お昼休みは恋人と:9スレ目106

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106 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:02:11.35 ID:gqKd6v2y0 [10/18] ぐぅ~きゅるるるるる……………………… …何だ?この漫画の効果音みたいなのは!?これは俺じゃないぞ!? だが、今ここには俺たち二人しかいないはずだ。 ってことは…………… 俺がおそるおそる隣を見ると、案の定、黒猫が真っ赤な顔をして腹を押さえていた。 小学生でもわかりやすいようなジェスチャーしやがって…。 おそらく、今のこいつの状態を『顔から火が出ている』状態って言うんだろうな。 「お前さ、もしかして………自分の弁当を家に忘れてきたのか?」 「わ、私は…確かに朝のうちに鞄に入れておいたのよ!?ほ、本当よ!?きっと、私の力を恐れた天使どもが…」 黒猫の口調からは最早“夜魔の女王”の風格は全く感じられず、完全に焦りと恥ずかしさでテンパってしまっている。 鞄から弁当を抜き取る天使って…どんだけセコいんだよ!?……………とはあえてツッコまないけどさ。 さっきの厨二台詞もだけど、黒猫がこんなあからさまにミスするなんて珍しいな。今夜は沖縄に雪でも降るんじゃないだろうか? でもなんにせよ、この状態のまま放ってはおけないだろ。 「そういうことなら……これ二人で分けようぜ。」 「要らないわ。だってそれは貴方の…」 「元はと言えばお前が作ってくれたもんだろ。それにな、いくら夜魔の女王といえども昼飯抜きじゃこの先の授業がツラいと思うぜ?」 「私はこのくらいで辛くなんか……でも、そこまで言うのなら……………」 黒猫は意外にも俺の説得であっさり折れた。 こいつはプライドが高いからもっと抵抗すると思ったんだが……もしかして、自分の空腹感に限界を感じたからだったりしてな? 107 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:03:23.46 ID:gqKd6v2y0 [11/18] それにしても…『彼女が作ってきた弁当を二人で食べる』なんて、俺たちもいよいよ恋人らしくなってきたもんだ。 でもさ、ここまできたならさ。 せっかくここまできたなら…アレもやってみたいよなぁ……… 『先輩。こっちを向いて。』 『?急にどうしたんだ、黒猫?』 『ほ、ほら、口を開けて頂戴。ア~ン♪してあげるわ………///』 『く、黒猫………///』 …みたいなね!?いや、だいぶ妄想入ってるけども。 まあ別に男のロマンとまでは言わないけどさ、男なら、その…ちょっとは憧れるだろ!? 人間という生き物は、少しでも幸せな気分に浸るとどんどん高望みをしてしまうものだ。 黒猫に『汚らわしい人間風情が』とも言われてしまいそうだが、この時の俺もまさにそんな感じだった。 …だが、現実というのは非情なものだ。皆様お察しの通り、あの恥ずかしがりやがそんな事するわけがない。 妄想中でボーっとしていた俺は、突然黒猫に箸を奪われてしまった。 「あっ!ちょっ、まだ食べてる途中…」 「…あら、貴方が言ったのよ?『二人で分けよう』とね。貴方が匣(ハコ)持っていたら、私が食べられないでしょう?」 「いやっ、そりゃそうだけどさ…」 「食い意地の張った雄ね。そんなに心配しなくても、私が一通り食べたらまた貴方に返してあげるわよ。」 更には動揺してる間に弁当箱まで奪われる始末だ。 この《弁当箱交換制》を崩さない限り、俺の妄想は絶対に叶わないだろう。 しかも、また“黒猫”モードに戻っちゃってるしさぁ…。 いやいや、別に“黒猫”成分が嫌いなわけじゃない。それもひっくるめて俺の大事な彼女だしな。 ただ、この場合は…“瑠璃”でいてくれた方が助かるんだけどなー……って話だ。そこは誤解しないでくれ。 まあしかし、こうなってしまったからには、例の半強制的手段に出るしかねーか…。 正直この方法は使いたくなかった。成功する可能性も限りなく低いかもしれない。 だが、このチャンスを逃してなるものか! 恋人との甘いひと時のためなら、俺は勝負に出てやるぜ!! そう決意した俺は、さっきとは逆に黒猫の食事風景をじっと見ながら、来るべきチャンスを伺った。 …それにしても、黒猫の食べ方は綺麗だなぁ……。元々美味そうな弁当が更に美味そうに見えてくるよ。 なんつーか、箸さばきがイイな。きっと小さい頃から仕込まれてるんだろうね。 ちょ、ちょっとガツガツしてるような感じもするケド…お前、そんなに腹減ってたのか? ………ん? なーんて言ってる間に、黒猫が一口サイズ(←ココ重要!)の唐揚げを箸でつまんだぞ!?今だ! 108 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:04:13.76 ID:gqKd6v2y0 [12/18] 「な、なあ黒猫。俺にもその唐揚げくれないか?さっき食べた時美味しかったからさ。もう一個だけ欲しいんだけど…ダメ?」 「ええ…。別に構わないわ。それじゃあ貴方の分を残しておいてあげ――」 黒猫はそこまで言いかけてようやくこっちを見た。 そして動きを止めた。 そう、横目で隣をチラ見しながら口をパクパクさせて待機している俺に気付いたのだ。 …ふっ。どうよ?これが俺の秘策だ! 我ながら、さっきの腹押さえた黒猫並にわかりやすいジェスチャーだろ? 俺だってまさか直球で『ア~ン♪してくれ!』とは言えんさ。 でも、これならさすがの黒猫も空気を読ん………で……………あれ? 「――な、何なの?その呆けた面構えは…?自分で鏡をよく見て御覧なさいな…。」 …って、こいつ明らかに不審がってるじゃねえかよ!!!ソッコー目逸らされたぞ!? 何でだ!?確かに100歩譲って怪しい行動なのは認めるが…こんなにもわかりやすいジェスチャーじゃないか!!! 何故俺の気持ちに気付いてくれないんだよ黒猫ォォォ!!!!! その黒猫はいうと、どんよりと俯く俺の方をいかにも怪訝そうな目つきで見つめている。 「とにかく、見ているこっちが恥ずかしいわ。即刻その間抜け面を引っ込めて。」 「すいません……」 「ど、どうしてそんなに落ち込んでいるのよ!?」 「いや、別に…」 これにて作戦終了だな…。俺の小さな野望は儚く散ったというわけだ。 やっぱ無理だったか…。ちょっと高望みし過ぎちまったな…。 まあでもね!弁当作ってきてもらえただけでも大きな一歩だしね!続きはまた今度……… 俺は気をとりなおして、弁当箱を受け取ろうとゆっくり顔を上げた。 しかし、“奇跡”というものは突然起こるものである。 俺は、黒猫がやけにそわそわしているのに気がついた。 今度はこいつが俺の方をチラチラ見ながら挙動不審になっている。明らかにこっちの様子を気にしている感じだ。 そして、意を決したように俺の方に箸でつまんだ唐揚げを向け…………… 「…そ、そんなに落ち込んでいる暇があるんだったら………さっさと口を開いて頂戴っ。 …いつまで経っても………た、食べさせられないでしょう?」 こ、こいつ…もしかして、最初からア~ン♪してくれるつもりで……… 俺の心は、驚きと感動のあまり思わず大爆発を起こした。 「く、く………くろねこォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」 「なっ…!?!ば、場所を考えて頂戴!!そんなに大声で叫んで……はっ、恥を知りなさい、恥を!!!」 「痛っ!」 唐揚げと一緒に、羞恥で紅に染まった夜魔の女王からそこそこ威力のあるビンタを食らってしまったが、この時の俺は心底幸せだった。 109 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:06:10.72 ID:gqKd6v2y0 [13/18] ☆☆☆☆☆ たった今、俺は愛妻弁当の最後に残っていたタコウインナーを飲み込んだところだ。 「――ごちそうさま。すげえ美味かったし、お前の手料理食べられて嬉しかったよ。ホントにありがとな。」 「大袈裟なんだから…。別に大したことではないわ。 でも………貴方をそんなに満足させられたのなら、こちらとしても用意した甲斐があったというものね。」 俺が心からの謝礼をすると、黒猫はフフッと笑って嬉しそうにこっちを見た。 その表情はとても穏やかで、さっきこの女の子にビンタされたなんて信じられないくらいだ。 ちなみにあの後は、真っ赤になって暴走する黒猫を何とかなだめ、《弁当箱交換制》を復活させて無難に弁当を二人で分けた。 それに伴い、さっきの逆バージョンである俺の幻の台詞・「黒猫。口…開けろよ。」はカットされてしまったわけだが。 ちょっと残念な気もしたけど、そうでもしねえとあの時の黒猫は弁当食うどころじゃなかったし…。 …とは言っても無言で食べてたわけじゃなく、今度はちゃんと料理を褒めるのも忘れなかったぜ! 黒猫には軽く受け流されたけど。 もっとも、俺はアイツの口元が緩んでいるのを見逃さなかったがな。いつも通り素直じゃないけど可愛いヤツだ。 「…そういえばさ、どうして今日は弁当作ってきてくれたんだ?今日は何かの記念日とかじゃない…よな?」 「ええ。今日は別に何の記念日でもないわ。」 その言葉を聞いて、俺はホッと溜息をついた。 実は密かに気になってたんだよ。“付き合ってから○日経った記念”とかだったらどうしよう、ってさ。 こっちからは何の贈り物も用意してないしな…。 「何なのかしら?そのいかにも安堵したような表情は…。…それと、“常闇の匣(ハコ)”を渡した理由ならさっきも言ったはずよ。 これは夜の住人となった貴方を光から守護するために――」 「いや、そうじゃなくてだな…俺たちの世界っつーか仮の世界っつーか……現世?人間界での理由? え~と、とにかく、普通の理由を教えてくれないか?」 「それは………」 ここで黒猫は、またさっきみたいに言葉を詰まらせた。 嫌な予感がするぜ…。まさか、暗黒理論再来か?俺はちゃんと“普通の理由”って言ったはずなんだけど…。 しかし、今度の黒猫はどっちかというと、『考えている』というより『言おうかどうか迷っている』ようにも見える。 発表するのを拒むくらいの“普通の理由”って何なんだろうか………? 「それは……………」 言いよどめば言いよどむほど、黒猫の声はどんどん小さくなっていく。そしてそれに比例して、顔もどんどん赤くなっていく。 そして最終的には、さっきのタコウインナーくらい赤くなって俯きながら、蚊の泣くような声で言った。 「…貴方に……会いに行くためよ………」 「…えっ?」 俺に……会いに行くため?どういう意味だ? 核の部分を口に出してしまって勢いがついたのか、黒猫は軽く赤面しながらも続けた。 「何よ?それが理由では不服だとでも!?」 「いやっ、別にそういうわけじゃないけど……それと弁当作ってきてくれたことに何の関係があるんだ?」 「相変わらず察しが悪いわね…。も、もし私が、貴方の昼食を作って持って行けば…こうして渡す時に会うことが出来るでしょう?」 『こんなことを私に言わせないで頂戴』とばかりに、黒猫はジト目でこっちを睨んだ。 鈍感で悪かったな! でも、いきなりそんなこと言われたってよ…………… 110 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:07:11.17 ID:gqKd6v2y0 [14/18] 確かに恋人らしいことは殆どしていないが、俺たちの仲は決して冷え切ってるわけじゃない。 一応毎日一緒に帰ったり、頻繁に遊んだりはしている。 『遊ぶ』とは言っても、いつも通り黒猫作のゲームを俺がデバックしたりするだけなんだけどさ…。 でも、言われてみれば付き合ってから一回も昼休みに会ったことはなかった。 俺がここんトコ課題に追われて昼休みにやってたってこともあるし、黒猫も最近は少しはクラスに馴染んできたみたいだし。 まあ…言ってみれば、『特に会う理由がなかった』ってことになるのかもしれない。 「要するに、俺に会う口実が欲しくて、それでわざわざ弁当を作って持ってきてくれたってこと…なんだよな?」 俺が再度確認すると黒猫は黙って控えめに頷いた。明らかに恥ずかしがっているのがわかる。 しかしその後すぐ、ハッとしたように顔を上げてこう続けた。 「で、でも!…だからと言って、一切手を抜いたりはしていないわ! その…あ、貴方に喜んで貰いたかったということもあるし……。そこは、誤解しないで頂戴…」 「ああ、それはもちろんわかってるよ。」 そんなことくらい、いくら鈍感な俺でもあの弁当を食べればすぐにわかるさ。 あれは言い訳のためにテキトーに作ったもんじゃねえ、ちゃんと俺のこと考えて作ってくれたもんだってな。 「でもよ…そんなまわりくどいことしなくても、別に普通に会いに来てくれりゃよかったんじゃねえのか? ウチの教室ってそんなに入りにくい雰囲気か?」 「だって…貴方は一応受験生の身だし……それに、ここ3,4日はずっと勉強していたでしょう?だから声をかけられなかったのよ…。 ほ、本当は今日だって、ただ渡して帰るつもりだったのよ?それを貴方が無理矢理連れ出すから…」 黒猫は相変わらず小さな声で恥ずかしそうに答えた。 なんだ。気を使ってくれてたのか。やっぱり、こういう気遣いが出来るところも黒猫の魅力だと思うね。 しかも3,4日の間、こそこそ俺の様子見に来てたんだぜ?実にいじらしいじゃないか。 でもごめんな…実は俺が最近課題に追われてたのは、深夜までエロゲやってたせいなんだ…。 いや、違うよ!?桐乃のヤツが強制的に……でも、ホントにごめんな…。 「そ、そうか!そりゃ悪いことしちまったな…。 でもな、別に俺だっていっつも勉強ばっかしてるわけじゃないぞ!?むしろ息抜きしてることの方が多いっていうか……。 と、とにかくさ!そんなに遠慮しなくてもいいじゃねえか。だって俺は――」 かなり間接的とはいえ、『エロゲのせいで彼女を気まずくさせた』という若干の後ろめたさを感じながらも、俺は決意を固めた。 さっきは言いそびれちまったが、俺はお前の隷属じゃねえんだぜ? 今度は恥ずかしくない。なんせ、こいつだって勇気出して本音言ってくれたんだしな! 「俺は――お前の彼氏だろ?彼氏に会いに行くのに、いちいち用事なんていらないじゃねえか。」 「あ、貴方という人はそんなことを平気で……。た、確かに、それは…そうなのだけれど……。 でも、貴方だって、今日私が来た時は真っ先に『何の用だ?』って確認したじゃない………」 「あっ、いや、それは…急に訪ねてきたからビックリしただけで……」 俺だって平気でこんなことを口にしたわけじゃない。でも、改めて考えてみても本当にその通りだと思ったんだ。 黒猫が俺に会いに来てくれた理由なんて、『恋人だから』で十分じゃないか。 わざわざ『何の用だ?』って訊くなんて、あの時の俺はやっぱり間違ってた。 しかし、黒猫は俺の言葉で動揺を露にしたものの、まだしぶとく完全にデレてはくれない。 更には思い切った様子で本音をぶっちゃけてきた。 111 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:09:41.57 ID:gqKd6v2y0 [15/18] 「それに、何の理由もなしに会うなんて…。 そんなの………ぞ、俗に“バカップル”と呼ばれる、あの恥知らずな男女と変わらないでしょう!? 陰で何を言われるか、わかったものじゃないわ…」 …こいつ、そんなこと気にしてたのかよ!?普段はコスプレしながら平気で街歩いてるくせに…。 まっ、黒猫らしいと言えばらしいけどさ。 でもバカップルってのは、なんかこう…人前でも平気でキスとかしてイチャつくようなやつらでさ、少なくとも俺らは違うと思うぞ? それに―― 「別にいいじゃねえか。バカップルで何が悪いんだよ?俺はお前とだったら、そういう噂がたっても嫌じゃないぜ?」 「わ、私は厭よ!少しは世間体というものを気にしたらどうなの!?」 嫌なのかよ!?せっかく俺がそこそこ勇気を出して言ってやったのに! まあ…照れ隠しだってこたぁわかってるけどよ。でもな、それでもちょっとは傷付くんだぞ!? だが、ここまで来たら俺も引かないからな。さっきみたいに奇跡を起こしてやるぜ! 「…なら、理由があればいいんだな?」 「…えっ?」 黒猫はさも意外そうな顔でこっちを見た。こころなしか少し期待しているような感じもする。 ただでさえこいつは素直じゃないんだから、こういう時くらいは俺から積極的に動かねえとな。 俺は話を続けた。 「だったらさ、暇な時だけでいいんだけど…昼休みは俺の勉強を見ててくれないか? 監視役みたいなノリで、『ちゃんとやってるか』ってさ。」 「私が……先輩の勉強の監視を?」 「場所は…図書室にでも行けばいいし。あそこは確か、飲食出来る場所もあったよな?」 「飲食場所もあったと思うけれど…。先輩は大丈夫なの?その……私がいたら、邪魔になったりしない?」 「大丈夫だよ。むしろ昼休み中ってなんかダラダラしちゃうことの方が多いしさ。お前が監視しててくれた方がはかどると思うんだ。 それにな…俺だって、お前と一緒に昼休み過ごしたくなったんだよ!…ダメか?」 実際、これは本当だ。所詮1時間足らずしかない昼休みってのは勉強しようと思っていてもなかなか身が入らないことが多かったりする。 側であの猫の如き鋭い眼光で見られていると思うとサボれないだろうし、俺もそろそろ更なる本気を出さなきゃならない時期だし…。 まあ、丁度いい機会だ。 桐乃には悪いが、二次元妹の攻略はしばらくお預けとしよう。 もちろん最後の一言も本当だ。これは別にリップサービスじゃなくて、紛れもない俺の本音だよ。 あれだけ自分の彼女のいじらしい一面を見せられたら、男ならこう思って当然だろ? でも、どうやら相手にとってはこれが殺し文句になったらしく…………… 「し、仕方がないわね!?そこまで言うなら…昼休みは『毎日』貴方の為に時間を割いてあげてもいいわ? た、単なる使い魔である貴方ごときが夜の支配者である私の時間を拘束出来るなんて、身に余る幸福に感謝なさい!」 …ふう。俺の願いは、なんとか女王様に聞き入れてもらえたみたいだ。 黒猫の声はいかにも渋々感を装ってはいたが、その表情はどう見ても機嫌が良さそうだった。 ツンデレというか厨二デレというか…相変わらず素直じゃねえけど、これも黒猫だ。 俺はこいつの彼氏なんだぜ?こいつの言葉の裏側に隠されたデレメッセージくらい、余裕で解読出来るさ。 もっとも、まだ例の暗黒理論はよくわからんが……こっちは、これから徐々に慣れていけばいいよね!? それとな…『黒猫は思いがけない幸福を運んでくる』って信じられてる地域もあるみたいだが、 俺の黒猫は時折、思いがけないデレを運んできてくれるんだぜ!? さっきのア~ン♪もそうだっただろ? あとは…そうだなぁ……………例えば、こんな風に。 112 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:11:25.31 ID:gqKd6v2y0 [16/18] 「あの…先輩?」 「ん?」 「先輩がもしよければ、の話なのだけれど…。 そういうことなら、昼食は……わ、私が毎日用意してあげてもいいのよ?」 「…えっ!?ホントか!?」 こういうのを『棚からぼた餅』っていうんだったっけ?まあいいか。 …これってアレだろ!?明日からは『毎日』“常闇の匣(ハコ)”が…じゃなくて、あの愛妻弁当が食えるってことだよな!? 俺が予想外の展開にポカーンとしていると、黒猫が心配そうな顔になった。 いけねえいけねえ。弁当の感想の時といい、こういう時はすぐに返事しないとダメなんだったぜ。 「どうしたの?べ、別に強制するつもりはないから…厭なんだったら………」 「いや、そんなことない!普通にすごく嬉しい! お前の弁当が毎日食べられるなら、昼休みはもちろん、眠くなる午前中の授業も頑張れそうな気がしてきたぜ! …でも、毎朝手間かけさせんのは何か悪いなぁ……。お前は大丈夫なのか。」 「それは問題ないわ。 どちらにせよ妹の分は毎朝作らなくてはならないし、いつも食材が中途半端に余ってしまうから私は構わないのだけれど…。 …ど、どうかしら?」 これでもう、遠慮はしなくていいんだよな? よーし、そういうことなら……俺の言葉はこれで決まりだ。 「じゃあ遠慮なくお言葉に甘えさせてもらうぜ!黒猫、明日からよろしくな!今日みたいに美味いの頼むぞ!?」 「ふふふ…。当然でしょう?明日は先輩を更なる深淵の闇へと誘うことを約束するわ。」 …更なる深淵の闇、か。 よくわからんが、こんなに自信たっぷりに豪語してくれてんだから、こりゃかなり期待してよさそうだな。 明日が楽しみになってきたぜ! 113 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:12:20.28 ID:gqKd6v2y0 [17/18] ☆☆☆☆☆ 腕時計を見ると、もうすぐ昼休み終了のチャイムが鳴る時間になっていた。 「…そろそろ、戻らねえとな。」 「そうね。」 黒猫の教室訪問サプライズから始まって………今日の昼休みは、俺たちにとってやけに充実してた気がする。 だがもうすぐ、俺と黒猫が初めて過ごした『恋人同士の昼休み』は終わるのだ。そう考えると少し惜しい感じもしてくる。 …まあ、明日からはずっとこんな感じだけどな! 「先輩。明日は、図書室の前で待つことにするわ。」 「了解だ。確か今日はゲー研ないよな?じゃあ、帰りはいつも通り校門の前で。」 「ええ。それじゃあ…」 俺たちは階段の前で何気ない会話を交わして、互いに背を向けて歩き出した。 ――が、その直後に俺は黒猫に呼び止められた。 「先輩!」 その声は、昼休み終了間近に発生する独特な雑踏に混じっていてもよく聞こえた。 そして―― 「帰りは…なるべく早く校門に来て頂戴。私も努力するから…。夜魔の女王を待たせたら、その代償は高くつくわよ?」 これはもう、こいつが何言いたいのかは黒猫初心者でもわかるよな? というか、隠れてるかどうかも怪しいレベルだ。 …俺か? 俺はもちろん、自分の中では最高の笑顔で応えたつもりだよ。 「おう!びっくりするくらい速く行くから任しとけ!」ってさ。 これから教室に帰ったら、俺はクラスのヤツらに黒猫のことで尋問されるだろう。 「ホントにあれお前の彼女か?」なんてね。 でもその時は、逆に思いっきり自慢してやろうと思ってる。 見たかお前ら!俺の彼女は、あんなに可愛いんだぜ! …ってな。 (終わり)
106 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:02:11.35 ID:gqKd6v2y0 [10/18] ぐぅ~きゅるるるるる……………………… …何だ?この漫画の効果音みたいなのは!?これは俺じゃないぞ!? だが、今ここには俺たち二人しかいないはずだ。 ってことは…………… 俺がおそるおそる隣を見ると、案の定、黒猫が真っ赤な顔をして腹を押さえていた。 小学生でもわかりやすいようなジェスチャーしやがって…。 おそらく、今のこいつの状態を『顔から火が出ている』状態って言うんだろうな。 「お前さ、もしかして………自分の弁当を家に忘れてきたのか?」 「わ、私は…確かに朝のうちに鞄に入れておいたのよ!?ほ、本当よ!?きっと、私の力を恐れた天使どもが…」 黒猫の口調からは最早“夜魔の女王”の風格は全く感じられず、完全に焦りと恥ずかしさでテンパってしまっている。 鞄から弁当を抜き取る天使って…どんだけセコいんだよ!?……………とはあえてツッコまないけどさ。 さっきの厨二台詞もだけど、黒猫がこんなあからさまにミスするなんて珍しいな。今夜は沖縄に雪でも降るんじゃないだろうか? でもなんにせよ、この状態のまま放ってはおけないだろ。 「そういうことなら……これ二人で分けようぜ。」 「要らないわ。だってそれは貴方の…」 「元はと言えばお前が作ってくれたもんだろ。それにな、いくら夜魔の女王といえども昼飯抜きじゃこの先の授業がツラいと思うぜ?」 「私はこのくらいで辛くなんか……でも、そこまで言うのなら……………」 黒猫は意外にも俺の説得であっさり折れた。 こいつはプライドが高いからもっと抵抗すると思ったんだが……もしかして、自分の空腹感に限界を感じたからだったりしてな? 107 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:03:23.46 ID:gqKd6v2y0 [11/18] それにしても…『彼女が作ってきた弁当を二人で食べる』なんて、俺たちもいよいよ恋人らしくなってきたもんだ。 でもさ、ここまできたならさ。 せっかくここまできたなら…アレもやってみたいよなぁ……… 『先輩。こっちを向いて。』 『?急にどうしたんだ、黒猫?』 『ほ、ほら、口を開けて頂戴。ア~ン♪してあげるわ………///』 『く、黒猫………///』 …みたいなね!?いや、だいぶ妄想入ってるけども。 まあ別に男のロマンとまでは言わないけどさ、男なら、その…ちょっとは憧れるだろ!? 人間という生き物は、少しでも幸せな気分に浸るとどんどん高望みをしてしまうものだ。 黒猫に『汚らわしい人間風情が』とも言われてしまいそうだが、この時の俺もまさにそんな感じだった。 …だが、現実というのは非情なものだ。皆様お察しの通り、あの恥ずかしがりやがそんな事するわけがない。 妄想中でボーっとしていた俺は、突然黒猫に箸を奪われてしまった。 「あっ!ちょっ、まだ食べてる途中…」 「…あら、貴方が言ったのよ?『二人で分けよう』とね。貴方が匣(ハコ)持っていたら、私が食べられないでしょう?」 「いやっ、そりゃそうだけどさ…」 「食い意地の張った雄ね。そんなに心配しなくても、私が一通り食べたらまた貴方に返してあげるわよ。」 更には動揺してる間に弁当箱まで奪われる始末だ。 この《弁当箱交換制》を崩さない限り、俺の妄想は絶対に叶わないだろう。 しかも、また“黒猫”モードに戻っちゃってるしさぁ…。 いやいや、別に“黒猫”成分が嫌いなわけじゃない。それもひっくるめて俺の大事な彼女だしな。 ただ、この場合は…“瑠璃”でいてくれた方が助かるんだけどなー……って話だ。そこは誤解しないでくれ。 まあしかし、こうなってしまったからには、例の半強制的手段に出るしかねーか…。 正直この方法は使いたくなかった。成功する可能性も限りなく低いかもしれない。 だが、このチャンスを逃してなるものか! 恋人との甘いひと時のためなら、俺は勝負に出てやるぜ!! そう決意した俺は、さっきとは逆に黒猫の食事風景をじっと見ながら、来るべきチャンスを伺った。 …それにしても、黒猫の食べ方は綺麗だなぁ……。元々美味そうな弁当が更に美味そうに見えてくるよ。 なんつーか、箸さばきがイイな。きっと小さい頃から仕込まれてるんだろうね。 ちょ、ちょっとガツガツしてるような感じもするケド…お前、そんなに腹減ってたのか? ………ん? なーんて言ってる間に、黒猫が一口サイズ(←ココ重要!)の唐揚げを箸でつまんだぞ!?今だ! 108 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:04:13.76 ID:gqKd6v2y0 [12/18] 「な、なあ黒猫。俺にもその唐揚げくれないか?さっき食べた時美味しかったからさ。もう一個だけ欲しいんだけど…ダメ?」 「ええ…。別に構わないわ。それじゃあ貴方の分を残しておいてあげ――」 黒猫はそこまで言いかけてようやくこっちを見た。 そして動きを止めた。 そう、横目で隣をチラ見しながら口をパクパクさせて待機している俺に気付いたのだ。 …ふっ。どうよ?これが俺の秘策だ! 我ながら、さっきの腹押さえた黒猫並にわかりやすいジェスチャーだろ? 俺だってまさか直球で『ア~ン♪してくれ!』とは言えんさ。 でも、これならさすがの黒猫も空気を読ん………で……………あれ? 「――な、何なの?その呆けた面構えは…?自分で鏡をよく見て御覧なさいな…。」 …って、こいつ明らかに不審がってるじゃねえかよ!!!ソッコー目逸らされたぞ!? 何でだ!?確かに100歩譲って怪しい行動なのは認めるが…こんなにもわかりやすいジェスチャーじゃないか!!! 何故俺の気持ちに気付いてくれないんだよ黒猫ォォォ!!!!! その黒猫はいうと、どんよりと俯く俺の方をいかにも怪訝そうな目つきで見つめている。 「とにかく、見ているこっちが恥ずかしいわ。即刻その間抜け面を引っ込めて。」 「すいません……」 「ど、どうしてそんなに落ち込んでいるのよ!?」 「いや、別に…」 これにて作戦終了だな…。俺の小さな野望は儚く散ったというわけだ。 やっぱ無理だったか…。ちょっと高望みし過ぎちまったな…。 まあでもね!弁当作ってきてもらえただけでも大きな一歩だしね!続きはまた今度……… 俺は気をとりなおして、弁当箱を受け取ろうとゆっくり顔を上げた。 しかし、“奇跡”というものは突然起こるものである。 俺は、黒猫がやけにそわそわしているのに気がついた。 今度はこいつが俺の方をチラチラ見ながら挙動不審になっている。明らかにこっちの様子を気にしている感じだ。 そして、意を決したように俺の方に箸でつまんだ唐揚げを向け…………… 「…そ、そんなに落ち込んでいる暇があるんだったら………さっさと口を開いて頂戴っ。 …いつまで経っても………た、食べさせられないでしょう?」 こ、こいつ…もしかして、最初からア~ン♪してくれるつもりで……… 俺の心は、驚きと感動のあまり思わず大爆発を起こした。 「く、く………くろねこォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」 「なっ…!?!ば、場所を考えて頂戴!!そんなに大声で叫んで……はっ、恥を知りなさい、恥を!!!」 「痛っ!」 唐揚げと一緒に、羞恥で紅に染まった夜魔の女王からそこそこ威力のあるビンタを食らってしまったが、この時の俺は心底幸せだった。 109 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:06:10.72 ID:gqKd6v2y0 [13/18] ☆☆☆☆☆ たった今、俺は愛妻弁当の最後に残っていたタコウインナーを飲み込んだところだ。 「――ごちそうさま。すげえ美味かったし、お前の手料理食べられて嬉しかったよ。ホントにありがとな。」 「大袈裟なんだから…。別に大したことではないわ。 でも………貴方をそんなに満足させられたのなら、こちらとしても用意した甲斐があったというものね。」 俺が心からの謝礼をすると、黒猫はフフッと笑って嬉しそうにこっちを見た。 その表情はとても穏やかで、さっきこの女の子にビンタされたなんて信じられないくらいだ。 ちなみにあの後は、真っ赤になって暴走する黒猫を何とかなだめ、《弁当箱交換制》を復活させて無難に弁当を二人で分けた。 それに伴い、さっきの逆バージョンである俺の幻の台詞・「黒猫。口…開けろよ。」はカットされてしまったわけだが。 ちょっと残念な気もしたけど、そうでもしねえとあの時の黒猫は弁当食うどころじゃなかったし…。 …とは言っても無言で食べてたわけじゃなく、今度はちゃんと料理を褒めるのも忘れなかったぜ! 黒猫には軽く受け流されたけど。 もっとも、俺はアイツの口元が緩んでいるのを見逃さなかったがな。いつも通り素直じゃないけど可愛いヤツだ。 「…そういえばさ、どうして今日は弁当作ってきてくれたんだ?今日は何かの記念日とかじゃない…よな?」 「ええ。今日は別に何の記念日でもないわ。」 その言葉を聞いて、俺はホッと溜息をついた。 実は密かに気になってたんだよ。“付き合ってから○日経った記念”とかだったらどうしよう、ってさ。 こっちからは何の贈り物も用意してないしな…。 「何なのかしら?そのいかにも安堵したような表情は…。…それと、“常闇の匣(ハコ)”を渡した理由ならさっきも言ったはずよ。 これは夜の住人となった貴方を光から守護するために――」 「いや、そうじゃなくてだな…俺たちの世界っつーか仮の世界っつーか……現世?人間界での理由? え~と、とにかく、普通の理由を教えてくれないか?」 「それは………」 ここで黒猫は、またさっきみたいに言葉を詰まらせた。 嫌な予感がするぜ…。まさか、暗黒理論再来か?俺はちゃんと“普通の理由”って言ったはずなんだけど…。 しかし、今度の黒猫はどっちかというと、『考えている』というより『言おうかどうか迷っている』ようにも見える。 発表するのを拒むくらいの“普通の理由”って何なんだろうか………? 「それは……………」 言いよどめば言いよどむほど、黒猫の声はどんどん小さくなっていく。そしてそれに比例して、顔もどんどん赤くなっていく。 そして最終的には、さっきのタコウインナーくらい赤くなって俯きながら、蚊の泣くような声で言った。 「…貴方に……会いに行くためよ………」 「…えっ?」 俺に……会いに行くため?どういう意味だ? 核の部分を口に出してしまって勢いがついたのか、黒猫は軽く赤面しながらも続けた。 「何よ?それが理由では不服だとでも!?」 「いやっ、別にそういうわけじゃないけど……それと弁当作ってきてくれたことに何の関係があるんだ?」 「相変わらず察しが悪いわね…。も、もし私が、貴方の昼食を作って持って行けば…こうして渡す時に会うことが出来るでしょう?」 『こんなことを私に言わせないで頂戴』とばかりに、黒猫はジト目でこっちを睨んだ。 鈍感で悪かったな! でも、いきなりそんなこと言われたってよ…………… 110 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:07:11.17 ID:gqKd6v2y0 [14/18] 確かに恋人らしいことは殆どしていないが、俺たちの仲は決して冷え切ってるわけじゃない。 一応毎日一緒に帰ったり、頻繁に遊んだりはしている。 『遊ぶ』とは言っても、いつも通り黒猫作のゲームを俺がデバックしたりするだけなんだけどさ…。 でも、言われてみれば付き合ってから一回も昼休みに会ったことはなかった。 俺がここんトコ課題に追われて昼休みにやってたってこともあるし、黒猫も最近は少しはクラスに馴染んできたみたいだし。 まあ…言ってみれば、『特に会う理由がなかった』ってことになるのかもしれない。 「要するに、俺に会う口実が欲しくて、それでわざわざ弁当を作って持ってきてくれたってこと…なんだよな?」 俺が再度確認すると黒猫は黙って控えめに頷いた。明らかに恥ずかしがっているのがわかる。 しかしその後すぐ、ハッとしたように顔を上げてこう続けた。 「で、でも!…だからと言って、一切手を抜いたりはしていないわ! その…あ、貴方に喜んで貰いたかったということもあるし……。そこは、誤解しないで頂戴…」 「ああ、それはもちろんわかってるよ。」 そんなことくらい、いくら鈍感な俺でもあの弁当を食べればすぐにわかるさ。 あれは言い訳のためにテキトーに作ったもんじゃねえ、ちゃんと俺のこと考えて作ってくれたもんだってな。 「でもよ…そんなまわりくどいことしなくても、別に普通に会いに来てくれりゃよかったんじゃねえのか? ウチの教室ってそんなに入りにくい雰囲気か?」 「だって…貴方は一応受験生の身だし……それに、ここ3,4日はずっと勉強していたでしょう?だから声をかけられなかったのよ…。 ほ、本当は今日だって、ただ渡して帰るつもりだったのよ?それを貴方が無理矢理連れ出すから…」 黒猫は相変わらず小さな声で恥ずかしそうに答えた。 なんだ。気を使ってくれてたのか。やっぱり、こういう気遣いが出来るところも黒猫の魅力だと思うね。 しかも3,4日の間、こそこそ俺の様子見に来てたんだぜ?実にいじらしいじゃないか。 でもごめんな…実は俺が最近課題に追われてたのは、深夜までエロゲやってたせいなんだ…。 いや、違うよ!?桐乃のヤツが強制的に……でも、ホントにごめんな…。 「そ、そうか!そりゃ悪いことしちまったな…。 でもな、別に俺だっていっつも勉強ばっかしてるわけじゃないぞ!?むしろ息抜きしてることの方が多いっていうか……。 と、とにかくさ!そんなに遠慮しなくてもいいじゃねえか。だって俺は――」 かなり間接的とはいえ、『エロゲのせいで彼女を気まずくさせた』という若干の後ろめたさを感じながらも、俺は決意を固めた。 さっきは言いそびれちまったが、俺はお前の隷属じゃねえんだぜ? 今度は恥ずかしくない。なんせ、こいつだって勇気出して本音言ってくれたんだしな! 「俺は――お前の彼氏だろ?彼氏に会いに行くのに、いちいち用事なんていらないじゃねえか。」 「あ、貴方という人はそんなことを平気で……。た、確かに、それは…そうなのだけれど……。 でも、貴方だって、今日私が来た時は真っ先に『何の用だ?』って確認したじゃない………」 「あっ、いや、それは…急に訪ねてきたからビックリしただけで……」 俺だって平気でこんなことを口にしたわけじゃない。でも、改めて考えてみても本当にその通りだと思ったんだ。 黒猫が俺に会いに来てくれた理由なんて、『恋人だから』で十分じゃないか。 わざわざ『何の用だ?』って訊くなんて、あの時の俺はやっぱり間違ってた。 しかし、黒猫は俺の言葉で動揺を露にしたものの、まだしぶとく完全にデレてはくれない。 更には思い切った様子で本音をぶっちゃけてきた。 111 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:09:41.57 ID:gqKd6v2y0 [15/18] 「それに、何の理由もなしに会うなんて…。 そんなの………ぞ、俗に“バカップル”と呼ばれる、あの恥知らずな男女と変わらないでしょう!? 陰で何を言われるか、わかったものじゃないわ…」 …こいつ、そんなこと気にしてたのかよ!?普段はコスプレしながら平気で街歩いてるくせに…。 まっ、黒猫らしいと言えばらしいけどさ。 でもバカップルってのは、なんかこう…人前でも平気でキスとかしてイチャつくようなやつらでさ、少なくとも俺らは違うと思うぞ? それに―― 「別にいいじゃねえか。バカップルで何が悪いんだよ?俺はお前とだったら、そういう噂がたっても嫌じゃないぜ?」 「わ、私は厭よ!少しは世間体というものを気にしたらどうなの!?」 嫌なのかよ!?せっかく俺がそこそこ勇気を出して言ってやったのに! まあ…照れ隠しだってこたぁわかってるけどよ。でもな、それでもちょっとは傷付くんだぞ!? だが、ここまで来たら俺も引かないからな。さっきみたいに奇跡を起こしてやるぜ! 「…なら、理由があればいいんだな?」 「…えっ?」 黒猫はさも意外そうな顔でこっちを見た。こころなしか少し期待しているような感じもする。 ただでさえこいつは素直じゃないんだから、こういう時くらいは俺から積極的に動かねえとな。 俺は話を続けた。 「だったらさ、暇な時だけでいいんだけど…昼休みは俺の勉強を見ててくれないか? 監視役みたいなノリで、『ちゃんとやってるか』ってさ。」 「私が……先輩の勉強の監視を?」 「場所は…図書室にでも行けばいいし。あそこは確か、飲食出来る場所もあったよな?」 「飲食場所もあったと思うけれど…。先輩は大丈夫なの?その……私がいたら、邪魔になったりしない?」 「大丈夫だよ。むしろ昼休み中ってなんかダラダラしちゃうことの方が多いしさ。お前が監視しててくれた方がはかどると思うんだ。 それにな…俺だって、お前と一緒に昼休み過ごしたくなったんだよ!…ダメか?」 実際、これは本当だ。所詮1時間足らずしかない昼休みってのは勉強しようと思っていてもなかなか身が入らないことが多かったりする。 側であの猫の如き鋭い眼光で見られていると思うとサボれないだろうし、俺もそろそろ更なる本気を出さなきゃならない時期だし…。 まあ、丁度いい機会だ。 桐乃には悪いが、二次元妹の攻略はしばらくお預けとしよう。 もちろん最後の一言も本当だ。これは別にリップサービスじゃなくて、紛れもない俺の本音だよ。 あれだけ自分の彼女のいじらしい一面を見せられたら、男ならこう思って当然だろ? でも、どうやら相手にとってはこれが殺し文句になったらしく…………… 「し、仕方がないわね!?そこまで言うなら…昼休みは『毎日』貴方の為に時間を割いてあげてもいいわ? た、単なる使い魔である貴方ごときが夜の支配者である私の時間を拘束出来るなんて、身に余る幸福に感謝なさい!」 …ふう。俺の願いは、なんとか女王様に聞き入れてもらえたみたいだ。 黒猫の声はいかにも渋々感を装ってはいたが、その表情はどう見ても機嫌が良さそうだった。 ツンデレというか厨二デレというか…相変わらず素直じゃねえけど、これも黒猫だ。 俺はこいつの彼氏なんだぜ?こいつの言葉の裏側に隠されたデレメッセージくらい、余裕で解読出来るさ。 もっとも、まだ例の暗黒理論はよくわからんが……こっちは、これから徐々に慣れていけばいいよね!? それとな…『黒猫は思いがけない幸福を運んでくる』って信じられてる地域もあるみたいだが、 俺の黒猫は時折、思いがけないデレを運んできてくれるんだぜ!? さっきのア~ン♪もそうだっただろ? あとは…そうだなぁ……………例えば、こんな風に。 112 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:11:25.31 ID:gqKd6v2y0 [16/18] 「あの…先輩?」 「ん?」 「先輩がもしよければ、の話なのだけれど…。 そういうことなら、昼食は……わ、私が毎日用意してあげてもいいのよ?」 「…えっ!?ホントか!?」 こういうのを『棚からぼた餅』っていうんだったっけ?まあいいか。 …これってアレだろ!?明日からは『毎日』“常闇の匣(ハコ)”が…じゃなくて、あの愛妻弁当が食えるってことだよな!? 俺が予想外の展開にポカーンとしていると、黒猫が心配そうな顔になった。 いけねえいけねえ。弁当の感想の時といい、こういう時はすぐに返事しないとダメなんだったぜ。 「どうしたの?べ、別に強制するつもりはないから…厭なんだったら………」 「いや、そんなことない!普通にすごく嬉しい! お前の弁当が毎日食べられるなら、昼休みはもちろん、眠くなる午前中の授業も頑張れそうな気がしてきたぜ! …でも、毎朝手間かけさせんのは何か悪いなぁ……。お前は大丈夫なのか。」 「それは問題ないわ。 どちらにせよ妹の分は毎朝作らなくてはならないし、いつも食材が中途半端に余ってしまうから私は構わないのだけれど…。 …ど、どうかしら?」 これでもう、遠慮はしなくていいんだよな? よーし、そういうことなら……俺の言葉はこれで決まりだ。 「じゃあ遠慮なくお言葉に甘えさせてもらうぜ!黒猫、明日からよろしくな!今日みたいに美味いの頼むぞ!?」 「ふふふ…。当然でしょう?明日は先輩を更なる深淵の闇へと誘うことを約束するわ。」 …更なる深淵の闇、か。 よくわからんが、こんなに自信たっぷりに豪語してくれてんだから、こりゃかなり期待してよさそうだな。 明日が楽しみになってきたぜ! 113 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:12:20.28 ID:gqKd6v2y0 [17/18] ☆☆☆☆☆ 腕時計を見ると、もうすぐ昼休み終了のチャイムが鳴る時間になっていた。 「…そろそろ、戻らねえとな。」 「そうね。」 黒猫の教室訪問サプライズから始まって………今日の昼休みは、俺たちにとってやけに充実してた気がする。 だがもうすぐ、俺と黒猫が初めて過ごした『恋人同士の昼休み』は終わるのだ。そう考えると少し惜しい感じもしてくる。 …まあ、明日からはずっとこんな感じだけどな! 「先輩。明日は、図書室の前で待つことにするわ。」 「了解だ。確か今日はゲー研ないよな?じゃあ、帰りはいつも通り校門の前で。」 「ええ。それじゃあ…」 俺たちは階段の前で何気ない会話を交わして、互いに背を向けて歩き出した。 ――が、その直後に俺は黒猫に呼び止められた。 「先輩!」 その声は、昼休み終了間近に発生する独特な雑踏に混じっていてもよく聞こえた。 そして―― 「帰りは…なるべく早く校門に来て頂戴。私も努力するから…。夜魔の女王を待たせたら、その代償は高くつくわよ?」 これはもう、こいつが何言いたいのかは黒猫初心者でもわかるよな? というか、隠れてるかどうかも怪しいレベルだ。 …俺か? 俺はもちろん、自分の中では最高の笑顔で応えたつもりだよ。 「おう!びっくりするくらい早く行くから任しとけ!」ってさ。 これから教室に帰ったら、俺はクラスのヤツらに黒猫のことで尋問されるだろう。 「ホントにあれお前の彼女か?」なんてね。 でもその時は、逆に思いっきり自慢してやろうと思ってる。 見たかお前ら!俺の彼女は、あんなに可愛いんだぜ! …ってな。 (終わり)

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