何も為し得なかった世界
表か裏か。
吉か凶か。
ユラユラユレル。
ユラユラ、ユレル。
■
夜風が頬を撫ぜる。
満月が辺りを照らす。
目覚めてから彼是三十分以上の時間が経っていた。
それはつまり、あの惨状から三十分以上の時間が経っていた事を示す。
「理樹……」
この場にはいない友の名を呼ぶ。
呼んでから、後悔したかのように顔が歪んだ。
「鈴……」
この場にはいない妹の名を呼ぶ。
先ほどまでとはうって変わり、声には震えと嗚咽が混じっていた。
「俺……俺は……」
両手で顔を覆い、肩を震わせる。
まるで迷子の子どものように。
まるで捨てられた子犬のように。
拳を叩きつけても、現実は変わらない。
「どうすればいいんだ……」
上手く行っていた。上手く行っていたはずだった。
もう少し、もう少しで二人は強くなれるはずだった。
自分たちがいなくなっても、二人で生きていけるはずだった。
憂いも無く、送り出せるはずだった。
「何でだ……」
なのに……なのに……
「何でだよ……っ!」
叩きつけた拳は、すでに自身の血で真っ赤に染まっていた。
痛みは感じない。感じる事が、できなかった。
「もう少しだったんだよ……っ!」
何回もやりなおした。
何度でも世界を廻らせた。
それが仮初だと分かっていても。
二人の為に繰り返してきた。
ゴールは、もう少しの筈だった。
「何なんだよ、これは!」
見上げた空には、変わる事無く月が輝く。
嘆きも慟哭も。全ては夜の闇に溶けていく。
事切れたように、青年は動きを止めた。
「……どうする」
幸か不幸か。青年の頭の回りは早い方だ。
こうやって嘆いている間にも時間は過ぎて行く。
守れるものも、守れなくなる。
「どうする」
ぱっと思いついたのは三つ。
一つは、理樹と鈴のどちらかを優勝させる為に他を排除する。
一つは、全員を排除する。自分が優勝して願いを叶えてもらい、全てを無かった事にする。
一つは、この場からの脱出。首輪を解除し、二人を連れて脱出する。
「優先するのは理樹と鈴の生存」
絶対条件。寧ろ、これさえ守れれば後はかまわない。
そのことを念頭に置き、考察を開始。
一つ目……現実的といえば現実的。どちらかさえ生きていれば遂行可能。
二つ目……同上。ただし、願いを叶えるという約束を守ってもらえるかが分からない。賭けるには分が悪い。
三つ目……可能であれば選びたい選択肢。ただ、あまりにも現実性が無い。
「一か、二か……」
他に選択肢が無い以上、上の二つのどちらか、もしくは併用をするしかないだろう。
握りしめた拳が、初めて痛みを訴えた。
「……急ごう」
言い聞かせるように、青年は行動を始める。
まだ非現実的で、言うほどの覚悟も無い。
それでも行動しなければ。その想いだけで動く。
まだ夢は、終わってはいない。
【一日目/0時30分/F-2】
【棗恭介@リトルバスターズ! エクスタシー】
[状態] 精神的疲労(小)、右拳に裂傷
[装備]
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム×1~3
[思考・行動]
基本:理樹と鈴の生存優先
1:理樹と鈴を生存させるためにあらゆる方法を模索する
【備考】
最終更新:2015年11月29日 03:36