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739 :◆lI.F30NTlM [sage saga]:2011/06/04(土) 04:47:51.77 ID:BHkZwmfoo
「いててて……。はぁ、容赦ねえな……」
日曜の午後。誰もいないリビングで、俺は自分の顔に湿布を貼っていた。
今日は俺以外出掛けてくれてて助かったぜ。いくら長男の扱いがぞんざいな高坂家でも、
こんな姿見たら、親父とかは事件の可能性ありとか思いかねないからな。
ちなみに俺をこんな目に合わせたのは、ラブリーマイエンジェルあやせたんだったりする。
原因は……まあ、いつもの通りだ。俺のちょっとした発言があやせの逆鱗に触れたんだよ。
しっかし、アイツは本当何者なんだと問いたいね。
桐乃の親友で、クラスメイトで、モデル仲間なんだが、何であんなに綺麗なハイキックを決められるんだろうな。
しかも腰の入った強烈なやつを。
「このままじゃ命がいくつあっても足りねえ……」
傷の治療を終え、さっきの出来事を振り返る。
普通なら笑って済ますか、ちょっと怒るだけで終わりそうな発言も、あやせの場合だとそうはいかねえ。
なんせ手……じゃなくて足が出てくるからな。ビンタならまだ何とかなるが、蹴りだけはマジでヤバい。
このままじゃ、俺の首の骨の寿命が尽きるのも時間の問題だ。
何か自衛の手段を考えねば……。
「ん?」
ふと、点けっぱなしにしておいたテレビを見ると、こんな昼日中から格闘技の試合が放送されていた。
地上波でこの編成とは、豪気な……なんて思ったりもしたが、俺はその試合に見入ってしまった。
理由は簡単だ。あやせキックに酷似したキックを、相手選手が足で防いでいたからだ。
「これ、使えるかも知れねえな」
ーーーーーーーーーーーー
あの試合を見た後、俺は自宅か学校の近くに格闘技のジムか道場がないか調べた。
こういうとき、ネットは役に立つ。なんてたって、地図付きで場所を表示してくれるからな。
目的のものはすぐに見つかり、場所も把握できた。
「ここか……」
そしてそのジムにやってきたわけだ。建物には「新垣キックボクシングジム」と書いてある。あらがき?
ちょっと気にはなりつつも、俺はジムの扉を開く。
中には誰もいない。休みだろうか?
「すんませーん。入門希望なんですけど」
「はぁ~い。ちょっと待ってね~」
俺が挨拶をすると、やたら野太い返事が返ってきた。口調が気になるが、あえて無視しよう。
十数秒後、奥の部屋から瀬菜の好きそうなガチムチマッチョのオッサンが出てきた。なんでやたらくねくねしてんだ?
「あ、あの……入門したいんすけど」
「………………へぇ」
俺が改めて入門したい旨を伝えると、オッサンは俺のことをジロジロと見だした。
何故だろうか……。こう、腰から尻にかけての辺りが薄ら寒いんだが……。
「鍛えてる、って感じでもないわね。なんで入門しようと思ったの?」
「え? あの、それは……」
予想外の質問に、俺は思わず戸惑ってしまった。
正直に話してしまってもいいものだろうか……。知り合いの女子中学生から身を守るため……。
言えNEEEEEEEEEEEEE!! そんな恥ずかしい理由、言えるわけねえだろっ!!
「ん? もしかして喧嘩に勝ちたいとか? ならお断りよ」
「ち、違います!」
「じゃあな~に? 言いにくい理由なのかしら?」
「あの……その……」
どどどどうする!? この雰囲気だと、本当の理由は絶対に言えねえ!
理由……理由……。なにか良い理由を!
「い、妹を守るためです!」
「妹さんを?」
「え、ええ。最近は何かと物騒じゃないですか。そういう事態にならないのが一番っすけど、何かあったときに兄貴の俺が守ってやらないと、って……」
「…………」
お、思わず言ってしまったが、よりにもよって妹かよ!? おい、俺!!
ぐ……。これじゃあ、桐乃や黒猫からシスコン呼ばわりされても言い返せねえ……。
見ろよ。このオッサンも何も言わねえじゃねえか。この人もあまりのシスコンっぷりに呆れたのか?
オッサンはしばらく体をプルプル震わせていたが、いきなり俺の方をがっちり掴んだ。痛い痛い!!
「嫌いじゃないわ!!」
「…………は?」
「家族を守るためだなんて、なかなか言うじゃない! 気に入ったわ!」
「は、はあ……」
な、なんだかよくわからんが、このオッサンは俺の言葉に感銘を受けたらしい。
オッサンは俺の肩から手を離すと、分厚い胸をバンッ!と張った。
「いいわ、入門を許可します。名前は?」
「は、はい。高坂京介です」
「京介君ね。アタシは新垣京水。よろしくね♪」
ーーーーーーーーーーーー
俺がキックボクシングを始めて三ヶ月が経った。
京水さんの特訓はキツかったが、なんとかついていったさ。そのおかげで、俺の体は以前とは比べ物にもならないほど逞しくなった。
親父もちょっと心配したみたいだが、理由を聞くと何も言わなくなった。つか、肯定的だったかもしれねえな。
ま、瀬菜の反応はひどかったがな。以前よりも妄想の度合いがやばかった。なんてったって顔がイッちゃってたもん。思い出したくもない。
それはさておき、今日は久しぶりにあやせに呼び出されたんだ。
いつもの通りなにやら相談事らしいが、これは俺の特訓の成果を試す良い機会だ。
あやせには悪いが、少し試させてもらおう。
いつもの公園に着くと、あやせはいつもの場所ですでに待っていた。相変わらず律儀なヤツである。
「よっ。久しぶり」
「あ、お兄さん。ご無沙汰してます」
俺の挨拶に、丁寧な言葉とお辞儀を返すマイエンジェル。今日も可愛いぜ。
っと、いかんいかん。今日は俺にも目的があるんだ。あやせたんの魅力に負けてちゃ話にならんぞ。
さて、まずはジャブがてら……。
「ホント、久しぶりだよな。ついに俺のプロポーズを受け入れる気になったのか?」
「な、なに言ってるんですか!? ちゃんとメールでも『ご相談したいことがある』と書いたじゃないですか!!」
「なんだ、残念。俺と会えない時間を使って、悩みに悩み抜いた結果を伝えてくれるのかと思ったんだが……」
「……はぁ。相変わらずですね。いい加減にしないと、そろそろ本気で通報しますよ。強要未遂とかで」
よし、いつものあやせだな。これならうまくいくかもしれん。
次はもっと突っ込んだ話を……。
「すまん、それは勘弁。でもよ、あやせは冗談だのセクハラだの言うが、俺はいつも本気だぞ」
「お兄さん、私言いましたよね? いい加減にしないと通報する、って。聞こえてなかったんですか? それとも、理解できないほど日本語が難しかったですか?」
「いやいや、ちゃんと聞いてたさ。その上で言ってるんだよ。あやせもそろそろ俺の本気さを悟ってくれよ」
「ふんっ。どうせお兄さんのことです。その発言も冗談ですよね。もしくは邪な魂胆があるはずです」
「邪とは、また大きく出たな。ま、あながち間違っちゃいないか」
「……それ、どういう意味ですか?」
お、食いついてきたな。
ふっ、なんだかんだ言ってもあやせたんも女子中学生だな。この程度の誘導にまんまと引っ掛かるとは。
「男ってのは馬鹿な生き物でよ。告白が成功する前から、好きな相手との恋人生活を夢想するもんなのさ。俺も例外じゃない」
「そんなことを堂々と言わないでください。そして私に公表しないでください」
「残念だよ。告白が成功して、あやせと晴れて彼氏彼女の関係になったら、あんなことやこんなことをしたいな~、って考えてたのに……」
「いや、私の話を聞いてくださいよ。そしてその妄想を今すぐやめてください」
「あ、すまんすまん。はぁ、でも残念だ」
よしよし、もう一押しだな。
あやせ、すまんな。これも、今後の人生を俺が生き抜いていけるのかを確かめるために必要なんだ。
「ふぅ……。あれも、これも、もう叶わぬ夢か……」
「……あの、興味本位で聞きますけど、どういう妄想をしてたんですか?」
「ん? そうだな、まあ普通にデートとかもあれば、あやせには言えないようなこともあるぞ」
「な、な、なな何を妄想してるんですか、この変態! 死ねェェエェェェエェェェェェェエェェ――!」
来た! あやせ得意のハイキックだ!
ふっ、だがあやせよ、昔の俺と同じだと思うなよ。今の俺なら、その程度の蹴りを受け止めるなど容易いわアァアァアァ!!
俺はあやせのハイキックを瞬時に見切り、その足首に向けてハイキックを繰り出した!
「いっ!」
「うっ!」
くっ、なんて威力だ。軽く受け止めるつもりだったが、まさか足が痺れるとはな……。恐るべし、あやせ。
だが、狙い通りだ。俺の蹴りであやせの蹴りも止まった。ちょうどお互いの足首部分が接触し、お互いにハイキックの体勢のままで膠着している。
やったぞ! ついに俺は、あやせの攻撃に恐れを抱くことのない生活を手に入れたんだ!
よくやった、俺! ヒャッハーーーーーーッ!!
この時、俺に思慮深さがあれば、視線を下げるなどという愚行を犯さなかったはずだ。
だが、俺は視線を下げてしまったんだ。高く掲げられた足首からあやせの顔へ、そしてその下へ。
「あ、白」
「へ?」
「あ……」
たまたま目に入ったモノの色を思わず口に出してしまった。
ああ、もう今更だからな。はっきり言おう。俺の視線の先には、あやせたんのパンツがあったんだ。
過度な装飾がされてないシンプルな白パンなんて、なんともあやせたんらしい。
そりゃスカートなんだから、足を高く上げれば見えてしまうのも道理だ。だが、あえて言おう。これは狙ったんじゃない。事故だったんだ。
けどな、そんな言い訳が通じる相手じゃないんだな、あやせという女の子は。
「ど、どどどこを見てるんですか! 死ねェェエェェェエェェェェェェエェェ――!」
「ごはあっ!」
顔を真っ赤にして動揺するあやせ。この反応だけなら、ただの天使なんだがな。
あやせは掲げた足を素早く戻し、体を一回転させて俺の軸足を払った。
あまりの早業に、俺は足を上げたままの状態でバランスを崩す。そしてだんだんと下がっていく俺の頭――正確には顎――を、あやせは自分の膝で打ち抜いた。
あまりの衝撃に、俺の意識は一瞬で刈り取られたさ。あんなコンビネーションを繰り出すなんて、考えもしなかったからな。
俺が意識を取り戻したのは、もうすっかり日も暮れてしまった後だった。
ケータイの時計表示を見たら、もうすぐ七時になるところだ。
俺は痛む顎を押さえながら、必死で走った。飯抜きなんて男子高校生には耐え難い所業だからな。
家に着いたころには、高坂家の夕食は始まっていた。
親父に叱られながらも、なんとかメシにありつけたのだから良しとしよう。
俺はカレーを食いながら、あやせが見せた高速のコンビネーションを思い出していた。
(あれって、前に京水さんにも喰らったことがあるんだよな……)
以前、あれと全く同じコンビネーションをスパー中に喰らったことがあった。だが、何故あやせが?
その理由をしばらく考えていたが、結局はわからずじまいだった。きっとただの偶然だろう。
後日、京水さんとあやせが親戚だったと判明して驚くわけだが、それはまた別の話だ。
おわり