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少年--音無伊御の驚愕



 最初は、トラブルメーカーズがまた何かしらしでかしたと思った。
 次に、性質の悪い悪夢だと考えた。
 最後に、是は否応のない現実であると思い知らされた。



 ――――音無伊御の、おおよそ三十分間の思考の遍歴。










 手に持ち構えるは木刀。
 対し、防いで弾き返すは日本刀。
 上から振り下ろされれば、受けずに流し。
 下から振り上げられれば、足の裏で防ぐ。
 横から振るわれれば、構えて弾き。
 突きが繰り出されれば、体を捻って流す。
 拳が振るわれれば、掌を持って防ぎ。
 蹴りが襲い来れば、同様に蹴りをもって弾く。
 押しては引いて。
 寄せては返し。
 二手三手と先を読み合い、苛烈な連撃を繰り広げ。
 一挙手一投足を注視し。
 狙うは、ただ一撃。
 浮かべたのは、笑み。

「やるじゃん、あんた」
「……ふん」

 青年の言葉に不満気に鼻を鳴らし、少女の身体が一気に数メートル後ろへと後退する。
 青年は追うことをしない。代わりに、傷を負った木刀を労うように優しく撫ぜる。
 流れるような黒色の長髪を風に預け、少女は青年へと一瞥をくれた。日本刀は構えたまま。
 舌打ちを、一つ。

「……解せない」
「ん?」
「何者?」

 黒髪の少女はいぶかしむ様に青年を見やる。
 その問いに、待ってましたと言わんばかりに青年は口を開いた。

「森田賢一。見ての通りのナイスガイだ」
「……」
「おいおい、蔑むような視線は逆効果だぜ。何せ俺はハードMだからな」
「……」

 緊張感の欠片も無い自己紹介とウィンク一つ。
 少女の絶対零度の視線にも動じる事の無い精神力は、ともすれば感嘆に値するかもしれない。
 だがそれはそれ、これはこれ。
 軽薄な態度とは裏腹に、青年の醸し出す雰囲気は決して油断を見せられるものではない。

「さてさて、自己紹介には自己紹介で返してくれるとうれしいんだがね」

 此処に来て、漸く少女は自身の不利を悟った。
 何の気負いもなく自然体で立つ青年と、焦燥に駆られ呼吸を乱した少女。
 差は歴然としている。

「……何者」
「言ったろ? 森田賢一。あんたも見ての通りのナイスガイさ」 

 嫌味も虚栄もない、あるがままの自己紹介。
 そう、と。短く頷いて少女は言葉を返した。

「……千堂」
「ん?」
「千堂瑛里華なら、貴方の力になってくれるかもしれないわ」
「……成程。で、君は……」

 問いは、少しだけ遅かった。
 ひと飛びで距離をとると、脇目もふらずに少女は場を離れる。
 追いかけるには開きすぎた距離。
 何よりも、

「……ふぅ」

 短く息を吐くと、青年――森田賢一はその場に座り込んでしまった。
 足は震え、腕は上がらず、息も絶え絶え。
 潜在的なポテンシャルは、明らかに年下のはずの少女の方が数段上。
 何度も死線をくぐり抜けてきた賢一をして、どうにか対等に保つのが精一杯というのが実情だった。

「ったく、人が死ぬ気で身につけてきたものをよぅ……」

 漏れ出たのは切実な言葉。
 しかも恐ろしい事に少女はあれでまだ本気ではない。
 出会ってから逃走までの攻防の中で、一切の殺意が無かった。
 幸いなことに、まだ少女はこのゲームに乗っているというわけではないらしい……とするのは安直かもしれないが、初っ端から殺意バリバリで殺しに来るよりは数段マシである。
 無理矢理ではあるが、そう賢一は思考を締めた。

「とまぁ、今はこんなところかね……さて」

 時間は、きっかし一分。
 休ませていた身体を起こし、体に着いた土を叩く。
 プラスして軽めのストレッチを行い、傍らに置いてあったディパックを木刀で持ち上げ担ぐ。
 そうして、漸く――



「今からそっちに向かってくけど、よろしいかな? そこの木の陰に隠れている誰かさん」



 音無伊御の思考は、現実へと回帰する。





【一日目/0時30分/F-6】
【音無伊御@あっちこっち】
[状態] 健康
[装備]
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム
[思考・行動]
基本:ゲームに乗るつもりは無い
1:気付かれていた?

【備考】
  • 参戦時期は未定 



【一日目/0時30分/F-6】
【森田賢一@車輪の国、向日葵の少女】
[状態] 疲労
[装備]
[所持品]基本支給品、木刀、ランダムアイテム×1~2
[思考・行動]
基本:ゲームに乗るつもりは無い
1:誰かさん(伊御)と情報交換

【備考】
  • 参戦時期は未定










 何故、あんなことを言ったのかは分からない。
 強いて言うならば、突発的に口をついた、とするべきか。
 ……答えになっていない事は、誰よりも自身が分かっている。

「……まぁ、いいわ」

 十分な距離をとったところで、漸く少女は足を止めた。
 出会い頭に出会った青年の所持品を奪うだけのはずが、随分なハードワークになってしまった。
 まずは、どこか人気の無いところで休むことにしよう。
 力任せに刀を振るったせいか、右腕が妙に痛む。

 ――こんなことは今まで無かったはずなのに

「……制限?」

 あの広間で神父が話していた内容に、そんな言葉があった。
 気付いてみれば、至極当たり前のことだ。自分の事を知っているのならば、制限をかけない方がおかしい。
 そう。自分の事を知っているならば……

「……」

 不意によぎった思考を、馬鹿らしいと首を振って否定する。
 まだ確証に至るには程遠すぎる推論だ。
 だが、もしも。もしもそれが事実ならば……

「馬鹿らしい」

 もう一度。今度は口に出して否定する。
 ディパックを担ぎ直し、止めていた足を動かす。
 まずは休める場所を探そう。全てはそれからだ。



 胸の奥につっかえた何かを意図的に無視したまま、少女――紅瀬桐葉は再び駆けた。





【一日目/0時30分/F-5】
【紅瀬桐葉@FORTUNE ARTERIAL】
[状態] 疲労
[装備]
[所持品]基本支給品、日本刀、ランダムアイテム×1~2
[思考・行動]
基本:なるべく穏便に行動
1:休める場所を探す
2:……まずは、休める場所を探す

【備考】
  • 体育祭後からの参戦





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