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**白光のスプンタ・マンユ~What a beautiful hopes~ ◆W91cP0oKww
「移動しようと思っていましたがその必要はなかったようですね……桜見タワーへようこそ、そこの貴方はまた会いましたね」
その男、ヨキは先程までの涙を感じさせない極上の笑顔でにこやかに来客を迎えた。
「わざわざ出迎えご苦労様なことだ、出来れば二度と見たくない顔だったんだがな」
「…………」
「……っ」
おかしな珍道中を繰り広げていた三人、桐山和雄、ハード、翠星石の目の前に有るのは無残にも壊された美神愛の成れの果て。
地面に垂れた血はカピカピになり鮮やかな赤は黒へと変わり地面を染めあげる。
眼球は崩れ落ち、内股から覗いている肉は新鮮さを失い、嗅ぐだけで胃液がこみ上げてきそうなくらいに臭い。
「それで、そいつはお前が殺したのか?」
「ええ、この人は私が殺しました」
至極あっさりと答えるヨキにハードはどうでもいいと軽く流す。
そのぞんざいな反応に翠星石が何かを言おうとするが桐山に止められてぐぬぬとなんとも言えない顔で出かかった言葉を止めた。
いくら嘆いても、怒りをあらわしても、死んだ者は帰ってこない。この場にいる全員がそれを理解していた。
今は死者が出てしまったことを嘆く時ではない。
「そうか……もう一つ聞いてもいいか?」
「いいですよ、何かありましたか?」
「ワタルという参加者に聞き覚えは?」
ワタルを殺した者を必ず殺す。それはハードにとって唯一無二の“願い”である。
希望を刈り取った愚か者には罰を。その者がどんな者であったとしても容赦なく撃ち抜く。
何を喋るまでもなく、理由を聞くまでもなく、殺す。
「いえ、あの放送で私は聞いただけです」
「そうか……」
「ですが、どっちにしろ会ったら私が殺していましたね」
言葉が言い終わるのと同時に銃声が一つ。二つ。三つ。
放たれた三つの銃弾は瞬時に装着されたスプンタ・マンユの装甲によって弾かれた。
弾丸如きでやられるほどちゃちなものではないのだ、護神像というものは。
「もういい……お前は害でしかない、此処で消えろ」
翠星石も、桐山もいつでも動ける態勢を取る。この者をこのままにしておけばさらなる犠牲者が出ることは嫌でも理解できた。
人を殺すことに良心の呵責がないこの男は危険だ、と三人は考える。
ならば、ここで決着をつけたほうが後々にも良い方向へと響く。
「やれやれ……まあいいでしょう。お手柔らかにお願いしますね」
◆ ◆ ◆
坂本竜太は放送も聞かずに恐怖からの逃亡を続けていた。
九一郎の死、チャンによる宣言とそれに付随して襲いかかってきた闘気。
それらの影響からなるストレスにより竜太の心のキャパシティはもう限界を越えている。
(……冗談、じゃねえ)
もう殺しあいなんてしたくない。何処か安全な場所でぐっすりと眠りたい。
これは贅沢な悩みなのだろうか。いや、当たり前の願いだろう。
あくまで一般人である竜太にとってこの世界は害でしかないのだから。
(もう嫌なんだよ、何もかも! オレを休ませてくれ!)
竜太は背中に背負った蒼星石をチラッと見るが起きる気配はまだない。
ともかく戦闘がない場所へ。桜見タワーで休息を取り、しばらく籠城して体力を回復させる。
最初こそは快速だった竜太の足も何時間も走り続けた結果、動きが鈍く時には縺れそうになり限界を迎えていた。
なればこその籠城。これから先、戦うにしても今は休息が歳優先。
それが竜太のプランだった。だが、そのプランは簡単に崩されることとなる。
「ふざけんなよ……」
眼前――桜見タワーで繰り広げられている超常的な戦闘光景を竜太は見てしまった。
銃弾と光る無数の手が飛び交い、付随して樹の枝がうねうねと動くといった常識ではありえない景色。
それに拍車を掛けるのが全員が全員移動が化物じみているということだ。
あそこまで戦えるのは何故。ああ、やはりあの者たちは化物なのか。
竜太が後ずさりし、その場から急いで逃げようとしたその時。
「逃がしませんよ」
スプンタ・マンユから放たれた千手が竜太目がけて迸る。今の竜太では避けること叶わぬ即死の一撃。
そのまま身動きすら取れず貫かれると思いきや黒の風が千手を圧潰する。
「早く、逃げろ」
桐山の短くも明瞭な言葉に竜太は首をブンブンと振り慌てて起き上がり逃げようとするが身体は思い通りに動いてはくれなかった。
今までの走行に体力を奪われた結果である。ニートとして惰眠を貪ってきた竜太の体力は既に底をつきかけていたのだ。
このままここにいたら殺される。竜太はもがきながらも必死に後ろへとはいずるがそんな蟻のような遅さをヨキは見逃す訳がなかった。
「ひっ!」
竜太の悲鳴を耳に聞き、再び飛来する千手を弾きながら、桐山は冷静にこの強大な敵の排除方法よりもどうやってこの先頭から翠星石を逃がすかについて考えていた。
彼はとことんまでに水銀燈の遺言を遂行する騎士である。
『アリスゲームを守る』という言葉を最優先に桐山はこの殺し合いで動くのだ。
なればこそ、最悪のケースを想定して翠星石は命を犠牲にしてでも護らなければならない。
そしてもう一つのキーパーソンがここにある。
(あの男の後ろに背負われているのもローゼンメイデンか。見た目からして蒼星石、と判断できる)
目的に蒼星石の生存も追加。達成難易度はノーマルからハードへと変更。
二人を五体満足に無事に生かすにはこの敵は些か強く、全員で逃げる選択肢は除外される。
ならばどうすればいいか。その為に桐山が編み出した手段は。
「翠星石」
「あ? 今必死にあの変な手をふせ……ってひゃあ!」
「あの二人を護っていろ、片方はお前の会いたがっていた奴だ」
翠星石を竜太の元へと投げ飛ばし、迫り来る千手をデイバックから取り出した刀で斬り落とす。
前衛では自分の他にもハードが両手に持つ拳銃、それに加えて背中から伸びている五本の拳銃である“千銃”を駆使しながら千手を躱しつつも反撃を行っている。
(これでいい)
桐山が考えた手段は簡素なものだった。
前衛の自分とハードでヨキを殺す。翠星石には動けない二人の護りを担当してもらい直接に関わらせない。
もし自分達が倒される可能性があるならば彼女達には逃げるよう説得するだけである。
だがそんなことをせずとも、
「……遅れるなよ、ハード」
「誰にものを言っている。貴様こそ足を引っ張るんじゃないぞ」
ここでヨキを完膚なきまでに殺せば万事解決だ!
まずはハードが牽制含めて放った銃弾が地面を跳ねながらヨキに対して左右上下と様々な角度から迫る。
しかし、銃弾による多重攻撃もヨキのスプンタ・マンユを貫くに値しない。
いくら銃弾を撃ち放っても護神像による装甲に弾かれて足止め程度にしかならなかった。
それでも桐山には一歩を踏みこむ十全たる隙となる。
「斬り崩す――っ!」
次の瞬間、ヨキの眼前に突風が到来した。手には刀を。桐山による横薙ぎに振るわれた一撃はスプンタ・マンユに肉薄する。
これだけでは終わらないし止まらない。追撃の手数を緩めずに刀は風を抉り斬りながらヨキを殺そうと虚空を駆け抜けた。
加えて、援護射撃としてハードが繰る銃弾が桐山の身体の合間を縫うように飛び跳ねる。
「さすがはこのバトルロワイアルで有数の実力者なだけはある。私も攻撃を躱すので精一杯だ」
「そう言ってられるのも今のうちだぞ。もう手は抜かない。私の全力でお前を殺してやる」
銃弾と刀の波状攻撃にヨキは何をするでもなくただ避け続けている。
桐山はハードの指示を受けて的確に躱し、動けない竜太をめがけて千手を放っても翆星石の茨に阻まれてその先には届かない。
戦況は明らかに桐山達の優勢で進んでいた。
そして、この戦闘の核は言うまでもなくハードだ。彼女の絶対的な空間認識能力がこの戦闘を有利に進めている。
「今だっ、進めぇぇええええええ!」
合計七つの拳銃から放たれた銃弾の波が三百六十度の角度からヨキを襲い動きを止める。
刹那、桐山が仮面ライダーとしての身体能力を利用して一気に間合いを詰めて刀を大きく――振るえなかった。
――――――なぜ水銀燈がここにいる?
桐山の目にはもう二度と映ることはないであろう忠義を誓った主の姿が写ってしまった。
それを見て決して止めてはならなかった動きが停止する。
先ほどまでの奇妙な形態の人間とは違ってそこにいるのは水銀燈。
誓いを立てたあの可憐な姿は一寸の違いも見当たらない。
「水銀――」
その言葉は最後まで紡がれない。桐山は思った。
なぜ、自分は腹に痛みを覚えている。なぜ、自分は水銀燈に拳を振るわれている。
それに対しての応えはないまま、桐山は地面に崩れ落ちる。
◆ ◆ ◆
崩れ落ちていく桐山の姿に翠星石は目を見開いた。
退治していた謎の男が突然自分の姉へと姿を変えた。そして、その姉が桐山を吹き飛ばした。
頭の中にはクエスチョンマークがポンポンと出てくる。
「き、さまっ!」
吹き飛ぶ桐山に巻き込まれて態勢を崩したハードが立ち上がり取りこぼした拳銃を拾い前へと向ける。
今すぐにでも銃弾をめちゃくちゃに撃ち放ってでも距離を取らなければ。
そう瞬時に判断し、ハードは顔を上げて前を見据える。
そして、ハードもまたもう見ることはない幻想を見ることとなる。
「ワタル……!」
わかっている、わかっているのだ。これがヨキの見せる幻想であり本物のワタルはもうこの世にはいないということに。
それでもワタルなのだ。何処からどう見ても彼にしか見えないのだ。
ハードは今すぐにでも引かなければならないのに銃爪を引くことに躊躇を覚えてしまった。
銃把を握り、標的を定め、銃爪を引いて銃弾を放つ。
ただそれだけのことなのに。指が震えてしまったのは、一瞬でも迷ってしまったのは自分の弱さなのだろう。
「あ…………」
「君は脆いね、だけどそれでこそ私が憎む赤き血の人間だ」
ワタルの姿をしたヨキによるまっすぐに突き出された拳がハードの腹を貫いた。力を失った身体からは血をダムから放出される水のように流れだす。
翆星石にはハードが銃爪を引くのをためらった理由がはっきりとはわからなかったが大体は理解できる。
彼はきっとハードにとっては大切な人だったのだろう、と。
「さてと、残るのは君達だけだよ」
ヨキはゆっくりと、されど悠然と翆星石達へと迫る。
その訳もわからぬ迫力に翆星石は思わず喉を鳴らす。
こちらの残存戦力はもう自分一人しかいない。
横でへたりこんでいる男はもう見るからに限界。蒼星石は未だ目を覚まさない。
「お前、もれ人間が言ってた……ヨキ先生?」
「ほう、君はシオに会っていたのかい?」
「……もれ人間は翠星石をかばって死んだですぅ」
脳裏にはシオの底抜けに明るい笑顔が容易に浮かぶ。
命を犠牲にしてでも翠星石を守ったその意志は護神像の継承によって嘘偽りのない綺麗なものだったということが嫌になるくらいにわかっている。
それなのに、自分は。
「翠星石はもれ人間を信じてやれなかったですぅ。きっとこいつも裏切る、そう思っていたですぅ」
きっと裏切る。今までと同じように平気な顔をしてヘドロのような感情をぶちまけられて自分はまた落胆する。
勝手に落胆して、人間は汚いと思って。それらの繰り返しを延々と続けてきた。
そして、この殺し合いの場でもその繰り返しは終わらなかった。
「それでももれ人間は翆星石を命がけで護ってくれたですぅ。最後まで信じきれなかったのに……」
彼を見捨てて逃げた自分のほうが本当の裏切り者だった。あの時一緒に戦っていればシオは死ななかったのかもしれない。
一つの命は失われずに尚も輝きを増していたのかもしれない。その輝ける機会を奪ったのは翆星石本人だ。
自分の臆病な心が原因で大切なモノを失ってしまった。
「この護神像を受け継いで初めて知ったですぅ。もれ人間が背負ってきたものの重さが。
もれ人間が最期まで闘いの果てにある平和を願っていたことも」
翆星石はアールマティの“願い”がインストールされたことにより防人の全てを知ってしまった。
防人達の生きたいという、幸せになりたいという思いが嫌でも流れこんでくる。
痛みに耐えつつも一つずつ受け入れた“願い”、そして最後にインストールされたのはシオの願いだった。
皆が笑って暮らせればいいのに。宿命なんてなくなって自由気ままに生きることが出来ればいいのに。
その願いのインストールを終えた後に待っていたのはどこか穴が開いたような喪失だった。
これらの願いは叶えられることなくこの地で沈んでしまった。幾多もの防人と一緒に薄くなっていく。
「だから背負うですぅ、忘れないですぅ。アールマティに溜め込まれていた願い、もれ人間の願いも含めて……!」
例えそれらの願いが薄くなったとしても無駄にはしてたまるものか。
何一つ忘れずに自分は最期まで生き抜いてみせる。重くて苦しくて、倒れかけても絶対に。
誰の為でもない、自分自身がそう望んでいる。
「君に止められるのかい? 私の護神像を! 神様の玩具如きが!」
「翠星石が止めるんじゃないですぅ」
どんな時でも独りじゃない。翆星石にはわかるのだ、アールマティの中にシオがいることに。
頑張れ、そう言ってくれていると。
だから――
「アールマティに溜め込まれた願いともれ人間の願い、翆星石の願いのみんながお前を止めるんですぅっっっ!!」
――翆星石はもう迷わない。
合体。翆星石にまとわりつき、装甲が完成する。
ここに元の世界では叶わなかったスプンタ・マンユとアールマティの決着の場が整った。
「君も戦うのか……自ら闘いの渦に飲み込まれようとする者を見逃す程私は甘くない」
空に無数の手が浮かび上がる。空に浮かんだ千手は刹那に輝き、翆星石を飲み込もうと牙をむく。
それら全ては必殺たる一撃。今のヨキにもはや手加減はない。
「邪魔ですぅ……!」
縦横無尽に迫る千手をアールマティの特性である硬化を利用して力強く握り潰す。
この程度の攻撃を乗り越えられないのではヨキを倒すなど夢のまた夢である。
叩いて、殴って、蹴り飛ばして。そうして全部の千手が消失する頃には再び、千手の第二陣がすぐに迫ってくる。
翆星石はその場で立ち止まりそれらを受け止める他ない。
「どんなに美麗な言葉を並べたとしても結局の所、君は一人だ。一人で戦うには限界があるだろう?」
「……っ」
右から来る千手を拳を叩きつけることで潰し、正面から胸めがけて迸った千手は踏み潰してそのまま大地を蹴り上げてヨキめがけて全速力で駆け抜ける。
だが、その動きは次々に現れてくる千手が阻害することで意味を成さない。
いくら翆星石が戦えるとしてもヨキが言ったとおり限度があるのだ。
たった一人で戦うには眼の前にいる敵は強すぎる。
「一人じゃねぇよ、ばーか」
その言葉が二人の耳に聞こえたのと同時にヨキめがけて何かが投擲された。
間一髪で投擲の直撃は避けはしたが、“何か”から発生した爆炎がスプンタ・マンユに直撃し身を焦がす。
焼け付くような熱さでヨキは身をくねらせて苦痛の表情を浮かべる。
「君は……!」
「本当は黙って逃げればよかったのかなって思ってた。だけど、逃げてどうなる? 何かが変わるのか? 何も変わんねーよな。
最終的に惨めにクソみたいな死に様晒すだけだ。それに、アンタが素直に逃がしてくれそうになかったしな」
投擲の正体はBMフレイム型。翆星石との戦闘にヨキが気を取られている隙に竜太は桐山のデイバックを漁って発見したのだ。
「ならさ、立ち向かうしかねえだろ。クソゲーのバグキャラみてぇな強キャラにでも」
これがあれば立ち向かえる。この何もかもが崩れて狂ってしまった世界でも自分は坂本竜太として生きていける。
BIMを使って人を殺すということに竜太はまだ覚悟はしきれていない。
だが目の前で誰かが死んでいくことにはもう耐え切れなかった。
ならば、例え罪を負ってでも進むべきなのではないか。今は、わからぬ道筋なれどいつかはきっと光が見えるのではないか。
その手始めに翆星石を助ける。そう決めたのだ。
「そういうことだ、ガキ。お前は一人じゃない」
「たかが一人増えた所で何が変わる!? 何も変わらないよ!」
「そう、なら僕も加われば少しは変わるんじゃないかな」
千手を次々と切り落としていく一人の人形がニコリと笑みを浮かべる。
「蒼星石…………!」
「目が覚めたばかりで状況は余りつかめていないけど。取りあえずは貴方を倒すということに結論はついたよ」
竜太と蒼星石は翆星石の横に並び立ち、互いに得物を取ってヨキを強く睨みつける。
三人の迷わぬ瞳にヨキは思わず後ろに一歩下がってしまう。
ああ苛立たしい。自分の体内に流れている黒き血が憎悪で煮えたぎる。
なぜそんな目が出来るのだ。なぜ強大な力に意志を崩さないのだ、諦めを表に出さないのだ。
殺してやる。このスプンタ・マンユの力で眼前の敵を塵一つ残すことなく殲滅してやる。
「ガキ、援護はオレ達がやる」
「後ろのことはいいから。翆星石は前に進むことだけを考えていればいい」
そして二人の援護を受け、翆星石は少しずつではあるが前へと確実に攻め上る。
護神像を受け継いだ翆星石にはわかる。地力ではヨキの方が有利であり、持久戦だとジリ貧であるということに。
今の翆星石がヨキに打ち勝つ方法はただ一つだけ。一点集中の攻撃を放ちこの闘いにピリオドを打つという単純明快なやり方だ。
「あああああああああああっ!!!!! 穿けぇェえええぇええぇぇぇえええええええええええ!!!!」
特攻形態。この一撃に願いの全てをかける。敗北は死だ、ああ負けてなるものか。
身体を沈ませて拳を後ろに大きく弓のように引き絞る。
瞬間、銃弾を放つかの如く光速の一撃を叩き込む!
「っァ……!!」
力の使いすぎで頭にノイズが走る。気にするものか、その程度シオが受けた痛みに比べたら小さい。
もう、後ろの心配をする必要はない、翆星石には仲間がいる。
今の翆星石に出来ることは仲間達を信じて眼前の敵を倒すことだけだ。
それこそがこれからの未来を創る唯一の方法なのだから。
「いい一撃です、だがその程度……私には届かない!」
「ならば私も加わればどうだ?」
そして立ち上がる一人の狙撃手。その目には砕けて飛び散った意志が再び集まっていた。
ハードは血を口からゴボゴボと吐きながら一歩ずつしっかりとした足取りで地面を踏む。
両手に持つ拳銃の行く末は翆星石とヨキの激突点。余波を受けるだけでも体に負担がかかるというのに歩みは止まらない。
停滞は、死だ。立ち止まっている暇があるなら動け。
「……私の今ある生命力の全てをお前にぶつける。さすがに無傷ではいられないだろう?」
「……正気ですか。今なら手当をすれば貴方はまだ生き延びることが出来るんですよ」
「正気さ。だって、私の願いは――」
笑う。哂う。嘲う。ハードは何もかもがおかしいと言わんばかりにケラケラと声を上げてはいるが、どこかその顔には清々しさが感じられる。
それはハードが何よりも望んだことだから。
愛する男を失う以前から抱いていた原初たる意志だから。
「誰かを護ることなのだからな」
封印魔法――蛇蝎垓流星。アールマティの一撃に相乗するように発射された光は強くきらめいた。
その輝きはこの世界の極々一部にしか届かないが尊かった。
太陽が浮かぶ蒼穹の空の下で生まれ、見る者は強いと感じる光。何かを為そうと地獄の戦場で強く咲く花のように。
(結局、ワタルの仇は討てずじまいか)
この世界で早々に散ったワタルのことを思うと胸が痛くなる。
なぜ彼が死ななければならなかったのか。死ぬ寸前になっても明確な答えはでなかった。
死んではならなかった者が死ぬこの地獄のゲーム。そして、結局は自分も死ぬのだから笑うしかない。
(それでも、)
志半ばでの死。ワタルを殺した者を殺すという願いは果たされないし、たまたまこの会場で出会った人形を助ける為に死ぬ。
だが、その行動はまさしく勇者の行動ではないか。ワタルのような綺麗な意志を持つ英雄そのものだ。
自分はそんなもの、柄ではないというのに。
だけど、不思議と嫌な気分ではなかった。むしろ、澄んだ空を見ているような、そんな感覚。
自分の身が誰かの明日への一歩を助けるものであれば。護れるものであれば。
「この結末に後悔なんて、ない」
全ての終が終える世界での狙撃手の光は絶望を貫き希望の筋を描いた。
◆ ◆ ◆
「終わった、のか?」
竜太は眼の前で起こった光景についていけなかった。
結局どうなったのか。誰が死んで誰が生き残ったのか。
ハードの封印魔法の余波によって倒壊した桜見タワーだけが確かなものとして目に映る。
「あれだけの攻撃を直撃したんだ。どう見ても無事だとは思えないね」
「ならいいけどな。そういやあのガキはどこだよ?」
「翆星石ならあそこに……」
力を使い果たして地面に倒れこんでいる翆星石の姿が見える。
それと同時に見えてはいけないものまで見えてしまった。
二人に見えたのは光る手――千手。
どうして!? ヨキは死んだのではないのか!? 二人がその疑問を抱いている間にも千手は止まらない。
千手による一撃が翆星石を貫こうと一直線に閃く。
力を使い果たして動けない翆星石に躱す術はなく、竜太も蒼星石も護るにしては距離が遠すぎる。
二人はこのままヨキの千手により貫かれる翆星石の姿を想像してしまった。
もう、間に合わない。諦めの情が嫌でも浮かび上がる。
そう、ただ一人を除いて。
「護ると、誓った」
千手が翆星石に届く直前に黒の風が代わりに受け止める。
桐山は翆星石が千手に当たらないよう全身を強く抱きしめて後ろへと下がっていく。
翆星石の体は抱きしめたら壊れてしまいそうなくらいに華奢で頼りなかった。
それでも両手は離さない。この手を離してしまったら誓いを破ってしまいそうだから。
自分にとって誓いは絶対であり生命よりも優先されるものだ。
この身体を物言わぬ盾にしてでも護り抜かなければならない。
だが、その代償は大きかった。
「ぐっ……」
桐山は口から赤い血を咳と混じらせて苦しそうに吐き出した。
そのまま片膝を地面につき、乱れた息を必死に整える。
痛みに身体を丸めながらも前を見ることは決して止めはしない。
なぜならそこにはまだ敵がいるから。
「さてと君達」
崩壊した桜見タワーの瓦礫の中から現れる白の魔人。元は純白だったスプンタ・マンユも煤と血で濡れて元の色はほとんど残っていない。
黒き血の賢者はまだ死んではいなかった。絶望は消え去ってはいないのだ。
ヨキが消え去る時は赤き血を持つ神を根絶やしにするまで。まだ死ぬべき時ではない。
勇気、友情、勝利、大いに結構。だが、それがどうした。この黒の意志を崩す理由には至らない。
悪も善もなく血反吐と臓器がぐちゃぐちゃに混ぜ込まれたこの世界で――。
「もう一度、絶望してもらおうか」
&color(red){【ハード@ブレイブ・ストーリー~新説~ 死亡確認】}
【E-4/崩壊桜見タワー/午前】
【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(大)、気絶
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、護神像アールマティ@waqwaq
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:ヨキを倒す。
2:アールマティと行動を共にする。
3:姉妹を探す。
4:最後の姉妹がいるかもしれない…
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。
【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:健康、ダメージ(大)、重傷?
[装備]:カードデッキ(リュウガ)
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
水銀燈の首輪、不明支給品1、水銀燈の羽
エディアール家の刀@waqwaq 、七夜盲の秘薬@バジリスク
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:ヨキを殺す。
2:協力者を求める(ローゼンメイデン優先)
3:ローザミスティカをローゼンメイデンの元に集める。
4:黒い騎士からローザミスティカを取り戻す
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
【坂本竜太@BTOOOM!】
[状態]:後頭部に痛み、現実感の喪失? 圧倒的恐怖を塗り替える勇気
[装備]:フレイム型BIM×5@BTOOOM!、デリンジャー(2/2)@現実、レーダー@BTOOOM!
[道具]:基本支給品、予備弾薬12発、
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルからの脱出
1:ヨキを倒す。
2:平さんに癒されたい
[参戦時期]ヒミコの名前を認識する前から参戦。
ヒミコと合流しているかどうかは後の書き手にお任せします
【蒼星石@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(小)
[装備]:庭師の鋏@ローゼンメイデン 、神業級の職人の本@ローゼンメイデン、
葬いのボサ・ノバ@銀齢の果て
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻る。
1:ヨキを倒す。
2:少女(ティオ)の夢の世界に入りたい
3:九一郎と行動を共にする。
3:ドールズと合流する。
4:雛苺を警戒。
5:水銀燈にローゼミスティカを返すよう言われたら……?
【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(大)、BMによる火傷
[装備]:スプンタ・マンユ@WaqWaq、首輪探知機@オリジナル 、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、
夜叉丸の糸@バジリスク、スタンガン@BTOOOM!、BIM(タイマー型)@BTOOOM!(8/8)
[道具]:基本支給品×3、手鏡、果物ナイフ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:残りの敵を殲滅する。
※美神愛の日記はすべて破棄されました。
※ヒミコのレーダーは手に埋め込むことはできませんが意識を集中させることで
レーダーの役割を果たすことはできます。感度は当然普通に使うよりも落ちます。
※近くにハードの死体、千銃@ブレイブ・ストーリー~新説~、基本支給品、ブーメラン@バトルロワイアルが落ちています。
|[[優しさに飢える少女]]|投下順|[[立ち上がれども]]|
|[優しさに飢える少女]]|時系列順|[[Dear My Friend]]|
|[[まもるヒトたち]]|ハード|&color(red){GAME OVER}|
|~|翠星石|[[弔いのボサ・ノバ]]|
|~|桐山和雄|~|
|[[ニートの異常な恐怖~また俺は如何にして働きたくねえと思うようになったか~]]|坂本竜太|~|
|~|蒼星石|~|
|賢者、歴史の道標とダベる|ヨキ|~|
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**白光のスプンタ・マンユ~What a beautiful hopes~ ◆W91cP0oKww
「移動しようと思っていましたがその必要はなかったようですね……桜見タワーへようこそ、そこの貴方はまた会いましたね」
その男、ヨキは先程までの涙を感じさせない極上の笑顔でにこやかに来客を迎えた。
「わざわざ出迎えご苦労様なことだ、出来れば二度と見たくない顔だったんだがな」
「…………」
「……っ」
おかしな珍道中を繰り広げていた三人、桐山和雄、ハード、翠星石の目の前に有るのは無残にも壊された美神愛の成れの果て。
地面に垂れた血はカピカピになり鮮やかな赤は黒へと変わり地面を染めあげる。
眼球は崩れ落ち、内股から覗いている肉は新鮮さを失い、嗅ぐだけで胃液がこみ上げてきそうなくらいに臭い。
「それで、そいつはお前が殺したのか?」
「ええ、この人は私が殺しました」
至極あっさりと答えるヨキにハードはどうでもいいと軽く流す。
そのぞんざいな反応に翠星石が何かを言おうとするが桐山に止められてぐぬぬとなんとも言えない顔で出かかった言葉を止めた。
いくら嘆いても、怒りをあらわしても、死んだ者は帰ってこない。この場にいる全員がそれを理解していた。
今は死者が出てしまったことを嘆く時ではない。
「そうか……もう一つ聞いてもいいか?」
「いいですよ、何かありましたか?」
「ワタルという参加者に聞き覚えは?」
ワタルを殺した者を必ず殺す。それはハードにとって唯一無二の“願い”である。
希望を刈り取った愚か者には罰を。その者がどんな者であったとしても容赦なく撃ち抜く。
何を喋るまでもなく、理由を聞くまでもなく、殺す。
「いえ、あの放送で私は聞いただけです」
「そうか……」
「ですが、どっちにしろ会ったら私が殺していましたね」
言葉が言い終わるのと同時に銃声が一つ。二つ。三つ。
放たれた三つの銃弾は瞬時に装着されたスプンタ・マンユの装甲によって弾かれた。
弾丸如きでやられるほどちゃちなものではないのだ、護神像というものは。
「もういい……お前は害でしかない、此処で消えろ」
翠星石も、桐山もいつでも動ける態勢を取る。この者をこのままにしておけばさらなる犠牲者が出ることは嫌でも理解できた。
人を殺すことに良心の呵責がないこの男は危険だ、と三人は考える。
ならば、ここで決着をつけたほうが後々にも良い方向へと響く。
「やれやれ……まあいいでしょう。お手柔らかにお願いしますね」
◆ ◆ ◆
坂本竜太は放送も聞かずに恐怖からの逃亡を続けていた。
九一郎の死、チャンによる宣言とそれに付随して襲いかかってきた闘気。
それらの影響からなるストレスにより竜太の心のキャパシティはもう限界を越えている。
(……冗談、じゃねえ)
もう殺しあいなんてしたくない。何処か安全な場所でぐっすりと眠りたい。
これは贅沢な悩みなのだろうか。いや、当たり前の願いだろう。
あくまで一般人である竜太にとってこの世界は害でしかないのだから。
(もう嫌なんだよ、何もかも! オレを休ませてくれ!)
竜太は背中に背負った蒼星石をチラッと見るが起きる気配はまだない。
ともかく戦闘がない場所へ。桜見タワーで休息を取り、しばらく籠城して体力を回復させる。
最初こそは快速だった竜太の足も何時間も走り続けた結果、動きが鈍く時には縺れそうになり限界を迎えていた。
なればこその籠城。これから先、戦うにしても今は休息が歳優先。
それが竜太のプランだった。だが、そのプランは簡単に崩されることとなる。
「ふざけんなよ……」
眼前――桜見タワーで繰り広げられている超常的な戦闘光景を竜太は見てしまった。
銃弾と光る無数の手が飛び交い、付随して樹の枝がうねうねと動くといった常識ではありえない景色。
それに拍車を掛けるのが全員が全員移動が化物じみているということだ。
あそこまで戦えるのは何故。ああ、やはりあの者たちは化物なのか。
竜太が後ずさりし、その場から急いで逃げようとしたその時。
「逃がしませんよ」
スプンタ・マンユから放たれた千手が竜太目がけて迸る。今の竜太では避けること叶わぬ即死の一撃。
そのまま身動きすら取れず貫かれると思いきや黒の風が千手を圧潰する。
「早く、逃げろ」
桐山の短くも明瞭な言葉に竜太は首をブンブンと振り慌てて起き上がり逃げようとするが身体は思い通りに動いてはくれなかった。
今までの走行に体力を奪われた結果である。ニートとして惰眠を貪ってきた竜太の体力は既に底をつきかけていたのだ。
このままここにいたら殺される。竜太はもがきながらも必死に後ろへとはいずるがそんな蟻のような遅さをヨキは見逃す訳がなかった。
「ひっ!」
竜太の悲鳴を耳に聞き、再び飛来する千手を弾きながら、桐山は冷静にこの強大な敵の排除方法よりもどうやってこの先頭から翠星石を逃がすかについて考えていた。
彼はとことんまでに水銀燈の遺言を遂行する騎士である。
『アリスゲームを守る』という言葉を最優先に桐山はこの殺し合いで動くのだ。
なればこそ、最悪のケースを想定して翠星石は命を犠牲にしてでも護らなければならない。
そしてもう一つのキーパーソンがここにある。
(あの男の後ろに背負われているのもローゼンメイデンか。見た目からして蒼星石、と判断できる)
目的に蒼星石の生存も追加。達成難易度はノーマルからハードへと変更。
二人を五体満足に無事に生かすにはこの敵は些か強く、全員で逃げる選択肢は除外される。
ならばどうすればいいか。その為に桐山が編み出した手段は。
「翠星石」
「あ? 今必死にあの変な手をふせ……ってひゃあ!」
「あの二人を護っていろ、片方はお前の会いたがっていた奴だ」
翠星石を竜太の元へと投げ飛ばし、迫り来る千手をデイバックから取り出した刀で斬り落とす。
前衛では自分の他にもハードが両手に持つ拳銃、それに加えて背中から伸びている五本の拳銃である“千銃”を駆使しながら千手を躱しつつも反撃を行っている。
(これでいい)
桐山が考えた手段は簡素なものだった。
前衛の自分とハードでヨキを殺す。翠星石には動けない二人の護りを担当してもらい直接に関わらせない。
もし自分達が倒される可能性があるならば彼女達には逃げるよう説得するだけである。
だがそんなことをせずとも、
「……遅れるなよ、ハード」
「誰にものを言っている。貴様こそ足を引っ張るんじゃないぞ」
ここでヨキを完膚なきまでに殺せば万事解決だ!
まずはハードが牽制含めて放った銃弾が地面を跳ねながらヨキに対して左右上下と様々な角度から迫る。
しかし、銃弾による多重攻撃もヨキのスプンタ・マンユを貫くに値しない。
いくら銃弾を撃ち放っても護神像による装甲に弾かれて足止め程度にしかならなかった。
それでも桐山には一歩を踏みこむ十全たる隙となる。
「斬り崩す――っ!」
次の瞬間、ヨキの眼前に突風が到来した。手には刀を。桐山による横薙ぎに振るわれた一撃はスプンタ・マンユに肉薄する。
これだけでは終わらないし止まらない。追撃の手数を緩めずに刀は風を抉り斬りながらヨキを殺そうと虚空を駆け抜けた。
加えて、援護射撃としてハードが繰る銃弾が桐山の身体の合間を縫うように飛び跳ねる。
「さすがはこのバトルロワイアルで有数の実力者なだけはある。私も攻撃を躱すので精一杯だ」
「そう言ってられるのも今のうちだぞ。もう手は抜かない。私の全力でお前を殺してやる」
銃弾と刀の波状攻撃にヨキは何をするでもなくただ避け続けている。
桐山はハードの指示を受けて的確に躱し、動けない竜太をめがけて千手を放っても翆星石の茨に阻まれてその先には届かない。
戦況は明らかに桐山達の優勢で進んでいた。
そして、この戦闘の核は言うまでもなくハードだ。彼女の絶対的な空間認識能力がこの戦闘を有利に進めている。
「今だっ、進めぇぇええええええ!」
合計七つの拳銃から放たれた銃弾の波が三百六十度の角度からヨキを襲い動きを止める。
刹那、桐山が仮面ライダーとしての身体能力を利用して一気に間合いを詰めて刀を大きく――振るえなかった。
――――――なぜ水銀燈がここにいる?
桐山の目にはもう二度と映ることはないであろう忠義を誓った主の姿が写ってしまった。
それを見て決して止めてはならなかった動きが停止する。
先ほどまでの奇妙な形態の人間とは違ってそこにいるのは水銀燈。
誓いを立てたあの可憐な姿は一寸の違いも見当たらない。
「水銀――」
その言葉は最後まで紡がれない。桐山は思った。
なぜ、自分は腹に痛みを覚えている。なぜ、自分は水銀燈に拳を振るわれている。
それに対しての応えはないまま、桐山は地面に崩れ落ちる。
◆ ◆ ◆
崩れ落ちていく桐山の姿に翠星石は目を見開いた。
退治していた謎の男が突然自分の姉へと姿を変えた。そして、その姉が桐山を吹き飛ばした。
頭の中にはクエスチョンマークがポンポンと出てくる。
「き、さまっ!」
吹き飛ぶ桐山に巻き込まれて態勢を崩したハードが立ち上がり取りこぼした拳銃を拾い前へと向ける。
今すぐにでも銃弾をめちゃくちゃに撃ち放ってでも距離を取らなければ。
そう瞬時に判断し、ハードは顔を上げて前を見据える。
そして、ハードもまたもう見ることはない幻想を見ることとなる。
「ワタル……!」
わかっている、わかっているのだ。これがヨキの見せる幻想であり本物のワタルはもうこの世にはいないということに。
それでもワタルなのだ。何処からどう見ても彼にしか見えないのだ。
ハードは今すぐにでも引かなければならないのに銃爪を引くことに躊躇を覚えてしまった。
銃把を握り、標的を定め、銃爪を引いて銃弾を放つ。
ただそれだけのことなのに。指が震えてしまったのは、一瞬でも迷ってしまったのは自分の弱さなのだろう。
「あ…………」
「君は脆いね、だけどそれでこそ私が憎む赤き血の人間だ」
ワタルの姿をしたヨキによるまっすぐに突き出された拳がハードの腹を貫いた。力を失った身体からは血をダムから放出される水のように流れだす。
翆星石にはハードが銃爪を引くのをためらった理由がはっきりとはわからなかったが大体は理解できる。
彼はきっとハードにとっては大切な人だったのだろう、と。
「さてと、残るのは君達だけだよ」
ヨキはゆっくりと、されど悠然と翆星石達へと迫る。
その訳もわからぬ迫力に翆星石は思わず喉を鳴らす。
こちらの残存戦力はもう自分一人しかいない。
横でへたりこんでいる男はもう見るからに限界。蒼星石は未だ目を覚まさない。
「お前、もれ人間が言ってた……ヨキ先生?」
「ほう、君はシオに会っていたのかい?」
「……もれ人間は翠星石をかばって死んだですぅ」
脳裏にはシオの底抜けに明るい笑顔が容易に浮かぶ。
命を犠牲にしてでも翠星石を守ったその意志は護神像の継承によって嘘偽りのない綺麗なものだったということが嫌になるくらいにわかっている。
それなのに、自分は。
「翠星石はもれ人間を信じてやれなかったですぅ。きっとこいつも裏切る、そう思っていたですぅ」
きっと裏切る。今までと同じように平気な顔をしてヘドロのような感情をぶちまけられて自分はまた落胆する。
勝手に落胆して、人間は汚いと思って。それらの繰り返しを延々と続けてきた。
そして、この殺し合いの場でもその繰り返しは終わらなかった。
「それでももれ人間は翆星石を命がけで護ってくれたですぅ。最後まで信じきれなかったのに……」
彼を見捨てて逃げた自分のほうが本当の裏切り者だった。あの時一緒に戦っていればシオは死ななかったのかもしれない。
一つの命は失われずに尚も輝きを増していたのかもしれない。その輝ける機会を奪ったのは翆星石本人だ。
自分の臆病な心が原因で大切なモノを失ってしまった。
「この護神像を受け継いで初めて知ったですぅ。もれ人間が背負ってきたものの重さが。
もれ人間が最期まで闘いの果てにある平和を願っていたことも」
翆星石はアールマティの“願い”がインストールされたことにより防人の全てを知ってしまった。
防人達の生きたいという、幸せになりたいという思いが嫌でも流れこんでくる。
痛みに耐えつつも一つずつ受け入れた“願い”、そして最後にインストールされたのはシオの願いだった。
皆が笑って暮らせればいいのに。宿命なんてなくなって自由気ままに生きることが出来ればいいのに。
その願いのインストールを終えた後に待っていたのはどこか穴が開いたような喪失だった。
これらの願いは叶えられることなくこの地で沈んでしまった。幾多もの防人と一緒に薄くなっていく。
「だから背負うですぅ、忘れないですぅ。アールマティに溜め込まれていた願い、もれ人間の願いも含めて……!」
例えそれらの願いが薄くなったとしても無駄にはしてたまるものか。
何一つ忘れずに自分は最期まで生き抜いてみせる。重くて苦しくて、倒れかけても絶対に。
誰の為でもない、自分自身がそう望んでいる。
「君に止められるのかい? 私の護神像を! 神様の玩具如きが!」
「翠星石が止めるんじゃないですぅ」
どんな時でも独りじゃない。翆星石にはわかるのだ、アールマティの中にシオがいることに。
頑張れ、そう言ってくれていると。
だから――
「アールマティに溜め込まれた願いともれ人間の願い、翆星石の願いのみんながお前を止めるんですぅっっっ!!」
――翆星石はもう迷わない。
合体。翆星石にまとわりつき、装甲が完成する。
ここに元の世界では叶わなかったスプンタ・マンユとアールマティの決着の場が整った。
「君も戦うのか……自ら闘いの渦に飲み込まれようとする者を見逃す程私は甘くない」
空に無数の手が浮かび上がる。空に浮かんだ千手は刹那に輝き、翆星石を飲み込もうと牙をむく。
それら全ては必殺たる一撃。今のヨキにもはや手加減はない。
「邪魔ですぅ……!」
縦横無尽に迫る千手をアールマティの特性である硬化を利用して力強く握り潰す。
この程度の攻撃を乗り越えられないのではヨキを倒すなど夢のまた夢である。
叩いて、殴って、蹴り飛ばして。そうして全部の千手が消失する頃には再び、千手の第二陣がすぐに迫ってくる。
翆星石はその場で立ち止まりそれらを受け止める他ない。
「どんなに美麗な言葉を並べたとしても結局の所、君は一人だ。一人で戦うには限界があるだろう?」
「……っ」
右から来る千手を拳を叩きつけることで潰し、正面から胸めがけて迸った千手は踏み潰してそのまま大地を蹴り上げてヨキめがけて全速力で駆け抜ける。
だが、その動きは次々に現れてくる千手が阻害することで意味を成さない。
いくら翆星石が戦えるとしてもヨキが言ったとおり限度があるのだ。
たった一人で戦うには眼の前にいる敵は強すぎる。
「一人じゃねぇよ、ばーか」
その言葉が二人の耳に聞こえたのと同時にヨキめがけて何かが投擲された。
間一髪で投擲の直撃は避けはしたが、“何か”から発生した爆炎がスプンタ・マンユに直撃し身を焦がす。
焼け付くような熱さでヨキは身をくねらせて苦痛の表情を浮かべる。
「君は……!」
「本当は黙って逃げればよかったのかなって思ってた。だけど、逃げてどうなる? 何かが変わるのか? 何も変わんねーよな。
最終的に惨めにクソみたいな死に様晒すだけだ。それに、アンタが素直に逃がしてくれそうになかったしな」
投擲の正体はBMフレイム型。翆星石との戦闘にヨキが気を取られている隙に竜太は桐山のデイバックを漁って発見したのだ。
「ならさ、立ち向かうしかねえだろ。クソゲーのバグキャラみてぇな強キャラにでも」
これがあれば立ち向かえる。この何もかもが崩れて狂ってしまった世界でも自分は坂本竜太として生きていける。
BIMを使って人を殺すということに竜太はまだ覚悟はしきれていない。
だが目の前で誰かが死んでいくことにはもう耐え切れなかった。
ならば、例え罪を負ってでも進むべきなのではないか。今は、わからぬ道筋なれどいつかはきっと光が見えるのではないか。
その手始めに翆星石を助ける。そう決めたのだ。
「そういうことだ、ガキ。お前は一人じゃない」
「たかが一人増えた所で何が変わる!? 何も変わらないよ!」
「そう、なら僕も加われば少しは変わるんじゃないかな」
千手を次々と切り落としていく一人の人形がニコリと笑みを浮かべる。
「蒼星石…………!」
「目が覚めたばかりで状況は余りつかめていないけど。取りあえずは貴方を倒すということに結論はついたよ」
竜太と蒼星石は翆星石の横に並び立ち、互いに得物を取ってヨキを強く睨みつける。
三人の迷わぬ瞳にヨキは思わず後ろに一歩下がってしまう。
ああ苛立たしい。自分の体内に流れている黒き血が憎悪で煮えたぎる。
なぜそんな目が出来るのだ。なぜ強大な力に意志を崩さないのだ、諦めを表に出さないのだ。
殺してやる。このスプンタ・マンユの力で眼前の敵を塵一つ残すことなく殲滅してやる。
「ガキ、援護はオレ達がやる」
「後ろのことはいいから。翆星石は前に進むことだけを考えていればいい」
そして二人の援護を受け、翆星石は少しずつではあるが前へと確実に攻め上る。
護神像を受け継いだ翆星石にはわかる。地力ではヨキの方が有利であり、持久戦だとジリ貧であるということに。
今の翆星石がヨキに打ち勝つ方法はただ一つだけ。一点集中の攻撃を放ちこの闘いにピリオドを打つという単純明快なやり方だ。
「あああああああああああっ!!!!! 穿けぇェえええぇええぇぇぇえええええええええええ!!!!」
特攻形態。この一撃に願いの全てをかける。敗北は死だ、ああ負けてなるものか。
身体を沈ませて拳を後ろに大きく弓のように引き絞る。
瞬間、銃弾を放つかの如く光速の一撃を叩き込む!
「っァ……!!」
力の使いすぎで頭にノイズが走る。気にするものか、その程度シオが受けた痛みに比べたら小さい。
もう、後ろの心配をする必要はない、翆星石には仲間がいる。
今の翆星石に出来ることは仲間達を信じて眼前の敵を倒すことだけだ。
それこそがこれからの未来を創る唯一の方法なのだから。
「いい一撃です、だがその程度……私には届かない!」
「ならば私も加わればどうだ?」
そして立ち上がる一人の狙撃手。その目には砕けて飛び散った意志が再び集まっていた。
ハードは血を口からゴボゴボと吐きながら一歩ずつしっかりとした足取りで地面を踏む。
両手に持つ拳銃の行く末は翆星石とヨキの激突点。余波を受けるだけでも体に負担がかかるというのに歩みは止まらない。
停滞は、死だ。立ち止まっている暇があるなら動け。
「……私の今ある生命力の全てをお前にぶつける。さすがに無傷ではいられないだろう?」
「……正気ですか。今なら手当をすれば貴方はまだ生き延びることが出来るんですよ」
「正気さ。だって、私の願いは――」
笑う。哂う。嘲う。ハードは何もかもがおかしいと言わんばかりにケラケラと声を上げてはいるが、どこかその顔には清々しさが感じられる。
それはハードが何よりも望んだことだから。
愛する男を失う以前から抱いていた原初たる意志だから。
「誰かを護ることなのだからな」
封印魔法――蛇蝎垓流星。アールマティの一撃に相乗するように発射された光は強くきらめいた。
その輝きはこの世界の極々一部にしか届かないが尊かった。
太陽が浮かぶ蒼穹の空の下で生まれ、見る者は強いと感じる光。何かを為そうと地獄の戦場で強く咲く花のように。
(結局、ワタルの仇は討てずじまいか)
この世界で早々に散ったワタルのことを思うと胸が痛くなる。
なぜ彼が死ななければならなかったのか。死ぬ寸前になっても明確な答えはでなかった。
死んではならなかった者が死ぬこの地獄のゲーム。そして、結局は自分も死ぬのだから笑うしかない。
(それでも、)
志半ばでの死。ワタルを殺した者を殺すという願いは果たされないし、たまたまこの会場で出会った人形を助ける為に死ぬ。
だが、その行動はまさしく勇者の行動ではないか。ワタルのような綺麗な意志を持つ英雄そのものだ。
自分はそんなもの、柄ではないというのに。
だけど、不思議と嫌な気分ではなかった。むしろ、澄んだ空を見ているような、そんな感覚。
自分の身が誰かの明日への一歩を助けるものであれば。護れるものであれば。
「この結末に後悔なんて、ない」
全ての終が終える世界での狙撃手の光は絶望を貫き希望の筋を描いた。
◆ ◆ ◆
「終わった、のか?」
竜太は眼の前で起こった光景についていけなかった。
結局どうなったのか。誰が死んで誰が生き残ったのか。
ハードの封印魔法の余波によって倒壊した桜見タワーだけが確かなものとして目に映る。
「あれだけの攻撃を直撃したんだ。どう見ても無事だとは思えないね」
「ならいいけどな。そういやあのガキはどこだよ?」
「翆星石ならあそこに……」
力を使い果たして地面に倒れこんでいる翆星石の姿が見える。
それと同時に見えてはいけないものまで見えてしまった。
二人に見えたのは光る手――千手。
どうして!? ヨキは死んだのではないのか!? 二人がその疑問を抱いている間にも千手は止まらない。
千手による一撃が翆星石を貫こうと一直線に閃く。
力を使い果たして動けない翆星石に躱す術はなく、竜太も蒼星石も護るにしては距離が遠すぎる。
二人はこのままヨキの千手により貫かれる翆星石の姿を想像してしまった。
もう、間に合わない。諦めの情が嫌でも浮かび上がる。
そう、ただ一人を除いて。
「護ると、誓った」
千手が翆星石に届く直前に黒の風が代わりに受け止める。
桐山は翆星石が千手に当たらないよう全身を強く抱きしめて後ろへと下がっていく。
翆星石の体は抱きしめたら壊れてしまいそうなくらいに華奢で頼りなかった。
それでも両手は離さない。この手を離してしまったら誓いを破ってしまいそうだから。
自分にとって誓いは絶対であり生命よりも優先されるものだ。
この身体を物言わぬ盾にしてでも護り抜かなければならない。
だが、その代償は大きかった。
「ぐっ……」
桐山は口から赤い血を咳と混じらせて苦しそうに吐き出した。
そのまま片膝を地面につき、乱れた息を必死に整える。
痛みに身体を丸めながらも前を見ることは決して止めはしない。
なぜならそこにはまだ敵がいるから。
「さてと君達」
崩壊した桜見タワーの瓦礫の中から現れる白の魔人。元は純白だったスプンタ・マンユも煤と血で濡れて元の色はほとんど残っていない。
黒き血の賢者はまだ死んではいなかった。絶望は消え去ってはいないのだ。
ヨキが消え去る時は赤き血を持つ神を根絶やしにするまで。まだ死ぬべき時ではない。
勇気、友情、勝利、大いに結構。だが、それがどうした。この黒の意志を崩す理由には至らない。
悪も善もなく血反吐と臓器がぐちゃぐちゃに混ぜ込まれたこの世界で――。
「もう一度、絶望してもらおうか」
&color(red){【ハード@ブレイブ・ストーリー~新説~ 死亡確認】}
【E-4/崩壊桜見タワー/午前】
【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(大)、気絶
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、護神像アールマティ@waqwaq
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:ヨキを倒す。
2:アールマティと行動を共にする。
3:姉妹を探す。
4:最後の姉妹がいるかもしれない…
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。
【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:健康、ダメージ(大)、重傷?
[装備]:カードデッキ(リュウガ)
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
水銀燈の首輪、不明支給品1、水銀燈の羽
エディアール家の刀@waqwaq 、七夜盲の秘薬@バジリスク
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:ヨキを殺す。
2:協力者を求める(ローゼンメイデン優先)
3:ローザミスティカをローゼンメイデンの元に集める。
4:黒い騎士からローザミスティカを取り戻す
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
【坂本竜太@BTOOOM!】
[状態]:後頭部に痛み、現実感の喪失? 圧倒的恐怖を塗り替える勇気
[装備]:フレイム型BIM×5@BTOOOM!、デリンジャー(2/2)@現実、レーダー@BTOOOM!
[道具]:基本支給品、予備弾薬12発、
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルからの脱出
1:ヨキを倒す。
2:平さんに癒されたい
[参戦時期]ヒミコの名前を認識する前から参戦。
ヒミコと合流しているかどうかは後の書き手にお任せします
【蒼星石@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(小)
[装備]:庭師の鋏@ローゼンメイデン 、神業級の職人の本@ローゼンメイデン、
葬いのボサ・ノバ@銀齢の果て
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻る。
1:ヨキを倒す。
2:少女(ティオ)の夢の世界に入りたい
3:九一郎と行動を共にする。
3:ドールズと合流する。
4:雛苺を警戒。
5:水銀燈にローゼミスティカを返すよう言われたら……?
【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(大)、BMによる火傷
[装備]:スプンタ・マンユ@WaqWaq、首輪探知機@オリジナル 、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、
夜叉丸の糸@バジリスク、スタンガン@BTOOOM!、BIM(タイマー型)@BTOOOM!(8/8)
[道具]:基本支給品×3、手鏡、果物ナイフ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:残りの敵を殲滅する。
※美神愛の日記はすべて破棄されました。
※ヒミコのレーダーは手に埋め込むことはできませんが意識を集中させることで
レーダーの役割を果たすことはできます。感度は当然普通に使うよりも落ちます。
※近くにハードの死体、千銃@ブレイブ・ストーリー~新説~、基本支給品、ブーメラン@バトルロワイアルが落ちています。
|[[優しさに飢える少女]]|投下順|[[立ち上がれども]]|
|[[優しさに飢える少女]]|時系列順|[[Dear My Friend]]|
|[[まもるヒトたち]]|ハード|&color(red){GAME OVER}|
|~|翠星石|[[弔いのボサ・ノバ]]|
|~|桐山和雄|~|
|[[ニートの異常な恐怖~また俺は如何にして働きたくねえと思うようになったか~]]|坂本竜太|~|
|~|蒼星石|~|
|賢者、歴史の道標とダベる|ヨキ|~|
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