無題:4スレ目435

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435 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:52:16.13 ID:YB.de46o [3/12] 目が覚めたとき、あたしは見覚えのない広い部屋の中央で独り横たわっていた―― 壁も天井も床もすべてが真っ白く塗りつぶされた奇妙な部屋。 なぜあたしはこんなところに居るの? 「ここは……どこ……?」 誰に問いかけるわけでもなく、声を発してみたけど、室内に虚しく響くだけだった。 あたしは眠りにつく前の記憶を必死に辿る―― あたしは…… あたしは確か、誰かと電話をしていた。 とても懐かしい誰かと…… じゃあ、その後は……? その後は…… そこから先のことは覚えていない。 あたしには、誰かと電話をした後からこの部屋で目覚めるまでの記憶が一切無かった。 436 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:52:55.64 ID:YB.de46o [4/12] これは……記憶喪失? だとしても、この部屋に運ばれた理由が分からない。 一体誰がなんのために……? 一見すると病室のような寒々しい雰囲気の部屋。でも家具もなにも無い、がらんとしたただの空部屋のようだ。 そこで改めて周囲を見渡したあたしは、今更ながら、もっと奇妙なことに気付いてしまった。 ――この部屋には、窓もドアもなかったのだ。 そのことに気づいた途端、急に背筋が凍るような恐怖を覚え、あたしは声を張り上げて精一杯叫んだ。 「誰か!誰か居ないの!?……誰かいませんか!誰か!」 ドンドン!…四方の壁を手当たり次第に叩く。が、どこからも応答はない。 あまりに現実離れした状況に、もしかして夢を見ているのではないかと思ったそのとき、背後からふいに人の声がした。 「――いいえ、夢じゃないわ」 437 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:53:29.63 ID:YB.de46o [5/12] 誰も居なかったはずの部屋で突如呼び掛けられ、あたしは心底驚いた。 おそるおそる振り返ってみると、そこに居たのは親友の桐乃だった。 「き、桐乃――!? どうして、いつの間に!?」 こんな理解できない状況の中でも、親友と会えた喜びで、張り詰めていたあたしの緊張は一瞬ほぐれた。 だけど、桐乃は無表情のままでこちらに視線を送ると、淡々と話し始めた。 「あたしは――高坂桐乃であって高坂桐乃では無い存在。この世界の住人の一人よ」 「え……? 桐乃……何を……?」 「ここは、数多く存在する『つかさの部屋』のひとつ。……そしてあたしはその案内人なの」 「つかさの部屋……?」 どういう意味……?ウィークリーマンションではないことは確かだけど……。 あたしには桐乃の言っていることをまるで理解できなかった。 「――ここはね、原作者の精神世界の中なの」 438 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:54:23.52 ID:YB.de46o [6/12] 桐乃のその言葉を聞いたあたしは、言い知れぬ不安感を抱いた。 心臓の鼓動が早くなり、息が詰まるような錯覚に襲われ、思わず胸に手を当てる。 だけど、桐乃はそんなあたしの様子を気にする風もなく続けた―― 「思い出した? あたしたちは実在の人間じゃないの。小説の登場人物なのよ」 「小説の……? 」 そんな馬鹿なことを、と否定したい気持ちを、あたしの中のもうひとつの気持ちが抑えている。 埋もれていた記憶を掘り起こしていくような、ぽっかり抜けていた何かを取り戻そうとしている、そんな気持ちだ。 「そして……いま私たちが居るこの部屋は『忘却の間』――」 「ぼうきゃくの……ま?」 桐乃は変わらず無表情のままで、とても事務的に、そう説明した。 「そうよ。原作者の記憶の片隅にある、まもなく失われてしまう記憶が集う場所、それが忘却の間」 「桐乃っ!何を言っているの!?私には分からないよ!」 「いいえ、あなたには分かるはずよ――ランちん」 439 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:54:50.43 ID:YB.de46o [7/12] あたしは、ラン。 桐乃やあやせ、加奈子のクラスメートで、みんなとは大の親友。 あたしたち4人はいつも一緒だった。 自分で言うのもあれだけど、あたしたちは美少女揃いで、クラスの中でもひときわ華のある存在だったと思う。 そして、そんなグループに居られることが、あたしの一番の自慢だった。 「だけど、あなたは……ランちんはね……アニメには出られなかったの」 そこで初めて桐乃は寂しそうな表情を見せた。 そして、その表情を見たあたしは、ようやく状況を理解できた気がした。 そうか…… この忘却の間に居るあたしは、今まさに“消えかかっている”存在なんだ――。 440 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:56:10.92 ID:YB.de46o [8/12] あたしも薄々は感じていた。 不動のヒロインである桐乃、百合ヤンデレの枠に入ったあやせ、そして劇中劇のメルル似という武器を持つ加奈子。 ――そう、あたしだけは何もない。 「でも、でも桐乃は……帰国後あたしに電話くれたよね!?」 「そうね。……でもそれもあくまで数多く電話をかけた中の一人という扱いなの」 「そんな……」 あたしのすがるような気持ちも、桐乃のにべもない言葉に跳ね返された。 そうか…… その後アニメが始まり、あたしを除いた3人によるグループが浸透し、既成事実化されたことで、あたしは要らない存在になったんだね。 むしろ、今後もしアニメ第2期が制作されるとすれば、原作との齟齬を避けるために、あたしはストーリーには絡んではいけない、邪魔な存在になってしまうんだ……。 でも、じゃあどうしてあたしを作ったの?……どうして登場させたの? どうして――! 441 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:57:39.68 ID:YB.de46o [9/12] 「ランちん、そろそろ時間だよ――」 思案を遮る桐乃のその言葉が響いたとき、あたしは自分の身体に違和感を覚えた。 指先や足先から、徐々に身体が透け始めているのだ。 え?これって……何なの!? 嫌よ……! 「いまこの瞬間、原作者があなたを忘れようとしているのよ――」 桐乃は哀れみを込めた視線を送っている。 442 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:59:20.75 ID:YB.de46o [10/12] そして瞬く間にあたしの身体は大部分が透けてしまい、手足はまったく見えなくなってしまった。 自分の存在が失われてしまうことへの恐怖が襲ってくる。 怖い!怖い!怖い! だけどそれと同時に、あたし自身が持つ記憶も、徐々に失われ始めていることに気付く―― そんな!? 嫌よっ!そんなの嫌なの! 「桐乃お願い、あたしを忘れないで!あたしもみんなのこと忘れないから!」 「ランちん……」 桐乃は困ったような、それでいて少し悲しそうな、複雑な表情を見せた。 443 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 02:00:30.68 ID:YB.de46o [11/12] あたしは絶対みんなを忘れない。かけがえのない大切な親友だから―― この身体が間もなく消えてしまうのだとしても、その瞬間まで決して忘れたくない! 高坂桐乃…… 新垣あやせ…… 来栖加奈子…… 高坂桐乃…… 新垣あやせ…… 来栖加奈子…… 高坂桐乃…… 新垣あやせ…… 来栖加奈子…… あたしは自分の記憶を守るように、大好きなみんなの名前を繰り返した。 だけど、皮肉にもそれは、あたしに絶望的な事実を気付かせることになってしまった。 ――そういえば、あたしの苗字は……? それどころか、名前だってニックネームでしか分からない。 そうなんだ…… あたしは元々そんなあやふやな存在だったんだ。 なのに、あの3人と同等に扱ってもらおうとしてたなんて――笑っちゃうよね。 あたしの涙がこぼれるのと、あたしの身体が完全に消えてしまったのと、どちらが先だったのか それはもう分からない―― END
435 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:52:16.13 ID:YB.de46o [3/12] 目が覚めたとき、あたしは見覚えのない広い部屋の中央で独り横たわっていた―― 壁も天井も床もすべてが真っ白く塗りつぶされた奇妙な部屋。 なぜあたしはこんなところに居るの? 「ここは……どこ……?」 誰に問いかけるわけでもなく、声を発してみたけど、室内に虚しく響くだけだった。 あたしは眠りにつく前の記憶を必死に辿る―― あたしは…… あたしは確か、誰かと電話をしていた。 とても懐かしい誰かと…… じゃあ、その後は……? その後は…… そこから先のことは覚えていない。 あたしには、誰かと電話をした後からこの部屋で目覚めるまでの記憶が一切無かった。 436 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:52:55.64 ID:YB.de46o [4/12] これは……記憶喪失? だとしても、この部屋に運ばれた理由が分からない。 一体誰がなんのために……? 一見すると病室のような寒々しい雰囲気の部屋。でも家具もなにも無い、がらんとしたただの空部屋のようだ。 そこで改めて周囲を見渡したあたしは、今更ながら、もっと奇妙なことに気付いてしまった。 ――この部屋には、窓もドアもなかったのだ。 そのことに気づいた途端、急に背筋が凍るような恐怖を覚え、あたしは声を張り上げて精一杯叫んだ。 「誰か!誰か居ないの!?……誰かいませんか!誰か!」 ドンドン!…四方の壁を手当たり次第に叩く。が、どこからも応答はない。 あまりに現実離れした状況に、もしかして夢を見ているのではないかと思ったそのとき、背後からふいに人の声がした。 「――いいえ、夢じゃないわ」 437 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:53:29.63 ID:YB.de46o [5/12] 誰も居なかったはずの部屋で突如呼び掛けられ、あたしは心底驚いた。 おそるおそる振り返ってみると、そこに居たのは親友の桐乃だった。 「き、桐乃――!? どうして、いつの間に!?」 こんな理解できない状況の中でも、親友と会えた喜びで、張り詰めていたあたしの緊張は一瞬ほぐれた。 だけど、桐乃は無表情のままでこちらに視線を送ると、淡々と話し始めた。 「あたしは――高坂桐乃であって高坂桐乃では無い存在。この世界の住人の一人よ」 「え……? 桐乃……何を……?」 「ここは、数多く存在する『つかさの部屋』のひとつ。……そしてあたしはその案内人なの」 「つかさの部屋……?」 どういう意味……?ウィークリーマンションではないことは確かだけど……。 あたしには桐乃の言っていることをまるで理解できなかった。 「――ここはね、原作者の精神世界の中なの」 438 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:54:23.52 ID:YB.de46o [6/12] 桐乃のその言葉を聞いたあたしは、言い知れぬ不安感を抱いた。 心臓の鼓動が早くなり、息が詰まるような錯覚に襲われ、思わず胸に手を当てる。 だけど、桐乃はそんなあたしの様子を気にする風もなく続けた―― 「思い出した? あたしたちは実在の人間じゃないの。小説の登場人物なのよ」 「小説の……? 」 そんな馬鹿なことを、と否定したい気持ちを、あたしの中のもうひとつの気持ちが抑えている。 埋もれていた記憶を掘り起こしていくような、ぽっかり抜けていた何かを取り戻そうとしている、そんな気持ちだ。 「そして……いまあたし達が居るこの部屋は『忘却の間』――」 「ぼうきゃくの……ま?」 桐乃は変わらず無表情のままで、とても事務的に、そう説明した。 「そうよ。原作者の記憶の片隅にある、まもなく失われてしまう記憶が集う場所、それが忘却の間」 「桐乃っ!何を言っているの!?あたしには分からないよ!」 「いいえ、あなたには分かるはずよ――ランちん」 439 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:54:50.43 ID:YB.de46o [7/12] あたしは、ラン。 桐乃やあやせ、加奈子のクラスメートで、みんなとは大の親友。 あたしたち4人はいつも一緒だった。 自分で言うのもあれだけど、あたしたちは美少女揃いで、クラスの中でもひときわ華のある存在だったと思う。 そして、そんなグループに居られることが、あたしの一番の自慢だった。 「だけど、あなたは……ランちんはね……アニメには出られなかったの」 そこで初めて桐乃は寂しそうな表情を見せた。 そして、その表情を見たあたしは、ようやく状況を理解できた気がした。 そうか…… この忘却の間に居るあたしは、今まさに“消えかかっている”存在なんだ――。 440 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:56:10.92 ID:YB.de46o [8/12] あたしも薄々は感じていた。 不動のヒロインである桐乃、百合ヤンデレの枠に入ったあやせ、そして劇中劇のメルル似という武器を持つ加奈子。 ――そう、あたしだけは何もない。 「でも、でも桐乃は……帰国後あたしに電話くれたよね!?」 「そうね。……でもそれもあくまで数多く電話をかけた中の一人という扱いなの」 「そんな……」 あたしのすがるような気持ちも、桐乃のにべもない言葉に跳ね返された。 そうか…… その後アニメが始まり、あたしを除いた3人によるグループが浸透し、既成事実化されたことで、あたしは要らない存在になったんだね。 むしろ、今後もしアニメ第2期が制作されるとすれば、原作との齟齬を避けるために、あたしはストーリーには絡んではいけない、邪魔な存在になってしまうんだ……。 でも、じゃあどうしてあたしを作ったの?……どうして登場させたの? どうして――! 441 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:57:39.68 ID:YB.de46o [9/12] 「ランちん、そろそろ時間だよ――」 思案を遮る桐乃のその言葉が響いたとき、あたしは自分の身体に違和感を覚えた。 指先や足先から、徐々に身体が透け始めているのだ。 え?これって……何なの!? 嫌よ……! 「いまこの瞬間、原作者があなたを忘れようとしているのよ――」 桐乃は哀れみを込めた視線を送っている。 442 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:59:20.75 ID:YB.de46o [10/12] そして瞬く間にあたしの身体は大部分が透けてしまい、手足はまったく見えなくなってしまった。 自分の存在が失われてしまうことへの恐怖が襲ってくる。 怖い!怖い!怖い! だけどそれと同時に、あたし自身が持つ記憶も、徐々に失われ始めていることに気付く―― そんな!? 嫌よっ!そんなの嫌なの! 「桐乃お願い、あたしを忘れないで!あたしもみんなのこと忘れないから!」 「ランちん……」 桐乃は困ったような、それでいて少し悲しそうな、複雑な表情を見せた。 443 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 02:00:30.68 ID:YB.de46o [11/12] あたしは絶対みんなを忘れない。かけがえのない大切な親友だから―― この身体が間もなく消えてしまうのだとしても、その瞬間まで決して忘れたくない! 高坂桐乃…… 新垣あやせ…… 来栖加奈子…… 高坂桐乃…… 新垣あやせ…… 来栖加奈子…… 高坂桐乃…… 新垣あやせ…… 来栖加奈子…… あたしは自分の記憶を守るように、大好きなみんなの名前を繰り返した。 だけど、皮肉にもそれは、あたしに絶望的な事実を気付かせることになってしまった。 ――そういえば、あたしの苗字は……? それどころか、名前だってニックネームでしか分からない。 そうなんだ…… あたしは元々そんなあやふやな存在だったんだ。 なのに、あの3人と同等に扱ってもらおうとしてたなんて――笑っちゃうよね。 あたしの涙がこぼれたのと、あたしの身体が完全に消えてしまったのと、どちらが先だったのか それはもう分からない―― END

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