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【大正冒険奇譚TRPG】

1 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/05 00:00:03 ID:???
ジャンル:和風ファンタジー
コンセプト:時代、新旧、東西、科学と魔法の境目を冒険しよう
期間(目安):クエスト制

GM:あり
決定リール:原則なし。話の展開を早めたい時などは相談の上で
○日ルール:あり(4日)
版権・越境:なし
敵役参加:あり(事前に相談して下さったら嬉しいです)
避難所の有無:あり
備考:科学も魔法も、剣も銃も、東洋も西洋も、人も妖魔も、基本なんでもあり
   でもあまりに近代的だったりするのは勘弁よ

2 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/05 00:00:49 ID:???
キャラ用テンプレ

名前:
性別:
年齢:
性格:
外見:(容姿や服装など、どこまで書くかは個人の塩梅で)
装備:(戦闘に使う物品など)
戦術:(戦闘スタイルです)
職業:
目標:(大正時代を生きる上での夢)
うわさ1:
うわさ2:
うわさ3:

3 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/05 00:01:24 ID:???
――もし、そこの貴方。そのご立派な佇まい、さぞや高貴なお方とお見受けします。
差し出がましいのは重々承知の上で御座います。
が、私の頼み事を聞いては頂けませんか?

おぉ、聞いて下さると言うのですか!
これはありがたい・・・では遠慮なく。
実は――この世界を、冒険して頂きたいのです。

時は大正。
学問が膾炙し、科学が招かれ、外国と交わり、新たな時代の風が吹き抜け、
されど士族の血は未だ絶えず、妖魔の類も日陰に潜み尚も健在。
終わりと始まり、古きと新しき、不変と変化に満ち溢れた時代で御座います。
この時代、この国には『夢』が溢れております。

一攫千金、一世風靡、一念発起に立身出世。恋愛成就なんて方も、いるかもしれませんね。
とにかく皆が、その心に夢を宿す時代で御座います。
さあ、貴方の『夢』は何で御座いましょうか?
果てなき冒険の果てに――その『夢』を掴んでみたくはありませんか?

え?冒険と言っても何処へ行けばいいのか分からない?
ご心配なく。果てなき冒険とは言いましたが、指標なき冒険はただの放蕩で御座いますからね。
こちらを御覧下さい。
この巨大な板――これは『嘆願板』と申しまして。
全国各地から寄せられた『願い事』で御座います。
軍や警察では捌き切れない些細な……あるいは複雑怪奇で巨大な問題を民間に委託する。
負担や責任の軽減を図ると同時に、万人に報酬と言う名の『夢』を与える試みで御座います。
……どれ、幾つか見てみましょうか。

ふむ……どうやらこのお嬢さんは、とある寒村で新興宗教の生贄にされてしまうらしいですな。
隙を見て何とか嘆願書を出したようですが、はてさて、救いの手は間に合うのでしょうか。

おや、こちらは帝国大学からの嘆願書で御座いますよ。
新設した実験棟に行った研究員達が返って来ない?呻き声や戸を叩く音が聞こえる?
調査を求む……ですか。何やら不穏な気配が致しますね。

ですが、帝国大学からの依頼をこなしたとあれば、報酬は大きいでしょう。
金銭は勿論、人脈もまた貴重な財産の一つで御座いますから。
勿論、可哀想なお嬢さんの為に命を懸けると言うのも乙なものです。


さて、何はともあれ――大正冒険奇譚TRPG、ここに開幕で御座います。

4 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/05 00:03:51 ID:???
――ようこそいらっしゃいました。
新規の利用者でしょうか。こちらは『受願所』で御座います。
ここには全国から集まった『嘆願』を受理し、遂行する為、多くの『冒険者』が訪れます。
あなたも『冒険者』になる事をお望みですか?
そちらのあなたも……失礼、既に免許証をお持ちでしたか。
では『嘆願』を受理し、冒険へと赴き下さい。

冒険者免許を持たない新規の利用者様は、こちらへどうぞ。
小難しい手続きの類は不要です。
身分証も持たず、田舎から出てきて一発逆転を狙った挙句、結局野垂れ死ぬ輩が多いので、こちらも面倒は省きたいのです。
こちらに名前、生年月日、聖別、学歴、職歴など、書きたい項目だけ記入して下さい。
次はこちらです。免許証には写真が必要ですから。魂を抜かれるなんて事はありませんのでご安心を。
むしろこれからの冒険で魂を失う可能性の方がよほど高いのでそちらをご心配下さい。
……はい、ありがとうございます。こちらが冒険免許になります。
数多くの『嘆願』をこなした方には、銅、銀、金と免許証の色が変わりますので、精々頑張って下さい。
ではあなたも、『嘆願』を受理して冒険に出向いて下さい。


今でしたら帝国大学の実験棟の謎を探るか、どこぞの寒村で生贄にされそうなお嬢さんを助けるか。
……おや、新しい『嘆願』が来たようですね。嘆願者は――警察ですか。どれどれ。

帝都のとあるお屋敷を謎の武装集団が占拠……謎の武装集団、おおかた確信犯の類でしょうね。
ちなみに『故意に罪を犯した者』ではなく『政治や宗教などの思想を理由に罪を犯した者』の意です。
参政権に関する運動の一環か、戦争の特需が終わり、先の関東大震災を経た不況で、不満を爆発させた貧乏人か。
まあそんな事はどうでもいいんですけどね。
どうやら屋敷を占拠した連中は刃物や銃で武装しているようですね。
それどころかカラクリ人形まで持っているらしいです。
機械人形なんでしょうか、それとも呪法で動かしているのでしょうか。
無傷で回収出来たら軍や帝国大学が高値で買い取ってくれるかもしれませんね。
しかし……そんな装備を揃えているとは、ただの政治犯や思想犯ではないかもしれません。
まあ、やっぱりどうでもいいんですけどね。
『冒険者』は『嘆願』さえこなせばいいんですから。
もちろん、その上で勝手に首を突っ込むのは個人の自由ですけど。

ともあれ……警察や軍は、多分こんな下らない事件に人員を割いたり、怪我人を出したくないんでしょう。
それに万が一手こずってしまったら、アホ共が調子付いてしまいますからね。軍の威信にも関わります。
と言う訳で……貴方達『冒険者』の出番と言う訳ですね。
では行ってらっしゃい。

私が作業に費やした貴重な五分を無駄にしないよう、せめて最初の一回くらいは生きて帰って来て下さいね。

5 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/05 00:06:49 ID:???
――やーようこそ、君らが『冒険者』達かい?
え?俺?俺は警察の林真三男(はやしま・さぶお)だ。
皆からはサボり魔って呼ばれてるけど、そんな事ないんだからな!
……今何してるって?見りゃ分かるだろ?何もしてないんだよ。
あ、でもサボりって訳じゃないぞ!
警察はこの件に大きく関与しないって決めたんだから問題ないの!
そりゃ先輩達は警察としてじゃなくても個人として正義に準じる〜とか言ってたけど。
組織人としては俺の方が正しいんだもんね!……正しいんですー!なんだよその目は!

言っとくけどなぁ、俺はちゃんとお前らの為に間取り調べたり突入口とか探しといてやったんだぞ!
いいか。まず事の首謀者達は建物の二階に立て篭ってるらしい。
二階への階段は一階の中央辺りに一つだけ。
なんだけど、一階には奴らの兵隊やカラクリ人形がうろついてるんだ。
多分、罠もあるんだろうなー。
階段前には絶対に見張りがいるだろうし、上手く立ちまわっても最低一回は奴らと戦わなきゃだぜ。
いや、首謀者達も含めると二回かな?

ま、いいや。続けるぜ。
屋敷にはさっき言った通り、犯人達が見回りを置いてる。
だけど俺は既に幾つか侵入口を見つけてるのさ!すげーだろ!
まず一つは……真正面!
……いや、マジで。大マジだから怒らないで武器を向けないで。
だって相手は人質とかは取ってないからさぁ。腕に自信があるなら真正面から行けるって。
騒ぎを起こせば他の冒険者達の助けにもなるだろうしさぁ。

で、もう一つは地下倉庫な。
ここの館の持ち主は収集癖の持ち主だったらしくてさ。
でっかい物を搬入する為の搬入口がある地下倉庫があるんだよね。
真正面よりかは静かに侵入出来そうだけど、見張りがいるかもって事は忘れるなよな。


【クエスト:幕開け
   目的:東京のとあるお屋敷を占拠した連中を倒し、屋敷を取り戻そう
コンセプト:ダンジョン攻略、潜入or突撃、雑魚を相手に自キャラ紹介
    敵:立てこもり犯(白兵)、立てこもり犯(銃撃)、機械人形、呪法人形
目標ターン数:5〜7ターン(あくまで出来たらこれくらいがいいな、程度の目安です)】

【あまり人が偏ったらよくないと思いましたのでクエスト開始は次からにします。
 登録や受注、移動などで導入して下さったら嬉しいです。よろしくお願いします】

6 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/05 00:22:29 ID:???
注釈です


廃刀令について:帯刀は禁じられているが、所有は認められている。
        廃刀令に反対する者は刀を腰に差さず、袋に入れて持ち運んだり、肩に担ぐなどしていた。

銃について:輪胴式弾倉(リボルバー)、自動拳銃、ライフル、散弾銃、サブマシンガン、ガトリング、対戦車砲と
      大体の銃は存在している。実存する近代の銃を出したりしなければ使用に問題はないと思います

嘆願板について:軍や警察では捌き切れないとあるが、軍人や警察が個人や協力者などの名目で
        嘆願に関わる事は禁じられていない


あとテンプレの一例です!

名前:自称『イノベイター』、本名『井辺田吾作』
性別:男
年齢:20
性格:気取り切れてない気取り屋
外見:タキシードにシルクハット
装備:ステッキと奇術道具
戦術:奇術を用いてカッコよく、でもテンパったり怒るとマジ殴りを始める
職業:奇術師
目標:日本全国に奇術の楽しさを膾炙する
うわさ1:港の外国人がやってた手品グッズの実演を見て感激して奇術師を目指したらしい
うわさ2:勢いのままに外国に修行に行ってきたらしい
うわさ3:たまにマジでタネも仕掛けもない奇術をやらかすらしい

あくまで『大正っぽいファンタジー』なので
剣術の達人、銃使い、トンデモ科学の産物(カラクリ人形とか)、陰陽術と
何でもありでいいんじゃないかなと思います!

7 :名無しさん :11/06/05 12:10:53 ID:2yjo2rAx
はい、質問です。
Q:東京という地名が出るということは、ここはやはり日本なのですか?

8 :名無しさん :11/06/05 12:18:43 ID:???
質問すみません!
4日ルール守れなそうなんですが、その場合、
・4日過ぎたら自動的にキャラ消滅
・GMや他PLに好きに動かしてもらう(死んでも構わない)
・常にしばらく先までの大体の行動方針を決めておく
等を決めておいて参加することは可能ですか?

9 :名無しさん :11/06/05 12:23:35 ID:???
自分からも質問
避難所はありますか?

10 :名無しさん :11/06/05 14:54:49 ID:???
対物ライフルやバズーカ、実在した種類だけど
生産があまりされなかったのとかはありですか?

11 :盛岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/05 18:06:32 ID:???
多くの人が行き交う受願所には、沢山の冒険者や新規登録待ちが並んでいる。
その中でも、特に人目を引く一人の男が居た。

まずはその身長。どう小さく見ても六尺は軽く越えている。
垂れた糸目が特徴の老けた顔には、右頬に三本の傷跡。
更に、群青色の甚平に白い前掛け、下駄に木刀のみという、冒険者に相応しくない格好をしていた。
受付の人間も、陶器で出来たような固い顔の眉間にうっすら皺を寄せ、再度尋ねた。

「もう一度確認しますが……。貴方、本当に十八歳ですか?」
「だぁーかぁーらぁ!先から何度も言ってんだろ!
 森岡草汰、四月二日生まれの十八歳!そんなに疑うなら調べやがれ!」

男もとい草汰は受願所の机を乱暴に叩くと、受付人を睨みつける。
受付人は別段怯えるでも狼狽えるでもなく、そうですかの一言でこの話を終わらせた。

「俺も晴れて、冒険者かぁ……。くぅ〜っ、腕が鳴るぜ!」

写真を撮り終え、草汰が受け取ったのは、銅色の正真正銘の免許証。
押さえきれないニヤニヤ笑いを浮かべながら、側にある椅子にどっかり座る。

「(やってやるぜお袋。絶対、親父や兄貴みてェな冒険者になるんだ!)」

草汰の父親と年の離れた兄もまた、冒険者だった。
二人とも冒険の途中で行方知れずとなったが、いやだからこそ、草汰は冒険者になろうと決めたのだ。
最初は反対していた母も、一年もの口論の末に折れた。
そうして今、草汰は此処に居るのだがそれはさて置いて。

冒険者になったのならば早速と嘆願板を見て回ると、新しい『嘆願』が貼り出されていた。

「んー何々…帝都の屋敷を謎の武装集団が占拠か。物騒だなオイ……。」

だが、どこかで草汰の心惹かれるものがあった。
今やるべき事はこれだと、頭の中で何かが囁いたのだ。

「……よーし、いっちょ俺が懲らしめてやっか!」

こうして、新米冒険者・盛岡草汰の奇想天外冒険譚が、幕を開けたのであった。


12 :盛岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/05 18:07:18 ID:???
【冒険者登録完了、免許証ゲット、嘆願を受理。よろしくお願いします!】

名前:森岡 草汰(もりおか・そうた)
性別:男
年齢:18
性格:熱血アホ
外見:糸目で右頬に三本傷跡があり、乱雑な黒髪を短く結った大男
装備:甚平と前掛けと下駄、武器は木刀のみ
戦術:化け物じみた怪力と喧嘩術
職業:定食屋の従業員
目標:父親と兄を超える冒険者になる
うわさ1:冒険者だった父親と兄の背中を見て育ち、冒険者に憧れるようになった。
うわさ2:老け顔を身内を馬鹿にすると手がつけられないほど暴れる。
うわさ3:料理と喧嘩が得意。西洋関係のものが嫌いで、女に弱い。



13 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/05 21:42:33 ID:???
>>7
お答えしましょう!
パラレル的な、架空の日本って事にしておいて下さい!

>>8
お答えしま(ry
勿論です!

>>9
お答え(ry
今はありません!必要かなと思ったら新しく立てようと思っています!

>>10
問題ありません!
コネやツテで試作モデルが手に入ったとか、色々理由は付けられるでしょうし!

>>12
よろしくお願いします!

14 :名無しさん :11/06/05 22:46:22 ID:???
避難所は作ったほうが良いと思う
その方が参加しやすいんじゃないかな

15 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/05 23:05:38 ID:???
>>14
ですかね!分かりました!
早速立てさせて頂きました!

http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1307282667/

16 :名無しさん :11/06/05 23:17:27 ID:???
>>7です。了解しました。ありがとう。

17 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/06 00:33:28 ID:???
よろしくお願いします。



時は大正。
長く閉ざされていた文化の門が開き、西洋の風が吹き荒れます。
これは、そんな時代に生まれた、とある不思議なお嬢様のお話です。

―――――――――――――――――――

「うわあ、人がいっぱいね!」

ここは、夢を求めて冒険者達が集まる受願所です。
そこに居るのは、一人の女学生でした。
布を被っているため目元から上は様子が窺えませんが、口元から楽しそう。
桃色の小袖に、蘇芳色の袴、黒いブーツ。一般的な女学生の格好です。
無表情の受付と目線を合わせて、彼女は訪ねました。

「こんにちは! ここはどんな所ですの?」

驚く事を期待したのですが、彼は慣れっこなのでしょう。
定型化した言葉で返しました。
「こちらは『受願所』で御座います。
ここには全国から集まった『嘆願』を受理し、遂行する為、多くの『冒険者』が訪れます。
あなたも『冒険者』になる事をお望みですか?」

冒険者。なんて素敵な響きでしょうか!
彼女は目を輝かせて頷きました。
彼女の望みは、一族の思惑から逃げ出して自由に生きる事なのです。
これならば、彼女に素晴らしくも危険な『自由』を与えるでしょう。
彼女は鐘本さくら。
一大企業『鐘本化粧品』の跡取りにして、『自由』を求めるお嬢様です。
―――――――――――――――――――

書類を書いて写真を撮り、さくらは遂に銅色の冒険免許を手に入れました。
写真を撮る時に一時的に布は取り払いましたが、撮った後は再び被っています。
輝く免許を懐にしまい込み、早速嘆願板を見ます。

「お屋敷を占拠する、謎の武装集団…これ、面白そう!」

さくらが興味を持ったのは、占拠されたお屋敷を救い出して欲しいという嘆願書です。
好奇心のあまり、袴の中から二股の尻尾が飛び出しました。
途端に、みんなに見られてしまいます。

「っ! …あ、あれ?」

必死に隠そうとしましたが、みんな一瞬驚いたあと、知らんぷり。
みんな慣れっこ、と言うような感じです。
そうならと、さくらは完全に布を取り払いました。
耳も瞳も猫の物。袴の影から二股尻尾。
彼女は、猫又と人間の混血です。

【免許ゲット。嘆願を受理】


18 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/06 00:34:09 ID:???
名前: 鐘本さくら
性別: 女
年齢: 16
性格: 活発通り越しておてんば
外見: 黒の三つ編みに女学生っぽい格好。でも二股尻尾が生えてる
本来耳が有る部分に猫の耳、眼も猫のよう
装備: 小袖に袴、ブーツ。持ち物は持っていない。
戦術: 猫の身体能力と猫に変身、変化に伴うテレパシー
人間体の方が強いので、戦いではあまり変身しない
職業: 女学生
目標:家に縛られず、自由に生きる
うわさ1: 両親は婿を取って跡を継いでもらいたいと思っているらしい
うわさ2: 家は有名企業「鐘本化粧品」
猫又と人間のあいのこの家系らしい
うわさ3: 本人は先祖返りで、一族の中でも能力が高いらしい

19 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/06/06 16:39:31 ID:???
世の中は不平等である。平等なんてものは存在しない。
あるのは平等に見せかけた不平等。

そう。世の中が平等ならばこの男───桜 雪生はとっくの昔に成金の筈だ。

「世の中で平等なもんなんて平等院鳳凰堂だけだっての。あー京都いきてぇー」

冴えない言葉を空間に放り投げながら雪生は新規登録を始めた。
形式だけの会話を受付の人間と二、三交わして登録は完了する。

「これからあなた様も冒険者で御座います。どうか死なぬよう」

免許証を受け取り受願所を後にしようとしたところで余計なお節介が飛び出した。
まるで死ぬ事前提ではないか、と普通ならば憤るだろう。しかし雪生は違った。

「あーサンキューサンキュー。西洋じゃありがとうをサンキューなんだろ?
 でも一つだけノーサンキューしとくわ。────俺は冒険者じゃねー。『カメラマン』だ」

受付人首に下げていたカメラをひらひらと見せる。
眉一つ動かさない態度につまらないのか、さっさと受願所を後にした。

「ンーー。嘆願書って言われてもねえ。できるだけラクチンそーなのが良いんだがなあ」

真面目に不真面目な雪生は適当に嘆願書を見て回る。
どれもややこしそうなもの、面倒そうなものばかりで眩暈がしそうだった。

「お、これなんかいいんじゃねーの。屋敷を武装集団が占拠ってか。人質を取っててもそれさえ気をつければイイしー。
 シンプルイズベスト単純こそ至高だぜ。俺の西洋かぶれの血がこれにしろって叫んでるしな。これでいくか」

グダグダの流れでバカメラマンの冒険が始まった。



名前:桜 雪生
性別:男
年齢:20
性格:お調子者でマイペース
外見:鳥の巣頭。スーツ姿に首からはカメラを下げてる
装備:リボルバー、他銃器類
戦術:援護かガン=カタもどき
職業:カメラマン
目標:世界一周旅行
うわさ1:桜写真館の主にしてカメラマン
うわさ2:幼少の頃隣に住んでいたアヤシイおじさんのお陰で銃の腕は達者
うわさ3:写真館はあまり儲かってないので最近は銃で曲芸の真似事を始めた

20 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/06 18:39:10 ID:???
そのひょろりと痩せた男は、受願所の嘆願板を見ていた。
この男が冒険者、ましてや、『銀』持ちなど誰も思わないだろう。
ふと彼の横に、大柄な男がたった。

「わぁ、大きい方ですねぇ。」

ほけーと、顔の周りに花を散らしながらその男を眺めた。

>「んー何々…帝都の屋敷を謎の武装集団が占拠か。物騒だなオイ……。」

「本当に、そうですねぇ。」

そして彼は受理所へ向かう。

「すいません。私もさっきの彼と同じです。」

「免許証はお持ちですか?」

受付人に問われ、音もなく免許証を取り出し、見せた。

「はい、葦高さんですね。いつもご苦労様です。」

「ありがとうございます」

一礼して、龍次は、外へと向かった。

【嘆願を受理】

21 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/06 22:51:30 ID:???
嘆願板前は嘆願を受理しようとする冒険者たちでごった返している。
それはまるで芋洗いのように。
屈強な男から痩身の男、果てはお嬢様。
ありとあらゆる人間、人外が集まったような場所にあって、背の低い仙波みどりは完全に人混みに埋もれていた。
それでもその大きな目は確実に獲物……ではなく、めぼしい人物を捕らえていた。

(てぃひひひっ。アレなら丁度いいかも〜)
こらえきれない笑いを漏らしながら、人ごみの中を小器用にすり抜け、その場を後にした。

しばらくした後で仙波みどりはまた同じ場所に帰ってきていた。
どこから持ってきたのか、自分の背と同じくらいの脚立を抱え、これまた小器用に人ごみをすり抜け進みながら。
そして声は鳴り響いた!

「ちょーっとそこの素人さん!そう!屋敷立てこもり討伐の嘆願受けようとしているあんたたちよ!」
自分と同じ背丈の脚立の上に立ち、人ごみの上に立ったような仙波みどりの声が更に続く。
「その嘆願、簡単そうに見えてあやしい匂いがプンプンなのさ!
素人だけで言っても討ち死にが目に見えているわよ!
そ・こ・で!」
芝居がかったようなしぐさで懐から取り出し掲げる手に光るは金色の免許であった。
「見よ!光り輝く金の免許証!
げんこつ山は茂林寺にあって初代守鶴和尚を超えると謳われる仙波みどりたーあたしのことよ!
あんたらだけじゃ心配だからついていってあげるわ!!」

げんこつ山の茂林寺といえば冒険者をするものや多少伝承に詳しいものならば知っているだろう。
分福茶釜で有名な狸寺で、独自の拳法を伝えている。
しかし、そんな天才拳士の噂など誰も聞いたことはないはずだ。

啖呵と共に決めポーズを決めた仙波みどりの背に大きな炎の花が咲く!
演出効果の視覚的炎ではなく、物理的な火が!
「あーぢゃぢゃぢゃだぢゃ!!!」
背中に火がつき脚立の上から転がり落ちる仙波みどり。
人垣は割れ、火ダルマが転がるが火が収まる様子はない。
しかしそれと同時に延焼する様子もないことに気づくだろう。

「すいません!すいません!登場シーンだから話盛ってました!
ホントは先輩に筋はいいんじゃね?って言われる程度です!
お人好しそうなおっちゃん(森岡草汰)や猫叉のお姉さん(鐘本さくら)や拘わりが全くなさそうなボサボサ頭(桜雪生)
なら連れて行ってくれそうだし、ひょろひょろのおにーさんなら押しに弱そうだから連れて行ってくれると思って声かけただけですー!
ホントは一昨日免許証作ったばかりで一人で不安でしたーーー」
洗いざらいぶちまけると火は消え、黒こげの塊が小さく痙攣しながら残されたのだった。

そしてその脇には金色の免許証が葉っぱに変わり、代わりに懐から二日前に作られた胴色の免許証が零れ落ちたのだった。

遥か昔、仙波山のたぬきがかけられたうさぎの呪い。
あまりに強力なため、子孫であるみどりにまでその効果を表しているのだ。
嘘をつけばカチカチという音と共に霊的な火がその身を焼くのだ。
狸である以上、化けたい、化かしたいという本能もあり、たびたび仙波みどりは火達磨になる宿命を背負っているのだ!

【火達磨になりながら登場
誰か拾ってやってください】

22 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/06 23:05:22 ID:???
「それではこちらにお名前と年齢、ご職業等をご記入願います」
この一言にどっと汗が吹き出した。渡された書類にはまだ一文字も書きこまれておらず白紙のままだった。
紙を持つ手が弱々しく震えている。

(ま、まずい・・・いきなり詰んだ・・・!)
同じことを考えているのか他の仲間も似たような空気を漂わせていた。
この物、人の形をとってはいるが人間ではない。数多の妖怪が数多の困難を退けるべく寄り集まって
一匹の妖怪の形をなしているに過ぎない。その数ざっと九匹

中身から見ていくとまずキョンシーと言われる動く屍から始まり、その肌に呪いの泥人形がまとわり、
もう一匹いる呪いのマネキン人形は一回り小さいことから外側である呪いの動く鎧の裏当てになっている。
この時点で四匹、更に鎧表面に呪われて意思を持った宝石がこれでもかと散りばめれられ、足元の影と
マントはこの国に来て早々に意気投合して仲間に加わった一反木綿と影法師である。これで七匹。

そして付けた者の意思を奪う呪われた白い無表情の仮面に、とにかく呪われた浮遊霊、合計九匹は
人に聞こえないよう脳内会議(あるのは一人だけでしかも腐ってる)を始める。キョンシーに享年を聞くと
女性にそれを聞くのは失礼だと突っぱねられ、名前は持っていない物がほとんどで、会議は紛糾した。

そもそも事の起こりは唯なんとなく世の中を旅してみようという、ただそれだけの集まりだった。
ところが人の世は自然界とはまた別の意味で厳しく世知辛かった。そんな鬼難を乗り越えるべく今の姿に
なったのだが、欲しい物を手に入れる際には働かねばならない。しかしそんな場所はない。

故に人でなくても良いという冒険者になるためにやって来たのだが、早くも躓いた。なんとか名前は
自分たちをすっぱ抜いたであろう新聞記事から取ってつけたのだが(金一封が貰えると思って泥棒を捕まえた
が逆に不審者扱いを受け逃走)他の一切が決まらない。個人でないのだから当然といえば当然だ。

どうしようどうしよう、ともじもじしている内に見かねた受付が、偽名とかでもいいんですよ、とこっそり
教えてくれたので名前だけ書いて提出する。まんじりともせずドキドキしていると受付が半目になりながらも
受理してくれたので周りの目も気にせずガッツポーズを決める。

そんなやり取りの後に嘆願板を覗き込むと一番上の依頼を受けることにする。
やはり受けるなら鮮度がいいものか何時までも貼り出されっぱなしの曰くつきの方が良い。
こうして都市伝説ヨロイナイト改め冒険者、ヨロイナイトが誕生したのであった。

彼は知らない。いくらお金を貯めたとしても、そもそも妖刀は売ってないということを・・・
日本に来たばかりの彼らは、まだそのことを知らなかった

【嘆願受理、おのぼりさんの態でキョロキョロしてます】

23 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/07 02:28:24 ID:???
―――――『 大正 』
古書「周易」の一文「大亨以正、天之道也(大亨は以って正天の道なり)」由来とする元号。
「天が民の進言を受け入れ、政(まつりごと)が正しく行われる」という故事来歴の示すとおり、
デモクラシーの波が押し寄せる、変化と活気に満ちた時代の転換期であった。
新しきものを柔軟に取り込む社会は、表に裏に、萌え始めた新芽のように発展し、都市に享楽的な文化が生まれる。

―――帝都の夜、街は電燈の灯りと爛熟の空気に包まれていた。

大小のカフェーが肩を並べるように立ち並ぶ、帝都一の歓楽街、銀座。
夜闇にまぎれ愛を囁きあう恋人たちであろうか。人目につかぬ路地裏に、二人の男女の姿があった。
往来から漏れる光のみを頼りに浮き上がる二人の姿は、薄闇を背景にした影絵のようだ。
声とシルエットを頼りにした男女の風体は、
背広姿の若い男と、着物に胸当てのあるエプロンを重ねた女給…か?と、見て取れる。

「これっきりにしてくれないか……?」

路地の細い闇に男の声が響く。

「はっきり言って迷惑なんだよ!僕には夢があるんだ!この上なく高潔な夢が……!
 欧米列強に比べてこの国の政治はまだ幼稚だ!革命だ!僕ら市民が変えなきゃならないんだ!いや変えてやる!
 場末の女給ふぜいとの色恋にうつつを抜かしてるヒマは、僕にはないんだ!!」

吐き棄てるように言い残し、男は路地を抜け走りっていく。
ひとり取り残された女は、男の背中が吸い込まれていった路地の出口を――そこに差し込む僅かな往来の灯りを、
身じろぎもせずに、ただ見つめていた。
握り締めた拳を小刻みに震わせながら―――

*  *  *

―――数日後、
老若男女に妖怪変化の類までが、胸に一物抱いて寄り集う『受願所』
時代が生み出す諸々の混乱を、よろず引き受けるその場所に、着物姿の女が足を踏み入れた。

黒髪を顎より下のラインで切り揃えた、流行のボブヘアー。
派手な銘仙の小振袖に、薔薇の刺繍が施された黒繻子の帯、色物の帯揚げと半襟を身に着け、
深く抜いた襟から、しなやかに伸びた白いうなじを見せつけている。
左目横の泣きぼくろがアダっぽく、一目見て夜の商売とわかる女だ。

女は、混雑した受願所の中を脇目も降らずに進み、冒険者登録窓口に腰を下ろした。
渡された書類の最上段に記入された『倉橋冬宇子』の文字―――それが女の名であった。

24 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/07 02:30:01 ID:???

「冒険者登録?ハア…ご本人の登録で間違いございませんね? 昨今では色んな方が登録なさいますからねえ……」

「店の斡旋所と間違えて来たようにでも見えるってかい? 下らないお節介焼かずに、さっさとソレをお寄こしよ!」

倉橋冬宇子は、訝しむように呟く受付の男から、差し出された銅色の免許証を引ったくり、
受付横の壁に張り出された新着依頼に目を向けた。
"ある依頼"の上で視線が留まり、長い睫に縁取られた女の双眸が煌く。
視線の先で『謎の武装集団が個人宅を占拠!』という太ゴシック文字の見出しが踊っていた。と、その時…

>「あーぢゃぢゃぢゃだぢゃ!!!」

食い入るように依頼を見つめる冬宇子の背後で、甲高い少女の悲鳴が響いた。
振り返ると、先ほどまで脚立の上で声を張り上げていた少女が火に巻かれている。
冬宇子は火達磨の少女に向かって歩を進めた。
どうやらこの少女も、同じ"嘆願"を受けた者のようだ。

少女を取り巻く集団の中には、六尺はあろうかという大男、猫ような少女、高価なカメラを首に下げた青年、
色白の美剣士、西洋の鎧武者……など一癖ありそうな面々が混じっていた。

【冒険者登録完了。火達磨のみどりちゃんを見物中】



名前:倉橋 冬宇子(くらはし とうこ)
性別:女
年齢:23
性格:やさぐれ、癇癪持ち
外見:ルーズな着物姿。顎のラインで切り揃えた断髪(ダッチボブ)
   左目の横に泣きぼくろ
装備:祓串、呪符、懐刀
戦術:お祓、口寄、神降ろし、懐剣術
職業:女給
目標:玉の輿
うわさ1:心中未遂の前科があるとか
うわさ2:実家は神社だとか違うとか
うわさ3:気味の悪いものが入った怪しげな箱を持ち歩いているらしい


25 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/06/07 06:17:00 ID:???
「タクシー」という概念が始まったのは、確かこの時代の初めだと記憶している。
割高とはいえ震災などがあってからは需要が高まり、街中で見かけることも多くなった。
しかし、一説には70種類以上とも呼ばれる料金体型。乗るタクシー毎に変わる料金に、客からの抗議も殺到。
その事態を重く見たか、やがて一律『料金1円で市内どこでも』というタクシーが増えることとなった。
――俗に言う、円タクの誕生である。

駅には、客待ちをするタクシーが並ぶ。
基本的には外車。黒光りし、高級感を漂わせて。
その列で、一際目立つ車両がある。もはや車両と呼んでいいものか、それすら考えてしまうほどに。
戦車が、そこにいた。

だがそれはタクシーなのだ。誰が何を言おうと。タクシーのマークもある。ナンバープレートも付いている。
外観に違いはあれど――客を乗せ、目的地に向かい、対価として金を貰う、乗り物。
タクシーと呼ばずして、何と呼ぶ。

この青年、岸良介は、そう思っている。
だが当然、一般市民は、そう思わない。

(何故……何故、誰も利用してくれないのでしょうか……)

車内で頭を抱える。タクシー業を始めてどれぐらい経っただろうか、未だに利益はあげられていない。
やがて夜の帳が落ちる。この日の最終の列車も終わってしまった。もう客は望めない。
溜息をつき、戦車――もとい、タクシーを走らせる。真夜中に道を走る巨体がひとつ。

「……やはり現状はタクシー会社の独占市場。私のような個人タクシーなど、相手にされないということですね……」

愚痴を零しつつ、帰路を行く。
このままでは生活していけない。明日はタクシー業は休んで、食い扶持を稼ぎに行きましょう――。


名前:岸 良介
性別:男
年齢:24
性格:頑固。一度決めたら一直線。周りが見えない
外見:軍服
装備:拳銃付軍刀
戦術:人間離れした身体能力で頑張る
職業:タクシー運転手
目標:タクシー会社とか設立したい
うわさ1:近頃増えてきた、いわゆる「円タク」の運転手
うわさ2:しかしタクシーは戦車
うわさ3:自称元帝國陸軍

26 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/06/07 06:18:29 ID:???
愛車を走らせ、辿り着いたは受願所。
本職では全く稼げない彼の、殆どの収入はここから得ていた。
とはいえいつも受けるのは犬探しとか、蜂の巣の駆除とか、親が留守中の子供の相手だとか。
ローリスクローリターンな、簡単に終わるが実入りも少ない、そんな嘆願ばかりだった。
なぜなら彼にはそれなりの貯金があり、それ程金稼ぎに躍起になる必要がなかったからだ。
わりと嘆願は何度も受けているのに免許証の色が銅なのは、それが理由なのだろう。

だが今回はそれなりに厳しい、危険も高いが報酬も高い、そんな嘆願にばかり目をやっている。
客が乗らない理由を考えて、思いついたことがあった。車内のせいなのではないかと。
誰を乗せても満足させられるように、内装に拘った。座り心地のいい椅子を用意し、高級なシーツを使い。
空気が濁らぬよう換気設備を付け、西洋から芳香剤まで取り寄せ、照明にまで気を遣い。
案の定、貯金はなくなった。

「ふむ……」

ひとつ気になった嘆願。立てこもり、だという。
引かれたのは事件ではない。被害者だ。
立てこもったのはとある屋敷……おそらく資産家か何かだろうか、と彼は推測する。

基本的にやはりタクシーの利用者は金持ちが多い。当然だ、1円なら列車に20回乗れる。
屋敷の持ち主に恩を売っておけば、顧客となってくれるかもしれないという打算がある。
背中の得物が音を鳴らす。今も訓練は怠っていない。久しぶりの実戦だが、うまくいくだろう。

嘆願を受理し、いざ向かおうかとするところで、耳に残る甲高い声が聞こえる。
振り向くと、踏み台か何かに登って何事がわめき散らす少女の姿。
その金の免許証に「おーっ」と人々に混じって感嘆の声を挙げる。
どうやら同じ嘆願を受けたようだ、では声をかけようか――と思ったところで突然火に包まれる少女に、
彼は心配や驚愕というよりは呆然といった表情で見つめている事しかできなかった。

「ふむ」

二回目。
顎に手をやりながら、何かを考えつつ黒こげになった少女に近づく。

「連れて行ってくれる……連れて行って欲しいと。ふむ、つまり、
 移動手段が欲しいということでしょうか、お嬢さん!
 それならば、私にお任せ下さい!」

とんでもなく自分本位な拡大解釈ののち、自分で勝手に納得して大きく胸を張る。
早足で戦車へ舞い戻り、発進。人混みを無理やり突っ切って嘆願板前へ。
驚き半分呆れ半分の民衆の反応など全く見えていないように、乗り込み口から上半身だけ出して声を張る。

「他にも誰かいらっしゃいますか! この嘆願を受けた方、受ける方!
 送迎は、不肖この『岸タクシー』が務めましょう!」

そして手を差し伸べる。運転手たるもの、お客様の乗車には手助けするのが当然のことだ。

「――一律1円で」

【依頼受けついでにタクシーの営業】

27 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/07 07:09:33 ID:???
嘆願板前

「・・・みんな若っけ〜。大じょぶかなあっし〜」

ごった返す人ごみのなかで銅色の免許証を持つ眼鏡女の心は不安でいーっぱいでございました。
女は齢四十一。鍼医を生業としておりました。名は玉響(たまゆら)と申します
「玉響に」は「触れあう」の枕詞で「一瞬だけ」という意味がございます

女が見渡せば、見世物小屋から飛び出して来たような大男。鳥の巣頭と痩せ男。
猫又少女にやさぐれ女。おまけに西洋風鎧武者。

そして―――火達磨のや〜つ。

「へ・・・?火達磨ーーーっ!?」

驚いていると岸良介という者が突然現われ――

>「他にも誰かいらっしゃいますか! この嘆願を受けた方、受ける方!
 送迎は、不肖この『岸タクシー』が務めましょう!」

と声を張りました。玉響が迷いながらも細い手をよろよろと挙げかけると

>「――一律1円で」

「・・・・・・!!」
一円という言葉に挙げかけた手はピタリと止まりました。

【タクシーに乗るか迷っています】

名前:玉響(たまゆら)
性別:女
年齢:41
性格:優柔不断。空気を読むのが苦手
外見:伊達眼鏡。海老茶袴に革靴(年齢を考慮しない悪趣味)
目の下はくまだらけでガリガリに痩せている
装備:針
戦術:相手に忍び寄り、喉や背骨などをプスリと一刺し。
足は速いが年のせいでぐねりやすい
職業:鍼医(鍼灸師)
目標:欧米の整鼻術を施して鼻を高くするのが夢
うわさ1:×1らしい
うわさ2:14歳になる愛娘とは不仲らしい
うわさ3:明治維新以前は忍者を家業としていたらしい

28 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/07 20:18:31 ID:???
「我々はー!断固として!身分、財産、そして性別による制限のない、普通選挙の導入を要求するー!」

屋敷の二階の窓から、正面に集まった警察や民衆に向けて叫ぶ男がいた。

「貴族や金持ちしか選挙に参加出来ないなんて認められるかー!
 政治は常に国民によって見張られるべきなのだー!」



――はーあ、何つーかさぁ。言ってる事はなんとなく分からないでもないけどさ。
やり方を派手に間違えてると思うんですよねー。あ、今の俺が言ってたってのは内緒な!
上司から余計な事で叱られたくないし。ていうか危険思想がどうのでクビになったら洒落にならねー。
しかしまぁ、普通選挙ねぇ……。もし実現したとしても、すぐにありがたみなくなっちゃいそうだけどなー。
だって俺みたいな庶民は政治の事なんか分からないし?
最初の方は面白半分興味半分で参加するかもだけどさ。すぐに皆飽きちまうような気がするね。
て言うか俺がそうなる。間違いなくそうなるね!


……さて、お喋りはこの辺にして、そろそろ突入してもらおっかな!

>>26
――って、えぇええええええ!?いやいや、ねーよ!それはねーよ!戦車ってお前!
屋敷の二階ごと吹き飛ばして事件解決するつもりですか!?露西亜じゃあるめーし!
バカだろお前!これだから軍人は脳筋ばかりで……いえ、はい、ちょっと言い過ぎました。調子こいてすいませんでした。

で……えーっと、そこのデカイのとモジャモジャとバカ……いえ、すいません、武器は勘弁して下さい。
とにかくその三人は色々目立ちそうだよな。デカいし、モジャモジャだし、バカだし。
特にそのモジャモジャ頭だよ。それが物陰からひょっこり覗いてたらもう噴き出す事間違いな……はい、すいませんでした。
ま、そんな訳で君らは正面から突っ込んでってよ。

で、そこのお嬢さんがたは……口説き文句の一つでも考えようと思ったけど何か禍々しいからやめとこう……

>>21
あぁもう、ほらぁ。何かいきなり一人?一匹?とにかく黒焦げなのがいるしぃ。
まだ戦闘も始まってないのに何があったんだよ。……晩飯はたぬきうどんかなぁ。
いえ、冗談です。単にそういう事呟いたら起きるのがお約束かなって思っただけです。はい、不謹慎でした。
え、でも、これ……どうすんの?
先に言っとくけど俺は子供の世話とか嫌だからな!だって子供はみんな俺の事馬鹿にするんだもん!
……まあ、チビなんだし地下から行くのがいいと思うぜ。チビなんだし。

>>22
こっちはこっちでなんかスゲード派手な鎧着てるけど……案外地下倉庫の中だったら蒐集品に見えるかもな。
……今その宝石ちょっと動かなかった?て言うか何か目ン玉みたいに見えるんだけど気のせい?気のせいだよね?
あ、いや、やっぱ答えなくていい!答えなくていいから!あーあー聞こえない!!

>>17
で、アンタは……はい、きれいなしっぽとおみみにおめめですね。ほんとうにありがとうございました。
何だよ!普通の女の子は何処にもいないのかよ!?
ピンチに陥った警官を冒険家が颯爽と助けて始まるラブロマンスは何処行ったの!?
え?男女が逆?仕方ないだろ!言っとくけど俺はビックリするくらい弱いからな!?
まあいいや。アンタは身軽そうだし、地下倉庫の方がよさそうだよなー。

29 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/07 20:20:31 ID:???
何て言ってる内に、随分と人が増えたな。……これなら、正面が騒いでる間に裏口から忍び込むとか出来るかもなー。

>>23>>24
……って、うぉお!そうだよ!これだよ!こういう正統派の美人さんを俺は待ってたんだって!
あぁ、あなたはまるで険しい冒険の道に咲く一輪の薔薇だ!
どうです、こんな所はムサ苦しかったりモジャかったりする連中に任せて僕と一緒に帝都デパアトの地下でアイスクリンでも。
……はい、分かってますよ!お約束ですよね!お願いだから武器を向けないで下さい僕これでも警察です!
まあでも、やっぱりあなたみたいな人に正面突破は似合いませんよね!地下なんて埃臭いところも似合わない!
是非裏口から行くべきですよそうですよ!

>>27
あなたは……………………いつまでも若い時の気持ちを忘れないって大事ですよね!
と言うか、あんた大丈夫?冒険に出る前からぶっ倒れそうなんだけど。
こりゃあ正面突破は無理だろぉ。身のこなしは軽そうだし、裏口から行ったらどうだい?

>>20
お、アンタは知ってるぞ。警察の中でも有名だよ。……色んな意味で。
冒険の度に血を吐いて帰って来るから、見ててヒヤヒヤするとさ。
何の病気か知らないけどさ、冒険家やってたらその内いい薬が手に入るかもな。
海外にまで行ってくれって冒険もたまーにあるしさ。
ま、それまでに死んじまわないように、アンタにゃ裏口から行ってもらうよ。
まったく両手に花で羨ましいねぇ。ま、ベテランの手並みって奴を見せてやりなよ。

さーてそんな訳で、地下倉庫への入り口はこっちだよ。
芝生の切れ目がありましてー、こっちにはクランクがありましてー、回すとあら不思議、地面の一部が沈む仕組みです。
大きな荷物の為の搬入路だからね、狭くはないだろ。
暫く歩いたら扉があるから、そこを開ければ地下倉庫だよ。じゃ、行ってらっしゃい。

正面玄関と裏口は……言うまでもないよな、うん。


【正面玄関】

正面玄関を開けてすぐの所には、大勢の男が待ち伏せていた。
男達は皆、武器を持っていた。
クワや包丁を持つ者もいれば、村田銃や輪胴式拳銃を持つ者もいる。
中には亜米利加製の自動拳銃を持っている者さえいた。

「な、なぁ……俺ら本当に大丈夫だか?」
「勢いに乗せられてこんな事しちまったけど……今からでもやめた方がいいんでねえか?」
「おめぇら、なぁに弱気になってるだ!ほら見れ!こんだけ武器があれば冒険者なんか怖くねえべ!」
「そうそう、そもそもこんな真正面から突っ込んでくるアホなんかいねえべ。ここは逆に安全だべや」

直後に、扉が乱暴に開かれた。

「「「「うわあああああああああ来ただあああああああああああ!!!」」」」

盛大に怯えた男達が手持ちの武器を手当たり次第に振り回し、乱射する。
騒ぎを聞きつけて、他の兵隊達も駆け付けてくるだろう。
二階への階段、一階の中央部へ向かうのは険しい道になるかもしれない。

30 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/07 20:21:06 ID:???
【地下倉庫】

搬入路を抜けると、埃臭い地下倉庫へと辿り着く。
灯りはない為とても暗く、大小様々な蒐集物が乱雑に並べられていた。
と、よく見てみれば床の一部に、綺麗に埃のない場所があった。
つい最近、何かを動かした跡だが――この暗い中でその事に気付ける者がいるかは分からない。

「……なぁ。今、中で物音がしなかったか?」

扉の外から声が聞こえた。
見張りが何やら会話をしているらしい。

「まさかぁ。空耳だろ?」
「分かってねぇなぁ。……この中にゃ何があると思ってんだ?」
「……あぁ、そう言う事ね。考えてみりゃ、何だか俺も物音を聞いた気がするよ」

外にいた見張りが扉を開け、地下倉庫へと踏み行ってきた。
蒐集物を物色するつもりらしい。
無線電気(懐中電灯)で周囲を照らしながら、品定めをしている。

「お、これなんか高く売れるんじゃねえか?」

見張りの一人が、目に付いた宝石へと手を伸ばした。
見張りは三人。上手くやり過ごして外へ出る事も出来るし、打ち倒してから出る事も出来る。
勿論、正々堂々と名乗り出る事も――出来ない事はない。


【裏口】

「な、何か表が騒がしいけど……大丈夫か?」
「いや、大丈夫だろ……。表は結構な人数がいたし……」

裏口から入ってすぐの所、見張りに当たっている男達が不安げに話をしている。
扉は風か何かで少し開いていたが、どうやら気付いていないらしい。
隙間から中の様子が伺えた。

「いやいや、でも来てんの多分冒険家だろ?
 冒険家って言ったらスゲーヤバい奴がわんさかいるらしいじゃん。
 なんでも冒険から帰って来る度に返り血で真っ赤になってる冒険家とか……」

「あぁ……俺も聞いた事がある。それに最近、まるで死霊みてえにおっかねえ女が二人、
 受願所に現れたとか……。もしそいつらがここに来たら……」

見張り番達は尾ひれの付いた噂話に、また表から誰かが来ないか恐れるあまり、
扉の見張りが疎かになっていた。事実、扉が僅かに開いている事に気付いていない・
音もなく扉が開いたのなら、恐らく彼らは気付けないだろう。
見張りをやり過ごして進む事は出来ないが、先手を取る事は容易い。


【到着→クエスト開始まで書かせて頂きました。
 正面玄関→突入と同時に錯乱した兵隊達が攻撃。武器は遠近両方。錯乱しているので狙いは滅茶苦茶です
 地下倉庫→蒐集品を物色しようとした見張りが中に。冒険者達には気づいてない。扉は空きっぱなし。やり過ごしても倒してもよし
 裏口→扉が微妙に開いてる。中の見張りは注意散漫】

31 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/07 21:02:19 ID:???
言われた通りに裏口に回れば、僅かながらに扉が開いていた。

「おや、不用心ですねえ」

中を覗けば、見張りの男らしき人物が数人。
そしてくるりと、女性二人に向き直った。

「どうしましょうか?」

今この状況では男は自分一人。
だが、この二人が、冒険者に志願する実力があるのもわかっている。

「そうだ!いいこと思いつきました!すいませんがお二方、ここで待っていては頂けませんか?すぐに戻りますので。」

そういって扉を勢いよく開けた。
音に気づいた男達が群がってくる。

「優男の兄ちゃんに、こんなとこは似あわねぇぜ?」

そう言いつつ男達は刃物をちらつかせた。

「え、そうですか?ここが裏口って聞いたんですが、間違いないですよね?」

そう言った瞬間男達の纏う空気が変わった。

「冒険家だ!殺せ!」

一斉に刃物が龍次に襲いかかる!
だが彼らはすぐに地面に顔をぶつけた。
何人かはその衝撃で気絶する。

「な、ん…見え…」
「?何ですか?」

彼らが倒された理由。
それは合気道による、力の流れのみで戦う戦法によるものだった。

「すいませんがしばらく寝ていてください。お休みなさい。」


32 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/07 21:14:25 ID:???
意識の残っている連中に手刀を叩き落とし、扉へと向かった。

「すいません、お待たせしました」

ほけほけと笑いながら女性二人の元へと戻る。

「それでは行きましょう…ゲボアッ」

促そうとしたところで、思い切り吐血した。

「ああ、気にしないで下さい。いつものことですか…ゲフッ」

吐血のせいで、全くもって説得力が無くなった。

【見張りを気絶させる→吐血しつつ中にはいるよう促す】


33 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/07 22:14:48 ID:???
「わぁ、大きい方ですねぇ。」

のほほんとした声に振り返ると、気づかないうちに色白い優男が突っ立っていた。
男は品定めするように嘆願を見て回ると、にこやかに草汰と同じ嘆願を受理した。
細い体つきだが、全く隙が見えない。恐らくは玄人だ。受付人とも仲良く会話しているし。

「ちょーっとそこの素人さん!そう!屋敷立てこもり討伐の嘆願受けようとしているあんたたちよ!」

男を何気なく観察していた草汰。だが何やら騒がしいのでそちらに目を向けると、
まだ年若い幼、少女が脚立に乗っかり大演説をしていた。視線がこちらを見ている気がする。
彼女もどうやら同じ依頼を受けるらしく、高々と金の免許証を掲げて啖呵を切った。

「おおおかっけェー!やっぱ金となると格も違うな!」

その時、キラキラと目を輝かせる草汰の目の前で、少女が炎に包まれる。
幻覚ではない、明らかに焦げる臭いもしている!

「あーぢゃぢゃぢゃだぢゃ!!!」
「おわーーーーーっ!?だっ大丈夫かチビっ子ーーーーー!?」

少女の周りを避ける群集とは正反対に草汰は大股で駆け寄り、前掛けを使って消火を試みる。
しかし火は消える気配を見せない。それどころか前掛けに燃え移る気配もない。

「すいません!すいません!登場シーンだから話盛ってました!」

遂に豆狸は本当の事を白状した。途端に火は消え、消し炭のような狸娘1人だけが残った。
草汰は最初混乱したが、状況を理解し、彼女の自白を脳内で反芻するにつれて怒りが込み上げてきた。
狸娘の首根っこを掴んで自分の視線まで持ち上げる。
殺気丸出し、怒りに満ちたドスの効いた声を上げ、草汰は狸娘を睨んだ。

「……お前さんが俺達を騙くらかそうとした事ァこの際どうでもいいぜ。だが、一つだけ許せねぇ事がある……。」

彼は何に怒ると言うのか。キレ様からして、ただ事ではあるまい。
群集が固唾を飲み、空気が張り詰める中、草汰の怒声が響いた。



34 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/07 22:20:52 ID:???



「…………俺はまだ 1 8 だ!おっちゃんじゃねぇぇええええエ!!」


空気が凍った。
え?そんな事で怒るの?みたいな空気には一切気づかず、草汰は続ける。

「大体、連れてって欲しいなら素直に頼みやがれってんだ。梔子(※口がきけない人)じゃあるめえし!
 後、次に俺をおっちゃんって呼んでみろ。狸汁にして美味しく食っちまうからな!分かったか!」

ようやく憤りが収まったのか、狸娘から手を離す――ことはせず、近くにいた猫叉娘に押し付けた。

「お嬢さんも゛一緒゛なんだろ? 俺は森岡草汰。宜しくな。」

そんな事をしていると、人垣を割って一人の青年がこちらに近づいてきた。
精悍そうな顔つきをした軍人だ。青年は迷うことなく此方へ近づき、狸娘に話し掛けた。

「連れて行ってくれる……連れて行って欲しいと。ふむ、つまり、
 移動手段が欲しいということでしょうか、お嬢さん!
 それならば、私にお任せ下さい!」

…………えええええええ!?そんな話だったっけか!?
唖然とする草汰を余所に、青年は踵を返して行く。草汰も何となしにそれに続き、――今度こそ開いた口が塞がらなかった。

「他にも誰かいらっしゃいますか! この嘆願を受けた方、受ける方!
 送迎は、不肖この『岸タクシー』が務めましょう!」

タクシーと彼、岸が称するそれは、紛う事なき――――戦車だった。

「――一律1円で」
「高けぇーよ!!」

取り敢えず、突っ込みと手刀は入れておいた。


とまあ、色々あって現在。草汰達は正面玄関前にいる。
戦車タクシー男こと岸、スーツを着こなした軽そうな男、桜、そして草汰。
腕をぐんと上に伸ばし、閂を掛けられた門を見据えた。



35 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/07 22:21:43 ID:???

「そんじゃー、行くとしますか!」

カランコロンと下駄を軽快に鳴らし、門の前で立ち止まる。
そして、門のある一点を見つめた。
息を一吸い、一吐き、その右腕を振り上げて――


「お お お おりゃああああああああああ!!」


門ごと、殴り抜ける!!

まるで紙のように吹き飛び砕け散る木板の破片、それを見た敵方は恐れをなす!

「「「「うわあああああああああ来ただあああああああああああ!!!」」」」
「おうともさ!正義の鉄槌を下しに来たぜ野郎ども!!」

草汰らに向け、得物が振り回される、銃弾が駆け抜ける。
だがそんな抵抗は、草汰の前には蠅の抵抗に等しい!

「教えてやるぜ!――お前らは、俺には勝てねえって゛証左゛をなァ!」

その巨体には不釣り合いな素早さで、得物と銃弾の間をすり抜けて、振るった鉄拳が雑魚たちを撃沈させる!
彼は自信と力に満ちている!己の正義感を胸に、敵方を圧倒させる!

「俺は森岡草汰!アンタたちを倒す冒険者だ!――神妙にお縄についてもらうぜ!」

【門を素手で破壊、正々堂々特攻突入!】


36 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/07 23:07:06 ID:???
係員らしき人物が突入する面子を割り振り指示を出す。どうやら二面作戦ならぬ三面作戦らしい。
自分を(正確には宝石を)見て慌てて目をそらす。質問に答えてあげようとしたのだが要らないようだ、

(お前目んたまみてーだとさ)(うるさいよ)(やっぱり目立っちゃうね)(これが一番頑丈じゃから仕方ないのう)
テレパシーのような物で声には出さずに会話する。恐らくこの中では宝石が一番値が張るだろう。
一応それぞれがそれぞれに曰くとか由緒とかを備えているのだがそれとこれとは別の話だ。

所変わって件の屋敷とは少し離れた敷地の外、係の人に案内された地下倉庫への入り口はいかにも
秘密の抜け道めいていて、ある意味高級感とか本格的とかそういう雰囲気を醸し出していた。
そして両隣、ヨロイナイトは自分以外に割り振られた少女二人を見る。

どちらも妖怪のようで、内一匹はたしかもっと黒ずんでいた記憶があるのだが曖昧だ。
もう一匹は猫の妖怪らしいと影法師がそっと教えてくれる。これでこの場に妖怪がイレブン。
となれば最早ここは妖怪たちのフィールドである。サッカーだってできそうだ!それとも吉備団子の方だろうか。

しかし本来の業務を優先しなければならない為その一環として彼(ら)は二人に挨拶も兼ねて話しかける。
「もしかしなくても、二人とも妖怪だったりするかい?いや実は俺達もそうなんだけどねー」

初めましてと自己紹介を済ますと今度は二人を促す。これから何度か顔を合わせるのだから最初は
無難に済ます。始めの顔合わせを済ませると館の中にいるであろう犯人たちへ思いを馳せる。

(待っていろ、俺達が君等を必ず保護してやる。君達のような人間が国を駄目にし、俺達を生き易くしてくれるんだ)
そう決意して乗り込んでいくと奥で人の気配がする。

どうやら見張りのようだ。数は少なくそれでいて倉庫を漁っているらしかった。あれこれ言ってやはり
こういう事なのだろう。ヨロイナイトは彼らを素晴らしいと思った。
(この浅ましさを放置しておけば必ずや日本を駄目にしてくれるだろう!どうにか逃がしてやりたいが・・・)

そんな邪なことを考えながら、彼は誰かが盗もうとした物のように見せかけるために地面に寝転がった。
面当を降ろすと正に置物といった感じだ、惜しむらくは指がピースしているところだろうか。
【出発、到着、そして寝たフリ】

37 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/07 23:24:47 ID:???
>>34
黒こげの仙波みどりを持ち上げ、殺気をまき散らす森岡草汰。
周囲も空気が張り詰めるが、その殺気を向けられている仙波みどりも凍りつく。
そんな中放たれた怒声は……
>「…………俺はまだ 1 8 だ!おっちゃんじゃねぇぇええええエ!!」
空気が凍った。
そして仙波みどりの目は胡麻になる。
一瞬の空白と共に思考が廻りだす。
(おっちゃんとしか言っていないのに怒るってことは自覚があるんってことじゃん?)
「てぃひっ……」
小さく笑みが溢れ、掌を鏡に変化させて森岡草汰に向けようとした刹那

> 後、次に俺をおっちゃんって呼んでみろ。狸汁にして美味しく食っちまうからな!分かったか!」

「ぴぃいいい!!!」
緊張感から解放されまたも悪戯ごころがむくむくと起き上がった瞬間。
虚をつかれたようなタイミングで凄まじい怒声を浴び、全身の毛が逆立ち小さな痙攣と共に白目を剥いて動かなくなってしまった。

森岡草汰から受け取った鐘本さくらは、受け取ったものが呼吸もせず脈もなく、体温が急速に失われていくことに気付くだろう。
それはあらゆる方向から【死】を主張していた。
余りの迫力と殺気、そして怒号に仙波みどりはショック死してしまったのだった。















しかし、鐘本さくらが確認しようとすればすぐに仙波みどりは飛び起きるだろう。
背中から煙を上げながら。
そう、これは擬死。
端的に言えば狸寝入りというもので、本当に死んだわけではないのだから。
この狸寝入り自体は問題なく行えるのだが、それを確認しようとした者を欺くことはできない。
しかしやらずにはいられない狸のサガなのだった。

38 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/07 23:27:27 ID:???
ところ変わって屋敷の近く
戦車のふかふかのシートといい香りのする芳香剤で聞い持ちよく一眠りしてスッキリな仙波みどり。
屋敷二階窓から演説する男とそれに何気に同意する林真を見ながら首をかしげていた。
「ん〜お金いっぱい払った人と、お金全然払わない人と同じって方がずるいんじゃない?」
所詮はたぬき。弱肉強食の世界に生きるケダモノである。
基本的人権や平等という概念は理解出来ていない。
どの道選挙や政治には興味が向かないのでどうでもいいのだが。

林真の指示に従い三方に分かれる冒険者たち。
「よーし!一番が誰か競走だよー!」
と正面と裏口に回る面々に元気良くてを振る。
一度死ぬほどの目に合わされた森岡草汰にも元気に手を振っているところを見ると、すでに会場で怒鳴られた事は忘れているようだった。
そして向き返り、共に地下から潜入することになった二人
鐘本さくらとヨロイナイトにニパっと笑い、「頑張ろー!」と手をあげるのであった。
猫又、得体の知れない鎧とはいえ、人外同士近親感があるようだった。

>>36
「うわー!【実は】なんて、いいギャグ持ってる〜。こんなベタベタな妖怪やっててそうくるとは…!おいしいよねー!」
無難に挨拶をしようとするヨロイナイトの気持ちなど更々察することもなくズカズカと踏み込んでくる仙波みどり。
どうやら【実は】をギャグと思ったようで満面の笑顔と共にその鎧をガンガンと叩く。
「すごーい!お寺の鐘と同じ音するよー!ねえねえ、重くないの?あー、これ西洋刃?初めて見た!」
まるで新しく与えられた玩具に夢中になるように、遠慮無しである。


搬入口から地下倉庫に入ったものの、やはり地下。
灯りもなく暗く、視界はあまりにも悪い。
しかも大小さまざまな蒐集物が乱雑に並べられているので歩く事にも不自由する始末。
ゴンッ
「あだっ!」
暗い地下倉庫に鈍い音と小さな声が漏れる。
それは暗い中、無造作に置かれた巨大な花瓶にぶつかった音だった。
しかもその花瓶、バランスを崩し、ぶつかって倒れた仙波みどりにのしかかるように倒れてきたのだ。
(ひいいい〜〜〜)
一応潜入ということが頭の片隅に残っていたので除けて花瓶が割れて音が響くのを避けるために両手両足でのしかかる花瓶を支えるような格好になってしまっていた。

花瓶は割れはしなかったが、やはり音は外まで響いていたようだ。
外にいた見張りが入ってきた。
暗い地下倉庫で自分の背丈と相変らぬような巨大な花瓶にのしかかられていることで身を隠すことはできている。
声を殺し、気配を断っていたが、ここで仙波みどりの首筋にムクムクともたげてはいけない衝動が沸き上がる。

相手から自分は見えていない。
しかし相手は無線電機を持っているのではっきりと見える。
そして一人は蒐集物を物色に注意が向いている。
「てぃひひ」
小さく笑みを浮かべながらそーっと巨大な花瓶を宝石に手を伸ばした見張りへと転がした。
潜入のことも、誰が一番か競走していることもすっかり忘れ、
「転がってきた花瓶に突然足をすくわれる見張り」という未来予想図しか頭になかったのであった。


39 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/08 00:51:09 ID:???
さくらは驚いていました。
何故か、大きな男から、狸の少女―――仙波みどりを受け取ったのですから。

「ぴぃいいい!!!」
「ちょっと貴方、大丈夫!?」
彼女は、白目を剥いて、呼吸が無くなり、鼓動が止まって、体温が失われました。
しかし、それも一瞬。煙を上げながら飛び起きます。
これで一安心ですね。

「お嬢さんも゛一緒゛なんだろ? 俺は森岡草汰。宜しくな。」

先ほど自分の年齢を明かした大きな男、森岡草汰はさくらに自己紹介します。
相手が名乗ったからには、自分も名乗らねばなりません。

「あなた、面白い人ね。私は鐘本さくら! 草汰さんね、宜しくお願いします」

そしてなんやかんやでタクシー(という名の戦車)に乗り込み、いざ戦場へ…
因みに自分の分のタクシー代金(一円)だけ、ちゃっかり払っています。面白かったから。

―――――――――――――――――――

「よーし!一番が誰か競走だよー!」

正面や裏口から入る面々に、みどりが元気に手を振ります。
さくらも一緒に手を振りました。

「頑張ろー!」
「うん! えい、えい、おー!」

二人(二匹?)の妖怪が、明るく手を挙げるのでありました。
合いの子とはいえ、さくらは先祖返りですから、彼らのような得体の知れない存在の方が気が合うのでしょう。
ところでと、もう一人の妖怪が声を掛けました。

「もしかしなくても、二人とも妖怪だったりするかい?いや実は俺達もそうなんだけどねー」
「“達”? 俺達って、どういう事?」
「うわー!【実は】なんて、いいギャグ持ってる〜。こんなベタベタな妖怪やっててそうくるとは…!おいしいよねー!」

ヨロイナイト(鎧武者の名前です)の言葉の端に違和感を覚え、さくらは訊こうとしました。
しかし、みどりがさくらの言葉を吹き飛ばすようにひたすらヨロイナイトで遊んでいました。

「すごーい!お寺の鐘と同じ音するよー!ねえねえ、重くないの?あー、これ西洋刃?初めて見た!」
「え、あ、ホントだ! みんなみんな重そうね! 私に倒れないでね、死んじゃうから」

ただ、さくらも所詮は猫。
面白そうな玩具の誘惑には勝てませんでした。

―――――――――――――――――――


40 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/08 00:51:41 ID:???
―――――――――――――――――――
打って変わって、地下倉庫の中。
灯りの少ない倉庫の中でも、さくらの猫の眼なら普段と同じように見る事が出来ます。
それ故に、三人の中で唯一、違和感に気付きました。

(何かしら? 動いたような、跡?)

埃だらけの室内で、何故か埃の被っていない綺麗な場所が有ります。
臭いを嗅ぐと、何処か油臭いような…
と、さくらの耳が、扉の向こうの物音を捉えます。遅れて、話声が聞こえました。

「……なぁ。今、中で物音がしなかったか?」
「まさかぁ。空耳だろ?」
「分かってねぇなぁ。……この中にゃ何があると思ってんだ?」
「……あぁ、そう言う事ね。考えてみりゃ、何だか俺も物音を聞いた気がするよ」

奥の方から扉の軋む音が聞こえ、足音が鳴りました。中に入ってきたのでしょう。
何も知らなければ蒐集物を物色するだろうと考えますが、さくらの考えは違いました。

(会話とか物が動いたような跡とかからして、多分、ここに有った何かの様子を見に来たんだ…)

さくらはそう考え、物陰に隠れながら周囲を伺いました。きっと、何か有るはずです。

「お、これなんか高く売れるんじゃねえか?」

さくらは自分の考えが外れた事に、がくりと肩を落としました。

(お馬鹿ー! 私の期待を返しなさい!)

【さくら:床の違和感を発見。物陰に隠れながらその正体を探してます】

41 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/08 05:37:33 ID:???
>>23-24>>31-32
―――まさぐっておりました

屋敷の裏口前で、玉響は震える体をまさぐっておりました。
熱いのか寒いのか分かりません
ただ、水気のない長い黒髪がふぁさふぁさと体の震えに合わせて揺れています。
前髪の簾(すだれ)の向こうには葦高龍次。
隣には倉橋冬宇子、その様相から漂う危うい雰囲気に玉響の緊張は更に増していきました。
扉の一枚向こうには屋敷の見張りたちがいます。こわい、こわいと思い始めたら柳の葉っぱでも怖くなるもの。
玉響は小声で二人に話しかけます。

(あたしの名前は玉響(たまゆら)もちろん本名じゃないけどさ、そう呼んでくんなまし。
それはそうと、はじめにごめんねぇ。ゆるしてねぇ。こんなおばちゃんと一緒になっちゃってゆるしてちょんまげ☆
でもぉ、やるからには力を合わせてがんばりませう。ふぇへへへ・・・)

合掌した手を擦り合わせつつ、搾り出すかのように引き攣った愛想笑いを見せる姿はなんかもう妖怪。
すると玉響の口まわりにモザイクが。あれーなんということでしょう。
びくびくと猫背を波打たせながら、色の薄い唇から胃液を溢れさせているではありませんか。
これもすべて極度の緊張から。よい歳をした大人がほんと情けない。

(はあ〜・・・びっくりこくまろぉ〜)
びっくりしたのはまわりの人たちのほうです。
でも幸運なことに見張りたちにはまだ気付かれていませんでした。

>「そうだ!いいこと思いつきました!すいませんがお二方、ここで待っていては頂けませんか?すぐに戻りますので。」

「え?別にいいわよねぇ?あたしたちは。気をつけていってらっさいな」

葦高は裏口から屋敷に侵入します。外に残されたのは倉橋冬宇子と玉響。
玉響は口を少しぱくぱくさせてから、やっと言葉を吐き出しました。

「や、屋敷の中いる奴らって一体なんなんだろうねぇ?
表向きじゃあんなこと言ってるけどさ、やっぱ水平社の奴等なのかねぇ。
ま、それはそうとあんた。今の男、どう思う?いい男だったじゃないかいっ
はあ〜。あんな色男くわえこんで生きていけたらどんなに幸せなことか・・・
あんた、男にゃ困ってないだろ?つやつやしててさ、相当な美人さんだ。羨ましいねぇ。
こっちは世の男どもを萌やすためにこんな格好までしてるってのにさァ」

自分の緊張を解す為に、玉響は空気も読まずに話しかけます。

42 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/08 05:38:49 ID:???
>>23-24>>31-32
会話のあと、二人が息を潜めているとドタンバタンと床に何かが打ち付けられる音がしました。
その後の沈黙のあとに扉がギィと開き、笑いながら現われる葦高龍次。

>「それでは行きましょう…ゲボアッ」
>「ああ、気にしないで下さい。いつものことですか…ゲフッ」

「あれま〜あろま〜。だいじょうブイ?あっと驚くタメゴロさん。
持病もちなら今度、あたしの処に来て下さいな。あたし、鍼医やってるんだ。
鍼でぷすりと刺しちまえば、どんな病気もイチコロさ」

口から血をふいた葦高龍次の背中をさする玉響。
裏口から室内に一歩足を踏み入れ見渡せば、寝転がり気絶している人たちがちらほら。
玉響は倒れている見張りたちの着物に手をいれまさぐり、自分の懐に金目のものを入れていきます。

「金、金・・・金の光は阿弥陀ほどってね。
それとこいつらに修羅場に目を覚まされても困るから麻酔針打っとくよ。
ちくっとな。これで数時間はおねんねさと」

物色が終わった玉響は、物陰にゆらりと潜み、人の気配がないか耳を澄まします。

「忍者ごっこも久しぶりだねぇ。どきどきするねぇ」

【玉響:屋敷の裏口から侵入して身を潜めています】

43 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/08 16:06:18 ID:???
>>34 >>37 >>39
狸少女の発火に端を発した騒動は続いている。
続々と集う野次馬に紛れて、倉橋冬宇子は騒ぎの一時始終を眺めていた。
少女たちの尻に生えた尻尾を見て、呆れ顔で呟く。

「猫又に仙波山の豆狸かい……アヤカシが人と肩を並べて"派遣登録"とはねぇ…"境界"のユルい時代になったもんだよ…」

野次馬の中にも人外が多く混じっている。
人混みにあっても一際目立つ、白面の西洋鎧に視線を当て、冬宇子は思わず声を上げた。

「それにありゃ何だい?屍人に泥人形…呪詛を受けた鎧に人形…7匹…いや9匹?妖怪までいるじゃないか…
 呆れた!物の怪の塊じゃないかい!」

霊的な物を見通す冬宇子の目は、鎧の内外に張り付く複数の霊体を捕えていた。
しかし、その異形が醸し出す霊気に禍々しい怨念は感じられない。
この手の存在に付き物の負のオーラがないのだ。あるのは子供にも似た純粋な好奇心。

「近ごろは妙なものがウロついてるねぇ…化け物の世界にも新時代ってものが来てるのかねえ?」
冬宇子は溜息まじりで、もう一度呟いた。


>>26
>「他にも誰かいらっしゃいますか! この嘆願を受けた方、受ける方!
>送迎は、不肖この『岸タクシー』が務めましょう!」
>「――一律1円で」

受願所の入口で客引きよろしく叫ぶ男の声に、冬宇子は振り返った。
軍服を着た青年運転手の呼びかけに応じ、正面入口に集まった冒険者は、男女(性別不明含む)合わせて九名。
それに『林真』と名乗る依頼主(警察)からのツナギ役を加えた総勢十名が、武装集団討伐のメンバーだ。
面々は、青年が『タクシー』と呼ぶところの『戦車』前で一同に会していた。


>>22
乗車を迷っているのか、痩せこけた中年女が正門前でぐずぐずしている。

「おばさんも同業だろ?乗りなよ。なァに…あの男、ああ言ってるが金なんか取りゃしないのさ。
 あいつも受願所で同じ"嘆願"を受けた免許持ち。
 自分のアシで、ついでに同業から金をせしめようっていうアコギな性根さァね。払う必要ないさ。
 第一これから屋敷に乗り込むって時に、無賃乗車で私らを交番に突き出せると思うかい?」

擦れ違い際に中年女にそっと耳打ちして、冬宇子は戦車に乗り込んだ。
戦車内の客室は意外にも広く豪華で、ちょっとした応接室並みの設備を備えている。
……が、さすがにこの人数、車内にギュウギュウ詰めにされては窮屈なことこの上ない。
人外トリオの漫才をまるきり無視して、ビロード張りのソファに身を沈めた冬宇子は、不機嫌そうに頬杖をついていた。
屋敷に到着し戦車のハッチが開く。と、同時に耳に飛び込む武装犯の演説。

>「我々はー!断固として!身分、財産、そして性別による制限のない、普通選挙の導入を要求するー!」

冬宇子の顔色が変わった。

「あの唐変木っ!!やっぱりここに居やがったか!何が…性別の制限ない選挙さね?女を馬鹿にして!!
 ここで会ったが百年目!!ギュウという目にあわせてやる!!」

髪を振り乱し般若面のような形相になって戦車から飛び降りる。もちろん一銭も払わずに。

>「よーし!一番が誰か競走だよー!」
屋敷に向かって駆け出す冬宇子の背中に、猫又女学生の明い声が投げられた。

44 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/08 16:10:03 ID:???

一応の司令塔である警官、林真の采配で裏口に集うは三人。

道着を着た細身の色男―――葦高龍次
痩せこけた海老茶袴の中年女――玉響
派手な着物の商売女―――倉橋冬宇子

使用人の通用口と思しき裏口は、車寄せのある堂々たる正面玄関とは対照的に
木製の扉一枚で仕切られただけの簡素な造りだった。鍵のかかっていない扉が薄く開いている。

>「そうだ!いいこと思いつきました!すいませんがお二方、ここで待っていては頂けませんか?すぐに戻りますので。」
>「え?別にいいわよねぇ?あたしたちは。気をつけていってらっさいな」

屋敷に侵入する色男を見送って、裏口の側に佇む中年女と冬宇子。

倉橋冬宇子は明らかにイラだっていた。
腕組みして指を小刻みに肘に打ち付ける女の背後に、ドス黒い炎のようなオーラが揺らめいている。
口から溢れ出す胃液をどうにか飲み込んだ中年女――玉響(たまぐし)が、空気も読まずに、あれこれと話しかけてくる。

>「や、屋敷の中いる奴らって一体なんなんだろうねぇ?
>表向きじゃあんなこと言ってるけどさ、やっぱ水平社の奴等なのかねぇ。
>ま、それはそうとあんた。今の男、どう思う?いい男だったじゃないかいっ
>はあ〜。あんな色男くわえこんで生きていけたらどんなに幸せなことか・・・
>あんた、男にゃ困ってないだろ?つやつやしててさ、相当な美人さんだ。羨ましいねぇ。
>こっちは世の男どもを萌やすためにこんな格好までしてるってのにさァ」

「うるさいねっ!!少しは黙っていられないのかい?!このババアっ!!
 あんたみたいなババアに男の心配してもらいたかァないよ!
 水平社だって…?ここにいる連中はそんな大したモンじゃないさ!!
 近年流行のデモクラシーにだかにカブれた朴念仁どもが、一丁前の革命家気取りでイキがってるだけさ!」

真っ赤な口紅を差した唇を歪め、髪を逆立てんばかりの勢いで玉響に詰め寄る冬宇子。
隠密行動も何もあったものではないが、心配はいらなかった。
扉の中で更に派手な物音が響き、色男が勝手口の扉からひょいと顔を出す。

>「それでは行きましょう…ゲボアッ」
>「ああ、気にしないで下さい。いつものことですか…ゲフッ」

男は口から血を吹き出した。

「やれやれ…胃液の次は血かい?何だってこの人たちは口から何か吐き出したがるのかねェ…」

冬宇子は憮然として呟いた。

45 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/08 16:14:02 ID:???
男の背中をさする玉響の脇をすり抜け、開いた勝手口から館内に入り込む。
裏口そばの床上に得物を手にしたままの男たちが、呻き声も上げずに転がっていた。
服装も年齢もバラバラ。農民もいれば、背広を着た紳士くずれ、袴姿の文士もいる。
屋敷を占拠した武装集団は、やはり有象無象の寄せ集めに過ぎないようだ。

「あの兄さん、トッポい顔してやるじゃないか。さすがに"銀"持ちは伊達じゃないってかい?」

嘆願受理の受付で男が掲げた免許の色を思い出し、冬宇子は独りごちた。


館の中に微かだが邪な空気が立ち込めている。
冬宇子は小さく眉を顰める。

「この気配……呪法…?気のせい?…そんな気の利いたことのできる奴がここにいるのかねぇ?」

転がる見張り達の懐を一心不乱にまさぐる玉響を横目に、
冬宇子は、再び館に足を踏み入れた色男の側に歩み寄り、その耳に囁きかけた。

「私は倉橋冬宇子。
 "銀"持ちのセンセ……これからもこの調子で頼むよ。頼りにしてるからね」

流し目をくれて、男の肘に腕を絡めた。

【裏口から侵入。色仕掛けで葦高さんを弾除けがわりにしようとしています】

46 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/06/08 18:09:21 ID:???
高尚な演説を垂れる少女が燃え出したのに慌てる人々を他所に雪生は淡々とシャッターを切った。
三回ほどそれを繰り返したところでつまらなさそうな顔で目線をカメラから火達磨狸に移す。

「うーーむ。ウケるかなー、と思って撮ってみたが存外つまんねーなァ〜〜〜〜〜〜〜〜。
 せめて海を真っ二つに割ってそこを渡るくらいしてもらわねーと。あれ誰のことだっけ?」

>「…………俺はまだ 1 8 だ!おっちゃんじゃねぇぇええええエ!!」

「アラ?とっつぁんまだ18だったのかい。俺ァてっきり30半ばだと思ってたぜ」

怒鳴り散らす草汰をよそにさり気なく草汰がまた青筋立てそうな台詞を放った。

>「他にも誰かいらっしゃいますか! この嘆願を受けた方、受ける方!
> 送迎は、不肖この『岸タクシー』が務めましょう!」

「おーー。丁度いい塩梅できたな。スーツにタクシー。こりゃ立派な西洋かぶれってもんじゃないのォ?
 それに最近運動不足で歩くのがシンドイんだ。スーツだと動きにくいしなァ〜。かといって楽な服装じゃカッコが……」

>「――一律1円で」

「ぼったくりじゃねーーーーーかッッ!!!やっぱタクシーは金持ちの乗るもんだなァクソ!」

今月の全財産残り3円の雪生にとってここで貴重な1円を失うのは非常に危険である。

「あー、ブルジョワっつーの?ブルジョアジー?とにかくんな金あったら俺ァこんなことしてねーよ!!」

西洋かぶれらしく必死で横文字を使いながら文句をひたすら垂れる。垂れる垂れる。
先ほどまで林真とみどりからモジャモジャだのボサボサだの散々な言われようだったのでその怒りの矛先が向いたのかもしれない。


────そして金がもったいないからと雪生が屋敷まで全力疾走してからしばらく。

「ぜぇ、ぜぇ………オメーラマジでなんでそんなに金あんの?
 不思議で仕方ねーよ……つーか戦車って乗り心地いいワケ?想像できねー」

一人既に肩で息をして疲労困憊の雪生。こんなので大丈夫なのだろうか。
そもそも無賃乗車を働く無法者が中にはいたわけだが。

>「我々はー!断固として!身分、財産、そして性別による制限のない、普通選挙の導入を要求するー!」

「ああ、暇そーで何よりだ。こっちは貧乏だからンな暇なんざねーってのに。
 それともアレか?普通選挙が導入された暁にゃ俺が金持ちになれんのかね?なれねーならどーでもいい」

屋敷を武装集団が占拠した理由を聞いてみれば、割と陳腐なものだ。
雪生はその事実に呆れたのかものすごく勝手な理屈を誰に言うでもなく垂れていた。
そして占拠、人質と安い上に成功率の低い手段で訴えに出る武装集団を見て三下か素人だな、と推測した。

>「よーし!一番が誰か競走だよー!」

「いいぞー。てかいいのかー?お兄ちゃんスーツの袖めくっちゃうくらい必死で頑張っちゃうぞー
 後15センチ捲れる余裕があるくらいには必死でやれるぞーー」

袖をめくる素振りをしてみせて、雪生はみどりににこにこと手を振り替えした。
写真館には七五三やらで写真を撮りに来る子供が多いので自然と子供付き合いが良くなっているのである。

47 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/06/08 18:11:09 ID:???
>「そんじゃー、行くとしますか!」

「あ〜〜確かにそろそろだな。バカでかい戦車タクシーのお陰で冒険者が来てんのはバレバレだろうし」

軽快に下駄を鳴らしながら、草汰が門へすたすたと歩いていく。
雪生はそれを他人事のように適当に答える。

>「お お お おりゃああああああああああ!!」
>「「「「うわあああああああああ来ただあああああああああああ!!!」」」」
>「おうともさ!正義の鉄槌を下しに来たぜ野郎ども!!」

気合一発、威勢の良い叫びと同時に放たれた拳骨が木製の門を紙くずのように砕く。
そして敵方はまさに阿吽の呼吸で悲鳴を上げる。素人ですよと言わんばかりに武器を振り回し、撃つ。
しかし草汰はそれでも尚啖呵を切る余裕があった。

>「俺は森岡草汰!アンタたちを倒す冒険者だ!――神妙にお縄についてもらうぜ!」

「随分ゴキゲンだなァ〜〜〜〜とっつぁん。ま、ケツを拭くのは俺に任せて暴れまくってくれい!!
 この調子だと敵は掃いて捨てるほどいるみてーだしよォ〜〜。ほら、円タクだか戦タクだかの岸も、行った行った!」

岸の背中をバン、と勢いよく叩いて懐から自身の得物を取り出した。
それはごくありふれた輪胴式拳銃。───まあ西洋かぶれ丸出しの雪生はりぼるばー、と呼ぶが。
とにかく取り出した銃を右手で持ち左手で銃を支える。片手で撃てないこともないがこれが一番狙いやすい。

>「教えてやるぜ!――お前らは、俺には勝てねえって゛証左゛をなァ!」

銃弾を、殺傷武器の嵐を掻い潜ってその必殺の威力が込められた鉄拳で敵を殴る、殴る。
草汰の爽快な壮観さに思わずシャッターを切りそうになったがなんとかこれを堪えた。
ふと敵を凝視すると珍しい武器を見つけ、雪生は思わず声を上げる。

「オイオイ!もしかしてそれって自動拳銃かァ!?いいねぇ、俺も欲しかったんよソレ!!
 ったく、猫に小判素人に銃だぜ!勿体ない勿体ない!銃が泣いてるだろーよきっと!」

武装集団の一人が所持していた自動拳銃を目ざとく見つけ、ぼやく。
そしてそれを奪わんとばかりに敵が撃つよりも早く手元を正確に撃ち抜いた。
直後、雪生に銃弾が殺到し慌てて壊れた門の陰に隠れる。

「っと、流石に敵が多いわな。ここからチマチマ援護して後はとっつぁんとタクシーに任せるか」

二度発砲音を鳴らし、敵の動きを奪う為に2人の敵の太腿を正確に撃ち抜いて見せた。
ついでに一人だけラクをしようと画策している。なんともセコい奴である。


【ぶっ壊れた門の外の陰に隠れて援護射撃】

48 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/08 21:48:57 ID:???
突入前のこと
鐘本女史の疑問に答えようとしたところ、仙波女史の嬌声に遮られなし崩し的に自己紹介が
中断する、そんなつもりは無かったのに挨拶がギャグと取られたことで無性に恥ずかしくなる。
こちらが何か言う前にそのままベタベタと触られ玩具状態が続いた。

(まあ、最初だけはモテるよな)(長くて三日だが)(後でちゃんと拭いてね)
「あーうん、だめよーそれ危ないからねー、玩具じゃないから返してねー」

二人が飽きるまでの間、ヨロイナイトはなすがままだった。余談だがここに来るまでの間はタクシーの
トランクに納まっていて、吸血鬼気分を堪能したが案外悪くない。


時は戻って地下倉庫、寝て置物のフリをしたのはいいが自分を省みて欠点を発見する。まず第一に顔だ。
仮面のせいで面当を下ろせないので不自然だ。しかも仮面取るとキョンシーの顔がある。
前々から思っていたが余分な面当は取ってしまうか和風の兜に替えてしまったほうがいいかも知れない。

次に自分の風体、豪華なのは分かるが逆に物々しい。却って手を付けづらいのではないか、等と考えて
いる間にも前方にいるであろう彼らは倉庫漁りを続けている。もともと『目』で見ている訳ではない物が
殆どなので生き物は漠然としてしか捉えられないし、注意深く探さないといけない場所も普通に気づきにくい。

男の内の一人が呟く。
「そういうのもいいけど、俺はやっぱこういうのが欲しいなあ」
そう言うと辺りの質素で、それでいて質のいい物と分かる家具を指し、ついで大きな柱時計を見る。
「つっても、流石にそれは持ち出せないだろ」

そうだけどよう、と言う声を聞いてヨロイナイトは大時計に視線をやる。確かに万人に愛される雰囲気がある。
物霊が過半数の占めるせいか、それなりは目利きはできるが、ふと彼らは異音に気がついた。

カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカタッカタッカチッカチッカタッカチッカチッカチッカタッカタッカタッカタッ・・・・・・

(多いな)
時計の針が奏でる音が一種類多い。そのことに気付いた時、一斉に周囲を警戒する。
もう一つ時計があるのかとも思ったがどうも違う。まるで丁寧に機を織るような音、違いと言うほどのものではない。
ならば何故音に重複したような厚みがあるのか

『どうしてこんなに近くで音が聞こえるのか』

49 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/08 21:50:21 ID:???
既に二人が先行して更にその先に大時計がある。逆に自分は横着して入り口付近で寝そべっている。
思い当たる可能性にゆっくりと、入り口を振り仰ぐ。そのすぐ横に一体の武者鎧が一領、音はそこから
聞こえていた。ゆっくりと、カタカタという音以外は立てずに、ゆっくりと刀を振り上げている所だった。

不意に、目が合った気がした。
「「敵襲!」」
異様な空気を察知して叫ぶのと同時に武者が刀をヨロイナイトに振り下ろす。
その時は丁度仙波女史が花瓶を転がし、鐘本女史が何かを調べている時だった。

鈍い耳障りな音が響き、鎧に刀が打ち込まれたことが分かる、しかしどうしたことか鎧には傷ひとつ
ついてはいない。

(良い剣だな)(刃こぼれしてないね)(腕が鈍らで助かったー)
武者がもう一度振り下ろした刀から逃れると体勢を立て直して、サーベルを抜く。
今の物音にぎょっとした見張りがこちらを見る。しかしどちらが侵入者か区別がつかないようだ。

幸い他の二人には気づいていないようだが、このまま人を呼ばれるのは不味い。
「ど、どっちがどっちだ!」
見張り達が狼狽えた声に咄嗟に一計を講じる。

「馬鹿!俺だよ俺俺!あ、そうだ、この宝石やるから手伝えよ!」(!?)
宝石の文句は一先ず置いて、身振り手振りでオレオレと連呼する。
「あ、お前こうたか!お、お前も」

「そうだよこうただよ!早く助けろよ!」
もう一度攻撃を避けると大急ぎで見張りの下へと駆け寄る。これで少なくとも女史たちが見つかることはあるまい。
「ば、連れてくな!」「囲め、囲め!」「こいつ!おとなしくしろ!」

自分は見つかってしまったが、正しい意味ではまだバレていない。
ヨロイナイトは人間ではないっぽい武者と対峙しながら、ちらりと二人に目配せをした。

「なんかこうたばっかし狙われんな」「落ち着いてんな!」

【からくり武者と遭遇、オレオレ詐欺】

50 :名無しさん :11/06/08 23:18:22 ID:???
>>49
地下倉庫で蠢くカラクリ鎧武者がヨロイナイトに白刃を振り下ろす。
幸な事にその性能はそれほど高いものではなく、全身金属鎧であるヨロイナイトに傷をつけるには至らない。
しかし深刻な問題はある。
この騒動のおかげで突然転がってきた花瓶にぶつかってすっころぶ見張り、という未来予想図は完全に打ち砕かれたのだから。
イタズラ不発の鬱憤に転がりながらジタバタしていたが、事態は構わず推移する。

カラクリ鎧武者と対峙するヨロイナイトは機転を利かせて見張りを騙し、更に鐘本さくらと仙波みどりから引き離す。
チラリと目配せした所など、正に絶対の死地にあって「ここは俺に任せていくんだ!」と死亡フラグをはためかすカッコイイシーンだった。

しかし、それをやるには相手が悪すぎた。
目配せをしたその時には既に仙波みどりは、ヨロイナイトの頭にしがみつく2秒前だったのだから。
無線電機が集まっているので夜目が利かなくとも棚を蹴り、華麗にジャンプして無事に目的地に着地。
身を捨てたヨロイナイトの行動を台無しにしておきながら、まったくその事に気づいていない。
「え?なになに?手伝ったらそのピカピカくれるの?」
宝石にも負けないくらいその大きな目をキラキラと輝かせながらヨロイナイト頭にしがみつきながら尋ねる。
既に悪戯不発の鬱憤など微塵も残っていない。

「え?なんだこいつ?」
「どこから入ってきたんだ?こうた、お前の知り合いか?」
突然の闖入者に見張りも事態を飲み込めず混乱しているようだ。
混乱しないのはただ侵入者排除のみを遂行する心なきカラクリ武者のみ。
カタッカタッカタッカタッ・・・・・と歯車の回る音と共に刀を振り上げる

「まーかせて!」
周囲の戸惑いや空気など一切気にもせず仙波みどりはヨロイナイトの肩を蹴り、ジャンプする。
空中で大きく拳を振りかぶり
「武装変化!破城槌甲!!!」
その掛け声と共に仙波みどりの小さな拳は己の身長を倍する程の槌をつけた巨大手甲になり変わる。

己の肉体の一部を武器に変化させる。
これは金物が苦手が多いアヤカシにおいて、金属性を持つ狸狢の持つ特殊変化能力。
硬度、耐久性共に金属のレベルを実現しているのだ。

その中でも破城槌はその大きさ、破壊力共に最上級のものである。
今の仙波みどりではその重さに耐えられず空中からの振り下ろし攻撃しかできぬ程の。

茂林寺での戦闘理論は先手必勝。初手で最大の戦力を投入し相手を打ち砕く。そして詰めを誤らぬこと。
いつだってしょっぱなからクライマックス気分なのだ。


51 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/08 23:19:21 ID:???
その理論に基づき最大限の攻撃がカラクリ鎧武者を叩き潰すはずだった。
が……ここは地下。
倉庫とはいえ、地下なのだ。
通常のジャンプでも飽き足らず、ヨロイナイトの肩からのジャンプ。
しかも最大攻撃を決める為により高く飛んだ結果……
鈍い音は天井にぶつかった何よりの証拠だった。
無線電機に照らされた仙波みどりは一筋の赤い鼻血を引く流星のようだった。

「ふっ!ぐぎいいいいい!!」
思いっきり顔面を天井にぶつけ涙目になりながらも破城槌甲を振り下ろした。
元々左右のバランスが恐ろしく悪い上、天井にぶつかって体制も崩れているのだ。
狙いのカラクリ武者に当たる訳がないのだが、手応えはあったようだ。

「やった!手応えあり!!」
喜びの声は見張りのひとりを吹き飛ばし、それでも飽き足らずに何本かの柱や棚を盛大に粉砕した事には気づいていない。
着地も考えずに満面の笑顔で落ちていった。
吹き飛ばされ破壊された周囲の棚や蒐集物が崩れ落ちると共に。

辺り一面は瓦礫に埋もれ、土煙が充満している。
直撃を受け吹き飛ばされた見張りはともかく、残りの見張りやヨロイナイト、そしてカラクリ武者は?
この瓦礫の下に埋まっているのだろうか?

【全てを台無しにして地下倉庫は瓦礫の山
みんな埋まってるぅ?】

>>50も自分です。失礼しました

52 : ◆6IUsayKoSo :11/06/09 03:52:33 ID:???
顔に浮かぶ笑みを抑えられそうにない。
だって初めて貰ったのだ。タクシー代。諦めずにタクシー業界に身を置いていて本当によかった。
一人当たり1円だなんてケチくさいことは言わない。相乗り1円だ、皆さんの分も頂きました。
これからも、ご利用よろしくお願いします。

さて、着いたは現場、立てこもりの中心地。大きな屋敷、聞こえる声。
正面から行け、と言われた以上正面から行くとしましょう。玄関から少し離れた場所にタクシーを止める。
先ほどタクシー代が高いと彼に手刀を食らわせた中年に見える青年、森岡と名乗っていたか、彼がまず突入していった。

――強い。

狙い定まらず飛び交う銃弾ものともせず、確実にその拳で暴徒達を打ちのめしていく。
そしてもう1人の男、名前は聞きそびれたが髪の毛が爆発に巻き込まれたようになっている男。
そういえばこの男も高いと言っていた、円タクが他のタクシーに比べどれだけ良心的な値段なのか知らないのか。
それはともかくこの男も実力者だ。手元や大腿部を確実に撃ち抜くその精度。おそらく、只者ではない。

一方、早く行くように背中を叩かれたというのに、彼は中の様子を伺うだけで中々入ろうとはしない。
だが、彼も別に楽をしようというわけではない。突入すべき、砌を測っているのだ。
森岡1人の戦闘がしばらく続き、次々と倒される戦友に男達の攻撃の手が弱まる、その時だ。

瞬間、笛の音が響く。

英吉利軍の友人から譲り受けた「ホイッスル」と呼ばれる欧州の笛。
その甲高く耳障りな音に、誰もが戦う手を止めて音のした方向へ視線をやる。
鳴らしたのは、岸良介という男。
笑顔をその表情に湛えながら、ゆっくりと正面玄関に足を踏み入れる。
こんな時の彼の軍服という服装は、威圧感を否が応でも高めることになる。

森岡が突入した時、男達の多くは驚きの表情を浮かべていた。
無茶苦茶な攻撃、バラバラな射撃。そこに『戦おう』という覚悟は見えない。
それでわかるのは、全員が確りとした思想を持ってこの立てこもりに参加したわけではないこと。
大方は扇動され、周りに流されて参加した者たちばかりであることは想像に難くない。

この類の輩たちは。脅しで、どうとでもなる。
無駄に戦って体力をいたずらに消費する必要はない。

53 : ◆6IUsayKoSo :11/06/09 03:53:14 ID:???
「さて、お分かりになられましたでしょうか? 私共――特に彼と、皆様方の戦闘力には開きがある。
 はっきり申しましょう。このままでは皆様方に勝ち目はございません」

その場に散乱する何人もの男達。森岡がのしてしまった残骸だ。
拳一つで沈む人間に、どんな尊厳があるというのだろう。

「とはいえ、多勢に無勢。万に一つの可能性で、私共に勝てることもあるかもしれません。
 その場合は皆様方一斉に、統一された攻撃をすることが必要でしょう。
 出来るかどうかは、ひとまず置いておくと致しまして」

突然彼は武器を構え、その軍刀の柄部分に内蔵された拳銃、その引鉄を引いた。
話している隙にとこちらを狙撃しようとした男は、腕を撃たれて銃を取り落とした。

「その場合は私共も本気で殺(と)りに参らさせて頂きます。幾人かは、必ずや血の海に沈むことでしょう。
 その幾人になりたいのであれば――構いませんがね」

瞬間、彼は軍刀を構え、そのまま半回転するように真後ろに向けて軍刀の峰を叩きつける。
背後から鍬で不意打ちしようとした男は、腰をくの字に曲げてその場に崩れ落ちた。

「その幾人の尊い犠牲を払って、私共の駆逐に成功したとしても――、
 私共の同志がこの屋敷ごと皆様方を吹き飛ばす準備、既に完了しております」

そう言って手で指し示した先、破られた扉のさらに向こう。ここまでの「移動手段」が鎮座している。
砲塔を――寸分違わずこちらに向けて。
もちろんそんな準備などないし、そもそもあの戦車は無人だ。だが、ここからではそんなことは分かるまい。
そこにあるのは、戦車がこちらに狙いを定めている(ように見える)という事実だけ。

「人質が居ないことは聞いておりますし、この屋敷の持ち主の方にも話は付けてあります。
 はい。暴徒鎮圧の為には、屋敷を失うのも惜しいが仕方ないと仰って頂いております」

当然嘘、嘘、嘘八百。全く表情も変えず、淀みなくつらつらとハッタリを。
そして最後に、語気を強めて。

「――それでも、まだ抵抗なさると仰るのでしょうか?」

【正面玄関の大勢の男達に投降を促す】

54 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/09 08:08:13 ID:???
うなだれながら目の前の謎を探るさくらでしたが、ふととある可能性に思い至りました。
嘆願の注釈に、呪法人形やら機械人形やらが有るとあったではないですか。

(もしかしたら、それかしらん。もうちょっと探す必要が有りそうね)

遠く、入り口付近には、何やら戦う音が聞こえます。
加勢に入りたい所ですが、今はこれが使命と我慢して辺りを探るさくらでした。
そして、それは有ったのです。
大量のガラクタに埋もれた、機械人形。恐らくこれらは予備でしょう。
更に詳しく調べる為に、ペタペタと触ります。
その時でした。

「ふっ!ぐぎいいいいい!!」

みどりの奇声と共に、鳴り響く轟音。
そして、遅れて崩れるは天井、ガラクタ、柱…兎に角瓦礫の山です。

「きゃあああああああ!」

さくらは悲鳴を上げて、瓦礫に埋もれるのでした。

―――――――――――――――――――

崩れ終え、場が完全に沈黙したその時。
先ず両腕が、その次に頭が。そして全身を現したのはさくらでした。

「―――もぉっ! みどりさんってば酷いわ! 私が何をしたって言うの!?」

先に出たみどりに声を掛けるつもりだったのに、肝心の彼女の姿が見当たりません。
何処に行ったというのでしょうか。
辺りを見回すさくらの目元に、涙が溜まります。

「みどりさん、ヨロイナイトさん…どこぉ〜」

瓦礫を掘り起こしながら、さくらは泣き出してしまいました。

「何処(いずこ)にいらっしゃるの、返事してぇ〜」

調べていた機械人形は、すっかり頭から追いやられてしまったようです。

【さくら:人形かな?→有ったよ!→埋もれたよ!→みんなどこぉ〜(泣)】

55 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/09 18:01:19 ID:???
【二階】

「何だか一階が騒がしいな!だがまったく問題ないぞ!何せ我らの同胞は国の未来を背負っているのだから!
 冒険者ごときに負けはしないよ!ははは!……それに、君が貸してくれた武器やカラクリ人形もあるからね!」

(……武器は横流し品や猟銃程度、カラクリ人形は大量生産した粗悪品ってのは黙っておこう)

「それにしても、これだけ手伝ってくれたのに報酬はそんな古ぼけた人形でいいのかい?
 もっと高価な物を持って行ってもいいんだよ!はっはっは!」

(……お前の財産じゃねーだろ。つーかこれだけでお前らにくれてやった物の採算取れるどころか
 お釣りがくるんだって事は黙っておこう)

立て篭もり犯の傍に、陰気そうな男が背を向けて立っていた。
黒いマントで身を包みんだその男は、立て篭もり犯に肩を無遠慮に叩かれながらも、無言を貫いている。
男はずっとカラクリ人形を弄っていた。一階にあるような粗悪品ではない。
地下倉庫から持ち出した――偶然、蒐集物に紛れ込んでいた品だ。
ずっと昔に作られていながら、飛び抜けた性能を誇る――時代錯誤遺物だった。

(ま……並の冒険者じゃあのカラクリ人形も相手に出来ないだろうけど、一応整備と調整だけはしておくかな。
 ……アホがうるさくなると面倒だから、色々と黙っておこう)



【地下倉庫】

「へへっ……世直し活動には資金が必要って事で……」
「でもいいのか?バレちまったら面倒じゃね?」
「いいんだよ、上の奴らも何か運び出してたろ?盗みは全部アイツらの仕業って事にしとくのさ」
「なるほどね……でも、アレって一体なんだったんだ?」
「知るかよ。沢山持ち出してやがったし。一つはカラクリ人形っぽかったけどな」
「ま、いっか。まずはこっちだぜ」

見張りの一人が、宝石へと手を伸ばし――転がってきた花瓶に足を滑らせる。
見張りは床で頭を打って、短い悲鳴を残して気を失った。

56 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/09 18:01:59 ID:???
>>49-51

地下倉庫は酷い有様だった。もしもバレたら物凄い賠償金を請求されるかもしれない。
ともあれ――この程度で終わってしまうほど冒険家達はやわではないだろう。
見張りは倒れ、カラクリ武者も安物だったのか整備不良か、動かなくなっていた。
とは言え、とんでもない轟音を立ててしまったのだ。
早い所倉庫から出るのが賢明だろう。

倉庫から出ると、音に反応したカラクリ人形達が押し寄せてきていた。
右からは木材が主材料の機械人形が。左からは木偶人形に妖を宿らせた呪法人形だ。
どちらも低級な物だが、それでも機械人形は人より遥かに頑丈。
呪法人形は物理的な手段では、原型を留めない程に破壊しなくては止まらない。

機械人形は関節や動力部、擬似脳を狙って破壊出来れば、
呪法人形は霊そのものに対する攻撃手段があるならば容易な相手だろう。
だがもしも、それらが出来ないようならば――面倒な戦いを強いられるに違いない。

道は三つ。
右に進めば呪法人形。もし接近すれば人形は木製の腕で殴りかかり、また組み付いて精気を吸い取ろうとしてくるだろう。
左に進めば機械人形。接近を試みれば腹部を開いて複数の矢を放ち、また腕から金属製の丸ノコを展開して斬りかかってくる。

そして目の前には、扉があった。けれども逃げ込むべきではない。
何故なら扉の向こうは行き止まりなのだから。
一度入ってしまったら、機械人形と呪法人形を全て相手にしない限り、扉からは出られないだろう。
扉以外の脱出口を作る事が出来るのならば――話はまた変わってくるが。
左右いずれかの人形を蹴散らした先には、それぞれ扉がある。
そこまで逃げ切れば、もう片方の人形達を振り切る事が出来るだろう。
左右どちらかに活路を見出すか、臆病風に吹かれて鬼門を潜るか。
道は三つ、未来は二つだ。
勿論、地下倉庫に逃げ帰る事も出来るが――何一つとして得はしないだろう。


【裏口】

見張りを打ち倒せば、裏口から続く廊下はしばらく――突き当たりの角を曲がるまでは難なく進む事が出来る。
ただし、足元に張られた糸の罠に気付く事が出来たのならば、だが。
糸を切ってまえば、すぐそばのドアの裏に設置された爆薬に火縄が落ち、爆発が起きる。
廊下には極々微細な火縄と火薬の臭いが漂っているが――恐らく常人では気付けないだろう。
もしも爆発してしまったら、怪我は避けられない。

そして曲がり角の先には、数体の機械人形と呪法人形がいた。
何事もなく廊下を渡り切れたのならば、人形達は冒険者には気付かない。
やり過ごすにしても、破壊するにしても、有利に事を運ぶ事が出来る。

だがもしも罠が爆発してしまったのなら、人形達は冒険者に殺到するだろう。
怪我を負った状態で人形達の相手をしなくてはならない。
圧倒的に不利な状況に陥る事になる。

57 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/09 18:03:11 ID:???
【正面】

>>35>>47

「ひいぃ、コイツおっかねえだぁ!」
「こんのケダモノめ!どいてろ!オラが吹っ飛ばしてやるだ!」

猪突猛進に突撃する森岡に兵隊達はまとめて吹き飛ばされ、しかしそれ故に森岡は孤立する。
同士討ちの心配もない、幾つもの銃口が森岡を捉えた。
直後に銃声――しかし森岡は平然としていた。代わりに、兵隊達が銃を取り落とす。
雪生の援護射撃だ。近付けば殴られ、離れれば撃たれる。為す術がない。

>>53

そして――鋭い笛の音が戦場の張り詰めた空気を切り裂いた。
間髪入れず、岸が断頭台の刃さながらの言葉を放つ。
戦意の萎えかけた心を、完膚なきまでに叩き折るべく。

>「――それでも、まだ抵抗なさると仰るのでしょうか?」

「ぐ、ぐぬぬ……!」

兵隊達が押し黙る。けれども彼らとて、そう易々と負けを認める訳にはいかない。
捕まってしまえば重い罰が待っている事くらいは、彼らも知っているのだから。

「う、うるせえ!おいオメーら!アレ呼んで来るだ!」
「おうよ!出番だべカラクリ人形!」

廊下の奥から、無数のカラクリ人形がやってきた。
兵隊達はそそくさと、人形達の背後に隠れる。

「へーんだ!いくら冒険者でもこれには敵わねえべ!
 その老け面ボコボコにしてちったぁマシにしてもらうだな!」

カラクリ人形の群団は緩慢だが、滅法数が多い。
全てを相手取るのは結構な手間になるだろう。
幸い、冒険者達の近くには左右に一つずつ扉がある。
右に逃げ込めば機械人形が、左に逃げ込めば呪法人形が、罠として設置され、待ち構えている。
扉を開けた瞬間に矢を放ち、丸ノコが襲いかかり、また組み付かれる事だろう。
だが不意を突かれる事を覗けば、正面の群団を相手にするよりかは楽かもしれない。

前方の機械人形達が腕と腹部を展開し、無数の矢を放つ。
呪法人形達が這い寄り、また跳びかかる。
道は三つ。どの道を選択するかは自由だ。


【敵:ショボい機械人形、攻撃方法は腹部から矢、腕から丸ノコ
  :ショボい呪法人形、攻撃方法は木製パンチ、這い寄る、抱きつく、全ての接触で精気を奪う特性あり】

【正面:前→VS機械人形&呪法人形。右→VS機械人形、左→VS呪法人形。左右へ向かった場合不意打ちを受ける】
【地下:地下倉庫から出るとカラクリ人形の群れ。右→VS機械人形:左→VS呪法人形:扉→VS両方
 盗まれた物→二階へ。】
【裏口:足元に罠、掛かったら爆発&人形が押し寄せる。罠を回避出来た場合、人形達は冒険者に気付かない】

58 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/10 00:27:53 ID:???
>>54
土煙も収まったころ、瓦礫の山の一角がもごもごと蠢き盛り上がる。
「う・う・う・新作武装変化!剛旋剣掘削ぅ!」
叫び声と共に瓦礫を突き破り出てきたのは右手を大型ドリルに変化させた仙波みどりだった。
周囲にに程よく埋もれた無線電気が間接照明のようになり、僅かな視界を提供している。

身体についた誇りを払い、周囲を見回し。
「計算どーり!」
周囲への多大の迷惑も莫大な損害もなんのその。
満面な笑顔で右手のドリルを高々と掲げたのであった。
瓦礫の山の上で掲げたのでドリルの先端が天井を削り、細かい破片が降ってきたので慌てて瓦礫の山から降りる仙波みどり。
そこでようやくさめざめと涙する鐘本さくらに気付くのであった。

「どーしたの?さくらねーちゃん?大丈夫だよ、みんなやっつけたから!」
胸を張る仙波みどりだが、鐘本さくらが泣いている原因が自分にあることや、「みんな」のなかにヨロイナイトも入っちゃっているかもしれないのは気づいていない!

しばらくしてヨロイナイトの存在を思い出した仙波みどりは驚愕する。
「なんてことなの!ヨロイナイトちんがこの瓦礫の下かもだなんて!
まってて!今助けに行くよ!」
両手とも大型ドリルに変化させ、瓦礫の山を掘り進もうとする仙波みどり。
急げヨロイナイト!
瓦礫だけ掘削できる器用さを期待してはいけない!
本人は救出しているつもりでも、客観的に見ればトドメの魔の手が君に迫っているだけなのだから!

>>56
そして地下倉庫から出ると、そこには既に危機が迫っていた。
「どういうこと?見張りはみんなのしちゃったのに、どうしてわかったの!?」
本人至って真面目に驚いているのだ。
右手からは機械式の機械式人形が。
左手からは呪法人形が。
そして目の前には扉がある。

右、左、前を順番に見、仙波みどりの首筋に鳥肌が立つ。
「ひえ〜、大量の人形が無表情で迫ってくるのって怖っ!!ど、ど、どうしよう??」
仙波みどりもこれでもアヤカシである。
たとえ相手が奇っ怪な姿をしていてもそれほど恐怖を感じることはない。
そして曲がりなりにも茂林寺で戦いの術を学んでおり、煌めく白刃、飛び交う銃弾を恐れはしない。
だが、人形からは何も感じない。
殺意も敵意も闘気すらも。
異質ではなく無機質な存在感に仙波みどりの尻尾の毛も逆立つのだった。

【ドリルで脱出!ヨロイナイトトを救出と言う名の虐殺未遂?
地下倉庫を出てからの進路はおまかせ】

59 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/10 03:06:08 ID:???
>葦高センセ>倉橋さん
(あ〜背中蹴りたいでしゅ〜)
女を武器に、倉橋はねっとりと葦高に絡みついています。それを見て玉響は思いました。
自分も美人だったら、男を手玉にとって貢がせて綺麗なベベ着てしゃなりしゃなりと優雅な人生を過ごせたのに・・・
(ぢぐぞょ〜ぢぐじょ〜)
中年女は小指の先を甘噛みしながら物影でくやしそうにのたうちまわり
人知れず己の業にもだえ苦しんでいます。でもそんなことは、今はどうでもよいのです。
玉響が暗い根っこの会の会員だなんてそんな余計な情報もいらないのです。

裏口組の目の前にはただの長い廊下が、のたーん。
聞き耳を立てても人の気配もしません。でもなんだか逆に気持ち悪い!
玉響は目を細め人影のない廊下を凝視します。
壁の向こう側に存在するであろう静謐が、不気味に通路の左右を覆っています。

「ちょっと待ちんしゃい。お二人さん」
ひっついている二人の間に強引にモズクみたいな頭を突っ込んで玉響が前に出ます。
「ここはあちしにまかせちょけ」
そう言って二人の前をひたひたと歩む姿はまるで地獄の案内人。
それと微妙にキャラが変わってきていることは秘密です。
「人っ子一人いない廊下なんて怪し過ぎじゃろ?なにか罠があるにきまっちょる」
ゆっくりゆっくり警戒しながら歩む玉響は、漂う空気に微かな火薬のにほいを感じました。
「火薬の匂いじゃわん。気をつけにゃさい。足もとに注意にゃさいよぉ」

くんッ!

「にゃ!?」
玉響が自ら切ってしまった糸がシュンっと扉の隙に消えます。
「ふ、ふせるのじゃァーっ!!」
肺腑を貫く轟音と共に扉が四散し、爆炎が噴出しました。
曲がり角の近くまで飛ばされた玉響はごろりとつんのめって床にキッスをしています。
警戒していたぶん思ったよりは浅手のようで意識はありました。離れていた葦高と倉橋は軽症か無傷かもしれません。

※ ※ ※

爆裂した扉の残骸を挟むように廊下の奥側に負傷した玉響。その手前、裏口側の廊下には葦高と倉橋。
すると爆発音を聞きつけたのでしょう。一番はじめの曲がり角から何やら妖しい影。

カラカラカラカラ・・・ギギ・・ギギ・・

草摺を鳴らし現われたのは鎧武者たち。弦走の奥から聞こえるのは心肺機の律動音。
そうです。それはなんとカラクリ武者たちでした!
手を伸ばし先頭の一体が玉響の尻を鷲掴みにします。
哀れ玉響。心を持たぬ鎧武者たちは殺意さえ抱かずに中年女の精力をからっぽにすることでしょう。

「す!吸われるぅ〜!!たしゅけてぇ〜〜!!」
玉響は叫びます。どっちかと言ったら見た目は吸う側なのですが。

【罠爆発。玉響負傷。からくり武者に精力を吸い取られています。良かったらたすけてやってくださいw】

60 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/10 14:32:11 ID:???
背中を玉響に擦られつつ、乱れた息を整える。

>「あれま〜あろま〜。だいじょうブイ?あっと驚くタメゴロさん。
持病もちなら今度、あたしの処に来て下さいな。あたし、鍼医やってるんだ。
鍼でぷすりと刺しちまえば、どんな病気もイチコロさ」
「本当ですか…今度ぜひお願いします…。」

そう言いつつ薬瓶に手を伸ばし一気に飲み込んだ。
いつの間にか入っていった二人を追って、再び館に入る。

>「金、金・・・金の光は阿弥陀ほどってね。
それとこいつらに修羅場に目を覚まされても困るから麻酔針打っとくよ。
ちくっとな。これで数時間はおねんねさと」
「お金はいいですよね。」

自分もとっておけば良かったなあ、と思いながら突っ立っていると、冬宇子が腕にからんできた。

>「私は倉橋冬宇子。
 "銀"持ちのセンセ……これからもこの調子で頼むよ。頼りにしてるからね」
「僕は葦高龍次です。よろしくお願いしますね。」

へらりと笑って返答すれば、互いの腕の間に、玉響が頭を突っ込んでくる。

「わっ!!」
>「ちょっと待ちんしゃい。お二人さん」
>「ここはあちしにまかせちょけ」
「は、はあ」

突然の台詞にわけがわからず、周りの気配を探って納得した。
異様に静かすぎるのだ。

>「人っ子一人いない廊下なんて怪し過ぎじゃろ?なにか罠があるにきまっちょる」
>「火薬の匂いじゃわん。気をつけにゃさい。足もとに注意にゃさいよぉ」
「火薬…ですか。足もとに注意…ですね、わかりました。」

玉響の言葉にうなずき、自分も歩を進める。…いや、進めようとした。
玉響の奇妙な叫びがなければ。

>「にゃ!?」
>「ふ、ふせるのじゃァーっ!!」

咄嗟に、近くにいた冬宇子の腕を掴み、押し倒す。

「耳を塞いで下さい」

そう言って自分も耳を塞いだ瞬間、凄まじい轟音が鳴り響き、鮮やかな紅の炎が廊下を埋め尽くした。
ようやく火が収まってきて、自分の顔の目の前に、冬宇子の顔があることに気がつき、上体を起こした。

「すいません」

頭を下げて謝り、玉響の姿を捜す。
幸い距離があったおかげか、龍次と冬宇子は無傷だった。

61 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/10 14:33:20 ID:???
「玉響さーん?」

廊下に自分の声が反響する。
その時、僅かな音が龍次の耳に届いた。

カラカラカラカラ・・・ギギ・・ギギ・・

頭の中で警鐘が鳴り響く。
この音はもしかしなくても、嘆願書に書いてあったあれではないのか。
そう、機械人形だ。
詳しい種類はわからなくとも、奥側に吹き飛ばされた玉響が危ない。
そう思ったときに、玉響の叫びが響いた。

>「す!吸われるぅ〜!!たしゅけてぇ〜〜!!」

声の方向に向かって、走る。
人形が、情の欠片もなく玉響の尻を鷲掴みにしていた。

「すいませんが、その方は返していただきますよ。」

人形の腕の関節部分を掴み、本来の方向とは逆向きに捻る。
あっさりと人形の手は力を無くし、玉響を手放した。

「掴むのなら腰に決まっているでしょう。っとと…大丈夫ですか?」

キッパリと宣言し、玉響を支える。
そのまま追ってくる人形を寸でのところで避ける。

「うわわわ」

追ってきた一体の膝を裏から軽く蹴飛ばし、先程、罠があったところまで、距離をとった。

【爆発を冬宇子さんを押し倒しつつ回避→玉響さんを呪法人形から救出、ついでに一体膝かっくん】


62 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/10 15:27:54 ID:???
>>53

刹那、甲高い音が空を裂いて響いた。敵の動きも、無論草汰の拳も止まった。
皆がホイッスルの音の元――即ち、今まで傍観に徹していた岸の方を見る。
戦闘を中断させた岸は投降を促す。しかし彼らとてまだ諦めるつもりは無いらしい。

「う、うるせえ!おいオメーら!アレ呼んで来るだ!」

敵の一人が呼び掛けた途端、廊下の奥から無数の絡繰人形が姿を現す!

「な、何だコイツ等、気色悪ぅ…!」
「へーんだ!いくら冒険者でもこれには敵わねえべ!」

サササッと人形達を盾にせせら笑う敵方。こんな大人になりたくない手本だと思った。
しかし厄介だ。見たところ、人形の性能自体はそんなに良い物には見えない。
だが如何せん、数が多すぎる。武器も少ない草汰達が倒すには、少し難がある。

「(どうするどうするどうするどうする!?)」

無い脳味噌を高速回転させる。逃げるなんて選択肢は彼の自尊心が許さない。
だが策がある訳でもない彼の思考回路は、とある1人の発言によって、完全停止した。

「その老け面ボコボコにしてちったぁマシにしてもらうだな!」

―――――――――――――――――――――――――――――ブチッ

正面玄関に、切れてはいけない『何か』が切れる音が響いた。
次いで、張り詰めた空気を、背筋が凍りつくような禍々しい殺気が包む。
発信源は探すまでもない。目の前で、仁王立ちしたまま頭垂れる草汰からだ。
前髪の間から覗く鋭い眼孔が、男達を捉えた。

「……………オイ。今、老け顔っつったの誰だ。」

草汰の老け顔を指摘した男の周りから、一気に人が離れる。

「じ…事実を言っただけだべ!ハッまさか気にしてただか?
 でも怒ったとこでおめーなんか敵じゃねーべ!こっちにゃカラクぺがふっ!?」

男の言葉は最後まで紡がれる事なく、突然見えない何かによって吹っ飛ばされた。
仰向けに倒れた男の顎は流血し、傍には下駄が落ちている。
全員が草汰を凝視する。反るように天に向かって上げた片足は、裸足だ。



63 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/10 15:30:33 ID:???


「テメー等は俺を怒らせた――俺に喧嘩売ったこと、地獄で後悔させてやるぜ。」

「「「「………〜〜ッやっちまええええええええええええ!!」」」」


怒髪天を貫く男達の号令を合図に、機械人形達の腹部から幾つもの矢が展開、発射。
草汰は咄嗟に地を転がって避け、矢は地面や落ちている得物に当たり、弾き飛ばされた銃が宙を舞う。
その時、草汰に妙案が閃いた。

「(……!コレだ!やってみる価値はある!)」

腰に差した木刀を右手に持ち、銃を後方にかっ飛ばす。
避けられた事で、人形は更に草汰に向けて矢を発射。
その度に跳んで避け、木刀で矢を叩き折り、宙を舞う得物を後ろへと凪払う。
男達は草汰が反撃しないのを見、喜び勇んで囃し立てる。

「なーんだ、やっぱあの態度は虚仮威しだべ!」「んだな!カラクリ人形の敵じゃねーべ!」

――不意に、草汰は避けるのを止めた。
遂に追い詰められて絶望したか、と敵方は厭らしい笑みを浮かべる。
しかし不思議かな、草汰は絶望どころか、悪戯小僧のような笑顔を浮かべて尋ねる。

「なあオッサン達、敵と戦うことにおいて、最もやっちゃいけねえ事って何だと思う?」
「そりゃ勿論、おめーみてえなバケモンと戦わないことだべ!」
「……まあ、その答もまた真なりだが、俺からすれば『武器を手離すこと』。意味、分かるよな?」

一歩退き、下駄を履いてない足の指でそれを器用につまみ上げた。
先程、雪生が喉から手がでるほど欲しがっていた、自動拳銃を。

「「「「ああああああああ〜〜〜〜〜ッ!!??」」」」
「タクシーときゃめらの兄ちゃん、これで足りるかい?」

見れば、倒れた男達の武器の半分以上が岸と雪生の前に山のように積まれている。
カラクリ達が矢で弾き飛ばした武器を、避ける振りをして後方に回していたのだ。

「道は俺が作るから、援護は任せた。――アンタ達の腕を信じてるぜェ!」

一番手前にいる機械人形に疾走。
矢が草汰を狙うが、雪生達の援護への信頼が、彼の足を前へ前へと動かす!



64 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/10 15:37:07 ID:???
「おらぁぁぁああアア!!」

助走で勢いのついた回し蹴りが炸裂し、機械人形のバランスが崩れる。
更に屈んでからの足払い。無駄な動きを一切しない草汰の素早さに、人形も付いていけない!

「砕け散れ!」

バキッ!

しかし、組み伏せて木刀を振り下ろすも、人形の固さに木刀の方がへし折れた。

「かってェ〜〜!ってわぁあー!木刀折れちまった!お袋に叱られるー!」

ギャーギャーやかましく喚く草汰。
人形達に囲まれているこの状況より、母親に叱られることを恐れているようだ。

「……ん?固い?…………そうだ!」

そうぼやくと、何と草汰は、機械人形の四肢を、

「オラァッ!!」

力任せに引きちぎった!

「わぁあああ〜〜!?カラクリ人形がいともアッサリ〜!?」

この時点でも仰天モノだが、更に引きちぎった腕や足を、

「なら、その固さを利用するまでだァア!!」

木刀代わりにし、周りの人形達を吹っ飛ばす!
読み通り、固い物同士のぶつかり合いで、脳天をかち割られた人形達は再起不能に追い込まれていく。

「はっはァ!意外と便利だな!こいつァ使えるぜ!」

もう色々と無茶苦茶だが、それがこの男だから仕方ないのである。

「行っくぜええ!目指すは二階だ!!
……それより木刀どうしよっかな〜、絶対帰ったら怒られるよなぁ〜」

この期に及んで、まだ母親に叱られることを恐れているようである。

【人形の矢を利用し雪生さん達に武器を回す
→人形の手足をもぎ取って武器代わりに大暴れ】
【装備:折れた木刀、人形の手足】

65 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/10 17:47:09 ID:???
その場しのぎの体裁をなんとか整えたところまでは良かった、しかし次の瞬間に仙波女史が
ノリ気で飛び出してきたことで早くもハッタリがバレそうになる。
(ああ、嘘なのに・・・)

呆然と見ていると彼女は目の前で大きな腕に「化ける」とそのまま天井を殴り、直後に降り注ぐ。
辺り一帯を吹き飛ばし、飛び来る破片や倒れた棚に埋もれる形になってしまう。

しばらくして鐘本女史と仙波女史の話し声が聴こえると、けたたましい騒音が瓦礫を壊し出す音が地下に鳴り響く。
「いるから!ここにいるから!」

身の危険を感じたヨロイナイトががしゃり、という音と共に瓦礫をどかすと煙立つ倉庫の中から姿を表した。
咄嗟に手近にいた見張りを破片と瓦礫への盾にして難を逃れたのだ、気がつけば見張りは全員伸びている。

そして例のカラクリはというと、未だ稼働しながら地面に転がっていた。とは言っても手足が壊れたのか
変にのたうつばかりで最早戦う力は残ってないだろう。

ひと通り周囲の確認を済ませると最後に鐘本女史のもとへと歩み寄る。
「いや、申し訳ない。いささか迂闊だったようだ」
小さく詫びながら二人と合流し、最初の部屋を跡にする。


「さてどうしたものか」
そう言って地下通路へ出てみると先程のからくりと似たような人形集団が左右からやってくる。

隣で驚く狸娘が何故という顔をしている。発端は自分だが騒ぎ大きくしたのは彼女である、しかし
仙波女史はきちんと動揺している。きっと料理を作るときは味見をしないに違いない。

「さて、どうしたものか」
気持ちを切り替える意味でもう一度同じ言葉を呟く。
「個人的にはコイツらと遊んで時間を潰すのが一番楽だから、正面の部屋をおすすめしたい」
【二人と合流後について相談、正面の部屋】

66 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/06/11 18:37:06 ID:???
甲高い笛の音が雪生の耳を貫く。近所迷惑だからよせよ、と岸に一瞥くれる。
それが欧州のホイッスルであることなどかぶれの雪生には知る由もなかった。

>「さて、お分かりになられましたでしょうか? 私共――特に彼と、皆様方の戦闘力には開きがある。
> はっきり申しましょう。このままでは皆様方に勝ち目はございません」

(───敵の降参を促すのか?…………つ〜かなんか手馴れてる感じだな。
 武器も軍刀みてーだが、元軍人か?ま、どーでもいいや。ラクだから成功しろ。)

岸の声は冷たく、淡々としていた。眉一つ動かさない。
屋敷を吹き飛ばすのくだりで思わず噴出しそうになる。が、なんとか我慢に成功。
しかし岸の言葉を聞いて尚。引くに引けない兵達は奥の手と言わんばかりに声を張り上げる。

>「う、うるせえ!おいオメーら!アレ呼んで来るだ!」
>「おうよ!出番だべカラクリ人形!」

「あん?カラクリ?」

最早門としての機能を失った門から顔を覗かせた。
兵隊達が奥からやってきたカラクリの後ろへ臆面もなく後退していくのを見て思わず肩を竦める。

>「へーんだ!いくら冒険者でもこれには敵わねえべ!
> その老け面ボコボコにしてちったぁマシにしてもらうだな!」

「うーむ、確かにズブの素人目で見てもちと厄介そうだなァ〜こりゃ」

何か妙案がない限り数の暴力によって結構な苦戦を強いられるだろう。
草汰ですら猪の如き猛進をやめて策を捻りだすべく脳を回転させている。
銃の腕前は日本一とすら自負する雪生だが、戦略面では素人であるため振っても何も出ない。

>「その老け面ボコボコにしてちったぁマシにしてもらうだな!」

瞬間、『何か』が切れる音がした。………気がする。

>「テメー等は俺を怒らせた――俺に喧嘩売ったこと、地獄で後悔させてやるぜ。」
>「「「「………〜〜ッやっちまええええええええええええ!!」」」」

草汰の下駄の一撃が兵隊の一人の意識を昏倒させた。刹那、一斉に機械人形の腹部から矢が駆ける。
どちらかというと老け顔気にしてるんだな、という驚きの方が大きい。

(………老け顔の三文字は自重しよう。)

固く決心したところで、機械人形の攻撃から逃げる草汰を見て慌てて援護の構えを取る。
そこで気付く。目の前に一つ二つと武器が積みあがっていく様を。
草汰はただ出鱈目に逃げ回っている訳ではなく、こういう企みがあって動き回っていたのだと察した。

しばらくしたところで草汰が自動拳銃を足の指で器用に摘み上げて、ひらひらと兵隊達に見せる。

>「「「「ああああああああ〜〜〜〜〜ッ!!??」」」」
>「タクシーときゃめらの兄ちゃん、これで足りるかい?」

草汰の台詞を合図に、弾かれたように武器の山へと飛び出す。

「十分すぎるぜとっつぁん!────両手じゃ足りねえくれーーだッ!!」

67 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/06/11 18:38:02 ID:???
自身の拳銃を懐にしまい、敵の輪胴式拳銃を二丁掴んで親指で撃鉄を起こす。
いつもならば弾丸が勿体ないとなるべく節約するが敵のものならば好きなだけ撃ち放題だ。
援護すべく右手の銃の引き鉄に力を込め、撃つ。次は左。次は右。左。右。左。
交互に放つそれは草汰に降り注ぐ矢を撃ち落し機械人形の擬似脳を貫いていく。

「ハハーーーッ二挺拳銃モドキだッ!こっちゃあゴキゲンだぜ、かかって来い人形!」

撃鉄が叩くべき銃弾がないことを告げるや両手の輪胴式拳銃を捨て、足元の新しい銃を掴む。
武器は掃いて捨てるほどある。弾丸が切れればすぐに別の銃で補充可能だ。
余談だがしれっとした顔で自動拳銃を懐に突っ込んでくすねたのは秘密である。

>「わぁあああ〜〜!?カラクリ人形がいともアッサリ〜!?」
>「はっはァ!意外と便利だな!こいつァ使えるぜ!」

「ブッ飛んだ奴だ………賢いのかイカれてんのかよくわかんねー」

草汰の無茶苦茶な膂力とはちゃめちゃな発想には雪生も思わず舌を巻いた。
数は目に見えて減っているが、それでもまだ敵の方が多い。

「敵は物理的な攻撃しかしてこないみてーだ!呪法人形が有利に働くべよ!!」

敵の叫びと共に今まで撃たれた恨みを晴らそうと雪生に呪法人形の一体が肉薄した。
確かにここまで草汰達の戦いぶりを見れば気付くだろう。
三人が霊的な攻撃手段を持っていない、ということに。

「っとお〜〜ッ!?このテの奴は物理攻撃じゃ手間らしいから乙女座の俺とは相性が悪い!
 押し付けるよーで悪いが刀ァ持ってるタクシーさんに任せとくわ!カッコヨク頼むぜ、うん!」

横っ飛びの跳躍で呪法人形と距離を取り、「任せた」と親指を突き立てる。
情けないように見えるが霊的な攻撃手段を持たず銃を武器とする雪生と相性が悪いのは事実だ。
加えて面倒臭がりの雪生がそんな相手と戦うつもりなどあるはずがない。


【援護攻撃→自動拳銃をしれっと盗む】
【向かってきた呪法人形を岸さんに押し付ける】

68 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/12 02:14:13 ID:???

泣いているさくらに、みどりが話し掛けました。

「どーしたの?さくらねーちゃん?大丈夫だよ、みんなやっつけたから!」

胸を張るみどりに、さくらは安心して笑います。
心配事はあと一人、ヨロイナイトの行方です。

「まずは、みどりさんがいてよかった…本当に心配したのよ。
それと、ヨロイナイトさんが見つからないの…多分、埋もれてしまってるのだと思うわ…」
「なんてことなの!ヨロイナイトちんがこの瓦礫の下かもだなんて!
まってて!今助けに行くよ!」
「え!? 大丈夫なの? それで大丈夫なのみどりさん!?」

ヨロイナイトの事を話すと、みどりは大慌てで両手をドリルに変化させました。
みどりがヨロイナイトを救うべく瓦礫を掘り進むと、ヨロイナイトの声が聞こえます。

「いるから!ここにいるから!」

遅れてガシャリガシャリと硬い音が鳴り響き、ヨロイナイトが姿を現しました。
周囲の確認をして、さくら達の元へやってきます。

「いや、申し訳ない。いささか迂闊だったようだ」
「でも、良かった…壊れてしまったりなんかしたら私、悲しいもの…」

二人とも見つかり崩れた倉庫を跡にする頃には、さくらの涙はすっかり乾いてました。

―――――――――――――――――――

69 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/12 02:14:51 ID:???
―――――――――――――――――――

地下通路に出ると、大量のからくり人形が左右から迫ってきました。
右から機械人形、左からは呪いの人形です。

「さてどうしたものか」
「どういうこと?見張りはみんなのしちゃったのに、どうしてわかったの!?」
「うん、大真面目に驚いてる貴女のやり方のせいだと思うな!」

思案するように呟くヨロイナイトに、大真面目に驚くみどり、それにツッコミを入れるさくら。
反応も三者三様です。

「ひえ〜、大量の人形が無表情で迫ってくるのって怖っ!!ど、ど、どうしよう??」
「な、何だか呪われそう…どうしましょうヨロイナイトさん?」

着々と迫る機械人形に、さくらもみどりも流石に狼狽えています。
さくらは困り顔でヨロイナイトに訪ねました。

「個人的にはコイツらと遊んで時間を潰すのが一番楽だから、正面の部屋をおすすめしたい」
「正面? 遊んで? 時間を潰す? どうして?」

しかし、ヨロイナイトの言葉にさくらは疑問を感じました。
さくらが疑問符いっぱいに問うと、単純に正面の部屋からは音がしておらず、無人だと思ったのでそこで籠城して迎え撃とうと思ったと語ります。
しかし、疑問は一つしか解決しておりません。
さくらの瞳に、怒りの炎が灯ります。

「遊んで時間を潰すってどういう事なの?
裏切る訳じゃないと思いたいけど、貴方の言い方じゃあまるで…」

ヨロイナイトに問い詰めるさくらに、邪魔が入ります。
機械人形から放たれた、一筋の矢です。
うなだれ頬から流れる血を拭うと、さくらは顔を上げてヨロイナイトに吠えました。

「もう良い! 私は私でやりますから!」

―――――――――――――――――――


70 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/12 02:15:18 ID:???

向かって右に駆け出したさくらは、飛んでくる矢を器用に避けながら進みます。
埒が開かないと考えたのか、機械人形はさくらの足元に一斉に矢を放ちました。
しかし…

「甘いっ!」

ぴょんと跳ねて回避、そのまま矢を放った人形の頭を両足で蹴りました。
さくらの全体重が乗った蹴りは、機械人形の頭を跳ね飛ばしてしまいます。
そして勢いを利用して機械人形達の足元に滑り込み、次々と倒していきます。
ですが、さくらの快進撃もここまで。

「ギャッ!」

人形の矢がさくらの太ももに刺さります。
怯み、飛んできた方向に顔を向けると、既に大量の矢がさくらの目の前にありました。

急がないと、きっとさくらは全身に矢が刺さり死んでしまう事でしょう。
しかし、悲鳴を上げる間もない時間に、彼女を助ける事は可能でしょうか?


【さくら:ヨロイナイトさんの言葉を深く勘ぐり、逆ギレ
→ピンチ】

71 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/12 03:22:48 ID:???
>>59 >>60-61
>「僕は葦高龍次です。よろしくお願いしますね。」

「葦高龍次…見た目通りの凛々しい名だねぇ〜!
 ねぇ…葦高センセ……なにしろ初めての嘆願だろ?私とっても不安なんだよ…」
冬宇子は床に倒れた見張り達に視線を移し、わざとらしく身を震わせて葦高龍次の腕に縋り付いた。
「……おお恐い!鉄砲持ってる奴までいるじゃないか!
 こちとら、か弱い女の身…武芸者のセンセと違って、私にできるのはお祓いのマネゴトだけ。
 頼りはセンセ一人。何かあったら一番に私を守っておくれよ!きっときっと約束だよ!」

葦高の腕を取り、小指を絡めようとした瞬間…

>「ちょっと待ちんしゃい。お二人さん」
絡み合う腕を引き裂き、顔を突き出すのは、中年女の玉響。
>「人っ子一人いない廊下なんて怪し過ぎじゃろ?なにか罠があるにきまっちょる」
無理やり男女の間に体を捻じ込み二人を引き離すと、玉響は足音も立てずに廊下の中央をヒタヒタと歩き出した。

とんだ闖入者の妨害に、冬宇子は鼻白んで呟いた。
「…何さ…嫉妬は見苦しいよ、おばさん!ここの朴念仁どもに罠なんか張る知恵があるもんかね!」
口に出した拍子に、その朴念仁の筆頭…憎い男の顔が冬宇子の脳裏に思い浮かんだ。
(あの皮被りのボンクラ男…!女を蔑ろにしたらどうなるか、思い知らせてやらァね…)
つかの間、冬宇子は憎い相手への復讐に思いを馳せた。女の情念がメラメラと背中を焦がす。

>「火薬の匂いじゃわん。気をつけにゃさい。足もとに注意にゃさいよぉ」
それまでとは調子の違う玉響の声、冬宇子はふと我に返った。

>「にゃ!?」「ふ、ふせるのじゃァーっ!!」中年女の金切り声が廊下中に響き渡る。

「――――?!」

身構えるより早く、覆い被さる葦高の体。冬宇子は床に押し倒されて、したたかに背中を打った。

直後、―――――炸裂する轟音!押し寄せる熱風!飛び散る木片。


しばしの間を置き、回復した視界のすぐ鼻先に……白く端正な葦高龍次の顔があった。
「あいたた…!ちょいとセンセ…!随分と荒っぽいじゃないか!女はもう少し丁寧に扱うもんだよ!」
背中の痛みに呻き声を漏らしつつ、冬宇子は唇を尖らせて抗議した。
>「すいません」
冬宇子の理不尽な抗議に、素直に詫びを入れる葦高。
玉響に駆け寄る男の背中を見つめて、冬宇子はぼそりと呟いた。

「頼りにゃなるけど、いま一つ気の利かない御仁だねぇ…
 堅物なのか、ネンネなのか?…正体が掴めやしない…意外に扱い難そうな男だよ…」

72 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/12 03:32:29 ID:???
爆音を聞きつけたか、廊下の曲がり角に、二体の戦闘用カラクリ人形が押し寄せる。

木製の手・足・頭・胴体を、簡素な球形の関節を挟んで繋げ合わせただけの、のっぺりとした木偶人形が一体。
四角い木箱の如き胴体に、関節部の歯車を剥き出しにした巨大な腕脚、
頭(かしら)は江戸の見世物カラクリそのまんまの白塗り茶坊主という、悪趣味極まりない機械人形が一体。

………カタカタ、キリキリ、ジーコジーコ……其々が独特の駆動音を響かせ、こちらに近付いてくる。
大人が両手を伸ばせば左右の壁に手がつく幅の廊下。
小回りの利かぬカラクリたちは、互いに道を譲ることもできず、狭い廊下に行儀よく一列に並んでいる。

先頭の一体は、のっぺらぼうの木偶人形だ。
いかなる仕組みによるものか。動力らしきものの見当たらぬ木の傀儡が、
カツンカツンと関節を鳴らし、ぎこちない動きでひとりでに歩いている。
木偶人形の手は、単純な胴体や脚に比べると、指関節の一つ一つまでやけに丁寧に造り込まれ、
よく見ると掌には梵字の如き黒い刻印が打たれている。
木偶は梵字の刻まれた掌を差し伸べ、背中を見せ遁走の構えを見せた玉響の尻をむんずと掴んだ!

>「す!吸われるぅ〜!!たしゅけてぇ〜〜!!」

冬宇子の目には、玉響の精気が白い光となって木偶の掌に吸い取られていく様が見えていた。

「邪な空気の正体はこれかい?木偶に下級霊を降ろしたチンケな呪法人形じゃないか…
 もっとこう別な…嫌〜な感じの気配がしたんだがねぇ…ありゃ何だったのかねぇ?」

呪法人形から玉響を救い出した葦高に歩み寄り、冬宇子は二人に語りかけた。

「餓鬼道に落ちた罪人の魂を憑けた木偶人形さね。
 気をつけなよ!アレの体に少しでも触れたら、飢えた餓鬼に精気を吸い取られるよ!特に掌が危ない!
 センセ…あんた、さっきアレの腕を掴んでたみたいだが、体は大丈夫かい?
 掌以外なら少々触れても平気なのかもしれないのが、とにかく掌には気をつけることだね!」

チラと葦高の顔を窺って冬宇子は続けた。

「あっちの茶坊主に霊気は感じないねぇ。ありゃただの機械仕掛けの人形さ。
 あれならセンセとおばさんで何とかできるだろ?餓鬼霊は私が祓うから、時間を稼いでおくれよ!」

冬宇子は、帯に差し込まれた金鈴のついた差根付の柄に手をかけ、引き抜いた。
シャンと鈴音が響き、白刃が光を反射して煌く。
根付かと思われたそれは、鍔の周囲に八個の金鈴をめぐらせた長さ七寸(20cm)ほどの鉾。
『鉾先鈴』……三種の神器を模した巫女神楽の舞具である。

「ひ ふ み よ い む な や ここの たり  ふるべ ゆらゆらと ふるべ
 一 二 三 四 五 六 七 八  九  十   布瑠部 由良由良止 布瑠部………」

独特のリズムで鈴を打ち鳴らし、冬宇子は祝詞を唱え始める。


精気を食らい損なった呪法人形は、再び飢えを満たさんと四つんばいになって玉響に這い寄る。
二足歩行の時とは比べ物にならぬ速度。玉響は避けきれるであろうか?

更に、呪法人形が姿勢を低くしたことで、背後に控えていた機械人形の援護射撃が可能になった。
茶坊主の頭を持つカラクリの腹部―――四角い箱の扉がゆっくりと開き、中から矢が放たれる。
狙いはさほど正確ではないが、一定の間隔で放たれ続ける矢から、
葦高は冬宇子を守りつつ、機械人形を倒すことができるだろうか?

【冬宇子、呪法人形のお祓い開始】

73 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/12 09:28:29 ID:???
>>60-61>>71-72
>「掴むのなら腰に決まっているでしょう。っとと…大丈夫ですか?」

「すまぬゅ。たしか葦高殿でごじゃったか。改めまして、
あちしの名前は玉響ぞ。よろしくたのむぞょ!」

玉響が四つん這いの姿勢からむくりと起き上がると、葦高はフラフラと追いかけて来る呪法人形の膝裏に蹴りを入れました。
蹴りによってガクリとバランスを崩した呪法人形は両膝を地に落とし屈みこみ、その場に項垂れます。

「ざまみろにゃ。べろべろばば〜」
玉響は舌をべーと出しおどけてみせています。
すると倉橋が、のっぺら人形に掴まると精気を吸われるということ、
その力を無力化するから時間を稼いで欲しいということを皆に伝えました。

「およよ。アンタ、ただの遊行女婦(うかれめ)じゃなかったんだにぃ。
ちったぁ期待してやってもいいのかえ〜?」
仰々しく祝詞を唱え始める倉橋に、玉響は剣呑な顔で言葉を吐きかけると
這い寄ってくる呪法人形に視線を移します。

「しょうがないにぃ。こっちも家で育ち盛りの雛が待ってるからぁ
この仕事、ここで失敗するわけにゃあいかないのぢゃわ。
ほらほら木偶の坊ー!こっちこっちぃ。ババァで良かったらいつでもお相手してやるおー」

玉響は跳躍すると廊下の天井にぺたりとひっつきます。
廊下は狭いので左右の壁にそれぞれ両手足を踏ん張らせて吊り橋のように体を維持することが出来ます。
それにつられて四つん這いの姿から立ち上がったのは呪法人形。
立ち姿の呪法人形は背中に味方である機械人形の矢を無数に受けています。つまり結果的には倉橋の盾となったのです。

※ ※ ※

「ほえほえ。届きそうで、届かにゃあ〜い」
伊達眼鏡の奥で目を細めている玉響。かたや、手を伸ばし中年女を掴まえようと必死過ぎる呪法人形。
恐ろしく知能が低いのか挑発に乗りやすいのか、一番近くの者を襲うという習性があるのかどうかはわかりません。
ただ、このまま時間を稼ぐことが出来れば呪法人形は倉橋の力によって打ち倒すことが出来るでしょう。
残りの問題は後方の機械人形だけ。
そう誰もが思った時でした。先程、尻を掴まれ緩くなっていた玉響の海老茶袴の紐がぷらんと垂れます。
その紐に呪法人形の指が今にもかかりそうです。

「やばいにゃ!」
湧き上がる焦燥感。紐を僅かに摘まれた玉響の体がひっぱられグンと海老反ります。
しかし呪法人形の木の指が滑り、一先ずは落ちずに助かりました。
その代わりと言っては何ですが着物の隙から一丁のピストルが床に落ちました。
それは元々は見張り役の物でした。葦高が合気道でひっくり返した見張り役から、玉響が金品と一緒にくすねた代物でした。

【玉響:天井に張り付いておとりになって、呪法人形を直立させ盾を作りました】
【懐から盗んだピストルを床に落としました】

74 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/13 13:02:00 ID:???
人形に取り囲まれながら意見を述べると鐘本女史が、ヨロイナイトを訝しんだ。
色々と質問もあった様だが、人形から放たれた矢にそれどころではないと彼女は敵へと向かって行った。
何故か怒っていた。

数匹を除けばヨロイナイトを構成している妖物たちには彼女の怒りが分らない。むしろ妖怪なのに
気でも触れたのかと思えるほどだ。彼らがここにいるのは嘆願書の依頼を受けた仕事だからに他無い。
『物を買う為にお金を手に入れる、その為の手段として』仕事をしているのだ。

他に突入した面子を思い出せば腕の立ちそうな連中が何人もいた。わざわざここで熱心に戦って
加勢にいかなくても問題ないだろう。同じ給金なら楽をした方がいい。なによりどちらも人間だ。
わざわざ熱くなるような義理も因縁もない。

昔から言うが、人は傷つく度に優しくなれるものだ、人のことを考えるなら人間はもっと
不幸な方がいい。そうならないのは自分の現状を正面から受け止める勇気を持てないからだろう。

過去や未来にキョロキョロしてそのままの自分を見ることが出来ない。自分の不幸や至らない所を
真っ直ぐに認めるのは人間にとって最も勇気のいる行いである。なればこそ不幸な人間が
自分を受け入れる勇気を持てばそれだけで優しい人間が世に溢れかえることだろう。

勇気を讃えることは人間を讃えることだとどこかで聞いたことがある。
確かに勇気を持った人間はどちらに転んでも悪くはならないのだから、それを讃えるということは引いては
そこから派生する人間も讃えるということなのだろう。

どうでもいい、とヨロイナイトは思う。所詮一過性のものであれこれ言ったところでどうせ通りすぎていく
のだから、あまり熱心に自分たちが住みよいように人の世の中に関わっても仕様がないのだ。
行ってみれば流行り廃りと同じで周期があり、人々がなるたけ幸せにならないように働くのは
部屋の掃除をするようなものだ。やった始めは快適だがすぐまた汚れ出す。やらない訳にもいかない。

おかしな言い方だが大勢の人間が不幸な方が人間は幸せだ。少なくともヨロイナイトの過半数は
概ね同意見だ。討ち漏らした犯人が多ければまあよからぬことを企てる可能性が残り、そのおかげで
更にまた傷つく人間が、不幸になる人間が増えるということでもある。それはとても幸せなことだった。

だから仕事も楽になり、後々に禍根を残りやすいようにと人形相手に『時間を潰す』という選択肢を
選んだのだが、どうやらそれは駄目のようだった。
妖怪といっても生きているのだから、人間に近い思考をしているのかも知れない。
言い換えれば妖怪でもその内死ぬ者は彼らからすれば通りすぎていく物の一つに過ぎないのかも知れない

75 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/13 13:04:00 ID:???
(妖怪も色々だな)
今まで何度も思ったことをまた思う。人形へと向かった鐘本女史をぼんやりと見ていると、
善戦こそしたが足を矢で射抜かれて動けなくなっていた。人形達の第二射がばっちり彼女を向いている。

(ああ死んだな)
漠然と見ていると、彼女の前で影が盛り上がり中から赤い厚手の布が飛び出すと、人形と鐘本女史の
前にばっという音と共に広がり薄い壁を設ける。直後に布がたわむが矢が突き抜ける様子はない。

当人も気づかないうちに影法師と一反木綿が、文字通り間に割って入っていた。呆気に取られていると
今度はヨロイナイトがバラバラになる。見れば中に入っていた人形やキョンシー、仮面が反対側の呪法人形へと
向き直っている。もともと同じ穴の狢である以上、やり易いのだろうが普段と様子が違う。
憑いていた幽霊も気遣うように負傷した鐘本女史に寄り添っている。

残ったのは場違いに装飾の施された鎧が一領だけ。

一箇所にいてもそれぞれに一応の旅の目的や、性格の違いがある。『とりあえず』の目的こそ
同じになってもお互いに揃うことのない意思がある。その中でやる気がないのも
鐘本女史と千波女史に仲間意識を持っていないのも二つだけだった。

(参ったな)(不思議だね)
そう思うと残された鎧と宝石は体を組み直して剣を抜き、機械人形の方へと向かう。
少なくとも彼らは他の七匹を仲間だと思っている。

「幕を開けろ」
鐘本女史の前まで行き、矢を受け止め続けていた木綿に告げると丸鋸の手を付きだした人形が
丁度歩いて来たところだった。

両手を上げて、振り下ろす。人形の手足がもげて達磨状になったものが地面に落ちる。
それを雑に踏み潰すと次いで矢の嵐が鎧に降り注ぐ、しかし硬い音が響くばかりで効果は出ない。

「タヌキの子、そいつらは君を仲間だと思ってる。君の好きに使ってやってくれ」
千波女子に呼びかけると、次に鐘本女子に声をかける

「言いたいことは後で聞く。動けるなら少し下がろうか、危ないから」
【ヨロイナイト分離、一反木綿、影、鎧、宝石は機械、幽霊はさくらさんの傍へ、残りは呪法人形と対峙】

76 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/13 22:08:28 ID:???
>>70>>75
正面の扉で迎え撃つか、戦うか。
文字通り仙波みどりの頭越しでの応酬に、見上げて首を右に左にするばかり。
鐘本さくらのひっかかったヨロイナイトの言葉の意味など勿論気づいてもいない。
故になぜ鐘本さくらが怒り飛び出して行ったかも理解できず、ついて行くのが遅れた理由だった。

素早い動きで矢を躱し機械人形に蹴りを入れるその姿に歓声をあげようとしたところ、それは叫び声で喉の奥へと押し戻される。
矢が鐘本さくらの太ももに刺さり、動きが止まる。
そうなればあとはただの的。
「いけない!」
とっさに駆け寄ろうと刹那、重く響く音と共にわずかな振動。
そして天井からパラパラと落ちてくる細かな埃や破片。
今は知る由もないが、裏口から突入した玉響が爆弾の罠を発動させた影響だった。
思わず頭を抱えてしゃがみこんで、はっと気づく。
このひと呼吸の遅れは致命的な遅れだ、と。

恐る恐る顔を上げると、そこには鐘本さくらを守るように赤い厚手の布が広がっていた。
「え、あれってヨロイナイトちんがやったの?」
目を丸くしてとなりを見上げたと同時に、そのヨロイナイトがバラバラに崩れ落ちたのだ!
「ぴいいいい!!」
突然の分解に驚き悲鳴を上げる仙波みどり。

鎧の中からは人形やキョンシー、仮面が呪法人形へと向かっていく。
「ええええ??ヨロイナイトちんびっくり箱だったの???」
ドキドキしながらキョンシーたちを見送り、残された鎧と宝石をツンツンとつつく。
それに反応したわけでもないのだが、バラバラになった鎧が組直り、剣を抜いて機械人形の方へと向かっていく。

>「タヌキの子、そいつらは君を仲間だと思ってる。君の好きに使ってやってくれ」
ドキドキした胸に手を当てながらただ見ていた仙波みどりがその言葉ではっと我にかえった。
その表情は……怒り?悔恨?決意?
「狸の六化け狐の七化けなんて言葉があるけど、化けることには負けても化かす事には負けられないのよさ!」
人に化けても尻尾は残り、化かそうとすれば火達磨になる仙波みどりの言う言葉ではないが、一応狸としてのプライドはあるらしい。
ヨロイナイトのバラバラカーニバルにびっくりさせられてかなり悔しかったようだ。

気合一閃、気炎万丈。
宙を翔ぶと浮遊している仮面の上に小器用に着地。
その衝撃に仮面の高度が下がるが、なんとか持ち直して浮遊を維持する。
「仮面ちゃん!ちょっと頑張ってね!
武装変化奥義!剛化剣乱!旋刃乱舞!!!」
懐から葉っぱを数枚取り出し、両手と頭と尻尾を大型ドリルに変化させた。
そして凄まじい速度で回転する四本のドリルが天井を剔って行く。

「さくらねーちゃん、ヨロイナイトちん!もうすぐ上まで穴が空くからきてー!
上に出ればみんないるから大丈夫だよ!」
四本のドリルはガリガリと破片を飛び散らせながら、ヨロイナイトも十分通れる程の穴を開けていく。
この調子ならすぐにでも大穴があくだろう。
しかし仙波みどりは想像すらしてりない。
もしかしたら上にいる誰かに恐るべきカンチョーを炸裂させてしまうかもしれないということを。
そして、地下倉庫に続き、着実にこの館を破壊している事も。

【仮面に乗って天井に穴掘り脱出ルート制作】

77 : ◆6IUsayKoSo :11/06/14 05:26:43 ID:???
「……はぁ」

溜息をひとつ。
まだ相手が完全に戦意を失っている訳ではないことに対する溜息。
負ける気はしないが、勝つまでに相当の労力が必要になるであろうことに対する溜息。
実のところさっさと済ませたい彼にとって、自分の思い通りにいかないことはかなり落胆するものだ。

さらに出てきた多数の人形の軍勢に、彼の精神的疲労はさらに蓄積する。
一つ一つはどう見ても粗悪品。だがここまでの数となると……さすがに、骨が折れる。
相当の実力差があるにも関わらずこの男達が戦意を消失しないのはこの数の利があるからか。
蜜蜂の集団が、雀蜂を屠るように。

しかしやはり最初に突っ込んでいくのは森岡だった。その勢いには心強さを覚えるが、同時に心配も覚える。
しかも何か非常に怒っている。さっきの言葉の何が心の琴線に触れたのか分からないが、
怒りの振れ幅など人それぞれ、何が逆鱗となってもおかしくない。私も気をつけましょう。
1人で納得していた彼、ふと気づくと目の前に積まれた武器の山。

「私はそれほど銃撃には手馴れておりませんので、折角の心遣い、大変恐縮ではございますが……、
桜様、とおっしゃいましたか? この銃の山は貴殿に一任致しましょう。
私は、やはり手慣れた得物を使うのが、1番性に合っておりまして」

いつの間にか鞘に収めていた軍刀の柄を握り、森岡の戦いぶりを見据える。その掟破りで無鉄砲で力任せな戦いぶり。
さらには桜のその銃さばき。右手で撃とうと左手で撃とうと、その弾丸は確実に狙いに向かう。
どうしてこのような実力者たちが全く話題にならないのだろう――と考えている時に、聞こえる桜からの声。
どうやら呪法人形の相手を任せられているようだ。1つ頷いて、迫ってきた呪法人形と対峙する。

対峙した、と思った瞬間には彼はもう刀を抜いていて。
刀を抜いた、と思った瞬間にはその呪法人形は崩れ落ちた。何十とも言える程に、分割されて。
2つに分かたれたぐらいなら簡単に復帰する呪法人形も、ここまで細かくされてしまうともう何も出来ないだろう。

そうして普通は霊的攻撃手段がないと打つ手がない人形を、次々と原型をとどめない程に斬り刻んでゆく。
――非常に、原始的な方法で。
たとえ触れられたら危険でも、触れられる前に処理してしまえば、何も問題はないというものだ。

基本的には軍刀というものは、切れ味が悪いものだと一般には言われている。
その理由には、明治時代からの鉄不足から屑鉄しか材料にしか出来なかったということと、
製法が型に流し込むだけ、まるで西洋の剣のような大量生産を前提とした乱雑なものであったことがある。
抑も軍刀で戦うこと自体が珍しいことなのだから、濫造品でも特に問題はないとも言えるが。

しかし、彼が振るう軍刀は。まるで武士の時代の名刀のように、研ぎ澄まされていて。
振るう本人の人間離れした腕力と相俟って。
そこには積み重なる。木片が。木片が。木片が。

何体かバラバラに切り刻んだところで、相手が人間ではなくて良かった、と彼は思う。
別に人を殺すことに抵抗を感じるという訳ではない。そんな子供じみた思考はとうの昔に通り過ぎた。
ただ、人間だと斬り続けることが出来ないからだ。せいぜい四、五人が限度で。
どんな名刀でも、人の脂で、切れ味は落ちるのだ。
何十人も斬り伏せるなど、それは創作物の中の世界でしかない。

78 : ◆6IUsayKoSo :11/06/14 05:28:23 ID:???
「さて。数が多すぎますので、いくらなんでも全てを相手取る訳には参りません。
 手早く切り上げて先を急ぎたいところですが、この数を放置するのもそれは愚策」

先に何があるのかなど全くわからない以上、挟撃だけは避けたいところ。だから無力にしておきたい。
誰に話しているのか、よく通る声で彼の言葉は続く。

「この人形達、素人目から見ても劣悪品であることはわかります。どのように手に入れたのかは分かりませんが。
 まぁもし高級な人形をこんな数揃えるような資金があるのなら、
 鍬や包丁を武器にしたりなどしませんし……そもそも立てこもりなどしませんね。
 そしてこの数です。一体二体なら私も遠隔操作の可能性を考えますが、それはないとはっきり言えます。
 この人形達は、自動人形でございます」

そんなこと見ればわかることだ、その場に居る人間全てがそう思っただろう。
だが彼は、まるで悪戯する子供のように口の端を吊り上げて。

「劣悪品の自動操縦。それがどれだけ危険を伴うか――身をもって体験して頂きましょう」

彼は軍刀を収める。攻撃を止め、回避のみ。
複数の呪法人形の殴りを、掴みかかりを。ぎりぎりの所で回避する。それを繰り返す。
かなりの数の人形を釣ったところで、突然腰を落とし。森岡が破壊した機械人形の残骸を拾って盾として。
人形の群れの中に、突っ込んだ。

傍から見れば自殺行為。彼にも多少の精気の失われは感じられる。
普通の人間なら倒れているかもしれないが、彼は生憎普通の人間ではなかった。
そのまま突っ切る。人形の集団の後ろ、そこに居たのは男達。
機械人形の残骸を打ち捨て、男達の集団に突っ込み、そこで止まる。

人形達が振り向く。そこには集団。
粗悪品のこの人形達に、敵と味方の区別などつかない。
仮についたとしても、集団に紛れ込んだ彼を攻撃する為には、障害物の数多く。
男達の、悲鳴が響いた。

「こういう粗悪品の人形を使うのであれば、例えば少数側が数の不利を強引に埋める時などでしょうか。
 少なくとも、多数対少数で多数側が使うものでは無いでしょう。
 しかも、こんなに沢山」

素直に投降しておけばよろしかったのに――そう彼は呟いて、乱戦状態のその集団から離れる。
見ると相変わらず森岡は奮戦している。いやはや、頼もしい限りである。
あの森岡の勢いならば何も問題はないだろう。あっという間に道は開く。そこを駆け抜ければいい。
勿論彼だって軍刀を振るう。桜からの援護射撃もある。
やがては階段へ。そして二階へ到達するのも、そう遠くない未来の筈だ。

「ちなみに――私のタクシーは海外から取り寄せ私直々にちゅーんなっぷした超極上品でございます。
 勿論、私の操縦でございますし――ご安心下さいね」

【乱戦状態とさせ、その隙に二階へと向かう】

79 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/14 19:20:00 ID:???
>「餓鬼道に落ちた罪人の魂を憑けた木偶人形さね。
 気をつけなよ!アレの体に少しでも触れたら、飢えた餓鬼に精気を吸い取られるよ!特に掌が危ない!
 センセ…あんた、さっきアレの腕を掴んでたみたいだが、体は大丈夫かい?
 掌以外なら少々触れても平気なのかもしれないのが、とにかく掌には気をつけることだね!」

避難した先で、冬宇子が忠告してくる。
その言葉に、龍次は素直にうなずいた。

「体は平気です。御忠告ありがとうございます。」

>「あっちの茶坊主に霊気は感じないねぇ。ありゃただの機械仕掛けの人形さ。
 あれならセンセとおばさんで何とかできるだろ?餓鬼霊は私が祓うから、時間を稼いでおくれよ!」

そう言って冬宇子が鈴を取りだし、澄んだ音を響かせ、祝詞を唱えてゆく。

>「ひ ふ み よ い む な や ここの たり  ふるべ ゆらゆらと ふるべ
 一 二 三 四 五 六 七 八  九  十   布瑠部 由良由良止 布瑠部………」

独特のリズムを聴きながら、じっと、呪法人形と機械人形の動きを見ていた。
四つん這いになった呪法人形と、それの後ろから矢を射ってくる機械人形。

>「しょうがないにぃ。こっちも家で育ち盛りの雛が待ってるからぁ
この仕事、ここで失敗するわけにゃあいかないのぢゃわ。
ほらほら木偶の坊ー!こっちこっちぃ。ババァで良かったらいつでもお相手してやるおー」

天井に張りついた玉響に向かって、呪法人形が立ち上がり、手を伸ばす。
呪法人形の背中に矢が刺さる。
成る程、このためかと思いつつ、呪法人形の動きに目をこらした。
隙が無いかゆっくりと探る。
その時、玉響の声が耳に届いた。

>「やばいにゃ!」

その時、丁度目の前に一丁のピストルが目の前に落ちてきた。

「これは……すいません玉響さん。これは戴きますね。」



80 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/14 19:20:28 ID:???
龍次は銃など扱えない。

「う…やっぱりちょっと重いですね…」

ピストルとて、扱える者がいなければ只の鉄の塊。
冷たいそれを手にし、再び玉響に手を伸ばそうとした呪法人形に当て身をくらわせる。
その人形が地に臥したのを確認して、障害物がなくなり、再び冬宇子に矢を射ろうとしたその機械人形に、思い切り投げた。

「はあっ!!」

こーん!と気持ちいいほどの音を立てて、銃は機械人形の頭にぶつかる。
銃に当たったため、仰け反った状態からバランスをとることも出来ず、機械人形は仰向けに倒れてゆく。
その際に射られた矢は軌道を変えられ、天井に突き刺さる。

「あ、良かった、当たった。」

銃が当たったことに安心しつつ、機械人形のもとへ走る。
重さのためかゆっくりと倒れていくその力を利用し、肩や足の付け根の関節部分を、気合を籠めてはずす。

「い…よっこらしょ」

足も腕もなくなってしまえば、只の蓑虫状態。
カラカラと歯車が空回りする音を聞きながら、念には念を入れて、蓑虫状態になって倒れた、機械人形の上に器用に立った。
ちゃっかり銃も回収し、そして、静かに冬宇子に告げる。

「後はそちらだけです。お願いしますね。」

とびきりの笑顔とともに。

【ピストルを投げる→機械人形の手足をもぎ取って蓑虫状態に→冬宇子さんに呪法人形のトドメを促す。】

81 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/15 18:24:19 ID:???
二階への階段の前に、一人の男が居座っていた。
ただ座っているだけだと言うのに、峻烈な殺意を醸し出す男だった。
野放図に伸びた髪の内側には、恐ろしい凶相を秘められていた。そして傍らには、刀がある。
男は、時代の彼方に忘れ去られた――或いは巧みに隠された暗殺剣を修める剣客だった。
剣豪としての誇りなどは持ち合わせていない。ただ己の太刀筋がいかに鮮やかに人を殺すか。
それだけを追い求めていた。この場にいるのも、凄腕の冒険者が訪れる事を期待しての事だった。

「……来たか」

正面玄関から徐々に近づく騒音を受けて、刀に手を伸ばす。
そして立ち上がり――突如、彼の足元を貫いて、煌く刃が姿を覗かせた。
仙波みどりの旋刃だ。正面の喧騒が掘削音を掻き消していた為に、男の反応が一瞬遅れた。
間に合わない。

「――――ッ!!」

声にならない悲鳴を上げて、男は昏倒した。
床に倒れ込み、尻から血がじわじわと袴に滲んでいく。
過程はどうあれ、こうして二階への階段を守る者は誰もいなくなった。

正面も裏口も、カラクリ人形を突破した後は何の障害物もない。
すぐに地下から上がってきた冒険者達と合流する事になるだろう。
機械人形は殆どが破壊され、また天井の穴をよじ登り一階に上がってくるような性能はない。
呪法人形は憑いていた低級霊が祓われてただの木偶人形に戻った。
立て篭もり犯達も冒険者達に、一部は呪法人形によって倒されている。
追っ手の心配はない。気兼ねなく二階への階段を上る事が出来る。

冒険者達が二階に上がると、まず初めに黒く小さい影が彼らを出迎えた。
爆弾だ。丁寧な事に一人に一つずつ、贈られている。
だがこの程度で倒れてしまう冒険者ではないだろう。
負傷の有無、程度の大小はあれど、全員が切り抜ける筈だ。

二階は、階全体が広い部屋になっていた。
元々は大勢の客人を招いた際に使う部屋だったが、
今では地下で保管するまでもない雑多な品を置いておく物置に成り果てていた。



82 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/15 18:25:55 ID:???
「――なんだ。結局ここまで来ちゃったんだ。あと少しで作戦終了だったのに、勘弁して欲しいなぁ。
 ……ってのは、相手が調子づくといけないから黙っていよう」

爆弾による煙の向こうから、声が聞こえた。

「参っちゃうなぁ。僕と、華涅神崇団(じぇねしすだん)の目的の為には、
 これが必要不可欠なのになぁ……ってのも、相手が執拗になりそうだから黙っていよう」

低く冷たい、無気力な声だった。

「仕方ないな。まあこれの性能を確かめるついでに相手を……って」

ふと何かに気付いた様子で、声の主――黒マントの男は冒険者達を見る。

「もしかして僕さ、今まで考えてる事、全部口に出してた?」

暫し沈黙。

「……まぁ、いっか」

それから再び、男は口を開く。

「だったら僕の代わりに、君達が黙ればいいだけだよね」

低く冷たい、酷薄な声だった。

「僕が一組、これが一組……首謀者さん、君も一組相手をしてよね」

「なんだかよく分からなかったけど任せておきたまえ!仲間の頼みを断る私ではないよ!はっはっは!」

(……こっちとしては利用してるだけってのは、黙っておこう。馬鹿でよかったってのも、黙っておこう)


【正面組】

「ま、そんな訳で。君達の相手は僕がさせてもらおうかな」

黒マントの男が、マントの中から取り出したステッキを一回転させる。
それから体に巻きつけるようにしていたマントを、背後へと翻した。
黒の内側から露になるのは、白。科学者の着用する白衣だった。

「黒き魔術師にして白き科学者。この狩尾侯爵がね」

狩尾侯爵が回転させたステッキを手放す。
ステッキは重力の鎖に囚われる事なく回転し続け、加速し、冒険者達に襲い掛かった。
更に狩尾侯爵は金属製の小さな箱を取り出した。
箱にはハンドルと二本の鋭い突起が生えている。
ハンドルを回すと、突起の間に眩い光が生まれた。
電気だ。箱の正体は摩擦起電器を改良した、狩尾侯爵の発明品だった。
十分に生み出された電気が、空気の弾ける音と共に冒険者へと放たれる。


83 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/15 18:27:38 ID:???
【地下組】

「それにしても、考えてみたら丁度いい展開だね。ここまで辿り着ける冒険者なら、これの調整具合を確かめるには適任だ」

盛岡達への攻撃を終えた狩尾侯爵は、続けて傍らのカラクリ人形を起動させた。
異様に巨大な頭部に気味の悪い笑顔が掘り込まれている。
高度な技術が盛り込まれた機械人形に悪霊を憑依させた、カラクリ人形だ。
殺戮以外の用途は存在しない、純正の殺人兵器。
金属製の機体は生半可な攻撃では貫通出来ず、悪霊が補助する事で擬似脳の性能も向上している。
弱点は通常のカラクリ人形と変わらず擬似脳と動力炉、そして悪霊本体だ。
しかしどちらか片方を破壊するだけでは殺戮人形は止まらない。
無論、悪霊を祓えば擬似脳の性能が落ちる。
機械部分を破壊すれば、動作性能が著しく落ちる事だろう。
また原型も留めない程に破壊する事が出来たのならば、悪霊に構わず殺戮人形を無力化する事も可能だ。

殺戮人形が左右の腕部を展開、砲口が姿を現した。
さくらとみどりに照準が合わせられた。
くぐもった爆音――散弾が二人に襲い掛かる。
長い間放置されていた為に火薬が湿気り威力は落ちている。
直撃しても、傷はそこまで深くはならないだろう。

更に殺戮人形が機能展開――鎧であり、妖かしであるヨロイナイトに、散弾は効果的ではない。
悪霊の補助する擬似脳の判断だった。
体に対して不釣合いに大きな顔が、口を開く。
垣間見えるのは、死を導く螺旋状の奈落。
腕のそれとは比べ物にならない、巨大な砲口だった。
落雷を思わせる爆発音――黒煙と共に拳大の砲弾がヨロイナイト目掛けて放たれた。

【裏口組】

「っ……!君は!どうしてこんな所に!」

冒険者達と対峙して早々、首謀者は驚きの声を上げた。
声の矛先は倉橋――彼の元恋人だ。
首謀者は少しの間驚いた顔をしていたが、やがて独り合点した様子で叫んだ。

「はっ! そうか……さては君は、僕を止める為にこんな所まで来てくれたんだね!
 あぁ、僕はなんて罪深い男なんだろう!だけどすまない!
 それでも僕にはしなくてはならない事が!使命があるんだ!」

一人で頭を抱えたり、胸に手を当てたり、拳を握ったりと、首謀者は忙しなく口上を続ける。

「だけど君も、今更説得をしたところで退く事はないのだろう!ならば戦うしかない!
 僕の夢と!君の愛情!どちらが未来に足跡を残すべきか!今、ここで雌雄を決しよう!」

ひとしきり声を張り上げてから、首謀者は近くの物陰から何かを取り出した。
銃だった。拳銃や、猟銃の類ではない。最新式の軽機関銃だ。

「あぁ、本当にすまない!だけど僕は!美しい花を手折り踏み躙ってでも、未来の種が欲しいんだ!」

首謀者の叫びと共に、銃口もまた咆哮を上げる。
無数の弾丸が、倉橋達冒険者へと押し寄せた。

【ステージ:二階、とても広い物置。(比較的)安物の調度品などが煩雑に置いてある
      あってもおかしくなさそうな物だったらある事にして、利用して下さっても問題ありません】
【敵:正面組→狩尾侯爵、回転するステッキブーメランと電撃で攻撃
   地下組→古い殺戮人形、みどりとさくらに散弾。ヨロイナイトに砲弾。悪霊による攻撃なので霊魂へのダメージあり
   裏口組→首謀者、軽機関銃を乱射。その他にもいろいろと隠し持っているかも】
【3、4ターンくらいで決着したいと思います】

84 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/16 11:04:57 ID:???
『劣悪品の自動操縦。それがどれだけ危険を伴うか――身をもって体験して頂きましょう』


岸の宣告から十数分後。正面玄関は阿鼻叫喚と化していた。
呪法人形の性能を利用した岸の作戦により、男達は人形の餌食となる。
性能を信用して仕向けた筈の人形達に襲われる男達に一抹の哀れみを感じつつも、草汰達は先を急ぐ事にしたのだった。

追っ手の気配は感じられない。
人形達の相手で手間取っているのか、はたまた。考えないようにしよう。

「時によ、きゃめらの……えっと、雪生さん。その゛とっつぁん゛っての、止めてくんねえか?」

突然、先頭を走っていた草汰は、くるりと雪生へ振り返ると出し抜けにそう言い出した。
眉尻を下げ、右頬の傷跡をポリポリ掻き、言いにくそうに――というよりは、少し気恥ずかしげにポツリと言った。

「その…他人様からあだ名とかで呼ばれんの、慣れてなくて……。
 …おい、何だよその顔は!こっちは真剣なんだよ!!」

遂には顔を真っ赤にする草汰だが、得も知れぬ殺気に直ぐ様構える。
そこにいたのは、熟練者らしき剣豪の雰囲気を醸し出す一人の男。

一波乱ありそうか。……かと思いきや、男の足元からドリルが現れ、尻に直撃。声もなく男は倒れた。

「…………え、ぇええ〜〜〜〜……。」

筆舌尽くしがたい感情を言葉にする事も出来ず、間抜けな声が出る。
いやそれよりも。男を倒したドリルを見やると、それは仙波みどりだった。

「狸娘!それにさくら!…………と、鎧!」

失礼な物言いである。
草汰は更にさくらの足元を見て顔を青くし、ギョッとする。袴が血で染まっているではないか。

「お、おい!怪我したのか?足出せ早く!」

運の良いことに、浅く刺さっていたのでそんなに出血量は多くない。
前掛けを引き裂いて包帯代わりにし、応急措置を取った。

「終わったら医者に見せなきゃな。立てるか?」

葦高達とも合流した。行く手を阻む者は誰もいない。何が起きても真っ先に相手出来るように、草汰は先頭を走る。
特に障害もなく、一同は二階に到着。その時、草汰の頬を何かが掠めていった。

「へ?」

黒く小さな影が階段の踊り場に転がり、刹那、小爆発。
階段が見るも無惨な姿に変わり果て、誰もが言葉を失う。あ、ありのままryとか言ってる場合じゃなかった。

85 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/16 11:06:59 ID:???
「伏せろー−ーーーーーーっ!!」

きっちり人数分の爆弾が飛来した瞬間、草汰は絶叫と共にうつ伏せて回避した。
爆弾は全て爆発しただろうか。強く瞑っていた目を恐る恐る開ける。

「うおわっ!?」

慌てて仰け反る。丁度しゃがんでいた足の間に一つ、爆弾が転がっていたからだ。
咄嗟に防御の構えをとったが、何も起きない。……どうやら、不発弾だったようだ。

「お、驚かせやがって……。みんな無事か?」

振り返って声をかけるが、埃が舞って視界が悪いので誰が何処にいて、無事なのかも分からない。

「――なんだ。結局ここまで来ちゃったんだ。あと少しで作戦終了だったのに、勘弁して欲しいなぁ。」
「ッ誰だ!」

背後から聞こえた、低く冷たい、無気力な声。
煙が晴れ、そこに居たのは――黒マントを身に纏った一人の男だった。

「参っちゃうなぁ。僕と、華涅神崇団(じぇねしすだん)の目的の為には、
 これが必要不可欠なのになぁ……ってのも、相手が執拗になりそうだから黙っていよう」
「何なんだ、じぇねしす何たらって!アンタは何者だ!? 」

草汰が吠えるように男に問う。すると、男と目が合った。
凍りつくような瞳に射抜かれ、一瞬身が竦む。一目見た瞬間から感じ取る。この男は、敵だ。
男はじっと草汰達を見つめると、事ばかりを発するべく口を開いた。

「もしかして僕さ、今まで考えてる事、全部口に出してた?」

数瞬の沈黙の後、草汰は盛大にずっこけた。今までこの男、草汰達に気づいていなかったようだ。
当の男は、まあいっかの一言で済ませると、草汰達と対峙する。

「ま、そんな訳で。君達の相手は僕がさせてもらおうかな
 黒き魔術師にして白き科学者。この狩尾侯爵がね」

男改め狩尾はそう言い放つと、ステッキが回転し草汰達を狙う。
だが草汰からすれば、銃弾よりも遅いそれをわざわざ食らうわけもなく、身を低くして難なく避ける。
しかし狩尾が、手に持った箱のハンドルを操作すると、突起から空気が弾ける音。
殺意をはらんだ電気が、草汰達に襲いかかる!

「しまっ―――――!」

その気になれば、避ける事は出来た。
だが、後ろに雪生達が居る、その事が草汰の動きを鈍らせた。

「あぐあぁああッ!」

電撃を直に食らった。頭の中に火花が散り、激痛が体中を駆け巡る。
堪らず、膝をつく。痺れと焼けるような熱さと痛みに、気が遠くなりそうだ。



86 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/16 11:08:48 ID:???
遠のきそうな草汰の意識を無理矢理繋ぐのは――怒りだった。
狩尾に対しての、首謀者に対しての、やるせない怒りだった。

「……これ、しきで……!負けてられっか……!」

普通なら、下手を打てば死んでいたかもしれない一撃。
草汰を助けたのは、咄嗟に床に突き刺しておいたカラクリ人形の足だった。
金属入りのそれが、避雷針の代わりを果たしたのだ。

「オイコラ、変態マント野郎…!勝負はまだ、終わっちゃいねーぜっ…!」

フラフラになりながらも、草汰は立つ。正義の怒りが、仲間を守りたいその想いが、彼を突き動かすのだから!

「そこの兄ちゃん。あの演説、聞いたぜ。…正直、俺だってアンタ達に賛同したい気持ちもあった。
 ゛俺゛も、平等に扱って欲しかったから。普通の国民として、普通の日本人として……。」

草汰の、細い糸のような双眸が、ゆっくりと見開かれた。

それは、日本人にあるまじき、鮮やかな緑の瞳だった。西洋特有の、鮮烈な翠。
草汰の西洋嫌いの理由、老け顔を気にする理由、彼が冒険者を目指す理由――。
全ては『西洋人の血が流れている』この事実に帰結するのだが、それはまた別の話。

「だけどよ……。関係ない奴巻き込んで、女子供を傷つけて……。
 こんな悲しい方法で得る『平等』なら、俺は要らない!!そんな『正義』は認めねえ!!」

懐から出すのは、先程の不発弾。それを力任せに床に叩きつける。
床が爆ぜ、穴が出来上がる。偶然か、みどりが開けた穴と直結して地下倉庫が見える。
傍に落ちていた木刀を拾い上げ、先端を狩尾達に向け、高らかに言い放つ!


「アンタ等の『正義』は、俺達の『正義』が打ち砕く!」

【さくらさんに応急措置、爆弾は避けて回避】
【vs狩尾侯爵:ステッキは回避するも電撃を食らう→人形の足を避雷針代わりにダメージ軽減】
【威嚇のつもりで不発弾を床に叩きつけて大穴を開ける。攻略のヒントなりにどうぞ】
【武器:人形の手足→拾った木刀】

87 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/16 14:09:04 ID:???
「突貫ー!」
叫び声と共に床を突き破って現れたのは仙波みどり。
渦巻くドリルが哀れな犠牲者をえぐるのも気付かずに。

細かな破片を払いながら最初に気づいたのは森岡達の存在。
「一番だと思ったのに〜」と悔しがった後、ようやく哀れな犠牲者の存在に気がついた。
さくらを介抱する森岡草汰もそっちのけで倒れる男をツンツンとつつき、そーと顔を覗き込むと…
「誰?なんで寝てるの?……こわっ!顔怖!」
思わず飛び退いてしまう。
それほどの苦悶の表情を浮かべた男の顔に、仙波みどりの顔から悪巫山戯感が滲み出る。

「てぃひひひ!こんなに怖い顔してたらみんな逃げちゃうよね!」
葉っぱを四枚取り出して、マジックアームに変える。
男の背後に回り、自分の手足と男の手足をマジックアームで繋げる。
まるで人形を操るかのように。

「いっちにー!いっちにー!うひゃししし!なんだか楽しくなってきたー!」
自分の手を前に出せば、マジックアームに押されて男の手も前に。
自分の足を前に出せば、マジックアームに押されて男の足も前に。
こうして階段を登り出す。
仙波みどりは楽しくなってきて、笑いすら漏れてきているが、男にとってはそれどころではない。
こんな事をされているので当然意識を取り戻しているのだが、両手両足を封じられていては抵抗もままならない。
それどころか、尻がえぐられている状態で無理矢理歩かされては力も入らない。
声にならない悲鳴だけ上げながら階段を上がるしかないのだ。

>「ふせろ!!」
森岡草汰の叫びに、仙波みどりは反応できない
それもそのはず、目の前には自分よりふたまわりは大きい男
目前に爆弾が迫っているなどもちろんわからない。
爆弾が破裂し、吹き飛ばされたあとでさえも。

「ゲホゲホッ。なに?何が起こったの?」
上にのしかかっていたものから這いずり出し、周囲を見回してようやく気がついた。
爆発があったのだ、と。
無残な姿に変わり果てた階段。
周囲の煙。
そして、自分にのしかかっていた者が黒こげになって白目を向いている姿に。
「な、なんてこと!私をかばってくれたの?
それにしても味方ごと爆殺しようだなんて!なんて奴なの!」
男の自己犠牲に感動し、まだ見ぬ敵の非道さに対し、怒りに打ち震える仙波みどり。
もちろんこれは主観的な思い込み。
客観的な事実を述べれば、無理矢理人形扱いした男を盾にして爆発から身を守り、勝手に敵を非道と決め付けているだけなのだが。
もちろんそんなことは頭の片隅にもありはしない!

88 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/16 14:09:45 ID:???

広間に入り、首謀者たちと対峙。
仙波みどりたちに向かってくるのは純粋なる殺戮人形。
金属の機械式からくり人形に呪法人形で使われる悪霊を憑依させたハイブリッド型。
その性能は相乗効果により今までの人形たちとは比べ物にならない!

しかし、それでも仙波みどりにとっては、悪霊が取り付いていることにより機械人形の無機質な殺意よりくみしやすい相手だといえる。
左右の腕部を展開し、砲口が現れるのと同時に仙波みどりも懐から葉っぱを取り出した
茂林寺流狢拳法の戦闘思想に則り、初手で最大の攻撃をくりださんが為に!
「残る葉っぱを全て使いこの技を繰り出す!
武装変化究極奥義!塞防具の術!!!」
大量の葉っぱが舞い散り煙が仙波みどりの全身を包み込む!

そして、煙が晴れたとき、重く鈍い音と共にそれは出現した。
殺戮人形やヨロイナイトとも比肩しても見劣りしない巨躯。
その姿は寺の鐘。
いや、ここはもう少し表現を頑張って鋼鉄の処女と言い表しておこう。
「てぃひひひひひ!全身を要塞と化す防具を纏う塞防具の術!
厚さ3寸の鋼鉄装甲を前にはどんな攻撃も無意味なのよう!」
その言葉通り、放たれた散弾は尽く弾き返され、その重量故に足元には亀裂が走り、森岡草汰の開けた穴まで繋がっている。

「さあ、圧倒的質量で押しつぶすわよ!突撃いいいい!!!……アレ?」
威勢のいい啖呵とは裏腹に、ぴくりとも動かない。
いや、動けないのだ!
ただ存在するだけで床に亀裂を走らせる重量なので当たり前といえば当たり前なのだが。
巨大な障害物と化しただけの仙波みどり!明日はどっちだ!?

【カンチョーした剣豪を(結果的に)盾にして爆発を防御】
【殺戮人形に対抗して巨大塞防具体型になるも、重量で動けず】
【床には亀裂が入る】

89 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/18 00:02:09 ID:???
>>73
>>79-80
―――ズシーーィィ……ン……
床板を震わす地響き。
葦高龍次の放り投げた拳銃を眉間に食らった機械人形が、ゆっくりと床に倒れ込む。
穏やかに微笑む葦高の足下には、横倒しになった機械人形。
哀れカラクリ茶坊主は木製の手足をもぎ取られ、機能を失った間接部の歯車を虚しく空回りさせている。

手前には、葦高に当て身をくらわされた呪法人形が、手を床についている。
飢餓感と食欲に支配され、知性も感情も失うが餓鬼道の因果。
低級な餓鬼霊の宿った呪法人形は、背中に刺さった矢に頓着することなく、
ひたすらに精気を吸って飢えを満たさんと立ち上がり、天井に張り付く玉響に手を伸ばす。

「ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、ここの、たり…布瑠部、由良由良止、布瑠部………」

冬宇子の唱える祝詞と鈴音が廊下を流れる。
祝詞の文句は『ひふみの祓え』。
一二は火風、三四は水地、五六は穢れを忌む、七八で祓い、九十で一切成就の円けき状態を表し、
略式だが、万事に汎用性の高い祝詞である。
末句に合わせて三度、冬宇子は鉾先鈴を振る。
シャン・シャン・シャン―――と、大きく振られた鈴がひときわ強い音色を立てた。

すると突然―――玉響にすがり付こうとする木偶人形が、痙攣するが如くカタカタッと関節を鳴らし、
それを最後にぴたりと動きを止めた。

「数え祝詞の奉上一回で動けなくなっちまうのかい?まったく質の悪いガラクタ人形だねぇ!
 大方、良くて三流の術士が十把一絡げに霊を降ろした粗悪品だろうさ。」

言って、冬宇子は呪法人形に歩み寄る。
背伸びした体勢のまま、凍りついたように動かぬ木偶人形の胸部に、鉾先鈴の切っ先を当て、とん、と一息に突いた。


―――途端に、全ての関節が外れ、呪法人形はガラガラと音を立て崩れ落ちる。まるで糸を切られた操り人形のように。

「ほうら、案の定、安物の傀儡だ。基材に霊木すら使ってやしない。」

床に転がる木偶の手足を雪駄の先でつつき、冬宇子は呟いた。

冬宇子の当て推量は、まんざら外れてもいなかった。
立て篭り犯に貸し与えられた呪法人形は、雇われ祈祷士によって、同期(いちどき)数十体に憑依術を施された、
いわば大量生産の粗製乱造品。
一度の除霊が、同期の施術で餓鬼霊を憑依させた同型人形に連鎖的に及び、屋敷内の呪法人形たちは、一斉に只の木偶に返った。
それまで建物内に立ち込めていた、生臭さに似た妖気が次第に消えていく。
しかし、寄せた冬宇子の眉根は晴れない。

「餓鬼霊は祓ったのに、妙な霊気がもうひとつ……まァいいさ…何かが居りゃそのうち出くわすだろうさ。
 葦高センセ!おばさん!
 二階に行くよ!さっさとカタつけちまおう!」

90 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/18 00:07:00 ID:???
>>82-84
壊れたカラクリをまたいで角を曲がると、長い廊下の途中に聳え立つ屋敷中央部の大階段が見えた。
階段前の床には大穴。
穴の前では、冬宇子たちに先立ち、二組の冒険者が既に合流を果たしていた。
面子は、館の正面玄関を突破した男三人、それに地下倉庫から侵入したアヤカシ三体だ。

先行する二組から少し遅れて、冬宇子もゆっくりと階段を上がる。
裏口で感じた妙な霊気は、二階に近づくにつれて次第に強くなっている。
どうもに妙な霊気だ。悪霊…というには怨念に囚われておらず、思考が整然としている。波長は寧ろ生者それに近い……?

>「伏せろー−ーーーーーーっ!!」

尖兵である六尺男の叫び声。冬宇子はハッとして階上に目を向けた。
踊り場を弾むように転がる黒い球体……それが、爆弾だ!と気づいた時にはもう遅い。
冬宇子は階上から吹き降ろす爆風に煽られてよろめき、階段を数段転げ落ちて尻もちをついた。
幸い、先行隊と距離が離れていたため、爆発による負傷はなかったが、打ち付けた尻がジンと痛んだ。


「いっ……痛ぁあい!
 酷いじゃないか!センセ!もっとしっかり守ってくれなきゃあ!
 切子と女は壊れ物って言うだろ?」

鼻にかかった婀娜な声で、葦高相手に八つ当たりじみた不平を漏らす冬宇子。
尻をさすりながら起き上がり、爆発で荒れた階段を再び上る。

「爆弾に、カラクリ、それに呪法人形……あのボンクラ頭の計画にしちゃあ随分周到じゃないか…
 入れ知恵した奴が、あいつの金に飽かせて掻き集めたってところかい?」

ぶつぶつと呟く冬宇子の表情は、葦高に甘い声を上げていた時とは一変、口を歪め瞳に憎悪を滲ませていた。

91 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/18 00:11:18 ID:???
二階上がると左右に廊下。廊下はどこにも通じておらず、壁に突き当たっている。
廊下に面した壁に大きな扉二つ。そのうち、階段に近い一つの扉は開け放たれていた。
開いた扉から部屋に足を踏み入れると、元は迎賓ホールと思しき広大な一室。
室内はすでに「人とアヤカシとカラクリ」が入り乱れる戦場と化していた。

六尺の大男が黒マントの怪人と死闘を繰り広げ―――
金属製の化け物カラクリがアヤカシ三人組に砲火を浴びせている。
六尺男が炸裂させた爆弾と、豆狸の変化の煙で部屋の中はもうもうと曇っていた。

煙の中――歩みよる人影

>「っ……!君は!どうしてこんな所に!」

聞き覚えのある声。
煙が晴れ、顕わになった人影は、果せる哉、冬宇子の狙いの憎いあの男……!
冬宇子は男を睨めつける。

「ちょいとアンタに返しそびれた物があってね……それから、貰いそびれたモノも……!」

>「はっ! そうか……さては君は、僕を止める為にこんな所まで来てくれたんだね!
>あぁ、僕はなんて罪深い男なんだろう!だけどすまない!
>それでも僕にはしなくてはならない事が!使命があるんだ!」

男は、冬宇子の言葉など、まるで聞いていない。一人芝居のような口上を続けている。

「相変わらず人の話を聞かない男だねぇ……ずっと言ってろ!このオメデタ野郎っっ!!」

冬宇子は懐から取り出した半紙を、人差し指と中指の間に挟み、つい、と弾くように投げた。
ヒトガタに切り抜かれた三寸(10cm弱)ほどの半紙が、男に向かって一直線に飛ぶ―――!
しかし、半紙のヒトガタは男に到達することなく、胸に開いた風穴から煙を上げて、ヒラヒラと床に落ちていく。

それを合図に、横なぎに降り注ぐ銃弾!
男の構える軽機関銃が無数の弾丸を吐き出したのだ!

冬宇子は泡を食って入口の扉に戻り、廊下の壁に張り付いて様子を伺った。

「何だい?あの鉄砲は…?あれも舶来の最新式ナントカ銃って奴かい?
 まったく馬鹿が金持つとロクなことに使いやしない…!」

ぼやきつつ周りを見回すと、そばに軍服姿の青年が。
まるで室内の戦況を見守るかのように、廊下の壁を背に立っている。

「ちょいと!そこの軍服の兄さん!
 …いや運転手だったかね?まァ、そのナリ見りゃ大して変わらないさね!
 兄さん、ああいう舶来の鉄砲持った手合いには馴れてるんだろ?何とかおしよ!」

冬宇子は青年に向かって声をかけた。


【階段にて:爆風で階段から転げ落ちるも、何とか無事。ちょっとだけ遅れて『裏口組』も2Fに到着!】
【2Fにて冬宇子、元カレと対峙。機関銃の攻撃から逃れて廊下に避難】
【たまたま、近くにいた岸さんに元カレへの対処を依頼】
【岸さん、勝手に居場所きめてすいません!依頼は断ってもらってもいいです!】

92 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/18 01:31:41 ID:???

もう駄目だ、とさくらが目を瞑った瞬間、赤い布が人形達の矢を受け止めました。
そして、背後から近付く鎧。
ヨロイナイトは目の前の人形を踏みにじりながら、さくらに告げました。

「言いたいことは後で聞く。動けるなら少し下がろうか、危ないから」

その後ろ姿に、さくらは何も言えません。
さくらが勝手に暴走した結果を、ヨロイナイトが始末しているのですから。
さくらは寄り添う幽霊に、平気よ、と微笑むと刺さった矢を抜きました。

「さくらねーちゃん、ヨロイナイトちん!もうすぐ上まで穴が空くからきてー!
上に出ればみんないるから大丈夫だよ!」
「突貫ー!」

両耳の角度を下げ俯いて居るところに、みどりの声が聞こえます。
見上げれば、みどりが天井をドリルで開けているではありませんか!

「みみみどりさんーーー! こわ、また壊れ…!!」

とんでもない展開に尻尾を膨らませて驚きました。
太ももの痛みなど何のその、猫の跳躍力で一気に天井に開いた穴を超えます。
そこに居たのは…

「狸娘!それにさくら!…………と、鎧!」

正面玄関を超えた、草汰達でした。さくらの姿を見た草汰の顔色が、みるみるうちに青くなります。

「お、おい!怪我したのか?足出せ早く!」
「そ、草汰さん!? え、ええ…」

心配する草汰の勢いに押され、言われるままに脚を出します。
幸い傷は浅かったので、布を割いて包帯替わりに巻きつけるといった応急処置ですみました。

「終わったら医者に見せなきゃな。立てるか?」
「はい…ごめんなさい、ありがとう」

途端に、先程の事を思い出します。
自分が暴走しなければ、こうやって心配を掛ける事も無かったのに…

―――――――――――――――――――

93 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/18 01:32:32 ID:???
―――――――――――――――――――

やがて裏口から来た面々とも合流し、みんなで階段を上ります。
一方さくらは階段を上りながらみどりを視界に入れないようにしました。
みどりの変化にて操られている男の顔が悪霊の如く恐ろしい上、
みどりのやっている事にツッコミを入れるのは何だかもう無駄な気がしたからです。
何の障害も無く二階に上がると、目の前に黒い影。

「伏せろー−ーーーーーーっ!!」

草汰の叫び声と同時に地に伏せました。
途端に響く、爆音。
爆発が連続するのは、爆弾が複数個有ったからです。
炎は収まり、さくらはゆっくりと立ち上がりました。
途中、耳を庇った右手が軽く火傷を負っているのを見て、眉をひそめました。恐ろしい。

「参っちゃうなぁ。僕と、華涅神崇団(じぇねしすだん)の目的の為には、
 これが必要不可欠なのになぁ……ってのも、相手が執拗になりそうだから黙っていよう」
「何なんだ、じぇねしす何たらって!アンタは何者だ!?」

埃と煙の向こうから、草汰と敵のやりとりが聞き取れます。
さくらは咳き込みながらそのやりとりを見守っていました。
そして、煙幕が晴れた向こう側、黒いその男は、さくら達に背筋が凍るような視線を向けるのです。

「だったら僕の代わりに、君達が黙ればいいだけだよね」

―――――――――――――――――――


94 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/18 01:34:24 ID:???
―――――――――――――――――――

広い部屋に響き渡る、くぐもった発砲音。
さくらとみどりに散弾が放たれます。
みどりが変化の術で鋼鉄の塊になっている頃、さくらは部屋中を飛び回っていました。

「ああもう! この犯人達はどうしてこうも人形遊びが…きゃっ!」

しかし、様々な要因で煙が立ち込める室内で、さくらは足を踏み外してしまいます。
危うく落ちそうになりましたが、なんとか縁に捕まりました。
そして勢い良く乗り越え、それを利用して殺戮人形を飛び越えました。
殺戮人形が止まる様子はありませんが、さくらの目的は別に有ります。

「冬宇子さん!」

殺戮人形を超え辿り着いたのは、冬宇子の居る扉。
扉越しに、さくらが声を掛けます。

「お願い、冬宇子さん! あの人形に憑いてる霊を祓って! 私達だけじゃどうしても倒せないの!
だけど、攪乱なら出来るから!人形の意識を私に向けて、その間に祓って欲しいの!
冬宇子さん、お ね が い !」

冬宇子は許諾してくれるでしょうか。承知するしないに関わらず、さくらは行動を開始します。
―――勿論、聞き入れたのならばお礼の一言は忘れずに!
さくらに向かって撃ってきた銃弾を避け、揺れるシャンデリアへ。
そこから、殺戮人形の散弾銃と化した腕を蹴り上げました。
さくらは、榛色の目を爛々と輝かせ、声を張り上げました。

「鬼さん此方! 手の鳴る方へ!」

喧嘩を売られた殺戮人形は、さくらに向かって散弾を撃ってきます。
この錯乱が、上手く行けば良いのですが。



【手当てを受けて→爆弾で手に火傷を負い→冬宇子さんに除霊の依頼をして→殺戮人形と追いかけっこ】

95 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/18 02:49:14 ID:???
>>79>>80>>89-91
葦高は銃を手にとると、機械人形にむかって構え……投げた。
(投げちゃったわ!この人!!)
と心の中でつっこむ玉響を尻目に、敵にむかって一目散に走る葦高。
彼は、銃が当たり体勢を崩した機械人形の関節を流水の如き動きで取り外してゆく。
からんころんと外された手足が床に快音を響かせる。
気がつけば一瞬の停滞もなく機械人形は床へへばり付いていた。
無様に、その両手足を失った姿はまるで芋虫のようだった。

「あのこ・・・銃は使わない主義なのかえ?それとも使えない?
あんな男が、まだ世の中にはいたんだぁーねぇー・・・」
天井に張り付いている玉響は独語した。のこりは中年女をねらう呪法人形だけ。

>「ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、ここの、たり…布瑠部、由良由良止、布瑠部………」
冬宇子の唱える祝詞と鈴音が廊下を流れ、呪法人形の動力となる術を見事に打ち消す。
>「餓鬼霊は祓ったのに、妙な霊気がもうひとつ……まァいいさ…何かが居りゃそのうち出くわすだろうさ。
 葦高センセ!おばさん!
 二階に行くよ!さっさとカタつけちまおう!」
「ふえ〜やるねわぇ!ちょっとは見直したじょ〜おまいさん!」
玉響は破顔して屋敷の中央へとむかう。

96 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/18 02:50:00 ID:???
先へ先へと足を運べば見覚えのある者たちの姿があった。目的を一つにした同志たちの姿がそこにはあった。
玉響はほっと胸を撫で下ろしたものの、床に点々と続く血のあとに眉根を寄せる。誰かが怪我をしているらしい。
恐る恐る血の跡を目で追えば手当てを終えたさくらに、みどりのマジックアームに囚われた武芸者が一人。
視線を落とせば男の尻から床に滴り流れているのはおびただしい量の血液。
「いやぁああああああっ!!」
戦慄が玉響の心を鷲掴みにする。嘆願板前で火達磨になっていた闊達な少女がみせる凄愴な風景。
「仙波みどり……恐ろしい子!」

―――そして狸娘の恐ろしさを知った冒険者たちは二階へ急ぐ。先頭を走るのは森岡草汰。
罠の存在も充分考えられたために玉響は文字通り老婆心を燃やしたが今は何故か押し黙っている。
先を走る男の肩から生える丸太のような腕。嘆願所でちらりと見た綺麗な細目を思い起し中年女は胸をときめかせている。
どこか疲れているような表情とは裏腹に、森岡の双眸は力強い輝きに充ちていた。
それは放つ本人だけではなく見るものの胸を熱く焦がす輝き。
「あちしより少し年下くらいかにゃあのこ?相当な手練とみたじょ」
>「伏せろー−ーーーーーーっ!!」
「・・・ふぇ?」
驚愕の叫びが森岡の口から洩れる。玉響の血の気がひく。爆炎が目の前を装飾する。
鼓膜をつんざく轟音のなか、玉響の足下にも爆弾が転がり込む。
「ほうりゃあぁああああっ!!」
ぽん、と爪先が階段を叩くや海老茶袴は宙に舞った。同時に爆風が足の下から吹き上がった。
煙のなかを自身の跳躍力と爆風の反発力を重ねた中年女は颯爽と飛翔し爆発から逃れることに成功する。
「だいじょうぶかえ?ほかのものたちは」
振り返れば爆発によって階段の下部は粉微塵に破壊されている。
間断なく沸き起こる不安を抑えつつも中年女が残った階段をのぼりつめると、
そこには黒マントの男と殺戮人形。おまけに奇妙奇天烈な首謀者。
特に黒マントの男の冷気の籠もった言葉と黒瞳に玉響は恐怖の色を隠せない。

>「僕が一組、これが一組……首謀者さん、君も一組相手をしてよね」
>「なんだかよく分からなかったけど任せておきたまえ!仲間の頼みを断る私ではないよ!はっはっは!」
>「相変わらず人の話を聞かない男だねぇ……ずっと言ってろ!このオメデタ野郎っっ!!」

黒マントと首謀者、首謀者と倉橋との会話が終わり冒険者たちに迫る銃弾の嵐。
玉響は巨大な鐘の影に隠れると、動悸息切れをおさえつつ自分が何をすべきか考える。
得体の知れない黒マントの男には威圧感も何も感じられなかったが、
それは消しているのではなく極めて自然に消えている状態と言えよう。
自分の凄みを増すために意図的に何かをする相手なら怖るるに足りないが、あの男は格別だ。恐るべしは黒マントの男。
古来から流れる忍びの血が、クノイチの直感がそう叫んでいた。
鐘のむこうにはさくらを追いかける殺戮人形。あれは針では倒せない。ならば狙うのは生身の人間。
首謀者の男は倉橋と少なからず因縁を持っているらしいがずぶの素人のようだ。
痴話げんかはあとで任せるとして、玉響にも倒せなくとも足止めは出来るかも知れない。

「ちょっと!おまえさん。そこの大きいお兄さん!この鐘を敵陣にむかって投げるか転がしてくれにゃいかい?
そのまま鐘で、やろおどもを押しつぶせたら上々なんだけどさぁ?どうかにゃ?その太いお手手をかしておくれよー!」
鳴り止まぬ銃声のなかで玉響の声は森岡草汰に届いたであろうか。

【森岡さんに依頼:鐘(みどりさん)を首謀者にむかって転がして欲しいです。
鐘の中には玉響が入るか影に隠れて進むので二段構え?の作戦のつもりです】

97 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/06/18 04:23:36 ID:???
彼はあくまでも殿を走る。ないだろうとは思うが、挟撃の備えとして。
実力のありそうな剣豪然とした男が現れた時は彼も身構えたが、結果的に戦わずして勝つことになった。
運の要素が強いとはいえ、それが勝ち方としてはそれが1番優秀なのだ。彼は納得する。
ドリル浣腸で勝ったことではなく、労力を使わず勝ったことだ。

二階に上がる。
彼は瞬時に軍刀を向けた。
その物体に衝撃を与えないように受け流し、弾く。力のみの移動で、あちら側に慣性を向かわせる。
それが爆弾だと気づいたのは、明後日の方向でそれが爆発した時だった。

煙が晴れて。そこに居たのは2人と1体。

(じぇねしす団……)

彼はその単語に引っかかりを覚えつつも、しかし深く考えたりすることはない。
これは単なる立てこもり事件。その犯人。ただそれだけだ。
何も広がることはない。もうすぐ終わる。それだけのことだ。

森岡が避けたステッキ。彼は避けることもなく、軍刀で2つに切り落とす。当たることなく、それぞれが落ちる。
避ければよかったのだ。
軍刀を振るうことで、少しなりとも時間のロスが生まれる。
男が放った電気に、対応しきれない――!

「森岡様……!」

結果として、彼が電撃攻撃を食らうことはなかった。森岡が受け止めてくれたのだ。
感謝しつつ、自分の驕りを恥じる。気を引き締め直す。
森岡が爆弾を爆発させる隙に、彼は距離をとる。早足で扉まで向かう。

彼は、どちらかというと「理」で行動する性質である。
敵対する者共はご丁寧にそれぞれ相手する人を割り当てているようだが、従う言われはない。
倒せそうな輩から、潰していくに限る。だから彼は一歩引いて、戦況を確認しつつ、身の振り方を考える。

もう1つ、前線から後退した理由がある。爆弾を爆発させる前の、森岡の啖呵のことだ。
常ならばあれを聞いて意気でも上がるのだろうが、生憎彼はそうもならない。
彼は、つい最近まで「体制」側の人間であり。籍は離れたと言えど、その血は消えない。
出自を明かせば、森岡に恨まれてもおかしくないような。

――お前は将来、この国を背負って立つ役目を担っているのだぞ!

頭に響く父の声。嫌なことを思い出してしまったと、彼は俯く。

98 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/06/18 04:25:26 ID:???
些事は関係ない今は戦闘中だ、ともう一度戦況を確認しようとしたところで女性に声をかけられる。
軽機関銃を乱射するあの首謀者の男をどうにかしろ、とのことらしい。

その軽機関銃――彼にとっては少し見覚えがあり過ぎる。
先の日露戦争の際、機関銃においては露西亜軍の機関銃の戦果ばかり目立っていたのは事実。
そのこともあってか、日本でも歩兵とともに戦場を移動出来る小型軽量化された、つまり「軽機関銃」の開発がされた。
それが、あれだ。
まだ完成したばかりで実戦投入もまだだというのに何故あの男が持っているのか――彼にはどうも見当がつかないが。

「畏まりました。ですが1つだけ。あれは舶来由来ではございませんよ。
 欧米列強に負けぬよう、この国の軍の技術力も進歩していることは理解して頂きたい所存でございます。
 ともかく、私は貴女のお求めに応えますので、貴女もどうかお求めに応えて頂けますよう、私からもお願い致します。
 ――倉橋様、でよろしかったでしょうか」

彼が言っているのは、聞こえた少女の声のことだろう。この女性に向けられていた。
自分が動けば、倉橋も動かざるを得まい。適材適所でゆけば、打ち勝つことは困難ではない筈だ。
それに何より――あの声は、彼に唯一タクシー代を払ってくれた少女の声だった。
顧客の言葉は何よりも重い。

「さて、行って参ります」

飛び交う銃弾、その射線の中心へと彼は歩き出す。
一足一足、踏みしめるように。真っ直ぐ、最短距離を、乱射する男の元へ。
その体中に銃弾を浴びながら。

彼は歩みを止めない。
被害を受けていない訳ではない。帯青茶褐色――いわゆる国防色であったはずの軍服が、確実に紅へと染まっていく。
彼は歩みを止めない。
背中には朱はない。銃弾が貫通していない。至近距離と言える距離でもあるのに。
彼は歩みを止めない。
頭に向かってくる銃弾のみ、確実に軍刀で弾き飛ばしている。その為か、顔には傷ひとつない。
彼は歩みを止めない。
等間隔の歩幅。等間隔の足音。その体中に銃弾を受けているのに、何事もないように、彼は歩く。

そして、彼は歩みを止めた。
首謀者の、男の目の前で。

「ご挨拶だけしておきましょう。しがないタクシーの運転手を生業としております、岸良介と申します。
 以後お見知りおきを」

断続的に彼の体は銃弾を受け続けている。唇の端から血が滴る。しかし、顔色も変えることはなく。
彼は軍刀を握る。
拳銃付軍刀の撃鉄を引き、直後に振り下ろす。
そこには思案も躊躇も逡巡も難渋も何一つなく。
銃弾と鋭刃が、ほぼ同時に。男に向かう。

【倉橋冬宇子氏の求めに従い、体前面に無数の銃弾を受けながら首謀者に肉薄、攻撃】

99 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/18 15:29:52 ID:???
>「餓鬼霊は祓ったのに、妙な霊気がもうひとつ……まァいいさ…何かが居りゃそのうち出くわすだろうさ。
 葦高センセ!おばさん!
 二階に行くよ!さっさとカタつけちまおう!」
「そうですね、行きましょうか。」

冬宇子の声が聞こえて、返事をし、先に行った二人についていく。
すでに合流していた冒険者に合流し、殿を務めながら、ゆっくりと階段を上がる。

>「伏せろー−ーーーーーーっ!!」

嘆願書で見た、例の六尺もある男−−−たしか、森岡草汰、だったか−−−が叫んだ。
その声に反応し、身構える。
上から、冬宇子が転げ落ちてきて、慌てて駆け寄った。

>「いっ……痛ぁあい!
 酷いじゃないか!センセ!もっとしっかり守ってくれなきゃあ!
 切子と女は壊れ物って言うだろ?」
「…すいません…」

女性を護りきれないとは…と落ち込みながら謝る。
階上からは、すでに戦闘の音が聞こえる。
軽機関銃を構えた主謀者らしき男と、黒マントの男、そして殺戮人形が階段を駆け昇った龍次の目に入ってきた。

>「オイコラ、変態マント野郎…!勝負はまだ、終わっちゃいねーぜっ…!」

怒りに満ちた、森岡の声が聞こえる。
主謀者の方を見れば、岸が弾丸の雨の中を平然と歩き肉迫していた。
取り敢えず、主謀者の方は岸にまかせることにした。
後から援護に入っても問題は無い、はずだ。

>「アンタ等の『正義』は、俺達の『正義』が打ち砕く!」

高らかに森岡が宣言する。
龍次はそれに少し笑った。

「はは、面白いことを言うんですね。嫌いじゃありませんよ。その青いところ。」

いつかの自分を見ているみたいで、懐かしい。
感傷にひたるのもそこそこに、龍次は、狩尾侯爵に向かって構えをとった。
いつもの合気道ではなく、また別の。
合気道を柔と表すならば、龍次の本来の得意とするものは、剛だ。
ただし、その剛は、龍次の体には多大な負担がかかる。
せいぜい持って30分が限度だ。

「久しぶりに、本気を出させていただきます」

だんっ、と地を蹴り、一気に狩尾の背後に肉迫する。
脇差しを抜き、狩尾の金属性の小さな箱のハンドルを持った腕の関節を、動かないように掴み、刃を狩尾の喉元に当てた。

「さあ、投降していただけませんかね?僕はあまり人を傷付けたくはないんです。」

【vs狩尾侯爵。勝手に変えてすみません】
【狩尾の関節を固定、喉元に脇差しを当て、投降を促す】

100 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/18 23:54:21 ID:???
怪傑!ヨロイナイト!今回までの三つの出来事!
一つ!人形との戦いの後、みどり、さくら達と共に一階へと脱出!
二つ!更に他の仲間達と合流し二階へと進み、黒幕が登場!
三つ!敵の繰り出した古代の大型人形と対決!

怪傑!ヨロイナイト!『猫と狸とヨロイのナイト』

「「うおおおおおおおおおおおおわあああああああああああああ!!!」」

大声を上げヨロイナイトは吹っ飛んでいた。二階へ着いた時放られた爆弾を、咄嗟に腰の盾で防ぐ、
そこまでは良かったのだ。だがその後に出てきた人形の親玉とでも言うべき物から撃たれた砲弾は
物理攻撃の効果が薄いヨロイナイトに確かなダメージを与え部屋の端へと追いやった。

部屋に乱雑に配置されていた家具や何やらを巻き込み、蹴散らしながら飛んでいく。
しがみつく様な姿勢が崩れて地面に転がると、彼らを轢いた弾はそのまま壁をぶち抜いていく。
(痛っっっっっっっっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!)

ただの大砲なら当たったところで、せいぜい跳ね飛ばされバラバラになるくらいだ。だが
確かに痛みが有る。神経に因らない痛覚を凄い勢いで逆撫でされたのを自覚する。
もんどり打つ間にヨロイナイトはここまでの事をざっと思い出す。

仙波女史と鐘本女史が前者の開けた穴から上階へと逃れたのを見てから、彼らも合体し直して一階へ、
次いで合流した面子との挨拶もそこそこに二階へ上がり爆弾の不意打ちを凌いだ。ここまでは良い。
で、これはなんであろう。

(どういうことじゃ!?)(唯の弾じゃない?)(違う、弾自体を薄い念で覆っただけ)(考えやがったぜぇ)
蜂の巣を啄いたような思考がこの攻撃の答えを導き出す。機械人形に怨霊でも憑かせて対霊仕様
にでもしたのだろうか。

遠くで、戦いの音が鳴っている。銃弾が飛ぶ音、気を吐く声、その中で森岡青年の啖呵を切る
威勢のいい声が聞こえてくる。言い換えれば犯人側の理想が叶えば多くの人間が不幸になる
であろうという実感でもあった。放っておけばそれなりに好都合そうだ。

一匹だけ冷静な宝石がヨロイナイトに教えるが、どうにも全員聞く耳持たないようだった。
「んなこたどうだっていいよ・・・とりあえず痛えよ・・・・・・!」

101 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/18 23:56:07 ID:???
むくりと起き上がると彼らは怒気を隠さず、人が作ったであろう殺戮人形へと向かい駈け出した。
「毎度毎度手の込んだモン作りやがってえええっ!」

ざっと見た中で確認できたのは何人かが負傷してる様子と一人が犯人に肉薄している様、
そして遮蔽物(狸含む)に隠れている女性、鐘本女史はといえば人形への囮を買って出ていた。

(ご立派な怨霊で、思考らしいものは残ってないようです)(故に機械と二で割ったと)

判断力があるのに挑発に乗る、いや、自制が利かなくなると言った方がしっくり来るだろうか、
その辺りから取り憑いているのは低級霊の類と当たりを付ける。
取り急ぎ最初の位置まで戻ってくると、どうするかを思案する。やられた時と同様にこちらも
怨念の一つも剣に貼りつけて斬りつけてやろうかとも思うがそれでは気が済まない。

ふと足元の亀裂に気付く。森岡青年の所の穴から鐘(恐らく狸)の辺りまで繋がり
そこからまだ広がっている。ここから何か重たい物で穴でも空けて落ちれば一階の床もぶち抜けるはずだ、
(イイじゃねーの)

抜いた二刀のサーベルを影に持たせて亀裂に突き立たせると、ヨロイナイトは背を向けて
剣と影を引きずりながら人形の元へ。床を壊すように乱暴に踏みつけて走るとサーベルによって
引かれた線に衝撃が伝わって亀裂がヨロイナイトの進行方向、つまり人形の元へと広がる。

鐘本女史に気を取られて隙だらけの人形の背中に組み付くと、満身の力を込めて今度は逆に引きずる。
「お前ぇの相手は俺なんだよ・・・!」

崩れかかった床に荷重が増えて行くことで加速度的に床が軋み、異音を放つ。
やっと異常に気がついた人形が首と手を回すが時既に遅く、二体のいる場所は今にも崩れんとしていた。
「さあ撃って来い!そしたらテメェも真っ逆さまだぜ!」

【ヨロイナイト、大砲によりダメージ→復帰後人形に組み付く→
亀裂を増大させる→床の陥没で下の階への道連れを目論む】

102 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/19 17:47:10 ID:???
>>92-94
>>97-98
軽快な連射音を響かせて、男は機関銃を乱射し続ける。
絶え間なく撃ち出される弾丸が、開け放ちの扉を越えて、廊下の白壁に点々と弾丸の跡つけている。

「あのボンクラが…!無茶苦茶じゃないか…!!」

何故もあんな男と、ほんの僅かの間とはいえ色恋沙汰に及んだか。弾丸避けの壁を背に、冬宇子は舌打ちした。
舶来の衣料・小間物を取り扱う『多賀谷』といえば、当世のモダンガールなら誰でも知っている憧れの店。
銀座に豪奢な西洋建築の店舗を構える、その舶来高級衣料品店の二代目が、あの男だ。
親は老境になってできた一人息子が愛しくてならぬらしく、請われるままに金を出し、小遣い銭には不自由しない。
自活の能などこれっぽっちも無いくせに、一端の反骨心を持つこの男に、「草莽の普選運動家」を名乗る男が目をつけた。
あの男が跡継ぎでは、さしもの人気の高級店とて、未来はさぞや暗かろう。

「聞いてるかい?軍服の兄さん。戦さ道具の扱いにゃ馴れてるんだろ?その妙な刀でアイツを何とかしとくれよ!」

廊下に佇む軍服の男は、冬宇子の問い掛けに暫し無言。機銃を構える男をじっと見据えている。

丁度その折、壁の向こう…部屋の中から可憐な少女の声。

>「お願い、冬宇子さん! あの人形に憑いてる霊を祓って! 私達だけじゃどうしても倒せないの!
>だけど、攪乱なら出来るから!人形の意識を私に向けて、その間に祓って欲しいの!
>冬宇子さん、お ね が い !」

それを耳にした軍服の男が、やっと口を開く。

>「畏まりました。ですが1つだけ。あれは舶来由来ではございませんよ。
>欧米列強に負けぬよう、この国の軍の技術力も進歩していることは理解して頂きたい所存でございます。
>ともかく、私は貴女のお求めに応えますので、貴女もどうかお求めに応えて頂けますよう、私からもお願い致します。
>――倉橋様、でよろしかったでしょうか」

「鉄砲なんて無骨なもん、何処で作ろうと知ったことかね。色や飾りに工夫があるわけでなし…
 引き金を引きゃ弾が出る。それだけのもんだろ?」

女に価値の有る"舶来物"とは、衣服に白粉(おしろい)、帽子に宝石…そんなものだけ。
浮き草稼業の女にとって、帝国主義も国体強化も、昨今流行の婦人参政権運動すら、等しく雲の上の出来事に過ぎない。

「でも、まァいいさ。交換条件て奴かい?
 あんたの肩入れするあの娘を私が手助けすれば、あんたはアイツの相手をしてくれるって訳だ。
 どっちみち、騒ぎが収まらなきゃアイツと話を付けられそうにもないしねぇ。」

言って、冬宇子は男に背を向けて歩き出した。目当ては階段から離れた位置の、もう一つの扉。
この乱戦の最中、扉の守りに当たる者などいる筈もない。大した障りもなく侵入できるだろう。

背後で…タタタタンと機銃を撃つ音が聞こえる。
廊下の中ほどで、冬宇子は言い忘れたことを思い出して振り返った。
丁度軍服の男が、開け放ちの扉から、室内に足を踏み入れようとする所だった。
驚いたことに、男は絶え間なく撃ち込まれる弾丸を、払うでも避けるでもなく体の真正面で受け止めている。

「おやまァ!"あとで話があるから相手の男を殺さないどくれ…"って言おうと思ったのに…
 これじゃ"死なないで"って言う方が適当みたいだねぇ…」

冬宇子は目を丸くして呟いた。

103 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/19 17:50:20 ID:???
>>100-101
倉橋冬宇子は、扉を薄く開き、部屋の中を覗いた。
室内は三つ巴の混戦。

黒マントの怪人に対峙するは、六尺の大男と葦高龍次。
金属製のカラクリ人形が、部屋中をヒラリヒラリ、猫のように飛び回る少女に、散弾を撃ち放つ。
多賀谷のバカ息子は、正面切って近づく軍人に気おされてか、ますます激しく機銃を乱射している。

喧騒に紛れ、そっと部屋に侵入する冬宇子を気に留める者は、誰もいない。

「で、私が相手するのはアレかい?確かに餓鬼霊よりは多少マシな霊が憑いてるようだねぇ……
 少々思考が濁ってはいるようだが、ありゃ死んで幾ばくも経ってないんじゃないかね?」

冬宇子は目を皿のように細めて、機械の異形…その大きな頭を見据えて言った。
金属製のカラクリ人形は、型はもとより、駆動音も、動作も、醸し出す霊気も、安物のカラクリ茶坊主とは全くの別物だ。

気味の悪い笑顔を彫り込んだ、半球形の馬鹿に大きい頭部。
胴体は殆ど無いといってよいほど短く、その短い胴体の左右に三本ずつ生える車輪つきの長い足。
…その形はどこか蜘蛛や蛸を連想させる。
腕は頭部のすぐ横。
指は四本。手は物掴むに差し支えない形に仕上げられ、両腕の肘に突き出す散弾銃の銃口。
大きく開いた口の中には、大砲の発射口らしきものが見える。

…と、その時、床の上に転がっていた西洋鎧がむくりと起き上がった。
床の亀裂に腰のサーベルを突き刺したかと思うと、金属カラクリに組み付き、力任せに引き摺った。
亀裂は見る見る深く裂け、ヒビ割れが走り、カラクリと鎧の足元の床は、今にも重さに負けて抜けんばかり。
人形はキリキリ顔を回して、背後に組み付く鎧に、口中の砲口を向ける。

「無茶なことするねぇ…あの鎧!
 妖怪や九十九神だって、あのカラクリに頭をふっ飛ばされちゃあ無事では済まないよ!」

冬宇子は懐から折りたたまれた半紙を取り出し、空にばら撒く。

「根の国の底の地獄三悪趣、餓鬼道より招ぎし霊(たま)ぐさに白す。この形代に寄り坐せ!ねぎをしへよ!」

冬宇子の声と共に、空中でひとりでに開いた半紙は、数体のヒトガタを成して宙を舞う。
たちまち金属カラクリ人形にピタリと貼り付いた。
ヒトガタの半紙…形代(かたしろ)に憑いているのは、呪法人形に宿っていた餓鬼霊たち。
本来、異界の霊を招くには、相応の準備と長い呪言が必要だ。
しかし、今しがた祓ったばかりの、未だ周囲を漂う霊ならば、その手間を省いて使役できる。
地獄に吸い込まれつつある餓鬼霊たち。冬宇子の支配が及ぶ時間は、ほんの僅かだが、床が抜けるまで持てば良い。

金属カラクリの口中に小さな稲妻が走る。

砲弾が発射―――――!

………されることは無かった。

口中の稲妻が消え、人形の目に宿っていた紅い光も落ちている。
形代に憑依した餓鬼霊たちが、一斉にカラクリ人形の霊気を吸い取っているのだ!
霊が霊を吸う。いわば共食いの関係だが、飢えた餓鬼霊に道理が通じるはずもない。

「…ただ地獄に返しちまうのも勿体ないからねぇ〜折角だから使わせてもらったよ。」

一瞬だが、擬似脳を補助する憑依霊が霊気を失ったことで、混乱したカラクリ人形は動作の術を失ない立ち尽くす。

【まだ居残っていた餓鬼霊を利用して、人形のサポート悪霊の霊気を吸い取らせて、人形の動きを止めました】
【人形の足止めが効くのは数秒です。その間に床が抜けてもよし、抜けなくてもよしw】
【悪霊の霊気は、餓鬼霊が消えたらすぐ復活するんじゃないかな〜とw】

104 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/06/19 18:14:34 ID:???
「っひょぉ〜〜〜〜〜〜〜、タクシーさんスゲェなァ〜〜〜〜ッ」

一度振るうたびに積み重なる木片を見、雪生は感嘆の声を漏らす。
まるで機械人形だな、とさえ思う。ただ淡々と目の前の障害を切り伏せる。後は何もない。

>「劣悪品の自動操縦。それがどれだけ危険を伴うか――身をもって体験して頂きましょう」

岸が人形の群れに突っ込んだ。人形に疎い雪生は不安な視線を送るがそれも一瞬。
人形の集団を突っ切って後方の兵隊達へ辿り着くと、敵味方の判別のつかない人形達が兵隊を攻撃し始めたのだ。
なるほどそういう目的ねと雪生も結果を見て納得。

>「時によ、きゃめらの……えっと、雪生さん。その゛とっつぁん゛っての、止めてくんねえか?」

先頭を突っ走る草汰が突然足を止めた。何事かと思えば、あだ名が恥ずかしいとのこと。
似合わない表情で気恥ずかしそうにする姿に思わず雪生の頬が緩む。

「そんな気にするなってーの。あだ名は俺が親しみをこめてだな…………」

雪生の声が止まる。前方からは並々ならぬ威圧感。
階段前に座るその男は凶刃の如き殺気で草汰達を見据えていた。
雪生は懐の輪胴式拳銃に触れ、臨戦態勢を取る。
普通ならばここで戦闘が始まるだろう。───が事態は思わぬ方向へ足を進める。

「げえぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!ドリルがケツに〜〜〜〜〜ッ!!??えげつねえ…………」

なんと剣豪のような男の足元からドリルがその顔を現してケツをピンポイントに穿ったのだ。
それは世間一般で浣腸と呼称されるものであったが、何分得物はドリル。その威力たるや歯車的小宇宙。
もしあれが自分だったら、と思うと頬が泡立ち身悶えしそうだった。

「………ってやべえ!?」

雪生がその場に伏せ、ほぼ同時に草汰が叫んだ。
黒い物体が飛来し直後に爆発と煙。
いち早く飛来する爆発物に気がついたお陰でスーツが少々焦げ付いたが、幸い怪我はない。

「ド近眼じゃなくて助かったね……いや、マジで」

雪生を百発百中、飛ぶ鳥も落とす勢いの銃使いたらしめているのには幾つか理由があるが、
最大の理由はやはり『目の良さ』だろう。故に飛来した物体にも対応できたのだ。


場面は二階へと切り替わり裏口、地下に分かれた面々とも合流した。
大方の敵は片付いたらしくここには誰もおらず、雑多な調度品だけが並んでいる……ように見える。

>「参っちゃうなぁ。僕と、華涅神崇団(じぇねしすだん)の目的の為には、
> これが必要不可欠なのになぁ……ってのも、相手が執拗になりそうだから黙っていよう」

無気力な、何処か暗澹とした声が響いた。

>「仕方ないな。まあこれの性能を確かめるついでに相手を……って」
>「もしかして僕さ、今まで考えてる事、全部口に出してた?」

雪生の目に映ったのは黒いマントの男。
口調は何処か間の抜けた調子に感じる。が、その独特の雰囲気がそうはさせない。
雪生は表情を険しくして懐から輪胴式拳銃を抜き、構えた。
バカでも分かる。こいつは敵だ。

105 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/06/19 18:15:48 ID:???
>「ま、そんな訳で。君達の相手は僕がさせてもらおうかな
> 黒き魔術師にして白き科学者。この狩尾侯爵がね」

「ああそーかい。丁寧な自己紹介どーもね。白黒野郎
 ただし警察のオッサンがオメーの名前を確認する必要がなくなっただけだがな」

雪生の軽口を皮切りに狩尾のステッキが回転しブーメランのように迫る。
草汰は身を屈めることで躱し、岸がステッキを軍刀で裂く。
続く第二射。箱のような物体から空気に皺を入れるように電気が放たれる。
それを雪生は回避しようと身体を動かすが────

>「あぐあぁああッ!」

なんと草汰が電撃を受け、膝をついていた。しかし幸いにも意識までは刈り取られずにいた。
咄嗟に武器に使っていたカラクリ人形の足を避雷針に代わりにしたためだ。

「………ったく!啖呵はともかく電気受けるなんざ無茶してんじゃねーよ!!
 そっちゃあ後ろなんぞ気にせずガンガン倒しまくれ!………『とっつぁん』!」

その間葦高が狩尾に肉薄、関節技で拘束。
投降を促す言葉の後、数拍置いて次は玉響の声。

>「ちょっと!おまえさん。そこの大きいお兄さん!この鐘を敵陣にむかって投げるか転がしてくれにゃいかい?
>そのまま鐘で、やろおどもを押しつぶせたら上々なんだけどさぁ?どうかにゃ?その太いお手手をかしておくれよー!」

「ばーさんが呼んでるぜ。あの年でにゃは軽くホラーだがよ………
 変態マントはヤバそうだが今はセンセもいるしな。心配せずにホラ、いったいった」

依然軽い口調。しかし未だ銃口を向けているのは狩尾を警戒している証左に他ならない。
周りに加勢しても良かったが、見るに各々十分渡り合えている。
よって雪生は拘束を脱出したときの──“万一”に備えることにした。


【狩尾に銃を向けて警戒。そんだけ】

106 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/20 23:16:08 ID:???
【→葦高、森岡、雪生、倉橋】

>「しまっ―――――!」
>「あぐあぁああッ!」

「あーあ残念。木偶の坊君の冒険はここで終わってしまいましたとさ」

得意げな笑みを浮かべて、狩尾が冗談めいた口調で笑う。
けれども森岡は電撃を受けて尚も、意識を保っていた。
狩尾の表情に微かな驚きが浮かんだ。

>「だけどよ……。関係ない奴巻き込んで、女子供を傷つけて……。
  こんな悲しい方法で得る『平等』なら、俺は要らない!!そんな『正義』は認めねえ!!」

不発弾が投げられる。しかし狩尾とはまるで違った方向へ。
爆発、粉塵と白煙、崩落音、狩尾は呆れに細めた視線でそちらを見やる。

「もったいないなぁ。折角拾ったならもっと有効活用しなきゃ……」

だが俄かに接近する影。反応する間もなく、右腕を掴まれた。
発明品を取り落とす。喉元に、白刃が突き付けられた。
誤認誘導、単純な手品の技法――森岡の意図しない偶然の産物だからこそ、悟れなかった。

>「さあ、投降していただけませんかね?僕はあまり人を傷付けたくはないんです。」

「……へえ、大した馬鹿力だね。ナナフシみたいな体型なのに。
 筋繊維が特別なのかな?それとも東洋の『内功』って奴かい?
 いやぁ、どちらにしても興味深いよね。特に内功はいずれ勉強したいと思ってたんだよねぇ」

害意の覆い隠された口調と仕草で、刃を突き付ける葦高の右腕に触れる。
そして――刃を持つ腕の肘関節内側に、手刀を打った。
腕が曲がる。そのまま葦高へと押し込んだ。刃を持ったままの腕を。
自分自身の刃で、己の肩口を突き刺すように。

続けざまに、自分の右腕を掴んだ葦高の手首を捻り、左前腕を被せる。
全身の体重を掛ける事で屈曲を強いて、更に肘関節も同様に可動域とは逆に力を加える。
必然、葦高の体勢は前かがみになる。後ろに退いてやれば、追従する他ない。
更に姿勢が崩れる。そのまま床に、うつ伏せに引き倒す。
手首と肘関節は決めたまま、首の上に膝を乗せ、抑えつけた。
即ち、柔術の技術。

「魔術と科学の申し子は、力の前に圧倒される。それは安直ってものだよ。
 柔術ってのはつまり、力の流れと人体の構造を知り、操る事だ。
 つまり立派な科学の領域なのさ」

得意げな講釈、知識人の性――故に警戒心に身を包み、銃を構える雪生に目が向かない。
代わりに森岡に向き直り、余裕の態度を崩さず口を開く。

107 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/20 23:16:56 ID:???
「それにしても、何と言うか……君も哀れな奴だねぇ。同情するよ。
 君も僕も、生まれてくる時代を、或いは場所を間違えたのさ。
 亜米利加を見てごらん。ここ十年で人口は百万人近く増えている。
 もちろん社会の成長に伴うものもあるけど、それ以上に大勢の移民がいたからさ。
 きっと一世紀もしない内に、亜米利加は白人黒人、様々な人種が混ざり合って生きる国になるよ。
 いや、それどころか黒人や女性が大統領になっているかもしれないね。はは、流石にそれはありえないかな?」

葦高の関節を片手で極めたまま、狩尾はもう一方の手を森岡に差し伸べる。

「……どうだい?君も僕達の、華涅神崇団の仲間になってみないかい?
 僕達なら、創ってあげられるよ。誰も君を否定しないような、『新世界』を。
 そう言えば犠牲がどうのと言っていたよね?だけど、君だって傷付けられた、犠牲者の筈だ。
 違うかい?長い目で見れば……この活動はより多くの人を救うんだよ。分かるだろう?」

甘言を囁きかける。
しかし――狩尾の視線は森岡に向けられていながらも、彼を見てはいなかった。
見ているのは、彼の背後。岸が切り落としたステッキだ。
二本に分離させられたステッキが、再び音もなく浮かび上がる。
科学ではなく魔術による芸当――切り払われたくらいでは、死にはしない。
もし森岡が誘いを断れば、その時は背後から一刺しにする公算だ。

そしてもう一本の狙いは、倉橋だ。
殺戮人形の除霊を阻止すべく、切断面の鋭利なステッキを放った。
物理的な手段では止められなかった魔術。
だが同じく摂理の外側にある倉橋の能力ならば、完全に沈黙させられる事だろう。
それを承知で、狩尾は仕掛ける。
もしも自分の魔術が破られたのならば、それもまた掛け替えのない勉強になるのだから。


【→ヨロイナイト、さくら】

さくらを追い掛けていた殺戮人形は隙を突かれ、ヨロイナイトに背後を取られた。
組み付かれる。力ずくで自身を引きずるヨロイナイトに、殺戮人形は激しく暴れて抵抗した。
目論見を悟った訳ではない。単に鬱陶しい獲物であるさくらが遠ざかるのが、許せないだけだ。
けれども振りほどけない。怒りに満ちた殺戮人形が、痺れを切らして首を回転させた。
口内の砲門が、ヨロイナイトを暗黒の眼光で貫く。
微かな駆動音。死が、終焉が充填される音――不発。

>「…ただ地獄に返しちまうのも勿体ないからねぇ〜折角だから使わせてもらったよ。」

低級霊による妨害、一時的な機能不全に陥った。
妨害を払い除けた時には、もう遅い。
穴のすぐ傍にまで引き寄せられてしまっていた。
今からでも発射するか、発射してヨロイナイトを吹き飛ばしてから崩落を逃れられるか。
悪霊の葛藤――不可能と判断。いよいよジリ貧だ。
やむを得ない――殺戮人形の頭部が、縦に大きく開いた。
猛獣の牙を思わせる変形、ヨロイナイトの頭部に虎鋏のごとく噛み付いた。
同時に頭部、更に脚の二対四本を外し、拘束をすり抜ける。
ヨロイナイトに喰らい付いた頭部の中から、新たな音が生まれる。
正確に時を刻む音だ。時の果てにあるのは、炸裂。
砲弾を放つ為の爆薬の貯蓄を全て爆発させる。
取り外すのが遅れれば、ヨロイナイトの頭部は圧縮された爆発に粉砕されてしまうだろう。

そして殺戮人形は四足歩行の化物に成り果てて、さくらに振り返る。
歪な笑みの奥に隠されていた憤怒の仮面が、さくらを睨んだ。
殺戮人形が跳躍。見違えるほど高速の挙動。
脚の四本を失ったが、それ以上に頭部を捨てた事が大きい。
代わりに攻撃手段は乏しくなった。単純な殴打。
とは言え機械仕掛けと怨念の力は、直撃すれば容易く人体を破壊するだろう。

108 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/20 23:17:21 ID:???
【→岸、みどり、玉響】

>「さて、行って参ります」

「む!君は……軍人か!?退きたまえ!信念なき軍の狗に私の負けはしない!」

警告――岸は従わない。

「くっ……この、分からず屋めぇ!!」

多重の銃声、殺到する銃弾に対して、しかし岸の歩みは鈍らない。
迫る銃弾の内、致命の物だけを見極め、切り払い、歩み寄る。
首謀者の顔に焦燥の色が浮かび出た。

>「ご挨拶だけしておきましょう。しがないタクシーの運転手を生業としております、岸良介と申します。
  以後お見知りおきを」

拳銃付き軍刀が迫る。
どうするべきか、絶体絶命の危機を前に思考が加速。
回避――不可能。銃撃――もう遅い、例え銃弾を受けても岸は刃を振り下ろす。それだけの気迫を感じる。
無傷ではいられない――大した事ではない。事実だ。
この事件を起こした時から、自分の前に倉橋が訪れた時から、決まっていた事だ。
決心――銃を振り上げた。雷光をも凌ぐ鋭利で力強い斬撃を、鉄の塊で防ぐ。
同時に身を捩る。その程度で銃弾からは逃れられない。肩口を弾丸が貫いた。
だが、まだ生きている。動ける。

「なんの……これしき!私は既に愛と言う名の薔薇を捨てているのだ!何よりも深く尊い真紅の愛を!
 今更血肉を抉られたところで……私の歩みが挫けるものか!!」

一歩退き、銃を投げ付ける。原始的だが、捌く事の叶わない一撃。
弾くか、止めるか、避けるか、いずれにせよ一瞬の停滞を強いる。
そしてその隙に再び傍の物陰から銃を取り出した。
次なる銃は、散弾銃。今度は、弾く事など叶わない。
直撃すれば、招かれる結果は死以外にあり得ない。

「……すまない!だが君の死は無駄にはしない!決して!」

引き金に指を掛ける。
けれども発砲の直前、首謀者の視界に宙に浮かぶステッキが映った。
鋭利な矛先が見据えるのは――倉橋が身を隠した物陰だ。

「いけない!冬宇子、後ろだ!」

咄嗟に叫ぶ。力むあまり、銃口が逸れる。
散弾はその殆どが岸を捉えぬ軌道で放たれた。
狙いの逸れた散弾は、みどりの作り出した鋼鉄の鐘に直撃する。
恐らく内部は強烈な反響音で満たされている事だろう。

109 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/22 07:33:48 ID:???
突然、音もなく何者かが狩尾の背後に現れ、押さえ込んだ。
狩尾の発電機が鈍い金属音を立てて落ちる。正体は、葦高と名乗っていた男。

「さあ、投降していただけませんかね?僕はあまり人を傷付けたくはないんです。」
「す、すげぇ……。」

その業に草汰はただ目を丸くする。銀の免許証は伊達ではない、という事か。
すると少し離れたところから、玉響と呼ばれていた女性から手を貸してくれと声を掛けられる。
それに対し、行ってこいと軽口を含ませた雪生の言葉に固くなった唇の端を緩ませ、その方向へ向かおうとする。
だが、しかし次の瞬間、目を疑う光景が繰り広げられた。
目にも止まらぬ速さで、形勢逆転。葦高はうつ伏せに押し倒され、膝で頭を押さえつけられた。
助けなければ。今の状況を見れば、葦高の命が狩尾に掛かっているのは明白。
焦燥が草汰を襲う。玉響を助けるか、目の前の葦高を助けるか。選択なんて出来るわけが無い。

「それにしても、何と言うか……君も哀れな奴だねぇ。同情するよ。
 君も僕も、生まれてくる時代を、或いは場所を間違えたのさ。」

唐突に、狩尾が草汰に語りかける。氷山の一角を思わせる目が、草汰を射抜く。
心を見透かすかのような言葉の節々。 脂汗が額から顎に掛けて伝う。
動くことが出来ない。狩尾から目が離せない。

「……どうだい?君も僕達の、華涅神崇団の仲間になってみないかい?」

狩尾はそう言うと、草汰に手を差し出した。「あちら側」へ誘う、その手を。
草汰はその手に釘付けになった。滝のような汗が伝い、軽く眩暈さえ覚える。

「僕達なら、創ってあげられるよ。誰も君を否定しないような、『新世界』を。」

狩尾のその言葉が、草汰の記憶の古傷を引っ掻いた。
鼻の奥で火花が散るような錯覚が襲う。
哄笑、苦痛、恐怖、恐怖、恐怖――――……『否定』され続けた、過去の記憶。
皆が自分を見て虐げる。憎悪の目が、侮蔑の目が、与えられる痛みが、ただ恐ろしくて辛かった日々が、走馬灯のように流れる。
憎い。恨めしい。確かに、何度思っただろうか。自分を生み出したこの世界を、何度呪った事だろう。
フラフラと、糸で操られるように一歩、足を踏み出す――




110 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/22 07:36:00 ID:???

『駄目だ、草汰』

(―――――――親、父?)

『手前の感情に飲まれんな。相手の思う壺だ。』

(―――――――兄、貴?)


眩暈が止んだ。汗も引き、突き破らんばかりに鼓動を打っていた心臓も治まった。
今のは何だったのだろう。混乱の余り自分の脳が創り出した幻想だろうか。
再び、狩尾を見据える。今度は彼に対して、畏怖は感じなかった。彼の言葉に、もう惑わされることはない。

「そう言えば犠牲がどうのと言っていたよね?だけど、君だって傷付けられた、犠牲者の筈だ。
 違うかい?長い目で見れば……この活動はより多くの人を救うんだよ。分かるだろう?」

融けるような甘言を囁く狩尾の目線は、草汰を見ていないことにすぐ気づく。
目線を追えば分かること。きっと何か罠がある。自分が断れば、何時でも攻撃を加えるのだろう。でも。

『そっちゃあ後ろなんぞ気にせずガンガン倒しまくれ!………『とっつぁん』!』

今は、自分を支えてくれる仲間がいる。

「……なあ、雪生さん。」

背中を預けられる、戦友(とも)がいる!!

「俺の背中、預けたぜ。」

雪生にその言葉が届いたかどうかは分からない。今は信じて、止めていた足をまた一歩踏みしめる。
先の頼りないものではなく、確固たる意志を感じさせ、狩尾に一歩一歩歩み寄り、立ち止まる。
手を伸ばせば簡単に触れられる位にまでの位置。差し出された手を、草汰は――

「『新世界』に『華涅神崇団』、か。響きは悪くねえかもな。」

掴んだ。但し、厳密に描写するならば、狩尾の手首を、だ。
振り解こうとしても、草汰の手がそうさせない。やがて握り潰さん勢いに力を込め――


「――――って嘘だよバァァァアアカ!!」


ねじ伏せられていた葦高ごと、狩尾を宙に投げ飛ばす!

「多くの人を救済するだの新世界を創るだの、聞いてりゃー好き勝手ほざきやがってよぉ。
 そんなチンケな発電機とあんな趣味悪ィお人形さんで実現できんなら、こんなに苦労しねーっつの。」

発電機を掴んでぶらぶらと揺らし、狩尾を睨みつける。

「それによぉ、アンタ俺が誰だか忘れてねーか?」

時間が酷く遅く感じる数瞬の中、幼い頃の記憶の切れ端が脳裏にまざまざと思い出された。
地獄の日々の中、父と兄と出会った『あの日』。
今の多賀谷達と同じく、平等を主張していた暴徒達に向けて放っていた、あの言葉を。



111 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/22 07:39:19 ID:???
「『……俺ァ冒険者だ!自分の世界は自分で切り開く!!』」

刹那、踵を返して猛然と駆け出す。
目指す先は、釣り鐘になったみどりと、それに隠れる玉響のもと。

「待たせたな!ちぃっと野暮用で遅れちまった!」

釣り鐘は草汰が両腕で抱えるのがやっとなほど大きい。
だが、先の絡繰人形の腕をもぐ時よりは、遥かに容易いこと。

「ぬぅ〜〜ぅぅうううりゃあああああ!!」

気合いで頭上まで持ち上げ、散弾銃を持つ多賀谷に狙いを定める。
そして……

「食らえェェエ!!」

満身の力を持ってして、投げる!
勢い余って、反動で草汰は尻餅をつく。だが、視界が捉えた光景が草汰を再び立ち上がらせる。

「鎧、そっから動くな!」

言うが早いが、ヨロイナイトにへばりついている殺戮人形の頭部に向けて、草汰の下駄が飛ぶ!
しかし危険なのはヨロイナイトだけではない。さくらもまた殺戮人形の毒牙にかかろうとしている!
何か手はないか。考えるより一瞬早く、草汰は手の中の発電機を投げていた。

「さくら、ヘイパス!」

殺戮人形は機械で動いている。もし電撃を加えればどうなるだろう?
――少なくとも、試す価値はある。

「ハンドルを回せば電気が出る!痺れさせてやれ!!」

【狩尾:勧誘お断り→葦高ごと狩尾を投げ飛ばす】
【釣り鐘みどりちゃんを投げ飛ばす→殺戮人形に下駄攻撃→さくらさんに発電機をパス】

112 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/22 12:01:24 ID:???
漠とした大正の空の下。
とある屋敷の一角では、華涅神崇団(じぇねしすだん)と冒険者たちとの峻烈な死闘が繰り広げられていた。
銃弾飛び交う大広間。体験したことのない乱戦に、歯噛みし戸惑う中年女の思考を突き破ったのは爆発の轟音。
巻き上がる粉塵。崩落音。気がつけば玉響は鐘の裏にいた。
そこから辺りを窺えば葦高龍次が狩尾侯爵とが絡み合っている。
(にぎゃ!!いつの間にー!?)
森岡が投げた不発弾は、偶然にも狩尾侯爵の意識を逸らし葦高の接近を気付かせないでいたのだろう。
案の定、敵は虚をつかれた形となっている。運も実力のうち。流石は森岡。流石は銀持ちの葦高。

このタイミングで玉響は森岡に声をかける。

「ちょっと!おまえさん。そこの大きいお兄さん!この鐘を敵陣にむかって投げるか転がしてくれにゃいかい?
そのまま鐘で、やろおどもを押しつぶせたら上々なんだけどさぁ?どうかにゃ?その太いお手手をかしておくれよー!」

森岡は一瞬戸惑っていたようだが桜雪生の言葉に首肯する。

気がつけば、狩尾侯爵の喉元に葦高の白刃がおしあてられ彼らは何やら会話をしていた。
玉響が眼鏡の奥の目を細め「大人しく降参しれ!」と心の中で叫べば
組み合った二つの体が同時に崩れ落ち、最後に床を舐めていたのは葦高のほうだった。
「はりゃ!?なにがどうなっちったのじゃ〜!?」玉響はただただ瞠目するだけである。

一方、余裕綽々の狩尾侯爵。マントの下には蛙のように押し潰されている葦高龍次。
慢心からか、マント男は森岡を見つめ哀れみながらも、悠々と甘言を吐きかける。
唇から洩れる勧誘の言葉とは反対に、狩尾の両眼は獲物を狙う猛禽類を想起させている。
見つめられた森岡の様子は明らかに異様であった。まるで催眠術にでもかかっているかのように狩尾侯爵の元へ歩いていく。
どうするべきかと困り果てた玉響が、おろおろ辺りを見渡せば多賀谷の傍らには血塗れの岸。

「ぎゃあ!タクシーのお兄さんが死んでしまうにゃーっ!!」
叫ぶ玉響の声が震えた。森岡は狩尾とがっちりと握手をかわす。
>「『新世界』に『華涅神崇団』、か。響きは悪くねえかもな。」
「…ちょっとお!!あんたぁ!!」
>「――――って嘘だよバァァァアアカ!!」
開口一番。森岡はねじ伏せられていた葦高ごと狩尾を宙に投げ飛ばす!

113 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/22 12:02:04 ID:???
>「『……俺ァ冒険者だ!自分の世界は自分で切り開く!!』」
「信じてまししゃ!正義顔は伊達じゃにゃいんだねぇ〜!」
>「待たせたな!ちぃっと野暮用で遅れちまった!」
「女を待たせちゃダメにゃ〜よ!ほらほらバーンってぶん投げちゃいにゃ!」
>「ぬぅ〜〜ぅぅうううりゃあああああ!!」
鐘を持ち上げる森岡の筋肉が逞しく隆起する。
>「食らえェェエ!!」
「いっくにゃあぁああああ!!」
叫ぶ玉響は跳躍し、みどりにすっぽりと収納される。
本来なら、多賀谷に近づく者は岸のように散弾銃の餌食となるのだろうが、今のみどりは鋼鉄の鐘。
森岡の膂力によって推進力を得た鐘は大広間の宙を見事に飛んでいる。
たとえ多賀谷に直撃は出来なくとも玉響の間合いまで近づくことが出来れば
あとは残り一跳びでとどめをさすことができるはず。
そう玉響が確信した時だった。
>「いけない!冬宇子、後ろだ!」みどりの穴から微かに聞こえる多賀谷の叫び。
次の瞬間、みどりの中の玉響の鼓膜を衝撃音が殴りつける。反響する音が骨までしみる。
散弾が直撃したのだ。
「はがが・・・」
つるつるのみどりの中にへばりついていた玉響は落っこちそうになってもがいたが
結局途中で落っこちた。
「ぬぎゃ!!」
お化けのような中年女が空飛ぶ釣鐘からどさりと産まれ堕ちる。それはちょっとしたホラーかもしれない。

だが、落ちた場所は幸運にも玉響が跳躍し多賀谷を針で仕留めるには充分の距離だった。
玉響は残像を残し一跳び。多賀谷の背後にまわり懐から針を取り出す。

「おまいさん。さっき女の名前呼んだじゃろ?まだあの女のことが忘れられにゃいみたいだねぇ。
まだ未練たらたらなのかえ。ん、どうじゃ?ほーじゃろ?おねいさんが良いこと教えてあげよか?
どんなに愛しているかを話すことができるのは、すこしも愛してないからにゃんだってぇ!!」

玉響は即効性の高い麻酔針を打たんと、右手に持った針で多賀谷の首筋を狙う。

【森岡さんから投げてもらう→散弾が鐘に変身しているみどりさんに直撃して玉響は途中落下。
その後、多賀谷さんの背後に回りこんで即効性の高い麻酔針で首筋を狙いました】

114 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/22 12:59:31 ID:???








115 :仙波みどり ◆z/01/W5uvE :11/06/22 13:01:51 ID:???
説明しよう!タヌキアーマーこと塞防具の術の全容を!
見た目も内容もそのまま釣鐘である!
ただ違うところは、内壁に背負うためのベルトが二本付いており、そこに仙波みどりは肩を通して鞄を背負うようにしている。

「あうー。どーしよー」
仙波みどりはそこで頭を抱えていた。
鐘を背負うといえば聞こえはいいが、その大きさ、重量でもはや鐘の内側に貼り付けられている状態なのだ。
一応曲がりなりとも妖術で作られた鎧なので外を見ることはできる。
戦いが激しくなっていく中、自分は何もできない。
文字通り貼り付け状態で動くことすらできないのだから。
もちろん術をとけば動けるようにはなる。
だが変化の術に必要な葉っぱを全て注ぎ込んでしまっているのだ。
すなわち、葉っぱを補給するまでは武装変化はできない。
ここで術をといても闘う力もない子狸が一匹転がりでるだけ。

>>111>>113
頭を抱えていると突如として浮遊感。
何事かと思えば森岡草汰が自分を鎧ごと持ち上げているではないか!
「え、えええええ???うそーーー!!」
目を丸くし思わず叫ぶ仙波みどり。
幾ら何でも人間がこれを持ち上げられるとは思っていなかったから。
挙句に放り投げるという芸当までやってのけたのでもはや言葉もない。

浮遊感に笑みが浮かんだとき、いつの間にか鐘の内面向い側に玉響がへばりついているのに気がついた。
「あえ?玉かーちゃんいつの間に?あばばばばば???」
宙に飛ばされながら玉響に質問したが、それに対する回答はなかった。
もし回答があったとしてもとても聞いていられなかったであろうが。

放たれた散弾が釣鐘を直撃し、その反響で内部は凄まじいことになっていたからだ。
先ほどの用に床に接していおらず、しかも今度の散弾は湿気っていない火薬から放たれたものだ。
音も凄まじいが、鐘内部に張り付いていたためその振動が全身を襲う。
その振動は、仙波みどりの遠く忘れられていた記憶を呼び覚ます程に!

釣鐘が重力にひかれ多賀谷とそれに肉薄する玉響と岸を押しつぶす直前。
その振動も、音も全てが消え去った。
そして軽い爆発音と共に鐘は煙に包まれ大量の葉っぱに戻る。
鐘の音の代わりに耳につくのはコオオオオオオオオオオという特殊な呼吸音

>>117
煙と葉っぱを突き破り、限りなく球体に近い体型になった仙波みどりがゴム毬のように飛び出した。
「思い出したああ!!私は仙波みどり!仙波を冠するタヌキだったああ!!!」
ポンポコポコポコという腹鼓の音を引き連れ一直線に向かうのは鐘本さくらを襲わんとしている分離殺戮人形!
悪霊の存在を敏感に感じ取っているのだ。

116 :名無しさん :11/06/22 13:06:04 ID:???

その昔、深谷幽山に住まう仙人がその山の狸と意気投合し、仙道を教えた。
それは呼吸法!
呼吸により血液中に生命E(エネルギー)を発生させ、それを狸の腹鼓の振動波で増幅させる。
負のエネルギーで活動する悪霊などを滅する力!
この仙道を収めたタヌキだけが仙波の名を冠することが許される!
そして今その山はセンバヤマと呼ばれている!!

花も恥じらう少女が球体な体型になることを嫌い、みどりはげんこつ山に移り、茂林寺に入って武装変化を学ぶ。
そのうちになぜ仙波の術を封印したのかはもとより、仙波の技自体すっかり忘れていたのだった。
それを釣鐘に響きわたった振動が骨の髄まで染み渡った為に思い出したのだ。
響く鐘の音やその振動を全て吸収してしまえるほどに!



四足歩行の化物となった殺戮人形はさくらを狙って背後には気づいていない。
一気に肉薄し、その背中に仙波みどりの小さく、だが生命Eに輝く拳を叩き込む!!!
「てあああああ!震える心!燃え尽きるほど熱く!刻むは血液の音頭!!
狢式仙波失踪!!!!」
叩きつけられた拳はペチッという小さな音と共にくにゃりと曲がる。
鋼鉄の身体を普通の拳で殴れば当然の結果だ。

「いだーーーー!拳が砕けたあああ!!く〜〜〜『でも』通った!」
倍以上に腫れ上がった拳を抱えて転がりながら、涙目で殺戮人形を睨みつける。
仙波失踪は生命のEを波のように流す技であり、物理的な破壊力はそれほどない。
だが、たとえ何処にあたろうとも、生命Eは殺戮人形の内を波紋のように広がり反射し、増幅して駆けめぐる!
内部に取り付いた悪霊とその怨念のパワーを掻消すために!

【鐘の振動で仙道に覚醒。落下寸前の鐘を葉っぱに戻して飛び出す。
球体体型で殺戮人形に肉薄して、悪霊を滅ぼす生命Eを叩き込む】

117 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/22 23:50:27 ID:???
目論見通り人形がこちらに撃ってくるかと思ったが倉橋女史の機転によりそれは免れた。
実を言うとヨロイナイトは頭に血が登っていたせいで(比喩表現です)至近距離からの砲撃の威力を、
そこから受ける被害を考えていなかったのだ。

しかし撃たれずに済んだ所で穴に引きずり込もうとするのに変わりはなかったので、引き続き
引っ張って行くと。すると不意に視界が暗くなり次いで頭部に鈍痛が走る。

「あ、痛っ!痛え!いてえって言ってんだろおおお!」
がじがじと何かが自分の頭をすっぽり覆って噛み付いている。しかも握っていた部分がいやに
軽くなる。誰かは知らないがトカゲの尻尾切りみたいなものだと教えてくれる。

「放んなっせ!は・な・れ・ろ・よぉぉぉぉ〜〜〜!」
急いで自分を頬張っているであろう物を剥がそうとするが、かなり強く噛まれているのか口が殆ど
開かない、力を込めていると闇の向こうから聞いた声が聞こえてくる、森岡青年のものだ。

>「鎧、そっから動くな!」
「動くなっつったって今ど、だっ!」

何かがぶつかる衝撃が後押しになってくれたおかげで人形の顔が外れ再び視界に光が戻る。
「おお、取れた!ありがとう!」
青年に対して感謝と歓喜の言葉を挙げる。

先程までいた二階の広間で自分がさっきまでいた位置と特段変わってはいない。
変わっているのは噛み付かれた後の光景だった。

釣鐘が消えて代わりに狸が一匹人形に一撃を見舞っており、鐘本女史の手には見慣れない機械
が収まっている。どうやら先の青年が奪取した相手方の武器らしい。
それに対して自分が今持っているのは・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それと目が合う。不気味な殺戮人形の顔、だがまじまじと見ているとムカツク顔をしていた。
くそうと毒づいて人形の顔を地面に叩きつけると一度弾んで横へと、室内で比較的被害の出ていない
部屋の端へと転がっていく。

そして地面に刺さったサーベルを抜くとやや形状の変わった殺戮人形を見て、鐘本女史の応援に向かおうとする。
だがその矢先、爆発は怒った。何が起きたか理解出来ずにいると部屋の風景が高速で何度となく上下に
逆転し乱回転しながら通り過ぎ行く。

118 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/22 23:52:42 ID:???
「ヤ〜〜〜〜オゥオゥオゥオゥ!」

ヨロイナイトは本場さながらの奇声を発しながら爆風に吹き飛ばされた。
階段で防いだ爆弾を大きく上回る爆発は大量の爆炎と埃を発声させて室内の風景を濁していく。

ボールのように転がったヨロイナイトはそのままごろごろと殺戮人形の元へ転がって行くと
金属同士とは思えない程の軽快な音を立ててぶつかり、そのまま抜けて奥の壁へと激突して漸く止まる。
(余談だがこの時の衝突音は至極自然な重たいものだった)

よく見れば彼の手からサーベルが消えている。人形との衝突時にどうやら相手の足に刺さったようだ。
「ど、どうやら上手く行ったようだな!計画通り!」

乾いた笑い声を出すとヨロイナイトは壁に埋まったまま見栄を張る。実際は相手を運良く
自分の被害の巻き添えにしただけである。

「さあさくら女史!止めを!」
だがそんなことは今は大した問題ではない。鐘本女史に攻撃の要請をすると自分は
めり込んだ壁からなんとか頭だけ外してもう一度部屋を観察する。

負傷した者は何名かいるがまだ欠番は出ていないようだ。だが部屋の中は先の爆発のせいで
煙がもうもうと立ち込めており味方の状況が確認しづらくなってしまっていた。

(どうでもいいけどさっきのはなんだったんだ)(後ろで爆発が)(あの音は爆弾の音だったんだねえ)
(僕はてっきり時計ワニみたいなものだと)(うっかりしてたー)(危ない危ない)

彼らは脳内会議をしながらもう一度体に力を込めて体を動かそうとしたが、抜け出るには
まだ少し時間が掛かりそうだった。

【ヨロイナイト→草汰のおかげで人形の頭部は離れるも床に叩きつけ爆発→吹っ飛ばされる途中で人形と衝突し
サーベルが人形に刺さる→その後壁に激突して埋まる。爆発の煙のせいで部屋の視界が悪化】

119 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/23 01:20:51 ID:???
>>107
金属製の殺戮人形に張り付く紙のヒトガタが十数体。一斉に悪霊の霊気を吸い取っている。
ヒトガタに整えられた白紙…『形代(かたしろ)』と呼ばれるそれは、古くは陰陽師が用いた呪具。
霊媒や神道の儀式において、人の穢れや災いを移し取る身代わりとする他、心霊、神降ろしの依り代としても使われる。
飢え、かつれた餓鬼霊を憑依させた形代。
さしもの強力な悪霊とて、あの数の餓鬼霊に貪られては、霊気が枯渇するまでに大した暇(いとま)も掛かるまい。

しかし、機能不全に陥っていた殺戮人形は、数秒の後、動作を取り戻す。
その身から強力な霊波を迸らせ、体に張り付く紙のヒトガタたちを弾き飛ばした。
千切れた形代が、白い紙片となって、散り散りに空を舞う。

「術を返した?!何だい?あの人形は?!
 ただのカラクリに霊を降ろしただけの安物とは、造りからして違うってかい?」

冬宇子は思わず声を上げた。

たちまち霊気を蘇らせる殺戮人形。
半球状の頭部を虎鋏の如く展開し、背後に組み付く西洋鎧の面を呑み込み、ガチリと食らい付いた。
西洋鎧を口内に捕捉したまま、頭部と二対四本の脚を切り捨てる。
笑顔の仮面の下、隠されていた真の姿が顕になった。―――それは、憤怒の顔を頂く四足歩行の怪物。
長い腕、四つ指の掌を床につき、反動をつけて一気に跳躍。
逃げ回る猫又少女に狙いを定めて飛び掛る。


冬宇子は、物陰に潜み、四足歩行の殺戮人形をじっと見つめた。
目を凝らしてよく見ると、人形の体…その素材自体が独特の霊気を帯びて発光しているのが判る。
恐らく精錬段階から呪言やタントラを染みこませて作り上げた、呪法人形専用の純製金属。
それ自体に呪法効果を持つ金属と、乗り移った悪霊が、互いに力を増幅しあって霊気を高めている。
人形に悪霊を縛りつける呪法も、かなり高度なものが施されているようだ。
しがない流し巫女の冬宇子にとって、軽く破れる術ではない。

「祝詞の奏上だけで簡単に祓える相手じゃなさそうだ…面倒だが、色々と"支度"が要るみたいだねぇ。」

冬宇子は左手にぶら下げていた風呂敷包みを床に下ろした。
中のものは、五寸(15cm)四方の木箱に、麻縄、その他諸々。
麻縄に半紙の紙垂を括りつけ、円形を描いて床に置く。

120 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/23 01:33:01 ID:???
と、その時、背後に響く悲壮な男の叫び声。

> 「いけない!冬宇子、後ろだ!」

その声に引き摺られるように、冬宇子は振り返った。
鋭利な切っ先を剥き出して、飛来するステッキが目に映る。
祝詞に精神を集中していた為、対処が一瞬遅れた。

気づいた時は既に遅し。もう避ける暇は無い。
今にも胸に刺さらんと迫るステッキ。冬宇子は体を斜に傾け、右腕を突き出してステッキの柄を弾いた。
切っ先が前腕を掠め、着物の袖が一文字に裂ける。傷口から流れる赤い血が、だらりと下げた腕の指先に滴った。

床に落ちたステッキが、カタカタと音を立てて宙に浮き、再び切っ先を冬宇子に定める。
物理法則を無視したその動き…明らかに、何らかの法力を帯びている。いや、西洋風に"魔力"…と呼ぶべきか。

冬宇子は身を潜めていた衝立(ついたて)の影から飛び出し、部屋の中を駆けた。
走る冬宇子の脳裏にチラと、警告を知らせた男の顔が浮かんだ。あの男、未だ一応命を繋いでいるらしい。
衝立を突き破ったステッキが、射矢の如くに空を切り、屈めた頭上を掠めて飛んだ。
ステッキは空中で旋回し、三度め、切っ先を冬宇子に向けた。

「何だい?この棒切れは?!誰がこんな術を?!まったく!!」

標的を自動追尾する呪法。かなり高度な技術と魔力が必要だ。
冬宇子の身を貫くまで、ステッキは永遠に飛来し続けるだろう。

冬宇子が助かる術は二つ。
ステッキを原型無きまでに破壊するか、ステッキに術を施した術士を見定め、その者を倒して魔力を絶つか。
然れど、ステッキを避けて逃げ回りながら、その二つのどちらをこなすも至難の業。

冬宇子は、懐から形代を取り出し、その一枚に息を吹きかけた。
此れすなわち、身代わりの作成。
走りながら形代を背後に放る。その白い紙のヒトガタは、忽ち"もう一人の冬宇子"に姿を変えた。
ステッキが、身代わりの冬宇子の胸を貫く。
胸に穴の空いた形代が宙を漂い、ステッキがカランと音を立てて床に落ちた。

振り返り、その様を見届けた冬宇子は、足を止めようとして何かに躓き、すっ転んだ。

足元には二人の男―――葦高龍次と黒マントの下に白衣の怪人。
黒マント男の体から僅かに魔力の残渣が漂う。それはステッキから感じたものと同質―――

「へえ……あんたかい術士は?よくも女の細腕を傷つけておくれだねぇ?」

冬宇子は懐に差し込んだ手の中、懐刀を握りしめて、男を見据えた。
飄々とした男。醸し出す魔力も胆力も、どこか韜晦の気配が感じられる。
負傷した利き腕で渡り合える相手とも思えない。

背後で響く爆音。部屋中に立ち込める煙。
冬宇子は着物の下で冷や汗が流れるのを感じた。

【殺戮人形の除霊準備中にステッキから飛来→形代で身代わりを作ってステッキを回避】
【ステッキの魔力は自動追跡機能ありとしてしまいました】
【ステッキを回避後、森岡さんに投げ飛ばされていた葦高センセと侯爵につまづいて転ぶ】
【狩尾侯爵にちょっと絡んでみました。何をしたわけではないので、あとは葦高センセにおまかせ】

121 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/23 12:20:39 ID:???
聞こえる音に違和感を感じ、さくらは後ろを振り返りました。
そこでは機械人形がヨロイナイトに組み敷かれ、人形の頭から巨大な砲弾が放たれようとしています。

「ヨロイナイトさん!?」

しかし、さくらか声を上げた瞬間に、人形は力を失いました。
ホッとしたのも束の間、力を取り戻した機械人形は、頭と体を分裂させます。
四足歩行の化け物機械は、その天辺に張り付けられた顔で、さくらを睨みました。

「な、何よ…私は負けないわよ…」

さくらの言葉を皮切りに、化け物機械が飛び、殴りかかります。
異様なのは、その俊敏さ。
猫の素早さを持つさくらでさえも、紙一重で避け続ける有り様です。

「にゃっ! うぎゃっ! な、何なのこいつ! 気持ち! 悪い!」
(執拗に、追い掛けて、顔ばかり、狙って来るから! 反撃、なんて、出来ない!)

悲鳴を上げつつ避けている最中、何者かの影が化け物の後ろに回り込みます。
そして、その丸い影から分離人形へ、拳が放たれました。

「てあああああ!震える心!燃え尽きるほど熱く!刻むは血液の音頭!!
狢式仙波失踪!!!!」
「え!? みどりさん!?」

先程まで見ていた姿より遥かに丸いみどりに驚いていると、草汰の声と共に何かが飛来してきました。
幸いにもみどりが攻撃してくれたお陰で、機械人形はもがくだけです。
さくらに、物体と言葉、その両方を受け取る余裕ができました。

「ハンドルを回せば電気が出る!痺れさせてやれ!!」
「はい! ありがとう、草汰さん!」

草汰の言葉に頷くと、さくらは蜘蛛人形に踵落としを喰らわせます。
そしてみどりを庇うように体を回転させ、ハンドルに手を掛けました。

「乙女の顔になんてことしようとしたの!? そんな悪い人形さんはお仕置きです!」

取り憑いた怨霊が、怨言をあげさくらに肉薄します。
しかしさくらは落ち着いて、ハンドルを回しました。

「壊れちゃいなさい!」

微かな軋めきさえ聞こえる距離の中、電撃が放たれます。
人形は、避ける術を持たないでしょう。



【さくら:みどりを庇うように前に→機械人形(体)に電撃】
【機械人形に憑いてる霊は性格が悪いようだ】

122 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/06/23 13:11:36 ID:???
振り下ろした軍刀から伝わったのは肉を斬る感触ではない。鋼を打ちつけたような強い衝撃。手の痺れ。
銃で止められた。彼は視界を通してそれを確認すると、すぐさま軍刀を引き第二撃の構えに入る。
内心、彼は舌打ちをする。刃零れなどしたら大変ですのに――と。
致命傷は与えられなかったが、おそらくこの軽機関銃はもう使用することは出来まい。
内部機構に歪みが発生していてもおかしくはない。暴発の危険性ぐらい、この男もわかるだろう。

銃弾は当たったようだが、これも体した傷ではないようだ。それは仕方ない、彼も思う。
自分の銃捌きなど素人に毛が生えたようなものであると分かっているから、彼は失望もしない。
抑も銃撃で確実に倒したいのなら二発撃つのがセオリーだ。威嚇射撃程度の意味合いでしかない。

ともかく、仕留められなかった。態々軽機関銃の銃弾を全身に受けてまで威圧をしたのも、一度で仕留めるためだ。
事実、その身体に受け続けた銃弾は彼の体力を確実に奪っていく。血液の流出もそう簡単には止まらない。
単純に、被害は男より彼の方が大きいのだ。戦闘の長期化は彼にとっては不利にしか働かない。

(さて……どうしますか)

と、考えるのとほぼ同時だったろうか。彼は前に進む。二撃を食らわせるために。
銃弾を受けたのだ、そう俊敏には動けないだろう。次は必ず仕留める。そう踏み出したところで。
視界に入ってくる細長い物体。
男が投げつけた軽機関銃だと理解した上で、確実に軍刀で弾き飛ばす。そこに表れるタイムラグ。
もう一度男に視線を集中させると、彼は歩みを止める他なかった。

(散弾銃!?)

射程距離は長くないが、このような室内戦など――近距離戦闘では、その有効性は計り知れない。
基本的には猟銃だ、その散弾は動いている獲物を仕留めやすいようになっている。避けても避けきれない。
軽機関銃とは違うのだ、威力も。機関銃では猛獣も殺せない、だから彼もその身に受けた。だが……。

男は殺すことも微塵も厭わぬ言葉を置き土産にして、彼に照準を合わせて引き金に指をかける。
彼は一歩も動けない。
脳も目も、胴も腕も手も脚も爪先の先まで、全てが理解している。ここで死ぬのだろうと。

123 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/06/23 13:14:50 ID:???
瞳を閉じてしまいそうになった時にふと脳裏にフラッシュバックしたのは――――
笑顔。
最後に会った時、涙を流さず泣いていた笑顔。
もう長いこと会っていないが――きっと、今でも信じて待ってくれているはずだ。
なのに今一瞬諦めなかったか?死を受け入れようとしなかったか?
あの人を残して、彼は死なない、死ねない、死に向かえない。

彼は必死に体を捩る。少しでも被害を減らすために。全弾直撃などしなければ、まだ永らえる望みはある。
その場に転がるようにしたところで、銃声が響く。だが、その散弾は大部分が明後日の方向へと。
撃つ直前、声が聞こえたのは確かだったようだ。何かイレギュラーがあり、照準を定めきれなかったのだろう。

カス当たりで脇腹が軽くなってしまったが、どうやら――まだ彼は生きていられるようだ。

彼は立ち上がると、今日何度目になるだろうか、軍刀を構える。
気づけば男の背後に壮年の女性の姿。何を言ってるのかよくわからないが、攻撃しようとしているのだろうか?
ならばと、彼は斬撃から刺突に切り替える。あまり大袈裟なことをして、邪魔をするつもりはない。

狙うのは右腕。この男は両手でないと扱えぬような重火器ばかりを扱っていた。
片手を封じるだけでもかなりの行動の制限が出来るはずだ。

「貴方が譲れぬ信念をお持ちであるように、私にだって譲れないものは御座います。
 ですから私はここで死ぬ訳には参りませんので――ご容赦を」

かつ、彼はその体で男の視界を制限する。次にこの男が何をしようと、自らがそれを受けるように。
体はまだ動く。死なない程度に、まだ壁になれるだろう。

「やはり私には――この肉体ぐらいしか、誇るものは持ち合わせていないものでして」

【首謀者の男の右腕に向かって正確な刺突】

124 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/23 19:12:03 ID:???
>「……へえ、大した馬鹿力だね。ナナフシみたいな体型なのに。
 筋繊維が特別なのかな?それとも東洋の『内功』って奴かい?
 いやぁ、どちらにしても興味深いよね。特に内功はいずれ勉強したいと思ってたんだよねぇ」
「なんのこと……うわっ!!」

狩尾の言った言葉に僅かに反応する。
その瞬間に、浮遊感、同時に叩き付けられる感覚。

>「魔術と科学の申し子は、力の前に圧倒される。それは安直ってものだよ。
 柔術ってのはつまり、力の流れと人体の構造を知り、操る事だ。
 つまり立派な科学の領域なのさ」
「……なるほど。これは一本取られましたね」

昔より体力も落ちていたようで、思うような力も出なかった。
過信していたことが、自分の敗因。

>「それにしても、何と言うか……君も哀れな奴だねぇ。同情するよ。
 君も僕も、生まれてくる時代を、或いは場所を間違えたのさ。
 亜米利加を見てごらん。ここ十年で人口は百万人近く増えている。
 もちろん社会の成長に伴うものもあるけど、それ以上に大勢の移民がいたからさ。
 きっと一世紀もしない内に、亜米利加は白人黒人、様々な人種が混ざり合って生きる国になるよ。
 いや、それどころか黒人や女性が大統領になっているかもしれないね。はは、流石にそれはありえないかな?」
>「……どうだい?君も僕達の、華涅神崇団の仲間になってみないかい?
 僕達なら、創ってあげられるよ。誰も君を否定しないような、『新世界』を。
 そう言えば犠牲がどうのと言っていたよね?だけど、君だって傷付けられた、犠牲者の筈だ。
 違うかい?長い目で見れば……この活動はより多くの人を救うんだよ。分かるだろう?」

頭上から声がする。
どうやら、森岡を誘っているらしい。
チラリと、森岡の方を見れば、森岡が生気の無い目をして、ふらりとこちらに歩いてくる。

「(ん、ちょっとこれは、まずいですね…。いっその事、関節でも外して逃れましょうか…)」

自分の関節を外すことなどすぐにできる。
けれど、森岡の方から声が聞こえてきて、少し驚いた。

>「『新世界』に『華涅神崇団』、か。響きは悪くねえかもな。」

近すぎて、森岡の表情がよくわからない。

>「――――って嘘だよバァァァアアカ!!」

その瞬間、狩尾ごと、勢いよく宙に投げられる!
その流れを利用し、今度は逆に地面に叩き付けられるのと同時に龍次が狩尾を組み伏せた。
両手を一掴みにして肩口の方へ。少しでも力を加えようものなら簡単に関節は外れるだろう。
膝は首もとへ。気道が塞がらない程度にのせた。
だが、それも束の間、爆発が訪れる。
龍次は体勢を崩し、床の上をころがった。

「い…たたた。」

強かに打った腰をさすりながら、龍次は起きあがった。

【狩尾侯爵を一時拘束するも、爆発により失敗】

125 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/06/26 14:21:17 ID:???
>「俺の背中、預けたぜ。」

草汰の漏らした言葉を聞き、雪生はちらとそちらの方向へ視線を向けた。
一点の濁りもない気迫。一歩進むごとに更に力強くなっていく気さえする。

>「多くの人を救済するだの新世界を創るだの、聞いてりゃー好き勝手ほざきやがってよぉ。
> そんなチンケな発電機とあんな趣味悪ィお人形さんで実現できんなら、こんなに苦労しねーっつの。」

草汰は、逆に狩尾に組み伏せられ形勢が逆転していた葦高ごと宙へ放り投げた。
空中では流石の狩尾も身動きを取る事は難しい、狙い撃ちするチャンス。
しかし、今それを行う事は叶わない。

>「『……俺ァ冒険者だ!自分の世界は自分で切り開く!!』」

玉響の下へ向かう草汰の背後に、岸が刻んだ筈のステッキが迫っていたからだ。
切断面は鋭利に尖っていて当たり所が悪ければもちろん即死もあり得る。

「フレーム内の被写体に俺の弾丸は容赦しねえ!」

二度撃鉄が弾丸を叩いた。動くステッキに向かって狂いなく空中を滑る。
一射目でステッキの方向を逸らし、二射目がゴミ箱行き決定の折れたステッキを床へ導く。

雪生は即座に翻る。狩尾と対峙するは倉橋。
葦高は今起き上がろうとしているが、その間倉橋が狩尾に攻撃される可能性は十二分にある。

つーか無鉄砲すぎんだろ。
得物は持ってるみてーだが銀のセンセがボコられるくれーには強いんだぞ。
や、もちろん俺は鉄砲持ってるけどな。

牽制すべく、照準を狩尾の脚に定めて銃口を向け引き鉄に力を込めた。
………が音がカチッカチと虚しく鳴るのみで、弾丸は発射されない。
弾切れというまさかの凡ミス。

手早く弾込めを済ませ、再び構えるが何かが床をごろごろと転がってくる。

「人形の─────頭、か?」

視線を転がってくる不気味な頭に移したその瞬間。
衝撃が雪生の頬を撫で、床に叩きつけられた。察するに先の頭のようなモノが爆発したらしい。
幸い爆発した“頭”と距離が離れていたお陰で大した怪我はなかった。
しかし運の悪い事に、爆発で巻き上がった埃が雪生の目に入ってらしく前が全く見えない。

(えーーーい!なんなんださっきからッ!?今年の桜は厄年か!!)

なんとか膝をついた状態で銃を握り、狩尾のいる方向に当てずっぽうに五度の発砲。
しかし銃弾はてんででたらめな軌道だ。当たる気がしない。

少しでも牽制になれば、と思ったが、どうだろうか。まあ、何もしないよりはマシだ。


【ステッキ撃ち落す。爆発で巻き上がった埃で目が、目がァーーッ
 狩尾さんのいるっぽいところに適当に発砲。多分当たらない】

126 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/26 15:36:32 ID:???
>>199-120>>124の調整】
鋭利な断面を冬宇子に定めて、折れたステッキの追撃は続く。
飛来するステッキを避け、全速力で逃走しながら、冬宇子はヒトガタの白紙を背後に放った。
形代(かたしろ)で作りあげた冬宇子の身代わりが現れ――その胸を貫いたステッキが、カランと音を立てて床に落ちる。
床の上、少し転がり止るステッキ。
操り糸を切られた手品の小道具の如きもので、もう不可思議な動きを見せることはない。

振り返り、その様を見届けた冬宇子。
ほっと溜め息をつき、足を止めようとしたその途端、"何か"に蹴っ躓いて、前のめりに体勢を崩した。
一瞬、足元に移した視界に入ったのは、縺れ合って床に転がる二人の男―――
そして転倒。

「いっ……痛ァ〜いっっ!
 全く!どん臭い男らだね!女が走って来たら避けるくらいのことが出来ないのかい?!」

冬宇子は押しつぶした男に向かって悪態を突いた。
半身を起こした胸の下、仰向けに倒れているのは葦高龍次。
転倒時に頭でも打ったのか、ピクリとも動かない。

「ちょ…ちょっとセンセ…!あんた大丈夫かい?」

葦高を揺する冬宇子は、視界の端にうっそりと立ち上がる黒い影を捉えて、釣られるように目を向けた。

冬宇子たちのすぐ斜め横、
理学者の着る白衣の上に黒いマントを纏った男が、こちらを見下ろし立っている。
男の体から、僅かに魔力の残渣が立ち昇る―――それはステッキから感じたものと同質の。
男は視線に皮肉を滲ませて、冬宇子を見つめている。

「へえ……あんたかい術士は?よくも女の細腕を傷つけておくれだねぇ?」

冬宇子は男をねめつける。
懐に右手を差し込み、男から視線を外さず、ゆっくりと立ち上がった。
殺気は感じられない。体から漂う魔力も微かで静的だ。
しかし、どうにも妙な男だ。冬宇子には、自身がどう動こうとも、男が攻撃を食らう様を想像することができなかった。

男を見据える冬宇子の耳に、微かな衣擦れの音が聞こえた。
音は背後の床上、寝そべる葦高のあたりから―――どうやら意識を取り戻しているらしい。

冬宇子は懐の内に懐剣を握り締めて、男に狙いを定めるように腰を落とし、じわりと摺り足を踏み出す。
本気で仕掛けるつもりは無かった。葦高が体勢を整えるまでの間、男の注意を引き付けていられれば良い。

戦いの騒音を背景に、男女の間を張り詰めた空気が漂う。

――――その刹那、男の背後に葦高が現れる。死角を巧みに選んで。音も気配も無く動いて。

肩に手刀を落とし、滑らかな動作で前方に回り込み、男の両手を掴み、肩口にねじ上げる。
軽く仰け反った男の足を右足で払い、両手を固定したまま、床に叩き付けた男の咽元に膝を乗せた。
動きを止めた葦高は、穏やかな笑みを浮かべて顔を上げる。

「鮮やかなお手並みだねぇ。さすがは銀持ちのセンセだ。」

その視線に微笑を返し、冬宇子は葦高に歩み寄ろうとした。

丁度その折、床上を大きな丸い物が転がり、葦高たちの近くの壁に当たって止まった。
ヨロイナイトに投げ捨てられた人形の頭部だ。
人形の頭の中では、爆発まで、あと数秒の時が刻まれていた。

【時間が遡ってすいません。倉橋と葦高先生の調整部分を書き出してみました】
【雪男さんのレスの一つ前の時間軸になります】

127 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/26 17:47:43 ID:???
>>125
そして爆発―――!
建物を震わす大轟音。

爆風に煽られながら、冬宇子は咄嗟に右手で印を結び呪言を唱えた。

「鎮大災伏!」

爆発で飛び散った壁の破片が、冬宇子を避けて、弾かれて落ちる。
まるで冬宇子を中心に、わたり3尺(直径1m)ほどの、目に見えぬ円蓋(ドーム)でも築かれているかのようだ。
これは、物理的衝撃を防ぐ、法力を用いた防護壁。
只し印を解いてしまえば、たちどころに壁は消えてしまう。

爆発で崩れた土壁が塵となって舞い上がり、もうもうとした土煙が、あたり一面の視界を遮っている。
至近距離で爆発を受けた葦高と黒マントの姿は、煙の中に隠されて見えない。

冬宇子は、少し離れた位置で拳銃をぶっ放す男の側に歩み寄った。
銃把を握る男の腕に、手を添えて制止の意思を示す。

「弾の無駄だよ兄さん。センセに当たったらどうすんだい?
 闇雲に撃って当たる相手じゃァないよ。この壁の中にいりゃ塵は防げる。
 しっかり目を開けて煙が晴れる一瞬を狙いな!標的は確実にあの煙の中にいるんだからね。」

目を瞬かせている男の顔を見つめて、冬宇子は言った。

そうして懐から取り出した数枚の形代に、右腕の傷口から流れる血を付けて、宙にばら撒いた。
冬宇子の精気を分け与えた形代が、土煙に向かって飛んで行く。
形代に触れたものの位置を、冬宇子は感じ取ることができるのだ。
首尾よく形代が、黒マントに張り付いたならば、
煙が晴れる前であっても、横の男(桜雪生)に位置を示して、正確な銃撃を仕掛けることが可能だろう。
仮に銃撃はできずとも、戦いを有利に運ぶ助けになるであろう。


【雪男さんに寄り添って見えない防護壁で守る(塵・埃も防げます)】
【防護壁の中でお目目を落ち着かせて、煙が晴れた途端に狩尾侯爵を狙うようにアドバイス】

128 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/28 19:59:15 ID:???
【→岸、玉響】

散弾は、殆どが外れた。仕留めるには至らなかった。
次弾装填にはボルトを操作する必要がある。
だが岸は既に、死の淵にしがみ付いているような有様だ。
銃床を右肩に押し付け、ボルトを掴んだ左腕に力を込める。

>「貴方が譲れぬ信念をお持ちであるように、私にだって譲れないものは御座います。
  ですから私はここで死ぬ訳には参りませんので――ご容赦を」

だが、岸の言葉に一瞬、多賀谷の動きが止まった。
死ぬ訳にはいかない。死にたくない。死ねない理由がある。
そのような当たり前の言葉に、多賀谷は逡巡を抱いてしまった。
銃を突きつけて、退けと警告して、尚も肉薄してきた。
だからこそ撃てた。死をも厭わない軍人、組織の歯車が相手ならばと。
けれども違った。岸は軍人である以前に――正確には軍人ですらないのだが、一人の人間だった。
その事を認識してしまったが故に、多賀谷は撃てない。

>「おまいさん。さっき女の名前呼んだじゃろ?まだあの女のことが忘れられにゃいみたいだねぇ。
 まだ未練たらたらなのかえ。ん、どうじゃ?ほーじゃろ?おねいさんが良いこと教えてあげよか?
 どんなに愛しているかを話すことができるのは、すこしも愛してないからにゃんだってぇ!!」

残像すら見える身のこなし、迷いに囚われた多賀谷に反応など出来ない。
後方からの麻酔針、前方からは白刃が一閃。
多賀谷が取れる行動は、せめて針を左腕で防御する事だけだった。
右手が貫かれ、鮮血が溢れる。左腕に刺さった針から、睡魔が全身を駆け巡る。
多賀谷が崩れ落ちて、膝を突いた。
首ではなく腕で受けた事と、右手の激痛が理由で即座に眠りに落ちる事はなかった。
が、両手は動かず、足腰も立たない。最早何も出来る事はなかった。

「ふ……ふふ、どうやら私は……君を見誤っていたようだ、軍人君。
 ……いや、この呼び方は正しくないね。君は軍人ではなく、一人の信念を持つ人間だった」

敗北を悟り、しかし多賀谷は笑っていた。

「だけど……これでいいんだ。この事件を皮切りに、きっとデモクラシーの炎は更に広がる。良くも悪くも、だ」

清々しさの中に、不敵さを潜ませた笑みだ。

「けれど……悪しき炎はいつか潰えるものだ。私が君達に敗北したようにね」

眠気に意識を食い荒らされる中で、右手で拳を固める痛みで目を覚まして、多賀谷は語り続ける。

「そうすれば……最後には素晴らしいものだけが残る。純粋な、自由への意志だけが」

語り終えると多賀谷は満足気に一度目を閉じ、しかし玉響を振り返る。

129 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/28 19:59:36 ID:???
「あなたには……少し意地の悪い質問をさせて頂くよ。
 あなたは、言葉多きは愛少なきと言ったが……ならばどうすれば愛を示せるだろうか?
 持てる富全てを捧げれば?接吻を交わし体を重ねれば?命さえもを投げ出せば?
 それとも、その全てを敢えてしない事こそが愛なのか?
 ……どれも、それが愛の証左とは言えないだろう。劣情や、憧憬や、恩義や、勇気。
 愛がなくとも、それらを行う事は出来るのだから」

玉響を見上げ、視線を逸らさずに、問い掛ける。

「さあ、教えてくれ。人はどうすれば、己の愛を示す事が出来ると言うのか」

一瞬の沈黙。直後に微かな笑いを零し、多賀谷が再び口を開く。

「……そんな事は、出来はしないだろう。愛の形は人それぞれで、
 私達が出来るのはただ、それを信じる事だけだ。
 ……きっと、あなたのおどけた語り口も、その中に潜む鋭い針も、
 齢を重ねたあなただからこその、愛なのだろう」

意図せずも最大限の侮辱を潜ませた事には気付かず、多賀谷は笑みを一層色濃くした。

「だから、私は信じるよ。彼女もきっと、私を愛してくれていたに違いないとね」

――そんな訳はない。
それくらい、多賀谷にも分かっていた。
そして分かっていたからこそ、多賀谷には『敗北』がなかった。
勝っても負けても、デモクラシーの炎は燃え広がっていく。
勝っても負けても、倉橋の愛を失う事はない。元から持ってなどいないのだから。
多賀谷の店も、元より自分の物だとと言える物ではない。
どう転んでも、自分には失う物などなかった。
ただ一瞬間でもいいから激しく燃えて、何かを残したかった。
その何かが、見にくい焦げ付きではなく、新たな時代を照らす炎ならば――上出来過ぎるくらいだ。
そう自分に言い聞かせながら、多賀谷は意識を睡魔に委ねた。

130 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/28 20:00:07 ID:???
【→さくら、みどり、ヨロイナイト】

殺戮人形は執拗にさくらを追い回す。
だが、その拳は幾度突き出しても彼女の顔面を捉えられない。
ただ床や、家具や、壁を抉り、破壊するばかりだ。
四本の足を捨てた事で、直線的な打撃しか繰り出せないのだ。
対して相手は猫の俊敏性、柔軟性を持つさくらだ。
追いつける道理はない――今はまだ。
さくらが猫又の子であるが故の柔軟性を持っているように、
殺戮人形には機械であり悪霊であるが故の、疲労を知らない体がある。
いずれ、さくらの体力には限界が来る。
それが終わりの時だ。殺戮人形はただ、その時を待てばいい。

――さくらが、たった一人で戦っているのならば、だ。

>「てあああああ!震える心!燃え尽きるほど熱く!刻むは血液の音頭!!
 狢式仙波失踪!!!!」

不意を突いた、背後からの一撃。
下らないほど軽い打突。

>「いだーーーー!拳が砕けたあああ!!く〜〜〜『でも』通った!」

――だが直後に、熱く脈動する力が全身を駆け巡る。
悪霊が失った生命の波動、相反するエネルギー。
苦悶の声が響く。消滅の最中、しかし悪霊は最期の悪意を思い描く。
自分が失われるからこそ訪れる、最悪の結末。
これで仙術の使い手、みどりはただの仔狸に成り果てた。
殺戮人形が両腕を広げる。殴るのではなく、自身が一つの砲弾となり、表面積を広げての突撃。
意志を失い、ただ目の前の標的に放たれる鉄塊を、止める術はない。
内蔵された歯車が噛み合い、ばね仕掛けが力を引き絞る。

>「ヤ〜〜〜〜オゥオゥオゥオゥ!」

不意に視野の外から衝撃――大した事はない。
問題なく殺傷を続行しようとして、しかし後ろ足の片方が動かなかった。
首を回して異常を確認、脚部にサーベルが刺さり、床に縫い付けられていた。

>「ど、どうやら上手く行ったようだな!計画通り!」

視野外からのヨロイナイトの声。
だが怒りを抱く暇すらなく前方で物音、向き直った。
さくらが狩尾の発明品、摩擦起電器を拾い上げていた。

「乙女の顔になんてことしようとしたの!? そんな悪い人形さんはお仕置きです!」

怒りの声を張り上げながら、さくらは摩擦起電器のハンドルを回す。
抜き差しならない状況で、殺戮人形はただ怨嗟の叫び声を上げた。

「壊れちゃいなさい!」

空気が弾ける音を伴って、眩い稲光が繰り出された。避ける術はない。
機械仕掛けの体を電撃が駆け抜け、蹂躙していく。
悪霊の断末魔の叫びが響き渡る。
意志を持たない機械が死を迎える悲鳴、外部装甲が弾け飛び、螺子や歯車が四散する。
それらの音と共に殺戮人形は倒れ、完全に動かなくなった。

131 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/28 20:00:28 ID:???
【→森岡、葦高、雪生、倉橋】



>「『新世界』に『華涅神崇団』、か。響きは悪くねえかもな。」

「あぁ、そうとも。時代が、世界が僕達を嫌うのなら……僕達が世界を変えればいいんだ」

狩尾侯爵はこの時、森岡の言葉を心から信じていた。
科学と魔術、理知を司る者として保険は張り巡らせはしたが、信認は本物だった。
苦境に生まれたからこそ、狩尾は強く同志を求めていたのだ。
自分と同じ境遇にいる森岡ならば、自分の言う事を分かってくれるに違いないと確信していた。

故に、森岡の手が不意に力を強めた時、狩尾の思考回路は一瞬凍り付いた。

>「――――って嘘だよバァァァアアカ!!」

そのまま振り解く暇も、間接を捻り上げる暇もなく、投げ飛ばされた。

>「多くの人を救済するだの新世界を創るだの、聞いてりゃー好き勝手ほざきやがってよぉ。
  そんなチンケな発電機とあんな趣味悪ィお人形さんで実現できんなら、こんなに苦労しねーっつの。」

放り投げられて初めて、狩尾は正常な思考を取り戻す。
辛うじて受身を取って、立ち上がる。
そして浮遊させていたステッキを森岡へと射掛けた。
尖鋭なステッキは宙を猛進して、

>「フレーム内の被写体に俺の弾丸は容赦しねえ!」

しかし精緻を極める雪生の銃弾に撃ち落とされ、粉々になった。
――同時に、胸に突き刺さる鋭い痛み。

>「へえ……あんたかい術士は?よくも女の細腕を傷つけておくれだねぇ?」

苦痛に歪もうとする顔に無理矢理平静を被せて、振り返る。
微かな霊力を醸す見目麗しい妙齢の女、倉橋冬宇子だ。

「……なるほど、そう言えば呪殺は元々こちらの方が盛況だったね。
 当然、打破の術も持ち合わせているって事かい」

何気ない動作で、黒のマントを翻し、体に巻き付ける。
まるで漆黒の内側に鋭い刃のような奥の手を秘めていると見せかける。
白衣に滲む、鮮血を隠す為に。
呪法が失敗した際に起きる『返り(かやり)の風』だ。
倉橋を狙ったステッキは依代を貫いたが、成功とは言えない。
雪生に撃ち落とされた方に関しては、完全な失敗だ。
結果、鋭利な刃で胸を貫かれる激痛が狩尾に返された。

132 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/28 20:01:02 ID:???
葦高が起き上がる。組み付かれた。
返りの風に苦しむ狩尾に、技を返す事など出来る筈がない。
組み敷かれて――しかし直後に爆発。爆風が葦高を狩尾から引き剥がした。
とは言え、状況が好転した訳ではない。
周囲は見てみれば殺戮人形は破壊され、更に首謀者――多賀谷も敗北していた。

「……参ったなぁ。こんな筈じゃなかったんだけどね」

残るは自分一人。対する冒険者達は未だ全員が立っている。

「そのカラクリ人形、壊しちゃったのかい?勿体無いなぁ。出来れば持ち帰りたかったんだけど」

まだ帰るつもりでいる事を、余裕を振り撒く。
粉塵が晴れていく中、狩尾は立ち上がり、マントの埃を払った。
ばら撒かれた形代は、あえてそのまま残していた。
当然銃弾が襲い来るだろう。が、狩尾は至って平静でいた。

「……そうそう、そこのデカブツ君。君さ、さっき言ったよね。
 僕の発明品はチンケで、誰かを救ったり、世界を変えたりは出来ないって」

右手をマントの内側に潜らせて、小さな箱を取り出した。
手のひらに収まる大きさで、真ん中に小さな突起があるだけの、薄い直方体。

「だけど、それは間違いさ。まずあのカラクリは僕の発明品じゃないし。
 僕の発明品も断じてチンケじゃない。世界だって変えられる。そんな事を言われるのはとても心外だよ」

軽い口調とは裏腹に、薄氷の刃を思わせるほどに研ぎ澄ました狩尾の眼光が、森岡を貫く。
同時に、狩尾が取り出した箱の突起を押し込んだ。

「人を救えないって事だけは、大正解だけどね」

瞬間、狩尾を中心に全ての鉄が弾き飛ばされた。
鉛の銃弾は逸らせないが、問題ない。
銃身そのものに、保持出来ないほどの力が加えられるのだから。
超電磁力――この世界の人間には決して理解されない、科学の粋。
もう一度突起を押し直すと、不可視の力はたちまち霧散した。

「……この技術を、この時代の人間に委ねたとしよう。
 さて、何が出来るかな?精々、砲弾を飛ばすとか、その程度だろう。
 一世紀後の人間なら使いこなせるだろうか……無理だろうね。
 精々、東日本を不毛の地に変えてしまうのが関の山だろう」

悲しげな目付きと溜息。

「分かるかい?僕はこの時代に生まれるべきじゃなかった。
 僕の発明は、この時代には戦乱しかもたらせないんだからね。
 だったら……僕はどうしたらいい?頭の中に矢継ぎ早と浮かび上がる文字の羅列から目を逸らして、
 児戯に等しいお勉学と手を繋ぎながら死を迎えればいいのかな?」

皮肉を込めた嘲笑。

「僕はそんなの、御免だよ。僕は変わらない。変わるべきは、世界の方なんだ」

左手で、懐から小さな球体を取り出した。
天井へと放り投げる――最初に使った爆弾とは比べ物にならない爆発。
天井に巨大な穴が穿たれる。顕になった空には、小さな影が見えた。
飛行船だ。狩尾の体が浮かび上がる。糸も紐もなしに。

133 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/06/28 20:04:12 ID:???
「ウドの大木君、君の名前を聞いておくよ。……君はきっと、僕らの同志になる。
 いや、なるべきなんだ。それが君の一番の幸せなんだよ」

森岡に真摯な眼差しを向けて、狩尾は尋ねた。
そして次に、さくらへと視線を流す。

「その摩擦起電器は、君にプレゼントしよう。
 そこのカラクリが、可愛らしいお嬢さんに無礼を働いたお詫びにね。
 好きに扱ってくれて構わないけど……決して、世に出回らせるような事はしないでおくれよ」

一瞬だけ覗かせる冷徹な視線。
無用な争いの種を撒くような真似をすれば、容赦はしない。
目的、新世界の創造に関係のない闘争は、狩尾の望むところではないのだから。

「……さて、それではまた会おうか。冒険者諸君。
 新世界を創る僕ら『華涅神崇団』と、未知の世界を切り開く君達『冒険者』。
 いずれまた、ぶつかり合う時が来るに違いない。その時こそ……」

屋根に開いた穴の上、大上段から語りかける。
と、上空から、一向に上がってこない狩尾に催促の縄梯子が降ろされた。
無言で、狩尾がそれを掴んだ。飛行船が動き出す。
屋敷が遠ざかっていく中、狩尾は細めた双眸で冒険者達を見下ろしていた。

【殺戮人形と多賀谷は戦闘不能。狩尾だけにもう1ターン使うのもアレなので逃げさせて頂きました
 百目鬼さんには次のクエストの最初に絡ませて頂きます】












――やぁ、お疲れさん。ど派手にやってくれたね、まったく。
まぁどうせ金持ちのお屋敷だし、来週には元通りになってるだろうさ。
ともあれ、これで君らの仕事はおしまいだ。
犯人達はこちらが引き取るから、あとは君らは嘆願所で報酬を受け取るだけだ。
……あぁ、そうそう、ちょっとこっちに来なよ。
今回の事件、色々きな臭いみたいだけどさ。知りたい事があったら少しは融通してやれるから覚えときな。
上も大体目を瞑ってくれるしね。あと……この押収した銃と刀剣類、欲しかったら持ってっていいよ。
その方が、騙された馬鹿な連中の罪が軽くなるだろうからね。あ、でも売りに出すのは駄目だからな!

【屋敷前→受願所】

――ようこそいらっしゃいました。こちらは……あぁ、あなた達ですか。
どうやら最初の一歩で躓くような事はなかったようですね。
こちらが報酬になります。嘆願者は警察ですからね、それなりの額ですよ。
少ないと言う事はありませんが、だからと言って多くもない、本当にそれなりです。
……ちなみに受願所では報酬の分配には関与致しませんので悪しからず。
一応、均等分配を推奨してはおりますが、それでは納得の行かない方もいらっしゃるでしょうから。
また報酬を持ち逃げされたなどと申されましても、対応致しかねますのでご留意を。
それではまたのお越しを、お待ちしております。

134 :名無しさん :11/06/28 23:15:10 ID:???
自分を庇うように立つさくら
暴れる殺戮人形
そしてまばゆい電撃の光

それが仙波みどりの屋敷で見た最後の光景だった
力を使い果たし、人化の変化すら解けてしまった子狸が意識を保ってはいられなかったのだ
尤も、意識を保てていたとしても、狩尾の話など理解もできず、事後処理もできたものでもない
やったとしても崩壊しかけた床に止めを刺すか、地下倉庫でかろうじて無事だった収集物を玩具にして傷物にするのが関の山だっただろう
仙波みどりが屋敷に与えた損傷を考えれば今更な気もするが、それでもマシだったろう


【受願所】
受願所に戻った一行のなかに、仙波みどりの姿はなかった
いや、報酬を受け取るまでは確かにいた筈なのだが、いつの間にか見えなくなっていたのだ

いざ報酬を分配しようとした時に気付くだろう
紙幣のなかに一枚違う紙が混じっていることに
【みんなへ
いっしょにぼうけんできて楽しかったです
手がいたいし、ハッパもなくなったので山にかえります
また遊んでね
おかねは全部で〇〇えんだから、ひとりぶん〇〇えんもらっていきます】
汚い字だがなんとか読めばこういった内容が書かれていた
しかし、お金の計算は間違っているし、抜かれた金額は一人分より少ない額だった
所詮はタヌキ
騙したつもりでも算数はできないようだった

何も言わずに山に帰ってしまった仙波みどり
だが読み終わった後、ほどなくして熱くもなく延焼もしない炎で燃えて葉っぱに戻ってしまった書置きを見るに、どこかでひょっこり子狸に出くわすこともあるかもしれない




その頃、蕎麦屋に元気のいい声が響く
「おばちゃんおかわりー!」と
煤だらけで利き腕に包帯を巻いて食べにくそうに、でも嬉しそうに蕎麦をすすっている少女がいたとかいなかったとか
                                                仙波みどり えんど

135 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/06/29 03:33:24 ID:???
釣鐘だった木の葉が数枚ひらひら。血濡れの床に落ちる。
岸の白刃に右手を貫かれ、玉響の麻酔針を左腕に受けた多賀谷は、膝から崩れ落ちると岸にむかって語り始めた。
目の前の男は倉橋冬宇子の元彼。どうせ自己愛に塗れた戯言と高を括っていた玉響だったが、
多賀谷の口から転げ出た言葉は意外なもの。
『デモクラシー』
大正時代の、特に玉響のような中年女に、そのような言葉は理解出来ても実感することは難しい。
ただいつの時代も、男たちは志を掲げては夢をみる。明日、土塊に帰ることも省みずに。
玉響は多賀谷の後頭部に溜め息を吐く。蒸発した自分の夫もそんな男だったから。今頃どこで何をしているのやら。
(なんなんだい男って・・・)
夫と多賀谷が重なって見えた玉響が、思わず男の肩に手を触れようとしたその時。
多賀谷は振り返り、玉響を見上げ、視線を逸らさずに、問い掛けてくる。
射抜かれた玉響の瞳が揺れる。玉響に返す言葉はなかった。
愛とは無形。見えざるもの。それなら愛とは幻のようなものなのか。信じるだけの形のないものなのだろうか。
意識を失った多賀谷の体が床に崩れ落ちる。
玉響は多賀谷の血濡れの体を支えながら座り込むとその場で膝枕をした。
寝息をたて満足そうに微笑んでいるかのような男の顔を玉響は見つめ――
「胎を痛めることのない男には一生わからないさ。愛の実感はねぇ・・・」
と独りごち、空へと逃げる狩尾を仰いだ。
【受願所】
ごった返す冒険者の群れ。人の波からおずおずと現われた玉響はにたにたしている
多賀谷の懐から財布を掠め取り大金を手に入れていたし今は報酬がいただける
ぜんぜん儲けのない鍼医の仕事も辞めてしまおうか。そんなことも考えていた。
「およ。なんでおじゃるか?この紙は?」
それは仙波みどりの手紙だった。
「・・・およょ。今思えばあの狸っぽい釣鐘はあの子でおじゃったのにゃ。
あちしはいっぱいいっぱいで、お礼を言えず終いにゃった。困ったにょう・・・また会えるかのぅ」
玉響は分配された報酬を受け取ると家路につく。

その帰り道。
>「おばちゃんおかわりー!」
蕎麦屋から元気な少女の声が聞こえた。愛娘を思い出す。
「家で待ってる雛に、お土産でも買って帰ろうかにょう」
すっかり母の顔になった玉響は大正の空を見上げた。のどかにちぎれ雲がかすむ空を渡っていた。

136 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/29 13:21:49 ID:???
目の前の化け物を壊しきったさくらは、その場にへたり込んでしまいました。
人への変化が解かれ子狸になったみどりと、化け物を壊した四角い機械を両腕に抱えています。
そのさくらに掛かる、声が有ります。

「そのカラクリ人形、壊しちゃったのかい?勿体無いなぁ。出来れば持ち帰りたかったんだけど」

白から黒へ変化する男、狩尾です。
飄々とした態度を保つ狩尾は、マントの中から小さな箱を取り出しました。

そして、狩尾は語ります。
自分の発明では無いが、これは世界を変えられる、と。
しかし、今の時代―――百年後の未来でも、決して人は救えない、とも。
自分ではなく世界が変わるべきだと言う彼は、なんと悲しい目をしている事でしょう。
振り返り狩尾を見ていたさくらまで、悲しくなってしまいました。

「ウドの大木君、君の名前を聞いておくよ。……君はきっと、僕らの同志になる。
 いや、なるべきなんだ。それが君の一番の幸せなんだよ」

狩尾の言葉を聞き、さくらは草汰へ視線を向けます。
草汰が、敵の同士になる…
考えるだけで、さくらの胸はもやもやとしたものでいっぱいになりました。
草汰の名を尋ねた後、狩尾と目が合います。

「その摩擦起電器は、君にプレゼントしよう。
 そこのカラクリが、可愛らしいお嬢さんに無礼を働いたお詫びにね。
 好きに扱ってくれて構わないけど……決して、世に出回らせるような事はしないでおくれよ」

言葉に混ざる、決意の氷。
それに震えた後、さくらは狩尾を見送りました。
ただ黙って、見送りました。
―――――――――――――――――――


137 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/29 13:22:47 ID:???
所変わって、こちらは受願所。
報酬を受け取ったのですが、みどりが見当たりません。

「みどりさん? みどりさーん…困ったわ、どこに行ってしまわれたのかしらん」

さっきから探して居るのですが、みどりが現れる様子も無く。
諦めて報酬を分配しようと紙幣を見ると、一枚白い紙が混ざっています。

「およ。なんでおじゃるか?この紙は?」

玉響と言いましたか、さくらの母よりも年嵩の女性が声を上げます。
へたくそな字がのた打つそれに、さくらは思わず微笑みます。

「もう、みどりさんってば…お馬鹿ね」
「・・・およょ。今思えばあの狸っぽい釣鐘はあの子でおじゃったのにゃ。
あちしはいっぱいいっぱいで、お礼を言えず終いにゃった。困ったにょう・・・また会えるかのぅ」
「―――そうですね、きっと逢えますわ…きっと」

燃え広がぬ炎を纏い葉に姿を変えたそれを、さくらは大切に懐にしまいます。
そして改めて、報酬に向き合いました。

「さて、どうしましょう」
「―――取りあえずはお嬢様の袴や着物の修復代金を頂けるだけでも良いのですが…まあ、無理ですな」
「そうねぇ…って! 貴方、有井!?」

さくらや冒険者に混ざって、一人の男が戯れ言を吐きます。
髪を後ろに撫でつけ片眼鏡を掛ける年若い男は、鐘本さくらの世話係の、有井です。
さくらは目を白黒させていました。有井が居るとは思わなかったのです。
そして、有井の口からとんでもない言葉が飛び出します。

「奥様からの伝言です。
『学校帰りに突然脱走した非は許します。
いつも何かを求め、探している貴女ですから、冒険者になるを止めるも無駄でしょう。
ただ、私達の目の届かない範囲、例えば他の冒険者の方の家に転がり込む事は禁止します』
奥様はお優しいですな」
「お、お母様!?」
「ああ、それから。
『この機会に私達と離れ暮らすのも、鐘本を継ぐに当たって良い経験でしょう。
久留須邸にて別館を提供して下さるようです。
有井を寄越しますから、私達の居ない生活に慣れましょう』、ですって」

母親が知っていたと言う思いがけぬ事実に、さくらは戸惑いを隠せません。
淡々と報告する有井に、さくらは訪ねます。

「じゃあ、私は…」
「鐘本財閥を継ぐに決まってるじゃないですか。
ほら、さっさと報酬を頂いて―――あ、平均額分だけ持ってきますね。
久留須邸に向かいますよ、全く糞ガキはこれだからめんどくさい」


138 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/06/29 13:23:40 ID:???

「やだー! 私は鐘本を離れるのですー! 離しなさい有井ーー!」
「どうもお嬢様がお世話になりました。
また会ったら宜しくお願いしますね。…駄々こねんな、恥ずかしい」

有井はさっさと一人分の報酬を貰うと、さくらの首根っこをひっつかんで引きずりました。
さくらはお嬢様らしさをかなぐり捨て、全力で駄々をこねてます。
そちらの方を見ないようにしながら、有井は冒険者の面々に手を振りました。

この時、さくらは何も知らなかったのです。
冒険の果てに、自分が何を得るのか、何を失うのか。
そして、自分の未来でさえ…

しかし、今はそんな事は些末なもの。
大正の夕暮れに、さくらと有井の声が響き渡ります。

「もーー!」
「ハハっ猫が牛の鳴き声真似してら、てらわろす」

鐘本さくら編 序章『猫又少女掛ける』   了

139 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/29 14:15:06 ID:???
「……参ったなぁ。こんな筈じゃなかったんだけどね」

周りを見回せば、首謀者は倒れ、殺戮人形も停止していた。
対し、各々は傷を負っているものの、全員その足で立っている。
勝利は完全にこちらにあった。だが狩尾は余裕そうに帰る素振りすら見せている。

「……そうそう、そこのデカブツ君。君さ、さっき言ったよね。
 僕の発明品はチンケで、誰かを救ったり、世界を変えたりは出来ないって」

懐から新たに箱を取り出す。箱に取り付けられた突起を狩尾が押した瞬間、鉛玉が弾き飛ばされた。

「……この技術を、この時代の人間に委ねたとしよう。
 さて、何が出来るかな?精々、砲弾を飛ばすとか、その程度だろう。
 一世紀後の人間なら使いこなせるだろうか……無理だろうね。
 精々、東日本を不毛の地に変えてしまうのが関の山だろう」

どんな原理か草汰には理解出来ないし、何に使えるかも思いつかない。
だが、箱を製作した狩尾が、とんでもない頭脳の持ち主だということだけは理解した。

「分かるかい?僕はこの時代に生まれるべきじゃなかった。
 僕の発明は、この時代には戦乱しかもたらせないんだからね。
 だったら……僕はどうしたらいい?頭の中に矢継ぎ早と浮かび上がる文字の羅列から目を逸らして、
 児戯に等しいお勉学と手を繋ぎながら死を迎えればいいのかな?」

悲しげな目つきと溜息、皮肉をこめた嘲笑。
狩尾の表情は、この世界で何とか必死に生きようと模索しているようにも見えた。

「僕はそんなの、御免だよ。僕は変わらない。変わるべきは、世界の方なんだ」

だが、彼には難しすぎた。天才とも呼ぶべき頭脳を、今の世で活かすには、余りにも難しい。
だからこそ求めるのだろう、新世界を。自分が生きていくのに苦労しない場所を。
かつて草汰が、自分を否定しない誰かを求めたように。
狩尾は爆弾で天井に穴を開ける。上空では飛行船が待機していた。

「ウドの大木君、君の名前を聞いておくよ。……君はきっと、僕らの同志になる。
 いや、なるべきなんだ。それが君の一番の幸せなんだよ」

狩尾の真っ直ぐな視線が草汰に向けられる。
草汰は思う。彼を否定することは出来ないと。だが一方で思う。彼と相容れることも出来ないと。



140 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/29 14:17:13 ID:???
「――……一度しか言わねえから、よーく覚えときな。
 森岡草汰、冒険者だ!いつかアンタを止めてみせる、絶対に!」

草汰の名を聞いた狩尾は、飛行船へと消えていく。
天井の大穴から、草汰は飛行船が見えなくなるまで、食い入るように空を睨み上げでいた。



【受願所】

「こちらが報酬になります。」

受願所で報酬を貰うなか、草汰の表情は厳しいままだった。


『新世界を創る僕ら『華涅神崇団』と、未知の世界を切り開く君達『冒険者』。
 いずれまた、ぶつかり合う時が来るに違いない。その時こそ……』


新世界を創る。
彼の性格を考えれば、間違いなくあの手この手を使って実現させようとするのだろう。
そして彼の言う通り、きっとまたぶつかり合うのだ。華涅神崇団と、狩尾と。

「(暇な時にでも、林真さんに聞くべきかな。あいつらについて)」

次に出会った時、自分はどうするべきなのだろう。
少しだけ、まだ迷いがあった。それだけ、狩尾の誘いは魅惑的だった。
だが草汰にも、冒険者としての信念がある。
二つの感情がジレンマとなり、草汰の眉間の皺は益々増えるばかりだ。

「およ。なんでおじゃるか?この紙は?」

ぴらり、紙幣とは明らかに違う紙。広げてみると、それは仙波みどりからの手紙だった。
汚く拙い字で、頑張って書いたのだろう。しばらく見ている内に、固くなった眉間の皺が緩くなっていく。

【いっしょにぼうけんできて楽しかったです】
「ふっ…くくっ……きったねー字。計算まで間違ってやんの。バカだなーアイツ…ハハハ。」
「もう、みどりさんってば…お馬鹿ね」

馬鹿にしたような言葉とは裏腹に、草汰の表情は明るく嬉しそうな笑顔だった。

そうだ、何て馬鹿らしい事を小難しく考えていたのだろう。
未知なる物への期待を、仲間達と冒険する楽しい気持ちを味わいたい。

やっぱり自分は根っからの冒険者なのだと、狸娘に思い知らされた事が、堪らなく愉快に思えたのだ。

「・・・およょ。今思えばあの狸っぽい釣鐘はあの子でおじゃったのにゃ。
あちしはいっぱいいっぱいで、お礼を言えず終いにゃった。困ったにょう・・・また会えるかのぅ」
「…親父が言ってたんだ。一度出会った縁は、必ず何処かでまた繋がるって。
 だから、また会えるんじゃねえかな。願えば、きっと。」
「―――そうですね、きっと逢えますわ…きっと」



141 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/06/29 14:18:31 ID:???
しみじみと想いに耽けつつ、さて改めて配分しようかという時だ。

「―――取りあえずはお嬢様の袴や着物の修復代金を頂けるだけでも良いのですが…まあ、無理ですな」
「確かに高そうだよなあの袴……ってうぉわ!?誰だアンタ!?」

気配もなく唐突に現れた有井という男。どうやらさくらを迎えに来たらしい。
お嬢様みたいな風貌だとは思っていたが……まさか本当にお嬢様だったとは。
性格とはそぐわない気もするが。

「やだー! 私は鐘本を離れるのですー! 離しなさい有井ーー!」
「どうもお嬢様がお世話になりました。
また会ったら宜しくお願いしますね。…駄々こねんな、恥ずかしい」

駄々をこねながら引きずられるさくらと、去っていく有井。
くくっと草汰は笑いながら、さくらに手を振った。

「じゃあな、さくら!また一緒に冒険しようぜ!」

さくらの姿が見えなくなる頃、草汰もまた背を向ける。
これから向かわなければならない場所があるのだ。

受願所から歩いて、繁華街から少し離れた閑静な場所。
元は定食屋だったその空き家に、草汰は居た。

「……うん、ここで合ってるみたいだな。」

地図を何度も見て確認し、恐る恐る戸を引いた。
がらんとした食堂が広がり、床に荷物が置いてある。
中には手紙と、幾つかの布団や着替えなど、生活に必要なものが揃っていた。
手紙を広げると、達筆な字でこう記されていた。

【草汰へ

もう帝都に着いたでしょうか。必要な荷物は頼んで運んで貰っていたので届いている頃でしょう。
その家は大樹様と私が使っていたものです。大事にしてやって下さいね。
体に気をつけて下さいね。お返事貰えると嬉しいです。

    敬具 母 梢】

大樹、とは父のことだ。父と母が、短い間ながらも大事に使った場所だと聞いていた。
短くも、草汰を気遣った文章。それを丁寧に折り畳み、再び箱に仕舞った。
奥に入ると、廊下の奥に二階に続く階段がある。
そこを上がっていけば、草汰の部屋だ。他にも部屋はあるが、見る気にはなれなかった。
荷物を部屋に片付けて、布団を広げ、横になる。
枕元には、手紙に同封されていた一枚の写真を飾って。

「お休み。親父、兄貴、お袋。俺は絶対 、親父達みたいな冒険、者に、……。」

次第に押し寄せる睡魔に勝てず、ゆっくりと草汰は瞼を閉じるのであった。



森岡草汰 序編『冒険の始まり』 これにてお終い

142 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/29 20:22:14 ID:???
「ろくなもんが無いなー」
押収された物品の数々を矯めつ眇めつしながらヨロイナイトは呟いた。
屋敷の中で曰くのありそうな物がいくつかあった気がしたが、事件と関係ないので
持って行ってはいけないそうだ。

事件の解決後、場所は屋敷ではなく始まりの場所へ移る。
首謀者達との決着の後、彼らもまた他聞に漏れず受願所で報酬を受け取ると帰り路に着く。
壁から抜けだすのに苦労したものの無事出られて何よりである。

ヨロイナイトも仙波女史から葉っぱの紙幣を貰っていた。気を良くしているとなにやら仮面が
物欲しそうにしていたので上げるとそれを食いついた。

「吐け!吐かんか、馬鹿!山羊かお前は!」
仙波女史のくれた葉っぱを仮面は、それはそれは嬉しそうに頬張っていた。顔もほんのり
赤かった気がする。次に彼女と会う時は一言謝らないといけない事になってしまった。

やれやれと肩を落としながらも、初々しい若人達が去るのを見送ると、彼らは報酬を持って
今の自分達の住処へと戻って来る。
受願所から離れて道を外れれば段々と人気は失せていき、道なき草むらへと踏み行っていけばたどり着く
そこは随分と荒れて人の手が入っていない古寺だった。

「ようジジイ俺だー、戻ったぜー」
そろそろ夜も更けようという時間に大声を上げるとヨロイナイトは中の住人に声をかける。
そしてそれと同時に中に入っていた妖たちが一斉にあちこちへと飛び去っていく。

部屋へと戻り寛ぎに入った彼らと入れ違いにこの寺の主人である住職がやってくる。
みすぼらしい格好とは裏腹に好々爺然とした顔つきをしている。
「おうなんだ、誰だ、オレオレ詐欺か」

「なんだいきなり新しい」
ヨロイナイトは玄関口で住職と二言三言交わすと報酬を差し出す。

なんだこれは、と言う住職に家賃だと言って渡そうとすると、老人は律儀な奴だと苦笑する。
寺には別にガスも水もないし金を取れるような部屋もない。しかしヨロイナイトは
こういうのはけじめだ、と言って利かなかったのだ。

143 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/06/29 20:23:14 ID:???

「いらん、いらん、お前等が勝手に使ったらいいだろ」
住職が受け取らないのでヨロイナイトは報酬を後で裏の賽銭箱に捨てておくことにした。
お金をゴミ箱に捨てていい文化があるのはこの国ぐらいである。

「儂からすりゃあお前等の昔話を聞かせて貰うだけで十分だけどよ」
この奇妙な老人は跡継ぎもないこの荒寺に隠棲しており、無人と思ってやって来た彼ら一行を
特に邪険にするでもなく迎え入れた。

なんでも人嫌いらしいが、妖怪にも妖怪嫌いがいるのだから不思議ではない。
食うにも困ってはいないらしく、他に何かあるとするなら紙芝居を楽しみにする童のように
ヨロイナイト達の生い立ちなどを聞いてくるぐらいだった。

「おうじゃあよ、今日やって来た仕事なんだがな」
と立てこもり事件のあらましを切り出すと、新聞で済む話より別のにしてくれと言われてしまう。

「わがまま言うんじゃねえよ、こちとら大砲ぶちかまされて曲がるとこだったんだぞ」
と言ったものの住職は何処吹く風だ。仕方が無いので今日も大人しく昔語りでもするか、と彼は
居住まいを立たすとやや顔を上げて朗々と語り出す。

「あれは今から、そうだなあ、もう五、六百年くらい前かなあ。十字軍の残党を相手にシスター達を
魔女狩りから守っていた時の話だ。俺達は追いつめられて教会に籠城していてなあ、
泥人形の奴と初めて会ったのも確かその時だ・・・・・・・・・」

今日の成果を教えたかったが、結果として夜遅くまで昔話をすることになってしまった。
だが家賃も収めたし(老人は受け取らなかったが)後は自分たちの買い物をするだけだ、
明日もはりきって嘆願を受けてこようとヨロイナイトは思った。

草木も眠る丑三つ時、妖たちはまだまだ元気だったそうな・・・

144 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/30 03:05:07 ID:???
>>129-133
緩衝結界の内にて、桜雪生と倉橋冬宇子は煙幕が晴れる一瞬を待つ。
視界の閉ざされた部屋の一角。煙の中より黒マントの男の声が漏れ聞こえる。
しかし、喧騒に掻き消されたその声は不明瞭で、位置を特定するには至らない。
耳をそばだてると、もう一つほんの僅かにだが、別人の声音も混じっているのことに気づく。
やけに威勢良かった甚平姿の青年の声?二人は言葉を交わしているのか。

次第に拡散し、薄まりゆく煙。
はためくマントと背丈六尺の大男が、粉塵の中にうっすらと浮き上がる。

時同じく、冬宇子の飛ばした形代のうちの一体が、男の背中に貼り付いていた。黒いマントに白紙のヒトガタひとつ。
形代は、あらかじめ血を媒介に精気を分け与え、感覚を共有させている。
冬宇子は形代を介して、男の体から滲む異様な呪力を感じ取った。

(これは…厭魅の返し―――?)

禍々しいその気配は『厭魅(えんみ)』――つまり呪殺、呪詛により醸された独特のもの。
少ない霊力で、効果的に相手を呪い殺すほどの力を発揮できる反面、
行使に失敗すると、術者の身にそっくり呪詛が撥ね返る、危険と背中合わせの禁忌の術だ。
男の体に、厭魅の呪力を感じる理由は一つ。
単に魔力で棒切れを浮かせていただけではない。禁呪の法を使っていたのだ。
ならば既に、あの男の身は――――
何故に敢えて、そんな危険な術を――――?

一瞬の物思いを振り払い、冬宇子は口を開く。

「今だよ兄さん!早く止めを!」

冬宇子に言われるまでもなく、銃使いの青年は、既に標的に向けて冷静に引き金を絞ろうとしていた。

黒マントの男は、崩落した壁から差し込む光を浴びて佇んでいる。
掌中の小さな箱に指を当て、突起を押し込んだ。

―――瞬間、
得体の知れない衝撃波が生まれた。強力な斥力!
金属人形のバネや箍、や鉄筋の破片が、黒いマントの男を中心に、放射状に飛び散る。
男に纏わりついていた冬宇子の形代も、全てが弾き飛ばされ、紙吹雪の如くに千切れて散った。
共有していた感覚を断ち切る間もなく、冬宇子の全身を痺れに似た不快な衝撃が貫く。

「ひぃっ!!」

冬宇子の口から悲鳴が漏れる。力の抜けた膝から床に崩れ落ちた。

冬宇子は混乱していた。
形代を破壊した力が何なのか、それが冬宇子には判らない。
霊力を以って術を破ろうとする相手であれば、術士はその気配を察知し対処しうる。それが一切出来なかったのだから。
形代を弾いた力は、冬宇子の知る範疇のものでは無い。
霊力、魔力、法力…それらに類する、精神エネルギーを一切感じなかった。
唯一摂理を曲げうる筈の力を、同じ力を使わずして、如何にして打ち破ったというのだろう?

床にへたり込んだまま
空に翻る黒いマントを――天井に穿たれた大穴から悠々と脱出するその姿を、
冬宇子は、ただ呆然と眺めているより他はなかった。

145 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/30 03:08:06 ID:???
>>135
*   *   *

「なんだろうねぇ、この満足そうな寝顔は?」

冬宇子は舌打ちして、玉響の膝を枕代わりに眠る男の顔を覗き込む。
その顔には苦悶の跡もなく、静かに閉じた口元には微笑みさえ浮かんでいるようにも見える。

男の顔を見つめながら冬宇子は自問した。
そもそも、自分は何故ここに来たのだろう。

――――勤務先のカフェーにて
冬宇子宛に贈り主の名前も添えず、日々贈られる豪華な花束、真珠に時計にハンドバッグ。
はて、どんな男かと訝しんでいたところ、
一月ほどの後、やっと店に姿を現した、かの贈り主は、未だ学生臭さの抜け切らぬ育ちの良さそうな若い男。
聞けば、銀座の名物店の一人息子だという。

所詮は坊ちゃんの火遊びだろうが、瓢箪から駒ということもあり得る。
玉の輿を夢に見るのも悪くない。
高価な贈り物と美辞麗句にほだされ、それに打算も手伝って、付き合いを始めてはみたものの、直ぐに後悔した。
心が通うどころか、まともに会話すら成り立たない。
冬宇子にのぼせているようで、その実、この男は自分のことにしか興味がないのだ。
親が絶対に許さぬであろう相手との色恋に情熱を燃やす、そんな自分に夢中になっているだけなのだと、そう気づいた。
それでも別れを切り出す気にならなかったのは、やはり打算ゆえか。
見目悪くなく、惜しまず金をつぎ込んでくれる男を、みすみす手放す理由もない。

そんな捻じれた付き合いを続けていたある日、
店に『草莽の普選運動家』を名乗る紳士が現れ、男と意気投合して以来、状況は一変した。
紳士から『新時代の壮士』『変革者』と誉めそやされて、男はすっかりその気になった。
男の夢中になれる玩具は、冬宇子では無く、別のものに変わった。

それだけだ。
利己的な者同士、互いの利益が一致したから一緒にいただけのこと。
なのに、いざ、別れを切り出された時に感じた、あの憤りは何だったのだろう―――?

「手切れ金大枚、分捕ってやらなきゃ気が済まない、なァんて思って来たのにさ…
 あーあ、なんだかすっかり白けちまったよ。馬鹿らしい!
 こんな男、こっちから願い下げだ!ノシつけて自由の身にしてやらあね。
 それからこれは返しとくよ!誕生石だか知らないけれど、こんな安物要らないよ!ダイヤならともかくさ。」

男の掌に、紫水晶をあしらった華奢な指輪を乗せて握らせた。
男の手に手を重ねたまま、目を閉じて小さく呪言を唱える。

「生玉(いくたま)足玉(たるたま)死返玉(まかるがへしノたま)―――ふるべ ゆらゆらと ふるべ…」

冬宇子の掌が淡い光を放ち、握った手に近い位置から、男の傷が塞がっていく。

146 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/06/30 03:11:45 ID:???
多賀谷の治療を終えると、冬宇子は立ち上がり、
血染めの軍服を纏った青年の手を取った。

「出血だけは止めといたけど、後でちゃあんと病院行きなよ!弾は抜けてないんだからね。
 治療代は送りのタクシー代で相殺ってことで文句ないだろ?」
 
言って冬宇子は扉に向かって歩き始めた。
冬宇子の脳裏に、チラと、黒マントの男が別れ際に零した言葉が過ぎった。

>「僕はそんなの、御免だよ。僕は変わらない。変わるべきは、世界の方なんだ」

変わるべき社会を夢見て、つたない反抗に大義を得て、そんなものに夢中になって、
多賀谷は一時でも幸せだったのだろうか?

「馬鹿だねえ…男って…」

冬宇子は、ふん、と鼻を鳴らして、
部屋を去る間際に、もう一度、男に一瞥を贈って扉を閉めた。


【受願所にて】
山に帰った豆狸やら、実は令嬢だった猫又少女やら、いろいろあって報酬が手元に。
手の中の紙幣を数えて、冬宇子は肩をすくめた。

「ウン百円の手切れ金の筈が、随分安くなっちまったもんだ。」

気だるい溜息を漏らし、一仕事を共に終えた面々の顔を見回して言った。
 
「じゃあね。縁があったら、またどっかで会えるだろうさ。」

受願所の外に出たときには、既に夕暮れ。薄青と茜を混ぜ合わせた空に一番星が瞬いていた。
もうすぐ夜が来る。爛熟の空気を漂わせた帝都の眠らぬ夜が―――

*   *   *

カランカラン―――
鐘が鳴り、また一人客が店に足を踏み入れる。

「あらぁ〜菊池センセ!ここんとこすっかりご無沙汰!
 どこぞの河岸で浮気してるんじゃ…って心配してたのよ。いらしてくれて嬉しいわ!」

和装にカンカン帽、髭を跳ね上げた紳士の腕を取って、冬宇子は微笑んだ。

ここは夜の銀座。仮初めの恋が踊る街。

【超電磁力で形代の霊気を破られて、へなへなに】
【岸さんを治療】

147 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/06/30 13:48:52 ID:???
「本当にあんた体に傷を付けるの好きだよな」

あまり日の当たらない室内。彼はほぼ全裸で、人の腰ほどの高さの台に寝かされていた。

「タクシーなんてのを始めてめっきり来なくなったと思ったら……この傷。また軍に戻ったのかと勘違いしたぜ」

顔なじみの医者。だが医師免許は持っていない。剥奪されたのか、最初から持っていないのか。
何らかの事情で普通の医者には診せられない人物相手の、モグリの闇医者だ。

「軍と言えば……あんたの親父さん、まだあんたのこと諦めてないらしいぜ」

強く熱した鉄箸で、彼の体に埋まる無数の銃弾を摘出している。気の遠くなるような作業だが、男は軽口を叩きながら。

「そりゃそうだろうな。町の中を戦車で走ったり、もう軍の所属じゃないのに軍服を着たり。
 親父さんの圧力がなけりゃあんたとっくに捕まっててもおかしくないぜ?」

麻酔は使われていない。白い手拭いを口に加え、噛み締めながら痛みを堪える。

「いくら親への反骨心からって突然軍辞めてタクシーなんか始めた時は頭おかしくなったのかと思ったぜ。
 ……頭ちょっとおかしいのは昔からか。褒めてるんだぜ、うん」

とはいえ、相変わらず彼の表情に変化は見られない。鉄箸が傷口に押し入り、痛みを増やそうとも。

「愛する人を待たせてまで夢に追いすがるのもいいけどさ、もう許嫁状態は失効してるんだろ?
 早く頑張らねぇと、別の将来有望な男のとこに嫁に行かされちまうんじゃね?」

台の横に置かれた茶碗に摘出された銃弾が重なってゆく。体が少しずつ軽くなっていくのを感じる。

「ちょ、ちょ、そんな睨むなって。わかったよ、もう何も言わないからさ」

そして会話は途切れる。黙々と摘出する男と、それを静かに見守る彼。
脛の辺りの銃弾を取り除いた後、男は鉄箸を置いてひとつ息を吐く。

「ほれ、終わり。もう弾は残ってないはずだよ。
 相変わらずあんたの筋肉おかしいよな、なんで近距離で受けた銃弾なのに浅いとこで止まってんだよ」

慣れた手つきで彼の体に包帯を巻いて行く。身体中に包帯、まるで西洋の怪物のようだ。

「治療代は明日の昼飯でいいぜ。あんたには恩があるしな」

彼がこの医者を利用するのはこれが理由。闇医者を使わねばならぬほど追われてはいない。
報酬はそれなりに頂いた、一度ぐらい昼飯を奢ったところで痛くない出費だろう。
そして彼はその場を後にする。絶対安静が基本だとは思うが、彼に関してはその限りではない。

一連の経過を思い出す。
少し気になることはあるが……これ以降、おそらく彼には関わることはないのではないだろうか。
所詮明日からはまた普通のタクシー運転手だ。嘆願だって、基本的には簡単なものしか受けない。
とはいえ、助力を求められれば力を貸すことは厭わない。いつでも駆けつけるとしよう。
――一緒に戦った、仲間達ですから。
たとえもう会うことがなくとも、それはそれで構わないけれども。

軍服を着れば包帯は見えない。家に戻って体を休めれば、また明日にはタクシー業を再開出来るはずだ。
事実、もう次の日には彼は乗っていた。なかなか客の乗らない、そのタクシーを走らせる。
いつかは会社でも立ち上げて、待ってくれているあの人を迎えに行っても恥のない姿となる為に。

「岸タクシーでございます! 一律1円、市内どこにでも参りましょう!」

――今日も戦車が、町を行く。

148 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/30 23:56:43 ID:???
痛めた腰をさすりながらようやく起きあがる。
狩尾が森岡に何かを語っているのは聞こえていたが、痛みでそれどころではない。
狩尾が何か箱の突起を押すのが見えた。
その瞬間、鉛の銃弾が弾き飛ばされ、四方八方に向かう。
そしてそれは例外なく龍次の所にも向かってきた。

「うわっ!!」

慌ててしゃがみ込む。
しゃがみ込んだと同時に腰からバキボキッという盛大な音。

「いっ…」
>「……さて、それではまた会おうか。冒険者諸君。
 新世界を創る僕ら『華涅神崇団』と、未知の世界を切り開く君達『冒険者』。
 いずれまた、ぶつかり合う時が来るに違いない。その時こそ……」

いつの間にか、空中から下りてきた梯子に掴まった狩尾が上の方から、そう告げた。
そして飛行船は空のかなたへと消えてゆく。
森岡が空を睨んでいることが何となく、気配でわかった。

【受願所】

>「こちらが報酬になります。」

渡された報酬を見つつ、自分の配分量を目算する。

>「およ。なんでおじゃるか?この紙は?」

一枚の紙がひょっこりと顔を出している。

>【いっしょにぼうけんできて楽しかったです】
>「ふっ…くくっ……きったねー字。計算まで間違ってやんの。バカだなーアイツ…ハハハ。」
>「もう、みどりさんってば…お馬鹿ね」

紙に書いてあった内容をみんなで目を通して、笑った。
心がこんなにも温かい。
何時ぶりだろう、こんな感覚は。

>「・・・およょ。今思えばあの狸っぽい釣鐘はあの子でおじゃったのにゃ。
あちしはいっぱいいっぱいで、お礼を言えず終いにゃった。困ったにょう・・・また会えるかのぅ」
>「…親父が言ってたんだ。一度出会った縁は、必ず何処かでまた繋がるって。
 だから、また会えるんじゃねえかな。願えば、きっと。」
>「―――そうですね、きっと逢えますわ…きっと」
「ご縁があれば、また会えますよ。人は皆、どこかで繋がっているのですから。」



149 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/06/30 23:57:22 ID:???
ちらりと、入り口付近を見ると、弟子達の姿。
背後が少し騒がしい。
どうやらさくらの迎え人のようだ。

「兄貴ーー!!迎えに来ましたぜ!!」

元気のいい声がここまで聞こえてくる。
にこりと笑い、龍次は皆に向きなおり、深々と頭を下げた。

「皆さん、今回はありがとうございました。それではまた。」

くるりと背を向けて歩き出す。

「おまたせしましゲボァッ!」
「うわーーーっ!!兄貴ーー!!」
「誰か兄貴を背負って病院に行けー!!」
「やだな、そんなたいしたことではグフゥ」
「わあああああ!!」

入り口が、ちょっとした大騒ぎになった。

【道場】

「それでは兄貴っ!!今日もお願いしやす!!」
「いつでもどうぞ!」

今日もボロ道場に威勢のいい音が響く。
朝から夕方まで。
龍次の日常がまた始まった。

葦高龍次 序編、お終い。

150 :雪生 ◆JwVOLZh9xg :11/07/01 17:20:31 ID:???
冒険者としての仕事を終え、雪生はまた安穏とした日々の中に溶けていった。
朝遅くには起床し、気ままに被写体を探しにぶらりと外へ。そんな日常。
元々金の為に嘆願を受けているのだから、新世界だの怪しいことをぬかす狩尾もあまり興味がなかった。

そんなことよりも旅行代を稼いで、世界を旅することの方が雪生には何倍も重要だ。
この国にも素晴らしい被写体で溢れているが、世界にはもっと色んな被写体が待っているはずだ。
その為にはもっと金がいる。雪生の写真館から得る収入程度では、生活費で全て消える。
あのしょっぱい報酬ではまず足りないだろう。

(………だからま、縁がありゃ皆ともまた会えるんじゃねえのかな。
 中には円がありゃすぐ会えるタクシー野郎もいるけどよ……つーかんなことよりも)

草木を分けて雪生は直進する。まだ日は傾いていなかったが、薄暗い。
地面は整備されていない悪路。一歩足を進めるのにも骨が折れた。

足を止め、周囲を見渡す。どこもかしこも木、木、木、木。人工物、なし。

「…………ここ、どこなんだよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!???」

鬱蒼とした山の中でアホの絶叫が響いた。

「くっ、被写体を探してたらいつの間にやら…………!!
 ここはどこッ!?俺は誰ッ!?いや、それは知ってる」

一人漫才は虚しく木々に吸い込まれていくだけで、無駄に体力を消耗するだけだった。
雪生は未だかつてないほど疲弊しながら、人里を求めて彷徨う。
黙々と歩き続けること1時間。遂に平坦な山道から脱することに成功した。

「おおおーーーーーっ!スゲェーーーッ!!」

迷走の果てに山頂に辿り着いた雪生は、沈む太陽を背にする東京を一望した。
おもむろにカメラをごそごそと取り出してシャッターを何度か切る。
完璧なカメラワークで収めた夕日の風景に満足し、その場にごろりと寝転がった。

「散々な目に合ったが……ま、結果オーライってことにしとくか……って」

寝返りを打とうとした瞬間、ある事実に気付き雪生の中で電撃が走った。
物凄い勢いで起き上がると夕日を睨みつける。

「日が落ちたら帰れねえじゃねえか……うおお!とっつぁーーーーん!!タクシさーーんーーー!!
 嬢ちゃん狸鎧ばあさん倉橋さんセンセもう狩尾でも誰でもいいから助けてくれぇぇぇええッッ!!!」

その夜、山道で猪と遭遇したり幽霊と銃撃戦を繰り広げたり冒険者も真っ青な冒険をしている内に
『丑三つ時に銃を持った悪霊が出る』という都市伝説が誕生したそうな。


勝ったッ!桜雪生の奇妙な冒険 第一部完!

151 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/03 23:04:21 ID:???
牛込神楽坂、善国寺の門前を通り過ぎる頃には、午前三時を回っていた。
ぽつんと立つ瓦斯灯の明かりが、その周囲にだけ黄色い光の幕を下ろし、闇を薄めている。

瓦斯灯の光を見上げて、倉橋冬宇子は小さく溜め息をついた。
少し早めに店がハネて、帰路の途中。
これから帰りつく木造三階建てのアパートメントは、ここから五分と掛からない処にある。
震災後続々と竣工されている、最新鋭の同潤会アパートとは比べるべくもないものの、
中々にモダンな造りの建物で、近頃流行の完全個室制を売りにしている。家賃も決して安くはない。
女給の身の丈にそぐわぬ高級物件…という程の部屋でもなかったが、
身についた贅沢の因果で、多賀谷の援助が切れた今となっては、その家賃捻出にも苦心する始末。

物思いにそぞろ歩き、ふと気づくと、アパートの程近く、細い四つ辻に足が届いていた。
寂しい辻の片隅に、廃仏毀釈の折に壊された石仏を祀っていたのだろうか、打ち棄てられた祠の残骸があった。
祠の前の草むらに、毛むくじゃらの黒い"何か"が数匹、寄せ集まって蠢いている。
冬宇子は足を止めて、それに目を向けた。
子猫ほどの大きさの丸く黒い塊が、白く淀んだ目を光らせて、冬宇子の視線を警戒してか、ぴたりと動きを止めた。
どうやら"視え"ているのが判るらしい。

―――闇の中から這い出したモノども。
草木も眠る丑三つ時から明け方にかけては、常世(とこよ)と現世(うつしよ)が繋がる時間。
"あちら"と"こちら"が交わる四つ辻もまた、境界が曖昧になりやすい場所である。
ふっと開いた現世への小穴に興味を引かれた下級の魔物が、"こちら"に這い出し、ああして群れているのだろう。
本来ならば、それを防ぐための祠だったのだろうに。
迷信や呪い(まじない)に蓋をして、見せ掛けだけの西洋化を成し遂げたところで、
古来より闇に潜んできたモノどもまでを駆逐できるとは限らない。
古きと新しきの四つ辻、新たな時代の明け方である、この混沌とした世は、
魔物達が跋扈するにふさわしい条件を備えている、と言えるのかも知れない。

冬宇子は黒塊から目を逸らした。
あれは下級の妖だ。放っておいても差し支えない。
せいぜいゴミに蝿が集るように、人の罪穢れに引き寄せられて、瘴気を振りまく程度のことしか出来やしない。

冬宇子が一歩、足を進めたその時―――
淡い光を纏つ白符が、ひょう、と闇を切り裂き、毛むくじゃらの黒塊に突っ込んだ。
妖どもが、ギッと断末魔を上げて爆ぜ飛ぶ。

振り返った冬宇子の視線の先に、単衣の着物に紺袴の青年が立っていた。
年のころは十七、八。
月明かりに浮かぶ白い肌、涼しげな目元。素直な髪質の前髪が、額をすっかり覆っている。

「…晴臣……何しに来たんだい?
 残酷なことをおしでないよ。妖にも五分の魂ってのがあるんじゃないのかい?」

冬宇子の言葉を受け流して、青年は口を開いた。

「急な"お召し"がありましてね。丁度帝都に来ていたところ。
 神道は国家の要。とは言え、あれは神和ぎの道。呪いや妖退治はこちらが専門ですからね。
 それに、あなたの仕事からして、この時間を選んで会いに来るのも妥当かと。」

152 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/03 23:06:27 ID:???
冬宇子は眉を顰めて、皮肉を返そうと試みた。
「それにしたって、こんな時刻に花町付近をうろついて…まるで不良学生じゃないか。」

冬宇子の言葉を意にも介さず、そんなことより、と青年は続ける。
「面白い話を聞きましたよ。何でも"冒険者登録"をなさったとか……?」

「あれは…」
言いかけて、冬宇子は口を噤んだ。色恋沙汰の恨みに弾みで…などと、この青年に言えようはずもない。

「私が何をしようと、あんたの知ったことじゃあないだろう?私は、あの"家"とは完全に切れてるんだ。」

「ええ、その通り。」
語気を強めた冬宇子に、青年はふっと可笑しげに笑う。

「これでも従姉妹の身を気遣っているんですよ。
 こう言っちゃなんですが、希代の巫覡(ふげき)同士の血が相殺してか、
 あなたの腕前はせいぜい三流…いや失礼、頑張って二流といったところ。
 系図に載らぬ身とは言え、倉橋の名を外さず、土御門の技で生業を立てていかれるおつもりならば、
 無様な失敗を繰り返して、一門の名に傷を付けることの無きよう。」

「私の腕前なんて、それこそあんたに関係ないだろ?!わざわざ嫌味を言いに、ここに来たのかい?!
 全く相変わらず生意気なガキだねっ!!」

冬宇子はとうとう声を荒げた。
しかし、一向に感情の動かぬ青年の視線を受けて、諦めたように溜め息をつく。
改めて青年に向き直り、問いかけた。

「まァいいさ。今日のところは。私も、あんたに聞きたいことがあってね…
 晴臣…あんた、『機械の力』で魔物や霊体を調伏することが出来ると思うかい?」

「機械…?呪法人形やら、そんなもののことですか?」
眉を寄せ、青年は怪訝な顔をする。

「いや、呪法人形は霊(たま)降ろしに術士の手がいるだろう?そんなモンじゃなくってさ……
 例えば、機械から出る"何か"で、霊気や術を弾いたり…だねぇ…磁石みたいなものを鏡符みたいに使ってさ。
 う〜ん、ちょっと違うねえ…もういいよ、今言った事は忘れとくれ。」

「あなたにしては、随分と歯切れの悪い言葉ですね。」

寄せた眉根をそのままに、青年は口元に微笑を浮かべた。

「機械とやらのことは、とんと心当たりがありませんが、
 近頃帝都は、不穏な様子。
 何やら過激な無政府主義者の一団が、"新世界の創造"を謳い文句に政府転覆を狙っているとか。
 先に急死した要人の死に"厭魅蠱毒"が関わっている…との噂もあります。
 今後も"冒険者活動"を続けるのであれば、嘆願を受ける折には、くれぐれもお気をつけを。」

青年はくるりと踵を返し、憮然とした顔の冬宇子を残して去っていく。
冬宇子も彼を引き止めなかった。

【エピローグ追加】

153 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/03 23:37:42 ID:???
【受願所】

――ようこそいらっしゃいました。おや、久しぶりですね。
折角、先日命拾いしたと言うのに、またここに来るとは酔狂なお方ですね。
一度上手く出来たから次も上手くいく、なんて甘い考えで冒険に出て死んでいった輩がどれだけいた事でしょう。
ところで、そう言えば酔狂なあなたにお似合いの嘆願がありますよ。
こちらです――とある寒村で新興宗教だかに生贄にされてしまうので助けて欲しい、だとか。
えぇ、大分前からあった嘆願です。ですが、誰もこなさないまま、或いはこなせないまま日が過ぎてしまいまして。
受理した冒険者は帰って来ず、嘆願者も既に殺されている可能性もありますし、助け出せたとしても報酬が期待出来ない。
と、冒険者の間では完全に地雷認定された嘆願と言う訳です。
私もそれが正解だとは思いますが。何故だか、あなたなら行ってくれるのではと思いまして。
いえ、行ってくれるに違いありません。この事情を聞いて尚も断るだなんて、そんな人でなし……
あぁ、失礼しました。このご時世では、人でなしと言っても大した軽蔑語にはなりませんね。
ともあれ、行って下さるようで何よりです。異論は聞き入れませんので、行ってらっしゃいませ。

……まあ真面目な話をするなら、届けられた嘆願がいつまでも残っていては人々の不信感を招いてしまいます。
ので、こう言った嘆願には受願所の方から多少報酬を上乗せさせて頂いております。
ハイリスクハイリターンと考えれば、そう悪い仕事ではないと思いますよ。

【受願所→受願所前】

――お、例の嘆願受けたの、君らだったのか。
いやね、このままじゃ警察に回ってきそうだったから、正直助かったかなぁ。
え?誰だって?やだなぁ、俺だよ、林真だよ。
……覚えがない?いやいや、冗談キツいぜ。え、マジで?
…………サボり魔って言ったら分かる?って、まさかそんな訳……分かるのかよ!
なんだよチクショー!俺だって別に通常業務はこなしてんだぞ!……そこそこ!

まあいいや、心の広い俺はあらぬ罪をでっち上げて逮捕なんて真似はしないからな!感謝するんだぜ!
で、嘆願の方だけど……はいよ、これがその寒村についての書類ね。
とは言っても、そう大した情報はないけど。
なにせ山に囲まれた盆地にある小さな村だからね。
総人口も、何年か前の調べじゃ五百にも満たないらしい。
名前は……日ノ神村だってさ。
何か昔から、よく分かんない神様を信仰してたみたいだね。
村の名前からして、大体どんな神様なのかは想像がつくけど。
新興宗教って言うより、再興宗教って言った方が正確なのかな?

何にせよ途中までは車なり電車なりで行けるけど、そこからは山道を徒歩だぜ。
なにぶん、車道どころか歩道すら通ってないからね。
ま……時代に取り残された村って奴だなぁ。
誰にも助けてもらえなくて、自分で自分を助けられない奴らが、作り物の神様に頼る。
よくある話だし、別にそれがどうとは言わないさ。……誰かに迷惑を掛けない限りはね。
……それじゃ、いってらっしゃい。無事帰って来るんだぜ。

154 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/03 23:38:04 ID:???
【日ノ神村/中心部近く】

「あー……ヤバい。何がヤバいってこの作戦。ぶっちゃけ成功する気がしない。
 どうしよっかなぁ……失敗したら絶対怒られるよなぁ……公爵怖いしなぁ……。
 つーか何だよ爵位って……私女なのに男爵とか意味分かんないよ……」

周囲の民家に比べると幾分大きな、しかし古臭い屋敷の中、一人の女が頭を抱えていた。
服装は白地の狩衣に、浅葱色の差袴、黒い烏帽子。
肩の高さで切り揃えた黒髪に、小柄で、容姿は悪くないものの覇気に欠けた、どうにも臆病そうな女だった。
と、不意に女の背後で物音、戸を叩く音だ。
女は大仰にびくりと跳ね上がると、しかしすぐに平静を取り戻す。
振り返り、双眸を研ぎ澄まして、静かな声で戸の向こうの人物に告げる。

「入れ」

ただ一言、冷厳な声色だった。
許可を得て、おずおずと戸が横に滑る。
ご機嫌取りの魂胆があけすけな笑いが、部屋を覗き込んだ。
小太りで中年の男が、揉み手をしながら小刻みに頭を下げて口を開く。

「どうも男爵様。実は村人共がまた、日ノ神の奇跡を拝みたいと申しておりまして……」

小柄な臆病者――伊佐谷男爵は、冷気にも似た溜息を零す。

「用はそれだけか。……いいだろう、お前はもう下がれ」

冷たい響きで言い付ける。
小太りの男はやや笑顔を引き攣らせて、しかし媚び諂う態度は崩さずに立ち去った。
足音が遠ざかっていく。

「……あぁー、やだなぁ。何が日ノ神の奇跡だよ。あんなもんただの道術だし……。
 バレたら絶対袋叩きだよなぁ……。いや、バレないけどさ……。
 それにあのオッサンも、隙あらば全て独り占めしてやる的な雰囲気丸出しだしぃ……」

伊佐谷は、途端に陰気な雰囲気を再発させた。
嫌々と言った様子で、外へ出向く準備を済ませる。

「あ、一応アンタも付いて来てよ……。いざって時は担いで逃げて。わりと切実に。
 ごめんねこんなお願いして。……あ、いや、お嫁さんとかそう言うのは生理的に無理だけど」

ともあれ、伊佐谷男爵は屋敷を出て、村の中心部にある祭壇へと向かう。
凛とした態度を装いながらも、集まった村人達に内心で溜息を零す。

「皆眼の色がおかしいんですけどぉ……別に青いとかそう言うのじゃなくてさぁ」

小さくぼやき、祭壇に上った。
適当に仰々しく呪文を唱え、右の人差し指で天を指す。
山に半分ほど隠れた朝の太陽が、煌々と黄金色に燃え上がった。
子供だましの道術に、歓声が上がる。反して伊佐谷は小さく溜息を零した。
――が、不意に伊佐谷が遠くを見遣った。何もない山の中を。
この世界でありながら、現実とは非なる世界を。

155 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/03 23:42:45 ID:???
「……諸君、日輪に影が差した」

そして凛とした、冷徹を極めた音色で一言。
言葉が意味するのは、『招かれざる来訪者』。
村人達の眼に宿っていた盲信が、尊敬から殺意へと、たちまち姿を変えた。

「万が一にも儀式を邪魔される訳にはいかない。行け、日輪の使徒達よ」

命を受けて、村人――狂信者達は無言のまま、散り散りになっていく。

「……あぁーなんか来ちゃったよぉ。やだなぁ、なんでこうやって邪魔ばかり入るのかなぁ……」

人の目がなくなった途端に、伊佐谷は氷の仮面を跡形もなく融解させる。
それから渋々と印を結び、呪言を唱えていく。
村の周囲には木の杭を並べた背の高い壁、深い堀がある。
元々は山の獣が村へ侵入するのを防ぐ為の物だったが、今は違う。
来客は拒まず、しかし侵入路を限定する為の物になっていた。
鬼門、死門――忌むべき方位からの侵入を強いるのだ。

「でも、まだ『開門』が防げてないんだよねぇ……。
 やだなぁ、ちょっと知識があればこんなの簡単に見抜けちゃうだろうしなぁ……」

八門遁甲の知識がなくとも、霊感の強い人間ならば方位そのものから放たれる不穏を感知出来る。
急ごしらえの呪法陣など容易く看破されてしまう事だろう。

「じゃあ、アンタちょっと『開門』の方に行ってきてよ。
 案の定って言うべきか、何人か来てるみたいだし……。
 報酬はこの仕事が終わったらたっぷり出すからさ、ホントお願いします……」

【受願所→村の入り口】

高い壁の切れ目から村へと踏み入ると、至る所に田畑と、点在する古い民家が見える。
更に少し進んでいけば、冒険者達はすぐに村人達の姿を見つけるだろう。
村人達は鎌や鍬、鉈などの農具を手に、何かを探し回っているようにも見える。
間違っても和やかとは言えない光景を前に、冒険者達は姿を隠しても、あえて村人達に声を掛けてもいい。





【クエスト:日ノ神の眠る村
   目的:山奥の村に囚われた女の救出+α
コンセプト:バトル+謎解き、もとい謎作り。こちらは出来たらいいな程度
    敵:狂信者、妖魔犬、+α
目標ターン数:5〜8ターン】
【初っ端からクエスト開始しちゃいましたけどお許しを】

【村の規模→半日もあれば端から端までの行ける程度。村と言うより集落?
 山に囲まれた円形の土地。中心部には何やら祭壇がある。
 山道を抜けてくる途中で、一望出来たりするかもしれない。
 基本的には田畑と民家しかない。けど今は村のあちこちに木の柵や、よく見ると罠があったり】

156 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/04 02:47:28 ID:???
――森岡草汰の朝は、お天道様が顔を出す頃に始まる。
実家での母の厳しい監視の元の生活サイクルは、そう簡単に抜けるものではなく。
お陰で一度たりとも寝坊や二度寝はした記憶がない。

「……ん、もう、朝か……。」

目を擦り、障子を開く。目に決して優しくはない朝日が、何故か草汰は好きだった。
甚平に着換えながら、今日の朝飯は何にしようかと取り留めもない事を考える。
自炊は苦ではない。寧ろ得意だし、料理は好きだ。勿論、誰にも秘密だ。
着換え終わって、一階の厨房へ向かおうとし、はたと思い立つ。

「前掛け、前掛けっと。」

何時もなら実家から持ってきた前掛けを使うのだが、二週間前のとある事件以来、ある人に貸しっぱなしなのだ。
かと言って他の前掛けを使う気にもなれず、ついつい忘れてしまうのだった。

「(そーいや、さくらとはあれ以来会っちゃねーな……。元気にしてんのかな。)」

二週間前のあの日以来、雪生や岸、それに葦高などは、嘆願をこなす内に顔を合わせることもあった。
だが、同じ地域に住む玉響等とは会うことはあっても、彼女だけはとんと顔を合わせてなかった。
二週間前か、と初めての冒険を思い出す。――不意に、狩尾の冷徹な双眸がありありと浮かんだ。


――――――……君はきっと、僕らの同志になる。
 ―――――いや、なるべきなんだ。それが君の一番の幸せなんだよ


「(《幸せ》……かぁ……。)」

焼き魚の白身を咀嚼しながら、彼の言葉の意味を考える。
未だに彼は判断しかねていた。彼らと手を組む事が、本当に草汰の《幸せ》に繋がるのか。
それとも――――――?

「…………阿呆らし。」

吐き捨てるように草汰は呟くと、味噌汁を、もやもやする心の内情と一緒に、一気に飲み干すのだった。

【受願所】

「おや、久しぶりですね。
 折角、先日命拾いしたと言うのに、またここに来るとは酔狂なお方ですね。」
「ケッ。冒険者がどんな性分か分かってる癖に。相変わらず可愛くねえな、アンタ」

受付嬢はそれを聞き薄く一笑する。
久しぶりですね、なんて言う辺りがとても厭味ったらしいといったらありゃしない。

だが実際、ここ二週間

・実家に出た化け物鹿と一日タイマン
・人食い化け花退治
・山で遭難し錯乱した雪生とドンパチ

と、ロクに命を捨てるような真似ばかりしてきたのは事実なのだが。



157 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/04 02:50:24 ID:???
「ところで、そう言えば酔狂なあなたにお似合いの嘆願がありますよ。」

だから酔狂は余計だっつの。と言いたいのを堪え、嘆願に目を通す。
ある程度読み進めた所で、はて、と首を傾げた。
内容は、寒村で新興宗教の生け贄にされてしまうので助けてくれというものだが、……何故か既視感を覚えたのだ。

「なあ受付嬢さん、これって前からあったんじゃ……。」
「えぇ、大分前からあった嘆願です。
 ですが、誰もこなさないまま、或いはこなせないまま日が過ぎてしまいまして。」

詰まるところ、色々と複雑な事情が重なった案件のようだ。
暫く思考を巡らせる素振りを見せた後、草汰は真摯な視線で受付嬢を射抜き、その口を開いた――――。



余り乗り心地が良いとは言えない電車の中で、草汰は林真から受け取った資料を眺めていた。
今回向かう場所は日ノ神村という、村というよりは集落と呼ぶべき場所。

『何か昔から、よく分かんない神様を信仰してたみたいだね。
 村の名前からして、大体どんな神様なのかは想像がつくけど。』
「安直すぎだろ……。名前からして。」

サボり魔もとい林真曰わく。人口も少なく、時代に置いて行かれた、言うなれば《停滞の地》。
ぼうっと窓の外を見る。景色に緑が増えてきた。多分、ここから先は歩きだろう。
林真がぼやいていたことを、雑念ばかりの脳内で反芻する。

『ま……時代に取り残された村って奴だなぁ。
 誰にも助けてもらえなくて、自分で自分を助けられない奴らが、作り物の神様に頼る。
 よくある話だし、別にそれがどうとは言わないさ。……誰かに迷惑を掛けない限りはね。』

チクリと右頬の古傷が痛んだ気がして、無意識の内に掌で覆っていた。


【日ノ神村/死門】
現地に集合すると、意外にも例の彼女と再会した。

「よっ、さくら。久しぶりだな。あの眼鏡のオニーサンとは一緒じゃねえのか。」

それに、と振り返る。くたびれた道着を羽織る色白男、葦高。
今回はこのメンバーで組むことになったようだ。

「葦高さん、今日は頼りにしてっぜ。何たって相手が相手だかんな……にしても。」

キョロキョロ辺りを見回す。見渡す限り、田畑と民家しかない。
山道を抜ける途中でも確認したが、まるで何もない。
強いて挙げるなら、村の中心に妙な祭壇があった位か。
何となく、閉鎖的で、居心地が悪い。再び頬の傷が疼き、右手で抑えた。



158 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/04 02:55:18 ID:???
「葦高さん、さくら。早く行こう。……こういう所は苦手だ。」

眉間に皺寄せ、二人を急かす。その時。
草汰の視界に何か入った。それが『何か』を視認した時、草汰はカッと目を見開いた。

「! 二人ともしゃがめ!」

二人の頭を押さえて茂みに隠れる。そうっと茂みの影から様子を窺うと、村人らしき影が見えた。
手に、鎌やら鍬やらを構えている。だが、それを持つ目は血走り、到底農作業をしに来たとは思えない。
考えられるとしたら――自分達、つまりは侵入者の排除。
二人の頭を寄せ、草汰は作戦を練ることにした。

「(此処はやり過ごそうぜ。俺達は丸腰だし、ここの地形にも詳しくない。戦うのは得策じゃねーだろ)」

そっと耳打ちし、なるべく村人から遠ざかるように身を伏せたまま草汰は後退りし始める。
だが草汰は気づいていない。彼が後退る丁度その位置に、獣を捕らえる為の罠が埋めてあることに。
もしそのまま下がれば、草汰はその醜い鉄の牙に足を捕らわれるだろう。
そうすれば、余程の痛みに叫ぶか罠が立てる金属音で、草汰達の居場所はバレてしまう事は必須。
更に動けなくなった草汰を庇いながら戦う羽目になるだろう。
だがもし、優れた嗅覚が罠の鉄錆の臭いを探り当てるか、
地面から半分剥き出した罠の一部に気づけば、回避も可能かもしれない。
あくまで、可能性の話である。

【村人避けて行こうず→草汰の背後に罠。引っ掛かったら危険が危ない】


159 : ◆/02/WUSDNQ :11/07/04 13:03:37 ID:???
世にも珍しい戦車タクシーこと岸タクシー。
その日はさらに珍しく、客を乗せていた。
珍しいタクシーに珍しくのる客もやはり珍しかった。

歳のころ12.3歳の少女。
右手には初老の執事、左手には屈強なボディーガードを引き連れている。
ゴシック調の漆黒のドレスに流れるようなウェーブのかかった銀髪。
その物腰や言動からすると欧州の貴族の娘だろうか?
にしては似つかわしくないうす汚れた熊のぬいぐるみを左手で抱いているが…
それより更に似つかわしくないもの。
整った顔立ちを、ジト目に濃いクマが台無しにしている。
陰鬱な表情を額を横一文字に走る継ぎ接ぎの傷が不気味さを際立たせていた。

行き先は市内一周ということで、目的は観光であろう。
暫くすると
「ニッポンって不思議だわ。街を戦車がタクシーとして走るだなんて」
車内に漂う甘い麝香の主原因である客がポツリとつぶやく。
「左様でございますな」
それに定型文のように答える執事。
あくまで職務として答えているのであろう、表情は全く変わらない。
だが、少女は気にすることなく更に言葉を続ける。
「でももっと不思議なのは、あなたほどの人物が軍を離れタクシーの運転手をしている、ということね」
「左様でございますな」
突然後ろから運転席にかけられる言葉。
それは少女が岸の出自を知っていることをも表している。

「ただの運転手ではなく、ボウケンシャ、でしたっけ?
そんな不思議な人の首は本国への土産になるかしら?」
「左様でございますな」
続けられる少女の表情や傷以上に似つかわしくない言葉に、執事は変わらず同じ言葉で応える。
だが、執事とボディーガードの重心がわずかに前に移り、車内には麝香の香りと共に殺気が充満する。
岸は気付くだろう。
己を刺すような殺気が執事でもボディーガードでもなく、少女から放たれている事に。

緊迫の時間がどれだけ過ぎだだろうか?
突如として戦車が身震いし、急停車してしまう。
「あら、故障ですの?市内観光と戦車をもっと愉しみたかったですのに。仕方がありませんわ。ここで降りることにしましょう」
「左様でございますな」
車内の殺気は霧散し、執事とボディーガードは変わらぬ返事で少女と共に戦車を降りる。
「有能な者がその力を無為に消費させるのは罪だとは思いませんこと?」
少女は去りぎわにそう言い残して去っていった。

そして、戦車を調べれれば、電気系統に細く丈夫な糸が絡みついていることが急停止の原因だとわかるだろう。
もし霊力のある者に見せればそれが銀の髪の毛で、霊力を通した霊糸だとわかるはずだ。
少女の目的や正体は謎に包まれたままだが…

160 :ジャフムード ◆/02/WUSDNQ :11/07/04 13:04:24 ID:???
>>154
遠く東の果ての島国ニホン。
更にその奥地僻地の極みである日ノ神村には似つかわしくない異国人。
だが、だからこそ自分はここにいる意味がある、とジャフムードが思っていた。
未開故に人は揺るぎない、全身で寄り添っても、全てを委ねられる絶対的な指針を求める。
それに神というものは実に便利で、根拠もなく思考停止できる便利な代物だ。
ここの村人には奇異にしか見えないであろう、自分の得体の知れなさも神の泊づけに役立っている、と。
わからないから不安になる、わからないから安心する。
この二つは表裏一体なのだと今ならよくわかる。

「カミサマも気苦労が多いデスねー。わかりますよー。私も国ではそうでしたから。
お嫁さんになってもらえないのは残念ですが、お仕事ちゃんとしマース」
狼狽えたり冷厳な態度を装ったりと忙しい伊佐谷男爵の後ろで岩山のように立っていたジャフムードがにこやかに答えた。
伊佐谷男爵や公爵が何を企んでいるかなど知らず、所詮は流浪の異邦人の身で知ろうとも思わない。
それ故にでる気軽な気休めでしかなかった。

儀式が始まり、伊佐谷男爵が侵入者の存在を知らせる。
色めき立ち散り散りになっていく狂信者たちにジャフムードは肩を竦めて見送った。
かつての自分がどういうように見えたのかを再確認し、虚しさを覚えながら。

>「じゃあ、アンタちょっと『開門』の方に行ってきてよ。
> 案の定って言うべきか、何人か来てるみたいだし……。
> 報酬はこの仕事が終わったらたっぷり出すからさ、ホントお願いします……」
感慨に耽っていると伊佐谷男爵からの出撃要請。
ジャフムードには陣の知識はないが、やるべきことさえ示してくれれば何も考える必要もない。
「不思議デスねー!東洋の神秘デスねー!
あなたの術と私を動かすお金があればダイジョーブデスヨー!」
伊佐谷男爵に軽く手をふりのしのしと歩いていく。

そして開門には、狂信者たちの中、頭二つ以上大きな巨躯が腕を組んで冒険者達を待ち構えていた。

161 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/07/04 15:08:00 ID:???
―――さくら様!
―――お嬢様…
―――貴様に何が出来る!
―――さくらさん、貴女とはもう遊べないわ…だって



『あそこのお嬢様とは遊んじゃいけませんって言われてますもの』

「―――ふう、目眩しちゃいました」

嘆願を受け、車を有井に運転させてたどり着いた山。
それを登りながら、さくらは一つ、息を吐きました。
小さい頃は、それこそ文字通り野山を駆けずり回っていたのですが…。
息が上がっている中で傷付いた過去を思い出したので、気分は最悪でした。

(でも、過去は過去ですもの。心を切り替えていきましょう)

気合いを入れ直し、さくらは再び歩きます。
そんな時に思い出すのは、草汰やみどり、この間会った冒険者達です。

「皆様、元気にしてるかしら…草汰さん、も…」

無意識の内に呟いてから、さくらは首を振りました。これではまるで恋のようです。
それを否定する為に考えるのは、この嘆願の事。

受付から勧められたこの嘆願。
張り出されてから長い時が経ち、冒険者達に地雷認定された事件。
受付は酔狂だと言いましたが、さくらは過去を振り切る為にこの嘆願を受けました。

日ノ神村という閉鎖的な場で起きた、宗教による生け贄の話。
「よくある話だし、別にそれがどうとは言わないさ。……誰かに迷惑を掛けない限りはね」
と林真は言います。…さくらは、祀り上げられる立場で、その村を思っていました。

―――――――――――――――――――
ぼんやりと考えている内に、さくらは入り口にたどり着きました。
最初は誰も居なかったので不安になりましたが、直ぐに払拭されました。

「お久しぶりです、葦高さん! お元気そうで何よりです。
…家の都合でなかなか嘆願を受けられなかったのですが、今日やっと許可が出ましてやってきたのです!」

そうして葦高と近況を話して居ると、草汰がやって来ました。
「よっ、さくら。久しぶりだな。あの眼鏡のオニーサンとは一緒じゃねえのか。」
「あ、草汰さん! お久しぶりです。
終わる頃に迎えに来てくれるそうですわ…じゃなくて!
草汰さんも一緒なのですね、宜しくお願いします」

そして、挨拶もそこそこに、草汰が辺りを見渡します。
それはそれは、長閑な田園風景でした。
小さい頃過ごした、祖父の家を思い出すような…



162 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/07/04 15:09:11 ID:???
「葦高さん、さくら。早く行こう。……こういう所は苦手だ。」
「……あっ! 草汰さん、待って…」

さくらが過去に引きずられそうになったその時、草汰の声が現実に呼び戻しました。
過去の残滓を振り切るかのように慌ててついて行くと、草汰から鋭い声があがりました。

「! 二人ともしゃがめ!」
「きゃっ!」

頭を抑えられ、強制的に茂みに隠れます。
茂みの中からこっそり覗くと、そこには農民―――狂信者の姿が有りました。

「(此処はやり過ごそうぜ。俺達は丸腰だし、ここの地形にも詳しくない。戦うのは得策じゃねーだろ)」

そっと聞こえた草汰の声に、さくらは頷きます。
しかし、妙な匂いが鼻を突きました。
何か、そう…すぐ近くに、金属の匂い。

「ダメです! 草汰さん!」

音量を抑えた鋭い声と共に、さくらは草汰に抱きつきました。
コルクの栓を抜いたような音が鳴ります。
身に付けていた小袖、袴…おさげを飾っていたリボンまでが、音も無く落下しました。
そして、さくらは、

『罠が有るから―――って、あれれ?』

黒猫に変化していました。
それを見た二人と、思わぬ事態に陥ったさくらが、固まります。
いち早く復帰したのは、さくらでした。

『と、とりあえず静かに! 状況が落ち着いたら説明しますわ! 兎に角早く行かないと!』

叫びそうな草汰の口を前脚で塞ぎ、さくらが促します。
その声は間違いなくさくらでしたが、頭の中に直接響く、念でした。

『私が先行して、罠を露出させますね。だから、私の服を持って着いて来てくれますか?』

黒猫はそう言って、罠を探し始めました。



【草汰さんを止めて猫化→罠を露出】
【猫化:異性を抱くか抱かれると変化。(最新レスの秒数下一桁÷2)ターン後に元に戻る。
抱いたままだと戻らない】

163 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/04 21:27:47 ID:???
例の事件からおよそ二週間、ヨロイナイトの周辺は慌ただしかった。
自分たちに憑いていたおつう(幽霊)がこの度、目出度く成仏することになりその送り出しをしたり
新しく手に入った鎧を自分に馴染ませたり、新顔の妖刀の手入れをしたりと本当に忙しかったのだ。

特におつうと長居付き合いがあったらしい影法師と一反木綿は感慨も一汐のようで
しばらくは言葉もなかった。線香を炊いてお経を上げて、お金を燃やす(実際はやってはいけません)
とおつうは何度も手を振って空へと消えていく。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
皆が皆厳かな気持ちで彼女を送った後、最初に口を開いたのは住職だった。
「今まで何度か供養をしたが、こうして成仏するとこ見たのは初めてだなあ」

見習えよとヨロイナイトが言えば縁起でもないと坊主が返す。どっという笑い声が
寺から静寂を掻き出していく。一息つくともう一度全員で空を見上げた。
「おつう、良かったのう、本当に良かったのう」
「長かった、が、目出度し目出度しだ」

影法師と一反木綿はそう言うとヨロイナイトに思うところがあってしばらく出かける旨を伝える。
憑いて行ってやりたかったが三人だけの大事な思い出が有るのだろうとヨロイも彼らを引き止めなかった。

一度に三人もいなくなると流石に寂しかったが仕方がない。念願の妖刀も手に入って
しまった事で完全に手持ち無沙汰になった彼らは、嘆願を受けて冒険の一つでもすることにした。

ところで妖刀は何時どうやって一緒になったかと言うと、類は友を呼ぶとでも言おうか、日本では
曰く有りげなモノは燃やしてもらう為に神社に捨てに行くという話を聞いたヨロイが、二三日前にその辺の
ちゃんとした神社を物色した際に拾ったのだ。お焚き上げに燃えないゴミを置くなんて
世間知らずな奴もいたものだ。

そんな風に思いながら手に取った「曰くつきの刀」は予想を遙かに超えて質が良かった。
滑らかな白木の鞘から抜き放った刀身には乱れ一つない穏やか刃紋、全体的に枯山水のような
色合いを湛えた鮮やか且つ落ち着いた雰囲気、違和感を覚えるとするなら、切れ味を主張するような
輝きがないことだった。鉄で出来ているはずなのに石の剣のような印象を受ける。

そして柄の辺りからは腕抜きの縄、持ち手自体に滑り止めの工夫がなされ、手首を守るように
鍔が一方向に妙に延びている。実用的ではあったが刀身に対して細部は妙に野暮ったかった。

164 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/04 21:30:02 ID:???
(女か)
ヨロイは何となく製作者は女性のような気がして、耽美としか言えない打刀をもう一度しげしげと眺めた。
確かに妖気を放ってはいるのだが「これが人を切るとは俺にはどうしても思えん」とつい口に出した瞬間
刀が応じたように気配を消す。

何か引っかかる物を感じつつサーベルの代わりにそれを失敬すると下げ紐を通して自分に結ぶ。
新しく仲間が一人増えたと嬉しく思ったりもした。

そしてまた所と時間は移ろって、数日ぶりの受願所へ。こないだスズメバチの巣の駆除で来て以来だった。
とりあえず嘆願に目を通そうとすると変なのに目が止まる。白い綿のようなモノが困り顔で、ある嘆願の
上で止まっているのだ。前はいなかった筈だが。

キョロキョロしていたソレは目が合うと急いでこっちにやってくる。自分に気付いたのが余程
嬉しいのかこちらに飛び乗ってくる、人懐こい奴だとヨロイナイトは思う。
確認がてらに受願所の人間を見てみるがどうやら本当に見えていないらしい、
仕方が無いのでこの白い綿が乗っていた嘆願を受けると、彼らは目的地へと走って向かった。

この時他の冒険者より先に出たはずの彼らが現地でほぼ同じ頃に出会うのはまさに文明の力と言えよう。
他に嘆願を受けた物がいるとは知らないヨロイナイトは、鬱蒼とした森の中、目的の村の直ぐ近く、
壁の隙間から中が覗ける位置まで来ると、色違いの丸太、否、番人と思わしき巨漢を見つける。

「やっだー何あれー」
如何にも用心棒、如何にも番人、如何にも外国人。力自慢を表現しなさいという美術課題が
もしあったなら、彼を指差せばそのまま満点貰える。そんな感じだ。

さてどうするか、そう考えていると近くに、村人とは別の人の気配が有ることに気づく。
藪の中から周囲を見渡せば山道から誰かが歩いて来る。見覚えのある人物だった。
誰だったかを二秒くらいで思い出すと、彼女の足元の辺りへ鎧表面の宝石群から透明な水晶を放る。

コロコロと転がって来たそれを倉橋女史が訝しむのを見てからヨロイナイトは声を出した。
「お久しぶりだがヨロイです、聞こえますか、どうぞ」
小声で放す彼の声は水晶から彼女へと伝わっているはずだ、彼女が拾ったのを見ると彼は続けた。

「これから我々はちょっと様子見に言ってきますので、その水晶から見て、またそちらで何かあったら
水晶に話しかけてご連絡下さいどうぞ」

165 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/04 21:32:04 ID:???
そう言うとヨロイナイトは通信を打ち切ると、がさっと音を立てて件の大男の前へと歩いて行く。
全長だけならヨロイだって大きいほうだ、およそ二メートル程はある。それに新調したことで今まで
西洋甲冑独特のシンプルさ故の肩や腰まわりの味気なさは鳴りを潜めている。

簡潔に言うと腕と腰回りが和風の鎧にとって変わっている。いささか派手になっている。
ついでに言うとがちゃがちゃうるさい。華やかな作りと味のある色彩、袖と言われる部分と草摺や袴と
言われる箇所をヨロイはいたく気に入っていた。頭にも赤い将軍用の房飾りも付けた。

統一感が失われてカッコ悪いのだが、当人は非常にご満悦である。
刀も一本手に入ったし好調この上ない。自分の負ける可能性を一厘ほども考えていない。

「おいそこのデカイの!すまんがちょいと、そこを通しちゃくれないか」
意気揚々と番人、ジャフムードに声をかけた。
「今時生贄制度とか首狩り族でもあるまいに、分別を思い出せ」

自分の勝利を確信しきっているヨロイナイトはずかずかと接近する。
村に近づくに連れて、受願所で付いて来るようになった毛玉が見る間に元気を無くしていくことには
気づかないままに。

【ヨロイナイト、9-3+1、見た目がごてごてに、受願所で変な毛玉を拾得、
倉橋さんに通信機替わりに水晶貸与、ジャフムードさんに接近遭遇】

166 : ◆6IUsayKoSo :11/07/05 17:15:52 ID:???
路肩にタクシーを停め、彼は機関部の点検に取り掛かる。
突然急停止するのが珍しくなかったのは過去の話だ。彼の改造により、走ることには特化出来ている。
やはりタクシーたるもの客に不快感は与えられないと、毎日精魂込めてメンテナンスをしている。

にも関わらずこの不調。おそらく何か外的要因があるのではないだろうか、と彼は踏んだ。
やはりと言うべきか、大事な電気系統に糸らしきものが絡み付いている。
彼は1つため息をつくと。ゆっくりと、丁寧に、その糸を解きにかかる。

彼には霊的な能力がないため、その糸が霊糸であるかどうかの判断などつかない。
だが、ひとつだけ確信に近い想定がある。この糸を絡みつかせた張本人のことだ。
珍しく現れた客のことを、あまり疑いたくはないが……ほぼ、間違いないと考えていいだろう。

少女の言葉を思い出す。
彼の出自も知っているようだったし、まるで彼の命を狙いたいかのような発言も飛び出した。
しかし彼はあくまでも運転手。こちらから客に喧嘩を吹っかけることなどはするはずはない。
だが事実、彼は放たれる殺気に気が気ではなかった。このタクシー内で戦うことになっても困る。
勝敗云々ではない。せっかく高い金を出して設えた内装が無駄になってしまうかもしれないからだ。

結果的には戦いなどに発展せず、タクシーの急停止という一旦の終結を迎えた。
少女が去り際に残した言葉。彼はその言葉にだけ返答をした。形式的な乗車への礼の後に。

『私は――職に、貴賎などないと思っておりますから』

このタクシー運転手という職を選んだこと、後悔はしていない。
自分の力を無為に消費しているなどとは全く思わない。

絡み付いていた糸は全て外れ、再びタクシーはその轟音を取り戻す。
何か思うところがあったのか、彼は糸を一本だけ軍服の衣嚢に突っ込んだ。
もう日も遅い。今日の営業は終わった。また明日、頑張りましょう――。

悪くも悪くも印象的だった客を乗せた日。常ならばそのことを考えて日が終わってもおかしくはないが。
帰宅した彼は、今日の出来事などすべて忘れてしまった。

一通。
彼宛に届いていた手紙があった。
内容は――――

167 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/07/05 17:18:02 ID:???
金が要る。
金が要る。
金が要るのだ。

受願所にて、彼はすぐさま嘆願を受けた。もう受けないつもりだった、危険の高く実入りも多い、そんな嘆願を。
新興宗教の村で生贄にされそうな少女を助ける、とのことだ。以前も見た記憶があるのは確かで。
だが彼にはそんなことは至極どうでもよかった。報酬が底上げされている、たくさん貰える。よし受ける。

受理し、すぐさま向かおうとしたところで同じ嘆願を受けた人物を目にする。
その姿には、見覚えがあった。だから彼は会釈し、声をかける。

「玉響様、でしたでしょうか。しばらくぶりでございます、私タクシー運転手の岸でございます。
 見るに、どうやら私と同じ嘆願をお受けなされた模様で。宜しければ、お送り致しましょうか?」

常の彼ならば、「1円で」の枕詞がついていたことだろう。だが、今回彼にはそれがない。
単純に1人より2人の方が効率がいい。実力は既に知っている。向かうならば送ろう。
1円に拘っている時間すら惜しい。

〜〜〜

タクシーで行けるところまで向かう。これは戦車だ、道なき道も走れるように出来ている。
徒歩でしか行けなくなってからは徒歩になる。わりと早足で、山道を登り続ける。
彼は自分でもわかっている。少なからず自分が焦っていることを。

汗1つかかぬままある程度登ったところで、ようやっと目的の村に到着する。
高い壁の切れ目を抜け、村人達の姿を見つけたところで、彼は小声で口を開く。

「では、情報収集でもして参りますね。玉響様は影に隠れて様子でも伺って下されば結構。
 危険に遭うのは1人だけで充分でございますし」

そう告げて、彼は村人に自ら近づき、恭しく丁重な態度で話しかける。
村人達の様子は普通ではない。何かを探しているように。危険なことはわかっているが、虎穴に入らずんば虎児を得ず。
出来るだけ若い村人に声をかける。頭が良くなければなお良いが、その判断はさすがに難しい。

「失礼致します、ここがかの日ノ神村でございますでしょうか?
 実は私、噂に聞く日ノ神様について、一度だけでもそのお力を拝見したいとここまで遥々参りまして……」

もちろん、何も考えず声をかけた訳ではない。突然襲われても対処できるように。
警戒は、怠らない。

【入信希望のフリをして村人に声をかける】

168 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/07/05 18:58:42 ID:???
【玉響の自宅兼診療所】
夜明けまえにおきる。瞼も体もねっとりとおもい。
眠い目をこすり老骨に鞭を打ち、身を起こし、娘の御下がりの海老茶袴に着替える。
「おべんとう・・・つくる・・にゃ・」
まるで傀儡のようにフラフラと台所へ。サクサク。ぐつぐつ。
出来上がった小さなお弁当を卓袱台の上に置き置手紙。
『たんがんじょへいってきます。はは』

【嘆願所】
偶然か、岸良介に出会う
>「玉響様、でしたでしょうか。しばらくぶりでございます、私タクシー運転手の岸でございます。
 見るに、どうやら私と同じ嘆願をお受けなされた模様で。宜しければ、お送り致しましょうか?」
「んにゃ・・ただでおじゃるかの?」

【日ノ神村/鬼門】
新たな嘆願を受けた玉響は、四方すべてが山並みに囲われた日ノ神村へ到着。
今回の目的は、山奥の村に囚われた女の救出。相方は円タクの岸良介。

「ふぇ〜。岸どののタクシーのおかげで途中までは楽ちんじゃったが
山道のせいで始まる前から死にそうじゃ・・でも、あちしは頑張るにゃ。
娘を、すたんふぉーど大学にいれねばならぬのじゃから・・・」
聳え立つ鬼門を仰ぐ玉響はちゃっかり農民の姿に変装していた。
これは七方出で立ちの一つ、常の形。古来より変装は忍術の基本中の基本なのだ。

木柵の外ではざわざわと低木がゆれ、湿った土の香りが鼻腔をくすぐる。
門は丸太の門柱が高く聳えた造りで注連縄が巻かれ、扉は開いていた。

「北東に門・・・。鬼門に門とは不吉じゃのぉ」
おじゃる丸風味をました口調の玉響が、今回はこのキャラで行こうと心に誓いながらそっと門をくぐれば
やはりと言うか案の定、山道から見下ろしたそのままの長閑な風景が目に飛び込む。村人たちもちらほらと見える。
ただ異様なのは、彼らが手に鎌やら鍬やらを構えていることだ。警戒している玉響に岸が小声で語りかけてくる。

>「では、情報収集でもして参りますね。玉響様は影に隠れて様子でも伺って下されば結構。
 危険に遭うのは1人だけで充分でございますし」

「うゅ〜…。それならばお言葉に甘えるにゃ。あちしは影から・・・。というか観音隠れの術を使って隠れているでおじゃるよ」
玉響が言う観音隠れとは見えてはいるけれど気配を消すという言わば空気コテになる忍術。
いったん物影に隠れた玉響は村人になりすまし、村人に話しかける岸のもとへしれっと駆け戻ってきた。

「あんれま〜入信希望者だべか?こりゃめでたいねぇ〜」と村人になりすまし岸に助け舟。
もちろん、玉響も警戒は怠らない。長い袖に隠した手には麻酔針がきらりと光る。
【玉響:農民姿に変装。本人は馴染んでいるつもり】

169 :葦高 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/05 22:12:53 ID:???
目の前が紅く染まる。
『君!!ねえ大丈夫!?…ひっ!!』
地に臥し、紅い水溜まりを広げ続ける少女に駆け寄り、彼女の体をゆさぶる。
その瞬間、虚ろな彼女の目と目が合った。
何も映さない瞳に恐怖する。
幼い小さな自分の手が真っ赤に染まっていて。
それがさらに恐怖を掻きたて、声の続く限り叫んだ。
『う…あ…うああああぁあぁぁぁぁああーーー!!!』

あの日から彼女のことを忘れたことは無い。
子ども達を見ると、どうしても彼女と重ねてしまうから。


【受願書】

「ふう、これで受願も済ませたし、いきますかねえ」

今回、受付嬢から薦められた嘆願は何やら既視感を覚えたが、最終的に報酬の金額に飛び付いた。
これなら、子ども達に金を渡しても、僅かながら手元に残ると確信したからだ。

「兄貴ー!!忘れ物です!薬瓶!」

弟子の一人が入り口で手を振っている。

「あ」

今更薬瓶の存在を思い出した。
やはり考え事をしながら来るのは良くないなぁ、と思う。

「ありがとうございます。道場お願いしますね。」
「任せてくだせえ!気をつけて行ってらっしゃい兄貴!」

弟子は元気よくそう言うと、背を向けて走りだした。

【日ノ神村/死門】
ゆっくりと歩いて行くと、何時ぞやに見掛けた姿。

>「お久しぶりです、葦高さん! お元気そうで何よりです。
…家の都合でなかなか嘆願を受けられなかったのですが、今日やっと許可が出ましてやってきたのです!」
「お久しぶりです、さくらさん。お元気そうで。…そうですか、よかったですね。」

元気よく話すさくらに笑顔を向け、二人で近況を話しあう。
話していれば、これまた何時ぞやに感じた気配。

>「よっ、さくら。久しぶりだな。あの眼鏡のオニーサンとは一緒じゃねえのか。」
>「あ、草汰さん! お久しぶりです。
終わる頃に迎えに来てくれるそうですわ…じゃなくて!
草汰さんも一緒なのですね、宜しくお願いします」
「おやおや。これまた頼もしいお方が来て下さったものですねぇ。」

相変わらずいい筋肉してるなあと思いつつ、挨拶。

>「葦高さん、今日は頼りにしてっぜ。何たって相手が相手だかんな」
「あはは、僕も今日は頼りにしてますよ森岡君。」

そして、森岡がキョロキョロと周りを見渡すのを見ながら、僅かな不穏な気配を龍次は感じていた。


170 :葦高 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/05 22:14:10 ID:???
>「葦高さん、さくら。早く行こう。……こういう所は苦手だ。」
>「……あっ! 草汰さん、待って…」
「そうですね。」

森岡とさくらの後に続いて歩く。

>「! 二人ともしゃがめ!」
>「きゃっ!」
「うわっ!」

鋭い声と共に頭を押さえつけられ、地面に伏せる形になる。

「ちょっと、まだ僕腰痛めてるんですから…」

ぼそりと文句を言いつつも、農民の姿を確認すると同時に龍次は黙り込んだ。

>「(此処はやり過ごそうぜ。俺達は丸腰だし、ここの地形にも詳しくない。戦うのは得策じゃねーだろ)」
「(そうですね…)」

そのまま後ずさりを始めた森岡にさくらが突然抱き付いた。

>「ダメです! 草汰さん!」

乾いた音が響く。
さくらが身に纏っていた物が音も無く落ちた。
思わぬ事態にぼう然とする。

>『罠が有るから―――って、あれれ?』

頭の中に声が響いてきて、さらに混乱した。

>『と、とりあえず静かに! 状況が落ち着いたら説明しますわ! 兎に角早く行かないと!』

立ち直ったらしいさくらが、龍次と森岡を促す。
だがその時。

「おい、何か今変な音しなかったか?」

村人の声が聞こえた。
まずいと思うと同時に口を開く。

「に…にゃーお」

自分のできる限り精一杯の猫の声真似をする。

「なんだ、猫か。行くぞ」


171 :葦高 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/05 22:14:49 ID:???
農民の気配が過ぎ去った。

「ふうっ。あんなので騙されるなんて、お馬鹿さんですね」

サラッと失礼なことをいいつつ、さくらの服を拾う。
綺麗にたたんで、そのまま森岡に押しつけた。

「はいっ。」

それはもう、素晴らしい笑顔で。
森岡が何やら文句を言ってくるので、彼の側にすすすーと移動し、さくらには聞こえないようにそっと耳打ちをする。

「(こんな重い物、押しつけないで下さい。だって、今さくらさんが元の姿に戻れば、彼女の慎ましやかな胸やら何やらが白日の下にさらされるわけですよ!?)」

ちなみに重い物とは、責任のことである。
何気に失礼なことをいいつつ、龍次は森岡から離れ、さくらの後に続いた。

【信者に見つかりかけるも回避→さくらさんの服を森岡君に押しつける】
【長くなってすいません】

172 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/06 19:55:10 ID:???
>>159
路面電車が中央線を走る上野広小路。
そのだだっ広い往来で、倉橋冬宇子は人待ち顔で周囲を見回していた。
着物姿の左手にトランク。右手に地図と紙の束を握り締め、ちょっとした小旅行にでも向うといった風情。
掌中の紙に垣間見える文字は、『日ノ神村』―――

―――数時間前、冬宇子は受願所にいた。
勿論、嘆願を受ける為だ。
勤め先のカフェーは、昨夜辞めてきた。
店で半ば公然の仲だった多賀谷が、"あの事件"で後ろに手が回って以来、
冬宇子を指名しようという奇特な客など、もはや誰もいなかった。
民衆騒擾・暴動の厳罰化を盛り込んだ治安維持法発令が噂される折も折、
思想犯の女に関わって公安に睨まれては堪らない、という思いも当然だろう。

ほとぼりを冷まし、別の店に潜り込むまでの間、暫し糊口を凌ぐ手段が必要だった。
しかし、こんな時に限って、受願所にはロクな嘆願が残っていない。
小遣い稼ぎ同様の、雑用ばかりが並ぶ中、
唯一、報酬額が及第に至っていたのがこの仕事――『日ノ神村の生け贄救出』という訳だ。―――

「このあたりで客待ちしてるのを、よく見掛けるんだけどねぇ…」

往来を見渡して、冬宇子は呟く。
待ち人は『戦車』。この帝都どころか、世界にも一台しかないであろう、酔狂な『戦車タクシー』だ。
あの軍服姿の戦車乗り。勇壮だが無鉄砲。
軍人としては有能なのかもしれないが、商才の方はからっきし無さそうだ。
先日受けた嘆願の折も、送迎は『一人一円』とうそぶきながら、結局のところ回収しなかったお人好し。
上手く言いくるめてやれば、汽車賃以下の料金に値切ることもできそうだ。

そんな魂胆で"タクシー待ち"を続けていたところ、
重量感のある履帯の音を響かせて、件の戦車が、交差点に姿を見せた。
冬宇子は、ゆっくりと戦車に近づいた。焦る必要はない。
この"タクシー"、街でたまに見かけても、表示機に『空車』以外の文字を見たことが無い。

その時、歩道を歩く三人連れの主人格らしき銀髪の少女が、戦車に向かって手を挙げた。
ハッチが少女を招くように開く。

「よりによって、こんな時に客とはね。外人貴族の物見遊山かね?
 確かに異国でこんな酔狂なもんに乗りゃあ、土産話の一つにはなるだろうさ。」

先客に獲物をさらわれて、冬宇子は小声で悪態を吐いた。
少女が戦車に乗り込むために一歩、足を踏み出す。
両脇を固める黒服の影に半分隠れていた少女の全身が顕になった。

その姿が網膜に飛び込んだ途端、冬宇子の体は総毛立った。
ほんの一瞬だが、絹のような銀髪が生き物のようにうねり、強烈な霊気を発したように感じたのだ。
それも飛びっきりの、邪な霊気を――――

「………戦車の兄さん…あんたも災難が続くねぇ〜…
 くわばら、くわばら………私は、やっぱり汽車で行くことにしたよ。
 生きてまた会えるよう、気持ちだけ祈っとくよ。
 
 ………"六根清浄"――――!」

去り際、手印を組み、呪言を唱えて、走り去る戦車に念を飛ばす。

「まァ、この程度の守り言葉で、どうにかなる相手じゃなさそうだがねぇ。」
溜め息を零して、冬宇子は駅への道を歩き始めた。

173 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/06 19:58:54 ID:???
>>153-155
*   *   *

「もうっ…何なんだい?このド山奥は?!歩いたって歩いたって着きゃしないっ!!」

薄紫地に総菊花の御召、蝶の刺繍の名古屋帯。おまけに白いパラソル。
およそ、こんな山奥には似つかわしくない格好で、倉橋冬宇子は地べたに座り込んだ。
丁度山頂付近、山間いの村が一望できる場所。
頂より俯瞰する日ノ神村は、周囲をぐるりと木杭の高い壁で囲まれている。
そして中央部には石造りの祭壇…?
村を囲む壁と祭壇。八角形の中心に円を配したその形状に、冬宇子は"あるもの"を連想した。

「この形……まるで遁甲盤じゃないか。」

「六壬」「太乙」「遁甲」合わせて「三式」は中国、道教由来の式占術。
そのうち「遁甲」は、刻を表す『三奇六儀』と方位を表す『八門』によって吉凶を占う。
古式陰陽道における必須学識であるが、
とある事情で、冬宇子が正規教育を受けたのは賞味三年ほど。とても"使いこなす"域には達していない。
あの晴臣の如きは、やっと物心がつく頃から玩具代わりにしていたのだろうが。
感覚を研ぎ澄まし、もう一度村の景色を見下ろす。
村の外壁を空中に写し取ったかのように、霊気で形作られた八角形の陣が目に映った。

「呪法陣……!ここの教祖は道士かい?
 八門の型に結界を張って、侵入路を塞いでるつもりか…敵を凶門に追い込む兵法かもしれないね。」
 
トランクの中から、占術用の簡易式盤を取り出し、掌に載せた。
精神を集中し、村の上空に漂う呪法の霊気に波長を合せる。すると式盤がひとりでに回転し方向を示した。
吉と出たのは『開門』の方位―――

「結界の綻びは"あっち"か。とりあえず行ってみるしかなさそうだね。
 それにしても結界まで張って人払いとは。生贄の儀式ってのも案外、眉唾でもなさそうだ。」

山道、けもの道、道なき道を、休みやすみに掻き分けて、ようやく村に至る小道に辿り着く。
着物は着崩れ、髪は乱れ、足袋と草履はドロドロだ。おまけに鼻緒がぷつりと切れる。

「もうっ!縁起でもない…」

切れた鼻緒を直そうと屈んだ途端、目の前を光る玉が転がった。
思わず追いかけ摘み上げたその玉から、聞き覚えのある声が―――

174 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/06 20:07:06 ID:???
>>160 >>163-165

>「お久しぶりだがヨロイです、聞こえますか、どうぞ」
>「これから我々はちょっと様子見に言ってきますので、その水晶から見て、またそちらで何かあったら
>水晶に話しかけてご連絡下さいどうぞ」

ガサリと音を立てて、草むらから珍妙な装飾で着飾った和洋折衷の西洋鎧が出現した。
腰に履いた草摺からガチャガチャ騒々しい音を響かせて、村の入口へと一直線に歩く。

「…ちょ、ちょっと待ちなよ!…真正面から行く奴が…それのどこが"様子見"だい……?」

西洋鎧は、冬宇子の言葉など耳に入っていない様子で、門前の巨漢に歩み寄る。

「まずいねぇ…この村には道士がいそうだってのに。
 あの鎧の中の屍人(キョンシー)なんか簡単に操られちまうよ。
 "ミイラ取りがミイラに"って諺がシャレにならないじゃないか。全く仕方がないねぇ…」

冬宇子は思い切り息を吸った。
そして―――絹を裂くような悲鳴を上げて、隠れていた木の影から飛び出す。
そのまま村の中に駆け込み、西洋鎧と対峙する巨漢の後ろに回り込んだ。

「ああ良かった!助けて下さい!山道で迷っていたところ、あの鎧に襲われて…」

羅刹のような大男の背中に縋り付き、大袈裟に震えてみせる。

(鎧…悪く思わないでおくれよ。無事に逃げとくれ。
 それに、敵同士と思わせて通じる方が有利に働くかもしれないだろう?)

混乱の最中に人目を忍び、掌中の玉に小声で訴えた。

【岸さんと、ょぅι゛ょの出会いを目撃していたことにしちゃいました】
【ヨロイさんに悪役を押し付けて、山道を迷ったカワイソーな女を演じジャフムートさんに助けを求める】
【村人に怪しまれずに村に入り込んで、内部から探索しようというハラであります】

175 :ジャフムード ◆/02/WUSDNQ :11/07/08 22:35:33 ID:MteQUE1P
>>165>>174
>「今時生贄制度とか首狩り族でもあるまいに、分別を思い出せ」
「ひ…さ…」
ヨロイナイトと対峙したジャフムードは肩膝をついてうずくまっていた。
ずかずかと接近してきているが声が出ない。

まず、大仰な西洋鎧でありながら腕と腰周りが和風の鎧となっている。
華やかな色彩に袴やらなにやら。
頭には赤い将軍様の房飾りも付いている。
和洋折衷といえば聞こえはいいが、統一感がなく節操のなさで悪目だちしている。
挙句に露出する顔は女ではあるが明らかに死者のそれである。

ジャフムードとて世界を旅してきて、人外に会うのが初めてというわけではない。
だが、これほどまでに奇っ怪で意味不明な姿をしたものには会った事がなかった。

自分もこの日本においては異邦人であり、こんな衣装を着て得体の知れなさで神の演出に一役かっている。
などと思っていた昨日までの自分を全力で殴ってやりたい!
この目の前に現れた怪人に比べれば、自分など村人Aに毛が生えた程度のものだ。
しかも和洋の区別どころか生死の区別すら付いていないのに。
「分別を思い出せ」などと言われてしまうとは!

言葉も出ないとは正にこのことである。
周囲の狂信者たちもあまりの奇っ怪さに目が胡麻のようになりただただあっけにとられて見ているばかり。

ヨロイナイト向かうところに敵なし!
と言ったところで、そこに絹を裂くような悲鳴が響きわたる。
悲鳴と共に木の陰から飛び出した倉橋がジャフムードの後ろに回りこみ、鎧に襲われたことを告げる。
それを聞いたジャフムードに覇気が戻り、立ち上がった!

176 :ジャフムード ◆/02/WUSDNQ :11/07/08 22:36:33 ID:MteQUE1P
「久しぶりに謙虚な気分になれたが、立ち上がれたので謙虚な気分はまた今度、デース!」
眼光鋭くヨロイナイトを睨みつけながらも、背を剥け倉橋の肩に手を当てる。
見れば髪は乱れ、着物は着崩れている。
ガタガタと震える姿に落ち着かせるようにやさしく…
だが、もし倉橋が顔を上げ見上げたのなら、鼻の穴を大きく膨らませて面相を崩すジャフムードを見ることになるだろう。

「春が来た!東洋の端のニホンで人生の春が来たデース!
国では小さくて可愛い少女が好きというだけでロリだペドだと蔑ずまれてきたけど、この国ではこのくらいの少女でも成人!
こんなおいしいシュチュエーションはアラビアンナイトの中だけと思っていたけど、正に黄金の国じぱんぐデース!」
声に出しているつもりはないのだが、余程嬉しかったのか、小さく漏れ出てしまっているのは本人気づいていない。
キリリと表情を作り、
「安心してくださいーい!この村は神の庇護にあるのです!
お嬢さんを怖がらせる魔物はこのジャフムードが退治しマース!」
そう宣言すると、ヨロイナイトヘと向き変える。

「信者の皆さん!この異形の魔物!正に男爵様が告げた日輪に影を差すモノデース!
神に授かりし力で退治しましょう!」
大仰に宣言し、両手をかざすとジャフムードが呪文を唱え出す。
「リン・ビョウ・トウ・アラタマ・キヨタマ・いあいあ・くとぅふ・ウン・ケン・ソワカ!!」
その呪文に村人たちは歓声を上げるが、倉橋が聞けば失笑以外しようがないだろう。
それらしい言葉を適当に繋げただけのでたらめの呪文。
ヨロイナイトも、その呪文によって霊気や妖気が増えることは感じられないはずだ。

だが、元々大きな身体だが、筋肉が膨張しさらに大きく感じるかもしれない。
霊気の類はなくとも、その力は十分過ぎる威力を持つ。
「ん、ん〜!言いたいことはいくつかあるが、一言で言うなら…
お 前 が 言 う な ! ! !」
まさにそう、ヨロイナイトだけには言われたくない分別を思い出せ!の言葉を返すようにジャフムードは地面を蹴る!
あとに残った小さなクレーターにその踏み込みの強さ、推して知るべし!
しかも今回、女に良いところを見せようとする男の下心補正も加わり威力は通常の1.5倍!
その姿は火山の噴火で飛び出した巨岩のごとく。
巨大な筋肉の塊がヨロイナイトに渾身の体当たりを喰らわせる!

【ヨロイナイトの異形の姿と言葉に打ちひしがれる
倉橋に人生の春を見て、ヨロイナイトに渾身の体当たり】

177 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/09 00:28:08 ID:???
【死門、傷門】

落ち着いて周囲を見回してみれば、冒険者達は罠や木柵の配置が規則的である事に気付くだろう。
罠は侵入者の進路を阻むのではなく、限定するように仕掛けられていた。
死門の東には景門があり、傷門の北には生門がある。
そちらに逃げ込まれ、凶門の方位から侵入者が逸れないようにする為だ。
勘の鋭い者ならば、地面が放つ吉凶の気を察する事が出来るかもしれない。

【→死門】

何とか見つかる事なく進んでいる森岡達だが、暫くすると、ある異変に気付く事になる。
村人達が黒い霧のような物を纏い、両眼を青く光らせて、鬼にも似た気配を発し始めた。
伊佐谷による呪術で、周囲の凶気を取り込んでいるのだ。
己の存在を人間から凶運そのものに近付ける、降霊術を基にした呪法。
反動の激しい、肉体は元より魂さえもを傷付ける外法だが――村人達は構わずそれを受け入れた。

半ば凶運と同化した村人達は、己の矛先となる者達を五感に頼らず知覚出来るようになっていた。
ゆっくりと、身を隠す森岡達へと近寄っていく。
――が、不意に村人達の背後、遠くから微かな金属音が響いた。直後に、高く短い悲鳴が続く。
村人達が立ち止まり、振り返る。そして歩き出す。森岡達から離れていく。
今の内に進めば、森岡達は立ち並ぶ民家まで問題なく進む事が出来るだろう。
隠れる場所も増える。状況を有利に運ぶ事が可能だ。
聞こえてきた音と声は、極々微細なものだ。
聞き逃しても不思議ではない。気のせいだと切り捨てる事も、
野犬か何かが捕まったのだろうと聞き流す事も、出来る。

【→先に進む】

森岡達は無事に民家の陰にまで辿り着く事が出来た。
家の中に入って一息吐くのもいいだろう。
――暫くすると、今度こそ絹を裂くような悲鳴が聞こえてくる。
だが、その頃には、もう森岡達に出来る事は何もない。

【→先に進まず、村人達に挑む】

森岡達が姿を現して自分達の存在を主張すれば、当然村人達は再び歩みを止め、振り返る。
数は十人、やや多いが、不意を突けばある程度は一息に減らしてしまえるだろう。

森岡達に気付くと、村人達は言葉を発する事もなく襲い掛かる。
鉈や鎌を投げ、鍬を振り下ろし、包丁を突き出す。
平時ならば、冒険者達には通じる筈もない攻撃。
だが村人達は今、凶運の体現者となっているのだ。
たとえ鉈や鎌を避けたとしても、岩や石、武器同士でぶつかり合い、予期せぬ軌道を描くだろう。
鎌や包丁にしても、村人達が転ぶなどして、予想外の動きで冒険者達に迫るかもしれない。
もちろん、足元の石ころで体勢を崩すなど、冒険者自身が不運に見舞われる事もあり得る。

178 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/09 00:28:33 ID:???
【→傷門】

>「失礼致します、ここがかの日ノ神村でございますでしょうか?
> 実は私、噂に聞く日ノ神様について、一度だけでもそのお力を拝見したいとここまで遥々参りまして……」

>「あんれま〜入信希望者だべか?こりゃめでたいねぇ〜」

「馬鹿言うでねえ。見ろぉこいつの格好。お上の犬だぁ」

村人達は、どす黒い敵意を燃やした視線で岸を睨む。

「どこから嗅ぎ付けて来たかぁ知らねえが、もうオメェらにくれてやる『日ノ神様』はねえだよ」

反発、拒絶の感情を秘めた声色。
情報収集は失敗だった――が、拾い物もあったかもしれない。

「ところで……」

と、村人の一人が変装した玉響に視線を向ける。
凝視、そして、

「オメェは、どこの誰だぁ?」

淡々と一言。
人口減少の一途を辿る閉鎖的な集落だ。
格好と雰囲気を変えたところで、見ない顔があれば気付かない訳がない。
即座に村人達は動いた。岸と玉響を取り囲む。
その動きはただの村人とは思えないほど鋭敏で、力強かった。
見れば村人達の両眼は赤く煌き、炎を思わせる怒気が溢れていた。
傷門は凶門でありながら、『他者を傷付ける事』にのみ吉の性質を秘めている。
村人達は呪法により、その性質を増幅、身に宿しているのだ。
骨が砕け筋肉の裂ける音が響かせて、村人達は鍬や鉈を振り下ろす。

少し走れば、民家の立ち並ぶ区域に辿り着ける。
逃げ込み、やり過ごせば無駄な消耗を避ける事が出来る。
だがあえて村人達を打ちのめし、情報収集の方法を変えるのも良いだろう。

179 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/09 18:39:55 ID:???
「ダメです! 草汰さん!」
「ッ!?」

後退りしていた草汰の耳に、さくらの声量の押さえた鋭い声が突き刺さる。
予想外の事に草汰がビクリと体を強ばらせた一瞬、さくらが草汰に抱きついた。
咄嗟の判断で、左手で地をついて体を支え、右手でさくらを抱き止める事で尻餅を回避。
危なかった、とホッと吐き出そうとした安心の溜息は、コルク栓が抜けるような軽快な音で引っ込む。
さくらが、小袖や袴を残して消失したかと思えば、

『罠が有るから―――って、あれれ?』

変わりに、愛嬌のある黒猫が、さくらの小袖の中からひょっこり顔を出したではないか。
予想外かつ摩訶不思議な現象に、草汰も葦高も言葉を失う。
さくらが消えて黒猫現れた。混乱する頭で状況を整理し、弾き出される答は一つ。

「お前、さく――――――!?」
『と、とりあえず静かに!』

叫び声を上げようとした口を塞がれる。たしっ、と小さな両前脚で唇を押さえられ、それを振り払う訳にもいかず、黙って何度も頷く。
猫さくらはそれに満足したのか、草汰の腹から音も立てず飛び降りる。

『状況が落ち着いたら説明しますわ! 兎に角早く行かないと!
 私が先行して、罠を露出させますね。だから、私の服を持って着いて来てくれますか?』
「(あ、相分かった)」

念によって直接脳に響くさくらの声に、草汰はたじたじながらも従うことにする。
だが忘れてはいけない。さくらの変身する音を聞きつけたのは、何も草汰や葦高だけではないのだ。

「おい、何か今変な音しなかったか?」

その場で全員が石のように固まる。空気も張り詰める。
よもやバレたか。諦めて戦うしかないか、と拳を固める。
すると、隣で葦高が口を開いた。何か作戦があるのかと葦高に注目する。

「に…にゃーお」
「(って、只の猫真似かーい!)」
「なんだ、猫か。行くぞ」
「(しかもおもっくそ騙されてるー!?)」

村人が勘違いし、草汰達とは逆方向へ去っていく。
草汰が一人胸中でひっそり突っ込む横で、葦高はさくらの服をいそいそと丁寧に畳む。

「はいっ。」
「へっ?」

押し付けられた。きちんと畳まれたさくらの衣服が、草汰の両手の中にある。
草汰は慌てた。てっきり葦高が抱えていくものと思ったのだ。
文句の一つでも言ってやろうとすると、葦高がすすすーっと近寄り、草汰の耳元でこんな事を囁く。

180 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/09 18:42:01 ID:???
「(こんな重い物、押しつけないで下さい。だって、今さくらさんが元の姿に戻れば、彼女の慎ましやかな胸やら何やらが白日の下にさらされるわけですよ!?)」

葦高の主張のせいで、両手の中の衣類が途端に鉛のような重さに感じるような錯覚を覚えた。

『きゃー!見ないで下さい草汰さんのエッチ〜!』
「(って何考えてるんだ俺!この莫迦!)」

妙な想像力が働いてしまった。しかも発想が童貞臭い。変な事を考えたせいで意識が変な方へ向かっていく。

「ちょっタンマ、一寸でいいから待ってくれ……!」

服を抱えたまま、前屈みの姿勢で呻く。何を待つのか聞くのは野暮というものである。
何か別のことを考えて落ち着こうと周囲を見渡した時、あれ、と首をかしげた。
妙だ。さくらが避ける罠や柵。それが不自然な位に規則的である事に違和感を覚えた。
獣を捕まえる為というよりは、まるで”追い込む”かのような置き方。
それがより一層、この不気味な雰囲気に拍車を掛けていた。

「(この村……何かがおかしい……?)」

その時。再び、ポンッ、とコルク栓が抜けるような軽快な音が響いた。

「――――――――――――ッ!」

音を聞くや否や、草汰は素早く桃色の小袖を広げ、音の元へと飛び掛かる。
どさりという音の後、そこには押し倒されて自身の小袖を被せられたさくらと、さくらに乗りかかるような姿の草汰。
端から見れば、至極不健全かつ危なっかしい構図だ。
だがさくらの裸体を見まいと固く目を閉じていた草汰には、一体どんな格好になっているか確かめようもない。
よろよろと尻餅をつくように後ろへ腰を下ろし、さっと背中を向ける。

「はっ早く着ろよ!見てねーんだから!」

残りの衣類を投げて寄越し、耳まで真っ赤してさくらに怒鳴る。
いやはや全くもって心臓に悪い。未だにバクバクと煩いのが自分でも分かる。
背後で布擦れる音を聞きながら、ふと遠くへ視線をやり、ギョッとした。
去っていった筈の村人達が、引き返してきたのだ。
加えて様子もおかしい。黒い霧のような物を纏い、双眸は妖しく青く爛々と光らせ、幽鬼の様だ。
さくらと葦高に隠れろと合図し、草汰も身を潜ませる。
奇妙な事に、葦高の下手くそな猫の声真似で騙されていた村人達が。
まるで最初から草汰たちの居場所が分かっているかのように向かってくる。
いよいよもって焦燥に駆られる。今度の今度こそ、戦うしか――!?

181 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/09 18:47:16 ID:???
だが不意に、遠くで微かに何かが聞こえた。金属音のようだ。直後に何かの悲鳴も聞こえた。
村人達はいっせいにそちらに気を取られ、音のしたほうへ歩き出す。
逃げるなら今が好機かもしれない。
だがひとつ気がかりなことがあった。あの音を立てたのは、一体”何”だ。
獣か。いや、ここに来るまでに、この村の異常な気配を察してからか、獣はおろか鳥一羽すら見ていなかった。
だのに、こんな所まで来た獣が罠に引っかかるだろうか。

「葦高さん、さくらを頼んだ!」

脱兎の如く、音が聞こえた方へ駆け出す。さくらが教えてくれていた罠の場所を避け、走る、奔る!
草陰を分けていくうちに見えてきた。淡い金髪に白い肌――異邦人と思われる少女が罠にかかっている。
そして、その少女を狙って、村人の鉈が振り下ろされる!

「止めろぉおおおおおおお!!」

村人達が一斉に振り返った。岩を踏み台に、草汰は少女のもとへ跳ぶ!
当然、侵入者を認めた村人達は草汰へ向けて鎌や包丁を投げつける。
刃先が草汰の頬や腕やらを掠める。髪を結っていた紐がぶつりと切れ、髪がばらける。
それでも怯むことなく、草汰に襲いかかる村人を拳で沈黙させ、少女と鉈の間に割って入り、鉈を持つその手を掴む!

「女の、しかも子どもに手ェ出そうなんざ……感心しねえなあ〜〜?」

掴む手に力をこめると、村人は呻いて鉈を落とす。
草汰はそれを拾い上げて構え、村人達に向き直る。

「婦女子をいたぶろうってその腐った根性……この俺が直々に叩き直してやるぜ!」

何故か、草汰はこの少女を救いたくて仕方なかった。
彼の正義感が突き動かすのかもしれない。
或いは同じ異邦人の血が流れる者同士だからかも知れない。
何より、少女が震える唇で、助けてと呟いたからかもしれない。
今となっては、草汰には知る由もない。

【さくらさんに押し倒す形で服を被せる(見てないヨ!)
 村人から鉈を奪い取り闘る気満々】

182 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/09 22:56:46 ID:???
目の前の男達が言葉を失うのを見て取るヨロイナイトはご満悦といった風情だ。
上着の類こそ間に合わなかったがイイ線逝ってると本人は硬く信じている、ので甚だしく
勘違いが先行している有様だ。

だが別の、そして正しい意味で以て唖然としている村人を前にしていると倉橋女史が門番こと
ジャフムードの背後に回りこんでこちらを悪役に仕立て上げる。

(ああ、しまったなあオレ達だって分かんなかったかなあ)
きっと別のヨロイに見えてしまったのだろうとヨロイは思う。一度しか会っていないし
以前と今回では大分見た目が異なる。そしてお洒落をすると誠実さが薄まって見えるのは
中々避け難いことだ。

以前の足軽のような自分が今回は将軍然としているし、似合わなかったので仮面も今回は
後ろに控えさせたので、キョンシーの顔が出ている。直ぐ分かれという方が酷だ。

そんな都合のいい事を考えていると、女性に泣きつかれてすっかりヤル気になった
ジャフムードが適当な呪言のような物を口にする。
インチキだとすぐ分かる。当人に信仰心が殆ど無いし、村人からジャフムードへと送られる信仰心も
何かに伝達されて力となることがない。はっきり言って信仰の無駄使いだった。

「なんだその適当な呪文は!妖怪相手だからって適当をするんじゃないコノ変態!」
>>「ん、ん〜!言いたいことはいくつかあるが、一言で言うなら…お 前 が 言 う な ! ! !」

正しさを体現したジャフムードの体当たりを喰らうと、「ぎゃふん」という声とともにヨロイナイトの体が
軽々と宙に舞う。鎧が軽い訳はないのだが人ひとり分くらいは浮くと地べたに激突する。

痛い、はっきりと痛い。下手すると以前の大砲より痛い、霊力とか妖力とか信仰心とかそういう力の
入ってない物ならいくら食らっても平気の筈だった。それこそ爆弾だろうが攻城用の杭だろうが
大丈夫だったのに。

なのに痛い、きっちり攻撃の重さを感じてヨロイナイトは蹲った。闘気を込めた攻撃でも
ここまでの生命エネルギーは出ない。恐るべきはジャフムードの下心、昂った欲望が
気に応用できる程の力を生み出すとは思いも因らなかった。

喝采が鳴り響く中でなにやら小声で話しかけてくる声が聞こえる、倉橋女史だ。
>>(鎧…悪く思わないでおくれよ。無事に逃げとくれ。
 それに、敵同士と思わせて通じる方が有利に働くかもしれないだろう?)

些か言うのが襲い気もするが彼女の提案に乗ることにすると、ヨロイはよろよろと身を起こし
「覚えてろよ!また来るからな!この茶色!」と捨て台詞を残してどうにか藪の奥へと走り去る。

183 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/09 22:57:58 ID:???
それからしばらくの間茂みに隠れながら体勢を立て直していると、肩にいた白い綿毛のような
アイツがいない事にヨロイは気ついた。キョロキョロ辺りを探すと兜の房飾りに絡まっているのを
見つけたがなにやら元気がない。

もしかして精霊や神霊の方の妖かと思い考える。村の中は今のヨロイ達にはすこぶる居心地が
良い場所になりつつある。だが気が淀めば土着の精霊は弱るものである。村に近づく程
具合が悪くなるのは当然といば当然だった。しかしここで妙だ、と宝石が告げる。

(自然を流れる精とか霊はそもそも、自分のいた場所を離れられないか、一つ所に留まれないかの
どっちかだ。流れるか、留まるか、なのにこいつは受願所にいてあの依頼に固執していた・・・)

ヨロイナイトの知恵袋である一反木綿と対をなす頭脳の宝石は淡々と考察を述べる。
(使い魔を思い浮かべるだろうけど、魔的な物なら村や妖怪に近づいても平気なはず、これは
あの倉橋っていう人が使ってた紙みたいな霊的な使い魔なのかも知れない)

そこで一息付くと宝石は言葉を止める。つまりこの白いのは今村の中にいる誰かの使いか何かで
あり、助けを求めて受願所に来たということなのか。しかし今の話では村に近づけば弱ることはまだしも、
ヨロイ達に近づいて平気なことの説明にはならない。

霊的なのか魔的なのか、今一つはっきりしない。もしこの場に影法師がいてくれたならこの白い
のがケセランパサランという「精」であると教えてくれただろうし、それによってコレの正体が
何であるのかもう少し分かっただろう。

こういう時、失われた力の大きさをヨロイは実感する。とは言え今は倉橋女史からの連絡待ちの状態だ。
特にすることもないので一同じっとしていると中心格に当たるヨロイがぽつりと愚痴をこぼし出す。

「昔はこんなんじゃなかったのになー、今よりも白くて輝いてたのになー、あーあー」
遠い昔の自分の姿に思いを馳せては溜息をつく。昔は光の剣とか盾を持って戦っていたのに
今じゃ安っすい青銅の鎧に地獄のサーベルに呪いのマスクだ、あんまりだ。

「あん時負けなきゃまた違ってたんだろうなー、ん?」
妖気に混じった微かな闘気を感じ取るとヨロイナイトはそちらを見る。懐かしい感覚だった。
(良い気迫だなあ、正義の匂いがする。人間にまだ残ってるとはな、しかし一体誰が・・・)

しばらくの間ヨロイは死門の方角を見ていたが、、まあいいやと再び愚痴を零す作業に戻った。
【ヨロイナイト、ジャフムードの体当たりに予想外のダメージ、転身後冬宇子さんからの連絡を待つ】

184 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/07/10 12:07:20 ID:???
>「馬鹿言うでねえ。見ろぉこいつの格好。お上の犬だぁ」
長閑な農村の裏側に潜んでいた狂気。溢れ出した敵意の眼差しが岸を射る。

>「どこから嗅ぎ付けて来たかぁ知らねえが、もうオメェらにくれてやる『日ノ神様』はねえだよ」
「・・・?」(くれてやる『日ノ神様』はない)
村人の言いように玉響は小首を傾げた。これではまるで神様がタンメン扱いではないか。

>「ところで……」
>「オメェは、どこの誰だぁ?」
「ふぇ?あたすは、…ぁゲフぅんとこの、ぁこぉだべ。
病気であんまり外さ出たことないんだべさぁ。ゲフンゲフン…」
見え透いた虚言に村人達は怒気を宿すと岸と玉響を取り囲む。
玉響は作務衣の下、腹に冷や汗がつたるのを感じる。

「およょ。岸どの。この者たちは普通ではないでおじゃる」
岸と背中合わせの玉響は両手に針を持ち十字に構えた。
そこへどっと駆け寄る村人達。異音とともに振り下ろされる鉈や鍬。
「くたばれクソばばー!!」
無数の影が交差する中で玉響は村人達の赤く煌く両眼に尋常ではない嫌悪感を覚えた。
鉈を避け、振り下ろした者の首筋に麻酔針を刺し、麻痺した村人の肩越しに他の村人をねめつければ
「さあさあ!かかってこいでおじゃる!!」
と、赤い狂気の渦に引きずり込まれたかのように戦いに興じてゆく。その姿はまさに山姥。
玉響は忍者八門(忍者の必修科目)の一つ、骨法術と針を複合した技で村人を次々と打ち倒していった。

185 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/07/10 12:08:08 ID:???
玉響が燃えているのか燃やされているのかわからない瞳で
ふと岸を見れば彼の背後に村人が一人。構えた鉈を背に振り落とさんとしている。
「うしろでおじゃる!岸どの!」
叫び、八方手裏剣を投げつければ、それを手に受けた村人は鉈を落とし蹲る。
「やった!当たったでおじゃる!!」
因みに八方手裏剣の原型は八輪宝(法輪)との説もあるらしい。
つまり、仏法の修行法である「八正道」の意がこの手裏剣に込められているのだ。
とすれば、たんなる武器ではなく「仏法・正義を守るための武器」と考えてもおかしくはない。
もともと忍術とは密教の山伏が、仏法を広め守るがために始めた術という説もあるのだから。
怒りの渦の中心で玉響は岸に問う。
「この村人の感じ。この胸の苛立ち・・・。岸どの。これは遁甲ではおじゃらぬか?
つまり、あちしたちが入って来たのは鬼門ではなく傷門だったのでおじゃる」
玉響は歯噛みし後悔していた。
忍者八門の一つに教門がある。知識教養など、さらに古来の軍学兵学に通じる一門。
それがきっちりと頭に入っていればまんまと敵の術中に嵌ることもなかったのだが
それが出来ていないからこそ玉響。
「岸どの!ここはやばいでおじゃる!生門か杜門の方角に逃げるでおじゃるよ!」
玉響は民家の集まる場所へと逃げ、曲がり角を生門の方角へと曲がる。
「速く来るでおじゃるよ!岸どのー!おぎょー!!」
目の前には飛び越えられないほどの高い木柵。
「じゃまぢゃぎゃらぁあぁーー!!」
くるりと踵を返せばついて来た岸と激突。
「なにをしているのでおじゃるかぁ・・・」
玉響は鼻を真っ赤にさせて尻餅をつき、岸を仰ぎ見ながら一言。
「そもそもなんで軍服なのでおじゃるか岸どのは?
先程も、おぬしが軍服など着ておらねばことは上手く運んだのでおじゃるよ!
おぬしは冒険者であって軍人ではごじゃらぬろ?
街中で戦車タクシーは乗り回したりと、目立ちたがり屋さんなのでおじゃるのか?
今すぐ脱げでおじゃる。このままでは目立ちすぎるでおじゃる」
術の効力で玉響はすべてを岸のせいにしてしまう。
盲目的な狂信者たちにはどのような言葉も拘束力を持たないということは明らかであったのだが。
【逃走後、民家に挟まれた袋小路で岸とぶつかる。岸さんに小言】

186 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/11 02:54:09 ID:???
>>176 >>182
>「安心してくださいーい!この村は神の庇護にあるのです!
>お嬢さんを怖がらせる魔物はこのジャフムードが退治しマース!」
それまでの狼狽ぶりはどこへやら。一転、巨大な拳を握りしめ、ヨロイナイトに歩み寄る大男。

「馬ーーーっ鹿…!お調子者のデカブツが…コイツがお目出度い男で助かったよ。
ロリだの何だの汚らわしいったら。あの下心剥き出しの顔…!あーやだやだ…」

男に触れられた肩を、塵でも落とすように手で払いながら、その筋骨隆々の背中を見つめて冬宇子は呟いた。

>「信者の皆さん!この異形の魔物!正に男爵様が告げた日輪に影を差すモノデース!
>神に授かりし力で退治しましょう!」
>「リン・ビョウ・トウ・アラタマ・キヨタマ・いあいあ・くとぅふ・ウン・ケン・ソワカ!!」

大男が何やら胡乱な呪文を唱えたのとほぼ同時に、村に禍々しい呪力が充満するのを、冬宇子は感じた。
男の出鱈目な呪文に誘発されたのか―――いや違う。
山の上から見た結界『八門型呪法陣』が、その効果を発揮しているのだ。
冬宇子は空を見上げた。
村の上空―――霊気で醸成された八角形の中央に、波線で二つに割られた円が現れ、渦を巻いている。
白魚と黒魚が円の中で溶け合い、互いの尻尾を食らわんとするその形状は―――陰陽魚太極図。
道教、陰陽思想を象徴的に表す図形である。

「呪法陣が動き出したようだね。
 結界の目的が侵入者の撃退だとしたら……どうやら私と鎧の他にも、村に入り込んだ奴がいるらしい。」

独りごち、懐からそっと二枚の白紙人形――形代(かたしろ)を取り出す。
人差し指で紙をなぞり、頭部にひとつずつ、"目"の文字を描いた。

「みたま ふるふる ふるふるみつる まなこもて まなじりさくとも しかと なみわすれそ」

早口に呪言を唱え、ふっと息を吹きかける。
すると形代は、にわかに命を得たもののようにカサカサと震えだし、空に舞い上がっていく。
冬宇子と視界を共有する形代が向かうは、凶気の気配強き『死門』『傷門』の上空。

上空からの俯瞰――――
『死門』付近。
凶気を纏った農民たちに取り囲まれる、葦高龍次と鐘本さくら。
少し離れた位置に、何者だろう―――こんな鄙には珍しい金髪の少女。
彼女を庇い、敵に立ちはだかる森岡草汰の姿も見える。
『傷門』付近。
同じく殺気立つ農民に追われ『生門』方向に逃走中の、"戦車タクシー"運転手――岸良介と玉響。

「おや、あの戦車の……!
 あんな魔物に魅入られて、どうなることかと思ったが、無事だったみたいだね。
 それにしても奇遇だねぇ。
 前と同じ面子が、こんな小さな村に揃うなんてねぇ…妙な巡り合わせもあったもんだ。」

187 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/11 03:03:30 ID:???
手中の玉をさりげなく口元に近づけて、冬宇子は囁いた。
"生きた水晶玉"を通じてヨロイナイトに用件を伝える為に。

「鎧…聞こえるかい?顔見知りの奴らが危ない目に合ってる。お前、助っ人に入る気あるかい?
 その気があるんなら…村の北側――『死門』か、南西の『傷門』から中に入りな。今なら入口の守りはガラ開きだ。
 八門の結界が生きてはいるが、あの結界は魔避けというより、人向けの気が強い。
 アヤカシのお前なら、正気を失うようなこたァないだろうさ。」

水晶玉を袂に仕舞い、冬宇子は暫し考え込んだ。

(村人まで凶気に巻き込むとは…厄介だねえ、あの結界。凶門を避けてばかりもいられないだろうし…
 何とかしなきゃ、これからの"仕事"に触りそうだ。)

村を覆う結界を作り出す呪法陣が、奇門遁甲・八門の占筮術を基盤にしたものであることは、ほぼ確実だ。
とはいえ、結界を破るのは、そう簡単ではない。
『八門』の守護神である"天符"、"騰蛇"、"太陰"…といった『八神』を式神として使役することが可能な、
高位の陰陽師であれば、式神に干渉して、八門由来の結界を自壊させることなど容易いだろう。
しかし、冬宇子にそんな力が有るはずもなく、呪法陣への対抗手段として考えられるのは以下二つ。
時間は掛かるが、定型の祭式作法に則って結界を解除し、呪力を絶ち切るか、
若しくは直接、術士を倒すか―――……

冬宇子は、半裸の巨漢に歩み寄った。
お化け鎧を撃退した勢いそのままに、農民達と鬨の声を上げている男の腕に、そっと手を乗せる。

「ありがとうございました。お陰で助かりましたわ。本当に頼りになるお方…!
 聞けば、この村には『神の庇護』があるのだとか……?」

男を見上げた流し目に熱を持たせて、さらに訴えかける。

「是非、御神徳に預かりとうございます。しばし村に滞在させて頂けますかしら?
 あの鎧の化け物めに襲われた際の穢れを落とし、道中の安全を祈願するためにも……!
 神様はどこに祀られていますの?お社はどこに?
 『男爵様』…と仰る方が教祖様なんですの?その方にもお会いしたいわ。」

あまりにも矢継ぎ早な問いかけ。
ジャフムートに、僅かにでも冷静さが残っていたならば、訝しむ気持ちが湧くかも知れない。
あるいは村人の中に、その性急さを怪しむ者がいたかもしれない。

【ヨロイナイトさんに死門チーム、傷門チームの居場所を示し、どちらかを手助けするように示唆】
【ジャフムートさんに村の案内を依頼。神様を見たいー!教祖様に会いたいー!とおねだり】
【呪法陣を解除したいなーなんて考えています】

188 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/07/11 17:49:08 ID:???
情報収集は失敗した。
彼は囲まれると同時に軍刀を抜く。成功するとはあまり思っていなかったのもあるので、特に落胆もない。
迫ってくる刃を躱し、確実に軍刀での一撃を入れる。大したことではない、いつも通りだ。

遁甲などと言われてもそういった知識に乏しい彼にとっては何を言っているのかわからないという表情しか出来ない。
ただ、確かに少し不自然だったのは確かだ。村人だけではない、自分自身にも何か違和感があった。
とりあえず言われた通りにしようと先を行く玉響の後を付いてゆくと、踵を返した玉響がぶつかってきた。
どうやら袋小路だったらしいが、かなりの勢いで彼の胸にぶつかった玉響は大袈裟にその場に尻餅をつく。
そして、彼に怒り心頭。当然だろう、彼の服装は色んなことに向いていない。
どう考えても玉響が正論であり、目立たぬために脱がなければならないのは確かだ。
それでも、彼は、

「残念ながら、その要望はお断りさせていただきます」

あの人に初めて会った時、彼が来ていたのは軍服だった。
その次の日に会った時も、最後に別れた時も。あの人との思い出には必ず軍服でそこにいる。
もしかしたら、この服を着ていないとあの人は自分を認識してくれないのではないか。
だから彼は誰に何を言われようと決してこの服装を改めるつもりはない。
彼は他に類を見ないほどの頑固者で、かつ愚か者だった。
はっきりとした物言いからの、はっきりとした断定、拒否。それ以上、言葉はいらないのだろう。

「どっちへ逃げた!?」
「こっちだぁ!」

そんな声が聞こえる。ここは袋小路。これ以上は逃げられない。あとは、戦う他に道はない。軍刀を構える。

「私のこの格好がどうしても気に入らないのであれば、どうぞお1人でお逃げください。
 この始末ぐらいは、自分で付けましょう」

そう玉響に告げ、やがてこちらを見つけた村人達に相対する。
彼はいつもの表情で、いつもどおりその軍刀を振るう。
実のところ、彼もその「凶門」の影響を多大に受けていて。
峰打ちではある。切れてはいないが、確実に村人達の身体を破壊していく。

瞬く間に最後の1人になる。増援はあるかもしれないが、とりあえず現時点でこの袋小路に来た残りはもうこの男だけだ。
男は鉈を振り上げこちらに向かってくる。彼はその軍刀を逆手で持ち、男に肉薄。柄の銃部分を鳩尾に叩き込んだ。
体をくの字に曲げて悶える男。彼は手刀で手の甲を叩いて男の武器をはたき落とし、直後男の背後に回る。
男の右腕を捻り、締め上げる。そのまま彼は男を壁へと叩きつけた。
そのまま壁の方へと押し付け続ける。拘束と言ってもいいだろう、この力で押されては全く動けない。

189 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/07/11 17:50:59 ID:???
そして、彼は口を開く。

「まずはご挨拶から参りましょうか。私岸良介と申しまして、市内でタクシー運転手の真似事をしております。
 この地に来た理由は……この際もう隠す必要もありませんね。副業で冒険者などやっておりまして、その関係で。
 そのため、多少聞きたいことがございましてお時間頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

口では聞いているが、有無は言わせぬ腹づもりが言葉の端々に見えている。
当然、彼は返事など待たずに二の句を継ぐ。

「とりあえずは、『日ノ神の宗教について、知っていることを洗いざらい吐け』といったところでしょうか。
 聞きたいことはたくさんあるのですが、ひとつひとつ聞いているよりは効率的かなと思いまして。
 あと図々しくて申し訳ないのですが、中心部への道案内などして頂けると非常に喜ばしいしきりでございます」

壁に押し付ける力は全く緩まない。

「もちろん、突如不躾にそのようなことを問われても、答えたいとは思えませんよね。
 しかるに貴方が答えたくなるようにしたいと思っております。多少強引な手段になりますが、ご了承くださいませ」

彼は軍刀をしまい、捻り上げた腕の拳に空いた手をやる。強引にその拳を開かせ、そしてその小指を握りしめた。
小指に負荷をかけていく。一気にはいかない。少しずつ。少しずつ、痛みが持続するようにだ。
その第二関節を。ゆっくりと、ゆっくりと、本来曲がらない方向へと。

「出来ることならばどうか、十本全て折ってしまう前に音を上げて頂けると大変有難いです。
 強情なのも結構ですが、その場合はもっと強引で強烈な『お話を聞く方法』を考えなくてはなりませんからね。
 ――貴方にとっても、そうなってしまうと精神衛生上大変宜しくないと思われますよ?」

眼に光のない、冷たい笑顔で。

【村人を1人確保、拷問まがいの方法で無理やり情報を聞き出そうとする】
【躊躇なく指を一本ずつ確実に折っていきます。五本折ったら捻り上げる腕を変えます】

190 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/11 22:32:54 ID:???
「だいたい魔が差すってなんだよ、何でもかんでもこっちのせいにしやがって・・・」
引き続きぶちぶち言っているヨロイに女性の声が語りかけてくる。水晶を持っている倉橋女史
からの援軍要請だった。とは言っても彼女自身へのものではない。

どうやら自分も知っている人間が追い込まれているらしい。そしてやはり村の中は人の住む
為のものからは離れて行っているようだ。村の気で正気を失うどころかむしろ頭は冴え渡っている。
今の彼なら集金の釣り銭を数え間違えたり、支払いの過払いを気づかないなんてこともないだろう。

「あっちが死門でこっちが傷門っと、どれ仮面よう、お前ちょっと見てみな」
そう言って背中に適当に引っ掛けていた呪いの仮面を引っつかむとぽーんと空へと投げる。
くるくる回った仮面は空中で村の中を見る、まずは死門の方角を見て様子をヨロイに報告する。

「ああ、あの三人か、ってことはさっきのはあの中の誰かか」
言いながらもう一度仮面を空高く放る、今度は傷門の方角を見てくる、

「あっちは二人か、こっちは逆に追われてるな」

囲まれた森岡青年達と追われているミセス玉響達、どちらの援軍に向かうかを考えて岸青年の
元へ行くことを決める。この妖気漂う村の中で瘴気に充てられた結果、先程の気概を放つようになった者が
居るならおいそれとは狂うまい。そういう力を持った人間の厄介さをヨロイはうんざりするほど知っている。

「よし行くか、頼むぞ泥人形」
そう言って地面に這い蹲るとヨロイから漏れ出した泥が今度はズブズブとヨロイナイトを
土中に引きずり込んでいく。丁度全体が埋まった辺りでそのまま倉橋女史から聞いた、そして
仮面が見た岸青年たちの元へと潜行する。

途中柵に頭をぶつけることもあったがそこはご愛嬌である。前が見ずらくなり気配頼みに
なる部分が増えるので上手く進めないのだ。まるでもモグラのようだがそれでもほぼ直線で
進んでいるため回りこむよりは大分早く合流できそうだった。

村に入ったのか懐に忍ばせていた毛玉がぴーんと毛を張って硬直する。ふと気になって寺から
勝手に持ち出した住職の数珠を近づけて軽くお祈りしてみる。するとたちまち息を吹き返す。
回復した今では微量に発していた気が妖気ではないのがはっきりと分かる。

(こりゃいよいよ以て宝石の言った通りクサいな)
毛玉の様子が落ち着くと、ヨロイナイトは他の気配に集中し直して傷門の方へと土の中を急いだ。
【ヨロイナイト、倉橋さんから連絡を受けて土中から岸さんとの合流に向かう】

191 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/07/12 08:44:38 ID:???
さて、先行するさくらの後ろでは、村人に見つかりそうになり猫真似をしたり
さくらの全裸というとんでもない事態を想定した二人が居たわけですが。

『…? 何をなさっているのです? もしかして、お腹が痛いの?』

前屈みでうずくまる草汰を振り返り、さくらは様子を見ています。
箱入り娘ですから、草汰の様子の意味を知ることも無く、不安そうな目を向けていました。
大丈夫そうな草汰に一安心してから、さくらは自分の仕事に専念します。
ただ、さくらは違和感を感じていました。

『…今日、この山に登っていた時から思っていたのですが』

柵を掘り起こし、さくらは再び振り返ります。
草汰は何やら考えている様子。

『鐘本の血にチクチク突き刺さるような感覚、気持ち悪い。
これは、凶の運気…?』

三者三様でこの村の違和感に気付くと、混乱させるように再び軽い音が鳴りました。

「――――――――――――ッ!」
「きゃあっ!」

そして視界は桃色へ。
変な意味ではなく、頭に小袖を被せられたのです。
第三者から見ると、襲う草汰に襲われるさくらというとんでもない状況なのですが、
目を瞑る草汰にも視界を塞がれたさくらにもわかりません。

「はっ早く着ろよ!見てねーんだから!」
「は、はいぃぃ!」

衣類を投げ寄越し怒鳴る草汰の声を聞きながら、さくらは急いで着替えました。

―――――――――――――――――――
「き、着替えました…」

小袖も袴もしっかりと身につけたさくらは、草汰の隠れろという合図に素直に従いました。
因みに髪は高い位置で一つに縛っています。時間が無かったから。
様子を見れば、こちらに真っ直ぐやってくる村人達。
居場所を探り当てたようですが、何やら様子が変です。
青く光る瞳、ゆらりと纏う黒い霧。まるで操られているようです。
戦闘に備え、三人は構えていました。

しかし、突如響き渡る金属音と悲鳴が村人達の意識を引きます。

一斉に音の方へ歩き出した村人達を見て、さくらと葦高は顔を合わせました。
逃げるなら、今が好機ですが。
(でも、今の悲鳴は…人間の、女性の物だったから)

「葦高さん、さくらを頼んだ!」

その悲鳴を聞き分け行かなければと思った瞬間に、草汰は動き出していました。
遠くなる背中を見て、さくらは口を開きます。

「追いかけましょう、葦高さん!」

―――――――――――――――――――

192 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/07/12 08:45:14 ID:???
―――――――――――――――――――

草汰や村人達の足音を追い掛け、たどり着いたのは畑道でした。

「女の、しかも子どもに手ェ出そうなんざ……感心しねえなあ〜〜?」
「婦女子をいたぶろうってその腐った根性……この俺が直々に叩き直してやるぜ!」

身を隠し音を聴くと、村人達の怨言よりはっきり聞こえる草汰の啖呵。
そこで、さくらは葦高を屈ませ、耳打ちをします。

「(向こうに居る邪魔者は二十人程。草汰さんが相手にするには少ぅし、人数が多いですわ)」

因みに何でこんなに多いのかと言うと、時間と労力を惜しんだ結果です。
葦高が頷いたのを確認してから、さくらは提案しました。

「(こっそり近付いて、一息に減らしちゃいましょう)」

葦高の答えを聞き、さくらは満足そうに一つ首肯します。
早速、さくらは両手を掲げました。武器を得るために。
両手を掲げると、指先には長い長い猫の爪。人間の爪に被さるように伸びています。
爪を携えた手を構えると、さくらは草むらから躍り出ました。

「どいてっ!」

目の前の二人の背中を爪で切り裂くと、それが倒れ込むのを待たず蹴り倒します。
その向こうに、草汰と少女が居ました。
しかし、彼らの元へ行こうにも狂信者達が邪魔です。

「ごめんなさい。あまり、誉められた事では無いのだけど」

纏め上げた毛先が、さくらの動きに沿って舞いました。

【さくら:着替えて→追い掛けながら村人スルー→畑にて村人達を迎え撃つ】

193 :ジャフムード ◆/02/WUSDNQ :11/07/13 22:50:27 ID:???
>>182>>187
「わっはっはっは!神のチカラをみたかー!」
戦略撤退とも露知らず、捨て台詞を吐いて走り去って行くヨロイナイトの背にジャフムードの高笑いが響く。
村人たちも喝采を上げており、後ろで倉橋が術を行使している事など全く気付いていなかった。

良いところを見せられたと大喜びしているジャフムードに、倉橋の行動は実に効果的だった。
言葉ではっきりと言表される感謝の言葉。
だけでなく、そっと手を乗せるボディータッチは男を勘違いさせるのには十分すぎる。
その上、熱っぽい流し目で見上げられてはトドメと言わんばかりだ。

倉橋にとってはカフェで使い慣れた手管かもしれないが、女っけのないジャフムードは完全に籠絡されたも同然だった。
矢継ぎ早な問いかけにも訝しむ気持ちが湧くような冷静さなど皆無。
「しばし村に、だなんて。私の家にイツマデモ…イヤイヤ、ゲフンゲフン。もちろん大歓迎デース!
汚れならワタシが手取り腰取り…イヤヤ…まあ、それはおいおい」
興奮のあまり下心が隠しきれずにいるほどなのだから。
すでにジャフムードの脳内では倉橋を自分の住む家に囲う積もり満々であった。
その為もあっただろう。
性急さを怪しむ村人も一人二人いたのだが
「皆さんは引き続きこの門を守っていてくだサーイ!
さっきの魔物が戻ってきても、私が一度撃退しているので半死半生のようなもの!
皆さんなら大丈夫!
私はこのお嬢さんを案内するので!」
余程二人きりになるのを邪魔されたくなかったのだろう。
かなり強引に村人たちを言いくるめ、倉橋の腰に手を当てエスコートするのだった。

開門を守る村人たちから離れると、早速ジャフムードの表情は崩れ、まくしたてるようなアピールタイムに入る。
「村を色々と案内したいですが、実は私もよく知らないのですよー。
最近男爵に雇われただけでしてねー。
色々なところに罠が仕掛けてあって、とってもデンジャラスねー。
だからまず、男爵のところにいきまショ!
村の中心にある祭壇にいるはずだから。
そうそう、男爵はカミサマしているから怖いよー。
でも本当はちょっと臆病でとってもキュートな人ね、あ、これ男爵には内緒よ!」
倉橋の歓心を買おうとベラベラとその舌はよく回る。
その中に村の秘密に関わるような言葉も混じっているのだが、本人は全く気付いていないようだった。

暫く歩いたのち、祭壇が見えてくる。
村人は全員門の防備に出払い、まだ戻ってきていないようだ。
「男爵!やっぱり開門に化物がきましたよー!
死人が継ぎ接ぎ鎧を着たとっても意味不明な奴でしたネ!
でも大丈夫、私がガッツリやっつけて起きました!
そしてこちらの方、その化物に追われていたので助けたデスヨー。
私のプリティーガールですねー!あ、いやいや、『まだ』私のじゃないけどね。」
男爵に一応の報告を済ませた後、大きな身体を寄せてそっと耳打ちする。
「男爵、私あのお嬢さんと結婚するよー。でも大丈夫、私の国では第四夫人まで認められているね!」
と。
倉橋の思惑も村で起こっている戦いも露知らず、浮かれて破顔なジャフムードだった。

194 :葦高 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/14 00:38:54 ID:???
何かの衝撃から抜けた森岡と共に、さくらの後に続いて歩いて行く。
規則的に並んでいる罠を除けながら進むも、違和感だけが増してゆく。

「(なんというか…きな臭いですねぇ)」

うーんと、静かに唸りながらなお進み続けた矢先に、再びコルク栓を抜くような音。

>「――――――――――――ッ!」

声にならない声を上げながら、森岡がさくらに、彼女の小袖を広げ飛び掛かる。
倒れる音と共に、言葉にし難い光景が広がった。
龍次はくるりと彼らに背を向け、

「ふふふ、私はなーんにも見ていませんよ…ふふふ」

などということを呟く。
後ろで森岡がさくらに何かいい、さくらもまた慌てた様子で、返事をし、衣擦れの音が聞こえた。
何だろう。
自分の真後ろで、青い春が繰り広げられている気がするのだが。
自分の存在が場違いすぎて、道場に今すぐにでも帰りたくなる。

>「き、着替えました…」

さくらの声が聞こえると同時に、森岡が隠れろと合図を出してくる。
その合図に素直に従い、身を潜ませる。
気配を探ってみれば先程の村人達。

「(なぜ…!?)」

彼らは、撒いたはずでは無かったのか。
わずかの動揺に駆られたが、すぐに違和感に気付いた。
青く光る瞳に、村人達に纏わり付くような黒い霧。

だが、突然金属音が響き渡り、それと同時に悲鳴が耳に届く。

村人達が去って行くのを見ながら、葦高とさくらは無意識に顔を見あわせる。

>「葦高さん、さくらを頼んだ!」

森岡が突然走りだし、村人達の後を追う。
はてさて、どうしたものかと悩んでいれば。

>「追いかけましょう、葦高さん!」
「わかりました、行きましょう、さくらさん。」

さくらに促され、彼女と共に、森岡の後を追った。

195 :葦高 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/14 00:39:23 ID:???
しばらく走っていれば、畑道に差し掛かる。


>「女の、しかも子どもに手ェ出そうなんざ……感心しねえなあ〜〜?」
>「婦女子をいたぶろうってその腐った根性……この俺が直々に叩き直してやるぜ!」

森岡の威勢のいい声が聞こえてきた。
身を隠していたさくらに屈むように合図をされ、彼女に近付き、隣に屈む。

>「(向こうに居る邪魔者は二十人程。草汰さんが相手にするには少ぅし、人数が多いですわ)」
「(そうですねえ)」
>「(こっそり近付いて、一息に減らしちゃいましょう)」

さくらのその言葉を聞き、龍次は再び村人達を見、さくらに鷹揚に頷いた。

「(わかりました。では行きましょう)」

さくらが両手を掲げるのを横目に脇差しをすらりと抜く。

>「どいてっ!」

さくらの後に続いて、村人達の攻撃を避け、彼らの腹を刺す。
さくらが、森岡と少女が居るところに行こうとしているのを見て、彼女に言った。

「ここは僕が引き付けておきます。早く森岡君の所へ行ってあげて下さい!」

向かってきた村人を、彼の手を捻って転がしながら言う。
連続して向かってくる村人達を前に、歯を食いしばり、迎え撃った。
黒い霧が、自分の周りをただよう。

「(全く…何で森岡君達はこれが平気なんですかねえ)」

正義感の塊だからか。
だが自分にとってはある意味脅威だ。
その時。

(ねえ龍次、私は全てを恨むわ。もちろんあなたも。呪ってあげる。楽になりたいでしょう?)

過去の記憶が突然流れる。
それと共に激しい頭痛が起き、その場に座りこむ。
村人の鎌が、龍次の首を確実に狙って、振り落とされた。

【さくらさんと一緒に村人を迎え撃つ→さくらさんに先に行くように促す
 →黒い霧の影響によりフラッシュバック→村人の鎌が龍次の首を狙う】

196 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/15 03:21:40 ID:???
【傷門】

村人達は呪法の力を得て、君達に襲い掛かる。
けれども君達は片や超人的な筋繊維、常軌を逸した怪力を誇る元軍人。
片や忍者八門を修めた――恐らくそれなりに修めているだろう忍者の末裔。
生半可な呪法の力が加わったくらいで、村人達が勝てる筈がない。
袋小路までは追い詰めたものの、それも結果的には、かえって一本道での戦闘を強いられてしまった。

>「まずはご挨拶から参りましょうか。私岸良介と申しまして、市内でタクシー運転手の真似事をしております。
  この地に来た理由は……この際もう隠す必要もありませんね。副業で冒険者などやっておりまして、その関係で。
  そのため、多少聞きたいことがございましてお時間頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

そして村人の一人が、君――元軍人に拘束された。
周囲には打ち倒された同胞。助けに入る者はいない。

>「とりあえずは、『日ノ神の宗教について、知っていることを洗いざらい吐け』といったところでしょうか。
  聞きたいことはたくさんあるのですが、ひとつひとつ聞いているよりは効率的かなと思いまして。
  あと図々しくて申し訳ないのですが、中心部への道案内などして頂けると非常に喜ばしいしきりでございます」

尋問、拷問の開始――意味を持たない呻き声、歯軋り、無意味にもがく音が暫し継続。
やがて状況と不釣合いに小気味いい音と共に、村人の小指が完全に折れた。
君の手が薬指へと加虐の矛先を移したところで、村人が口を開く。

「なぁにが洗いざらいだぁ!オメェらがウチの神様を根こそぎ持っていっちまったんでねえか!
 それとも自分達が何したか、覚えてねえとでも言うつもりかぁ!?
 今に見てろ!男爵様が日ノ神様を目覚めさせてくれるだ!
 オメェらなんぞ、みぃんな日ノ神様に焼き尽くされちまえばいいだよ!」

叫び散らし、直後に快音、悲鳴。村人の態度は変わらない。
罵倒、快音、悲鳴、罵声、快音、悲鳴、怨嗟の叫び、村人はどれだけ痛め付けられてもそれ以上の事を口にはしない。
と言うのも、軍人である――実際にはタクシー運転手なのだが――岸は当然、
自分達にした事を知っていると決め付けているのだ。
故に村人は意識を失うまで痛め付けられようとも、そのまま悪言を撒き散らすだけだった。

とは言え、得る物が無かった訳ではない。
『日ノ神様』は『物』としての側面を持っている。
つまり何らかの呪物――神聖視される物への崇拝がされていた。
またその呪物は軍人、軍、国が根こそぎ、恨みを買う事も厭わず奪うような物だったようだ。

さておき、これ以上村人を傷めつけたところで君達に得はない。
周囲からは駆けつけた他の村人達が、君達を捜し回る喧騒が聞こえてくる。
周りには幾つも民家がある。逃げ込めば、追っ手をやり過ごす事が出来るかもしれない。
無論、再び真正面から村人達に挑むのもいいだろう。

197 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/15 03:22:25 ID:???
【→民家に逃げ込む】

殆どの者が出払っているだろう民家の中には、しかし一人の老婆がいた。
どうやら叫び声を上げたり、他の村人を呼ぶつもりはないようだ。
だが先ほどの拷問、それに伴う悲鳴を聞いていたのだろう。
君達と深く関わり合うつもりはないようだ。
村の中心部への道を尋ねれば、老婆はそれを答え、
すぐに出ていってくれるよう君達に頼む事だろう。
そして民家を出て暫く進むと、鎖に繋がれた野犬が数匹、引き摺られる様を君達は見る事になる。

【→村人達に挑む】

君達が姿を現せば、村人達は続々と君達の元へ集ってくる事だろう。
けれども彼らは狂信者ではあっても、揃いも揃って間抜けと言う訳ではない。
やがて鎖に繋がれた野犬が数匹、連れて来られる様を君達は見る事になる。

【―→どちらを選ぼうとここへ帰結】

野犬達の首に、鉈が振り下ろされた。
首が撥ね飛び――そして空中で制止、赤い瘴気を纏い、冒険者達を睨む。
伊佐谷が呪法を用い、『傷門』の力によって生み出した妖魔犬だ。
正しい手法で生み出された『犬神』ほどの力はないが、それでも妖魔の類だ。
物理的な攻撃では例え細切れにしたとしても、十秒程度で再生、再び君達に襲い掛かるだろう。
もちろん、その度に迎え打って逃げ続ける事は出来る。
完全に無力化するには霊的な力を秘めた攻撃が必要だ。

198 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/15 03:23:57 ID:???
【村の中心部】

祭壇の前で、伊佐谷は淡々と呪文を唱えていた。
けれども、ふと中断して上空を見上げた。
微かな霊力の気配、揺れる形代と仮面。
撃墜しようと右手を掲げた時には、仮面はもう落下を始めていた。
後の面倒が増えたかと思うと、伊佐谷は両眼を僅かに細める。
そうしてひとまず、形代だけを火の道術で撃ち落とした。
と、背後で足音、振り返る。ただの一瞬で、冷徹の仮面を被りながら。
足音は二つだった。牛か猪を連想させる重い、ジャフムードの足音と、もう一つ。
軽やかで、ともすれば軽薄にも聞こえる、気品を装った音色。

「……私は、侵入者を連れて来いと言った覚えはないぞ」

しかし同様に、明確に殺せと言った事実もなかった。
出来る事なら契約違反だと散々喚いて泣き言を浴びせてやりたいが、少々無理がある。

>「男爵!やっぱり開門に化物がきましたよー!
 死人が継ぎ接ぎ鎧を着たとっても意味不明な奴でしたネ!
 でも大丈夫、私がガッツリやっつけて起きました!

「あぁそうだな。さっき天へと昇っていくのが見えたとも。
 残念ながら昇り切らずに、また落ちてきたようだが」

冷ややかに返答、内心で深く溜息を吐く。

>そしてこちらの方、その化物に追われていたので助けたデスヨー。
 私のプリティーガールですねー!あ、いやいや、『まだ』私のじゃないけどね。」
>「男爵、私あのお嬢さんと結婚するよー。でも大丈夫、私の国では第四夫人まで認められているね!」

「心配するのは四人目以降が見つかるかよりも、まず一人目と上手く行くかどうかだと、私は思うがな」

――内心の溜息が飽和して、口から零れた。
両眼を薄氷の刃のように研ぎ澄まして、矛先を倉橋へ。そのまま暫し黙考。

「……まぁ、いいだろう。化物に追われて、疲れただろう。向こうの屋敷でよく休む事だ。
 小太りの醜い男が一人いるだろうが、適当にあしらえばいい。
 妙な真似をするほどの胆力もないだろう、少人物だ」

先ほどまでいた屋敷を顎で示した。
それから一言付け足す。

「私は儀式の準備で忙しいので話し相手にはなれないが、まぁ好きに過ごすといい。
 ただし、二階には決して上がらないように。特に何があると言う訳でもないが、
 これでも私も女だ。隠し事の一つや二つは持ちたいのでね」

実際には、見られて不味い物がごまんとある。
その中には、呪法陣を維持する為の札もあった。
霊力を放っている為、倉橋ならば問題なく察知出来る事だろう。

「あ、あとだな、ジャフムード。その……そう言う事をするなとは言わんが、
 せめて仕事が終わるまでは控えるように」

やや決まりが悪そうに、伊佐谷がもう一言、付け加えた。

199 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/15 03:24:40 ID:???
【→もしも二階へ上がった場合】

とは言え、警告の言葉だけで警戒を済ませるほど伊佐谷は軽率ではない。
呪法陣を維持する札がある部屋の扉の裏には、呪符が貼られている。
倉橋が扉を開くと破れて、その事が伊佐谷に伝わる仕組みになっている。
呪符の存在に気付けば、倉橋は諦めるなり、なんとかそれを破らずドアを開けるなり出来るだろう。

【―→もしも扉を開き、部屋に入ったのなら】

「……私は、二階へは決して上がらないようにと言った筈だね」

倉橋の背後から、伊佐谷の声がした。
同時に迸る霊力。呪符を放り、呪文が唱えられた。

「ジャフムードには悪いが……せめて傷付けずに死なせてやろう」

痛烈な暴風雪が倉橋に襲い掛かる。
伊佐谷の言葉には、偽りがあった。
炎の道術を使えば、呪法陣の札までもを燃やしてしまう為、彼女は冷気の道術を用いているのだ。


【→大人しく一階を探し回ってみる場合】

一階を探り回ってみると、様々な書物が乱雑に広げられた部屋を倉橋は見つけるだろう。
どうやら伊佐谷が日ノ神について調べた後、放置した物のようだ。
伊佐谷にとっては、どれもどうでもいい物らしい。

見てみれば曰く、日ノ神様は命を与える存在である。
曰く、日ノ神様は命を奪う存在である。
曰く、日ノ神様は決して変わる事なく完璧なる存在である。
曰く、日ノ神様は山より姿を現し、山で眠る存在である。

今更ではあるが、日ノ神様とは太陽の事だ。
太陽崇拝、未開の地ではよくある宗教である。
書物にもやはり、それを意味するような事しか書かれていない。
けれども、この村では太陽崇拝とは別に呪物崇拝も行われていた事を知れば、
また別の物が見えてくるかもしれない。

200 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/15 03:25:55 ID:???
【死門】

呪術の力があるとは言え、やはりたかだか村人達に遅れを取るほど君達は弱くはない。
若干一名、死――最大級の不運が刃の姿を借りて迫っているが、それも仲間が何とかしてくれる筈だ。
よしんばそうならなくとも、君――葦高は熟練した武術家であり冒険者だ。
命まで取られるような事にはならないだろう。

ともあれ助けられた異邦人の少女は、君達に話しかける。

「……アナタ達、アドベンチャーズ……冒険者デスか?
 フン、随分と遅い到着デスね。てっきり来てくれないものかと思ってマシタよ」

見る間に狂信者達を打ち倒した君達に対して、しかし少女は大層不機嫌な様子だった。
若干アクセントのおかしい日本語に、不機嫌の音色を色濃く滲ませてる。
名乗りもしなければ、自分の素性、何故ここにいるのかと言った事も一切、自分から語る様子は無かった。

「まぁ、いいデス。早くこんなクレイジーな村から逃がして下サイよ。
 モスト、ファストリィデスよ。分かりマスか?可及的速やかにって奴デス。
 ……ヘイ、何してるデスか!?さっさとこの小洒落たアクセサリーを外して下サイよ!」

脚に噛み付く虎鋏を揺らし尊大な態度を取る少女だが――ふと、何かを思いついたらしい。
虎鋏から解放されると、人差し指と気の強い眼光を君達に突き付けた。

「やっぱり気が変わりマシタ。いえ、実はワタシ、とっても大事な物を無くしてしまったのデス。
 メイビー、捕まっていた場所に落としてきたのだと思いマスけど……。
 アレがないとワタシは生きていけまセン!と言う訳でワタシを村の真ん中……お屋敷にまで連れて行って下サイ!」

有無を言わさぬ口調で少女は言い付ける。
君達がどう思っていようと、彼女は嘆願者だ。
無下に扱う事は出来ない。先に進まざるを得ないだろう。

【→先へ進むと】

君達は鎖に繋がれた野犬が引きずられてくる様を見る事になる。
野犬達は首を撥ねられ、宙に浮かび、君達を睨む。
呪法による妖魔犬だが、ここは死門。
傷門の方に現れたそれとは、違う力を示す。
妖魔犬達は炎や冷気、雷や周囲の土を纏い、冒険者達へ襲い掛かる。
つまり自然による不運、災害そのものとなっているのだ。
やはり力は大した事ないが、殺す事は出来ない。
一度撃破すれば再生には時間が掛かるが、脚を怪我した少女を庇いながら進むのは骨の折れる事だろう。
霊的な力を持つ攻撃手段がないのならば、助けが来るか、呪法陣が解けでもしない限り、延々と襲われる事になる。
君達は少女を庇いながら進んでも、我侭な少女に愛想を尽かして見捨ててしまってもいい。

201 :ジャフムード ◆/02/WUSDNQ :11/07/15 13:10:37 ID:???
>>198
意気揚々と戻った村の中心。
祭壇の伊佐谷からの言葉も浮かれたジャフムードにはあまり効果がない。
冷淡な口調も教祖としての役割だと思っている事も大きな要因ではあるが。
>「心配するのは四人目以降が見つかるかよりも、まず一人目と上手く行くかどうかだと、私は思うがな」
「おー、男爵が第二夫人になる気は全くないのは残念でーす」
たとえ倉橋と結婚してもだま自分の妻の座には空きがあると安心させるつもりが、バッサリと切て捨てられたのだが、起源は変わらずいい。
伊佐谷の危惧もなんのその。
ジャフムードの中では倉橋とすでにうまく行っているのだから。

その後伊佐谷は倉橋の逗留を快諾し、休むように伝える。
勿論ジャフムードも一緒に、といそいそと屋敷にいこうとした所、一言付け加えられる。
>「あ、あとだな、ジャフムード。その……そう言う事をするなとは言わんが、
> せめて仕事が終わるまでは控えるように」
お預けを喰らったようなものだが、浮かれた男というのは何処までもポジティブだった。
「ほほう、つまり仕事が終わってからじっくりゆっくり思う存分、ということデスネー。
男爵の心遣い嬉しいですよー!」
どこまでも都合よく解釈したお花畑な脳みそは、次なる行動をはじき出す。
「お嬢さん、ゆっくり休んでいって下さーい!
ワタシはまだお仕事がありますので。
やっぱり仕事に生きる男はカッコイイ!そして女は家を守る!正にニホンの家庭ネ!
ワタシはこの村とお嬢さんを守る為に頑張りますよー!」
キリリとした表情で告げるも、その言葉に下心が溢れていて台無しである。
だがもちろん本人は気づいていない。

足取りも軽くジャフムードは村の各門へと走っていく。
仕事ができる男だということを倉橋に見せる為に。
浮かれすぎでどこの門に仕事が残っているか、すなわち侵入者がいるかも聞かずに走っていったのだが…
この浮かれた男を止めることはできないだろう。

202 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/07/15 17:06:29 ID:???
>「残念ながら、その要望はお断りさせていただきます」
「うにゅ?今なんと」

>「私のこの格好がどうしても気に入らないのであれば、どうぞお1人でお逃げください。
 この始末ぐらいは、自分で付けましょう」
「ええい!つれぬ男じゃ。大人しく裸を見せ・・・。ゲフンッ脱ぐのが嫌ならボロでも纏えばよいでおじゃる!」
とは言ってみたものの、岸のただならぬ雰囲気に語尾を震わすは玉響。
一方、迫り来る村人たちに相対した岸良介は鬼神の如き太刀裁きで村人を打ち倒し
最後に残った一人を壁に押し付け拷問を開始。その顔には冷笑を浮かべている。

「う・・う。岸どの・・やめ・・・」
見ているだけでも痛々しい。指を逆に曲げられた村人は苦悶の顔。
次に小指の折れる音。同時に痛みと怒りを噴出させた村人が叫び散らす。

>「なぁにが洗いざらいだぁ!オメェらがウチの神様を根こそぎ持っていっちまったんでねえか!
 それとも自分達が何したか、覚えてねえとでも言うつもりかぁ!?
 今に見てろ!男爵様が日ノ神様を目覚めさせてくれるだ!
 オメェらなんぞ、みぃんな日ノ神様に焼き尽くされちまえばいいだよ!」

これは岸自身に対してではなく、軍服を着ている者たちすべてに対して言っているのだろう。
拷問を受けた村人が気絶をすれば再び村人達の声が近づいてきた。

「・・・おぬしたち軍人は一体何をしたのでおじゃるか?」
雑踏を背景に玉響はうつむきかげんで岸に問う。
タクシーの運転手でありながら冒険者。今も軍服姿に誇りを持っている男。
もうヘビーな過去持ちとしか考えられない。
「おい、いたぞー!」
見つかった。村人の声が響く。流石にこれ以上の消耗は避けるべきと考えた玉響は岸を一瞥し民家へと逃げ込んだ。

203 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/07/15 17:07:10 ID:???
民家の中には老婆が一人。玉響は一瞬ぎょっと肝を冷やしたが鏡ではない。本物のおばばがそこにいる。
凛としたその姿は傷門の影響を受けぬ程人生の荒波で洗練された魂の産物か、
それとも燃やすほどの憎しみはすでに枯れ果ててしまっているのだろうか。それはわからなかった。

「・・・おばあちゃん。人質の娘っこってどうしちまったんだっぺか?」
単刀直入に聞いてみた。多分この老婆なら大丈夫と玉響は直感したからだ。
その問いに対して老婆は村の中心部へと繋がる道を皆に教えてくれたが老婆も詳しいことはわからないらしい。
ただ嘘でもなくボケてもいなければ自分達はとりあえず村の中心部へ向かえば謎に迫ることが出来る。

「ありがとでおじゃるババどの」
礼を言い外に出てしばらく進めば鎖に繋がれた野犬達の姿。
狂信者達は野犬達の首に鉈を振り下ろす。するとなんということか。
立派な妖魔犬が出来上がった。

そして赤い瘴気達は真紅の奔流と化し冒険者達に迫る。
脅威を感じた玉響は棒手裏剣を犬の額に投げ貫通させた。だが犬は止まらない。
「おぎょ!!嘆願成就までは目と鼻の先でおじゃるというのに!」
玉響は迫ってくる妖魔犬に自ずと駆け寄り、すんでのところでその背を踏みつけ大跳躍。
そのまま屋根へと逃げるつもりだった。

「ほれほれ!ついてこれるもんならついてこいでおじゃるよ!」
空中でたんかをきった玉響だったが次の瞬間その顔は恐怖に引き攣る。
何故なら赤い砲弾の如く飛んできた妖魔犬の首が、跳ぶ玉響を地に撃ち落したのだ。

「おぎょぎょ・・・この犬ころめ〜」
体に被さるように噛み付こうとする犬の首を両手で押さえれば、近くの大八車に積まれた樽から火薬の匂い。
罠作りに使用したものの余りらしい。

「うぎゅぎゅ〜たすけてたも〜・・・」
玉響はかすれた声で助けを乞う。妖魔犬の首を押さえるその両手はぷるぷると痙攣している。
【移動。妖魔犬と交戦。ピンチ】

204 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/17 21:28:43 ID:???
二人の男女が後にした直後、民家の囲炉裏からぼすっという音を立ててヨロイナイトは頭を出した。
ここでの話は全て聞かせてもらった。事は彼女らが民家を訪れる前まで遡る。

目的の気配を探知したヨロイは先回りをした、その時他の土より出やすい場所があったので、
恐る恐る頭を出すとヤカンを置こうとしている家主の老婆と目が合った。
バレたなと思っていると老婆は特に意に介したふうでもなくヨロイの頭上にヤカンを置いた。
がつっと硬い音がして囲炉裏の下へと押し戻される。

今度は腕だけ出して頭上のヤカンをどけると、ヨロイは老婆にそうじゃないだろうと再度頭を出した。
「なんだババア通報せんのか」
訝しんで質問すると、老婆に小さく気抜けしたような空気が漂う。

「なんだい、あんたあいつらんとこの化物じゃないのかい」
あいつらんとこ、という事は敵方にも妖物の類がいるのかとヨロイは思った。

「オレのどこをどう見たらそうなるんだ、完全に穏健派だろうが」
ヨロイの言葉を老婆は鼻であしらうとその場に腰を下ろして愚痴を吐き始める。
最初に比べて幾分雰囲気が柔らかい気がした。

「嘆かわしいねえ、日ノ神様が取られちまったと思ったら、変な連中がやって来て、
みんーな、おかしくなっちまった。挙句他所の化物まで寄って来て、こりゃこの村も終えだな」

「おうそれそれ、俺達その変な連中をしょっ引きに来たんだぜ」
違う、本来は囚われの誰かを救出することが目的である。いつの間にか目的が摩り替わっている。
老婆は話半分といった態でうんうんと頷く。そいつらのこの先のと場所まで告げてくれた。

「はあ〜、人間は頭おかしくなって、妖怪がちゃんとしてるって、これも罰が当たったのかねえ」
文句とも小言ともつかない内容の言葉を、彼女はたっぷりと吐き出した。
ヨロイもヨロイで先を促す、それとなく内容を誘導しようと罰って何だと聞く。

「そりゃお前え、ここだけの話だけどよ、あんなインチキに飛びついたらそりゃ不信心だよ」
イマイチ要領を得ないがやはりあの巨漢の奴はインチキ宗教をやってるらしいと結びつける。
まあいいかと思い、ヨロイはこの辺でお暇する旨を老婆に伝えた。

「まあよ、そのインチキ連中追ん出すくらいはしてやるからよ」
そう云うヨロイに老婆は顔をしかめて警告をしてくれる、始めの警戒はどこへやらだ。
「やっめっとっきっな!あいつら物騒だよ、あんた殺されちまうよ、止しときなよ」

205 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/17 21:31:12 ID:???

「知らんのか、お化けは死なないんだぞ。それによ、毛生え薬も信心からって言うだろ」
その言葉に老婆は破顔すると、ヨロイを見送る。ヨロイもヨロイで取ってつけたように真面目な顔をすると
(キョンシーのではありません、あくまで雰囲気です)忠告を返す。

「ちゃんと誰かから何か聞かれたら正直に話せよ、こんなことで疑われても仕方ねえからさ」

老婆がしっかと頷くのを見届けてから、ヨロイは囲炉裏の底へ沈む。丁度その時だった。
件の二人が民家にやって来たのは。老婆からすればまたも見知らぬ人物の登場に、警戒を強めるのは
自然なことと言えた、それがヨロイの探してた二人組だとしても。

ミセス玉響(長いので以下玉響)たちが出て行った後、老婆に礼を言うとヨロイは急いで二人を追いかけた。
そして今に至るのである。時は丁度妖魔犬が現れて彼らを攻撃し始めた辺りである。

(あーあー可哀そ)(野犬てどこでも厄介者だけどねえ)(でもやっぱ見て気分いい光景じゃないな)
生唾を飲んで呆けていたキョンシーは欠席だったが、久々の脳内会議はこんな時も変らない。

そうこうしている内に妖魔犬の一匹が玉響に食いつこうとする。散々逃してきてしまったが、
登場する機会は今を置いて他にはなかった。

地面からサーベルを持った腕が飛び出ると、玉響に襲いかかっていた妖魔犬の横面に刀身を突き立てる。
「お待ちどう!」と声がした次の瞬間、二人の側の地面が急に泥濘みヨロイナイトが勢い良く飛び出した。
「久しぶりだなー、お二人さん。漸く会えたぜ。ま、でも話は色々あるけど、今は取り込み中だな」

そのまま腕と剣を引戻してぶんと振るうと刃に付いた血糊と共に犬の生首が飛ぶ。
転がった生首は再び宙を浮くこと無く、只の死体に戻る。ヨロイとて即席の動物霊に負ける様な物の怪ではない。

「坊主、こいつを使え!」
腰にぶら下げてあるもう一振りのサーベルに妖力を込めて岸青年へと放ると、ヨロイは自分の剣を持ち直す。
両手持ちではなく片手持ち、空いた左手に盾を携えて玉響の前に陣取り迎撃の構えをとる。

ふと視界の端に火薬樽が移る。今は無理だが、アレを使えば他の冒険者たちを呼べそうだと思った。
「話は後にしとこう。こんな場所だけど、俺達今回絶好調よ」
ヨロイナイトは得意げに言い放った。

【ヨロイナイト、岸、玉響両名と合流。岸に妖力を込めたサーベルを渡す】

206 :葦高 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/17 22:02:12 ID:???
振り上げられた鎌が龍次の首に迫る。
そのまま首が飛ぼうという時に、村人の手首は突然掴まれた。

「面倒臭いこと思い出させるんじゃねぇ」

低く呟かれた言葉と共に、村人を投げ飛ばす。
取り敢えず投げ飛ばすことで距離を取り、森岡達の所へ向かう。

「お三方、大丈夫ですか?…僕は大丈夫なのでお気になさらゲボァッ」

無事なような無事じゃ無いような。
盛大に吐血した龍次はしばらく咽せる。
血の量も、気のせいかいつもより多い気がする。

「すいません、ほんと、ゲホ」

まだ若干治まっていないが、特に気にすることでも無いだろう。
異邦人の少女が口を開いた。

>「……アナタ達、アドベンチャーズ……冒険者デスか?
 フン、随分と遅い到着デスね。てっきり来てくれないものかと思ってマシタよ」

片言で、不機嫌にそう言われる。
少女は態度を崩さず、そのまま続けた。

>「まぁ、いいデス。早くこんなクレイジーな村から逃がして下サイよ。
 モスト、ファストリィデスよ。分かりマスか?可及的速やかにって奴デス。
 ……ヘイ、何してるデスか!?さっさとこの小洒落たアクセサリーを外して下サイよ!」
「…森岡君、お願いしますね」

取り敢えず、この鎖は力任せに引き千切ることぐらいでしか壊れないだろうと判断し、森岡にたのんだ。
森岡が鎖を外している間に、薬瓶を一気に煽った。
喉にチリッとした痛みが走る。
それを誤魔化すように、少女の方に向きなおった。

>「やっぱり気が変わりマシタ。いえ、実はワタシ、とっても大事な物を無くしてしまったのデス。
 メイビー、捕まっていた場所に落としてきたのだと思いマスけど……。
 アレがないとワタシは生きていけまセン!と言う訳でワタシを村の真ん中……お屋敷にまで連れて行って下サイ!」

人差し指を突き付け、彼女はそう言い放つ。
仮にも彼女は嘆願者。
ここで否定するのもどうかと思い、森岡とさくらに顔を向けた。

「さて、どうしましょうか?」

207 :葦高 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/17 22:02:56 ID:???
***

結局進むこととなり、三人で彼女を守るように進む。
進む先にいきなり、野犬が引きずられる様子が現れた。
そして、野犬の首へ向かって刃が振り落とされた。
咄嗟に、異邦人の少女の目を腕で隠す。

「見てはいけません!」

野犬の首が宙に浮かび、こちらを睨む。

「妖魔犬…!」

何でこんな時に、とおもわず思った。
しかし、自分達はあくまで進入者なのだ。
相手側が襲ってくるのも当然のこと。
宙に浮かんだ妖魔犬が炎を纏いながら、龍次の方へ向かってくる。
少女を庇うため、手の甲で叩き付け、妖魔犬の軌道を変えた。

「ッ!」

瞬間走った痛みに、反射的に手の甲を見る。
手の甲は赤く、わずかに爛れていた。
それを舐めつつ思考する。
地にのめり込んだ妖魔犬は再び突進してこようと、炎を纏った。
それを見て、脇差しで刺す。
一瞬動きが止まったが、僅かに震え出した。
見た所再生に時間がかかるようで、なかなか襲ってこない。
大方撃破すれば、恐らく走ってこの場から放れることは出来るだろうと判断した。

「さくらさん、彼女をお願いします。どこかに一緒に隠れていて下さい」

そう言って、脇差しを構え直し、森岡の隣に並んだ。

「森岡君、一度この場を離れるために妖魔犬達を撃破する必要があります。…行きますよ!!」

【妖魔犬撃破に向かう】


208 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/07/19 16:07:39 ID:???
村人はとうとう意識を失ってしまった。何も得られなかった訳ではないが、有益な情報というほどでもない。
この村の人々が軍に恨みを抱いているのは確かで、それが彼が軍人を辞めてからの話なのかどうかは不明だが。
現状、何もわかっていないのに等しい。

予想するのは簡単だが。
推理するには材料が足りない。
判断するには無理がある。

「そも、私達の受願した嘆願は依頼人を助けることだけ。それ以上は、必要ないことなのかもしれませんがね」

思わず顔を出した知的好奇心に従ってしまった自分を恥じる。投げかけた質問の選択は最善ではなかった。
とはいえもう意識のない村人を前に後悔しても詮なきことだ。彼はため息ひとつつくと、村人を解放する。
折り曲げた指をやはり強引に真っ直ぐに戻す。複雑な折り方ではない、不便な期間を乗り越えればまた使えるはずだ。

玉響の質問にも彼は何も答えない。答えられない、と言った方が適当だろうか。
自分の預かり知らぬことについて問われても、それに適する回答を彼は持ち合わせてはいない。
どう答えようか思案しているところで、こちらを見つける村人の声。
こちらに目をやり先をゆく玉響の後を追うように、彼も民家の中へ飛び込む。

中に居たのは老婆。叫び助けを呼ぶようならば黙らせなくてはならないが、そのような素振りは見せない。
それどころか、中心部へと繋がる道筋を説明してくれたりもして。関わり合いになりたくない、といったところだろうか。
嘘である可能性ももちろん捨てきれないが、現時点では信じることしか出来ないだろう。

玉響がその話を聞いている間、彼はずっと玄関にて、外の様子を伺っていた。
この民家の中へ入ったところを見られていたとすれば、当然追って来るだろう。
扉を開けた瞬間に軍刀の一撃を加えられるよう、警戒は緩めずに、じっとそこで待つ。
しばしの時間。玉響の老婆への礼が聞こえる。さっきこちらを見つけた村人達は去っていっただろうか。
玉響に先行して彼は何も言わず老婆の家から退出し、教授された中心部への道筋を進む。

209 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/07/19 16:08:30 ID:???
そして。

襲いかかってきた妖魔犬を彼はいつも通り、軍刀振るって細切れにする。その場には、肉塊が残る。
犬の首に襲われている玉響の手助けでもしようとそちらに向かおうとしているところで、
ふと、寒気を感じ振り返ると。先ほど肉塊にしたはずの犬の体が、再び元の姿を取り戻している。
宙に浮いたその首は先ほどと変わらずこちらを睨み。今にも襲い掛からんと眼光を光らす。

「……さて」

今まで何度も取り上げてきたが、彼には霊的な攻撃も能力も何もない。苦手、などではない。最初からないのだ。
今までは霊的な相手に対しても、物理的に無理矢理な対処法にて切り抜けてきた。
だが、完全に物理的な方法は封じられてしまった。他にどうやって攻撃法があるというのか。銃弾だって効果などないだろう。
視界の隅に火薬樽が写ったが、爆発で四散したとてすぐに再生してしまうのだろう。
霊的な、何かがない限り。
つまりは、手詰まり。

答えの出ない打開策を頭で考えながら再び彼は軍刀を握り直す。切り刻むのは簡単だ、なんの解決にもならないが。
切り刻む、その間に逃げる、まだ切り刻む、の繰り返し。それも考えた。だが犬は一匹ではない。
焦る心とは裏腹に気持ちはかなり冷静な部分が見えている。どうしようもないのではないか、という考えが。
それでも、と彼が軍刀を振り上げたところで、男の声がした。

この鎧には見覚えがある。先日の嘆願で、ともに戦った九人のうちの一人だ。
今回も同じ嘆願を受けたということなのだろうか。玉響もそうだが、面子が共通しすぎている。
だが、今はそんなことに違和感を覚えている暇はない。空いた手でこちらに投げられたサーベルを受け取り、軍刀は鞘に収める。
霊的なものに全く鈍感な彼にはただのサーベルにしか見えなかったが、投げ渡してきたぐらいだ、きっと効果はあるのだろう。

「……では、ありがたくお借り致します」

利き手に持ち替え、宙に浮いた首も、その体も。纏めて犬を一刀両断した。
瞬間、纏っていた赤い瘴気が消え失せ。その場にはただの犬の屍が転がるだけとなった。

「なるほど、これはいいものですね」

もう一匹、妖魔犬に肉薄し、その浮いた眉間に向かって性格に刺突を行う。
まるで瘴気を吸うように単なる死体へと変化させてしまうその光景に満足するように頷く。
おそらく何かの力がかかっているのだろう。免疫のない彼には扱いづらいところはあるが、
霊的な攻撃法を得た彼は少しだけ自信を持てる。道すがら同じような妖が出たとしても、戦いはできるはずだ。

彼は2人の仲間に目配せすると、妖魔犬を連れてきていた村人に近づき、サーベルを握っていない方の拳で殴りつける。
何の遠慮もなく、頭蓋に衝撃。移動して、別の村人にも殴打。

「――先を急ぎましょう」

時間をかけては増援が来る、戦ってばかりではいつまで経ってもここから動けない。
ある程度減らしたら、迎撃しつつでも先を行った方がいいだろう。そう彼は判断した。

【借りたサーベルで妖魔犬を迎撃。戦いつつ隙を見て村の中心部へ】

210 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/07/20 01:20:43 ID:rb2L+DWn

「ここは僕が引き付けておきます。早く森岡君の所へ行ってあげて下さい!」

葦高の声を背中で受けて、さくらが走る、奔る。
両手の爪で、相手の肩や足…致命傷にはなりませんが、
攻撃するには少しばかり不利な場所を切り裂きました。
そして、打ち倒した後にたどり着くのは草汰の元。

「草汰さん! ご無事ですか!?」

なんだかんだ平気そうな草汰を見て、さくらは一安心します。
後ろから、葦高がやって来ました。

「お三方、大丈夫ですか?…僕は大丈夫なのでお気になさらゲボァッ」
「きゃあああ! 葦高さん、大丈夫ですか!? むしろ葦高さんが大丈夫ですの!?」
「すいません、ほんと、ゲホ」
「あばばばば…」

さくらが葦高の吐血に慌てて居ると、後ろから不機嫌な声が聞こえます。

「……アナタ達、アドベンチャーズ……冒険者デスか?
 フン、随分と遅い到着デスね。てっきり来てくれないものかと思ってマシタよ」

その不遜な言葉に、さくらが固まります。
少女は続けました。

「まぁ、いいデス。早くこんなクレイジーな村から逃がして下サイよ。
 モスト、ファストリィデスよ。分かりマスか?可及的速やかにって奴デス。
 ……ヘイ、何してるデスか!?さっさとこの小洒落たアクセサリーを外して下サイよ!」
「…森岡君、お願いしますね」
「…………」

文句を言う少女と、諾々と従ってしまう二人。
それを見てさくらは怒り心頭ですが、仕方有りません。
状況が分かっているからこそ、怒りを抑えていました。…尻尾には感情が出ていますが。

「やっぱり気が変わりマシタ。いえ、実はワタシ、とっても大事な物を無くしてしまったのデス。
 メイビー、捕まっていた場所に落としてきたのだと思いマスけど……。
 アレがないとワタシは生きていけまセン!と言う訳でワタシを村の真ん中……お屋敷にまで連れて行って下サイ!」
「貴女ねぇ……。仕方ないですね、分かりましたよ。我が儘お嬢様」

…なんだか、有井の気持ちが分かるような気がしてきました。
帰ったらもうちょっと、優しくしてあげましょう。

―――――――――――――――――――


211 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/07/20 01:21:26 ID:???
―――――――――――――――――――
先へ進むと、野犬が引きずられて首が落とされるという衝撃的な状況が三人を出迎えました。

「そんな…酷い!」

葦高は少女の目を覆い、見せないようにしています。
さくらは、言葉が有りませんでした。

「妖魔犬…!」
「ええ、この様子は…!」

熱気や冷気、電気を伴い浮かぶ妖魔犬は、三人や三人が庇う少女に向かって突進してきました。
さくらはとっさに爪を伸ばし、そのうちの一体…
電気の妖魔犬の喉元を切り裂いて撃ち落とします。
震える体に追い討ちを掛けるように、もう一回、もう一回。
しかし、完全には撃破出来ません。速度は遅いようですが、回復しているようです。
そんな折、葦高から声が掛かります。

「さくらさん、彼女をお願いします。どこかに一緒に隠れていて下さい」
「はいっ! …ほら、行きますよ」

早急に爪を引っ込め、少女の首根っこを掴みます。
丁度良い草陰まで引っ張ると、さくらは少女の頬を張りました。
少女はその衝撃で、バランスを崩し倒れます。
思わぬ衝撃に少女が目を白黒させていると、目の前のさくらはしゃがみました。

「貴女、いい加減になさい」

その榛の瞳は、怒りを湛えて真っ直ぐ少女を見ています。

「私だって鬼じゃ無いわ。だから、貴女を助ける事が遅れたのは『ごめんなさい』。
だけど、だけど貴女の態度はあんまりよ。
名乗りもしない、助けられる立場だと言うのに気も使わない。
挙げ句の果てには自分が忘れてきたモノを、全然関係無い他人に取ってこい、と?
どうして育ってきたら、そんな横暴で人の事情など知らないような性格に育つのかしらね?」

さくらが目を逸らさず淡々と少女の説教をしている間、当の彼女も反論しようとしましたが、
さくらは「黙らっしゃい!」と頬を打つので、最終的には黙ってました。
そしてさくらは、少女の顔を両手で固定し、言います。

「貴女の事情は何も知らない他人だけど、私は貴女を助けてあげる。
それでも、貴女のその攻撃的な態度は間違ってるって、何度でも言えるわ。
どうして、そんな態度を取ってしまうの?」


【ビンタ後説教】

212 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/20 02:10:39 ID:???
>>196-200
集落では比較的大きな、村総代の住まいと思しき茅葺き屋根の屋敷。
一階の座敷には、古書、歴史書の類が、頁を繰られた状態のまま、一面に散らばっている。
倉橋冬宇子は膝を折って古書に視線を落としていた。
けれども、目は文字を辿ってはいない。
脳裏に浮かぶのは、形代の視覚と聴覚を介して得た、凄惨な光景。

―――降り下ろされる鉈。断末魔。血飛沫。跳ね飛ぶ狗の頸。
絶命寸前、獣の魂から迸る感情―――餓え、恐怖、憎悪、生への渇望。
それら怨念に引き寄せられ、幾重にも増幅する瘴気。
生成する魔性―――…
手法が略式ゆえ、生まれたのは妖にも届かぬ半獣半妖の妖魔犬。
だがその光景は、否応なく、あの禍々しい存在を想起させる。
『犬神』『猿神』『猫神』―――蠱毒の手法によって生み出される一種の御霊(祟り神)―――『外法神』
術者に強大な力を授ける存在である一方、外法使いの家系は、子々孫々に至るまで呪いの軛を背負わされる。
倉橋冬宇子は、その面倒を最もよく知る者の一人だった。

「全く…嫌なモノを思い出させてくれるよ…」
左手に提げたトランク、荷物の大部分を占める木箱の中に思いを馳せて、冬宇子は小さく呟いた。

舌打ちで雑念を振り払い、古書の開かれた頁に記された文字を目で追う。
―――日ノ神は、命を与え、奪う。山より現れ山で眠る、変わる事なき完璧なる存在―――
太陽は命を育む。しかし古い信仰においては、太陽に贄を捧ぐ例も多い。
日照時間の短い山間部の村。なおのこと太陽が崇め奉られる存在であったに違いない。
書物に記されたものを読む限り、典型的な土着の太陽信仰のように思える。

しかし、何か判然としない部分もあった。
形代が焼き落とされる直前、耳にした村人の声――軍服姿の岸良介に投げつけられた言葉を。
冬宇子は頭の中で反芻した。

>「なぁにが洗いざらいだぁ!オメェらがウチの神様を根こそぎ持っていっちまったんでねえか!
>それとも自分達が何したか、覚えてねえとでも言うつもりかぁ!?
>今に見てろ!男爵様が日ノ神様を目覚めさせてくれるだ!
>オメェらなんぞ、みぃんな日ノ神様に焼き尽くされちまえばいいだよ!」

"神様を根こそぎ持っていった"者とは何者だろう。軍服を着た岸が同一視されているとすれば帝国陸軍か。
ならば、軍……ひいては国が日ノ神を持ち去った…とも取れる。
『神と国』―――これも冬宇子にとって、覚えのある符合だった。
明治元年の太政官布告『神仏分離令』の意図。
大日本帝国が『神道』を事実上の国教に定めた真の理由は。
特定の組織、家系の人間にのみ自明な真実を、ほんの一端だが、冬宇子も聞き知っていた。

とは言え、軍が『日ノ神の神体そのもの』を奪ったとは考えにくい。第一、国は土着の淫祠の力など必要としていない筈だ。
それに、村人の『"根こそぎ"』という発言からしても、
寧ろ、量的な概念の持つ――『物』としての性質を感じさせる。
軍が持ち去ったのは、日ノ神を象徴する呪物(まじもの)だろうか?
それは軍にとっても利用価値のある、軍用物資としての側面を持つ物なのだろうか?……それとも―――?

考えを巡らせながら、冬宇子は散らかった座敷を後にした。
梯子と呼ぶ方が近い急な階段を軋ませて二階に上がる。

213 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/20 02:16:06 ID:???
閉ざされた二階の一室。
襖一枚隔てただけの、しかし明確に侵入者を拒む意思を漂わす部屋の前で、冬宇子は、つと、立ち止まった。
家内に入った時から感じている霊気は、確かにこの部屋から漏れ出している。
式盤が示す呪法陣の中心は、屋敷の真上。
霊気の波長からしても、室内に呪法陣を保つ仕掛けがあるのは、まず間違いない。
冬宇子は懐に右手を差し込み懐剣を握りしめた。
取っ手に指をかけて、襖を一気に引く―――!

>「……私は、二階へは決して上がらないようにと言った筈だね」
冷然たる女の声が響く。
霊力を込めた呪符が投げられ、猛烈な暴風雪が冬宇子の全身を包み込む。

>「ジャフムードには悪いが……せめて傷付けずに死なせてやろう」
敗者への憐憫とも取れる言葉を投げかける女―――伊佐谷男爵は、その時、気付くだろう。
喉元に当てられた切っ先に。冷たい刃に。

「動くんじゃないよ…!この女ギツネが!」

背後から肩を抱くようにして伊佐谷の身体を拘束し、懐剣を突き付けているのは、倉橋冬宇子。
白く凍り付いた紙人形が、襖の前の床に落ちて、コトリと小さな音を立てた。

「―――"黄帝禁咒縛"!」

呪言と共に、冬宇子の持つ麻縄が、蛇の如くに伊佐谷の身体を這い、手を後ろ手に、腕と胴体を緊縛する。

『男爵』と呼ばれるこの女…ジャフムードの評によると、小心との話であったが、どうして。
木火土金水、五行の道術を使いこなす、中々の手練れ。
そんな女が、形代を飛ばした術者の正体を、同定できぬとも思えない。
敵の術士と思しき人間を、呪法陣の中心たる屋敷に引き入れたからには、必ずや罠があって然るべき―――
と、冬宇子は踏んでいた。
身代わりの形代に襖を開けさせ、自身は隣室に潜み、様子を伺っていたのだ。

伊佐谷を強引に襖の中に押し込む。
この時代の女性にしては背の高い冬宇子に、乱暴に突き飛ばされて、
小柄な伊佐谷は、なす術なく畳の上に転がることになる。
室内に入った冬宇子は、長三宝に載せられた霊札を見つけ、素早くそれを引き裂いた。
起き上がりかけた伊佐谷に、再び懐剣を突き付ける。

「声を上げても無駄だよ…!
 この家の狸おやじと女中には、ちょっとした術で眠ってもらってるからね。
 女ギツネめ!よくもあんな胸糞悪いもの見せておくれだねぇ!
 あんたには質問に答えて貰うよ。さァ言いな!生贄の娘はどこに囚われてるんだい?
 呪言詠唱が先か、この刃が咽笛に差し込まれるのが先か…?考えてみりゃ拒めやしないだろう?」

どす黒い好奇心に突き動かされてか、それとも、嫌な記憶の連想が尾を引いているのか。
双方が入り混じり、冬宇子の瞳は血走っていた。
臆病な人間ならば、その表情を"狂気"と取るかもしれない。

「…日ノ神ってのは…ありゃ何だい?ただ拝まれるだけの存在じゃないんだろう?
 贄を使うなんて、随分と大仰な儀式を用意してるじゃないか?
 まさか、禍つ神(まがつかみ)を呼ぶ気でもあるまいに。こんな辺鄙な村で、一体何をしようってんだい? 
 生贄の娘の居場所に案内してもらうまでに、たっぷりと聞かせてもらおうかねぇ?」


【形代で身代わりを作って冷気攻撃をやり過ごし、伊佐谷男爵を拘束。日ノ神様について、質問をいろいろと】
【男爵を人質にとって生贄娘の所まで案内させようとしています】
【身代わり形代は、喋ることはできないけど、単純作業の繰り返しぐらいならできるということで〜】

214 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/20 20:04:25 ID:???
………………さて、威勢良く啖呵を切ったはいいがこの状況、非常にまずいのではなかろうか。
倒せない数ではないが、相手は闘争心丸出し。おまけにこちらには手負いの非戦闘員の少女。
草汰の首を狩らんとにじり寄ってくる村人達。その時、彼らの背後の草むらが揺れた刹那。

「どいてっ!」

鋭い少女の声がしたと思えば、一番後ろにいた二人が呻き声を立て昏倒。
村人達が驚き振り返る。さくらや葦高という標的が一気に増えたことで、村人達の注意が散漫になる。

「余所見してる場合か……よっと!」

さくら達に気を取られた村人の数人を、鉈の柄でガツンガツンと殴り倒す。
勿論、異邦人の少女から離れる事は出来ないので、倒す数に限界もあるのだが。
偶々ではあるが、周囲に居た敵方の動きに躊躇いがあったことで、かすり傷だけで済んだ。

「草汰さん! ご無事ですか!?」
「おう、ちっとヤバかったけどな。来てくれてあんがとよ」

なるべく心配をかけるまいと、草汰は感謝の言葉を笑顔と共に返す。
敵は夢中になっている間に全員倒していたようで、もう襲ってくる気配はない。
一安心ついたところで、さくらに遅れて、葦高もこちらへと歩み寄る。

「お三方、大丈夫ですか?…僕は大丈夫なのでお気になさらゲボァッ」

大丈夫って言った瞬間に笑顔で吐血された。全く大丈夫そうに見えない。
草汰は何度か見ている内に慣れたが、そうでないさくらは勿論慌てる。そして始まる漫才。
最終的に苛々した草汰が「ああもう世話がやける!」と前掛けで口元を拭ってやった。
そしてわいわいと三人が漫才をしている最中、草汰は異邦人の少女の存在を思い出す。
同時に、大層不機嫌そうな声色で、やや甲高い少女の声が草汰達に掛けられた。

「……アナタ達、アドベンチャーズ……冒険者デスか?」
「おうともさ! ってあれ、俺達の事知って……」
「フン、随分と遅い到着デスね。てっきり来てくれないものかと思ってマシタよ」

調子外れのアクセントを交えた日本語で、少女は不機嫌そうな顔を崩さず失礼極まりない発言を吐き捨てる。
見た目からは計り知れぬ少女の不遜な態度に、さくらも草汰も固まった。
三人の様子を歯牙に掛けることなく、不遜な態度は尊大なものに変わる。

「……ヘイ、何してるデスか!?さっさとこの小洒落たアクセサリーを外して下サイよ!」
「…森岡君、お願いしますね」

葦高の言葉を脳内で反芻し、あ、押しつけられた、またこのパターンかよと心中ひっそり突っ込みを一つ。
しかしこれを細腕の葦高や女のさくらが外せるわけでもなし。
草汰は少女の足を挟んでいる虎鋏の口を掴み、力任せに開かせると、破壊音の後に少女は罠から解放された。

「っし、嘆願完了!他の村人に見つからない内に帰……」
「やっぱり気が変わりマシタ。」
「帰るぅ……ーーーぅぇええ!?さっき早く逃がせっつったのお前だろ!どういう了見だ!」
「いえ、実はワタシ、とっても大事な物を無くしてしまったのデス。
 メイビー、捕まっていた場所に落としてきたのだと思いマスけど……。
 アレがないとワタシは生きていけまセン!と言う訳でワタシを村の真ん中……お屋敷にまで連れて行って下サイ!」

有無を言わさない口振りで高らかに命令する少女、もとい嘆願者。コラ、人差し指を向けるんじゃない。
今までに我儘な嘆願者は何人も見てきたが、いやはやコロコロ発言の変わるお嬢さんだこと。
葦高は振り返って「さて、どうしましょうか?」と尋ねてくるので、ただ肩を竦める。
さくらが溜息混じりに、渋々と答えを締めくくった。

「貴女ねぇ……。仕方ないですね、分かりましたよ。我が儘お嬢様」

215 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/20 20:09:31 ID:???

異邦人の少女に従うままに、屋敷に向かう草汰達。
本音を言えば帰りたくて仕方ないが、相手は嘆願者。逆らえる訳もなく。

「(にしてもまあ、良く生きてたもんだ)」

少女の背中を盗み見る。あの嘆願は、少なくとも二週間も前に送られてきたもの。
人身供養の類は、普通は長く生贄を生かしたままにはしておかないものだ。
生かし続ける費用が勿体ないし、何より生きている内に奪い返されては元も子もない。
この村の娘とは思えないし、攫われたら最悪一日も経たないうちに殺されていてもおかしくは無かった。

「(何かと変なんだよなーこの村……。いや、何が変って言われりゃ言葉にできねーんだけど……)」

違和感の塊ともいえるこの辺境の村で、一体何が起きているのか。
むずむずもやもやとする思考は、突然視界に飛び込んできた場面により強制終了する。
無理矢理引き摺られてきた野犬達。村人は躊躇することなく、その首を斬り落とした。

「なっ……―――――――!」
「そんな…酷い!」

衝撃的な光景に言葉を失う。だが驚くのはまだ早いとばかりに、犬達の頭部が宙に浮かぶ。
炎や雷を纏ったそれらは、草汰達目がけて襲いかかる。
咄嗟に草汰は鉈で、葦高は素手で撃ち払った。
何なんだと戸惑いふと感じた冷気に鉈を見やると、刀身が氷を纏っている事に驚愕する。
葦高も手の甲に火傷を負い、さくらも電撃を纏った犬相手に苦戦気味だ。

「! 鉈が……まさかコイツ等、」
「妖魔犬…!」

何と面倒な相手だ。こちらには手負いの少女がいるというのに。
舌打ち一つし、三人を庇うように一歩前へ出る。
葦高は的確にさくらに指示し、さくらもそれに従って少女の首根っこを掴み、隠れる。

「森岡君、一度この場を離れるために妖魔犬達を撃破する必要があります。…行きますよ!!」
「はい!!言われなくとも!」

二人と妖魔犬は同時に肉薄し、草汰は凍りついた鉈を振り下ろす。
横殴りに頭部を砕き、噛みつく牙を振り払う。次から次へと襲い来る牙と厄災。

「葦高さん!そっちいったぜ!」

言うが早いが下駄を放り、葦高から軌道を逸らす。
草汰の鉈は時に炎を、時に冷気を、時に電撃を纏う。そして血と土も。
それは草汰自身も同じこと。火が服を焦がし、電気が傷口を焼き、冷気に指がかじかむ。
だが立ち止まらない、躊躇しない、進むには動くしかない!

「邪魔だァあ!尻尾巻いて退きやがれ、犬ッコロ共ォオオ!」

渾身の一振り。
振り下ろされたその瞬間、辺りに立ち込めていたどす黒い毒気が、一斉に晴れたような感覚に包まれる。
骨が砕ける音が響いて、粉々になった犬の頭が地面に叩きつけられる。それが再生することはもう、ない。
次々に妖魔犬達は、襲ってきながらも力を失い転がり落ち、念の為にと全て頭部を叩き割った。
野犬を連れてきた村人達は姿を消し、静寂だけが辺りを支配した。



216 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/07/20 20:11:05 ID:???

「お、終わったんだよ、な…………?」

安堵と疲れからか、盛大に息を吐き出し、その場に座り込んだ。
座った傍に転がる犬の頭。それを拾い上げ、草汰は沈んだ目でそれを見つめる。
違和感の正体が、何となく分かった。
この村は、正気がないのだ。人も獣も。何もかもが生気を失っているようだ。
そしてその感覚を、草汰は無意識の底で感じ取っていた。
この感覚を、蓋をして閉じ込めていたい記憶から知っているが故に――――。


「そうだ、さくら達……!」

立ち上がり、さくら達を探す。と、甲高い喧騒の声が聞こえてきた。
また何か問題でも起きたのかと急いで駆けつける。
………………だが何の事はない、少女達は白熱した口論を繰り広げていた。

「おいおいお前ら止めろ!ビークールだ、ビー・クール!」

さくら達の首根っこを掴み、引き離してやる。
だが喧嘩し足りないのか、お互いに睨み合い牙を出して唸っている。
口論の内容から察するに、さくらは少女の不遜な態度に腹を立てているようだった。
胃がきりきりと鳴るのを堪え、草汰はさくらの肩に手を置いて、静かな声で落ち着かせようと試みる。

「さくら、その辺にしてやれ。この子だって本当は怖い筈なんだ。
 まだお前より幼いのに、こんな場所に親と引き離されて一人で連れてこられて、命晒されてよ。
 気丈でいるだけ良いさ。本当なら、壊れちまってたっておかしくはなかったんだ。この子の気持ちを汲んでやれ」

な、とさくらの顔を覗き込む。それによ、と更に顔を近づけ、耳元で囁く。

「ここで喧嘩してあの子の機嫌損ねちゃ、後で報酬貰えなくなっちまうだろ?」

にやっと慣れない笑顔でおどけて笑ってみせる。彼なりの冗談のつもりだったが、彼女がどう受け取るかまでは分からなかった。
さて、と立ち上がり、土埃と血を拭った。立ち止まっている暇はない。進まなければ。
少女へと向き直り、首根っこを掴んで樽担ぎ。最早ここまで敵の陣地に近づいた以上、彼女のペースに合わせている余裕はない。

「文句言うなよレディ・キティ。プライドの高い子猫のお嬢様にゃ丁度良いと思うんだが、不満か?」

勝手にあだ名までつけ、少女をからかって年上らしい余裕を見せようとする。
警戒心を解いて、少しでも信頼してもらわなければ、落し物を奪い返すどころか此処から帰ることも出来ない。
少女を窺いつつ見据える、目と鼻の先には、不穏な霧を漂わせる屋敷。
もう後戻りはできない。

「こっからが正念場だな。行こうぜ、さくら、葦高さん」

【妖魔犬撃破。さくらさん達を仲裁し、屋敷に到着】

217 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/23 12:56:35 ID:???
【村の中心部、屋敷の中】

>「動くんじゃないよ…!この女ギツネが!」

背後から喉元に添えられた刃、轟く殺意に満ちた声。
拘束され、突き飛ばされ、短刀を突き付けられる。

「ひぃいいい!?ごめんなさいごめんなさい!」

伊佐谷の仮面は即座に剥がれ落ちて、平謝りを決め込む。
助けを呼んでも無駄と釘を刺されたが、混乱を極めた今の伊佐谷にそこまで頭は回らない。
単に臆病の気質が暴走しているだけだ。

>「あんたには質問に答えて貰うよ。さァ言いな!生贄の娘はどこに囚われてるんだい?
  呪言詠唱が先か、この刃が咽笛に差し込まれるのが先か…?考えてみりゃ拒めやしないだろう?」

けれども続く倉橋の問いに、伊佐谷はたちまち冷静さを取り戻した。
酷く怯えているからこそ、臆病は理性に鞭を打って打開策を吐き出させる。
どうやら倉橋は捕らえた異邦人の少女が目当てらしい。付け入る隙はそこだ。

>「…日ノ神ってのは…ありゃ何だい?ただ拝まれるだけの存在じゃないんだろう?
  贄を使うなんて、随分と大仰な儀式を用意してるじゃないか?
  まさか、禍つ神(まがつかみ)を呼ぶ気でもあるまいに。こんな辺鄙な村で、一体何をしようってんだい? 
  生贄の娘の居場所に案内してもらうまでに、たっぷりと聞かせてもらおうかねぇ?」

「ごめんなさいすみません許して下さい!実は……あの娘は逃げ出しちゃったんです!
 だって急にあなた達が来るものだから!慌ただしくって!その隙に!」

衝撃を覚えるだろう情報を開示。

「あぁ違うんです!別にあなたのせいって訳じゃないんです!だから刺さないで!やめて!」

惨めに命乞いをしながら後退り、立ち上がる。
同時に背後を見た。壁がある。
どうせ逃れる事は出来ない。無駄な足掻きだ――と、倉橋に意識させる為の所作。

「で、でもちょっと待って下さい……。私は別に、生贄はあの娘じゃなくても良かったんですよ?
 だって考えてもみて下さい。ここの村人は皆、日ノ神様の為なら軽々と命を投げ打つんですから。
 わざわざ何処かから攫ってくるような真似をする必要は無いんです」

足を引きずりながら、一歩、二歩、三歩、更に後退る。

「あなたとあの娘がどんな関係かは知りませんけど……あの娘は、向こうからこの村にやってきたんです。
 日本の宗教に興味があるって言ってたけど……普通、わざわざこんな、民間信仰を学びに来ますか?」

四歩、五歩、六歩。

「多分、あの娘も『日ノ神様』が欲しいんですよ。……あなた、騙されているんじゃないですか?」

七歩、八歩。

「……折角後ろにいるんだから、聞いてみたらどうです?」

嘘だ。すぐに看破される虚言だ。
だがほんの一瞬でも意識を逸らせれば、それでいい。
九歩目――呪言も札も印も用いない、歩法による破魔術、禹歩が完了した。
伊佐谷の身を戒める麻縄が独りでに緩み、解け落ちる。
同時に伊佐谷は右拳から人差し指と中指を立て、倉橋へと突き出した。

218 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/23 12:57:18 ID:???
「万物を貫く理よ、力を示せ!――火剋金!」

道術の炎が放たれる。炎は倉橋自身ではなく、彼女が持つ刃に喰らい付いた。
五行思想の道理に従い、短刀は飴細工のように成り果て、溶け落ちるだろう。
しかし倉橋が何らかの霊的防御を図ったのならば、その限りではないが。

ともあれ伊佐谷はその隙に逃走する。窓を突き破り、二階から飛び降りた。
残された倉橋はどのような行動を取るだろうか。
もしも周りを見てみれば、部屋には呪符以外にも幾つかの物がある事に気付くだろう。
金属製の手提げ箱――金属製にしても重い。貴重品の気配。錠は掛かっているが、強い力を加えれば開けない事もないだろう。
村周辺の地形を示す地図――幾つかの地点に小さな円が描かれている。一目見たところで価値は分からない。
とは言え、つい先ほどまで狂乱していた倉橋に落ち着いて周りを見る冷静さがあるかは、分からない。

【屋敷の外】

伊佐谷が落下、加速――だが地面の直前で落下速度が消失する。
浮遊能力――神職や道士がよく見せる手品紛いの芸当、それを本当にやってのけた。
そして無様に着地。

「ひぃ……これで何とか……」

前を見る。
童女を担ぎ上げた大男、微かな妖気を感じさせる娘、血まみれ痩躯の男――冒険者が三人。

「なってないいいいいいいいいいい!?もうやだぁ!
 て言うかあの筋肉達磨は何処行ったのさぁ!助けてよー!」

即座に思考。屋敷へ逃げ込む――出来る訳がない。
あの気狂い女、刃がなければ首筋を喰いちぎってでも自分を殺しかねない気迫を感じた。
加えて別の道からも、軍服男、悪趣味老婆、泥で薄汚れた西洋鎧――更に三人。
逃げ道はない。それでも無様に走り、村の完全な中央部、祭壇へと逃れた。

「うぅ……もう、こうなったら……!」

伊佐谷は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を袖で拭う。
今更何の意味もない氷の仮面を被り、振り返った。半ば自暴自棄の演技だ。

「……貴様達も『日ノ神様』が目当てか?
 だがもう遅い。日ノ神様の寝床は既に私が探り当てた」

膝を屈めて、右手を足元に触れる。

「あとは貴様達を始末すれば、万事問題はなくなると言う訳だ」

呪文を詠唱。祭壇に霊気が滾る。
更に村のほうぼうから力が祭壇へと集う。
生命の力だ。源は言うまでもなく、村人達。

219 :名無しさん :11/07/23 12:57:51 ID:???
「……神とは人が創る物だ。陽の光に目を焼かれた盲目共の信心よ、
 今汝に形を与えよう。使命を与えよう。名を与えよう。
 山より目覚め山に眠る。命を与え、命を奪う。
 決して侵される事なき者よ。……目覚めよ、汝の名は『日ノ神』」

伊佐谷の言葉が途切れ、不意に地面が揺れた。
祭壇の中央に亀裂が走る。伊佐谷が慌てて飛び降りた。
亀裂から巨大な手が飛び出し、地面を掴んだ。緩慢な動きで、何かが這い出でてくる。
巨人だ。金色の体を持ち、炎を纏う、巨人が姿を現した。
だがその姿は、名前ほど大層なものではなかった。
巨人とは言え精々十尺を僅かに越える程度。
体表は自らの炎に堪えられず、溶けてしまっている。

「……出来損ないだ。寂れた村の信心じゃあ、この程度か。」

神の名を冠するにはあまりに醜い巨人を見上げて、伊佐谷が呟く。

「あぁ、やだなぁ。また公爵に怒られるよぉ……。
 ていうかこれ、私も戦わなきゃいけない流れだよねぇ……はーあ……」

それから辟易とした様子で溜息を零した。
呪符を取り出し、地面に貼り付ける。
金と火の属性を併せ持つ日ノ神の傍では、扱える属性に限りがある。
水は火を打ち消してしまう。火は金を殺してしまう。木も使えない。唯一残ったのが土の道術。
地面が円錐状に隆起して二人と一体の冒険者――岸と玉響、ヨロイナイトを貫かんと襲い掛かる。

【→死門組】

時間はやや遡り――異邦の少女はさくらにこっ酷い張り手を見舞われた。
始まるお説教。反論しようと口を開く度に重なる張り手。
とうとう、少女は黙り込んだ。諦めた訳ではない。怒りが頂点に達したからこその沈黙だった。

「この……腐れビッチが!何しやがるデスか!所詮アナタ達と私はインタレスト!
 つまりビジネスの関係デスね!平ぺったい面したジャパニーズにお説教される筋合いはないデス!」

怒声と共に前に出る。頬を張られようが構わない。
さくらの両の頬を力いっぱいに抓った。そのまま左右に引っ張る。
防御は完全に度外視、完全に怒りに身を任せていた。

>「おいおいお前ら止めろ!ビークールだ、ビー・クール!」

やがて森岡がやってきて二人を強引に分かつまで、少女はさくらの頬を放さなかった。
打って変わってお説教を受ける立場になったさくらに、舌を出してみせた。
そんな事をしている内に、森岡が少女の首根っこを掴んで持ち上げる。

>「文句言うなよレディ・キティ。プライドの高い子猫のお嬢様にゃ丁度良いと思うんだが、不満か?」

「不満に決まってるデショウが!レディと言うならもっと相応しい扱い方があるんじゃないデスか!?」

少女はぎゃあぎゃあと騒ぎ藻掻くが、やがて疲れたのか虚しくなったのか。
大層不機嫌そうに頬を膨らませつつも、大人しくなった。
暫く進み、屋敷へと到着――直後に降ってくる臆病女。目覚める出来損ないの神。

「ちょっと!なんデスかあの化物は!ヘイ、アドベンチャーズ!
 私が探し物をしている間になんとかしておいて下サイよ!いいデスね!」

森岡の手を解いて少女は片脚で着地。そのまま屋敷の裏へと姿を隠した。
と、直後に日ノ神が森岡達目掛け、巨大な拳を振るう。
日ノ神の動きはとても緩慢だ。
回避は容易いが、もしも直撃すれば凄まじい重量と熱が冒険者達の命を奪うだろう。

220 :名無しさん :11/07/23 12:58:17 ID:???
【屋敷の中】

ともあれ『日ノ神様』の正体は――太陽であり、黄金だった。
太陽が山へと沈んでいく窪地に生きる人間は、その山から採れた黄金を太陽と同一視したのだ。
この時代にはまだ、この国には多くの金山があった。
日ノ神村を囲む山々からも、金が採れた。
彼らにとって黄金とは太陽であり、神だった。
けれども時代は、国は彼らの信心に同意しない。
金とは諸外国との関係を円滑に、有利に運ぶ為の道具でしかなかった。
その価値は戦国、安土桃山、江戸、明治、そして大正と時代を重ねるごとに高まっていった。
そうして導かれた結果が強引を極める徴収、乱掘。
挙句の果てに金が採れなくなるや否や、国は彼らを置き去りにした。
日ノ神村の恨みは窪地の中で長い間渦巻き、醸成され――日ノ神様への狂信へとなっていった。

日ノ神村を見捨てたまま時代は流れ、やがて技術の躍進が起きた。
かつて掘り尽くされた、これ以上掘れないと思われた金山からも、また金を採れる可能性が出てきた。
その事にいち早く気が付いた『華涅神崇団』が、世界転覆の活動資金を得るべく日ノ神村に目を付けた。
伊佐谷にへつらっていた男は、表立った行動が出来ない為に立てられた隠れ蓑だ。

「……さて、それじゃさっさと頂く物を頂いていきマスかね」

そしてこの少女もまた、日ノ神村の周りに眠る黄金に目を付けた者の一人だった。
正確には、目を付けた者の手先。亜米利加から送り込まれた密偵だ。
彼女が探しているのは新たな黄金が採れたと証明出来るサンプルと、また何処にその金脈が存在するのかを調査した物。
どちらもこの屋敷にある物だ。倉橋が持ち出すなりとしていない限りは。

221 :ジャフムード ◆/02/WUSDNQ :11/07/23 23:00:09 ID:???
開門前
ジャフムードに言われ、いつくるかもしれぬ侵入者を警戒する村人は既にいない。
ひしゃげ、潰れ、散らばる。
おおよそ人の形を保てぬ肉の塊と血の河と化していたのだから。

炎を纏う黄金の巨人、日ノ神。
伊佐谷のいう「出来損ない」の理由は寂れた村の信心だけのせいではなかった。
その絶対量が減らされていたのも一因なのだから。

#######################

村の中央
祭壇の中央から現れた炎を纏う黄金の巨人。
その身を溶かしながらもその全容を現し、伊佐谷もまた闘う決意を示す。

そんな状況の中、ヨロイナイトよろしくガシャリ、ガシャリと金属音を引きずりながら近づいてくる者。
「おー!男爵!日の神様スゴイネ!私、道に迷って酷い目にあったヨー」
右手と左足にトラバサミを咥えこませたまま、所々に血が付いたジャフムードが現れた。
だがその姿が如何に違和感を覚える者もいるだろう。
トラバサミを二箇所もつけたまま動ける筋力。
食い込んで入るが、血がほとんど出ていない。
また、それ以外傷らしい傷がない……にもかかわらず所々血が付いているのは、それが返り血である事を表していた。

村中央では日ノ神を呼び起こし、地面を隆起させ槍と化す程の戦闘が始まっている。
だが、ジャフムードはゆっくりと辺りを見回し、ある一点でその視線を止めた。
「おおおおお!キターーーーー!ローーーティーーーーン!黒髪!!猫娘!!」
その視線の先はもちろんさくらである。
ガシャンガシャンとけたたましい音を響かせながら、走り寄り、トラバサミがついたままの右手を振りかぶる。
そして気合い一閃!
日ノ神の炎に包まれた巨大な拳に叩き込む!
激しい激突音と共に右手についていたトラバサミは砕け散ったが、おかげで手が焼けたのはわずかで済んだようだ。
日ノ神の巨大な拳も軌道がずれて地面を抉ることになった。

ひとまずは日ノ神の脅威が逸れたところで、ジャフムードはさくらに向きかえる。
「危ないところでしたねー、お嬢さん。でも大丈夫よ!
ワタシ、ジャフムードいいます。この村で用心棒しているの。
これからお仕事で、皆殺しにしなければいけませーん。
でもあなたは殺さないし殺させない!ワタシの第二夫人だからネ!」
一方的にまくしたて、それが終わるとさくらにはジャフムードの分厚い唇が迫ることになる!

もちろんさくらが抵抗しても全く堪えることなく笑顔でキスを迫るだろう。
だがもし森岡や葦高たちが制止に入れば血走った目で睨まれることになるだろう。
そして
「おー!あなたはこのお嬢さんとはどんな関係ですか?恋人デスか?
恋人ならあなたを殺せばこのお嬢さんは私のものね!
関係ないのなら人の恋路を邪魔する者は私が殴って殺してやるよ!」
と、どちらにしても殴り掛かられる事になるだろう。

もちろんその背後では日ノ神が体勢を整え緩慢ではあるが確実なる死を運ぶ拳を振るうだろう。

222 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/07/24 16:28:11 ID:???
しばらく走れば祭壇が見えた。そこへ白地の狩衣に浅葱色の差袴、
黒い烏帽子を身に着けた小柄な女が現われる。

>「……貴様達も『日ノ神様』が目当てか?
 だがもう遅い。日ノ神様の寝床は既に私が探り当てた」
「どういうことじゃ!?」
>「あとは貴様達を始末すれば、万事問題はなくなると言う訳だ」
「ぬう!そういうことでおじゃったか……って、どういうことでおじゃる!?」
>「……神とは人が創る物だ。陽の光に目を焼かれた盲目共の信心よ、
 今汝に形を与えよう。使命を与えよう。名を与えよう。
 山より目覚め山に眠る。命を与え、命を奪う。
 決して侵される事なき者よ。……目覚めよ、汝の名は『日ノ神』」
「むぬ!?」
伊佐谷が術を使えば、祭壇の中央から現れたのは黄金の巨人。
炎を纏ったその巨体は赤く燃える朝陽を想起させた。

気がつけば死門組の者たちと筋肉達磨の姿も見える。

「これは前世からの因縁じゃろうか?」
独語する玉響に突如襲い掛かるは円錐上の大地。それは伊佐谷の術であった。

「おぎょーーーーーっ!?」
大地の槍が冒険者たちを貫かんと襲い掛かる。

223 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/07/27 01:44:06 ID:???
「これはこれは……」

老婆が指し示した村の中心部。そこには祭壇らしきものが鎮座していた。
だが、そんなことよりも彼が驚いたのは別の道からこちらへ向かってきていた面々。
思わず口をついて出た冒頭の声。これで6人。以前同じ嘆願を受け、更に今回も同じ嘆願を受けているのが、だ。
偶然にしては少し出来過ぎではないか、と彼は少し訝しむ。もっとも、それも些細な時間。
現れた巨人を目の前にしては、流石の彼もその他の思考を止めざるを得ない。

思わず見上げてしまい、足下の注意が疎かになってしまったことは愚かと言えるかもしれない。
玉響の声に反応し、とりあえず当て身で突き飛ばす。その行動で終わり、隆起する大地からの回避は間に合わず。
彼の足は貫かれる。風穴が空く。そこから血流が流れ出す。

痛みは言葉では表せられない。だが、相も変わらず彼は全く表情も変えずに。
現状を把握にかかる。そして、自分が取るべき行動を考える。
巨人は森岡らに攻撃を加えている。それとともに何か異人が居るのも見えるが、ともかく彼が出る幕ではない。
前を見据える。おそらく、この村の中心人物であろうと思われる。この大地の隆起も、この人物の仕業だ。
私の仕事は、決まりました。

足を上げ、突き刺さった円錐状の地面を強引に抜く。そして一歩踏みしめる。それだけで痛みは倍増する筈だ。
だが、彼は歩く。足に重傷を食らっていることすら忘れてしまいそうな、いつもの歩調で。
近づいてくる彼を妨害しないことはないだろう。傷みを食らい、少し歩みを止めたとしても、彼はまたすぐに歩き出す。
どれだけ体が傷ついても倒れないそのタフネスさと。
まるで痛覚が麻痺しているかのようなその打たれ強さで。
何一つ表情を変えないまま、彼は中心人物と思しき輩の前に立つ。

「実のところ私はあまりその『日ノ神』に興味御座いませんものでして。
 単にこの村で生贄にされそうな人が居るから助けてくれ、という嘆願が御座いまして、それを果たしに参りました。
 よって終わらせてさっさと帰りたいものなのですが、その行動を円滑に行う為にも、
 降りかかる火の粉は払わねばならぬ、ということですね。
 ――しばらく、何も行動出来ないようになって頂いても宜しいでしょうか?」

右手にヨロイナイトから受け取ったサーベル。左手には愛用の軍刀。
二刀流の心得がある訳ではないが、単に突き刺すだけ。そこに必要なのは腕力だけだ。
彼個人的には殺しても構わないが、他に情報を欲する人がいる可能性もある以上、それは躊躇われる。
よって。彼は肩口と太腿に。それぞれの武器が、その軌跡すら見えぬような一直線の軌道を描く。刺し、刺し。
神速の突きが、二撃×二撃。確実に、両手両足を封じにかかる。

【伊佐谷に接敵して連突き】

224 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/27 21:24:14 ID:???
「どうやらもう追って来ないみたいだぞ」
岸青年に付いて行きながら、後ろを振り返ったヨロイナイトが告げる。あの後村人や妖魔犬を
撃退しながら老婆に教えてもらった方へと進んできたのだ。内容は嘘ではなかったようで、
果たして目の前にそれらしい屋敷が見えてきた。

また別方向から、いるとは聞かされていたこれまた見覚えのある一団がやってくる。
ヨロイナイトは軽いデジャブに見舞われたが、何にせよ敵ではないようだ。

屋敷から人が降って来たのが見えたのでそちらへ言ってみると、それは村人達とは服装も雰囲気も違う人物だった。
何だと思って見ていると、やがて彼女、伊佐谷が呪文を唱え直後に禍々しい神霊が現れる。
もしも彼に瞳があれば懐かしむような、しかし悲しむような目をしてそれを見ていたことだろう。

そして更に身構えていると、どこかで聞いたことのある声がのほほんとして響きを伴って近づいてきた。
やって来たジャフムードの姿はとても穏やかとは言えなかったが。

出揃った面子を見てそういえば、と倉橋女子のことを思い出すと連絡の為ヨロイは宝石に話しかける。
「もしもしヨロイです。どうぞ・・・あれ?もしもし!ヨロイです、どうぞ!」
繋がりが悪いのかなんだか声が遠い気がする。

「こちらは今村にある祭壇みたいなとこの前にて首謀者らしき連中と会敵、
敵は大掛かりな化物と術者と茶色い門番!他の面子とも合流しました、そちらは今どこに?むっ」

返答を待っている間に伊佐谷から繰り出された攻撃は、無防備なヨロイの足を攻撃し、
命中した円錐型の大地はは刺さりこそしないが鎧の表面を強く引っ掻き、異音を上げながらダメージを残す。
思わず鎧は蹲る。向こう脛を思い切りやられたような感覚だ、痛い。

顔を上げて伊佐谷を睨もうとすると、何かが視界の端に引っかかった、どうやら子供のようだ。

>ちょっと!なんデスかあの化物は!ヘイ、アドベンチャーズ!
 私が探し物をしている間になんとかしておいて下サイよ!いいデスね!

何やらまくし立てると森岡青年たちから離れた少女は屋敷の影に入ったのか見えなくなった。
ただそれだけの光景だったのだが、これまであまり動きのなかったケセランパサランが
突如険しい顔をするとぴょんと飛び跳ねて少女を追いかけて行ってしまった。

225 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/07/27 21:26:01 ID:???
受願所にいた時からそうだが、アレは普通の人には見えないし触れない、逆にあの毛玉の
方も相手に触ったりすることはできない。せいぜい目の前で飛び跳ねるか、きーきー鳴くぐらいだ。
とは言ってもその声もまた普通の人には聞こえなかったりするのだが、特に何が出来るわけでもない。

そんなやり取りを眺めている間に気づけば岸青年が伊佐也に肉薄していた。
玉響を庇ったのか足を負傷しているように見えたが、そんな様子は欠片も見えない。
以前見た時も思ったが、痛覚が無いのでは思える程動きに乱れがない。
自分よりもよっぽど人間離れしてる気がする。

ここは彼に任せて自分は毛玉を追おうと立ち上がりかける、
しかし再度隆起した地面が今度は屈んだヨロイの頭部目駆けて突き出される。
盾で凌ぐが思いの外強力だ、仕方がないので仮面を外すと少女が去った方向へ向けて投げる。
毛玉の保護が目的だった。

「頼むぞ仮面」
そう言って放った仮面は宙に浮き一人と一匹の後を追った。霊的な攻撃でなければ死なないが
物理的に割られると当面の間は身動きができない。心配ではあったがこの状況では分離できるのは
コレしかいなかった。

仮面を見送るとヨロイは面当てを降ろし、目先の道士からじりじりと距離を置く。
最初村に来た時はジャフムードを見て、インチキ宗教と高を括っていたが、まともに道士っぽいのが
出てきたことで俄に警戒し出したのだ。

始めの内に倉橋女子が危ぶんでいた事は、当人であるヨロイも一応、薄々思ってはいたのである。
霊に坊主、ゾンビに牧師、キョンシーに道士だ。

幸い岸青年がこのまま伊佐也を倒してしまえば、その勢いに乗じてもう一方に雪崩込むことも
この場を任せて毛玉と少女の後を追うこともできる。今は気づかれないようにやり過ごすことが
大事だとヨロイは考えたのである。

もしも相手の道士にキョンシーを乗っ取るような力が有り、その事に気づかれれば面倒なことに成りかねない。
ならば伊佐也よりも与し易い日の神かジャフムードと戦った方がまだいい。
とりあえずヨロイは突き飛ばされた玉響の方へカバーに入ることにした。

【毛玉と仮面、少女を追跡、ヨロイナイト、伊佐也から距離を取り玉響の前へ】

226 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/07/27 23:14:57 ID:???
玉響は死を覚悟した。衝撃を受けた腹部に激痛が走れば、体が飛ばされ地に落ちる
が、その身には針一本の穴とて開いてはいない。
不思議に思いつつ振り返れば土の術を身代わりとなり受けた岸の姿が目に飛び込んだ。

「岸どのー!!」
玉響は叫び、伊佐谷を睨み据える。

「……村人達の言動に黄金の巨人…。読めてきたでおじゃる」
身構え針を出す。そこへ迫るは土術の第二波。術を盾で防ぐヨロイナイト。

「むにゃ!またしても…ぎゃ!!」
直撃。かと思いきや足下には土にまみれた木片が散開しているだけだった。
木片の正体は村の開拓時に切り倒され、土中にとり残された古木の根。
幸運なことにそれが盾となり迫りくる土の槍の軌道を変えたのだ。

「くぅ…二度も…。ぬかったでおじゃる!」
歯噛みし伊佐谷の術に警戒する玉響。
するとヨロイナイトが守るように出て来てくれたので、その頭に跳び移る。
いっぽう血濡れの岸は伊佐谷と対峙。

「あの出血の量では岸どのが…!」
玉響はヨロイナイトの頭上から周囲を見渡し……

「……あのインチキ陰陽女はいないでおじゃるか!?」
倉橋を探した。

227 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/28 13:25:29 ID:???
森岡と共に妖魔犬に肉薄する。
いなしながら脇差で反撃するも、冷気や炎、雷で脇差がぼろぼろになる。
これでは使い物にならないと仕方なく鞘に収め、素手で軌道をそらし続ける。

>「葦高さん!そっちいったぜ!」

森岡の声が聞こえ、続いて背後にいた妖魔犬の軌道が下駄によって逸れる。
妖魔犬の頭と下駄が宙に放り投げられ、無防備なその頭部を叩きのめす。

「ちょっとこの下駄借りますね!」

下駄を掴み、蝿叩きの要領で目の前にいた妖魔犬を叩く。

>「邪魔だァあ!尻尾巻いて退きやがれ、犬ッコロ共ォオオ!」

森岡の叫びと共に、暗い毒気が晴れる。
森岡が全ての妖魔犬の頭部を叩き割っている間、辺りを見渡す。村人の姿もなく、静寂だけが辺りを包む。

>「お、終わったんだよ、な…………?」
「ええ、お疲れ様です。…まだ終わったわけではないですが」

座り込んだ森岡に近寄り労いの言葉をかける。
>「そうだ、さくら達……!」

森岡が立ち上がりさくらたちの姿を探す。森岡が甲高い喧騒の元に駆けつけ仲裁に入る。
それを眺めながら、じっと周りの気配に集中した。
ここで一点に集中するわけにはいかない。いつ襲われるかわからないから。
少女を樽担ぎした森岡とさくらと共に屋敷の前にとたどり着く。
たどり着く間に少女が何か騒いでいたが気にしないことにする。と、目の前に何やら人が現れる。

>「ひぃ……これで何とか……」
>「なってないいいいいいいいいいい!?もうやだぁ!
 て言うかあの筋肉達磨は何処行ったのさぁ!助けてよー!」

これでもかと言うほど、目の前の人物は叫ぶ。そして、脱兎のごとく走り出す。

「あ」

いったい何なのか。はてと首をひねれば先ほどと同じ声が祭壇から聞こえた。

>「……貴様達も『日ノ神様』が目当てか?
 だがもう遅い。日ノ神様の寝床は既に私が探り当てた」
「あとは貴様達を始末すれば、万事問題はなくなると言う訳だ」

そして詠唱。

>「……神とは人が創る物だ。陽の光に目を焼かれた盲目共の信心よ、
 今汝に形を与えよう。使命を与えよう。名を与えよう。
 山より目覚め山に眠る。命を与え、命を奪う。
 決して侵される事なき者よ。……目覚めよ、汝の名は『日ノ神』」


228 :葦高龍次 ◆YT3wQ5SUmU :11/07/28 13:26:54 ID:???

その直後に地面が揺れた。

「!?」

驚き、その場に硬直する。金の物体がひび割れた地面から現れた。それは炎を纏い、目の前に佇む。

>「ちょっと!なんデスかあの化物は!ヘイ、アドベンチャーズ!
 私が探し物をしている間になんとかしておいて下サイよ!いいデスね!」

森岡の手からするりと抜けて、少女は屋敷の裏に走っていった。

「あ、ちょっと!!」

思わず声を上げるが届くはずもなく。すると突然。

>「おおおおお!キターーーーー!ローーーティーーーーン!黒髪!!猫娘!!」

こちら側にそう叫び、猛然と走ってくる人影。
驚くまもなく、巨人が振り下ろした拳の軌道を逸らす一閃が叩き込まれた。
音を立ててその男の右手を挟んでいたトラバサミが破壊される。

「凄いですねぇ〜。あの巨人をたった一撃で……」

呑気に感心していると、男はさくらにつめより何か捲くし立てている。
更にさくらに強引に接吻しようとしている。
葦高の表情が一瞬、修羅と化した。
瞬く間に間に割って入り、ぼろぼろになった脇差の先端を突きつけていた。

「助けてくださったことには感謝しますが……さくらさんに不埒な真似をするなら容赦はしません」

>「おー!あなたはこのお嬢さんとはどんな関係ですか?恋人デスか?
  恋人ならあなたを殺せばこのお嬢さんは私のものね!
  関係ないのなら人の恋路を邪魔する者は私が殴って殺してやるよ!」

その瞬間、日ノ神の拳が巨人に振り下ろされる。
このままでは自分たちも巻き込まれると判断し、咄嗟にさくらの腕を掴んでその場から跳ぶ。
熱気が頬を撫でた。土埃が舞い、森岡達の様子は見えない。
しかしそれよりも、あの少女の事が引っかかった。

「さくらさん、ここは僕たちに任せてあの子を追ってください」

振り返り、さくらに微笑む。

「大丈夫です。僕も森岡君も――ここで倒れるような男ではありませんから」

【さくらに外人ちゃんを追うように促す/この先決定リールOKです】

229 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/07/28 19:57:59 ID:???

珍しく、さくらはブスッとした表情のまま歩いていました。
金髪少女との格闘の後、草汰に怒られてしまったのです。
確かに、あの場で依頼人たる少女をひっぱたいて引っ張って、
というのはちょっとやりすぎだったかもしれません。
それにしても、あの少女はこちらをなかなかに苛立たせます。
さくらの中では嫌な女である事が確定していました。

そんなこんなで悶々と考えながら歩いていると、誰かが落ちてきました。
男のような女のようなその人は、浮遊しながら着地します。
そんな手品のような魔術を使うのですから、この村のおかしな現象は大体この人が原因でしょう。
その人は、こちらの存在を認めた瞬間。

「なってないいいいいいいいいいい!?もうやだぁ!
 て言うかあの筋肉達磨は何処行ったのさぁ!助けてよー!」
叫びだしました。声からして、女性のようです。彼女は一目散に逃げ出します。

「……貴様達も『日ノ神様』が目当てか?
 だがもう遅い。日ノ神様の寝床は既に私が探り当てた」
「あとは貴様達を始末すれば、万事問題はなくなると言う訳だ」

奥にある祭壇の方から、先程と同じ声が聞こえます。
そして、詠唱。後、地揺れ。

―――――――――――――――――――

「おおおおお!キターーーーー!ローーーティーーーーン!黒髪!!猫娘!!」
「な、何あれぇぇえ!?」

いきなり現れた筋肉男(キン肉マン)、ジャフムード。
黄金の巨人、日ノ神による攻撃を、ジャフムードが逸らしました。

「危ないところでしたねー、お嬢さん。でも大丈夫よ!
ワタシ、ジャフムードいいます。この村で用心棒しているの。
これからお仕事で、皆殺しにしなければいけませーん。
でもあなたは殺さないし殺させない!ワタシの第二夫人だからネ!」
「きゃあー! ちょっといきなり何するの!
この変態へんたいド変態! バカ言ってんじゃないわよぉ!
きゃ、ちょっと止めてよTHE☆変態!」

ジャフムードは一方的にまくしたて、さくらに唇を寄せます。
さくらは出来うる限りの抵抗として全力の罵倒と共に、
目の前の顔をめちゃくちゃに殴って居るのですが効果は無いようです。

「助けてくださったことには感謝しますが……さくらさんに不埒な真似をするなら容赦はしません」


230 :鐘本さくら ◆4hGHgB4Guo :11/07/28 19:58:28 ID:???
>「おー!あなたはこのお嬢さんとはどんな関係ですか?恋人デスか?
  恋人ならあなたを殺せばこのお嬢さんは私のものね!
  関係ないのなら人の恋路を邪魔する者は私が殴って殺してやるよ!」
「ちょっと、きゃあ!」

修羅場が発生しかけた空間で、日ノ神の腕が降ってきました。
葦高はさくらを抱えて飛びます。
そして、微笑みました。
「さくらさん、ここは僕たちに任せてあの子を追ってください」
「大丈夫です。僕も森岡君も――ここで倒れるような男ではありませんから」

―――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――

場面は変わって、ここは薄暗い部屋の中。
先程までさくら達と共に居た少女は、その中で何やら探していました。

「ふぅん、なるほど、ね」

気配を悟られぬよう気を付けながら、さくらは部屋の外で呟きます。
どうやら、彼女も何かのお仕事の為に、日ノ神村に入ったようです。
さくらはふ、と息を吐いて、そっと室内に入りました。

「ねえね、何を探していらっしゃるの?
先程のお詫びに、一緒に探しましょうか?
だって、…貴女も『お仕事』、でしょう?」

『仕事とは、信頼なんだよ、さくら。
失敗したら、それの十倍頑張らないといけないよ』

父親としては鬱陶しいですが、社会人としては尊敬できる、
自らの父の声が心に響きました。

【少女に声を掛ける。手伝いの申し出】

231 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/28 23:41:44 ID:???
>>217
日ノ神村中心部の屋敷。二階の小部屋。
倉橋冬宇子は、伊佐谷男爵の首に懐剣を突きつけて、情報提供を迫る。

>「ごめんなさいすみません許して下さい!実は……あの娘は逃げ出しちゃったんです!

生贄の逃亡は、冬宇子にとっても由々しい事態だ。
嘆願主である生贄の少女が、自力で村から脱出してしまった場合、当然、報酬は不意になる。

「何だって?出鱈目言って誤魔化そうったって、そうはいかないよ!!この売女!!」
冬宇子は女に怒声を浴びせた。

>「あぁ違うんです!別にあなたのせいって訳じゃないんです!だから刺さないで!やめて!」

女は、泡を食って生贄逃亡の顛末を繰り返すばかりで、一向に返答は要領を得ない。
恐慌状態の伊佐谷を目にして、冬宇子の頭は徐々に冷めていく。
この怯え方、まるきり嘘を吐いているとも思えない。
それにしても、生贄娘の逃亡が真実だとすると、四面楚歌の村中、たった一人でそれを成し遂げるとは。
並外れた胆力と行動力を持つ娘ではないか。

ふと、冬宇子の頭に、一つの疑問が過ぎった。
考えてみれば、嘆願主が少女の身内や恋人ではなく、生贄である少女自身…というのも、不自然だ。
囚われの身であった彼女は、いかなる方法で受願所に嘆願を出したのだろう?
電報一つ打つこともできぬ、この村で。
村内に少女の味方――裏切り者がいて、その者が外部の人間に、嘆願の代行を依頼したのだろうか。
それとも、少女自身が、何らかの方法で、外部に繋ぎを取る手段を持っていたのだろうか?

じりじりと後退る伊佐谷に、にじり寄り、冬宇子は更に問い詰める。

「嘘を吐いたって無駄だよ…!その気になりゃ、呪言で真実を喋らせることだってできるんだからね。
 あんたの舌から、ちょいと血を採れば…」
懐剣の切っ先を、喉から口元にずらし、回答を強要する。

「もう一度聞く。娘が逃げたってのは本当だろうね?…それから生贄の娘ってのは……」
続く問いは、伊佐谷の言葉によって遮られた。

>「あなたとあの娘がどんな関係かは知りませんけど……あの娘は、向こうからこの村にやってきたんです。
>日本の宗教に興味があるって言ってたけど……普通、わざわざこんな、民間信仰を学びに来ますか?」

"日本の宗教"を"学びに"という言葉で、ようやく冬宇子は気づいた。
生贄は外国人。死門付近、森岡と共にいた金髪の少女―――彼女が生贄だったのだ。

>「多分、あの娘も『日ノ神様』が欲しいんですよ。……あなた、騙されているんじゃないですか?」

"『日ノ神様』が欲しい"――?日ノ神は、物欲を刺激するような存在なのか?
やはり日ノ神は、ただ太陽を神格化しただけではない。
呪物崇拝――ある特定の物品に依り坐す神として信仰を受けていたのだ。
して、その呪物とは―――?

>「……折角後ろにいるんだから、聞いてみたらどうです?」

日ノ神と呼ばれるモノへの興味と、生贄の少女への微かな疑念が、冬宇子の意識を伊佐谷から逸らした。
背後に気を取られた僅かの間、伊佐谷は歩行による破魔術――兎歩を完了させ、縄の戒めを脱していた。

>「万物を貫く理よ、力を示せ!――火剋金!」
伊佐谷の指より立ち上った炎が、冬宇子の懐剣に喰らいつく!

232 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/28 23:47:55 ID:???
―――瞬間、炎に包まれた懐剣が、白い光を放った。煌々たる白光が、纏わりつく炎を弾き飛ばす。
冬宇子は白光の中に、幻を見た。
白い着物に腰巻、白脚袢。頭に編み笠。
箱を包んだ風呂敷を背負った、白づくめの女の姿を―――


…一、二分は、その場に立ち尽くしていただろうか。
冬宇子は、痺れの残る右手を畳の上に差し伸べて、取り落とした懐剣を拾った。
波打つ刃紋は怪しく輝き、刃こぼれ一つしていない。
譲り受けた懐剣。これも霊刀の端くれと聞く。未だ霊験が残っていたのか。
その霊験を引き出す力のない冬宇子にとっては、ただの短刀でしかないというのに、
刀は、自身に向けられた呪力を退ける力を持っていたらしい。

室内に、伊佐谷の姿は既にない。
窓に張られた、雨戸代わりの薄板が破られている。そこから外に逃れたのだろう。
臆病で威圧感の欠片もない女だったが、道士としての腕は確かなようだ。
対人の攻撃術を何一つ持たない冬宇子が、術士として真っ向勝負を挑んで渡り合える相手ではなさそうだ。
…巫女としての資質も足りず、陰陽師としても成り損ない。
冬宇子は、自嘲を溜め息に変えて吐き出した。

冷静になって部屋の中を見渡すと、
榊の葉と注連縄を張った床の間に、ぽつんと置かれた金属製の箱が目に入った。
壁には、村周辺の地図らしきものが掲げられている。所々に描かれた丸は何を示しているのだろう。
箱を持ち上げるとズシリと重い。
鍵のかかった錠を乱暴に床の間に叩き付ける。開いた口から零れ落ちたものは……
燦然と輝く黄金!
南京豆ほどの、歪つな金の粒が、箱の中より溢れ出し、畳を光で淡く染めている。
加工前の金の原石―――金鉱石だ。

その眩い輝きを目にした途端、座敷で見た古文書の一節が、稲妻のように頭を過ぎった。

>曰く、日ノ神様は決して変わる事なく完璧なる存在である。
>曰く、日ノ神様は山より姿を現し、山で眠る存在である。

思考が連鎖し、一本の糸が繋がった。
そう、日ノ神とは黄金。
経る年月に侵食されることなく永遠の輝きを放つ、完璧なる存在。
ならば、日ノ神は山より姿を現す―――山は金を産出する……と解釈することもできる。
おそらく村の周囲に、人知れず採掘を続けられてきた『隠し金山』がある。
そう考えると、"軍――国が日ノ神を根こそぎ持ち去った"と、恨み心頭の村人の態度も辻褄が合う。
村人たちは、古より、富と幸をもたらす黄金を、神と同一視し、崇めていた。
しかし、如何なる経緯か、隠し金山は国の知るところとなり、
以後、公に存在を伏せられたまま、採掘された金は国庫に流れ込んでいた――
と、こんな筋書きだろうか。

233 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/07/29 00:01:21 ID:???
道術使いの女がこの村で何をしていたか。その目的も明らかだ。
金気を読み取る五行の道術で、新たな金の鉱脈を探していたのではないか。
してみると、地図に描かれた丸の意味も、自明なものだ。

黄金の輝きを反射して、冬宇子の双眸が欲に煌く。

「金塊だけでも、半年は遊んで暮らせそうな量じゃないか…!
 しかし、この地図…さて、これをどうするかねえ?
 あの女の手中に残しておくのもシャクに触るし、このまま捨て置く道理もなし。
 前の嘆願の時も、"現場のブツは勝手に持ち帰っていい"って、あの警官(林真)も言ってたしね。
 お持ち帰りしたものが、たまたま値打ち物だっただけさね。遠慮なく頂いて帰ろうか。」

言い訳じみた台詞を呟きつつ、折り畳んだ地図を懐に突っ込む。
金塊を詰め込み、重くなったトランクを小脇に抱えて、そそくさと部屋を後にした。
嘆願主の少女は、既に森岡が保護している。後は任せておけばいい。
持ち逃げが発覚する前に、冬宇子は、このまま村を去るつもりだった。

屋敷の玄関を出て、小走りで垣根を抜けた直後、
目の前に躍り出た人影にぶつかって、冬宇子は弾き飛ばされた。
放り出されたトランクの蝶番が、地面に落ちた衝撃で外れ、小物と共に金塊が土の上に散らばった。

「こ…これは……男爵様に頂いたのです!ジャフムード様との婚約祝いとして…!
 持ち逃げなどでは決して……」

衝突した相手を村人と思い込み、苦し紛れの詭弁を口走る冬宇子。
改めて相手の顔を見上げて、驚きの声を上げた。
目の前に立っていたのは、蓬髪をおどろに乱した、海老茶袴の中年女――玉響!
何を慌てているのか、目を血走らせ、肩で息をついている。

「何だい驚かせて?!やいと屋のおばさんじゃないか!
 こんな所で何してんだい?あんたも仕事で来たんだろ?生贄娘を探してるんなら…」

気の抜けた声を上げて、金の粒を拾いにかかる冬宇子に、
玉響は、どのような態度を取るだろうか。


【村中央部の屋敷、二階】
破られた窓、壊された小金庫。
二階の小部屋は、空き巣にでも入られたかのような荒れ様だ。
今後、部屋の中に入る者がいたならば、畳の上に投げ出された、しわくちゃの風呂敷を見つけるだろう。
その者が、以前、武装犯に占拠された屋敷奪還の嘆願を受けた者であったならば、
紫色に蝶の紋を染め抜いた、その風呂敷に見覚えがあるかもしれない。
それは前述の嘆願の折、倉橋冬宇子が手提げ代わりに使っていたものだ。


【冬宇子さんの懐剣は、生半可な呪力では壊れない…というだけのシロモノでその他の特殊効果はありません】
【日ノ神の正体と地図の意味を推理(後付でごめんちゃい)して、金塊と地図を持ち逃げ(地図は懐。金塊はトランク)】
【玄関から外に出たため、裏口から入った生贄娘の金髪ちゃんとはすれ違いになってます】
【屋敷から出たところで、出会い頭に玉響さんと衝突】
【屋敷の二階に風呂敷を忘れてきてます】

234 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/31 23:02:22 ID:???
【→岸】

土の道術、円錐は確かに君の足を貫いた。
けれども君は問題なく伊佐谷へと歩み寄る。

「えぇええええ!?ちょ、ちょっと待ってよ!そんなのムチャクチャだぁ!」

たちまち伊佐谷は取り乱して後ずさる。

>「実のところ私はあまりその『日ノ神』に興味御座いませんものでして。
 単にこの村で生贄にされそうな人が居るから助けてくれ、という嘆願が御座いまして、それを果たしに参りました。
 よって終わらせてさっさと帰りたいものなのですが、その行動を円滑に行う為にも、
 降りかかる火の粉は払わねばならぬ、ということですね。
 ――しばらく、何も行動出来ないようになって頂いても宜しいでしょうか?」

「よろしくないぃ!」

必死の抗議。とは言え君が聞き入れる訳もない。
白刃が四度閃く。
怯えるあまり後ろに倒れ込んだ伊佐谷は、上段のニ合を運良く回避。
けれども君の刃は彼女の右足を貫いた。

「いぎっ……!」

泣き叫びたくなる衝動を堪え、伊佐谷は地面に手を触れ、壁を隆起。
君の接近を阻み、あわよくば突き飛ばす算段。
臆病者であるからこその適切な行動。

「痛い痛い痛い!だからこんなトコ来たくなかったんだぁ!」

氷の仮面が破綻、涙目。
立ち上がった。涙を止めどなく零しながら呼吸を整える。

「ふっ……ふふ、軍の犬風情がなかなかやるではないか!」

外見を取り繕う。自分にはまだ余裕があると言い聞かせる演技、自己暗示。

235 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/31 23:02:42 ID:???
「だが……それもここまでだ」

不意に伊佐谷の双眸に赤い光が宿る。
再び土の道術。荒れ狂い逆巻く土の錐、柱、壁。
それらは全て君の動きに先んじて、確実に攻撃と牽制を行う。
正確過ぎる連撃を何度か受ければ、君は容易く予想出来るだろう。
伊佐谷が君の動きを完全に先読みしていると。
神道や道術の知識が多少なりともあれば、それが心眼、未来視の類だとも理解出来る。

伊佐谷の時代錯誤性――未来予知能力。
大昔ならば盲目的に認められ、崇められただろう力。
この時代では不気味だと切り捨てられるか、気の狂った精神異常者扱いが関の山。

「おかしいね。私もあの小娘には大した執着はないのだけれども。
 あれが実は大嘘つきの泥棒猫かもしれない……と言った所で、君は引き下がりはしないのだろうね。
 君は賢い愚者だ。与えられた目的を最も単純に解決する術のみを求め、それ以外を知ろうとしない」

褒め言葉、ただし軍人的な側面に限る。

「そしてそれ故に、君は時代の奴隷でもある。私はそうはなりたくない」

攻撃を激化。
――伊佐谷は優れた術士だ。だが戦士としてはその限りではない。
自分の手札、能、爪――未来予知、先読み能力を隠す事を知らない。
強力無比なその異能も、種が割れてしまえば対処の方法は幾らでもあるのだと分かっていない。
君の周りには様々な物があり、者がある。君はそれらのどれを利用してもいい。

236 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/31 23:03:10 ID:???
【→さくら】

>「ねえね、何を探していらっしゃるの?
 先程のお詫びに、一緒に探しましょうか?
 だって、…貴女も『お仕事』、でしょう?」

背後からの君の声に、少女の動きがぴたりと止まる。
懐に手を。隠し持った小型の拳銃に触れる。
暫し黙考。

「オーウ、ホントですか?ベリーベリー助かりマース!
 アナタ実はいい人だったんデスね!さっきはごめんなさいデシタ!」

振り返る。晴れやかな笑顔。銃は懐で眠ったまま。
こちらは仕事、相手も仕事。
自分は指定された物を持ち出す。相手はその自分を無事に帰す。
それだけだ。互いの仕事は衝突しない。
銃を使うのは、君が下らない正義感を振るい出してからでも遅くない。
と、少女は判断したようだ。

「でもこの部屋には探し物はありませんデシター。なので二階を探す事にしマスネ」

二階へ向かう。開かれたままの襖、荒れ果てた室内。
あるのは破り捨てられた呪符だけ。

>「何だい驚かせて?!やいと屋のおばさんじゃないか!
  こんな所で何してんだい?あんたも仕事で来たんだろ?生贄娘を探してるんなら…」

と、薄板が破れ吹き抜けとなった窓の外から声。
痛む片脚を引きずりながらの最高速で窓に近寄り、下を見る。
女が二人。悪趣味な服装の年増と、金鉱石の粒を拾う若い女。
少女の瞳孔が僅かに開く。

「あのファッキンビッチ……!」

普通の人間にならば、聞こえないだろう小さな呟き。
思考、計画――プランA、プランB、プランC。

「――オゥ、こんな所にありマシタ!ありがとうございマース!無事見つかりマシタよー!」

初めから隠し持っていたロザリオ――を模したナイフをさも今見つけたように見せる。

「……おや?これは見覚えのない風呂敷デスネ?もしかして、下にいるあの人の忘れ物デショウか?」

その通りだが、少女にとって事実はどうでもいい。
回答が得られなくてもいい。
ただ倉橋に近寄る口実に出来れば、それでいいのだ。

「アナタの言う通り、折角助けてもらうんデスから、感謝の気持ちをリメンバーデスネー。
 届けてあげる事にシマスよー。ヘイ、この布っきれ、アナタのじゃありマセンかー?」

237 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/07/31 23:03:44 ID:???
【→倉橋】

少女は一階に降りて玄関から屋敷を出た。
風呂敷を左手に、倉橋へと歩み寄り――彼女の直前で躓いてみせた。
小さな悲鳴を上げ、いかにも怪我をした足が痛んだように見せかけて。

「きゃっ……ソ、ソーリーお姉さん。見ての通り足を怪我してマシテ……」

痛みを覆い隠す気丈な笑顔――の仮面。
ぶつかった際に袖、懐を素早くまさぐった事さえ隠蔽するように。
すり取った紙切れを器用に袖へ隠す。
プランA――掠め取る。気付かれなければそれが最上。

【倉橋が気付いた場合】

もしも君が少女のすり取りに気付いた素振りを見せたのなら
少女は即座に、君の脇腹に右手を押し付けるだろう。
風呂敷に包んだ、小型の二連式拳銃を。

「そのまま黙ってナサイ、糞ビッチ。もしふざけた真似をしたらズドン、デスよ。
 黙っていれば、そっちの金はこの際くれてやりマス」

【すり取れなかった場合】

「ヘイ、この糞ビッチ。少しでも妙な真似したらぶち撒けマスよ。
 盗んだ物がありマスよね。そいつを寄越しナサイ。
 黙ってよこせば、金の方はくれてやりマス」

プランB――脅迫。
倉橋一人の心証を悪くした所で、助けてくれる冒険者は他にもいる。
万が一失敗した場合も同様だ。

そしてプランC――プランBが失敗した場合の、最後の手段。
上辺だけを見ればもっとも綺麗で人道的だろう、反吐の出るような選択。
少女としては、出来る事ならばプランBまでで事を終えたいものだが――

君は少女の巧みな手捌きに気付けてもいいし、気付けなくてもいい。

238 : ◆PAAqrk9sGw :11/08/01 13:46:15 ID:???
時間は少々遡る。
ジャフムードにより、開門付近は噎せ返るような鉄錆の香りと、血の海と、死の気配で満ちていた。
その気配を感じ取ったかのように、屍の山に、空腹を満たそうと禿鷹達が集まり始める。
耳障りな鳥の喚き声と羽ばたき、肉を裂く音が周辺に木霊する。

一羽の禿鷹が、屍の中に横たわる死体の一つに留まった。
長い前髪で顔は判らないが、他の死体と比べてそれはやたらと綺麗だった。
血に塗れたその肌はご馳走に見えた事だろう。
禿鷹が柔肌に食いつこうと嘴を近づけた刹那、――蒼白い血塗れの手が、禿鷹の首根っこを素早く、満身の力をこめて捕らえた。


「おや、いけない子」


黒い髪の下で、紫色の薄い唇が歪む。
女のような細い指がゆっくりと確実に、その命を搾り取ろうと締め上げる。
禿鷹は命の危険を感じ、鳴き喚いたり引っ掻いたりと、必死に抵抗するが虚しく。
慌てて飛び去っていく他の禿鷹達の羽ばたきの音の中、僅かな断末魔と、命の折れる音が響いた。


「鳥は好きですよ。――自由の羽をもぐその楽しさを与えてくれますからねぇ」

屍だった彼――あるいは彼女――は立ち上がり、大きく伸びをした。
その拍子に、首が明後日の方向へ捻じ曲がった鳥の死骸が手から落とし、足元を転がる。
それを一瞥し蹴飛ばすと、乾いた血が詰まった己の爪を見て、眉毛のない眉間を顰めた。
首を鳴らし血の混じった痰を吐き出すと、何事もなかったかのように屍の一つに腰掛けた。

「いやはや、死んだ振りは常套手段でしたが、まさか殺された“振り“をする羽目になるとは、このいぐなも予想外でした。
 あの筋肉達磨め、いつか本物の達磨にして高値で売り飛ばしてやりましょうかね」

唸るように一人ごち、蛇のような三白眼が怒るように光る。
いぐなは探るように遠くを見据え、息を吐き出す。
独語はまだ続く。聞くものは初めからいないことを知っているかのように、或いは自分に言い聞かせるかのように。

「”日ノ神”の噂と”米国の密偵”――何たる僥倖。まさか『華涅神崇団』の手掛かりが得られるとは、来た甲斐があったというものです。
 ”あの御方”の数多の憂いの幾つかは、思ったより早くも晴れそうですね。良きかな良きかな」

血色の良い舌が、唇をなぞる。さて、そろそろ仕事をせねば。
いぐなは立ち上がるがしかし、不穏な気配を中央部から感じ、再び眉間に皺を寄せた。
何かが起きている。それに幾つかの気配。

―――いぐなの薄い唇が、弧を描く。


239 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/08/01 13:53:28 ID:???
【日ノ神村/中央部】

「な、何だありゃ……!」

屋敷に到着した草汰達は、出会い頭に意味不明なことを叫んで逃げ出した女、伊佐谷を追って此処まで来た。
なぜか岸や玉響、ヨロイナイトまでいた事にも驚いたが、それよりも。
伊佐谷の言動からして今回の黒幕であることを察し、向こうも完全に戦闘態勢。
詠唱と共に現れたのは十尺ほどの巨人、日ノ神。
神と呼ぶにはお粗末なそれだが、気迫はそれ以上にも思える。

「ちょっと!なんデスかあの化物は!ヘイ、アドベンチャーズ!
 私が探し物をしている間になんとかしておいて下サイよ!いいデスね!」
「え、ちょま、待てって!おーーい!」

少女はそう言うと草汰の腕から抜け出し、制止を振り切って屋敷へと。
その直後、草汰達に日ノ神の拳が振り下ろされる――――!

「おおおおお!キターーーーー!ローーーティーーーーン!黒髪!!猫娘!!」
「へっ」

突然、日ノ神の拳が不可視の力によって殴り飛ばされ、軌道が逸れる。
標的を潰し損ねた拳は、ズゥ、ン……!と地響きを立て、地面に巨大な跡を残すだけに終わった。


240 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/08/01 13:55:28 ID:???
「凄いですねぇ〜。あの巨人をたった一撃で……」

葦高が横で呑気に感心している。しかし草汰もそれには同意せざるを得なかった。
何故なら、あの日ノ神の重い拳を一撃で逸らしたのだから、凄い剛力の持ち主であることは間違いない。しかも、見てくれはただの男だ。
いや、只の男ではない。全身に返り血を浴びた、得体の知れない、

「危ないところでしたねー、お嬢さん。でも大丈夫よ!
ワタシ、ジャフムードいいます。この村で用心棒しているの。
これからお仕事で、皆殺しにしなければいけませーん。
でもあなたは殺さないし殺させない!ワタシの第二夫人だからネ!」
「きゃあー! ちょっといきなり何するの!
 この変態へんたいド変態! バカ言ってんじゃないわよぉ!
 きゃ、ちょっと止めてよTHE☆変態!」
「おおーーーーーい!?さっきのカッコいいアンタはどこへ!?」

ただの変態だった。
強引に接吻を迫る男、抵抗するさくら、割って入り脅しを掛ける葦高、共に割って入り突っ込みを入れる草汰、正に修羅場。
修羅場と化し、漫才にも似た空気が流れる。
しかし、草汰は直ぐにその表情を別の意味で驚愕に染めることになる。
何故ならば理由は単純、日ノ神の第二撃が今まさに振り下ろされようとしているのだから!

「おー!あなたはこのお嬢さんとはどんな関係ですか?恋人デスか?
  恋人ならあなたを殺せばこのお嬢さんは私のものね!
  関係ないのなら人の恋路を邪魔する者は私が殴って殺してやるよ!」
「言ってる場合かーーー!後ろ、後ろーーーーーーー!!」

叫ぶと同時、男に渾身の体当たりをし、二人の体が地を勢いよく滑る!
数瞬後、日ノ神の拳が再び地を揺らし、熱気と炎が草汰の服を僅かに焦がした。

「大丈夫かアンタ!敵から目を逸らすなんて自殺行為だぞ!」

全く!と吐き捨て、草汰は再び巨人と対峙する。
まさか助けた男が敵だとは夢にも思わない。ただ目の前の日ノ神に夢中だった。
さくらは少女の後を追った。ならばとそばにいた葦高に、草汰は自分の推測を率直に述べる。

「多分、あの女を倒せばコイツも消えるんじゃねーかと思うんだ。葦高さん、頼まれてくれねーか?」

そして男、ジャフムードへと振り返る。彼もきっと一緒に戦ってくれるはずだと信じて。

「なあ、オッサンも力を貸してくれ!俺たちを助けてくれた、あの剛力でよぉ!」

味方についてくれると信じきっている草汰は、二カッと笑って日ノ神を見据えた。



その様子を、木の枝の上から眺める人影が一つ。いぐなだ。
顎から顎の端まで届きそうなほどに笑っている。視線の先には、草汰達がいる。

「これはこれは…………”剣”達じゃあありませんか!あの"女狐”の手掛かりまで得られるとは何たる僥倖。
 ――落ち着きなさいいぐな。まずは仕事が先です。そう、公私混合は良くない!」

す、と懐から出すは、霊的な力がこめられた針。
狙いを定め、伊佐谷と異邦人の少女の命を吸い取るべく、放たれる!!

【ジャフムードさんを庇う/ジャフムードさんを味方と勘違い/葦高さんに伊佐谷さんの相手を依頼】
【謎の人が伊佐谷さんと異邦人ちゃんに向けて霊力の籠った針で攻撃】


241 :岸良介 ◆6IUsayKoSo :11/08/02 02:30:13 ID:???
「時代の奴隷、結構で御座いますよ。所詮私など100年もすれば土の下、歴史書に名前も残りません。
 『その他大勢』は『その他大勢』らしく、時代の潮流に流されて参ります。
 私はそうやって、生きてきたのですから」

ただ一度を除いて。

激化する攻撃。何度か食らうが、それでも彼はただ迎撃し、ただ只管に反撃を繰り返す。
ヨロイナイトから受け取ったサーベルはもう手に持っていない。使い慣れた軍刀だけで。右手に持って。
そして、鈍感な彼にもやがて不審が顔を出す。攻撃を繰り返しながら、彼は口を開く。

「ふむ、超反応、とも違う。私が行動するより先に、それを阻害にかかる。
 私の考えが読めているのか、もしくは未来でも見えているのか。どちらも御伽噺のような能力ですが、そうとしか思えません。
 生憎私はそのような人物と手合わせしたことがありませんので、どのように対処すればいいのか分かりかねます。
 とりあえずは私にとって、1番簡単な方法で。対処させて頂こうと思っております」

そう言っているにも関わらず、彼の行動に変化は見られない。
攻撃しようとし、それを阻まれ。相手の攻撃を避け、時には食らいつつもまた挑む。
傍目から見れば、それは膠着状態にしか見えないだろう。
だがこの膠着は、永遠に続くものではない。
人間とは、永久機関ではないのだ。

「さぁ、我慢比べと参りましょうか。私の体力、貴女の体力。どちらが先に尽き、地に伏せるのか。
 一時間? 半日? 一日? 三日三晩でも、私は一向に構いませんよ」

金が必要で焦っていることなど、最早彼の頭からは飛んでいる。ただ相手の体力が尽きるのを待つだけ。
ふと、彼はこちらに向かってきている針の存在に気づく。その延長線上には、今戦っている女が居る。
彼は何も考えず、左腕を伸ばし。その針は彼の手の甲に刺さる。

彼には知る由も無いことだが、その針は霊的な力を込められた、刺された人物の命を吸い取るもの。
だが、彼には全く動きに変化はない。命は吸われた、確かに吸われたのだ。
例示をしよう。一般的な人間の命が100として。そこから99引かれたら、その人間の命はもはや欠片しか残らない。
だが、とある人物の命が10000あったなら。99引かれても、9901残る。
それは、人間というより、よっぽど化物に近い。

「失礼」

刺さった針を歯で挟んで抜き取り、含み針のように吹き出すと、その針は地面に転がる。
庇ったのは単に一度決めたことに邪魔が入られるのを厭ったからで。彼は筋金入りの頑固者だった。

「では、続きと参りましょう」

時にはその錐に体を貫かれ、その柱に体を打ち据えられても。致命傷でもない限り、彼は構わず突きを繰り返す。
もし、ほんの一瞬でも隙を見せたなら。それを彼が見逃すことはないだろう。

「自己紹介が遅れておりました……岸良介と申します。誤解されているようですが、私は現在軍所属では御座いません。
 しがないタクシー運転手などやっておりますので、市内に寄られた際は是非ご利用の程を」

【気違いじみた長期戦狙い】

242 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/08/02 20:51:43 ID:???
【飛針】【→倉橋、さくら、玉響】

謎の女が放った命を奪う針を、少女は素早く察知した。
怪我のない足を軸に弧を描く足捌き。
倉橋の側面、陰に隠れるように飛針を回避。追撃の阻止。

「オー、ごめんナサイ。怪我のせいでフラついてしまいマシタ」

取り繕う。とは言え飛針に気付いた者ならば、その動きが明らかな回避運動だと分かる。
つまり少女が不意打ちの一撃を回避出来る程度には『その道』の人間であると、分かってしまう。
或いは既に、少女が拳銃を突き付けている事に気付いている者もいるかも知れないが。

(……一体どこの所属デスカね。まさかもう得高に気付かれマシタか?
 それとも護国機関……?露西亜か中国辺りの同業者なんて線も……。
 って、あれは確か軍部の……ナイトさんでしたっけ?まさかあのデンジャラスモンスターを軍事利用する気じゃ……。
 あぁもう、面倒デスネ)

沈黙、思考。
ともあれ少女は動かない。
擦り取りに成功したとしても、倉橋を盾にすべく。
擦り取りに失敗、気付かれたのなら脅しを継続すべく。
倉橋から離れる理由がないのだ。
君達は少女がただの一般人ではないと、またそれを裏付ける様々な動作に気付くかもしれないし、気付かないかもしれない。

243 :GM ◆u0B9N1GAnE :11/08/02 20:52:06 ID:???
【→森岡】

>「多分、あの女を倒せばコイツも消えるんじゃねーかと思うんだ。葦高さん、頼まれてくれねーか?」

伊佐谷が聞き耳を立てる。臆病者故の万全な戦況把握。

>「なあ、オッサンも力を貸してくれ!俺たちを助けてくれた、あの剛力でよぉ!」

だが伊佐谷は動じない。
ジャフムードが自分を裏切る理由も、冒険者達に与する理由もないからだ。
いや、もしかしたらあるのかもしれない。
が、少なくとも伊佐谷はその可能性を考えもしなかった。

とは言え伊佐谷としては万が一にも、森岡や葦高、その他の冒険者に包囲されるのは好ましくない。
その理由は、いかに未来が見えたところで面制圧の戦術を受ければ回避出来なくなってしまうから。
ではなく、単に伊佐谷が度を越して臆病だからだった。

その為、念には念を。
伊佐谷は日ノ神に単純な指示を飛ばす。
火勢を増幅、体表を更に溶かさせて、腕を振り回させた。
炎を纏う溶けた黄金が飛び散る。動きの鈍重さを鑑みた範囲攻撃。
その攻撃範囲にはジャフムードも含まれているが、伊佐谷はどうせ無事だろうと判断。
その判断をジャフムードがどのように受け取るのかは、定かではないが。

森岡達を襲う、炎を纏い、黄金の巨躯を誇る日ノ神――強力だが、倒す術は当然存在する。
自らの炎で溶け落ちつつあるその体――弱点だらけの存在。
術士を倒してもいい。
村そのものを利用した呪法陣は核である呪符を破壊されたが、陣そのものは生きている。
村の中央からやや離れた所には玉響が発見した火薬。
少女が回避した、命――気を奪う飛針。
利用出来るものは幾らでもある。それらを正しく運用する術を持つ者もいる。

飛針――霊能を持つ者ならその秘めたる力を察知出来る。そして本来は忍者の道具。
火薬――漂う僅かな臭気。重量はそれなりにあるだろうが、問題なく運べる人間が一人、二人――三人。
呪法陣――仕組みは生きている。術士ならばそれを流用する事も不可能ではない。
選択肢はこれだけに限らない。君達は何を利用して、どう戦ってもいい。

【あと1、2ターンかそこらで負けるつもりです。レスの時系列は全体的に>>241のやや前】

244 :ジャフムード ◆/02/WUSDNQ :11/08/03 22:57:56 ID:???
>228>229>240>243
一瞬の交錯の刻。
振り下ろされる日ノ神の拳を起点にその場の者達が一斉に動いた。
葦高を叩き潰さんとする繰り出されるジャフムードの腕をかいくぐり、森岡がタックルを。
その隙を突き、葦高がさくらの腕をつかんで跳ぶ。

ジャフムードが起き上がった時、屋敷へと向かうさくらの背を瞳に映しながらも見えていなかった。
「……!?こ、このワタシが…!!」
第一声が表す通り、愕然としていたのだから。
自分が森岡のタックルによって倒されたことが信じられなかったのだ。
少なくとも、力比べにおいて負けるとは思っていなかった。
顔は青褪め、脂汗がどっと噴き出す。
身体はガクガクと震え、アイデンティティの崩壊以上の、存在価値の危機を感じていたのだ。

>「なあ、オッサンも力を貸してくれ!俺たちを助けてくれた、あの剛力でよぉ!」
森岡のその言葉にジャフムードは驚いたように首を上げた。
絶望の中、一縷の望みを見つけたかのように。
いや、それは実際にジャフムードの心境を的確に表していると言えるだろう。

焦燥の浮かぶ表情の中、不気味な笑みが浮かばせながら、言葉を紡ぐ。
「皆殺しにする、と、お嬢さんだけでなく、アナタ達にも聞こえるように言ったハズですけどネー。」
ニカッと笑う森岡に応えるように、ジャフムードもニカッと笑みを作る。
森岡が見据える日ノ神は更に火勢を増して身体を溶かしながら大きく腕を振りあげている。

大きく息を吸い、見開いたジャフムードの目は追い詰められ思い詰めた者の目だった。
「ふははははは!ニホンジンが底抜けのオヒトヨシで助かりましたよー!!!」
狂気じみた笑いと共に後ろから森岡を殴り飛ばしたのだ。

完全なる不意打ちとはいえ、急所でもない背中を殴っただけ。
それなりにダメージは与えたかもしれないが、これで殺せるとは全く思っていない。
だが構わない。
ここで無理に殴り殺さなくても、殴り飛ばした森岡の行き着く先は日ノ神の目の前。
完全なる死地なのだから。

「あははははははは!ワタシより力が強そうな奴はみんな死ぬのでーす!
これでもう大丈夫!もう安泰!フヒ!フヒヒヒ!さあ、ワタシの花嫁たちを確保してからゆっくり皆殺しタイムよー!」
狂ったように笑い、死地の森岡を罵るジャフムード。
だがそこに想定外の結末が待っていた。

245 :ジャフムード ◆/02/WUSDNQ :11/08/03 22:58:58 ID:???
日ノ神が拳を振り下ろせば森岡は死んでいただろう。
しかし、実際の攻撃方法は腕を振り回し、炎を纏う溶けた黄金を飛び散らせる、というものだったのだ。
飛び散らせる。
故に日ノ神の懐に潜り込んだような位置に殴り飛ばされた森岡は安全地帯におり、ほどよく離れていたジャフムードこそが死地にいる。
運命の悪戯による残酷な逆転現象。
巨躯を誇るジャフムードは良い的であり、例え想定外でなくとも避けることは叶わなかっただろう。
ましてや、全く予想すらしていなかった事態に動くことすらできずにいた。

「あぇ!?」
飛来する炎を纏った黄金が視界を覆う直前に出た言葉を最後に、ジャフムードは悲鳴すらあげられなかった。
全身数カ所に及ぶ被弾以上に、大きめの塊がその顔面に直撃したのだから。
顔全体が溶けた黄金に覆われ、声もあげることもできず、見ることも出来ない。

岩が当たっても耐えられる。
炎であっても焼かれても転がり消すことはできる。
しかし、炎を纏い溶けた黄金は、降り掛かると取る事もままならず、もがけばもがくほど焼く範囲を広げていく。

苦しそうにもがきながら、よたよたと前に進む。
当然見えてはいない。
やがて日ノ神にぶつかったところで力尽きたように崩れ落ちた。
2メートルを越し、その胴周りも大木のようなジャフムードが崩れ落ちるのである。
巨大な日ノ神も溶け落ちつつある体ではそれを支えきれず、右腕部分が完全に落ち、右足部分もかなり崩れてしまった。


246 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/08/05 00:47:15 ID:???
>>237 >>242
地面に散らばった金塊を一心不乱に拾い集める倉橋冬宇子。
手を伸ばした金の粒にふっと影が差す。
冬宇子はハッとして立ち上がり、影の正体に目を向けた。
何時の間に近づいていたのか。目の前には、金髪、洋装の少女。
布を握った左手を差しのべ、親しげな笑顔を浮かべてこちらに歩み寄る。
と、小さな悲鳴を上げてよろめき、少女は冬宇子の体にしがみ付いた。

>「きゃっ……ソ、ソーリーお姉さん。見ての通り足を怪我してマシテ……」

少女の足元に目を落とす。言のとおり、足首に傷を負っている。
手に握る布―――見慣れた家紋入り風呂敷は、冬宇子の持ちものだ。
森岡たちに助け出された筈の少女が、なぜ再び村の最深部に舞い戻っているのだろう。

「あんたは嘆願主の…何故ここに……?」

冬宇子は、口を衝いて出た言葉を飲み込んだ。
縋り付く少女の手つきに、微かな違和感。
不審を抱いていたからこそ、そして何より、荒んだ暮らしを経験した者だからこそ察知できた、その手際。
懐に差し込まれた少女の手を、冬宇子は右手で、はっしと捕らえ、引き出した。
掴んだ手首を強く握り締め、無言で彼女の顔を睨み付ける。
と同時に、脇腹に、筒状の堅い物を押し付けられている事に気づいた。

>「ヘイ、この糞ビッチ。少しでも妙な真似したらぶち撒けマスよ。
>盗んだ物がありマスよね。そいつを寄越しナサイ。
>黙ってよこせば、金の方はくれてやりマス」

耳元で囁かれる脅迫。否、取引の提案。
不審は、確信に変わった。
少女はやはり、ただの物好きな民俗学志向の外国人ではなかった。
別の明確な"目的"を持って、この村に侵入していたのだ。
その"目的"こそ『日ノ神』―――金鉱。
『男爵』一味とは別に、金鉱を狙う者達がいる、ということか。
そもそもが、今回の嘆願。手先の者を囚われ、しかし表立っては動けぬ少女の所属機関が、
生贄救出を隠れ蓑に、その救出を嘆願所に依頼したのではないか?

「盗んだ物…そりゃ何のことだい?……って、空っとぼけても、通じやしないだろうねえ…」

溜め息交じりに呟き、冬宇子は、少女の手首の関節を捻りあげていた手を、ゆっくりと離した。

すぐ側には玉響が。少女の後ろには、鐘本さくらが控えている。
とは言え、彼女らの助けは期待できない。
単なる仕事仲間である玉響とさくらが、嘆願主の少女を裏切って、冬宇子に味方する道理はない。
村の宝物たる"金塊"を持ち逃げしようとしている…という負い目もある。

247 :倉橋冬宇子 ◆FGI50rQnho :11/08/05 00:47:44 ID:???
仮に、玉響らが異変―――冬宇子が拳銃を突きつけられていることに、少女の正体の胡乱さに、
勘付いていたとしても、彼女らへの脆弱な信頼に身を任すのは危険、と冬宇子は断じた。
逃げ道は、自身で切り開くしかない。

「ふーん…あんたも"アレ"を狙ってたって訳かい?
 生贄にされかけた、か弱い外国のお嬢さんのあんたがねえ…?
 ……わかったよ。あんな面倒なモン、直ぐにカネに変えられるでもなし。
 こっちとしても金塊さえ手に入れば儲けもんだ。命にゃ代えられない。大人しく渡すとするかね…」

言って、冬宇子は右手を懐に差し入れた。地図を取り出すような素振りを見せる。
さりとて本当は、素直に渡す気など毛頭無かった。
文字通り、値千金の地図である。どうにも手放すのは惜しかった。

懐に忍ばせているのは、件の地図だけではない。白紙の人形…形代もまた。
地図も形代も、同じく白い和紙。折り畳んだ状態ならば、見分けはつくまい。
一瞬でも少女の気を逸らせれば、形勢逆転の目はある。
地図の代わりに放る形代を、懐の内に構えた、その時……

"何か"が、冬宇子の鼻先を掠めて飛んだ。

>「オー、ごめんナサイ。怪我のせいでフラついてしまいマシタ」

軌跡に漂う、霊力の残渣。
いつの間にか、少女は、冬宇子の正面から側面に移動していた。
飛来物の軌道に冬宇子を挟み、盾にするかのように。

霊力を持つ何者かの攻撃であることは確かだが、狙いは少女か?それとも冬宇子の方か?
それが判別できない以上、下手に動くのは命取りだ。
予想外の事態に、思惑は頓挫。
冬宇子は、少女に銃を押し付けられたまま、その場に立ち尽くすより他に無かった。


【プランCを選択させていただきました】
【すり取りを防いだものの、銃を突きつけられています】
【地図の代わりに形代を投げて形勢逆転を狙うも、飛針にビビって固まる】

248 :玉響 ◆h3gKOJ1Y72 :11/08/05 01:56:35 ID:???
>「何だい驚かせて?!やいと屋のおばさんじゃないか!
 こんな所で何してんだい?あんたも仕事で来たんだろ?生贄娘を探してるんなら…」

「婚約祝いなんて嘘じゃろ。この泥棒ネコめ…。
仕事そっちのけで火事場泥棒なんて、いい根性してるでおじゃる。
これは口止め料ぞ!」

金鉱石を一つ掠め取り深い溜め息。呼吸を整える。

「それはそうと今、村の中央で仲間たちが交戦中ぞ。
中には道術使いもおって皆が危険に晒されておる。岸どのは例によって例のごとく血みどろじゃ。
さあ、行って力を貸すのじゃ倉橋冬宇子!って聞いておるのかー!?」

玉響は深い溜め息。金鉱石に目が眩んでいる倉橋を一瞥すると踵を返し、岸、ヨロイナイトの元へ戻ろうとした。
が、十間ほど離れてから、もう一度くるりと振り返る。
倉橋と少女が、なにやら言いあっている声が耳に届いたからだ。
>「きゃっ……ソ、ソーリーお姉さん。見ての通り足を怪我してマシテ……」
>「あんたは嘆願主の…何故ここに……?」
「むむ。あの娘が生贄娘?」
視線の先の少女と倉橋は不自然なほど密着しており、溜め息交じりの小声で何やら話していた。

「……男日照りじゃからって、まさかそっちに走ろうとはの」
肩をすくめ、もう一度盛大な溜め息をつく玉響。
「さくらどのは、こんな大人にはなってはだめだめでおじゃるよ」
すると突如空を切る飛針。
>「オー、ごめんナサイ。怪我のせいでフラついてしまいマシタ」
「む!!……なにやつ!?」
地面に突き刺さった飛針を手にとり、飛んできた方向におもてを向け声を荒げる

「そこにおるのは誰じゃ!?大人しく出てこ……なくともよいぞ!!」
懐から自分の麻酔針を潜む影に向かって投げつける。
正体不明の存在。何が狙いかはわからなかったがそれが余計に不気味さを煽った。

249 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/08/05 22:24:18 ID:???
頭の上に飛び乗った玉響が倉橋女子を探すのに合わせてヨロイも右往左往する。
あっちこっちとふらふらする間にも伊佐也からの攻撃は休むこと無く続いていた、
特に短い間とはいえ玉響の分の攻撃まで来るようになったので、単純に受ける攻撃の数は倍になった。

「降りろ!やっぱり降りろオバハン!足に穴が開きそうなんだよ降りろ!」
狙いが胴体よりも上の方に来た攻撃は盾で防げるが、足元だとそれができないので
逃げ惑うことしかできない。傷が増える度に段々とヨロイに泣きが入ってくる。
痛みに耐えかねて逃げ出す直前に岸青年の方をちらりと見る。

体中に傷が入っているし出血も大分しているのに未だに崩れる様子がない。
以前旅の途中で死人の身体に血の代わりに水を入れて操るというのを見たことがあるが、
それより更に高耐久だ。しかも戦いの最中にどこかから放たれた針を受けてなお平然としている。
見たところ呪詛のような攻撃だったが。あまり平気な顔をしているので自分の見間違いと疑うくらいだ。

咄嗟に相手を庇ったようにも見えたが、彼が何故そんなことをしたのか分からない。
何か考えがあってのことなのだろうがヨロイはそれよりも別のことが気になっていた。

「あいつ仙人とかのが向いてるんじゃないか、体質的な話だけど」
彼の不死身さを考えると大体の苦行は乗り越えられそうな気がしてならない。

>>「何だい驚かせて?!やいと屋のおばさんじゃないか!
 こんな所で何してんだい?あんたも仕事で来たんだろ?生贄娘を探してるんなら…」

呆けていると先の方で聞き覚えのある声が聴こえる、先程連絡が通じなかった倉橋女子だった。
どうやら近くまで来ていたらしく、いつの間にかヨロイから降りていた玉響とぶつかったらしい。
足元に散らばる金を拾っていた彼女の傍には屋敷へいったはずの少女までいた。

随分姦しい状況になったと思っていると今度は背後で物音と哄笑が響く。
振り向けばジャフムードが森岡青年を殴り倒し、その後日の神の攻撃によって倒されるという
光景が展開されていた。自滅というのとも違うがなんともえげつないやられ方だった。

僅かな間に、状況は一変していた。伊佐也は健在だったがジャフムードは倒れ、
日の神は風前の灯火といった具合に崩れかかっていた。

250 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/08/05 22:25:44 ID:???
どうやら新手も現れたようだが、ヨロイの関心は日ノ神にずっと注がれ続けていた。
人に創りだされた神、だがその姿は自滅を待つだけのただの化物だ。
誰が彼のこんな姿を望み信じたのだろうか、何にも増して、哀れと思った。

ヨロイは何かを思いついたのか火薬の入った樽の方へと駈け出す。
伊佐也は岸青年にかかりきりで、日ノ神の攻撃は広範囲だが無差別、
言ってしまえばヨロイはノーマークだった。おもむろに懐から数珠を取り出すと何を思ったか、
走りながら日ノ神に対して祈り始める。


化物として殺すより、せめて神様として死なせてやりたいと、とヨロイナイトは思う。
最早滅びは免れないし、今からでは真っ当な神にすることもできない。
それでも自分だけは神様だと信じてやりたかった。歪められているとは言え本当に神仏の類なら、
こちらの信心だって届いても良さそうなものだ。人が創った神ならば、
容易に他人に改変される定めを負っている。例えるならご利益を追加されたり、
竈の神がハエにされたりだ。しかしヨロイは妖怪だ。

道士が呼び出した化物でも、村人の憎しみが狂わせた人形でもない。
古来より村に住まう「日ノ神」として扱う。

彼だけで足りるはずもないが、現在の村人達の信仰とは異なる気持ちで祈ったなら、
少しは日ノ神の救いになるかも知れないとヨロイは考えたのだ。
祈る気持ちに嘘は無かったが、神殺しの為にその神に祈るのは、非人道的なことに思えた。

(神様っていうよりゴーレムに近いけどな、それにしたって俺の性格も悪くなったもんだよ)
まるで人間みたいだと反吐が出そうになるが今は気にしている場合ではない、
早くこの神様を"退治"しないといけなかったし、ヨロイもそうしてやりたかった。

目的地へとたどり着くと、振りかかる金を樽に触れさせないようしながら、日ノ神へと向き直る。
その先には未だ地面に突っ伏していた森岡青年がいたが構わずに声をかける。

「おい坊主!いつまで寝てんだ!起きろ!」
言って背中に括り付けていた、柄が西洋刀の打刀を彼の足元へ転がす。

251 :ヨロイナイト ◆fLgCCzruk2 :11/08/05 22:28:30 ID:???
「すまんが俺がこいつで奴の気を引くから、そしたらお前はそれを日ノ神に投げて欲しいんだが、頼めるか」

火薬入りの樽をぽんぽんと叩くとヨロイは彼に、妖刀を指さしながら打診する。
森岡青年の足元に転がしたのは先日手に入れたばかりの妖刀だった。

「そいつは"水"子供養の祟り刀だ。まだ幼いが今の日ノ神の動きを封じるくらいはできると思う」
水子供養のために造られ何処かの神社に奉納された刀だったが、その甲斐もなく洪水に
社ごと押し流され、その後人に拾われてからは賊の手を点々として今日に至る。
それがこの刀の正体だった。今ではすっかり神徳も消え失せ妖気を放つばかりだ。

「生憎俺じゃ祟られないから、その刀の力は使えん。生きてるお前等じゃないと駄目らしいんだが、
なに安心しろ、祟りっつってもちょっとの間子供に過保護になって既婚女性に欲情するだけだから」

そのまま森岡青年を振り返ること無く言い捨てると、ヨロイは火薬樽を抱え上げると
日ノ神に向かい遅くではあったが再度駆け出す。日ノ神の攻撃ならまだしも、
単純な爆発なら吹き飛ばされはしても、ダメージにはならない。
もし森岡青年が乗ってこなくとも、自分を囮にできればそれでいい。

今まさに信じている最中の相手に対して暴挙に出るが、それはそれ、これはこれと
割り切ることにする。というよりも身体を動かしていのはキョンシーだ、
外皮に当たるヨロイ自身は実はさっきからお祈り以外何もしていない。

「突撃!」
一声叫ぶとヨロイナイトは日ノ神の振り回す腕の中へと飛び込んだ

【ヨロイナイト お祈りしながら火薬入りの樽を持って日ノ神に突撃、草汰に強力要請】

252 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/08/08 14:50:45 ID:???
「ふははははは!ニホンジンが底抜けのオヒトヨシで助かりましたよー!!!」

その瞬間、草汰にとって想像だにしないことが起きた。
背中に重い一撃。完全な不意打ちになす術もなく吹き飛ばされる。
頭を強かに打ちつけ、目の前が一瞬真っ白になる。
地面に二度、三度全身を打ちつけ、うつ伏せの状態でやっと停止。
軽い脳震盪を起こし、草汰はただ混乱するばかり。頭がいかれてしまったようで、ジャフムードの罵倒も聞こえない。
ぐらぐらとする頭を無理やり起こし、草汰は愕然とした。

ジャフムードが、日ノ神の攻撃によって、金を顔中に纏っていたからだ。

「おっさん!?」

目の前で起こった事態に掠れた声で悲痛な叫びを上げ、草汰はあの殴られた瞬間何が起きたのか推察した。

「(まさかおっさん、俺を庇って…………!?)」

勿論、違う。傍から見ればジャフムードは草汰に悪意を以ってして行為に及んだ。
だが草汰は、ジャフムードは自分を助ける為に身を犠牲にしたと。そう信じきってしまった。
前が見えないジャフムードが苦しそうによたよたと歩く。その先には日ノ神。
どろどろの体に当たったジャフムードは崩れ落ち、その反動で日ノ神の右腕と右足も崩れ、最早原型を留めていない。

「おい坊主!いつまで寝てんだ!起きろ!」

びくりと身を震わせ我に返る。声の先を見やると、以前にとある嘆願で共に戦ったヨロイナイトがいる。
いやお前どこから現れた。何時からいたんだ。本来の彼ならそう突っ込みの一つでもいれていただろうが、生憎それどころではない。

「おっさん!大丈夫か!」

ジャフムードに駆け寄り、日ノ神からその体を引き摺りだす。息があるかどうかは分からない。溶けた金はまだ唸り声を上げている。
人は全身の何割かを火傷すると死んでしまうと以前父から教わった。このままでは死んでしまう。でもどうやって助けていいか分からない。

その時、足元に刀が転がってきた。ヨロイナイトが寄越してきたものらしい。

「すまんが俺がこいつで奴の気を引くから、そしたらお前はそれを日ノ神に投げて欲しいんだが、頼めるか」

重そうな樽を二、三度叩き、ヨロイナイトは言う。
草汰は刀を見下ろした。只の日本刀に見えるが、これが何の役に立つのだろうか。
眉間に皺を寄せる草汰に対し、ヨロイナイトは説明を加える。


253 :森岡草汰 ◆PAAqrk9sGw :11/08/08 14:58:31 ID:???
「そいつは"水"子供養の祟り刀だ。まだ幼いが今の日ノ神の動きを封じるくらいはできると思う」

成程、日ノ神と相性はばっちりという訳だ。
しかし祟り刀という単語に触ることを躊躇する。

「あのよ、祟りって、どんな……?」
「生憎俺じゃ祟られないから、その刀の力は使えん。生きてるお前等じゃないと駄目らしいんだが、
なに安心しろ、祟りっつってもちょっとの間子供に過保護になって既婚女性に欲情するだけだから」
「全くもって安心できねーーーー!!」

それどころか不安になってくる。抗議の声をあげるが、ヨロイナイトは完全無視。

「突撃!」

ヨロイナイトが声を上げ、樽を抱えて突進する。彼が草汰の側を横切る刹那、僅かな臭気が鼻を突き、それが何かを察した。
ちら、とジャフムードを見やる。あれを倒さなければ彼を医者に連れて行ってやることも出来ない。

腹を括れ、草汰。妖刀如きにびびって、何が冒険者だ!

「おっさん、終わったら絶対に医者んとこ連れてってやるからな!」

離れた場所にいるジャフムードにそう言い、草汰は日本刀を――

「でりゃああああああっ!!」

満身の力で蹴り上げる!!
宙を舞う日本刀、狙いを定め草汰は駆け、丸裸の木を台に飛び上がる!
触れさえしなければ祟られることはない。鞘が抜け落ち、日ノ神の頭部へと落ちて消える。
きらりと光る刀身に、一瞬だが草汰は確かに見惚れていた。きっと名のある刀匠が造ったに違いないと頭のどこかでそんな考えが脳裏を過ぎった。
草汰が飛んだ位置は日ノ神よりやや高い所。刀身が日ノ神の頭部へと向いた一瞬、下駄の踵を一気に――――柄に向けて落とす!輝く刀身が、日ノ神へと落ちていく!

「いっけえええええ!!」


その頃、木の上のいぐなはといえば、ただ驚きに表情を染めていた。
伊佐谷に向けて放った針は軍服の男に突き刺さり、しかも男は平然とした顔でそれを抜き取り、再び戦いに身を投じているではないか。

「ば、化け物ですか、あの男は……!」

同時に、いぐなの脳裏に一つの噂が駆けた。
化け物じみた身体能力を持つ、軍人崩れのタクシー運転手の男の噂。
名を確か――岸と言ったか。
二週間前の武装集団を拘束した冒険者の名の中に、それらしい名前があったような気がしなくもない。
苦い顔でいぐなは舌打ちを一つ。まさか軍の関係者がいたとは。
このままでは顔を出しにくい。もしかしたら己の正体を調べる者と接触しているかもしれない。
目の前に、摘みたくて仕方がない厄介な種達がいるというのに、歯痒いことこの上ない。
これだから冒険者は嫌いだと一人ごちる。遠い記憶の中に一人の冒険者のどや顔が浮かびあがり、いぐなの怒りの炎は尚のこと静かに燃え上がる。


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