無題:10スレ目632

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632 名前: &font(b,#008000){◆5yGS6snSLSFg}[sage saga] 投稿日:2011/05/29(日) 16:16:22.57 ID:TzFoRWzQo 「これを見てください。どう思います?」 「……すごく泣きそうです」 「いきなりとんでもないものを見せないでちょうだい」 瀬菜が俺たちに見せてきた物は、一冊の薄い本。いわゆる同人誌と呼ばれる物だった。 で、当然のことながらその内容といえば―― 「部内の人間をモチーフにするのは止めろって言っただろ! それと、なんで俺はいつも掘られる側なんだよ!」 「えへへへ、ごめんなさい。でも、先輩たちを見てるとどうしても止められなくって……」 「……先輩、突っ込むところはそれでいいの?」 くそっ、瀬菜のやつめ。そんなに俺を泣かせたいのか。 ……エロシーンまでのカウントダウンが0になった時を楽しみにしておくんだな。 「で? いったい俺たちにどうして欲しいんだ?」 「えっ?」 俺の言葉に瀬菜が驚いたような表情を見せた。 「黒猫はともかく、BLが苦手な俺にまでそれをわざわざ見せてみたのには理由があるんだろ? なんか手伝って欲しいとかじゃないのか?」 「……先輩ってたまに鋭いですよね」 “たまに”は余計だ。 「その通りです。でも今日用があるのは五更さんになんです。先輩はたまたま居たので見てもらっただけですよ」 「それなら俺のいないときにやってくれよ!」 俺、泣き損じゃん! なんで意味もなく男ども(自分がモデル)の濃厚なエロシーンを見せられなきゃならんのだ! 「……俺、帰っていいかな?」 あぁ、今日はもう帰って寝てしまいたい。 目頭を抑え、うつむく俺。 だが、瀬菜はそんな俺に追い打ちとばかりにとんでもないお願いをしてきた。 「あっ、そうそう。今日は先輩には用事はないんですが、ひょっとしたらまた後日お願いするかもしれません」 「お願い?」 「はい。……ふひひ、先輩には作画資料の提供をお願いしたいんです!」 ――――――――――――― 「…………」 きたる日曜日の昼過ぎ。赤城家、瀬菜の部屋。 俺は何故か四つん這いになり、苦悶の表情を浮かべている。 「あっ! ちょっと、動かないで下さい」 「すまん」 そして、その隣では黒猫と瀬菜がスケッチブックにペンを走らせている。 瀬菜の黒猫へのお願いは作画の手ほどきを受けること、そして俺へのお願いはその被写体となることだった。 「…………」 ……辛い。ただただ辛い。 なんなの? この屈辱的な恰好。しかも年下の女の子二人にそれをスケッチされるとかどんな罰ゲームなの? だけど一度受けた手前ほっぽり出すわけにもいかないし。 「……はぁ」 「ちょっと、じっとしていてちょうだい」 「…………すまん」 朝っぱらから無理な姿勢や変なポーズをとり続けたことに加え、ダメージを受け続けた俺の精神は疲弊しきっていて、俺はもう限界に達しようとしていた。 というか、今にも泣いてしまいそうだ。 「ちょ、ちょっと休憩にしない?」 「じゃあ、この構図が書けたら休憩にしましょうか」 ――――――――――――― 「ふうううう」 「お疲れ様」 「お疲れ様です。先輩のおかげで超はかどっちゃいました!」 首をぐりぐりと回すと、ゴキっと小気味のいい音が鳴る。 伸びをし、肩をまわすと、どっと改めて疲労が押し寄せた。 「先輩、これどうぞ」 俺がぐでーんと床で横になっていると、瀬菜が冷たい麦茶を差し入れてくれた。 「おっ、サンキュー」 「はい、五更さんも」 「ありがとう」 いやあ、なんだかんだで瀬菜は気の利くいい奴だな おかしな趣味はしてるけどさ。 「……………あ……れ?」 急激にぼやける視界。 薄れ行く意識の中で俺が最後に見たものは、不敵に微笑む後輩たちだった……。 ――――――――――――― 「……ん…………ん!?」 目を覚ました俺は、自らが置かれている状況に目を疑った。 手は後ろ手に縛られ、足も拘束されている。その上、なせかパンイチなのだ。 「あら、やっとお目覚めね」 「おはようございます、先輩」 「お、おまえら! これはどういうことだ!?」 なんで俺はこんな恰好で拘束されているんだ!? お、俺をいったいどうする気なんだ!? 「すまん、高坂。これも瀬菜ちゃんのためなんだ」 混乱する俺の背後から、低い声が聞こえてきた。男の声だ。 冷や汗をたらしながら俺がゆっくりと振り向くと、そこには―― 「赤城!? まさかてめえもグルだったのか!」 赤城浩平。俺の親友にして、赤城瀬菜の兄貴。超がつくほどのシスコンだ。 「じゃあ、お兄ちゃんお願いね」 「おう!」 「“おう!”じゃねえよ! ……や、やめろ俺に近づくな! 」 “作画資料を提供してほしい”“目の前には暴走した腐女子と超シスコン兄貴” この二つの符号が意味するものは一つ……! 「や、やめろおおお! ……アッーーーーー!」 ――――――――――――― 「悪かったわ。だからそんな顔しないで、先輩」 「…………」 全てを終え、帰路につく。 力なく歩く俺と、俺に寄り添い謝罪と慰めの言葉をかける黒猫。 「……俺は何か大切な物を失った気がする」 結果だけ言えば俺の純潔は守られた。……今日だけで数年分老け込んだ気がするぜ。 あいつらに言わせればハナからそんな気はなかったらしい。 瀬菜曰く「ちょっと絡みの構図が欲しかった」そうだ。 それならなんで一服盛ったの? とか、縛る必要あったの? とか色々と突っ込みたいところだが、そんなことはもうどうでもよかった。 「そもそも、一線を越えてしまうようなことを私が許すわけないでしょう?」 確かにその通りなのだが、なんか納得いかない。 だって、俺が感じたストレスは本物で、俺の脳と皮膚は今も野郎の筋肉質で引き締まった肌の感触を覚えているのだから。 「あ~、一刻も早く忘れてぇ。……それが無理ならせめて柔らかい女の子の肌で感触を上書きしてぇ」 「…………」 まあ、俺にはそんな相手もいないわけだが。 「…………せ、先輩」 「うん?」 「わ、私でよかったら……その…………上書きを手伝ってあげないこともないわ」 「く、黒猫!? おまえ自分が何言って――」 俺の言葉を遮るように、黒猫はサッと片手を差し出してきた。 「えっ?」 「……ほ、ほら、早く上書きでもなんでもすればいいでしょう?」 黒猫はうつむいていて、その表情は確認できない。 「く……ふっ……」 思わず笑ってしまいそうになるのを堪えながら、黒猫の手を取る。 そして、そのまま静かに歩き出す。 「…………もう十分でしょう?」 「いいや、まだ駄目だ」 そんなやりとりを繰り返し、俺たちは普段よりもゆっくりと帰って行った。 おわり
632 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/05/29(日) 16:16:22.57 ID:TzFoRWzQo [4/7] 「これを見てください。どう思います?」 「……すごく泣きそうです」 「いきなりとんでもないものを見せないでちょうだい」 瀬菜が俺たちに見せてきた物は、一冊の薄い本。いわゆる同人誌と呼ばれる物だった。 で、当然のことながらその内容といえば―― 「部内の人間をモチーフにするのは止めろって言っただろ! それと、なんで俺はいつも掘られる側なんだよ!」 「えへへへ、ごめんなさい。でも、先輩たちを見てるとどうしても止められなくって……」 「……先輩、突っ込むところはそれでいいの?」 くそっ、瀬菜のやつめ。そんなに俺を泣かせたいのか。 ……エロシーンまでのカウントダウンが0になった時を楽しみにしておくんだな。 「で? いったい俺たちにどうして欲しいんだ?」 「えっ?」 俺の言葉に瀬菜が驚いたような表情を見せた。 「黒猫はともかく、BLが苦手な俺にまでそれをわざわざ見せてみたのには理由があるんだろ? なんか手伝って欲しいとかじゃないのか?」 「……先輩ってたまに鋭いですよね」 “たまに”は余計だ。 「その通りです。でも今日用があるのは五更さんになんです。先輩はたまたま居たので見てもらっただけですよ」 「それなら俺のいないときにやってくれよ!」 俺、泣き損じゃん! なんで意味もなく男ども(自分がモデル)の濃厚なエロシーンを見せられなきゃならんのだ! 「……俺、帰っていいかな?」 あぁ、今日はもう帰って寝てしまいたい。 目頭を抑え、うつむく俺。 だが、瀬菜はそんな俺に追い打ちとばかりにとんでもないお願いをしてきた。 「あっ、そうそう。今日は先輩には用事はないんですが、ひょっとしたらまた後日お願いするかもしれません」 「お願い?」 「はい。……ふひひ、先輩には作画資料の提供をお願いしたいんです!」 ――――――――――――― 「…………」 きたる日曜日の昼過ぎ。赤城家、瀬菜の部屋。 俺は何故か四つん這いになり、苦悶の表情を浮かべている。 「あっ! ちょっと、動かないで下さい」 「すまん」 そして、その隣では黒猫と瀬菜がスケッチブックにペンを走らせている。 瀬菜の黒猫へのお願いは作画の手ほどきを受けること、そして俺へのお願いはその被写体となることだった。 「…………」 ……辛い。ただただ辛い。 なんなの? この屈辱的な恰好。しかも年下の女の子二人にそれをスケッチされるとかどんな罰ゲームなの? だけど一度受けた手前ほっぽり出すわけにもいかないし。 「……はぁ」 「ちょっと、じっとしていてちょうだい」 「…………すまん」 朝っぱらから無理な姿勢や変なポーズをとり続けたことに加え、ダメージを受け続けた俺の精神は疲弊しきっていて、俺はもう限界に達しようとしていた。 というか、今にも泣いてしまいそうだ。 「ちょ、ちょっと休憩にしない?」 「じゃあ、この構図が書けたら休憩にしましょうか」 ――――――――――――― 633 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/05/29(日) 16:17:50.53 ID:TzFoRWzQo [5/7] 「ふうううう」 「お疲れ様」 「お疲れ様です。先輩のおかげで超はかどっちゃいました!」 首をぐりぐりと回すと、ゴキっと小気味のいい音が鳴る。 伸びをし、肩をまわすと、どっと改めて疲労が押し寄せた。 「先輩、これどうぞ」 俺がぐでーんと床で横になっていると、瀬菜が冷たい麦茶を差し入れてくれた。 「おっ、サンキュー」 「はい、五更さんも」 「ありがとう」 いやあ、なんだかんだで瀬菜は気の利くいい奴だな おかしな趣味はしてるけどさ。 「……………あ……れ?」 急激にぼやける視界。 薄れ行く意識の中で俺が最後に見たものは、不敵に微笑む後輩たちだった……。 ――――――――――――― 「……ん…………ん!?」 目を覚ました俺は、自らが置かれている状況に目を疑った。 手は後ろ手に縛られ、足も拘束されている。その上、なせかパンイチなのだ。 「あら、やっとお目覚めね」 「おはようございます、先輩」 「お、おまえら! これはどういうことだ!?」 なんで俺はこんな恰好で拘束されているんだ!? お、俺をいったいどうする気なんだ!? 「すまん、高坂。これも瀬菜ちゃんのためなんだ」 混乱する俺の背後から、低い声が聞こえてきた。男の声だ。 冷や汗をたらしながら俺がゆっくりと振り向くと、そこには―― 「赤城!? まさかてめえもグルだったのか!」 赤城浩平。俺の親友にして、赤城瀬菜の兄貴。超がつくほどのシスコンだ。 「じゃあ、お兄ちゃんお願いね」 「おう!」 「“おう!”じゃねえよ! ……や、やめろ俺に近づくな! 」 “作画資料を提供してほしい”“目の前には暴走した腐女子と超シスコン兄貴” この二つの符号が意味するものは一つ……! 「や、やめろおおお! ……アッーーーーー!」 ――――――――――――― 634 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/05/29(日) 16:18:20.74 ID:TzFoRWzQo [6/7] 「悪かったわ。だからそんな顔しないで、先輩」 「…………」 全てを終え、帰路につく。 力なく歩く俺と、俺に寄り添い謝罪と慰めの言葉をかける黒猫。 「……俺は何か大切な物を失った気がする」 結果だけ言えば俺の純潔は守られた。……今日だけで数年分老け込んだ気がするぜ。 あいつらに言わせればハナからそんな気はなかったらしい。 瀬菜曰く「ちょっと絡みの構図が欲しかった」そうだ。 それならなんで一服盛ったの? とか、縛る必要あったの? とか色々と突っ込みたいところだが、そんなことはもうどうでもよかった。 「そもそも、一線を越えてしまうようなことを私が許すわけないでしょう?」 確かにその通りなのだが、なんか納得いかない。 だって、俺が感じたストレスは本物で、俺の脳と皮膚は今も野郎の筋肉質で引き締まった肌の感触を覚えているのだから。 「あ~、一刻も早く忘れてぇ。……それが無理ならせめて柔らかい女の子の肌で感触を上書きしてぇ」 「…………」 まあ、俺にはそんな相手もいないわけだが。 「…………せ、先輩」 「うん?」 「わ、私でよかったら……その…………上書きを手伝ってあげないこともないわ」 「く、黒猫!? おまえ自分が何言って――」 俺の言葉を遮るように、黒猫はサッと片手を差し出してきた。 「えっ?」 「……ほ、ほら、早く上書きでもなんでもすればいいでしょう?」 黒猫はうつむいていて、その表情は確認できない。 「く……ふっ……」 思わず笑ってしまいそうになるのを堪えながら、黒猫の手を取る。 そして、そのまま静かに歩き出す。 「…………もう十分でしょう?」 「いいや、まだ駄目だ」 そんなやりとりを繰り返し、俺たちは普段よりもゆっくりと帰って行った。 おわり

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