最後の放送/半分の月が微笑う
燃える空は矢のように過ぎ。
紅は濃紺に沈んでいく。
風は重く、湿り、血の匂いを湛え。
それは鉄の意志の生贄が生きた証であり。
果実が血を養分に熟れ始めた兆しでもあった。
紅は濃紺に沈んでいく。
風は重く、湿り、血の匂いを湛え。
それは鉄の意志の生贄が生きた証であり。
果実が血を養分に熟れ始めた兆しでもあった。
それぞれの首輪に誰かが映った。
映しだされたシルエットは小柄な人。
いいや、小柄とすら言えない小動物の大きさ。
いいや、小柄とすら言えない小動物の大きさ。
「…………チー」
喋った。いや、これは鳴き声だ。
言葉や意志を見出せる者はこの世界に何人いるか。
電子音は下界の参加者の鼓膜を通じて動揺に落とした。
言葉や意志を見出せる者はこの世界に何人いるか。
電子音は下界の参加者の鼓膜を通じて動揺に落とした。
「はいはい、君じゃ誰もわからないからね」
電子音を囀る小動物、プラの脇に手をやって持ち上げた。
新しく現れたのは気の弱そうな何処にいても不思議ではない少年。
新しく現れたのは気の弱そうな何処にいても不思議ではない少年。
「もう放送はできない。
記録者は喰われてしまったし。
“願い”を蓄える赤き血の神の像も黒い影、コトが移動した。
だから誰が死んだのかはわからない。
ただ残りの人数はわかるよ。
一エリアに固まって殺しあう君達。
君達が最期の生き残りだ」
記録者は喰われてしまったし。
“願い”を蓄える赤き血の神の像も黒い影、コトが移動した。
だから誰が死んだのかはわからない。
ただ残りの人数はわかるよ。
一エリアに固まって殺しあう君達。
君達が最期の生き残りだ」
そう言うと少年は口元に笑みを浮かべたまま暫し沈黙する。
一秒、二秒、三秒。
一秒、二秒、三秒。
「君達はどうして闘っているのだろうか。
“願い”のため? それもあると思う。
けれど、もっと他にもあるんじゃないかな。
それは死んでしまった友の志を継ぐ、とかかもしれない」
“願い”のため? それもあると思う。
けれど、もっと他にもあるんじゃないかな。
それは死んでしまった友の志を継ぐ、とかかもしれない」
参加者たちが動きを止めたか。
参加者たちは思い思いに誰かの顔を浮かべただろうか。
参加者たちは思い思いに誰かの顔を浮かべただろうか。
「これは僕の“友達”の話なんだ。
名前はガッシュ・ベル。
明るくて、強くて、太陽のように、
周りを眩しく照らす人だった」
名前はガッシュ・ベル。
明るくて、強くて、太陽のように、
周りを眩しく照らす人だった」
少年の瞳に涙が滲んだ。
声は震え、湿り気を帯びている。
声は震え、湿り気を帯びている。
「殺したのは僕だ。
僕は彼を殺そうとして。
しかし阻止され、窮地に立たされた。
でもそんな僕にガッシュは手を差し伸べてくれた。
僕には理解できない強い心を持ってるんだなって感動したよ。
僕の友だちの中では、きっと秋瀬くんと同じくらい優しいんだ」
僕は彼を殺そうとして。
しかし阻止され、窮地に立たされた。
でもそんな僕にガッシュは手を差し伸べてくれた。
僕には理解できない強い心を持ってるんだなって感動したよ。
僕の友だちの中では、きっと秋瀬くんと同じくらい優しいんだ」
少年に抱きかかえられたプラは悲しそうな顔で少年の独白を聞く。
「僕は殺した。
彼の善意を踏みにじって殺した。
涙ながらに諦めるなと訴える彼を笑顔で殺した。
これが君達が信じた人の結末だよ。
どんなに赦したって、赦した相手に殺される。
そんな運命だ。そんな世界だ。想いにどれほどの価値があるっていうんだ」
彼の善意を踏みにじって殺した。
涙ながらに諦めるなと訴える彼を笑顔で殺した。
これが君達が信じた人の結末だよ。
どんなに赦したって、赦した相手に殺される。
そんな運命だ。そんな世界だ。想いにどれほどの価値があるっていうんだ」
懺悔にすら聞こえる悲壮な少年の言葉は徐々に語気が強くなり。
瞳には澱んだ沼地の底知れなさがあった。
瞳には澱んだ沼地の底知れなさがあった。
「……僕は、赦さない。
そんな世界を赦さない。
母さんを殺した父さんだって僕は赦したんだ。
いつか星を観に行こうって約束だってしたんだ!
それを、踏みにじったのは、僕じゃない。
“願い”に狂った君達みたいな人だった!
ガッシュのように尊い信念を持った人たちだった!!
だから、だから僕だって踏みにじっていいだろう!?」
そんな世界を赦さない。
母さんを殺した父さんだって僕は赦したんだ。
いつか星を観に行こうって約束だってしたんだ!
それを、踏みにじったのは、僕じゃない。
“願い”に狂った君達みたいな人だった!
ガッシュのように尊い信念を持った人たちだった!!
だから、だから僕だって踏みにじっていいだろう!?」
唐突に訪れた烈火の激昂が過ぎると。
後には穏やかな水面の静けさがあった。
後には穏やかな水面の静けさがあった。
「君達の友達。
それは七原秋也くんかもしれない。
城戸真司さんかもしれない。
シオ君かもしれない。
みんな誰よりも素晴らしい人達だ。
勇者には届かなくても、気高い人たちだ。
全部、僕が、無意味に出来る人達だったけどね」
それは七原秋也くんかもしれない。
城戸真司さんかもしれない。
シオ君かもしれない。
みんな誰よりも素晴らしい人達だ。
勇者には届かなくても、気高い人たちだ。
全部、僕が、無意味に出来る人達だったけどね」
笑み、少年は絶やさない。
弓形の目も眉も口も彼の心情を少しも教えない。
弓形の目も眉も口も彼の心情を少しも教えない。
「それではさようなら。
僕が君達を皆殺しにする、その時まで。
最後に自己紹介をしよう。僕の名前は《天野雪輝》だ」
僕が君達を皆殺しにする、その時まで。
最後に自己紹介をしよう。僕の名前は《天野雪輝》だ」
その言葉を最期に。
最後の放送は幕を閉じた。
最後の放送は幕を閉じた。
――女神の降臨とともに成就するでしょう――
「これでオンバへの良い援護射撃にはなったかな。
ブラフも撒けたし、上出来だよね。
敵意が僕に向けば、オンバはそれだけ動きやすくなる。
キャンチョメって子がこの言葉に堕ちないとも思えないし。
すべて、すべて、そうすべて。
僕が愛するみんなの救済のために。
無意味に、無価値に死んでくれ。
君達が大好きな友達みたいに」
ブラフも撒けたし、上出来だよね。
敵意が僕に向けば、オンバはそれだけ動きやすくなる。
キャンチョメって子がこの言葉に堕ちないとも思えないし。
すべて、すべて、そうすべて。
僕が愛するみんなの救済のために。
無意味に、無価値に死んでくれ。
君達が大好きな友達みたいに」
手元の未来日記に着信音が鳴った。
不審に思いながらも確かめると一通のメールが届いていた。
不審に思いながらも確かめると一通のメールが届いていた。
それに素早く目を通すと、
先ほどまでの演技とはたしかに違う、
本当の笑みを浮かべてプラに言った。
先ほどまでの演技とはたしかに違う、
本当の笑みを浮かべてプラに言った。
「もう…………戻れないよ」
そうして。そうして。
空には、月が。
ありえないほどに大きな月が――――半分だけ、姿を……
空には、月が。
ありえないほどに大きな月が――――半分だけ、姿を……
最後のプロローグ | 投下順 | 決意の夜 |
最後のプロローグ | 時系列順 | 決意の夜 |
冥界に踊るデウスの嬰児たち | 天野雪輝 | Love song~世界の終わりで謳い続ける少女~ |