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幸運E



 訳が分からない。
 召喚されてランサーが思ったのは、上記の一文に集約されていた。

『何よ、アンタ。……変態?』

 まず出会い頭にこの一言である。
 召喚されて間もなく、あらゆる事情を飲み込む前にこの仕打ちである。
 歴戦の勇士であるランサーが、驚きのあまり一切の言葉を告げることが出来なかったのは、後にも先にもこの一回のみであろう。
 驚きに固まるあまり、マスターが無視して先に行ってしまおうとした事もランサーらしくない失態と言える。

『……日本語、上手なのね』

 慌てて後を追いかけ召喚の詞を告げる。
 ランサーの脳内では、この後は召喚された経緯や目的等を訊き、マスターの為に尽力を果たすつもりであったのだが……

『……だから、なに?』

 蔑むような冷たい視線と言葉。
 二の句をを告げる事の出来ないまま、またも少女は先に行ってしまう。早足で。
 勿論、英霊たるこの身であれば追いつくことは容易いが……

『フカーッ!!』

 威嚇。
 扱いは、完全に不審者に対するソレ。
 警戒レベルMAXで話しかけることすらままならない。
 というかそもそも近づくことすらままならない。
 これ以上のちょっかいは、生命に危険が及びそうである。ちょっかいではないのに。

『ディパック?』

 が、そこは英霊まで昇華されるような武芸者。
 武芸は元より、頭も回らなくては後世にまで名は伝わらない。
 追い掛けられつつも専門用語+必死の懇願を解読&何だかんだで受け入れる召喚主の聡明さと心の広さがあってこその流れではあったが。

『ふぅん……貴女の名前はランサー。この令呪で三回命令可能。一応支給品扱い、と』

 右手の令呪を確認し、いぶかしみつつも取りあえずは理解するマスター。
 こじれかけた話は、漸くここで一応の終息を得る。





 そんなわけがなかった。





『その場でバク転二回+それぞれに捻りを加えて頭から着地&そこからカポエラ風にきっかり三十分間踊りなさい』





 令呪は、一回分として叶え遂げた。





 単に、ランサーの身体能力が為せる業である。





 その間に、マスターは走り去って行ってしまったが。










「……ここまで来れば、あの変態も追ってこれないでしょ」

 E-3の川沿い。川辺に腰を下ろし、全力疾走で火照った体を冷ます。
 ディパックを開けた瞬間にタイツ姿の珍妙な服装をした変態が現れたら誰だって驚く。
 魔術師だとかマスターだとか妙チクリンなコトを妄言していたので、もしかするまでもなく危ない変態さん決定である。
 まぁ、何とか振り切って逃げてきたので大丈夫だとは思うが……

「……大丈夫……よね?」

 振り返り、暗闇に目を凝らす。
 目印防止の為灯りはつけていない。照らす月明かりだけが頼り。
 切れかけていた緊張感を無理矢理に繋ぎとめ、耳を研ぎ澄ませば。
 ほら、すぐ後ろで。



「……んなわけないでしょ」



 首を振り、考えを否定する。
 ここまでノンストップで森を抜けてきたのだ。
 補足し追いかけてきたら、頭だけでなく身体能力も変態さん決定である。

「さっさとみんなと合流しないと」

 幸か不幸かで言えば確実な不幸なことに、仲のいいメンバーは皆ここに連れて来られている。
 最初はあのトラブルメーカーズのドッキリかとも思ったが、いくらなんでもこんな悪趣味なコトをする輩たちではない。
 あの神父の言うことが本当かどうかはおいておいて、皆と合流することが急務であることは決定事項。
 幸い、皆が集まりそうな場所は目星が付く。

「ハチポチから遠のいちゃった……」

 友人たちが働く人気の喫茶店。
 皆が集まるとしたら、地図にも記載されているこの店が有力候補だ。
 あの変態さんのおかげで逆に遠のいてしまったが、急げば夜明け前には到着できるだろう。

「……急ごう」

 武器が無いのは心許ないが、悠長に探す余裕はない。
 こうしている間にも、あの変態が来るような気がしてならない。
 確証の無い、所詮は只の勘である。が、時としてそれは何よりも大きな助けとなる。
 背筋を撫ぜる怖気を振り払うように、やや乱暴気に頭を左右に振る。

「下れば着くはず」

 地図を信じるのならば、川沿いに下れば森は抜けられる。
 来た道とは違うルートなので、変態と鉢合わせする可能性も低い。
 手頃なサイズの石を拾い、牽制用の手数は確保。
 心許なくはあるが、無いよりはマシである。

「……何なのよ、さっきから」

 先ほどからちりちりと首筋が粟立つ。
 嫌な予感がしつつも、振り返り暗闇に目を凝らす。
 奇しくも、そこは自分が来た道。
 まるでホラー映画の御約束ではあるが、笑い飛ばせる雰囲気ではない。



「漸く、見つけた……」



 ゆらり、と。暗闇の奥に人影が映る。
 それが誰であるかはどうでもよかった。認識と同時に腕がしなる。タメの無い、それでいて惚れ惚れするようなピッチングフォーム。
 真っ直ぐに、石が射出される。



「御免」



 何かが煌めいた、音が響いた。それが解れば十分だった。
 太刀打ちできない。僅か一投の攻防で、どうしようもない実力差を理解する。
 振り返り、腰を落とす。
 逃げに徹するしか、手立てはない。



「――――どうか」



 だが、それも敵わない。
 あれだけあったはずの距離は、一秒にも満たない間に埋められてしまった。

「――――ッ!」

 行動は、最速。
 認識するよりも早く体が回転。
 小柄な体躯は関係ない。しなりを利かせた右足を、回し蹴るように低く背後へ振り抜く。
 狙いは膝。
 刈るように、回す。



「失礼する」



 しかし、無駄。
 放った筈の蹴りは流され、逆に軸足を払われる。
 バランスを崩した身体は簡単に相手の腕の中に収まり、自身も訳の分からぬうちにまた体勢を立て直される。
 結果、先ほどとは反対方向に体を向けただけで済み、



「どうか、話を聞いてほしい」



 目の前には、片膝をつく変態。
 頭を垂れるその姿は、此方の言葉を待っているということか。
 このまま逃げるのは簡単だろうが、どうせ追いつかれてしまうのなら同じ事だ。
 溜息もそこそこに、傍の岩に腰かける。

「……アンタ、何なの」

 諦めと共に口を開く。
 抵抗する気は失せていた。

「我が名はディルムッド・オディナ。ランサーのサーヴァント、ディルムッド・オディナ」
「そう。私は御庭つみき。どこにでもいる高校生」

 そういうことを聞いているんじゃない。
 言外に苛立ちを滲ませ、冷たく言葉を返す。

「それではつみき殿。ご無礼を承知で、一つ質問に答えてもらいたい」
「……なによ」
「つみき殿は……魔術師という言葉をご存じだろうか?」

 またその話か。
 眉間を揉みつつ、首を振る。
 わざわざ言葉に出す気は起きなかった。

「なれば、今から言う三点を留めて置いてほしい。
 一つ目は、私めのことはつみき殿のサーヴァント――騎士であること。
 二つ目は、つみき殿の右手に記されている令呪で、あと二回命令が出来ること。
 三つ目は、つみき殿を守護し、勝利に導くのが私の役目であること」
「……質問いいかしら」

 一つ一つ。分からないところ、疑問に思ったところを口にし、問いただす。
 今更ドタバタしてもどうしようもない。それよりも理解する事の方が先決。
 相手の顔をしっかりと見えるようにランタンの灯りを点し、サーヴァントとやらの説明を説明書片手に聞きつつ。



 幸いにも、時間はつい先ほどたくさんできた。





【一日目/1時00分/E-3、川沿い】
【御庭つみき@あっちこっち】
[状態] 健康
[装備] 令呪×2(ランサー)
[所持品]基本支給品、小石×4
[思考・行動]
基本:友人たちと合流
1:疑問を解消する

【備考】
  • 参戦時期は未定



【一日目/1時00分/E-3、川沿い】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態] 健康
[装備] ゲイ・ジャルグ、ゲイ・ボウ
[所持品]
[思考・行動]
基本:つみき殿に従う
1:疑問に出来る範囲で答える

【備考】
  • 召喚前からの参戦



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