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493 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/03(木) 18:01:20.54 ID:6tJTLwGKo [3/7]
「いよいよ明日だね~、きょうちゃん」
「そうだな。まあ、やれることはやったし、もうどうにでもなれって感じだな」
「もう、きょうちゃんってば。ちゃんと受かってくれないと困るんだけどなあ」
今俺は、麻奈実との勉強会を終え図書館から帰宅する最中だ。
本命の大学の入試は既に終わったとはいえ、これからもまだいくつかの滑り止めを受けることになっている。
そのため、今も勉強会は継続して開催されている。
「じゃあ、またな」
「うん。ばいばい、きょうちゃん」
いつもの丁字路で麻奈実と別れ、足早に帰宅する。
帰宅してからも夕食までは少し勉強するつもりだ。一生が決まりかねない大事な時期だからな。俺だってこれくらいはやるさ。
そして夕食時、
「京介、発表明日でしょ? 直接見に行くの?」
「ああ。そうするつもり」
俺志望する大学はありがたいことに自宅からはそんなに遠くない。
まあ、家から近いからってのもそこを選んだ理由の一つだから当然ではあるのだが。
「田村さんと行くんでしょ? 落ちてても電話ちょうだいね」
「ぐ……なんでわざわざネガティブな方に持っていくんだよ」
「今さら気を遣っても結果は変わらないんだからいいじゃない」
……確かにそうだけどよ。つくづく長男に対しての扱いが悪い家だ。もし受験したのが桐乃なら決してこうはならないだろう。
ちなみに桐乃も一応受験生ではあるのだが、進学するのはどこぞの進学校というわけではない。
進学するのは俺が通っていた高校であり、こいつの能力からすれば受かって当然で、落ちることなんて天地がひっくり返ってもありえない。
そんなわけで、我が家で落ちる落ちない等の語句は禁句にすらならないのだった。
「……ごちそうさま」
「あら、もういいの? 半分も食べてないじゃない」
「いい。お腹いっぱい」
そう言うと桐乃は、部屋に戻ってしまった。
どうしたんだ、いったい。
「あの子最近元気ないのよね。京介、あんた何か心当たりない?」
「ねーよ」
でも、最近あいつの様子がおかしいのは俺も気になってたんだ。
落ち着きがないというか、やたらとそわそわしてるしさ。
てっきり新作ゲームが届くのが遅れているとかその程度だと思ってたんだが……飯を残すほどとなると、これはちょっと無視できない。
494 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/03(木) 18:01:55.20 ID:6tJTLwGKo [4/7]
「ごちそうさま」
何か悩み事があるなら兄貴である俺が聞いてやらなくちゃな。
桐乃の部屋のドアをコンコンと二回ノックする。
「桐乃、俺だ。ちょっと話があるんだけど」
しばらくすると、勢いよくドアが開く。突然の不意打ちに対応できず、顔面に直撃してしまう。
「ぐぇあ!」
いてえええ!
くそっ……最近こんなことなかったからすっかり忘れてたわ! 懐かしいな、ちくしょう!!
「ちっ……話ってなに?」
「お、おまえが最近元気ないというか落ち着きないみたいだからさ……ちょっと気になってよ。悩み事でもあるのか? 人生相談、あるんなら乗るぜ?」
痛む鼻をさすりながら、できるだけ優しく言ってやったつもりだったのだが、桐乃は突然怒り出してしまう。
「はあ!? 誰のせいだと思ってんの!?」
「お、俺のせいなの!?」
い、いったいどういうこと? 最近は受験勉強で忙しくて、こいつとはあんまり話してないし、心当たりが全くないんだけど?
「ど、どういうことだ? 俺何かしたか?」
「うっさい。今日はもう寝るから、邪魔しないで」
桐乃はそういってドアを閉めようとしてしまう。
だが、俺は素早くドアを抑えそれを阻止。
こうなったら絶対におまえの悩みを聞き出してやるぜ。俺が原因と聞いて放っておけるか!
「おとなしく悩みを打ち明けろおお!」
「悩みなんてないって言ってるでしょ!」
「おまえさっき俺のせいだって言ったじゃねえか!」
「うっさいうっさい! あんたは自分の心配だけしてればいいの!」
「えっ?」
その言葉を聞いたとたん、つい手から力が抜けてしまう。
バタン! ガチャリ。
その隙を突かれ、ドアを閉められたあげく、鍵までかけられた。
どうやらこれ以上の追及は不可能なようだ。
495 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/03(木) 18:02:25.80 ID:6tJTLwGKo [5/7]
だけど、桐乃が最後に言ったあの言葉。
素直になれない妹が、明日合格発表である俺を気遣ったものであることは間違いなかった。そして、確実に桐乃に悩み事が存在するということにも繋がる。
俺の心配だけしてればいい、とはつまるところ私のことは後回しでいいということだ。
「喜んでいいのか悪いのか……」
まったく、素直じゃねえな!
「ごめんな、明日改めて聞いてやるから」
とっくにベッドでふて寝しているだろう妹に向かってそう呟いた。
――翌日
「ひゃっはあああ!」
掲示板に自分の受験番号を見つけ、狂喜する俺。
「よかったね~、きょうちゃん」
麻奈実も涙ぐんで祝福してくれている。ちなみにこいつもしっかり受かっている。
少し危なかった俺とは違い、余裕を持っての合格だ。
携帯を取り出し、自宅へと電話をかける。ワンコールもしないうちに電話がつながった。
「あ、おふくろ? 俺、受かってたわ」
『ほんとに!? 間違いないの!? 見間違えてない!?』
「間違えてねえよ。ちゃんと受かってた」
『そう……よかった。あ、そうだ。…………桐乃ー!京介受かったって!……マジデ!?ヒャッハアアア!!』
遠くから聞こえる奇声はきっと桐乃の声だ。
あいつ喜んでくれたんだな。自分も悩みを抱えてるってのによ。
その後、お袋と一言二言会話を交わして電話を切る。
「きょうちゃん、これからうちでお祝いするんだけどどうかな?」
「悪い。俺は今すぐ家に帰ってやらないといけないことがあるんだ」
「そっか……がんばってねお兄ちゃん」
「おう!」
どうやら麻奈実はなにもかもお見通しであるようだ。
麻奈実に言われちゃ仕方ない。精々頑張って桐乃の悩みとやらを解決してきてやるぜ。
496 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/03(木) 18:02:57.47 ID:6tJTLwGKo [6/7]
「ただいま!」
最寄駅から走って自宅に戻る。玄関には桐乃の靴があったので多分部屋にいるはずだ。
二回まで駆け上がった俺は桐乃の部屋のドアを力強く開け――
ガッ
開かない。ご丁寧に鍵をかけてやがる。
く……せっかくかっこつけようってのにこれじゃあ台無しじゃねえか。
「ちょ、桐乃! あけろって!」
「うっさいなあ。なに?」
ドアを開け、半眼で俺を睨む桐乃。
「なにって……いや、その……」
い、言えねえ! 合格発表から直帰でおまえの悩みを聞きにきたなんて、そんな恥ずかしいことが言えるわけがねえ!
だけど、麻奈実にはああ言われちまったし……こいつがいつまでも元気がないのも見ててもやもやするし……。あくまでも仕方なくだからな!
「い、いや……昨日、おまえが自分のことだけ心配してろって言ったろ? だから…………その、俺の心配事はもう終わったから、今度はおまえのをだな」
「ぷぷっ」
桐乃はとっさに口を抑えるが、それでも抑えきれないといったように笑いをこぼす。
「あんた……息まで切らしちゃって、そんなに妹のことが心配だったわけ? あ~キモいキモい」
ぐ……心配してやった兄に対してなんという言い草。
「あ、言っとくけど別に悩み事なんてないから」
「は? だっておまえ、昨日とかろくに飯も食ってなかったじゃねえか。それでなくても最近そわそわしててたりさ」
「そんなことどうだっていいでしょ。 と、とにかく、もう大丈夫なの!」
腕を組み、少し照れたように顔を背ける桐乃。そこに昨日までの桐乃の表情の暗さなど微塵もない。
あれ? なんだ、いつもの桐乃じゃないか。悩みはどこに行ったの?
「あんたさ、受験も終わって暇になったでしょ? だから……暇つぶしにシスカリで対戦してあげる」
うん。やっぱりいつもの桐乃だ。結局、俺の気合は空回りだったわけだ。
ま、それでも悪い気はしない。こいつが元気なら、それでいいさ。
「仕方ねえな。付き合ってやるよ」
「はあ? 何寝ぼけてんの? あたしがあんたにつきあってあげるんでしょ?」
「ははは、そうだな。……ありがとよ桐乃」
おわり