無題:9スレ目944

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944 : ◆NAZC84MvIo [sage saga]:2011/05/04(水) 00:03:29.97 ID:iWfXVOwW0 「ふ~ん・・・それで最近あたしを避けてたんだ」 「当たり前だ!これ以上あやせたんに嫌われてたまるかっ!!」 「もうこれ以上嫌われるなんてありえないくらい、嫌われてると思うけどね」 「もうやめて!!俺のライフは0よっ!!」 先日の約束を破ったらどうなるかなんて想像したくない。なのに桐乃はお構いなしに俺にちょっかい出してくる。 まあ、俺としてもあやせの話を聞けるのは大歓迎なのだが、こうやって会ってることがバレたらと思うと頭が痛い。 「でも失敗だったな~。あやせがメルルもダメだなんて言うとは思ってなかった」 「テメーみたいなオタクの感覚をあやせたんに押し付けるのが間違ってるんだよ・・・」 「ん~~、でもさぁ、親友そっくりのキャラが出てたら見せたくなるでしょ?」 「え?何のことだよ?」 「はぁ?あんた目腐ってるんじゃないの?タナトス・エロス!あやせにそっくりだったでしょ?  ま、まさかあんた、あれだけ言ったのに見てなかったって言うのっ!?」 『ご褒美に貸してあげる』――あの言葉に偽りはなかった。つまりはそう言うことだったのだ。 桐乃に見せられたファンブックには、あやせそっくりのキャラクターが描かれていた―― 「こ、こっ、こっ!このキャラが動き回って活躍する話があったというのか!?」 「敵役だけどね。ちなみに声も結構あやせに似てるんだよ」 「ぬぁんっっってこったぁぁ~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!」 アニメを見なかったことをこんなに後悔する日がこようとは思ってもいなかった! 「また貸してあげたいけど、あたしもあやせには嫌われたくないからゴメンネ?」 「くっ!くぅっ・・・!悔しいがしかたない!チャンスを逃した俺が悪かったんだからな・・・」 知っていたなら間違いなく見てたとも!!しかし手遅れだ。あやせはあのアニメを見ることも許してくれない・・・ ・・・まてよ?そういえばあの時あやせは何て言ったっけ?『純粋に楽しんでるだけならまだ許せました』だったよな? 「・・・・・あのさ、お前あやせになんて言って説明してたの?」 「あやせの兄貴はあやせにそっくりなキャラが出てたからこのアニメにハマったって言っただけだけど?」 「やっぱり俺がこんな目にあってるのはお前のせいじゃねーかよっ!!!」 そんな理由で自分の兄貴がこんなアニメを見てると思ってたら、そりゃ禁止したくもなるわ!! 「なによ~、あんたがメルルにハマる理由なんてそれ以外ありえないみたいだし、間違ってないでしょ?」 「な、なんだよそれ」 「べっつに~?どうせ皆にはつまんない子供向けアニメにしか見えないんだって、よーっくわかっただけ」 ・・・そうか、こいつは純粋にメルルが好きなんだよな。 そりゃあやせにそっくりなキャラがいたことも、あのアニメを楽しめた理由の一つだろうが、 それだけが理由なら全話通して見る必要もないし、あんなに熱く語れるはずもないよな・・・ 「いや、その・・・すまん」 面白くなかった。いや、俺には面白いと思えなかった。これは事実だからしかたない。 だがそれでも俺があのアニメを見るならば、『それ』が理由であると説明するのが一番無理がない。 桐乃は桐乃なりに俺のことを考えていてくれたのか・・・? 「もういいって、そのかわり今日はたっぷり付き合ってもらうから」 「ケータイ小説の為の取材だっけ?」 「そ、今日のことはあやせにも話は通してあるから安心していいからさ」 「ヘイヘイ、それじゃ行きますか」 冬も近い寒空の下、何の因果か俺は桐乃と渋谷の街を見てまわったのだった―― そんなこんなで桐乃や黒猫たちに振り回されている日々を送っていたところ、 ある日あやせからとんでもない頼み事をされたのだった―― 「お兄さん、ご相談があります」 「はい!なんなりと!」 「も、もう何のマネですかっ!?」 「ふっ・・・忘れたのか?俺はあやせの頼みなら何でもきいてしまう男なんだぜ?」 「ふ、ふざけるのはやめて真面目に聞いてください!」 「わかったよ、どうしたんだ?」 桐乃との無許可接触禁止令を出してから、あやせは俺を無視することがなくなった。 理由は桐乃を俺から守る為らしい。 もともと俺が桐乃と話をするのはあやせのことを知る為であって、 あやせ本人と話が出来るなら桐乃と仲良くする必要なんてない。 ならばあやせが俺の相手さえしてれば桐乃と俺との接点なんて必要ないのだ。 流石に露骨にそんなことは言えなかったらしいが、桐乃があやせにそういうニュアンスを伝えたところ、 俺があやせに無視されるということはなくなったのだ。 なんにせよラブリーマイエンジェルとまた顔を見て話が出来るようになったことは凄く嬉しいので、 細かい事情なんてどうでも良いってのが本音だけどね。 「その前に一つ聞きたいんですけど、この前の桐乃の取材ってなんだったんですか?」 「あ?ああ、なんかケータイ小説書く為に色々見てまわりたかったんだと。  女の子一人じゃ物騒だってことで付き添いを頼まれたんだよ」 「それはわたしも桐乃から聞いてます!具体的にどこに行って何をしたか聞いてるんです!」 「どこで何をって・・・渋谷ぶらついて店見てまわって買い物したくらいだぞ?」 「本当にそれだけですか?」 「ああ、あやせに誓ってやましいことなど一つもない!」 「もう!なんでわたしに誓うんですか!?」 「俺の天使だからな。それより頼みって何なんだ?」 照れたようにほほを少し赤らめながら口を~←こんな風に結んで俺を睨むあやせたん(←カワイイ) お前のためならどんなことでもやっちゃうよ?さあなんでも頼んでみなさい! 「遠慮しないでいいって!俺はあやせを悲しませるようなことだけは絶対にしない。  いつだろうと、どこだろうと、どんな時だろうとあやせの味方だぞ」 「・・・・・ウソツキ」ポソッ 「ん?何か言ったか?」 「・・・何でもありません」 「そうか?言いにくいなら紙に書いて渡してくれてもいいぞ」 「そしたらその紙をどうするつもりですか?」 「ラミネート加工して大切に保管するに決まってるだろ」 「バカじゃないですか!?」 「ハハハ、まあいいから言ってくれよ。俺はあやせの頼みを聞くことが生き甲斐なんだから!」 冗談で雰囲気をほぐしながら(いや本当は全部本気だけどね?)もう一度たずねる。 あやせは優しい子だから頼み事するのにも躊躇しちゃうんだよな。 「じつは、その・・・すごく言い辛いんですけど・・・」 「うん」 「お兄さん・・・わたしの彼氏になって下さい・・・」 真新しい衣服を身に纏い、俺は空を仰ぎ見る。澄み切った快晴からは暖かい日差しが降り注ぎ、冬の寒さをやわらげる。 クリスマスのイルミネーションに彩られた街並みを、おしゃれな格好をした若者達が歩いていた。 「お、お待たせしましたっ」 顔を上げると照れくさそうな微笑を浮かべた俺の彼女がそこにいた。 この愛しの彼女の名は高坂あやせ。長い黒髪としなやかな脚、すらりと均整のとれた身体。 幼さを残した顔にはしかし、肉親さえ魅了してしまうほどの色気があった。 あやせが現れたとたん周囲がざわめく。俺みたいな奴と待ち合わせしてたのがこんな美少女とは思わなかっただろう。 どうだすげえだろ、という優越感とともにあやせに手を伸ばし声をかける―― 「あやせの為なら何時間だろうと待てるぜ。――行くか」 「はい」 嬉しそうに頷いて自然に腕を絡めてくる。肘に当たる柔らかな感触にドキリとしながら繁華街の方へ向かう。 「あ、あのう」 「な、なんだ」 「今日は“京介さん”って呼んでいいですか?」 「突然どうした?」 「だって・・・その方が恋人らしいじゃないですか・・・」 よほど恥ずかしかったのかあやせは真っ赤になってしまった。かくいう俺も負けないくらい真っ赤だったけどな。 どこから見ても初々しい恋人同士だ――さて、どうして俺がこんなうらやましい状態になったか順に説明しよう。 「お兄さん・・・わたしの彼氏になって下さい・・・」 「よしわかった結婚しよう!必ず幸せにするぞ!」 まさかあやせから愛の告白をされる日が来るなんて思ってもいなかった! 1秒と待たず快諾し、早速式場の予約をしようと動き出すと思いっきりひっぱたかれた―― 「は、話は最後まで聞いてくださいっ!!」 「な、なんだよ?俺は相手があやせなら何の不満もないぞ?」 「違います!さっきのは続きがあるんです!お兄さんに彼氏のフリをしてもらいたいんです!」 ――回想はさらに続く―― 「どうも、赤城京介です」 偽名を名乗りながら目の前の女性に挨拶をする。 「はじめまして、藤真美咲です」 そういって差し出された名刺には株式会社エターナルブルー代表取締役 藤真美咲とある。 この藤真社長(美咲さんと呼ぼうか)はあやせの所属しているモデル事務所の親会社の社長で、 今回あやせを専属のモデルとしてスカウトしたいと言って来たのだ。 これはとても光栄なことなのだが、それを受けるとは日本から離れることを意味するらしく、 なるべく穏便に断りたいあやせは『彼氏がいて、その人と一緒に居たいので無理だ』と伝えたらしい。 そしてこの日は二人で美咲さんを説得する為の面談をすることになったのだ―― 「話はあやせちゃんから聞いてるのよね?」 「ええ、大体は」 「だからね、京介君。あやせちゃんと別れて頂戴。お金なら言い値で払うわよ?」 「フッ、お断りします。お金の問題じゃないでしょう?なぜならっ!俺はあやせを愛しているからっ!!!」 バチンッ――いきなり隣からビンタされた。 「こ、公衆の面前で何を叫んでるんですかっ!!」 「俺はいつだろうとどこでだろうと言えるぞ!なんら恥じることはない!」 「わ、わたしのことが好きならわたしのことも考えてくださいっ!わたしが恥ずかしいじゃないですか!」 真っ赤になって目を潤ませながら恥らうあやせ――そんな俺たちのやりとりを見て美咲さんが一言。 「ふぅん・・・ラブラブってわけね」 「当然です!!」 あやせの肩を抱き寄せながら胸を張る――またビンタが飛んできた。 「セ、セクハラはほどほどにして下さいっ!!」 「・・・もういいわ、とりあえずあやせちゃんに彼氏がいることはわかった」 「じゃ、じゃあ・・・」 「でもまだ諦めた訳じゃないわよ。意外とすぐ別れちゃうかもしれないしね」 「そ、そんなことありません!!」 あやせが大声で反論する。まあ当然だ、兄妹の絆は一生切れることは無いんだからな。 「ふぅん。話は変わるけどあやせちゃん明日はおヒマ?新宿でウチ主催のイベントがあるんだけど来てみない?」 「あ、明日は無理です!」 「どうしてかしら?」 「明日はわたし達デートの約束があるんです!」 「この時期だとクリスマスデートかしら?でも恋人なのにイブにデートはしないの?」 「イブの日は家族で過ごすので、その前に二人でデートするんです」 と、まあこんな感じだったのだ。 結論から言うとこの日の説得は失敗に終わった。 この日の俺達の様子だけでは納得しなかった美咲さんが、 デートの様子を監視して本当に別れさせるのが無理なのか確かめるつもりらしいと、 あやせのモデル仲間からタレコミがあったのだ。 「説得は失敗か~~~」 「・・・でも、これって逆に好都合ですよね?」 「え?」 「美咲さんはわたし達が監視されてることに気付いてるって知らない訳ですから・・・」 「なるほどっ!思いっきりラブラブなデートを見せ付けて諦めさせる訳だな!?」 「だ、誰もそこまで言ってません!!」 「違うのか?それ以外に方法は無いと思うんだが」 「・・・・・必要以上にセクハラしたら絶交ですよ!?」 「まかせとけっ!!」 こうして俺はあやせたんとラブラブデート(しかも本人公認)をすることになったのだ。ヒャッホウ♪ 「まずはどこに行く?」 「きょ、京介さんの行きたいところでいいですよ」 「そ、そうか。それじゃあそうだな・・・」 なにせデートなんて生まれて初めてなものでどうすりゃいいのかわからない。 だからつい桐乃からさせられたエロゲーの主人公達のデートコースを選んでしまったことを誰が責められよう? 「ベタで定番すぎるけど、映画でも行くか?」 「はい!」 満面の笑みで返事をするあやせ(←マジ天使)演技だとしても嬉しすぎるぜ!! 結局、午前中は二人でお涙頂戴のラブストーリー映画を見ることになった―― 「うう~感動です・・・」 「あやせもこういうの好きだったんだなぁ」 「も?もって誰のことですか?」 「え?いや、別に一般論だけど・・・」 映画を見終わって二人で感想を言い合ってた間はすごく上機嫌だったのに、急に表情が陰ってしまった。 どうしたんだよ?そりゃ、実はついつい桐乃と取材に出かけた時のことを思い出してしまったけどさ・・・ 何とか空気を変えようと別の話題を出すことにする。 「お、お腹空いてないか?そろそろ昼飯にしようぜ!」 「そうですね?どこにしましょうか?」 「あやせは行きたいところとかないのか?」 「京介さんと一緒ならどこでもいいです」 おお・・・!!天使だ、ここに天使がおる・・・! そうだよな!!食事ってのは何を食うかじゃない、誰と食うかが大事なんだ! ファミレスとファーストフードは禁止とかぬかすどっかの女に、あやせの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいぜ! 「よし、それならあそこにしようぜ!」 どこでもいいと言われたら逆に良いところに連れて行ってあげたくなるのが兄貴の情ってもんさ。 以前、桐乃から聞いた女子中学生たちの憩いの場、ちょっとだけ贅沢なスイーツショップに行くことにした。 「ここは・・・?」 「いい雰囲気の店だろ?桐乃から聞いてたんだ。あやせが来たがってたって」 「――はい、嬉しいです・・・・・」 あれ?なんでこんな微妙な表情をするんだ?ひょっとしてあいつが言ってたのは嘘だったのか? しかしここまで来て引き返すわけにも行かず、店員さんに案内されて窓際の席に着く。 店の中はケーキショップらしく甘い香りが漂っていた―― 「さて何を頼むか」 メニューをぱらぱらとめくりながら見ていると、あやせが一つのメニューを指してきた。 「こ、このカップル専用のメニューから選んで良いですか?」 真っ赤になりながら提案してくるあやせにつられて俺の顔も赤くなる―― しばし二人して硬直していると、聞いたことのある声が聞こえてきた。 「あっれ、あやせじゃねー?」 「か、加奈子!」 「うーす」 見るからに意地の悪そうな笑みを浮かべるツインテールの少女は、以前家に来たこともあるあやせのモデル仲間だ。 これは誤算だった。よく考えればあやせ達の中で評判ということは、 こうして顔見知りと鉢合わせる可能性も高かったのだ。さっきあやせが微妙な表情をしたのもこれが原因か。 「なに?デート?へぇ~あやせカレシいたんだぁ」 「う、うん!そうなの!でも皆には内緒にしててね!?」 ふぅ助かった。よく考えればあやせの知り合いで俺の顔を知ってるのは桐乃くらいのもんだろう。 数ヶ月前に一瞬顔を合わせただけの奴の顔なんて普通は覚えてないよな。やれやれホッとしたぜ。 「ん~?ベツにいいけどぉ~、まさかタダで黙ってろっては言わねーよなぁフツー」 「わかった。俺が奢ってやるからおとなしくしてくれ」 「・・・・・じゃ、一緒に食べよっか」 目が笑ってなかったよ、あやせたん・・・・・ 結局、あやせとの初めてのデート、初めての食事は二人っきりというワケにはいかず、三人ですることになった。 しかし加奈子よ、お前明らかにお邪魔虫だぞ?目つきの通り性格悪いのか?あやせ、友達は選んでくれよ・・・ 「ふぅ~ごちそうさま~~~」 「奢りだと思って好き放題たのみやがって・・・!」 「んだぁ?見た目も地味なら甲斐性もねーのかよぉ」 「なんだと?」 「さっきから思ってたんだけどぉ~カレシさんさー、ぶっちゃけなんか地味だしぃ。  あやせと全然釣り合ってないと思うんだけどー。あやせってぇ、この人のどこが良かったの?」 ほっとけやと内心思いながら、あやせを見る。あやせならその気になれば彼氏なんてすぐ出来るだろう。 それこそ本物じゃなくてただの彼氏役だとしても、ホイホイついてくる男は居るはずだ。 なのに・・・なんで俺に頼んだんだ? 「加奈子には関係無くない?」 「は、はぁ?」 「わたしが京介さんを好きな理由なんて、わたしだけがわかってれば、それでよくない?」 「ま、まあそうだけどよぉ・・・」 最近時々見せる虹彩の消えた瞳で抑揚無く言い放つ――怒ってるのかな? 「か、カレシさんの方はどうなんだよ?こ、こいつちょっと怖くねぇ?どこに惚れたんだよ?」 「ああ?俺か?」 「そ、そう!!人の一人や二人くらいなら埋めたことありそうな女と付き合ってる理由!!」 「フッ、愚問だな。俺があやせを愛する理由など、あやせがあやせであるからというだけで十分だ!」 そうとも!生まれた時から見守ってきたんだ。俺があやせの幸せを願う理由なんてそれで十分だろう? 「わ、わかった。あんたらがお似合いだってよーくわかった・・・そ、そんじゃなあやせ!」 そう言ってそそくさと店を出て行ってしまった―― 「えへっ、お似合いですって♪」 「・・・あいつが言ったのってなんか違う気がするけどな」 まぁ、ここは素直に褒め言葉として受け取っておこう。 時刻は夕方という頃、デートを終え俺たちは監視の目があるため最後は別々に家に帰ることにした。 あやせを駅まで送り、俺はそのままとめておいたチャリにまたがり家路を急ぐ。 俺が帰りつく頃にはあやせはもう家で俺の帰りを待っていた―― 「さっき美咲さんから電話があったんですけど、ひとまず私のことは諦めてくれたみたいです」 「そっかーよかったー!!あやせがヨーロッパに行くなんて冗談じゃないからな!」 「・・・本当にそう思ってるんですか?」 「え?なんでそんなこと聞くんだ?」 もしかして美咲さんがまだ諦めてなければ、またあやせたんとデートできるかもしれない という考えがチラっと頭を掠めたのがバレたのか? 「・・・・・もういいです。それより京介さんに言いたいことがあります」 「な、なんだ?」 「今日のデートのことです!もう、ダメダメじゃないですか!」 「えっ!?ええぇーーー!?ダメダメだったの!?」 「そうですよ!今日のデートコース、ほとんど桐乃のケータイ小説通りだったじゃないですか!」 「そ、それは仕方ないだろう?俺デートなんて初めてだったんだし・・・」 「そういうことを言ってるんじゃありません!わたしとのデートなのに桐乃のことばっかり考えるなんて失礼です!」 ええ?なにそれ? 確かにデートコースを考えたりするのに桐乃から教わったことを思い出してたりしてたけど、 それは全部あやせの為であって他に理由なんて一切ないぞ? 「・・・・・ひょっとして、楽しくなかったのか?今日のデート・・・」 「京介さんはどうだったんですか?」 「俺はムチャクチャ楽しかったさ!あやせと一緒に色んなところ行けて色んなもの見て!  楽しくないはずがないじゃないか!」 「・・・・・嘘つき」 「え?」 「嘘つき嘘つき嘘つき!!  わたしが楽しくなかったのになんで京介さんは楽しかったんですか!?  前に『お前が落ち込んでると俺も落ち込む』って言ってたじゃないですか!!  あれは嘘だったんですかっ!?」 「う、嘘じゃないさ!あやせだって今日は楽しそうにしてたじゃないか!!」 「今日は・・・!今日のは・・・デートじゃなかったんですか?今日は彼氏だったんじゃないですか?  あれじゃぁ・・・あれじゃ今までの『兄妹のお出かけ』と全然違わないじゃないですかっ!!!」 「な、なんで泣いてるんだよ?今日のデートはそんなにダメな出来だったのか?  俺は俺に出来る限りのことをやったつもりなんだぞ!?」 わけがわからずあやせに問い詰める。だが返ってきた言葉は俺を地獄の底へ叩き落す言葉だった―― 「もういいです!次からは本当の彼氏に頼みますからっ!!」 そう言い捨てて去っていった―― 「ほ、本当の彼氏・・・?本当の彼氏・・・?  本当の彼氏だとぉおーーーーーーーーーーーっ!!??」 「はあ?あやせに彼氏?」 「そうだ!お前は何か聞いたことは無いか?」 「あるよ、クリスマスよりちょっと前の日にデートしてたところを見たってクラスの子が言ってた」 「それ以外で!!」 それは明らかに俺のことじゃねーか! っていうかあのクソガキ口止めしたにもかかわらず言いふらしてやがるのか?まったくふざけてやがる。 「それ以外っていってもなー、あやせも結構モテるからそういう話はあっても変じゃないと思うけど」 「そ、そうなのか?」 「って言っても学校の男子とかじゃないよ?  あたしら最低でも3つ以上年上でないとそういう対象にはならないって普段から話してたし」 「じゃあどこでそんな話が出るんだよ?」 「仕事?ほら撮影の時とかって結構いろんな人と会うじゃん。社会人も含めて」 「どんなロリコンだよ!!」 「まだ十代でも仕事持ってる人っていたりするよ?エタナーのデザイナーさんとかもそうだし」 「エタナー・・・?」 それは確かあの美咲さんお抱えのファッションモデル兼デザイナーの御鏡のことか? 聞いた事がある・・・ってか目にした事がある。あやせの載ってた雑誌に記事があった。 俺と同い年なのに、既に色んな場面で名を馳せている“男版桐乃”みたいな奴が居たはずだ・・・ 「ってかさー、なんでいきなりそんな事聞いてきたの?」 「ああ、実はな・・・」 俺は桐乃に大体の事情を説明した。 美咲さんからスカウトが来たこと。穏便に断りたいとあやせが言ったこと。 理由に『彼氏と離れたくない』と言ったこと。俺が彼氏役を頼まれたこと。 ・・・そして、本当の彼氏がいるとあやせが言ったこと。 「それが本当なら御鏡さんあやしいかもね」 「んだとっ!?」 「うん。あの人とは何度も仕事で顔合わせてるしさ、それにあんたに代役を頼んだんでしょ?」 「・・・それが何の関係あるんだよ」 「あやせの彼氏が御鏡さんなら、美咲さんは二人ともヨーロッパに連れて行けばいいだけでしょ?  それが出来る立場の人なんだから。それがわかってたから、あやせはあんたに代役頼んだんじゃないの?」 ・・・・・なんてこった。確かにそれだと筋が通ってしまう。彼氏が居ながら俺に彼氏役を頼んだのは、 本物の彼氏では日本に留まる為の理由にならなかったからだとするなら、あやせの彼氏は御鏡・・・? 絶望に打ちひしがれていた俺に桐乃が話しかけてくる。 「あんたホントにシスコンだよねー、妹に彼氏くらいでここまで落ち込む?」 「ま、まあいつかは必ず来ることじゃん?仕方ないって!!」 「それにさ、御鏡さんなら大歓迎でしょ?あんないい人なかなかいないんだし!」 「あやせを不幸にするような人じゃないと思うから大丈夫だって」 「それにあんたもそろそろシスコン卒業したほうがいいって!」 「・・・・・もういい加減にしなよ、いいじゃんあたしがいるんだし」 「なんだよそれ」 「・・・あたしがずっと兄貴の傍にいてあげるからさ」 「この期に及んでエロゲーネタかよっ!!」 「あはは、バレた?ってかちゃんとやっててくれたんだ、アレ」 「・・・可愛い妹の頼みだからな」 「彼女でもいいよ?」 「バカいうな!」 相変わらずだなこいつは・・・好き勝手に俺を振り回して・・・・・でも―― 「ありがとな、桐乃」 「ただいまー」 あやせの彼氏が誰なのかはっきりしないまま、もやもやした気持ちを抱えていたこの数日。 家に帰ると見慣れぬ靴が一足置いてあった。誰か客が来ているのか? 耳を澄ますとリビングからおふくろの声が聞こえてくる―― 「えー?それで新垣さんはいつから?」 「まあ、それじゃあやせと姉妹になっても安心ね」 「あら、あやせ。どうしたの?」 「それにしても京介はまだかしらね?」 何の話を誰としてるんだ?新垣さんだと?もしかして桐乃が来てるのか? 「ただいまー、ひょっとして桐乃が来てるのか?」 「あ、お帰り京介!!もうお母さんびっくりしちゃったわよ?」 「へ?なにが?」 「彼女が出来たのならせめて報告くらいしなさいよ。今来てくれて話をしてるところなのよ?」 「はあっ!?」 いきなりのトンデモ展開に思考がついていかない。 リビングを見るとそこにはあやせと桐乃が並んですわっていた。 いや、別に変なことじゃない。この二人は親友なんだ。家に遊びに来るくらい当たり前だ。 問題は桐乃が俺の彼女としてやってきたという話をお袋がしてることだ。 「ふふふ、あんたもやるわねぇ、あんな可愛い子をつかまえるなんて」 「いや、桐乃はあやせの友達だろ・・・?」 「そうねぇ、あんたあやせには感謝しないといけないわね」 「ちょっとマジで意味がわかんないんだけどっ!?」 「照れなくていいわよ、お母さん応援しちゃうから!それじゃ、あたしは買い物に行くから後は仲良くするのよ~」 そういって俺達三人を残しておふくろは出て行ってしまった。 後には先ほどとうって変わって静まり返った空気につつまれたリビングが残る。 「え~と桐乃?これはどういうこと?」 「ありがとうって言ったじゃん?だからあんたのシスコン卒業に協力してあげようと思って」 「ま、まさかあの彼女でもいいって言ったのは本気か?」 「な~んで冗談だと思うかな・・・あ、そっかぁ!  普段から冗談で愛してるとか言ってるからあたしのも冗談だと思ったとか?」 「な、なにを言ってるんだ!?」 「――お兄さんっ!!!」 急にあやせが立ち上がり声を上げる。俯いてる為に顔は良く見えない―― だが何か怒っていることはその様子からうかがい知れた。 「本当なんですか?桐乃とお付き合いしてるってこと?」 「実はまだだけど、その予定」 「桐乃には聞いてませんっ!!」 こ、怖えぇ!!いつかのコミケの時の比じゃないぞ? あやせが桐乃にこんな態度をとることがありえるなんて!! 「どうなんですか?本当に桐乃の言う通りなんですか?」 そう聞いてくるあやせに少しずつ怒りにも似た感情がわいてきた―― 「・・・・・だったらどうなんだよ?」 桐乃の言葉を一切否定せずにあやせに聞いてみる。こいつだって俺に何も話してくれなかったじゃねーか。 「俺と桐乃が付き合うのに、なんの不都合があるんだよ!!」 「は、反対するに決まってるじゃないですかっ!!お兄さんみたいな人に桐乃を任せるなんて無理です!」 「なんであやせが決めるんだよ!?そりゃ桐乃はお前の大親友だろうけどさ!  こういうことは当人同士で決めることで、横からごちゃごちゃ言うことじゃないだろう!?」 「こ、この場合は別ですっ!!大体お兄さんはわたしのお兄さんじゃないですか!  わたしには口を出す権利があるはずです!」 「そんなことっ!俺に何の相談も報告も無しに彼氏を作った妹にとやかく言われたくねーよ!!」 「―――――ッ!!?」 「先に裏切ったのはお前のほうだろうがっ!!!」 ああ、そうか。わかったよ。これが本音だ。――ずっと見てきたのに。ずっと愛してきたのに。 桐乃のほうを大事にするようになったあやせに、いつの間にか恋人まで作っていたあやせに。 俺は裏切られたような気になっていたんだ。 「・・・・・じゃないですか」 「あ?」 「先に裏切ったのはお兄さんの方じゃないですか!!」 「何言ってやがる!!」 「あの時、あんな事言っておきながら、裏切ったのは兄さんじゃないですか!!  わたしが、わたしがどんな気持ちでいたか考えもせずに、桐乃とばっかり話をして!」 「あ、あやせが無視してたんだろうが!!」 「ちょっとびっくりしてただけじゃないですか!!それなのに全然話しかけてくれなくなって・・・  いつの間にか桐乃だけじゃなくて、黒猫さんとも仲良くなって・・・!!」 「お前黒猫のこと知ってるの!?」 「調べたんです!!  そしたら『兄さん』とか呼んでもらってるって話じゃないですか!!  兄さんは誰の兄さんなんですかっ!?わたしの兄さんじゃなかったんですかっ!?」 「アレはこいつらが俺をからかってそう呼んでるだけだってーの!!」 「言い訳なんて聞きたくないですっ!!  わたしの知らないところで、いろんな人と勝手に仲良くなって・・・  一緒に遊んだりしてて・・・桐乃とデートまでしてたりとかっ・・・!  わたしがっ・・・!わたしがっ・・・!その時どんな気持ちだったかも知らないでっ!!」 「何のことだよ!?大体お前だって俺に黙って恋人まで作ってんだろうがっ!!」 「あれは嘘ですっ!!」 「嘘ぉっ!?」 「おにっ、お兄さんがちっともわかってくれないからっ!!だからわたしっ・・・!!」 ぼろぼろと涙をこぼしながら泣きじゃくるあやせ―― 何でそんな悲しそうにしてるんだよ?なんでそんな嘘ついたんだよ?お前は嘘が嫌いな子だったじゃないか。 ・・・・・なんで俺はこんなこともわからなくなってるんだろうな? 「わたっ・・・!わたしっ・・・!!わたしっ!!」 「いいよ、もういい。頼むから泣くな。俺まで悲しくなっちまうだろうが」 あやせの頭に手を置いてやる。そのまま抱きしめて頭を撫でて慰める―― 「俺が悪かったから・・・謝るからもう泣くな」 あやせの嗚咽だけが響く静寂を引き裂いたのは桐乃だった―― 「泣いててもいいから早く言っちゃいなよ」 「え?」 急に桐乃に声をかけられて思わず振り返る。なんかあやせの方を向いて不思議な表情をしている。 「本当、あやせが羨ましい。あたしもこんな兄貴が欲しかったなあ・・・」 「桐乃・・・?」 「ほらぁ!はっきりさせないと盗られちゃうよ?あたしの他にもライバルはいるんだからね?」 どういう意味だよ。ライバルとか盗られるとかって・・・ ふと、自分の腕の中を見るとあやせが俺をじっと見つめていた。 「な、なんだどうした?俺の顔に何かついてるか?」 「・・・・・い、今からつけるんです」 ぐいっと顔を引き寄せられたかと思ったら、俺のほっぺたにあやせの唇が触れた。 「えっ?えっ?えぇ~~~~~~~!?」 「なんでそんなにびっくりするんですかっ!!」 「だって・・・だって・・・」 「あんたってさぁ、ほんっとに鈍いよねぇ。そこだけはあやせが可哀相だわ」 「どういう意味だよ!?」 「へっへ~、それは愛しの妹様から聞けばいいじゃん。もう、あたしから聞く必要ないでしょ?」 意味深につぶやいて『それじゃあね♪』と桐乃は去っていく―― この状況で俺になにをしろと? 「お兄さん?」 「あ、ああ。どうしたあやせ?」 「お兄さんは、わたしのお兄さんなんですよ?」 「もちろんそうだ」 「一生ですからね?」 「当たり前だろ!」 「それならいいです」 ポフっと再び俺の胸に顔を埋める。猛烈に可愛いのはいいんだけど、そのまま一人で納得しないでくれよ。 俺にはイマイチこの状況が飲み込めてないんだ―― 「あの・・・」 「な、なんだ?」 「わたし・・・本当はあの告白嬉しかったんです・・・」 うなじまで真っ赤に染め上げて告げられたその告白に、俺の意識はブッ飛んでいった―― 見たかお前ら!!俺の妹はこんなにも可愛い!!                        今度こそ終わり
944 : ◆NAZC84MvIo [sage saga]:2011/05/04(水) 00:03:29.97 ID:iWfXVOwW0 「ふ~ん・・・それで最近あたしを避けてたんだ」 「当たり前だ!これ以上あやせたんに嫌われてたまるかっ!!」 「もうこれ以上嫌われるなんてありえないくらい、嫌われてると思うけどね」 「もうやめて!!俺のライフは0よっ!!」 先日の約束を破ったらどうなるかなんて想像したくない。なのに桐乃はお構いなしに俺にちょっかい出してくる。 まあ、俺としてもあやせの話を聞けるのは大歓迎なのだが、こうやって会ってることがバレたらと思うと頭が痛い。 「でも失敗だったな~。あやせがメルルもダメだなんて言うとは思ってなかった」 「テメーみたいなオタクの感覚をあやせたんに押し付けるのが間違ってるんだよ・・・」 「ん~~、でもさぁ、親友そっくりのキャラが出てたら見せたくなるでしょ?」 「え?何のことだよ?」 「はぁ?あんた目腐ってるんじゃないの?タナトス・エロス!あやせにそっくりだったでしょ?  ま、まさかあんた、あれだけ言ったのに見てなかったって言うのっ!?」 『ご褒美に貸してあげる』――あの言葉に偽りはなかった。つまりはそう言うことだったのだ。 桐乃に見せられたファンブックには、あやせそっくりのキャラクターが描かれていた―― 「こ、こっ、こっ!このキャラが動き回って活躍する話があったというのか!?」 「敵役だけどね。ちなみに声も結構あやせに似てるんだよ」 「ぬぁんっっってこったぁぁ~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!」 アニメを見なかったことをこんなに後悔する日がこようとは思ってもいなかった! 「また貸してあげたいけど、あたしもあやせには嫌われたくないからゴメンネ?」 「くっ!くぅっ・・・!悔しいがしかたない!チャンスを逃した俺が悪かったんだからな・・・」 知っていたなら間違いなく見てたとも!!しかし手遅れだ。あやせはあのアニメを見ることも許してくれない・・・  ・・・まてよ?そういえばあの時あやせは何て言ったっけ?『純粋に楽しんでるだけならまだ許せました』だったよな? 「・・・・・あのさ、お前あやせになんて言って説明してたの?」 「あやせの兄貴はあやせにそっくりなキャラが出てたからこのアニメにハマったって言っただけだけど?」 「やっぱり俺がこんな目にあってるのはお前のせいじゃねーかよっ!!!」 そんな理由で自分の兄貴がこんなアニメを見てると思ってたら、そりゃ禁止したくもなるわ!! 「なによ~、あんたがメルルにハマる理由なんてそれ以外ありえないみたいだし、間違ってないでしょ?」 「な、なんだよそれ」 「べっつに~?どうせ皆にはつまんない子供向けアニメにしか見えないんだって、よーっくわかっただけ」  ・・・そうか、こいつは純粋にメルルが好きなんだよな。 そりゃあやせにそっくりなキャラがいたことも、あのアニメを楽しめた理由の一つだろうが、 それだけが理由なら全話通して見る必要もないし、あんなに熱く語れるはずもないよな・・・ 「いや、その・・・すまん」 面白くなかった。いや、俺には面白いと思えなかった。これは事実だからしかたない。 だがそれでも俺があのアニメを見るならば、『それ』が理由であると説明するのが一番無理がない。 桐乃は桐乃なりに俺のことを考えていてくれたのか・・・? 「もういいって、そのかわり今日はたっぷり付き合ってもらうから」 「ケータイ小説の為の取材だっけ?」 「そ、今日のことはあやせにも話は通してあるから安心していいからさ」 「ヘイヘイ、それじゃ行きますか」 冬も近い寒空の下、何の因果か俺は桐乃と渋谷の街を見てまわったのだった―― そんなこんなで桐乃や黒猫たちに振り回されている日々を送っていたところ、 ある日あやせからとんでもない頼み事をされたのだった―― 「お兄さん、ご相談があります」 「はい!なんなりと!」 「も、もう何のマネですかっ!?」 「ふっ・・・忘れたのか?俺はあやせの頼みなら何でもきいてしまう男なんだぜ?」 「ふ、ふざけるのはやめて真面目に聞いてください!」 「わかったよ、どうしたんだ?」 桐乃との無許可接触禁止令を出してから、あやせは俺を無視することがなくなった。 理由は桐乃を俺から守る為らしい。 もともと俺が桐乃と話をするのはあやせのことを知る為であって、 あやせ本人と話が出来るなら桐乃と仲良くする必要なんてない。 ならばあやせが俺の相手さえしてれば桐乃と俺との接点なんて必要ないのだ。 流石に露骨にそんなことは言えなかったらしいが、桐乃があやせにそういうニュアンスを伝えたところ、 俺があやせに無視されるということはなくなったのだ。 なんにせよラブリーマイエンジェルとまた顔を見て話が出来るようになったことは凄く嬉しいので、 細かい事情なんてどうでも良いってのが本音だけどね。 「その前に一つ聞きたいんですけど、この前の桐乃の取材ってなんだったんですか?」 「あ?ああ、なんかケータイ小説書く為に色々見てまわりたかったんだと。  女の子一人じゃ物騒だってことで付き添いを頼まれたんだよ」 「それはわたしも桐乃から聞いてます!具体的にどこに行って何をしたか聞いてるんです!」 「どこで何をって・・・渋谷ぶらついて店見てまわって買い物したくらいだぞ?」 「本当にそれだけですか?」 「ああ、あやせに誓ってやましいことなど一つもない!」 「もう!なんでわたしに誓うんですか!?」 「俺の天使だからな。それより頼みって何なんだ?」 照れたようにほほを少し赤らめながら口を~←こんな風に結んで俺を睨むあやせたん(←カワイイ) お前のためならどんなことでもやっちゃうよ?さあなんでも頼んでみなさい! 「遠慮しないでいいって!俺はあやせを悲しませるようなことだけは絶対にしない。  いつだろうと、どこだろうと、どんな時だろうとあやせの味方だぞ」 「・・・・・ウソツキ」ポソッ 「ん?何か言ったか?」 「・・・何でもありません」 「そうか?言いにくいなら紙に書いて渡してくれてもいいぞ」 「そしたらその紙をどうするつもりですか?」 「ラミネート加工して大切に保管するに決まってるだろ」 「バカじゃないですか!?」 「ハハハ、まあいいから言ってくれよ。俺はあやせの頼みを聞くことが生き甲斐なんだから!」 冗談で雰囲気をほぐしながら(いや本当は全部本気だけどね?)もう一度たずねる。 あやせは優しい子だから頼み事するのにも躊躇しちゃうんだよな。 「じつは、その・・・すごく言い辛いんですけど・・・」 「うん」 「お兄さん・・・わたしの彼氏になって下さい・・・」 真新しい衣服を身に纏い、俺は空を仰ぎ見る。澄み切った快晴からは暖かい日差しが降り注ぎ、冬の寒さをやわらげる。 クリスマスのイルミネーションに彩られた街並みを、おしゃれな格好をした若者達が歩いていた。 「お、お待たせしましたっ」 顔を上げると照れくさそうな微笑を浮かべた俺の彼女がそこにいた。 この愛しの彼女の名は高坂あやせ。長い黒髪としなやかな脚、すらりと均整のとれた身体。 幼さを残した顔にはしかし、肉親さえ魅了してしまうほどの色気があった。 あやせが現れたとたん周囲がざわめく。俺みたいな奴と待ち合わせしてたのがこんな美少女とは思わなかっただろう。 どうだすげえだろ、という優越感とともにあやせに手を伸ばし声をかける―― 「あやせの為なら何時間だろうと待てるぜ。――行くか」 「はい」 嬉しそうに頷いて自然に腕を絡めてくる。肘に当たる柔らかな感触にドキリとしながら繁華街の方へ向かう。 「あ、あのう」 「な、なんだ」 「今日は“京介さん”って呼んでいいですか?」 「突然どうした?」 「だって・・・その方が恋人らしいじゃないですか・・・」 よほど恥ずかしかったのかあやせは真っ赤になってしまった。かくいう俺も負けないくらい真っ赤だったけどな。 どこから見ても初々しい恋人同士だ――さて、どうして俺がこんなうらやましい状態になったか順に説明しよう。 「お兄さん・・・わたしの彼氏になって下さい・・・」 「よしわかった結婚しよう!必ず幸せにするぞ!」 まさかあやせから愛の告白をされる日が来るなんて思ってもいなかった! 1秒と待たず快諾し、早速式場の予約をしようと動き出すと思いっきりひっぱたかれた―― 「は、話は最後まで聞いてくださいっ!!」 「な、なんだよ?俺は相手があやせなら何の不満もないぞ?」 「違います!さっきのは続きがあるんです!お兄さんに彼氏のフリをしてもらいたいんです!」 ――回想はさらに続く―― 「どうも、赤城京介です」 偽名を名乗りながら目の前の女性に挨拶をする。 「はじめまして、藤真美咲です」 そういって差し出された名刺には株式会社エターナルブルー代表取締役 藤真美咲とある。 この藤真社長(美咲さんと呼ぼうか)はあやせの所属しているモデル事務所の親会社の社長で、 今回あやせを専属のモデルとしてスカウトしたいと言って来たのだ。 これはとても光栄なことなのだが、それを受けるとは日本から離れることを意味するらしく、 なるべく穏便に断りたいあやせは『彼氏がいて、その人と一緒に居たいので無理だ』と伝えたらしい。 そしてこの日は二人で美咲さんを説得する為の面談をすることになったのだ―― 「話はあやせちゃんから聞いてるのよね?」 「ええ、大体は」 「だからね、京介君。あやせちゃんと別れて頂戴。お金なら言い値で払うわよ?」 「フッ、お断りします。お金の問題じゃないでしょう?なぜならっ!俺はあやせを愛しているからっ!!!」 バチンッ――いきなり隣からビンタされた。 「こ、公衆の面前で何を叫んでるんですかっ!!」 「俺はいつだろうとどこでだろうと言えるぞ!なんら恥じることはない!」 「わ、わたしのことが好きならわたしのことも考えてくださいっ!わたしが恥ずかしいじゃないですか!」 真っ赤になって目を潤ませながら恥らうあやせ――そんな俺たちのやりとりを見て美咲さんが一言。 「ふぅん・・・ラブラブってわけね」 「当然です!!」 あやせの肩を抱き寄せながら胸を張る――またビンタが飛んできた。 「セ、セクハラはほどほどにして下さいっ!!」 「・・・もういいわ、とりあえずあやせちゃんに彼氏がいることはわかった」 「じゃ、じゃあ・・・」 「でもまだ諦めた訳じゃないわよ。意外とすぐ別れちゃうかもしれないしね」 「そ、そんなことありません!!」 あやせが大声で反論する。まあ当然だ、兄妹の絆は一生切れることは無いんだからな。 「ふぅん。話は変わるけどあやせちゃん明日はおヒマ?新宿でウチ主催のイベントがあるんだけど来てみない?」 「あ、明日は無理です!」 「どうしてかしら?」 「明日はわたし達デートの約束があるんです!」 「この時期だとクリスマスデートかしら?でも恋人なのにイブにデートはしないの?」 「イブの日は家族で過ごすので、その前に二人でデートするんです」 と、まあこんな感じだったのだ。 結論から言うとこの日の説得は失敗に終わった。 この日の俺達の様子だけでは納得しなかった美咲さんが、 デートの様子を監視して本当に別れさせるのが無理なのか確かめるつもりらしいと、 あやせのモデル仲間からタレコミがあったのだ。 「説得は失敗か~~~」 「・・・でも、これって逆に好都合ですよね?」 「え?」 「美咲さんはわたし達が監視されてることに気付いてるって知らない訳ですから・・・」 「なるほどっ!思いっきりラブラブなデートを見せ付けて諦めさせる訳だな!?」 「だ、誰もそこまで言ってません!!」 「違うのか?それ以外に方法は無いと思うんだが」 「・・・・・必要以上にセクハラしたら絶交ですよ!?」 「まかせとけっ!!」 こうして俺はあやせたんとラブラブデート(しかも本人公認)をすることになったのだ。ヒャッホウ♪ 「まずはどこに行く?」 「きょ、京介さんの行きたいところでいいですよ」 「そ、そうか。それじゃあそうだな・・・」 なにせデートなんて生まれて初めてなものでどうすりゃいいのかわからない。 だからつい桐乃からさせられたエロゲーの主人公達のデートコースを選んでしまったことを誰が責められよう? 「ベタで定番すぎるけど、映画でも行くか?」 「はい!」 満面の笑みで返事をするあやせ(←マジ天使)演技だとしても嬉しすぎるぜ!! 結局、午前中は二人でお涙頂戴のラブストーリー映画を見ることになった―― 「うう~感動です・・・」 「あやせもこういうの好きだったんだなぁ」 「も?もって誰のことですか?」 「え?いや、別に一般論だけど・・・」 映画を見終わって二人で感想を言い合ってた間はすごく上機嫌だったのに、急に表情が陰ってしまった。 どうしたんだよ?そりゃ、実はついつい桐乃と取材に出かけた時のことを思い出してしまったけどさ・・・ 何とか空気を変えようと別の話題を出すことにする。 「お、お腹空いてないか?そろそろ昼飯にしようぜ!」 「そうですね?どこにしましょうか?」 「あやせは行きたいところとかないのか?」 「京介さんと一緒ならどこでもいいです」 おお・・・!!天使だ、ここに天使がおる・・・! そうだよな!!食事ってのは何を食うかじゃない、誰と食うかが大事なんだ! ファミレスとファーストフードは禁止とかぬかすどっかの女に、あやせの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいぜ! 「よし、それならあそこにしようぜ!」 どこでもいいと言われたら逆に良いところに連れて行ってあげたくなるのが兄貴の情ってもんさ。 以前、桐乃から聞いた女子中学生たちの憩いの場、ちょっとだけ贅沢なスイーツショップに行くことにした。 「ここは・・・?」 「いい雰囲気の店だろ?桐乃から聞いてたんだ。あやせが来たがってたって」 「――はい、嬉しいです・・・・・」 あれ?なんでこんな微妙な表情をするんだ?ひょっとしてあいつが言ってたのは嘘だったのか? しかしここまで来て引き返すわけにも行かず、店員さんに案内されて窓際の席に着く。 店の中はケーキショップらしく甘い香りが漂っていた―― 「さて何を頼むか」 メニューをぱらぱらとめくりながら見ていると、あやせが一つのメニューを指してきた。 「こ、このカップル専用のメニューから選んで良いですか?」 真っ赤になりながら提案してくるあやせにつられて俺の顔も赤くなる―― しばし二人して硬直していると、聞いたことのある声が聞こえてきた。 「あっれ、あやせじゃねー?」 「か、加奈子!」 「うーす」 見るからに意地の悪そうな笑みを浮かべるツインテールの少女は、以前家に来たこともあるあやせのモデル仲間だ。 これは誤算だった。 よく考えればあやせ達の中で評判ということは、 こうして顔見知りと鉢合わせる可能性も高かったのだ。 さっきあやせが微妙な表情をしたのもこれが原因か。 「なに?デート?へぇ~あやせカレシいたんだぁ」 「う、うん!そうなの!でも皆には内緒にしててね!?」 ふぅ助かった。よく考えればあやせの知り合いで俺の顔を知ってるのは桐乃くらいのもんだろう。 数ヶ月前に一瞬顔を合わせただけの奴の顔なんて普通は覚えてないよな。やれやれホッとしたぜ。 「ん~?ベツにいいけどぉ~、まさかタダで黙ってろっては言わねーよなぁフツー」 「わかった。俺が奢ってやるからおとなしくしてくれ」 「・・・・・じゃ、一緒に食べよっか」 目が笑ってなかったよ、あやせたん・・・・・ 結局、あやせとの初めてのデート、初めての食事は二人っきりというワケにはいかず、三人ですることになった。 しかし加奈子よ、お前明らかにお邪魔虫だぞ?目つきの通り性格悪いのか?あやせ、友達は選んでくれよ・・・ 「ふぅ~ごちそうさま~~~」 「奢りだと思って好き放題たのみやがって・・・!」 「んだぁ?見た目も地味なら甲斐性もねーのかよぉ」 「なんだと?」 「さっきから思ってたんだけどぉ~カレシさんさー、ぶっちゃけなんか地味だしぃ。  あやせと全然釣り合ってないと思うんだけどー。あやせってぇ、この人のどこが良かったの?」 ほっとけやと内心思いながら、あやせを見る。あやせならその気になれば彼氏なんてすぐ出来るだろう。 それこそ本物じゃなくてただの彼氏役だとしても、ホイホイついてくる男は居るはずだ。 なのに・・・なんで俺に頼んだんだ? 「加奈子には関係無くない?」 「は、はぁ?」 「わたしが京介さんを好きな理由なんて、わたしだけがわかってれば、それでよくない?」 「ま、まあそうだけどよぉ・・・」 最近時々見せる虹彩の消えた瞳で抑揚無く言い放つ――怒ってるのかな? 「か、カレシさんの方はどうなんだよ?こ、こいつちょっと怖くねぇ?どこに惚れたんだよ?」 「ああ?俺か?」 「そ、そう!!人の一人や二人くらいなら埋めたことありそうな女と付き合ってる理由!!」 「フッ、愚問だな。俺があやせを愛する理由など、あやせがあやせであるからというだけで十分だ!」 そうとも!生まれた時から見守ってきたんだ。俺があやせの幸せを願う理由なんてそれで十分だろう? 「わ、わかった。あんたらがお似合いだってよーくわかった・・・そ、そんじゃなあやせ!」 そう言ってそそくさと店を出て行ってしまった―― 「えへっ、お似合いですって♪」 「・・・あいつが言ったのってなんか違う気がするけどな」 まぁ、ここは素直に褒め言葉として受け取っておこう。 時刻は夕方という頃、デートを終え俺たちは監視の目があるため最後は別々に家に帰ることにした。 あやせを駅まで送り、俺はそのままとめておいたチャリにまたがり家路を急ぐ。 俺が帰りつく頃にはあやせはもう家で俺の帰りを待っていた―― 「さっき美咲さんから電話があったんですけど、ひとまずわたしのことは諦めてくれたみたいです」 「そっかーよかったー!!あやせがヨーロッパに行くなんて冗談じゃないからな!」 「・・・本当にそう思ってるんですか?」 「え?なんでそんなこと聞くんだ?」 もしかして、美咲さんがまだ諦めてなければ、またあやせたんとデートできるかもしれない なんて考えがチラっと頭を掠めたのがバレたのか? 「・・・・・もういいです。それより京介さんに言いたいことがあります」 「な、なんだ?」 「今日のデートのことです!もう、ダメダメじゃないですか!」 「えっ!?ええぇーーー!?ダメダメだったの!?」 「そうですよ!今日のデートコース、ほとんど桐乃のケータイ小説通りだったじゃないですか!」 「そ、それは仕方ないだろう?俺デートなんて初めてだったんだし・・・」 「そういうことを言ってるんじゃありません!わたしとのデートなのに桐乃のことばっかり考えるなんて失礼です!」 ええ?なにそれ? 確かにデートコースを考えたりするのに桐乃から教わったことを思い出してたりしてたけど、 それは全部あやせの為であって他に理由なんて一切ないぞ? 「・・・・・ひょっとして、楽しくなかったのか?今日のデート・・・」 「京介さんはどうだったんですか?」 「俺はムチャクチャ楽しかったさ!あやせと一緒に色んなところ行けて色んなもの見て!  楽しくないはずがないじゃないか!」 「・・・・・嘘つき」 「え?」 「嘘つき嘘つき嘘つき!!  わたしが楽しくなかったのになんで京介さんは楽しかったんですか!?  前に『お前が落ち込んでると俺も落ち込む』って言ってたじゃないですか!!  あれは嘘だったんですかっ!?」 「う、嘘じゃないさ!あやせだって今日は楽しそうにしてたじゃないか!!」 「今日は・・・!今日のは・・・デートじゃなかったんですか?今日は彼氏だったんじゃないですか?  あれじゃぁ・・・あれじゃ今までの『兄妹のお出かけ』と全然違わないじゃないですかっ!!!」 「な、なんで泣いてるんだよ?今日のデートはそんなにダメな出来だったのか?  俺は俺に出来る限りのことをやったつもりなんだぞ!?」 わけがわからずあやせに問い詰める。だが返ってきた言葉は俺を地獄の底へ叩き落す言葉だった―― 「もういいです!次からは本当の彼氏に頼みますからっ!!」 そう言い捨てて去っていった―― 「ほ、本当の彼氏・・・?本当の彼氏・・・?  本当の彼氏だとぉおーーーーーーーーーーーっ!!??」 「はあ?あやせに彼氏?」 「そうだ!お前は何か聞いたことは無いか?」 「あるよ、クリスマスよりちょっと前の日にデートしてたところを見たってクラスの子が言ってた」 「それ以外で!!」 それは明らかに俺のことじゃねーか! っていうかあのクソガキ口止めしたにもかかわらず言いふらしてやがるのか?まったくふざけてやがる。 「それ以外っていってもなー、あやせも結構モテるからそういう話はあっても変じゃないと思うけど」 「そ、そうなのか?」 「って言っても学校の男子とかじゃないよ?  あたしら最低でも3つ以上年上でないとそういう対象にはならないって普段から話してたし」 「じゃあどこでそんな話が出るんだよ?」 「仕事?ほら撮影の時とかって結構いろんな人と会うじゃん。社会人も含めて」 「どんなロリコンだよ!!」 「まだ十代でも仕事持ってる人っていたりするよ?エタナーのデザイナーさんとかもそうだし」 「エタナー・・・?」 それは確かあの美咲さんお抱えのファッションモデル兼デザイナーの御鏡のことか? 聞いた事がある・・・ってか目にした事がある。あやせの載ってた雑誌に記事があった。 俺と同い年なのに、既に色んな場面で名を馳せている“男版桐乃”みたいな奴が居たはずだ・・・ 「ってかさー、なんでいきなりそんな事聞いてきたの?」 「ああ、実はな・・・」 俺は桐乃に大体の事情を説明した。 美咲さんからスカウトが来たこと。穏便に断りたいとあやせが言ったこと。 理由に『彼氏と離れたくない』と言ったこと。俺が彼氏役を頼まれたこと。  ・・・そして、本当の彼氏がいるとあやせが言ったこと。 「それが本当なら御鏡さんあやしいかもね」 「んだとっ!?」 「うん。あの人とは何度も仕事で顔合わせてるしさ、それにあんたに代役を頼んだんでしょ?」 「・・・それが何の関係あるんだよ」 「あやせの彼氏が御鏡さんなら、美咲さんは二人ともヨーロッパに連れて行けばいいだけでしょ?  それが出来る立場の人なんだから。それがわかってたから、あやせはあんたに代役頼んだんじゃないの?」  ・・・・・なんてこった。確かにそれだと筋が通ってしまう。彼氏が居ながら俺に彼氏役を頼んだのは、 本物の彼氏では日本に留まる為の理由にならなかったからだとするなら、あやせの彼氏は御鏡・・・? 絶望に打ちひしがれていた俺に桐乃が話しかけてくる。 「あんたホントにシスコンだよねー、妹に彼氏くらいでここまで落ち込む?」 「ま、まあいつかは必ず来ることじゃん?仕方ないって!!」 「それにさ、御鏡さんなら大歓迎でしょ?あんないい人なかなかいないんだし!」 「あやせを不幸にするような人じゃないと思うから大丈夫だって」 「それにあんたもそろそろシスコン卒業したほうがいいって!」 「・・・・・もういい加減にしなよ、いいじゃんあたしがいるんだし」 「なんだよそれ」 「・・・あたしがずっと兄貴の傍にいてあげるからさ」 「この期に及んでエロゲーネタかよっ!!」 「あはは、バレた?ってかちゃんとやっててくれたんだ、アレ」 「・・・可愛い妹の頼みだからな」 「彼女でもいいよ?」 「バカいうな!」 相変わらずだなこいつは・・・好き勝手に俺を振り回して・・・・・でも―― 「ありがとな、桐乃」 「ただいまー」 あやせの彼氏が誰なのかはっきりしないまま、もやもやした気持ちを抱えていたこの数日。 家に帰ると見慣れぬ靴が一足置いてあった。誰か客が来ているのか? 耳を澄ますとリビングからおふくろの声が聞こえてくる―― 「えー?それで新垣さんはいつから?」 「まあ、それじゃあやせと姉妹になっても安心ね」 「あら、あやせ。どうしたの?」 「それにしても京介はまだかしらね?」 何の話を誰としてるんだ?新垣さんだと?もしかして桐乃が来てるのか? 「ただいまー、ひょっとして桐乃が来てるのか?」 「あ、お帰り京介!!もうお母さんびっくりしちゃったわよ?」 「へ?なにが?」 「彼女が出来たのならせめて報告くらいしなさいよ。今来てくれて話をしてるところなのよ?」 「はあっ!?」 いきなりのトンデモ展開に思考がついていかない。 リビングを見るとそこにはあやせと桐乃が並んで座っていた。 いや、別に変なことじゃない。この二人は親友なんだ。家に遊びに来るくらい当たり前だ。 問題は桐乃が俺の彼女としてやってきたという話をお袋がしてることだ。 「ふふふ、あんたもやるわねぇ、あんな可愛い子をつかまえるなんて」 「いや、桐乃はあやせの友達だろ・・・?」 「そうねぇ、あんたあやせには感謝しないといけないわね」 「ちょっとマジで意味がわかんないんだけどっ!?」 「照れなくていいわよ、お母さん応援しちゃうから!それじゃ、あたしは買い物に行くから後は仲良くするのよ~」 そういって俺達三人を残しておふくろは出て行ってしまった。 後には先ほどとうって変わって静まり返った空気につつまれたリビングが残る。 「え~と桐乃?これはどういうこと?」 「ありがとうって言ったじゃん?だからあんたのシスコン卒業に協力してあげようと思って」 「ま、まさかあの彼女でもいいって言ったのは本気か?」 「な~んで冗談だと思うかな・・・あ、そっかぁ!  普段から冗談で愛してるとか言ってるからあたしのも冗談だと思ったとか?」 「な、なにを言ってるんだ!?」 「――お兄さんっ!!!」 急にあやせが立ち上がり声を上げる。俯いてる為に顔は良く見えない―― だが何か怒っていることはその様子からうかがい知れた。 「本当なんですか?桐乃とお付き合いしてるってこと?」 「実はまだだけど、その予定」 「桐乃には聞いてませんっ!!」 こ、怖えぇ!!いつかのコミケの時の比じゃないぞ? あやせが桐乃にこんな態度をとることがありえるなんて!! 「どうなんですか?本当に桐乃の言う通りなんですか?」 そう聞いてくるあやせに少しずつ怒りにも似た感情がわいてきた―― 「・・・・・だったらどうなんだよ?」 桐乃の言葉を一切否定せずにあやせに聞いてみる。こいつだって俺に何も話してくれなかったじゃねーか。 「俺と桐乃が付き合うのに、なんの不都合があるんだよ!!」 「は、反対するに決まってるじゃないですかっ!!お兄さんみたいな人に桐乃を任せるなんて無理です!」 「なんであやせが決めるんだよ!?そりゃ桐乃はお前の大親友だろうけどさ!  こういうことは当人同士で決めることで、横からごちゃごちゃ言うことじゃないだろう!?」 「こ、この場合は別ですっ!!大体お兄さんはわたしのお兄さんじゃないですか!  わたしには口を出す権利があるはずです!」 「そんなことっ!俺に何の相談も報告も無しに彼氏を作った妹にとやかく言われたくねーよ!!」 「―――――ッ!!?」 「先に裏切ったのはお前のほうだろうがっ!!!」 ああ、そうか。わかったよ。これが本音だ。――ずっと見てきたのに。ずっと愛してきたのに。 桐乃のほうを大事にするようになったあやせに、いつの間にか恋人まで作っていたあやせに。 俺は裏切られたような気になっていたんだ。 「・・・・・じゃないですか」 「あ?」 「先に裏切ったのはお兄さんの方じゃないですか!!」 「何言ってやがる!!」 「あの時、あんな事言っておきながら、裏切ったのは兄さんじゃないですか!!  わたしが、わたしがどんな気持ちでいたか考えもせずに、桐乃とばっかり話をして!」 「あ、あやせが無視してたんだろうが!!」 「ちょっとびっくりしてただけじゃないですか!!それなのに全然話しかけてくれなくなって・・・  いつの間にか桐乃だけじゃなくて、黒猫さんとも仲良くなって・・・!!」 「お前黒猫のこと知ってるの!?」 「調べたんです!!  そしたら『兄さん』とか呼んでもらってるって話じゃないですか!!  兄さんは誰の兄さんなんですかっ!?わたしの兄さんじゃなかったんですかっ!?」 「アレはこいつらが俺をからかってそう呼んでるだけだってーの!!」 「言い訳なんて聞きたくないですっ!!  わたしの知らないところで、いろんな人と勝手に仲良くなって・・・  一緒に遊んだりしてて・・・桐乃とデートまでしてたりとかっ・・・!  わたしがっ・・・!わたしがっ・・・!その時どんな気持ちだったかも知らないでっ!!」 「何のことだよ!?大体お前だって俺に黙って恋人まで作ってんだろうがっ!!」 「あれは嘘ですっ!!」 「嘘ぉっ!?」 「おにっ、お兄さんがちっともわかってくれないからっ!!だからわたしっ・・・!!」 ぼろぼろと涙をこぼしながら泣きじゃくるあやせ―― 何でそんな悲しそうにしてるんだよ?なんでそんな嘘ついたんだよ?お前は嘘が嫌いな子だったじゃないか。  ・・・・・なんで俺はこんなこともわからなくなってるんだろうな? 「わたっ・・・!わたしっ・・・!!わたしっ!!」 「いいよ、もういい。頼むから泣くな。俺まで悲しくなっちまうだろうが」 あやせの頭に手を置いてやる。そのまま抱きしめて頭を撫でて慰める―― 「俺が悪かったから・・・謝るからもう泣くな」 あやせの嗚咽だけが響く静寂を引き裂いたのは桐乃だった―― 「泣いててもいいから早く言っちゃいなよ」 「え?」 急に桐乃に声をかけられて思わず振り返る。なんかあやせの方を向いて不思議な表情をしている。 「本当、あやせが羨ましい。あたしもこんな兄貴が欲しかったなあ・・・」 「桐乃・・・?」 「ほらぁ!はっきりさせないと盗られちゃうよ?あたしの他にもライバルはいるんだからね?」 どういう意味だよ。ライバルとか盗られるとかって・・・ ふと、自分の腕の中を見るとあやせが俺をじっと見つめていた。 「な、なんだどうした?俺の顔に何かついてるか?」 「・・・・・い、今からつけるんです」 ぐいっと顔を引き寄せられたかと思ったら、俺のほっぺたにあやせの唇が触れた。 「えっ?えっ?えぇ~~~~~~~!?」 「なんでそんなにびっくりするんですかっ!!」 「だって・・・だって・・・」 「あんたってさぁ、ほんっとに鈍いよねぇ。そこだけはあやせが可哀相だわ」 「どういう意味だよ!?」 「へっへ~、それは愛しの妹様から聞けばいいじゃん。もう、あたしから聞く必要ないでしょ?」 意味深につぶやいて『それじゃあね♪』と桐乃は去っていく―― この状況で俺になにをしろと? 「お兄さん?」 「あ、ああ。どうしたあやせ?」 「お兄さんは、わたしのお兄さんなんですよ?」 「もちろんそうだ」 「一生ですからね?」 「当たり前だろ!」 「それならいいです」 ポフっと再び俺の胸に顔を埋める。猛烈に可愛いのはいいんだけど、そのまま一人で納得しないでくれよ。 俺にはイマイチこの状況が飲み込めてないんだ―― 「あの・・・」 「な、なんだ?」 「わたし・・・本当はあの告白嬉しかったんです・・・」 うなじまで真っ赤に染め上げて告げられたその告白に、俺の意識はブッ飛んでいった―― 見たかお前ら!!俺の妹はこんなにも可愛い!!                        今度こそ終わり

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