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「白銀のツインブレイヴ ~what a shining fortune~」(2012/11/23 (金) 02:18:06) の最新版変更点
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*白銀のツインブレイヴ ~what a shining fortune~
絢爛なる光。
色とりどりの爆発が弾け、消える。
「妾が“願い”。愛の成就。
愛の永遠。ワタルと永久に」
銀の線がミツルの腹部の皮膚を薄く斬り裂いた。
速い、強い、冗談ではない理不尽な存在。
お伽話という窓越しで見たのなら、
まるで魔王だと思っただろう。
「しかし、ワタルを死なせた世界を妾は赦さぬ。
《勇者》を、救済を我利の為に殺し。
のうのうと生きようとするなど! 虫酸が走るわ!」
「あいつが、そんなことを望むと思うのか?」
「貴様がそれを言うか!
貴様の妹とて、他者の死を得てまで復活を望むと!?」
距離をとって、地面に魔法陣を描く。
杖が導くは異界の女悪魔への扉。
「どう、だろうな。
僕にはもうわからない」
ミツルがひとつだけ理解しているのは
自分がもう、妹の望みを叶える存在ではなくなったということ。
ミツルには“願い”を叶える資格がないという、ただそれだけ。
虚空から巨大な二柱の悪魔が現れた。
闇を纏いて、腕がオンバを打たんと放たれる。
「――美味!!」
だがその一撃はオンバにとっては
鬱陶しい銀蝿の羽音にもならない、捕食対象の足掻き。
腕半ばまでオンバに噛み砕かれた二体のうちの一体である
悪魔、バルバローネは姿勢が大きく揺らぎ。
人ではない血を流して地面へと倒れた。
「ならば、虚しき抵抗はやめ。
己が罪のために死ぬがよい」
「それは、できない」
残った方のバルバローネも、
黒鉄の肌が握る勇者の剣に呆気無く弑された。
「ワタルが死んだ時、何をしていた?
己の欲を満たす手段ばかりを考え、希望の存在を顧みなかった貴様に!
妾を糾弾することなど、できるわけがなかろうぞ!」
「……そもそも、ワタルはどうやって死んだんだ?
お前は、誰が殺したか知っているのか?」
言葉が上手く出てくれない。
喉が今までの翻弄と嘲りの用途で使っていた時とは
まるで違う造りの機関になってしまったような錯覚さえある。
「…………知らぬ、知らぬ。知らぬ!!」
ムキになっている。
簡潔に評すれば、そんな剣幕。
そこに触れても大丈夫なのか。
触れれば壊れる蝋細工なのか。
ミツルには判断できない。
弱いものだと思う。
魔導師の仮面、旅人の外套を外せば
残るは臆病な年端もいかない少年ひとり。
「…………オンバ。
僕は、お前の気持ちが理解できるんじゃないかと思う。
僕も、そうだった。世界の全てが恨めしかった」
黒色の球体を、サッカーボールくらいの大きさにして
周囲に展開する。旋回する無数の衛星。
「そして、僕がわかったことはただひとつだ。
喪われた大切な物は、取り戻せない。
過去は、変えることができない。
“願い”を叶える途中で変わり果ててしまう僕に。
変わらなかった時間の世界に耐えられないから」
「……知った風な口をきくでない!」
「知った風な口かもしれない。
まあ、そうなんだろうな」
「ならば口を閉じて死ね!
潰れよ! 壊れよ! 粉々に砕けよ!」
「お断りだ」
球体を連射する、オンバへと。
高速で飛来はしても決して避けられない速さではない。
むしろ、遅いといって良いだろう。
「笑止!」
黒色の球体のひとつを難なく斬り裂き、
林檎のように二つに割った。
球体が二つに割れ、
斬撃と同時に放った光弾がその先のミツルへと襲いかかる。
しかし、光弾は走らず。
遙か手前で閃光のように爆発した。
爆発の先にいたのはオンバ。
僅かに眉を顰め、
球体を斬り裂いたオンバと
光弾を受け止めたオンバの視線が交差した。
光弾を受け止めた、と錯覚している
幻影魔法に惑わされたオンバの背後からミツルが杖を振り上げる。
「見くびるな。
同じ戦法をワタルの内に潜んでいた時、見たわ」
振り下ろされた杖は体を沈ませることで躱され。
一歩、前へ足を出すとオンバはミツルと肉薄する。
「妾の眼を見よ、ミツル」
オンバの瞳が縦に割れ、
異常な輝きがミツルの眼へと注ぎ込まれた。
「瞳術の一種か。
なるほど、こうも容易く
接近を許すには裏があると思った」
オンバに睨みつけられた。
蛇の瞳を目の当たりにしたミツルの姿が霧散し。
オンバの頭上から黒球より産まれし、
無数の手が這いつくばるように襲いかかった。
その全てを剣の一振りで薙ぎ払い。
しかし、その時にはミツルは稲光をトライデントに帯びて
オンバの腕を突かんと真正面から踏み込む。
「幻術をよくもまあ、使うこと。
子供騙しにもなりはすまいよ」
拳が、めりこんでいた。
ミツルの腹部に、オンバの拳が深々と。
たまらず、吹き飛ばされ、
地面を何度も転げ。ようやく勢いが止まったらば。
無様にうずくまり、胃の中の物をあらんかぎり吐き出した。
「妾の両眼は甲賀の魔人が瞳。
妾の肉体は悪魔の素材より。
そして、血液は《最強》の男のものを。
これによって妾は地獄に《勇者》を再現した」
砂利が踏まれて音をたてる。
空気が震えてオンバの接近を警告する。
だが、ミツルの体は動かない。
一度だけでもまともに浴びた
オンバの一撃は、想像を絶し過ぎた。
首根っこを掴まれて
体が持ち上げられた。
息も絶え絶えなミツルの眼には
真鍮の肌をしたワタルの顔が映る。
「おまえ、ワタルの内に潜んでいたと言っていたな」
「………………然り」
「この世界ではどうしていた?
そこまでワタルに執着した
お前が、ワタルを放っておいたのか?」
自棄になっていたのが半分。
朦朧とした意識でふと、気になったことを尋ねたというのが半分。
だが、ミツルの何気ない問いに
オンバは大きく震えた。
瞳が弱々しく揺れだし。
腕が微弱ながらも並に翻弄されるように上下する。
「――妾では、ない」
朦朧とした意識が徐々に鮮明になっていく。
腹部の気怠い激痛がミツルの脳を振ってはいるが、
オンバの様子の変化がミツルの意識に光を投じた。
「……どういうことだ?」
「妾ではない!
妾が殺したのでは、断じてない!」
首にかけられた力がふと緩み、
ミツルの体が宙へと投げ出された。
「妾が殺したはずがあろうか。
あるものかよ――――
全ては、あの男のせいじゃ!」
オンバが顔を両手で抑え、
よろよろと後退する。
「妾がいれば玉などいらぬ!
妾が残りの全てを保管しているのであれば!!
妾とワタルの二人で全てを屠ることが出来た!!」
ミツルの心が、波打ち始めた。
クエスチョン:世界は勇者を喪いました。
沈黙へ閉じ込められたミツル。
両手の指の隙間からオンバの瞳が見える。
苦痛と、後悔と自戒に苛まれ、消耗した瞳が。
「ワタルだけでもあの爺を殺すことなど造作もなかった!
玉を喪ってはいても、あの程度の爺を守ることは!!
ワタルが死ぬ、道理などひとつも、あるはずなど!!」
「ジ、ジイ……?」
思い当たる節が一つある。
だが、それはありえない。
そんな偶然は、ありえない
「だがワタルは何もしなかった!
殺意に反応することもなく!
剣を握れば首を跳ねた!
ワタルがそうせずとも妾が動かして!!!」
こんな現実は――――
「猿谷という爺!!
奴が、奴こそが!!
妾から、愛を、愛を奪った!!!!!!!!」
空気が裂けた。
音の、叫びの嘆きの余波が直撃しただけで
ミツルの顔面が真っ赤に花が咲いた。
クエスチョン:世界に輝きは何もないのでしょうか?
ミツルには何も言えない。
その男には、間違いなく出会った。
言葉を交わした。あろうことか、ワタルの死を知った直後に!
あの――――男が!!
ワタルを奪ったのか!
あっさりと、《勇者》をミツルから奪ったというのか。
「ワタルは、あろうことか、
妾を、押さえつけて、言った!!
ただ、一言。優しく、
彼に会うまでの誰もが妾にかけてくれなかった暖かさで!!」
答えられませんね?
――ミツル。
声が聞こえる。
ああ、これもミツルが絶えず聴いているものだ。
脳の中で、綺麗なビジョンを描いての。
あいつが、僕に、語りかけてくる。
「――――誰かを殺しちゃ、いけないんだ。
そう言って、妾に、微笑んだのよ!!」
オンバの悲しみ。悲嘆。絶望。
狂いに狂った涙がワタルの似姿から流れてやまない。
「でも、だから何だと言うの!?
妾はワタルがいればよかった!
誰を殺しても構わなかった!
なのに、妾がワタルを死なせて。
ワタルは妾に誰も殺さないでと頼んで。
それなら――――――もう……」
激昂に満ち満ちたオンバの葛藤。
彼女が両の手を離すと、そこにはオンバの
表情がまざまざと浮かび上がる。
ならば《勇者》は取り戻せないほどに。特別な存在だと、認めるのですね?
「全てを忘れてでも、“願い”を叶えて。
理想世界で生きるしかないでしょう!?」
ミツルにはできない。
自身にも、オンバの凶行を否定することが出来ない。
思ってしまう。
後悔、してしまう。
あの時、あの瞬間に、そのことを知っていれば。
間違いなく、あの男を死に、追いやっていた。
「忘却の剣で、全てを忘れるのは“願い”を叶える直前でいい。
妾には、今の弱き妾にはこの嘆きもワタルへの尊き愛に想えて愛おしい。
新世界ですべての過ちも、嘆きも忘れ。ワタルに会いましょう」
女帝は今や、ひとりの女になっていた。
歪めた事実に狂っていた全てが、
仮面を外すようにさらけ出されていた。
「ワタルと妾で、永遠に理想世界で生きる。
きっとワタルは赦してくれるわ」
かぎろひの朧さ。
絶望に怯えて涙する心。
違う。違うさ。違うとも。
――ミツル。
まだ声がする。
オンバの悲泣に共感するように、
ミツルの鼓膜にはワタルの声が木霊してやまない。
ミツルは、だけど、わかる。
わかることだけは、信じる。
オンバの前でも強く信じられる。
携えていた杖。
幾万、幾億もの夜に血を吸った重み。
ミツルと一緒に摩耗し、笑顔を忘れた。
天に座す女神からの贈り物。
それが、今は羽毛のように軽い。
軽いんじゃない。ひとつになっているんだとミツルは識った。
オンバがミツルの心臓を突こうと剣を翳した。
無駄だと思うほどに詰んだ状況。
キャンチョメに生かされた命も、こんな結果なのか。
ワタルを殺した猿谷が、呆気無くチャンに殺されたように。
「ワタルのために――死になさい」
「――――勇気よ、この胸にある光の剣よ」
――瞼を閉じれば、ワタルの姿がある。
これは僕だ。僕の姿だ。
希望を捨てたことを認めまいとする、
僕の心だ。過去の僕だった。弱いと置き去りにした僕の姿だ。
ミツルに、《勇者の剣(ブレイブ・ブレード)》が振り下ろされる。
剣がミツルの命を断つ前に。
少年は軽く、腕を薙いだ。
凪の水面に波紋をもたらすように。
「――――――この、手に宿れ!!」
特別なんかじゃ、ないんだ。
「《勇者の剣(ブレイブ・ブレード)》!!!!」
火花が散った。雷光が轟いた。
瞼を開ければ白銀の剣と剣がぶつかりあって眩しく光る。
雷が、ミツルの周囲に舞い落ちた。
光、輝き、希望、勇気。
キャンチョメの姿が浮かんだ。
ワタルの姿も浮かんだ。
沢山のこう在りたいと“願う”人たちが浮かんだ。
火花の中に浮かんで、散る。
もういちど、腕を振る。
たったそれだけの動き。
別れのあいさつに手をふるんじゃない。
長い間、待たせた誰かに振るような再会の手。
火花が乱れ咲く。
花が咲いては、また散って。
まだ、まだ、まだ。
「どうして!?」
オンバがかっと見開いた両眼で驚愕を露わにした。
ミツルは穏やかな顔で剣を振るう。
「僕にも、ひとつ言えることがあるんだよ、オンバ」
舞踏会のステップで、踊ればそこには雷流れる白銀が在る。
「ワタルは――《勇者》で――それでも――だからこそ――特別なんかじゃないんだ!!」
白銀の切っ先がオンバの頬を撫でて一筋の血を流した。
「なぜ、なぜ貴様がそれを持つ!?
その剣を、貴様が!
ワタルに見向きもしなかった、貴様が!?」
ミツルの纏っていた魔導師のローブは
今や勇者の鎧となり。
瞳には気高い意志の炎が芽吹く。
ミツルの鼓膜に違和感があった。
ワタルの声が聞こえない。
キャンチョメの姿が浮かばない。
そして……美鳥の笑みに迷いなく向き合える!
「世界は変えられない。
現実は変えられない。
けれど、僕は諦めない。
輝きを、取り戻すことを」
「そう、女神は貴様に微笑んだのね。
ワタルを捨てた世界は、
貴方を選んだというのね」
「だから――」
「ならば――」
「受け入れよう、この運命!」
「憎み続けよう、この運命!」
大地から漆黒の太陽が昇り。
この時、世界の時計は停止した。
天野雪輝が、玉座へ至り
《勇者》たる己を謳うその前に。
黒鉄の肌に白銀の鎧を纏った”女”。
雷光纏いて白銀の剣を振るう”光”。
二人の《勇者》が想いの雌雄を決する。
【D-6/一日目/夜】
【ミツル@ブレイブ・ストーリー~新説~】
[状態]:星の数ほどの血に汚れ、
本当の笑顔を取り戻せないかもしれないけれど、
過去に捨てた輝きを拾い上げ、
魔王の祝福が雷電を纏わせる、
《魔導師》は白銀の剣士へと職を変え、
此処に勇者は帰還する@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:ワタルの剣、不恰好な粘土細工@金色のガッシュ
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2~4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:『対話』
1:救う。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。
※これは雪輝が雪華綺晶とティオを殺す前のお話です。
|[[最期に愛は勝つ]]|投下順|[[たった一度与えられた 命はチャンスだから]]|
|[[比類なき善の左手]]|時系列順|[[Love song~世界の終わりで謳い続ける少女~]]|
|[[決意の夜]]|ミツル|[[]]|
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*白銀のツインブレイヴ ~what a shining fortune~
絢爛なる光。
色とりどりの爆発が弾け、消える。
「妾が“願い”。愛の成就。
愛の永遠。ワタルと永久に」
銀の線がミツルの腹部の皮膚を薄く斬り裂いた。
速い、強い、冗談ではない理不尽な存在。
お伽話という窓越しで見たのなら、
まるで魔王だと思っただろう。
「しかし、ワタルを死なせた世界を妾は赦さぬ。
《勇者》を、救済を我利の為に殺し。
のうのうと生きようとするなど! 虫酸が走るわ!」
「あいつが、そんなことを望むと思うのか?」
「貴様がそれを言うか!
貴様の妹とて、他者の死を得てまで復活を望むと!?」
距離をとって、地面に魔法陣を描く。
杖が導くは異界の女悪魔への扉。
「どう、だろうな。
僕にはもうわからない」
ミツルがひとつだけ理解しているのは
自分がもう、妹の望みを叶える存在ではなくなったということ。
ミツルには“願い”を叶える資格がないという、ただそれだけ。
虚空から巨大な二柱の悪魔が現れた。
闇を纏いて、腕がオンバを打たんと放たれる。
「――美味!!」
だがその一撃はオンバにとっては
鬱陶しい銀蝿の羽音にもならない、捕食対象の足掻き。
腕半ばまでオンバに噛み砕かれた二体のうちの一体である
悪魔、バルバローネは姿勢が大きく揺らぎ。
人ではない血を流して地面へと倒れた。
「ならば、虚しき抵抗はやめ。
己が罪のために死ぬがよい」
「それは、できない」
残った方のバルバローネも、
黒鉄の肌が握る勇者の剣に呆気無く弑された。
「ワタルが死んだ時、何をしていた?
己の欲を満たす手段ばかりを考え、希望の存在を顧みなかった貴様に!
妾を糾弾することなど、できるわけがなかろうぞ!」
「……そもそも、ワタルはどうやって死んだんだ?
お前は、誰が殺したか知っているのか?」
言葉が上手く出てくれない。
喉が今までの翻弄と嘲りの用途で使っていた時とは
まるで違う造りの機関になってしまったような錯覚さえある。
「…………知らぬ、知らぬ。知らぬ!!」
ムキになっている。
簡潔に評すれば、そんな剣幕。
そこに触れても大丈夫なのか。
触れれば壊れる蝋細工なのか。
ミツルには判断できない。
弱いものだと思う。
魔導師の仮面、旅人の外套を外せば
残るは臆病な年端もいかない少年ひとり。
「…………オンバ。
僕は、お前の気持ちが理解できるんじゃないかと思う。
僕も、そうだった。世界の全てが恨めしかった」
黒色の球体を、サッカーボールくらいの大きさにして
周囲に展開する。旋回する無数の衛星。
「そして、僕がわかったことはただひとつだ。
喪われた大切な物は、取り戻せない。
過去は、変えることができない。
“願い”を叶える途中で変わり果ててしまう僕に。
変わらなかった時間の世界に耐えられないから」
「……知った風な口をきくでない!」
「知った風な口かもしれない。
まあ、そうなんだろうな」
「ならば口を閉じて死ね!
潰れよ! 壊れよ! 粉々に砕けよ!」
「お断りだ」
球体を連射する、オンバへと。
高速で飛来はしても決して避けられない速さではない。
むしろ、遅いといって良いだろう。
「笑止!」
黒色の球体のひとつを難なく斬り裂き、
林檎のように二つに割った。
球体が二つに割れ、
斬撃と同時に放った光弾がその先のミツルへと襲いかかる。
しかし、光弾は走らず。
遙か手前で閃光のように爆発した。
爆発の先にいたのはオンバ。
僅かに眉を顰め、
球体を斬り裂いたオンバと
光弾を受け止めたオンバの視線が交差した。
光弾を受け止めた、と錯覚している
幻影魔法に惑わされたオンバの背後からミツルが杖を振り上げる。
「見くびるな。
同じ戦法をワタルの内に潜んでいた時、見たわ」
振り下ろされた杖は体を沈ませることで躱され。
一歩、前へ足を出すとオンバはミツルと肉薄する。
「妾の眼を見よ、ミツル」
オンバの瞳が縦に割れ、
異常な輝きがミツルの眼へと注ぎ込まれた。
「瞳術の一種か。
なるほど、こうも容易く
接近を許すには裏があると思った」
オンバに睨みつけられた。
蛇の瞳を目の当たりにしたミツルの姿が霧散し。
オンバの頭上から黒球より産まれし、
無数の手が這いつくばるように襲いかかった。
その全てを剣の一振りで薙ぎ払い。
しかし、その時にはミツルは稲光をトライデントに帯びて
オンバの腕を突かんと真正面から踏み込む。
「幻術をよくもまあ、使うこと。
子供騙しにもなりはすまいよ」
拳が、めりこんでいた。
ミツルの腹部に、オンバの拳が深々と。
たまらず、吹き飛ばされ、
地面を何度も転げ。ようやく勢いが止まったらば。
無様にうずくまり、胃の中の物をあらんかぎり吐き出した。
「妾の両眼は甲賀の魔人が瞳。
妾の肉体は悪魔の素材より。
そして、血液は《最強》の男のものを。
これによって妾は地獄に《勇者》を再現した」
砂利が踏まれて音をたてる。
空気が震えてオンバの接近を警告する。
だが、ミツルの体は動かない。
一度だけでもまともに浴びた
オンバの一撃は、想像を絶し過ぎた。
首根っこを掴まれて
体が持ち上げられた。
息も絶え絶えなミツルの眼には
真鍮の肌をしたワタルの顔が映る。
「おまえ、ワタルの内に潜んでいたと言っていたな」
「………………然り」
「この世界ではどうしていた?
そこまでワタルに執着した
お前が、ワタルを放っておいたのか?」
自棄になっていたのが半分。
朦朧とした意識でふと、気になったことを尋ねたというのが半分。
だが、ミツルの何気ない問いに
オンバは大きく震えた。
瞳が弱々しく揺れだし。
腕が微弱ながらも並に翻弄されるように上下する。
「――妾では、ない」
朦朧とした意識が徐々に鮮明になっていく。
腹部の気怠い激痛がミツルの脳を振ってはいるが、
オンバの様子の変化がミツルの意識に光を投じた。
「……どういうことだ?」
「妾ではない!
妾が殺したのでは、断じてない!」
首にかけられた力がふと緩み、
ミツルの体が宙へと投げ出された。
「妾が殺したはずがあろうか。
あるものかよ――――
全ては、あの男のせいじゃ!」
オンバが顔を両手で抑え、
よろよろと後退する。
「妾がいれば玉などいらぬ!
妾が残りの全てを保管しているのであれば!!
妾とワタルの二人で全てを屠ることが出来た!!」
ミツルの心が、波打ち始めた。
クエスチョン:世界は勇者を喪いました。
沈黙へ閉じ込められたミツル。
両手の指の隙間からオンバの瞳が見える。
苦痛と、後悔と自戒に苛まれ、消耗した瞳が。
「ワタルだけでもあの爺を殺すことなど造作もなかった!
玉を喪ってはいても、あの程度の爺を守ることは!!
ワタルが死ぬ、道理などひとつも、あるはずなど!!」
「ジ、ジイ……?」
思い当たる節が一つある。
だが、それはありえない。
そんな偶然は、ありえない
「だがワタルは何もしなかった!
殺意に反応することもなく!
剣を握れば首を跳ねた!
ワタルがそうせずとも妾が動かして!!!」
こんな現実は――――
「猿谷という爺!!
奴が、奴こそが!!
妾から、愛を、愛を奪った!!!!!!!!」
空気が裂けた。
音の、叫びの嘆きの余波が直撃しただけで
ミツルの顔面が真っ赤に花が咲いた。
クエスチョン:世界に輝きは何もないのでしょうか?
ミツルには何も言えない。
その男には、間違いなく出会った。
言葉を交わした。あろうことか、ワタルの死を知った直後に!
あの――――男が!!
ワタルを奪ったのか!
あっさりと、《勇者》をミツルから奪ったというのか。
「ワタルは、あろうことか、
妾を、押さえつけて、言った!!
ただ、一言。優しく、
彼に会うまでの誰もが妾にかけてくれなかった暖かさで!!」
答えられませんね?
――ミツル。
声が聞こえる。
ああ、これもミツルが絶えず聴いているものだ。
脳の中で、綺麗なビジョンを描いての。
あいつが、僕に、語りかけてくる。
「――――誰かを殺しちゃ、いけないんだ。
そう言って、妾に、微笑んだのよ!!」
オンバの悲しみ。悲嘆。絶望。
狂いに狂った涙がワタルの似姿から流れてやまない。
「でも、だから何だと言うの!?
妾はワタルがいればよかった!
誰を殺しても構わなかった!
なのに、妾がワタルを死なせて。
ワタルは妾に誰も殺さないでと頼んで。
それなら――――――もう……」
激昂に満ち満ちたオンバの葛藤。
彼女が両の手を離すと、そこにはオンバの
表情がまざまざと浮かび上がる。
ならば《勇者》は取り戻せないほどに。特別な存在だと、認めるのですね?
「全てを忘れてでも、“願い”を叶えて。
理想世界で生きるしかないでしょう!?」
ミツルにはできない。
自身にも、オンバの凶行を否定することが出来ない。
思ってしまう。
後悔、してしまう。
あの時、あの瞬間に、そのことを知っていれば。
間違いなく、あの男を死に、追いやっていた。
「忘却の剣で、全てを忘れるのは“願い”を叶える直前でいい。
妾には、今の弱き妾にはこの嘆きもワタルへの尊き愛に想えて愛おしい。
新世界ですべての過ちも、嘆きも忘れ。ワタルに会いましょう」
女帝は今や、ひとりの女になっていた。
歪めた事実に狂っていた全てが、
仮面を外すようにさらけ出されていた。
「ワタルと妾で、永遠に理想世界で生きる。
きっとワタルは赦してくれるわ」
かぎろひの朧さ。
絶望に怯えて涙する心。
違う。違うさ。違うとも。
――ミツル。
まだ声がする。
オンバの悲泣に共感するように、
ミツルの鼓膜にはワタルの声が木霊してやまない。
ミツルは、だけど、わかる。
わかることだけは、信じる。
オンバの前でも強く信じられる。
携えていた杖。
幾万、幾億もの夜に血を吸った重み。
ミツルと一緒に摩耗し、笑顔を忘れた。
天に座す女神からの贈り物。
それが、今は羽毛のように軽い。
軽いんじゃない。ひとつになっているんだとミツルは識った。
オンバがミツルの心臓を突こうと剣を翳した。
無駄だと思うほどに詰んだ状況。
キャンチョメに生かされた命も、こんな結果なのか。
ワタルを殺した猿谷が、呆気無くチャンに殺されたように。
「ワタルのために――死になさい」
「――――勇気よ、この胸にある光の剣よ」
――瞼を閉じれば、ワタルの姿がある。
これは僕だ。僕の姿だ。
希望を捨てたことを認めまいとする、
僕の心だ。過去の僕だった。弱いと置き去りにした僕の姿だ。
ミツルに、《勇者の剣(ブレイブ・ブレード)》が振り下ろされる。
剣がミツルの命を断つ前に。
少年は軽く、腕を薙いだ。
凪の水面に波紋をもたらすように。
「――――――この、手に宿れ!!」
特別なんかじゃ、ないんだ。
「《勇者の剣(ブレイブ・ブレード)》!!!!」
火花が散った。雷光が轟いた。
瞼を開ければ白銀の剣と剣がぶつかりあって眩しく光る。
雷が、ミツルの周囲に舞い落ちた。
光、輝き、希望、勇気。
キャンチョメの姿が浮かんだ。
ワタルの姿も浮かんだ。
沢山のこう在りたいと“願う”人たちが浮かんだ。
火花の中に浮かんで、散る。
もういちど、腕を振る。
たったそれだけの動き。
別れのあいさつに手をふるんじゃない。
長い間、待たせた誰かに振るような再会の手。
火花が乱れ咲く。
花が咲いては、また散って。
まだ、まだ、まだ。
「どうして!?」
オンバがかっと見開いた両眼で驚愕を露わにした。
ミツルは穏やかな顔で剣を振るう。
「僕にも、ひとつ言えることがあるんだよ、オンバ」
舞踏会のステップで、踊ればそこには雷流れる白銀が在る。
「ワタルは――《勇者》で――それでも――だからこそ――特別なんかじゃないんだ!!」
白銀の切っ先がオンバの頬を撫でて一筋の血を流した。
「なぜ、なぜ貴様がそれを持つ!?
その剣を、貴様が!
ワタルに見向きもしなかった、貴様が!?」
ミツルの纏っていた魔導師のローブは
今や勇者の鎧となり。
瞳には気高い意志の炎が芽吹く。
ミツルの鼓膜に違和感があった。
ワタルの声が聞こえない。
キャンチョメの姿が浮かばない。
そして……美鳥の笑みに迷いなく向き合える!
「世界は変えられない。
現実は変えられない。
けれど、僕は諦めない。
輝きを、取り戻すことを」
「そう、女神は貴様に微笑んだのね。
ワタルを捨てた世界は、
貴方を選んだというのね」
「だから――」
「ならば――」
「受け入れよう、この運命!」
「憎み続けよう、この運命!」
大地から漆黒の太陽が昇り。
この時、世界の時計は停止した。
天野雪輝が、玉座へ至り
《勇者》たる己を謳うその前に。
黒鉄の肌に白銀の鎧を纏った”女”。
雷光纏いて白銀の剣を振るう”光”。
二人の《勇者》が想いの雌雄を決する。
【D-6/一日目/夜】
【ミツル@ブレイブ・ストーリー~新説~】
[状態]:星の数ほどの血に汚れ、
本当の笑顔を取り戻せないかもしれないけれど、
過去に捨てた輝きを拾い上げ、
魔王の祝福が雷電を纏わせる、
《魔導師》は白銀の剣士へと職を変え、
此処に勇者は帰還する@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:ワタルの剣、不恰好な粘土細工@金色のガッシュ
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2~4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:『対話』
1:救う。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。
※これは雪輝が雪華綺晶とティオを殺す前のお話です。
|[[最期に愛は勝つ]]|投下順|[[たった一度与えられた 命はチャンスだから]]|
|[[比類なき善の左手]]|時系列順|[[Love song~世界の終わりで謳い続ける少女~]]|
|[[決意の夜]]|ミツル|[[小さな勇気の物語]]|
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