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由真と動物奇想天外




 紅真九郎は困惑していた。
 他の参加者たちとは、違う意味で困惑していた。

「……なんで俺の名前が無いんだ?」

 彼の手には、一枚の紙がある。
 名を、参加者名簿。
 この悪趣味な催しに参加している者全員に、もれなく配られている基本支給品の一つである。
 が、そこに問題点が一つ。

 名前が無い。

 紅真九郎の名前が、無い。

「……っ」

 最初こそ不思議がっていた彼だが、思考が現実に追いついたところで、顔が強張る。
 彼の脳内にて、二つの憶測が形となったからだった。
 一つは、この催しには少なからず『悪宇商会』が関わっていること。
 揉め事処理屋として、幾度となく衝突した。敵視されているであろうことは間違いない。
 この機を利用して抹殺するためならば、参加させられた理由にも理解できる。どうやって、かは置いておいて。

「まぁ、問題はそこじゃないんだよな……」

 頭を掻きながら、真九郎は盛大に溜息を吐いた。
 問題が有るとすれば――『悪宇商会』が関わっている時点で大問題ではあるが――所属しているであろう『裏十三家』も確実に関わっていることに繋がる。これがもう一つの仮説。
 当たってほしく無い、などとは言わない。そんな弱気なコトを吐く余裕は、まだない。

「……やってくれるよ、本当に」

 自分の名前が無い=自分をターゲットにしているor自分を含んだ複数人をターゲットとしている。
 姉弟子やその家族、幼馴染や師匠。関係はどうあれ、皆がこの場に連れて来られている可能性は、決して低くはない。
 それこそが――――あいつらの好みそうな手段だから。

「糞野郎が……」

 握りしめた拳が鳴る。
 噛み締めた歯が軋む。
 『悪宇商会』は、決して悪事ばかりに傾倒している組織では無い。金さえ払えばどんな任務でも請け負う、というだけだ。
 だが、常識とは一線を引いた先に存在するのもまた事実。これまでに幾度となくぶつかってきた真九郎は、彼らが孕む危険性について重々承知していた。
 現に、今の状況である。

「……仕方ないな」

 ガリガリとやや乱雑に髪の毛を掻きむしると、諸々の想いを乗せた息を真九郎は吐き出した。
 考えてばかりでは何も始まらない。と言うか、考えるのは苦手だ。
 ならば、まずは行動せねば。
 大きく息を吐きだして、両足で立ち上がる。

「っと、その前に……」

 名簿に気を取られていたせいでロクに確認をしていなかったが、あの神父の言葉通りなら、何かしらの武器が参加者別に支給されている筈である。
 基本的には自らの身体こそが最も頼れる武器となるが、他に良いモノがあるかもしれない。
 例えば、参加者の居場所が分かるレーダーみたいのとか。

「良いのがありますように……」

 願いつつ、手を入れ。
 中を探り。



 ――――約、三分後



「……拳でどうにかしろと?」

 ディパックから出てきたのは、基本支給品以外では、やたらと精巧に作られたクマの着ぐるみがあるだけだった。









 十波由真は悩んでいた。
 頭が冷えた今、悩んでいた。
 その主な悩みは、三つに分けられる。

 まず一つ目の悩み。

「何で、十波なのよ……」

 十波由真。名簿にはしっかりと、そう書いてある。
 だが彼女の本名は、それではない。
 彼女の本当の名前は長瀬由真。
 来栖川家に仕える、長瀬の血縁者である。

「何で、十波の名前を知っているのよ……」

 が、彼女が悩んでいるのは、名前が違うからではない。
 彼女の悩みは、何故『十波』の名前が知られているか、にあった。

「十波はおばあちゃんの苗字……この名前を知っているとしたら……」

 そう。十波とは、彼女の祖母の苗字である。
 とは言えこの名前を知るものは少なく、もしも知っている者がいるとすれば、それは長瀬グループの、それも自分に日常的に関わりの有る血縁者と言う事になる。
 つまり、それは。短絡的に思考すれば、この催しを取り仕切る側に、由真も知っている人物が関わっている可能性がある事に繋がり……

「……分からない、わね」

 しかし由真は、それ以上深く考える事無く、思考を打ち切る。
 それは最悪の想像――身内が関与している可能性――を考えたくないからであり。
 また楽観的な想像――性質の悪いドッキリの可能性――に逃げない為でもあった。
 判断を下すには、時期尚早。頭が回る範囲で、一先ず思考を打ち切る。
 故に、一つ目の悩みはこれでお終い。

 そして二つ目の悩み。

「……さて、何処行こうかしら」

 友人である小牧姉妹との合流は、勿論最優先事項だ。
 だが、彼女たちが何処に行くかは、皆目見当がつかない。
 地図を見詰めても、自分たちが判断できるような固有名称の施設は無い。
 つまり、ヒントとなる物は少なく……

「いや、ちょっと待った」

 自らの思考に待ったをかける。
 確かに、通っていた学校のような、自分たちが知っているような固有名称のついた施設は無い。
 だが、少なからず目指そうとするであろう場所は予測が着く。

 病院。

 小牧郁乃が病人である以上、彼女達は一先ず病院を目指すであろうくらいは予想できる。
 現状における、最も合流できる可能性の高い場所。

「じゃあ、病院に行くべきね」

 無論、絶対の確証があるわけではない。
 だが、現状他に有力な行き先があるわけでもない。
 ならば、答えは出ている。
 僅かな不安はあれど、二つ目の悩みも一先ずお終いと言えるだろう。

 故に、今彼女が集中しなければならないのは、三つ目の悩みである。

 そしてその三つ目の悩みとは……



「何でクマが二足歩行で正拳突きしているのよ……」



 場所はD-7の古寺の前。
 そこには大木に向かって、惚れ惚れするような姿勢で正拳突きをする、二足歩行のクマがいた。










 藤村大河は走っていた。
 それはもう全力で走っていた。
 暗闇、森の中、悪路の三条件を一切気にせず走っていた。

「ぬぅぅ……こっち!」

 道が二手に分かれようものなら、己の勘に任せて舵を取る。
 一見分からぬような細い道も、動物的感覚で嗅ぎ分け、場合によっては突き進む。
 今の彼女を止めるものは無い。
 例えいたとしても、ちょっとやそっとでは彼女は止まらない。
 なぜなら、

「一体なんなのよ、アレは~っ!」

 叫びながら思い返す。
 自身の身に起きた不幸を。
 女性にとっては一大事である不幸を……



 そう、それは……目覚めてすぐの事だった。



 藤村大河が目覚めたのは、どこかの森の中の開けた場所。
 月の光に起こされるように目覚めた様は、まるで天女が目覚めるかのよう。
 淡い光に導かれるように意識を戻した彼女は、他の者を魅了するかのような笑みを浮かべ――――そこまでにしておけよ藤村。

 割愛割愛割愛割愛。

 兎にも角にも目を覚ました藤村大河は、いまいち現実を理解できないまま支給品とやらを確認する。
 その一つの参加者名簿を見て、大切な弟分や、知り合いの名前があることに怒りを覚え。
 既に死んでしまったはずの人物の名前を見て混乱したり。
 一先ず落ち着くために、支給された食事を摂ったりして。
 何だかんだで彼女が自身の現状を把握したのは、一時間以上経ってから。

「うーん……良く分からないけど、とりあえず士郎たちと合流しなきゃね」

 基本指針は弟分を初めとする、知り合いたちとの合流。
 さぁ行こうと腰を上げたところで、忘れ物に気づいた。
 そう、基本支給品以外の支給品の確認である。

「何があるかな~?」

 一つ目。絵具。三ツ廣さちの絵具と説明には書いてある。出会う機会があったら渡してあげよう。
 二つ目。鍵。何のカギだろうか。説明書には宝箱の鍵としか書いていない。
 そして三つめ。

「おお?」

 大河の手が、なにやら大きなものを探り当てる。
 片手では持てない。ならば両手で。
 躊躇うことなく両手を入れると、全力で持ち上げた。
 高々と掲げられたのは……

「宝箱?」

 そう、宝箱。
 やたらと大きな、それでいて軽く、しかし随分と高級そうな装飾をあしらわれた宝箱。
 首を傾げながら大河は宝箱を地面に置いた。
 説明書を見る。

「なになに? 『セットで支給された鍵で錠前で開ける事が出来ます』……あ、これか」

 先ほど探り当てた鍵を取り出す。セットと言われたからには、この鍵が該当することは間違いないだろう。

「ふーん、錠前つけるなんて面倒なことをするのね……って、『開けるな』?」

 説明文の下に、手書きの一文が追加されている。
 開けるな。
 何とはなしに不穏な空気を感じる一言。
 だが、開けるなと言われれば開けたくなるのが人間である。
 日本昔話しかり。
 熱湯風呂しかり。
 某鳥類クラブしかり。
 古来より、禁止されれればされるほど、やりたくなるのが人間なのだ。

「えーどうしよっかなー、でも他に支給品があるわけでもないしなー」

 白々しく口笛すら吹きながら、誰に聞かせるつもりかも分からぬ言い訳をする藤村大河。
 その視線は明後日の方向を向きながらも、手はゆっくりと、しかし確実に宝箱へと伸びていく。
 幾つになっても子供心を忘れぬその姿勢。すばらしいぞたいがー。

 兎にも角にも。

 彼女の左手は宝箱に触れ。
 彼女の右手の鍵は錠前に差し込まれ。
 そしてほんのちょっとの力を込めるだけで。
 簡単に錠は外れて。

「さぁて、何が入っているかなー?」

 舌なめずりすらしながら、彼女の両手は宝箱に触れる。
 少しの力を込めるだけで、開くことが出来よう。
 期待に胸を膨らませながら、力を込めて、

 そうやって。
 宝箱を開けて。
 中から出てきたものは、



「■■■■■」



 一匹の、
 醜悪な、
 ナニカ。



「……へ?」



 そのナニカから一本の触手が伸びる。



「Hello」



 実際にそう言ったかは定かではない。
 もしかしたら大河の妄想かもしれない。
 そもそも発声器官があるのかすら疑わしいのが目の前の代物なのだ。
 それでも藤村大河思った。
 伸びてくる触手を見て思った。

 捕まったらヤラレル。

 ヤラレルと言ったらヤラレル。

 殺られる、ではなく、犯られる。

 うら若きこの肉体を、

 豊満な肉付きの良い肉体を、

 奇跡的なバランスで成り立った素晴らしき肉体を、

 その醜悪な触手で拘束し、嬲られ、弄られ、

 余すところなく堪能されて犯される。

 そう――――エロ同人みたいにっ!



「ギャーーーーース!?」 



 女性としてあるまじき声を上げながら、全力で触手から逃れるべく動く。
 伸びてきた触手を間一髪で避けると、大河は軽業師もかくやと言う動きでナニカから距離を取る。
 そして振り返ることなく、全力でそこから逃げ出したのだ。









 AM2:30
 D-7、古寺前



 ギャアアアアア……



「……っ!?」

 突如として聞こえた声に反応する紅真九郎

「……っ!?」

 身を隠したまま、同じく声に反応する十波由真。

「ぎゃあああああ……あ?」

 そしてそんな場面に現れた藤村大河。



「……」



 場に流れる停滞。
 そして……



「クマがいるっ!?」





【一日目/2時30分/D-7、古寺前】
【十波由真@To Heart2 XRATED】
[状態] 健康
[装備] 大鉈
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム×1~2 (確認済み)
[思考・行動]
基本:ゲームをぶっ壊す
1:クマ!?
2:愛佳との合流
3:郁乃との合流
4:機会があれば、河野貴明を探してもいい

【備考】
  • 二年進級時からの参戦



【一日目/2時30分/D-8、古寺前】
【紅真九郎@紅】
[状態] 健康
[装備] クマの着ぐるみ@あっちこっち
[所持品]基本支給品
[思考・行動]
基本:ゲームをぶっ壊す
1:ゲームを壊し、脱出する
2:状況の対処

【備考】
  • 参戦時期は原作二巻以降
  • 名簿に名前が載っていません
  • この催しに『悪宇商会』が関わっていると推測しています
  • もしかしたら自分と同じように連れてこられた知り合いがいるかもしれないと考えています


【一日目/2時30分/D-7】
【藤村大河@Fate/stay night】
[状態] 健康
[装備]
[所持品]
[思考・行動]
基本:士郎たちと合流
1:クマぁ!?
2:ナニカから逃げる
3:士郎たちと合流したい

【備考】
  • 原作開始後からの参戦
  • 支給されたものは全部落としてきています









 場所はC-6とC-7の境目。
 藤村大河が目覚めたその場所で、蠢く影があった。
 それは生まれたばかりで身体の動かし方も分からぬかの様に、のたうち回っている様にすら見える。
 だがやがて人心地着いたのか、ゆっくりとソレは身を起こした。

 そう、ソレ。

 ソレは人とは言えなかった。
 人と言えるような外見をしていなかった。
 人と言えるような姿形をしていなかった。
 人どころか生物としての姿ですらなかった。

 ズズッ……ズズッ……

 身を引きずるようにして、ソレは動きを再開した。
 今度はその場で蠢くのではなく、何かを探すように、動き始めたのだ。
 全身から触手を四方八方に向けて出す。
 そしてその内の一本が、大河が落としていったディパックを見つけた。

 ズズズッ……

 器用に触手を使い、中身を取り出す。
 地図やランタン、コンパスなどには目もくれず、探し回る事数秒。
 目当てのものが見つからなかったのか、やや乱雑気にソレはディパックを放り投げた。
 放り投げられたディパックは、狙いすまされたように開いていた宝箱の中に落ちる。

 宝箱。

 大河の支給品として支給され、彼女が好奇心と共に開けたもの。
 中から出てきたものに驚き、支給品全てを捨てて逃げ出した彼女の判断は、間違いではない。
 何せソレの正体は、彼女が考えている以上に醜悪で、恐ろしいモノなのだから。

 ズズズッ……

 暫し蠕動するかのように身を震わせたソレは、ゆっくりと動きを再開する。
 何処へ行くとも知れず、ヌラヌラとした跡を残して、森の奥へと消える。



 ソレに名は無い。
 あるとすれば、『怪魔』、或いは『怪生物』。
 ヌラヌラとした光沢をもち、大凡生物としての原型を留めていない醜悪な姿は、自然法則の異なる別次元に住まう生物の証。



 繰り返し言おう。
 全てを捨てて逃げ出した藤村大河の判断は正しかった。



 本来であればとある魔書を通して召喚されるソレは、悪魔の軍勢と形容されるべきものであり。
 ある高潔な騎士が、絶望のままに身を、心を、信念を堕として手にした力であり。



 だが従える主も、束縛する物も無い今、ソレは自らの欲望のままに動く、醜悪な化け物であるのだから。



【一日目/2時30分/C-7】
【怪魔@Fate/Zero】
[状態] 飢餓
[装備]
[所持品]
[思考・行動]
基本:腹を満たす
1:腹を満たす


【備考】
  • 意志持ち支給品ですが、現時点では参加者を無差別に襲うだけの存在です
  • 腹を満たすために動くため、近くにいる人間を優先的に襲います




No.034:ココロの声 投下順 No.036:綾崎ハヤテの焦燥
No.033:ラッキーガール 時系列順 No.026:Lost
No.008:いざ、行かん! 十波由真
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