UnderGladiator


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旧魔界歴8632年、月歴「霞初月」の夜のこと、魔界第19番地区の地下闘技場は喝采と喧騒に包まれていた。
その中心に佇むは、神を殺した烙印を捺された童、天魔族の血を欠片ほどに宿す者。
返り血を浴び薄氷が張り詰めたかのように微笑む。その目は狂気に満ちていた。


「術式」と「剣」が力の象徴であった旧魔界。
その時代に、ある科学者により齎された金属の暴力。全長276mmの死神。
名も知れぬその武器は引鉄を弾けば、呪文詠唱も才能も関係無く、
幼子であっても大人を一撃で砕き致命傷を負わせるような代物。


それが少年が手にしていたエモノであった。それを少年は使い慣れたようにクルクルと回す。
振出式(スイングアウト)、リボルバー、コルト・パイソン、などの俗称が囁き合われているそれで、
少年はこの夜だけで、三ケタに上るほどの哀れな犠牲者を生みだし続けていた。
次の試合相手の、身の丈2メートルは有りそうな巨大な重装闘士が猛り狂いながら少年の前に姿を見せる。
しかし、少年は微動だにせずジッとしている。その表情は窺い知れない、ただ神を冒涜する詩を延々と詠っている。
試合開始のドラが鳴り響く。重装闘士の常識外れの巨躯が所有する暴力。それが尋常ではない速度で少年に襲いかかる。
流れるような動作でそれを去なし、銃口を天空に合わせ引き金を引く。天に昇る光が一閃、見る者を魅了する輝きが発せられる。
それだけの挙動、あまりにも呆気ない動作、ただそれだけで重装闘士は絶命していた。
否、絶命したことになったのだ。結果が過程に結び付く力、世界の流れに干渉する絶大な力、それが少年が有する「術式」であった。


                UNDER GROUND REVOLVER(回転式拳銃)


それが彼の名で有り、名誉であり、力であり、強さであり、誇りであり、全てを物語っていた。
生まれた時の名を等の昔に忘れ果て、もはや名前すらあったのかどうかも判らなくなるほどの悠久なる時の中に少年は幽閉されていた。
それが彼が、いや彼の一族が冒してしまった禁忌、それを償うべきの咎であり、断罪の懲罰だった。
その咎から解放されたされた彼が求めたものは己の存在の証明。狂おしいほどの力、それが彼の今所有する唯一にして最高のものだった。
魔界第19番地区で最強の戦闘力を誇り、9109勝0敗、それが今の彼の自身の証明の過程であった。


翌日深夜、少年は己の存在を賭け地下闘技場に赴く。そして出会ってしまった。
周囲の大気が歪んで見えるほどの力。薄い栗色の豊かな髪。少年を射抜く威圧的な眼光。
否、出会うべくして出会ったのだろう少年はそんな風に感じた。「狂気は惹かれ逢う」世界が何世紀もかけて証明してきた史実だ。
少年に相対する彼女が笑みを零す。刹那、風を切る様な音がした。
彼女は離れていたおよそ50メートル――それを一気に詰め拳をふるった。
咄嗟に少年は腕を構え防御姿勢を取る。だが如何せん、遅すぎた。
瞬間、少年の左腕が二の腕の部分から弾け飛んだ。
少年はそれを気にすることもなく、反撃に転じた。
回転拳銃を抜きさり神速の4連零距離射撃を人体の急所である眉間に浴びせかける。
手応えは、あった。人間を生き物を生体を撃ち殺した時の感覚だ。
直後、少年は気付いた。恐るべき事実に。見てしまった。彼女が、彼の打ち込んだ銃弾を全て口で受け止めているのを。
少年はすかさずバックステップを取り距離を開ける。
銃使いにとってこの至近距離は非常に不味い。少年は微かに狼狽とそれに相反する愉悦を感じていた。
彼女はそれに構わず拳を固め構える。そして放った。
当たる距離ではない。どう考えてもあの拳の射程圏外だ ――儚くも少年の予見は外れることとなる。
骨を砕き肉を抉る 凄まじい轟音が闘技場内に響き渡る。
『特定不可出力(クインテセンス・ドライブ)』 常識を外れた彼女の有する暴力がすべて吐き出される。
観客が熱狂する。少年はピクリとも動かない。まさに化物というにふさわしいほどの強さ。
彼女は勝利を、確信していた。
その時――
突如、天地に光が満ちる。あの最期の時の瞬間、少年は引き金を引いていた。
観客も闘技場も消え失せ、荒れ地が広がっている。そこに少年は傷一つない姿で悠然と立っていた。
『運命装填(リボルバーリロード)』 彼の死を捻じ曲げそして生へと結果を導いた。
少年からしたら何てことない素敵な化物的能力。しかし彼女はあまりの非現実さに困惑し、隙を見せた。
少年は、すぐさま攻勢に転じ彼女の心臓に矢継ぎ早に銃弾を撃ち込む。
捌ききれない。瞬時に、彼女はそれを理解した。
術式で強化しながらあえて銃弾に左肩から突っ込んでいった。
左肩に銃弾がぶち当たり左腕が吹き飛ぶ。決して軽くはないが致命傷には至らない。
ダメージを最小に抑えなお且つ相手が攻撃不能に陥るまでの距離に詰める。
この場では最善の一手だった。


愉しい――
何て、愉しいのだ。
お互いの全てを賭け、自分の全力をぶつけることが出来る相手が居るという愉悦。
少年は、自然と至福の笑みを浮かべていた。
戦闘狂同士が紡ぎ合う甘美な抒情詩。何時までも時が止まっていてほしいと願いながら闘っていた。
すでに限界を超え、死力の一撃を繰り出し勝負が決まろうといったその時――



『そこまでよ』



突如、鈴の音のような 麗美な声が響く。
少年が、驚愕に目を見開く。
その視線の先には―― 彼女が闇に打ち抜かれ、気絶していた。


『彼女は私たちが求める力の一つ。こんなところで野垂れ死にでほしくないの。』


まるで血を浴びすぎて黒く染まってしまったかのような黒髪を弄びながら少女は言葉を続ける。


『あなたが彼女を壊し、観客も皆殺しする。そして此処で死ぬ。それがあなたの最期の仕事よ』


眼の前の吸血鬼に対し反撃するには少年はあまりにも疲弊し切っていた。
そして、精神力も限界を迎え意識はそのまま深い眠りの闇へと飲み込まれていった。
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