「金色の彼に花束を」(2011/12/04 (日) 18:25:11) の最新版変更点
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**金色の彼に花束を ◆1yqnHVqBO6
そこは遊園地の待合室。
けれど置かれた質素な備品はそこをまるで監獄かのように見せていた。
あるのはベンチとテーブルと安物のパイプ椅子。
そして鏡だけ。
普通ならばありそうな
子供のための着ぐるみや人形、おもちゃのたぐいは一切ない。
窓からさす陽が少しでも
部屋を明るく見せるのではないかと思っていたが、
現実はただ四隅を照らし、物品の少なさを際だたせるだけだった。
放送が流れるまで。
光が入ってくる窓から、
杉村は何度も外を見渡しあの少年を待っていた。
仮面ライダーの力を調べ、
カードなるものの効果を知ることができたのは大きな収穫だった。
それでも幾度となく火の海へと飛び込み探しに行こうか迷ったが、
ここには気絶したままの少女の形をした人形がいる。
逃げる場合、キャンチョメが彼女を抱えて逃げるのは
彼の術を見ても少し酷だろう。
それでも杉村弘樹は少年とまた会いたかった。
親友であるキャンチョメと会わせてやりたいというのももちろんある。
少年の死を知らされてもまだ。
火の中に飛び込み。
友を、命を、
助けに行こうとした彼の姿が瞼に焼きつき離れない。
あの迷いのない眼。小さくても力強い背中。
ガッシュ・ベル。
もう二度と会えないと放送により知らされた少年。
ほんの短い出会い。
彼が杉村に伝えた言葉は杉村の心から離れることはなく。
「牙でも、爪でもない武器。か」
同時に知らされた親友の再度の死。
どちらも杉村にたしかな衝撃を与え。
けれども我を忘れるほど悲嘆にくれるということもなかった。
つくづく薄情になったものだと杉村はため息をつく。
ガッシュ・ベルの死に悲しみ大声をあげて泣いていた
キャンチョメを見つめながら思う。
「それで。これからどうするヒロキ?」
赤い眼をこすりながらもキャンチョメは杉村にそう聞く。
鼻水だらけだった顔で、涙を流しきって乾いた眼でキャンチョメはそう聞く。
「お前はどうすればいいと思う?」
パイプ椅子にだらしなく背を預けながら
杉村は質問に質問で返す。
杉村の中で何度もリピートされるのは
先程の乱入したあとに起こった一部始終。
己の心に背くことをしたとは思わない。
けれども、あの馬、ウマゴンもまたキャンチョメの親友であり、
生きてはいるようだが詳しい状態を知ることはできない現状にしてしまった。
キャンチョメはそのことを教えられても杉村を怒り、憎むことはしなかった。
いや、こんな今だからかもしれない。
共にいる杉村を否定するのはこの殺し合いに独りで立ち向かうのと同義だから。
唯一の同行者を突き放すのはこの糞ったれなゲームでは大きく死に近づく。
俺は何をしたいんだろうか。
杉村は繰りかえし己の心に問う。
キャンチョメの友を攻撃し。見殺しにして。心に傷を負わせ。
俺が得たものはなんなのだろうかと。
杉村の脚は動こうとしてくれない。
杉村の心は挫折から奮い立とうとはしてくれない。
「考えたんだけどさ」
そこにあるのはどこか杉村を勇気づけようとするような。
気遣うような響き。
キャンチョメも同じくパイプ椅子に座っているが
そもそも背の高さからして違う。
向かい合う杉村からはテーブルに
アヒルのクチバシが乗っているだけのように見えてしまう。
その愛らしく、幼い姿。杉村はあらためて認識する。
目の前の奇妙な姿をしたアヒルの彼も間違いなく子供だ。
子供から親友を奪う原因の一つと自分はなってしまった。
その思いは罪悪感となって
茨のようにじくぅりじくぅりと杉村の心を苛む。
「聞いてる?」
キャンチョメの言葉で弱く堕ちそうな心を立て直し、
だらしなく崩れていた姿勢も改める。
「すまない。えっと、どこへ行くかという話だっけ?」
「うん。さっきの放送を見て思ったんだけどさ」
キャンチョメは待合室に置かれている鏡を指さす。
「当然と言えば当然なんだろうけどさ。
放送のとき、鏡に写るのと首輪とか小さなものに映る影じゃあ。
映すものが大きい方が大きく見えたんだよね。
鏡だとほとんど全身が映ってたりさ」
杉村はキャンチョメの言葉に放送の時を思いだす。
そうだったろうか?
いや、あのときは三村達の死の衝撃でそこまで
注意してみることなんて自分にはできなかった。
「すごいな。キャンチョメは」
心から感心して杉村は賞賛する。
「え、えへへへへ。やめてよ照れるから!」
涙にかすれた声でキャンチョメは胸を張って笑みを浮かべる。
ああ、この子は強い。
少なくとも俺よりはずっと。
杉村は無力な結果しか産まなかったデッキを知らずに握りしめる。
「でさ。地図をよく見なおして見たんだけども。
砂漠にはオアシスがあるみたいなんだよね」
そこまで言われて杉村もようやく合点がいく。
「なるほど。鏡としての広大な水か。
映すものが大きければ大きいほど
こちらからも相手が見えるんだもんな」
「どう思う?」
杉村は微笑みながらキャンチョメの提案を首肯する。
提案が間違っていなかったことに喜ぶキャンチョメ。
彼の手にあるのはガッシュの形見とも言える紙粘土が握られていて。
まだなんの形にもなっていないソレが
キャンチョメとガッシュの絆の強さを教えてくれる。
それと共に渡されたガッシュの言葉。
きっと、ガッシュとはまた会うことができる。
そう思って、信じていた杉村は
キャンチョメにまだその言葉を伝えていない。
「とりあえずは」
杉村はベンチに横たわる少女人形を見る。
気休め程度に布団替わりに調達してきたカーテンを敷いてその上に寝かせた少女。
安らかに眠ることができているように見える少女。
「この子が目を覚ましてからだな」
………………………………………………………………………………………………………。
ここは雛苺の世界。
第82633世界。
お菓子と、おもちゃ。
たくさんの楽しいものにあふれた世界。
だからみんな楽しく遊んでいる。
ここでは何も辛いことはない。
真紅達と殺しあわなければいけない絶望も。
全てを焼き、喰らい尽くす
ジャバウォックのような巨大で恐ろしい龍も。
なにもかもがいない。
「だってここは夢だもの」
たくさんの大好きな人に囲まれながら雛苺は独りつぶやく。
「だって夢は楽しいものだもの。
明るくきれいなものだもの」
ほんの僅かに目を伏せ、睫毛に影を宿す。
「いつかヒナの眼が醒めて。
みんなはまた殺し合いを強制されるの」
けれど。
せめて。どうかせめて。
時が経ち。瞼が開かれるその瞬間までは。
この安らかな世界で――――
暗転。焼失。消失。
そのどれかであり、そのどれもである現象が雛苺の世界を覆う。
目覚めの時が来たのだろうか。
そう雛苺は思ったのだけれど。
闇と呼べそうなほどの暗がりに光が射す。
そこは、広いお屋敷の中。
ほんの少し昔。
一緒に遊んでいたマスターが雛苺の前にいる。
悲しそうな顔。
憐れむような顔。
ああ、この顔は知っている。
「かくれんぼしましょう。雛苺。
静かに。見つかるまで。
鞄の中で待っていてね」
かつてのマスター、コリンヌは雛苺に諭すように言う。
「わかったわ。
ずっと待っているわ」
だめ。これはだめ。
知っているの。あなたがどういうつもりでいるのか。
これが決して終わることのないかくれんぼになるって。
あなたは決して見つけてくれることはないんだって。
そう、雛苺はコリンヌに言おうとして。
ここは夢のなかでも、この過去を今、見せられるのは苦しくて。
雛苺は、手を前に伸ばす。
コリンヌを引きとめようと手を、ただ前に。
けれども手は動いてくれず。
口は少し開いても音を出してはくれず。
雛苺が今いるのは楽しかった夢のなかではなく。
苦しかった過去の幻影。
知らぬ間に横たわっていたのは鞄。
寝心地のよいそこは。
これから起きる……起きたことを知っていると
棺にしか思えず。
雛苺は懸命に声をだそうと。手を伸ばそうと。
コリンヌはゆっくりと鞄を閉める。
降りてくる暗がり。
狭くなっていく光。
だめ。お願いやめて。
独りにしないで。
もう開くことのない暗闇にいるのは嫌。
雛苺はただそれだけを願って。
それでも、体は動いてくれなくて。
閉じられる瞬間。
ようやく雛苺の手はほんの少し動き。
コリンヌを引きとめようとして――――
なのに、どうしてか。
雛苺の小さい手。指先。
そこから白い白い茨が、肉を突き破るかのように飛び出し。
「さようなら。雛苺」
閉じられる瞬間。
コリンヌの顔は巴へと変わり。
無情な顔で、光を閉ざす。
「いや。いや。嫌。」
違う。この茨は違うの。
あの白薔薇はもう離れているのだから。
だからこれも夢。夢。
みんな、夢なの。
指を突き破り、蠢く触手めいた茨のソレ。
引き抜こうとしても掴む指を傷つけるだけで動きはせず。
「出して」
雛苺は叫ぶ。
鞄の裏を必死に叩きながら。
体内から己を食い破ろうとする触手の脈動に意識を犯されながら。
「おねがい! だして!
ここからだして! こわい! いたい!」
雛苺。ローゼンメイデン第6ドール。
最も幼い少女の形に作られたドール。
触れることすら躊躇われる。
笑顔ふりまくのが相応しい彼女。
その雛苺の胎を陵辱する白薔薇の棘、白薔薇の蔓。
雛苺の胎内でゆっくりと収縮しながらそれは動き出し。
「……ぁ。
痛っ! …………いや! いや!
ひとりにしないで! のり! 真紅! 翠星石! かな!」
白薔薇はここにはいない。
これはかつて起きた出来事の再生にすぎないのだから。
夢。夢。
なのに、触手はゆっくりと
内側で這うように領土を広げ。
「いやっ…………!」
――雛苺はもうずっと鞄にしまっとこう。
――そうしましょう。
――いらないものね。
――おまえなんかいらない。
――だれがおまえを必要とするものか。
大切な人達の声が、否定の言葉をかたどって。
「あ、あぁ。あああああああああ!!」
茨は突き破りながらも皮膚の下を食い進み。
次第に顔へとそれは伸びて。
ついには右眼へと。
「助けて! 助けて!!」
鞄をいくら叩いても。声を張りあげても。
応えてくれるものは誰もいなくて。
茨はゆっくりと、静かに雛苺のアイボールを抉り、摘出して。
アイホールに白い薔薇が咲く。
「トモエ!」
夢のなかでも。
雛苺の精神は確実に喰い壊されていく。
「ジュン!!」
残る左眼が茨に包まれていく彼女の右眼を捉える。
それでも。
鞄が開けられることはなく。
…………………………………………………………………………………………………………。
「これは!?」
部屋を埋め尽くすかのように発生した茨を見て
杉村は驚愕の声を上げる。
決して広くはない。
10歩も歩けば壁についてしまうようなそんな部屋。
その中で嵐のように茨が暴れる。
「キャンチョメ!」
よく見ればところどころに苺を実らせている棘の鞭が
キャンチョメに襲いかかる瞬間。
杉村は茨を背中で受け止め、キャンチョメを抱え大きく跳ぶ。
体内の肉が弾けるような衝撃が杉村の意識を揺らす。
「大丈夫かい弘樹!?」
身を案じるキャンチョメの言葉に杉村は頷くと
茨の海へと眼を向ける。
その動きはそう、渦に似ていて。
周囲のテーブル、椅子、鏡を粉砕し。
壁に深い傷をつける。
全てを壊すような茨。
その中心にいるのはガッシュから託された人形の少女。
その顔はよく見えず。
何か悲鳴のような苦鳴のような声が
聞こえるような気がしなくもないが
部屋を満たす破砕音が判別を困難にさせている。
「あの子に何が起こってるんだ!?」
困惑しながら破砕音の中、杉村は叫ぶ。
「わからない!
けど…………」
震える脚を抑えつけるかのようにキャンチョメは
大きく足を踏み鳴らす。
その手にある紙粘土はまだどんな形をとってもいないが
確かな勇気をキャンチョメに与えている、
「すごくいやな予感がする。とめないと。
ガッシュみたいに……死んじゃう前に」
その声は震えていて。
今にもその場から逃げ出しそうな弱々しさを持っていて。
けれども奥底にあるのは強く輝く勇気。
「もう、怖いことから逃げるのはいやだ」
杉村はその言葉に応える代わりに
キャンチョメの隣に並び、魔本を受けとる。
ガッシュとの出来事から知ったこと。
パートナーでなくとも行使可能な魔本を通じての術。
「フォウ・スプポルク!」
魔本を開き、
異世界の言語を心で解読した杉村は高らかに
読み上げる。
相手へダイレクトに術の停止を命じる新たな術。
ガッシュの死が新たな扉を開けたのか。
少女を止めようとする意志がキャンチョメを奮い立たせたのか。
初めて発動した彼らが正しい効果を知らないとしても
動かない相手ならこれ以上ないほど有効な一手。
だが茨はさらに勢いを増し、壁に大穴を開け。
杉村達の皮膚を傷つけていく。
「外したのかキャンチョメ!?」
「たぶん違う!」
己の直感に確信を持ったキャンチョメは強く拳を苦悩に握りしめる。
「あの子の力が暴走しているんだ」
暴走。
ならこれは彼女の意志を超えたものなのか。
それとも彼女の意志が壊れた証なのか。
杉村には判断がつかない。
ならばどうするのか。
いや、どうにかできる選択肢があるのか。
眼に浮かぶ火の海に飛び込んだ
ガッシュはこんな時どうするのだろうか。
誰よりもCOOLな三村はこんな時、どんな手を打つか。
鋼の鎧を纏い、白銀の爪を生やし、牙を持つ化物を従えて
少女を討つしかないのか。
わからない。
なにもかもが。
無力感がまた杉村の心に重くのしかかる。
「……あれ?」
眼が眩みはじめ、天と地の区別がつかなくなるような大渦の中。
キャンチョメの声が杉村を現実に呼び戻す。
「なんでボクたちは無事なんだろう」
杉村はその言葉に眼を見開く。
そうだ。
こんなに狭い部屋の中で、
こんなにも荒れ狂う茨に打ちつけられ、
そんな中、当然のようにあらゆる物が破壊されているのに。
なぜ杉村とキャンチョメは無事でいられるのか。
「キャンチョメ。
道をつくってくれ」
「だ、ダメだよ弘樹!
ここは僕が」
「俺たちの武器は牙でも爪でもない。
君の親友はそう伝えて欲しいと俺に言った。
……本当にそうだって心から信じられるか?」
杉村の言葉にキャンチョメは瞳を揺らがせる。
「きっとそこまで俺は強くいられない。
けれど、せめて答えの一つになれるんだって証明したいんだ」
二人同時に気づいたありえる事実。
だがまだ一つの可能性でしかないもの。
それに賭けるには無手で望まなければいけない。
命を死地にさらさなければいけない。
だが。
「君の親友ならきっと諦めなかったと思う。
思いたい。だから、キャンチョメ。
俺に力を貸してほしい」
「……わかった!
やってやろうぜ弘樹」
キャンチョメは親指を立てながら杉村に応える。
何度も茨に打たれ。
それでも死なぬ二人の男の眼。
その先にあるのは、何か。
「目指すは茨の海の中心だ」
魔本を片手に、ライダーデッキはキャンチョメに預け。
クラウチングスタートに近い前傾姿勢をとる。
「ディマ・ブルク!!」
再度、術を高らかに読み上げると杉村は魔本を
キャンチョメに放り、走る。
その前を行くのは8体のキャンチョメの分身。
だがそれは全てはっきりと実体を持っており。
身を呈して杉村を茨から守る。
走る。走る。
茨の与えるダメージが大きくなろうとも
杉村は決して足を止めない。
3歩。
筋肉がちぎれかける音がその耳に聞こえても
進んだ距離はまだそれだけ。
だが止まってはいない。
四歩目、五歩目。
さらに、さらに!
「くっ……ううおぉ!!」
視界は既に棘の鞭が作った傷と血で埋まっている。
何も見えない。
それでも杉村は駆ける。賭ける!
少女が己の絶望に抗っているからこそ
自分たちは死なずにいられるのだと信じる。
あらゆる物を砕く茨が杉村達を破壊できないはずがない。
生身はそれほど強いものではない。
ならば、答えはきっと。
少女が懸命に傷つけまいとしているからだと
杉村とキャンチョメは信じる。
ガッシュはそう信じただろうと信じる。
目を閉じ。
あらゆる痛みが五感を叩いても、
杉村はただ前を見て。
閉じた瞼の先にも宝石のように尊く美しく輝くような光にむけて。
ただ前へ、両手を伸ばして――
手を伸ばし、脚を動かし。
全身で海を掻きわける。
ガッシュ・ベルが命を救うために炎の海に飛び込んでいったように。
そして、ついにソレを掴む。
守ってくれていたはずのキャンチョメの分身は全て消え。
剥き出しの攻撃が手加減なしかのように襲いかかる。
掴む手の爪が剥がれ、体中が押し潰されるような悲鳴をあげる。
そして、その光が杉村の内にと直接触れて。
感情が濁流のように流れこむ。
それは内に蠢く食い破る者への恐れ。
それは殺し合いへの強い忌避感。
あの遊園地を喰らった火の海が、混沌が、
彼女の中の何かを呼び起こしたのだろう。
だがその感情はきっとまだ対処できる。
懸命に抗おうと淡く輝くそれを感じることができるから。
彼女の恐れの元は、内に蠢く者は今はいないのだから。
茨の棘が体中を傷つけても杉村は構わず
人形の少女、雛苺を抱きしめる。
爪をもって引き裂かぬよう優しく、
爪に恐れを抱かぬようそっと。
そして、牙を剥かぬ口で力強く、
牙をもたない口だからこそ穏やかに言葉を伝える。
「俺達は」
感情の奔流が杉村の心までも壊そうとする。
だが、彼の瞼には炎の中で煌めく金色が色褪せず残り。
「君の味方だ」
その言葉、水面を伝う波のように雛苺へと送り。
揺らめく波紋のように彼女の心を震わせる。
天井を埋め尽くしていた茨は幻だったかのように消え失せ。
雛苺を抱きしめたままの杉村は力が抜けたのか床へと仰向けに倒れこむ。
キャンチョメが歓声をあげながら杉村へ駆け寄ってくる。
「やったよ弘樹!!」
全身に傷を作ったキャンチョメは
同じく傷だらけの杉村に笑顔をむける。
「何やったか全然覚えてないんだけどな」
疲れきった顔の中に達成感を浮かべて杉村は応える。
「いや、もう凄かったんだよ!」
「どんな風に?」
ぼやける頭を起こすように頭を大きく振って、
杉村は尋ねる。
「ええっとねえ……」
顎に手を当ててキャンチョメは相応しい言葉を探す。
「足を動かして。
両手を前に伸ばした……かんじ」
苦心してひねり出したキャンチョメの表現に
杉村は苦笑する。
「それ、誰でもできることなんじゃないか?」
「いや、違うんだよ!
ああ、もうなんて言えばいいかなあ!」
もどかしそうに手を振るキャンチョメを微笑ましそうに見ながら。
杉村はほんの一瞬の邂逅だった少年の姿に想いを馳せる。
――きっと君との出会いがなかったらこうすることはできなかった。
だからこれは君への手向けだ。
眼に浮かぶのは誇り高き金色の眼差し。
暴火に負けない眩しき金色の髪。
「牙も爪も。
俺たちの武器じゃないんだよなやっぱり」
傷だらけの天井を見ながら、静かに、杉村は独り呟き。
――さようなら。
やさしい少年王ガッシュ・ベル。
そして、雛苺の瞼が開く。
【A-7・遊園地の待合室/一日目/午前】
【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
指の爪剥離
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー~新説~ 、仮面ライダータイガのカードデッキ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:七原と合流
1:少し休んだあと、オアシスに行くことを考える
2:時間を見つけて仮面ライダーとしての力の使い方の練習をしたい。
3:城戸真司に会えたら霧島美穂からの伝言を伝える
4:もし、桐山が琴弾を殺したのだとしたら、俺は……
[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後
【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、力への渇望、全身裂傷、疲労(中)
[装備]: キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! 、粘土@現実、ポップコーン@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:ちょっと休んだあと、オアシスに行くことを考える。
2:あの女の人はなんだったんだろ?
3:フォルゴレがいないのになんで呪文が使えたんだろう?
[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
参戦時期:ファウード編以降
【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、クレヨン@現実、人参@現実
[思考・状況]
基本行動方針:誰も傷つかない世界が欲しい。
1:???
※シュナイダーの愛称はウマゴンでいいよねと思っています。
|[[賢者、歴史の道標とダベる]]|投下順|[[]]|
|[[賢者、歴史の道標とダベる]]|時系列順|[[]]|
|[[優勝者達のエピローグ]]|雛苺|[[]]|
|~|杉村弘樹|[[]]|
|~|キャンチョメ|[[]]|
**金色の彼に花束を ◆1yqnHVqBO6
そこは遊園地の待合室。
けれど置かれた質素な備品はそこをまるで監獄かのように見せていた。
あるのはベンチとテーブルと安物のパイプ椅子。
そして鏡だけ。
普通ならばありそうな
子供のための着ぐるみや人形、おもちゃのたぐいは一切ない。
窓からさす陽が少しでも
部屋を明るく見せるのではないかと思っていたが、
現実はただ四隅を照らし、物品の少なさを際だたせるだけだった。
放送が流れるまで。
光が入ってくる窓から、
杉村は何度も外を見渡しあの少年を待っていた。
仮面ライダーの力を調べ、
カードなるものの効果を知ることができたのは大きな収穫だった。
それでも幾度となく火の海へと飛び込み探しに行こうか迷ったが、
ここには気絶したままの少女の形をした人形がいる。
逃げる場合、キャンチョメが彼女を抱えて逃げるのは
彼の術を見ても少し酷だろう。
それでも杉村弘樹は少年とまた会いたかった。
親友であるキャンチョメと会わせてやりたいというのももちろんある。
少年の死を知らされてもまだ。
火の中に飛び込み。
友を、命を、
助けに行こうとした彼の姿が瞼に焼きつき離れない。
あの迷いのない眼。小さくても力強い背中。
ガッシュ・ベル。
もう二度と会えないと放送により知らされた少年。
ほんの短い出会い。
彼が杉村に伝えた言葉は杉村の心から離れることはなく。
「牙でも、爪でもない武器。か」
同時に知らされた親友の再度の死。
どちらも杉村にたしかな衝撃を与え。
けれども我を忘れるほど悲嘆にくれるということもなかった。
つくづく薄情になったものだと杉村はため息をつく。
ガッシュ・ベルの死に悲しみ大声をあげて泣いていた
キャンチョメを見つめながら思う。
「それで。これからどうするヒロキ?」
赤い眼をこすりながらもキャンチョメは杉村にそう聞く。
鼻水だらけだった顔で、涙を流しきって乾いた眼でキャンチョメはそう聞く。
「お前はどうすればいいと思う?」
パイプ椅子にだらしなく背を預けながら
杉村は質問に質問で返す。
杉村の中で何度もリピートされるのは
先程の乱入したあとに起こった一部始終。
己の心に背くことをしたとは思わない。
けれども、あの馬、ウマゴンもまたキャンチョメの親友であり、
生きてはいるようだが詳しい状態を知ることはできない現状にしてしまった。
キャンチョメはそのことを教えられても杉村を怒り、憎むことはしなかった。
いや、こんな今だからかもしれない。
共にいる杉村を否定するのはこの殺し合いに独りで立ち向かうのと同義だから。
唯一の同行者を突き放すのはこの糞ったれなゲームでは大きく死に近づく。
俺は何をしたいんだろうか。
杉村は繰りかえし己の心に問う。
キャンチョメの友を攻撃し。見殺しにして。心に傷を負わせ。
俺が得たものはなんなのだろうかと。
杉村の脚は動こうとしてくれない。
杉村の心は挫折から奮い立とうとはしてくれない。
「考えたんだけどさ」
そこにあるのはどこか杉村を勇気づけようとするような。
気遣うような響き。
キャンチョメも同じくパイプ椅子に座っているが
そもそも背の高さからして違う。
向かい合う杉村からはテーブルに
アヒルのクチバシが乗っているだけのように見えてしまう。
その愛らしく、幼い姿。杉村はあらためて認識する。
目の前の奇妙な姿をしたアヒルの彼も間違いなく子供だ。
子供から親友を奪う原因の一つと自分はなってしまった。
その思いは罪悪感となって
茨のようにじくぅりじくぅりと杉村の心を苛む。
「聞いてる?」
キャンチョメの言葉で弱く堕ちそうな心を立て直し、
だらしなく崩れていた姿勢も改める。
「すまない。えっと、どこへ行くかという話だっけ?」
「うん。さっきの放送を見て思ったんだけどさ」
キャンチョメは待合室に置かれている鏡を指さす。
「当然と言えば当然なんだろうけどさ。
放送のとき、鏡に写るのと首輪とか小さなものに映る影じゃあ。
映すものが大きい方が大きく見えたんだよね。
鏡だとほとんど全身が映ってたりさ」
杉村はキャンチョメの言葉に放送の時を思いだす。
そうだったろうか?
いや、あのときは三村達の死の衝撃でそこまで
注意してみることなんて自分にはできなかった。
「すごいな。キャンチョメは」
心から感心して杉村は賞賛する。
「え、えへへへへ。やめてよ照れるから!」
涙にかすれた声でキャンチョメは胸を張って笑みを浮かべる。
ああ、この子は強い。
少なくとも俺よりはずっと。
杉村は無力な結果しか産まなかったデッキを知らずに握りしめる。
「でさ。地図をよく見なおして見たんだけども。
砂漠にはオアシスがあるみたいなんだよね」
そこまで言われて杉村もようやく合点がいく。
「なるほど。鏡としての広大な水か。
映すものが大きければ大きいほど
こちらからも相手が見えるんだもんな」
「どう思う?」
杉村は微笑みながらキャンチョメの提案を首肯する。
提案が間違っていなかったことに喜ぶキャンチョメ。
彼の手にあるのはガッシュの形見とも言える紙粘土が握られていて。
まだなんの形にもなっていないソレが
キャンチョメとガッシュの絆の強さを教えてくれる。
それと共に渡されたガッシュの言葉。
きっと、ガッシュとはまた会うことができる。
そう思って、信じていた杉村は
キャンチョメにまだその言葉を伝えていない。
「とりあえずは」
杉村はベンチに横たわる少女人形を見る。
気休め程度に布団替わりに調達してきたカーテンを敷いてその上に寝かせた少女。
安らかに眠ることができているように見える少女。
「この子が目を覚ましてからだな」
………………………………………………………………………………………………………。
ここは雛苺の世界。
第82633世界。
お菓子と、おもちゃ。
たくさんの楽しいものにあふれた世界。
だからみんな楽しく遊んでいる。
ここでは何も辛いことはない。
真紅達と殺しあわなければいけない絶望も。
全てを焼き、喰らい尽くす
ジャバウォックのような巨大で恐ろしい龍も。
なにもかもがいない。
「だってここは夢だもの」
たくさんの大好きな人に囲まれながら雛苺は独りつぶやく。
「だって夢は楽しいものだもの。
明るくきれいなものだもの」
ほんの僅かに目を伏せ、睫毛に影を宿す。
「いつかヒナの眼が醒めて。
みんなはまた殺し合いを強制されるの」
けれど。
せめて。どうかせめて。
時が経ち。瞼が開かれるその瞬間までは。
この安らかな世界で――――
暗転。焼失。消失。
そのどれかであり、そのどれもである現象が雛苺の世界を覆う。
目覚めの時が来たのだろうか。
そう雛苺は思ったのだけれど。
闇と呼べそうなほどの暗がりに光が射す。
そこは、広いお屋敷の中。
ほんの少し昔。
一緒に遊んでいたマスターが雛苺の前にいる。
悲しそうな顔。
憐れむような顔。
ああ、この顔は知っている。
「かくれんぼしましょう。雛苺。
静かに。見つかるまで。
鞄の中で待っていてね」
かつてのマスター、コリンヌは雛苺に諭すように言う。
「わかったわ。
ずっと待っているわ」
だめ。これはだめ。
知っているの。あなたがどういうつもりでいるのか。
これが決して終わることのないかくれんぼになるって。
あなたは決して見つけてくれることはないんだって。
そう、雛苺はコリンヌに言おうとして。
ここは夢のなかでも、この過去を今、見せられるのは苦しくて。
雛苺は、手を前に伸ばす。
コリンヌを引きとめようと手を、ただ前に。
けれども手は動いてくれず。
口は少し開いても音を出してはくれず。
雛苺が今いるのは楽しかった夢のなかではなく。
苦しかった過去の幻影。
知らぬ間に横たわっていたのは鞄。
寝心地のよいそこは。
これから起きる……起きたことを知っていると
棺にしか思えず。
雛苺は懸命に声をだそうと。手を伸ばそうと。
コリンヌはゆっくりと鞄を閉める。
降りてくる暗がり。
狭くなっていく光。
だめ。お願いやめて。
独りにしないで。
もう開くことのない暗闇にいるのは嫌。
雛苺はただそれだけを願って。
それでも、体は動いてくれなくて。
閉じられる瞬間。
ようやく雛苺の手はほんの少し動き。
コリンヌを引きとめようとして――――
なのに、どうしてか。
雛苺の小さい手。指先。
そこから白い白い茨が、肉を突き破るかのように飛び出し。
「さようなら。雛苺」
閉じられる瞬間。
コリンヌの顔は巴へと変わり。
無情な顔で、光を閉ざす。
「いや。いや。嫌。」
違う。この茨は違うの。
あの白薔薇はもう離れているのだから。
だからこれも夢。夢。
みんな、夢なの。
指を突き破り、蠢く触手めいた茨のソレ。
引き抜こうとしても掴む指を傷つけるだけで動きはせず。
「出して」
雛苺は叫ぶ。
鞄の裏を必死に叩きながら。
体内から己を食い破ろうとする触手の脈動に意識を犯されながら。
「おねがい! だして!
ここからだして! こわい! いたい!」
雛苺。ローゼンメイデン第6ドール。
最も幼い少女の形に作られたドール。
触れることすら躊躇われる。
笑顔ふりまくのが相応しい彼女。
その雛苺の胎を陵辱する白薔薇の棘、白薔薇の蔓。
雛苺の胎内でゆっくりと収縮しながらそれは動き出し。
「……ぁ。
痛っ! …………いや! いや!
ひとりにしないで! のり! 真紅! 翠星石! かな!」
白薔薇はここにはいない。
これはかつて起きた出来事の再生にすぎないのだから。
夢。夢。
なのに、触手はゆっくりと
内側で這うように領土を広げ。
「いやっ…………!」
――雛苺はもうずっと鞄にしまっとこう。
――そうしましょう。
――いらないものね。
――おまえなんかいらない。
――だれがおまえを必要とするものか。
大切な人達の声が、否定の言葉をかたどって。
「あ、あぁ。あああああああああ!!」
茨は突き破りながらも皮膚の下を食い進み。
次第に顔へとそれは伸びて。
ついには右眼へと。
「助けて! 助けて!!」
鞄をいくら叩いても。声を張りあげても。
応えてくれるものは誰もいなくて。
茨はゆっくりと、静かに雛苺のアイボールを抉り、摘出して。
アイホールに白い薔薇が咲く。
「トモエ!」
夢のなかでも。
雛苺の精神は確実に喰い壊されていく。
「ジュン!!」
残る左眼が茨に包まれていく彼女の右眼を捉える。
それでも。
鞄が開けられることはなく。
…………………………………………………………………………………………………………。
「これは!?」
部屋を埋め尽くすかのように発生した茨を見て
杉村は驚愕の声を上げる。
決して広くはない。
10歩も歩けば壁についてしまうようなそんな部屋。
その中で嵐のように茨が暴れる。
「キャンチョメ!」
よく見ればところどころに苺を実らせている棘の鞭が
キャンチョメに襲いかかる瞬間。
杉村は茨を背中で受け止め、キャンチョメを抱え大きく跳ぶ。
体内の肉が弾けるような衝撃が杉村の意識を揺らす。
「大丈夫かい弘樹!?」
身を案じるキャンチョメの言葉に杉村は頷くと
茨の海へと眼を向ける。
その動きはそう、渦に似ていて。
周囲のテーブル、椅子、鏡を粉砕し。
壁に深い傷をつける。
全てを壊すような茨。
その中心にいるのはガッシュから託された人形の少女。
その顔はよく見えず。
何か悲鳴のような苦鳴のような声が
聞こえるような気がしなくもないが
部屋を満たす破砕音が判別を困難にさせている。
「あの子に何が起こってるんだ!?」
困惑しながら破砕音の中、杉村は叫ぶ。
「わからない!
けど…………」
震える脚を抑えつけるかのようにキャンチョメは
大きく足を踏み鳴らす。
その手にある紙粘土はまだどんな形をとってもいないが
確かな勇気をキャンチョメに与えている、
「すごくいやな予感がする。とめないと。
ガッシュみたいに……死んじゃう前に」
その声は震えていて。
今にもその場から逃げ出しそうな弱々しさを持っていて。
けれども奥底にあるのは強く輝く勇気。
「もう、怖いことから逃げるのはいやだ」
杉村はその言葉に応える代わりに
キャンチョメの隣に並び、魔本を受けとる。
ガッシュとの出来事から知ったこと。
パートナーでなくとも行使可能な魔本を通じての術。
「フォウ・スプポルク!」
魔本を開き、
異世界の言語を心で解読した杉村は高らかに
読み上げる。
相手へダイレクトに術の停止を命じる新たな術。
ガッシュの死が新たな扉を開けたのか。
少女を止めようとする意志がキャンチョメを奮い立たせたのか。
初めて発動した彼らが正しい効果を知らないとしても
動かない相手ならこれ以上ないほど有効な一手。
だが茨はさらに勢いを増し、壁に大穴を開け。
杉村達の皮膚を傷つけていく。
「外したのかキャンチョメ!?」
「たぶん違う!」
己の直感に確信を持ったキャンチョメは強く拳を苦悩に握りしめる。
「あの子の力が暴走しているんだ」
暴走。
ならこれは彼女の意志を超えたものなのか。
それとも彼女の意志が壊れた証なのか。
杉村には判断がつかない。
ならばどうするのか。
いや、どうにかできる選択肢があるのか。
眼に浮かぶ火の海に飛び込んだ
ガッシュはこんな時どうするのだろうか。
誰よりもCOOLな三村はこんな時、どんな手を打つか。
鋼の鎧を纏い、白銀の爪を生やし、牙を持つ化物を従えて
少女を討つしかないのか。
わからない。
なにもかもが。
無力感がまた杉村の心に重くのしかかる。
「……あれ?」
眼が眩みはじめ、天と地の区別がつかなくなるような大渦の中。
キャンチョメの声が杉村を現実に呼び戻す。
「なんでボクたちは無事なんだろう」
杉村はその言葉に眼を見開く。
そうだ。
こんなに狭い部屋の中で、
こんなにも荒れ狂う茨に打ちつけられ、
そんな中、当然のようにあらゆる物が破壊されているのに。
なぜ杉村とキャンチョメは無事でいられるのか。
「キャンチョメ。
道をつくってくれ」
「だ、ダメだよ弘樹!
ここは僕が」
「俺たちの武器は牙でも爪でもない。
君の親友はそう伝えて欲しいと俺に言った。
……本当にそうだって心から信じられるか?」
杉村の言葉にキャンチョメは瞳を揺らがせる。
「きっとそこまで俺は強くいられない。
けれど、せめて答えの一つになれるんだって証明したいんだ」
二人同時に気づいたありえる事実。
だがまだ一つの可能性でしかないもの。
それに賭けるには無手で望まなければいけない。
命を死地にさらさなければいけない。
だが。
「君の親友ならきっと諦めなかったと思う。
思いたい。だから、キャンチョメ。
俺に力を貸してほしい」
「……わかった!
やってやろうぜ弘樹」
キャンチョメは親指を立てながら杉村に応える。
何度も茨に打たれ。
それでも死なぬ二人の男の眼。
その先にあるのは、何か。
「目指すは茨の海の中心だ」
魔本を片手に、ライダーデッキはキャンチョメに預け。
クラウチングスタートに近い前傾姿勢をとる。
「ディマ・ブルク!!」
再度、術を高らかに読み上げると杉村は魔本を
キャンチョメに放り、走る。
その前を行くのは8体のキャンチョメの分身。
だがそれは全てはっきりと実体を持っており。
身を呈して杉村を茨から守る。
走る。走る。
茨の与えるダメージが大きくなろうとも
杉村は決して足を止めない。
3歩。
筋肉がちぎれかける音がその耳に聞こえても
進んだ距離はまだそれだけ。
だが止まってはいない。
四歩目、五歩目。
さらに、さらに!
「くっ……ううおぉ!!」
視界は既に棘の鞭が作った傷と血で埋まっている。
何も見えない。
それでも杉村は駆ける。賭ける!
少女が己の絶望に抗っているからこそ
自分たちは死なずにいられるのだと信じる。
あらゆる物を砕く茨が杉村達を破壊できないはずがない。
生身はそれほど強いものではない。
ならば、答えはきっと。
少女が懸命に傷つけまいとしているからだと
杉村とキャンチョメは信じる。
ガッシュはそう信じただろうと信じる。
目を閉じ。
あらゆる痛みが五感を叩いても、
杉村はただ前を見て。
閉じた瞼の先にも宝石のように尊く美しく輝くような光にむけて。
ただ前へ、両手を伸ばして――
手を伸ばし、脚を動かし。
全身で海を掻きわける。
ガッシュ・ベルが命を救うために炎の海に飛び込んでいったように。
そして、ついにソレを掴む。
守ってくれていたはずのキャンチョメの分身は全て消え。
剥き出しの攻撃が手加減なしかのように襲いかかる。
掴む手の爪が剥がれ、体中が押し潰されるような悲鳴をあげる。
そして、その光が杉村の内にと直接触れて。
感情が濁流のように流れこむ。
それは内に蠢く食い破る者への恐れ。
それは殺し合いへの強い忌避感。
あの遊園地を喰らった火の海が、混沌が、
彼女の中の何かを呼び起こしたのだろう。
だがその感情はきっとまだ対処できる。
懸命に抗おうと淡く輝くそれを感じることができるから。
彼女の恐れの元は、内に蠢く者は今はいないのだから。
茨の棘が体中を傷つけても杉村は構わず
人形の少女、雛苺を抱きしめる。
爪をもって引き裂かぬよう優しく、
爪に恐れを抱かぬようそっと。
そして、牙を剥かぬ口で力強く、
牙をもたない口だからこそ穏やかに言葉を伝える。
「俺達は」
感情の奔流が杉村の心までも壊そうとする。
だが、彼の瞼には炎の中で煌めく金色が色褪せず残り。
「君の味方だ」
その言葉、水面を伝う波のように雛苺へと送り。
揺らめく波紋のように彼女の心を震わせる。
天井を埋め尽くしていた茨は幻だったかのように消え失せ。
雛苺を抱きしめたままの杉村は力が抜けたのか床へと仰向けに倒れこむ。
キャンチョメが歓声をあげながら杉村へ駆け寄ってくる。
「やったよ弘樹!!」
全身に傷を作ったキャンチョメは
同じく傷だらけの杉村に笑顔をむける。
「何やったか全然覚えてないんだけどな」
疲れきった顔の中に達成感を浮かべて杉村は応える。
「いや、もう凄かったんだよ!」
「どんな風に?」
ぼやける頭を起こすように頭を大きく振って、
杉村は尋ねる。
「ええっとねえ……」
顎に手を当ててキャンチョメは相応しい言葉を探す。
「足を動かして。
両手を前に伸ばした……かんじ」
苦心してひねり出したキャンチョメの表現に
杉村は苦笑する。
「それ、誰でもできることなんじゃないか?」
「いや、違うんだよ!
ああ、もうなんて言えばいいかなあ!」
もどかしそうに手を振るキャンチョメを微笑ましそうに見ながら。
杉村はほんの一瞬の邂逅だった少年の姿に想いを馳せる。
――きっと君との出会いがなかったらこうすることはできなかった。
だからこれは君への手向けだ。
眼に浮かぶのは誇り高き金色の眼差し。
暴火に負けない眩しき金色の髪。
「牙も爪も。
俺たちの武器じゃないんだよなやっぱり」
傷だらけの天井を見ながら、静かに、杉村は独り呟き。
――さようなら。
やさしい少年王ガッシュ・ベル。
そして、雛苺の瞼が開く。
【A-7・遊園地の待合室/一日目/午前】
【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
指の爪剥離
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー~新説~ 、仮面ライダータイガのカードデッキ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:七原と合流
1:少し休んだあと、オアシスに行くことを考える
2:時間を見つけて仮面ライダーとしての力の使い方の練習をしたい。
3:城戸真司に会えたら霧島美穂からの伝言を伝える
4:もし、桐山が琴弾を殺したのだとしたら、俺は……
[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後
【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、力への渇望、全身裂傷、疲労(中)
[装備]: キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! 、粘土@現実、ポップコーン@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:ちょっと休んだあと、オアシスに行くことを考える。
2:あの女の人はなんだったんだろ?
3:フォルゴレがいないのになんで呪文が使えたんだろう?
[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
参戦時期:ファウード編以降
【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、クレヨン@現実、人参@現実
[思考・状況]
基本行動方針:誰も傷つかない世界が欲しい。
1:???
※シュナイダーの愛称はウマゴンでいいよねと思っています。
|[[賢者、歴史の道標とダベる]]|投下順|[[薬師寺天膳は大体で5、6回死ぬ]]|
|[[賢者、歴史の道標とダベる]]|時系列順|[[☆北岡秀一☆]]|
|[[優勝者達のエピローグ]]|雛苺|[[歩くような速さで]]|
|~|杉村弘樹|~|
|~|キャンチョメ|~|
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