俺の妹が身長180cmなわけがない:第十三話

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373 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 22:02:56.57 ID:/rgor//go [1/6] 時は二月末日。 俺は、今までとんでもないことを忘れていた。それを思い出したのは何気なく見ていたテレビがきっかけだったんだ。 「……ろくな番組やってねーな」 リビングのソファに腰掛け、テレビを適当にザッピングしていく。結局、見たい番組も見当たらず適当なニュース番組にチャンネルを合わせる。 アナウンサーやレポーターの声をBGM替わりに、読み飽きた週刊誌を読み返す。 俺が平日の昼間からだらだらと過ごしているのにはわけがあった。つい先日ようやく期末試験が終了し、今は短縮授業となっているのだ。 もはや習慣となった麻奈実との勉強会のおかげもあり、そこそこの結果は残せたと自負している。 『続いて次のニュースです』 テレビでは依然としてアナウンサーが淡々とニュースを伝えている。 「ふあぁ……」 あくびのせいで目尻にたまった涙を手の甲で拭う。 再び視線を週刊誌に落とそうとした瞬間、急激な焦燥感が俺を襲った。財布を落としたことに気付いた瞬間みたいな、あのドキッとする感じだ。 なんだ……今の?  ゆっくり周囲に目をやり、様子を窺う。 『本日、○○大学では合格発表が行われており、受験生の皆さんは緊張した表情で掲示板を見つめています』 テレビには、合格したらしい受験生が嬉々としてインタビューを受けている姿が映っていた。 この時期、別に何も珍しくない映像であるのだが、俺は映像から目が離せなくなる。 受験生……合格発表……。なんだ? ……ここまで出かかってるんだけどな。 「…………あっ。あああぁぁぁぁ!!?」 この時俺に電流走る。 比喩ではなく、割とマジでだ。あやせと初めて出会った時とはまた違う種類だけどな。 そのままリビングを飛び出し階段を一段飛ばしで駆け上がる。階段を上り切ると、俺の部屋をスルーし、ノックもせずバンッと沙織の部屋のドアを開く。 「さ、沙織! おまえ受験どうだったんだよ!?」 今まで家の中で受験のじゅの字も出なかったから完全に忘れていたが、俺と二つ違いの妹・沙織は、今年が高校受験の年だった。 しかし、俺の質問に答えが返ってくることはなかった。 今さら思い出した俺に怒っている……わけではなく、単純に沙織がいなかったからだ。 そういえば、あいつはまだ普通授業だったか。 この時点で、いかに俺が慌てていたかわかるだろう。 374 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 22:04:14.71 ID:/rgor//go [2/6] 「…………」 無言で腕を組みながら、せわしなく玄関をうろつく。かれこれ30分はそうしているだろうか。 さっきまで完全に忘れていたというのに、一度思い出してからは他のことがまったく手に着かない。いてもたってもおられず、なんとも落ち着かない気分だった。 チラッと時計を確認したところ、現在の時刻は12時40分。 「……うそ……だろ?」 なんと玄関をうろつき始めてから5分ほどしか経っていない。どこの精神と時の部屋だ。 沙織が帰ってくるのは、いつも18時ごろ。それまでずっとこうしてたら気がおかしくなっちまう。 くそっ、なんでもうちょっと早く気付かなかったんだ。せめて、今朝出掛ける前に気づいていれば……。 いや、そもそもこんな大事なこと忘れなきゃよかったんだけどさ。 言い訳させてもらうと、最近はシスカリの特訓やら麻奈実との勉強会やらで予定が立て込んでて大変だったんだよ。 大人しく両親に聞けばいいじゃねえかと言うやつもいるだろう。だが残念だったな。 親父は仕事、お袋は携帯をテーブルに置き忘れたままどこかへ出掛けた。親父はともかく、お袋はなんでいつもいつもこうも間が悪いのか。 「そうだ! あいつらなら知ってんじゃねえか?」 あいつらとは沙織のオタク友達である桐乃と黒猫のことである。 沙織と同様にまだ学校にいる可能性もあるので電話は避け、メールを作成し送信する。この時間は昼休みだろうから、メールくらいなら大丈夫だろう。 文面は「沙織の受験についてなんだが、なんか知らねえ?」としておいた。なんとも要領を得ない文章だが、今の俺にそんなことを考える余裕はない。 そして、ほんの1分もしないうちに携帯が鳴った。これは体感時間で1分ではなく、実際に1分だ。携帯の時刻表示を食い入るように見つめていたから間違いない。 『そんな~優しくしないで。どんな顔すればいいの?♪』 「きたああああ!」 受信画面には桐乃と表示されている。さっすが桐乃、だてにギャルっぽい恰好してねえな! カチカチと携帯を操作し、受信したメールを表示する。 そこには端的に――非常に簡潔に、こう書かれていた。 『黙れ、シスコン』 ちょ、なにこの本文!? ひどすぎるだろ! 俺が何したって言うんだ!? 心の中で桐乃に対して突っ込みをいれていると、続けざまにメールが届いた。 「おっ、黒猫か?」 しかし、携帯の画面に表示された名前は予想外のものだった。 「えっ? あやせ?」 なぜこのタイミングであやせからメールが届くのか。不思議に思いながらも、届いたメールを開こうとして――そのまま手が固まってしまった。 375 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 22:06:03.74 ID:/rgor//go [3/6] 件名:ぶち殺しますよ ちょ、なにこの件名!? ひどすぎるだろ! 俺が何したって言うんだ!? 思わず桐乃の時と同じ突っ込みを入れてしまう。 「どうしよう……見たくねえ……」 ある意味とってもドキドキする件名だが、これは胸の高鳴りというよりは死の恐怖である。 だが見なかったら見なかったで、かえって命の危険が増すだけだ。 カチッ。意を決してメールを開くと、そこにはこう書かれていた。 『先ほど桐乃にメール送りましたよね? メールが届いた時は、桐乃すっごい嬉しそうだったのに、内容を見たら一転してすっごくがっかりした顔してました。どんなメールを送ったんです? 返答によっては……』 そこで、本文は途切れていた。この続きは言わなくてもわかるでしょう? ということだろう。 って言うか件名に用件全部書いちゃってるもんな。それが最優先で出てきて思わず件名に書いちまったんだろう。あやせはどんだけ俺を殺したいんだよ。 とはいえ、俺のメールに一体何を期待したんだ? 桐乃のやつ。他の誰かからのメールだと思ったら俺からでがっかりした……とかかな?  でも、それだとあやせの『内容を見てがっかり』ってところに矛盾が生じる。まあ、メールだから多少の祖語があるのかもしれないが。 ひょっとして、桐乃は俺のことが好きで、意中の人からメールが来て喜んだがその内容は妹関連であり、シスコンっぷりが垣間見えてがっかり……ってことだろうか。 「…………これはねえな」 ないない。自分で考えておいてなんだが、あの桐乃に限ってそれはない。そんないじらしい感じとは無縁そうだしな。 大体、前提条件である“桐乃が俺のことを好き”というところからして無理がある。 どうやら、桐乃にやらされたエロゲによって俺の思考は徐々に侵略されているようだ。 「まったく……そんな簡単にフラグなんて立ってたまるか」 そりゃ、桐乃はさすがにモデルやってるだけあって顔はいいしスタイルも抜群だ。 性格はたしかにきついところもあるが、なかなか素直になれないところなんか可愛いと思うし、見えにくいだけで友達に対する優しさに溢れている。 そんな桐乃と付き合ったらどうなるか――なんて妄想をしたことがないわけじゃない。 「……」 くそっ、あやせのメールのせいでちょっとドキドキしてきちまったじゃねえか。ちなみに、このドキドキは死の恐怖ではなく胸の高鳴りの方な。 まさか、あやせはこうやって俺をからかうためにあんなメールを送ってきたんじゃあるまいな。 だけど……もし、万が一、俺の妄想が事実だとしたら?  『そんな~優しくしないで。どんな顔すればいいの?♪』 突然鳴った携帯が俺の思考を中断させた。 送信者は黒猫。そこにはやはり、端的に――非常に簡潔にこう書かれていた。 『黙りなさい、シスコン』 「…………あいつら息ピッタリすぎるだろ」 376 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 22:06:58.95 ID:/rgor//go [4/6] 結局、沙織が帰宅するまでの5時間近くの大半を玄関で過ごすことになった。 ガチャリ。ドアの模様を完全に暗記できるほど見つめた頃、ついに玄関の扉が開き沙織が帰宅した。 「ただいま帰りま……あら、お兄様。そんなところでどうなさったんですか?」 沙織は少し驚き、不思議そうな顔をして俺を見つめている。 電気もつけずに階段に座り込んでる兄貴を見れば当然の反応と言えるかもしれない。 「……おかえり」 さて、どう切り出したものか……。 しかし、なんと言ったところで俺が沙織の受験を忘れていた事実は変わらない。合否発表どころか試験日程すら知らない始末だ。 ブラコンの沙織のこと、忘れられてたと知ったら怒るだろうなあ。 考える時間だけは大量にあったにも関わらず未だに答えは出なかった。 「そこ、暗くありませんか?」 沙織は俺の前に立つと、俺の顔を覗き込んだ。 「すまなかったあああ!」 額を床にこすりつける勢いで、全力で土下座。 「ひっ! お、お兄様!?」 「すまなかった沙織! 俺はおまえのことをすっかり忘れて――」 「は、話が見えませんわ! あ、頭を上げてください!」 ちょっと大げさにすぎるだろうか。 いや、沙織が受けるショックを考えたらこれぐらいは……。 「俺、実は沙織の受験のこと完全に忘れてて……知らないうちに受験勉強の邪魔とかしてなかったか!? ちゃんと勉強できたのか!? 試験日は? 合否は?」 我ながらとんでもないシスコンっぷりである。ここまでくれば立派に変態のお仲間と言える。 だけど、仕方ねえだろ。俺は妹が――沙織が大好きなんだよ。 こればっかりは誰にも止められない。誰にも譲れない俺のアイデンティティだ。 「どっ……どうなんだ!?」 377 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 22:07:51.51 ID:/rgor//go [5/6] 当然、沙織は怒るだろう。俺はそう思っていた。 頬を膨らませて、また俺を正座させて……その後沙織の部屋に改めて謝りに行って……。 それでまた仲直りできる――そう思っていた。 なのに、 「そんなことですか。受験ならもう終わりましたわ」 しれっと告白する沙織。その言葉に怒気は感じられない。 単純に、呆れているような感じだった。 「えっ?」 「私の学校は中高一貫ですから。受験などあってないようなものです」 そ、そうなのか? で、でもそんなこと一言も聞いてないぞ? お嬢様学校なのは知っていたが、まさか中高一貫校とは。 「それはそうでしょう。言ってませんもの」 一向に怒る気配を見せない沙織。 それが逆に恐ろしく、俺はたまらずこう聞いてしまう。 「お、怒ってないのか?」 「怒るって……なにをです?」 きょとんとした顔をする沙織。まるで本当に俺が何で謝っているのかがわからないというように。 「い、いや……だって、沙織の受験のこと忘れてたんだぜ?」 普段なら説教の一つや二つ飛んできてもおかしくない事態だ。 なのに、沙織は文句ひとつ言わない。 「……お兄様も忙しかったのでしょう? 別に、お兄様は悪くありませんわ。……お話はそれだけですか?」 「え……あ、ああ」 そのまま沙織は俺の横をするりとすり抜け、二階へと上がって行った。 必然的に、俺は階段下に取り残される形になる。 今のこの状況が、何か嫌な未来を予見しているように感じられたのだった。 第十三話おわり

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