いざ、行かん!
「夢じゃない、か……」
諦観の意をありありと含んだ息を吐きながら、十波由真は言葉を零した。
彼女の両頬は、不自然なまでに真っ赤に腫れ上がっている。
目が覚めたから約十分。抓り続けた結果がコレである。
「何だってのよ、も~~~……!」
若干声を潤ませながら、どんどんと地面を叩く。
すぐ傍にはディパックが転がり、自身の首には首輪がぴったりとくっついている。
あの怪しさ全開の変態神父の変な説明など信じたくないが、この現状が夢ではない以上、あの神父の言葉は本当なのだろう。
つまりは……
「~~~!!! ええい、止め! 止め!!」
大声を上げて良くない想像を打ち消すと、やや乱暴気にディパックをひっくり返す。
冷たい石畳みの上に音を立てて支給品が転がるが、それを気に止める余裕は今の由真になかった。
「ええと……とりあえずこれと……」
まず手に取ったのは、見るからに武器と分かる大鉈。
正直なところ自身の腕で扱うには不安残る代物ではあるが、徒手空拳でいるよりは数段マシである。
すぐに手に取れるように傍らに置いておき、次に取ったのは一枚の紙。
参加者名簿。
若干の嫌な予感がしつつも、せめて知り合いの名前が載ってないようにと祈りながら目を通す。
「げっ……河野貴明、ってことはアイツよね? それに愛佳と……小牧郁乃って……」
三人。多いか少ないかと問われれば、おそらくは少ないだろう。
それでも、『いる』。自分の知り合いが、いる。
「アイツは放っておいても……愛佳と郁乃は姉妹よ? 何より、郁乃は……」
由真の記憶が正しければ、郁乃は長らく病院暮らしのはずである。
詳しい話を愛佳から聞いているわけではないが、退院したという話を聞いたことはない。
赤の他人という可能性を考えるが、知っている名前が三人。
三人ともありふれた名前ではあろうが、それにしたって出来過ぎである。
もし、もし仮にこの名簿が嘘偽り無い本物だと仮定するとしたら……
「郁乃は、病人よ……」
詳しいことは知らない。
知っているのは、親友の妹が病人であるということ。
日々の会話から、偶然そんなことを知っただけ。
だが、少なからず健康体とは言い難いだろう。
そんな存在を、無理矢理ゲームに?
「嘘よ……」
そうでなくとも、仮に退院間近の健康体だったとしても、二人は姉妹だ。
姉妹で殺しあえと。そう、あの神父は言っているのだ。
「うっ……」
唐突な目眩に、由真は思わず地面に両手をつけた。
少しでも気を抜けば、胃の中のモノをぶちまけそうである。
気持ちが、悪い。
乗り物酔いだとか、気色の悪い生き物を見たときとか。
そんな程度の物と比較すること自体がおこがましい悪寒。
何もかもがぐちゃぐちゃになり、混ざり合い、拒否反応を起こし、由真の脳内で暴れ回る。
マトモな人間では辿りつく事の出来ない思考、その真意。
その一端に、偶然にも由真は手を掛けてしまった。
何の変哲も無い女子高生が、手を掛けてしまった。
「……落ち着け、由真」
発した声はどこまでも頼りなく。
悲しいほどに小さく消えていく。
それでも、発さなければ気が狂いそうだった。
例え小さくとも、言葉という象にすることで安心感を得る事が出来た。
「……落ち着け」
今度は、強く。
下ではなく前を見て。
震えを捩じ伏せて。
「大丈夫」
震えに負けじと。
悪意に負けじと。
込み上げてくる何かを押し戻し。
二度と飲み込まれることの無いように、歯を食いしばる。
「大、丈夫」
■
乱雑した荷物をディパックの中に戻して背負い直す。
唯一の武器である大鉈は、柄だけを外に出して携帯。
原理は分からないが、中は見た目以上にスペースが存在するらしい。
右手だけは常に柄に添えて、何時でも抜き出せるようにすれば準備は完了。
「さて、と。行きますか」
第一は愛佳との合流。
第二は郁乃との合流。
後は……機会があったらアイツを探してもいいだろう。
載っている名前は知り合いと断定することに少なからず抵抗はあったが、気休めの仮定で現状逃避するよりはよっぽど建設的である。
両手を打ち合わせて、鋭く息を吐く。
気合いは、十分。
「……待ってなさい。こんなゲーム、ぶっ壊してあげるわ!」
【一日目/0時30分/C-7森の中】
【十波由真@To heart2 XRATED】
[状態] 健康
[装備] 大鉈
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム×1~2
[思考・行動]
基本:ゲームをぶっ壊す
1:愛佳との合流
2:郁乃との合流
3:機会があれば、河野貴明を探してもいい
【備考】
最終更新:2016年04月26日 00:24