無題:5スレ目692

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692 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/29(水) 22:13:26.32 ID:1V7k/qA0 [2/6] つい最近まで茹だるような残暑が続いていたと思っていたら、もう朝夕はめっきり涼しく なってきたな。 受験勉強の方もまぁまぁ順調だしな、たまの休みの日ぐらいは、 昼近くまで寝てたって……と、枕元の目覚まし時計に目をやると。  「うわっ、とっくに昼過ぎてんじゃん!……」  階下からは微かにテレビの音が聞こえてくる。 この時間に家にいるとすっと…  桐乃かお袋だろう。 親父は、今日は仕事だと昨日の夕飯のとき言ってたっけ。  『とりあえず、なんか食わなくっちゃな』 と思いながら、階段を降りていった。 リビングのドアを開けると、お袋がソファに座ってテレビを見ているところだった。  「あら、京介…今頃起きてきたの~、もうオカズなにも残って無いわよ~」  それがかわいい息子に向かっていう言葉なんですかねぇー。 まぁ、今頃起きてきた俺も 俺だけどさぁ。 そんなことよりも、リビングにはお袋だけ…ってことは…。  「なぁ、お袋…桐乃は?」  「あやせちゃんと、お買い物ですって。 夕方には戻るって言ってたわ」  お袋はテレビへの視線はそのまま、こちらをチラリとも見ずに答えた。  「あっそ、えーと、ところで…お袋? 俺は何を食えばいいんですかねぇ~」  「適当に好きなもの食べてよ、なんでも…そのへんにあるやつ…って言っても、 ご飯しか無いけど…あと御漬物」  これが我が家の長男に対する扱いなんですかー! あんたたちの老後の面倒は誰が見るん ですかねぇー! って言ったやりたいが……言わねぇ。いや、言えねぇ。  いったら言ったで、出来のいい妹と比較してあ~たらこ~たら説教っつーか、 愚痴が際限なく続くのは目に見えてるからな。  俺は適当に、って言うか…ご飯と漬物だけだったらお茶漬け以外の選択肢なんて ねぇーじゃねぇかっての! と、心の中で突っ込みを入れた。  俺が侘しい昼食ながらも、まぁなにも食わないよりましだよなぁ~などと思っていたとき テレビに視線を向けたまま、おもむろにお袋が口を開いた。  「ねぇ、京介…あんた…」  「なに?」  「いつだったか…そう、夏休みに自分の部屋に連れ込んでた後輩の女の子とは…… どうなったの? 名前は…えぇ~と何だったかしら…」  うっ!もう少しで飯粒を噴出しそうになったよ! (改行は50行までだって、エラーになった、続けていい?) 693 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/29(水) 22:17:02.96 ID:1V7k/qA0 [3/6] 懐かしさの一歩手前で、込み上げる苦い思い出に言葉がとても見つからない… (by 竹内まりあ) と言うのは置いといて、俺は少ない脳みそをフル回転させつつ 適当な、それでいて自然に聞こえ、出来ることならこの話題から逃れられるような言い訳を 考えていた。  「…………」  俺が返答に窮しているのを訝ったのか、お袋はテレビを消し、さっきまで飲んでいた湯飲み を持って食堂のテーブルに近づいてきた。 俺の真向かいの席に座り、  ヤッベぇ~、言い訳が何も思いつかねぇ~。 下手な言い訳は墓穴を掘るだけだ。 全身の毛穴が開き、変な汗が噴出す。  「……京介、やっぱり…あの後輩の子となんかあったのね……」  「お、お、お袋…それは考えすぎだっつーの! く、く、くろ…黒猫とは、いや、それは あいつのハンドルネームで…、ほ、ほ、本名を五更瑠璃っつって、後輩で…、桐乃の友達で…、 女の子で…、同じ部活の後輩でもあって……妹が二人いて……」  分かってるよ、お袋、そんな冷めた目をしなくてもな、俺の言い訳が支離滅裂だってな。 でも、今は何も言えない…いろいろあり過ぎて…この数ヶ月で俺を取り巻く環境が、環境の 変化が大き過ぎて…今は何も言えない…。  「…京介、お母さんには正直に答えて頂戴…その、く、黒猫さんだっけ?…」  「…………」  「黒ネコさんの親御さんに、その…お詫びしに行くような事態には、なっていないのよね?」  「はぁ~??????」  お袋の言わんとしていた事は、俺の想像を遥かに超えていた、っつ~かさぁ、 ここまで言われりゃ、鈍い俺でも理解できるよ。どんだけ信用ね~のよ、俺、 ここは『北の国から』ですか~って!! あの、極道面した親父がカボチャ持ってお詫びってか!?  『……これは?……』  『…カボチャです…こちらへ伺う途中、近所のスーパーで買い求めました』  『……京介君のお父さん……誠意って、なんじゃろぅねぇ~……』  俺はさだまさしの歌が、脳内を吹き荒れるのを無理やり追っ払い、お袋の目を直視し…  「カボチャは必要ない!」  「…そ、そうなの? ハァ~、それなら一安心だけど…」 695 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/29(水) 22:18:35.66 ID:1V7k/qA0 [4/6]  俺の言葉に安堵したような、それでいて、ちょっと残念なような気持ちが入り混じった 溜息をつくお袋。 ってか、何でカボチャで通じたんだ? まぁいい、まぁいいよ。 突っ込んだら、よけいに墓穴掘っちまいそうだからな。 この話題には、そうだよ正直言って これ以上触れられたくないしな。 さっさと食い終わって部屋に戻ったほうが賢明だろう。 だってさぁ、さっきからお袋はと見れば、溜息ついたきり、思案に耽ってるようで 『まさかねぇ~』とか、『いやいや、でも…』とか言ったと思ったら、『ハァ~…』 とか、ブツブツ独り言と溜息の繰り返しだもんな。   ちっとばっかし危険信号を敏感に感知した俺は、食後のお茶を一口、二口と平静を装い飲み ながら、俺の脳内ではこの後の行動についてシミュレーションを開始していた。  先ずこの茶を飲み終えたら、やおら立ち上がり茶碗と湯のみ、箸を何事も無かったように流し に置く、次に、体勢を九十度左へ向けゆっくりと、しかし少し大股でリビングのドアへ向かう、後はドアノブに手を掛け……  ここが一番重要で、難所だな。 いつもこの段階で…経験則に照らすとだなぁ、 『ねぇ…、アンタ、ちょっと話があるんだケド』って事になるんだよ。 俺だって、ああ何度も何度も繰り返してりゃ、いい加減学習するさ。  ミッションスタート! 先ずこの茶を飲み終えたら、やおら立ち上がり茶碗と湯のみと箸を…  「ねぇ…、京介、あんたにちょっと…聞いておきたい事があるんだけど…」  「うっわ!速っ!……」  お袋は口に出して良いものかどうか、かなり躊躇しているようだった。 俺が茶碗と湯のみを両手に持ち、席を立とうと中腰になった体勢のまま、お袋が何を言い出す のか思案した……。 予想できなくも無いが、『それは有り得ねぇヨ!』と自ら打消した。  「ハァ~…」と再びお袋は溜息をついたが、ついに意を決したかのように、それでいながら 独り言を呟くように生気の無い口調で……  「……京介、アンタ……妹を…桐乃を選んだの?」    「うわっ!!!と!」  ガラガッシャン!  俺は持っていた茶碗と湯のみを手から取り落とした。 697 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/29(水) 22:21:15.17 ID:1V7k/qA0 [5/6] 「なっ、なななな何を…い、いい言い出すんだよ、お、お袋!」    俺が慌てふためくのも無理はない。 まさかお袋の口からそんな言葉が飛び出すとは… しかし、決して予想しなかったわけじゃない、ここ最近の妹と俺の関係をみれば… 『オタクっ娘あつまれー』のオフ会をきっかけに、夏コミやら、桐乃の携帯小説執筆のための 取材やらで、俺たちは一緒に行動することが多くなった。 こう見えても、お袋の直感は かなり鋭い。 いや、どんなに鈍感でも、今までお互いに無視し疎遠にしていた兄妹が、 急に一緒に行動するようになれば… 『二人の間に、何かあったのね!』ってなるわな。  俺が動揺しても、それを無視するかの様に、お袋は考え込む表情をしながらポツリと言った。  「…お父さんがね…」  ここで親父登場とは、いくらなんでも予想外だったさ。  「親父が?……」    「あ、ううん。お父さんがね、この前言ってたのよ。……ほら、夏休みの終わりごろ 桐乃の彼氏ってことで…、御鏡さんが家に遊びに来たでしょ。……まぁ、彼氏ってのは桐乃の 冗談っていうか、ドッキリだったけれど……」  冗談? ドッキリ? 今さらっと冗談と仰いましたよね? 母上? 俺はその”冗談”のお陰で、あの修羅場の中で桐乃にはケーキを顔面に投げつけられ あんたにはおもいっきり殴られ… あれが冗談やドッキリで笑って済むならダチョウ倶楽… それは置いといて……  お袋の話を要約すると、親父は桐乃の彼氏(偽だが)登場にかなりのショックを受けた、 らしい。 まぁ確かに、いつもの親父らしい威厳も何もあったもんじゃ無かったからな。 言ってることは支離滅裂、ただの駄々っ子かと思ったよ。  でだ、親父は桐乃に再び『彼氏登場(本物)』のイベントが発生することを極度に恐れている。  『桐乃に彼氏などとは、金輪際、未来永劫、転地身命に誓って絶対に認めん!!!』と、 お袋に宣言した。 親父は顔に似合わず娘を溺愛している。  しかし、今まで大切に大切に育て、目に入れても痛くない程に可愛い娘が、一生独り身で、 身寄りも無く余生を過ごすのも可哀想で堪えられん、そこで、親父殿のメガネに適うような… つまり、『桐乃の一大事には身を挺して桐乃を守り、桐乃のためならば己の命すらも賭すことに なんの躊躇もしない…そんな男ならば…、』つまり親父殿が安心して桐乃を託せる男…ならば、 可愛いわが娘の幸福こそ願えば、断腸の思いで、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、 今まさに業火の中で焼き尽くさんかという栗を拾う覚悟で、そして、そして…  「なァ、お袋…部屋に戻っていいか?」  「なによ~、京介、ここからが一番大事なところなのよ」  「大体だなぁ~、親父のメガネに適うヤツって言うか、今言った条件に合うヤツなんか どこ探したって、そう簡単にいるわけねーだろ!」 698 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/29(水) 22:25:55.73 ID:1V7k/qA0 [6/6] 桐乃のために己の命すらも賭すことになんの躊躇しないって、あいつは自分の携帯小説の 取材のために、それだけのためになぁー、兄貴のこの俺様に向かって、  『そーね、とりあえずそのへんのダンプに轢かれてみてよ』って、  それこそなんの躊躇しねぇーで言えるヤツなんだよ。 命がいくつ有っても足んねぇーヨ!。  「でね、一番大事なところなんだけど…」 お袋…、無視しないでくれませんかって。  「お父さんが言うにはね、もし桐乃に好きな人が出来て…将来一緒になるとしてもね……、 自分の手許からは絶対に離さないって…ね…言うのよ~…ハァ~…」  「ってことは、何? 婿養子を貰えと?」  「まぁ、それも選択肢の一つではあるんだけどね、桐乃を心から愛してくれる男なら、 探さなくてもいくらでもいるんでしょうけど…ただねぇ~…もう一方がねぇ~…ハァ~…」  お袋はさっきから二言三こと、言ってはハァ~、言ってはハァ~の繰り返しである。  「確かにあの親父とうまくやっていけるヤツなんか、そうそう探しても見つかんねぇーわな」  と言いながら、お袋の顔を見ると、なにやら先ほどと打って変わってニヤニヤしている。  「でもね、あんたはそう言うけどさ~、お母さん一人だけ心当たりがあるのよね~うふふ」  「分かった!、それ以上言わないでくれ!俺を超異常な世界に引き込まないでくれ!!!」  「そう?、京介よ~く聞いてね、桐乃のためでもあるし、お父さんのためでもあるのよ~、 あんた以外にお父さんの出した条件に適う男は、ど~やって考えても思いつかないのよね~、 まぁ、お父さんの了解ももう取ってあるし…ねッ、後はあんたの覚悟しだい?」 715 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 01:59:09.00 ID:9UpK9Qc0 [1/14]  お袋の、俺への常軌を逸した説得工作は続く…  「あのね、京介、よく聞いて頂戴… あんたは兄妹で一緒になるのは間違っているとか、 穢らわしいとか、おぞましいとか思ってるでしょ? 」  「…………」  「じゃぁ、その認識を塗り替えてあげるわ。 …えぇーと、お母さんがまだ中学生の頃の 話なんだけど、大好きで何度も何度も読み返した本があるのよ…『オデュッセイア』と 『日本書記』って本なんだけど… 京介は読んだこと無いわよね~」  「…………」  「でね、これらの物語は古くから人々に愛されて読み継がれてきたものなのよ。 まぁ、物語の内容は実際に読んでみれば分かるんだけどね、いま重要なことは、 この二冊に共通することがあるのよ、それはどちらも兄妹で結婚していることなの。 つまり…兄妹の愛を描いた芸術作品ってわけ」  「…………」  お袋は、陶然として…って言うか何かに憑依されたかのように得々とまくし立てる。 俺は既視感を覚え…どころじゃねぇーよ、一年ちょっと前に俺があやせにやった説得と同じ じゃねーか。 いまの俺の立場をあのときの、あやせの立場に置き換えてみる……  あんとき………  絶っっってぇぇぇぇぇぇー説得できてねーよ!  いくらなんでも、あやせがいくら思い込みの激しい性格だとしてもだ、 はっきし言って、ちっょとでも常識があれば、って言うかまともな人間なら、 こんな超非常識な認識が塗り替わるわけねぇーって!   俺はいまもペラペラと説明を続けるお袋に、笑顔で…少し引きつってたかの知んないけど… 一言言ってやった。 限りなく冷静に。  「お袋、それはあくまでも神話だから。 古代の神話だから…なっ」  この先、お袋が近親相姦物のエロ同人誌でも出してきたら… 俺はもう、声を上げて泣くしかねぇよ。 716 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 02:00:38.81 ID:9UpK9Qc0 [2/14]  だが、お袋の俺への常軌を逸した説得工作はまだまだ続いた…  「じゃ、じゃぁ、…えぇーと、次は…これもお母さんがまだ中学生の頃の 話なんだけど、大好きで何度も何度も読み返した本があるのよ…  題名はいま思い出せないんだけどさぁ、確か野球やってるお兄さんと、その妹との話でね、 たしか妹は新体操やってて… 実はその兄妹は血が繋がってなくて、お兄さんはそのこと 知っててさぁ~、妹は知らないと思ってたんだけど、やっぱ知ってて…   まぁ途中、主人公のお父さんがちゃぶ台ひっくり返したり、弟が甲子園の県大会決勝の 当日、交通事故で死んじゃったり、お兄ちゃんが大学受験で一浪したお陰で、妹と同級生に なっちゃったり、いろいろあるんだけど…結局、二人は結婚しちゃうのよね~」  「お袋、それすっげー端折ってないか? なんて本か、いや漫画だろ、俺も昔読んだこと あるし、大体何度も読み返した本なら題名ぐらい覚えてっだろ」  「えぇ~と、あぁ!思い出した! 『巨人の星』?」  「『みゆき』だろーが!、『巨人の星』はスポ根だよ。 大体、お袋の話には『みゆき』と 『タッチ』がごちゃ混ぜになってるしよー。 そんで題名が『巨人の星』? 星飛雄馬は弟だし、明子ねえちゃんは姉だろが、そもそも二人が結婚するなんて流れじゃ ないし、そんなことになったら花形満はどーすんのよ」  ふと、ゲー研の後輩、真壁君の泣きそうな顔が脳裏を過ぎる。  「????????」  お袋の頭上に疑問符がいくつも浮かんでるのが見えるようだ。  「お袋、わりぃ… 最近、UHF局で再放送されたもんだから… つい熱くなっちまって」  「…京介、やっぱあんたアニメとか好きなんでしょ? 桐乃もアニメ大好きみたいだし、 相性バッチリってことよね…… 第一関門クリア? ってとこ?」 717 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 02:02:54.36 ID:9UpK9Qc0 [3/14]  なにが『第一関門クリア? ってとこ?』 なんだよ。  ここで俺は、反撃体勢に転じた。 『オデュッセイア』も『日本書記』も『みゆき』も、 『タッチ』も俺は読んだ。 『巨人の星』に至っては、最近テレビで見たばかりだ。 お袋の過去の朧げな記憶よりも、俺の記憶の方が鮮明だと言う自負もある。 さて、手持ちカードから先ずはどれを切るか…  「なぁ、お袋… 『みゆき』の中で若松兄妹がラストで、彼女だった”みゆき”より、 結果として、妹の”みゆき”を選択して結婚するのは知ってるよ、でもさぁー、 ここが重要なんだが、妹のみゆきは養女って設定じゃん。  だからこそ、一旦、養女の籍を抜き、改めて兄貴と結婚できたっつー話じゃなかったけ?」  漫画の『みゆき』と俺たちでは、二人だけの兄妹というシチュエーションこそ同じでも、 実は妹が兄とは血の繋がりのない養女だったっつーのがキーポイントなんだよな。 その事実を兄は知っていて、妹の”みゆき”も気付いてるんだけど、主人公の兄はそれを 知らない。 その微妙なすれ違いがベースになって物語が進行していくわけ。  兄はなによりも妹の”みゆき”の幸せを第一に考え、妹の”みゆき”もまた、 お兄ちゃんの幸せを第一に考えている。 なのに、気持ちがすれ違ったまま妹の披露宴当日、 (結婚式よりも披露宴を先にした”みゆき”の婚約者もまた”みゆき”の幸せを第一に考え てたんだけどさ)  読者がどーすんだよ! とやきもきしていると… 披露宴で兄のスピーチの順番が廻ってきて、 初めて、妹”みゆき”への心情を吐露するわけだ。 当時は、涙ながらに読んだもんだよ。  俺が当時の思い出の回想に耽っていると、お袋がケロッとして言いやがった。  「京介、あんた知らなかった? あんた実は養子だったの。……黙ってて御免ね。うふっ」  「チョット待ったァァァァァァァァァァァァア!!!!」 754 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:10:13.03 ID:9UpK9Qc0 [6/14]  何でそんな見え透いた嘘をついてまで、俺と妹をくっ付けたがってんだ? 考えたところで、俺の頭じゃ到底想像も出来ねぇ。 確かに、お袋も親父も桐乃のことを溺愛 している。 俺に対する態度との違いを見ても、一目瞭然だ。  特に親父なんか桐乃のオタク趣味を知って、一旦は激怒したものの、不承不承ながらも黙認 するという形ではあるにせよ、親父なりに理解しようと努めてくれているしな。 いつぞやの、あやせとの一件で分かったことだが、親父は陰でいろいろと調べてくれていた。  己の価値観と相容れないものを受け入れることが、どれ程の葛藤に悩み苦渋を味あうかぐらい こんな俺でも理解できるさ。  だが、ここで俺はある可能性について思い至った。 ま、まさか親父のヤツ、桐乃のオタク 趣味について少しでも理解しようと、いろいろ調べているうちに…… 親父本人があっちの住人になっちまったなんて事は…… ねぇよな、いや、ねぇと信じたい。  桐乃だって『二次元と三次元を一緒にすんな!』って言ってるし… だが、黒猫やゲー研の後輩の瀬奈あたりは…そのあたりかなり微妙だ、御鏡に至っては、 肉体はこっちだが精神はあっちの世界の住人かもしれん。   親父は謹厳実直を絵に描いたような人だから、あっちの世界に一歩踏み込んだ途端に、 『これこそが俺が生きている現実世界だァァァァ!!!』 なんてね……、想像したら気持ち 悪くなってきちまった。  まあ、そんな俺のくだらん妄想は横に置いといてっと、  「なぁ、お袋…、俺の中学校ん時の修学旅行… 海外だって覚えてんよな?」  「…確か…ハワイだったっけ? 木彫りの人形みたいなのあんた買ってきてくれたのよね? それ見て桐乃が怖がっちゃって、翌日捨てちゃったけど」  「…行き先がどこであろうと、俺の記念すべき初めての海外旅行で買った土産の末路が どうなろうと、問題じゃねーんだヨ」  「…………?」  「海外へ行くにはな、パスポートっつーもんが必要だよな」  「京介、あんた何が言いたいわけ?」  「分かんないっつーなら、はっきり言ってやるよ。 …パスポート取るときゃ… ”戸籍謄本”か”戸籍抄本”が必要ーだろうが! そんときゃ俺、どっちがどー違うのか 分かんねーからさぁ、市役所の窓口で『家族全部載ってるやつ下さい』って言ったんだよ」  「あっ!…………チッ!」  ここまで言ってやると、お袋も気付いたらしく桐乃とそっくりの舌打ちをしやがった。 あいつの舌打ちはお袋の遺伝だったのか? んなことねーか。 755 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:11:00.78 ID:9UpK9Qc0 [7/14]  「…ところで京介、麻奈実ちゃんは元気? …最近見かけないけど?」  「いきなり話題変えんなよ!  ま、まぁー麻奈実はいつもどおり、げ、元気だよ」  「話題を変えてるつもりなんて無いわよ~ あんた、麻奈実ちゃんちの養子になるってのは どうよ。 毎日、和菓子食べ放題じゃない。」  「どうよじゃねーよ、なんでそんなにお袋はこの俺を養子にしたがるんだよ! あーあーあー 分かるよ、お袋の魂胆は、一旦俺を高坂家の戸籍から除籍したいんだろ? んでもって、 めでたく桐乃とって思ってるんだろうが…」  「あら、分かっちゃった? 京介、あんたって思ってたより結構鋭いのね~」  俺が万が一にも、田村家の養子になったとしたら… 確かに大歓迎されるだろうよ、 麻奈実はもちろんのこと、あのじーちゃんや、ばーちゃん、ロックに麻奈実のおじさん、 おばさんの誰もが諸手を挙げて喜んでくれることは容易に想像できるよ。  でもなぁー、お袋、田村家の養子になるって事は、あの一家の人々にとっては麻奈実の、 ”婿養子”って事と同義語ですからー! あんたの腹黒い陰謀が白日の下になったら…  『きょうちゃん… きょうちゃんのためにお葬式饅頭作ったんだ… でも…もう食べ… られないか~』   てなことになるのは目に見えている。  じいちゃんはといえば、刑務所の中かも知んないけど。 756 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:12:12.61 ID:9UpK9Qc0 [8/14]  「なぁ、お袋? た、たとえばの話だ、ま、万が一にもお袋の言うとおりに田村家の養子に なったとして、だ…、 そのあと、これもお袋の陰謀…じゃなくて計画通りにそ、その桐乃と …ったとしても、だ、入籍する段階ですぐにばれんだろーが、田村家の養子になる前に高坂家 の嫡出子だったなんて… さっきの話じゃないが戸籍謄本調べれば一目瞭然だろーがよ」  「そんなことぐらいお母さんだって分かってるわよ、やっぱり京介は詰めが甘いわよね~」  「どういう意味だよ…詰めが甘いって…」  「いい、よく聞いて、麻奈実ちゃんちの養子になってほとぼりが冷めた頃… あたしかお父さんの親戚筋の家の養子になるの、それでもって… 麻奈実ちゃんちがこの計画に 感付きそうになった頃、またまた麻奈実ちゃんちの養子になる… しばらくはこの繰返しね」  「お袋、頼むから、冗談にでも麻奈実んちをあんたの悪魔の陰謀に巻き込まないでくれよ、 そもそも、そんなことして何のメリットがあんの? 俺は俺で麻奈実んちと親戚んちを たらい回しにされ、何も知らない麻奈実んちは『婿養子が来たー』って喜んだと思ったら、 お預け食らってさぁー」  「…メリット? もちろんあるに決まってるじゃない。 この壮大な計画の最終目的はね、 あんたがあっちこっちで養子縁組を繰返してるうちにね、京介、あんたが元々は、 どこの家の子供だったかわけ分かんなくなっちゃうこと。 どう?」  「わけ分かんねーのはお袋の思考回路だよ、どこをどう配線すればそんな計画が思い付く んですかー。 つーか、なんか犯罪の匂いすら感じるよ。」  「京介、あんたやっぱり鋭いわ~、この前ねテレビのワイドショーでね、養子縁組を繰返す 手口で保険金を狙ったニュースをやってたのよ。 それをヒントにしたってわけ」  「やっぱ犯罪がらみじゃねーか! もうちっとまともな方法はねーの?」  と、ここで俺は自分が口にした言葉に慄然としたね。 俺もお袋の陰謀に無意識のうちに 引きづられてることに気付いたからさ。 俺は左右に頭を振り、はっきりとお袋に言って やろうとした矢先、玄関のドアが開く音がした。 もう一方の当事者、桐乃のご帰宅である。  「京介、あんた、いまここでお母さんがした話、絶対に桐乃に言っちゃだめよ!」  「んなこたー言われなくったってなぁー、それにだ…」  と、俺がその先を言い掛けたとき、リビングのドアが開き、妹が入ってきた。」  「あら、桐乃。 早かったわね~ あやせちゃんとの買い物もう済んだの…?」  そうお袋は言いながらも、視線は俺に向けたまま無言の圧力を掛けていた。 757 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:13:26.56 ID:9UpK9Qc0 [9/14]  午後7時ジャスト、高坂家の夕食が始まる。  親父は帰宅後、風呂に入りいつもの着流し姿だ。 お袋は誰に話すとはなしにいつもの世間話。 俺はお袋の話に聞くとはなしに適当に相槌を打つ。 桐乃はといえば、終始無言で黙々と 箸を口に運んでいる。 いつもどおりのありふれた高坂家の夕食風景だ。  だが俺の少ない脳みそは、只今、暴風雪警報発令中だよ。 先ほどのお袋の話によれば、この件には親父が一枚噛んでいる、いや、親父が黒幕だと見て まず間違いないだろう。 確かに親父が桐乃を溺愛しているのは誰の目にも明らかだし、  親父のような厳格な人だからこそ、この前の御鏡の一件のように娘に彼氏が出来たり、 ましてや嫁に行かれるなんて、想像もしていなかっただろうし、想像すらしたくなかったの かもしれない。 兄貴の俺でさえ、感情の高ぶりを制御し切れなかったのだから。  あの時、俺は感情の赴くまま、己の感情を桐乃と御鏡にぶつけた。 そう恥も外聞も無く。 しかし、親父は… 自己統制… 俺が外界に向けて感情を爆発させたのに対して、親父は、 自己の内側に己の感情を閉じ込めた。 何故…… 娘の… 桐乃の父親だから…… 俺はあの時、何もかもぶち壊れてもいいと思った。 妹にも妹の彼氏にもどう思われようが、  親父だってあんときゃ俺と同じ気持ちだったろうと思う、『妹』に、『娘』に彼氏だと! ふざけんなっ! 彼氏だろうが誰であろうが、ブッ飛ばす! ってな。  でも、親父は耐えた。 直ぐにでもリビングへ乗込んで、妹の彼氏だと抜かす野郎の胸倉を 掴み、ぶん殴ってやりたい気持ちに耐えた。 何故……  兄貴の俺に無くて、親父にあるもの…… 娘の幸せを誰よりも想う親の気持ち……  親父にとって、娘が… 桐乃が幸せになれるのなら、桐乃がそれを自ら望むのなら… 自分の感情なんてこれっポッチも重要なことじゃなかったんだろう。 俺には兄貴としての感情は理解できる。 しかし、どうがんばろうが親父の… 『父親』としての感情は理解できないだろう。 俺がまだ、親で無いから……  「ごちそうさまー」  桐乃が席を立ち、自分の食器を重ねて、台所へ向かおうとしていた。 無意識にそれを目で追う俺。 イカンイカン、何考えてんだか。 正気に立ち返り、食事を再開すると親父は俺を見据えたままお袋へ言った。  「母さん、京介には… 例の話はしたのか?」  「えぇ、昼間… よく説明したんですけどね。 京介、納得しないのよ~」  俺は目の前で交わされてる親父とお袋の会話が、直ぐには理解できなかった。 しかし、数秒後… あの話か! と気付いたときは、時すでに遅く… 親父が口を開いた。  「京介、これからお前の将来についての重要な話がある。 お前の進路を決める 重大な話だ。 早く飯を食ってしまえ……」  俺は、茶碗に残された、どう見ても二口か三口の飯粒を、箸で一粒づつ口に運んだ。  758 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:15:34.04 ID:9UpK9Qc0 [10/14]  そんな子供じみた抵抗も虚しく、お袋は急須のお茶を俺の飯粒にドバドバ掛けやがった。  「京介、さらさらっと食べちゃなさい。」  そう言いながら、俺の目の前からまだ多少残っている焼き魚の皿と味噌汁の椀を引き揚げた。 うっすらと目に涙が滲むのを感じた俺とは対照的に、ニヤニヤ微笑むお袋の横顔がそこには あった。  もうこうなったら開き直るしかねぇ! あん時、妹のオタク趣味とオタクグッズを守り抜く ためと言う、とても人様に自慢できねぇー理由にも関わらず、捨て身で親父に対峙した この俺だ。 今回は守るものなんて、はなっからねーよッ! 強いてあげれば… おれ自身。  大体、俺と親父は男同士だ、話せばこんな非常識で異常な計画が馬鹿げているかって分かる はずだしな。 俺は最後の飯粒を飲み込むと、機制を制するため先制攻撃開始。  「で、親父、将来についての重要な話だとか、進路についてって話だったよな?」  「ああ、もう志望校は決めてあるのか?」  んっ? 本当に真面目に進路についての話か…?  暫くの間、俺と親父は志望校や志望する学科についてや、将来の就職… どんな職業に就き たいかなど、真面目に話し合った。 親父も俺の話に対して真摯にかつ適切なアドバイスを してくれる。  先ほどのお袋の含み笑いは何だったんだ? まさか、俺を担いだのか? 最近、俺の周りでは、これドッキリですかー って言いたくなるようなことがしばし起こる。 桐乃の彼氏役でモデル事務所の女社長を欺いたり、その前には黒猫とは兄妹の設定で出版社に 乗込んだり…… 桐乃の彼氏ですと御鏡が家に来たり…  今回のお袋の一件は、御鏡の前で暴れた俺への意趣返しかもしんねーな。 カラクリが分かっちまえば、こんな事でいちいち目くじらを立てるのも大人げねーし、 日頃から世話になってるお袋への感謝の意を込めて、素直に騙されたやるよ。  親父と俺の進路についての話し合いが小一時間も続いたろうか、話の区切りが見え掛けた ところで親父がおもむろに問うてきた。  「ところで、昼間、母さんとも話し合ったそうだが、どんな話をしたんだ? 先ほど聞いたところでは、お前が納得してないように聞こえたが……」  やっぱ、素直に騙されるのやめた。 昼間のお袋との会話を思い出すとフツフツと怒りが 再燃されてきた。 俺は親父に、昼間のお袋との会話をありのまま…… いや、多少の誇張を加えながら『悪魔の養子縁組計画』を暴露してやった。 お袋よ、いくら妹と比べて出来が悪いとはいえ、我が家の長男をオチョクルとしっぺ返しが くるのだよ、 ハハハハハ。  誇張も交えた俺の話を、目を瞑り黙って聞いていた親父は、聞き終えると、口を開いた。 759 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:16:43.24 ID:9UpK9Qc0 [11/14]  「母さんの話には、かなりの無理があるな。 ハハハハ」  親父はさも愉快そうに笑った。 こんなに機嫌のいい親父を久しぶりに見たよ、 どうよお袋、恐れ入ったか、やっぱ親父は常識ある大人だぜ。 親父は続けて…  「まず、母さんの案では、法的な問題を拭い去れない。 戸籍法を始めな。… 何よりも、田村さんの家の養子云々に至っては、人様の家にご迷惑を掛けることになる。」  親父! もっと言ってやってくれよ、もっと!  親父はそれ以外にも、お袋の計画に内在するいくつかの問題点を、理論的かつ丁寧に 説明してくれた。 そこまで懇切丁寧に論破されてはグゥの根も出まいよ。 お袋はと見ると… 子供のように口を尖らせていた、拗ねてんなよっ、息子を嵌めた天罰天罰。  「それでだ、京介…、母さんの案を実行に移すには現実的に無理がある。 分かるな?」  なんか、話の流れがおかしくないですか? 俺の理解不足? いま、『母さんの案を…』 ってところ、なんか引っかかるんですがねぇ。 まるで、じゃー他に”案”があるみてーじゃねーか。   『A案はちょっと無理ですね、代案のB案でいきます』 みたいな。  「京介、よく聞け… 俺の案を伝える……」  やっぱ、そーくるのかよ! 本人達の意思を無視し、無理やり実の息子と娘を一緒に さるために、いや、その発想自体が鬼畜の証拠だけどな!  そのためにゃー息子を養子に出そーっつー案より、鬼畜な案があるなら 聞いてやろーじゃねーか!!  「京介、お前には死んでもらう……」  なぁ、親父さんよ、俺… 今、夢ん中なんだろ? 夢見ながら、あぁーこれは夢なんだって、 そー気付くことって、たまにはあるよな? それがこれ。 昼間のお袋との会話から始まり 今こうして親父と話してんのも、夢ん中の話でさぁー  そのうち、お袋あたりが『京介~、休みの日だからっていつまで寝てんの~』 とかな。 ただ…、やけにリアルなのが怖いんだけどさぁ。  「親父、話の途中で悪いんだけど… 一発、デコピンやってくんねーか? 最近寝不足でさぁー 悪いけど… 一発…」  ビッシッ!  「イッテェェェェェ!!!」  「京介? 大丈夫か?」  「オーケー、オーケー、ノープロブレム… チッ!」 760 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:17:40.46 ID:9UpK9Qc0 [12/14]  夢でも何でもなかったよ。 現実、超~現実世界、鬼畜と化した親父とお袋が跋扈する 超異常空間だけどな。  「京介、お前は… 何か勘違いしてるようだな。」  いまあんた、『お前には死んでもらう……』って言ったじゃん。 勘違いしようがねーだろ。 他にどう聞こえるんだよ。  「いいか、俺が言っているのは、『失踪宣告』という制度を利用することだ」  利用じゃなくて、悪用の間違いだろ! って言ってやりたかったが、『失踪宣告』って、 『失踪』を『宣告』?????? 意味が分からん。 とりあえず親父の説明を聞き、俺が理解できた範囲で言うとだなぁ。  不在者、つまり生死不明の者について一定の期間が経過したときは、家庭裁判所が、 失踪を宣告するって、制度らしい。 具体的には『戸籍上は死亡しました』ってことで…、 なんでそんなことすんのってーと、…たとえば… 俺の親父が生死不明の状態になったとして、 何年たっても行方が分からん。 そーなんといろいろと不都合が生じるっしょっ… 相続問題とか色々… でもって、その一定期間ってーのが、7年間らしい…    俺が親父の説明で理解できたのはまぁーこんくらいだ。 要するに、俺は生きてて、親父やお袋の目の前にいるってーのに、警察に捜索願を出すらしい、 そんでもって、無事に7年経過した後、親父たちが『息子は7年間経っても行方不明です』って、 家庭裁判所に届けるらしい、で、家庭裁判所がめでたく、俺の死亡宣告を出す…戸籍抹消。  バァァァァァァァァァァァーカカッ! ッつーの!  戸籍上とは言え、俺が死んじまったらあんたらの『鬼畜計画』が頓挫するじゃねぇーか。 お袋は俺に詰めが甘いったけどよー、親父なんて甘いどころか致命的なミスを犯してんじゃん、 死んじまったやつと、桐乃を一緒にすんのか? バカじゃん。  「なぁ、親父、7年後めでたく俺は死んだ事んなってさぁー、無事に戸籍も抹消って事にも なってだ、書類上この俺はこの世に存在しないんだよな、 ケッ! そんなのに、どーやって… あ、あいつとくっ付けようってんだよ!」  「京介、お前は、7年経過後… つまり戸籍抹消後にな… 千葉かそこいらの海岸で発見 される。 記憶喪失でな。 ただし、京介という名前だけは覚えている」  極道と見紛うような面の親父が、無表情で淡々と『鬼畜計画』の詳細を述べるのを 聞いていると、目眩すら覚えるよ、意識がすーっとあの世へと持ってかれる感じ?  「随分と都合のよろしいことで… で、その後は?」  「お前には、新しい名前と、新たに戸籍が作成される」  ここまでくると不思議なもので、自分の身の事なのに先が聞きたくなる。  「それから?」 761 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:19:49.95 ID:9UpK9Qc0 [13/14]  「名前に関しては、発見された場所に因むものだったり、一般的にありふれた苗字だったり、 特に規定は無いようだ、例えばだ、千葉の勝浦で発見されたら勝浦京介、三浦半島なら、 三浦京介のようにな」  「それから?」  「その後、お前は運命の悪戯か神のお引き合わせによって、桐乃と出会う。 お前は桐乃の婿養子となって、再び高坂京介となるんだ。 どうだ完璧だろう」  「…………」  「どうした、何か言いたいことがあるんじゃないのか?」  言いたいことは山ほどあるがな、どうしてもこれだけは聞きたいっていう点がある。  何故それ程までして桐乃と、って事だが……、いやいや、それはこの質問をした後でもいい。  「親父、親父は自分の職場に息子の捜索願を出すのか? 目の前にいる息子の…捜索願を、 それにだ、いくら全国で家出人やら何やらが多いって言っても、やっぱさぁー、 警察官の息子がって事になれば、親父の同僚たちだって多少は気ー遣うんじゃねぇーの?」  「その点に関しては心配いらん。 お前の捜索は、俺が全力で阻止する。」  もう何言われよーが、驚かねぇーよ、この家はいま超異常空間だからな。  「ただ、一つだけ… お前のことで心配がある。」  「なんだよ」  「京介、お前が… この先7年間もの間、一人でどうやって生きていくのかがな…」  俺は、その場に… キッチンの床に土下座して…、親父に言った。  「お父さん、いままで親不孝ばかり掛けるどうしようもない馬鹿息子で、 申し訳ありませんでした。 これからは心を入換えあなたの言うことには何でも従います 御免なさい」 グスッ 762 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 22:22:42.22 ID:9UpK9Qc0 [14/14]  さーってと、なんだか生まれ変わったようで清々しい気分だぜ! クソッ!  最後に今回の一件についての、顛末について話して置かなきゃな。 俺の涙ながらの土下座による嘆願の甲斐もあって、俺の『捜索願』の届出は回避された。  ただ、残念なのはあの時、どうしても親父にこれだけは聞いて置きたいっていう事が、 聞けなかったこと。 喉元まで出掛かったのに…  俺の涙の嘆願を受け親父は…  「母さん、ここに紙と何か書くものを持ってきてくれ、鉛筆はだめだ。 あと朱肉を」  そうだよ、もう気付いたろ、俺は親父に対して『誓約書』を書かせられたんだよ。 だが、不思議なんだよな、実の兄妹をくっ付けようとした近親相姦上等の鬼畜親父が書かせた 『誓約書』にしちゃ… てっきり、将来桐乃と結婚しますだの何だのと約束させられるのかと、 そう想ってたんだ。 でも違った……  ただ一文だけ、  『私こと、兄、高坂京介は 妹、高坂桐乃を身命を賭して 一生守り抜くことを誓います』 (完)

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