無題:1スレ目306

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祝日の朝―― 最近、受験勉強に精を出して寝不足気味だった俺は、ここぞとばかりに惰眠を貪っていた。 平日に挟まれた祝日って、なんだかオマケの休日みたいな感じがして、ちょっと儲かった気がするよな。 土日にくっついた連休の方が好きな人もいるだろうけど。 まぁ、そんなワケで、今日は昼過ぎまでたっぷり寝貯めてやろうと思ってたのだが―― 「……オイ桐乃……なんのつもりだ?」 俺はとびっきり不機嫌な声を投げ掛けた。 いま俺の部屋では、ベッドに横たわってる俺の上に、妹が圧し掛かっているのだ。 「あんたがいつまでも起きてこないから、起こしに来てやったんじゃん?   ……いま何時だと思ってんの?」 いやいや、だから今日はたっぷり寝るつもりで確信犯的に寝坊してるわけだし、何か用事があるわけでもないし、それに普段は頼んでも起こしになんて絶対こねえじゃねーか! そもそも、妹に朝起こしてもらうのなんてエロゲの中だけの話だと思ってたが…… もっともエロゲでは「起きて(はぁと)おに~~いちゃん」ってロリっ娘ボイスでやさしく起こしてくれるものだけどな。こんな可愛げのないドスの効いた声じゃなくて。 そんなことを思いながら、シッシッと仕草で桐乃をベッドから払いつつ、 「別に俺が何時まで寝ようが勝手だろ……まだ寝足りないんだからさぁ……ふぁぁ」 と、背中を向けてもう一度眠りの体勢に入ろうとした俺だったが、 バッ! 何だよこいつ!布団を剥ぎ取りやがった!もう~~勘弁してくれよ! 「さっさと起きる!そして出掛ける準備!早くしてよね!」 「え、えぇ?? 出掛けるって…… 何で、、何で俺が休日にお前と出掛けることに……」 「……アンタ、今日はなんの祝日か知らないの?」 ん?なんの祝日かって? 今日はこのクソ妹の行動の理由付けになるような祝日だったっけ?? 11月23日は―― 「ただの勤労感謝の日だけど……」 「そうよ、勤労に感謝する日。――だから今日はあたしをもてなすのよ」 え?ちょっと言ってる意味が…… 「平凡で地味な高校生のあんたと違って、あたしは読者モデルとして『勤労』してるじゃん? 」 「今日お父さん達は二人で出かけてるから、いま、この家で『勤労感謝』される資格があるのはあたし一人。そして『勤労感謝』すべきはあんた一人。理解した? じゃあ、どこか連れてってよ」 ええええぇぇー!? 勤労感謝ってそういうコンセプトだったっけ?? あまりに強引な勤労感謝の解釈に、俺がモゴモゴと何か反論しようとしていると、それを制すように桐乃の奴はこう言い放った―― 「――40秒で支度しなっ!」 そんなわけで俺はいま妹と二人、地元から電車で少し離れた市街地を歩いている―― 眠い…。なにが悲しくて貴重な祝日の朝から妹につき合わされないといけないんだ…。 と、隣を歩く桐乃を見ると、こいつは妙に楽しそうにしてる。 さてはこいつ、今日は俺にたかるつもりじゃねーか…? モデルやってるリッチな女子中学生が貧乏高校生にたかるなよ!もう!(涙) と、ちょっと恨めしげな視線を送ってみる俺。 「ちょっと!もっとテンション上げなさいよ! 今日はアンタがあたしに尽くすべき日なんだから!」 「へいへい、お手柔らかに頼むぜ~… んじゃとりあえずゲーセンでも行くか?」 「はぁ? 何ソレ! 昼間っからゲーセンとか無いでしょ」 「……お前、家では朝からでもエロゲーしてるじゃねーか」 「それはそれ、これはこれ! あと往来のど真ん中でエロゲーとか言うな!」ボカッ 「いってえ!」 「チッ、仕方ないから最初はゲーセンでいい。ただし遊んでる間に次の場所考えときなさいよね」 あああああ、ムカつくうぅぅ! なんでここまで横柄なんだこの妹は!! そして俺たちはゲーセンに到着。 このゲーセンの1階はクレーンゲーム、2階はビデオゲームのフロアになっている。 入り口の自動ドアをくぐり、何をしようかとキョロキョロしてたら、桐乃の奴はさっさと2階へのエスカレーターに乗ってやがった。まぁ、兄貴とクレーンゲームなんてしねえよな。 そして俺たちが向かった先は格ゲーコーナーの「真妹大殲シスカリプス」。 桐乃は(というか黒猫も沙織もだけど)このゲームにいまだにハマってて、PC版ではずいぶん熱心にプレイしているので、アーケード版でもそれなりに自信があるようだ。 「日々ネット対戦で培ったあたしの技術をここで発揮するんだから。ちゃんと見ててよね!」 「へいへい」 と腕をぐるんぐるん回しながらシスカリの対戦台に着席する桐乃。その後ろからモニターを覗き込む俺。 まぁ、そうは言っても家で何度も対戦させられてる俺が、こいつの腕前を一番よく知ってるからなぁ~ そりゃあシスカリ歴が浅い俺よりは強いけど、沙織や黒猫には相変わらずコテンパンにされてるし、野良対戦ですんなり勝てるほどアーケードの格ゲーは甘くないぜ? そんなこと思ってたら案の定、1ラウンドも取れずにあっという間のストレート負け。 「も…もう一回! いまのは油断しただけだから!!」 いまの完敗に、油断という要素が入り込んでた余地があったとは到底思えないが…… てかお前、嫌々ゲーセン来たんじゃなかったのかよ? そして2連敗、3連敗、4連敗と順調に黒星を積み重ね―― ふと気づくと、桐乃は同じ相手に30連敗を喫していた。 30連敗ってことは3千円も乱入し続けて全敗ってことかよ!ひでえ! 桐乃の奴、顔真っ赤にしてブツブツ言いながらプレーしてるし…。 こっちからは対戦相手の様子は見えないけど、こんなにしつこく連コインされると、相手の人も気味悪がってんじゃないのか……? 「オ、オイ、、、その辺にしといたほうがいいんじゃねーのか……?」 「次こそは……やっと攻略の糸口が見えてきたんだから…! ちゃんと見ててってば!」 30敗もしてまだ糸口なのかよ!!と盛大にツッコミを入れたかったが、いまのこいつに迂闊な発言をすると八つ当たりされそうなのでグッとこらえる。 その直後、モニターには31敗目を告げるKOの文字が映し出されていた―― 「ホラ、桐乃、一度頭を冷やして作戦練ってさ。ここはひとつ戦略的撤退ってことで……」 「……」 「……桐乃……さん?」 「……うっさいなあ。わかったわよ フンッ」 まぁ、こいつだって冷静に状況を考えれば、勝てる相手じゃなかったことはすぐ理解できるだろう。 それにシスカリやるんだったら、家で俺と対戦すればいいじゃないかという話である。 なんであそこまで執着したのか俺にはまるで理解できなかったが……ゲーマーの血が騒ぐというヤツなのだろうか。 そんなこんなで、俺たちは深い溜息とともにゲーセンを後にした。 「で、次――――どこに行くか決めたの?」 ゲーセンでフルボッコにされた桐乃は極めて不機嫌そうに尋ねた。 まるで『ホラ見たことか、ゲーセンなんて連れて行くからこんな目に』みたいなツラである。 ゲーセンに連れてったのは確かに俺だけど、店入るなりシスカリに直行して31連敗したのはお前じゃねーか……。 「じゃあ……うーん、映画でも行こうか」 「……」 「ん?ダメか?」 「……なんかちょっと定番すぎるんですケド。いいよ、それでいい」 む、ますます不機嫌になっちまったか?捻りがなさ過ぎたかな? まぁ、そもそも今日こいつをもてなす義務の根拠がそもそも怪しいからな。文句を言われる筋合いはねーぜ。 ということで、俺たちは映画館へ。 俺って普段あまり映画観ないから、上映中の作品とかよく知らねーんだよね。 まぁ、ほっといてもどうせ桐乃が自分好みのアニメ映画を選ぶんだろ。俺に選択権は無いからな。 そして俺は桐乃と並んでチケット売り場へ。 「えーっと、高校生1枚と中学生1枚ずつで―――オイ、桐乃、どの映画にすんだよ?」 「えっと……コレで……」 桐野が指差したその映画は子供向けのアニメ映画 ――ではなく、劇場ポスター見ただけで瞬時にそれと分かる超ド級ベッタベタの恋愛映画…… ウソだろ… 兄妹でそんなの観るのは勘弁してくれ… 「お、おい、マジかよ…」 「はぁ?なんか文句あんの? 別にいいでしょ、あたしが観たいんだから!」 「そりゃあそうだけどさぁ…… そういうのは友達と来たときにでも観てくれよ……」 兄妹で恋愛モノとかってなんか気まずくなるんだけど…コイツにはそういう意識がないのかなぁ? 映画観終わった後で、劇中のラブストーリーについて兄妹で感想述べ合うとかさ………オエッ と、俺は上映中ずっと複雑な心境でいたんだが、桐乃はすっかり映画に没頭していたようで、感動シーンでは横でグスグス泣いてやがった。 案外そういうのはスレてないんだなコイツ、なんて変な感心の仕方をしてしまったよ。 でもこの恋愛映画、キスシーンやらベッドシーンやらがやたらと盛り込まれていて、健全な高校生の俺としてはいたたまれない気分にさせられたけどな。 そして上映が終了し―― 白状すると、俺は寝不足もたたって、映画全体の1/3ぐらいで居眠りこいてしまっていた。 寝たと言っても頬杖ついて、ウトウトしてた程度だから、桐乃には……多分バレてないと思う。多分。 「アンタ、ちゃんと観てた? 暗いからよく分からなかったけど、なんか時々頭の向きが怪しかったんだケド」 やべ!バレてた!\(^o^)/ 「……す、すまん、寝不足で周りが暗くなると……つい、な」 「もう! 映画ってのは観終わった後で、『あのシーンよかったねー』とか、そういうお喋りするのが楽しいんじゃんか!わかってんの?」 「お、お前……このエロシーン満載の映画について俺と語り合うつもりだったのか……?」 やや腰が引けた感じで俺が言うと、桐乃は真っ赤になって慌てていた。 「そ、そうじゃなくて!…ストーリーとか、そういう部分にもっと注目しなさいよ!」 いや、俺はエロ要素抜きにしても実妹と恋愛映画のディスカッションなんて御免だけどな。 だけどこいつはホントに俺と映画の話をしたかったのかな? だとしたら、居眠りなんかして、悪いことしたな……。 映画館をあとにした俺たちは、ちょっとウィンドウショッピングとやらを嗜んだ後(と言っても桐乃に付いて回っただけだけど)、食事にすることにした。 「ファーストフードとファミレスは禁止だかんね」 ああ、めんどくさい奴! 寝不足と相まって、俺のストレスがマッハだぜ! そして、紆余曲折の末に、俺たちは小洒落たイタリアンの店に入った。 紆余曲折ってのは、俺の提案がことごとく却下されて、最終的に桐乃のオススメの店になったって経緯のこと。 じゃあ最初からそこに行きたいって言えばいいのに…女ってホントめんどくせえ。 「ねぇ この店ほんっと美味しいでしょ~~~!」 「ああ、まぁな」 「撮影のときにスタッフの人に連れてきてもらって、また来たいな~~って思ってたんだ」 と満面の笑みでパスタを頬張る桐乃。 ああ、なんだやっぱり最初からこの店に来たかったんじゃねーか。 美味いのは確かだけど、中学生や高校生だけで入るような店じゃないって感じの雰囲気だし、俺は会計が気になって正直味がわからなかったぞ……。 「アンタももう18なんだから、後学のために、こういう店のひとつも知っておきなさいよ」 「んー、別にいいけどな。俺ってファーストフード大好きだからさ」 「アンタの好き嫌いじゃないっての!食事に連れて行く女の子の身になって考えなさいよね。……だからモテないんだつーの」 「ほっとけ!」 なんで妹にそんなアドバイスを受けないといけねえんだよ。情けねえ。 ってか高校生なんだし、ファーストフード店でデートって、分相応でいいと思うんだけどなぁ……。 「ところで…… ねぇ、アンタって……彼女作らないの?」 「は、はぁ!? いきなり何を言い出すんだよ」 「いや、、だから、アンタって女友達はいるけど、彼女っていないからサ。ホラ、どうなのかなって……」 「別に作りたいと思わねーし、、それに俺はいま受験生だぜ」 「じゃあ例えば、地味子とか……が告ってきたら……どうするの?」 「ななな、なんであいつとそういう話になるんだ!? てか地味子って言うな!」 「ハイハイ。じゃ、じゃあさ……あの黒いのとか……告ってきたら?」 「……………」 前触れなく黒猫が出てきたのでちょっと驚いてしまった。 てかこいつから見て、俺と黒猫は付き合ってもおかしくない関係だと思われてるってことか? だからこの話の流れで名前が出るんだよな…? 「ちょっと!……そこで黙んないでよ」 「あ、あぁ、、まぁ有り得ないな、……うん。」 黒猫は可愛いし、以前はともかく最近は俺への態度もかなり柔らかくなってる気がする。 でも妹の友達と付き合う展開って……ちょっと想像できない。 「そっかぁ」 桐乃は極めて無表情でそう呟いた。 なにが聞きたかったんだろうなこいつは……。 食事を終えたところで、この理不尽な、勤労者様への奉仕活動はようやく終了。 ちょっとまだ早い時間だったけど、そろそろ親父とお袋が帰ってきてそうだし、桐乃には門限もあるしってことで俺たちはさっさと家に帰った。 ひどく疲れた勤労感謝の日だったけど、まぁ、それなりに面白かったし、あいつも少しは楽しんでたようだし、たまにはこういうのも悪くねえかな――と思ったよ。 でも“勤労感謝”の身勝手な解釈については、いまだに納得できてないけどな。 夜、俺がリビングのソファでテレビを観ながらくつろいでると、桐乃が隣に座ってきた。 「ねぇ、兄貴―――」 「ん?なんだよ」 「………きょ、今日はありがとね」 言い慣れない自分の台詞に照れているのか、桐乃は頬を染めて視線を下に向けたままだった。 「お……おお、、おうよ」 不意打ちだったので、思わずどもってしまった。 今日の俺は礼を言われることをしたのだから、傍からみれば普通のやり取りなんだけど、これまでの我が家の兄妹関係ではこんな会話は皆無に近いので、いきなり殊勝な態度を取られると必要以上に驚いてしまう……。 「今日は色々連れてってもらってさ……えっと……」 「…………」 「久しぶりに兄貴とたくさん遊べて、お喋りできて楽しかった」 「桐乃……」 いつしか自然に見つめ合ってた俺と桐乃は、同時にそれに気づき、慌てて視線を外す。 あ、れ…?なんだこの雰囲気。 こいつってば純粋に俺と遊びたかっただけなのか? てっきり俺を財布代わりにするのが目的なのかと思ってたけど……。 しばしの沈黙の後、桐乃が口を開いた―― 「ってことでさ、来年の今日もまた付き合ってよね! ……うん、決めた! 毎年11月23日はアンタがあたしをもてなす日にするね!」 な…! なん……だと…… 「ちょ…おま!? 勝手に決めるなっての!」 「だーかーらー 超カワイイ妹と、最低でも年に一度遊べるってことなんだから、感謝しなさいよ」 「お前って奴は……。大体、なんで勤労感謝の日なんだよ?」 「だって語呂がいいじゃん? それに……」 「……んん?」 「……いつになるか分からないけどさ、いつか兄貴に……彼女……とかできたら、誕生日やクリスマスは恋人のイベント日になるじゃん?」 「だからさ、そういうのに全然関係ない日を、あたしのためにキープしてよってコト!」 そう言うと、桐乃はいひっと悪戯な笑顔を作って見せた。 「これからもずっとヨロシクね―――兄貴!」 END
306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/24(水) 10:52:08.87 ID:BPM5yDdB0 [3/15] 祝日の朝―― 最近、受験勉強に精を出して寝不足気味だった俺は、ここぞとばかりに惰眠を貪っていた。 平日に挟まれた祝日って、なんだかオマケの休日みたいな感じがして、ちょっと儲かった気がするよな。 土日にくっついた連休の方が好きな人もいるだろうけど。 まぁ、そんなワケで、今日は昼過ぎまでたっぷり寝貯めてやろうと思ってたのだが―― 「……オイ桐乃……なんのつもりだ?」 俺はとびっきり不機嫌な声を投げ掛けた。 いま俺の部屋では、ベッドに横たわってる俺の上に、妹が圧し掛かっているのだ。 「あんたがいつまでも起きてこないから、起こしに来てやったんじゃん?   ……いま何時だと思ってんの?」 307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/24(水) 10:54:28.43 ID:BPM5yDdB0 [4/15] いやいや、だから今日はたっぷり寝るつもりで確信犯的に寝坊してるわけだし、何か用事があるわけでもないし、それに普段は頼んでも起こしになんて絶対こねえじゃねーか! そもそも、妹に朝起こしてもらうのなんてエロゲの中だけの話だと思ってたが…… もっともエロゲでは「起きて(はぁと)おに~~いちゃん」ってロリっ娘ボイスでやさしく起こしてくれるものだけどな。こんな可愛げのないドスの効いた声じゃなくて。 そんなことを思いながら、シッシッと仕草で桐乃をベッドから払いつつ、 「別に俺が何時まで寝ようが勝手だろ……まだ寝足りないんだからさぁ……ふぁぁ」 と、背中を向けてもう一度眠りの体勢に入ろうとした俺だったが、 バッ! 何だよこいつ!布団を剥ぎ取りやがった!もう~~勘弁してくれよ! 「さっさと起きる!そして出掛ける準備!早くしてよね!」 「え、えぇ?? 出掛けるって…… 何で、、何で俺が休日にお前と出掛けることに……」 「……アンタ、今日はなんの祝日か知らないの?」 ん?なんの祝日かって? 今日はこのクソ妹の行動の理由付けになるような祝日だったっけ?? 11月23日は―― 「ただの勤労感謝の日だけど……」 「そうよ、勤労に感謝する日。――だから今日はあたしをもてなすのよ」 え?ちょっと言ってる意味が…… 「平凡で地味な高校生のあんたと違って、あたしは読者モデルとして『勤労』してるじゃん? 」 「今日お父さん達は二人で出かけてるから、いま、この家で『勤労感謝』される資格があるのはあたし一人。そして『勤労感謝』すべきはあんた一人。理解した? じゃあ、どこか連れてってよ」 ええええぇぇー!? 勤労感謝ってそういうコンセプトだったっけ?? あまりに強引な勤労感謝の解釈に、俺がモゴモゴと何か反論しようとしていると、それを制すように桐乃の奴はこう言い放った―― 「――40秒で支度しなっ!」 そんなわけで俺はいま妹と二人、地元から電車で少し離れた市街地を歩いている―― 眠い…。なにが悲しくて貴重な祝日の朝から妹につき合わされないといけないんだ…。 と、隣を歩く桐乃を見ると、こいつは妙に楽しそうにしてる。 さてはこいつ、今日は俺にたかるつもりじゃねーか…? モデルやってるリッチな女子中学生が貧乏高校生にたかるなよ!もう!(涙) と、ちょっと恨めしげな視線を送ってみる俺。 「ちょっと!もっとテンション上げなさいよ! 今日はアンタがあたしに尽くすべき日なんだから!」 「へいへい、お手柔らかに頼むぜ~… んじゃとりあえずゲーセンでも行くか?」 「はぁ? 何ソレ! 昼間っからゲーセンとか無いでしょ」 「……お前、家では朝からでもエロゲーしてるじゃねーか」 「それはそれ、これはこれ! あと往来のど真ん中でエロゲーとか言うな!」ボカッ 「いってえ!」 「チッ、仕方ないから最初はゲーセンでいい。ただし遊んでる間に次の場所考えときなさいよね」 あああああ、ムカつくうぅぅ! なんでここまで横柄なんだこの妹は!! 311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/24(水) 11:05:14.67 ID:BPM5yDdB0 [7/15] そして俺たちはゲーセンに到着。 このゲーセンの1階はクレーンゲーム、2階はビデオゲームのフロアになっている。 入り口の自動ドアをくぐり、何をしようかとキョロキョロしてたら、桐乃の奴はさっさと2階へのエスカレーターに乗ってやがった。まぁ、兄貴とクレーンゲームなんてしねえよな。 そして俺たちが向かった先は格ゲーコーナーの「真妹大殲シスカリプス」。 桐乃は(というか黒猫も沙織もだけど)このゲームにいまだにハマってて、PC版ではずいぶん熱心にプレイしているので、アーケード版でもそれなりに自信があるようだ。 「日々ネット対戦で培ったあたしの技術をここで発揮するんだから。ちゃんと見ててよね!」 「へいへい」 と腕をぐるんぐるん回しながらシスカリの対戦台に着席する桐乃。その後ろからモニターを覗き込む俺。 まぁ、そうは言っても家で何度も対戦させられてる俺が、こいつの腕前を一番よく知ってるからなぁ~ そりゃあシスカリ歴が浅い俺よりは強いけど、沙織や黒猫には相変わらずコテンパンにされてるし、野良対戦ですんなり勝てるほどアーケードの格ゲーは甘くないぜ? そんなこと思ってたら案の定、1ラウンドも取れずにあっという間のストレート負け。 「も…もう一回! いまのは油断しただけだから!!」 いまの完敗に、油断という要素が入り込んでた余地があったとは到底思えないが…… てかお前、嫌々ゲーセン来たんじゃなかったのかよ? そして2連敗、3連敗、4連敗と順調に黒星を積み重ね―― ふと気づくと、桐乃は同じ相手に30連敗を喫していた。 30連敗ってことは3千円も乱入し続けて全敗ってことかよ!ひでえ! 桐乃の奴、顔真っ赤にしてブツブツ言いながらプレーしてるし…。 こっちからは対戦相手の様子は見えないけど、こんなにしつこく連コインされると、相手の人も気味悪がってんじゃないのか……? 「オ、オイ、、、その辺にしといたほうがいいんじゃねーのか……?」 「次こそは……やっと攻略の糸口が見えてきたんだから…! ちゃんと見ててってば!」 30敗もしてまだ糸口なのかよ!!と盛大にツッコミを入れたかったが、いまのこいつに迂闊な発言をすると八つ当たりされそうなのでグッとこらえる。 その直後、モニターには31敗目を告げるKOの文字が映し出されていた―― 「ホラ、桐乃、一度頭を冷やして作戦練ってさ。ここはひとつ戦略的撤退ってことで……」 「……」 「……桐乃……さん?」 「……うっさいなあ。わかったわよ フンッ」 まぁ、こいつだって冷静に状況を考えれば、勝てる相手じゃなかったことはすぐ理解できるだろう。 それにシスカリやるんだったら、家で俺と対戦すればいいじゃないかという話である。 なんであそこまで執着したのか俺にはまるで理解できなかったが……ゲーマーの血が騒ぐというヤツなのだろうか。 そんなこんなで、俺たちは深い溜息とともにゲーセンを後にした。 「で、次――――どこに行くか決めたの?」 ゲーセンでフルボッコにされた桐乃は極めて不機嫌そうに尋ねた。 まるで『ホラ見たことか、ゲーセンなんて連れて行くからこんな目に』みたいなツラである。 ゲーセンに連れてったのは確かに俺だけど、店入るなりシスカリに直行して31連敗したのはお前じゃねーか……。 「じゃあ……うーん、映画でも行こうか」 「……」 「ん?ダメか?」 「……なんかちょっと定番すぎるんですケド。いいよ、それでいい」 む、ますます不機嫌になっちまったか?捻りがなさ過ぎたかな? まぁ、そもそも今日こいつをもてなす義務の根拠がそもそも怪しいからな。文句を言われる筋合いはねーぜ。 ということで、俺たちは映画館へ。 俺って普段あまり映画観ないから、上映中の作品とかよく知らねーんだよね。 まぁ、ほっといてもどうせ桐乃が自分好みのアニメ映画を選ぶんだろ。俺に選択権は無いからな。 そして俺は桐乃と並んでチケット売り場へ。 「えーっと、高校生1枚と中学生1枚ずつで―――オイ、桐乃、どの映画にすんだよ?」 「えっと……コレで……」 桐野が指差したその映画は子供向けのアニメ映画 ――ではなく、劇場ポスター見ただけで瞬時にそれと分かる超ド級ベッタベタの恋愛映画…… ウソだろ… 兄妹でそんなの観るのは勘弁してくれ… 「お、おい、マジかよ…」 「はぁ?なんか文句あんの? 別にいいでしょ、あたしが観たいんだから!」 「そりゃあそうだけどさぁ…… そういうのは友達と来たときにでも観てくれよ……」 兄妹で恋愛モノとかってなんか気まずくなるんだけど…コイツにはそういう意識がないのかなぁ? 映画観終わった後で、劇中のラブストーリーについて兄妹で感想述べ合うとかさ………オエッ と、俺は上映中ずっと複雑な心境でいたんだが、桐乃はすっかり映画に没頭していたようで、感動シーンでは横でグスグス泣いてやがった。 案外そういうのはスレてないんだなコイツ、なんて変な感心の仕方をしてしまったよ。 でもこの恋愛映画、キスシーンやらベッドシーンやらがやたらと盛り込まれていて、健全な高校生の俺としてはいたたまれない気分にさせられたけどな。 そして上映が終了し―― 白状すると、俺は寝不足もたたって、映画全体の1/3ぐらいで居眠りこいてしまっていた。 寝たと言っても頬杖ついて、ウトウトしてた程度だから、桐乃には……多分バレてないと思う。多分。 「アンタ、ちゃんと観てた? 暗いからよく分からなかったけど、なんか時々頭の向きが怪しかったんだケド」 やべ!バレてた!\(^o^)/ 「……す、すまん、寝不足で周りが暗くなると……つい、な」 「もう! 映画ってのは観終わった後で、『あのシーンよかったねー』とか、そういうお喋りするのが楽しいんじゃんか!わかってんの?」 「お、お前……このエロシーン満載の映画について俺と語り合うつもりだったのか……?」 やや腰が引けた感じで俺が言うと、桐乃は真っ赤になって慌てていた。 「そ、そうじゃなくて!…ストーリーとか、そういう部分にもっと注目しなさいよ!」 いや、俺はエロ要素抜きにしても実妹と恋愛映画のディスカッションなんて御免だけどな。 だけどこいつはホントに俺と映画の話をしたかったのかな? だとしたら、居眠りなんかして、悪いことしたな……。 映画館をあとにした俺たちは、ちょっとウィンドウショッピングとやらを嗜んだ後(と言っても桐乃に付いて回っただけだけど)、食事にすることにした。 「ファーストフードとファミレスは禁止だかんね」 ああ、めんどくさい奴! 寝不足と相まって、俺のストレスがマッハだぜ! そして、紆余曲折の末に、俺たちは小洒落たイタリアンの店に入った。 紆余曲折ってのは、俺の提案がことごとく却下されて、最終的に桐乃のオススメの店になったって経緯のこと。 じゃあ最初からそこに行きたいって言えばいいのに…女ってホントめんどくせえ。 「ねぇ この店ほんっと美味しいでしょ~~~!」 「ああ、まぁな」 「撮影のときにスタッフの人に連れてきてもらって、また来たいな~~って思ってたんだ」 と満面の笑みでパスタを頬張る桐乃。 ああ、なんだやっぱり最初からこの店に来たかったんじゃねーか。 美味いのは確かだけど、中学生や高校生だけで入るような店じゃないって感じの雰囲気だし、俺は会計が気になって正直味がわからなかったぞ……。 「アンタももう18なんだから、後学のために、こういう店のひとつも知っておきなさいよ」 「んー、別にいいけどな。俺ってファーストフード大好きだからさ」 「アンタの好き嫌いじゃないっての!食事に連れて行く女の子の身になって考えなさいよね。……だからモテないんだつーの」 「ほっとけ!」 なんで妹にそんなアドバイスを受けないといけねえんだよ。情けねえ。 ってか高校生なんだし、ファーストフード店でデートって、分相応でいいと思うんだけどなぁ……。 「ところで…… ねぇ、アンタって……彼女作らないの?」 「は、はぁ!? いきなり何を言い出すんだよ」 「いや、、だから、アンタって女友達はいるけど、彼女っていないからサ。ホラ、どうなのかなって……」 「別に作りたいと思わねーし、、それに俺はいま受験生だぜ」 「じゃあ例えば、地味子とか……が告ってきたら……どうするの?」 「ななな、なんであいつとそういう話になるんだ!? てか地味子って言うな!」 「ハイハイ。じゃ、じゃあさ……あの黒いのとか……告ってきたら?」 「……………」 前触れなく黒猫が出てきたのでちょっと驚いてしまった。 てかこいつから見て、俺と黒猫は付き合ってもおかしくない関係だと思われてるってことか? だからこの話の流れで名前が出るんだよな…? 「ちょっと!……そこで黙んないでよ」 「あ、あぁ、、まぁ有り得ないな、……うん。」 黒猫は可愛いし、以前はともかく最近は俺への態度もかなり柔らかくなってる気がする。 でも妹の友達と付き合う展開って……ちょっと想像できない。 「そっかぁ」 桐乃は極めて無表情でそう呟いた。 なにが聞きたかったんだろうなこいつは……。 食事を終えたところで、この理不尽な、勤労者様への奉仕活動はようやく終了。 ちょっとまだ早い時間だったけど、そろそろ親父とお袋が帰ってきてそうだし、桐乃には門限もあるしってことで俺たちはさっさと家に帰った。 ひどく疲れた勤労感謝の日だったけど、まぁ、それなりに面白かったし、あいつも少しは楽しんでたようだし、たまにはこういうのも悪くねえかな――と思ったよ。 でも“勤労感謝”の身勝手な解釈については、いまだに納得できてないけどな。 夜、俺がリビングのソファでテレビを観ながらくつろいでると、桐乃が隣に座ってきた。 「ねぇ、兄貴―――」 「ん?なんだよ」 「………きょ、今日はありがとね」 言い慣れない自分の台詞に照れているのか、桐乃は頬を染めて視線を下に向けたままだった。 「お……おお、、おうよ」 不意打ちだったので、思わずどもってしまった。 今日の俺は礼を言われることをしたのだから、傍からみれば普通のやり取りなんだけど、これまでの我が家の兄妹関係ではこんな会話は皆無に近いので、いきなり殊勝な態度を取られると必要以上に驚いてしまう……。 「今日は色々連れてってもらってさ……えっと……」 「…………」 「久しぶりに兄貴とたくさん遊べて、お喋りできて楽しかった」 「桐乃……」 いつしか自然に見つめ合ってた俺と桐乃は、同時にそれに気づき、慌てて視線を外す。 あ、れ…?なんだこの雰囲気。 こいつってば純粋に俺と遊びたかっただけなのか? てっきり俺を財布代わりにするのが目的なのかと思ってたけど……。 しばしの沈黙の後、桐乃が口を開いた―― 「ってことでさ、来年の今日もまた付き合ってよね! ……うん、決めた! 毎年11月23日はアンタがあたしをもてなす日にするね!」 な…! なん……だと…… 「ちょ…おま!? 勝手に決めるなっての!」 「だーかーらー 超カワイイ妹と、最低でも年に一度遊べるってことなんだから、感謝しなさいよ」 「お前って奴は……。大体、なんで勤労感謝の日なんだよ?」 「だって語呂がいいじゃん? それに……」 「……んん?」 「……いつになるか分からないけどさ、いつか兄貴に……彼女……とかできたら、誕生日やクリスマスは恋人のイベント日になるじゃん?」 「だからさ、そういうのに全然関係ない日を、あたしのためにキープしてよってコト!」 そう言うと、桐乃はいひっと悪戯な笑顔を作って見せた。 「これからもずっとヨロシクね―――兄貴!」 END

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