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224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 02:53:01.35 ID:oWNgStb30
女子中学生にしてティーン誌のモデル、類まれなる美貌に加え、俺のスイートスポットを刺激する黒髪ロング清楚系
――それが妹の親友、新垣あやせだ。
そして俺はいま、あやせと二人でクリスマスイブの街に繰り出している。
どうだよ? これって誰もがうらやむ完璧なシチュエーションだと思うだろ?
でも……、残念だけど、これには事情があるのさ。
やんごとなき事情ってやつがな……
「お兄さん!なにしてるんですか! 早く行きますよ!」
おっと、置いてかれちまう! 待ってくれ!
227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 02:56:42.09 ID:oWNgStb30
遡ること数日前――
放課後、俺はあやせから、いつもの公園に呼び出しを受けていた。
あやせに呼び出される場合、桐乃に関する相談事か、もしくは俺に対する詰問の二択と決まっている。
「お兄さん、いまから話すことに心当たりがあるなら、素直に白状してくださいね」
そう言うと、あやせはキッと鋭い視線を向けてきた。
どうやら今回は詰問コースだったようだ……。
でも、こんな表情までも可愛いんだから、あやせたんってマジ天使以外の何物でもないよな。
輝くような笑顔もいいけど、この冷たい視線でもっと見つめられたい、なんて良からぬことを思ってしまう。
――と、そんな不埒な考えは俺の緩い表情から筒抜けだったようで、
「あの……、真面目に聞いてください……ね?」
おっと、あやせの瞳から光彩が消えている! こいつにはこれがあるから油断できないんだ。
「す、すまん!――で、一体なんの話だ?」
慌てて真面目な表情を作った俺は、あやせの話に耳を傾けた。
228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 02:59:32.78 ID:oWNgStb30
「もうすぐクリスマスですね」
「ああ、そういえばもうそんな時期だよな」
「わたし、今年も桐乃を、うちの事務所のクリスマスパーティに誘ったんです」
あやせの“今年も”という一言を聞いて、思わず俺は身震いした。
そういえば去年のクリスマス、桐乃は俺と渋谷巡りに行くために、あやせからのパーティの誘いを断ったのだった。
実際は、桐乃のケータイ小説の取材だったんだけど、あやせには兄妹でデートしてたと思われているので、もしかすると俺はいらぬ恨みを買ってしまってたのかもしれない……。
しかも、成り行きでラブホに入ったなんてことがバレてたら、間違いなく俺は殺されていただろう。
「でも……、桐乃、今年も用事があるから無理、って――」
「そ、そうなのか」
「桐乃がイブの日に仕事を入れてないことは判ってるんです。それなのに……それなのに……」
そう言うあやせは、泣き出しそうな表情になっていた。
そうだよな、一番の親友に二年続けてクリスマスパーティを断られたら悲しいよな。
「……そこでお兄さんに確認したいのですが」
さっきまで泣き顔だったあやせの表情は、かすかに怒気を含んだものに変化している。
なんだか俺が呼ばれた理由が分かってきたぞ……
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:06:27.55 ID:oWNgStb30
「もしや、今年のイブも、懲りもせず実妹とデートなさるおつもりではないでしょうね?
……わたし、以前に警告しましたよね? 桐乃に手を出したら――って。」
俺、スピリチュアルとか超常現象の類は一切信じない主義なんだけど、この時だけはハッキリ見えたね。
――あやせの背後にドス黒いオーラが!
「お兄さん――、どうか正直に答えてください」
「待て、ち、違――」
恐怖のあまり言葉が続かない! 俺は必死にかぶりを振って否定した。
怖ええ!やっぱコイツ怖ええよ!!
「お兄さんとのデートではない……と?」
じりっ、じりっ、と迫ってくるあやせに恐れ慄きながら、今度は必死に首を縦に振った。
すると、俺の懸命のアピールが通じたらしく、あやせの背後のオーラがフッと消えた。
そしてまた泣きそうな表情に戻っている。
「じゃあ……桐乃はどうして――」
233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:10:47.53 ID:oWNgStb30
「わたし、桐乃に避けられてるんでしょうか……」
可哀想に、あやせはすっかりしょげてしまっている。
「そんなこと、絶対ねえって」
「でも……でも……」
「たとえばさ、あいつが好きなオタ方面のイベントがあるとかさ。そういう理由も考えられるじゃないか」
以前、沙織から聞いたことがあるが、アニメの人気声優は、クリスマスイブにイベントを開催するのが一種のステータスなのだそうだ。
その手のイベントに参加したいがために、桐乃の奴があやせの誘いを断ってやがる可能性は十分ありえる。
「――いえ、それは考えにくいです」
あれ?即否定??
「そんなこともあろうかと、桐乃が好きな『星くずうぃっち☆メルル』とやらの声優達のスケジュールを徹底的に調べ上げましたが、イブにイベントを開催する声優はいませんでしたし、アニメ作品自体のイベントも予定されていませんでした」
「それに桐乃、『星くずうぃっち☆メルル』以外では、イベントに参加するほど入れ込んでいるものは無いようですし」
怖ええ!やっぱりあやせさん怖いよ!
オタ趣味に嫌悪感丸出しだったくせに、桐乃のためならそこまで調べちゃうんだ!?
234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:14:31.04 ID:oWNgStb30
「お兄さんとのデートでも、オタクの用事でもない、となると」
「わたし、この展開だけは考えたくなかったのですけど――」
あやせは胸の前で手をギュッと握り締め、ためらいながらも言葉を搾り出した。
「……も、もしかして……桐乃に、彼氏ができたんじゃないでしょうか――?」
そうだよな…… 普通そういう発想に辿り着くよな……。
実は俺も、さっきからずっとその可能性を考えていた。
あの桐乃にオトコが……? そりゃあアイツは容姿端麗で成績優秀、スポーツ万能。おまけに外では猫かぶってるから、さぞやモテるだろう。
でも、あいつの外っ面だけを見て言い寄ってくる男なんか、ろくなもんじゃないに決まっている。
それに全然そんな素振りは見せてなかったし、第一、イブに間に合わせるかのように彼氏を作るなんてあいつらしくねえっていうか――
……クソッ、なんで俺がイライラしてるんだ。
「可能性として……確かにそれは否定できないよな」
「お兄さんもそう思いますか……」
俺とあやせはしばし無言で目を合わせた後、ハァーっとため息をついた。
236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:18:00.33 ID:oWNgStb30
「よく分かりました。最初にお兄さんを疑ったことは謝ります」
「あ、あぁ、別にいいんだ。そんなこと……」
とりあえず俺への嫌疑は晴れ、あやせから向けられていた敵意は感じなくなった。
するとあやせは、ちょっと思案した後、俺に意外なことを言った――
「ところで、お兄さんは……イブの日に何かご予定はありますか?」
えっ?
あやせがイブの予定を、俺に……? 何この超展開?
あやせは少し頬を染めて、上目遣いに俺を見つめている。かすかに瞳を潤ませているような……
ヤバ、こんな表情されたら――俺の心臓はバクバクと高鳴り続けていた。
「もしよかったら―― その日はわたしに付き合ってもらえませんか」
238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:21:35.43 ID:oWNgStb30
そしてクリスマスイブ当日――
俺は学校を終えると猛ダッシュで家に帰り、大急ぎで着替えを済ませると、あやせとの待ち合わせ場所であるいつもの公園へと向かった。
雑誌で調べたオススメデートプランは完璧に頭に入れてるし、軍資金もいつもより多めに用意した。しかも今日はうちの両親は出掛けてるので、帰りが少々遅くなっても大丈夫。
ふっふっふ、今日の俺に死角は無いぜ。
公園に着くと、あやせはすでにそこに居た。
お、早いな……と思ったが、それもそのはず、あやせは制服姿。どうやら学校から直接来たらしい。
「よ、よう――早いじゃないか」
「あ!お兄さん。来てくれてありがとうございます」
ぺこっとお辞儀をして眩しい笑顔を向けるあやせ。やっぱりお前は天使だぜ。
「そりゃあ、クリスマスイブにお前からデートの誘いがあれば、俺は万難を排して駆けつけるさ」
俺は精一杯のキメ顔を作ってあやせに応えた―――が、、おや?あやせの反応が鈍いぞ。
「――え、デートの誘い?一体なんの話ですか?」
「え、だって、イブのデートに付き合ってほしいって……お前が言ったじゃないか……?」
「な、、、何を都合よく事実を捻じ曲げてるんですかっ!! 私はただイブの日に付き合ってもらいたいことがあってお願いしただけです!」
「だからそれってデートのことじゃ……」
「絶対違います!ありえません!!」
えええええええぇぇぇ――!?
そんなバカな……そうだったっけ? そう言われればそんな気もしてきた…… ハァ
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:28:12.70 ID:oWNgStb30
「でも、あの話の流れで、お前のあの態度で『イブに付き合ってほしい』なんて言われたら誰だって勘違いするだろ……」
「しませんっ! お兄さんは勝手な解釈が激しすぎなんです!」
「……それでお前は制服のままだったのか……もう俺のクリスマスは今この瞬間に終わったよ……」
「そ、そんな大袈裟にヘコまないでくださいよ……」
あやせも、俺にぬか喜びさせたことを申し訳なく感じ始めたのか、ちょっと困惑した表情を浮かべた。
まぁな、確かにそんな上手い話があるわけなかったよな。
俺、普段は割と慎重に行動する男なんだけど、あやせ絡みになるとどうしても判断力が落ちてしまうようだ。
「じゃあ、付き合ってほしいことって何なんだ?」
「よくぞ聞いてくれました。 先日お話した桐乃の件について、わたし、事実をハッキリさせたいなと思って
――今日、これから桐乃のイブの行動を“追跡して見守る”ことにしたんです」
……オイ、、言い方をマイルドにしてるけど、それってつまり尾行じゃねーのか?
「いくら親友でも……プライバシー的にそれはマズくね……?」
「バレないように追跡するから大丈夫です」
しれっと言いやがって……やはりこの女、おっかねえ……
「桐乃は今日、掃除当番だからまだ校内に残ってるんです。 さぁ、お兄さん、学校に移動して、張り込みを開始しましょう」
そう言って小走りで駆け始めたあやせと、それを追う俺。
そりゃあ俺だって、桐乃に彼氏ができたのかどうか、そうだとしたら一体どんな奴なのか、興味がないといえば嘘になるけどさぁ。
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:32:21.98 ID:oWNgStb30
そんなわけで、俺達は桐乃の学校へと向かい、校門の出入りを監視できる物陰に潜んで張り込みを開始した。
「そういえば、お前、今日は事務所のパーティだとか言ってなかったっけ?」
「当然断りました。パーティなんかよりも桐乃のことの方が大事ですから」
そう言うあやせの瞳はメラメラと燃えていた。
桐乃よ――、これでもしお前に彼氏発覚なんて事になったら、俺はこの女の行動を止める自信がないぞ……
「そもそも……この監視に何で俺が必要なんだ?」
「むっ、もう面倒くさくなったのですか?」
「いやいや、素朴な疑問として、な……」
「それはですね、大抵の場所はわたし一人でも尾こ…いえ、見守れるのですけど――」
……コイツ、いま明らかに尾行って言いかけたな。
「もし桐乃が誰かとの……デート……だった場合、わたし一人じゃ入りにくい場所に行くかもしれないじゃないですか? そういうところにご一緒してもらうためですよ」
「……女一人では入りにくい場所?――そ、それはもしやデートコースの終着地点のことか!?そういう場所に俺と入るのか!?」
「死ねええええええええええ変態野郎おおおおおおお!!!」
あやせの渾身の上段回し蹴りが、俺の顔面にクリーンヒット!
「そうじゃなく!普通にレストランとかでも、一人じゃ入りにくいじゃないですか!?なななな何を考えてるんですかっ!」
「そ、そうだよな、すまん!悪かった! とりあえず落ち着いてくれ! ……お、おい、桐乃が出てきた! 騒ぐとバレちまうぞ!」
あやせはハッと口元を押さえて、俺の視線の先をたどるように校門へと視線を送った。
そこにはカバンを肩にかけ、携帯をいじりながら下校する桐乃の姿があった。
242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:38:59.50 ID:oWNgStb30
「もし桐乃が彼氏とデートなのだとしたら、いったん帰宅して、着替えてから待ち合わせに向かうはずですよね」
「うむ、そうだな」
俺達はヒソヒソ声で話しながら、バレないよう慎重に桐乃の後を追った。
だが、桐乃は、家に帰る方向ではなく、市街地に向かっているようだ。
「お洒落に人一倍うるさいあいつが、制服姿のままデート――はありえねえよな?」
「そうですね……。ただ、考えたくはないですけど……、外でのデートではなく、もっと親密な、いわゆる“家ナカデート”であればその限りではありませんね――」
あやせは電柱の陰に身を隠し、半身になってターゲットを監視するというベタなスタイルでそう言うと、その眼光に一層の鋭さを増していた。
「つまりまだ何も安心できない状況だということです。お兄さん、追いますよっ!」
「お、おう」
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:42:05.63 ID:oWNgStb30
しばらくすると、桐乃はケーキショップへと入っていった。
どうやらイートインではなく、予約していたケーキを受け取りに来たようだ。
「お兄さん……あのケーキは……ご家庭用ですか?」
「いや、今日はうちの両親居ないし……、それに家族で食べるにはずいぶん小さいケーキだったぞ」
「ということは誰かと……」
あやせは、どうしよう……というような表情で俺を見つめている。
一瞬、俺と二人で食べるケーキかな……とも思ったけど、その可能性はすぐに打ち消した。うちの兄妹関係でまずそれはあり得ないしな。
しかし、あいつがイブに何らかの予定を入れていた可能性はぐっと高まった。
「あっ、お兄さん、桐乃が移動するようです」
俺達はまた物陰に身を隠しながら、ケーキショップから出てきた桐乃を追跡し始めた。
249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:33:58.20 ID:oWNgStb30
次に桐乃は、洒落たブランド雑貨のショップへと入っていった。
すかさず俺達も店の中が覗ける位置へと移動し、店内を監視する。
「ブランド雑貨――プレゼントの定番でもありますよね……」
「そ、そうなのか?俺にはよく分からないが……」
「あっ!お兄さん、見てください! 桐乃がシャンパングラスを2つ手に取ってます――あっ、キャンドルも!」
「こ、これは……きっと自分用じゃないよな……」
「そんな……そんな……ぐすっ」
あやせはちょっと涙声になっている。
あいつ……本当に誰かとイブを過ごすつもりなのか……?
桐乃のやつが誰とイブを過ごそうが、俺に関係ねえ話だってことは分かっている。分かっているが――正直俺は面白くなかった。
俺はともかく、親友のあやせにも内緒でコソコソやってやがるのがあいつらしくねえし、そこが気に食わないんだ。
250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:36:50.24 ID:oWNgStb30
「桐乃――、これから彼氏の家にでも行くんでしょうかね……」
「…………かも、な」
俺達は相変わらず桐乃の尾行――もとい追跡を続けていた。
すっかり不機嫌になっていた俺は、もうこんなこと終えて、さっさと家に帰りたい気分だったが、あやせを放って置くわけにもいかない。
まだイブを過ごす相手がどんなヤツかは分からないが、少なくともあやせとっては、この時点ですでに『桐乃には、自分より優先してイブを過ごしたい誰かが居た』となってるわけで、すっかり落ち込んでしまっているようだ。
「チッ、桐乃のやつめ――どこへ向かってんだよ――」
桐乃を追って歩き続ける俺達。
しかし――、あれ?この道は……
辿り着いた先は、――――高坂家だった。
252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:39:37.12 ID:oWNgStb30
「あれ、帰ってきちまったぞ?」
「……お兄さん、念のため確認しますが――」
ふと気がつくと、あやせからまた例の黒いオーラが噴出している!
「まさか、ご両親の居ない機会を狙って、兄妹2人で仲良くイブを過ごすなんてイベントじゃないですよね……? 今までわたしをからかってたんじゃないですよね……?」
「し、知らないっ!俺は何も聞いていない!」
とは言ったものの――、もしかして桐乃のやつ、まさか本当に俺とのイブのために?
いや、やっぱりあり得ないだろ。俺と桐乃がケーキを挟んで二人っきりのメリークリスマス……オエッ、想像したら居た堪れない気持ちになってしまった。
「ここまで来たからには、わたしには事の結末を見届ける権利があります」
「は、はいっ」
「お兄さん、とりあえず帰宅してみてください。――わたしはここで待ってますから、何か動きがあれば、すぐ携帯に報告をください」
ひいっ!
こいつ、目がマジだ……。
253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:47:26.34 ID:oWNgStb30
俺は背後にあやせの視線を感じながら家へと入っていった。
「た、ただいまぁ~」
シーン――
いまこの家には桐乃がいるわけだが、返事は特になかった。まぁ普段から挨拶なんて交わしてねえけどさ。
俺はいつものようにリビング奥のキッチンでジュースを飲むと、二階の自室へと向かった。
すると、階段を上がったところで、自分の部屋のドアを半分だけ開けてそこから顔だけ出してる桐乃に遭遇。
「あれ?……あんた、帰ってきたんだ? 今日は用事があったんじゃなかったの?」
「あ、ああ、ちょっと都合があってな」
「ふーん……、てっきり地味子のところにでも行くのかと思ってたケド」
あれ……、この反応だと、やっぱり俺とイブを、という感じじゃねーよな……?
255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:52:48.48 ID:oWNgStb30
「ま、いいケド。今日はお父さん達いないから、晩ごはんは適当に食べろってさ」
「ああ、そうだったな。お前はどうすんだ?」
そう言うと、桐乃はなぜか言いよどみ、頬を染めて視線をそらした。
「あ、あたしはあたしで勝手にやるから……それから、あんた、今日はもうあたしに構わないでよねっ!」
そういうと、バンッと部屋のドアを閉めた。
なんだよあの態度は……
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:57:37.00 ID:oWNgStb30
とりあえず俺は外で待ってるあやせにメールをしてみた。
《桐乃が俺と一緒にイブを云々というのはなさそうだ。あいつは部屋に閉じこもってる》
そうメールを送った後、俺はふと考えてみた。
待てよ? ということはあのケーキやシャンパングラスは一体……?
それらのブツがいま桐乃の部屋に存在していることは間違いないが……あいつ、これから外出する感じでもなかったし……
その思案に結論が出るよりも先に、俺の携帯がメール着信を告げた。あやせからの返信だ。
《もしかして、いま、桐乃の部屋に誰かいるってことはありませんか?》
え!?
その発想はなかったぞ!
んー、でも桐乃が一人で家に帰ったのをこの眼で見ているしなぁ……と思ったところで、俺はハッと気づいた。
そういえば桐乃が実際に家の中に入るところは見てなかったぞ? あの時は玄関が見えない位置から離れて監視していたから……
もし玄関の前で誰かと待ち合わせて、そのまま自室に招いていたとしたら……
そう思った俺は、思わず壁に耳を近づけていた。
すると、小声ではあったが――かすかに誰かの話し声が聞こえてきた――
「マジかよ……」
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 05:05:48.87 ID:oWNgStb30
《桐乃の部屋に誰かがいるかもしれない。話し声が聞こえる。》
あやせにそうメールすると、間髪入れず返信メールが届いた。
《わたしもお兄さんの部屋に入れてください!桐乃には気づかれないように!》
こ、こいつ……わざわざ聞き耳立てに来る気かよ……
どんだけ必死なんだ……
俺は外で待機していたあやせを家に入れると、物音を立てないよう抜き足差し足で慎重に階段を昇り、俺の部屋に招き入れた。
あやせは部屋に入るなり、壁に寄せてる俺のベッドに上に座り、壁に耳をくっつけて桐乃の部屋の様子を窺っている。
男の部屋のベッドに上がるなんて、もっと躊躇してみせてもいいものだが……今のあやせにはそんな余裕もないのだろう。
そして俺もそれに倣って壁に耳をつけてみる。
すると――
断片的ではあったが、隣の部屋の会話が聞こえてきた――
『……ずっと……一緒だよ……』
『……のこと……愛してる』
『二人に……乾杯……』チーン
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 05:16:57.30 ID:oWNgStb30
それから先のことは―――思い出すのも忌々しい事件だった。
隣の部屋から聞こえる桐乃達(?)のラブラブトークを聞いてしまったあやせはパニック状態に。
俺の部屋のドアをバンッと蹴飛ばして開けると、そのまま物凄い勢いで飛び出し、桐乃の部屋のドアノブをガチャガチャと回す。
だが、桐乃の部屋は鍵が掛かっていて開かない。
「桐乃っ!いま誰と居るの!!?桐乃!開けて!いますぐにここを開けて!開けて!開けて!開けて!開けてえええ!」
ひいいいいいいい!あやせが狂った!!
右手でドアノブをガチャガチャと回し続けながら、左手でドアをドンドンと激しく叩きつけるあやせ。
「えっ……!? そ、その声はあやせ!? どうして!?」
「いいから開けて!桐乃、あたしたち友達だよね! お願いだから今すぐに開けて!!!」ガチャガチャ
……情けないことに俺は、あやせの凶行を目の当たりにし、腰を抜かして動けなくなっていた。
「あ、あやせ、 ちょ…ちょっと待って……!」
「駄目!待てない!お願い桐乃!今すぐ開けて!!そこに誰が居るの!? 開けて!!開けて!!開けてってばー!!」
ガチャガチャガチャ!………カチャ!
一層激しくドアノブを回したあやせの思いが通じたのか、それとももともと鍵のかかりが甘かったのか、ここで不幸にも、桐乃の意思とは関係なくドアは開いてしまった。
260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 05:28:27.80 ID:oWNgStb30
そこで見た光景は―――
桐乃のPCのモニタには『ラブタッチ』のヒロインの一人、藤崎あやかちゃんの姿が映し出されており、
モニタの前にはクリスマスケーキと1組のシャンパン。
そして薄暗い室内を照らすロマンチックなキャンドルが煌々と輝いていた。
そう、『ラブタッチ』ってのは疑似恋愛体験が売りの、あのソフトのこと。
画面の中の“彼女”に対してささやきかけることで、いろんな反応を示してくれるという、ある意味二次と三次の垣根を越えた、ヲタにとっては夢の恋愛ゲームだ。
「あ、あわわ…… ど、どうして、、あやせ……」
クリスマスの三角帽子をかぶった桐乃は、突然の事態に激しく動揺しているようで言葉が出てこない。
そして、そんな桐乃以上に激しく動揺していたのがあやせだった。
「え…… 桐乃? 一体何を……え? ……だって……桐乃の部屋から会話が……」
まったく事態が飲み込めないあやせ。
そしてこの微妙な空気に更に追い討ちをかけるように、パソコンからはあやかちゃんの声が――
「クリスマス、一緒にすごしてくれて、あやか……嬉しい。大好きだよっ」
へなへなとその場に座り込むあやせ。
――つまり桐乃の奴、二次元のヒロインとイブを過ごしていやっがったのか……我が妹ながらなんという……
263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 06:02:17.68 ID:oWNgStb30
「ごめんね、あやせ……。クリスマスイブ限定の隠しイベントがあって……それで……」
「ううん、わたしこそごめんね。桐乃を疑ったりして……」
涙ぐみ桐乃に抱きつくあやせを桐乃がなだめている。
まったく……人騒がせな奴らだ。
ただ……桐乃よ……、ゲームに隠しイベントがあるにせよ、ケーキやシャンパンまでは必要ないだろ……?
俺は、ついに桐乃の奴があっちの世界の住人になってしまったのでは、という疑念を晴らせずにいたが、この場の空気を読んでその点はつっこまないでおいた。
まぁ、あやせにしても、桐乃のことを本気で心配してくれての今回の行動だったわけだし、ちょっとアレな点を除けば、こんなに深く結ばれた親友関係って、そうそう築けるものじゃないよな。
そう思うと、俺には抱き合って仲直りをしている二人がとても眩しく見えたんだ。
ふと、つけっぱなしの桐乃のPCの方を見ると、そんな俺に画面の中のあやかちゃんがとびっきりの笑顔でこう言ってくれた――
「メリ~~~クリスマスっ!」
END
224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 02:53:01.35 ID:oWNgStb30
女子中学生にしてティーン誌のモデル、類まれなる美貌に加え、俺のスイートスポットを刺激する黒髪ロング清楚系
――それが妹の親友、新垣あやせだ。
そして俺はいま、あやせと二人でクリスマスイブの街に繰り出している。
どうだよ? これって誰もがうらやむ完璧なシチュエーションだと思うだろ?
でも……、残念だけど、これには事情があるのさ。
やんごとなき事情ってやつがな……
「お兄さん!なにしてるんですか! 早く行きますよ!」
おっと、置いてかれちまう! 待ってくれ!
227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 02:56:42.09 ID:oWNgStb30
遡ること数日前――
放課後、俺はあやせから、いつもの公園に呼び出しを受けていた。
あやせに呼び出される場合、桐乃に関する相談事か、もしくは俺に対する詰問の二択と決まっている。
「お兄さん、いまから話すことに心当たりがあるなら、素直に白状してくださいね」
そう言うと、あやせはキッと鋭い視線を向けてきた。
どうやら今回は詰問コースだったようだ……。
でも、こんな表情までも可愛いんだから、あやせたんってマジ天使以外の何物でもないよな。
輝くような笑顔もいいけど、この冷たい視線でもっと見つめられたい、なんて良からぬことを思ってしまう。
――と、そんな不埒な考えは俺の緩い表情から筒抜けだったようで、
「あの……、真面目に聞いてください……ね?」
おっと、あやせの瞳から光彩が消えている! こいつにはこれがあるから油断できないんだ。
「す、すまん!――で、一体なんの話だ?」
慌てて真面目な表情を作った俺は、あやせの話に耳を傾けた。
228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 02:59:32.78 ID:oWNgStb30
「もうすぐクリスマスですね」
「ああ、そういえばもうそんな時期だよな」
「わたし、今年も桐乃を、うちの事務所のクリスマスパーティに誘ったんです」
あやせの“今年も”という一言を聞いて、思わず俺は身震いした。
そういえば去年のクリスマス、桐乃は俺と渋谷巡りに行くために、あやせからのパーティの誘いを断ったのだった。
実際は、桐乃のケータイ小説の取材だったんだけど、あやせには兄妹でデートしてたと思われているので、もしかすると俺はいらぬ恨みを買ってしまってたのかもしれない……。
しかも、成り行きでラブホに入ったなんてことがバレてたら、間違いなく俺は殺されていただろう。
「でも……、桐乃、今年も用事があるから無理、って――」
「そ、そうなのか」
「桐乃がイブの日に仕事を入れてないことは判ってるんです。それなのに……それなのに……」
そう言うあやせは、泣き出しそうな表情になっていた。
そうだよな、一番の親友に二年続けてクリスマスパーティを断られたら悲しいよな。
「……そこでお兄さんに確認したいのですが」
さっきまで泣き顔だったあやせの表情は、かすかに怒気を含んだものに変化している。
なんだか俺が呼ばれた理由が分かってきたぞ……
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:06:27.55 ID:oWNgStb30
「もしや、今年のイブも、懲りもせず実妹とデートなさるおつもりではないでしょうね?
……わたし、以前に警告しましたよね? 桐乃に手を出したら――って。」
俺、スピリチュアルとか超常現象の類は一切信じない主義なんだけど、この時だけはハッキリ見えたね。
――あやせの背後にドス黒いオーラが!
「お兄さん――、どうか正直に答えてください」
「待て、ち、違――」
恐怖のあまり言葉が続かない! 俺は必死にかぶりを振って否定した。
怖ええ!やっぱコイツ怖ええよ!!
「お兄さんとのデートではない……と?」
じりっ、じりっ、と迫ってくるあやせに恐れ慄きながら、今度は必死に首を縦に振った。
すると、俺の懸命のアピールが通じたらしく、あやせの背後のオーラがフッと消えた。
そしてまた泣きそうな表情に戻っている。
「じゃあ……桐乃はどうして――」
233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:10:47.53 ID:oWNgStb30
「わたし、桐乃に避けられてるんでしょうか……」
可哀想に、あやせはすっかりしょげてしまっている。
「そんなこと、絶対ねえって」
「でも……でも……」
「たとえばさ、あいつが好きなオタ方面のイベントがあるとかさ。そういう理由も考えられるじゃないか」
以前、沙織から聞いたことがあるが、アニメの人気声優は、クリスマスイブにイベントを開催するのが一種のステータスなのだそうだ。
その手のイベントに参加したいがために、桐乃の奴があやせの誘いを断ってやがる可能性は十分ありえる。
「――いえ、それは考えにくいです」
あれ?即否定??
「そんなこともあろうかと、桐乃が好きな『星くずうぃっち☆メルル』とやらの声優達のスケジュールを徹底的に調べ上げましたが、イブにイベントを開催する声優はいませんでしたし、アニメ作品自体のイベントも予定されていませんでした」
「それに桐乃、『星くずうぃっち☆メルル』以外では、イベントに参加するほど入れ込んでいるものは無いようですし」
怖ええ!やっぱりあやせさん怖いよ!
オタ趣味に嫌悪感丸出しだったくせに、桐乃のためならそこまで調べちゃうんだ!?
234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:14:31.04 ID:oWNgStb30
「お兄さんとのデートでも、オタクの用事でもない、となると」
「わたし、この展開だけは考えたくなかったのですけど――」
あやせは胸の前で手をギュッと握り締め、ためらいながらも言葉を搾り出した。
「……も、もしかして……桐乃に、彼氏ができたんじゃないでしょうか――?」
そうだよな…… 普通そういう発想に辿り着くよな……。
実は俺も、さっきからずっとその可能性を考えていた。
あの桐乃にオトコが……? そりゃあアイツは容姿端麗で成績優秀、スポーツ万能。おまけに外では猫かぶってるから、さぞやモテるだろう。
でも、あいつの外っ面だけを見て言い寄ってくる男なんか、ろくなもんじゃないに決まっている。
それに全然そんな素振りは見せてなかったし、第一、イブに間に合わせるかのように彼氏を作るなんてあいつらしくねえっていうか――
……クソッ、なんで俺がイライラしてるんだ。
「可能性として……確かにそれは否定できないよな」
「お兄さんもそう思いますか……」
俺とあやせはしばし無言で目を合わせた後、ハァーっとため息をついた。
236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:18:00.33 ID:oWNgStb30
「よく分かりました。最初にお兄さんを疑ったことは謝ります」
「あ、あぁ、別にいいんだ。そんなこと……」
とりあえず俺への嫌疑は晴れ、あやせから向けられていた敵意は感じなくなった。
するとあやせは、ちょっと思案した後、俺に意外なことを言った――
「ところで、お兄さんは……イブの日に何かご予定はありますか?」
えっ?
あやせがイブの予定を、俺に……? 何この超展開?
あやせは少し頬を染めて、上目遣いに俺を見つめている。かすかに瞳を潤ませているような……
ヤバ、こんな表情されたら――俺の心臓はバクバクと高鳴り続けていた。
「もしよかったら―― その日はわたしに付き合ってもらえませんか」
238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:21:35.43 ID:oWNgStb30
そしてクリスマスイブ当日――
俺は学校を終えると猛ダッシュで家に帰り、大急ぎで着替えを済ませると、あやせとの待ち合わせ場所であるいつもの公園へと向かった。
雑誌で調べたオススメデートプランは完璧に頭に入れてるし、軍資金もいつもより多めに用意した。しかも今日はうちの両親は出掛けてるので、帰りが少々遅くなっても大丈夫。
ふっふっふ、今日の俺に死角は無いぜ。
公園に着くと、あやせはすでにそこに居た。
お、早いな……と思ったが、それもそのはず、あやせは制服姿。どうやら学校から直接来たらしい。
「よ、よう――早いじゃないか」
「あ!お兄さん。来てくれてありがとうございます」
ぺこっとお辞儀をして眩しい笑顔を向けるあやせ。やっぱりお前は天使だぜ。
「そりゃあ、クリスマスイブにお前からデートの誘いがあれば、俺は万難を排して駆けつけるさ」
俺は精一杯のキメ顔を作ってあやせに応えた―――が、、おや?あやせの反応が鈍いぞ。
「――え、デートの誘い?一体なんの話ですか?」
「え、だって、イブのデートに付き合ってほしいって……お前が言ったじゃないか……?」
「な、、、何を都合よく事実を捻じ曲げてるんですかっ!! 私はただイブの日に付き合ってもらいたいことがあってお願いしただけです!」
「だからそれってデートのことじゃ……」
「絶対違います!ありえません!!」
えええええええぇぇぇ――!?
そんなバカな……そうだったっけ? そう言われればそんな気もしてきた…… ハァ
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:28:12.70 ID:oWNgStb30
「でも、あの話の流れで、お前のあの態度で『イブに付き合ってほしい』なんて言われたら誰だって勘違いするだろ……」
「しませんっ! お兄さんは勝手な解釈が激しすぎなんです!」
「……それでお前は制服のままだったのか……もう俺のクリスマスは今この瞬間に終わったよ……」
「そ、そんな大袈裟にヘコまないでくださいよ……」
あやせも、俺にぬか喜びさせたことを申し訳なく感じ始めたのか、ちょっと困惑した表情を浮かべた。
まぁな、確かにそんな美味い話があるわけなかったよな。
俺、普段は割と慎重に行動する男なんだけど、あやせ絡みになるとどうしても判断力が落ちてしまうようだ。
「じゃあ、付き合ってほしいことって何なんだ?」
「よくぞ聞いてくれました。 先日お話した桐乃の件について、わたし、事実をハッキリさせたいなと思って
――今日、これから桐乃のイブの行動を“追跡して見守る”ことにしたんです」
……オイ、、言い方をマイルドにしてるけど、それってつまり尾行じゃねーのか?
「いくら親友でも……プライバシー的にそれはマズくね……?」
「バレないように追跡するから大丈夫です」
しれっと言いやがって……やはりこの女、おっかねえ……
「桐乃は今日、掃除当番だからまだ校内に残ってるんです。 さぁ、お兄さん、学校に移動して、張り込みを開始しましょう」
そう言って小走りで駆け始めたあやせと、それを追う俺。
そりゃあ俺だって、桐乃に彼氏ができたのかどうか、そうだとしたら一体どんな奴なのか、興味がないといえば嘘になるけどさぁ。
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:32:21.98 ID:oWNgStb30
そんなわけで、俺達は桐乃の学校へと向かい、校門の出入りを監視できる物陰に潜んで張り込みを開始した。
「そういえば、お前、今日は事務所のパーティだとか言ってなかったっけ?」
「当然断りました。パーティなんかよりも桐乃のことの方が大事ですから」
そう言うあやせの瞳はメラメラと燃えていた。
桐乃よ――、これでもしお前に彼氏発覚なんて事になったら、俺はこの女の行動を止める自信がないぞ……
「そもそも……この監視に何で俺が必要なんだ?」
「むっ、もう面倒くさくなったのですか?」
「いやいや、素朴な疑問として、な……」
「それはですね、大抵の場所はわたし一人でも尾こ…いえ、見守れるのですけど――」
……コイツ、いま明らかに尾行って言いかけたな。
「もし桐乃が誰かとの……デート……だった場合、わたし一人じゃ入りにくい場所に行くかもしれないじゃないですか? そういうところにご一緒してもらうためですよ」
「……女一人では入りにくい場所?――そ、それはもしやデートコースの終着地点のことか!?そういう場所に俺と入るのか!?」
「死ねええええええええええ変態野郎おおおおおおお!!!」
あやせの渾身の上段回し蹴りが、俺の顔面にクリーンヒット!
「そうじゃなく!普通にレストランとかでも、一人じゃ入りにくいじゃないですか!?なななな何を考えてるんですかっ!」
「そ、そうだよな、すまん!悪かった! とりあえず落ち着いてくれ! ……お、おい、桐乃が出てきた! 騒ぐとバレちまうぞ!」
あやせはハッと口元を押さえて、俺の視線の先をたどるように校門へと視線を送った。
そこにはカバンを肩にかけ、携帯をいじりながら下校する桐乃の姿があった。
242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:38:59.50 ID:oWNgStb30
「もし桐乃が彼氏とデートなのだとしたら、いったん帰宅して、着替えてから待ち合わせに向かうはずですよね」
「うむ、そうだな」
俺達はヒソヒソ声で話しながら、バレないよう慎重に桐乃の後を追った。
だが、桐乃は、家に帰る方向ではなく、市街地に向かっているようだ。
「お洒落に人一倍うるさいあいつが、制服姿のままデート――はありえねえよな?」
「そうですね……。ただ、考えたくはないですけど……、外でのデートではなく、もっと親密な、いわゆる“家ナカデート”であればその限りではありませんね――」
あやせは電柱の陰に身を隠し、半身になってターゲットを監視するというベタなスタイルでそう言うと、その眼光に一層の鋭さを増していた。
「つまりまだ何も安心できない状況だということです。お兄さん、追いますよっ!」
「お、おう」
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 03:42:05.63 ID:oWNgStb30
しばらくすると、桐乃はケーキショップへと入っていった。
どうやらイートインではなく、予約していたケーキを受け取りに来たようだ。
「お兄さん……あのケーキは……ご家庭用ですか?」
「いや、今日はうちの両親居ないし……、それに家族で食べるにはずいぶん小さいケーキだったぞ」
「ということは誰かと……」
あやせは、どうしよう……というような表情で俺を見つめている。
一瞬、俺と二人で食べるケーキかな……とも思ったけど、その可能性はすぐに打ち消した。うちの兄妹関係でまずそれはあり得ないしな。
しかし、あいつがイブに何らかの予定を入れていた可能性はぐっと高まった。
「あっ、お兄さん、桐乃が移動するようです」
俺達はまた物陰に身を隠しながら、ケーキショップから出てきた桐乃を追跡し始めた。
249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:33:58.20 ID:oWNgStb30
次に桐乃は、洒落たブランド雑貨のショップへと入っていった。
すかさず俺達も店の中が覗ける位置へと移動し、店内を監視する。
「ブランド雑貨――プレゼントの定番でもありますよね……」
「そ、そうなのか?俺にはよく分からないが……」
「あっ!お兄さん、見てください! 桐乃がシャンパングラスを2つ手に取ってます――あっ、キャンドルも!」
「こ、これは……きっと自分用じゃないよな……」
「そんな……そんな……ぐすっ」
あやせはちょっと涙声になっている。
あいつ……本当に誰かとイブを過ごすつもりなのか……?
桐乃のやつが誰とイブを過ごそうが、俺に関係ねえ話だってことは分かっている。分かっているが――正直俺は面白くなかった。
俺はともかく、親友のあやせにも内緒でコソコソやってやがるのがあいつらしくねえし、そこが気に食わないんだ。
250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:36:50.24 ID:oWNgStb30
「桐乃――、これから彼氏の家にでも行くんでしょうかね……」
「…………かも、な」
俺達は相変わらず桐乃の尾行――もとい追跡を続けていた。
すっかり不機嫌になっていた俺は、もうこんなこと終えて、さっさと家に帰りたい気分だったが、あやせを放って置くわけにもいかない。
まだイブを過ごす相手がどんなヤツかは分からないが、少なくともあやせとっては、この時点ですでに『桐乃には、自分より優先してイブを過ごしたい誰かが居た』となってるわけで、すっかり落ち込んでしまっているようだ。
「チッ、桐乃のやつめ――どこへ向かってんだよ――」
桐乃を追って歩き続ける俺達。
しかし――、あれ?この道は……
辿り着いた先は、――――高坂家だった。
252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:39:37.12 ID:oWNgStb30
「あれ、帰ってきちまったぞ?」
「……お兄さん、念のため確認しますが――」
ふと気がつくと、あやせからまた例の黒いオーラが噴出している!
「まさか、ご両親の居ない機会を狙って、兄妹2人で仲良くイブを過ごすなんてイベントじゃないですよね……? 今までわたしをからかってたんじゃないですよね……?」
「し、知らないっ!俺は何も聞いていない!」
とは言ったものの――、もしかして桐乃のやつ、まさか本当に俺とのイブのために?
いや、やっぱりあり得ないだろ。俺と桐乃がケーキを挟んで二人っきりのメリークリスマス……オエッ、想像したら居た堪れない気持ちになってしまった。
「ここまで来たからには、わたしには事の結末を見届ける権利があります」
「は、はいっ」
「お兄さん、とりあえず帰宅してみてください。――わたしはここで待ってますから、何か動きがあれば、すぐ携帯に報告をください」
ひいっ!
こいつ、目がマジだ……。
253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:47:26.34 ID:oWNgStb30
俺は背後にあやせの視線を感じながら家へと入っていった。
「た、ただいまぁ~」
シーン――
いまこの家には桐乃がいるわけだが、返事は特になかった。まぁ普段から挨拶なんて交わしてねえけどさ。
俺はいつものようにリビング奥のキッチンでジュースを飲むと、二階の自室へと向かう。
すると、階段を上がったところで、自分の部屋のドアを半分だけ開けてそこから顔だけ出してる桐乃に遭遇した。
「あれ?……あんた、帰ってきたんだ? 今日は用事があったんじゃなかったの?」
「あ、ああ、ちょっと都合があってな」
「ふーん……、てっきり地味子のところにでも行くのかと思ってたケド」
あれ……、この反応だと、やっぱり俺とイブを、という感じじゃねーよな……?
255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:52:48.48 ID:oWNgStb30
「ま、いいケド。今日はお父さん達いないから、晩ごはんは適当に食べろってさ」
「ああ、そうだったな。お前はどうすんだ?」
そう言うと、桐乃はなぜか言いよどみ、頬を染めて視線をそらした。
「あ、あたしはあたしで勝手にやるから……それから、あんた、今日はもうあたしに構わないでよねっ!」
そういうと、バンッと部屋のドアを閉めた。
なんだよあの態度は……
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 04:57:37.00 ID:oWNgStb30
とりあえず俺は外で待ってるあやせにメールをしてみた。
《桐乃が俺と一緒にイブを云々というのはなさそうだ。あいつは部屋に閉じこもってる》
そうメールを送った後、俺はふと考えてみた。
待てよ? ということはあのケーキやシャンパングラスは一体……?
それらのブツがいま桐乃の部屋に存在していることは間違いないが……あいつ、これから外出する感じでもなかったし……
その思案に結論が出るよりも先に、俺の携帯がメール着信を告げた。あやせからの返信だ。
《もしかして、いま、桐乃の部屋に誰かいるってことはありませんか?》
え!?
その発想はなかったぞ!
んー、でも桐乃が一人で家に帰ったのをこの眼で見ているしなぁ……と思ったところで、俺はハッと気づいた。
そういえば桐乃が実際に家の中に入るところは見てなかったぞ? あの時は玄関が見えない位置から離れて監視していたから……
もし玄関の前で誰かと待ち合わせて、そのまま自室に招いていたとしたら……
そう思った俺は、思わず壁に耳を近づけていた。
すると、小声ではあったが――かすかに誰かの話し声が聞こえてきた――
「マジかよ……」
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 05:05:48.87 ID:oWNgStb30
《桐乃の部屋に誰かがいるかもしれない。話し声が聞こえる。》
あやせにそうメールすると、間髪入れず返信メールが届いた。
《わたしもお兄さんの部屋に入れてください!桐乃には気づかれないように!》
こ、こいつ……わざわざ聞き耳立てに来る気かよ……
どんだけ必死なんだ……
俺は外で待機していたあやせを家に入れると、物音を立てないよう抜き足差し足で慎重に階段を昇り、俺の部屋に招き入れた。
あやせは部屋に入るなり、壁に寄せてる俺のベッドに上に座り、壁に耳をくっつけて桐乃の部屋の様子を窺っている。
男の部屋のベッドに上がるなんて、もっと躊躇してみせてもいいものだが……今のあやせにはそんな余裕もないのだろう。
そして俺もそれに倣って壁に耳をつけてみる。
すると――
断片的ではあったが、隣の部屋の会話が聞こえてきた――
『……ずっと……一緒だよ……』
『……のこと……愛してる』
『二人に……乾杯……』チーン
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 05:16:57.30 ID:oWNgStb30
それから先のことは―――思い出すのも忌々しい事件だった。
隣の部屋から聞こえる桐乃達(?)のラブラブトークを聞いてしまったあやせはパニック状態に。
俺の部屋のドアをバンッと蹴飛ばして開けると、そのまま物凄い勢いで飛び出し、桐乃の部屋のドアノブをガチャガチャと回す。
だが、桐乃の部屋は鍵が掛かっていて開かない。
「桐乃っ!いま誰と居るの!!?桐乃!開けて!いますぐにここを開けて!開けて!開けて!開けて!開けてえええ!」
ひいいいいいいい!あやせが狂った!!
右手でドアノブをガチャガチャと回し続けながら、左手でドアをドンドンと激しく叩きつけるあやせ。
「えっ……!? そ、その声はあやせ!? どうして!?」
「いいから開けて!桐乃、あたしたち友達だよね! お願いだから今すぐに開けて!!!」ガチャガチャ
……情けないことに俺は、あやせの凶行を目の当たりにし、腰を抜かして動けなくなっていた。
「あ、あやせ、 ちょ…ちょっと待って……!」
「駄目!待てない!お願い桐乃!今すぐ開けて!!そこに誰が居るの!? 開けて!!開けて!!開けてってばー!!」
ガチャガチャガチャ!………カチャ!
一層激しくドアノブを回したあやせの思いが通じたのか、それとももともと鍵のかかりが甘かったのか、ここで不幸にも、桐乃の意思とは関係なくドアは開いてしまった。
260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 05:28:27.80 ID:oWNgStb30
そこで見た光景は―――
桐乃のPCのモニタには『ラブタッチ』のヒロインの一人、藤崎あやかちゃんの姿が映し出されており、
モニタの前にはクリスマスケーキと1組のシャンパン。
そして薄暗い室内を照らすロマンチックなキャンドルが煌々と輝いていた。
そう、『ラブタッチ』ってのは疑似恋愛体験が売りの、あのソフトのこと。
画面の中の“彼女”に対してささやきかけることで、いろんな反応を示してくれるという、ある意味二次と三次の垣根を越えた、ヲタにとっては夢の恋愛ゲームだ。
「あ、あわわ…… ど、どうして、、あやせ……」
クリスマスの三角帽子をかぶった桐乃は、突然の事態に激しく動揺しているようで言葉が出てこない。
そして、そんな桐乃以上に激しく動揺していたのがあやせだった。
「え…… 桐乃? 一体何を……え? ……だって……桐乃の部屋から会話が……」
まったく事態が飲み込めないあやせ。
そしてこの微妙な空気に更に追い討ちをかけるように、パソコンからはあやかちゃんの声が――
「クリスマス、一緒にすごしてくれて、あやか……嬉しい。大好きだよっ」
へなへなとその場に座り込むあやせ。
――つまり桐乃の奴、二次元のヒロインとイブを過ごしていやがったのか……我が妹ながらなんという……
263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/28(日) 06:02:17.68 ID:oWNgStb30
「ごめんね、あやせ……。クリスマスイブ限定の隠しイベントがあって……それで……」
「ううん、わたしこそごめんね。桐乃を疑ったりして……」
涙ぐみ桐乃に抱きつくあやせを桐乃がなだめている。
まったく……人騒がせな奴らだ。
ただ……桐乃よ……、ゲームに隠しイベントがあるにせよ、ケーキやシャンパンまでは必要ないだろ……?
俺は、ついに桐乃の奴があっちの世界の住人になってしまったのでは、という疑念を晴らせずにいたが、この場の空気を読んでその点はつっこまないでおいた。
まぁ、あやせにしても、桐乃のことを本気で心配してくれての今回の行動だったわけだし、ちょっとアレな点を除けば、こんなに深く結ばれた親友関係って、そうそう築けるものじゃないよな。
そう思うと、俺には抱き合って仲直りをしている二人がとても眩しく見えたんだ。
ふと、つけっぱなしの桐乃のPCの方を見ると、そんな俺に画面の中のあやかちゃんがとびっきりの笑顔でこう言ってくれた――
「メリ~~~クリスマスっ!」
END