メイドと英霊



 サーヴァント――召使の意。フランス語のセルヴァンに相当。



 サーヴァント――冬木の聖杯戦争にて召喚される、特殊な使い魔。










「――――問おう」

 闇夜に響く、凛然とした声。

「汝が我を招きしマスターか」

 視界を覆うような光の後に、目の前に顕現した白銀の鎧に身を包んだ少女。
 H-8一帯に点在する遺跡。その中心部。
 支給されたディパックから突然人が顕れるという非常事態にも、マリアは慌てず対応していた。

「初めまして。三千院家に仕えております、マリアと申します」

 自己紹介の後、45度の角度に腰を曲げる。
 最敬礼。一部の過ちも無く、三秒の後に顔を上げる。
 ――――目の前には、少し困惑したような表情の少女。

「……サーヴァント、セイバー。召喚に応じ、現界しました」
「サーヴァント? ということは同業の者ですか。互いに大変ですね」
「同業? いいえ、私はセイバーのサーヴァント(英霊)であり、失礼ながらマスターとは与えられた役割が異なる」
「役割? 細かくサーヴァント(召使)の種類が分けられる程の家柄でありましたとは……失礼ながら主のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「いえ、ですからマスターは貴女で……」
「え?」
「え?」

 互いの間に生まれる空白。
 予期していない応答に、さしもの二人も首をかしげる。

「……もしかしたら、互いの認識がずれているのかもしれませんね。改めて自己紹介さていただきます、三千院家ハウスメイドのマリアと申します」
「……セイバーのサーヴァントとしてこの場に喚ばれました。便宜上ではありますが、セイバーとお呼びください」
「分かりました、それではセイバーさんと。私の事もマリアと呼んでいただければ結構です」
「そうですか、マスターと呼ぶよりもそちらの方が私としてもしっくりくきます」
「……一つ、質問をよろしいでしょうか?」
「私に答えられることであれば」
「その……マスターとは?」
「? マリアのことですが」
「え?」
「え?」

 再び生まれる空白。
 もはや認識がずれているどころのものではない。
 だがおかげで、互いに理解した事もある。
 ああ、何か違う。



「……失礼ではありますが、現状について説明を願えますか?」



 言いだしたのは、どちらが先か。



 兎にも角にも、時間は三十分ほど進む。









 聖杯戦争、聖杯、マスターとサーヴァント、令呪。
 バトルロワイアル、参加させられた知人、首輪、支給品。
 互いの情報交換は、意外にもすんなりと済んだ。

「私は魔術師ではないけれど、現界に必要な魔力とやらは大丈夫なのですか?」
「十分な量とは言い難いですが、このバトルロワイアルの間のみなら問題はありません。宝具を連発することさえなければ大丈夫でしょう」
「それは良かった。説明を聞く限りでは相当量の魔力が必要そうですので」
「最長で四日間ですから、無駄な行動さえなければ一切の供給がなくても大丈夫です。私自身も少ないですが魔力の生成は可能ですから」

 ジュースを飲みつつ交わすような会話ではないが、長く話していれば喉だって乾く。
 マリアがミルクティー、セイバーがイチゴ牛乳を片手に話を進める。

「ところで、今後の行動指針は?」
「そうね……当面はナギ、ハヤテくん、ヒナギクさんの探索でいいかしら」
「異論はありません」
「良かった。それじゃ、早速……」
「お待ちを」

 立ち上がろうとしたところを片手で制される。
 代わりにセイバーが立ち上がった。

「召喚時には、名のある魔術師でも相当な魔力を消費すると聞く。見たところ顔色も優れぬようですし、少し休憩してからの方がよろしいのでは?」

 ランタンの灯りに照らされたマリアの顔色は、お世辞にも良好とは言い難い。
 ロクな準備も無いままに召喚&召喚主は魔術師で無いとくれば、寧ろここまで意識を保っているという事が奇跡に近い。
 今は無理に動くよりも休む方が大事。そう考え、マリアに休憩を説くが……

「……ダメよ」

 ただ一言。
 柔らかく、しかし強い意志を持って拒否される。

「ナギはね、弱いの」

 差し出された手すら退けて、マリアは立ち上がった。

「多分、この悪趣味な舞台の参加者の中で一番弱い。頭はいいくせに自分の殻に閉じこもってばかりの子だから、コミュニケーション一つ満足にとれない」

 軽く身だしなみを整え、ディパックを担ぎあげる。
 その動きに、疲労の重みは一切見られない。

「今、もしかしたら一人で震えているかもしれない。迫る危険に怯えているばかりかもしれない。……あまり、時間は無駄にしたくないの」

 柔和な微笑み。言葉の端端に込められた強い意志。
 最初こそ驚いたような表情を見せたセイバーだったが、すぐにあの凛とした表情に戻った。

「……ならば、無理をなさらないように」

 幾ら言葉を重ねようと、このマスターは自分の言う事を聞かないだろう。
 なれば、無理に引きとめようとするのは下策。その意思を尊重する事こそが正しいであろう。
 なによりも、この身は――――



「ここに誓いを……我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命は私と共にある」



 セイバーの、サーヴァントなのだから。





【一日目/1時00分/H-8、遺跡内部】
【マリア@ハヤテのごとく!】
[状態] 健康
[装備] 令呪(セイバー)×3
[所持品]基本支給品、紙パックジュース×8
[思考・行動]
基本:ナギ、もしくはその他知り合いとの合流
1:ナギ、もしくはハヤテくんとの合流
2:セイバーと行動

【備考】
  • 参戦時期は未定
  • 聖杯戦争、魔術、魔術師について大まかな説明を受けました



【一日目/1時00分/H-8、遺跡内部】
【セイバー@Fate/stay night】
[状態] 健康
[装備] 風王結界、エクスカリバー
[所持品]
[思考・行動]
基本:マリアに従う
1:マリアと行動
2:ナギ、ハヤテ、ヒナギクとの合流

【備考】
  • 四次終了後、五次召喚前からの参戦
  • ナギ、ハヤテ、ヒナギクの身体的特徴を聞きました


No.020:バカシアイ 投下順 No.022:何も為し得なかった世界
No.016:バカシアイ 時系列順 No.024:あんなに一緒だったから
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最終更新:2015年11月29日 03:34