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oath sign



最悪の気分だ。苦虫を噛み潰したような表情で、青年は溜息を零した。
ピタリと首に装着されている首輪からは、無機質特有の冷たさしか感じられない。辟易して取り外そうにも、ルールブックに書いてある言葉を信じるなら、この首輪は一定の衝撃で作動する。
もし作動してしまえば、解除方法は無し。ポン、と。あの会場で犠牲となった少女と同じく、彼の首は間抜けな音を立てて飛ぶに違いない。
それは、如何なる身であろうとも敵わない現実。

「……どうしたものかねぇ」

溜息と共に率直な感想を吐きだす。
そんじょそこらの出来事にうろたえるほど、彼の精神は柔ではない。が、これは流石に別次元だ。
自分ひとりだけならば、まだどうにかなった。どうにでもなった。
だが、手にした参加者名簿が持ち前のポジティブな思考を押しとどめる。

「我が愛しき妹に、相棒。白ちゃんに期待の新人、それにあの子……」

むぅ、と。
端正な顔を不機嫌そうに歪めると、彼は手にした参加者名簿をくしゃくしゃに丸めた。
不愉快極まりない。
あの首謀者の嗜好など知りたくもないが、その悪辣さは十分に感じ取れる。舌打ちと共に紙を投げ捨てると、自身の首輪を人差し指で軽くノックした。

「アンタは殺す」

この首輪が、ただ爆発の為だけの首輪とは思えない。おそらくは、参加者の状態を知る何かが埋め込まれているはず。
一言。思い浮かべるはあの神父。言葉を刃に、殺気を滲ませ、目を本来の色へと変えて宣言する。

「絶対に殺す」

主催者への反逆の意志と宣告。
だがそれは、聞く者が聞けば失笑に、あるいは嘲笑に付すであろう言葉。この現実が見えていない阿呆の言葉。
戦場で生き残るのは、強者か臆病者と相場が決まっている。弱者は元より、場違いな勇者も生き残るには値しない。
命のかかったこの現状では、命を握られている現状では、青年の行動は明らかに致命的。

――――だが、果たしてそれは正しいのか?

闇夜に映える金色の髪の毛をかき上げ、夜空に浮かぶ満月を見上げる。
闇夜に煌めく血のように紅い瞳を眇め、夜空に浮かぶ満月を見上げる。

「絶対に、殺す」

僅かに足を浮かせ、一息の後に踏み下ろす。音を立てて、舗装されていた道路にヒビが走る。
歯を剥き出しに。唸るように言葉を紡ぎ、絶対の誓いを此処に残す。
これが、貴様らの未来と言わんばかりに。
これが、貴様らの末路と言わんばかりに。



そうして青年――――千堂伊織はその場を後にした。










普段通りの彼ならば、此処まで感情を剥き出しにすることは無かっただろう。
このような理不尽な世界に身を置いても、例え意志表明を宣言するにしても、もう少しスマートに事を進めたはずだ。
それをしなかった、或いは出来なかったのには理由がある。
一つは、先ほどまで手にしていた参加者名簿。ひいては、それに記されていた五人の名前。
コレに関しては、特に説明が必要なわけでもあるまい。
おそらくは、この悪趣味なゲームに参加させられた殆どの参加者が大なり小なり通る事項なのだから。

「……ふん」

忌々しげに鼻を鳴らして、伊織は頬についた跡を擦った。
既に乾いてこびり付いてしまったが、それが何であったかが分からぬ伊織ではない。
先ほど目の前で起きた出来事を、妹を庇った際に浴びたソレを、骸を抱いて慟哭する女性を。
瞼の裏に今尚こびり付いた光景を振り払い、伊織は歩き続ける。
別に、義憤に燃えているわけではない。
別に、特段正義感が強いわけではない。
別に、彼の二人に同情しているわけではない。
別に、彼の二人に共感しているわけではない。
別に、安っぽい下らない感情を抱いているわけではない。



そう、別に……ただ、そういう気分なだけなのだ。



【一日目/0時30分/B-2】
【千堂伊織@FORTUNE ARTERIAL】
[状態] 健康
[装備]
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム
[思考・行動]
基本:ゲームの破壊
1:ゲームに乗るつもりはない
2:知り合いと合流

【備考】
  • 体育祭後より参戦



No.008:剣と天使 投下順 No.010:bad end
No.008:剣と天使 時系列順 No.012:いざ、行かん!
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