で何を見聞きし、誰と出会い、5日後に自分がどのように動くつもりか報告してください】
【報告会という性質上、レス順によってキャラの得ている情報量に差が出てしまうので、変則的な決定リールを採用します。
 GMのレス中にあった『共有されたデータ』については、既に全員が知っている状態ということにします。
 もちろん上記データ以外にも報告時に情報を付け加えるのもオーケーです】

215 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/26(日) 22:14:58.98 0
>「・・・・・・」

朝通りで馬車に轢かれたフィンのことを、ボソリとダニーが口にした。

(う……)

クローディアは奥歯に圧迫感を感じた。忘れていたわけではない。考える余裕がなかっただけだ。
馬車が止まった後、フィンの安否を確かめることはできたはずだ。しかし彼女はそれをせず、逃げていく黒組の追撃に専念した。
怖かったからだ。あの幌を捲った先にあるのが、見知った顔の死体だったらどうしようと、クローディアは恐れた。
フィンのことを意図的に頭から追い出して、損失補填なんて尤もらしい理由までつけて、あの場から逃げたのは彼女の方だ。

ダニーにそんなつもりはないかもしれないが、クローディアはひょっとして責められているんじゃないかと気が気でなかった。
しかし一旦それを外に出して認めてしまうと、張り続けてきた張り子の自分が萎んでしまいそうで、にっちもさっちもいかなくなる。
ダニーと接するとき、見た目に反してクローディアより僅かに年長なだけのこの女性が、
自分よりもずっと大局的な視点を持っていることで、己の視野の狭窄加減が酷く浮き彫りになるのを自覚せざるを得なかった。
そしてだからこそ、自分にはダニーが必要で、そんな彼女の人間性を気に入っているのだということも自認していた。

「……大丈夫。大丈夫よ、あいつは殺されたぐらいで死を受け入れるほど素直な人間じゃあないわ。
 ダンブルウィードでだって。ウルタール湖でだって。何度も死を否定して這い上がってきたんだもの」

クローディアはフィンのことを、通り一遍な熱血者だとは評さない。
あれはむしろひねくれ過ぎて、一周回って真っ直ぐになったような人間だ。
ねじれた糸を撚り合わせることで、より強く真っ直ぐな紐を編み上げたような――屈折した哲学が垣間見える。

「それに、あたしの"嫌な予感"はよく当たるのよ――絶っ対、あたしたちの悪事を邪魔しに出てくるわ」

事業を妨害される可能性を、彼女はむしろ期待してさえいた。
このまま自分が突っ走れば、あいつは必ずそれを止めに出てくるはずだ。根拠はないけど、自信はある。
そういうものなのだ――天才は。当人たちの望むと望まなくに関わらず、絶対的な結果を生み出す、それが遺才という存在だ。

>「ほざいてくれるじゃないかカラスヤロウ。このサイだからイわせてもらおう。

そして、望むと望まなくに関わらず結果を産み出してしまうから――

>「お前等がもし、さっきみたいに俺の気に障るようなセコい真似をするっていうなら――――」

――天才という奴は社会を追われたわけで。
ランゲンフェルトに詰め寄ったロンが、怒気一閃。紫電が大気を叩き、相手の帽子の鍔を焼いた。

>「――――容赦なく、その舌の根を焼き尽くしてやる。」

「ばっ――ナーゼム!」

クローディアが言うより早く、ナーゼムが踏み込みロンの襟を鷲掴む。
そのまま一気に後ろに引いた。直後、ロンの喉があった場所を黒風が駆け抜けた。

「おっと失礼。突然の雷に驚きのあまり滑ってしまいました」

風の正体は、脚。濡烏のような黒のスラックスに包まれたしなやかな右足の先端、革靴の爪先に術式が仕込んであった。
『切断』か、『炸裂』か――いずれにせよ至近距離で喉元に食らえば致命傷になりかねない一撃だ。
攻撃の気配を鼻敏く嗅ぎとったナーゼムがロンの襟を引いていなければ、ここは血の海になっていただろう。
……その血がロンのものか、反撃を食らったランゲンフェルトのものであるかはともかく。

「忘れないでいただきたいのは、私共は一人ひとりが悪党であると同時にサラリーマンでもあるということです。
 私は『黒組』の代表ですが、しかしすげ代えのきく頭です。黒組という法人の意思表示の代行者に過ぎない。
 わかりますか、紫電の君――あまり社会人を舐めるなよ。俺一人を殺したところで、"俺達"は止まらない」

目潰しを警戒してか掛けっぱなしだった濃い色眼鏡を外し、充血した双眸でロンを睨めつけた。
やがて、ダニー用のドレスを急遽仕立てなくてはならなくなったランゲンフェルトを見送り、クローディア達はアジトを辞した。

216 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/02/26(日) 22:15:14.63 0
「一応ドレスは用意しますが、当然一着しかありません。汚損したら背広を着て頂くことになりますので」

ランゲンフェルトは余計な仕事を増やしてくれたとばかりに恨み節たらたらだった。
チェルノボーグ青果店に偽装したアジトを出て、ジルニトラ総合百貨店のロビーまで戻ってくると、拡声魔法のアナウンスが聞こえた。
青果を始めとした生鮮食品の店は日が暮れると同時に閉店するが、百貨店の本体は酒場なども含まれるため夜間まで営業している。
祭りが終わり、人通りがまばらになった現在の時刻をもって、百貨店も閉店するとの旨の放送だった。
そのときになって、それまで一言も発さず歩いていたクローディアはようやく振り返り、開口一番。

「このっ……バカプロレタリア!電気ネズミ!アホエレクトロニクス!」

契約書を筒状に丸めたもので、ロンの額を思いっきり引っぱたいた。すごく良い音がした。
繋ぐように連撃、何度もバシバシと叩いた後、肩で息をしながらクローディアは言った。

「あんたが!……あんたが自分が気に入らない相手に一人で喧嘩ふっかけて、一人で勝手におっ死ぬなら何も言わないわよ。
 でもロン、あんた『商会』として、あたしの部下として啖呵切ってくれたんでしょ。だからあたしも口出しするわ」

算盤を弾くために爪を長めに伸ばした指先で、ロンの眉間をつつく。

「あんたはもっと自分の体で商売してるって自覚を持ちなさい!
 あんたたちの拳は、腕力のない者のために振るわれてはじめて、値段がつくんだから。
 ロン、あたしの目の前で、情動に任せて力を使うの禁止。上司命令よ、あんたは人のために、主にあたしのために力を使いなさい。
 あんたはうちの大事な社員なんだから……無駄働きなんて許さないわ。特別手当ぐらい、払わせなさいよ」

クローディアは言うだけ言って、再び踵を返してぷんすか歩き出した。
今日はもう遅い。どこか適当な安宿をとって、明日また色々と残った雑事を片付けなければならない。
クローディアは夜は働かない主義だった。寝るための時間だ。今日はとくに疲れたから、とっととベッドにしけ込みたかった。
ふと立ち止まり、背後の部下たちに眼を合わせず、彼女は呟くように零した。

「……でも、ありがと。あたしが言わなきゃならないことだったわ」

――ビジネスとしてどうか、はさて置けば、ロンの行動にクローディアは概ね賛成だった。
だが社運を預かる身の上では、ランゲンフェルトの挑発に言い返すこともままならない。
だから、ロンがああやって細かいことを顧みず社長の心を代弁してくれたのは、彼女にとって有り難いことだ。
良い部下を持ったと、そう言える。

「さあ、勝負は5日後よ。ここで稼ぎきって、あたしはコースアウトした夢への道程に舞い戻る!
 気合い入れなさいよあんたたち、見下し切られた鬱憤は、仕事で見返してやるんだからっ!!」

祭りの余韻から最も離れた朝通りは、この時刻にもなると殆どの家の明かりが落ち、眠り始めている。
商会の面々以外は浮浪者ぐらいしかいない夜中の大通りで、鼓舞するように社長は叫んだ。


【前半終了。何事もなければこのまま5日後へ。準備・伏線等があればこのターンでお願いします】

217 :名無しになりきれ:2012/02/28(火) 01:28:26.62 0
保守!

218 :名無しになりきれ:2012/02/28(火) 19:27:01.45 0
>>217
カチャ…





バン!1

219 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/28(火) 21:40:18.43 0
>『これより各チームの定期報告を始める。各員、自分の見聞きした情報を話して行け』

食事を続けつつ、念信器を使って報告を始める。
自分達がウィット・メリケインという名のハンターと手を組んだ事。
また自分がこの街を救いたくて学校と新聞社の設立を決めた事。
その決定は任務遂行におけるメリットも存在するが、あくまでも個人的な判断が下敷きにあるもので、
課の負担にはならないよう心がける事。
――でも本当にヤバくなったら泣きつくので、その時は出来れば助けて欲しい事。

報告すべき事はそれくらいだ。
今度は他の課員達の報告に耳を傾けて――その耳を疑った。

『ウィット・メリケインが、この街に零時回廊を持ち込んだ』

ノイファ達が報告した情報に、思わず食事の手が止まった。
――本当に?あくまでフラウという少女からの又聞きに過ぎない。名前を騙られただけの可能性も。
だとしたらアヴェンジャーは何故彼の名を?偶然で切り捨てるには話が出来過ぎている。

頭の中で様々な思考が煩雑に渦を巻く。
否定したかった。ウィット・メリケインはこの都市を救おうとしている『良い人』なんだと思いたかった。
でも出来ない。ノイファ達がウィットの名を聞き出した少女は、零時回廊の片割れを持っていた。
その事が何よりも雄弁に、ウィットの正体が『良い人』ではないと語っている。

>従うのは良心でも合理的判断でも良い。5日後、モーゼル邸で、自分がどのように動くか、――今ここで提示しろ』

『私は……』

従うのは良心でも、合理的判断でもない。

220 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/28(火) 21:42:57.27 0
『私は、ウィット・メリケインを拘束します』

怒りと憎しみだ。
マテリアは心からウィットの事を『良い人』だと思っていた。
彼とならこの街を救えるし、救いたいと願っていた。
それが所詮は独りよがりな考えだった事は分かっている。
だとしても――今、彼女が『裏切られた』と感じている事は、自分の心は誤魔化せない。

『彼を取り押さえて、彼の目的を……本心を、聞き出します。
 何故この街に零時回廊を持ち込んだのか。何故この街を救いたいなどと、言ったのか……』

もしもウィットがアヴェンジャーだとしたら、『鬼』を相手取る事になる。
危険過ぎる試みだった。そんな事は重々承知だ。
それでも、それ以外に胸の内で沸々と煮え滾る怒りを鎮める術を、マテリアには考えられなかった。

『まぁ……分が悪い賭けだって事は重々承知してます!でも大丈夫ですよ!
 ハイリスクハイリターンは世の常ですし、私だって勝てる見込みのない賭けに挑むつもりはありません!
 彼は私の正体を見誤っていますし……オークション当日は、彼の意識も白組……か、あるいは零時回廊に向いている事でしょう!
 そこを突けば、彼を取り押さえられる見込みはある筈です!』

いつも通りの明るい口調を装う。
自分の行動原理がただの怒りではないと、誤魔化す為に。
今更手遅れではあるだろうが、それでも建前として必要な事だ。

『もし失敗して捕まったとしても、皆さんの事を吐いたりはしませんから安心して下さい。
 そういう時にどうすればいいのかは……軍にいた頃に嫌と言うほど勉強しましたから。
 それに私がやられたら……その時はウィット・メリケインが黒だと確定しますよね。
 だからこれは、どう転んでも美味しい話……でしょう?』

取って付けたような合理的判断で、自分の本心を塗り固める。
課長が「駄目だ」という為の口実に、片っ端から先手を取っていく。
全てはウィット・メリケインの『本心』を、自分の手で聞き出す為に。


【マジギレ】


221 :マテリア・ヴィッセン ◆HK4NxXVjAByK :2012/02/28(火) 22:01:30.38 0
って、すみません。メモ帳からコピペする際にレスの途中から書き込んじゃいました
>>219の前に以下の文章があったって感じで脳内修正お願いします……!
まったく大した内容じゃないんですけどねっ

*  *  *

ボルトから予め指定されていた大衆食堂で、マテリアは少し遅めの食事を取っていた。
幼く見えるポニーテールを解いて前髪は横分けに、色気はないが上等な服を着て、伊達眼鏡をかけて、
生真面目な事務職系の女を装っている。
最近はずっとこの顔を使っていた。
役所での手続きを行うには、こういった外見の方が都合がいいのだ。


222 :名無しになりきれ:2012/02/29(水) 19:20:13.99 0
さて、暗殺者送り込んでもいい?

223 :名無しになりきれ:2012/03/01(木) 13:11:29.53 O
保守します

224 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/03/02(金) 00:05:53.64 0
一長一短という言葉がある。何にでも一つ取り柄があれば一つ難点があるということだ。
男の場合、腰が軽いことでフットワークも軽いことが多いものの、反面腰が据わってないので、
頭がフラフラしていくつになっても直ぐに何かと角を突き合わせるのだと、
ロンとランゲンフェルトのやり取りを見てダニーはぼんやりとした感想を抱いた。

>「一応ドレスは用意しますが、当然一着しかありません。汚損したら背広を着て頂くことになりますので」
ひらひらと手を振って了承すると、彼女も他の商会の皆とその場を後にする。

「・・・・・・」
一度宿へ戻ると、少し出かけてくるからクローディアを頼むとロンに言い渡し、
彼女はこの街の従士隊の詰所へ向かった。ここであることを確認しなくてはいけない。

昼通りに面したそこは役所を一回り小さくしたような簡素な白い建物で、
この街の気風のせいか、辺りに人影は全くと言っていいほどない。

ダニーはその辺の物陰で建物とは対照的な黒の燕尾服に着替えると、
飾り気がないのにどこか陰気な建物の扉をくぐり、受付係らしき従士隊の隊員に声をかけた。
時間帯や馬車の一件から出払っているのか、他の隊員の姿もない。

「・・・・・・」
従士隊の警護課ってのはここでいいのかい、とダニーが言うと、
応対した隊員はぎょっとしたまま押し黙ってしまった。念の為もう一度声をかけると、
気を取りなおしたのか、警護課に何の用だと上ずった声で聞いてくる。
微妙に質問に答えてないのだが、ダニーは構わず用件を伝えることにした。

「・・・・・・・・・、・・・・・・。・・・?」
モーゼルさんとこの使いで来たんだが、五日後の第七警護班の名簿を受け取りに来たんだ。
あるかい?と言うと、隊員の表情がさっと変わる。剣呑な色を湛えた瞳は、
その瞬間を見逃せば別人と見間違えるくらいに落差があった。とんだ昼行灯がいたものである。

>>第七警護班として警護課の指揮に入って頂きます。
先程ランゲンフェルトはクローディアとの商談の折にそう言った。第七警護班として・・・

考えられることはいくつかあった。始めからある第七警護班に編入されるのか、
それとも存在するはずのない班を臨時に設けるのか、この応対を見る限り後者だと
ダニーは判断する。また当日その従士隊の第七警護班の中身たる自分たちはそのままなのか、
或いは別人を名乗ることになるのか。

225 :ダニー ◆HgXyTzuaMCl. :2012/03/02(金) 00:08:08.76 0
名簿なら既に発想済みのはずだと彼は言った。声の調子を落として話す男に対し、
ダニーは取って来いと言われただけで他は知らないと、極めていい加減に返す。どうやら別人になるようだ。
名簿なんてものが無いことや知らぬふりをされることも考えていたが、
徒労にならなくて良かったと内心で冷や汗を拭う。

そんな彼女の心境を他所に男は何やら考えこみ、また沈黙する。
使い走りは大概こんなものだと思いつつ、ざっと以下のようにも考えたのである。

・目の前の大女が賊の可能性が有るが身なりが良い、モーゼルの使い走りの可能性も十分ある。
・名簿自体はただ無造作に並べた名前の羅列に過ぎず、盗られても「何か」に結びつくことはない。
・ここでちょっと真面目なことをしてこのデカ女を追い返しても得がない。
・それどころか主人に告げ口をされて自分の名前が出されたらどうなるか分らない。

他にも身元証明や雇い主への確認などできることは多々あったのだが、
そのどれもがこの街ではアテにならないことをよく知る彼は、何も言わずに席を離れると、
早々と予備の名簿の写しを取り出しダニーに寄越した。名前一つでこうも話しが進むことに
上役様様だな、彼女は思った。

「・・・」
ありがとうと言って従士隊の詰所を後にすると、ダニーは早速名簿に目を通した。
そこにはまさに手当たり次第といった具合でズラっと人名が並び、
どうもこの中から適当に選んで当日名乗れということの様だった。
形の上だけとは言え、これだけ雇うと知ったらクローディアの血圧に良くないこと受けあいだろう。

その後着替えなおして、フィンの行方を探したが、こちらはついぞ居所がわからなかった。
馬車の事故で野次馬は大勢いた筈なのだが、誰も乗っていた人間の安否やその後までは
見届けていないというのだ。

日を改めて医術院ではないかという言葉を聞いたが、道行く人々は軒並み
医術院の場所を知らなかったし、フィンと同衾するはずだったホテルを思い出したものの、
肝心の場所を聞いていなかったことに気付く。

やっておきたいことは色々あったのだが、結局の所できたのは、名義貸し用の
従士隊名簿を一つ手に入れることと、その名簿を使って偽名を名乗ることが分かったことだけだった。

【偽名準備完了】

226 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2012/03/02(金) 16:43:35.66 0
医院の職員たちは、穴に潜んで餌を引きずり込むある種のクモのような速度でもってフィンを搬入して行きます。
扉がしっかりと閉じ合わされ、その上に赤い光が灯りました。

>「大丈夫だ、パンプティは助かる。アルフート、お前が『逃がす』ことで自分や仲間を助けることができるなら、
> あいつは『守る』ことで助ける本職だ。他人を助けられるような奴が――自分一人助けられないってことがあるものかよ」
「…………本当にそう思いますか?」
エンジン音や高笑いが漏れ聞こえてくる扉を見てからそう言ったファミアに、課長は目をあわせてくれませんでした。

爪の先がすっかり白くなって、指の強張りを認識し始めた頃、表示が切り替わりました。
ファミアは緊張感のないメッセージにぎりっと歯を鳴らしつつも、出てきた医師に駆け寄ろうとしてUターン。
フィンの身体のどこにそれだけ残ってたのかというほどの返り血が術衣についていたからです。
その後の施術内容の説明も、耳に指を出し入れしながら「わー」と声を出すことで回避しました。
ついでに支払いまで回避してしまったのはご愛嬌というもの。
それから課長は医師と奥に、ファミアはフィンの病室へ向かいました。

寝台の上のフィンは意識もあり、身体もちゃんと動くようです。
ファミアはなんだか違和感を覚えましたが、瞳の色の変化には気が付きません。
「ご無事で何よりでした」
フィンの右手を取ってぎゅうとにぎって、そう声をかけました。(ちゃんと手袋は外していますよ)
掛け布の下の左腕の異変にも、気が付かないままでした。

後刻。
>『これより各チームの定期報告を始める。各員、自分の見聞きした情報を話して行け』
課長からの念信が、深夜食堂に集合した遊撃課一同へ向けて送られました。
それを受けて、まずマテリアら富民分隊から報告を始めます。
次いで貧民小隊(彼女らが貧乏しているというわけではありません、念のため)、

最後は富民第二分隊であるファミア達の番です。正直気が重いことこの上ありません。
だって、『商会』の人達と楽しくお酒を飲んで帰路で事故ってフィンが死にかけたくらいしか言うことがないからです。
なんかちょっと痛いような気がする胃を押さえながら、ファミアは報告を終えました。

すべての報告が終わって、課長からの指示は以下のとおり。
>『課の方針として、まず『零時回廊』の奪還を試みる』
>『5日後、モーゼル邸で、自分がどのように動くか、――今ここで提示しろ』
さて、ここでまず考慮すべきはファミア達以外の二組から出てきた同じ名前、ウィット・メリケインでしょう。

ユーディが事件を起こしたのが一か月前。
およそかきっかりかは定かではありませんが、ウィットが行動を起こしたのも一か月前。
帝都からここまでの足取りがないというのであれば、同一人物であるわけがありません。
つまり協力者がいるということになります。

もし同一人物ならば、例えば透明になって痕跡を残さず交通機関を使用できたとか、瞬間移動ができるとか、
とにかく大きなタイムラグを生じない移動方法で帝都からここまで来られたはずです。
そんな遺才の保持者であれば街への出入りだって完全に隠密裡に行えるわけで、
それが『今さら』目撃されるというのも腑に落ちない話。
気の緩みでもあったのか、それとも――意図があったのか。
(目撃……? そういえば、私は顔を知らない……)

亡命希望者の中に似た男がいた、というのがそもそもの出発点でした。
つまり人相書きか、少なくとも風貌の特徴に関する情報は各地に出回っていたはずです。
にもかかわらず、任務に際してそれが提供された記憶はファミアにはありませんでした。

知らないといえば、強奪された呪物に関しても同様です。
それが、在る場所に確実に天災を呼ぶ零時回廊であるということは今この場で知ったことで、
事前にこういうものが奪われた、とは聞いていません。
(あれ?揃うと災害が起きるなら、どうやって保管されてたんだろ)

ノイファたち貧民グループ(繰り返しますが、彼女らが貧乏しているという意味ではありません)も、
報告を聞く限り知らなかったようなのでファミアの聞き落としではないはずです。
伝達のミスか、ここにも何らかの意図があるのか。

227 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2012/03/02(金) 16:48:55.48 0
遁鬼と呼ばれた男とへたれ倒したハンター。
同一人物でなかったとしても、目的を共有している可能性は。
回収を指示されなかった呪物。降りて来なかった情報。
(元老院はなんであれ我々に見つけさせたくなかった? でも、それなら任務が割り振られるはずが……)

そこまで考えたところでばすん、と音がしてファミアの後頭部から脳漿が飛び散りました。
幸い、ただの心象を絵に起こしただけなので実際にはそんなスプラッタな光景は出現していません。
準備なしにいきなり動かすと良い結果にならないのは、身体でも頭でも一緒ですね。
ファミアは運ばれてきた塩蔵豚のシチューに手をつけながら、
夜食の前に謎解きなんてするものじゃないな、と考えるのでした。

>『私は、ウィット・メリケインを拘束します』
課長の下命に真っ先に答えたのはマテリアでした。
誰に口を挟む隙も与えずに一気にまくし立てます。

>『それに私がやられたら……その時はウィット・メリケインが黒だと確定しますよね。
> だからこれは、どう転んでも美味しい話……でしょう?』
『それはどうでしょうか。確証を得るための犠牲としては大きすぎるように思います』
最後をそう結んだマテリアに、ファミアは即座に否定を返しました。
これは考えるまでもなく結論付けられます。
仲間をみすみす死地に追いやれないとか、そういう情緒的な面を一切勘案しなくてもマテリアを失うわけにはいきません。

ファミアは冗談も誇張も抜きで軍事用ゴーレムと綱引きができるぐらいの力を出すことができます。
しかしそれは人を集めれば代替が可能ですし、あるいは使役動物などでも問題ないでしょう。
一方、百人で叫んでもマテリアほど遠くへ声は聞こえないでしょうし、馬や鳩に託しても速度が追いつきません。
唯一念信機のみはそれと比肩し得ますが、現在使用しているものでは距離や通話品質に不安が残ります。

今回のような任務では各人の間での情報の伝達をどれだけ正確に、迅速に行えるかで成否が決まるといっても過言ではありません。
そして、それはファミアが無事にこの街を出られるかを左右するのです。
いつでも利己主義。ファミアの人生哲学です。

『まずウィット・メリケインなる人物に関して、この五日の間にもう一度当たってみるべきです』
マテリアとスイは近距離で顔を見ているので、その人相を貧民街の子供らに伝えることができます。
もちろん、どちらかで、あるいは両方で変装をしているとも考えられますが、そうではない可能性も依然残っています。
まず事前に集められるだけのものを集めてから門番へ、ということです。

さて人のことをとやかく言うのはいいとして、自分はどう立ち回るべきか。
『私は商品として邸内に潜入しようかと思います」
なぜなら一番安全ぽいポジションだからです。
白組はその名に賭けて取引前の商品に起きる問題を排除してくれるでしょう。

一度黒組を退けている分、疑われる可能性もありますが
出品者が貧民街の子供たちであれば、油断を突いて捕縛できたという名目も成り立ちます。
誰かに買われて邸外に『搬出』されれば脱走も楽。
何より、零時回廊の現物を確認できる可能性が最も高いのは舞台裏に回ってしまうことです。
問題があるとすれば……『商品価値』が認められるか、でしょうか。

【自分を売る】

228 :ロン・レエイ ◆1AmqjBfapI :2012/03/04(日) 13:17:44.04 0
緊迫する一瞬。ロンはこの時点で戦闘態勢に入っていた。こちらから挑発した時点で、相手がこの喧嘩に乗ると考えて。
だが、ロンとてまだ子供。武術に長けているといえども、だ。少なくとも、相手を舐めてかかるのは子供である証左だ。
――――間一髪。九死に一生を得るという言葉は何処で聞いたか。
ロンは襟首を掴まれ、体が後ろへのけ反る。瞬間、ロンの喉に位置する場所に、風が駆け抜けた。
そして同時に、行き場の失った小さな雷の矢もあらぬ方向へ迸り、天井に小さな穴を開けた。

「ぐぇっ!?」
>「おっと失礼。突然の雷に驚きのあまり滑ってしまいました」
咳きこみながら、ロンは眼前につきつけられたそれから目を離せずにいた。
脚だ。後数ミリ喉を前に突き出せば、術式のかかった爪先に引き裂かれたことだろう。

色眼鏡を外したランゲンフェルトと、まだ息の荒いロン、両者の睨み合いに火花が散る。
その後、ダニー用のドレスを仕立てると言って黒組の頭領は去り、商会もアジトを辞した。
拡張魔法を使用したアナウンスが響く中、ロンは不貞腐れた顔でクローディアの後ろを歩いていた。
――あの場で、ランゲンフェルトに勝てる気はあった。だがそれ以上に、彼の放ったあの言葉がロンを苛立たせた。
俺一人を殺したところで、"俺達"は止まらない――頭領一人だけでなく、徹底的に潰さない限り彼らの悪行は止まらないということ。
ならばいっそ……黒い瞳が一瞬だけ暗くなった折、クローディアが振り返り。

>「このっ……バカプロレタリア!電気ネズミ!アホエレクトロニクス!」
「あだっ!?だったっ、シャチョ、って!」

叩かれた。それも丸めた契約書で眉間を、連続的にだ。完全な不意打ち+連打のコンボで目を回す。
唐突な理不尽としか言いようのない攻撃に異議を唱えようとした口は、肩で息をする社長によって遮られた。

>「あんたはもっと自分の体で商売してるって自覚を持ちなさい!
> あんたたちの拳は、腕力のない者のために振るわれてはじめて、値段がつくんだから。
> ロン、あたしの目の前で、情動に任せて力を使うの禁止。上司命令よ、あんたは人のために、主にあたしのために力を使いなさい。
> あんたはうちの大事な社員なんだから……無駄働きなんて許さないわ。特別手当ぐらい、払わせなさいよ」

何も言えないロンの眉間を、その長い爪でつつき、クローディアは言う。
体で働くことに自覚を持てと。私情にかられて暴力を振るうなと。人の為にその拳を振るえと。
全くもってその通りだった。何より耳が痛い言葉の羅列に、羞恥で耳まで火照る。
幼いころ、父に厳しく言われた忠告、そのままを自分が実行できていなかった事に恥を覚えた。
痛む眉間を擦り、ロンは俯く。まだ自分は、修行が足りないのだと自覚させられた。

>「……でも、ありがと。あたしが言わなきゃならないことだったわ」
「え……」
立ち止まったクローディアが、不意にそんな言葉を漏らした。生憎と、ロンには聞こえなかったが。

>「さあ、勝負は5日後よ。ここで稼ぎきって、あたしはコースアウトした夢への道程に舞い戻る!
> 気合い入れなさいよあんたたち、見下し切られた鬱憤は、仕事で見返してやるんだからっ!!」
「お、オー!」

夜中の大通りに、若き男女の熱気盛んな掛け声が木霊する。
騒ぎながら宿に辿り着き、社長が寝に入った頃、ダニーがクローディアを頼むと言い残しどこかへ出掛けて行った。
ならば、ついでにフィンの入院先も調べておいてくれと言った旨を伝え、ダニーを見送った。
クローディアが完全に夢の中に飛び込んだ傍らで、舟を漕ぎながら、ロンはこれからの事を考えた。
――――5日後、自分達はあの背広を着て闘う。その時果たして自分は、クローディアの言った通り、自身を制御できるだろうか。
今まで、己の生活と修練の為にふるった拳を、他人の為に使役出来るだろうか。

「俺は――変われるのかな。父さん……」

いつしか、ロンは膝をかかえたまま座り込み、夢の世界へと飛び込んで行った。――――彼の運命が変わるまで、後5日。

229 :名無しになりきれ:2012/03/04(日) 15:21:37.77 0
レギオンのどこがオリジナルなの?
パクリじゃんここ

230 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/03/06(火) 05:08:07.93 0
ひたすらだだっ広い空間に幾重にも連なるテーブル。
さながら戦場の如くひしめく人と喧騒。

(ウィット=メリケインと接触した、ですって!?)

情報交換の場として指定されていた大衆食堂『陸の孤島』。
マテリアの報告に耳を傾けていたノイファは、口へ運んだ木匙もそのままに、俄かに顔を強張らせる。
通り掛った若い女給と目が合い、申し訳なさそうに近寄ってくるのを慌てて押し留めた。

(……この後に報告しなければならないと言うのは、どうにも)

"声"の眷属であるマテリアの域には到底及ばないが、それでも幾らか分かることはある。
報告の際、微かに弾んだ調子の彼女の声。協力を申し出たウィットに対し、マテリアが好意を向けているのは疑うべくもない。

しかし、今からノイファが告げなければならないのはそれとは真逆。
この街に"零時回廊"を持ち込んだ人物としてのウィット=メリケインなのだ。
事実だけを報告したとしても、ユーディ=アヴェンジャーと何らかの関係があるのは明白だ。
それゆえに気が重い。

『こちらの得た情報ですが――』

それでも告げぬわけにはいかない。
零時回廊、ウィット=メリケイン、フラウ達への協力、そして五日後にモーゼル邸で開かれるオークション。
ノイファは包み隠すことなく、言い淀むことなく、明らかにする。
自身がもたらす情報で、マテリアやスイが衝撃を受けることも全て承知の上で。

(随分とんとん拍子にことが運ぶと思ってましたけど……ツケが来ましたかねえ)

はあ――と、ため息一つ吐き、水で割った果実酒を一息にあおる。
たった一日の間に、随分と多くの出来事があり過ぎた。
とりわけ大きいのは、ファミアの報告の中にあったフィンの負傷だろう。
幾多の苦境の矢面に立ち、それら悉くを退けてきた遊撃課の"盾"が、あわや砕けるところだったのだ。

ちらと、フィンの様子を伺い見た。
この場に臨席しているということは一応無事なのだろうが、本当のところは知れたものではない。
今まで、自分の命をまるで顧みず二の次三の次としてきた彼のことだ。
今も大分無理をしているのではないか、そう思えて仕方が無かった。

>『課の方針として、まず『零時回廊』の奪還を試みる――
  ――5日後、モーゼル邸で、自分がどのように動くか、――今ここで提示しろ』

"零時回廊"の奪還。
それが遊撃課の長として、ボルトの下した判断だった。

(…………なるほど)

広大なモーゼル邸への潜入において、逐一指示を仰ぐのは不可能だ。
ゆえに現場での動き、役割の全てを個々の裁量に任せる、そのための事前提示ということなのだろう。
自身の持つ偉才とスキルを総動員し、どの役割ならば最も成功の目があるか。
それを見極めなければならない。

(もう二度と……目の前で誰かを失うのはごめんですから)

脳裏に浮かぶのは湖に散った堕天使の青年と――もう一人の、血を分けた存在。
立場やしがらみなんて関係ない。全てかなぐり捨ててでも勝ちを拾いにいくと、歯を噛み締めた。

231 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2012/03/06(火) 05:13:28.62 0
>『私は、ウィット・メリケインを拘束します』

誰よりも先に役割を提示したのはマテリアだった。
自身を犠牲にしてでもウィット=メリケインの正体を暴いてみせると、悲壮ともいえる決意を告げる。

>『それはどうでしょうか。確証を得るための犠牲としては大きすぎるように思います』

即座に否定を挟んだのはファミア。当然だろう。今回の作戦においてマテリアの重要度はおそらく一番高い。
彼女だけは何処に居ても全ての課員と連絡が取れるのだ。命綱と言っても過言ではない。

『マテリアさんの気持ちも分かりますが……私もファミアさんの言葉に賛成です。』

マテリアにここまでの激情を抱かせる結果となったのは、紛れも無く自分たちが持ち込んだ情報が原因だ。
任務上仕方の無かったこととはいえ、手放しに頑張れなどとは言えたものではない。

『判っているとは思いますけれど、今回は藪を突いた結果"鬼"が出る可能性があります。
 確かに"情報"を知っていることは立派な武器ですが、一度明らかにしたそれは凶器となって自分に返って来ることだってあります。
 マテリアさんなら……知っていますよね。』

彼女が遊撃課に送られて来た、その理由こそがまさしくそうだ。
退くに退けなくなったとき、鼠ですら猫に戦いを挑む。それが人なら尚更だろう。

「それに――」

念信器は使わずに、口をわずかに振るわせる。

「――私自身"ウィットさん"が悪人だとは思えませんのでね。
 彼が助けて、生き抜く術を教えた"子供達"に触れて感じた、いわゆる勘に過ぎませんけれど。」

騙されている可能性は否定できない。正しいのはマテリアの方かもしれない。
それでも一月前に帝都で起きた騒動は、不可解なこと、隠された裏がある気がするのだ。
明らかにするべきなのは、追い求めるのはそちらなのだと、そう思う。

(まあ、お節介は程ほどにしておきましょうか)

いくら忠告したとしても、感情に決着を付けられるのは結局彼女自身だ。
どうにか落としどころを見つけてくれるのを期待するより他はない。

それよりも今は、五日後のオークションで、己がどう動くかを提示するのが先だ。
と言っても、あらかたプランは固まっている。
フラウとの打ち合わせの中で、潜入ルートは考えてあった。"出品者"としての参加である。
そのために必要な"商品としての役割を、"ノイファは初めフランベルジェに頼むつもりで居たのだが――

>『私は商品として邸内に潜入しようかと思います』

――まさか、自分から志願する者が居るとは思ってもみなかった。ファミアである。
だが、考えようによってはフランベルジェより適任といえよう。
手を覆う装具さえあれば、いかんなく偉才を発揮できるし、何よりフランベルジェよりも数段"貴族らしい"。

実際、良いところの出とのことなので立ち居振る舞いも期待できる。
貴族の姫君として競売にかけるならば、細腕を彩る絹織りの手袋は断られることはあるまい。
つまり十分以上に戦力となるのだ。

『なら私はファミアさんを捕まえた人攫いということで、オークションに参加しましょう。
 なにより"路地裏の子供たち"との面識もありますしね。』

当のファミアが、保身全開で立候補したことなど露ほども疑わず、口許を笑みの形につり上げた。

【ファミアを売ります。】

232 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2012/03/07(水) 00:50:26.50 0


やがて、医師が退出した病室に少女が入ってきた。
灰色の瞳だけを動かしたフィンには一瞬、その少女が誰か判別出来なかったが
その顔を見てようやくそれが、ファミアであると認識出来た。
認識が遅れたのは――――特徴的であった、彼女の金髪と紫眼。その色が判らなかったせいだ。
フィンはファミアを認識するや否や、彼女から視線を逸らす。
自身が足手まといになった事。眼前の少女の手助けを出来なかった事。
胸中に渦巻く様々なものの影響だろう。今のフィンには、他人の視線を受け止める力すら残っていない。
そんなフィンの暗澹とした心中に気づいた様子は無く、
近くまで歩み寄ったファミアは――――フィンの右手を掴み、言った。

>「ご無事で何よりでした」

「……っ」

優しい言葉。だが、フィンにとっては別の意味を持つ言葉。
一瞬、遠い過去の幻影が思い浮かび、フィンは今にも泣き出しそうな表情になる。
けれども、瞬きの後にはそんな事は無かったとでもいうかの様に、フィンの表情は笑顔になっていた。

「……ようファミア!わりぃな、心配かけちまったか?
 まあ、この通りちっと怪我しちまったけど……俺は平気だぜ!安心してくれ!」

輝くような白い歯を見せ、無理矢理に瞳を動かしファミアの眼を見て
屈託の無い、子供の様な笑みを浮かべる

物語に出てくる不屈の英雄。
どんな逆境にも折れる事無く、決して揺らがず、全てを救って見せる勇者。
まるでそんな人物の様な笑顔を浮かべ、握られた手を強く握り返す。
けれどもそれは、与えられた手の温もりに縋りつくようでもあった。


・・・・・


一見。椅子に座るフィン=ハンプティの外見は、まともに見える。
再度着込んだ執事服……襤褸切れの様になったものではなく新調したそれを着込んだ姿。
いつものバンダナの下に巻かれた包帯と右脇に置かれた木製の杖を覗けば、
少々の怪我をした程度にしか見えなかろう。
が、当然フィンが負ったのは少々の怪我等ではない。
医師には絶対安静を申し付けられている、正真正銘の大怪我である。
執事服の下に隠され巻かれている治癒の魔術が込められた包帯は皮膚の露出面積よりも多く、
両腕には金属板が添え木代わりに包帯で巻かれている。
その金属板によって微弱に遺才を発現する事で、かろうじで行動が可能。
そういったレベルの怪我なのだ。激痛で呻き続けているのが普通の状態なのである。
しかし、フィンはそんな様子をおくびにも出さず、
食堂の椅子に一人で腰掛け、注文した麦粥を食べる事も出来ず灰色の瞳で見つめていた。

次々に成される遊撃課の面々の報告を聞いても、かつての様に活発に意見を返したりはしない。
自身の報告も、フィン自身が遭遇した事件の事。それに付随する僅かな情報を述べるに留まった。
フィン自身の事故の後遺症について述べる事も無い。ただ、怪我をした程度だと述べた。

233 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2012/03/07(水) 00:51:57.87 0

――――そして全員の話を聞いた結果、事態は思わぬ展開に進んでいる事が判明した。

『零時回廊』という天災級の呪物。
ウィットという、遁鬼と接点の多すぎる男。
白組、そして黒組と、オークション

その性格上、元々思考する事は得意ではないフィンにさえも状況の難解さは理解出来る。
ただでさえ厄介な遁鬼から生き残らなければいけない上に、
闇組織を相手取り、その遁鬼と関係のある呪物の回収までも行わなければならない。
はっきりいってしまえば――――危険度は当初よりも跳ね上がっている。

「……任務を放棄して帰れば、遊撃課だけは生き残れるじゃねぇか」

調度、激昂しているマテリアの声と重なるように、フィンはほんの小さな声でそう言い
……直後にそれを否定するかの様に小さく首を振る。
そうして下げていた頭を無理矢理持ち上げると、状況報告後、初めて全員に向けて口を開いた。

自身が疑似餌となりウィットを拘束するというマテリア
それに異議を述べ、自身が商品となり活路を開くと申し出たファミア
その状況を利用して自身もオークションに潜り込むと宣言したノイファ
彼女らの意見に対しフィンは

『俺は――――オークションには参加しない』

意外といえば意外な言葉。
常のフィンであれば、それが可能か不可能化はさておき、仲間の危険を避ける為に
自分がウィットと接触するないし、自身が商品になる程度の事は言っただろう。
だが、フィンは脇に置いた杖を指差すと

『俺の怪我の状態じゃあ、零時なんとかってのを手に入れて
 万が一逃げなくちゃならねぇってなった時に、足手纏いにしかならねぇからな。
 俺が居ない方が生還率が高いなら、そうするべきだろ』

ある意味では筋の通っている意見だが、フィンらしくは無い意見だ。
勿論、ここまでで終わりならば、だが。

『――――だから俺は、当日は何かあったときに警備を引っ掻き回して連中の意識を引き付ける役をやるつもりだ。
 報告だと、ノイファっちの知り合ったフラウって奴らが警備の『癖』ってのを探してるんだろ?
 俺は、皆がその警備を手薄にしたい時に、警備が一番『厳重な』場所に飛び込んで全員を行動し易くする役割をやるぜ』

フィンが望んだのは、陽動の役割だった。
幾ら遊撃課の面々とはいえ、仮に何かあった時に、敵の本拠地で敵の全員を相手にするのは危険だろう。
ならば、その敵の数を分散する事で少しでも仲間に降りかかるリスクを減らしたい。そう考えての発言だった。
そんなに移動せずに引き付けるのだけが目的なら、今の俺でも全員が逃げ切るまでは生き残れるだろうしな。
と、付け加える様に告げたフィンには何時も通りの爽やかな笑みが浮かんでいる。いや、浮かべている。

【フィン:ファミアをドナドナするのを容認します。
     オークションに内側からではなく外側から接触すると宣言】

234 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/03/09(金) 18:05:23.70 0
課長が指定されていた集結地点の大衆食堂にやって来ました
店内には大勢の人たちがひしめき、とても活気があります
鼻をくすぐる料理や酒の匂いに私のお腹も歓声をあげています

「黒パンと腸詰めとふかし芋、あとラバンフィッシュの煮付けに……一角牛の香草焼き、それにピルスナー」

大衆食堂に来てなにも頼まないというのもへんな話なのでごく普通の注文をたのみます
ピルスナーを頼んだのはご愛嬌です

店内ではみなが各々離れて座っています
令嬢とその従者を扮するアルフートさんとハンプティさんだけは一緒に座っているようですが
それにしても、ハンプティさんが馬車に轢かれたと聞いた時は覚悟を決めましたが『天鎧』は伊達ではないということでしょう
包帯と杖程度でここに現れるとはさすがの一言につきます

私どもの報告はアイレル女史に一任するとして私はほかの方達の報告に耳を傾けました
まずは富民チームの報告です
ヴィッセンさんが少しばかり上機嫌な声色で報告を始めました
クローディアとの接触についての報告から始まり、ウィット=メリケインと接触したというのです
ちらりとアイレル女史の顔を伺うとやはりというべきですか、愉快な顔はしておりませんでした
私は女史がいったいこの後どう報告するのか、固唾を呑んで聞くことにしました

結果からいうと全てを話しました
我々の見解であるウィットとユーディが同一人物であるというところまでもです
アイレル女史にこの役割を押し付けてしまった私としてはとても心苦しい気持ちになりました
目の前にある冷えたピルスナーを煽ってもなにも爽快感などは得られません

報告会はなんとも暗雲とした印象のまま次に映ります

『この任務を通して、アヴェンジャーや白組黒組に対する少なからぬ思いがお前らにはあるはずだ。
 従うのは良心でも合理的判断でも良い。5日後、モーゼル邸で、自分がどのように動くか、――今ここで提示しろ』

>『私は、ウィット・メリケインを拘束します』
まずはそう宣言するのはヴィッセンさん、深い憎しみの色がその声からしみ出してきているようにかんじます
言葉をつらつらと並べていきます

235 :セフィリア ◆LNOccQOx3Y2N :2012/03/09(金) 18:07:58.68 0
>『それはどうでしょうか。確証を得るための犠牲としては大きすぎるように思います……』
>『マテリアさんの気持ちも分かりますが……私もファミアさんの言葉に賛成です。』
それを即座に否定するアルフートさんとアイレル女史
正直に言いますと私はこの2人の言葉に賛成です

『あなたはこの課に不可欠な人材です
それは戦術上だけではありません。この課でこれ以上の犠牲者が出るこは嫌なんです
この想いは誰しもが持っていると思います
ですので私はあなたの自身を捨てるような提案に賛成出来ません』

私は甘く馬鹿な発言をしたのかもしれません
おそらく彼女の言う通りにすればこの任務に関しては上手くいく可能性も高いでしょう
彼女の能力も情報部等を探せば替えがきくかもしれません
任務の達成を最優先に掲げながらのこの言葉、私は自分がわからなくなります
人としては正しい言葉のはずなのに私はなぜこうも心に迷いがあるのでしょう
「任務の達成より仲間の命が大切です!」少年少女向けの冒険活劇に出て来そうな言葉
そんなもの一つ信じることの出来ない私は貴族として騎士として……いえこのことは任務の成否が決した後に考えましょう
誰も死なせないし任務も完遂させる
当たり前のことを当たり前にするだけ、だから私のすることは決まっている

『プライヤー課長、私はアイレル女史の共同出品者か護衛として会場に潜入いたします
作戦目標を奪取した後に私は会場脇にありますゴーレムを奪い皆の撤退を援護します
皆の撤退が確認されたあと機体を捨て脱出いたします
私の能力の関係上難しい役割ではないと思います
もちろん生きて帰ることも付け加えさせていただきます』

私のゴーレム操縦能力と戦闘能力を考えた場合この役割が一番いいと思いました
殿が武門の誉れ、自ら志願するのは強引かもと思いましたが、私は全力で自らの能力を任務達成に役立てるだけです

【勝手に殿をすると宣言】

236 :スイ ◇nulVwXAKKU :2012/03/10(土) 23:38:41.97 0
耳元で各自の報告が流れるのを聞きながら、ズルズルと水を啜る。
報告は、全てマテリアが話したし、こちらから言うこともないので、黙りこくったままだ。
そして、スイはノイファからの報告に耳を疑った。

>『こちらの得た情報ですが――』
「へぇ…」

驚きすぎて、感嘆詞しか出てこない。
マテリアの憤る声が聞こえてきて、スイは静かに目を伏せた。
ウィットは恐らく自身の利益か安全を最優先にしたのに過ぎないのだろう。

>『この任務を通して、アヴェンジャーや白組黒組に対する少なからぬ思いがお前らにはあるはずだ。
 従うのは良心でも合理的判断でも良い。5日後、モーゼル邸で、自分がどのように動くか、――今ここで提示しろ』
>『私は、ウィット・メリケインを拘束します』

そのマテリアの言葉に、遊撃課の面々が反対していく。
スイも口を開いた。

『やめておけ。それこそ相手の思惑通りだ。』

一時の感情にまかせて行動した者は、大抵相手の陰謀という物に巻き込まれるのがオチだ。

『俺は一般人としてオークションに参加する。』

幸い宝石商の姿をしていれば、金のある人には見える。
買い取り人としては申し分ないはずだ。

『余裕があれば、『零時回廊』とやらを落としてみる』

【オークションを買い取り人として参加】

237 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/03/14(水) 22:41:56.24 0
【五日後・大衆食堂『陸の孤島』】

『作戦を確認する』

ボルトはここ五日間毎日のように通いつめたおかげで半ば指定席のようになったホール右奥の席に腰掛け、念信器に囁いた。
彼は任務開始から今日までの日々を、ひたすら街に溶け込むことに費やした。
この街の人間が異変に対してどのように捉え、如何なる対処をするか――観察し、反射的に周りに追従できるようになった。
人間突発的な非常事態には素が出るものであるが、今回の彼らがその非常事態を手ずから発生させる張本人だ。
なればこそ、この演技には意味があった。ボルトは完璧な傍観者になることに成功したのだ。

『本作戦における遊撃課の勝利条件はただ一つ。「零時回廊の奪還」これだけだ。
 お前らは常にこれを目的として動き、そして共にこれを成功させんとする隣人の手を借り手を貸し達成せよ』

本国に申請していた官費が降りて、『白組』のオークション参加権が一つだけ購入できた。
ボルトはこれをスイに渡し、残りは自費にて零時回廊を競り落とすよう通達した。
スイは元々宝石商の身分でこの街に入っている。経歴を少し弄ってやれば、盗品も構わず取引する悪徳商を装わせるのは容易だった。
そしてスイのマテリアルは――宝石だ。局所的な制圧力では要となる存在である。

『アイレル、ガルブレイズは奴隷商として、アルフートを"商品"にして潜入。パンプティはそのバックアップ』

最も零時回廊に近い場所――商品の陳列エリアにファミアを置いておけるのは好都合だ。
マテリアルも装着しておいて不自然でないものである以上、鉄火場でも必要以上の働きが期待できる。
先立って集めておいた情報によれば屋敷にゴーレムも配備されているようだし、上手く連携して鹵獲できればこれ以上はない。

ゴーレムさえあれば、セフィリアの独壇場だ。屋敷に配備できる程度の戦力では、彼女の敵にはならない。
随伴歩兵として防性結界を張れるノイファが同行すれば、ここについてボルトが勘案すべきは最早ないだろう。
善き哉。存分に暴れまわってもらえば良い。

『ヴィッセンは――ウィット=メリケインに同行。だが間違えるなよ、お前の任務はアヴェンジャーの拘束じゃない。
 監視と牽制、事態の真相を見極めて、それをおれたちに伝えるのはお前にしかできないことだ。
 差し違ってでも情報を得る……なんてことは許可しない。――スティレット』

食堂のカウンター席でナイフとフォークを手遊びしていたスティレットがパっと顔を上げる。
さも今まで謹聴してましたよと言わんばかりに硬い顔を作り、背筋を伸ばす彼女に命じる。

『スティレット、ヴィッセンに随伴しろ。相手が"遁鬼"なら、同じく鬼銘を持つお前が顔を出せば警戒するはずだ。
 少なくとも迂闊に手を出せなくなる。スティレットを真っ先に潰しにくる可能性もあるが……』

サボりに睨みを効かせていた三白眼を、ずいとマテリアの方へずらした。

『――その時は、お前がフォローしてやれよ、ヴィッセン』

それは暗にマテリアに対する牽制も示していた。
潜入任務にまるで適性のないスティレットの使い所に困ったのもあるが、とかく今のマテリアは暴走傾向が否めない。
足手まといに全力で足を引っ張らせることで、突っ走るマテリアにブレーキをかけようという目論見だった。
無論、それは万全の采配ではない。マテリアの遺才を駆使すれば、馬鹿一人を撒くぐらい造作もないだろう。
だからこれは、『お前を信用してこういうことをするんだからな』というマテリアの善性に対する睨みでもあった。
こうでもしなければ天才は止まらない。今は従順の皮を被っているが、彼らの本質はやはりじゃじゃ馬なのだ。

『さあ、状況を始めるぞ。何の因果かこの街に迷い込んだクソッタレの特級呪物を、箱詰めにして帝都に送り返してやる。
 この任務にあたってお前らに下す命令は一つ――"うまくやれよ"それだけだ。準備はいいな、現時刻二〇三〇をもって、』

ボルトは柏手を一つ。5日目のウェイトレスは既に反応すらしない。

『――状況開始だ!』

 * * * * * *

238 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/03/14(水) 22:42:14.56 0
「パンプティ、お前ちょっとこっちに残れ」

状況開始した部下たちが不自然にならない時間差で食堂を後にする中、ボルトはフィンに声をかけた。
ことが起こってからの陽動を買ってでたフィンは、行動を開始するまで時間的な余裕がある。
だからしばらくはここでボルトと共に待機していても良かったのだが、彼はフィンにそう命じるつもりはなかった。
官費の申請と並行して進めていた手続きの、返答がようやく送られてきたのだ。
他の課員達が残らず捌けたのを確認してから、ボルトは声を落として言った。

「――壁の外に馬車を手配してある。陽動の後詰はおれが担当するから、お前は一足先に帝都へ帰投しろ」

差し出したのは帝都行きの馬車の手配券。
タニングラード発のキャラバン小隊に同乗する格安便だが、不自然に思われることなくこの街を脱出できる。

「お前の傷状については医者から知った。その左腕、もう感覚がないんだってな。眼も悪くしたと聞いてる。
 帝国法労働規則第40項抵触事由だ、直属の上司の責任を以って、お前をこれ以上戦わせるわけにはいかない」

同法同項は、労働災害に関する規定である。
業務中に、後遺すると思われる重篤な負傷をした場合、直ちに業務を停止させ使用者の責任で治療を受けさせなければならない。
そして、症状に快癒が見られない場合、業務遂行能力の喪失を理由に無期限の待機を命じることが定められている。
無期限の待機。それは給金の保証された、事実上の解雇処分である。

「その身体じゃどの道長時間の戦闘は無理だ。とくにお前の配置は陽動、最も敵の火線に晒される場所……
 お前、死にに行くつもりか?――またおれに、部下を喪わせるつもりか」

ボルトはそこで目を伏せ、口中で苦味を噛み潰した。
サフロール=オブテインが死んだのは、直接の原因こそ落盤事故によるものだが、実情はもっと単純だ。
彼は自分の命に遠慮をしなかった。躊躇なく、命を削る魔術行使を重ね――そして削り尽くしてしまった。
フィンが己に課そうとしている運命はまさしくサフロールの二の轍だった。

「帝都で専門の治療を受けろ。おれのコネで、優秀な魔導師を紹介してやっても良い。
 お前の身体が完全に回復するまでは、お前に遊撃課の仕事は回さない。給料は保証してやるから、自宅でじっくり養生してろ。
 忘れてるかもしれねえがな、お前らはペン先一つで首が飛ぶし――なんならおれの一存で、昇格させることもできるんだぞ」

遊撃課における昇格。それは左遷の解除であり、出向元への帰還である。
もともと組織の中での有用性に疑問を持たれて飛ばされた者たちの集まりが遊撃課であるから、
課長であるボルトが『有用だ』と太鼓判を押すことで元の組織へ送り返すことは可能なのである。
とくにフィンのように、著しく協調性に長けた人物は、わざわざ遊撃課で腐らせずとも活躍できる組織は山ほどある。
『天鎧』という防御の極致の遺才なら、あらゆる機関が喉から手が出るほどに欲しがるだろう。

「お前はこんな否定の最果てで死んでいって良いような人間じゃない。
 それにな、おれたちは国命を帯びて任務に挑んでいるが――それでも、ただ一人の社会人であることに変わりはないんだ。
 お前は世界と自分、どっちが大事だ?おれは、少なくとも答えを出せない。国を護りたいが、自分だって可愛い。
 田舎にはおやじとおふくろを残してる。気のいい同僚だって居る。おれは、そいつらにおれの死を悲しませたくない」
 
なあパンプティ、とボルトは呟くように。

「おれは時々思うんだ。食うためにやってる仕事に、命を掛けるのって……なんか違うんじゃねえかってな」


【後半戦・状況開始】
【スティレットをマテリアの護衛に】
【フィンに対し怪我を理由に任務への参加を禁止。帝都へ帰還せよと命令】

239 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/03/15(木) 09:14:59.78 0
【五日後・夜通りセーフハウス】

ウィット=メリケインは窓越しに部屋を侵食する寒気とテーブルに置かれた火鉢の熱気とがせめぎ合う最中にいた。
彼は待っていた。マロン・シードルとのランデブーに指定したこの部屋で、彼女の登場を。
ハンターズギルドが所有するいくつかのセーフハウスのうち、なるべく使用歴の浅いものを手配しておいた。
白組の開始される二一〇〇時から二時間ほどの間、捜査行動中の全てのハンターのうちウィットだけがこの部屋を使用できる。

南向きの大窓からモーゼル邸を一望できる、絶好の位置取り。
にもかかわらずここが滅多に使われていないという事実は、この街でのモーゼル家の影響力を容易に推し量れるに足りた。
つまりはそういうことだ。ハンターにもまた、火中の栗をすすんで拾う者などいないのだ。

(拾ってみせるさ……もう逃げるのはやめだ。僕は、変わる。変われるはずだ)

『白組』を摘発する手段はいくつか考えられた。
ハンターには逮捕権がないため、従士隊……ないしはそのバックの国家に対して白組の犯罪性を立証しなければならない。
犯罪性とは、違法性のことだ。
公権力は民間の争いごとには介入できない(民事不介入の原則)ため、明確に法に背いている証拠が必要だ。
そしてタニングラードにあっては法はただ一つしかない。武器の持ち込み禁止。
故に、武器を使わずに罪を犯し続けてきた白組や黒組は公権力の手から逃れ続けてきた。

(……神殿騎士でも動員できれば話は早く片付くんだが)

神殿騎士。
神に剣を捧げ、聖術と呼ばれる特殊な魔法体系を扱う戦闘修道士は、公権力に属さない民の護り手である。
民間の争いごとにも積極的な介入意志を見せる彼らならば白組に対する戦力となり得たが、しかしこの街に神殿騎士はいない。
神殿という施設がそもそも廃れ、ろくな信仰を見せていないからだ。金が神より重いタニングラードである。
外から呼ぶことも難しい。そも、神殿騎士は象徴として剣を掲げる存在だ。
皇下三剣の中でも最も"剣"の要素の薄い従士隊が長い年月をかけてようやく配備されるに至ったのに、
新参者の神殿騎士の団体を、非武装の街に召喚することそもそもが無理な相談であった。

国家に対して、白組が明確にして重大な違法を犯していると、立証すること。
プランはある。『零時回廊』だ。
街ひとつ軽く滅ぼすこの呪物を地方都市の犯罪組織が所有しているとすれば、それは治外法権など関係ない深刻な事態だ。
白組に乗り込み、零時回廊を白組が出品している動かぬ証拠を捉えれば、帝国とて意志を翻さねばなるまい。
それはこの街を護ることに繋がる。元老院の、ひいては国家の大打算から、無辜の人々を救うこととなる。

マロン・シードルの能力と、ウィットの培った技術を連携させれば、造作も無いことだ。
これまではできなかったこと。これからならできること。一人では無理だったこと。二人なら可能になったこと。
その万能感に年甲斐もなく高揚感を覚えながら、ウィットはマロンを待った。

この戦いが終わったら、タニングラードのうまい名物料理をたらふく食わせてやろう。
彼や、彼女が命がけで守った街には、こんなにも素晴らしい物が溢れていると、教えてやりたかった。
『路地裏の子供たち』を紹介してやってもいいかもしれない。マロンは子供が好きだろうか。
願わくば、あの子たちにも自分のような半端者が教えるのでなく、まっとうな教育を受けさせてやりたかった。
とくにフラウ。あの娘は良いハンターになる。張り切って『教えた』甲斐があったというものだ。

セーフハウスの扉が開く。
温めた室内の空気が一気に外に吸い取られ、代わりに舞い込んできた寒風と一緒に女性の姿が顔を出す。

「時間通りだ、流石だな。積もる話もあるが、とにかく行動を開始しよう。
 この街を救うために――この街に巣食う魔物退治と洒落込もうか」


【ウィット:モーゼル邸傍のセーフハウスにて待ち合わせ】

240 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/03/15(木) 09:23:31.23 0
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【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!X【オリジナル】
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1331770988/

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