「どこだ、ここ・・・」

浅井京介が目を覚ますと、そこは一面薄暗い大部屋だった。
広さは体育館程度だろうか。ざわめきから察するに、けっこうな人数がいるようだ。

(どういうことだ・・・)

自分は確かに眠りについた。自分の家で。
だがここは、そんな記憶とはまったく関連のない場所。
疑問に思うことは多々あるが、とりあえずは壁際に移動し、周りを観察をする。
まずは現状把握。薄暗いが、頭上の非常用ライトで大概は見える。

「・・・ん?」

ふと、一人。同年代くらいの少女の首に視線が行く。
その首には、銀色に鈍く光る何かがとりつけてあった。

「あれは・・・首輪?」

よく見れば目の前の少女だけではない。その周りにいる人も、首に同じようにつけている。

(もしかして・・・)

嫌な予感がし首元に手をやると、冷たくかたい感触に触れた。

(・・・おいおい)

この首輪が、どういう意図で取り付けられているのかは知らない。
が、どうにも嫌な予感を京介はおぼえる。
すなわち、これは冗談で済むようなことではない、ということ。

「・・・考えろ」

思考に埋没する。
考えうるのは、主に三つ。

一つは、どっきり。
一つは、報復。
一つは、『魔王』・・・

まず一つ目だが・・・ない。ありえない。
というかまず、そもそも選択肢として成り立たない。

次に、同業者による報復。
これは、ありえる。
自分は今までに何人もの人間を堕としてきた。
そういう輩が結託して報復する可能性は、十分にあり得る。
しかし・・・そんな計画を見過ごすことがありえるのだろうか?

最後に、『魔王』・・・
あり得そうではある。『魔王』の目的がなんなのかは分からないが、これぐらいのことをしてくる可能性がないとは言えない。
だが・・・どうだろうか・・・

「・・・ちっ」

結論としては、どれも決定に欠ける。
つまるところ、どれもありと言えばありだし、無しと言えば無し。
こんな時に宇佐美がいれば、的確な答えが提示されたかもしれないが、いないものは仕方がない。
京介は気を取り直し、現状把握に努めることにする。




どれくらい経っただろうか。

突然壇上が明るくなる。
暗闇に慣れた目ではまともに見ることが出来ず、京介は思わず目を覆った。

「急なことで申し訳ない」

壇上から声が響く。
落ち着き払った声。
何故か、京介はその声に不快感を感じた。

「あまり無駄に時間はかけたくないのでな、手早く説明させてもらおう。・・・殺し合いをしてもらいたい」

室内のざわめきが大きくなる。

「ルールは単純だ。最後の一人になるまで殺しあえばよし。手段は何を使ってもかまわない。
 俗に言う、バトルロワイアルというやつだな」

ようやく目が順応してきたところで、京介は視線を壇上へと向ける。
そこには、長身の神父がいた。

「これは実験だ。もちろん付き合ってくれる礼はある。優勝した暁には、何でも好きな願い事を叶えよう」
「何でも?」
「そう、何でもだ。富も、名誉も、はたまた命ですらも・・・何でもだ」

誰かがつぶやいたその言葉にきっちり応じる。

「なお、逃げ回っていられないように、禁止エリアも設けさせてもらおう。
 6時間ごとの放送の際に、進行状況に応じて拡大する。
 おおよそ、4日目には強制的にこの実験は終了させてもらうつもりだ。それまでに頑張って決着をつけることだな」

そう言って神父は手を挙げ、

「ああ、そうそう。禁止エリアから時間内に出ないと、君たちの首輪は爆発する仕組みなっている。
 むろん、無理に外そうとしても、だ。・・・例えばこのように」

神父が、パチン、と指を鳴らす。
と同時に、ピッ、ピッ、という音が京介の前方から聞こえてくる。

「・・・え?」

京介からは何が起きているのか見えない。
時折、音と連結して赤く点滅する光が見えるだけだ。

「灯花!」
「え……え?」

女性の声が聞こえる。
それは、叫び声に近い。

「作動してからきっちり30秒でこの首輪は爆発する」

その間にも神父の説明は続く。

「むやみな衝撃も命取りだ。支給される武器の中には爆発を促進させるアイテムもある」

淡々と説明は続く。
だがその間にも音と点滅は早くなっていき・・・

「ふむ、時間だ」

ポン、と。

あっけない音をたて、サッカーボールほどの大きさのものが宙を舞う。

「いや、いやあああああああああああああああああああああ!!!」

それが何かいち早くに理解した女性が悲鳴をあげた。
遅れて、その正体に気づいた者たちが悲鳴を上げる。
京介も、離れてはいたが何が起きたかは理解した。

飛んだのだ。
首が。

「それと、開始後12時間以内に死者が出なかった場合は、全員の首輪が爆破されることになる」

女性の叫び声には構うことなく、神父は続ける。

「なお、参加者の中には特殊な技能を持った者もいるだろう。
 そのような輩が一人勝ちをしないために、多少の制限が加えられている」
「言峰神父」

いつの間に現れたのか、言峰と呼ばれた神父の傍らに、人がいた。
見た目はどこにでもいるような少年。学生服を着ている。

「すまない、時間が押しているのであったな」

言って、言峰神父は再び手をあげる。

「説明はこんなところだ。聞きもらしたとしても、バッグの中にルールについての説明書がある。
 ・・・では、頑張ってくれたまえ」

そう言って、あげた手を振りおろし。


「・・・ゲーム、スタートだ」


会場は、闇に包まれた。


大音灯花@車輪の国、向日葵の少女=死亡


残り57名


投下順 No.001:ファーストエンカウント
時系列順 No.001:ファーストエンカウント
GAME START 浅井京介 No.003:スローカーブ
GAME START 大音京子 No.006:醒めない夢
GAME START 大音灯花 死亡
最終更新:2015年11月29日 03:05