無題:8スレ目513

「無題:8スレ目513」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

無題:8スレ目513」(2011/03/13 (日) 21:54:07) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

513 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/13(日) 21:33:19.99 ID:Ea2rmdZ3o [3/9] 「はあ!? またリアが来るの!?」 「そっ。今度、東京で陸上の世界ユースがあんの」 リアが我が家にホームステイしたのが4年前。俺はもう大学生で、桐乃は高校生だ。 桐乃が言うには、リアはその世界大会とやらに出場するため来日するらしい。 そして、その大会の前日に現地入り。大会までの間を我が家でホームステイして過ごす予定だと言う。 「そういうのって、近場のホテルとかとったりするんじゃないの? しかも前日って……普通もっと早く来日するもんじゃねえの?」 時差ボケとかどうする気だ。 確かに4年前はそんなの気にもとめてずに元気に走り回ってたけどさ。今度は遊びに来たわけじゃないんだろ? 「そうなんだけど、リアがどうしてもその日にあたしん家がいいって言ったんだって」 「ふーん」 あのリアがねえ。 陸上一筋で陸上に勝る優先事項など何もないはずのリアが大事な世界大会前にわざわざ千葉の、練習環境すら満足にない我が家に、時差ボケ覚悟の日程でホームステイ。 今度は一体どういう要件だ? 大会前に桐乃と勝負して弾みをつけようってことだろうか。 しかし、それならわざわざホームステイする必要はない。それに時差ボケ覚悟の日程で来日する理由の説明がつかない。 まあ、あいつのことだから何も考えてないってことも十分にありえそうだけどな。 「いつ来んの?」 「明日」 「明日ぁ!? お、おま、もっと前もって言っとけよ!」 やっべー! 何も準備してねえぞ!? 「きもっ、何慌ててんの? あんたは別に何も用意することとかないじゃん」 「……そうっすね」 でもさ、あれから4年経ったんだぜ? ちっこかったリアも今では16歳。 絶世の美女に変身しててもおかしくないわけじゃん。心の準備は必要だと思うんですよ。 やべー、今から超どきどきしてきた。こんなこと桐乃に言ったら殴られるから絶対口には出さないけど。 『キョウスケおにいちゃん、超好きっ!』 リアの台詞が、さまざまな表情と共に鮮明に思い出される。 けらけらと笑っていたかと思えば、一瞬だけ淫靡で大人びた表情を見せてくれもした。 そして、そのどれもが懐かしかった。 514 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/13(日) 21:35:44.31 ID:Ea2rmdZ3o [4/9] 「はは、そういやあいつとの初対面はえらいハプニングから――」 どすっ。みぞおちに鈍い痛みが走る。 桐乃がえぐりこむようにして容赦ない一撃を下さった。 「あ~~! キモいキモいキモい! 今思いかえしても腹立ってきた!!」 「あ、あれは……事故だって…………何度も言ったろ」 先ほどの一撃でうまく呼吸ができないが、それでもやっとの思いで言い訳を口にする。 「うっさいうっさい! あたしの――は、は、裸見たくせに!!」 「そっちかよ!」 リアの方はいいのか! 「どっちもダメに決まってんでしょ!」 「げふっ」 再び炸裂する桐乃の鉄拳。 口は災いの元。最後の余計な突っ込みのせいで、もう一撃もらうことになってしまったのだった。 翌日――リアが来日する予定の日。 「ただいま~」 玄関に桐乃の声が響き、我が家の新たな住人の来訪を教えてくれた。 階段を下り、リアを出迎える。 そこでリア――らしき人物を見てぎょっとした。 身長は桐乃と同じか少し低いくらいだろうか。すらりと伸びた細い足に、これぞアスリートといった均整のとれた身体。 艶やかな黒髪は背中の辺りまで伸び、その鳶色の瞳は爛々と輝いていた。 「あっ! キョウスケおにいちゃん! またお世話になりますっ!」 どうやらリアで間違いないようだった。だが、その容姿は以前とは比べものにならないほど大人びている。 そして、以前よりさらに流暢な日本語を喋るようになっていた。 天真爛漫な笑顔でにこにこ微笑む元小さな居候に向かって俺は、 「いらっしゃい。ま、ゆっくりしてってくれ」 少し視線をそらしながら歓迎の挨拶をしたのだった。 515 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/13(日) 21:37:39.96 ID:Ea2rmdZ3o [5/9] その日の夜、いつぞやの時と同じようにリアの歓迎会が行われた。 再びお袋が久しぶりに全力で料理の腕を振るう予定だったのだが、大会前なので食事管理が特に厳しいらしく、お袋の本気を見ることはかなわなかった。 しかしそれでも、出された料理をうまいうまいと全て平らげてしまうあたりがいかにもリアっぽくて微笑ましく思えた。 「結局何しに来たんだ? あいつ」 湯船につかりながらリアの目的について頭を巡らせる。 桐乃へのリベンジは4年前に達成済み。桐乃の足がいきなり速くなった理由も(誤解したままではあるが)納得済み。 それなら単純に桐乃と勝負しにきたのかと思えば、今日は一日中桐乃とゲームやアニメ鑑賞して遊んでて勝負するなんてこともなかった。 「さっぱりわからん」 こりゃあ、大会前にリラックスするために遊びに来た辺りが正解かもな。 日程に関しては何かしら事情でもあったんだろ。 自分の中で一つの結論が出たころ、脱衣場からするすると衣擦れの音が聞こえてきた。 「ま、まさか……」 まさかリアの奴、また「一緒にオフロ入ろっ!」なんて言い出すんじゃねえだろうな。 まずい! あのときはまだリアも子供だったし、冗談半分ですんだけど今はまずい! 何がまずいってちゃっかり俺のリヴァイアサンが覚醒しかかってることだ! 「おにいちゃん、一緒にオフロ入ろっ!」 「きゃああああああああ………あ?」 浴室のドアを開いた向こう、そこには水着着用のリアが立っていた。 しかもその水着、なんとスクール水着である。 「えっへっへー。3年どころか4年経ったし、前キョウスケおにいちゃんに言われた通りしっかり水着も着てきたよ!」 「違う、あれはそういう意味じゃない!」 俺は水着をリクエストしたことは一度もないよ! たしかにそれっぽく聞こえたけども! そもそもなんでスクール水着をチョイスしたんだ!? 「あれ? 違ったの? ……じゃあ脱ごっか」 そう言うと、リアは水着の肩ひもに手をかけた。 「ス、ストオオオオップ! おまえは俺を犯罪者にしたいのか!?」 なんなの!? 外国の方ってみんなこんなにオープンなの!? いいや、違うはずだ。だってブリジットはもっと落ち着きがある子だったもの。マネージャーや桐乃の偽装彼氏として数回話しただけだけどさ。 なんとかリアの全裸化を食い止めることには成功したが、それでも出ていく気はさらさらなかったらしい。 516 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/13(日) 21:38:32.02 ID:Ea2rmdZ3o [6/9] 「背中流してあげる! こういうの裸の付き合いっていうんでしょ?」 おまえは裸じゃねえけどな! しかし、俺があれだけ悲鳴あげたってのに桐乃はおろか親父たちすら現れない。 いくらなんでも、この家での長男の扱い悪すぎない? もし俺が暴漢に襲われてたらどうするの。 「なんか前よりおっきいね」 「お、おおお、おっきい!? 何のことだ!?」 リアに言われるがまま背中を流してもらっていると、リアの突然の言葉に動揺してしまった。 「何で慌ててるの? 背中、背中がおっきいって」 「あ、ああ、背中な。もちろんわかってたさ」 なんだ背中か。驚かせやがって。 むにゅん。 あれ? こんな感触のタオル、うちにあったかな?  妙にやわらかくて、肌触りは――そうだな、サテン生地っぽいな。たとえばスクール水着なんかはこれに近いかもしれない。 「……リア? 当たってないか?」 「くふっ。当ててるんだよ? おにいちゃん」 「お、おまえどこでそんなの覚えやがった!?」 さては桐乃か!? 桐乃の影響なのか!? 逃げるように風呂から上がった俺は、そのまま自室へと逃げ込んだ。 「なんなんだ!?」 今度ばっかりはあいつの真意がさっぱり見当もつかねえ! 俺をからかって何がしたいんだあいつは! あの純粋だったリアはどこへ行ってしまったの!? 「このままじゃ駄目だ。邪念は捨てて早く寝よう」 部屋の電気を消し、そそくさとベッドに入る。 かちゃ。 静かな部屋にドアの開く音が響く。 「……寝ちゃった?」 「………………起きてるよ」 声から判断してこの声の主はリアであるようだ。だが、その声にいつもの快活さは感じられない。 入口とは反対の方向を向いて寝ているのでリアの表情を確認することはできなかった。 ぱたん、と静かに扉が閉められる。 517 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/13(日) 21:39:58.90 ID:Ea2rmdZ3o [7/9] 「キョウスケおにいちゃん」 次にリアの声を確認した時には、リアはベッドのすぐわきまで来ているらしかった。 相変わらず足音がしないやつだ。 「一緒に寝てもいい?」 そう聞かれて、どきりと心臓が跳ねた。 だが、ここで動揺しては相手の思うつぼだ。表面上はなるべく平静を装う。 「桐乃が怒るぞ?」 「怒らないよ」 桐乃が怒らない? どういうことだ? しかし、リアは俺に考える間を与えてはくれなかった。 そのままするすると布団の中に進入してくる。これにはさすがに俺も慌てざるを得ない。 「リ、リア!? ちょ、ちょっとま――」 「桐乃にはおにいちゃんと寝るって言ってきたから」 その一言で俺の言葉は、喉にふたをされたようにぴたりと出なくなる。まるで魔法にかけられたみたいだった。 この状況を桐乃が許した? 一体どういうことだ?  「……とにかく説明してくれ。それで、俺が納得したら一緒に寝てもいい」 「うん。わかった」 それから、リアは今回の無茶な日程の来日の理由を語り始めた。 「桐乃の真似してみたんだ」 「桐乃の?」 「うん」 こつん、と背中に軽く何かが当たる感触がした。 リアの姿は未だ見えない。 「桐乃があたしを負かしたことがあったってことは前に言ったでしょ?」 「ああ」 4年前、桐乃が留学していた頃。俺は様子がおかしい桐乃を無理やりに連れ戻しに行った。 桐乃が『あたしのコレクション全部捨てて』なんて言うメールを送ってきたからだ。 友達と会えない、エロゲができない、アニメが見れないといった理由から桐乃は体調を崩しており本調子ではなかった。 そんな桐乃は俺がエロゲを持ち込んだことにより劇的な復活を遂げ、なんとリアを負かしてしまったらしかった。 もっとも、リアには兄妹の愛の力として説明してあるけどな。 「それが桐乃の真似とどう繋がるんだ?」 「あはっ、やっぱりキョウスケおにいちゃんは馬鹿だなあ」 むっ。馬鹿に馬鹿と言われる筋合いはないぞ。それにやっぱりってなんだ、やっぱりって。 ……同じやりとりを4年前にもやった気がするな。 518 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/03/13(日) 21:42:36.40 ID:Ea2rmdZ3o [8/9] 「桐乃は、桐乃が大好きなおにいちゃんと久しぶりに会って――その次の日あたしに勝った」 「ああ」 「だから、あたしも大好きなキョウスケおにいちゃんと会えば足速くなるよね」 「いやいや! ならねえよ!」 どんな論理の飛躍だ! 俺は陸上の神様かなにかか!? 会うだけで速くなるわけないだろ!? しかし、リアは全く動じない。 「なるよ」 きゅっ、と背後から優しく抱きしめられた。 「桐乃も、あの時こんな気持ちだったんだね。これならリアが負けちゃうくらい速くなるのもわかるかも」 うまく言葉が出てこない。 「寂しかったんだよ? …………明日、頑張るから見ててよねっ」 どうやら、こいつの『キョウスケおにいちゃん、超好きっ』は嘘ではなかったらしい。 あの時はてっきり、単純に足が速くなるとの思い込みで言ってただけだと思ってたんだがな。 いや、あの時はそうだったのかもしれないが。少なくとも今は違うようだった。 桐乃がこの状況を許した理由も、好きなものができない、好きな人に会えないつらさを誰よりも知っていたからだろう。 「…………仕方ねえな、今日だけだぞ」 大会当日。 リアは今競技場内のスタートラインに立っている。じきにスタートの合図がなるだろう。 かつて言えなかった言葉。妹を依怙贔屓した結果、かつて伝えられなかった声援を今度こそ伝えるべく、俺は誰よりも大きな声を張り上げたのだった。 おわり

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。