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バカシアイ



 支給された物品は基本支給品と発煙筒三つ、それに手榴弾が五個。
 目覚めた場所は地図の端っこ、A-8の灯台。
 灯台の造りはいたってシンプル。地上の入り口から螺旋階段を上がるだけ。途中に部屋は無く、今自身がいる場所が唯一の部屋。
 灯台としての機能は長い事使用されていないらしく、機器が動く可能性は低い。しかるべき処置をすれば動くかもしれないが、そんな知識も手腕も保有していないので考えるだけ無駄。
 室内には救急セットと緊急時脱出用の縄があった。救急セットは使用可能年月日が記載されていなかったのが怖い。縄は老朽化している様子はなく、標準的な大人一人分の体重を支える程度なら問題はないだろう。他に目ぼしいものは無し。
 以上が、目覚めてから大凡三十分で少年が纏めた全て。
 彼がどこにでもいるであろう一介の高校生であることを考えれば、驚嘆に値する思考と行動である。

「さて、まずはっと」

 扉を開け、外へ。
 月灯りが足場を照らしてくれるので、ランタンを使用する必要はない。
 部屋の周りを一周するように造られた足場をゆっくりと歩き、周囲の様子を観察する。
 そして徐に懐から発煙筒を取り出すと、火をつけ外へと放り出した。
 赤い灯りを灯しながら落下し、程なくして波にかき消される。
 ――――思っていた以上に、悪い。

「……チッ」

 舌打ちもそこそこに、部屋の中に戻る。
 地図で場所を確認した時から予想していた事だが、この場所は逃げるには適さない。
 建物がシンプルな造りである以上籠城は簡単だが、逃げ場が無くてはただの袋小路だ。
 装備も人材がロクに揃っていない現状では、この場に留まるのは自殺行為でしかない。
 そうと決まれば話は早い。ここまでの所要時間は大凡四十分。荷物をまとめ、部屋を後にする。
 螺旋階段を駆け下りれば、もう出口はすぐ目の前。後はなるべく森を通り、地図上に示されているハチポチへと向かうのが少年の当面の目標である。



 ――――もっとも



「ホールド、アップ」



 誰もいなければ、の話ではあったが。
 身体の奥から冷えて行く感覚。脳内を飛び交い、消えていく選択肢。
 歯噛みしても、もう遅い。

「分かっているとは思うけど……賢明な判断を期待するわ」

 背中越しに伝わる固く冷たい感触。
 猶予を与えられているだけマシだろう。
 大人しく、手を上げる。

「おーけぃ、まいった」

 声から察するに、相手は同年代くらいの女の子だろう。
 ともすれば、手荒な事をされる可能性は低い。
 一旦は、指示に従う。

「荷物を下ろして」

 言われた通り、荷物を足元に。
 背中につきつけられた感触は、未だ1mmたりともずれはしない。

「……これまでに誰かと会った?」
「いいえ、これがファーストコンタクトですぜ」
「ここで何してたの?」
「スタート地点がここ。目覚めてから状況確認まで結構時間喰っちゃったけどさ」
「……貴方の名前は?」
「西原京谷」
「嘘」

 背中に感触がめり込む。

「参加者名簿とやらにそんな名前は存在していないわ。本当の事を言いなさい」
「……本当の事なんだけどなぁ」

 弱弱しく、少年は呟いた。

「いや……ね? 言いたいことは分かるよ。俺だって自分の名前が無い事にびっくりしたもん」
「……」
「信じてくれなんて都合のいい事は言わないけどさ、とりあえずでいいから理解してくれれば嬉しいんだが……」

 愚痴るように言葉を吐く。
 緊張感は皆無。上げていた両手は、いつのまにかに頭の後ろで組まれている。
 小さく、溜息。

「……まぁ、そういうこともあるかもしれないわね」
「納得ついでに背中のブツを下げて頂けると嬉しいんだが……」
「少し下がってあげるから、そのままの状態で此方を向きなさい」

 相手は軽口に応じるつもりはないらしい。
 応答から察するに、真面目ではあるが堅物ではない。思考回路も柔軟。
 黙って従っている限りは殺される可能性は低いと見ていい。

「……これでオーケー?」

 感触が離れたのを確認してから振り返る。
 薄紫色のショートヘアー。
 翡翠色の眼。
 整った顔立ち。
 そこには、掛け値無しの美少女がいた。

「西原君、貴方には二つの選択肢があるわ」
「大人しく協力するか、ここで脱落するか……だろ?」
「あら、意外に冷静なのね」

 分かっているなら、さっさと選びなさい。
 言葉の代わりに、照準が心臓の辺りに定められる。
 互いの距離は三メートル程。外すことは、まずない。

「……一つ、質問いいか?」
「それでさっさと決めてくれるならね」
「なーに、簡単なことさ。アンタの目的は?」

 その言葉に、待ってましたと言わんばかりに少女の口角がつり上がる。

「私の目的? ……そんなの決まっているでしょ。あの馬鹿共をぶちのめすのよ」

 それは勇猛か、はたまた蛮勇か。
 己の自由すらも与えられていないのに、少女は反抗の意を口にした。

「けれども、今の私には武器も人材も足りない。用意不足もいい所よ」
「……だから協力しろと」
「そーゆーこと。アイツらと違って話が早くて助かるわ」

 何を思い出したのか、物憂げな顔つきになって溜息を吐く。

「アイツらってことは仲間がいるのか?」
「元々の、ね。此処に来てから会ったのは西原君が最初よ。……もういいかしら?」

 銃口が促す。
 喉が、鳴る。

「……オーケー、オーケー。答えなんて今更言う事でもないだろ」
「承諾した、ってことでいいかしら?」
「半分はな」

 ピクリ、と。
 下げかけていた銃がぶれる。

「協力することに異存はないさ。俺だってアイツらにはムカつくしな」
「じゃあ半分ってのは?」
「銃に脅されて承諾したんじゃ、そこに本人の自由意思は存在しないと思わないか?」
「……それは、私の行動に対する当てつけってこと?」
「まさか。この現状で馬鹿正直に真正面から協力を要請しようとする考えなしよりは心強いさ。ただ、俺は誰に対しても常に対等の立場でいたいってこと」
「ふぅん……で、その半分を埋めるには私はどうすればいいのかしら?」
「簡単な事さ、ほれ」

 何かが、投げ渡される。
 反射的にそれを受け止めようとし――――



「それ、手榴弾」



 思わず、横に跳びのいた。

「はーはっはっはっはっは! あ~ばよ~っと!」

 ドップラー効果で響く笑い声。
 顔を上げれば、射程外距離まで逃げ出した西原の姿。
 その速さたるや、今から追い駆けても追いつくことは出来ないであろう。

「……やられた、ってことね」

 悔しそうに歯噛みしながら、ゆっくりと少女は起き上がった。
 投げられた手榴弾を拾い、ディパックの中にしまう。
 未だピンが刺さったままというのは、相手の落ち度か計算か。
 おそらくは後者であろう。そう、少女は考える。

「対等でありたい、ね。……ふふっ、いいじゃない。黙って従われるよりもそっちの方がいいわ」 

 この分だと、おそらく西原という名前も偽名であろう。
 咄嗟の口回しといい今の行動といい、仲間にするには十分な能力だ。
 相手が殺し合いに乗るつもりが無いのなら、まだ交渉の余地はいくらでもある。

「成果は手榴弾一つと仲間にしたい人物の発見」

 明るい黄土色の髪。
 それなりに整った顔立ち。
 白ワイシャツと学生ズボン。
 覚えている特徴を脳に刻み、逃げた先を見据える。

「ま、モデルガン一丁にしては十分な戦績ね」

 くるくると。慣れた手つきで弄び、懐にしまう。
 そのまま不敵に笑うと、少女――仲村ゆりは高らかに宣言をした。



「待っていなさい、主催者とやら。アンタらの企み……『死んだ世界戦線』がぶっ潰してあげるわ!」





【一日目/1時00分/A-8、灯台入口】
【仲村ゆり@Angel Beats!】
[状態] 健康
[装備] モデルガン
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム×1~2、手榴弾×1
[思考・行動]
基本:対主催、ゲームの打破
1:仲間を集める
2:西原(仮)を仲間にしたい

【備考】
  • 参戦時期は未定










「……なんか、失敗したかなぁ」

 此処にいない友人の名前を使用した。
 一応手榴弾はピンを刺したまま投げた。
 特に問題の無いように応答はした……のだが……

「不安なんだよなぁ……」

 元から若干不幸体質気味なのもあり、素直に現状を上手く行ったと捉えられない。
 廻り廻って、倍以上に面倒な案件になって現れなければいいが……

「はぁ……」

 思わず溜息を零し、近くの木に背中を預ける。そのままずるずると座り込んでしまうのは仕方無し。
 考えるだけ無駄なことだとは分かっているが、だからといって無視はできない棘がある。
 こういう時の予感というのは、いつだって悪い方面に当たるのだからタチが悪い。

「……さっさと皆と合流して、脱出しよう」

 言い聞かせるように呟き、立ち上がる。
 果たして少年――戌井榊の予感が当たってしまうかどうかについては――――



 ――――それはまた、別のお話。





【一日目/1時00分/B-8、C-8寄り】
【戌井榊@あっちこっち】
[状態] 健康
[装備]
[所持品]基本支給品、手榴弾×4、発煙筒×2
[思考・行動]
基本:皆を捜して、脱出
1:皆を捜す
2:何か悪い予感がする……

【備考】
  • 参戦時期は未定


No.019:difference 投下順 No.021:メイドと英霊
No.016:真夜中の邂逅、少女と少女とサーヴァント 時系列順 No.018:深夜の図書館、少女が二人
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